願い事の後
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/28(水) 00:23
- ニッポン放送 知ってる?24時。ラジオドラマ「絵馬」('040119〜'040122放送)のその後です。
もちろん、ラジオドラマではタイトル通り、原口絵馬が主人公だったんですが、これは、南かなめと野崎伸子が主人公です。
ラジオドラマを聞いてない人にはわかりづらいかと思います。すみません。
一応、ラジオドラマにおける(独断と偏見による)登場人物紹介。
南かなめ(柴田あゆみ):カレーうどんを愛する18才。大学1年生。物をすぐ投げるのがチャームポイント(?)。ナチュラル通り越して天然。
野崎伸子(村田めぐみ):受験祈願に来た境内で喧嘩するかなめと絵馬を止めた19才。大学1年生。一応2人より大人(かもしれない)。
原口絵馬(吉澤ひとみ):親友が欲しい18才。かなめ、伸子と同じ大学を受けるも落ちてしまい、只今予備校生(多分)。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/28(水) 00:24
- ── 春。
一年間の浪人生活を終え、めでたくこの春に大学に合格した。
「……いいねぇ、大学生……」
思わずにやりと微笑んでしまう。
取りたい講義もおおよそ決まってきた。あとは……、
「伸子ちゃーんっ!!」
私の思考を遮って、丸みを帯びた高い声が飛び込んできた。
……この声は。
声を間違える間違えないを別にしても(いや、特徴あるし、間違えないけど)、今、この大学で私のことを「伸子ちゃん」と呼ぶのはまだ一人しかいない。
「……かなめ」
声のした方に顔を向けると、まっすぐこっちに向かって走ってくるかなめの姿が見えた。
- 3 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/01/28(水) 00:25
- 「ねーねー、伸子ちゃーん。サークルもぉ決めたぁ?」
「んー、まぁねぇ。だいたいは」
「どこどこ?」
「そーいうかなめは?」
「うーん、まだどーしよかっなぁ、って……」
「カレーうどん同好会にでも入れば?」
「えっ、そんなのあるの!?」
「うん、いまんトコ、見てないね」
「なんだぁ〜」
ホントにあったら入っちゃいそうだな、この子。私はゴメンだけど。
- 4 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/01/28(水) 00:26
- 「ねーねぇ、ドコドコっ?」
「ドコって、訊いてどーすんのよ」
「そこそこだったら私もそこにするっ!」
「そこそこって……」
「やっぱさぁ、いきなり『宜保愛子研究部』とか『食品サンプル同好会』とか言われても困るじゃない?」
「そんなのあるのか!?」
「うん、あったよー。勧誘されたもん」
「ホントに探したら、カレーうどん同好会もありそうだなぁ……」
「あ、じゃあ、探してみる! あったら一緒に入ろうよ!!」
「イヤです」
「え〜〜。しょうがないなぁ。じゃあ何にする?」
「ちょっと待って。それより、なんで同じトコに入る段取りになってんの」
「……えー、ダメ? 私達、運命の相手じゃなーい」
「なんだそりゃ」
- 5 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/01/28(水) 00:27
- 「だって、ほら、私がお賽銭投げてさ、それが偶然絵馬ちゃんの頭に当たってさ、したら、偶然絵馬ちゃんの頭の上に止まってた蜂に当たってさ、伸子ちゃんはそれを取ってくれてさー」
さ、さ、って、何回「さ」が出て来るんだろ……。
「でもって、三人でお参りしてして、偶然三人で同じ大学受けて、……まぁ、絵馬ちゃんは落ちちゃったけど、もう、ここまで偶然が重なったら、運命でしょ!!」
「……そーいうモンかねぇ?」
「そーいうモンです!」
……言い切りますか。やれやれ。
「で、ドコドコぉ? ドコに入るつもりなの?」
「軽音か、フォークソング同好会か……」
「あ、伸子ちゃん、歌うんだぁ」
「まぁ、好きって程度。高校はブラバンだったけど」
「私、私、ピアノ弾けるんだよー。中学までやっててね、バイエル止まりじゃないんだよ」
「へぇ」
あんまりそんな風には見えないけど。
- 6 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/01/28(水) 00:27
- 「じゃあ、邦楽サークルにしようよ」
「邦楽?」
「うん!」
結局、二人揃って、邦楽サークルに入ってしまった。
なんだかんだいって、出逢ってからずっと、かなめには振り回されっぱなしな気がする。
いつも笑顔で、まっすぐで、感動屋。天然入ってて、少し強引で、人の話を聞いてるんだか聞いてないんだかわからない、……どこかにくめない子。
境内で、言い合ってる二人を見たとき、「大人気ないなぁ」と思いながら、「かわいいなぁ」とも思った。
だから、話かけた。
……偶然じゃない。もちろん、運命なんかじゃない。
かなめのお賽銭が絵馬の頭に当たったのは偶然。けれど、私が二人に話しかけたのは偶然じゃない。どっちかというと気まぐれ。
だから、絵馬はそうかもしれないけれど、私はかなめの運命の相手でもなんでもない。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/28(水) 00:29
- 今回はこのあたりで。
南かなめ→柴田あゆみ、野崎伸子→村田めぐみに変換しようかとも思ったのですが、違和感ありありだったので、やめました。
柴田さんと村田さんが演じている、と思っていただけると嬉しいです。
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/01(日) 03:04
- ある意味、柴村!楽しみです。
- 9 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/03(火) 19:25
- 「はじめまして、斉藤です」
「大谷でーす」
邦楽サークル「メロン」のサークル室を訊ねたとき、私達を迎えてくれたのはやけにテンションの高い二人だった。
「入会? 入会希望!?」
目をきらきらさせていきなり私の手を掴んだのは、長い金髪の「斉藤」と名乗った人だった。
「……あ、は、はい、一応……」
「てっ」
あまりの勢いに押されて、思わず一歩下がってしまう。それによって、私のすぐ後ろにいたかなめにぶつかってしまった。
「いたい、伸子ちゃんー」
「あ、ごめん」
「うー」
かなめがぶつけた鼻の頭を押さえながら、おっきな目で見上げてくる。
「伸子ちゃん、『一応』ってなに?」
「……言葉のあや」
少し警戒しながら振り向くと、笑顔全開の「斉藤」さんと目が合った。
- 10 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/03(火) 19:27
- 「嬉しー! ま、入って、入って」
「あ、はい……」
軽く頭を下げて、サークル室に入る。
「さ、座って、座って」
そう言って、ひかれたパイプ椅子に座っていいものか、少しためらった。
ここで座ったら、もう「入るのやめます」とは言えなさそうだ。
しかし、その思考は無駄だった。ちら、とかなめの様子を見ると、目が合う前に、さっさとかなめは椅子に座りに行ってしまった。
まぁ、いいか、と思いながら、私もかなめの隣のパイプ椅子に座る。
「二人とも一年生だよね?」
「はい」
答えたのはかなめだった。
「じゃあマサオと同じだ」
「マサオ?」
「あー、私、私」
おかしそうに笑って手をあげたのは、「大谷」と名乗った、もう一人。
- 11 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/03(火) 19:27
- 「本名、雅恵って言うんだけどね、男のコみたいだっていっつも言われて、マサオってあだ名ついてんの」
「……はぁ」
さっぱりと揃えられたショートカットに、うす茶のメッシュ。少しつり気味の切れ長の目。服装もジーンズに直線のシャツと、確かにボーイッシュだ。
……しかし、ハデな二人だなぁ……。並んで歩いてたら、絶対振り返えられちゃうな、こりゃ。
「大谷さんが」
「マサオでいーよー」
「あ、うん。マサオが私達と同じってことは、斉藤さんは?」
「二年生」
「あ、センパイだぁ」
ほにゃ、と、かなめの表情が、まるでカレーうどんを食べる前のようにやわらかくなる。
「単位取りやすい講義とか、教えるよー」
「ホントですかぁ!」
かなめはすっかりうち解けたみたいだ。
まぁ、悪い人達じゃなさそうだし。……ハデだけど。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/03(火) 19:29
- 今週はこの辺で。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/03(火) 19:31
- 名無し読者さんへ
>ある意味、柴村!
レスありがとうございます。おもいっきり柴村で書いてます(苦笑)。
そんなに長い話ではないので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
- 14 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/05(木) 23:00
- 入会届けにサインしてから、サークル会員が私達含めて四人だということが判明した。
「四人?」
ってことは、ここにいるメンバーだけ?
「去年まで八人だったんだけどね、まとめて卒業しちゃったんだよねー」
「んで、半ば無理矢理私は引っ張ってこられた、と」
「別にマサオ、イヤじゃないでしょ?」
「うん、まぁね。ギター弾くのにスタジオ借りる必要ないし」
「え?」
「この部屋、こう見えて防音効果すっごくいいの。周りも、ほとんど使わない部屋ばっかりだしね。楽器練習にはもってこいなのよ」
「……へぇ」
少し感心しながら、部屋を眺める。
その部屋は広くも新しくもなかったけれど、落ち着いて眺めてみると、きちんと整頓されていて、好印象を受けた。
「狭いから、他のサークルとの部屋の取り合いにならずに済んでるし」
「でも、一人だと、ガッコの方が部屋貸してくれないから、ちょっと困ってたんだよね、瞳?」
「うん、そう。でも四人いれば、大手振って借りておけるわ!」
「へー」
斉藤さんのガッツポーズに、「それはよかった」と、かなめがパチパチと拍手をする。
- 15 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/05(木) 23:00
- 「ともかく、これからよろしく」
そう言って、差し出された右手に、かなめは笑顔で「こちらこそ!」と答える。それに続いて、私も握手をした。
「私のことはひとみんって呼んでね」
「……ひと、み……ん?」
なんだ、最後の「ん」は。
顔が引きつってしまったのが見えたのか、マサオがあははと声を出して笑った。
「嘘、嘘。だれも『ひとみん』なんて呼んでないよ〜」
……なんだ、冗談だったのか。
「じゃあ、私『瞳ちゃん』って呼んでいいですか?」
「もちろん」
「あ、じゃあ、私、『ひとみん』って呼びます」
「へ?」
「けっこういいかも」
私はそこそこ真面目だったけれど、マサオとかなめはぷっと吹き出して笑い出した。
- 16 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/05(木) 23:03
- 「じゃあ、呼び方、『伸子ちゃん』と、『かなめちゃん』でいいかな?」
「もちろん」
それは全然かまわなかった。もちろん、かなめだってそうだと思っていた。
けれど、かなめは私の予想に反して、一瞬戸惑った表情を見せた。
「……あ、ダメ?」
瞳んが敏感にそれを察知して、かなめに柔らかく問いかける。
かなめは自分が戸惑ったことにさえ、慌てているかのように、ぶんぶんと大げさに首を振った。
「いえ、いいんです、いいんですけど」
「なに?」
「出来たら、『かなめ』って、呼び捨てにしちゃってください」
「あ、うん、わかった」
ほっとしたように、瞳んが笑って頷いたことで、僅かに生まれた気まずさは消えた。
このとき、私は気付かなかったけれど、それは、私とかなめの心に留まることになる、些細な棘だった。
- 17 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/05(木) 23:05
-
「ねぇ、かなめ」
「んー?」
「よくあんなトコ、見つけたね」
「ふぇ?」
白い湯気を立たせたうどんを前に、割り箸を割っていた手が止まる。
「あー、あのサークル?」
「うん」
かなめにアテがある、と言われてついていった部屋は、いわゆる「人の寄りつかない場所」だった。
廊下のハデなサークル勧誘もしていなかったみたいだし、こう言っちゃなんだが、よくまぁ、そんなローカルなサークルを見つけてきたものだ。
「瞳ちゃんに勧誘受けたんだよねぇ」
「……勧誘ねぇ」
そういえば、『宜保愛子研究部』とか『食品サンプル同好会』にも勧誘されてたって言ってたっけ……。
私の知らないところでけっこう積極的にサークルを調べていたのか、それとも、単純にこの目立つ容姿で声をかけられていたのか。
- 18 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/05(木) 23:06
- 「でもあのサークル、サークル用の掲示板に張り紙してあったよ?」
「え?」
校門を入ってすぐの広場にある、サークル用の掲示板は私も見ていた。けれど記憶にない。
「ホント?」
「うん。けっこー目立ってたよ」
「……『目立ってた』?」
サッカー、スキー、弓道、テニス、書道、絵本。目立つポスターはいくつかあったけれど、思い当たらない。もしかして、私が見たときにはなかったのか?
「ほら、あの毛筆の『メロン』ってヤツ」
「……毛筆?」
「見てない? でっかいあの書道用の和紙に『入会者募集! メロン』って」
そう言われて、糸が繋がるようにハッと思い出した。
「あ、あれ!?」
たしかに、目立っていた。掲示板からはみ出すように張られていた、達筆なポスター。ポスターと言っていいのかはよくわからないけど。
「……書道サークルかと思ってた……」
「だよねぇ。私もそう思ったよぉ。ちゃんと邦楽サークルって書いておけばいいのにね」
あはは、と、かなめは明るく笑った。
- 19 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/05(木) 23:06
- 「んで、掲示板の前でなんだこれーって思ってるときに、瞳ちゃんに声かけられたの」
「それでか」
「うん、それでなんです」
かなめは笑顔でカレーうどんをかき混ぜ始めた。
「瞳ちゃんは覚えてないみたいだけど。まぁ、何人にも声かけてるんだろうしあたりまえかぁ」
白い湯気が大きくなる。それと一緒に、かなめの笑顔も大きくなる。
「……かなめはホントにカレーうどん好きだねぇ」
「うん。私はカレーうどんを愛しているのだ」
「知ってるよ」
湯気の向こう、なんだか照れくさそうに、嬉しそうに笑っているかなめをみていると、こっちまでつられて幸せな気分になった。
そこまで好きな食べ物があるっていうのは、正直うらやましい。
私、嫌いな食べ物はいっぱいあっても、好きな食べ物なんて殆どないからなぁ。
「おいしい?」
「うんっ」
帰ってくるとびっきりの笑顔。
いつでもこんな笑顔を向けられているカレーうどんが、少しうらやましかった。これだけ幸せそうな顔して食べて貰えるんだったら、こいつも本望だろう。
……ごめんね、カルボナーラ。私はキミをこんなに愛してあげられないよ。
- 20 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/05(木) 23:07
- 「ところで、明日どーする?」
「え? 明日は歓迎会兼ねてゴハンでしょ?」
「うん、そーだけど。おっと」
小さな人参の欠片と格闘しながら、かなめは言葉を続けた。
「講義の後、集合時間までわりと時間あるじゃない?」
「ああ、そうだね」
「映画行かない?」
「え、そんな時間ある?」
講義の終了と集合時間まで、空いているとはいえ、せいぜい二時間弱。
急いで、うまく映画の上映時間とぶつかれば観れるかもしれないけど。
「んじゃ動物園ー」
「なにが『んじゃ』だ」
すごく観たい映画があって、もう時間も調べてある、ってわけじゃないな、このやろ。
「動物園って、上野? 往復時間とパンダで終わっちゃうよ」
「いいじゃない、パンダ」
「どうせ行くんだったらもっとゆっくり」
「えー」
「『えー』、じゃない」
「うん、まぁ、ドコでもいいけどさ」
両手でどんぶりを持って、ハートマーク飛ばしながらスープをすする。
こーなると、食べ終わるまで、話、聞かないな、こりゃ。
まぁいいや。私も目の前のカルボナーラに集中しよう。
- 21 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/05(木) 23:08
- 「ごちそうさまぁ」
思いっきり満足気な顔。
よかったねぇ、ここの学食のカレーうどん、キミ好みで。
「行く場所はともかく、マサオくんも誘ってみる?」
「へ? マサオくん、時間ないでしょ」
「あれ、そうなの?」
「時間決めるときにさ、斉藤さんが講義があるから待ち合わせ時間ちょっと遅くなるけどって言ったときに、マサオくんがバイト先に寄らなきゃいけないからかまわない、って言ってたじゃん」
「そんなこと話してたっけ?」
「あー、伸子ちゃん、その時、トイレ行ってたんだっけ。ごめんごめん」
「……おい」
「適当に時間潰してるから平気ですって言ったんだけど、ダメだった?」
「ダメじゃないけど、もーちょっと早く言いなさい」
「ごめんなさい」
素直にぺこりと謝る。
この子って基本的に「素直ないい子」なんだよねぇ……。
「んじゃ、時間潰し、ちゃんと付き合って貰うからね」
「だから動物園ー」
「却下」
鼻をきゅっとつまむとかなめは唇を尖らせて、「んー」っと唸った。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/05(木) 23:08
- 今回はこのへんで。
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/07(土) 01:18
- メロンの小説って読んだことないけど、面白くなりそう
>>16の棘がどうなるか気になります
- 24 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/10(火) 23:43
- 講義が終わってから、集合時間まで2時間。
私達は、結局、まだこの辺の地理もよくわからないし、ということで、探索に出ることにした。
学生の溜まり場になっている喫茶店に、1枚9円のコピー機が2台並んだ小さな文房具屋。明らかにウチの大学生っぽい2人組がコピーを回していた。試験前にはこのコピー機に列が出来るんだろう。
不意に、ぴた、と、ドラックストアの前でかなめが足を止めた。
「かなめ?」
ドラックストアの前ではあったけれど、かなめの視線は、道路を挟んだ向かい側に固定されていた。
なんだろうと思って、視線の先を追うとそこには。
「……カレーうどー……ん」
やれやれ、と、思わず溜息をつく。この子、ホントに1日1回はカレーうどんだな。
「やめなさい。これからゴハン食べに行くんだから」
「わかってるよぉ」
そう言いながら、ぷぅと顔を膨らませて、拗ねた顔。
「明日、お昼にでも食べに来ればいいじゃん。時間、空いてるでしょ?」
「あ、そうだね!」
私の提案にぱっと明るい笑顔が浮かぶ。カレーうどんに関しちゃ単純なヤツだ。
- 25 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/10(火) 23:44
- 「はいっ!」
「え?」
小指を立てて、目の前に出された左手の意味が分からずきょとんとした私に、かなめは「ほらっ」と行動を促す。
……って、なにすればいいんだ?
「ほらぁ、指切りっ!」
「指切り?」
言われてみれば、なるほど、確かにそれは指切りの形だ。
「明日、カレーうどん食べに来るって、約束の指切り」
「私も来るんかい!」
「えー、いーじゃん〜」と、いつもの調子で反応が返ってくると思っていた。けれど、返ってきたのは、ちょっとした沈黙。
少し困ったような目が、まっすぐ私を見上げていた。
「……」
「……ダメ、かなぁ?」
口元だけで作られた、切ない苦笑い。
「……や、ダメじゃないよ。いいよ、別に」
慌てて手を振る。
それでも消えない不安そうな瞳の色に、私は半ば強引にかなめと指切りをした。
「明日、一緒に来よう」
「……ん」
少し照れくさそうに、かなめが微笑む。
「ありがと」
ふわっとした笑顔に、ほっとした。
- 26 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/10(火) 23:45
- 私は、どうしてかなめがそんな反応を返したのか、わからなかった。
かなめがそんな表情を見せたのは、それっきりだった。
2人で一緒に歩いているときも、4人で行った食事の席でも。
帰り道、かなめの携帯が鳴った。
短い、コール。多分、メールだろう。
かなめが足を止めて、鞄の中をごそごそと探る。
「あ、絵馬ちゃんだぁ」
ぱぁっとほころんだ顔。
「絵馬?」
「うんっ」
嬉しそうに目を細めて、カチカチと携帯のボタンを押すかなめから、なんとなく目を逸らす。
「……」
私は、なんとなく寂しい気分になっていた。
理由はわかっていた。
なんとなく、仲間ハズレのようで、寂しいんだ。
……あの日、かなめの投げたお賽銭が当たったのが、絵馬じゃなくて私だったなら。
「……」
そこまで考えて、あまりに幼稚な自分に苦笑する。
- 27 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/10(火) 23:45
- 「わっ!」
声に振り返ると、電信柱に接近したかなめがいた。
「なにやってんの、キミは」
メールの返事に集中して、前を見ていなかったらしい。
「……びっくりしたぁ」
「危ないなぁ。ちゃんと前、見なよ」
「んー」
まだ携帯のディスプレイに目を向けたままのかなめに手を差し出す。
「ありがとー」
ほにゃ、と、笑って、かなめは私の手を取った。
メールを打ち終わるまで、かなめの手を引いて歩いていく。
もし、あのとき、かなめの投げたお賽銭が私に当たったのなら、多分、今、こんな風に一緒にいないだろう。
「すみません」って謝るかなめに、「いいですよ」って言って、それっきり。
もしかしたら、私がたいした声もあげずに、かなめは誰にお賽銭が当たったのかもわからなかったかもしれない。
だから、これでいいんだ。
私よりずっと暖かいかなめの体温を感じながら、そう、思った。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/10(火) 23:45
- 今回はこのへんで。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/10(火) 23:47
- >23 :名無飼育さん
>メロンの小説って読んだことないけど、面白くなりそう
完結したときに、面白かった、って言っていただけると嬉しいんです。
言っていただけるよう、頑張りますんでよろしくお願いします。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/10(火) 23:48
- 今日、メロンのDVDをフラゲしてきました。やっぱ、イイです(笑。
- 31 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/15(日) 21:34
- 休講や、講義と講義の間で時間が空くと、私はサークル室に行くようになった。
静かなその部屋も、そこで約束する事もなく集まる面子も、この大学で一番居心地のいい場所になっていた。
窓を開けると心地よい風と、ノイズのような僅かなざわめきがこの部屋にも入り込んでくる。
誰もいないサークル室で、資料を広げて、明日提出のレポートの仕上げにかかった。
誤字を直そうと修正液を振っていると、そのカチャカチャという音に紛れて、足音が聞こえてきた。
ふっと手を止める。
……かなめかな。
この時間、あの子も講義を取っていなかったはずだ。次の講義に合わせてくるには、早い時間だけど。
- 32 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/15(日) 21:34
- ドンと響いた少し大きめのノックに、私は誰かを知った。
「どーぞー」
「おはよー」
ガラッとドアを開けたのは、マサオくんだった。
「どーしたの? この時間のって、伸子ちゃん取ってなかったっけ?」
担いだギターを、部屋の壁際の長机に置きながら、マサオくんがそう言った。
「うん、休講」
「あー、そっかぁ」
あはは、とマサオくんの明るい笑い声が響く。
「そーいえば、あの教授、朝イチの講義は休講が多いって瞳が言ってたよ」
「あ、そーなの?」
「らしいよ。レポートやってんの?」
「うん、そう。明日提出だからね」
「あー、私もソレやらなきゃなー」
そう言いながら、マサオはジャケットを脱いで、自分のリュックの上に放り投げた。
- 33 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/15(日) 21:35
- 「ねー、弾いてもいい?」
「いいよ。窓、閉める?」
「大丈夫っしょ。今日持ってんの、エレキじゃないし」
マサオくんがギターの用意を始めたので、私はレポートの続きを始めた。
暫くしてから、パイプ椅子の床と擦れる音がして、ビン、ボン、と、弦を調節する音が不規則に響いた。
「なんかリクエストあるー?」
「んー、そうだねぇ、じゃあ『パンプキンパイとシナモンティー』」
「なにそれ」
「さだまさし。知らない?」
「知らない。『神田川』なら出来るかも」
「それ、かぐや姫でしょ」
「あ、そっか。さだまさしは『関白宣言』だ。それならやれるよ」
「シブいねぇ」
「高校んときに部室にけっこう古いフォークソングの楽譜があってさぁ、練習に丁度良かったからけっこう弾けるんだよね。『結婚しようよ』とか『「いちご白書」をもう一度』とか」
「へぇ」
そこで会話は途切れて、ギターの音が鳴り出す。そして、マサオくんの歌声。
- 34 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/15(日) 21:35
- ボーイッシュなイメージとは裏腹に、透明感のあるメゾソプラノの声が、私はけっこう好きだった。
一曲終わったところで、私はレポートの手を一旦止めた。
「ねぇ」
「ん?」
「やっぱ、リクエストしてもいいかな?」
マサオくんは、きょとんとしてから、にかっと満面の笑みを見せた。
「もちろん。なにがいい?」
「『ケメ子の歌』」
「そうくるか! って、弾けるかなぁ……」
笑いながら、マサオくんが、確認するようにイントロを何度か繰り返した。
「弾けるかもしんないけど、歌詞覚えてないから歌えないよ?」
「うん、かまわないよ」
- 35 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/15(日) 21:53
- その歌は、この間、4人でカラオケに行ったとき、かなめが歌った曲だった。
なんでそんな曲を知ってるんだと言ったら、お母さんが歌ってて覚えた、とか言っていた。なんか可愛い曲でしょ、と、子供みたいに笑って。
「そういえばさぁ、かなめって、けっこう歌上手いよね。歌とか習ったりしてたの?」
「……そーいう話は聞いたことないな。ピアノはやってたらしいけど」
「そっか。伸子ちゃんは?」
「全然。カラオケ行くくらい。マサオくんは?」
「私もそんなモン。でも瞳は習ってたことあんだよ」
「なるほど。確かに瞳ん、上手かったね」
「実はさ、私、楽器始めたのって、瞳の影響なんだよねぇ」
軽く弦を弾きながら、マサオくんはどこか照れくさそうに笑った。
「自分の演奏に合わせて瞳が歌ってくれたらいいだろうなって、思ってさ」
一呼吸置いて、マサオくんがギターを抱え直して、イントロを演奏し始める。
心地よいゆったりとしたリズムが空気に溶けていった。
- 36 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/26(木) 20:53
- 「……マサオくんはさぁ」
「ん?」
「運命の出会いってしたことある?」
「はぁっ?」
なんだそりゃ、と、でも言いたげな顔をしてから、マサオくんは笑った。
「伸子ちゃん、意外と乙女チックだね」
「……や、私じゃないけど」
「違うの?」
「……どうだろう?」
「はぁっ?」
あははは、と、マサオくんはまた笑った。
「おかしいかな?」
「うん、おかしい」
「……そだね」
考えてみて、自分でもちょっとおかしいなと思った。
考えてみなければよくわからない自分に苦笑した。
- 37 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/26(木) 20:54
- 「私、よくわかんないけどさ、運命の出会いって、出会ったときにわかるもんなのかな?」
「……それは、後から、運命の出会いだったんだなぁ、ってわかるってこと?」
「っていうかさぁ、わかんないじゃん。出会ったばっかの時って、相手がどんな人なのかもわかんないし」
「うん、それはそうだ」
素直に同意して、素直に頷く。
「だから、出会った時には気付かなくてもおかしくないかもなぁって」
「うーん、そうだねぇ」
「……でも」
一呼吸置いて、マサオくんは少し遠くを見つめた。
何かを思いだしているかのように、誰かを思いだしているかのように。
「コレが運命だ! ってすぐわかるくらいの運命だったら、カッコいいね」
「……うん、そうだねぇ……」
目と目が合った瞬間、わかるような。
そんな衝撃みたいな出会いが。
……あったらそれはすごいな、ホントに。
- 38 名前:Is 投稿日:2004/02/26(木) 20:58
- ボン、と、ギターの音が鳴ったとき、コンコン、と、ノックの音がシンクロするように響いた。
弦を押さえて、音を止めると、マサオくんはドアに向かって返事をした。
「はーい」
開けられたドアから、姿を見せたのは、かなめだった。
「よっ」
「ちーっす!」
敬礼したマサオくんに敬礼仕返す。
「おはよ」
「おはよ、伸子ちゃん」
いつものように穏やかに挨拶を口にした私には、柔らかい微笑みが返ってきた。
- 39 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/26(木) 21:54
- 「おすそわけっ」
「へ?」
にっとかなめが悪ガキっぽく笑ったのが見えたかと思うと、こっちが構える前に何かが飛んできた。
「うわっ」
「あ」
慌てて両手で受け止めたマサオくんと、机の上で一度跳ねたそれを押さえ込んだ私。
「え、なに、クッキー?」
可愛くラッピングされたそれをマサオくんが自分の視線の高さまで上げた。
「うん、昨日、作ったのー」
「そんなの、投げるなっ!」
「ちゃんと受け取ったじゃない、マサオくん」
「受け取ったというか、体で止めたというか」
マサオくんは、やれやれと小さく呟いて、それから「ありがと」と言って笑った。
「……」
同じサイズのラッピング袋の中に入っている、同じサイズであったはずのクッキーは、私の方だけかなり小さくなっているだろう。
……まぁ、味は一緒か。
- 40 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/26(木) 22:44
- 「伸子ちゃん、甘いのダメだった?」
私がクッキーの袋を見つめたまま、黙り込んでいたことが、気になったらしい。
「え、そんなことないよ。ありがと」
私がそう言うと、かなめは安心したように笑った。
「んじゃ、私そろそろ行くね。次の講義、4号の第5だし」
「4? そりゃもー行かないとヤバイね」
4号館の第5教室はここからだと随分遠い。
「マサオくんと伸子ちゃんは?」
「2号の第32」
「同じく2号の第3」
「第3? テーマカレッジ取ってたんだ」
「うん、面白そーだったからさ」
「1号だったらもーちょっとゆっくりだね」
「うん」
こくこくと相槌を打つように頷いて、「じゃあ行くね」とかなめがもう一度言った。
- 41 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/26(木) 22:52
- 「あ、かなめ」
「なに?」
「今日、お昼ゴハン、どーする?」
「どうするって?」
「一緒に食べる?」
「あー、うん。いつものトコで待ってる」
かなめの言う「いつものトコ」は、学食のすぐ前にある中庭のベンチ。
「うん、わかった」
頷いて、私はかなめを見送った。
「あ」
ぴたっと足を止めて、かなめが振り返る。
「ん?」
「あとで、レポート写させてー」
「ダメ」
「ちぇー」
笑いながら軽く手を振って、かなめは部屋を出ていった。
- 42 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/02/28(土) 00:40
- 「……もしかしてさぁ、伸子ちゃんのさっき言ってた『運命の出会い』って、かなめ?」
ははっ、と、何故か少し照れくさそうに、マサオくんは笑った。
「……」
『運命の出会い』。
かなめは、そう言うけど。
「……どぉかなぁ?」
多分、違うと思う。
けれど、私はそうだったらいいという自分の中の想いを否定できずに、曖昧にそう答えることしか出来ない。
机の上に、投げられたクッキーを広げる。
「甘いにおい」
独り言のように、マサオくんが呟いた。
くだけた破片を口に運ぶ。
「おいしい?」
「ん」
私は素直に頷いた。
- 43 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:29
- 講義が終わって、学食のすぐ前にある中庭のベンチに向かう。
かるく周りを見渡してみたけれど、かなめの姿は見あたらなかった。
4号館からくるんだ、まっすぐに来たとしてもそれなりに時間がかかるだろう。
私はベンチに腰掛けて、読みかけだった本を取り出した。
鞄の中には、食べかけのクッキー。
かなめがクッキー焼いたりするなんて知らなかったな。
マメにラッピングするところは「らしい」のか「らしくない」のか。まだ、イマイチ判断できない。
本を広げようとしたとき、「伸子ちゃーんっ!」といういつもの声が聞こえた。
- 44 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:45
- 「ごめん、待った?」
「ううん。思ったより早かったね」
「そぉ?」
本を閉じて、立ち上がる。
「ゴハンにはまだ早いかなぁ。伸子ちゃん、お腹空いてる?」
かなめが時間を見るために出した携帯がつげる時間は11時すぎ。確かにちょっと早い。
「うーん、そんなにお腹は空いてないんだけど……」
かなめの方を向くと、私の話の続きを待つまっすぐな視線とぶつかった。
「12時過ぎちゃうと混んできちゃうし、行っちゃおっか」
「うん」
「またカレーうどんにするの?」
「うん、昨日はオムライスにしたし、今日はカレーうどーん♪」
「はいはい」
- 45 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:46
- その時、かなめはいつもと変わらないように見えた。
いつもの声、いつもの笑顔、いつものカレーうどん。
けれど、その日は、いつものかなめと、違っていた。
「こら、かなめっ!」
「えっ、うわっ!!」
私が叫んだ理由を言うより先に、かなめは自分の状態に気付いて慌てた。
「なにやってんの、もう」
近くの布巾を取って、かなめがテーブルに作った黄色い水たまりに放り投げる。
「あ、あー、袖についちゃってるよ。すぐ洗わないと」
「あー……」
布巾を隣のテーブルからもうひとつ取って、黄色く染まったかなめの手と袖を拭いた。
トレーナーの袖についたシミは少しは薄くなったけれど、やっぱり洗わなければどうにもなりそうにない。……むしろ、洗ってもとれないかも。
- 46 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:46
- 「……ごめんね」
「私はいいけど。どうしたの? カレーうどんこぼすなんて、かなめらしくもない」
「……あ、うん……、そうだね……」
かなめは小さく頷いて、笑ってみせたけれど、態度が明らかにおかしい。
「……どうかした?」
「ううん、別に。ごめんね」
そう言って、かなめは首を振って、またカレーうどんを食べようとしたけれど、私はその手を止めた。
「洗面所、行こ。早めに洗わないとホントに落ちなくなるよ」
少し強引に立たせて、洗面所に向かう。
テーブルの上には、食べかけのラーメンとカレーうどん。そしてカレーの汁を存分に吸った布巾が二枚。
あとで学食のおばさんに怒られるかもしれないな、と思いながらも、私は足を止めなかった。
周りで食べていた人達の視線も感じたけれど、かなめも何も言わず私の後を付いてきた。
- 47 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:47
- 校舎裏の洗面所の蛇口をひねる。
ザーッという水音が響く中を、かなめはきゅっと口を噤んだまま、手と袖を洗った。
「とれそう?」
「……ん」
淡いブルーのトレーナーが水を吸って、色を変えていく。
自分の手を見つめて俯いた横顔が、全然別のことを考えているような気がした。
薄く、唇が動いて、閉じた。
……まるで、なにか、言いたげに。
……なにか?
「……かな……」
「……あのね」
私の声に、かなめの声が被る。
そのことに、二人揃って黙り込む。
……こんなかなめは初めてだった。
胸にこみ上げてくる嫌な不安を押し込めて、声を出す。
「……何?」
ただ、一言。それだけだったけれど、沈黙を壊すには、充分だった。
- 48 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:47
- 「『伸子ちゃん』って呼ぶの、……私だけじゃダメ?」
「へっ!?」
思いもよらなかったかなめの言葉にかなり間抜けな声を出してしまった。
きゅっと唇を噤んだかなめが、私を見る。
その目は、今にも泣き出しそうに思えた。
「……『私だけ』……って、絵馬だって時々私のこと『伸子ちゃん』って呼ぶじゃない」
「絵馬ちゃんは許す! 運命の仲間だもん」
……『運命』。
その言葉が、チクリと私の心に棘を刺した。
「……マサオくんやひとみんだって仲間になるんじゃないの?」
あの、境内での出逢いが運命だって言うんだったら、運命なんてどこにだって転がっている。
あの二人に出逢ったことだって、運命だ。
「……そうだけど、そういうんじゃなくて……」
「……」
「ごめん、違う。……私、絵馬ちゃんが呼ぶのだってヤなんだ……」
きゅっと握りしめられた手が、小さく震えていた。
- 49 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:48
- 私はその震えを見て、やっと気付いた。
私は、まだ、かなめのこと、なんにもわかってないんだ。
私達は、まだ喧嘩だってしたことなかった。
私の知っているかなめは、いつも笑顔だった。
そりゃ、少し拗ねたり膨れたり、そんなことはあったけれど、本気で怒ったところも泣いた顔も、まだ見たことがない。
考えてみればあたりまえかもしれない。
私達は、出逢ってまだ、三ヶ月しか経ってないんだ。
- 50 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:48
- ひとみん達と最初に出会ったときのことを思い出した。
ひとみんが私達のことを『伸子ちゃん』『かなめちゃん』って呼んでもいい?って言ったときに、かなめが一瞬みせた戸惑い。
それは、自分が『かなめちゃん』って呼ばれることにたいしてじゃなく……
「……かなめは、誰かが私のことを『伸子ちゃん』って呼ぶのがイヤなの?」
「……よくわかんないけど」
「自分だけ特別がいい、ってこと?」
まるで何かに弾かれたようにかなめが驚いた顔をして私を真っ直ぐに見た。
カマかけるつもりで口にした提案に返された表情が、当たらずも遠からずだと私に知らせる。
その気持ちはなんとなくわかった。
大事なな友達に自分の知らないところで、親友が出来たときの気分。
- 51 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:48
- 「それだったら、かなめが他の呼び方すればいいんじゃない?」
「……」
「なにか希望ってある?」
「わ、わかんないよっ」
「子供みたいなワガママ言ってないで。みんなと一緒がイヤだったら、かなめが変えればいいでしょ?」
「……だって、どうしていいのかわかんないんだもん!」
「なにが」
「わかんない。わかんないけど、イヤなんだもん!」
「それじゃ、私の方がわかんないよ」
「絵馬ちゃんとあの二人と、私、どっちが好き!?」
「……どっちって……」
なんだか、……なんだそりゃ、って気分だった。
幼い独占欲。
いつのまにか私達は互いに互いを居場所にしていたみたいだ。
たった三ヶ月しか一緒にいないのに。そう思うとなんだかおかしくて笑えてくる。
- 52 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:49
- ぴくっと、なにかに気付いたようにかなめの顎が動いた。
「……好きなの?」
「え?」
「……もしかして、私、伸子ちゃんのこと、好きなの?」
「は?」
かなめが言ったことの意味を理解するのに、少し時間がいった。
……「好き」?
好き、という言葉が持つ、色んな意味。
……かなめが、私を?
好き、という言葉が持つ、特別な意味。
喉元が熱くなって、背筋が震えた。
- 53 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:49
- 「……あ、えっと、……かなめって、女のコが恋愛対象なの?」
「違う……と、思う」
「……あ、麺類でもいいんだっけ」
「違うってば! 今まで男のコとしか付き合ったことないし、好きになるのもみんな男のコだったけど」
「……はぁ」
「だからわかんなくて困ってるの!」
「……」
「……私、伸子ちゃんのこと好きなのかな?」
「疑問形で言われても」
「だってわかんないんだもん!!」
何を混乱してるんだ、この子は。
そう思うと、落ち着いていく自分の感情が見て取れた。
そして、同時に迷っていた。
……どうしよう。どうしようか?
「好き」だと言われて、こんなに嬉しいのは、初めてだ。
今、かなめに「好きじゃない」って言われたら、泣いてしまうかも。
- 54 名前:Is this 運命? 投稿日:2004/03/01(月) 21:50
- 「……じゃあ、私が答え、出してあげようか?」
自分で思いついたズルイ選択。
「……いいっ!」
ばっと、かなめの体が後ろに飛び跳ねた。
「自分で考える!」
「……」
「だから、明日まで待ってろ!!」
びしぃ!と効果音でもつきそうな勢いで、指さされて、思わず固まってしまった。
かなめはくるりと踵を返すと、走って去っていった。
「……命令形かい」
背中を見送って、姿が見えなくなったところで、なんだかおかしくなって笑ってしまった。
「……かなめ、おっかしいよ」
出しっぱなしにしていた水を止める。そしてまた笑った。
- 55 名前:Is 投稿日:2004/03/01(月) 21:50
- なんだ、と思った。
運命だ、と、思った。
かなめの言ってることのほうが正しかった。
あの日、境内で出逢ったことも、同じ大学に入ったことも、そして今、こうやって一緒にいることも。
運命だって、信じてしまえばいい。
出会った瞬間に、確信出来るような衝撃的でカッコイイものじゃなかったけれど。
きっと、私達は、恋をする運命だったんだ。
……だから。
「……しょーがない、待っててやるか」
帰りに、私達が出逢ったあの神社に寄って。
そして、またあのときのように、手を合わせて神頼みをしよう。
……かなめの出す答えが、私の望む答えでありますように、と。
END.
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/01(月) 21:51
- ENDマークです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/01(月) 21:53
- 実際書いてみると、あんまりかなめと伸子にこだわる必要はなかったのかも、と思ったりもしました(苦笑)。
(あゆみとめぐみでよかったかも、と)
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/01(月) 21:54
- 一応、隠し。
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/02(火) 04:46
- お疲れ様でした。
毎回更新を楽しみにして読んでいました。
ここの「かなめ」と「伸子」の雰囲気が大好きだったので、終わってしまうのはやっぱり寂しいです。
斉大の番外編なんかもできたら読んでみたいなぁ、なんて・・・。
ともかく、素敵なお話をどうもありがとうございました。
- 60 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/03/12(金) 21:41
- 初めて出会った日のことは、覚えていない。
けれど、その日の記録はアルバムの中に大量の写真として残っている。
生まれて初めての誕生日を迎えた子供と2歳の子供の初顔合わせ。
もちろん、全然覚えていないんだけれど、その時どんなことが起こったのかは嫌というほど聞かされた。
瞳に着いていこうとして階段から落ちそうになった、とか。
瞳のお気に入りの人形放り投げて泣かした、とか。
泣きやんで貰うためにケーキの上に乗ってたネームプレートのチョコレートをあげたんだ、とか。
仲のいい母親達は、今でも楽しそうにその日のことを語るけれど。
「……覚えてないっちゅーの……」
言い返せば返すだけ話は繰り返されるし、ヘタをすると新たな新事実まで出てくるもんだから、今はもうおみやげの茶菓子と紅茶だけ引き取って、さっさと部屋に逃げることにしている。
勉強机の上に紅茶のカップを置いて、ポケットから携帯を出す。
貰ったシュークリームを食べる手を一旦止めて、瞳が電話に出るのを待った。
- 61 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/03/12(金) 21:43
- “マサー?”
少しざわついた空気の中から、聞き慣れた瞳の声がした。
「ういーっす」
“どしたの? バイトは?”
「休みー。なんか、明後日いきなり用事が出来たから、シフト変わってくれって頼まれてさ」
“そっかぁ”
「瞳、ヒマぁ?」
“これから映画でも行こうかと思ってんだけど、マサも来る?”
「何見るの? ディズニー?」
“うん、そう”
「ひとり?」
“うん。友達誘ったんだけど、先約があるって振られちゃったぁ”
その言葉にちょっとだけムッとする。
なんだよ、私、誘われてないぞ。
- 62 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/03/12(金) 21:44
- 映画、行きたいなら一緒に行こうって言ってくれればいいじゃん。ひとりで行くの、そんなに好きじゃないくせに。
……そんなことを心の中で呟いてしまうけれど、口や態度には出さない。
「日曜になんか誘うからだよ」
映画くらい、空いてる平日にいくらでも行けるのに。
“だって今日までなんだもん。マサはバイトだって言ってたし”
「まぁね」
わがままだっていうのはわかってる。
結局、私は瞳に甘えてるんだ、って知ってる。
……でも、その力関係はやめられない。
「映画、何時から?」
シュークリームは、外で食べるおみやげには向かないな。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/12(金) 21:45
- >59 :名無飼育さん
レス、ありがとうございます。とても嬉しかったです。
- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/12(金) 21:46
- まだ触りだけですが、斉大の番外編です。
- 65 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/03/23(火) 02:37
- 「もしかしてまた、うちのおかーさん、マサんち行ってる?」
「うん。おみやげ、シュークリームだった」
「え、いーな! なんで持って来てくんないのよ!」
「持ってこれないってば」
「マサのばか」
……ばか、だって。
子供みたいに膨らませたほっぺをつつく。
「買ったげるから、機嫌なおしなよ」
ばっと表情が明るくなる。けれどそれは機嫌がなおったわけじゃない。
もともと機嫌損ねてなんかいないんだもん。
拗ねたフリと我が儘きくフリは、私たちのスキンシップ。
- 66 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/03/23(火) 02:38
- 「万年金欠虫なくせにいーの?そんなこと言って」
「今はそーでもないんだよ」
「なに? ワリのいいバイトでも見つけたの?」
「違う違う。スタジオ代、まるまる浮いてんの」
「あ、そっか」
大学に入ってから、今まで週1で借りていたスタジオを借りなくなった。サークルのおかげだ。
「やったー」
「……ホントに甘いモン好きだねー」
「マサだって好きでしょ?」
ちょっと首を傾げて、覗き込んできた笑顔に、「ま、ね」と笑い返した。
甘いモノが大好きな、一コ年上の幼なじみが恋人になった日から、もうすぐ、一年。
- 67 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/03/23(火) 02:38
- 「どーしよっかー。先にシュークリームかなぁ〜」
「映画の時間チェックしてるんだよね?」
「いや〜」
「してないんかい」
「夏モノのチェックもしたかったから、時間が空いたらぶらぶらしてようと思って」
「じゃあ、一回映画館行って、時間調べてからだね」
「うん!」
……瞳の屈託のない笑顔を好きになった。
なんでも受け止めてくれそうな、優しいところとか。
好意がそのままストレートに伝わってくるところとか。
……好きなんだけど、最近、ホントに好きなのかな、と思ったりする。
ありのままの私を受け止めてくれるから、とか、好きでいてくれるから、とか、そんな理由は、瞳じゃなくてもいいってことのような気がして、……なんだか。
そういうのって、どうなんだろう?
- 68 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/04/25(日) 20:36
- 「伸子ちゃんってどんなものあげたらよろこぶかなぁ」
「はい?」
ギターを片付けていた私に、かなめが妙にまじめな顔で近づいてきたと思うと、不意にそんな質問を投げかけてきた。
「もうすぐ伸子ちゃん、誕生日なの。やっぱり欲しがってるものあげたいし」
「へぇ、伸子って6月生まれだったんだ」
「うん、そうなんだよー」
えへへ、と、なにが楽しいんだが、かなめが少し照れくさそうに笑った。
「なんでも喜ぶんじゃないのー?」
「もう、少しは真剣に考えてよ〜〜」
「真剣にって……。うーん、あ、こないだ、ルーズリーフ欲しいって言ってた」
「マサ、ちゃんと答えてあげなよー」
……瞳まで言うか。
- 69 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/04/25(日) 20:37
- 「だって伸子の欲しがるものなんか知らないもん。なんで私に聞くの」
「だって仲いーじゃない」
「そりゃ仲はいーけど、私が知ってるよーなことだったら瞳やかなめだって知ってるよ」
「う〜〜」
「なんでもいーんじゃないのぉ?」
もう!ってまた言われたけどホントのことだし。きっと、伸子だったらなんでも喜んでくれるんじゃないかな。
「……かなめからの『おめでと』って言葉が一番嬉しいんじゃないの?」
かぁっとかなめの顔が赤く染まる。
「そ、そーいうんじゃなくって!!」
身体を強ばらせるかなめを、つい、初々しくっていーなぁ、なんて思ってしまった。……私も、あーだったかな? ちょっと違うな。
瞳はどーだったんだろう。
誕生日なんか家族コミのお祝いだったもんなぁ。恋人になってから最初に貰ったプレゼントはCDとピアスだった。私は瞳が欲しがってた香水をあげた。
あんまり何をあげよう、って考えなかった。どっちかというと、悩んだのはどーやって金をやりくりしようかということだった気がする。
……なんか、いーなぁ。
どきどきわくわくしてる感じがこっちにまで伝わってくる。
- 70 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/04/25(日) 20:41
- 「……いーなぁ」
実際に呟いたのは瞳だった。
先に帰ったかなめを見送ったあと、2人きりになった部室で、まるで独り言のように瞳は目を細めて呟いた。
もちろん、瞳の言葉の意味がわからなかったわけじゃなかった。
多分、瞳も私と同じように、……多分、もっとオトメチック風味なんだろうけど、まぁ、とりあえず同じように感じたんだと思う。
けれど、私は「そうだね」と素直に同意することも、「なに言ってんの」ってからかうことも出来なかった。
2人を包む、かなめもいた時とは違う空気になじめずに、聞こえなかったフリをした。
- 71 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/04/25(日) 20:48
- 「……ねぇ」
「ん?」
顔をあげると、すぐそばに瞳の顔をみつけて、一瞬びくっと身体が震えた。
「ねぇ、マサはドキドキすることってある?」
「……ドキドキ? 瞳に?」
今、一瞬、違う意味でドキッとしたけど。
「アンタ、ほかに誰がいるのよ!」
「……そう言われてもねぇ……」
何年一緒にいると思ってんの。
「もしさぁ、ほかに好きな人ができた、って言ったらどーする?」
「なに言ってんの」
「……」
「……マジ!?」
瞳の沈黙に、頭で考えるより先に、叫んでいた。
- 72 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/04/25(日) 20:54
- 瞳は少し呆れたように小さく溜息をついた。その溜息が、私を確実に焦らせる。
「だったらぁ?」
「え、え、……どぉって……」
ほかに好きな人?
ほかに、って、私以外に?
……瞳に?
「……」
言うべき言葉も言いたい言葉も見つけられず、ぽかんと口を開けた私の上唇に、瞳の人差し指がちょんと触れた。
「いないよ、そんな人」
瞳のくすっという笑いに、身体中の力が抜けた。
- 73 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/04/25(日) 21:13
- 「……瞳ぃー……」
「ドキドキした?」
「……こーいうのはやだよ」
二の腕が張ってる。
こんなに緊張してたのか、私は。
「私達も帰ろっか」
いつもと同じ笑顔を見せた後、瞳はくるりと背を向けた。
「……」
きゅっと自分の手を握りしめる。
手は冷たくなっているのに、汗をかいていた。
……なんだ、このザマ。
- 74 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/04/25(日) 21:13
- 「マサ?」
私が返事をしなかったものだから、瞳がきょとんとした顔を振り向いた。
「……あ、うん。帰ろう」
なんでもない風を装って、笑ってみせる。
ほんの少し、いつもと変わらない瞳の笑顔が憎らしかった。
試すようなこと、すんなよ。
焦らせるようなこと、すんなよ。
けど、口には出来ない。
素直じゃないのか。ガキの言い分だってわかってるからなのか。
どっちにしても、口には出来ない。
小さく息を吐くと、幾分気持ちが落ち着いて、違う思考が頭の中に浮かんできた。
自分で思ってたより、私、ちゃんと好きなんじゃん。
そう思うと、ほんの少し、嬉しくて笑いたくなった。
- 75 名前:影 投稿日:2004/05/19(水) 22:16
- 「……瞳ぃー」
「んー?」
くるりとまるで回るように、身体全体で振り向く。
そして、「どしたの?」とでも聞いてくるみたいに、ちょっと首を傾げて笑う。
「……あのさぁ」
「ん?」
自分の表情が、苦笑いのまま固まっているのがわかる。
言おうをした言葉は、喉の奥でぐるぐる回って、声に出来なかった。
「……も、も、ちょっと」
「なによー」
「もうちょっとこっち来てよ」
「えー?」
ぶんぶんと勢いづけて、手招きする。口では文句言いながら、瞳は笑顔で私に向かって歩いてきてくれた。
- 76 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/05/19(水) 22:17
- ……わかってた。
知ってた。
瞳が、そーやって笑うこと。
瞳は、いつも優しいんだってこと。
知ってたのに、なんでわかんなかったんだろ。
優しさに甘えられるのも、ストレートに伝わってくる好きって感情が嬉しいのも。
ありのままの自分を受け止めて欲しいって思うのも、全部。
瞳、だから。
そんなこと、恥ずかしくって、くやしくって、口になんかしてやんないのも、瞳だからだ。
- 77 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/05/19(水) 22:18
- 手を伸ばせば届く距離から、一歩近づいたところで、瞳を捕まえた。
腕を掴んで、力任せに抱き寄せる。
びくっと瞳の身体が固くなったのがわかって、なんだかおかしかった。
「……マ、マサ?」
あったかくて、やわらかい身体を、ぎゅっと力一杯抱きしめた。
「……初めて会った日のこと、覚えておきたかったな」
「え?」
瞳に着いていこうとして階段から落ちそうになったことも、瞳のお気に入りの人形放り投げて泣かしたことも、ケーキの上に乗ってたネームプレートのチョコレートをあげたことも。
瞳に出会って、その時の自分の感情を、覚えておきたかった。
「……しょーがないじゃん。私達、まだ一歳と二歳だったんだし」
「だよね」
- 78 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/05/19(水) 22:18
- わかっていても、瞳と出会った記念日が自分の中ですっかり他人事になってることが、とても勿体ないことに思える。
「……いーじゃん、忘れちゃってても」
「いいのかな」
「いいよ」
耳元で、くす、と瞳が笑った。そして、ぽんぽんと優しく頭を撫でる。
「私達が出会った記念日だってことに、かわりはないんだから」
「……そぉかなぁ?」
「そうなの!」
「いてっ」
ペシッと背中を叩かれて思わずのけぞった。
「もー、瞳、乱暴だなぁ」
「アンタはもーちょっとムードってものを考えなさいっ」
「え、わけわかんないよ」
そんな、ムード考えろ、って、言われても。むしろ、ムード壊したの、瞳じゃないの?
- 79 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/05/19(水) 22:19
- むぅ、と少し唇を尖らせて、瞳と視線を合わせる。
「ばーか」
なんだよ、と反射的に返しそうになったけれど、その言葉は飲み込んだ。
いつもと同じように笑う瞳の頬が、なんとなく赤くなっていたのに、気付いたから。
「……」
「マサ?」
黙り込んだ私に、瞳は少し不安そうに首を傾げる。
……ムード。
ムード、か。
今からやる私の行動は、今のムードに反さないものなんだろうか?
「……ま、いっか」
「マサ?」
返事は後だ。
両手で瞳の肩を捕まえて、そのままの流れでキスをした。
- 80 名前:ANNIVERSARY 投稿日:2004/05/19(水) 22:19
- あ、やっぱやわらかいなぁ、なんてのんびり考えた後で、きゅっと私の服の袖を掴んだ瞳に満足して、唇を離した。
そして、さっき後回しにした返事を口にする。
「何?」
「……何じゃないわよ」
少し拗ねたような顔をした瞳がやけに可愛くて、思わず笑ってしまった。
一コ年上の幼なじみが恋人になった日から、もうすぐ、一年。
その記念日には何をプレゼントしようか。
……ねぇ、瞳?
END.
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/19(水) 22:21
- 最後にうっかりミスしてしまって、ちょっと自己嫌悪(苦笑)。
読んでくださった方、ありがとうございました。
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