CROSS HEARTA
- 1 名前:tsukise 投稿日:2004/01/28(水) 19:26
- 同じ空板で書かせていただいてますtsukiseです。
今回続きとしまして、次スレをたてさせて頂きますっ。
ごまっとう主体でCPこんごまの、アクション系…。
お目汚しにならぬよう、努力しますのでよろしくおねがいします…っ。
前スレ
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/sky/1037973113/
- 2 名前:tsukise 投稿日:2004/01/28(水) 19:27
- 目の前に広がった世界に、アタシは愕然とした。
イスに座らされてるアタシ。
その額に、色んなパッチを貼られていて…手足は皮製のベルトのようなもので
イスに固定され拘束されていて。
そんなアタシを、何人もの白衣を纏った大人たちが見下ろして、その手にもった
ボードに何かを書き込んでいってる。
その情景は…随分昔に体験した―――忌まわしい過去の記憶そのもの。
ありえない…っ。
なに…!? これは一体…!? どういうことなの!?
「被験者番号305番、脳波に乱れが感じられます」
戸惑うアタシを見た一人の奴が、別の奴にそう言う。
それを聞いたそいつは、何かの液体を注射器に注入するとアタシに歩み寄ってきた。
- 3 名前:tsukise 投稿日:2004/01/28(水) 19:28
- イヤだ…、やめてよ…っ!!
声に出したいのに、何故か言葉は出てこない。
その代わりに、ただだらしなく『あぁ』とか『うぅっ』とか呻きに似た声しかでない。
なんで…!? なんでこんな昔の記憶が…!?
………。
まって…、昔…?
だとすれば、この時のアタシは…っ!
あたりに視線を向ける。
どこかの研究施設なんだろう、鉄製の壁は鈍い光を放っている。
…と、その僅かな鏡のように輝く場所で自分の姿を確認する。
「……!?」
息を飲んだ。
アタシの姿は…まだ3歳ばかりのコドモだったんだ。
アタシの記憶が確かならば…、この頃のアタシは突然軍人に引き取られ外界からの
情報などなくて…『言葉』というものを、まだ知らなかったはずだ。
3歳になろうという歳なのに、だ。
- 4 名前:tsukise 投稿日:2004/01/28(水) 19:28
- そして、たしか…
「抗原ウイルスを注入します」
「あぁぁっ! うぅあぁっ!」
突き立てられた注射に激痛を覚える。
熱く燃えるような感覚と一緒に、体内の力が抜けていくのが判る。
意識さえも朦朧とするような強い薬に、自意識がなくなっていく。
やっぱり…アタシは、この時…
「305番、お前には特殊な力がある。それを…我々に貢献せよ。崇高な機械として」
「お前は、人を狩るマシーンだ。人の心などいらない」
「我々の命令だけを聞け」
『機械』として、生を受けたんだ。
「脳波、安定していきます」
イヤだ…、アタシは機械なんかじゃない…。
- 5 名前:涙 投稿日:2004/01/28(水) 19:29
- 「検査結果では、通常より感情の起伏が激しいらしいですが…ウイルスには勝てませんか」
アタシは…違う…。
「特殊なものだからな。免疫値が最大まで引き出せるし学習能力も恐ろしい速さで発達する」
アタシは…
「数週間後には、忠実な破壊兵器が完成する、ということですか」
アタシ ハ…
「力を持ったものが、世界を制す。それを305番が証明するんだ。…なぁ305番、後藤真希」
「……アイ・サー」
―――アタシ ハ…ナニ?
暗闇に落ちていく『アタシ』の意識。
最後の瞬間、あのコの笑顔を見たような…気がした。
- 6 名前:tsukise 投稿日:2004/01/28(水) 19:29
- >>2-5『涙』
今回更新はここまでです。
短めですが、紺野があやや編などで動いていた時のごっちんってカンジで…(汗
まだ、ちょっと長くなりそうですが、お付き合い下されば幸いです…(平伏
レスを頂けるのでしたら、sageでよろしくお願いします…。
>903 つみさん
大量更新にありがとうございますっ!
あいぼん…あやや編で一番辛い立場で書いてる方も切なく…。
いつ紺野に気づいていたのかは…あややのみが知る、と(マテ
今回短め更新でしたが、一番紺野が活躍すると思いますので
またまた読んでくだされば嬉しい限りですっ
- 7 名前:tsukise 投稿日:2004/01/28(水) 19:30
- >904 みっくすさん
精神世界でみんなの過去が精算…できるといいですねっ(マテ
ミキティ、あややはイイカンジだったのですが…ごっちんは果たして…。
書いてる方も、あれよあれよと展開を変えていて先が読めなかったり(マテ
ここが一番紺野の頑張り時になりそうですが(ぉ
>905 娘。よっすいー好きさん
大量更新にありがとうございますっ。
ミキティとあやや、結構波乱な出会いでしたが、楽しんで頂けたなら幸いです。
この調子で紺野には…『あの人』も助けて…ほしいですねっ(マテ
>906 名無飼育さん
ハイ、山場キテますね〜っ!書いてる方も必死だったり(マテ
ハラハラしながら見ていただけたなんて、嬉しい限りですっ
あの人のこれからも…ハラハラして見て頂けるよう頑張りますね。
>907 受験生君さん
センター試験、お疲れ様ですっ!
いや、そういって頂ければ作者としては嬉しい限りですっ!
ミキティ、やるときゃやりますってカンジが出てましたでしょうか♪
いつもはお茶目なミキティだけど、頼れるってカンジを出したかったので
ご感想、本当に嬉しいですっ
- 8 名前:tsukise 投稿日:2004/01/28(水) 19:30
- >908 星龍さん
ハラハラして見ていただけたみたいでうれしいですっ
紺野…がんばってますね…っ!この調子で『あの人』 の時も…っ。
応援レスに励まされつつ頑張らせて頂きますので
またまた続けて読んで下されば、嬉しい限りですっ!
>909 名無し読者79さん
後紺にハマって頂けたみたいで作者としては嬉しいですっ!
ストーリー的に、色々悩んで書いていたりするんでご感想に励まされていたり…♪
ごっちん編…まだまだ出だしですが、続けて読んでくだされば幸いです。
>910 片霧 カイトさん
痛い…ですね、ハイ。結構書いてる方も痛いなぁと思ってましたデス(笑
紺野…おいしいところは持っていかれちゃいましたが、彼女なりに
頑張ってる姿がかけていたらいいかなぁと(ぉ
いつも、応援レスをありがとうございますっ!
>911 ヒトシズクさん
大量更新にありがとうございますっ!
いやはや、波乱万丈な三者三様になってしまっていますがご感想に
元気をもらっていますですっ!
ごっちん編は、一番の山場になりそうで…書いてる方も頭を捻っていたり(マテ
ハイ、頑張り過ぎない程度に頑張らせていただきますねっ!
- 9 名前:tsukise 投稿日:2004/01/28(水) 19:30
- >912 ku_suさん
後紺…何気に今回はごっちんの回想部分みたいで全然
絡められなかったのですが、次回からどんどん絡ませていく予定ですので
続けて読んで下されば、嬉しい限りですっ
>913 レオさん
興奮しながら読んでくださったみたいで、ありがとうございますっ!
バトルシーンは結構苦戦しながら書いていたりするんで、ご感想
とっても嬉しいですっ。どんどん展開が早くなっていくと思いますが
続けて読んで下されば幸いですっ
>915 林火
ハイ、あやや編が終わりまして、ごっちん編へと入りましたが…
まだまだ冒頭ってカンジで申し訳ないですっ(汗
次回からドンドン展開が早くなっていくと思いますので
またまたフラリと立ち寄って読んで下されば嬉しいですっ
- 10 名前:うまい棒メンタイ味 投稿日:2004/01/28(水) 19:55
- 新スレ(*≧∇≦)/--------((祝))≧□≦)~☆グハッ
久振りごっちん視点キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!w
|ω・`)ノ楽しみにしてました!!(ボカスカ
ようやくごっちんの過去が明らかになりますねもうドキドキしっぱなしっすよ!w
何気に紺ちゃん風邪引いてるらしく心配だったり(汗
月っちも風邪引いたりしないように頑張って下さ〜いw
では乱文コレにて失礼|彡サッ
- 11 名前:娘。よっすぃー好き 投稿日:2004/01/28(水) 21:07
- 新スレおめです。
3歳のときのごっちんですか。ちょっとびびりました(w
ごっちんの過去は、ここから始まるのですね(w
- 12 名前:みっくす 投稿日:2004/01/28(水) 21:55
- 新スレおめです。
ごっちんを引き戻すのは結構大変そうですね。
紺ちゃんがんばれ〜〜。
- 13 名前:つみ 投稿日:2004/01/28(水) 22:42
- 新スレおめでとうございます。
いきなりものすっごいことになってますね・・・
こんこんがどのタイミングででるのかが楽しみです!
- 14 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/01/29(木) 00:02
- 新スレおめです!
こういうストーリーを映像化できたらと
思うことが最近多くなってきましたw
- 15 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/01/29(木) 00:03
- 上げてしまいました・・・
ごめんなさい
- 16 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/01/29(木) 01:31
- 新スレおめでとうございます☆
そしてとうとう登場しましたね! なんかすごいところから始まってますが。
紺ちゃん、ごっちんを助けてあげて〜! ってかんじです。
これからも頑張ってください〜!
- 17 名前:rina 投稿日:2004/01/29(木) 08:06
- 新スレおめでとうデス☆
とうとうごっちん編ですね!!
すごく意味深な始まりなので気になってしょうがないです。
これからも頑張ってください!!
- 18 名前:星龍 投稿日:2004/01/29(木) 17:36
- 新スレおめでとうございます。
続きがとても気になります!!
紺野さん頑張って欲しいですね!そして作者さんも頑張ってください!!
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/29(木) 21:13
- >18
レスはsageで。
メール欄にsageって入れるだけだから。
tsukiseさんだけでなく、他の作者さんにも迷惑かかるから気をつけて。
- 20 名前:名無し読者79 投稿日:2004/01/30(金) 16:37
- 更新お疲れ様です。
この後の展開がどうなるかワクワクしながら待ってます。
ごっちんの過去はかなり…悲しいですね。
- 21 名前:星龍 投稿日:2004/01/30(金) 18:45
- すいません。上げてしまいました。
本当にごめんなさい!!
- 22 名前:レオ 投稿日:2004/01/31(土) 18:34
- 新スレおめでとうございます!!
いよいよ本題の後藤さんの過去ですか〜。
いや〜かなり興奮しております!!
後藤さんの過去を見て紺ちゃんはどういう反応を示すか楽しみです。
- 23 名前:ku_su 投稿日:2004/02/03(火) 04:38
- 新レスおめ
後紺に期待!
- 24 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 18:56
- 辿り着いた場所は…真っ暗だった――。
きょろきょろと辺りを見渡してみるけど、何にもなくて…。
ただそこには深い深い闇だけが広がっていたんだ。
私の意識が正しければここはあの人の――後藤さんのいる場所のはず…。
それなのに…ここには、後藤さんの気配がまるでなくって…。
「ご、後藤さん…?」
不安になって闇に向かって呼び掛けるけど、返ってくるのは金属で出来てるらしい
部屋の壁に反射してる自分の声。
そんなに広くはない場所だと思うけど…でも無機質な感じが不安を呼んでしまう…。
本当に、ここには後藤さんはいないのかもしれない…。
そう思ったその時、
チャリ…
どこかから重い音が聞こえたんだ。
何か鉄のようなものがこすれる音が。
- 25 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 18:56
- 「ご…後藤さん?いるんですか?」
暗闇に不安が広がっていくけど、私はとりあえず音のした方へと歩きだした。
足元はおぼつかないし、視界も真っ暗だったけど、ただ聞こえた音だけを頼りに…。
チャリ…チャリ…
だんだんと近づいてくるその音。
それは感じられなかった誰かの気配と一緒の所から聞こえて…私の足は自然と早く
なってしまっていた。
結果…
「あ…っ!」
ガタン!
何かに足を取られて、その場に転んでしまったんだ。
「痛…っ。な、何…?」
ぶつけた膝をさすりながら、今つまずいたものに振りかえってみる。
だんだんと暗闇に慣れてきた視界に映ったのは、何か丸い塊。
そう…ちょうどボーリングの玉ぐらいの。
- 26 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 18:57
- なんでこんな所に…?
不思議に思いながら恐る恐る触れて…気付く。
この玉…鉄の塊だ。
きっと私なんかがどうやっても持ち上げるのは無理なぐらいの。
…って、あれ…? これ…鎖がついてる…。
そのごつごつした感触は鉄の玉と同じ位、頑丈な作りになっている事を物語ってて…。
でも一体何に繋がってるんだろう…?
手探りで鎖の先を辿っていく。
途中で何か繋ぎのような感触があってそれから私の手が何かに触れた。
柔らかくて微かな温かさのものに。
これは…人の手…?
徐々に慣れ始めた視界の先のものは確かに人の手だった。
きゅっと握りしめたその瞬間、
- 27 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 18:57
- 「誰?」
「ひゃっ」
すぐ傍で聞こえた声に私は反射的に手を離して身体を引いた。
「ごっ、ごめんなさいっ!私、つい…っ!」
慌てて頭を下げるけど目の前の人は何も言わず、じっと私の方を見ているみたいだった。
「あの…? ……っ!?」
戸惑いながら顔をあげて――すぐ側にいたその人にびっくりした。
サラサラのセミロングで栗色の髪。
私が知ってるそれより、幼さが残る顔立ち。
でもその瞳は深い孤独の影が落ちていて…。
―――その灰色に濁った瞳に私は見覚えがあったから。
ううん、見間違えるはずがなかった。
「ごっ、ごと…っ」
言いかけて、ハっと気付く。
その人の今の状況に。
- 28 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 18:57
- 鉄の玉と鎖に拘束された手足。
それは、この部屋の闇からその人を――後藤さんを逃すことを許さない、と
宣告しているみたいで…。
一番の衝撃はその首にはめられた、鎖と同じくらい頑丈そうな…――首輪。
こ…これが…後藤さん…?
どうして、こんな…。
あまりの事に言葉が出ない。
でも、そんな私に後藤さんは無機質な瞳を向けると、もっと衝撃的な事を告げたんだ。
- 29 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 18:58
- 「アナタ、誰?命令、くれる?今度、誰、殺す?」
「!?」
―――今、なんて言った…?
片言で後藤さんは、なんて言った…?
「命令、なに?」
「後藤さ…ん…? 冗談…ですよね…?」
笑える状況なんかじゃない。
全然そんな状況じゃないのに、私はだらしなく口元に笑みを浮かべてしまっていたんだ。
人間は、表したい感情が限界を超えると…相対する感情を表してしまう…。
そんな言葉を何かの本で読んだことがあるけど…まさにそんな風に。
「アナタ、命令、私、する」
それでも後藤さんの言葉は繰り返される。
ぜんまいが弾けとんだ―――機械のように。
「誰、殺す?」
さも当然のように言ってくる後藤さんに、恐怖とか、そんな感情がぐちゃぐちゃになって
溢れかえってくる。
- 30 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 18:58
- 違う…っ、こんなの…こんなの後藤さんじゃない!!
私の知ってる後藤さんは…っ!
「命令、なに?」
私が好きな後藤さんは…っ!
「っ!! 後藤さんっ!! 目を覚ましてくださいっ!!」
たまらず私は座り込んでいる後藤さんの両肩を掴んで、その瞳を覗き込んだ。
「ここは…っ! これは、現実なんかじゃないんですっ!こんな後藤さんは
後藤さんなんかじゃない!!」
「? アナタ、わからない」
「ここはっ! この世界は、過去……」
過去―――。
その言葉が……私の頭に金槌で殴ったような衝撃を与えた。
- 31 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 18:59
- これが…後藤さんの過去…?
こんな暗闇に閉じ込められた世界が?
誰かの命令で、色んな事をしていたのが…?
『殺らなきゃ、殺られる』
いつか聞いた後藤さんの言葉が、ハッキリと思い出される。
それは…後藤さんを捕らえて離さない過去の鎖が苦しめていたから…。
ずっとずっと…ずっと今も苦しんでいた…?
私が知らないところで、いつも苦しんでいた…?
「………水…」
「え…?」
不意に目の前の後藤さんが呟いて、私は見下ろす形で視線を向ける。
途端に…ポタポタと、後藤さんの頬に落ちる――涙。
私は…泣いていたんだ。
「水…、目、零れる、何故?」
「後藤…さん…」
心底不思議そうに見上げる後藤さん。
私は、その姿に…また涙した。
- 32 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 18:59
- 消せない痛みを、藤本さんや松浦さんと同じように、ずっと背負っていた後藤さん。
なんにも知らなかった自分。
その上、楽観的に後藤さんが好きだなんて勝手に想ったりして。
守ってくれるっていう言葉に、喜んだりして…。
「ぅ…っく…っ…ひっく…」
本当に守ってほしかったのは、きっと後藤さんの方なのに。
後藤さんが苦しんでいることにも…私は、
―――気づけなかった…助けられなかった。
私のせいで、後藤さんはまた…過去の鎖に囚われてしまったんだ…っ。
「ごめんなさい…ごめんなさい…っ」
「? 水、止ま…らない…」
僅かに…、後藤さんの表情に変化があった。
きっと普通の人なら気づかないと思う。
でも私にはわかったんだ。
後藤さんの瞳に…何かがチカっと光ったのが。
- 33 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 19:00
- 「水…私、知ってる…、これ…は、涙…」
「ごとぉ…さ…?」
「涙…見たくない…。この涙は見たくない…。アナタの涙…は…」
ゆっくりと差し出される右手。
ガチャリと一緒に響く、鎖の音。
でも、私たちにはそんな音は聞こえなかった。
「後藤さん…」
「……見たくない…」
後藤さんの手の平が、あと少しで私の頬に触れるという場所に来て…止まる。
ふと見ると…、困惑したみたいな後藤さん。
何にかが判らなくて、伸ばされた手を見てハっとする。
後藤さんの手は―――渇いた血の色に染まっていたんだ。
「………………」
しばらくして、伸ばされていた手がゆっくりと…拳を作りながら下がっていく。
でも…っ。
- 34 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 19:00
- 「後藤さん…っ」
「!」
私は、その手を両手で包み込んでいたんだ。
この手を離したら…、きっと後藤さんは後藤さんでなくなる。
なぜか判らないけど、そう思ったから。
それから自然と、頬へと導く…。
触れて欲しかった。
後藤さんが『触れたい』と思ってくれたなら。
だって…目の前の、命令を待っているだけの後藤さんが初めて見せた行動だから。
「ぁ…」
そっと触れてくれた瞬間、後藤さんの瞳と私の瞳が交差した。
なんにも感じられなかった濁った瞳じゃなくて、どこか弱々しいけれど意思を持った瞳が。
「知ってる…アタシは…知ってる…」
「後藤さん…っ、思い出して…っ」
「アナタを知ってる…」
確かめるように、両手で私の頬を包み込み優しく触れていく後藤さん。
- 35 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 19:00
- でも…、
「う…ッ!」
「後藤さん!?」
突然、顔を歪ませると頭を抱え込んでその場に伏してしまったんだ。
それから後藤さんは、何かから自分を守るように、ぎゅっと小さく丸くなる。
「あぁぁッ!!」
「後藤さんっ!し、しっかりしてください…っ!どうしたんですかっ!」
ど、どうしたらいいの…っ!?
どうしたら、後藤さんの苦しみを和らげてあげられる…っ!?
考えても見つけ出せない答え。
とにかく落ち着かせないと、と思って手を伸ばした次の瞬間。
- 36 名前:涙 投稿日:2004/02/08(日) 19:01
- 「あぁぁぁッ!!」
「!?」
鼓膜を振るわせる絶叫。
仰け反る身体。
深緑に変色する瞳。
そして…
ドンッ!!
「うぁっ!」
突き飛ばされるような衝撃が、全身を襲って…―――視界が真っ白になった。
- 37 名前:tsukise 投稿日:2004/02/08(日) 19:01
- >>24-36
今回更新はここまでです。
…ごっちん編…結構深い所まで行く予定だったり…(汗
こ、紺野に頑張ってもらいますです(笑
>>10 うまい棒メンタイ味さん
ハイ、新スレ突入しましたです(笑
といいつつ遅れ気味な更新で申し訳ないですが(汗
ごっちん視点で書くのは本当に久しぶりだったり(笑
いやいや、どんどん後紺で絡ませていく予定ですので…っ!
うまい棒メンタイ味さんも体調には、気をつけてくださいねっ
>>11 娘。よっすぃー好きさん
新スレにありがとうございますっ。
ハイ、もう過去の過去までとんでっちゃってますが(笑
しかも今回、いきなりスルーしまくりですが(汗
とりあえず、ごっちんの過去は…波乱なものになりそうです(汗
- 38 名前:tsukise 投稿日:2004/02/08(日) 19:02
- >>12 みっくすさん
新スレにありがとうございますっ
ごっちんの引き戻し…きっと3人の中では一番たいへんかもですね(汗
でもでも、紺野に頑張ってもらうより他ない!ということで(ぇ
何気に書いてる私も「紺野がんばれ…っ」と言っちゃってたりします(笑
>>13 つみさん
新スレにありがとうございますっ
もう、どんどんダークな展開になっちゃってて申し訳ない限りですが(笑
紺野の登場で…ごっちんが浮上できるか…ここが頑張りどころですね(ぉ
紺野と一緒に私め頑張りますので、どうぞ続けて読んで下されば幸いです。
>>14 どくしゃZさん
新スレにありがとうございますっ
うぁ…そう言って頂ければ、作者冥利につきますですっ(感涙
まだまだ粗雑な部分が多いとは思いますが、これからもフラっと
立ち寄って読んで頂ければ嬉しい限りですっ。
- 39 名前:tsukise 投稿日:2004/02/08(日) 19:02
- >>16 片霧 カイトさん
新スレにありがとうございますっ
ハイっ、満を持してごっちん登場であります〜♪…ってとんでもない
展開になってますが(笑
これはもう、紺野にひたすら頑張ってもらうしかっ!ってカンジですね(笑
応援レス…励みになっておりますですっ!カイトさんも頑張ってくださいね!
>>17 rinaさん
新スレにありがとうございますっ
始まりましたごっちん編ですが…結構ダークな感じで申し訳ないですが(苦笑
これから紺野をどんどん絡ませていこうと思ってますので、どうぞ
続けて読んでやってくだされば、ありがたいですっ
>>18 星龍さん
新スレにありがとうございますっ
応援レス、本当に励みになっておりますですっ!
結構山場な感じで息切れになり掛けてますが頑張りますねっ
紺野もここからが頑張りどころですねっ
- 40 名前:tsukise 投稿日:2004/02/08(日) 19:02
- >>20 名無し読者79さん
展開的に、ちょっとダークなことになっちゃってますが…
紺野にこれから頑張ってもらうしかないですねっ(笑
ごっちんの過去は悲しい色だけじゃない…ようにしたいなぁ、と(マテ
>>22 レオさん
新スレにありがとうございますっ
はい、いよいよ後藤さんの過去に触れ始めましたですっ
…が、結構暗いカンジで申し訳ないですが(笑
ごっちんの過去を知って、紺野が取る行動が鍵ですねっ
紺野ともども頑張らせていただきますっ(笑
>>23 ku_suさん
新スレにありがとうございますっ
後紺…きっとこれからどんどん絡んでいくと思いますので
どうぞ、またフラリと立ち寄って読んで頂ければ幸いですっ
- 41 名前:やま 投稿日:2004/02/08(日) 19:54
- 更新お疲れ様です。
それと遅くなりましたが新スレおめでとうございます。
紺野さんと一緒に切なくなりました・・。
これからの後紺に期待してます。
- 42 名前:つみ 投稿日:2004/02/08(日) 20:30
- ついに最後の試練ですか・・・
この試練はやはりどれよりもきつそうっすね・・・
こんこんファイト!
- 43 名前:みっくす 投稿日:2004/02/08(日) 21:43
- 何がおきたんだ?
かなりきつそうですね。
紺ちゃんがんばれ〜〜。
- 44 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/02/09(月) 01:52
- 更新キター!
実は毎日更新してるかチェックしてますw
それくらい続きが気になる作品です。
- 45 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/02/09(月) 05:44
- ごっちん、どうなっていくのかな?
こんこんがんばっ!
- 46 名前:星龍 投稿日:2004/02/09(月) 19:14
- 後藤さんの過去どんな展開になるか気になります。
紺野さんの頑張りどころですね。
作者さん頑張ってください!!
- 47 名前:名無し読者79 投稿日:2004/02/09(月) 20:48
- ごっちんの過去は、かなり苦しそうですね。
紺ちゃんの優しさで、ごっちんを!って感じです。
次の更新も期待しています。
- 48 名前:我道 投稿日:2004/02/10(火) 13:53
- 初めまして、我道というものです。
しばらくROMってましたが、
この素晴らしい小説に感動を覚え出てきてしまいました。
これからもtsukiseさん、頑張ってください!
紺野さんも・・・
- 49 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/11(水) 03:42
- 川o・-・)ノ
- 50 名前:ku_su 投稿日:2004/02/11(水) 22:48
- お疲れ様です…
頑張れ紺野
- 51 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 23:05
- む
- 52 名前:名無し読書 投稿日:2004/02/14(土) 17:06
- >>49、>>51
レスの無駄使いは止めましょう
作者様の負担を軽減する為、作者様の読者へのレスを少なくする為、カキコしない様
心がけているのですが、感想も書かない意味のないカキコは作者様の邪魔に
なるだけではないでしょうか。無論、この私のカキコも邪魔なだけですが。
作者様、今回の私のレスは無視していただいて結構ですので。
今後とも更新がんばってください。
- 53 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:11
- 「305番、起きろ」
そんな声で、私は目を覚ました。
あれ…? 私は一体どうしたんだろう…?
確か、後藤さんを見つけて…話して…それで?
っ! そうだっ! 後藤さんが辛そうにしててっ、触れようとしたらいきなりっ!
あれから後藤さんはどうなったの!?
慌てて辺りを見渡そうとするけど―――身体が動かなかった。
その指先までもすべて。
どっ、どうして?
不思議に思っていると…視界が開けた。
その先には、真っ黒な服を纏った男の人が二人…じっと私を見つめている。
誰…だろう?
「次の任務だ」
告げたのは、そんな言葉。
- 54 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:12
- え…? 任務? 私に? どういうこと…?
わけが判らなくて、首を振ろうとするけど…意思に反して私の首は縦に振られたんだ。
そして、発した言葉は、
「アイ・サー」
っ!?
今の声…っ、私の声じゃない!
これは…――後藤さんの声っ!
ま、まさか…っ!
「最近のお前の任務達成率が、著しく落ちている。なぜか判るか?」
「判りません」
「だろうな。教えてやるよ、お前は『感情』なんて無用なものを覚えようとしているからだ」
「言葉の意味、判りません」
「結構。それでいい。お前は何もわからなくていいんだ。我々の命令だけを聞いて動く
機械なのだからな」
「アイ・サー」
「だが…これ以上の失敗は許されない。よって今回の任務が失敗に終わったとき…
文字通りお前も『終わり』だ」
「アイ・サー」
「よし、出ろ」
- 55 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:12
- 私の手足にはめられた鎖の鍵を開ける男の人達。
私は、軽くなった手足を一度動かして立ち上がる。
そして…男の人の後ろ…、そこにあった鏡を見て…――愕然とした。
私は―――後藤さんだったんだ。
ううん…正確には、後藤さんの『中』に私はいたんだ。
(どうして…)
呟いてみて、思い出される中澤さんの言葉。
『波長があった人の所に飛ぶ』。
それはもちろん、私と後藤さんの波長があったからこうやって後藤さんの過去に
飛べたわけで…それは理解できる。
でも、こんな事態が起こるなんて一言も言ってなかった。
ましてや、こんな風に心が繋がるみたいな…そんな…。
え…? 心が繋がる…? も、もしかして…波長が合うっていうのは一緒の場所に
存在するっていう意味だけじゃなくて…、こうして一心同体にもなりうる…!?
ということは…後藤さんと私の波長が合うだけでなく――同じものになったってこと?
- 56 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:12
- 「…? どうした、305番。立ち止まるな」
「…耳鳴り、した」
「耳鳴り? 何を言っている。さっさと来い」
「…アイ・サー」
耳鳴り。
後藤さんは確かにそう言った。
ということは、私の声は後藤さんに届く…?
(ご、後藤さんっ! 聞こえますかっ!!)
呼びかけてみるけど、後藤さんは無反応。
やっぱり届かない…?
そう思ったその時、私を包んでいる空間が微かに揺らいだ。
その揺らぎに感じたのは―――戸惑い。
聞こえている…っ、私の声は後藤さんに心の中だけみたいだけど届いてる…っ。
確信して私は、続けて後藤さんに呼びかける。
(後藤さんっ、目を覚まして! これはただの過去なんですっ!)
でも…
「305番、今回の任務を告げる」
その言葉が聞こえた瞬間、後藤さんの感情の波がなくなった。
- 57 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:13
- ダメだ…後藤さんの心の闇が大きすぎる…。
でも諦めるわけにはいかないし…、様子を見てもう一度…止めてみよう。
仕方なく、私は後藤さんの視界を通じて状況を把握する。
「ターゲットは、この街の富豪の娘だ。住所は…」
「………」
口頭で述べられる言葉を、記憶していく後藤さん。
私の脳にも住所が流れ込んでくる。
やっぱり…私と後藤さんが同化してしまっていることを痛感させられたっけ…。
「その家の者に見つかった場合は全て殺せ。娘もろとも」
「アイ・サー」
こ、殺せっ!?
い、今…男の人は確かにそう言った。
まさか…この世界が…この後藤さんの過去全部が…悪夢?
そんな…。
不意に、立てかけてあった鏡に映る後藤さん。
それは…―――私の知らない後藤さんだった。
冷たく…本当に機械的で…生きる意志が感じられない瞳で…。
これが…後藤さんが育った場所だなんて…。
- 58 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:13
- 「出撃だ」
「アイ・サー」
でも、私の戸惑いをよそに、後藤さんは男の人に引き連れられて…部屋を出て行ったんだ。
その心に、私を連れて…。
・
・
・
それからとれだけ乗り込んだ車に揺られていたんだろう?
気がついたら、後藤さん達は一つの屋敷の裏手にいたんだ。
「…いけ」
男の人の合図で後藤さんは音もなく車から降り、素早く裏手の塀を見上げる。
その背を突き刺すような鋭い男の人達の視線が…痛かった。
けど何かに支配されたような頑なな心で、後藤さんは屋敷の中に入っていったんだ。
- 59 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:13
- 塀を飛び越え、ふわりと空気に乗るようにして落下…着地。
裏口までセンサーをかいくぐって近づき、鍵を壊すと静かに息を潜ませ中へ…。
鮮やかとも言えるその行動に、私は何もいえなくて…ただ目を丸くするだけだった。
屋敷の中は…当然だけど真っ暗で…。
でも、後藤さんの視界は驚くほどクリアで、全体が見渡せたんだ。
「娘…殺す…任務」
確認するように呟くと、それらしい気配を辿って後藤さんは中央の階段を駆け上がっていく。
(後藤さん…っ やめてください!)
呼びかけるけど、全くの無反応。
聞こえていないわけじゃない。
でも、任務という柵に囚われた後藤さんの心はただ空虚なもので、他の何も受け付けていなかったんだ。
スウ、と一度大きく息を吸い込んでから後藤さんは一つの部屋に歩み寄っていく。
その腰に忍ばせていた、拳銃を取り出して…。
- 60 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:14
- …と。
そこで後藤さんの足が止まった。
同時に、全神経が鋭く研ぎ澄まされていくのがわかる。
つま先や、指先がひどく冷たいのに、身体の芯が…熱い。
誰かが近づいてきてる…?
後藤さんと同化しているせいか、私にもそれが判った。
すぐそば…。後藤さんのほうに誰かが…。
気づいたときには、後藤さんは行動に移っていた。
一つの扉に、腰を低く構え…銃口を向け…。
(ごと…っ!!)
キュン!キュン!キュン!
『ぐぅ…っ!?』
なんの躊躇いもなく…発砲していたんだ。
扉の向こうで、何かが床にくず折れた音がしていた。
それはきっと、この家の誰かが…。
後藤さんが、その手で…っ。
- 61 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:14
- (後藤さん…っ、もうやめて…!)
考えたくなくて、必死になって後藤さんによびかけた。
でも…後藤さんの頭には…1つのことしか浮かんでなかったんだ。
『任務を、遂行する』、ということしか。
そのまま一番奥の部屋まで、駆け抜けていく後藤さん。
幸い、あれ以降誰に出会うこともなく…私は少しだけ安堵していた。
でも…まだ、完全には安心できない。
だって、後藤さんの任務が…人を殺めてしまうことだったから。
「…ここ…いる」
つぶやく後藤さん。
それは一番大きな部屋の前。
私にも、判った。
ここに…まだ幼い誰かの気配が後藤さん越しに伝わってきたから。
- 62 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:14
- ガタン…
しずかに部屋にはいり…辺りを見渡す。
可愛い小物や、ぬいぐるみの数々がここに娘さんがいることを確信づけているみたいだった。
そして…中央にあった一つのベッド。
そこに…いたんだ。
後藤さんもその気配を確認して、銃口をそのベッドに向けて…―――止まった。
「!?」
その胸に広がったのは…戸惑い。
それは表情にも表れていて、軽く息を飲み込んだのが判ったんだ。
後藤さんの戸惑いの正体は…目の前で眠るターゲットの娘さん。
私も後藤さんの視界越しに確認して…驚いた。
だって、その娘さんは…まだ赤ちゃんだったんだ。
- 63 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:15
- これが…ターゲットの娘さん…? ま、まだ子供なのに…っ。
どうして…っ。
こんな子供を…後藤さんが…。
っ! それだけは止めなきゃ!!
(後藤さん!!)
必死になってもう一度呼びかける。
でも…後藤さんは変わらずの無反応。
ただ、銃口をその赤ちゃんに向けたまま静止している。
「…? うー…?」
…と、そんな私たちの気配に気づいたのか、赤ちゃんが目を覚ましたんだ。
「あー?」
純粋なその瞳が、くるっと天井を見渡して――後藤さんを見つけ。
な、泣いちゃう…!?
そう思ったけど…赤ちゃんの反応は全く違ったんだ。
- 64 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:15
- 後藤さんの目をまっすぐ見つめると…
「あ〜あ〜」
手を指し伸ばして、笑ったんだ。
「…っ!?」
困惑する後藤さん。
持っていた銃をとりこぼすぐらい。
私にも伝わってくるその戸惑いは、任務の事なんてもうすっかり忘れ去らせて
しまっていたんだ。
ただ、目の前の赤ちゃんから視線がはずせない。
「どう…して、笑う? どうして、私に、笑う…の? 笑ってくれるの?」
呟くような後藤さんの声に、ハっとする。
後藤さんは…後藤さんには感情が生まれ始めてる…っ。
機械なんかじゃない、ちゃんとした人間として。
今、何かを理解しようとしている。
もしかしたら、後藤さんは過去の悪夢から自分で抜け出せるかもしれない…っ。
- 65 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:15
- 「あーあー」
「………」
赤ちゃんの誘うような声に、ゆっくりと手を伸ばしていく後藤さん。
私もそれをじっと見守りながら、強く祈った。
思い出して…、と。
けど…。
キュン!キュン!キュン!
遠くで聞こえる銃声。
そしてたくさんの人の叫び声。
な、何が起こってるの?
判らない…っ、でも…凄く危険な感じがする…っ。
そんな不安に駆られたその時。
バタン!!
「305番! 何をしている!!」
部屋の扉を蹴破るようにして入ってきたんだ。
その人達は…後藤さんに命令していた…あの人達だ…っ。
も、もしかして…さっきの銃声はこの人達がこの家の人達を…!?
その男の人達の足音と声に、後藤さんの身体が軽く跳ねた。
伸ばされた手も、すぐさま戻されて…。
- 66 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:16
- 「…何をしていた」
「………」
「答えろ」
詰め寄られて…、うつむく後藤さんは…それでもその手で拳を作っていたんだ。
何か…想いがこめられたみたいに。
そして、それは上げられた瞳にも、あったんだ。
「サー、アタシには、できない」
「……、その返事が何を意味するのか判っているのか?」
「……判ら…ない」
再びうつむく後藤さん。
でも、
「こういうことだよ、305番…!」
冷たく輝く拳銃が向けられた瞬間――
「!!」
ガシャーン!!
後藤さんは、本能的に窓ガラスを蹴破って…外へ逃げ出していたんだ。
遠くで…赤ちゃんの泣く声が聞こえていたような気がした…。
何故か…その声だけが、強く耳に残って離れなかったんだ。
- 67 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:16
- いつのまに降り始めていたのか…外は雨が降り始めていて後藤さんに降り注いでくる。
でも…後藤さんは、ただ必死に路地裏を走り続けていた。
荒い息。
全身の筋肉が悲鳴を上げている。
でも、足は止まらない。
「ハァ…ッ! ハァ…ッ!」
そうやってどれくらい走っていたんだろう…。
一つの暗い道に入ったところで…後藤さんはうな垂れるようにその場に倒れこんだんだ。
(後藤さん…っ!!)
うつぶせた後藤さんから届く心が、今の私には手に取るように判る。
戸惑い…恐れ…そして、悲しみ。
今、初めて後藤さんは『感情』というものを手に入れて、その大きさに
困惑して――逃げ出して…。
- 68 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:16
- でも…確実に追っ手の人達は後藤さんにたどり着こうとしているのは私にだって判る。
時々近くで聞こえる足音がその証拠。
もし今その人達が、こんな後藤さんに出会ったら…。
そう思うと、頭が熱くなって…感じられないはずの汗がこみ上げてきたんだ。
(後藤さん…っ!逃げて…!お願いします!!)
必死に呼びかけるけど、後藤さんにはやっぱり届かない。
ただ、その場にうずくまって頭を抱え込むだけ。
「アタシは…何!? どうしたらいい!? わからない…っ!!」
(後藤さん…っ!)
「誰か…!」
『――――助けて』
続けられるはずだった言葉は声にならなくて、私のいる心の中だけで大きく鳴り響いた。
悲痛な叫びのように…。
こんなにも…近くにいるのに…っ!
私には何もできないの!?
こんなにも…っ、後藤さんが苦しんでいるのに…!
- 69 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:16
- 「…見つけたぞ、305番…!」
「!」
背後で聞こえた声に、後藤さんはハっとして振り返る。
同時に、私の視界にも相手がうつる。
一人じゃない、何人もの人が。
その全ての人が、手に拳銃を握り締めていた。
雨に打たれて反射したその冷たい輝きが…余計に恐怖感をたたせてる…。
「ぁ…ぁ…」
「任務失敗は、『終わり』を意味すると言ったはずだが?」
「ぅ…あ…」
ガタガタと震える私と後藤さんの身体。
後藤さんが…――怯えているんだ。
(やめて…っ、後藤さんを苦しめないで…!)
聞こえるわけがない。
届くわけがない。
でも叫ばずにはいられなかった。
後藤さんを―――守りたかったから…っ
- 70 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:17
- 「自我崩壊が始まっているようです…。もう使い物になりませんよ」
「そのようだな…。所詮はできそこないの化け物か…」
(ひどい…! あなた達のせいで後藤さんは…っ!それなのに…!)
「アタシ…死ぬの…?」
「いや、正確には『機能を停止する』といったところだ。お前は『機械』なんだからな」
後藤さんの問いにも、口元を歪めて嫌な笑みを浮かべてる。
それが…凄く腹立たしかった。
ゆるせなかった…っ。
「機械…停止……」
(違う…っ! そんなことない!! 後藤さんは…!!)
「アタシは…機械……」
繰り返される言葉。
でも…、
「アタシは…」
そこには…
「違う……っ」
- 71 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:17
- ――生まれたての感情が、あったんだ。
機械なんかじゃなくて、人間としての。
それが…私が知ってる後藤さんと重なっていく。
気がついたら、私は後藤さんと一緒に言葉を発していた。
(後藤さんは…違う…!)
「アタシは…違う…!」
ヨロヨロと立ち上がる『私達』。
しっかりと、全身に精気を宿らせながら。
「違わないさ、お前は機械だ。そして…ここで破壊する」
ジャキ、と鈍い音を立てて向けられるたくさんの銃口。
それを、『私達』は鋭く見据える。
(後藤さんは、そんなのじゃない…!)
「アタシは、そんなのじゃない…!」
身体が熱い…。
胸の鼓動が、うるさいぐらい耳に響く。
雨なんて、気にならないぐらいに。
- 72 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:17
- 言うんだ…!
今、言うんだ…!
自分の存在を確かめたいから…っ、後藤さんと…一緒に…っ!!
(後藤さんは…)
「アタシは…」
「「機械なんかじゃない!!」」
キィィ―――ン!!
瞬間、まばゆい光が『私達』を包み込んだ。
ううん…後藤さんの中にいた私を。
- 73 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:18
- あぁ…力が…甦ってくる。
これは…私の身体の感覚。
ただ見ていただけの私じゃない。
ちゃんと…――そこにいる私だ。
「なっ! なんだ…っ!?」
聞こえてきた声に、私は今の状況を思い出す。
そうだ、別に何かが変わったわけじゃない。
危ない状態であることには違いないんだ。
今、私に何ができる?
出来ることなんて、ほとんどないかもしれない。
でも、出来ることがなくても、したいことならあるでしょ?
なら…。
「…後藤さんは、機械なんかじゃない! 絶対…撃たせたりなんかしない!」
私は、後藤さんの前で両手を広げたんだ。
ただ―――守りたかったから…。
- 74 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:18
- 自分の中から、何かが抜け落ちる感覚…。
そして、眩い光。
何が起こっているのか判らなかった。
けれど、気づいたときには…アタシの目の前には一人の女の子が両手を
広げて立っていたんだ。
まるで…アタシを、守るように。
「なんだ…? コイツは…!? どこから出てきた」
うろたえるような男達の声。
いきなりの事に、状況を把握できていないんだろう。
でも、目の前の彼女は怯むこともなく、ただじっと前を見据えている。
「後藤さんをこれ以上傷つけないで下さい…っ!」
言われた言葉に、アタシはハっとした。
後藤…それはアタシのことだ…。
彼女はアタシを知っている。
ううん…アタシ…も、彼女を知っている…?
どこだ? どこで出会った? 彼女は誰だ?
- 75 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:18
- ズキン!
「痛…ッ」
…っ。酷く頭が痛む。
記憶を辿ることを邪魔するように。
「後藤さん…っ? 大丈夫ですか…っ!?」
そんなアタシに気づいたのか、彼女はアタシのすぐそばで顔を覗き込んできた。
ズキン! ズキン!
途端に頭痛が増す。
思い出したい。思い出したいのに…っ。
雨に濡れた漆黒の髪。頼りなさげにアタシを見つめる瞳。
その細い身体。
「アナタは…誰?」
「私は……」
- 76 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:19
- 「そこまでだ。とんだ茶番だな、305番」
「!」
彼女の言葉を遮って、男達が再び銃口をこちらに向ける。
照準はアタシ達…二人。
「予定は少し狂ったが、やはりここでお前は破壊することにしよう」
「っ! させない!!」
「!?」
再び両手を広げてアタシの前に立つ彼女。
ズキン!!
気丈なその姿が―――アタシの記憶の鎖を、引きちぎった。
- 77 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:19
- フラッシュバックされる世界。
光の洪水がアタシの中に、たくさんの情報を流し込んでくる。
そうだ、アタシは彼女を知ってる…っ。
『あなたに一体、後藤さんの何が判るっていうんですか!?後藤さんがどれだけ
優しい人とか、そんなのも知らないくせに…っ!』
いつか言った、キミの言葉。
アタシを守ろうとして言ってくれた言葉。
『誰も、誰かの命を奪う権利なんてない筈です…っ。こんなの…酷すぎますよ…っ』
命の尊さを、必死に訴えていたあの瞳。
そう…それは確かに、キミの瞳。
『後藤さんは…私を助けてくれました…だから… ―――信じます』
信じる…、キミはあの時アタシを信じると言ってくれた。
こんなどうしようもないアタシでも、それでも信じる、と。
なんで忘れてしまっていた?
こんなにも…こんなにも、胸を締め付けるような『キモチ』を教えてくれた彼女を。
―――紺野のコトを…!
- 78 名前:涙 投稿日:2004/02/16(月) 13:19
- 「なら、一緒に死ぬんだな…」
引き金に指がかかる。
その全ての銃口が、アタシでなく彼女に向けられていて…。
危ない!とか、そんな言葉を言う前に、もうアタシは動いていたんだ。
本当は怖くて怖くてしょうがないはずなのに、盾になってくれたあのコを…。
決して雨のせいだけではない、何かに濡れた瞳をもったあのコを…。
―――その腕の中に引き寄せて、強く抱きしめて。
キュン! キュン! キュン! キュン!
激痛。
背中から全身に広がるちぎれるような、痛み。
でもそれよりもアタシに感じさせてくれたのは…ぬくもり。
……あぁ、そう、この子は…紺野はこんなにも暖かかったんだ。
「紺野……」
それを確認して…アタシは…。
―――その場に…くず折れた。
- 79 名前:tsukise 投稿日:2004/02/16(月) 13:20
- >>53-78
今回更新はここまでです。
いよいよごっちん編は大詰めといったところでしょうか…?(ぉ
今回ちょっと、息切れ気味な前半が申し訳ないってカンジです…(平伏
>>41 やまさん
新スレにありがとうございますっ。今スレもよろしくお願いしますっ。
切ない…というか、ちょっと痛い内容になってしまっていますが
ご感想、とっても嬉しいですっ。応援レスに励まされつつ頑張りますねっ。
>>42 つみさん
ハイ、紺野にとっては最後にして最大に辛い時となっていますです(汗
後紺メインになっていることもあって、一番キツくなっちゃってますが、
きっと次回には…? とりあえず、紺野ガンバレ!!ということで!(ぇ
>>43 みっくすさん
こんなことが、おこっちゃいましたです(苦笑
ハイ、きっとごまっとう3人の中では紺野的には一番辛くなっているかもデス(汗
それだけ活躍もできるということで、頑張ってもらおうかと…(笑
- 80 名前:tsukise 投稿日:2004/02/16(月) 13:20
- >>44 どくしゃZさん
いやはやっ、そんな更新をチェックしてくださっているなんてっ!
もう、遅れ気味な更新で申し訳ないですっ!(滝汗
でも続きが気になるとまで言っていただけて、作者としては嬉しい限りでっ。
励みです、ありがとうございますっ
>>45 娘。よっすいー好きさん
ごっちん、どんどん辛い状況になっちゃっていて申し訳ないですが…(汗
きっと次回では…っ! とりあえず、紺野にとことん頑張ってもらう予定ですので
良ければまた、続けて読んで下されば嬉しい限りですっ。
>>46 星龍さん
ごっちんの過去…どんどんキツい状況になっちゃってますが…(汗
でもでも星龍さんのおっしゃる通り、ここが紺野の頑張りどころですので
とことん…いってもらおうかと…(ぇ
応援レスに励まされつつ頑張りますねっ!
- 81 名前:tsukise 投稿日:2004/02/16(月) 13:21
- >>47 名無し読者79さん
ごっちんの過去…もう本当に苦しい感じですが…(汗
もう本当に、紺野の優しさでごっちんを救って!と書いてても
思っちゃってたり(笑 きっと次回こそ…!
応援レス、ありがとうございますですっ。
>>48 我道さん
いつも読んでくださっていたみたいで、ありがとうございますっ。
まだまだ未熟な部分が多々あると思いますが、続けて読んで下されば
嬉しい限りですっ!応援レスに励まされつつ勘張りますねっ。
もちろん…紺野にも!(笑
>>50 ku_suさん
ハイ、もう頑張れ紺野!としか言いようがない展開ですね(苦笑
いやいやきっと次回こそ…後紺を炸裂できるかと…!(ぇ
>>52 :名無し読者さん
お気遣い下さいましてありがとうございます…っ
- 82 名前:つみ 投稿日:2004/02/16(月) 16:42
- すごいですね・・・!
こんこんと後藤さんがシンクロしたというのでしょうか?
作者さまの描写に思わず息を呑みました。
まだ後藤さんの記憶はしぶとそうですね・・・
- 83 名前:名無し読者79 投稿日:2004/02/16(月) 17:27
- 二人の強さが…かっこいいです(泣
読んでいて惹きこまれて、前作同様何度も読みたくなる小説ですね。
次回の二人、期待してます。
もう何も言う事はありません!ってくらい感動です。
- 84 名前:星龍 投稿日:2004/02/16(月) 17:29
- 後藤さん危機一髪でしたね。
紺野さんの事思い出してくれて良かったです。
作者さん頑張ってください!!応援してます!
- 85 名前:ヒトシズク 投稿日:2004/02/16(月) 17:49
- 遅くなりましたが、新レスおめでとうございます!
これからも月瀬さんにはついていきます!(ぇ
後藤さんと紺野動き出しましたねー♪
もう、画面にくらいつくみたいな感じで読ませて頂いていました。
これからどうなるのか?!と考えるのが楽しくなります(ぉ
では、月瀬さんのペースでゆっくりと頑張ってくださいませ♪
- 86 名前:みっくす 投稿日:2004/02/16(月) 22:36
- せっかく思い出したのに、
どうなちゃうのでしょうか。
無事に2人で帰ってこれることを祈りつつ、
次回を楽しみにまってます。
- 87 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/02/16(月) 23:18
- びっくりした。一瞬こんこんが撃たれたかと思った。
無事に元の世界に戻れることを祈ってます。
そういえば、ごまっとうの家にとどまってる『道亀』はおとなしくしてるんでしょうか(爆)
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/17(火) 01:23
- >>87
ネタバレはイヤン(泣
自治FAQ読んでおくれやす。
- 89 名前:ku_su 投稿日:2004/02/17(火) 05:02
- 凄い展開に…
とにかく後紺頑張れ
- 90 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/02/17(火) 07:22
- >>88
すまん、すまん、書き方が悪かった。
作者さんスレ汚しスマソ
- 91 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/02/17(火) 15:44
- 更新お疲れ様です。一気に読ませていただきました。
ごっちんがもどってよかったです。紺野も大活躍でしたし。
もう少しですかね? がんばれ紺野!
次回も楽しみにしています。
- 92 名前:我道 投稿日:2004/02/18(水) 12:14
-
素晴らしい描写に感激です!
もう、先生と呼んでいいですか!?
ああ〜、紺野さんと後藤さんどうなっちゃうんだろ〜。
どきどきですね。
これからも、頑張ってください!
- 93 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/02/21(土) 22:49
- オイラの貧困な発想じゃとても思いつかないよな
展開にドキドキですわ!
次回どうなってしまうんでしょうか?
楽しみです。
- 94 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:00
- 「後藤…さん?」
今…紺野って…。
確かに紺野って呼んでくれましたよね…?
「後藤さんっ!今、紺野って…!」
言って抱き寄せられたまま、後藤さんの背に手をまわして…異変に気付いた。
後藤さんはきつく私を抱き締めたままぴくりとも動かない…。
それに返事もしてくれなくて…。
「あの…後藤さん……? ―――っ!?」
そっと背にまわした手に力を込めた瞬間、突然後藤さんの身体が傾いだ。
「あっ」
反応するより早く、その場に一緒に倒れこんでしまう。
「あの…っ!」
ぐっと手に力を入れて…止まる。
ぬるっとした感触がその手に広がって…。
- 95 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:01
- ちょっと待って…?
さっき私は…私たちはどんな状態だった…?
私は……――ッ!そうだ!私は撃たれかけてた!
もうだめだって思った瞬間…後藤さんが…っ!
ま…まさか…!?
信じたくない…信じたくないけど…っ!
「―――ぁ…」
見つめたその手に愕然となった…。
一面の赤。
なに…これ…?
でも現実に引き戻されたのは、後藤さんのその背。
「あ…ぁ…ゃ…」
雨に打たれて流れ出る…赤…赤…赤…。
「やだ…冗談ですよね…?後藤さん…っ」
揺さ振ってみるけど後藤さんは動かない。
「やだ…っ!後藤さんっ!――いやあぁッ」
―――瞬間…世界が暗転した…。
- 96 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:01
- ―――同じ頃。
「!?」
ガクンッ!ガクンッ!ガクンッ!ガクンッ!
「後藤!?」
何度も跳ねる後藤の身体。
そして、けたたましい音を上げる心電図。
「裕ちゃんっ!? 何!?」
「わからんっ!」
慌てて後藤の身体を矢口がおさえつけるが激しい痙攣は治まらない。
そして、次の瞬間。
ピ――――――
無常な心電図の音が室内に響き渡る。
と、同時にグッタリとベッドに沈む後藤の身体。
- 97 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:01
- 「裕ちゃんッ!?」
「どうなってんねんッ!? あさみ、まい!とにかく、アンブと蘇生器具もってきて!」
「わかりました!」
「紺野の脳波もサイアクやんか…っ!なっつぁん、引き戻して!」
「うん!」
言われるがままに動く面々。
安倍がモニターに向かい、キータッチで紺野の精神の引き戻しにかかり、
あさみ、まいが機材を取りに部屋をでる。
矢口とみうなは、後藤へ酸素の供給に必死となった。
皆が状態の把握をできていなかった。
けれど、このままではまずい事だけは、誰にでもわかる。
なら、今は紺野を連れ戻し、後藤の状態を安定させなくてはならない。
「中澤さんっ!持ってきました!」
「こっちに持ってきて!」
「はい!」
装置を引き寄せると、すぐさま後藤の服の前を開けて準備にかかる。
一刻の猶予もなかった。
- 98 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:01
- 「う…」
「裕ちゃん! 紺野が戻ったよ!」
「そっちは後や!! いくで! アンブで酸素を送り込んでや!」
矢口・みうなに指示を出すと、後藤の身体に馬乗りになって機材を当てる。
「1、2、3!!」
バシン!!
ピ―――――――
戻らない。
「もっかい行くで! 充電400や」
「ヤバイよ、それは…っ!!」
「アホッ! このまま放っとく方がヤバいんや! いくで!!」
安倍の制止も振り切って、スイッチをあげる。
人間が耐えられる限界値だ。
これが最後のカケ。
これで戻らなければ…――後藤は、もう戻らない。
- 99 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:02
- 「1、2、3!!」
バシン!!
ピ――――――
「あかんか!?」
針は動かない。
矢口が、唇を噛んで酸素を送る手を止めようとする。
…が、中澤がそれを目で制する。鋭く――諦めのない瞳で。
「逝かせるワケにはいかんのや…!」
つぶやいて後藤から降りると、蘇生法を施しながら必死に呼びかける。
「逝ったらあかん!! アンタは紺野を守るんやろ!? 紺野を置いていくんか!?」
「裕ちゃん…」
安倍が悲壮的に呟くが届かない。
髪を振り乱し、必死に、一つの命に呼びかける。
「アンタもみんなと同じ…アタシの娘も同然なんや!逝かせへんで!!絶対!!」
「…後藤…さん…っ、後藤さん…ッ!!」
精神世界から戻ったばかりの紺野も、ヨロヨロと起き上がると必死に後藤の手を取る。
- 100 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:02
- 「戻るんや!!」
「後藤さんッ!!」
紺野が祈るように力強く、手を握り締める。
その瞬間―――。
きゅ…。
「え…?」
弱くも…確かに握り返される紺野の手。
そして…後藤の身体が大きく仰け反り、一度深く酸素を吸い込み…
ピ――…ピッ…ピッ…ピッピッピッ。
心電図が、静かに動き出した。
「も、戻った…っ!!」
「安心するんは、まだ早い…! なっつぁんっ!安定剤や!」
「うん!」
安堵のため息を漏らす紺野を一瞥して、中澤が指示を出す。
それに安倍は、弾かれたように走り出す。
そう…まだ、後藤の精神が安定しているワケではない。
すべては…深く静かな所で、まだ動いているのだから。
- 101 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:02
-
「そんなことになってたんか…」
あれから私は、中澤さん達に後藤さんの精神世界で起こったことをありのままに話したんだ。
後藤さんが人間としてでなく、機械としての生を受けたこと…。
初めて生まれた感情に戸惑って逃げ出したこと…。
そして――私を庇って、撃たれてしまったこと。
何度か感情的になってしまいそうになったけど、その度に心を読んだ安倍さんが言葉を選んで
みんなに伝えてくれたっけ…。
「ホンマ…後藤が一番不器用な生き方してたんやな…」
呟いてそっと後藤さんの額に触れた中澤さんは、どこか悲しい目をしていたんだ。
そこに映っていたのは、同情とかそんなのじゃなくて…どこか自分を責めるような
自責の念…。
でも、後藤さんは反応することもなく…ただ眠り続けるだけ。
口には酸素マスクをつけられて…。
その姿が痛々しい…。
- 102 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:02
- あ、そういえば…
「あ、あの…松浦さんと藤本さんは…?」
後藤さんの隣に寝ていたはずなのに、今はその姿が見えない。
「あぁ、あの二人ならこの研究所の居住区の部屋で寝てるよ。精神的に疲れてるし3日は
起きないと思う」
「そ、そうなんですか…」
「大丈夫。あの二人はちゃんと戻ってきたんだから、そのうち元気になるよ」
安倍さんはそう言って、くしゃくしゃと私の頭を撫でてくれたんだ。
元気付けようとしてくれてるみたいで…ちょっと嬉しかった。
でも、同時に大きな疑問が浮かび上がる。
『あの二人はちゃんと戻ってきたから』。
ということは…後藤さんは…?
「あ……」
その心まで読んだのか、安倍さんはバツの悪い顔をして俯いてしまった。
- 103 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:03
- 「後藤は…もう…」
不意に呟く中澤さんに、私は弾かれたみたいに顔を上げる。
後藤さんは、もう? もう…なんですか…っ?
まさか…そんなのじゃないですよね…っ。
「後藤さんも助かりますよねっ!?」
気がついたら声に出していた。
その場にいたみんなが、辛いものを見るみたいに私に視線を向けてくる。
それが…私の中の苛立ちを起こして…っ。
「どうなんですか…っ! 中澤さんっ」
「……こればっかりは…どうにもならん」
「そんな…っ、じゃ、じゃあ、もう一度私が後藤さんの中に入って…!」
「それはあかん」
「どうしてですかっ!?」
「これ以上、後藤の歪んだ精神世界に干渉すると、アンタは確実に死ぬ」
「…っ」
確実に、死ぬ。
その言葉は衝撃的だった。
でも…でもっ、このキモチはとめられないから…! だから!
- 104 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:03
- 「それでも!!」
「紺野…?」
「それでもいい! 後藤さんが助かる方法があるんだったら私なんかどうなったっていい!」
「アホ! なんてこと言うんや…!」
「アホでもバカでもなんでもいいです!私には後藤さんが…すべてだから…!」
「紺野……」
後ろで安倍さんが辛いものを見るようにして呟いたのがわかった。
ううん、その場にいるみんなが…そうだった。
しばらくの沈黙。
ただ、後藤さんの心電モニターの音だけが響いていく。
その重圧に押しつぶされそうになったその時。
「…やろう」
「…え…?」
一瞬誰の声かわからなかった。
でも、その声の主に振り返ると…そには強く頷いている矢口さん。
私の視線に気づくと、一度照れくさそうに笑って軽く私の腕をポンと叩いてきたんだ。
- 105 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:03
- 「こんだけ真剣な想いを、オイラ達が止められるワケないっしょ?」
「矢口さん…」
「なっちもそう思う。もしそれでダメだった時も…覚悟の上…なんでしょ?」
「安倍さん…はい…っ」
「…裕ちゃん」
最後の呼びかけは、腕を組んで瞼を閉じている中澤さんに向けられたもの。
「………アタシはね、みんな大好きなんよ」
「え…?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
でも、中澤さんはゆっくり瞼を開いて、厳しい目で私を見つめてきたんだ。
何かを伝えようとする思いが、そこにはあって…私はじっとその目を正面から受け止める。
「人とちょっと違う力を持っていたとしても、それでもなんも変わりなんてない。いや、
人と違う力を持っているからこそ、人よりもっとたくさんの想いを手に入れることが
できるって思ってる」
「中澤さん…?」
「生まれてきた限り…人はみんな幸せになれる権利がある、これがアタシの格言や」
- 106 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:03
- そこまで言って、中澤さんはスっと目を細めた。
それが優しい…眼差しにかわる。
「後藤が幸せになる手伝いを…してくれるか?」
「あ…」
言葉では言わないけど、これは…『行って来い』って意味…だよね。
だったら…私の返事はもちろん…
「はい」
迷いなんてなかった。
もう自分がどうなっても、後藤さんだけは助けるって決めてたから。
そして…私は再び…後藤さんの中に入っていったんだ。
- 107 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:04
-
そこは、なんにもない空間だった。
右も左も…上も下も、なんにもなくって…ただただ真っ暗で。
本当の闇…って言うのかな…。多分、そんな感じ。
後藤さんの心の…本当の闇。
全然方向なんてわからない。
でも…微かに感じる後藤さんの気配だけを頼りに私は前へ進んでいった。
そして―――見つけたんだ。
「……後藤、さん」
小さく…自分を守るみたいにぎゅっと強く身体を抱きしめて、その場に座って…。
その姿はまるで、そう…幼い子供みたいだった。
「後藤さん…?」
もう一度呼びかけて一歩近づく。
でも、その瞬間、
「来ないで…!」
「!」
はっきり言われた拒絶の言葉に、足が止まる。
- 108 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:04
- …ショックだった。
だって、あまりにも後藤さんの言葉が冷たく…鋭い刃みたいだったから。
でも…同時に伝わってきたのは、戸惑い…苦しみ…そして、ジレンマ。
何故か…後藤さんの全てが私には判ったんだ。
きっとそれは心を…共有したから。
「…どうしてですか?」
自分の声が、優しく届くことを願った。
後藤さんがいつか私に優しく語り掛けてくれたように…。
後藤さんは、しばらくうずくまっていたけれどゆっくり立ち上がって正面から私を見据えた。
その…苦しみ続けた瞳が、私をとらえる。
「アタシは…いつか紺野を傷つけてしまうかもしれない。だから…」
あぁ…なんでこの人は、こんなにも…。
思わず涙が出そうになる。
だって、後藤さんは、こんな時まで自分ではなく私の事を思っていたんだから。
- 109 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:04
- 「そんなことないです…っ」
「そんなコトあるんだよ…っ!」
すぐさま私の言葉に、後藤さんは大きくかぶり振る。
長くサラサラの髪が、激しく揺れ乱れていく。
「アタシは、アタシが恐い…!」
自分の掌を見つめる後藤さん。
その瞳が、深い緑色に変色していく。
力を使っていないのに、気の高ぶりに同調するみたいに。
「紺野も見たでしょ!?アタシはただの人殺しなんだよ!?あの後だって、アタシは
亜弥達に逢うまでずっと、同じように殺して…殺して…殺し続けて!」
あ…っ、危ない…。
直感的に私はそう思ったんだ。
後藤さんは、自分を見失いかけてるって。
止めなきゃ…っ。 このままだと後藤さんが壊れてしまう…っ。
- 110 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:05
- 「ごと…っ!」
「アタシの手は汚れてるんだよ!?そんなアタシが紺野を守れるはずないっ!」
そんなことない…っ! そんなことないんですっ!
首を振りながら後藤さんの両手を握るけど、言葉の波は止まらない。
「あは…っ!守るなんて…そんな資格ありもしないんだ!アタシは…所詮化け物なんだよ…っ!」
「!」
――――『化け物』
聞いてる私よりも、言った後藤さん自身が一番辛いだろう言葉。
嫌だ…! こんな言葉…聞きたくない!言わせたくなんかない!!
もう、言わせちゃいけないんだ!!
「そんなことない!!」
「っ!」
言って私は、強く…強く後藤さんの身体を抱きしめた。
そこで…気づいたんだ。
後藤さんの身体が、私が思っていたよりずっとずっと…繊細な事に…。
こんなに細い身体に、どれだけ色んな辛い気持ちを押し込めてきた?
どれだけ、深いキズを刻み付けてきた?
…たったひとりで。
でも…――――もうひとりなんかじゃない。
- 111 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:05
- 「や…やめてよ…っ」
「やめません…っ!」
私の腕から逃げようとする後藤さんだけど、私は離さない。
今離したら、この闇からはもう出れないって…そう思ったから。
しばらく戸惑ったみたいにしていた後藤さんだけど、観念したのか私に身体を預けてくれたんだ。
「後藤さんは…そりゃあ、過去に色々あったかもしれない。悪い事をしたかもしれない」
「………」
「でも、今私の目の前にいる後藤さんは、そんな人じゃない…!」
「紺野…」
そっと離れて、後藤さんの瞳を見つめる。
頼りない瞳だった。初めて見るような…。
でもそれが…その全てが今、私には愛おしい。
優しく頬へと触れると、一瞬後藤さんの身体が揺れた。
でも、拒むことはなくって…ただ困惑するだけ。
さぁ…伝えよう。
自分の存在さえも否定してしまっている後藤さんに…
どれだけ…あなたが素晴らしい人なのかを。
- 112 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:05
- 「後藤さんは、こんなにも過去の事で心を痛めてる…。…こんなにも私の事を考えてくれてる」
「………」
「そう…私を守ってくれました…励ましてくれました…。それに…素敵な笑顔もくれました…っ
そんな人が化け物なはずない…っ!後藤真希さんは…素敵な『人間』です…っ」
「人間…アタシは…人間…?」
かみ締めるように後藤さんは呟く。
戸惑いに揺れていた瞳が、徐々に光を取り戻していくのがわかった。
嬉しかった…。凄く嬉しくて…私は…
「それに後藤さんは…汚れてなんかいない…」
そっと背伸びをして…――――後藤さんの唇に口付けたんだ。
「こん…の…?」
「帰りましょう…? 皆さんの所に」
「けど…アタシは…」
恐れが見えた。
自分自身の…力への。
だから私は自然と言ったんだ。
対等でいたいと言ってくれた後藤さんに…応えたいから。
- 113 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:06
- 「…守りますから」
「え?」
「後藤さんが私を守ってくれるように、私も…後藤さんを守りますから」
「紺野…」
「だから一緒に」
しっかりと瞳を見て、私は手を差し出した。
これが…私にとっての最後の賭け。
この手をとることが…後藤さんの中の闇との決別――なんだと思うから。
だから、私から繋ぐことはしない。
ただ…待つだけ。
そしたら…
「…っ!」
「っ、ご、後藤さん…っ?」
半テンポ遅れて…私の身体は温かいぬくもりに包まれていたんだ。
強く…強く、後藤さんの腕に抱かれて…。
- 114 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:06
- 「後藤さ…」
「顔、見ないで…」
「え…? ぁ…」
言われて気づく。
後藤さんは……泣いていた。
声を殺して…ただ、静かに泣いていたんだ…。
「っ…、っく…」
泣いている…。後藤さんが…。
でも、とめるなんてことはしなかった。
ただ、なんとなくこのまま後藤さんが涙を流すことを受け止めるほうがいいと思ったし…
だって…この涙が―――後藤さんが闇から解放された証だったから。
「後藤さん…」
そっとその背に手を回した瞬間…私たちは白い光に包まれていたんだ…。
- 115 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:06
- 「ぅ…」
ゆっくりと瞼を開く。
その先には、安堵の溜息をもらして私の顔を覗き込んでいた中澤さん。
あぁ…戻ってきたんだ…。
「…成功…したんやね」
「は…ぃ…」
カラカラに乾いた喉で、ちゃんとした返事はできなかったけど、それでも中澤さんは
『よくやった』っていうみたいに笑って、頭を撫でてくれた。
視線を向けると、他のみんなも笑顔で…、矢口さんはぐっと親指を立ててくれてたんだ。
そして…私は隣のベッドに視線を向ける。
そこには…穏やかな表情の後藤さん。
もう悲しい影は、そこにはない。
って、あ…
「う…ん…」
「後藤…さん?」
うっすらと開かれていく後藤さんの瞼。
身体のだるさに、起き上がることもできない私は、それでも顔だけを向ける。
後藤さんも、そんな私に気づいたのかゆっくり振り返ってくれて…
- 116 名前:涙 投稿日:2004/02/29(日) 10:07
- 「こんの…」
「…はい…」
「ありがと…」
それだけ言って、また瞼を閉じてしまったんだ。
「後藤さん…っ」
「大丈夫や。極度な疲労に襲われてるだけやから」
苦笑しながらも、中澤さんはそう言ってくれた。
そっか…大丈夫なんだ…よかった。
あ…あれ…なんだか…、私も凄く眠くなって…。
「今はアンタも眠り…。みんなが起きるまで待ってるから…」
ただ、遠くでそんな声が聞こえたような気がした…。
- 117 名前:tsukise 投稿日:2004/02/29(日) 10:08
- >>94-116
今回更新はここまでです。
これで、ごまっとう過去編は…終わり…ですかね?(ぇ
後紺…不発気味で申し訳…(涙
>>82 つみさん
後藤さんの記憶には、こんな形で決着がつけられましたですが…(汗
自分自身、結構前回の二人は楽しんで書いていたので、つみさんの
ご感想嬉しいですっ! まだまだ粗雑な部分もありますが、続けて
読んで下されば幸いですっ(平伏
>>83 名無し読者79さん
うぁ…っ、もう感動だなんて作者としてはこの上ない嬉しいご感想を
ありがとうございますっ。結構自己満足部分もあったりするのですが
二人のキャラがあまりにも違わないよう頑張りますね(汗
二人の強さ…書いていて私も気に入っていたり(笑
>>84 星龍さん
ハイ、危機一髪というカンジでっ!(笑
二人の絆部分なんかを書きたかったのでちょっと書いてる方も
息切れな部分もあったのですが楽しんで頂けたのなら幸いですっ。
応援レスに励まされつつ、これからも頑張らせていただきますねっ
- 118 名前:tsukise 投稿日:2004/02/29(日) 10:08
- >>85 ヒトシズクさん
うにゃーっ!新スレにありがとうございますっ
いやいやっ!私もヒトシズクさんについていきますともっ!
ということで、手を取り合って頑張りましょうっ!(爆
今回、とりあえずごっちん編は決着がつきましたが…いかがでしょう?(汗
お互いに、マイペースに頑張りましょうね♪
>>86 みっくすさん
ハイ、二人はこんな形になりましたけど、どうでしょう…?(汗
ごっちんも紺野も、そして書いてる私(!?)も、いっぱいいっぱいな
展開でしたが、落ち着く所に落ち着けたかな…と(ぉ
いつも応援レスをありがとうございますっ!励みになっていますです♪
>>87 娘。よっすいー好きさん
二人はこんな形になりましたが…どうでしょう?(汗
もっと甘々な展開にしようかと思っていたりしたのですが(爆
いかんせん勉強不足でね(涙 例の二人は、どうなんでしょうね〜(ぇ
いやいや、次回あたりに登場かも…。そしてかっけーあの人も…?(ぉ
- 119 名前:tsukise 投稿日:2004/02/29(日) 10:09
- >>89 ku_suさん
ハイ、もう怒涛の展開となって…こんな形で落ち着きましたデス(笑
後紺でもっと甘々にしたかったのですが…状況が状況なんで(笑
これからも、きっと後紺で…(ぉ
>>91 片霧 カイトさん
うにゃーっ、一気に読んでいただいたみたいでっ♪
ここの所、紺野の活躍が少なかったんで、挽回できた…かな?と(ぇ
今回でとりあえず、ごっちん編は終わりということで…後紺も少し
だせたか…と?(マテ
>>92 我道さん
いやいやっ、そんなもう作者としては恐れ多いご感想まで頂きまして
もう感謝・感激・雨あられでございますっ(平伏
二人は、こんな形でとりあえず落ち着きましたが…もっと甘々にしても
良かったかなぁ…と思ったり(爆
応援レス、本当にありがとうございますですっ!
>>93 どくしゃZさん
話の展開にドキドキしていただけたなんて、もう嬉しい限りですっ!
今回、こんな形になりましたが、いかがでしょう…?(汗
楽しんでいただけたなら幸いですっ。
- 120 名前:名も無き読者 投稿日:2004/02/29(日) 10:27
- 更新お疲れ様でございます。
ここで感想言ったらネタバレになるので控えますが、
作者様の心理描写には感嘆の念で一杯ですw
次回も楽しみにしております。
- 121 名前:つみ 投稿日:2004/02/29(日) 11:28
- ポンちゃん切ないね・・・
大量更新お疲れでした!感動しました!
次回からの展開も楽しみにしてます!
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/29(日) 12:57
- 泣けますた。ありがとう。
期待してます。
- 123 名前:rina 投稿日:2004/02/29(日) 15:25
- 大量更新お疲れ様でっす!!
まだ早いのですが、めちゃめちゃ感動してしまいました。
ごっちん、よかったね。ごっちん。
続きも、涙腺を少し強めてお待ちしてます!!
- 124 名前:ヒトシズク 投稿日:2004/02/29(日) 16:42
- 大量更新お疲れ様ですっ!
ごとーさん・・・・もう涙の波が・・・(ぉ
何はともあれ、何とか一件落着してよかったです♪
さて、これからどーなるのか。
楽しみにお待ちしております。
では、tsukiseさんのペースでごゆっくりと頑張ってくださいませ〜
- 125 名前:ku_su 投稿日:2004/02/29(日) 19:52
- 更新乙です。
後紺の絡み期待してます…
- 126 名前:星龍 投稿日:2004/02/29(日) 20:01
- 更新お疲れ様でした!!
カナリ感動しました。
これからも楽しみにしています。
頑張ってください!!
- 127 名前:名無し読者79 投稿日:2004/02/29(日) 20:28
- ごっちん良かったです。本当に良かった…。
紺ちゃんかっこ良いよ。次回の更新期待してます。
今回も感動でした。
- 128 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/02/29(日) 22:15
- 大量更新お疲れ様です。こんなかたちになるなんて思ってもみませんでした。次回の更新、楽しみにしてます。
- 129 名前:名無しぽき 投稿日:2004/02/29(日) 22:52
- こちらでははじめまして。
いや、紺ちゃんカッケー。
>後紺…不発気味で申し訳…(涙
いえ、全然。充分です。これがtsukiseさんの後紺ワールドですから。
2人の姿を見て心があったかくなりました。
- 130 名前:みっくす 投稿日:2004/03/01(月) 01:50
- 更新おつかれさまです。
みんなこれでゼロからのスタートですね。
次はリベンジですかね。
みんな頑張れ!!
- 131 名前:rina 投稿日:2004/03/01(月) 15:27
- 更新お疲れ様です!!
後紺いいですね!!後紺!!
川o・-・)人(´ Д ` )
おいらはtsukiseさんの後紺を読んでから
後紺にハマってしまったので(w
続きも期待して待ってます!
- 132 名前:やま 投稿日:2004/03/10(水) 17:35
- 更新お疲れ様です。はぁぁ、愛ですね!完敗です。
↑私もrinaさんと同じで、後紺の始まりはtsukise
さんです。ちなみに「TELL ME」です。
これからも頑張ってください!
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/10(水) 19:35
- ageないでよ(T_T)
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/10(水) 19:41
- 感動です。涙で前が見えない〜(泣)
紺野、かっこいいよ紺野。
- 135 名前:agure 投稿日:2004/03/19(金) 00:55
- 前作からROMらせてもらってました。
今日はとりあえず一言
毎回、涙腺ゆるませてくれてありがとでつ
- 136 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/21(日) 22:58
- ↑レスが多すぎですよ
少しは控えようとか思いましょう
スレ汚しスマソ
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/24(水) 00:57
- レスは作者の力になるから別に多くても良いとおもうんだが。
- 138 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:18
- ―――この感情をなんて呼ぼう?
どん底まで堕ちたアタシに、もう一度立ち上がる勇気をくれたあのコを想うこのキモチ。
わかってる。
これは、美貴や亜弥に持ってるモノとは全く違う感情なんだって。
そう、きっと…たった一人だけに持つことができる感情。
その名前を―――アタシはまだ知らない。
「……ん…」
「あ…、起きた?」
「…美貴?」
ゆっくりと重い瞼を開くと、そこにはぼんやりとした目でアタシを見つめ返している美貴がいた。
『ふぁ…』なんてあくびをしている姿を見ると、どうやらアタシが起きるちょっと前に目が覚めたみたい。
「ここは…?」
「中澤研究所。なんかアタシら3日間も寝てたらしいよ?」
言って、美貴は右手を差し出す。
アタシがその手を握ると、くん、と引っ張って身体を起こしてくれたんだ。
急な動きに、頭が少しクラクラして…軽く額を押さえた。
- 139 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:18
- 「3日間…」
「そ。まー理由はどうあれ、助けてもらっちゃったってワケだ」
「……。っ! 紺野はっ!?」
「しーっ! 隣で寝てるってばっ。ンな大きい声出したら起きちゃうよ」
隣…っ。
視線を向けて…見つけた。
ちょうどアタシの隣に用意されたベッドで、静かに眠っている。
あどけないその寝顔に、アタシは安堵の溜息をひとつ。
それから…霞みがかってはきているものの、今でも思い出せる『あのコト』が脳裏に
蘇えってきた。
そう…暗く冷たい、過去の闇に囚われていたアタシの元に来てくれた紺野のコトを。
『―――守ります』
どれだけその言葉に救われたんだろう?
アタシなんか、そんな価値だってないのに。
それでも紺野は、強く抱きしめて…温もりをくれて…。
だから…。
「アタシの存在理由は…きっと紺野だったんだ」
そっと手を伸ばすと…紺野の頭を撫でて呟いた。
そう…アタシが探していた存在理由を、やっと見つけたんだ。
- 140 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:19
- 「うん? なんか言った?」
「…なんでもない」
「そ?」
美貴の声に、アタシは軽く返事して振り返る。
と、そこで気づいた。
美貴の向こう…まだ亜弥は眠っていたんだ。
「亜弥は、まだ?」
「うん。まー…あんだけムチャすりゃーねぇ」
苦笑しているけど、亜弥を見つめるその目はどこまでも優しい。
なんだかんだ言っても、お互い必要としているんだもんね。
今なら、なんとなく美貴達のお互いを想うキモチが判る気がする。
その時。
背後で、カシャン、と扉の開く音が響き渡った。
と、同時に聞こえてきたのは、少しキーの高い声。
「おっ!目ぇ、覚めたみたいだねぇ」
「? あ、アンタ…確か」
「矢口真里。そろそろ『アンタ』から格上げしてくれてもいいんじゃない?」
「矢口?」
「…あのさぁ、こう見えてオイラ年上だから」
「矢口さん」
- 141 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:21
- 「そうそう」とちょっと嬉しそうにえばってみせる矢口。
まぁ、年上と見れば見えなくもないか…。
結果的に、まぁ、助けてもらったんだし…敬意は払おうか。
「それよりなんか用があったんじゃないっスか?」
「あー、そーそー。3人のうち誰か起きてたら呼んできてって裕ちゃんに
言われたんだよ」
「中澤さんに?」
「そー。っつーワケで、後藤も藤本もちょっくら顔かして」
「なんかヤ〜な呼び出し方っスねぇ…」
美貴は苦笑しながらもアタシの手を取って立たせてから、部屋を出た矢口に
ついて出た。美貴なりの気配り、かな…。
まだ起き立ちでフラフラするけど、仕方ないか。
少し…紺野と亜弥のコトが気がかりだったけど、アタシも2人に続くようにして部屋を出た。
- 142 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:21
- 「お、来たな。まぁ、そこのソファーにでも座って」
通された部屋に入ると、何かの書類に目を通していた中澤裕子が軽い笑みを浮かべて
近くのソファーへと促してきたんだ。
ここまできて、反抗するつもりもないアタシと美貴は素直に腰掛ける。
「で? なんスか? 話って」
「まぁまぁ、そんな急がんでも。それよりアンタらの生活の事とか少し聞かせてくれへん?」
直球の美貴の質問にへらっと笑うと、そのまま矢口にコーヒーを3つ分頼んでアタシらの
向かいに座る。
……なんとなく感じる威圧感が、居心地悪いかも。
「別に。アタシらから聞かなくても、調べはついてるんじゃないの?」
「まぁ、そうやけど、アンタらの口から聞きたいねん」
アタシの問いに誤魔化すコトもしない姿は、好感が持てるけど…。
なんとなく素直にはなれない。
こちらの手を、全て読まれてるみたいで。
- 143 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:21
- 「ふむ…。ほんならこうしよか?」
「?」
「アタシがまず質問して、アンタらが答える。で、次はアンタらが質問してアタシが答える。
……どう?」
上手いまるめ方。
確かに、それならこちらにもそれなりの情報は入ってくるし、悪い話じゃない。
美貴も同じことを考えてたんだろう。
静かにアタシに向かって頷いてきたんだ。
「OK」
「よっしゃ。ほんなら…まずアタシから。…アンタらはどこで知り合って一緒に住むようになったん?」
「…ミキ達は、あー、ミキと亜弥は2年前の台湾。真希とは1年前の同じ台湾で。同じよーな
仕事してたみたいだし、一緒にチームを組んで、今年日本に拠点を移したってトコロかな」
「ふーん…。お、サンキュ」
ちょうどその時、矢口が3人分のコーヒーを持ってきて差し出してきた。
美貴と一緒に軽く頭を下げてそれを受け取り、口に含む。
うん…ちょうどいい…。
- 144 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:22
- 「じゃ、今度はこっちから」
「ええよ」
「この研究所が出来た生い立ちを教えて」
「あー、はいはい。まぁ知っての通り、アタシはサイエンティストや。専攻は『遺伝子工学』。
昔は別の研究所にいたんやけど、そのうち自分だけの研究がしたくてね。まぁ、有り金
はたいて土地買って、建物建てて人集め。…自分に賛同してくれる人らと一緒にずっと
遺伝子研究をここでしてるんよ」
「へぇ…」
あえて、直接的な質問はさける。
それは、こういう場での常識だから。
当たり障りのない会話から、まず相手の人格を知ることが大切なんだ。
中澤裕子の印象は第一印象とはうってかわって…柔らかい。
こう、以前の化学者独自が持つ堅さが、彼女にはまったく感じられなかったんだ。
それに…言ってることも、偽りはないし。
それだけ…アタシらが認められたってコトかもしれない。
- 145 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:22
- 「ほんなら今度はアタシやな…。紺野と知り合ったんは、いつ?」
「10日ほど前…かな。アタシがたまたま自宅近くの公園で散歩してて出会った」
言って…そういえばまだ、紺野と出会って時間がそんなに経っていないのに
気づいたんだ。
なんだろう…もう、何年もずっといるような気がしていたけど…。
不思議なモンだね。
「じゃあ…」
「ちょ、ちょっと待って!!」
今度はアタシから訊ねようとして、美貴が慌てたみたいに立ち上がった。
その顔は真っ青で、傍目からでも困惑しているのが判るほどで…。
「なに? どうしたの?」
「ま、真希! 大変なコト忘れてんじゃんっ!」
「だから、何が?」
「亀井ちゃんと道重ちゃん!!」
がっと、両肩を掴まれてガクガク揺さぶられて。
亀井…道重…?
………んぁっ!
そういえば! 確か、アタシらは3日間も寝てて…その間2人は!?
- 146 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:22
- 「あぁっ!」
「な、なんや、どうしたん?」
「ミキ達、実は紺野ちゃん以外にも一緒に住んでるコが2人いて…!」
「はい? 同じ力を持ってるコなん?」
「ち、違うけど…っ。イナバから追い出されたっていうか…虐待されていたっていうか…」
「はぁっ!? なんだよソレ!?」
割り込んできたのは、思いっきりしかめっ面をした矢口。
どうやら、虐待っていう言葉に反応したみたい。
見ると、中澤裕子も怪訝そうに美貴を見つめてる。
「とりあえず…話は後回しにして、2人も連れておいで。…そうやな…、矢口も一緒に行って」
「うん!」
「矢口さんもですかぁ?」
「…何気に藤本って失礼だよなぁ。仮にも年上に向かってガン飛ばしてさぁ」
「もともとこーゆー目なんですー。でもなんで?」
「村田達に逢っても、矢口がおれば、なんとかなるやろ?」
確かに…。
4人と矢口は知り合いみたいだし…。
アタシは軽く頷いて、立ち上がる。
そして矢口に向き直ると、
「じゃ、お願い」
それだけ言って、先に部屋を出た。
後ろで『後藤も結構失礼だよな…』なんて声がしたけど、この際無視。
だって、さっさと戻って…訊きたかったから。
―――紺野のコトを。
- 147 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:23
-
「そういやさぁ」
不意に掛けられた言葉に、アタシと美貴は歩きながら振り返る。
その先にいる矢口は、飄々とした顔で辺りをキョロキョロと見回していた。
…アタシ達の自宅に戻っているんだけど、ここらへんの環境が矢口には珍しいみたい。
まぁ、あんな施設の中で暮らしていたんなら当然か。
「なに?」
「うーん、アンタ達って友達とかっていんの?」
「友達?」
「そ、3人っていうのは別にして」
3人…って、あぁ美貴、亜弥のことか。
それ以外に、友達と呼べる人…ねぇ?
「うーん、特にいないっスねー」
アタシが答える前に、美貴が頭の後ろで腕を組んで答えた。
あんまりこの話題に興味ないみたい。
- 148 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:23
- 「えー、なんかそーゆーのって寂しくないかぁ?」
「そーでもないっスよ? 人付き合いは浅く深くでいいじゃないっスか」
「うーん、まー一理あるけどさぁ。…後藤は?」
不意に投げかけられる視線。
一歩前を歩いていたアタシは、軽く首を振ってみせる。
「『友達』って意味が判んないから、作りようがない」
言った途端、美貴が『ぶっ』と大きく噴出した。
対照的に矢口は、困り顔。
「おいおい、そんなんでいいのかよっ」
「別に今まで問題なかったから」
「確かに今までは、それでいいかもしんないけど…視野、狭くないかぁ?」
視野?
言われて、考える。
確かに、アタシ達の生活で『友達』というものがなかったからって、何かが
困るってワケじゃなかった。
でも、…確かに、違う価値観を持った意見を聞くなんてコトもなかった気がする。
紺野に逢うまでは。
なんていうか…自分達のテリトリーの中だけで動いていた感があるかもしれない。
- 149 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:23
- 「よっし、決めた!」
「?」
パチンと一度両手を合わせる矢口。
何事かと思って、アタシと美貴が振り返ると『へっへっへっ』と笑いながら、
ズバリ言い放ったんだ。
「オイラが友達になってやるよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「なんか言えよっ!」
アタシと美貴がリンクするようにフリーズ。
たまりかねた矢口が、裏手でアタシ達の胸元を叩いてきた。
友達? 矢口が? アタシらと?
確かに、もう初めて会ったときのような警戒心みたいなモノはないけど…。
そもそも、友達って何するの?
なったから、どうなるの?
- 150 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:23
- 「矢口さーん…、なんか偉そうですねー」
「そーかぁ? でもいいじゃん〜」
「まー、美貴はいいっスけど…」
「後藤は?」
え? 決定権はアタシにあるワケ?
ってか、そんな簡単に決めれるモノなの?
「友達…」
「そう」
「あの、さ。友達ってなに?」
「はぁっ!?」
素っ頓狂な声を上げる矢口。美貴は『あちゃ〜』なんて顔を手で覆ってしまってる。
でも、アタシには友達が本当にわからない。
「あー…、なんてゆーか、一緒にいて楽しいとかさぁ、辛いことも一緒に乗り越える〜
みたいな?」
「?」
「あー、もーっ!なってみりゃ判るって!ほんじゃ、今からオイラ達は友達な!」
「矢口さーん、ごーいん」
「いーだろっ!あ、じゃーあだ名とか決めちゃったり!」
なんだか、展開が早すぎて読めない。
ただ、とりあえずアタシ達は『友達』なんだってコトはわかったっけ。
……友達、ねぇ?
- 151 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:24
- 「よし、オイラのコトは、まりっぺでもやぐっつぁんでもなんでも呼んでよ」
「ってか、いきなりあだ名なんですか?」
「いいじゃん。藤本は?」
「そんな急にはムリっス」
「モっさんとか」
「オヤジ臭くないですかぁ?」
「じゃ、保留」
「えぇっ!? 早ッ!」
2人の会話についていけない…。
なんか…バカバカしくなって、アタシはさっさと前を歩き出した。
「あっ、ちょっと待てよ、後藤っ」
「…先行くから」
「後藤のあだ名も考えようよー」
「そーだよ、真希もなんかにしようよ」
勝手にしてよ、もう…。
「んーじゃー…まきりん」
「却下」
あまりのバカバカしいネーミングに思わず腹から声が出ていた。
びくっとした矢口が『じょーだんだよー』なんて笑っていたけど、多分反論しなかったら
ふざけた名前で呼ばれる所だったに違いない。
- 152 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:24
- 「じゃーごま」
「意味わかんない」
「あーもーっ! じゃあ、ごっつぁん!ごっちん!もうなんでもいいやっ!」
ネタがつきた矢口は、やけくそに言い放った。
「あ、ごっつぁんとか、ごっちんってよくないっスか?」
美貴のそんな声が聞こえるけど、呆れたアタシはもう振り返らずに前を歩いていく。
だって、美貴もこの状況をただ楽しんでるだけってのが判ったから。
「よしっ! じゃー、ごっつぁんで決定〜…って、聞いてんのかよっ!」
「聞いてない」
「聞いてるじゃんっ!」
「聞こえてるだけ」
「かぁ〜っ! もう決めたからなっ」
「好きにして…」
それだけいうと、見慣れたビルの階段をアタシは上がっていったんだ。
- 153 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:25
-
「…?」
と、その時。
扉の前について、アタシは異変に気づいた。
…2人以外の気配がする…。しかも…ちょっと特異な…。
美貴もすぐに気づいたみたいで、小首を傾げてる。
「真希」
「…うん」
「なに? 誰かいんの?」
勘が鋭いのか、本当にただの勘なのか矢口は静かに駆け上がって
いぶかしむみたいにアタシと美貴の顔を覗き込んできた。
「同居人以外の誰かが…ね。多分、イナバの者だと思うけど…」
そこまで言ったその時。
突然、語気の荒い声が聞こえてきたんだ。
「冗談でしょっ!? なんでよりによって敵に寝返ったりするワケ!?」
聞いたことのない声だった。
でも、その声からしてまだ若い女のコだ…。
敵に寝返る…ってコトはやっぱイナバから来たってコトか…。
- 154 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:25
- 「寝返った…みたいに見えるかもしれないけど…っ、でも…っ」
「でも、何? もう3日も連絡が取れなくて気を辿ってきてみたら、こんな所に
敵とコソコソ暮らしたりなんかしてさぁっ!」
「れいな…」
「さゆも、絵里もヒドイよ…!アタシがどれだけ心配したかなんて知らないで…!
絵里なんていっつもアタシから離れていって…!なんでアタシのキモチ判って
くんないの!?」
よく事情は判らない。
ただ…、一方的に攻められている2人をこのままにはしておけない…か。
アタシは一度、美貴と矢口に振り返って頷くと、部屋の扉を開けた。
「じゃ、アンタはこの2人がどれだけ思い悩んでいたかとか、知ってんの?」
「!?」
「あ…っ! 後藤さんに藤本さんっ」
「ごっめんね〜、ちょっとしくっちゃってさぁー3日間留守番ご苦労様〜」
美貴がペロっと舌を出して笑って見せる。
亀井と道重は、心底ホっとしたみたいに息をついていたっけ。
まぁ、3日間も音沙汰なしだったしね。
- 155 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:25
- でも…、それよりも今は鋭くこちらを睨み付けている彼女をなんとかする方が
先みたいだね…。
見たところ…亀井達と同い年ぐらい?
強い意志を持った瞳が印象的かも。
「アンタ達が…絵里達をそそのかしたんだ?」
「人聞き悪い言い方だね。双方同意の結論だよ」
美貴が答えるけど、あんまし効果はないみたい。
『どうだか…』なんて鼻で笑い飛ばしてるし。
「ねぇ、絵里、さゆ。どうやったら戻ってくれるの?」
「え…っ?」
「アタシには2人が必要なんだよ?」
「で、でも…私もさゆも…」
「アタシが絶対守るから…!」
守るから…ねぇ?
言うのは簡単。でも、それを実現させるのがどれだけ大変か判ってない。
…なんて、アタシが言える立場じゃないか。
でも…守りたいと思うなら…。
その覚悟があったのなら…。
- 156 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:25
- 「あはっ、守る…ねぇ?今まで2人がどんなコトになってたかも理解しようと
してないのに、言うことだけは大きいね」
「っ!」
キッと睨み付ける目が鋭くアタシを射る。
けれど、アタシにはそんな効力はない。
…覚悟の大きさを知っているから。
守ることの本当の意味を、アタシは理解できたから。
「相手を傷つけて、一方的に意見をぶつけて。自分の強さも知らないで。
そんなコが何を守れる? あぁ、自分だけは守れるかもね」
「…っ、アタシが弱いって言ってるんですか?」
「さぁ?」
曖昧にアタシは話を打ち切る。
きっと彼女の深いところを揺さぶったのだと思ったから。
こういう時、怒りを露にするのは自分の不安を真っ向から突きつけられた時なんだ。
本人が気づいている弱さなら、改めてアタシが言う必要もないだろう。
- 157 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:26
- 「さゆ、絵里…そうなの? アタシが弱いから戻ってくれないの?」
「それは…」
黙ってしまう2人に、彼女は一度歯噛みして…
「じゃあ、こいつらを倒せば帰ってきてくれるんだね?」
言って、アタシ達を一度くるっと見渡すと――― 一気に地を蹴って間合いを詰めてきた。
それは、美貴でも矢口でもなく…。
「真希!」
「わかってる…っ」
アタシに向かって繰り出される拳。
けれど、軌道が読めていたアタシは軽く後ろに引いて避ける。
「この…ッ!」
続けて出される蹴り…突き…まわし蹴り。
でも、冷静な判断を欠いているその子の攻撃がアタシに当たるハズもない。
ステップを踏むように、タン、タン、と床を跳ねてアタシは全てをかわしていく。
- 158 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:26
- でも、それで気がついたんだ。
この子…中々デキるって。
筋は悪くないし。多分、叩けば叩くほど強くなるタイプだと思う。
ただ実践経験が浅いんだろう。
どんどん大振りになっていく拳が、止まっていく足の動きがその証拠。
「真希、何やってんだよー。早く止めちゃってよ」
「…はいはい」
美貴の呆れたような声に、アタシは蹴りを高く跳んで回避しながら軽く溜息。
「…ムカつくッ!」
アタシの反応が気に食わなかったらしい彼女は、跳んでいるアタシに向けて
渾身の力を込めた拳をもう一度くりだしてきた。
さすがに、滞空時間を狙ってこられて動けないアタシは―――力を解放する。
―――フッ
「!?」
軽く自分の身体を浮かせると、出された彼女の腕に手をついて軸にし…
空中で身体をひねり、背後へと回り込む。
そのまま驚いて彼女が振り返ろうとした瞬間、頚部に手刀を叩き込んでやったんだ。
- 159 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:26
- 「がっ!」
「れっ、れいなっ」
たまらず、床に倒れこむ彼女。
それを見てずっと不安げにしていた亀井と道重が、駆け寄ってきた。
「大丈夫、一時的に身体が痺れて動けないだけだから」
「は、はい…」
アタシの言葉に、亀井がそれでも心配げに膝をついた。
ただ、そんな亀井の顔を一度見てそのコは『くそ…っ!』と何度も歯噛みしている。
「…で? このコは誰? 亀井ちゃん達の知り合いみたいだけど?」
「あ、れいなは…この子は『田中れいな』って言って…」
美貴の質問に、道重が顔をあげて口を開いた。
田中れいな…? あぁ、確か…。
「『友達』だっけ? 能力者の」
「あ、はい…。なんか、私たちを連れ戻そうとして来たみたいで…」
アタシが訊きかえすと、バツの悪い表情で亀井は視線を床に落とした。
なんとなく…理由は判る。
さっきの部屋に入る前に聞いた会話だと、連れ戻すというよりも…ただ一緒に…。
- 160 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:26
- 「なーんか、そんなんじゃないみたいだけど、まーいーや」
「美貴?」
ちょっとめんどくさそうに首元をかきながら、美貴は田中の側にしゃがんで顔を覗きこむ。
気丈にも、田中は美貴をにらみ返していたけど、構わずニッコリ笑ったりなんかして。
「アンタも一緒に来なよ。どーせ、2人から…ってか亀井ちゃんから離れる気ないんでしょ?」
「っ! うるさい…!」
「おー怖…」
軽く手を上げるジェスチャーをする美貴。
けど…。
それを見て、田中が不敵に笑って見せたんだ。
直感的にアタシは危険なモノを感じとる。
「美貴! 離れて!」
「えっ?」
「遅いよ!!」
言うが早いか田中は床を両手で強く叩き、跳ね起きて美貴から離れると、
軽く跳躍して右手を頭上に上げた。
瞬間――
「くっ!?」
「えっ!? な、何…!?」
「あっ!?」
アタシ、美貴、矢口の身体に襲い掛かる違和感。
上から何か押しつぶそうとする力が、全身に圧し掛かって…っ。
たまらずアタシ達は膝をつく。
- 161 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:27
- 「形成逆転ですね」
おかしそうに笑いながら、田中はアタシの側へと歩み寄ってくる。
その瞳は深い紫に変わっていて、能力を解放したことを物語っていた。
「アンタ…その力…」
「そう。アタシ、重力を自由に使えるんですよ」
「重力…っ」
「重いですか? それとも、やっぱ優しすぎますかね?」
「…!」
言って、田中はアタシの肩に軽く触れた。
その瞬間、身体に鉛が科せられたような重みが襲い来る。
骨がきしむような鈍い痛みに、アタシは思わず顔をしかめてしまう。
「あはは」
それに満足したのか、田中はアタシから離れると亀井達のもとへと歩み寄っていった。
「ねぇ、こんな弱いんだよ? この人たち」
「れいな…っ」
「油断しちゃってさぁ、相手の力量も測れてなくて全然ダメじゃん?絶対こんな
人たちと一緒にいるより、アタシの方がマシだよ」
「言ってくれるじゃん…っ!」
- 162 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:27
- 最後のは美貴の言葉。
アタシがゆっくり視線を向けると、鋭く田中を睨み付ける瞳が蒼く変色していた。
「美貴…!」
「うっさい!」
アタシの制止もなんのその。
美貴は両手を突き出すと、大量の水を田中めがけてぶつける。
…が。
「まだ動けるんですねぇ」
可笑しそうに笑うと、美貴に向かって手をかざす田中。
「くっ!」
途端に、床に叩きつけられる美貴の身体。
きっとアタシより強い重力がかかってるんだろう。
くしくも、放った水は軽く田中の足元を濡らして広がっていっただけで…。
身動き一つとれない状態だった。
- 163 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:27
- 「あっははっ、面白い姿ですよ?なんかへばりついちゃったりしてさぁ」
「れいな…っ、やめて…っ」
「じゃあ、アタシと一緒に戻ってくれる?」
「それは…」
言葉を濁しながら、アタシ達の姿を見る亀井と道重。
二人にも判ってるんだ。
自分たちが戻れば、アタシ達を解放するっていう条件取引だということを。
……冗談じゃない。
こんなのただの、駄々っ子のおねだりじゃん…っ。
しかも、性質が悪いにもホドがある…っ。
二人がイナバに戻って、なんのメリットがあるっての?
絶対に…行かせるワケには行かない…!
(…矢口)
(あん…? なに…)
そっと小声で、後ろにいた矢口にアタシは呼びかける。
この状況を打破するには、癪だけど3人の力を合わせる方が効率いいから。
- 164 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:27
- (アンタの力…電撃だったよね?)
(それがなに?)
(一点に集中して落とすこと、できる?)
(そりゃできるけど…アレじゃ無理だよ?)
くいっと、顎で田中の足元を差す矢口。
そこは美貴の放った水で濡れ広がり、田中だけでなく、亀井と道重の元まで
濡らしてしまっていた。
…確かに、今の田中に落とせば2人も巻き添えを喰らう。
けどね。
(液体が固体に変わればどう? …目印のように)
(はぁ? そりゃ…まぁ、簡単だけど…どーゆーコト?)
首を傾げる矢口。
けどアタシは、口元を緩めて笑って見せた。
そして…重い右手を耳元へ…。そこには常時つけているインカム。
(美貴、聞こえてたよね?)
(…わーってるよ…、ったく…ミキ、かなり苦しいんだけど…?)
(美貴ならできるって信じてるから)
(……おっどろいた。真希からそんな言葉が出るなんて。…OK、信じられましょう?)
…準備完了。
あとは、ゴーサインを送るだけ。
- 165 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:28
- 「絵里、さゆ、帰ってきてくれるの!? どうなの!?」
「…私…。え、絵里はどうするの?」
「私は…」
道重に腕を掴まれて一度躊躇うみたいに、アタシ達に視線を向ける亀井。
そして、ぎゅっと瞼を閉じて喉を鳴らすと、―――しっかりと顔を上げ、田中を見据えた。
「…―――私は、帰らない…! もう、あそこには帰らない!」
「!? え、絵里…? な、なんで…」
「私は、私の存在理由をここで探したいから!」
そう…。
アタシ達は、いつだって自分たちの存在理由を探している。
それは、誰かに与えられるものじゃダメなんだ。
自分で、勝ち取るものなんだ。
――――アタシが、あのコといることで見つけたように…。
亀井の言葉が、アタシ達の引き金となって…弾けた。
- 166 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:28
-
「美貴!!」
「任せて!」
崩れた体勢の中、それでも美貴は両手を差し出し田中の足元に気を集中させた。
途端に、広がっていた水が意志を持ったように田中の頭上に集まっていく。
「! な、何!? あ、コイツら…!」
「ぐ…っ!」
田中が気づいて、美貴にさらに重力を課すけれどもう遅い。
こうなるコトを読んでいたアタシが、後を引きつぐ。
「真希…!」
「わかってる!」
「!」
球状になった水が零れ落ちる前に手をかざすと、今度はアタシの力をぶつける。
風は渦となって水を巻き上げ…包み込み、次々と刻んで―――鋭い氷の槍を作り上げた。
「相手の力量が読めてないのは…どっちかな?」
それを―――美貴に気を取られている田中の右肩へ。
- 167 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:28
-
ザッ!!
「あぁッ!!」
苦痛に顔を歪ませる田中。
それは集中力をも欠き、アタシ達を縛り付けていた重力を消し去った。
「後藤さん…っ!」
『これ以上は…』というような亀井の声。
きっと苦しむ田中に困惑しているんだろう。
たしかに、もうこれ以上の攻撃は必要ないかもしれない。
でも、アタシは止めなかった。
アタシに向ける田中の眼差しが…―――昔のアタシのように、ただ使命感に
囚われているだけの気がしたから。
……敗れるコトの意味を判って欲しかったんだ…。
「やぐっつぁん!」
「なるほどね! はいよ!」
矢口の手から放たれる電撃。
それは、氷の槍へと集中し――田中の身体だけを貫通した。
- 168 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:29
-
ビシィィィィッ!!
「あぁぁぁッ!!」
激しい痙攣。
眩い光。
「くっ!」
辺りに飛び散る火花と砕けた氷の破片から守るため、アタシと美貴は同時に駆け出して
亀井と道重を庇う。
数秒間の放電のあと、…田中はガックリとその場に倒れこんだ。
「れ…れいな? れいなっ!!」
慌てて亀井がアタシの腕をすり抜けて駆け寄っていく。
そして、美貴の腕に抱かれていた道重も。
「大丈夫、気絶しているだけだから、じきに目が覚めるよ」
「ほんとですか…っ?」
「うん、意外と体力はありそうだし」
軽く白煙が身体から立ち上がってはいるけれど、深いキズではないし。
アタシの言葉に安心したのか、亀井も道重もホっとしたみたいにその場にへたりこんだ。
こーゆーのを、『友達思い』っていうのかな…?
なんとなくそう思ってしまったっけ。
- 169 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:29
- そんなコトを考えながら、美貴達に振り返って…。
「んっふふふ…」
「な、なに…?」
薄気味悪い笑みを浮かべる矢口が待ち構えているのに気づいた。
なんていうか…小さい身体で、めい一杯威張っているのを表すように仁王立ちなんかして…。
ハッキリいって、ブキミ…。
でも、そんなアタシにお構いなしに矢口が近づいてくると、バシバシとアタシの背を叩いてきたんだ。
「な、なに?」
「な〜に、気づいてないのぉ? 今オイラのこと『やぐっつぁん』って呼んでくれたじゃんかぁ〜」
「はい?」
やぐっつぁん? 呼んだっけ?
首を傾げて美貴に振り返ると、これまた気味悪い笑みでアタシを見てる美貴。
「言った言った〜。もーなんていうの?友情!みたいな?」
「はぁ?」
わざとらしく、目を輝かせながら両手を合わせる美貴に軽い眩暈を覚える。
ゆ、友情…って…。
ってか、アタシ、ホントに呼んでたの?
- 170 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/03/24(水) 13:29
- 「あ〜、これでオイラ達は友達だよねっ!」
「もっちろんっ!」
「ちょ、ちょっと…!」
「じゃ、改めてヨっロシク〜! ごっつぁん、藤本!」
「は〜い!」
「ご、ごっつぁん…って、ソレ、どうにかなんないの…?」
「なら、ごっちん」
「それもさぁ…」
「真希、ぜーたく」
「そーだぞ、贅沢言うな」
「あぁ…もう…」
アタシをほったらかしたまま、握手する美貴と矢口。
…アタシの意志は無視なワケ…?
でも…なんとなく…。
こんなのも悪くないかな…なんてどこかで思う自分がいたんだ…。
- 171 名前:tsukise 投稿日:2004/03/24(水) 13:31
- >>138-170
今回更新はここまでです。
とりあえず…たくさんの人たちが出てきそうな予感…(ぉ
>>120 名も無き読者さん
応援レスをありがとうございますっ。
結構心理描写が大すぎかなぁと思っていたのですが
ご感想にホっとしていたり。ありがとう御座います。
これからも精進させていただきますねっ。
>>121 つみさん
紺野の結構内面的なものを描いてたので
つみさんのご感想、とても嬉しいですっ!
感動だなんて…あぁ、もう作者としては嬉しい限りですっ
応援レスに励まされつつ頑張りますねっ
- 172 名前:tsukise 投稿日:2004/03/24(水) 13:31
- >>122 名無飼育さん
うぁ…もう、そう言っていただければ悩み続けて
描いた苦労が報われますっこちらこそありがとうございますっ。
これからも、スレ汚しにならぬよう頑張らせていただきますね。
>>123 rinaさん
いやはや、更新が遅い分いつも大量更新で申し訳ないデス(汗
感動していただけたなんて…もううれしい限りでございますっ
こんの、頑張りましたこんのっ!(笑
これからまた、涙腺を破壊できるよう(マテ)頑張りますねっ(笑
>>124 ヒトシズクさん
あぅ〜、いつも嬉しいご感想をありがとうございますっ(平伏
一応一件落着ですが、一難去ってまた…となっていきそうな…(ぇ
応援レスに励みを頂きまして、これからも自分のペースで
頑張らせていただきますねっ!
……私信ですが、某紺ではヨロシクお願いしますっ(平伏/笑
- 173 名前:tsukise 投稿日:2004/03/24(水) 13:31
- >>125 ku_suさん
後紺の絡み、ちょっとまた遠のきそうですが、ばっちしこれからの
展開で甘々も用意しておりますので、またフラリと立ち寄って
読んで頂ければ幸いですっ
>>126 星龍さん
感動していただけたようで、もう作者としては嬉しい限りですっ。
結構…後紺での絡みシーンは何度も悩んでいたんで(ぇ
応援レス、いつもありがとうございますっ。励みになっていますっ
>>127 名無し読者79さん
紺野…頑張りましたデスっ!ハイもう、書いてる方も
ごっちんをなんとかしようと必死でした(笑
感動していただけて、もう嬉しい限りです。
これを励みに、これからも頑張らせていただきますねっ
- 174 名前:tsukise 投稿日:2004/03/24(水) 13:31
- >>128 娘。よっすいー好きさん
遅れ気味な更新のため大量更新ばかりで申し訳ないですが(汗
意外な形となりましたでしょうか?紺野…ちょっと頑張ってもらっちゃったり(ぉ
これからまた、色んな人たちが絡んでくると思いますので
フラっと立ち寄って読んで頂ければ幸いデス。
>>129 名無しぽきさん
うぁ〜、いらっしゃいませですっ(平伏
ハイ、紺野…今まで出番が少なかった分、頑張ってもらいましたが(笑
いやはや、もう名無しぽきさんのご感想嬉しい限りですっ!
スレ汚しにならないよう、これからも頑張りますねっ
>>130 みっくすさん
ハイ、ここで過去編はとりあえず終了ということで♪
ここからは、もっと大変なコトになってしまいそうですが
リベンジをかねて乗り越えていってもらいたいなぁ…と(ぇ
いつもレスをありがとうございますっ
- 175 名前:tsukise 投稿日:2004/03/24(水) 13:32
- >>131 rinaさん
後紺、それなりに出せて良かったです〜(ぇ
いやはや、私めなんぞの小説で後紺にハマって頂けたなんて
ありがとうございますっ。これからも精進させていただきますね。
>>132 やまさん
ハイ、もうこれは『愛』としかっ!(マテ いやいや。
やまさんも、そんな私めなんぞの小説で後紺にハマって
いただけたみたいでっ。ありがとうございますっ(平伏
応援レスに励まされつつ頑張らせていただきますね。
>>134 名無飼育さん
感動していただけて、作者としては嬉しい限りですっ!
紺野…ハイ、もうがんばっちゃいましたデスっ!
書いてる私も、テンパってましたが(笑
感想レスをかりでとうございますっ
>>135 agureさん
前作から読んでくださっていたみたいでありがとうございますっ(平伏
うぁー、もう嬉しいご感想で作者としても感謝したいくらいです(ぉ
これからも、フラっと立ち寄って読んで頂ければ嬉しいですっ
- 176 名前:みっくす 投稿日:2004/03/24(水) 14:06
- 更新おつかれさまです。
仲間がもう1人増えるのかな?
みんなちゃんと友達になれるといいですね。
次回も楽しみにしてます。
- 177 名前:名無しぽき 投稿日:2004/03/24(水) 14:14
- 更新キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
- 178 名前:名無しぽき 投稿日:2004/03/24(水) 14:17
- …あ、一行でレスしてしまい申し訳…(汗)
新しい展開ですね。
さりげなく「○っさん」というリアル新ネタに笑いました(ぉ
重要な役どころのあの人と紺野のこれからの動きに期待です♪
- 179 名前:星龍 投稿日:2004/03/24(水) 18:52
- 更新お疲れ様でした。
みんな、かなりカッコイイです。
これからも作者さんのペースで頑張ってください!
- 180 名前:つみ 投稿日:2004/03/24(水) 21:26
- 大量更新お疲れ様です!
いろんな展開がありましたね。
やぐちさんたちがなかなかいい感じになって・・・
さらに家族が増えたような感じがあるっすね〜!
これからも楽しみにしてます!
- 181 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/03/24(水) 23:01
- 大量更新お疲れ様です。
大量更新がの方が自分としてはいいので無問題です。
これで6期も出てきたので、ほとんど勢ぞろいでしょうか
みちかめはおとなしくしていたんですね((w
- 182 名前:名無し読者79 投稿日:2004/03/25(木) 13:51
- 更新お疲れ様です。リアルとシンクロしている部分が結構あって
なんかうれしかったり…。ガキさんが言っていた○っさん…出てきてびっくり(笑
今回はなんかみんなの絆が深くなってきた感じがして…うれしいです。
ごっちんかっこ良いですね。
- 183 名前:rina 投稿日:2004/03/25(木) 16:14
- 更新お疲れ様です!
ミキティとごっちんとやぐっつぁんのコンビなんか好きです(w
『友達』を真剣に考えるごっちんが可愛い(w
みきやぐコンビに振り回されてるごっちんに萌え(w
でも、やっぱり戦闘中のごっちんがカッコイイ(w
続き期待してます!!
- 184 名前:レオ 投稿日:2004/04/10(土) 17:28
- 更新お疲れさまです!!
れいなさんの能力は「重力」ですか〜使いようによっては最強かも(笑)
でもごっちんミキティやぐっつぁんのコンビネーション技の前では敗れてましたが・・・・(笑)
いやー次回がかなり気になってます!!
紺ちゃんの秘密も次回で分かるのかな?(笑)
では次回の更新もがんばってください応援しています!!!
- 185 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/04/12(月) 21:17
- ―――あれから二時間。
アタシ達は。
「ちょっと矢口さーん、ホントに中澤研究所に越さなきゃなんないんですかぁ?」
「んー? 別に稲葉の人たちにボッコボコにされてもいいなら、ここにいてもいーよ?」
「そ、それは、ヤっす…」
「だったら、ハイ、キリキリ動いて荷物をまとめる!藤本アタシより若いんだからっ」
「若いったって、2つしか変わんないじゃないですかぁ〜」
そう、アタシ達は矢口に提案されてこの場所をしばらく離れることにしたんだ。
田中がここに来たってコトは、他の連中がここに気づいて来るのも時間の問題。
さすがに不意打ちを喰らうのは避けたいし、中澤研究所ならいざって時になんとかなる。
…癪だけど、今は甘んじるしかない…か。
アタシも、紺野の荷物をある程度カバンに詰めて床にボスン、と落とす。
衣類は詰めたし…あとは、身の回りの簡単なモノぐらいかな…。
そう思って、もう一度紺野の部屋に入ろうとして―――止まった。
アタシの視線の先に、心配そうな顔をしている亀井がいたから。
- 186 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/04/12(月) 21:17
- 「れいな…」
その亀井の前には、ソファーに背中を露にしてうつぶせ、傷の回復を待っている田中の姿。
さすがに、あれだけの深い傷を負わせたし、能力者といえど傷の回復が遅いみたい。
時々、道重が持ってきた濡れたタオルを受け取って、亀井が血を拭っているみたいだけど、
多分、もう少し時間がかかるだろう。
「………」
しょうがない…。
アタシもやりすぎたとは思うし、少し手当てしてあげようか…。
アタシは、足の向きを変えて奥の部屋から点滴を取り出して田中に近づいた。
「あ…後藤さん…」
亀井が頼りなさげにアタシを見上げて。
その声に反応して、田中はキッとアタシを睨み付けた。
まぁ、アタシには全然効果はないんだけど。
- 187 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/04/12(月) 21:18
- 「腕、出してみな」
「…なんですか?」
「ビタミン剤。傷の直りが早くなるから」
「別に、アナタの手助けなんて必要ないです」
「れいな…っ」
あくまでアタシの助けはいらないって言い張るみたい。
でも、悲しそうな亀井の声に、田中は一度渋い顔をして…
「…わかったよ…」
ぶっきらぼうに、うつぶせたまま腕を突き出してきた。
その姿に思わず笑みがもれてしまう。
だって、まるで…
「何がおかしいんですか?」
「え? あぁ…」
また交戦的な眼差しでアタシを見る田中。
それを見て、アタシは確信してしまう。
田中が…
「アタシと似てるなぁって思って」
「…は?」
眉をしかめてみせるけど、そんな姿もアタシにそっくり。
そう、少し前のアタシにね。
- 188 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/04/12(月) 21:18
- 「田中はどっかアタシに似てるんだよ」
「…意味わかんないんですけど?」
「そういう、自分の殻だけに閉じこもってしまうようなところとかね」
「………」
「この世界のことなんてどうでもいいって…まったく世の中のことなんて気にしてない
みたいな、そんなところが」
そう…能力者だからっていう引け目とか、そんなのが心の中にあって。
何をやっても自分は、普通の人間にはなれないんだって諦めがあったから。
でも、今は違うんだけど。
…田中は、今その岐路に立っているのかもしれない。
「…たったひとつを除いてはね」
言ってアタシは亀井に視線を向けた。
亀井は、よく判っていないみたいであたしの視線に首を傾げてる。
なんか…あのコを思い出しちゃうかも。
田中は、その視線の意味がわかったみたいで、アタシから顔を背けた。
…やりすぎた、かな?
アタシは苦笑しながら、田中の腕に点滴を打つ。
- 189 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/04/12(月) 21:18
- 「15分もあれば、傷は治るから」
「あっ、ありがとうございますっ」
亀井は律儀に頭を下げてくる。
満面の笑顔だし、本当に心配していたんだろう。
それからアタシは離れようとしたんだけど…
「アナタにもあるんですか?」
「え?」
顔を背けたままの田中が、不意に言葉を投げかけてきたんだ。
自然とアタシは振り返って。
「…たったひとつのもの」
? あぁ、さっきの話か。
「あるよ。…そのひとつのもののためだけにアタシは存在してる」
やっと見つけた、ひとつのもの。…―――紺野という、大切なもの。
あのコのためなら、アタシは全てを投げ出しても構わない。
- 190 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/04/12(月) 21:19
- 「それが…アナタの強さ?」
「かもね。田中もそのうち…わかるよ。守るものを持つ強さ」
「…っかんない…」
「…知りたくなったら、またアタシにかかっておいで。少しだけ見せてあげるよ、アタシの強さ」
「…ムカつく」
毒付く田中だけど、その声に最初の棘のようなものはなかった。
少しは…認めてもらえたのかな?
「後藤さん…でしたよね?」
「? なに?」
「後悔してもしりませんよ?アタシ、これでも強いですから。何度でもかかっていきますよ?」
「ふっ…、だったら田中も一緒においで。…いつでも受けてたつから」
自然と笑みがこぼれてしまったっけ。
もう、田中は大丈夫だって、そう感じたから。
負ける事の意味、きっとその全部を理解するコトはできてなくっても、
負ける事で、自分の世界が広がることは理解できたはずだから。
田中はこんなトコで、つぶれるようなコじゃないって思うんだ。
環境さえ整えば、このコはどんどん強くなるって。
だから、せめてアタシが道しるべになってあげたいと思ったんだ。
どこか同じ匂いを持つ、このコの。
- 191 名前:tsukise 投稿日:2004/04/12(月) 21:19
- >>185-190今回更新はここまでです。
かなり少ない更新で申し訳ないです(平伏
諸事情により、ペースダウンすると思いますが放置はしませんので、
どうぞ、ヨロシクお願いしますっ(平伏
>>176 みっくすさん
ハイ、こんな形で彼女は加わることになりましたです(ぉ
ごっちんからすると、友達というよりは…いい後輩?みたいな(ぉ
いつも応援レスをありがとうございますっ!励みになってます!
>>177-178 名無しぽきさん
「○っさん」えぇ、私の中で軽くヒットしてました(笑
どこかで使いたいなぁと思いまして(笑
紺野さん、まだ夢の中ですが…これから頑張ってもらおうかと(ぉ
ご期待に沿えるよう、頑張りますねっ
>>179 星龍さん
カッコよく…がバトルシーンでの目標なので星龍さんの
ご感想、とっても嬉しいですっ。
うぅ、遅れ気味な更新ですが、そう言って頂ければありがたいですっ(平伏
- 192 名前:tsukise 投稿日:2004/04/12(月) 21:20
- >>180 つみさん
結構、展開がマターリしていたりして申し訳ないですが(汗
矢口さん、何気にムードメーカーな位置づけになってたり(笑
家族、本当に増えてますね(笑 今回も…(ぉ
応援レスに元気をもらって頑張りますねっ
>>181 娘。よっすいー好きさん
結構少なめな更新で申し訳ないですっ(滝汗
そうですね、これでほぼメンバーが揃いましたねっ
後は…名前だけしか出ていないあの人を出すのみでしょうか(笑
道亀…暴走させようかと思ったのですが…おとなしくして頂きました(爆
>>182 名無し読者79さん
リアルな部分とのリンク、結構書いてる方も遊び心が働いたりして
楽しいんですよね(マテ えぇ、『○っさん』はどこかで使いたくて(笑
今回も絆っぽいマターリなもので、話が進まず申し訳ないです(汗
かっこいいごっちん…これからも出せるように頑張りますねっ
- 193 名前:tsukise 投稿日:2004/04/12(月) 21:20
- >>183 rinaさん
何気にやぐっつぁんが加わると、どこかコメディタッチになってしまったり(ぇ
えぇ、結構ミキティもそんなタイプなので、ごっちんが自然と振り回されたり(笑
バトルシーンでは、出来るだけかっこ良くって考えているのでご感想
嬉しい限りですっ!
>>184 レオさん
田中さん…そうですね、使いようによっては最強でしょう(笑
とりあえず、スタンディングプレーよりはコンビネーションプレーということで(ぇ
ハイ、そろそろ紺野の核心の話にも突入する予感デス(ぉ
応援レス、励みになってますっ!ありがとうございますっ!(平伏
- 194 名前:つみ 投稿日:2004/04/12(月) 21:54
- これで素直になったのかな?
れーなさんもごとーさんもひとつのモノを守るために生まれてきたんでしょうね!
次回も待ってます!
- 195 名前:みっくす 投稿日:2004/04/12(月) 23:28
- 晴れて仲間入りってとこかな。
「守るものを持つ強さ」なんかわかるような感じがします。
次回も楽しみにしてます。
- 196 名前:ヒトシズク 投稿日:2004/04/13(火) 21:39
- 更新お疲れサマですっ!
ちょっとずつ素直になっていく姿が何とも微笑ましいですね〜♪
守る強さ、と言うのがつくづく(?)分かったような気がします!
では、続きマッタリとお待ちしております!
色々と大変でしょうが頑張ってくださいませっ!
- 197 名前:名無し読者79 投稿日:2004/04/14(水) 20:22
- 更新お疲れ様です。
今回もまたいい感じなみんなが見れて…。絆ってふとした時に結ばれるんで
すね。仲間になった感じがします。次回も楽しみに待ってます。
- 198 名前:星龍 投稿日:2004/04/16(金) 21:11
- 『守るものを持つ強さ』良い言葉ですねぇ
後藤さんかなりカッコイイです。
これからも頑張ってください。
- 199 名前:レオ 投稿日:2004/04/16(金) 21:15
- れいなさんも仲間になったって事で心強いですね!!
後藤さんも大事な人が出来て強くなりこれなら稲葉軍団に勝てるかな(笑)
次の更新がかなり待ち遠しいです!!
では最後まで付き合うつもりなのでよろしくです!!!!(笑)
- 200 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/16(金) 21:53
- 更新お疲れ様です。ごっちんと6期メンの絡みに期待しちゃった自分がいました。
次回の更新楽しみにしてます
- 201 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/17(月) 18:48
- 待ってます
- 202 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:48
- 「あれ? おーい!」
「? あ…アンタ…」
研究所に戻る道すがら突然声を掛けられて。
振り返ったその先に、見知った二人組を見つけたんだ。
あれは…
「石川梨華…吉澤ひとみ」
「なに、ウチら呼び捨てなの?」
「ま、まぁまぁ、ひとみちゃん…っ」
あからさまに不服そうな顔をして、こっちに歩いてくる吉澤ひとみ。
石川梨華は困ったみたいに笑いながらも、ちょこちょこ後ろをついてきて。
なんとなく…上下関係っていうの? そんなのが判ったカンジ。
「ちょっと驚いた」
「え?」
「やー、なんかアンタって一匹狼みたいなカンジがしたからさぁ」
言いながら、顎で後ろを指してきて。
あぁ、美貴達のことか…。
確かに団体行動が好きなワケじゃないけど…、みんな…
- 203 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:48
- 「アタシの仲間だし」
「仲間?」
「そう」
意外なのかな?
興味津々ってカンジでみんなを見てる。
ただ石川梨華は、どこか嬉しそうな表情をしていて。
「ねーねーごっつぁん? 誰、このコ達は?」
「「ごっつぁん!?」」
矢口が呼びかけてきたその瞬間、耳をつんざくような二人のハモリ。
そりゃ、まぁ、おかしいよなぁ…、と思わず苦笑。
「あー…前に、依頼を受けた相手。えっと…」
そこまで言って、二人に振り返る。
吉澤ひとみはともかく、石川梨華の名前をだしていいものかどうかわかんなくて。
でも杞憂だったみたい。
「あ、私石川梨華って言います。で、こっちが…」
「吉澤ひとみ。…っつーか、アンタ『ごっつぁん』とかって呼ばれてんの?」
「…だったら何?」
「いやいや、そーかぁ〜、ごっつぁんねぇ〜。……―――ぷっ」
最後の笑いを我慢しきれず噴出したのをアタシは見逃さない。
あー…そう? そーやって笑いモノにしてくれるワケだ?
仮にも、命の恩人にさぁ。へぇー…。
- 204 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:48
- 「やぐっつぁん」
「おっ♪ なになに〜♪」
あだ名で呼ばれるのが嬉しいみたいで、矢口…やぐっつぁんはぴょこんと隣に立つ。
アタシは、じとっと吉澤ひとみを一度見て…それからやぐっつぁんに満面の笑顔を向ける。
「彼女にもあだ名つけてやって?」
「はぁっ!? なに、いきなり!? ってか、なんで初対面であだ名なワケ!?」
「理由、ムカついたから」
「理由になってねーよっ!」
少しはアタシの苦痛を味わいな。
「あっはははっ!おっけー! 吉澤ひとみだろ〜? ひとみんとかどぉよ」
「いいね、それ」
「全然よくねーよっ!」
さすがノリのいいやぐっつぁんは、一度アタシにニヤッと笑いかけると最高のネーミングをつけてくれる。
そして、ノリのいいヤツがもう一人。
「ひとみっ子クラブとかは?」
「はぁっ!?」
「おっ!藤本、それいいじゃん♪頂き〜」
「ワケわかんないしっ! っつーか、あだ名の方が呼びにくいじゃん!」
右に左にと弄ばれて、吉澤ひとみは地団駄踏んでる。
ざまーみろ、アタシさえも口では敵わないこの二人に、アンタが勝てるワケないでしょ?
軽く笑って……、なんか空しい勝利を感じた…。
危うく、アタシも『まきりん』なんて呼ばれそうだったし。
- 205 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:49
- 「楽しそうだね」
「え? あー…そうかもね」
わーわー騒いでいる連れをそのままに、アタシの隣にスっと立つ石川梨華。
目線はずっと吉澤ひとみに向けられたままで。
その瞳の中に、優しい光を称えている。
「仲直り、できて良かったじゃん」
「え? あ、うん…っ。本当にありがとう」
「やめてよ。アタシは依頼をこなしただけで、二人の仲が元通りになったのは
アンタ達自身のキモチの問題でしょ」
「そう…だね。うん」
テレたような曖昧な表情。
それだけ二人は、今良い関係を保ってるってコトでしょ?
「アナタはどうなの?」
「は?」
切り替えして訊ねられて、一瞬呆けた顔で石川梨華に振り返ってしまった。
アタシ? アタシがなに?
- 206 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:49
- 「かけがえないもの、見つけられた?」
「かけがえのないもの…?」
「もしかして、あの仲間の中にいる?」
言いながら視線はまだじゃれあっている面々に。
いつの間にか、田中達も巻き込んであだ名命名に盛り上がってるし。
ふと、あの中に紺野がいたらどうなんだろう、なんて考えてしまった。
きっと、情けなく眉を下げてオロオロしながら困ったみたいに笑うんだろうな。
なんか、笑っちゃう。
「あの中にはいない」
頬が緩んでしまうのを自分でも感じながら、それだけを口にする。
石川梨華は、アタシの答えにどこか嬉しそうに笑った。
「見つけたんだね」
「……うん」
なんだろう、くすぐったい感覚。
亜弥や美貴とは違った、優しく諭すような、そんな。
だからかな? アタシは、もう一度…彼女に訊ねたんだ。
- 207 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:49
- 「ねぇ」
「うん? なに?」
「この感情は、なんていうの?」
「?」
「あのコを守りたくて、そばに居たくて、…触れたいとも思う、この感情」
自分では見つけられない感情。
きっとアタシは、この感情を知らないんだ。
だから、教えて。
「きっと…私がひとみちゃんに抱いているものと同じ感情、かな」
「それは?」
視線を向けると、頬を微かに赤らめて柔らかく笑う彼女。
「『好き』って事だよ」
―――好き。
聞いた瞬間、トクン、と胸が一度鳴った。
これが…人を好きになる、っていうキモチ…?
- 208 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:50
- 「恋をしてるんだよ」
「恋…」
続けられた言葉は、まるで自分自身にも当てはめているような、そんな声だった。
一緒だね、そんな風に笑いかけて。
なんともいえないキモチになる。
「そういえば、こんなトコで何してたの?ココ、あんまいい場所じゃないし?」
「ふふっ、実はデート中だったんだ♪」
「デート?」
「そ。…ってわかんない? えーと…仲のいい二人がするお出かけみたいな?」
「…ふーん…」
「で。この通りを抜けたところにジュエリーショップがあってそこで買い物でも
しよう〜なんて言ってたところ」
「そう」
ジュエリーショップ。
あんまり知識のないアタシでも、『そこで何を?』なんて言うのは愚問だろう。
それだけ二人に、絆があるってコトか…。
- 209 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:50
- 「ちょっと、ごっつぁん〜」
「? なに?」
呼んできたのは、吉澤ひとみ。
思わず呼び方に眉をしかめるけど、「いいじゃん別に」って視線に溜息一つ。
きっとこれから先も、逢うコトがある度に呼ばれるんだろうなぁ。
「梨華ちゃんに手ぇ出したら許さないからなー」
「言ってな、バカ」
美貴達にもいえないような軽口が、何故か彼女相手だと気持ちいいくらいでて来る。
なんていうか…人徳ってヤツ?
彼女には、人を寄せ付けるオーラがあるみたい。
こんなアタシでも、惹かれる、ね。
「なんかさぁ、アンタ変わったよね」
「? どこが?」
まだ、あーだこーだと亀井達のあだ名を考えている美貴とやぐっつぁんから離れて
彼女はニカッと笑いながら、こっちに来た。
- 210 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:50
- 「自分でわっかんない? 初めて逢ったときみたいな、なんつーの?怖い顔じゃないとか」
「あの時は仕事だったし、違って当然」
「じゃなくてー。こう…事務的なカンジじゃないっつーか…人間くさいとか」
「……ホメてんの?けなしてんの?」
軽く片眉を上げて見つめると、パタパタと手を振りながら「ホメてんだって」なんて
ケラケラと笑ってくる。
なんか…調子狂うなぁ。
でも、うん、このカンジ、悪くない。
「でも、ホント、ごっつぁんには感謝してる」
「…アンタ達って、そろいも揃ってお人よしだね」
「は?」
「今、彼女にも言われたの」
「あらら」
恥ずかしそうに笑う石川梨華に、吉澤ひとみもテレたみたいに笑ってる。
そのままスっと寄り添うように近づくと、軽く腰に手を回してみせたりなんかして。
『恋』してるんだな、と改めて実感したっけ。
- 211 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:50
- 「あ、そうそう、ウチのコトは『よっすぃー』でいいよ」
「は?」
「矢口さんがつけてくれたの。でもって梨華ちゃんは、梨華ちゃんでいいし。ね?」
最後の問いかけは、石川梨華に。
柔らかく笑って頷くところを見ると、別にOKなんだろう。
「あとさ、ミキティとか、シゲさんとか」
「…はぁ…、付き合ってらんない」
まだまだ続きそうなあだ名発表に、軽い溜息一つ。
能力者同士ならともかく、違う世界の人間とあだ名で呼び合うなんておかしいし。
「まぁ、そういわずにさ。……なんかあったら、今度はウチらが力になるから」
「……うん。その時はヨロシク」
その時なんて、来ないだろうけど。
キモチだけは、ありがたく受け取っておく。
そんなアタシがおかしかったのか、また吉澤ひとみは「アンタやっぱ変わったよ」なんて笑った。
- 212 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/21(金) 12:51
- 「じゃ、そろそろウチらは行くわ」
「うん」
「矢口さーん、ウチらもう行くんでー」
「おうっ! バイバイ、よっすぃー」
みんなに呼びかけて手を振ると、通りを歩き去っていく二人。
繋がれた手が、二人の信頼を表しているような気がして、どことなく…嬉しいキモチになったっけ。
「ごっつぁん、そろそろオイラ達もいこうぜ〜」
「……うん」
頷いて振り返ると、アタシ達は再び歩き出した。
彼女たちとは、別の『道』を。
その道が、再び交わる機会がくるのは…もう少しあとの話。
- 213 名前:tsukise 投稿日:2004/05/21(金) 12:52
- >>202-212
今回更新はここまでです。
大変遅れ気味な更新で申し訳ないです(滝汗
おそらく、これからもマターリで行くと思いますがヨロシクお願いします(平伏
>>194 つみさん
意地っ張りな彼女だけに、後藤さんの内面に触れて頂き
素直になってもらいました(爆
似た者同士だけに、守るものをしっかり守ってほしいなぁ…と思ったり(ぉ
>>195 みっくすさん
何気に彼女を仲間にするのは楽しみだった部分なので
みっくすさんのご感想、嬉しいです♪
「守るものがあるから強くなれる」、何気に自分自身気に入ってたりします(ぇ
- 214 名前:tsukise 投稿日:2004/05/21(金) 12:53
- >>196 ヒトシズクさん
意地っ張りなだけに、素直になる可愛いですよねっ!(マテ
守る強さ、彼女にはまだまだ理解しがたいみたいですが
徐々に理解してもらいたいものです〜(ぉ
応援レス、本当にありがとうございますっ(平伏
>>197 名無し読者79さん
いい感じというご感想に、小躍りするくらい喜んでますっ(ぇ
押し付けがましい仲間っていうよりも、ふとした瞬間に仲間になってた、と
いうカンジにしたかったんで、レスが本当に嬉しいです♪
>>198 星龍さん
いやはや、良い言葉だなんて…ありがとうございますっ(平伏
後藤さんのカッコよさも表せていてホっと一安心だったり(ぉ
応援レスに励まされつつ頑張りますですっ
- 215 名前:tsukise 投稿日:2004/05/21(金) 12:53
- >>199 レオさん
えぇ、もう彼女を仲間にするのが楽しみだったのでご感想嬉しいです(ぉ
そろそろ、前面衝突していきそうですが…はたして…(マテ
結構遅れ気味な更新になってしまっていますが、どうぞまた
フラリと立ち寄って、読んで頂ければ幸いです(平伏
>>200 娘。よっすいー好きさん
ごっちんと6期の絡み、不発気味ですが、きっとこれから…?(ぇ
それ以上になんか、色んな絡みが発生しまくってますが…(マテ/爆
更新が遅れ気味ですが、またまた読んで下されば幸いです(平伏
>>201 名無飼育さん
遅れ気味な更新で申し訳ないですっ(平伏
カキコ、ありがとうございますっ
- 216 名前:つみ 投稿日:2004/05/21(金) 14:08
- 久しぶりにあの方たちが登場しましたね!
すこしづつごとーさんも心の氷が溶けていっていますね〜・・
最後の一文がきになる・・・
次回までまったり待ってます!
- 217 名前:星龍 投稿日:2004/05/21(金) 18:51
- 後藤さんがだんだん良い方向に変わってきましたね。
あの人達も久しぶりに登場。
続きがとても気になります。
作者さんのペースでこれからも頑張ってください!!
- 218 名前:レキ 投稿日:2004/05/21(金) 19:11
- お疲れ様です。
続き、楽しみにしています。
- 219 名前:みっくす 投稿日:2004/05/21(金) 21:56
- お疲れ様です。
いよいよリベンジに向けて始動ですね。
今回はたくさんの仲間がいますね。
がんばれごっちん。
次回も楽しみにしてます。
- 220 名前:名無しぽき 投稿日:2004/05/21(金) 22:49
- 今月は更新ないと思って油断してますた(爆)
いやいや… 暖かいお話をありがとうございます♪
ひとつひとつ大切なことを得て成長するごっちん。
またーりとお待ちしてますね!
- 221 名前:レオ 投稿日:2004/05/22(土) 18:06
- 更新お疲れさまです!!
今回は和やかな感じで読みやすかったです!!
石川さん吉澤さんコンビがなつかしい〜!!いい所で登場してくれましたね!!
後藤さんが吉澤さんを助けようとかばいナイフで切られその手当てを紺ちゃんがしてくれたという話が思い出されました。
もう少しで中澤さんから真実が聞けるんですね・・・(ドキドキ)
それに最後の文の意味する事とは!!
いや〜!!もう楽しみでしょうがないです!!
では次回の更新待ってます。
- 222 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:05
- おかしな夢を見た。
私の周りには、なんにもなくて…でもすべてがあった。
目に見える物じゃなくて、身体で感じられる水の流れとか…火の揺らめきとか…
大地の芽吹きとか、風の息吹とか。
でも、そんな私に向けられていたのは…たくさんの悲しみの眼差し。
中澤さんとか、安倍さんとか…松浦さんや藤本さんだっている。
そのみんなが私を悲しい目で見上げてて…。
それだけじゃない。
他にもたくさん知らない人がいて…その人たちもみんな悲しそうな目で私を見てた。
どうして…?
どうしてそんな目で私を見るんですか?
訊ねたいのに、声はでなくって。
ただただ、みんなの眼差しが痛くて…怖くて…凄く悲しくなって…。
気がついたら、私は…あの人の名前を呼んでいた。
後藤さん、って。
- 223 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:05
- でも…後藤さんはどこにもいなくって…。
いなくって…。
ワケも判らず悲しくて…泣きそうになって…。
もう一度、あの人の名前を呼んだときに……視界が開けたんだ。
「…とぉさ…っ、後藤さんっ!」
「えっ!? こ、紺野ちゃん!?」
勢い良く身体を起こして。
一気に頭に血が駆け上がっていくような、そんな感覚に軽い眩暈を覚えた。
頭が…重い。
なんとか額を押さえながら、はっきりしない視界をどうにかしようと瞬きを何度かして…。
その視線の先に、心配げに私を見つめている眼差しを見つける。
あぁ、あの人は…。
「松浦…さん?」
「大丈夫? 随分うなされてたみたいだけど?」
「あ…、はい…おはようございます」
ぼーっとしながら返事をして、ふと気づく。
なんで私…寝てるんだっけ?
というか…ここはどこだっけ…?
- 224 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:06
- 「ねぇ、本当に大丈夫?」
「あ…はぁ…。えっと…ここは…?」
「え? あぁ、ここは中澤研究所。イナバの人達のせいで眠らされてお世話になったんだけど?」
「あぁ…そういえば…」
まだ頭に霞がかっているみたいでぼんやりしているけど…、なんとなく思い出してきた。
じゃあ…さっきまでのは夢…だったんだ。
なんだかよく判らないけど…凄く悪趣味な夢だなぁ…。
なんとなく…夢だと思っても、すごく胸が張り裂けそうに苦しい。
だって…夢の中では、後藤さんがいなかったから…。
思って自分でびっくりした。
こんなにも私は後藤さんに依存してしまってるなんて…って。
……や、やめようっ。さっきのは夢だったんだからっ。
ブンブン、と頭を振って気持ちをせいりする切り替える。
「ど、どのくらい眠ってたんでしょう?」
「さぁ…。でも真希の美貴もいないし、アタシらが寝すぎたってのは確かだね」
ちょっと苦笑する松浦さん。
どこかその表情は、以前より柔らかくなったような気がする。
- 225 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:06
- 「紺野ちゃん」
「はい?」
「…その、ありがとう」
「え?」
「いや、夢でさ、助けてくれたじゃん」
ポリポリとこめかみの辺りをかきながら、松浦さんはテレたように笑った。
夢…あぁ、でもあれは私じゃなくって…。
「あれは藤本さんが…」
「ううん、でも美貴が来る前、紺野ちゃんが来てくれてなかったらアタシ
悲しみで心が潰されて、怒りで心が潰されて、あそこでジ・エンドだった」
「そんな…」
なんだか優しい視線がくすぐったい。
初めて見るような、温かい松浦さんの笑みを浮かべた表情。
きっと、悪夢が悪夢じゃなくなったからなんだろうな…。
そのお手伝いが出来ただけで嬉しい。
- 226 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:06
- 「痛かったよ〜、コ・コ」
「ふぇ? あ…っ」
悪戯っぽい笑顔で、指差したのは自分の頬。
そ、そういえば私、松浦さんの頬を…っ、うぁ〜っ。
「ご、ごめんなさいっ」
「あっはははっ! うそうそ、冗談。夢の感覚が残ってるワケないじゃん」
「うぅ…いじわるです…」
カラっと笑う松浦さんをジト目で見つめる。
なんだか…、松浦さん…、目が覚めてから藤本さんに似てきてません?
もしかして、これが本当の姿なのかなぁ…。
でもそうだとしたら、ちょっと嬉しいかも。
だって、やっぱり笑った方がずっと可愛いんだもん。
と、その時。
ピピッ、と短い電子音が部屋に響いた。
え?と思いながら音を探して…今まで自分が眠っていたベッドの下。
籠に私のカバンとか荷物があって、その中から聞こえたんだ。
- 227 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:07
- あ…、もしかして。
思い当たる節を感じながらカバンを探って…やっぱり。
携帯電話の着信音だったんだ。
しかも、確かめたらワン切り…。
「携帯?」
「あ、はい。でもワン切りだったみたいです…」
「よくあるの?」
「結構…。着信拒否してるんですけどね…」
ホント、なんでワン切りの業者さん達ってこんなにかけてくるのかなぁ…?
色々対策とかしても、なんかイタチごっこみたいな感じもしちゃうし…。
うーん…。
「なんなら美貴に頼んで、業者突き止めてこらしめる?」
「えぇっ!?」
「そんな難しいことじゃないし」
「や、いえっ、そんな、大丈夫ですっ」
そう?なんて首を傾ける松浦さん。
な、なんだか、松浦さん達なら本当にやってしまいそうで怖いかも…。
- 228 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:07
- …って、あ…。
「留守番電話…」
「うん?」
「あ、誰かから、連絡がきてたみたいで…」
「あらら。急ぎの用事だったら大変かもね」
た、確かに。
松浦さんに苦笑してから、おもむろに再生ボタンを押してみる。
『あさ美ちゃん? あたし、麻琴です』
まこっちゃん…。
そういえば、研究所にきてからバタバタしてて…ちゃんと話できなかった。
いっぱい迷惑もかけたのに…。
ふと顔をあげると、うーん、と伸びをして立ち上がり私から少し離れていく松浦さん。
気をつかってくれたのかな…?
その背中に一度ペコリとお辞儀して、携帯を握りなおす。
- 229 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:07
- 『え、と…。なんて言ったらいいのかな。………あっ、そうそう!卒業式の練習が始まったよ?
あさ美ちゃんが答辞なのに、ずっと休んでるから保田先生が困ってたよ?』
卒業式…っ。
そっか…もうそんな時期なんだ。
いろんな事がありすぎて、すっかり忘れてた。
『……なんて。そんな事が言いたいんじゃないのにね…。…………あさ美ちゃん?
ほんとにこの電話に気づいてないの? …声が聞きたいよ…。あたしらしく…ないけどさ』
まこっちゃん…。
思わぬ言葉に、胸が苦しくなる。
留守番電話が入っていたのはもう2日も前のこと。
きっと、私が眠っている間に帰ってしまったんだろうな…。
この電話の後、まこっちゃんからの電話は一本もない…。
…一体どんな気持ちでこの電話をかけてくれたんだろう?
- 230 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:08
- 「まこっちゃん…」
なんとなく…気づき始めてた…まこっちゃんの気持ち。
それは私が後藤さんを想うモノと、きっと一緒。
今だからわかる、まこっちゃんがどれだけ私を支えてくれていたのか。
どれだけ私を判ってくれていたのか。
でも…私は…、応え…られない…と、思う。
好きだよ? きっと、気兼ねなく喋れるのは、まこっちゃんだけだと思う。
でも…違う…、違うんだよ…。
本当に支えて欲しいのは、そして支えたいのは…
本当に好きでいて欲しいのは、そして…好きなのは…
あの人だけなんだ。
『あさ美ちゃん? あたし……あさ美ちゃんが、誰を好きでいても……、……
あ、やっぱ今のなし! 忘れてっ! 学校来るの楽しみにしてるからっ!じゃ!』
まこっちゃんの精一杯の優しさ。
その優しさが…今はとても辛い。
- 231 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/25(火) 10:08
-
切れた電話を耳元から離して、パチン、と折りたたむ。
それからふと思う。
どうして…、人って好きになる人を選べられないんだろうって。
それができたら、きっと辛い想いも…ずっと少なくなるのにって。
私が神様だったら…きっと辛い出来事なんて起こさせないのに。
なんて…、自分勝手な考えかな…。
- 232 名前:tsukise 投稿日:2004/05/25(火) 10:08
- >>222-231 今回更新はここまでです。
ちょっと尻切れ気味で申し訳ないですが…次回大量Upになりそうなので…(汗
カオリン&梨華ちゃん卒業発表に軽く凹んでたり…(苦笑
>>216 つみさん
ハイ、久々の登場で85年組をそろえてみたり(笑
ごとーさんもこの二人にテンポに巻き込まれ気味です(笑
二人は、きっと後々にも重要なカンジで登場する…かも?(ぇ
>>217 星龍さん
後藤さん、ハイ、良い方向に…ひっぱられちゃってますね(笑
久々登場の二人は、ちゃっかりラブラブだったり(マテ
応援レスをいつもありがとうございますっ(平伏 励みになってますっ!
- 233 名前:tsukise 投稿日:2004/05/25(火) 10:09
- >>218 レキさん
ありがとうございますっ(平伏
不定期更新となってますが、レスに元気を貰いつつ頑張りますっ
>>219 みっくすさん
もうホント色んな人たちが登場しまくっちゃってますね…(笑
ハイ、そろそろリベンジへと頑張ってもらおうかと…(ぉ
どうぞ、続けて読んで下されば嬉しい限りですっ(平伏
>>220 名無しぽきさん
あははっ、お世話になっておりますっ(平伏
更新、メチャクチャ遅れ気味となってしまってますが(苦笑
どんどん後藤さんに成長してもらいつつ…彼女を守ってほしいなぁ、と(ぉ
こちらへのレスも本当にありがとうございます(平伏
>>221 レオさん
ハイ、あのコンビが再登場であります♪
過去の出来事を思い返して頂けて嬉しい限りだったり♪
そろそろ、真実を知る日も…近いですね、ハイ(ぉ
応援レスに励まされつつ頑張らせていただきますね♪
ほ、補足で1つ…ネタバレにはご注意くださいませ…(苦笑
- 234 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/25(火) 12:35
- 更新お疲れ様です。
切ないですな。。。
次回大量うpとのコトで、楽しみにしておりますw
- 235 名前:レオ 投稿日:2004/05/25(火) 19:33
- お疲れ様です!!
すいませんネタバレしてしまい・・・・。
今後気をつけます。
早く更新されてうれしかったです!!
やっと紺ちゃん復活ですね!!うれしいです(笑)
マコっちゃん少しかわいそうでした・・・(涙)
では次の更新も期待しております!!
ネタバレ本当に申し訳ありませんでした。
- 236 名前:星龍 投稿日:2004/05/25(火) 22:02
- 更新お疲れ様です。
小川さんの優しさに心打たれました。
作者さんこれからも頑張ってください。
- 237 名前:つみ 投稿日:2004/05/25(火) 22:05
- 更新お疲れ様です!
こんこんが切ないと言うか健気というか・・・
次回の大量うp期待してますよ・・
- 238 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/25(火) 23:00
- >>235
余計なお世話とは思いますが、おそらくそれがネタバレかと思います…。
- 239 名前:みっくす 投稿日:2004/05/26(水) 04:41
- 更新おつかれさまです。
紺ちゃんがすごく切ないですね。
「思う自分と思われる自分」
おいらは思う自分を貫いて行ってほしいですね。
- 240 名前:レオ 投稿日:2004/05/26(水) 07:47
- すいません!!
あれほど気をつけようとしていたのにネタバレしていて・・・・。
指摘しただきありがとうございました!!
みなさんに大変ご迷惑お掛けしてしまい申し訳ありませんでした。
- 241 名前:名無し読者79 投稿日:2004/05/26(水) 17:47
- 更新お疲れ様です。
前回と今回の更新でまた一歩進んだって感じで…。
仲間っていいですね。リアルで卒業というのを知ったので
なんか涙もろいです。
- 242 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:04
- その後、突然安倍さんが部屋にやってきて、中澤さんが呼んでるから、と
部屋を移動して。
連れてこられたのは、大きな校長室みたいなそんな場所。
「お、来たみたいやね」
部屋の奥で、コーヒーを飲んでいた中澤さんは、安倍さんに一度頷く。
安倍さんは、同じように頷いて部屋を後にした。
静寂が包む中、私は、松浦さんと一緒に中澤さんと向かい合う。
「なんの用ですか?」
「まー、そうツンケンせんと。コーヒーでも飲む?」
「結構です」
「あ、そ」
なんだか一触即発な松浦さんと中澤さんの会話にオロオロしてしまう。
そういえば、松浦さんは安倍さんが部屋に入ってきたときも、私をかばうように
素早く前に出ていた。
私が安倍さんは助けてくれた人なんだ、って説明するまで、凄く怖い顔をしてたし。
そんな松浦さんに安倍さんは苦笑してたっけ…。
いきなりのことで、まだ警戒心みたいなものが働いてるのかな…?
後藤さんも、そうだったし…。
- 243 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:04
- 「まぁ、立ち話もなんやしそこに座って」
視線で促した先には、黒い皮製の大きなソファー。
ちょっと戸惑ってしまったけど、松浦さんがボスン、と座ったのを見て隣に座る。
「そろそろ、アンタらに全部を話しておかな、あかんみたいやから…後藤らにも
話すけど、とりあえず今は二人に…と思ってな」
「…何をですか?」
「アンタらが一番知りたがってるコトや」
ぐっ、と言葉を詰める松浦さん。
…私たちが知りたいこと…、どういうことだろう…?
もしかして…私が狙われていることも、話してくれる?
「少し…アタシの昔話でもしよか」
「え…?」
中澤さんはそれだけ言って、コーヒーカップの中身を一気に飲み干すと
私と松浦さんの目の前のソファに、深く座った。
コトン、とテーブルに置いたカップの音が不気味なぐらい大きな音を立てる。
それが、自然と私に緊張感を起こさせたんだ。
- 244 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:04
- 「あるところに…大きな大きな研究施設がありました」
「あ、あの…?」
聞き返すと、『まぁ、黙って聞いて』というような中澤さんの視線。
何か、大事なことを、伝えようとしているのかも…。
軽く頷いて、話に耳を傾ける。
「そこでは、医療を遺伝子レベルで取り込み、人間の抗体について研究してたんよ」
「…つまり?」
「…あらゆる病原菌に侵されることもなく、『老いる』という万人に共通の現象を最小限に
食い止めて、身体・頭脳共に優秀な人材を作ろう、みたいなカンジやね」
松浦さんの探るような視線に、中澤さんは飄々と答えた。
まるで教科書の文章を並べるみたいに。
途端に、「はっ」と嘲るみたいに笑う松浦さん。
「そんなの、できるワケないじゃないですか。大体、それは人間として…」
「そうや誰もができない事を誰もができるんやという研究をしていた、すなわちそれは」
「人としてやってはいけない、最大の『禁忌』に触れる研究」
まくしたてるように中澤さんの声が松浦さんの言葉をかき消す。
射るような瞳の奥に『そんなことはわかってる』、そんな…苛立ちが見えた、気がした。
- 245 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:05
- 「その研究施設では、『人間』を『作って』たんや」
人間を…作る…?
作るって…どういうことだっけ…?
そもそも人間はどうやって生まれる?
知ってる。
お父さんとお母さんが愛し合って、慈しみながら子供が生まれる。
そう、深い愛情の中で、命ができる。
「…それを、すべて否定する研究だよ」
えっ?
突然心を読まれて振り返ると、いつの間にいたのか安倍さんが淋しげに立っていた。
悲しみが刻み込まれた瞳に、何もいえなくなる。
『あなたが思っているような、そんな生易しい話じゃないんだよ』
……そんな、目だった。
- 246 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:05
- 「どうしたん、なっつぁん」
「あ…うん。みんなが帰ってきたよ」
「みんな…あぁ、後藤らか」
後藤、さん…。
その名前に、心のどこかでホっとしている自分がいた。
何故か、この話を聞くのが怖くて。後藤さんに傍に居てほしかったんだ。
「ちょうどええわ。部屋に通して」
「全員?」
「何人おるん?」
「全部で…6人?」
「ま、ええやろ。入れて」
「うん」
安倍さんの返事と入れ替わりに、後藤さんたちが部屋に入ってきた。
後ろに、藤本さん、矢口さん、亀井さんに道重さん…で、誰、だろう?
気の強そうな視線が私と交差して、戸惑ったみたいに反らされたんだけど…?
「一気に密集率が高くなったなぁ…」
苦笑しながら中澤さんは、全員をソファーに促して自分は机に座った。
社長机…っていうのかな? すっごく大きい机。
そこに腰掛ける姿は、なんだかカッコ良かった。
- 247 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:05
- 「ほんなら…どこから話そ? もっかい最初から話そか」
座って?
そういうみたいに、後藤さん達に視線でソファーを促す中澤さん。
ちらっと、一瞥した後藤さんと藤本さんは、私の隣と松浦さんの隣のソファーの
肘掛部分に足を組んでもたれかかる。
矢口さんは、何にも言わずに中澤さんの隣にぴょこんと飛び上がって机に座った。
まだ戸惑ったみたいにしていたあとの3人だけど、安倍さんが優しく背を押して
さっきまで中澤さんが座っていた、私の向かいのソファーに腰を下ろしたんだ。
あ…、今、気の強そうな子と目が合った。
な、なんだろう、さっきからチラチラ見られてる気がする。
軽く首を傾げてみせるけど、凄い勢いで目を反らされて…なんだか…寂しい。
「…田中れいなっていうの」
「え?」
ボソっと耳元で囁かれて。
顔をあげると、ドキっとするほど至近距離で私を見つめてる後藤さん。
私が気にしてること、気がついてたんだ。
「亀井と道重の友達。悪いコじゃないから、大丈夫」
「あ、そんな…」
怯えてるみたいに見えたのかな…?
なんだか申し訳ない気持ちになる。
- 248 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:06
- もう一度視線を向けると、田中さんは後藤さんと私を交互に見て、それから
ペコリと頭を下げてきた。
慌てて私も頭を下げて…、ガツン、とテーブルに頭をぶつけてしまった。
「こ、紺ちゃん、何やってんの?」
「あぅ…、なんでもないです」
呆れたみたいな藤本さんの声に、額を押さえてうずくまる私。
恥ずかしい…。
田中さんも、みんなもクスクスと笑ってるし…。
って、後藤さんまでっ。
くっくっ、と口元に手を当てて堪えてるけど、判りますよ…っ。
ひ、酷いです…。
それでも、『ごめんごめん』っていうみたいに私の頭を軽くポンと撫でてくれて。
しぶしぶ、頷く。
「…とまぁ、笑いもとれたところで。真面目な話しよか」
な、中澤さん…酷いです。
でも一度苦笑してから、顔をあげた中澤さんはどこまでも真剣な目で私たちを見ていた。
自然と私の顔もこわばっていくのが判る。
- 249 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:06
- それからさっきまで私と松浦さんに話していたところまでを、まるでテープレコーダーを
もう一度再生させるみたいに繰り返して喋ると、ここからが本題なんだと言わんばかりに
深く…深く一度息を吐いたんだ。
「今言った『人間を作る研究』、別名で『ハロープロジェクト』の一員になったアタシは
とにかくがむしゃらに研究に打ち込んでた。望まずして生まれてきた子供や、
身元不明の受精卵を対象にして、あるチームと一緒になってな」
「チーム…。研究チームのこと?」
「そうや。その研究チームには、アタシの他に2人のメンバーがおった。それが、
戸田鈴音と……稲葉貴子や」
「イナバ…!?」
後藤さんや、松浦さん、そして藤本さんの顔色が変わる。
対照的に、うつむいてしまったのは向かいに座っている亀井さん達。
稲葉さんっていう人は、何か凄く重要な人なのかな…?
あ、そういえば…学校で襲われた時…4人の人はイナバから来たっていうような
事を言ってた。
…ということは…私を狙っていたのは、中澤さんの他に…稲葉さんっていう人も…?
こ、混乱しそうになる…。
- 250 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:06
- 「りんねは…あのコはいち早くこの計画の無意味さに気づいた。人が人を作るコトの
恐ろしさ…、それに気づいて…半年で去っていった。変わらずに間違った道を歩いて
いたんは、アタシら二人」
「…いつ、アンタは計画から外れたの?」
後藤さんの問いに、中澤さんは一度くしゃっと髪をかきあげた。
罪の意識とか…そんなのが溢れかえってきてるのかもしれない。
辛そうにしかめられたその顔が痛々しい。
「μシリーズを作り終えた瞬間やったから…15の時ぐらいかなぁ…。遺伝子操作で
生まれてくる能力者の扱いに耐えれんくなってなぁ」
クッと自嘲気味に笑う中澤さんの目には何が映ってるんだろう。
きっと、私なんかが想像もできないぐらい辛い過去なのかもしれない。
「それ以降は、お国の為に働き出したりんねの力を借りて、能力者を集めてこの場所で
能力の制御・抑制を教えてるんや。…能力は使い方一つで良くも悪くもなるからなぁ」
いわばそれは、能力者の学校…かな。
確かに、能力は後藤さん達をみる限り悪いことだけに使われてないと思うし…。
導く人がいれば、間違ったことにはならないんだと思う。
- 251 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:07
- 「そのμシリーズだけど…?」
藤本さんが探るように話しかけて、その視線を中澤さんは制した。
全部話すから、そういうみたいに。
「アタシと、稲葉のあっちゃんの計画が狂い始めたんは…一人の能力者が生まれて
からのことや。…自然の力…、水を称えて生まれてきたコを見て…何かが壊れたんや」
「壊れた…?」
「自然の力を操れるコが生まれたことで…こう思ったんや。『もしかしたら…―――
すべての能力を完全に使いこなせるコが生まれるかもしれん』と。
そこからや…。人間を作るのではなく…能力者を作る研究に変わったんは」
何も言えなかった。
人を作り出す、というだけで、驚いているのに…能力者をつくるだなんて…。
「次々と生まれてくる能力者…ミュータント。せやけど、そのどれも完全体には程遠く…
廃棄されるコがでてきて…、アタシはやっと自分の犯している罪に気づいた。
人は誰も、誰かの生きようとする意志を奪うことなんて許されない、と」
淡々と語られていく言葉は、まるで裁判で証言をしている被告人のようにも見えた。
早く、罪を吐き出して、もう楽になりたい…、そんな雰囲気さえ感じ取れるほど。
- 252 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:07
- 「それでも能力者は、あっちゃんの手によって生まれ続け…ついに二人目の自然の
力を称えたコが生まれた。その翌年にはもう一人…。後にも先にも、その三人以外には
もう自然の力をもったコは生まれなかった。そこで…その三人を特別視するために
μという単位で呼んだんや」
「μ…」
「もともとは電子の記号やけど、暗号化するために用いたんよ」
μ…。
な、なんだろう…急に…少し、気分が悪く…。
胸に何かが詰まったみたいな…そんな。
思わず口元に手を当てて、こみ上げてくる異物感を抑えこむ。
『μ−001から003は……な性質が……。それ……脆弱性が……』
っ!
な、なに…?
今一瞬何かが脳裏をよぎった。
あれは…何度となく見た夢…?
- 253 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:07
- 「結局最終的に4人のμシリーズと言われる人間を作り、計画はなくなった」
「どういうこと?」
「3人作った段階で、ほぼ完全体を作る基盤が出来…4人目で誕生したから」
「誕生…?」
「人であって、人でない。それを制すもの全てを制す。μシリーズの最終形態
ジェノバとアタシらは呼んでた。いわゆる『完全体』を意味する呼び名や。
全てを支配…できてしまう」
中澤さん達の声が、ちょっと遠く感じる。
それに視界が暗くなったりして、見えにくくなって。
気分の悪さに拍車をかけていく。
「本人の意思には関係なく力を利用されるのは必至や…。せやからアタシは…
当時、研究員の目をかいくぐって四人目のμ…μ-004を連れて逃げた。さすがに
そのままアタシが育てるコトはできず、施設にわたしたんやけどな」
「その後は?」
「…この研究所を建てて、その後も何年かまで作られ続けていた能力者を集めて指導し…
あっちゃんがμ-004を探していることを知って…」
「それから…?」
「力が現れる前に、そのμ−004を引き取って―――永久凍結するつもりやったんや」
「永久…凍結…!?」
- 254 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:08
-
…ぅ…っ。
気持ち…悪い…っ。
『μ−001から003は、もう感情的な性質が人格として現れてる。それゆえに脆弱性が危惧されてる』
え…っ?
映像が…目の前で…クリアに再現されていく…。
頭がクラクラしてくる…っ。
ズキン!
一度大きな頭痛。
と共に、目の前に広がる映像。
これはいつもの夢。
でも、いつもより、すべてがクリアな…夢…?
ううん、夢じゃなく、私の『過去』。
今なら、理解できる過去。
・
・
・
- 255 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:08
- 「μ−001から003は、もう感情的な性質が人格として現れてる。それゆえに脆弱性が危惧されてる」
いつ聞いても、いやな声の女の人の話も…今日はかすれることなく全部聞こえる。
そのすべてが理解できた。
μ−001、002、003は…誰なのか。
そして。
「けど、この004は違う。コレはジェノバ…完全体や」
004が、誰なのかも。
完全体…それが意味することは、つまり。
「コレなんて、モノみたいに言わんといてくれへん? そのコも今まで生まれてきた他のコのように、人間なんやから」
まだ幼さを残した中澤さんの顔が、怒りに歪んでいる。
「なんで?裕ちゃんらしくないやん。大体、実験体にしたんは裕ちゃんやで?」
「そうや…。だから反省も後悔もしてる」
「今更、何言ってんのん? これでうちらはトップに立てるんやで?」
「アンタにはなんで判らんのや、禁忌を犯した人間の罪が、どれほど重いか…」
「…ま、ええわ。うちはとりあえず最終手続き済ませてくるわ」
- 256 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:08
- 全てが…繋がろうとしていた。
中澤さんの言ってた『禁忌』。
実験体、と呼ばれた命。
そして、
「…うちらを殺してってな。 …頼んだで? あさ美…」
最後に耳にした、あの言葉。
あぁ…私は…、そういう事なんだ。
・
・
・
- 257 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/27(木) 14:09
- 「…の…! 紺野ッ!」
「っ!」
はっとして、顔をあげる。
さっきまでの映像は、もう形もなかった。
変わりに目の前に飛び込んできたのは、眉を寄せて私の顔を覗き込んでいる後藤さん。
「大丈夫? 気分、悪い?」
「ぁ…」
「紺ちゃん、顔真っ青になってるよ?」
「大丈夫です…大丈夫…」
なにが大丈夫なんだろう、って一瞬思ってしまった。
ただ、後藤さんや他のみんなに心配をかけたくなくて、曖昧に笑って。
でも、こみ上げてくる嘔吐感だけはおさまりきらなかった。
「ちょっと…気持ち悪くて…」
「起き立ちやったしな…、少し時間置こうか?」
心配した中澤さんがそう言ってくれる。
でも、私は…その顔をちゃんと見ることができなかった。
腹立たしくて…悲しくて…。
「紺野、少し外に出よう」
「え…? あっ」
返事をする前に、私の腕は後藤さんに掴まれて部屋を後にする。
「あ、待ってよ」と、他のみんなも心配顔でついて出てくる中…、中澤さんだけが
背を向けて溜息をしているのが見えた。
凄く…その背が小さく見えた…気がした
- 258 名前:tsukise 投稿日:2004/05/27(木) 14:11
- >>242-257 今回更新はここまでです。
サクサク…いきたいですね…(ぇ
>>234 名も無き読者さん
ハイ、もうなんだか彼女切ない扱いで…(汗
大量Upになっちゃってますが、
そろそろペースアップをしたいなぁ…と(ぉ
>>235 レオさん
応援レスをありがとうございます〜♪
ネタバレについては『自治FAQ』をご参照くださいませ♪
紺野さん…出番が少なかっただけに、そろそろ大きく
動いてもらおうかなぁ、と思っていたり(ぉ
>>236 星龍さん
小川さん…、切ないような優しさですね…ハイ。
きっと彼女もそのうち報われると…いいなぁ、と(マテ
応援レスに元気を貰ってがんばりますね♪
- 259 名前:tsukise 投稿日:2004/05/27(木) 14:11
- >>237 つみさん
紺野さんはやっぱりイメージ的に『健気』なカンジですよね♪
いやはや、同じ感想をいただけて嬉しかったりっ(ぉ
大量Upになっちゃってますが、このままペースアップできるよう
頑張らせていただきますね♪
>>239 みっくすさん
ハイ、今回は結構切ない人続出で…(マテ
人の心は移ろいやすいとはよく言いますが…果たして(謎
私も是非とも彼女には思う自分でいてほしいかなぁ…と思ったり(ぉ
>>241 名無し読者79さん
ゆっくりとですがテンポアップしていきたと思っていたので
ご感想にホっと一安心していたり(ぉ
リアルで卒業を知られたそうで…っ。本当に切ないですよね。
私もしばらく呆けてしまってましたから…(涙
- 260 名前:ホワイティ 投稿日:2004/05/27(木) 16:29
- お疲れ様です。
紺ちゃんが頭ぶつけたとこで思わず噴出してしまいました。
やっぱり紺ちゃんはドジキャラが似合いますね。
- 261 名前:名無しぽき 投稿日:2004/05/27(木) 19:48
- 今月に更(ry
ってか、展開が、うわー、うわー、うわー…
- 262 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/05/27(木) 20:26
- 更新お疲れ様です。
ヤバイヤバすぎです。いいところで切ってくれたおかげで
悶絶しおりますw
紺ちゃんどうなるだ!?
またの更新を首を長ーーーーくしてお待ちしております。
- 263 名前:名無し読者79 投稿日:2004/05/27(木) 20:44
- 今回はまた…。紺ちゃんがこれから…。
すごく気になります。今後どのようなドラマが生まれるのか…。
楽しみに待ってます。
- 264 名前:つみ 投稿日:2004/05/27(木) 21:29
- すばやい更新お疲れ様です!
今回は今までの謎が解けて・・・
これから一体どんな戦いが始まるんでしょうか?
少し緊張しつつ次回まで待ってます!
- 265 名前:みっくす 投稿日:2004/05/27(木) 22:04
- 更新おつかれさまです。
今回で紺ちゃんが狙われる謎が解けましたね。
今後の紺ちゃんはどうなっていくんだろう。
次回楽しみにまってます。
- 266 名前:レオ 投稿日:2004/05/27(木) 23:55
- お疲れです!!
うわぁ〜めちゃくちゃ続きが気になります!!!
謎が少し解けてすっきりしてます(笑)
では次の更新も楽しみにしております。
- 267 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/28(金) 07:03
- 紺野の具合はあんまり良さそうじゃなかった。
部屋を後にして、研究所内にある中庭に出たんだけど、
設置されていたベンチに座ってうつむくばかり。
それでも、少しは楽になったのか、真っ青だった表情に
少しずつ赤みが差してきてはいた。
「辛い?」
「少しだけ…でも、大丈夫です」
アタシの問いにも、健気に笑って答えてくれる。
やっぱ…気を使ってるんだよね?
「ホントに大丈夫?」
「はい、ちょっと…胸がムカムカしただけだから」
「起き立ちのせいなのかなぁ…」
「わかんないですけど、大丈夫ですよ?」
曖昧にアタシの視線を受け止めて、それから次々と声をかけてくる
他のコ達にも律儀に返事して…。
- 268 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/28(金) 07:03
- もっと自然の空気を吸ったほうがいいかもしれない。
こんな作り物の箱の中じゃなくって。
よし。
「ねぇ、紺野」
「はい?」
「デート、しない?」
「デ、デート!?」
紺野は信じられないって目で、ばっとアタシを見上げた。
え? なに? まずかった?
振り返ると、美貴や亜弥、それに他のみんなもビックリしたみたいにこっちを見てる。
でも仲が良いとデートをするんだよね?
石川梨華と吉澤ひとみも言ってたし。
微かな沈黙。
なんだか、切り出したアタシの方が対応に困る。
- 269 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/28(金) 07:03
- 「あー…、ヤならいいんだけど」
「やっ、そんなっ、嫌じゃないですっ、します!」
「あー…そう? って言っても、外に出て近くの公園ぐらいまでだけど」
「い、行きますっ」
その表情は、本当に嬉しそうで。
もう真っ青な顔で思いつめていた紺野の姿はなくて、ホっとした。
「入り口で待ってて。紺野の上着、取ってくる」
「あ…、は、はい…」
紺野の返事を聞きながらアタシは研究所の中へ入っていった。
上着ももちろんなんだけど、もう一つ…用事があったから。
中澤裕子に…。
なんだか、背中にからかいの眼差しとか、いろんなものを感じたけど
この際、目をつむっておこう。
- 270 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/28(金) 07:04
- コンコン。
「はい?」
返事を聞いて、中へと入る。
「なんや、後藤か?」
部屋に入ると、ただ一人で机に広げていた書類に目を通している中澤裕子がいた。
アタシが入ってきたことに気づくと、イスから立ち上がってアタシの前に歩み寄った。
「ひとつだけ聞かせてほしくて」
「なに?」
これだけは確認しなきゃならない。
自分の中で、ちゃんと理解するためにも。
「さっきの話、μシリーズっていうのは…―――アタシらのコト?」
「………」
一瞬の静寂。
肺に入ってくる空気が重かった。
彼女から向けられている視線も。
- 271 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/28(金) 07:04
- 「……―――そうや。藤本・後藤・松浦…そして紺野。この四人のコトや。
三人の細胞の一部が…紺野の中に組み込まれてる。」
やっぱり…ね。
もう、混乱なんてしなかった。
ただ少しだけ驚いたのは、形は違えど…アタシと紺野は『姉妹』みたいな
モノだってコト。
初めて紺野に触れたあの雨の日の夜に感じた懐かしさは…もしかしたら
そのせいだったのかも…。
「そう」
妙に頭の中は冷静で。
でも、心にはさざなみが立っていた。
頭で判っていても…って、ヤツかな?
アタシは、この人たちに作られた。
それも面白半分に。
でも、逆にいえば…『生かされた命』。
望まれず生まれてきたか、身元不明の受精卵だったアタシが、今こうして
ここに立っていられるのは、この人たちのおかげ。
相対する事実が、上手く受け止められない。
- 272 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/28(金) 07:05
- 「……けじめ、つけてもええよ?」
「?」
見ると、自分の頬を軽く手の平で叩いてる彼女。
覚悟してる、っていうみたいに。
きっと、何人もの人にその頬を差し出してきたんだろう…。
苦笑する姿が、その数の多さを物語ってる。
思わずアタシもつられて苦笑する。
そこまで、アタシはもう子供じゃない。
「やめとく。殴って欲しいんなら美貴や亜弥をあたって。アンタをまだ
許すことはできないけど…、それでもアタシを生かしてくれたコトには
感謝してるから」
「そうか…」
「ただ…紺野を傷つけるようなことがあったら…容赦はしない」
スっと目を細めると、彼女は両手をあげて二、三度頷いてみせた。
わかってる、というように。
- 273 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/28(金) 07:05
- 「最後に聞かせて」
「うん?」
「稲葉は一体、紺野で何をしようとしているの?」
「……わからん。ただ、どんなコトを考えていたとしても、紺野が辛い
想いをするには変わらんやろうなぁ」
「…そう、わかった。ありがとう」
「いえいえ」
言って、アタシは部屋を出ようと扉に向かった。
聞きたいことは聞いた。
紺野も気がかりだし、そろそろ行かないと。
そう思って、ドアノブに手をかけたその時。
- 274 名前:利用する者・される者 投稿日:2004/05/28(金) 07:05
- 「後藤」
「? なに?」
「紺野を守ったってや? 見たところ、アンタの細胞が一番紺野に影響を
与えてるみたいやから」
「……言われなくても」
細胞がどうとか、そんなのはよく判らない。
でも、紺野はアタシを信じてくれてる。
だったら、アタシはその信頼を裏切ることなく彼女を守るだけ。
心の中で呟いて、アタシは部屋を後にした。
「あっちゃんの目的…それは…アンタらにはわからん…理解できへんやろな…。
あれも一種…アタシと同じ、親心なんやろうけど…」
もちろん、アタシの背に向けて言われた彼女の呟きが、届くことはなかった。
- 275 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:06
- 後ろには頬を赤らませてうつむき、ひょこひょことついてくる紺野。
アタシには判らなかったけれど、『デート』という言葉はどうやら特別なものだったらしい。
言った時の、美貴達の『え!?』って顔からしても、本当に特別な…そんなもの。
「紺野」
「はっ、はいっ!?」
「や、そんな緊張しなくても」
「あ…、ごめんなさい」
今度はしゅんとしてしまう紺野。
なんだろう…胸が締め付けられる。
こんな風にしてるのが自分なんだって思うだけで、こう…なんていうか、そう、切なくなる。
あ。
紺野の頭のてっぺん。
桜の花びらがのってる。
- 276 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:06
- 「っ!」
「じっとしてて?」
「あ…はい」
そっと手を伸ばすと、びくっと震える身体。
思わず苦笑。
だってなんだかそれは、アタシを警戒しているようにも見えて…。
アタシは花びらを取ると、「あ…っ」と気づいて顔をあげた紺野に一度笑いかけてまた歩き出す。
なんだかアタシは…紺野の一つ一つの仕草に、戸惑っているらしい。
石川梨華と吉澤ひとみに言われた…ううん、教えてもらった1つの感情。
それは間違いなく、アタシが紺野に抱いていた『苛立ち』の正体。
そう…アタシは…
『紺野が好きだ』
伝えたい。
このコに、受けとめてほしい。
強く、そう思ってる自分がいるけど…もしかしたらこれは紺野にとって重荷なのかも
しれないから、だから伝える勇気が…でないんだ。
それが戸惑いとか、そんなので出てきて…結局アタシは何もできないでいる。
- 277 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:07
- 「あの…、後藤さん?」
「うん?」
振り返ると、「あの、あの」とおたおたしながら言葉を探している紺野。
「なに?」
「あっ、いえ……」
結局紺野の言葉は、音になる前に溜息に変わって。
伏せられた瞼が、幼さを残したその顔には不釣合いなほど儚くて。
もしかして…さっきまでの体調の悪さが響いてる?
急に不安になるアタシ。
だから一歩距離を詰めて紺野の前に立ち、それから、そっと手をとってみたんだ。
その手は…暖かかくて、安堵する。
見上げる視線は、『いつも』の紺野。
正面からまっすぐ見られたら、妙にくすぐったい。
悟られたくなくてアタシはぼんやり思ってることを口にした。
- 278 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:07
- 「桜、キレイだね」
「え? あ…はい…っ」
紺野の視線がアタシの視線を追うように辺りを一周する。
まだまだ少ない開花した桜の花は、それでも甘酸っぱい香りを匂わせていて。
ハラハラと落ちていく花びらを眺める彼女は、とても…キレイだった。
「後藤さん…?」
「うん?」
「訊いても、いいですか?」
「うん」
視線はそのままにアタシに呼びかける紺野。
でも、その声はちょっと緊張の色を含んでいる。
何か大事なコトを訊こうとしている?
もしかして…研究所での会話で、何か、気づいてしまった…?
- 279 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:07
- 「正直に、教えて下さい」
「なに?」
…こういう時のアタシの勘はよく当たる。
もう、前振りだけでわかったよ。訊きたいこと。
「私も…能力者…なんですよね?」
ほら、ね。
思わず苦笑してしまう。
しかも、紺野の口から出たのは断定詞。決して言葉通りの疑問詞じゃない。
もう、確信しているんだ。
そんな彼女に、嘘や誤魔化しはもう通じない。
「…―――そうだよ」
「……そう、ですか…」
紺野の分析力を甘く見るつもりはなかったけれど、その考え自体が甘かったみたいだね。
『ごめん』と、心の中で誰にともなく謝る。
ううん、紺野を取り巻いていた全ての『日常』という環境に。
もう、―――紺野は戻れない。
- 280 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:07
- 「不安?」
「…よく、わからないです」
「そっか…」
ちゃんと事実を受け止められないんだろう、きっと。
曖昧に笑いながらも、アタシに背を向けてうな垂れたように頭を下ろして。
そっと離れた手が、淋しかった。
そんな紺野にアタシは何ができる?
元気づけるのは、誰でもできる。
大丈夫だよ、なんて今この場でそんな安っぽい言葉は使いたくない。
「後藤さん?」
「うん?」
「今まで、危ないことが起こっていたのは…全部私のせいなんですよね?」
「…どうして?」
声が…震えていた。
その身体も、指先までも全部。
- 281 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:08
- 「みんな、私ばっかり狙ってた。後藤さんたちがいなかったら、きっと私は
どこかに連れて行かれてた。それは私が『ジェノバ』とかいうものだから」
ジェノバ…。
その言葉で…全てのつじつまがあっていく。
超A級の能力者で、μシリーズの最終形態。
底知れない力があって、稲葉がそれを欲していて…。
それが、紺野。
「私の、せい…なんですよね? 後藤さん達が大変な目に逢っていたのは」
「そんなコト」
「ううんっ!そうです、絶対っ!」
「紺野…?」
いきなり顔をあげて振り返った紺野は、肩を震わせて目に涙をためていた。
思わず、息を飲んでしまう。
「辛かったですよね…。私のせいで後藤さんを縛り付けて…。お荷物になって…」
「何言ってんのよ…っ」
「でも、もういいです…っ。私…もう、中澤さんに全てをお任せしますから…」
「紺野…!?」
- 282 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:08
- 任せるって…それがどういう意味か判ってんの!?
凍結…なんだよ!? 紺野は…――殺されてしまうんだよ!?
「もう、守ってもらわなくていいです…!約束に縛られないでくださいっ」
「…バ…、バカ!」
「っ!」
びくん、と一度紺野の身体が跳ねる。
怯えたような、そんな風な目でアタシを見てる。
でも、…許せなかった。
生きることを諦めようとする、紺野が。
「なんでそんなコト言うのよ…!? アタシがいつお荷物だなんて言った!?」
「だって…っ、だって後藤さんは、軽い気持ちで『守る』って言ってくれただけなのに
それなのに、その言葉で私は後藤さんを縛り付けて大変な目に合わせてる」
「軽い気持ち…? なにそれ…」
腹の奥から、何か熱い塊がこみ上げてくるのがわかる。
頭ん中を駆け巡っていく血液が、沸騰しそう。
紺野は、そんな風にアタシを見てたの…?
- 283 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:08
- でも…一方で、冷静なアタシは反省していた。
そんな風に紺野に見せていた事に気づいてなかったなんて…。
アタシこそ、ちゃんと紺野を見ていなかったんじゃん…っ。
「…紺野、アタシは軽いキモチで約束なんかしない」
「でも…っ」
私がいると、後藤さんたちが…。
そのキモチは判る。
でも、違う…、違うんだよ…!
「アタシのそばにいてよ…っ」
「え…?」
思わぬ言葉だったんだろう、紺野は呆けたみたいな目でアタシを見上げた。
でも、それも一瞬で、ハっとしたみたいに首を横に振る。
それから何かを言いかけるけど…―――アタシは先に遮った。
- 284 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:09
- 「これは義務なんかで言ってるんじゃない!」
「っ!」
ぐっと掴んで引き寄せる、細い腕。
逆らうことなくアタシの胸におさまる、震えた身体。
このぬくもりを手放したくないんだよ…っ。
誰にも渡したくないんだよ…っ。
「ご、ごとぉ…さん?」
「紺野、アタシを守ってくれるって言ったよね?」
「ぇ…? あ、はい…」
「それは軽いキモチだった?」
「そんなっ! 違いますっ!私、後藤さんを本当に守りたいって…!………ぁ…」
言って、小さく声をあげる紺野。
気づいた?
- 285 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:09
- 「…アタシも一緒。守りたいの、紺野を」
「でも…私のせいで、危険な目に…」
「そうなったら、紺野がアタシを守ってくれるんでしょ?」
「あ…」
そういうこと。
アタシは紺野を守る。
紺野はアタシを守ってくれる。
それは、見返りを求めない無条件の誓約。
揺るがない、アタシ達の誓約。…そうでしょ?
「…観念、しなよ」
ぎゅ、と一度強く紺野を抱きしめる。
NO、なんて言わせたくなかったから。
しばらく、何も言えずにアタシの肩に額をつけていた紺野だけど…
ふと切なげに溜息を漏らした。
- 286 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:09
- 「……どうしてですか?」
「うん?」
「どうして後藤さんは、こんなに私を気にかけてくれるんですか?」
「…………」
どうしてだと思う?
その理由、アタシはやっと知ることができたんだよ。
紺野を思うと、こんなにも胸が締め付けられて。
紺野の一つ一つの仕草に切なくなったりして。……独占、したくなって。
それは全て、1つのキモチがずっとココロにあったから。
「それはさ…」
そっと、紺野の肩を掴んで身体を離すと…その瞳を覗き込む。
期待と不安が入り混じっていた。
紺野の瞳に映ったアタシも。
その魔力にやられて続けられるはずだった言葉は、アタシにしては珍しい欲望に変わる。
―――キミに、触れたい。
と。
- 287 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:09
- 思ったのと、行動に出るのは一緒だったんだ。
ゆっくりと、顔を傾けて…瞬きもしない紺野の唇に、そっと自分のそれを重ねた。
「ん…っ」
ただ、軽く触れるだけなのに、しっとりとしたそれはとてもアタシのココロを満たしてくれて。
悪夢の中で触れた唇とは、まるですべてが違ったんだ。
深く…その柔らかさを味わうみたいに、驚いて離れかけた紺野の唇を強引にもう一度繋ぎとめる。
「んぅ…っ」
苦しげに唇の隙間から零れ落ちる紺野の甘い声。
硬直する身体。
ぎゅっと強く瞑られる瞼。
戸惑いとか困惑とか、そんなのを全身で表してるのが伝わってくる。
- 288 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:10
- 「こん、の…」
大丈夫だよ。
怖がらせるつもりはないから。
少しだけ触れさせて。
アタシに紺野を…感じさせて?
優しく何度もついばみながら、次第に紺野を侵食していく。
それはまるで、小さな子供がするキスから…深く絡みつくような大人のキスのように。
きゅっとアタシのコートの袖を掴んでいた紺野の手の力が抜けるのが視界に映って、
アタシはキスに没頭するように、瞼を落とす。
「ごとぉ…さ…」
「ん…」
甘酸っぱい…桜の香りと。
暖かな風の中、紺野だけを感じて。
トクン、トクンと胸の鼓動がどんどん高まって、心が熱くなって、細胞の隅々まで
広がって紺野への想いが全身を駆け巡る。
- 289 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:10
- 頬から滑り落ちるアタシの手は…そのまま紺野の身体を抱きしめる。
でも、紺野は拒まなかった。
アタシを、拒まなかったんだ。
だから。
そっと唇から頬…、頬から耳元に吐息を滑らせて、アタシは。
「紺野…」
「はぃ…?」
「アタシ…紺野が…」
「『好き』なんだ」
その優しい温もりに囁いた。
瞬間腕に伝わってきたのは、震え。
そして短く息を飲み込む音。
- 290 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:10
- 迷惑…だった?
不安になって、顔を覗き込んで…すぐにそんなキモチは掻き消えた。
だって、紺野は顔を真っ赤にして…目もあわせなかったけど…小さく頷いてくれたから。
「わた…」
「うん…?」
「私も、後藤さんが、好き、です」
一言一言大事に伝えてくれる紺野。
それだけで胸がいっぱいになる。
―――ヤバイ…。
―――アタシ、もう多分…紺野なしには生きられない。
睦言のように呟くと、甘えるような視線がアタシを見上げる。
- 291 名前:想い 投稿日:2004/05/28(金) 07:10
- 「ごとぉさん?」
「…嬉しい、かも」
「…ぁ…」
照れくさくなって、それだけ告げて。
もう一度、そのぬくもりを強く抱く。
戸惑ったみたいにしてた紺野だけど、しばらくしてはにかんだみたいに微笑むと
おずおずとアタシの背に腕を回してくれたんだ。
「私も…嬉しいです。 ……―――困らせて…ごめんなさい」
「……うん」
謝罪の言葉は、消え入りそうなぐらい…か細く耳に届いて…。
なんか、涙が、出そうだった。
こんなにもこのコから言われる一言が嬉しいだなんて思わなくて。
アタシの存在を許して、そして、好きだと伝えてくれて。
だから、アタシは改めて心に誓う。
アタシの身が崩れ去ったとしても、紺野だけは…守ってみせるって。
- 292 名前:tsukise 投稿日:2004/05/28(金) 07:11
- >>267-291今回更新はここまでです。
>>260 ホワイティさん
紺野のキャラってどちらかというと、ぼーっとしたような
ふんわりしたようなカンジなんですよね(笑
ドジキャラ紺野…何気に私も気に入ってます(笑
>>261 名無しぽきさん
えぇ、今月更に…(爆
急転直下の展開です(笑 うわーです(爆
>>262 どくしゃZさん
ヤバヤバですか?(笑
悶絶していただけて嬉しい限りですよ〜♪(爆
紺野さん、どんどんと変わっていっちゃってますが
どうぞお付き合い下されば幸いです♪
>>263 名無し読者79さん
ハイ、紺野さんがまたちょっと大変なカンジで…(汗
これからまた波乱万丈な空気が流れ込んでますが…
どうぞ、続けて読んで下されば嬉しい限りです♪
- 293 名前:tsukise 投稿日:2004/05/28(金) 07:12
- >>264 つみさん
徐々に謎が解けていってますね、はい♪
これからの展開…どんどん厳しくなっていきそうですが
緊張感を漂わせつつ、更新していきたいなぁと…(ぉ
応援カキコありがとうございますっ(平伏
>>265 みっくすさん
ハイ、どんどんと謎が謎ではなくなってきてますね(笑
今後の展開…どんどんとまたダークに…?(ぇ
いつも応援カキコに元気を頂いてます♪これからも
頑張らせていただきますねっ
>>266 レオさん
謎部分、少しずつ放出しまして、すっきりされているようで♪
いやはや、書いてる私めも、すっきりしてきて…(ぇ
応援カキコに励まされつつ、頑張らせて頂きますので
どうぞ続けて読んで下されば幸いです〜♪
- 294 名前:tsukise 投稿日:2004/05/28(金) 07:19
- >>275の一行目を飛ばしてしまっていたようです(滝汗
『早咲きの桜の咲く公園をアタシはゆったりと歩いていく。』
を、脳内で当てはめて頂ければ幸いです(平伏
- 295 名前:みっくす 投稿日:2004/05/28(金) 08:32
- 連日の更新お疲れ様です。
「守るものを持つ強さ」から「守り守られる者の強さ」になりましたね。
4人が出遭ったのは偶然ではなく、必然だったわけですね。
どんどん謎がとけていきますね。
次回楽しみにしてます。
- 296 名前:つみ 投稿日:2004/05/28(金) 14:08
- まさか連日見られるとは・・・
更新お疲れ様です!
ようやく・・・ようやくっっっ!!
二人はやっとここまで来たんですね!
あとは・・・
次回も近日中を期待しつつ待ってま〜す!
- 297 名前:名無し読者79 投稿日:2004/05/28(金) 17:17
- 二人が…。優しい心をもったみんながいい感じです。
次回どのようなことが怒るのか期待して待ってます。
- 298 名前:星龍 投稿日:2004/05/28(金) 23:41
- 更新お疲れさまです。
感動し過ぎで何て言ったら良いか分らないですけど、
よかったです。とにかく感動しました。2人が・・・。
これからも頑張ってください。
- 299 名前:名無しぽき 投稿日:2004/05/29(土) 00:24
- 今(ry もう何も言うまい
今回は違う意味でうわー!!
ついに…な2人。今後もさらに期待です!
- 300 名前:レオ 投稿日:2004/05/29(土) 10:05
- お疲れ様です!!
癒されたぁ〜!!(笑)
もう後藤さんと紺ちゃん最高です!!
これからもこんな感じでがんばっていってほしいです。
連日更新でお疲れだと思いますが次の更新も期待しております!!(笑)
- 301 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:39
- ドクン、ドクン、と。
心臓の音が煩いぐらい耳に届く。
まるで喉元まで飛び出そうな、そんなぐらい。
嬉しい。凄く嬉しい。
後藤さんが私を『好きだ』といってくれて。
抱きしめてくれて。いつもの後藤さんからは想像も出来ないような熱い…キスして。
まだ唇全体に残った柔らかさが恥ずかしいぐらい。
でも…おかしい…。
息苦しくて…、心臓が狂ったみたいに波うって……気持ち悪さがまた…。
これは…、嬉しさからくるような、そんなのじゃない…。
ドクン、ドクン、ドクン。
頭の中まで熱い…。
- 302 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:39
- 「…紺野? どうしたの?」
異変に気づいた後藤さんが、ゆっくり私の肩を掴んで離れる。
途端に、抑えつけられていた何かが私の中で激しく暴れまわる。
ドクン、ドクン、ドクン。
指先まで流れる血液さえも感じられるほど、神経が高ぶって…
声を出したいのに、まるでひきつけを起こしたみたいに言葉は出てこない。
「ご、ごと、く、苦し…っ」
「紺野…!?」
明らかに顔色を変えて、後藤さんが私の顔を覗き込んでくる。
「落ち着いて、深呼吸して…!」
「でき、な、くっ…、ひっ」
「紺野…!」
痛む胸を抑えて、私は後藤さんの腕から逃れるように数歩後ろに下がる。
どうなっちゃうの、私…っ。
苦しい…助けて…。
- 303 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:39
- 「…紺野!少しだけ我慢して」
「え…? あっ」
厳しい顔つきでそれだけ言うと、後藤さんは私の身体を抱え上げたんだ。
瞬間、私達を包み込む一陣の風。
後藤さんの力だ…。
ふわり、と地上10mぐらいに浮かび上がる身体。
多分、中澤さんの所に運んでくれようとしてるんだ。
「ご、と、さ…っ」
「大丈夫」
私、よっぽど苦しい顔をしてるんだろうな。
後藤さんはきごちなく顔を歪めて私を見てるから。
余裕の笑みを浮かべようとしてるのに、胸の内でふくれあがっていく不安が
それを邪魔しているような、そんな表情だった。
でも、不思議。
後藤さんのたった一言『大丈夫』、だけで…気持ち悪さが幾分ひいた気がする。
- 304 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:39
- そう思った、その時。
ドクン! ドクン! ドクン!!
「っ!」
「苦しいの!?」
激しい鼓動。
息ができない…っ。
思わず後藤さんのコートの胸元にしがみついてしまう。
そんな私を、後藤さんも強く抱き返してくれて。
「紺野、紺野…っ」と何度も名前を呼んでくれて…。
ドクン!!
そのぬくもりの中で――――何かが、弾けとんだ。
- 305 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:40
- キィィィン!
「!?」
眩い光が公園一体に飛び散る。
ううん、きっとここら一帯をすらも包み込んでる。
アタシの身体をも突き通すような、おもわず顔を背けてしまうほどのそんな強い光が。
それはすべて―――紺野の身体から。
「うぅ…ぁ…っ!」
苦しい呻きをあげながら、紺野はアタシの腕の中で小さく縮こまって。
コートの胸元を握り締めた手は、白く硬くなるほどに。
明らかに紺野は暴走する何かに、戸惑い怯えていたんだ。
なにが起きてる…!?
紺野に何が起こってるの…!?
…待って…。この感覚は…。
アタシも体験したことがある…。
これは…!
- 306 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:40
- 「ごと…さ…っ、後藤さん…っ」
「落ち着いて…!大丈夫、自分をしっかり持って…!」
「こ、怖い…っ、身体が…っ、あ、熱くて…壊れて…しまいそう、なんです…っ」
言葉通り、抱きしめているアタシにもその熱は伝わってきている。
尋常じゃない熱さ。
普通の人間では耐えられないぐらいの。
でも、アタシも…紺野も普通の人間じゃない。
そう…――もう紺野は普通の人間じゃないんだ。
「うぅ…」
「紺野…、紺野…っ、心を落ち着けて…!」
「くっ…!あぁっ!!」
「!?」
紺野の悲痛な叫びと共に、再び眩しい光と一緒に強い風が吹き荒れた。
アタシの力をかき消し…ううん、飲み込むほどの、荒々しい風が。
反射的に目を閉じてしまう。
そのまま弾かれそうになるけど、アタシは必死に耐えて…紺野の身体をもう一度抱く。
強く…強く。
- 307 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:40
- 頬や身体を、切り裂いていく痛みが断続的にアタシを襲っていくのが判る。
それはまるで紺野がアタシを拒絶しているかのように。
けど、抱きしめた腕の力は緩めない。
絶対に離さない…、離すワケにはいかない…!
その視界の端で、アタシは確かに見た。
紺野を中心に弾けるように溢れ出した光によって、一斉に開花していく桜の花を。
まだ弱々しい息吹だった木々の葉が、青々と茂っていくのを。
そして…枯れ果てていた草木が…生気を取り戻していくのを。
まさか…紺野の能力って…。
「ごと、ごとさ…」
「紺野…っ?」
「私を…っ、離さ…なっ、一人にしな…いで…っ」
目を閉じても尚眩しい光の中で、紺野の声が聞こえる。
アタシは眉を寄せながら、うっすらをもう一度瞼を開いて姿をとらえる。
- 308 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:41
- 荒れ狂う風の中、自分を見失いかけてる紺野が、必死にアタシにしがみついていた。
止められない強大な力は容赦なく、紺野自身までも傷つけているのか、
そのすがるような視線はアタシのココロを鷲掴みにする。
だからアタシは、紺野に応えるように言葉を全部聞く前に、唇を押し付けた。
そのまま震える唇を舐めあげ、薄く開いた隙間に潜り込むように…深く、侵食していく。
「んぅ…ふぁ…っ」
苦しげな吐息。
涙を滲ませた瞳。
でも、アタシは繋がった彼女を離さない。
ううん、逆に紺野の中にアタシの存在を確かめさせるように、
喉奥にひっこめられた舌に、優しく何度も自分を絡ませていく。
こんなにもアタシは近くにいる。
大丈夫、絶対に紺野を裏切ったりしない…一人になんかしない。
だから…―――アタシを、自分を信じて。
- 309 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:41
- 瞬間―――変化が、あった。
突き刺すような風が、徐々に緩やかにアタシを吹き抜けていき…
そして、やがて包み込む柔らかな風に変わった。
紺野の身体から放たれていた光も、掻き消えていく。
紺野の覚醒した力が…やっとおさまったんだ…。
それを確認して…アタシはゆっくりと唇を離した。
そのまま、浮かせていた身体を地面に下ろす。
「ぁ…ぅ…」
「紺野…っ」
途端に、紺野の身体を糸が切れたように倒れかけた。
慌ててアタシは身体を支えながら、その場にしゃがみこんだ。
「大丈夫?」
「…大丈夫…じゃ…ないです…」
「まだ、苦しい?」
「…………」
アタシの問いに紺野は答えず、顔を真っ赤にして潤んだ瞳で軽く睨んできた。
それから、何かを言いかけて…、それでも、きゅっと口をつぐむ。
- 310 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:41
- 「なに?」
「……なんでもないです…」
なんでもないのに、なんでこのコは口を尖らせてるんだろう…?
首を傾げて顔を覗き込むと、ふいっと顔を背けられてしまう。
…なんで?
「まぁ、いいけど…。身体は? どこか痛くない?」
「節々が…ちょっと…。まだ、頭もクラクラしてて…」
「少し…休んだ方がいかもしれないねぇ」
一気に力を出してしまったから、人間で言う『貧血』気味なんだろう。
そっと、紺野の身体を抱え上げようとして…――その腕を掴まれた。
「? 紺野?」
「あの…私に、何が起こったんですか…?」
一瞬黙るアタシに、『教えて下さい』とすがる眼差しを向けてくる。
上手く説明なんて出来ない。
でも、アタシがいえる事は1つ。
まさか、こんな形で伝えることになるなんて、ね。
- 311 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:41
- 「………能力が…、覚醒したんだよ」
「能力…」
「そう…、多分、いきなりのことで身体がついていかなくって暴走したんだ」
「…それで…」
そこまで言って、紺野はそっとアタシの頬に手を伸ばしてきた。
触れた瞬間、チクっと痛みが走る。
あぁ…、きっとさっきので切ってしまったんだ…。
「ごめんなさい…」
「謝ることない。すぐに治るから」
そっと紺野の手に、自分のを重ねて安心させるように笑ってみせる。
それでも心配するみたいにアタシを見ていた紺野だけど…次の瞬間、フラっと身体が傾いだ。
「紺野…!」
「あれ…、なんだか…ぼーっとして…」
「…少し、休みな。大丈夫、ちょっと身体が疲れただけだから。すぐよくなる」
そっとアタシにもたれかかった紺野の瞼に手をかざして閉じてやる。
くすぐったそうに、一度紺野は身を竦めたけど…微かに笑って頷いた。
- 312 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:42
- 「ごと…さん?」
「うん?」
「私…どう…なっちゃう……ですか……?」
「…………」
答えられなかった。
どうなるのか…アタシにも判らなかったから。
でも、不安は口に出せない。
出した途端、それは真実味を帯びてしまうことを知っているから。
「どうなっても…アタシは、いつでもそばにいるから」
でも、返事を聞く前に…紺野は深い眠りに落ちたみたいだった。
規則正しい寝息がアタシの耳に届き始めたから。
ふと…紺野を胸に抱いたまま、あたりを振り返る。
- 313 名前:想い 投稿日:2004/05/30(日) 14:42
- つぼみばかりだった桜が、今では我先にと咲き誇っている…。
まだ季節には早い木々も、新緑深し…という言葉が当てはまるほど。
一番見やるものは…朽ちていたはずの命が…再び生を謳歌しているということ。
これが…紺野の力…?
アタシの力をも飲み込む、その強大さ。
生を…操ってしまったり。
まさか、これほどとは思わなかった。
はらはら、と桜の花びらがアタシの目の前を落ちていく。
アタシの心に、浮かび上がった不安をひとしずく落としたように。
それを振り払うように、アタシは一度首を振って紺野を抱え挙げると…研究所へと飛び立った。
- 314 名前:tsukise 投稿日:2004/05/30(日) 14:43
- >>301-313 今回更新はここまでです。
ペースアップしたり、ダウンしたりのダメ作者ですが…
フラリと立ち寄って見ていただければ幸いです(平伏
>>295 みっくすさん
ハイ、どんどん謎解きがされていってますね(笑
二人のお互いを想い合うキモチを出したかったので
みっくすさんのご感想嬉しいです♪
>>296 つみさん
ようやくっ!えぇ!ようやくここまで来ました!(笑
ここまでくるの…長かったなぁと自分でも思ったり(笑
近日Up期待されて、Upしちゃいました〜(爆
>>297 名無し読者79さん
ハイ、二人が…こうなっちゃいましたです(笑
作者の優しい心をみんなには本当に持っていてほしいという
願望がでちゃってしまったようです〜(笑
- 315 名前:tsukise 投稿日:2004/05/30(日) 14:43
- >>298 星龍さん
うぁ…感動してくださったなんて、ありがとうございますっ(平伏
えぇ、もう、やっと二人が…ってカンジですねっ
応援レス、ありがとうございますっ
>>299 名無しぽきさん
あははっ!(爆 はい、もう今(ry)です(爆
ついに…な二人、私もやっと書けて幸せです(←馬鹿
テンポアップしまくりですが、これからも頑張りますね♪
>>300 レオさん
癒されましたか!?ありがとうございますっ!平伏
いやーもう、やっとってカンジですからね(笑
はい、これからもこんなカンジで…いけるように頑張ります〜♪(笑
- 316 名前:つみ 投稿日:2004/05/30(日) 15:14
- 更新お疲れ様です!
こんこん・・・ついに!って感じでしたね!
ものすごい事になりそうな予感・・・
この後の展開を期待しつつ次回まで待ってます!
- 317 名前:名無し読者79 投稿日:2004/05/30(日) 16:53
- ますますすごい展開になってきましたね…。
後藤さん…紺野ちゃん…。
なんだかこれからどうなってしまうのか…。楽しみです待ってます。
- 318 名前:星龍 投稿日:2004/05/30(日) 21:54
- 紺野さんついに・・・。
これからカナリ楽しみです。
作者さんのペースで頑張ってください。
- 319 名前:レオ 投稿日:2004/05/30(日) 22:09
- すごいの一言ですよ!!(笑)
紺ちゃんが・・・。
この後の展開すごく楽しみです。
- 320 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/05/30(日) 22:45
- 連日更新おつかれさまです。
おかげで毎日ドキドキワクワク幸せ一杯状態ですw
この後どんな展開になるのか超楽しみであります!
- 321 名前:みっくす 投稿日:2004/05/31(月) 01:09
- 連日更新おつかれさまです。
ついにってかんじですね。
いやーそれにしても凄い展開になりそうな予感です。
次回も楽しみにしてます。
- 322 名前:一読者 投稿日:2004/05/31(月) 02:01
- 紺野さんの能力が少しずつ明らかになってきましたね。
作者さんが「最初は『地』を司る能力にしようとした」とおっしゃっていた意味が少しわかりました。
あと気になったので一応ツッコミ入れときますけど
>>252
>>もともとは電子の記号やけど
電子の記号は e の右肩に小さなマイナス(−)では?
μ(ミュー)はミュータントから取ったのだと思ってました。
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/31(月) 08:23
- ますます目が離せない展開になってきましたね!
そういえば高校では物理の時間に静止摩擦係数としてμを使いましたね…
そんでもって電子は>>322さんのいうような記号でした。
ちなみにμと聞いて私が物理以外に思い出すのはポ○モンのキャラですね
- 324 名前:想い 投稿日:2004/05/31(月) 10:50
- 「とりあえず…、『おめでとう』なんかな」
開口一番、中澤さんは複雑な笑みを浮かべてそう言った。
ぼんやりした頭を振りながら、あたりを見渡すと…研究所のベットだったんだ。
あぁ…そういえば、私…。
「これから…、アンタには色んなコトを覚えてもらわなあかん」
「色んなこと…?」
「そうや。まず、自分の能力がどんなものなのかを理解して、そしてそれを
コントロールできるよう訓練する」
「え…」
「大丈夫や…。ここにはアンタの先輩がいっぱいおる。ちゃんと教えてくれるから」
「…………」
いきなりのことで、上手く返事なんてできない。
でも、ポン、と中澤さんに肩を叩かれて、私は曖昧に頷いたんだ。
…私には、もう選択肢がなかったから。
「だーいじょーぶ。オイラ達に任せておきなっ。1から10まで教えるからさ」
「矢口さん…」
振り返ると、矢口さんやみんなが力強く頷いてくれていたんだ。
なんだか…心が少しだけ楽になった気がする。
- 325 名前:想い 投稿日:2004/05/31(月) 10:50
- 「それと…残念やけど…、学校にはもう」
「……はい」
なんとなく判ってた。
もう、私は学校には行けないって。
だから、そんなに取り乱すこともなくって…ただ、卒業式には出たかったなぁって…
そんな風に思ってしまったっけ。
「…あれ? そういえば、後藤さんは…?」
「あー…真希なら、…ちょっと」
言葉を濁してしまう藤本さん。
その隣で、松浦さんが微かに笑みを浮かべて藤本さんのわき腹を小突いた。
「今ちょっと、研究所内を探索してる」
「そう…なんですか?」
「しばらくしたら、戻ってくるよ」
…なんだかひっかかる言葉だった。
- 326 名前:想い 投稿日:2004/05/31(月) 10:50
-
頭の中が、グチャグチャになってた。
これから、アタシはどうすればいい?
あのコの為に、アタシは何ができる?
守るって言ったけど、今のアタシでどうにかなるモノなの?
じゃあ、今アタシはどうすればいい?
そんな疑問がいったり来たり。
もう夜も更けた研究所の中庭は、虫の声さえも聞こえないほど不気味な静寂に包まれている。
まるでアタシのココロを押しつぶそうとしているように。
そんな中、アタシはぼんやりと立ち尽くしていたんだ。
紺野の力は…本当にとんでもないモノだった。
もしかしたら、アタシは…紺野を恐れてしまっているのかもしれない。
そんな風に考えてしまう自分が腹立たしくて、苛立って…。
戻ってきて、まだ紺野の顔を見れずにいるんだ。
- 327 名前:想い 投稿日:2004/05/31(月) 10:51
- 「後藤」
「っ!」
不意に背後から呼ばれた声に、アタシはビクっと身体を揺らしてしまった。
それから慌てて顔を向ける。
そこには静かな眼差しを向けて、こちらに歩いてきている一つの影。
あれは…
「安倍…さん」
「『なっち』、でいいよ。アタシも『ごっつぁん』でいい?」
「………うん」
曖昧に頷いて、視線を元に戻す。
シン、と静まり返った中庭の中央にある、大きな一本の木に。
あの木は、一体なんなんだろう…?
さほど広くないこの中庭で、その存在を際立たせていて嫌でも目を惹く。
- 328 名前:想い 投稿日:2004/05/31(月) 10:51
- 「あれ、くすの木だよ」
心を読んだんだろう、隣に安倍…なっちが並んで呟いた。
裕ちゃんが、この研究所を立てたときにどうしてもおきたいって言ってね、と
優しい笑顔のまま、言葉を続けて。
アタシは、ボンヤリと彼女の横顔を眺める。
…なっちは…、能力が開花した時…どんな想いだった?
心が読めるなんて、きっと人一倍辛いでしょ?
聞きたくなくても、嫌なココロが流れ込んだり…。
その笑顔が向けられるようになるまで、色んな涙を流したんでしょ?
辛い想い…いっぱいしたんでしょ?
誰かに…助けを求めたり…した?
「…ごっつぁんは、優しいんだね」
苦笑しながら、アタシに向き直るなっち。
でもアタシの瞳を見つめる眼差しは、とても穏やかで優しいもの。
- 329 名前:想い 投稿日:2004/05/31(月) 10:51
- 「それに、子供みたいにまっすぐ」
「まっすぐ…? アタシが?」
「…心の声。全部嘘とか誤魔化しとかないもん」
トントン、と自分の胸元を人差し指で叩くなっち。
「大抵さ、人の心配とかってしながらも…結局自分の心配をする人、多いんだ」
「……アタシもそうだよ」
「違うよ。ごっつぁんは…人の心配ばっかしてる。今も、アタシと…そして…
紺野のコトで頭がいっぱい」
「…………」
そう、なのかもしれない。
自分が誰かに与える影響が…怖いのかも。
「なっちはさ、力が出てすぐに研究所に来たから、全然辛い想いはしなかったよ?」
「そう…なの?」
「うん。だって、ここにいるみんな、同じ能力者だもん。気を使うコトだって殆どないし」
でも、外にでた時なんか…能力をわずらわしいと思ったこと…あるでしょ?
「でも、研究所の外で、嫌な思い…したことない?」
訊ねた途端、なっちは、クスっと笑った。
それから、もう一度嬉しそうにアタシを見上げる。
- 330 名前:想い 投稿日:2004/05/31(月) 10:52
- 「やっぱり、ごっつぁんはまっすぐだね。キモチいいぐらい」
「?」
「能力をわずらわしいとか、嫌な思いとか…あるよ?もちろん。でもね…」
「でも?」
「アタシには仲間がいるから」
「仲間…」
仲間がいるから…辛くない?
「どっちかっていうと、『友達』かな? ヤグチとかね」
友達…。
そういえば…、やぐっつぁんが言ってた…。
『一緒にいて楽しいとかさぁ、辛いことも一緒に乗り越える〜 みたいな?』
って。
そこまで言って、なっちはポン、と肩を叩いてきた。
アタシはキョトンと見つめる。
そしたら、満面の笑顔を向けてきたんだ。
- 331 名前:想い 投稿日:2004/05/31(月) 10:52
- 「ごっつぁんにも、いるでしょ?友達」
「…アタシ…」
「ヤグチとか…アタシとか」
「なっち…」
「だからこれは…友達からの忠告!」
「?」
びしっと、目の前に指を立てられて、アタシは一歩後ずさる。
その姿をおかしそうに見ながら、なっちはいったんだ。
「一人でなんでも抱え込まないの! ごっつぁんには、みんながついてる。
一人でダメなら二人、二人でダメなら三人、三人でダメならみんな!」
あぁ…彼女がアタシに近づいてきた理由がわかった。
『励まして』くれたんだ。
- 332 名前:想い 投稿日:2004/05/31(月) 10:52
- 「おーけー?」
なんだろう…すごく、くずったい感覚。
これが…友達なんだ?
亜弥や、美貴とか違う心地よさ。
「おーけー」
思わず笑ってしまう。
これはもう、アタシ一人の問題じゃない。
辛いときは、みんなを頼ればいい。
なんだ、こんな簡単なコトだったんだ。
「そ、簡単なコトだよ。じゃ、も一個簡単なコトをして?」
「うん?」
「紺野に、元気な顔をみせてあげな? これからあのコ大変なんだからさ」
「……うん」
そのまま背中を押されて、アタシは研究所の中へと入っていったんだ。
そのココロにはもう、鬱々としたキモチはどこにもなかったっけ。
- 333 名前:tsukise 投稿日:2004/05/31(月) 10:53
- >>324-332今回更新はここまでです。
>>316 つみさん
こんこん、ついに!…です(笑
もの凄い事になりそうな…そうですね…いよいよって
カンジかもしれないです(ぇ
>>317 名無し読者79さん
色んな展開が起こっちゃって後藤さんに紺野さん…
大変かもしれないですね(笑
これからどうなるのか…どうぞまた読んで下されば幸いですっ。
>>318 星龍さん
はい、紺野さんついに…っ、ですね(ぉ
楽しみにしていただき、ありがとうございますっ(平伏
更新が不定期になってますが、頑張りますねっ
- 334 名前:tsukise 投稿日:2004/05/31(月) 10:53
- >>319 レオさん
すごいですかっ!?ありがとうございますっ(平伏
紺野さん…まぢで凄いかもしれないですね(笑
停滞気味になってますが、どうぞよければ続けて読んで下さいませっ。
>>320 どくしゃZさん
毎日ドキドキワクワクしていただいてるとはっ
ありがとうございますですっ(平伏
展開がゆっくりになっちゃってますが、が、頑張りますねっ
>>321 みっくすさん
ハイ、ついにってカンジですねっ(ぉ
そろそろペースダウンしそうなカンジなのですが
またまた続けて読んで下されば幸いデスっ(平伏
- 335 名前:tsukise 投稿日:2004/05/31(月) 10:54
- >>322 一読者さん
そうですね、少しずつ明らかになってきておりますですっ
当初の紺野さんの設定がひっくりかえっちゃってたりしますが(笑
そして、ご指摘ありがとうございますっ(平伏
確かに電子の記号はe−ですね(滝汗
μをミュオンとして、電気の素粒子と捉えてしまっていたんで
電子記号と取り違え、誤爆してしまったみたいです…(滝汗
申しわけない限りですっ(汗
とりあえず『μ』とは暗号に用いられたアルファベットのようなモノと
考えていただければ、幸いです…(平伏
>>323 名無飼育さん
目が離せない展開ですかっ?あ、ありがとうございますっ(平伏
そして『μ』についてですが、上記の通りとなっておりますので
そのように考えていただければ幸いですっ(平伏
何気に『ポケ○ン』のμ…個人的に好きなキャラですた(爆
- 336 名前:つみ 投稿日:2004/05/31(月) 15:40
- すばやい更新お疲れ様です!
今回で確信しました。
なっちは天使
- 337 名前:みっくす 投稿日:2004/05/31(月) 16:11
- ほんとに連日更新おつかれさまです。
おいらもつみさん同じく今回で確信しました。
なっちは天使
- 338 名前:星龍 投稿日:2004/05/31(月) 19:32
- 更新お疲れ様です。
安倍さん優しいです・・・。
これからも頑張ってください。
- 339 名前:レオ 投稿日:2004/05/31(月) 20:18
- 連日更新本当にお疲れさまです!!
安部さん・・・にかなり癒されます。
あの優しさ最高です!!(笑)
ではこれからも頑張って下さい!!
- 340 名前:ヒトシズク 投稿日:2004/05/31(月) 21:31
- 連日の更新、お疲れ様ですっ!
しばらく来ない間にすごい展開が進んでいて、ビックリしましたw
やはり後藤さんはあの方だけには優しい、と思わず微笑んでしまいましたよw
では、これからどうなるのかっ?!と考えつつまったりと更新お待ちしております!
体調などご無理のない程度で頑張ってくださいね♪応援しておりますっ!
- 341 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/01(火) 17:16
- 仲間素敵すぎます。
これからいろいろなことを乗り越えていってもらいたいです。
次回も楽しみに待ってます。
- 342 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:34
- 薄暗い闇の中、紺野が泣いていた。
その場にひざまずいて、声を上げて、搾り出される嗚咽と一緒に。
零れ落ちる涙は、ポタポタと太ももを濡らしていってる。
紺野…? どうした?
声をかけるけど、紺野には届かない。
ううん、アタシの姿すら、その視界には映っていないみたい。
『うぅ…っ…っく…』
しゃくり上げる声がただ切なくアタシの胸を打ちつける。
紺野っ、ねぇっ。
聞こえないの!?
必死に呼びかけるけど…やっぱり紺野はアタシの存在に気づかない。
どうして…?
眉を寄せながら首を振って…気づく。
周囲の気配に。悲しみに彩られた…そんな気配に。
- 343 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:34
- 誘われるように、くるりと振り返ると…そこには見知った顔がいくつもならんでいた。
亜弥…美貴、なっち、やぐっつぁん、中澤裕子に、田中…それに紺野を狙ってきた、
あの四人組も。
でも、みんな…ただ悲しげにアタシを見てる。
ううん、アタシじゃない。正確には、そのすぐ向こう側で泣き崩れている紺野を。
何がどうなっているのか判らない…。
どうして紺野は泣いている?
みんなは、何故動こうともせずにじっと紺野を見つめてる?
アタシは…どうして紺野の瞳に映らない…?
と、その時…アタシは目にした。
紺野の腕に、何かが強く抱きしめられているのを。
ぐっと胸に押し付けるみたいに…強く強く。
それは…アタシにも見覚えがあるモノ。
ガラス部分が所々欠けて歪に変形してしまっているけど…特徴的なフレーム…。
そう、紺野が、アタシに贈ってくれた『サングラス』だ。
- 344 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:35
- 何故?
どうして、それを抱いてるの?
疑問符だけが、ぐるぐると頭の中を駆け巡っていく。
胸を締め付けるような焦燥感と、そして、一握りの…――嫌な予感と一緒に。
こんの…?
そっと、紺野の頭に手を伸ばそうとして…。
急に視界が暗転した。
ううん、暗転したんじゃなくて…『目覚めた』んだ。
- 345 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:35
- 「ぅ…?」
徐々にハッキリしていく意識と、視界に映るモノたち。
薄暗いけど、くっきりと闇の中にも浮かび上がった白い天井。
首を回すと、同じく白い布団…白いシーツ。
あぁ…ここは。
重い頭をゆっくり起こして…―――やっと気づく。
ここは、中澤研究所の一室。
アタシに割り当てられた部屋で…。
さっきのは…夢の中での出来事だったんだって。
「…悪趣味」
思わず額を押さえて、フっと笑ってしまう。
疲れてるのかもしれない。
ここのところ、アタシらしくもなく考え事ばかりしているから。
キモチ、切り替えなきゃ。
- 346 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:35
- と、ちょうどその時、部屋にとりつけてあった電話が鳴った。
全部屋にある内線らしい。
研究所自体が大きいから、何かあったときはこれで連絡を取ってるんだそうだ。
「…はい?」
『あ、ごっつぁん?』
「…なっち?」
『うん、寝てるとこ悪いんだけど、ちょっと裕ちゃんから話があるんだ』
「…わかった」
『中庭奥の突き当たりにある研究室に来て」
「うん」
そこで電話は切れる。
話って、なんだろう…?
きっと紺野の力に関することなんだろうけど…。
とにかく行くしかないか…。
ベッドから降りて、備え付けの鏡を見ながら衣服を整える。
といっても、黒い革製ベストの前チャックを閉めるぐらいだけど。
室内だから、さすがにコートは羽織らない。
それから、テーブルに置いておいたサングラスを手にとって…ふと止まる。
- 347 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:35
- 紺野はこのサングラスを握っていた。
確かにそれは、アタシのサングラス。
そして夢の中では…亜弥も美貴もいた。
なのに、何故―――自分はいなかったんだろう…?
………ひどくひっかかった。
なにか、重要な何かに触れようとしているのに、考えれば考えるほど
頭の奥に霞がかったようなモヤが生まれて…。
「…今は、考えるなってコトか…」
どれだけ考えても答えがでないものは、仕方がない。
それにあれは、ただの夢。現実じゃない。
今はただ目の前の問題を考えよう。
それが、きっと自分に必要なんだ。
キモチを振り切るように、アタシはサングラスを襟元にひっかけて部屋を出た。
- 348 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:36
- 研究室に入ると、亜弥に美貴、それからやぐっつぁん、なっち、田中までも集まっていた。
それに…この気配…、あさみ、まい、みうなもいる。
能力者が全員揃って…大事な話ってワケか…。
室内に設置された大型モニターの前にある、パソコンのキーボードに指を走らせていた
美貴が「よっ」と軽く手を上げてくる。
その隣で、ちょっと眠そうな亜弥が両手を挙げるようなジェスチャーをしてみせた。
『やれやれ、だよ』なんて言葉が聞こえてきそう。
「お、これで揃ったみたいやな」
一番奥にある机で、何かのファイルを確認していた中澤裕子がアタシに気づいて、
こちらに歩み寄ってきた。
アタシは自然と、近くのテーブルに行儀悪く腰掛けた。
「…なに? 話って」
「紺野の能力について話しておこうと思ってな」
「紺野の能力…」
一瞬脳裏に、昨夜の覚醒した瞬間の映像が流れ込んだ。
同時に、自然と顔が強張っていくのが判る。
- 349 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:36
- 強烈な光。
切り刻むような攻撃的な風。
そして…まるで覚醒が合図だったように一斉に開花した桜のつぼみ達。
その核となっている能力の正体は一体…何?
「紺野には、見たことのある能力なら使える、と伝えている」
「『と伝えている』? つまりそれって」
「うん、嘘やない。嘘やないけど…真実でもない」
亜弥が眉をしかめると、隣でモニターを眺めていた美貴がつられたように
中澤裕子に視線を向けた。
カタカタと聞こえていたキーボードの音がなくなって、シンと静まり返る。
そんな中、彼女は静かに口を開いた。
- 350 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:36
- 「紺野の能力は『素粒子を操れる』というモノや」
素粒子…?
たしかそれは…。
「素粒子…。物質の最小単位」
「そうや。人間を作り出している細胞はもちろん、この世の全ての物体・生体を
作り出す究極的な粒子」
呟いた美貴の言葉の後を次いで、彼女は説明した。
そう、素粒子は確か、原子より小さく…「物は何から出来ているか」という問いの
答えとなっているもの。
……ちょっと待って。
全ての物体を作り出している素粒子、裏を返せば素粒子がなくなれば…。
ということは…紺野は…、紺野の能力は。
「…紺野のキモチ一つで…、この世界を一瞬でなくしてしまうこともできる」
愕然としたアタシの表情を見て、彼女はそう告げる。
- 351 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:37
- 「あは…っ、そんなの…」
「ムリなことやない。素粒子を扱えるということは…素粒子を消すことも可能やからな
ドミノと一緒や、一つ倒れたら全てが倒れる。誰にも止められん」
美貴が、言いかけた言葉を飲み込む。
もう、紺野に『できない』ことはなにもないんだ、と彼女は確信しているんだ。
あぁ…、元々寝起きで働かない頭に衝撃が走って、軽い眩暈を覚えよろけてしまう。
「ごっつぁん!」
「真希!!」
いつのまにか、すぐ隣にいたなっちが、かろうじてアタシの腕をとって支えてくれた。
何かの夢でも見てるんじゃないの?
そんなSFみたいな話、いまどきドラマでもはやらない。
一瞬で世界をなくすことが出来るなんて…あはっ。
あの紺野に、そんな力なんてないよ。
あのコは普通に学校に行って、友達としゃべったりして、普通に…普通に…。
―――なら、公園での出来事はなんだったの?
―――開花した桜はなんだった?
- 352 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:37
- 「ごっつぁん…?」
不安げに見上げてくるなっちに、アタシは一度苦笑する。
それから、大丈夫だ、というみたいに支えられた手に手を重ねて離れた。
――現実を受け止めろ。覚悟…決めて…――。
こんなことでうろたえてどうするのよ…。
辛いのはアタシじゃない、あのコだ。
それに幸い、あのコはまだ自分の能力を知らない。
「大丈夫…、話、続けて」
「……わかった」
中澤裕子は溜息交じりに頷いて、話を続ける。
- 353 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:37
- 「まだ覚醒したばかりやから、能力は多かれ少なかれ…心の動きに反応する」
「心の動き…。あ、怒ったりとか、泣いたりとかですか?」
「それだけやない。例えば…――人を好きになる、とかもや」
考え込んで気がついたみたいに問いかけた田中に、彼女は軽く首を振って答え、
…アタシに、探るような視線を向けてきた。
その意図、アタシにだってもうわかる。
アタシは紺野が好き。紺野も、アタシが好きだといってくれた。
それは間違いなく、能力に影響を与える…ココロの動き。
「今はまだ、安定もしていない。そんな状況で訓練に、恋愛に…、両立なんか
できるワケがない」
暗にそれは『今は紺野との付き合い方を間違えるな』と言ってるようなもんだった。
ムキになって反抗するほど、アタシも子供じゃない。
わかってる。
今は、その能力を誤った方向に向かないように指し示さなきゃならないんでしょ?
- 354 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:38
- 「…アタシらは、紺野の力が暴走しないように制御を教えればいいんだね」
「………そういうことや」
間違えるなよ?
鋭い視線が、もう一度アタシをとらえて…離れた。
「朝になったら、早速紺野には訓練に入ってもらう。まずは後藤、それから松浦
でもって藤本の順で教えてったって」
「りょーかい〜」
「あ、藤本は悪いけど、研究所内に入り込んでしまったウイルスの駆除を、
その後手伝ったって。アンタほどのコンピューターに精通した人がうちには
おらんから」
「高くつきますよ?」
「焼肉の奢りでどうや?」
「乗った!」
ったく。
どんな時でも美貴は変わらない。
その明るさが、今は救いだけど。
- 355 名前:想い 投稿日:2004/06/03(木) 21:38
-
「あぁ…それと…」
そこでまた厳しい顔つきに変わる彼女。
くるっ、とアタシらを全員見渡して…。
そして、告げた。
「そろそろ、向こうも動き出す頃やと思う。…どんなときでも、油断だけはせんように」
この時ばかりは、誰も声を出せなかった。
ただ…来るべき時が、近いんだってことだけが…全員のココロに浮かんで消えたと思う。
もちろん、アタシのココロにも。
- 356 名前:tsukise 投稿日:2004/06/03(木) 21:39
- >>342-355 今回更新はここまでです。
>>336 つみさん
確信されましたかっ!(ぉ
えぇ、もう…。 なっちは天使です!
>>337 みっくすさん
つみんさと同じく、みっくすさんも確信されて嬉しいですっ!(ぉ
何度でも言います! なっちは天使ですともっ
>>338 星龍さん
安倍さんの優しさは、人を救ってくれるような温かさがありますよね♪
応援レス、ありがとうございますっ!頑張りますですっ(平伏
- 357 名前:tsukise 投稿日:2004/06/03(木) 21:39
- >>339 レオさん
安倍さんに癒されましたかっ。ありがとうございますっ(平伏
彼女の優しさはどんな人でもきっと救ってくれるでしょうともっ(ぉ
公共の電波で、なっちは天使と確証されたぐらいですからっ(激違/笑
>>340 ヒトシズクさん
あぅあぅっ、お気遣いくださいましてありがとうございますっ(平伏
後藤さん、えぇ、彼女には優しいです…っ!天使ですからっ!(マテ
だんだんペースダウンしてきてますが、頑張らせていただきますねっ
シズクさんも、頑張ってくださいませ♪
>>341 名無し読者79さん
仲間って本当に素敵ですよねっ。ふとした時に支えになるものだったり(ぉ
辛いコトだって、きっと仲間がいれば…乗り越え…られますよねっ(ぉ
いつも応援レス、ありがとうございますっ(平伏
- 358 名前:つみ 投稿日:2004/06/03(木) 21:57
- こんこんの能力がまさかそんな・・・
自分もその能力のところは好きな分野なんで
非常に興味深いです。
夢が気になる・・・
- 359 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/03(木) 22:56
- 火と水と風(空)と地(土)が揃う時点で、
おおよその見当は付いてたけど。。。
人が持つには大き過ぎるチカラではあるやね。
さて、どーなるかなー?
- 360 名前:一読者 投稿日:2004/06/04(金) 00:05
- >>359 名無飼育さん
>>火と水と風(空)と地(土)が揃う時点で
名無飼育さん、鋭い! お馬鹿な私には予想できませんでした。
- 361 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/04(金) 07:43
- 初書き込みさせてもらいます。まずは、まめな更新お疲れ様です。
話がどんどん思いもよらない方向に転がってるので、これから
どうなっていくのか非常に楽しみです。
これからも、マイペースで頑張ってください。
- 362 名前:みっくす 投稿日:2004/06/04(金) 07:47
- 更新おつかれさまです。
いやー紺ちゃんの能力がそこまでとは。
はたしてごっちんは紺ちゃんを守っていけるのでしょうかね。
次回も楽しみにしてます。
- 363 名前:想い 投稿日:2004/06/04(金) 08:05
- 「いいですか? そのまま…こう…、ぐっと押さえるみたいに力を入れてみてください」
「こう…っ、かな…っ…」
「そう…そう…いいカンジです」
ミシっと音を立てて、原型を崩していく目の前のテーブルに置かれたブラックコーヒーの空き缶。
見えない何かに押しつぶされるように…、次々に…ミシっ、ミシっと。
「そのまま…頭の中に四角い形を浮かべて…固めてください」
「…うん…」
ぐっと私がかざしていた両手を胸元で握り締めた瞬間、大きく一度グシャリ、という音を立てる歪んだ空き缶。
そのままグシャ、グシャ、と瞬時に角砂糖ぐらいまで小さくなって、テーブルの上をコロコロと何度か転がった。
私のすぐ隣で、真剣にその様子を見守っていた田中ちゃんは、ふぅ、と
一度息をはいて、それから口元を緩めて微かに笑って。
満足そうに、二、三度私に向かって頷いてくれたんだ。
- 364 名前:想い 投稿日:2004/06/04(金) 08:06
- 「完璧です、紺野さん。こんな短時間でマスターしちゃうなんて」
「ありがとう…っ、田中ちゃんのおかげだよ」
「そんな。れいなはちょっとコツを教えただけですから」
「その教え方が上手かったんだよ、きっと」
「あ…ありがとう…ございます…」
少し照れたみたいに、田中ちゃんは頭をペコリと下げて笑った。
私もつられて、目を細めて笑う。
私の能力の覚醒から一晩経って。
一秒でも早く自分の能力を制御できる力が必要なんだ、という中澤さんの言葉で、
休む暇なく午前中も午後も…ずっとこうやって能力の使い方を色んな人に教わってる。
後藤さん、藤本さん、松浦さんはもちろん、矢口さんや安倍さん…里田さん達からも。
今は、こうして田中ちゃんから重力で固体の扱い方を習っていたところ。
- 365 名前:想い 投稿日:2004/06/04(金) 08:06
-
昨日は、どちらかというと怖い印象があった田中ちゃんだけど…、
話してみると、実は凄く明るくてハキハキしてて、しっかりとした子だったんだ。
最初は人見知りするタイプらしくて、初めて来た場所っていうこともあって、
ずっと亀ちゃん達と一緒にいたんだけど。
後藤さんが、『紺野に能力を教えてあげて』って言ったのを境に、快く引き受けて
亀ちゃんとシゲさんと一緒に仲良くしてくれて、こうやって教えてくれてる。
でも、なんだかおかしいんだ。田中ちゃんって。
後藤さんが話しかけると、いつもちょっと身構えるみたいにして。
さっきなんて、後藤さんに「勝負です!」なんて言って、中庭で飛びかかってる姿を見かけたっけ。
仲が悪いのかなぁって…ちょっと心配したんだ…。
でも。
必死になって向かっていく田中ちゃんだけど、後藤さんはいつも軽くかわして。
最後は疲れて座り込んだ田中ちゃんに、笑顔で後藤さんが頭をくしゃくしゃっと
撫でて去っていくんだ。
一瞬ムっとして後藤さんの手を跳ねのけるけど、後藤さんがいなくなるとちょっと嬉しそうに
笑ってたりして。
それを見て、ちょっとほっとしたんだ。
やっぱり、一緒に過ごす人たちには仲良くいてほしいし。
- 366 名前:想い 投稿日:2004/06/04(金) 08:06
-
「そういえば…、あの、ひとつ訊いていいですか?」
「うん、なにかな?」
テーブルの前のイスに座っていた私の隣に腰掛けて、ちょっと考える素振りを見せる田中ちゃん。
なんだろう?私に答えられることならいいんだけど…。
しばらく、うーん、と額に指を立てていた田中ちゃんは、意を決したようにパっと私に視線を向けて。
ちょっと私より背が低い彼女は、上目遣いでどこか探りを入れるような…そんな風に見えた。
「そのー…」
「うん」
「紺野さんと後藤さんって、どーゆー関係なんですか?」
「ふぇっ!?」
バシン!
心臓が跳ね上がるくらいドキっとしたその瞬間。
テーブルの上にあった四角い塊が、同時に爆発した。
思わず、私も田中ちゃんもビクっと身体を反らせる。
- 367 名前:想い 投稿日:2004/06/04(金) 08:07
-
「…………砕けちゃいましたね」
「………あはは…はは…」
思わず苦笑い。
訓練を始めても尚、時々暴発しちゃうんだ…。
中澤さんは『初心者やから、心の動きに力が反応してしまうんや』って言ってた。
多分、それは『心も鍛えろ』っていう忠告。
だって、こんな風に毎度毎度暴発してたらこまるもんね…はぁ…。
「後藤さんにも、さっき訊いたんです」
「…そ、そしたら?」
「なんにも。ただ、笑って、どっか行っちゃったんです」
「そ、そう」
なんだか…ほっとしたような…ガッカリしたような…複雑な気分。
確かに誰かに訊かれてハッキリ言えるような、そんな関係じゃないけど、
でも…少しぐらいは気にかけてほしい。
- 368 名前:想い 投稿日:2004/06/04(金) 08:07
-
夕べ、あの公園で唇を重ねて。
好きだ、と言ってくれて。
私の中では、何かが大きく変わった気がする。
能力が覚醒したことを除いても。
でも、後藤さんは、それから何が変わるワケでもなしに、今までと変わらない
態度で私に接してる。
何かを期待していたワケじゃないけど…でも…。
う…ん……よくわかんないや…。
「どうなんですか?」
「うーん…、ノーコメント、じゃダメ?」
「ダメです」
く、食い下がるね…田中ちゃん。
この話題をそらすにはどうすれば…あっ。
- 369 名前:想い 投稿日:2004/06/04(金) 08:07
- 「そういう田中ちゃんは、どうなの?」
「え? れいながなんですか?」
「亀ちゃん」
「えっ? 絵里、で、すか?」
目には目を。歯には歯を。
田中ちゃんの、亀ちゃんを見る眼差しの中にある感情を私は知ってる。
安倍さんのように心をくっきりと覗くことはできないけど、それでも
どんな色が含まれているかぐらいは感じとれるから。
みるみる田中ちゃんの瞳が動揺で揺れていくのがわかる。
なんだか、さっきまでのしっかりしていた姿がウソみたい。
「仲、良さそうだもんね」
「ふ、普通ですよ」
「でも、シゲさんといる時とは、オーラが違うっていうか…」
「心を、読んだんですか!?」
「ううん、なんか私にはそこまで読める能力はないみたいだから。
でも、なんとなく、違うかな?って」
「ちょっ、もっ、いいですっ、れいな、もう行きますからっ」
- 370 名前:想い 投稿日:2004/06/04(金) 08:08
-
ガタン、と慌てて立ち上がって、足をもつれさせながらも田中ちゃんは
部屋を出て行った。
素早いその行動に、思わず頬が緩んでしまう。
可愛いなぁって。
こうして田中ちゃん達と喋っていると、自分が能力者だなんて嘘みたい。
今までの生活が、まだ続いているみたいな、そんな錯覚までしちゃうし。
でも、もう今までの生活はできないんだ。
それを痛感する出来事が起こったのは、その日の夜のことだったんだ。
静かに歩み寄ってきていた黒い影が…やっと目の前に現れた…そんな夜だった。
- 371 名前:tsukise 投稿日:2004/06/04(金) 08:09
- >>363-370 今回更新はここまでです。
>>358 つみさん
ハイ、紺野さんはそんなカンジに…。
つみさんは、こんの分野がお好きなそうでっ♪
私も好きな分野なんですよ〜♪
夢は…果たして…?(ぇ
>>359 名無飼育さん
おおよその見当がつかれていたそうでっ。
本当に大きすぎる力ですよね。
これから…どうなるのか、微妙です…(ぇ
- 372 名前:tsukise 投稿日:2004/06/04(金) 08:09
-
>>361 Stargazerさん
初レスありがとうございますっ(平伏
本当に話が一転二転しちゃってますね(苦笑
応援レスに、励まされつつがんばりますねっ
>>362 みっくすさん
紺野さん、ハイ、とんでもないことになっちゃってますね(笑
ごっちん…がんばれっ!という感じで(ぇ
守り通して欲しいものです…っ(ぉ
- 373 名前:つみ 投稿日:2004/06/04(金) 20:14
- すばやい更新おつかれさまです!
こんこんの能力は少しのキモチの揺らぎでも
暴発してしまうんっすかね…
また最後に気になることを…
すばやい更新を…
- 374 名前:みっくす 投稿日:2004/06/04(金) 22:43
- 短間隔の更新おつかれさまです。
紺ちゃんはやく能力を自由にあやつれるように
なるといいですね。
頑張れ紺ちゃん。みんんがついてるぞ。
それにしても、すんごい気になる終わり方で。
次回も楽しみにしてます。
- 375 名前:星龍 投稿日:2004/06/05(土) 09:44
- 更新お疲れ様です。
紺野さん早く能力を操れるようになって欲しいです。
田中さんとの会話・・・。なんかよかったです。
次回が楽しみです。
マイペースで頑張ってください。
- 376 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/06(日) 10:27
- tsukiseさんの終わらせ方は読者心をくすぐるなぁ。また次も読みたくなる。
- 377 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/06/06(日) 10:30
- 更新お疲れ様です!
毎回ほのぼのしたり、シリアスだったりと大変ですが、
どちらもすっごくいいかんじです。
個人的にはれいなが可愛くなったなぁ……いやいや。
次回も楽しみにしてます!
- 378 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/06(日) 20:34
- tsukiseさんの文章は、見ていてバランスがすごく上手に
取れてますよね。萌えところもばっちり押さえてるし…次回更新、
楽しみにしていますね。
- 379 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/08(火) 19:54
-
真っ暗闇の中…筒状に天井まで伸び上がった光の柱の前にいた。
背後に聞こえるのは、美貴達の悲痛な叫び声。
『やめて』とか『戻って』とか…そんな言葉。
けれどアタシは、一度振り返って笑うと…光の柱に手を伸ばした。
いけない…触れてはいけない…っ。
わかってる。
ここに触れたら、アタシは…アタシの身体は…。
でも…、あのコがいる。
あのコが、目の前で泣いてる。
いやいや、と首を振って拒絶しているけれど、アタシにはわかる。
『助けて欲しい』っていうシグナルなんだって。
『後藤さん、助けて』って、アタシの名を呼んでるんだって。
だからアタシは…。
アタシは…。
- 380 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/08(火) 19:54
-
「………」
ゆっくりと瞼を開く。
広がったのは…何度目かの白い天井。
思わず、ふぅ、とため息を漏らして身体を起こすと髪をかきあげた。
また…夢だ…。
今度は…前より鮮明な。
これはもう…疲れとか、そんなので片付けられる次元じゃない気がする。
そんな事を考えながら、自分が意外に冷静でいられることが不思議だった。
『虫の知らせ』という言葉が、この国にはあるらしい。
もしそうだとして、アタシの夢に断続的に現れるそれは…アタシにどうしろというんだろう?
―――考えすぎなのかな…?
- 381 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/08(火) 19:55
-
時計を確認する。
…午前2時40。
朝はまだ遠い。
もう一度、温もりの中に身体を落とそうとしたその瞬間。
ビ―― ビ―― ビ―― ビ――
けたたましいサイレンが部屋に鳴り響いた。
反射的にアタシは、ベッドから飛び降りて衣服を整える。
身体に染み付いた習慣に苦笑しながら。
それからコートを羽織って、電磁式の扉に向かって外へ――出れなかった。
扉が開かない…!
いくら前に立とうとも、開く気配さえない。
- 382 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/08(火) 19:55
-
「電気が…死んでる?」
暗闇の中、手探りで部屋の電気のスイッチを探す。
すぐに硬い突起物に当たって、カチン、という音がした。
けれど、それだけ。
まったく機能していなかったんだ。
思わず舌打ちをして、扉を見つめた。
「…非常事態だし、勘弁してよね」
数歩後ろに下がって、右手を扉にかざす。
そして、一気に力を解放した。
ガシャン!!
サイレンに負けないぐらいの音を立てて、粉々に飛び散る扉。
開けた廊下では、赤い光が点灯していて、ただ事ではない様子を物語っていた。
- 383 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/08(火) 19:55
-
一体何が起こっているのか判らない。
こういう場合、どこに向かえばいいのかも。
待って…。
『アタシら』ならどうする?
そう、アタシや、美貴・亜弥なら…。
っ! 動力室だ…!
この建物の心臓部。
きっと、そこで何かが起こっている…!
そういえば昼間、ウイルスがどうとか言っていた。
それが関係してる…?
とにかく、そこに向かうしか…!
鳴り続けるサイレンの中、アタシはコートをはためかせながら駆け出した。
- 384 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/08(火) 19:56
-
…自分の見解に誤算があったコトに気づかず。
きっと起き立ちでなければ気づけたハズ。
これは随分と手の込んだ―――陽動だったんだって。
- 385 名前:tsukise 投稿日:2004/06/08(火) 19:56
- >>379-384 今回更新はここまでです。
短めで申し訳ないです…(滝汗
>>373 つみさん
紺野さん…まだまだ自分のモノに出来てないようです…(汗
多感な年頃だからかも…ですね(汗
すばやい更新…が、頑張りますねっ
>>374 みっくすさん
紺野さん、みんながついてるし頑張ってほしいですねっ!(ぉ
今回も、ちょっと尻切れ気味で申し訳ないです(汗
なんとか早めな更新、頑張らせていただきますねっ
>>375 星龍さん
紺野さん…能力の扱いに苦戦中…ですね(汗
田中さんとの会話、何気に私も気に入っていたり(笑
応援レスに励まされつつ頑張りますっ!
- 386 名前:tsukise 投稿日:2004/06/08(火) 19:57
-
>>376 名無飼育さん
くすぐられてますか? 作者としては嬉しいご感想ですっ
どうぞ、続けて読んで下されば嬉しい限りですっ(平伏
>>377 片霧 カイトさん
ほのぼのだったり、シリアスだったり急展開で申し訳ないです(苦笑
田中さん、えぇ、もうきっとカイトさん好みに可愛く…(ry/笑
カイトさんも更新楽しみにしていますので、頑張ってくださいね♪
>>378 Stargazerさん
あぅあぅ、バランスとれてますか!?ありがとうございますっ(平伏
萌えどころ…自分も見たいという願望がでちゃってますが(爆
応援レス、本当にありがとうございますっ(平伏
- 387 名前:つみ 投稿日:2004/06/08(火) 21:34
- 更新お疲れ様です!
ごとーさんの夢が日に日に気になっていきますね…
こんな気になる終わり方で…
すばやい更新を…
- 388 名前:レオ 投稿日:2004/06/08(火) 22:05
- 更新お疲れです!!
とうとう奴等が・・・・・。
うぁ〜かなり気になります!!!
しかもこの頃気になる終わり方ですし(笑)
では次の更新お待ちしております。
- 389 名前:みっくす 投稿日:2004/06/08(火) 22:37
- 更新おつかれさまです。
あっちから仕掛けてきましたかね。
やっぱり狙いは・・・・
またも気になる終わり方で・・・
次回も楽しみにしてます。
- 390 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/09(水) 19:23
- 動力室の入り口はすでに誰かによって壊されていて、アタシは中に駆け込んだ。
そこには、ほぼ全員の能力者と中澤裕子がいて。
じっと大型のモニターを食い入るように眺めていた。
「真希!」
「何があったの?」
「ウイルスがさ…ちょっと、ヤバイとこまで侵食しちゃって…」
キーボードに指を走らせつつ、美貴が苦笑しながら答えた。
その側で固唾を呑みながら見守っているみんな。
やっぱり…。
昼間言ってたヤツか…。
でも、美貴がてこずるなんて…相当なものなのかも…。
「復旧は?」
「それはもうすぐ片付く。でも…システムダウンした場所があって」
「システムダウン」
「一部の部屋には入れなくなっちゃってる。例えば真希がいた部屋とか…
能力をもっている人たちの部屋はぜんぶ」
「能力者の部屋が全部…」
- 391 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/09(水) 19:23
-
…ひっかかった。
能力者の部屋が全部システムダウン…。
そんな部分的に侵食できるものなんだろうか…?
まるで狙ったかのように…。
……狙った…かのように…?
「いや、でも藤本がいて助かったわ。アタシらの研究所に、ここまで使える
人はおらんから」
「…焼肉2回はお願いしますよ?」
「わかってるて」
自分の研究所が狙われたってのに、中澤裕子のこの楽観ぶりはどうだろう?
それとも何度も、こんな目にあってるの?
「これで3回目」
「え?」
振り返ると、小さな子供をおんぶしたなっちが苦笑いしていた。
…教室のような部屋で勉強していたコかな…?
- 392 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/09(水) 19:23
-
「あー、キッズのコ」
「キッズ?」
「能力者の中学生までのコたちを『ハロープロジェクト・キッズ』って呼んでるの」
「ふぅん…、大丈夫?」
「うん。もう寝てるから…。千聖ちゃん…最年少だから怯えちゃって」
大変だね、と一度笑ってみせる。
なっちも、軽く笑って『よいしょ』と体勢を整えた。
こんな小さいコまで…能力者なんだ…。
きっと…全員、稲葉に作られた…。
なんか…ムカついてくる。
「さっき言った3回だけど、どれもその稲葉からのアタック」
「え…、3回も?」
「ここ、大半は機械で動いてるから。攻め入られると弱いんだ」
「そう…」
「でも…こんなにも強いウイルスが送り込まれたのは初めて…。
なにか…そう、機械を破壊する以前の目的があるんだろうけど…」
- 393 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/09(水) 19:24
-
機械を破壊する以前の目的…。
なに…それは一体…。
考えろ…。
まだ重い頭を支えるみたいに額に手を当てる。
そういえば、以前紺野のアパートが荒らされたことがあった。
あれは、里田まいの仕業からして、中澤側の仕業。
恐らくあれは、稲葉側に『紺野は自分達が引き取った』という警告をするため。
アタシら、ごまっとうも考えた『他の組織に手を出すことの危険性』を示唆したものだ。
なら今回は何?
稲葉からの攻撃で、アタシらに指し示すモノは?
……待って…。
何か、重大なコトを見落としてない…!?
今稲葉に一番必要なのは…!?
- 394 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/09(水) 19:24
-
「…紺野…!? 紺野はいる!?」
「えっ? 紺野ちゃん…? あ、そういえば…」
美貴のアシストをしていた亜弥が、ハっとしたように振り返ってあたりを見渡す。
他のみんなも。
「あさみ、まい、みうなっ!」
「はいっ!」
中澤裕子の声に、3人は素早く反応して姿を消す。
いや、気体の状態に変化したんだ。
きっとそのまま、壁をすりぬけて紺野の元へと飛ぶ気…。
でも、これがもし、アタシの考えたとおりの陽動なら…。
きっと潜入してきているのは…あの4人の誰かだ…!
- 395 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/09(水) 19:24
-
「待って! アタシもいく!」
「…真希が行くなら、あたしも行くっきゃないよね」
「ちょっと〜、二人揃ってミキだけ仲間はずれなんてコトはないよねぇ?
ウイルスの消去は終わったし、あとは他の人にバトンタッチでいいしさぁ」
亜弥、美貴…。
ここまで腐れ縁だと笑ってしまう。
でも…うん、今ここにいるメンバーでは最良の3人だ。
それに…借りを返さなきゃね…。
「わかった…紺野のコトはアンタら3人に任せる。あさみ、まい、みうな、3人を
気体に変化させて一緒に連れてったって」
「わかりました…っ」
スっと三人がアタシらに手を伸ばす。
矢口に場所をバトンタッチした美貴、そして横に並んだ亜弥と一緒に、その手に
自分の手を重ねる。
瞬間、浮遊感と溶け込んでしまったような奇妙な感覚が身体に襲いくる。
あぁ、これが…3人の能力か…。
きっと、走って部屋に向かうより何倍も早い。
「アタシらも一段落したら、そっちに向かう。…頼んだで、みんな」
『了解』
空気に溶け込んだアタシらは、それだけ答えて紺野の部屋へと向かったんだ。
紺野…無事でいて…。
切に願いながら。
- 396 名前:tsukise 投稿日:2004/06/09(水) 19:25
- >>390-395
今回更新はここまでです。
短めですが…次回大量Up予定なので…(滝汗
>>387 つみさん
後藤さんの夢…明らかになる日はそう遠くない…かもです(ぉ
気になる部分で切りすぎで、申し訳ないです(平伏
その分、すばやい更新、がんばりますですっ
>>388 レオさん
ハイ、とうとう…ですっ(ぉ
この頃、尻切れ気味な終わり方で申し訳ないです〜(笑
どんどんUpしていく予定ですので、お付き合い下されば幸いですっ(平伏
>>389 みっくすさん
はい…仕掛けられちゃいましたです…っ(汗
狙いはもちろん…(ぉ
一気に話が進んでいくと思いますが、どうぞお付き合い下されば幸いですっ
- 397 名前:つみ 投稿日:2004/06/09(水) 19:32
- 連日更新お疲れ様です!
気になる…
次回がとても気になりますね。
大量うp・・・
楽しみにしてます。
- 398 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/09(水) 20:07
- 何だか大変なことに…。
連日更新お疲れ様です。どうかって感じです。
- 399 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/09(水) 21:21
- 連日更新お疲れです。
最近更新が早いんで、どきどきわくわく
しながら楽しんでます。
続きが気になっちゃいます…大量うp
がんばってください。無理はなさらぬよう…
- 400 名前:ku_su 投稿日:2004/06/09(水) 22:08
- ぬおー紺野が紺野が…
- 401 名前:星龍 投稿日:2004/06/09(水) 22:30
- 更新お疲れ様です。
なんか大変なことになってますね・・。
続きがとても気になります。
頑張ってください。
- 402 名前:みっくす 投稿日:2004/06/09(水) 23:17
- 連日の更新おつかれさまです。
いやー、どうなちゃうんだ。
すんごい気になるよ〜〜。
- 403 名前:レオ 投稿日:2004/06/10(木) 07:47
- お疲れさまです!!
紺ちゃん!!!って感じです(笑)
では次の更新お待ちしております〜。
- 404 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/10(木) 20:50
- 連日更新、お疲れ様です。いやはや、もう…。
これからの展開が物凄く気になる終わり方ですね。
ハラハラしながら、次回更新を楽しみにしています。
- 405 名前:ジル 投稿日:2004/06/10(木) 21:07
- あ〜ハラハラドキドキ!!次回の更新も楽しみにしています。
- 406 名前:taka 投稿日:2004/06/11(金) 00:42
- 初めてレスつけます。
昨日から一気に読んでしまいました。
こういう世界好きです。
作者さんがんばってください。
- 407 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:00
- 「…っ!?」
目の前の光景に愕然とする。
引っ掻き回された紺野の部屋。
ぐしゃぐしゃに皺のよったベッドのシーツ。
毛布は無残にも、ちぎられて床に広がっている。
「こ…紺野!?」
「紺ちゃんっ!?」
「どこにもいない…?」
寝込みを襲われたんだ、きっと。
逃げる反応が遅れても仕方がない。
ましてや、能力のコントロールもまだ不完全だし…。
でも、こんな短時間で連れ去ることができるモノなの…?
落ち着け…。焦りはただのマイナス面にしか働かない…っ。
サイレンが鳴ったのが約10分ほど前。
それから、紺野の部屋に来るのに、そう時間は経っていない…。
もしかしたら…――まだ近くにいるかも…っ。
- 408 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:00
-
「ここにいても仕方ない…!館内をとりあえず探そう!」
「うん!」
アタシと同じコトを考えていたらしい亜弥の提案に全員が頷いて廊下に飛び出す。
二手に分かれた道。
6人いるんだ。だったら効率よく。
「アタシら三人は右に行く。アンタたちは左を!」
「わかった」
アタシの指示に、瞬時に気体となって建物の中を通り抜けていくあさみ達3人。
もし発見できたら、すぐにアタシらのところに駆けつけてくれるだろう。
「行くよ、美貴、亜弥」
「「了解」」
頷きあって、廊下を駆け出す。
- 409 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:00
-
何故自分は紺野のコトをすぐに思い至らなかったのか…!
自分の致命的なミスに、奥歯をギリっと硬く擦り合わせてしまう。
緊張と恐怖で気が狂いそうだった。
突然の出来事に、紺野は一体どんな思いだった…?
アタシの名を呼んだかもしれない。
今も苦しんでる…? あぁっ、もうっ!
「亜弥、真希が百面相してる」
「ほっといてあげな〜。寝ぼけた頭に、いい薬」
「うっさい!」
まったくどんな時でもこの二人は…っ。
いや、逆にこんな時だからこそ、だ。
口では面白ろおかしく話しているけど、目はまったく笑っていない。
…こーゆー話でもしてないと、落ち着かないんだ…二人も。
- 410 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:01
-
「! あそこ!」
館内の通路を駆けていて、T路で曲がろうとした瞬間、美貴が声を上げた。
反射的に顔を向けて、その視線の先。
「!? 紺野!!」
―――紺野がいたんだ。
「チッ、見つかったか…っ」
「思いのほか手間取っちゃったからね…」
すぐさまアタシらに気づいて振り返ったのは、…――やっぱりというか。
あの4人のうちの2人だったんだ。
確か…『ひと』『マサエ』と呼ばれていた。
けど、アタシの視線はその後ろを捕らえて離れない。
2人の黒ずくめの男たちに抱えられるように、ぐったりしている紺野の姿を。
口元に当てられた白い布からみて、クロロフォルムでも嗅がされたのかもしれない。
ゆっくり間合いを詰めながら、問いかける。
- 411 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:01
-
「…紺野に、何をしたの?」
「別に、ちょっと暴れるもんだから眠ってもらっただけだけど?」
やっぱり…。
予想通りの答えに、熱い何かが後頭部を焦がしていくのがわかった。
全身の血液が沸騰するような感覚が襲いくる。
抑えきれない激情が、殺意となって今にも溢れかえりそう。
(真希、紺野ちゃんを助けることを最優先に…)
スっとアタシの背後に移動した亜弥が耳打ちする。
ははっ、このセリフ…以前にも聞いたっけ?
あの時、アタシは…。
でも、今度はしくじったりしない。
『ここ』は『リアル』の世界だから。
(…わかってる)
頷いて、アタシは一度深呼吸。
落ち着け…冷静に…憎悪に身を委ねるな。
もう失敗は許されないんだから。
- 412 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:01
-
「紺野を返して」
「返して? 心外な言われ方ね」
両肩を竦めるような仕草をして、『ひと』が鼻で笑った。
「元々、004は貴子さんが作ったようなモンじゃん。泥棒呼ばわりされる
言われなんてないハズよ?」
「大体先に奪ったのは、アンタ達じゃないの?」
加勢するみたいに、『ひと』の肩にもたれかかって『マサエ』が挑発的な
眼差しを向けてきた。
明らかに、こちらの反応を楽しんでいる。
美貴が「陰湿ぅー…」と吐き捨てるけど、その様子さえも面白そうに見てるし。
……イラつく。
「…本人の意思よ」
「ふぅん…」
亜弥は努めて冷静に言い放った。
- 413 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:02
-
…と、そこで気づく。
亜弥が何かをアイコンタクトで、アタシに示している。
その先には…―――黒ずくめの男達。
っ!
コイツら…、逃げるスキを伺っている…っ。
足先はすでに背後の方へジリジリと向けられていて、腰を低くして…。
いつでも駆け出せるようにして。
なるほど、話しかけてる二人は意識をひきつけてるんだ。
…ったく、超低血圧ってのも、ここまでくると考えものかも。
そんなコトにも気づかないなんて…。
「この建物から出られると思ってるワケ?」
そのことに気づいていた美貴も、上から見下すような、そんな視線で告げた。
瞬間、ビクン、と一度身体を震わす稲葉側。
それでも『ひと』は、その頬に張り付いた笑みを崩さない。
向けられた視線は、徐々に細くなり…微かな妖しい光を見せた気がした。
- 414 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:02
-
…来る、ね。
張り詰められた空気が物語っている。
あとは…どちらかの一声だ。
「やってみないとわかんなくない?」
「聡明な判断じゃないね」
「別に、この建物から出られないといけないのはアタシじゃない」
「………」
「004さえ出られればいいんだから」
ジリジリと、空間という糸が引っ張られていくのが判る。
ギリギリ一杯まで。
その糸を、切ったのは―――
「004じゃない…! 紺野あさ美だよ…!」
…―――アタシだった。
- 415 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:02
-
「怒った顔が、やっぱり素敵だね…002。でも、その怒りが命取り…!」
「っ!?」
「GO!!」
鋭い『ひと』の声。
弾かれたように、後ろに控えていた黒ずくめの男が背を向けて駆け出した。
その腕に、紺野を抱いて。
瞬時に反応したのは、亜弥。
羽織っていたジャケットの下から小型のナイフを数本取り出すと、
男達に向けて放った。
…けど。
「悪いけど、そうはいかない…!」
立ちふさがったのは『マサエ』。
背を向けて走っている男達を庇うように前に立ち、その腕でナイフを受け止めたんだ。
当然、ナイフは深々とその腕に…。
なんて荒い方法…!
でも、苦痛に顔を歪ませたのは一瞬で、滴り落ちる赤い液体をもろともしない…!
- 416 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:03
-
「行くよ…!お三人さん!」
入れ違いに『ひと』が地を蹴った。
「!」
急接近。
硬く握られた拳が、アタシの顔面めがけて繰り出される。
とっさに半身を引いた瞬間、別方向からの鋭い刃が投げつけられた。
「くっ!」
『マサエ』が、その腕を刺していたナイフを投げつけたんだ。
間に合わない…!
「任せて!」
くっと身構えた瞬間、アタシの盾になるように前に出たのは美貴。
手の平を突き出し水の壁を作り出して、ナイフの動きを殺した。
- 417 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:03
-
でも、相手もそれが読めないほど単純じゃない。
美貴が力を消した瞬間を狙っていたかのように『マサエ』はダッシュをかけて
腹部に拳を叩き込んでいたんだ。
「ぐぅッ!!」
たまらずよろめいた美貴のわき腹に、追い打ちの膝蹴りがめり込む。
「かはっ!」
「美貴!」
衝撃で見るからに軽い身体は弾き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられ床に沈んだ。
身体を苦しそうに丸めて、激しく咳き込んでしまってる。
「人の心配してていいワケ〜?」
「っ!」
一瞬気を取られたアタシに、『ひと』は容赦なく懐に踏み込んできた。
下段から拳を振り上げ、アタシがかわすと同時に回し蹴りを繰り出す。
避けきれず、ガードした腕に鈍く、骨がきしむような重い痛みが走った。
- 418 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:03
-
「調子…づかないでよね!」
蹴り上げられた足を肘で弾き返すと、その胸元に手をかざし力を放つ。
深い衝撃波となった風は、『ひと』の身体を吹き飛ばす。
「うっ! …はっ、やっぱ強いねぇ」
ダメージは少ない、か…。
ここらへんが、田中のような実践不足の相手と違うところ。
彼女達は場馴れしている…。
こうしてる間にも紺野は…!
ぐっと拳を強く握る。
自分の力の無さが腹立たしい…!
「この…!」
気を集中させてその手の平に力を集めようとした、その時。
黒い影が、アタシの脇をすり抜けていった。
視線を向けて驚く。
- 419 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:03
-
「!? 亜弥…!?」
そう、いつもの彼女からは考えられないぐらい、殺気を剥き出しにして
『マサエ』に飛びすさったんだ。
燃え上がるような深紅の瞳が、計り知れない怒りを現しているみたいに
ギラギラとしている。
「よくも…!」
「っ!」
気圧された『マサエ』は牽制するように、腕に刺さっていた残りのナイフを
亜弥に繰り出しつつ、信じられないほどの筋力で後方へ跳躍した。
「逃がさない…!」
けれど亜弥は執拗だった。
投げつけられたナイフを、手に集めた炎でガードし一瞬にもくずに変えると、
床に両手をかざし、ロケットのエンジンを点火させる要領で力を放ち、
半テンポ遅れて跳躍した。
そのまま滞空中の『マサエ』に追いすがる。
そして
ガッ!
鮮やかなぐらいの蹴りが、見事に『マサエ』の頭部にヒットした。
- 420 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:04
-
「ぐッ!」
「雅恵…!」
たまらず、彼女はうめき声を漏らしながら、肩から床に叩きつけられ
そこに『ひと』が慌てて駆け寄る。
「亜弥…?」
まさにいきなりのコトに、呆気にとられる。
こんな感情的な亜弥を見るのは、久しぶりだから。
「美貴たんに手を出すからだよ」
「『たん』!?」
「あ……」
しまった、っていうみたいな亜弥の表情。
振り返ると、お腹を押さえながらもヒラヒラと手を振って笑っている美貴。
…………。
…深くは聞かないでおこう。好奇心は身を滅ぼす。
- 421 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:04
-
「痛っつ〜…。やっぱ、力出さないと勝てないみたいだね」
『マサエ』の言葉で、ハっとアタシ達は身構える。
まだ決定的なダメージがないんだ。
「諦めて、おとなしく道を譲ったら?」
「まさか。まだまだこれからだよ」
言いながら、ゆっくり立ち上がり腕を鳴らす二人。
厄介な…。
この二人をどうにかしないと、紺野を追いかけるなんてできないってコトか。
「ウチらの能力ってさ、アンタ達と違って体力の消耗が激しいんだ〜」
「?」
「でも、仕方ないか…。ここで道を譲ったりなんかしたら貴子さんに殺されちゃうし」
何を言ってるのか判らなかった。
けれど…二人のオーラから、何か…そう特異な手段を使ってくるのは判る。
まだダメージの残る美貴をかばうように、アタシと亜弥は並んで立つ。
鋭く二人を見据えながら。
- 422 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:04
-
「じゃ…こっからは、本気で行くよ」
「ウチらを本気にしたこと、地獄で後悔してね」
言った瞬間、
ドン!
派手な音を一度立てて、アタシらのに軽い風圧の衝撃が襲い掛かった。
それは、二人を中心に能力が開放されたことを意味していたんだ。
「行くよッ!」
聞こえてきたのは、鋭い『ひと』の声。
視線を向けて…――目を見開く。
そこに、二人の姿はなかったんだ。
どこに!?
思った瞬間、
「背中、がら空きだよ? お嬢さん達」
ゾクっとするような冷たい声に、アタシも亜弥も…そして美貴も飛びのいた。
直後、空気を切り裂くような『ひと』の鋭い拳が、アタシらのいた場所に繰り出される。
- 423 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:05
-
な、なんてスピード…!?
まったく読めなかった…っ。
「遅いよ?」
続けて『マサエ』が、アタシに向けてひじ打ちを繰り出してくる。
その全ての攻撃が、さっきまでとまるで別人だった。
荒々しく、それでいて力強さがこれでもかってぐらい主張されて…なおかつ
信じられないぐらいの俊敏さ。
「くっ!」
「真希っ!」
「なんともないっ! 美貴、下がって!」
「おっと…っ」
アタシの声に、すんでで美貴は来ていた攻撃をかわす。
それから、辺りに視線を向けた。
素早い『それら』は、縦横無尽に廊下を駆け巡る。
ギラギラとした金色の瞳に、激しい殺意を隠そうともせず。
右に左に、上に下に。
- 424 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:05
-
人間とは思えないぐらい鋭くとがった爪が、コンクリートの壁をギィッと、えぐる。
同時に身体を持ち上げて天井まで駆け上がると、強く蹴り上げて交互に
アタシらに向かってきて。
「くっ!」
かわすのが精一杯だ。
この…二体の獣たちを。
そう、獣だった。
唇の端からギラリと見える、獲物を求めて止まない牙。
異形な指先。
程よく引き締まる筋肉は、余計な動きを省く最大の武器。
そして…――その瞳。
一瞬の動きも逃さないというように、鋭く尖っている。
ターゲットは…もちろん、アタシに美貴…―――
―――ちょっと待って…。何かがおかしい。
- 425 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:05
-
二人の攻撃…―――亜弥にだけ仕掛けてきていないんじゃ…。
素早く動いて撹乱しているように見せているけど…。
間違いない。
アタシと美貴には、鋭い爪が繰り出されても、亜弥には積極的に向かっていない。
どういうこと…? アタシや美貴と亜弥が違うコトは何…?
まさか、さっきの一撃に怯んでいるワケじゃないだろうし…。
「考え事してると、ここでジ・エンドだよ!」
「くっ!」
考える暇さえ与えない攻撃。
交互に襲い掛かってきて…力さえも出せない…!
…待って…、力!?
彼女達の力は、きっと野生の血を最大限に活かしたモノ。
いわば、獣の力だ。
獣達の弱点はなんだった…?
そうだよ…!
『火』だ!!
- 426 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:06
-
「なるほど、ね…」
軽く舌なめずりをして、繰り出された攻撃をかわすかわりに距離をとるため
アタシは力を使って向かい風をおこし、二人の身体を後退させる。
体勢を崩した二人は、舌打ちをしてこちらを睨みつけた。
その僅かなチャンスに、亜弥の背後に回りこんで耳打ち。
「亜弥、アタシと美貴がヤツらの動きを止める。そしたら炎で取り囲んで」
「え?」
「ヤツら…、火を恐れてる」
「…――わかった」
それから美貴の元へ駆けていき…、
すれ違いざま、囁いた。
「美貴、1秒でいい。ヤツらの足を止めるよ」
「意味わかんないけど、おっけー」
こういう時、美貴のサバサバした性格は助かる。
アタシを信頼して、疑問は後回し。
その分、納得できる結果がでなかった時は厄介なんだけどね。
- 427 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:06
-
「何ごちゃごちゃ言ってんの? かかってこないなら、こっちから行くよ!」
来る…!
構えて、二人の向かってくる方向を敏感に感じ取る。
右からアタシに向かって『ひと』がくる…っ。
左からは美貴へ向かって『マサエ』が。
これを抑えれば…!
亜弥のテリトリーに入る…!
振り返った先には、亜弥が『いつでも』というようにコチラを凝視しているのが見えた。
「獲ったぁ!!」
耳をつんざくような『ひと』の声。
隠し切れない獣の匂い。
向けられたのは鋭い爪。
それをすぐ側で感じ取って、アタシはフっと口元を緩めた。
―――獲られたのは…アンタ達だよ、と。
- 428 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:06
-
「!?」
「なっ!?」
驚愕に変わる二人の表情。
それもそのはず。
だって、アタシと美貴は…飛びかかってくるヤツらの懐に強引に体当たりして
動きを止めると、その手首を押さえ込んで床に叩きつけてやったんだから。
バシン!と激しい音を立てて、二人を組み伏す。
そして…
「亜弥」
「任せて!」
直後、業火が取り囲んだ。
もちろん、そうなることを読んでいたアタシと美貴は、瞬時に離れる。
「あぁっ!」
「くっ! ひ、火が…っ!」
意思を持った炎は、まるで突風に巻かれた乱流のように二人に襲い掛かる。
見ているこちらにも、その放熱が伝わってくるほど荒々しく。
…よほど、亜弥の逆鱗にふれてしまったみたい。
容赦なく天井までたちこめたその炎が何よりの証拠。
- 429 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:07
-
それでも、能力者。
二人は、怯えながらも毅然とアタシらを炎の隙間から睨みつけている。
「…ちょっと、こらしめてやろっか」
「? 美貴」
スっとアタシの隣にたった美貴は、ニンマリ笑って…自分の力を亜弥の力に乗せた。
それは、炎に囲われた空間に雨を降らせ…白い蒸気となってたちのぼらせていく。
なるほど…。
必然的に、中は酸素濃度が薄くなって…。
「ぐ…うぅ…」
二人は耐え切れず、力なくその場に倒れこんだんだ。
それを確認して、亜弥も美貴も力を消す。
後に残ったのは、全身に汗を浮かせてぐったりとした二人と…金属の焦げる匂いだけ。
終わった。
高揚感はない。
ただ、苛立ちが胸を支配してくるだけ。
そこまでして…紺野を手に入れたいのか、と。
仲間を捨て駒にしてまで…!
- 430 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/11(金) 19:07
-
「ごっつぁん!」
「? …あ、やぐっつぁん、みんな…っ」
呼ばれて振り返った先には、ウイルスの処理が終わったのかみんなが駆けてきていたんだ。
むわっと立ち込めた空気に、眉をしかめたりしてる。
それから、横たわっている二人を見て驚いたみたい。
「これは…っ、一体?」
「足止めされてたんだ。紺野は、別の男2人組に連れられて…」
「まだ研究所の敷地内にいるかもしんないじゃん! すぐ追いかけよう!」
「じゃあ、アタシらはこの二人をなんとかしときます」
あさみ、まい、みうなが声をかけ、やぐっつぁんは頷いた。
「行くよ! 最後まで諦めんなよ?」
「…了解!」
頼もしいやぐっつぁんの言葉と、力強い笑顔に後押しされて、アタシ達は
再び紺野の跡を追い始めたんだ。
紺野を諦めるなんて選択肢、もちろんアタシの中にはなかったから。
- 431 名前:tsukise 投稿日:2004/06/11(金) 19:08
- >>407-430
今回更新はここまでです。
>>397 つみさん
バトル場面の大量Upとなってしまいまして申し訳ないです(苦笑
次回は、きっと気になる部分に触れていくかと…(ぉ
>>398 名無し読者79さん
ハイ、なんだかどんどん大変な方向に向かってるみたいです(マテ
更新が不定期になりつつありますが、頑張らせて頂きますね♪
>>399 名無飼育さん
どきどきわくわくして頂いてるとはっ、ありがとうございます(平伏
お心遣いに感謝ですっ!早め早めの更新、頑張らせて頂きますね
>>400 ku_suさん
紺野さんっ!まぢでっ!ぬおーっですっ!(笑
>>401 星龍さん
ハイ、どんどんと大変な展開になっちゃってますデス(汗
応援レス、いつもありがとうございますっ(平伏 更新の励みです(白状
- 432 名前:tsukise 投稿日:2004/06/11(金) 19:08
-
>>402 みっくすさん
ハイ、もう本当にどうなっていくんでしょうかね…っ(マテ
書いてる側も、結構どきどきですっ!(ぇ
>>403 レオさん
本当に、『紺野さん!』といいたくなるような展開ですね(笑
なるべく早めの更新を心がけて頑張らせていただきますねっ
>>404 Stargazerさん
ハイ、もう…いつも尻切れ気味な終わり方で申し訳…(笑
ハラハラしながらも、これからもお付き合い下されば幸いですっ(平伏
>>405 ジルさん
ハラハラドキドキして頂いてっ、作者としては嬉しい限りですっ
応援レス、ありがとうございますっ!(平伏
>>406 takaさん
初めましてっ!嬉しいレスを頂きましてありがとうございますっ(平伏
結構作者の自己満足が入っちゃっている世界ですが、楽しんで
いただければ幸いですっ。応援レスに励まされつつ頑張らせて頂きますね。
- 433 名前:つみ 投稿日:2004/06/11(金) 20:00
- 大量更新お疲れ様です。
バトルシーンは迫力がありましたね〜!
『たん』・・・
次回も待ってます!
- 434 名前:レオ 投稿日:2004/06/11(金) 21:21
- お疲れです!!
自分はこのシーンをずっと待ってました!!!(笑)
次回も楽しみにしております。
- 435 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/11(金) 22:35
- 更新お疲れ様です。tsukiseさんはバトルシーンの書き方がリアル
だから、読み手としては嬉しい限りです。読んでて思わず、にやって笑って
しまいました。次回更新も、楽しみにしてますね〜。
- 436 名前:みっくす 投稿日:2004/06/11(金) 22:47
- 更新お疲れ様です。
バトルはかなりの迫力ですね。
次回も期待してます。
- 437 名前:ku_su 投稿日:2004/06/12(土) 04:16
- 更新お疲れ様です。
一言だけ
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
では楽しみに正座して待ってます。
- 438 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:00
- 「ぅ…っ?」
くらくらする頭を振りながら、私はゆっくりと瞼を開いた。
その視界に映ったのは、真っ暗闇。
え…? ここは、どこ…?
もう一度目を閉じて…開いてみたその瞬間、
「いくぞ! 車を出せ!」
「了解!」
バン、と勢いよく開かれて、また閉じられる目の前の車の扉。
そう、私は、一台の車の中に寝かされていたんだ。
どういうこと? どうして私はここにいるの…?
私は研究所にいて…眠っていて…
…っ!
そうだ! 突然誰かが部屋に入ってきて、何かで口を押さえられて…気が遠くなって…っ!
つ、連れ去られたんだ!
- 439 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:00
-
「? 目が覚めたのか?」
「っ! だ、誰ですか…っ」
私に気づいた目の前の人が顔を覗き込んでくる。
男の人…? 暗くてよく見えない…。
ぐっと自分の胸元を押さえて後ずさる。
「心配しなくていい。別に危害を加えようなんて思っていない」
「ンなコトしたら、俺ら殺されるから。ただ、稲葉さんの所に連れて行くだけだ」
稲葉…? 中澤さんと一緒に研究をしていた人。
私を…襲ってきた人…?
「まさかまだこんな子供が、オレらを救う存在だったなんてなぁ」
「す、救う? どういうことですか?」
「なんだ、知らないのか? 自分の能力を。覚醒はしたんだろ?」
「私の…能力? 一度見たものを使えるんですよね…?」
「はぁ? 違う違う、そんなんじゃない」
違う…? でも中澤さんはそう言ってた。
何だろう…、胸がモヤモヤする。
私の知らない何かがある?
もしかして…嘘を…つかれてる…?
- 440 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:00
-
「アンタの能力は、この世に存在する全てのものを扱えるんだ」
「…え…?」
「素粒子って知ってるか? 全てを作り出している目には見えないモノ。
アレを扱えるんだそうだ」
「要は、この地球をぶっ壊す事も、アンタのキモチ一つでできちゃうってワケ」
「そんな…」
そんな力…知らない。
私、そんなの使えませんよ…?
今までだって、私はみんなの持っている力しか使ったことないし…。
でも…疑問があった。
田中ちゃんと喋っていた時に暴発してしまった力。
小さくなった空き缶の塊を砕け散らせてしまった力。
あれは、誰から教えてもらった。
誰の力? どこで見た? 知らない…あんな力知らない。
じゃあ…私の力って…本当に…?
- 441 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:01
-
「とにかく、オレらと一緒に来てもらう。斉藤達が足止めしてくれてる今しか
チャンスはないからな」
ぐっと腕を掴まれて、私はハっと我にかえる。
とにかく今は、ここから出なきゃ…!
それからでも私の力の事を知るのは遅くないはずだから。
「や、やめてくださいっ」
「くっ、い、今更暴れるなって」
ぐいっと、両手を頭上でシートに押さえつける形で押し倒される。
「やだ…っ!は、離してくださいっ!」
懸命に手足に力を込める。
それでも男の人の腕は、びくともしない。
ううん、それ以上の力で私を押さえつけてくる。
- 442 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:01
-
「早く出せ! ここを出ればなんとかなるんだ!」
「判ってる!」
返事と共に、ぐうんという低いエンジン音が響く。
やだ…っ、このままだと私、どこかに連れて行かれる…!
怖い…!助けて!
後藤さん…! 後藤さん!!
「いやぁっ!!」
「!?」
瞬間、何かが私の中で弾けとんだ。
それはまるで、ぎりぎりに引っ張られていたゴムが指から離れた瞬間のように。
大きく、ばちん、と音を立てて。
- 443 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:01
-
「っ! あの車!!」
なっちの叫ぶような声に、アタシらは振り向く。
その先には一台の黒いバン。
きっと、なっちはあの中から紺野の声を感じたんだ。
じゃあ、あの中に…!
間に合った…!
駆け寄ろうとして…、ふいに立ち止まり息を飲んだ。
アタシも、他のみんなも。
なぜなら…――突然目の前のバンの装甲が眩い光に包まれて
瞬時に砕け散ったから。
ううん、砕け散ったというより光に溶けたという方が正確かもしれない。
今もまだ粒子を飛び散らせながら、光が金属片を飲み込んでいってるから。
その光の中から現れたのは、両手首を掴まれ目に涙を溜めた紺野。
- 444 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:01
-
「紺…」
「待って、真希…!」
再び駆け出そうとしたアタシを制したのは亜弥。
その目を見開いたまま、紺野に視線を向けて固まっている。
…なに?
眉を寄せて亜弥に視線を落とし、もう一度紺野に顔を向ける。
…目を疑った。
紺野を掴みあげていた男の腕が、指先から光り始め…―――
徐々にその形を失い始めていたんだ。
車と同じように、全てを飲み込もうとする力が、そこにあった。
「たっ、助けてくれ!」
男は逃げようと身体をひくけど、光は尚も広がっていく。
ゆっくりと、確実に、その光は腕を消し肩を消し、足を…胴を…そして。
最後に、恐怖に歪んだ顔をそのままに…頭を消し去った。
- 445 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:02
-
「う…うあぁっ!!」
それを目の当たりにした、運手席にいたらしい男は何度も転げながら
逃げ去っていく。
残された紺野は…形をなくした空間を唖然とした表情で見つめ…
アタシ達に気づいて、視線を向けたんだ。
瞬間、ドクン、と心臓が鳴った。
「紺野」と声をかけて、駆け寄りたいのに身体が動かない。
ううん、硬直してしまって息もできないほど…。
今…目の前で何が起こった…?
紺野が…したの?
…あんな紺野…見たこと…ない。
恐怖に縛られているのか、アタシの両手に嫌な汗が広がっていく。
アタシだけじゃない…、ここにいるみんな、そうだったんだ。
ただ、立ち尽くしているアタシらの横を、、さわっと、風が駆け抜けていった。
- 446 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:02
-
顔をあげて…私は胸を貫くような痛みを感じた。
「あ…ぁ…」
はっきりと目に見える、みんなの怖れるような視線。
周りに立ち込めた、絶望とか、恐怖とか、…―――拒絶のオーラ。
もし、私に安倍さんほどの力があったなら、今耳に届いていた言葉はきっと…。
――――化け物。
「こ…、紺ちゃん、大丈夫?」
藤本さん、心配げに笑いながら声をかけてくれてるけど…顔が歪んでます。
「とにかく…、中に戻ろう…?」
松浦さん…、私に伸ばしかけた手を、一度戻したのは…何故ですか?
「紺…野」
後藤さんのそんな表情、初めて見ました。
何を考えているのか判らない、でも…恐怖だけは感じ取れる…そんな表情。
- 447 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:02
-
「紺野…っ、みんな心配してるんだよ? それは本当だから…っ、だからっ」
安倍さん…? じゃあ、みんなのこの目は…なんなんですか?
私を…警戒しているんじゃないんですか…?
疑問の視線を受けた安倍さんは、何も言えずにうつむいてしまった。
「嘘…ばっかり…」
力なく私は一度笑った。
もう、何がなんだかわかんない…。
私の力は…中澤さんが教えてくれたものとは全然違った。
みんな…それを知っていたんですよね…?
知っていて…隠していたんですよね…?
どうしてですか? それが優しさだとでもいうんですか…?
…っ!
- 448 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:03
-
……ミンナ、ダイキライ…。
心の中を、止められない黒い液体がじわじわと蝕んでいくのがわかる。
憎しみとか…、悲しみとか…、わかんない…っ、わかんないけど、全てを
壊してしまいたくなるような…、言い知れない何かが…。
「紺野…」
すぐ側に寄ってきた後藤さんを、私はキッと睨みつける。
後藤さん…、後藤さんだって…――私が怖いんでしょう?
優しい目で見つめないで…。 同情なんていらない…!
その目の奥にある感情…、私が気づかないとでも思ってるんですか?
怖いくせに… 恐れてるくせに!
本当は……好きって言葉も、嘘なんじゃないんですか!?
あのキスだって…―――
- 449 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:03
-
「とにかく、研究所に戻ろう…?」
私に向かって広げられる後藤さんの震えた両手。
でも私は―――、思いっきりその手を振り払った。
「やめてください…っ! みんな私が怖いんでしょう!? 自分達もあの男の人
みたいに消されてしまうかもしれないって思ってるんでしょう!?」
「紺野…!」
瞬間、酷く傷ついた表情に変わる後藤さん。
でも、その時の私には気づいてあげられるだけの余裕なんかなくって。
ただ、その表情は哀れんでいるように見えて…。
こみ上げてくる感情を抑え切れなかった。
「私の力って何ですか!? 一度見た能力なら使える!? 嘘ばっかり!!
私は人を消してしまうような能力、見たことない! 」
嘘、嘘、嘘。
私の周りは嘘ばっかりだ。
何も信じられない…っ!
後藤さんだって…!!
- 450 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:03
-
「守ろうなんて…本当は思ってくれてないんじゃないんですか…!?」
感情に翻弄された私は、心の奥に潜んでいた不安をここぞとばかりに吐き出していく。
必死で止める理性を、頭の片隅に感じながらも…――言葉は止まらなかった。
後藤さんは一瞬ハっとして何かを言いかけるけど、結局ぐっと口をつぐんで
うな垂れるように首を振った。
それからじっと、私に振り払われた両手を硬く握り締めて見つめている。
「本当は、好きなんて思ってくれてないんじゃないんですか!?」
「…っ!」
「こ、紺野! 違う! ごっつぁんは本当に紺野のことを…!」
「もう、判らない!判らないんです…っ!」
「紺野…!」
安倍さんの言葉だって、どこまでが本当?
今の心配する視線は、本当なの!?
判らないよ…!
- 451 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:04
-
「紺野…アタシを信じてくれなくてもいい。でも、お願い、自暴自棄にはならないで」
頭を抱え込んだ私に、後藤さんはぐっと両手で肩を押さえつけてきた。
その触れられた部分さえも、嫌悪感が広がってくる。
後藤さんなのに…。ううん、後藤さんだから…。
信じていたから…だから辛くて…、心が押しつぶされそうで…っ。
「やだ…っ! 離してください…!」
「離さない! 守れないかもしれない…っ、でも守りたいとは思ってる!」
「嘘…! じゃあなんで私をそんな目で見るんですか!? 怖いからでしょ!?」
「紺野…! くぅっ!?」
荒々しい私の力が発動して、鋭い刃物のような風になって後藤さんの身体を痛めつけていく。
腕に、頬に、身体に次々と深く浅く赤い線が刻まれて。
苦痛に歪んでいく顔を、ただ私は滲んだ視界でじっと眺めてた。
ほら、離して…っ!
でないと後藤さん、死んじゃいますよ…!?
- 452 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/12(土) 16:04
-
「真希っ!離しなって!」
「後藤さん! そのままじゃ死んじゃう…!」
みんなをも巻き込もうとする私の力を避けながら、必死に後藤さんに呼びかける松浦さん達。
でも。
後藤さんは、低く苦しげに呻きながらも、その手を離そうとしなかった。
「紺野ぉ…!」
と、その時、誰かが『裕ちゃん!』と叫んだのがどこかで聞こえた。
それは…矢口さんの声だったような気もする。
ただ、その瞬間自分の首の後ろに何かが刺さる感覚がして…気が遠くなって…。
意識を手放す瞬間まで…後藤さんの悲しげな目だけが…映っていた…気が…した。
- 453 名前:tsukise 投稿日:2004/06/12(土) 16:05
- >>438-452
今回更新はここまでです。
>>433 つみさん
バトルシーン…分かり辛い表現も多々あったかと思いますが
それでも嬉しいご感想をありがとうございます(平伏
『たん』…実はどこかで出そうと画策しておりました(爆
>>434 レオさん
ありがとうございますっ!バトルシーンを待って頂けてたとはっ
まだまだ勉強不足な部分があり、申し訳ないですが、
これからも精進させていただきますですっ(平伏
- 454 名前:tsukise 投稿日:2004/06/12(土) 16:05
-
>>435 Stargazerさん
バトルシーン、書き方がリアルですかっ!?
嬉しいご感想をありがとうございますですっ!(平伏
にやっとして頂けたみたいで、グっとガッツポーズをしてしまいました(笑
>>436 みっくすさん
バトルシーン、まだまだ粗雑な点だらけだと思いますが
嬉しいご感想を、ありがとうございますですっ(平伏
>>437 ku_suさん
(・∀・)キュンキュン(・∀・)キュンキュン(笑
一言感想、嬉しく頂戴いたしましたですっ!
- 455 名前:レオ 投稿日:2004/06/12(土) 16:45
- お疲れ様です!!
今回は・・・一言で言うと悲しいです・・・。
一言・・・!!
紺ちゃーーーーーん!!!!!(笑)
では次回もお待ちしております。
- 456 名前:星龍 投稿日:2004/06/12(土) 16:46
- 更新お疲れ様です。
紺野さん・・・。なんか大変なことに・・・
続きが気になります。
これからもマイペースに頑張ってください。
応援してます!!
- 457 名前:つみ 投稿日:2004/06/12(土) 17:23
- 更新お疲れ様です。
痛いですね今回は・・・
とにかく痛い・・
次回はこの痛みを取り除いてくれる事を信じて待ってます!
- 458 名前:みっくす 投稿日:2004/06/12(土) 21:10
- 更新おつかれさまです。
これからという時に、こころのすれ違い。
紺ちゃん、気をしっかり持ってね。
- 459 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/06/13(日) 05:43
- 更新乙です
河口恭吾の「桜」を連想しました…
次回の更新楽しみにしてます
- 460 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/13(日) 22:35
- 更新、お疲れ様です。
ここからどういう風にしていくのか…非常に楽しみな展開ですねぇ。
今回もまた、想像してにやっとしてしまいました。w
- 461 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/14(月) 17:35
- うわぁ…痛い展開ですね゚・(ノД`)・゚・。
紺野さん・・・後藤さん・・・
二人の気持ちがわかるだけに辛いところです
更新お疲れさまでした
- 462 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/15(火) 11:35
- ぼんやりと明るい中に、白い天井が見える。
「ここは…研究所?」
乾いた喉のせいで、口を出た言葉はかすれていた。
どうしてここに…?
そういえば…私は、気を失って…?
はっきりしない視界をどうにかしようと、数回瞬きをする。
それからやっとクリアになった視界に安心した直後、温かいぬくもりが
その手に広がっていることに気づいたんだ。
ゆっくり顔を向けて…あげそうになった声を必死で飲み込む。
……後藤…さん。
私のベッドの端に頭を預けるようにして眠っている。
手のぬくもりは、後藤さんが両手で包み込んでいたからだったんだ…。
- 463 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/15(火) 11:36
-
コートを脱いだ後藤さんのその身体には、たくさん包帯を巻かれていて。
まだ赤く滲んだところが、傷の深さを物語っていて痛々しい。
「…私が…したんですよね…」
曖昧になってしまっている記憶だけど、それだけはしっかりと思い出せる。
苦痛に歪んだ後藤さんの顔。
刻まれてボロボロになっていくコート。
そして…飛び散る鮮血。
…思わず、ぎゅっと目を閉じてしまう。
なんてことをしちゃったんだろう…って。
- 464 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/15(火) 11:36
-
『守ろうなんて…本当は思ってくれてないんじゃないんですか…!?』
あんな事、言うつもりじゃなかった。
でも、とめられない衝動につきうごかされて…いつのまにか…後藤さんに…。
もう今は怒りなんて全くなくって…ただただ、苦しかった。
あの時の、後藤さんの凄く傷ついた表情が瞼に焼き付いて離れない。
……違う、あんなの伝えたかったんじゃない…。
……どうして、それでも後藤さんは私のそばにいてくれるの?
……私、やっぱり後藤さんのお荷物になってるのに。
ぐるぐると頭の中が回っている。
後悔と、愛しさと…そしてほんのちょっとの後ろめたさとが…。
そう…後ろめたさ…。
私は…後藤さんを…――試したのかもしれない…。
- 465 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/15(火) 11:36
-
いきなり発動した恐ろしい力を目の当たりにして、後藤さんはどう思うのか。
そしてきっと後藤さんは、当然の反応をしたんだと思う。
私だって、怖い。
逆の立場で、後藤さんがもしそんな力を出していたら…きっと逃げ出す。
でも後藤さんは、恐れはしたけど…最後まで逃げなかった。
私を受け止めてくれた。
それなのに…後藤さんはそういう人なんだって判ってたはずなのに…
私は疑ったりして…今もこんなに優しくしてくれて…。
繋いだ手のぬくもりが、ただ辛かった。
私には、そんなにしてもらう資格なんて…ないのに。
- 466 名前:終わる日々 投稿日:2004/06/15(火) 11:37
-
能力が覚醒してから、私…変だ。
色んな考えに振り回されてしまってる。
そして…後藤さんを振り回してしまってる。
そうしたくないのに…気持ちがどんどん空回りしてる。
「こん…の…」
後藤さん…?
夢の中でも、私を追いかけてくれてるんですか…?
でも…私は、後藤さんに…あんなに…。
いたたまれなくなって、私はそっと後藤さんの両手から自分の手を抜いた。
後藤さんは気づかない。
でも、それでいい…。
お願い、そのまま気づかないで、私を見逃してください。
心の中で強く思いながら、私はベッドから抜け出し…――研究所も抜け出した。
行くあてなんて、もちろんなくって…でも、ただ後藤さんから離れたくて。
- 467 名前:tsukise 投稿日:2004/06/15(火) 11:38
- >>462-466
今回更新はここまでです。
み、短めで申し訳ないです(平伏
>>455 レオさん
悲しいです…っ、ハイ、書いてる方もとても…(マテ
レオさんの絶叫、確かに受け止めましたですっ!(ぉ
>>456 星龍さん
紺野さん、どんどん大変なことになってますね…(苦笑
マイペースに…うぅ、ありがとうございますっ!頑張りますっ!
>>457 つみさん
痛い展開が続きまして、申し訳ないです(苦笑
いつか、きっと…痛みが取り除かれる展開に…(ぉ
- 468 名前:tsukise 投稿日:2004/06/15(火) 11:38
-
>>458 みっくすさん
すれ違い…これからという時だからこそ大変ですね…(汗
ウチの紺野さんは、メンタル部分が弱いようです(苦笑
>>459 名無し募集中。。。さん
なるほどっ!そういえば、ほのぼのテイストですねっ
歌詞のように、彼女のそばにいてあげてほしいですね…(ぉ
>>460 Stargazerさん
にやっとしていただけましたか〜♪ありがとうございます(笑
まだちょっち、痛い展開が続いてますが…きっといつかは…(ぉ
>>461 名無し読者さん
あぅあぅ、本当に痛い展開になってしまって…(涙
ごっちんも紺野も、今一番辛いのかも…です…(しくしく
- 469 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/15(火) 13:27
- またまたイターイ展開になってまいりましたな…
続きが激しく気になります。
もう一度その手をつかんであげて!
- 470 名前:レオ 投稿日:2004/06/15(火) 17:04
- ぬぉーーー!!!(謎)
なんで紺ちゃん!!?
紺ちゃん逃げないで!
では次回の更新もお待ちしております!!
- 471 名前:つみ 投稿日:2004/06/15(火) 17:35
- こんちゃーん!!
んあーーー!!
悲しきかな紺野さん・・・
この悲しみを取りのぞいてくれるように作者様に祈っています。
- 472 名前:星龍 投稿日:2004/06/15(火) 19:05
- 紺野さん・・。なんか悲しい展開に・・・。
続きが気になります。
作者さんこれからも頑張って下さい。
応援してます!!
- 473 名前:みっくす 投稿日:2004/06/16(水) 00:02
- いやー、もうなんていっていいか。
紺ちゃんにごっちん頑張れ!
- 474 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/16(水) 08:14
- そういえば紺野は能力発動時の目の変色は無いんですか?
- 475 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:15
- どのくらい走り続けたのかわからない。
ただ、少しでも遠くに行かなきゃって気持ちが、足を止めてくれなくて。
「はぁ…っ、はぁ…っ」
でも、もう限界。
ガクガクしてしまう足と、破裂しそうな胸を押さえて近くの壁にもたれ掛かる。
目の前に広がった世界は、色んな人たちの喧騒の賑わう繁華街だった。
肌の色はさまざまだし、鼓膜を刺激する激しい音楽。
すっかり暗くなってしまった空をも、彩ろうとしているネオンの数々。
そんな中で、私はどうも異色に映るみたい。
チラチラと、男の人たちがこっちを見たりしてるから。
ここ、どこらへんだろう…?
研究所から、かなり離れたとは思うけど…。
わけもわからず走ってたから、全然方向感覚もないや…。
「どうしよう…」
今更ながら私は途方に暮れる。
これからの自分への不安が大きく圧し掛かってきて。
自分は無力なんだと思い知らされて。
- 476 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:16
-
お金もない。
住む場所もない。
それに…助けてくれる人だって、もういない。
ずるずると壁にもたれかかったまま、その場にうずくまる。
「どうして…こうなっちゃったんだろう…?」
2週間も前なら考えられない状態。
私は普通に学校に行っていて、普通に勉強していて…。
普通に友達とお話して…普通に学校を卒業するつもりだったのに…。
もう、なにもかもが、億劫だった。
だからかな…、近づいてくる人の気配にも気づけなかった。
「キミ、どうしたの〜? こんなトコで」
顔をあげると、好色の目をした三人の男の人。
口の端を吊り上げて、へらっと笑っている。
伝わってくるオーラは、凄く、嫌な感じ。
- 477 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:16
-
「どっかケガでもしてんの?」
「…い、いえ…」
「誰かと待ち合わせとか?」
「ち、違います…けど…」
「それともオレらみたいなのを待ってたの?」
「……っ!」
頭の中を駆け巡る危険信号。
ここにいちゃいけない。
絶対に後戻りできない場所に連れて行かれる。
「ご、ごめんなさいっ、私、用事があるんですっ」
それだけ言って、急いで立ち上がると駆け出した。
もう、体力なんて限界だったけど、とにかく逃げなきゃ。
頼れるのは自分だけなんだ…っ、しっかりして、自分…っ。
- 478 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:16
-
「おっ、ちょっと待てよ!」
振り返ると、あの張り付いた笑みのまま私を追いかけてきている男の人たち。
どうしよう…っ、怖い…!
誰か助けて…! ―――後藤さ…
「待てって!」
必死になって走るけど、足がもつれて上手く走れない。
そして、ついに…
「つっかま〜えたっと〜」
「いや…っ、離してくださいっ」
「逃げないならな」
「それは…っ! あっ!」
ぐっと、掴まれた手首を返し返し近くの壁に身体を押さえつけられて、
悲鳴にも近い声が口から出る。
- 479 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:17
-
「やだ…!離し…!」
「おい、口と身体押さえてろ…!」
伸びてくる太く強い腕が、私の自由を奪っていく。
懸命に振り回そうとした腕も足も、まったく意味を持たなくて。
恐怖のあまり、涙が零れる。
あぁ、やっぱり私はなんにも出来ない…っ。
こうして、ここで…っ。
嫌だ…! こんなの!
ありったけの力を出そうとした瞬間、脳裏をよぎったのは…あの感覚。
瞬時に車を消し去った力。
男の人を消し去ってしまった力。
後藤さんたちが恐れた…あの力。
使いたくない…っ、でも…っ、あぁ…、だって。
浮かんだ迷いが私を縛り付ける。
そして、男の人の手が私の服の前を乱暴に破り捨てようと引っ張ったその時。
- 480 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:17
-
「アンタ達、なにやってんの〜?」
すぐ近くで声が聞こえた。
気だるい感じの女の人の声。
でも、どこかイントネーションがおかしい感じで…。
「!? 誰だ?」
いきなりの声に驚いた男の人たちは私から離れて、そちらに振り返る。
「ここ、アタシのエリアだって知ってるよネ〜?そんなトコで汚いコト
しないでくれる?」
コツコツと硬いヒールの音を響かせながら近づいてきたその人を見て、
男の人たちは固まる。
誰だろう…?
ウェーブがかった髪が風に揺れて、とってもキレイ。
でも、その目はどこまでも鋭くて…気圧されてしまいそう。
- 481 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:17
-
「ア、アヤカ…。いや、オレらは、別に」
「そ、そう! このコが誘ってきてさぁ」
「フーン…」
勝手な事を言う男の人たちに、冷たい視線のその人。
それから鼻で一度笑ってみせたんだ。
「そのコ、アタシのお得意さんの連れなんだケド?」
「えぇっ!? あ…いや…」
「どーゆーコトかなぁ?」
「は、はははっ、な、なんでもねーよ!」
バツの悪そうな顔をして、男の人たちは逃げ出していった。
残された私は、まだ残っている恐怖に足がすくんで、その場にくず折れる。
「大丈夫?」
「ぁ…はぃ…」
心配げに近づいてしゃがみこんできたその人に、だらしなく頷く。
一向に涙は止まらない。
怖くて…自分が情けなくって…悔しくて…。
- 482 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:18
-
「アタシはこの辺で情報屋をしてるアヤカ。前に逢ったんだケド…あの時は
寝てたから知らないか」
「え…?」
苦笑しながら、目元にハンカチを当ててくれるアヤカさん。
優しい香水の香りがして、少し気持ちが落ち着いた気がする。
「マキや、ミキ、アヤと仕事で長い付き合いなの」
「後藤さん…達と…」
「マキ達は? 一緒じゃないの?」
「…………」
何もいえなかった。
離れたはずでいて、形はどうあれ私は後藤さんに助けられたんだから。
情けない気持ちに拍車がかかる。
「…何か、ワケあり?」
「……ごめんなさい」
「ま、いーや、あえて聞かない。でも、ここらヘン、危ないよ?とりあえず
マキ達に連絡するけどイイ?」
「それは…! あのっ、私、後藤さんに出かけるって言ってきましたっ、
だからっ、大丈夫ですっ」
「……そう?」
- 483 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:18
-
携帯を取り出しかけたアヤカさんに、咄嗟に嘘をついた。
キョトンとしたアヤカさんだけど、何かを察してくれたらしくて軽く首を傾けて
『なら、いいけど』とニッコリ笑ってくれたんだ。
ごめんなさい…、口では言えない気持ちは心で呟く。
これ以上、後藤さんに迷惑かけたくないんです。
私の我がままで、傷つけたくないんです。
「じゃあ、もう行きます」と告げると、アヤカさんは心配げに頷いて、
私の手の中に、ハンカチを押し込んでくれた。
「可愛い顔が台無しだよ」なんて、元気付けながら。
それから背中を向けて歩き出してしばらくたった頃、私の頭上に冷たいものが
パラパラと降り始めたんだ。
涙雨…なんて言葉を聞いたことがある。
もしそうなら、私の中から全ての悲しみを流し去って欲しい。
自分勝手に、そんな事を考えていたっけ…。
- 484 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:18
- ・
・
・
雨はそれからも止む気配もなく、どんどん強くなっていた。
薄闇の中、ただ、閑静な住宅街の路地に冷たい水滴が吹き降ろしてくる。
まるで私を責め立てるように。
そんな中、のろのろとした足取りで通りを歩く。
傘も差さずに歩く私に、すれ違う人はただ怪訝な顔をして通り過ぎて。
その視線すらも、痛かった。
なんで私はこんなことしてるんだろう…?
今からでも研究所に戻って「ごめんなさい」と一言いえば、それで済むかもしれないのに。
でも…、「ごめんなさい」といえない何かがあるんだ。
そう…もう「ごめんなさい」だけで、元に戻らないものがあることを知ってしまったから。
「あ…」
ふと気づいて顔をあげる。
そこには見知った家が一軒。
いつのまに、ここまで来てしまっていたんだろう?
- 485 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/16(水) 16:19
-
「…まこっちゃんの家…」
何度か遊びに行ったことがあるから、身体が覚えていたんだ。
二階の窓側がまこっちゃんの部屋。
電気がついてるから、きっと今中にいるんだと思う。
フラフラと歩きかけて、…止まる。
今まこっちゃんに逢ってどうするの?
こんなずぶ濡れで、いきなり来て、助けてくれなんていえない。
きっと優しいまこっちゃんだから、家にあげて話を聞いてくれたりするかもしれない。
でも、その優しさに甘えていいの?
まこっちゃんの気持ちを…やんわりと否定したのに…。
「馬鹿だなぁ…私」
ぱちぱちと瞬きをして涙をごまかし、私は力なく笑った。
「もう…行くところなんて、どこにもないんだ」
この涙は雨のせい。
この涙は雨のせい。
そう言い聞かせて、私また…夜の闇に包まれた道を歩き出す。
ひとりぼっちで。
ううん、ひとりぼっちと…思い込んで。
- 486 名前:tsukise 投稿日:2004/06/16(水) 16:20
- >>475-485
今回、更新はここまでです。
>>469 名無しぽきさん
結構痛い展開が続いて申し訳ないです(苦笑
えぇ、本当にもう一度その手を掴んであげてほしいです!
>>470 レオさん
うぁーーっ(笑 もう本当になんで!?って展開ですっ!
逃げることしかできなかった彼女、どうぞ見守ってあげてくださいっ
>>471 つみさん
えぇ、もう悲しい限りの彼女の気持ちでございます(涙
悲しみ…きっと、いつか取り除かれる日が…っ
- 487 名前:tsukise 投稿日:2004/06/16(水) 16:20
-
>>472 星龍さん
どんどんと悲しい展開になってきていて作者のSさが明るみに(爆
応援レス、本当にありがたいですっ!頑張りますねっ
>>473 みっくすさん
あぅあぅ、書いてる方も痛い展開で切なくなってたり(マテ
二人には本当に乗り越えてもらいたいところですねっ
>>474 名無飼育さん
>>253の5行目あたりの解釈を作者なりにしていますので
『ほぼ人間』として、変色はナシにしております。
色んな人と同じ力を使うたびに変色してたら、なんか
虹色の目になってしまいそうだったんで(爆
そ、それはそれで…素敵…ですが……(笑
- 488 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/16(水) 17:13
- 思いがけない人が登場しましたね。
ちょっと忘れてました(苦笑
紺野、戻れるのかな、戻ってほしいな…
- 489 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/16(水) 18:07
- こ、こんのさぁ〜ん・・・(泣)
物語としてひとつの山場なんでしょうね…
辛いトコですが、ぐぐっとモニター見つめながら続き待ってます
- 490 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/16(水) 18:08
- 更新お疲れ様です。
痛々しいよ紺ちゃーん。。。(泣
彼女の悲しみが取り除かれる日を祈って、
続きも楽しみにしてます。
- 491 名前:つみ 投稿日:2004/06/16(水) 19:33
- ああ・・・・
悲しすぎるよこんこん・・・
どうかはやくごとーさんたちのもとへ戻るのを期待しつつ
次回も待ってます!
- 492 名前:みっくす 投稿日:2004/06/16(水) 22:44
- 更新おつかれさまです。
紺ちゃん、痛々すぎます(T_T)
ごっちん、はやく紺ちゃんの心を救ってあげてください。
- 493 名前:ジル 投稿日:2004/06/16(水) 23:17
- あ痛たた…
- 494 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/06/17(木) 01:10
- 連続更新お疲れさまです。
一言だけ
こんこぉぉぉぉぉぉん!!@号泣
- 495 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/17(木) 18:47
- 痛いですねぇ…。紺野さんの動向が気になりつつ、後藤さんは
どうするのかなぁ?なんて思ったりします。
連続更新お疲れ様です。
- 496 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:34
- 目の前の地面に落ちる雨の滴を、ただじっと眺めていた。
ぎゅっと膝を抱えて、公園の中にある一本の大きな木にもたれかかり…。
肩より少し長めの髪は、水を吸い込んで肌に張り付いてしまってる。
でも、もう気持ち悪いとか、そんな思考はとうに麻痺してしまったみたいで
まったく気にならなかった。
…ただ、たまらなく私という存在が疎ましかった。
あんなに後藤さんから離れたいって思っていたのに…。
ここは…この場所は…。
「後藤さんと…初めて逢った場所だ…」
呟く声は雨にかき消されて、私の中だけに落ちてくる。
あの時の後藤さん、凄くかっこ良かったなぁ…。
たった一人で、3人の男の人たちを振り払って。
私を助けてくれて…。
それなのに私、力を使った後藤さんを「怖い」なんて思っちゃったんだっけ…。
- 497 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:34
-
でも、後藤さんはそれが当然なんだっていうような目をしてた。
きっと、私の前にもたくさんの人に…怖がられたりしたんだ。
そんな風に強くなれるのに、どれだけかかったんだろう?
私みたいに、初めて拒まれた時は取り乱したり…したのかな…。
それとも…あの時の孤独に満ちた目で、もう全てを受け止めていた…?
「私には…できないよぉ…」
ぐっと抱え込んだ膝に額を乗せる。
もう枯れたはずの涙が、またじわっと瞼を焦がしていく。
こんなにも私…弱虫だったなんて…。
信じていたものが無くなったとき、こんなにも人は脆くなっちゃうなんて…。
ううん…信じていたものを裏切ってしまった痛みが、こんなにも苦しいだなんて…。
「ごとぉさん…っ…くっ…後藤さん…っ」
- 498 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:35
-
「…どうしたん?」
「っ!」
突然聞こえた声に、ハッとして顔を上げる。
目の前には、真っ黒なこうもり傘をさした女の人が私を見ていた。
傾けた傘のせいで顔は見えない。
でも、その声は関西弁の、この場にはそぐわないようなコミカルなもの。
「…ぁ…え…?」
「事情は判らんけど、こんなとこに女の子が一人でおったら、危ないで?」
スっと傘が角度をかえる。
と、同時にその人の輪郭が見えた。
「あ…っ」
流れるように落ちる水滴の向こう側に見えたその顔。
鋭く獲物を見定めるような視線に、褐色系の肌。
私…知ってる。
この人は、私の記憶から離れない…
- 499 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:35
-
「ウチの事、知っとるみたいやな」
「…はい…。…稲葉…貴子さん…」
「そや、あっちゃんやっちゅーねんっ」
「…………」
「なんや、突っ込みナシかいな」
ケラケラと笑う稲葉さんだけど、私は反応できない。
この人の真意がわからないんだ。
中澤さん達は、この人から私を守る形だった。
それは、この人が私の能力でとんでもないことをしようとしてるって思ってたから。
私も正直、この人からあんまりいい感じはしない。
でも…今、人の笑顔を見るのが、何故か安心に繋がるんだ。
「んー、ここにこのままおっても、何もええ方向にはいかんと思うで?」
「え…?」
「とりあえず、ウチと一緒に来るか? なんかワケありなんやろ?」
「………」
「無理にとは言わんけど?」
- 500 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:35
-
あ…。
目が細められて、なんだか顔立ちが柔らかくなった。
心底私を心配してくれているような、そんな眼差し。
どうしよう…?
確かに、ここにずっといても…どうしようもないのは事実なんだ。
でも…この人は…。
「訊いてもいいですか?」
「なに?」
「どうして…私の力を狙ってるんですか?」
そう、私の力を酷いことに使うかもしれない。
だから、ただ近づいてきたのかもしれない。
だったら…一緒には行けないんだ。
「あらら、直球勝負で来る子やなぁ」
「…………」
言葉とは裏腹に、稲葉さんは全然困った風でもなく、むしろ面白そうに笑っていた。
その笑顔の奥にある感情は読み取れない。
- 501 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:36
-
「そうやなぁ…あえて言うなら…」
そこまで呟いて、突然真剣な眼差しにかわる。
偽りと感じさせない、鋭いその瞳に。
「『能力があるってだけで差別される世の中をなくしたいから』かなぁ」
「差別…?」
「アンタも知ってるやろ。少なくとも特異な力を持った者っちゅーんは
普通の人間から後ろ指さされるってことを」
「………」
確かに。
最近はずっと、後藤さん達能力者の人と一緒にいたからあんまり
感じなかったけど、それでも、力を恐れた人がなんていうかとかは知ってる。
―――『化け物』と。
- 502 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:36
-
「ぶっちゃけ、能力者が平穏な生活が出来るようにするのに、アンタの力が必要なんよ」
「……人を消しちゃうような力があるのに、ですか…?」
訊ねると、「ちゃうちゃう」と軽く片手を振って苦笑した。
「それはちゃんとコントロールできてへんからやん? 訓練し始めて日は浅いんやろ?」
「そう…ですけど…」
なんでそんな事を知ってるんだろう?って疑問は浮かばなかった。
なんだか、全てをこの人は知っていて当然なんだっていうオーラがあったから。
『アンタのことやったら、なんでも判る』というような、そんな。
だとしたら、今私がこんなところにいるのも…全部知ってて?
何があったとか…そんなことまで、もしかしたら知ってるかもしれない。
それで声をかけてきたとすると…弱みに付け込んで…?
でも、そんな感じはまったくしない…。
- 503 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:36
-
「行くとこなくて困ってるんやったら…ウチんところに来て、力の制御だけでも
マスターせえへん?」
「え…?」
「別に拉致ろうなんて思ってへん。自分の意思で決めたらええ。もし来て
嫌やったら、力の制御だけ覚えてサヨナラしてもええし」
「…本当…ですか?」
「あっちゃん、嘘つかなーい」
どこかの民族みたいに片手を挙げて片言でしゃべる稲葉さんに、
思わず笑ってしまった。
そして、気づく。
私、この人を信じようとしていることに。
たった今逢ったばかりなのに、どうしてだろう?
自分が今、凄く精神的に参っているからなのかな…?
でも、もしそうだったとしても、この人は…私の意志を尊重している。
強引に何かしようと思えば、今の間にいくらでもできたのに。
ふと、脳裏によぎるのは、後藤さんの傷ついて眠っていた姿。
自分の未熟な力と心が、ああしてしまったんだ。
ちゃんと、自分自身の力を制御できていたら、あんなことには…。
深い深い溜息が零れる。
もう…後藤さんの元には戻れない…のかもしれない…。
だったら、私は…。
- 504 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:36
-
「…連れてってください…、一緒に」
「ええんやな?」
「……はい」
頷いた私に、一度なんともいえない表情をして、稲葉さんは手を差し出してきた。
その手を…私はゆっくりと握り返したんだ。
「忙しくなりそうやな」
「え?」
「いや、こっちの話」
苦笑しながら、公園の隅に視線を向けて呟いた稲葉さんだけど、
私の手を引っ張って立たせてくれると、自分のコートを私に羽織ってくれたんだ。
そして…研究所とは別の方向に、私達ゆっくりと歩き出した。
稲葉さんが視線を向けた先に、一人の女の人がじっとこちらを見据えていたんだけど
私は、全く気づかなかったっけ。
- 505 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:37
-
ふいに携帯が鳴った。
アタシはぶっきらぼうに、痛んだコートのポケットから取り出して、
相手が誰か確認もせず通話ボタンを押す。
聞こえてきた声は、今のアタシには苛立たしいほど、ふんわりとした声。
でも、その内容は…心底切羽詰ったモノだった。
『紺野あさ美が、稲葉の手をとって一緒に消えた』
…――今、なん…て…?
目の前が真っ暗になって、引きずりながら走っていた足が自然と止まる。
まだ癒えない傷痕が、ジンジンと脈打って、この状況が現実なんだと
痛いほどアタシに判らせる。
そして…頭上に降り注ぐ雨は、ただ呆然と携帯を握り締めているアタシを
あざ笑うかのように雨脚を強めていた。
「………ありがとう、アヤカ」
まだ何かを喋っているみたいだったけど、遮るように、アタシは切った。
- 506 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:37
-
…紺野が…稲葉の手をとって…、だって…?
なんで…? なんで、紺野は稲葉の手を取った…?
アタシの手を振り払って、どうして稲葉に…?
目覚めたとき…、握っていたはずの手は、どこにもなかった。
ベッドの上にも、その姿はなくって。
慌てて館内を探したけど、どこにもいなくって。
防犯ビデオに、紺野が外に出て行く姿が映っているのを見て、
アタシはみんなが止める手を振り払って無我夢中で駆け出したんだ。
あのコは、絶対一人で泣いてるって思ったから。
大きな目を真っ赤に腫らして、いつか見た日のように膝を抱え込んで。
人のせいにできることも、全部自分で背負い込んで。
アタシが行ってあげなきゃって…思ったから。だから。
治りきらない傷が痛み、思うように走れなかった。
畳み掛けるように雨が降り出して、アタシの動きを拘束していって…。
学校…自宅…繁華街を回って…、自宅近くの公園に向かおうとした時に。
…アヤカの連絡。
…すべてが後手後手になってしまっていたんだ。
- 507 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:38
-
「…ハッ」
クックッ、とワケもなく、思わず笑いがこみ上げてくる。
なんて体たらく。
この皮肉はなに?
すべてがまったく制御できない、この現実。
全身が萎えるような虚脱感と、打ちひしがれるような無力感が、
アタシの心身を蝕んでいくのが判る。
…もう、アタシには、なにもかもがわからなくなりはじめていた。
紺野はアタシが好き。
アタシも紺野が好き。
だったら何故、紺野はアタシから離れた?
アタシが紺野を恐れたから。
好きなのに?
それとも、もう、嫌い?
誰か教えてよ…?
アタシは今、どうすればいい…?
- 508 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:38
-
「ごっつぁんっ!!」
「……。あぁ…、なっちにやぐっつぁん…」
「紺野は…!? ――って。 …どうか…したの?」
「何が…?」
「凄く…怖い顔して笑ってるから…」
見ると、二人とも息を飲んでアタシを凝視してしまっている。
アタシ、笑ってるんだ?
言われて初めて気づいたよ。
いち早く心を読んでアタシの変化に感づいたのは、なっち。
みるみるうちに、眉間にしわが寄って愕然とした。
「ごっつぁん…! と、とにかく一度研究所に戻ろう…っ?」
「なっち、どうしたの? 何があったの?」
「……紺野が…、稲葉に連れて行かれたの」
「えぇっ!? ちょっ、どういうこと!? ごっつぁん!?」
掴みかかろうとするやぐっつぁんを、なっちが押しとどめる。
- 509 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:38
-
「落ち着いて、矢口! ごっつぁんは何も悪くない!」
……アタシは、何も悪くない?
本当に? そうかなぁ?
もしかしたら、アタシ、とんでもなく悪いコトをしたんじゃない?
「ごっつぁん…?」
ねぇ、なっち、教えて?
アタシは本当に悪くないの?
紺野を恐れたアタシは、悪くない?
手を離してしまったアタシは、悪くない?
こうやって、紺野を見つけられなかったアタシは悪くない?
ううん、アタシ達は。
自分を、このまま正当化するアタシ達は、悪くないの!?
「やめて…! やめてよ、ごっつぁん!!」
なっちは、アタシの心の声に思わず耳を塞いで顔を背けた。
そんなコトしても、声が聞こえなくなることはないのに。
- 510 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:38
-
「なっち…!? ちょ、どうなってんだよ、二人ともっ!」
やぐっつぁんがなっちを支えるように背中を撫でる。
それを見て、アタシは、ハッと我に返った。
なにやってんだろう、アタシ。
これって完全な八つ当たりじゃん…。
「…ごめん、なっち。アタシ、どうかしてる」
「ううん、いいよ…。ごっつぁんが辛いの…判ってるから…。とにかく戻ろう?」
無理してアタシに笑ってみせるなっち。
その優しさが、今は少し…ありがたかった。
心が…ラクになったかもしれない。
そう…、間違ったことをしたら、『ごめんなさい』と謝る。
それに気づけたから。
- 511 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:39
-
「大谷達に聞いたんだけど、紺野が手に入ったからって、すぐに何かをしようとは
しないはずだから」
「? どういうこと?」
「能力者は少なくとも自分の意思で力をだす。紺野だって習いたてだけど一緒」
「つまり、自我がある限り世界をぶっ壊すとか、そんな大それたことはできないってコト」
「というコトは…」
「そう。稲葉は紺野の自我を崩壊させて、その能力だけを利用しようとしてるの」
「そんな無茶な…」
「無茶だと思う? 能力者を作り出してしまうほどの科学者だよ?」
ぐうの音もでない。
稲葉が一体紺野の力で何をしようとしているのかは判らない。
でも、自我を壊すだなんて…そこまでして手に入れたいものってなんなの…?
- 512 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:39
-
「裕ちゃんの計算では、少なくとも一週間はかかるらしいから…とりあえず
体制を整えなきゃ…」
「判った…。二人は戻って、このコト伝えて」
「え? ごっつぁんは? …まさか」
「うん、稲葉にのりこむ」
「ちょっ、何言ってんだよ! 一人じゃムリに決まってンだろ!? それにその傷!
全然治ってないじゃん!」
「でも行かなきゃ」
「ごっつぁん、気持ちは判るけど、今は戻ろう?」
なっちとやぐっつぁんは、必死に止めるように訴えかけてくる。
でも、今この瞬間も、紺野がどんな目にあってるか考えると気が狂いそうなんだ。
行かなきゃ。
行って、あのコに伝えるんだ。
- 513 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/18(金) 14:39
-
「ごめん、アタシ行くよ」
二人の制止を振り切って、背を向けた瞬間。
「!?」
「オヤスミ、真希」
ガスッ!
「っ!? …亜…弥……?」
目の前に笑顔の亜弥が立っていた。その後ろに美貴を連れて。
それから強い衝撃が全身に襲い掛かって…。
アタシは、そこで気を失ったんだ。
自分が、駆けつけた亜弥から、みぞおちにキツイ一発を喰らったんだと
認識できたのは、それから二日後のベッドの上だった。
- 514 名前:tsukise 投稿日:2004/06/18(金) 14:40
- >>496-513
今回更新はここまでです。
>>488 名無しぽきさん
ハイ、忘れられていた彼女登場です(爆
紺野…色々な迷いの中でこのような道へと進みだしましたです(涙
>>489 名無し読者さん
大きな一つの岐路に立った紺野さん…切ないですね(涙
ぐぐぐっと、モニターを見つめて見守って頂ければ幸いです(平伏
>>490 名も無き読者さん
本当に痛々しい展開が続いて申し訳ない限りです(平伏
きっといつかは、彼女の悲しみが取り除かれる…はずです(ぇ
- 515 名前:tsukise 投稿日:2004/06/18(金) 14:40
-
>>491 つみさん
あぅあぅ、悲しみの中で彼女は彼女なりの道へ進みまして…(汗
きっといつかは、彼女の戻るべき場所に戻ってくれる…はず…(マテ
>>492 みっくすさん
紺野さん、痛々しい展開ばっかりで申し訳ないです(平伏
ごっちん、えぇ、きっといつか彼女を救い出してくれるはずですっ(ぉ
>>493 ジルさん
あぁ…っ、痛み止めをご用意できず、申し訳ないっ(平伏
同じく書きながら「痛つつつ」と呟いてます(爆
>>494 どくしゃZさん
一言レス、心でばっちり受け止めさせていただきましたっ(平伏
今回も痛々しい展開で申し訳ないです〜っ(涙
>>495 Stargazerさん
ハイ、もう痛い展開ばかりで申し訳ない限りで(平伏
後藤さんは、紺野さんに引きづられてこんな展開に…(涙
- 516 名前:つみ 投稿日:2004/06/18(金) 15:14
- まさかこんな展開になるとは・・・
彼女の真意は一体何処にあるんでしょう・・・?
次回も待ってます!はやめのこうしんを・・・w
- 517 名前:ku_su 投稿日:2004/06/18(金) 17:06
- 更新お疲れ様です。
痛い痛すぎるよ作者さん…_| ̄|○
あんまり紺野をいじめると後藤さんに怒られちゃうよw
- 518 名前:ジル 投稿日:2004/06/18(金) 18:55
- なっち達の優しさが、痛み止めですね。
大丈夫、リアルの後藤さんも街中で簡単に紺野さんを
見つけられるんですから、きっとここの後藤さんも…。
- 519 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/18(金) 19:28
- うわぁ、紺野さんその手をとってしまったんですね…
紺野さん、後藤さんの気持ちも辛いですが
読んでて思うのは人のココロがわかってしまう
なっちもかなり辛い立場ですね
- 520 名前:星龍 投稿日:2004/06/18(金) 19:36
- 更新お疲れ様です。
安倍さん達優しいですね。
後藤さんには頑張って欲しいです。
これからも無理をせずに頑張って下さい。
- 521 名前:みっくす 投稿日:2004/06/18(金) 22:32
- 更新おつかれさまです。
紺ちゃんの心はもう・・・・
ごっちん頑張れ!
- 522 名前:konkon 投稿日:2004/06/18(金) 23:15
- やばいっす!
めちゃくちゃおもしろいです。
ごっちんと紺野は・・・期待大です♪
- 523 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/19(土) 06:49
- あいたたた…こういう展開ですかぁ。これから益々目が離せない
状態に突入ですね。無理のない更新で、これからも頑張ってくださいませ。
- 524 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/20(日) 16:08
- 用意された部屋は、まるでそこだけ別の空間だった。
昔、絵本で見たような、お姫様の部屋みたいな。
シャンデリアに近いぐらい大きなガラス製の電気に、ふかふかのベッド。
緑色の絨毯は歩くだけで足跡が出来てしまうくらい弾力性があるし…。
一昨日通されて中を見た瞬間、しばらく意識がどっかにいっちゃったぐらい。
居心地が悪いなんていうもんじゃなくて…なんていうか、そう…
『お掃除に来ました』って言って、絨毯に掃除機をかけたい気分。
とにかく、今の私は…とても浮いているように見える…
そんな凄い部屋。
- 525 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/20(日) 16:09
-
稲葉さんと一緒にやってきて、生活を始めて2日目。
なんだかとても、稲葉さんは忙しいらしくて、ここに来てからまだ一度も逢えない。
その代わりに、私にあれこれと良くしてくれるのは柴田さんに村田さん。
初めて二人に逢ったのは、ちょっと前の学校で。
あの時は凄く怖い印象のある人たちだったけれど、本当はとても面白い人たち。
柴田さんはダジャレが好きだし、村田さんはしっかりしているようで、実はとっても
おっとりした人。
昨日の朝食に、じゃがバターが出た時なんて、柴田さんってば…
「じゃがいもを食べ過ぎて、お腹がポテーっとした」なんて言ってたし。
呆気にとられた私に、続けざまに…
「あそこのレストランのランチ、美味しいのか美味しくないのか、わかランチ」なんて
ムキになって笑わそうとしてたっけ。
とりあえず…「星2つ」って答えたら「トホホ」って、がっくししてたなぁ。
なんだか、落ち込んだ姿のほうが面白かった気がする…っていうのは内緒。
- 526 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/20(日) 16:09
-
村田さんは柴田さんが使ってるらしい、電磁マッサージ機が気になったらしくて
使わせてもらってた時、初めての体験に絶叫してたなぁ。
「肩に蟻が!蟻がいる!蟻の行列が!アタタタタタっ」なんて、のた打ち回ってて
爆笑してしまったんだよね。
とてもみんな良くしてくれて…少しずつだけど、私も元気になってきた気がする。
訓練だって、そんな柴田さんと村田さんが一緒にやってくれるから楽しいし。
きっと…ちょっとは力が制御できていると思う。
でも、気がかりな事が一つ…。
- 527 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/20(日) 16:09
-
「こ〜んちゃん」
「あ、は、はいっ」
「そろそろ訓練しよっか」
「はい…っ」
今日もまた、部屋に柴田さんと村田さんがやってきて笑顔で挨拶。
そして…
「じゃあ、はい、これ飲んで」
「はい…」
差し出した手の平に落とされたのは、お水の入ったコップと小さなカプセル。
訓練の前には必ず飲んでる薬。
柴田さん達が言うには、これは心が暴走しないようにするための
『精神安定剤』みたいなものらしい。
でも…なんだか…おかしいんだ。
- 528 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/20(日) 16:10
-
「…飲んだ?」
「はい」
こくん、と喉を鳴らして奇妙な後味を流すように、水をもう一口。
いつも、二人ともそれを見届けないと動こうとしないんだよね…。
そして、飲んだ後には…いつもの不思議な感覚。
「…うぅ…」
「大丈夫? 今日も少し休んでからにしよっか?」
「…すいません…。じゃあ、10分だけ待ってもらえますか?」
「うん、気にしないで…」
不安そうに目線を合わせて顔色を確かめてくれる二人に、目を伏せる。
途端に頭がぼーっとするような…眩暈で目の前がチカチカするような…
そんなのが全身にダルさと一緒に襲いかかってきて。
しっかりしなきゃ、と思って頭を振って耐える。
いつも5分ぐらいで楽になるんだけど、それまでは凄く苦しいんだ。
それから波が去ると、決まって2人から、二、三質問される。
今日もまた…
- 529 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/20(日) 16:10
-
「中澤研究所では、楽しかった?」
「そうですね…、みんな柴田さん達みたいに良くしてくれて」
「例えばどんな人とか?」
「えーと…」
例えば………―――誰がいた?
あれ…? 誰がいたんだっけ…中澤研究所には…?
誰が私に良くしてくれたんだっけ…?
ここのところ、よく……思い出せない…。
「じゃあ、質問を変えるよ。誰か好きな人とかいたの〜?」
「す、好きな人ですかっ?」
「あ、いたんだ〜? 誰、誰?」
「そ、そんな、誰って…」
綺麗な金髪に近いストレートロングのさらさらした髪で…整った輪郭。
端正な顔立ちが笑顔になると、とっても優しくなって…。
どんなときでも、傍にいてくれた人。
- 530 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/20(日) 16:10
-
…あれ?
―――…ちょっと待って…。
そこまで思い出せるのに、…どうして名前が出てこない…?
誰だった?
私が強く想っていた人で…、その人も私を想ってくれてた。
それなのに私は…、そう、その繊細な心と身体を傷つけてしまって…。
あの腕のぬくもり…。
優しい眼差し…。
アルトがかった、それでも心地よい声…。
そう…―――あの人は…。
- 531 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/20(日) 16:11
-
「後藤…さん」
「後藤さん…?」
「あ…、その…、今となっては、きっと一方的に私が想ってるだけなんですけど…」
「まだ、覚えて…るんだ?」
「え?」
「あ、ううん、なんでもない。それじゃあ、顔色もよくなってきたし、そろそろ
今日の訓練を始めよっか?」
「あっ、はいっ、お願いします」
なんだろう…?
一瞬、柴田さんも村田さんも苦しそうな表情で私を見てた。
後藤さんの名前を出した、あの瞬間。
何か…まずいことでも言っちゃったのかな…?
でもその後、柴田さん達はいつもの陽気さで私に訓練を施してくれたんだ。
私も、丁寧に教えてくれる能力を必死に覚えようとしていた。
だから…、ちゃんと気づかなかったのかもしれない。
―――…自分の記憶が、だんだんと曖昧になってきていることに。
- 532 名前:tsukise 投稿日:2004/06/20(日) 16:12
- >>524-531
今回更新はここまでです。
み、短めで申し訳ないです(滝汗
>>516 つみさん
紺野さん…ハイ、思わぬ展開に転がってますね(汗
彼女の真意…きっと表面には見えない深い何かが…?(ぉ
早めな更新、が、がんばりますっ!
>>517 ku_suさん
あぁっ、痛すぎですかっ!? あぅあぅ、申し訳ないですっ(平伏
|Д `)<んぁー……紺野をいじめるなー
あぁっ!後藤さんの視線が痛いですっ(笑
>>518 ジルさん
なっちの優しさ、痛み止めとなりましたかっ。ありがとうございますっ(平伏
えぇ、リアルの後藤さんは後姿だけで紺野さんだと判るんですし。
きっと、うちの後藤さんも…っ!
- 533 名前:tsukise 投稿日:2004/06/20(日) 16:12
-
>>519 名無し読者さん
紺野さん、苦渋の選択で…その手を取ってしまいまして…(涙
えぇ、まさしく紺野さんと後藤さんも辛いでしょうが、
なっちが能力的に一番辛いんでしょうね…(しくしく
>>520 星龍さん
安倍さん達の仲間を思う気持ちが何気に救いですね(ぉ
これだけ支えられて、暴走してしまうような人では、
うちの後藤さんはないので…これから頑張ってもらいたいですねっ
>>521 みっくすさん
紺野さん…相手を思いやるがために自分が…(涙
そんな気持ちを無視するなんて、うちの後藤さんはないでしょうし…
これから頑張ってもらおうかと…っ(ぉ
- 534 名前:tsukise 投稿日:2004/06/20(日) 16:12
-
>>522 konkonさん
やばいですかっ!なんと、めちゃくちゃ面白いだなんて
作者としては嬉しいご感想を頂きましてありがとうございますっ(平伏
ごっちんと紺野…期待どおりになると良いのですが…(ぉ
>>523 Stargazerさん
あぅあぅ、こんな展開になってしまっておりますです…(涙
お互いを思いあうがために、どんどんと辛い状態に…ですね(汗
無理のない更新…うぅ、ありがたいレス、感謝ですっ(平伏
- 535 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/20(日) 16:24
- ( ´ Д `)<!!
なんだこの展開は!
うわーちょっと待て、うわー…
ここからどう転ぶんですか、tsukiseさん…
- 536 名前:林火 投稿日:2004/06/20(日) 16:54
- こんにちは、林火です。
久しぶりの書き込みです。これから紺野さんと後藤さんはどうなるのでしょうか、個人的にはハッピーエンドになればいいのですが・・・
これからも頑張って下さい。
それでは☆
- 537 名前:つみ 投稿日:2004/06/20(日) 18:34
- この展開は・・・!
まさかそんなって感じですね・・・
早くしないと・・!
次回の更新もお待ちしております!
- 538 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/20(日) 20:42
- 更新お疲れ様です。
うあ〜紺ちゃん、危険だよっ、早く気づいてっ!
なんとかしないとやばいよ〜ごっちーん
もうここ最近ずっと続きが気になって気になって…
更新楽しみに待ってます。無理せずがんばってください。
- 539 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/20(日) 20:50
- そうきましたか…何とレスすればいいのか分かりませんが、ここからまた
大きな山があるんでしょうね。ドキドキしながら、待たせてもらいます。
無理なく、自分の体を大切に更新してくださいませ。
- 540 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/20(日) 21:29
- 読んでると誰が本当の悪い奴かわからなくなってきますね…
稲葉サイドも何か理由があってこんなことするのかな?なんて考えてしまいます
更新お疲れ様でした。
- 541 名前:レオ 投稿日:2004/06/20(日) 22:49
- 更新お疲れ様です!!
やばいって!!紺ちゃん(笑)
これからどうなるか非常に気になりなります。
では次回もお待ちしております。
- 542 名前:みっくす 投稿日:2004/06/21(月) 00:25
- 更新お疲れ様です。
なんかヤバイ展開になってきてますね。
ごっちん急げ!!
次回も楽しみにしてます。
- 543 名前:ku_su 投稿日:2004/06/21(月) 05:08
- 川o▼-▼)ノ<後藤さんをいじめたら正拳突きです…
だそうですので気を付けて下さい
特に夜道は…
- 544 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:34
-
―――…光の中に、アタシはいた。ううん、アタシ達は。
目の前では、一糸纏わない姿で泣きじゃくっているあのコがいる。
『やだ…っ』と何度も叫びながら、アタシにすがりつくようにしているあのコが。
でも、アタシの決心は揺らがない。
『どこにもいかない。アタシは紺野の中にいるから』
自然と動く唇からは、そんな言葉が紡ぎだされる。
自分の身体に起こる変化を感じながら。
その様子をどこか客観的に見ている自分がいた。
だって、これは夢なんだと知っているから。
そう、もう何度となく見た夢。…きっとそのつづき。
- 545 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:35
-
―――…そうか…そうなんだ…。
妙に納得している自分がいる。
もう、この状況になんの疑問もなかったから。
すべてが、…理解できたから。
これは、…そう、夢であって夢じゃない。
きっと、アタシとあのコ…紺野の…―――。
でも、不思議。
夢から覚める瞬間、何故か全てを受け入れられるような、静かな気持ちで。
それで…いいのかもな、って。
そういうのも、一つの約束の形なのかな、って…そう思えたんだ。
- 546 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:35
-
何度目かの、白い天井を見つめながら目覚めた。
調子は、かなりいい。
夢の残光に振り回されることもなく。
今まで中で、きっと一番と言っていいほど。
寝起きサイアクのアタシには、本当に珍しいくらい。
ぼんやりと起き上がりながら、理由の一つに気づく。
全身の至る所にあった包帯が、まったくなくなっていたんだ。
当然傷だってない。
そう、紺野からもらった傷が…完治したんだ。
確かめるみたいに、腕を曲げたり伸ばしたりしてみる。
うん…、もう身体も自由に動く。
これなら、いつだって…。
「後藤さん?」
「? 亀井に道重?」
ベッドから起き上がろうとしたアタシに、部屋に入ってきた二人が目を丸くする。
- 547 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:35
-
「ま、まだ、ダメですよぉっ、後藤さん、すっごくケガしてたんですよ!?」
「もう治ったし」
「でも、二日間も死んだみたいに眠ってましたし…」
「二日間…っ? そんなに?」
ほらほら、なんて身体をベッドに押し戻されながらアタシは記憶を辿っていく。
紺野がいなくなって、研究所を飛び出して…そして…アヤカから連絡。
なっちとやぐっつぁんが止めて……。……亜弥のパンチか。
なんか、アタシ結構亜弥に主導権握られてない?
ちょっと、ムっとくるかも。
「はいっ、食事ですっ」
「え?」
ボスン、とアタシがベッドに戻ると同時に亀井は膝にトレイを押し付けてきた。
ガチャンと音を立てて、目の前に広がる食事に……一瞬固まった。
- 548 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:35
-
「えっと…?これ、亀井が作ったの?」
「さゆが忙しかったみたいなんで、はい、今日は絵里が作りましたっ」
「……へぇ」
「最近、絵里とさゆは研究所の調理補助をしてるんですよ〜♪能力がなくても
頑張れば、なんだってできちゃうんですよぉっ」
……ふぅん…、それはいいんだけど。
どうしよう、警告音が頭の中に鳴り響いてる。
視線はトレイに並べられた『それら』から離れない。
多分、魚を焼いたんだと思うけど…黒い炭の塊になってしまってるし…。
ご飯は、水分を含みすぎてて、粒がなくなってしまってるし…。
一番目を見張ったものは、デザート。
なんだろう…? これはもう…食べ物ではないような…そんな色してるし…。
ふと見ると、道重が『うわぁ…』ってカンジの不安そうな顔をして。
『やめておいたほうがいいと思います』って、その目が言ってる。
アタシも…そう思う…。
けどさー…
- 549 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:36
-
「絵里の自信作ですっ! どうぞっ」
キラキラした純粋な目が…痛い。
これは…やっぱ、食べなきゃ…マズイよねぇ…。
「…いただきます」
おもむろにお箸を手にとって…、とりあえず炭の塊…じゃなかった、
焼き魚を掴む。…途端にボロボロと崩れるけれど、なんとか一かけらだけでも。
それから…震える手で…口の中へ。
「………」
「どうですか?」
「………」
う、うん…、えっと…まぁ…。
コメントに困るアタシに、道重の『頑張ってください』という視線。
なんで、こんな目に…。
「う、うん、なんだろう、パサッとした新食感と魚以上の苦味が独創的だね」
「ありがとうございます〜っ」
や、ホメてないんだけど。
亀井って…意外とツワモノかもしれない…。
- 550 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:36
-
「どんどん食べてください?」
「あ、その前に…」
ってか、もうムリ。
思わず箸を投げ出してしまったし。
困ったみたいに道重が差し出してくれた水を飲んで口直し。
とりあえずこの2日間の状況を聞かなきゃ。
じゃないと、動きようがない。
「この二日間で、何か変わったことはあった?」
「二日間でですか? なんかあったっけ、さゆ?」
「えっと…」
なんだか、道重の方が亀井よりしっかりしているっぽいかも。
暴走しそうなところを制御する、みたいな?
- 551 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:36
-
「後藤さんが眠っている間に、皆さんで今後の方針を決めていたそうです」
「それで?」
「斉藤さんと大谷さんに案内をしてもらって、明日にでも稲葉製薬会社に
奇襲をかけるらしいです」
「へぇ…」
「多分、詳しくは中澤さんが説明してくれると思います。さっき、後藤さんが
目が覚めたのを部屋のモニターで確認して、『ちゃんと説明しとかななぁ』って
言ってましたから」
「そう、ありがと」
「いえ」
なるほど、ね。
もう中澤裕子も、ヤバイって感じていたのかもしれない。
紺野が稲葉の手に移ってしまった以上、いつ、何が起こってもおかしくないんだから。
1週間は大丈夫、なんていっても、実際にその一週間何も起こらないなんて保障はない。
なら、事が起こる前に、紺野を取り戻さなくてはならないんだ。
すべては…明日か…。
とは言っても、もう今から数時間後の話。
アタシにしては随分眠ってしまったみたい。
- 552 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:37
-
明日…ね。
その言葉が、酷くアタシの胸の中を刺激していく。
思い出のアルバムの中で、一番大切なページを見つけた瞬間のように。
一日一日が当たり前のように過ぎていってたから、明日があるっていう
大切さに今の今まで気づかなかったかも…。
そう、全てが当たり前すぎたんだ。
そんなもの、ありはしないのに。
アタシにとっては、きっと明日が…―――。
でも、今アタシにはまだ時間がある。
『明日』が来る前にできることがある。
だったら、できることは全部やってしまおう。
後悔なんかしたくないから。
- 553 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:37
-
「ねぇ、亀井、道重」
「はい?」
「田中を呼んできてくれる?」
「れいなですか?」
「うん、ちょっと二人だけで話したいことがあるんだよね」
「はぁ…、判りました」
二人はちょっと首を傾げながら、アタシの部屋を後にした。
残されたアタシは、ふとテーブルに置かれてあるサングラスを手に取る。
紺野がアタシにくれたサングラス。
アタシと紺野を繋いでくれたのも、このサングラスの存在だったのかも。
そして、きっと…これからも、アタシ達を繋いでくれるモノ。
- 554 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/21(月) 18:37
-
「泣かないで、ね?」
身勝手にも、そんなことを呟いて、ぎゅっとサングラスを一度胸に抱き締める。
アタシの心を埋め込むように。
泣き虫なあのコの事だから、きっと顔をくしゃくしゃにして涙を零すだろう。
でも…―――その時、アタシは…。
だからせめて、今この瞬間、強く祈る。
紺野が幸せになるんだったら、アタシはなんだってするよ、と。
- 555 名前:tsukise 投稿日:2004/06/21(月) 18:38
- >>544-554
今回更新はここまでです。
>>535 名無しぽきさん
名無しぽきさんにtsukiseさんと呼ばれると照れくさいですね(笑
ここから転んでいく道…結構怒涛になりそうです…(汗
>>536 林火さん
久しぶりのレスということでありがとうございますっ(平伏
紺野さんと後藤さん…、ハッピーエンドに…なってほしいですね…(ぇ
>>537 つみさん
まさしく本当に時間との戦いになっちゃってますね(汗
これからの二人の行動、どうぞ見守ってあげてくださいませ…(平伏
>>538 名無飼育さん
更新を楽しみにしていただいて、ありがとうございますっ(平伏
本当に、紺野さん危険ですね…(汗 もう後藤さんの行動が鍵だとしか…(涙
- 556 名前:tsukise 投稿日:2004/06/21(月) 18:38
-
>>539 Stargazerさん
ハイ…まさしくこれから大きな山へと向かって行くカンジです(汗
応援レス…励みになってますっ、ありがとうございますですっ(平伏
>>540 名無し読者さん
混迷してしまっている人間関係で、深い読みをして頂いてっ(感涙
徐々に明らかになっていく展開を見守って頂ければ幸いです(平伏
>>541 レオさん
本当に、やばいですっ!紺野さんっ!(笑
これから怒涛の展開になりそうですが、お付き合い下されば幸いです(平伏
>>542 みっくすさん
ヤバイ展開が続きまして申し訳ない限りですが(苦笑
本当に、ごっちんには急いで彼女の元に行ってほしいものですね(ぇ
>>543 ku_suさん
あぁっ、正拳突きですかっ!? あぅあぅ、甘んじて受けるしか!?(笑
よ、夜道の一人歩き…黒紺野さんに逢わないよう十分に気をつけますっ(笑
- 557 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/21(月) 19:29
- 更新お疲れ様です
ドキドキしながら更新待ってました
紺野さんがひとつ決断したように後藤さんもまた心の中でひとつ決断したんですね
願わくばもう一度二人に笑顔が戻りますように。。。
- 558 名前:ジル 投稿日:2004/06/21(月) 19:50
- も、もしかして…?な展開にドキドキ。
後藤さんの食事シーン笑えました。道重さんが素敵です。
- 559 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/21(月) 20:23
- うわぁ〜うわぁ〜って心の中で叫びながら読ませてもらいました。
続きが気になって気になって仕方がありません。w
更新お疲れ様です。
- 560 名前:みっくす 投稿日:2004/06/21(月) 23:08
- 更新おつかれさまです。
ごっちんも気持ちが固まった様で。
あと、れいなとはなにを?
- 561 名前:つみ 投稿日:2004/06/21(月) 23:39
- いよいよっすか・・・
気になることが山ほどありますけど、
ごっちんと紺野を信じていきたいですね。
あとほんとに田中さんには何を話すんでしょうか・・・?まさか・・・
次回を待ってます!
- 562 名前:ku_su 投稿日:2004/06/22(火) 01:50
-
今日は真面目に…
(ヽ、,/) ミ
,、 ⌒ (( | | ,-、-、 ミ
∋8ノノハ ∋8ノノハ (V⌒⌒) ⊂ つ (( / J J ミ ∋8ノノハ ∋8ノノハ
キタ━川o・-・)━⊂川o・∀・)⊃━⊂川 )⊃━川 )━⊂川 )つ━川o・д・)━川o゚∀゚)━!!
(つ )つ ( 〈 (( ノノハヽ ノノハヽ ノノハヽ (( ⊂ つ (つ )つ
(_)_) `J J 彡 彡 彡 ヽ、つつ << >> カクカク
ミ ミ 彡
ではw
- 563 名前:星龍 投稿日:2004/06/22(火) 18:21
- 更新お疲れ様です。
亀井さんの料理びっくりしました。
後藤さんは田中さん何を話すんでしょうか・・。
これからも頑張ってください。
- 564 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:10
-
明らかに『今さっきまで眠ってました』って顔をして田中がアタシの部屋をノックした。
「寝起き悪いんですよ」なんて言葉が、ますますアタシに似てるなぁ、なんて
感じさせて、小さく笑ってしまったっけ。
本当はここで話してもいいんだけど。
部屋の隅にあるレンズの存在が邪魔っぽいね。
基本的に、アタシは人の目を気にしながら話すのは好きじゃないから。
だから、リハビリを兼ねて中庭までの散歩に田中を連れて行く。
さすがに2日間も眠っていただけあって、身体が鉛のように重いかも。
気遣うように声をかけようとしてる田中がその証拠。
でも、やっぱ意地っ張りな彼女らしく、アタシが視線を向けると
明後日の方向を向いて、何事もないようについてくる。
- 565 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:11
-
「話したいことってなんですか?」
せっかちな部分もまるでアタシの過去を見てるみたい。
そう、だから彼女を選んだ。
きっと、アタシのキモチをゆっくりでも理解してくれると思ったから。
「うん、田中にお願いがあってね」
「お願い?」
問い返した田中に、一度笑いかけて中庭へ続く扉を開く。
春の甘い香りを乗せた風が、すぐに頬を撫でていく。
そして、目の前に大きくそびえ立つ、くすの木。
大地に深く根を下ろして、この建物全体を見守る番人みたい。
でも、嫌なカンジはしない、むしろ安心するようなその存在。
この木も…しばらく見れないな…。
心の中で呟いて、それから田中に話を切り出す。
- 566 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:11
-
「もし、さ…」
「…?」
「もし、アタシになんかあったら、紺野のコト…守ってやってくんない?」
「はぁっ!?」
間髪いれずに、田中は素っ頓狂な声をあげて目を丸くした。
アタシの真意がわからない、とでもいうように眉まで寄せて。
「田中ができる範囲でいいから」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ…!なんでそんなコトいきなり言うんですか?」
「田中が適任だと思うから」
「そうじゃなくて!」
「あーもう!」なんていいながら、頭をかきむしる田中。
判ってる。言いたいこと。
紺野を守るのは、アタシの役目だってことだよね?
判った上で言ってるんだよ。
- 567 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:11
-
「だいたい、なんでれいななんですか? 松浦さんとか藤本さんとか、他にも
いっぱい、いるじゃないですかっ!」
「紺野が親しくしてるのって、田中っぽいし」
「っぽいって…、そんな曖昧な」
「紺野の性格考えたら、きっと年上だと恐縮しそうじゃん?」
「…それで、れいななんですか?」
「そう」
「意味わかんないですよ」なんてブツブツ言う田中だけど、まんざらでもないみたい。
田中が紺野と喋っている時の、恋愛感情とはまた別の好意をアタシは知っている。
きっと、彼女なら上手く立ち回れるはずなんだ。
「もしも、の時だから」
「本っ当に、『もしも』の時ですね?」
「うん、田中だから頼むんだよ」
しばらく、溜息をついたり唸ってみたり、その場で行ったり来たりしていたけれど、
やっと納得してくれたのか、田中は静かに頷いてくれた。
- 568 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:12
-
「…判りました。まぁ、絶対れいなが紺野さんを守るなんてないと思いますけど」
「そう?」
「だって、後藤さんがいるじゃないですかぁ」
「ま、そうなんだけどね」
「……これでもれいな、後藤さんのコト高く買ってるんですよ?」
「ありがとう」
そう、判ってる。
田中は、なんだかんだ言いながらも、アタシとの実践にちゃんとついてきてる。
何度倒れてもアタシを信頼して、ぶつかってきてくれてる。
だからこそ、アタシも信頼で返すんだ。
「そうそう、それと…」
「? なんですか?」
「亀井と仲良くしなよね」
「!? ななな、なんです、か!?」
途端に、めちゃくちゃ動揺する田中。
え? バレてないとでも思った?
いくらアタシにだって判る、明らかに他のみんなに向けるモノとは違う眼差し。
や…判るようになったっていう方が正しいか。
- 569 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:12
-
「だって田中、亀井が…」
「ち、違いますよ! れいな別に好きなんかじゃ…!」
「アタシ、好きってまだ言ってないけど?」
「〜〜っ、も、もう、話は終わったんですよね!? れいなもう行きますよ!?」
「あはっ、うん。ありがと。それと…ヨロシク」
ヒラヒラと手を振るけど、田中は一目散に建物の中へと駆け込んで行ってしまった。
相当、冷やかされるのが恥ずかしいみたい。
ま、誰だってそうなのかもしれないけど。
「…好き…か…」
まさか自分も誰かを好きになるなんて思ってもなかった。
しかもそれが、ナンパから助けた女の子なんて、おかしいよね。
思わず頬が緩んでしまう。
短い間にこんなにも惹かれあうなんて、って。
たった一ヶ月にも満たない間に、いろんなことがあった。
泣かせたり、怒らせたりしたし、アタシだって泣いたり怒ったりした。
これからだって、あのコは泣いたり怒ったりするだろう。
でも、出来ればいつも…笑顔でいてほしい。
そんなことを、くすの木を見上げながらぼんやりと思っていたんだ。
- 570 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:13
- ・
・
・
気づいたときには、真っ白な世界が目の前に広がっていて…。
頭の中が、ぼうっとする。
なんだか…全てが霞がかってきているような、意識が溶け込んでしまうような…。
次第に、意識の輪郭がなくなって…どこに自分がいるのか…。
判らなくなって…きてる…。
そのまま…――瞼が、ゆっくりと落ちていく。
…そうだ…、そうすれば…もう何も見なくて済むんだ…。
嫌な思いをすることもなくなるんだ…。
なんだか、ここは…悲しみに満ち溢れた、白い空間で…。
たくさんの人の涙が、ここを作り出しているような、そんな気がする。
同じ想いをしないように、守るように…。
でも…私は…。
―――…私は、その悲しみを、もう知っている。
そして…その悲しみを、あの人にも…与えてしまった。
あの人…そう…大好きな…失いたくない…。
- 571 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:13
-
―――…誰、だった?
- 572 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:13
-
「…4、…004、聞こえる?」
どこからか聞こえた私を呼ぶ声に、瞼をもう一度開く。
白い光に包まれながらも、視線の先に見知った顔を見つけて微笑む。
「柴田さん、村田さん…それに稲葉さん」
稲葉さんは私の返事に頷いてる。
「調子はどない?」
「悪くないです」
「そう。明日の朝には、分解が始まるから」
「はい」
「そしたら……その力をアタシらのために貸してくれるか?」
「もちろんです。能力を持った人たちが助けられるんなら」
答えて、私は今の状況を確かめる。
大きな筒状のガラスの装置に入っている一糸纏わない私。
白い光が、優しく包み込んでくれていて…心が落ち着く。
その前に、私には知りえない大きな機械。
稲葉さんが開発したらしいもの。
- 573 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:13
-
明日、私はここで…―――肉体を脱ぎ去る。
でも、恐怖はない。
だって私は魂だけの存在になって、その力を能力者のために活かすんだから。
私一人の意識で、たくさんの人が救われる、そう考えれば全然怖くない。
そう、能力者が救われる。
稲葉さん達が、教えてくれた。
今まで、どれだけの能力者の人たちが蔑まれてきたのか。
それを救う為にも私の力が必要らしい。
きっと私もそんな差別に逢ってきたんだろうけど…記憶がない。
でも、そんな私によくしてくれたみんなの為にも…私は喜んで『私』を差し出す。
不思議なのは、柴田さんや村田さん。
稲葉さんのその方針に、何度も『これでいいんですか?』って訊ねたりして。
「紺ちゃん」なんて不思議な名前で私を呼んだりするんだ。
私には、そんな名前なんてないのに。
004という被験者番号しかないのに…。
- 574 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:14
-
「アンタの素粒子の力は特殊なモンでな…心で思ったことが何らかの形で
現実を動かす可能性があるんや」
「はい」
「その可能性に、アタシはかけてみたいんや。能力者にとって苦しみのない
世界を…作りたいんや」
「はい」
「…わかって、くれるな?」
「はい」
確認するように稲葉さんが話してくれる。
うん、私も判ってる。
稲葉さんの考えも間違ってないと思う。
私一人が、身体を差し出せば全て上手くいくはずなんだ。
だったら…私は、
- 575 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:14
-
『…――――こんの』
…っ!?
な、なんだろう…?
今、誰かの声が、耳に届いた…。
こんの?
こんのって?
誰? 今のは誰の声…?
初めて聴くはずなのに、酷く懐かしい気持ちになる。
そして…胸が締め付けられるような切なさが…広がって…。
- 576 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:14
-
「004? どうしたん?」
「っ、なんでもないです、大丈夫です」
「そう? ならええんや。ほんなら、明日一番で始めるから」
「はい」
それだけ告げて、稲葉さんは部屋を出て行った。
柴田さんと村田さんも、不安げに何度も私に振り返りつつ。
残された私は奇妙な感覚に、首を傾げる。
なんだったんだろう、一瞬距離感を失うほど真っ白だった空間が薄れた気がする。
誰かの声が、耳に届いて…。
私は…――その声の主を知ってる…?
判らない…、でも大切な何かを落としてしまったような…
不思議な喪失感が胸に広がって…。
そのまま私は、意味の判らない不安に包まれながら…眠りについたんだ。
ただ、真っ白な光だけが私を照らし続けていたっけ…。
- 577 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:14
-
ふと、自分の部屋へと戻ろうとしたとき、見知った顔を見つけて、立ち止まった。
視線の先、廊下のちょっと先の部屋の中で、中学生ぐらいの子、二人を
呆れたように腰に手をついて見てる。
白い白衣に、鋭い目…、中澤裕子だ。
一体なにを…?
好奇心に背中を押されて、その部屋へ少し歩み寄る。
中の様子が見えるぐらいの距離で。
きっと向こうからは、アタシは見えないだろう死角の場所に。
「なんで、そんな事言うん? 『いなくなっちゃえ』なんて、あかんやん」
「だって…っ、桃子ちゃんが先に『どっかいっちゃえ』って言ったもん」
「梨沙子ちゃんが先に言ったんだよ!」
「あーもー、 どっちが先にとかは、どうでもええんよ。問題は、なんで
力を使ってケンカをしたかってこと。授業以外で使ったらあかんって
いつも言うてたでしょ?」
- 578 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:15
-
どうやら、キッズの二人がケンカで力を使ってしまったコトを怒っているらしい。
確かにアタシら能力者は、そのキモチ一つでどんでもないこともできてしまう。
ここでは、それがご法度になってるのか…。
「ここのところ、すっごい仲悪いらしいね。なんで?二人とも前まで仲良かったやん?」
「…桃子ちゃんが…『力がちゃんと使えないなんて、バカみたい』って言ったもん…。だから」
「梨沙子ちゃんだって、暴走しちゃった私の力を見て『化け物みたい』って言った!」
「あ〜〜、わかった、わかったから、ちょー落ち着きぃ」
ピリピリし始めた空気に、中澤裕子は二人の頭をおさえる。
確かに、子供のケンカにしては…ちょっと行きすぎかもしれない。
しかも、二人は幼いながらも能力者。
このままだと、きっとこの場はおさまったとしても、これからだって…
何かあるたびに、二人は衝突していくかも。
- 579 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:15
-
「しゃーないなぁ…。あんまりこの方法は使いたくないんやけど…」
溜息混じりに呟いて、彼女は二人と目線を合わせるようにしゃがんで、
そっと二人の瞼の上に手をかざした。
その瞬間、アタシは目をみはる。
「ここ一ヶ月の記憶、飛ばしてもらうで?」
言った途端、淡く光りだす彼女の両手。
それは、覆っていた二人に何かを送り込むように。
この感覚…まさか、…――能力の発動?
瞳の変色は見えない。きっとコンタクトでも使っているのかも。
でも、あれは間違いなく…。
さっき確かに記憶を飛ばすって言った…。
それは、当然普通の人間ができるようなもんじゃない。
だったら、やっぱり…、彼女はアタシらと同じように…。
- 580 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:15
-
疑問が形になったのは、そのすぐ後だった。
光が掻き消えると同時に、二人は彼女の腕の中に倒れこんだんだ。
見たところ、気を失ってしまっているみたい。
突然のことに、その場で呆然としてしまったアタシに…
「後藤、そこにおるんやろ?」
やれやれ、というような声をかけてきたから。
さすがにバレてしまっては、ここにいても仕方がないか。
アタシは彼女のいる部屋へと入っていく。
「…疑問、バッチリ顔に出てるで?」
「え?」
「『アンタも能力者だったの?』…って訊きたいんとちゃうん?」
「………うん」
ふっと口元を緩めて、彼女はその手に倒れこんだ女の子を近くのイスに座らせた。
その手を故意的に繋がせて。
なるほどね、目が覚めたら仲良し二人組の出来上がりってワケか…。
- 581 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:16
-
それから、その隣に座り込んでアタシにも座るように促してくる。
話してあげるから…、はっきり向けられた視線が語ってる。
どこか諦めにも似たような笑みが、いつもの彼女からは想像も出来ないくらい
『弱さ』を表しているように見えたっけ。
「アンタの思ってる通り、アタシも『能力者』や。能力は人の記憶を消すことって
言ったほうが判るな」
「記憶を消す…? 記憶操作ではなく?」
「そ。ただ、記憶を消すことしかできひん」
「なんで、そんな能力がついたの?」
訊ねると、彼女は可笑しそうに笑って「アンタは刑事には向かんなぁ」なんて言ってきた。
暗に、からかわれているみたいで、面白くない。
でも、そんなアタシの頭をくしゃっと一度撫でて、彼女は言葉を続けた。
- 582 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:16
-
「『ハロープロジェクト』って覚えてるか?」
「…? ヒトを作る研究のコト?」
「そうや。その研究チームに入って、アタシが初めて携わったのは…
初の人体実験の被験者としてや」
「え…?」
「7歳、なんて年齢が一番好都合やったんやろうなぁ…。受精卵や赤ん坊に
遺伝子操作をする前に、幼児でも可能か、確かめたんよ、アタシで」
なんでこの人は…他人のことを話すように言えるんだろう?
初の人体実験の被験者って…言い換えれば『初めて生まれた能力者』ってコトでしょ?
そんなに割り切れるものなの?
「そんな目で見なくてええよ。これでも、この能力で助かったことも色々あるんやから」
さっきの二人みたいに辛いことを忘れさせたりな、なんて笑う彼女。
確かに…能力を持つと辛いことだってあるけれど、助かるコトだってある。
わかる、わかるけど…。
- 583 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:16
-
「でも、そのせいで…あっちゃんを巻き込んでしまった」
「あっちゃん…? 稲葉貴子?」
「あの時、あの子とアタシのどちらかが被験者にならなくては、ならんかったんや」
「……アンタに、負い目があるってコト?」
「負い目…か。いや、もっと、ややこしい感情があったんかもな」
ややこしい? なんだろう、それは。
でも、いくら待っても彼女はその『ややこしい感情』については話さなかった。
ただ、どこか遠くを見つめるみたいに目を細めていたんだ。
「後藤、よう覚えとき」
「? なに?」
「正義っていうんは、人の数だけあるんや。その人がもつ、それぞれの正義が」
「正義…?」
「しかも厄介なんが、その正義を崩すのも、やっぱり正義やねん」
「? 意味わかんないんだけど?」
「ようは、『アンタはアンタの信じる正義を貫け』っちゅー話や」
「アタシの…正義?」
「たとえ、誰もが反対するような正義でも…な」
「…っ!」
- 584 名前:混迷の先に 投稿日:2004/06/22(火) 20:16
-
心臓が、ドクン、と跳ねた。
まるで心を見抜かれたような感覚に。
まさかアタシのしようとしているコトを彼女は知ってるのか、というぐらい。
けれど、彼女の顔を覗き見て…否定する。
遠くを見つめるような、その不思議な眼差し。
それはもう、届かない過去を見ているような…ぼんやりとしたもの。
そこで気づく。
彼女は…アタシにではなく、『過去の自分』に今の言葉を伝えていたんだ、と。
もう戻れない、自分自身が進んでしまった道に向かって。
彼女と、稲葉貴子に何があったのかはわからない。
きっとアタシなんかが踏み込めない、深い感情がそこにあるんだろう。
けれど、彼女の眼差しの中に…アタシは確かに見た。
彼女の信じる正義が、稲葉貴子の正義を貫こうとするほど鋭い光があったのを。
こういう時のアタシの勘は必ず当たる。
彼女も…明日、何かと決別するんだろう、と。
- 585 名前:tsukise 投稿日:2004/06/22(火) 20:17
- >>564-584
今回更新はここまでです。
駆け足気味で申し訳ないです(汗
>>557 名無し読者さん
更新をドキドキしながらお待ちくださったようでありがとうございます(平伏
二人の決断、形は違えど二人とも相手を想っての事なのに…ですね(涙
きっと、いつか二人に笑顔が…(ぉ
>>558 ジルさん
もしかして、な展開…はたしてどうなるでしょう…。
食事シーン、何気に道重さんの無言の眼差しを強調したかったので
ご感想、嬉しい限りです〜(笑
>>559 Stargazerさん
うぁーっ、叫びながら読んでくださってたんですかっ
あぅ、ありがとうございますっ!更新スピードがまばらですが
またまたお付き合い下されば幸いですっ(平伏
- 586 名前:tsukise 投稿日:2004/06/22(火) 20:18
-
>>560 みっくすさん
ごっちんの気持ち、はい、固まったようですね♪
田中さん、意外とキーパーソンだったり…?
どうぞ、見守ってくだされば幸いですっ(平伏
>>561 つみさん
き、気になることが山ほどですかっ!?(汗
あぅ、全部消化できるか不安ですが、どうぞごっちんと紺野を
温かく見守って下さればありがたいですっ(平伏
>>562 ku_suさん
PCの関係上、作者のページ表示が狭くて一瞬、どんな形のAAなのか
判らなかったですが、す、凄い紺野さんですね、かなりビックリしましたです。
では私めも今日は真面目に…、どうぞ二人の今後を温かく見守ってくだされば幸いです。
>>563 星龍さん
亀井さんの料理ネタは、ハロ○ニのマンゴープ○ンで思いついたり(笑
後藤さんと田中さん、ひっそりと大きな話をしてしまったり…?(ぉ
応援レス、いつもありがとうございますっ(平伏
- 587 名前:つみ 投稿日:2004/06/22(火) 20:39
- 大量更新お疲れ様でした!
やはりこんちゃん・・・
ごとーさんの田中さんに託した思いも気になりますが、
中澤さんの秘めたる思いが気になるところです。
はやく『明日』をお待ちしております。
- 588 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/22(火) 20:43
- 物語もいよいよ大詰めに向かってきましたね。今回更新分は、あいたぁって
呟きながら読ませていただきました。w 今後、色んな想いが交錯して
いくんだろうなぁ。次回の更新も、楽しみに待たせてもらいます。
更新、お疲れ様でした。
- 589 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/22(火) 22:38
- こーんーのーさーん・゚・(ノД`)・゚・。
心臓をグッと掴まれる展開ですね・・・
紺野・後藤・中澤・稲葉、それぞれの想いがあってそれぞれのやり方があって…
難しいですね…
また笑顔で冗談言い合える時間がくることを祈ってます・・・
- 590 名前:みっくす 投稿日:2004/06/22(火) 23:40
- 更新おつかれさまです。
ごっちんのれいなに託した思いからして、ごっちんは・・・
あと中澤さんも何かを決意したようで・・
それぞれの思いが良い方に行く事を祈って、
次回も楽しみにしてます。
- 591 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 21:44
- 中澤と稲葉・・・
丁と庚のようだ。
- 592 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 23:59
- 能力者のために。
そのための犠牲には気付かなかったか。
痛くなると思いつつも、更新が楽しみです。
- 593 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:05
- 空がずっとずっと高くて。
もう、春の陽は暖かくて―――風が頬を優しく撫でていく。
この一瞬一瞬を、アタシは忘れないように瞼に焼き付ける。
「紺野…」
あのコにとって、アタシは…そう、終わりのない物語のページをめくる風でいい。
あのコの髪を…あのコの夢を、そっと揺らす風になりたい。
淋しいとき、微笑むとき、胸の中にはいつもアタシがいたい。
それはもう、この姿では叶わないけれど。
でも、一緒にいられる方法をアタシは知ってるから…。
だから…。
「助けに、行くよ」
- 594 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:05
-
スっと、その手に持ったサングラスで目元を隠して、一度大きく息を吸い込む。
色々あったなぁ…なんて感慨深く感じながら。
「…あれ?後藤さん?そろそろ時間ですよ?」
「うん、わかってるよ」
田中の声を背中に受けて、アタシは頷く。
そして、中庭の景色をもう一度だけ見渡して…踵を返した。
さぁ、行こう。
あのコが待ってるから。
- 595 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:06
-
「ほんなら、もう一度説明するで?」
動力室に集まったアタシらは、中澤裕子の声にじっと耳を傾ける。
ほぼ全員の能力者が集まっているだけあって、ちょっと息苦しいけれど。
「藤本・後藤・松浦・田中がいわゆる『突撃班』。斉藤らが言った建物の
中心部分の実験場に向かって」
「りょーかい」
美貴の間延びした返事。
でも、その目はいつもより緊張を含んでいる。
「それから、矢口になっちは、電力をシステムダウンさせるために
制御室へ。あさみ・まい・みうなは、研究員たちを撹乱させて」
「わかった」
「了解です」
やぐっつぁんがいれば、電力カットとかは大丈夫そう。
人間発電所みたいなモンだし、ね…。
ふと、視線が交わったなっちが、ブっと一度噴出した。
内緒だよ、とアタシも軽く笑う。
- 596 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:06
-
「で、アタシは、システムダウンと同時に中に入ってハッキングかけるわ」
「あ、あのっ!」
「うん?」
そこまで、黙って部屋の隅で聞いていた亀井が、突然声を上げた。
真剣な中澤裕子の瞳は、ちょっと鋭すぎたみたいで、一歩後ずさってしまったみたい。
でも、それでもきゅっと一度口を結んで、道重と手を繋いでアタシらに歩み寄ってきたんだ。
「わ、私達も、何か手伝わせてくださいっ」
「んー? 亀井達に?」
「は、はい…っ、私達だって何かしたいんですっ。皆さんが頑張るのに…その…」
「うーん…」
そこで一度顎に手を当てて考え込んでしまう中澤裕子。
意志は尊重してあげたいけど…というような難しい視線。
と、そこに、やぐっつぁんがちょっと笑みを浮かべて肩にもたれ掛かってきて。
「でもさぁ、ホラ、料理とかの失敗もあるし、軽い気持ちで手伝ったりして
足手まといとかになったらねぇ〜」
…なんだか一瞬口の中に苦い感覚が広がったような…。
でも、二人が手伝いたいというのなら…。
アタシの夢の中にも…彼女達の姿もあったし…。
『いいんじゃない?』といいかけた瞬間、
- 597 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:06
-
「絵里もさゆも、いい加減な気持ちで手伝ったりしませんよ!」
「た、田中…?」
「絵里とさゆが、なんでも一生懸命にする姿も知らないで勝手な事
言わないでください!」
凄い剣幕の田中に、一瞬誰もが言葉を失う。
やぐっつぁんなんて、目を白黒させてポカンとしてしまってるし。
それでも、さすがにこの状況はマズいと思ったみたいで。
「や、いや、ごめん…そういうつもりで言ったんじゃ…」
狼狽しながらも、田中に謝ってみせた。
それでも憤慨したみたいにそっぽを向く田中に、アタシは思わず頬が緩んでしまう。
田中のキモチを知らないワケでもないから。
「田中」
「…はい」
頬を膨らませてる田中に、アタシは軽く頭を撫でてやる。
それから、できるだけ優しく言ってやったんだ。
- 598 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:07
-
「やぐっつぁんも本気で言ったんじゃないよ。ただ、能力者じゃない二人が
もしも危険に巻き込まれたら…って心配して、わざと言ったんだよ」
「え…」
ぱっと顔をあげる田中に、やぐっつぁんは「あーいや…まーなんだ…」と
困った笑顔を向けていた。
そう、みんな、こんな時だからこそ、相手を思いやってるんだ。
「あ、生意気言って…すいませんでした…」
「やー気にしないで。うん、オイラも言い方が悪かったから」
素直に謝る姿に、みんながホっとする。
それから、その様子をじっと見ていた中澤裕子がポン、と軽く手を叩いたんだ。
「ほんなら…二人はアタシのアシストとして一緒に行こか?」
「え…? いいんですかっ?」
「いいんですか?って、アンタ、『是非つれてってください』って顔してるやん」
軽い突っ込みに、亀井は『エヘヘ』と嬉しそうに笑って返して。
ちょっとの不安はあるけれど、まぁ…道重も一緒だし亀井の暴走はなんとかなるかな…。
田中も、嬉しそうだしね。
- 599 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:07
-
「よっしゃ…、ほんなら…行こか」
『…了解』
全員の声が重なる。
と、その時。
ピリリリッ ピリリリッ
突然鳴るアタシの携帯。
みんなの視線を気にしながら確認して、通話ボタンを押す。
「…アヤカ?」
『マキ!? 良かった、繋がって…!』
「どうしたの?」
『どーしたも、こーしたもないよ! 今すぐ稲葉製薬会社の方を見て!』
「稲葉製薬会社?」
『いーから!! そう!TV!今どこでも中継されてるから点けて!!』
あまりにも尋常じゃないアヤカの慌てぶりに、アタシは中澤裕子に振り返り
この部屋からTVが見れるか訊ねる。
何か察したんだろう、彼女は大きなモニターにTVの回線をまわして
画面いっぱいに様子を映し出してくれた。
そして、絶句する。
- 600 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:07
-
「なに…これ…?」
零れた呟きは亜弥の声。
ううん、きっとここにいるみんながそう思っているはず。
視界に広がったブラウン管越しの製薬会社の上空。
その場所を『目』にするように渦巻いている、どす黒い雲。
まるでタールのような漆黒。
あんな色の雲…見たことない。
それに加えて、その雲の中で時々起こっている稲妻光。
TV独特のノイズに混ざって聞こえる轟音が、その凄さを物語っている。
極めつけは、その場を切り裂いていくような暴風。
必死に現状を説明しようとしているアナウンサーは、いつ飛ばされても
おかしくないほどフラついてた。
しかも説明によると、製薬会社の上だけで起こっている現象らしい。
確かにアタシは少し前まで中庭にいたけれど、雲ひとつない青空だった。
これは…もう、もしかしなくても―――…始まってしまっている?
呆然としながら、アタシはアヤカに礼を言って携帯を切った。
- 601 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:07
-
「あはは! もう…誰も止められない」
「? 大谷、どういうことや…?」
突然声を上げて笑い出した彼女に、中澤裕子は軽く眉を上げて訊ねる。
その隣では、斉藤瞳も可笑しそうに口元を歪めて笑っていた。
両手両足を拘束されているにも関わらず、彼女達はアタシ達を見下すような
視線を投げつけてきて。
「あの乱雲の下で、紺野あさ美はアタシ達の救世主になるんだ」
「救世主…だって?」
「肉体はなくなって、貴子さんに従順な精神だけが残って…
正しい世界を作ってくれるの」
「はぁ!? なんだよ、それ!! …まさか」
二人の壊れた会話に、やぐっつぁんが詰め寄る。
でも、何かに気づいた表情をした瞬間、二人は同時に頷いたんだ。
「そう、存在自体を素粒子に分解して能力を手に入れたら、貴子さんに
能力者が住みやすい世界を作ってもらうんだよ」
そうか…、以前やぐっつぁんが『むらっち』と呼んでいた女に言っていた
『求めてるものは、一緒なのにね』っていうのは、…ここに繋がっていたんだ。
- 602 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:08
-
中澤と稲葉…形は違えど、能力者を助けたいと思っていて…。
中澤裕子は、この世界に順応できる能力者を育成し…。
稲葉貴子は、能力者に順応した世界を…。
判る…判るけど…。
「ねぇ、考えてみなよ」
何も言えないでいるアタシ達を、心底楽しそうに見渡して二人は言葉を続けていく。
「この世界が、たくさんの犠牲によってできていることは知ってるよね?
それも全部、たった一人の人間のエゴから始まるものだってことも」
人間って弱い生き物なんだよ、とでも言いたげな眼差し。
その視線の先にいた亀井と道重は、唇を噛んで目を伏せている。
「人間は、常に誰かの上に立って過ちを繰り返していく。差別や殺人、戦争だってそう」
「しかも自分達の過ちに気づいても、それを受け入れることもせず批判ばかり」
畳み掛けるような言葉の嵐に、アタシは自然と動こうとした。
けど、それより先に動いたのは…田中だった。
どんどんと居たたまれない表情に変わっていく亀井たちを庇うように前に立ったんだ。
…やるじゃん、と心の中だけで呟いたっけ。
- 603 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:08
-
「だから、稲葉さんは救いをくれたのよ」
矛先をなくした二人は、まるで街頭演説でもするようにアタシ達に満面の笑みを向ける。
自分達の勝利を確信しているかのように。
そして、言い放ったんだ。
「全てを統べる『神の力』を作り出してくれた」
神の力…だって?
誰が神? あのコが?
しかも作り出す? ふざけたこと言わないでよ…。
あまりにもバカバカしくて、笑っちゃう。
あのコはそんなのじゃない。
「導く者がいれば、過ちは起こらない」
「これで、蔑まれて影でしか生きれなかったアタシ達も救われるんだ」
「ふざけないで…!!」
妄想に囚われている二人の空気を切り裂いたのは、なっちだった。
計り知れない怒りで顔を真っ赤にして…肩を震わせて…。
苦しげに顔を歪める姿は初めて見る彼女だった。
きっと、言葉以上に心から聞こえる声に耐えかねたんだ。
- 604 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:08
-
「なんで…わかんないのよ…!? そんなことの為に紺野を犠牲にしてるのよ!?」
その言葉に、二人はスっと笑みを消し…変わりに顔をぎゅっとしかめた。
「紺野あさ美だって、この世界に矛盾を感じたから稲葉さんの所にいったんでしょ?
だったらそれは、犠牲なんかじゃなくて本人が望んだ尊い死よ…!」
そう言い聞かせている自分に苛立っているのか、斉藤瞳の声は震えていた。
あからさまに自分達の罪を白状しているようにしか聞こえない。
それほどに、後ろめたさに満ち満ちていた。
「…確かに、その方法も一つの救いなんかもしれん」
誰も何も言えなくなった静寂の中で、口を開いたのは中澤裕子。
全ての罪を引き受ける、そんな諦めのにも似た笑顔で。
でも、その声はどこまでも強い意思を持っていた。
きっと…自分達研究者が作り出してしまった『娘』を思うキモチが、
そこに含まれているんだろう。
- 605 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:09
-
「けど…間違っているという人間と、同じ過ちをアンタらはしようとしてるんやで?」
必死に訴えるような声。
けれど、
「あなたには…!! …言われたくない…!」
「ウチらを…、化け物を作り出したくせに…っ」
二人は、吐き捨てるようにそれだけ言って顔を背けたんだ。
きっと彼女達の心にはびこった闇は、もっと深いトコロにあって。
それを取り除くには、たくさんの時間が必要なんだろう。
でも、闇に囚われていたのは、彼女達だけじゃない。
少なくとも、ここにいる全員がどんな形にしろ『闇』を持っているんだ。
それなのに、二人だけで悲劇のヒロインを気取らせない。
- 606 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:09
-
「アンタ達が望む世界って、何?」
一切の感情を取り除いたような静かな声で、アタシは疑問を投げつけた。
全員の視線が集中するけど、全く気にもならない。
別に中澤裕子を擁護する気なんてないけれど…なんとなく黙っていられなかった。
「アンタ達は誰かの上に立って、過ちを犯したことはないワケ?」
「な…っ!」
昨日、アタシ達に襲い掛かってたあの獣のような鋭い視線が
アタシの顔を切りつけるみたいに向けられる。
けれどアタシはそれを平然と受け止めた。
「蔑まれて、影でしか生きれなかったキモチ、アタシにもわかる。
でも、アンタ達は自分達で、自分の道を勝ち取ることもできたはず。
なのに稲葉に頼っているのは何故?」
「それは…っ、ウチら能力者を助けてくれるから…っ」
恩があるから?
恩があるから、どんなコトにでも付き合うの?
間違っているとわかっていることでも?
- 607 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:09
-
「欺瞞だね。そうやって、自分にウソついてこれからも生きてくの?」
「『能力者だから』と一番差別しているのは、自分自身じゃん」
続けて喋っていたのは亜弥と美貴。
多分、今ここでそのセリフが最も似合う二人。
目の前が真っ暗になるぐらい、光さえ見失ってしまうほどの運命の渦に
堕ちて、それでも尚、立ち上がってきた二人だから。
キッと、アタシらを睨みつけていた二人の眼差しが、頼りなく伏せられた。
二人も知っているんだ。
願いを叶えられるのは、自分を信じ叶えたいという強い意志を持った者だけなんだと。
そう、一番『能力者』という立場に甘んじていたのは、自分達なんだと。
それでも、人は誰かに救いを求める時がくる。
道を見失ってしまったとき。
信じるという意味がわからなくなってしまった時。
でも、そんな時に必要なのは、新しい道を作ってくれる人じゃない。
その人を認め、ただ軽く、その背を押す手…―――それだけで十分なんだ。
- 608 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:10
-
「今『死んだほうがまだマシ』なんて思ってるんだったら、サイアクだよ?」
「ここまでアタシらを苦しめたんだ。その力、もっと別の何かに使いな」
きっと、こーゆーのを『以心伝心』っていうんだ。
亜弥と美貴の放った言葉は、まさにアタシの思ったとおりの言葉だったから。
その言葉に、気丈にも睨み上げようとした視線を遮って、アタシは二人の前に立つ。
それから不敵に笑って、ただ一言、言ってやったんだ。
「もう少し、悪あがきしたらどう? アタシはするよ、これからだって、ずっと」
―――この命が続くなら、ね。
- 609 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:10
-
真っ白な世界。
全てを消し去っていくような、そんな光の中。
私の身体が…どんどんと溶けていく。
ガラスいっぱいの光の中に吸い込まれていくみたいに。
目を開ければ、向こう側に機械のキーボードに何かを打ち込んでいる稲葉さん。
それから、私を痛々しい目で見つめている柴田さんに村田さん。
どうして二人がそんな目で見ているのかは判らない。
でも、何故かその視線が引っ掛かる。
私は正しいことをこれからするばすなのに、それを否定するような、そんな視線だから。
悲しそうな…そんな視線だから。
ふと、その眼差しをどこかで見たような気がした。
あれは…どこだったっけ…? いつ見た…?
そういえば…。
- 610 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:10
-
夢…、そう夢の中で一度見た。
あの夢の中では、私は今のように光に包まれていて…。
たくさんの人たちが私を見つめていた。
今の、柴田さん達みたいに。
その時…私は……泣いていた…?
そうだ…誰かを探して、泣いていた。
誰を探して…?
『―――…こんの』
…っ! また…。
昨日聞いた声が…。
- 611 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:10
-
『あり…がとう』
『…アタシを信じてくれる?』
『アタシ…紺野が…好きなんだ』
誰…? あなたは誰、ですか?
私を『こんの』と呼ぶ、あなたは…?
浮かんでは消える人影が、アタシの心を捕らえて離さない。
孤独に揺れる眼差し…、ふと見せる柔らかな笑み、
そして――…包み込むような風。
思い返すたびに、苦しくなって…泣きそうになる。
- 612 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:11
-
「…004、脳波が乱れてきてるで? 何にも考えたらあかん」
「……はい…」
ハっと、稲葉さんの声で我に帰る。
そうだ…、私はすべてを稲葉さんに託すんだ。
迷うことはないんだ…。
でも、どうしてだろう…。
心のどこかで囁く声が聞こえるんだ。
――――…あなた、これで本当にいいの?
って。
同時に浮かび上がるのは、やっぱり私の心を乱す…名前もわからない人。
- 613 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/24(木) 23:11
-
待って…。
私は、私は知ってる。
『305番! 何をしている!!』
今の私みたいに、あの人は番号で呼ばれてる過去があった。
でも違う…っ、あの人には名前があった。
そして私にも…っ。
あの人は…そう…―――。
「――――…後藤、さん…」
誰よりも愛しい名前。
それを思い出した瞬間…―――私の身体に変化が起こったんだ。
- 614 名前:tsukise 投稿日:2004/06/24(木) 23:12
- >>593-613
今回更新はここまでです。
>>587 つみさん
ごとーさんが田中さんに託した思いと、中澤さんの秘めたる思い。
きっと根底にあるのは、同じものかもしれませんね…。
>>588 Stargazerさん
ハイ、もう大詰めに向かって色んな想いが交差していってますね。
呟いて頂きつつも、温かく見守って下されば幸いです♪
>>589 名無し読者さん
あぁっ、ウチの紺野さんに涙を頂きまして…っ(平伏
そうですね、それぞれの想いは同じもののはずなのに…切ないですね。
きっと…笑顔になれる日も…。
- 615 名前:tsukise 投稿日:2004/06/24(木) 23:12
-
>>590 みっくすさん
ごっちんや中澤さんのそれぞれの想いが良いほうにいくように…。
あぅ…祈ってまで頂きましてありがとうございますっ。
きっと、根底にある思いは一緒のはずなので…良いほうに……。
>>591 名無飼育さん
丁と庚…っ、『X』 ですねっ。中澤さんと稲葉さん…どうでしょう…?
どうぞ、温かく見守ってくだされば幸いです。
>>592 名無飼育さん
まさしく、犠牲をともなう選択の辛さ…。きっと判っているはずなんですが…。
おそらくは痛い展開になるかもしれませんが、続けて読んで下されば幸いです。
- 616 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/24(木) 23:15
- なんと1レス目からリアルキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
…これはマジでビビりますたが(笑)
タイトル的にも佳境中の佳境。
まだ、ラストへの展開が読めません。
ごっちんは何を思っているのか。
紺野は何を思ったのか。
Tサマ(言い方変えてみた)、ラストスパート、頑張ってくださいませ。
- 617 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/24(木) 23:47
- 更新おつかれさまです。
先日、最初から全部読ませていただきました。
設定や文章のすばらしさにため息しかでません。
どうしてこの作品を今まで知らなかったのだろうかと。
最後まで楽しみに読ませていただきます。
- 618 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/25(金) 00:22
- 痛っ!
あいたたたーと叫びながら物語にどんどん引き込まれます
更新お疲れ様です
もうとことん作者さまについていきたい気分です
紺野さん、後藤さんがんばれ!
- 619 名前:みっくす 投稿日:2004/06/25(金) 05:31
- 更新おつかれさまです。
行きつくとこは一緒のようで。
犠牲をはらっての幸せは、ほんとの幸せではないような気がします。
次回はいよいよですね。
皆頑張れ!
- 620 名前:ku_su 投稿日:2004/06/25(金) 13:23
- 更新乙です。
二人の葛藤がビンビン伝わってきますね…
相手を思っての行動が逆にその相手を苦しめると辛いやね
次回も頑張って下さい
- 621 名前:星龍 投稿日:2004/06/25(金) 19:36
- 更新お疲れ様です。
ごまっとうの3人カッコイイです。
紺野さん・・・。
なんか痛いですね・・。
これからも頑張って下さい。
応援してます。
- 622 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/25(金) 20:39
- ごまっとうにしか出せない味、みたいなものを感じられる内容でしたね。
これから先、「どんな未来が訪れても」…彼女達なら、きっと。なんて
思っちゃうくらい、よかったです。次回更新も楽しみにしています。
- 623 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:18
- 「これは…」
「想像以上に…」
「凄いですね…」
やぐっつぁん、なっち、亀井の順で苦笑混じりの言葉が漏れる。
その視線の先を見て、アタシも「確かに…」と呟いてしまった。
まるで嵐。
建物の上空を渦巻いている雲は、時折激しい光を放っていて。
暴風は、建物に近づこうとする者を容赦なく打ちのめすような勢い。
離れた場所から眺めているアタシらにも、その威圧感は届いている。
「これ、どうやって中に進入するの?マスコミとか、凄いのに」
「簡単や。目には目を、歯には歯を、能力には能力をや」
「?」
能力には能力?
どういうこと?
にかっと笑った中澤裕子に、首を傾げる。
それから、アタシに任しとき、と言うと、
「藤本、あの風に任せて雨を降らしたってくれへん?」
「? はぁ、いいっスよ」
「矢口は、雷を」
「ほいほい」
- 624 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:18
- あぁ、なるほど。
いわゆる、本当の嵐を巻き起こすってコトか。
さすがにそれは、台風情報に慣れているアナウンサーでも辛いかもね。
「あさみ、まい、みうな。アンタらは先に中をひっかきまわしといて」
「はい」
返事をして、三人はすぐに掻き消えた。
きっと、そのまま建物の中に流れ込んでいくんだろう。
…暴風で、少し不安なんだけど…。
「大丈夫、3人なら。ごっつぁんは紺野の事を考えてあげな?」
「…うん」
なっち…。
なんだろう?
いつもあたしの不安なんかにすぐに感づいて。
元気付けてくれて…。
―――…ありがとう。知り合って間もないのに、なっちにかなり救われてた。
- 625 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:18
- 「え…? なに?ごっつぁん、どうして過去形なの?」
「なんでもない」
フっと笑って、アタシは首を振る。
そう、きっと、なっちにはいち早くバレてしまう。
でも、その時は今じゃない。
もう少し、このままで…。
「よっしゃ、ほんなら行くで。斉藤らが言ってたルートを通って行きや?」
「はい」
ぐしゃぐしゃっと、手錠で拘束された斉藤瞳と大谷雅恵の頭を中澤裕子が乱暴にかき乱す。
二人は迷惑そうな顔をしたけれど、もう歯向かって噛み付いてくることはなかった。
「いいですか?」
「いつでも」
美貴が手をかざして中澤裕子に振り返る。
その隣に、同じように手をかざした矢口。
きっと…これがアタシにとっては、ラストバトル。
こうやって、一体感を感じられるのは『仲間』の存在がどれほど大きいものなのか判ったから。
この仲間達なら…あとは任せられる。
そんな事を考えてしまって、口元が緩んでしまったっけ。
- 626 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:19
-
「行きますよ、矢口さん!」
「はいよ!」
二人の声が響いた瞬間。
建物の上空を覆っていた雲が、凄まじい轟音を立て始めた。
乱雲の中で狂ったように音を立てる雷。
そして、ポツポツと降り始める雨。
まるで自然現象だと言わんばかりに、違和感が無い。
「ええで…。そのまま、どんどん強めて」
「OK」
雨脚が強まる。
最初は小雨、それから暴風に溶け込んでいくような大雨、最後は暴風雨に。
それに乗っかるように、やぐっつぁんの雷。
ゴロゴロといかにも『今から落雷が起こるぞ』と宣告して。
ガシャ―――ン!!
凄まじい音を立てて、マスコミの近くに落とした。
- 627 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:19
-
慌てたのはもちろん、マスコミ連中。
今の衝撃で機材がやられてしまったのか、あちこちで戸惑った声が聞こえてる。
それでも尚、音声だけでも届けようとしていたアナウンサーに、やぐっつぁんの追い討ち。
ガシャ―――ン!!
さすがに、すぐ側に落ちた雷に目を白黒させてマスコミ連中は、文字通り
尻尾を巻いて、その場を去っていったんだ。
「よし、今や…!」
『了解!』
中澤裕子の声を合図に、アタシらは一斉に駆け出した。
と、その時。
「ねぇ!」
呼び止められて振り返ると、じっとアタシを見据えている斉藤瞳と大谷雅恵。
- 628 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:19
-
「なに?」
「…アンタにとって、幸せって何?」
頼りない目だった。
行き場をなくした気持ちが、救いを求めるみたいな、そんな。
でもアタシは、マリア様でもなんでもない。
ちっぽけな…二人と変わらない『人間』だ。
だから、彼女達に救いの言葉はかけてあげられない。
でも。
こんなアタシでも見つけられた、たくさんある答えの中の1つなら教えてあげられる。
それはさ…
「この世界に生まれてこれたことだよ」
あのコのいる、この世界に生まれてこれた幸せ。
そう、それがアタシの幸せの形。
「この世界に…」
曖昧な表情で言葉を受け止めている二人にアタシは一度笑って、みんなを
追いかけるように駆け出していった。
きっと二人には消化不良な形。
だけど、いつかわかってほしいと思う。
今、こうして生きているから、悩んで苦しんで、そして一つの答えを選ぶことが
できるんだって。
そしてそれは、どんな形でも『幸せ』に繋がっているから。
- 629 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:20
- 中に入ると、先に撹乱させるために侵入していった、あさみ達によって
研究員達はほとんど戦意を消失していた。
警備員を含め、ほとんどの人間は能力をもっていないのだから、当然の
結果なのかもしれない。
所々、真っ白になってしまっている通路があったのは、きっと武器の無い
この研究所の中で、消火器などをぶちまけたりしたからなんだろう。
奇襲をかけただけあって、ここはスピード勝負。
それを考えると、あさみ達を感づかれるより先に送り込んだのは正解だったみたい。
「さすがだね、だてに中澤裕子は能力者の指導をしていないってことか」
「ありがとう」
「えっ?」
突然帰ってきた返事に、驚いて振り返る。
ゆらゆらと、空間が揺れ…色を取り戻し、そこに現れたのは、まいだった。
「館内は、ほぼ全て制圧した。アタシはこれから制御室へ中澤さん達を
案内する。アンタ達は建物の中心部を目指して」
事務的なまいの言葉に、美貴が『ヒュー』と口笛を吹いて拍手を二、三回する。
鮮やか過ぎるほどの行動だったから。
- 630 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:20
-
「サンキュ」
「あさみとみうなが、残りの能力者を制圧しているけれど時間の問題だから
気にせず走って」
「了解」
返事を返すと、大きく彼女は頷いてまた姿を消す。
状態変化の能力って、考えればエキスパートなものなのかもね。
ふと、そう思ったっけ。
と、その時。
「危ない!」
「!?」
「うあぁぁッ!」
田中の突然の声に振り返る。
そこには、恐ろしい形相をしながら鉄パイプを振りかざして向かってくる研究員。
恐怖に我をなくしてしまったのか、狂気と喜悦に満ちた目でアタシを捉えてる。
とっさのことに判断が遅れて、身構えた瞬間
- 631 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:20
-
「ぐぅっ!?」
バタン!!
奇妙なうめき声を上げて、研究員は地面に叩きつけられた。
それでも、まだ狂おしい怒りに目を爛々とさせてアタシを睨みつけている。
けれど、そこに、間髪いれず誰かの手刀が頭部にくれだされたんだ。
今度こそ沈黙する研究員。
「大丈夫ですか?」
あぁ…。
軽く息をついて、アタシは声の主に笑みを向ける。
アタシの危機を救ってくれたのは、田中だったんだ。
「ありがとう。 …成長したね」
「教育係が優秀だったもんで」
両肩を軽くあげるジェスチャーで、そ知らぬ顔をしてみせる彼女。
でも、やっぱり可笑しかったのか、自分から噴出したんだ。
その姿に、アタシは軽く目を細める。
- 632 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:20
-
うん、やっぱりアタシの目に狂いは無かった、と。
田中なら、きっと大丈夫。
どんな時でも、…あのコを守ってくれる。
「真希、れいな、行くよ」
「了解」
亜弥の呼びかけに、アタシらは同時に頷いて廊下を駆け出した。
この建物の中心部を目指して。
- 633 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:21
-
身体の感覚が戻ってきている。
自分で、そう、はっきりわかるぐらい。
ほら、手の平が温かくて、光の中でもその向こう側がしっかり見える。
―――…私が『私』を取り戻したから。
私は、紺野あさ美。004なんかじゃない。
私は、能力者の人を救うなんてできない。だってそれは、あの人が悲しむ事だから。
こんなの…――後藤さんは望まない。
私だって、こんなの間違ってるって思うから。
だから…!
「なんでや…!なんで細胞分解が上手くいかへんねや!」
「貴子さん…落ち着いてください…っ」
「うるさい!」
「!? あゆみ…っ」
バン、と誰かが弾き飛ばされる音に、私はハっとして視線を向ける。
そこには、稲葉さんに腕を振り払われて倒れこんでいる柴田さん。
当たった場所が悪かったのか、口を切ってしまったみたいで血が出てる…っ。
なんてことを…っ。
- 634 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:21
-
駆け寄った村田さんは、大丈夫だと頷いている柴田さんを支えるように
身体を起こして…それから、信じられないっていう目で稲葉さんを見上げた。
でも、キーボードに向かっている稲葉さんは、それに気づかない。
まるで何かに取り憑かれたように、キーを弾いてる。
「貴子さん…」
「…なんや、今忙しい」
「…………」
乱暴に突き放すような言葉に、一度村田さんはうな垂れる。
伏せられた瞼が、苦しげに震えていた。
それは搾り出されるような言葉も…。
「これが…本当にこれが、私達が救われる道なんですか…!」
沈黙。
カタカタとキーを弾いていく音だけが部屋に響いていく。
きっと、村田さん達には、力強く頷いてくれる稲葉さんがその先にいたんだろう。
振り返って『その通りや』なんて微笑んでくれるような、そんな。
でも。
でも…―――稲葉さんから放たれた言葉は違っていた。
- 635 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:22
-
溜息混じりに
「今更何言うてんのや」
私の記憶にもある、あの嫌らしい笑みをその顔に張り付けた
「紺野の能力があれば…」
エゴイストがそこにいた。
「すべてがウチの思い通りになるんや。ウチはウチのやりたいようにする
そん中に、アンタらを救う選択肢がもしかしたら入ってるかもなぁ」
「そん…な…」
崩れ落ちていく村田さん。
柴田さんも、何も言わずにぐっと顔を伏して。
その姿に私は居たたまれなくなる。
願っても叶う可能性の低い望み。
それでも、村田さん達は最後に稲葉さんへすべてを託したんだ。
今思い出してみてわかる、村田さん達の行動。
まるで余裕なんかなくって、必死になって、私を手に入れようとがむしゃらになって。
- 636 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:22
-
そして一つの希望をその手に掴んだはずなのに。
それなのに…――今、手の平から零れ落ちてしまった。
「貴子さん…」
「…なんや」
「もう、やめましょう?」
「はぁ?」
フラフラと立ち上がる柴田さん。
その声は、とてもうつろで…全てに絶望していた。
「こんなの…間違ってます。人の生き死にを左右させるのが同じ人間なんて
そんな考え自体が間違ってたんです…」
「ワケ判らん。降りるんやったら、アンタだけ降りぃ」
ハン、と鼻で一笑しながらも、稲葉さんの手は止まらない。
確実に、じわじわと私をとらえようとしている。
いつ自分が消えてしまうかわからない状況だけど、私は柴田さん達から
目が離せなかった。
- 637 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:22
-
「紺ちゃんを解放してあげてください」
「…嫌だと言ったら?」
「…無理にでも」
柴田さんの瞳が生気を取り戻していくのがわかった。
すぐ後ろで、すっくと立ち上がった村田さんも。
そこで一瞬、二人が私の方を仰ぎ見た。
―――…助けるから。
そう言うみたいに。
でも。
「そうか、ほんなら仕方ない。ウチはあいつのためにもやめられへんねん」
まるでスローモーションを見ているみたいだった。
静かに稲葉さんがジャケットの胸元に手を入れて。
何かを取り出す。
黒い…光る何かを。
その形を私や柴田さん達が確認する前に…。
パン! パン!
乾いた音が、響き渡った。
- 638 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:23
-
「ねぇ…!」
アタシの声に、亜弥、美貴、そして田中が立ち止まった。
反射的に、全員が天井を見上げて目を細める。
「銃声…だね。しかも二発」
「中心部からだよ」
「やっぱり?」
「急ぎましょう…!」
「わかってるよ。 …でもさぁ、こんなに入り組んでると…どーにもこーにも」
美貴のウンザリした声に、アタシも溜息が漏れる。
アタシらが進んでいる道は、きっとこういった侵入者の事も考えた造りに
なっていて、妙に入り組んでたんだ。
田中自身も行ったことがない場所らしく、方向感覚がまったくとれないし。
きっと、斉藤瞳達の最後の抵抗なんだろう、伝えられたルートは行き止り
だらけで思うように進めなかった。
- 639 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:23
-
「とにかく、進むっきゃないでしょ、行くよ」
「了解」
亜弥が再び駆け出す。
それに続いてアタシらも先を急ぐ。
と、その時。
≪全研究員に告ぐ。館内は全て制圧した。無駄な抵抗はやめて今すぐ投降せよ≫
鼓膜を破らんばかりの大音量が館内に響き渡った。
あれは…中澤裕子の声だ。
そうか、システムコントロールも制圧したんだ。
≪あっちゃん、聞こえてんねやろ?アンタのやろうとしてるコトは間違ってる。
そんなコトしても、アンタも、それに誰も救われへんねん。もう…紺野を解放してや≫
初めて聴くような、懇願するような声。
それは稲葉貴子に届くか…。
否…―――その結果をアタシは知っている。
だから、廊下を駆ける足は止まらない。
- 640 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:24
-
『後藤さん、みんな、聞こえますか?』
「…?亀井?」
亀井の声。
それは耳に仕込んだ小型スピーカーから。
きっと周波数を合わせて呼びかけてきてるんだろう。
亜弥、美貴も同時に耳元を押さえるそぶりを見せる。
ただ、田中だけがキョトンとしたようにアタシを見上げてた。
『今走っている通路の次の突き当たりを右に曲がってください。
それから最初の突き当たりを左に。その先が中心部です』
「わかった、ありがとう」
制御室で地図を確認したんだろう。
これで中心部にたどり着ける。
『今、矢口さん達もそっちに向かってます。私達もすぐに向かいますから』
「了解」
答えて、アタシはふと思い立つ。
亀井のキモチに、なんとなく気づき始めていたから。
だから…そっと田中に聞こえないように、伝えていく。
- 641 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:24
-
「ねぇ、亀井」
『? はい? なんですか?』
「田中って、結構頼りになるよ?」
『え…?』
「きっと、アタシよりこれからも、もっと強くなっていくと思う」
『後藤さん…』
「アタシの言いたいコト、判る?」
『………はい。私も、れいなは強くなると思います。多分、そんなれいなの事
私、好きだと思います』
「……うん。仲良くしなよね」
『はいっ』
そう、アタシなんかにとらわれちゃいけない。
あなたには、守ってくれる素敵なコがいるんだから。
きっと、あなたは彼女の強さや優しさにこれから何度も気づいていく。
それは、とても良い関係を築く鍵になるんだ。
- 642 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:24
-
「ねぇ、真希」
交信が終わると、立ち止まって亜弥と美貴が揃って訝しい表情を向けてきた。
自然とアタシや田中の足も止まって振り返る。
なんとなく、言われる言葉は判っている。
でも、なんにも答えられないよ?
「アンタ……なんかヘンだよ?」
「何を、考えてるの?」
ほら、ね。
「いいから、行くよ。今は紺野を助けることだけを考えてよ」
まだ何か言いたげな顔をしていたけれど、アタシはそれだけ言ってまた駆け出した。
- 643 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/06/28(月) 19:24
-
言いたいことはたくさんある。
でも、言えることは…少ないんだ。
だから、今一言だけ伝えるよ。
「亜弥、美貴、…ごめん」
「? 何が?」
「…ううん、ホラ、行こう。紺野が待ってる」
そう紺野が待ってる。
この先の…光の中に。
- 644 名前:tsukise 投稿日:2004/06/28(月) 19:25
- >>623-643
今回更新はここまでです。
>>616 名無しぽきさん
リアルタイム、ありがとうございますっ。や、私もビックリ(笑
佳境…キテますね〜(ぉ お互いのキモチ…きっと根底は
一緒なんでしょうが…。ハイ、ラストスパート頑張らせて頂きますねっ
>>617 オレンヂさん
最初からお読みくださったようで、ありがとうございます(平伏
しかも、そんな作者としては大変光栄なご感想まで頂きまして(感涙
どうぞ、続けて読んで下されば幸いですっ(平伏
>>618 名無し読者さん
痛い展開が続きまくって申し訳ない限りですが(滝汗
でもでも、引き込まれてくださっているようで嬉しい限りですっ。
紺野さんに、後藤さん…ラストまで駆け抜けて行きますのでヨロシクですっ(平伏
- 645 名前:tsukise 投稿日:2004/06/28(月) 19:25
-
>>619 みっくすさん
犠牲をはらっての幸せ…えぇ、きっとほんとの幸せはそんなのでは
ないのでしょうとも。うちの後藤さんや紺野さんもきっと、気づいている…はず(ぇ
どうぞ、温かく見守ってくだされば幸いです(平伏
>>620 ku_suさん
相手を思っての行動なのに、相手を苦しめてしまう…
そうですね…、根底にある気持ちは一緒なのに切ないです。
応援レスを励みに、頑張らせていただきます(平伏
>>621 星龍さん
ごまっとうの3人のカッコ良さ…表せていたのなら嬉しい限りです。
紺野さんを含め、どんどんと痛い展開になってきていたりしますが
どうぞ、見守っていただければ幸いですっ(平伏
>>622 Stargazerさん
そうですね、作者の中でのごまっとうのイメージがあんなカンジだったり(ぉ
これから先の展開、まさに「どんな未来が訪れても」…きっと…。
応援レス、励みになってますっ、ありがとうございますですっ(平伏
- 646 名前:星龍 投稿日:2004/06/28(月) 19:56
- 更新お疲れ様です。
後藤さん・・。
田中さん強くなりましたね・・。
亀井さんも・・・。
かなり面白いです。
頑張って下さい。
- 647 名前:みっくす 投稿日:2004/06/28(月) 23:06
- 更新おつかれさまです。
う〜ん、なっちがごっちんに言った言葉からすると、
やっぱりごっちんは・・・・
次回はいよいよかな。
次回も楽しみにしてます。
- 648 名前:ジル 投稿日:2004/06/28(月) 23:34
- 久しぶりに見に来て見たらなんとまぁ!な展開です。
亀井さんとの会話、いいですね。今更ですがサブタイトル(?)
がCROSS HEARTになっててカッコいいです。頑張れみんな!
- 649 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/28(月) 23:41
- 更新お疲れ様です。
ごっちん・・・かっこいいですね。
読んでるうちにひきこまれて鼓動が早くなっています。
みんながんばっれー!
- 650 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/29(火) 07:30
- ついに、ラストスパートに入りましたね。相変わらず、疾走感溢れる
文章にドキドキしております。交差していく心…これから、まさに
交差していくであろう思いに注目しつつ。更新お疲れ様です。
- 651 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/29(火) 23:36
- 更新お疲れさまです
ほんとさまざまな想いが交差してて…・゚・(ノД`)・゚・。
まわりも微妙に気付き始めてるようですが
後藤さんは自分で決断したとおり行動していくのでしょうね…
続き楽しみにしてます!
- 652 名前:レオ 投稿日:2004/06/30(水) 07:42
- お疲れ様です!!
いよいよ・・・・ですね!!
後藤さんどうなるんだ・・・・。
では次回も楽しみにしております!!
- 653 名前:ku_su 投稿日:2004/06/30(水) 10:38
- お疲れさまです
ラストまで気の抜けない展開になってきましたね
最期に笑うのは誰なのか凄い気になりますね
何下に田亀も気になってたりしますがそれは内緒ですw
- 654 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:29
-
「いや…! いやぁっ!!」
恐怖に思わず叫び声が上がる。
信じられない光景に、全身の血の気が引いていくのが判る。
視界の先に人が倒れていた。
私も知っている人が2人。
あれは、柴田さんに村田さん。
私に能力を教えてくれた。
その周りを染めている赤い液体…―――それは何?
「あぁ…、し、柴田さ…っ、む、村田さん…っ、やだ…!」
これは何かの夢だよ。
うん、そうに決まってる…!
でも…。
夢だと思っても、それでも胸が張り裂けそうに苦しいのはなんで?
それに……どうして…、柴田さん達は動かない…?
- 655 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:29
-
「アホやな…。おとなしくしとったら、もう少し夢が見られたかもしれんのに」
聞こえた声に身体が強張る。
この人の声、嫌い…。
私のずっとずっと遠くの記憶にもある、とても嫌な声だから。
そして今は…―――大切なものを次々と奪っていく嫌な声だから。
笑いながら全てを否定して、欲しいものをどんなことをしてでも手に入れるんだ。
そう…――まだ煙る銃口を構えている稲葉さんは。
「どうして…! どうしてこんなことするんですか!」
「…なんや、記憶が戻ってしまったんか。まぁ、今更遅いけど」
「答えてください! あなたは一体何が目的でこんな…!」
私がガラスに張り付いて、怒りをぶつけても、稲葉さんにはなんの変化も
見られなかった。
ただ、あの嫌な笑みを浮かべて、アタシを見つめたんだ。
ぞっとするほど、何かに魅入られた瞳で。
- 656 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:30
-
「後悔させてやるんや…」
「後悔…?」
「アイツを馬鹿にしよった人間らに、思い知らせてやるんや…。どんだけ
苦しい想いをしたんか…」
「アイツ?」
「おしゃべりはここまでや。アンタには悪いけど…協力してもらうで」
「…っ!」
カチャン、と、その手に持っていた銃を放り投げる稲葉さん。
それからスっと指を伸ばし、キーボードの何かを弾いた。
その瞬間、――…私の身体に異変が起こったんだ。
「うぅっ!?」
電流が全身に広がったような痛みが走る。
指先までビリビリと痺れるような、強く、激しい電流が。
「くっ、あぁ…!」
痛い…!苦しい…!
息が詰まるような感覚に眩暈が起こる。
あぁ…! 誰か、助けて…!
後藤さん!!
- 657 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:30
-
「あぁぁッ!!」
ガクンガクン、と大きく身体が痙攣した次の瞬間
―――…私の身体は光に包まれた。
「……ぇ…?」
柔らかな光。
さっきの痛みは嘘のように消えている。
おさまった…?
そう思って、自分の身体をくるっと見渡して、言葉を失った。
か、身体が…!
足の先から、光の中に溶け始めてる…っ。
そう、それはまるで、私が消し去ってしまった男の人たちのように。
今度は私の身体を消し去ろうとしていたんだ。
「いや…! なに、これ…っ!」
「心配することはない。アンタはこれから神みたいなモンになるんやから」
言って、稲葉さんは何かの音楽を流し始めた。
これは…この曲は…。
私、知ってる。
愛ちゃんに、譜面まで借りた。
- 658 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:30
-
「オンブラマイフ…」
「そう…。ウチ、この曲が好きでなぁ、研究中にはいつもかけてたんや」
だから…私の記憶に強く残っていたの…?
悔しい…。純粋に惹き付けられていた自分が腹立たしい。
そういえば…後藤さんもこの曲を知っていた。
やっぱり…私と同じように…、後藤さんもこの人に…。
あの日…初めて後藤さんに会った日、譜面を見て歪められた眉の意味、
なんとなくわかった。
きっと意識していない部分で、ずっと稲葉さんの存在をとらえていたからなんだ。
「さぁ、そろそろやな」
「!」
ハっとして、両手を目の前にかざす。
瞬間、光に飲まれていく両手。
あぁ…っ、本当に私は消えていく…!
身体だって、もう胸から上しか…。
- 659 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:31
-
このまま私は、いなくなってしまうの…?
後藤さんに、もう逢えないまま…っ。
どうしよう…、酷く傷ついた後藤さんの表情が瞼に焼き付いて離れない…。
何かを伝えようとして、伏せられた瞼。
苦しげに首を振って、ぎゅっと肩を掴んで…。
一体何を伝えようとしてくれていた?
それなのに私は何も聞かないで逃げ出して…、ただ自分が傷ついた事しか
考えてなくて。
ごめんなさい…後藤さん…ごめんなさい…っ。
ぎゅっと、強く瞼を閉じる。
瞬間…―――不思議な解放感とともに…、私の身体が掻き消えたのが判った。
ただ、光の中へ揺れる意識を残したまま。
- 660 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:31
-
バン!
思ったより大きな音を立てて、扉が開いた。
その先に広がった世界を見て…、アタシは肺に溜まった息を吐き出す。
床に伏している二人の女。
すぐそばには、コントローパネルの前に立つ…稲葉貴子。
そして…ずっとずっと向こう――光の中に溶け込んでしまっている…紺野。
あぁ…。
この光景…やっぱり、そうだ。
これは、もう変えられない未来の姿。
何度かアタシの夢に現れたのは、きっと逃れられない宿命を知らせるため。
「村っち…!柴ちゃん!?」
すぐ後から駆けつけた、やぐっつぁんが信じられない光景に声をあげる。
呼ばれた二人は、ぴくりとも動かない。
ここからじゃ判らないけど、かなり危険な状態だろう。
能力者であっても…急所を狙われたら、ひとたまりもないのだから。
- 661 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:31
-
「めぐみ…!あゆみ!!」
「ウソでしょ…!? なんで…!」
手錠で繋がれていた斉藤瞳と大谷雅恵が駆け寄って、その手に強く抱く。
無常にもその手を赤く染めていく液体に、悲鳴を上げながら。
「なんてことを…!」
口元を押さえて悲痛な声を上げる、なっち。
小刻みに肩を震わせている亀井や道重をその背に隠して。
その時、静かに新たな声がした。
「どうやら―――遅かったみたいやなぁ」
くるりと振り返るその声の主。
陰惨な笑み。
歪められた口元。
爛々とした瞳は、どこか狂気に満ちていて、威圧感を含ませてる。
- 662 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:32
-
「稲葉…貴子」
苦々しく亜弥が呟いた。
直感的に判ったんだろう、彼女はアタシらにとって恨むべき対象だって。
美貴も、珍しくギリっと歯を擦り合わせて苛立ちを露にしている。
「どや? なんでも叶えてくれる神様を見た感想は?」
「神様…だって…?」
「そうや、歴史的瞬間に立ち会えたんや。もっと喜んで欲しいなぁ」
「ふざけンな! 何が神様だよ! そこにいるのは紺野だ!」
やぐっつぁんの叫びに、彼女は『やれやれ』と肩をすくめて見せた。
「なんで判らんかなぁ〜。これでウチらの願いが全て叶うねんで?」
「『ウチら』じゃなくて『ウチ』でしょ?」
「ん〜?」
アタシの言葉に、顎に手をつく彼女。
つまらなそうに、全員を見渡したりなんかして。
きっと、ロクなコトを考えてない。
- 663 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:32
-
「ふむ。要するに、アンタらはウチに賛同するつもりはない、と?」
一斉に、全員の鋭い視線が彼女に向けられる。
今や、仲間を傷つけられた斉藤瞳も大谷雅恵も、彼女を信じるココロを
無くしたように。
「あかんなぁ〜、そーゆー生意気な態度は。なぁ、004」
エゴイストが口の端を吊り上げた。
無機質で歪んだ微笑。
灰色に濁った瞳は、それでも可笑しそうにこの状況を楽しんでいるコトを
物語ってる。
これは…―――。
ジリジリと導火線に火がついたような感覚がする。
「悪い子には、おしおきが必要や…」
ただ一言呟いて、彼女は…――― 一つのキーを弾いた。
- 664 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:32
-
「下がって!!」
反射的に叫んだ声に、全員がすぐ反応し方々に飛びずさった。
誰もがわかっていたんだ。
大きな力を手に入れた者は、その力を誇示しなくては気がすまないものだと。
もちろん、稲葉貴子だって例外じゃない。
しかも相手が、その力を遮ろうとしている者なら尚のこと。
「くっ!」
直後、アタシ達のいた場所になぎ払うように光の筒から放たれる電撃。
コンクリートの地面をえぐって、それでも飽き足らず、執拗にアタシらの退路を
追ってくる。
「なんて…っ、威力…!」
まるで落雷のオンパレード。
轟音と、脳内まで揺さぶるような振動に動きも鈍る。
「あははっ、ホラ、逃げなぁ丸焦げやでっ」
「くっ! 陰湿…!」
吐き捨てながらも、アタシらは部屋を駆け回る。
本当に、当たった瞬間にジ・エンドだから。
- 665 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:32
-
「紺野! やめて!!」
立ち上がる煙にむせて逃げながら、なっちが叫ぶ。
それでも、電撃はおさまらない。
紺野に声が届いていないの…!?
それとも、暴走してしまっている…!?
どっちにしても、アタシらから攻撃することは絶対に出来ない。
犠牲の上に成り立つ世界を肯定するワケにはいかないから。
少なくとも、『アタシ達の世界』では…!
くっとアタシは顔をあげて、光の筒を仰ぎ見る。
もちろんだけど、紺野の姿はそこにない。
そこにはないのに、どうしてだろう…アタシには見える…。
紺野は顔を歪めて苦しんでる。
「紺野…! お願い、やめて!」
どうか届いて…!
懇願するように、もう一度アタシが叫ぶ。
その瞬間…。
- 666 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:33
-
「!? 消えた…!?」
部屋をかき乱していた電撃が、ピタリと止んだんだ。
驚いたのは稲葉貴子。
まだ意志の残っている紺野が信じられないとでも言うように目を見開いてる。
「ごっつぁん…!紺野が…!」
「うん?」
「『私を壊して』って。『もう自分の事はいいから』って…」
なっちの言葉に、アタシは光の筒を睨みつけて唇をきゅっとかみ締める。
そんなのできるワケないじゃんか…!
『自分の事はいい』だって!?
判ってない…! 紺野はまだ判ってない…!
アタシ達は、そんな安っぽい絆で結ばれていたんじゃないんだってコトを…!
「バカ言わないで…! アタシは絶対紺野を助ける…!」
「とーぜん…! 美貴だって諦めるつもりはないよ」
「『妹』を見捨てるなんて、考えられないっしょ…!」
美貴…亜弥。
二人の声が、アタシに力をくれる。
湧き上がるような『勇気』という力を。
- 667 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:33
-
「ここまで来て…! 何止まってんねや…!アイツらを倒すんや!!」
苛立ちを露にしたのは稲葉貴子。
その指でキーボードを弾きだし、攻撃の矛先を光の筒へと変えたんだ。
ううん、紺野へと。
瞬間、
ビシィィィッ!!
猛烈な破壊の稲妻が、筒の中を駆け巡る。
激しく点滅するような光。
そして、今にも紺野の悲鳴が聞こえてきそうな拒絶の振動。
や、実際に紺野は絶叫していた。
両耳を塞ぐようにしてうずくまった、なっちがその証拠。
「紺野が…! 苦しんでる…! やめて…!やめてよ!!」
ガシャ―――ン!
なっちの叫びに呼応するように、突然光の筒を覆っていたガラスが砕け散った。
内から、外から加わる負荷に耐え切れなくなったんだ。
けれど、光はその形を保ったまま天井に伸びている。
まとわりつく稲妻と一緒に。
- 668 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:33
-
「く…っ、なんで思い通りにいかんのや…! 」
その言葉にハっとする。
思い通りにいかない……、紺野の不安定なココロにかかっている負荷…、
そして砕け散ったガラス…。
それらが、意味するものは…
――――暴走へのカウントダウン。
「こうなったら…自我を崩壊させてでも…!」
!?
自我を崩壊…!?
な、なんてことを…!
狂ってる…、完全に…!
慌てて駆け出そうとした、その時―――
- 669 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:34
-
パン…ッ!
突然…、乾いた銃声が部屋に響き渡った。
「な…に…?」
途切れ途切れの稲葉貴子の声。
見開かれた瞳は、アタシの後ろに向けられて。
貫かれた右肩からは流れ出る鮮血。
そう、撃たれたのは…稲葉貴子。
そして…撃ったのは…
稲葉貴子の視線を辿って振り返った先。
厳しい表情で白煙の上がった銃を構えている…
「もう…こんなことせんといて。…あっちゃん」
中澤裕子だったんだ。
- 670 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:34
-
ガクン、と。
糸が切れた操り人形のように、稲葉貴子の身体がその場にずるずると
崩れ落ちていく。
まだ『なぜ?』と、目を見開いたまま。
止めどなく流れ出る鮮血もそのままに。
「能力者を…ウチを虐げてきた人間が憎いんは判る…。けどもうええんよ」
カチャン、と…その場に銃を落として、ゆっくりと歩み寄っていく中澤裕子。
悲しみと、別の何か…そう、慈しむような眼差しで。
「え…っ? 裕ちゃんって…嘘…」
やぐっつぁんの心底驚いた声。
ううん、そこにいる殆どのメンバーが事態を把握できていなかった。
中澤裕子も…――能力者だってコトを。
アタシと、稲葉貴子以外は。
「初めて作られた能力者が…ウチや」
かすれた声の告白は、全員の心を揺さぶる。
まさか、そんな、というような表情をして振り返ったのは斉藤瞳と大谷雅恵。
自分達を作り出した研究者もまた、別の研究者に作り出されていたんだ、
無理も無い。
- 671 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:34
-
「あっちゃん…」
重い足を引きずるようにして、稲葉貴子に歩み寄っていく中澤裕子。
そして、彼女は身をかがめて、そっと…哀れな科学者の頬に触れた。
信じていた道を無くしてしまった、哀れな科学者に…。
「アタシは、もう突然この力を埋め込まれたことを恨んでない」
「裕…ちゃん…」
「ごめんな…、辛かったなぁ…、アタシの変わりに、あっちゃんが苦しんで
くれたんやな…?アタシの憎しみとか、ずっと引き受けてくれとってんなぁ…?」
「裕ちゃん…っ」
「アタシが泣けない時に、あっちゃんが泣いてくれた。それだけでもう十分や」
言いながら、大きな瞳から零れ落ちる涙を中澤裕子は指先で拭ってやった。
どこまでもエゴイストだった彼女の涙は、それでも…どこまでも透き通っていて。
『ややこしい感情』に縛られた何かが解き放たれたようにも感じられたんだ。
- 672 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:35
-
「ははっ…負けてしもたんか……裕ちゃん…、なんでやろう…?」
今にも消え入りそうな声。
流れる涙も構わずに。
でも、その想いを受け止めるみたいに中澤裕子は、熱い滴をすくい続ける。
「あっちゃんは負けてないで…。せやけど…、こういうことも、たまにはあんねん…」
「ひどい話や……そんなん」
「そやな…ホンマひどいわ」
くっくっ、とそこで悲しい笑みを浮かべる稲葉貴子。
中澤裕子も。
「もう…なんもなくなってしもた…。ウチには…なんもない」
「そんなことないで…。あっちゃん、アンタにはアタシがいるやん」
「裕ちゃん…」
「アタシがずっとおるから。昔みたいに一緒に研究したらええ」
「ホンマに?」
「ホンマ。せやから今は、……安心して眠り?」
「うん……。ごめん…な…」
- 673 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/01(木) 14:35
-
稲葉貴子は、ゆっくりと目を閉じた。
それを優しく見守っていた中澤裕子が、そっと瞼の上に手をかざす。
そして…―――力を発動させたんだ。
温かい光の中で、稲葉貴子はどんな夢を見るのか…。
アタシには判らない。
でも…、きっと目覚めたときには、その記憶も全てなくなっているだろう。
そう、目覚めたときには、彼女は苦しい過去を忘れる。
新しい記憶を作るために。
「今度目が覚めたら、苦しむことは何もないからな」
ぐったりと倒れこんできた彼女の身体を支えながら、中澤裕子は呟いた。
そして…その視界の先に―――光の柱を仰ぎ見たんだ。
まだ続いている現実の苦しみを。
- 674 名前:tsukise 投稿日:2004/07/01(木) 14:36
- >>654-673
今回更新はここまでです。
- 675 名前:tsukise 投稿日:2004/07/01(木) 14:36
-
>>646 星龍さん
えぇ、田中さんに亀井さん…色んな部分で強くなってくれています…っ
きっと一番振り回されちゃってる損な役回りなのかもしれませんね(苦笑
楽しんで頂けているなら、作者として嬉しい限りですっ(平伏
>>647 みっくすさん
ごっちんの言葉…所々零れてしまう隠し切れない部分に
なっちは鋭く感じ取っちゃっているのかもしれませんね。
どうぞ、続けて読んで下されば幸いデス(平伏
>>648 ジルさん
再び立ち寄っていただけて、ありがとうございますっ(平伏
亀井さんとの会話…彼女なりの気遣いなのかもしれないですね(ぉ
『交差していく心』、どうぞ見守っていただければ幸いデス(平伏
>>649 オレンヂさん
ごっちん、カッコ良く描けていますかっ!ありがとうございますっ
ごまっとうはクールなイメージがあるので、ご感想嬉しい限りですっ
どうぞ、鼓動を落ち着けて見守って下さいませっ♪(平伏
- 676 名前:tsukise 投稿日:2004/07/01(木) 14:36
-
>>650 Stargazerさん
恐らくは…あと数回で…(ぉ
息切れ気味な部分もあったりして、申し訳ないですが嬉しい
ご感想をありがとうございますっ!ラストまで駆け抜けますねっ
>>651 名無し読者さん
それぞれの想いが複雑に絡まっていて、ホント苦しい状態ですね(汗
後藤さんの決断…そうですね、うちの後藤さんは一度決めたら
何が何でも貫いていくタイプかも…(ぉ どうぞ温かく見守ってあげて下さい(平伏
>>652 レオさん
ハイ、まさに…いよいよ…というところまで来てしまってます…っ
うちの後藤さんはきっと…自分の正義を最後まで貫いていくのでしょうね…
どうぞ、続けて読んで下されば幸いデス(平伏
>>653 ku_suさん
そうですね、もう書いている方も一喜一憂しながら書いていたり(汗
最後には、出来ればみんな笑っていて欲しいなぁと親心をもったり(笑
何気に、私も田亀のCP…最近のお気に入りなんですよ〜(笑
- 677 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/01(木) 17:31
- 更新お疲れ様です。
「CROSS HEART」なワケですね・・・。(涙
そしていよいよ。。。
続きも楽しみにしております。
- 678 名前:みっくす 投稿日:2004/07/01(木) 20:14
- 更新おつかれさまです。
なんか切ないですね。
それにしても、紺ちゃんはどうなちゃうのだろう。
みんなの想いが届く事を祈りつつ、
次回楽しみにしてます。
- 679 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/01(木) 23:32
- 終焉に向かってますね。(泣
夢見というチカラに縛られた丁を開放するために
地の龍を率い対立した、というところが重なったのですよ。
自分の中では。(w
- 680 名前:Stargazer 投稿日:2004/07/02(金) 07:39
- こうきましたか…まずは、交差の1つが終わりましたね。また、ここからが
1つの波だと思いますが…ドキドキしながら、マターリと待ってます。
それにしても、上手い切り方しますねぇ。
- 681 名前:つみ 投稿日:2004/07/02(金) 16:41
- 更新お疲れさまです。
一つの物語が終わりましたね・・・
そしてもう一つの物語へとつながって・・・
あの二人もどこで絡んでくるのか楽しみです。
次回も待ってます!
- 682 名前:レオ 投稿日:2004/07/02(金) 16:47
- いよいよですね・・・。
いや〜なんか緊張しますわ(笑)
後藤さん頑張ってください!!!
では次回もお待ちしております。
- 683 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:38
-
「藤本…! コントロールパネルで、なんとかならんか…っ?」
「あ…っ、はい!」
一変して鋭い声を上げた彼女に、美貴が弾かれたようにコントロールパネルに
食らいつく。
再び動き出した時間に、全員が息を呑んで見守った。
けれど…。
「これは…、美貴にはムリですよ…っ、さっきのガラスを吹き飛ばすほどの
力の負荷で、機械自体がオーバーヒート起こしちゃってるし…!」
「あかんか…!」
苦々しく眉をひそめる中澤裕子。
美貴ほどの人間が『ムリ』というなら、きっともう機械での制御は効かない。
「…なに言ってんの、紺野! 諦めないで!絶対なんとかなる!」
隣で声を上げるなっちは、きっと全てを投げ出そうとしている紺野の声を
聞いたんだろう。懸命に励まして、繋ぎとめようとしている。
- 684 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:38
-
「裕ちゃん、どうにかなんないの…!?」
「紺野の存在自体がなくなってから、もう時間がかなり過ぎてしまってるし…
自力で力の暴走を食い止めるんは不可能や…。せめて触媒となる肉体が
残ってたら…なんとかなったんやけど…」
触媒の肉体…か。
そういうコトだったんだ…?
……アタシの、やるべきコトは。
「どうしようもないの…!?」
「くそっ!」
ガシャン、と固く握った拳でキーボードを叩く美貴。
その姿をアタシは、ぼんやりと見つめて…それから紺野に視線を巡らせた。
あの光の中で、今紺野はどんな表情をしてる?
やっぱり泣き虫だから、眉を下げて、口だってへの字にして、それでも涙が
零れないように、ぐっと唇をかみ締めたりしてる?
- 685 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:38
-
「……大丈夫だよ……」
そっと呟いて、アタシは一歩、また一歩と光の柱に向かって歩いた。
まるで吸い寄せられるように。
「ごっつぁん…? どうしたの…?」
あぁ、なっち。
やっぱり最後まで、あなたは私の心に敏感で。
きっと、ずっとおかしなアタシを見つめていたのかもしれないね。
さっきまでのアタシなら、曖昧に笑ってた。
でも…。
でも、もう隠す必要はない。
だから、全部形にして伝えるよ。
「アタシが、なんとかするよ」
立ち止まって振り返らずに答えると、その場にいた全員が「え?」と声を上げた。
- 686 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:38
-
「真希、こんな時だからこそ冷静に…」
「混乱しているのは判るけど…」
美貴と亜弥が、心底心配したように目を伏せる。
それを見て、アタシは苦笑した。
確かに紺野のコトになると、見境がなくなってしまう時もあるアタシだけど
そんなに今、凄い顔でもしてたんだろうかって。
アタシは違う違う、と首を振って振り返った。
「アタシの細胞が、一番紺野に影響を与えてる。そう言ったよね?」
稲葉貴子の肩の血をハンカチで縛って止血している中澤裕子に投げかける。
一度「うん?」と眉をしかめた彼女だけれど、あぁ、というように頷いた。
「それにアタシの細胞の一部は紺野と一緒。なら…触媒になることはできる」
そう、いわゆる、輸血と同じ仕組み。
型が合えば、共有しあえるってコト。
- 687 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:39
-
「でも、触媒になれたとしても、どうやって紺野の身体を作り出すの?」
「…あの柱の中は素粒子で詰まってる。紺野は今生きたいと願ってるんだから、
…だから、アタシの肉体に反応してくれる」
「『量子脳理論』…か」
「『量子脳理論』…?」
中澤裕子の呟きに、みんなが首を傾げる。
多分、彼女にはアタシのやろうとしているコトがもう判ったはず。
この手の研究をしてきたんだから。
「前にも説明した、この物質世界全てが素粒子…つまり人間の『心』から
できている、と説いたモノや」
「つまり…紺野が身体を求めている今の状態なら…元に戻れるってコト?」
「そうや」
やぐっつぁんがホっとしたような息をつく。
なら、なんとかなりそうじゃん、と。
そう…なんとか……するよ。
- 688 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:39
-
「…でも、ちょっと待って…! 今ごっつぁんは『肉体に反応してくれる』って
言ったよね?それに裕ちゃんは…触媒の肉体がどうとかって…。…ねぇ…、
もし上手くいったとして…ごっつぁんはどうなるの?」
あは、やっぱ、なっちは鋭いね。
一番の問題点を突いてくるんだもん。
でも、もうアタシは逃げの口上なんて考えてない。
深く一度息を吸い込んで、告げたんだ。
「―――…消える」
一瞬にして、全員の顔色が変わった。
こくん、と亀井の息を飲み込む音が聞こえるぐらい、シン、と静まり返って…
「はぁっ!? 真希、アンタ何言ってんのよ!? 消える!?」
「美貴、ちょっと落ち着いて」
言葉を全て理解した美貴が、鬼の形相で睨みつけてきた。
いつも飄々としている美貴でも、こんな風に怒ったりするんだ、なんて
妙に感心してしまうぐらい。
それを止める亜弥も、珍しく戸惑ってるし。
- 689 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:39
-
「真希、正気?」
「正気」
「消えるって…、アンタなんで簡単にそんなコトが言えんの!?
『死ぬ』ってコトなんでしょ…!?」
確かに、ね。
自分でも驚いてる。
でも…もう、随分前…あの夢を見てから、わかっちゃってたんだ。
だから、ココロの準備がもう、できていたんだと思う。
「そんなの紺ちゃんが納得するワケないじゃん!」
「そうだよ…っ、すっごく困惑してるよ…!」
美貴の吐き捨てる言葉に続くように、なっちが言った。
紺野のココロを全部読んでるんだろうな…。
うん、わかってるんだ。
紺野が拒絶するってコトも。
その後、どうなるかってコトも。
でも。
- 690 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:40
-
「でも、このままだと紺野の力はいつ暴走して、破壊の力になるかわからない」
うっ、と言葉に詰まる面々。
その後ろで、一度はその目に暴走を見たのだろう、田中がぐっと眉を寄せていた。
「それに、死ぬんじゃないよ。紺野の中で、アタシは形はどうあれ生き続ける」
「何言ってんのよ! だ、だったらアタシがいく!」
美貴が、光の柱を仰ぎ見て叫ぶけど、アタシはやんわりと首を振る。
「アタシが、行かなきゃなんないから」
「なんでよっ、アタシも紺ちゃん少しは細胞が一緒なんでしょ!?」
こんな時の美貴は頑固だ。
でも、そのストッパーをアタシは知ってる。
卑怯かもしれないけど、その切り札をあえて使わせてもらうよ。
「…亜弥を置いてくの?」
「…っ!」
びくん、と身体を震わせて硬直する美貴。
亜弥は、どうすることもできないジレンマを感じてか、唇を噛んで俯いてしまっている。
ごめん、最後の最後までワガママで、勝手で、無鉄砲で。
- 691 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:40
-
「わかって、美貴。それにアタシ…紺野を守るって決めたんだ。」
「真希…っ!」
それでも美貴は食い下がらんと、口を開きかけて―――やめた。
今まで暮らしてきた中で、わかってるから。
アタシも、負けず劣らず頑固者なんだって。
止めても、無駄なんだって。
それでも、ただ一言。
「…バカ」
…かもね。
ふっと笑って、アタシは…後ろでただじっと佇んでいた田中に歩み寄った。
いつも勝気に瞳が、今ばかりは不安の色に染まっている。
そうだね、田中には辛い頼み事をしてしまったから。
でも、アタシ、心配なんてしてない。
田中なら、絶対に大丈夫だって思うから。
「…あと、お願いね」
「…………」
何も言わないけど、伏せられた目が肯定していた。
- 692 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:40
-
そしてアタシは、中澤裕子に振り返る。
紺野が苦しむことがないように導けるのは、彼女だけだから。
「…上手くいったら…―――紺野の記憶、消してやって?」
「……――それで、ええんか?」
「うん」
それが、きっと紺野の為に一番いい。
アタシのコト、能力のコト、一切合切忘れた方がいいんだ。
そして、普通の生活に。
「ダメだよ、ごっつぁん! そんなの…!そんなのって…!」
「なっち…」
ありがとう、なっち。
でも、これでいいんだよ、ホントに。
「でも…!でも!!」
紺野には、『人間』として生きて欲しいから。
きっと、アタシの肉体を触媒として造られる紺野の身体は…素粒子の能力を失う。
そうしたら…、能力者だった記憶なんて要らないんだ。
アタシとの関わりも…ないほうがいい。
そう…アタシのコト、忘れていい。
- 693 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:41
-
「ごっつぁん…」
もう、なっちは何も言わなかった。
ただ、うな垂れるように、首を振って…ぎゅっと瞼を閉じたんだ。
ごめんね…、いつも辛いキモチを押し付けて。
ふと、瞳を閉じて…息をつく。
再び瞼を開くと、そこにはもう紺野の姿だけ。
さぁ…―――行こう。
紺野の元に。
ゆっくりと、踏み出す。
光の元へと。
一歩、また一歩と。
と、その時。
「やっぱりダメだよぉっ! 紺ちゃんが助かっても、真希がいなきゃ意味ないじゃん!」
美貴の悲痛な声。
「お願い、真希!他の方法を探そう!?」
続けて、亜弥の懇願。
- 694 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:41
-
背中にそれを受けながら、アタシは光の柱の前で立ち止まる。
止めても、もう無駄なんだって判ってても、こうしてアタシのコトを思ってくれる二人。
思えば、いつも二人にアタシは引っ張られてきた。
どんな時でも、ずっとずっと。
「…美貴、亜弥」
自然と笑みがこぼれてしまうのを感じながら、アタシは振り返る。
最後に涙は、アタシ達の間では、らしくない。
だから笑顔で。
「二人といた時間、結構悪くなかったよ。…楽しかった、ありがと」
言って、アタシはそっと光の柱の中に手を差し出し、足を踏み込んだ。
瞬間、感じたのは、紺野の拒むオーラ。
『やめてください』とか『こないで』とか…そんな。
でも、止まることなく。
全身が光に包まれる瞬間、まだほとばしっていた電撃の威力に、
サングラスが弾かれたのを見て…なんとなく笑ってしまったっけ。
…あぁ、本当に全部、宿命だったんだなって。
- 695 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:41
-
光の粒子は、異質なアタシという媒体にすぐ反応を示した。
熱く身を焦がすような感覚が、アタシに…ううん、きっと紺野にも襲い掛かってる。
あぁ…これが紺野の力だったんだ。
妙に冷静に受け止めている自分がいて。
目の前で起こる変化を、じっと瞼に焼き付けていく。
これがきっと…紺野と触れ合える最後だから。
消えていくアタシの身体。
甦っていく、紺野の身体。
消えていくアタシの意識。
甦っていく、紺野の意識。
一瞬交わっては消えていく、全てが愛しい。
狂おしいほどに、紺野を求めている自分がいるんだと思い知らされる。
全てをアタシで埋めてしまいたい、と。
いつまでだって、紺野のココロをアタシで満たしていたい、と。
今ならわかる、誰にも渡したくないアタシだけの宝物だったんだ…このコは。
それなのに…。
- 696 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:42
-
「紺野…」
すき、スキ、好き。
溢れかえりそうな想いは伝えられない。
ただただ、辛いものになるだけだから。
そのかわり、溢れかえったのは、熱い涙。
アタシがここにいる最後の証明。
「やだ…、ごとぉさん…っ、やだ…っ」
徐々に形を作っていく紺野は…やっぱりというか、泣いていた。
大きな黒い瞳で、アタシをとらえて滲ませて。
それだけで胸が締め付けられる。
泣かないで…泣かないで…紺野。
お願い、笑っていて。
アタシの最後の記憶のカケラを、あなたの涙で埋めたくない。
笑ってよ…ねぇ、笑って…?
- 697 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:42
-
「いやです…やだ…っ、後藤さん…、いかないで…!」
「どこにもいかない。アタシは紺野の中にいるから。…この間、傷つけてゴメンね」
「そんなこと、もうどうでもいいんです! そばにいて…っ、ずっとずっと一緒に…!」
「紺野…」
抱きしめていたい。どんなときでも。
この手で、キミをアタシの中に繋ぎとめていたい。
ずっとずっと…。
でも、もうそれは叶わない。
ほら…アタシの身体はキミの中に溶け込んでいく。
『アタシ』は『キミ』になっていく。
うん…それで…いいんだ。
アタシは…キミ。
どんな形でも、アタシはキミの中に生き続ける。
「やだ…っ、後藤さん…っ!」
大丈夫、大丈夫だよ。
いつもアタシ達は一緒。
まだ残っている指先で、キミの頬を伝う雫を拭う。
瞬間、光がアタシの指先を溶かし始めた。
- 698 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:43
-
―――… タイムリミット…だね。
最後に、と、ゆっくりと顔を傾けて…、そっと…唇を重ねる。
ぎゅっと瞼を閉じた瞬間、零れ落ちるキミの涙を見つめながら。
離れると、紺野は悲鳴にも似た涙声で「いやだ」と叫び続けた。
「紺野…」
………。
あぁ…そうか…やっとわかった。
この胸を焦がす熱いキモチの名前。
『好き』よりもっと深くて、大切な言葉。
それは…。
「アタシ…紺野のコト…」
「愛し…―――」
瞬間、全てが光の中に溶けて…消えた。
ただ、繰り返し流れている『オンブラマイフ』だけを鼓膜に焼き付けて。
- 699 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:43
-
「う…そ…っ…、いやぁ…」
私が元に戻ったと同時に掻き消えた光の中、呆然と立ち尽くしてしまう。
何がなんだか、もうわからない。
今、この目の前のことは…現実なの…?
何が起こった…?
後藤さんはどこ…?
私はどうして、ここに存在してる…?
どうして…私を包んでいた光は消え去ってるの…?
みんなはどうして、そんな悲しい目で私を見てるの…!?
「あぁ…ぁ…っ」
ううん、わかってる。
…わかってるんだ。
私は…、後藤さんに助けてもらった。
そして、後藤さんは…っ。
- 700 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:43
-
ふと、滲んだ視線が床をさまよった時、ある物を見つけた。
瞬間、ズキズキと切り裂かれるように痛む胸。
あれは…あの特徴的に形は…
「後藤さんの…サングラス…っ」
あぁ…。
酷い眩暈に襲われて…一人では立っていられなくなって…。
でも、…―――もう支えてくれる暖かな手は、そこになくって。
「あぁぁぁっ!」
歪む視界。
すぐ目の前の冷たい床。
くらくらする頭。
そのすべてを無視して、すがりつくように、サングラスを胸に掻き抱いた。
ギシ、と歪む音も構わずに、強く…強く。
後藤さん…!後藤さん!後藤さん!!
- 701 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:44
-
『どうなっても…アタシは、いつでもそばにいるから』
そう言ってくれた…。
『アタシのそばにいてよ…っ』
私を必要としてくれてた…っ。
『紺野が…好きだ』
私の存在を認めてくれてた…!
それなのに…!
それなのに私は、いつだって最後の最後で『自分』を恐れて。
『自分』を信じきれなくて…っ。
…後藤さんを傷つけて…!
『守りたいの、紺野を』
ずっとずっと守ってくれていたのに…!
『でも…私のせいで、危険な目に…』
『そうなったら、紺野がアタシを守ってくれるんでしょ?』
―――…守れなかった…!
- 702 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:44
-
「うあぁぁっ!! 後藤さん!後藤さん!!」
零れる涙は、私のモノ…?
それとも、あの人の最後に残した『想い』のカケラ?
わからない…わからないけど…!
これは確かに、あの人が私に残してくれた…『命』。
「…紺野」
ふわり、と白いものを身体にかけられて、ぐしゃぐしゃになった顔を
のろのろの上げる。
あ…、よく見ると…、これ白衣だ…。
視界の先には…
「…? 中澤さん…?」
なんの感情も読み取れない眼差しで私を見つめている。
「…大丈夫か?」
…優しい言葉…。
今の私には、きっと不釣合いの言葉…。
- 703 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:45
-
「自分を責めたらあかんで…?」
じゃあ…。
じゃあ、誰を責めろっていうんですか…?
ぜんぶ私のせいなんですよ…?
そう…ぜんぶ私のせい…っ。
「うぅ…ぁ…っ…くっ」
「紺野…」
「せ、責めて下さいよぉ…っ!私が…!私が後藤さんを…!」
「紺野…」
「責めて…ぇ…!責めてください…!!お願い…責めて……」
「紺野……」
いない…!
もう、どこにも…!
もう…―――逢えない…! 2度と…!!
- 704 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:45
-
「いやぁぁぁッ!!」
「紺野…!」
すがりついて、ただただ泣いた。
言葉にならない声を吐き出しながら。
そんな私を強く抱いてくれる中澤さんの腕。
その温もりさえも、後藤さんの記憶を鮮やかに甦らせる。
でも、やっぱり…それはただの私の記憶の中の後藤さん。
どこにもいない、後藤さん。
「わかった…わかったから…っ、もう苦しまんでええから…!」
言って、視界を閉ざされた。
ひんやりした感覚に、私の瞼に中澤さんの手が触れたんだと理解する。
でも、そう理解した瞬間…―――
…―――すべてが流れ消えた。
- 705 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/02(金) 23:45
-
指の隙間から見えた、安倍さんも…藤本さんも…松浦さんも…。
きゅっと唇をかみ締めていた矢口さんも…田中ちゃんも…。
顔を伏せてしまっていた亀井ちゃんも、重さんも…。
稲葉さん、柴田さん、村田さん、他の二人だって…。
そして…―――笑顔で涙を零した…後藤さんも。
…すべてが…消えたんだ。
苦しい気持ちも。
嬉しかった気持ちも。
すべて。
- 706 名前:tsukise 投稿日:2004/07/02(金) 23:46
- >>683-705
今回更新はここまでです。
次回で…最終回となります…(平伏
- 707 名前:tsukise 投稿日:2004/07/02(金) 23:46
-
>>677 名も無き読者さん
ハイ、「CROSS HEART」…色んな交差する気持ちですね…。
複雑に絡み合っていたモノも、全ては一つの想いからなんですけどね(涙
>>678 みっくすさん
相手を思うが故に苦しんでしまう展開で…本当に切ないですね(汗
紺野さん…苦しいキモチを抱えてしまいましたが…きっと…!(ぉ
>>679 名無飼育さん
ハイ、まさに終焉が目の前になってしまいましたですっ
『X』…姉を想うが故の対立…崩れ行く建物を見ながら実は涙してました(白状
>>680 Stargazerさん
ハイ、一つの波が去って…もう一つの大きな波も今回…(涙
書いてる方も切り方など、ドキドキしながら書いてたりしてますです(笑
- 708 名前:tsukise 投稿日:2004/07/02(金) 23:47
-
>>681 つみさん
ハイ…続けて2つの大きな物語がここで…(ぉ
あの二人…きっとラストにまた…でてくる…といいなぁと思ってたり(マテ
>>682 レオさん
後藤さん、いろんな意味でがんばっちゃいましたが…(ぉ
なんと、緊張されてしまったとはっ!作者としては嬉しい限りですっ(平伏
- 709 名前:名無しぽき 投稿日:2004/07/03(土) 00:11
- …一言。
泣きますた…
読んでて、こう、頭がグルグル回るんですよ。
軽いめまいみたいな。
自分も光の中、みたいな。
いよいよラスト。
Tサマ、ファイトッス。
- 710 名前:つみ 投稿日:2004/07/03(土) 00:34
- もう何も言う事はありません・・・
ただただクライマックスをまっております。
- 711 名前:konkon 投稿日:2004/07/03(土) 00:51
- 本気で泣けます!
こんごまどうなっちゃうのか・・・
最終回期待です!!
- 712 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/03(土) 01:23
- 更新お疲れ様でございます。
涙があふれて止まりません。
最終回を楽しみにしてます。
- 713 名前:みっくす 投稿日:2004/07/03(土) 02:41
- 更新おつかれさまです。
やっぱりごっちんはこういう決意だったんですね。
最終回楽しみにしております。
- 714 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/03(土) 04:06
- あー…なんかうまい言葉が出てきません…
悲しい気持ちと切ない気持ちが交差して心がいっぱいです・゚・(ノД`)・゚・。
いよいよ次回最終回なんですね、更新待ってます
- 715 名前:Stargazer 投稿日:2004/07/03(土) 06:44
- …何となく分かっていたとはいえ、この展開は辛いですね。切なくて、
でも…どっちの気持ちにもリンクしちゃうから、すごく不思議な感覚です。
次回、最終回とのことですが…心して待たせてもらいます。更新お疲れ様です。
- 716 名前:レオ 投稿日:2004/07/03(土) 10:47
- ヤバイですよ・・・。
後藤さんの一言一言が胸に染みました。
では最終回お待ちしております。
- 717 名前:星龍 投稿日:2004/07/03(土) 22:09
- 更新お疲れ様です。
自分は小説とか読んでも泣かなかったんですけど・・。
泣きました。
後藤さんの言葉・・・。
感動しました。
次回最終回楽しみにしています。
- 718 名前:ku_su 投稿日:2004/07/04(日) 09:15
- 次回いよいよ最終回ですか
二人の気持ちがやっと一つになれたのに悲しいですね…
ごっちんの言葉にジーンときてしまった
更新楽しみにまってます
- 719 名前:tsukise 投稿日:2004/07/05(月) 22:52
- 今回、最終回ということで、作者のネタバレを避けるために
あえて、皆様のレスを先にさせて頂きます。
ご理解のほど、ヨロシクお願いします(平伏
>>709 名無しぽきさん
なんとっ、泣いて頂けたとはっ(平伏 ありがとうございますっ
物語の中に溶け込んでくださっているとは、もう作者として
嬉しい限りですっ、どうぞ最後お付き合い下さいませ(平伏
>>710 つみさん
長い長いお話へ、ずっとお付き合いくださいまして
ありがとうございますっ(平伏
ラスト…どうぞ、見守ってくださいませ…(平伏
>>711 konkonさん
なんとっ、本当に『泣ける』というご感想はこの上なく
嬉しいご感想でございますっ(平伏
こんごまのラスト…どうぞ見守ってやってくださいませ(平伏
- 720 名前:tsukise 投稿日:2004/07/05(月) 22:52
-
>>712 オレンヂさん
あぁっ、そんな、涙を流していただけたとはっ!(平伏
もう、そのお言葉だけで舞い上がっておりますっ。
どうぞ、最終回、お付き合い下されば幸いです(平伏
>>713 みっくすさん
ごっちんの決意…ハイ、こんな形になってしまいました…(涙
間違っていると分かっていても、そうするしかなかったあの瞬間。
どうぞ、その後の動き…最終回で見守ってあげてくださいませ(平伏
>>714 名無し読者さん
悲しい気持ちに切ない気持ち…そうですね、もう色んな
気持ちが交差しあって、作者もいっぱいいっぱいです(ぇ
どうぞ、最終回での交差する気持ち…見守ってあげてくださいませ(平伏
>>715 Stargazerさん
ハイ、もう作者としても、その瞬間を書くのが切なかったです(涙
お互いに、思いあってるが故の決断。けれど心はそうはいかないもので…
最終回での、心の動き…どうぞお付き合い下されば幸いデス(平伏
- 721 名前:tsukise 投稿日:2004/07/05(月) 22:52
-
>>716 レオさん
ヤバイですか…っ、えぇ、もう作者も書いててヤバヤバでした(涙
後藤さんの、相手を思うが故のココロの動き…辛いモノで…。
最終回…どうぞお付き合いくださいませ(平伏
>>717 星龍さん
なんとっ、後藤さんの言葉に涙していただけたとはっ
うぅ、ありがとうございますっ(平伏 作者として感激です。
どうぞ、最終回…お付き合い下されば幸いです(平伏
>>718 ku_suさん
そうですね、二人の気持ちが交差して、やっとこれから…
というときの悲しい出来事…。後藤さんの言葉に感動して
いただけたみたいでありがとうございますっ
どうぞ、ラスト…見守ってあげてくだされば幸いデス(平伏
- 722 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:53
-
―――…季節は春。
満開の桜に、映えるような蒼が広がる空の下、ちょっとブカブカの
新しい制服に身を包んで、校門を抜けていく。
時折、頬を撫でていく風が心地いい。
まるで、弾んだ気持ちを表してくれてるみたいで。
だって中学校の卒業式には参加できなかったけど、こうして高校の
入学式にはちゃんと出席できたから。
・
・
・
ちょうど二週間前。
目が覚めたら、私は病院のベッドの上にいた。
どうして、そこにいたのかは判らなくて…。
担当の先生に尋ねたら、何かの事故に巻き込まれてしまったみたいで
倒れているところを誰かが救急車を呼んで助けてくれたらしい。
ふと首を回すと、枕元にいたのは、まこっちゃん。
よっぽど心配してくれてたんだろうな…死人みたいな表情で私を見つめてたんだ。
それでも、私が笑ってみせると、本当に安心したみたいにボロボロと泣き出して。
凄くびっくりして…ちょっぴり嬉しかったっけ…。
- 723 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:53
-
でも、もっとびっくりしたのは、まこっちゃんが帰って行ったその後。
私が昔いた施設から来たという女の人が、これからの事を話してくれたんだけど…。
『施設に資金援助をしてくれる人が出来てな? 知っとうかなぁ?[石川代議士]って。
まぁ、それでな、アンタが今まで住んでたアパートから、新しく建設されたマンションに
移住してほしいんよ。あ、もちろんお金の心配はいらん。こっちで手続きとかはするし』
石川代議士っていえば、知らない人はいないぐらい政治の中心に居る人で。
まさか、そんな人が施設に資金援助なんて信じられなかった。
でも、差し出された部屋の鍵と、地図に信じざるを得なかったっけ。
『もう、荷物は届いてるはずやから、退院したらもうそっちに移ったって?
それとな…ごと………いや……なんでもない』
なんだろう、歯切れの悪い言葉。
何か大切な事を言いかけて、それでも言葉を飲み込んだみたいな、そんな。
でも、初めて接する関西弁の人に、たじろいで訊き返せなかったんだ。
『高等部の入学手続きも済ませておいたから、4月からは高等部やな。
おめでとう。もし、なんか困ったことがあったら、ここに連絡くれたらええから』
- 724 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:54
-
最後はまくし立てるように言って、一枚の名刺を差し出すと、その人は
さっさと部屋を後にしてしまった。
開いた扉の向こうに、何人かの人がこっちを覗き込んでいたみたいだったけど、
結局何も声をかけられることもなく。
改めて渡された名刺には、当然だけど初めて見る名前が載っていた。
―――…中澤、裕子さん。
うん、初めて見る名前…。
なのに…、何かが引っ掛かった。
こう…、なにか…大切な何かを落としてしまったような…。
もやもやと頭の中を掻き乱していくものを感じながら、私は近くのテーブルに
名刺を置きかけて…―――止まった。
テーブルの上。
歪な形のサングラスが所在なさげに、ポツンと置かれていたから。
まるで私を見つめるように向けられた、表面のガラス部分が…何故か淋しい。
- 725 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:54
-
これは…私のじゃない…よね…?
初めて見る。
そう…初めて見る…はずなのに…。
どうして、こんなにも胸が苦しくなるんだろう…?
誰の…もの…――?
わからない…。
そんなジレンマを感じながら、入院生活を終えて…新しいマンションに移ったんだっけ。
そこの管理人さんは、まだ大学生なのにしっかりしていた石川代議士の娘さんで、
石川梨華さん。
そのお友達の吉澤さんは、私の入居に凄く喜んでくれていた。
『これで借りが返せた』なんて不思議な言葉をいいながら。
でも、とってもいい人そうで、これからの生活に安心できたのも確か。
- 726 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:55
-
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・
・
それから…新しい生活のスタート。
高校は、中学からのエスカレーターだから見知った友達がたくさんいた。
もちろん、愛ちゃんや里沙ちゃん、まこっちゃんも。
そうそう、高校編入試験を受けて入学してきた子に、とっても楽しい子もいた。
辻希美ちゃん。お姉さんが、元モデルさんらしくて、入学式の保護者席で
すっごく目立ってたなぁ。
今は服飾関係のお仕事に就いてるらしくって、辻さんの普段着とかは
お姉さんの手作りなんだって聞いて、びっくりしたっけ。
とっても人懐っこくて、うん、仲良くなれそう。
「あさ美ちゃん」
「え? あ、愛ちゃんに里沙ちゃん」
相変わらず仲のいい二人は、手を繋いで登場。
まるで姉妹みたいだね、って言ったら、すっごく恥ずかしそうにして。
なんだか、嬉しくなる。
- 727 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:55
-
「入学式には、ちゃんと出席できて良かったね」
「うん。心配かけてゴメンね」
「ううん。でも、後藤さんって人の家に居候してたかと思ったら急に引越して
ビックリだよ」
「…ごとうさん? 居候って…?」
「え? だって、あさ美ちゃん…」
困惑した二人の表情に、私は首を傾げる。
居候…? そんなのしたことないのに。
だって私は、ずっと、アパートに住んでいて…。
うん…ずっと……ずっと…?
あ…れ……?
なんだろ…。ちょっと、曖昧な記憶…。
人より記憶力には自信があるのに…思い出せない時間が…。
「ちょ、あさ美ちゃん…? 大丈夫?」
「え…?」
「顔が真っ青になってる」
「あ…うん、大丈夫…、大丈夫」
言いながらも、もやもやした気持ちは晴れない。
自分の事なのに、ちゃんと思い出せないのが…腹立たしくて…。
- 728 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:56
-
「もしかしたら、事故にあって少しまだ記憶が混濁してるのかも…」
「あ、そうだね…。まだ1ヶ月も経ってないし…」
「…かな」
「元気だしなよ? ちゃんと思い出していけると思うからさ」
「うん、ありがとう」
じゃあね、と手を振りながら二人は校門を抜けていった。
このあと、二人で映画を見に行くんだって。
楽しそうでいいなぁ。
私は、どうしよっか?
「あさ美ちゃーん」
「え? あーまこっちゃん」
のほほんとしたような笑顔で、こっちに歩いてきたまこっちゃん。
入学式の時から、ずっときっちりと閉じたシャツの前を気にしてて
とうとう今、第一ボタンを外して着崩しちゃってる。
「お疲れ〜」
「うん、お疲れ。まこっちゃん、ちょっと退屈そうだったね」
「退屈そう、じゃなくて退屈だったの」
「そう?」
「うん。あさ美ちゃんは、真面目ちゃんだから、このキモチ判んないんだろうねぇ」
「むー、そんなことないのに」
ちょっと膨れてみせると、あははっと笑って、ほっぺたの空気を押し出してきた。
もー、なんてじゃれつくと、またまこっちゃんは笑う。
久しぶりの感覚に、なんか楽しくなっちゃうな。
- 729 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:56
-
「あさ美ちゃんは、この後どうするの?」
「うーん…、特にすることもないし、家に帰ろうかなって…」
「あ、だったら、どっか寄ってかない? マックでも」
「うんっ。…って、あ、まこっちゃん、先生が呼んでるみたいだよ?」
「え? あ、ホントだ」
ちょっとごめんね、と言って、駆けていくまこっちゃん。
入学式が終わって、新しいクラス発表があったんだけど、それでまこっちゃんは
学級委員に選ばれちゃったみたい。
きっと、今だって、明日からのことを簡単に説明してもらってるんだ。
ふっと、顔をあげて空を見上げる。
澄み切った空には、暖かな風が吹いていて。
なんとなく吸い込まれそう。
あ、そういえば…吸い込まれるといえば…。
ごそごそとカバンから、一つのケースを取り出す。
開けて出てきたのは…ちょっと歪んでしまったサングラス。
このサングラスのガラスも、どこか吸い込まれそうになるんだよね…。
なんとなく、手放せないそれは、どこか私を惹き込むみたいで。
とても…落ち着くんだ。
- 730 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:57
-
「かけて…みよっかな…?」
思い立って、フレームを開いたその時。
カチッと音がして、手から滑り落ちたんだ。
「あ…っ、いけない…」
歪んでしまっているからかな、ちゃんと開かないみたい。
地面に転がったサングラスを追いかけるみたいに、道路に出る。
そして、手を伸ばしたその時。
「危ない! 紺野さん!!」
「えっ?」
突然の誰かの声に、サングラスを素早く手にとって立ち上がって。
それから、顔をあげて…――動けなくなった。
急なカーブを曲がって、目の前に迫ってきているトラック。
鳴らされる、大音量のクラクション。
真っ青な運転手の顔が、ここからでもハッキリと見えるほど。
―――…轢かれる…!!
反射的に身をかがめて、耳元を押さえる。
- 731 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:57
-
次の瞬間、身体に衝撃が…―――こなかった。
眉をしかめて、ゆっくり顔をあげると、まだトラックはアタシの目の前にあった。
驚いて数歩後ろに下がって、気づく。
私とトラックの間。
何か…壁ができてる。
緑色の…力強い、何か。
これは、時折身体を突き抜けていくようなこれは…―――風?
ふいに視界がブレて。
途端に辺りが、色を失っていく。
その灰色の視界の先に見えたのは…真っ黒なコートに、映えるような金に近い髪。
だ…れ…?
私…知ってる…?
そっと手を、その人に伸ばそうとする。
けど、次の瞬間には…――色が弾けた。
- 732 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:57
-
キィィィィ―――!!
耳をつんざくような音を上げながら、私のすぐ横をかすめていくトラック。
吹き抜ける、鋭い風。
…そして…一瞬だけ鼻を掠めた…柔らかな香り。
「馬鹿野郎!! ボーッと、突っ立ってんじゃねぇ!!」
「あっ、あっ、ご、ごめんなさいっ!」
怒鳴り声に、身を竦ませて謝る。
本当は車が減速しなきゃいけないのに、とか、そんな事をいつもなら
考えるんだろうけど…、今の私には、そんなことはどうでもよくて…。
ただ、何かが頭の中で引っ掛かって…。
その手に持ったサングラスを、じっと見つめたんだ。
落としてしまった時、何故か罪悪感みたいなものを感じてしまった、サングラスを。
どうしてだろう…?
私の物じゃないのに。
誰の物かも判らないのに。
それでも、大切にしなきゃって思ってしまうんだ。
ぼんやりと、考えて込んでいたせいか、私は近づいてきていた人影に
気づかなかった。
- 733 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:58
-
「…やっぱり…」
「え?」
顔をあげると、どこか勝気な瞳で私をとらえている女の子。
だ、誰だろう。
どんどん私に近づいてきてる。
しかも、視線は…――手の中のサングラスに。
「みんなは、黙ってろって言うけど、もうれいなは黙ってられない…っ」
「? えっと…?」
「紺野さん…っ、後藤さんは生きてます、ただの器だとしても」
「ごとうさん…? うつわ?」
まくし立てられるようにいわれて、私は目を白黒させる。
なにがなんだか判らない。
でも、必死に訴えかけてくる、この女の子を無視することも出来なくって。
私は困ったみたいに立ちすくんだ。
「お願いしますっ、れいなと一緒に来てください…!」
「えっ、えっ?」
くん、と腕を引っ張られて、思わずよろめく。
ど、どうしよう…。このままついていくわけには…。
そう思ったとき。
- 734 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:58
-
くん、と、再び腕が引っ張られた。
今度は反対側を。
え?と顔を向けると、そこにいたのは厳しい表情の。
「まこっちゃん…?」
彼女にしては珍しいぐらいの、厳しい顔。
怒ってるときでも、こんな表情したことないのに…。
「どこに連れて行く気なの?」
声だって、とても攻撃的で…。
でも、腕を掴んでいた女の子も、負けないぐらい怖い顔をしていた。
「言ったら、その手を離してくれますか?」
「場所によるよ」
「中澤研究所です」
間髪居れずに答えた女の子に、まこっちゃんは握っていた私の手を
ぎゅっと強く握り締めた。
ぎりぎりと痛いぐらい強く。
- 735 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:59
-
「悪いけど、あさ美ちゃんを連れて行かせるわけにはいかないよ」
「なんでですか?」
「やっと、あさ美ちゃんは普通の生活に戻ったんだから。幸せを崩さないで」
「それは、あなたの幸せなんじゃないんですか?」
「はぁっ!?」
びくっと身体が震えた。
二人の会話がよく読めなくて…。
でも、なんだか…凄く怖い事が起こってる気がして…。
ど、どうしたらいいんだろう…?
「今の紺野さんが、本当に幸せに見えますか?」
「…幸せそうじゃん。高校に入って、友達が出来て…」
「大切な人を忘れて?」
「…っ」
「そんなの幸せじゃないです」
ぴしゃり、という言葉がしっくりくるぐらい、目の前の女の子は言い放った。
いつもは強気なまこっちゃんも、珍しく狼狽してる。
それほどまでに、私に知らせたいことって…何?
大切な人って? 幸せって?
わからないことだらけだ…。
- 736 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 22:59
-
「とにかく! あさ美ちゃんは行かせないよ!また大変な目に逢うかも
しれないのに…!」
「あ…!」
一瞬の虚をついて、まこっちゃんはアタシの腕を強くひっぱると駆け出した。
痛いぐらいにきつく締まった手に、何か不安を感じながら。
でも、その足はすぐに止まる。
「あ…」
「はろー、紺ちゃん」
「え…?」
「つっても、覚えてないか、アタシらのコト」
立ちふさがるように、4人の女に人が立っていた。
凄くワイルドって言うのかな? 大胆な洋服を着た2人の人と、
端正な顔立ちの人、そして、メガネをかけた不思議な笑みを浮かべた人。
この人たちも…私を知ってる?
「れーな、ダメじゃんか。一緒になって熱くなっちゃ」
「すいません…。でも」
「ん。判ってる。キモチは一緒だから」
「はい…」
なだめられて、さっきの勢いをなくした女の子は、それでも私をじっと見てる。
すがるような…そんなまなざしで。
- 737 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:00
-
「さて、小川麻琴さん?」
「…なんですか?」
「ここでアタシらが議論するのは、やっぱ間違いかなぁと思うワケだよ」
「だから、なんですか?」
メガネの人が、すっと前に出て腕を組んだ。
それだけで、ちょっと威圧感を感じてしまう…。
「ふむ。要するに、…ここは紺野さんの意見を尊重しましょう」
「あさ美ちゃんの?」
「そう。彼女が決めたことなら、お互い納得できるでしょ?」
「……わかりました…」
な、なんだか勝手に話が進んでる気がするけど…。
でも、一理ある気はする。
両者とも、私のことで何か対立しているわけであって…。
当事者の私は、まだなんにも言ってなくて。
だったら、ちゃんと私が決めれば、この場はおさまるから…。
うん、やっぱり、理にかなってる。
- 738 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:00
-
「というワケで、紺野さん。あなたの意見を聞かせて」
「あ…」
「彼女と一緒に、新しい友達を作って、恋人なんかも作ったりして楽しくて
貴重な高校生ライフをこれからエンジョイするか、それとも…ちょっち、
辛いことを知っても、大切な何かや…誰かを思い出してみるか」
みんなの視線が集中する。
説明は、うん、どっちを選択することになっても、誰も責めはしない言い方。
まこっちゃんも黙って頷いてるから、きっと納得するものなんだ。
さぁ、私は…どうする?
…確かに、今の生活は楽しい。
きっとこれからだって、楽しい生活が待ってる。
もしかしたら、ドキドキするような恋を誰かとするかもしれない。
それって、とても充実した生活。
でも。
私の頭の中に引っ掛かった、もやもや。
これは多分、…辛い何かを忘れて…、でも、忘れたくないって
気持ちが繋ぎとめた、一本の記憶の糸なんだと思う。
大切な何かや誰かが、どんなものなのかは判らない。
けど、…予感がするんだ。
本当に、わたしにとってかけがえのないもののような、そんな。
- 739 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:00
-
だから…。
「私…思い出したい。たとえ辛いことでも…大切なものなら」
あぁ、と。
まこっちゃんのうな垂れる姿。
でも、私を思ってか、しょうがないって顔を向けてくれる。
ごめん、まこっちゃんは私の事を考えてくれたのに。
申し訳ない気持ちが広がるけれど、やっぱり知りたいんだ。
そんな微妙なやりとりに感づいたメガネの人が、ポンとまこっちゃんの
肩を軽く叩いて、それから端正な顔立ちの人を呼んだ。
「何も怖がることはないからね。今からちょっと過去の夢を見てもらうよ」
「過去の夢…?」
「見ればわかる。…身体、楽にして立ってて」
「あ…はい」
言われた通りに、緊張してしまう身体をなんとかほぐす。
その時、背後にそっと立って見守っていた女の子が懇願するように言ったんだ。
「思い出してください…、紺野さんの協力が必要なんです」
って。
その声にかぶせるように、スっと瞼に翳される手。
私は、抵抗もなく目を閉じる。
- 740 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:01
-
知りたかった。
こんなにも私の心をかき乱していく、なにかを。
それは、とても大切なもののような気がしたから…。
忘れてはいけない、そんな。
「いくよ…紺ちゃん」
耳に届いた、聞きなれない呼び名。
でも…、不思議と嫌な気はしない理由は、もうすぐ判るはず。
直後、流れ込んできたのは…深い深い…――悲しみ。
でも、それだけじゃない。
嬉しさや、楽しさ…胸を焦がすような熱い気持ちも…。
- 741 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:01
-
『わかった…わかったから…っ、もう苦しまんでええから…!』
え…?
これは…?
私の…過去…?
そうだ…なくしてしまった…私の過去。
『こんな時間に、ここらへん通んないほうがいいよ。…化け物に逢いたくなかったら』
そう…最初はあんなにも冷たい目をしていた。
『あたしのコト、怖いんじゃないの?』
正直、最初は怖かったです。
『アタシは…後藤真希』
初めて聞いた名前は、深く私の中に響いて。
『絶対に紺野は守ってみせるから』
嬉しかった。凄く。
- 742 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:02
-
『…アタシの名誉を守ってくれて、ありがとう』
抱きしめられた腕は、どこまでも温かかった。
『アタシ…紺野が…『好き』なんだ』
私も、あなたが……。
『どこにもいかない。アタシは紺野の中にいるから』
私の中に…そう、あなたは生きている。
『アタシ…紺野のコト…愛し…―――』
聞けなかった、最後の言葉。
聞きたかった、言葉…。
あぁ…そうだ。
私は…こんなにも、あなたを好きになった。
嬉しくて、悲しくて、楽しくて、苦しくて…それでも、あなたを。
消えない心の痛みが、あなたの存在の大きさを気づかせるんだ。
そう…―――後藤さんの。
- 743 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:02
-
「紺…ちゃん?」
離れた手の感覚に、ゆっくりと瞼を開く。
その先には、心配げなみんなの表情。
思わず、苦笑してしまったっけ。
「…柴田さんって、悪夢を見せることができるだけじゃなかったんですね」
言った途端、噴出したのは後ろの村田さん達。
バンバン、柴田さんの背中を叩いたりして笑ってる。
もちろん叩かれた柴田さんは膨れっ面。
「紺ちゃんって、時々妙にクールだよね」なんてぶつぶつ言って。
「あさ美…ちゃん」
「あ…、まこっちゃん」
どこか諦めにも似たような笑顔で、まこっちゃんが歩み寄ってくる。
さすがに、柴田さん達も何か感じ取ったみたいで、静かに見守ってて…。
「まこっちゃん…、私、行かなきゃ」
「……そっか…」
「うん…」
まこっちゃんの気持ち、嬉しいよ?
嬉しいけど…、違うんだ。
私は…あの人だけしか…。
- 744 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:02
-
「あ〜あ、なーんか、こんな時、友達って寂しいもんだよねぇ〜」
「え…?」
「行ってきなよ。会いたいんでしょ?」
「う、うん」
「今度はさ、ちゃんとアタシにも紹介してよね?」
「あ…」
きっと、まこっちゃんなりの優しさ。
このまま気まずくなっていかないように…。
ありがとう…。それから、ごめんね。
謝罪の言葉は心の中だけで呟く。
ここで同情するのは、本当に間違ってるから。
「うん…っ。行ってきます」
「はいはい、じゃ、またね」
やれやれ、と手を振って去っていくまこっちゃん。
本当は、凄く傷ついてる。
でも、明るく。
ほんとに…ありがとう。
その背を見届けて…。
「田中ちゃん、後藤さんの元に連れてって?」
「…はいっ」
あの人の元へと駆け出したんだ。
- 745 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:03
-
「な、んで…!?」
通された研究所の一室。
入った瞬間、目を丸くした矢口さんと視線がぶつかる。
なんでここにいんの…!?
矢口さんだけじゃない、みんながそんな目で見てる。
でも、私の後ろで小さくなっている田中ちゃんを見て察したのか、
松浦さんが、軽く笑って私の肩を叩いてくれたんだ。
そして…ゆっくりと道をひらいてくれる。
藤本さんも、安倍さんも…。
みんなが。
ゆっくりと歩いていく。
ただ、譲られる道をそのままに。
それから辿り着いた先。
「紺野…」
やっぱりちょっと驚いた顔をした中澤さんが、それでも『やっぱりな』って
顔をして、私を招き寄せてくれた。後ろではちょっと申し訳なさそうに
それでもじっと私を見守ってる稲葉さん。
肩に巻かれた包帯が、ちょっと痛々しいかも…。
- 746 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:03
-
そして目の前に広がっていたのは、大きな機械。
テレビで見たことがある日焼けサロンみたいな…そんな入れ物と…。
そこに繋がった大きな機械。
何か、赤い液体が詰め込まれていて…ちょっと不安になったっけ。
でも、そんな不安も、入れ物の中を覗き込んだ瞬間、吹き飛んだ。
「ご、後藤さん…!?」
そう、そこには、後藤さんが静かに眠っていたから。
私は息を飲んで、入れ物にすがりつく。
眠っているみたいで、きつく閉じられた瞼。
記憶の中にある後藤さんとは、ちょっと違った容姿に戸惑う。
だって、幾分痩せた身体が…短く切られた髪が…全く知らない人に見せたから。
「どうして…っ!?」
「説明、しよか」
顔をあげると、優しく見守ってくれている中澤さん。
大きく頷くと、一度息を吐いて、話し始めた。
- 747 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:03
-
「人間では、禁忌とされている『ある技術』を使うたんよ」
「ある技術…?」
「そ、ある技術。まー、もともと禁忌に触れる研究をしてたんやから、
今更、罪を重ねても構わんし。それに…同じ罪を重ねるんやったら
人助け、したいやん」
結局中澤さんは『ある技術』については、話さなかった。
口では言っても、きっとそれなりの覚悟と罪の意識があったからだと思う。
「ホラ、真希が前に大ケガしたじゃん? 紺ちゃんを…その助けようとしてさ」
「あ…はい…」
後のほうは、少し気がひけたのか小さな声で言う藤本さん。
でも、そのケガと『技術』とどんな関係が?
「その時、手当てしてる時にたまたま採取していた体細胞を使って、クロ…」
「『ある技術』で、肉体を再現したの。何度か感染症にあっちゃって…
紺野ちゃんの知ってる真希の姿とはちょっと違うかもしんないけど…」
遮るように言った松浦さん。
あ…なんだか…わかったかも…。
体細胞で再現できる肉体。何度も遭った感染症…。
そして…人間では禁忌とされている技術。
つまり…そういうことなんだ。
- 748 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:04
-
「あの…でも、田中ちゃんが私の協力が必要だって…」
「そう…、アンタの協力がないと…後藤は後藤じゃないんよ」
「…?」
どういうことですか…?
後藤さんが後藤さんじゃない…?
「体細胞で、肉体を再現できても…中にある意識までは再現できん。
要は…全くの別人格を持った後藤なんや、このコは」
コンコン、とガラス部分を叩く中澤さん。
「そこで、や。まだ紺野の中に生きている後藤の意識を…なっつぁんと
柴田の力で…移植したい、と考えとったんや」
「私の中に生きている、後藤さんの意識?で、でも、私の中にそんな意識なんて…っ」
「いいえ、紺野さんの中には、確かに後藤さんの意識がまだ生きてます」
「田中ちゃん…」
「思い出してください。学校でトラックに轢かれかけた時、何か感じませんでしたか?」
「そう、いえば…」
確かに感じた。
あの時、私を守るように強い風が…。
…―――風…っ。
- 749 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:04
-
そうだ…!それに私は確かに見た。
後藤さんの姿を。
あれは…じゃあ、後藤さんは、ずっと私の中で…?
「ホンマはな…、もう紺野と接点を持つ気はなかってん」
「え…?」
「後藤の、最後の頼みやったから」
「中澤さん…」
これで良かったのかどうか判らない。
そんな苦い笑顔で、じっと後藤さんを見つめる中澤さん。
きっと、こうして…『ある技術』を使うのも、凄く悩んで…。
「けどな…、やっぱ悲しすぎるやん? 人一倍不器用に生きてきたコが
全部の犠牲を背負い込んで、それで終わりなんて、おかしいやん?」
そう…。
後藤さんは人一倍、生きることに不器用で。
でも、誰よりも『人』を大切にしていた。
そんな人が、救われないなんて…うん、絶対におかしい…っ。
- 750 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:05
-
「私も、そう思います…っ」
「紺野…」
「私…、いつも後藤さんに守られてて…っ、なんにもできなくて…。
でも…っ、後藤さんはいつも受け入れてて、ぜんぶ背負い込んで…っ。
そんなのダメですよね…っ、後藤さんだって幸せになる権利が
ありますもんね…っ」
涙が零れそうになる。
でも、ダメ。
今、泣くわけにはいかないんだ。
まだ後藤さんは、苦しんでる。
なのに、泣けない…。
ぐっと、私は唇を噛んで…中澤さんを見据える。
「私…、後藤さんの為ならなんでもします…!お願いします…!
後藤さんを助けてください…! お願いします!」
- 751 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:05
-
もう一度、後藤さんの笑顔を見たいんです。
もう一度、後藤さんと喋りたいんです。
もう一度……「紺野」って…呼んで欲しいんです…。
だから、だから…っ。
「…ありがとう…。…っしゃ! みんな取り掛かってや!」
『了解っ』
弾かれたように、みんなが動き出す。
みんな、一緒の気持ちだったんだ。
犠牲の上に成り立つ世界、そんなの…私達の世界には必要ないんだって。
…ねぇ? 後藤さん?
- 752 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:05
-
・
・
・
訪れた世界は何もない、真っ暗闇。
意識さえも、その中に溶けてしまったように…。
音も、明るさも、触れるものさえない…――本当の闇。
これが…―――『死ぬ』っていうことなんだ…。
不安は、驚くほどない。
ただ…ほんのちょっと…淋しい…かな。
もう…あのコに2度と逢えないのが。
でも、後悔はしてない。
アタシは…あのコの一部になるんだから。
アタシは…あのコの中で、生き続けるんだから。
それだけでいい。
心残りなのは…、アタシはもう、あのコをこの手に抱けないこと。
…ごめんね、紺野。
こんな下手な愛し方しかできなくて。
ちゃんと、紺野の誤解…解けたかも判らない。
でも、アタシは…確かに、あなたを…
―――…愛していたんだよ?
- 753 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:06
-
『その言葉…―――直接言ってあげな?』
え…?
今の声って…?
なっち…?
まさか、ココロを読んで?
でも、どうやって…、アタシはいないのに?
『真希…そろそろ起きなきゃ』
美貴…?
起きる? 起きるって…アタシ、消えたのに?
『感じるでしょ? アンタ、ちゃんと「ここ」にいる』
ここに…。
―――…あぁ、ホントだ。
アタシ…感じる。
ちゃんと…生きてる。
どんな仕掛けを使ったのか判んないけど、ちゃんと存在してる…。
- 754 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:06
-
『あとで、たっぷりお礼はしてもらうで?』
中澤裕子…。
なるほど…アナタがいれば…。
あは、言ってくれるね。
『後藤さん、もう、れいなは、お役御免ですよね?』
田中…、そう、だね。
ありがとう、あのコを見守ってくれてて。
…感じてた。
真っ暗な闇の中で、アナタの力を。
ずっと遠くから、ちゃんと守ってくれてた。
『これからは、アンタが守ってやりな。…ずっとそばで』
亜弥…。
でも…いい、のかな?
アタシ…、あのコを傷つけた。
でも、それでも、そばにいて…いいのかな?
『バカ、そのまま眠ってる方が傷つけるって、なんでわかんないの?』
そう、かな。
- 755 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:06
-
『――…そう、ですよ』
こん…。
『起きて、後藤さん』
………。
『伝えたい事が、いっぱいいっぱいあるんです。
文句だって言いたいし、一緒に笑い合いたい。
泣きたい時には、そばにいてほしいし、そばにいたい。
だから…だから…』
―――…紺野って、泣き虫だもんね。
『だって…だって…っ、後藤さんがいないから…っ』
アタシが…、いないから?
『後藤さんのせいです…っ』
あは、紺野、ムチャクチャ。
- 756 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:07
-
『…っ…くっ…ひっく…』
紺野…。
…――― 一つだけ、約束してれる?
『なん、ですか…?』
アタシが起きたら…笑顔を見せて?
『むりですよぉ…っ、こんなになっちゃってるのに…っ』
努力、してよ。
『…………はい』
約束、だかんね?
- 757 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:07
-
―――…時は満ちた。
さぁ、その目を開いてみよう?
傷つけたくなくて、自分が傷つくのは、もう終わり。
傷つけてしまったら、『ごめんなさい』
傷が癒えたら、『ありがとう』
そのすべてのキモチを、カッコ悪くても伝えていく。
それが、あのコとアタシの本当の『約束の形』になるんだ。
アタシがあのコを守る。
そして、あのコはアタシを守ってくれる。
…そんな約束の。
ね、紺野。
- 758 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:07
-
「…ホント、紺野って、泣き虫だね」
生まれたての視界の先には、愛しいキミ。
大粒の涙を浮かべて、鼻の頭を真っ赤にしてさ。
それでも、必死に笑おうとして…また泣いて。
「ご、後藤さんの、前…っ…だけ…です…っく…」
ボロボロと零れた涙は、アタシの頬に落ちていく。
どれぐらいぶりの、キミの温もりなんだろうね。
もう、思い出せない。
だって、この温もりが、アタシにとってはいつだって当たり前だったから。
「ばか…っ、ばかばかっ、ごとぉさんは、大ばかです…っ」
「…ごめん」
「ばかぁ…」
「…ごめん」
キミの後ろで並んだ、呆れ顔や嬉しそうな顔が、次々と部屋を出て行く。
アタシの、仲間達が。
ありがとう、アタシをまた…呼び戻してくれて。
それを見送って、そっとキミの頬に手を伸ばした。
- 759 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:08
-
「紺野…」
「もう…どこにも行かないで…」
「うん」
「ムチャ…しないで」
「うん」
「そばに…いて」
「うん」
腕を広げると、ためらいもせず降りてくるキミの身体。
あたたかい…。
溶け込むような心地よさに、満たされる。
責める言葉も、今はアタシを優しく包み込む。
知ってた? 紺野。
アタシ、いつも守っているつもりで守られてた。
きっと、キミはさりげない言葉で、さりげない行動で、
全く気にも留めていないかも知れないけれど。
アタシは確かに救われていた。
そう、キミはちゃんとアタシを守ってくれていたんだよ?
- 760 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:08
-
「後藤さん、うん、ばっかり…」
「うん…」
「ほら、また」なんて、困ったみたいに笑いながらキミはそっと
アタシの背に腕を回してきた。
ぎゅっ、と繋ぎとめておくように。
言葉にしなきゃ、不安、なんだね?
だったら…うん、アタシのココロを全部あげる。
「紺野…」
「…?」
いつかの伝え切れなかったココロを、今キミにもう一度。
「―――…愛してる」
びくっ、と、一度震えた身体。
それから、続けて小刻みに。
確かめなくても判る。
キミは顔を、くしゃくしゃにして泣いている。
「はい…はい…っ」と掠れた声で頷いているのが、その証拠。
アタシはただ、そんなキミのぬくもりを強く抱く。
もう決して、ココロが離れることのないように。
離してしまった苦味を知っているから。
それに…、もう一人じゃいられないコトも知っているから。
- 761 名前:Earnest love 投稿日:2004/07/05(月) 23:09
-
さぁ、これからどうしようか?
二人なら、なんだって出来ちゃうから。
キミがいれば、アタシはなんだって出来るから。
まずは、みんなに『ごめんなさい』だね。
そして、『ありがとう』と。
それが終わったら…―――少し、飛んでみない?
あの夜みたいに。
きっと、今なら春の風が暖かく祝福してくれる。
だから。
アタシと一緒に…飛んでみよう?
高く澄み切った、紺碧の中を。
キミが望むなら、どこまででも飛んでいくから。
ずっとずっと一緒に。
そう、一緒に。
キミが本当の笑顔で、頷いてくれたのは…それからもう少し、あとの話。
- 762 名前:CROSS HEART 投稿日:2004/07/05(月) 23:09
-
―――END
- 763 名前:tsukise 投稿日:2004/07/05(月) 23:12
- >>722-762
大量更新と同時に…完結させて頂きました。
お付き合い下さいました皆様、レスを下さりました皆様
そして、フラリと立ち寄って読んで頂きました皆様、
本当に、ありがとうございました…(平伏
- 764 名前:tsukise 投稿日:2004/07/05(月) 23:12
-
――――流します…
- 765 名前:taka 投稿日:2004/07/05(月) 23:16
- やべ〜 リアルタイムで最終回を読んでしまいました。
いつも楽しく読ませていただきました。
tsukiseさん面白い作品をありがとうございました。
- 766 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 23:17
- 更新&完結お疲れ様です。
こんなすばらしい最終回をリアルで見させて
いただきました。
もう……ほんとによかったです。
うまく言えませんが、名作です。めっちゃ感動しました。
ラストとてもよかったです。泣けますね・・・
本当にお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。
- 767 名前:名無しぽき 投稿日:2004/07/05(月) 23:26
- Tたん、涙がっ、涙がぁぁぁぁっ(涙
…完結おめでとうございます、そして、お疲れ様でした。
良かったです、ホント、良かった。
それはなんとお伝えすればよいのやら、わかりません。
ただただ、すばらしい話を、ありがとうございました。
- 768 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/05(月) 23:32
- 完結、お疲れ様です。
今また不朽の名作が此処に・・・。(涙
この最終回をリアルタイムで読めたのはもう幸運としか呼べません。
と言うよりこの作品に出会えた事自体が幸運なんですが。。。
長い間楽しませていただきましたので終わってしまったのは寂しいですが、
それを吹き飛ばしてくれる程に力強い『風』が心に・・・。
本当にありがとうございました。
- 769 名前:konkon 投稿日:2004/07/06(火) 00:10
- 完結お疲れ様でした。
もう本当に最高の小説だと思っております。
ごっちん&コンコンよかったです・・・また涙が流れてきてしまいます。
もし次回作があれば、必ず読ませていただきたいと思います。
長い間お疲れ様でした。
- 770 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/06(火) 00:14
- このお話しの最初からずっと読んでいた者です。
完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でした。
長いようで、短い、ありきたりな言葉ですが、それが見事に合います。
毎回更新が楽しみで、毎日チェックも欠かさずしていたのに、終わってしまうのは
少し寂しいです。でも私の心には確かに何かが残りました。
素晴らしい作品を、本当にどうもありがとうございました。
- 771 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/06(火) 00:20
- 完結、おめでとうございます。
素晴らしいラストをありがとうございました(予想外!うれしい驚きでした)。
紺ちゃんとごっちんはもちろん、仲間たちもいきいきと描かれていて、とても爽やかな読後感。
このような大作をものにされる才能が羨ましく、さすがだなあと唸ってしまいました。
次回作も心から楽しみにしています。
- 772 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/06(火) 01:14
- 完結、おめでとうございます。
よかった、よかったよぉ・゚・(ノД`)・゚・。
って最後まで泣きながら読ませていただきました。
ここのごまっとうはかっこよくってステキだし登場人物がすごく魅力的で
とても楽しみに読ませていただきました。
本当にステキな作品をありがとうございました。
- 773 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/07/06(火) 01:31
- 堂々完結、おめでとうございます!
とっても素晴らしいエンディングでした。
ごっちんも紺野もれいなも(ぉ とってもかっこよかったです。
いつも楽しく読ませていただいてました。本当にありがとうございました!
二年間お疲れ様でした〜!
- 774 名前:つみ 投稿日:2004/07/06(火) 01:47
- 最後の更新本当にお疲れ様でした!!!
もう何も言う事はありません!
こんの夜更けにこんな涙を流してるのは私だけなんじゃというくらいに今
目の前が霞んでおります!
作者さんのこんごまは前回同様やはり泣かせてくれました。
二年もやってたんですね〜・・・
次回作?も期待してます!
お疲れでした!!
- 775 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/06(火) 02:09
- 完結お疲れ様です。
よい意味での予想の裏切りが多々あり、とても楽しませてもらいました。
ありきたりな言葉でスイマセン。この作品大好きです。
ありがとうございましたm(_ _)m
- 776 名前:ku_su 投稿日:2004/07/06(火) 03:00
- 無事完結お疲れ様です
良い意味で裏切られました
ハッピーエンドで良かった
- 777 名前:みっくす 投稿日:2004/07/06(火) 05:50
- 完結おめでとうございます。
いやー、感動のラストでした。
とても、清々しい気分です。
tsukiseさんの書く後紺とても好きです。
次回作楽しみにしてます。
- 778 名前:闇への光 投稿日:2004/07/06(火) 06:24
- 初めまして、tsukiseさん。
影でこっそりと見させていただきましたが最終回ということで
今回初めて書き込みさせていただきます。
ストーリー展開でもしかして・・・と思っていたのですが
ある程度予想はあっていながら裏切られるなどいい終わりかたでした。
追伸:BGMで「桜」(河口恭吾)を聞きながら最終回を見るといいですねえ・・・。
予想では「アルバム」(ZONE 「卒業」に収録)かなと思っていたのですが・・・。
- 779 名前:レオ 投稿日:2004/07/06(火) 07:52
- 完結お疲れ様です!!!
涙涙で最後の方の文が読めませんでした・・・(笑)
2年間この作品を読めて幸せでした
ではまたtsukiseの作品に期待しております!!
- 780 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/06(火) 11:48
- 完結お疲れ様です。
BGMは…浜崎あゆみの「SURREAL」かな…
あとひとつだけ気になったことは加護って出してませんよね?
ラスボスに使ってくると思ってたんですが見事に予想が外れたw
- 781 名前:レオ 投稿日:2004/07/06(火) 13:44
- すいません「さん」が抜けてました。
- 782 名前:名無し娘。 投稿日:2004/07/06(火) 17:44
- >>780
あややの妹として過去編に出てたっしょ?
- 783 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/06(火) 18:18
- 完結お疲れ様です。涙が…。
もう最高です。本当良かった。良かったです(感涙
仲間って素敵ですね。大好きな小説でした。
次回作楽しみに待ってます。
- 784 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/06(火) 20:24
- 完結おめでとうございます。
そして本当に2年間お疲れ様でした。
ラストの方はほんと涙、涙で、素晴らしい作品を
有難うございました。
次回作もまた楽しみにしております。
- 785 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/06(火) 20:37
- 完結お疲れ様です。もう涙が止まりません・・・
毎回楽しく読ませていただきました。
tsukiseさんの描くこんごまが大好きです。
次回作も楽しみにしてます。
- 786 名前:星龍 投稿日:2004/07/06(火) 22:17
- 更新&完結お疲れ様でした。
ハッピーエンドでよかったです。
皆さんがかっこよくて・・・。
tsukiseさんの書く小説・後紺大好きです。
次回作も楽しみにしています。
- 787 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/06(火) 22:38
- しまった。。。
久しぶりにマジで泣かされた。。。
大体は先読みして当たってたのに、
ラストだけは読めんかった。。。
長らく楽しませていただいて、ありがとうございました。
お疲れさまでした。
- 788 名前:tsukise 投稿日:2004/07/08(木) 14:09
- 完結させて頂きまして、皆様のご感想に今更ながら
たくさんの方に支えられていた喜びを感じております。
感謝の気持ちを込めて、レスをかえさせて頂きます。
尚、完結作品でございますので、これ以降は『sage』でお願いいたします(平伏
>>765 takaさん
リアルタイムで、最終回を読んで頂けたとはっ!
楽しんで頂けたのなら、作者としては嬉しい限りですっ。
こちらこそ、お付き合いくださいまして、ありがとうございました(平伏
>>766 名無飼育さん
最終回をリアルで読んで頂けていたとは、本当にありがたいですっ
数ある名作集の中で、私めの作品に感動し読んで
ラストまで見守って頂けたこと深く感謝致しますっ。
こちらこそ、ありがとうございましたっ(平伏
>>767 名無しぽきさん
あぁっ!涙を拭いてっ!ぽきちゃまっ!笑
いつもレスを頂きまして、励みとなっておりましたっ
こちらこそ、本当にありがとうございましたっ(平伏
- 789 名前:tsukise 投稿日:2004/07/08(木) 14:10
- >>768 名も無き読者さん
完結に、嬉しいご意見・ご感想をありがとうございますっ
約2年に渡る長編の中で、そのように言って頂けると
作者としては、本望でございます。
お付き合い下さいましてありがとうございました(平伏
>>769 konkonさん
小説完結に、ご感想をありがとうございますっ
両者の一途故にすれ違ったり交わったりの心模様に涙まで
頂けてっ、作者冥利に尽きるばかりですっ。
長い期間お付き合いくださいまして、ありがとうございました(平伏
>>770 名無飼育さん
アップダウンの激しい展開の中、更新を楽しみにして下さって、
そして、完結に嬉しいご感想を頂き、こちらこそ感謝しておりますっ
作者として、何か心に留めて頂ける作品が書けたこと本望でございます。
約2年という長い期間、ずっとお付き合い下さってありがとうございました(平伏
>>771 雪ぐまさん
うなーっ、雪ぐまさんからもご感想頂けるとはっ、ありがとうございますっ(平伏
ラスト、作者の願望が予想外の展開を引き起こしてしまったようです(笑
キャラ一人一人を大切にしたいと思うが故に、長編となってしまいましたが
頂きましたご感想に肩の荷が下りた気持ちでいっぱいです(笑
長期間、お付き合いくださいまして、ありがとうございましたっ(平伏
- 790 名前:tsukise 投稿日:2004/07/08(木) 14:10
- >>772 オレンヂさん
小説完結に、嬉しいご感想をありがとうございますっ
あぁっ、ラストまで涙ながらに読んでいただけたとはっ(感涙
カッコよく、クールなごまっとうを楽しんで頂けたのなら幸いですっ
こちらこそ、お付き合いくださいましてありがとうございましたっ(平伏
>>773 片霧 カイトさん
あぁっ、カイトさんも完結に嬉しいご感想をありがとうございますっ
ごっちんも紺野も、そしてれいなも(ぉ)カッコよく書けていたようで
もう、作者として、嬉しい限りでございますっ
長い期間、お付き合いくださいまして、ありかどうございましたっ(平伏
>>774 つみさん
連載当初より、ずっと見守っていただきましてありがとうございますっ
前作同様、励ましのカキコに何度救われていたことでしょう…。
ラストまで涙を流して読んで下さったこと、嬉しい限りですっ
約2年という長い期間、お付き合いくださいましてありがとうございましたっ(平伏
>>775 名無し読者さん
小説完結に、ご感想頂きましてありがとうございますっ
よい意味での裏切り、楽しんで頂けて幸いですっ
いえいえ、ありきたりだなんてっ!もう作品を楽しんで頂けただけで
作者として本望でございますっ。お付き合いくださりありがとうございましたっ(平伏
- 791 名前:tsukise 投稿日:2004/07/08(木) 14:10
- >>776 ku_suさん
小説完結にご感想くださいまして、ありがとうございますっ
ラストの展望で良い意味での裏切り、楽しんで頂けて幸いです。
辛い出来事の多かった彼女達への、ハッピーエンドは作者なりの
ご褒美だったりします(ぇ)ラストまでお付き合いくださいましてありがとうございました(平伏
>>777 みっくすさん
約2年という期間の中、続けて読んで下さいましてありがとうございますっ
感動のラスト・清々しい気分、もう作者としてこれ以上嬉しいモノはありませんっ
何度となく、ペースダウンがありましたが、連載当初より頂いたカキコに
励まされておりましたっ。長い間、お付き合いくださいましてありがとうございましたっ
>>778 闇への光さん
数多くあります作品の中で、私めの作品を読んで頂きまして
ありがとうございますっ。ストーリー展開、ラストへの予想の裏切りにも
楽しんで頂けて、作者として嬉しい限りですっ。BGM、何気に書きながら
聴いていた曲でビックリですっ。長い間お付き合いくださりありがとうございましたっ(平伏
>>779 レオさん
小説完結に、涙涙の嬉しいご感想をありがとうございますっ
約2年間、途中更新のアップダウンがありましたが、ラストまで
導くことが出来たのは、頂いたカキコの力でもありますっ
長い間、お付き合いくださいまして、ありがとうございましたっ(平伏
- 792 名前:tsukise 投稿日:2004/07/08(木) 14:10
- >>780 名無飼育さん
小説完結に、ご感想頂きましてありかどうございますっ
浜崎あゆみさんの「SURREAL」、実は書いている間BGMで
聴いていた一曲でもあり、ビックリです(ぉ
長い期間、お付き合いくださいまして、ありがとうございましたっ(平伏
>>783 名無し読者79さん
小説完結に、嬉しいご感想をありがとうございますっ
あぁっ、感涙の涙まで…っ、そして『大好きな小説』とまで言っていただき
もう作者としてこれ以上に嬉しいことはありませんですっ。
長い間、お付き合いくださいまして、ありがとうございましたっ(平伏
>>784 名無飼育さん
小説完結に、嬉しいご感想をありがとうございますっ
約2年間という長い期間の中で、涙していただき、素晴らしい作品と
言っていただけるなんて、もう本望でございますっ
こちらこそ、お付き合いくださいまして、ありがとうございましたっ(平伏
>>785 名無飼育さん
小説完結に、嬉しいご意見とご感想をありがとうございますっ
自分の作品で共感していただけたり、涙を流して頂けたとはっ
もう、作者冥利に尽きるとはこのことですっ(感涙
長い期間、こんごまを中心とした本作にお付き合いくださり
ありがとうございましたっ(平伏
- 793 名前:tsukise 投稿日:2004/07/08(木) 14:11
- >>786 星龍さん
ラストUp&小説完結に、嬉しいご感想をありがとうございますっ
ラスト展開は、辛い経験を頑張って乗り越えた彼女達への私なりの
ご褒美でございます(笑)星龍さんも楽しんで頂けて嬉しい限りですっ
本当に長い期間お付き合いくださいまして、ありがとうございましたっ(平伏
>>787 名無飼育さん
あぁっ、ラスト展開に涙を流していただけたとはっ
本当に作者としては、これ以上に嬉しいことはありませんっ(感涙
ラストまで、楽しんで頂けて幸いでございますっ。
長い期間お付き合いくださいまして、こちらこそありがとうございましたっ(平伏
皆様より、たくさんのご感想を頂きましてありがとうございますっ。
次回作などの展望は、まだございませんが『tsukise』の名前を
見かけられましたら、またフラリとお読み下されば幸いデス…。
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