ココロの歌。U
- 1 名前:作者。 投稿日:2004/02/01(日) 15:31
- 前のスレッドがいっぱいになってしまい新しくスレッドを
立てました。これからもよろしくお願いします。
前のスレッド→http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/water/1051710144/l50
同じ海板です。
- 2 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/01(日) 15:46
-
<大谷 視点>
放課後、あゆみにバイトと言って先に教室を出る。自転車に乗って門を
通って学校という場所を出て行く。
ホントはバイトじゃなかった。
だから、ココロが痛い。
しばらく自転車をこいであるマンション前につく。ポケットから携帯を出して
電話をかける。相手はワンコールで出た。
『マサオ?』
「うん。今着いた」
『すぐ降りるから待ってて!』
バイト先で知り合った村田めぐみ。
ドジでおっちょこちょいでぼーっとしてて。
見てるだけで面白いヤツだ。
待ってるとマンションからめぐみが出てきた。
「・・・寝癖、ついてるけど?」
「あ、さっきまで寝てた」
「出かける前にちゃんと直せよー」
「だって、マサオ待たしちゃ悪いかなって」
めぐみを後ろにのせて自転車をまたこぎだす。
「・・・彼氏さん、来た?」
「んーん、最近は来ないね・・・」
会話はそれだけで途切れた。自転車は駅へと着いた。
「ごめんね、買い物つき合わせて」
「いいよ。暇・・・・だしね」
暇と言えば暇で、暇じゃないと言えば暇じゃない。
ポケットの中の携帯が震えた。
<バイト頑張ってね。終わったら電話ちょーだい。あゆみ>
「どうしたの?」
「え?あぁ、何でも無い。行こう」
めぐみは不思議そうに私を見ていたけどすぐ笑って歩き出した。
その隣を歩く。
「今日、どうする?」
「いやー、最近、毎日マサオん家に泊まるのも悪い気が・・・」
「いいよ。家族は誰も気にする人いないし。お父さん、めぐみの事気に入ってるし」
「・・・・」
「怖いでしょ。家に1人でいるの」
「うん・・・ごめんね」
「友達、でしょ」
- 3 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/01(日) 15:55
- めぐみは現在1人暮らしの高校生。高校は私と違って一駅向こうの私立の
高校に通っている。親の心配でマンションはロック式のとこだ。
めぐみの彼氏はちょっと年上の大学生。駅の階段でずっこけた時に助けて
くれたのが出会いだったらしい。それでめぐみは一目惚れ。
告白したらOKをもらえてはしゃぎながら私に報告してきた。だけど、それから
急にめぐみの様子が変わった。
いつも悲しそうな顔をしていて・・・。
私は気になってめぐみに聞いたら、殴られたりする事を聞いた。
『そんなヤツ!別れなよ!』
『でも・・・優しいとこあるし』
『殴るなんてめぐみの事大切に思ってないんだよ!』
『・・・・別れたくないよ・・・』
めぐみはその一点張りで、別れようとしない。
まぁ、最近は考えが変わってきたみたいで別れる事も考えてるようだ。
「マサオ、じゃぁさ、うちに泊まりにきなよ。日頃の気持ちを込めて
ご馳走作るから」
「え・・・・?」
「ね、いいでしょ?」
嬉しそうなめぐみを見ると頷くしかなかった。
- 4 名前:作者。 投稿日:2004/02/01(日) 15:57
- 更新です。そして新スレッドです(^−^
>725 ミッチー様。
まさに一難去ってまた一難。いやー、大変です(^−^;
やっぱ三角関係になってしまう・・・・。
- 5 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/02(月) 03:26
- 更新お疲れ様デス。。。
加護、早く新しい恋が見つかるといいネ!
柴大に、これから大きな嵐の予感……
作者さん、新スレッドでもガンバッテ下さいネ!
どこまでもついて行きますゼ!!
- 6 名前:タケ 投稿日:2004/02/02(月) 16:57
- 更新お疲れ様です
新スレでも頑張ってください!
めぐみさん・・・大丈夫なんでしょうか
その前に大柴の誤解が・・・
前途多難だなぁw
- 7 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/03(火) 22:22
-
<柴田 視点>
梨華ちゃんにマサオの事を話してみた。
「うーん、でもさ、普通の友達なんじゃない?だって大谷さん、柴ちゃんに夢中だし」
「ならいいんだけど・・・」
私はクッションを持って抱き寄せた。
「私とひとみちゃんもそんなような事でもめた事あるし」
梨華ちゃんは笑って言った。
「あんま気にしない方がいいよね」
「そうだよ〜!柴ちゃんらしくないぞ!」
それからしばらく話して梨華ちゃんは帰って行った。時刻はもう7時をまわっていた。
マサオのバイトはもうじき終わる頃だろう。私は携帯を握ってベランダに出た。
はぁと息を吐く。夜空には少し星が見えた。
「マサオ・・・・早く電話しなさいよ・・・・」
ぎゅっと携帯を握って小さく呟いた。
「おい、あゆみ。夕飯だよ。母さん呼んでる」
お兄ちゃんが部屋の扉に立っていた。
「うん。わかった」
────それから1時間後。
マサオからの電話は1回も無かった。メールでさえも。
「何なのよ!もう!こっちから電話してやる!」
怒ってマサオの電話にかけてみる。
『おかけになった電話は電波の届かないとこにいるか電源が切られています───』
「は?」
私は自分の耳を疑った。もう一度かけてみるが同じだった。
- 8 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/03(火) 22:37
- 次にマサオん家にかけてみた。多分、バイトで疲れて寝てるんだと思う。
だけどそんなの知ったこっちゃない、バイト終わりの電話はいつもしてる。
それを忘れてるなんてひどいじゃない。
『───はい。大谷です』
「あ、柴田ですけど・・・雅恵さんは?」
『あー、何か友達ん家に行くって出かけたよ』
「あ・・・そうなんですか・・・」
『うん。ご飯も食べてくるって』
「・・・はい。わかりました。失礼します」
携帯を切ってその場に座り込んだ。
マサオを信じなきゃ。
「・・・・でも、1言ぐらい言ったっていいじゃない・・・」
疑うココロがじわじわと広がっていく。
梨華ちゃんともさっきみたいに笑い合えるか今の私には自身が無い。
怖いよ。
マサオが離れていくみたいで怖いよ。
考えもしなかったな、こんなとこ。
- 9 名前:作者。 投稿日:2004/02/03(火) 22:51
-
>5 ミッチー様。
おぉ、着いて来てくれるんですか!(嬉泣
嬉しいです、新スレッドも頑張ります!
柴大さてどうなるか!?
>6 タケ様。
前途多難です(w 悩んで悩んで歩いていく・・・それがこの物語(w
(〜^◇^)<オイラの悩みは〜?
( ^▽^)<何も無くて羨ましいですネ♪
(〜`◇´)<何か言った?石川ぁ?
(;^▽^)<い、いえ何も・・・・。
次回は小川さん紺野さん!更新少なくてホントすいません。
今年の春から受験生・・・・うぅ、気が重い。
- 10 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/04(水) 00:39
- 更新お疲れ様デス。。。
マサオ!疑われる様なことするなよなぁ…
柴ちゃん可哀相。
どうなるか、この先楽しみ(!?)デス。
作者さんは春から受験生ですか。
実は私も……タイヘン、タイヘン
- 11 名前:タケ 投稿日:2004/02/04(水) 10:05
- 柴田さん・・・辛いっすね
早く誤解が解けるといいです
次回は小川・紺野ですか!
楽しみですね!
>今年の春から受験生
私はもうちょっと先・・・頑張れ作者さん!
- 12 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/04(水) 22:29
-
<小川 視点>
先輩達が風邪で復活した頃、あの男がよく学校の門にいるのを見かけるようになった。
校庭から門はすぐ見える。だから誰かいればすぐわかるのだ。
そう、あの雨の日から初めて姿を現した日。放課後、私は部室にいた。
すると勢いよく扉が開いた。そこには青い顔したあさ美ちゃんが息を切らして立っていた。
「あさ美ちゃん!?どうしたの・・?」
先輩達も何事かとすごくびっくりしていた。私はすぐあさ美ちゃんを中に入れて扉を閉めた。
「何があったの?」
「・・・・・いるの」
「何が?」
「・・・・・啓介・・・・」
「!?」
私はすぐに部室を出て門が見える位置まで走った。確かにそこにはあの村上啓介がいた。
何でこんなことするんだ、あさ美ちゃんが嫌がってんのに・・・・!!
手で拳をつくり強く握った。すぐあの男に殴りかかりたい気分だった。
・・・・冷静にならなきゃ。
踵を返して部室に戻った。
「小川、何があったんだよ?」
吉澤先輩がオロオロして聞いてきた。あさ美ちゃんは後藤さんに支えられて椅子に座っていた。
「・・・・あさ美ちゃんの、前に付き合ってた奴がより戻そうとして、門のとこにいるんです」
「そっか・・・紺野は嫌がってんだよね?」
「そうです。当り前です」
「嫌な奴だね・・・」
「許せない、あんな奴」
「・・・だけど、暴力はいけないよ?何しろ相手は男だ。いくら小川が強くても男の
力には勝てないよ」
────わかってる。だけど、許せない。
「・・・わかってます」
あさ美ちゃんを見ると涙を流していた。そんなにも嫌なんだろう。
こんな彼女は見たくない。
私が見たいのは─────彼女の笑顔だ。
- 13 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/04(水) 22:43
- とりあえず今はあさ美ちゃんが落ち着くまで部室にいた。
途中で後藤先輩が補習の為に部室を出て行き、変わりに石川さんがきた。
「全く、嫌な奴もいるもんだな」
「ひとみちゃん、仮にも紺野ちゃんの元カレなんだから・・・」
私は冷静になろうともあまりなれず、ずっとそわそわしていた。
「小川、落ち着けって。お前が落ち着かなきゃ紺野も落ち着けないって」
「でも、先輩・・・・きっと、あいつはあさ美ちゃんに会えるまでずっと
来ますよ?どうにかしなきゃ解決しませんよ」
「解決するんだよ。みんなで」
「・・・へ?」
「うちらの仲間は最強なんだ。まずはミーティング、これ基本」
仲間・・・・。
「・・・・お前は紺野の傍にいてやれ。それが紺野にとってもいいから」
傍にいる・・・。
「だから、先輩を信用しなさい」
「ひとみちゃんだと頼りないかもだけどねー」
「梨華ちゃん!失礼だなぁー」
この日は午後の6時を過ぎた時、あいつがいないのを確認して帰った。
「ごめんね。まこっちゃん」
「いいよ。・・・・大丈夫だからね。私が、傍に・・・いるから」
そっとあさ美ちゃんの手を握る。
「・・・・うん。ありがと」
あさ美ちゃんの手は冷たかった。私はその手を離さないように強く優しく握った。
- 14 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/04(水) 23:03
-
<大谷 視点>
めぐみの家で夕飯をご馳走になった。結構、料理がうまいめぐみを初めて知った。
「これでも1人暮らし長いからね」
「いいな、ちょっと憧れ。1人暮らし」
「えー、大変だよ?何から何まで自分でやんなきゃいけないし」
「料理とか掃除は慣れてるし」
まぁ、あゆみはもっぱら料理が駄目で。よく作らされてるから、こうやって
ご馳走されるのは何だか落ち着かない。
「じゃぁさ、2人で住めたらいいね・・・」
「へ?」
「だって、楽じゃん。いざとなれば助け合えるし」
「あはは、そうだね。病気の時とかね」
「・・・・真剣に受け取ってないでしょー?私は本気なんだけど」
「え・・・?」
冗談の話じゃなくてめぐみは本気で話してた。めぐみは笑いながらテーブルの上の
お皿を片付け始めた。私も片付ける。
ふと携帯を見ると充電が切れて電源が入ってなかった。
「あ、もうこんな時間かー。帰るね」
午後8時過ぎ。私は帰ろうとコートを着た。
「えー、どうせなら泊まってけば?」
「いいよ。明日、提出する宿題終わってないしさ」
これは嘘だった。宿題なんてなかった。
ここで帰らなきゃ、あゆみをもっと傷つける気がした。
家に帰る途中、コンビニとか寄ったら家に着いたのは9時をまわっていた。
すぐ携帯の充電をしてあゆみに電話をかけた。
『マサオ?』
「あ、あゆみ。ごめん。電話遅れて。バイト長引いてさー」
『そう・・・だったんだ』
「あれ、怒らないの?いつもなら怒んのに」
『別に。明日、朝の待ち合わせ、遅刻しないでよ!』
「あぁ、わかってる」
『じゃぁね』
向こうから電話を切られた。
・・・・いつもと違う・・・。
不思議に思いながら携帯を机に置いた。
いつもなら怒って怒って怒鳴りまくるのに。
この時はまだ知らなかった。
私が付いた『嘘』をあゆみが気付いてる事を───
- 15 名前:作者。 投稿日:2004/02/04(水) 23:12
-
>10 ミッチー様。
マサオさん、実は充電切れで電源切れた(w
私もたまにこんな事があります・・・・・。
村田さんも積極的な方で・・・・。
受験生となるとパソコンに触れなくなるのが心配です(T−T
お互い頑張りましょう!
>11 タケ様。
柴田さん、いつもの彼女に似合わずネガティブな感じで。
誰が悪いと言えばマサオさんなんですが・・・。
受験は大変・・・でも頑張ります!(^−^
中々進まず・・・・マサオさん、大変だなぁと他人事に思っちゃってる今日この頃。
誤解が解ければいいんですが、真実を聞いても柴田さんは許せるのか・・・。
- 16 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/05(木) 18:34
- 更新お疲れ様デス。。。
柴大の問題も仲間達が協力して解決するのかな?
みんな頑張って欲しいですネ。
早く解決しますよーに!
- 17 名前:タケ 投稿日:2004/02/06(金) 02:19
- 更新お疲れ様
ついに仲間が動き出しますか!
どうやって解決してくのかが楽しみです
一方の大柴・・・雲行きが・・・
こっちはこっちでどうなるんだろう・・・
- 18 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/06(金) 21:19
-
<紺野 視点>
何であの人は私にこだわるんだろう?私の代わりなんていくらでもいると思うのに。
私よりも可愛い人なんてたくさんいると思うのに。
啓介はただ完璧な人間になりたくて、彼女を作ったんでしょ?
なら私じゃなくてもいいじゃない。
「私が、傍に・・・いるから」
まこっちゃんが私の手を握った。その手はとても暖かくて、まこっちゃんの気持ちが
伝わってきた。私はその手に優しく強く握ってもらって嬉しかった。
私は、きっと惹かれてる。
ずっと、この隣にいたい。
放課後はまこっちゃんと一緒に陸上部の部室へ行く事になった。陸上部の部室は
たまり場みたいになっていて、吉澤さんや後藤さん以外の人もいた。
「あいつ、いたよー。さっき見てきた」
柴田さんが言った。
「まだ紺野ちゃんに未練があるんだね。大丈夫だからね、私達が守るから」
石川さんが私の頭を撫でた。
「んぁ、でも何でここまでしつこいのかな?」
「そりゃぁ・・・まだ好きなんでしょ?」
「でもさ、ここまで嫌がってんだから諦めるでしょ?」
「わかんないよー」
ここにまこっちゃんはいない。さっき用があると言って部室を出て行った。
ちょっと、不安になる・・・・。
そう思った瞬間、部室の扉が開かれた。まこっちゃんだ。
「小川ー、何してたんだよー」
「すいません。ちょっと、呼ばれてまして〜」
- 19 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/06(金) 21:30
- 「何〜?まさか、告られたんじゃないだろーねー?」
吉澤さんがまこっちゃんに睨んで迫る。
「いやぁ、そのまさかで」
「マジ!?どんな子!?可愛い!?」
「ちょ、ひとみちゃん!!」
・・・・告白されてたんだ。
確かにまこっちゃんはモテる。面白いし明るいし。
クラスの人気者だし、先輩達にも好かれてる。
まこっちゃんのカボチャ好きの事が何処からか流れて、よくカボチャのクッキー
やケーキを貰うまこっちゃんを見る。まこっちゃんは嬉しそうにそれを貰う。
上げる人はみんなまこっちゃんが好きだから上げるのにまこっちゃんは鈍感
だから全然わかってない。
「まぁ・・・可愛い子でしたよ」
「うっわー、小川に?」
「それ失礼ですよぉ」
「んぁ、何て返事したの?」
「そうだよ!まさか、OK?」
「なわけないでしょ!」
・・・・良かった。
私はホッと安堵した。もし、まこっちゃんが誰かと付き合ったらショックで
立ち直れない自信がある。
・・・・まこっちゃんが好きだから。
本人は気付いちゃいないだろうけど・・・。
- 20 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/06(金) 21:52
-
<松浦 視点>
学校帰りにスーパーに寄って買い物を済ませ美貴さん家に向かった。
すると美貴さんの部屋の扉の前にマサオさんが立っていた。
「あ、亜弥ちゃん」
「美貴さんに用ですか?」
「う、うん・・・まぁ」
「今日はちょっと遅くなるんですよ。でもあたし、鍵持ってるから」
あたしは鍵を出して扉を開けた。
「どーぞー。今から夕飯作るんですよ」
「そうなんだ。いいなぁ、美貴」
「マサオさん、柴田さんがいるじゃないですかぁ」
「あー・・・あいつは、料理得意じゃないから」
何だか元気がないマサオさん。いつもはよくしゃべるのに。
中に入って台所にスーパーの袋を置いた。あたしのエプロンを付ける。
「ちょっと待って下さいねー。紅茶出しますから」
紅茶を入れてマサオさんに持っていく。
「美貴さん、6時くらいに帰ってきますから」
「何か、亜弥ちゃん、奥さんみたいだね」
「そうですか〜?」
「美貴は幸せもんだな」
私は台所に戻って夕飯の支度を始めた。今日はクリームシチュー。
スーパーの袋からにんじんやブロッコリーなどを出す。美貴さんは
料理をしない人だから冷蔵庫はいつもカラッポ。入ってる物と言えばお茶やジュース
卵ぐらい。あたしと出会う前はコンビニや外食で済ませていたらしい。
それを知ったあたしはこうやって度々作りにくるのだ。
「桃色の片思い〜恋して〜る♪」
歌いながら作るのはあたしの癖だ。こうすると料理が楽しくなる。
しばらくして1段落ついた後、マサオさんのいるリビングに入った。
「何か元気ないですねぇ」
「そぉ?まぁ・・・元気にはなれないかな」
マサオさんは悲しそうな顔をしていた。
- 21 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/06(金) 22:05
- 「亜弥ちゃんはさ・・・・もし、美貴が亜弥ちゃんの知らない人と
会ってたらどうする?」
「えぇ〜・・・そーですねぇ。嫌ですね」
「でも友達で、好きだとかそーゆーのは無しなんだよ?」
「でも、あたしに黙ってるとかだったら嫌です」
「・・・・黙る?」
「はい。友達と会うから、とか言って欲しいですね。黙ってたら浮気だとか
思っちゃいますよ」
「そっか〜・・・・」
・・・・マサオさん、もしかして・・・。
「浮気してるんですか?」
「んなわけないでしょ!違うよ!」
「・・・・怪しい」
「いや・・・友達、を助けたくて・・・」
マサオさんは悩みをあたしに話し始めた。
「・・・・うーん、めぐみさんと内緒で会ってるんですね?」
「あゆみに言ったら、絶対あいつ怒ると思うから・・・したら
めぐみに事助けられないし」
「・・・ふむ、めぐみさんが彼氏さんと別れればいいんですよね。
だったら単刀直入に彼氏さんとこ行って別れてくれって言えばいいんじゃ?」
「あのねぇ・・・・私が言っても向こうが納得しないでしょ」
ずっとしゃべっていたら6時を過ぎていた。
「ただいまー」
美貴さんが帰ってきた。私はパタパタと玄関に走った。
「おかえりなさ〜い!」
勢いで抱きつく。
「ぐぇ・・・重いよ・・・」
「んー、会いたかった〜」
「わかったから・・・っつーか、マサオ来てんの?これマサオの靴でしょ?」
「うん!美貴さんに用事あるんだって」
美貴さんは玄関を上がって部屋に入った。
- 22 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/06(金) 22:23
-
<市井 視点>
「市井!こっち頼む!」
「はい!」
先輩に頼まれて走りまわる。社長に見込まれたからと言って後輩なのは変わりない。
カメラマンと言っても雑用は誰もが通る道。仕方ない事だ。
「お疲れー」
アヤカが自販機のコーヒーを買って私に渡した。
「いやぁ、疲れたー」
「何かめっちゃ忙しいよね。人増やしてくれないかなぁ」
「言えてるー」
プシュッとコーヒーを開けて飲む。
「辛いでしょ?大切な彼女と会えなくて〜」
「可愛い後輩をからかうなよ」
「からかってないよ〜。事実でしょ?」
「まぁね・・・・」
「素直でよろしい。ま、もうじき落ち着くと思うし」
「だといいけど」
すれ違いの生活が続いて、後藤と一緒にいられないのは寂しい。
こんなに近くにいるのに抱きしめる事も出来ない。
ふと思う事がある。何もかも捨てて後藤と何処かへ行きたい。
だけどそれじゃぁ生活が出来ない。
「・・・・あぁー、世の中うまくいかねぇーな」
「へ?」
「アヤカは毎日楽しそうで羨ましいよ」
「そーでもないわよ。私も恋人が欲しい〜。可愛くてもかっこよくてもいいから」
「・・・あれ?でも、飲みに行くとさ、必ず誰かと連れて帰ってない?」
男だったり女だったりするけど。
「あ〜、でも違うのよねぇ。何か。恋人にはなれないっていうか」
・・・よくわからんな、この人は。
仕事が終わり帰宅。時刻は夜の12時。
後藤はもう寝ていた。最近はいつもこんな感じだ。
「お、ハンバーグじゃん」
キッチンのテーブルにはハンバーグがラップされてあった。
一枚の紙が置いてある。
市井ちゃんへ。
お仕事お疲れ様〜。疲れたでしょ?
ハンバーグあっためて食べて下さい。スープはお鍋にあるからね。
じゃ、おやすみなさい。
ごとー
「・・・ったく、これで元気になるんだよな」
- 23 名前:作者。 投稿日:2004/02/06(金) 22:28
-
>16 ミッチー様。
柴大の方が難しいかもしれませんね。うーん。
多分、紺野さんの方が早く解決するかな?(ぇ
>17 タケ様。
仲間が動き出します(^−^ でも柴大はどうだろう・・・。
雲行きがどんどん悪くなっていきますね。
ちょっといちごまもいれてみた(w ただ単にいれたかっただけです(^−^
松浦さんも久々に登場でした〜。
- 24 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/07(土) 00:28
- 更新お疲れ様デス。。。
紺野はもう小川のことが好きだったんですネ。
幸せになって欲しいな。
久しぶりにいちごまがあって嬉しかったデス!!
最近あんまり無かったので禁断症状が…
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/08(日) 00:50
- 奥さんあややが最高にグー!
久々といわず、頻度高めにあやみきもよろしくお願いしたいくらいですw
- 26 名前:タケ 投稿日:2004/02/08(日) 18:38
- 両思いだったのか・・・2人とも幸せになれるといいですね
その前に元カレどうにかしないといけないんだけど・・・
久しぶりのいちごま・・・松浦さんもいい奥さんですけど(w
後藤さんもいい奥さんだ(w
- 27 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/10(火) 20:52
-
<大谷 視点>
「お前がめぐみさんを心配するのはよくわかる。だったら早くケリをつけなよ。
それが柴ちゃんにとっての為だ」
美貴は私を真っ直ぐ見て言った。
「あたしも、そう思いますよ」
亜弥ちゃんも私を見て言った。
この2人の言うとおりだなと思った。
私は、ずるずると先延ばしにしていたのかもしれない。
めぐみの悲しむ顔が見たくなかったから。
だけど、私が1番見たくないのは─────
あゆみが泣いてる姿、だ。
美貴の家を後にして自転車に乗ろうとした時、あゆみからメールがきた。
<会いたい>
私はすぐに自転車を走らせ、あゆみん家へ急いだ。家にはすぐ着いてインターホンを
ならす。すると玄関が開いた。
「おっす」
「・・・上がって?」
「でも、もう遅い時間なのに、おうちの人に迷惑じゃない?」
「大丈夫。今日は誰もいないんだ」
あゆみの表情はいつもと変わらずだった。私は玄関に入って靴を脱いだ。
「いきなりメールで会いたいなんて、あゆも可愛いなー」
「1人で寂しかったから」
あゆみの部屋に入ると、あゆみは何故か部屋の鍵を閉めた。
・・・何だ?
「・・・・今日は泊まってく?」
「え・・・?」
あゆみはそう言って暗がりの中、服を脱ぎ始めた。シャツのボタンに手をかけて
1つ1つ外し始めた。
「あ、あゆみ!?お前、何して・・・!?」
急に抱きつかれてキスされた。勢いで床に倒れた。
「・・・いいじゃん。しよ」
「何言ってんの!?」
「嫌なの?」
嫌なわけ・・・・ないけど。
もっと、ゆっくり進みたかったのに。
「マサオは私の事好きでしょ!?だったらいいじゃん!」
あゆみは叫びと似たような声を吐き出すように言った。
- 28 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/10(火) 21:10
- フローリングの床が冷たく感じた。あゆみの白い肌がかすかに見えた。
冷たいモノが私の頬に当たった。
「あゆみ・・・・」
「不安で仕方ないの・・・・」
泣きながらあゆみは言った。次々とあゆみの涙が私の頬に当たった。
・・・・気付いてたんだ。
私の付いた嘘も、知ってたんだ。
「・・・・ごめん」
こんな事でしか、繋ぎとめる方法が思いつかなかったあゆみを
私はひどく悲しんだ。そして自分を責めた。
「服ちゃんと着て・・?」
そう言うとあゆみはシャツのボタンをとめ始めた。私は部屋の電気を付けた。
パッと視界が明るくなる。それから部屋にあるストーブを付けた。
それから私はめぐみの事をちゃんと話した。あゆみは普通に聞いてくれた。
「・・・・めぐみとは友達なんだ」
「ホント?」
「あぁ、私が愛してるのはあゆみ、柴田あゆみだけだよ」
あゆみを抱き寄せて強く抱きしめた。
セカイデイチバンキミガスキ。
そっとキスをして、離れた。
「わかった。マサオの事信じる」
「ありがとう」
「・・・だけど、また私を不安にさせるような事があったら・・・
ひどい目にあるからね・・・?」
ちょっと背中に寒気がはしった。
- 29 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/10(火) 21:21
- それから数日後。私はめぐみと会う約束をした。
これで会うのは最後にしようと思った。
近くの公園で夜の8時に待ち合わせ。公園は静まり返っていて街灯だけが
光を照らしていた。自販機で買ったコーヒーを飲んで待っていた。
8時を過ぎた時、めぐみはやってきた。
「ごめん、待った?」
「ううん。大丈夫」
「・・・・ま、話は大体予想はつくけど」
「ごめん・・・もう会うのやめよ」
「彼女さんが?」
「・・・いや、私がそう決めたんだ」
「いいよ。私も・・・引っ越すし」
「え?」
めぐみは笑った。
「両親がね、海外から帰ってくるの。だから高校に近いとこに引っ越して
一緒に暮らす事になったから。そしたら彼も諦めるだろうし」
「・・・そっか。もう彼氏さんとは大丈夫なんだね」
「うん。おかげ様でね。マサオが怒ってくれから、結構ビビったみたい」
前に私がその彼氏にかなり怒鳴った事があった。その効き目は強かったみたいだ。
「じゃ、引越しの整理とかあるから、帰るね」
めぐみはそう言って私に背を向けた。
「う、うん・・・・」
「マサオ!・・・ありがと」
かすかだけど、めぐみの肩が震えているのがわかった。
そしてめぐみは走って行ってしまった。
・・・・これでいいんだよね。
「バイバイ。めぐみ。頑張れよ」
そう小さく呟いた。
- 30 名前:作者。 投稿日:2004/02/10(火) 21:27
-
>24 ミッチー様。
おぉう、禁断症状ですか!大変です!
いちごま、あんまし出番がなくなってきちゃいましたが、作者は
いちごま大好きなんで、ご安心を(^−^
>25 名無し飼育さん様。
日々、奥さんに磨きをかける松浦さん(w
みきあやも今後頻繁に出していきたいと思うので!
>26 タケ様。
うーん、元カレさんの事は次回ですね・・・。
紺野さんと小川さんのパッピーエンドに行くのか!?(ぇ
( ^∀^ノ<後藤の作るメシは世界一だ!
今回、マサオワールドSPでした(w
- 31 名前:タケ 投稿日:2004/02/11(水) 12:26
- いやぁよかった!マサオさんかっこいいです!!
まさにマサオワール(ry これで大柴は安泰ですね
次回は元カレさんのほうですか!
楽しみです!頑張ってください
- 32 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/11(水) 17:48
- 更新お疲れ様デス。。。
いや〜、問題解決してよかった!
次何か起こった時、柴ちゃんはどうするのか…
こわいっすネ。
次回の元カレのほうも、頑張って下さい!
- 33 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/11(水) 22:20
-
<小川 視点>
大好きなガボチャコロッケパンを大事に抱えて教室へ戻る。今は昼休みの時間だ。
「あさ美ちゃーん、ごめんね。購買、混んでて」
「いいよ。早く食べよ?」
自分の椅子をあさ美ちゃんの席の方に寄せて座る。教室の中は騒がしくがやついて
いる上に放送で流してる音楽が妙に大きく聞こえる。カボチャコロッケパンを早速
食べ始める。あさ美ちゃんはお弁当を食べていた。
「───何かさ、このままでいいのかな」
「え?」
あさ美ちゃんが突然言い出した。
「何が?」
「・・・啓介の事。やっぱちゃんと会って話すべき?」
・・・・私は、あさ美ちゃんとあいつを会わせたくない。
だから、会わせないように先輩達にも協力して貰ってきた。
それは、間違いなのかな。
私の勝手なのかな。
「まこっちゃんはどう思う?」
会わせたくない。
だけど、このままで解決出来る?
「・・・わ、私は・・・・・・」
言葉が詰まって出てこない。どう答えればいいのかわからない。
あさ美ちゃんは私を信じて、私が言った通りにしてきた。
「・・・あさ美ちゃんの思う事をすればいいと思うよ」
───逃げてしまった。
「・・・そっか。そーだよね」
あさ美ちゃんは悲しそうに目を伏せた。やっぱり放送の音楽が妙に耳についた。
あちこちでクラスメイト達が騒いでる。
私達は、黙って昼食を食べていた。
- 34 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/11(水) 22:34
- ずるいなぁ・・・・私は。
自己嫌悪を引きずったまま放課後の部活に出た。吉澤先輩と後藤先輩は
何が可笑しいのかおなかを抱えて笑っていた。私はそれを遠巻きに見ていた。
「小川ー、何たそがれてんのー?」
吉澤先輩が私に気付いて声をかけた。
「別に、たそがれてなんかないですよ!」
そう言って校庭を走り始めた。すると後藤先輩がいきなり走って私に体当たり
してきた。脇腹に当たって激痛が走る。
「先輩〜・・・痛いじゃなですかぁ!」
「んぁ。何となく」
何となくって・・・・・何だよソレ!
後藤先輩は何事も無かったように笑った。私は涙目になって脇腹をさすった。
「悩みは1人で抱え込まない方がいいよ?」
「・・・へ?」
「あたしが教わったモノなんだ。それ」
悩みは1人で抱え込まない方がいいよ?
後藤先輩は空を見上げた。長いストレートの髪が風でなびいた。
「・・・・先輩、私、勝手な奴なんですよ・・・」
少しずつ自分のココロの中にある気持ちを出した。
「あさ美ちゃんを自分のもとから離したくなくて、あいつと、会わせない
ようにして・・・・あさ美ちゃんはそんな私の事を信じてくれて」
「・・・・んぁ。好きなんだからしょーがないよ」
「でも!それは、あさ美ちゃんのココロの中にある不安とか何か、
つっかえてるモノが消える事は無いんですよ!」
途中から涙が込み上げてきた。気付いた時はもう頬を伝っていた。
「・・・・好きな人なら、好きな人が幸せになれる事を考えなよ。
毎日、笑えるようになれる事を考えてあげなよ」
後藤先輩は優しく笑って、親指で私の涙を拭ってくれた。
「これも、受け売りなんだけどね!さ、部活始めよ!」
ポンッと背中を叩かれた。私はジャージでごしごしと目を拭いた。
- 35 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/11(水) 22:53
-
<紺野 視点>
『・・・あさ美ちゃんの思う事をすればいいと思うよ』
何かショックだった。私が欲しい言葉じゃなかった。
私は陸上部の部室にいた。まこっちゃんが部活を終えるまで待っているのだ。
「紺野ちゃん、どうしたの?」
「え?あ、いや・・・」
石川先輩が心配そうに私を見ていた。石川先輩は吉澤先輩を待っているようだった。
「紺野ちゃんってさー、まこっちゃんの事好きなんでしょ?」
いきなり言われて私は固まってしまった。
「なななな・・・・何を・・・・!?」
「まぁまぁ、いいじゃない。ホントの事でしょ?」
本当の事だから否定する事は出来ない。
「・・・・はい」
「告白しないの?」
「・・・出来ません。自信、無いし・・・」
まこっちゃんと一緒にいたいし、好きだし。
校庭3周しただけで倒れるけど、高いとこにある荷物取ってくれても足滑らせて
椅子から落ちるけど、難しい数学の問題をクラスの子から解き方聞かれてカッコよくそれを
引き受けて、でもわかんなくて私に泣きついてくるけど(つまりヘタレ)。
カボチャ食べてる時の幸せそうな笑顔とか授業中ポカンと口開ける顔とか。
とにかく全部好きで、好きで・・・・。
「・・・・でも、自信ないですよ・・・・怖いんです」
「・・・彼氏さんの事があったから?」
「軽い気持ちで付き合いたくはないんです。友達以上恋人未満なんて嫌なんです。
でも・・・こんな重い気持ち持ってる私なんか嫌がるんじゃないかって・・・」
軽い気持ちで付き合いたくない。
だけど、こんな重い女、嫌われそう。
だから怖い。
「・・・・紺野ちゃん、それはいい事だと私は思うよ」
「いい事・・?」
「恋愛は軽い気持ちでしちゃいけないよ。ちゃんと相手を想う事が大切」
ちゃんと相手を想う事が大切────
- 36 名前:作者。 投稿日:2004/02/11(水) 22:59
-
>31 タケ様。
(0^〜^)<マサオさんかっけー!!
( ^▽^)<ホントかっこいいよね。誰かさんと違って(w
(0;^〜^)<え・・・?(誰かさんってまさかうち?)
楽しみして頂けると作者も頑張れます!(^−^
>32 ミッチー様。
はい!頑張りまっす!(^−^
柴田さん、裏の顔は怖い怖い(w マサオさんも大変です。
とりあえず1つ解決!ってトコです。
何だかもどかしい今回の更新。お互い両思いなのに・・・・。
- 37 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/12(木) 00:46
- 更新お疲れ様デス。。。
何だかもどかしいですネ。
両思いなのに……
後藤、成長したよなぁ。
矢口のおかげだネ!
- 38 名前:タケ 投稿日:2004/02/12(木) 13:34
- 更新お疲れ様です!
後藤さん・・・石川さん・・・先輩らしくなってますねぇ
やはり矢口さん達は偉大だったんですねぇ
(〜^◇^)<そりゃそうだ!
紺野さんと小川さんがどう影響されたのかも楽しみですね!
- 39 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/14(土) 21:34
-
<後藤 視点>
泣いてる小川を初めて見た時、あたしは自分が泣いてる姿を思い出した。
矢口先輩とよっすぃーに市井ちゃんの事を話した日だ。
・・・・あたしも先輩みたく、なれたかな?
泣く姿を見せてくれるのは、見せてもいいって思うから。
ねぇ、矢口先輩。あたしも誰かを救えてるかな───────
部活を終えて家に帰る。今日は少し疲れた。
「ただいまー・・・」
玄関を開けて中に入り靴を脱いだ。家の中はシンと静まり返っていた。
制服から服へ着替えて、キッチンに向かう。髪を1つで縛ってエプロンをつけた。
市井ちゃんが疲れて帰って来る。そしてあたしの料理で元気になってもらう。
おいしそうに食べる市井ちゃんの姿を思い浮かべるとどんなに疲れても頑張れる。
「さて、と・・・・」
ビーフシチューを作り始める。あたしはそれが出来ても食べずにお鍋に蓋をして
キッチンを出た。お風呂のお湯をいれてその間に英語のプリントをやろうとした。
ベットに放り出した携帯がチカチカ光っていた。メールがきたらしい。
<もう帰ってるかな?今日は少し早く帰れそう。 市井>
「・・・早くって何時かな・・・」
そう思った時、ピンポーンとインターホンがなった。あたしは携帯を置いて
玄関へ向かった。ゆっくり扉を開ける。
「ただいまー!」
「・・・早ッ。今、7時だよ?超早いじゃん」
市井ちゃんが満面の笑みでそこにいた。
「ひどいなー。だいぶね、片付いたから」
「ふーん」
「嬉しくないんかー。せっかくダッシュしてきたのに」
嬉しくない、なんて思うわけないじゃん。めちゃくちゃ嬉しいに決まってる。
玄関に入ってきた市井ちゃんをぎゅーって抱きしめた。それから軽くキス。
「素っ気無いと思ったら甘えてくるし、後藤はわかんない奴だなー」
「いいの」
「腹減ったよ。ご飯」
「はいはい。じゃ、もっかいちゅーしよ」
「ったく、しょーがねーな」
これがあたしの元気の源。
・・・・明日も頑張ろう!
- 40 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/14(土) 21:48
-
<紺野 視点>
「じゃ、また明日」
「うん。またね」
今日もまこっちゃんは家まで送ってくれた(帰る道が同じなんだけど)。
まこっちゃんが自分の家に帰る後姿を見て少し・・・いや、かなり寂しくなる。
「ただいまー」
「おかえり。最近遅いじゃない」
「図書館で勉強」
「もう・・・1年生なんだから、もうちょっと視野とか広めたりしたら?」
お母さんは苦笑いでそう言った。
「・・・視野?」
「そう。部活やったり、趣味見つけたり。そりゃ勉強出来るのに越した事はないけど
あんまり窮屈になっちゃ駄目よ」
・・・・考えもしなかったな。部活入るとか。
啓介といた頃は一緒にいる為に部活辞めたんだっけ。啓介はバスケ続けてたけど。
まぁ、彼女だから、彼女らしくいようと思ったんだ・・・。
自分の部屋に入って電気を付けた。
「部活かぁ・・・」
『陸上部入ろうよ!』
まこっちゃんにも先輩達にも誘われてたんだっけ。
入ってみようかな・・・・。
何かしたい。わかんないけど、何かしたい。
そんな気持ちがもやもやと出てきた。いきなり、だけど。
自分を変えたいきっかけが出来たんだ。
その時、携帯がなった。2、3回なって切れたからメールだろう。
<しつこくてごめん。1回会ってちゃんと話がしたい。今度の土曜日
よく行った公園で午前9時に待ってる。 啓介>
・・・・・動かなきゃ何も始まりはしない。
「・・・・動かなきゃ。今の自分を変えなきゃ」
啓介とちゃんと終わる為に。
新しく何かを始める為に。
まこっちゃんに・・・・自分の気持ちを伝える為に。
- 41 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/14(土) 22:03
- 「・・・・あ・・・あいつと会う!?」
「うん。決めた。まこっちゃん、紙パックのジュース握り潰しちゃ駄目だよ」
まこっちゃんの手には紙パックのジュースが握り締められて中身が入ってる
オレンジジュースが飛び出してまこっちゃんの手を濡らした。
「まこっちゃん?」
手が濡れているのにもかかわらずまこっちゃんは呆然としていた。
「・・・・わ、わかった。あさ美ちゃんが決めたんだもんね」
「うん。今度の土曜日の9時に、公園で」
「・・・そっか・・・・って、うわぁ!?手にオレンジジューシがぁ!?」
「さっき言ったのに・・・・ほら、手洗いに行こ?」
涙目のまこっちゃんを連れて水道場へ向かった。
啓介の事が終わったら、私は陸上部に入ろうと思っていた。
そして告白をしようと思っていた。
自分から動かなきゃ何も変わりはしない。
人から助けて貰ってばかりじゃ駄目なんだよ。
「あさ美ちゃん・・・・ハロー」
まこっちゃんが紙パックのジュースを握り潰した日からまこっちゃんが変になった。
「は、ハロー」
「・・・・・あい、らぶ、かぼちゃ・・・」
「うん。知ってるよ。まこっちゃんがカボチャを愛してるのは」
「・・・・部活行ってきます」
啓介のあのメールがきてから部室に行く必要はもう無かった。
でも、行きたい。まこっちゃんには何故か言えなかった。
- 42 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/14(土) 22:27
-
<吉澤 視点>
部室に行くと小川がしゅんとしていた。ごっちんはまだ来てなく部室の中は
めちゃくちゃ暗い雰囲気が漂っていた。
「小川ぁ。暗いじゃん」
「・・・・別に」
「何だよぉ、寂しいよぉ」
「気持ち悪いです」
「ひっでー!」
ジャージに着替えて部室を出る。いい天気だ、まさに部活日和。
「小川ー、いー天気なのにもったいないぞー」
「・・・何か走る気分じゃないです」
・・・・じゃ、何で部室に?別に陸上部は強制で部活やってないのに。
「・・・ん、わかった。じゃ、走ってくるわ」
うちは軽く大地を蹴って走り出した。小川の事は気になったけど、あれは悩んでるん
じゃなくて考えてるんだと思う。何か大切な事を。
それは本人で考えなきゃ、納得のいく答えなんて見出せやしない。
「小川も青春だねぇー・・・」
もうすぐ夏がやってくる。まだ1ケ月以上もあるけど。
夏休み、またいっぱい遊びたいな。その前に学際があるんだっけか。
「ひとみちゃーん!」
ふと声がした方を見ると、1階の空き教室の窓から梨華ちゃんが手を振っていた。
「梨華ちゃーん!」
手を振ると嬉しそうに梨華ちゃんが笑った。
・・・・もう、可愛いー。
もちろん、その後はダッシュして梨華ちゃんのもとへ向かった。
「いいの?部活」
「いいのー。梨華ちゃんがいるから」
窓の外から靴を脱いでぴょんっと中に入った。
「何してんの?」
「・・・ホントは用無いけど、ひとみちゃんここから見えるかなぁって」
「・・・可愛いー」
抱きしめようとした時。
「はい、そこでいちゃいちゃしない」
柴ちゃんが教室に入ってきた。
「もう梨華ちゃんは。いなくなったと思えばこんなとこにいて」
柴ちゃんは怒った顔をして言ってきた。梨華ちゃんは「ごめんね」と言った。
「柴ちゃん。マサオさん呼べばいいじゃん」
「あのねー。何でマサオが出てくるのよー」
- 43 名前:作者。 投稿日:2004/02/14(土) 22:32
-
>37 ミッチー様。
(〜^◇^)<あ、やっぱ〜?オイラのおかげだよねー!!
もどかしいですがちょっと前進した感じです。小川さんは何だか
暗いですが(w
>38 タケ様。
(〜^◇^)<偉大だよねぇ。オイラは(w
ちょっと紺野さん前進中〜(^−^
いい感じに進んでる・・・・かな(ぇ
いちごまとかいしよしとか(w
書きたかったんです・・・・小川さんごめんなさい(何だかこの人のいい場面がない〜)。
- 44 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/15(日) 13:37
- 更新お疲れ様デス。。。
おぉ!!!いちごまだ!
作者さん!有難うございマス!うれしいです!
小川には悪いけど…(ワラ
小川も紺野もガンバレ!
- 45 名前:タケ 投稿日:2004/02/15(日) 18:14
- 後藤さん・・・偉くなったなぁ・・・としみじみ思います
紺野さん、前進しましたね!
壊れた小川さんは治るんでしょうか・・・
- 46 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/15(日) 21:36
-
<紺野 視点>
日々が過ぎていき、土曜日の今日。何となく早く目覚めた。時計は午前6時を
指していた。7時に起きる予定だったのに。
「・・・ちょっと、怖いな・・・」
はぁとため息をついて、酸素を吸う。のろのろとベットから出て着替えた。
・・・まこっちゃん、まだ寝てるかなぁ。
机に立ててある写真立てを見る。真ん中にまこっちゃんと私。その両サイドに
石川さんと後藤さん。後ろに吉澤さんが何故か両手を上げてバンザイしている。
みんな笑ってて、この写真を見ると元気になる。
「うん。大丈夫」
そう言って部屋を出た。まだ家族は全員寝てるだろう。
家の中が静かで、寒かった。そっと階段を下りてキッチンに入る。
適当にパンと牛乳をコップに入れて持ってまた部屋に戻る。とその時私の部屋の
向かい側にある妹の部屋の扉が開いた。
「あれ・・・お姉ちゃん。早いね」
「う、うん・・・」
急に開いたからびっくりして危うくコップを落としそうになった。
「もう起きるの?」
「ううん、トイレ」
「そう・・・」
妹は目をこすりながら階段を下りていった。私は自分の部屋へ入った。
寒いからストーブをつけてパンを食べ始めた。CDをかけながらその歌詞
カードを見ていた。
【逃げ出したくなる事は何度もある だけど此処にいるならたいしてビビッてない
書きなぐりの詩 始めからやればいいさ 上手くかけなくて僕は笑ってる】
吉澤さんから借りたCD。ロックだから私には無縁のジャンルだけど吉澤さんが
『コレいいよー。歌詞がね好きなんだ』と言って貸してくれた。
始めからやればいい。
上手くいかなくたっていい。
まずは始める事だから。
時間になって家を出て公園へ向かった。今の時刻は午前8時半。
公園へはそう時間はかからないけど、早く家を出てしまうのはいつもの癖。
・・・まこっちゃんはいつも遅刻するけど。
ふとまこっちゃんを思い出した。待ち合わせをすると絶対遅刻してくる。
ごめんごめんと笑いながら言ってきてそれで私は許しちゃう。
つまり、笑顔に弱いんだ、私。
「だから、まこっちゃんの遅刻癖なおらないのかな・・・」
そうこうしてる内に公園へ着いた。
- 47 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/15(日) 21:54
- 啓介はもう来ていた。まだ10分前なのに。
ベンチに座って、私を見つけた途端立ち上がった。
「・・・・ごめん。しつこくて」
「うん・・・かなりしつこかった」
「うっ・・・・ホントごめん!」
「いいよ。私もちゃんと話さなきゃと思ってたし」
「・・・・ありがと、来てくれて」
ベンチに2人で座った。公園には小さな子供がちらほら集まって遊び始めた。
私達はその光景を黙ってみていた。空は晴れていて白い雲が流れている。
・・・・まこっちゃん。
「あさ美、俺・・・・もう1度やり直したいんだ」
啓介が真剣な口調で言った。私はこの時が来たんだと冷静に感じていた。
「あのね、啓介。私・・・・もう啓介とは会いたくない」
「・・・俺、本気で好きなんだ。あさ美の事、成績でなんて見てない!
あさ美という人が好きなんだ」
「・・・・その言葉、聞けて嬉しい。でもね」
「絶対寂しい思いなんてさせない!ずっと傍にいる!」
啓介が私の言葉をさえぎって大きめの声で言った。近くにいた子供が驚いていた。
「・・・啓介。私ね」
少し間を置いて。
「他に好きな人が出来たの」
「・・・・」
「すごくアホなとこあるけど、優しくて、あったかくて。私、その人の隣に
いたいの。手を握ってたいの」
啓介の顔はすごく悲しそうだった。
「・・・だから、ごめんね」
「・・・わかった。諦める。だけど、これだけは言わせて欲しい。
別に彼女が誰でも良かったんじゃない。学校帰りに道端で会った時、
一目惚れしたんだ。あさ美に。これは本当だから」
「ん・・・わかった」
「・・・幸せになれよ。俺が幸せにしてやれないのは悔しいけど」
啓介は笑った。私も笑った。
「じゃぁね、バイバイ!」
「おう」
こうして私達は別れた。
そして始まり。
私は公園を出てまこっちゃん家に向かった。
「まこっちゃんの事だから寝てるかなー」
時計は午前9時半ちょっと過ぎ。家の前にくると携帯で電話してみた。
- 48 名前:17.彼女の笑顔。 投稿日:2004/02/15(日) 22:04
-
<小川 視点>
あさ美ちゃんから電話がかかってきた。私は眠れずの夜を過ごしたので
ちょっとウトウトしていた。
「もしもし!?」
『まこっちゃん?ちゃんと別れてきたよ』
「そ、そっか・・・・」
『窓の外を見てー』
言われた通り窓の外を見ている。あさ美ちゃんがうちの家の前にいた。
「えぇ!?」
『出てきてよ』
「う、うん!」
ダッシュで家を出た。
「あ、あさ美ちゃん!」
「まこっちゃん」
あさ美ちゃんのとこまで走って止まった。
「・・・・まこっちゃんに言いたい事があるの」
な、何だろう?何か悪い事したかな?
ドクン、ドクンと心臓が速くなる。
「───まこっちゃんが好き」
・・・・・好きって言った?言ったよね?
「・・・・えぇぇぇぇぇ!!?」
これ以上ない大声をあげたと思う。近所迷惑でクレームの電話がきそうなほど。
「・・・・そんな、驚かないでよ」
「ホント?ホントにホント?」
「ホントにホント」
「・・・・私も、好きだよ・・・」
「・・・嬉しい」
幸せってこうゆう時の事なんだろうな。
カボチャを食べてる時以上に幸せ。
にっこり笑うあさ美ちゃん。
そう、この笑顔が見たかったんだ。
「絶対離さないからね」
彼女の手を握って言った。
「うん。絶対離さないでね」
離すもんか。絶対に。
- 49 名前:作者。 投稿日:2004/02/15(日) 22:18
-
>44 ミッチー様。
嬉しいですか!良かった(^−^
どうしてもいちごま入れたくて(w 結構出番多いですよね、この2人。
>45 タケ様。
後藤さんの目標みたいなもんですね、矢口さんは。
小川さんはたまに変な行動をとる性格です(^−^
小紺が無事にハッピーなエンドを迎えました!
さてさて、次なる問題は・・・・・このお方→(〜^◇^)<え?オイラ?
次回、矢口さんに大変な事態が!?そして新キャラ登場!(予定です)。
- 50 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/15(日) 23:51
- 更新お疲れ様デス。。。
ついに!…って感じですネ。
いや〜、めでたし、めでたし!
と安心したのも束の間……次は何が起きるんだー!?
- 51 名前:タケ 投稿日:2004/02/16(月) 12:01
- 更新お疲れ様
小川さん、紺野さん・・・ついに結ばれましたね!よかった!!
次回で矢口さんになにかが!?それに新キャラも!?
とても気になる・・・楽しみにしてます
- 52 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/18(水) 17:02
-
『18.友達の唄。』
<安倍 視点>
もうすぐやってくる夏の前にこの前まで通っていた高校の学際がある。
矢口は随分前からはしゃいで『絶対行く!』と騒いでいた。私も矢口と同じ気持ち。
久しぶりにみんなに会えるんだから。
大学が終わって、バイトへ向かう。私は今、本屋さんでバイトをしている。
大学に入ってからバイトを始めていた。小さな本屋さんであまり人は来ないけど、
常連の人もいるから楽しみながらバイトの仕事をしている。
「にしても、梅雨時は嫌だなー。ジメジメしてるし」
ぶつぶつと文句を言いながら歩いていた。大学と本屋さんの距離は少し遠い。
夕暮れ時のオレンジ色に染まる空を眺めながら明日の予定の事を考えていた。
すると、遠くから微かに音が聞こえて来た。私はその音がする方を向いた。
「ギター・・・?」
ストリートミュージシャンと言われる人がギターを弾いていた。こうゆう人って
歌いながらギターを弾くものだと思っていたけれどその人はただギターを弾いていた。
道行く人はその人のギターに立ち止まらず足早に目的地へ向かっていた。
私は少し興味があってその人に近づいた。
「・・・・ん?」
その人が私に気付いて手を止めて顔を上げた。
「あ、すいません。お邪魔しちゃって・・・」
「ははは、いいよ」
その人は女の人だった。少し驚いた。
「何で、弾いてるんですか?」
ちょっと間抜けな質問をしてしまった。いや、かなり。
ギターが好きだからに決まってる。
・・・・もう、私何言ってんだよぉ・・・。
- 53 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/18(水) 17:14
- 「そうだねぇ。ギターが好きなのもあるし・・・・それで人を救いたい気持ちも
あるからかな」
人を救う・・・・?
私は意外な返事にきょとんとしてしまった。
「此処であったのも何かの縁かしらね」
その人は立ち上がってギターを左手に持った。そして右手を出した。
「あたし、保田圭っていうの。よろしく」
さっきまで他人だったのに。ギターの音色が私達を引き寄せたのかな。
「安倍なつみです」
私はその右手を握った。
不思議な出会い。普通には無い出会いな気がする。
“人を救いたい”
何か矢口みたいな人だなと思った。
- 54 名前:作者。 投稿日:2004/02/18(水) 17:18
- 新キャラ登場でした(^−^
>50 ミッチー様。
めでたしで良かった!(^−^
一体、次は何が起こるんでしょう?(w
>51 タケ様。
新キャラはもう誰だがわかりましたね(w
次回はついに事件が起こる・・・・はず(ぇ
- 55 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/19(木) 00:18
- 更新お疲れ様デス。。。
遂にあの人が登場しましたか!
そういえば、今まで出てなかったよな。
すっかり忘れてました…(ワラ
次、どうなってしまうのでしょうか!?
楽しみデス!ワクワク
- 56 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/20(金) 20:42
-
<石川 視点>
学際の日が近づいてくる。今年で最後の学際。
そういえば・・・・ひとみちゃんと出会って1年経つんだね・・・。
去年の学際、実行委員長の私と実行委員のひとみちゃんが出会った。
あれから1年。あっという間に過ぎていった。
「早いなぁー・・・」
「何が早いの?」
「私とひとみちゃんが出会ってもーすぐ1年」
「そっかぁ。早いね」
陸上部の部室で2人きり。ごっちんと麻琴ちゃんはまだ来てなかった。
「・・・卒業したら、もう毎日会えなくなるんだね」
私はそう呟いた。
「何言ってんの。会いたい時は会えばいいじゃん」
嬉しい言葉言ってくれるけどそう上手くいくもんじゃない。
お互い時間が合わなくなって会えない時間が増えていく。
「・・・梨華ちゃんは心配性だなー」
黙ってる私にひとみちゃんは笑って言った。
「大丈夫。うちが会いに行くから。いつでも何処でも。だからさそんな泣きそうな
顔しないで?ね?」
こうゆう瞬間、この人を好きなって良かったって思える。
「絶対?」
「うん。絶対」
「地震があっても?」
「もちろん。何が何でも」
「・・・・大好き」
そう言ってぎゅっと抱きついた。
「うちも大好き」
ちゃんと抱き締め返してくれる腕。
「お二人さーん。イチャつくなら場所変えて下さーい」
ごっちんがいつの間にか部室の中にいた。どうやら私達は気づかなかったみたい。
呆れたように笑って近づいてきたので私達は離れた。
「全く、近頃の若いモンは・・・・」
「ごっちん。君も十分若いよ」
「よっすぃー。今日から新たに部員が増えます」
「え・・・?誰!?」
「入っておいでー」
部室の扉から入ってきたのは紺野ちゃんだった。後ろから麻琴ちゃんが入ってきた。
陸上部に新たに部員が入り、今日から陸上部は4人になった。
- 57 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/20(金) 21:03
-
<市井 視点>
後藤の学校の学際が近づいてきた。いつも休日に学際はやってくれるので私は
仕事を休まずに見に行ける。これでも結構楽しみにしているのだ。
仕事が終わり家に帰る。途中で立ち寄った本屋でなっちに会った。
「あれ、バイト?」
「うん。大学に入ってから」
「へぇ。あ、コレ下さい」
私は持っていた文庫本をレジに出した。
「カバーかけますか?」
「あ、お願いします」
なっちは手馴れた手付きで文庫本にカバーをかけた。
「500円になります」
財布から千円を出して渡した。おつりが500円返ってきた。
「意外だな。紗耶香が文庫本読むなんて」
「失礼だなー。バイト頑張れよー」
「ありがとうございました。また来てね〜」
「・・・・なっち。まだ本貰ってないよ」
「え?あ、ごめん!」
なっちらしいと言えばなっちらしい。まぁ向けられる笑顔は営業スマイルでは
無い気がする。これならお客も増えるんじゃないかと思う。
本屋を出て道路沿いを歩いてく。今日の夕飯は何だろうとか考える。
すると前方から見覚えのある姿が見えた。
「矢口!」
「紗耶香!?久しぶり〜」
「相変わらず小さいなぁー、縮んだ?」
そうからかうと矢口が殴る振りをした。
「怒るなよー。あ、学際近いよな」
「紗耶香も行くでしょ?」
「もちろん」
「オイラも!楽しみだよぉー」
「ははは。矢口らしい」
「んじゃ、またね〜!」
「おう」
矢口は笑顔で手を振って歩いて行った。私はその小さな後ろ姿を見ていた。
・・・あ、やべ。早く帰らなきゃ。
時計を見て私は足を動かした。
あの時、引き止めておけば良かった。
もっと長くしゃべれば良かった。
少しくらい遅くなっても良かった。
・・・・そうすれば、矢口は─────。
- 58 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/20(金) 21:17
-
<安倍 視点>
紗耶香が店内を出てしばらく経った。お客さんは誰もいなく静かだった。
ちょっと椅子に座って自分のカバンから文庫本を出した。しおりを挟んでるページを
開いて文章を読み始める。ちょっと前の方を見返しながらどんなストーリーだったか
思い出していく。カチコチと時計の音だけが流れていた。
ちょっど次のページをめくろうとした時。
外でブレーキの音と何かとぶつかった音が聞こえた。
言葉に出来ない音だった。
「え・・・!?」
本を閉じて立ち上がった。店内の奥にある部屋から本の整理をしていたもう1人の
バイトさんが出てきた。「何!?」とびっくりしながら店内を出て行った。
私はレジから動けずにいた。仕事を放棄するわけにも行かず・・・・・だけど
それだけの理由じゃない。
何か、嫌な予感がする─────
「・・・・・何だろ・・・怖いよ・・・」
バイトさんが戻って来た。悲しそうな顔で私を見た。
「・・・事故でした。バイクと人がぶつかって・・・・」
「・・・・そう、ですか・・・」
「小さな女の子・・・可哀想に・・・」
小さな女の子?
普通なら小学生とか思うんだろうけど。
・・・・まさか!
「あの!レジお願いします!」
私は慌てて店内から飛び出した。
- 59 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/20(金) 21:32
- 事故はすぐ近くだった。野次馬や警察の人達で事故現場がよく見えない。
人を掻き分けて前の方に出る。ガードレールにぶつかって破壊してるバイクが見えた。
その運転手と思われる人が倒れていた。そこから何メートルか向こうを見た。
小さな女の子。
背が小さくてもすごく元気な女の子。
すごく優しいココロを持った女の子。
私がよく知ってる女の子。
私の、親友──────
嫌・・・・嘘でしょ・・・?
血を流して倒れてるのは、矢口だった。
ぐったりとしていて、動かない。
「あの子、小学生を守ろうとしたらしいよ」
「ホントかい」
「バイクは赤信号を止まらずに突っ込んできて」
「嫌だわぁー」
野次馬の人達の会話が耳の入ってきた。
次第に涙が流れてきた。私は走って矢口に駆け寄った。
「矢口・・・?矢口、嘘でしょ?ねぇ、矢口」
矢口の近くにしゃがんで泣きながら声をかけた。返事は無かった。
「矢口!起きてよ!お願いだから!ねぇ!」
救急車がやってきた。それでも私は矢口に声をかけていた。
「嫌だよ!矢口!何でよぉ!」
私はそれからの記憶は無かった。気付いたら病院にいた。
きっと救急車に乗ってやって来たんだと思う。手術中と点灯のランプを見つめていた。
何も考えられずにいた。あの矢口の血はまぎれも無く現実のモノだった。
長椅子に座って、両手を握り締めた。そして乾く事の無い涙を流し続けた。
- 60 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/20(金) 21:51
-
<吉澤 視点>
市井さんから電話があった。何だろうと思っていると信じられない事を言われた。
『矢口が、事故にあって病院に運ばれた』
「・・・・マジっすか?」
『あぁ・・・・』
電話越しからごっちんの泣いてる声が聞こえた。
『とりあえず、私行ってくるから。家に来てくれない?』
『ヤダ!あたしも行く!』
『こんな夜中に泣きわめいてるお前が来たら迷惑だろ!』
「・・・わかりました。すぐ行きます!」
電話を切って財布と携帯を持って部屋を飛び出した。ドタバタと階段を駆け下りる。
「お母さん!ちょっと出かけてくる!」
「え!?こんな夜中に!?」
うちはスニーカーを履いて自転車に乗って無我夢中で市井さんとごっちんの家に目指した。
「悪ぃな。病院にはなっちがいるんだ。矢口の家族には電話で知らせた」
「・・・どうなんですか?」
「危険な状態らしい。バイクと真正面にぶつかったらしい・・・」
「・・・・」
「後藤、頼むな。じゃ行ってくる」
市井さんは難しい顔して家を出て行った。うちはごっちんの部屋に入った。
ごっちんはベットに突っ伏して泣いていた。
「ごっちん・・・・」
「・・・よしこ・・・?矢口先輩がぁ・・・・」
うちはごっちんを抱き締めた。ごっちんは声を上げて泣いた。
矢口先輩、頑張って・・・・。
それから梨華ちゃんに電話、梨華ちゃんもすぐに来てくれた。
うちらは市井さんからの電話をひたすら待ち続けた。
- 61 名前:作者。 投稿日:2004/02/20(金) 21:55
- うーん、矢口さん、大変だ!
>55 ミッチー様。
今回、すごい事が起きちゃいました・・・・。
もうこの物語の中で1番、大変な事件じゃないかと思います。
(〜;^◇^)<主人公だしな・・・・ってオイラ事故ってる!?
- 62 名前:タケ 投稿日:2004/02/20(金) 22:04
- リアルタイムで読みました更新お疲れ様
矢口さんが!?
今までで1番ショッキングな事件だ・・・
矢口さん・・・無事に生きてほしいです
- 63 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/21(土) 15:03
- 更新お疲れ様デス。。。
何て言うか…すごい事になってますネ。
矢口さんの生命力を信じマス!
- 64 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/21(土) 20:26
-
<市井 視点>
後藤とテレビを見ていた時私の携帯が鳴り響いた。携帯を見るとなっちの名前が出ていた。
なっち?どうしたんだろ?
「もしもし?なっち?」
『・・・・紗耶香ぁ・・・』
どうやら泣いてるようで私は少し慌てた。
「どうした?何かあった?」
『うっ・・・あのね・・・矢口が・・・・』
「矢口?矢口がどうした?」
矢口の名前が出てきて後藤が私を心配そうに覗き込んだ。私はリモコンでテレビを消した。
『事故にあって・・・今、病院に・・・運ばれて・・・』
「事故!?」
『手術してるの・・・・血いっぱい出て・・・・動かなくて・・・・』
「何処の病院?」
『すぐ近くの中央病院・・・・どうしよう、ねぇ、紗耶香。矢口が』
「わかった。すぐ行くからね?切るよ?」
私は焦る気持ちで携帯を切った。
「矢口先輩事故ったの!?」
「うん。ちょっと、病院行ってくるから」
「あたしも行く!」
「お前は此処にいろ!」
すぐに自分の部屋に行って上着を着てポケットに財布と携帯を突っ込んだ。扉の向こうから
後藤の泣いてる声が聞こえた。声を出して叫ぶように泣いてるのが聞こえた。
とりあえず、矢口の家に電話して事情を説明した。それから吉澤に電話する。
後藤をあんな状態で1人にさせとくのは不安だった。かと言って連れて行くのも病院に
迷惑がかかると思った。すぐに吉澤は来てくれて私は家を飛び出した。
タクシーを拾って病院に向かう。
・・・・今日、会ったのに。
私は今日会った矢口を思い出していた。笑顔で手を振ってわかれた。小さな後ろ姿。
あの時、引き止めておけば事故になんか遭わなかったかもしれない。
「矢口、絶対死ぬなよ・・・」
涙を堪えて私は呟いた。
- 65 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/21(土) 20:42
- 病院に着いてお金を払って下りた。中に入って廊下を走った。
「なっち!」
手術室の前にある長椅子になっちは項垂れて座っていた。私に気付いて顔を上げる。
「紗耶香・・・・」
「矢口は!?」
「まだ・・・・」
「そっか・・・」
私はなっちの隣に座った。
「どうしよう・・・」
「もう矢口を信じよう。きっと頑張って乗り越えてくれるよ」
なっちの手をぎゅっと握った。なっちは大きく頷いた。
しばらくして矢口の家族が来た。お母さんとお父さん。
「あの、娘は・・・」
「まだ、手術中です・・・」
お母さんがわぁと泣き出した。お父さんが支える。
・・・・矢口、頑張れ。負けんな。
1時間が経過しても手術は終わらなかった。私は電話する為に外に出た。
「あ、吉澤?」
『どうですか!?』
「まだ手術が終わらねぇんだ・・・」
『そうですか・・・梨華ちゃんも家に来て貰いました』
「そうか。後藤はどうしてる?」
『落ち着きを取り戻しました。今は泣きつかれて寝てます』
「ごめんな」
『いえ、安倍さんは・・?』
「すごく落ち込んでる。ずっと泣いてる」
『そうですか・・・早く手術終わらないかなぁ・・・・』
「また電話する」
『はい』
携帯を切ってすぐに病院の中に戻った。自販機で3人分のお茶を買った。
それを持ってみんなのとこに戻る。
- 66 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/21(土) 20:53
-
<矢口 視点>
なっち、バイトやってるかなぁ〜♪
オイラはなっちがバイトしている本屋へ向かっていた。買いたい参考書があって
それならなっちがバイトしてる本屋へ行こうと思ったのだ。途中で紗耶香に会って
話もそこそこにわかれた。
ふと横断歩道を見た。小さな小学生ぐらいの女の子が横断歩道をてくてくと渡っていた。
・・・・・あれ、あのバイク・・・・。
バイクが横断歩道に向かって走ってきた。赤信号なんだから普通スピードを落として止まるはず。
だけどそのバイクは一向に止まる気配は無かった。むしろスピードが上がってる気がした。
「危ない!」
ダッシュして小学生の女の子のもとへ向かった。体当たりしてその子を突き飛ばした。
バイクのライトが眩しかった。
ブレーキ音が聞こえた。
身体が遠くに飛んだ。
冷たいアスファルトに叩きつけられた。
痛い。
何処からか誰かの叫び声が聞こえた。
痛い。
・・・・オイラ、死んじゃうのかな・・・?
息が荒くなって涙が出てきた。
なっち・・・・。
浮かんできたのは、なっちの笑顔だった。
- 67 名前:作者。 投稿日:2004/02/21(土) 20:59
-
>62 タケ様。
矢口さん、頑張ってます。闘ってます。
(〜`◇´)<負けるもんか〜!←こんな感じで。
>63 ミッチー様。
この物語至上初!大大大事件です!
矢口さんの運命は如何に!!
- 68 名前:タケ 投稿日:2004/02/23(月) 14:51
- 更新お疲れ様
かなりドキドキしてます・・・
矢口さん、(マジで)頑張れ!!
- 69 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/23(月) 17:11
- 更新お疲れ様デス。。。
う〜ん…深刻だ。
心配で頭がパンクしそうです。
- 70 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/25(水) 22:21
-
真っ白な空間。
青い空も、白い雲も、人も、鳥も、何も無い。
オイラはポツンと1人で立っていた。ぼーっとしていた。
頭を打ったとこに傷は無くて、血も流れてなかった。
「・・・・死んじゃった?」
誰かに問うように言った。当然の事ながら返事は何も無い。
自分は1人なんだって確信した途端、涙が溢れた。歯を食い縛って声を押し殺した。
両手を拳にしてふるふると震わせて足の裏に力を入れて立っていた。
オイラ、死んじゃったんだ─────────
みんなとの思い出が溢れ出す。部活の事、学際の事、旅行の事。
いろいろ大変だったけど、それは今では良い思い出。
みんなの笑顔。
くだらない事で大笑いして腹筋が痛くなって涙が出てきて。
『矢口先輩笑い過ぎっすよ〜!』
『んぁー!でもかなりおかしい〜。ひぃ〜』
学際、行きたかったなぁ。
まだみんなと笑い合いたかったなぁ。
もっとたくさん遊びたかったなぁ。
『矢口?何ぼーっとしてんの?』
なっち・・・・・。
なっちの笑顔。それを思い出したら、膝から落ちてオイラは立てずにその場に崩れた。
そして大声を上げて泣いた。
- 71 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/25(水) 22:33
- 嫌だ。死にたくない。
オイラ、まだ生きたい。
まだほんの少ししか生きてないのに、こんなとこで死んでたまるか。
大体、信号無視したあのバイクがいけないんだよッ。
「どっかに出口があるはず」
真っ白な空間。走り出した。不思議と息は上がらない。
負けたくない。生きたい。
(矢口、頑張れ。負けんな)
ふと紗耶香の声が聞こえた。囁くようにオイラの耳に届いた。
(矢口先輩・・・・死なないで)
ごっちん・・・・。
(矢口!お願いだから死なないで!)
なっち・・・・・。
呼んでる。友達が呼んでる。
「すぐ行くから!」
そして、また走るスピードを上げる。だけど出口は見つからない。
【何処に行くの?】
目の前に誰かが立ちはだかった。立ち止まる。霧みたいのが出てきて視界が悪くなる。
【ねぇ、何処に行くの?】
「何処って、みんなのとこに行く」
【・・・・そんなとこ、無いよ】
「あるよ!」
何処かで聞いた事ある声。はっきりとはわからない。
【貴方は今、手術中。だけど出血がひどくて助かる確率は低い。
例え成功しても何らかの障害が残るかもしれないよ。それは想像以上に
苦しい事だと思う。貴方に耐えられるかわからない】
「・・・・誰?」
【わからない?】
霧の向こうに人影が見えた。
- 72 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/25(水) 22:50
-
<市井 視点>
手術中と照らされていた光が消えた。私は長椅子から立ち上がった。
手術室の扉が開かれて中から医者が出てきた。
「あの!娘は・・?」
矢口のお父さんが言った。医者は難しそうな表情をしていた。
「・・・手術は何とか成功しました。ですが、危険な状態です」
「危険な状態・・・?」
なっちが小さく呟いた。彼女の肩をそっと支える。
「これからはご本人の気持ちが大事です。もちろん、我々も全力を尽くします」
医者はそう言って去って行った。
とりあえず、手術は成功した。後藤達に連絡をしなければ。
「・・・なっち、外、出よう」
なっちの肩を支えて私は病院から出た。もう朝陽が昇ろうとしていた。
朝の冷たい空気。少し深呼吸。
吉澤の携帯に電話をした。吉澤も石川も後藤も、ずっと電話を待っていた。
連絡をし終え、なっちの方を向いた。
「なっち。家まで送るよ」
「嫌だ。矢口の傍にいる」
「・・・・ん、わかった」
それから仕事の方に電話をかけて休む事にした。事情を話したらOKだった。
「矢口に会いに行こうか」
「うん・・・」
矢口は昏睡状態だった。ずっと寝ていた。
意識さえ取り戻せば、深い眠りから目覚めれば。
矢口は助かるのに。
「矢口寝てるね・・・」
なっちが呟いた。
「そうだね」
「いつ起きるかな?」
「・・・・いつ、かな」
いつだろう。矢口が目覚めるのは。
いつなんだろう。
きっと、誰にもわからない。
矢口だけが知ってる。
- 73 名前:作者。 投稿日:2004/02/25(水) 22:55
-
>68 タケ様。
ドキドキですか!作者もドキドキしっぱなしです!(ぇ
エールはきっと矢口さんに届くはず!(^−^
>69 ミッチー様。
おぉ、そんなに心配して下さってるとは!ありがとうございます。
パンクする前に矢口さんの元気になるはず!(^−^
矢口さんの目の前に現れた正体とは!?
それは次回に!
- 74 名前:ミッチー 投稿日:2004/02/26(木) 17:14
- 更新お疲れ様デス。。。
目覚めろぉ!矢口ぃ〜!!!
ガンバレ、負けるな!
矢口さんの前に現れたのは誰なんだ?
誰なんだ、誰なんだ、誰なんだ・・・・・・
き、気になる・・・
- 75 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/28(土) 14:41
-
<保田 視点>
ギターケースを足元に置いた。しゃがんで線香に火を付ける。
「・・・・最近、あんまり来れなくてごめんね」
線香を置いて手を合わせる。
空は晴れて太陽が眩しい。
あの日はこんな日だったかな。
「ねぇ、絵里。あたしは、あんたの夢叶えられるかしら?」
返事が無いのは当り前。だけどあたしは問いかける。
「・・・・・なーんてね。さてと、バイト行かなきゃ。じゃ、またね」
ギターケースを肩にかけて歩き出す。そっと歌を歌った。
絵里の為に。絵里の大好きな歌を。
あたしは歌い続けていく。
────バイトをこなして家に帰る途中。電気屋の前を通った。
・・・新しくMDウォークマン買おうかしらねぇ・・・。
何気なくその中に入って店内をウロウロした。テレビがニュースをやっていたので
それをぼーっと見ていた。
『今日の午後6時頃────横断歩道を渡ろうとしていた小学生に赤信号を無視した
バイクが───しかし小学生を助けようとした大学生の女性がバイクに接触。
意識不明の重体で病院に運ばれました───小学生は掠り傷程度でバイクを運転
していた犯人は駆けつけた警察官によりその場で逮捕されました───尚、この逮捕
された犯人はこの30分くらい前に2件のコンビニ強盗をしていて犯人が持っていた
カバンにはおよそ50万円が入っていました──』
赤信号無視。
「・・・・絵里の時は、誰も助けてくれなかった」
そう呟いて、店を出た。
- 76 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/28(土) 14:58
-
<安倍 視点>
大学を行く気になれず矢口がいる病室にずっといた。紗耶香も今日は仕事を休んだ
らしく私の隣にいた。矢口の両親は入院の手続きやいろいろ揃える物を買いに行った。
「なっち、大丈夫?寝てないでしょ?それにバイトしてたまま来ちゃったんだし・・」
私はバイトの姿のままだった。もちろんバイト先に電話をしてないので他のバイトさん達に
かなり迷惑をかけていると思う。
「とりあえずさ、家に一度帰ろう?」
紗耶香は優しく笑ってそう言った。
「でも、矢口が・・・・」
ベットの上に眠っている矢口を見る。
「・・・矢口のお母さんがもうすぐ来ると思うし」
「じゃ、それまでここにいる」
紗耶香のシャツの裾をぎゅっと握る。紗耶香は困った顔して「わかった」と言った。
もう時刻は正午になる。
「・・・紗耶香は家に帰らなくていいの?」
「ん?あぁ、裕ちゃんに理由話して、後藤と吉澤、石川は学校休ませた。
ちゃんと吉澤と石川の親にも了解を取ってある。後藤はひどい状態だし、
石川も落ち込んでるみたいで。かろうじて吉澤だけが冷静でいるみたい」
・・・みんな、矢口がこんな状態になって辛いんだね。
「さっきニュースで見たけど、矢口をひいたバイクの奴、コンビニ強盗して
逃げてたんだって・・・・」
「そう、なんだ・・・・」
「ひどいよな・・・・ひどいよ・・・・」
紗耶香は俯いて言った。悔しい気持ちが伝わってきた。
そっと紗耶香の頭を抱き寄せた。昨日の夜からずっと私を支えてくれた紗耶香。
だけどココロの中じゃ辛い思いと悔しい思いでいっぱいだったんだ。
「矢口はきっと目、覚ましてくれるよ・・・」
ぎゅっと抱き締めて自分にいい聞かせるように言った。
- 77 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/28(土) 15:30
-
<吉澤 視点>
今日の学校は休んで市井さん家にいた。ごっちんはショックのあまりずっと寝込んでいた。
梨華ちゃんも良い状態では無かった。ずっとソファに座って俯いていた。
ピンポーンとインターホンがなった。うちはソファから立ち上がって玄関に向かった。
「はーい・・・」
扉を開けるとそこには息を切らした美貴ちゃんがいた。メールで矢口先輩の事は教えていた。
「おっす、大丈夫?」
「あんま大丈夫じゃない・・・・」
「そっか・・・あ、スーパーで買い物してきた。何も食べてないでしょ?」
美貴ちゃんはスーパーの袋をうちに見せた。
「ありがと」
「亜弥も学校終わったらすぐ来るって」
美貴ちゃんに上がってもらうとごっちんが部屋から出てきた。
「ごっちん。起きてて大丈夫?」
「・・・・うん」
「今、ご飯作るから。待っててね」
うちは美貴ちゃんと料理に取り掛かった。途中で梨華ちゃんも手伝ってくれた。
学校が終わる夕方。亜弥ちゃんや柴ちゃん、大谷さんが家に来てくれた。
それから中澤先生も様子を見に来てくれた。みんな、表情が暗かった。
「矢口がこんな事になるなんてなぁ・・・・思いもせんかった」
「先生・・・うちもですよ」
「しばらくは学校来んでもええから。特に後藤はな・・・無理せんでええ」
「はい・・・」
中澤先生はそう言って帰って言った。
それから小川や紺野、辻ちゃん、加護ちゃんまで来てくれた。
「先輩。きっと大丈夫ですよ」
小川がそう励ましてくれた。
「コレ、カボチャの煮付けです。食べて下さい」
「へい。あいぼんとお菓子買ってきたれす」
「うちらに出来る事あったら何でも言ってな?」
みんなに励まされていってごっちんもうちも梨華ちゃんも次第に元気になっていった。
- 78 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/28(土) 15:42
-
<市井 視点>
矢口のお母さんが来たから病院を後にしてなっちの家に行った。
「ごめんね。すぐ着替えるから」
「いいよ」
なっちは着替えをしてバイト先に事情を説明していた。すごく謝っていた。
「ホント申し訳ありませんでした・・・ええ・・・はい・・・すいません・・・
あ、はい・・・ありがとうございます。失礼します」
ピッと携帯を切る音が聞こえた。
「どうだった?」
「今回は仕方無い事だって店長が言ってくれた。しばらくは休んでもいいって」
「良かったね。優しい店長さんで」
「うん・・・」
それから適当にファミレスでご飯を食べた。もうすぐ時刻は夕方になる。
ご飯を食べて私の家へ向かった。
「あ・・・・」
「ん?どうした?」
なっちが立ち止まって何かを見ていた。
「・・・保田さんだ」
ヤスダさん?
「あのギター弾いてる人。保田さんって言うの」
なっちが言っている人はストリートミュージシャンらしくギターを弾いていた。
「なっちの知り合い?」
「うん・・・こないだもここで会ったの。したらギター弾いてて」
「ふーん・・・」
「そうだ!矢口に歌を歌ってあげようよ!」
「へ?」
「矢口、歌が大好きだからさ。保田さんのギターで歌うの!」
なっちは私の腕を引っ張ってぐいぐいと保田さんに近づいた。
・・・・歌うって、病室で?
なっちは1度決めたら何が何でも実行する。そこが矢口と似てるんだけど。
私はそれで矢口が目覚めるのなら、やってもいいかなと思っていた。
- 79 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/28(土) 16:12
-
<保田 視点>
あたしには大切な人がいた。
血は繋がってないけど可愛い妹のように接していた。
あたしには家族がいない。母親はあたしを産んで亡くなってしまい。父親はあたしが
産まれる前に事故で亡くなっていた。上に兄も姉もいないあたしは天涯孤独になってしまった。
ずっと施設で育ち、その中で絵里に出会った。
亀井絵里。両親を飛行機事故で亡くし、両親と親戚の仲も良くなく仕方なく施設へ
やって来た。当時は小学6年生。あたしは絵里にいろいろ教えた。絵里は前向きな
子でいつも明るく笑っていた。そのおかげで友達もたくさん出来ていった。
『お姉ちゃん。明日ね、学校で歌のテストがあるの』
『そう。大丈夫なの?』
『うん!私、歌大好きだから!休み時間も友達と歌ってるの』
『じゃぁ将来は歌手?』
『う〜ん・・・まだわかんないけど。私の歌で誰かが元気になったりしてくれたら
嬉しいな〜』
『あたしは絵里の歌、大好きだよ。聞いてるとね元気が出る』
『ホント!?じゃぁ、お姉ちゃんが第一号だね!』
『そうね』
絵里はどんどん歌が上手くなっていった。中学生に上がり進路の話が出てくると
将来、歌手になりたいと言ってまわりや担任の先生をびっくりさせていた。
その頃あたしは施設を出て一人暮らしをしていた。
『みんな、そんなの無理って言うんだよ』
絵里はあたしの家に来て愚痴をこぼしていた。
『お姉ちゃんはどう思う?』
『あたしは無理じゃないと思うわ。絵里ぐらいの子だって歌手になってるんだから』
『だよね!私、諦めない』
『そうよ。諦めたらそこで終わりだしね』
明るく未来を見ていた絵里。高校に入ったらオーディションに受けるんだと言っていた。
だけど────その明るい未来と夢は脆く壊れていった。
『絵里が交通事故!?』
大学を終えて家に帰ったら施設の人から電話があった。すぐに運ばれた病院に
向かった。だけど絵里は大型トラックにはねられて即死の状態で助からなかった。
『歌手になって、私の歌でみんなに元気になって欲しい』
絵里の夢はもう叶う事は無かった。
- 80 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/28(土) 16:19
- そして今、あたしは絵里の夢を引き継ごうとしていた。
だけど躊躇いがあった。ホントに叶えられるかわからない。
歌で人を救うなんて簡単じゃない。
だけど、絵里の夢を捨てたくない。
挟まれた状態で今、ギターを弾いている。
もうすぐ就職活動も始まる。
あたしはどうしたいんだろ?
このままギターを弾き続けても意味があるんだろうか?
あたしは誰かを救えるんだろうか?
ギターを始めたのは絵里の為だった。喜んでくれると思って絵里に内緒でギターを
覚えた。だけどその事を告げれないまま絵里は亡くなった。
「保田さん!」
ふと遠くからあたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「・・・安倍さん」
・・・・ねぇ、絵里。あたし、人を救えるかな?
絵里が言っていたように。歌で、人を。
- 81 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/02/28(土) 16:32
-
<矢口 視点>
【貴方が行く場所なんて無いよ】
そこにいたのはオイラだった。
「なっ・・・・!?」
【オイラは貴方、貴方はオイラ】
「意味わかんない!!」
目の前にいたのはまぎれも無くオイラだった。まるで鏡を見てるよう。
【友達なんていつか離れて行くよ】
「そんな事ないよ!」
【圭織は遠くに行っちゃったじゃない】
「手紙くれたし夏には帰ってくるって!」
【なっちとも会えないじゃん】
「それは仕方ないんだよ!学科違うし」
【どんどん1人ぼっちになっていくね】
「何言ってんの!?こんなのオイラじゃない!!」
【結局は1人なるんだよ。オイラは知ってるよ】
「違う!」
【だって、これは貴方が思ってた事でしょ?】
・・・・・確かに、思っていた事もなくはない。
「だけど・・・・オイラは・・・・」
【いつかは1人なる。みんな、友達は遠くへ行っちゃう】
「・・・・嫌・・・・」
【オイラは、1人になる】
オイラは泣いてその場に崩れた。急に恐怖が襲って身体が震えた。
【だったらさ、こんな思いするならいない方がマシじゃん?】
<オイラ>はニヤリと笑って言った。
【ほら、貴方に帰る場所なんて無いんだよ?】
- 82 名前:作者。 投稿日:2004/02/28(土) 16:38
- 大量に更新!何故かと言うと再来週テストだから(泣
>74 ミッチー様。
正体がわかっちゃいましたね。うーん、ブラックな矢口さん。
何だかどんどん暗くなってゆく・・・・ガンバレ!矢口〜!(ぇ
(〜T◇T)<う〜ん・・・・・。
保田さんの過去と、矢口さんの前に現れた人物の正体。
そして安倍さんの提案。盛りだくさんでお送りしました(w
亀井さん登場。ちなみに他の6期の方も出てくる予定です(^−^
- 83 名前:タケ 投稿日:2004/02/29(日) 19:27
- 大更新お疲れ様(w
現れた人物の正体が・・・驚きです!
このままじゃ矢口さんが・・・
保田さんの過去と6期メンが出てきましたね
この保田さんが矢口さんを救ってくれるのか・・・
再来週テスト・・・私もそうだ(w
作者さん、頑張ってください!
- 84 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/01(月) 13:24
-
<後藤 視点>
何も考えられなかった。信じたくなかった。
みんなが家に来てくれた。だけどあたしは部屋でうずくまっていた。
・・・・矢口先輩。
あたしの師匠と言ってもいいぐらいの先輩だ。あたしを変えてくれた人。
「ごっちん。柴ちゃん達帰ったよ」
部屋の扉が開いて梨華ちゃんが入って来た。どうやらみんな帰ったらしい。
「・・・んぁ」
もう流す涙も乾いてフローリングの床をぼーっと見つめていた。視界に梨華ちゃんの
足が写った。ふっと顔を上げる。
「大丈夫?」
心配そうに言う梨華ちゃん。
「・・・・大丈夫って言ったら嘘になる・・・」
「・・・うん」
会話は続かなくて沈黙になった。すると開けっ放しの扉の向こうから携帯がなる音が聞こえた。
「はい。あ、はい・・・はい・・・わかりました」
よしこの声が聞こえた。
「いえ。はい、待ってます」
携帯の切る音が聞こえて今度は足音が聞こえた。
「ごっちん、梨華ちゃん。市井さんと安倍さんが来るよ」
・・・市井ちゃん。
「そう。じゃ、お茶の準備とかしなきゃね」
梨華ちゃんが部屋から出て行く。
「あ、もうお茶っ葉切れたかも。うち、買ってくる」
「紅茶なら美貴ちゃんが買ってきれくれたのがあるよ?」
「市井さんはお茶の方が好きなんだって」
2人の会話を耳にしながらもぞもぞと立ち上がって背伸びをした。
んぁ・・・・大丈夫だよね。
ふぅと息を吐いて部屋から出る。
「買い置きしたのが棚の一番上に入ってるよ」
あたしがそう言うと2人は何故か安心したような顔をした。
どうやら、あたしもかなり心配させていたらしい。
・・・・ごめんね。ありがとう。
そうココロの中で言ってキッチンへ向かった。
- 85 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/01(月) 13:27
- 更新お疲れ様デス。。。
何か、どんどん暗くなっていきますネ…
保田さんも、暗い過去をもっていたんですネ。
だんだんと新メンバーが出てきましたネ!
結構登場人物多くなってきたような…
大変だと思いますが、頑張ってくだサイ!
- 86 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/01(月) 13:54
-
<市井 視点>
家に帰ると吉澤が迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「ごめんな。こんな夜まで」
私となっちは靴を脱いで上がった。
「どうですか?矢口さんの様態は」
「まぁ良い状態じゃないな・・・意識さえ取り戻せば、な」
上着を脱ぎながら答えた。
「後藤は?」
「あ、今お茶いれてます」
自分の部屋に上着を置いてリビングに向かった。後藤は石川とお茶をいれていた。
昨日見た後藤の様子は心配だった。だけどもう大丈夫なようで少し安心した。
いや、大丈夫では決して無いだろう。
ココロの中じゃみんな不安でいっぱいのはずだ。
「あ、市井ちゃん。おかえり」
「ただいま。後藤」
「・・・・矢口先輩は?」
「・・・ん、大丈夫。きっと目覚ますよ」
くしゃっと後藤の頭を撫でた。
「・・・そうだね。あたしはそう信じてるし」
・・・・成長したな。矢口のおかげかな。
「よしこ!お茶こぼしてるよ!」
「え?あ、うわぁ!」
「ふきんっしょ!ふきん!」
「今持ってきます〜!」
・・・・矢口。こっちは相変わらずだ。
早く、目覚ませよ。
みんな待ちくたびれてんだ。
────ほら、主役が来なきゃ始まんないだろ?
- 87 名前:作者。 投稿日:2004/03/01(月) 14:03
-
>83 タケ様。
保田さんもやっと登場で良かったとほっとしてます(^−^
ホントはもっと前からの登場でしたが(w
何だかテストシーズンですねぇ、お互い頑張りましょう!
>85 ミッチー様。
う〜ん、暗いですね。特に保田さんは(^−^;
みんな何かしら暗い過去持ってますよねぇ・・・。
結構登場人物も多くなって・・・少ししか出てない人もいるかな(w
今週はもう更新出来るかわかりません(泣
来週の月曜から木曜までテストなので、次の更新は金曜日になるかもしれません。
では!
- 88 名前:作者。 投稿日:2004/03/01(月) 14:05
- ↑に書いた金曜日というのは来週の金曜です。ちょい説明が足りんかった・・・。
- 89 名前:タケ 投稿日:2004/03/01(月) 15:31
- 更新お疲れ様です
改めて思ったけどみんな矢口さんが好きなんだなぁ・・・
市井さんの言う通り、はやく戻ってきてほしいですね!
- 90 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/11(木) 21:09
-
<石川 視点>
次の日、私とひとみちゃんは学校へ行った。ごっちんはまだ来れそうになくて休んだ。
「もう学際なんだね」
「そーだね」
学校の校舎のあちこちでは学際の為の準備が始まっていた。縦看板や色鮮やかな飾りが
置かれている。生徒達も学際が近いせいか浮かれているのが見える。
「先輩、来れるかなぁ・・・」
ひとみちゃんが肩を落として言った。私は何も言えず黙っていた。
「来て欲しいなぁ」
「うん」
「うちのクラス、焼きそばの屋台出すんだ」
「そうなんだ。私のクラスはポップコーン」
そういえば去年の学際で私が提案した花火大会が好評で今年も受け継がれる事になった
と生徒会の子が教えてくれた。
「・・・・花火、一緒にやりたいよね」
言うとじわじわと涙が溢れてきた。必死に涙が流れないようにした。
するとひとみちゃんが私の手を握って。
「きっと、来てくれるよ。こんな大イベント先輩が逃すわけないよ」
「・・・・そうだよね」
私達は祈り続けている。
何に祈っているのか。
神様、なんているかわからないけど。
『神様、どうか矢口さんを助けて下さい』
私達は祈り続ける。
あの人が目を覚ますまで。
みんなにまた笑顔が戻るまで。
- 91 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/11(木) 21:21
-
<安倍 視点>
『歌をみんなで歌おう!』
────と、考えたはいいけど。
「どーやって?病室でギターなんか弾いたら迷惑すぎるわよ」
保田さん───圭ちゃんは腕組をして言った。何と圭ちゃんは私と矢口の同じ大学に
通っていた。ちょうど2人共、講義が休講だった為大学の食堂で話し合っていた。
「今考えてるよぉー」
「ずっと考えてるんじゃないの?でも思い浮かばない」
圭ちゃんは意地悪そうに笑って言う。私はちょっとムッとして頬を膨らませた。
仲良くなったはいいけれど、圭ちゃんのからかう性格が見えてきた。
「圭ちゃんって、もっと大人な人かと思ってた」
「あら、そう?そう見えるかしら」
「・・・・なっちいじめるのが面白い?」
「うん。まぁ」
何だよぅと思いながらコーヒーを飲む。
「まぁ、歌うとしても何の歌にするの?」
うっ・・・・・。
「・・・・まだ、思案中でして・・」
「だろうと思った。なっちって勢いはいいけど何も準備が出来てないわねぇ」
本当の事だから何も言い返せない。
「矢口さんの好きな歌とかないの?」
「・・・・うーん」
考えてみるけど意外とこれっていうものがない。
矢口の事あんまり知らないのかもと落ち込んできた。
「なら矢口さんの部屋にあるでしょ。CDが。歌好きなんだから」
「あー!圭ちゃんさえてる〜!」
「・・・・もうちょっと脳みそ使いなさいよ」
「・・・はい・・・」
- 92 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/11(木) 21:44
- 午後の講義を受けて矢口の家へ向かった。家には妹さんがいて理由を
話すと快く矢口の部屋に入れてくれた。
「へぇ、さっぱりしてんのねー」
「矢口は綺麗好きだから。・・・あ、あった」
コンポの隣にCDケースが積み重なって置いてあった。他にも大きなケース
に大量に入っていた。
「矢口って、いろんな種類の音楽聴いてるからさぁ」
「ホント、ポップからクラシック、ジャズにサントラ・・・」
「私も結構借りてるんだよ」
「ホントに音楽好きなのね。アイドルのもあるわね。聞いた事あんまないけど」
圭ちゃんは1つのCDケースを持った。今大人気のアイドルユニットが歌ってる曲だ。
「何か聞いてみる?」
「そうね」
圭ちゃんが持ってるCDをコンポにいれてみた。再生ボタンを押すと音楽が流れる。
「コレ、アルバムね」
「これって結構昔のアルバムだぁ。矢口持ってたんだ」
何曲か聞いて最後の曲になった。
ギターで始めるイントロ。
みんなで輪になって歌う感じ。
「・・・何か、いいね」
「そうね」
「よし!これにしよう!」
「こりゃまた決断が早いわね」
「これならギターで出来るし!ね、いいっしょ?」
「まぁいいんじゃない?」
きっと矢口が好きな曲だと思う。
これを矢口に届けば、きっと目を覚ましてくれる。
そして一緒に歌ってくれる。
「圭ちゃん。録音したらいいんじゃない?」
矢口の家を後にして歩いていた。
「最初からあたしはそう考えてました」
「ひっどーい。なら早く言ってよぉ」
「なっちが提案したんだからそれぐらい思いつきなさいよー」
私が圭ちゃんにパンチしようとしたら圭ちゃんはあっさり避けた。
何かよくわかんないけど私達は笑っていた。
圭ちゃんと笑ってると、たまに圭ちゃんが矢口に見える。
「圭ちゃん!避けるなぁ〜!」
「あはは、避けますよーだ!」
- 93 名前:作者。 投稿日:2004/03/12(金) 16:48
-
>89 タケ様。
(●´―`)<みんな矢口の事大好きなんだべさ。
(0^〜^)<そうだYO!
昨日、更新途中でインターネットに接続が出来なくなってしまい
レスお礼が遅くなってしまいました。ごめんなさい。
- 94 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/12(金) 18:27
- 更新お疲れ様デス。。。
この前は、更新途中にレスしちゃってゴメンナサイ…
タイミング悪すぎっすネ。
なっち達が何の歌を歌うのかな???
なっちの歌を聴けば、矢口さんも目を覚ますはず!
そう願ってマス。
- 95 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/14(日) 15:35
-
<矢口 視点>
オイラという人間ともう1人のオイラという人間。
【生きていく上でまた圭織のようにわかれなきゃいけない事だって出てくる。
みんな同じ道を歩いてるワケじゃない。それぞれの夢に向かって生きてる。
みんな仲良しなのはいつまでも続かない。それを知ってても貴方は行くの?】
目の前にいるオイラの言葉が間違っている事は無い。
かと言って正しい事でも無い。
「・・・・んな事、最初からわかりきってたよ」
そうだ、オイラはわかっていたんだ。
始まりがあれば、終わりがある事を。
【何だ。最初からわかってたんじゃん。なのに『仲良しごっこ』してたの?】
だけど、終わりがあるから、始まりがあるんだ。
「断定なんて、絶対的なモンなんて無いんだよ!確かにいつかは別れが来るよ。
だけど、オイラ達はそれだけで終わるような付き合いじゃない!オイラ達には
未来がある!きっとまた出逢えるかもしれない未来があるんだ!」
声を上げて一気に言葉を吐き出した。
【・・・・・うん】
目の前にいるオイラの表情が一気に変わった。優しく微笑んで頷いた。
え・・・?
【・・・良かった。それでこそ、『矢口真里』だよ】
「な、何言って・・・?」
【ごめんね。試そうとしてた。だけど貴方はちゃんとわかってるね】
何がなんだかわけがわからなかった。目の前にいるオイラが近づいてきた。
【さぁ、行きなよ。だけどオイラにも出口はわからない。出口は貴方自身が決めるんだよ】
向こうの方を指差してオイラが言う。
【大丈夫。きっと見つかる。だって貴方には・・・・あんなに必死になってくれる
友達がいるんだから・・・・・】
そう言ってまた最後ににこっと笑って『オイラ』は消えた。
「何だったんだろう・・・・?・・・・んー、ま、いいや!とにかく出口を探すんだ!」
右手を上げて元気よく走り出した。
- 96 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/14(日) 15:52
-
<保田 視点>
矢口という子が事故に遇い昏睡状態になって一週間が経過。未だに目を覚ますような
事は無く、かといって危険に陥る事も無く平行線をたどっていた。
そこで路上でギターを弾いていたあたしになっちがある提案を持ち出してきた。
『歌をみんなで歌おう!』
あたしとなっちはどの曲にするかを決めて、他のみなさんに発表したら
これまたみなさん大賛成。矢口という子はホントみんなに愛されてるんだなと思った。
・・・・でも、正直最初は迷った。
あたしなんかでいいのだろうか。だって矢口(勝手にそう呼んじゃってるけど)とは
何の接点も無いあたしなのに。
それをなっちにポロリと言ってしまった事があった。そしたらなっちはものすごい勢いで怒った。
『そんな事ない!圭ちゃんも人を救いたいんでしょ!?だからギター弾いてるんでしょ!?
私は矢口という人を助けたいの!同じじゃない!それに・・・もう私達は仲間じゃない・・・・!!』
目に涙いっぱい溜めて怒るなっちを見てあたしは馬鹿な事を言ったと後悔した。
『・・・そうね。なっち、ごめん。あたしが馬鹿だった・・・ほら、泣かないで?』
『だってぇ、圭ちゃんがいなくなっちゃ嫌だもん・・・っう・・・』
『あわわわ!あたしはいなくなんないから!もう、泣かないでよ!』
ねぇ、絵里。これは多分、きっと第1歩なんだと思う。
今まで路上でギター弾いててもそれは人を救う事じゃなかった。
でもその中でなっちという人や他の人に出逢えた。
あたし、頑張ってみる。
「保田さん!こっちですよ〜!」
「圭ちゃん!遅いよぉ〜!」
「あれ、でもごっちんは?来てないじゃん?」
「ホントだ!」
「あ、やべ。私、連絡し忘れた・・・」
「市井さん!しっかりして下さいよね!」
こんなにたくさんの仲間と出逢えたんだから。
- 97 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/14(日) 16:09
-
<安倍 視点>
今日は日曜日。でも単なる休日じゃない。大切な大切な日。
「もう、集合時間は2時っしょ?今何時だと思ってんのさ」
私がぷりぷり怒っていた。
「はーい!安倍先生〜!3時れーす!」
「時計見ればすぐわかる事やんか」
辻ちゃんと加護ちゃんが言い出す。
「みんな今日は何で集まってるのか知ってるでしょ?」
「みんなで歌うって聞きました」
「んぁ、あたしも〜」
何だか、心配だなぁと思いつつ。
圭ちゃんに目配りをしてギターを出させる。私は録音出来るCDラジカセの準備。
ここは梨華ちゃん家。大広間がかなり広いので梨華ちゃんが是非使っていいと言ってくれた。
「今から楽譜を渡すよー」
コピーしてきた紙を1枚1枚渡していく。それと歌う曲を流す。
「これをみんなで歌って録音して矢口に聞いてもらうの」
「のの知ってるよ〜」
「うちもや。これ家にあるもん」
「いいんじゃない?」
「うん」
何回か繰り返し聞いた所で、録音が始まる。
「パーティみたいな感じで歌いましょう!」
圭ちゃんのギターがゆっくり音を出す。
そして、私達は歌いだした。
────友達の為に。
- 98 名前:作者。 投稿日:2004/03/14(日) 16:12
-
>94 ミッチー様。
いえいえ、お気になさらず(^−^ レスがあるのはものすごーく嬉しいので。
歌う歌はモーニ○グ娘。さんのある曲です。結構古いのですが・・・。
次回で矢口さんがどうなるかわかりますよ〜!
- 99 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/15(月) 01:14
- 更新お疲れ様デス。。。
矢口さん、出口はすぐそこにあるはず。
頑張って走るんだ!
- 100 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/15(月) 21:01
-
<矢口 視点>
真っ白な空間の中、オイラは必死に走り続けていた。
「元陸上部部長をなめんなよぉ〜!!!!」
などと叫びながら走るもやっぱり出口という道は見つからない。
「だ、駄目だぁ・・・・ちくしょー・・・・」
立ち止まってその場に座り込んだ。足を伸ばして手を後ろの方について体を支える。
上を仰いでも青い空はそこには無く、やっぱりただ白いだけ。
「っていうか、ヒントくらい欲しいよ・・・・」
さっきいきなり消えたもう1人のオイラの事を思い出した。試したいだけ試して
後は自分でやれって・・・・全く、オイラらしい事だ。
「あーぁ、せめてさぁ、左とか右とかさぁ・・・・」
ごろんと寝転ぶ。別に諦めたわけじゃない。考えているのだ。
目をつぶると、眠りに陥りそうになる。
<♪〜>
「・・・ん?」
再び目を開ける。何処からか微かに歌が聞こえる。
起き上がって耳を更に済ませてみる。
<♪〜>
「・・・・何の歌だろ・・・?」
オイラからして右の方から聞こえてくる。立ち上がってそっちの方へ歩いてみる。
・・・・もしかして、コレがヒントかも!
そう思った瞬間走り出した。すると歌はどんどん大きくなり、眩しい光が目の前を立ちはだかった。
【良かったね。さぁ、早く、友達のもとへ戻りなよ───】
また微かにこの声が聞こえた。
それから、覚えてない。
- 101 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/15(月) 21:11
- 「・・・・ん・・・?」
目を開くと天井というモノが見えた。消毒臭いからきっと病院なんだろう。
何だか頭がズキンと痛かった。顔をしかめながら上半身を起こした。
「ん?」
オイラのベットに顔を突っ伏して寝ている人が約1名。
それが誰なのかは一目瞭然だ。
なっち・・・・。
良かった。戻ってこれた。
病室の棚には綺麗な花が花瓶に飾られていた。そしてすぐ横にある小さなテーブルには
CDラジカセが置いてあった。一体誰が持ってきたんだろう。
オイラは包帯の巻かれてる左手を伸ばして再生のスイッチを押してみた。
久々に音楽を聞いてみたくなったんだ。
『あれぇ?これってもう録音されてんの?』
・・・・はっ?
『馬鹿ね。もうスイッチ押してるじゃない』
『え?これでいいの?』
『安倍さん、しっかりして下さいよ〜』
『んぁ。早く始めようよ』
音楽が流れるもんだと思っていたけど、オイラが久々に聞いた『音』は友達の声だった。
『じゃ、じゃぁ始めるよ〜。圭ちゃん、始めて』
『はいはい』
そしてギターの音が聞こえて来た。
- 102 名前:18.友達の唄。 投稿日:2004/03/15(月) 21:23
-
悩みのないような顔をして そこそこの格好で
はみ出すのが恥ずかしいから 知らん顔して
中学時代の思い出と ちょっと恋をしたり
サッカー部もいい 野球部もいい ブランドがいい
ダディドゥデドダディ!
everybody everybody それでいいのかい 青春
『Oh Yeah みなさん歌いまっせ! ほら1、2、3、4!!』
一回きりの青春 Oh Yeah! Oh Yeah!
だからいいじゃん
・・・・この歌だ。さっき聞こえたの。
みんなの歌声だったんだね。
だから、出口を見つけれたんだ。
「ありがと・・・・なっち」
そこで寝ているなっちの頭をくしゃっと撫でた。オイラの両目はボロボロと涙を流していた。
「ありがと・・・・ありがとう・・・・みんなぁ・・・・」
みんながいたから、オイラがいるんだよ。
だから、笑えたり、泣いたり、怒ったり。
本気で出来るんだね。
ホントにありがとう。
これからも、よろしくね。
一生の友達、大切な友達。
・・・・・・・大好きな、愛しい、友達。
- 103 名前:作者。 投稿日:2004/03/15(月) 21:32
-
>99 ミッチー様。
(〜^◇^)<ありがとう!やっと戻ってこれたよ!
矢口さん、やっと出口を見つけれました(^−^
いやぁ、長かった(w
やっとここまで来れた・・・・。
何か、現世界の(〜^◇^)さんも入院されていたそうで心配です。
次回はまた新しく登場人物が出てきます〜。
- 104 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/16(火) 00:35
- 更新お疲れ様デス。。。
いや〜、矢口さん戻ってこれてよかったネ!
皆で歌った歌は、私も好きです。
何か元気が出ますよネ!
- 105 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/18(木) 20:40
-
『19.サヨナラの言葉。』
受け止めたくない現実と残酷で辛い過去。
あれから私の時間は止まってて針が動く気配は無い。
「あれ・・・・?」
いつまでも動く事が無い私のココロの時計。
<田中 視点>
「・・・・さゆ?」
ベットからむくっと起き上がると床に座って漫画を読んでいた幼馴染がいなかった。
時計を見ると午後4時30分。確かさゆが来たのは4時頃だ。その時ぐらいに寝たから
30分経っている。扉が半開きになっているから出て行った事はわかる。
「さゆ!」
無償に不安になって声を上げる。だけど返事は無かった。
「・・・さゆ!」
がばっと立ち上がって部屋から飛び出した。下へ降りる階段へ続く廊下を走ろうと
した時。トントンと階段を上がる音が聞こえた。
「あれ?れいなぁ?起きたの?」
お菓子とジュースを抱えたさゆが表れた。
「・・・・さゆ」
「何か食べたくなっちゃって。あ、れいなのジュース持って来なかった」
さゆが「持ってくるね」と言い再び降りようとした瞬間私は走ってさゆの腕を
掴んでいた。
「いいから。部屋に戻ろ」
「・・・・ん、わかったぁ」
傍にいないと不安になる。
そんな存在。
「れいなー。じゃぁ、半ぶんこしようね。ジュース」
「・・・・うん」
私は今、中学生で、登校拒否をしている。
来年、高校生になるから今年は受験生。最低限度の出席はちゃんとしてる。
唯一の友達のさゆはこんな私の傍に毎日いてくれる。
「明日晴れるかなー?」
「天気予報じゃ雨だったよ」
さゆは学校の話は絶対しない。私が悲しくなるの知ってるから。
・・・・絵里、何で死んじゃったの?
私のココロの時計が止まった原因は、好きな人の死だった。
- 106 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/18(木) 21:03
- 「じゃぁそろそろ帰るね」
午後6時をまわろうとした時、さゆは立ち上がった。いつも気遣ってかさゆは
制服で私に会わない。家に帰って着替えてから来てくれる。
「じゃ、また明日ね」
この瞬間が寂しくて、ちょっと辛い。
「ん。また明日」
パタンと扉が閉まる音がやけに大きく聞こえた。私の両親は共働きで帰りが遅い。
だから夕飯は自分で作って食べていた。キッチンに入って作ろうと思ったけど
何かイマイチやる気が無くて冷蔵庫からミネラルウォーターを出してまた部屋へ戻った。
さゆがいなくなった部屋は少し広く感じた。テレビをつけて興味の無い番組を見る。
「・・・・んー・・・・」
意味無く寝そべってごろごろ。要するに暇。
私の好きな人、亀井絵里は私より1つ年上で、もし生きていれば今年から高校生だった。
絵里は施設育ちで、でも中学が同じで、先輩だけどさゆと私と絵里の3人で遊んでいた。
勉強も出来て歌が上手くて、憧れの存在だった。だけどいつのまにかその気持ちが
好きという感情に生まれ変わった。
でも気付いた時はもう絵里はいなかった。
交通事故で絵里は死んでしまった。
歌手という夢が絵里にはあったのに。
神様は、残酷だ。
絵里がいなくなった時から学校へはいなかなくなった。
何となく行けない。学校にいたら絵里の事を思い出す。
辛くて、涙が出る。
「・・・うーん、コンビニでも行って来ようかなぁ」
そう思い立ち上がってテレビを消して上着を羽織る。ポケットに財布と携帯を突っ込み
部屋の電気を消して下へ降りた。玄関で靴に履き替えて家を出て鍵をかけた。
外はすっかり夜に変わろうとしていた。
- 107 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/18(木) 21:16
-
<藤本 視点>
さっきよっすぃーから矢口さんの退院の日が決まったという知らせを受けた。
回復は医者が驚くほど順調で学際の日には間に合わなかったけど退院する事が出来る。
頭や腕や足の包帯はほとんど取れて、検査の方も終わり後は退院を待つだけ
だそうだ。亜弥にすぐメールで知らせた。
<電話で教えてよ!>
と返事が返ってきたが、携帯をカバンの中に放り込んだ。
・・・ったく、バイト中に電話できるかよ。
「交代でーす」
レジの人が休憩室に入って来た。今度は私がレジ担当なので立ち上がって
休憩室を出た。まだ混んでないコンビニ。客は2、3人くらいだ。
しばらく経ってまた1人客が来た。
「いらっしゃいませー」
マニュアル通りの挨拶。客は女の子だった。
その子はカゴの中にお菓子やらジュースやらを突っ込んで行った。
・・・・にしても、あれ全部食うのか?
1人ぶんにしちゃ量が多すぎる。
やがてその子がレジへやってきた。カゴの中の大量に入ったお菓子やジュース
を見ると会計する気が失せてくる。
「全部で3520円になります」
値段を言うとその子は財布から5千円を出した。
・・・・20円もないのかよ。
おつりを渡して袋に詰める。
「ありがとうございましたー」
・・・・最近の若者ってすごいなぁ・・・。
- 108 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/18(木) 21:28
- 「普通さぁ、3千円も買う?それもお菓子とかジュースだよ?」
家に帰ると亜弥がいたので早速、さっきの子の話をしてみた。
「あたしも昔はそんぐらい買ってたよ」
「私だったらもっと好きなモノ買うけどね」
「・・・・それより!何でメール無視すんの!?」
エプロン姿で目の前を立ちはだかる亜弥。
「バイトなんだから。それに家に帰れば会えるじゃん」
「あたしはすぐにでも美貴たんの声が聞きたいのに!」
最近、「美貴さん」から「美貴たん」に変わった。まぁそれほど距離が
縮まったのだろうか。
「大げさな〜」
「大げさ!?大げさなの!?」
「はいはい。大げさじゃないデス」
「何よ!その投げやりな言い方!」
もうこうなったら亜弥は止まらない。
・・・・しょーがないなぁ。
喚き騒ぐ亜弥の顎を右手で掴んで左手で抱き寄せる。
「ん!」
こうすれば止まるのだ。息もさせないほど強くキス。
「・・・・っ。ずるいよぉ、いっつも」
「ずるくない。私は本能のままに生きてるからね」
「何よそれー」
・・・・にしても、何か気になるんだよな。あの子。
つまらなそうな顔。悲しそうな寂しそうな瞳。
昔の自分に似てる気がした。
「・・・・どーかなぁ。わかんないけど」
何となく、そんな気がする。
- 109 名前:作者。 投稿日:2004/03/18(木) 21:35
-
>104 ミッチー様。
おぉ、あの歌好きなんですか!嬉しいです(^−^
作者はラジオでちらっと聞いた瞬間に一目惚れではなく一聴惚れを
しました(w でもタイトルがわからなくてCD見つけるのに
必死でした・・・・。
新しく、田中さんと道重さんです!
そんで久々に藤本さんと松浦さんの登場でした。この2人は書いてて楽しいです。
- 110 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/19(金) 01:57
- 更新お疲れ様デス。。。
また、暗い過去を持ってる人が登場しましたネ。
この後どうなっていくのか楽しみです。
- 111 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/19(金) 21:12
-
<田中 視点>
コンビニから戻った後、適当に食べてお風呂に入り何もする事が無いので寝た。
両親の事はどーでも良かった。私が登校拒否になっても別に何も言わないし。
勉強の事だとか友達の事だとかうるさく言わないので私は自由気ままに出来る。
「・・・・雨だ」
布団をかぶって目をつぶっていたら雨の音が聞こえた。
雨は嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。
雨が降る音が好き。
でも・・・・寂しく感じる。
携帯のバイブの音が聞こえてむくっと起き上がる。見るとさゆからの電話。
「もしもし」
『れいなー。雨降ってきたね。天気予報ハズレだよ。雨は明日から降るって言ってたのに』
「そうだね。天気予報は当てに出来ないよ」
『でもそれならいつも傘持ってなきゃ駄目だね』
「折りたたみ傘あるじゃん」
『あれって小さいしちょっと濡れるじゃん』
「じゃぁ、大きい傘いつも持ってれば?」
『重いもん〜』
「何だよそれー」
私達の会話はいつもこんな感じだ。1つの話題があれば長い間それが続く。
「んじゃぁ、レインコート?」
『えー、ダサいよ。れいなぁ』
「あはは、今時見ないよね」
『そう言えば、れいなって雨降っても自転車の傘さし運転しないよね』
「まぁね。苦手なんだ」
『レインコート着れば?』
「ダサいから着ない。濡れた方がマシだよ」
『かっこいー』
時計を見ると日付は変わっていた。雨は強くなる一方で。
「もう寝た方がいいんじゃない?」
さゆは明日学校なんだからと思った。
『えー、眠くないもん』
「駄目だよ。人間最低は7時間は寝ないとね。あ、さゆの場合はもっと?」
『ひっどーい。私、そんな寝ないよぉ。じゃ、おやすみ』
「おやすみ、さゆ」
- 112 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/19(金) 21:26
-
<矢口 視点>
目を覚ました後、検査やリハビリを受けやっと退院が出来た。何だか張り切って
いたので回復が恐ろしく早かった。
「学際に間に合わなかったのが残念だけど」
「いいじゃない。来年もあるし」
大学も再び通えるようになったのは退院して3日後。久々に歩くキャンパスは新鮮
と言うか懐かしいと言うか。
「今度の夏休みは大学生としてかぁ」
「大学生の方が長いからいいね」
「いっぱい遊ぶぞ!」
「あ、圭ちゃんだ」
圭ちゃんの後ろ姿を発見した。オイラは圭ちゃんと仲良くなれてまた友達が増えた。
「圭ちゃーん!」
大きい声で名前を呼ぶと圭ちゃんは振り返って手を振ってくれた。
「雨の日は嫌ね。洗濯物が乾かないわ」
圭ちゃんも含めて3人で歩く。
「圭ちゃんが洗濯?出来るの?」
「出来るわよ!それくらい!」
「機械音痴なくせに〜」
「なっちに言われたくないわね」
「何よ〜!ひどーい」
「確かにDVDの操作もわからないなっちに言われたくないねぇ」
「矢口〜!もう出来るもん!」
久々に味わう友達との時間は楽しい。やっぱりオイラはこの時間が1番好きだ。
「そう言えば夏に圭織帰ってくるんだよね!」
「そうそう。圭ちゃんは初めて会うね」
「どんな子なの?」
「んー、背が高くて目がでかい」
「矢口・・・・もうちょっと言ってあげなよ。可哀想だよそれだけじゃぁ」
圭織と言えばオイラ的にそれなのだが。
んー・・・圭織・・・圭織。
「髪が綺麗な子!うん、そうそう」
「・・・・髪の毛かい!」
- 113 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/19(金) 21:44
-
<道重 視点>
今日もれいなは学校を休んだ。
だけど、私は気にしない。
れいなが休みたいんだからそれでいい。
私はれいなの傍にいれるんだから。
「道重〜。これ、田中のプリント」
担任の先生が私にプリントを差し出した。私はそれを受け取る。
「田中は元気か?」
「はい。元気ですよ」
「そうか。たまには学校にでも来いって伝えておいてくれ」
「はい」
この先生はとてもいい人で、れいなが登校拒否になっても優しく気にかけてくれる。
きっと、れいなの登校拒否の理由も知っているだろう。
絵里が交通事故で亡くなってかられいなは学校に来なくなった。
あんなハツラツな性格だったれいなは今では何にも興味を示さなくなって
ぼーっとしていた。どっちかって言うと私がそんなタイプなのに。
今日の学校を終えて家に帰る。雨は今日1日中降り続けるだろう。
「雨は嫌いだけど、れいなは好きなんだよね・・・」
確か、絵里も雨が好きだと言っていたような気がする。
一旦家に帰って着替えてれいなの家へ向かう。これはずっと日課だ。
もう勝手に玄関の扉を開けて中に入る。れいなは二階の部屋にいるので
階段を上がって上に行く。
「れいなー」
部屋の扉を開けるとれいなは床に寝そべって寝ていた。部屋の中にテレビの
音と雨の音が響いていた。私はテレビを消してれいなの近くにしゃがんだ。
何度見ても飽きない寝顔。ぷにぷにと頬を突付いてみたられいなは顔をしかめた。
おもしろーいと楽しんでいたら、いきなりぱちっとれいなが目を覚ました。
「さゆ・・・・おかえり」
「ただいま」
「人の寝顔で遊ぶなよ」
「だって寝てるから」
れいなは目をこすりながら起き上がった。
「・・・・先生がさ、たまには学校に来いって言ってたよ。あ、それと
プリントね。国語の」
「あー、ありがと」
プリントを渡すとれいなはプリントを自分の机の上に置いた。
「さゆ、ごめんね」
「何が?」
「学校、一緒に行けなくて」
れいなの目はすごく寂しそうだった。
- 114 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/19(金) 21:59
- 「別にいいよ。れいながそうしたいなら」
「・・・・さゆ」
「それで私は離れたりなんかしないから」
ずっと傍にいたいから。
れいなの傍に。
何故かって。
好きだから。
れいなが絵里の事好きって知ってても。
私はれいなが好きだから。
寂しそうな目をするれいなの手をぎゅっと握る。
聞こえるのは雨の音だけ。
「れいな。今度の土曜日、映画見に行こ?見たい映画があるの」
「・・・・うん」
れいなは頷いて私に抱きついた。
「・・・ありがと」
「・・・どういたしまして」
しばらくそうしてた。
れいなのココロに絵里がいるのなら。
れいなの目には私が映ってもいいかな?
「映画って言えば、こないださゆと一緒に行った時変なカップルがいたよね」
「あぁ。ホラーのやつね。彼氏がすごい怖がって彼女が怒ってたよね」
「結局見てさ、ワーってうるさかったよね」
「それでまた彼女が怒って。結構、アニメ声だから怒っても怖くないよね。あの人」
私達はありきたりな事を話す。面白くない話題じゃなくてもいい、2人で話せるなら。
でもこんな日常も続けちゃいけないのはわかってる。
私はただれいなを独り占めしたくて、れいなが学校休んでも何も言わない。
変わらなきゃいけない。れいなも私も。
だけど、怖いよ。
れいなが離れてしまったら。
私は、どうなるんだろう?
- 115 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/19(金) 22:15
-
<藤本 視点>
「だから!次の土曜日、映画見に行こうよ〜。いいでしょ?」
「んー、土曜日はバイトがないから寝たいんだけど・・・」
家に帰るなり亜弥は目をキラキラさせて私に迫って来た。
「・・・・最近、全然デートしてないじゃん」
「会ってるんだからいいじゃんかぁ・・・」
「嫌だよ!普通にデートしたい!」
キラキラしてた目はうるうるの目に変わっていく。
こうなると私は弱い。
「わかったよ。映画ね、映画」
「やったー♪」
「んで何の映画?」
「ほら、超話題のやつ!」
「あぁ、混むんじゃないの?」
「もうチケットは手に入ってるよ〜」
亜弥はカバンからチケット2枚をひらひらさせて見せた。
ん・・・・夜の方か。
夜だと終わるのが11時頃のはず。眠ってしまうかもしれない。
「そう言えば結構前によっすぃー達がホラー映画見たんだっけ」
何気なく思い出した。
「何か吉澤さんがすごーく怖がってたらしいね」
「梨華ちゃんがめちゃくちゃ怒ったみたいだけど」
「美貴たんはホラー好き?」
「亜弥よりは強いと思うよ」
「えー、あたしは吉澤さんみたく怖がらないよ」
はいはいと返事をして私はソファに座った。雨が降ってる音が聞こえる。
テレビをつけようとしたらリモコンを亜弥に取られた。
「こら、何すんの」
「あたしがいるのにテレビ見るの?」
「私の勝手だろ」
「駄目」
「何だよ。どうしろって言うんだ」
「簡単だよ?」
亜弥はにこっと笑って目を閉じて近づいた。唇に何かが触れる。
どうしてこんな彼女を好きになってしまったんだろう。
わかんないけど、好きなんだからしょーがない。
まい以上に好きになってしまった私の彼女は。
わがままでわがままで。
だけど、好きになっちゃったんです。
- 116 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/19(金) 22:29
-
<後藤 視点>
「市井ちゃーん。シャーペンの芯ちょーだい」
市井ちゃんの部屋に入ると市井ちゃんは本を読んでいた。
「おー、ちょっと待ってて」
「んぁ」
「えーと。あ、Bしかねぇや。HBが欲しいんだろ?」
「んぁ・・・しょーがない。買ってくる〜」
「コンビニ?私も行くよ」
ってなわけで市井ちゃんとちょっとお買い物。
雨が降ってるから傘を持っていくんだけど、ちょっと考えて傘は1つ持った。
「後藤、自分のだけ持つのかよぉ」
「市井ちゃんのぶんも入ってるよ?」
「ん?」
玄関を出てマンションの下へ降り、傘を差す。
相合傘。
「でもさぁ、2人共ちょっと濡れるよなぁ」
「いいの」
「んじゃ、行くか」
そんなわけでちょっと雨に感謝。
こうやって相合傘するのも結構久々だから。
コンビニに着くとまずシャーペンの芯(HB)をカゴにいれて後は
お菓子やらパンやらをいれていく。市井ちゃんは雑誌の立ち読み。
「市井ちゃん。うちに飲み物残ってた?」
「あ、もう半分しかないよ」
ジュースのペットボトルを1つカゴにいれる。ふとプリンに目がいった。
・・・・・太るから我慢。
夜の時間帯にこんなの食べたら太るので我慢したあたしは偉いと思った。
「後藤、重いだろ。持つよ」
「んぁ。ありがと」
レジに行って会計を済ませてコンビニを出る。袋は市井ちゃんが持ってくれた。
「後藤も持つよ」
「んじゃぁ、あの電柱で交代な」
こんな雰囲気があたしは大好きで。幸せと感じるのだ。
「市井ちゃん。明日の夕飯何がいー?」
「んー。肉じゃが食いたいなぁ」
「おっけ〜い」
幸せな時間に感謝。
- 117 名前:作者。 投稿日:2004/03/19(金) 22:34
- ちょいと短編集みたいな、矢口さん、後藤さんの視点は。
相合傘はちょっと濡れますよね(何
>110 ミッチー様。
やっぱり暗い過去を持っている人物ですねぇ・・・。
だけど、彼女達もきっと何かが変わるはず。そのきっかけを作るのが
誰なのかはまだ不明(ぇ
何気にいしよしが出てきたり(w
デートと言えば映画なのでしょうか。よくわからない(^−^;
- 118 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/21(日) 00:40
- 更新お疲れ様デス。。。
田中さんの話の中に「アニメ声」と出てきた時、え?いしよし?と思いました(W
いちごまもあったりして、何気に嬉しかったり?!
作者。さん、ありがとう!(W
田中さん、早く立ち直って欲しいですネ。
道重さん頑張れ!
- 119 名前:タケ 投稿日:2004/03/21(日) 04:31
- 矢口さん・・・退院出来て良かったですね
髪の毛しか出てこない飯田さんw・・・出てくるのが楽しみです
新キャラ田中さんと道重さん・・・こちらも色々大変そうで・・・
それにしても、その2人が前映画館が見たカップルってまさか・・・
- 120 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/21(日) 22:14
-
<田中 視点>
────土曜日の午後7時前。
暗くなった空の下、気温は低く肌寒い、そんな中私は立っていた。
ちょっと困った事が起きてしまったのだ。ここは駅前の映画館前。
さゆと一緒に映画を観に来たのだが、トイレに行ったきりさゆは戻って来ない。
かれこれ、30分もだ。
「・・・一緒に行けば良かった」
人が多い道。さゆはきっと迷ってるんだろう。
更に困った事に私の携帯の充電が切れた事だ。まめに充電しないのが悪いのだが、
こんな時に切れなくても、と携帯に八つ当たり。
「はぁ・・・」
こんな感じで身動きが取れなくなってしまった。後15分もすれば映画が始まって
しまう。先に中に入って席を取っててもさゆは外で私を探し続けるに決まってる。
もう、諦めるしかないかぁ・・・。
「・・・あれ?」
私の横で通りかかりの人の声が無意識に耳に入って来た。
「もしかして、映画観に?」
その人はどうやら私に話しかけてるみたいだ。
「・・・はい。そうですけど」
「あー、覚えてるわけないか。私、藤本美貴って言うんだけど。君、こないだ私がバイト
してるコンビニに買い物来てさー。あ、3千円ぶんくらい買って行ったでしょ?」
その人が言ってる事を私はすぐに思い出せた。
「あぁ、あの時の。よく覚えてますね」
「いやー、あんだけ買って行かれたら覚えちゃうよ」
何だか不自然な出会い。だけど悪くない。
「私の連れがさー、トイレに行ったきり戻って来なくて」
藤本さんは困ったように笑った。
「あ、私も同じです。友達がトイレに行ってかれこれ30分も経つんですよ」
「ありゃ、私なんか1時間よ?帰ってもいいのかねぇ」
- 121 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/21(日) 22:26
- 「1時間はキツイですね。寒いし」
「でしょ?全く、自由なんだから」
「あ・・・私、田中れいなって言います。友達は道重さゆみって言います」
「私の連れは───」
「あー!美貴たんいた〜!」
「ほら、あれ。松浦亜弥って言うんだ」
藤本さんの視線は私の友達と歩いて手を大きく振っている人だった。
「さゆ!」
「れいなぁ!」
さゆは泣きそうな顔で私に駆け寄って来た。
「何処行ってたの!?もう、心配したんだからね!」
「ごめんなさい・・・・何かトイレわかんなくてどんどん歩いてたら
帰り道わかんなくなって・・・・」
「はぁ。良かった。戻って来て」
ほとんど涙目なさゆの頭をぽんぽんと叩く。
「ねぇ、美貴たん。心配した?」
「あー、もう私に帰れって言ってんのかと思った」
「何それー!」
「っていうか何処行ってたの?」
「あ、あのね。可愛い雑貨屋さん見つけて〜。入っちゃったら夢中に
なっちゃって。ごめんねー」
藤本さんは呆れた顔して松浦さんを見ていた。
「全く。あぁ、君がさゆみちゃん?藤本美貴です。亜弥に何かされなかった?」
「え・・・?あ・・・いえ・・・」
さゆは状況がわからないようでおどおどしていた。
「私がよく行ってるコンビニでバイトやってる藤本さん」
私が助け舟を出すとさゆはぺこっと小さくお辞儀をした。
話もそこそこに私達は映画館へ入った。何とか4つ席が取れて座れた。
- 122 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/21(日) 22:52
-
<市井 視点>
土曜日の休日に社長から唐突の電話があった。
『そんな難しく考えないで。何事も経験だ。アヤカから聞いが
結構いい人が市井のまわりにいるそうじゃないか』
「いい人かどうかわかりませんけど」
『ま、何人か話してみてくれ。ちゃんとモデル料は払うし』
「はぁ。撮影はいつやるんですか?」
『市井が決めてくれて構わない。お前の撮影だからな』
「はい・・・」
『じゃぁな』
「はい。失礼します」
携帯を切って机に置いた。
全く、ホントに唐突な人だ。
私は今まで自然や物しか撮って来た。
だけどこないだたまたま現場にいたモデルさんを撮ってみた。
その写真を社長が見てしまったらしく、私に電話してきた。
自分でモデルを見つけて撮ってみろ、との事。
「勝手だよなぁ。自分でモデル見つけろって」
頭をかいてソファに座る。今日、後藤は部活でいない。だけど
午前中なので昼には帰ってくるだろう。
人を撮るのは嫌じゃない。仕事の方じゃ関わる時が無かっただけで
今までに後藤や矢口など撮った事がある。
「んー。でもまわりを巻き込みたくはないんだよなぁ」
自分の仕事に、しかも経験の為に大切な仲間を巻き込むには躊躇いがある。
とにかく後藤に話してみるか。
そう思い昼飯の準備をしようと立ち上がった。
「んぁー、ただいまー」
ちょうど後藤が帰って来た。
「おう、おかえり。今作るから待ってて」
「んぁ。もうおなかぺこぺこだよー」
後藤はジャージ姿のままソファに倒れ込んだ。私はエプロンをして
キッチンに立った。
- 123 名前:作者。 投稿日:2004/03/21(日) 23:02
-
>118 ミッチー様。
喜んでくれて嬉しいです(^−^ 最近あんまりいしよしや
いちごまが無かったもんで何気に出してみました(w
>119 タケ様。
( ^▽^)(^〜^0)何気に出てたいしよし(w
髪の毛しか出て来ない( ゜皿 ゜)さんですが夏には帰ってきますよ〜。
田中さん、道重さん。この2人はあんま思ってる事を表に出さない方達なので
お互いの気持ちに気付くのに結構時間がかかると(ぇ
そんな中、市井さんのモデル撮影。一体誰がやるんだか・・・。
- 124 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/22(月) 13:12
- 更新お疲れ様デス。。。
また、新しい出会いがありましたネ。
市井さんのモデル、誰がやるのか気になります…
周りの人ほとんどにやって欲しかったり…!?
飯田さん、早く帰ってきて欲しいネ。
- 125 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/23(火) 22:23
-
<田中 視点>
映画が終わった時刻はもう11時を過ぎていた。かなり長い映画だったが夢中に
なれるほどの内容だったので良かった。外に出れば冷たい空気が私達を出迎えた。
「さゆ、寒くない?」
「大丈夫。ちょっとトイレ行ってくるね。今度は迷わないから」
「あ、あたしも行く〜!」
松浦さんと共にさゆはトイレへ行った。
「どう?映画は」
上着のポケットに手を突っ込んで寒そうにしている藤本さんは私に聞いた。
「結構、面白かったです」
「私もそー思うよ」
寒かったので私もポケットに手を突っ込んだ。夜空には小さく星が輝いていた。
・・・・・絵里は何処で見てるのかな・・・。
人は死んだら星になる、小さい頃からそう聞いていた。
それは今でも、信じてる。人はそれを笑うけど。
だけど、絵里が死んだ時に。
『・・・絵里は星になったのかな・・・』
私がポツリと呟くように言った。
『・・・・そうだね。絵里はきっと綺麗に輝く星になったんだよ・・・』
さゆは笑わず、否定せずにそう言った。
「人は死んだら星になる・・・・」
「へ?」
「・・・昔からそう信じてるんですよ」
「・・・・そっか。そうだね」
「笑わないんですか?」
「笑わないよ。私も昔に大切な人を失ったからね・・・」
藤本さんは夜空を見上げて言った。
「・・・私も、失いました。大切な人」
「・・・その人は星になったんだね」
「・・そうだと思います」
私達はただ夜空を見上げた。
- 126 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/23(火) 22:49
-
<藤本 視点>
────なるほどね。
「美貴たん?」
「ん?」
「さっきから黙ってばっか」
あの2人とわかれて私と亜弥は私の家へ向かっていた。
「ちょっとね」
「・・・・悩み事?」
「ううん。違うよ」
「むー、何かあったら言ってよね!」
「わかってる」
ぎゅっと亜弥の手を握った。
同じを傷をもったあの子は。
きっと、まだその傷は大きくて痛くて仕方ないんだろう。
その傷は癒えるのはいつだろう?
・・・・いや、そう長くはないかな。
あの子の隣にはちゃんと想ってくれてる子がちゃんといたしね。
だけどお互いの想いが通じ合うのは難しい。
「簡単じゃないけど、私は出来た」
「え?」
「今、隣に亜弥がいる。だから乗り越えれた」
「美貴たん・・・?」
「それは変わらない事実」
「何?」
亜弥はわけがわからないという顔をしていた。
「つーまーり、亜弥がいるから私がいるって事!」
にっと笑ってそう言った。
「何か美貴たんらしくない。そんな事言うの」
「何だよ。あ、でももう言わないから大丈夫」
「・・・・大丈夫じゃないよ!駄目!」
「亜弥は面白いよね」
「からかわないでよ」
「一生、からかうと思うね。もう癖になっちゃって」
「もう何よ〜!!」
私達の騒ぎ声は夜空の下に響いた。
ねぇ、まい。
私は元気に生きてるよ。
- 127 名前:作者。 投稿日:2004/03/23(火) 22:54
-
>124 ミッチー様。
市井さんのモデルは誰がやるのかまだ内緒(w
( ^∀^ノ<どうすっかなー。全員撮ろうかなー。
( ゜皿 ゜)<カオリハイツモココロノナカニイルヨー♪
- 128 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/24(水) 01:45
- 更新お疲れ様デス。。。
同じ傷を持った藤本さん。
田中さんを救ってあげて?
- 129 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/25(木) 22:17
-
<吉澤 視点>
「あ〜何だかダルイ・・・・」
机に突っ伏してうだうだする。
「よっすぃー。朝からそればっかりじゃん」
ごっちんの呆れたような声が聞こえた。教室の中はわいわいがやがやと何がそんなに
楽しいのか騒がしかった。本来ならばそのわいわいがやがやにうちも混ざりたいのだが。
「具合悪いんなら保健室行けば?」
何だか心配してるの突き放してるのかわからないごっちん。
でも午後の授業を受ける気にはならずうちは席を立った。
「保健室行ってくんね・・・」
「んぁ。りょーかい」
ふらふらとした足取りで教室を後にする。クラスメイト達が「大丈夫?」などと言って
くるのを適当に交わして廊下を歩いた。
今日は朝から変だった。
変というかダルイ。まぁいつもの事だが。
予鈴のチャイムが鳴る。バタバタと生徒達が教室へと急いでいた。
おーい、廊下は走っちゃイカンよ・・・。
そんな事をココロの中で言いつつ階段を下りる。保健室の前まで来てノックをして
中に入る。保健室の先生に事情を話す。
「んー風邪かしらねぇ。とりあえず熱測ってね」
と体温計を出されたので熱を測ると37度の微熱だった。
「どうする?帰る?それとも寝ていく?」
「んー・・・寝ていいっすか?」
「いいよ。1人寝てる人がいるから静かにね」
ベットの方に行くと3つあるベットのうち1つに誰かが寝ていた。
うちはなるべく音を立てないようにベットに入った。窓から風が吹いてカーテンが揺れる。
ふぅ・・・風邪かぁ。放課後の部活は無理かなー。
ふと横を見ると窓から吹いた風でベットとの間を遮ってるカーテンが揺れて向こうに
寝ている人物の顔が見えた。
あ・・・・大谷さんじゃん。
こっちに顔を向けて寝ているので誰だかは一目瞭然だった。
- 130 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/25(木) 22:31
- 大谷さんは気持ち良さ気に寝ていた。綺麗に整った顔立ち。
・・・・うちも寝るか。
ゆっくり目を閉じて眠りに陥った。そう時間はかからなかった。
夢を見た。
楽しい夢だった。
みんなが笑っていた。
梨華ちゃんが笑っていた。
それだけで、何か。
幸せな気分だった。
「・・・ん・・?」
目覚めるともう夕陽が沈もうとしている頃だった。
どうやら放課後まで眠りこけていたらしい。
「あ、目覚めた?具合どう?」
1番会いたかった人が心配そうにうちの顔を覗きこんでいた。
「うん。大丈夫」
そういえば大谷さんは起きたんだろうかと隣のベットを見た。
遮られてるカーテンの向こうから微かに寝息が聞こえた。
まだ・・・・寝てる・・・すげぇ・・・。
「大谷さん、まだ寝てんだ」
「もうすぐ柴ちゃんが迎えに来るよ」
「あー、寝たらスッキリした〜。これなら部活出れる」
伸びをしながら上半身を起こした。
「駄目。ひとみちゃんは帰って安静にしてなきゃ。熱出したんだから」
梨華ちゃんは怒った顔して言った。
「えー、微熱だもん。大丈夫だよ」
「駄目よ。私が許さない」
「マジ大丈夫だから。熱も下がったし」
「だーめ!」
こうなるとうちは弱いわけで。
「・・・・んじゃ、おとなしく帰るからさ」
ぐいっと梨華ちゃんの腕を引っ張って自分の方へ抱き寄せた。
「ちょ・・・ひとみちゃん!んっ・・・」
騒ぐ梨華ちゃんの口をキスで塞ぐ。その時、保健室に誰かが入って来て
隣のベットの範囲に入って行った。
「マサオ!起きろ!お前、いつまで寝てんだよ!」
「いてぇ!・・・あゆみ!蹴るなよ!」
相変わらずだな・・・と思いつつ、お姫様を抱き締めて幸せを感じるのであった。
- 131 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/25(木) 22:49
-
<紺野 視点>
「勝負!」
「のぞむとこれす!」
昼休みの時間。お昼ご飯を食べ、その後の残り時間を優雅に過ごす───のは
彼女達の頭の中には無いらしい。
「おっしゃぁ!ズルは無しやで。レディーゴー!」
仲良くなった辻さんと加護さんは私とまこっちゃんがいる教室に遊びに来て、
腕相撲の話から腕相撲の勝負をしよう、という事になった。
・・・一体何で腕相撲の話になったんだろう・・?
私はまこっちゃんが辻さんに即負けする光景を見ながら思った。
「のの勝利!」
「強い〜・・・」
「さすがはののやな♪今まで誰にも負けた事があらへん」
「へへ♪」
辻さん加護さんは勝ち誇ったように笑い、まこっちゃんはへこんでいた。
・・・何も腕相撲でへこまなくても。
勝負に熱いまこっちゃんだから仕方ないか。
「あさ美ちゃ〜ん・・・・」
情けない声を出してまこっちゃんがやって来た。
「もう腕が折れるかと思った・・・・」
「別に張り合わなくてもいいじゃん」
「でも、勝負だもん・・・悔しい〜」
「辻さんに勝てる人は、きっといないと思うよ」
そう言ってもまだへこんでるまこっちゃん。私はカバンからあるモノを取り出した。
「まこっちゃん。コレあげる」
ホントは部活終わってからあげようと思ったんだけど。
「何々?」
目をキラキラさせたまこっちゃん、犬であればきっとシッポが嬉しげにふっていただろう。
私は紙の袋から中のモノを出した。
「あ〜!」
駅前にあるパン屋の限定商品『カボチャのベーグル』。
「昨日、買って来たんだ」
「くれるの!?」
「うん」
さっきまでへこんでたのが嘘のように眩しい笑顔を浮かべたまこっちゃん。
単純って言葉はこの事を言うんだろうな・・・。
嬉しそうに無邪気に笑うまこっちゃんを見てるとこっちまで嬉しくなってきた。
そんな昼休みだった。
- 132 名前:作者。 投稿日:2004/03/25(木) 22:54
- この人達もたまには・・・・ね?(何
>128 ミッチー様。
藤本さんは今後、重要な人物ですね(^−^
この人で田中さん、道重さんはどうなるか。
これからの見所です。
短編集の中の小さな短編集(というのか?)。
今回はそんな感じで更新しました。
たまにはこんなのもいいかな、と。
次回はちゃんとメインの方を進めます〜!
- 133 名前:タケ 投稿日:2004/03/26(金) 15:35
- 大柴、おがこん(と加護・辻)! 久しぶりですねぇ〜登場もw
まったりしててイイ感じですね!!
メインも期待してますよ〜
- 134 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/27(土) 22:34
-
<藤本 視点>
バイトが無い日の午前中。花屋で花を選んでいた。
「・・・ま、もう夏になるし」
気付けばもう6月が終わり、7月に入る。梅雨という季節が夏に変わる時期。
「あの、ひまわり下さい」
店員に言い財布を出す。綺麗に紙に包まれたひまわりを渡されてお金を払う。
大事にそれを抱えて店を出た。
バスに乗ってゆらゆら揺られる。空はよく晴れていて洗濯日和。
目を細めて太陽を見た。
「・・・眩し」
そう呟いて視線を太陽から背けた。目的地のアナウンスが聞こえて
横にあるボタンを押した。
大切な人を失うのは悲しい。
だけどずっとそれを引きずってちゃいけない。
だって、生きてるんだから。
私は、生きてるんだから。
ある墓の前に立つ。
「まい。来たよ。もう夏だからさ、ひまわり。まいも好きだよね」
しゃがんでひまわりを供える。それから線香に火をつける。
「・・・・れいなちゃんっていう子に出会ったんだ。その子もね
私みたく大切な人を失っちゃったんだ・・・・ずっとそれを
引きずっててさ。私もそうだったけど。それじゃいけないんだよね」
線香も供えて手を合わせる。
『美貴がその子の傷をわかってあげられるなら、助けてあげられるんじゃない?』
「え?」
まいの声が聞こえた。しかもすぐ近くにいるような。
『助けてあげたいって思ってるんでしょ?なら美貴が思う通りにしなよ』
「まい・・・・」
『にしても、美貴がその事ずっと考えてるからさー亜弥ちゃんから見たら
悩んでる風にしか見えてないんだよ?わかってる?亜弥ちゃん、可哀想』
「なっ・・・・」
『相変わらず鈍感だね。まぁ、私の気持ちも気付いてもらえなかったし』
「は!?」
『とにかく、愛されてるって事忘れちゃ駄目だよ』
「う、うん・・・」
『じゃ、頑張れ!』
その言葉でまいの声は聞こえなくなった。まわりをキョロキョロしても
まいの姿は何処にも見当たらなかった。
「・・・・ありがと。まい」
そう言って笑った。
- 135 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/27(土) 22:48
-
<松浦 視点>
美貴たんは一体何を抱えてるんだろう?
授業そっちのけでずっと考えていた。手ではくるくるシャーペンを回していた。
本来ならば黒板のずらずら書かれた数字をノートに写すべきなのだが、後で
誰かに教えてもらおう、今は休憩と言い訳してノートは真っ白だった。
美貴たんがここ最近、難しい顔して腕を組んで黙ってる時が多い。
悩み事でもあるのかな?と思って聞いてみたけど美貴たんは話してくれなかった。
あたしとしては何でも話して欲しい。例えそれが小さな事でも。
・・・・もしかして、あたしの事が嫌になったとか?
でもでも、こないだは映画でデートしたし。『亜弥がいるから私がいる』って
言ってくれたし。有り得ない・・・・と思う。
絶対、という言葉は無い。
もしかしたら、という言葉は在る。
・・・・あたしが聞いても話してくれないし。
考えれば考えるほどブルーな気分になっていく。
「えー、ここの公式は重要なポイントだから。よーく覚えておくように。
もう夏休み気分じゃ困るぞ。期末テストがあるからなー」
・・・・美貴たん。今、何してるのかな。
「今の時期、浮かれる奴が多い。高校生だと言う自覚をちゃんと持て。
義務教育じゃないんだぞ、高校は」
・・・・はぁ、恋する乙女は辛いわ。
「おい!そこ!松浦!ちゃんと聞いてんのか?」
・・・・学校終わったらどうしようかな。会うのが怖い。
「おい!松浦!」
・・・・でも会いたい。
「松浦!」
「・・・・この想いが切ないのよね」
「・・・松浦!後で職員室に来なさい!」
何かよくわからないけど、呼び出しをくらったあたしだった。
- 136 名前:作者。 投稿日:2004/03/27(土) 22:52
- 久々、松浦さん視点。何だか誤解してますが・・・。
>133 タケ様。
何だかマッタリになってしまうんです。平和な証拠(w
それとは逆にれなさゆはどうなるか・・・。
頑張ります!!(^−^
やっと春休みになり、何だか浮かれてます(w
通知表は微妙でしたが、親には怒られずにすんでハッピー(ぉ
- 137 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/28(日) 04:23
- 更新お疲れ様デス。。。
松浦さん視点面白かったです。
思わず吹きだしてしまいました(W
藤本さんの活躍に期待してます。
- 138 名前:タケ 投稿日:2004/03/29(月) 20:12
- 更新お疲れ様
藤本さんのココロの中にはいつもまいさんがいる!って感じですね
松浦さんの頭の中は藤本さんでいっぱいそうで・・・大丈夫なんだろうか・・・勉強がw
- 139 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/30(火) 21:05
-
<田中 視点>
いつもと変わらず私は家にいた。そして相変わらず両親も何も言わずに出勤して行った。
する事も無いので部屋にいるのだが、部屋にいると絵里の事ばかり考えそうになったので
外に出る事にした。ジャージから服に着替えて財布と携帯をカバンに突っ込んだ。
「いー天気」
眩しい太陽を見ていたら無償に涙が出てきた。
何だか・・・・自分の居場所、見えなくなってきた・・・。
手でごしごし涙を拭いた。そして駅へと歩き出した。
家でも学校でも私は駄目なんだ。なら何処がいいんだろうか。
もう息するのが辛い。毎日、結構いっぱいいっぱいだったりする。
だから外に出たんだ。
駅に着いて何気なく携帯を見るとメールが一件。誰かと思いボタンを押す。
<学校休んじゃった。 さゆ>
短い文章をすぐ読んで電話をかけた。もちろん、さゆに。
『れいな?』
「学校休んだって・・・具合悪いん?」
『ううん。何となく』
「親は?」
『お父さんは出張だし、お母さんは昨日から友達と旅行』
「家にはさゆ以外いないんだ」
『うん』
「じゃ、おいでよ。今ね、駅にいんの」
『え、れいなにしては珍しい』
「さゆも行こうよ。一緒に」
何処に行くか決めてないけど。
『うん。着替えてすぐ行く。待ってて』
「わかった」
携帯を切って適当に隅に立った。相変わらず人が多い駅は少し苦手。
だけどここに来なきゃ電車には乗れない。仕方ない事だ。
さゆ・・・早く来ないかな。
今さっき電話を切ったのにそんな事を考えていた。
- 140 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/30(火) 21:18
- さゆは15分経ってやって来た。走ってきたので息が上がっていた。
「学校、休むって電話した?」
「ううん。どーせいなかったら休みだって思うでしょ」
「そっか」
「っで、何処行くの?」
「まだ決めてない」
え?っていう顔でさゆは私を見た。
「適当に行こうよ。小旅行」
小旅行するぐらいする気で私はここへ来た。通帳もちゃんと持って来た。
「何処かに泊まるの?」
「うーん、別に私はいいし。でも私らが泊まれるとこなんてあるかな」
苦笑いで返事を返す。ビジネスホテルでもどう見ても中学生にしか見えない
私達を泊まらせてくれはしないだろう。
「ま、いいじゃん。とにかく行こう」
「うん」
さゆと手を繋いで階段を上る。適当に切符を買い改札口を通りホームへ向かう。
どうやらさゆも通帳を持ってきたらしい。しかも着替えまで。
どうりでやたらとカバンが大きいと思った。
「どうせお父さんもお母さんも今日は帰って来ないし」
「うちも私がいなくなっても誰かの家に泊まってんだろうと思うだろうし」
じゃ、これは家出?とさゆが聞いてきた。
どうだろう、家出なのだろうか。
「・・・ちょっと違う。家出って学校とか家とか嫌んなってやるもんでしょ?
別に私達はそんなに嫌になってないじゃん」
「じゃ、何?」
「んー・・・私は、もう1度自分を取り戻す為に、かな」
「ふーん。私はぁ・・・・何だろ」
さゆが唸って考えてる途中、電車がホームに滑り込んだ。
「理由なんて無くてもいいよ。電車乗るよ」
「う、うん」
私達は電車の中へ入った。
- 141 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/03/30(火) 21:32
-
<藤本 視点>
「・・・・授業中よそ見して呼び出しくらったんかい・・・」
「何がいけなかったのかなぁ?」
「よそ見だ!よそ見!」
「え、よそ見しちゃいけないの?」
「当り前!」
いつもより亜弥が来るのが遅かったので理由を聞くと『呼び出しくらっちゃった♪』
と笑顔で言われた。
「全く。こないだの中間、前より落ちてたじゃん。次で頑張らなきゃどうするの」
「別にあたしは美貴たんの方が大事だし」
「何言ってんの。授業ちゃんと聞かなきゃわからないでしょ?」
亜弥はぶーっといった感じで拗ねていた。
「はぁ。しばらく私ん家来るの禁止にしよう」
「え!?」
「ちゃんと亜弥が勉強するまで来ちゃ駄目」
私だって亜弥と会えなくなるのは辛い。だけど亜弥の為を思うなら
これぐらい我慢する。
「美貴たん!?本気!?」
「あー本気さ」
「何で!?あたしの事嫌いになった!?」
・・・・この人は人の話聞いてるんでしょうか・・?
亜弥に背を向けて立ち上がった。するとものすごい勢いで後ろから抱きつかれた。
「亜〜弥〜・・・・」
「嫌だよ!あたしは別れたくない!」
・・・・何でそう話が飛ぶかな。
「何でそうなるわけ?」
「美貴たん、あたしの事嫌いになったから別れたいんでしょ!?」
「はぁ?だから───」
♪〜。
携帯の着信音。
とりあえず携帯を手にする。
「はい」
『・・・藤本さんですか?』
「あぁ、れいなちゃん」
こないだ会った時携帯番号教えたんだっけ。
『私達、ちょっとした旅をしてるんですよ』
え・・・・?
- 142 名前:作者。 投稿日:2004/03/30(火) 21:39
- 苦労人な藤本さん(w
>137 ミッチー様。
苦労人な藤本さんですが・・・大変です(^−^;
松浦さん突っ走りすぎ?頑張れミキティ!
>138 タケ様。
藤本さんは里田さんの事を忘れる事はないでしょう(^−^
例え他に大切な人が出来ても、思い出は大切です。
松浦さんに危機が・・・一体みきあやはどーなる事やら・・・。
さてさて、れなさゆにみきあや。徐々に動き出していますねぇ。
- 143 名前:ミッチー 投稿日:2004/03/31(水) 14:05
- 更新お疲れ様デス。。。
これから、れなさゆはどうなるのでしょうか?
思い込みの激しい松浦さん、見てて楽しいデス。
藤本さんは大変だと思いますけど…(w
- 144 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/02(金) 21:22
-
<田中 視点>
電車にかなりの時間揺られて着いたとこは田舎の駅。自然がまだ溢れてる場所が良かった。
息が詰まりそうな思いだったから綺麗な空気が吸いたかったのだ。
「れいな。綺麗なとこだね」
「そうだね」
とりあえず駅を出て歩く。当ても無く、ゆっくり。
田んぼが見えて畑が見えて。
「これからどーする?」
「どーしよっかぁ」
何もわからない知らない場所で、私達はどう過ごすだろう?
きっと今までこうゆう事をしたかった。でも出来なかった。
何で出来たのか。
それは・・・『現実』がどーでも良くなったからだ。
さゆは鼻歌を歌って嬉しそうに目の前に広がる自然を眺めていた。
「さゆは・・・・何で私についてきてくれるの?」
そう聞くと不思議そうな顔をさゆは向けた。
「だってさ。もし、家に親が帰って来て、大騒ぎになったらどーするのさ」
「ん〜。・・・その時はその時でしょ」
「いいの?怒られるのは目に見えてるよ?」
「いいよ。別に。・・・・だって」
そう言って私の手を握る。
「れいなと一緒がいいもん」
単純な理由。
さゆらしいなと思った。
「そっか」
「そうだよ」
私はもしかしたら・・・・いや、もしかしなくても。
絵里をさゆに置き換えてる。
たまにさゆが絵里に見える時がある。
- 145 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/02(金) 21:39
- 途中、道端でねこじゃらしを見つけて1本だけ手に取った。
意地悪してさゆの首にねこじゃらしをつけた。
「ちょっと、れいなぁ。くすぐったいよぉ〜」
くすぐったそうに逃げるさゆを追いかける。私達の笑い声が響く。
山道を見つけて中に入った。前に寄ったコンビニでいろいろ買い込んで
いるから喉渇いたら飲み物もちゃんとあるので心配ない。
「何か冒険って感じ?」
「れいな、そーゆーの好きだもんね」
どんどん中に入る。まだ太陽は昇っているのであたりは明るい。
途中、休憩を挟みながら歩いてかれこれ1時間。川原に出会う。
結構ゆっくりな流れで水は流れていた。
「わぁー、魚が見えるよ!」
「綺麗な水だっていう証拠だよ」
「うちの近くにある川原には魚なんていない」
「その上、ゴミがあるしね」
とりあえずお昼が近いのでコンビニで買った昼食を食べる事にした。
食べ終わってぼーっとしてるといきなりさゆが立ち上がって靴を脱いだ。
何事かと思ってさゆを見る。さゆは靴下も脱いで川の方に走った。
「さゆ!?」
パシャパシャと水の中に入って行くさゆ。
「わ〜!冷たい!れいなもおいでよ!楽しいよ!」
全く、よくわからない友達だ。
私も靴と靴下を脱いでさゆの元へ走った。
何か自由だった。
何の規則にも捕われていない。
ココロから笑える。叫べる。騒げる。
何も考えなくていい。
「あはは〜!さゆびっしょりじゃん」
「れいなが水かけるからでしょ!仕返し〜!」
「うわっ!冷たい〜!」
これからの事なんて考えてない。
過去の事も考えなかった。
今だけを見ていた。
そう、『今の時間』を生きてるんだ。
- 146 名前:作者。 投稿日:2004/04/02(金) 21:45
-
>143 ミッチー様。
れなさゆ、とにかく爆走してますね・・・(^−^;
思い込みが激しい松浦さん、藤本さんも大変です(w
だからみきあやは面白い(w
更新が少ない・・・・・次は頑張るぞ!
ちょっと今、ある小説にはまってしまいまして・・・・(^−^;
あぁ、いちごまが書きたい。次回にちょびっとだそうかな。
- 147 名前:ミッチー 投稿日:2004/04/04(日) 00:57
- 更新お疲れ様デス。。。
自由。いいですねぇ…
れなさゆは、どこに向かっているのでしょうか?
作者。さんは、何の小説にはまっているのでしょうか?
いちごま、是非出してください!
- 148 名前:タケ 投稿日:2004/04/04(日) 18:15
- 田中さん・・・この冒険の中で何か見つかるといいですね
こういう自由っていいなぁとか思ったり・・・
いちごま!
どんな展開になるか楽しみにしてます!!
- 149 名前:作者。 投稿日:2004/04/09(金) 19:12
- 全然更新できなくてごめんなさい・・・。えー只今、学力テスト
真っ只中で月曜で終わるので更新は月曜か火曜になります。
読んで下さってる方、本当にすいません。
- 150 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/12(月) 21:07
-
<吉澤 視点>
「ん!?」
危うく飲んでいた牛乳を噴出しそうになった。何とか喉の奥に流し込む。
「ど、どーゆー事!?」
「んぁ?言った通りだけど?」
今から約30秒前の事。
『よしこ、モデルやらない?っていうかやってよ』
「ワケがわからんよ・・・・」
「あぁ、説明が足りなかったねぇ。市井ちゃんがさー撮りたいって言うの」
「何でうち?」
「とりあえずあたしとよしこ、梨華ちゃん。矢口先輩にも聞いてみるけど」
「梨華ちゃんも?」
「それなら行くでしょ?」
そりゃ、行きますとも。
「梨華ちゃんもさぁ、よしこが行くなら行くって言うんだと思うわけで」
とごっちんは怖いくらいの笑顔でうちの肩をポンポンと叩いた。
「ってなわけで話といてね」
何だか、とんでもない事になったよーな・・・・。
放課後。うちは3年生の教室向かい梨華ちゃんを捕まえた。
とりあえず陸上部の部室で話す事にした。
「ひとみちゃん、どうしたの?」
あのごっちんの怖いくらいの笑顔を思い出すと、失敗したらどんな仕打ちがあるか
想像出来ないくらいだ。背筋がゾクっとする。
「あ、あのさ。驚かないで聞いて欲しいんだ」
「うん」
「市井さんがね、梨華ちゃんをモデルとして写真を撮りたいって言うんだ」
1.2.3
「えー!?わ、私がぁ!?」
きっかり3秒。予想通りのリアクションありがとう。
「うちもやるんだよ」
「ひとみちゃんも?」
「うん。だから、一緒にやらない?」
「で、でもぉ・・・自信ないし・・・写真うつり良くないし・・・」
梨華ちゃんは困った顔して言った。だんだん声が小さくなって聞き取れなくなる。
「大丈夫だよ。うちもいるし。市井さんなら綺麗に撮ってくれるよ」
「・・・でも・・・」
またあのごっちんの怖いくらいの笑顔が浮かぶ。
「梨華ちゃん」
ぎゅっと梨華ちゃんの手を握る。
「うちが傍にいるから。それにツーショットの写真が残るんだよ?思い出にさ」
「ひとみちゃん・・・わかった。やってみる」
梨華ちゃんは戸惑いながらも微笑んで頷いた。
- 151 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/12(月) 21:22
-
<後藤 視点>
「先輩、入らないんですか?」
あたしは部室の扉に耳を寄せて中の会話を聞いていた。
「んぁ。今、イイとこなんだから」
「イイとこ?」
小川と紺野が顔を合わせて「意味わかんない」という顔をしていた。
にしてもよしこ!もっと押せ!押して押して押し倒せ!
ココロの中でよしこにエール(?)を送る。
梨華ちゃんの弱点と言えばよしこだ。あたしが話に言っても断られる
確率が高い。なら先によしこを巻き込んで梨華ちゃんの説得に利用すればいい。
ふっふっふっ。我ながら良い作戦だ。
市井ちゃんは言った。
『吉澤と石川は絶対撮りたい。あの2人は面白い』
理由が面白いって良いのか悪いのかわからないけど。
市井ちゃんが言うなら頑張りましょうって言う事で。
お・・・?
どうやら上手く行ったようだ。やれやれ。
「んぁ。入ろう♪入ろう♪」
ご機嫌なあたしに疑わし気な視線を送る後輩2人。
気にせず扉に手をかけ勢いよく開けた。
「あ・・・・」
雰囲気が良かったのか、バカップルはキスする直前だった。
- 152 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/12(月) 21:33
-
<矢口 視点>
主役なのに出番少ないぞぉ!
まぁそれはオイラが高校生じゃなく大学生になったからだと思うけど。
「それだったら私もだけど?」
と隣に座ってレポート作成に励むなっちさん。
「主役はオイラでしょ?」
「誰がいつ決めたのさ」
「そりゃ作者じゃん」
「あの人適当だから“表向き”って事じゃない?」
「えー」
「真の主役はこの私」
「何それー」
ここは大学の図書館。授業が休講になったので図書館に来てみたら
なっちと会った。
「何か面白い事ないかなー」
「そうだね」
その時、オイラの携帯がバイブで振動した。オイラはポケットから取り出して
見てみるとメールが一件。
<市井ちゃんのモデルやってください。 ごとー>
多分、かなり省略しているこの文章。
だけど面白そうな雰囲気をかもし出してるこの文章。
「なっち。面白い事が起きそうだよ」
「は?」
ニヤニヤして携帯画面をなっちに見せた。
- 153 名前:作者。 投稿日:2004/04/12(月) 21:44
- やっとテストが終了!更新です!
>147 ミッチー様。
れなさゆのような自由を作者も手に入れてみたいです。
何処に向かっているのかは2人しかわからない(w
はまっている小説というか・・・某文庫本です(^−^
最近はそれのためにかなりお小遣いが減ってる模様(泣
>148 タケ様。
自由という時間は大切な何かを見つめ直す良い機会なのかもしれません(^−^
田中さんもその中で見つけられるんじゃないかと(w
いちごまっていうか市井さんが出なくてごめんなさい〜(泣
書いてる内にいしよしになってしまった・・・。
モデルは今のとこ3人なんですが。あ、あと(〜^◇^)と(´―`●)ね。
もし「この人は出して!」みたいな希望があれば出します。
あ、れなさゆ、みきあやは別の出番があるので(w
- 154 名前:ミッチー 投稿日:2004/04/13(火) 02:51
- 更新&テストお疲れ様!
市井さんのモデルの件、段々と決まってきましたネ。
次こそ市井さんを出して下さい!
待ってます。
れなさゆも気になるけど(W
- 155 名前:タケ 投稿日:2004/04/14(水) 16:50
- テスト、更新お疲れ様です。
久しぶりのいしよしかな?(確か映画館あたりで)
このバカップルをw市井さんが面白いって言った気持ちはわからなくないかも・・・
市井さんの登場を楽しみにしてます!(そしていちごま・・・)
- 156 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/17(土) 13:50
-
<市井 視点>
ちょっと緊張した面持ちでカメラのレンズを拭いていた。いつもいる慣れた
スタジオも社長が私の為に貸してくれたので他に誰もいなかった。
・・・・被写体、前に撮ったのいつだったかな・・・。
いつも風景や空ばかり撮っていたから人を撮った覚えがあまり無い。
「・・・ちゃんと撮れるかな」
はぁとため息をつくと携帯がなった。ディスプレイを見ると後藤だった。
『市井ちゃん?もうすぐ着くよ〜』
後藤の声とその他に声が聞こえる。
『楽しみだなぁ〜♪』
『矢口先輩!スキップして歩かないで下さいよ〜。目立ってます』
『あ、梨華ちゃん。あんなとこにパン屋さんがあるべさ』
『ホント。おいしそうですね』
何か、緊張と不安が和らいだ気持ちになった。
「後藤、ちゃんと連れて来いよ」
『了解〜!』
携帯を切ってポケットにしまう。
目を閉じて深呼吸。空気を大きく吸い込み吐く。
「よし!」
静かな空間に私の声はいつもより響いた。
- 157 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/17(土) 14:07
-
<田中 視点>
空がオレンジ色になる。
「れいなー。どうする?」
「んー。動きますかぁ」
川で遊んで休憩していたらこんな時間になってしまった。
「あ、藤本さんに電話してみよっか」
「ここ、圏外になってないの?」
カバンから携帯を取り出すと辛うじて圏外はまぬがれていた。
へへへと悪戯っぽく笑って藤本さんに電話をかける。驚かそうと思った。
『はい』
「藤本さん?」
『れいなちゃん?』
「私達、ちょっとした旅をしてるんですよ」
『・・・は?』
「自然がいっぱいでいい所ですよ」
『な、何処行ってるの?』
「しばらくは多分帰らないので。お土産買ってきますね〜」
『え!?ちょ、えぇ!?』
「じゃ」
携帯を切る。何て自分勝手な奴なんだろう、私は。
「どうだった?」
「めちゃくちゃ驚いてた。さ、行こうか」
来た道を戻ろうと歩いたのだが、何処かで道を間違えたらしく
何だかどんどん奥へ進んでる気がした。
「れいな。何か迷ってたりする?私達」
「・・・・多分」
早くしないと日が暮れてしまう。というか半分は暮れてるんだけど。
・・・ん?
少し向こうに家が見えた。私達はそこに向かって歩き出した。
「・・・誰か住んでるのかな?」
「にしては人気がなさそうな感じだけど・・・」
木の家の扉の前に立つ。灯りがついていないので誰もいない気がした。
おそるおそるノックをしてみる。
「ごめんくださーい!」
「誰かいませんかー?」
声をかけても返事は無い。私達は顔を見合わせ頷いた。
扉のドアノブに私は手をかけた。さゆは私の背中に抱きついている。
キィという音を響かせながら扉は開いた。
「・・・・誰もいないみたいだね」
さゆが小さく呟く。中は真っ暗で私はスイッチを探してつけた。
パッと中が明るくなる。
「家というより別荘みたい」
「今日はここに泊まろう」
何も考え無しに、というか恐いもの知らずの私達はのほほんとしていた。
- 158 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/17(土) 14:23
-
<後藤 視点>
「んぁ〜。こっちですよ〜」
まるでツアーの案内の人みたいに先頭を歩く。今日は休日で撮影の日。
みんなを連れて市井ちゃんがいるスタジオへ向かう。
「ごっちーん。どんくらい撮るの?」
「わかんない」
「ひとみちゃん。今日の服どう?」
「可愛いよ。梨華ちゃんは何着ても可愛い〜」
バカップルは1組いるけど気にしない。市井ちゃんがいるスタジオのビルの前に
来たとこで市井ちゃんの携帯に電話をして中に入る。
そういえば、一回も来た事ないんだよねぇ・・・。
エレベーターに乗って過去を思い出す。
市井ちゃんの仕事してる姿は今回初めて見る。
そう思った瞬間、ものすごくわくわくしてきた。
どんな顔するんだろう。
「ごっちん?ごっちん!」
「ほぇ?」
よしこがあたしの肩を叩いていた。
「着いたよ」
気付くとエレベーターの扉が開いていて矢口先輩と安倍さんの後姿が見えた。
梨華ちゃんが『開』のボタンを押してくれていた。
「あ、ごめん」
あたしはすぐにエレベーターを下りた。
- 159 名前:作者。 投稿日:2004/04/17(土) 14:33
- 視点がころころ変わりすぎ?な感じで更新です(^−^:
>154 ミッチー様。
( ^∀^ノ<待っててくれてありがとう!
市井さん、後藤さんやっと登場。仕事姿の市井さんを想像するごとーさん。
顔がにやけてるのに気付いていません(w
>155 タケ様。
(0^〜^)人(^▽^ )何だか前に増してバカップルwなこのお二人。
市井さんも何かオーラを感じたんでしょうか・・・。
いちごま、次回も引き続き出ますので!
高校3年生あーんど受験生になってしまったのでとにかく1週間大変でした〜。
授業が速い速い。高速道路並みです。びゅわーんと(壊
なのでこれから更新が少なくなる・・・かもです。でも頑張ります!
- 160 名前:ミッチー 投稿日:2004/04/18(日) 23:38
- 更新お疲れ様デス。。。
きっと、仕事をしている市井さんは一段とカッコイイんでしょうねぇ。
撮影は楽しくなりそうな予感。
れなさゆ、勝手に入ったら犯罪では…?(W
どうなるのか楽しみデス!
- 161 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/25(日) 20:00
-
<田中 視点>
勝手にどかどか上がり込んでいいものかと思いながら、でもここまで来てしまった
んだからと言い訳してる自分がいた。家の中を見ているとある程度の生活感はあったが
少し埃っぽいのでここ最近は使われていないような感じだと思った。
「れいな、二階上がってみよ」
さゆが階段にあがって手招きをしていた。私も階段をあがる。
部屋は4つあった。どこの部屋にもベットが置いてあった。
「ここってさ。何か宿屋みたいだね」
私は呟きながら部屋の窓を開けた。涼しい風が吹き込んできた。
「そうだね。温泉はさすがに無いみたいだけど」
さゆがベットに座ってぴょんぴょん跳ねていた。
「ちょ、さゆ。埃が舞うでしょ」
「うわぁ、ホントだー」
明日の事なんて考えてない。
いや、考えなきゃいけないんだけど。考えたくない。
もうあの場所に帰りたくないとまで思っていた。ずっとここにいたい。
だけど現実は残酷で、冷たいからいつまでも夢なんて見ていられない。
「れいな・・・?」
私が黙り込んだのを心配したのかさゆが少し泣きそうな顔をして私を見ていた。
あぁ、私の勝手なワガママでさゆを巻き込んでしまったんだ。
「・・・ごめんね。さゆ」
「え?何が?」
「・・・巻き込んで。私の勝手なワガママで──」
友達を巻き込んではいけない。何処かでそう決めてたのに。
今更、『ごめんね』なんて遅いけど。
俯いてぎゅっと拳を握った。私は自分を責めた。
何てこんな駄目なんだろう。強くなれないんだろう。
1人で来れるわけなかった、でも来たかった、だから人を巻き込んだ。
何て、弱い人間なんだろう───。
「れいな」
ふわっとさゆが私を抱き締める。
「私は何処にも行かないよ。何処にも」
さゆは力強く言う。
「私は、絵里みたいに、何処にもいかない」
「・・・さゆ?」
「・・・ごめん。変な事言っちゃった」
ははは、とさゆは笑って私を離した。
- 162 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/25(日) 20:13
- 「・・・・ねぇ、私はこれからどうしたらいいと思う?」
私は、自分が無理に連れてきた相手にこんな質問をした。
わからないんだ。
わからない。
これからどうするべきか。
何をするべきか。
誰かに教えて欲しかった。
そして、楽になりたかった。
「・・・・れいなが、決める事だよ」
さゆはポツリと呟いた。私の目を真っ直ぐ見て。
「わからないの!これからどうすればいいのか、何をすればいいのか。
ねぇ!教えてよ!さゆみ!」
私は乱暴にさゆの肩を揺さぶった。それにさゆが驚いたのかバランスを
崩して後ろに倒れた。幸い、後ろにはベットがあったからさゆは怪我を
せずにすんだ。
「教えてよ・・・・」
さゆの上に乗っかって私は訴え続けた。さゆはやっぱり私を真っ直ぐ見ていた。
「教えてよ!!」
私の叫びとも似た声が部屋に響いた。それと同時に涙も出てきた。
ポタポタと涙はさゆの頬に落ちた。
もう何もかも嫌いだ。
大嫌い。
絵里のいない学校も。
冷たい自分の部屋も。
何よりも、今の自分が大嫌いだ。
「・・・さゆ、言ってよ」
「何を」
「・・・・死ぬべきなんだよって」
あんな現実に戻りたくないから。
自分で命を絶とうって。
やっぱり私は弱い人間だ。
・・・・さゆ、キッカケ頂戴。
これで楽になるんだから。
楽にさせてよ。
- 163 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/25(日) 20:28
- 次の瞬間、パシーンという音が響いた。
さゆが私の頬を平手打ちした事を理解するのに何秒か時間がかかった。
左頬がじんじんする。
「バカ!れいなのバカ!大バカ!バカバカバカ!」
さゆは涙を溜めて怒った顔して言った。それから上に乗ってる私の腕を
引っ張ってベットに倒した。今度はさゆが私の上に乗る。
「バカ!」
何度バカと言えば気がすむんだろう、と他人事のように考えた。
「れいなはバカだよ・・・・」
「・・・もとからバカだけど」
「死ぬなんて望まないでよ・・・・」
さゆの涙が私の頬に落ちる。
「・・・・疲れちゃったんだよ・・・・」
私は目を閉じて言った。
「こんな私、疲れちゃったよ・・・・」
また涙が流れてきた。まだ左頬はじんじんしていた。
生きるのが、こんなに疲れるなんて思わなかった。
「・・・疲れたら休めばいいじゃない」
さゆは落ち着いた声で言った。どうやら興奮は過ぎたらしい。
「・・・休めばいいんだよ・・・・」
休む、か。
休めばまた動けるだろうか。
「・・・・わかった。れいな、教えてあげるよ」
さゆは私の上から下りた。私は起き上がる。
部屋の電気は付けてなかったので、窓から差し込む月明かりがさゆを
照らした。私は、綺麗だな、なんて思った。
「れいながやるべき事は死ぬ事じゃない」
さゆは大きくとも小さくともない声で言った。
「れいながやるべき事は、絵里の死を受け入れる事だよ」
私にとって、青天の霹靂のような言葉。
ココロにずしんときた。
それは決して楽ではない事。
だけど、私がやらなければいけない事だと思った。
・・・・楽なんてしちゃいけないんだ。
この時、私は思った。
生きてるんだから、楽なんて出来ないんだ。
- 164 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/25(日) 20:41
- 「れいなは逃げてるよね?絵里が死んだ事を受け入れるのに」
そうだから否定は出来ない。私は黙ってさゆの言葉を待った。
「逃げちゃいけないんだよ。だから前に進めないんだよ。
死んだ人は帰って来ない。だってもう動かないから。だけど
れいなは生きてる」
さゆはゆっくり私の方へ来た。ベットに座ってる私を優しく抱き寄せた。
私の頭がさゆの腕に包まれる。さゆの心臓の音が聞こえた。
トクン、トクン。
「受け入れようよ。れいな。絵里だってそう望んでるよ」
「・・・・うん」
「大丈夫。私が傍にいるから。れいなは1人じゃないから」
「・・・・うん」
「誰も強い人間なんていない。みんな弱い。だけど1人じゃないから
頑張れるんだよ」
「・・・・・うん」
いつからさゆはこんなしっかりしてたんだろう。
昔は私がいなきゃ駄目だったのに。小学生の頃、イジメられて
いつも私に泣きついてきたのに。
今は逆転して、さゆがいなきゃ私が駄目になっていた。
「・・・・さゆ」
「ん?」
「・・・ありがと。傍にいてくれて」
「ううん・・・」
「・・・でも、平手打ちは痛いよ」
「あ、ごめん!赤くなっちゃったかな。うわぁ、ごめんね」
さゆは慌てて「タオル冷やしてくるっ」と言って部屋を出て行った。
「・・・でも、すごく効いたよ」
さゆがいなくなった部屋で笑って呟いた。
絵里、私頑張るよ。
今は少し休むけど。ちゃんと絵里の事、受け入れるから。
ちゃんと、サヨナラ、するから。
・・・・・見ててね。
- 165 名前:作者。 投稿日:2004/04/25(日) 20:49
- うーん、シリアス。
>160 ミッチー様。
市井ちゃんの撮影は次回に(^−^ きっと賑やかな撮影になるでしょう(w
人の家に勝手にあがれば住居侵入罪ですよね・・・・でもこれは物語なんで
目を瞑ってて下さいな(ぇ
次回はお楽しみ撮影会と出来たらみきあやがどうなったかを書きます。
喧嘩のまま、みきあやは止まってるんで・・・そろそろ出さないと、ね(w
いつ更新出来るかわかりませんが長い目で見てて下さい。
- 166 名前:タケ 投稿日:2004/04/27(火) 09:21
- シリアスですね・・・
田中さんはさゆに救われましたね!
次回は撮影・・・
現場で何が起こるのか・・・楽しみです
- 167 名前:タケ 投稿日:2004/04/27(火) 21:00
- ageてしまいました・・・すみませんでした
- 168 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/28(水) 13:01
-
<吉澤 視点>
初めて足を踏み入れる場所は緊張する。スタジオという場所は意外と広くて綺麗
なとこだった。
「みんな、今日はよろしくお願いします」
市井さんがペコッとお辞儀をした。いつもより市井さんがカッコよく見える。
「んじゃぁ、別の部屋で着替えて。すぐそこの部屋。撮影はまずは石川から」
まずは石川から、と市井さんに言われて梨華ちゃんは「えっ!?」という顔をした。
うちらは言われた通りその部屋に入った。
「ごっちん、市井さんカッコいいね」
「んぁ。あたしもそう思う」
ごっちんは嬉しそうに笑った。
衣装はたくさん用意されていて、それぞれみんなの名前が紙に書いて貼ってある。
うちは吉澤、と用意された衣装を手に取ってビニールのカバーを外してみた。
・・・・スーツ?
どう見ても男物のスーツ。しかも白。
「うわ、よっすぃ〜スーツじゃん」
矢口先輩が後ろから覗き込んで言った。
「でもよっすぃーなら似合うかもね。髪とか1つに縛ったりしてさ♪」
「そうっすかねぇ」
まぁ用意されたモノだから仕方無いと自分に言い聞かせてこの部屋にある
着替え室に入りカーテンをかける。みんなもそれぞれ用意された衣装に着替えてるようだ。
はぁ、似合ってんのかなぁ・・・・。
着てみたはいいけれど似合ってるかどうかなんて判断出来なかった。
「よしこ、着た?」
カーテンの向こうからごっちんの声が聞こえた。
・・・・笑われたら嫌だな〜。
ため息を付きながらカーテンを開けた。
「どう?自分じゃよくわかんなくて・・・」
ごっちんは目をキョトンとさせて立っていた。
「・・・・なるほど。市井ちゃん、どうしてもコレが撮りたかったんだ・・・」
「は?」
「ううん。こっちの話。さ、もう梨華ちゃん撮影始めてるよ!」
ごっちんに肩をバンバン叩かれてうちは用意されていた靴を履いて部屋を出た。
カメラのシャッターの音がよくスタジオに響いてうちの耳に届いた。
- 169 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/28(水) 13:16
-
<市井 視点>
メラメラと燃える魂を抑えつつ、カメラを念入りに調整する。
光の加減も見て、照明の位置を変えたりした。
「市井さん・・・」
石川の声が聞こえて振り返る。
うん、よく似合ってる。
自分の想像してたのと一致して私は満足気に頷いた。
石川に着て貰ったのは白いシャツに白のロングスカート。
「・・・あの、私、肌が黒いから、似合わない気が・・・」
「そんな事ないよ。よく似合ってる。じゃ、始めようか」
カメラの向こうに石川を移動させて私はカメラの方に戻る。
「自然にしてて。無理にカメラ見なくていいから」
「は、はい」
予想通り石川はぎこちない感じ。笑顔も引きつってる。
ま、それは吉澤が何とかしてくれるだろう・・・。
それに今日は『お手伝い』も用意してる事だし、その人はもうすぐ来るだろう。
「紗耶香〜。オイラもオイラも」
矢口達も着替えを済ませてやってきた。
「はいはい。次撮るから」
私はそう言ってまたシャッターを切る。
「はい。お疲れ。いいよ」
私がそう言うと石川は安堵のため息をついた。
- 170 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/28(水) 13:27
-
<石川 視点>
照明ってこんなに熱いんだ・・・・。
初めての経験に緊張やら不安やらで昨夜はあまり眠れなかった。
市井さんは似合うと言ってくれたけどイマイチ自信がないし。
私は椅子に座ってまたため息をついた。撮影は今度は矢口さんだった。
矢口さんはカメラという機械に慣れているのか笑顔もばっちりだ。
「矢口。笑顔はもういいから。普通にしてよ」
「え〜!?」
・・・・私には出来ないよ。
ちょっと泣きそうな感じになってきちゃって私は俯いた。
やっぱ、来なきゃ良かったかな。
そう思った時、誰かが私の肩を叩いた。手ですぐ誰かなんてわかった。
「梨華ちゃん。どう・・?」
顔を上げた私は固まった。
・・・ひとみちゃん・・・カッコよ過ぎ・・。
白のスーツを何て事無く着こなしてるひとみちゃん。
「すごく似合ってる!カッコイイ!」
「え?そぉ?」
「うん」
私がそう言うと照れたようにひとみちゃんは笑った。
「梨華ちゃんも似合ってるね」
「え?」
「綺麗だよ」
ひとみちゃんのこの言葉だけで私の不安は綺麗に無くなった。
「・・・お二人さん。お互い誉めあってないで」
ごっちんが呆れたように言った。撮影は安倍さんになっていて、
安倍さんもまた矢口さんのように完璧にこなしていた。
「はーい、お疲れ!次、吉澤〜!」
「あ、はい!」
ひとみちゃんは元気よく返事をして市井さんの方へ向かった。
私は「頑張って」と言うと微笑を返してくれた。
・・・・私も頑張ろう!
- 171 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/04/28(水) 13:39
-
<市井 視点>
吉澤の撮影の時、丁度『お手伝い』がやって来た。
「紗耶香〜!」
「アヤカ。悪ぃね。休みの日なのに」
「いいって。にしても良いモデル見つけたわね」
とりあえずアヤカをみんなに紹介した。
「同じ仕事仲間のアヤカ。今日は手伝いに来て貰ったんだ」
「アヤカです。よろしくね!」
アヤカにはまず吉澤の髪をやってもらった。
「前髪に何かつけて浮かしてみる?」
「んー、とりあえずコレで撮りたい」
何だか“本格的”に始まってみんなの顔にもさっきより緊張が走る。
さっきまで笑っていた矢口も真剣な顔になっていた。
「アヤカ、みんなのメイクお願い」
「了解!」
「吉澤。スタンバイして」
「はい」
髪を1つに縛った吉澤はまたカッコよくなった。
・・・・こりゃモテるわけだな。
顔は綺麗に整ってて、カッコイイ。おまけに運動神経もいい。
性格も優しいし、サバサバしてる。それにこいつの笑顔は魅力的なもんだ。
・・・石川、イイ奴に惚れられたもんだ。
「とりあえず、正面向いて、こっち見てー」
人を撮るのも悪くないなと思った。
- 172 名前:作者。 投稿日:2004/04/28(水) 13:43
-
>166 タケ様。
前回とは180度違って賑やかな今回(w
れなさゆも一段落ついて、お楽しみの撮影会でした。
次回も続きます♪
久々ないしよし。お互いを誉めてイチャつてます(w
そしてアヤカさんも久々な登場。にしても現在、何人登場人物がいるのやら・・・。
- 173 名前:作者。 投稿日:2004/04/28(水) 13:45
- あ、タケ様。 ageの事は気にしないで下さい〜。
全然、大丈夫です(^−^
- 174 名前:ミッチー 投稿日:2004/05/02(日) 20:24
- 更新お疲れ様デス。。。
いや〜、撮影会楽しそうっすネ!
やっぱり市井ちゃんはカッコイイ!!
いしよしもよかったデス。
撮影会の続き楽しみです。
- 175 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/05/02(日) 22:17
-
<藤本 視点>
“ちょっと旅に出てるんですよ”
そんな電話が突然来たらどんな反応すればいいんだろう?
つまりは家出って事だ。もちろんれいなちゃんとさゆみちゃんは親に黙って
出て行ったに違いない。
「・・・事の重大さがわかってない・・・」
「美貴たん?」
とにかく大事にならないようにしないと。
私は携帯を取り出してある人に電話した。あの人の情報網ならすぐに電話番号が
わかるはずだ。
『はいはーい』
「柴ちゃん?」
『おぉ、その声は美貴ちゃん』
「頼みがあるんだけど」
『話の内容によるけど、とりあえず駅前の喫茶店の特大パフェで手を打とう』
・・・・この人に頼むと高くつくの忘れてた。
「わ、わかった。とにかく聞いて」
私は田中れいなと道重さゆみらの自宅の電話番号を調べてくれと頼んだ。
『ほほう』
「緊急なんだ。すぐに」
『それは誰かの為にやってんだよね?』
「もちろん!」
『なら合格。10分待って』
携帯を切るとむすっとしている亜弥が目の前に立ちはだかった。
「美貴たん。あたしの事無視してるでしょ?」
「別に。亜弥がここに存在するという事は知ってるし」
全く、こっちは大変なんだ。
れいなちゃん、か。
死んだ人はもう生きてる人に何も出来ない。
そして生きてる人も死んだ人に何も出来ない。
現実から逃げちゃ駄目なんだよ。
あの子は立ち向かわなきゃいけなんだ。
「美貴たん!」
「うるさいな!静かにしてよ!」
「何よ!うるさいって!」
「その言葉通りだよ!わかんないの!?」
「・・・もーいーよ!あたし帰るから!」
亜弥は乱暴にカバンを持ち音を立てて玄関に向かった。靴を履いて飛び出すように
扉を開けて家を出る。バタン、と扉の閉まる音が響いた。
「はぁ・・・」
ため息をついてると携帯がなる。
「柴ちゃん?」
『わかったよ。メモの用意はいい?』
私は適当な紙に2つの電話番号を書いた。
- 176 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/05/02(日) 22:39
- それからすぐに2人の自宅に電話し、自分のとこに泊めるという事を
それぞれの両親に伝えた。上手くいくかとドキドキしたが、あっさりと
許可は取れてしまった。よほど子供を信じているのか、それとも自由に
させているのか。
「・・・今時の子はすごいんだな・・・」
しかし、これで警察沙汰に済む事は無くなった。だけど最低1日が限度
だろう。とにかく2人を見つけなければならない。
「でも何処に行ったんだろう・・・?」
何か行くあてはあったのだろうか。いや、それなら“旅”なんて言わない。
丁度、明日はバイトは入ってないので1日空いてる。だけどどう見つければ
いいんだ。遠出してる事は確かだから電車には乗っただろう。
「だとしたら、駅に張り込むか・・・・」
はたまた柴ちゃんネットワークに頼んでみるか。
「いや、それはやめよう・・・」
これは自分で動かなきゃ。
────翌日。
朝から私は家を出た。とりあえず駅に向かってみる。
れいなちゃんの携帯にかけても繋がる事は無かった。
「改札口見張るか」
なるべく目立たないとこに立って、『誰かと待ち合わせ』風を装ってみる。
そういや、亜弥怒ってたっけ。
ふと昨日の事を思い出した。れいなちゃん達の事でいっぱいで亜弥の事、見れなかった。
「・・・別に亜弥の事、無視してたわけじゃないよ」
ただ、そこまで回らなかっただけ。
携帯を取り出してメールを作成する。送り先はれいなちゃん。
<事情はよく知らないけど。早く帰っておいで。家には私ん家に
泊まってる事にしておいたから。 藤本>
「送信・・・」
こんなちっぽけな機械にしか頼れないなんて、情けないもんだ。
自嘲気味に笑って窓から空を見た。
青い空は果てしなくて。
やっぱり、自分はちっぽけな人間だと確信してしまう。
「・・・・あの2人掴まえたら、亜弥のとこいって謝ろう」
- 177 名前:作者。 投稿日:2004/05/02(日) 22:46
-
>174 ミッチー様。
(^∀^ノ<え?かっこいい?嬉しいコト言ってくれるじゃん。
(0^〜^)<市井さんカッケー!
撮影現場では常にかっこよい市井さん(w
撮影会に混ざりたい・・・・(w
久々、藤本さん。何か松浦さんと危険な感じですが(w
さて地味に『みきあやどーなる!?』みたいなのを・・・。
次回は撮影会に戻ります!
- 178 名前:ミッチー 投稿日:2004/05/04(火) 03:55
- 更新お疲れ様デス。。。
やっぱ柴田さんの情報網はスゴイね。
尊敬ですよ。
松浦さん、藤本さんを許してあげてネ。
私も撮影会に混ざりたい…(W
市井さんにも衣装着て欲しいナ。
出来ればスーツ……なんちって(W
- 179 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/05/07(金) 21:26
-
<後藤 視点>
真っ直ぐで真剣な目。
・・・やばい。
あたしは少し離れたとこにある椅子に座って眺めていた。
もちろん視線の先は“あの人”なわけで。初めて見る仕事姿。
・・・こんなかっこよかったっけ?
「ごっちん。市井さんばかり見てるね」
アヤカさんからメイクをし終えた梨華ちゃんが隣に来て言う。
「・・・マジ、やばい」
「うん。かっこいいよね」
「・・わかる?」
「うん。だけどやっぱ私はひとみちゃんかな」
梨華ちゃんは撮影してるよしこを見て目をトロンとさせた。
「お互い、幸せだね」
「んぁ。そーだね」
それぞれの幸せを噛み締めて笑い合う。
「おし!次!後藤!」
大好きな人があたしを呼ぶ。
「はーい!」
元気よく返事をしてあたしはカメラの向こうへ立つ。
「お、気合い入ってるじゃん。ごっちん」
すれ違う時によしこが言う。
「まぁね。モデルだし?」
「あははは、頑張れ〜」
照明があたしを照らす。目の前には市井ちゃんがいる。
位置を確認してるのかカメラを覗いている。
ちゃんと、綺麗に撮ってよ?
あたしは笑ってそう言った。
もちろん。
市井ちゃんも笑って言う。
シャッターを切る音。眩しいストロボ。焼けるように熱い照明。
そして、市井ちゃん。
あたしは忘れない。今、ここにいる事を。
だからしっかり目をみはってカメラを見る。
“綺麗だね”
写真が出来た時に、そう言われたら嬉しいな。
- 180 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/05/07(金) 21:41
-
<市井 視点>
何か、妙に後藤が気合い入ってる。
いや、自信満々なのか。
カメラを覗いた時、一瞬手が止まった。
想像以上の写真が出来るかもしれない。
・・・こいつは大物かもな。
特に会話をする事無く、シャッターを切っていく。
緊張してる石川達には緊張がほぐれるように話かけたりしていた。
だけど後藤にはそれは必要無かった。
緊張してるように見えない。
初めてのモデルなのに、こんなに自然な表情が出来てる。
「ん。いいよ」
私がそう言って後藤が私の方に来る。
「次は誰?」
「次はー、吉澤と石川〜!入って!」
「ツーショット?」
「それも面白いでしょ?」
照れた顔して吉澤と石川がやってくる。
「紗耶香、よっすぃーのネクタイ、黄色に変えてみた」
アヤカが横からぬっと出てきた。
「あぁ、ありがと」
「紗耶香もごっちんと撮れば?私が撮ってあげるよ?」
アヤカがそう言うと後藤は「ホント?」と嬉しそうな声をあげた。
「・・・時間があればね」
「時間はいくらでもあるわよ。今日は」
実は撮るのは好きだけど、撮られるのはあまり好きではない。
アヤカはそれを知ってて、多分いじめるつもりで言ってるんだろう。
その証拠に顔がニヤニヤしている。
「・・・はいはい。さ!始めるよ!」
吉澤と石川は微妙な距離をとって立っていた。
「もっとくっつけー。お前らー。いつもの調子でいいから」
まるで出来たてほやほやのカップルのような2人はしばらく恥ずかしがっていた。
- 181 名前:作者。 投稿日:2004/05/07(金) 21:49
-
>178 ミッチー様。
柴田さんの情報網はすごいです(w 大谷さんも恐れるほど。
でも企業秘密なので誰も知らない(w
みきあやも気になるとこですが、それはまた次回に!
『市井さんに衣装を』という提案ありがとうございます!
今回、最後にアヤカはちらっと何かを言ってますが、
さぁ実現なるか!?(ぇ
今回はいちごま。完全にごとーさん、とろけてます。
(〜^◇^)と(´―`●)もいるんですけどね、あんま存在が・・・(w
- 182 名前:ミッチー 投稿日:2004/05/09(日) 01:43
- 更新お疲れ様デス。。。
恥ずかしがってるいしよし、初々しくてイイですね!
市井さんと後藤さんの撮影、実現して欲しいっス!
想像するだけで顔がニヤけてしまいます(W
矢口さんと安部さんも頑張ってアピールして下さい(W
- 183 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/05/13(木) 22:29
-
<田中 視点>
2人で布団に包まって夜を過ごした。さゆの規則正しい寝息が聞こえてくる。
「・・・さゆ、ごめんね」
そっとさゆの髪を撫でる。さゆには助けられてばかりだなと思った。
今度は私が助ける番なんだよね。
今夜は何だかよく眠れる気がしてそっと目を閉じた。
───翌朝。
朝早く目が覚めてさゆを起こした。感謝の気持ちを込めてこの家の掃除をした。
そして私達は帰り道を歩いて行った。
「電車、後2時間待たないと来ないね」
ここまで来た時に降りた駅に着いて時刻を確認した。
「座って待とうよ。歩き疲れた」
駅にあるベンチに座って電車を待った。ふとカバンから携帯を取り出した。
電源を入れて繋いでみるとメールが一件入っていた。
<事情はよく知らないけど。早く帰っておいで。家には私ん家に
泊まってる事にしたから。 藤本>
「・・・どうやら、親には怒られなくて済みそうだよ」
「え?」
「コレ」
さゆに携帯の画面を見せる。
「・・・何か、藤本さんに迷惑かけちゃったね」
苦笑いしながらさゆは言った。
「そうだね。帰ったらちゃんと謝ろう」
「うん」
「あ、帰りにちょっと寄っていきたいとこがあるんだけどいい?」
空は青く、果てしなく広い。
絵里はそこにいるのだろうか。
ちゃんとサヨナラしたら。
私は、変われるだろうか。
- 184 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/05/13(木) 22:37
-
<道重 視点>
帰りにれいなが寄りたい場所は墓地だった。途中でお花を買って
絵里のお墓までやってきた。
「・・・ここまで来るのに、随分時間かかっちゃった」
れいなはそう言ってお花を供えた。
「・・・いいんだよ。ちゃんと来れたんだから」
「そうだね・・・」
2人で線香を供えて手を合わせた。
・・・絵里。これからのれいなをしっかり見届けてね。
れいなが絵里に何を伝えたのかはわからないけど。れいなの顔は
何だかすっきりして晴々していた。
きっと、ちゃんと『サヨナラ』出来たんだと思う。
「さ、帰ろう。さゆ」
「うん」
手を繋いで歩き出した。
私達は、歩き出した。
- 185 名前:作者。 投稿日:2004/05/13(木) 22:40
-
>182 ミッチー様。
ニヤけちゃいますか!私もです(^−^
きっと実現できると思うので待ってて下さいね。
(〜^◇^)<オイラもいるよ〜。
(●´―`)<なっちもるべさ♪
- 186 名前:ミッチー 投稿日:2004/05/14(金) 19:16
- 更新お疲れ様デス。。。
れなさゆ二人とも歩き出せてよかったネ。
藤本さんには感謝ですね。
みきあやはどうなったのでしょうか?
いちごま、楽しみにしてマス!!
- 187 名前:タケ 投稿日:2004/05/16(日) 01:05
- 更新お疲れ様です
れいなさん・・・『サヨナラ』できてよかったです!
これからの2人の歩みが楽しみです
- 188 名前:19.サヨナラの言葉。 投稿日:2004/05/27(木) 16:45
-
<後藤 視点>
長い長い撮影が終わって、アヤカさんが市井ちゃんとあたしの写真を撮ってくれた。
市井ちゃんは「撮られるのは苦手なんだよ」とぶつぶつ言いながらもあたしの隣に
立ってくれて嬉しかった。
「紗耶香、もっと笑ってよ〜」
「うっせー!早く撮れよ!」
カシャっとシャッターの音。また1つ思い出が出来た音。
「お疲れー!よし、飯食いに行くか!」
「やった!市井さんの奢りですか?」
「んじゃ、モデル料のかわりな。あ、でも高いモンはやめろよ」
市井ちゃんはカメラや照明を片し始めて、よしこ達は着替えに隣の部屋へ向かっていた。
「市井ちゃん」
「んー?」
「ありがとね。一緒に写真撮ってくれて」
あたしがそう言うと市井ちゃんは照れてるの「別に」とぶっきらぼうに言った。
それから自分の服に着替えて撮影会は終了。もう外は夕暮れ時だった。
「焼肉にしようよ!食べ放題のお店オイラ知ってるから!」
矢口先輩の一言で夕飯は決まった。みんなでわいわい騒ぎながら道を歩く。
「にしても吉澤ー。お前はホント男前だな」
市井ちゃんが感心して頷く。
「そんな事ないっすよ」
「石川もそう思うでしょ?」
「もちろんです」
「ねぇ紗耶香〜。オイラは?」
「お前はカメラ目線ばっかりなんだよ。ま、その点なっちはいい感じに撮れたよ♪」
「何だよそれ!」
あたしは少し、歩くのをゆっくりにした。
そして前にいる仲間達の背中を見た。
頼もしく見える仲間達の背中。
そして大好きな人の背中。
「後藤、置いていくぞー」
「待って〜!」
- 189 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/05/27(木) 17:13
-
『20.だから、僕らは走り続ける。』
<吉澤 視点>
学際が終わり、市井さんの撮影会も終わり、期末テスト到来───
「ごっちん。どうよ?」
「どーもこーも」
「だよねぇ」
うちらはため息をついてシャーペンをノートの上に置いた。
「何かさぁ、やる気出ないんだよね。やる気」
「んぁ」
「こら。中間テストでの頑張りを今回も出しなさい」
梨華ちゃんの一喝で勉強再会。ここは図書館、放課後という暇な時間を
使い期末テストに向けてのお勉強会。何故、暇な時間というと期末テスト
期間の為部活は無しになるから。
ちなみに。
勉強会という話が出たのは梨華ちゃんからで。最初はうちとごっちん
だけだったんだけど、広がっていき。
「あさ美ちゃん、ここどうやるの?」
「えっとね。まずはこれを・・・」
「マサオ。ノート写させて?」
「・・・お前な、授業中寝るなよ」
小川や紺野、柴ちゃんに大谷さんまで集まって来た。
そんなわけで勉強勉強。
はぁ、数学なんてわけわっかんねー・・・・。
わけのわからん数式を解き始めて約30分経つ。
未だに少しも進まず。
「・・・梨華ちゃーん。へるぷみー」
「んぁ。こっちもー」
結局、梨華ちゃんに頼る。
そんなうちらです。
- 190 名前:作者。 投稿日:2004/05/27(木) 17:25
- テストが終わりやっと更新も少なくてごめんなさい(^−^;
来週も模試試験・・・・受験生は辛いですね。
>186 ミッチー様。
みきあやはもうしばらく待って下さいね!
(^∀^ノ<撮られんのは苦手なんだよ・・・。←とかいいつつ嬉しげな市井サン。
>187 タケ様。
これからの2人も暖かく見守って下さい!
タイトルもかわって心機一転です(^−^
- 191 名前:ミッチー 投稿日:2004/05/27(木) 18:19
- 更新お疲れ様デス。。。
無事に楽しい撮影会が終わってよかったです。
後藤さんと吉澤さん、期末テスト頑張ってネ。
作者。さんもいろいろと頑張って下さい!
受験生は本当に辛いですよネ・・・。
- 192 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/05/28(金) 21:47
-
<藤本 視点>
あの2人が私の目の前に現れたのはお昼を過ぎた頃で。私は自販機で買ったコーヒーを
飲みながら待っていた。2人は私に気付いたのかとことこやって来て。
「「ごめんなさい」」
ペコリとお辞儀をして謝った。
「よろしい。全く、心配したんだからね」
正直、あんまり心配はしてなかった。この2人なら大丈夫だろうと変に確信していた。
何だかれいなちゃんもさゆみちゃんも清々しい表情をしていて。
乗り越えられたんだな・・・・。
私は安心して「何か食べた?」と聞いた。
「いえ。まだ」
「じゃ、どっかでお昼にしよ。もうお腹すいて死にそう」
「あ、じゃぁ近くにおいしいパスタ屋さんがあるんですよ」
私達は歩き出して私はふと亜弥の顔を思い出していた。
・・・・まだ怒ってるかなー。
昨日は喧嘩を収めてる余裕なんて無かった。今思えば、ひどい事をしたと思う。
「藤本さん?どうしたんですか?」
「あ、いや。何でも無いよ。それよりさー何処に行ってたの?」
「実はですね─」
れいなちゃんは楽しそうに旅の話をし始めた。その隣にさゆみちゃんが嬉しそうに
れいなちゃんを見て微笑んでいた。
私の出番はあまり無かったかな。
私がまいを失った時はズタボロだったけど、この子はすぐに立ち直れた。
私なんかより全然強いコなんだ。
「そしたら、道に迷っちゃいましてー」
「れいながどんどん奥に進むから悪いんだよ」
「何で、さゆがこっちって言ったじゃん」
学校って何時に終わるんだっけ。
早く会いたくなった。
ぶすっとして怒ってるお姫様に。
- 193 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/05/28(金) 22:06
-
<松浦 視点>
・・・・メールも電話も来ない。
私は授業中、携帯を見てため息をついた。昨夜美貴たんと喧嘩をして
あたしは怒って美貴たん家を飛び出した。
・・・っていうか美貴たんが悪いんだもん。あたしは悪くない。
だからこっちからメールも電話もしてやんない。
「じゃ、松浦さん。今言った英文を訳して下さい」
「・・・・・乙女心は複雑なのよね。全く、何であたしの気持ちがわからないの」
はたまたため息。
「そうね。先生、貴方の気持ちが全然わからないわ」
見上げるとそこには英語の先生が怖いくらいの笑みを浮かべていた。
「でも先生。世の中にはもっとあたしの気持ちをわかってくれない人がいるんです」
あたしがそう言うと。
「後で職員室に来なさい」
何故か呼び出しをくらう羽目になってしまった。
───放課後。先生から解放され、時間を見るともう午後5時を過ぎていた。
「何あの先生!くどくどくどくど!何であたしが怒られるわけ!?」
教室に戻りながらあたしは怒っていた。机にかけてあるカバンを乱暴に取って
教室を出て下駄箱に向かう。自分の靴を取って下に投げると靴がひっくり返った。
「靴まであたしをバカにするわけ!?」
靴に怒るあたしははたから見たらかなり怪しい。
・・・・イライラし過ぎだよ。あたし。
落ち着こうと深呼吸をして上履きを脱いで靴を履いた。
「・・・美貴たん。呆れちゃったのかなぁ・・・」
あたしが一方的にがーっと怒って飛び出して来たし。
とぼとぼと歩くと正門に見覚えのある人が立っていた。
嘘・・・いるわけないのに。
「亜弥ー!」
そこにいたのは美貴たんだった。
今、誰よりも会いたい人だった。
「・・・美貴たん!」
気付いたら走って抱きついてた。
もう、何でもいいや。どうでもよくなった。
少ししか会ってないだけでこんなに寂しいなんて思わなかった。
「ごめん。亜弥」
「ううん。こっちこそごめんね」
あっさり仲直り。あんなに怒ってたのにすごい不思議。
そしてあたし達は仲良く手を繋いで帰った、
- 194 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/05/28(金) 22:34
-
<石川 視点>
みんなで勉強会。でもひとみちゃんとごっちんの為の勉強会だったりする。
この前の中間テストは良かったけどその前のテストは悲惨的なものだったから
気を抜いちゃいけないわけで。
「だからね、これはこの公式に当てはめて考えればいいんだよ」
「あ、そっか!」
「あのね、これ計算が間違ってるから答え合わないんだよ。ほら、ここの掛け算」
「んぁ。ホントだ〜」
2人ぶんの家庭教師は思ってるほど大変で。しかもこの2人の場合は。
肩が懲りそう・・・・。
「梨華ちゃんも大変だねぇ」
「柴ちゃんも手伝ってよ」
「あははは。私に頼むなよー。自分でいっぱいいっぱいだから。あ、あのさこの英文どう
訳すんだっけ?」
頼みの親友もこんな感じだし。
勉強会が終わってそれぞれ帰宅する。
「勉強に集中したらお腹すいたー」
「もう。もっと集中してよ。あんまり進まなかったじゃない」
「だってわかんないんだもん」
ひとみちゃんはお手上げのポーズをした。
「いつも部活ばっかしてたからさ、そっちばっか集中してて」
部活大好きなひとみちゃん。放課後は走ってばっかで、たまに私の事
忘れてるんじゃないかなって思う時がある。
「部活したいなぁ・・・・」
「・・・部活部活って。ひとみちゃんも来年は受験生だよ?ちゃんと
勉強はしなくちゃ」
私はちょっとムキになって言った。ホントはそんな事言いたくないんだけど。
「梨華ちゃん、うちのお母さんみたい。最近、勉強しろってうるさくてさ」
「そりゃそうよ。勉強は大切なんだから」
「勉強かー」
夕暮れ時に隣を歩いてくれるひとみちゃんの横顔はやっぱりかっこよかった。
- 195 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/05/28(金) 22:41
-
>191 ミッチー様。
(0;^〜^)<難しいYO!
( ;^▽^)<頑張って!
こんな感じのいしよし。私も負けないように頑張ります!(^−^
今回、重要な人物は(0^〜^)です。
世代交代というか(〜^◇^)から(0^〜^)にバトンタッチな感じです。
だからこの物語の最初に「小さな少女の物語」とありますが
「少年のような少女の物語」?に変わりつつ・・・・。
吉澤さんに危機が!?←次回予告(ぇ
- 196 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/05/29(土) 16:39
-
<市井 視点>
仕事を終えて家に帰ると珍しく後藤が勉強をしていた。
「珍しー。あ、もうすぐ期末だっけ?」
冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぐ。
「んぁ。梨華ちゃんがねスパルタ家庭教師に変身した〜」
「おー。学生は大変だなぁ」
後藤の隣に座って牛乳を飲む。今日は夕飯を適当に食べてきたから
今の時刻はもう午後10時を過ぎていた。後藤には朝言っておいた。
「明日、写真が出来上がるんだよ。みんなの」
「え、ホント?楽しみ〜」
「絶対イイ感じに仕上がってる感じだから」
この日、後藤は夜中遅くまで勉強に励み翌日はすごく眠そうな顔をしていた。
「お前、授業で寝たら意味ないぞ?」
「んぁ・・・頑張る」
「・・・まぁいいけど。体壊すなよ。人生勉強だけじゃないからな」
「ほーい・・・」
ふらふらと学校に向かう後藤。
何であんな燃えてるんだろうか・・・。
今までの後藤の破滅的な成績は今に知った事じゃないし、やはり石川の
おかげなのだろうか。
「・・・ま、あんな熱心なってる事だし。見守るか」
そう言って出勤の支度を始めた。
- 197 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/05/29(土) 16:54
-
<安倍 視点>
バイトしてる本屋に矢口と紗耶香がやってきた。こないだの撮影会の写真を
持ってきてくれた。
「わー。ありがとう」
「なっち、もう上がれるでしょ?久々に紗耶香ん家行かない?」
「後藤が4人ぶんの夕飯作って待ってるんだ」
思いがけない誘いに私はもちろんのった。
写真は綺麗に撮れていた。やっぱり紗耶香はプロなんだと思った。
「このなっち、すごい綺麗〜」
紗耶香の家まで歩きながら写真を見ていた。
「被写体はあまり撮らないんだけど、上手く出来上がってよかったよ」
「やっぱ一応紗耶香もプロなんだねぇ・・・」
「おい!一応って何だよ!矢口」
あ、コレ・・・・。
私は1枚の写真を見た。
真ん中に矢口。その隣が私で、私の隣がごっちん。
反対側にはよっすぃーと梨華ちゃん。
5人で撮ってくれた写真。
「あ、コレいいよね。オイラ、部屋に飾るよ」
「・・・私も飾ろう!」
「どうせなら紗耶香も入ればよかったのに」
「カメラマンが写ってどうすんだよ」
紗耶香ん家につくといい匂いが充満していた。今夜はカレーとすぐわかった。
「ただいまー!」
「「お邪魔しまーす」」
向こうからエプロン姿のごっちんが嬉しそうに走って来た。
「んぁ〜、先輩久しぶり〜!」
「おっす!あれ・・・ごっちん、目の下隈が出来てるよ?」
「もうすぐ期末なんだ」
矢口が言う通りごっちんは隈が出来ていた。何か少しやつれてる気がする。
大丈夫なのかな・・・・。
勉強で忙しいのに夕飯作ってくれるなんて。
「ごっちん。ごめんね。突然お邪魔しちゃって」
私がそう言うとごっちんは笑った。
「いいよぉ。先輩達が来てくれるの嬉しいから。たくさん食べてね」
こんなごっちんの優しさがココロに染みて暖かかった。
- 198 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/05/29(土) 17:14
- ごっちんが作ったカレーはおいしくて矢口はおかわりまでしていた。
話題は専ら写真の事で持ちきり。撮影会の事や紗耶香の日々の仕事の事。
まだ大学1年生と言えども就職の事を考える。紗耶香の話はすごく参考になった。
「紗耶香はいいなぁ。好きな仕事が出来て」
矢口が呟く。私はその言葉に頷いた、
「でも結構大変だよ?最近は自分の写真の事出来るようになったけど
アシスタント時代は辛いに尽きるね。パシリ当然だもん」
だけど充実してるんだろうな、と紗耶香の顔を見て思った。そしてそれが
羨ましく感じた。カレーを食べ終えて私はお皿を持って立ち上がった。
「んぁ。あたしやるからいいよ」
「いいって。片付けは私と矢口がやるからさ、休んでて」
「そうだよ。ごっちんは作ってくれたんだし。勉強疲れが出てるから休んでて!」
私と矢口が言うとごっちんはすまなさそうに「ありがとう」と言った。
「期末テストかー。何か懐かしいね」
「そーだねぇ。オイラ達の時も必死だったよね」
私はお皿を洗い、矢口はそれを拭く係り。
「でも矢口全然集中力ないじゃん。途中で「飽きたー!」って叫ぶし」
「だってさぁ、ずっーと座ってると辛いんだもん」
「圭織は交信しちゃってるし」
懐かしい思い出話に花が咲く。
「なっちは大変だったね」
「ホントだよー」
片づけを終えて帰る支度。ごっちんはやっぱり疲れたせいかソファで
寝ていた。
「ごめんね。片付けさせて」
紗耶香が謝る。
「いいよ。紗耶香も仕事で疲れてるでしょ?」
「それにごっちんのおいしいカレー食べれたし。また誘ってよ」
心地よい満腹感を持ちつつ私達は紗耶香に見送られ家を出た。
- 199 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/02(水) 20:04
- (紺野さん視点の)更新を首を長〜くして待ってます!
がんばってください!
- 200 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/02(水) 20:33
-
<吉澤 視点>
期末テストがいよいよ始まり、集中して頑張ったせいかあっという間に日は過ぎて行った。
やるだけやったという満足感とこれで終わったんだという開放感に包まれながら帰る支度をする。
ごっちんを見るともうエネルギーを使い果たしたのか机に突っ伏していた。
「ごっちん。ほら、帰ろうよ」
ごっちんの肩を揺らして起こそうとしたけどごっちんは動かない。
あれ・・・?
何だか様子がおかしい。うちはごっちんを抱えて机から離した。
「ごっちん?どうした?」
「ん・・・?」
ぼーっとした顔でごっちんはうちを見た。何だか顔が赤くうっすら汗をかいている。
ごっちんのおでこを触ってみると熱く目も潤んでいた。
「ね、熱!」
うちはすぐにごっちんを抱えて保健室へ直行した。
「─37度」
保健室で熱を測ると微熱だった。
「ごっちん。歩ける?」
「んぁ・・・歩ける・・・」
本人曰く体がだるくて頭が痛いとのこと。これは完全に風邪だ。
今日は平日だし、期末だったから学校はお昼まで。市井さんを仕事場から呼ぶには
少し無理がある。かと言ってうちがごっちんをおんぶして家まで送るにも・・・。
「・・・でも、こんなごっちん放っておけないし」
ベットにだるそうに横になってるごっちんを見て覚悟を決めた。
そしてごっちんをおぶろうとベットに近づいた。その時、保健室の扉が開いた。
「おーい。後藤が倒れたって?」
家庭科の石黒先生が入って来た。
「倒れた・・・んじゃないですけど。熱出して。動けないみたいで」
「私が送ろうか?裕ちゃんは忙しいみたいだし」
「ホントですか!?」
「うん。試験も終わったし」
お言葉に甘えて石黒先生に送って貰う事にした。
「テスト疲れかねぇ」
運転席に石黒先生が座り、うちは後ろの方に座りごっちんに膝枕をする。
「何か夜中まで勉強してたみたいです」
「頑張った結果だよ。これからゆっくり休めばいい」
エンジンのかかる音が聞こえる。携帯を開いて梨華ちゃんに事情を説明したメール
を送った。返事はすぐに返ってきて心配だから後でお見舞いに行くとの事だった。
- 201 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/02(水) 20:45
-
<紺野 視点>
期末テストが全部終わった日。
「終わったぁ〜」
まこっちゃんが嬉しそうに言った。
「どうだった?手応え」
私がそう聞くと「やるだけやったさ!」という返事が返ってきた。
今日の午後はまこっちゃんと買い物に行く予定。前々から約束していた。
「あさ美ちゃん。家に帰ったら即着替えてあさ美ちゃん家に迎えに行くから」
「うん。待ってるね」
ただの買い物の約束でもすごく嬉しくて楽しみにしていた。
家に帰って制服から私服に着替えた。お昼ご飯は後でまこっちゃんと外で
食べるからジュースだけ飲んだ。
「・・・やっぱ、こっちのがいいかなぁ・・・」
鏡の前に立ってスカートに悩む。こっちがいいかあっちがいいか。
まこっちゃんはきっとどれでも似合ってるって言ってくれると思うけど。
「・・・悩んじゃうんだよねー」
悩んでる間に家にインターホンの音が響いてそこで中断された。
部屋から飛び出して階段をおりて玄関に向かう。扉を開けるとそこには
大急ぎで来たって感じのまこっちゃんが息を切らして立っていた。
「そんな急がなくても良かったのに」
「だって、早く会いたかったんだもん」
何で嬉しい言葉をポンポン言ってくれるんだろう、この人は。
「ちょっと待ってカバン取ってくるから」
「うん!」
まこっちゃんに玄関で待ってもらって私は部屋に戻った。
何だか慌てていたのはきっとまこっちゃんと同じで。
早く会いたい。
・・・のだと思う。
- 202 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/02(水) 20:56
-
<石川 視点>
「梨華ちゃん!カラオケ行かない?タダ券をマサオが持ってるんだー」
「ごめん。何かごっちんが熱出して倒れたみたいで今からごっちん家に
行ってくるね」
「あら残念。ごっちんが熱かー。テストのせいかな」
「かもしれない。すごく頑張ってたから」
ひとみちゃんからメールを貰って慌てて返事をうち、帰る支度をした。
テストも終わってホッと安心していたのも束の間だった。
「じゃぁね!」
そう言って教室を飛び出す。下駄箱までダッシュしたら息が切れて
喉が痛くなった。靴に履き替えてまた走る。
途中、スーパーで果物を買ってごっちん家へ向かった。
ピンポーンと鳴らすとひとみちゃんが扉を開けてくれた。
「大丈夫なの?」
「うん。今は寝てる」
ひとみちゃんに果物が入ったビニール袋を渡す。
「市井さんには?」
「今さっき電話したよ。でも今は仕事抜けられないみたい」
「そっか・・・」
ごっちんの部屋をそっと覗くとごっちんはすやすやと寝ていた。
・・・頑張ってたもんね。偉いよ。
そっと髪を撫でて「ゆっくり休んでね」と呟いた。
「梨華ちゃん・・・ご飯まだでしょ?」
後ろからひとみちゃんの声が聞こえて私は立ち上がってそっちへ向いた。
「うん」
「キッチン借りて作ろうかと思うんだけど。あ、材料今から買いに行ってくるから
ごっちんの事頼むね」
「わかった」
そしてひとみちゃんは買い物に出かけて行った。
- 203 名前:作者。 投稿日:2004/06/02(水) 21:00
-
>199 紺ちゃんファン様。
初めまして!読んで下さっていてありがとうございます!
紺野ちゃん視点を待って下さっていたようで・・・・・
最近全然無かったですもんね(^−^; すいません。
なので今回入れてみました!これからもよろしくです。
久々に登場している人物。紺野ちゃん、そして石黒先生。
先生の存在がかなーり薄いですが・・・家庭科の先生ですよー。
あと中澤先生も・・・・。
- 204 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/02(水) 23:07
- >203 作者。 さま、更新どうもです。
紺ちゃん視点の話、、、待ってましたよー!
前スレのときの「紺野の元カレ(?)」ですか?
あれがとてもきになります。
さっきと同様、紺野さん視点の更新待ってます!
- 205 名前:ミッチー 投稿日:2004/06/05(土) 02:31
- 更新お疲れ様デス。。。
後藤さん熱出しちゃいましたネ。
知恵熱でしょうか…?
紺野さんと小川さんは、見ていて微笑ましかったデス。
- 206 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/14(月) 20:17
-
<吉澤 視点>
近くのスーパーまで歩いて行った。正直、テストでくたくただけど大事な親友が
辛そうにしてるのは黙って見ていられないもんで自然と体が動いた。
「うどんにしようかな・・・」
手っ取り早くし、これならごっちんも食べられそうだと思ってうどんを選んだ。
ネギやらうどんの玉、卵などカゴにいえれてレジに向かった。会計を済ませて
袋に詰めてスーパーを後にする。少し早歩きでごっちん家に向かった。
戻って梨華ちゃんと昼食を食べた。夕方頃にごっちんが起き出して熱を
測ってみるとだいぶ下がってうどんも食べれた。
「ごめんね、2人共」
うどんをずるずる食べながらごっちんは謝った。
「いいって。うちらは別に大丈夫だしさ。ね、梨華ちゃん?」
「そうだよ。気にしなくていいよ」
うちらがこう言うとごっちんは嬉しそうに「ありがと」って言った。
それから午後6時過ぎになると市井さんが慌てて帰って来た。もう熱は下がった
と教えると市井さんは安心した顔をした。
「じゃ、うちらは帰ります」
「おぉ。ありがとうな。助かったよ」
市井さんとごっちんに見送られうちと梨華ちゃんは家を後にした。
もうすっかり陽は暮れていた薄暗い道を歩く。
「良かったね。ごっちん元気になって」
「うん。やっぱテスト疲れが出たんだね」
信号が赤になってしまったので立ち止まった。
いつもと変わらない帰り道。
だけど少し違和感を感じる胸騒ぎ。
何だろう・・・・・この感じ。
「ひとみちゃん?」
「ん?」
「どうかした?」
「・・・ううん。大丈夫」
そっと梨華ちゃんの手を握った。あんまりこうゆう道で手を握ったりするのは
普段しないけどこうでもしないと落ち着かなかった。
信号が青に変わる。
それを見て足を前に出した。
変な違和感と胸騒ぎを抱えて。
- 207 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/14(月) 20:24
-
<石川 視点>
まさか、こんな事になるなんて思ってなかった。
気付いたら私は道路のアスファルトに倒れていた。
『梨華ちゃんッ!!』
ひとみちゃんの声が聞こえて次の瞬間腕を引っ張られた。
私達は横断歩道を渡っていた。信号は青だった。
確かに、青だった。
なのに、なのに・・・・・。
「おい!誰か救急車呼べ!!」
知らない男の人の叫びにも似た声が聞こえて我に返った。
そうだ、ひとみちゃんは────
私はまわりを見回して探した。
そして目を見張った。
アスファルトに倒れ、血だらけになってるひとみちゃんを。
私はこの目で見た。
「・・・・な、んで・・・?」
遠くから救急車の声と、野次馬の声が聞こえた。
嫌だよ・・・・嫌だよ・・・・。
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
私の叫び声が大きく響いた。
- 208 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/14(月) 20:37
-
<市井 視点>
数時間前に普通に話していたのに何でこんな事になるとは。
『・・・よっすぃーが・・・・車にはねられて・・・病院に・・・』
矢口から電話で聞いた時、ショックが大きくて言葉を失った。矢口が以前に
事故った時もこんな感じだった。
「・・・わ、わかった。何処の病院?」
『中央病院・・・』
「すぐ行く」
電話を切る。少し手の震えを感じた。
「市井ちゃん・・・?」
「後藤。支度しろ。病院に行くぞ」
「え・・・?」
「・・・吉澤が事故で病院に運ばれたんだ」
「・・・・!!?」
後藤も私と同様、言葉を失って驚いていた。
「・・・だ、大丈夫なんだよね・・・?」
「・・・まだわからん・・・すぐに行くぞ」
2人で慌てて支度をして家を出た。タクシーを拾って病院へ向かう。
後藤は必死に涙を流さないようにしていた。それを見てそっと後藤の手を握った。
「・・・市井ちゃん・・・あたし、嫌だよ。よっすぃーがいなくなったら・・・」
「・・・あぁ。私も嫌だよ。きっとみんな同じ気持ちだ・・・」
神様なんて信じていないけど。
私は願った。夜空に向かって。
どうか・・・・吉澤を助けて下さい。
自分の大切な人の親友を助けて下さい。
- 209 名前:作者。 投稿日:2004/06/14(月) 20:44
-
>204 紺ちゃんファン様。
紺野さんの元カレの話は前のスレッドで解決してるので
そちらをご覧下さい。713くらいからだと思います。
紺野さん視点はもうしばらくお待ち下さいね(^−^
>205 ミッチー様。
知恵熱ですかね(^−^ 私も中学3年の頃は勉強を
頑張り過ぎると熱を出して周囲に迷惑をかけていました(ぇ
私の学校の学際がやっと終わり更新です。
いやー、学際楽しくてあっという間でした。
あぁー・・・もうこれも最後かと思うと寂しいもんですね。
今回、吉澤さんが大変な事になりました。しかしこれは始まりに過ぎません。
いしよしがこれからどうなっていくのか・・・・それはまた次回に。
- 210 名前:タケ 投稿日:2004/06/15(火) 05:54
- 更新お疲れ様です
あわわ・・・吉澤さんが・・・これからどうなっちゃんでしょう?
- 211 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/15(火) 20:57
- 209>作者。 さま。
おっ!そうでしたか!解決されてましたか!!
きちんと見たはずなんですが・・・見直してみます。
紺ちゃん視点、待ってますよーーーー!!!
- 212 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/15(火) 23:47
- >紺ちゃんファン
紺野が好きなのはわかった。けど軽く作者を悩ませることは言うな。 スレ汚しスマソ。いつも楽しく読んでます。
- 213 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/16(水) 20:32
- 212>名無飼育さん
・・・わかりました。気をつけます。作者さま、すいません。
- 214 名前:ミッチー 投稿日:2004/06/16(水) 23:47
- 更新お疲れ様デス。。。
新たな事件勃発ですネ・・・。
う〜ん・・・どうなるんでしょうか?
頑張って下さい。
- 215 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/17(木) 19:41
-
<矢口 視点>
慌てて病院に駆けつけた時、痛々しい梨華ちゃんの姿があった。
声を上げてまるで悲鳴のように泣き、近くに来る人を拒んで暴れていた。
「梨華ちゃん・・・・」
よっすぃーは手術室に運ばれまだ手術は終わっていない。
・・・・何で、こんな事に・・・・。
オイラは梨華ちゃんに近づいた。抱き締めようとしたら暴れて拒んだ。
「・・・・梨華ちゃん!オイラだよ!!」
乱暴にオイラは梨華ちゃんの肩を掴んだ。殴られてもオイラは無理にでも
抱き締めようとした。
「矢口だよ!!わかるでしょ!?」
大声でそう言うと梨華ちゃんはビクッとして涙目でオイラを見た。
「・・・矢口・・・さん・・・?」
「そうだよ。矢口だよ」
「矢口さん・・・・私、私・・・・どうしよう・・・私のせいで・・・」
「何も言うな・・・大丈夫、だから」
気付いたらオイラも泣いていて。
梨華ちゃんと一緒になって泣き喚いていた。
少し経って紗耶香とごっちん、なっちがやってきて。
オイラ達を見てみんな涙ぐんでいた。
よっすぃーがいなくなっちゃうなんて嫌だ。
ヘタレでたまにドジるけど、人に優しくて、暖かくて。
笑顔が眩しくて。
大切な人を本気で想い、守り抜く。
そんな素敵な人がいなくなっちゃうなんて。
オイラは・・・嫌だよ。
よっすぃー・・・絶対生きろよ。
死んだら、オイラは絶対許さないからね。
元部長が本気で怒ると怖いんだって知ってるでしょ?
- 216 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/17(木) 20:02
-
<後藤 視点>
病院に駆けつけたら矢口先輩と梨華ちゃんが抱き合って泣いていた。
それを見てたらあたしも泣きたくなった。
「・・・後藤、なっち。2人の事頼む。私、吉澤ん家に連絡するから」
市井ちゃんも涙ぐんでいたけどすぐに後ろ姿を向けたからよく
わかんなかった。だけど少し、肩が震えているのが見えた気がした。
「ごっちん。梨華ちゃん頼むね」
「うん」
安倍さんが矢口先輩、あたしは梨華ちゃん。
「・・・ごっちん・・・」
「よしこは大丈夫だよ。体力だけが自慢じゃん」
自分が言ってる事が正しいのかわかんない。ただの気休めだって思う。
でもこうでも言わなきゃ梨華ちゃんもあたしも崩れてしまう。
あたしは昔の話をした。
梨華ちゃんの手を握って。
「あたしとよしこが中学1年の時かな。学校の校庭にね
大きな桜の木があって、綺麗でさー・・・何だか無償に
登りたくなって、2人でよじ登ったの」
梨華ちゃんは黙ってあたしの話を聞いていた。
「したらさー、あたしは上手く登れたんだけど、よしこは
足を滑らして落ちちゃったんだ。結構高いとこから。
でもね、よしこ、すごいんだよ。普通ならひどい骨折が
あってもおかしくないのに、足首の捻挫とアザだけ済んだんだよ」
すごいんだよ、よしこは。
「あたし、よしこが心配で泣いちゃっててさ。木に登ろうって
誘ったのあたしだったし。どうしよう、あたしのせいだって
ずっーと泣いてて。でもね、よしこ、痛いはずなのににこって
笑って」
あの光景は今でも忘れない。
「・・・『桜、綺麗だったね』って言ったんだよ・・・。
あたしが自分を責めてるのに気付いて、そう言ったんだと思う。
痛いの我慢して無理に笑って・・・」
あたしが言いたいのは。
「きっと大丈夫。あんなに優しいよしこが梨華ちゃん置いていく
ワケない」
絶対、よしこはまたあの笑顔を見せてくれるはずだから。
「・・・・ありがと、ごっちん」
涙を流して梨華ちゃんは少し、笑った。
- 217 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/17(木) 20:12
-
<小川 視点>
「だぁ!また信号ひっかかった〜!」
緊急事態が発生しすぐに愛用の自転車に飛び乗ってあさ美ちゃんを
迎えに行き、後ろにあさ美ちゃんを乗っけて病院に急いでいた。
吉澤先輩・・・・!!
吉澤先輩が車にはねられたって聞いた時、頭の中が真っ白になった。
そして気付いたら家を飛び出していた。
「まこっちゃん!信号変わった!」
「よっしゃ!」
自転車のペダルに力を入れる。
自分は医者じゃないから行ったって何も出来ないけれど。
だけどじっとしてなんかいられない。
先輩がいなくなったらきっと困る人は大勢いる。
私もそのうちの1人だ。
そしてあさ美ちゃんも。
「まこっちゃん!そこ右だよ!右!」
「え!?うわぁ!」
「あ〜!もう!私が運転する!」
- 218 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/17(木) 20:21
-
<柴田 視点>
こんな緊急事態にのん気にカキ氷食ってる場合じゃないッ!
携帯を握り締めて私は立ち上がった。
「あゆ?どうしたんだよ・・・。あ、やっぱイチゴ味が良かった?
でもあゆがさっきメロンがいいって言うからさー。まぁどうしても
って言うなら交換してあげてもいいけど・・・」
「違っーう!緊急事態よ!すぐに出かける準備!」
市井さんからのメールをマサオに見せる。
<吉澤が事故で病院に運ばれた。結構ヤバイ状況。近くの
中央病院にいる。 市井>
「えぇ!?」
「驚いてないで!自転車漕ぎなさいよ!」
これを見て最初に心配したのは梨華ちゃんの事だった。
何があったかわからないけれどきっとあの子は泣いてるはず。
「マサオ!もっとスピード上げて!」
「わかってるって!頭叩くな!」
私達は夜道を自転車でものすごい速さで通って行った。
やけに月が輝いて見えて。
それが何だか、不気味に感じた。
- 219 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/17(木) 20:28
-
<吉澤 視点>
うぅ・・・・頭が痛い・・・・・全身も痛いなぁ・・・。
あれ・・・?うち、どうなったんだっけ・・・?
えぇと、確か梨華ちゃんが車にぶつかりそうになって・・・とっさに
腕を引っ張って・・・・。
ん?そこから記憶がないや・・・。
まぁ多分、はねられたかな・・・・何かあちこち痛いし。
梨華ちゃん大丈夫かな・・?
っていうかここ何処よ?暗いし・・・視界がぼやけてるような・・・。
・・・何か、どんどん頭が痛くなってく・・・・。
ぼーっとしてきて・・・・何も思い出せなくなる・・・。
梨華ちゃん・・・・梨、華ちゃん・・・・?
あれ・・・・?
思い出せなくなる・・・・。
どうしちゃったんだろう・・・・?
全ての記憶が曖昧になっていく。
消えて、なくなっていく・・・・。
『梨・・・・華・・・・ちゃん・・・・』
- 220 名前:作者。 投稿日:2004/06/17(木) 20:37
- 微妙なとこで今回は更新終了です(^−^;
>210 タケ様。
どうなっていくのか・・。今回の吉澤さんの言葉がヒントです。
いしよしに最大の危機が・・・・!?
>211、213 紺ちゃんファン様。
見落としてたのかもしれませんね。お気になさらずに(^−^
紺野さん視点はもう少し待って下さいね。
>212 名無飼育さん様。
いつも読んで下さってありがとうございます!
これからも頑張ります(^−^
>214 ミッチー様。
今回は結構危機ですよね・・・吉澤さんがこれからどうなっていくのか。
彼女の言葉がヒントです。
さて、吉澤さんはどうなるのか。もうわかった方もいると思いますが
(っていうかバレバレ・・・?)。吉澤さんの言葉が次回予告です。
- 221 名前:ミッチー 投稿日:2004/06/21(月) 13:45
- 更新お疲れ様デス。。。
吉澤さん、しっかりして!
吉澤さんの言葉から予測するともしかして・・・。
あぁ、そんなの嫌だ〜!
石川さん、頑張ってネ!
- 222 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/25(金) 20:51
- ずきん、と頭に痛みが走った。
「うっ・・・・」
ゆっくりと目を開く。照明の光がやけに眩しく感じた。
「よっすぃー!?」
「目が覚めた!?」
「早く、医者呼べ!」
「吉澤先輩!!」
次々と覗き込まれる。
耳元で、そんな大声を出されてまた頭に痛みが走る。
ゆっくりと体を起こそうとしたが上手くいかない。
「まだ、起きちゃ駄目だよ」
「そうだよ。よっすぃーは怪我してるんだから」
何か、おかしい。
・・・・・誰?
コノヒトタチハダレ?
「・・・・あ、あの・・・・」
うちは焦って口を開いた。
「ん?どうした?」
そして、うちが次の言葉を口にした途端、この場が冷えて固まった。
「・・・・どなたですか?」
- 223 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/06/25(金) 21:03
- 「・・・・な、何言ってんの・・・?」
「・・・いえ・・・すいません」
小さな背の金髪の人がうちの胸倉を掴んだ。
「オイラだよ!矢口真里!陸上部の部長してたでしょ!?」
がくがくと肩が揺れる。
「ちょ、矢口・・・落ち着いて」
「だって・・・なっち・・・」
うちのベットを囲んでみんな驚きの顔をしていた。
あ・・・ココ、病院かぁ・・・。
ここでやっとうちは今、病院にいる事がわかった。
ガラガラと扉が開いて誰かが入ってくる。
・・・・あ、ごっちんじゃん。
中学からの親友、ごっちん。その隣にいる女の子は誰だろう?
「ごっちん。うちさ、どうなっちゃってたの?」
「な、ごっちんの事はわかるの!?」
また矢口さん・・・だっけ?が叫ぶ。
「・・・ごっちんとは中学からの友達ですけど・・・」
「じゃ、じゃぁ、ごっちんの隣にいる子はわかる?」
ごっちんの隣にいる女の子・・・。
「・・・ひとみちゃん?」
「・・・すいません・・・わかりません・・・」
うちがそう言うとその子は急に泣き出してしまった。
・・・ど、どうしよう・・・。
何故だがその子が泣くと自分も無償に悲しくなってきた。
泣かないで。
君が泣くと自分も悲しくなるんだ。
何だか、とても。
- 224 名前:作者。 投稿日:2004/06/25(金) 21:09
-
>221 ミッチー様。
(T▽T)<うん・・・頑張るね・・・。
(0´〜`)<・・・・。
どうなるいしよし!それが今回のテーマです(ぇ
吉澤さんの記憶喪失が発覚しました!だけどごっちんの事だけは
覚えていた!・・・・言っちゃえば、吉澤さんはここ1年ぐらいの
記憶がスポーンと抜けてるわけです。つまり石川さんや矢口さんなどは
1年前ぐらいに出会ったわけなので覚えてないのです・・・。
- 225 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/25(金) 22:58
- 更新キタ−(・∀・)−
乙です。
- 226 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/26(土) 00:10
- よっすぃ〜!!・・・そうゆうことでしたか・・・
石川さん・・・矢口さん・・・辛いですね・・・
しつこくてすいません・・・紺野さん視点待ってます。
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 00:39
- >>226
ほんとにしつこい
マジで紺野嫌いになりそう
- 228 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/26(土) 22:00
- 227>
すいませんでした。でも、これで紺ちゃんを嫌いにならないでください。
- 229 名前:タケ 投稿日:2004/06/27(日) 13:47
- 記憶喪失・・・前置きのとおりですね(泣
しかもちょうど1年分忘れてるってのが痛いです(石川さん達が)
早く戻って欲しいです・・・
- 230 名前:ミッチー 投稿日:2004/06/29(火) 23:15
- 更新お疲れ様デス。。。
吉澤さん、やっぱりそうでしたか…。
しかも、後藤さんだけ覚えているだなんて…。
これから色々とガンバッテ欲しいですネ。
- 231 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/09(金) 21:57
-
<石川 視点>
確かに、目の前にいるのはひとみちゃん。
だけどひとみちゃんじゃない。
ねぇ、忘れちゃったの?
私の事。
その場に居たたまれなくなって私は病室を飛び出した。みんなが私を呼ぶ声が
聞こえたけど立ち止まらなかった。
その声たちの中にあの人の声は無かった。
それが悲しくてまた涙が出てきた。
泣きながら肩を震わせて走る。まわりから見れば何事だと思うだろう。
だけどまわりの事なんか気にしてられるほど今の私には余裕が無かった。
そして、気が付いたら病院を出て中庭に来ていた。まだ涙は止まらない。
「嘘・・・・でしょ・・・?」
ベンチの前にしゃがみ込んでうずくまる。
『・・・すいません・・・わかりません・・・』
ずっとその言葉が頭の中で繰り返される。
ひとみちゃんの記憶の中に私がいない。
それだけはあの場ですぐに理解出来たけど、受け入れられない。
「嫌だよ・・・・嫌だよぉ・・・」
うずくまって泣いてると後ろから肩をポンポンと軽く叩かれた。
「梨華ちゃん・・・」
矢口さんの声が聞こえた。
「矢口さん・・・ひとみちゃんは・・・本当に忘れちゃったんですか・・?」
矢口さんの方を見えないで私は言った。返事は無かった。
「・・・私、そんなの嫌です・・・耐えられない・・・!!」
「・・・オイラだって、そうだよ・・・嫌だよ・・・」
辛いのは、私だけじゃなかった。
矢口さんも、他のみんなも辛いんだ。
- 232 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/09(金) 22:13
- 「梨華ちゃん、座ろ?ベンチはね座る為にあるんだよ」
矢口さんはそう言ってベンチに座った。私も立ち上がって目の前にある
ベンチに座る。すると横からハンカチを差し出されて私はそれを受け取った。
「・・・すいません」
「何で謝るの。いいんだよ。泣きたい時は泣いた方がいいんだよ」
矢口さんの言葉が暖かくて優しくて、また涙が出そうになる。
「まだ詳しい事はわからないけどさ、よっすぃーは・・・・オイラ達を
忘れてるって事だけは確かなんだ。ま、何故かごっちんの事は覚えてる
んだけど・・・多分、1年前からの記憶がないんだろうね・・・」
「・・・・」
「・・・梨華ちゃん、だけどね、よっすぃーはよっすぃーなんだよ。
他の誰でもない、吉澤ひとみなんだよ。ただ、忘れてるだけなんだ」
矢口さんの声は大きくも小さくもなくしっかりした声だった。
「・・・だから、今の現状から逃げちゃ駄目だよ。1番今、辛いのも
不安なのもよっすぃーだから。梨華ちゃんが傍にいなきゃ、ね?」
私は矢口さんのハンカチをぎゅっと握った。
「・・・でも私、怖いんです・・・・。私を忘れたひとみちゃんの
傍にいるのが・・・」
涙声で私は言った。
「でも、梨華ちゃんは1人じゃない。そしてよっすぃーも1人じゃない」
矢口さんが立ち上がる。
「オイラ達がいる。なっちもごっちんも紗耶香も柴ちゃんも大谷さんも
・・・・・みんないるじゃん。だから・・・・頑張ろ?」
・・・・みんないる・・・・1人じゃない・・・・。
私の前に差し出された小さな先輩の手。
だけど、どんな手よりもその手は頼もしくて大きい手だった。
私は迷う事無くその手を握った。
「よっすぃーの記憶を取り戻そ?きっと思い出してくれるはずだよ。
何て言ったって我らがよっすぃーなんだよ?」
「・・・・はい!」
涙は、いつのまにか止まっていた。
- 233 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/09(金) 22:31
-
<市井 視点>
石川が病室を飛び出して矢口が追いかけて行った。
・・・・最悪な事態だな・・・・。
吉澤が事故のせいで記憶喪失になるとは誰もが予想していなかった出来事だ。
「・・・よしこ。本当に忘れちゃったの?ほら、市井ちゃん。覚えてるでしょ?」
「・・・ごめん。わかんない・・・」
どうやら私の事も忘れてるようだ。
「ごっちん・・・あの娘さ・・・どうしちゃったの・・?」
「梨華ちゃんの事・・?」
「・・・うちのせいかな・・・そうなんだよね・・・」
誰も言葉が出なかった。いや出せなかった。
しばらくして吉澤の両親がやってきた。それから担当の医師が来て詳しく今の
状態を話してくれた。代表で私が病室に残り、他のみんなは出て行った。
「───おそらく事故のショックで記憶が無くなったという可能性が高いですね・・」
「あ、あの、それは戻るんでしょうか・・・?」
「・・・とりあえずカウセリングを受けてからですね」
吉澤は暗い顔をしていた。
記憶喪失。
この1年間の記憶が無くなった。
どんなに不安な事だろうか。
吉澤は右足が骨折しているので、それを治してリハビリも受けなくてはならなかった。
その骨折もあまりいい状態ではないらしい。
医師の説明が終わり、医師は出て行った。それを見て私も病室を出た。
みんなが病室の前で心配そうに私を見た。さっき医師が言った説明を要約して話す。
「・・・・何か、まだ受け入れられないよ・・・・」
後藤が辛そうに言う。
「・・・そう、だな。みんな同じだよ・・・」
今自分達に出来る事は、変わらずにいる事だと思った。
あいつはまぎれもなく吉澤なんだから。
- 234 名前:作者。 投稿日:2004/07/09(金) 22:46
- やっと期末試験が終わり更新です(^−^;
>225 名無し飼育さん様。
いつも読んで下さってありがとうございます!
随分更新が出来なくて申し訳ないです(T−T
頑張ります!
>226 紺ちゃんファン様。
そういうことだったんです(^−^;
1番辛いのは・・・やっぱ吉澤さんと石川さんでしょうね・・。
紺野さん視点はやっぱりいしよしがメインになってしまうので
いつ出来るかわかりませんが、出来たら書きたいと思いますので。
>229 タケ様。
痛いですよね・・・書いてて痛いです(T−T
(〜´◇`)<みんながいるから大丈夫だよ。
>230 ミッチー様。
1年前からの記憶が無いという事で後藤さんだけ覚えてるのは
良かったのでしょうか・・・書いててそこはどうしようか悩みました。
(〜´◇`)<頑張ろ?
( T▽T)<・・・はい!
いつも更新できなくて待っている方、本当にすいません。
時間がなかなか出来なくて・・・だけどたくさん更新出来るように頑張ります!
- 235 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/10(土) 20:45
-
<吉澤 視点>
自分はどうやら、記憶喪失というものになってしまったらしい。
確かにここ1年間の記憶が無いと思う。
さっき病室に来てくれた人達もごっちん以外は全然わからなかった。
お父さんとお母さんはうちの入院に手続きや準備の為、今は病室にいない。
「・・・・大丈夫かな」
やっぱり気になるのは泣きながら病室を出て行ったあの娘のこと。
きっとここ1年間で知り合った人なんだろう。
もう帰っちゃったかな?
うちはベットの脇に車椅子に乗ろうとしたが足が上手く動かない上に重くて
そのまま床に倒れた。
「・・・ちくしょー・・・・痛ぇー」
何とか起き上がったものの動けない。
そっか・・・まだ安静にしてなきゃいけないんだっけ。
さっき医者に言われた事を思い出す。ぽんっと床に座ったままベットに背中を
預けて目を閉じた。その時、ガラッと扉が開く音がした。
- 236 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/10(土) 20:58
- 「きゃ・・・!!?だ、大丈夫!?」
びっくりしてうちは再び目を開けた。するとさっき泣いていたあの娘が
ドアップにうちの目に写った。
「うわ!?」
「どうしたの!?」
また泣き出しそうな勢いでその娘は言った。
「え・・・いや・・・車椅子に乗ろうとした落ちちゃって・・・はは・・・」
「駄目だよ!まだ安静にしてなきゃ・・・ほら、私に掴まって?」
「あ、ありがとう・・・」
何とかまたベットに戻れて一息ついた。その娘は傍にあった椅子に座った。
何て話せばいいかわからず沈黙が続いた。
「・・・あの、失礼なんですが・・・お、お名前は・・?」
「え・・・あ・・・石川梨華です」
梨華ちゃんかぁ・・・可愛い名前だな・・・。
「石川さんですか・・・」
また沈黙が流れる。何だかすごく緊張するのは何故だろう?
「・・・ごめんね・・・」
石川さんが突然そう言った。
「え・・?」
「私のせいで、ひとみちゃん・・・事故に遭って・・・」
うちの事をひとみちゃんって呼ばれるのに少し違和感を感じた。
だけどその反対に懐かしさも感じられた。
「・・・石川さん」
「・・・ごめんね・・・ごめんね・・・」
何度も「ごめんね」を繰り返す石川さん。途中から涙声で。
「・・・あの、泣かないで・・・。きっと自分の意志だったと思うし。
石川さんのせいじゃない・・・」
気付いたら石川さんの手を握っていた。
自分でも驚くほどの行動。何が自分をそうさせているのか。
うちはこの1年間、何を見て、何を感じてきたのか。
それを忘れてしまっている自分がすごく悔しい。
・・・・絶対、思い出したい。
───絶対に。
- 237 名前:ミッチー 投稿日:2004/07/12(月) 15:59
- 更新&期末テストお疲れ様デス。。。
矢口さんの、「何て言ったって我らがよっすぃーなんだよ?」
ってところで、大きくうなずいてしまいました。(W
吉澤さん、頑張って思い出してネ。
石川さんがカワイソウだから・・・。
- 238 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/15(木) 19:37
-
<後藤 視点>
よしこが事故に遭い、記憶喪失になって、入院して。
もう、夏休みに入ってしまった。
「後藤〜。じゃ、行ってくるから」
「うん。今日は遅くなる?」
「うーん・・・どうかなぁ。仕事が詰まってるから、夕飯は無理かな」
「わかった。仕事頑張ってね、市井ちゃん」
朝、仕事に出かけていく市井ちゃんを見送る。夏休みに入って1日目。
終業式によしこはやっぱり出られなかった。あたしはよしこの成績表やプリント
を鞄に入れた。昨日担任から頼まれたのだ。
「まだ、面会時間じゃないね」
時計を見るとまだ2時間も時間があった。
・・・・梨華ちゃん誘おうかな。
そっと携帯に手を伸ばして途中で止めた。梨華ちゃんは前よりだいぶ元気に
なったけれどショックの傷は癒えてない気がする。
だから、友達としてどうしていいかわからなくなってきていた。
自分が病院に、よしこに会いにいくのに誘っていいものか。
またショックを受けないだろうか。傷が広がっていくんじゃないだろうか。
そんな事ばかりが頭の中でぐるぐる回る。
「・・・・よしこ、早く思い出してよ・・・・」
梨華ちゃんが悲しがってるんだよ?寂しがってるんだよ?
梨華ちゃんを笑わせられるのは、他の誰でもない、よしこだけなんだよ。
あたしはソファに座って膝を抱えた。
窓から見える空は何処までも青く広がっていた。
- 239 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/15(木) 19:49
- 時間が経過し、そろそろ出かけようと立ち上がった。さっきの鞄と自転車の
鍵、携帯に財布を持ち家を出た。家に鍵をかけてマンション下に降りる。
夏とあって日差しは暑く日焼けをしそうな感じだった。すぐに自転車置き場
に向かい自分の自転車を見つけた。
「・・・暑っ・・・」
いい感じに暑くなってる自転車に乗ってこいだ。生温い風が当たる。
・・・これからどうなっていくんだろう。
途端に不安がよぎる。よくわかんないけど、何か不安になった。
去年の夏は楽しかった。市井ちゃんがいて、よしこがいて、梨華ちゃんがいて、
先輩達がいて、みんながいて楽しかった。
あの頃が懐かしい。旅行に行ったりして、色々あったけどそれは今は良き
思い出として残っている。
仲間の1人の存在は大きいなと痛感した。
だけど、あたしが不安になってちゃいけない。
「もう、暑い〜!!」
不安を追い払うかのようにあたしは自転車をこいだ。
目指す先はよしこ。目的は荷物届けと、ジュースを奢って貰う事。
あ、アイスもいいなぁ・・・・。
- 240 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/15(木) 20:01
-
<矢口 視点>
大学も高校と同じく夏休みに入った。
「・・・暑ぃ・・・」
「暑いって思うから暑いんだよ」
「暑いもんは仕方ないじゃん!暑い〜!!」
「誰でも暑いの!もう、騒ぐと余計疲れるよ」
「だってぇ・・・暑い暑い暑い〜!!」
「矢口!人の話聞いてる!?もうまた暑いって言ったら罰金だかんね!」
「うっ・・・・なっちのバカ〜!」
「何でそうなるのさ!?」
「知らないよ!」
暑いアスファルトの上で騒ぐオイラ達。
「・・・やめよ。こんな喧嘩意味ないよ・・・」
「そうだね・・・」
ミーンミーンとセミの声が聞こえる。
たらりと流れる汗。
焼けるような日差し。
もう、夏なんだなぁ・・・・・。
「・・・圭織、いつ帰ってくるんだっけ・・?」
「あぁ・・・確か来週じゃなかった?」
圭織にはまだ話していない。よっすぃーの事を。
こうゆう事は手紙や電話じゃなくてちゃんと顔を見て話すべきだと
オイラは思った。
「矢口、アイスでも食べよっか?」
なっちが目の前にあるコンビニを指差して言った。
「うん!」
「ずっと暑いって騒がれたら病院に行って迷惑かかるし」
「な!何〜!?あ、なっち今暑いって言ったー!罰金ね♪アイスでいいよ♪」
「い、今のは無しだよ〜!ちょ、矢口!」
ダッシュをしてオイラは涼しいコンビニの中に入って行った。
- 241 名前:作者。 投稿日:2004/07/15(木) 20:08
-
>237 ミッチー様。
(〜^◇^)<我らがよっすぃー♪
(0^〜^)<・・・?
何って言ったって我らがよっすぃー!不可能な事はあせません(w
きっと吉澤さんは思い出してくれる・・・ハズ!!
ついに夏休みに突入です。もうすぐ(°皿 ゜)さんの再登場が近いです。
さて(0^〜^)はどうなるのか・・・。
- 242 名前:ミッチー 投稿日:2004/07/16(金) 14:31
- 更新お疲れ様デス。。。
飯田さん、懐かしいですねぇ〜。
登場楽しみにしてマス!
- 243 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/17(土) 06:28
- はじめまして。今日一気に全部読ませていただきました。
かなり面白いです。そして飯田さん再登場楽しみです。
がんばってください!更新お疲れさまでした。
- 244 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/22(木) 22:43
-
<吉澤 視点>
今日もまた1日が始まった。目をゆっくり開けるとそこは昨日と同じ病室の
天井が見えた。体を起こして時計を見ると午前7時を過ぎていた。
「・・・ふぁ・・・」
伸びをしてベットから降りる。窓のカーテンを開けると光が眩しくて目を細めた。
今日も暑くなりそうだなぁ・・・・。
欠伸をしながら病室を出て行く。向かう先はトイレだ。
考えても考えても、記憶は元に戻らない。
頭の中が真っ白で。
見舞いに来てくれる友達もよくわからない。
わからない事だらけだ。
トイレを済ませ手を洗う。ふと顔を上げると自分の顔が鏡にうつる。
・・・・うちは何を見てきたんだ・・・?
ジャーっと蛇口から水が出る音だけが響いて、しばらくそのまま立っていた。
「・・・もし、思い出せなかったら、どうなっちゃうんだろう・・」
不安はまだ、消えない。
蛇口を閉めてうちはトイレから出て行った。それから病室には戻らずに屋上へ行った。
やっぱり今日も暑くなりそうだった。
- 245 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/07/22(木) 23:03
-
<飯田 視点>
久々に降り立つ故郷。何も変わらず、ここが私が過ごしてきた高校時代の場所。
「圭織!!」
駅を出ると相変わらずちっちゃい背の少女が大きく手を振って近づいてきた。
「矢口!」
矢口は勢いをつきて飛びついてきた。私はしっかり抱きとめる。
「久しぶり!元気してたぁ?」
「うん!めっちゃ元気だったよ!圭織は?」
「元気だよ!」
久々の再開に感動しつつ、矢口を地面に降ろした。
「みんなは元気?もう夏休みなんだよね。よっすぃー達は部活で張り切って
んじゃない?あ、矢口がもう引退してるのにしごいてんじゃないのー?」
圭織の口からよっすぃーという言葉が出てきてオイラは固まった。
「・・・どうしたの?」
「・・・圭織、話さなきゃいけない事があるんだ」
「え?な、何?」
「ここじゃあれだからどっか涼しいとこに行こう」
矢口の目は真剣だった。
一体何があったんだろう?
私は小さな矢口の背中を追いかけた。
・・・また1人で何か背負い込んでんじゃないのかな。
- 246 名前:作者。 投稿日:2004/07/22(木) 23:24
-
>242 ミッチー様。
(°皿 ゜)<ヒサシブリ♪オボエテルー?
(〜^◇^)<更新中かよ!!
はい、久々に登場の飯田さん。飯田さん矢口さんの最強コンビが
帰って来ました!
>243 名無し読者様。
初めまして!読んで下さってありがとうございます!
面白いですか〜!嬉しいです!(^−^
受験生の為、更新が遅いですが今後ともこの物語を
見届けて下さい。頑張ります!!
小・中学は夏休みのようで・・・・楽しそうでいいなぁと思う今日この頃。
今年の作者には夏休みが無いですね(T▽T)。夏期講習や模試のせいで。
この物語もこの夏で書き上げたいと思います。あくまでも予定ですよ(ぇ
毎日暑いです。みなさん、体調にはくれぐれも気を付けて・・・作者はもう
夏バテ気味になってます・・・・。
- 247 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/28(水) 01:12
- 今年はかなり暑いですからお気をつけください
お勉強もがんばってくださいね。作者さんのペースでいいので!
飯田さん登場!楽しくなってきやがった!!がんばってください。
更新お疲れ様でした。
- 248 名前:ミッチー 投稿日:2004/07/29(木) 02:22
- 更新お疲れさまデス。。。
飯田さん、久しぶりですネ!
もうすぐ矢口さんからあのことを聞くんですよね…。
どうなるんでしょうか?
作者。さん、暑い夏に負けないで頑張って下さい。。。
- 249 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/04(水) 19:38
-
<矢口 視点>
適当に喫茶店を見つけて中に入った。中は冷房が効いていて涼しい。
外が暑いせいか喫茶店の中は結構人がいてテーブル席はうまっていた為、
カウンターの席にオイラ達は座った。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「オイラはー・・アイスティーで」
「私はアイスコーヒー」
「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」
どう切り出そうかとしばらくオイラは黙って考えていた。圭織はカバンから
タオルを出して汗を拭いていた。
「・・・圭織、あのね、よっすぃーがっ」
「お待たせしました」
せっかく話そうとしたら注文していた物が来た。オイラの前にアイスティーは
置かれる。カランと氷が音を立ててそれはおいしそうに見えた。圭織は
アイスコーヒーにストローをさしてミルクを入れてかき混ぜた。
「・・・矢口、焦ってしゃべらなくていいから。ほら、飲んで」
「う、うん・・・ごめん」
オイラはアイスティーを一口飲んだ。乾いていた喉が潤う。
「・・・・よっすぃーがどうした?」
圭織が穏やかに言う。
「・・・よっすぃーが事故に遭った・・・」
「え・・・!?」
思いもしなかったんだと思う。圭織は驚いた顔してオイラを見た。
「・・・命に別状はなかったんだ・・・でも・・・」
「でも?」
「・・・・記憶喪失になっちゃったんだ・・・」
「記憶喪失・・・?」
「ほぼ、1年前からの記憶が無くなっちゃったんだ・・・だから、
梨華ちゃんの事も、オイラの事も、圭織の事も、みんな・・・忘れちゃって
るんだ・・・」
オイラは俯いて黙った。圭織も何も言わず黙っていた。
信じたくないけど。
これが現実。
「・・・・よっすぃーに会いたい」
圭織は突然そう言った。
「矢口が言うんだから本当だと思うけど、自分の目で確かめたい」
「・・・そうだね。行こっか」
まだアイスティーもアイスコーヒーも半分以上残ってたけどオイラ達はここを後にした。
- 250 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/04(水) 19:50
-
<後藤 視点>
「失礼しまーす・・・」
目の前にある病室に扉を開ける。よしこはベットの上で寝ていた。
「・・・寝てる・・・気持ちよさそう・・・」
あたしはこんな暑い中やってきたのに、と思うと何だかムカムカしてきたので
ぎゅっとよしこの鼻をつまんでやった。
「んが!・・・?」
「おはよー」
「・・・ごっちん・・・普通に起こしてよ・・・」
「何か優雅に寝てるからさぁー」
近くあったパイプ椅子をよしこのベットの傍に置いて座った。
「んぁ、成績表とかプリント」
カバンから成績表やプリントを出してよしこに渡した。
「・・・見た?成績表」
「見た。あたしと似たりよったり」
よしこはゆっくり中を見ていたといより覗いていた。
「プリントに課題の事とか書いてあるから」
「うん。ありがとう」
「ずっと寝てた?」
「朝起きて、ご飯食べてから寝てた」
・・・何といい生活。羨ましい。
「・・・太るよ、それ」
「・・あはは、だよね」
こう話してると記憶喪失だなんて嘘みたい。
「足の方はどう?」
「ん、だいぶいいみたい。もうすぐリハビリが始まるよ」
「早く治して部活復帰してよね」
「ん?あぁ・・・でもうちが部長なんてなぁ・・・」
よしこはそう言って苦笑いをした。
「よしこ以外に部長なんていないよ。ま、2年はあたしとよしこだけだけど」
「ごっちんが部長ってのもありえねー」
「ひっどー!」
ほら、普通じゃん。
ホントは嘘なんじゃないの?冗談なんでしょ?
・・・なんて事、思うだけで言えるわけがなかった。
- 251 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/04(水) 20:02
- 「・・・ごっちん」
「ん?」
「・・・うちは・・・やっぱいいや、ごめん」
「何だよー。言ってよ」
「・・・うちはこの1年間、どんな人間だった?って聞こうとしたんだけど
やっぱ自分で思い出したほうがいいのかなって・・・」
そういえばこの1年間の事を誰もよしこに話していない。市井ちゃんが
無理に話して混乱を招くかもしれないって言ってたからあたしは言わないように
していた。他のみんなもそう思って言ってないのかもしれない。
「・・・優しい人だったよ・・・よしこは相変わらず」
「・・・そっか」
「うん。いつも人の事を考えて、一生懸命になれる。よしこは昔と変わってないよ」
そう言うとよしこは照れくさそうに笑った。
「そっか・・・」
「うん」
「・・・石川さんはどんな人?」
あたしはピタッと止まってしまった。
梨華ちゃん・・・。
2人の関係は話した方がいいのだろうか?
「・・・可愛い子だよ。優しいとこもあるんだ」
今のあたしに判断は出来なかった。
「だよね!うちもそう思った!」
よしこ・・・・梨華ちゃんはよしこが愛してる人なんだよ・・?
・・・・早く、思い出して。
- 252 名前:作者。 投稿日:2004/08/04(水) 20:07
-
>247 名無し読者様。
飯田さん久々の登場です!早く安倍さんを出したい・・・(w
はい、自分のペースで頑張って書きますね!
>248 ミッチー様。
久々な飯田さんでした!(〜^◇^)との最強コンビ復活です。
これから吉澤さんに会いにいくわけなのですが・・・・。
それは次回に!暑い夏に負けないよう頑張ります!
- 253 名前:ミッチー 投稿日:2004/08/05(木) 13:22
- 更新お疲れ様デス。。。
やっぱ、切ないですネ・・・。
早く思い出して・・・。と、願うばかりです。
飯田さんが、吉澤さんに会いに行く次回が楽しみデス。
- 254 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/10(火) 22:45
-
<吉澤 視点>
ごっちんがやって来てプリントや成績表を渡してくれた。
それから話をした。だけどごっちんはうちが石川さんの名前を出した時、悲しそうな
辛そうな表情をした。うちは何でそんな顔をするかわからなかった。
「・・・よしこ、何か思い出した事はあった?」
「・・残念ながら、何も思い出せないんだ」
ごっちんは変わらず辛そうな顔。今にも泣き出しそうだ。
・・・何で?
「ホントに?ねぇ、思い出してよ・・・!」
ごっちんはうちの肩を掴んで揺さぶった。うちはどうしていいかわからなかった。
「・・・ごめん・・・」
ただ、謝るしか出来なかった。
「・・・この1年間、あたし、楽しかったんだよぉ・・・辛い事もたくさん
あったよ・・・だけど、みんながいたから・・・よしこがいたから・・・・。
だから、忘れて欲しくないの!この1年間の思い出、忘れて欲しくない・・・」
ごっちんの泣き声が病室に響き渡った。うちは優しくごっちんを抱き締めた。
親友を泣かせてる原因はうちだ。
どうにも出来ない自分を悔しく、情けなく思った。
「ごっちん・・・・ごめんね・・・」
「よしこのバカぁ・・・・」
「うん・・・ごめんね」
気付いたら自分も泣いてて。
最近泣いてばっかだなぁと思った。
数分後、落ち着きを取り戻したごっちんはうちに「ごめん」と謝った。
「いいよ・・・うちがこんなだから・・・」
「でも、よしこが悪いんじゃないし・・・」
コンコンとノックの音が聞こえた。
「はい。どうぞ」
「お邪魔しまーす」
そこにはうちの先輩の矢口先輩がいた。後ろには背の高い女の人がいた。
- 255 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/10(火) 23:03
- 「んぁ・・・矢口先輩」
「ど、どうした?2人共、泣いて!」
矢口先輩は慌てて駆け寄って来た。
「いえ。何でも無いです」
「そ、そっか・・・あ、圭織。中入って」
圭織と呼ばれた女の人は病室の中に入ってうちの顔を呆然と見ていた。
「よしこ、あたし達の先輩の飯田圭織さんだよ」
ごっちんが教えてくれた。
「あ、どうも・・・吉澤です・・・」
わからない。知らない人だ。
「・・・よっすぃー・・・私の事、わかんない?」
「すいません・・・わかりません」
うちが言うと飯田さんは悲しそうな顔をした。
また、誰かを悲しませてしまった。
「圭織、納得した?」
「・・・うん」
「でもさ、きっとよっすぃーは思い出してくれるよ!ね、よっすぃー」
「え・・はい」
「ほら!何か湿っぽいよ!こんないい天気なのに、明るく行かなきゃ!」
矢口先輩は一生懸命この場を明るくさせてくれた。その気遣いが嬉しかった。
「あ、よしこ。アイス食べたい」
いきなりごっちんが思い出したように言った。
「はぁ?うちに奢らせる気?」
「汗だくで頑張ってよしこの成績表持ってきたのにー」
「え?何々?成績表?オイラに見せてよ」
「んぁ、いいよぉ」
「こらー!勝手に見せないでよ」
「じゃ、教えるもん。数学はー」
「わー!やめろぉ〜」
うちらを見て飯田さんは笑った。うちらも笑っていた。
たとえ記憶が無くなっても、仲間の絆は消えない。
そう確信したんだ。
- 256 名前:作者。 投稿日:2004/08/10(火) 23:06
-
>253 ミッチー様。
切なくなってしまいますね・・・だけどきっと吉澤さんは
思い出してくれるはず!今回は飯田さんとのご対面でした。
たとえ記憶がなくても仲間の絆は消えないって作者も信じてます・・。
- 257 名前:ミッチー 投稿日:2004/08/11(水) 20:31
- 更新お疲れさまデス。。。
仲間の絆は消えない、か…何か胸にしみますネ。
本当に早く思い出して欲しいですネ。
- 258 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/16(月) 20:01
-
<石川 視点>
いくら泣いても何も変わらない。そんな事、わかりきっていた。
だけど愛する人が記憶喪失だなんて悲しくて辛すぎて。ひとみちゃんの中に
私という存在が消えてなくなっただなんて、心が痛い。お見舞いに行けば
きっと変わらない笑顔でひとみちゃんは私を迎えてくれる。でもそれは
友達としての私。『石川さん』って呼ばれる度、本当の事を言いたくなる。
もう・・・我慢出来ないよ。
もう1度呼んで欲しい。
『梨華ちゃん』って。
それだけでいいから・・・・。
私はある決心をした。
『ひとみちゃんを学校に連れて行こう』
そうすれば思い出してくれるかもしれない。私の事を、そしてみんなの事も。
難しい事はあるけれど何とかやってみせる。
「・・・・ひとみちゃん。絶対思い出させてあげるからね・・・」
一緒に撮った写真を見て言った。
- 259 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/16(月) 20:16
-
<吉澤 視点>
夕飯を済ませ、もうすぐ面会時間が終了する時刻。うちはベットに腰をかけ
窓の外を見ていた。すぐ脇にある棚には『仲間』が退屈しのぎに持ってきて
くれた漫画や文庫本、ゲームが置いてある。
・・・・今日は石川さん来なかったなぁ・・・。
何で会えないとこんなに寂しいんだろう。
「あぁー、いつになったら退院出来るかなぁ・・・」
いい加減入院生活に飽き飽きしていた。体をベットに倒した。
その時、扉がノックされた。
誰だ・・・?こんな時間に?もう面会時間は終わったはずじゃぁ・・・。
「はーい」
返事をすると扉がゆっくり開いた。するとそこには石川さんがいた。
「い、石川さん!?」
「ごめんね、遅くなっちゃって・・・」
「い、いや、いいけど・・・」
何だかこの時、嬉しくてたまらない気持ちになった。
「大丈夫だった?面会時間過ぎてるけど・・・」
「ううん。こっそり入って来ちゃった」
石川さんは中に入って隅にある車椅子をうちの傍に持って来た。
「・・・石川さん?」
「お願い。一緒に来て欲しい所があるの」
「・・・ど、何処に・・・?」
「私達が出会った場所。大切な思い出が詰まってる場所」
そう言われて行きたい衝撃にかられた。
思い出せるかもしれない。
うちはゆっくり頷いた。すると石川さんは「ありがとう」と笑顔で言った。
そしてうちは夜に病院を抜け出した。
向かった先は───学校だった。
- 260 名前:作者。 投稿日:2004/08/16(月) 20:22
- 更新少なくてすいません・・・(T−T
>257 ミッチー様。
胸にしみますね。こんな仲間がいれば素敵ですよね。
羨ましいです、吉澤さんが。
勉強のため、なかなか時間がなくて・・・更新出来たかと思えば
少なくて・・・申し訳ないです。もうすぐ『20.だから、僕らは
走り続ける』も終わりそうな感じです。
(〜^◇^)<その後はどうなるんだ!?
(0^〜^)<そりゃもう、うちと梨華ちゃんのラブラブな日々を・・・。
( ^∀^ノ<なわけねーだろ!
(●´―`)<・・・平和でいいべさ。
(〜^◇^)<・・・と、とにかく!主役はオイラだからね!?
- 261 名前:ミッチー 投稿日:2004/08/17(火) 01:00
- 更新お疲れさまデス。。。
少なくても全然イイっすよ!
続きが見れるだけで嬉しいです。
石川さん、そんな事してもイイのでしょうか…(w
頑張れ!いしよし!!
- 262 名前:タケ 投稿日:2004/08/18(水) 19:14
- 更新お疲れ様です
夜の学校で吉澤さんが何か思いでせるといいですね
- 263 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/27(金) 21:27
- 事前に用意したらしいタクシーに乗り込んだ。車椅子はたたんでトランクに閉まった。
「お願いします」
石川さんがそう言うとタクシーは動き出した。うちは窓の外をぼんやりと眺めていた。
車なんて久々に乗ったなとか夜の学校ってどんなだろうとか思っていた。横にいる石川
さんを見ると不安そうな顔をしていた。
この時、ふと思った。
何でこの娘はうちにこんな一生懸命になってくれるんだろ?
今、うちは病院を抜け出している。もちろん外出許可なんて取ってないし今の時点
で取れるわけがない。とんでもない事をしている。
なのに、石川さんは。
こんな事までしてでもうちに記憶を思い出させてくれようとしている。
何でそこまで出来るんだ?
いろいろ考えてるうちにタクシーが止まった。止まった先は学校の裏だった。
車椅子を出してうちはそれに乗った。石川さんがお金を支払いタクシーは去って行く。
あたりは暗く静かだった。
「ここに入れるとこがあるの」
そう言って車椅子を押す石川さん。
「そうなんだ・・・知らなかった・・・」
知らなかった?本当にそう?
『梨華ちゃん!』
な、何だ?コレ・・・。
『ひとみちゃん!門はあっちだよ!?』
『こっちに抜け道があんの!こないだ見つけたんだ!』
記憶が蘇える───・・・・。
そうだ。うちは知っている。うちが見つけたんだ。
裏の方に古い門みたいなのがあってそこには鍵はかけられていない。
「暗いね。懐中電灯つけよっか」
石川さんはカバンの中から懐中電灯を取り出してつけた。パッとつく光が眩しい。
確実に取り戻してきてると思った。光が見えてきた。
- 264 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/27(金) 21:41
- ゆっくり入ってまず見えたのは校庭。広い広いグランド。
「ここでひとみちゃんは毎日走ってるんだよ」
まず自分がまさか陸上部に入ってるだなんて思わなかった。中学ではバレーだったし。
何で陸上部を選んだんだろう。校庭の端に部室があった。
『陸上部に入部させて下さい!』
また記憶が、蘇える。あそこに自分がいる。すぐ傍に矢口先輩。
『何でバレー部じゃないの?』
『見たんですけどやる気が無くて・・・』
「ひとみちゃん?」
「え?あ、ごめん・・・」
そう、うちはやる気があって本気で陸上やってる矢口先輩に惹かれたんだ。
あの部活に入りたいって思ったんだ。
面白いようにどんどん記憶が蘇えっていく。
「ひとみちゃんが陸上部に入って、それから矢口さんやひとみちゃんが
ごっちんを陸上部に誘って」
「・・・うん」
三人で走ってたんだよね。矢口先輩、練習厳しい人だったなぁ。
気付いたら涙を流していた。
「ひとみちゃん!?どうしたの!?足が痛むの!?」
「違うんだ・・・だんだん思い出せるんだよ。嬉しくて・・・」
「本当!?良かったぁ・・・」
石川さんも泣き始めて。しばらく抱き合って泣いていた。
夜のグランドに泣く声が静かに響いていた。
- 265 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/27(金) 21:56
- 「思い出せてるんだぁ・・・嬉しい」
「石川さんのおかげだよ・・・ありがとう」
「ううん。私は・・・」
「いや、石川さんが連れてきてくれなきゃ思い出せなかった」
校庭を見てるだけでいろいろ思い出す。
部活の事。ごっちんの事。市井さんの事。
たくさん蘇える大切な思い出たち。
────学際・・・・・生徒会室・・・。
「ね、ねぇ!生徒会室って何処?」
「え?・・・・」
「1階!?外から覗けれる!?」
「う、うん・・・」
石川さんに生徒会室を覗けれる場所に連れて行ってもらった。
1番大事な事、忘れてるんだ。
『うちが傍にいますから』
あの生徒会室。そこで“うちら”は出逢った。
彼女はテニスが大好きで、生徒会役員で。
うちは仕方なくなってしまった学際の実行委員で。
この人生の中で最大の出逢いをしたんだ。
「ここよ・・・?暗くて見えにくいけど・・・」
窓から中を覗いた。
・・・・ここだよ・・・・。
初めて本気で誰かを好きになって。初めて告白した場所。
「ひとみちゃん?」
うちは“梨華ちゃん”の手を握った。
「・・・・ごめんね」
「え?」
「───梨華ちゃん」
石川梨華。うちの恋人の名前。大好きな名前。
「うそぉ・・・・」
「嘘なんかじゃない。思い出した。うちの大切な人・・・梨華ちゃん」
梨華ちゃんはぼろぼろ泣いて地面にしゃがんだ。
「ごめん。こんな大事な事忘れてたなんて・・・・」
「ううん!だって思い出してくれたじゃない・・・!」
「梨華ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
ありがとう、梨華ちゃん。
大好きだよ。
- 266 名前:20.だから、僕らは走り続ける。 投稿日:2004/08/27(金) 22:30
- そのまま校庭でうちらはいろいろ話をした。今までの思い出を全て。
するといつのまにか明け方になって朝焼けが綺麗だった。それからごっちんや
矢口さん、みんなに電話をかけた。きっと迷惑だしやめようってうちが言った
けど梨華ちゃんは「迷惑かもしれないけど、きっと喜んでくれるよ」と言った。
『お前なぁ・・・・ったく心配させやがって・・・』
「すいません。市井さん」
『退院したらすぐうちに来い。退院祝いしてやる』
『よしこ、良かったねぇ・・・・』
『わぁ!お前鼻水つけるなぁ!』
『ホント!?ホントにホント?やったぁー!』
「矢口先輩・・・」
『・・よし!退院祝いだな!気合い入れていくぞ!』
涙声ながらも矢口先輩はいっぱい喜んでくれた。
みんなに電話をかけてみんなに喜んでくれて。
また涙が出そうになった。
「帰ろっか」
「怒られるよね」
「そーだね。でもこうして思い出せたんだし」
帰りはタクシーを使わず帰った。梨華ちゃんは幸せそうに笑っていた。
うちも、幸せだった。
病院に帰ると看護婦さんがカンカンになって怒っていた。うちらは怒られたけど
全然大丈夫だった。記憶を思い出せた事実を伝えると看護婦さんも担当の医師も
カウンセラーの先生も目を丸くして驚いていた。
「奇跡ですね。それしか言いようがない」
カウンセラーの先生は穏やかに微笑んで言った。
「梨華ちゃん。先生が奇跡だって」
「奇跡かぁ・・・そうだね。奇跡だよ」
「すごいよね。奇跡、起こせたなんて」
「ひとみちゃん」
「ん?」
「もう忘れちゃ駄目だからねッ!」
「・・・うん!」
奇跡。うちは愛の奇跡だと思っている。
梨華ちゃんがうちにくれた愛。
だから、奇跡を起こせたんだ。
- 267 名前:作者。 投稿日:2004/08/27(金) 22:38
-
>261 ミッチー様。
そう言って頂けると嬉しいです!頑張ります!
石川さん・・・きっとそんな事をしたら駄目ですよね。
かなり怒られますよね。でも愛のパワーがそうさせたんでしょうか(w
>262 タケ様。
ついに思い出しました吉澤さん。いやー長かったですよね・・。
ここまで来て良かったです。
やっと夏休み明けの学力テストが終わり更新です。
ついにやっとここまで来れた・・・・!嬉しいです。
そろそろクライマックスに近づくでしょうか。それは次回に。
- 268 名前:ミッチー 投稿日:2004/08/28(土) 13:00
- 更新お疲れ様デス。。。
ついに吉澤さん復活ですネ!
よかった、よかった。
二人の愛の奇跡ですか。素晴らしいネ!
次も頑張って下さい。
- 269 名前:K 投稿日:2004/08/29(日) 03:05
- こんな面白い小説初めてです。
面白すぎていっきに全部読んじゃいました。
次の更新も楽しみにしてるんで頑張って下さい。
- 270 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/09/01(水) 20:48
-
『21.未来への詩声。』
<矢口 視点>
「ねぇ、奇跡って信じる?」
ベランダの手すりに寄りかかって隣にいる人物に聞く。ベランダの向こうの家の中は
よっすぃーの退院祝いで騒がしい。
「んー・・・そうだなぁ」
紗耶香は夜の空を見上げて言った。片手にはお酒の缶。
「・・・信じてはないかな。でもあるんじゃない?」
「何それー。矛盾してるよ」
「いや、だからね、常に意識しては無いよ。でも吉澤や石川見てたら
なんとなくあるんだろうなって思ってるだけ」
「ふーん」
オイラは何気なくベランダの向こうを見た。みんな嬉しそうに騒いで楽しそうだ。
後片付けが大変そうだなっと思って笑った。
「矢口は?」
「へ?」
「奇跡、信じてるの?」
紗耶香は飲み終わった缶をクシャッと潰した。アルミだったから缶はあっけなく潰れた。
「・・・あったらいいなって思うよ。もし、この先オイラが大ピンチの時は奇跡を
起こしたい。何が何でもね」
「へぇ。矢口らしい」
「そうかな」
「・・・後藤も同じ質問してきたよ」
「ごっちんが?」
「今と同じ事を言ったよ。そしたら『市井ちゃんらしい』だってさ」
「ごっちんは何か言ってた?」
「後藤は奇跡を信じてる。心の底から」
「そっかぁ」
ふぅと息を吐いて夜空を見上げる。星が少しだけど輝いていた。
もう秋が来ている。夏は既に終わった。
「何かさぁ、いいよね。こうゆうの」
「何が?」
オイラはベランダの向こうを指差した。楽しそうにしてる仲間を。
「あぁ・・・まぁね」
「ずっと続くといいよね。こーゆーの」
「続くといいよねじゃなくて続かせるんだろ?矢口が」
そう言って紗耶香はベランダの扉の方に向かって扉をガラガラと開けた。
「・・・・あったり前じゃん!!」
しばらくしてオイラは笑顔でそう言った。
- 271 名前:作者。 投稿日:2004/09/01(水) 20:58
-
>268 ミッチー様。
(0^〜^)<復活だYO!
はい!復活です!本当に良かった・・・・意外と長くかかってしまい
書けるか不安でした。次も頑張ります!
>269 K様。
初めまして!読んで下さってありがとうございます!
そう言って頂けると嬉しいです(^−^
頑張ります!!
更新少なくてすいません!(^−^;
でもやっと進路の事も決まり落ち着いてきました。早く合格出来るように
頑張りたいと思います。そしてこの物語をしっかり書き終えたいと思います。
今回誰を視点に書こうかと悩みましたがやっぱ(〜^◇^)さんで(w
こうゆう雰囲気が好きなんです・・・・。
- 272 名前:タケ 投稿日:2004/09/02(木) 01:37
- 更新お疲れ様です
吉澤さんが記憶戻ってよかったですね! やっぱ愛の力か・・・
今回のこういう雰囲気いいですねぇ
仲間と楽しくやってくのを矢口さんが続けられるといいですね!
- 273 名前:ミッチー 投稿日:2004/09/02(木) 02:35
- 更新お疲れさまデス。。。
矢口さんに、この関係が続くよう頑張ってもらわないと困ります(W
こういうほのぼのとした雰囲気大好きです。
- 274 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/09/16(木) 20:45
-
<市井 視点>
吉澤の退院祝いでうちはうるさいほど賑やかで近所迷惑がくるような感じだった。
皆わけがわからないほど騒いで途中から誰かが持って来た太鼓のゲームで遊んでいた。
私はそれを遠巻きに缶のビールを飲みながら見ていた。
年齢も学年も違うのに、不思議と集まった仲間達。
きっと矢口が中心となって集まったのだろう。
「市井ちゃん。ゲームやろうよ」
後藤が笑顔で近づいて来た。よっぽど今が楽しいんだろう。
「ん、私はいいよ。それよかもっと静かにできねーのか、あいつらは」
「みんな嬉しいんだよ。今日ぐらいいいじゃん」
「・・・まぁな」
ぐびっとビールを飲む。
矢口はこの仲間達の関係を続かせたいと思っている。私もそれを願っている。
何より、仲間達といる後藤の笑顔が大切だからだ。
でも・・・永遠なんてあるんだろうか?
やっぱりみんな歩いていく道は違って。
今はただまだ別れ道が無いから一緒にいて。
「・・・市井ちゃん?」
「ん?」
「眉間にしわが寄ってるよ」
「む・・・」
「考え事してるって証拠だね」
「よくわかってんなぁ」
「そりゃ、もう何年もの付き合いだしー」
・・・ま、今という時間が大切なのは変わりない。
未来がどうなっても。
私達、仲間が壊れる事はないんだから。
- 275 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/09/16(木) 21:00
-
<石川 視点>
ひとみちゃんの退院お祝いも終わって片付けをして家に帰る。
「楽しかったねー」
「ひとみちゃん、ゲーム強いね」
仲良く手を繋いで。ゆっくり歩く。
この手を離したくない。いつまでも一緒にいたい。
だけど人生は難しいもので。
私の部屋の机の上には進路希望調査表の紙が置いてある。
どうすればいいんだろう・・・。
「梨華ちゃん?どうしたの?」
「ん?何でも無いよ」
「そう?あー、明日から学校行けるよ。楽しみだな」
「でも無理しちゃ駄目だからね」
「わかってるよ」
ひとみちゃんは笑顔で言う。そしてちゃんと私を家まで送ってくれた。
「じゃ、明日」
「うん。明日ね」
軽くキスをしてひとみちゃんは手を振りながら歩いて行った。私はひとみ
ちゃんの姿が見えなくなるまでその場にいた。もう空はすっかり暗い。
「・・・ひとみちゃん」
小さく呟く。大好きな人の名前。
「梨華。何だ、ぼーっと立っていて。早く家に入りなさい」
玄関の扉が開いてお父さんが出てきた。
「はーい」
「夕飯は食べてきたのか?」
「うん」
「そうか。今日な、カレーを作ってみたんだ」
「お父さんが?出来たの〜?」
「む、これぐらいなんて事ない。簡単だ」
「残ってる?」
「あぁ」
「じゃ、少し食べようかな」
「ホントか?すぐに用意するから」
お父さんもだいぶ変わってきて最近はよく家事をやるようになった。
何よりも目が優しくなった。
- 276 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/09/16(木) 21:10
- だから、どうすればいいかわからなくなる。
ある日、お父さんが真剣な顔して話しだした。
『梨華・・・話がある』
『何?』
『・・・実はな、今いる会社から東京にある本社に戻ろうと思っててな』
『え・・・?』
『梨華ももう高校3年生で来年は卒業だ。いい機会だと思ってる。
だから東京へ行かないか?東京にも大学はいくらでもある』
動揺した。固まって体が動けなくなった。
『・・・ま、まぁ、梨華がここに残りたいならそれでもいい。
梨華の人生だし、もう自分で決められる年頃だ。だけどな・・・
お父さんはもう梨華しか家族がいないんだ・・・やはり離れて
いるのは・・・その・・・寂しいものがある』
『お父さん・・・・』
初めて見る父親の悲しげな顔。今にも泣きそうな顔。
『・・・ゆっくり考えてくれ』
『・・・うん』
私だって家族はもうお父さんしかいない。お母さんもお姉ちゃんも妹も
今何処にいるかわからない。
でも・・・この街には愛してる人がいる。
どうすればいいんだろう。
私の答えは未だに出ないままだった。
- 277 名前:作者。 投稿日:2004/09/16(木) 21:16
-
>272 タケ様。
(〜^◇^)<もちろん続けるさ!
こうゆう雰囲気いいでよねぇ、作者も大好きです。
>273 ミッチー様。
(〜^◇^)<おう!頑張るよ!
矢口さんがいたからこそある雰囲気なんでしょうね。
これからも続くといいです(w
更新です。いやーまた新たに問題が・・・!!
みんなにもそれぞれ道があるというテーマで書いてます。
私自身も今、そんな感じです。
今回は石川さんでしたが仲間達、1人1人にスポットを当てたいと思います。
- 278 名前:ミッチー 投稿日:2004/09/17(金) 23:35
- 更新お疲れさまデス。。。
それぞれの道ですか…。
そうですよね。皆ずっと一緒ってわけにはいかないですよネ。
石川さんはどうするのでしょうか?
う〜ん、難しい…。
- 279 名前:作者。 投稿日:2004/10/16(土) 00:47
- こんばんは、作者です。実は受験の試験日が迫ってきて
面接の練習や小論文で忙しくこの『ココロの歌。』を書いて
いくのが難しくなってしまいました。本当は書きたい気持ちで
いっぱいなんですが・・・読んで下さっている方、ごめんなさい。
早く続きが書けるように頑張って大学合格しますので待っていて
下さい。放置は絶対しません。それでは。
- 280 名前:ヤグヤグ 投稿日:2004/10/17(日) 22:06
- うわー、作者さん大変ですね
しばらく続きが読めないのは残念だけど、頑張って下さいね
合格お祈りしております
- 281 名前:ミッチー 投稿日:2004/10/23(土) 01:41
- ☆合格祈願☆
- 282 名前:ミッチー 投稿日:2004/10/23(土) 01:41
- ☆合格祈願☆
- 283 名前:夏の終わり。 投稿日:2004/11/05(金) 22:43
- >>282
は?
- 284 名前:ミッチー 投稿日:2004/11/07(日) 22:46
- すみません!!
二重カキコしちゃってました。気を付けます。
- 285 名前:作者。 投稿日:2004/11/18(木) 19:44
- こんばんは、作者です。今日、無事に入試を終える事が出来ました。
後は合格発表を待つだけです。とりあえず一段落したのでこの小説の
続きを書きたいと思います。読んで下さっている方、お待たせして
すいませんでした。あと応援ありがとうございます。
>278 ミッチー様。
281 応援ありがとうございます!これからまた
書き始めるのでよろしくお願いします。
>280 ヤグヤグ様。
応援ありがとうございます!これからも
頑張りますので読んでみて下さい。
(〜^◇^)<やっと始まるのか!
(0^〜^)<うちと梨華ちゃんはどうなるんでしょうか・・・。
(〜^◇^)<んな事よりもっと主人公の出番増やせ!
(0T〜T)<先輩ぃ・・・ひどい・・・。
- 286 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/11/18(木) 20:05
-
<柴田 視点>
「マサオ、帰ろっ」
長い学校での時間が終わり私は隣の席にいるマサオに言った。
教室の中はやっと授業が終わった開放感から騒がしかった。
「悪ぃ、ちょっと担任とこ寄るから先帰ってて」
マサオはカバンの中にノートなどを乱暴に入れていた。
「担任?・・・まさか、何か問題起こしたんじゃないでしょうね?」
「んなわけないでしょ!じゃ、後でメールするから」
早足に教室を出て行くマサオ。
「柴ちゃん。どうしたの?険しい顔して」
何も知らない梨華ちゃんがとことこ私のとこへやって来た。
「・・別にー」
「何よぉ。私達、友達でしょ?」
「・・・・梨華ちゃん、もろ棒読みだから。特に後半の部分」
「えー。そんな事ないよー」
「ま、いいや。さーて、帰ろうかな」
「あれ?大谷さんは?」
「何か担任に用事あるって出て行った」
「あー・・・」
「あーって、何か思い当たるとこがあるの?」
私は椅子から立ち上がって机の横にかけていたカバンを持った。
「ほら、もう秋だよ?」
「うん。何言ってんのよ。誰でもわかるよ」
「わかってないなぁー。私達は受験生じゃん」
あっ・・・・・そうか・・・。
気付けばもう秋。進路を決めなくてはならない時期。
マサオ・・・どうするんだろう。
「そっか・・・マサオも考えてるんだ・・・」
「それ、何気にひどくない?まるで大谷さんが何も考えてないような・・」
「・・・梨華ちゃんはどうするの?」
「私?・・・まだ、わかんないなぁ。決めなくちゃいけないんだけどね」
梨華ちゃんは苦笑いをして言った。
- 287 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/11/18(木) 20:33
- 梨華ちゃんはよっすぃーのクラスへ行き、私は階段を降りて下駄箱へ向かった。
「はぁ・・・」
廊下を歩きながらため息をついた。
「何ため息ついてんの?」
「きゃっ!?」
声がした方を振り返るとそこには中澤先生がいた。
「もう!おどかさないで下さいよ!」
「私はずっとあんたの後ろを歩いてたで。気付かない方が悪い」
「・・・私は悪くないと思いますが」
「まぁええやん。っで、何か悩みでもあるんか?お茶飲みがてら聞いたるで」
「別に悩みなんかないですよ」
「何やぁ、寂しいなぁ。まぁええけどな。何かあったらすぐ言うんやでー」
そう言って中澤先生は去って行った。
何だかなぁ・・・。
いきなり現実を目の当たりにしたような感じだった。
家に帰ってカバンの中から1枚の紙を取り出した。
進路希望調査表。
私の進路は一応、大学へ進む事になっている。
自分の事はもう決まっている。気になるのはマサオの進路だ。
私は何だかずっとマサオと一緒にいれると勝手に思い込んでいた。
これからはそうはいかないんだ。
もしかしたらマサオはこの街を出て行くかもしれない。
そう思った瞬間、すごく嫌だって思った。
「・・・・マサオ・・・」
わかってる。一人一人それぞれの道があるという事を。
同じ道を歩いてるわけじゃない事を。
わかってんだけど・・・・。
受け止めたくないよ・・・。
- 288 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/11/18(木) 20:48
-
<吉澤 視点>
「梨華ちゃん、元気ないね?」
梨華ちゃんと下校する放課後。この日の梨華ちゃんは何だか元気がない気がした。
「そんな事ないよ?」
「うーん・・・何だか表情が冴えてないような・・・」
「大丈夫。私は元気だよ」
にこっと笑う梨華ちゃん。でもそれも何だか無理に笑っている気がした。
それでもうちはもう追求するのはやめた。その代わりに梨華ちゃんの手を握った。
「何かさー、寒くなって来たよね」
「そうだね」
「早く雪、降らないかなぁ」
「ひとみちゃん、寒くなってきても冬はまだ先よ?」
「わかってるけどー。雪合戦したいじゃん」
うちはこの時、何も知らずにみんなで雪合戦が出来ればいいとのん気に思っていた。
「楽しみだね。雪合戦」
梨華ちゃんは微笑んでそう言ってくれた。
「あとでっかい雪だるまとか、かまくらも作ろう」
仲間みんなで集まって、雪祭り。
その日が急に待ち遠しくなった。
- 289 名前:作者。 投稿日:2004/11/18(木) 20:49
- とりあえず今日の更新は終了です(^−^
- 290 名前:ミッチー 投稿日:2004/11/21(日) 14:39
- をー!更新されてる!!
お疲れさまデス。。。
進路では色々ありますよネ。
これからどうなるのでしょうか?
楽しみです。
- 291 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/04(土) 16:48
-
<後藤 視点>
季節は秋から冬に移り変わろうとしていた。校庭で練習する陸上部員にとっては
厳しいものになっていく。
「よしこ、ストーブ占領しないでよ」
「だってぇ〜・・・寒ぃんだもん」
矢口先輩がまだ卒業していなかった頃、学校の倉庫に眠っていたストーブを
運んできてこうして使っている。寒い時期には欠かせない物だ。
「全く、部長がこんなんでどーすんの。小川と紺野を見習いなよね」
ぶつぶつ言いながらあたしは空いている椅子へ座った。部室の中は外よりは
ストーブのおかげでだいぶ暖かい。小川と紺野は只今ハードルの練習をしていた。
「ねぇ、ごっちん」
「何?」
「・・・3年生の今の時期ってさ、進路決めるじゃん?」
「んぁ。そーだね」
よしこはストーブの前にしゃがんでいたけど、立ち上がってあたしの方を向いた。
その顔はちょっと情けない顔をしていた。それを見てあたしはピンときた。
「まさか、梨華ちゃんの進路聞いてないの?」
そう聞くとよしこは小さく頷いた。
「・・・何かさ、怖くて聞けないんだ」
「何で?だって多分、矢口先輩達のとこじゃないの?」
「そんなのわかんないじゃん。梨華ちゃんにはもしかしたら何か夢が
あるかもしれないし」
「・・・夢があるとしても、それはとっくによしこに話してるんじゃない?」
よしこはあたしの隣の椅子に座って両手をジャージのポケットへ突っ込んだ。
「今日さ、マサオさんに会ったんだ。昼休みに図書館へ本返しに行った時」
「あぁ、そーいえば。よしこご飯食べたらどっかに行ってたねぇ」
「マサオさんは料理の専門学校へ行くんだって」
「へぇ。確かに器用だもんね。料理上手いし」
「将来はパティシエになりたいんだって」
「おぉ〜。すごいね」
「・・・でも柴ちゃんには言ってなくて、悩んでた」
「・・・なるほど。そーゆー事か」
「梨華ちゃんもそうなのかなぁ・・・」
ため息をつくよしこ。あたしは自分のカバンの中から水筒を取り出した。
中身は温かいお茶が入っている。棚に置いてあるまだ使ってない紙コップ2つに
お茶を注いで1つをよしこに渡した。
- 292 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/04(土) 17:06
- 「梨華ちゃんがどんな道を歩こうとしても、よしこの梨華ちゃんに対する気持ちが
無くなるわけじゃないでしょ?」
「そうだけどさ・・・」
「だったら見守ってあげようよ」
あたしはお茶を一口飲んだ。温かいお茶のおかげで身体が暖まる。
「・・・ごっちん」
「んぁ?」
「変わったね」
「そーかな」
「うん。・・・そうだよね、梨華ちゃんがどんな道を歩こうとうちの想いは
変わらないんだよね」
よしこは自分に言い聞かせるように言った。
「うち、聞いてみるよ。梨華ちゃんに」
「んぁ。頑張って」
丁度、よしこに笑顔が戻った時小川と紺野が戻って来た。
「寒い〜。あ、ストーブついてる!」
小川がまるでしっぽを振る犬みたいにストーブのとこへやって来た。
「先輩、まこっちゃんのタイム上がりましたよ」
紺野はストップウォッチとタイム表を見せてくれた。
「んぁ。小川もやれば出来るんじゃん」
何処かの誰かさんと似てるなぁと思った。あたしはちらっとよしこを見る。
よしこはすっかり元気になって早速梨華ちゃんにメールをしていた。
「紺野、お茶飲んでいいよ。小川も」
あたしは水筒を紺野に渡した。
「あ、ありがとうございます!まこっちゃん、お茶貰ったよ〜」
「やったぁ。ありがとうございます」
あたしはやっと賑やかになった部室の中で。
・・・・そうだ、今夜はおでんにしよ。
と考えていた。
- 293 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/04(土) 17:21
-
<市井 視点>
<今夜はおでんだよぉ。後藤>
そんなメールが仕事中に来た。私はそれを見てニヤニヤしていたらしく。
「紗耶香、怖いよ。携帯見てニヤニヤしてる」
とアヤカに言われた。
「うっせーな。あ、今日の飲み会行かないから」
「えー!今日は若い子達がぞろぞろ来るのに!?」
「興味なーい」
興味があるのはもちろんおでんなわけで、私は早く帰りたいのだ。
「あ、わかった。早く愛しい彼女に会いたいわけだ〜」
そう言ってアヤカは後ろから私の首に腕を絡ませてくる。私は無視して
カメラのレンズを拭いていた。
「無視〜?」
「仕事しなさい」
「だって今、休憩中だもん。モデルさんが」
「あっそ・・・」
反応しない私がつまらなくなったのかアヤカはやっと離れてくれた。
「そういえばさ、随分前に紗耶香がよっすぃー達をモデルに撮ったじゃない?」
「あぁ、うん」
「あれをさー、社長が見てさ」
「えぇ!?社長が?」
「うん。何かすごい誉めてたよ。ほら、紗耶香って被写体あんまり撮らないじゃない。
だからすごい珍しがってた」
「そうかぁ・・・」
「それに、紗耶香の彼女の真希ちゃんの事、気に入ってた」
「後藤を?」
「モデルにさせたいって」
「そりゃ無理だな。あいつ、モデルに興味ないから」
「でも話だけでもしてみれば?きっかけ作りよ。あ、休憩終わったみたい」
アヤカは「じゃぁねー」と言って立ち去った。
後藤がモデルねぇ・・・・。
さっき『あいつ、モデルに興味ないから』なんて言ったのは本当の理由じゃなかった。
それもあるけど、まずは自分が嫌だった。後藤をモデルにさせるのは。
単なる自分勝手なだけだけど。
後藤は自分だけの存在でいて欲しい。
ただ、それだけの理由。
- 294 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/04(土) 17:44
- 仕事が終わってまだしつこいアヤカから逃げていた。
「ん・・・?」
気付くとメールが来ていた。誰からだろうと見てみると。
<何か成り行きでよっすぃーと梨華ちゃんも来るから。あと、こんにゃくと
タマゴ買ってきてね〜。>
「・・・・成り行きって何だよ?はぁ・・・しょーがねぇな」
電車に乗って降りて、近くのスーパーでこんにゃくとタマゴを買う。
するとそこで見覚えのある人を見かけた。
「藤本じゃん」
「うわっ、市井先輩・・・」
「何嫌な顔してんだよ。買い物?」
「美貴ちゃーん、ネギあったよ・・・あ、どうも〜」
ネギを持って無邪気に走って来たのは松浦だった。
「お買い物ですか?」
「そうだよ。今夜はおでんらしくてね」
「やっぱ温かいものが食べたいですよねぇ。うちも今夜は鍋物なんですよ」
「何々?もう同棲しちゃってんの?」
「いやぁ、半分はもうそんな感じで〜」
「違いますよッ!ただ夕飯は一緒にってだげですよ」
藤本の慌てた様子が面白かった。
「わかってるよ。じゃ、またな」
「はい。また」
私はスーパーの袋を持って自分の家へと急いだ。
家へ帰ると出迎えてくれたのは吉澤だった。
「おかえりなさ〜い」
「・・・ただいま」
「何か不機嫌ですねー。市井さん」
「何となくな」
玄関に入って靴を脱ぐと何だかいい匂いがした。キッチンでは後藤と石川が
材料を切ったりしていた。
「ただいま。ほら、こんにゃくとタマゴ」
「んぁ〜。おかえり。もう出来るから」
「おかえりなさい。市井さん。すいません、お邪魔しちゃって」
「いやいや。いいよ」
リビングに行くと吉澤がのん気にソファでテレビを見ていた。何となく後ろから
吉澤の頭を叩いてみた。
「いてっ!何すんですか〜?」
「何となく、だ」
「ひっでー。可愛い後輩に向かって」
「何が可愛い後輩だ。少しは夕飯の支度を手伝わないのか」
「はいはい」
私はソファに座って目を閉じた。何だか身体がダルイような気がした。
「うわ、うまそ〜!」
「んぁ。そりゃ梨華ちゃんとあたしが作ったんだから」
賑やかな声を聞きながら私は笑った。
・・・・ま、いっか。
- 295 名前:作者。 投稿日:2004/12/04(土) 17:49
- 更新しました(^−^
>290 ミッチー様。
進路は自分の将来が決まりますからね、色々あります。
これからみんながどんな道を歩くのか、見守って下さい。
久々の更新でした。無事に大学も合格し、高校生活の最後の期末試験も
終えました。何だか気の抜けた感じです(^−^;
これからはちゃんと更新していくので、またお願いします。
それでは。
- 296 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/06(月) 20:02
-
<吉澤 視点>
ごっちんに励まされ、うちは決心した。
梨華ちゃんのこれから歩く道はどんななのか───
その道にうちは傍にいられるのだろうか。
梨華ちゃんにメールをすると、彼女は図書館で勉強をしてるようだ。
どうやらうちの部活が終わるまで待つ気だったらしい。寒いから部活はもう
終わりにしようというごっちんの要望から部活は終わりにした。すぐに着替えて
下駄箱まで走った。慌てていたからネクタイはしめずにブレザーも微妙に着たまま
カバンを乱暴に掴んで部室を出て。小川や紺野が呆然と見ていた気がする。
ごっちんは笑顔で「またねぇ〜」と言っていた。下駄箱には梨華ちゃんが白い息を
吐いて待っていた。
「梨華ちゃんッ!!」
「ひとみちゃん!・・・慌てて来たの?制服くしゃくしゃだよ〜」
「もう、図書館に迎えに行ったのに〜・・・こんなとこで風邪ひくじゃん」
梨華ちゃんはクスクス笑いながら微妙に着ていたぴしっとブレザーを直してくれた。
うちは持っていた自分のマフラーを梨華ちゃんの首に巻いてあげた。
「早く会いたかったの。ひとみちゃんの部活終わるって知ったらそわそわしちゃって。
勉強なんか手につかなかった」
「そ、そっか・・・」
「やっぱ冬に近付くにつれ暗くなるの早いよね」
「ん、そうだね。帰ろっか」
「うん」
すっかり暗くなった空の下、うちらは手を繋いで学校を後にした。
今が聞くチャンスだと思いながらもなかなか聞き出せなくて困っていた。
梨華ちゃんは昨日見たテレビの話をしていた。
「もう感動しちゃって、私ずっと泣きっぱなしでさ〜」
「うん」
「それでね、その時お父さんが・・・・」
“お父さん”という言葉が出た瞬間、梨華ちゃんは何故だか黙ってしまった。
「梨華ちゃん・・・?」
ピタッと立ち止まる足。それと同時にうちの足も止まる。梨華ちゃんは困った顔を
してアスファルトを見ていた。
「どうしたの?」
梨華ちゃんが何を困っているのか、何を悩んでいるのか、うちにはわからない。
だから、焦って不安になる。
「梨華ちゃん?」
梨華ちゃんの目の前に移動してぎゅっと両手で彼女の手を握る。そして顔を覗き込んだ。
- 297 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/06(月) 20:16
- 「・・・あのね、ひとみちゃん」
聞きたくない、でも聞きたい。
うちはそんなジレンマに挟まれて『その瞬間』を待っていた。
「実は、私────」
心臓の脈が急激に速くなっていく。何処か頭の片隅で嫌だと叫んでる自分がいる。
「お父さんと東京に行くかもしれないの」
すぐには反応出来なかった。
どんな事実でも受け止めようと張り切っていたさっきまでの自分。
それは脆く崩れていった。
「と、東京・・・?」
「うん。お父さんがね、東京にある本社に戻るから・・・」
梨華ちゃんが必死に何かを言ってるんだけど全部うちの頭には入らなかった。
後はあんまり覚えていない。気付いたら自分の家の玄関前にいた。我が家からは
今晩のメニューであろうカレーの匂いがした。
「姉ちゃん?」
はっと我に返ると後ろに弟が立っていた。
「あっ・・・」
「何してんの?寒いから入ろうよ」
「う、うん・・・」
扉を開けて中に入る。弟が「ただいまー!」と言って靴を脱いでドタドタ音を
たてながらリビングに入って行った。うちは弟がリビングに入ったのを見て、
靴を脱いで自分の部屋へ向かった。ぼーっとしながらふと昨日、ごっちんと市井さん
の家で食べたおでんを思い出していた。
「おいしかったなぁ・・・おでん」
あんな時も梨華ちゃんは悩んでいたんだろうか。そう思ってベットに倒れ込んだ。
東京かぁ・・・・。
遠くに行っちゃうんだ・・・。
新幹線で行けばどんくらいかな・・・?
そんな事ばかり頭の中をぐるぐる回っていた。
- 298 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/06(月) 20:29
- 複雑な気分。
夢があるなら応援しようと思った。だけど梨華ちゃんは夢があって東京に行くんじゃない。
家族は大切だと思った。だけどやっぱり梨華ちゃんと一緒にいたい。
きっと梨華ちゃんは東京に行きたいと思った。
たった1人のかげがえのない存在であるお父さんと一緒に。
だから、だから・・・・。
「ひとみー?ご飯いらないのー?ちょっと・・・」
部屋にお母さんが入って来た。
「やだねぇ、電気もつけないで。あー、制服脱ぎなさい。皺になるでしょ〜」
「わかってるよ・・・・ご飯、いらないから」
「どっか具合でも悪いの?」
「・・・別に」
「寝るならちゃんとベット入りなさい。あと着替える事!いいね」
「はーい・・・」
お母さんが部屋を出て行き、うちはゆっくり起き上がった。おもむろに制服を
脱いでジャージに着替えてまたベットに倒れ込む。もう今日出た課題もやる気には
なれなかった。
梨華ちゃん・・・梨華ちゃん・・・。
笑顔で見送ってあげたい。
一緒にいたい。
「駄目だぁ・・・ごっちん・・・駄目だよ・・・」
何だかごっちんの気持ちがわかった気がした。
これを克服したごっちんはすごいなと思った。
うちはごっちんみたいになれるかな・・・?
「・・・自信、ないな・・・」
この日はそのままぐるぐる考えて、眠りに落ちた。
- 299 名前:作者。 投稿日:2004/12/06(月) 20:31
- 少し更新しました。いしよし、これからどうなるのか・・・。
それでは。
- 300 名前:ミッチー 投稿日:2004/12/07(火) 14:46
- 更新お疲れ様デス。。。
何だか、いしよしガンバレ!って感じです。
離れて欲しくないケド・・・。
どうなるんだろう。
作者。さん、合格おめでとうございます!
よかったですネ☆★☆
- 301 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/08(水) 20:02
-
<大谷 視点>
3年のこの時期はこれからの未来の道を決めるという大切な時期だ。
私は料理が好きで、最近はケーキ作りやお菓子作りにも興味を示している。
だから将来はパティシエになりたいと思っていた。担任や親とも話をして
東京の専門学校がいいんじゃないかと結論が出た。ここの地元では料理や
お菓子作りを専門としている学校はないのだ。
もうこの道は決めかかっている。推薦入試も間近に迫っている。
だけどなかなか決断出来ずにいた。まだあゆみに話していないからだ。
夢は諦められない。今の私にはその気持ちが強かった。
「マサオ〜。明日の英語さぁ・・・ん?マサオ?」
放課後の帰り道、私はぼーっとしていたらしい。あゆみがトントンと肩を叩いて
やっと気付いた。
「な、何?」
「・・・最近、変じゃない?ぼーっとする事が多いし」
あゆみは気付いているだろうか。勘の鋭いあゆみの事だ、私が言わなくても
薄々気付いてるかもしれない。
「そうかな?別に・・・」
私は笑顔を作って言った。
「・・・嘘だよ」
「え?」
「マサオ、私に何か隠してる」
あゆみは立ち止まって、真っ直ぐ私の目を見て言った。何だかその目はすごく
必死に見えて、こんなあゆみを見たのは前にめぐみの事があった以来だった。
私はそれを見て自分の自転車に乗った。
「・・・うちに行こ。ここじゃ寒いし。ちゃんと話したい」
「・・・わかった」
あゆみがいつものように自転車の後ろに乗って私にしがみ付いてきた。私は
ゆっくり自転車を走らせ自宅へ向かった。
- 302 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/08(水) 20:21
-
<藤本 視点>
・・・・どーしたものか。
私はふと自分の住む家の中を見回して思った。亜弥が来てからというもの
彼女の使用する物が増えているのだ。亜弥は休日はうちに泊まって行き、他の日も
たまに夕飯を作ってくれて一緒に食べるという日がある。
「このままでいいのか・・・」
ソファに座って腕を組んでうーんと唸る。
亜弥はまだ高校2年生だし、来年は受験があるし。何だかこのままの勢いでここに
住みそうな気がする。こないだ市井さんに会って『同棲』という言葉が出て正直、
焦った。何とか違うと言ったけれど。
・・・これは、半同棲なのか・・・?
何だか亜弥の将来が心配になった。本人はそんな事も知らずにのん気にこの家へ
やってくる。
ガチャガチャ。
玄関から鍵を開ける音が聞こえた。これが出来る人物は1人だけ。
はぁ・・・合鍵渡すんじゃなかった・・・。
「あれ、美貴ちゃーん?いるのー?」
「はいはい、いますよー」
パタパタと亜弥は走ってやって来た。
「バイトは?」
「今日は休みです」
「何だぁ。昨日言ってくれれば良かったのに」
「言ったら何なんだよ」
「もっと早く帰ったよぉ」
亜弥曰く途中で本屋に寄ったらしい。
「別にいいじゃん。私が何処に行くわけでもないし」
「だーめー!あたしが早く会いたいの」
そう言って亜弥はぎゅーっと抱きついてきた。つい抱き締め返してしまう。
「・・・亜弥・・・あのさぁ」
「何〜?」
「亜弥は将来、どうすんの?」
私の質問に亜弥は少し間を置いて。
「美貴ちゃんのお嫁さん!」
・・・・ホントに心配だ・・・。
- 303 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/08(水) 20:37
- 「ね、亜弥さん、本気で考えて下さい」
「あたしは本気だよぉ?」
「・・・マジっすか」
「マジマジ。大マジ」
そう聞いてため息をついた。
「美貴ちゃんは嫌なの?」
上目遣いの目はずるいと思う。私は亜弥から視線をそらした。
「嫌じゃないけど・・・・」
「じゃぁ、いいじゃん」
「だって、高校出れば大学に行くとか就職するとか。色々あるでしょ?」
「“美貴ちゃんのお嫁さん”も『色々』の中にあるじゃん」
「だからね・・・っ・・・」
私の言葉は途中で言えなくなった。亜弥が急にキスをしてきたからだ。
「亜・・・弥!!」
私は力を出して亜弥を押して離した。
「美貴ちゃんはあしたが邪魔なの!?嫌いなの!?」
「そんな事言ってないじゃん。私は亜弥の将来を心配して・・」
「あたしは美貴ちゃんと一緒にいたいの!離れたくないの!」
亜弥は涙を流してそう叫んだ。
泣かせるつもりはなかったのに・・・。
私は亜弥の涙に弱かった。そっと亜弥を抱き締める。
「ごめん・・・泣かせるつもりはなかった・・・」
「うっ・・・美貴ちゃんのバカー・・・」
私の腕の中で亜弥は泣きじゃくっていた。
「・・・あぁ、そうだね。ごめん」
よしよしと背中をさすってあげる。
「・・・美貴ちゃん?」
「ん?」
「・・・あたしの事、嫌いにならねいでね・・・」
その言葉に何だかココロがきゅうっと苦しくなった。くしゃっと亜弥の頭を撫でて。
「・・・嫌いになんかなるもんか・・・」
「・・・良かった・・・」
- 304 名前:作者。 投稿日:2004/12/08(水) 20:44
-
>300 ミッチー様。
ありがとうございます!
(〜^◇^)<合格するなんて奇跡だな!
(0^〜^)<先輩に言われたくないですよねぇ。
(〜`◇´)<何だってぇ〜?
(;0^〜^)<な、何でもないです!失礼しました!
いしよしもどうなるか・・・作者はいしよし好きなので
離したくはないのですが・・・。いしよし以外にも問題を抱えてる
とこはありますが・・・そういえば(〜^◇^)はどうしてるのでしょうか。
更新頑張ります!
- 305 名前:ミッチー 投稿日:2004/12/10(金) 01:46
- 更新お疲れさまデス。。。
いよいよマサオさんがアレを話しますか。
柴田さんはどんな反応をするのだろうか…?
確かに、今矢口さんはどうなってるんだろう???
- 306 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/10(金) 20:52
-
<大谷 視点>
家には誰もいなかった。あゆみを二階にある自分の部屋に通してから下に戻り
飲み物を持って二階にまた上がった。部屋に入るとあゆみは机の上に置いてあった
本をパラパラ見ていた。
「はい」
飲み物のお茶のボトルを渡した。寒いので部屋にあるヒーターをつける。
「ありがと・・・」
あゆみは本を机に置いてお茶のボトルを開けて飲んだ。
「・・温かいのが良かったな」
「そうしたいんだけど、紅茶の葉がきれててないんだ」
私はベットに座り、あゆみが隣に座る。
「・・・まぁ、率直に言うよ」
「・・うん」
少しの間を置いて私は言った。
「・・・東京に行くよ。卒業したら」
「うん」
「パティシエになりたいんだ。自分だけのオリジナルの物を作りたい」
「うん」
「・・・だから、東京の専門学校に行く」
「うん」
あゆみはただ「うん」と頷くだけだった。それから沈黙が続いた。
どうしていいかわからず、私はお茶のボトルのキャップを開けたり閉めたりしていた。
「・・・マサオの夢、か・・・」
いきなりあゆみはそう言ってため息をついた。
「はっきり言うけど、言って欲しくない。ずっと一緒にいたい」
あゆみの言葉はひどく私のココロを苦しめた。
「・・・でも、マサオは夢を諦めたいくないんでしょ?」
「・・うん」
「だったら、絶対叶えてよ!」
そっぽを向いてあゆみは言った。その肩は微妙に震えていた。
- 307 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/10(金) 21:06
- 泣いてる・・・?
すぐにあゆみの泣く声が聞こえてきた。でも本人は必死に隠そうとしている。
「・・・絶対、叶える。叶えるよ」
そっとあゆみを強く抱き寄せた。
「うっ・・叶えなかったら・・・許さないんだからぁ・・・」
「うん」
「・・・跳び蹴りしてやるんだからねっ・・・」
「うん」
「・・いつ、帰って来る・・・?」
「・・・わかんない。でも必ず、帰るから。迎えに来るから」
あゆみはついに私の方を向いて私にしがみ付いて泣いた。
絶対、叶えて、迎えに行くよ。
約束するよ。
「あゆみ・・・愛してるよ」
そう言って頬に伝う涙に口付けを。
「・・・・そうじゃなきゃ、許さない・・・」
照れて顔が赤くなるあゆみは可愛くて、あゆみらしいなと思った。
「・・・あゆみは?どうなの・・?」
「・・・・嫌」
「ひどいなぁー。私は言ったのに」
「うー・・・」
「どうなんですか?あゆみさん」
「・・・・愛してる」
アイシテル。
その言葉はどんな言葉よりも暖かくて、切なかった。
- 308 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/10(金) 21:20
-
<矢口 視点>
だいぶ久々の登場じゃないの?
「全く、オイラが主人公だってのにさー」
「確かに最近、出番少ねぇーなー、矢口」
「でしょ?どうかしてるよ。明日にでも地球滅亡の危機だね」
「それは別に無いと思うけど・・・」
「でもさぁー・・・」
「あんたら、何やってんの?」
「「あ、おかえりー」」
「『あ、おかえりー』ちゃうわ!あんたら何してるん!」
オイラと紗耶香は裕ちゃんが担当している例の相談室にいた。オイラが来た時、
ちょうど紗耶香がいて裕ちゃんはいなかった。
「何してるって・・・最近のオイラの出番の無さについて?」
「そうそう。ホント、私より出てないし」
「そんな事、どーでもいーわ。ほら、忙しいんやから。帰った帰った」
裕ちゃんは手をひらひらさせてパイプ椅子に座った。
「「えー」」
「『えー』じゃないわ。全く・・・卒業生を相手にしてる暇はないんや」
「裕ちゃん冷たいなぁ。可愛い教え子なのに」
「何処が可愛いんや」
「そういえばさぁ、石川達の進路ってどうなってるの?」
オイラがそう聞くと裕ちゃんは無視して何やら書類を見始めた。
「無視すんなよー。矢口が可哀想じゃんか」
「・・・・ったく、いつまで経っても変わらんなぁ。石川と大谷は東京の方へ
行って進学、柴田は地元で進学や」
「えぇ!?梨華ちゃん、東京へ行っちゃうの!?」
オイラの声は相談室によく響いた。
- 309 名前:作者。 投稿日:2004/12/10(金) 21:40
-
>305 ミッチー様。
大柴一件落着?ですかね(^−^;
柴田さんらしいリアクションが出来たと思います。
(〜^◇^)久々に登場!でも少し。ホント申し訳ないです・・・。
- 310 名前:ミッチー 投稿日:2004/12/17(金) 01:40
- 更新お疲れさまデス。。。
大柴一旦落ち着いてよかったヨ。
久々の矢口さんは、矢口さんらしくて何か和みました(W
- 311 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/18(土) 22:19
-
<後藤 視点>
今日、よしこが学校を休んだ。びっくりして、いつもは爆睡してる授業も
何だか落ち着かなくて珍しく起きていた。先生達はそんなあたしを見て驚いていた。
昨日は元気だったのに、風邪でもひいたのかな?と思いよしこにメールをするけど
返答無し。仕方なく昼休みに梨華ちゃんのとこへ行ってみる。
「え・・!?ひとみちゃん、お休み・・?」
「うん。何か知ってる?メールしても全然返事来ないし」
梨華ちゃんは黙って俯いていた。何かを考えてるような、そんな感じ。
「梨華ちゃん・・?」
「え?あ、ごめん・・・」
「・・・別にいいけど。もしかして何かあったの?」
そう聞くと梨華ちゃんは小さく頷いた。あたし達は教室から屋上へと場所を
移動した。今日は晴れていて、眺めが良かった。
しばらくは沈黙が流れた。梨華ちゃんは手すりに手を置いたまま遠くを見ていた。
あたしは梨華ちゃんが話してくれるまで待っていた。きっと矢口先輩なら、こうゆう時は
相手が話してくれるまで待つと思った。例え、1日かかろうが1週間かかろうが待つ。
それが矢口先輩だ。
「・・・あのね、実は・・・」
梨華ちゃんは当然、あたしの方を向いて話しだした。その顔は真剣で必死だった。
「・・・あたし、東京へ行くの。卒業したら」
「・・・東京・・・?そっちの大学受けるんだ?」
「・・・うん。お父さんがね、東京の本社に戻るって言って。私、一緒に
行こうかと思って・・・」
なるほど。これで解決。何でよしこが学校に来ないのか、やっとわかった。
「そっか・・・」
「ひとみちゃん・・・ショックだよね・・・」
あたしは梨華ちゃんの肩をポンポンと叩いた。
「梨華ちゃんの道は梨華ちゃんが決めるべきだよ。誰かに左右される事じゃない。
よしこだってわかってるはずだよ。ただ、今はちょっと混乱してるだけ」
「ごっちん・・・」
「大丈夫。よしこなら乗り越えられるよ」
あたしだって乗り越えられたんだから。市井ちゃんがどっかに行っちゃった時や
アメリカに行った時。いろんな壁はあったけれど、乗り越えられた。
きっとよしこだって大丈夫。あたしの親友だもん。
- 312 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/18(土) 22:45
- とりあえず、放課後よしこの家へ行ってみる事にした。梨華ちゃんも行きたがって
いたがあたし1人の方がいいと思った。途中でパン屋に寄り、よしこの大好きな
ベーグルを買って向かった。
「あら、真希ちゃんじゃない」
「こんにちは〜。よしこどうですか?」
出迎えてくれたのはよしこのお母さんだった。
「何だかねぇ・・だるいらしくて、ずっと寝てるのよ。何も食べたくないって
言うし。今、流行の風邪かしらねぇ。どうぞ、上がって」
「お邪魔します」
・・・んー、結構重症かもね。これは。
階段を上がってよしこの部屋をノックする。中から返事は無い。
「よしこー?入るよ〜?」
ガチャッと扉を開けると中は電気が付いてなく、真っ暗。あたしは中に入って
電気を付けた。よしこは布団をかぶっていた。
「よしこ。起きてる?」
もぞもぞと動く布団。どうやら起きてるらしい。
「事情は聞いたよ。ま、とりあえず顔を見せなさい」
あたしはがばっと布団を持ち上げはいだ。うずくまってるよしこを発見。
「ほら、起きて。ベーグル買ってきたよ」
よしこの顔はひどかった。きっと寝ていないんだろう、やつれて、泣き腫らした目。
まるで死にそうな感じだった。
・・・とにかく、しゃきっとさせないと。
あたしはまず、よしこにベーグルとお茶を渡した。
「・・・いらない・・・」
「ダメ。ちゃんと食べて」
「・・・嫌」
「このままでいいの?こんなよしこ、梨華ちゃんが見たら幻滅するね」
あたしはわざとよしこを挑発するような感じの言葉を言った。
- 313 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/18(土) 23:18
- 「きっと嫌いになるよ。でも梨華ちゃん可愛いし、結構モテるからよしこが
いなくてもすぐに恋人出来るかもね〜」
よしこはむかついたのかあたしを睨みつけていた。
「あー、何か来て損した。帰ろっかな」
言い終わった瞬間、ぐわっと身体が動かされた。よしこがあたしの腕を引っ張り
ベットに押さえつけていた。ものすごい力があたしを押さえつける。
「・・・何がわかるんだよ・・・ごっちんに何がわかるんだよッ!!」
よしこは大声で怒鳴りつけた。
「こんなに辛くて苦しい気持ち、ごっちんにわかるのかよッ!!」
あたしは本気でよしこを蹴飛ばした。よしこが部屋の扉にぶつかる。
「悲劇のヒーローぶんのもいい加減にしなよッ!」
立ち上がってそう怒鳴りつける。よしこはすぐに立ち上がった。
「何だと!?誰が悲劇のヒーローだよ!?」
「あんただよ、よしこ。自分だけが苦しいんだ、辛いんだって思い込んで!
辛いのはよしこだけじゃないんだよ!?」
あたしはよしこの胸倉を掴んだ。
「梨華ちゃんだって辛いんだよ!?苦しいんだよ!?よしこと離れるのが
嫌に決まってんじゃん!何でわかんないの!?バカ!」
掴んでいた手を投げつけるように離した。よしこはそのまま床に倒れた。
「・・・梨華ちゃん、学校来てたよ。すごい辛そうな顔して、話してくれた。
よしこが学校休んでるって伝えた時、泣きそうな顔してたよ。きっと自分の
せいだって思ってるよ・・・!」
気付いたら自分が泣いていた。よしこも泣いていた。
「なのにさ・・・よしこは何?梨華ちゃんから逃げてんじゃん・・・部屋に
閉じこもって・・・現実から逃げて・・・・」
「じゃぁ・・・どうすればいいんだよ・・・?うちは・・・」
あたしはしゃがんでよしこを抱き寄せた。力強く抱き締めた。
「梨華ちゃんの歩いてく道をちゃんと見るの。目を離さず、見守るんだよ」
「出来ないよぉ・・・うちには梨華ちゃんが必要なんだよ・・・傍にいて欲しいよ」
わかるよ。その気持ち。
あたしもそうだったんだから。
だけど、強くなれた。
それは───みんながいたからなんだ。
- 314 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/18(土) 23:32
- 「大丈夫だよ・・・よしこ。よしこは1人じゃないんだよ?
梨華ちゃんだって1人じゃないんだ」
「ごっちん・・・」
「・・・よしこの気持ち、痛いほどわかるんだ。ほら、市井ちゃんが突然
いなくなっちゃった時とかアメリカに行っちゃう時とか。あたし、ひどかったじゃん?」
「うん・・・」
「それと同じなんだ。今のよしこ。だから、わかる。でもさ、あたしはみんなが
いてくれたから頑張れた。市井ちゃんを信じて待つ事が出来た」
だから、大丈夫。
この親友のあたしや市井ちゃんや矢口先輩・・・みんなが2人を支えてくれる。
仲間って、不思議なんだ。
頑張る勇気と強さ、笑顔と元気をくれるんだ。
「ごっちん・・・さっきはごめん」
「あたしもごめんね。思いっきり蹴飛ばしたりして」
「・・・効いたよ?ごっちんの蹴り」
「でしょ?」
「おかげで目が覚めた。明日はちゃんと学校へ行くよ」
そしてあたし達は顔を合わせて笑った。それから仲直りの握手。
「何か元気になってきたらお腹すいた〜・・・」
「今日はよく食べてよく寝て。明日は笑顔で学校に来い!」
「おうよ!」
・・・ねぇ、よしこ、知ってた?
あたし達、初めて本気で喧嘩したんだよ。
矢口先輩みたく優しく出来ないけどさ。
これがあたしのよしこを立ち直させるやり方なんだ。
荒っぽくてごめんね。
- 315 名前:作者。 投稿日:2004/12/18(土) 23:38
- 更新です(^−^
>310 ミッチー様。
(〜^◇^)<和んだか!嬉しいな!
( ^∀^ノ<いやいや、相変わらず変わってねぇって事だろ!
(〜`◇´)<紗耶香に言われたくないよ!!
大柴が落ち着いたとこでいしよし・・・後藤さん大活躍でした(w
さて、いしよしですが・・・今回はいしよしというよりは
後藤さんVS吉澤さんってとこでしょうか・・・。
やっぱり親友の存在って大きいもんです(何
喧嘩シーンは書いてて何だか楽しかったです(w
- 316 名前:ミッチー 投稿日:2004/12/20(月) 18:43
- 更新お疲れさまデス。。。
後藤さん大活躍ですネ!
「仲間」や「親友」って、やっぱイイですネ。
強くなれ、よっすぃ〜!!
- 317 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/22(水) 19:14
-
<石川 視点>
どうしよう・・・・。
私のせいだ・・・・。
本当はひとみちゃんの家に行きたかったけど、ごっちんに言われた通り今日は
おとなしく家に帰る事にした。私が東京行くって言ったから、ひとみちゃんは
落ち込んでしまった。きっと離れ離れになる事がショックだったんだ。
はぁ・・・ダメだな、私。
ため息をついてとぼとぼと下駄箱に向かう。
「お、そこでため息を付かれてるのは石川梨華ちゃんではないですか」
声がした方を向くとそこにはマサオさんが立っていた。
「どうしたの?何だか元気ないみたいだけど」
にこっと笑ってマサオさんは言った。
「・・・私、東京に行くって決めたの」
「おぉ、そうなんだ」
「でも、ひとみちゃんに言ったら・・・・」
「・・・なるほど、落ち込んじゃったわけか」
「そうなの。私のせいだよね・・・」
そこで会話が途切れる。遠くから部活の練習の音が聞こえた。
しばらく経ちマサオさんが口を開いた。
「梨華ちゃんのせいじゃないよ」
「え?」
「梨華ちゃんのせいじゃない。梨華ちゃんはものすごーく悩んで決めたんでしょ?」
「う、うん・・・」
「その悩んだ結果が東京に行くって決めた。何処も悪くないよ。後は・・・そうだね、
よっすぃーが受け入れるしかない。いや、受け入れなきゃいけないんだ」
マサオさんの言葉は何処となく力が入っていた。
「だから、梨華ちゃんは悪くないんだよ?そう、自分を責めないで」
「・・・ありがとう、マサオさん」
そう言うとマサオさんは照れた笑みを浮かべた。
- 318 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/22(水) 19:26
- 「いや、あのさ・・・私も実は東京に行くんだ」
「えぇ!?」
いきなりの事実告白に私は驚いて声を上げた。その声はよく廊下に響いた。
「将来、パティシエになりたくてさ。東京の専門学校に行く事に決めたんだ」
すぐに柴ちゃんの顔が浮かんだ。
「あ、あゆみは了解してくれたよ。最初は戸惑ってたみたいだけど」
「そうなんだ・・・」
「約束、したんだ」
「約束?」
「うん・・・“必ず、夢を叶えて迎えに来る”ってね」
何だかマサオさんがすごくかっこよく見えた。私もこんな風になりたいって思った。
「・・・頑張ってね。ちゃんと柴ちゃんを迎えに来てね」
「もちろん!そうしなきゃ、あゆみの跳び蹴りをくらいそうだしね」
私達は笑って、そしてそれぞれの家路についた。
いつもひとみちゃんと帰っている道は1人で歩くと寂しく感じた。夕焼けが綺麗に
空を染めていく。寒くなったせいで日が暮れるのが早くなっていた。
・・・明日は来るかな、ひとみちゃん。
もうずっと一緒にいられるのも残りわずかだから。一緒にいたい。
「・・・逢いたいよ、ひとみちゃん・・・」
涙ぐんで視界が歪む。流さないようにぐっと堪える。
神様、どうかひとみちゃんが元気になってくれますように・・・。
神様なんているかいないかわからないけど、私は願った。
あの大好きな笑顔が見たいから。
- 319 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/22(水) 19:39
-
<市井 視点>
「ただいま〜・・・ってあれ?」
家に帰ると中は真っ暗。どうやら後藤はまだ帰ってないらしい。
・・・どうりでピンポン押しても出ないわけだ。
にしても私が先に帰るなんて珍しい。もう時計は午後7時を指していた。
とりあえず、後藤の携帯に電話をしてみる。
『おかけになった電話は電波の届かない所にいるか、電源が切られています』
アナウンスの声が聞こえて私は携帯を切った。
「何かあったのか・・・?」
ただ携帯が繋がらないだけで不安に襲われる。後藤の部屋に入って電気をつけてみる。
特に変わった様子はない。
・・・まさかな、家を出て行ったなんてな・・・。
頭を乱暴にかく。それから部屋をうろうろしていた。
「それとも・・・誰かに襲われたり・・・連れ去られたり・・・」
嫌な事ばかり頭に浮かぶ。そう考えるといてもたってもいられなくなった。
私は財布と携帯を持って上着も着ずに家を飛び出した。学校までの道のりを
全速力で走る。しかし後藤の姿は何処にもなかった。
「はぁ、はぁ、・・・」
もう学校の門は閉められていた。私は肩で大きく息を吸いながら今度は商店街や
本屋の辺りを探した。しかし、ここらへんも後藤の姿はなかった。
後藤・・・!何処にいんだよ・・・!
もう冬なのに汗がたくさん噴きだしていた。拭う事もなく走り続けた。
携帯に再度かけてもさっきと同じで繋がらない。
「あー!もう!」
とりあえず一旦家へ戻る事にした。
- 320 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/22(水) 19:48
- 家へ戻ってみると玄関の扉が開いていた。すぐに中へ入る。
「後藤!?後藤!」
大声で呼ぶとのん気に後藤が自分の部屋から出てきた。
「あれ?市井ちゃん。おかえりー。すごい汗かいてるね、どうしたの?」
私は何だか全身の力が抜けてそこにへにゃへにゃと座り込んでしまった。
「市井ちゃん!?どうしたの?」
「・・・バーカ」
「えぇ!?いきなりバカ呼ばわり!?」
後藤が私の背中を支えてくれた。
・・・ったく、人の気も知らないで・・・。
「まさか、市井ちゃん。あたしを探してた?」
「・・・そのまさか。だって、いつも私より先に帰ってるからさ・・・」
だんだん恥ずかしくなって声が小さくなる。すると後藤はにま〜っと笑って。
「そうなんだ。心配して探してくれたんだ」
ぎゅっと私を抱き締めた。
「あー、ったく、疲れた〜」
私は口ではそう言っていたけれどココロの中じゃ違っていた。
・・・良かった。無事で・・・・。
「市井ちゃん」
「ん?」
「お疲れ様」
不意打ちのキス。
「・・・何か、卑怯だ」
「市井ちゃんだってやるじゃん」
「うっせー。お腹すいたな・・・どっか食いに行くか!」
「やった!市井ちゃん大好き!」
- 321 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/22(水) 20:04
-
<矢口 視点>
まさか梨華ちゃんが東京に行っちゃうとは・・・・。
「はぁ・・・何か寂しいね」
「そうだねー」
裕ちゃんから梨華ちゃん達の進路を聞いた日の夜、家になっちが遊びに来た。
今日はお泊り会である。
「圭織が外国行っちゃう時も寂しかったなー」
「ホント、嫌だったねぇ。でも圭織の夢だしね」
もう夕飯もお風呂も済ましオイラの部屋でまったりとトーク時間。
「夢には逆らえないもんだね」
「そうだよ」
「ところでさ、なっちの夢って何なの?教育学部にいるから先生?」
「うん・・・まぁね。一応、小学校の先生」
「おぉ〜。すごいな〜」
「まだわかんないけどね。夢って変わる事もあるし。矢口は?」
「オイラ?んー、あんま考えてないんだけどね・・・」
「え、でも、情報文化学部にいるじゃん。コンピューターやってんでしょ?」
オイラはクッションを抱き寄せた。
「何となくだし・・・地元の大学入ったのもさ、この街を離れたくなかったんだ。
ここの場所が大好きだから」
だけど本当の理由は違った。確かにここの街は好き、でも・・・。
みんなと離れたくなかった。
いつまでもそんな子供みたいな事は言ってられないけど。
夢を追いかけて将来を決めなきゃいけないんだけど。
やっぱり、仲間とは離れたくない。
「そっかー。矢口らしいな。私も好きだよ、この街」
なっちは笑顔でそう言った。少し嘘をついたオイラに気付かずに。
ココロが痛かった。
ごめんね、嘘ついて・・・。
何故、なっちに本当の事が言えないのか自分でもよくわからない。
ただ、オイラは甘えてるだけなんだ。
結局、子供なんだね・・・。
- 322 名前:作者。 投稿日:2004/12/22(水) 20:09
-
>316 ミッチー様。
(0^〜^)<復活だYo!!
仲間や親友って大切ですよね。かげがえのない存在です(^−^
今回はいつもより少し多めの更新です。
いしよしはどうなるのか・・・矢口さんの夢とは・・・。
いちごまは相変わらずです(^−^;
- 323 名前:ミッチー 投稿日:2004/12/23(木) 11:17
- 更新お疲れさまデス。。。
いちごま出してくれてありがとうございました!
嬉しかったっス!
矢口さんの夢、気になりますネ…。
- 324 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/25(土) 14:06
-
<吉澤 視点>
くよくよしてたって何も始まりはしない。
強くならなきゃ。
私は朝、起きるとすぐに制服に着替えてご飯も食べずに家を飛び出した。
時刻はまだ午前7時。自転車に乗って学校へ向かう。意味もなくペダルをこぐ
スピードを速める。そのおかげで学校には10分で着いた。滑らせるように、
自転車置き場へ入る。降りて鍵をかけて陸上部の部室へ。
走りたくなった。だから、すぐに学校へ来た。
部室にあるジャージに着替えて靴を履き替えて校庭へ。まだ朝早いので寒かった。
うちは壊れたように校庭を何週もした。汗をいっぱいかいて。
「はぁ、はぁ、はぁ」
しばらく経ち登校してきた生徒達がうちの事を見ていた。校舎の窓から校庭を覗く
生徒もいた。うちは全てを無視して走った。
ココロの中は梨華ちゃんで埋め尽くされていた。
・・・梨華ちゃんだって悩んでたんだ。悩んで出した答えに苦しんでる。
その苦しみをうちが支えないでどうするんだ。
だいぶ走った頃。
「ひとみちゃん!」
大好きな声が、自分を呼んだ。
- 325 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/25(土) 14:24
- 校庭の入口付近に梨華ちゃんは立っていた。うちは走るのをやめてそっちへ向いた。
梨華ちゃんがこっちへ走ってくる。その顔は泣きそうな顔をしていた。
「梨華ちゃん!!」
うちも気付いたら駆け足になっていた。
校庭のど真ん中。
「どうしたの?朝早く・・・」
「朝練だよ。急に走りたくなったんだ」
梨華ちゃんは自分のカバンからタオルを出すと汗を拭いてくれた。うちはその手を
握った。「え?」と梨華ちゃんがうちを見る。
「・・・・梨華ちゃん」
「何・・・?」
「うちは・・・梨華ちゃんが大好きだよ」
いきなりの言葉に梨華ちゃんは驚いていた。
「その想いは梨華ちゃんが何処にいても変わる事はない」
「ひとみちゃん・・・」
うちはすぅっと息を吸った。
「だからさ・・・」
笑顔で君を見送ろう。
「行って来なよ」
いつでも何処でもうちらの想いは繋がっているから。
「・・・うん!」
梨華ちゃんはたくさん涙を流してそれでも微笑んで頷いた。
暖かい太陽がうちらを照らしていた。
- 326 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2004/12/25(土) 14:45
-
<矢口 視点>
ごっちんからよっすぃーの事を聞いた。どうやら結構落ち込んでいたようで、でも
すぐに復活したらしい。きっとごっちんの友情パワーのおかげだろう。
「オイラの出る幕はなし、か・・・・」
そう思うとちょっぴり悲しい。
何だか、みんな頑張ってる。
オイラはどうなんだろう?
オイラは何を頑張ってる?
・・・・わからない。
みんな頑張ってんのに、オイラは何もしてない気がする。
このままでいいわけがない。
ただ何となく毎日を過ごしてる。高校の時のような輝きを失って。
甘えてるばっかで、仲間と離れたくなくて。
何かをしたい。
何をしたい?
こう考えるとなかなか他の事に目がいかず、大学の講義もまともに聞いてなかった。
「矢口?矢口!」
大学の中庭のベンチでぼーっとしていたらいつの間にかなっちがいた。
「え?あぁ・・・なっち」
「どうしたの?ぼーっとしちゃって」
「黄昏てるんですよ」
なっちはオイラの隣に座った。何も言わずただ黙っている。
「何かさ・・・みんな頑張ってるよね」
オイラは呟くように言った。
- 327 名前:作者。 投稿日:2004/12/25(土) 15:02
- (0^〜^)<メリークリスマス!!
>323 ミッチー様。
久々のいちごまでした!そう言って貰えると嬉しいです(^−^
矢口さんの夢・・・今の段階ではまだわからないですね(^−^;
いしよし復活?みたいな感じの更新です。
そして矢口さん。しばらくは矢口さんが主に出ると思います。
今日はクリスマス、そして今年も後僅かです。大掃除やらで忙しくなると
思います。今年にもう1回は更新したいですが・・・もしかしたら年明けて
からになってしまうかもしれません!それでは。
- 328 名前:ミッチー 投稿日:2004/12/25(土) 17:19
- 更新お疲れさまデス。。。
いしよしの問題が無事に解決してよかったです(W
矢口さんがこれからいっぱい出てくるんですか。
まぁ、元主役ですしネ。
- 329 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/08(土) 20:11
- 今のままでいたくない。
オイラは悩んで考えて、こう思った。
ならば、何をしようか。
この『何をしようか』の『何』は年を開けての冬休みに実行される事になる。
これは──自分が強くなる為なのだ。
今までのオイラはまわりに甘えてばかりだったと思う。仲間といられればそれだけで
いいと思っていた。だけど仲間、1人1人にはちゃんと自分の歩く道がある。
いつまでも一緒っていうわけじゃない。
でも・・・仲間と離れて一人になったオイラを想像してみると、何だか
とても頼りなく弱く感じた。
矢口真里という人間はこんなんじゃない。
・・・だから、強くなろう。大切なココロを。
- 330 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/08(土) 20:25
-
<市井 視点>
年が明けて早々、あいつはやらかしてくれた。ホントに驚いた。
あいつ、というのはあの小さくて元気な少女─いや、もう大学生だから少女とも
言えないのか。とにかく矢口真里の事だ。
全く、いきなり誰にも言わずに消えるとは・・・。
一番初めに気付いたのは意外にも後藤だった。実は元旦に新年の挨拶と言って私と
後藤は矢口の家に行き矢口に会っていた。その時ただならぬ雰囲気を後藤は感じたらしい。
『矢口先輩・・・何か企んでる気がする』
その時、後藤はこう言っていた。
それから数日が経ち、なっちからメールが届いた。
<矢口が何処にいるか知ってる?>
こうして矢口は誰にも言わずに何処かへ行ってしまった。
当然、まわりの人間は大騒ぎ。後藤は泣きそうな顔して、他のみんなも慌てて、
仲間全員で街や思い当たる所を探していた。しかし矢口は見つからない。矢口の
家族に聞いてもどうやら矢口が絶対に言うなと口止めしているらしく教えてはくれなかった。
どうやら誘拐、という事ではないようだ。その事に一同は安心した。
それからと言うもののいろいろと探してはいるのだが、未だ見付からず。
もうすぐ学校が始まる時期となった。
- 331 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/08(土) 20:41
- 「市井ちゃん・・・どうして矢口先輩はいなくなっちゃったのかな?」
後藤はいつになく真剣な面持ちで私に言った。私はカメラの調整をしていた。
「さぁ・・・。矢口なりに何かをしたくなったんじゃないか・・?」
私には何となく矢口がどうしてこんな行動をしたのかわかる気がした。と言っても
それは自分が思う事でありそれが矢口の思う事と同じなのかは定かではない。
とにかく、矢口は矢口なりに真剣に考え行動に出たのだろう。
「でもさ・・・あたし達に言ってくれればいーのに・・・」
頬を膨らませて後藤は言う。どうやら怒っているようだ。
「まぁまぁ、矢口が帰ってくるまで待とうよ」
苦笑いをしながら私はカメラをカバンにしまう。
「・・・帰って来なかったら?」
小さく消えそうな後藤の声。はっと私は後藤を見た。今にも泣きそうな、そんな表情。
・・・いや、矢口は必ず帰ってくる。私達の所に。
後藤の頭をクシャッと撫でた。
「大丈夫」
と一言そう言った。
矢口真里という人間は『仲間』を信じ愛する奴だから。
ならばこっちも信じてやろう。
その内ひょっこりいつもの笑顔で帰って来て土産話をこっちが呆れるぐらいに
話してくれる。
「後藤、どっか出かけるか!」
「え?でもお正月は何処も混んでるから嫌だって市井ちゃんが・・・」
「気が変わったんだよ。ほら、支度しろ〜」
「・・・うん!」
- 332 名前:作者。 投稿日:2005/01/08(土) 20:52
- 今年初の更新です(^−^
>328 ミッチー様。
明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします。
(〜^◇^)<これからもよろしく!
( ^∀^ノ<お前は何処にいんだよ!?
(〜^◇^)<それは教えない!!
新年明けましておめでとうございます。
ついに『ココロの歌』も2005年を迎えました。読んで下さっている方々の
おかげです。本当にありがとうございます。今年も頑張ります。
- 333 名前:ミッチー 投稿日:2005/01/08(土) 22:44
- あけましておめでとうございます!
矢口さんやらかしてくれましたネ〜。
まったく、目が離せないよ(W
作者。さん今年も頑張って下さい。。。
- 334 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/17(月) 20:00
-
<矢口 視点>
「矢口、朝だよ。矢口〜!」
誰かの声が聞こえた。
「ん〜・・・何・・お母さん・・・まだ冬休み・・・」
「何寝ぼけてんの!私は矢口のお母さんじゃないよ!」
「・・?」
オイラはもぞもぞと起き出した。目をこすりながら辺りを見回す。
ここはオイラの部屋じゃない。知らないとこだ。
「おはよ、矢口」
横を見ると圭織が呆れて笑っていた。
「・・・おはよ、圭織」
そう、ここは圭織の家で。
オイラは今、イタリアにいるのだ。
「私、ちょっと出ないといけないから。朝ご飯テーブルの上ね」
「あ・・・うん。ありがと」
「じゃ、行って来ます。あ、すぐ帰ると思うけど出かけるなら、コレ」
圭織は何かをオイラに渡す。見るとそれは鍵だった。
「戸締りお願いね〜」
「わかった。行ってらっしゃい!」
バタンと扉が閉まる音が聞こえた。オイラは横になっていたソファから立ち上がる。
毛布をたたんでソファに置いた。それから洗面所に向かい顔を洗った。
- 335 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/17(月) 20:22
- 洗面所から出てテーブルを見ると卵焼きと焼き魚がラップをして置いてある。
キッチンを見ると味噌汁の入ったお鍋、ご飯が入った炊飯器。この家の中を見る限りじゃ
とても外国にいるとは思えない。圭織はご飯が好きだからきっとほとんど自分で日本食を
作って食べているんだろう。
「いただきます!」
ご飯と味噌汁をよそって、お茶をいれて元気よく挨拶。もぐもぐとご飯を食べる。
・・・さすがにみんなに黙って来たのはまずかったかなぁ。
思い立ったらすぐ行動。それがオイラのモットーなわけで。
とりあえず何処か一人で外国へ行ってみようと思った。家族にこの事を話した時に
さすがに一人娘を外国に行かせるのは納得がいかないらしく。
『お姉ちゃん。外国って危険なんだよ?』
『そうだ。お父さんは許さないからな』
『お母さんもちょっとねぇ・・・真里一人で行かせるのは心配だわ』
まぁ、確かに考えてみるとそうかもしれない。そこで外国で知ってる人はいるかと
考えてみたら圭織の顔が浮かんできたというわけだ。
圭織の家に昨日の夜来た。何も連絡無しで来たオイラに圭織は驚いていたけどすぐに
家にいれてくれた。そして喜んでくれた。オイラが来た理由を話すと。
『わかった。好きなだけいなよ。私も矢口と久しぶりに話せて嬉しいし』
と笑顔で言ってくれた。この時、何だか嬉しくて少し泣いた。
- 336 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/17(月) 20:45
- ・・・頑張ろう。
あの大好きな街から、大好きな仲間から。
離れられるように強くなろう。
子供が親離れをするように。
大丈夫。だって離れてもあの“場所”は無くなったりしないんだから。
「ごちそうさま」
自分の作った食器を洗って、パンパンに膨らんだトランクから服を引っ張り出して
着替えた。歯みがきをして出かける支度。コートを着てカバンを持ったらさぁ出発だ。
「うわぁ、眩しー」
一歩外に出るとそこはやはり日本と違って外国だ。歩いてる人はみんな外国人。
聞こえてくる会話は全て英語。見るもの聞くもの、オイラにとっては全てが新鮮だった。
とりあえずオイラはこの辺を歩く事にした。初めて歩く所は緊張するが冒険みたいで
わくわくしていた。
「あ、そうそう」
カバンの中からお父さんから借りたカメラを出した。何故カメラを持って来たか
というとオイラがどんなものを知らない世界で見てきたのか、その瞬間をカタチにして
残したいのだ。そして仲間達に教えてあげたい。
パシャッとシャッターを切る。カメラの使い方はお父さんに借りた時にばっちり教えて貰った。
歩いていくと公園が見えてきた。小さな子供達が楽しそうに遊んでいた。
ベンチに座って見ていると男の子がオイラに近付いて来た。それは遊んでいたボールが
オイラのとこに転がってきたからだ。オイラはボールを拾うとその男の子に渡した。
満面の笑みで男の子は受け取り、仲間のもとへ走って行った。
その時、オイラは自然にシャッターを切っていた。その男の子の後ろ姿を。
それからいろんなモノを撮った。小さな子供達、快くピースをしてくれたおばあちゃん。
青空を飛ぶ鳥、くるまって寝ている猫、おいしそうなパンを売ってるパン屋さん。
綺麗な花がある花屋さん。
「ふぅ・・・帰ろうかな」
さっきのパン屋さんでベーグルを買い、圭織の家へ帰った。
- 337 名前:作者。 投稿日:2005/01/17(月) 20:49
-
>333 ミッチー様。
(〜^◇^)<オイラから目を離すなよ!(w
やらかしてくれました、この方(笑)はい、今年も頑張ります!
どうか暖かい目で見守ってて下さい。
矢口さんの冒険といったとこでしょうか・・・・。
彼女はカメラのレンズを通してどんな世界を見るのか。
そして仲間のもとへ帰った時、何を思うのか。
それはまた次回に。
- 338 名前:ミッチー 投稿日:2005/01/18(火) 17:45
- 更新お疲れさまデス。。。
矢口さんの行動力すごいっすネ。
そんな所に居るんですネ。
帰ってきたときの事を考えると、続きが見たくてたまりません(W
- 339 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/19(水) 20:39
-
<飯田 視点>
びっくりしなかったって言ったら嘘になるけれど、矢口がやりそうな行動だなと思った。
どうせ『迷惑だから帰って』なんて言っても頑固で1度決めたら絶対行動の矢口には
効かないのだろう。それに全然迷惑だなんて思ってもない。むしろ嬉しい方だ。
矢口には矢口なりの事情があるけど、私はまたこうして矢口と過ごせるのが嬉しくて
たまらなかった。何だか過去に帰った気分だ。
「≪カオリ、何だか浮かれてるね?≫」
イタリアの美術関係の大学の友達がニヤニヤして聞いてきた。
「≪そんな事ないよ≫」
「≪嘘〜。もしかして恋人?≫」
「≪そんな事ないよ。じゃ、また≫」
私は大学に置いておいた自分の絵を取りに来た。用事を済ませるとさっさと大学を出て
家路につく。自然と早足になるのは家に矢口がいるからだ。
家に帰ると矢口はいなかった。キッチンを見るとちゃんと食器が片付いてある。
そしてテーブルの上に紙が一枚置いてあった。
<少し散歩して来ます!! 矢口>
必要事項を書いてある他に犬の絵やら何だか得体の知れない宇宙人の絵が描いてある。
「何コレ・・・」
それを見ていたらだんだんおかしくなってきて笑ってしまった。そのメモは私の手帳に
大事にしまっておいた。それから1時間経過、矢口は帰って来ない。
「何処まで散歩に行ったんだか・・・」
私はソファに座って時計と睨めっこをしていた。
・・・・それにしても、誰かを待つだなんて久しぶりだなぁ。
そんなのん気な事を考えつつ、私はコーヒーを飲もうと立ち上がった。
この時、私は知る由も無かった。
──矢口が迷子になっているだなんて。
- 340 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/19(水) 20:55
-
<矢口 視点>
『圭織の家へ帰った』でこの前は終わっているけれど。
そんなかっこよい終わりは迎えられなさそうだ。
「さーて、ここは何処かな?」
何と帰り道がわからない。確かに散歩をしていた時、行き当たりばったりで進んでいた。
曲がり角を適当に進んで覚えなかった。それが悪かったんだと思う。
「うん!こっちの角を曲がって来た気がする!」
こうやって曖昧な記憶を一生懸命さぐり帰ろうとはしているんだけど。
行き止まり。
「うわーん!どうすりゃいいんだよぉー!」
叫ぶオイラを通行人の外国人達がジロジロ見てくる。誰かに道を聞くというのも帰る方法
の一つなのだが、オイラはそんな余裕も無かった。ため息をつきながらそれでも歩こうと
足を動かした。とにかく自分で動かなきゃ何も始まらないのだ。早くしないと日が暮れて
帰れなくなってしまう。
「圭織ぃ・・・帰りたいよぉ・・・」
知らない場所がこんなに怖いものだとは初めて知った。涙を必死に抑えながら歩いていると
小さな女の子がきょとんとオイラを見ていた。そしてオイラに近付いてきて何かしゃべっている。
だけどしゃべるのが早くて何を言っているかわからない。こんな事ならリスニングをちゃんと
勉強していれば良かった。オイラはどうしようと思いながら、ひらめいてズボンのポケットに
いれておいた圭織の住所を書いた紙を取り出した。
「ここ、ここに行きたいの!」
必死に住所を指差す。女の子はそれを読む。
「kaori?」
「そう!圭織!」
「OK」
するとわかったのか、女の子はオイラの手をひいて歩き出した。
もうとにかくこの女の子を信じるしかなかった。
- 341 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/19(水) 21:10
-
<飯田 視点>
あれから更に1時間後が経った。何だか不安になった私は少し周辺を探してみようと思い
コートを着て家を出た。この場所は矢口の初めての場所だ。何か困った事が起きたのかも
しれない。鍵をかけて歩こうとした時。
「圭織!」
「・・矢口!」
そこに矢口の姿があった。矢口は泣きそうな顔して私に向かって走って来た。
「圭織ぃ〜!」
走って来た矢口を私は受け止めた。ふと視線を上げると私の知っている少女がいた。
「≪カオリ、久しぶり≫」
「≪チェルシー、何で?≫」
「へ?圭織知ってるの?」
「うん。この子、私がよく行くパン屋の娘さんなの」
ほら、矢口が持ってる袋と言って私は矢口が持ってる袋を指差した。
「あぁ・・・そうだったんだ」
「≪うちのパン屋の袋を持ってたからどんな人か見てたら困ってたの≫」
「≪ありがとう。助かったよ。この人、私の大事な親友なの≫」
矢口は私から離れてその少女─チェルシーの方を向いて何度も「サンキュー」と言っていた。
すごいカタコトのような英語だったので私はちょっと笑ってしまった。でも本人はいたって
真剣だ。
「≪ねぇ、カオリ。この人、カオリと同じ年なの?≫」
「≪そうだよ。こう見えても大学生なんだよ≫」
そう言うとチェルシーはすごくびっくりして矢口を見ていた。
- 342 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/01/19(水) 21:20
- 「え?何々?」
きっと背が低いから大学生には見えなかったんだろう。だってチェルシーは矢口より
ほんの少ししか高さが変わらないんだから。でも矢口はこれを聞いたら怒ると思う。
「≪またうちに買いに来てね≫」
「≪うん。ホント、ありがとう≫」
「≪そこのお姉ちゃんにも言っておいて≫」
「≪もちろん≫」
こうしてチェルシーは去って行った。
「矢口・・・まさか迷子になってるなんて思わなかったよ」
「だってー・・・どんどん進んでたらわかんなくなっちゃったんだもん」
「にしても、小学生に助けられるとはねぇ」
「しょ、小学生なんだ・・・・」
・・・全く、矢口は相変わらずだなぁ。
「さ、入ろう。ベーグル?」
「うん。おいしそうだったから」
「英語で道も聞けないのによく買えたね」
「・・・買い物の時使う英語はちゃんと覚えてきたよ」
何でこんなに私の親友は面白いんだろう。私は笑いを堪えながら玄関の扉の鍵を開けた。
これに懲りてもう一人で冒険に出かける事はないだろうなと私は思った。
- 343 名前:作者。 投稿日:2005/01/19(水) 21:23
-
>338 ミッチー様。
矢口さんの行動力はすごい!作者もこんぐらいの行動力が欲しいです(w
仲間の元へ帰る時はきっとすごく成長しているんだと思います。
矢口さんの小さな冒険が・・・・。
迷子にならないようにしましょう(w
- 344 名前:ミッチー 投稿日:2005/01/21(金) 01:50
- 更新お疲れさまデス。。。
矢口さんしっかり!(W
ちゃんと事件を起こしてくれるあたり、さすが!って感じですネ。
- 345 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 17:07
- 更新お疲れ様です。
イタリアに来て、英語を使うなんて矢口さんさすがですね。
- 346 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/11(金) 16:41
-
<後藤 視点>
「んぁ〜・・・」
「ごっちん、寝るなよ」
「まだ1問しか解けてないよ?」
「後藤、せっかく石川がいるんだからちゃんと教わっておけ」
もうすぐ春休みが終わってしまう。梨華ちゃんとよしこが県立の図書館で
勉強すると聞き、何となくついてきたあたしと市井ちゃん。春休みの課題を
よしこと共に机に広げていたのだが、全くさっぱりわからなくてそう思った途端に
眠気が襲ってきた。市井ちゃんはというと優雅に本なんか読んでいる。
「梨華ちゃん、ここわかんないんだけど」
よしこがノートを梨華ちゃんに見せて質問し始めた。
「あー、ここはね・・・」
最近、よしこの成績が微妙に上がったのはこのせいなのか。嬉しそうに梨華ちゃんから
英語を教わっているよしこを見て少し羨ましくなったりする。
「ねぇ、市井ちゃん、ここわかんない」
少しだけ期待を持ち隣にいる市井ちゃんに聞いてみた。市井ちゃんは本を開いたまま
机に置きあたしのノートを覗き込んだ。少し間が開いて。
「わかんねぇ」
・・・・期待したあたしがバカだった。
「・・・市井ちゃんのアホー・・・」
「何だと?お前、私の成績知ってんだろ?だったら聞く相手を間違ってるよ」
市井ちゃんはそう言ってまた本を読み始めた。
図書館に来たのは午前中の9時くらい。何とか梨華ちゃんにわからないとこを
教えてもらい英語の課題が片付いた。自分でもびっくりだ。
「ごっちんが課題完璧に終わらせるなんてスゲー」
「よしこ、あたしを見くびっちゃ駄目だよ」
お昼頃になりお腹がすいてきたあたし達はどっかでお昼ご飯を食べようという事に
なった。
「近くのファミレスでいいな。今日はみんな頑張ったから私の奢りだ」
「やった!市井さんかっけー」
「いいんですか?」
「いいって。石川には後藤が世話になってるしな」
「ありがとうございます」
- 347 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/11(金) 17:22
-
<市井 視点>
ファミレスに行くと昼という時間とあってか混んでいた。少し待ち、私達は
テーブル席についた。早速メニューを開いてそれぞれ注文を決める。店員さんに
注文をし私はトイレに行く為、席を立った。すると顔見知りの人に会った。
「なっちじゃん」
「あ・・・紗耶香」
なっちの顔はいつもの笑顔がなくて少しやつれているように見えた。
・・・矢口の事か・・・。
「一人?」
「うん」
「一緒に食わない?後藤と吉澤と石川もいるんだ」
するとなっちは首を横に振った。
「ありがと。でももう帰るから」
「そっか・・・じゃ、また今度。あ、うちに遊びに来てよ。後藤が喜ぶから」
最後には少し笑顔が見れたが何だか無理に笑っている感じがした。
・・・矢口、もう帰って来いよ・・・。
いつもより小さく見えるなっちの背中を見て私は思った。
なっちは矢口の一番の仲良しだからなぁ・・。
トイレから戻り出された水を飲みながら考える。
「市井ちゃん?」
「ん?あ・・・何だっけ」
「矢口先輩のことッスよ〜」
「あぁ・・さっきトイレでなっちに会ったよ」
「えぇ!?安倍さんッスか?」
「何か元気なくてさ。矢口ももう帰って来て欲しいな」
「そうですね・・・矢口さんがいないと寂しいですよね」
「んぁ。あの元気で明るい笑顔があたし達にパワーをくれるんだもんね」
矢口真里という人物は知らない間に私達に取って大きな存在となっていた。
まぁ・・・確かに、矢口がいなければ私達が集まる事もないんだよな。
「でも、先輩の事だし。もうすぐ帰って来るよ。だって先輩はあたし達の事、
大好きなんだから」
こうやって後藤が笑うようになったのも、矢口のおかげなんだ。
- 348 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/11(金) 17:40
-
<柴田 視点>
春休みだけれど受験のおかげで全くのんびりしていられない。
「はぁ、早く自由になりたい・・・」
「あゆみーファイトー負けるなーファイトー」
「んな応援いらんわッ!」
「えー、せっかくあゆみを励まそうと思ったのにぃー」
マサオは朝からうちにやって来てずっと居座っている。
「あのねぇ、あんたより余裕ないの。私は」
「はいはい。わかってますよ」
「だったらコーヒーいれて」
「え・・・・何故・・?」
「私を励ます為に来てるんでしょ?」
「・・・はい」
マサオが部屋を出て行くのを見届け、私は気分転換にパソコンを起動された。
あぁ、キーボードに触るなんて久々・・・。
メールボックスを開くと何通かメールが届いていた。友人からのメールや
迷惑メールが来ていた。迷惑メールは削除し、友人のメールを見ていく。
「・・・ん?」
一通だけ迷惑メールではないけれど知らないアドレスから来ていた。
「件名『やっほ〜!矢口だよー』・・・えぇ!?」
矢口さんと言えばあの矢口さん?どっかにいなくなっちゃって私達が必死に探した
あの矢口さん?
私はすぐさまメールを開いた。
柴ちゃんへ。
元気ー?オイラは元気だよぉ。今何処にいるかわかるかな?
多分、みんな心配してるだろうけど、みんなに黙っていなくなっちゃって
本当にごめんなさい。今はね、圭織のとこにいます。初めての外国は
全てが新鮮で楽しいです。あ、ちなみに圭織のパソコンからメール送らせて
もらっています。みんなにオイラは元気だよって伝えてくれると嬉しいな。
えーと、もうすぐ春休みも終わりだね。だからそろそろ帰ろうと思ってます。
じゃぁね!勉強頑張れ〜!
矢口真里より。
「・・・・」
矢口さんから来たメールを凝視し何度も読み返していた。
「・・・知らせなきゃ。早くみんなに・・・」
「あゆみー。コーヒーだよぉ」
マサオの声を無視してこのメールを印刷する。
「あゆみ?」
「矢口さんからメールが来たの!」
気付いたら私はプリントした紙を握りしめて家を飛び出していた。
- 349 名前:作者。 投稿日:2005/02/11(金) 17:46
- 更新が遅くなってしまい申し訳ありません(^−^;
>344 ミッチー様。
(〜^◇^)<オイラはしっかりしてるよ!
まぁ、さすが矢口さん!ですよね(w
>345 名無し飼育さん様。
さすがですよね。矢口さんという事でお見逃し下さい(w
久々の更新!そして矢口さんが帰ってくる!という事で。
やっとか〜とお思いの方がいると思いますが(笑
次回はいよいよ矢口さん帰国です。
- 350 名前:ミッチー 投稿日:2005/02/12(土) 05:13
- 更新お疲れさまデス。。。
そういえば、市井さんってアホだったんですよね。
忘れてました(W
淡い期待を持った後藤さん、残念でした〜。
続き気になります。
- 351 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/12(土) 17:15
-
<後藤 視点>
春休み終了まであと3日。あたしは数学の課題を終わらせるのに必死だった。
市井ちゃんは仕事でいなくて、今日は1日一人で家で過ごしていた。
「んぁ・・・何で答えが合わないんだろ・・?」
シャーペンを持ちながらあーだこーだ唸っているとピンポーンという音が聞こえた。
ん?誰だろ?
あたしは立ち上がって玄関に行く。その間もピンポンピンポンと音が響いていた。
「はいはい・・今開けますよって・・・」
鍵を開けて扉を開けようとした途端、向こうが勢いよく扉を開けた。そのせいで
前へ倒れそうになった。
「ごっちん!?大変なの!!」
「・・・柴ちゃんじゃん。どうしたの?急いで」
久々の再開を感激に浸る間もなく柴ちゃんは一枚の紙をあたしに見せた。
「コレ!早く読んで!」
「んぁ・・?」
渡された紙を見るとメールをプリントしたものだった。あたしが読もうとした時、
大谷さんが息を切らしてやってきた。
「あゆみ〜。置いてかないでよぉ・・・」
「マサオが遅いのよ」
相変わらずだなぁと思いながら読み始める。
「・・・・んぁ?矢口先輩が・・・帰ってくる!?」
しかも飯田さんのとこって・・・イタリアだっけ?
「今日ね、メールが届いて・・・」
「そっかぁ。帰って来るんだね・・・」
嬉しさがじわじわと込み上げてきた。何とも言えない嬉しさだ。
「早くみんなに知らせなきゃ!」
あたしは急いで自分の部屋に戻り携帯を探した。そして市井ちゃんに電話。
柴ちゃんは梨華ちゃんへ。大谷さんは藤本さんへ。まぁそこからどんどん
広がって行くと思う。
早く、みんなにこの嬉しさを感じて貰いたい。
ただ、それだけだった。
- 352 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/12(土) 17:35
-
<吉澤 視点>
「えぇ!?矢口先輩が!!?」
『そうなの。今、柴ちゃんから電話があって・・・』
「しかも飯田さんのとこに!?スゲー。先輩スゲー」
『多分、明日ぐらいには帰って来るんじゃないかなぁ』
「やったじゃん!」
うちは嬉しくてベットの上を飛び跳ねていた。梨華ちゃんから電話があり
何だろう?と思いきやこんな嬉しい報告あるとは思ってもなかった。
「あ、じゃぁうち小川達に連絡するわ」
『うん。お願い。私は安倍さんに電話するから』
「おっけー。じゃ、またね」
携帯を切って急いで小川の番号を出しかけた。
『はぁーい。どうしたんですか〜?』
「小川!喜べ〜!矢口先輩が帰ってくるぞ!」
『うぇぇ!?マジですか!?』
電話を通じてみんながみんな喜びを噛み締めていく。
先輩、もう待ちくたびれたんですよ?
早くあの笑顔を見せて下さい。
翌日、うちらは全員ごっちんの家に集まった。
聞くところによると。
柴田さん→梨華ちゃん→うち→小川→紺野→加護→辻
柴田さん→大谷さん→藤本さん→松浦さん
ごっちん→市井さん→中澤先生→石黒先生
梨華ちゃん→安倍さん→保田さん
とまぁ、こんな風に伝わったらしい。まるで伝言ゲームみたいな感じだ。
でも誰1人、間違える人はいなかった。ちゃんと矢口先輩が帰って来る事が
伝わっていた。
「にしても良かったぁ〜・・・先輩が帰って来るってわかって」
「ホントホント。帰って来たらみっちり説教だね」
「安倍さん、良かったですね」
「うん!」
みんな笑顔だった。
「そんじゃぁ、パーティせぇへん?」
「裕ちゃん。主役がいないパーティしてどうすんのさ」
「そんなぁ、堅い事ゆーなってぇ。彩っぺ」
みんな喜んでいた。
- 353 名前:作者。 投稿日:2005/02/12(土) 17:43
-
>350 ミッチー様。
( ^∀^ノ<一桁の点数取って裕ちゃんにめちゃくちゃ怒られたっけ。
実はアホな市井さんだったり(w 作者も似たようなもんです。
さぁ待ちに待った矢口さんだ!(何
何だか久々に全員の名前を出した気がする・・・。
- 354 名前:ミッチー 投稿日:2005/02/13(日) 05:23
- 更新お疲れさまデス。。。
ホント久々の全員集合でしたね。
やっぱ矢口さんの存在って大きいんだネ。
早く帰ってきて下さい。
- 355 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/14(月) 20:21
-
<矢口 視点>
重たいカバンを持ってある家の扉の前に立った。少し心臓がドキドキしている。
表札には『市井』と書かれている。
・・・多分、みんなここにいる気がする。
ゆっくり腕を伸ばしてピンポーンと呼び鈴を押した。
「ふぅ・・・いなかったらどうしよう」
少しばかりその場に立って考えてると向こうの扉からドタバタと音が聞こえた。
『うわッ!?ごっちん押すなよッ!!』
『んぁ!あたしが出るんだってば!』
『おいおい、んな暴れるなって。私が出るから』
『うるさいなぁ。裕ちゃんが出たるわ』
『ののが出るー!ののが出るー!』
・・・一体何が繰り広げられているんだろう・・・。
一歩後ろに下がると勢いよく目の前の扉が開かれた。そしてまずよっすぃーとごっちん
がオイラの方に倒れ込んで来た。
「うわッ!?」
オイラはびっくりして後に倒れそうになった。
「いててて・・・」
「痛ーい!よっすぃー!」
「何だよ!ごっちんが押したんじゃんか!!」
二人は立ち上がって何やら言い合いをし始めた。
「お前ら。うっせーから。喧嘩するならよそでやれ」
紗耶香がよっすぃーとごっちんの頭を叩いて言った。
「矢口さんだぁー。おかえりー!」
すると今度は辻が出てきてオイラに抱きついた。
「辻〜。ちゃんと靴ぐらい履きーや」
裕ちゃんが呆れながら出てきた。他のみんなもどやどや騒ぎながら玄関から出てきた。
・・・相変わらず・・・というかパワーアップしたような?
何だか可笑しくてオイラは笑ってしまった。
- 356 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/14(月) 20:34
- 「のの、矢口先輩から離れなさい」
「嫌だ!」
辻を抱えながら家の中へ入る。ごっちんが辻を引き剥がそうとするが辻はなかなか
離れようとはしない。
「むぅー。ののばっかずるいじゃん」
・・・ごっちん、君もこうしたいのか?
「辻、ごめん。ちょっと歩きにくいから・・」
そう言うと辻はしゅんとなってオイラから離れた。オイラは笑って辻の頭を撫でる。
「後で遊ぼうね」
そう言うとぱぁと辻は笑顔になって。
「へい!」
と言いバタバタと奥のリビングへ走って行った。ごっちんを見ると何だか拗ねてる
ように見えて。
「ごっちん」
「・・・んぁ」
「よしよし」
ちょっと背伸びをしてごっちんの頭を撫でる。するとごっちんも笑顔になった。
奥のリビングへ行くとすごい人数が集まっていた。いや玄関の靴を見た時にも
驚いたが。総勢16名・・・オイラをいれて17名がいた。
・・・みんな・・・。
涙がじんわりと溢れてきた。
- 357 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/14(月) 20:48
-
<吉澤 視点>
「あー、痛いなぁ・・・」
「ひとみちゃんが子供みたいに張り合うからでしょ」
倒れた時に打ったひざをさすっていると梨華ちゃんが言った。その顔は可笑しそうに
笑っている。
「だって・・・早く迎えたくてー」
「へぇ。矢口さんを?」
「そりゃ、心配したんだし・・・」
「そっか。ひとみちゃんは矢口さん好きだもんねー」
そう言うと梨華ちゃんはそっぽを向いて玄関に乱雑されているみんなの靴を揃え始めた。
確かうちとごっちんが暴れたせいで靴がぐちゃぐちゃになっちゃったんだと思う。
ありゃ・・?梨華ちゃん、まさか怒ってる・・・?
「梨華ちゃん?」
「何よ」
「まさか怒って・・・る?」
「別に」
いやいや、その口調は怒ってますよ?
何か悪い事を言ってしまったのだろうか。うちは慌てて会話の内容を思い出したけど
何が悪かったのか全然わからない。
「梨華ちゃん、うち何か言った?」
「もういいって」
靴を揃えてる梨華ちゃんの背中を見てうちは困っていた。
「吉澤、吉澤・・・」
後を振り向くと今までの事を見ていたらしい市井さんが手招きをしていた。何だろうと
近寄ってみると市井さんは「耳貸せ」とニヤニヤしながら言った。言われた通り耳を貸すと。
「“世界で一番梨華ちゃんが好き”って言っておけ。後から抱き締めてな」
小声で市井さんは言った。
「へ?」
「大丈夫大丈夫。頑張れよ」
ポンポンとうちの肩を叩いて市井さんはリビングへ行ってしまった。
- 358 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/14(月) 21:00
- とりあえず、言われた通りにやってみようと思い梨華ちゃんの後ろに立った。
・・・世界で一番梨華ちゃんが好き・・・よし。
梨華ちゃんが靴を揃え終わり立ち上がった瞬間を狙って後ろから抱き締めた。
「きゃぁ!?」
ぎゅっと強く抱き締めた。
「世界で一番梨華ちゃんが好きだよ・・・」
梨華ちゃんの耳元で囁くように言ってみる。
「ひとみちゃん・・・・」
「だから、ね?」
「うん・・・」
顔を真っ赤にして頷く梨華ちゃんはものすごく可愛かった。
・・・にしても何で怒ってたんだろう?
「もう、あんまり矢口さん矢口さんって言わないでね」
うちから離れて少し怒った顔をして梨華ちゃんは言った。
あ・・・なるほど。
「あ、みんなのコップの用意しなきゃ」
パタパタと急いで去っていく梨華ちゃんを見ながらうちはやっと理解出来た。
・・・妬いてたんだぁ。可愛いー。
にしても市井さんよくわかったな。やっぱ経験の差なのだろうか。市井さんモテそう
だからなぁ、ごっちんも大変だなぁー。
「やっぱ市井さんってスゲー」
とのん気に思いつつうちはみんなで賑わっているリビングへ向かった。
- 359 名前:作者。 投稿日:2005/02/14(月) 21:08
-
>345 ミッチー様。
(〜^◇^)<ただいまー!!!
我らが矢口さん、とうとう帰って来ました!やっとです。
これで全員本当にそろいました(^−^
矢口さん帰国、そしておまけにいしよしでお送り致しました。
17名って・・・すごいなぁ・・・。
- 360 名前:ミッチー 投稿日:2005/02/16(水) 03:23
- 更新お疲れさまデス。。。
お帰りなさい!矢口さん。
何気にいしよし入ってて面白かったっス。
市井さんは、恋のベテランですネ(W
- 361 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/20(日) 20:24
-
<矢口 視点>
こんなに待っててくれる仲間がいる。こんなオイラの為に。
そう思ったら何か涙が込み上げてきた。
「矢口・・・?」
なっちがオイラの傍まで来て心配そうにオイラを覗き込んだ。
「ごめっ・・・何か、みんながオイラの為に待っててくれたんだなぁって・・・」
どうしよう、涙が止まらないよ。オイラは子供のように泣いていた。
「だから・・・黙っていなくなってごめん・・・ごめんね・・・」
俯いて泣いていたらぎゅっとなっちが抱き締めてくれた。
「もう、いいよ。すごく心配したけど、もう許す」
「なっち・・・」
今度は頭をポンポンと叩かれた。紗耶香だった。
「矢口の考えあっての行動だろ?それならいいじゃねーか。矢口らしいよ」
「そうそう。あたし達はちゃんと待ってるし」
紗耶香・・・ごっちん・・・・。
オイラは涙をごしごし拭いて笑った。
みんな、ありがとう。
ありがとう。
オイラ、思ったんだ。旅をして、そしてここへ帰って来て。
これからみんながこの場所から離れて行っても。
この場所が無くなる事はないんだね。
だから帰る場所があるから。
また、いつか・・・・。
逢える時が来るんだ。
少し臆病になっていたオイラはそんな大切な事に気付いていなかった。
みんなが教えてくれた。
≪大丈夫?≫
もう一人のオイラがそう聞いてくる。
・・・大丈夫だよ。
オイラは今、ほんのちょっとだけど強くなれた。
だってオイラは。
一人なんかじゃないから。
- 362 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/20(日) 20:43
-
<吉澤 視点>
矢口先輩が無事に帰って来てみんな安心していた。
そして三学期が始まった。
何で時間はあっという間に過ぎてしまうんだろう?
すぐに三学期も過ぎるんだろうな。
そしてまた春が来る。
今までよりも寂しい。
春が来る。
「三年の先輩達は大変だねぇ。受験一色で」
昼休みの時間。ごっちんがもぐもぐパンを食べながら行った。
さすがに屋上で食べるのは寒いので教室で昼食を食べている。
「・・・まぁね。うちらも今年の春から受験生だよ?」
「あたしはなぁ、大学あんま行く気ないし」
「え?ごっちん行かないの?」
うちは危うく大好きなゆで卵を落としそうになった。慌てて口の中にいれる。
「だって、いつまでも親戚のおじさんやおばさんに迷惑かけられないしさ。
学費だって高いし。高校行けただけでもすごいよ」
ごっちんもごっちんなりに考えてるんだなぁ・・・。
「あ、でも、奨学金っていう手が・・・」
「んぁ。よしこさ、あたしの学力で奨学金が手に入ると思う?」
そう言われうちは縦に首を振る事が出来なかった。
放課後、梨華ちゃんを迎えに三年生の教室へ向かう。
「あ、ひとみちゃん。どうしたの?部活は?」
「今日は休みだよー。小川が熱出して、紺野はその看病。ごっちんは用事でね」
教室の中を覗くとまだ残って勉強してる生徒がいた。
「ごめん。今日、柴ちゃん達と勉強してて・・・」
梨華ちゃんは困ったような顔をしていた。
「そっか。じゃぁ、仕方ないねー」
「ごめんね。せっかく来てくれたのに」
「いいよ。勉強頑張って」
手を振りながらうちは教室から離れた。
- 363 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/20(日) 21:08
- うちは肩を落としながら下駄箱まで歩いた。
・・・そーいや、梨華ちゃんの入試もうすぐだっけか・・・。
せっかく誕生日が近いのに受験じゃ誕生日どころじゃないなと思った。靴に履き替えて
学校を後にする。
「あれ、よっすぃーじゃん」
横断歩道の信号待ちをしていたら後から知っている声が聞こえた。
「おぉ、ミキティ」
「あはは。何か慣れないあだ名だなぁ」
最近、梨華ちゃんを通じて仲良くなれた。本人は呼び捨てでも構わないと言うけど
一応向こうが年上なわけで、でも「美貴さん」だなんて何か嫌だし。
そこで考えたあだ名が「ミキティ」。しかも本人が考えた。
「自分で考えたくせに、何だよぉ」
「よっすぃーがあだ名がいいって言うから考えたのに」
ミキティは自転車に乗っていた。自転車から下りてうちの隣に立つ。
「バイト?」
「うん。コンビニのバイトが終わって、次のバイト行く途中」
「おぉ、頑張るねぇ」
「まぁね。自分で稼がないと」
「・・・そっか」
信号が青に変わるとミキティは自転車に再び乗った。
「じゃ、またね」
「うん。頑張ってー」
ミキティの背中を見送りながらうちは歩き出した。
・・・ミキティもすごいなぁ。ごっちんもいろいろ考えてるし。
梨華ちゃんは大学に向けて勉強頑張ってるし。矢口先輩もすごい事したし。
・・・・うちは来年、どうなってんだろ?
未来がどうなるかなんてまだまだわかんないけど。
自分なりに考えればいいし。
とりあえず、すぐやってくる未来はわかる。
梨華ちゃんと離れる日。
「・・・もうすぐなんだよなぁ」
ぼーっと空を見上げながら呟いた。
- 364 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/20(日) 21:41
-
<藤本 視点>
次のバイト先へ着くと携帯にメールが届いた。
<学校終わったよー。今から美貴たん家に行って夕飯作るね!今夜は
暖かいシチューだよぉ。じゃ、バイト頑張ってね! 亜弥>
つい笑顔になってしまう。携帯をカバンにしまって自転車にチェーンをつけた。
コンビニの次は喫茶店だ。ここのマスターがすごくいい人で前に客として来た時に
バイトを探してると言ったら快く「うちで働かないか」と言ってくれた。夜の時間
のバイトがいなくて困っていたらしい。大学の近くだから大学生がよく来る。しかも
矢口さんや安倍さんがよく来ていた。
裏口から喫茶店の中へ入ると混んでいなかった。マスターはのんびりコップを拭いていた。
「美貴ちゃん」
「こんばんは。まだ混んでませんね」
「これから混み始めるよ。今の内にのんびりしておかないと」
この喫茶店は夕方から徐々に混み始める。ほぼ大学生で席は埋まるのだが。
「すいませーん」
お客さんの声がかかりマスターが椅子から腰をあげた。
「あ、マスター。私行きます」
「すまないねぇ。最近、腰が痛くてね」
マスターは腰をさすりながら笑った。私は注文を取りにカウンターの中から出て
お客さんの方に向かった。それから大学生が集まってきて混み始めて来た。
注文を取ったり、注文の物を運んだり、忙しかった。午後9時になり私のバイトは
終わった。自転車に乗って家に帰る。自然と自転車のこぐスピードが速くなるのは
亜弥を思っているからだ。家に着いて自転車をいつものとこにとめて階段を上がる。
鍵を開けて家の中に入ると中は真っ暗だった。
「・・・帰っちゃったか・・・」
ため息をついて玄関の扉を閉める。リビングに行き、電気を付ける。
テーブルの上に紙が置いてあるのに気付いた。
美貴たんへ。
おかえりなさい。バイトお疲れ様!シチュー作ったから温めて食べてね。
待ってたんだけど今日は家で夕飯を食べるから帰るね。ホントはすごく
美貴たんに会いたいけど・・・。次に会えるの楽しみにしてるね!
亜弥より
手紙を読んでたら無償に亜弥に会いたくなった。
- 365 名前:作者。 投稿日:2005/02/20(日) 21:45
-
>360 ミッチー様。
( ^∀^ノ<いやぁ、後藤もヤキモチ妬きだからなぁ。
(0^〜^)<市井さんスゲー!!
さすが恋のベテランは違います(w
- 366 名前:ミッチー 投稿日:2005/02/21(月) 01:21
- 更新お疲れ様デス。。。
いしよしは少し切ない感じですね・・・。
進路の話は、なぜか悲しくなるネ。
あやみきの続き、気になります。
- 367 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/21(月) 21:24
-
<市井 視点>
「はぁ?お前、どーゆー事だよ?」
「だからぁ、言った通りじゃん!」
仕事から帰って来て夕飯を食べていた。話題はもうすぐ石川の入試が近いという話だった。
『まぁ、石川なら合格出来るだろ』
『んぁ。あたしもそー思うよ』
『石川が東京行ったら吉澤が心配だな』
『そうだねぇ・・・』
『ま、お前もそろそろ真面目に勉強しないとな。少しは成績上げとけよ』
『え?何で?』
『何でって・・・大学入試を甘く見てると痛い目に遭うぞ』
『あたし大学行かないよ?』
・・・とまぁ、こんな感じで。
「大学行かないのか?」
「うん。いつまでも甘えてらんないし」
後藤はもぐもぐとご飯を食べていた。私は持っていた箸を置いた。
「いや、でもな、後藤。大学には行っておいた方が・・・」
「市井ちゃん行かなかったじゃん。でもちゃんと働けてるし」
「それはなぁ、タイミングが良かっただけなんだよ。たまたま私の写真を見た先輩が
会社を紹介してくれたんだから」
「知ってるよ。もう、うるさいなぁ。ごちそーさま」
かちゃかちゃと食器を片し始める後藤。
「ちょ、まだ話は終わってないよ!ちゃんと聞きなさい!」
私が強くそう言うと後藤はうんざりした顔をした。
「あのな、後藤。金の心配ならすんな。後藤の親御さんが残してくれたのと親戚の
おじさん達が貯めてくれてるのもあるし。私も少しは貯めてるしさ・・・」
「・・・え?市井ちゃん、あたしの為にお金貯めてるの・・・?」
後藤の顔が変わる。どんどん怒った顔になっていった。
「何でそんな事するの?」
「・・・いや、私は後藤は大学に行くべきだと思うし・・・ほら、吉澤だって
高校卒業したら大学へ進学するだろ?石川もそうだし。大学へ行って専門的な
事を学ぶのも大事だと思うんだ」
- 368 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/21(月) 21:39
- 「・・・勝手な事しないでよ!何でそういつも勝手なの!?あたしの為より
もっと自分の為に使えばいいじゃん!それに大学へ行くべきだなんて決めつけ
ないでよ!!もう、とにかくあたしは大学へは行かない!」
後藤はそう怒鳴ると自分の部屋へ駆け込んで行った。バタンと強く扉が閉まる音が
聞こえた。その後に鍵をかける音も聞こえた。
はぁ・・・やっちゃったよ・・・・。
仕方なく椅子に座り直して夕飯の再び食べ始める。せっかく後藤が作ってくれたご飯も
味が全然感じられず食べ終えた。
確かに大学へ行かなくても私のように運が良ければ働けるかもしれない。
でも現実的に考えると難しいもんだ。簡単に見付かれば苦労はしない。
それに今の後藤に夢があるようにはあまり見えない。私には写真という夢が
あったから頑張れたわけだし。
「てっきり大学行くんだと思ってた・・・・」
ため息をつきながら食器を洗った。
翌朝。昨夜はあのまま後藤と会話をする事は無かった。
今日は後藤より早く家を出なきゃいけない。本当は話をしたかったけど仕方なく家を出た。
- 369 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/21(月) 21:59
-
<石川 視点>
学校が終わって放課後、今日は柴ちゃん達との勉強会をお休みにした。
こないだひとみちゃんがせっかく迎えに来てくれたのに勉強会があったから一緒に
帰れなかった。あの時の寂しそうなひとみちゃんの笑顔が忘れられなかった。
うきうきしながら2年生の教室へ行く。
「・・・・あれ・・・?」
教室にひとみちゃんの姿は無かった。
「んぁ、梨華ちゃん」
ごっちんがカバンを持って教室を出て行こうとしていた。
「ごっちん。ひとみちゃんは・・?」
「あぁ、先に部活行ったよ」
「そうなんだ・・・・」
「梨華ちゃん、勉強は?」
「今日は家でやろうと思って。そっかぁ、部活か・・」
「よしこ、梨華ちゃんに会えなくて寂しがってたよ。会いに行けば?」
「でも部活の邪魔しちゃ悪いし」
「んぁ、うちの部は全然大丈夫だよぉ。おいでよ」
ごっちんの言葉に甘えて私は陸上部の部室へごっちんと共に向かった。
「ねぇ、梨華ちゃん」
下駄箱で靴に履き替えた時、既に靴を履き替えたごっちんが言った。
「ん?」
私は靴を履いて上履きを自分の場所に置きながら聞いた。けれどごっちんからの
返事が無い。どうしたのかとごっちんの方を向いたらごっちんは悲しそうな顔を
して私を見ていた。
「どうしたの?何かあった?」
「・・・喧嘩した。市井ちゃんと」
「うん」
「・・・梨華ちゃんは大学に行くんだよね」
全く話が見えない。だけど私はごっちんの言葉に耳を傾けた。
「そうだよ」
「・・・大学に行くのが全てなのかなぁ」
ごっちんの口から大学っていう言葉が出たのに驚いた。いつも勉強よりも寝る事が
好きなごっちんが。
「・・・別に、それだけが全てじゃないと思うよ?」
とりあえず自分の意見を言ってみる。
「あたしもそう思うんだけど・・・」
- 370 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/21(月) 22:22
- ごっちんは市井さんと喧嘩した内容について私に話してくれた。
「市井ちゃんはあたしに大学に行くべきって言ったんだよ?勝手に何でも
決めつけるんだから」
「・・・ごっちんは大学に行きたくないの?」
「行きたくないっていうか・・・んー、何ていうか、あたし嫌なんだよね」
「何が?」
「いつまでも市井ちゃんの荷物になりたくないっていうか・・・早く自立したい」
話を聞いてると市井さんはごっちんの為にお金を貯めているらしい。それがごっちん
にとってすごく嫌で、ごっちんは自分の為にではなく市井さん自身の為に使って欲しい
と思っている。
「でも、ごっちん。市井さんはごっちんの為を思って」
「それが嫌なの」
もうすぐ部室に着いてしまうけどまだ話が終わっていないので私達は中庭に行った。
空いているベンチに座る。
「今までさ、市井ちゃんと離れるのが嫌だとか駄々こねてたけど・・・・あたし、
少しは大人になったんだよ?最近、思うんだ」
ごっちんは空を見上げながら言う。私もこの一年彼女を振り返って大人になったと
思う事がある。
「市井ちゃんの夢があたしのせいで壊れて欲しくないって。だからね、早く働いて
今の住んでる家賃とか生活費とか自分の分だけでも払えるようになりたい・・・。
ねぇ、これって間違ってるのかな?」
「・・・ううん。間違ってはないと思う」
ごっちんもごっちんなりに考えてるんだ。何かすごいなと私は思った。
「つまり、ごっちんは市井さんの為にって事だよね」
「うん」
お互いがお互いの事を想い過ぎてるのかなと私は思った。
でも二人とも不器用だからなかなか相手に気持ちが通じなくて。
「・・・ごっちん。市井さんに自分の気持ち、ちゃんと伝えなよ。
あとは、ちゃんと相手の気持ちを感じる事」
「・・・梨華ちゃん・・」
「きっとね、大丈夫だと思う。ちゃんと話合ってみて?」
気持ちっていうのは時には言葉にしないと通じない事があるから。
ね、ひとみちゃん。
早く会って話がしたいよ。
- 371 名前:作者。 投稿日:2005/02/21(月) 22:26
-
>366 ミッチー様。
いしよしだけでなく他にも切なくなりそうです(^−^;
進路はいろんなカタチがあると思いますが、なかなか難しいものですね。
あ、あやみきの方はもう少し待ってて下さいねー。
- 372 名前:ミッチー 投稿日:2005/02/23(水) 13:03
- 更新お疲れ様デス。。。
後藤さんも、後藤さんなりに考えてるんですネ。
早く仲直りして欲しいです。
- 373 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/23(水) 15:39
-
<吉澤 視点>
「先輩〜。まだですかぁ〜?」
「まだまだ。あと100回」
「いい加減、手が痛いんですけど・・・」
小川に肩をもんでもらっているうち。
「吉澤先輩、どんどん使って下さい」
「おう、悪いなー。紺野」
「そんな!あさ美ちゃん・・・」
「いえ。先輩にはお世話になってますし。ね、まこっちゃん。大丈夫だよね?」
「・・・ハイ」
・・・にしてもごっちん遅いなー。確か掃除当番だったんだよね・・・。
肩もなかなかにほぐされた所で。
「さて、行くか!」
「え?終わりですか!?やった!」
「走りに行くぞ」
「休憩なし・・・?」
「まこっちゃん行くよ!!」
「えぇ〜・・・・」
うちらは部室を出て走り出した。今日もいい天気、少しばかり風が強いけど。
快調に飛ばしていたら紺野は辛うじてついて来ていたけど、小川はさっきの
肩もみで疲れたせいでかなり遅れていた。
「小川ぁー!ペース遅れてんぞー!」
「はぁ〜い・・・」
少しきつ過ぎたかなと思いつつ、まぁいいかと走り続けた。
校庭を5周したとこで少しスピードを落として走った。急に立ち止まるのは危険だから
ゆっくり走って、歩いて、立ち止まる。
「紺野。小川に休憩って伝えておいて」
「はい」
だいぶ遠くにいる小川を見て必死に走っていたので「ジュースぐらい奢るか」と思い
中庭にある自販機に向かった。軽くスキップをしながらジャージのポケットに手を突っ込んだ。
「あったあった♪あいつらは何がいいかなぁ〜」
中庭の自販機を見つけて早速ポケットの中にある小銭を自販機にいれようとした。
「おっと」
落としてしまい十円が転がっていく。うちは慌てて追いかけた。
「行かないでくれ〜」
やっと追いついて十円を拾い立ち上がった。するとうちの視界にある二人が映る。
ごっちんと梨華ちゃんだった。危うくまた十円を落としそうになった。
- 374 名前:作者。 投稿日:2005/02/23(水) 15:49
-
微妙な更新で申し訳ないです。また今夜更新します。
- 375 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/23(水) 22:39
- 何の話をしてるんだろう?
二人は真剣な顔をして話をしている。ただの話ではなさそうだ。
「うぅ・・・気になるなぁ」
気になるけど話の中に割り込むのは嫌だから我慢して再び自販機の前に戻った。
とりあえずジュースを適当に3つ買って中庭を出て校庭へ向かった。
戻ってみると朝礼台に座っている小川と紺野がいた。何やら楽しそうにしゃべっている。
・・・何か、寂しいなぁ。
「あ!吉澤先輩〜!何処に行ってたんですか?」
小川が大きく手を振って言った。うちは小走りに駆け寄った。
「ジュース買って来た。どれがいー?」
3つジュースを差し出すと紺野が顔を輝かせて覗き込んで来た。
「あ、オレンジがいいな」
「んじゃ、小川はオレンジな。紺野は?」
「私、アップルで」
うちの手にはグレープが残った。プシュッとあけて一口飲む。炭酸の刺激が心地良かった。
「あ、あさ美ちゃん。そっち一口ちょーだい」
「いいよぉ。はい」
「交換ねー」
隣をチラッと見る。何だか面白くない。
はぁ・・・早くごっちん達の話終わらないかなぁ。
ぐびっとジュースを一気に飲んだら鼻に炭酸の刺激がきて咽た。
「先輩、何してるんですか」
「一気に飲んじゃ駄目ですよ」
「わかってるよ!ぐぇ・・・」
鼻を押さえながら遠くを見るとあの二人の姿が見えた。今度は笑顔で少し安心した。
- 376 名前:作者。 投稿日:2005/02/23(水) 22:43
-
- 377 名前:作者。 投稿日:2005/02/23(水) 22:46
-
>372 ミッチー様。
( ^▽^)<早く仲直りしてね♪
大丈夫です。すぐに仲直りします!
376はミスです・・・。何か今日はホント時間がない・・(T−T
たくさん更新したいのに・・・。明日こそは頑張ります。
- 378 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/24(木) 21:27
-
<矢口 視点>
「あれっきり会話無しでさ、家に帰っても後藤は部屋に閉じこもってて。
避けられてるんだよ」
もう午後7時を過ぎた頃。やっと大学の受講が終わったかと思えば紗耶香に電話で呼び出された。
「何つーか。反抗期ってやつなのか?よくわかんねぇけどさ」
呼び出された場所はちょっとお洒落なバーだった。行ってみると紗耶香は少しお酒を
飲んでいて酔っ払ってるみたいだった。いや、お酒には強いはず、かなり飲んでる。
「もうさー、どうしたらいいのかなぁ・・・。あ、矢口も何か飲む?」
「・・・紗耶香、飲み過ぎだよ。やめたら?」
「いいんだよ。今日ぐらい」
グラスに入ったお酒を一気に飲み干す紗耶香。
「すいません。コレもう一杯」
もう駄目だこりゃ・・・・。
今日の紗耶香は誰にも止められない。全く、ごっちんの事となるとこれだからなぁ。
とりあえずごっちんの話を聞いたオイラとしては、何としてもこれは解決しなきゃいけない。
新たに出されたお酒を飲んでる紗耶香の横顔を見ると何だか寂しそうな顔をしている。
そうとうまいってる証拠だ。
「・・・紗耶香。オイラはさ」
「ん?」
「ごっちんが思う道に進めばいいと思う」
「・・・後藤が思う道?あいつに何か夢でもあんのか?」
「それはわかんない」
オイラは「だけど」と付け足す。紗耶香がオイラの方を見た。
「ごっちんはさ、紗耶香が思ってるほど子供じゃないよ?」
紗耶香と目を合わせて言った。すると紗耶香はオイラから目を逸らした。
「・・・あいつは、まだ子供だ。ぎゃぁぎゃぁ騒ぐだけ騒いで後は黙って」
「違うよ。ごっちんは大人になったよ・・・っていうか、大人とか子供とか
そんなの関係ないかもね・・・・」
オイラはごっちんをずっと見てきた。ずっと見てきてごっちんは変わった。
すごく良くなったし笑顔が絶え間なくなった。感情が豊になって泣いたり怒ったり笑ったり
人の見る前で出来るようになった。オイラ、それが本当に嬉しいんだ。
- 379 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/24(木) 21:56
- 「・・・まぁ、そうゆう風に境界線を作るのはいけないかもな。でも私は
後藤が大学に行って、安定した社会生活を送って欲しいんだよ・・・」
確かに、大学に行くのと行かないのとじゃ社会に出ての扱いが変わってしまう事もある。
全く嫌な世の中だ。でもそれが現実の社会状況。辛い思いをして来た紗耶香にはよく
わかるんだろう。
「・・・紗耶香のごっちんに対する気持ちはじゅーぶんわかる」
「私もさ、大学に行こうと考えたけど、夢があったから、写真があったから行くの
やめた。でも、後藤に夢とかコレだって言うもんが見えない。それに夢を見付ける
のも大学に行って出来るだろ?矢口はどうなんだよ?」
「オイラは・・・どうだろ。紗耶香が思ってるように大学に行った方が有利だと
思ったから進学したかな。親の希望もあったけど」
そう思うと何だかだんだんオイラが暗くなっていってしまう。
「矢口はこれから大学生活の中で見付けんだろ?自分のやりたい事」
「うん。オイラさ、圭織のとこ行って思ったよ。自分のペースで見つけようって」
だから、それは誰にだって言える事なわけで。
みんなそれぞれにペースがあるんだよ?
「紗耶香。ごっちんもちゃんと考えてる。これからの自分の事、ちゃんと考えてる。
だから、しっかり聞いてあげてよ。お願い」
「矢口・・・」
「これからの道は紗耶香が決める事じゃない。ごっちん自身が決めるんだよ」
「・・・何かはっきり言われるとぐさっとくるな」
紗耶香は自分の胸らへんを指差して「ココロにぐさっときた」と笑って言った。
「・・・ごめんね」
「何で矢口が謝るんだよ。今ので目が覚めたかなー」
そう言って紗耶香はお酒を飲むのをやめた。
「矢口、ありがと。何かさ、私、後藤の事束縛しようとしてた」
「・・・え?」
「傍に置いて離れないようにしようとしてた。好き過ぎて」
「・・・それは、怖いよ」
「怖いなー。危ない、危ない」
最初に見た紗耶香はもうそこにはいなかった。笑ってる紗耶香がいた。
「そうだよな、後藤の事は後藤が決めるんだよな」
「そうだよ。紗耶香が、今の道を自分で決めたようにね」
・・・これで解決、かな?
- 380 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/02/24(木) 21:58
-
自分のペースで見付ければいい。
みんなそうやって“道”を見付けていくから。
焦ったり、ゆっくり過ぎたりするけど。
見守ってくれる人がいるから。
大丈夫なんだよね。
- 381 名前:ミッチー 投稿日:2005/02/25(金) 15:40
- 更新お疲れ様デス。。。
やっぱ、矢口さんは頼りになるネ!
さすが色々な事を解決してきただけの事はありますネ。
- 382 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/03/02(水) 20:32
-
<石川 視点>
部活姿のひとみちゃんを見るのは久しぶりだった。入試に向けての勉強ばかりで
こっちに顔を出す事が前より減ってしまっていたからだった。
・・・あれ?
「あは、よしこ何やってんの?」
中庭の方から校庭へやって来るとひとみちゃんが前かがみになってむせている姿が見えた。
二人で何だろう?と思いながら近付いて見るとどうやら炭酸を一気に飲んでしまったらしい。
「大丈夫?」
私がひとみちゃんの背中をさすってあげるとひとみちゃんは辛そうな笑顔で
「大丈夫だよ〜・・・」
と言った。それから部活が始まり、私はお手伝いという事でみんなのタイムを測る事になった。
朝礼台に座ってストップウォッチの準備をした。
「よっしゃぁ!一番ビリだった人は明日みんなの分のジュース奢る、どう?」
「んぁ。いいねぇ」
「いいですよ。ね、まこっちゃん」
「え・・あ、うん」
距離は長距離という事でとりあえず1000mで校庭5周。自分が走ったらすぐに
バテてしまいそうだなぁと思った。
「梨華ちゃん、オッケー?」
「あ、うん」
まずはひとみちゃん対まこっちゃん。何だか二人とも「うぉー!」と叫んでいる。
「小川ぁ、絶対負けねぇから!」
「私も負けませんよ!」
バチバチと火花があがりそうに二人は睨み合っていた。何故かあごも出てるのは気のせいかしら。
「じゃぁ、行くよ!よーい・・・」
ピー!と私が笛を鳴らした。それと同時に二人が走り出す。
「んぁ、似たもの同士の戦い。見物だねぇ」
ごっちんが腕組をして楽しそうに言った。
- 383 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/03/02(水) 20:56
- すぐに二人は校庭を2周して来た。これぐらいでバテてたら陸上部員ではないと
ごっちんが言った。それは矢口さんの教えらしい。
・・・そういえば、矢口さんがいた時の部活って結構厳しいんだよね。
ひとみちゃんとまこっちゃんは全力で走っていた。ペースが崩れる事は無い。
「んー、どっちが勝つかなぁ。紺野はどっちだと思う?」
「そうですねぇ・・・やはり経験差からして吉澤先輩ではないでしょうか」
「へぇ。まぁ、二人ともかなり全力だしね。どっちが先にバテるか・・・」
「ね、私には聞かないの?」
「んぁ。梨華ちゃんはよしこでしょー?」
「もちろん」
決着はその直後に起きた。二人がほぼ同時に4周を走りきった時、ラストスパート
に入った。当然、ペースはどんどん上がっていく。二人ともかなり辛そうに見えた。
・・・頑張って。ひとみちゃん。
まこっちゃんには悪いけど今の私はひとみちゃんを応援していた。ストップウォッチ
を強く握り締める。
「あっ!!」
紺野ちゃんが声を上げた。私とごっちんも「あっ!」と声を上げる。
何とまこっちゃんが体勢を崩して倒れてしまった。見事に地面に転がっていた。
ひとみちゃんと距離が離れていく。でもすぐにひとみちゃんは異変に気付いて
急いで振り返りまこっちゃんの方に走り出した。
「・・・全く、よしこは」
「大丈夫でしょうか・・・」
「んぁ。二人のとこに行こう」
そう言うと心配してる紺野ちゃんが走り出した。私達も走って二人のとこに向かう。
「前にさ、こうゆう事があったんだ」
走りながらごっちんは言った。
「あたしと矢口先輩で勝負した時があってさ。でも小川みたいに転んだんだ。
よしこは慌ててあたしのとこに来てくれたんだけど・・・矢口先輩は最後まで走った」
二人のとこまで来て、ごっちんは一旦話を中断した。まこっちゃんはひざを擦りむいた
ぐらいで「すいません」と謝っていた。
- 384 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/03/02(水) 21:19
- ごっちんはまこっちゃんに保健室へ行くように言い、ひとみちゃんと紺野ちゃんが
付き添って保健室へ向かった。
「・・・ごっちん」
「ん?あ、話の途中だったね」
「矢口さんは最後まで走ったって・・・」
ごっちんは空を見上げて話を続けた。
「あたしは大した怪我じゃなくて、頑張れば走れる状態だった」
私はごっちんの話しに耳を傾けていた。
「よしこに支えてもらいながら立ち上がって矢口先輩を探した。もう先輩は
走り終えていた。勝負は・・・・」
「矢口さんの勝ち・・・?そんな・・・」
「矢口先輩が怒ってあたし達のとこへやって来た」
『よっすぃー、タイムをどうして測らなかったの?』
『どうしてって・・・ごっちんが転んだんですよ!心配じゃないッスか!』
『ごっちん、何で走るのをやめたの?』
「・・・あたし、勝負を投げ出したんだよ。まだ走れたのに、走るのをやめた」
『どんな事が起きても、これは勝負だよ。真剣勝負の真っ最中』
『矢口先輩・・・』
あの優しくて元気な矢口さんからは想像がつきにくい。
「どんな事が起きても・・・転んで血が流れても、立ち上がってゴールを目指す。
これがオイラがいる陸上部だって・・・。あたし、その時すごい悔しくてさ。
何ですぐに起き上がって走り続けなかったんだろうって。どうして、諦めたんだろうって・・・」
ごっちんはあの時を思い出している感じだった。
・・・あぁ、だからまこっちゃんが転んだ時、すぐに駆けつけなかったんだね。
「それからは、何があっても走り続けるって決めたんだ」
ごっちんはふにゃっと笑ってそう言った。
- 385 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/03/02(水) 21:36
- 「でもね、その後」
『・・・・お説教はここまで。ごっちん、保健室行こう。ほら、バイキンが
入ったら大変だッ!オイラに掴まって!』
きっと矢口先輩はココロの中じゃ心配でたまらなかったんだろうなぁ。
「・・・すごいね、矢口さんって」
「うん。あたし、矢口先輩みたいになるんだ」
ごっちんならきっと矢口さんみたいになれると私は思った。
「にしても、よしこは優し過ぎるんだから。ホント慌ててたよね」
ひとみちゃんの慌て様を思い出して二人で笑った。笑っていると向こうでひとみちゃんが
手を振っているのが見えた。矢口さんの事を考えるとひとみちゃんは大丈夫なのかと思って
しまった。
「梨華ちゃん」
「なぁに?」
「きっとね、よしこは別のやり方で後輩達に教えていくんだと思う。矢口先輩は
先輩のやり方で、よしこはよしこのやり方があるんだとあたしは思うんだ」
「諦めないで走り続ける事を?」
「んぁ」
「・・・そうだね。ごっちん、ありがとう」
「さ、行こ!部長が待ってる」
“諦めないで走り続ける”
新部長のひとみちゃんはどうやって後輩達にそれを伝えて行くんだろう。
きっと、ひとみちゃんらしいやり方で伝えて行くんだろうなぁ。
- 386 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/03/02(水) 21:52
-
<松浦 視点>
最近、全く美貴たんに会えない。美貴たんは毎日、バイトで忙しくてすれ違いの日々が
続いていた。会えないのは辛いけどあたしは美貴たんの夕飯を作りに行っている。今は
それが楽しくて仕方ない。あたしが作った夕飯を見てどんな風に喜んでくれるんだろう。
そう考えると会えなくても頑張れた。
「今日は何にしようかな〜」
放課後、あたしはいつも通りに学校を出て美貴たんの家へ向かおうとしていた。
すると校門に何だか人だかりが出来ている。何だろうと思い近付いてみると。
「遊びに行きませんかぁ?」
「い、いや・・・待ってる人いるから」
「えー、いいじゃないですかぁ」
「携帯の番号、教えて下さい!」
「ちょ、ずるいよ!あたしも!」
そこには女子高校生に囲まれて困ってる美貴たんがいた。ふと目が合う。
「亜弥!!!」
美貴たんは嬉しそうに笑って女子高校生を掻き分けてあたしのとこへ来た。
「美貴たん・・・何で?」
「何でって・・・会いに来たんだよ」
「バイトは?」
「この後あるんだけど、少しなら時間あるから」
「美貴たんらしくない・・・」
「何だよ、それ。いいだろ、会いたかったんだから・・・」
恥ずかしそうに笑う美貴たんを見て、あたしはどうしようもなくこの人が好きだと思った。
人だかりの女子高校生はいつの間にかいなくなっていた。諦めたのだろう。
「亜弥、今日は早く帰るから」
「そうなの!?じゃぁ、頑張ってご飯作るね♪」
そしてあたし達は手を繋いで学校を後にした。
- 387 名前:作者。 投稿日:2005/03/02(水) 21:55
- いつもより多目に更新です(^−^
>381 ミッチー様。
(〜^◇^)<オイラにまかせておけ!
頼れる矢口さん。みんなのヒーローです!
ちょっぴしあやみきをいれての更新でした。
- 388 名前:ミッチー 投稿日:2005/03/03(木) 10:27
- 更新お疲れさまデス。。。
陸上部での矢口さんの話、何か好きです。
藤本さんモテるんですネ。
松浦さんもたいへんだぁ。
- 389 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/03/04(金) 16:25
-
<後藤 視点>
「ごめんなさい、市井ちゃん」
部活が終わって家に帰って市井ちゃんの好きなハンバーグを作って待っていた。
あたしは梨華ちゃんのアドバイスを聞いてもう一度市井ちゃんと話をしようと決めた。
「・・・お、おぉ・・・私の方こそ、ごめんな。後藤の話、ちゃんと聞かなくて」
仕事から帰って来た市井ちゃんにあたしは謝ると市井ちゃんは戸惑いながら謝った。
それからあたしの作ったハンバーグを見て嬉しそうに笑った。
「うまそうじゃん」
「んぁ、食べて食べて」
夕飯を食べながらあたし達はちゃんと話し合った。これからの事や、お互いの気持ち、
ココロの中にある気持ち、全て言い合った。こないだみたいに喧嘩にはならなかった。
夕飯が食べ終わり食器を片付けた。
「市井ちゃん、お茶飲む?」
「あぁ、頼む」
あたしはお茶をいれて市井ちゃんの目の前のテーブルに置いた。市井ちゃんは黙っていた。
・・・何だろう・・・。
お茶を飲みながらあたしは不安になった。すごく静かだった。
「・・・後藤」
いきなり声をかけられてあたしはビクッとした。
「は、はい・・・」
「・・・お前の好きな道を歩け。後藤の決めた道をな」
笑顔で市井ちゃんはそう言った。
「市井ちゃん・・・」
「言っておくが、これは見放したわけじゃない。私は後藤の選んだ道を応援する」
何かわかんないけど涙が溢れた。
「ありがとう、市井ちゃん」
「・・・まだあと一年ある。ゆっくり考えて決めろよ」
「うん!」
- 390 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/03/04(金) 16:47
-
<吉澤 視点>
部活が終わって久々に梨華ちゃんと帰れる事になった。
「あ、梨華ちゃん聞いたんだ。あの話」
「うん。さっきごっちんから聞いたの」
部活中に小川が転んだ。その時、ごっちんが矢口先輩の時の話をしたらしい。
「矢口先輩、すごいよね。あの時の先輩、マジで怒っててホント怖かったよ」
帰り道を歩きながらうちはあの時を思い出した。
ごっちんが転んで、うちは慌てて駆けつけた。
だけど矢口先輩は走り続けた。走って行く先輩を見てうちは「何で?」っていう
気持ちでいっぱいになった。
「今日、小川が勝負の間に転んで、うちは一瞬その時の事を思い出したよ。
“諦めないで走り続ける”・・・でもさ、うちは」
「誰かが痛い思いをしてるのは嫌なんだよね」
梨華ちゃんは微笑んでそう言った。
「・・・キレイごとだと思うよ。こんなんじゃ陸上部の部長なんて勤まらないかもしんない」
「ううん。・・・私ね、まこっちゃんのとこに引き返すひとみちゃんの顔見て思ったよ」
梨華ちゃんは立ち止まって、それに気付いたうちは振り返った。
「きっと、優しい部長さんになるなぁって」
夕陽を背に梨華ちゃんは言った。
「すごい必死な顔だったよ。あの時のひとみちゃんは」
「梨華ちゃん・・・」
「かっこよかった。すごくかっこよかった」
うちは少し歩いて梨華ちゃんに近付いた。
「矢口さんの想いは、すごいなって思うし、尊敬する。でもね」
じんわり涙が出てきた。
- 391 名前:21.未来への詩声。 投稿日:2005/03/04(金) 17:00
- 「ひとみちゃんにはひとみちゃんの想いがあるでしょ?今の陸上部の部長は誰?」
「・・・吉澤です」
「なら、ひとみちゃんなりの想いでやればいいじゃない」
「梨華ちゃん・・・」
・・・梨華ちゃんの方こそ、かっこいいじゃん。
「頑張れ!吉澤ひとみ!」
ドンと背中を叩かれた。
「おう!」
「あ〜、お腹しちゃったね。何か食べに行こっ!」
「え?梨華ちゃん勉強はいいの?」
「今日ぐらいいいよ!ほらほら!」
ぎゅっと手を繋いだ二人。
うちはその時、まだ出逢ったばかりの頃の彼女を思い出した。
あんなに気弱で抱き締めたら壊れちゃいそうな彼女が。
今はこんなに元気で強さがある子に変わった。
何となく、あの先輩に似ているような感じに。
「何処行こうか?あ、美貴ちゃんがバイトしてるとこは?」
「いいね!ミキティ今日いるかな?」
改めて感謝するよ。
彼女と出逢えて良かった。
これからも、よろしくね。
- 392 名前:作者。 投稿日:2005/03/04(金) 17:08
- ( ^▽^)人(^〜^0)←こんな更新(?)
>388 ミッチー様。
(〜^◇^)<これがオイラの生きる道♪
(●´―`)<何だべ、それは。
実は藤本さんモテてたり(w 中身は意外とお人好しな性格だから。
いちごま+いしよしでした。だいぶ石川さん達(3年生)の卒業が近くなってきました。
それに合わせてこの物語は締めくくります。
(〜^◇^)<あれ・・?オイラの出番は?
(●´―`)<なかったりして。
(〜;^◇^)<冗談キツイよ!安倍さん!
- 393 名前:ミッチー 投稿日:2005/03/05(土) 13:07
- 更新お疲れ様デス。。。
いちごまといしよしは、やっぱイイね!
もうすぐ終わるんですか・・・。
寂しいなぁ・・・。
- 394 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/08(火) 20:32
-
『22.桜咲き、別れの瞬間。』
<後藤 視点>
無事に梨華ちゃん達の合格が決まり、うちでおめでとうパーティをする事になった。
部活は早めにきりあげてスーパーに行き鍋の材料を買い込む。
「肉はこんぐらいで・・・野菜は・・・」
あたしがカートを押しながら食材をカゴにいれていた。
「ごっちん。あいつらが消えたっぽい」
よしこの声に反応してあたりを見てみると小川と紺野がいなかった。確かさっきまで
一緒にいたはずなのにと思っていると二人は腕に抱えるようにして何かを持って現れた。
「お前ら、何持って来たんだよ」
「コレも買って下さい〜」
ふと紺野が持ってる物を見てみると餅だった。
「鍋に餅・・・」
「ごっちん。鍋にチョコってのもあるぞ・・・」
「絶対おいしいですよ!」
「ありえねぇ。ハイ、却下。全部戻して来い」
よしこがそう言うと二人はしゅんとなってあたし達に背を向けた。
しょーがないなぁ・・・。
「んぁ、いいよ。カゴにいれて」
「ご、ごっちん!?」
「本当ですか!?やったぁ!あさ美ちゃん!」
「ありがとうございます!」
矢口先輩達からカンパ貰ってるし、可愛い後輩だからね。
とりあえず食材を買い終え家路へつく。重たい袋はよしこが持ってくれている。
「・・・もーすぐ、卒業式だね」
夕焼けの空の下、あたし達は歩いていた。春が近いせいか少しだけ暖かく感じた。
「んぁ。矢口先輩の卒業式もそうだったけど、何か寂しいね」
出逢いがあれば、別れがある。わかってんだけど、やっぱり嫌だ。
「駄目だなぁ。うち、絶対泣いちゃう気がする・・・」
「あはは、よしこらしい。っていうか去年も泣いてたじゃん」
「うっ・・・だってさ、矢口先輩が『陸上部を頼んだよ』なんて言うからさ・・・」
「今年はもっと泣くかもね」
- 395 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/08(火) 20:55
- 家へ着き、夜のおめでとうパーティの為あたしはキッチンへと立つ。飾り付けの方は
よしこ達に任せる。しばらくすると美貴ちゃんや亜弥ちゃん達がやって来た。
「手伝いますよぉ」
料理が出来ない美貴ちゃんは飾り付けの方に行き亜弥ちゃんにはこっちを手伝って貰う。
下ごしらえが済むと矢口先輩や安倍さん、保田さんが来た。
「おぉ、盛り上がってるー?」
矢口先輩がはしゃぎながらキッチンの方にやって来た。
「今夜は鍋だよ〜」
「いいねぇー!あ〜お腹すいた〜」
「矢口先輩、今日の主役は梨華ちゃん達だからね」
「わかってるよぉ」
午後7時にやっと主役の梨華ちゃん達が来た。
・・・市井ちゃん、遅いなぁ・・・。
わいわいと賑わうリビングを出てあたしは自分の部屋にある携帯を取りに向かった。
今日の朝に市井ちゃんは『多分、大丈夫』と言っていたはず。
「やっぱ仕事忙しいのかな・・・」
携帯を見るとメールが一件入っていた。市井ちゃんからだった。
<ちょっと遅くなる。ホントごめん。でもすぐケーキ買って帰るから>
そうそう市井ちゃんが奮発してケーキを買って来てくれる事になっている。
<なるべく早くね!ケーキで驚かすんだから>
メールの送信が終わると携帯をジーンズのポケットにいれて部屋を出た。
相変わらずリビングは賑やかだった。
「ごっちん!紗耶香は?仕事?」
矢口先輩がおもちゃの鼻付き眼鏡をかけていた。
「あはっ・・・先輩、それ何・・・?」
笑いを堪えながらとりあえず突っ込んでみる。
「ん?なっちがさぁ、つけてってうるさいんだよ〜」
「そうなんだ・・・すっっごい似合うよ。市井ちゃんは仕事で遅くなるって」
「何だと〜。後でこの眼鏡かけてやる!」
「ごっちん!矢口先輩!席についてー!始めるよー!」
よしこの声でパーティは始まった。
- 396 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/08(火) 21:15
-
<市井 視点>
仕事が長引いてやっと終わった時は既に午後8時を過ぎていた。
ヤバイ。早くしねぇとケーキ屋が閉まっちまう・・・。
慌てて帰る支度をし、ケーキ屋へと急いで走った。幸いまだ電気が付いていた。
「あの、市井で予約していたんですが・・・」
「市井様ですね。しばらくお待ち下さい」
店員がケーキが入っている箱を持って来た。
「こちらでよろしいですね?」
箱の中を見せてもらい確認する。ホールのショトケーキ、ちゃんとチョコ板に
『卒業おめでとう』とある。
「はい、いいです」
代金を払い店を出る。すると目の前に見慣れた車があった。
「アヤカ?何で・・・」
近付くと助手席の窓が開いた。とりあえず覗いてみる。
「ヤッホー。急いでるんでしょ?送るよ」
「サンキュ。助かる」
助手席へ乗り込み車が動いた。大切にケーキの箱を抱える。
「早引きすれば良かったのに」
「いや、今日はなぁ・・」
「卒業祝いかー。いいねぇ、青春だね」
「オバサンくさいな、アヤカ」
車のラジオから何か曲が流れていた。今流行りの曲らしい。
「何か、若いんだよなぁ。高校生達を見てると」
「あー、わかる。目とか輝いてるよね」
「まだ未来に希望があるみたいなさ・・・」
「紗耶香もじゅーぶん若いよ?未来に希望を捨てちゃいけない」
アヤカの言葉に私は笑顔で「そうだね」と頷いた。グォンと車のスピードが上がった。
- 397 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/08(火) 21:40
-
<石川 視点>
『午後7時にごっちんの家に集合』
ひとみちゃんにそう言われて何だろう?と思っていた。柴ちゃんやマサオさんにも
この事を言われたらしい。3人で何だろうねーと言いながらごっちん家に向かった。
「ホント、何かあるのかな?」
「あ、わかった。あれじゃない?合格したじゃん、私達。そのお祝いみたいな」
「あぁ、そうかもなー」
ひとみちゃんに聞いても全然教えてくれなかったのを思い出してみれば柴ちゃんが
言ってる事は当たってるかもしれない。
「だから、教えてくれなかったんだー」
「びっくりさせようって事じゃない?」
ごっちんと市井さんの家に着いてピンポーンと鳴らしてみる。すぐに中から誰かが出てきた。
「いらっしゃーい!って自分家じゃないけど」
おもちゃの鼻付き眼鏡をかけた矢口さんが出てきた。
「矢口さん・・・一体何が始まるんですか?」
「いやいや、いいからいいから。あがってよ〜」
そう促されて私達、3人は家の中に入った。奥の方から賑やかな声が聞こえてくる。
それだけで何かワクワクしてきた。リビングに入ると大きな紙が一番に目に入って来た。
合格おめでとう!パーティ
「やっぱりね〜♪」
柴ちゃんが言う。マサオさんはそれを見て口笛を吹いた。
「はいはい、主役のみなさんはこちらの席へ!」
安倍さんに言われて席の方へ動く。
「こら!矢口は違うっしょ!」
「う〜・・・主役なのに・・・・」
悔しそうに言う矢口さん。でもまだ鼻付き眼鏡をかけていた。
「早く座って座って。みんなー!席についてー!」
ひとみちゃんが声をかけるとみんながリビングに集まって来た。テーブルの上には
ぐつぐつ煮込まれてる鍋があった。
「ごっちん!矢口先輩!席についてー!始めるよー!」
まこっちゃんや紺野ちゃんがみんなにジュースの入ったグラスを渡していた。
「はい。では、梨華ちゃん、柴田さん、マサオさんの合格おめでとうパーティを
始めます!みなさん、グラスは持ちましたね?では、かんぱーい!」
みんなの大合唱で「おめでとーう!」という言葉にココロが熱くなった。
- 398 名前:作者。 投稿日:2005/03/08(火) 21:49
- >396 チョコ板に『卒業おめでとう』とある。
↓
チョコ板に『合格おめでとう』とある。
「卒業祝いかー。いいねぇ、青春だね」
↓
「合格祝いかー。いいねぇ、青春だね」
間違えました。正しくはこの通りです。
>393 ミッチー様。
いしよしといちごまはいいですね!作者も大好きです。
寂しいと言ってもらえると嬉しいです。次の物語も今
考えているとこです(^−^
おめでとうパーティ。こうゆうお祝いが好きな人達でした(^−^
次の物語はこの物語とは違い、戦い抜く彼女達という感じです。
- 399 名前:ミッチー 投稿日:2005/03/09(水) 16:32
- 更新お疲れ様デス。。。
こういうにぎやかなパーティってイイですよネ。
ここの矢口さんのキャラ好きです。面白い!
矢口さんは、ずっと主役です!
次の作品も期待してます。
- 400 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/10(木) 17:06
-
<矢口 視点>
わいわいと賑やかに始まった梨華ちゃん達の合格おめでとうパーティ。
「いやー、もう卒業かぁ。オイラ、卒業して一年経ったんだなぁ」
しみじみ思いながらジュースを飲んでいると。
「そーいえば矢口、かなり泣いたよね。卒業式」
なっちがニヤニヤしながら言ってきた。
「あ、私も覚えてます。泣きながら退場して来た時はびっくりしました」
「もー、いいよぉ。梨華ちゃんまで・・・」
「んぁ。よしこもいい勝負だったよねぇ」
「ごっちん!余計な事言わなくていいよ!」
あーだこーだ騒いでいると柴ちゃんが右手を上げた。
「何?柴ちゃん」
「実はバッチリ写真に撮らせて頂きました!矢口さんとよっすぃーの泣き顔」
「「うっそぉ!?マジで!?」」
オイラとよっすぃーの声がハモった。二人でその場に立ち上がる。
「現像したの?その写真」
「そんな野暮な事聞かないでよー。マサオ。もうとっくにやったわよ」
何だよぉ・・・みんな大爆笑してるし・・・。
「んぁ、それ見たい〜。あの頃をみんなで思い出そうよ」
いやいや、それは困る。よっすぃーもオイラの顔を見て頷いた。
「柴ちゃん、その写真持ってんの?」
「うん。持ってるよ〜♪」
ごぞごぞと自分のカバンから写真を取り出す柴ちゃん。オイラとよっすぃーは柴ちゃんが
持ってる写真を奪おうとしたが逃げられる。
「柴ちゃん!オイラにそれを渡しなさい!」
「そーだそーだ!んな写真は即処分!」
リビングで追いかけっこをしばしした後、結局写真は奪う事が出来ず笑いモノのネタにされた。
- 401 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/10(木) 17:18
- 「全く・・・」
「先輩、もう諦めましょう・・・」
肩を落として席に戻り気を取り直して鍋の中でぐつぐつ煮えてる肉を食べる。
ごっちん達は写真を見て大爆笑していた。そうとうヤバイ顔のようだ。
「矢口も見てみなよ〜。いい写真だよぉ〜」
なっちも目に涙を貯めてウケていた。
「まぁまぁ。矢口さん、どんどん食べて下さいよ」
鍋に具を入れている亜弥ちゃんにそうなだめられオイラはもぐもぐと肉を食べていた。
午後8時半頃にピンポーンと呼び鈴が鳴った。オイラはおもちゃの鼻付き眼鏡を装着し
いそいそと玄関へ向かった。やってくる相手は誰だかわかっていた。
「オカエリナサーイ」
外国人口調でお出迎え。
「ただいま・・・って、何だその眼鏡は」
「パーティには欠かせないでしょ?お、何だ?その箱は」
紗耶香は箱を大切そうに抱えて入って来た。
「言っとくけど矢口のじゃないからな。石川達の」
「ほほう。なかなか気が利くじゃないか。オイラに任せてくれたまえ」
ポンポンと紗耶香の肩を叩き、箱を受け取る。
「ケーキ♪ケーキ♪」
「先に食うなよ!」
「わかってますよ〜」
スキップしながらみんながいるリビングへ向かった。
「みんな〜。紗耶香からケーキのプレゼントだよ!」
「マジっすか!?スゲー。カッケー!」
テーブルの上の物を少しどかしてケーキの箱を置いた。
- 402 名前:作者。 投稿日:2005/03/10(木) 17:46
- >399 ミッチー様。
(〜^◇^)<そうだ!オイラが主役なのさ!
そう言って頂けるとすごく嬉しいです!ありがとうございます!
次の物語も頑張ります!
- 403 名前:ミッチー 投稿日:2005/03/13(日) 22:16
- 更新お疲れさまデス。。。
矢口さんと吉澤さんの写真見てみたいです(W
市井さんが加わって、パーティはどうなるんでしょうか?
- 404 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/14(月) 20:35
-
<後藤 視点>
市井ちゃんが買って来たケーキを見てみんな騒いでいる。
「おかえり、市井ちゃん」
「ただいま。盛り上がってんなー」
「にしても大きいの買って来たねぇ」
「まぁな。祝いうんだし」
上着を脱ぎながら市井ちゃんは穏やかに言った。あたしがその上着を受け取る。
ふと市井ちゃんの顔を見てあたしは思った。
・・・・優しい目。
ぎゃぁぎゃぁ騒いでるみんなを市井ちゃんは暖かく見守るかのように見えていた。
あたしが大好きな目。
「ん?後藤、どうした?」
「え?あ、何でもない。お腹すいたでしょ?座って食べてよ」
「おう」
スタスタとみんなのとこへ歩いてく市井ちゃん。あたしは市井ちゃんの上着を持って
市井ちゃんの部屋に入りハンガーに上着をかけた。足早にみんあのとこへ戻ろうとした時。
悲劇は起こった。
「あー!!!!」
部屋から出た時にリビングから悲鳴にも似たような叫び声が聞こえた。何事かと思い
慌ててリビングへ走る。中に入ると特にさっきと様子は変わっていない。
「先輩〜・・・眼鏡は外して切りましょうよぉ・・・」
よっすぃーが小さく呟いた。ケーキを覗いてみると何とケーキの上にあの眼鏡が。
どうやら切っている最中に矢口先輩の顔から落ちてしまったらしい。
「ごめんごめん。でも大丈夫!」
べったりと眼鏡にはクリームがついていた。それを慎重に取る矢口先輩。
「ふざけてっから、んな事になるんだよ」
鍋の具のネギを食べながら市井ちゃんが言う。
「矢口、私がやろうか?」
「先輩、安倍さんにやってもらいましょー」
「なっ!オイラがやるの!オイラがケーキの箱を受け取ったんだから!」
・・・何で素直に“やりたい”って言えないのかなぁ。
いつまで経っても子供っぽいんだなとあたしは思った。そして矢口先輩が切ったケーキは
どれも大きさが違い、でこぼこしていてまたみんなに騒がれてしまった。
- 405 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/14(月) 21:03
-
<石川 視点>
何かある事にこうゆうパーティは開かれている。例えば誰かの誕生日や祝日。
でもまさか合格パーティまでやってくれるなんて思いもしなかった。
市井さんからケーキまで頂いて、ちょっとハプニングはあったけどそれも楽しかった。
ケーキも食べ終わり、みんなでまったりしているとごっちんが立ち上がった。
「んぁ。卒業生に送る言葉。では、市井ちゃん、どーぞ」
「へ?あ・・・」
「コレ持って立って」
ごっちんが市井さんにおもちゃのマイク(きっとあの眼鏡と一緒に買ったんだろう)を
渡した。市井さんは戸惑いながらもその場に立ち上がる。
「えー・・・まぁ、もうすぐ高校卒業というわけで・・・」
どっからか微かに音楽が聞こえた。見てみるとひとみちゃんがCDコンポのボタンを押したらしい。
「これから行く世界は高校とは違って自分のやりたい仕事に向けて本格的に勉強する世界だ。
大変な事もあると思う。だけど自分の夢を諦めずに、叶えて下さい。私もまだまだ未熟者
だけど仕事頑張って行こうと思います。以上」
「んぁ、じゃぁ次、安倍さん」
マイクが安倍さんに渡り恥ずかしそうに笑いながら安倍さんが立ち上がった。
「・・・何か照れるなぁ。えーと、三人とも、行く道は違うけど頑張ってね。
紗耶香も言ってたけど諦めずに自分の夢を叶えて下さい。私も今、小学校の
先生になる夢を叶える為に頑張ってます。お互い、頑張ろう!おわり!」
「んぁー、矢口先輩」
次は既に泣きに入ってる矢口さんにマイクが渡った。
「矢口・・・大丈夫?」
隣にいる安倍さんが矢口さんを支える。
「うっ・・・大丈夫・・・」
涙を拭きながら立ち上がる矢口さん。その手にはしっかりマイクが握られていた。
しばらく沈黙が流れた。何だか自分も泣きそうになっていた。
「・・・梨華ちゃん、柴ちゃん、マサオさん。合格、あともうすぐ卒業だね、おめでとう。
・・・これからぁ・・・自分の道を歩くけど・・・」
自分の道を歩くと同時に私はこの街を離れなければいけない。
矢口さん、そして他のみんなもそれはわかっていた。
- 406 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/14(月) 21:24
- 「これから・・・きっといろんな事が待ってる。辛い事も悲しい事も・・・。
だけどそうゆう事があるから楽しい事、嬉しい事があるんだとオイラは思う」
泣きながらもしっかりと矢口さんの言葉に耳を傾ける。気付けば柴ちゃんも泣いていた。
「梨華ちゃんやマサオさんはこの街を離れて行くけど、今までの思い出忘れないで。
柴ちゃんも。そして、オイラ達の仲間の絆を忘れないで下さい・・・」
もう春からこの仲間達の顔を見れないんだ。そう思ったら涙が止まらなかった。
そしてひとみちゃんにも・・・。
「・・・一生逢えなくなるわけじゃないし、逢いたくなったら逢えばいいし。
この街はずっとここにあるから・・・!ずっとずっとここにあるから!忘れんなよぉ!」
矢口さんはその場に泣き崩れ、安部さんが矢口さんを抱き締めた。
「・・・んぁ、では、よしこ」
「うぇ!?ごっちん、予定では市井さんと安倍さんと矢口先輩じゃん・・・」
「ついでだよ。ホラ」
ひとみちゃんがマイクを持って立ち上がる。
「・・・・正直、先輩三人が卒業するのは嫌で嫌でたまりません」
しんと静まる空間にひとみちゃんの声が響く。
「これは矢口先輩達の時も思いました。だって、楽しくて・・・毎日笑ってばっかで。
今までいろんな事、あったけど、それがあったから、この仲間が出来たんだし。
だから、うちは幸せで・・・。矢口先輩が言った言葉、うちは好きです。
“この街はずっとここにある”“仲間の絆”忘れないで下さい。そして、自分の夢叶えて下さい」
- 407 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/14(月) 21:38
- そして卒業生代表で私にマイクが渡った。
「何か・・・ホント、毎日楽しくて・・・みんなに出逢えてホントに良かった。
こんなに充実した学校生活を送れたのはみんなのおかげだと思う。だから、すごく
たくさん“ありがとう”って言いたいです。これから自分の道を歩くけど、さっき
言ってくれた言葉を忘れずに頑張って行きたいと思います。そして絶対またみんなに
逢いに来たいと思います・・・」
精一杯自分の気持ちを伝える事が出来たと思う。
ホント、幸せだなぁ。
良い仲間に出逢えて。
「よし!歌うか!歌っちゃえ!」
急に矢口さんが立ち上がって言った。おもちゃのマイクを私は渡した。
涙でぐしゃぐしゃになった顔で矢口さんは笑っていた。
「トップバッター矢口真里!歌います!ほら、みんな泣いてないで!」
みんな涙を拭きながら笑顔になった。矢口さんが歌い始める。
天真爛漫 行くぜ 容赦なし
このまま 一生 友達だし
卓球大会 するぜ 待ったなし
遊びと いえど むきになるし
良い 仲間だ
大好きだよ
- 408 名前:作者。 投稿日:2005/03/14(月) 21:43
-
>403 ミッチー様。
(0;^〜^)<み、見なくていいから!
(〜;`◇´)<すごいヤバイから!顔が!
ちょっとハプニングあり、涙ありのパーティでした(w
- 409 名前:ミッチー 投稿日:2005/03/15(火) 02:04
- 更新お疲れさまデス。。。
矢口さんらしいハプニングでしたネ。
矢口さん達の言葉に、感動しました。
こういう仲間はスバラシイね!!
- 410 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/21(月) 21:49
-
<吉澤 視点>
だんだん春らしくなって来た。暖かい風が吹く。見上げれば綺麗な青空。
「よしこぉ。そろそろ始まるよ?体育館行かないと」
教室でウジウジしているうちをトイレから戻って来たごっちんが呆れて言った。
「ほら、みんなもういないじゃん。早く行かないと」
「・・・わかってるよ」
うちは渋々自分の席から立ち上がり教室の入口にいるごっちんの方に向かって歩いた。
「そりゃ、気持ちはわかるけどさ。梨華ちゃんもよしこに見て欲しいって思ってるよ?
この晴れ舞台を」
「・・・うん」
そう、今日は────卒業式の日。
梨華ちゃんが高校を卒業する日。
梨華ちゃんがこの学校に来る最後の日。
・・・最後の、日・・・・。
「卒業生入場!」
曲が流れゆっくりと卒業生が体育館に入って来た。いつも集会でうるさく騒ぐ生徒は
誰一人いなくて体育館内はしんと静かで曲だけがよく響いていた。うちは椅子に背筋を
伸ばしてしっかり前を向いて座っていた。ごっちんもいつもは猫背でつまらなさそうな
顔をしているのに今日はちゃんと背筋を伸ばして座っていた。卒業生全員が入場し在校生
の前の方にある席に着席した。
「卒業証賞授与!」
何だか自分がここにいるのが、この場所にいるのが信じられなくて。
嘘だと思いたくて。今、自分は眠っていてこれは全部夢なんだって。
起きたらまた一日が始まって、学校に行って、梨華ちゃんと笑って。
そう、思いたくて・・・。
「石川梨華!」
「はい」
うちはゆっくり目を閉じた。今までの思い出を全てココロの中によみがえらせて。
梨華ちゃんに出逢って、恋をして、告白して、両思いになって。
他にもたくさん色々あったけど。
苦しい事も切ない事も悲しい事も、たくさんあって。
だけど
楽しい事も嬉しい事も、たくさんあって。
あぁ、良かったなぁって。
ココロからそう思うんだ。
- 411 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/21(月) 22:04
- たくさんの良い仲間に囲まれて大好きな人の傍にいれて。
すごい楽しい高校生活だったよ。
でもね。
これからの日々に梨華ちゃんがいなくなっちゃうなんて。
時が過ぎるのが早く感じるのは、それに気付いてからだった。
ついにこの時が来ちゃうだなんて。
やっぱり・・・嫌だよ。
「四組代表、石川梨華!」
目を開けるとやっぱりそこには現実がちゃんとあって。
現実だからちゃんと梨華ちゃんはそこにいて。ゆっくりとステージに上って行く。
何か、去年の卒業式よりも切ないよ。
だけどちゃんと目に焼き付けておかなきゃね。
梨華ちゃんの卒業式だもん。
ねぇ、梨華ちゃん?
卒業証賞を受け取る君の背中に聞く。
うちら、これで終わりなんかじゃないんだよね?
これから逢えない日が続くかもしれないけど。
想いはちゃんと繋がってるよね。
卒業証賞を受け取って振り返る梨華ちゃんは。
うちの言葉にこたえるかのように優しく微笑んでいた。
うちが座ってる前の席に座るごっちんの肩が震えてるのが見えた。
だから、うちは言うよ。
“卒業 おめでとう”
ホントに、おめでとう。
- 412 名前:作者。 投稿日:2005/03/21(月) 22:07
- 短い更新で申し訳ないです・・・しかも一週間ぶり(^−^;
>409 ミッチー様。
仲間って素晴らしいですよね(^−^
(〜^◇^)<オイラはまだまだ不滅だぜ!
(0;^〜^)<え・・・?どーゆーコメントですか?
- 413 名前:ミッチー 投稿日:2005/03/22(火) 13:13
- 更新お疲れ様デス。。。
か、感動した・・・!
卒業はホント悲しいネ。
- 414 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/31(木) 17:35
-
<市井 視点>
「市井ちゃんッ!早く早く!」
「わかってるって!」
まだ時間に余裕があるのに後藤は早くしろと急かしてくる。上着を羽織ってカメラを
カバンにいれて部屋を出ると後藤は玄関で既に靴を履き終えていた。
「ちゃんとカメラ持った?」
「持ったよ」
「フィルムは?」
「大丈夫」
いつも以上に確認を取る後藤。それほど今日撮る写真が大事なのがわかった。
後藤は写真を大きくして額にいれて飾るんだと張り切っている。
桜の開花宣言がさっきのニュースで聞いた。家を出るともう暖かくて外はもう春日和だった。
「もう、市井ちゃんノロノロ歩かないでよ」
「集合時間から一時間も早いんスけど」
道路沿いの桜並木の下を歩く。桜は見事、綺麗に咲いていた。撮りたくてカメラを出したら
後藤に怒られ、渋々カバンに閉まった。
「フィルム何本も予備があるよ?」
「それでも駄目。あたしの許可がおりてません」
「どうして後藤の許可が必要なんだよ?」
「駄目なものは駄目です〜」
そう言って走り出す後藤。桜並木の下で風で舞う桜の花びらを嬉しそうに掴もうと
している。その笑顔についついカメラを取り出してシャッターを切ってしまった。
後でバレたらあいつ、怒るかなぁ・・・。
たった一枚の写真だけど、きっとよく撮れてると思うからもうこれ以上は撮らずに
大人しくカバンにカメラを閉まった。
「待てよ!」
「待たないよーだ!」
私も走り出した。桜の花びらが舞いおりてくる。
目的地は学校。
みんなの思い出の場所。
そこで本日、大事な記念撮影がある。
一生に一度しかない大事な写真。
- 415 名前:作者。 投稿日:2005/03/31(木) 18:17
- 続きはまた後で書きたいと思います。
- 416 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/31(木) 21:26
-
<矢口 視点>
桜の開花宣言のニュースを見て春なんだなぁと実感した。外に出れば春の風が吹いて
暖かい。もう上着はいらないかなと思ってしまう。
・・・良かったぁ。晴れて。
「矢口〜!」
オイラの家の前で鼻歌でも歌っていると向こうからなっちが走って来るのが見えた。
「なっち〜!」
「もう、まだ時間あるのに、いきなり電話で呼び出して・・・」
「ごめんごめん。何か落ち着いてらんなくて」
「いいの?圭織に電話しなくて。今から行ったらびっくりしちゃうよ?」
圭織が一昨日、日本に帰って来た。何も連絡無しに帰って来たからオイラ達はびっくりして
派手にお迎えする事が出来なかった。それが出来なくてショックだったけれど、圭織が今日の
この日までに帰って来てくれて本当に良かったと思う。
「さ、行こ〜!」
「ちょ、走るの?もう〜、歩こうよ〜」
なっちの手を取ってオイラは走り出した。まずは圭織の家に行って圭織を迎えに行く。
今日は大事な日。何をするかと言うと記念撮影だ。
「桜綺麗だねー」
「ホント綺麗。春だね」
なっちが歩こうというので仕方なくオイラは走るのをやめて歩いた。あちらこちらで
桜が咲いていて綺麗に風で舞っている。
「でもさ、矢口」
「ん?」
「集合時間よりかなり早く行ってどうするの?」
「・・・・どうもしない。あ、学校の桜綺麗だよ。きっと」
何で春になると暖かくなると気分がわくわくするんだろう。
でも今年の春は少し寂しいけれど。
なっちは「そう」と言って笑った。
「・・・わかんないよ?」
「へ?何が?」
「“もしかしたら”って事、あるかもよ」
オイラの言葉になっちは首を傾げていた。
オイラは何も答えず春の空を見上げて笑った。
- 417 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/31(木) 21:50
-
<大谷 視点>
「よし、OK」
引越しの為の荷造りが完了した。ダンボールが何個も部屋の中に置いてある。
ベットと机はそのままで後の物は全て綺麗に片付けた。
「マサオ。出来た?」
部屋の扉が開いてあゆみが入って来た。
「うん。終わった。後はダンボール向こうに送って、行くだけ」
「そっか・・・あ、ハイ。おばさんがコーヒーいれてくれた」
「サンキュ」
床に座ってあゆみから受け取ったコーヒーを飲んだ。あゆみも隣に座った。
「もう、行くんだね」
「梨華ちゃんの方は終わったかな?引越しの準備」
「あの子の事だからちゃんと終わらせてるわよ、きっと。よっすぃーも手伝ってるみたいだし」
あゆみはそう言うと自分の持っていたカップを床に置いた。
「それもそうだなぁ。二人ともしんみりしてなきゃいーけど」
アハハと笑いながらコーヒーを口に含んだ。するとこてんとあゆみの頭が私の肩に置かれた。
・・・あゆみらしくないな。
「どーした?」
「・・・別に。しんみりしてみたり?」
コーヒーのカップを床に置いてあゆみの肩を抱き寄せた。しばらく沈黙が流れる。
「マサオ・・・」
「ん?」
「今、すごく不安。不安でどうしようもないよ」
声が少し震えていた。どうやら泣いてるようだ。ぎゅっとあゆみが抱きついてきた。
私は泣いてるあゆみをしっかり抱き締めた。
「行かないで・・・マサオ」
その言葉に私は何も答えられなくてただ抱き締める事しか出来なくて。
自分の夢を諦めてここに留まる事も出来ない。
「・・・ごめん」
やっと出た言葉はそれだけだった。
- 418 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/31(木) 22:06
- 「・・・何でマサオが謝るの」
「だって・・・」
「謝らなくていいの。全く、アンタは優し過ぎるんだから」
そう言って離れるあゆみ。コツンと額と額を合わせてきた。
涙をためて笑うあゆみが何だかとても無償に愛しく感じてあゆみの髪を撫でた。
「わかってる。行かないでなんて言葉は私のワガママだって」
「・・・んな事、ない」
「私はマサオの夢、応援してるから」
何かこっちが泣きそうだ。じんわりと涙が溢れてくる。
「・・・泣き虫なんだから。私と離れて向こうで泣いちゃ駄目だよ?」
「うん・・・頑張るよ。あゆみも頑張れよ」
こんなにも自分を想ってくれてる人が傍にいるなんて。
自分はすごく幸せなんだなぁと思った。
「さ、行こっか」
あゆみがすくっと立ち上がった。
「へ?」
「今日は大事な事があるでしょ?」
「あぁ、でもまだ時間がある・・・」
「つべこべ言わずに出かける準備!早く!」
やっとあゆみらしくなってきたなと思い少し安心した。
「ハイハイ、了解です」
「気合い入れて行くぞー!」
- 419 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/31(木) 22:26
-
<藤本 視点>
今日のバイトはなし。店長に頼んで休みを貰った。
「美貴たん、こっちとこっちどっちがいいかな?」
家で待っても一向に亜弥が来ないので電話してみると亜弥はまだ自分の家にいた。
すると亜弥は自分の家に来てと言ってきたので仕方なく亜弥の家に向かった。
というわけで私は今、亜弥の部屋にいる。相変わらず女の子らしい部屋だ。
「・・・どっちでも」
「真剣に考えてよぉー。今日は写真撮るんだから可愛くなくちゃ」
「亜弥は何でも可愛いって。たとえサルの着ぐるみでも」
「何かとりあえず答えてるって感じがするんだけど・・しかも棒読みだし、漫画読んでるし」
私は亜弥の部屋にあった漫画をベットで寝転びながら読んでいた。
「もう、好きな方でいいじゃん」
「だぁーめぇーなの!美貴たんはどっちが好き?」
何だか終わりそうにないので仕方なく亜弥が今持っている淡いピンク色のスカートを指差した。
「こっち」
「じゃぁこれにしよ♪あ、着替えるから後向いてて」
「・・・別にいいじゃん。見ても」
「嫌なの!」
「はいはい・・・」
仕方なく亜弥の方に背を向ける。
「にしてもさぁ、ホント行っちゃうんだね。石川さんとマサオさん」
「まぁね。マサオは前々から言ってたし。東京に行くって」
「ふーん。ね、もしあたしが東京行くって言ったらどうする?」
「・・・さぁ?どうするかな」
適当に答えて再び漫画を読む。すると後から手が伸びてきて漫画を取られた。
「あ、何すんだよ」
「どうする?ねぇ」
「そうだなぁ・・・」
私は少し想像してみた。もし亜弥が東京に行くと言い出したら自分はどうするか。
だけどすぐに私は想像するのをやめた。
「わかんない」
「え?」
「だって、亜弥が私から離れて行くなんて考えられないし」
- 420 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/03/31(木) 22:44
- 「大した自信だねぇ。美貴たん」
「亜弥だったら?私が突然、東京に行くって言い出したら?」
意地悪で同じ質問を亜弥にしてみると亜弥は即答した。
「嫌に決まってるじゃん。どんな手を使ってでも美貴たんをとめてみせる」
「それでも行くって言ったら?」
あ、これは言い過ぎかなと思った。亜弥は少し考えて答えた。
「・・・あたしも行く」
「え?一緒に?」
「だって離れたくないもん。ずっと一緒がいい」
「ふーん・・・」
後からぎゅっと亜弥が抱きついてきた。危うく前のめりになって倒れるとこだった。
「どう?嬉しい?」
「・・・亜弥だったら、こっそりいなくなってもすぐに見付かりそうだよね」
「何よそれー」
嬉しかった。こんな事言われて嬉しくない奴なんていない。
「亜弥」
「何?」
私は振り向いて亜弥の方を向いた。
「大丈夫。私が亜弥から離れて行くなんて多分ないから」
「・・・多分なの?」
「んじゃ、絶対?」
「疑問系で返さないでよ」
笑う亜弥をぎゅっと抱き締めた。亜弥も抱き締め返してくれるのがわかった。
そして軽くキスをした。もう一度しようとしたら「ストップ」と亜弥が言った。
「何で?まだ集合時間まで時間あるじゃん」
「早く行こう!一番乗りしよ!」
「・・・どう考えても今から行けば一番は確実だと思うけど」
「ほら!美貴たん!」
「わかったって」
今日は桜が咲いてるから。
だからさっき淡いピンク色のスカート選んだなんて。
亜弥は気付いてるかな。
・・・いや、気付いちゃいないだろうな。
- 421 名前:作者。 投稿日:2005/03/31(木) 22:51
- 久々に多目の更新(^−^
>413 ミッチー様。
卒業は悲しいですね。でも新たなスタートをきる始まりでもあります。
(〜^◇^)<これからだぜ!!
( ^▽^)<頑張ります!
ある桜が咲いた日の出来事です。
みんな気持ちが急かしてるみたいです(^−^
- 422 名前:ミッチー 投稿日:2005/04/02(土) 00:16
- 更新お疲れさまデス。。。
皆、思う事は同じなんですね。
市井さんが撮るんだから、きっとイイ写真が出来るんでしょうね。
- 423 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/04/09(土) 19:33
-
<石川 視点>
部屋の中はずいぶんと寂しい状態になっていた。この家はとりあえずこの場所に
残して私と父は東京のマンションで暮らす事になった。一応、家族との思い出が
詰まっている家だから売りに出すのはちょっと嫌だなと父に言ったら父も私と同じ
考えだった。東京のマンションに必要な物はもう全てトラックにつまれていて、
私の部屋は後ダンボール二箱を運べば何もない状態になる。
「梨華ちゃーん」
部屋の扉からひとみちゃんがひょこっと現れた。ここ数日間ひとみちゃんには私の家の
引越しを手伝ってくれていた。今日は業者の方にも来て貰って多くの人が家の中にいた。
「梨華ちゃんの部屋はあとはこのダンボールで終わりだね」
「うん。ありがとね、手伝ってくれて」
お気に入りのジャージ姿のひとみちゃんは笑って「いいよ。うちがやりたいんだから」と言った。
私はそっとひとみちゃんの腕をぎゅっと抱き締めるように掴んだ。
「ん?梨華ちゃん?」
「・・・もう、今日なんだね」
私の言葉にひとみちゃんは黙った。
今日で私はこの家から、この街から、愛するこの人から、離れてしまう。
昨日まで、荷物をまとめていても実感がなかったのに。
何で今日になって、最後になってこんなに実感がわくんだろう。
ふと私の背中に大きな腕が回されて優しく抱き締めてくれた。
その腕が暖かくて離れたくなくなる。
「・・・・あー、もう」
「ひとみちゃん・・・?」
「連れ去りたくなっちゃうよ。梨華ちゃんが可愛過ぎて」
それもいいかなってちょっと思っちゃった。
その思いがひとみちゃんには感じたらしく。
「今、それもいいって思ったでしょ?」
「え?・・・」
図星だった私は小さく頷いた。
「駄目だよぉ。ちゃんと自分で決めた事じゃん」
「・・・そうだね」
ゆっくり離れる二人。二人とも笑顔。
「うちの腕はいつでも梨華ちゃんの為にあるからね」
そう言ってくれるのがすごく嬉しくなる。
「誰もこの腕にいれちゃ駄目だからね?」
「おう!」
- 424 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/04/09(土) 20:00
- ひとみちゃんがダンボールを持って部屋を出ようとした。
「あ、一つ持つよ」
「いいって。力だけが取り得だから」
そう言ってずんずん歩いていくひとみちゃん。私は慌ててついていく。
階段から降りて下に行くと父が玄関にいてタオルで汗を拭っていた。
「あ、悪いね。吉澤さん、手伝ってもらって」
「構いませんよ。どんどん使って下さい」
「頼もしいな、吉澤さんは。これからも梨華をよろしく頼むよ」
「はい!喜んで」
父とひとみちゃんが楽しそうに話してる光景。私は何だか嬉しくて二人の間に入った。
「何だ梨華。にやにやして」
「別に〜。何か嬉しくて」
「変な奴だな」
「あ、これトラックでいいんですよね?」
「あぁ、そうだ。それで終わりだ」
ひとみちゃんが玄関から出て行く。すると父は私を見て笑った。
「いい人にめぐり逢えて良かったな。大切にしなさい」
その優しい笑顔が何となく誰かさんに似ていた。
「うん。大切な人だから」
父の背中を見て私は思った。
ねぇ、お母さん。お父さん、変わったよ。
優しい笑顔になったんだよ。
今なら笑い合える気がするんだ。
私が大事に守っていた妹にも見せてあげたいと思った。
それから父は先にトラックと一緒に東京へと向かった。私はこれから大切な用があるので
後から東京へ向かう事にしていた。
「さて、行こっか」
私の手を握って歩き出そうとするひとみちゃん。
「ね、ひとみちゃん」
「ん?」
「ジャージで行くの?」
「え?駄目かな」
「・・・ジャージはやめて欲しいな」
これから大事な写真を撮るんだから。
- 425 名前:作者。 投稿日:2005/04/09(土) 20:05
-
>422 ミッチー様。
( ^∀^ノ<おう!私が撮るんだからな!
思う事が同じだと何だか嬉しくなりますね。
仲間って感じがします。
久々の更新です。こないだ無事に大学を入学しました(^−^
一週間慣れるのに必死で全く更新が出来ない状態で・・・。
これからも頑張ります。
- 426 名前:ミッチー 投稿日:2005/04/11(月) 03:14
- 更新お疲れさまデス。。。
本当に、石川さんのお父さん優しくなったよネ。
ジャージのまま行こうとするのが、吉澤さんらしいですね(W
大学に慣れるのは大変ですよね。
すごく分かります。同じなんで。
- 427 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/04/17(日) 21:52
-
<吉澤 視点>
梨華ちゃん家の引越しの準備を手伝った。すごく寂しくなるかなと思っていたけど
これがまた結構忙しいもので寂しさに浸っている暇など無かった。でも梨華ちゃんの
お父さんと接する機会が今まで無かったからかなり緊張した。怖いというか厳格なのかな
と思っていたけど全然そんな事無くてとても笑顔が素敵な優しいお父さんだった。
引越しの準備も終わり、トラックを見送った。うちはジャージを着ている姿で、うちは
そのまま集合の場所へ行こうとしたが梨華ちゃん曰く「ジャージは嫌」とのこと。
そして一旦自分家に帰る事になった。
「ただいまー。どーぞ、あがって」
「お邪魔します・・・何か緊張する」
靴を脱いでると奥からお母さんがやって来た。洗濯籠を持って。
「あら、帰ってたの?」
「うん。着替えに。あ、こちら石川梨華ちゃん」
梨華ちゃんが慌てて頭を下げる。
「い、石川梨華です!」
「どうぞ、上がって。あ、すぐにお茶出すわね」
「あぁ、いいよ。うちが着替えたらすぐ出るから」
「そうなの?何だ。石川さんとお話したかったのに〜」
それから二階に上がって自分の部屋へと向かった。
「そういえば、うちのお母さんに会ったの初めてかな?」
扉を開けながらうちは言った。
「うん。何かすごくドキドキしちゃった」
さっきは梨華ちゃんのお父さんにうちを紹介されて、今度はうちのお母さんに梨華ちゃんを
紹介した。何だかお互い緊張したり何だりだ。
「何回かひとみちゃん家には来てるけど、いつも緊張しちゃう」
「あはは。うちも同じく」
部屋の中に入ると梨華ちゃんは緊張が抜けたようにベットに腰かけた。うちはクローゼット
に向かい、服を選び始めた。
ふむ、写真だからなぁ・・・・。
いくつかまだ他に置いてあるジャージに目をやったが、これは駄目。
「ねぇ、梨華ちゃん・・・」
選んで貰おうと振り返ると。
「ありゃ・・・」
梨華ちゃんは横になって今日の朝が早かったせいか小さく寝息をたてて眠っていた。
- 428 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/04/17(日) 22:07
- 仕方なく自分で選ぶ事にした。
「写真、大事な写真・・・」
何故だかスーツがあるけれど、そんなかしこまらなくてもいい。
自分らしくと考えたらやっぱりジャージが一番しっくり来る、だけど駄目。
「ま、普通でいいんだよね・・・」
結局ジーンズに黒のTシャツという普通な格好になった。ササッと着替えて準備完了。
再び振り返り梨華ちゃんの傍にしゃがんだ。
・・・・かわいー。
そういえば、あんまし寝顔って見た事ないかもと思った。
「これから見れる時があるのかな・・・」
あ、ちょっと何か寂しいかも。うちは慌ててぶんぶんと横を振った。
何言ってんだ、吉澤ひとみ。二人は大丈夫なんだろ。
そう言い聞かしてうちは梨華ちゃんを起こそうとした。
「眠り姫は王子のキスで目覚めるんだよね」
そっと、キスをした。
「ん・・・?あっ」
「おはよ。やっぱ眠かったんだね」
梨華ちゃんは慌てて起き上がった。
「ごめんね!私、ついウトウトしちゃって・・・」
「いいよぉ。ほら、着替えたから行こう?」
「うん!」
さぁ、行こう。約束の場所へ、みんなが集まる場所へ。
君と手を繋いで。
君と一緒に。
- 429 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/04/17(日) 22:32
-
<矢口 視点>
「もう、びっくりしたんだから。いきなり家に来て」
左隣に並ぶ圭織は怒った顔をしていたが声は笑っていた。
「せめて電話するべきだよ〜。矢口」
右隣に並ぶなっちが苦笑いで言った。
「まぁまぁ。でも圭織、グットタイミングなんだよ?今日はね大事な写真を撮るんだから」
真ん中に両手を腰に当て胸を張って歩いていた。
もうすぐ学校が見える。オイラの大切な場所が。
「さっきから何回も聞いたよ。紗耶香がみんなの集合写真を撮ってくれるんでしょ?」
「矢口、浮かれずぎだよぉ」
「だって、嬉しいじゃん。桜をバックに写真だなんて」
学校の校門を通り校庭へと向かう。懐かしいと三人で思い出話をしながら。
下駄箱の横を通り過ぎると部室が見える。校庭へ出ると桜の木がオイラ達を迎えてくれた。
「あっ!」
オイラは桜の木の下を見て驚いた。
「・・・・矢口、当たったねぇ」
“もしかしたら”
「うん」
ココロが熱くなった。
「んぁ!来た来た〜!」
「おう、おっせーぞ!」
「マサオ、あんたの位置は矢口さんの前よ」
「え・・・いや、もろいやがらせじゃん・・・」
「美貴たん。桜とあたしどっちが綺麗?」
「はぁ?普通、比べるか?」
「あさ美ちゃん、さっきから何食べてるの?」
「ん?みたらし団子だよ。コンビニで買って来た」
「のの、桜の木登ったらすごいんや!」
「すごいの?じゃ、登る!」
「コラ、やめなさい。辻、加護」
「花見ゆうたら酒がなきゃあかんな」
「裕ちゃん。ここ学校だよ」
賑やかな事、この上ない。
まだ集合時間までかなり余裕があるのに。
「・・・せっかちな仲間だなぁ」
泣きそうになるほど、嬉しかった。
- 430 名前:作者。 投稿日:2005/04/17(日) 22:36
-
>426 ミッチー様。
(0^〜^)<ジャージ大好き♪夏はじんべえ♪
大学慣れるの大変ですよね。でも時間が過ぎるにつれ慣れていくのかな。
お互い頑張りましょう!
- 431 名前:ミッチー 投稿日:2005/04/17(日) 23:06
- 更新お疲れ様デス。。。
賑やかでイイですね。
読んでると、何だかお花見がしたくなりました。
- 432 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/01(日) 15:14
-
<石川 視点>
ひとみちゃんと手を繋いで歩く。
私がこの暖かくて優しい手が大好き。
私の手を包み込んでくれる。
「梨華ちゃん」
「なぁに?」
「呼んだだけー」
「何よぉ」
この笑顔も、声も、性格も大好きで。
もし、ひとみちゃんに『何処が好き?』と聞かれたら。
きっと『全部だよ』って答えちゃう。
「何か幸せ」
「うちも幸せ。何でだろうね」
そうだね、今日はお別れの日なのに。
何でこんなに幸せなんだろう。
「まぁ、いつも幸せなんだけど。梨華ちゃんがいるから」
この人は幸せになる言葉を私にくれる。
「私だって、ひとみちゃんがいるから・・・いつも幸せよ?」
私もあなたを幸せになれる言葉をあげたい。
「んじゃぁ、これからもずっと幸せだね。うちら」
お互いがお互いを幸せにしてるから。
今日も、明日も・・・この先ずっと。
幸せなんだよね。
あの頃は、こんなに幸せになれるかなんて想像もつかなかった。
だから本当に涙が出るほど嬉しくて。
あなたに出逢えて本当に良かった。
「これからもよろしくね、ひとみちゃん」
「うん。こちらこそ」
本当に────良かった。
- 433 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/01(日) 15:32
- 学校に着いて校門を通り集合場所である校庭へ向かう。
「何か聞こえない?」
隣を歩くひとみちゃんが眉をひそめて言う。私も感じていた。
「うん・・・何か向こうが騒がしいような・・・」
“向こう”というのは校庭の事で、かすかになんだかれど騒がしい声が聞こえる。
「まさか・・・みんな来てる?」
「まだ時間あるよ?早くない?」
最初は校庭で部活の活動が行われてるのだと思った。だけど校庭に近付くにつれ
それは違うとわかってきた。
「矢口!やめなって!落ちたらどうするのさ!」
「あの2人に出来てオイラに出来ないわけがない!」
この声は・・・安倍さんと矢口さんだ。
「へへーん、小さい矢口さんに出来るわけないやんッ」
「何だとぉ!加護ぉ!言って後悔すんなよぉ!今、そっちに行ってやるからな!」
「もう、挑発にのらないの!矢口!」
一体何が繰り広げられているのか?
私とひとみちゃんは顔を合わせ、急ぎ足で校庭まで向かった。
「私、矢口さんが木に登れないにアイス一本」
「あゆみ・・・先輩を賭け事に使うなって」
「んぁ、あたし登れる方にアイス一本」
「後藤。それ負けたら私が買うんじゃないよな?」
私達の視界に入って来た光景は。
「ぬぅぅぅ!!!」
桜の木に矢口さんがへばり付いてる光景だった。
- 434 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/01(日) 15:57
-
<矢口 視点>
オイラは今、何をしているでしょうか?
答えは“桜の木に登ろうとしている”だ。
最初は辻と加護が登り始めたわけで、それを圭ちゃんが止めるのを見ていた。
圭ちゃんの頑張りも虚しく二人は見事桜の木に登った。枝が太いのでそこに二人は
立っていた。オイラはなっちと二人で危ないから早く降りろと言っていた。
すると二人は「矢口さんも登ってみたら?」と言ってきたわけだ。
オイラは「やらない。落ちたら危ないじゃん」と大人な発言を返した。
すると加護が「出来へんからやらないんやないの?なぁ、のの」と言ったのだ。
「んなわけないだろ!オイラだってそれぐらい朝飯前だ!」と反論。
「じゃ、やってみせてー」と辻が言った。
────と、こんな具合にこうなってしまった。
しかし木登りなんて簡単に出来るもんじゃないとやり始めて気付いた。
だけど今更「やっぱやめた」なんて言ったら「やっぱ出来ないんじゃん」となる。
それは嫌だ。オイラは決めたら必ず最後までやる人間だ。それに悔しいし。
なっちの止める言葉も聞かずに登ろうとした。人が頑張って戦ってるっていうのに
オイラの後輩達は何やら賭け事をするし。
でも、ごっちんは『登れる方』に賭けてくれたからよしとする。
「よし・・・もーちょい・・・!」
あと少しで二人がいる枝までやって来た。
だったのに。
ガッ!と足を踏み外した。手は木から離れ、重力に従いオイラの身体は地面へ落ちる。
あぁ、やっぱりやめれば良かった・・・と落ちながら後悔。
「うわぁぁぁぁ!!!?」
地面へ叩きつけられる───と思った。
しかし何かに抱きとめられ、倒れた。
「いってー・・・先輩、大丈夫ですか?」
そこには可愛い後輩のよっすぃーがいた。
「・・・アハハ。うん・・・大丈夫」
何たるかっこ悪い自分なんだろうと思った。
挑発に乗せられて出来もしないものに挑戦して、結局出来なくて後輩に助けられて。
「アハハ・・・」
笑うしかなかった。しかしある顔を見た途端、笑いが止まった。
- 435 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/01(日) 16:18
- 「矢口のバカ!バカバカバカ!」
本気で怒ってらっしゃるなっち。
「もう!大怪我したらどうすんのさ!?」
「・・・ごめん」
「あんなに私が止めたのに!挑発に簡単に乗せられて!」
「ごめん・・・なさい」
「矢口のバカ!もう知らない!」
涙をためて怒るなっちは走って行ってしまった。
「全く、今回は矢口が悪いよ?」
圭織が苦笑いして言った。
「お前ら、降りて来ーい。先輩の見てわかったろ」
「危ないから降りようね」
木の方を見るとよっすぃーと梨華ちゃんが二人を降ろそうとしていた。
辻と加護はまるで自分が怒られたようにしょげてよっすぃーに手を借りて
降りようとしていた。
「んぁ、追いかけなくていいの?先輩」
ごっちんがのん気にそう言い、校舎側の方を指差した。
「賭けは誰も当たらなかったわね」
「まぁ、“途中まで”ってのは意外だったよな」
柴ちゃんと紗耶香が人の気も知らずに言う。オイラは立ち上がってパンパンと砂を払った。
「矢口。はよ仲直りして来てや。ずっと待ってるの疲れてきたわ」
「わかってるよ。裕ちゃん」
なっちを追いかけようとしたら紺野と小川が「校舎の中に入って行きました」と教えてくれた。
「ありがとう」とオイラは言いなっちを追いかけた。
- 436 名前:作者。 投稿日:2005/05/01(日) 16:26
- 久々の更新です。気付いたらもう五月・・・月日が過ぎるのは早いですね。
>431 ミッチー様。
(〜^◇^)<賑やかっていうよりうるさいって感じだな!
お花見、私は結局車の中から桜を見るって感じで終わりました(泣
桜の下でお弁当を食べるのはまた来年です。
(●`―´)<矢口のバカ!
(;〜´◇`)<ごめんなさい・・・。
さぁ、矢口さんどう出るのか・・・それは次回に。
何だかお別れの日なのに騒がしい・・・この仲間だから仕方ない(^−^;
- 437 名前:ミッチー 投稿日:2005/05/02(月) 01:08
- 更新お疲れ様デス。。。
本気で起こっているところに、矢口さんへの愛が感じられますネ。
お別れの日が、楽しく過ごせるなんてすばらしいです。
- 438 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/12(木) 21:16
-
<安倍 視点>
「もう!何であんなに子供っぽいの!」
怒って歩いて、気付いたら校舎の廊下をずんずん奥へ進んでいた。
ピタッと立ち止まりはぁと深くため息をついた。
「・・・矢口の、バカ」
私は怪我した矢口なんて見たくない。
痛い思いをしている矢口なんて見たくない。
もっと、矢口は自分の事を大事にして欲しいのに。
思えばいつも矢口は自分の事よりも人の事ばかり考えてて。
だから自分自身の事はあんまり考えないで。
一度止まった涙がまた溢れ出してきた。
誰もいない廊下に私の泣く声だけが響いていた。
何でこんなに涙が出るんだろ・・・。
涙を手で拭っていると遠くから走る足音が聞こえた。
「なっち!いた!さっきはごめんね・・・って」
私の前の方に後から回りこんできた矢口は私の泣く顔を見て止まった。
「・・・矢口ぃ・・・」
「マジごめん!本気でごめん!」
「・・・バカ」
「うっ・・・ごめんなさい・・・オイラがバカでした」
まだ涙が止まらない私を目の前にして矢口はオロオロしている。
しばらくすると、矢口はオロオロするのをやめた。
「・・・ごめんね、なっち」
ふわっと抱き締められた。
- 439 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/12(木) 21:29
- 「もうしないから・・・簡単に挑発になんか乗らないから」
「矢口・・・」
「だから泣かないで。オイラ、なっちが泣く顔見ると泣いちゃうから」
「・・・じゃ、もう危険な事しない?絶対しない?」
「うん。絶対やんない」
少しだけ離れてお互いの顔を見た。
「誓う?」
「おう!誓うよ!」
「・・・わかった。約束だかんね」
「任せとけ!」
イマイチ、不安だけれど。
許しちゃうよ。
「だけど、一つお願い」
人差し指を立てて私は言った。
「何?」
キョトンとしている矢口の顔が可愛かった。
「・・・もっと、自分の事を大事にして?」
「なっち・・・」
「矢口はいっつも人の事ばっか考えてるから。心配なの」
私の言葉にまだキョトンとしたままの矢口は次の瞬間ニカッと笑った。
「・・・わかった!それも約束するよ」
・・・気付いちゃったんだよね。
“私、矢口が大好きなんだ”
- 440 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/12(木) 21:52
-
<市井 視点>
「全く・・・おっせーな、あいつら」
矢口がなっちを追いかけて数分が過ぎようとしていた。
「まぁまぁ。いいじゃん」
隣で後藤が笑った。暇なのでカメラを構えて何かを撮ろうとした。
桜の木の下で吉澤と辻と加護がじゃれ合っていた。近くで石川が微笑んでいる。
・・・まるで家族みてーだな。
レンズをそっちに向けてシャッターを切る。
「おい!背中に乗るなよ!おもてーよ!コラ!加護ぉ!」
「うっさい!」
ホームドラマのような光景を思い出にシャッターを切っていく。
「市井さーん。私らも撮ってー」
振り返ると柴田さんがピースしながら大谷さんと並んで立っていた。
「あぁ、いいよ」
早速レンズを二人に向けた。
「マサオ、面白い顔をしなさい」
「えぇ!?む、無理ッ!」
「行くぞー!」
シャッターを切る音がいつもより心地よく聞こえる。
フィルムはたくさん持って来たから、今日は思う存分撮ろうと思った。
思い出をカタチに。
笑顔を記憶に。
残したい。
いつか、この写真を見て『こんな事あったよね』なんて語り合えるような。
そんな写真を今、この瞬間、残したい。
「市井ちゃーん。見て見て〜」
手のひらに桜の花びらをたくさん集めて来た後藤が駆け寄る。
「落ちてくる花びら、頑張って手に集めたんだよ」
「そりゃご苦労さん」
「んぁ、何かないの?すごいねとか」
「あー、すごいすごい」
「もう!」
春風が吹いて、ふわっと後藤が集めた桜の花びらが舞った。
すぐにシャッターを切った。
きっと、綺麗な写真が残せたかな。
- 441 名前:作者。 投稿日:2005/05/12(木) 22:01
-
>437 ミッチー様。
本気で怒ってくれる人がいる事は良い事ですね〜。
お別れの日がこんなに長くなるとは思ってませんでした(^−^;
(●´―`)<・・・好きなんだべ。
ついに自覚してしまった安倍さん。さて、矢口さんはどうなんでしょうか。
更新がなかなか出来ず申し訳ないデス・・・次こそは・・・!
- 442 名前:ミッチー 投稿日:2005/05/14(土) 01:46
- 更新お疲れ様デス。。。
ついに自覚しましたか〜。
微笑ましいですネ、この2人は。
きっとイイ写真が撮れているでしょうね。
なんてったって、市井さんが撮ったんだから。
- 443 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/17(火) 21:43
-
<石川 視点>
「梨華ちゃーん、助けて〜」
あいぼんがひとみちゃんの背中にしがみ付き、ののがひとみちゃんの腕にぶら下がる。
そんな状態でひとみちゃんは私に助けを求める目を向けた。
「あいぼん、のの。ひとみちゃん、困ってるよ?」
私がそう言うものの二人は一向に動かなかった。
「もう、お前らー。勘弁してよ〜」
「「嫌だー!」」
何だか三姉妹みたいで面白いなと思った。
「梨華ちゃん何笑ってんだよー」
私が笑っているのが面白くないらしくひとみちゃんはあいぼんとののをくっつけた
まま私に近寄って来た。
「攻撃や!行け〜!」
「行け〜!」
いつの間にか嫌がってた二人も味方につけるひとみちゃん。
「ちょっと、来ないでよぉ〜」
「よし、辻!行け!」
まるでののをミサイルのように扱う。そしてそのミサイルが私に発射された。
私は逃げるがののにがしっと捕まってしまった。
今日という日が過ぎて、明日になって明後日になったら・・・。
この日をどんなに愛しく感じるだろうか。
ささやかだけど、すごく幸せで。
何だか泣きそうになっちゃうよ。
「おーい!ただいまー!」
「ただいまだべー!」
やっと戻って来た矢口さんと安倍さん。どうやら仲直り出来たみたい。
市井さんの集合の声がかかって、やっと記念撮影が始まる。桜の木を後に並んだ。
私とひとみちゃんはみんなに見えないように後で手を繋いだ。少しでも長い間、触れていたい。
これが終わったら、もう私は行かなきゃいけないから。
- 444 名前:22.桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/17(火) 22:03
-
<吉澤 視点>
やっと記念撮影が始まった。矢口さんの冗談にみんなの笑い声が響く。
隣にいる梨華ちゃんも笑ってる。うちも笑っている。
ギュッと握る手が急に熱くなった。
これが終わったら、うちの隣にいる梨華ちゃんは行かなきゃいけない。
わかってるんだけどね・・・。
最後は笑顔で送りたいよ・・・。
「おし!撮影終了〜!お疲れー」
あっという間に記念撮影は終わった。市井さんはカメラを片付け、みんな今いた場所
から離れて行く。一向に動こうとしないうちを梨華ちゃんは不思議に思ったのかうちの
顔を覗き込んだ。
「どうかしたの?」
「ん?ううん。何でも無い」
笑って誤魔化した。何でもないように歩いて、泣きたいのを必死に我慢した。
そのまま駅まで行った。みんな当り前のようにぞろぞろ駅まで見送りに来ていた。
結構な人数なので旅行の団体だと間違われそうだ。
「んぁー、ついに行っちゃうんだね・・・やめるなら今だよ?」
ごっちんが冗談を言って笑った。うちにしては笑えないんだけど。
「石川、写真出来たら送るから。しっかり頑張れよ!」
市井さんがペシッとごっちんの頭を叩いた。
「んぁ、何すんのー」
「笑えねぇ冗談を言うなっつーの」
駅のホームで梨華ちゃん、そしてマサオさんはみんなと一人ずつ握手をした。
うちの前に梨華ちゃん、柴田さんの前にマサオさんが来た。
もう、行っちゃうんだね。
別れの瞬間が訪れようとしていた。
- 445 名前:作者。 投稿日:2005/05/17(火) 22:08
-
>442 ミッチー様。
近くにいすぎて、やっと気持ちに気付けた。
(●´―`)<矢口はわかってるんだべか・・。
(〜^◇^)<何が?
意外と鈍感だったり(w 前途多難かも?
市井さんの撮った写真がすごく欲しい作者です。
- 446 名前:ミッチー 投稿日:2005/05/17(火) 22:45
- 更新お疲れ様デス。。。
つ、ついにお別れの時が・・・!
悲しいよ〜、気になるところで終わってるよ〜(;_;)
確かに矢口さんは鈍感だネ。
市井さんの時もそうだったし・・・。
- 447 名前:桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/21(土) 21:04
- 何だか梨華ちゃんを目の前にした瞬間に何も言葉が出てこなくなった。
どうしてだろう。伝えたい事はたくさんあるのに。
何か言葉を出したら、きっと泣いてしまうかもしれない。
だから、何も言えなくなった。
「マサオ、しっかりやんなさいよ」
「わかってるよ。あゆみこそ、頑張れよ」
隣で爽やかに別れを告げる二人が羨ましくなった。
目の前にいる梨華ちゃんは何だか困ったような泣きそうな顔でうちを見ていた。
言わなきゃ。何か言わなきゃ。
このまま黙って見送ったら、きっと後悔するから。
「・・・あ、あのさ!うち頑張るから!」
拳をギュッと握って言った。少し声が裏返ったけど気にしない。
「そんで・・・ちゃんと勉強して東京の大学行くから・・・だから」
これは梨華ちゃんが東京に行ってしまうとわかった時に決めていた。
「・・・また来年、一緒に桜見よ?」
手を繋いで、笑って。
今日みたいに満開に咲き誇る桜を見よう。
「・・・うん!」
梨華ちゃんは手で口を押さえて泣いていた。
うちも気付いたら泣いていて、だけど笑った。
悲しい別れじゃない、これは前向きな出発なんだ。
「行ってらっしゃい。梨華ちゃん」
「行って来ます。ひとみちゃん」
- 448 名前:桜咲き、別れの瞬間。 投稿日:2005/05/21(土) 21:25
-
<矢口 視点>
ゆっくりとホームに電車がやって来た。
“あぁ、ついに来たか”と思いながら電車を眺めた。
やっぱり人の見送りはどうも苦手だ。それが良い旅立ちの見送りでも。
切なくなってしまうのはどうしようもない。
やがて電車の扉が開いた。マサオさんは柴ちゃんと握手をして、電車へ乗り込んだ。
梨華ちゃんはよっすぃーと握手をして、電車へ乗り込む。二人は席について窓を開けて
顔を出した。オイラは一生懸命、手を振った。
しばらくして発車の音が鳴り響き、電車がゆっくり走り出す。
「またなぁ!また逢おうなぁ!」
走りながら手を振ってそう叫んだ。よっすぃーも走り出す。
ホームの端から端まで全速力で走った。端まで行き立ち止まる。
「頑張れよぉ!」
息もきれぎれに叫んで、肩を大きく揺らして空気を吸い込んだ。
「・・・行っちゃいましたね・・・」
隣ではオイラと同じく息が上がっているよっすぃーがいた。
「うん」とオイラは頷いた。
頑張れよ、二人とも。オイラ達も頑張るから。
オイラは小さく、囁くような声で歌った。あの二人の届きますようにと願いを込めて。
ココロに響くように。
「・・・せんぱぁい・・・ずるいッスよぉ・・・」
よっすぃーが膝をついてコンクリートに手をついた。
「歌・・・なんて歌われたら・・・うち、泣いちゃうじゃないですかぁ・・・ッ」
最初から泣いてたじゃんと思いながらオイラは歌っていた。
途中、歌声が震えるけれど、やめずに歌い通す。
親愛なる仲間達へ。
旅立ちの歌を。
ココロの歌を。
- 449 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/05/21(土) 21:49
-
『最終話 23.親愛なる仲間達へ。』
<後藤 視点>
「えーと、食材は・・・」
ポケットに突っ込んだメモ用紙を取り出して買う食材を確認する。時折メモを見ながら
持っているカゴに入れていく。全て入れ終わりレジで会計を済ませて、袋に詰め込んで
スーパーを出た。太陽の陽射しが眩しく、あたしは目を細めた。
今日もいい天気だなぁ・・・。
「あれ、ごっちん!」
ほのぼのしながら歩いていると向こうから自転車に乗った安倍さんがやって来た。
「買い物?」
「んぁ。今日はさっぱりと素麺にしてみた」
「何だか暑いもんねー。今日」
「そっちは?買い物?」
「今から大学行ってレポート出して、それからバイト」
「忙しいねぇ」
他人事のように言うと安倍さんは意地悪く笑った。
「ごっちんもその内、忙しくなるよ?」
「うぅ、お手柔らかに・・・」
「あはは!私が忙しくするわけじゃないし!ま、先輩としてアドバイスぐらいはしたげるよ」
お日様のような笑顔で安倍さんは「じゃぁねー!また夕食誘ってね!」と言って去って行った。
あたしは安倍さんを見送ると再び歩き出した。
「ふぅ、にしても暑い・・・」
ふと見上げれば歩道に植え付けられている木の葉が緑になっていた。
桜の木はまた新しく、そしてまた満開に咲き誇れるようにと準備をしていた。
「桜、かぁ・・・・」
早いもので“あれから”もう一年が過ぎていた。
- 450 名前:作者。 投稿日:2005/05/21(土) 22:01
- いよいよクライマックスに入りました。
>446 ミッチー様。
(〜;^◇^)<お、オイラって鈍感なの?
( ^∀^ノ <今頃気付いたのかよッ。
(〜^◇^) <(・・・紗耶香に言われたくないな)
ついにお別れです。そして最終話になりました!
ついに最終話になりました。いつ終わるんだろう?と思いながら書いてました。
本当はもっと早くに終わるハズだったのですが、意外と長いこの物語(^−^;
最終話では“あれから”一年後になっております。彼女達がどうなったのか、
どうゆう道を歩いているのか・・・それはまた次回に。
長らく読んで下さっている方々、そして感想レスをして下さる方々。
本当に感謝です。最後まであと少しですが、どうぞ最後まで読んで下さい。
- 451 名前:ミッチー 投稿日:2005/05/21(土) 22:35
- 更新お疲れ様デス。。。
もう最終話ですかぁ。
振り返ってみると、随分と長かったような短かったような・・・。
あれから1年、みんなどうしてるのでしょうか?
最後まで、楽しみに待ってます。
- 452 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/05/29(日) 21:13
-
<大谷 視点>
「では、今日はここまでです。お疲れさまでした」
予鈴が鳴り、まわりが騒がしくなった。私はお菓子作りの実技授業で使ったモノを
片付け始めた。
「マサオ、今日みんなでどっか食べ行こうって話てんだけどさ。行かない?」
一緒の班の友達が同じく隣で片付けをしながら言った。
「んー、今日は用事あるから。やめとく」
「そっか。また今度だね」
「ごめんね」
特に用事はないけれど、ちゃんと勉強しないと自分の迎えを待っている恋人が
怒るからねぇとココロの中で呟く。片付けが終わると学校を出て、家の近くに
あるスーパーに寄った。夕食の買い物の他にお菓子の材料に必要な物を買った。
一年間はがむしゃらに頑張ってお菓子やケーキを作ってきた。今は少し余裕も
出来て、自分だけのオリジナルケーキを作ったりしていた。
「さてさて・・・」
家はアパートの一室。スーパーの袋を二つ、片手に持ち直しジーンズのポケットから
鍵を探った。取り出して扉の鍵穴に鍵をさした。ガチャッと回して扉を開けた。
「ただいまー」
当然、一人暮らしだからおかえりを言ってくれる人なんて誰もいない。
スニーカーを脱いで玄関に上がる。
「あ、おかえりー」
・・・。
キッカリ3秒。
「え・・・えぇ!!?」
畳の上に座ってのんびりお茶を飲んでいるあゆみがいた。
「な・・・な、何して・・・ってか何で・・・!?」
危うくスーパーの袋を落としそうになった。
- 453 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/05/29(日) 21:41
- 「あら、恋人の家にいちゃいけないの?」
「別に・・・そんなんじゃ・・・」
ここは東京だ。故郷にいるはずの人がこんなとこにいたら普通驚くだろ。
「・・・何でいきなり来たの?昨日、電話でしゃべった時は何も言ってないじゃん」
ココロを落ち着かせる為に、とりあえずスーパーの袋を台所の空いてる場所へ置いた。
再びあゆみの方を向く。さっきと変わらずのんびりお茶を飲んでいた。
「抜き打ち検査よ」
「はぁ?抜き打ち?」
コップを出して冷蔵庫から麦茶を取り出した。コップに注ぎ、それを持って
あゆみの隣に座った。
「まぁ、心配してないけど。一応、誰かを連れ込んでないかを」
「んな事するわけないじゃん」
「わかんないじゃない。前科あるんだし」
前科って・・・・きっとめぐみの事だろうな。別に浮気じゃないけど否定はしない。
苦笑いをしながら私は麦茶を飲んだ。
「そんで、抜き打ちの結果は?」
「見た所大丈夫なようね。それらしき匂いはないわ」
「それは良かった」
聞くと、大学の授業が休講になりしかも一時限目の授業しかなかったもので
一日暇になってしまい東京に行こうと思い立ったらしい。
ちなみに明日は土曜日・・・泊まってく気か?
私はそんなのんびりしていられない。レポートとか自分の作品の事とか。
近くの喫茶店でバイトも入ってるし。
「あゆみ、あんまりゆっくりする時間ないんだけどさ」
「わかってるわよ。今日の夜にでも高速バスで帰るから」
帰っちゃうんだとちょっとがっかり。
「今、ちょっとがっかりした?」
あゆみがイタズラっぽく笑った。
「・・・まぁね。でもしょーがないでしょ」
「相変わらず素直ねぇ」
麦茶の入ったコップを丸いテーブルの上に置いて、あゆみを抱き寄せた。
「ちょっと、お茶こぼれるじゃない」
「ゆっくりする時間ないんだから」
あゆみが持ってるお茶を取り、テーブルに置いた。
「マサオ・・・」
久々に触れ合う暖かい感触だった。
- 454 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/05/29(日) 22:01
-
<小川 視点>
「まこっちゃん、まこっちゃんってば」
誰かに肩を揺らされ起きてみるとあさ美ちゃんの呆れた顔が見えた。
「あ・・・あれ?」
教室の中は賑やかにざわついていた。
「もう、六時間目終わったよ」
「えぇ?」
自分のノートを見ると途中から読めないような字に変わって途切れていた。
「そんなー・・・」
「・・・後で私のノート見せてあげるから」
あさ美ちゃんのノートを見せて貰うのはこれで何回目だろうか。数えきれないほどだ。
「ごめんね」
「いいよ。いつもの事だし」
グサッと突き刺さるお言葉。もう笑うしかない。
とりあえず、六時間目が終わったのだから今の時間帯は放課後。放課後は部活だ。
ノートと教科書をカバンに突っ込んで立ち上がった。
「まこっちゃん、部活に行こうとしてない?」
「え?そうだけど・・・」
はたまたあさ美ちゃんの呆れ顔。
「今日は部長会議でしょ?昼休みに放送あったじゃん」
「あっ・・・・」
自分が行く場所は部活をやる校庭ではなくて、生徒会室である。
「三年生になっても変わらないね。まこっちゃんは」
「うぅ・・・会議行って来ます」
私は吉澤先輩が受験で引退する時に次の部長として引き継いだ。
『小川、お前なら安心して任せられるよ』
『んぁ。よしこと似たとこあるけど、紺野がついてるし』
最初は迷った。自分よりもあさ美ちゃんの方がいいんじゃないかって。
それに矢口先輩、吉澤先輩の後を自分が引き継げるのかって。
『まこっちゃんじゃなきゃ、ダメだよ。陸上部の部長は』
あさ美ちゃんは怒ったような顔でそう言ってくれた。
『私はまこっちゃんについていくよ。そして支えていくから・・・・。
だから、頑張ろ?』
こうして私は陸上部の部長になった。それが高校二年の夏休み明けの頃だった。
- 455 名前:作者。 投稿日:2005/05/29(日) 22:08
-
>451 ミッチー様。
そうですね。随分と長かったような短かったような・・・。
最後まで楽しみに待っててくれて嬉しいです。
頑張ります(^−^
久々の大柴におがこんでした。
陸上部の部長、三代目は小川さん。陸上部の部員は小川さんと紺野さん以外に
いるのか・・?それはまた次回に。
- 456 名前:ミッチー 投稿日:2005/05/30(月) 23:52
- 更新お疲れ様デス。。。
ホントに久々ですね、大柴。よかったです☆
確かに、陸上部の部員他に誰がいるのか気になりますね。
- 457 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/10(金) 23:03
-
<田中 視点>
いつからだろう?全ての事に興味を失ってしまったのは。
「ぷはっ・・・」
タオルで汗を拭い、ペットボトルに入っている水を喉に流し込んだ。
空は青く、綺麗に澄み渡っている。全てにおいて興味を失ってしまっていた自分は
もうここにはいなかった。今は、この空を見て“いいな”って思える自分がいる。
「れいなー!」
「さゆ、おっそいじゃん」
「だって先生のお説教が長くて・・・先生、ずっと怒ってた」
「そりゃ、授業中に鏡で自分の顔ずっと見てる生徒がいりゃ怒りたくもなるって」
「先輩達は?」
「あぁ、部室にいるよ。早く着替えてきなよ」
「わかったー」
タオルとペットボトルを鞄に入れて木陰に置いて、私は再び走り出した。
─あれから、私は変わった。少し旅をした後の私は変わった。
学校に行くようになり、再び元の自分に戻っていった。かなり休んでいたので高校受験は
どうなるのかと心配し担任の先生に相談したら先生は涙ぐみながら喜んでいた。それから
変わっていく私を両親は驚いていた。友達も前と変わりなく接してくれるし、私は恵まれた
環境にいるんだなと実感し、今まで迷惑をかけてきた人達に申し訳ない気持ちになった。
誰よりも、さゆだけは本当に・・・・。
いつも私の傍にいて、支えてくれてた。ちゃんと私を見てくれていた。
私は絵里ばかり見ていたのに、さゆは何も見返りをしてくれない私を見てくれていた。
さゆの為に、自分の為に変わらなきゃ。
その想いが自分を強くさせていた。
そして、勉強を頑張って取り戻し、無事に高校に合格出来た。
この春から晴れて高校生なわけである。さゆと一緒の高校。
タッタッタと順調にペースを崩す事なく、グランドを走る。
運動は特に得意ではないけれど、高校に入って何かを始めたかった。
何故、陸上部かというと・・・・まぁ、何となく。
部活動の勧誘でちょっと面白い人達がいたから、かな。
- 458 名前:作者。 投稿日:2005/06/10(金) 23:07
- 時間がなくて、残りの更新は明日にします。お礼レスもその時に。
本当にすいません。
- 459 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/11(土) 07:20
- 更新お疲れ様です。
あ、この二人!懐かしいですねぇ…
続き、頑張ってください。
- 460 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/11(土) 20:45
- 『えーと、・・・陸上部楽しいですよー!』
『まこっちゃん、もっと大きく』
『陸上部どうですかー!元気いっぱい夢いっぱい!青空の下を私達と一緒に
走りませんか!青春ですよー!』
『まこっちゃん、もっと気持ち込めて』
『・・・あさ美ちゃん。そんなパイプ椅子わざわざ持って来て座ってないでさ、
手伝ってよぉ・・・』
『そんな、私よりも部長自らがやるっていうのに意味があるんじゃない』
『・・・部長をサポートする部員は・・・ってか、あさ美ちゃん副部長じゃん』
『・・・・まぁ、そこは置いといて。頑張って!』
新入生が入学式を終えて学校から出て行くと待ってましたとばかりに先輩達の部活の
勧誘が始まった。チラシを配ったり、ユニフォームを着ていたりと先輩達は必死だった。
そんな中、何故かプラカードを持って勧誘している人を発見。プラカードには大きく
『陸上部』と書かれていた。さゆと二人でその部を観察しているとプラカードを持って
いるのは部長らしい。そして何故か堂々と椅子に座っているのが副部長。
・・・変な部だなぁ。
『あさ美ちゃん・・・疲れたよぉ・・・』
『しょーがない。休憩タイムね』
『はぁ、やっぱ陸上部は人気ないのかなぁ』
『せめて二人ぐらい入って欲しいよね。私達、もう三年だし。このままじゃ・・・』
『廃部だよねぇ・・・嫌だなぁ。せっかく吉澤先輩達が築きあげてきたのに・・・』
どうやら困っているらしい。部員がいないのはきついもんだ。
『さゆ、私、陸上部入る』
『え?れいな、走るの好きだっけ・・?』
『ううん。でも何か新しくやりたいし。それに、あの人達面白そうじゃん』
練習がきついのはどの運動部だってそうだから、なら楽しくやりたい。
楽しい部活がしたい。私にはただ、それだけの理由だった。
私はゆっくりその部に近付いていった。さゆが『れいな、待ってよ』と言いつつついて来た。
『あの・・・』
『ん?どうしたの?』
『・・・陸上部入りたいんですけど』
こうして、私は陸上部に入部した。
- 461 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/11(土) 21:33
- 「れいなー!」
振り返るとピンク色のジャージを着たさゆが手を振って走って来た。
さゆが一緒に入るって言ったのには驚いたけど、さゆがいるから楽しいっていうのも
あるような気がする。
「先輩があとでジュース奢ってくれるって」
「・・・さゆ、何て言ったの?」
「小川先輩に『さゆ、ジュース飲みたいんですよぉ』って言ってみた」
「・・・小川先輩って後輩に甘いよね」
「私が可愛いからかなぁ?」
その場に紺野先輩がいたんなら、小川先輩大丈夫かなぁ・・・。
ま、いいか、ジュース奢って貰えるんだし。
<一方その頃の小川>
「あさ美ちゃぁん・・・本気で右ストレートは痛いよぉ・・・」
「まこっちゃんがデレデレしてるからでしょ」
「だって、可愛いじゃん・・・後輩は」
「もう一度くらいたい?」
「はい、ごめんなさい・・・・」
タッタッタと走る音だけが聞こえる。今、校庭には二人しかいなかった。
「れいな、楽しい?」
いきなりさゆが話しかけてきた。
「・・・楽しいよ」
さゆの方を見ると、さゆは笑っていた。
「良かったぁ・・・」
「・・・さゆは?」
「私はいつも楽しいよ・・・れいなが一緒だから」
全く、こっちが照れてしまう台詞だ。
照れてるのに気付かれたくなくて、私は少しだけ走るスピードをあげた。
「待ってよぉ。れいな」
「待たないよー」
空が青かった。
あそこから絵里は見ているかな。
私の笑顔を。
- 462 名前:作者。 投稿日:2005/06/11(土) 22:16
- 短い更新で申し訳ないです・・・(T−T
>456 ミッチー様。
大柴は作者が大好きです。これからも出したい・・・けど出番あるかな(^−^;
陸上部の部員が判明しました!そうです、あの二人です。
>459 名無し飼育さん様。
ホント、久々ですよね、この二人。
続き頑張ります!
- 463 名前:ミッチー 投稿日:2005/06/12(日) 00:04
- 更新お疲れ様デス。。。
なるほど、この2人ですか。懐かしい2人ですね。
デレデレしてる小川さんと、怒ってる紺野さん。
想像しやすかったです☆
- 464 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/17(金) 17:59
-
<藤本 視点>
「ありがとうございましたー」
今は午後の三時頃。お客さんは今、出て行った人達が最後で店内には私とマスター
以外誰もいなくなった。テーブルの上にあるコップや皿を片付けてテーブルを拭く。
平日のこの時間帯になるとあまり人も来ない。夕方頃になるとだんだん混み始めるから
それまで少し休憩が出来る。
「美貴ちゃん、少し店を任せていいかい?」
「はい、いいですよ。病院ですか?」
「娘がちゃんと行けってうるさくてね。しかも車で送るとか言い出すもんだから」
マスターが苦笑いをして言った。
「いい娘さんじゃないですか」
「何だかねぇ。最近は一緒に暮らそうとも言って来てね」
「いいじゃないですか。お孫さんもいるんでしょ?」
片付けたコップなどをのせたトレイを持ってカウンターに向かう。
「だがねぇ、そうなると店が続けられなくなるんだよ」
この喫茶店はマスターとマスターの奥さんが、娘さんが結婚した後に出した喫茶店。
奥さんが亡くなられても、マスターはこの喫茶店を続けて来た。相当な想いがこの
喫茶店には詰まっている。
「この店にはいろんな人が来る。授業の空き時間をここで過ごす大学生や小さな子供
を連れてきておしゃべりを楽しむお母さん達、コーヒーを飲んで疲れを癒すサラリー
マン。たくさんの人達にこの店は愛されてきた。常連のお客さん、その他のお客さん
の為にこの店はここにある。だから、簡単には終わらせられない」
マスターやマスターの奥さんにとってこの喫茶店は“宝物”なんだ。
「そうですね・・・私もこの店、大好きです」
「ありがとう。君がこの店に来てくれて嬉しいよ」
クラクションの音が外から聞こえた。きっと娘さんが迎えに来たのだろう。
マスターは愛用のエプロンを外して、カウンター内から出た。
「・・・美貴ちゃん」
「はい?」
「・・・もし、わしがここから離れてしまう時期が来たら」
真っ直ぐマスターは私を見た。さっきとは違う、穏やかだけど真剣な目で。
「この“宝物”を君に預けてもいいかい?」
「え・・・?マスター、どうゆう意味・・?」
またクラクションが音が聞こえた。マスターが「せっかちな奴だ」と笑って呟き
私の質問も答えないまま店を出て行った。
- 465 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/17(金) 18:40
-
<松浦 視点>
学校が終わってあたしは美貴たんがバイトしている喫茶店へと急いでいた。
「美貴たん〜♪」
ずっとこの日課が続いていた。どうやら美貴たんはこの喫茶店のバイトが好きなようだ。
あたしもこの喫茶店が好き。食べ物も飲み物もおいしいし、何か落ち着くし。
軽くスキップしながら(まわりの人は何だか変な物を見る目を向けるけど気にしない)
美貴たんがいる喫茶店に到着。ウキウキしながら扉を開けると、扉についてる鈴が鳴った。
うん、この音も好き。だけど一番好きなのは美貴たんだけど♪
中に入るとお客さんはいなかった。まぁ、その方があたしとしては嬉しい。
「美貴たーん?」
店内を見わたすとカウンター内でぼーっとしている美貴たんがいた。
「美貴たん?どうかしたの?」
「あっ・・・亜弥」
「変なの。ぼーっとしちゃって。何かあった?」
美貴たんは「・・いや、別に」と言った。これは絶対何かある。
「紅茶?コーヒー?あ、新しくメニューが増えたんだよ。冷たいレモネード。
今日から出したんだけど」
「じゃ、それがいいな」
「わかった。ちょっと待ってて」
棚からグラスを出して作り始める美貴たん。あたしはカウンター席に座って眺める。
「・・・ね、何かあったらあたしに言ってもいいんだよ?無理強いはしないけど」
やっぱり気になっちゃうから。好きな人の事だから余計に。
美貴たんは諦めたのか、話始めた。どうやらこの喫茶店のマスターの事らしい。
話終えると美貴たんは「マスター、いなくなっちゃうのかなぁ」と呟いた。
「“宝物”を預ける、か・・・」
つまり、美貴たんがこの喫茶店を受け継ぐって事・・・?
マスターの身内でもない、バイトの美貴たんに?
「はい。冷たいレモネード。おいしいよ」
のどが渇いていたので出されたグラスに口をつめる。ひんやりと冷たいレモネード
がすごくおいしい。これはこれからの時期に売れる飲み物になると思う。
「おいしい!」
あたしがそう言うと美貴たんは嬉しそうに笑った。
- 466 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/17(金) 18:51
- 「これ美貴たんが提案したの?」
「うん。ジュースってオレンジしかないんだよね」
そう言われてあたしは改めてメニューを見た。確かに飲み物の欄にあるジュースは
オレンジしかない。いつも紅茶かコーヒーを飲んでいたあたしは気付かなかった。
「ここさ、よく小さな子供が来て。お母さんと一緒に。ジュースがオレンジだけだと
つまんないし、何か他に増やせないかなって思ってて。子供に飲めて、大人も注文
するようなジュース。そんで考えたら、冷たいレモネードが浮かんで」
・・・よく見てるなぁ、美貴たん。
「うん。レモネードっていいよ。学生にも人気出るんじゃない?」
「ありがと。あ、何か食べる?」
「美貴たんの奢り?」
「しょーがないなぁ。よし、今日は奢ってあげる」
「やった!ホットサンドがいい!」
「りょーかい」
ホットサンドを作りに奥の部屋にあるキッチンへ向かう美貴たん。
・・・何となく、わかるかも。マスターが美貴たんを選んだ理由。
「何となくだけどね・・・」
グラスを傾けると中にある氷がカランと音をたてた。
- 467 名前:作者。 投稿日:2005/06/17(金) 19:05
- 久々のあやみきでした(^−^
>463 ミッチー様。
小川さんと紺野さん、きっと二人はこんな感じ・・・かな?
れなさゆも久々に。そして今回のあやみきも久々ですね。
・・・いしよしが多かったせいか、みんな久々に感じますね(^−^;
安倍さん視点も書きたかったんですが、時間がなく次回に(T−T
そこでは矢口さんの近況も報告。さて、彼女は今何処にいるのか・・?
登場人物が多いので、一年後のこの章はかなり長くなるかもしれません。
- 468 名前:ミッチー 投稿日:2005/06/19(日) 01:12
- 更新疲れさまデス。。。
何かイイっすね〜。あやみき。
他の人たちの話も期待しながら待ってます。
- 469 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/20(月) 20:49
-
<安倍 視点>
「ふぅ・・・」
大学のパソコン室。やっと出来上がったレポートを印刷した。椅子に座ったまま背伸び。
後はこのままレポートを提出すれば今日、大学にはもう用は無い。最近、レポートばかり
だったので久々に家でゆっくりしようと思った。
「なっち。終わった?」
隣のパソコンを使っている大学の友達が聞いてきた。
「うん。やっとね」
「いいなぁ。私なんかまだまだだよ」
プリンタ機から印刷された用紙が出てきた。手に取り、空いてる手で鞄を持った。
「大丈夫だよ。期限まであと一週間もあるし」
パソコンを終了させ、電源を落とした。
「そーだね。あ、またケーキ食べ行こうね〜」
「うん!じゃ、また明日」
「バイバーイ!」
友達に手を振りながらパソコン室から出る。冷房の効いていたパソコン室から出ると
少しむし暑く感じた。そのままレポートを提出する研究室へ向かう。
・・・そういえば、矢口はレポートいつも徹夜でやってたなぁ。
『矢口、明日レポート提出の締め切りだけど出した?』
『ううん。全く』
『なっ・・・!明日だよ!?』
『今日徹夜でやるさ!オイラに不可能はない!』
・・・結局、終わらなくて夜中に泣いて電話かけてくるんだもんなぁ。
思い出し笑い。ハッと我に返りまわりを見渡した。まわりには誰もいなかった。
こんないきなり笑ってたら怪しい人だと思われちゃうよ・・・良かった。
研究室にレポートを出して大学を後にした。すると携帯に電話がかかってきた。
「あ、圭織からだ・・・」
すぐに出る。圭織は今年の春に日本に帰って来ているけど、お互い忙しくて
なかなか逢えずにいた。
「もしもし?圭織?」
『なっちー。久しぶり〜』
携帯を耳に当てながら歩いた。
- 470 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/20(月) 21:23
- 「久しぶり。どうしたの?」
『久々に食事なんてどうかなーって』
「おっ、いいねぇ。あ、じゃぁうち来る?」
『いいの?』
「うん。今夜はハンバーグにしようと思ってたし」
『やった!』
圭織は夜の7時頃に来る事になった。私は近くのスーパーに寄り、ハンバーグの必要な
材料や飲み物を買って家へ帰った。
「ただいまー」
当然“おかえり”なんて返事はないけれど私はちゃんと“ただいま”と言う事にしていた。
一年前ぐらいに誰かさんに約束させられたから。
『なっちー!』
『え?矢口?いたの?』
ある日、家に帰ると矢口がいた。矢口には合鍵を渡していたのでいても不思議じゃないんだけど。
『・・・なっちって、帰って来た時“ただいま”って言わないの?』
『うーん・・・言う時もあるけど。まぁ、言っても“おかえり”って言ってくれる人なんて
いないし』
『ダメだよ。“ただいま”はちゃんと言わなきゃ』
『何で?』
『“ただいま”って大事な言葉じゃん。自分の家に帰って来たって思える言葉。
ホッと出来る瞬間だとオイラは思うんだ。オイラはこれ言わないと帰った気が
しないんだよね』
『でもさ、“おかえり”って言ってくれる人がいなきゃ寂しいよ』
『だったら、オイラが言ってあげる。・・・ココロん中で』
『ココロん中・・・』
『うん。離れてても、ココロは繋がってるから』
「ふふ・・・」
あ、また思い出し笑いしてるよ。ダメだなぁ、この癖。
『そうだね』
『じゃぁ、約束しよ。帰って来たらちゃんと“ただいま”』
小指と小指を絡ませて、指きりげんまん。
私と矢口の大事な“約束”
- 471 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/20(月) 21:44
- 夕飯の支度を済ませて圭織が来るのを待つ。もうすぐ時計は7時になる頃。
ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
「来た!」
パタパタと走って玄関まで向かう。ガチャッと扉を開けるとそこには圭織がいた。
「こんばんわー」
「どうぞ。上がって〜」
いつもより賑やかな家になった。やっぱり誰かがいるのは嬉しい。
「綺麗だねー。でもなっちが一人暮らしとはねぇ。でも自宅から通えるよね?」
「まぁね。でもやってみたかったから。何事も挑戦あるのみ!」
「あはは、矢口みたい」
テーブルの上に夕飯を並べてると圭織が「ほい、お土産」と言ってケーキの箱を
差し出してくれた。
「わぁ、ありがとう!後で食べよう!」
その箱を冷蔵庫へ入れて再びテーブルに戻ると圭織が何かを見ていた。
「懐かしいね。この写真」
写真立てに入れた大事な思い出の写真。いつも見える位置に飾っている。
「うん」
「楽しかったよね。みんながいてさ・・・」
満開の桜の前で笑っている仲間達。
「そうだね。さ、食べよ?冷めちゃう」
「うん」
カタッと圭織は写真立てを元の位置へ戻した。
- 472 名前:作者。 投稿日:2005/06/20(月) 21:49
- (●´―`)と(゚皿゚ )の更新でした。
(〜^◇^)は何処へ・・?どうやらここにはいないようです。
>468 ミッチー様。
期待に応えられるよう頑張りますね!
いつ終わるかわかりませんが見守ってて下さい(w
- 473 名前:ミッチー 投稿日:2005/06/20(月) 22:14
- 更新お疲れ様デス。。。
矢口さんの行方が気になる・・・。
一読者として、いつまでも見守ってます。
- 474 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/22(水) 17:04
- 夕飯の話題はほとんどが高校時代の話題だった。
「矢口がさぁ、爆睡してて、先生にもろ怒られたの覚えてる?」
「あぁ、あったねー。そんで矢口も寝起きで機嫌悪くて、先生に反撃して」
「それで授業終わったんだよね。で、結局うちらが二人をなだめたんだよね」
どれもこれも懐かしい思い出だった。思い出は尽きる事なく、夜遅くまで続いた。
結局圭織はうちに泊まる事になった。
「にしても、あのバカはいつ帰ってくんだか」
圭織がお風呂に入って濡れた髪をタオルで拭きながら言った。
「そうだねぇ。ま、その内帰ってくるよ」
私はお風呂に入る支度をしながら圭織に言った。
「いいの?引き止めなくてさ。心配じゃない?」
「んー、そりゃ心配だよ?電話もメールよこさないで何処にいるのかもよく
わからないし。だけど、矢口はとことんやらなきゃ気がすまないから」
「・・・辛くない?待ってるのって」
そう言われて私の笑顔は止まった。
“辛くない?”
辛くなんかないって言ったら嘘になる。
夜中に寂しくて、辛くて泣く事もある。
写真を眺めては『バカ』って怒る事もある。
でも私は・・・・。
「なっち?」
気付けば圭織が心配してる顔で私の顔を覗いていた。
「私は矢口を信じてるよ。必ず、ここに帰って来るって」
どんなに待つ時間が長くても。
矢口は必ずここへ帰ってくるから。
・・・信じて、待ってるよ。
- 475 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/22(水) 17:26
-
<市井 視点>
仕事で北海道に来ていた。仕事が片付き、今日でここの旅館に泊まるのも最後。
「土産?わかってるって。ちゃんと買って帰るから。・・・だから、この前は
時間無くて買えなかったんだよ。大丈夫、今回は時間あるから」
夜空に輝く星を眺めながら電話をしていた。
『でも市井ちゃん、ホントぬけてる時あるから』
「ハイハイ。じゃぁぬけてない証拠にちゃんと土産買って帰るから」
『買って来なかったら家に入れないからね』
「おぉ、りょーかい」
・・・鍵持ってるから入れるんだけど。
『じゃ、風邪ひかないようにね。あたし、もう寝るから』
「ん、わかった。おやすみ」
『おやすみ。市井ちゃん』
ピッと電話を切った。振り向くとアヤカがにやにやして笑っていた。
「何笑ってんだよ。気持ち悪い」
「失礼ね。ずいぶん前からいたけど、恋人との邪魔しちゃ悪いから見守っててあげたのに」
「見守る前に回れ右して帰れ」
「まぁまぁ。はい、ジュース」
渡された飲み物はジュースと言えるような物ではなかった。
「酒じゃん、コレ。何処がジュースなんだよ。先輩からかっぱらって来たな」
さっき浮かれ気分で横を通って行った仕事の先輩を思い出した。手には大量に酒の缶が
入った袋が握られていたと思う。
「ご名答。まぁ、これで紗耶香も共犯ね」
「ったく・・・」
プシュッと缶の蓋を開けた。廊下の適当なとこに座って一口飲んだ。
- 476 名前:作者。 投稿日:2005/06/22(水) 17:33
- 短い更新で申し訳ないです・・・。
>473 ミッチー様。
(〜;^◇^)<え?オイラ何処にいんの?
(●´―`)<・・・さぁ?作者もわかってなかったりして。
(〜;^◇^)<・・・このまま終わっちゃったらどうしよう・・。
(●´―`)<ミッチーさんのように見守るしかないべ。
見守って下さる方がいるとココロ強いです。
本当にありがとうございます。
- 477 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/23(木) 21:29
-
<後藤 視点>
市井ちゃんからの電話をきって携帯を机の上に置いた。
「んぁ・・・寝よ」
もう日付は変わっていて、眠いのが限界だった。もぞもぞとベットの中に入る。
ボーっと天井を見上げた。そっと視線を机の方に向けると、机の上にある写真立てが
視界に入った。一年前ぐらいに撮った写真。満開の桜の前で思いきり笑っている仲間
がそこに写っていた。みんな幸せそうに、楽しそうに。
“あれから”時間が経って、もうあたしは大学生になっていた。
まだ特に夢は見つかってない。でもこれからちゃんと見つける。
そう決めた時、市井ちゃんは『頑張れよ。後藤なら、大丈夫。きっと見つかるよ』
と笑って言ってくれた。そして去年の夏休み、あたしは市井ちゃんと共に故郷へと
帰った。親戚のおじさんとおばさんに逢いに行った。二人はあたしを見て泣いていて
それから何度も『ごめんね』と謝っていた。あたしはもうおじさん達の事を怒ってない
し、恨んでもない。『あたしはもう怒ってないから』と伝えると更におじさん達は
泣いていた。落ち着かせるのに大変だった。
そしてあたしは大学へ進学する事を伝えた。
『もう、そんな時期か・・・早いもんだな』
おじさんが穏やかな眼差しでそう言った。
『えぇ、後藤が大学生になるなんて信じられませんよ』
『市井ちゃんッ。どーゆー意味?』
『そのままの意味だよ』
おばさんがスイカを出してくれたのでみんなで食べた。話の成り行きでこの日は
ここへ泊まって行く事になった。おばさんと市井ちゃんが夕飯の買い物へ出かけた。
あたしは前に自分が使っていた部屋を見ていた。
- 478 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/23(木) 21:50
- 懐かしいなぁと思いながら部屋を見ていた。驚いた事にこの部屋はあたしが
出て行った時と同じだった。机もタンスも何もかも。しかも埃なんかかぶって
なくて、綺麗だった。きっとおばさんが掃除をしてくれていたんだろう。
『・・・不思議だなぁ』
今、ここに自分がいる事が不思議だった。あんなに嫌で仕方なかったこの部屋に
何の躊躇いもなく自分がいる。きっと高校一年の時のあたしだったら無理だったと思う。
部屋の窓からは庭が見える。庭を見てみるとあたしはある物が視界に入った。
急いで部屋を出て居間の方へ向かった。居間から庭が見える。
『真希、どうしたんだ?』
『あれ・・・』
あたしはそれを指差した。おじさんは『あぁ、あれか』と微笑んだ。
まだ小学生の時、あたしは向日葵が好きでこの庭に向日葵の種を埋めていた。
何が何でもこれはあたしが育てるんだと頑張って育てていた。あの頃は勝手に
庭を使った事でひどく怒られていた。それでもあたしは諦めなかった。
そして夏に小さいけど、綺麗な向日葵が咲いた。何かやり遂げられたという
達成感があって、あたしは涙を流して喜んだ。それからずっとあたしは向日葵を
育て続けた。家を出て行く時まで。
『初めて、真希が向日葵を咲かせた時覚えてるか?』
『うん・・・』
おじさんがゆっくり庭に近寄る。縁側に出て、傍にある庭用のサンダルを履いて
向日葵に近付いて行った。
『貧弱そうな向日葵だったけど・・・驚いたよ。努力の結果を出したんだから。
まだ小さい真希が』
『・・・でも、何で・・・?』
『・・・真希が出て行ったのは確か、夏が始まる前だった。それまでちゃんと
世話してたんだよな。だから夏に咲いたんだよ、ちゃんと』
あたしの方をゆっくり振り向くおじさん。
『真希がいなくなって、残ったのはこの向日葵だけだった。綺麗に咲き誇る向日葵
だけだった。・・・俺達は気付いたよ、何てひどい事をして来たんだと』
あたしは自然と涙を流していた。
- 479 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/06/23(木) 22:07
- 『あいつと話し合って、この向日葵をこれからもずっと・・・夏にな、咲かせようって
決めたんだ。これは真希が一生懸命頑張った証だから・・・俺達にそんな資格ないけど
せめて何か真希の為にやろうって・・・』
気付いたらおじさんも泣いていて、二人で肩を震わせながら泣いていた。
『あたし、嬉しいよ・・・また見れたんだもん。嬉しいよ』
『そう言って貰えるとこの向日葵も喜ぶよ』
縁側にいるあたしにおじさんは近付いた。
『年をとったせいか、涙もろくてな。ハハハ』
あの頃のおじさんとは想像がつかないほどの明るい笑顔が眩しかった。
『・・・金の面なら心配するな。お前が行きたい大学に行きなさい』
『おじさん・・・』
今なら、大丈夫だよね?
まだ遅くなんかないよね?
『・・・あたし達、ちゃんと家族になれるよね・・?』
今までずっとダメだったけど、今なら出来そうな気がするんだ。
『・・・真希さえよければ、もちろんだよ』
庭に咲き誇る向日葵があたし達を暖かく見守ってくれていた。
- 480 名前:作者。 投稿日:2005/06/23(木) 22:11
- 今日の更新は以上です。
- 481 名前:ミッチー 投稿日:2005/06/24(金) 00:22
- 更新お疲れ様デス。。。
後藤さん視点の話で、ちょっと泣いちゃった。
おじさんと同じで、最近涙もろくて(w
- 482 名前:作者。 投稿日:2005/07/04(月) 18:44
- 今月、大学のレポートやテストが多く更新出来ません。
待って下さっている方、本当に申し訳ないです。
レポート、テストが終わり次第更新します。
よろしくお願いします。
- 483 名前:名無飼育 投稿日:2005/07/25(月) 18:12
- 作者さんのペースでがんばってください
待ってます。
- 484 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/07/29(金) 16:51
-
<市井 視点>
「そういえば、大学生になったんだっけ?」
夜空を見上げてアヤカは言った。お酒を飲んだせいか少し顔が赤かった。
「後藤?そーだよ。結構ギリギリだったけど、何とかな」
受験勉強を必死になってやってる後藤の姿を思い出して、私は苦笑いをした。
「早いものねぇ。年が経つのは」
「そーだなぁ」
あんなに勉強嫌いをしていた後藤が、毎日毎日飽きるほど勉強を頑張った。
その隣で吉澤も頑張って勉強をしていた。もう、石川の家庭教師はないけど。
私は勉強の事なんてさっぱりわかんないから、なっちや矢口に来てもらったりして。
『んぁ、この数学が解けないんだよぉ』
『あぁ、コレね。なっちも苦労したよ』
『矢口先輩。あの、ちゃんとわかってます?』
『わ、わかってるよー』
『じゃぁ、何で答えが合わないんですか・・』
夏休みも冬休みも受験生の二人には無くて、それでも二人は文句も言わなかった。
そして、今年の春、二人は無事にそれぞれ行きたい大学へ合格出来た。今までずっと
見守ってきた私としては自分の事のように嬉しかった。
「何かさぁ、いいよね。紗耶香達って」
「へ?何が」
「ずっと一緒に暮らして・・・もう、お互い見えてないって言うかさ」
「どうかなぁ。ずっと一緒にい過ぎてるから、当り前みたくなってんだよ」
「でも、いいなって思うよ?紗耶香はちゃんと真希ちゃんを大切にしてるってゆーか」
隣に座っていたアヤカが立ち上がった。どうやらお酒の缶が空になったようだ。
「まぁな。私には後藤しかいねーから」
「・・・羨ましいなぁ。真希ちゃんが」
「え・・?今、何て・・・」
私が問いかけようとした時、もうアヤカは私に背を向けて廊下を歩いていた。
- 485 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/07/29(金) 17:10
-
<石川 視点>
大学の講義が終わり、図書館で本を読んでいた。
「あ、梨華じゃん。講義終わったの?」
ちょうど友達が通りかかって私に声をかける。
「うん。さっき」
「午後は?」
「今日はもう終わり」
「あ、じゃぁどっか食べ行かない?私も今日は終わりなんだ」
「ごめん。今日は予定あるんだ」
「もしかしてデート?」
デートと言われてドキッとした。
「まぁ・・・うん。そんなとこ」
「いいなー。じゃ、また今度行こうね」
バイバイと手を振って、私は携帯電話を見て時間を確認した。
時刻は午後の5時をさしていた。あの人からまだ連絡は来ない。
・・・まだかなー。
何だか胸がドキドキして、落ち着かない。何度も携帯を見てしまう。
本を読んでても全然落ち着かない。本を棚にしまって図書館を出た。
その途端、携帯が鳴る。
「あ、来た!もしもし?」
『梨華ちゃん!ごめんね。遅くなって。今、終わったから』
愛しい人の声。それだけで嬉しくなる。
「大丈夫だよぉ。何処にいる?」
『何処でしょー?当ててみてよ』
「えー、わかんないよー」
携帯を耳にあてながら歩く。すると前方に見覚えのある姿が。
「・・・わかった。すぐ傍にいるね」
『正解。よくわかったねー』
「わかるよぉ。こんなに近くにいたら」
目の前まで来たとこで携帯を切った。
- 486 名前:作者。 投稿日:2005/07/29(金) 17:31
-
>481 ミッチー様。
(〜^◇^)<オイラも泣いちゃった。
(●´―`)<感動だべ。
作者も書きながらちょっと涙ぐみました(w
>483 名無し飼育様。
ありがとうございます。これからも自分のペースで
頑張ります!
昨日、無事にレポートとテストが終わりました・・・。
大学の試験の厳しさを目の当たりにしたような、そんな1ヶ月でした。
でも今日から夏休みに入ったので、この物語の続きを頑張って書きたいと思います。
今日の更新は短くて申し訳ないのですが以上です。次、頑張ります。
待っていて下さってる方、本当にありがとうございます。
- 487 名前:ミッチー 投稿日:2005/07/30(土) 03:18
- 更新&テスト&レポートお疲れ様デス。。。
後藤さんも吉澤さんも、もう大学生ですか〜。
時が経つのは早いですねぇ。
アヤカさんの最後の言葉って・・・?
久しぶりのデートどんな感じなのか楽しみです。
- 488 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/02(火) 20:13
-
<吉澤 視点>
梨華ちゃんが東京に行ってしまった日。うちは決心したんだ。
一年後、必ず逢いに行く。
勉強頑張って、東京の大学に合格する。
遠くなる電車を眺めて、そう決心した。
それから寝る間も惜しんで勉強した。ごっちんも大学を受ける気になったらしく
うちと共に勉強をしていた。模擬テストとかで思うような結果が出ずにへこんだりも
したけど、何とか乗り越えた。
そして今年の始めにセンター試験、大学の入試を受た。
もちろん、大学は梨華ちゃんと同じ大学。
受験番号が書いてある紙を握り締め、合格発表を見に行った。
自分の番号が見つけた瞬間、涙がポロポロ流れてきた。
隣にいた知らない女の人がそんなうちを見て『おめでとう』と笑顔で言ってくれた。
泣きながら梨華ちゃんに電話したら、うちが泣いていて梨華ちゃんが驚いていた。
『だ、大丈夫だよ!来年またあるし!ね?』
どうやら落ちて泣いているのだと誤解されたらしい。
『違うよぉ〜。受かったんだよぉ』
『え!?そうなの!?・・・何だぁ、良かった・・・。おめでとう、ひとみちゃん』
そして、ごっちんも無事に本命の大学に合格出来た。矢口先輩達が合格おめでとうパーティ
をやってくれた。卒業式も終わり、その時に陸上部の部長を小川に引き継いでもらった。
『小川、任せたぞ!頑張れよ!』
『はい!頑張ります』
引越しの準備も済んで、後は東京へ出発するだけになった。
去年は見送った側だったけど、今年は見送られる側になった。
もうすぐ、行くよ。梨華ちゃんの元へ。
必ず、逢いに行くよ。
- 489 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/02(火) 20:28
- 「こんな格好でいいの?」
「いいよ。そんな大した事じゃないから」
「で、でも大事な日じゃん。やっぱスーツとか・・・」
「だから、いつもの格好でいいの。ね?」
東京に来てから、大学の入学式やら講義の説明やらで梨華ちゃんとゆっくり逢える
機会がなかった。今日、やっとこうして逢えるんだけど・・・。
今日は普通のデートではない。
何と梨華ちゃんのご家族と一緒に食事をする。
実は梨華ちゃんのお父さんとお母さん、もう一度やり直す事に決めたらしく。
また一緒に家族で暮らす事になった。ものすごく嬉しい事だ。
それが、うちが大学の合格する前の話。そんでうちが無事に大学へ合格出来た
というわけで今回の食事会をしようと梨華ちゃんのお父さんが言ってくれた。
「ふぅ、緊張するな〜・・・」
「何で?」
「だ、だって梨華ちゃんの家族と逢うんだよ?緊張するよ」
「私は楽しみだなぁ。ひとみちゃんを家族に紹介出来るなんて」
「ちゃんと挨拶出来るかなぁ」
梨華ちゃんはうちの緊張も知らずにウキウキしている。
「大丈夫。私がちゃんとついてるから」
「・・・うん」
ギュッと梨華ちゃんの手を握った。
「・・・何か、久々だね。こうゆうの」
嬉しそうな笑顔で梨華ちゃんは言った。
「そうだね。嬉しいよ」
こんな些細な事でも嬉しくなるのは、ものすごく梨華ちゃんが好きだから。
きっとそれは梨華ちゃんも同じなんだろうなぁ・・・。
- 490 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/02(火) 20:51
-
<後藤 視点>
今日は市井ちゃんが帰って来る日。あたしは市井ちゃんの好きな料理を作って
市井ちゃんの帰りを待つ。ちょっと歌でも歌いながら。
「味噌汁〜♪あ〜味噌汁〜♪」
市井ちゃんの大好きな味噌汁を作る。するとピンポーンと鳴った。
「あ、帰って来た!」
パタパタと玄関まで走って、扉を開けた。
「ただいまー」
ちょっと疲れた顔の市井ちゃん。
「おかえり。お疲れさまでしたぁ」
「うへー、疲れたぁ」
「まだご飯出来上がってないから、先にお風呂入ってね」
「わかったぁ」
市井ちゃんは重たい大きなカバンをずるずる引きずって洗面所まで向かった。
「後であたしやるから、入っていいよ」
「さんきゅ。あ、お土産」
カバンの中から北海道のお土産が出てきた。
「ありがとぉ」
「風呂入ってくる〜」
またキッチンへ戻って料理を再開する。向こうからシャワーの音が聞こえた。
自分以外の誰かがいるっていいなぁ・・・。
誰かの為にご飯を作る。そんな事でもあたしは幸せで。
小さな幸せがあるから、頑張れるんだなぁとしみじみ実感した。
「ふぃー、サッパリしたー」
市井ちゃんがお風呂から上がった時にご飯が出来た。
今日はおいしい鮎があたしの実家から届いたから鮎の塩焼き。なので和食。
「うまそー。鮎じゃん」
「今日ね、届いたんだ。おじさんが釣ったらしいよ」
「いっただきまーす!」
誰かと一緒にご飯を食べる。
ほら、幸せになれるでしょ?
- 491 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/02(火) 21:10
-
<市井 視点>
ザブーンと湯船に浸かる。
「ふぅー。気持ちいー」
たとえ北海道に行けてもそれは仕事なわけで、温泉に入れても疲れは癒えない。
こうやって自分の家で風呂に入るのが一番疲れが取れるものだ。それに風呂から
上がれば後藤のおいしいご飯が待っている。これほど疲れが癒える事はない。
「・・・にしても」
昨日の夜からアヤカと何だか気まずい状況になっている。
『・・・羨ましいなぁ。真希ちゃんが』
一体どーゆー意味なんだ?
後藤が羨ましい・・・・後藤が羨ましい。
つまり・・・つまりどーゆー事?
「わかんねぇな。女って」
ため息をついて、ぶくぶくと湯船に沈んだ。
あ、自分も女だった・・・。
ぷはぁと湯船から顔を出す。
「・・・うー、腹減った・・・」
- 492 名前:作者。 投稿日:2005/08/02(火) 21:15
-
>487 ミッチー様。
デートといっても普通のデートではなかったり(w
ホント時が経つのは早いですね。最近しみじみ感じます。
アヤカさんはどうしたんですかねぇ・・・。
(;^∀^ノ<一体どーゆー意味なんだ?
(〜^◇^)<(またこの鈍感が・・・)
- 493 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/03(水) 04:41
- 更新お疲れ様デス。。。
かなり普通のデートじゃないですね〜。
吉澤さん頑張れ!
女心が分からない女の子が一人・・・(w
- 494 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/12(金) 14:25
-
<石川 視点>
ひとみちゃんに久々に逢えた嬉しさを感じて、家族と待ち合わせをしているレストラン
に向かう。こんな事が実現するなんて子供の頃では考えられなくて、驚いてる。
「まずは、自己紹介だよね?」
「そうだね」
・・・何か今日はドキドキしっぱなしだなぁ、私。
久々にひとみちゃんに逢えたし、それに何年ぶりに家族全員と逢える。
すごく幸せで、嬉しくて、昨日の夜はなかなか眠れなかった。
「梨華ちゃん、聞いてる?」
「えっ?」
「もぉー、自己紹介の練習してたのにー」
「そうなの?ごめんねぇ」
「じゃ、もう一回やるからちゃんと聞いててよ?」
「うん。わかった」
「えーっと、吉澤ひとみです。こんにちは」
「ひとみちゃん。もう夜になるよ?」
「へ?あぁ。こんばんは、だね」
幸せ過ぎて、怖いくらいだよ。
こんな素敵な人と一緒に肩並べて歩けて。
一緒に笑う事が出来て。
「どうもー吉澤ひとみでーす。こんばんはー。・・・の後に何か一発ギャグでも
いれた方がいい?」
「普通でいいから・・・別に笑いとらなくてもいいから」
こうやって手を繋ぐ。
そんな些細な事が、私にとって大きな幸せ。
「じゃ、じゃぁ、何か特技でも・・・陸上部でみがいたうちの走るフォームとか。
何なら50mを実際に走るなんて事も。あ、ハードルつけて」
「ひとみちゃん・・・それ、お店に迷惑がかかるから、やめて」
ひとみちゃんも私と同じ想いだったら、いいな。
- 495 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/12(金) 14:44
-
<吉澤 視点>
梨華ちゃんと自己紹介の練習をしながら歩く。しかし、うちの提案を全て却下された。
「んじゃぁ、バック転を!」
「出来るの?」
「・・・出来ません」
練習の結果、うちは普通に自己紹介する事に決めた。
とりあえず、名前を言って、梨華ちゃんとの関係を・・・出逢ったのは、ある日の
生徒会室。不運にも学際の実行委員にされたうちとまだ生徒会員であった梨華ちゃん
は出逢い、うちにとってその不運が幸運に変わるとても大事な出逢いになり、そして
うちと梨華ちゃんは(長いので以下省略)。
「ひとみちゃん?ねぇ、ひとみちゃん?」
「へ?あ、あぁ・・・どうしたの?」
「あのお店だよ。待ち合わせしてるとこ」
あまりにも一生懸命になり過ぎて、気付いたらうちは待ち合わせの店を通り過ぎていた。
こ、ここか・・・梨華ちゃんのご家族と逢う場所は・・・!!
「大丈夫?」
「だ、大丈夫大丈夫!!ハハハ、問題ないよ!アハハ・・・ハハッ・・・」
「ひとみちゃん、足と手が一緒に出てるよ?」
まるでロボットのように歩いている自分がいた。
・・・こんなんじゃダメだッ!しっかりしろ!自分!
立ち止まって大きく深呼吸。
「よし、行こう」
ギュッと梨華ちゃんの手を再び握りなおす。
「うん」
こうしてうちはまるで何処か戦場にでも行くような心持ちで待ち合わせ場所である
レストランの中へ入ったのであった。
- 496 名前:作者。 投稿日:2005/08/12(金) 15:10
-
<市井 視点>
「あたしも温泉行きたいよ!」
気が付けば、目の前ではやや不満げな顔でそう言う後藤がいた。
何故そうなったかというと・・・確か「やっぱり自分の家はいい」と私が言ったからだ。
『なんつーか、落ち着くんだよな』
『でも温泉もいいよ』
『そうか?慣れない場所だとすごく疲れるけど』
『普段違う場所だから楽しいじゃん』
それから何だか言い争いというかそんな感じになって。
『あたしも温泉行きたいよ!』
という事になった。
「でもね、私は仕事で行ったんだから」
「仕事でなくても行こうよ」
「無茶言うな・・・仕事休めるわけないだろ」
「市井ちゃんだけずるい」
「なっ・・・ずるい?何でずるいになるんだよ?」
「ずるいじゃん!自分だけ楽しんで!」
「全然楽しくなんかねーよ!」
そう、楽しくなんかなかった。行きたく無かったよ、でも仕事だから仕方なかったんだ。
私が大声出した途端、後藤は泣き出した。
「・・・ったく、子供じゃないんだから」
「だってぇ・・・市井ちゃんいないし・・・一人で家にいて・・・うっ・・」
私は泣いてる後藤の頭をポンポンと手を置いた。
「・・・悪かったよ。後藤を一人にさせて・・・」
ギュッと抱きついてくる後藤。
「でも、仕事だから・・・わかってよ」
「んっ・・・ごめんなさい・・」
そう小さく言う後藤を強く抱き締めた。それが安心したのか後藤は自然と泣き止む。
「・・・行きたくなんてなかった」
鼻と鼻をくっつけて、後藤の目を真っ直ぐ見た。
- 497 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/12(金) 15:20
- 「何で自分の家がいいって言ったかわかる?」
そう聞くと後藤は「わかんない・・・」と言った。私は笑って後藤の頬に流れた
涙を親指で拭った。
「・・・後藤がいるから、自分の家がいいんだよ。わかるか?」
「市井ちゃん・・・」
「何処にいても、後藤がいれば私はそれでいい。後藤がいなきゃ楽しくなんかない」
自分の家がいいというのは、そこに後藤がいるから。
「だから、後藤と一緒に行きたかった。温泉」
後藤が隣にいれば、何処にいても楽しいから。
「・・・市井ちゃん・・・大好き」
「・・・今度、行こうな。温泉に」
何でこんなに愛しいんだ。
もうきっと私は、後藤がいなきゃ生きていけない自分になっている。
後藤が思ってる以上に私は後藤を愛してる。
「愛してるよ・・・」
どんなに照れくさい言葉も後藤なら言える。
「あたしも・・・愛してる」
- 498 名前:作者。 投稿日:2005/08/12(金) 15:25
- 更新です。
>493 ミッチー様。
(0;^〜^)<こ、コンバンハ・・・。
(;^▽^)<ひとみちゃん、しっかり!
どうなる吉澤さん。気絶しそうな勢いの彼女です(w
( ^∀^ノ<わかんねぇな、女って。
女だと忘れる市井さん。いつでもオトコマエです。
- 499 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/13(土) 01:13
- 更新お疲れ様デス。。。
吉澤さん、大丈夫なのか?(w
楽しい食事になりそうですね。
いつでもオトコマエ(鈍感)。
やっぱ市井さんはそうでなくっちゃ!(w
- 500 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/16(火) 16:55
-
<吉澤 視点>
頭の中が真っ白だ。心臓が異常にドクドクしていて、変な汗が出てくる。
陸上の大会でもこんな状態になる事はないのに。今のうちは恐ろしいほど緊張していた。
「お父さん達早いねー」
「まぁな。二人共座りなさい」
「お姉ちゃん、隣座ってー」
梨華ちゃんのご家族が、目の前にいる。
あ、挨拶しなきゃ・・・。
「よっ・・・よ、吉澤ひとみです!今日はお招き頂いて・・・」
緊張してるから変な声。恥ずかしさのあまり顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「吉澤さん。緊張しなくていいから、座って下さい」
梨華ちゃんのお母さんが微笑んで言ってくれたおかげで少し緊張が和らいだ。
「あ、はい・・・」
やっぱ、梨華ちゃんのお母さんだから美人だなぁー。
うちはそう思いつつ、梨華ちゃんの隣に座った。
「吉澤さんは梨華と同じ高校で大学も一緒なんだ」
「そうなの?でも梨華の方が一つ年上だから、先輩と後輩って事になるのね」
食事をしながらうちの事を梨華ちゃんのご両親が話している。梨華ちゃんは楽しそうに
妹さんとお姉さんと話をしていた。
「どんな出逢いをしたの?」
急にお母さん(なんて呼んでもいいのかな?)がうちに聞いてきた。
「えっと、うちが高校一年の時に学際の実行委員を担当しまして・・・」
「そうか、あの頃は梨華はまだ生徒会に入ってたからな」
「はい。いろいろと学際の時に仕事を一緒にやったのがキッカケですね」
話していく内に緊張が無くなっていった。
- 501 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/16(火) 17:12
- 「高校生の梨華ってどんな娘だった?」
「ちょっと、お母さん。何聞いてるのっ」
「いいじゃない。知りたいんだもん」
『知りたいんだもん』と言うお母さんが可愛くてつい笑ってしまった。
「そうですね。しっかりした先輩って感じでしたよ」
「さすがお父さんの娘だな」
「何言ってるのよ。さすがお母さんの娘、でしょ?」
幸せそうに笑う梨華ちゃんのご両親。うちはそれを見て安心した。
きっと梨華ちゃんは幸せになれる。暖かい家族に囲まれて。
それからあっという間に時間は過ぎていった。
「今日はご馳走様でした」
「いえいえ。こちらこそ来て頂いて」
「吉澤さん、また一緒に食事しましょうね」
「はい」
このまま梨華ちゃんは家族と一緒に帰るから、これで今日はお別れだ。
お店から出て三姉妹で何やら話し込んでる梨華ちゃんを眺めていた。
「吉澤さん」
ポンッと肩を叩かれる。見るとお母さんがいた。
「梨華を、よろしくね」
短い言葉だったけど、まるで全てを悟ったかのような言葉だった。
「はい」
うちはしっかり返事をした。
・・・・やっぱ母親ってすごいなぁ。
「ひとみちゃん、もう帰っちゃう?」
お母さんが離れて行ったとこで梨華ちゃんが近付いて来た。
「うん。梨華ちゃんはみんなと一緒に帰るんだよね」
「・・・うちに来ない?何かお姉ちゃんと妹がもっとひとみちゃんと喋りたいって」
「うーん・・・」
せっかく家族全員で集まれたのに、うちがお邪魔するのもなぁと思っていたら。
「吉澤さん!来て下さいよ〜」
と妹さんにガシッと腕を掴まれた。
- 502 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/16(火) 17:26
- 「そうですよ。せっかく会えたんだし」
と今度はお姉さんが。さすが姉妹、顔が似ている。
「ちょ、何やってんの!ひとみちゃんから離れなさいっ」
「嫌だよー」
「どう?梨華よりも私を選ばない?」
「え?えーと・・・」
「いやいや、年下の方がいいよ!ね、吉澤さん」
「えーと・・・その・・・」
どうしたらいいか困り果てていたら、梨華ちゃんの顔がみるみる内に怖くなっていく。
「いい加減にして!」
梨華ちゃんの一喝で姉妹達は降参し、やっと解放してくれた。
「ほら、さっさと車の方に行ってよ」
はぁ・・・疲れた。
やれやれと思っていると、ぐいっと腕を掴まれる。
「ひとみちゃん?はっきり言わないと駄目じゃない」
怖いほどの笑顔。背筋がゾッとした。
「は、はい・・・ごめんなさい・・・」
「さっきもお母さん見てデレデレしちゃって。私ちゃーんと見てたんだから」
「そ、それは・・・」
「言い訳しない!」
「はい・・・」
「もう、私が傍にいないと駄目なんだから・・・」
ぷくーっと膨れる梨華ちゃん。
可愛いー・・・。
「ちょっと反省してるの?」
「も、もちろん」
「じゃ、行こう?お父さん達、待ってるよ」
まだ少し怒ってる梨華ちゃんがすごく可愛くて。うちは梨華ちゃんの手を掴んだ。
「まだ怒ってる?」
「知らなーい」
「・・・・大丈夫。どんなに魅力的な人が現れても」
そっと梨華ちゃんの耳に口を寄せた。
リカチャンガイチバンスキダヨ。
「・・・ずるい。不意打ち」
「でも、愛を感じるっしょ?」
「・・・うん」
- 503 名前:作者。 投稿日:2005/08/16(火) 17:34
- (0^〜^)人(^▽^ )こんな更新。
>499 ミッチー様。
( ^∀^ノ<オトコマエ過ぎて惚れるだろ?
(〜^◇^)<バカ?
( ^▽^)<ひとみちゃんなら惚れます。
楽しい食事会でした(w いしよしオンリー。
やっぱり作者はいしよしが好きです。
- 504 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/17(水) 01:49
- 更新お疲れ様デス。。。
いしよしもイイもんですね。
モテモテでしたね、吉澤さん(w
もちろん、市井さんに惚れちゃってます(w
- 505 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/20(土) 15:43
-
<藤本 視点>
私がバイトしている喫茶店のマスター。この喫茶店をずっと愛し続けた人。
コーヒーをいれるのがすごく上手で、笑顔が暖かくて。高校中退の私でも
お構いなく雇ってくれて。
そんなマスターが、昨日突然、倒れた。
丁度、お客さんが途切れた時だった。私がテーブルの上を片付けていたら
奥の方で何かコップが割れる音が聞こえた。
『マスター?どうしたんですか?』
私はすぐにカウンターの方へ向かった。マスターの姿が見えない。
カウンターの横から中に入ると、そこにマスターは倒れていた。
『嘘・・・マスター!?どうしたんですか!?』
苦しそうに息をしているマスター。私はすぐに携帯で救急車を呼んだ。
救急車が数分で到着し、私は店の戸締りを急いでして、一緒に救急車に乗り込んだ。
『マスター!しっかりして下さいよぉ!』
傍で私はずっとマスターに呼びかけた。
『・・・美貴、ちゃん・・・・』
うっすらと目を開けるマスターはゆっくり手を私に差し出した。
私はマスターの手をぎゅっと握り締めた。
『・・・あの・・・店を・・・頼むね・・・』
『何言ってるんですか!あの店はマスターの店でしょ!?』
『・・・まだ・・・若い・・・君には・・・大きすぎるかもしれない・・・けど、
君なら・・・きっと・・・大丈夫・・・』
『マスター!』
『君に・・・預けたいんだ・・・宝物を・・・』
涙で視界が歪む。
それでも、見えたよ。
マスターの笑顔が。
『・・・いいかな・・?』
マスターの問いかけに私は強く頷いた。
『・・・ありがとう』
それが最後の言葉だった。
- 506 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/20(土) 16:00
- どうして、人の死は、こんなに辛いんだろう。
何で、ココロが切なくて痛いんだろう。
ココロが苦しくて、泣いても泣いても、涙は乾かない。
理由は───大切な人だから。
その人が自分にとって本当に大切な人だから。
だから・・・苦しくて辛いんだよね。
でも、それはちゃんと受け入れなきゃ。
否定なんかしたら、きっとその人が悲しむから。
大丈夫だよ。あの頃の私はもういないから。
マスターの事を受け入れる事が出来るよ。
まい。私、成長したよね?
マスターの顔は穏やかだった。娘さんが『いい顔ね』と涙ぐんで言っていた。
あれからマスターは天国へ逝ってしまった。娘さん達が慌てて病院へやって来たけど
間に合わず、マスターは去ってしまった。娘さんの話によると、どうやらマスターは
癌を患っていて、もう長くはないようだった。入院しようと娘さんが勧めたらしいけど
マスターは『どうせ長くはないんだから、好きな事をやらせて欲しい』と言ったようだ。
・・・マスターらしい。
『最後に父に付き添ってくれて、ありがとう』
『いえ、私は・・・』
『父がね、ずっと言ってたのよ。あなたに喫茶店を任せたい。あなたなら
安心して任せられるって・・・』
『・・・さっきも言われましたよ。いいかな?って』
『父の喫茶店、受け継いでくれるの?』
私はマスターの笑顔を思い出していた。
『もちろんです』
- 507 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/20(土) 16:20
- 通夜や葬式が終わり、次の日。葬式は娘さんのご好意で親族の席へ座らせてもらった。
たまった洗濯物や、部屋の空気の入れ替えをしたいるとピンポーンという音が聞こえた。
誰だろう?と思って、玄関の扉を開けてみると。
「・・・鍵持ってんのに」
「だってたまには押してみたいじゃん」
にこにこ笑顔の私の恋人がそこにいた。
「・・・・大丈夫?」
「何が」
「だって」
「・・・大丈夫だよ。心配すんな」
「ホント?」
「うん。あー、腹減った。何か作って」
「しょーがないなぁ。美貴たんは」
こうやって、また普通の日常に戻っていく。
だけど、忘れないよ。マスターの事。
そしてちゃんと“宝物”受け継ぐから。
安心して、見守っててよ。
「美貴たん!冷蔵庫何もないよー!」
「あれ?そうだっけ?」
「もう。ちゃんと買い物ぐらいしてよ」
「ハイハイ。んじゃ、どっか食いに行くか」
「やった!この前出来たパスタ屋さん行こうよ」
ねっ、マスター。
- 508 名前:作者。 投稿日:2005/08/20(土) 16:25
-
>504 ミッチー様。
どんどん惚れちゃって下さい!作者も惚れまくりですから(w
(0;^〜^)<どうすればいいんだ・・・。
まぁ、そんな吉澤さんも好きですが・・・ってか全員好きです(ぇ
はい、本来ならばもう矢口さんいい加減出さなきゃ話が終わらないよとは
思ってましたがこの藤本さんとマスターの話にケリをつけたかったんで
今回はこんな感じになりました。次回は矢口さん出ます。
- 509 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/21(日) 04:09
- 更新お疲れ様デス。。。
イイ話でした。泣きそうになったよ。
あ、ごめん。忘れてたよ・・・矢口さん(w
- 510 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/25(木) 16:08
-
<矢口 視点>
「よし、書くか!」
机の上には一枚の便箋が置いてある。
オイラの右手にはペンが握られていて。
こう、書き出した。
“親愛なる仲間達へ”
元気ですか?なんて聞いても、みんなの事だから元気だと思います。
オイラは元気です。毎日、笑って過ごしてます。
こんな事を始めて、多分かなり心配かけてると思う。
でも、この事をみんなに話した時に反対せず応援してくれた時。
すごく嬉しかった。だから泣いちゃったんだよねー。恥ずかしい。
きっと応援してくれたのはさ。オイラを信じてくれたからだよね。
今でもずっと、信じてくれる。
ありがとう一つじゃ言い切れないけど。
本当にありがとう。
みんながいるから矢口真里がいる。
心からそう思うよ。
- 511 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/25(木) 16:21
- 手紙を書く前にいろいろ考えてたけど。何か書き出したら忘れちゃったよぉ。
とにかく!オイラはみんなが大好きだ!
うん。大好きだよ。
今までも、これからも。
あ〜、早く逢いたいなぁ。
でもまだ帰れない。
自分で「よし!もう帰ろう!」って思った時に、帰るから。
焼肉用意して待っとけよ!
矢口真里より
P,S 代表者として、この手紙をなっちへ送りました。
何でかって?うーん、何でだろうねぇ。
まぁ、みんな集めてオイラは元気だという事を伝えて下さい。
・・・まだ帰る日はわかんないけど。
帰ったら、真っ直ぐなっちのとこへ帰るから、待っててね。
大好きだよ。世界で一番に。
あ、みんなに手紙見せる時にはちゃんとP,Sの部分切り取っといてよ!
じゃぁね〜。
- 512 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/25(木) 16:27
- コトッとペンを机の上に置いた。
「マリ〜。お昼ご飯出来たよ」
「はーい!今行きまーす!」
便箋の紙を折って、封筒に入れた。
封筒には、安倍なつみ様と宛先が書かれている。
「何?手紙?」
「うん。まぁねー」
「あ、日本にいる恋人に?」
「も、もう!何でもいいじゃんっ。ほら、行こ?」
そっと封筒を机の上に置いて、その場を離れた。
ご飯を食べ終えたら、すぐにこの手紙を出そうと思った。
親愛なる仲間達へ。
親愛なる恋人へ。
- 513 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/25(木) 16:41
-
<安倍 視点>
今日、矢口から手紙が届いた。矢口がお世話になっているホームステイ先から。
「全く・・・早く帰って来てよね」
手紙を読んで呟いた。ちゃんとP,Sの部分も読んだ。
そして机の引出しからハサミを取り出して、P,Sの部分を切り取る。
「大好き、かぁ・・・」
手紙じゃなくて、ちゃんと声に出して伝えて欲しいなぁ。
・・・まぁ、矢口だからしょーがないけど。
私はP,Sの部分の紙を大切にコルクボードに画鋲で付けた。
コルクボードには今まで矢口が旅先でくれた写真が飾られている。
どれにも笑顔の矢口が必ずいるのが面白かった。
「いつになったら矢口の旅は終わるのかな・・・」
写真達を見て呟いた。
『世界を見てみたい』
ある日からずっとその言葉を呟いていた矢口。
紗耶香にどのカメラがいいのか聞いて、自分の一眼レフを買って。
それからずっと離さず、カメラを持っていた。
紗耶香から教わりながら、矢口はめきめきと上達していって。
『世界を見てみたい』『世界の自然を見てみたい』
その夢を実現させる為に、大学を休学して、飛行機に乗って行ってしまった。
正直、行って欲しくなかった。
でも、矢口がやっと見つけた“夢”だから。
私は反対せず、応援した。
矢口を信じて。
- 514 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/25(木) 16:52
- 信じたのだから、最後まで信じる。
この手紙に書いてあるように。
『帰ったら、真っ直ぐなっちのとこへ帰るから』
矢口はこう言ってるから、信じて待ってみよう。
おいしいご飯を作って、待ってるよ。
ずっとね。
「さ〜て、集合かけなきゃね」
ベットの上に置いてあった携帯を手に取って、メール送信画面にする。
<矢口からみんなに手紙が届いたよ。今日の夜に集合しよう! なっち>
みんなにメールを送ると、次々と返事が帰って来た。
<ならあたしの家に集まろー。後藤>
<了解です!ってか、先輩早く帰って来てって感じッス!吉澤>
<ちょっと仕事で遅くなるかもしんないけど、行くよ〜。圭織>
<やった〜。ちょうど買い物行かないと食料無かったんですよ〜。藤本>
矢口、こっちは相変わらずです。
・・・私も、大好きだよ。世界で一番に。
- 515 名前:作者。 投稿日:2005/08/25(木) 16:59
-
>509 ミッチー様。
(〜^◇^)<忘れないでよッ!
( ^∀^ノ<出てこねーんだから、普通忘れるわな。
(〜T◇T)<そんなぁ〜・・・。
藤本さん視点は感動というか、切ないモノが多い気がしますね。
やっと出てきた矢口さんでした。
もう八月も終わりですね・・・何だか寂しいなぁ。
- 516 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/26(金) 01:41
- 更新お疲れ様デス。。。
久しぶりに矢口さん登場ですね。
もう絶対に忘れません!たぶん(w
藤本さんの返事だけちょっとおかしい気が・・・(w
- 517 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/30(火) 10:46
-
<市井 視点>
昨日、なっちから『矢口から手紙が届いた』という知らせを受け、今日の夜に
急遽うちへ集まる事になった。どうやら矢口は元気なようだ。
『矢口先輩らしいよね。やるって決めたらとことんやるっていうとこ』
なっちからのメールを読んで、後藤は嬉しそうにそう言った。
私も矢口らしいなぁと思った。こんな行動力は矢口しか出来ないとも思った。
「紗耶香、今晩、飲みに行かない?」
昼休みにアヤカが言って来た。仕事で北海道に行った後から微妙にギクシャクしていて
こうしてアヤカが飲みに誘うのは久しぶりだった。
「あぁ、ごめん。今日は早く帰らなきゃいけなくて・・・」
私がそう言うとアヤカは何だか少し泣きそうな顔をして、それでも無理に笑った。
「そっか。じゃ、また今度」
「・・・あのさ、アヤカ。どうしたの?」
聞いてもアヤカは何も言わず、首を横に振った。
「何でさ。だって、変じゃん。いつもより全然しゃべらないし」
アヤカがその場から立ち去りそうだったので、私はアヤカの腕を掴んだ。
「何かしたかな?したんなら、謝るから」
アヤカの背中を見て、私は言った。すると、見ている背中が少し震えているのに気付いた。
「・・・もう、限界だよ」
「え?」
「限界なの!」
腕を離さず、アヤカの前に行く。
「何で、泣いてんの・・?」
何が限界なのか、私にはさっぱりわからない。
どうして、私は身近な人のココロの中をわかってやれないんだろう。
「・・・好きなの。紗耶香が」
どうして、人の気持ちに気付かないんだろう。
- 518 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/30(火) 11:04
-
<後藤 視点>
今日は矢口先輩から手紙が届いたという事で、うちに集まる事になった。
なのでいつもより多目にスーパーで買い物をする。東京組のよしこ達も
来てくれるので張り切って料理を作らなきゃという気持ちがメラメラと
ココロの中で燃えていた。
「たくさん人が来るからなぁ・・・ふーむ・・・」
どうせなら楽しい食事にしたい。夏だから、鍋料理はちょっとなぁ。
一時間ぐらいスーパーで悩んで、あたしは素麺を手に取った。
「・・・うん。夏だし。よし」
大量にカゴに素麺が入った袋を入れて、他にもミカンの缶詰もいれた。
「素麺だけじゃ物足りないよねぇ」
唐揚げや、サラダなどの食材もいれてレジで会計を済ませる。
かなりな量で少しレジの人が驚いていた。袋に詰めるとずっしり重い。
はぁ、一人だと重いなぁ。前はよしこがいてくれたからなー。
重たい袋を手に持ち、スーパーを後にする。外の空気は暑かった。
家に向かって歩いてると、メールの着信音がなった。
「ん?誰だろ・・・」
立ち止まって荷物を置いて、カバンから携帯を取り出す。
<今日は少し遅れるかもしれない。でも絶対間に合わせるから。市井>
「市井ちゃん・・・仕事大変なのかな?」
この時は何の疑いも無かった。
<わかった〜。でも絶対みんながいるまでには帰って来てよね!後藤>
普通に返信して、携帯を閉じる。
「素麺〜♪」
何で気付かなかったんだろう。
メールだけじゃ、気付ける事も出来ないけれど。
市井ちゃんが、悩んでるのを。
あたしは気付いてあげたかった。
- 519 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/30(火) 11:21
-
<吉澤 視点>
久々に故郷へ帰る。休日だけど、バイトが休みで今日の集まりを無事に行く事が出来た。
「何だか嬉しそうね。ひとみちゃん」
電車に揺られて、うちは梨華ちゃんと一緒に帰郷していた。
「だって、何か嬉しくて。矢口先輩から手紙が届いて、それにみんなに逢えるし」
朝から気分が浮かれて、笑顔が絶えなかった。
「うん。私も嬉しい」
ギュッとうちらは手を繋いだ。
故郷の駅のホームへ降りると、すごく安心出来る。
帰って来たんだなーって思える。その瞬間がすごく好き。
だから、朝からそれを楽しみにしてるんだろうな。
「みんな元気かなー」
「早く逢いたいね」
故郷に着いて、ごっちんの家へ向かう途中、マサオさん達に逢った。
どうやら朝早くからマサオさんはこっちへ来てたらしい。
「柴ちゃんへの愛だね」
梨華ちゃんがそう言ってマサオさんをからかっていた。とりあえずコンビニで
お酒やらおつまみやらを買い込んで、ごっちんの家へ向かった。
着いてピンポーンと押すとすぐに扉が開いてびっくりした。
「まさか、そこで待ってたの?」
「だって、落ち着かなくて。みんなが来るって思うと」
ごっちんは変わらない笑顔で迎えてくれた。
リビングへ行くと、これまたびっくりな物が置かれていた。
「・・・今日の夕飯は素麺?」
うちがそう聞くと。
「当たり!」
ごっちんは嬉しそうにそう答えた。
何と、今日の夕飯はただの素麺じゃない。“流し”素麺だ。
うちらの目の前には立派な素麺を流す竹が半分縦に切られて置かれていた。
- 520 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/08/30(火) 11:39
-
<藤本 視点>
「ヤバッ、遅れる!」
バイトが終わると、時刻は既に午後六時をまわろうとしていた。
今日は矢口さんから手紙が届いたという事で集まるらしく、その集合時間は
午後七時。そんで亜弥と六時に待ち合わせをしている。
「こないだも遅刻したからなぁ・・・怒るだろうなぁ」
ってかそもそもあいつが待ち合わせ場所に来るのが早いんだよ。
少し小走りで待ち合わせ場所へ向かう。
「あ〜、もう!早く青になれよ・・・」
横断歩道に邪魔される。イライラしながら青になるのを待っていると。
・・・あれ?
ある車が私の前を通った。運転席に知ってる人が乗っていた。
「・・・市井さん?」
一瞬しか見えなかったから見間違いかもしれない。でも市井さんだった気がする。
家と反対方向へ車は去ってしまった。
・・・何で?
ポカンとしていると信号がいつの間にか青に変わっていて、慌てて走り出した。
もう頭の中には市井さんの事は無くて、亜弥がカンカンに怒っている姿だけだった。
「遅い!」
予想的中。そうとうご立腹のようだ。
一生懸命走ったのに、かなり息が切れてるのに。
ちょっとは『そんなに走らなくても良かったのに』なんて事になるかなと期待していた。
しかし、待ち合わせ場所に着くと、ものすごく怒ってる顔の亜弥がいた。
「あたし、こないだ言ったよね?遅刻は嫌だって」
「・・・はい・・・でも、バイトが」
「六時に約束だよね?美貴たんがバイト五時半には終わるって言うからそう決めたのに」
「ごめんって。バイトが長引いたんだよ」
「知らない!」
はぁ・・・・もう、勘弁してよ。
亜弥の機嫌を治すのにどれほど疲れるか想像し、私は途方にくれた。
- 521 名前:作者。 投稿日:2005/08/30(火) 11:48
- い、市井さん!?な更新でした。
>516 ミッチー様。
(〜^◇^)<忘れんなよ!
藤本さんの家の冷蔵庫は食料不足気味らしいです。
何故かというと頻繁にいつも食料いれといてくれる松浦さんを怒らせて
るからです。そしてまた怒らせてます(w
人の気持ちに気付くのは難しい。
楽しい食事会はどうなるか。それは次回に。
(〜;^◇^)<オイラの手紙・・・ちゃんとみんな読んでよね・・・。
- 522 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/31(水) 05:48
- 更新お疲れ様デス。。。
市井さん、どこに行ってるんでしょうか?
やっぱり市井さんはずっと鈍感ですね(w
藤本さん、頑張って松浦さんの機嫌を治してくださいね(w
- 523 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/09/07(水) 16:44
-
<後藤 視点>
だいぶ人が集まり、家の中は賑やかだった。竹を設置して、流し素麺を始める。
・・・・市井ちゃん。
あたしは携帯を片手に窓の傍に立っていた。
「ごっちん?どうかした?」
よしこがあたしに気付いて近寄って来た。
「・・・ううん。何でも無いよ」
無理に笑って、大丈夫なふりをしたけど。
「嘘だ。無理に笑わなくていいよ。親友なんだから」
よしこは優しく笑ってそう言ってくれた。
「・・・何か、落ち着かないんだ」
「市井さんが原因?」
「わかんないけど。・・・そうかもしんない」
片手にある携帯を見る。メールを送ってどれぐらい経つだろう。
<帰るの何時頃になりそう? 後藤>
メールが返って来ないなんて今まで何度もあったけど。
今日は違った。
・・・・ううん、大丈夫。大丈夫。
きっと仕事が忙しいんだ。メールを返す余裕も無いんだ。
大丈夫だと自分に言い聞かせる。
「ごっちん・・・」
「うん、大丈夫。あたし、ちょっとの事で気にしすぎだよね。さ、素麺食べよ?」
ねぇ、市井ちゃん?
今、何してるの?
- 524 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/09/07(水) 16:58
-
<市井 視点>
突然、アヤカが泣き出して。突然、告白されて。
どうして、今まで気付かなかったんだろう?
仕事の仲間として、いつも一緒だった。
私に告白したアヤカが何だか矢口とかぶった。
勇気を出して、告白した矢口。
人が告白するのに、どれだけ勇気が必要かなんて矢口の時に身を持ってわかっていた。
だから、放っては置けなくて。
だけど、その人の気持ちには応えてあげられなくて。
もし、もっと早くにアヤカの気持ちに気付いてあげられたなら。
アヤカが限界を感じて、辛くなる事はなかったのだろうか。
「アヤカ、家まで送るよ」
「いいって。早く帰らなきゃいけないんでしょ?」
「でも、そんなんじゃ運転出来ないって。危ないから」
ボロボロになってるアヤカを助手席に押し込んで、私はアヤカの車の運転席に座った。
「いいよ・・ちゃんと帰れるから・・・」
構わずにエンジンをかける。
「泣いてる奴に運転を任す事は出来ない」
アクセルを踏んで、車を走らせた。
- 525 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/09/07(水) 17:12
-
<吉澤 視点>
・・・・うーむ。
ごっちんが落ち込んでる。辛そうに見える。
原因は市井さんのようだけど、よくわからない。
ピンポーンと鳴る。家に誰か来たようだ。
「あ、うちが出るよ」
ごっちんと目が合う。うちは頷いて、玄関へ向かった。
扉を開けるとそこには。
「こんばんはー」
「亜弥ちゃん・・・とミキティ」
「何ですかー。その残念そうな顔はー」
にっこり笑顔の亜弥ちゃんが「お邪魔しまーす」と言いながら家へ入る。
何だかミキティが疲れたような顔をしていた。
「どうかしたの?」
「ちょっとね・・・亜弥を怒らせてしまって・・・ハハ・・・」
「もしかして、まだ続行中?」
「・・・・私とは喋ってくんないよ、きっと」
「大変な彼女だね」
「よっすぃーはいいよね。梨華ちゃん優しいし・・・」
「・・・お疲れ様。頑張って」
ハハハとミキティが笑う。玄関で靴を脱いで、あがる。
すると思い出したように言った。
「そういえば、市井さん帰ってる?」
「え?まだだけど・・・」
「途中で見たんだよね。一瞬だったけどさ。赤い車に乗ってて、運転してた」
「えっ・・・」
「家と反対方向に行っちゃって。仕事か何か?」
ミキティはそのまま廊下を歩いてみんながいるリビングへ向かった。
・・・・赤い車。
何だか、ごっちんの落ち着かないわけがわかったような気がした。
- 526 名前:作者。 投稿日:2005/09/07(水) 17:17
-
>522 ミッチー様。
まだ喧嘩続行中(w 松浦さん、簡単には許さないようです。
市井さんの鈍感は治らないような気がします(w
合宿から帰って来た作者です。
涼しいとこから暑いとこへ帰って来たので、辛かったり・・・。
楽しい時間が過ぎるのは早いものです(泣
- 527 名前:ミッチー 投稿日:2005/09/08(木) 05:31
- 更新お疲れ様デス。。。
松浦さんしぶといですね(w
市井さーん、早く帰ってきてくださいよ〜!
鈍感は一生鈍感?(w
- 528 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/09/25(日) 20:19
-
<市井 視点>
アヤカの家のマンションに着き、アヤカを支えながらエレベーターのとこまで歩いた。
「もう、いいよ・・・大丈夫だから」
さすがに泣き止んだアヤカは無理に笑いながらこう言った。
「・・・でも」
仕事の仲間として、心配で、私は躊躇った。
「ホント、いいから。早く家に帰りなよ。待ってるんでしょ?彼女」
彼女と言われて後藤の顔が浮かんだ。不安そうに携帯を見つめている後藤の姿が。
「・・・わかった。でも、部屋まで行く」
「・・・うん。じゃ、お願い」
エレベーターに乗って、アヤカの部屋の階まで上がる。
アヤカの手は少しだけ震えていた。
その手を握りたいと思った。
でも、それは、仕事の仲間として。
それだけの優しさだ。
私を恋愛の対象として見ているアヤカにとって。
この優しさはきっと残酷なモノなんだろう。
だから・・・その手は握っちゃいけないんだ。
伸ばしかけた手を私はそっと元に戻した。
- 529 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/09/25(日) 20:23
- 「・・・ごめんね」
「え?」
急にアヤカが言うので驚いた。
「今は、ちょっと、紗耶香と話すの辛くて無理だと思う・・・でも、
ちゃんと向き合うから。また前みたいに話せるように、私、頑張るから」
「・・・アヤカ」
「だから、待ってて。いつになるかわかんないけど、案外すぐだったりするかも
しんないけど」
「・・・ありがとう」
エレベーターが止まる。ゆっくり扉が開いた。
「ここでいいよ。今日はありがとう」
まだ少し無理してる笑顔だけど、私も笑った。
「・・・アヤカ、私達は恋人にはなれなかったけど、親友にはなれると思うんだ」
「・・・だね。だって今まで親友だったし」
「好きになってくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ。仕事場で」
「・・・こっちこそありがとう。親友って言ってくれて」
エレベーターの閉ボタンを私は押した。扉が閉まる。
扉が閉まってもアヤカの泣き笑いが、頭の中に浮かんでいた。
- 530 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/09/25(日) 20:25
- ウィーンと一階へ下がるエレベータ。私は携帯を取り出した。
後藤からメールが来ていた。私は返信せず、電話をかけた。
『もしもし?市井ちゃん?』
「おう、ごめんな。今から帰るよ」
後からワイワイガヤガヤと賑わいの声が聞こえた。
『亜弥!私にも素麺流せよ!』
『嫌いな人には流しませーん!』
『梨華ちゃん。このピンクの素麺あげるね』
『いいの?ありがとう』
「相変わらず、賑やかだなぁ」
『市井ちゃん、早くしないと素麺無くなっちゃうよ』
「それはヤバイな。もうお腹すいて死にそー」
『じゃぁ、飛んで帰って来てよ』
「あぁ、出来る限り。・・・後藤」
『何?』
「帰ったら、ちゃんと話すから」
『・・・うん』
「・・・信じてくれてありがと」
『・・・早く逢いたいな』
「私も逢いたいよ。じゃ、帰るから」
『うん』
携帯を切って、エレベーターから下りる。マンションから出ると
夜風が涼しかった。大通りまで歩いて、タクシーをつかまえた。
- 531 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2005/09/25(日) 20:45
-
<後藤 視点>
「市井さんから?」
よしこが素麺をズルズル食べながら聞いてきた。あたしは頷いて、さっき市井ちゃんから
電話が来た携帯を閉じた。
「ひとみちゃん、ちゃんと食べてから喋るんだよ?」
「ふぁーい」
「もう」
注意されてるよしこを笑いながらキッチンへ向かう。今から市井ちゃんが帰って来るので
まだ出してない素麺の準備をするのだ。大きい鍋を出して、水を入れて火にかける。
何だかリビングの方からはうるさいほど賑やかな声が聞こえる。唐揚げも売り切れた
だろうと思い、素麺をゆでるついでに唐揚げ作りも始めた。
「手伝うよ」
そう言ってキッチンへ入って来たのは大谷さんだった。
「でも、すぐ終わるし」
「まぁまぁ。一人より二人の方が楽しいっしょ?」
シャツを腕まくりする大谷さん。
「そういえば、パティシエ目指してるんですよね?」
「まぁね〜」
「冷蔵庫に入れたケーキってもしかして大谷さんが?」
「うん。そうだよ」
すごいなぁと感心した。ちゃんと夢に向かってるんだなと思った。
「作るのが好きでさ。料理もお菓子作りも、後は服とか、アクセサリーとか」
「服も作るんですか?」
「何でかね、うちの学校ではあるんだよね。何故か、そーゆー授業が」
素麺をゆで、唐揚げを作りながら楽しく話してると玄関からピンポーンという音がした。
- 532 名前:作者。 投稿日:2005/09/25(日) 20:53
- 更新です。
>527 ミッチー様。
(〜^◇^)<一生鈍感だな(w
( ^∀^ノ<誰の話してんだよ?
(〜^◇^)<鈍感過ぎる人の話だよ。
( ^∀^ノ<鈍感な奴ねぇ・・・そーゆー奴は一生治んねぇな(w
(〜^◇^)<(・・・自分で言っちゃったよ、この人)
( ^∀^)<ん?どうかしたか?
(〜^◇^)<・・・うん、一生鈍感決まりだな。
- 533 名前:ミッチー 投稿日:2005/09/26(月) 22:31
- 更新お疲れ様デス。。。
通じ合ってる二人っていいですね。
何があっても離れることはないって感じですね〜。
いつも心配させられるのは後藤さん(w
- 534 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:27
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 535 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/07(土) 20:11
- <吉澤 視点>
市井さんが帰って来た。ごっちんは安心したような笑顔で市井さんを迎えた。
「悪ぃな。遅くなって」
すまなさそうに市井さんが言う。ごっちんは「いいよ。お腹すいたでしょ?」
と言って、市井さんに素麺のつゆが入った器を渡した。
…良かった良かった。
うちは何だか嬉しくなって素麺をすすっていた。
「ねぇ、亜弥。そろそろ機嫌直してくんない?」
うちのお隣さんはまだ喧嘩が続いていた。
「嫌。許さない」
亜弥ちゃんはそっぽを向いていた。
「亜弥ちゃん、許してあげなよ。美貴も反省してんだし。ね?」
事情を知ったマサオさんが助け船を出す。ミキティがうんうんと頷いた。
「あゆみからも言ってよ」
マサオさんがおいしそうに素麺を食べている柴田さんに言った。
「んー。私なら何かしてくれたら許すけど?」
おいおい、何て事を言い出すんだ、この人は。
柴田さんの言葉に亜弥ちゃんが反応した。柴田さんは素麺を取りにその場を離れた。
「あゆみのやつ…余計な事を…」
マサオさんが呟いた。
「美貴たん」
亜弥ちゃんが満面の笑みでミキティを見る。
「な、何?」
「今度、駅前のおいしいイタリアンレストラン連れてって?そしたら許してあげる」
駅前のって…げっ、あの高いレストラン?マジッ?
うちと同じ反応をミキティもしていた。
「…マジで?」
「マジで」
「本気?冗談?」
「本気に決まってるじゃん」
…ミキティ、頑張れ。
うちはそっちに背を向け、素麺をすすった。
- 536 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/07(土) 20:17
- 「ひとみちゃん。つゆ足りてる?」
「大丈夫だよ」
ふと、梨華ちゃんとの喧嘩を考えた。些細な事でも喧嘩はするけど、
そんな滅多にない。喧嘩すると決まってすぐに二人とも謝るけど。
亜弥ちゃんやミキティみたいにはならない。
「どうしたの?ひとみちゃん」
「ううん。梨華ちゃんは可愛いなって思ってただけだよ」
「もう、ひとみちゃんったら」
高級なイタリアンレストランで許すなんて言わない恋人で本当に良かったと思った。
「そこのバカップル。イチャつくなら外行け」
ミキティがこっちを睨んだ。どうやらレストランを承諾したらしい。
亜弥ちゃんを見ると、亜弥ちゃんの機嫌が直っていた。
「イチャついてなんかないよ。ね、梨華ちゃん?」
「うん」
「はぁ…羨ましいよ、全く」
頑張れ、ミキティ。負けるな、ミキティ。
「何で好きになったんだか…」
「でも好きなんでしょ?」
「まぁね」
だんだん恋から愛に変わっていく気持ち。それは誰にでも同じなんだろう。
食事も終盤に差しかかり、市井さんも帰って来たというわけで安倍さんが、
本日のメインである矢口先輩から届いた手紙を出した。手紙を安倍さんが声に出して読む。
手紙でわかった事は矢口先輩は元気にしてるって事だった。
「以上、矢口からの手紙でした」
自然とみんな拍手をしていた。
「でも、矢口もすげぇよな。大学休学して海外行っちゃうから」
市井さんが安倍さんから手紙を受け取り、それを見ながら言った。
「矢口らしいけどね」
飯田さんが笑って言う。
「こっちとしては早く帰って来て欲しいッスよ」
うちが言うと、手紙を見ていた市井さんが「ん?」と眉が上がった。
- 537 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/07(土) 20:27
- 「これさぁ…下の部分、まだ続きがあるんじゃないの?切り取ってあるような…」
市井さんの言葉に安倍さんがヤバいという顔をした。手紙を柴田さんが覗き込む。
「そうですねぇ…綺麗にハサミか何かで切り取ってますけど、少し歪んでますよ、コレ」
みんな安倍さんに注目。安倍さんは何だかひきつった笑顔をしていた。
「…あ、へぇ〜…そうなんだね!なっち、全然気付かなかったよ〜。いやぁ〜、アハハ…」
完璧怪しい。何か隠してる。
「なっち、何が書かれてたの?」
飯田さんがジリジリ安倍さんに迫る。
「あ、きっとあたしらが読んだらまずいんだ!」
ごっちんが閃いたように言った。
「ほう…読んだら、まずいような事ねぇ。何が書かれてたのかな?なっち?」
市井さんの顔つきがニヤニヤしている。完全にからかっている様子だ。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。みなさん。そこには安倍さんだけのメッセージがあったんですよ」
梨華ちゃんが納めようとした。何て優しいんだ!とうちは密かに感動した。
「そ、そうですよ。矢口先輩が元気だとわかっただけで十分じゃないッスか。ね?」
うちも梨華ちゃんに続く。
「梨華ちゃん…よっすぃー…」
安倍さんが安心したようにうちらを見た。
「さ、そろそろデザート行きますか!」
マサオさんが話題変えに立ち上がった。市井さん達は不満げな顔をしていた。
でも、安倍さんへのメッセージは何だったんだろう?
いくら考えても、きっとそのメッセージは安倍さんと矢口さんにしかわからないんだろうなぁ。
二人だけのメッセージ。それが何だかかっこよく思えた。
「ね、梨華ちゃん」
「なぁに?」
そっと梨華ちゃんの耳に口を寄せて、小声で言った。
すると梨華ちゃんの顔が赤くなった。
「もう、何よ。いきなり・・・」
「うちらだけのメッセージだよ」
それは、きっと愛のメッセージ。
- 538 名前:作者。 投稿日:2006/01/07(土) 20:38
- 長い間、更新を止めてしまいすいませんでした。
忙しい中、時間の余裕がなく、こういった結果になってしまいました。
それでも、この物語はちゃんと完結させたいという思いから、今日少しで
申し訳ないのですが更新しました。これからも書いていきたいと思いますので
よろしくお願い致します。
あ、遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
今年もこの物語をよろしくお願い致します。
>533 ミッチー様。
今日から更新を始めました。今年もよろしくお願い致します。
( ^∀^ノ<もう、後藤に心配はさせねぇ。
市井さんの新年の目標。果たして達成出来るのか。
この二人が離れる事は一生ないですね(w
>534 名無し飼育さん様。
ご報告ありがとうございます。
- 539 名前:ミッチー 投稿日:2006/01/08(日) 03:50
- 更新お疲れ様デス。。。明けましておめでとうございます☆
ドンマイ、藤本さん!カワイイけど困った彼女ですねw
二人だけのメッセージって何かイイですね。
個人的には、市井さんがモテてくれるのは嬉しいです。
モテモテな市井さんが好きなので(w
でもそうなると後藤さんがかわいそうだね。
二人は一生離れられません(wそういう運命ですから(w
- 540 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/08(日) 20:16
- <後藤 視点>
矢口先輩は相変わらず元気そうで良かった。
本来の目的である矢口先輩からの手紙が終わり、
みんなマッタリモードに入っていた。あたしはトイレに行く為、席を立った。
トイレを済ませ、廊下に出ると市井ちゃんが壁に寄りかかって立っていた。
「ちょっと話さねぇ?」
きっと電話で言っていた事だろうと思った。
「…んぁ、いいよ」
市井ちゃんは優しく笑って自分の部屋に入った。あたしも入る。
「今日、遅くなったのはさ…」
ベットに座って話し始める市井ちゃん。
「仕事仲間のアヤカ、知ってるだろ?」
「うん。前に一度会ったよね」
確か、あたしやよしこ達をモデル撮影する時にスタジオで会った。
「…まぁ、何というか、告白してきてさ。いきなり」
ちょっとびっくりしたけど、あたしは黙って聞いた。
「もちろん断った。私は後藤しか愛せないし、アヤカを友達以上には見れない」
「…うん」
市井ちゃんが顔を上げ、あたしの目を見た。
「断ったら、アヤカ泣き出してさ…とても運転なんか出来そうになかったから、
家まで送ったんだ」
市井ちゃんの真っ直ぐな目。
「だから遅くなった。ごめんな」
“ごめんな”でその真っ直ぐな目は崩れ、すまなさそうな目になる。
あたしは市井ちゃんに近付いて目の前に立った。
- 541 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/08(日) 20:20
- 「ありがと。話してくれて」
市井ちゃんの頭を抱き締めた。
「…後藤」
「あたし、信じてるからね。市井ちゃんの事、誰よりも信じてるから」
あたしの腰に市井ちゃんの腕が回された。
「…さんきゅ」
市井ちゃんの頭を離して、市井ちゃんの隣に座った。
「きっと、この先何があっても、大丈夫だよな」
「何も起こらない方があたしはいいけどね」
いつもと同じ毎日。
つまらないって思うかもしんないけど。
意外とそれが幸せに思える。
だって、市井ちゃんがいるから。
「アハハ、そりゃそうかもな」
「うん。じゃ、戻ろっか」
あたしが立ち上がると市井ちゃんはあたしの腕を引っ張り、あたしを座らせた。
「そう焦んなって」
「別に焦ってなんか―ッ」
いきなりキスされた。
「…市井ちゃんッ。何考えてんの!」
「後藤の事だけを考えてるよ?」
「もう、戻るよ!」
全く、このエロ親父!みんなが近くにいるのに!
「嫌だ」
そう言って強く押し倒す市井ちゃん。
「ちょっ!何すんの!」
「さっき嫌ほど吉澤達のイチャつきを見せられたから、私らもと思ってさ…」
「んっ…」
さっきより長いキス。完全にペースは向こうだ。
…ヤバい、何とかしなきゃ。
何とかするにも、力が入らない。どうしようと思ったその時。
- 542 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/08(日) 20:24
- 『ちょ、押さないでッ』
『だって見えないじゃない。マサオがどけばいいのよ』
『大胆…さすが市井さん』
『しーッ!みんな静かに!』
『あのぉ…やめましょうよぉ…』
扉の方に目をやると、少し隙間が開いていた。そこからみんなの声が聞こえる。
「市井ちゃん…みんな見てるよ」
「へ?…あ、お前らぁ!!」
市井ちゃんが怒って扉に向かった。みんなが騒いでドタドタ逃げた。
その間にあたしは起き上がった。扉から出てみると、逃げ遅れたよしこが市井ちゃんに捕まっていた。
「吉澤ぁ…ここで何してる?」
「いや、その、みんなで喋ってたらいつの間にかお二人の姿が見えないのに気付いて…」
「言い訳は聞かねぇ!覗き見しやがって!」
「だって柴田さんがぁ〜…」
涙目になっているよしこ。向こうで梨華ちゃんが心配そうに見ていた。
「市井ちゃん。よしこ離して」
「嫌だ」
全く…市井ちゃんは。
「じゃぁ、今日から一週間、市井ちゃんはあたしに触っちゃいけないって事で」
「はぁ?何でそんな事になるんだぁ!」
「市井ちゃんが悪いから」
「ちょっ、待って。後藤〜」
「知らなーい」
いい薬になるでしょ?
でも、ちょっと可哀想だから…駅前のイタリアンレストランで許そっかな。
どっかのカップルみたいに。
ね、市井ちゃん?
- 543 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/08(日) 20:38
- <矢口 視点>
ヤッホー。元気かい?
長い事、出番ないからオイラの事忘れてない?
みんなの事だから忘れるわけないだろうけどさ。
オイラの今回の旅はそろそろ終わりそうです。
一年以上経ったね。時間が過ぎるのは早いなぁ。
───というわけで、矢口真里は日本へ帰国します!
旅に出る前は、仲間や慣れ親しんだ街を離れる事が怖かったけど。
でも、仲間との絆がオイラの背中を押してくれた。
何処にいても大丈夫。何処にいても、オイラ達の絆が壊れる事はない。
最後まで自分で決めた事を貫き通そう。
そう思ったのが、一年以上前だった。
あれから、オイラは仲間の代表者のなっちに手紙を送り続けた。
なっちも仲間の事を書いてオイラに送ってくれた。
紗耶香とごっちんが喧嘩した事や、よっすぃーと梨華ちゃんが相変わらず仲がいい事。
圭織が近々個展を開く事、大谷さんのケーキがすごくおいしい事など。
オイラはその手紙を読みながら、相変わらずだなぁと笑って過ごしていた。
手紙を読んで、みんなの事を知っていく内に。
一人一人、歩いてるんだなぁと感じる。
それぞれが歩む道がある。
だけど、オイラ達には絆がちゃんとある。
何だかそれって幸せな事なんだよね。
「・・・早く、逢いたいなぁ」
- 544 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/08(日) 20:48
- 空港から電車に乗って、愛する人の元へ。
手紙には近々帰国するとしか伝えてないからきっとびっくりするだろう。
それを考えるとすごく楽しかった。
「やっぱ日本はいいねぇ…」
聞こえる会話の声も、見える看板の文字も、どれも昔から親しんできた日本語。
やっぱり落ち着くもんだ。
「みんな元気にしてるかな〜」
カバンからハードカバーの本の大きさのアルバムを出す。
その中には仲間達との想い出の写真が入っていた。
これを見ながら旅をして来た。
「…なっち。待っててね」
愛する人とのツーショット写真。気持ちに気付くのにどのくらいかかっただろう。
旅に出てからかもしれない。自分を信じて待っている大切な人。そして仲間。
全く、自分は幸せ者だ。
「すいません、お隣いいですか?」
お年よりのおばあちゃんが訪ねてきた。
「あ、どうぞ!」
おばあちゃんが隣に座る。笑顔が可愛らしい。
「今から孫に会いに行くんです」
「そうなんですか。オイラも大切な人に会いに行くんですよ」
オイラやおばあちゃんのように誰か大切な人に会いに行く人はこの電車に
たくさんいるだろう。そう思うと何だか嬉しくなった。
「アルバム…ですか?」
ふとオイラが見ていたアルバムを覗くおばあちゃん。
「そうですよ。オイラの大切な仲間との写真です」
おばあちゃんに見えるようにアルバムを近付けた。
「高校の時の写真です。これは部活中で、このハードルを飛んでるのがオイラの後輩で、
多分この後ハードルにつっかかって転ぶと思うんですけど――」
話し出せばキリがないほど想い出はたくさんある。
目的の駅に着くまで終わらないほど、想い出はたくさんあるんだ。
もうすぐ、逢える。
もうすぐ────
- 545 名前:作者。 投稿日:2006/01/08(日) 20:54
- 相変わらずな仲間達と矢口さんな更新。
>539 ミッチー様。
モテモテ市井さんが好きなんですか(w
実は私も好きです(w でも何があっても大丈夫な二人なんで
これからも後藤さんが心配してしまうかもしれませんね。
彼女を怒らせた約ニ名の方は泣く泣く例の店を奢ったらしいです。
- 546 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/09(月) 14:44
- <安倍 視点>
午前は大学で講義に出て、午後は講義が終わればそのままバイトへ。
家に帰る頃はもう空は暗い。最近はそんな毎日の繰り返しだった。
でも別に嫌じゃないけど疲労が溜まってしまう。
「今日も疲れたなぁ…」
バイトが終わって帰り道。途中、スーパーに寄って食材を買う。
今日の夕飯は簡単にしようとパスタの食材を選んだ。スーパーを後にして、
家に帰ると何故か電気がついていた。
「えっ…何で?」
ピタッと足を止めた。泥棒?と考えたけど、電気つけたらバレちゃうし。
お母さん?たまに家に来るけどそんな連絡はなかった。
じゃぁ、一体誰が?――――
「まさか…」
頭の中にある人物が浮かんだ。その人なら自分の家の合鍵を
持っているので入れる。でも、その人は日本にはいない。
“もうそろそろ、帰るかも”
一番最近来た手紙を思い出した。
「帰って来たの…?」
必死に走り出した。階段を上がって自分の部屋の前に向かう。
おそるおそる扉のドアノブに手をかけ、回す。ガチャッと扉は開いた。
玄関に見慣れた靴がある。
ホントにいるんだ…!!
中に入って扉を閉めた。すると廊下に笑顔でその人がいた。
- 547 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/09(月) 14:47
- 「なっち!おかえり!いや、ただいま、かな?」
涙で視界が歪む。靴を脱ぐのも忘れ、荷物も投げ出して走った。
「おかえり!矢口!」
飛び付いて抱き締めた。その勢いで廊下の床に倒れ込む。
「ただいま…なっち」
逢いたかった。
本当に逢いたかった。
この日をどんなに待っていただろう。
嬉しくて嬉しくてたまらない。
「びっくりしたよぉ…急に帰って来るから」
「へへ、驚かせようと思って」
しばらくそのままで抱き合っていた。
「一番に逢いに来たよ」
「うん。約束したもんね」
信じて待つ。その先には必ず喜びがあるんだね。
矢口に教えてもらったよ。
ありがとう、矢口。
- 548 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/09(月) 14:57
- <吉澤 視点>
「や、矢口先輩が帰って来た!?」
危うく飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
『んぁ。もうびっくりだよね〜』
講義が終わって昼休み。梨華ちゃんと昼ご飯を食べていたらごっちんから
電話がかかってきた。矢口先輩が日本へ帰って来たらしい。
「帰るなら言ってくれりゃいーのに」
『アハハ。でもそこが矢口先輩だよね。いきなりひょっこり帰って来るのが』
「まぁね」
『んで、つきましては矢口先輩の帰国祝いみたいなのをやりたいなーって
本人が言ってるんだけど』
本人が言ってんのかよッ!という突っ込みは置いといて。
「そうだね。とりあえず予定確認して、また連絡するよ」
『りょーかい。梨華ちゃんに伝えといてね〜。バイバーイ』
「うん。じゃーねー」
携帯を閉じた。目の前にいる梨華ちゃんがクスクス笑っていた。
「矢口さんらしいね」
「ホントだよ。全く。本人が帰国祝いして欲しいんだって」
食べ途中のオムライスを再び食べ始めた。大学の食堂もなかなかうまいもんだ。
「そっかぁ。予定どうだったかな…」
梨華ちゃんがパスタのフォークを置いて、カバンから手帳を出す。
うちは頭の中にある予定表を浮かべた。確かバイトが続けて入ってるような気がした。
- 549 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/09(月) 15:00
- 「多分、やるなら土日だよね。金曜の夜に帰るって感じ?」
梨華ちゃんが手帳に目をやりながら言った。
「そーだね。でも厳しいなぁ。レポートあるし」
「私も。でも矢口さんに逢いたいし…」
二人の思いは一つだった。
「レポートは今週頑張れば大丈夫かな」
「バイトは何とか休ませてもらおう」
何だかんだ言ったって、矢口先輩に逢いたいのだ。
きっとみんな同じ気持ちだろう。
「よし、決まりだ」
梨華ちゃんと頷いて、すぐにごっちんへ電話をかけた。
- 550 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/09(月) 15:04
- <藤本 視点>
もう二度と彼女を怒らせないと誓って、何週間。
「全く、まかさあんな高い飯奢らされるハメになるとは」
そして、ここにもう一人誓った人がいた。市井さんも彼女を怒らせ、イタリアンレストラン
で許してもらったのだ。しかも行った日がたまたま重なって、偶然店の前で一緒になった。
二人で肩を落として、お互い励まし合いながら店に入った。二人の姫達は嬉しそうにはしゃいでいた。
「確かにおいしかったですけど、二度と行きたくはないですね」
「あぁ。そんなしょっちゅう財布がピンチになるなんて嫌だからな」
市井さんがため息をついたとこでお客さんが「すいませーん」と呼ぶ声がした。
そう、ここは私が仕事をしている喫茶店。夕方に市井さんが突然来た。
何で来たのかよくわからないけど。
「珈琲二つですね。かしこまりました」
注文を取って、すぐに珈琲を作る。マスターの味にはまだ近付けてないけど、
評判はいい。にしても、そろそろバイトを雇った方がいいかもしれない。
マスターの娘さんが手伝ってくれるけど、娘さんにも仕事と家事があるから忙しい。
今度会ったら相談してみよう。
「お待たせしました。ごゆっくり」
出来上がった珈琲を運んで、カウンターの方に戻る。
- 551 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/09(月) 15:08
- 「…あっ、忘れてた」
珈琲を飲んでいた市井さんが突然言った。
「何をですか?」
「今日はこれを伝えに来たんだよ。すっかり忘れてた。あのさ、矢口が帰って来たんだよ」
それを伝えに来たのか。ここに来てからかなり経ってるけど。
「そうなんですか」
「次の土曜に夜、帰国祝いするんだ、うちで。来れるか?」
「土曜は店閉めれないんで、終わったら行きます。少し遅くなるかもしれませんけど」
「おう。んじゃ、松浦にも伝えといてくれ」
伝え終えると市井さんは会計をして喫茶店を出ていった。その数分後に亜弥がやって来た。
「やっほ〜。美貴たん♪」
「ってか、毎日来んなよ」
「ひっどーい。いいじゃん。愛されてる証拠だよ?」
「もっと違う方法はないの?」
「ない♪」
・・・全く、しょーがないなぁ。
亜弥に早速、矢口さんの事を伝えた。
「ホント?わぁ、帰って来たんだ!」
「きっと土産話がたくさんあるんだろうね」
あの人の事だろうから、世界で見てきた事を全部語るんだろうな。
次の土曜が楽しみになって来た。
「亜弥、何か飲む?」
「じゃぁ、冷たいレモネード!美貴たんの奢りで♪」
「はいはい」
何だかんだ言っても亜弥に甘い私だった。
- 552 名前:作者。 投稿日:2006/01/09(月) 15:10
- 今日の更新は以上です。
- 553 名前:ミッチー 投稿日:2006/01/11(水) 01:50
- 更新お疲れ様デス。。。
更新ペース速いですね☆嬉しいです。
2人とも同じ日に奢らされるなんてオモシロイっすね(w
話に夢中で矢口さんの事を忘れていた市井さんもオモシロイ(w
市井さんらしいですね^^
私は矢口さんの事を忘れたりしませんよ!・・・たぶん(w
これからもずっと安倍さんとラブラブでいて欲しいですね。
- 554 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 20:07
- <柴田 視点>
矢口さんが帰って来たという連絡をさっき安倍さんからもらった。
そこで本人が帰国祝いをしろと言っているようだ。
全く、突然帰って来て帰国祝いをしろだなんて矢口さんらしい。
「マサオに知らせないと…」
大学内にあるベンチに座って携帯を開いた。さっきまで安倍さんと
このベンチに座って話をしていた。安倍さんは次の講義があるからと
言って大学の校舎に向かってしまった。
『もしもし?あゆみ?びっくりしたよ〜。あゆみからかけてくれるなんてさぁ。
マサオの声が恋しくなっちゃった?』
浮かれたマサオの声。私は無視した。
「矢口さんの帰国祝いするから次の土曜日の夜、市井さんの家に集合。
用はそれだけ。じゃぁね」
『ちょ、待ってよ!切らないで!ってか矢口さん帰って来たの!?』
「そうよ」
『そっかぁ。良かったじゃん。特に安倍さんは』
「そうねー。ま、ちゃんと土曜日に来るのよ。あ、ケーキ忘れないでね」
『わかった〜。気合入れて作るよ!』
「じゃ」
『えっ?もっと話そ』
ピッ。マサオの声に構わず、電話を切った。
- 555 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 20:10
- そう、特に安倍さんは嬉しくて仕方ないといった感じだ。
さっき話してた時も前とは違ってすごくテンションが高い。
何となく付き合う事になったのか聞いてみたら本人は顔を赤くして、小さくて頷いた。
矢口さんは現在、自宅にいるようで、大学の復学はまだ考え中にらしい。
でも、考え中って事はまた何処かに行くかもしれない。
――ま、今は先を心配するより喜ばなきゃね。
さっきのマサオの電話を思い出し、ちょっと可哀想だったかなと思ってメールを送った。
<土曜日、マサオが来るの楽しみにしてるからね。 あゆみ>
ちょっとは恋人らしく可愛くしてみようかな。安倍さんみたいに。
数分後、マサオからメールが届く。どうやらさっきのメールがよほど嬉しかったらしい。
<あゆみ〜!愛してるよー! マサオ>
「…バカ。ストレート過ぎるわよ」
安倍さんが嬉しそうに矢口さんの事話すから。マサオに逢いたくなった。
――本人には言うと調子に乗るから言わないけど。
- 556 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 20:15
- <中澤 視点>
紗耶香から連絡があり、矢口が帰って来たという報告をされた。
その日ちょっと早いが無事に帰国した矢口を祝して彩っぺと居酒屋に行った。
話す内容は矢口の事ばかりだった。
「全く、あいつは昔からそうやねん。後先考えないで突っ走って」
「うん」
昔の矢口を思い出して、懐かしんだ。
「でも…校則違反で髪染めたり、紗耶香と似て遅刻や居眠りが多かったけど、
矢口は他の生徒とは違ってた」
「うん。何となく、わかるよ」
ビールを飲んで話を続ける。
「何て言うんかなぁ…気持ちが熱くて、大切なものをちゃんと持ってるんよ…」
───大切なもの。
「人を信じるってことをちゃんと持ってる。そんな子やった」
彩っぺは微笑んで私の長い話を聞いてくれた。
「私がその事を確信したのは―─確か、あいつが一年の時やった」
記憶を遡る。その時の光景が今でも鮮やかに蘇ってくる。
- 557 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 20:22
- まだ矢口が入学して間もない頃。
私はその頃、紗耶香のクラスの担任をしていた。
でも一年の英語の担当や生徒指導係も同時にやっていた。矢口は小さいから目立つ上に
髪は金髪で余計目立ってた。遅刻はするわ、授業中居眠りするわ何度も生徒指導室に
呼び出されては私に怒られて、私に反抗して。でも、そんな矢口のまわりにはいつも人がいた。
クラスや学校で結構人気者だった。
──そんなある日、矢口のクラスの生徒が万引きをしたという事件が起きた。
私は生徒指導係として、その生徒と話をした。万引きしたのは化粧品やった。
学校に店から連絡があり、慌てて私はその生徒の担任と駆け付けた。
その生徒は泣きながら『やってない』と言った。
でも現に化粧品はその生徒のカバンから出てきてる。それはもう事実なんや。
その生徒の担任も他の先生達もその生徒が万引きをやったと思っていた。
それにその生徒は普段あんまり素行がよくなかったから尚のこと先生達はやったと思っていた。
そして、その生徒はしばらく自宅謹慎となった。
ところが、その翌日ある生徒がカンカンになって生徒指導係室にやって来た。
それが矢口やった。
- 558 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 20:35
- 『ちょっと、どうゆう事だよ!真由はやってないって言ってんじゃん!!
なのに何で自宅謹慎なんだよッ!?』
今でもハッキリ覚えてる。その時の矢口の怒りは半端じゃなかった。
運悪く、ちょうどその時、矢口のクラスの担任もいた。
『万引きをする奴は最初はそう言うんだ』
担任は冷たく矢口に向かって言った。
『何でだよ!そんなのわかんないじゃん!何で万引きをしたってわかるんだよ!』
『あいつのカバンから出てきたからだ!万引きしたって証拠がな!』
『はぁ?真由の話ちゃんと聞いたのかよ!真剣に聞いたのかよ!』
こんな必死になって怒鳴る矢口を初めて見た。私はびっくりしてポカンと二人を見ていたんや。
しばらくラチの明かない喧嘩なり、担任がキレて出ていった。
『何だよ、あいつ。ムカツク!』
何で矢口はここまで熱くなれるのか不思議だった。
『なぁ、矢口。どうしてそこまで熱くなれるんや?あんなに先生に怒鳴り散らして、
あんたも謹慎になりかねないで』
矢口はグッと口を閉じて、私を見た。顔は今にも泣きそうな感じだった。
『だって―――信じてるから』
震えた声で矢口は言った。
『昨日の夜…真由が泣きながらオイラに電話してきた。真由は万引きをやってないのに、
先生達は信じてくれないって…』
悔しそうに言う矢口。
『…オイラは真由を信じる。真由はやってないって言ってる。
オイラは信じてる、真由の言葉を』
ここまで人を―――友達を信じるなんてと思った。こいつはすごいやつや。
何が生徒指導係や。私はそんなのやる資格なんかない。
矢口のように人を信じる事が自分に出来ないんやったら、私にそんなのやる資格なんかない。
この時、私は本気でそう思った。
- 559 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 20:41
- 『…わかった』
私は大切なものを見失っていた。矢口のおかげで取り戻せた。
『なら―─私は矢口の言葉を信じる』
『え?』
『矢口はやってないと信じてるんやろ?それを私が信じるんや』
『…先生』
『よし。今日の放課後、あの子に会って話をしよか。矢口も来るやろ?』
『もちろん!』
その時、見た矢口の笑顔。一生忘れられへんような笑顔やった。
「枝豆お待たせしましたぁ!」
ガヤガヤと賑やかな居酒屋の光景に戻る。
「…っで、どうなったの?」
「その生徒は万引きしてない事がわかった。別の学校の生徒がその生徒に
わざとカバンに入れたんや。防犯カメラにしっかり映ってたわ。謹慎はなくなり、
学校に来れるようになった」
「良かったね」
「矢口はまだ怒ってたけどな。担任に謝れって言ってな、担任も万引きじゃないと
わかったもんやから仕方なくその生徒に謝ってたわ」
これで、矢口がどんな人間なのかようわかった。
矢口は大切なものをちゃんと持ってる。
だから、後先考えずに突っ走っても。
自分の決めた道を貫き通せるんやろうなぁ。
「生徒を信じる、か…。先生は生徒を誰よりも信じる力が必要だね」
彩っぺが笑って言った。私も笑った。
「ほんまやなぁ。おーい、ビール追加〜!」
今夜はとことん飲むか。可愛いかつての生徒の帰国を祝して。
- 560 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 20:48
- <紺野 視点>
放課後になり、部活の時間。私は部室でノートにペンを走らせていた。
本日は晴天、部活日和。
最近、まこっちゃんのハードル100mのタイムが急速に上がって来ている。
得意の走り高飛びもいい。部長という立場になって、気が引き締まったのか。
私もまこっちゃんのように頑張らなきゃ。
「あさ美ちゃん、何書いてんの?」
「まこっちゃんの成長記録…ッじゃなくて、部活の日誌みたいなものを…」
危ない危ない。ついつい書くのに夢中で、まこっちゃんが部室に入って来た事に気付かなかった。
「へぇ、えらいねぇ。・・・にしてもさぁ、もっと体力つけなきゃなぁ」
部室の椅子に座りながらまこっちゃんは言った。
「何で?十分あるよ?」
「走るのに大切なのは持久力じゃん」
「うん。よく後藤先輩が言ってたよね」
その反面、吉澤先輩は走るのに大切なのは強気な気持ちとか言ってたけど。
「――カボチャのパン」
いきなりカボチャのパンに話が飛んだ。とりあえずまこっちゃんの言葉を待ってみた。
「うちの学校じゃ、カボチャのパン人気ですぐ売り切れるじゃん。
しかもカボチャのパンは限定で、木曜日と金曜日しか出ない…」
「う、うん」
「木曜日と金曜日の四時間目はどっちも移動授業…」
カバッと私の両肩を掴むまこっちゃん。その顔は真剣そのものだ。
- 561 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 20:53
- 「授業が終わってダッシュしても売り切れになる事が多い。つまり、
もっと速く走らなきゃ買えないんだ」
カボチャがかかると怖いなぁ…肩痛い…。
「だから体力つけて持久力を上げる!そうすればカボチャのパンが買える!」
どっからその確証が出てきたのかよくわかんないけど、頷いておいた。
「あさ美ちゃん…私、必ず勝つよ」
何にだろう…?カボチャのパンを狙う人達?
「う、うん…頑張って!」
そのまま見つめ合う形になる。沈黙が流れた。
えっ、まこっちゃん…ここ、部室だよ…でも、ちょっと嬉しいかも…。
「あさ美ちゃん、ちょっと目赤いけど大丈夫?」
……えっ?。
「あ、さっき校庭走った時に風で目に砂入ってたよね?擦ったでしょ?駄目だよ」
……。
「ちゃんと目洗った方がいいよ」
「…まこっちゃん」
「何?」
「しばらくカボチャ禁止ね」
「…うぇ!?何で!?」
騒ぐまこっちゃんを無視して私は目を洗う為に部室を出た。
…まこっちゃんのバーカ。
ココロの中で小さく呟いた。
- 562 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 20:58
- <小川 視点>
うぅ…何でだよぉ。
いきなりあさ美ちゃんからカボチャ禁止令が出された。ショック過ぎて言葉も出ない。
「何か言ったかなぁ…別に悪い事なんか…」
あ、もしかして…。
「あさ美ちゃんもカボチャのパンが食べたいんだ!自分の事ばっか考えてたから気付かなかった…」
何だ。それなら言ってくれればいいのに。次の木曜日はあさ美ちゃんの為に頑張ろう!
張り切って気合いをいれ、部室を出ようとした時に携帯の着信音が流れた。
着信音が自分のだったのでカバンから取り出した。メールのようだ。
<我らが陸上部の大先輩がついに日本へ帰って来た!次の土曜に帰国祝いすっから絶対来いよ!
紺野と新しく入った一年にも言っとけよ! 吉澤>
「矢口さんだよね、確か」
元陸上部の部長さんで、練習が厳しいと言われてる。
すぐに返信をする。返事はもちろんOKだ。
…楽しみだなぁ、先輩達に会うの。
「さ、部活部活!」
部室を出ようとしたらあさ美ちゃんが帰って来た。何だかご機嫌斜めな様子だ。
理由はちゃんとわかってる。だから、謝ろう。
- 563 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/11(水) 21:04
- 「あさ美ちゃん…ごめんね?」
「別に…謝らなくても」
次は絶対君の為に頑張るから。
ギュッとあさ美ちゃんを抱き締めた。
「まこっちゃん…」
「こうしてると頑張れそうな気がする」
「えっ?」
「うん。頑張るよ。だから待っててね」
「・・・?」
体を離して、まわりに誰もいないか確認する。
…よし、一年もいないし、部外者もいない。二人きりだ。
そっと顔を近付けた。あさ美ちゃんが目を閉じる。
唇が触れそうな、その時。
ガラガラガラ。
「先輩!新垣先輩が来ました…あっ」
この声は一年のれいなちゃん。
慌てて離れたが遅かった。
「アハハ、いや、えっと…」
二人して真っ赤な顔をしていた。
「あ、私、走って来ます!」
れいなちゃんは慌てて去って行った。入れ替わりにクラスは違うけど、仲のいい里沙ちゃんが登場。
「ハーイ!二人とも、元気ー?」
…あともう少しだったのに。
「ん?どうしたの?」
「…何でもないよ」
里沙ちゃんのちょっと高いテンションに私とあさ美ちゃんはため息をついたのだった。
- 564 名前:作者。 投稿日:2006/01/11(水) 21:16
- 今日の更新です。
>553 ミッチー様。
(〜^◇^)<忘れんなよ!
今は時間に余裕があるので、ペースが速いんですが、
もうじき大学の後期のテストが始まるのでペースが
落ちてしまうかもしれません・・・でも頑張ります!
( ^▽^)<・・・(私も喧嘩したらこの方法で許そうかな♪)
(;0^〜^)<り、梨華ちゃん?どうしたの?
( ^▽^)<ううん。何でもないよ♪
どんどん感染していく模様です。
- 565 名前:ミッチー 投稿日:2006/01/12(木) 02:12
- 更新お疲れ様デス。。。
矢口さんは人を信じるとってもイイ人ですね。
そこが矢口さんらしくて好きです☆
矢口さんの帰国祝いはかなりの人数になりそうですね(w
パーティがあるごとに、段々人数が増えているような・・・(w
小川さんと紺野さんのやりとりオモシロイです♪おしかったね。
どこの大学も、もうすぐテストの時期なんですね。
頑張ってください。他人事じゃないけど(w
- 566 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/13(金) 20:27
- <田中 視点>
あー、びっくりした。だってまさか部室で…なんて。
大胆過ぎるよ、先輩達。
「れいなぁ、顔赤いよ?」
新垣先輩を部室に連れてって、さゆがいる校庭に戻った。
「な、何でもない。ストレッチしよっ」
走る前に軽くストレッチ。でも、なかなか集中出来ない。
あ〜…駄目だ。頭から離れん…。
「れいな、変。大丈夫?熱でもあるの?」
さゆの顔がドアップで目に映った。
「うわっ!?」
近ッ!近いって!
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だから!顔近付けないで!」
心臓の鼓動が速い。
・・・はぁ、疲れる。
さっきの衝撃的な光景のせいで変になる。
…別にキスなんか…大体今は部活中だし!部活に専念しなきゃ!
「さゆ、走るよ!」
「わ、待ってよ!れいな!」
衝撃的な光景を忘れる為に全速力で走ったけど忘れられなかった。
- 567 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/13(金) 20:30
- <加護 視点>
…何やってんやろ、あの子らは。
放課後、教室でボーッと窓から校庭を眺めていた。すると二人のジャージ着た生徒がいた。
ストレッチしたかと思えばいきなり走り出す。何をしたいんだかサッパリわからない。
「あいぼーん!ごめんれす!」
教室にののが駆け込んで来た。
「走らんくてもええのに…ちゃんとプリント出して来たん?」
「へい!大丈夫れす」
うちはののが宿題のプリントを出して戻って来るのを待ってた。
「ほな帰ろ」
カバンを持って教室の入口へ向かう。
「待って〜!」
バタバタとののがカバンを持ってやって来た。
「あいぼん、元気ないれすね」
廊下を歩いてる途中、ののが言った。
「…教室でちょっとこの高校生活を振り返ってたんや」
「高校生活、れすか?」
「よっすぃーを好きになって、意気込んでこの高校を受験して見事入れた」
「へい。でも、もともとここに入る予定だったって前にあいぼん言ってたれすよ?」
「そんないらん事言うな!ええの、よっすぃーの為にうちは受験したの!」
「・・・よっすぃーの為っていうか自分の為れすよ」
いちいち突っ込みをいれるののにイライラした。
「もう、ののは黙って。とにかく!うちが入学した頃は恋に燃えていたんや」
それは期待に満ちた日々だった。ホントに好きになってしまったからには攻めて攻めて攻めまくる。
だけど、うちの努力は報われず、よっすぃーと結ばれる事はなかった。
- 568 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/13(金) 20:35
- 「大体、梨華ちゃんからよっすぃーを奪うなんて無理があったんれすよ…」
横からボソボソ聞こえるが気にせずうちは喋る。
「そして、うちは新たな恋を求めた。けどそんな展開もなくあっという間に高校三年や!
全く、この作者は何やねん!」
こんな事を言っても仕方ないけど言わずにはいられない。うちの声が意外と廊下に響いた。
「…あ、そうそう」
うちを無視してののが言った。何やらカバンをごそごそ探っている。
「何や。無視か」
「昨日、梨華ちゃんから手紙が来たんれすよ」
取り出したのは手紙だった。しかも送り主はかつての恋のライバル。
「っで、何や?」
「矢口さんが帰って来たから、お祝いをするそうれす。ぜひののとあいぼんにも
来て欲しいって書いてあるんれすよ」
矢口さん…うちとののが家出した時にお世話になったなぁ。前に海外に行ったって
聞いたけど、帰って来たんか。
「そりゃ、めでたいな。お祝いせな」
ちょっと顔が笑顔になった。下駄箱に行く為、階段を降りる。
- 569 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/13(金) 20:39
- …ん?矢口さんのお祝いって事はもちろんよっすぃーも来る。
「・・・久々に逢えるんや!」
つい大きな声で言ってしまった。
「誰にれすか?」
ののが不思議そうにうちを見る。
「や、矢口さんに決まってるやんッ!」
慌ててそう言い、ののより先に階段を降りていく。
…そりゃ、諦めたけど。よっすぃーと梨華ちゃんの間には入り込めないってちゃんとわかってる。
でも…やっぱ・・・逢いたいやんか。
でもな、逢いたいのはよっすぃーだけじゃないで。
クリスマスパーティの時、一緒に騒いだみんなに。
逢いたい。
もちろん、梨華ちゃんもな。
「あいぼん待ってくらさいよ〜」
階段を降りたうちを慌てて追いかけてくるのの。
「楽しみやなぁ。帰国祝い」
「そうれすね」
ほんまに楽しみや。
早くその日にならんかな。
- 570 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/13(金) 20:44
- <飯田 視点>
「ふぅ…休憩しよ」
筆を置いて、椅子から立ち上がった。部屋から出てキッチンへ向かう。
冷たい珈琲をいれて、リビングのソファに座った。
もうすぐ、完成する。最後の一枚。
絵を描くのが好きで、絵の勉強をしに留学した。何とか自分の絵が描けるようになって、
日本へ帰り絵を描き続けた。その努力のおかけで少しずつ認められるようになった。
近々、小さいけれど個展を出せるほどになった。その個展の為に今、毎日絵を描いている。
「矢口…もうすぐ完成するよ」
壁に飾ってある、今までの写真。その中で笑っている親友を見て呟いた。
その親友は最近海外から帰って来たらしい。本人から電話があり、図々しくも帰国祝いをやれと言う。
全く、相変わらずな親友だ。
笑って、珈琲を飲もうとした時、ピンポーンという音が聞こえた。
誰だろ…?
コップを置いて、玄関へ向かう。扉を開けると。
「元気?」
「圭ちゃん!久しぶり〜!上がって上がって!」
圭ちゃんとはなっち経由で知り合い、私が日本に帰って来た頃から仲良くなった。
今じゃいい飲み友達となっている。
- 571 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/13(金) 20:48
- 「最近、忙しいみたいだね」
「それはそっちもでしょ?」
差し入れのケーキを貰った。さっきまで集中していたから甘い物が食べたかった。
「どうなの?絵は完成した?」
「あとちょっと。圭ちゃんの方はどうなの?」
「昨日、レコーディングが終わって一段落ついたわ」
圭ちゃんはこう見えても、ちょっと有名人。大学を辞めて、音楽の道へ走り始めた。
路上ライヴをしていたとこをスカウトされてインディーズデビュー。
CDも好調に売れて、ラジオでよく流れている。
「圭ちゃんの歌声とギターは癒されるよ。絵を描く前に聞くの。ココロを落ち着かせる為に」
私がそう言うと圭ちゃんは照れたように笑った。
「嬉しい事言ってくれるじゃない」
それからケーキを食べて、いろいろ話した。矢口の事も話した。
「帰って来たんだ」
「うん。帰国祝い、圭ちゃん来れそう?」
「多分行けると思うけど…」
「話によるとみんなに呼びかけてるらしいから、すごい事になりそうだよ」
「そりゃ、絶対行かないとね。行かなかったら矢口怒りそうだし」
「言えてる。絶対怒るよ。『何で来ないのッ!?』って言ってさぁ」
そして、圭ちゃんはまだ仕事があるらしく帰って行った。私はまた部屋に戻り筆を手にした。
この最後の一枚の絵は土曜までに完成させないといけない。
――矢口に見せたいから。
この絵は私の想いが詰まってる。
みんなへの想い。
誰よりも矢口に見せたい。
…今日は徹夜かな。
そう思いながら笑って、キャンバスに筆を走らせた。
- 572 名前:作者。 投稿日:2006/01/13(金) 20:55
- 今日の更新です。
この物語、相変わらず人数が多いな・・・。
>565 ミッチー様。
(〜^◇^)<好きだなんて照れるなぁ♪
今回のパーティはホント人数が多いと思います。
多分、過去最高かな?書くのが大変そうです(^−^;
テストは嫌ですね・・・お互い頑張りましょう!
- 573 名前:ミッチー 投稿日:2006/01/14(土) 01:16
- 更新お疲れ様デス。。。
辻、加護久しぶりに出てきましたね〜☆忘れかけていました(笑
はたして市井さんの家に皆入れるんでしょうか?疑問です(笑
はい、テストお互い頑張りましょう!><;
- 574 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/19(木) 20:20
- <市井 視点>
はぁーと息を吐く。仕事から帰って来て後藤が作った夕飯を食べて風呂に入った。
一番リラックス出来る時間だ。しかし、私はある不安を抱えていた。
「明日かぁ…」
いよいよ明日は土曜日。矢口の帰国祝いをする日だ。うちに大勢の仲間達が来る。
そう、“大勢”の仲間が来る。
『なぁ、後藤。明日何人くらいくるんだ?』
夕飯の時に何気なく聞いた質問。後藤はご飯をもぐもぐさせながらうーんと唸った。
『わかんない』
ご飯を飲み込んで後藤は答えた。
『わかんないって…』
『よしこ達に知らせて、他のみんなにも適当に伝えといてって頼んだから…。
市井ちゃんは誰に伝えたんだっけ?』
『藤本と裕ちゃん』
『そこから亜弥ちゃんと石黒先生でしょ?あとは…』
後藤はしばらく黙って、こう言った。
『とにかく、たくさんだよ』
そんなアバウト過ぎる。
「ってか、うちに全員入るのか…?」
湯船につかりながら呟く。そりゃ、今までうちでパーティや祝い事をしてきた。
何とか今までは大丈夫だったけど。
…今回はもっとすげー事になりそうだな…。
明日の事を考えると不安になる。
「…ま、何とかなる、よな」
とにかく明日は盛大にしなきゃならない。そうしないときっと矢口の蹴りが入るだろうから。
…頑張ろう。
きっと買い物は私が行くのだから。明日に備えて早めに今日は寝ようと思った。
- 575 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/19(木) 20:25
- <吉澤 視点>
「あ、梨華ちゃん?」
携帯を耳に当て歩く。向かう先は駅前だ。
「ごめんね、遅くなって。うん、もうすぐ着くから」
梨華ちゃんは既に駅にいるらしい。ちょっと早く歩く。
「わかった。じゃ、すぐ行くね」
携帯を切り、走り出す。今日はバイトが休めなくて、ギリギリまでバイトをしていた。
今夜は高速バスに乗って、故郷へ帰るのだ。明日行う矢口先輩の帰国祝いの為に。
「あ、いたいた」
駅前に着き、さっき電話で言われた場所に行くと梨華ちゃんがいた。
梨華ちゃんはこっちに向かって手を振っていた。
「ひとみちゃん!」
「ごめんごめん。バイトがなかなか終わらなくてさ」
休もうと思ったバイトの日が他のバイトの人が体調崩して来られなくなって、
急遽出る事になってしまった。
「大丈夫だよ。ちょうどいい時間だし」
時計を見るとあと15分くらいで高速バスが出る時間になる。
「よし、じゃ行こう」
梨華ちゃんのいつもより大きめのカバンを持って歩く。うちのは梨華ちゃんより小さいけど、
着替えが入ってたりする。今夜はうちの実家に梨華ちゃんと帰り、日曜日に戻る予定でいるので、
小旅行並の荷物なのである。
- 576 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/19(木) 20:28
- 「久々だね。帰るの」
歩きながら梨華ちゃんが声を弾ませる。梨華ちゃんは東京に家族といるから、
故郷に行く事が少ない。うちは実家があるから帰ったりする事がある。
「そうだね」
「しかも、ひとみちゃんのおうちに行くんだし…緊張するよぉ」
「あはは、別に緊張しなくても大丈夫だよ」
チケットを係の人に見せて、高速バスに乗り込む。指定された席に並んで座った。
「大谷さんはもう帰ってるみたい」
梨華ちゃんが携帯を見ながら言った。どうやら柴田さんからメールが来たようだ。
「へぇ。愛のパワーだね」
「柴ちゃんも喜んでるよ」
時間が来て、高速バスが動き出した。故郷までまだまだ時間がかかる。
「うちらの愛のパワーも負けてないよね」
梨華ちゃんの手に自分の手を重ねた。
「うん!」
嬉しそうに梨華ちゃんは頷いた。
バスに揺られて故郷を目指す。
うちらの大事な場所を目指す。
ココロがわくわくしていた。
…早く着かないかなぁ。
窓の外を眺めながら、そう思った。
- 577 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/19(木) 20:33
- <安倍 視点>
「あー、やっぱ味噌汁うまい!」
土曜日の朝。早朝に矢口がうちに訪ねてきて、朝ご飯食べたいと言って来た。
…眠い。
土曜日の朝はいつもより寝坊出来るのにと思った。
「矢口…元気だね」
「そりゃ、今日は特別な日だし!おかわり!」
「はいはい…」
矢口のお茶碗を受け取り、立ち上がる。炊飯器を開けてしゃもじでご飯をお茶碗に入れた。
振り返れば、おいしそうに朝ご飯を食べている矢口の姿。
…ま、いっか。
矢口の笑顔を見て眠気も吹っ飛んだ。それに今日は特別な日。
気合いを入れなければ。
「はい、どーぞ」
「ありがと!」
朝ご飯を食べて、二人で片付けをして、休憩。
「楽しみだな〜」
…今日はお昼ぐらいに紗耶香の家だっけ。
買い出し係と料理係が集まる。誰とは決めてないけど、いつもと同じメンバーだろう。
よっすぃ〜と梨華ちゃんも帰って来てるみたいだし。
「矢口はどうするの?家にいるの?」
「オイラ?」
「だって、矢口の帰国祝いだし」
主役が自分のパーティの準備するのも、何か変な気がした。
…っていうか、そもそもこうゆうパーティってドッキリでやるものじゃないのかな。
本人が自分でやろうって提案するのは普通ない気がする。
「オイラ、用事あるから。ちゃんと時間には行くよ」
「そうなんだ…」
てっきり、矢口の事だから準備にも来るのかと思った。
- 578 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/19(木) 20:35
- …でも、矢口何かコソコソやってるような。
こっちに帰って来てからうちに泊まったのはたった一回。
それでも毎日うちに来るけど、ふらっと来て帰るみたいな。
大学もまだ休学のままにしてる。一体何処で何やってんだろう。
「なっち〜」
私が考え事をしてると、矢口がベターッとくっついて来た。
「ちょっと、何やってんのさ」
「食べたら眠くなったー」
ごろんと私の膝の上に頭を置く矢口。
「もう、寝ないでよ」
私に構わず目を閉じる矢口の目の下にうっすら隈が出来てるのに気付いた。
…寝不足なのかな?
昨夜興奮して寝つけなかったのかと思った。
矢口は何か楽しい事があるとその前の夜はなかなか眠れないのだ。
「しょーがないなぁ。少しだけだよ?」
「…ありがと。なっち」
矢口はすぐにスースーと眠り始めた。私は矢口のサラサラな金髪を撫でていた。
ここに矢口がいるんだなぁと実感する。
…今日は張り切ってご馳走作るからね。
ちょっと眠いけど、幸せな午前のひとときだった。
- 579 名前:作者。 投稿日:2006/01/19(木) 20:38
- 本日の更新です。
>573 ミッチー様。
(;^∀^ノ<全員入るのか?
市井さんも疑問。作者も疑問(ぇ
辻さんと加護さんだいぶ前に出てましたからねぇ・・・。
人数が多いと大変だ(w
- 580 名前:ミッチー 投稿日:2006/01/21(土) 06:27
- 更新お疲れ様デス。。。
やっぱり、入るのかどうかは皆が思う疑問ですね(w市井さんの家は大きいということでっ!(w
矢口さんは影で何をしてるのでしょうか?気になりますね。
もうすぐ賑やかなパーティが始まると思うと、ワクワクします★
楽しいんだろうなぁ。
- 581 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/24(火) 21:05
- <後藤 視点>
――土曜日。朝早く起きて、着替えて、エプロン付けて、髪を一つに縛り、掃除をした。
市井ちゃんも珍しく早起きで、眠たそうな顔をしながら掃除を手伝ってくれた。
「ふぁぁ、眠ぃー」
掃除が終わってソファに倒れ込む市井ちゃん。
「寝てれば良かったのに。お昼によしこ達来るんだよ?まだ寝れたのに」
あたしはそう言って、昼ご飯の支度をする為にキッチンへ向かった。
「今日は特別な日だろ?」
市井ちゃんが起き上がって、あたしを見て言った。
「そうだけど」
「だったら掃除ぐらいちゃんとしねーと、どっかの誰かさんに蹴跳ばされかねないからなぁ」
そう言いながら市井ちゃんは再び寝転んだ。
「後藤、それよか腹減った〜」
そういえば朝ご飯を食べていなかった。
「今からご飯作るから、待ってて」
今日のお昼によしこ達も来るから多目にご飯を作らなければならない。
簡単に多く作れるパスタを選んで、料理開始。パスタの麺を大量に茹でて、
三種類ぐらいソースを作る。定番のミートソース、アサリが入った塩味のソース、
ネギとごま油などを使った和風のソース。
「うまそ〜♪」
匂いにつられて来たのか、いつの間にか市井ちゃんが傍にいた。
「つまみ食い駄目だよ」
「えー」
こうゆう時、いっつも市井ちゃんはつまみ食いをする。
- 582 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/24(火) 21:10
- 「もう、おとなしく座ってて」
「何だよぉ…あー、早くあいつら来ねーかな…」
ブツブツ言いながら市井ちゃんはリビングに戻った。しばらくして、パスタの麺が茹で上がったら、
それぞれのソースに絡める。
…よし、時間帯もいいし。そろそろ来るかな?
時計を見ると、あと少しで正午になろうとしていた。
「市井ちゃーん。お皿運んで〜」
取り皿を出して市井ちゃんに渡す。大きなお皿を三つ出して、パスタを盛り付けた。
それをリビングのテーブルに運ぶ。その時、ピンポーンと鳴った。
「おっ、来た来た!」
市井ちゃんが嬉しそうに玄関の方へ飛んで行った。
…あれはよしこ達が来るのが嬉しいんじゃなくて、やっとご飯が食べられるから?
「よく来た!さぁ、上がった上がった!」
市井ちゃんの妙なテンションにみんなポカンとしていた。
「…市井さん、どうかしたの?」
よしこがあたしに小声で聞いてきた。
「…さぁ」
やっとご飯が食べれる事に浮かれている市井ちゃんはかっこよくない。
「座って座って。後藤が作ったんだよ。うまそうだろ?遠慮せず食えよ」
むしろ遠慮しないのは市井ちゃんじゃない?と思ったけど、言わないでおいた。
結局、この言葉通り市井ちゃんはお客さんよりも遠慮せずたくさん食べていた。
- 583 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/24(火) 21:13
- <石川 視点>
土曜日の朝。目が覚めると、そこはいつもの自分の部屋じゃない。
隣を見ればひとみちゃんが眠っていた。それが嬉しくて、笑顔になる。
…まだ、六時か。
部屋の時計を見るとまだ朝の六時。もう少しゆっくり出来る。
「梨華ちゃん……」
声が聞こえて隣を見る。
「…寝言?夢の中でも私がいるんだね…」
そっとひとみちゃんに寄り添う。すると寝ぼけてひとみちゃんが私を抱き締めて、また寝言。
「好きだよぉ……」
どんな夢なのかな。私と楽しく過ごしているのかな。
「私も好きよ…」
そっとひとみちゃんの頬に口付けて、目を閉じて昨夜の事を思い出していた。
昨夜、ひとみちゃんの家に着いてひとみちゃんのご両親と夕飯のすき焼きをご馳走になった。
すごく緊張したけど、楽しかった。
こんな気持ちだったのかなぁ・・・。
前に私の家族とひとみちゃんが食事をした時のひとみちゃんの気持ちがわかった。
- 584 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/24(火) 21:17
- 『ひとみ、大学でちゃんとやってる?』
ひとみちゃんが席を外した時、ひとみちゃんのお母さんが私に聞いてきた。
『あ、はい』
『親としては心配でねぇ。知らない街でやっていけるのかって』
苦笑いしてひとみちゃんのお母さんは言った。
『全く、母さんは心配し過ぎなんだ。石川さんがいるんだから大丈夫だろ』
ビールを飲んで顔が赤くなっているひとみちゃんのお父さんが豪快に笑った。
『それはそうだけど…』
『石川さん。あいつは思い込んだら一直線、かと思いきや変なとこで慎重派なんだ。
何かと迷惑かけるかもしれないが、よろしく頼むよ』
『迷惑だなんて…私の方が、頼りにしてるんです』
『まぁ、長い付き合いになるんだろ?ちゃんと挨拶はしとかないとな』
――えっ?
『私からもよろしくお願いね』
ニコニコと微笑んでいるご両親。
まさか…私達が付き合ってる事知ってる…?
『何〜?何の話?』
席を外していたひとみちゃんが戻って来た。
『石川さんにお前の事をよろしく頼むって言ってたんだよ』
『ちょっと、うちがいない時に言わないでよ』
私はしばらく固まっていた。
『お前、ちゃんと石川さんの事守れよ!愛想つかされんじゃないぞ』
『もちろん!』
胸が熱くなって、涙が溢れそうになった。
- 585 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/01/24(火) 21:21
- 夕飯の後、ひとみちゃんの部屋で過ごした時に聞いたら、ひとみちゃんは私の事を
ご両親にちゃんと話していたらしい。
『いつだったかなぁ。結構前に。“梨華ちゃんって子と付き合ってる”って』
『結構ストレートだね』
『そう?まぁ、うちの親も薄々気付いてたみたい』
…きっと、私の親も気付いてるんだろうなぁ。
『私、幸せ』
これ以上ない暖かい気持ちになった。
『ん?』
『祝福してくれる人がいるんだなって』
『…うん。そうだね。ま、誰よりもうちが祝福してるよ?』
良かった、あなたと出逢えて。
良かった、あなたを好きになって。
私――本当に幸せだよ。
「ありがとう…ひとみちゃん」
ひとみちゃんの髪を撫でて呟いた。
「んっ…?梨華ちゃん?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「…夢の中で梨華ちゃんが笑ってんだ…幸せそうに、うちの隣にいるんだ…」
「うん…」
「だから、うちも幸せなんだ」
ギュッと強く抱き締められる。
「私達、世界中で一番の幸せ者だよね」
「そうだね…。さ、起きよっか。今日は特別な日だから」
朝陽が窓から差し込む中で。
私達は笑い合って、幸せを感じていた。
- 586 名前:作者。 投稿日:2006/01/24(火) 21:26
- 本日の更新です。
>580 ミッチー様。
(〜^◇^)<内緒だ♪
矢口さんは一体何をしているのか。内緒らしいです。
とりあえず市井さんの家は大きいってことで(w
- 587 名前:ミッチー 投稿日:2006/01/25(水) 02:42
- 更新お疲れ様デス。。。
お腹を空かせている市井さんオモシロイですねw
石川さんと吉澤さんはいつも幸せそうですね。
吉澤さんはイイ両親をもってますネ。
次は誰がくるのでしょうか?
次回も楽しみにしてます☆
- 588 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/02(木) 21:02
- <矢口 視点>
最近、ろくに寝てないからちょっと隙があると睡魔が襲ってくる。
「まだ半分も終わってないよ〜…」
なっちの家でご飯を食べて、ちょっとゆっくりしてうちに帰って来た。
“あるモノ”をオイラは作っていたけど一向に終わる気配がない。
今日が最終日なのに。
「はぁ…やっぱり初めてのことにチャレンジすると大変だ…」
ため息をついて作業開始。
「人数多いからなぁ……いや、弱気になっちゃいけない!完成させなきゃ!」
受験の時に使っていた“頑張れハチマキ”をつけて黙々と作業をする。
これは、みんなとの友情の証。
オイラからみんなにプレゼント。
「一人で成し遂げてみせる!」
――だったはずなのに。
「……んっ?」
何か部屋が赤い…。
「………」
窓から夕陽が差し込んでる。
「……あー!!?」
いつの間にか眠ってしまった。
飛び起きて時間を見る。現在午後五時になろうとしていた。
ヤバッ……。
約束の時間は午後七時。
「あと何個!?……あと、三個?よし、まだ間に合う!」
半泣きしながら作業を始めたオイラだった。
- 589 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/02(木) 21:07
- <藤本 視点>
土曜日の夕方。喫茶店をいつもより早くに閉めて市井さんの家に行った。
亜弥からメールがあってもう行ってるらしい。市井さんの家に着いてピンポンを押した。
「おう、藤本か」
扉が開いて市井さんが迎えてくれた。中から賑やかな声が聞こえてくる。
「賑やかですね」
「まぁな。主役なしでも十分に盛り上がってるよ」
「お邪魔します」
玄関に入るとそこにはたくさんの靴が置いてあった。みんな気が早いようだ。
靴を脱いで上がらせてもらう。
「あー、のの!その折り紙使っちゃ駄目って言ったやん!」
「何であいぼんばっかピンク使うんれすか!ののも使いたいれす!」
「もう、あいぼん。ののにもピンクの折り紙使わしてあげなよ。ね?」
「梨華ちゃんの言う通りだぞー。独り占めは駄目」
「マサオ!もっと右上よ。あー、違うってば。私から見て右」
「何だよぉ、わかりづらいよ」
「あさ美ちゃん。見て見て!カボチャ型に折り紙切ってみた!」
「あのさ、輪を作って繋げる飾りにそれ何処に使うの?」
リビングは何だか戦場みたいに人がたくさんいた。
「ま、しっかり動いてくれよ」
ポンと肩を市井さんに叩かれた。
これなら…もっと後にくれば良かったかも…。
- 590 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/02(木) 21:10
- 「あ、藤本さん」
声がする方を見るとダンボールを抱えたれいなちゃんがいた。
「お久しぶりです」
「元気?っつっても元気そうだね」
「元気です。さゆも。あ、今飾り付け作ってるんです。折り紙を切って輪にするやつ」
ハイ、どうぞとハサミを渡された。
「折り紙はたくさんあるんで」
とダンボールを見せるれいなちゃん。中を覗くと、なるほど折り紙が大量に入っていた。
どんだけ作るんだろう…。
キッチンを覗くとごっちんと亜弥と安倍さんが料理を作っていた。
何だか忙しそうなので亜弥に声をかけるのは止めて、飾り付けを作り始めた。
- 591 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/02(木) 21:15
- <吉澤 視点>
昼から準備を始めて、時刻はもう夕方になっていた。
食材を買いに行ったり、リビングのセッティングをしたりと忙しい。
なんせ人数が多いもんで、何だか学祭の前日みたいな感じだった。
「お肉足りるかなぁ…」
喉が渇いてキッチンへ行くと料理班が何やら悩んでる様子。
「とりあえずメインが焼肉だし…何人いるんだっけ?」
「確か…20人近く?」
「あたし、絶対足りないと思います」
うーんと唸る三人。
「あのー、買って来ようか?」
右手を挙げて言ってみた。
「よしこ、行って来てくれる?」
「うん。肉は多くても困らないしさ」
とにかく多人数だから、少なくては困る。特に育ち盛りの高校生がいるんだし、
肉が大好きな矢口先輩が主役なんだし。
「助かる、ありがと。とりあえず牛肉と、あとモヤシと果物も適当に買っといて」
ごっちんが自分の部屋に行き、お金を持って来た。このお金はみんなが少しずつ出したお金。
高校生チームはあまり期待出来ないから、主に出したのは大学生チームや社会人チームだった。
「市井ちゃーん!」
お金を受け取り、玄関に向かおうとしたらごっちんが市井さんを呼んだ。
「おう。何だ?」
「よしこと買い物行って来て」
「わかった」
確かに一人じゃ運ぶのが辛いかも。
「あの、美貴たんも出しましょうか?」
亜弥ちゃんが言った。
- 592 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/02(木) 21:19
- 「んぁ、そうだね」
「美貴たーん!」
リビングからミキティがちょっと疲れた顔してやって来た。
「何?」
「お買い物行って来て。三人で」
「行く!行くよ!」
こうして三人で近くのスーパーへ向かった。
「ミキティ、疲れてんね」
「飾りを飾ってたら、いきなり後ろからタックルされたり、肩にぶらさがられたり…」
「それは災難だったなー、藤本。私はうまく回避してたけど」
「やってんのはののとあいぼんでしょ。ホントあの二人は大変だよ」
三人でスーパーの中へ入り、予算を考えて牛肉やモヤシ、果物をカゴに入れていく。
「酒は?買ってあった?」
ふと市井さんがお酒コーナーを見て言った。
「今日は高校生もいるってことで買ってませんよ」
今日、一度買い物に来た時に安倍さんがそう言っていた。
確かに、大学生や社会人だけでやるわけじゃないから、良くないかもとうちは思った。
「えー、でも飲みたいなぁ。お前ら飲みたくねーの?」
「私は飲みたいですけどね」
ミキティがさらっと言う。市井さんの視線がうちに向けられた。
「で、でも…安倍さんやごっちんが……」
「吉澤、飲みたいか飲みたくないかを聞いてんだよ。どっちだ?」
そんな凄まなくても…こ、怖い。
「は…はい。飲みたい…です」
そうとしか答えられなかった。市井さんは満足したのかカゴにお酒を入れていった。
ミキティも一緒になって。おかげでうちが持っているカゴはどんどん重たくなった。
それと同じく、安倍さんが“今日は高校生もいるからお酒は控えよう”と言った言葉を
裏切るような形になってしまい、うちの心もどんどん重たくなった。
- 593 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/02(木) 21:24
- <後藤 視点>
だいぶ支度が出来たので、料理班は休憩していた。
相変わらずリビングは飾りつけで騒がしく、あたしは自分の部屋に入った。
「ふぅ…」
朝からずっと動いていたので結構疲れていた。ベッドに横になる。
目を閉じると寝てしまいそうな感じだった。寝ちゃいけないと思い、起き上がる。
すると玄関から音が聞こえた。どうやら買い出し班が帰って来たようだ。
あたしはすぐ立ち上がり部屋を出た。
「おかえり。ありがと」
やって来た市井ちゃんから食材が入った袋を受け取ろうとした。
「あぁ、いいよ。キッチンに運んで、冷蔵庫いれとくからさ。お前、疲れてんだろ?休んどけって」
やけに市井ちゃんが優しい。勘違いかなと思いながら、「そう?ありがと」と答えた。
市井ちゃんとミキティがキッチンへと向かう。
「ごっちん…」
廊下にはよしこがいた。
「よしこ。…どうしたの?」
「い、いや、何でもない」
変なよしこ。よしこもキッチンへと向かった。
……怪しい。
ゆっくりキッチンへと近付いた。三人が何やらゴソゴソしている。
「とりあえず、奥に置いて…」
「野菜室の方が見つかりにくいですよ」
「あの〜…よくないですよぉ」
あたしはしっかり見た。袋からお酒が出てきたのを。
「……おかしいなぁ」
あたしが言うと三人がすごい勢いで振り返った。慌ててお酒を隠そうとしていた。
- 594 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/02(木) 21:26
- 「確か、頼んだのは、牛肉とモヤシと果物だよねぇ。お酒なんて頼んでたかなー。ねぇ?」
様子が変だとわかったのか安倍さんや亜弥ちゃんもキッチンへやって来た。
「あ!お酒は今日、買わないって決めたのに!」
高校生もいるからと今日はお酒は控えることに決定していた。
「うぅ…ごめんなさい。うち、止めようとしたんだけど…」
「あ、吉澤。お前飲みたいって言ったじゃねぇか」
「だって!市井さんが飲みたいか飲みたくないかなんて聞くからじゃないですか〜」
この様子から見て、よしこは仕方なくといった感じだ。
そんな中、そろそろとその場を逃げようとしていたミキティが見えた。
「美貴たん…?」
亜弥ちゃんに呼び止められミキティが振り返る。
「何?」
「お酒、買って来たの?」
「そーみたいだね」
白々しく言うミキティ。
「今日は買わないって決めてたのに、どうしてかな?」
「そうだったんですか?市井さん」
ミキティが市井ちゃんに視線を向ける。
- 595 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/02(木) 21:30
- 「えっ、いや…そーだったかもね。アハハ……」
――というわけで、市井ちゃんを別室呼びお説教開始。
連帯責任として、よしことミキティには廊下で正座。
お説教が終わった後、市井ちゃんも廊下に正座させた。
「何でうちが……」
「大体お前が上手く説明してりゃ良かったんだよ」
「何ですか!うちのせいですか!」
「ハイハイ。全部市井さんが悪いってことで」
「藤本!てめぇ、さっきは『そーみたいだね』なんて白々しく言いやがって」
廊下でぎゃーぎゃー騒ぐ三人。影で梨華ちゃんがよしこを心配そうに見ていた。
「なぁ、よっすぃー何か悪いことしたん?」
「廊下で正座してるれすよ」
「今、ひとみちゃんは戦ってるの。あいぼん、のの、応援しよ?」
「マサオも正座したら?」
「何でだよッ!」
「あさ美ちゃん!私達も正座だッ!」
「何で私達もなのよ、まこっちゃん…」
「れいなぁ。どうしたのかな?先輩達」
「あー、私らには関係ないから大丈夫だよ」
全く、ちゃんと反省してよね。
市井ちゃん。
許した時は三人共足が痺れて動けなくなっていた。
- 596 名前:作者。 投稿日:2006/02/02(木) 21:40
- 本日の更新です。
>587 ミッチー様。
(0^〜^)人(^▽^ )この二人はいつも幸せそうですよね。
いよいよ、パーティが近付いています。
(〜;^◇^)<オイラの出番少なッ!
この人もたくさん出てきます。
テストも残り一つ!頑張ります。
- 597 名前:ミッチー 投稿日:2006/02/04(土) 02:47
- 更新お疲れ様デス。。。
吉澤さんは悪くないのにね・・・(w
足がしびれた後が大変そうですね。足をいじられそうで(w
もうすぐ矢口さんが何を作っているのかが判明しそうですね☆
楽しみです。
- 598 名前:作者。 投稿日:2006/02/08(水) 17:48
- こんばんは、作者です。実は今、自分が使っているパソコンが
壊れてしまい、更新が出来ない状態になってしまいました(泣
この書き込みは姉のパソコンをちょっと借りて書き込みしてます。
自分のパソコンが直り次第、更新したいと思っているので、
読んで下さっている方には申し訳ないのですが、もうしばらく
お待ち下さい。本当にすいません。
- 599 名前:作者。 投稿日:2006/02/13(月) 14:59
- こんにちは。やっと更新出来る状態になったので、更新したいと思います。
- 600 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/14(火) 20:39
- <安倍 視点>
料理よし、飾り付けよし。
さぁ、始めよう!帰国祝い!
……っていう時に。
「何で本人がいないのさ!?」
約束の時間は午後七時。今は午後七時過ぎた頃。
このお祝いの主役はまだ来ていない。
「何してるんですかねぇ、矢口先輩は」
よっすぃーがベランダに出ながら言った。
「ったく、当の本人がいなきゃ始まらないってのに…」
紗耶香が呆れた顔して言う。
「んぁ、意外と寝てたりして」
「いやいや、後藤じゃないんだから。あのイベント好きな矢口がこんな
大イベントに遅刻するはずねぇよ」
紗耶香の言う通り、こんな大事なお祝いで前々からあんなに楽しみにしてた
矢口が遅刻だなんて有り得ない。
何で……。
「まさか…事故、とか?」
「あ、あゆみ!んなわけないよ!」
「確かにあの矢口さんが遅刻するはずないし…そうなると…」
「美貴たんまで!そんなこと言わないの!」
…どうしよう。
だんだん恐くなってきた。
前に矢口が事故に遇ったのを思い出してしまった。
ここに来るまでに、もしかしたら事故に遇って、病院に運ばれたのかもしれない。
「安倍さん?落ち着いて下さい」
隣に座っていた梨華ちゃんがそう言ってくれたけど、今の私は落ち着けなかった。
少し涙目になる。ごっちんがそっと手を握ってくれた。
- 601 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/14(火) 20:42
- 「駄目だ。矢口の携帯にかけても出ない」
「ベランダから外見ましたけど矢口さんらしき人はいませんでした……うち、
ちょっとそこらへん見てきます」
「あぁ、私も行くよ」
よっすぃーと紗耶香が携帯を片手に家を出ていく。二人に続いて大谷さんや藤本さんも出ていった。
矢口……。
「大丈夫ですよ。矢口さんは必ず来ます」
「んぁ。大丈夫。あの矢口先輩が来ないわけないから」
梨華ちゃんやごっちんが励ましてくれた。そのおかげで何とか涙は引っ込んだ。
そうだ、矢口が来ないわけない。絶対、来る。
仲間達の元に。
大好きな仲間達の元に。
信じてるよ、矢口。
私は目を瞑って、そうココロの中で呟いた。
- 602 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/14(火) 20:46
- <市井 視点>
全く、何やってんだ、あいつは。
家の周辺を手分けして探す。暗い道を走ったが、矢口らしき人は見当たらない。
「……まさかな」
本当に事故に遇ったとか?それとも、何か事件に巻き込まれたりとか?
「……とりあえず、戻るか」
嫌な想像を消して、来た道を戻る。考え過ぎだ。きっと。
吉澤たちが見つけてるかもしれない。そう自分に言い聞かせて走った。
「市井さん!」
藤本がいた。藤本は残念そうに首を横に振った。どうやら見付からなかったようだ。
「公園とかも探したんですけど…」
「もう一度、電話してみる」
携帯を開いて矢口の携帯にかけてみたが、出ない。
一応、留守電にいれておく。
「市井です。何処にいんの?みんな心配してるから、すぐに連絡くれ」
電話しながら家の方へ戻る途中で大谷と合流。大谷は全力で走って来たのか、息切れが激しい。
「む、向こうの、道路で、交通事故が遇ったみたいで」
「えっ!?ホントか!?」
大谷の肩を掴んだ。
- 603 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/14(火) 20:50
- 「でも、事故に遇ったのは男の人で、矢口さんではないようです」
それを聞いて私はガクッとなった。隣にいた藤本が「良かった」と呟いた。
「何だよ…びっくりしたじゃねぇか」
「全く、マサオは…あ、よっすぃーだ」
藤本の声に反応して、顔を上げると吉澤が笑顔でこっちに手を振っていた。
「あ!矢口さんだ!」
吉澤の隣には矢口がいた。苦笑いをしてこっちに向かって来る。
良かったー……無事で。
私は安心して、近くに来た矢口の頭を軽く叩いた。
「痛っ…何すんの」
「バカ。一体何してたんだ。心配するだろーが」
私がそう言うと矢口はしゅんとなってごめんなさいと謝った。
「電話かけても出ねぇし…連絡ぐらいしろよな。なっちが心配してる、早く行こう」
やれやれと思いながら、家の方向に歩いた。
「あれ?先輩、何すか?それ」
「これ?んー、秘密っ」
後ろから矢口と吉澤が喋っていたけど構わず私はずんずん家に向かって歩いた。
- 604 名前:作者。 投稿日:2006/02/14(火) 20:58
- 更新しました。
>597 ミッチー様。
(^∀^;ノ<や、やめろ!今足触るんじゃねぇ!!
きっとみんなにいじめられたでしょうね、市井さん総攻撃で(w
(〜;^◇^)<ふー…遅刻しちゃったけど、何とか出来た…。
さて、矢口さんは何を作ったのでしょうか…?
- 605 名前:ミッチー 投稿日:2006/02/16(木) 02:41
- 更新お疲れ様デス。。。
やっと主役の登場ですね!
遅刻して皆に心配かけるところが矢口さんらしいというか(w
何が出来上がったのかなぁ???楽しみですっ!
- 606 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/18(土) 23:36
- あたたかい話でいいですね〜
ここの矢口さんほんと好きですし、他の登場人物及びカプもそれぞれ大好きです!
つづき楽しみにしています
- 607 名前:23 投稿日:2006/02/22(水) 15:38
- <矢口 視点>
まいったね、こりゃ。
気付いたら午後七時を過ぎていて、慌てて支度をして家を飛び出した。
「ぬぉぉぉぉ!!」
元陸上部をなめんなよ!と思いながら夜の暗い道を全力疾走。しばらく走っていたら前方から
人が走ってやって来た。暗いからよく見えなくて、オイラはその人を避けて行こうとしていた。
「先輩!?矢口先輩じゃないッスか!?」
すれ違う瞬間、そう声をかけられ急ブレーキ。立ち止まって振り返るとそこにはよっすぃーがいた。
よっすぃーは息を弾ませながらオイラの近くへやって来た。
「心配しましたよー。先輩が遅刻して」
「ごめんごめん。気付いたら七時になってて」
「行きましょう。みんな心配してます。市井さんたちも探してますよ」
「マジで!?」
そんな心配されてるなんて思ってもみなかった。
オイラがいなくてもとっくに始まってるのだと思っていたから。
「ヤバいなぁ」
みんな怒ってるかなぁ。特になっちとか…。
「あ、市井さんたちだ」
前を見ると紗耶香たちがいた。よっすぃーの後ろをオイラは隠れるように歩いて近付いたら、
紗耶香に頭をバシッと叩かれた。
- 608 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 15:44
- 「痛っ…何すんの」
「バカ。一体何してたんだ。心配するだろーが」
オイラはしゅんとなって、俯いた。
「電話かけても出ねぇし…連絡ぐらいしろよな。なっちが心配してる、早く行こう」
紗耶香は怒った顔をして言うとすぐに背を向けて歩いて行ってしまった。
オイラは叩かれた頭をさすりながら紗耶香の背中を見ていた。
「あれ?先輩、何すか?それ」
よっすぃーがオイラが持ってる小さな袋を指差した。
「これ?んー、秘密っ」
そう言って、オイラは走った。前を歩いていた紗耶香たちを追い越して。
みんながいる場所へ向かって走った。
「先輩〜!待って下さいよ〜!」
「早く早く!先に行っちゃうよ!」
しばらく走ってマンションに着いた。最近、運動不足なせいかかなり息が上がっていた。
「ぜぇ、ぜぇ…先輩、速すぎ…」
「お、お前なぁ…こっちは一生懸命探して疲れてんのに…はぁ」
「何で…走らなきゃならないんですか…」
「もぉ、駄目……動けない…」
後から来た四人はエレベーターの前で力尽きていた。オイラもそんな感じだった。
「たまには…いいじゃん。運動不足の解消だよ…?」
肩で息をしながらエレベーターのボタンを押した。すぐに扉が開き、中に入る。
四人もダラダラしながら入って来た。
- 609 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 15:49
- 「でも、先輩、相変わらず走る姿勢、綺麗ですね」
肩で息をするよっすぃーが笑って言った。
「そりゃ、陸上部の部長だったし。…あ、そういえば、陸上部の部員来てるんだよね?」
「はい。ばっちり来てますよ」
…よし、元部長として陸上の素晴らしさを教えてあげよう。
「なぁ、矢口。元部長がでしゃばるなよ?」
「べ、別に出しゃばるなんて・・・」
今思ってるのがバレたのかと紗耶香の方を素早く向いた。
紗耶香は腕を組んでエレベーターの壁に寄りかかっていた。
「お前はもう部長じゃないんだからさ。あんましうるさくすると嫌われるぞ?なぁ、吉澤」
「えっ?あ、いやぁ…それは…ねぇ、ミキティ?」
「わ、私にふらないでよ!…ま、マサオ!答えろ!」
「えぇ!?何で!?」
そりゃぁ…もう部長じゃないからあれこれうるさく言うのは駄目かもしんないけどさぁ…
だって、陸上部はオイラにとって大切なとこだし…陸上部があったからこそ今のオイラがいるわけで……。
「あ、あれ?」
気付いたらエレベーターは到着していて、扉が開いていた。四人は既にいなかった。
「置いてくぞ!」
扉の向こうで紗耶香が一瞬振り返って言った。
「ま、待ってよ!うわっ!」
出ようとした瞬間、扉が閉まる。慌てて開くのボタンを押した。
再び扉が開いて、今度はすぐにエレベーターから出た。するともう紗耶香たちの姿はなかった。
「もう〜。待っててくれてもいいじゃんか」
文句を言いながらみんながいる部屋の扉の前に向かう。ドアノブに手をかけるとすんなり扉は開いた。
「お邪魔しまーす…」
玄関にはこれでもかって言うぐらい靴が並んであった。靴を脱いで上がる。
- 610 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 15:52
- …何で、物音一つ聞こえないんだ?
これだけ人数がいればうるさくなるはず。なのに家の中は静かだった。
入るとこを間違えたのかと思ったけど、ちゃんと表札は市井って書いてあったし、
何回もここに来ているオイラが間違うはずない。だから間違ってないはずだ。
ゆっくり廊下を歩いてリビングの扉の前まで来た。
いいんだよね…?
おそるおそる扉を開ける。
パーンッ!!
いきなりクラッカーの音が響いた。
「せーの!」
「「おかえりなさい!!」」
多くの仲間がオイラに笑顔で迎えてくれた。
気付いたら、オイラは泣いていた。
「た、…ただいまぁ!!」
何だよ。何だよ。
感動しちゃったじゃん……。
「矢口!心配したんだからね!全然、来なくて。電話ぐらいしてよね!」
なっちが怒った顔していた。目がちょっと赤い。きっとオイラが心配で泣いてたんだと思う。
「ごめん…ね?」
「しょーがないなぁ。ほら、みんなにも謝って」
オイラはみんなの方を向いて頭を下げた。
「遅刻してすいませんでした!」
頭を上げるとみんな暖かく笑っていた。
- 611 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 15:55
- 「んぁ。さぁ、始めよ〜」
ごっちんがそう言ってオイラの帰国祝いが始まった。
“矢口先輩!おかえり!祝☆帰国!”
そうでっかく書かれた手作りの看板。
ちょっと後ろを覗いて見るといつかやったパーティの使い回しだということが判明。
…見なかったことにしておこう。
「さ、矢口先輩はここ!」
言われた席に着く。にしても多人数だ。リビングがいつもより狭く感じる。
「圭織と圭ちゃんと裕ちゃん彩っぺは仕事があるから後で来るって」
隣に座っているなっちが言った。
そっかぁ…更に人が増えるのか。いつの間にこんなに仲間が出来たんだろう。
気付いたらオイラはたくさんの仲間に囲まれていた。
幸せもんだよ…オイラは。
みんなの笑顔を眺めながらしみじみ思った。
- 612 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 15:59
- 物語の始まりは、オイラが高校三年生になったばかりの頃。
一人だった陸上部に、仲間が増えて。
それをきっかけにたくさん仲間が増えた。
その間にはたくさん辛いことも悲しいこともあったけど。
楽しいことや嬉しかったこともたくさんあった。
陸上部は廃部になることなく、後輩に受け継がれた。
それがどんなに嬉しかったことか。
「じゃ、矢口。乾杯の前の挨拶」
「よっしゃ」
ジュースの入ったコップを片手に立ち上がる。
「…今、すごく幸せだよ。オイラはこんなに多くの仲間に囲まれて、帰って来たオイラを迎えてくれて…
だから、ありがとう。今日は思いきり楽しもう!乾杯!」
「「乾杯!」」
テーブルの上にはたくさんの料理。いつものテーブルじゃ足りないから、もう一つテーブルを繋げていた。
「懐かしいよね〜。高校が」
料理を食べながら懐かしさに浸っていた。
「あたしも。市井ちゃんが失踪した頃が懐かしいよ」
「し、失踪って!言い方悪くないか?」
ごっちんがなかなかオイラに心を開いてくれなくて、何度も陸上部に誘った頃を思い出した。
「でも、矢口先輩があたしを助けてくれた。そしたら市井ちゃんが帰って来た」
「ホント、矢口先輩のおかげッスよ。うちだけじゃ無理でした」
よっすぃーが苦笑いをしていた。
「よしこにも感謝してるよ?」
そんなよっすぃーにごっちんはあの頃じゃ考えられないほど暖かい笑顔を向けていた。
- 613 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:01
- 「そして、よっすぃーが学祭の実行委員になって、梨華ちゃんに出逢ったと」
オイラがそう言うとよっすぃーと梨華ちゃんは照れたように笑っていた。
「今、思えば実行委員になって本当に良かった…」
「でも、よしこ、あの時すごい落ち込んでたよね。大好きな部活に出れなくて」
「えっ?そうなの?ひとみちゃん?」
「い、いや!そんなこと…ちょっと、ごっちん。余計なこと言わないでよ」
よっすぃーが焦ってもごっちんは知らん顔をして、唐揚げを食べていた。
「…私、本当にひとみちゃんに出逢えて良かった。自分の生き方を取り戻せたんだもん」
「梨華ちゃん…」
おーい、そこのバカップル。見つめ合うんじゃない。
「あの花火大会、楽しかったなぁ…」
なっちがあの頃を思い出すように呟いた。
「確かあれって梨華ちゃんが提案したんだよね?」
いつかよっすぃーがそれを教えてくれたのを思い出した。
梨華ちゃんは生徒会を辞める前に大きなことして、辞めたんだなーと感心した。
「はい。…あの時はやってやるぞ!っていう気分でした。もう、何も恐いものなんてないって」
「実は結構、無茶だったんだよね。予算とか。でも梨華ちゃんの一生懸命なとこが生徒会の人や
先生たちのココロを動かして」
「ひとみちゃんだって、私と一緒に説得してくれたじゃない」
「梨華ちゃん…」
…おーい、結局見つめ合うんかい!
- 614 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:05
- 次に話題になったのは圭織のことだった。
「担任から圭織が留学志望から地元の大学に進学に変えたことを聞いて…
オイラ、びっくりしたなぁ」
圭織はずっと悩んでいた。自分の夢を叶えるか、友達と離れないでいるか。
「でも、圭織は夢を叶えたんだね。矢口のおかげで」
「なっちだって」
あの時した友情宣誓。今でも忘れてないよ。一生、友達やっていくって。
「保健室だったよね、それやったの」
「そうそう。っで、保健室の先生に見つかって、怒られた。保健室は遊び場じゃない!って」
「そして温泉旅行だね」
なっちが言うと、温泉旅行に行ったメンバーはうんうんと頷いた。
オイラが学祭のカラオケバトル!で取った優勝賞品。
あの頃、オイラは紗耶香が好きで温泉旅行で思いっきって告白したんだっけ。
「また行きたいよなぁ。温泉」
紗耶香がグイッと、いつの間にかビールを出して飲んでいた。
みんな、オイラが紗耶香に告白したことは話題に出さずに「また、行きたいねー」
「海綺麗だったね」なんて話していた。
話し出せばキリがない。
それくらい、オイラたちは思い出を作って来たんだ。
- 615 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:09
- 「矢口先輩、覚えてる?」
ふとごっちんがオイラを見て言った。
「何?」
「あたしと矢口先輩が勝負した時のこと」
「勝負…?あぁ、やったねー」
そうそう、思い出した。まだオイラが部長をしてた時だ。
ごっちんと校庭一周の距離で競争したことがあった。
「あの時ほど悔しいことはなかったなぁ。でも、矢口先輩の言葉はすっごい印象的だった」
ごっちんは懐かしそうにあの時の勝負を話し出した。
「あたし、絶対勝つんだって思ってた…何処からそんな自信が来るんだって思うけど。
スタート地点に立った時、負ける気が全然しなかった」
あの時の光景が蘇ってきた。
スタート地点にオイラとごっちんが並んで。タイムとスターターはよっすぃーが担当していた。
「オイラだって、勝つ気満々だったよ」
「でも矢口先輩は冷静だった…」
「ごっちん…」
『先輩、負けませんから』
『おう』
靴紐の確認をして、走る準備。手を地面につける。いつでも走れる状態。
オイラはいつもこの時は目を閉じて、想像する。自分が走っている姿を。
どのぐらいのペースで、ラストスパートはいつかけるのか。
全て、その時に決める。
『位置について、よーい!』
たとえ、何か起きても。
オイラは、走る。
勝つのは――オイラだ。
『ピーッ!!』
笛の音が鳴った瞬間、オイラたちは走り出した。
- 616 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:15
- 「最初は五分五分で、中側を矢口先輩、外側をあたしが走ってた」
そう、始めは。正直、驚いた。
でも最初のコーナーを曲がる時、事態は変わった。
「最初のコーナーを曲がる時…あたしは、転んだ」
「後藤が転んだ…?」
「うん。もう、ズザザザーって。思いっきりね…その瞬間、駄目だって思ったんだよね…
思っちゃったんだ…しかも、この勝負は中止だ、なんて甘いことも思った。転んだから仕切り直し…でも」
ごっちんと目が合う。
「オイラは、走った。最後まで」
ごっちんが転んだのはわかった。
でも、何が起きても走ると決めたから。オイラは走ったんだ。
「矢口先輩、怒ってあたしに“真剣勝負なんだ!”って…。あたしはまだ走れた。途中で勝負を放棄した」
何が起きても走る。
たとえ、自分が転んでも。
たとえ、相手が転んでも。
走り続ける。
- 617 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:20
- 「あたし、走り続ければ良かった…転んでも、まだ走れた」
ごっちんはきっと今でも後悔してるんだなと思った。
「…ごっちん。誰だって最初はそうなんだよ?」
オイラだって昔はそうだったんだから。
「転んでも投げ出さないで走る。最初はそう簡単には出来ないよ。
絶対勝つんだっていう気持ちで走ってさ、転んだりしたら、もう駄目だって思っちゃうよ」
「先輩…」
「でも、勝負であるからには走らなきゃいけない。…ごっちんは、それを身を持って感じた。
後悔するのも必要だけど、大切なのは、これから先。何が起きても走る。それを信じること」
「何か…良い言葉だな。“何が起きても走る。ただそれを信じること”か…」
紗耶香の言葉にみんなが耳をすまして聞いていた。
「矢口は…何が起きても、走ってたよね…」
なっちが優しく、オイラを見た。
「仲間の為に…いつも走ってくれた。仲間を信じて…」
よっすぃーが笑顔で言う。
「あたしに真っ正面からぶつかってきてくれた…だから、あたしは変われた。大切な仲間が出来た」
亜弥ちゃんが涙ぐんでいた。
「私とののを、見つけてくれた…どんなに小さくても…私らの声を、聞いてくれた…」
加護ちゃんが目を閉じて言った。
- 618 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:26
- 「何かさぁ、矢口からいろんなこと教わった気がするよ。それはきっとみんなに受け継がれてるな」
「紗耶香…そんなことないよ。オイラの方がみんなから教わってるよ…」
みんながいるから、オイラがいるんだよ。
「何かしんみりなっちゃったね。さ、今日は食べて盛り上がろう!」
オイラがそう言うとみんなは笑顔で、騒ぎ始めた。
賑やかで近所に迷惑がかからないか心配になるほどだった。
「これから矢口はどうすんだよ?大学に戻るのか?」
紗耶香に言われて、オイラは枝豆を食べながら返答に困っていた。
「ん〜…まだわかんない」
そう言うと紗耶香は「そんなんで大丈夫なのかよ」と苦笑いしていた。
「私としては大学に戻って欲しいんだけどね」
なっちが空いたお皿を片付けながら言った。
「そりゃ、戻るべきっスよ!先輩!」
「でもさ、矢口先輩のことだからまた何かを見つけに冒険しに行っちゃう気がする。
どっかの誰かさんみたいに」
「お、おい、後藤。それって私のこと?」
ごっちんの言う通り、何だか大学に戻るにはちょっと躊躇いがある。
一応、情報関係に進んでるけどオイラには何か違うと旅をして思っていた。
「あ、矢口先輩。紹介しときますね、陸上部員」
よっすぃーが現在部員である子たちを呼んだ。
「今、部長やってるのが小川です」
小川と呼ばれた子は満面の笑みでオイラを見て軽く頭を下げた。
「小川麻琴です。吉澤先輩や後藤先輩からよく話を聞いてます」
おぉ…こうやってオイラのことを後輩たちが語り継がれていくのかぁ。
何かちょっと感動する。
「どんな話?」
きっとオイラの素晴らしき日々を語り継がれているはずだ。
「えっと、練習厳しくて部活になると鬼のような…」
「ちょ、小川!ストップ!」
聞き捨てならない発言が聞こえた。
- 619 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:32
- 「鬼のような…?」
「…い、いや、良い意味で!部活をこよなく愛しているっていうことです!」
よっすぃーが慌てて言う。
全く…もっとちゃんとしたこと言ってよね。
「でも、練習は厳しいけど、その反面すごい優しい部長だって聞きました」
と、別の部員の子が言った。
「あ、申し遅れました。副部長の紺野あさ美です。矢口先輩はどんなことがあっても、
仲間の為を思って走る人だって。一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に悩んでくれる…
時には怒ったりして。とても優しいココロを持ってるって」
うわっ、ヤバイ、どうしよう。
今、猛烈に感動しちゃってる。
胸がじーんとするよ。
「矢口先輩のような部長になるってよく吉澤先輩は言ってました。
まこっちゃん…今の部長も」
「私も、矢口先輩そして吉澤先輩のような部長になります」
何だか本当に嬉しいよ。
「矢口、良かったね」
なっちがキッチンから戻って来てオイラの頭を撫でた。
オイラは涙目になりながらも力強く頷いた。
「それから、もう二人」
「一年の田中れいなです」
「同じく一年の道重さゆみです」
相変わらず陸上部は部員が少ないけど。
でも、そこにはちゃんとオイラがやって来たことや
よっすぃーやごっちんがやって来たことがちゃんと受け継がれてる。
そして、それはまた受け継れていく。
小さいけど、そこには、歴史があるんだんだなぁ。
- 620 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:43
- それからしばらく後輩たちと喋った後、ピンポーンとチャイムが鳴った。ごっちんが玄関に行く。
「すまんなぁ。遅くなって」
「なかなか仕事終わらなくて」
まず裕ちゃんと彩っぺがやって来た。裕ちゃんの手には何故か日本酒の瓶が。
「矢口!帰国祝いや!」
笑顔でその日本酒の瓶を差し出される。
…日本酒苦手なんだよね。
「あ、ありがとう。裕ちゃん」
戸惑いながら受け取ると、彩っぺが苦笑いして。
「ごめんね。多分、裕ちゃんが飲んじゃうと思うけど」
と言うので、裕ちゃんは自分が飲みたくて買って来たのがわかった。
それからまた二人、入って来た。
「矢口〜!久しぶり!」
「やって帰って来たわね!待ってたわよ〜」
圭織と圭ちゃんも変わらずだった。オイラが持ってる日本酒の瓶を圭ちゃんが見て、
「今夜はとことん飲むわよ!」と背筋がゾッとするような言葉を言った。
聞いたとこによると圭ちゃんは飲むとターゲットを捕まえて絡むのだと言う。
…飲み会じゃないのに〜。
いつの間にかお酒出てるし。紗耶香の仕業だろうけど。
「これでやっと全員揃ったね〜」
嬉しそうにごっちんが言った。もう広いリビングが今はものすごく狭い。
でも、そんなの気にしない。だって、仲間が全員揃ったんだから。
- 621 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:52
- 「圭織、そのでかいカバン何?」
「あ、これ?実は絵を描いたんだ」
カバンからはキャンバスが出てきた。圭織は立ち上がって、みんなに見せるようにそれを持った。
今日は感動することが多いなぁ…。
その絵には、“仲間”が描かれていた。ここにいる全員が手を繋いで笑っていた。
「個展に飾る最後の一枚なの。絶対描きたくて、今日までに間に合わせたくて、徹夜しちゃった」
きっと何枚も下書をして、時間をかけて丁寧に色をつけたんだろう。
「圭織、ありがとう。すごいよ」
「ありがと、矢口」
パシャッとフラッシュが光った。紗耶香かと思ったら、違った。
「新垣、ちゃんと許可もらってから撮りなさい」
柴ちゃんがちょっと怒った顔をして言った。
「すいません…つい」
情報部の現在部長の新垣ちゃんの手にはカメラが。
何だか昔の柴ちゃんを何だか思い出してしまった。
「昔の柴ちゃん思い出しちゃった」
オイラがそう言うと、よっすぃーが「うちも」と言った。
「柴田さんが木の上に登って、うちの写真撮ってたのが一番びっくりしました」
「あ、あの頃は若かったの!もう、いいじゃない。そんな昔のこと」
「よっすぃーなんてまだいい方だよ。オイラなんて一日中、くっつかれてたんだよ」
「矢口さん!もう言わないで〜…」
オイラたちはずっと語り合った。
飽きることなく、ずっと。
- 622 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 16:58
- <空から見守る者たち 視点>
「楽しそうだね、みんな」
「そうですねー」
「ちょっと羨ましいなぁ」
家の中で楽しく賑やかにしている仲間たちを優しく見つめる者たちがいた。
今はもうこの世にはいないけれど、空から仲間たちを優しく見守って来た。
「あの美貴の楽しそうな顔…見れて嬉しいなぁ」
里田は楽しそうに笑う藤本を見て、微笑んだ。
藤本がまた笑えるようになって本当に良かったとココロの底から感じていた。
「吉澤先輩…幸せそうで良かったです」
高橋は吉澤が石川と幸せそうに話をしているのを見て、
まるで自分も幸せになったかのような気分でいた。
好きな人が幸せなら、自分も幸せということを実感していた。
「れいな…さゆみ…お姉ちゃん」
亀井は大切な人たちを見て、その名前を呟いた。
三人とも笑顔でいることが亀井にとってこれ以上ない幸福だった。
胸いっぱいに広がる暖かい想いを感じていた。
「矢口さん、か…」
里田が矢口を見て呟いた。高橋と亀井も矢口を見た。
「もうちょっと早く出逢えてたら…何か変わってたかな」
里田の言葉に、他の二人は何も言わなかった。
あの小さな少女――矢口真里にもう少し早く出逢えていたら。
自分たちもあの場所に──
里田は自殺を思い止まれたかもしれない。
高橋は人を愛し過ぎるが故に自分を見失うなんてことはなかったのかもしれない。
亀井に至っては、突然の事故だったので仕方なかったのだが、もしかしたら矢口が
いつしか小学生を助けたように亀井を助けてくれたのかもしれない。
- 623 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 17:00
- 「…里田さん。私、生まれ変わったら好きな人の幸せを考えられる人間になります」
沈黙を破り、高橋が言った。その声はもう迷いのない、明るい声だった。
「確かに矢口さんに出逢えてたら、何か変わっていたかもしれません。
…けど、それは考えたって仕方ないんです。だから私は矢口さんが教えてくれたことを忘れません」
高橋の言葉に里田は「…そうだね」と微笑んで言った。
「私は、生まれ変わったら今のお姉ちゃんのように歌手になります!」
亀井の視線の先には、ギターを弾いて歌う保田がいた。そして、田中や道重が一緒に歌っていた。
里田はもう一度、藤本を見た。
「私は…強く生きる人間になる。大好きな人と一緒に歩けるように…」
…ね、美貴。
「じゃ、そろそろ行こっか」
「「はい」」
三人はまた空へと戻ろうとしていた。
最後の言葉を仲間に贈りながら。
“ありがとう”
三つの光は夜空へと上って行き、やがて消えてしまった。
- 624 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 17:06
- <矢口 視点>
四人を加えて、リビングは更に賑やかになっていた。
圭織から個展のことを聞いたり、圭ちゃんがギターを弾いて歌ってくれたり、
裕ちゃんと紗耶香が飲み比べしてるのを眺めたり。
永遠に続けばいいなぁ。
前も、そんなことを思った気がする。
「えっ?」
ふとミキティがベランダの窓から外を見た。他にもよっすぃーや、圭ちゃん、れいなちゃんやさゆみちゃんも。
「どうかしたの?」
よっすぃーに聞いてみるとよっすぃーは答えずベランダに出て夜空を見上げていた。ミキティも。
オイラもベランダに出てみた。
「声が聞こえたんです…高橋の」
「私も。…まいの声が」
「そっかぁ…」
夜空の遠くで星が輝いていた。
…君たちも、仲間だからね。
残念なことに、こうやって一緒に騒いだりは出来ないけど。
どんなに遠くへ行っても。
オイラたちは仲間だよ。
- 625 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/22(水) 17:10
- よっすぃーとミキティは家の中に入り、オイラはベランダに残った。
そして、長いこと夜空を見上げていた。家の中は相変わらず賑やかで騒がしい。
「矢口、なーにしてんの?」
なっちの声が後ろから聞こえた。
「…いろいろあったんだなーって思ってた」
オイラは振り返らず、答えた。するとなっちはオイラの隣に来て同じく夜空を見上げた。
「そうだねぇ…いろいろあったね」
「いろいろあったからこそ、今の仲間がいるんだよね…出逢いって不思議だなぁ」
「ねぇ、矢口」
「何?」
なっちの方を向いたら、唇に柔らかい感触がした。
「…なっち」
「高校生の頃は思いがけなかったよね。私たちがこうなるなんて、さ」
なっちは恥ずかしいのかオイラに背を向けた。
「…ホント、矢口に出逢えて良かった…他のみんなにも。もし出逢えてなかったら、
今の私はいないから」
誰かに“出逢えて良かった”と言われることがどんなに嬉しいことか。
「オイラも…なっちやみんなに出逢えて良かった」
出逢えて良かった。
ありがとう一つじゃ足りないくらいだね。
「さ、中に入ろ?」
「うん」
オイラとなっちは笑って、家の中へ入った。
- 626 名前:作者。 投稿日:2006/02/22(水) 17:18
- 大量に更新しました。矢口さんオンリー。
>605 ミッチー様。
(〜^◇^)<やっとオイラの出番♪
矢口さんが何を作ったのは次回に、すいません引っ張り過ぎて(^−^;
楽しみに待ってて下さい!
>606 名無飼育さん様。
ありがとうございます。そう言って貰えるとすごく嬉しいです。
これからも頑張ります!
- 627 名前:ミッチー 投稿日:2006/02/24(金) 04:32
- 更新お疲れ様デス。。。
あぁ〜、今まで色々ありましたねぇ。。。
矢口さんが市井さんのこと好きだったこともあったね、そういえば。。。
懐かしいです☆
あの頃は市井さんはカッコイイキャラだったはずなのですが、
今はちょっとイジラレキャラみたいになってますね(w今もカッコイイケド。。。
空から見守っている3人のシーン良かったです!
次回、矢口さんが作ったもの楽しみにしてます☆
- 628 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/27(月) 20:55
- 「あ、忘れてた」
ふとあることを思い出した。家の中に入ったオイラは自分が持って来た袋を探した。
「あった、これこれ♪」
「矢口、どうしたの?」
後からついてきたなっちにオイラはにんまり笑顔を向けた。
そして賑やかに騒いでるみんなの方を向いた。
「えー、みなさん。ちょっと静かにしてくださーい」
徐々に静まっていくリビング。みんな何事かとオイラを見ていた。
「矢口先輩、何〜?」
ごっちんが不思議そうな顔をしていた。
「オイラから、あるプレゼントがあります!」
袋の中をガサガサさせてオイラは手紙の封筒を取り出した。その手紙には“安倍なつみ”と
書かれていた。そして袋の中にはみんな宛ての手紙の封筒が入っていた。それを一人一人に配る。
「まだ開けちゃ駄目だよー」
最後の一人に渡し終える。みんな封筒の中身がそうとう気になる様子。
「では、開けて下さい!」
封筒の中には手紙もあるけど他にも入っていた。
「これ…」
隣にいるなっちが封筒から取り出したもの。それは、オレンジ色したミサンガだった。
オイラがここ最近、ずっと作っていたのはこれのことだった。
「ミサンガだ!」
「そ、ミサンガ。何かみんなにプレゼントしたくて。どうせなら手作りでみんなとお揃いに
出来るものがいいって考えて…」
でもいざ作ろうって思っても、初心者のオイラにはなかなか出来なくて。
本を見ながら悪戦苦闘して、やっと出来ても形が悪くてやり直し。
何しろ人数が多いから睡眠時間削って、何とか全員の分が出来た。
- 629 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/27(月) 20:58
- 「まぁ、ちょっと下手だけどさ…気持ちはちゃんとこもってるから!」
みんな嬉しそうに早速、手首に付け始めていた。
「矢口。何やってるのかと思ったら、これだったんだね」
なっちもミサンガを手首に付けて言った。
「ごめんね。内緒にしてて」
「いいよ。一人でやり遂げたかったんでしょ?」
さすがなっち。よくオイラのことをわかってるなぁ。
「うん…大したこと出来ないけどね」
オイラの言葉を言ったら、「そんなことない」と聞こえた。
声がする方を見るとごっちんが笑顔でオイラの作ったミサンガを手首に付けて眺めていた。
「すごいよ…だってこんなに人数いるのに、みんなに作ったんだよ?」
「そうだよなぁ。よくこんなに出来たもんだよ」
ごっちんに続いて紗耶香が言った。すると圭織がオイラの隣に来て。
「矢口はみんなが大好きだからね」
と言って微笑んだ。
「仲間の証ですね。これ」
よっすぃーがミサンガを付けた手を掲げて言った。
「ええなぁ。青春やな」
「何か、青春の仲間入りが出来るなんて嬉しいね」
裕ちゃんと彩っぺもミサンガを喜んでくれた。
…作って良かったなぁ。
みんなの喜ぶ笑顔が嬉しかった。頑張って良かったと思えた。
- 630 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/27(月) 21:02
- 「ミサンガだからお願いごとしなきゃれす」
と辻ちゃんが言った。
「あ、そうや。矢口さん、お願いごとは?」
加護ちゃんに言われるがすぐには出て来ない。
か、考えてないよ…。
すっかり出来上がったことに満足して考えるのを忘れていた。
「それぞれ願いごとをかけるのもいいけど、せっかくみんなが同じのを持つんだから、
みんな同じ願いごとがいいと思います」
悩むオイラに梨華ちゃんが言う。するとみんながオイラを見た。
そうだなぁ…みんなと同じ願いごとかぁ…。
何だかオイラが決める雰囲気になっているので真剣に考えた。
「よし、決めた」
ありきたりかもしれないけど。
素直に、今の気持ちを。
願いごとにしてみよう。
オイラは少し間を置いて言った。
もちろん手首に付けたみんなとお揃いのミサンガを見ながら。
「この仲間の絆が一生続きますように…」
囁くように、でもみんなに聞こえるように。
- 631 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/27(月) 21:05
- そして、オイラたちはお揃いのミサンガにお揃いの願いごとをした。
この物語には、いろんな人のココロが出てくる。
そのココロはみんながみんな、同じじゃなくて、それぞれのココロがある。
それぞれ、悩んで苦しんで…いっぱい迷って生きている。
みんながみんな同じじゃないから、時にはぶつかったり、傷つけ合うこともある。
けれど、同じじゃないからこそ助け合ったり支え合ったりすることも出来る。
オイラはそんな気がするんだ。
…あなたは、どう思う?
この物語はこれからもずっと続いていく。
きっとこれからも今までみたいに、悩んだり、傷つけ合ったり、落ち込んだり、泣いたりすることがあると思うけど。
きっと、笑ったり、喜んだり、幸せだと思えたりすることも必ず、ある。
仲間と一緒にそうやって過ごしていく。
- 632 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/27(月) 21:09
- …オイラ、みんなに出逢ってね思ったんだぁ。
誰かのココロを本気で想うことの大切さを。
それがどんなに大切か、みんなに出逢ってわかったんだ。
これからもそれを大切にしていきたい。
それはココロとココロを繋いでいくから。
大切に…大切に。
自分のココロ。
みんなのココロ。
そして…あなたのココロ。
想えば繋がるよ。
難しいことじゃない。
そっと瞳を閉じて。
歌を歌う時のように。
───想うんだ。
- 633 名前:23.親愛なる仲間達へ。 投稿日:2006/02/27(月) 21:15
- 「ねぇ、何か歌いたいね」
「おっ、いいねぇ」
「ギター弾こうか?」
「いつか歌ったあれは?」
「いいですね〜」
「その歌、どんなんだっけ?」
「ほら、一回きりの青春〜♪」
想いながら。
ココロの歌を。
オイラは歌い続ける。
親愛なる仲間達へ。
歌い続ける。
ココロの歌。おわり
- 634 名前:作者。 投稿日:2006/02/27(月) 21:22
- >627 ミッチー様。
改めて見返すと本当に色々あったなぁと作者も感じます。
カッコイイキャラの市井さんがいつの間にかいじられキャラ…。
作者としては「あれ?」って感じなんですが、みんな楽しそう
だからいいかみたいな(w
矢口さんが作った物、作者も趣味でよく作ってました。
そんで友達にあげたりとか。結構難しかった(^−^;
- 635 名前:作者。 投稿日:2006/02/27(月) 21:40
- 何も予告無しに終わる形になってしまい、申し訳ありません。
本来ならもう少し長かった予定なんですが…書いてて、ここで終わりに
しようと感じたんです。この物語は完璧な終わりではありません。
ずっと続いていくものだと思います。彼女たちはまた悩んだり、迷ったり、
喧嘩したり、でも笑ったり、喜んだりして仲間たちと生きていく。
ここで終わる形でも、物語はずっと続く。作者はそう思いました。
ここまで書けたのも、読んでくれる人たちがいたからです。
誤字脱字が多くて、まとまってなかったりする文章なのに、
ここまで読んでくれる人たちがいる。本当に嬉しかったです。
本当にありがとうございました。
そして、これからもよろしくお願いします。
- 636 名前:梅 投稿日:2006/02/28(火) 13:58
- 最後まで、一気に読ませていただきました。すごーく感動しました。
矢口さんとみんなの心の絆がずっと永遠に続く事を願っています。
お疲れ様でした。
- 637 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/01(水) 02:42
- 更新お疲れ様デス。。。
ついに完結ですか〜、おめでとうございます☆
この物語は、作者様や読者達みんなのココロの中でずっと続いていくんでしょうね。
ステキな物語をありがとうございました!
そして、お疲れ様。。。。
- 638 名前:作者。 投稿日:2006/03/01(水) 16:27
- >636 梅様。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
そう言ってもらえると嬉しいです!(^−^
>637 ミッチー様。
ありがとうございます。ついに完結しました。
何だかいざ終わるとちょっと寂しいけど、
ミッチー様が言うようにずっとココロの中で
続いていくから。最後まで読んでいただき本当に
ありがとうございました!
まだ容量があるので、ちょっと短編集という形で書きたいと思います。
- 639 名前:旅立ちの日 投稿日:2006/03/01(水) 16:30
-
『旅立ちの日』
登場人物:吉澤ひとみ 石川梨華
- 640 名前:旅立ちの日 投稿日:2006/03/01(水) 16:33
- 目覚まし時計が鳴るよりも早く起きた。
今日はいつもと違う朝。
顔を洗い、鏡に映る自分の顔を見た。
ちょっと笑ってみたけど、上手く笑えなかった。
ため息をついて部屋に戻り、着替える為にタンスを開けた。
好きなジャージはやめておいた。
ジャージを着ると君は苦笑いするから。
今日ぐらいはちゃんとした格好をしよう。
- 641 名前:旅立ちの日 投稿日:2006/03/01(水) 16:36
- 何だか支度をしていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。
「行かなくちゃ…」
自転車の鍵を持って出かける。
外は結構寒かった。息を吐くと白くなる。
空が少しずつ明るくなる。
…今日、か。
自転車に乗って君の家へ急ぐ。
結構古い自転車だから漕ぐ度に変な音がした。
近所だからすぐに着いた。
君はもう家の前にいた。笑って、手を振っていた。
つられて笑ったけど、たぶん上手く笑えてない気がした。
- 642 名前:旅立ちの日 投稿日:2006/03/01(水) 16:38
- 「おはよう」
白い息を吐いて君は言う。
「おはよ」
うちも白い息を吐いて言った。
いつもと変わらない挨拶なのに、ココロが切なくなった。
「今日はジャージじゃないんだね」
「まぁね」
「あ、この上着、私がプレゼントしたのだね」
嬉しそうに上着を見る君。
「うん。暖かいよ」
時間が近付いてく。君が自転車の後ろに乗った。
「じゃ、行くよ」
自転車のペダルを漕ぎ始めた。やっぱり、変な音がした。
- 643 名前:旅立ちの日 投稿日:2006/03/01(水) 16:41
- 君と出逢った街を走る。
君といる最後の街を走る。
朝の街は静かで。
ペダルを漕ぐ変な音が響いていた。
「ひとみちゃん」
後ろから君の声が聞こえた。昔の呼び方でうちを呼ぶ。
「何?」
「ありがとう」
涙が出そうになった。
「な、何言ってんの!お礼なんていらねーよ!」
良かった、自転車で。
ちょっと涙声になったけど。
今日、君に涙は見せたくないから。
- 644 名前:旅立ちの日 投稿日:2006/03/01(水) 16:44
- 駅に着いて、ホームに向かう。
うちも入場券を買ってホームの中に入った。
君の左手をそっと握って階段を上った。君の左手は少し冷たかった。
今日で君はこの街を去る。
夢を追いかける為に。
初めてそれを聞いた時、『頑張れよ』なんてかっこいい言葉言っちゃったけど。
本当は嫌だよ。
行くな!って叫びたい。
二人で黙っていると、ホームに電車が入って来た。
- 645 名前:旅立ちの日 投稿日:2006/03/01(水) 16:46
- あぁ、行っちゃうんだ。
「…じゃ、行くね」
君の手が、離れた。
電車の扉が開いて君が乗る。
「梨華ちゃん!」
気付いたら、そう言ってた。
行くなよ、行かないでよ。
お願いだから、一人にしないで。
行かないで。
- 646 名前:旅立ちの日 投稿日:2006/03/01(水) 16:48
- 「いっ……」
言葉をグッと押し込んで、違う言葉を言った。
「行ってらっしゃい!」
君は泣いて、笑った。
「行ってきます」
綺麗な笑顔だなって思った。
電車の扉が閉まり、走り出す。
君が口に手を当て、泣いてるのが見えた。
うちは走った。電車を追いかけるように。
「行ってらっしゃい!」
手を大きく振って、叫んだ。
- 647 名前:旅立ちの日 投稿日:2006/03/01(水) 16:50
- ……頑張れよ、梨華ちゃん。
電車が遠くなる。
うちは立ち止まった。
君ならきっと大丈夫。
うちもこっちで頑張るよ。
電車が見えなくなるまで、そこにいた。
空は綺麗な青だった。
旅立ちの日 終わり
- 648 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 16:56
-
『昼飯とパンと手作り弁当』
登場人物:市井紗耶香 後藤真希 吉澤ひとみ
石川梨華 矢口真里 安部なつみ
- 649 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 16:57
- 私の名前は市井紗耶香。高校三年生。
今日も天気がいいので、いつものように屋上で昼飯を食べる。
最初は一人で食べていたが、学年が上がって後輩が出来た途端、
そいつらに何故だかなつかれて一緒に食べるようになった。
まぁ、別に嫌じゃない。誰かと食事をする事は楽しいことだ。
- 650 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 17:00
- 「市井さん、またパンですか?たまにはご飯食べたらいいのに」
いつもジャージ姿の吉澤ひとみ、一年。最初に一緒に昼飯を食ったのはこいつだった。
いきなり屋上に現れて『一緒にいいッスか?』と言われた。
まさか屋上に誰か来るとは思わなかった。屋上は立入禁止だから。
「うっせー。いいだろ、別に」
「ひとみちゃん。はい、お茶。市井さんもどうぞ」
吉澤の恋人、石川梨華。二年生。
吉澤と昼飯を食うようになったある日、突然吉澤が連れてきた。
『梨華ちゃんも一緒にいいですか?』
『石川梨華です』
そして、三人で昼飯を食べるようになった。
話によると二人は家が近所らしく、最近付き合うようになったとのこと。
もちろん吉澤の昼食は石川の手作り弁当だ。
「あ、さんきゅ」
「ありがとう、梨華ちゃん。この唐揚げすっげぇうまいよ♪」
「うふふ、良かった♪」
石川がくれたお茶を飲みながら、バカップルを冷ややかな目で見ていた。
こんなこともあるけど、一人よりはいいと思っている。
- 651 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 17:02
- 「紗耶香〜!」
屋上に突如現れた背が低い金髪少女。名前は矢口真里、三年生。
同じ学年だけどクラスが違うので知り合いではなかったのだが、
吉澤が入っている部活のマネージャーで、これまた吉澤が連れてきたのだ。
ちなみに部活はバレーボール。石川もマネージャーをしている。
「もう、教室行ったらいないんだもん!」
「んな怒るなよ。早く昼飯にしたかったんだよ」
「矢口さんもお茶飲みますかぁ?」
「このポテトサラダ、かっけー!うまい!」
…ちなみに、吉澤が言うかっけー(カッコイイ)とは感動した時に出る言葉らしい。
ポテトサラダがカッコイイってよくわかんないけど。
- 652 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 17:05
- 「あー!やっぱりここで食べてる!」
次に屋上に現れたのは生徒会役員である安倍なつみ、三年生。
矢口と同じクラスで矢口の親友。矢口がここに来ることにより、立入禁止の屋上にいることがバレた。
生徒会役員として怒るが、結局自分も一緒になって昼飯を食べている。
「も〜、みんなさ、もっと他のとこで食べようよ〜」
「なっちだって結局一緒に食べてんじゃん!ね、紗耶香」
「まぁ、そうだね」
「ひとみちゃん。明日は何がいい?」
「オムライス!」
――まぁ、こんな感じ。
一人の時よりも、賑やかで騒がしくて。一人の時よりも、昼飯がうまく感じる。
何よりも、笑うことが増えた気がする。
- 653 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 17:08
- おっと、もう一人忘れてた。
「んぁ……」
眠た気な顔をしてやって来た後藤真希、一年生。
吉澤と同じクラスで、私の幼馴染み。一応、付き合ってる。
「ごっちん!さっきの授業いなかったけど、何処行ってたの?」
「保健室で寝てた……」
後藤はいつもこんな感じで、屋上で食べてる時もたまに来るぐらいだった。
そんな後藤が私は好きだし、吉澤のように恋人の手作り弁当に期待はしてない。
いや、欲しいけど…ね。
正直な気持ち、欲しいけど。
何でだか、素直に言えなかった。
- 654 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 17:11
- 「んぁ」
パンをかじっていると後藤が隣に来て、何やらスヌーピーの袋を私に渡した。
中に何か入ってるようだ。
「何これ?」
何か後藤に貸してたっけ?あ、CDかな?
開けてみると、CDではなく弁当箱が入っていた。思わず食べていたパンを落としてしまった。
「あ、手作り弁当!市井さん良かったじゃないッスか!」
吉澤がそれを見て言う。
「紗耶香、手作りのお弁当が欲しかったの?矢口に言ってくれれば作ったのにー」
「バカ。矢口が作っても意味ないっしょ?紗耶香はごっちんの手作りのお弁当が欲しいんだから」
騒がしい矢口となっち。
「ごっちん、昨日私に聞いてきたんですよ。市井さんにお弁当作りたいんだけど何を入れたらいいかって」
石川がそっと耳打ちしてくれた。
そうだったんだ…。
あまりにも感動して、動けない。
- 655 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 17:15
- 「後藤、ありが……」
やっと動けるようになって後藤の方を向いた瞬間、止まった。
「Zzz…」
「ね…寝てる」
後藤は自分の弁当を食べながら寝ていた。私は苦笑いをして弁当をスヌーピーの袋から出した。
蓋を開けると玉子焼きやタコのウィンナー、アスパラのベーコン巻きなどたくさん詰まっていた。
たとえ、弁当箱が男物でも。
たとえ、タコのウィンナーの足が異常なほど多くても。
たとえ、ご飯の真ん中に大きく梅干しが乗っかってようとも。
…すごく、美味いよ。
吉澤の言葉を使うなら、かっけー。
- 656 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 17:16
- きっと、朝早く起きて、私の為に作ってくれたんだろうなぁ。
それが、すごく嬉しいよ。
ふと、後藤の弁当を見た。私と同じのを食べているのかと思いきや。
ご飯の部分がオムライスになっていた。
「ごっちんのオムライスおいしそうだね」
「んぁ。市井ちゃんのお弁当作ってたら自分の方に手が回らなくて、お母さんが作ってくれたんだ。
お弁当作るのって大変だよねぇ…」
ちょっぴり嫌な予感がした。
- 657 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 17:18
- 後藤は私を見て。
「だから、今日でおしまいね」
ガーン。
今日でおいしまいね…おしまいね…おしまいね…。
後藤の言葉が何度も頭の中で繰り返された。
この言葉通り、私が欲しい手作り弁当はこの日だけだった。
私はまたパンを昼飯にして食べるのであった。
…何はともあれ、今日も屋上は賑やかです。
- 658 名前:昼飯とパンと手作り弁当 投稿日:2006/03/01(水) 17:21
- 「市井ちゃん。そのパンおいしい?」
「…うん、おいしい」
またいつか、手作りの弁当を食べられる日が来るかな。
パンをかじりながら、そんなことを考えていた。
昼飯とパンと手作り弁当 終わり
- 659 名前:作者。 投稿日:2006/03/01(水) 17:26
- 本日の短編集は以上です。この短編集はココロの歌とは関係ありません。
それと、繋がってる短編集ではないので。お暇な時に読んでみて下さい。
- 660 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/03(金) 03:52
- 更新お疲れ様デス。。。
短編集もイイですね!
旅立ちの日はちょっぴり切ない感じで、
昼食とパンと手作り弁当はほのぼのとした感じでよかったです。
- 661 名前:紹介したい恋人 投稿日:2006/03/04(土) 16:24
-
『紹介したい恋人』
登場人物:柴田あゆみ 大谷雅恵
- 662 名前:紹介したい恋人 投稿日:2006/03/04(土) 16:26
- まだ夜が明けてない朝。
まだ家族は寝ている時間に私はコソコソと出かける支度をしていた。
音を立てないように玄関へ向かい、靴を静かに履いて静かに扉を開いた。
バイクの音が聞こえて、急いで静かに扉を閉めて鍵をかけた。
そしてバイクの音がする方へ走る。
「よっ、あゆみ」
「マサオ、バイクの音、消してよね。意外と響くんだから」
「あ、そっか。ごめん」
私用のヘルメットを被せてもらい、私はマサオの後ろに乗った。
「よし。じゃ、出発〜!」
バイクが動き出した。
- 663 名前:紹介したい恋人 投稿日:2006/03/04(土) 16:27
- こんな事、初めてだからドキドキしてる。
夜明け前にこっそり家を出て、恋人と出かけるなんて。
ちょっと、悪い子かな…。
心の中で両親に謝った。でもマサオは何も悪くない。
私のワガママを聞いて、連れて行ってくれてるんだから。
だんだん空が明るくなって来た。
バイクは海岸線を走っている。
「あゆみ!海!」
マサオがそう叫ぶ。
「綺麗〜!」
私も負けじと叫んだ。
途中でバイクを止めて、砂浜にやって来た。
朝陽が水平線から顔を出す。
海がキラキラしてすごく綺麗だった。
- 664 名前:紹介したい恋人 投稿日:2006/03/04(土) 16:30
- 「寒くない?大丈夫?」
「寒いけど…大丈夫」
すると、マサオが私を抱き寄せた。
「これならちょっとは暖かいでしょ」
ニコッと笑ってマサオが言った。
「ホント暖かい」
そろそろ起きたかな…。
両親が起きて、私が残した書き置きに気付く場面を想像した。
きっと二人ともびっくりするだろう。
「ねぇ、マサオ」
「ん?」
「来週の週末ぐらいにうちに来ない?」
「へ?」
「うちで夕飯食べなよ」
「それって…紹介するの?」
「もちろん」
「緊張するなぁ…だって、こんな朝早くに娘を連れ出す奴なんて…」
「大丈夫。きっと気に入ってくれるよ」
不安がるマサオに私は微笑んで「大丈夫だよ」と言った。
- 665 名前:紹介したい恋人 投稿日:2006/03/04(土) 16:32
- 意外と寂しがり屋で、涙もろくて、優しくて、暖かい人だから。
何故か髪は金髪で個性的だけど。
見かけより中身でしょ?
楽しみだな。
「緊張するけど、楽しみ」
「うん!」
手を繋いで、波打ち際を歩く。
来週の週末の事を考えながら、大好きな恋人の隣を歩いた。
- 666 名前:紹介したい恋人 投稿日:2006/03/04(土) 16:34
- 「マサオ、走ろっ!」
「え?あ、ちょっと!待ってよ!」
きっと両親も気に入ってくれる。
私の大好きな人。
紹介したい恋人 終わり
- 667 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:38
-
『先輩との関係』
登場人物:松浦亜弥 藤本美貴
- 668 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:40
- あたしには好きな人がいる。
同じ高校の藤本先輩。一応、付き合ってる。
でも、付き合ってるのかよくわからない。
第一、先輩があたしを好きなのも怪しい。
あたしが思い切って告白したら「あぁ、いいよ」と軽い感じの返事。
それに、廊下であっても何か冷たいし。メールしても返って来ない。
電話をしてもあんまり出ない。放課後、一緒に帰る事もない。
ましてやデートなんてあるわけない。
これって付き合ってるのかなぁ。
- 669 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:42
- …駄目なのかな、あたしじゃ。
ため息ばかりが出てくる。
「元気ないね」
休み時間。クラスが同じ友達のよっすぃーが言った。
「…うん」
「藤本先輩のこと?」
「よく、わからないんだよね」
机に頬杖をして気持ちを言ってみた。
「先輩のこと、一目惚れして告白したけど、あたし先輩のこと正直よく知らないんだよね。
どんな人なのか」
「うーん…あ、梨華ちゃんなら知ってるかも。同じ学年だし」
梨華ちゃんというのは藤本先輩と同じ学年の石川先輩。ちなみによっすぃーの恋人。
「聞いてみよっか?」
パチンと手を合わしてよっすぃーが言う。
「…ううん。大丈夫。こうゆうのは自分で知らなきゃね。それに一応付き合ってるわけだし」
笑って言ってみたけど、きっと上手く笑えてないんだろうな。
よっすぃーが心配そうにあたしを見てるから。
- 670 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:44
- 「…わかった。でも何かあったら言ってよ?何も出来ないけど、
聞くことぐらい出来るからさ」
こうゆう時、友達っていいなぁって感じる。
「あ、そういや、誕生日もうすぐだよね?」
よっすぃーが思い出したように言った。
「…あっ、そうだ。忘れてた」
悩み過ぎて自分の誕生日も忘れるなんて…。
「今年も何か面白いもん贈るよ」
自信満々に言うよっすぃーが何だかおかしかった。
去年は確か、何か変なモアイ像を貰ったっけ。
「うん。楽しみにしてる」
何だか、ちょっとだけ元気になれた気がした。
- 671 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:47
- ――そして、誕生日。
休日だったので、前日の学校で友達からたくさんプレゼントを貰った。
今日は夜に家族で祝ってくれる。
ホントは一番に先輩に祝って欲しかったなぁ…。
部屋で携帯をいじりながら思った。
でも、そもそも先輩はあたしの誕生日なんか知らないのかもしれない。
「今、何処で何してるのかなぁ…」
その時、携帯が鳴った。この着信音は先輩のだ。
「は、はい。亜弥、です…」
驚きと緊張で、上手く喋れない。
『今、何処?』
久々に聞く、先輩の声。
「家ですけど…」
『良かった。ちょっと近くの公園まで来て』
「え?」
『じゃぁね』
「ちょっ、先輩!……切れた」
一方的に電話が切られた。
何なんだろう…?
不思議に思いながら携帯を閉じた。
- 672 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:49
- あたしは慌てて上着を着て家を出た。走って近くの公園まで行く。
ここの公園は広くて、森のように木がたくさん立っている。
公園の一つのベンチに先輩が座っていた。
「先輩!」
息切れをしながら先輩に駆け寄る。
何だろう…まさか、別れ話じゃないよね…。
どうしようもない不安がよぎる。
「わざわざ来てくれて、ありがとう」
立ち上がって先輩はそう言った。
「えっと…何から話せばいいか、よくわかんないんだけど」
聞くのがだんだん怖くなって目を瞑ってしまった。
- 673 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:50
- 「誕生日、おめでと」
「えっ?」
思いがけない言葉が聞こえて、びっくりして目を明けて先輩を見た。
先輩は照れたように笑っていた。あたしが初めて見た顔だった。
それから鞄から何やら細長い箱を取り出した。
「あんま高いもんじゃないんだけど…プレゼント。亜弥ちゃんに似合うと思ってさ」
初めて、呼んでくれた名前。
初めて、くれたプレゼント。
驚きの連続で涙が出た。
「開けてもいいですか…?」
「うん」
箱を開けるとそこにはシルバーのネックレスが入っていた。
- 674 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:53
- 「その、こないだ店で見つけてさ、もうこれしかないと思って。
亜弥ちゃんにはこれだって思って」
一生懸命、喋る先輩。
「バイト、始めて……誕生日までにこれ、買わなきゃって。だから、あんまり
亜弥ちゃんといれなくて。廊下ですれ違っても、何かどう声かけていいかわかんなくて…」
必死に、喋る先輩。
「…ごめん。亜弥ちゃんは怒ってると思うけど、こんなの言い訳にしか聞こえないと思うけど」
十分過ぎるほど想いが伝わって来る。胸が熱くなる。
「先輩、ありがとう」
先輩にギュッと抱きついた。
「亜弥ちゃん……」
「嬉しい。あたし…すごく嬉しい」
先輩が強く抱き締めてくれた。
- 675 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:56
- 「嬉しかったんだ」
そして、先輩は突然そう言った。
「亜弥ちゃんに告白された時、マジで嬉しかった。何か恥ずかしくて、そっけなかったと思うけど」
不器用なんだね、先輩は。
「前からずっと気になってた子が自分を好きだなんて…両想いだなんて夢みたいで」
でも、ちゃんと伝わってるよ。
「友達の梨華ちゃんに頼んで、よっすぃーに亜弥ちゃんの事教えてもらったんだ。
誕生日もその時知って…」
……。
……よっすぃーから?
ってことはよっすぃーは知ってたってこと!?
「あ、亜弥ちゃん…?」
「えっ?」
「何か顔が怖いよ…?」
「そう?あ、先輩。あたし、これずっとつけますね!」
こうして、あたしの不安は取り除かれ、先輩とラブラブになれた。
- 676 名前:先輩との関係 投稿日:2006/03/04(土) 16:59
- ――その一方。
「いや、ちょっと、待って!うちは聞かれただけなんだよ!梨華ちゃん経由で藤本先輩に亜弥ちゃんがどんな人かって!」
「でも、何でそれ教えてくれなかったの!?」
「別にいいじゃん!藤本先輩とラブラブになれたんでしょ!?」
「教えてくれたらあたしはあんなに不安にならなかったのに!」
「わかったから!!イス投げないで!」
「わかってない!」
「うわぁ!」
先輩との関係 終わり
- 677 名前:作者。 投稿日:2006/03/04(土) 17:06
- 本日の更新、『紹介したい恋人』と『先輩との関係』でした。
紹介したい恋人は作者の大好きな曲から考えた話です。
わかる人がいたら嬉しいなぁ。
>660 ミッチー様。
ココロの歌。に引き続き短編集も読んでいただいてありがとうございます!
何故かいしよしを書こうとすると切なくなってしまう作者です(−_−;
そしていちごまを書こうとすると…こうなってしまう(苦笑
日々、精進したいと思います。
- 678 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/05(日) 05:47
- 更新お疲れ様デス。。。
やっぱり作者。さんの書く話はイイですね。
どっちもおもしろかったです☆
『紹介したい恋人』のもとになった曲、すぐに分かりました(w
2ndアルバムの中の曲ですよね!私も好きですよ^^
- 679 名前:ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 投稿日:2006/03/06(月) 14:06
-
『ラジオから贈られた奇跡のメッセージ』
登場人物:紺野あさ美 小川麻琴
- 680 名前:ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 投稿日:2006/03/06(月) 14:10
- 『えー、コーナーに行く前に一曲行きましょう!それでは――』
受験生である私は夜中、勉強しながらラジオをつけている。
静かな部屋にラジオから流れる音が響いていた。
眠気覚ましにコーヒーを飲みながら、数学の問題を解いていく。
やがて曲が終わり、コーナーが始まる。
『今日は大人気のこのコーナー行ってみよう!』
このラジオのコーナーには私も何通か出しているけど、読まれたことはなかった。
ラジオに耳を傾けながら問題を解く。すると部屋の扉が開いた。
- 681 名前:ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 投稿日:2006/03/06(月) 14:14
- 「あさ美。勉強もいいけど、そろそろ寝なさい?明日、模試でしょ?」
扉からお母さんが顔を覗かして言った。
「うん。これやったら寝るから」
「そう?何か温かいもの作ろうか?」
「大丈夫だよ。お母さんも明日仕事で早いんでしょ?早く寝なきゃ」
「そうね。でも早く寝なさい?」
「はーい。おやすみ」
ゆっくり扉が閉まった。トントンとお母さんが階段を降りる音がラジオの音に混じって聞こえる。
…もう、二時かぁ。
時計を見て、そろそろ寝ないといけないとぼんやり思っていた。
- 682 名前:ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 投稿日:2006/03/06(月) 14:19
- 『――それでは次のお便り紹介しますね』
コーナーは想っている人にラジオから想いを伝える内容で、
例えば好きな人に告白とか、親に感謝の気持ちとか。
…このコーナーには出したことないなぁ。
『ラジオネーム、カボチャ大好きさんからのお便りです』
カボチャという言葉が出ると、あの笑顔を思い出す。中学生の時に大好きだった人。
いつも一緒にいたけど、結局想いを伝えられないまま、高校が別々になってしまった。
中学の卒業式から逢っていない。何度かメールや電話はあったけど、自然にそれもなくなった。
…どうしてるかなぁ。
- 683 名前:ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 投稿日:2006/03/06(月) 14:22
- 『好きな人が中学生の時にいました。いつも一緒にいて、笑い合って時には喧嘩して、楽しい日々を過ごしていました。
だけど、告白する勇気がなくて、結局想いを伝えられないまま、別々の高校になってしまいました。
今でも、ずっとそのことが気になってます。何であの時、告白しなかったのか後悔してます。
そこで、このコーナーに投稿しました』
何か、私と似てるなぁ。
でも、ラジオネームがカボチャってあの人みたい。
私はまさかこの“カボチャ大好きさん”があの人だとは思わずに、笑って、この人の想いが好きな人に届けばいいなぁと思った。
そして、寝ようと思い机の上を片付け始める。
『それでは、カボチャ大好きさんからのメッセージです』
ノートを鞄の中に入れようとした。
- 684 名前:ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 投稿日:2006/03/06(月) 14:24
- 『あさ美ちゃんへ。ずっとずっと好きでした。今でもその気持ちに変わりはありません』
ピタッと手が止まり、ラジオを見た。
『もし、これを聞いているなら、次の日曜日に“あの場所”へ来て下さい』
あの場所…。
すぐにわかった。あの公園だ。
『追伸、最後に喧嘩した内容なんだけど、順番ってやっぱり何にでもあると思う。
だって、自分にとってあさ美ちゃんは一番だから』
追伸で確信出来た。
「まこっちゃん……!?」
このメッセージはあの人だと。
- 685 名前:ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 投稿日:2006/03/06(月) 14:27
- 『カボチャの天ぷらっておいしいよね。私、昨日の夕飯にそれ食べてホント幸せだったよ』
昼休み。お弁当食べながら私が何気無く言った言葉。
『幸せなのはカボチャの煮付けだよ!あの甘さが最高じゃん』
あの人―─まこっちゃんは何だかムッとした顔で言った。
『煮付けもおいしいけど、天ぷらもおいしいよ?』
『いーや、煮付けが一番だね。それに勝るカボチャの料理はないよ』
『何それ。そんなの誰が決めたの?大体、そんなのまこっちゃんの価値観じゃない』
『うっ……とにかく、煮付けが一番なの!』
『もう!何でもかんでも一番だなんて決めつけるのおかしいよ!』
『何でさ!何でも順番ってものがあるじゃん!』
『違うよ!順番がないものだってあるよ!例えば、煮付けでも天ぷらでも、
おいしいって思えたら一番とかそんなの関係ないよ!』
『……もう、いい!』
この後、三日ぐらい口を聞かなかった。まわりの友達が心配してくれたっけ。
三日経つと、二人とも限界が来て謝って仲直りをした。
これが、最後の喧嘩だった。
- 686 名前:ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 投稿日:2006/03/06(月) 14:29
- 「覚えてたんだ……」
そっと机の中に大事に閉まっていた写真を取り出した。
卒業式の日の私とまこっちゃんが笑顔でピースをしていた。
どっちもかすかに鼻が赤い。泣いた後に撮った写真だとすぐわかる。
『カボチャ大好きさんからのメッセージでした!えーと、あさ美ちゃん!聞いてますか?
カボチャ大好きさんからの想い届きましたか?どうか、受け止めて下さい。
私は二人がまた出逢うことを願っています。それでは、そんな二人にこの曲を……
聞いて下さい、何にも言わずにI LOVE YOU』
ラジオから流れて来る曲。
気付いたら、涙を流している自分がいた。
- 687 名前:ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 投稿日:2006/03/06(月) 14:32
- まこっちゃん…逢いたいよ。
私もね、ずっとずっと好きだったんだよ。
それは今でも変わらないんだよ。
嬉しい気持ちと切ない気持ちがごちゃごちゃになって。
曲が終わるまで泣いていた。
『何にも言わずに これからも 大切にしてね
何にも言わずに これからも これからも I LOVE YOU』
ラジオから贈られた奇跡のメッセージ。
きっと、逢いに行くよ。
私の想いを伝えに。
ラジオから贈られた奇跡のメッセージ 終わり
- 688 名前:だけど、好き 投稿日:2006/03/06(月) 14:34
-
『だけど、好き』
登場人物:後藤真希 市井紗耶香
- 689 名前:だけど、好き 投稿日:2006/03/06(月) 14:36
- 「はぁ〜……」
時間になっても現れないあたしの恋人。もう約束の時間から30分が過ぎようとしていた。
だんだん日が暮れてきて寒くなって来た。
もう、帰っちゃおうかな…。
いい加減ウンザリしてきた。携帯にかけても繋がらない、メールも返って来ない。
デートに遅刻だなんて今まで何度もあった。その他にも、いい加減だし、女タラシだし、
約束破るし、急に冷たくなるし…。
とにかく、自分でも何で好きなんだろうとか思う。
ケンカする度に絶対別れてやる!と思って来たけど。
何でか別れられない。
ここに来てから何度ため息をついただろうか。
- 690 名前:だけど、好き 投稿日:2006/03/06(月) 14:38
- 「もう別れた方がいいのかな…」
あたしに好きだって言ってくれる人もいる。その人の方が優しいし、
こんな気持ちになんかならなさそう。絶対、その人の方がいい。
もう、限界なのかな…?
帰ろう、そう思ってその場を離れようとした。自然に涙が溢れた。
その時だった。
「後藤!」
ふわりと後ろから抱き締めてられた。
- 691 名前:だけど、好き 投稿日:2006/03/06(月) 14:40
- 市井ちゃんの匂い。
「マジでごめん」
「遅いよ…あたし、もう」
無理だよ。
そう言おうとした。
「好きだよ。世界で一番後藤が好きだ」
駄目だ…涙が止まらないよ。
「そんなっ…こと、言って…ヒック…みんなに、言ってる、んでしょ?」
泣いてるから上手く喋れない。
「後藤にしか言ってない」
あぁ、もう。
あたし、やっぱりこの人が好き。
市井ちゃんじゃなきゃ、駄目なんだ。
- 692 名前:だけど、好き 投稿日:2006/03/06(月) 14:43
- 「だから、一緒にいてくれ」
市井ちゃんの方を向いて、市井ちゃんの目を見た。
怯えたような、そんな目をしていた。
何度、愛想を尽かしても。
この目には、勝てない。
「…次、遅刻したら別れるからね」
「わかった。頑張る。絶対しないよ」
そんな約束も、どうせ果たせないくせに。
それでも、あたしは“約束”をしてしまう。
…どーせ、次のデートも遅刻なんだろうなぁ。
- 693 名前:だけど、好き 投稿日:2006/03/06(月) 14:45
- ――って思ってたら。
それから市井ちゃんはデートに遅刻しないようになった。
それからいい加減さも少しずつなおってきた。女タラシなのは相変わらずなんだけど。
「だから、違うってば!その、買い物に付き合ってって頼まれて…」
「あっそ。でも市井ちゃんって世界で一番好きなあたし以外の人と平気でキスするんだね。
信じらんない!」
「いやっ、それは…」
「別れよっか?」
「わかった。ごめん。もうしないから、別れるのは勘弁して…」
そんなあたし達だけど、何とかやってます。
何で別れないのかだって?
だって、あたしは。
市井ちゃんが大好きだからね。
だけど、好き 終わり
- 694 名前:作者。 投稿日:2006/03/06(月) 14:51
- 本日の更新、『ラジオから贈られた奇跡のメッセージ』『だけど、好き』でした。
>678 ミッチー様。
イイ話だなんて言って貰えて嬉しいです(^−^
あ、わかりました?そうです、2ndアルバムの曲です。
この曲めっちゃ好きなんです。わかってもらえて嬉しいなぁ。
- 695 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/07(火) 02:02
- 更新お疲れ様デス。。。
『ラジオから〜』の話、好きですねぇ。こういう話好きです^^
まぁ、作者。さんの書く話ならなんでも好きなのですが(w
『だけど、好き』はいちごま好きの私には嬉しい話です☆
女タラシの市井さん好きっス!(w
- 696 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 21:52
-
『それぞれの卒業の日』
登場人物:市井紗耶香 後藤真希
吉澤ひとみ 石川梨華
安倍なつみ 矢口真里 中澤裕子
- 697 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 21:55
- 暖かくなり始めた季節。
桜もその暖かさにようやく綺麗な花を咲かせようとしていた。
空は曇りひとつない快晴。
何気無い一日が始まるはずなのに。
今日は昨日とは何だか違う。
「卒業生、入場!」
今日は、旅立ちの日。
それぞれ、旅立つ瞬間が。
やって来た。
- 698 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 21:59
- 市井はトントントンと階段を上がっていた。
「…ったく、あいつ何処行きやがったんだ」
やっと卒業式が終わり、一息ついた。
友達は最後に写真を撮ろうと泣いた顔で笑いながら教室で騒いでいた。
市井はそんな中から抜け出し、ある人物を探していた。
『卒業式終わったら逢いたい』
昨日の夜、電話で言われた言葉を思い出す。
「全く…逢いたいってそっちから言って来たくせに」
ぶつぶつ文句を言いながら生徒がいない少し淋しい廊下を一人歩いていた。
ここは一年の教室がある階。三年である市井には関係のない場所だが、探している人物はここにいるはず。
「――見っけ」
四組の教室にその人物はいた。市井はやれやれと思いながら教室に入った。
教室の窓側の一番後ろに机に突っ伏して寝ている生徒。市井の後輩である後藤だ。
「こら。何寝てんだよ」
市井は後藤の目の前まで来るとポンっと卒業証書が入った丸い包みを頭に置いた。
「んぁ…?」
後藤は顔をしかめながらむくりと起きた。眠そうに目を擦る。
「お前さぁ、まさかずっとここで寝てた?」
「うん…だって、体育館入れないじゃん」
卒業式は卒業生である三年生と在校生の二年生で行われた。
なので一年生は学校に来る必要はなかった。
- 699 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:01
- 「だったらもっと遅くくれば良かったのに」
呆れて笑う市井に後藤はムッとした。
「今日で終わりなんだよ?市井ちゃんと一緒に学校にいれるの…だったら少しでも長く居たいじゃん」
後藤はそう言うとプイッとそっぽを向いた。
「…そっか」
そんな後藤を可愛いと思いながら市井は後藤の頭を撫でた。そして窓の外を眺めた。
「なーんか実感ないよ。今日で学校来るの終わりだなんてさ。間違って来ちゃいそう」
「あたしだって…実感ないよ」
机に視線を落とす後藤。そこには市井の卒業証書の包みが置いてあった。
今日で終わり。
そんなことばかりが二人のココロの中を埋め尽くしていた。
- 700 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:11
- …伝えなきゃ。
後藤は親友のことを思い浮かべた。
今頃、学校の何処かで好きな人に自分の素直な気持ちを伝えているだろう。
親友も自分と同じく好きな人が卒業する。だから今日、自分の気持ちを伝えるようだ。
後藤も今日、自分の気持ちを伝えようとしていた。
「市井ちゃん」
「ん?」
後藤は立ち上がり、市井の目の前にやって来た。
市井は窓から視線を外し、後藤を見た。
「あたし、ずっと嫌だった。市井ちゃんが卒業するの」
「うん。留年してって無茶なこと言って…先生にまで言って困らせて」
「結構、本気だったけど。それに留年して、また留年したらあたしと一緒に卒業出来るし」
「そんなの嫌だよ」
遠くで笑い声が二人の耳に届く。きっと、卒業生が最後の時間を過ごしているのだろう。
「今日なんか来なければいいのにって思った…」
ずっと一緒に居れなくなる。後藤はそのことに不安を感じていた。
市井が好きだから、傍にいたいから。
だから市井の卒業を素直に祝えない。
そう思っていた。同じく市井も後藤のことが好きだから、素直に自分の卒業を祝えずにいた。
朝、家族から祝の言葉を貰っても上手く『ありがとう』と言って笑えない自分がいた。
「でも…そんなこと言ったってしょーがない…市井ちゃんは卒業する」
- 701 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:14
- 親友に言われた言葉。
『卒業することを変えることは出来ないんだから、受け入れるしかないんだよ』
そう、これは変えようのない事実。それを変える力なんて後藤にも市井にも持っていなかった。
そもそも変えられる人なんていない。後藤は親友から言われた言葉を素直に受け入れ、
ちゃんと市井に自分の気持ちを伝えようと決心した。
「あたし、ちゃんと受け入れるよ」
「後藤…」
「だから」
後藤は机の上にある卒業証書の包みを市井に渡した。
「卒業、おめでとう!市井ちゃん」
市井はココロにじーんときて、思わず泣きそうになった。
その顔を見られたくなくて後藤を抱き締める。
卒業式でも、その後戻った教室でも泣かなかったのに。
- 702 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:16
- 「市井ちゃん。今日で学校に来るのは終わりだけど、これからもよろしくね」
「…いつからそんなに大人になったんだよ…」
嬉しい気持ちが市井のココロの中に溢れていた。大好きな人から貰った言葉。一番欲しかった言葉。
ようやく自分の卒業を笑って祝えることが出来た。
「後藤…ありがとう。こちらこそよろしく」
固く抱き合い、二人は笑っていた。
「えへへ…市井ちゃん大好き!」
「大好きだよ…後藤」
二人しかいない教室に優しく太陽の光が窓から差し込んでいた。
こうして市井はこの場所から旅立った。
卒業という終わりと、大好きな人との新たな始まりを抱きながら。
- 703 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:20
- 吉澤は緊張な面持ちである人物を待っていた。
落ちつきなく、ウロウロしたり、軽くジャンプをしたり。
「今日が最後なんだ…今日、言わないでいつ言うんだ!」
自分で言い聞かせながら、またウロウロ歩く。ここは学校の屋上。
今日はよく晴れていて、気温も暖かい。こんな日は屋上が最高の場所だと吉澤は思っていた。
「ひとみちゃーん!」
突然屋上の扉が開いて、吉澤が待っていた人物がやって来た。吉澤の先輩である石川だった。
彼女も市井と同じく卒業生。
「ごめんね、待ったでしょ?」
「ううん。だ、大丈夫!」
実は吉澤は石川のことが好きなのだが未だに告白出来ていなかった。
一緒にいるのが自然になってきたので言うタイミングがなかなか掴めず今日がやって来てしまった。
「もう抜けるのが大変で」
「ご、ごめん。みんなと一緒に居れるの最後なのに呼び出して…」
吉澤がしゅんとして言うと石川は笑った。
「いいの。私は…ひとみちゃんと居たいから…」
石川の顔が赤くなる。見ての通り石川も吉澤のことが好き。つまりこの二人は両思い。
誰が見ても一目瞭然だった。どうしてこの日まで告白することが出来ないのか誰もが不思議に思っていた。
- 704 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:24
- 「えっと…卒業おめでとう!」
「ありがとう」
吉澤は言葉に詰まった。いざ伝えたい言葉になると自然と言葉が出なくなってしまう。
そんなもどかしい自分が嫌になる。
言わなきゃ、今しかないんだから!しっかりしろよ!
パンと吉澤は自分の頬を叩いた。そんな吉澤に石川はびっくりして「どうしたの?」と聞いた。
「な、何でもないよ。…えっと…あ、どうだった?卒業式」
違うだろぉ!と自分で自分に突っ込みながらも止まらなかった。
「うーん、私的には結構アッサリしてたかな。あ、でも教室に戻って先生の最後の話聞いてたら泣いちゃった」
石川の目は微かに赤かった。
「そうなんだ」
「…今でも不思議」
屋上のフェンスに寄りかかりながら石川は呟くように言った。
「何が?」
ガシャンと吉澤も同じくフェンスに寄りかかった。
「明日からこの場所には来ないんだなーって」
「そう、だね…」
石川の言葉に吉澤の表情は暗くなった。そして、しばらく二人は喋らなかった。
梨華ちゃんはもうこの場所に来ることはない、か…。
そういえば、と吉澤は親友のことを思い出していた。
親友も自分と同じように好きな人が卒業する。
ちゃんと伝えられたのかな…。
親友は素直に卒業おめでとうと伝える。自分はちゃんと好きだということを伝える。
今日の朝、吉澤はその親友と一緒に学校へやって来た。
二人で拳と拳を合わせて、互いの健闘を祈った。
- 705 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:26
- 伝えるんだ…必ず。
吉澤は空を仰いで、笑った。
「梨華ちゃん」
隣にいる石川の方を向いた。
「なぁに?」
微笑んで石川も吉澤の方を向いた。
「――好きです」
真っ直ぐな瞳を向けて、吉澤は言った。
「えっ…?」
「ずっと好きだった…もしよかったら…付き合ってください」
ギュッと目を瞑って、右手を差し出す吉澤。
石川は最初はびっくりしていたものの、徐々に笑顔を見せた。
「――はい」
- 706 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:27
- 石川は笑顔で吉澤の右手を握った。ゆっくり吉澤は目を開け、
驚きと嬉しさのあまり石川の手を引き寄せ抱き締めた。
「やったぁ!」
無邪気にはしゃぐ吉澤に石川も嬉しくなった。
春の風が二人を祝福するかのように吹いた。
こうして石川はこの場所から旅立って行った。
卒業という終わりと大好きな人と結ばれた喜びを抱きながら。
- 707 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:30
- 藤本は卒業式の後のHRが終わるとすぐに鞄と卒業証書の包みを持って教室を出ようとしていた。
教室の中は写真大会になって、あちこちからフラッシュの光が絶えない。
特にクラスメイトと友達の関係を持つことのなかった藤本はさっさと帰ろうと思っていた。
「梨華〜写真撮ろ!」
「ごめん!ちょっと行かなきゃいけなくて…」
ふと教室の後ろ扉でクラスメイトが出口を塞いでいた。前の扉も担任とクラスメイトが何やら話をしていて塞がれている。
…早く帰りたいんだけど。
ため息をついて後ろの扉に向かった。
「えー、だって今日で最後だよ?」
「ごめんね」
何やら揉めている。藤本は苛々していた。
…確か、石川…さんだったっけ。
おぼろげにクラスメイトの名前を思い出す。どうやらこいつを何とかすれば出れると考えた。
「石川さん」
初めて呼ぶクラスメイトの名前。一瞬だけまわりが静かになった。
「あっ、はい」
「行くよ」
戸惑うクラスメイト―石川の腕を取り、藤本は教室を出た。
他のクラスメイトは藤本の行動をポカンとして見ていた。
- 708 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:32
- しばらく廊下を歩き、藤本は石川の腕を離した。
「あ、ありがとう!助かったよ」
石川はずんずん歩いていく藤本に慌ててついていき言った。
「邪魔だったから」
ただ、それだけ。だから礼を言われることじゃないとでも言いたげな感じな言葉だった。
それでも石川は怯まず、話かけた。
「初めてだね、話するの」
「…そーだね」
「私ね、今から好きな人に逢いに行くの」
ウザイと藤本は思っていた。
「そう」
「だから、さっきは本当に助かったよ」
「別にいいって」
「ありがと!じゃ、先に行くね!」
石川は藤本に手を振りながら廊下を走って行った。
大好きな人、か…。
ふと廊下の窓を見た。窓の向こうはよく晴れた空が見える。
石川が少し羨ましく思えた。こんな日に、無邪気に笑って大好きな人に逢えるんだから。
藤本は冷めたように笑って、階段を降り始めた。
- 709 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:35
- 「逢えるわけないか…」
下駄箱に行き、靴を履いて上履きをビニール袋に入れて鞄にしまった。
そして未練もなく、卒業の寂しさなんて感じられない背中を校舎に向けて学校を出た。
桜がやっと開花し始めた道を歩く。
逢えるわけない。
藤本は桜を眺めながらそう思っていた。
自分の大好きな人はこの街にはいない。それに喧嘩別れしたから逢えるわけがない。
遠距離恋愛でなかなか逢えなくて、その中で出来た不安が二人を引き裂いた。
本当に相手は自分のことが好きなのか。そんな小さな不安に二人は別れることになってしまった。
「亜弥…」
立ち止まって桜を見上げた。
…亜弥がいるとこも、桜が咲き始めてるのかな。
自然と藤本は笑っていた。優しい笑顔だった。
- 710 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:38
- 「――たん」
ふと耳に届いた声。藤本は驚いてその声がした方を見た。
数メートル離れた桜の木の下に思いがけない人物がいた。
それは藤本の恋人だった松浦だった。
「あ…や…?」
ザワァと春の風が吹いた。
「…何で…」
驚きのあまり動けなくなった藤本に松浦は神妙な面持ちで近付いた。
「美貴たん」
松浦はゆっくり息を吸って、吐いて、笑った。
「卒業、おめでと」
「…どうして」
「前に聞いたから、今日が卒業式ってゆうこと」
「だって…私らは…」
もう、別れたんじゃ…。
「美貴たん…あたしね…」
松浦の笑顔は消え、泣きそうな顔に変わった。それは藤本も同じだった。
あのクールで動じない藤本が今にも泣きそうな顔をしていた。
- 711 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:39
- 「駄目なの…美貴たんじゃないと…ずっとずっと後悔してた…別れたこと。
何で喧嘩なんかしちゃったんだろうって」
「私も…後悔してた…別れようなんて言ったこと…ずっと…」
桜が散りゆく中で、泣きながら二人は抱き合った。
「あたしたち…もう一度やり直せるかな…?」
「…やり直そう。最初から」
卒業という日に、奇跡が起きた。
こうして藤本はこの場所を旅立って行った。
卒業という終わりと大好きな人と最初からスタートしていく晴れやかな気持ちを抱きながら。
- 712 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:44
- 「懐かしいなぁ…」
安倍は今日、母校を訪ねていた。
自分が通っていた高校。全てが変わっていない。
その懐かしさに思わず微笑む。
…卒業式、か。
来客用のスリッパを履きながら廊下をペタペタ歩く。その途中で目を真っ赤にした生徒数人とすれ違った。
目は赤かったけれど彼女たちは笑っていた。手にはしっかり卒業証書の包みを握って。
「もしあんなことがなければ…私らも、あーやって目を赤くしながら笑ってたかな…」
誰に言うわけでもなく、安倍は呟いた。廊下を進んでいくと、見慣れた体育館が見えた。
卒業式が終わって誰もいない体育館。誰もいないのを確認して中に入った。
「去年もこんな感じだったなー」
たくさん並べられたパイプ椅子。その一つに座ってみる。そして目を瞑った。
『卒業生、入場!』
卒業式当日になっても自分が卒業する実感がなかったなぁと安倍はしみじみ思った。
その時、また違う人物が体育館に入って来た。
「こら、勝手に入ったらあかんやろ」
安倍はびっくりすることなく笑って後ろを振り向いた。
- 713 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:47
- 「いいじゃん。卒業生だもん」
「全く…あんたは」
呆れながらも笑っているのはこの高校の先生である中澤だった。安倍が高校三年生の時の担任。
「あ、裕ちゃん。目が赤いよ」
「そりゃそうや。今日は卒業式や。無事にクラス全員が卒業出来てほんま良かったわ」
中澤は安倍が座っている隣のパイプ椅子に座った。
「最後のHR終わったんだ?」
「まぁ、みんな早く写真撮りたいらしくてな。早めに終わらせた」
「そっかぁ…写真かぁ」
安倍の言葉に中澤は少し黙って、また口を開いた。
「…どうなん?矢口は」
「うん…変わらず、かな」
二人の顔は暗かった。
「そか…今度、時間空いたら行くから」
「うん」
安倍は返事をしながら立ち上がった。
「今日も行くん?」
「うん。だって、今日は特別な日だからさ」
「…そうやな。今日で一年か」
「じゃ、行くね」
安倍が体育館を出ていくと中澤は立ち上がり、卒業式の時に担任が生徒の名前を呼ぶ場所まで歩いた。
「…一人だけ、返事なかったんや」
去年の卒業式を思い出していた。自分のクラスの生徒の名前を呼び、生徒が返事をする。
中澤のクラスだけ一人、返事がなかった。中澤のクラスだけ一人分のパイプ椅子が空いていた。
「何で…返事してくれなかったん…?」
乾いたと思っていた涙がまた溢れた。
「矢口…私な持ってるんよ…あんたの卒業証書…」
しばらく体育館には泣き声が小さく響いていた。
- 714 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:49
- 安倍は学校を後にすると、バスに乗ってある場所へ向かっていた。窓の外には咲き始めた桜並木が見える。
安倍は桜を眺めながら、ぼーっとしていた。しばらくバスに揺られて目的地近くのとこで降りた。
目的地へ向かう途中、花屋に寄る。
「あ、こんにちは」
「こんにちは」
何度も来ているのでここの店員とは仲良くなっていた。
「桜が咲きましたねぇ」
「ホント。さっきもバスから桜並木を見たんですけど、綺麗でした」
ちょっとお喋りをしながら、花を買う。
「お友達の具合はいかがですか?」
おつりを渡す際に店員が聞いた。
「特に変わったとこはないんです…良いのか悪いのか、よくわかんないけど」
苦笑いしながら安倍は答えた。
「そうですか…」
「早く元気になって欲しいんですけどね。じゃ、また」
花束を抱えて安倍は花屋を出た。行く先は目の前にある病院。
そこに安倍の親友である人物が入院していた。その人物は中澤のクラスだった矢口。
彼女は一年前からこの病院に入院していた。
病院の中に入り、いつものように親友である矢口がいる病室へ向かう。
その間、安倍は去年の卒業式を思い出していた。
- 715 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:52
- よく晴れた朝だった。今日のような雲一つない晴天だった。
この日、安倍はいつもよりちょっと早めに登校した。
最後の学校だから、少しでも長く居たかった。それは矢口が言い出したことだった。
卒業式の前の夜に安倍に電話をし、いつもより早く学校に行こうと言ってきた。
安倍は快く了解した。そして教室に一番乗り。矢口はまだ来てない。
安倍は自分の席に座り、矢口を待っていた。
しかし、矢口は来なかった。
約束の時間が過ぎて、徐々にクラスに人が集まって来た。そして朝のHRが始まっても矢口は来なかった。
担任の中澤も何故矢口が来ていないのか首を傾げていた。
確かに普段遅刻してしまうことはあったが、こんな日に遅刻する生徒ではない。
それに安倍と約束もしていたのだから。安倍は不思議に思いながら、
HRが終わった後に矢口にメールをしてみた。だがすぐに返っては来なかった。
ちょっと胸騒ぎがした。
時間は過ぎて卒業式の為体育館に行かなきゃいけない時間になった。
安倍はギリギリまで待ったが仕方なく体育館へ向かった。
…何で来ないんだろう。
卒業式が始まり、卒業証書の時になってもクラスの一番後ろの席は空いたままだった。
中澤が呼んでも返事はなかった。
- 716 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:55
- そして卒業式が終わり、最後のHR。
安倍は携帯を見たがやっぱりメールは来てなかった。ため息をついて携帯を鞄にしまう。
そして中澤がやって来た。その表情は暗かった。
『…みんな、ちょっと聞いてや』
暗い中澤に教室の中は静まりかえった。
『今日、矢口が来てへんやったけどな――矢口は朝、トラックにひかれて病院に運ばれたんや』
安倍は言葉を失った。クラス全員も、言葉を失った。
『何や、あいつ急いでたらしくてなぁ…横断歩道走って渡ってたとこ、矢口に気付かなかったトラックがやって来て…』
嘘…何で…。
『状態はどうなんですか…?』
クラスの誰かがおそるおそる聞いた。
『…危険な状態らしい…頭強く打ってな…今、手術してる』
泣く生徒、信じられないという顔をする生徒、強く目を瞑る生徒。
クラスの全員が矢口のことを重く受け入れていた。
その中で安倍は呆然としていた。
昨日の電話は元気だったのに。
他のクラスよりも早めに最後のHRが終わった。もう最後の思い出作りもする気になれない空気だった。
安倍は鞄と卒業証書の包みを持つと教室を飛び出し、中澤を追いかけた。
- 717 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 22:57
- 『裕ちゃん!』
『…なっち』
『何処の病院なの!?』
『近くの国立病院や…』
中澤に聞くと安倍は下駄箱に向かって走った。
中澤はそんな安倍の背中を見て、先程かかってきた電話のことを思い出していた。
矢口の母親が泣きながら矢口が事故に遭ったと話してくれた。
…しっかりせな。
涙をグッと堪えて、中澤は職員室に向かった。自分の車のキーを取りに。
――お願い、どうか神様。
安倍は桜並木を走りながら祈っていた。バス停を見たらもうバスは出た直後だった。
次のバスが来るまで時間がかかるので走ることに決めた。走っていると銀色の車が安倍の横で止まった。
『なっち!はよ、乗れ』
窓から中澤が顔を出し、言った。
『裕ちゃん…ありがとう!』
安倍は助手席の扉を開けて乗り込んだ。
『しっかりつかまっとき!』
グォンとアクセルが踏まれ、車が走り出した。
- 718 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 23:00
- 安倍と中澤が駆け付けた時、矢口の手術は終わっていて、集中治療室へ移されていた。
どうやら手術は無事に終わったらしい。矢口の両親は泣きながら喜んでいた。
しかし、矢口は目を覚まさなかった。
『意識が戻らない…?』
昏睡状態に陥った矢口は、もう一年眠ったままだった。
コンコンとノックをし、扉を開いた。真っ白な空間に矢口はいた。
矢口の傍には娘を心配している母親がいた。
「安倍さん」
安倍に気付いて微笑む母親。安倍はペコッとお辞儀をした。
「こんにちは」
「いつもありがとうね」
「いえ。矢口と私は親友ですから」
まだ眠っている矢口を見て言う。安倍の言葉に母親は少し目をうるませた。
そして安倍が買ってきた花束を渡すと花瓶を持って病室を出ていった。
- 719 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 23:02
- 安倍は矢口が眠るベットの脇にある椅子に座った。
「矢口、来たよ」
そしていつものように矢口に話しかけた。
「今日はねぇ…高校に行って来たよ。今日何の日か知ってる?…卒業式だよ、今日」
安倍は立ち上がり、窓辺に向かった。窓からは咲き始めた桜が見えた。
「あれから一年経つんだよ…早いよね。あ、裕ちゃんに逢ったよ。全然変わってなかったよ…学校も、全部。
私たちがいた頃と何も変わってなかったよ…」
クルッと矢口の方を向く。
「…ねぇ、矢口…何の夢見てるの?楽しい夢?だから…起きたくないの?」
最後の方は声が震えていた。
「…起きてよぉ…こっちにも楽しいことたくさんあるよ…?」
矢口の顔を覗き込みながら安倍は言った。安倍の流す涙が矢口の頬に落ちる。
「もう一度やろうよ…卒業式。まだね、裕ちゃんが持っててくれてるからさ…卒業証書。取りに行こうよ…矢口ぃ…っ」
ピクッ。
「えっ…?」
矢口の右手が安倍の腕を掴んだ。力は弱いが、しっかり掴んでいた。
- 720 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 23:06
- 「矢口!?ねぇ、矢口!!」
ゆっくりと開かれる瞳。
「……な…っち……?」
卒業の日に奇跡が起きた。
矢口は目覚めた。一年後のこの日に。
幸い後遺症も何も残らず矢口は奇跡的に回復した。
そして――─
「なっちー!早く早く!」
ぴょんぴょんと跳びながら親友の安倍を急かす矢口。
その様子は一年間も昏睡状態に陥っていた人には見えないほど元気だった。
「ハイハイ」
そんな矢口を見て安倍は笑った。
「もう、早くしないと遅刻しちゃうよ〜」
「大丈夫だよ。まだ時間に余裕あるし」
二人とも何故か制服のブレザーを着ていた。そして向かう場所は学校。
そう、もう一度、卒業式。
懐かしい学校に入り、持参してきたかつて使っていた上履きを履いた。
「うー、緊張してきたぁ〜」
廊下を歩きながら矢口は言った。
「そんな緊張しなくても…」
安倍は元気に隣を歩く矢口を見て嬉しく感じていた。
体育館に入ると、体育館の真ん中に二つパイプ椅子が置かれていた。ステージの上には卒業式と書かれた看板。
今日は学校は休みの日で、特別に体育館を貸してくれた。体育館を借りるのも、卒業式の看板を借りるのも全て中澤がやってくれていた。
- 721 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 23:10
- 「おはよーさん」
二人の後ろからぬっと中澤が出てきた。
「びっくりした〜…」
「裕ちゃん、驚かせないでよ」
「何や、ひどいやんか。せっかくもう一度卒業式やってやろ思ったのに…やめよっかな」
「えっ、ごめんって。やめないでよ〜」
「なぁ、なっち。どないしよ?」
「そうだねぇ。裕ちゃんがしたいように」
「ちょ、ちょっと〜!」
「そうやなぁ。この私を一年も待たせた生徒やしなぁ」
「うぅ…ごめんなさい」
矢口がしゅんとなったとこで安倍と中澤は顔を見合わせて笑った。
「ほな、始めるで。二人は席にさっさと着く」
スタスタとステージに向かって歩く中澤。
「さ、矢口。行こ」
「うん!」
手を繋いでパイプ椅子のとこまで走る安倍と矢口。
「えー、これから卒業式を始めます。卒業生、起立!」
「はい!」
「矢口、返事はしなくていいんだよっ」
「あっ、そっか…」
「…続けるで。卒業証書、授与!三年一組、矢口真里!」
「…や、矢口、次は返事しないと」
「あっ…はい!」
「矢口、手と足が一緒に出てるよっ!」
「全く…矢口らしいなぁ」
たった三人の卒業式。
だけど、十分過ぎるほどの卒業式。
「卒業証書、矢口真里。あなたは本校の――」
こうして矢口はこの場所から旅立った。
卒業という終わりとずっと見守ってくれた二人の暖かな眼差しを抱きながら。
- 722 名前:それぞれの卒業の日 投稿日:2006/03/08(水) 23:11
-
それぞれの卒業の日 終わり
- 723 名前:作者。 投稿日:2006/03/08(水) 23:16
- すいません。登場人物のとこに藤本美貴と松浦亜弥が抜けてました…。
本日の更新、『それぞれの卒業の日』でした。
>695 ミッチー様。
そんな事を言って貰えるなんて…!感激過ぎます!
ミッチー様はいちごまが好きなんですよね。今回も入ってますよ♪
もし、リクエストがあれば言って下さいね。
- 724 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/09(木) 01:54
- 更新お疲れ様デス。。。
それぞれイイ話ですね!いちごまも入れてくれて嬉しいです☆
矢口さん、安倍さん、中澤さんの話感動しました!
ちょっと泣きそうでした。
リクエストは思いついたら言いますね♪(w
- 725 名前:青春の日々を 投稿日:2006/03/13(月) 18:47
-
市井ちゃんは今日もあたしに話しかける。
あたしは返事出来ないけど、ちゃんと聞いてる。
「後藤、来たよ」
空は青くて、草はそよ風に揺られている。
そんな中にいる市井ちゃんが好き。
自然がよく似合ってる。
今日はどんな話をしてくれるのかな。
- 726 名前:青春の日々を 投稿日:2006/03/13(月) 18:51
- いつものように市井ちゃんは喋り始めた。
「何か噂で聞いたんだけどさ、ほら、高校の時に私とクラスが一緒だった矢口っていたじゃん?」
あー、矢口さん。確か、市井ちゃんの初恋の人だよね。
「結婚するんだってさ」
へぇー、結婚かぁ。
「びっくりだよなぁ…何年か前までは一緒に高校生してたのに」
おや、市井ちゃん…まさか落ち込んでる?そんな、あたしっていう存在がいながらっ。ひどい。
「別に落ち込んでないよ?でも…すごいなぁって思ってさ」
何であたしの気持ちがわかったんだろ?まぁ、いいや。幸せになって欲しいね。
市井ちゃんが好きだった人なんだから。
- 727 名前:青春の日々を 投稿日:2006/03/13(月) 18:53
- 「あとはー…あ、そうそう。圭ちゃんなんだけど」
圭ちゃんといえば市井ちゃんの一つ上の先輩。
あたしの先輩でもある。
「こないだ電話かかってきて、何してるかと思えば親父さんの会社継ぐみたい」
おぉ。女社長?かっこい〜。
「今は大学行って、経済の勉強しながら会社の手伝いしてるんだって」
圭ちゃんが社長さんかぁ…。
「信じられないっつーかさ。矢口にしてもそうだけど。一緒に青春時代を過ごした人がさ、
どんどん先に行っちゃうって感じで…」
そうだねぇ。あたしも信じられないよ。
- 728 名前:青春の日々を 投稿日:2006/03/13(月) 18:59
- 「あぁ…そーいや、後藤の親友の吉澤と石川」
ん?よしこと梨華ちゃん?
「あんなにお似合いだったのに、こないだ別れたんだって」
えぇ!?うちの高校の名物カップルが!?
「吉澤に逢ってさ、あいつすっげー暗いの。何かあったのか?って聞いたらボロボロ泣き出して」
よしこ…。
「吉澤って結構強気なとこあるじゃん?なのに、私なんかの前で泣いてたんだよね…」
よしこが泣くなんて…何で別れたんだろう。
「理由は石川の留学。別れるまですごいドロドロだったみたい。傷付けて傷付けられて」
梨華ちゃん言ってたもんなぁ、留学してみたいって。
あーぁ、あたしがいたら二人は別れることなんてなかったかな。
いや、むしろあたしが二人を別れさせなかったのに。
「最後は二人で決めたんだってさ。別れようって」
市井ちゃん…。
「後藤がいても、たぶん二人の気持ちは変わらなかったと思うよ。
それに別れっつっても、結構前向きな別れだったらしいし」
市井ちゃんはあたしが思ってること全部お見通しなんだね。
- 729 名前:青春の日々を 投稿日:2006/03/13(月) 19:00
- 今日はいろんな話を聞いたなぁ。
返事出来ないのが残念だね。
いや、返事してるけど市井ちゃんには届かないんだよね。
「なぁ、後藤」
市井ちゃんの短い黒髪が風で揺れた。
「そっちの世界はどう?」
目の前に建てられたお墓に向かって言う市井ちゃん。
「まぁ…いつか私もそっちに行くんだろうけど」
そうだね、いつかはね。
- 730 名前:青春の日々を 投稿日:2006/03/13(月) 19:02
- あたしは市井ちゃんには見えないけどお墓の後ろにいる。
このお墓は市井ちゃんがあたしの親に頼んで、ここに建ててくれた。
小さな丘からは青い空と海が眺められた。
あたしはここが大好きになった。
「それまでたくさん悩むこともあると思うけど…」
市井ちゃんは覚えててくれてたんだね。
いつか市井ちゃんが免許取った時は海が綺麗に見えるとこに連れてって欲しいって。
生きている内にはそれは叶わなかったけど、市井ちゃんはこうして。
海が綺麗に見えるとこにあたしを連れてってくれた。
「自分なりに生きてみるよ」
あたしがいなくなった時の最初、市井ちゃんはすごく痛々しかったけど。
もう大丈夫だね、良かった。
あたしがいないからってさ。
───夢を諦めないでね。
- 731 名前:青春の日々を 投稿日:2006/03/13(月) 19:03
- 海に向かって市井ちゃんが歌い始めた。
あたしも市井ちゃんの隣でそれに合わせて歌ってみた。
市井ちゃんには聞こえないけれど。
あたしたちの青春の日々。
風に乗せて歌う。
大好きな青春だった。
幸せな青春だった。
バカみたいな青春だった。
…かけがえのない青春だったね。
風に乗せて歌う。
あたしたちの青春の日々を。
青春の日々を 終わり
- 732 名前:青春の日々を 投稿日:2006/03/13(月) 19:04
-
『青春の日々を』
登場人物:市井紗耶香 後藤真希
- 733 名前:作者。 投稿日:2006/03/13(月) 19:05
- ↑タイトル最初にいれるの忘れました…ショック。
- 734 名前:作者。 投稿日:2006/03/13(月) 19:15
-
>724 ミッチー様。
( ´д`)<んぁ、ごとーたちがいて嬉しいってさ。
ヽ ^∀^ノ<マジで?嬉しいなぁ。
今回もいちごまです。でもちょっと切ないですが…。
作者的には結構お気に入り(w
本日の更新、『青春の日々を』でした。
また夜に時間に余裕があれば更新したいと思ってます。
- 735 名前:ワガママな彼女だけれど 投稿日:2006/03/13(月) 20:30
-
『ワガママな彼女だけれど』
登場人物:藤本美貴 松浦亜弥 吉澤ひとみ
- 736 名前:ワガママな彼女だけれど 投稿日:2006/03/13(月) 20:33
- 時刻はもうすぐ午後九時。
仕事が長引いてこんな時間になってしまった。
ちょっとした合間に携帯を持って、人気がない廊下の隅っこに行く。
…怒ってるんだろうな。
今日は仕事が終わったら逢いに行く予定だったから。
ため息をつきながらメモリーからある人物の名前を出す。
“亜弥”と表示された名前を見て、ちょっと電話をするのを躊躇う。
が、そんなに時間があるわけじゃないのですぐに電話をかける。
しかもワンコールで出るから少し驚いた。
「あの…亜弥ちゃん?」
いつもは強気な自分だけど、彼女には敵わない。
『……何で、来ないのよ』
やっぱり怒ってた。声が完全に怒ってますって感じだ。
- 737 名前:ワガママな彼女だけれど 投稿日:2006/03/13(月) 20:36
- 「収録が押しちゃって…もうすぐ帰れると思うんだけど」
多分こんなことを言っても彼女には届かないだろう。
『あたし、今日頑張って夕飯作ったのに』
ほらね。全く聞いちゃいない。
「ごめんって…」
『ずっと楽しみにしてたのに。美貴たんが来るの』
そりゃ、私だってかなり楽しみにしてたよ。
『夕方からずーっとだよ。なのに全然来ないし、連絡もないし。
美貴たんはあたしのこと大事じゃないんだって考えて』
おいおい。どんなネガティブな発想ですか。
『もう駄目なのかな。あたしたち』
はぁ?何でそーなるかな…。
「あのね?亜弥ちゃん。そんな深く考えないでよ。そりゃ、約束してたのに行けないのは悪いと思ってるよ。
でも行けないのは仕事だから…私だって早く亜弥ちゃんに逢いたいよ」
一気に自分の気持ちを言った。
- 738 名前:ワガママな彼女だけれど 投稿日:2006/03/13(月) 20:38
- 『…じゃぁ、今すぐ逢いに来てよ』
んな無茶な…。
相変わらずワガママな彼女。
だけどそんな彼女を好きになったのは自分。
「……出来る限り早く行くよ」
何で、好きになっちゃったんだか。
『……たん?』
「何?」
『…大好き』
もう、何でもいいや。
どんなにワガママでも。
好きなんだ。
携帯を切って、振り向くとそこには見慣れた人の後ろ姿が。
- 739 名前:ワガママな彼女だけれど 投稿日:2006/03/13(月) 20:46
- 「ホントごめんって…泣かないでよ…仕事が押してるんだよ…え?ごっちんと一緒じゃないかって?
んなことないよ…ホントに仕事だって…うん…嘘ついてないよ」
あらら。こちらも大変だ。
「うちも早く逢いたいよ…仕事終わったらすぐに帰るから、ね?
…うん、大好きだよ。じゃぁね」
よっちゃんは携帯を切ると大きくため息をついた。
「大変だね、お互い」
私が笑って言うと向こうも疲れたように笑った。
「でもそっちは怒って終わりでしょ?うちなんか最初は怒って、次は泣いて。
どんどんネガティブになっていってさ、挙げ句には仕事じゃないって疑われるんだよ」
よっちゃんは「勘弁してよって感じ」と苦笑い。
「確かに梨華ちゃんもすごそう。でもまだ話聞いてくれるだけでも良くない?
亜弥ちゃんなんか私の話も聞いてくれないよ」
二人で楽屋へ戻り、携帯を鞄にしまった。
「でもさ、好きなんだよね」
よっちゃんが楽屋を出る時に言った。
「だね」
私は笑って答えた。
「好きになった自分が悪いのかな。さ、早く仕事終わらせて帰らないと!」
眠気も抑えて、空腹も堪えて、彼女に逢いたいから早く仕事を終わらせよう。
「もっと遅くなったら家にもいれてもらえなくなっちゃうよ」
よっちゃんが疲れた顔して言った。
そして、私たちは自分の大切なお姫様の為に仕事へ向かった。
- 740 名前:ワガママな彼女だけれど 投稿日:2006/03/13(月) 20:47
- その後、仕事を終わらせてダッシュで亜弥ちゃんに逢いに行った。
まだ怒ってるかなと思いきや、玄関先で倒れるほど抱きつかれて危うく頭を打ちそうになった。
「美貴たん、逢いたかったよぉ」
「私もだよ」
ワガママでも好きだよ。
ワガママな彼女だけれど 終わり
- 741 名前:VS 投稿日:2006/03/13(月) 20:53
-
『VS』
登場人物:里田まい アヤカ 矢口真里 飯田圭織
加護亜依 辻希美 吉澤ひとみ 後藤真希
石川梨華 市井紗耶香
- 742 名前:VS 投稿日:2006/03/13(月) 20:55
- 「……まい、よっすぃーのこと好きなの?」
「……アヤカはどうなの?」
ある高校の昼休み。
バチバチと火花を散らして睨み合う二人の女子高生がいた。
原因はどうやら二人の好きな相手が一緒であることらしい。
普段は仲良しな二人組。
でも、恋愛となると女は怖い。
「……譲らないから。絶対」
腕を組んで、低い声を出す。そんな彼女の名前は里田まい、二年生。
「譲らない?それはこっちのセリフよ」
余裕の笑みで、サラッと言う。そんな彼女の名前はアヤカ、留学生の三年生。
バチバチバチ。
激しい火花。
この戦いは、如何に。
- 743 名前:VS 投稿日:2006/03/13(月) 20:56
- ―――また、違う場所でも火花が激しく散らしている二人がいた。
「あのねぇ。あたしのよっすぃーに手出さないでくれる?」
「いつから矢口のよっすぃーになったのよ」
こちらも原因は好きな相手が一緒であるということらしい。
普段は仲良しな二人組。
でも、恋愛となると女は怖い。
「うっ…とにかく!よっすぃーに手出したらただじゃおかないから!」
背が低いのでぴょんぴょん飛び跳ねながら叫ぶ。そんな彼女の名前は矢口真里、三年生。
「へぇー、こんなお子様みたいな子に何が出来るのかなー?」
対照的に背が高いのを利用して見下しながら言う。そんな彼女の名前は飯田圭織、三年生。
バチバチバチ。
激しい火花。
この戦いは、如何に。
- 744 名前:VS 投稿日:2006/03/13(月) 20:58
- ―――また、違う場所でも火花が激しく散らしている二人がいた。
「いくらののでも許せんわッ!よっすぃーにベタベタせんといて!」
「いいじゃん!だって、のの、よっすぃーのこと好きだもん!」
……原因はやはり好きな相手が一緒であるということらしい。
普段は仲良しな二人組。
でも、恋愛となると女は怖い。
「何や!宣戦布告か!だったら言うたるわ、ののには無理や。うちの方が好きやもん!愛情は誰にも負けへん!」
関西弁で一気に言う。そんな彼女の名前は加護亜依、一年生。
「何であいぼんに無理だって決めつけられるの!?ののだって負けてない!絶対、ののが一番に好きだもん!」
関西弁に怯むことなく反撃する。そんな彼女の名前は辻希美、一年生。
バチバチバチ。
激しい火花。
この戦いは、如何に。
- 745 名前:VS 投稿日:2006/03/13(月) 21:00
- そして彼女たちは放課後、好きな相手の元へ一番に駆けつけようと企んだ。
そんな彼女たちが好きな相手はというと。
「…へっくゅん!」
昼食を食べながらくしゃみをしていた。
「よしこ…噂されてるねぇ」
「さっきから止まらないんだけど…」
「それだけ有名人なんだよ、きっと」
「そうかなぁ…へ、へっくしょん!!」
くしゃみが止まらない。そんな彼女の名前は吉澤ひとみ、二年生。
美形、明るい、面白い、スポーツ万能、誰にでも人なつっこい、優しいといった彼女は
この高校では知らない生徒はいないほどの有名人。本人は自覚無し。
一年生からずっとモテていて、しょっちゅう告白されている。
しかしどんな可愛い子からでも告白は断っていた。
「あ、そうそう。よしこ、今日ヒマ?」
「ん?ヒマだけど…ふぇっくしゅん!」
「良かったぁ。ちょっと付き合って」
「いいけど…」
「もちろんあと二人も誘ってね」
吉澤と学校ではよく一緒にいる彼女の名前は後藤真希、二年生。
吉澤とよく一緒にいるということでこの高校では有名人。
しかしその理由が理由なだけに吉澤を好きな生徒からの視線は痛い。
決戦は金曜日―――じゃなくて、今日の放課後。
- 746 名前:VS 投稿日:2006/03/13(月) 21:03
- 放課後の二年の教室。狙われている人物は忘れていた日誌を慌てて書いていた。
「よしこ〜。まだ?」
「もうちょいで日誌かけるから」
ズンズンと吉澤の教室へやってくる団体。
我先へと敵を押し退けてやって来る姿は何だか痛々しい。
「ちょ、私が先!」
「年下は年上に道を譲るもんよ!」
「圭織!あたしの頭押さえないでよ!進めないじゃん!」
「あ、ごめーん。肘掛けだと思った!」
「のの!中澤先生がさっきお菓子くれるって言うてたで!」
「そんな作戦には騙されないよ!」
さて、誰が一番に吉澤の元へ着くのか。
普段はとても仲良しなのに。
恋愛となると変わってしまう彼女たち。
まるでアフリカの大地で獲物に向かって走るライオンのようだ。
- 747 名前:VS 投稿日:2006/03/13(月) 21:06
- 「おっしゃー。終わった!」
「日誌は休み時間の合間に書いとくんだよ」
「ごっちんには言われたかないね〜」
「何それー」
ドドドドド。
「何か揺れてない?」
「何この音…」
さぁ、誰が一番か。
いざ、勝負。
「ひとみちゃーん!」
流星の如く現れた生徒が一人。
「おっ、来た来た!梨華ちゃーん」
吉澤は嬉しそうに迎える。
彼女の名前は石川梨華、三年生。
――――ということは。
「んぁ、梨華ちゃん。待ってたよ」
「ごっちん。市井さんね、日誌書いてなくてあとで来るよ」
「市井さんも?うちもだよ。うちのはとっくに早く書き終わったけどね」
この勝負。
石川梨華の勝ち。
そして彼女たちはというと。
教室の入口で悔しそうに中を覗いていた。
- 748 名前:VS 投稿日:2006/03/13(月) 21:09
- 「うぅ〜、よっすぃー…」
「泣かないの!まい!涙は勝ってから流すのよ!」
「梨華ちゃんめ…あたしのよっすぃーなのに」
「だから矢口のじゃないってば」
「のの、うちはいくらでも勝負するで。諦めへん!諦めたらそこで終わりなんや!」
「うん!ののも諦めない!」
「……何、これ?」
日誌を書き終え、教室にやって来た市井紗耶香、三年生。
入口付近で何やら騒いでる集団を横目で見ながら教室に入った。
「市井ちゃん!遅いよ〜」
「悪ぃ。日誌書いてなくて」
「っで、何処行くの?ひとみちゃん」
「わかんない。ごっちん、何処行くの?」
「ケーキ食べ放題のお店〜。割引き券あるから行こ!」
「お前、昨日もケーキうちで食ったじゃんか」
こうして勝負は幕を降ろされた。
しかし、彼女たちは諦めない。
何回でも勝負をするだろう。
しかし、彼女たちは気付いてない。
吉澤が石川のことを好きだということを――――
VS 終わり
- 749 名前:作者。 投稿日:2006/03/13(月) 21:13
- 本日の残りの更新、『ワガママな彼女だけれど』『VS』でした。
- 750 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 14:47
-
『違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある』
登場人物:市井紗耶香 石川梨華 後藤真希 吉澤ひとみ
- 751 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 14:52
- ───もし、あの時。
走って追いかけてたら。
あいつは今、傍にいてくれたのだろうか。
「ちょっと、聞いてるの?」
気付けば目の前では恋人が怒って私を見ていた。
「あぁ、ごめん。ボーッとしてた」
今日は休日でデートをしていた、が途中で雨が降って来て近くの喫茶店に避難していた。
「ちゃんと聞いてよね」
「何の話だっけ?」
「同窓会よ。高校の部活の」
「あー、そうだった」
思い出した。恋人―梨華が高校の時の話をしだして、そういえば最近、当時の部長から手紙が届いて、みんなで集まらないかとその手紙に書いてあった。
「紗耶香はどうするの?」
「そうだなぁ…梨華は?」
「私はもちろん行くよ。みんなに逢いたいし」
梨華はその部活のマネージャーをやっていた。ちなみに部活はバスケット。
メンバーはみんな面白い奴らばっかで、部活がない時もよく一緒にいた。
「紗耶香も行こうよぉ。ほら、私達のことみんなに知らせたいじゃない」
「んー…知らせるほどじゃないけど」
正直行きたくなかった。
あいつが来たら、と考えると。
「何よぉ。重大ニュースなのに」
「確かに、驚きだよな。ありえない二人がくっついたわけだし、矢口とか質問攻めして来そう」
そう。私と梨華はあの頃、あんまり接点がなかった。部員とマネージャー。
ただそれだけで、特別仲が良かったわけじゃなかった。
私が高校を卒業して大学に入学、その大学に梨華が一年後、入って来た。
再開した私達は何となく一緒にいる時間が増えていき、自然と付き合うようになった。
- 752 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 14:54
- 「ありえないって言わないでよ」
「だってそうじゃん」
「確かにあんまり話したことはなかったけど」
苦笑いして、梨華は左手の薬指にはめている指輪に触った。梨華の誕生日に私があげた指輪だ。
もういい加減、忘れよう。
あいつのことに踏ん切りつけないといけない。
だって、私は梨華を選んだのだから。
「…わかった。行くよ」
「ホント?」
「あぁ。それいつだっけ?」
「来週の日曜日。じゃ、一緒に返事出しとくね。紗耶香忘れそうだから」
「何だよ。まぁ、出しといてくれると助かる」
外はまだ雨が降っていた。梨華がトイレに行き、私はぼんやり喫茶店の窓から雨を眺めていた。
あの日も雨だった。
あいつ―──後藤と終わってしまった日。
- 753 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 14:58
- 後藤は私が二年の時にバスケ部に入って来た。バスケが上手くて、一緒に入って来た吉澤と組むと更に上手かった。
私は指導係として一年に指導しなきゃいけないはずだったんだけど、この二人には教えることがなかった。
『市井ちゃん!』
『後藤、ちゃんと先輩って呼べよ』
『いいじゃん。市井ちゃんって先輩って感じしないし』
『そうッスよ。市井先輩って何か先輩って感じしない』
『吉澤までそんなこと言うのか!罰として走り込みして来い!』
後藤はいつも私の傍にいた。私の名前を呼んでは微笑んでいた。
多分、この頃、私は後藤が好きだった。
でも、素直になれなくて。
自分の気持ち、言えなかった。
『ねぇねぇ、紗耶香とごっちんって付き合ってんの?』
ある雨の日。部活がなくて部室で同じ学年の部員―矢口と話していたら、ふと矢口が聞いてきた。
『別に付き合ってないよ』
『そうなんだ。何か学年違うのに妙に仲いいから、てっきり付き合ってんのかと思ってた』
『だったら吉澤だってそうじゃん。あいつら私のこと先輩として見てないしさぁ』
雨の音が部室に響いていた。
『でも、後藤が紗耶香を見ている目は、何か違うんだよね』
矢口が真剣な顔して言った。
『絶対ごっちんは紗耶香のこと好きなんだよ』
『んなことないよ』
『とか言って、紗耶香も好きなんじゃないの?』
この時、何で気付かなかったんだろう。
後藤が部室の扉の前にいたなんて。
『別に…好きじゃないよ。いや、後輩としては好きだけど、吉澤や他の一年と同じ』
つい、言ってしまった。
ドサッという音が外から聞こえた。矢口が何だろうと思って部室の扉を開けるとそこにはうつ向いて立っている後藤がいた。
『ごっちん…?』
私は固まった。動けなかった。
『…市井ちゃんのバカッ!』
後藤は走ってその場から去った。その場には後藤の鞄だけが残っていた。
『ごっちん!……紗耶香、いいの?追いかけないと!』
私は動けなかった。
いや、動かなかったんだ。
追いかけて、後藤に逢うのが。
怖かったんだ。
その雨の日から後藤は変わった。
- 754 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:01
- 私のことを前みたいに呼ばなくなって、先輩として接するようになった。
あの事を知っているのはおそらく私と矢口と後藤だけだった。
急に変わった後藤と私を他のみんなは驚いて見ていて、矢口は心配そうに見ていた。
もし、あの時。
走って追いかけてたら。
あいつは今、傍にいてくれたのだろうか。
卒業後、そんなことばかり考えていた。特に雨の日は。
でも、もうどうしようもない。
「まーた、ボーッとしちゃって」
いつの間にか梨華が戻って来ていた。
「あ、ごめん…」
「別にいいけどさ。…雨止まないね」
「雨宿りしても無理かな。コンビニで傘買うか」
「天気予報じゃ雨降る確率低かったのに」
伝票を持って会計をして喫茶店を出た。雨は変わらず降っていて、私達はコンビニでビニールの傘を一本買った。
「二つ買えば良かったのに…」
私が傘を持って梨華がその傘に入る。
「だってもったいないじゃない。一つでいいの。それに相合い傘なんて久しぶりだし」
梨華が笑ってそう言う。確かに相合い傘なんて梨華と再開した当初に一回だけあったきりだった。
「まぁ、別にいいけどさ。どーせ帰る道は同じだし」
「あ、今日も泊まるの?」
「駄目?」
「いいけど。最近ずっと私の家に来てるから、紗耶香の家意味なくなっちゃうよ」
雨の中を歩きながら、私は思った。
断ち切ろう。
もう、私と後藤は。
元には戻れないんだから。
- 755 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:06
- 「そうだよなぁ。…じゃ、いっそのこと一緒に住む?」
「えっ?前に私がそう言ったら乗り気じゃなかったのに」
「そう?まぁ、気が変わったんだよ。そうだな…同窓会が終わったら部屋探したりしよっか」
「やったぁ!」
今は、梨華が好きだから。
仮に後藤と上手く行けたとしても。
梨華と別れることは出来ない。
「今日の夕飯何にする?」
「ハンバーグ食いたい」
「じゃ、スーパー寄って行こ」
――そして、同窓会当日。
私と梨華はあるバーに来ていた。部長が貸切りで借りたらしい。
「緊張する〜」
「梨華、落ち着けよ」
「だってぇ」
「行くぞ」
扉を開いて中に入った。
「紗耶香!石川!」
当時の部長だった圭織が出迎えてくれた。
「今日は来てくれてありがとう。さ、座って座って」
中はもう賑やかで、私達はちょっと遅かったようだ。いや、みんなが気が早いのか。
「紗耶香〜!梨華ちゃん!」
奥に進むと矢口が手を振っていた。
「待ってたよぉ。みんなー、紗耶香と梨華ちゃん来たよ〜!」
懐かしいメンバーが揃っていた。
―──いた。
後藤がいた。髪が少し伸びていた。ちらっとこっちを見て、視線を外した。
何だか少し、寂しかった。
「よし、これで全員だな!」
私と梨華が席につき、同窓会が始まった。最初は圭織が長々喋って矢口に止められていた。
用意された食事を食べながら、ワイワイ騒いでいた。後藤は少し離れたとこにいて、吉澤もいた。
「紗耶香、こぼしてるよ」
「あっ、ヤベッ」
「もう、シミになると大変なんだから」
「梨華だってたまにこぼすくせに…」
「何か言った?」
「いえ、何も」
梨華が鞄からタオルを出して、こぼしたとこをトントンと軽く叩いてくれた。
こうゆうことはよくあるので気にしなかった。
「…あのー」
目の前の席に座っている矢口が右手を挙げた。
「もしや、お二人は付き合ってるの?」
「そういえば、石川って紗耶香のこと市井先輩って呼んでたし…」
圭織が不思議そうに言った。
「付き合い始めてもうすぐ一年かな。な、梨華?」
「うん。私が紗耶香がある大学にたまたま入学して、再開したんですよ」
「へぇー、わかんないもんだねぇ」
圭織がびっくりした顔で言った。その反面矢口は複雑な顔をしていた。
それから同窓会は盛り上がり、みんな席を移動したりしてそれぞれ楽しんでいた。
- 756 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:10
- 気付いたら梨華は吉澤とカウンター席の方にいて、何やら話していた。
私は入れ替わりやってくる後輩達と話していた。それが終わって、ふと前を見ると、何故かそこに後藤が座っていた。
つまらなさそうにもぐもぐとサラダを食べていた。気まずいなぁと思いながら、お酒の入ったグラスを手にした。
「お酒、飲むんだ」
いきなり話しかけられてビクッとした。後藤を見ると、後藤は私を見ていなかった。
「うん…まぁ、少し」
「ふーん…」
どうしていいかわかんなくてお酒をぐいっと飲んだ。
「…ど、どう?最近」
この沈黙が嫌で言ってみた。
「別に」
あぁ、そう…。
会話が続かない。まるでここだけ場所が違うように思えた。
まわりはうるさいくらい騒がしいのに。
「梨華ちゃんと」
「へっ?」
「付き合ってんだ」
その時、はっきり目が合った。
後藤の目は何だか寂しそうな、辛そうな、そんな目をしていた。
――謝りたい。
ごめんって言いたい。
この後に及んで私はそんなことを思っていた。
あの続きを。
あの雨の日の続きを。
ごめんと本当の気持ちを――
……何を考えてんだ、私は。
こんなこと、許されないだろ。
今更、謝ろうだなんて。今更、本当の気持ちを伝えようだなんて。
自分勝手過ぎるじゃないか。
「うん。付き合ってるよ」
私は真っ直ぐ後藤を見て言った。
「…良かったじゃん」
後藤は笑って言った。まだぎこちない笑顔だったけど。
私も笑った。まだ上手く笑えてないだろうけど。
- 757 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:16
- しばらく話した後、後藤が席を外した時、矢口が傍に来た。
「…仲直り?」
「…まぁ、完全には無理だけど」
「そっかぁ…紗耶香はあの時の気持ち、伝えないままにしとくの?」
矢口の問いかけに私はすぐ答えた。
「あぁ。伝えない」
「…何で?辛くない?」
グラスを傾けて口に付け、グラスの中身を空にする。
「辛くないっつったら嘘になるけど、私はもう違う道を選んで歩いてるから」
「…どうゆうこと?」
「私は確かに後藤が好きだった。でも今は梨華が好きだ。あの時とは違う道を選んだからこそ、手に入れたモノがある」
矢口は黙って聞いていた。私は続けた。
「今、幸せなんだ。こう見えても。だから、伝えない」
「そう…紗耶香がそれでいいなら矢口は構わないよ。親友として見守るよ…けど、それって前に進めるの?
お互いの気持ち閉じ込めてさ…矢口にはよくわかんないけど」
「…矢口」
矢口は小さく笑ってその場を離れて行った。
――二時間が経過すると、みんなグダグタになって来た。
特に卒業生はお酒も入ってか、酔っ払って寝ちゃう人が多かった。
「市井先輩…」
「何だよ、吉澤」
吉澤がやって来て私を呼び、カウンターを指差した。
そこにはカウンターに突っ伏している梨華がいた。
「あーぁ。あいつお酒飲んだ?」
「カクテルを半分くらい…」
梨華は私と違ってアルコールに強くない。飲むとすぐに眠ってしまうのだった。
「しょーがないな」
席を立ち上がって、カウンターに向かう。
「梨華、起きろ」
肩を叩いたが反応なし。
「市井先輩、タクシー呼びましょうか?」
吉澤がすまなさそうな顔で言った。
「いや、大丈夫だよ」
「すいません、うちが渡したんです。ピンクのカクテルで、梨華ちゃ…石川先輩に似合うと思って」
「吉澤が謝ることないよ。飲むと決めて飲んだのは梨華自身なんだから」
しばらく梨華を眺めていた。そして、梨華の腕を自分の肩に回して立ち上がらせた。
「梨華、帰るぞ」
構わず体重を私の方にかけてくる梨華。吉澤が梨華の鞄やら上着やらを持って来てくれた。
「やっぱタクシー呼んだ方が…」
「駅近いから行けるって。矢口〜!圭織〜!私と梨華はこれで」
「あちゃー、酔い潰れた?全く梨華ちゃんらしい」
「お金はまた後日でいいから」
「わかった。んじゃ、またな」
バーを出て、すっかり暗くなった夜道を歩く。
- 758 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:19
- しばらく梨華を抱えて歩いた後。
「――─いい加減、寝たフリやめたら?」
私がそう言うと梨華は目を開いた。
「…バレてた?」
「吉澤は誤魔化せたけどな、私はずっと一緒にいたからわかるんだよ」
カウンターに突っ伏した梨華を見た時、何となくわかった。これは寝たフリだ、と。
それに梨華は確かに少し飲むだけで寝てしまうが、人が大勢いる場所だと酔えない体質だった。
「上着」
「ありがと」
梨華に上着を渡して、鞄も渡した。
「なーんで、寝たフリなんかしたんだよ」
二人並んで歩きながら私は言った。
「だって…」
「まぁ、予想はつくけど?吉澤が告白してきたとか」
私の言葉に梨華は驚いて立ち止まった。私も立ち止まる。
「…な、何でわかるの?」
「長い付き合いだから。梨華とも吉澤とも」
あの頃、吉澤が梨華を好きなのは誰もが見てもわかった。ただ梨華だけは気付いてなかったようだ。
…私の予想では、あの頃、梨華も吉澤を好きだった気がする。
「…私ね、さっきよっすぃーに…“ずっと前から好きです”って言われて…びっくりしちゃって」
私は黙って梨華の言葉に耳を向けていた。
「…実は私、高校の時…よっすぃーが好きだったの」
予想は的中していた。
「だから…言葉が出ないほどびっくりしちゃって。どうしていいかわからなくて、
お酒飲んでもいつもと違う雰囲気だから酔えないし…」
「っで、寝たフリをしたわけか」
私が言うと梨華は小さく頷いた。
「…梨華はどうなんだよ?」
「えっ?どうって…」
数歩前に行き、梨華の方を向いた。
「好きか?吉澤のこと」
そう聞くと、梨華は首を横に振って笑った。
「よっすぃーよりも好きな人、出来たから」
不思議なもんだ。
あの頃思っていた道とは違う道を今、歩いてる。
私も、梨華も。
「んじゃ、そいつは幸せな奴だな」
梨華に背を向けて夜空を見上げた。
「紗耶香は?いいの?ごっちんのこと」
梨華は隣に来て言った。
「あぁ。後藤よりも好きな奴見つけたから」
「ふふ、その人も幸せだね」
「だな」
手を繋いで、駅に向かって私達は歩き出した。
- 759 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:22
- でも、一つだけ気がかりなことがある。
あの二人は幸せになれるのだろうか。
私たちばかりが幸せになってしまうのはちょっと複雑だ。
『それって前に進めるの?お互いの気持ち閉じ込めてさ…』
矢口の言葉を思い出す。
「梨華」
駅のホームで電車を待っている時、私は決めた。
「何?」
「吉澤に返事、したのか?」
「ううん…してないけど」
手を握る力を少し強めて、梨華を見た。
「返事、ちゃんとしなよ」
「えっ…?でも、私は紗耶香が」
「わかってるよ。でも、返事した方がいいと思うんだ」
「…何で?」
「…前に進む為に。…みんなが前に進める為に」
「紗耶香…」
「私、伝えようと思う。後藤に。あの頃の気持ちと今の気持ちを」
今更って思ったけど。
自分を守る為に、謝りたいとかあの頃の気持ちを伝えたいとか思ってたけど。
それは間違ってた。
もし、あの頃の気持ちを今伝えなかったらどうなるか。
後藤はあの日のことを一生抱えていくことになる。
前には進めない。
吉澤だって同じだ。
梨華の気持ちがどうなのか、気になったままになってしまう。
私と後藤。
梨華と吉澤。
お互いが前に進める為に。
あの頃の気持ち、そして今の気持ちを伝えるんだ。
どうしてこんな大事なことに気付かなかったんだろう。
謝ることや気持ちを伝えることを自分勝手だと思い込んで。
「そうだね」
「あの頃の自分たちを終わらせて、今の自分たちを始めるんだ」
ねぇ、矢口。
あの時、言ってくれてありがとう。
もう、大丈夫だから。
- 760 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:40
- 同窓会から数日後のある日。
「じゃ、終わったら駅前の喫茶店で」
「うん」
私は後藤に、梨華は吉澤に連絡を取り、逢う約束をした。
そして今日が約束の日。天気はよく晴れていた。
通った高校がある故郷まで電車で行き、駅前で梨華とわかれた。
梨華はバスに乗って行き、私は線路沿いを歩いた。自分が高校生の時と変わらない風景。
こないだの同窓会では夜だったから風景があまり見えなかったから、ちょっと懐かしく感じた。
後藤の家と私の実家は意外と近くにある。15分くらい歩いてると実家が見えてきた。
今日娘が帰ってるとは知らないだろうから、私を見たら親はびっくりするだろう。
面白そうだけど今日は約束があるので実家には寄らず、横切った。
それからまた歩いて、着いた場所は学校。
後藤に電話し、逢う約束をした時に逢うなら学校がいいと後藤が言った。
「何も変わってないなぁ…」
校門を通り、学校の敷地に入る。懐かしさのあまり、頬が緩む。
…部室は、向こうか。
校舎の向こうに校庭があり、そこに部室がある。私はそっちに向かって歩いた。
今日は部活動がないのか、とても静かだった。
「あっ…」
部室が見えてきた。自然とバスケ部の部室に目が行く。扉の前に一人の生徒がいた。
そこにいたのは、私がかつて好きだった人。
「後藤。悪ぃな、休日に」
「別にいいけど…何?話って」
後藤の前までやって来た。
「ちゃんと伝えておこうと思って」
「…部室、入ろ」
後藤は部室の扉を開けて中に入った。私も続いて入る。
部室の中も自分がいた頃と変わっていなかった。大会での写真が飾られていた。
みんないい笑顔で写っている。適当に椅子に座り、後藤と向かい合う形になる。
「…ホントは伝えないでおこうと思ってた。でも、伝えないと前に進めないってわかったんだ。私も後藤も」
「前に…」
少し、間を置いて私は口を開いた。
「あの頃、私は後藤が好きだった」
真っ直ぐ、後藤を見た。
「市井ちゃん…」
久しぶりに聞く名前。
- 761 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:44
- 「あの雨の日…私は嘘をついた。矢口に聞かれて、照れくさくて…。後藤を追いかけなかったのは、
そのついた嘘があまりにも大きくて、怖くなった…後藤を追いかけて、逢うのが怖くなった…」
ついてはいけない嘘。
それは私の中で、あまりにも大きかった。
「今思えばバカだなって思う。追いかけて、違うって言えば良かったのに」
目を閉じて、あの時の光景を思い出す。
「…ごめんな」
ゆっくり目を開いて、頭を下げた。
「今更だけど、あの時、私は後藤を傷付けた。…ごめん」
謝って済むことじゃないけど。
「市井ちゃん。頭、上げてよ」
「…後藤」
「あたしも、何であの時その場から離れたんだろうって後悔してた。
市井ちゃんにバカって言っちゃって…。あの頃、あたしは市井ちゃんはあたしが好きで、
両思いなんだって勝手に思ってた…だからびっくりして。ショックだったんだと思う」
「…うん」
「自分でちゃんと気持ち、伝えてないのにそんなこと思っちゃって…だから、ごめんね」
今度は後藤が頭を下げた。そして、頭を上げて後藤は言った。
「あたしはあの頃も今も市井ちゃんが好きだよ」
同窓会で見たぎこちない笑顔じゃなくて、私が大好きだった笑顔を後藤は見せてくれた。
何だか心にぐっとこみあげてくるものがあった。
「…えへへ。やっと、市井ちゃんに言えたー。良かった〜」
「そうか…」
私は同窓会の時よりも上手く笑えていたと思う。
「後藤…ありがとう」
「…いちおー返事聞かして?」
「…うん。私は、後藤のこと大好きだった…でも今は梨華がいる。後藤よりも好きな人がいるから…ごめん」
後藤はしばらく黙って、「そっかぁ」と呟いた。顔は少し悲しそうだったけど、すぐに笑った。
「もう少し早かったらなぁ…何か不思議だよね。ちょっとすれ違うだけで、大きく道が変わっちゃうなんてさ」
「…そうだな。人生なんて、そーゆーもんだろ?何が起きるかわからない。未来の自分がどうなるのか、
ハッキリわかることなんてないんだから」
「じゃぁ、未来であたしと市井ちゃんがまた出逢うってこともあるかも?」
「あるかもしれないし、ないかもしれない」
「…むぅ。そこは“あるんじゃない?”って言ってよ」
「あはは、言わねーよ」
「絶対、出逢ってやる〜。梨華ちゃんよりもイイ女になって後悔させてあげるよ」
「そいつは楽しみだな」
これで、私と後藤は前に進める。
心の何処かにしまいこんでいた気持ちを、やっと伝えるべき人に伝えられた。
きっと二人は前よりもいい笑顔になれる。
- 762 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:48
- 「じゃ、そろそろ行くかな」
椅子から立ち上がる。後藤も立ち上がった。
「市井ちゃん」
「ん?」
ちゅ。
唇に柔らかい感触。
「ッ!?……お前なぁ」
「想い出。じゃ、梨華ちゃんによろしく」
「…あぁ。じゃぁな」
私は後藤に背を向けて、部室の扉を開けた。
振り返らずに外に出て、扉を閉めた。トンっと扉に背を預けた。
そして目を閉じた。
ごめんな…。
最後、後藤の目がうるんでいたのがわかった。
きっと今、中で泣いているだろう。
だけど今の私にはどうしようも出来なかった。
「後藤…ありがとう」
そう言って歩き出した。
前に、歩き出した。
駅まで戻り、駅前の喫茶店へやって来た。
梨華は自分を吉澤よりも好きだと言ってくれたけど、どうなるかわからない。
もし、梨華がやっぱり吉澤を選ぶのであれば私はそれでもいいと思っていた。
梨華が一番幸せになることを私は願っていた。
- 763 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:51
- 扉を開けると扉に結ばれていた鈴がチリンと鳴った。それと同時にコーヒーの匂いがした。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
店員にそう言われ、店の奥へ足を踏み入れる。すると思わぬことに梨華がいた。
「梨華…」
梨華は黙って微笑んでいた。私は梨華が座っているテーブル席へ向かい、向かい合う椅子に座った。
「意外に早く終わって」
「そうなんだ…」
「何か懐かしいよね、この喫茶店」
「あぁ。よく休日の部活が終わるとここに来て昼飯食ってたよな」
ランチメニューが安くて、しかも美味い。部活をやってる高校生にはもってこいの店だった。
「ご注文はお決まりですか?」
店員がやって来た。私はコーヒーを頼んだ。そして梨華が吉澤のことを話出した。
「告白の返事したよ。あの頃は好きだったけど、今はもう好きな人がいるからって」
「吉澤はどうだった?」
「最初は黙ってたけど、笑ってありがとうって言ってくれた。何かね、清々しい笑顔だったよ」
…これで吉澤も、前に進めるかな。
「でね、よっすぃーびっくりしたことにバイクの免許持ってて、ちょっと乗せてもらったの。
すごかったよ。ビューンって速くて」
きっと梨華を乗せたくて免許を取ったのだろう。なかなかやるなぁ。それから私は後藤のことを話した。
「えぇ?私よりイイ女になる?」
「うん。っで、私を後悔させるんだって」
「そんな。私も頑張らなきゃ!紗耶香が取られちゃう」
ガッツポーズを取りながら梨華は言った。そんな梨華を微笑ましく見ながら私は運ばれたコーヒーを飲んだ。
- 764 名前:違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある。 投稿日:2006/03/14(火) 15:54
- 「…良かったのか?」
「何が?」
「…その、吉澤を選ばなくてさ…」
最後の方は声が小さくなってしまった。梨華の顔を見ずに、コーヒーを見て、
意味もなくカップの持つとこを触っていた。するとガッと手を掴まれた。
「私は紗耶香が好きなの!もう」
梨華を見ると怒った顔をしていた。
「だからここにいるんじゃない」
「…うん」
「もうそんなこと言わないでね」
「わかった」
何だか嬉しくなって、笑った。
「帰ったら部屋探しに行こっか」
「あんまり大学から遠くないとこで―あ、猫とか飼えるとこ!」
「猫?ペット飼うの?大変じゃん」
「二人なら大丈夫だよぉ」
違う道を歩いたからこそ、得られるモノがここにある。
私はそれを一生、大事にしたい。
後藤、吉澤、梨華、私。
伝えるべき人に気持ちを伝えられた私たちは。
きっと、前に進める。
「陽当たりは大事だよね」
「ベランダ広いのがいい」
「近くに本屋あったら嬉しいな」
「ベッドはタブルが欲しいなぁ」
「家具も新しくしたい!」
「頼むからピンク色ばっかにすんなよ」
昨日よりも、いい笑顔になれる。
きっと――――
違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある 終わり
- 765 名前:作者。 投稿日:2006/03/14(火) 15:55
- 本日の更新、『違う道を歩いたからこそ、手に入れたモノがある』でした。
こんな組み合わせもあり、かな?
- 766 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/16(木) 01:35
- 更新お疲れ様デス。。。
『青春の日々を』は切ないですね。こういういちごまもイイですね。
全部面白かったです^^モテAの吉澤さんもステキですね(w
ワガママな松浦さんも好きです(w
最後の話は、珍しいいちいしでしたね。微妙にいちごまやいしよしがあったりして・・・。
いつもと少し違った組み合わせも新鮮でよかったです☆
- 767 名前:旅の始まり 投稿日:2006/03/16(木) 15:57
-
『旅の始まり』
登場人物:吉澤ひとみ
- 768 名前:旅の始まり 投稿日:2006/03/16(木) 15:58
- ある晴れた朝。
一人、部屋にいた。
足元には少し大きな鞄が置いてある。
小さなアパートの部屋は何もなく、ガランとしていた。
君と眠ったベットも、君と選んだテーブルも、君のお気に入りのカーテンも何もない。
そんな中で、窓から差し込む朝陽を見つめていた。
「大丈夫だよ。少しの間、旅に出るだけだから」
誰に言うわけでもなく、呟いた。
「だから、心配しないでね」
- 769 名前:旅の始まり 投稿日:2006/03/16(木) 15:59
- 君がいなくなって、半年。
長かったような短かったような。
時間は止まっているかのようで、ちゃんと動いていた。
「…じゃぁね」
荷物の鞄を持って、靴を履いて玄関の扉を開けた。
朝陽が自分を迎え、照らしてくれた。
“行ってらっしゃい、ひとみちゃん”
ふと、囁くようにその声が耳に届いた。
振り返ったけど、玄関に君はいない。
- 770 名前:旅の始まり 投稿日:2006/03/16(木) 16:00
-
「……行って来ます、梨華ちゃん」
笑って玄関の扉を閉めた。
その時、一瞬だけ笑って自分を見送る君が見えた気がした。
朝陽を見上げて、笑う。
さぁ、何処へ行こうか。
少しの旅が、始まる。
旅の始まり 終わり
- 771 名前:永遠 投稿日:2006/03/16(木) 16:03
-
『永遠』
登場人物:後藤真希 市井紗耶香
- 772 名前:永遠 投稿日:2006/03/16(木) 16:05
- 「ねぇ、市井ちゃん」
夜中―─時刻はもうすぐ二時になろうとしていた。
あたし達はベットで朝までの限られた時間を過ごしていた。
「何?」
「永遠って信じる?」
少し起き上がりながら隣にいる市井ちゃんを見た。
「…さぁ」
市井ちゃんは天井を見ていた。
「何、それ。一番曖昧な返事」
あたしは呆れてベットに横になった。
「後藤はどーなの?」
少し間を置いて市井ちゃんが言った。
そっと隣を見てみると市井ちゃんは変わらず天井を見ていた。
「あたしは…信じてる」
市井ちゃんと同じく天井を見上げてみた。
- 773 名前:永遠 投稿日:2006/03/16(木) 16:08
- 「…ふーん」
「またぁ…そーゆう返事…」
外から微かに雨の音が聞こえた。
静かな空間に雨の音が響く。
「…信じたい」
「えっ?何?」
いきなり言うもんだからびっくりして起き上がって市井ちゃんを見た。
「終わりがあるから始まりがある……」
「市井ちゃん…?」
「だから永遠を信じたい…ずっと一緒に…後藤といたいから」
言い終えると市井ちゃんはあたしを見た。
切ない、寂しい目をしていた。
- 774 名前:永遠 投稿日:2006/03/16(木) 16:09
- 「市井ちゃん…あたしはずっと一緒にいるよ…?」
だから、信じて?
あたし達の永遠を。
「後藤…」
そっと市井ちゃんにキスをした。
市井ちゃんがあたしを抱き締める。
「…信じてみる」
耳元でそう聞こえた。
「うん…」
朝まであとどれくらいだろう。
雨の音が止まないから、きっと今日は雨の日だろう。
どんな一日が待っているのだろう。
どんな一日にしても。
あたし達の愛は変わらない。
永遠に。
永遠 終わり
- 775 名前:ある日のファミレス 投稿日:2006/03/16(木) 16:12
-
『ある日のファミレス』
登場人物:後藤真希 吉澤ひとみ
- 776 名前:ある日のファミレス 投稿日:2006/03/16(木) 16:15
- ―――PM3:30 ファミレスにて。
出逢いは突然でさ、いや、ホントに突然で、びっくりしたんだって。
へぇ。何処で会ったの?
駅の南口にある花屋。こないだたまたま前を通ったらさ、花を整理していた店員さんとぶつかっちゃって。
それが…近所の憧れの人だったってわけ?
そう!もう、スゲーって思ったもん。だって、もう十年は逢ってないんだよ?
あのさー、そうゆうのってわかるもんなの?だって十年も逢ってないんでしょ?
子供から大人になったら結構変わるもんじゃない?
いーや、絶対あの人だよ!声とか顔とか、一致するし。
よっすぃー、今でも好きなんだ。
もちろん!だって、約束したんだよ。結婚しようって。
…結婚?そんな子供の時の約束なんて無理だよ、無理。
何でだよ。ちゃんと指切りして約束したよ。梨華ちゃんが破るわけない。
梨華ちゃんって言うんだ、その憧れの人は。
うん。石川梨華ちゃん。可愛い名前でしょ?
ちょっと、デレデレして笑わないでよ。気持ち悪い。
ひっでー。ごっちん、それはひどいって。
そんで?その梨華ちゃんには当然出逢ってから逢ったの?
何度か花屋には行ったんだけど…。
- 777 名前:ある日のファミレス 投稿日:2006/03/16(木) 16:19
- 怖くて中に入れず、話かけることも出来ない、と。あのさぁ…さっきの意気込みがあるなら入りなよ。
梨華ちゃんは約束、破らないんでしょ?
そうなんだけどさ…いざとなると、足が動かなくて。
全く。ヘタレだよね。
またひどいこと言う〜。
だってそうなんだし…あっ、電話だ。
市井さん?喧嘩してるんだよね?
絶対出てやんない。市井ちゃんが悪いんだもん。
確か、デートすっぽかしたんだっけ。
そう。しかも何してたと思う?あたしが電話したら寝てたんだよ!?有り得ない。
……電話、切れないよ?市井さんも必死なんだよ。
もう、知らない。それより、よっすぃーのことでしょ。そうだ、今からその花屋行ってみよっか?
あたしも見たいし、梨華ちゃん。
えぇ?今から?そんな心の準備が…。
そんなこと言ってたらいつまで経っても進まないじゃん!
あっ、ほら、メールだよ!ごっちん。きっと市井さんからだ!
話題反らさないでよ……。
見なよ。ねっ?
全く……わかった、見るよ。
…何て書いてある?
ごめんだって。今すぐ逢いたいだってさ…調子いいんだから。
愛されてんじゃん。ごっちんも市井さんに逢いたいんでしょ?
そりゃ…まぁ。
素直になりなって。
……じゃ、よっすぃーも素直になりなよ。今からあたしは市井ちゃんに逢いに行く、
よっすぃーは梨華ちゃんに逢いに行く。決まりね。
えっ!?でも…。
問答無用!結果はまた後日。じゃ。
ちょっと!ごっちん!……あーぁ、行っちゃったよ……あ!しかも自分のジュース代払わず行っちゃったよ…うちの奢りか…。
- 778 名前:ある日のファミレス 投稿日:2006/03/16(木) 16:22
- ――――数日後 PM2:43 ファミレスにて。
ごっちん、こないだのジュース代。
ってか、あれはよっすぃーが聞いてくれって言うからわざわざファミレスまで来たんでしょ?
奢られて当然なんかい!
ケチだなぁ。ヘタレの上にケチ…。
ケチ言うな。
あーぁ、よっすぃーってヘタレな上にケチなんだ〜。みんなに教えてあげよ♪
…脅し?
うん。
…はぁ、もう、いいや。
やった。よっすぃーって、心が広いなぁ。尊敬しちゃうよ。……ヘタレでケチだけど。
最後にボソッと言うな!
っで、どうだった?梨華ちゃんは。
うちが先?
あたしの方はよっすぃーの想像通り、仲直りしましたー。問題はそっちでしょ?
ごっちんの想像ではどうなってんの?
うーん、よっすぃーの今のテンションから見ると難しいんだよなぁ。
希望としては、意気込んで乗り込んだはいいけど梨華ちゃんにはもう恋人がいた。
当たって砕けちゃった、みたいな。もしくは人違いだった。
…何か、全く友達を応援してないような…むしろ面白がってるよね?
- 779 名前:ある日のファミレス 投稿日:2006/03/16(木) 16:24
- どっち?
もはやその二つだけかよッ!残念ながら上手く行きましたよーだ。
ちゃんとうちのこと、わかってくれたもん。本当に感動の再会だったね。
何だ。良かったね。
投やりな言い方だなー。
今度見に行こ。
お願いだから、うちのいない時に行かないでね。むしろ行かないで。
何言ってんの。友達として見る義務があるんだから。
いつ?いつ決まった?
今しがた。
今しがたって…そんな言葉普通使わないよ…。
あ、今から行こ。
はぁ?
善は急げってよく言うじゃん。
明らかに善じゃない!悪だッ!悪!
うっさいなー。よし、行こっ。
あ!ちょっと!……またうちが払うの!?待ってよ!ごっちん!
ある日のファミレス 終わり
- 780 名前:作者。 投稿日:2006/03/16(木) 16:29
- 本日の更新、『旅の始まり』『永遠』『ある日のファミレス』でした。
『ある日のファミレス』は会話文のみです。
>766 ミッチー様。
ありがとうございます。面白いって言葉が嬉しいです(^−^
作者はいちごま・いしよしが一番好きなんですが、いちいしも
結構好きです。これからもちょくちょく出てくるかも(w
- 781 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/17(金) 21:43
- 更新お疲れ様デス。。。
『旅の始まり』のいしよしも『永遠』のいちごまも何だか切ないですね。
吉澤さんと石川さんが、何で今一緒にいないのか気になりますね。
『ある日のファミレス』の会話文だけの話もイイ感じですね^^
2人が石川さんに会いに行った後どうなったのか考えるだけで面白いです(w
- 782 名前:雪降る夜に 投稿日:2006/03/21(火) 16:54
-
『雪降る夜に』
登場人物:後藤真希 吉澤ひとみ
- 783 名前:雪降る夜に 投稿日:2006/03/21(火) 16:58
- 「雪だ!雪!」
誰かの声で眠りから目覚める。この声はののだ。
今は移動中の車の中。
声が聞こえた方を見ると前の席の方でののとあいぼんが窓の外を見て騒いでいた。
「ごっちん、雪降ってるよ」
窓側の隣の席にいたよしこが言う。ぼんやりと窓の外を見た。
雪…。
雪が、降っていた。
今日は朝から気温が低くて寒かった。
天気予報で、雪が降るかもしれないとキャスターが言っていたのを思い出した。
「雪かぁ…」
車内では雪に気付いたメンバーたちが嬉しそうに喜んでいた。
「梨華ちゃんも見てるかなぁ」
窓におでこをくっつけてよしこが呟く。
今日の仕事は梨華ちゃんとは別々だからよしこは朝から寂しいと呟いてはため息をついていた。
するとよしこの想いが通じたのかよしこの携帯が鳴った。
「あ、梨華ちゃんからメールだ!」
満面の笑みで送られてきたメールを読むよしこ。
その横顔がホントに嬉しそうだったからほっぺたをつねってやった。
- 784 名前:雪降る夜に 投稿日:2006/03/21(火) 16:59
- 「痛ッ。何すんだよぉ」
「別にー。あんまりにもデレデレしてるから」
「梨華ちゃんも雪見てるって〜」
「あ、そう…」
ちょっと羨ましかった。
そうやって好きな人と一緒に雪を喜べることが。
鞄から携帯を出して、メール欄を見る。
最後にメールが来たのはいつだっけ。
保護をかけたメールを見る。
そのメールはもうずいぶん前のメールだった。
<ごめんね>
たった一行しかないメール。
それを見るだけで切なくなる。
- 785 名前:雪降る夜に 投稿日:2006/03/21(火) 17:01
- 「……ねぇ、よしこ」
「ん?何?」
「どっかで見てるかなぁ…」
名前を出さなくてもよしこには通じたのか、よしこは黙っていた。
「あたしと…ごとーと同じ雪、見てるかなぁ…」
窓の外を見る。
空から真っ白な雪が舞い落ちてくる。
ココロの中で呼びかけた。
“市井ちゃん”
「…見てるよ、きっと」
よしこが笑ってそう言った。
「…そっか」
あたしも笑った。
- 786 名前:雪降る夜に 投稿日:2006/03/21(火) 17:03
- その日は夜まで雪がずっと降り続いた。
家に帰る途中、夜空から降り注ぐ雪を見上げた。
携帯を取り出して、メールを作成する。
<雪が綺麗だよ>
最後のメールからずいぶん時間がかかった返信。
もう、あたし、大丈夫だよ。
大丈夫だから。
夜空に向けて送信した。
あたしの想いを。
この想い、届いてますように…。
- 787 名前:雪降る夜に 投稿日:2006/03/21(火) 17:29
-
雪降る夜に 終わり
- 788 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 17:32
-
『君が教えてくれた大切なこと』
登場人物:吉澤ひとみ 柴田あゆみ
- 789 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 17:34
- 何年ぶりだろう。
本屋でバッタリ会ったかつての恋人。
化粧とかピアスとかしてるけど。
笑顔は変わってなかった。
「久しぶり。ひとみ」
「ひ、久しぶり…あゆみ」
突然の再会だった。
久々に逢ったんだから、とお茶に誘われ近くにあるカフェに入った。
「何にしようかな〜」
メニューを見て何にしようか悩むあゆみ。その悩む姿を久しぶりに見たということもあって、
うちはあゆみをじっと見つめていた。
「ひとみは何にする?」
「へ?あ、あぁ…コーヒーで」
「んじゃ、私は紅茶にしようかな」
決まったので店員を呼んで注文をする。店員が立ち去った後、何だか妙に緊張して意味もなく
店内をキョロキョロしたり、足を組んだりしていた。
「…ぷっ」
いきなりあゆみが笑った。
「な、何?」
何でいきなり笑ったのかよくわからなかった。お腹を抱えて笑うあゆみはうっすら涙までも浮かべていた。
「ひー…お腹痛い…あははは!」
「何がそんなおかしいの?」
「だって…すごい落ち着きないんだもん。キョロキョロしてさ」
「だってさ…」
久しぶりなんだから、仕方ないじゃんか…。
- 790 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 17:51
- あゆみとは高校二年の時、出逢った。
クラスが同じで、偶然、隣同士の席になった。
それから話す機会がどんどん増えて仲良くなった。
「髪、黒に戻したんだね」
「え、あぁ…うん」
今のうちの髪は黒。だけどあの頃は校則違反で金髪にしていた。
そんな髪してるし、言葉遣いも結構悪かったから、うちに話しかける人はあまりいなかった。
たぶん怖いと思われていたんだろうけど。確かにちょっと荒れてるとこはあったし。
けど、あゆみは違った。うちのことを怖がらず、笑顔で接してくれた。
その笑顔が荒れていたココロをちょっと癒してくれた。
「金髪、綺麗だったのに」
「…まぁ、ちょっとね。気分転換」
あの頃のうちは一部の女の子に結構モテていて、来る者拒まずに告白されたらすぐ付き合って、
時には二股かけたりしてた。あゆみはそんなうちを見て、悲しそうな目をして。
『間違ってるよ、ひとみ』
その言葉がココロに鋭く突き刺さった。苦しかった。
息が出来ないほど、苦しかった。
わかってた。
そんな大して恋愛も出来ないうちが。
素敵な恋愛を夢見てる女の子たちと適当に付き合ってることが間違ってる、と。
自分の欲求だけの為に、キスして、抱いていたことを。
「ふーん、気分転換ね」
「あゆみ、何か大人っぽくなったね」
きっと、たぶん誰かに止めて欲しかったんだと思う。
あゆみはうちを止めてくれた。そして優しく抱き締めてくれた。
それがどんなに暖かかったことか。一生忘れられないぬくもりだった。
それからうちは付き合ってる子たちと別れた。そしていい加減な付き合いは止めた。
荒れてるココロはどんどん収まって、普通に友達も増えた。
- 791 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 17:56
- 「そう?まぁ、ちょっと大人っぽくね。…ひとみって、今何してるの?」
「ライヴハウスでバイトしてる。あゆみは大学生だよね、確か」
あゆみとの距離は縮まって、付き合うようになった。
うちはあゆみを大事に大事にしていた。毎日が楽しかった。
恋愛ってこうゆうのなんだってちゃんと感じた。
初めてキスをしたのは、付き合い始めて一週間が過ぎた頃。場所は放課後の教室だった。
あゆみが委員会に行っていて、うちが教室で待っていた。待ってる間にいつの間にか眠ってしまい、
起きたら目の前にあゆみがいてびっくりした。
『…あゆみ、終わったの?』
『うん』
『起こしてくれればいいのに』
『寝顔、見たかったから』
窓の外の空はもうすぐ日が沈む。
寝顔、見たかったからと笑って言うあゆみが可愛くて立ち上がって抱き締めた。
抱き締める瞬間、すごく緊張した。
抱き締めたら壊れちゃうんじゃないかってくらい怖かった。
『ひとみ…心臓速いよ?』
『しょーがないじゃん。緊張してるんだから』
自分の心臓がバクバクしてて、恥ずかしかった。
『…キス、しよ』
しばらく沈黙が流れて、ポツリとあゆみが言った。
『いいの…?』
『いいに決まってるでしょ。好きなんだから』
すっかり暗くなった教室で、うちらは初めてキスをした。
「うん。結構楽しいよ、大学も」
「そっか」
うちらが別れることなんて無いと思った。
だけど、別れは突然やって来た。
- 792 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 17:59
- あゆみは高校三年の春に転校してしまった。転校のことを聞いた時、ショックだった。
大袈裟かもしんないけど、この世の終わりみたいな、絶望的な感じだった。
親の仕事の都合だから仕方ない。でもうちは子供みたいに行かないで欲しいと言った。
高校生でも一人暮らしは出来る、寮だって近くにある。何ならうちの家に来ても構わない。
それでも、あゆみはこの街を去ることを選び、そしてうちと別れることを決心した。
『…ひとみはもう大丈夫だよ。それにね、私、離れても付き合う自信ないんだ。ごめんね』
その強い決意に、うちは何も言えなかった。
こうしてあゆみは転校して、うちらは別れた。見送りには行かなかった。絶対泣いちゃうから。
そして卒業間近に、一通の手紙が届いた。あゆみからだった。本命の大学に合格したという報告だった。
それと楽しく過ごしているということも。おめでとうと、ついでにこっちも楽しくやってるという返事を出した。
「今日は、何となくこの街に来てみたくなったんだよね」
「ふーん。うちに逢いに、とか?」
「バカ。自惚れんなぁ」
そして、現在に至り。
今日、突然の再会をした。
- 793 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 18:02
- それからあの頃のように他愛もなく話をしていたら、外は暗くなり始めていた。
カフェを出て歩いていたら、雨まで降って来た。上着を脱いで傘がわりにして、あゆみをその上着の中に入れて走った。
駅の屋根がある場所までやって来たけど、二人ともずいぶん雨でびしょ濡れになってしまった。
「このままじゃ風邪ひくよ」
自分はともかく、髪も服もびしょ濡れのあゆみが今から電車で帰ったら完璧に風邪をひいてしまう。
早く乾かさないと―――。
考えていると、当然あゆみがうちに抱きついた。
「…帰りたくない」
うるんだ瞳でうちを見上げる。
心臓が速くなった。
この瞬間、うちは完璧に理性を失った。
気付けばホテルにうちらはいた。
あゆみがシャワーを浴びてる間、うちは少しづつ冷静さを取り戻していた。
…何やってんだよ、うちは。
携帯を見ると何件も着信履歴が。メールも来ている。
それは全て、今の恋人からのもの。
「はぁ…」
自己嫌悪に陥りながら、あゆみが上がって服が乾いたらすぐに帰ろうと思った。
「上がったよ」
バスローブを着たあゆみがやって来た。
「暖まった?」
「うん。ひとみも入ったら?」
「うちはいいよ」
「ふーん…」
とりあえず服を乾かす為に、服を脱いでバスローブを着ている。
…早く乾かないかな。
そう思いながら、ぼんやりしているとあゆみはベットに寝転んでいた。
- 794 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 18:04
- 「ねぇ、ひとみー」
「んー?」
「ちょっと来て」
何事かと思いながら座っていたソファから立ち上がりあゆみに近付いた。
「何?」
「…今日は帰る気ないから」
「へ?」
「ホントはひとみに逢いたくて来たの」
起き上がり、抱きつかれる。
「あゆみ…」
「…好き」
ゆっくりキスされた。懐かしい感触。
あゆみの手がうちの首に回されて、角度を変えて何回もキスされる。
「…だ、駄目!ストップ!」
慌てて身体を離した。
「…うちさ、今付き合ってる人がいるんだ…だから…出来ないよ」
確かにあゆみのことは好きだったけど、今、本気で好きな人がいるから。
「…いいよ、それでも」
びっくりした。あゆみの言葉に。
“いいよ、それでも”
「なっ…何言ってんの」
「いいって。ね?お願い」
何か違う。
あゆみはそんなこと言う人じゃないよ。
- 795 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 18:06
- あゆみは着ていたバスローブを脱いだ。綺麗な身体が露になる。
「…ひとみ、好き…」
頬、唇、首筋に口付けされる。
違う。違う。違う。
こんなの、間違ってるんだって。
『間違ってるよ、ひとみ』
あの時、言われた言葉を思い出す。
うちはあゆみの身体を抱き締めた。
そして、あの時言われた言葉を今度はうちが言った。
「間違ってるよ、あゆみ」
- 796 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 18:09
- あゆみはうちの腕の中で黙った。
「あゆみはうちに言ってくれたよね。うちがいい加減な付き合いをしていた頃。それは間違ってるって」
「…うん」
「だからこれも間違ってる。うちには今、大切な人がいる。だから…」
あゆみが教えてくれた大切なこと。
本気で人を愛すこと、いい加減な付き合い方はしないこと、大切に大切にすること。
それに背くことは出来ないよ。
「…ごめん。そうだね…間違ってるよね…」
あゆみの肩が震えていた。
「私もね…今、恋人いるの…昨日ケンカしちゃって…嫌になって…気付いたらこの街に来てて、
ひとみに逢いたくなって…そしたら本屋に入っていくひとみを見つけて…」
声も震えてるのがわかった。うちは黙って聞いていた。
「ごめんね…ッ…ごめッ…」
謝りながら、泣き出すあゆみをうちは強く、優しく抱き締めた。
「すぐに仲直り出来るよ。だってあゆみは大切なこと、ちゃんとわかってるもん。ね?」
大丈夫。
あゆみは大切なことわかってる。
うちも忘れてないから。
- 797 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 18:10
- それから、乾いた服を着て、うちらはホテルから出た。
もう雨は上がっていた。駅まで、二人は黙って歩く。
「ありがと」
駅の入口であゆみが言った。うちの好きだった笑顔で。
「私、たぶん忘れかけてた。大切なこと」
「ん。ちゃんと恋人のとこに帰るんだよ」
「何か昔と立場が逆転しちゃったね」
「そーだね」
「…良かった。ちゃんと思い出せて。ひとみのおかげだよ」
「忘れちゃ駄目だよ?」
「うん。じゃ、行くね。バイバイ」
笑顔で手を振るあゆみ。そして駅の中へ入って行く。
きっと、もう出逢うことはないだろう。
「さてと…」
駅に背を向けて歩き出した。
自分が帰るべき場所へ。
- 798 名前:君が教えてくれた大切なこと 投稿日:2006/03/21(火) 18:12
- 携帯を取り出して電話をかけた。
『ちょっと、何処にいるのよ。本屋行くって言ってずいぶん長いじゃない』
大切な人の声が聞こえる。
「…梨華ちゃん」
『何?』
「――愛してるよ」
今、本気で恋愛してる。
二度目の本気の恋愛。
大切なことを忘れないで。
好きな人を愛する。
『も、もう。早く帰って来てよ』
「うん。ダッシュで帰るよ」
雨上がりの夜道を走った。
帰るべき場所は愛する人の傍。
君が教えてくれた大切なこと 終わり
- 799 名前:作者。 投稿日:2006/03/21(火) 18:23
- 本日の更新、『雪降る夜に』『君が教えてくれた大切なこと』でした。
>781 ミッチー様。
『旅の始まり』で何故石川さんがいないのかはご想像にお任せします(w
『ある日のファミレス』のあの後はきっと後藤さんが冷やかしに行ったんでしょうねぇ。
- 800 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/22(水) 04:07
- 更新お疲れ様デス。。。
いちごま切ないですね。
吉澤さんと柴田さんの組み合わせ初めて見ました。
吉澤さんは誰とでも似合いますね。1番好きなのは石川さんとの組み合わせですが(w
本気の恋愛ってイイですね^^
- 801 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 14:31
-
『素敵な関係』
登場人物:後藤真希 市井紗耶香 吉澤ひとみ 高橋愛
- 802 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 14:33
- 高校二年のバレンタインデー。
何故かあたしは女の子にモテていて、この日もたくさんのチョコを貰った。
それが、いけなかった。
あたしの机にはどっさりとチョコを包んだ箱たちが置いてあった。
それが、いけなかった。
あたしはこの教室にある人物を呼んでいた。
それが、…いけなかったんだ。
そのせいである誤解を作ってしまった。
『後藤〜何だよ、こんなとこに呼び出して』
あたしの好きな人――市井ちゃん。いっこ年上の先輩。
『うわわ、すっげーチョコの山!何で後藤ばっかモテんだよ』
あたしが貰ったチョコの山を見て市井ちゃんは嫌な顔をした。
『市井ちゃんだって…モテてるじゃん』
『全く!チョコだって友達の矢口に貰ったぐらいだし』
あたしの手にはチョコの箱が握られていた。
昨日の夜に一生懸命作ったチョコ。もちろん市井ちゃんに渡す為に。
ドクン ドクン ドクン。
心臓の鼓動が速くなる。
『い、市井ちゃん!あげるよ!』
そう言って差し出したチョコ。
『はぁ?それ何だよ、同情か?んなもんいらねーよ』
違うのに、市井ちゃんの為のチョコなのに。
『ったく、んなことの為に呼び出し?もういい、帰る』
あたしは一人、チョコの箱を握り締めて教室に残った。
――違うのに。
『うっ…うぅ…ッ…』
涙が、止まらなかった。
それから数日後。特にあたしたちは変わることなく、仲良しな先輩後輩でいた。
- 803 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 14:37
- 朝、学校へ行くと廊下に市井ちゃんがいた。廊下の窓から外を眺めているようだ。
「市井ちゃん、おはよ」
「あぁ、後藤。おはよ」
「何見てんの?」
あたしがそう聞くと市井ちゃんは何も言わず、また窓の外を見た。
あたしは市井ちゃんの隣に立ち、同じく視線を合わせてみた。
どうやら下の中庭を見ていたらしい。
「あっ…よしこじゃん」
そこには友達のよしこと知らない女子生徒がいた。
二人の様子を見てると、どうやらよしこが告白されたらしい。
「なーんで、吉澤がいいんだか」
自分があんましモテないからか、文句を言う市井ちゃん。
…市井ちゃんだって、ホントはモテてるんだよ?
ただ見た目というか、無愛想な感じが人を寄せ付けない感じだからみんな話かけにくいんだ、きっと。
「あれ、吉澤断ったみたい」
「ホントだ」
中庭を見ると、泣いてるのかうつ向いて走り去っていく女子生徒。
よしこはその女子生徒の後ろ姿を眺めて、見えなくなると歩き出した。
「もったいないなぁ」
結構可愛かったのに、と市井ちゃんは呟いて歩き始めた。
「…ってか市井ちゃん、無愛想だから駄目なんだよ」
あたしは市井ちゃんの隣へ小走りで追いかけ、言った。
「無愛想?」
「もっと笑顔を持たなきゃ。よしこみたいに」
「そっか…笑顔か」
しまった。アドバイスしてしまった。
無愛想だから誰も市井ちゃんに告白しないのに、そうじゃなくなったら…。
「よし。今日から笑顔絶やさず頑張ってみよ」
あたしのバカー!
ココロの叫び声は虚しく消えていった。
- 804 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 14:40
- 何てことをしてしまったんだ、あたしは。
このことを本気で後悔したのは数日後のことだった。
ある日の昼休みだった。
いつものように屋上でよしことお弁当を食べていたら市井ちゃんが走ってやって来た。
「市井ちゃん、どうしたの?」
「市井先輩?」
市井ちゃんは肩で大きく息をしていた。あたしとよしこは顔を見合わせて、何があったんだとびっくりしていた。
「聞いて、驚くな、よ」
まだ完全に息が整ってない状態で市井ちゃんは言った。その顔は笑っていた。そしてピースサイン。
「彼女、出来た!」
最初何を言ってるのかわからなかった。
「市井先輩、マジッすか?」
言葉が出ないあたしに変わってよしこが聞いた。
「おう。さっき告白されたんだ。一年の高橋って子に」
高橋…聞いたことある名前。確か下の名前は愛だったかな。結構可愛いって評判な。
「後藤にアドバイスされたじゃん。あれから頑張って爽やかな笑顔でいたら、ついに来た!」
ココロの中で何かが音を立てて崩れた感じ。
嘘…でしょ?
まさか、市井ちゃんに恋人が出来たなんて。
「後藤、私もモテる瞬間がやって来たんだ!これがもう少し早かったらなー。
バレンタインの時たくさんチョコ貰えたのにな」
市井ちゃんは報告し終えると軽やかに立ち去った。涙で視界がにじんだ。
「うちさ…何だかんだ言って、市井先輩はごっちんのこと好きなんだって思ってたよ」
よしこはそう言って、あたしの頭を優しく撫でてくれた。
あぁ、何てバカなことしたんだろ。
あの時アドバイスしたことが本当に悔やまれる。
- 805 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 14:43
- 午後の授業を終えるとだいぶ冷静さを取り戻せていた。それでもやっぱり元気は出ない。
「ごっちん…」
放課後、よしこと一緒に帰った。いつもは市井ちゃんも一緒だったけど。
下駄箱まで行く途中で市井ちゃんと高橋さんが仲良さ気に一緒にいるとこを目撃してしまった。
とっさによしこの後ろに隠れて、目を瞑った。
「何て言うかさ…諦めるべきなんだよね」
帰り道をトボトボ歩きながらあたしは呟いた。
「どうしようもないよね…もう、向こうに恋人出来たら」
また涙がにじむ。最近涙腺が弱くて困る。
「何で好きになっちゃったんだろー…」
ポンっと頭の上によしこの手が乗る。よしこを見ると優しい笑顔を向けてくれた。
「まだわかんないよ。市井先輩って結構気まぐれなとこあるしさ」
よしこは本当に優しい。
「全部望み捨てないでさ、ね?」
「…うん。ありがと」
暖かい手の温もり。何だかちょっと元気になれた気がした。
「うちさ、ごっちんと市井先輩の関係見てるの好きなんだよね。微笑ましいっていうか」
「あたしと市井ちゃんの関係…」
あたしと市井ちゃんの関係ってどんな関係なんだろう?
仲はいいけれど、よく一緒にいるけれど。
幼馴染みと言うには日が浅いし。親友と言うには、何か違う。
親友という言葉がピッタリ当てはまるのはよしこだし。
何なんだろう…あたしたち。
仲のいい先輩と後輩?
……わかんないや。
翌日の昼休み。屋上でよしことお弁当を食べていたら、びっくりしたことに市井ちゃんと高橋さんが来た。
「よっ!一緒に食っていい?」
全く、何でそんなこと言うの。高橋さん明らかにテンション低いじゃん。
市井ちゃんはあたしとよしこ返事を聞かず、近くに座った。高橋さんも座る。
「後藤、元気にしてた?最近会ってなかったからなぁ」
「うん…まぁ」
き、気まずい。何で市井ちゃんはこんな重たい空気に気付かないんだろう。
「そーいやさ、前に後藤と校庭の木に登って、落ちたよな。ほら、あの木。二人とも足滑らして、
私なんか後藤を助けなきゃとか思ってさー。後藤抱えて地面に落ちたし」
何であたしとの話なんかするの。
もう、市井ちゃんのバカ。
- 806 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 14:46
- そして放課後、あたしは高橋さんに呼び出された。
「もう、市井先輩と仲良くしないでくれますか」
涙目でそう訴えてくる高橋さん。
「私、ずっと市井先輩に憧れてて。でも後藤先輩がいるから、告白出来なくて」
「いや、あたしはただの友達だし…」
「そんなこと言ってホントは好きなくせに!」
ココロにグサッと来た。その言葉が。
「告白する勇気もないのに…仲良くて…私、不安なんです」
本気で市井ちゃんが好きなんだ、この子は。そりゃあたしなんかが仲良くしてたら嫌だよね。
「…わかった。仲良くしないよ」
何だかこっちまで泣きそうだよ。
「…諦めてください」
走り去る高橋さん。
別に告白する勇気がなかったわけじゃないよ。
言わせて貰えなかったんだよ。
――――もう、いいか。
教室に戻ると市井ちゃんが何故かいた。
「後藤、何処行ってたんだよ」
あたしの机の椅子に座っている市井ちゃん。教室は他に誰もいなかった。
あのバレンタインの時を思い出させるような光景だった。
「ちょっと呼び出されてた」
「まーた告白されてたか。相変わらずモテるな」
「…何か用?」
「あー、ほら後藤が見たいっつってたDVDがさ友達が貸してくれたから次の日曜にでも
うちに来ないかなって」
もう、離れるしかないんだ。
あたしたち。
「…もう、市井ちゃんとは遊ばないよ。ってか話かけないで、これから」
「何だよ、それ」
市井ちゃんは怒ったような口調でガタンと椅子から立ち上がった。
「言った通りだよ」
「…何か感じ悪いよね。私が彼女出来てからさぁ」
- 807 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 14:49
- 仕方ないじゃん。
あぁ、何か苦しいな。
「私に彼女が出来たぐらいで変わるような関係だったっけ?私ら」
そんな関係、望んでない。
「市井ちゃんにとってあたしって何!?」
ただの後輩?友達?
そんなの嫌だ。
「あたし――――市井ちゃんのことが好きなの!」
あたしは恋人でいたい。
「もう…何で彼女なんか作るんだよぉ…ッ!」
「ちょ…待てよ」
涙で歪んだ視界には驚いてる市井ちゃんがいた。
「私のこと、ただの先輩として見てたの後藤の方じゃなかったのかよ」
「え…?」
「あのバレンタインの日。後藤に呼び出されて嬉しかったんだよ?結構期待してたのに…
あんな形で踏みにじって…」
「違う!あれは本命だったんだよ!?あたしが市井ちゃんの為に作ったチョコだったんだよ!
…そりゃ、誤解されて仕方ない状況だったけど」
あれ、あたしたち。
まさか…。
「…何だよ。ってことは私ら両想いだったわけ?」
そんな、まさか。
こんなことって。
「でも…今更だな」
「…そうだね」
…苦し過ぎるよ。
「じゃーな」
全然、かみ合わない。
すれ違ってばかり。
一人、教室で泣いた。あのバレンタインの時のように。
こうゆう、運命だったのかな―――。
全部終わっちゃったんだ。
- 808 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 14:52
- 帰り道。部活を終えたよしこと一緒に歩く。
あたしはさっきあったことを全てよしこに話した。もう涙は乾いていた。
「そっかぁ…大変だったね」
そう言ってよしこはポンポンと軽く頭に手を置いてくれた。
「…今までたくさん楽しいことあったんだ…市井ちゃんとくだらないことで笑ったり、遊んだり…」
あれ、また涙が溢れてきた…。
「先輩と後輩…友達のままでも楽しいことあったのに…もう、市井ちゃんと一緒にいれないなんてぇ…」
涙を流しながらすっかり暗くなった空を見上げた。
「こんなんなら…好きにならなきゃ良かったかなぁ…」
浮かんでくるのは市井ちゃんの顔ばかり。笑った顔、怒った顔、意地悪な顔、優しい顔…。全部大好き。
なのに…離れなきゃいけないなんて。
こんな気持ち、知らなきゃ良かったよ。
「…そんな悲しいこと言うなよ」
よしこを見るとちょっと悲しそうな笑顔だった。
「…人を好きになる気持ちに、後悔なんてしなくていいんじゃないかな」
「よしこ…」
そっか。後悔なんてしたら悲しいもんね。市井ちゃんを好きになれた気持ち、大切にしなきゃ。
せっかく、自分がした恋愛なんだから。
「よしこは何で恋人作らないの?好きな人いないの?」
あたしがそう聞くと、よしこは笑って首を横に振った。
「いーの。うちは。好きでも両想いになりたいとかじゃないから。
好きな人が幸せであればそれでじゅーぶんさ」
「そっか…」
よしこはすごいなと思った。
市井ちゃんが幸せなら、あたしも幸せ。
そうなれたらいいなぁ。
二人で帰り道を歩きながら、あたしはずっとそうなれたらいいと思い続けていた。
- 809 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 14:56
- 数日後の昼休み。
「ごっちーん。屋上行こ」
「あ、うん」
鞄からお弁当が入った小さな手提げを取り出す。
「今日は唐揚げ〜♪」
「いいなぁ。一個ちょうだい」
「いくらよしこの頼みでもあげませーん」
教室から出ようとすると市井ちゃんが走って現れた。かなりびっくりした。
「フラれた…」
暗い顔して一言。
フラれた…。
「えぇ!?」
「市井先輩、上手く行ってたんじゃ…」
よしこが言うように上手く行ってたと思ってたのに。
「最悪だよ。最初から好きでも何でもなかったんだってー…」
げんなりした市井ちゃんはガックリと肩を落としていた。
嘘だよ…だって。
『もう、市井先輩と仲良くしないでくれますか』
高橋さんこう言ってたもん。
「市井ちゃんっ。ちゃんと確かめたの?」
「もういいや。面倒だし」
「…よしこ、市井ちゃん頼む」
「へ?ごっちん?」
あたしは廊下を走った。もちろん行く先は高橋さんのとこ。
廊下の窓から中庭に高橋さんがいるのが見えた。ベンチに座ってうなだれている。
あたしは階段を降りて中庭に走った。
「高橋さん!」
あたしがやって来ると高橋さんはびっくりした顔で顔を上げた。
「後藤先輩…」
「ハァ、ハァ…つ、疲れた…」
ドカッと高橋さんの隣へ座る。かなり息が上がっていた。
「ふぅ…っで、いきなり本題に入るけど。何で別れたの?」
呼吸を整えて聞きたい質問をぶつけてみた。高橋さんは下を向いて黙っていた。
両手はギュッと拳を握って、膝の上に。長い髪のせいで顔が隠れていて表情が見えない。
「…あたし、市井ちゃんと離れる決心したんだよ?」
そう言いながら高橋さんの顔を覗き込んでみた。
「……違うんです」
高橋さんの表情は泣く寸前だった。声も震えていて、今にも消えそうな感じだった。
…何が違うんだ?わけがわからないよ。
「私…別に市井先輩が好きじゃないんです…」
「う、うん…」
「ただ……羨ましかっただけなんです…」
はい?
羨ましかった?
「…後藤先輩と市井先輩が羨ましかった…二人とも、学年違うのに親友みたいに仲良くて…
いつも一緒にいて…暖かい雰囲気がいいなって…」
静かに泣きながら高橋さんは言った。
「後藤先輩は…市井先輩にしか見せない笑顔があって…何かいいなって…私もそんな風になりたいって…」
「だからあたしから市井ちゃんを取ったの?」
- 810 名前:素敵な関係 投稿日:2006/03/24(金) 15:01
- きっと高橋さんには心を許せる人が傍にいないんじゃないかと思った。
あたしが市井ちゃんに向ける笑顔は心の底から市井ちゃんを信頼してるからこそ向けられる笑顔。
よしこに対してもそうだけど。
「…はい…ごめんなさい…」
泣く高橋さんをあたしは抱き締めた。
あたしと市井ちゃんの関係が羨ましかった。
だから好きでもない市井ちゃんに告白してあたしから市井ちゃんを取った。
それから付き合っても、違うってわかってたんだろうね。
こんなことしても高橋さんが望んでいた関係は作れないって。
「そっか…うん、わかったよ」
「ごめんなさい…」
「もう謝ったんだから何回も謝らなくていいよ」
「でも…私、ひどいことした…」
「いいんだよ」
ギュッと強く抱き締める。
「ねぇ、高橋さん」
「…はい」
「―――あたしと、友達にならない?」
日曜日。あたしは市井ちゃんの家に来ていた。
ちょっと、いやかなり緊張気味。
「そうゆうことだったのか…何だよ、私にホントのこと言ってくれれば良かったのに」
高橋さんのことを話したら市井ちゃんは苦笑いして言った。
…ってか、あたしはもう一度告白した方がいいのかな…。
そのことで昨日から頭がいっぱいだった。結局高橋さんは市井ちゃんのこと好きじゃなかったわけだし、
結局あたしたち両想いだったわけだし。
「んじゃ、高橋とは先輩後輩を越えた友達になれたらいいな」
「うん…そうだね」
DVDをセットする市井ちゃん。
あぁ…どうすればいいんだぁ。
「…でも別れて良かった」
突然市井ちゃんがそう言った。
「私さ、やっぱり後藤じゃなきゃ駄目みたい」
くるっと振り向かれて笑顔で言われた。その笑顔がズキューンと胸にきた。
「バレンタインの時は悪かった。ごめん」
「市井ちゃん…あ、あたしもちゃんと早く誤解を解けば良かったし…ごめんね」
やっと、バレンタインの誤解が解けて、想いが通じた。
「後藤、好きだよ」
市井ちゃんが近付いて来て、優しくキスしてくれた。
何か、涙が出てくるよ。
「お前、泣くことないだろ〜」
「だって〜。幸せなんだもん」
市井ちゃんに抱きついて「大好き!」と叫んだ。
あたしたちの関係は先輩後輩越えた友達であり親友であり恋人である関係。
とっても素敵な関係。
素敵な関係 終わり
- 811 名前:始まりは些細なことだった 投稿日:2006/03/24(金) 15:03
-
『始まりは些細なことだった』
登場人物:後藤真希 市井紗耶香
- 812 名前:始まりは些細なことだった 投稿日:2006/03/24(金) 15:05
-
始まりは些細なことだった。
成績が悪くて補習を受けた。
補習が終わった頃はもう辺りは薄暗くなっていた。
「暗くいからなるべく誰かと一緒に帰れよー」
先生はそう言いながら教室を出ていった。そんな人数もいない教室が少し賑やかになる。
あたしは特に知っている人もいないので、帰ろうと席を立った。
「うわ、雨降って来た!」
「マジ?最悪じゃん」
「私、傘あるよ」
「あ、途中まで傘入れて〜」
一緒に補習を受けていた人達が騒ぎ出す。
あたしはそれを聞いて窓の外を見た。確かに雨が降っていた。
「走れば大丈夫じゃね?」
「走んの?」
「とりあえずバス停まで」
他の人達がバタバタ教室を出ていく。あたしはぼんやり雨を眺めていた。
…嫌だな、濡れるの。
傘も持ってないし、傘に入れてくれる知り合いもいない。
仕方なく濡れて帰ろうと思った。
下駄箱まで歩いて、上履きと靴を履き変えた。やっぱり雨は降っていた。
雨音が下駄箱に響く。
- 813 名前:始まりは些細なことだった 投稿日:2006/03/24(金) 15:08
- …何か強くなって来てるような。
次第に強まる雨。
「どうしよう……」
しばらく待っていれば止むかな。
入口付近で待ってみたけど雨は止むどころか弱まりもしない。
「しょーがない。行くか」
そう決心した時。
「うわ〜。すげぇ雨」
そう言いながら誰か来た。
あたしが使っている一年の下駄箱のとこから出てきたのではなく、
隣の二年の下駄箱のとこから出てきた。
先輩か…。
「あっ。もしかして傘ない?」
その先輩はあたしに気付いて話かけて来た。
「…はい」
「そっかぁ。んじゃ、一緒に帰ろ。傘持ってるから、ほら」
自慢気に鞄から折りたたみ傘を取り出す先輩。
「でも…」
「いいから。これだと当分止みそうにないよ?」
あたしは強く降る雨を見上げ、先輩の傘に入れてもらうことにした。
始まりはこんなキッカケだった。
- 814 名前:始まりは些細なことだった 投稿日:2006/03/24(金) 15:11
- 「私、市井紗耶香。二年」
「後藤真希…一年」
一つの傘に二人で入って歩く。やっぱり折りたたみ傘に二人が入るのはちょっとキツイ。
「こんな時間までどうしたの?」
「…補習です」
「あ、マジで?私も。成績やばくて。先生が補習出れば何とかしてやるって言ってくれてさ」
先輩はよく喋る人だった。あたしは相槌したり質問に答えたり。
久々に楽しいと思えた。
学校は好きじゃないけど、先輩となら楽しくなれるかも。
「後藤、道どっち?」
話してる内に名前を呼んでくれるようになった。
「右です」
「私は左だから。この傘持ってって」
「えっ、でも、先輩が濡れちゃいますよ。もともと先輩の傘だし、あたしは大丈夫だから」
傘から出ようとしたら、手を掴まれた。
「いいから。先輩の言うこと聞けって」
傘を握らされた。先輩が傘から出る。
「絶対返しに来いよ!私は二年三組だからな!」
そう言って先輩は雨の中走って行った。あたしはしばらく傘を持って呆然としていた。
“絶対返しに来いよ!私は二年三組だからな!”
こう言った時、すごく笑顔だった…。
「あはっ…」
また逢えるんだ。
これっきりじゃないんだ。
もしかして、先輩はそうしたかったんじゃないのかな。
雨の中、あたしは家に向かって歩き出した。
先輩の傘をさして。
始まりは些細なことだった。
始まりは些細なことだった 終わり
- 815 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:15
-
『期間限定のお付き合い』
登場人物:紺野あさ美 小川麻琴 高橋愛
吉澤ひとみ 石川梨華
- 816 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:18
- ガヤガヤと賑やかな教室。やっと六時間目が終わって、ちょっと解放感。
私は今週掃除当番ではないので机の中に入っている教科書やノートを出して今日家で勉強する教科だけを鞄にしまった。
「あさ美ちゃん!」
ふと目の前に友達の愛ちゃんが現れた。
「何?愛ちゃん」
愛ちゃんはズイッと私の方に顔を寄せる。その顔は何だか真剣だ。
「…あさ美ちゃんって付き合ってる人いないよね?」
ちょっと訛りが入った感じの質問。彼女は福井からこの高校へ入学してたいぶ経つけど
未だに訛りが取れない部分がある。でも入学当初よりはかなりマシになった。
最初逢った時は何を喋ってるのかわからなかったから。
「いないけど…?」
残念ながら私は恋愛というものに縁がないらしい。恋愛しなくても好きな人がいなくても不便ではないけど、
恋愛がどうゆうものか興味はある。
ってか愛ちゃん、顔近いよ…。
「ホント?」
「そんな人がいたらとっくに愛ちゃんに言ってるよ」
私がそう言うと愛ちゃんは嬉しそうに「良かったぁ」と言った。
彼女が一体何を言いたいかよくわからない。いきなり付き合ってる人はいるのか聞いてきて、良かったと呟く。
…駄目だ、予想出来ない。これは数学の問題より難しい。
「じゃぁ。恋人、欲しくない?」
顔をいっぱいに近付けて愛ちゃんが言う。
「……えっ?」
コイビト、ホシクナイ?
言われた言葉をもう一度頭の中で繰り返す。
「愛ちゃん…どうゆうこと?」
きっと、さっきの付き合ってる人はいるかという質問はこの質問に繋がってる。
でもさっぱり状況はわからない。
「あさ美ちゃんに逢わせたい人がいるんよ」
ニヤリと笑う愛ちゃん。急に私の腕を掴んで、何処かへ行こうとする。
私は慌てて鞄を持って、何が何だかわからないまま愛ちゃんについていく、
というか無理やり連れてかれている。
- 817 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:21
- 向かった先は違うクラスの教室。こちらのクラスも私と愛ちゃんのクラスと同様に賑やかだった。
「麻琴ー!」
私の腕を掴んだまま、愛ちゃんは大声で教室の中にいる人を呼んだ。
呼ばれた人は愛ちゃんに気付いて、何だかびっくりした顔をしてこちらへやって来た。
「愛ちゃん!」
「えへへ、連れて来ちゃった」
「連れて来ちゃったって…」
会話からすると“連れて来ちゃった”というのは私を連れて来ちゃったということらしい。
「あさ美ちゃん。コレ、小川麻琴」
「コレってヒドイ扱い…。小川麻琴です」
「あっ、紺野あさ美ですっ」
相手が自己紹介をするので反射的に私も自己紹介。
「逢わせたい人ってのは麻琴のこと。じゃ、私は部活あるからこれで!」
「あ、愛ちゃんっ。ちょっと待ってよ!」
愛ちゃんが行こうとすると慌てて小川さんが引き止める。
「麻琴、私が出来ることはここまで。あとは自分で頑張れ」
笑顔でバイバイと手を振りながら愛ちゃんは去って行った。私と小川さんが残る。
…どうすればいいんだろう。
一体何で私がここにいるんだろう。
「えっと…ここじゃあれだから、場所変えたいんだけど」
落ち着きのない小川さん。
「あ、はい…」
「時間とか大丈夫だよね?」
「今日は特に予定ないんで、大丈夫です」
「ちょっと待ってて。鞄取って来る!」
初対面だと同級生とわかっていても敬語になってしまう。やっぱり知らない人だと緊張する。
小川さんはダッシュして鞄を抱えて戻って来た。
「あれ、まこっちゃん!掃除当番はー?」
教室を出ようとするとそんな声が。
「ごめん!里沙ちゃんやっといて!」
小川さんはそう言った。すぐに友達の抗議が聞こえた。それに構わず小川さんは廊下を歩いていく。
「あの、いいんですか?掃除当番」
小川さんについていきながら聞いてみた。
「大丈夫。何だかんだ言って、やってくれる友達だから」
ヘラッと笑いながら小川さんは言った。
- 818 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:25
- 着いた場所は屋上。ちょうど夕方時なので空が赤く染まっていて綺麗だった。
屋上には私たち以外誰もいない。校庭ではソフトボール部が部活していた。
「ごめんね。いきなり」
小川さんはペコッと頭を下げた。
「いえ…でも、何で私が呼ばれたのかさっぱりで…」
「そうだよね…うん、ここまで来たならハッキリ言おう」
一体何を言われるのだろうか。ちょっと怖くなった。何か恨まれることでもしたのかもしれない。
「――――ずっと、好きでした!もしよかったら付き合って下さい!」
思考回路が一時停止した。
ピピッと巻き戻ししてみる。
『付き合ってる人いないよね?』
『恋人、欲しくない?』
『逢わせたい人がいるんよ』
愛ちゃんが言った言葉たち。
そして。
『ずっと、好きでした!もしよかったら付き合って下さい!』
あぁ、そうゆうことだったんだ。
やっと理解出来た。
ピピッと再生。
「……あの、紺野さん?」
不思議そうに私を見る小川さん。
「あっ、ごめんなさい。つい止まってしまって…」
そうだ。告白されたんだ、私。だから返事をしないといけないんだよね。
返事、返事。
「えっと…正直、私、小川さんのこと何も知らないし。付き合ってと言われても…」
付き合うってことはお互い、好きっていう感情があるわけで。私は好きだとか以前に初めて会う人なわけで。
付き合ってと言われても…困る。
「そっか…そうだよね…」
明らかに落ち込んでる声が聞こえた。
「…ごめんなさい」
沈黙が流れた。小川さんはうつ向いて何も言わない。こうゆう状況はどうしたらいいんだろう。
さりげなく立ち去った方がいいのかな、それとも落ち込んでるから何か励ましの言葉とか…でも私が落ち込ませたわけだし、
そんな励ましの言葉なんて言える立場じゃない。
「あのさ」
悩んでいるとパッと小川さんの頭が上がった。
「こうゆうのは、どうかな?」
「こうゆうの…?」
「付き合っていく中で、私を知ってもらうのは、どうかな?」
…付き合っていく中で、小川さんを知っていく?
「とりあえず一週間。それでも駄目だったら諦めるよ」
期限は一週間。それで私が小川さんを好きになれたら正式に付き合う。
それが小川さんの提案だった。私は小川さんの必死な顔に、NOとは言えず、頷いてしまった。
正直、不安だらけだった。
だって何も知らない人を一週間で好きになれるのか。
恋愛ってそんな短い間に出来るのか。
こんなこと初めてだから。
恋愛の参考書なんてないし。
「やったぁ!…じゃ、とりあえず一週間よろしくお願いします」
差し出された右手。夕陽に照らされた笑顔。
「よろしくお願いします…」
不安を抱えながら、握手を交した。
- 819 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:27
- その日の夜。愛ちゃんに電話した。
『なるほどねぇ…とりあえず、一週間か。麻琴も考えたなぁ』
まず、愛ちゃんが部活に行ってしまってからの出来事を話した。
「何か、すごく不安だよぉ」
勉強机の椅子に座ってため息をついた。勉強机には持ち帰った数学の教科書とノートと家に置いてある参考書が開いてある。
全く進んでない状態だった。
『大丈夫やってぇ。麻琴、いい奴だし』
「それはそうだと思うけど…」
話してみて悪い人ではないと思った。あの必死な顔と、私が提案に頷いた時の嬉しそうな顔。今でも忘れられない。
『麻琴ってさ、ずーっとあさ美ちゃんのことが好きやったんやよ。入学した時から』
「…えっ。ってことはもう一年以上も」
『そ。片想い。なかなか麻琴が動かないから、私が動いてみたわけ』
一年以上も片想い…。入学してから高校二年にかけて。すごいなぁ。
人ってそんなに人を好きになれるんだ。
『ま、頑張ってよ。応援してるから』
「う、うん…」
愛ちゃんの話を聞いてますますプレッシャーがのしかかった。そして電話を切って、深くため息。
これじゃきっと今日の勉強ははかどらないだろう。宿題は既に終わってるから、今日はもう勉強は終わりにしようと思って
開いていた教科書やノートを閉じて鞄にしまう。時刻はもうすぐ日付が変わる頃。明日も学校だから、
早く寝ようと洗面所で歯磨きをして部屋に戻りベットの中に入った。
「ふぅ…何か大変なことになっちゃったなぁ…」
期限は一週間。部活の仮入部みたいな、恋愛の仮入部。
…付き合う、か。
モヤモヤ考えてるとある重大なことに気付いてカバッと起き上がった。
「付き合うって何をすればいいの…?」
こうして始まった。
期間限定のお付き合い。
一週間後の私は。
どうなってるんだろう。
- 820 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:32
- あぁ、どうしよう。付き合うなんて具体的に何をしたらいいんだろう。
わからないまま、朝になった。
「あさ美、ちゃんと寝たの?」
制服に着替えて下に降りると洗濯籠を抱えたお母さんがいた。
「なかなか寝れなくて…」
きっと今日の私の顔は睡眠不足の顔をしているだろう。鏡を見たくない気持ちでいっぱいだ。
「勉強もいいけど、ほどほどにね」
てっきり勉強をしていて寝てないのだとお母さんは判断した。今までにそうゆうことがあったから、
そう判断したんだろうけど昨夜は違う。
…付き合うってどんなことをするのか、なんて聞けないよね…。
何か家族にそうゆうのを聞くのは恥ずかしい。かと言って自分で解決出来ることじゃないけど。
もぐもぐと朝食のトーストを食べながらそう思っていた。いつもの時間に家を出る。学校に向かう足取りは重かった。
学校が近付くにつれ、まわりに同じ制服を着た人が多くなる。
「あ、紺野ちゃん!」
と声をかけられた。その声は石川先輩の声。石川先輩は同じ図書委員会で、よく話す先輩。
…そういえば先輩、付き合ってる人いるんだよね。
付き合うって何をするのか。付き合ってる人がいる人に聞けばいいんだ。
「おはようございます。先輩」
「おはよー。この時間って結構人多いね」
「そういえば先輩はもっと早いんですよね、来るの」
「うん。よっすぃーが部活の朝練あるから、それに合わせて。でも今日はちょっと寝坊しちゃった」
残念そうに言う先輩。朝練に合わせて、学校に来るのかぁ。
学校の校門に入ったとこで私はあの質問を先輩にぶつけてみた。
「先輩、つかぬことお聞きしますが」
「うん。何?」
「付き合うって具体的に何をするんでしょうか?」
「付き合う…?私とよっすぃーのこと?」
「そうです。普段何をしてらっしゃるんですか?」
「普段…」
きっとこれで解決するに違いない。
ワクワクしながら待っていると、先輩の顔は赤くなっていた。
「そんな、私の口からは言えないよぉ!」
予想に反してバシッと背中を叩かれた。
そして先輩はきゃーと言いながら走って行ってしまった。
…そんなぁ。
せっかく解決出来ると思ったのになぁ。
- 821 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:36
- 肩を落としながら下駄箱まで来た。
靴を上履きに履き替えたとこでピタッと止まる。
思考回路一時停止。
ピピッと巻き戻してみる。
『そんな、私の口からは言えないよぉ!』
……口から言えないようなことなの?
それって一体何なんだろう?
私に出来るのかな?
「…あさ美ちゃん、止まってるよ」
「あっ…愛ちゃん」
「もうその癖直した方がいいってぇ」
「う、うん」
愛ちゃんと一階の廊下を歩いてると、体育館の方からジャージを着た人が走って来た。
その人は昨日私に告白をしてきた小川さん。
「麻琴。何してんの」
「いやっ、そのっ、もうすぐ紺野さんが来る頃かなって…」
照れながら笑う顔。可愛いと思った。
「はぁ、朝から熱いねぇ。私が応援するまでもないか。じゃ、先教室行ってるわ」
愛ちゃんはニヤニヤ笑って、そんなに暑くないのにパタパタと手で扇ぎながら歩いて行った。
「…えっと、おはよう」
「お、おはよう」
ぎこちない挨拶。
「…朝練ですか?」
「うん。今さっき終わったとこ」
「部活は…」
「バスケだよ」
「大変ですね」
「そうでもないよ。好きだから」
……。
沈黙。
「…そろそろ着替えた方が」
「あっ、やべっ。じゃ、また!」
小川さんはバタバタ走って行った。
……朝練。
石川先輩は付き合ってる人が朝練してるからそれに合わせて早く学校へ来ている。
つまり朝一緒に学校へ来てるってこと。
明日は何時に起きればいいかな。
教室へ向かいながら明日の起きる時間を考えていた。
――っで、昼休み。
いつもなら愛ちゃんと教室でお弁当を食べる、が。
「ほら、お弁当持ったら行く」
愛ちゃんが私にお弁当を持たせて背中を押した。
「ちょ、ちょっと?愛ちゃん?」
背中を押されて教室の後ろの入口までやって来た。慌てて振り返る。
「お迎え来てるから」
と、愛ちゃんは教室の入口を指差した。その指を辿ってみると。
「ど、どーも!」
小川さんが満面の笑みで立っていた。
「じゃ、私は部活の子のとこへ行くから」
愛ちゃんは笑って「ごゆっくり〜」と言いながら教室を出て行った。二人がその場に残る。
「天気いいからさ、屋上行こう」
「う、うん…」
付き合うということは一緒にお昼ご飯を食べるということ。頭の中でそうメモした。
- 822 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:42
- 天気がいいので、屋上は気持ちが良かった。ちらほら屋上で食べている人たちがいた。
適当な場所を見つけて座ろうとしたら。
「ちょっと待って!」
小川さんがごそごそポケットを探っている。取り出したものは青いハンカチだった。
それをコンクリートの上に広げる。
「どーぞ!」
「あ、ありがとう…」
そのハンカチの上に座る。小川さんは私の隣にあぐらをかいて座った。
二人でお弁当を広げて食べ始める。
「えーと…あのさ、あさ美ちゃんって呼んでもいい?」
「えっ…あ、はい」
「その敬語もやめよ?同級生なんだし…私のことは麻琴でもまこっちゃんでもいいよ」
「…じゃぁ、まこっちゃん」
やっぱりいきなり呼び捨ては出来ないので、そっちを選んだ。
私が名前を言うと小川さん―――まこっちゃんは嬉しそうに笑う。
…何か、犬っぽい。
ちょっと打ち解けた感じがした。
「あさ美ちゃんは図書委員なんだよね」
「あ、うん。知ってるの?」
「うん…やっぱ好きな人のことだから、さ…」
あ、照れてる。
「そっかぁ…」
いろいろ話してると向こうから誰かが近付いてきた。
「小川じゃん!」
「よ、吉澤先輩!」
確か、バスケ部のエースの人。愛ちゃんが一時期はまっていた人だ。
この学校で結構モテてる人で、石川先輩の付き合ってる人。
「何だよ、小川。彼女出来たんだ」
「いや、まだ仮になんですけど…」
「もー、よっすぃー!邪魔しちゃ駄目だよ」
石川先輩もやって来た。どうやら先輩たちも屋上でお昼ご飯を食べていたようだ。
「紺野ちゃん、まこっちゃん。ごめんね」
「オラァ、小川ぁ。何で報告しにこねぇんだよ」
吉澤先輩がまこっちゃんにヘッドロックをかける。まこっちゃんは苦しそうだった。
「紺野ちゃん。まこっちゃん、よろしくね」
石川先輩が私にだけに聞こえるように小声で言った。
「えっ?」
「まこっちゃん、ずっと紺野ちゃんのことが好きで。紺野ちゃん図書委員だからよく図書館にいるでしょ?
だから毎日ってほど図書館に本を借りに来たりしてたの。私、すぐにわかっちゃった。まこっちゃんは紺野ちゃんが好きなんだって」
「…何で好きってわかったんですか?」
まさかまこっちゃんが図書館によく来ていただなんてびっくりした。
でも、先輩は何でわかったんだろう。図書委員は他にもいるのに。
「だって、貸出を紺野ちゃんが担当してると嬉しそうに本持って来るんだもん。
違う人だったり紺野ちゃんがいない時はガッカリした顔するんだよ」
そうなんだ…。
私はまだ吉澤先輩にヘッドロックをかけられているまこっちゃんを見た。
「先輩!ギブ!ギブ!」
「まだまだぁ!」
そんなに私を…。
「私も二人にはくっついて欲しいな〜と思ってて。だから嬉しい。
よっすぃーも知ってて。二人で応援してたの」
「…そうなんですか」
またちょっとプレッシャー。
私はまこっちゃんを好きになれるのかな。
今は期間限定のお付き合いだから一緒にいるけれど。
もし、駄目だったら…。
まこっちゃんをを応援してくれてる人たちは悲しむんだろうな。
- 823 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:46
- 放課後、またまこっちゃんは教室の後ろの入口にいた。
「どうしたの?」
「えっと、掃除当番じゃないよね?」
「うん」
「一緒に帰ろうかなぁと思って。…っつっても部活あるから下駄箱までなんだけど」
あ、そっか。付き合うってことは一緒に帰るんだ。
「…私、図書館で待ってる。そしたら一緒に帰れるでしょ?」
「えっ、いいの?」
「うん」
何か付き合ってる感じかな?まだよくわかんないけど。
「じゃぁ、部活終わったら迎え行くね!」
「うん、頑張ってね」
右手をあげてまこっちゃんは走り去った。
「ほぉ、この分だと大丈夫みたいやね」
後ろから愛ちゃんが言う。
「愛ちゃん…そんな、わかんないよ」
好きになれるかなんて。
「あさ美ちゃん。もっと近付いていけばわかるよ」
愛ちゃんはそう言って部活に行った。
図書館に行き、適当に本を選んでいた。こうやってゆっくり本を選ぶ時間は最近なかったから楽しい。
いつもは貸出の当番でカウンターの方にいなきゃいけなかったから。
恋愛小説モノの本を選んだ。その本を持って、席に座る。どうしたら人を好きになれるんだろう。
好きっていうのも深い意味合いで。ページを開いて読んでみる。少しでも恋愛について知りたかった。
時間は過ぎて本を読み終えた時はもう六時近かった。
…うーん。
この本の物語は主人公がある日、一目惚れをして、だけどなかなか相手に想いを伝えることが出来なくて、
切ない片想いしていく物語。結末は想いを伝えることが出来たが、相手は海外へ行ってしまった。
「…でも両想いになれたんだよね」
二人は両想いになれた。主人公が好きになった人は主人公が告白した時、「ありがとう」と言ってる。
そして二人はキスをして――。
……き、キス?
そりゃ、恋人同士だからキスは当たり前。付き合うってことは、そうゆうことがあるってこと。
「えっ…あっ…どうしよう」
そんな、無理だよ、私。
混乱してると図書館にまこっちゃんが現れた。
「あさ美ちゃーん。遅くなってごめんね。片付けが終らなくて」
「あ、ううん。大丈夫」
「本読んでたの?」
「う、うん」
慌てて本を元の場所へ戻した。そして、二人で図書館を出る。
もう外は夜になりつつあって、廊下は暗かった。
- 824 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:49
- 「今日はね、ミニゲームしたんだ。一年チームと二年チームで」
まこっちゃんは楽しそうに部活のことを話してくれた。私の頭の中はまだ混乱してるけど、
ちゃんとまこっちゃんの話を聞いていた。
「吉澤先輩がいるから強くて強くて。でも、五回もシュート決めたんだ。連続で」
「すごいね〜」
「自分でもびっくりだよ」
下駄箱で靴に履き替えて、学校を出る。まこっちゃんの家と私の家は偶然にも同じ方向だった。
学校の廊下よりも暗い道。一人じゃ絶対歩けないと思った。
「…あの」
ふとまこっちゃんが言った。
「何?」
私が聞くとまこっちゃんは何だか言いづらそうな感じで私を見た。
ちょうど街灯の明かりの下で立ち止まる。
「…手、繋いでもいい?」
「えっ…」
無くなりかけていたさっきの混乱が再び始まった。
「嫌、かな」
寂しそうな顔。こっちまで寂しくなる。
そういえば前に愛ちゃんから借りた漫画にこんなシチュエーションがあった。
手を繋いで一緒に帰る、そしてわかれ際にキス。
……私は、まだ好きになったわけじゃ…。
「い、嫌ならいいんだ!ごめんね、変なこと言って。さ、帰ろう!今日の夕飯何かな〜」
まこっちゃんは明るく振る舞って先を歩き出した。私は一人その場に残った。
何なんだろう。今、すごく苦しい。この気持ちは何なんだろう。
好きになれない罪悪感?
それとも、初めてのことに戸惑ってる?
「あさ美ちゃん?」
「…まこっちゃん」
私、どうしたいんだろう。
「どうしたの?」
「…わかんない」
「へっ?」
「まこっちゃんのこと、好きなのかわかんない…」
言葉と同時に涙が溢れた。
中途半端な気持ち。
好きなのか、好きじゃないのか。
わからない。
「な、泣かないで、あさ美ちゃん。…ごめん、私が変なこと言ったからだねっ。ごめんね」
まこっちゃんが動揺しながらも優しく言ってくれた。
「謝ること、ないよ…」
「…ううん。ちょっと焦っちゃったかな」
優しく頭を撫でてくれた。
「ゆっくりいこう」
「ゆっくり…」
ちょっと、落ち着いた。
ゆっくりいこう。
ゆっくり近付いていこう。
「…うん」
涙を拭いて、笑って頷いた。
- 825 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:52
- 翌日。いつもより早く起きた。あの帰り道、二人で話し合った。
もっと二人でいる時間を増やそう、と。一緒にいなきゃ相手のことなんてわからない。
「あさ美。何だか嬉しそうね」
お母さんがお弁当を渡してくれた時言った。
「そう?」
「ニコニコしてるわよ」
「…行ってきまーす!」
昨日のまこっちゃんの言葉が私の気持ちを軽くしてくれた。
ゆっくりでいいんだ。
「まこっちゃん!」
朝の待ち合わせの公園の入口。まこっちゃんはもう来ていた。
「あさ美ちゃん。おはよう!」
「おはよう。ごめん、遅かった?」
「全然!私が早く来過ぎちゃった」
二人で一緒に学校へ行く。朝早いから、同じ制服を着ている人は見かけなかった。
「今日のお弁当に大好きなカボチャのコロッケが入ってるんだ〜」
朝からもうお昼の話をしているまこっちゃんが面白い。
「私もカボチャ好きだよ」
「ホント?甘くておいしいよね!」
昨日の気持ちが嘘みたいだった。何をそんなに悩んでたんだろう。
でも、未だに好きなのかはわからないけど。
学校に着くまで会話はずっと食べ物の話だった。
「何かあさ美ちゃん。今日明るいね」
只今、二時間目の現文。でも自習なので教室は少し賑やか。
「そうかな?」
出された課題をやりながら隣の席の愛ちゃんと会話。
「うん。昨日とはまるで別人のよう…麻琴と上手くいったってこと?」
「上手くいったというか…まだ気持ちはわかんないけど、まこっちゃんがゆっくりいこうって」
「麻琴らしい…」
愛ちゃんの手は完全に止まっていた。私は止まらないように手を動かす。
出された課題のプリントはなかなか難しい内容だった。
まこっちゃん何してるかな…。
ふと思い浮かぶまこっちゃんの顔。
「まーたニヤけてる」
「そ、そんなことないよっ」
昨日は感じられなかったわくわくする気持ち。
早く、お昼にならないかなぁ…。
何だか楽しくなってきた。まこっちゃんに早く逢いたい。
これって恋してるのかな?
- 826 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 15:57
- 期間限定のお付き合いを始めて四日が過ぎた。その間も変わらず、朝一緒に登校して、昼休みは一緒にお弁当食べて、
放課後はまこっちゃんの部活が終わったら一緒に帰るという繰り返しだった。
「…なーんか、それって友達の関係と変わらない気がする」
休み時間に愛ちゃんが私の話を聞いた後に呟いた。
「…まぁ、いいか。っで、あさ美ちゃんの気持ちはどう?」
「私の気持ち?」
「麻琴を好きになれたかどうかやよ。まさか忘れてた?」
ギクッ。
そうだ。つい楽しくて忘れてた。
「も〜、しっかりしてよぉ」
「…うーん。確かにまこっちゃんといるとすごく楽しいよ」
「…何か、こう切なくなるようなことはないの?」
愛ちゃんに言われて、考えてみる。
切なくなるようなこと…?
数日間を振り返ってみたけど、全く無かった。
「…無い、かな」
「そっかぁ。まぁ、一緒にいて楽しいなら大丈夫かな」
進展が欲しいけどね、と愛ちゃんは付け足して次の授業の準備をし始めた。
切ないこと、か…。
どうゆうことが切ないことなのか、今の私にはよくわからなかった。
「えっ?部活を見たい?」
昼休み。いつもの屋上でお弁当を食べ終わって、一息ついてる時に言ってみた。
“部活見に行ってもいいかな”って。やっぱりまこっちゃんのこと知らなきゃと考えた。
いつも教えてもらってばかりだから自分から知っていこうと。
「駄目かな…?」
「いや、いいよ!大歓迎!でもちょっと緊張する〜」
笑いながらまこっちゃんは言った。
そして放課後。私は体育館へやって来た。部活はもう始まっていて、邪魔にならないよう二階にある観客席の方へ向かった。
見えやすい位置に座る。観客席には何人か人がいた。
「集合〜!」
集合がかけられ部員が集まる。
「今からパス練習するから二人一組になって並んで!」
部長がキビキビと指示を出す。
あっ…いた。
まこっちゃんを見付けた。いつもとは違う真剣な顔をしていた。
「紺野ちゃん」
練習を眺めていると石川先輩がやって来た。
「先輩」
先輩は隣に座って、私と同じように練習を眺める。
「まこっちゃんを見に?」
「はい。どんな感じなのかなって…先輩は吉澤先輩ですよね」
「うん」
二人で眺めていると、今度はシュート練習になった。
吉澤先輩が綺麗にシュートを決めると観客席から歓声があがった。先輩もその一人。
…すごい。
観客席にいる人たちは「よっすぃー頑張って〜!」と応援している。
初めて学校で見る光景にびっくりした。
「吉澤先輩って、すごいですね」
「うん。こうゆうの最初はすごく嫌だったけど、慣れちゃった」
「こうゆうのって…他の人が吉澤先輩に歓声上げたりですか?」
「そう。それによっすぃーも優しいから手振ったりなんかしちゃって」
ホントだ。観客席に向かって手振ってる。
「さてと、図書館で勉強でもしようかな」
先輩は立ち上がった。そして去り際に一言残して。
「まこっちゃんも意外とすごいよ?」
何なのかよくわからなかった。が、それはすぐにわかってしまった。
- 827 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 16:01
- まこっちゃんがシュートを決めたら吉澤先輩とまではいかないけど歓声があがった。
「まこっちゃん頑張れ〜!」
「キャー!」
……。
何だろう、このモヤモヤした感じ。
他の人がまこっちゃんを応援する。
歓声をあげる。
―――何か、嫌だ。
気付いたら体育館じゃなくて、教室にいた。
変なの…私。
別にいいじゃない。他の人がまこっちゃんを応援したって。
「そうだよ…そんなの構わないじゃん」
誰もいない教室で一人呟いた。
それから部活を終えたまこっちゃんが慌てて私のとこへやって来た。
「どうしたの?そんな慌てて」
まだ制服もちゃんと着れてない状態のまこっちゃん。ブレザーのボタンなんか外れたまま。
「だってあさ美ちゃん途中でいなくなるし。心配したよ」
どうやら気付かれてたらしい。
「ごめんね」
「具合悪くなったとかじゃない?体育館、結構暑いから」
「大丈夫だよ」
まこっちゃんは私にすごく優しい。こうやって私のことをすごく心配してくれる。
他の人とは違う。特別なんだ。
「…あさ美ちゃん?」
自然と笑みが溢れた。
「何でもない。帰ろ?」
特別。
その言葉が何だか私を嬉しくさせた。
期間限定のお付き合いが始まって六日目。いよいよ明日が最後。
――という時に。
- 828 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 16:05
- 休み時間の時に次の授業が移動だった為、教室を出て化学実験室へ向かっていた。
教室がある校舎とは違う向かい側の校舎に行き、廊下を歩いていた。
廊下の窓からは教室がある校舎が見える。
あ、まこっちゃんだ。
私はまこっちゃんを見付けた。廊下で楽しそうに友達と話をしている。
…こっちに気付かないかなー。
なんて考えていた矢先、廊下を走っていた人がまこっちゃんにぶつかって倒れた。
「あっ…」
「何?どうかした?」
私の反応に愛ちゃんが気付いた。私はその光景を立ち止まって見ていた。
まこっちゃんはびっくりしてその倒れた人を立ち上がらせた。
すごく心配しているのがまこっちゃんの顔からわかる。それから倒れた人が足を捻ったのか、
怪我をしたのかよくわからないけどまこっちゃんの肩を借りて、歩き出した。
たぶん保健室へ行くのだろう。
「あさ美ちゃん?」
モヤモヤ。
またモヤモヤした感じ。
何か嫌だった。
「…もしかしてヤキモチ?」
愛ちゃんが言う言葉に私は強く反応した。
「ヤキモチ…」
「今、麻琴とあの子見てすごくモヤモヤしたでしょ?」
「うん…」
「そこまで変わってきてるんだよ。麻琴への気持ちが」
そっか…ヤキモチだったんだ。あの体育館の時も、今も。
ヤキモチ妬いてたんだ…。
モヤモヤして。苦しくなって。切ない。
他の人に優しくしないで。
他の人を心配しないで。
私だけを見て。
やっと気付いた。
ヤキモチと密かな独占欲。
「えっ、あ、あさ美ちゃん?何で泣いてんの!?」
すごく切ないよ。
切ないってこうゆう気持ちなんだ。
「…落ち着いた?」
授業には行かずに、私と愛ちゃんは屋上にいた。言わゆるサボりってやつ。
「…ごめんね」
一緒に授業をサボらせてしまった。でも誰かにいて欲しかったから安心していた。
「いいよ。泣いてる友達、放っておけないもん」
愛ちゃんは笑ってくれた。友達っていいなって素直に思えた。
ちょっと泣いたから頭がぼーっとしていた。
空は青い。何処までも青い。
- 829 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 16:07
- 「…何かさ、すごく嫌だったんだ」
青い空を眺めながら言った。愛ちゃんは黙っていた。
「まこっちゃんが違う人に優しくしてるのが…嫌だった。それがヤキモチってわかって
…独占したいってこともわかった」
遠くで鳥が飛んでいた。
「すごく切なかった…まこっちゃんがあの瞬間、遠くに行っちゃいそうで…」
あの鳥のように、遠くへ。
「怖かった…」
また涙が溢れそうになる。
「それが恋なんだよ」
愛ちゃんが私の肩を叩いた。
「ヤキモチ妬いたり、独占したいって思うようになったり。切なくて怖くなったり。
全部恋なんだよ。つまり、あさ美ちゃんは麻琴に恋してる」
私がまこっちゃんに恋してる。
いつの間にか、恋してたんだ。
「確信持てたね」
愛ちゃんは立ち上がって伸びをした。
恋をしてる確信。好きっていう確信。
「うん」
やっと人を好きになることがわかった。
「じゃ、後は本人へ伝えるだけ」
「えっ?」
「善は急げ、でしょ?メールしたからもう来るよ」
携帯を見せて笑う愛ちゃん。
その時、屋上の扉が開いた。
私が今、一番逢いたい人だった。
- 830 名前:期間限定のお付き合い 投稿日:2006/03/24(金) 16:12
- 「あさ美ちゃん!」
今にも泣き出しそうな顔でまこっちゃんがやって来る。
そして私の肩を掴んで「大丈夫!?」と言った。
「だ、大丈夫だけど…」
一体愛ちゃんはどんなメールを送ったんだろう。
「じゃ、後は二人っきりで」
愛ちゃんがヒラヒラと手を振りながら屋上を去って行った。
「良かったー…。いや、愛ちゃんがあさ美ちゃんが泣いてるってメールしてきて…」
心の底から安心したような顔をしてまこっちゃんは言った。
「まこっちゃん…」
「ん?あ、ご、ごめん」
まこっちゃんはパッと肩から手を離した。
何だか少し寂しい。確信したせいかな。
「…今日、言ってもいい?」
期間は明日までだけど。
「…わ、わかった。いいよ」
いつからこんなに好きになってたんだろう。
どんどん好きになっていた。
そっと、まこっちゃんに抱きついた。
「えっ…?」
「ずっと、一緒にいたい」
一週間だけじゃ足りないから。もっともっと一緒に。
「それって…つまり」
「好きってこと」
付き合うことがわからなかった。好きになることがわからなかった。
でも、わかったよ、今。
強く抱き締められる。戸惑いなんてなかった。
好きな人とこうしていられることがすごく嬉しかった。
「キス、していい…?」
「…うん」
どちらからともなく触れるキス。
そして笑い合った。
これからは一緒に手を繋いで帰ろうね。
期間限定のお付き合い。
期間は永遠に。
私たちはお付き合いを続いていく。
期間限定のお付き合い 終わり
- 831 名前:作者。 投稿日:2006/03/24(金) 16:18
- 本日の更新、『素敵な関係』『始まりは些細なことだった』『期間限定のお付き合い』でした。
>800 ミッチー様。
吉柴初めて見たんですか?あんまりないCPかもしれませんね(^−^;
作者は意外と好きです。でも柴田さんといえば大谷さんですが(w
それに吉澤さんといったら石川さんだし(w
- 832 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/26(日) 03:54
- 更新お疲れ様デス。。。
イイですねぇ^^すごくよかったです☆いちごまもありましたし(w
『期間限定のお付き合い』の話面白かったです☆
私は4期以降のメンバーの話はあまり自分から進んで見ないのですが、
読めてよかったです^^
- 833 名前:恋のチカラ 投稿日:2006/03/27(月) 16:23
-
『恋のチカラ』
登場人物:柴田あゆみ 大谷雅恵
- 834 名前:恋のチカラ 投稿日:2006/03/27(月) 16:26
- その日の私の気分は最悪だった。
課題のレポートは上手く行かないし、自動販売機で暖かいコーヒー買おうとしたら間違えて
冷たいコーヒー買っちゃったし、道で転ぶし、好きな人に彼女いるってわかっちゃったし、
雑誌に載ってた星座占いは最下位だったし。
何で、こんなに最悪なのよ!
むしゃくしゃしながら夜の街を歩いていた。
こうなったら今日は飲むぞと決めて、親友に電話した。
『柴ちゃん?』
「今から飲まない?ってか、飲むよ!」
『ごめん。今、ひとみちゃんがいるの』
「何よー。親友がこんなに落ち込んでるっつーのに恋人が大事なの?」
『ごめん。今日は無理。じゃぁね』
「ちょっ、梨華ちゃん!!……切れたよ」
ため息をついて携帯を切ってコートのポケットにしまう。
他の友達を呼び出すのも面倒なので適当にバーに入ってカウンターに座った。
「いらっしゃいませ。何にしますか?」
「何か適当に作ってよ」
バーテンダーに適当な注文をした。そしてまたため息をつきながら頬杖えをしていた。
ふと隣を見ると席一つ挟んで金髪のスーツ姿の人が座って一人でカクテルを飲んでいた。
…一人か。もしや仲間?ってか男?女?顔がよく見えない…スーツ着てるから社会人かな。
その人は時折、腕時計を見てはため息をついている。人でも待ってるのかなと思った。
にしても綺麗な金髪〜。あんなんにして髪傷まないのかな…。
適当に注文したカクテルを飲みながらチラチラとその人を見る。
「…あの、何か?」
チラチラ見過ぎたせいかその人が私を見た。私はびっくりして一瞬固まってしまった。
「えっ…あ、いや〜。すいません…一人ですか?」
「人を待っていたのですが…どうやらフラれたみたいで。かれこれ二時間も約束の時間から過ぎてるし」
二時間も待っているだなんて…私なんか三十分も持たないよ。
「そうなんですか。私も似たようなもんですよ」
私は笑って「あの、一緒に飲みませんか?」と誘ってみた。
するとその人は快く「いいですよ」と返事をしてくれた。
私は自分のカクテルと鞄を持って隣の席へ移動する。
「えっと…大谷雅恵です」
女の人なんだと思いながら自分も自己紹介をする。
「柴田あゆみです」
一夜限りの出逢い?何かカッコイイじゃんと思いながら私は今日あった最悪の出来事について話した。
大谷さんは黙って聞いてくれた。
- 835 名前:恋のチカラ 投稿日:2006/03/27(月) 16:29
- 「それは災難でしたね」
「全くね。嫌になっちゃうよ〜」
お酒のペースも速くなりちょっと酔ってる感じがする。
「大谷さんが待ってた人って好きな人ですかぁ?」
「まぁ…そんなとこです。でも彼女には既に恋人がいましたから。仕方ないんですけど」
悲しそうな笑顔。わかるよ、仕方ないよね。どうしよもないよね。好きな人に恋人がいたらさ。
「大谷さん!わかりますよ〜!」
バシバシと大谷さんの肩を叩く。
「無理ですよねー。恋人持ちの人に片想いだなんて。さ、今夜は飲みましょ〜!」
グラスを合わせて乾杯をする。
「柴田さんは好きな人に恋人がいるって気付いた時どうだったんですか?」
もう結構飲んでるのに大谷さんは酔った様子を見せない。
これはかなりお酒に強い方だなと思いながら返事を考えた。
「ん〜…ショックだったかな。でも、私の場合は好きな人と友達でもなかったしいつも遠くで見てる感じだったから。
引きずることはなかったかな。あ、駄目だこりゃ〜みたいな」
笑いながら話す。確かにショックだったけど、すぐに諦めついた。次の恋を探そうって前向きだし。
今では笑って話せることだ。
「そうですか…」
「大谷さんは〜?」
大谷さんを見ると何だか真面目な顔して正面を向いていた。
カッコイイなぁ…横顔。
キリッとした横顔につい見とれてしまった。
「…今でも、引きずってるんです。叶わない恋でもホントに好きで」
今、大谷さんのココロの中にはきっと好きな人が映ってるんだろう。
「…じゃーさ、その人は幸せもんだ!」
ヘラッと笑って私は言った。
「えっ?」
「だってそんなに大谷さんから愛されてたんだもん。幸せもんだよぉ」
私なんかそんなに人を好きになったことない。現に好きな人に恋人いたって気付いたらすぐにポイッと気持ち捨てちゃったし。
「幸せ、か…」
「そうそう。大谷さん、いい経験したじゃん!しばらく経ったらさ、また新しい恋を見つけなよ」
何か偉そうなこと言ってるのはお酒のせい。どれほど飲んだだろう。
結構テンションが高くなってる。
- 836 名前:恋のチカラ 投稿日:2006/03/27(月) 16:30
- 「…ありがとう、柴田さん」
「いーって!私も新しい恋見付けたいなぁ。どっかにいないかな。私を幸せにしてくれる人」
ため息をついてまたお酒を飲む。酔いを通り越して眠くなってきた。
「眠くなってきたぁ…」
「大丈夫ですか?そろそろ帰りましょうか」
立ち上がろうとする大谷さんの腕を掴んだ。
何だか、離れたくなかった。
きっと私たちは一夜限りの出逢い。
これでお別れ。
すごく、嫌だった。
「柴田さん…?」
「嫌…離れたくない…」
子供みたいにダダをこねる私。
優しく笑う大谷さん。
その笑顔が本当に優しかった。
- 837 名前:恋のチカラ 投稿日:2006/03/27(月) 16:32
- 気付いたら車の助手席にいた。隣を見ると大谷さんが運転をしている。
あの後の記憶がない。どうやら、眠ってしまったらしい。
「大谷さん…」
「あ、目覚めましたか?」
運転をしてるので真っ直ぐ前を見て大谷さんは言った。
「柴田さんの家は何処ですか?わからないから一応駅に向かっているんですけど」
やっぱり…お別れか。
ギュッと手を拳にしてうつ向いた。すると車が止まる。
顔を上げると車は道路の脇に止まっていた。
「柴田さん」
こんな子供みたいな私、嫌だよね。困っちゃうよね。
何も出来ずにうつ向いたまま黙っていると、そっと私の手に大谷さんの手が重なった。
「……見付けられそうです」
「…えっ?」
横にいる大谷さんを見ると、さっき見た優しい笑顔だった。
「新しい恋」
新しい恋…。
『また新しい恋を見つけなよ』
私が言った言葉。
「今夜、柴田さんに出逢えて良かった」
「嘘ぉ…」
涙が溢れてきた。
私も良かった。
今夜、大谷さんに出逢えて。
本当に、良かった。
- 838 名前:恋のチカラ 投稿日:2006/03/27(月) 16:35
- 「あれ、柴ちゃん。何か絶好調?」
大学の掲示板前で梨華ちゃんに逢った。
「まぁね〜♪」
あんなに上手くいかなかったレポートも無事に終わったので機嫌がいい。
今日の星座占いも一位だったし。
「何かあったの?」
「さぁ。こないだ私の飲みに行く誘いを断った梨華ちゃんには教えなーい」
「ひどーい!教えてよ〜」
騒ぐ梨華ちゃんを無視して授業の教室へ向かう。その途中、メールが届いた。
<午後6時頃、迎えに行きます。勉強頑張って下さい。 大谷>
自然と笑みが溢れた。
恋をすると不思議なことが起きる。
最悪な気持ちがどんどん晴れやかになっていく。
「もう、柴ちゃ〜ん。教えてよぉ」
「……ねぇ、梨華ちゃん」
「何?」
「―――恋って素晴らしいね!」
さぁ、今日も一日頑張ろう。
もう気持ちが沈むことはない。
私には素晴らしい恋を持っているんだから。
恋のチカラ 終わり
- 839 名前:手作りプラネタリウム 投稿日:2006/03/27(月) 16:37
-
『手作りプラネタリウム』
登場人物:吉澤ひとみ
- 840 名前:手作りプラネタリウム 投稿日:2006/03/27(月) 16:39
- ただ、四畳半を広げたかった。
閃いてからはすぐに行動開始。
本棚の片隅にあった小さい頃読んでいた科学の本を引っ張り出して、開く。
ちょっと埃っぽくてむせてしまった。
<プラネタリウムの作り方>
材料を調べて、自転車に飛び乗り日用品が売ってるホームセンターへ急いだ。
調べた材料を次から次へとカゴに入れていった。
そして四畳半のアパートへ帰り、プラネタリウムを作り始めた。
本の通りに作りながら、自分独自にアレンジをいれていく。
実在しない穴を空けて、好きな名前をつけた。
「出来た〜!」
完成した時は外は暗くなっていた。
カーテンを閉めて電気を消して、早速、出来上がった手作りのプラネタリウムに光をつけてみる。
- 841 名前:手作りプラネタリウム 投稿日:2006/03/27(月) 16:40
- 消えそうなくらい輝いていて。
ちょっと何だか感動しちゃったりして。
寝転んで、天井に手を伸ばしてみた。
一番眩しい星に向かって。
あの星の名前は自分しか知らない。
しばらくそのままぼんやりと星を眺めていた。
そこには自分が作った宇宙がある。
そして、そこにしかない星がある。
触れることない光。
「……だって、届かないからね」
- 842 名前:手作りプラネタリウム 投稿日:2006/03/27(月) 16:42
- 寝とけば良かった。
立ち上がって背伸びをしたら。
その星に本当に届いてしまった。
無償に切なかった。
涙が止まらなかった。
本当に届くわけない光。
けれど消えてくれない光。
「……何で消えてくれないんだよぉー」
ジャージの袖でゴシゴシ涙を拭いた。
それからカーテンを開けて、窓を開けた。
すっかり夜になった空には微かに星が輝いていた。
「おー…綺麗だなぁ…」
実在しない星を探そう。
見つけたら名前をつけよう。
自分の好きな名前を。
手作りプラネタリウム 終わり
- 843 名前:作者。 投稿日:2006/03/27(月) 16:49
- 本日の更新、『恋のチカラ』『手作りプラネタリウム』でした。
>832 ミッチー様。
そうなんですか〜。私も読む時は4期メンが多かったですが、
最近は5期メンのも見ることが多くなりました(^−^
- 844 名前:ミッチー 投稿日:2006/03/28(火) 04:11
- 更新お疲れ様デス。。。
うん、どれも面白いですね^^
やっぱり柴田さんには大谷さんですね(w
『手作りプラネタリウム』切ないです・・・。
- 845 名前:翡翠 投稿日:2006/03/29(水) 12:29
- 更新お疲れ様です♪
更新早くて超うれしいです*^▽^*
ちょっと前?のお話ですが、『違う道を歩いたからこそ、
手に入れたモノがある。』の後日私の脳内では、よしごまが
くっついてしまいました(ぇ
(いちごま好きになる前は、よしごま好きだったので;)
これからも、色んなカップリングの話楽しみにしてます!!
- 846 名前:桜に願いを 投稿日:2006/04/01(土) 21:04
-
『桜に願いを』
登場人物:後藤真希 吉澤ひとみ
- 847 名前:桜に願いを 投稿日:2006/04/01(土) 21:05
- 「春は嫌いだなー…」
桜満開の並樹道を歩きながら親友のよしこが呟いた。
「何で?」
あたしは満開の桜を見上げて聞いた。
「ピンクだから」
返ってきた答えは意味不明。
「ピンクだからって…確かによしこピンク好きじゃないけどさぁ」
よしこが好きな色はハッキリした色なのは知ってるけど。
「―――思い出すんだよね、好きだった人」
サァと風が吹いて、桜の花びらが散る。
- 848 名前:桜に願いを 投稿日:2006/04/01(土) 21:07
- 「ふーん」
よしこにも好きな人いたんだぁと思いながら、自分の髪についた桜の花びらを取る。
「うちが中学ん時に好きだったいっこ年上の先輩」
あたしたちは高校生からの友達だから、お互い中学生の時のことはあんまり知らない。
「石川梨華。梨華ちゃんはピンク好きでさー。部屋とかピンクだらけなほど好きで」
あれ、何か…。
よしこを見ると初めて見る優しい笑顔。
穏やかな目にはきっと今話している好きだった人が映ってるんだろう。
「ホントにピンクと言えば梨華ちゃん、みたいな」
「うん」
「…梨華ちゃんさぁ、卒業した後お父さんの仕事の都合で海外に引っ越しちゃったんだよね」
悲しそうに笑うよしこ。
「うちら、いつも一緒にいたけどなかなか付き合うまでいかなくて…。
結局、想いを告げること出来ないまま、離れちゃった」
- 849 名前:桜に願いを 投稿日:2006/04/01(土) 21:09
- あぁ…だから。
「ピンク色の桜見る度に思い出しちゃうんだ…」
桜が咲く春が嫌いなんだね。
「…今でも好きなの?」
よしこは質問には答えず、黙ったまま歩いていた。
そして。
「……たぶん、好きかな」
その声に反応するかのようにまた風が吹いて、桜の花びらが散る。
この花びらによしこの想いを乗せて、海を越えてその人に届けばいいのに。
と、なかなか乙女チックなことを考えた。
「いつか、また逢えるよ。ね?」
ポンとよしこの肩を叩いてあたしは言った。
- 850 名前:桜に願いを 投稿日:2006/04/01(土) 21:10
- もし、また二人が出逢うなら。
桜が満開の春がいい。
そしたらよしこはきっと。
春を好きになれる。
「ごっちん、ありがと」
大切な親友には幸せになって欲しい。
早く、二人が出逢えますように。
あたしはココロの中で桜に願った。
- 851 名前:桜に願いを 投稿日:2006/04/01(土) 21:12
- ───あたしの祈りが通じたのか。
桜満開の春に。
二人は出逢った。
それはとても突然で、とても幸せな出逢いだった。
良かったね、よしこ。
桜に願いを 終わり
- 852 名前:夢の中 投稿日:2006/04/01(土) 21:17
-
『夢の中』
登場人物:吉澤ひとみ 石川梨華 藤本美貴
- 853 名前:夢の中 投稿日:2006/04/01(土) 21:18
- ―――最近、嫌な夢を見る。
大切な人がいなくなる夢。
自分の手の届かない遠くへ行ってしまう。
『バイバイ』
そう言って笑顔で手を振る大切な人。
『行くな!行くなって!』
自分は必死に走るけど、追い付けなくて。
―――そんな、嫌な夢。
- 854 名前:夢の中 投稿日:2006/04/01(土) 21:19
- カバッと起きた。
「はぁ、はぁ…」
嫌な汗が身体をまとわりついていた。頬は涙で濡れていた。
――また、あの夢だ。
「よっちゃん?大丈夫?」
ミキティが心配した顔でうちを覗き込んで見ていた。
…そうだ、楽屋だ。
よくあの夢を見る時は夜中が多かったけど、今度は仕事の合間に見てしまった。
「大丈夫…」
慌てて涙を拭った。他のメンバーも心配してうちを見ていた。
ちくしょー…何でこんな時に見るんだよ。
「怖い夢でも見た?」
「うん…まぁね」
夢の内容は何だか言えなかった。
“大切な人がいなくなる夢”
言葉にしたら本当になりそうで。
言えなかった。
- 855 名前:夢の中 投稿日:2006/04/01(土) 21:21
- あの夢は次第に毎日見るようになった。
夜中、仕事の合間。昼夜問わずにあの夢を見た。
相変わらず、追い付けない。
でも少しずつ変わって来た。
悪い方向に。
『バイバイ。私、この人が好きになっちゃったの』
大切な人の隣には知らない人がいた。
『だからもう逢えない』
知らない人の腕にくっついて嬉しそうに微笑む。
『行くな!行くなってば!頼むから!』
イヤダ。タノムカラ…イカナイデ。
梨華ちゃん…。
ハッと目を覚ますとそこはベットの上だった。今夜はホテルに泊まっていた。
「はぁ、またか。…あれ?…ミキティ?」
隣のベットで寝ていたミキティがいない。トイレかと思ったが、トイレでもないようだ。
何処行ったんだろ…。
ベットから出て、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して飲んだ。
時刻はもう夜中の一時を回っている。
- 856 名前:夢の中 投稿日:2006/04/01(土) 21:23
- 「梨華ちゃん…」
夢の中に出てくる大切な人。
もう、随分逢えてない。お互い忙しい毎日で逢えないのだった。
それが原因なのだろうか。
ため息をついて再び、ベットに入ろうとした時、扉がノックされた。
「ミキティ?」
扉まで歩いて、開けた。
「何処行ってたんだよ…って」
しかし、そこにいたのはミキティじゃなかった。
「り…梨華ちゃん…?」
泣きそうな顔で、うちに抱きつく梨華ちゃん。勢いでうちは後ろに倒れた。
二人とも中に入る形になり扉がゆっくり閉まった。
「何で…」
「ミキティが電話してくれたの。よっすぃー…ひとみちゃんがずっと私の名前を呼んでるって」
久々に聞く、かつて呼ばれていた名前。
ミキティが…。
「梨華ちゃん…!」
力強く思いきり抱き締めた。
- 857 名前:夢の中 投稿日:2006/04/01(土) 21:25
- ここにいる。
自分の腕の中に。
大切な人がいる。
「逢いたかった…ずっと、逢いたかった」
「私も逢いたかったよぉ…」
何かわかった気がした。
あの夢の原因を。
確か、うち言ってなかったよね。
一緒にいるのが当たり前になって、うちらは自然に付き合ってたけど。
肝心な言葉、伝えてなかったね。
だから、あんな夢見たのかもしれない。
伝えてなかったから。
不安になってた。
- 858 名前:夢の中 投稿日:2006/04/01(土) 21:26
- 「梨華ちゃん」
「ん?」
大切な人の目をしっかり見つめた。
「大好きだよ」
今までも、これからも。
大好きだよ。
梨華ちゃんの目から涙が溢れた。うちも涙が溢れて来た。
「私も大好き…!」
あの夢のおかげで大切な事を思い出せた。
良かった、正夢にならなくて。
良かった、大切な気持ち伝えられて。
本当に良かった。
- 859 名前:夢の中 投稿日:2006/04/01(土) 21:28
- <一方、この人は…>
「全く世話がやけるっつーか」
「ちょっと…藤本さん。狭いんですけど」
「麻琴、うるさい」
「ひどッ!いきなり来て勝手に入って来たのはそっちなのに!」
「あー、もう。じゃぁ、隣行くからいいよ」
「それは駄目です!あさ美ちゃんと寝るなんて駄目です」
「じゃぁ、黙って寝させろ」
「はい…わかりました」
夢の中 終わり
- 860 名前:作者。 投稿日:2006/04/01(土) 21:37
- 本日の更新、『桜に願いを』『夢の中』でした。
>884 ミッチー様。
やっぱり作者は柴田さんが来れば大谷さんもってイメージが(w
『手作りプラネタリウム』は切ないですよね…吉澤さんの想い人は
出てきてませんが、あの人ですよ(w
>885 翡翠様。
読んで頂いてありがとうございます!
あぁ、確かにあの後はよしごまがくっつきそうですね(笑
作者の中ではこの二人は永遠に親友みたいな想いがありますが。
もしかしたらくっついたかもしれません。それはこの二人のみが知る(w
これからも頑張ります!
- 861 名前:ミッチー 投稿日:2006/04/02(日) 07:41
- 更新お疲れ様デス。。。
今回は2つとも吉澤さんのお話でしたね^^
やっぱり吉澤さんのお話はセツナイですね(w
どっちも最後はイイ方向になってるから嬉しいです☆
- 862 名前:月明かりが差し込むリビングで 投稿日:2006/04/02(日) 16:43
-
『月明かりが差し込むリビングで』
登場人物:藤本美貴 松浦亜弥
- 863 名前:月明かりが差し込むリビングで 投稿日:2006/04/02(日) 16:44
- 繋ぎ止める方法がわからなくて。
私は最低の方法で繋ぎ止めた。
「美貴、たん…!やめて…!」
暗いリビングで彼女の悲鳴のような声が響く。
それでも私の手は止まらなかった。
「亜弥ちゃんが悪いんだよ…!」
彼女を仰向けにしてその上に覆い被さる。
服を破くように脱がしていく。
原因は写真だった。
たった一枚の写真だった。
- 864 名前:月明かりが差し込むリビングで 投稿日:2006/04/02(日) 16:45
- 私がバイトを終えて彼女の家に遊びに来た。何気なく部屋を見回して、くつろいでいた。
彼女はお茶の用意をしていたから部屋にはいなかった。ふと目についた机の引き出し。
何故目についたかというと引き出しが少し、開いていたからだった。
こうゆうのが気になる私としてはちゃんと閉めてあげようとベットから立ち上がり机まで歩いた。
『…何だろ?』
中からキラッと光る物が見えた。好奇心にかられて引き出しを開けてしまった。
そこにあったのは銀色のお洒落な写真立て。
もちろん写真が入っているわけで。
笑顔の彼女と知らない奴。
『美貴たーん。紅茶だよ〜』
その時、トレイに紅茶のカップを二つ乗せた彼女が部屋にやって来た。
私と写真立てを見た途端、彼女は固まった。
- 865 名前:月明かりが差し込むリビングで 投稿日:2006/04/02(日) 16:47
- 『…亜弥ちゃん、誰?この人』
まだ笑顔でいられた。友達とか親戚の人かもって思えたから。
でも、それなら机の引き出しに入れることはしないよね…。
彼女は何も言わずリビングの方へ行ってしまった。私は写真立てを持って追いかける。
彼女はリビングのテーブルの近くで座り込んでいた。トレイはテーブルの上に。
頭の中が混乱していた。
わからない。
この写真に写っている二人はどうゆう関係?
『ねぇ…亜弥ちゃん…答えてよ…』
暗いリビングで私は呟いた。
聞きたくないけど、聞かずにはいられない。
『……前に好きだった人…』
マエニスキダッタヒト。
『付き合ってたの…?』
私がそう聞くと彼女は小さく頷いた。
自分の中で何かが崩れていくような気がした。
- 866 名前:月明かりが差し込むリビングで 投稿日:2006/04/02(日) 16:49
- 別に過去に付き合ってた人がいてもいい。
好きだった人がいてもいい。
でも何で写真持ってるの?大切そうに閉まっておくの?
過去系じゃないの?
『…何で、持ってるの…』
『…捨てられないから…でも!別に今でも好きとかじゃないよ!今は美貴たんが好きだから!』
立ち上がった彼女は私の方を向いて言った。
『…じゃぁ、捨ててよ。こんなの。私のこと好きなんだから』
笑顔は消え、冷たい表情になった。
『…それは…』
彼女は困った顔をしていた。
『何で出来ないの!?もうこいつのこと好きじゃないんでしょ!?』
すごく嫌だった。彼女はまだこいつのことを好きなんじゃないかって思うと。むかついた。
『本当は今でも逢ったりしてんじゃないの!?私がバイトしてる間とかさぁ!』
『逢ってないよ!別れてから一度もないよ!』
信じられなかった。
一番信じないといけない人なのに。
私は信じなかった。
- 867 名前:月明かりが差し込むリビングで 投稿日:2006/04/02(日) 16:51
- 力任せに写真立てを床に叩きつけた。
ガシャンと壊れる音と彼女の悲鳴が響く。
ガラスが割れて辺りに飛び散った。
そして私は、彼女を押し倒した。
繋ぎ止めたくて。
誰にも渡したくなくて。
私だけを見て欲しくて。
一番最低な方法で。
彼女を繋ぎ止めた。
「美貴たんっ…やめてぇ…!」
バタバタと暴れて抵抗する彼女。左手で彼女の手を封印し、右手で愛撫していく。
「亜弥ちゃん…私が一番だよね…?好きなんだよね…?」
彼女の泣いてる顔を見ながら言った。
「好きだよ…亜弥ちゃん…私だけを見てよ…他の奴なんか見ないでよ…」
「美貴たん…!あたしは――ッ」
彼女が何を言うのか怖くて口を塞いだ。
一方的なキスは気持ち良くも何ともなかった。ただ苦しいだけだった。
何でこんな苦しいんだよ。
何でこんな悲しいんだよ。
- 868 名前:月明かりが差し込むリビングで 投稿日:2006/04/02(日) 16:53
- 自分の勝手な気持ちは。
大切な人を傷付けるしか出来ない。
そして、自分も傷付ける。
わかってんだけど…わかってるんだけど…。
気付いたら自分も涙を流していた。
スカートに手を入れようとしたとこでそれに気付いた。
ハハ…バカじゃん、私。
彼女からそっと離れた。
「美貴たん…」
ドサッとしりもちをつくように床に座る。
するとさっき床に叩きつけた写真立てのガラスの破片が右手に当たった。
「最低だよ…本当に…最低だ」
泣きながら笑った。
信じないといけない人を疑って。
大切にしないといけない人を傷付けた。
「最低ッ…!」
手の下にあるガラスの破片を強く握った。当然、血が流れた。
- 869 名前:月明かりが差し込むリビングで 投稿日:2006/04/02(日) 16:55
- 「美貴たん!」
暗いリビング。窓から差し込む月明かりのおかげで彼女のことが見える。
ボロボロに引き裂かれたシャツ。乱れた髪。泣いてる顔。
なんて酷いことをしたんだと、痛感する姿だった。
「…最低だよね…こんな私…」
ぼんやりと血に染まった右手を眺めた。
「こんな方法でしか…亜弥ちゃんを繋ぎ止めるのが出来なかったなんて」
悲し過ぎて笑えちゃうよ。
俯いているとギュッと抱き締められた。
「…あたしが好きなのは美貴たんだよ」
また、涙が流れた。
その言葉だけで十分だったんだよ。
何でそれに気付かなかったのかな。
「亜弥ちゃん…ごめッ…!ごめんねッ…!」
- 870 名前:月明かりが差し込むリビングで 投稿日:2006/04/02(日) 16:57
- 相手を想う気持ちこそが、繋ぎ止める方法だった。
想う気持ちを言葉にして伝えるだけだった。
「亜弥ちゃん…愛してる」
それだけだった。
「…あたしも…美貴たんを愛してる」
それだけで彼女は私を見てくれたんだ。
月明かりが差し込むリビングで。
彼女は微笑んで、愛がこもったキスを私にしてくれた。
月明かりが差し込むリビングで 終わり
- 871 名前:作者。 投稿日:2006/04/02(日) 17:02
- 本日の更新、『月明かりが差し込むリビングで』でした。
(0^〜^)<相手を想うことが大切ななんだYO!
( ^▽^)<きゃぁ!素敵よ!ひとみちゃん!
>861 ミッチー様。
ハッ、ホントだ!どっちも吉澤さんだ!(←今更気付く作者)
私はハッピーなエンドが好きなので(w 切ないけど、最後は
良く終わる形が多いですね。
そろそろスレッドがいっぱいになるみたいですね。
最後はやっぱあの方達に出てきてもらおうかな(w
- 872 名前:ミッチー 投稿日:2006/04/03(月) 05:12
- 更新お疲れ様デス。。。
今回のお話は、読んでて痛々しかったです。
最悪な結果になる前に大事なことに気付いてくれてよかったですね。
>871の吉澤さんと石川さんの絡みがちょっと面白かったです(w
吉澤さんが言うことならなんでもカッコイイのでしょうか?(w
そろそろいっぱいになっちゃうんですか・・・。
なんだか寂しいですねぇ。
あの方達ですか!^^楽しみにしてます☆
- 873 名前:再び、集え、仲間たち 投稿日:2006/04/04(火) 16:50
-
『再び、集え、仲間たち』
登場人物:ココロの歌からの仲間たち
- 874 名前:再び、集え、仲間たち 投稿日:2006/04/04(火) 16:52
- ――――カタカタカタ。
暗い部屋にはパソコンのキーボードを叩く音だけが響いていた。
画面には文章がズラズラと表示されていく。
「…我ながら、完璧だわ」
画面を見て、呟く女性。
柴田あゆみ。
“あの頃”より少し大人びた柴田。
こんなとこで一人、何をしているのか。
「もうじき…始まるわ」
一体、何をしようとしているのか。
柴田にしか知らない計画。
カタカタカタ。
夢中で叩くキーボード。
まるで“あの頃”に戻ったかのような気分。
高校時代に過ごした青春。
あの小さな少女、そして多くの仲間に出逢えた瞬間。
再び、集え、仲間たち。
それしか柴田は考えてなかった。
- 875 名前:再び、集え、仲間たち 投稿日:2006/04/04(火) 16:54
- 柴田の部屋の扉がノックされる。そして、その扉はゆっくり開いた。
「あっ…あゆみ?」
入って来たのは大谷だった。柴田から電話ですぐに来るようにと言われた大谷は高速を飛ばして
故郷へ帰って来た。パソコンに向かって何やらキーボードを叩いてる柴田を見て驚く。
「電気もつけないで…目悪くするよ?」
パチッと電気をつける。部屋の中は急に明るくなった。
「もー…何してんの?」
ピタッと柴田の手が止まり、座っている回転椅子をクルッとさせて大谷の方を向いた。
にこっと微笑む。
「おかえり、マサオ」
「た、ただいま…」
その微笑みが怖く感じて大谷は後退りした。
「次の土曜日。大至急、みんなを集めて」
柴田は微笑んだままそう告げた。
「へっ…み、みんな…?」
「そ、みんな。全員残らずね」
「土曜日…って、明後日?」
「何度も言わせないでよ」
ここで初めて柴田の微笑みが消える。壁まで勢いよく大谷は後退り。
「わ、わかった…」
「それならいいのよ♪」
柴田は椅子から立ち上がり大谷に近付いた。
「マサオ、これからきっと忙しくなるから覚悟してね」
「う、うん…」
柴田が大谷の持っているお土産のケーキが入っている箱を取ると部屋を出て行った。
大谷はおそるおそる柴田のパソコンを見た。
「だ…台本…?」
パソコンの画面にはたった一つの言葉が書かれていた。
――――台本、と。
- 876 名前:再び、集え、仲間たち 投稿日:2006/04/04(火) 16:56
- 「ってゆーかさ」
「何だべさ」
土曜日。金髪の小さな矢口と相変わらず訛りが抜けない安倍がある場所へ向かって歩いていた。
「何で物語終わっちゃってんの!?」
「作者の勝手…じゃなくて、インスピレーションだべ」
「せっかくオイラの楽しい冒険があったのに」
「実はあの後、また矢口が失踪したんだべ。こっちの気も知らず」
「あの〜なっちさん?誰に向かって喋ってんの?ってか失踪て」
「失踪じゃないの?」
「違いますッ!夢と希望に溢れた冒険ですッ!」
矢口はピョンピョン飛びながら抗議。虫のように見える。
「ハイハイ。早く行こ」
安倍はそんな虫を気にせずに歩き続けた。
矢口はブスッと膨れながらも安倍の隣を歩いた。
着いた場所はというと。
「んぁ。いらっしゃい!」
市井と後藤の家。
「元気か〜?ごっちん!」
「はい、お土産。桜餅だよ」
後藤は嬉しそうに安倍から桜餅の入った箱を受け取った。
「あがって〜。よしこと梨華ちゃんも来てるよ」
玄関には既に来客している二人の靴が並べられていた。矢口は急いで靴を脱いで廊下を走った。
「矢口!靴をちゃんと…ってもう!」
「あはっ。相変わらずだね、矢口先輩は」
子供みたいな矢口を二人は暖かく笑った。
- 877 名前:再び、集え、仲間たち 投稿日:2006/04/04(火) 16:59
- 「よっすぃー!梨華ちゃん!」
リビングに勢いよく飛込んだ矢口。そこには吉澤と石川がいた。
「矢口先輩!お久しぶりッス!」
ソファに座っていた吉澤が立ち上がる。吉澤をめがけて矢口はタックルした。
「ぐぁ!や、矢口先輩…?」
矢口のタックルは吉澤のお腹にヒットした。
「よっすぃー!逢いたかったぞ〜」
元陸上部部長の感動の再会は過激だった。苦しむ吉澤に気付かない矢口。
しばらくして吉澤から離れた矢口は石川に向かった。
「梨華ちゃ〜ん!」
「矢口さん。お久しぶりです」
タックルではなく普通に抱きつく。後ろでは吉澤がゲホゲホと苦しんでいた。
「全く。相変わらずだな、矢口」
苦笑いしながらリビングにやって来た市井。
「紗耶香!久しぶり!」
「お前がいるだけで騒がしいな」
「何だよッ!」
みんな懐かしい雰囲気に喜びを噛み締めていた。自然に笑みが溢れる。
―――数分後。
「全く、私は忙しいのよ!」
「私も早く絵を描き上げないと…」
保田と飯田がやって来た。どうやら二人とも前より忙しいようだ。
「圭ちゃん!新曲買ったよ〜」
「まぁ、いい子ね♪矢口は」
「圭織、個展のチケット欲しいんだけど」
「あーごめんね。何か売り切れみたいでさぁ。私も余分に貰えなかったの」
こうやって小さな同窓会が始まる。
「参上したで!」
「参上なのれす!」
「来たなぁ!チビッコ二人!」
矢口に加護と辻が加わると更に家の中は騒がしくなった。
「美貴たん、また遅刻した」
「だって昨日店のことで忙しくてさ…帰ったの明け方だったんだよ!?」
- 878 名前:再び、集え、仲間たち 投稿日:2006/04/04(火) 17:01
- 藤本と松浦の喧嘩で更に更に騒がしくなる。
この後、更に紺野、小川、新垣、中澤、石黒、田中、道重がやって来たのだが。
呼び出した本人が来ない。
それから30分後。
「お待たせしました〜」
優雅に参上して来た柴田。予定時間よりかなり遅れている為、みんなから苦情が殺到する。
「すいません。ちょっと道が混んでまして…」
何故か代わりに大谷が謝っていた。
「早速本題に入りたいと思います」
コホン、とわざわざ柴田が咳払いをする。間を開けて、一言。
「柴田プロジェクトに参加して頂きます」
何が何だかわからない一同。おそるおそる石川が手を挙げた。
「あの〜…柴田プロジェクトって…?」
誰もが聞きたい質問だった。ニヤリッと柴田が笑う。
隣にいる大谷はウンザリといった感じで肩を落としていた。
「柴田プロジェクトとは―――私が書いた台本にみなさんが演出してもらう計画のことです」
ニコッと最高の笑顔で言う柴田。
「台本…?」
市井が呟く。
「演出…?」
吉澤が呟く。
「ええ。みなさんが演出してもらうんです。映画のようなもんです」
一同、映画という言葉に反応。
「「「えぇー!!?」」」
- 879 名前:再び、集え、仲間たち 投稿日:2006/04/04(火) 17:03
- こうして始まった、柴田プロジェクト。
「演出なんて私出来るかなぁ…」
「梨華ちゃんなら出来るよ!」
「演出かぁ…あたし、眠り姫がいいなー」
「お前なぁ…ただ寝てたいだけじゃねーか」
「…市井ちゃんは馬ね」
「んな図星だからって怒んなよ!しかも馬!?」
「美貴たんはどんな困難も乗り越えあたしという囚われのお姫様を救う王子様ね!」
「そんな疲れそうな役嫌だ」
「ののはお菓子の家に住みたいのれす」
「食べたいだけやろッ。私は強い魔法使いがええ!」
あーだこーだと騒がしいリビング。
「あゆみ…本気?」
「もちろん」
さて、この柴田プロジェクト。
運命や如何に。
- 880 名前:作者。 投稿日:2006/04/04(火) 17:09
- 大変なことが始まってしまいました。
>872 ミッチー様。
やっぱり最後は悪く終わりたくなかったので、良い終わり方に(^−^;
(〜^◇^)<梨華ちゃんってホントよっすぃー好きなんだな!
( ^▽^)<ハイ!たとえひとみちゃんがカエルの着ぐるみでも素敵です!
(;0^〜^)<(カエル…!?)
どんな吉澤さんも石川さんには素敵らしいです(w
- 881 名前:作者。 投稿日:2006/04/04(火) 17:16
- 何だか柴田さんが始めてしまったプロジェクト。
これ、実は次に作者が予定している物語に関係しています。
次の物語は『ココロの歌』とはかなり変わって戦闘モノです。
柴田さんが企んでるプロジェクトは直接的に関係ないのですが。
裏ではこの『ココロの歌』のメンバーがわさわさ動いています。
本編で出てくる吉澤さんや石川さんなどは『ココロの歌』で出てくる時と
まるっきり違う人物なので、ご注意を。
すごいわかりづらくてごめんなさい…。
次の物語を見て頂ければわかると思うので。
- 882 名前:ミッチー 投稿日:2006/04/05(水) 07:06
- 更新お疲れ様デス。。。
あの方達の登場ですね☆柴田プロジェクトですか(w
それぞれが役になりきってると思って読みますね(w
どんなプロジェクトなのか、楽しみにしてます☆
- 883 名前:翡翠 投稿日:2006/04/14(金) 15:03
- 更新お疲れ様で〜す☆
次回作の柴田プロジェクト、戦闘モノかぁ。
凄い気になる・・・。
もしかして、違う所で始まってたりしますか!?(汗)
- 884 名前:作者。 投稿日:2006/04/14(金) 21:17
- (0^〜^)<お礼レスするYO!
>882 ミッチー様。
それぞれの役になりきってる!そうです、それが言いたかったんです。
柴田プロジェクト、作者もどうなるのか楽しみです(ぇ
>883 翡翠様。
すいません、まだ始まっていません(^−^;
今、まだ書いてる最中なので。ある程度書けたら始めたいと思います。
もう少し待って下さいね〜。
新しい物語、そして柴田プロジェクトは出来たら次の土日で始めたいと思います。
- 885 名前:作者。 投稿日:2006/04/17(月) 17:53
- 土日で始めると言いながらも月曜日になってしまいました…。
同じ水板で『この星の大地に咲く華-残された道標-』を始めました。
柴田プロジェクトについてはもう少し経ってから始めたいと思います。
名前を改めてアルマジロにしました。
今後もよろしくお願いします。
(〜^◇^)<もちろんオイラが主役だよね!
ヽ^∀^ノ <へ?違うって聞いたけど?
(●´−`)<なっちも矢口じゃないって聞いたべさ。
(〜;^◇^)<そ、そんなことないでしょ!?何かの聞き間違い…。
川σ_σ||<〜♪(←たまたま通りかかる人)
(;`_´)<えーと…カメラと照明の手配と…ブツブツ(←いろんな雑用をやらされてる人)
(〜;^◇^)<あ!柴ちゃん!
川σ_σ||<あら、矢口さん。
(〜;^◇^)<次の物語の主役って誰!?
川σ_σ||<間違いなく矢口さんではありません(←ニッコリ笑顔)
(〜;´◇`)<…そんなぁ…オイラ、頑張ってたじゃん…。
(●´−`)<世の中厳しいもんだべさ。
ヽ^∀^ノ<まぁ、そんなもんだよな。あー、腹減ったー。後藤〜飯〜。
( ´ Д `)<まだ5時だよ?
(0^〜^)<(そうかぁ…主役矢口先輩じゃないんだぁ…)
( ^▽^)<(もしかしてひとみちゃん!?そしてヒロインは私!?きゃ〜!)
(;`_´)<…あゆみ、主役って誰なの?聞いてないけど。
川σ_σ||<そんなのココで発表したらつまんないじゃないの。それより準備は出来てんの?
(;`_´)<ハイハイ…(←一番の苦労人)
- 886 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/14(金) 21:09
- 続き期待してます。
- 887 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/14(金) 23:33
- >>886
どういうつもりで上げたのか分らないけど↓のスレの>>189を見なさい。
とりあえず落としておきます。
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/water/1145259888
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