君のいる場所・キミのいた場所
- 1 名前:トーマ 投稿日:2004/02/03(火) 09:07
- 赤版でリアルの短編を書いている者です。
長いものも書いてみようかと、ここに来ました。
アンリアルの学園物です。
主に6期メンに85年組みが絡みます。
板の底の方でじっくり書くつもりなので、よろしくお願いします。
- 2 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 09:27
- 暑い、バカみたいに暑い。
昨日と同じように暑いのに、月が変わったというだけで、
何で今日からは学校に行かなければならないのだろう。
もちろん辿り着きさえすれば、そこは、そこそこのお嬢様学校なのだから、
全館冷房くらいは完備されているし、そこでゆっくり眠ることだってできるけど、
そのためには、このダラダラと登る通学路をクリアしなければならない。
しかし、いったいどういう立地なんだ。
確かに、四階の教室からの見晴らしはいい。
冬の晴れた日なんかは、へたをすれば、その窓から富士山だって拝める。
だけど、そうじゃなくてもダルイ朝に、この坂は嫌がらせ以外のなにものでもない。
だから私は、二日に一度は、途中で引き返すことを考える。
そして、そんな朝に限って、必ず後ろから、エリに声をかけられる。
二学期の初めの今日も、やっぱり。
「オハヨー、久しぶり。」
自転車で通学している彼女は、私の隣まで追付くと、必ずそこから降りて、並んで歩き出す。
どうして彼女がそうするのか、私はいまだにわからない。
同じ教室に向かうのだから、クラスメイトであることは確かだけれど、
別に特別親しくしているわけではない。
と言うか、私は親しい友達など、一人も持っていないし、持ちたいとも思っていない。
- 3 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 09:54
- 公立の中学に通っていた、三年の始め頃、
クラスで、いかにもそんなターゲットになりそうな、一人の大人しい子に対する、苛めが始まった。
数人の少女グループニよるそれは、いつしかクラス全体に広がっていった。
毎日、露骨に繰り返される、無視や、嫌がらせ・・・
見て見ぬ振りをするクラスメイト、便乗して、はやし立てる男子生徒。
私には、そんな周りの空気の方が、苛め自体よりも、気分の悪いものだった。
ターゲット本人にも、そんな要素は充分あった。私だって、どちらかといえば、嫌いなタイプ。
でも、それとこれとは話が違う。とにかく、こんな空気はヤダ。
我慢が限界に達した時、私はホームルームで手を上げていた。
直接、苛め自体を注意しなかったのは、私の嫌悪の元がそこになかったから。
それを黙認している、周囲の罪のほうが、より大きいと思ったから。
「イジメなんてくだらない。黙って見ているヤツラは、もっとくだらない。
分ってるくせに、何もしない、先生は卑怯者だ。」
そんなことを言ったんだと思う。
一瞬凍りついた教室。
けれど、少しの間をあけて、一番の卑怯者が口を開いた。
「田中さんの言いたいことは、よくわかりました。
みなさんも、そういったことがないよう、注意してください。」
それは、そんな意味も何もない、たった一言で片付けられた。
そして、その担任の態度が、次の日からの、私の学校生活を一変させた。
そう、次の日からターゲットは、私になった。
ある意味、それはそれまでの被害者を救うことになったのかもしれない。
本人も嬉々として、私に対する嫌がらせに参加していたくらいなのだから・・・・
- 4 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 10:17
- 「おはよう」「・・・・・」
朝の挨拶を返す者は、一人としていなくなった。
それまで、親友だよ、なんて調子の良いことを言っていた友人でさえ、
少しずつ、私との距離をとり始めた。
教科書がなくなり、ノートが破かれ、体操服が汚され、靴が隠される。
笑えるくらいのお決まりのパターン。
それは普通に頭に来たし、悔しかったし、悲しくさえあった。
だけど、私は騒がなかった。それは決して、怖かったからじゃない。
それはたぶん、呆れていたから。
自分の周りにそれまで、普通の顔をしていた連中が、こんなにもくだらなかったのかと、
呆れ果ててしまったから。
だから、私は、何をされても堂々と登校した。
そして、一人きりになった。
別に一人でも問題はない。かえってつまらないおしゃべりに参加させられずにせいせいしたくらいだ。
私は一人でも立っていられる。私はそんな自分を誇りにさえ思った。
そんな私の態度が、攻撃する側の興味を失わせたのか、畏れを抱かせたのかはわからないけど、
私の物をどうにかするなどの、露骨な嫌がらせは、数週間でおさまった。
ただ、孤立だけは、卒業するその日まで続いた。
誰とも会話のない日々。大勢の人間の中で、たった一人でいること。
それは、慣れてしまえば、私には案外なんでもないことだった。
他人と話したければ、PCの好きなアーティストのサイトにでも入って、チャットでもすればよかったし、
それでもたりなければ、クラブにでも行って、顔だけの馴染みとダベレばいい。
どちらも匿名ですむ場所。
私自身に友達なんか要らない。
安っぽい、友情ごっこなんて、こっちから願い下げだ。
- 5 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 10:45
- エリは、いつだって、一人で話している。
私は、相槌を打つ程度にしか、相手をしない。
そんな私の態度を、彼女は訝ることもなく、臆するふうでもなく、
ただ、淡々と、笑顔で話す。
今朝も、夏休みの間に自分に起こった、あれこれを、面白そうに私に報告する。
そうすることが当然のように。本当に楽しげに。
エリに初めて声をかけられたのは、入学して間もない朝。
前日遅くまで、街をうろついていたから、半端じゃなく、だるくて、
駅に引き返そうと、振り返った、まさにその時、
「あれ、あなた、同じクラスの田中さんだよね。」
と、つかまってしまった。
彼女は、私の返事など待たずに、自転車を降りると、一緒に歩くことを促した。
その自然な感じの動きにつられて、私は結局、素直に校門をくぐっていた。
それからは、毎日とはいかないまでも、かなりの頻度で、肩を並べてこの道を歩いている。
坂の途中から、校門をくぐって、彼女が自転車置場に曲がるまでの、5分程度の時間。
知らない人からしたら、仲の良い、友人関係に見られそうな時間を、ともに過ごしていた。
「じゃ、教室で。」
わかれる時、エリは必ず、そう言うけれど、
私は彼女と、この朝の坂以外で、話したことはない。
中等部から、この学園にいる彼女は、クラスでも華やかなグループの中心にいた。
彼女自身は、特別おしゃべりとか、派手という感じはなかったけれど、
勉強もスポーツもなんでもこなす典型的な優等生で、しかも、かなりの美少女だったから、
やっぱり、エリは中心にいるのが相応しかった。
私は、そんな彼女の世界とは無縁のところで生きていた。
別に、華やかな彼女に比べて、自分を卑下しているわけではない。
ただ、ここは私にとっては、仮の住居だったから・・・
私の生きる世界は別にあると思うから・・・・
- 6 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 11:04
- 「レナ、おはよう!」
教室に入ると、サユが声をかけてくる。
たぶん、彼女は、この教室の中で、私に積極的に絡んで来る、唯一の人。
たまたま隣の席だったということと、少数派である外部生であるという、共通点で、
たぶん、中等部からのグループに馴染めない彼女が、私を避難所として、使っているだけなのだろうけど、
入学当初から、休み時間や、昼休みを大抵、一緒に過ごしていた。
それこそ、他から見たら、相当仲の良い、親友同士にでも見えるのだろうけど、
私が、彼女の避難所で甘んじているのは、道重さゆみという、この少女が、
その見た目とは違って、よくあるような、友達ごっこを押し付けてこないから。
私の中に無理やり入ってこようとしないし、心の中を覗こうとしない。
たぶん、彼女は彼女で、自分の世界を別に持っているのだろうと思う。
だから、私たちは、携帯の番号も教えあっていないし、メルアドも知らない。
この学園の中だけの付き合い。それを、彼女もちゃんと納得してるように、
私に接してくれる所が、気分がいい。
そういった意味では、私はこの子を、充分に気に入っていた。
- 7 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 11:25
- 「なんか、今日から、新しい先生が来るらしいよ。」
サユは、私と違って、普通に他の生徒とも、会話をしているから、
時々、そういった情報を私に伝える。
「へー、ずいぶん半端な時期からだね。」
「ほら、あれじゃない、古文のオバちゃん、お腹大きかったから。」
「産休補助ってやつか。」
「たぶんね。そーすると、一年の授業だよね。」
「まーね、でも、どんなんだって、大して変わりないでしょ、先生なんて。」
「そりゃ、そーよね、ココノ場合は特に・・・」
この学園には、男性教諭はただの一人もいない。
何でも、数年前にあった、男性教師による暴力事件をきっかけに、
中等部を含め、全職員を女性にすることにしたらしい。
私は、そう言うことには、無頓着な方だから、その事件の内容はよく知らなかったけれど、
当時は、新聞沙汰にもなった大スキャンダルだったらしい。
ただ、それを契機にして、男性を校内から一掃したことによって、
年頃の娘を心配する親たちには、かえって評判がよくなり、
結果として、この学園の評価をあげことになったようだ。
そんなわけだから、新しい先生といっても、せいぜい堅苦しいオバサンか、
少しは話のわかる若い先生かってだけで、サユの好きなイケメンなんて、ここではありえなかった。
- 8 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 11:49
- チャイムが鳴って、担任が入ってくる。
それまで、日焼けした肌を自慢しあったり、一夏のコイバナの話で、
あちらこちらで輪を作って盛り上がっていた生徒たちが、そそくさと自分の席につく。
「さっ、はじまっちまったよー。みんな、そろってっかなー。」
担任の石黒先生が、ハイテンションに声をあげる。
この子持ちの家庭科教師は、主要科目担当ではない気安さもあってか、
そのバイタリティーと気さくさで、生徒にかなり人気があった。
学校の先生なんかに、これっぽっちも期待していない、私でさえ、この人にはある一定の好意を感じていた。
まあ、概ね、ここの先生たちはみんな感じがいいのだけど・・・・
あのクソみたいな、中学とは比較にならない程。
「おっ、みんな真面目に来たみたいだね。面倒だから出席はとらないよ。」
教室全体を見渡すと、石黒先生は、いつものようにそう言う。
欠席者がいる場合は、隣の席のものが申告する。
それが、一学期半ばに生徒の顔と名前が完全に一致してからの、このクラスのルール。
「通知表を集めたら、講堂で始業式だから。
いくら校長の話が長いからって、途中で寝るなよ。あの先生、そーゆーのチェック厳しいからね。
じゃ、委員長、あとはよろしく!」
それだけ言い置いて、集められた通知表を無造作に抱えると、さっさと職員室に戻る先生。
このホームルームの短さは、実に小気味いい。たぶん、他のクラスの半分も時間をかけない。
それでも、このクラスは、そのあとの時間に騒いだりしない。
隣の担任が口うるさいっていうのもあるのだろうけれど、それはたぶん、一学期間を通じて、
クラスに浸透した、この担任の人徳なのだろうと私は思う。
- 9 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 12:19
- 講堂は一応、冷房完備なのだけれど、さすがに全生徒が集まると、少し蒸し暑い。
あまり規模の大きくない中高一貫の女子校。上には半エスカレーター式に上がれる、大学もある。
もちろん中等部とは校舎が違うから、ここは高等部800人程度なのだけど、
それでも思春期の女の子特有の匂いが充満していて、あまり気分のいいものではない。
校長の中澤先生の話が始まる。
彼女は校長としては、かなり若い。サユの情報によると、なんでも、理事長の孫だとかで、
去年、定年で引退した前任者から、教頭もせずに、いきなり引き継いだらしい。
まあ、私立ならではのことなのだろうけど、
この関西弁の金髪先生は、話が長いわりには、生徒の評判は悪くない。
「そんじゃ、これから、新しい先生を紹介しまーす。
ほれ、イシカー、上がってこっ!」
そう、校長に促されて、一人の女性が壇上に立った。
「ほれ、さっさと挨拶せんかい。」
「あっ、はい。えっとー、山田先生の産休にともない、一年生の古文を担当することになりました・・・
石川梨華といいます。あのー、みなさんとあまり年も変わらないので、仲良くしてください。」
「なんや、それは。なんか、迫力ないなー。まっええか。
みんな、ええかー、この先生もここの卒業生やから、アタシの教え子や。
で、まあ、こー見えても怒ると怖いから、よー気ーつけるこっちゃ。」
そう紹介された新任教師は、ここから見る限りでは、怖さなんて微塵も持ち合わせてなさそうだし、
年が変わらないと言ったけれど、確かに、先生だと知らなければ、上の大学から、OGが遊びに来ている程度に見える。
華奢で・・・それに、かなりの美貌。
ここの教師は、若い美形が揃っている。
校長が面食いだから、採用基準に容姿が含まれているなんて噂があるくらい。
それに、卒業生も珍しくない。
- 10 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 12:49
- 30分程の式が終わると、ニ限目からは、しっかり授業が始まる。
土日が休みなのはいいけれど、お蔭で、授業時間不足を補う為に、
登校した日は、必ず6時限は確保されているし、週の半分は7時限まである。
クラブ活動などは、この煽りを受けて、練習時間をとるのに苦労しているらしい。
もちろん、はなから帰宅部を決め込んでいる私には、それは関係ない世界ではあったけど。
休み明け最初の授業は数学だった。
この記号と数字だけの世界には、私には、興味を持てる要素は一つもなかった。
だから、夏の日の入る、窓辺で、私は一時間まるまる夢の中にいた。
途中、何度か、サユに突っつかれたようだったけど・・・
「レナって、本当、いい度胸してるよね。先生睨んでたよ。」
って、休み時間に入るとすぐに、サユに揺り起こされた。
三限目のチャイムが鳴る。
次は古文の時間だった。これから、入って来るであろう新任の教師に、みんな興味津々のようで、
教室は少しざわめいていた。チャイムが鳴り終わるのを待っていたように、
ドアが開いて、白いスーツを着た、さっき壇上に立っていた人が入って来た。
たぶん、ドアの外で、本当にチャイムの鳴り終わるのを待っていたのだろうと、私は思った。
教科書と参考文献らしき物をバカっ丁寧に、ドアを閉めて、黒板の前に立つと、
その人は、大きく息を一つした。緊張しているのがありありと見えるその姿に、
何人かの生徒は、吹き出してさえいた。
「えっとー、今日から、古文をみなさんとお勉強することになりました石川です。」
やっと放たれた声は、ヤケニ高い。通るといえば通るけれど、軽いといえば軽い。
・・・・あーあ、この先生、なめられちゃうんだろうな。私は人事ながら、心配になった。
そして、なんで、自分が、この人に興味を覚えているのか不思議だった。
- 11 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 13:14
- 「あのー、一応、名前、書きますね。」
黒板に書かれたのは、石川梨華。
「えっとー、それで、年は22です。この春、大学を出て・・・」
この辺にくると、そろそろ、みんなはやし立てだす。
「一学期はなにしてたのー」
「先生、かわゆい!」
「りかちゃんって、呼んでイイデスカー」
「彼氏はー」
口々に、悪意とも、善意ともとれる質問が飛び交う。
「あのー、すぐに授業ってわけにはいかないですよねー。」
「それは、無理デース!質問ターイム!」
クラス一のお調子者のリサが、立って仕切り始める。
「じゃあ、ちょっとだけ。そのあとはちゃんと授業に入りましょう。少し遅れてるみたいだし・・・」
「それではー、質問その1、彼氏はいますか?」
「あー、今、いません。」
「うっそー」「まじでー」「ありえなーい」
「まあ、まあ、落ち着いて。質問その2、何処で焼いてきたんですか?」
「えー、基本的に地黒です。プールくらいは行きましたけど。」
「くろー!」「ハワイとかじゃないのー」「もいかして、普段はギャル系?」
「質問その3、りかちゃんって呼んでいいですか?」
「あっ、それは・・・まあ、ご自由に。」
「よっ、りかちゃん!」「お人形さんみたいにカワイイよ!」
「質問その4、一学期は・・・どうしてたんですか?」
「あっ、一応、違う学校で・・・」
「やっぱり、産休補助ですか?」
「あっ、一応、正規採用だったんですけどー・・・・」
「なあにー、首になったのー」「なにやらかしたのさー」
「まっ、そんなところです。」
「えっ、なになに、何やったの?」「どこの学校?」
もぞもぞ、言いにくそうに答える石川先生。教室は、収拾のつかない状態になってきた。
- 12 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 13:30
- 「ねっ、もーやめよーよ!」
自分でも、思ってなかった大きな声が出た。
一瞬、静まる教室。慌てたようにこっちを向く先生。
けれどもすぐに、騒々しさは戻って、私は自分とこのクラスメイトたちとの距離を、
今更ながらに、思い知らされる。私の言葉など、誰も聞かない。
私が誰の言葉も聞かないのと同じように・・・・
そんな時、いきなりエリが立ち上がった。
「レナちゃんの言う通りだよ!ねーえ、みんな、もーいいでしょ。
石川先生、済みませんでした。もう授業に入ってください。」
普段穏やかな彼女の発言は、日頃の人気もあって、かなりの影響力を持っていた。
教室は、今度は本当に静まった。
「あっ、ありがとう。あっ、亀井さんだったけ?
・・・じゃ、授業に入ります。教科書の38ページを開いてください・・・」
私は、自分とエリとの違いをまざまざと見せつけられたようで、少し悔しかった。
そして、レナちゃんの言う通りという、エリの言葉を頭の中で繰り返していた。
エリは、先生を助けたかったのだろうか、それとも、私を援護する為に立ったのだろうか。
- 13 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 13:55
- 石川先生の授業は、私の予想に反して、かなり上手かった。
枕草子の解読は、わかりやすいものだったし、その時代背景や、宮中の様子などを、
女子高生の興味を引くような、恋愛話や、派閥争いとかのネタを各所に折込みながら、
説明したくだけた内容で、生徒たちを飽きさせないように充分工夫された授業運びだった。
もちろん、数学などとは、私自身の元の関心が違うこともあるのだろうけれど、
さっきまで、ヤジに似た質問を飛ばしていた少女たちも、きちんと授業を受けているところをみると、
そればかりでもないのだろう。
「あんな顔して、ナカナカやるじゃん」
私は何故か少し嬉しくて、そんな自分が、やっぱりおかしかった。
途中で、
「じゃ、田中さんでよかったかな、そっ、あなた、次、読んでみてくれる。」
と、指されて、次の章を読み上げた。
「はーい、ありがとう。・・ここの意味わかるかな?」
「えーえ、はい、だいたいなら。」
「じゃ、今度は訳して、読んでみてくれるかな。」
「はい・・・・・・・・・・・・」
「うん、殆どいいんだけどー、ここはね、こーしたほうがより的確かな。
でも、よくできてる。ありがとう、座って。・・・じゃ、次は誰に読んでもらおーかなー・・・・・」
「レナ、珍しいねー、ちゃんと聞いてることもあるんだー。」
「何よ、アタシだって、ずっと寝てるわけじゃない。」
「ふーん、知らなかったー。」
「あっ、でも次は無理だ・・・・サユ、アタシ保健室行くから、アンタ、伝えといて。」
「またーって、学期始めから、いいの?」
「いいって、いいって。あの先生の場合、机で寝てると叩くから。」
「そーだけどさー。」
「じゃ、よろしくね!」
- 14 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 14:14
- 英語は決して嫌いじゃないけれど、やっぱりあの先生は、ちょっと苦手。
それに、サユじゃないけど、珍しく一時間緊張してたから、次は絶対寝てしまう。
それを無視してくれる人じゃないから・・・私はいつものように保健室に逃げ込むことにした。
「ちわー、また、お願いしマース!」
「って、新学期早々かよ、たくー・・」
養護の藤本先生は、口は悪いけれど、ものわかりは良すぎるぐらいの人で、
彼女がここにいてくれて、私は本当に助かっている。
彼女は、不登校になるよりは、ここで休んでくれた方が、ナンボもマシ。と考えているのだと思うし、
それに、たぶん彼女自身、それほど真面目な学生ではなかったんだろうな、と思わせるタイプだった。
「で、熱でもある事にしとくの?」
「ええ、そんなところで・・」
「なんの時間?」
「・・・保田先生の英語・・・」
「ああ・・・でも、田中、あの先生、ホントいい先生なんだよ。ちょっと煩いかも知れないけどさ・・・」
「ええ、それはわかってるんですけど・・・サボって帰ると、いつも机の上にプリント置いといてくれるし・・・」
「まあ、わかっているんならいいけどさ・・・えーとね、ベッドは両方空いてるから、奥つかって・・・」
「はーい、お世話になりまーす。」
私は、いつものように奥のベッドに横になる。
ウトウトしかけた、その時に、入口のドアが開いた。
- 15 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 14:31
- 「・・・美貴ちゃんいいかなー。」
「あっ、梨華ちゃん、今いいよ、こっち入りなよ。」
「おじゃましまーす。」
「・・・やっぱ、ここに帰ってきたんだね。」
「うん、なんかねー・・・結局、ただいまって感じかな。」
「いいんじゃないの、それで。」
「・・・・うん。」
「なに、空き時間?」
「そー。」
「あっ、そこ座って、今、お茶入れるから。」
「おかまいなくー。」
「はーい、どーぞ。」
「あっ、ありがとう。・・・なんか、でもおかしいよね。」
「何が?」
「保健室によく逃げ込んでた美貴ちゃんが、養護の先生なんて・・・」
「なによー、ピッタリでしょうが、それだけ、保健室に愛着があるってことよ。」
あっ、でも、それ生徒たちには言っちゃダメだからね。」
「わかってるって。・・・お互い、学生時代のことは語れないもの。」
「・・・・うん、でも、懐かしいでしょう?」
「そーだね、変わってないよねー、なーんにも。」
「・・・・やっぱり少しは抵抗あったりする?」
「・・・少しどころじゃないかも・・・ほら、あそこ、やっぱり通れないんだよね。」
「あーあ・・」
「わざわざ、遠回りしてる。」
「そっかー、でも、そのうち、平気になるって。アタシも最初はやだったけどさ・・」
「今は、平気なの?」
「まあね、で、病院の方は?」
「うん、行ってるよ、毎日。」
- 16 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 14:51
- 「へー、毎日なんだ・・・」
「うん、もー習慣になっちゃったみたい。帰りに寄らないと、一日が終わらないみたいな・・・」
「・・・でも、やっぱりないんでしょ、意識?」
「・・・うん、でもね、点滴以外の器械とかすっかりはずれてね、すごくやすらかな顔して寝てる。」
「そーなんだー。」
「私がね、その日にあったこととかね、話してると、穏やかな顔して聞いてくれてる。
まあ、そー私が勝手に思ってるだけなんだけどね。」
「ふーん。」
「ほら、前から、あの子そーだったじゃない。」
「そーだね、あの子だけだったかな、梨華ちゃんの面白くない話、突っ込みも入れずに聞いててくれたのは。」
「面白くない話っていうのは余計だけどね。」
「そーかなー、いつもツッコミどころ満載だけどなー、アタシからみれば・・」
「美貴ちゃんは特別、口数多すぎるの。」
「なんだよそれ。・・・・まっ、でも美貴としては、梨華ちゃんが来てくれて嬉しいよ。
これでまた、ヨッシーとみんなでつるんで遊べるじゃない。」
「うん・・・・一人足りないけどね・・」
「それは言わないの!」
「うん。」
「で、今日は歓迎会あんの?」
「あっ、週末だって。中澤先生がね、やるんだったら、とことん呑める週末がいいって。」
「あー、あの人、長いからねー。」
「ほら、私、二十歳のときに、ケメタンとかと、ご馳走になって以来じゃない。
だから、二年間分付き合わせるって、なんか、怖いのよ。」
「あの人らしいじゃん。・・・じゃ、今日は、美貴と遊ぼっかー。」
「あっ、いいけど、病院寄ってからでいいかなー。」
- 17 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 15:10
- 「あっ、そーだ、美貴も行こうかな久しぶりに。」
「あっ、そーしよ、じゃ、ヨッシーも誘って・・・・」
「そーだね、じゃあ、久しぶりに三人揃って行くカー・・・で、その後、カラオケかな。」
「カラオケー」
「アンタの下手な歌も久しぶりに聞きたいし・・」
「もー、笑わないでよー。」
「そりゃ、もちろん、笑うよ。」
「もー、美貴ちゃんてばー。」
「アンタ、相変わらず、すぐ牛になるんだねー、変わんないね、梨華ちゃんは。」
「美貴ちゃんの意地悪もね。」
「ハイハイ。」
「あっ、そろそろ私、次の時間の用意しなくちゃ。」
「次って、昼休みだよ。」
「あっ、そっかー。でも5時間目の用意あるし、お昼はゆっくりしたいじゃん、一緒に。」
「そーだね。」
「じゃ、後で、食堂で・・・って、あの席空いてるの?」
「うん、いつもヨッシーと占領してる。」
「やっぱ、そーなんだー、じゃ、そこに混ぜてね。」
「もちろん!」
「・・・・なんか本当に時間が戻ったみたいだね。」
「そーだね、ね、梨華ちゃん、悪い思い出、忘れるのは無理かもしれないけどさ、
心の中で、少しずつでも、小さくしていったらどーかな。イイコトだって沢山あったんだからさ。」
「そーだね、それに私なら大丈夫だよ、ほら、私、案外強いから・・・」
「そーだったよね。」
「じゃあ、後で・・」
「うん、後で・・」
- 18 名前:私のいる場所 投稿日:2004/02/03(火) 15:16
- 聞くともなしに、聞いてしまった会話。
そうか、藤本先生と石川先生は、同級生だったんだ・・・
それで、ヨッシーって呼ばれていたのは、たぶん体育の吉澤先生。
・・・・・で、悪い思い出、通れない場所、病院、あの子・・・・
眠りかけでぼやけてきている頭の中で、いくつかの言葉がグルグル回る。
石川先生、あなたにここで、何があったんですか?
あなたにとってここは、どんな場所なんですか?
- 19 名前:トーマ 投稿日:2004/02/03(火) 15:19
- 取り合えず、ここまで。ochi
- 20 名前:トーマ 投稿日:2004/02/03(火) 15:23
- ochi
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/03(火) 21:06
- 引き込まれました。
楽しみにしています。
- 22 名前:トーマ 投稿日:2004/02/04(水) 08:56
- >21様 ありがとうございます
さっさくのミスタイプです。
>10 17行目
正:教科書と参考文献らしきものを、胸に抱え、バカっ丁寧にドアを閉めるて、黒板の前に立つと、
- 23 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/04(水) 09:29
- 「久しぶりだね、三人でくるの。」
「うん、四年ぶりくらい?」
「そんなになるかな・・・でも、二人ともたまには来てるんでしょ?」
「うん、でも本当、たまにだよ。ね、ヨッシー。」
「ああ、なんかさ、やっぱ忙しくて・・・ホント悪いんだけどさ。」
「そーだよね、みんな色々大変だもんね。」
勤務時間が終わるのを待って、私は、ヨッシーを誘って、梨華ちゃんと一緒に、あの病院に来ていた。
「こんにちはー。」
梨華ちゃんが声をかけながら開けたその個室には、
黙って横たわる彼女と、そのベッドサイドで、レース編みをしている彼女のお母さんがいた。
「あら、今日は早かったのね・・・あれー、藤本さんに吉澤さんじゃない。
あら、あら、三人揃ってなんて、何年ぶりかしらね。」
「はー、なんかすっかりご無沙汰しちゃって。・・本当にすみません。」
「あら、おばさん、言い方悪かったみたいね。ごめんね、気にしないで、本当に。
・・・・梨華ちゃん、さっそくで悪いんだけど、ちょっと任せちゃっていいかな。
おばさん、ちょっと買物したくて・・・いつも甘えちゃって悪いんだけど・・・」
「もちろん、どーぞ行ってらしてください。しばらく居られますから。」
「ホントいつも悪いわね、藤本さんも吉澤さんもゴメンね。
・・・あっ、冷蔵庫の中にプリンあるから、梨華ちゃんに出してもらってね、吉澤さん確か好きだったでしょ。」
「やだなーおばさーん、アタシ、もーそんな年じゃないですよ。・・・でも喜んでいただきます。」
「でしょ、じゃあ、宜しくね・・・」
お母さんは、気を利かすかのように、明るい笑顔を残して、その部屋をあとにする。
- 24 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/04(水) 09:48
- 「ごっちん、今日はね、美貴ちゃんとヨッシーと一緒なの。」
それが当たり前のように、横たわるごっちんに話し掛ける梨華ちゃん。
「あのね、私、あの学校に行ってるんだよ、今日から・・・でね、前にも言ったけどさ、
美貴ちゃんって、保健室にいるの。サボって寝てるんじゃなくて、白衣着て、えらそうに。
で、ヨッシーは、ジャージ着て、校庭、走ったりしてるの。これもまた偉そうに、笛なんかぶら下げて・・・
なんかおかしいでしょ、結構笑えるよね・・・・
あれ、二人ともなにしてんのよ。さっ、こっち来て、挨拶、挨拶。」
「ああ・・・・久しぶり、ごっちん。」
「元気してた?って、ごめん、なわけないよね。」
「ううん、ほら、すごく顔色とかよくなあい・・・・それに変わらないでしょこの子。」
「あー、そーいえば、そーだよね。なんか、制服とか着れちゃう感じ。」
「でしょ、すこーし痩せちゃったけどさ、なんかまだ女子高生やってるみたいでしょ。」
「そーだね、相変わらずカワイイし・・・」
「うん、ごっちんのところだけ、時間が止まっちゃってるんだよね、きっと・・・」
「あのさ、アタシ、ちょっと飲物買ってくるわ。」
「あっ、美貴も行く・・・梨華ちゃん何がいい?」
「あっ、まかせる。」
「じゃ、待っててね。」
「うん・・・」
- 25 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/04(水) 10:18
- 「なんかさ・・・やっぱ、居づらいよね。」
「・・・だよね。」
「アタシさ、結構、ちょくちょく来てたんだよね、前は・・」
「ああ、アタシも。」
「でさ、ある日、っていつだったかな・・・看護学校の二年になったくらいかな、
学校帰りに寄ったらさ、病室のドア、少し開いてて、何気にそこから覗いたらさ、
やっぱり、いつものように梨華ちゃんがいてね、なんかずーっと話し掛けてるの。すごく楽しそうに。
それ、ぼんやり見てたらさ、なんか入れなくなっちゃって、それからあんまり来なくなっちゃって・・・」
「あっ、アタシも・・いつだったかなー、確か、大学のバレー部の試合がこの近くであってさ、
勝った報告しようと思って、ここ来たらさ・・・・
ちょうど病室に夕日が差し込んでいて・・・その赤い中でさ、梨華ちゃんが、ベッドに肘立てて、
ごっちんの手を取ってさ、こーやって、自分の頬にあててるの。目を閉じてさ、黙ってね、ずーと・・・
で、よく見ると、その頬に涙がつたってるんだよね・・・・
なんか、そのまま入れなくなっちゃって、そんなの見たら、やっぱさ。
それから、実を言うと、今日まで来てなかったんだよね・・・あたし。
ここで、梨華ちゃんと会ったら、どんな顔していいかわからなかったし・・・」
「そーなんだよね。じゃまもできないしね。」
「友達ガイないなか。」
「かもね。・・・でも、ごっちんも梨華ちゃんだけの方がいいんじゃないかな。」
「やっぱ、美貴ちゃんもそー思うんだ。」
「ああ、うん。」
「じゃ、いいんだよね、アタシ達これで。」
「うん、たぶん。」
- 26 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/04(水) 10:46
- しばらくして、お母さんが戻ってきたのをきっかけに、私たちは、病院をあとにした。
まずは、食事ってことで、私の行きつけの店に入る。
「ヨッシーも、お焼肉食べれるようになっちゃったんだー。」
「うん、藤本サンに鍛えられた。」
「へー、じゃあ、もーなんでもOK?」
「うん、大概は。」
「で、そんなに貫禄ついちゃったんだー!」
「コラー!人の腹、マジマジと見んな!」
「えへ、でもさー、なんかさー、やっぱ、イメージくるうでしょ、あの頃のひとみちゃんを思うとさ。」
「だから、言うなって!」
久々に会ってるはずの、梨華ちゃんとヨッシーは、それでも息がピッタリで・・・私はあの頃を思い出してた。
「ねー、アタシ達って、何気に4トップとか呼ばれてたの知ってた?」
「何それ?美貴ちゃん。」
「アタシは、何気に知ってた。結構うるさかったよね、当時。梨華ちゃんって、やっぱそーゆーのに疎いよね。」
「で、何よそれ。」
「あのね、ほら、アタシ達ってさ、なんつーの、才色兼備で、スポーツ万能だったじゃん、四人とも・・・」
「まあ、最初の方は、少し異議有りだけどね。」
「細かい所に突っ込まないの。てーか、梨華ちゃんも言うようになったよね。」
「まあ、これでも一応社会人やってるからね。で、それがどーしたの?」
「ああ、ヨッシーとアタシは、バレー部のエースとセッターで、梨華ちゃんはテニス部のエースで、
ごっちんはバスケのポイントゲッターとかだったじゃない。」
「うん、まあね。」
「で、梨華ちゃんは文系で、ごっちんは理系で、それぞれトップクラスで、そのへんは、ご指摘の通り、
アタシ達は少し落ちるけどさ・・・・で、この美貌って話よ。」
「はーあ?」
「だから、いろんな意味で、最強の組み合わせだったのよ。で、敬意と羨望の的の4トップ。」
「ふーん、知らなかったなー。」
- 27 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/04(水) 11:15
- 「ヨッシーと、ごっちんがすごくモテてて、全校生徒の憧れの的だったのは知ってたけどね。」
「そーいえば、モテたよねー、二人とも。」
「って、アンタらもでしょ。」
「そーかなー、まあ、美貴ちゃんが手紙とか貰ってるのは、何度も見たけどね。」
「梨華ちゃんは、一年の時とか、すごくなかった?先輩とかに呼び出されて。」
「そーだったっけ、みんなほどじゃないよ。」
「っなこたーないでしょ、いつも怖いからって、アタシかごっちんが付き添って、リンチじゃないんだから、ねー」
「だって、怖かったんだもん・・・」
「ハイハイ、怖かった、怖かった。・・・てか、アタシなんか駅とかでも、ボディーガードしてたよ、誰かさんの。」
「えっ、何のこと?」
「いたじゃん、よく、駅に男子校のヤツラ。」
「あーいたね、ガラの悪いのから、超お坊ちゃんみたいのとか、色々。」
「でしょ、美貴ちゃん。アタシの感じだと、アレ、半分は梨華ちゃんで、美貴ちゃんと、ごっちんが残りの半々の割合。」
「そーかなー、ヨッシーは?」
「アタシー、アタシはないな。いたとしても余程の物好きだよ。てーか、悲しいことに、告られるのって、女子ばっかで・・」
「そーそー、よく告られてたねー、特に後輩から。」
「バレンタインとか大変だったよね。」
「ああ、鼻血出るほど食べたなチョコレート。」
「へー、あれって、本当に出るんだー鼻血。」
「だよ、びっくりしたよー、って、アンタらももらったでしょ、食べなかったの?」
「そんなないしねー、適当に食ったかな美貴は。」
「私は、ごっちんと合わせて、溶かしちゃってさ、ケーキとか作ってたかな。」
「なんか良いのかねー、そんなことで、やっぱ、思いがこもってるんだから、食べてあげなきゃ。一つずつ。」
「だから、太るんだよ。」
「こら!また言いやがったな。」
- 28 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/04(水) 11:43
- 「あれ、いつだっけ?ヨッシーが告られて、梨華ちゃんと付き合ってるって、答えたの。」
「あーあ、あったねー、そんなこと。確かねー、3年になったばっかの頃かな。
付き合えないって断ったらさ、石川さんと付き合ってるんですかって言うから、面倒だから、そうだよって・・」
「そしたら、次の日には、学校中の噂になってて。」
「そーそー、私、そんなの全然知らなかったから、
美貴ちゃんに、何で黙ってたのよって、怒られても、何がなんだかわかんなくて・・・」
「そー、いつの間にーって思って、聞きただしたんだよね。」
「もー、それはすごい剣幕で、怖かったー。」
「あとで、謝ったじゃん・・・なんかさ、アタシらの中で秘密があったみたいで嫌だったんだよね。」
「アタシはぶたれたけどね、美貴ちゃんに。」
「適当なウソつくなってね。つくんならつくで、事前におせーろってね。」
「そー、で、ごっちんにも殴られそうになった・・・」
「えっ、その話知らない・・」
「二人には黙っててって言われたから・・・」
「何、何なんかあったの?」
「もう時効だよね・・・あのね、あの次の日、放課後にさ体育館倉庫に呼び出されてさ、
ごっちん、いったいどーゆーことだって、いつの間にそーゆーことになったんだって、
もーすごい顔してさ、本気で殴られるかと思ったよ。
で、何とか宥めながら、後輩振るためのウソだって、やっと伝えたらさ、ごっちん、その場にヘナっちゃって、
腰抜かしたみたいに、へたり込んじゃって、で、泣いたんだよ・・・あのごっちんが・・
よかった、よかったよって言いながら・・・で、二人には黙っててねって念押されて・・」
梨華ちゃんは、ヨッシーの話を聞きながら、少し涙ぐんでる。
・・・やっぱり、その日のごっちんの怒りの意味が、涙の意味がわかるんだよね。
でも、すぐに話題を明るい方に持っていく、煙が目に染みたように誤魔化して・・・
- 29 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/04(水) 12:21
- 「ふーん、本当に知らなかったな・・・ほら、その後すぐに、ごっちんがさ、その方法いいねって、
美貴ちゃんと付き合ってることにしたじゃない。」
「そーそー、で、アタシたち、ダブルカップルってことになったんだよね。」
「そっ、さすがにミンナあの石川さんには敵わないと思ったのか、それっきり校内では告られなくなって・・・」
「あの、てーのが引っかかるけど、それは、寂しいことでしたねー。」
「あっ、でもね梨華ちゃん、ヨッシーたらね、今、生徒にモテモテなんだよ。」
「へー・・・・こんなになっちゃっても?」
「コラ!また人の腹見て・・見るんだったら、この変わらぬ美貌をみなさいつーの!」
「ハイハイ、色白美人さん!」
「もー、なんか言い方に棘があるよね。」
「そーおー」
「でも、あれはいい方法だったよね。」
「そーそー、もっと前から使えばよかったって、あの後四人で笑ったよね。」
「考えてみれば、それまでよく思いつかなかったもんだってね。」
「だけど、それってさ、よく考えると、しょーがなかったんじゃないかなー。」
「どーゆーこと?梨華ちゃん。」
「ほら、私たち、普通に友達で・・・だから、付き合うとか、そーゆー発想生まれない・・・みたいな・・・」
「そーだねー、ごく自然に友達だったからねー。」
私たちは、高校生活を、あそこでともに過ごした。
梨華ちゃんとヨッシーは、中等部からの友達で、なにやら、生徒会の会長、副会長だったらしい。
私は高等部から入って、ヨッシーと同じバレー部で、それまでやっていたアタッカーを続けたかったんだけど、
背がないからって、入部するなり、セッターにさせられて、それでも意地で、一年の終わりには正セッターになっていた。
だから、ヨッシーとは、エースとセッターの名コンビ。話も合って、すぐに親しくなった。
ごっちんは、やっぱり、高等部から入って、梨華ちゃんと同じクラスになって・・
傍から見たら、決して合いそうもない感じなのに、どういうわけか、親しくなって、
後で聞いたら、梨華ちゃんが、自分が気に入って強引に友達になったみたいなこと言ってたけど、
それは、私にはよくわからない。
- 30 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/04(水) 12:46
- ともかく、そんな縁で、いつの日からか、私たちは4人で過ごすことが多くなって、
お昼休みは、いつも食堂の同じテーブルを囲んでいた。
窓際の一番奥のテーブル。どうしていつも空いているのかと初めは不思議に思ったけれど、
そのうちそんなことも思わなくなるほど、自然とそこは私たちの場所だった。
2年になって、私と梨華ちゃん、ヨッシーとごっちんが同じクラスになって、4人の親密度は増していった。
3年になると、わざとみたいに4人バラバラのクラスになったけど、
やっぱり、いつも4人でつるんでいた・・・・あの日まで・・・
「それでさ、あの夏の白浜は面白かったよね。」
「そーそー、行ったねー白浜。民宿泊まって。」
「湘南とかじゃ、色々危ないからって、わざわざ、伊豆まで行ったのにさ、やっぱ、ナンパされまくりで・・」
「まっ、適当に付き合って、ご飯とか殆どお金遣わなくて済んで、良かったんじゃないの、
貧乏女子高生としては・・助かったじゃん、結構・・」
「上手く逃げるのが大変でね。何気に美貴ちゃんって天才だと思ったよ。」
「何よそれ!」
「めちゃくちゃあしらうの上手いんだもの。お蔭で助かったけどさ・・」
「何気に引っかかる言い方だよね・・・何、それとも梨華ちゃんは、食われちゃいたかったの?」
「いいえー、滅相もございません。藤本さんのお蔭で、本当に助かりました・・」
「でしょ。まあ、いざとなれば、何気に俊足揃いだし、ヨッシーの腕力もあるから、どーにかなるわと思ってたけどね。」
「なんだよ、美貴ちゃんまで、アタシをボディーガードあつかいかよ!」
「まーあまー、誉めてんだし・・」
「そーは思えないけどねー・・・・でもあん時、ごっちん、半分ふて腐れてたの知ってた?」
- 31 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/04(水) 13:10
- 「何それ、美貴ちゃん、知ってる?」
「そんなことあったっけ・・・何気にテンション低めかなとは思ったけど・・で、なんで?」
「ほら、梨華ちゃん、あん時、黒のビキニ着てたでしょ。」
「あーあ、エサやってたよね。」
「えっ?・・・・三年の夏よね・・・確かに黒だったけど・・・何よそのエサってゆーのは。」
「ほら、飯の種。・・・ナンパのエサ。」
「何、それー、何気に失礼よね。」
「だからなの、ごっちん、よくあんなの着てるよって、アタシにブツブツ文句言ってさ・・」
「えっ、それ、ウソだよ。だって、あの水着、ごっちんと一緒に買いに行ったんだよ。
てーか、確か、ごっちんが選んだんだよ・・これがいいって・・」
「そっ、だから梨華ちゃんに何にも言えないで、勝手にふて腐れてたの。
どーも、買った時には、人目にさらされること、考えてなかったらしいよ・・」
「何、言ってんだか・・自分だって、オレンジのハイレグだったくせに・・・」
「だね、あれも充分にエサだったね・・」
「だよねー。美貴ちゃんの白いのもすごかったけどね・・ヨッシーだけだよねー・・」
「そー、ヨッシーだけ、何でってくらい肌覆っちゃって・・・」
「なんだよ、アタシは肌が弱いの・・・」
「エサ、やってないくせに、一番食べて・・・・」
「・・・たくー、アタシャ、ボディーガードだったんだから、それでいいの!」
「あっ、認めちゃうんだー」
「おー、認めてやるよーだ!」
私たちは、有り余るくらいの楽しい思い出を、語り合う・・
けれど、それはいつでも、この夏の日の話で止まる・・・
幸せだった二年半・・・最高に素敵だった、高校の二年半・・・
でも、そこから先に進めない。
・・・・・キミがここにいないから・・・
- 32 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 11:27
- 私は次の朝も、エリに追付かれた。
「おはよう!今日もいい天気だね。」
・・・ただ暑いだけじゃん・・・私は口の奥に言葉を留めて、
「おはよう。」とだけ返した。
「・・・あのさ、あの・・・新しい先生いるじゃない・・・何か、色々あったみたいだよ、前の学校で・・・」
「えっ?何それ?」
「あっ、やっぱり食いついてきた・・・・レナちゃんって、あの先生に興味あるんだよね・・・やっぱ、美人だから?」
「・・・そんなこと、ないよ。」
「そーかなー、いつもは私の話なんか、聞いてるのか聞いてないのか分らないのに、
あの先生の話ふったら、速攻で食いついてきたじゃない・・・
まあ、確かに魅力的だけどね・・本当に色々ありそうだし。」
「・・・・・」
「今、リサが調査中なんだって、あの子、好きだからねーそーゆーの・・・」
「・・・でも、やっぱり、レナちゃんでも、他人に興味持つことあるんだよねー、よかったー!」
「何それ、どーゆー意味よ。」
「だって・・・今まで、誰にも関心なさそうってゆーか、誰とも関わりたくないってゆーか・・・
よく道重さんといるけど、ただ横にいるって感じだし・・・
ほら、こんなふうに、一生懸命アプローチしている私にだって、ちっとも反応してくれないし・・・」
「何、アプローチとかしてたの?」
「してるじゃない、こーして。・・結構大変なんだよ、坂道を自転車で追付くのって・・」
・・・・何?わざわざ、私を見つけて、追いかけての、今まで・・・
- 33 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 11:49
- 「何で?」
「何でって・・・興味があるから。」
「どーして?」
「・・・どーしてかなー・・・なんかね、今まで見たことない感じの人ってゆーか、周りにいないタイプ・・・」
「何、もの珍しいってわけだ。」
「・・・そーゆーんじゃなくって・・・そーなのかな・・・何か、レナちゃんのこと知りたいなって思って・・・」
「アンタ、ずいぶんズーズーしいんだね。」
「えっ?」
「そんなに簡単に、人を知るなんてことは出来ないし、第一、アタシとアンタじゃ住んでる世界が違うから、
本当の意味で、知るなんてことは、絶対出来ないよ!」
「・・・そーなのかな・・私は、住む世界が違うなんて考えたことないし、レナちゃんに限らず、誰とも・・
でも、もし違うなら、レナちゃんの世界、見てみたいし・・・
人を知るってことは簡単じゃないのは分るけど、知ろうとすることが大事で、
知っていく過程が、楽しいんじゃないかな・・・」
私の少しキレ気味の言葉に、彼女はそんなふうに飄々と返す・・何か拍子抜けする・・
「で、何、今、楽しんでるわけ?」
「うん・・・あっ、ごめん、もしかして、迷惑だったりした?」
「・・・そーゆーんでもないけど・・・アンタってさ、人に嫌われてるとか思ったことないでしょ。」
「えっ、あー、ないかも・・私も嫌いと思う人いないし・・・
あっ、でも、もしかして、レナちゃん、私のこと嫌いなの?」
・・・・こういうのを天然って言うんだろうか・・本当に拍子抜けする・・・
「・・・そんなこともないけどさ・・・アンタって、ソートー変だよね。」
「そーかなー、そんなふうに言われたことないけど・・・
でも、変って思うってことは、少しは私に興味があるってことだよね。」
「はっ?」
- 34 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 12:04
- 「だって、どこかひっかかるから、変って思うんだもの。」
「本当、アンタって、何でも自分のいい方に解釈するんだね・・・まあ、いいけどさ。」
「・・・でも、今日は本当、嬉しかったな。やっと話らしい話ができて・・・
これも、あの先生のお蔭なのかな・・・・・じゃ、教室で!」
エリは、いつものように、ううん、いつもに増して、笑顔でそう言うと、自転車置場に曲がっていく。
彼女は、私の何が知りたいんだろう。
私を知って、どうしたいんだろう。
例えば、私の中学であった出来事を知ったら・・・
人は、他人事だという安心感で、好奇心旺盛に面白がるか、
独り善がりに、いい人ぶって、同情したり、周囲に対して憤慨したりする。
たぶん、そのどちらか・・・
そして、そのどちらとも、私を不愉快にさせるだけ・・・
いくら私を知ったつもりになったところで、
私と同じ思いには、決してなれないし、
私と同じ場所には、決して立てないのだから・・・・誰も。
- 35 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 12:24
- 「裕ちゃん・・いたいた、捜したよ・・・」
アタシは、校長先生を捜して、食堂に来ていた。
そこで、切なげに何かをじっと見ている、その人を見つけた。
「なんや、圭ちゃんか、何かあったんか・・」
アタシ達は、同僚だった時の習慣で、お互いを愛称で呼ぶ。
やっぱり、校長って言わなきゃ拙いでしょって言ったら、
そんな他人行儀なこと、お願いだから止めてくれって言われて、多少抵抗はあるものの、そのままにしていた。
「あっ、ちょっと話がね・・・それより、今、何見てたの?」
「・・・あれや。」
彼女の視線の先には、私もよく知る・・・
「ああ・・・三人になったんだね。まあ、まあ、一段と美しい景色だこと。」
「なんや、懐かしーなってな・・・」
「だね、でも、やっぱり、寂しいよね・・・」
「うん、そーなんよ・・・よっさんとふじもっつあんだけの時は、そんな風に感じんかったんやけどな、
イシカーまで揃うと、一人いーへんのがな・・・やっぱ、気になるわなー。」
「そーだねー。・・・そうそう、話、その石川のことなんだけどね・・」
「何や?」
「あっ、ここじゃなんだから・・・」
「じゃ、アタシの部屋、行くか?・・・でも、昼飯、まだなんやけどなー。」
「アタシもだけどさ・・・それじゃ、パンでも買ってくよ。先、行ってて・・」
「じゃあ、コーヒーでもいれとくわ。」
- 36 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 12:50
- 「しかし、何やなー、妙齢の女性が二人して、お昼に菓子パンかじってるつーのも、
なんや、情けない話やな・・・」
「あっ、ゴメン、ゴメン・・裕ちゃん、メロンパン嫌いだった?」
「そーゆー問題とちゃうけどな・・・で、何や、話って・・」
「そー、そー、石川のことなんだけどさ・・」
「うん・・」
「生徒の間でね、前の学校の話とか、噂になっててさ・・・ほら、この前、結局、裕ちゃん話してくれなかったから、
アタシもよく知らないじゃない、だからどー対処していいのかと思ってさ。」
「あーあ、そやったな、やっぱ、真相を知らんと、対処は無理かな・・」
「・・アタシは、そう思うよ。」
「そやな、まあ、あんまりいい話でもないからな・・・誰にも話さんで済むんやったら、
その方がエエと思ったんやけどな・・・本人は、何も言わへんし・・・」
「でも、あることないこと噂になっちゃってるんだよ・・・それに少し水臭くない?
アタシにとってもあの子は・・・やっぱり特別なんだよ。」
「・・・まあな、世間は狭いからな・・・そやな、圭ちゃんには、ゆーとこうかな・・・」
「うん、聞かせてよ。」
「あのな、ホンマ、本人は何も言わへんのや・・・ただな、アタシ、あそこの校長とは面識あってな・・
実は、ここへの就職のことは、その校長から打診されたことなんよ。」
「へー、そーだったんだー。」
「まあな、ここってよりも、どこかありませんかって、ことなんやけどな・・・
丁度、山田先生のこともあったからな、これは渡りに船やってわけでな、引き取ったんやけど・・・
あの子はな、やっぱり、だいぶ抵抗あったみたいやけどな・・・」
- 37 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 13:19
- 「じゃあ何、やっぱり、前の学校、辞めさせられたわけ?」
「あっ、そのことまだ話してなかったな、ゴメンゴメン、順序違いや・・
あのな、前の学校って、男女共学だったやろ・・」
「らしいね。」
「だから、当然、男子生徒つーもんがおるわけや。」
「だろーね。」
「でな、これも当たり前の話やけど、あの子に夢中になる者も、出てくるワナ・・」
「そりゃ、そーだろーね。」
「で・・・その中で、ちと暴走したのがおってな、どーも、ストーカーまがいのことをしてたらしてんよ。」
「ストーカーか、そりゃまずいね。」
「でな、あの子は知らなかったらしいんやけど、いつも夜中にあの子の家の周りをうろついてるもんやから、
近所の人が気味悪がってな、警察に通報してもーて、で、警察から学校に連絡が入って・・・」
「でも、そんなのだったら、全然石川のせいじゃないし、それくらいだったら、せいぜい補導でしょ、
注意されたぐらいで、帰されるでしょ、大した事にならないんじゃないの普通・・」
「まっ、普通ならな・・・けどな、悪いことにその親が、PTAの役員でな、自分の子の不祥事が信じられへんかったんやろな、
イシカー方が、うちの初な坊ちゃんを誘惑したんやって、騒ぎ立てたらしいんよ・・・
でな、例のインターネットの書き込みを持ち出してな、こういう前がある女だからってな・・・」
「何よそれ!って、まだ残ってんのアレ?」
「あー、ネット上には、あれからすぐに消してもらったから、残ってないんやけどな・・・
その親、どーにかして、あの子を悪者にしたかったんやろな、探偵とかつこーて、色々調べさせたらしいんよ・・・
それで、どこからかその噂拾ってきてな・・・・」
「でも、アレって、でっち上げじゃない!」
「まあな、でもな、根も葉もないことでもな、それが形になってしまうとな、
それは、それで一つの力になってしまうからな・・・怖い話やけどな・・・」
「何、それで辞めさせられたってわけ?」
「そやない。そんな中傷や噂だけで、辞めさすなんてことは出来へん。」
- 38 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 13:47
- 「じゃあ、なんで・・・」
「辞めろとは言われんけど、ただ居辛くはなるわな・・・それで、そこの校長が、アタシにな、相談してきたわけや・・
まあな、あの子は、何言われても、そこで頑張るつもりだったらしいんやけどな、
ほら、あの子に非はないけどな、結果として、一人の男の子傷つけることになったやろ、
そのことの方が痛かったらしくてな・・・で、ここに来るのは、嫌だったみたいやけどな・・・
やっぱり、どこぞで働かなーつーわけでな・・・・」
「そーだったんだー。・・・でもさ、そんな無理してここで働かなくてもさ、あの子の家なら・・・」
「それがな・・・・これ、ゆーてもいいんかな・・・」
「何よ、まだ隠し事あるの?!」
「まっ、圭ちゃんやからな、これ、人に言わんといてな。」
「うん。」
「あの子、後藤の入院費、いくらか負担してるらしいんよ。」
「えっ?」
「初めな、あの事件の直後にな、あの子の親がな、あの子が自分の責任だって、ゆーてるからって、
全面的に費用を負担するみたいなことをな、後藤の方にな、申し出たらしいんよ・・
ほら、後藤の家、お父さんおらへんしってな・・・でも、それが後藤のお母さん、怒らせてしもーてな、
そんな施しみたいなもん受けられないって・・・まあ、どこかで感情が行き違ったんやろな・・・
で、そのことで、あの子、もう一度傷ついて・・・で、泣いて頼んだらしいんよ・・後藤のお母さんにな、
自分自身で出来る範囲で、なにかさせて欲しいって、自分だけの力でするから、少しは負担させて欲しいって・・・
で、それができないなら、身代わりにはなれないのだから、死ぬしかないってな・・・」
「・・・・」
「そんなー言われたら、断われへんやろ・・・で、お母さんもな、じゃあ、あなたの出来る範囲でってな・・・
あの子、学生の頃から、いろんなバイトして、それ渡してたらしいんよ・・・」
「なんか・・・本当に、何にも知らなかったよ・・・」
「アタシかて、それ聞いたんは、最近やもん・・」
- 39 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 14:12
- 「でな、やっぱ、働かなーってことでな、ホンマ、複雑なんやろーけどな、ここに来るのは・・・」
「だね。・・・それに、その前の学校のPTAがさ、あの件、持ち出したってことはさ、
その件でも、そのうちここでも騒ぎになるよね・・・」
「たぶんな・・・でも、どっちのことも、あの子に落ち度はないんやからな・・・」
「そーだけどさ、知らない人は、色んな事言うからね。」
「そやな、だからそん時は、アタシが責任もって、生徒にも親にも、きちんと説明するよ。」
「うん、そーだよね・・・で、今回はどーするの?」
「ああ、今のところは、生徒の暇つぶしのネタみたいなもんやろ。」
「そーかなー。」
「この事だけやったら、親の方も騒がんと思うけどな。うちには暴走する男子生徒つーもんがおらんから。」
「そーだけどさ。」
「まだ、静観しててエエんちゃうかな・・・」
「うーん・・・」
「それにしてもさ、どーしてあの子ばっかりって思っちゃうよね。」
「そやなー、なんやろな・・・星かな・・・」
「星?」
「星・・・持って生まれた運命みたいなもんかな・・・」
「・・・だとしたら、神様も結構酷い事するよね。」
「まあな・・・でも、神さんは、そーゆー試練を与える時は、
必ずそれに立ち向かうことの出来る力を与えるもんらしいからな・・・
あの子は、強いよ・・圭ちゃんやアタシが思う以上にな、だから大丈夫だと思うんよ、あの子は・・・」
「・・・じゃ、後藤は?」
「そやな・・・・せめて、目を覚ましてくれたらなー・・・」
「裕ちゃんは何か聞いてる?やっぱり、もう無理なの?」
「医者はな、可能性はゼロじゃないって言ってるみたいなんよ・・・・」
- 40 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 14:39
- 「脳の損傷も箇所も、きれいになってるみたいやし、ただ、頭のことってゆーのは、
今の医学でもわからんことが多いらしいのよ・・・あとな、眠ってる時間が長すぎるってな、
長ければ、長いほど快復が見込めなくなるらしいんよ・・・・
なんや、奇跡つーもんは、起こらんもんなんやろか・・・」
「そーだよね・・・本当に神様がいるんなら、起こってもよさそうなもんだけどね。
それこそ、後藤には何の罪もないんだから・・・」
「そーなんよ・・・もしも、罪があるとしたら、あん時、そばにおったんに、なーんも出来へんかった、
アタシらの方やしな・・・」
「そーだよね・・・・ねえ、今更ながらなんだけどさ、
なんで石川、アタシたちに何も言ってくれなかったんだろーね、あーなる前に・・」
「そやな・・・それがあの子のプライドやったんやろな・・・
で、あーなってしまった後藤もあの子なりのプライドをかけてのことだったんやないかな。」
「プライドかー・・・確かに、それを持つだけのものはあったけどね、あの子たちには・・
でも、結果が結果だからね・・・」
「そーなんよ、だから、石川はその自分のつまらないプライドで、
結局、後藤を巻き込んでしまったことに対する贖罪を、今も続けてるんやないかな・・・」
「そーかな・・・アタシは、石川のアレは、償いとかじゃないと思うんだけどな・・」
「うん?」
「よくわからないんだけど、そんなのだけじゃ、続かないでしょ・・・」
「まあ、もちろん、元のところに、友情があるしな。」
「うん・・・でも、なんかもっと深いものがあるんじゃないかな、あの子たちには・・・」
「かもな・・・でも、だとしたら、よけいに、ハヨ目覚めて欲しいなー・・・
そーせんことには、後藤もやけど、石川も、一歩も先に進めんやろ・・・あそこから。」
「そーだね・・・・」
- 41 名前:キミのいない場所 投稿日:2004/02/05(木) 14:54
- 奇跡は、本当に稀にしかないから、そう呼ばれるのだろうけれど、
それを本気で待ち望んでいるのが、たぶんあの子たちを知る人全ての共通の思い。
あの頃の、あの子たちを知るも誰もが、その輝かしい未来を予想していたはずだから・・・
神様が本当にいるなら、私はあなたに言いたい。
神様はあなたは、あの子たちに、充分過ぎるものを与えて、この世に送り出して、
そして、ある時、それに気づいてなのか・・・奪いすぎるくらいのものを奪い去った・・・
神様、あなたは、間違ってる・・・マイナスの方が大きくなり過ぎてる。
そろそろ、返してやってください・・・もう、充分でしょう・・・・もう・・・
- 42 名前:トーマ 投稿日:2004/02/05(木) 14:55
- ochi
- 43 名前:トーマ 投稿日:2004/02/05(木) 14:56
- ochi
- 44 名前:トーマ 投稿日:2004/02/05(木) 14:59
- ochi
- 45 名前:みっくす 投稿日:2004/02/06(金) 15:33
- 物語にすごくひきこまれました。
いったい何があったのでしょうかね。
次回もたのしみにまってます。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2004/02/07(土) 23:25
- 石川さんと後藤さん何があったんだろう
続き待ってますね
- 47 名前:dada 投稿日:2004/02/08(日) 13:46
- 85年組イイですね。
4人の高校生姿が浮かんできます。
過去の出来事が気になりますねー。
神様早くプラスの方を返してあげてください。
次回の更新待ってます。
- 48 名前:トーマ 投稿日:2004/02/09(月) 11:42
- >みっくす様
>46様
>dada様
ありがとうございます。過去の出来事は、おいおい明らかになっていきます。
田中さんたちの今と、石川さんたちの過去を上手くリンクさせていけたらなと思っています。
- 49 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/09(月) 12:02
- 次の朝、私は電車を一本遅らせた。
いつもと同じ時刻に家を出て、ホームで乗るべき電車が、行き過ぎるのを見送った。
今朝は、エリの声を聞きたくなかった。
彼女は、私の世界が見たいと言った。私と話がしたいと言った。
昨日の朝、少し話をしたことで、たぶん彼女は、私との距離が少し近づいたと思っているのだろう。
だから、だから今朝は会いたくないと思った。
校舎に入って、階段を上りかけたところで、予鈴が鳴り始めた。
何人かの生徒が、小走りに私の横を追い越して行く。
私は、二階で、階段を上がるのをやめて、そのまま横に折れた。
二階の右奥には、一つの学校のものとしては、かなり立派な図書室があった。
そこに入ってすぐのカウンターに座っている司書の人は、少し怪訝な顔をしていたけれど、
私は構わず、そのまま目的の書架に向かう。
・・・・別に初めからそうするつもりで、校門をくぐったわけではなかったけれど、
走ってまで、出る授業でもない。だから、ついでに少し気になっていた、本を捜す。
・・・・あっ、これでいいのかな・・・
何冊目かの本を手にした時、
「あれ、一年B組みの・・・田中さんだよね。」
思わぬ人に声を掛けられた。
- 50 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/09(月) 12:33
- 「何、田中さんは、ギリシャ神話に興味があるの?」
「あっ、はい・・・今読んでいる本に、ちょっと書かれてあったもんですから・・・」
「ふーん、そーなんだー・・・今まで、読んだ事あるの?」
「あっ、いいえ・・」
「・・・じゃあね・・・こっちの方がいいかな・・初めてなら・・こっちの方が読みやすい・・・
これだとね、すごくいい本なんだけど、ちょっと途中で挫折しちゃうかもしれないな・・・」
「あっ、はいー。」
「あっ、ごめん。余計な世話だったかな・・・」
「イエ、そーします。」
「・・・あのね・・・・田中さんが読んでる本が何かは分らないんだけどね・・・
欧米の小説なら、ギリシャ神話とか、旧約聖書とかの知識は前提になっているものが多いから、
今のうちに、その二つはね、読んでおいた方がいいと思うの。
ただ、ちゃんとしたものを読むのは、結構、根気がいることでね、私も大きなものに手を出して、
挫折した経験があるの・・・だから、最初はダイジェスト版みたいなものから入って、
で、興味が湧いてきたら、徐々にちゃんとしたものっていう感じでね・・・」
「・・・古文の先生でも、やっぱり西欧文学とかやるんですか?」
「ああ、一応ね。そんなに詳しいわけじゃないけど、本はね、洋の東西、今昔も関係なしに好きだから・・・
もちろん、日本のものも、古典の知識があった方が、やっぱり深く読むことができるのよ・・・
って、あれ、授業中よね?」
「先生・・ちょっと気づくの遅すぎですよ。」
「ああ、自分が空き時間なものだから・・・って、あなた、自習とかじゃないわよね。」
「ええ・・」
「ふーん、さぼりってやつかー。」
「まあ、はい・・」
「そっかー・・・で、一時間まるまるやっちゃうの?」
「・・・やっぱ、いけませんか?」
「そーねー・・・それならさ、少し私と話ししない。ちょっと付き合ってくれる?」
「はっ?・・・てーか、怒らないんですか?」
「・・・まっ、ムリムリ授業受けてもねー。」
「・・・何かそーゆーこと言う先生だと思ってなかったな・・・」
「そーおー・・まっ、イイコトじゃないんだけどね・・で、どーする?」
「ハイ、別にいいですけど・・・」
「じゃ、それ借りておいで、私も、これ返してくるから・・」
「で、どこに行くんですか?」
「準備室。今の時間、空きは私だけだから・・」
- 51 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/09(月) 12:58
- 「コーヒーと紅茶、どっちにする?」
「あっ、どっちでも・・」
「じゃあね、紅茶入れるね。私の好みで悪いけど、今日はアールグレイ持ってきたの・・」
「はあ・・」
「これね、ミルクじゃなくて、牛乳とお砂糖入れて・・そっ、そんな感じ・・合うと思うんだけどな・・・」
「あっ、はい。」
「ね、美味しいでしょ。」
「はい・・・」
「・・・・田中さんって、よく寝てるんだってね・・教室でも、保健室でも・・」
「あっ、やっぱりお説教ですか?」
「あー、そーじゃないの・・・私の授業はよく聞いててくれるから・・」
「・・・まあ、古文てゆーか、国語は好きだから・・・」
「そーなんだ。そーよね、本読むの好きなんだものね。」
「・・・はい・・・」
「・・・じゃあ、そんな重症じゃないのね・・・」
「えっ?」
「あっ、ごめん・・・美貴ちゃん・・あっ、藤本先生がね・・あなたが人と関わるの避けてるみたいなこと言ってたから・・」
「あっ、それは、そーですけど・・」
「でも、本読むのが好きなのよね・・・小説とかって、それこそ、古いものでも、今のものでも、どこの国のものでも、
描かれてある事って、みんな人間のことよね・・・色んな言葉遣って、色んな表現で・・人間を書いているのよね。
だから・・・それが好きってことは、田中さんは、本当は人嫌いじゃないのよね・・」
「はー・・・でも・・」
「ただ、もしかしたら、今、自分の周りにあるものが嫌なのかな・・くだらなく見えて、興味もてないとか・・」
「・・・はー」
「あっ、ごめんね・・・もしかしたら、立ち入られるの嫌だったかな・・・」
「はい・・」
- 52 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/09(月) 13:36
- 「本当、ごめんね・・・だから、もし聞きたくなかったら、聞いてなくてもいいんだけどさ・・・
私、結構ずーずーしい人間だからさ・・・ちょっと、勝手にしゃべらせてね。」
「はー・・」
「私のね、友達に・・・少しあなたに似た感じの子がいたのね、でも、その子は本当もっと重症でね、
それこそ、数学とか物理とかにしか興味がなくて・・・答えが決まっているからって・・数字は嘘つかないって・・
国語とかって、ほら、答えが一つじゃないってゆーか、幾通りもの読み方があったり、
同じもの読んでも、人それぞれの感じ方があったり、もちろん試験とかの模範解答はあるけれども、文学自体はあいまいなものでしょ。
歴史とかもね、時々によって、同じ事象でも評価が違ったり、文書に残ってることでも、
所詮、人の書いたものだから、書いた人の感情が入るじゃない、だから本当の意味での真実はわからない・・・
そんなふうに言う子でね、そんなだから、生身の人間にも、あまり関心がないっていうか・・
他人と深い関わりを持つことを避けているみたいなね・・そんな感じがあった子でね・・・
でも、私、何だかすごくその子に惹かれちゃって・・・かなりずーずーしく話かけちゃって・・・」
なんだか、エリに似てる・・・
「それでね、ある時、その子とこんな話をしたの・・・あっ、これ、本当に面白くない話かも知れないけど・・
私が子供の頃に、聞いて、何だかすごく感動して、記憶に残ってた話で・・だから、結構あいまいなんだけど・・
ある大学の自然科学の先生がね・・テレビの中で、確かお年寄りに向かって講義してた中の話だと思うんだけど・・
人の生まれ変わりとか、魂の存在とか、そう言うのは分らないけどって前提があってね、
命あるものと、そうでないものの境界はどういうことなのか分らないけど・・
人間も自然物の一つだから、その構成要素は、原子レベルでは、水素、炭素、酸素、窒素が主なもので、
それは、この宇宙が出来た時から、変わらずにあるもので・・・
この地球上で、ある時は空気中にあったり、土の中だったり、ある時は植物になったり、もちろん動物にもなったり・・・
そうやって、結びつきの形を変えながら、常に繰り返し、存在している・・・
あっ、こんな話・・・興味ないかな?」
「いえ・・」
- 53 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/09(月) 13:56
- 「だからね、もしかしたら、原始の海でね、一つの単細胞生物を形作っていた、窒素と炭素がね、
長い年月を超えて、本当に久しぶりでね、自分の体の中で、隣合っているかもしれないの・・
何億年ぶりかな、とか言いながら・・・
そんな話を、その先生が話してたの・・・だから、命は永遠みたいなね・・」
「はー・・・」
「ちょっと、ぴんとこないかも知れないけど、私、その話しを小さいころに聞いて・・・なんかすごいなって・・
そんなふうに思ったら、この世にあるもの全てが愛しくなって・・・
ほら、もうちょっと大きなレベルでも、DNAとかって、太古から受け継がれているものでしょう・・・
今の自分が、どうしてここにいるのかって考えた時に・・永遠の流れの中の一つなんだなって・・・」
「あーあ、なんとなく分ります・・」
「うん、それとね、もう一つ考えてみたの・・・
例えば、今、田中さんの中にある炭素とね、私を作っている窒素とがね、
何世代か前には、どこかで同じ身体の中にあって、同じ細胞を作っていたのかも知れないでしょ。」
「あっ、はい・・」
「そう思ったら、人と人との距離って、そんなに遠くないんじゃないかって・・・」
「・・・・」
「・・・・ああ、この話すると、結構みんなに、何それって言われるんだけど・・・
その、あなたにちょっと似てるって言った友達はね、神妙な顔して聞いてくれて・・・
それからかな・・本当に色々な話するようになって・・・」
この先生が何を言いたいのかは分った・・・だけど・・・
- 54 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/09(月) 14:16
- 「その人は、今、どーしているんですか?」
私は少し意地悪な質問をする・・・友情なんて、そう長くは続かない・・
「・・・あー、今でも私のそばにいてくれてる。すごく大切な友達だよ。」
「そーなんですか・・・トモダチですか・・」
「うん、一番の友達かな・・・・ねー、やっぱり面白くなかった?私の話。」
「そんなことないですよ。・・・聞かせてもらってよかったと思ってます。」
「ならいいけど・・・」
「それからね・・・・興味のないことは、ムリムリやらなくてもいいと思うんだけどね・・
勉強ってゆーか、学問ってね、それぞれが、まるっきり別々のことじゃないと思うの。
それぞれリンクしている部分があるってゆーか・・・だから、何かを掘り進んでいくとね、
他の要素の知識も必要になっていくってゆーか・・・
ほら、あなたが小説を読んで、ギリシャ神話に興味を持ったようにね・・
他の自然科学みたいなものも関わってくると思うの。
でね、そー思った時にはね、意地を張らずに、食わず嫌いにならずにね、そーいったことも学んでいけばいいと思うの。」
「はー・・・」
「ちょっとお説教くさいかもしれないけど、若いうちは吸収力あるから・・どんなことでも、柔軟にね・・・
興味の対象を広げていけばいいと思うの。
もちろん、勉強だけじゃなくて・・・いろんな意味でね・・・」
「・・・・はい・・」
「あっ、そろそろ一時間目終わっちゃうね・・・ね、次の授業は出るんでしょ?」
「あっ、はい。」
「私も、次はA組みの授業があるんだ・・」
- 55 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/09(月) 14:27
- 「・・・・あの、また話聞きに来てもいいですか・・・」
「あーあ、私のつまらない話でよければ・・・でも、なるべく授業中は止めようね。
他の先生方に見つかったら、やっぱり怒られちゃうから・・」
「あっ、はい・・」
「・・・放課後とかなら、あんまり長い時間は無理だけど・・気軽に声掛けてくれていいから・・」
「はい、そーします。」
初めて飲む、アールグレイは、とても柔らかな味がした。
冷房の程よく効いた、国語準備室で、それは、とても温かだった・・・
この若い先生は、とても一生懸命なんだろうと思った・・・
先生の言いたいことの全てを理解して、それに頷けた訳じゃないけど、
普段、他人の懸命さなんてものは、ウザイだけだと思ってる私が、
この場所を心地よいと思えてしまっているのは・・・
この紅茶が美味しいからだけだろうか・・・・
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/09(月) 17:39
- 透明感のあるお話ですね。
続きがものすごーく気になります。
- 57 名前:トーマ 投稿日:2004/02/10(火) 09:56
- >56様 ありがとうございます。頑張って更新したいと思います。
- 58 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 10:20
- ごっちん、今ね、あの学校に、あの頃のあなたに似た感じの子がいるの。
初めて出会った頃のあなたに・・・・
顔が似てるとかそーゆーんじゃないんだけど・・・どこなのかな・・・
もしかしたら、あなたのいたあの場所に、彼女が座っているからだけなのかもしれないんだけど・・・
あなたと同じで、高等部から入った子でね、
そー、あの時の、あの教室の、窓際の一番後ろの席・・そこにその子がいるの・・・
ごっちん、あなたは覚えているかな・・・私と初めてしゃべった日のこと・・・
入学してしばらくたつのに、あなたは誰とも親しくなる様子がなかった。
一人、超然として、他の人を寄せ付けない感じに、凛としていた。
そんなあなたが気になって、私はいつの間にか、あなたを目で追うようになっていた。
あなたは、いつもあの席で、窓から外を見ていた。まるで、内側の世界から、目をそらすかのように・・・
あの日、三時間目の始まりのチャイムが鳴っている中、
あなたは、すっとその席から立ち上がると、そのまま、ごく自然な感じで、ドアを開けて教室の外へ出て行った。
そんなあなたを、ぼーっと見ていた私は、自分でも不思議だったんだけど、
引き寄せられるように、あなたの後をついてドアを出て、そのまま、あなたの背中を追っていた。
あなたは、階段を上がると、重い鉄の戸を押し開いて、春の柔らかい日差しのさす、屋上を柵の所まで歩いて、
教室からとは少し角度の違うその景色を、柵に手をかけて見ていた。
私は、上り口の前で、少し躊躇してたけど、勇気を出して、あなたの隣に並んで立った。
- 59 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 10:39
- あなたは、そんな私にいつから気づいていたんだろう。
少し間を空けて・・・・
「ねぇ、授業、始まってるよ。こんな所にいていいの?」
それは、出席の返事以外で、初めて聞くあなたの声だった。
「あなたこそ・・・」
「あっ、アタシは・・・次の授業、興味ないから・・・」
「・・・・歴史・・・嫌いなの?」
「嫌いって言うか・・意味無いってゆーか・・」
「・・・意味無い?」
「だって・・・・あれってさ、特に今やってるよーな、大昔のところってさ、
なんってゆーの・・憶測にしかすぎないって感じ?」
「えっ?」
「ほら、誰もその目で見たわけじゃないから、新しいもの発掘とかされちゃうとさ、全然変わっちゃうし・・」
「ああ、そーゆー意味か・・」
「答えがさ、はっきりしてないもの、学んだってしょうがないよね・・」
「・・・そーかなー、私、結構好きだけどな・・・それに遺跡とか、それなりの根拠はあるわけだし・・」
「でも、あーゆーのって、こーだったんじゃないかなー程度の推測だよね。
もうちょっと、時代が下がって、文書に残ってる事だって、書いたヤツの大嘘かもしれないし・・・」
「それは、そーだけど・・」
「なんで、あんなもの勉強するのかな。アタシにはわかんないや・・」
「・・・だって、知りたいんじゃないの・・・どーやって、この国が出来たんだろかとか、
どーやって、こーゆー世界になったんだろーかとか・・・」
「知りたいかな?・・・別に知らなくても生活できるよね、普通に・・」
- 60 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 11:05
- 「でも、不安じゃない・・自分たちの来た道がわからないって・・・」
「はあ?」
「ほら、人ってさ、自分がどこから来て、どこに行くんだろうってゆーのが、
人生の一番の命題だって言うじゃない。」
「ずいぶんと哲学的なことゆーんだね・・・委員長さんは・・・」
「・・・・」
「てーか、その委員長さんが、こんな所でサボってていいわけ?アンタ、いい子なんでしょ?」
「いい子かー・・・どーなんだろ。」
「何、それとも、委員長の職務として、不良を連れ帰りにきたとか・・」
「あっ、そんなんじゃないの・・・なんとなくね、なんとなくついて来ちゃった。」
「何で?」
「ああ・・・あなたに興味があるからかな・・」
「ふーん、変なの・・そんなに珍しいかな・・アタシ・・」
「あっ、珍しいとかじゃなくて・・・何だろう・・本当どーしてかな・・・
なんかね、ずっと、あなたと話がしてみたいと思って・・・」
「そー、アタシは人と話がしたいなんて思ったことないけど。」
「あっ、ごめん・・・ウザかったかな?」
「てーか、アンタ、アタシとなんか話さなくても、取り巻きがたくさんいるじゃない。」
「ああ、中等部から、ここだからね・・・ほとんど知った顔で・・・」
「それで、ここから入ったアタシが珍しいんだ。」
「だから、珍しいとかそーゆーんじゃなくて・・・何かな・・・私の知らない何かを持っていそーってゆーか、
ほら、さっきの歴史の話だって、私と全然違う捉え方してるし・・・」
「アタシからすりゃ、あんなの素直に聞いて、一生懸命ノートとってるなんて信じられないけどね・・・」
「・・・・あのさ、よく気が合うから友達ってあるじゃない・・でも、同調してるだけって、面白くないよね。
話するんなら、違う考え方の人との方が面白いし、違う感性の人の話って刺激的だし・・・」
「ふーん・・」
- 61 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 11:29
- そんなことだけだったろーか・・・あの時あなたは最後まで、つまらなそうな顔してたけれど、
私は、あなたと話せただけで、妙に気持ちが高ぶってしまったことを覚えている。
その後、私たちは、担任でもある中澤先生に呼ばれて、30分はこってり絞られた。
「イシカー、アンタまでが、エスケープかい?
しかも、よりにもよって、堂々とアタシの授業を・・・
ホンマ、先生、怒りを通り越して、情けなーくなってくるわ・・・・」
私はひたすら謝っていたけど、ごっちん、あなたは隣で頭も下げずにいたよね「はー?」って顔して・・・
そんなことをきっかけに、私は本当にしつこいくらい、あなたに話し掛けて・・・
きっとあなたは、そんな私に呆れたと言うか、諦めたと言うか・・・
「アンタ、本当にしつこいよね・・」が、
「アンタ、変な人だよね、おかしすぎるし・・」
「石川さんって、マジ、調子くるうし・・・」
「梨華ちゃんって、ちょっとヤバイよね・・」になって・・・・
あなたは相変わらず、私の思いもよらないようなことを言ってたけど・・・
少しずつ、熱心に私の話も聞いてくれるようになって・・・
少しずつ、顔が緩むようになってきて・・
6月を迎える頃には、笑顔で話をするようになった・・・本当にいろんな話を・・・
調子に乗った私は、運動神経がいいあなたが、帰宅部を決め込んでいるのに納得がいかなくて、
半強制的に、バスケ部に押し込んで・・・本当は一緒にテニスがしたかったんだけど、
スコートはくのは死んでもやだって、あなたが言うから、まあ好きなほうって言ってたバスケットで妥協して・・・
さすがに、すぐレギュラーになったのには、驚いたけど・・・
- 62 名前:キミのいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 11:47
- その頃には、中等部からの私の親友のヨッシーや、その部活仲間の美貴ちゃんなんかとも親しくなって、
私たちは、いつの頃からか、決まりごとのように、4人でお昼休みを過ごすようになって・・
部活帰りも、自然と待ち合わせたかっこうで、一緒に下校するようになっていた。
あなたは、決してその中で、饒舌ではなかったけど、最初の印象とは見違えるほど楽しそうで・・・
だから、私は、あの時は、私があなたとあんなふうに無理やり友達になったことを、
すごくよかったことだと思っていたんだ。
あなたにとっても・・・あなたにとってもよかったんだって、そう思ってたんだ・・・
あんなことが起こるまでは・・・
そーなんだよね、ごっちん、
もしかしたら・・ううん、たぶん確実に・・
私があなたに近づいてさえいなければ、あなたはこんなめに合うことはなかったんだよね・・・
ごくごく平穏に・・・アレからの5年間を、あなたなりの生き方で過ごすことが出来たはずなんだよね。
そーなんだよね、ごっちん・・・私が・・こんなふうにさせちゃったんだよね・・・
なのに・・・
それなのにね、私、こーやって、黙って眠っているあなたに話し掛けてるこの時間がね、
楽しくさえあるんだよ・・・
あなたとこーして、同じ空間にいられることがね、幸せだったりするんだよ・・・
本当に、自分勝手で我侭だよね、私・・・本当に・・・
- 63 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 12:12
- 二学期も二週目を迎えた朝、私はいつもの電車に乗って、学校に向かった。
あの日、石川先生の話を聞いて、気が変わったわけじゃないけれど、
別にエリに話かけられても、それはそれで構わない気分ではあった。
でも、幸か不幸か、その朝は、彼女に出くわすことはなかった。
教室に入ると、そこは何か騒然とした雰囲気で覆われていた・・・
自分の席に向かいながら、その原因が、石川先生の前の学校でのスキャンダル話であることは、
聞こうと思わなくても耳に入って来た。
教室の中央では、リサを中心に大きな輪が出来ていた。
「おはようレナ・・」
「ああ、おはよう、サユ・・アンタ、話し聞きにいかないの?」
「あっ、あれ?・・・あれ、つまんないんだもの。」
「えっ?」
「全然、信憑性なくてさ・・」
「そーなの?」
「だってさ、あの先生が・・男子生徒誘惑して、首になったって話だよ・・」
「へー」
「・・・集団レイプでもされたって言うんだったらさ、ありそーってゆーか、面白いけどさ・・」
「はっ?」
「レナ、あの先生が男に困ってるとか見える?」
「ああ、見えないね・・」
「でしょ、だから、やりたかったらさ、そんな学校首になるような危険冒して男子生徒誘わなくてもさ、
いくらでも、よって来るでしょ、アレなら・・」
「まあ、そーだろーけど・・」
「よっぽどそーゆー趣味でもない限りね・・・・それにさ、あの子たち、先生が露出の多い服とか着てとか言ってるけどさ、
男子高校生なんてさ、例えばアメフトの防具とか着てても、乳首の色まで想像できる人種なんだよ。」
「何、それ?」
- 64 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 12:34
- 「あっ、レナって、男兄弟とかいる?」
「いないけど・・」
「アタシさ、兄貴いるのね、二つ違いの・・・ウチの兄貴ってさ、ほら、アタシの兄弟だから、
それなりにイケメンだったりして、彼女とかって別に不自由してないんだけどさ、
それでもね・・部屋には、変な写真とか、ビデオとかやたらあるしさ、
友達なんかと話してんのも、そんなのばっかでさ・・・」
「何、アンタ、覗いてんの?」
「まあ、見るともなく、聞くともなしにってやつよ。」
「ふーん・・」
「だからさ、別にあの先生が誘惑とかしなくてもさ、勝手に妄想しちゃうって・・
まあ、そんなんで親とかが言いがかりつけて、首なんてのはあるかも知れないけど、
それじゃ、ありきたり過ぎて、話としては面白くないかな・・」
「ふーん・・へー・・」
「何よ、その妙に感心したみたいなリアクションは?」
「あーあ、サユってなんか、見かけより大人ってゆーか・・・」
「・・・レナはさ、アタシのことただのミーハーだと思ってそーだからね・・・
アタシさ、確かにかなりミーハーだけどさ、バカじゃないから・・・」
「・・・そーみたいだね。」
その日の一時間目は、その噂の主の授業だった。
授業中は、さすがにお行儀の良い学校の生徒らしく、みんなそれぞれ神妙に聞いていたけど、
終わりのチャイムが鳴ると同時に、リサが立ち上がって、声を掛けた。
「あの、先生、ちょっと・・・」
すると、その言葉を制するように、エリがさっと席から離れて、先生の所に歩み寄った。
「あの、先生はテニス部の先輩なんですよね?」
石川先生は、少しリサの方を気にしていたけど、エリの行動に押された感じで、リサはそのまま着席していた。
- 65 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 12:52
- 「ええ、やってたけど、この学校にいる時は・・」
「じゃあ、何で部活、みてくれないんですか?」
「あー、だって、ちゃんとした顧問の先生がいらっしゃるし・・」
「でも、全国大会までいかれたって聞いたんですけど・・」
「ああ、三回戦で負けちゃったけどね・・」
「練習みてくれませんか・・OGの立場でいいですから・・」
「・・・私、ちょっとね、放課後、あまり時間とれなくて・・・」
「是非、みて欲しいんです。先生に・・・」
「・・・そーねー、じゃあ、今度、時間がとれたら・・・」
「個人的に、昼休みとかでもいいんですけど・・」
「ええ、それならなんとかなるかもね・・」
「じゃあ、今日の昼休み・・私と打ってもらえませんか?」
「今日?」
「はい、先生のテニスが見てみたいんです。」
「でもね、たいしたことないのよ・・大学では続けてないし・・」
「少しでいいですから・・・」
「うん、じゃあ、付き合うけど・・」
「コートの方は私がとっておきますから・・」
「本当にたいしたことないからね・・」
「よろしくお願いします。」
「ねえ、レナ、なんか面白いことになったね。」
「何が?」
「エリって、アー見えても、すでにテニス部のエースらしいのよ。」
「そー・・」
「ね、アタシらも見に行こうよ・・」
「はっ?」
「おもしろそーじゃん・・ほら、アタシ、ミーハーだからさ・・」
「・・・・まあ、いいけど・・・」
- 66 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 13:45
- 教室でパンと牛乳の昼食を食べ終えて、サユに引っ張られる形で、コートに行くと、
すでに、その二面あるコートを取囲む柵の外には、かなりのギャラリーがいた。
「何か、すごい人気だね・・」
黄色いテニスボールが、高い音をたてて、ネットの上を行き交っている。
エリは、練習用のテニスウェアで、全然余裕って感じにボールを打ち返している。
先生は、短いスエットのパンツとポロシャツを着て、コートの前後左右にふられている・・・
「エリって、やっぱ上手いよね。これが現役とOGの差ってやつかな・・・何か、先生かわいそうだね・・」
サユはそんな感想を漏らして・・・そーだよね・・・って、あれ、何か違う・・・・・
「あーあ、あれじゃ実力違い過ぎだろ。」
「そーだねー。」
聞き知った声に、ちょっと振り向くと、ジャージの上下で腕組みをする吉澤先生と、
白衣のポケットに両手をつっこんでいる藤本先生が、並んでコートを見ていた。
「あれじゃ、亀井、怒っちゃうよな。」
「だね、梨華ちゃんも、もーちょっとマジにやってやればいいのに・・・」
えっ?
「梨華ちゃんはさ、きっとちょっとラリーして、遊ぶつもりでやってるんじゃないの。」
「そーなんだろーけど、相手がマジなんだから、少し気づいてやればいいのに・・・」
「まーそこが、梨華ちゃんらしいってゆーか・・・」
「まーな。でも、テニスやるってゆーから、久々にアイツのスコート姿見れると思って来たのに・・・」
「たくー、ヨッシーって、本当ゆーことオヤジだよね。」
「バカ、そーゆー意味じゃないよ・・・なんか懐かしいじゃん。」
「そーだよね、あのバカ、オマエはFILAの広告塔かってくらいに、練習の時から、上下バッチリきめてたもんね。」
「だったよな・・・・おっ、そろそろ亀井がキレるよ・・・」
- 67 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 14:03
- 実力が違い過ぎる・・・相手はマジ・・・?
そーいえば・・・エリがどこに打ち返しても、ボールは必ず、一歩動けばいい辺りに戻ってくる・・そーゆーことか・・・
ポーン・・・がエリのラケットが弾いたボールが、大きく弧を描いて、コートの外に落ちる。
「先生!少し、本気でやってください!」
「えっ?」
「これじゃ、練習にならないじゃないですか!」
「あっ・・ごめん・・・ラリー続けたほうがいいのかなって思って・・」
「私のこと、バカにしてるんですか?!」
「・・・そんなつもりじゃ・・・」
「今日はもういいです!」
「あっ、ごめん・・」
「・・・・今度、試合、してください!」
「えっ?」
「本気で試合してください。」
「あっ・・・」
「お願いします!」
「あっ、うん・・・」
エリは、先生のラケットを受け取ると、ボールを手早く片付けて、足早にテニス部室に消えて行った・・・
ギャラリーの殆どが、何が起こったのか分らずに、ボソボソしゃべりながら、コートの周りから散っていく。
「ねぇー、レナ、どーゆーこと?」
「・・・ああ、たぶん先生がエリの打ちやすいところに返球してたのを、エリが子供扱いされたと思って、キレたんじゃないの。」
「ふーん、アタシ、スポーツだめだから、よくわかんないけど・・・
でもさ、あの子でもあんな声とか出すんだね・・・」
「ああ、うん」
- 68 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 14:10
- 「意外だなー・・・案外、根は怖いタイプかもね・・・」
「まあ、体育会系の人間ってヤツじゃないの・・」
「何、それ?」
「勝負事になると、人が変わっちゃうってヤツ・・」
「ふーん・・・・じゃあ、試合楽しみだね。」
「って、また見学とかするんだ。」
「当たり前じゃない。なんせ、ミーハーだもん・・」
「ふーん・・」
確かにあんな顔した、エリを見るのは初めてだった・・・
てゆーか、もしかしたら、彼女を直視したのが、初めてだったのかも知れない・・・・
- 69 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/10(火) 14:36
- 「梨華ちゃん、アイツ、マジに試合するつもりだよ・・・」
「何か、すっかり怒らせちゃったみたいだね・・石川先生・・」
「うん、昼休みにちょっと打ってくれって言うから、気楽にラリーするつもりでいたんだけど・・・」
「あの子がさ、あんなにボール散らしてんだから、途中で気づいてやればよかったのに・・」
「あー・・・実を言うとね、私、分ったんだけどさ、なんか意地になっちゃって、このさいだから、最後までてね、
でも、ちゃんとフォアとバックに打ち分けたつもりなんだけどな・・・」
「つーか、その余裕が、亀井をキレさせたんだよ・・・で、やるの?試合」
「うん・・どーだろ・・・てーか、3セットマッチとかしたら、きっと私、負けちゃうんだけど・・・」
「えっ?」
「やっぱさ、現役とは、体力違うって・・・ヨッシーみたく毎日運動していれば別だけど、
たぶん、1セットでばてちゃうよ・・私・・・」
「そんなもんかねー。」
「まあ、そーかもね・・でもそれならなおさら、やってやんなよ試合・・そーすれば、亀井も納得するだろーし、
アタシもアンタのスコート姿、久々に見てみたいし・・・」
「またー、ヨッシーったら、さっきからそればっかなんだよ。」
「何よそれ!」
職員用のロッカールームで、私は、ヨッシーと美貴ちゃんと、おしゃべりしながら、汗を拭いていた。
久しぶりに打ったテニスボールの感触は、やっぱり気持ちよかった・・・
もちろん、遊び程度なら、卒業後も何回かやったけど、
あのコートにもう一度立つことになるなんて・・・・
あそこで懸命にボールを追った日々の記憶が、鮮明に蘇って来て、少しくすぐったい・・・
きっと、今、亀井さんはそういう時を過ごしているのだろう。
彼女の純粋にテニスに向かっている姿は、やっぱり少し眩しい・・・
私も、あんなふうだったんだろうか・・・・・・ここにいた時・・・
- 70 名前:名無しさん 投稿日:2004/02/11(水) 01:09
- 石川さんの語りかけ&回想シーン泣けてきます・・・
目を覚ましてほしいな後藤さん
- 71 名前:みっくす 投稿日:2004/02/11(水) 06:21
- 徐々に過去が明らかになっていきますね。
核心にたどり着くにはもうちょっとですね。
次回も楽しみにしてます。
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/11(水) 15:52
- あちらからやってきました。
作者さんの表現方法は本当に眼に浮かぶ様な書き方で、
とても楽しく読んでいます。
2作品になると大変でしょうが、こっちもあっちも楽しみにしていますので
がんばってください。
- 73 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 23:00
- せ
- 74 名前:トーマ 投稿日:2004/02/13(金) 11:19
- >70様 ありがとうございます。
>みっくす様 ありがとうございます。・・・真相は、もしかしたらじれったいほど、小出しになるかも・・
>72様 ありがとうございます。こちらは地道に、あちらはネタがありしだいという感じで・・・
- 75 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/13(金) 11:41
-
「それにしても梨華ちゃん、色々噂になっちゃってるよ・・・」
って、美貴ちゃんが心配気に、話を変える・・・私が、触れようか迷った話。
「そーみたいね・・・」
「で、真相はどーなの?」
「真相かー・・・どーなんだろ・・・だいたい噂通りじゃないのかな・・・」
「そーなの?・・・本当に首になったの?」
「・・・首ってゆーんじゃないんだけどね、学校移った方がいいって言われて・・
色々PTAが煩いからって・・・」
「ふーん・・・・まさか、本当に生徒と何かあったわけじゃないよね?」
「そんなのあるわけないでしょ!・・・・人をなんだと思ってるのよ・・・」
「そーだよね、梨華ちゃんだもんね・・そんなのあるわけないか・・・」
「でも、でもね、問題を起こした生徒が出たのは事実だから・・・かわいそーなことしたよね・・やっぱり・・・」
「そー・・」
「・・・・やっぱりさ、男子生徒って、よくわからなくてさ、ほら、私高校まで女子校で・・・
大学生とはやっぱり違うみたいで・・・もちろん、同級生なんかとは、立場も違うしね・・・」
梨華ちゃんは、ここの大学じゃなくて、国立の教育大学に進学した。何かここから逃げるみたいに・・
それは私も美貴ちゃんもやっぱり同じで、私は私立の体育大学、美貴ちゃんは公立の看護学校・・・
みんな、一旦はここから離れた・・・それは、やっぱりあのことがあったからだと思う。
でも、三人ともここに戻ってきた。
それはたぶん、離れたいと思うのと同じくらい、離れ難いものがここにはあるから・・・
- 76 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/13(金) 12:12
- 「せめて女子校にすればよかったのにね、ココじゃなくても・・」
「そーなんだけどね、ほら、新採用って、そんなにないじゃない・・・私の場合、なるべく近くってゆーのもあるし・・」
「そっか・・・・でも結果、よかったんじゃないのかなー・・ここに戻ったのは・・
まあ、女子校は女子校で難しいところはあるんだろーけど、何って言ったって、ホームグランドなわけだし・・」
「まーね・・・てゆーか、やっぱここしかないのかもね・・・私の居場所は・・・
でも、やっぱりさ・・・ここでのことも・・・その内解っちゃうのよね・・
で、色々言われて・・・・それでもいていいのかな、私、ここに・・」
「でも、あれは梨華ちゃんが悪いんじゃないから!」
私はついつい、大きな声を出す。だって、あれは梨華ちゃんのせいじゃない・・・・
「・・・そーとばかりも言い切れないよ・・・」
梨華ちゃんの顔が曇る・・・何で責任なんて感じてるんだろう・・この子は・・
「そんなことよりさ、今日こそカラオケ行かない?
この前結局、呑んで遅くなったからってパスしちゃったじゃん。」
美貴ちゃんが、落ちて行きそうな会話を拾い上げる。
「・・・いいけど・・・」
「あっ、時間よね、ヨッシーも部活見なきゃだろーし、私も少しやることあるから、
あっちの方、終わってからでいいの・・・・ど、8時に駅前ってのは・・・」
「あっ、うん・・」
「ヨッシーもいいよね・・」
「あっ、別にいいけど・・・美貴ちゃんも本当好きだよね、カラオケ・・」
「だって、アタシ、本当は歌手になりたかったんだよ、小さい頃・・」
「へー、そーなんだー・・・デビューしてたら、今ごろ大スターかもね・・」
「うん、惜しいことした・・・じゃ、いいよね・・」
「あっ、うん・・」
「じゃ、そーゆーことで・・8時ね!」
「あいよ!」
小さい頃の夢か・・・私はバレーボールでオリンピックに行きたかったけど、
それにはかなり背も、実力も足らなくて、でもいまだにジャージ着て、ボール打ってる、指導者としてだけど・・・
梨華ちゃんは何時から教師になろうと思ったんだろう・・・中等部の時はお嫁さんとか言ってたけど・・・
で、ごっちんは・・・何になろうと思ってたのかな・・そう言えば、そんなこと聞いた事がなかった・・
色んなこと話したのに・・・・
- 77 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/13(金) 12:43
- 私が梨華ちゃんと知り合ったのは、中等部の二年の後期からやった生徒会でのことだった。
クラスは三年間一度も一緒にならなかったし、部活も別々。
もし、私があの時調子に乗って、立候補してなかったら、一生縁がなかったかもしれない・・・
会長選挙に、私は友達に乗せられて、遊び気分で立候補した。
成績なんてたいしたことない私だったけど、色々と人気だけはあって、楽々トップ当選した。
で、次点の彼女が副会長になった。
後から聞いた話によると、生徒会を私に任せたら、どうなるか解らないと言う、先生たちの配慮で、
優等生の彼女がムリムリ立候補させられたとか。
勝てばそれでよし、負けても次点は取れるだろうから、副会長で補佐すればなんとかなるという、
先生たちの目論見はみごとに当たった。
だから、彼女は最初からそのつもりで、私の黒子に徹してくれた。
代表委員会での議案の作成も、公の場での私の挨拶の原文も、全て彼女が書いてくれた。
勢いだけで会長になって、これと言ったビジョンも持ってなかった私はそれにすっかり助けられていた。
で、そういった事務的な関わりから、少しずつ親しくなって・・・
「アタシ、石川さんのこと知ってたよ前から。」って、言ったら、
「私も吉澤さんのことは1年の時から知ってたよ・・・超有名人だもの。」なんて返された。
私は自分で言うのもなんだけど、この学園で私を知らないヤツはモグリだって言うぐらいの存在で、
バレー部のエースで、何気に目立ちたがりやだったから、体育祭とか、文化祭とかでも主役やってたし、
私みたいなキャラは女子校では、アイドルみたいなものだったのだろう。
梨華ちゃんは、彼女自身はそう思ってなかったろうけど、彼女を知らないのもやっぱりモグリで・・・
本人は目立つことをやってるつもりはなかったのだろうけど、美人で優等生で、テニス部のエース、
それは、やっぱり羨望の的って感じで、だから、それを面白くないと思ってる人も決して少なくなかった。
- 78 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/13(金) 13:04
- 実を言えば、彼女と知り合う前に、彼女のことで、私の耳に入る情報は、みごとなまでにマイナスのことばかりで、
お高くとまってるとか、お嬢様ぶってるとか、先生に媚びてるとか、偽善者だとか・・・
だから、正直、一緒に生徒会って、聞いた時は、嫌だなって思った。
でも、そんな印象は一月もしないうちに、きれいに解消されて、
女の嫉妬って怖いものだなってことが、彼女に対する悪評で分かった気がした。
それで・・・思ったんだ。こうして、生徒会の仕事で助けてもらってる分、
私は彼女をそういったものから、守ってあげようって。
それともう一つ、彼女を駅で待ち伏せている男子校の生徒からも・・・。
だからと言って、彼女のことを誰にも渡したくないとか、そんなふうに思ってたわけじゃない。
ちょっとしたナイト気分を楽しんでたのと、それまでチヤホヤされるだけの友達関係が多かった私が、
やっと別のスタンスで付き合える相手と巡り会えたというか、
そっ、この学園に入って初めて、イーブンで付き合える相手、お互いに認め合える関係・・・そうだったんだろうと思う。
だから、趣味も好みも全然違うのに、半年も経たないうちに、私たちは親友になった。
カップルだって噂が立つくらい・・・そっ、あの頃は中等部の王子様とお姫様だったらしい・・・
もちろん、その噂にあるようなことはなかったけど、一番近くにいる存在だった。たぶん、お互いに
- 79 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/13(金) 13:34
- けれど、高等部に進むと・・・彼女の一番近くの場所に・・・いつの間にか、別の人がいた。
梨華ちゃんとごっちんは、同じクラスで・・・
五月に入った頃から、私と一緒にいる時に、梨華ちゃんの口から、
「後藤さんってね」「後藤さんがね」とか、ごっちんの名前がよく出るようになって、
六月には、私の前に彼女を連れてくるようになった。
その頃には、私も部活仲間の美貴ちゃんと親しくなっていて・・・いつの間にか4人で一組になっていた。
親しくなってみると、私とごっちんは不思議なくらい気が合た。
洋服や音楽の趣味や、好きな食べ物・・・まるで昔からの友達みたいに・・・
だから、自然と二人で遊ぶ機会も増えて・・・
もしかしたら梨華ちゃんは私のために、この子と親しくなったんじゃないかと思えるくらい・・・
気が合うといえば、梨華ちゃんと美貴ちゃんも何気に合っていて、
二年になって、私とごっちん、梨華ちゃんと美貴ちゃんが同じ組になってからはマスマスそんな感じになった。
梨華ちゃんと美貴ちゃんの関係は、ごっちんに言わせると、
「あーゆーのが本当の女友達ってゆーんじゃない」ってやつだった。
二人の体型が似てるのもあってか、洋服を取り替えっこして着てたり、
ケーキなんかを食べる時は、必ず違うものを選んで、半分ずつ食べてたり、
それこそ私なんかには考えられない、一緒にトイレなんていうのを当たり前にやってたし、
特に、美貴ちゃんはスキンシップが大好きだから、廊下を歩く時も腕を組んでたし、
4人で歩く時も手を繋いでいたりした。
それでも、カップルの噂が出ないのは、これもごっちんに言わせると、
「二人とも属性が女子だから」とか・・・
でも、4人がいつも2、2に分かれてたかと言うと、やっぱりそれも違って、どんな組み合わせもありえたし、
上手くバランスが取れていた・・・と言うのが一番適切な表現かもしれない。
- 80 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/13(金) 14:04
- それに、どんなに4人で親しくなっても、ごっちんと梨華ちゃんの間に流れる独特の空気は薄まったわけじゃなかった。
私が、梨華ちゃんから初めてごっちんを紹介された時に感じた、あの感じ。
彼女の一番近くにいるのが私から、この子に替わったと思えたあの感じ。
時々、二人でいるのを見ると、私は、4人の世界とまた違う、
この子たちだけの何かがあるように思えて、疎外感すら覚えた。
ある時美貴ちゃんが、こんなことを言った。
「ね、ヨッシー、よく見ててごらん、ごっちんって、何か決めなきゃいけない時、
それが、洋服とかCDとかそんなものでも、選択科目とか大事なものでも、
そんな時は必ず、梨華ちゃんのこと見るから・・・それで、梨華ちゃんは、ニコって笑って、頷くの・・・
それを見て、ごっちんは何かを選んだり、決めたりしてる・・・なんだろーね、あれって。」
そんなこと聞いてから、そんな目で見てると、それ以外の場面でも、ことあるごとに、
ごっちんが何かを確かめるように、梨華ちゃんとアイコンタクトしているのが分かった。
まるで、これでいいんだよねの問いに、大丈夫それでいいのって返してるみたいな・・・
しばらくして、私は、そのごっちんの行動の訳を知ることになった。
彼女のここに来る前の・・・本当は人に言いたくなかっただろう話を通して・・・
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/13(金) 15:02
- いろいろいろいろ気になります。
今、一番楽しみなお話かも..。
楽しみにしています。
- 82 名前:みっくす 投稿日:2004/02/14(土) 04:19
- なんかいろいろありそうですね。
おくが深そう。
次回も楽しみにしてます。
- 83 名前:@ 投稿日:2004/02/15(日) 15:54
- 新しく書いてたんですね
今 知りました(遅っ
アンリアル 自分には書けない部類なだけに
ものすごく惹かれてしまいます
落ち着く世界観ですね トーマさんの頭の中に入ってみたい(爆
続き期待してます。
- 84 名前:トーマ 投稿日:2004/02/16(月) 09:00
- >81様 恐縮です。なるべくずっと楽しんでいただけるよう心がけます。
>みっくす様 ありがとうございます。まだ色々あります(?)期待してください。
>@様 ありがとうございます。
あちらであまり出来ない分、こっちで思い切りいしごまだったりして(?)カナリ痛めですけど・・・
- 85 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/16(月) 09:22
- あれは・・・・2年の夏休み。
私は私の部屋で、ごっちんに数学の宿題を見てもらっていた。
友達にはっきりとした得意科目があるのは、かなり便利なもので、理科系のごっちん、文科系の梨華ちゃんと、
私はこの特権をフルに活用して、夏の課題を片付けていた。
あの日は確か、梨華ちゃんと美貴ちゃんは二人でホラー映画を見に行っていて・・・
その方面が、見掛け倒しに弱い私たちは、その誘いを、宿題をやるからという理由で断って、
で、それなら本当にやろうかってことになって・・・・二人で宿題をひろげていた。
だいたいのプリントが片付いて、お茶をしていた時、
私は何気にごっちんに聞いた。・・・・本当に何気なく・・・・
「でもさ、ごっちんと梨華ちゃんって、一つも共通点ないのにさ、よく友達になったよね。
アタシとかなら分かるけどさ、趣味とか合うし・・・・」
それは、とても軽い問いかけのはずだった。
だから私は、その後ごっちんから返って来た思いも依らない言葉に、すごく戸惑った。
「・・・・梨華ちゃんじゃなきゃダメだったんだよ・・・
ヨッシーが先だったら、きっと友達になってなかった・・・・
てーか、梨華ちゃんがいなかったら、アタシ、きっと今でも一人だよ・・・」
「えっ、どーゆーこと?」
「・・・・アタシ、何年も友達なんていなかった・・・欲しいとも思わなかったし・・
だから、高校に入ってからも、誰とも話してなかったし、誰とも近づこうと思ってなかった・・・」
それは、本当に私にとっては意外な言葉だった。
確かに彼女は、決して社交的ではなかったけど、自然に、ごく自然に、私とも美貴ちゃんとも親しくなったから・・
少なくとも私には、そう見えたから・・・・
- 86 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/16(月) 09:46
- 「梨華ちゃんがね、強引に入って来たの、アタシの中に、ずーずーしいくらい強引に・・
だから最初は戸惑ったし、ウザかったんだよね・・・一人でいるのに慣れてたから・・・
でも、勝手にどんどん来るから、いろんな話して、何かね、それが少しずつ楽しくなって・・・
でも・・・・アタシにはどーしてもクリアしなきゃならないことがあって・・・」
「何それ?」
ごっちんは、いつもどおりの柔らかい口調で、穏やかな顔のままで、淡々と・・
・・・・・とんでもないことを言い出したんだ。
「・・・アタシね・・・アタシ、小学校の時、担任の先生にイタズラされてたのね・・・」
「えっ?」
「5年の終わり頃から・・・その意味が、その時はよく分からなくて・・・
その先生ってさ、結構ハンサムで人気があって、アタシも結構好きな方で・・・
で、その人がさ、これは悪いことじゃないんだって言ったからさ、繰り返し・・・
アタシ、バカみたいに素直に、じゃそーなのかなって思ってて・・・
だから、結構長いこと・・・・本当のこと言っちゃえば、バージンまでなくしちゃったんだよね、その時。」
私はもう、口を挟む事も出来なかった。
「で、それがある時、他の先生に見つかって・・・
その担任はクビ、私は一週間くらい学校、休んだかな・・お母さんは泣いてた。
私は、そんなふーになっても、まだよくわからなかったけど、そんなお母さんを見て、悪いことしたんだなって・・・
病院とかにも連れて行かれて、色んな検査して・・・何か大変なことしちゃったんだなって・・・
で、一週間して、学校に行ったの・・・
友達はどのくらいのこと知ってたんだろう・・・でも、態度がね、変わったんだよね、あきらかに・・
なんつーの、目がね、アタシのこと見る目がね・・・大きく二種類あるんだよね、
すごーく、哀れなもの見るようなのとね、何かすごく汚い物見るようなのと・・・
それは、先生たちを含めた大人も同じで・・・
それまで、ごく普通だったのが、何か特別なもの扱う感じになっちゃって・・・」
- 87 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/16(月) 10:08
- 「イジメとかさ、そーゆーんじゃないんだけどさ、
普通に話し掛けてくれるしってゆーか、結構優しくね、でも、何か違うんだよね・・・
腫れ物に触るみたいってゆーか、アタシだけ、違うところにいるみたいにさ・・・
そんなのが嫌でね、少しずつ一人になっていったんだ・・自分から・・
その方が、周りの子にとってもよかったみたい・・・・みんな何か安心したみたいだったから・・・
ウチって、狭い下町だからさ、いつの間にか近所の人も、みんな知ってて・・・
で、ウチ、お父さんいなくて、お母さんがスナックってるから・・
そんな家之子だから、しょうがないみたいな言われ方してさ、お母さんもすごく嫌な思いして・・
でも、店と家と一緒だから、引越しとか出来なくて・・・
そのことを、すまない、すまないってお母さん言ってた・・泣きながらね・・・
中学もそのままみんな上がるところだから、入るなりある意味そーとー有名人で・・・
だから、あえてそんな子に寄って来るのは、不良と呼ばれる連中だけで、
だから、アタシも一時はかなりグレたかな・・・
ピアスも一年の時空けたし、髪も染めて、お酒もタバコも、薬みたいのも・・・
でも、ほら、アタシ、可哀想な子だからさ、何にも言わないの・・先生も、お母さんも・・・
でも、そーゆー遊びも、そーゆー連中との付き合いもつまんなくて・・・
会話とか上っ面だけで、くだらないし・・ゆーこともやることもワンパターンで・・・
だから、私はやっぱり一人になった。
それが辛いとか思わなかったし、慣れてたしね・・・
パソコンとか好きだったし、一人で好きなことだけやってた。なるべく人と関わらないよーにってね、機械とかと遊んでた。
だって、人間ってわけわかんないし・・・アタシはいつでもアタシなのに・・みんな変わっちゃうの・・
そーゆーのって面倒くさくて・・・だから、もーいいやってね・・・」
- 88 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/16(月) 10:31
- 「ここの学校に来たのは・・・お母さんが、なるべくウチの中学から行かない所って思ったみたい。
結構ムリしてるんじゃないかな学費とか・・・
でも、アタシはさ、周りが変わったからって、すぐどーにかなるなんて思わなかったし、
どーにかしようとも思ってなかった。
きっといつの間にか、人とのしゃべり方も忘れてたんだよね、きっと・・・
でも、梨華ちゃんは、来たの、アタシの前に・・
どんどん勝手に・・・・・笑顔で・・・」
「・・・・ねっ、ごっちん、このこと梨華ちゃんには話したの?」
「うん・・・去年の今ごろかな・・・その時はもーヨッシーとか美貴ちゃんとも普通にしゃべってて、
でもどこか、アタシ、何か信じられなくて、自分に友達がいることを・・・
それで、やっぱり試してみよーって・・・
で、梨華ちゃんが、やっぱり、それまでの子と同じような目をしたら、離れよーって・・・
そしたらね、梨華ちゃん・・・・
アタシが話してる途中から、アタシのことじーっと見ながらね、
ほら、あの子って、話する時、人の目みるでしょ、でもその時は、見るなんてもんじゃなくて、
凝視するって感じで、じーっとね、
で、よく見ると、涙流してるの・・・声を上げずに泣いてるの・・・
で、一通り話し終わって・・・そしたらね、いきなりギューっとアタシのこと抱きしめて・・・
それで、言うんだ・・・
ごっちんはそのままでいいんだよって、
そのままでいていいんだよって、大丈夫だから、大丈夫だからって・・・
泣きながら、そーゆーの・・・それだけを繰り返し、繰り返し・・・
それで、その後も何も変わらなかった・・・それまでと同じにアタシを見てくれた・・
だから、アタシ、思ったんだ・・・このままでいいだなって・・・・
アタシは、アタシのままで、いいんだなって・・・・
梨華ちゃんが、そー言ってくれたから・・・・・」
- 89 名前:私のいた場所 投稿日:2004/02/16(月) 10:53
- 「・・・・ねぇ、ごっちん、どーして、アタシにその話したの?」
「えっ、なんでだろーなー・・・話をしても、ヨッシーも変わらないって思ったからかな。
・・・・それから、アタシにとって梨華ちゃんが必要なものだってゆーの、
ヨッシーには、どこか、分かってて欲しかったからかな・・・・」
「必要なもの?」
「うん、必要なんだ、今は・・・アタシが、アタシのままで、安心していられるために・・・」
もちろん、その話を聞いてからも、私とごっちんの関係は変わらなかった。
そのことを話してくれたっていうことは、信頼してくれてるってことなんだから、嬉しかったし。
で、分かったんだ・・・ごっちんが何で、梨華ちゃんのこと、見てるのかってことが・・・
ごっちんは、たぶん、その時まで、梨華ちゃんに話したその時まで、
どこか眠っていたんだろうと思う。心の中のどこかか・・・
それを、梨華ちゃんが、起こしたんだ・・・その時、ごっちんはもう一度生まれ直したのかもしれない。
だから、雛が親鳥を頼るように・・・・
自分の存在を、時々、ああやって、確認しているんだろうって。
で、その時は思っていたんだ。
雛鳥だから、いつか巣立つ日が来るって・・・
その日までは、親鳥の羽の中で、ゆっくりとそれまでのキズを癒すんだって・・・
それを、私も見守ろうって、もちろん、美貴ちゃんも一緒に・・・
でも、巣立つ前にまた眠っちゃったね・・・・
そして、やっぱり、親鳥に抱かれてるんだ。
だから、だから、早く目覚めて欲しい・・・身体のキズも、心の痛みも、すっかり癒して・・・
今度こそ、一人で飛び立てるように・・・
- 90 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/16(月) 11:19
-
その週は、結局、一度もエリと会わなかった。こんなことは、たぶん入学以来初めてだったと思う。
朝、会わないということは、彼女と話をしないと言うこと。
それを少し物足らなく感じていることに戸惑ったけど・・・
私は、それはただ、一つの習慣化していることが、なくなったからなのだろうと解釈した。
例えば、朝食のメニューにそれまであった牛乳が、急になくなったのと同じかなって・・
だって、そういうのって、結構寂しかったりするでしょ、普通・・・
石川先生についての噂話は・・・・前任校でのネタがそれ以上上がってこなかったのと、
エリとのテニスが、彼女がキレたことによって、強烈な印象になったためか、少し色が変わって、
先生の現役時代のエピソードや、吉澤先生や、藤本先生との関係なんかが、話の中心になってきているようだった。
ボーイッシュな吉澤先生は、女子校の生徒にとっては、アイドル的存在のようだし、
美人で気さくな藤本先生も憧れの的だったから、話の内容が、その相関関係になった方が、確かに面白そうだった。
もちろん、私はその噂話の外にいたし、サユもそのことにはあまり興味がなさそうだった。
その理由は、たぶん・・・ありがちすぎて、つまんないから・・・
その日は、サユに珍しく、食堂でお昼にしようって、誘われて、
私たちは、カウンターに並んで、注文の品を待っていた。
「ねっ、レナ、あれ・・」
サユが顎で指す、奥のテーブルを見ると、そこでは噂の三人の先生が談笑していた。
「あの席って・・・あの人達が、高等部の時も、指定席だったんだって・・・特別席って感じで・・」
「ふーん・・」
「確かに、近寄り難い感じあるよね・・・一般人には・・」
- 91 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/16(月) 11:39
- カレーライスを受け取って、空いてる隅の席に座る。
「そーいえばさー、エリって朝練してるんだって。」
「えっ?」
「大会前だからね・・・・でも、朝練って、自由参加だから、今までは出たことなかったらしいんだけどね・・」
「そー」
「やっぱ、少し寂しかったりする?」
「何が?」
「・・・アタシ、知ってるよ・・アンタとエリ・・一緒に登校してるでしょ・・」
「えっ?」
「時々見かけたから・・・最初、意外だったけどさ、あっ、今もか・・」
「ただ、偶然会って、並んで歩いてるだけだよ・・・」
「ふーん・・・・でも、そーゆーんでも、なくなると寂しくなあい・・」
「・・・どーかな・・・」
「・・・・・エリってさ、たぶん大会のためじゃないよね、朝練・・」
「えっ?」
「石川先生と試合するって言ってたじゃん・・」
「あーあ・・」
「そのためだよね、きっと・・」
「そーかな・・」
「あの先生ってさ、この学園でテニス部創立以来、唯一の全国大会出場者らしいのね・・」
「ふーん・・」
「ここってあんまりレベル高くないらしくてさ、
だから、テニス部の部室にある賞状とか、トロフィーとか、みんなあの先生の名前なんだって・・・」
「へー・・」
「だから、エリ、赴任してきたのが、その人だって知って、ずっと意識してたらしいよ、あの前から、ずっと・・・」
「そーなんだー・・・相変わらず、情報通だね・・」
「アンタぐらいだよ、そのこと知らないのは・・・エリと話してるくせにさ・・」
「・・・別に話とかしないし・・・」
- 92 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/16(月) 11:54
- 「・・・でも、試合とか見てみたいよね、やっぱ、いつやるんだろ・・」
「さーあー」
「エリってさ、あれでなかなかプライドとか高いだろーし・・・
・・・・あーゆー子ってさ、やっぱり自分のこと特別だと思ってんのかな・・・」
「はっ?」
「可愛くて、優秀で、スポーツも出来てさ、何気にみんな、あの子の言うこと聞いちゃうし・・
やっぱ、そー思ってんだよね、自分でも・・」
「・・・・」
「だから・・・・何気に、石川先生とか、ライバルとか思っちゃうのかな・・・」
「ライバル?」
「そっ、だって、たぶんあの先生もさ、ここにいる時って、エリみたいだったんじゃない?
・・・しかも、両脇固めてんのが、吉澤先生と藤本先生だよ・・・そーとー、強力だよね。」
「あーあ・・」
「・・・・エリにはさ、そーゆーのないじゃん・・・何気にあの子、本当の友達とかいなさそー・・・」
「そーかな・・・・いるじゃん取り巻きがいっぱい・・」
「そっ、ト リ マ キがね・・」
サユはトリマキは、友達じゃないって、言いたいんだろうか・・・
エリのトモダチ・・・あの子が立ってる場所は、私とは違う世界・・・
よくはわからないけど、はたから見る分には、そこは光に満たされているように思う・・・
その光の中で・・・もしかしたら、エリは・・・一人で立っているのだろうか・・・
- 93 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/16(月) 12:11
- 下校のために階段を下りている時、二階の廊下を歩く、もう見慣れた背中を見つけた。
私は、国語準備室に入る、その背中を追って、ドアを少し開けた・・・・
「先生、ちょっといいですか?」
「あっ、田中さん・・・いいわよ、どーぞ・・」
先生は、教材の整理をしているようだった。その作業を続けながら・・・
「どーしたの、何か質問?」
「あっ、いえ、少し話、したくて・・・いいですん?」
「あっ、いいわよ・・すぐ終わるから・・・そこ座ってて・・・」
「・・・今、お茶入れるね・・」
「あっ、おかまいなく・・・」
「・・・私も飲みたいから・・・今日はね、ダージリンにしてみたんだけど・・少しくせあるけど・・・」
「・・・あっ、美味しいです・・」
「なら、よかった・・・」
「・・・紅茶、好きなんですね・・」
「うん、落ち着くから・・・色々あって、気分によって変えられるし・・
私、コーヒーあんまりダメなのね、苦いからって・・・子供みたいでしょ・・」
「・・・いえ、なんか、らしいです・・」
この人は、きっと、いわゆる良い家で育ったんだろうな・・・決まったお茶の時間があるような・・・
「・・・・先生はどーして、教師になったんですか?」
「あっ、そーねー・・・ここのね、2年の時の古文の先生がね・・とっても面白い人で・・・
なんてゆーのか、情熱的過ぎるくらいの人でね・・・」
「はー・・」
「源氏をやってたんだけど・・・紫式部の源氏物語・・・知ってるよね?」
「・・・名前だけは・・・」
- 94 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/16(月) 12:38
- 「その源氏が大好きな人でね、もー語っちゃうのよ・・・すごい勢いで、感情移入してね・・・
そのあまりの激しさに、六条の御息所ってあだ名がついたくらい・・・あっ、コレ、源氏の登場人物なんだけどね、
で、いつの間にかその世界に引き込まれて・・・私なりに、現代語訳とか読んだりしてたら、
その先生がね、飯田先生っていうんだけどね、本当に源氏の世界が読みたいのなら、
そのうちでいいから、原文を読みなさいって・・・で、そのために勉強したのかな、少しずつ読んでるのよ、今も・・・
それでね、もっと勉強したいし、もちろん他の作品もね・・・・で、私が触れて素敵だなって思ったものに、
あなた達も、触れて欲しいなってね、私が飯田先生に出会って・・・古典の世界に興味を持ったようにね・・・」
「源氏って、やっぱり、いいですか?」
「うん、源氏は、広くて、深いからね・・・もし興味があるなら、今からでも・・現代語訳もいっぱいでてるし、
コミック本なんかでも、結構忠実に描いたりしてるから、それでもいいから、読んでごらん・・
恋愛物なんだけどね、それだけじゃないから・・・」
「はい、そーしてみます・・・・・その先生は、どーしてるんですか、今・・」
「今はね、北海道で先生やってる・・・私たちが卒業する年に結婚されて、ご主人の実家の方に行かれて・・
今でも、メールとかで、アドバイスもらってるの・・・本当に熱心な先生でね・・
確か、保田先生とは、ここの大学の同期になるのかな、今度聞いてごらん、本当、面白い先生だから・・・
って、田中さん、保田先生、苦手なんだっけ?」
「えー、まあ・・」
「あの先生もいい先生なんだけどな、熱心で・・・私の3年の時の担任だったの・・・
因みに、保田先生のあだ名は、末摘む花・・・って、コレは、聞かなかったことにしといて・・・」
「は?」
「・・・・あっ、ごめん、そろそろいいかな・・あっ、あなたも帰るところよね、電車?」
「・・・はい・・」
「じゃ、一緒に、駅まで歩かない?」
「あっ、はい・・・」
- 95 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/16(月) 12:47
- 私は、先生と並んで坂を降りる・・・
「あの・・・エリが・・あっ、亀井さんが・・朝練してるんです・・・」
「えっ?」
「先生と試合する為に・・・」
「そー・・・」
「するんですよね試合?」
「そーねー・・・・」
「してやって下さい・・」
どうしてそんなこと言ったんだろう・・・
一生懸命になっている、エリのため?
それともこの人が、ボールを打つ姿をもう一度見たいから?
「じゃあ、ちゃんと考えてみるから・・・」
その人は、そう笑顔で答えてくれた・・・
その笑顔がすごく優しくて・・・私はしばらく見ほれていた・・・
- 96 名前:みるく 投稿日:2004/02/16(月) 19:19
- はじめまして!
この物語凄く好きです☆物語にどんどん引き込まれていきます。
まだまだ謎があって先がめっちゃ楽しみです!
これからも頑張って下さいねo(^-^)o
- 97 名前:みっくす 投稿日:2004/02/16(月) 23:00
- 少しだけごっちんの過去がみえましたね。
その後にいったいなにがあったの?
次回も楽しみにしてます。
- 98 名前:トーマ 投稿日:2004/02/17(火) 09:04
- >みるく様 ありがとうございます。今後ともよろしく!
>みっくす様 ありがとうございます。
この後、多少じれったい展開が続いてしまいますが、気長に楽しんでください。
読み返してみたら、タイプミスの多さに愕然(恥)・・・・これからもあるかも・・・流れに添って読み流してください・・・
- 99 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 09:33
- 週明けの学校は、また新しい顔で私を迎えてくれる。
少し早めに着いた校庭を、ランニングする一団が横切る。今は、各運動部が秋季大会に向けての、朝練の時期だ。
テニスコートでも、ボールの高い音が響いている。私はその音にひかれるように、校舎脇のコートに近づき、
ネット越しに少女たちのボールを追う姿を眺める。
中に、一段と動きの良い彼女を見つける・・・軽やかで無駄の少ないフットワーク・・・
かなりの実力がうかがえる・・・・まだ一年生なんだよね・・・
私はこの学園にいた6年間、テニスボールを追っていた。
そこそこの実績も残し、ある程度の期待もされていた・・自分自身でも・・・
でも、高等部の2年の頃にもなると、自分の限界を知るようにもなっていた。
大学で続けなかったのは、バイトの時間などもあったけれど、それだけじゃない。
プレーヤーとしての、非力さを自分自身、痛切に感じ取っていたから・・・
ウエイトのなさから来るボールの軽さ・・・その壁を乗り越えようとする情熱を持つほど、
その頃の私にとって、テニスは大きなものではなくなっていた。
だから、遮二無二ボールを拾っている彼女たちを見ていると、ただ羨ましくなる。
今現在の力はともかく、彼女たちにはこれからの可能性がある。
それだけで、彼女たちは充分にキラキラと輝いて・・美しかった・・・
「石川先生!」
フイに後ろから、明るい声がかかる・・・振り向くと、ジャージ姿の石黒先生が立っていた。
「あっ、おはようございます。」
「どーかな・・・あの子たち・・・」
「えっ・・あっ・・いいですねー一生懸命で・・・」
「・・・一生懸命か・・・そーなんだけどさー・・イマイチなんだよね・・」
「あーあ・・」
- 100 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 09:56
- 「・・・しかし、顧問、引き受けてくれるとばっかり思ってたのにな・・」
「あっ、すいません、私・・・」
「あっ、事情は聞いてる・・・でも、残念だな・・・アンタがみてやれば、少しはどーにかなるかも知れないのに・・」
「そんなことないですよ・・」
「知ってるよ・・アンタの実力は・・・アンタの現役時代は、アタシ、ちょうど産休育休の繰り返しの時期で、
ここも籍だけだったから、アンタの勇姿は拝めなかったけど・・・有名だもの・・・」
「・・・それほどのものじゃないですよ・・」
「アタシなんか、大学のお遊びサークルの経験だけだからさ・・・見本も見せられないし・・」
「はー」
「特にさ、ある一定のレベル以上の子になっちゃうと、もーお手上げ・・・
指導書とか読んでみても・・実戦の経験が殆どないからさ・・・ほら、あの子なんか・・」
「・・・・亀井さんですか?」
「うん、いいもの持っていると思うんだけどさ・・・」
「そーですね・・・素質あると思いますよ・・」
「だろ・・・・・で、石川先生にお願いあるんだけどさ・・」
「はい?」
「アイツと・・マジに試合やって欲しいんだよね・・」
「あーぁ」
「・・・アイツさ、朝練、今まで出たことなかったんだよね・・一学期とか一度も・・・
そんなことしなくてもさ、充分レギュラーだからね・・・・だから、イマイチやる気感じられなかったんだけどさ、
それが、あれ以来、急に目の色変わっちゃって・・・初めてなんだよあんな感じ・・・」
「そーなんですか・・・」
「・・・あれ、見せてもらったよ・・・やっぱり、近くに目標があるってのはいいことなんだよね・・・」
「はー・・」
「ね、どーだろ、本気で考えてくれないかな・・きちんとした形じゃなくていいから・・」
「ええ、そーですね・・かまいませんけど・・」
「・・・それでさ、できたら、本気になって、コテンパンにやっつけて欲しいんだよね・・」
「は?」
- 101 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 10:19
- 「・・・アイツさ、都の大会とかで、ソコソコには行くんだよね・・で、もう一歩のところで負けちゃう・・・
でも、完敗って感じじゃないんだよね・・・惜しかったねーってやつ・・・
だからかなー、必死にならないってゆーか・・・ここの中では、一年なのに、もートップだしね・・」
「・・・あの、でも私・・・きっと負けちゃいますよ・・・」
「そんなことはないでしょう・・」
「いえ、やってませんから・・運動・・体力が落ちてますから・・・
情けない話ですけど、3セットは持たないと思うんですよね・・たぶん・・」
「そーかなー・・・じゃ、1セットでどー?」
「えっ?」
「1セットなら・・・大丈夫でしょ!」
「はー・・・そーは思いますけど・・・それって、ズルくないですか?」
「ズル・・・アンタもかわいいこと言うね・・いいんだって、だって指導のためだもん・・
アイツのためだと思って、1セット、滅茶苦茶に打ちのめしてよ・・」
「はー・・そーもいかないと思うんだけどなー・・」
「まっ、アンタのテニス、まともに観た事ないからわかんないけど・・できるだけさ・・」
「まあ、やってみてもいいですけど・・・OGなのに何も出来なくて、申し訳ないって思ってますし・・」
「じゃ、そーしよ!・・・・どーだろー、今度の水曜日・・・6限までだから・・1セットくらい付き合えるでしょう・・」
「・・あっ、はい・・」
「よし、決まった!・・・じゃ、本当よろしくね!」
「・・・はい・・」
「よーし・・・・オーイ!」
石黒先生は小走りに、少女たちの方にむかう・・・
そこで亀井さんを呼び止めると、私の方を指して、何かを告げている。
それを聞いた亀井さんは、コートの外の私に向かって頭を下げる。私もそれに応えて、小さく会釈する。
・・・それから、彼女の隣で笑っている石黒先生に一礼して・・校舎の中に入る。
- 102 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 10:31
- 1セットマッチか・・・何か少し後ろめたい・・テニスはある意味体力の勝負だから・・・
部活の指導なんてやったことがないから、それが本当に彼女のためになるかの確信も持てない・・
でも、ここのテニス部でお世話になりながら、顧問を引き受けることの出来ない私としては、
石黒先生の言葉に従うのが、せめてものOGとしての義務なのかなとも思う。
それに、あの子ともう一度打ってみたいと思っているのも確か・・・
あの昼休み、私は少しだけここにいた頃にもどっていた・・・
今になって、思い返せば、自分自身、一番キラキラしていた時だったと思う・・その時に・・・
あの頃・・・私の周りには、数限りない未来の可能性が満ち溢れていて、
なによりも素敵な友達がいて・・・
私たちは、真直ぐに前を見つめていた・・・
来るはずだった明るい未来を・・・・真直ぐに・・・
- 103 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 11:01
-
「先生、エリとの試合、決まったんですね・・」
私は、月曜日の放課後、国語準備室に来ていた。
ここを訪れるのは、これで三度目・・・石川先生は、今日も紅茶を入れてくれる。
「・・・あっ、うん、水曜日にね・・って、もー知っているんだー・・」
「ええ、クラス中の噂ですから・・・」
「そー・・・・・田中さんは、亀井さんのことが好きなのね。」
「はっ?・・・・そんなことないです・・・よく知らないし・・・」
「そーかなー、ずいぶんと気にしてるみたいだけど・・・」
「・・・・この前のお昼・・・見てましたから・・・それだけです。」
「そーおー・・・・・・あのさ、この間も言ったけど、何でも食わず嫌いになっちゃダメよ・・友達も・・
無理して作るのもなんだけど、無理して作らないのもねー・・・」
「はー・・」
「それにね、友達ってさ、自然にできるものだと思ってるでしょ・・・同じ趣味とか、部活とか・・たまたま席が隣とか・・」
「いえ、そんなふーには・・・・・てか、それって友達でもないし・・・」
「うん、まーね・・・だからね・・・友達って望んで接さないと出来ないってゆーのかな・・・
例えばさ・・ある意味恋人とかと一緒で、無理して近づかなきゃできないこともあるのね・・」
「は?」
「何てゆーの・・・人ってさ、何か時々、魂が呼ぶってゆーか、そーゆーことってあってさ・・・異性同性関係なくね・・」
「はー・・・でも、アタシ、特にいらないんで・・・」
「友達?」
「はい・・・別に不自由しないんで・・いなくても・・」
「そーかなー・・・」
- 104 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 11:20
- 「・・・あのさ、人の字って、よく人と人が支えあってってゆーじゃない・・」
「あっ、ええ・・」
「あれってさ、嘘なんだけどさ・・」
「はっ?」
「人の字って、人が二本足で立っている姿だから・・・それにカタカナでヒトって書くと、
種としてのヒトのことだからね・・・サルと同じで・・・」
「はー?」
「でもね、人間ってなるとね・・・これに社会性が加わるのね・・・人と人の間だからね・・・
生きていけないでしょ、色んな意味で・・・一人っきりって・・・」
「・・・はい・・・」
「一番の大本は家族よね・・親がいなきゃ、生まれてもこれないし、育ちもしない・・・
それに社会よね、物を食べるんでも、着るんでも、住むんでも・・色々なことしている人がいて初めて・・生きていけるのよね・・」
「そーゆーことなら、そーでしょうけど・・・」
「で、その中でもね、人間は学んだり考えたり、自分を高めていくものだからね・・
他人の影響ってどーしても受けるでしょう・・・それに、一人っきりで生きていけるほど強い人もいないと思うのね・・
ほら、色々悩みとかあるわけじゃない・・・特に思春期って・・そーゆー時って、誰か必要だと思うんだけどな・・
お互い助け合ったり、高めあったりするのにさ・・・」
「・・・・でも、友達とかって、いたらいたで面倒ですよね色々・・」
「うん・・・そーゆーこともあるよね・・・私だって、大事な人を酷い目に遭わせちゃったし・・・」
「えっ?」
「・・・あっ、でもね、そーゆーことも含めて・・・成長するためには必要なんじゃないかな、友達って・・・
社会に出ちゃうとなかなか出来ないよ・・・立場とか利害とかが先に立ったりするから・・どーしても・・」
「はー・・・・」
- 105 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 11:37
- 「・・・先生は・・一人っきりだって思ったこと・・あります?」
「・・・・・うん・・あるよやっぱり・・・・周りにどれだけの人がいてもね、私は、一人ぼっちかなって・・
思春期には、そー思う時があるんじゃないのかな・・・誰でも・・」
「・・誰でもですか・・」
「そー、誰でも・・・そんなふーに思える時があると思うよ・・あなただけじゃなくて・・・」
「・・アタシだけじゃなくて?」
「うん、あなただけじゃなくて・・・あなたにね、何があったのかは・・分からないけど・・・
誰でも・・多かれ少なかれ・・嫌な思いとかしたことあると思うのね・・・
でも、そーゆー事も含めて、その人なりに生きてきたわけじゃない・・・
だから、過去とかに縛られて、頑なになってないで、その場その場で柔軟に考えた方がいいと思うの・・・
本当に自分に今必要なものは何かってね・・・」
「・・・はい・・」
「水曜日・・見に来るの、テニス?」
「ええ、サユが誘うから・・・」
「サユ・・ああ、道重さんね・・・・あの子も面白そうよね・・」
「えっ?」
「何考えているのか掴み所がない感じが・・何か魅力あるよね・・」
「はー・・・」
「ねー、あの子とも、ちゃんと向き合ってみれば・・・もっといい関係になれると思うんだけどな・・あなたたち・・」
「・・・・」
- 106 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 11:47
- 「何か、本当、いつも押し付けがましいわよね、私・・・」
「いえ・・・先生の話聞いてると、楽しいですから・・」
「・・・それならいいんだけど・・・いつもアンタの話はオチがなくて面白くないって言われるから・・」
「・・・それって、藤本先生とかにですか?」
「そっ、あの人たちには、ずーっとからかわれっぱなし・・・・高校の時から・・
・・・・・でも、すごくいい友達・・・
私はきっとすごくラッキーなんだと思うのね。
いい先生にも巡り会えたし・・・友達もね・・・うん、すごく恵まれてる・・
恵まれ過ぎちゃったのかな・・・」
「えっ?」
「・・・・そーなんだよね、きっと恵まれ過ぎちゃったんだと思う・・・」
先生の顔が少し曇る・・・・
それって、ここであったっていう何かのせいですか・・・
さっき言いよどんだ・・・酷い目に遭わせた誰かのことなんですか・・・
- 107 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 12:05
-
「おっ、ちゃんとスコート用意してきたじゃん・・」
水曜日、私は久しぶりにテニスウエアとラケットとシューズを押入れの中から引っ張り出して、
ロッカールームで広げていた。
「・・・着れるかなって・・・ね、デザインとか古くない?」
「大丈夫だって・・・それよかさっさと着替えろっつーの・・」
「そーだよ、このオヤジが楽しみにしてたんだから、ねー、ヨッシー・・」
「オヤジって言うなって!」
ヨッシーと美貴ちゃんが漫才をしている横で・・・・着替えてみる・・・
「・・・・着れたけどさ・・・やっぱ、古くない?5年前のだよ・・これ・・」
「かわいいって・・・てーか、5年前の入るんだ・・サイズ・・」
「まあね・・筋肉とか落ちちゃったから、少し緩いけど・・・」
「・・・それはうらやましいことで・・・ってかわいいって・・」
「そーかなー・・」
「何気に懐かしいなーやっぱし・・」
「だねー・・あの頃はみんな似合ってたよねー・・ユニフォーム・・」
「美貴ちゃん、何が言いたいのかな・・・こー見えても、まだバリバリだぞ!」
「長パンだけどね・・・」
「コラ!」
「そー言えばさー・・・美貴ちゃんはバレー・・やってないの?」
「うん、あれ、梨華ちゃん知らなかった?・・アタシ、バスケみてんだよ・・」
「えっ?」
「適任者いなくてさ、押し付けられちゃった・・校長に・・」
「そーなんだー・・」
- 108 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 12:31
- 「もちろん、よくわかんないから、OGに練習メニュー作ってもらって・・・
たまに来てくれるしね・・ほら、二級下の高橋・・・覚えてないかな・・」
「・・・・あっ、あの小柄でかわいい子?」
「そっ、あの子がさ、ここの大学にいるから、時々来てくれて・・・実質的には彼女が監督って感じかな・・」
「そーなんだー・・」
「・・・あっ、それでさ・・・顔合わすこともあるかもだから言っておくけどさ・・
あの子の言うこと気にしちゃダメだからね・・・」
「えっ?」
「・・・ほら、あの子・・・ごっちんに憧れてて・・・」
「あーあ・・」
「・・・・アタシがさ、何言ってもダメなんだよね・・・未だに梨華ちゃんのこと敵視しちゃってて・・・」
「・・・そーなの・・・でも仕方ないよ、それ・・」
「そんなことないでしょ・・・梨華ちゃんのせいじゃないのは、アタシ達が一番よく知ってるんだから・・」
「そーでもないよ・・・やっぱり私が・・」
「梨華ちゃん、ダメだよそーゆーふーに思うのは・・・」
「・・・・」
「美貴ちゃん、その話はもーいいって・・・・それよか、梨華ちゃんソロソロ急がないと・・」
「うん・・・・なんだけどさ・・これで出て行くのって・・やっぱちょっと恥ずかしい・・」
「何、いまさら言ってんのさ、現役の時なんて、必要以上にその格好でうろついてたくせに・・」
「だって・・・もーオバサンだし・・」
「バカ、同級生の前でオバサンとか言わないの!まだ22じゃない、世間一般では充分若いって・・
まっ、もちろんここにはピチピチがたくさんいるから・・・その気持ち分からなくもないけど・・・
大丈夫!まだイケるって、私と梨華ちゃんは・・・」
「オイ!何気にアタシのことはずすな!」
「だから、長パンはいいの!」
「たくー・・」
「ホント、面白いよね二人は・・じゃ、しょーがないから、行くね・・」
「うん・・アタシ達も・・」
「って、あなたたち・・部活みなきゃじゃないの?」
「何言ってんのさ、こんな面白そーなもの、見ないでどーするの・・」
「はー・・・何かマスマス・・・気が重くなってきた・・・」
「グチャグチャ言ってないで、ほら、行くよ!」
- 109 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 13:01
- テニスコートの周りには、この前に増して、人垣が出来ていて・・・
何か本当に・・・見世物なんだね今日は・・・こんな中でいいんだろうか、本気でやって・・
少しコートに入るのを戸惑っていると、石黒先生に肩を叩かれた・・
「石川先生、マジ、頼むから!」
「・・・分かりました・・・」
そうなんだよね、これは亀井さんのため・・・彼女のこれからの成長のためには、
今、彼女が持っているであろう、小さなプライドなんかは、一度壊してしまった方がいい・・んだよね・・
彼女はもちろん先に来てて、ストレッチをしている・・・
私も・・ストレッチを済ませて、そのあと二人で軽くボールを打ち合って・・・
私のサーブからゲームが始まる・・・
最初のゲームは色々な所にボールを入れて、相手の弱点を探る・・・
これが私のプレースタイル・・・決して力があるというわけじゃない私が、それなりの成績を修めてこれたのは、
人より幾分軽いフットワークと、この相手の弱点を徹底的に攻めるやり方・・
本来、より強くなるためには、相手にあわさず、自分のベストショットを作り上げた方が良いのだけど、
それが出来なかったのが、私の最大の弱点・・・ようは小器用にかわすだけのプレーヤー。
それに、今回は、体力的に劣ってることもあるから、なるべく効率よくポイントを稼がなくちゃならない。
彼女の弱点はフォアハンド・・・バックの安定と比べると強さがある分安定性に欠ける。
特に深めのボールに弱い・・・・1ゲーム目は2ポイント落としただけで取れた。
彼女のサーブは、まだ一年生なだけに粗い・・・特に今日は少し力みがあるのか、
2ゲーム目は、ファーストサーブをことごとくはずした・・・セカンドを彼女のフォアに集める。
2ゲームを連取すると、3ゲーム目からは、彼女の焦りも加わって、殆どポイントを落とすことなく5ゲームを続けて取る。
さすがに6ゲーム目は、足にきたけど・・・ここでは、それまで深めに返していたボールを、浅めに落として、
前におびき寄せて、その脇を抜く戦法に切り替える。それに彼女が順応できないうちに・・・6−0で試合は終わる。
- 110 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 13:22
- 亀井さんは確かに素質がある・・・時々、思いも依らない、いいボールが返って来る。
でも、やっぱり、まだ高一、経験が明らかに不足している・・・
そこをつくことは、多少のブランクがあっても問題なかった。
でも、たぶんこのまま2セット目に入ったら、そうはいかないだろう・・・
私は多少の後ろめたさを感じながら、ゲームセットのコールを聞いた。
コートの周りに集まっている生徒の中から、ため息のような声が漏れる。
そして、亀井さんは・・・・最後に抜かれたその場所で立ち尽くしていた。
私は駆け寄って、握手を求める・・・・でも、彼女は動かなかった。
石黒先生が、そんな彼女に駆け寄って、肩を叩いて・・・
「石川先生、サンキュ!・・・亀井、今日は勉強になっただろ、ホラ、ちゃんとお礼しろ!」
と、私のほうに促す。
「・・・・ありがとうございました・・」
差し出された、その手は少し震えていた・・・・・本当にこれで良かったんだろうか・・
「あっ、こちらこそ・・ありがとう・・」
彼女は握手の手を引くと、そのまま小走りに部室にむかう・・・
「・・こんなんで良かったんですかねー・・あの子のプライドが・・・」
「石川先生、気にすんなって、これって絶対に成功だから・・・」
「そーですかねー・・何か自信なくしちゃったりしませんかねー・・」
「大丈夫、アタシの方が長くあの子、見てんだから、そんな弱い子じゃない。
きっとこれを機に、もっといいプレーヤーになるって・・・」
「ならいいんですけど・・・」
「それより、予想以上だったな、アンタのプレー・・さすが我テニス部の誇り・・」
「そんなことないですよ・・・私は小器用なだけで・・・第一もう足に来てますし・・・」
- 111 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 13:34
- 「・・・たぶん、本気で取り組めば、私なんかより、彼女の方が、数段強くなると思いますよ・・」
「アタシも、それを期待してるんだけどね・・
それより・・・ほら、見てみー、あの生徒たち・・・
こりゃ、吉澤先生に続いて、ファンクラブ設立ってことになりそーだな・・・」
「えっ?」
コートの周りの生徒たちが、いつの間にか少しずつの固まりになってなにやら騒いでいる。
中にはキャッキャいいながら、こちらに手を振っている子もいたりする・・・
あっ、これも何か懐かしい・・・・
その生徒たちとちょっと離れた所に、道重さんと田中さんを見つける。
田中さんは・・・亀井さんが消えた部室の方に眼をやっている・・・
やっぱり気になっているんだよね・・・あの子。
あの二人、意地張ってないで、さっさと友達になっちゃえばいいのに・・・
きっと、いい友達になると思うんだけどな・・・
でも、そう思うのって、私が彼女たちのことを、
どこか遠い日の、私とごっちんに重ねて見ているせいなのだろうか・・・遠い日の・・・
- 112 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/17(火) 13:53
- ごっちん、私ね今日テニスやったの。あのコートで・・・この前と違って、結構マジに・・
あなたが死んでもはきたくないって言ってたスコートはいて・・・あの頃と同じのをね・・・
そーだ、あなたのバスケ部、美貴ちゃんがみてるんだって・・・でね、
あの子、高橋さんが来てくれてるんだって・・・時々・・あのあなたのこと大好きだった・・あの子。
美貴ちゃんにそー言われて思い出したんだけどね、
あの子、いつでもあなたのこと見てたよね・・・尊敬してますなんてマジに言ってね・・
あの子から、バレンタインに大きなハートのチョコもらったでしょ、
・・・・二人で溶かしちゃったけど・・・・あなたは、他にもたくさんのチョコもらってたから・・・
格好良かったものね、ごっちん。
髪を後ろで無造作にしばっちゃって、バスケのゴール狙ってる時の目なんて、
なんかさ、ドキッとするぐらいするどくて・・・・
やっぱり、あそこにいるとね、思い出しちゃうよ・・・色々・・
体育館の中から、ひょこっと、あなたが出てくるような気がしちゃう・・・
帰りの下駄箱で、お待たせ・・なんて駆けて来るような気がしちゃう・・・
あの坂を降りる時・・・ふと隣にあなたがいるようで・・捜しちゃう・・・
戻りたいな・・・・あの頃に
戻りたいよね・・あの頃に
本当、出来ることなら・・・あの頃に・・あなたと一緒に・・・
- 113 名前:@ 投稿日:2004/02/17(火) 19:46
- なんだこの切なさは!!
やばすぎます これからがますます気になりますね
マターリ待ってます
- 114 名前:みっくす 投稿日:2004/02/17(火) 22:10
- 田中、亀井、道重の3人の関係にも変化がでそうかな?
ほんとそれにしても、梨華ちゃんとごっちんの間に
なにがあったのですかね。
ほんとに読んでて切なくなってきますね。
次回も楽しみにまってます。
- 115 名前:トーマ 投稿日:2004/02/19(木) 09:58
- >@様 ありがとうございます。恥ずかしい話ですが、私も書いてて切なくなってます。
>みっくす様 ありがとうございます。これからしばらく、6期三人の話を進めていこうかなと・・
- 116 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/19(木) 10:22
-
次の日、1-Bの授業を終えて、職員室に向かっていると、亀井さんに追ってきた。
「先生・・・・昨日は、ありがとうございました。」
「あっ、いいえ、こちらこそ・・・楽しかった・・・・・
おかげで今日は思いっきり、筋肉痛だけど・・・・」
「・・・・それで、やっばり・・・・・私、先生に指導してもらいたいんです!」
「・・・あっ・・・・ごめん、本当、ちょっと時間取れなくて・・・部活みれないの・・・」
「・・・・田中さんと話す時間はあってもですか?」
「あっ、あれは下校前のちょっとした時間だから・・・」
「それでもいいんです・・・少しでもみて欲しいんです。」
「・・・・でもね・・・」
亀井さんは、真直ぐ私のことを見てる・・・・この子真剣なんだ・・・
「ねっ、そーだ、あなた、土曜日とかに時間取れる?」
「えっ?」
「ここじゃ無理だけど・・・もしあなたがどーしてもって思うんだったら・・・休みの日に時間作ってみる?」
「えっ・・・・いいんですか、それ・・」
「うん・・・そーだな・・・・あなた、お家は近く?」
「ええ、ここには自転車ですから・・・」
「そー・・・だったらね、隣の駅前に、室内コートあるの知ってるよね?」
「はい、何度か行ったことあります。」
「あそこで、やろーか・・」
「本当ですか?もちろんやります!土曜でも日曜でも、なんだったら、深夜でも・・・」
「深夜はダメでしょ、普通・・・そーだな、土曜日・・・昼からは混みそうだから・・・
午前中・・・・9時頃から・・・どーかな・・・」
「9時ですね・・・今度の土曜からでいいんですよね!」
「うん、じゃあ予約入れておくから・・・・正面の入口の所で・・・」
「ハイ!ありがとうございます、よろしくお願いします!」
- 117 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/19(木) 10:54
- 「・・・・あっ、一応、石黒先生の許可はもらっとくけど・・・
これって、あんまり大っぴらにしない方がいいかもね・・たぶん・・・」
「ハイ!みんなには内緒にします!・・・秘密特訓てことで・・・」
「秘密特訓か・・・何かスポ根みたいね・・・・じゃ、岡君、そーゆーことで!」
「ハイ、宗像コーチ・・・あっ、お蝶婦人かな・・・」
「お蝶婦人かー・・・・じゃあ、たてロールとかしなきゃね・・」
「・・・先生って、思ったより、ノリがいいですよね・・」
「あなたもね・・・じゃ・・」
勢いで約束しちゃったけど・・・・個人指導か・・・やっぱり不味かったりするのかな、ソレ・・
私は、職員室に戻ると、石黒先生を捜す。
「石黒先生!」
「あっ、昨日はごくろーさん!」
「いえ・・・そのことなんですけど・・・あの・・個人的に指導するのって・・ダメですかねぇ・・」
「えっ?」
「さっき亀井さんに指導、頼まれて・・・・私、やっぱり部活みれないんで・・・
土曜日に個人的にやろーって、ついつい約束しちゃったんですけど・・・」
「本当?」
「ええ、やっぱり教師の立場としては・・・不味いですかねぇ・・・」
「いやー、いいんじゃないの・・・ってゆーか、アタシ的には、是非にって感じなんだけど・・」
「大丈夫ですかね・・」
「そんな気になるんだったら、一応、アタシの方から、裕ちゃんには話しておくけど・・・
アンタの方は、本当いいのかな、そんな時間割いてもらって・・・」
「ええ・・私の方なら、結構休みは暇してますから・・・」
「なら、マジにこっちから頼みたいくらいだよ。
で、どこでやるの?一応、時間と場所だけは聞いとこうかな・・・」
「あっ、土曜の9時から・・・隣の駅前の・・・」
「あそこね、わかった・・・指導はさ、全面的に任せるけど・・・一応、報告はしてね・・
なんかの時はアタシが責任持つから・・」
「あっ、もちろん報告はしますけど・・・責任は、私持ちますから・・」
「それはダメだよ、これでも一応、顧問なんだからさ、アタシ、そのくらいはさせてよ、ねっ!」
「あー・・・はい・・」
- 118 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/19(木) 11:22
- 「・・・・それからさ、これはね、顧問じゃなくて、あの子の担任として言うんだけど・・・
うーん、こんなことまでお願いしちゃっていいのかな・・・」
「・・・何をですか?・・・いいですよ・・私で出来ることなら・・・・」
「まーあ、話ついでだしね・・・てーか、石川先生も気づいているかも知れないけど・・・」
「はい?」
「あの子・・・明るいし、優秀だし、クラスの仕事とか色々してくれるしね・・・
なんだけどね・・・何かなー・・イマイチ、心開いてないってゆーか、自分を出してないってゆーか・・・」
「はー・・」
「自分はこーしなきゃいけないみたいなね・・・自分で自分に何か義務付けてるってゆーか・・
何か見てて、かわいそーになる時あるんだよね・・・本当は嫌なんじゃないかってね、今いる場所が・・」
「あーあ、それ・・何かわかります・・・」
「やっぱり、そーだよね・・・部活でもさ、ほら、一年であれだからさ、それなりに風当たりきつかったり・・・
本人が何も言わないからさ、よく分からないけど・・・女子校だからね・・・あるよね色々・・
だから、そんなこともあって、敢えて自分を小さくしてるような感じってゆーのかな・・・
自己主張しないってゆーか・・・それもあの子の伸び悩みの一因だと思うんだよね・・・」
「はー・・」
「だから、今回の件での積極性って、色んな意味で、あの子のチャンスになると思うんだよね・・・
だから、そーゆーところでもみてやってくれないかな・・・でも・・やっぱ、大変だよね・・」
「あっ、いえ、これでも一応、教師の端くれですから・・・たいしたことは出来ないでしょうけど・・
私も、彼女のそーゆー感じ、気になってたんで・・・」
「似てるんだってね・・」
「えっ?」
「圭ちゃんが言ってた・・・亀井は、石川先生の高校時代に似てるって・・」
「そーですかねー・・」
「アタシも、そんな気がする・・・アンタの制服姿は見たことないけど・・
あっ、もう次の授業かー・・・・ホント、よろしくね!」
「はい・・・」
- 119 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/19(木) 11:53
-
土曜日、彼女は10分前に着いた私よりも、先に来ていた。
ラケットとバックを両手で下げて、俯いて立っているその姿は、明るい色の私服のせいか、
学校で見る彼女より、幾分、幼く見えた。
「お待たせ!」
「あっ、おはようございます。よろしくお願いします!」
「おはよー・・・・早いのね・・・因みに何時からここにいたの?」
「あっ・・・恥ずかしいんですけど・・・30分前くらいから・・・何か早く起きちゃって・・・」
「うふ・・・かわいいね・・」
あっ、テレちゃってる・・・なんだか本当にかわいい・・
「・・・それからね、今日は私、先生じゃないから・・・」
「えっ?」
「プライベートだからね、そーだな、先輩ってことで・・・いいわね・・」
「あっ、はい、先生!」
「だからー・・・まっ、いいか・・・じゃ、入ろっか!」
三面あるコートの左端に入る・・・さすがにこの時間には他の人はいない・・・
というか、今はテニス人口自体、あまり多くないのかな・・・
入念にストレッチをして・・・
「先生って・・・この前も思ったんですけど・・柔らかいですよね・・・身体・・」
「あ、うん・・・もしかしたら、これが一番の私の長所かな・・ケガが少ないからね、柔らかい方が・・
それって結構大切で・・・大会とかって、勝ち進んで行くと、日程とかこむでしょう・・
故障は大敵だからね・・・だからストレッチは長めに・・・最初に教えることは、そこかな・・・」
「はい!」
- 120 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/19(木) 12:12
- 「それから、始める前に、一つ聞いておきたいんだけど・・・亀井さん、目標はどこに置く?」
「えっ?」
「・・・この秋の大会で、いい成績修めるのか・・・それとも、来年、再来年・・もっと先かな・・
そーゆーことを考えて・・・本当に強くなりたい?」
「私は・・・強くなりたいんです・・・本当に・・」
「そー、よかった。それを聞いて安心した・・・じゃ、じっくり取り組もう。
私はね、あまり取り得のないプレーヤーだったから、自ずと限界があったのね、
・・・だから、出来たらあなたには、何か突き抜けたものを身につけて欲しいの・・」
「取り得がないなんて・・・先生はすごいじゃないですか・・・」
「私のは小手先の芸ってやつよ・・・あまり目立った弱点もないかわりに、これといった長所もないってゆーのかな、
決め手がね・・・自分でゆーのもなんだけど、つまらないプレーヤーってのかな・・・」
「そんなこと・・・」
「まあ、そーなの。だから、あなたには・・・
でね、取り合えず、今のフォーム、一度壊してみよーか・・全部・・」
「えっ?」
「怖い?」
「いえ、やります!」
「・・・しばらく試合に勝てないかも知れないけど・・・いいかな?」
「はい!私、先生を信頼しているんで・・・」
「よし!じゃ、サーブから行こうか!」
「はい!」
私は、やる以上は無責任なこともできないしっと思って、何冊かの指導書に目を通した。
その上で、ヨッシーに体力測定のデーターを見せてもらって、彼女の身体能力を分析してみた。
で、出た結論がこれ、一から作り直す。
予想以上に高かった身体能力が、現状のフォームでは、あまり生かされてない・・・・かなりの冒険ではあるけれど・・・
- 121 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/19(木) 12:28
- 約2時間のトレーニングを終えて、シャワーを浴びる。
「何か、全然違うところが筋肉痛になりそーですね・・」
「うん、そーなればめっけもん・・」
「は?」
「そこが、今まで使われてなかったってことだからね・・」
「あ、はい・・」
「ねっ、このあと、急ぐ?」
「いえ・・」
「お昼、食べてかない?ここのラウンジで、ご馳走するよ・・」
「あっ、いいですけど・・いいんですか?・・結局、コートの使用料も・・」
「いいの!ほら、これでも先輩だからさ・・
何か、運動するとお腹減るよね・・・すごく・・」
「ハイ、私もです!」
パスタを食べて、お茶にする。
「私・・・先生があの石川梨華だって知った時は、正直、驚いたんですよ・・」
「何、そのアノっての?」
「あー・・何か失礼な言い方ですよねぇ・・・トロフィーとか、賞状とかあるんですよ、部室に・・」
「あーあ・・」
「それ、みんな石川梨華で・・・だから、どんなすごい人かなって思ってて・・」
「すごいねー・・」
「ええ、だからすごく意外で・・」
「えっ?どーゆーこと?」
「なんか、すごく大きい人ってゆーか・・・名前に似合わないタイプかなって、勝手に思ってて・・」
「何それ・・」
- 122 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/19(木) 12:50
- 「だから、テニス強いから・・・・ゴツイとゆーか・・」
「あー、そーゆー意味か・・」
「そしたら、何か私より細いし・・」
「あー、現役の時は、もう少しは筋肉とかあったんだけどね・・」
「だから、本当かなって思って・・・それでどーしも先生と打ってみたくて・・・
で、最初は・・たいしたことないやって・・・・」
「お昼休みのときね・・」
「ええ・・・打ちやすい球が返って来るし・・・でも途中から・・・わざとだなって分かって・・
結構マジに、あっちこっち振ったんですよ・・ボール・・でもちゃんと返って来ちゃうし・・あっ、バカにされてるんだなって・・・」
「そーゆーんじゃなかったのよ、本当・・・」
「ええ、試合やって、はっきり分かりましたから・・・力が違い過ぎますよね・・
で、本気でやりたいなって思ったんです・・テニス・・・先生みたいになりたいなって・・・」
「・・・ああ、でも・・・これ言っちゃっていいのかな・・・」
「何をですか?」
「・・・アノあと、2セット目やったら、きっとあなた、取れたわよ・・」
「えっ?」
「私、正直、あそこでバテバテだったもの・・・体力って落ちるのよねやっぱり・・・」
「そーなんですか?・・・・でも先生が現役の時だったら、あのままですよね。」
「どーだろ・・・かな・・」
「とにかく先生は私の目標ですから、これからもよろしくお願いします。」
「うん、私も気長にやって行くつもりだから・・・色々無理いうかも知れないけど・・・」
「はい、頑張ります!」
「・・・・先生、一つ聞いていいですか?」
「何?」
「最初、私が試合お願いしたとき・・・やってくれないんじゃないかって思ってたんですよ。
・・・・やっぱり、石黒先生が頼んでくれたんですか?」
「うん、それもあるし、私もあなたともう一度打ってみたかったし、それから・・・
それから、田中さんがね・・・あなたと試合してくれって言ってたから・・・」
「えっ?・・・・田中さんがですか?」
- 123 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/19(木) 13:09
- 「うん、あの子がね、あなたが私と試合するために、朝練してるから、受けてあげてくれって・・・」
「そーなんですか・・・レナちゃんが・・」
「あの子・・・あなたのことが好きなのね・・きっと・・」
「えっ?・・・・それは違いますよ・・私が話し掛けても、まともに応えてくれないし・・・」
「そーなの?」
「私・・・・なんとなく、彼女のこと気になって・・・朝、登校中に見つけて、なんとなく話し掛けちゃって・・
それから、毎朝、何か捜しちゃって・・今は朝練あるから・・・ないんですけど・・
でも、彼女、殆ど上の空みたいで・・・一度だけ、先生の話したら、なんとなく少しだけ話せたけど・・・」
「そー・・」
「先生とは話すんですよね・・彼女・・」
「うん、何度か話にきたかな・・・まあ、一方的に、私が話してるよーなものだけど・・・
あの子、文学とかに興味があるみたいだから・・・・なかなか面白い子よね・・・」
「ええ・・・・レナちゃんって、よく授業とかサボっちゃうし、寝てるし、みんなの中に入ってこないし・・・」
「そーみたいね・・・」
「・・・・でも、成績とかよかったり・・・何か堂々としてるし・・・」
「気になってしかたないってやつかな?」
「ええ、まあ・・・」
「ねっ、もっと積極的に行っちゃえばいいんじゃない?」
「えっ?」
「あなたとお友達になりたいって・・・」
「あーあ、でも・・・・私・・・拒絶されてるみたいだし・・・」
「そんなことはないと思うよ・・・あの子があなたのこと気にしてるのは確かだし・・・
たぶんね、あの子・・・友達とか作るのが怖いのかな・・」
「は?」
- 124 名前:君がいる場所 投稿日:2004/02/19(木) 13:20
- 「何かね・・・きっと何かあって・・・・心の壁みたいなもの作ってる・・・
でも、求めてるのよね、本当は・・・その壁を越えてきてくれる人を・・・私はそー思うんだけど・・」
「そーでしょうか・・・・あの、でも道重さんもいるし・・・」
「うん、たぶん・・・道重さんにも・・・まだあんまり心開いてないと思うんだ・・
・・・・求めるものが、もしかしたら、大きすぎるのかな・・
そんな気持ちを自分で、気づかないように頑張っちゃってる・・・
だから、私のところに来るんだと思うの・・・
自分の気持ち・・・整理してみたくて・・・
私がね、最初に話した時にね、そんなこと少し言ったから・・・」
「そーなんですか・・・」
「・・・・もしかしたら・・・あなたもあるのかな?
壁みたいなものが・・・心の中に・・・」
「えっ?・・・・・・かもしれません・・」
「越えてごらん・・・それ・・・今だけだよ・・友達とかと、まともに向き合えるのって・・」
「・・・ええ・・」
- 125 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/19(木) 13:58
- 週明けの坂道・・・やっぱり私は一人で上る。
寂しいとかじゃない・・・ただ時々、横を抜けていく自転車の音が気にーなるだけ・・・
だるい午前中の授業が終わり、私はサユと購買のパンを買う為に並ぶ。
この学校には、結構メニューの豊富な食堂の他にも、お弁当を広げられるラウンジが用意されているけれど、
私はたいていサユと二人で、教室の自分たちの机で、パンと牛乳みたいな食事をとる。
別に限られた席を争うのに、遠慮しているわけではないけど、
女の子の集まりは、何かと騒々しいから、その方が遥かに落ち着く。
サンドイッチを買って、教室に戻ると、そのドアの前に・・・・
小さな袋を持ったエリが立っていた。
「ねっ、一緒していいかな・・」
「えっ?」
思いもかけない提案に、私とサユは顔を見交わす・・・
「ねっ、お昼、一緒させてもらっていいかな・・」
エリは重ねて、笑顔で問い掛ける・・・どーして・・
「でも・・・」
サユが教室に何組か残っているクラスメイトの方を窺う・・・
「ダメー・・・」
「・・・・別にいいけど・・・でも・・・」
答えに迷っている私たちの意図をわかったのか、分からなかったのか・・・
「ねっ、私、イイトコ知ってるの・・・行こうよ!」
エリは私の手を引くと、サユに同意を求める。
「いいよ!」
サユはまるで、とてもイイコトを思いついたように、私の肩を、ポンと叩く・・・
「行こ!」
- 126 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/19(木) 14:15
- エリに連れて行かれた場所は・・・体育館の裏手・・
そこに学校の敷地を取囲むネットが、少し破れていて、ちょうど人一人通り抜けられる、穴が空いている場所があった。
それをくぐると、坂の下にある中等部を見下ろす感じのなだらかな土手のような場所が広がる。
「ここなんだけどさ、よくない?」
「ふーん知らなかったなぁ・・・」
サユは珍しそうに、下の景色を眺める。
「うんとね、ココ、ココ・・・ここがね、ベストポジション・・・
上からも下からも何気に死角になってんだよね・・・」
エリに誘導されて、腰を下ろした場所は、何本かの植えられた木の横で、
確かに、どこからも見え辛そうなところ・・それにマダマダ強い日差しを葉陰が遮ってくれてもいる。
「イイトコ知ってんだね・・」
って、サユが本当に感心したように言う。
「うん、時々来るの・・」
「友達とかと・・・」
「ううん・・・一人で・・・たまにね・・」
一人で・・・この子が一人でいることなんて、見たことないような気がするけど・・・
私たちは昼食を広げ始める・・・エリも今日はパンみたいだ・・・
「それで、なんで私たちのこと・・・」
「あっ・・・・話したかったから・・・」
「ふーん・・・何で?」
「何でかなー・・・・嫌だった?」
- 127 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/19(木) 14:30
- 「そーじゃないけど・・・・あの人たちは?」
「あの人たちって?」
「ほら、何時も一緒にいる人たち・・・」
「あーあ・・・・でも私、特別に仲良い子とかいないし・・・」
「へー・・・やっぱりエリって、友達いないんだねー・・」
「・・・道重さんって・・きついこと平気でゆーよねー・・・でもそーなのかも・・」
そんな、内容に比べて、やけに明るい声音の二人の会話を、私はサンドイッチを食べながら、ただ聞いていた。
「いいよねー、二人は・・・・いつも仲良さ気で・・・」
「えっ、そーかなー・・・レナ・・アタシたちって、仲良かったっけ?」
「・・えっ・・・・わかんない・・」
「そーだねー、わかんないよねー・・」
「変なの・・」
「うん、変なんだよ、結構・・・・・レナとは話するんだよね・・エリって・・」
「えっ?」
「何回か見たよ・・・一緒に登校してるの・・・・」
「うん・・・私は話してるんだけどね・・・・レナちゃんは、殆ど黙ってるから・・・」
「変なの・・」
「うん、変なんだ、結構・・・・同じだね・・」
「同じだね・・・」
エリとサユは顔を見合わせて笑う・・・それこそ仲良さ気に・・・
「でも、なんで急に・・・・今まで、教室に入ってから話し掛けてきたことなんてないじゃん・・」
私は、さっきから思っていた疑問をぶっきらぼーにぶつけてみる。
- 128 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/19(木) 14:52
- 「どーしてかなー・・・・・あのね、これ内緒なんだけどね、私、石川先生とね、エースを狙え・・やってるの・・」
「何それ?」
「この前の土曜からね・・・・個人的にテニス教えてもらってるの・・みんなに内緒で・・」
「へー・・・でも、内緒なのにアタシたちに言っちゃっていいの?」
「・・・だって、二人とも、他の人に話したりしないでしょ・・・」
「それはそーだね・・接点ないし・・・」
サユはいつもどこからか色々な情報を入手してくるけど、自分から何か言うようなタイプじゃない。
「でも、よかったじゃん・・・憧れの先輩だったんでしょ・・」
「うん、本当、よかった・・」
サユの言葉に、嬉しそうに答えるエリ。
「レナちゃんも言ってくれたんだってね・・試合のこと・・」
「あーあ・・」
「レナちゃんってさ、いつも何話してるの・・石川先生と・・」
「えっ?」
「放課後とか、行ってるでしょ、先生のところ・・」
「あっ、それ、アタシも知ってる・・」
「あーあ、何となくね・・・・ギリシャ神話読めとか、源氏物語がどーとか・・・そんなこと・・」
「ふーん、勉強してるんだー・・・」
そのサユの言葉が、少し照れくさかったから・・・
「勉強ってゆーんでもないよ・・・ロクジョウノミヤスドコロってあだ名の古文の先生がいたとか、
保田先生のあだ名がスエツムハナだとか・・・そんなこと・・」
「スエツムハナ?」
「うん、確かそんなの・・」
私の答えに、エリが吹き出して・・・で、サユも・・
「えっ、何、変なのこれ?」
「・・・・あのさ、レナちゃん・・・源氏読んだことないの?」
「あっ、まだ・・・アタシ、今その先生に薦められたギリシャ神話読んだりしてるから・・」
私は何かバカにされたようで、慌てていいわけめいたことを言う。
あの話の後、読んでみようとは思ったんだけど、実際、今は読みかけの本が多すぎて、まだ手が出せずにいた。
- 129 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/19(木) 15:14
- 「・・・そのさ、保田先生のあだ名・・・言わない方がいいよ・・・」
「えっ?」
「ねー・・・道重さんは知ってるんだよね・・」
「うん・・・アタシは漫画だけどね、読んだのは・・・」
「でも結構キツイコト言うんだね・・石川先生も・・・」
「だねー・・・何かさ、アタシ、今度、保田先生の顔見たら・・吹き出しちゃうかも・・・」
「そーだよねー・・・・・ね、レナちゃん、私、現代語訳の本持ってるから・・明日、貸したげる・・」
「えっ?」
「おもしろいからさ・・・そこの部分だけでも先に読んでみなって・・」
「なんなら、アタシの持ってるコミック持ってきてもいいけど・・」
「あっ・・なら、普通の本でいい・・」
「だよね、レナって、読書家だもんね・・アタシと違って・・・」
「てーか、少女漫画なんでしょ、ソレ・・」
「あっ、そーだけど・・」
「あれ苦手だから・・少女漫画・・・妙にデッサン狂ってるの多いから・・・」
「あーあ、パースとか?」
「そー・・・人とかの等身とかの変なの許せるんだけど、背景のパースの狂ってるのとか、
急にバックで花びら降ったりしてるのって、なんか嫌なんだよね・・・」
「へー・・アタシなんか、部屋中、漫画だけどね、漫画喫茶開けるくらいに・・・」
「本当ー、ねー何持ってるの?・・・今度貸してくれない?」
そのあと、サユとエリは、私の知らない、たぶん漫画家なんだろーなって名前、何人か出して、
キャッキャしていた・・・・何か不思議なくらいに打ち解けて・・・
でも何だろう、私はそこにいるのが嫌じゃなかった・・・
どっちかと言えば、楽しいのかも・・・なんだろうコレ・・・
- 130 名前:みっくす 投稿日:2004/02/20(金) 01:23
- おお、3人の関係が大幅に進展ですね。
本当の友達になれるのですかね。
次回も楽しみにしてます。
- 131 名前:トーマ 投稿日:2004/02/23(月) 09:04
- >みっくす様 いつもありがとうございます。励みになります。
- 132 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 09:27
-
「アンタたちー、たまには、アタシのことも混ぜなさいよね!」
梨華ちゃんが、ここら来て、もう一月以上がたち、私たちは相変わらず、昼食のテーブルを三人で囲んでいた。
・・・・そこに、保田先生が珍しく、乱入・・・・って、これは少しかわいそうか・・・
「・・・ええ、まあ・・・・どーぞ・・」
梨華ちゃんが、隣の椅子を引いて、招く・・・
「アンタたち・・・いつもまったりしちゃって・・・・なんかずるいわよ!」
「そーですかねー・・」
「そーよ!こんな特等席・・・」
「だって・・・・ここって、指定席なんですよ・・」
って、私が言ったら、
「ええ、予約とかしてるし・・・」
って、ヨッシーが応えて・・・
「えっそーなの?」
って、まともに保田先生が反応するから・・・・三人で笑ってしまう・・・
「ったくー・・ひとのことからかうことしかしないんだから・・・」
「そーそー、石川・・・アンタ、B組の田中に・・・何か言ってくれたりした?」
「えっ?」
「・・最近・・・いるのよね、あの子・・私の授業・・・マメに・・」
「そーなんですか・・・よかったですね・・」
「まあね・・ちょっと気持ち悪いけど・・・・まあ、元々あの子は、英語はね・・嫌いじゃないみたいで・・テストとか悪くないしね・・・
でも、ほら、いつも都合よくさー、頭が痛いとか、お腹が痛いとか・・・藤本の所へさ・・・」
「ええ、ちょーどそーなるみたいで、先生の授業は・・・・」
「まったくー・・・って感じだったんだけどさ、最近、座ってんのよね、ちゃんとノートとかとって・・・」
「じゃ、美貴ちゃんの所へは、もーあんまり行かなくなったのかなー・・」
「・・・あっ、でも・・たまにね・・・やっぱり数学とかは・・・具合悪くなるみたいで・・・」
「・・本当に保健室ってのは・・・・・まあ、藤本自身、よくやってたけどな・・現役時代・・」
「あっ、すいませーん・・」
- 133 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 09:48
- 「でさ、出てんのはいいんだけどさ・・・・何か、アタシのこと見て・・笑うつーか、吹き出すんだよね・・
・・・道重と・・・それから亀井まで・・・」
「へっ?」
「・・・何か時々さ、指名して読ませる時なんかにさ、目が合うと・・この三人・・・なんだろーね・・」
「はー・・・」
「それは、先生の顔が面白いからじゃないですか。」
って、ヨッシーがまともにつっこんで、
「ですね!」
って、私が応える・・・で、梨華ちゃんは・・・あれ、何かやっぱり心当たりがあんのかな・・
少しばつ悪そうに、下向いて・・う?・・・肩震わして・・・笑い堪えてるってやつ?
「たくー・・本当にアンタたちはー!」
って、保田先生が大きな声出した・・・そのタイミングで・・
「オイ、圭ちゃん・・何、騒いどんのや・・・せっかくの水入らず邪魔したら、あかんやろ!」
って、中澤校長が現れる・・
「アンタは・・こっちおいで!アタシが付き合ってあげるから・・・
アンタがそこにおったら、せっかくの景色がわるーなるやろが・・・」
「何よ、裕ちゃんまで・・・」
って、保田先生は文句あるみたいだったけど、それでも少し嬉しそうに、トレーを持って立ち上がる。
「じゃあね、お邪魔虫は消えてあげるわよ!」
「うわ、よかったー・・もーダメ・・・・これ以上、笑い堪えてると、死んじゃうところだった・・」
って、梨華ちゃんが苦しそうに、真っ赤にした顔を上げる。
「こら!アンタ、あの子たちに何か言ったりしたんでしょ・・」
「えっ?」
「保田先生のこと・・・」
- 134 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 10:17
- 「あっ・・・・あのね、例の源氏のあだ名のこと・・・ちょっと田中さんに漏らしちゃってね・・
その時は知らなかったみたいなんだけど・・・あの子、読んだのね、あれから・・」
「何、アレ、言っちゃったの?」
「うん、ちらっとね・・・・どーして先生になったんですかーみたいなね事、聞かれて・・
飯田先生の話をしてね、ほら、あの先生、御息所だったでしょ・・・で、ついでにぽろっと・・・」
「あー・・末摘花かー・・・そりゃ、笑うわ・・・」
って、ヨッシーがウケて、笑い出す。
「なるほど・・それでかー・・・あの子、アタシにもそんなこと言ってた・・」
「えっ、何て?」
「田中さー、昨日、久々に寝にきたんだよ、保健室・・」
「うん・・」
「その時にさ、急に・・・先生はさしずめ、朧月夜ですねって・・・」
「・・・・ああ・・・結構うまいね、ソレ・・」
「うまいかー・・・で、最初、何のことかピンとこなくてさ、何それ?って聞いたらさ、
何か奔放そうだから・・・だって・・・何か失礼よね・・」
「いやいや、あってるし・・」
「たくー、で、ああ源氏物語なんだなって、分かって・・・・
じゃ、例えば、石川先生はなんなの?って聞いたら・・・即答で、夕顔だって・・」
「うっ、夕顔かぁ・・・・なんかねー・・」
「幸薄そうだからしょうがないじゃん、梨華ちゃんは・・・因みにアタシのことは何か言ってた?」
「ヨッシーはねー・・・聞いたよ一応・・・そしたらね、どーしても十二単は似合わないって・・・」
「は?」
「でね、しばらく考えて・・・匂の宮・・・だってさ、よかったね、ヨッシー・・」
「へっ?」
「あっ、ソレ、うまい!・・・光源氏や、薫じゃないところが、ミソよね・・・
この二人だと、どーしてもストイックな感じあるものねー・・・匂の宮かー・・本当うまいわ・・何気にチャランポラン・・」
「何気に、ものすごく腹が立ってきた・・・」
「いいじゃない・・・すごい美男子だよ・・モテモテ・・・なんたって、匂うような宮様・・・なんだから・・」
- 135 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 10:43
- 「なんだよそれ、絶対に誉め言葉じゃないって・・・こんなイイ女に向かって・・」
「あのね、ヨッシー・・・イイ女ってのはね、せめてスカートはいてから言おうか・・・
ジャージ通勤の人が言っても、説得力ないから・・」
「って、梨華ちゃんも、きついよね・・・さすが保田先生の命名者だよな・・・」
「ああ・・・・あれってね、私じゃないんだけどなー・・・初めに言い出したのって・・・ごっちん・・」
「へっ、そーなの・・アタシも梨華ちゃんだとばっかり思ってた・・・
だって、ごっちんと源氏って・・・結びつかないじゃない・・・」
「あのね、一緒に勉強してたの・・・試験前に・・・あの子、古文とかずーっと寝てて・・・私がノート見せたりして・・
で、その時に初めて読んだみたくてさ・・・突然笑い出して・・保田先生の鼻が赤くなってるって、想像してごらん・・だって・・・
で、それから・・・末摘花になったの・・・」
「そーなんだー・・・なんかソレもごっちんらしいね・・・」
「あっ、そーそー、ごっちんのこと、朝から二人に報告しようと思ってたことがあって・・・」
「えっ、何?」
「あのね、少しなんだけどね、目が動くってゆーの・・・眼球がね・・・話してる時に・・・そんな気がして・・
気のせいかとも思ったんだけど・・・前もそーゆーふーに見えたことあったから・・
でも、もしもって思って・・・ごっちんのおかあさんにね、言ってみたの・・・」
「うん、うん・・」
「そしたらね、担当の先生に聞いてみてくれてね・・・でね、先生が・・・
あまり期待してもらっても、困るけど・・・良い兆候かもしれないって・・・」
「えっ、本当なのそれ?」
「うん、ただの反射なのかもしれないけど・・・今までになかったことだから・・って・・
だから、これから色々検査してみて・・・薬とかも別のを試してみるって・・・」
「そっかー、よかったじゃん、ソレ・・」
「うん、過度な期待もたれても困るとは言うんだけどね・・・でも絶対いいことでしょ、それって・・」
「うん、うん!」
「・・・もちろんすぐにどーにかなるとは思わないけどさ・・・でもきっと目を覚ましてくれるよね・・いつか・・」
- 136 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 11:01
- 「そんなの当たり前じゃん・・」
「そーだよ、ごっちんは・・・強い人だから・・・」
「そーだよね・・・・だからね、何か本当に嬉しくて・・・・
朝から二人に言おう、言おうと思ってたんだけど、捕まんなくて・・・・」
「そっかー・・・じゃあ、今日は祝杯だね!」
「って、まだ・・・」
「前祝だよ、前祝・・・・ね?」
「ホント、美貴ちゃんは好きだよね・・・でもアタシは乗るよ・・・・ね、梨華ちゃんも・・」
「・・・小テストの採点とかあるんだけど・・・」
「いいじゃん、そんなの・・・」
「・・・うん・・」
「じゃ・・・・8時かなまた・・・駅前でさ・・・・その時に今日のごっちんの様子も報告してよ・・・」
「わかった・・」
梨華ちゃんは、本当に嬉しそうに笑ってる・・・
今日は・・・何か少し幼げにさえ見える笑顔・・・そっか、あの頃みたいなんだ・・・
ごっちんが、目覚めるかもしれないって期待が、梨華ちゃんを、あの頃に少し引き戻してるんだ・・・
本当、目覚めて欲しいよね・・・目覚めてくれるよね・・・
でも、もしその期待が裏切られたら・・・この子・・・
だけど、それでも待ち続けるんだろうな・・・何年でも・・・
今まで、五年も待ってるんだものね・・・これからだってずっと・・・・
たぶんきっと、百年でも、二百年でも・・・
梨華ちゃんは・・・ごっちんを待ち続けるんだろうな・・・・
- 137 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 11:34
- 美貴ちゃんたちとあんな約束しちゃったけど・・・やっぱり小テストの採点・・・今日中に終わらせたいし・・・
なんて思いながら、国語準備室に向かう。
ここの国語科の教師は、私を含めて、6人いるけれど、
この時間は、他の先生方は、職員室だったり、部活だったり、どうしても喫煙室じゃなきゃって人もいたりで、
何となくいつも一人で、準備室を使わせてもらっている。
だから勝手にってわけでもないけど、私は、飯田先生が私たちが高等部のときにそうしていたように、
マイポットを持ち込んで、下校前の30分程度の時間を、好きな紅茶を飲みながら、その日の授業の整理をしている。
・・・時々は来訪者と一緒に・・・と言っても、今のところ、訪れてくれるのは、田中さんくらいなものだけど・・・
あれからも数度、彼女は私の所にやってきた・・・最近は少し自分の話もするようになって、少し楽しげになってきた・・・
亀井さんや、道重さんの名前も、頻繁に出るようになったから、きっと上手くいっているんだと思う。
ドアの前に・・・・あれ、道重さん?
「先生、待ってたんです・・」
「あら、どーしたの?珍しいわね・・・・あっ、どーぞ・・・」
部屋の中に入れて・・・椅子に促す・・・
「・・・ここにくると、お茶入れてくれるんですよね?」
「あれ、飲みにきたの?」
「てわけでもないですけど・・・・」
「・・・うん、もちろん入れたげる・・・・・ねえ、道重さんは、甘いの好き?」
「あっ、ハイ・・てーか、かなり・・・」
「じゃ、ちょうどよかった・・・今日はね・・・まだ少し季節は早いんだけど・・・ロイヤルミルクティーってのをね・・・
・・・牛乳で直接、葉っぱを煮出しちゃうの・・・匂いつくから、専用のポットでね・・・で、お砂糖多めで・・・」
- 138 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 11:53
- 「・・・・ね、どかなー・・・」
「あっ、美味しいです・・・甘くて・・・」
「あなた、そーゆーの似合ってるわよね・・」
「そーですかー・・・やっぱりかわいいから?」
「・・・うん、そ、かわいい、かわいい・・・」
「はー、やっぱり、そーですよね、アタシって・・」
「本当、面白い子よね・・・・で、今日は何?」
「あのですねー・・・」
「うん・・」
「先生ですよね・・」
「何が?」
「エリに・・・・積極的に、レナにからめって言ったの・・・」
「・・・あっ、そーだけど・・・・いけなかった?」
「あっ、いけないとか、そーゆーんじゃないんです・・・二人とも楽しそーだし・・・
アタシも、エリとは・・・話してみたいとか思ってたし・・・」
「うん・・・」
「・・・でも・・・」
「でも?」
「何か・・・それ・・・・気に入らない人たちもいるみたいで・・・・」
「あー・・・そーなんだ・・やっぱり・・・」
「先生、分かってたんですか、それ?」
「うん・・・何となくだけど・・・そーゆーこともあるかなって・・・女子校だからね・・・
って、他の学校のことはあまり分からないんだけど・・・道重さんは中学は共学よね・・」
「ええ、ありましたよ、共学でも・・派閥みたいなものは・・・でも、ここって、中等部からのって、何気に、やっぱきつくて・・・
エリって・・・・何か・・みんなのアイドルみたいな、そんな感じあるじゃないですか・・」
「・・・・そんな感じあるのかな・・・やっぱり・・」
「ええ、そーみたくて・・特別親しい子はいないって、エリは言うんですけど・・・
あの人たちにしてみれば・・・・外部生に取られちゃったみたいな・・・・」
- 139 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 12:12
- 「そっか・・・で、あなたたちに何か言ってきたりするの?」
「言ってとか・・・こないんですけど・・・でも集まって何かコソコソ言ってたり・・・目がきつかったり・・」
「・・・亀井さんは・・・何か言ってる?」
「気にしないでって・・・・自分はあの人たちにとって、ただのお飾りだからって・・・」
「お飾りか・・・それってやっぱり寂しかったんだろーな・・・」
「でも、やっぱ、気になりますよね・・」
「うん・・・田中さんは何か言ってる?」
「レナは・・・・慣れてるみたいで・・・そーゆーの・・・」
「慣れてるってのもなんだけど・・・・あなたは・・・やっぱりイヤ?」
「イヤってゆーか・・・アタシ、なるたけ平和に過ごそーって思ってたんですよ・・・ここでは・・・」
「平和?」
「ええ、私、中学の時とか、少し目立ってて・・・ほら、かわいいから・・・」
「・・あっ、そーね・・」
「・・先生、何気に呆れてるでしょ・・」
「そんなことないよ・・・目立つタイプだと思うもの・・・」
「・・・で、自分でも結構キャッキャして、目立つことやったりして・・・でもそーすると、やっぱ陰口とか言われるてゆーか・・
男の先生に媚びてるとか、もてると思っていい気になってるとか・・・」
「うん・・・」
「結構、人気のある子に告られて、何気に付き合ったら、その子のファンクラブってユーのがあって、
呼び出されちゃって・・・あんまり好きでもなかったから、面倒くさくなって別れたら、
それでまた文句とか言われて・・・まっ、そーゆーのが面倒かなって、女子校選んで・・・
でも、女子校ってゆーのも・・・色々面倒くさそーで・・・」
「そーかもね・・」
「だから、なるべく学校では目立たない方がいいかなって・・・」
「そっかー・・・」
- 140 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 12:31
- 「でも、エリといると・・・どーしても目立っちゃうし・・・」
「イヤ?」
「イヤってゆーのかな・・・エリのことは嫌いじゃないし・・・てーか、結構いい子だなって思うけど・・・」
「やっぱり、面倒くさい?」
「なのかなー・・・・先生たちも目立ってたんですよね・・・高校生のとき・・吉澤先生と、藤本先生と・・・」
「うん、どーだろ・・」
「てゆーか、かなり目立ちますよね・・先生たち・・今でも・・」
「・・・なのかな・・」
「何か言われたりしませんでした?」
「うん・・どーだったかな・・・・吉澤先生とはね、中等部の2年の時から友達でね・・・
うん、言われたりしたかな・・・色々・・・でもね、そーゆーのって、反応しないで、堂々としてるとさ、
自然に認められちゃうってゆーのかな・・・
ここにはね、今いないんだけど、もう一人いたのね・・・高等部から入って来た子で・・・
その子と親しくなった時とかも・・・色々、言われたかな・・・
でも、もーなーんにも耳に入りませんって感じでね・・・気にしなかったかな・・・」
「はー・・・」
「あのね、仲間って・・・いっぱい出来るのよ・・クラスとか部活とか通じてね・・・
でも、友達って・・・選んで親しくならないと・・・出来ないから・・・
それに一生ものだと思うのよね・・あなたたちの時期の友達って・・・
だから、気にしないでって言うのも、無理かもしれないけど・・・
自分が本当に大事だと思うものは何かって、考えてみればいいと思うの・・・」
「・・・はい・・・」
「それに、何かあったら、いつでも言いに来てくれていいし・・・
あっ、ごめん・・・ソロソロいいかな?」
「あっ、すいません・・お邪魔して・・」
- 141 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 12:47
- 「あっ、それはいいから気にしないで・・また来てね・・」
「はい、紅茶いただきに・・・・先生、これ商売になりますよ・・」
「そーおー・・・じゃあ、今度メニューでも作ろかなー・・ちゃんと値段つけて・・」
「じゃ、営業中の札・・・用意しましょうか?」
「あっ、そーしてって・・・あなたも結構言うわね・・」
「はい、私、ミーハーだけど、バカじゃないんで・・・」
「みたいね・・・・・・・そーだ、あなたミーハーならさ、藤本先生がどこにいるか知ってる?この時間・・」
「あっ、もちろん。人気のある先生方のスケジュールは把握してます。
藤本先生は・・・今日はバスケの練習で・・・体育館のはずです。」
「そっか・・・・じゃ、そこに行って、直接断わろうかな・・・」
「どーかしたんですか?」
「うん・・ちょっと約束したんだけどさ・・・やっぱり今日中に・・採点したいかなって・・小テスト・・」
「あ、アタシもしかして・・・邪魔してました?」
「ううん・・・ここでやるつもりはなかったから・・・こんな時間じゃできないもの・・・
みんな、ものすごくユニークな答えとか書いてるし・・・」
「あーあ・・・確かに・・・」
「あなたのは・・・かなり期待してる・・・笑わせてくれそーだから・・・」
「やっぱり・・・」
「じゃ、ごめん・・・・体育館ね・・」
「はい、たぶん・・・もしいなかったら、サボって・・・喫煙室です・・・」
「OK!」
- 142 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 13:04
-
「あっ、いた・・・何、美貴ちゃん・・・白衣のままなの?」
体育館のドアを開けると、目的の人はすぐ近くにいた。
白衣のまま、両手をポケットにつっこむお得意のポーズで・・・コートの少女たちを見ていた。
「あっ、梨華ちゃん・・・アタシが直接教えるわけじゃないから・・いいんだよこのままで・・ただの見張り・・
で、どーしたの?」
「あっ、今日さ、やっぱり飲み会・・無理かなって・・・」
「どーかした?」
「・・うん、小テスト・・・今日、全クラスでやったんだけど・・・ちょっとパラパラ見ただけでも・・
ツッコミ所、満載って感じで・・・これ早く返さないと、次に進めないかなって・・・」
「ふーん、大変だね・・・学科の先生も・・・残念だけど、しゃーないかな、本業優先だもんね・・・」
「うん、ごめん、ヨッシーと楽しんできてよ・・」
「そーする・・・でもごっちんの所には行けるんだよね・・」
「うん、よろしく言っとく・・・」
「アタシもさ、たまには顔出したいんだけど・・・これとかもあるしね・・・」
美貴ちゃんは、ボールを追う少女たちに目をやる・・・
「練習用のユニフォーム・・・・変わってないんだね・・・」
「うん・・・試合用のは、少し変わったんだけど・・・」
私は、ぼんやりと、プレーしている少女たちを眺める・・・ここにいたんだよね・・・あなたも・・・
- 143 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 13:28
- ・・・と、その生徒たちの傍らで、指示を与えていた、ジャージ姿の小柄な人と目が合う。
・・・・あっ、高橋さん?
その人は、私を見とめると、少し驚いたように・・・・・そして、小走りに近づいてきて・・・
「石川さんですよね・・」
「あっ、高橋さん・・・お久しぶり・・・」
「ここで、先生、やってるんですってね!」
「ええ、今学期から・・・」
「よく、平気な顔して・・・ここにこれましたよね!」
「愛ちゃんやめな!」
私を睨みつけながら迫ってくる、高橋さんの肩を、美貴ちゃんが抑える。
「後藤さんがあんなふうになっちゃったのに、石川さんは、何食わぬ顔で、戻ってきちゃったんですよね!」
「あっ、ごめんなさい・・・」
「愛ちゃん、やめなって!」
「ずーずーしいにもほどがありますよね!」
「・・・・」
「高橋!やめろって言ってんだろ!アレは梨華ちゃんのせいじゃないだろ、何度言ったら・・・」
「本当にそーなんですかね・・・この人に責任ってないんですかね!」
パシーン・・・・美貴ちゃんの平手が、高橋さんの頬をとらえる・・・
その痕を手でおさえながら、美貴ちゃんを睨みつける、高橋さん・・・・
「高橋、いい加減にしろ!・・・アンタに、アンタに何が分かるって言うんだ!
梨華ちゃんの気持ちも・・・ごっちんの気持ちも・・アンタはなんにもわかってない!」
「・・・・アタシは・・この人の気持ちなんて、知りませんよ!知りたいとも思いませんよ!
それに後藤さんは、何を思ってるかなんて分からないじゃないですか・・・
言いたくたって・・・・言えないんだから・・・この人のせいで・・・」
そう、言い捨てると・・・そのまま、体育館から走り出る高橋さん・・・・
練習をしていた生徒たちも、その場で固まったように立ち尽くして・・・こちらを見ている・・・
- 144 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 13:51
- 「梨華ちゃん、ごめん・・・アイツ・・・何度も言ったんだよ・・・ちゃんと説明して・・・」
「いいの・・・やっぱり、私が悪かったんだもの・・」
「そんなことないでしょ・・・それなのにアイツ・・・」
「美貴ちゃん・・・・お願い、あの子に謝っておいてね・・・」
「えっ?」
「私がね・・・私が何言っても・・・聞いてもらえないと思うから・・・
悪いんだけどさ・・・私の分も・・・謝っといて・・・」
「でも・・・」
「あのね、あの子は・・・悪くないの・・・あー言う気持ち・・・わかるの・・・
あの子は・・・ただ、ごっちんのことが好きなだけなの・・・・だからわかるの・・・
私があの子の立場だったら、やっぱり、あーゆーふうに思うと思うもの・・・ねっ、だから、謝って・・・」
「・・・・わかった・・・謝るから・・・ちゃんと・・・」
「ありがとう・・・・それから、あの子にも伝えてあげて、ごっちんいつか必ず、目覚めるからって・・」
「あっ、うん・・・伝えとく・・・」
「じゃ、私、行くね・・・・何か今日は遅くなっちゃったな・・・待ち草臥れてんじゃないかな・・・
バカ、遅いよとか言って・・・そー言ってくれないかな・・・」
「梨華ちゃん・・・・」
私は、病院に急いだ。
高橋さんは・・・・本当にごっちんのことが好きなんだと思う。
だから、今でも・・・あんなに激しく私を責めることが出来るんだ。・・・・ごめんね、あなたの大切な人を・・・私は・・
それに、それなのに私は、こうしてごっちんのそばにいることが出来る。
何も言うことの出来ない、あなたに勝手に思いをぶつけている。
そうだよね、あなたは何も言わない・・・本当は私のこと憎んでいるのかもしれないね・・・
私のつまらない羞恥心で、あなたを巻き込んでしまったことを、本当は怒っているのかもしれないね・・・
そう、あなたは何度も警告してくれてた・・・それを私は、思い過ごしだと笑ってた・・・
- 145 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/23(月) 13:57
- ごっちん、早く・・・目を覚まして・・・
そして、私のことまた叱って・・・
「梨華ちゃんは、ホント、考えが甘いんだから・・・」
「だから、気をつけろって、いつも言ってんじゃん・・・」
「鈍いよね、マジに・・もー見てらんない・・・」
「バカなんだから・・・・本当に・・・」
許してくれなくてかまわないから・・・
許してくれなくたって・・・
- 146 名前:トーマ 投稿日:2004/02/23(月) 13:59
- 今日はココまでで・・・
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/23(月) 14:10
- トーマさん
更新のたびに来た来た〜と思いながら読んでいます。
ごっつぁんは果たして目覚めるのか?!
そもそも今のような状態になったのは何故なのか?!
今後も非常に楽しみです。がんばってください。
>>146のように書いていただけるとレスしやすいです。
今までも感想書きたかったのですが、タイミングが見つけづらかったもんで...
- 148 名前:みっくす 投稿日:2004/02/23(月) 23:33
- 少しづつですが、謎が解けてきて来ている感じ?
あと、3人の関係もよくなったからの悩みですかね。
次回も楽しみにしてます。
- 149 名前:dada 投稿日:2004/02/24(火) 00:51
- 田中→ごっちん 亀井→梨華ちゃん 道重→ミキテイーって感じですかね!?
3人は4人のようになれるんでしょうか?
次も楽しみにしてます。
- 150 名前:トーマ 投稿日:2004/02/25(水) 09:01
- >147様 ありがとうございます。
ホントいつもダラダラになっちゃってて・・・こういうアドバイスは本当にありがたいです。
>みっくす様 ありがとうございます。そろそろ急展開するかも・・・
>dada様 ありがとうございます。
道重さんには、これからチョット大人な感じをやってもらおうかなと・・・
- 151 名前:トーマ 投稿日:2004/02/25(水) 09:19
- 朝、教室のドアを開けると、そこはいつもにも増して、ざわついていた。
「おはよー、サユ、何かあった?」
「おはよー・・・・うん・・昨日、バスケの練習中にさ・・・ハデなことあったらしくてさ・・」
「う?」
「知ってるかな・・知らないよね・・・バスケのコーチ・・・ここの大学の人なんだけど・・・
その人とさ、石川先生と藤本先生がもめたらしくてね・・・」
「えっ?」
「・・・・そのコーチが石川先生に何か言って・・・藤本先生に、殴られたみたいなの・・ほっぺを平手で・・・」
「何で?」
「よくわかんないんだけどさ・・・そのコーチの知り合いに、石川先生が何かしたらしくて・・・
で、それを責めてて・・・藤本先生が最初止めてたんだけど、聞かないからって・・・パシーンと・・・」
「・・・・ふーん・・」
「アタシさ・・・そのちょっと前まで・・・いたんだよね・・石川先生と・・・」
「えっ?」
「・・・ロイヤルミルクティーっての・・ご馳走になったの・・・おいしかったなアレ・・・」
「・・・・準備室・・・行ったんだ・・・何で?」
「何でって・・・相談に・・・アンタタチのこと・・・」
「アタシタチ?」
「・・・・正確に言うと・・・エリのことかな・・・」
「エリ?」
「うん・・・・エリの取り巻きが・・・イヤな顔してるって・・・」
「あーあ・・・・・で、何か言ってた?先生・・・」
「気にせず、堂々としてたらイイ・・・みたいなー・・」
「そー・・」
- 152 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 09:35
- 「・・・・でもさ、考えたらさ・・・別に、アタシ・・・いなくていいじゃない・・」
「えっ?」
「・・・エリがさ、興味あるのって・・・レナだよね・・」
「・・・そーかなー・・」
「そーだって・・・だから・・アタシ・・関係ないなって・・」
「そんなことはないと思うけどな・・・・・
てーか、アタシはアンタのこと気に入ってるけどな・・結構・・」
「へー、初耳・・・どーして?・・やっぱ、かわいいから?」
「ハイハイ・・かわいい、かわいい・・・・ってそーじゃなくてさ・・・なんだろ・・
アンタは・・・ミーハーだけどバカじゃないから・・・」
「あーあ、それはそーだけど・・・」
「てーか、案外・・・正しい目してるなって・・・思ってる・・・」
「正しい目?」
「うん、正しい目・・・物事の見方が、正しいかなって・・・」
「そーかなー・・・まあ、バカじゃないからね・・・」
「・・・・でも、嫌なのかな、サユは・・・アタシとか、エリとか・・・」
「あー、そーじゃないんだ・・・・アタシも結構気に入ってる・・二人とも・・・少し変だからね・・何気に・・」
「変?」
「うん、変・・・言葉代えれば・・・ユニークってヤツ・・・あっこれ、誉め言葉だから・・・」
「ユニークねー・・アタシから見たら・・アンタが一番、ユニークだけどね・・・」
「それって、もちろん誉め言葉だよね・・」
「うん!」
「なら、いいわ・・」
- 153 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 09:46
- 「・・・・でもさ・・・石川先生って、ウワサ絶えないよね・・・やっぱ色々あんだろーね・・」
「・・・・・」
「リサがさ・・・張り切って調査してるみたい・・・」
「そー・・」
「あの子のお姉さんの知り合いに、先生たちと同級の人がいるみたいで・・・今度その人に聞いてみるって・・・」
「ふーん・・」
「心配?」
「何が?」
「先生のこと・・・」
「・・・確かに気にはなるけど・・・心配ってゆーのじゃないかな・・・
だって、あの先生もかなり正しい目してそーだもの・・・」
「そっかー・・・そーだよね・・・アタシなんかより遥かにね・・・」
・・・・・でも、私は知っている。
いくら正しい目をして、正しいことをやっていたとしても・・・
周りが、それをちゃんと見てくれるかは、別の話・・・・
人はやっぱり愚かだ。
特に集団になると・・・・正しいことよりも、面白いことに、人は飛びつく。
それに・・・それまで、絶対にかなわないって感じの人のスキャンダルは、
一般人からしたら・・・・とても美味しそうに見えるらしいから・・・・
- 154 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 10:11
-
十月も半ばの土曜日、私はいつものように、亀井さんとテニスで汗を流して、
その後、これもまた習慣になった、ランチタイムを過ごしていた。
「何かいつも・・・いいんですかねぇ・・」
「えっ、何が?」
「・・・コーチしてもらって・・・その上、お昼までご馳走になって・・・」
「あーあ、いいのよ。・・これって何気に私も楽しいし・・・運動不足の解消になったりして・・・
それに、外で一人で食べるの嫌だし・・・私、この後、用事あるのね・・いつも・・だから無理にでも付き合わせちゃう。」
「・・・・先生ってご実家ですよね・・」
「うん、まだ親と住んでる・・・独立出来ないのよね・・なかなか・・だから、一人で外食も出来ない・・
ヨッシー・・あっ吉澤先生なんかね、一人で回転寿司とか入っちゃうんだって・・」
「えっ、それってすごいですよね・・・でもあの先生らしい・・・」
「だね・・」
「・・・・先生・・この前、バスケのコーチと何かあったんですってね・・・」
「あーあ・・・・もしかして、そのこと、みんな知ってるの?」
「ハイ・・そーゆーウワサってすぐ広がりますから・・・」
「そー・・・何かオトナ気ないことになっちゃって・・・ちょっとみっともなかったかな・・」
「何かあるんですか?・・・その人と・・・」
「うーん・・・そーゆーのでもないんだけど・・・でも本当、たいしたことじゃないの・・
美貴ちゃん・・藤本先生とその人もすぐに和解できたみたいだし・・・」
「そーですか・・・それならいいんですけど・・・」
「うん・・・・それよりゴメンネ・・」
「何がですか?」
「試合・・・あんまり良くなかったでしょ・・」
「ああ、いいんです・・2回戦で負けちゃいましたけど・・・自分でも手ごたえみたいなものがあったし・・・
それに、何よりも今、テニスが面白いし・・・」
「ならいいんだけど・・・長い目でね・・・」
- 155 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 10:29
- 「はい・・・・それと・・レナちゃんたちのことも・・・何かイイ方向ってゆーか・・
普通に話せるようになって・・・」
「そー、よかったわね・・・・でも、それも・・・道重さんが心配してたけど・・・」
「あっ、それ、サユちゃんから聞きました・・・先生に相談したって・・」
「うん・・」
「私も・・・先生がおっしゃる通りだと思います。
・・・・ただ・・・そのこともあって、先生のこと悪く言う人もいたりして・・・」
「えっ?」
「・・・先生が・・レナちゃんのこと贔屓してて・・・私のこと巻き込んでるみたいな・・・」
「あーあ・・・」
「だから申し訳なくって・・・・」
「そんなことはいいのよ・・・どっちにしても色々なこと言われる職業だから・・・」
「・・・・先生のファンクラブあるのって知ってます?」
「あっ、何か言ってたわね・・・2年生だっけ?」
「ええ、2年のテニス部の人たちが中心になって・・・
何か、私のことメチャメチャにやっつけたのが・・・ポイントらしくて・・・」
「う?」
「・・・・やっぱり・・・私のこと生意気だと思ってたらしくて・・・」
「あーあ・・・」
「・・・だから・・・こーして私が先生のコーチを独占してるって知ったら・・・
やっぱり怒っちゃうんでしょうね・・・その人たち・・・」
「かもね・・」
「そしたら、また先生にご迷惑かけちゃうかな・・・」
「いいのよ、それは・・・それにこのことは石黒先生の了解ももらってやってることだし・・・」
「ですけど・・・ほら、ファンがいるってことは、アンチもいるじゃないですか・・・」
「まあそーかな・・」
「それで・・・ファンからアンチになったのって・・・特に酷いじゃないですか・・・」
- 156 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 10:55
- 「そーかもね・・・・・・ってもしかして・・あなたもそーゆー経験とかしてるのかな・・やっぱり・・・」
「えっ?・・・あーあ・・はい・・・でも、私の方はたいしたことないですから・・・
それより先生・・・先生のこと・・・調べてる子がいるんです・・・色々・・」
「私のこと?」
「ええ・・・・あの学校の生徒だったときのこととか・・・」
「そー・・・・・じゃあ、そのうち・・出てくるわね・・・色々・・・」
「・・・・やっぱり何か・・・あるんですよね・・」
「うん・・・・・あったかな・・」
「・・・・・話してはくれないんですよね・・・」
「うん・・そのうち、あなたたちにも分かるんだろうけど・・・私からは何も言えないかな・・・
自分で言うと、言い訳がましくなるしね・・どーしても・・・
それに何を言った所で・・・・過去のアヤマチは・・・変えられないし・・」
「・・・・アヤマチ・・なんですか?」
「うん、取り返しのつかないこと・・・・ゴメン、変な心配させちゃうわよね・・」
「いえ・・・・何があっても・・・・私は先生の味方ですから・・」
「あっ、アリガト・・・・でもそれって・・・私が言わなきゃいけないセリフなのにね・・・」
「えっ?」
「あなたたちに何があっても・・・私は味方だからって・・・」
「あっ、それ、分かってますから・・・」
「そっ、そー言ってもらえると嬉しいけど・・・教師ってさ、そーゆーものだと思うのよね・・あっ、ここではただの先輩か・・・
それから・・友達もね・・・どんな時でも味方だって・・・・私、恵まれてたの・・・そーゆー友達がいて・・・
それに、少し・・・甘えすぎちゃったけど・・・」
「えっ?」
「甘えすぎてね・・・間違えちゃったかな・・・あっ、何か言ってること矛盾してるよね・・・
でも思うの・・・お互い味方であるのはもちろんイイコトなんだけど、それって、自分の足でちゃんと立てた上でのことだってね・・・」
「はい・・・何となく分かります・・それ・・」
「何か、本当に国語科の教師かよって思うくらい、下手な話だよね・・・」
「イイエ・・・」
- 157 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 11:20
- 「あっ、それから・・・もし・・色々騒ぎになっちゃっても・・・あなたのテニスの指導は続けようと思ってるから・・・」
「えっ?」
「・・・ほら、私、何てったって、前の学校辞めさせられた、問題教師だから・・・そーゆーことになってるんでしょ?」
「・・・ええ、まあ・・・」
「だからね、あなたも心配かも知れないけど・・・ほら、あなたのフォーム壊しちゃったから・・
それがちゃんと出来上がるまでは、責任持つから・・・どんな立場になってもね・・・」
「あっ、それはもちろんお願いします・・・って・・・学校・・・やめたりしないですよね・・」
「うん、私としては、そーゆーつもりはないんだけど・・・そーゆーことって、自分では決められないとこあるから・・・
あっ、もちろんね、過去の事情とかは、校長先生も承知のことなんだけど・・・
わからないからね・・・学校って所は・・・色々・・」
「PTAとかですか?」
「そーね、あと理事会とか・・・あっ、でも気にしないで・・・
それから、来週はお休みね・・中間考査前だから・・」
「エー・・そーなんですかー・・・」
「だって、あなた高校生なんだから・・・・勉強が一番なの・・・私だってこれでも教師なんだから・・・」
「はーい・・・」
本当に学校って場所は、わからないところがある。
前の学校も、まさか一学期間だけで辞める事になるなんて、思いもよらなかった・・・
それに・・・もうすぐ・・・アノ人が出てくる・・・
やっぱり、その事実は・・・私を言い知れぬ不安に陥れていた・・・・
- 158 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 11:45
-
月曜日の朝、私と梨華ちゃんとヨッシー、それに保田先生が、校長室に呼ばれていた。
「・・・・イシカーは・・・もう聞いとるかも知れんけど・・・」
「はい・・・金曜の晩に・・・・連絡がありました。」
「そーかー・・・アタシんところにもな・・・それから後藤のウチにもあったそーや・・・」
「何?裕ちゃん・・」
保田先生が、言いづらそうにしている中澤先生に問いただす・・
「・・・あのな、警察の方から連絡があってな・・・アイツ・・・山崎がな・・・出所するんやて・・水曜日・・明後日やな・・」
「えっ?・・・山崎ってあの?」
「そうや、あの山崎先生がな、仮出所ってやつでな・・・」
「・・・・もう・・そんな時期なんだね・・・」
「そやな・・・」
「短すぎですよね!」
私は、行き場のない怒りを覚えて、言い捨てる・・・
そー、短すぎる・・・ごっちんはまだ、目覚めることも出来ないでいるのに・・・
「そやな・・・でな、もちろん反省してるとは思うんよ・・てか、そー思いたいんやけどな・・・
保護観察もついてるはずやし・・・でもそれがどの程度のものかわからんしな・・・
で、もしもってことが、ないとも言い切れんわけやからな・・・」
「あんなヤツですからね!」
ヨッシーが拳を握る。
「そーなんよ、ずいぶんと卑劣なことしたヤツやからな・・・一応、お勤め終えてるのやから、
あんまり疑ってもいけないんやろーけど、用心するに越したことはないと思うんよ。
「ええ・・・」
「・・・・それに・・こんなこと言ったら・・不安にさせるだけかも知れんのやけど・・・」
「何ですか?」
「もしかしたら・・・アイツな・・・まだ、イシカーに執着心持ってんのかもわからんのや・・」
「えっ?どーゆーことよソレ?!」
保田先生が噛み付くように、中澤先生に詰め寄る・・・
- 159 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 12:12
- 「あのな、アイツ・・・手紙書いてたらしいんよ、イシカーに・・・中でな・・で、内容が・・内容でな、
検閲に引っかかってな・・・出せんかったらしいんやけど、アイツの弁護士が呼ばれてな・・・
で、その人の方から、こんなもの書いてたら、出所出来んみたいなこと言われて・・・
その後は、小説みたいなもの書くようになったらしいんやけど・・・それもな・・・
で、その弁護士が心配してな・・・後藤の代理人通じて・・・アタシにソレ、見せてくれたんやけど・・・
はっきり言って、とんでもない妄想でな・・・ソレ・・・まあ、何年か前のものやから・・
今はそーでないことを祈ってるんやけど・・・・
その時点では・・・キショク悪いほど執着しててな・・・・イシカーに・・・」
「危ないですね、それ・・・」
ヨッシーの拳を握った肩が、小刻みに揺れてる。
「やっぱり・・・・そーやな・・・」
「明後日なんですよね・・出所・・」
私は、隣で俯く、梨華ちゃんの手を握る。
「そや・・・とにかく注意して欲しいんや・・イシカーのこと・・・あと後藤の方も逆恨みってこともあるからな・・
一応、病院には言っといたけど・・・まあ、監視はきくと思うんやけどな、きちんとした病院やから・・・」
「当分、一人になっちゃダメだからね!」
私の手の中で、梨華ちゃんの手が震えているのがわかる。
「アタシタチ、本当に力になるから!」
ヨッシーの声に、梨華ちゃんが頷く。
「そや、そーしてやって欲しいんや・・・それから、イシカー・・・アンタ何か変わったことあったら、どんな小さなことでも、
ちゃんと言わな・・アカンからな・・・わかっとるやろけど・・・」
「・・・ハイ・・・」
私たちは皆、中澤先生が何を言いたいのか、よく分かっていた。
あの時、梨華ちゃんが黙っていたことが、結果として問題を大きくした。
そしてそのことで、梨華ちゃんが必要以上に責任を感じていることも・・・・
- 160 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 12:33
- 「裕ちゃん、大変!」
校長室のドアが乱暴に開けられて・・・石黒先生が飛び込んできた。
「なんや、アヤッペ、騒々しいなー・・」
「こんなものが・・・」
石黒先生は、一枚の紙を中澤先生に差し出す。
私たちは、それが置かれたデスクを取囲むように集まる。
「なんやコレ!・・・・しかしよりにもよって・・こんな時に・・」
「・・・やっぱり・・・」
「なんや、イシカー・・・心当たりでもあるんか・・」
「・・・ええ・・生徒の中に・・色々と調べてる子がいるって聞いてたものですから・・・」
「タクー、こんなでっち上げ・・・今更持ち出して・・ふざけるにも程があるだろ!」
ヨッシーがその紙を取り上げると、破こうと手をかける・・
「ねっ、待ってよ!ソレ、なんなのよ!」
って、石黒先生がソレを制して・・・・
「あっ、そーか・・・アヤッペは知らんのやったな・・・」
「うん、外の掲示板の所、通ったらさ、生徒たちが集まってて・・・で見てみたら・・・
これ、ほら、内容が内容だからさ・・・慌てて、ひっぺがしてきたんだけど・・・」
「そーか、外の掲示板になー・・・・誰が貼ったんやろな・・・」
「これな、ある時期・・・インターネットで流されてたもんなんよ・・
もちろん、誹謗中傷のたぐい、嫌がらせのためのでっち上げなんやけどな・・・」
「ネットの・・・・・ある時期って?」
「5年前になるかな・・・ちょうど今ぐらいの時期やな・・・発見が遅くてな・・アタシラの・・・
で、4日間くらいやったかな・・あるマイナーなサイトにな貼り付けてられてたんよ・・これが・・」
- 161 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 13:09
- 「○年11月3日になってるね・・・アタシがちょうど休んでた頃か・・・
って、アンタ達が3年の頃・・・じゃあ、この・・・3−A I.R.って・・・もしかして・・・」
「そーです。それ、私のことです・・」
梨華ちゃんは、小さな声で、でもはっきりと、そう言う。
「ひでー、デタラメだよ、そんなもの!」
ヨッシーが、はき捨てるように・・・言う・・
「で、これ書き込んだ犯人・・・わかったの?」
「それはアンタも知ってるヤツや・・・山崎・・・」
「あっ、あの化学の・・・生徒に暴力ふるって・・・捕まったんじゃなかったけ、確か・・」
「そー、あの山崎や・・・正確に言うと・・殺人未遂でな・・・
で、それがその事件の・・・・原因やな・・」
「そーなんだ・・・ってよくわかんないけど・・」
「・・・そやな、よくわからんな・・・その書き込み・・この子らも見つけてな・・・で、怒った後藤・・石川の友達がな、
ヤツに詰め寄って・・・返り討ちにあった・・・まあ、そんな単純なことやないんやけど、大まかに言ったら・・・そーゆーこっちゃ・・」
「うん・・・こんなの見たら・・・誰でも怒るよ・・・」
「当たり前です!こんな根も葉もないこと・・」
って、ヨッシーが怒鳴る・・・
「・・・根は・・・あったと思います・・」
梨華ちゃん・・・そんなこと言わなくていいから・・・
「イシカー・・・アタシラはアンタのことよー知ってる・・・そんなこと言わんでええ!」
「いえ、根はありました!・・・確かにそこに書いてあることはでたらめです・・・
でも、原因は・・・確かにありました・・私に・・・」
「梨華ちゃん!」
私は、たまらず握った手を強く引く・・・
- 162 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 13:32
- その時、校長室のドアがノックされ・・・中澤先生が、開けに立つ・・・
ドアの外には、事務長がいて、中澤先生に耳打ちをする。
中澤先生は、頷くと、何か指示を与えて・・・席に戻ると、大きく一つため息をつく・・・
「これと同じもんが、各教室に・・・何枚ずつか配られてるらしいわ・・・」
「えっ、何それ!」
保田先生が怖いくらいの顔して怒鳴る。
あっ、あの時と同じだ・・・・
私は、切なげな顔をしたヨッシーと目を見交わす・・・・・
あの日・・・ごっちんがケガをした次の日・・・
どーしても傍についていると聞かない、梨華ちゃんを病院に残して、私とヨッシーは登校した。
そして、そこで信じられない光景をみせられた。
至る所に貼り付けられたコピー・・・それは各クラスにも、何枚かずつ置かれていたらしく、
生徒たちは、それぞれグループになって、それを見ていた。
私はヨッシーと、それを彼女たちから奪い取った。
もちろん、中澤先生をはじめ、先生方は皆で、貼り付けられたそれを剥がして回っていた。
私とヨッシーは、それこそ学校中を駆けずり回って・・・それを面白そうに見ている生徒たちから、力ずくで奪い取った。
ヨッシーは怒りながら、泣いてた。
私も知らぬ間に、涙がこぼれていた。
悔しかった・・・あんな事件が起こった後に・・こんなふうにして、それを冷やかす人間がいることが、悔しくてしかたなかった。
そんな私たちを見て、バレー部やテニス部の子達が中心になって、協力もしてくれて・・・
全部で何百枚あったんだろう・・・とりあえず目に付くものは全て回収して・・・
私たちは、それを焼却炉で燃やした・・・みんなで泣きながら・・・
こんな手間までかけて・・・こんなものを用意した人間がいることが・・・情けなかった・・・
- 163 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/25(水) 13:48
- でも、きっとあの時、全てを回収することは出来なかったのだろうと思う。
あるいは、原本を後生大事に保管しているバカがいるのかも知れない。
だから、こうして、また出てくる・・・・人間の悪意は底が知れない。
そして、こんなものに踊らされるヤツラが、少なからずいるという事実も否定出来ない。
「しゃーないな・・・緊急集会や!
中間前の大事な時期やからな、なおさら早よー収拾しよ!
イシカー、覚悟は出来てるな!つまらん憶測させんためにも・・・アンタの名前、出すからな!」
「はい!」
梨華ちゃんは、大きく頷く。
中澤先生は、どこまで生徒たちに話すつもりなんだろう・・・
「その前に、全職員に話をする・・・ミナ、職員室に行くで!」
そう言って、校長室を出る中澤先生の声には、力強いものがあった・・・
大丈夫・・・私はもう一度、梨華ちゃんの手を強く握り締める。
「美貴ちゃん・・・ありがとう・・」
大丈夫・・・私たちはもう、あの時のような、なんの力のない一生徒じゃない。
だから、こんなくだらない中傷から、あなたを守ることは容易に出来るはずだ。
そして、あの男からも・・・・
- 164 名前:トーマ 投稿日:2004/02/25(水) 13:49
- 本日の更新は、ココまでにします。
- 165 名前:@ 投稿日:2004/02/25(水) 20:13
- なにが書いてあったのか気になりすぎます
なんか酷くかわいそうなことになってますが
楽しみにしてる自分がいるものちょっと怖い
少しずつでいいから幸せになってってほしいです
- 166 名前:みっくす 投稿日:2004/02/26(木) 00:03
- ごっちんの謎がだいぶ明らかになりましたね。
なんか大変なことになりそうですね。
次回もたのしみにしいてます。
- 167 名前:トーマ 投稿日:2004/02/27(金) 11:52
- >@様 ありがとうございます。
あの・・・こんなところでなんなんですけど、赤版の自スレで、りかみきの作者として紹介してしまいました。
いしごまの大家なのに・・・・ごめんなさい・・
>みっくす様 ありがとうございます。
そーですね、明かされる謎と、降りかかる新事件ってところですかね。
ただ、全貌が明らかになるのは・・・もうちょっとかかるかも・・
- 168 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 12:12
-
朝、教室に入ると・・・そこはとんでもない騒ぎになっていた。
そういえば、今朝は校舎の中に入るなり、何かいつもと違うザワメキのようなものがあった。
教室内のあまりの喧騒に、呆気に取られた形で、入口に立ち尽くしている私を、
エリが見つけて、走りよってくる。
「レナちゃん、大変!」
エリは私の腕を掴むと、クラスメイトの輪から離れた、自分の席で、一枚の紙をじっと見つめているサユのところへ引っ張っていく。
サユは、私を一瞥すると・・
「朝さ、来てみたら・・・教壇のところに・・・こんなのが置かれてて・・・」
そう言って、一枚の・・コピー用紙なのかな・・なにか書かれた紙を示す。
私は、鞄を彼女の隣の自分の机に置いて・・その紙を受け取る。
・・・・・・・
「何これ?」
「何かひどいこと書いてあるよね・・・・」
エリがいつもと違って、興奮気味につぶやく・・
「・・・・・これって、ウチの学校のことなの?・・・でもありえないじゃん・・ウチには女の先生しか・・・・」
「レナ・・日付、見てごらん・・・
これってたぶん、元々はネットかなんかの書き込みだと思うんだけどさ・・・」
「あっ、5年前か・・・・えっ?じゃあ・・・何これ!」
- 169 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 12:37
- そこに書かれてあったのは・・・・
○年11月3日 23:25 名無し
某有名私立女子校、MM学園の3−AのI.R.は、その肉体を同校の男性教諭に提供して、
その見返りとして、試験の採点に手心を加えてもらって、成績の上積みを図っている。
その手口は、実に破廉恥極まりないもので・・・・
の書き出しの後に・・・
数学教諭A、社会科教諭Bとの交遊があったとされる、日付と場所、その時の彼女の服装などが、細かく書き記され、
理科教諭Cとの関係にいたっては、そのセックスと思われる行為の詳細が、まるで風俗小説のように描写されていた。
そして、その下に、その証拠として、
I.R.なる人物の2学年の成績表と、3年の一学期の成績の写しが添えられているといったものだった。
「何これ・・・・これって・・・」
「うん、たぶん・・・そのI.R.ってのが、石川先生のことなんじゃないの・・」
サユが、やたらと冷静に、そんなふうに言うから、
「こんなのデタラメに決まってんじゃん!」
って、エリが怒ったように言う・・・・確かにデタラメなんだろうけど・・・
「・・・もしかして・・これリサが?」
エリの問いに、
「あっ、違うって言ってた・・・アタシもそーかなって思って、さっき聞いたらさ、
リサのお姉さんの友達は、くだらないウワサはあったけど、そんなの嘘だからって、何も教えてくれなかったんだって・・」
サユが静かに答える。
「じゃあ、誰が・・・こんなもの・・・」
「さー・・でも・・あの先生のこと、色々調べてたのは、あの子だけじゃなかったってことだよね・・」
- 170 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 12:59
- 「・・・・サユ・・・アンタ、さっきからずいぶんと、冷静だよね・・・」
私は、半ば呆れて、サユの無表情の顔を睨む・・・だって、デタラメにしてもこんな酷い中傷・・・
「だってさ・・・これ・・・よくみてごらん・・」
「えっ?」
「この通知表・・・これってたぶん本物だよね・・」
「うん、私たちのと変わんないし・・・・」
「・・・・てことは、これ書いたのって・・内部の人間なんだよね・・・
でさ、これ見てごらん・・・よーく・・」
「あっ、うん・・・」
「すごいよねー・・・この成績・・・アタシなんか、こんな数字見たこともないよ・・・」
「うん・・」
「・・・・人はさ、嘘つく時にね、ちょっとだけ真実を混ぜるの・・・そーすると、嘘が本当ぽくなるから・・・
だから、この本物の通知表がさ、証拠みたいに貼られてるけど・・・」
「ああ・・」
「でもね、それって、上から読んで・・・そのエロエロ描写とか、そーゆーの見てから、これ見るから、
いかにも、その証拠みたいにさ、なってるけど・・・」
「・・・・」
「この通知表だけ見てみるとさ・・・わかるんだよね・・・証拠じゃないことが・・」
「えっ、どーゆーこと?」
「だから・・・・この本当の所だけ見て、分析してみればいいの・・・
しかし、すごいよねこれ・・・10なんて、本当に付く人いるんだね・・・
って、現国と古文、これは2年の3学期間、ずっと9か10・・・さすが先生・・・
で、社会科は、世界史と地理でこれが8か9・・・英語もそーで、
数UBが6、化学が7、物理が6・・・主要科目で悪いのはそんなとこ・・・
それが3年の1学期は、数Tが8で、化学が9、公民も9・・・これが肉体接待で、稼いだって証拠なのかな・・・」
- 171 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 13:24
- 「そんな言い方しないでよ!」
エリが少しキレ気味に、サユの言葉を遮る。
「まあ、落ち着きなって・・・そんなにカリカリしてたら、見えるものも見えなくなるから・・・
この学校ってさ、3年は殆ど選択制だよね・・・」
「うん、そーだけど・・・」
「これ見る限りではさ、この通知表の持ち主は・・・どー見ても文科系なのにさ、
3年になって、数Tと、化学を選択してるよね・・・」
「うん・・」
「てことは、この人は、ここの大学に進まないで、国公立を受ける・・
少なくともセンター試験を受けるってことだよね・・・」
「そーみたいね・・・」
「で、受験科目で見てみると・・・英語と国語はいいとして、社会は公民と日本史を取っていて、それが9と10、
理科は、化学で9、数Tを取り直していて、それが8・・・
これって単純に、受験勉強の成果が上がってるって、見方が普通だよね・・・」
「あーあ・・」
「それにさ、推薦とかじゃないんだからさ、一般受験で、内信が一つ二つ上がっても、
そんなのあんまり関係ないでしょ・・・
だから、そんなもののために・・・肉体接待ってのは、根拠なさ過ぎだよね・・・」
「・・・・なるほどね・・・なんか、サユちゃんって、すごいよね・・・」
「うん、結構すごいよ・・」
「でね、そー思ってから・・上を読んでみるとね・・・これ、この私服の描写あるじゃない・・」
「・・うん・・」
「これって・・たぶん・・・こーゆー格好、本当にしてたんだよね、石川先生・・」
「あーあ・・うん、ぽいもんね・・」
「ってことは・・・これ私服だからさ、これ書いた人は、ストーカーみたいなことしてたのかな・・きっと・・・
で、その下のセックスのあるじゃない・・・」
「・・・ひどいよねこれ・・・」
「これってさ、お兄ちゃんの部屋にある官能小説の書き方にそっくり・・・
そーゆーのとか読みながら、先生で妄想していた、バカなストーカーがこれ書き込んだ犯人・・・ってことだよね・・きっと・・」
- 172 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 13:47
- 「・・・何か本当にサユちゃんって・・・すごいよね・・探偵とかになれるかも・・・」
「そーんなことも・・・あるけどさ・・・二人とも少し、頭に血を上らせ過ぎだよ・・・
でも、こんなこと書いてあったらさ、それが全部デタラメだとわかっていたもさ、
騒ぐやつは騒ぐよね・・・それに名指しでこんな気持ち悪いこと書かれてさ、かわいそーだね、先生・・」
「うん・・・・この時って、まだ高校生だしね・・」
「本当・・・酷いことする人いるよね・・・」
「でもさ、これ、ちょっと可愛くない?」
「は、何が?」
「この成績・・・」
「へっ?何かありえないくらい優秀だと思うけど・・」
「ほら、主要科目以外の・・・見てみてよ・・」
「は?」
「体育はさ、9じゃん・・だいたい・・・でも家庭科と音楽が7、6もあるよね・・」
「うん・・」
「こんなに頭のいい人なんだから・・・たぶんペーパーはいいはずよね・・」
「うん、たぶん・・」
「だとしたら・・このマイナス3、4って実技だよね・・」
「はー?」
「だから、この人、きっと実技ダメダメ・・・あーみえて、意外に家事とかダメなんだよね・・
でさ、音楽って選択じゃない・・他に美術でも書道でもいいのにさ・・・てことは、この二つは音楽以下・・
そー言えば、板書の字もヘタクソだよね・・・」
「あーあ、そーだね・・」
「だから、ほら、なんか親近感沸いてこない?そーゆーの・・可愛いよね・・」
「サユってさ、なんか本当に冷静とか通り越してるよね・・・サユにかかったら、あの先生も形無しだね・・」
「それって、誉めてる?」
「うん・・誉めてるけどさ・・・・きっとそんなふーに、これ見てんの・・アンタくらいだよね・・・ほら、みんな大騒ぎ・・・」
「みたいだね・・・みんなバカだよね・・・」
「うん・・・バカ・・」
そう、みんなバカ・・・でも愚かな人ほど、よく騒ぐし、声が大きい。
- 173 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 13:57
- 「これってさ、どの教室にも・・・置いてあるんだよね・・」
って、エリがため息をつく・・
「うん・・・たぶんそー・・」
「じゃあ、今・・・学校中・・大騒ぎなんだ・・・どーするんだろー先生・・・」
威勢良く、ドアが開いて、石黒先生が入って来る・・
「オーイ・・みんな着席して!」
先生のよく通る声で、生徒たちがそれぞれの輪を解いて、それぞれの席に納まる。
「今日は朝から、大騒ぎだね・・・って、こんなモノ撒いた奴がいるおかげで・・」
先生の手にも同じ紙が握られている。
「これから、全校集会を講堂でやることになっちゃった・・・
で、校長から話があるわけだけど・・・きっといつもに増して、長くなると思うけど・・
今日は、本当にちゃんと聞いてなきゃダメだからね!
じゃ、委員長・・・みんなを並べて・・・」
- 174 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 14:21
- 全生徒が講堂に集められた。一ヶ月半前の始業式より、だいぶ季節は秋めいたけれど、
衣替えした上に、冷房も切られているから、かえって暑く感じられた。
不思議と生徒たちにザワメキはない・・・もう充分に騒いだんだろう・・
妙にしーんとした重い空気の中、先生たちの並ぶ前を横切って、校長先生が壇上に上がる。
「おはようさん・・・・今朝は早よから、大騒ぎやったな・・・
まあ、もしかしたら知らんもんもおんのかな・・・なこたーないわな・・・
・・・・・・・・
誰がこーゆーもんを、配って回ったんかは・・・・この際、追求はせーへん・・・」
校長先生は例の紙を示して・・・・ひとつため息をつく・・・
「・・・・5年前・・・この悪質な中傷は、インターネットのあるサイトに貼られてた・・・・
で、やっぱりこーして、わざわざプリントアウトして、学校中に撒いたもんもおった・・・5年も前のこっちゃ・・
・・・・みんなも気づいているここと思うから・・・あえて隠し立てせーへん・・・
この名指しで中傷されておるんは・・・・ここにおる・・・石川先生や・・・
まあ、その時は・・・ここの生徒やったんやけどな・・・」
小さなザワメキが講堂内のあちらこちらで・・・揺れる・・・
「・・・・ここに書いてあることは・・・みんなデタラメや・・・これはその当時、ちゃんと裏も取って確認した事実やから、
そこんとこは、きちんと踏まえた上で、聞いて欲しいんやけど・・・・
しかし・・・・このなんや・・ネット社会つーもんは、ややこしいもんやな・・・
こんな卑劣なことが匿名で出来てしまう・・・それで名指しされた相手は、すぐに特定出来てしまう・・・
なんや、やり得、やられ損ちゅーやつやな・・・・」
校長先生は、生徒たちをゆっくりと見渡す・・・・
「長くなるかもしれへんな・・・まー、座りー・・・あんな体育座りちゅーやつやで、
間違ってもヤンキー座りはせんといてなー・・・」
私たちは言われるままに腰を落とす。
- 175 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 14:46
- 「・・・・アタシラがこれに気づいたんは、11月5日の朝やった・・・
そこにおる保田先生がな・・・たまたまウチの学校の名前、検索しとって・・・これにひっかかった・・・
驚いたなーあん時は・・・それまでもな、この学園の誰々が可愛いとかな、そんなんは時々あったんよ・・
でもな、ココまで悪質なんはなかったからな・・・
で、もちろんすぐに、管理者の方に削除の依頼をして、その時の校長先生を通じて、警察にも通報した。
でも、当人・・・石川にはな・・・言わんかった・・・余計な物見せて、傷つけたくなかったからな・・・
後になって思えば・・それがアカンかったな・・・あの時すぐに知らせとけば・・・
そのあとの悲劇は・・・起こらんかったんやもんな・・・たぶん
その段階で、どのくらいの者が、コレ・・・見てたんやろな・・・
管理者の手違いやったんやろーか・・・・この書き込みは・・・その次の日まで、消されんと残とった・・・・
それを・・・この子ら・・・そこにおる同級生トリオやな・・この子らも見つけてしもーた・・・
この子らには、書き込みの犯人がすぐにわかったみたいやった。
アタシラも、前の日の段階で、薄々見当はついていたんやけど、マサカつー気持ちも強くてな・・・
本当に、後から考えたら、その段階で、きちんと確認するべきだったんやけどな・・・・
で、この子らの友達がな・・・すぐに抗議に出向いた。
・・・・・それで、反対に大怪我させられることになってしまってな・・・
これは、アンタラもどこぞで聞いて知ってる話やと思うけど・・・当時の新聞にも載ったしな・・・
高校教師による暴行事件ってやつでな・・・・
そーや、この書き込みの犯人は、ここの当時の先生やった・・・・
この中にかいてある・・・・理科教諭Cってのが、本人や・・・
簡単に言えば、当時生徒だった、石川に・・熱上げて・・・振られた腹いせの嫌がらせってやつやったんやろな・・
・・・・・ホンマに卑劣な男や・・・・・
- 176 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 15:06
- 「その上、抗議に行ったこの子の友達を・・・ナイフで脅した上で、階段から突き落として・・・重症を負わせた。
・・・・・その子は未だに・・・意識不明で、病院におる。ホンマにかわいそーなことをした・・・
アタシラが、そんなこと起こる前に、犯人つきとめてたらな・・・・
その後の学校の処理は・・・たぶんみんなも知ってると思うけど・・・・
きちんとしとった他の男の先生方には、迷惑な話やったけどな、
理事会の方としては、こーゆースキャンダルは、目に見える形で、処理したかったんやろな・・・・
次の年度から、男性職員を一切排除するってことで、収拾をつけた・・・
まあ、学校としてはそれでエエ・・・
でもな、当人たちは・・・・それでは終わらん・・・・
重症を負った子は・・・まだ眠ったまま・・・
それにこんなもんが・・・冬場の幽霊みたいに・・・今更のように出てきよる・・・
アンタラの中で・・・噂になってる石川の前の学校でのことは・・・
結局、この文章をタテに責められたんやで、PTAに・・・
この何の根拠もない、ペラペラの紙のせいでな、辞めなアカンよーになったんや・・
ホンマにアホらしいこっちゃで・・・
どんなデタラメな虚言でも、形に残ってしまえば、一人歩きして、
一つの既成事実のように振舞ってしまう・・・・ホンマ恐ろしい話やな・・・・
よく、火のないところに、煙は立たないってゆーけどな・・・
マッチ一本あれば、火事は起こせるんや・・・
悪意と言うマッチ一本でな・・・・
- 177 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 15:29
- 「今のネット社会つーのはなー・・・
インターネット自体は、決して悪いもんとちゃう。自宅にいながらにして、どんな情報も得られるしな、
世界と交流することも出来る・・・・すばらしいもんや・・・
でもな、一歩間違えたらな・・・
ちょっと前にもあったなー、自殺のサイトとか、殺人の勧誘とか・・・
とんでもない誹謗中傷も、エロもグロも、小学生でも簡単に開けるところにゴロゴロしてる・・・・
広くて豊かな世界と、狭くて偏った精神世界が、虚像と実像をごっちゃにして、同居してる・・・・
なんやろな、人間の良い面も悪い面も何でも映してしまう鏡みたいなもんやろか・・・
だから、誰でも簡単に・・・被害者にも、加害者にもなりうる・・・・
ネットだけやないな、テレビでもラジオでも携帯に勝手に入って来る情報でも・・・
アンタラの周りには、とんでもなく大量の情報が溢れ返っている・・・
その中で正しい情報だけを耳に入れることは・・・・それは不可能や・・・
だからな、選べる力を身につけて欲しい・・
何が正しくて、何が間違っているか、きちんと見分ける力を身につけて欲しい・・
その上で、自分自身の目を信じて行動して欲しい・・・・
アタシラは、そーゆーことの助けになったらと思ってる。
アンタらが本当の意味での生きる力を身に付けられるよー、助けていけたらと思ってる。
アタシラは、いつでもアンタラの味方や・・・・・それを覚えておいて欲しい・・・
それはな、たとえアンタラが加害者だとしても一緒や・・・・・
こんなもん配って回ったんが、一人なのか、何人なのか、もちろん誰なんかはわからんけどな・・・
ちと、その子に聞いてみたいんやけどな、
アンター、石川のことが嫌いなんか?それとも、ただ面白いからやったんか?
嫌いなら、それでもいいんやで・・・好き嫌いは・・誰にでもある・・・
でもな、こーゆーことしても・・・虚しくなるだけやろ・・・・
- 178 名前:君といる場所 投稿日:2004/02/27(金) 15:44
- 「アンタの中にある憎悪や怒り、不満や不安・・・そんなものが、こんなことしてスッキリしたか?
・・・・・せんやろ・・・
何かあったらな、思うところがあるんならな、直接ぶつかってみー・・
学校への文句やったら、アタシが聞いたる。先生たちやったら、それぞれに当たってみればええ。
友達だったら、喧嘩してみればええ、もちろん親でもな・・・
生身たい生身でやってみんなー、解決せんことがたくさんあるんやで・・・
これは、みんなにも言えるこっちゃ・・・
何か、アタシ・・・今日は教育者みたいやな・・・ちと格好よかったんとちがう?
あっ、それからな、次いでだからゆーとくけど、今は物騒な世の中やからな、
外から学校の中に入って来て、バカをやる人間もおるし、道を歩いていても、変なことをする輩もおる。
そやから、ちょっとでも、不審な者見かけたり、危ない目にあったりしたら、すぐに報告してな、
もちろん、学校はセキュリティーを強化してるから、安心していては欲しいんやけど、
万が一ってこともあるからな・・・・
じゃあ、長くなって悪かったけど、こんなことがあったからゆーて、
テストの採点は甘くならへんから、試験勉強はしっかりするように・・・・・
ほな、解散や・・・おつかれさん・・」
- 179 名前:トーマ 投稿日:2004/02/27(金) 15:46
- 思いのほか長い演説になってしまいましたが・・・・本日はこの辺で・・
- 180 名前:みっくす 投稿日:2004/02/27(金) 16:37
- とりあえず、ごっちんの謎はとけましたね。
そいうことだったんですね。
今度は梨華ちゃんの問題を皆で解決ですね。
次回も楽しみにしてます。
- 181 名前:トーマ 投稿日:2004/03/01(月) 08:45
- >みっくす様 ありがとうございます。
実は後藤さんと石川さんの過去話は、もう一つの側面があったりします。今週中には全貌があきらかに・・・?
- 182 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 09:04
-
「梨華ちゃーん・・・今日は、病院、一緒に行くから・・・・」
「えっ?・・・・・でも・・ほら・・・まだ出てきてないし・・・・」
「そーじゃないよ・・・・今日から部活休みだし・・・・ごっちんの様子も気になるし・・・」
「あっ、そーだったね・・・・じゃあ、ちょっと待ってて!」
私は、資料を取りに、いつもの準備室に向かう。
今日から、試験問題を作り始めなきゃなんだよね。
準備室のドアの前には・・・・・あの子たちが立っていた。
三人揃って・・・・・もしかして、初めて見るのかも・・・この3ショット・・・
「先生・・・・」
「どーしたの?・・・・あっ、ごめん、今日ね、悪いんだけど急ぐんだ・・・吉澤先生待たせてるから・・・」
「いえ・・・ちょっと・・顔・・見にきただけですから・・・・」
田中さんがテレてるみたいに、口篭もる・・・
「なあに・・心配とかしてくれてたの?」
「いえ・・・・その・・・・」
「ありがとう・・・・でも、私なら大丈夫よ!」
「あっ・・・はい・・・」
「・・・・あのー・・・それから・・・一つだけ・・」
「う?」
「あれ・・・アレ、リサじゃないんです!」
「えっ?」
「アレ配ったの・・・・リサじゃないんで・・・それだけは伝えとかなきゃって思って・・・」
そう言って、亀井さんは、少し潤んだ瞳で、私を真直ぐに見る。
そうか・・・この子は、私のこと調べてる子がいるって言ってたから・・・・
このままだと、クラスメイトが疑われると思って・・・・
- 183 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 09:37
- 「うん、わかった!
それに・・・あれは・・誰でもいいの・・・だからあなたたちも・・犯人捜しはしないでね!」
「あっ・・・・その・・・」
「ほーら、図星でしょ!」
「・・・ええ、まあ・・・」
「あのね・・・校長先生は・・・あーゆーふーにおっしゃって下さったけど・・・私はね・・・仕方のないことだと思ってるの・・・」
「えっ?」
「あれがね・・あったのは事実で・・・だから・・こーしてまた出てくるのは・・仕方ないことだと思うの・・
そーゆーふーにされるのは、やっぱり私に、何か問題があると思うし・・・」
「そんな・・・」
田中さんが、怒ったように顔を上げる・・・
「ううん・・ネガティブな意味で言ってるんじゃないの・・・あーゆーこと書かれたのも含めて、私なんだよね・・・
実はね、私自身も今まで・・後ろ向きに考えてたのは・・・本当なんだけどね・・・
今のあなたたちを見てて・・・そーじゃないんだなーって・・・もっとちゃんと捉えようって・・・
過去にあったことも、今現在のことも、これからのことも・・・全部含めて私なんだってね・・・
だから・・・全部、ちゃんと受け止めよーって・・・」
「・・・・・・」
「だから・・・本当にあなたたちは気にしないで・・・
ほら、早く帰って試験勉強しなきゃダメでしょ!」
「・・・・ハイ・・・」
私は本当にそう思っていた・・・
この子達が三人で立っている姿を見て・・・あっ、この子たちは今を生きてるんだなって・・妙に感動した。
・・・・それで思ったんだ・・・
私も生きていた・・・この学校で・・素敵な友達と・・それは決して二年半じゃない、ちゃんと三年間。
そして、それからの五年だって・・・ちゃんと生きていた。
それなのに・・・どこかで眠っているふりをしていた・・・ごっちんと一緒に・・
でも、それは違うんだ・・・私は生きていた、歩いてた・・・・
それに、ごっちんだって・・・眠ってるけど、生きている・・・目覚める明日のために、今を生きてる。
だから、ごっちんが目を開けたときに・・・そこにいるのは、17歳のままの私じゃいけない。
ちゃんと成長した、私じゃなきゃいけないんだ。
- 184 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 09:46
- 今まで・・・叶うはずないそんなことばかり願っていたけれど・・・
時を戻すことなんて、やっぱり出来ないのだから・・・・
だから・・・・
それがどんなに遠くても、少しの灯りも見えなくても・・・ちゃんと前を見て、歩いていかなきゃならない。
そして・・・私のそれがどんな道だったとしても・・・・
私の歩く横には・・・・あなたが・・・あなたがいてくれると・・・
いてくれるはずだと・・・・・・・思うから・・・・・・・・・
- 185 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 10:07
-
「もちろん、私も行くよ!」
って、待っていた美貴ちゃんと三人で、ごっちんの病室を訪れる。
一ヶ月半ぶりかな・・・こうして四人が揃うのは・・・・
ごっちんの身体に、それまでと違う機械が取り付けられていて・・・
最初、ドキッとしたけれど・・・それが少し動きが変化してきた脳波を正確に読み取るための測定機と、
少し強めの薬に変えたことで、念のために必要になった心電図なんだって聞かされて、
少し、気持ちが弾む。
ヨッシーは、病院に入るなり、ここのセキュリティーシステムを気にしてたけど、
目覚めの兆候が出てきたお蔭もあって、24時間、きちんとモニタリングされていると聞いて、ちょっと安心していた。
私たちは、色々な器具に触らないように気をつけながら、ごっちんの顔を覗き込む。
・・・・心なしか、頬に赤みが増したように思えるのは、秋の夕暮れのせいだけじゃないんだろう・・・
私が、今日のことを、この人に何て話そうが迷ってしまって、「ただいま」のあとの言葉を捜していると・・・・
「梨華ちゃんは、ちゃんとアタシタチが守るから・・・ごっちんは安心して・・」
と、ヨッシーが声をかける。
「そーだよ、安心していいから・・・でも、だからって、あんまり寝坊するなよ!」
って、美貴ちゃんが、ごっちんの頬を指で軽く弾く・・・
「柔らかいね・・・」
「うん・・・」
私は、ごっちんの代わりに返事をして、
点滴の針の跡がいくつか残る・・・・彼女の右手の甲を軽くなでる・・・
すっかり細くなっちゃったけど・・・やっぱり・・大きいな・・なんて思いながら・・・・
- 186 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 10:24
- ・・・・・・えっ?!・・
「ねえ・・・今・・指・・少し動かなかった?」
「ウソ!・・・ホント?!」
美貴ちゃんが、少し大きな声を出して・・・・・・
そのあと・・・三人でしばらく黙って、ごっちんの指を見つめる・・・
「・・・・・・・気のせいだったのかな・・・・」
「・・・ねっ、手、握ってごらん・・少し強く・・・反応するかも知れない・・・」
ヨッシーが思いのほかゆったりと・・・そー言って・・・
私は、彼女の手にまた触れる・・・そして、色々な形で握ってみる・・・何度も・・・
「・・・・・やっぱり気のせいかな・・・・」
「ううん・・気のせいじゃないと思う・・今、梨華ちゃんが、手握ったら・・ごっちんの目・・少し動いたもの・・」
「本当?」
「うん、アタシにもそー見えた・・・きっと、夢でも見てんだよ・・だって、アレ・・」
美貴ちゃんが指す、脳波計が、確かに・・・少しだけど・・・いくつかの違う波形を示している・・・
「本当だ・・・」
「コレは、マジに近いね!」
美貴ちゃんが、明るく断言して・・・私たちは、自然に微笑み合う。
「ちょっと美貴、担当の先生に聞いてくるね、
ほら、こー見えてもさ、アタシ、一応プロの端くれだから・・・」
美貴ちゃんは、そそくさと病室を後にする。
- 187 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 10:45
- その美貴ちゃんが空けたスペースに・・ヨッシーが入って・・・ごっちんの頬をなでる。
そして、ためらいがちに口を開く・・・・
「梨華ちゃん・・・・今、こんなこと・・言わなくてもいいとは思うんだけど・・・
アタシもさ・・・一応・・・そっち方面はプロだから・・・言っちゃうんだけどさ・・・」
「なあに・・」
「・・・・このまま・・いい感じで・・目が覚めてもね・・・・・すぐに、どーとかなるわけじゃないと思うんだ・・」
「・・うん・・」
「もしかしたら・・・記憶とか・・知能とか・・・全身機能もね・・・どこまで快復出来るか・・・わからないと思うんだよね・・・」
「うん・・・わかってる・・・お医者さんにも、この前、そー言われたし・・・」
「なら、いいけど・・・かえって大変になるかも知れない・・・覚悟は出来てるんだよね・・」
「うん・・・・・たとえ・・どんな・・でも・・もちろん、このまま目覚めなくても・・・
私は・・・ごっちんが、もーくるなって、そー言うまでは・・・ずっと傍にいる・・」
「そー・・・そーだよね・・」
美貴ちゃんが、担当の先生を連れて戻ってくる。
先生は、私たちに小さく会釈して・・・そしてゆっくりと話し始める・・・・
「・・・ええ・・期待していい状態にあると思います。
ただ、こちらの方には・・先日、説明したと思いますけど・・・目覚めイコール完治ではないわけで・・・
それが、どのくらいの快復を意味するのか・・今のところでは、わからないというのが、本当のところです。
でも、今までより・・・遥かにいい状態だということは、断言出来ます。」
「先生、ありがとうございます。
・・・・・・あの・・一つお聞きしてもよろしいでしょうか・・・」
「ええ、何か・・」
「・・・夢・・・夢って見てるんでしょうか?」
「うーん・・・私はそー思いますけど・・・後で記憶に残っているかは別にして・・」
「そーですか・・・いい夢だといいんだけど・・」
- 188 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 10:57
- 「あっ、それから・・コレはお母さんにもお願いしているんですけど・・
なるべく、多く話し掛けて・・・いや、いつもそーして下さってますよね・・・
それから、なるべく身体に触れたりもしてあげて下さい。外部からの刺激は大切ですから・・・」
「まっかせてくださーい!」
ってヨッシーが、ごっちんの手を大きく上に持ち上げて、
「あの・・・もーちょっと、優しく・・・壊さない程度にお願いします・・・」
「あっ、すいませーん・・」
って、子供みたいに頭をぺこりとさげるから、私と美貴ちゃんは顔を見合わせて笑う・・・
それから、しばらく・・・私たちは、ごっちんに色々と話し掛けた。
というより、彼女を囲んで談笑していた。
時々、手を握ったり、頬を弾いたり・・・
ヨッシーなんか、布団を捲り上げて、両足をバタバタさせたりして、私をハラハラさせた。
こうしていると、眠ってるあなたに、三人で悪戯をした教室を思い出すね・・・
春も眠いけど、秋もやっぱり眠いとか、わけのわかんないこと言って、よーく眠ってた・・・
本当に気持ちよさそうに・・・・
- 189 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 11:15
-
「アレで・・・終わったのかな・・・」
「うーん・・どーだろ・・」
私たちは、あの体育館裏で、パンをかじっている。
あれから、天気のいい日は、決まってここでお昼休みを過ごしていた。
たぶん、ここでの食事には、今が一番いい季節・・・
日差しはだいぶ柔らかくなったし、時折、冷たい風も通るけど、それもかえって心地いい。
教室は、昨日の喧騒とは、うってかわった静けさで、
みんなあんなことがあったなんてことを、すっかり忘れ去ったみたいだったけど・・・
「・・・・・先生、平気な顔して授業してたよね・・普通に冗談とか言って・・」
そう、エリが言うと、
「うん・・・でも、多少騒ぎとか残ってても・・・あの先生は、あーして、普通に授業するんじゃないかな・・・
思ったより、ずっと強い人みたいだから・・・」
って、サユが応える。
私もそうだと思う。あの人は強い。それはたぶんあんなことを全て受け入れて生きているから・・・
私は・・自分が強い人間だと思っていた。
一人で生きてこれたから、一人でいれると思ってきたから・・・
でも、それは本当の強さじゃないんだって・・・今は思う。
本当は、人を拒絶するのは、弱いからなんだ。
誰かに傷つけられないように、最初から、予防線を張っていただけだったんだ。
- 190 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 11:32
- 「何かさ・・・・・2学期になってから・・・二ヶ月もたってないのにさ・・・色々と変わったよね・・・アタシたちも・・」
「うん・・・変わったね・・」
今度は、サユの問いかけに、エリが頷く・・・
「よかったよね・・・」
「えっ?」
私のつぶやきに・・・二人が目を見合わせて・・笑う・・・
「何がおかしいのよ・・」
「だって・・レナちゃんが・・・何か・・そーゆーふーに・・素直なこと言うの・・初めて聞いたから・・・」
「だね・・」
「って、何だよ・・・・・それからさ、その・・・レナちゃんつーの・・・やめない?」
「えっ?」
「ちゃんは・・・なー・・・何か、くすぐったい・・・」
「そーおー・・・」
「アタシも・・サユでいいな・・・てーか、アタシなんか、あんまりよく知らないうちから、エリ・・なんだよ・・最初から・・」
「・・・うん・・・そーかな、その方がいいのかも・・じゃあ、これから・・ちゃんははずすから・・」
「ああ、そーして・・」
「うん・・・・じゃさ、そのー・・レナ・・・ソロソロ携帯の番号とか・・・教えてくれるかなぁー・・」
「は?」
「持ってるよね・・・携帯・・・」
「うん・・」
「だから・・・番号・・」
「あっ、アタシも知りたい!」
「えっ、サユも・・・知らなかったの?」
「うん・・」
「へー・・・サユは、ほら、すぐに教えてくれたじゃない・・私に・・だから、二人はとっくにって思ってた・・・」
「それが、知らないんだなー・・・お互い・・・」
- 191 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 11:48
- 「ふーん、レナ・・・って、やっぱり、そーゆーのイヤな人?」
「・・・そーでもないけど・・・」
「こだわることじゃないよね・・・それ・・」
「そーだね・・・」
うん、こだわることじゃない。確かにメールとか、それだけの繋がりも変だけど、
こだわりを持って、そう言うのを否定するのも、やっぱり変。
私は、二人と、番号とアドレスを交換する。
「・・・・何かこれで、普通になれたかな・・・」
「普通?」
「うん、普通に友達・・・・ねえ、それが・・・一番じゃない?」
「かもね・・」
エリとサユが、また顔を見交わす・・・
普通か・・・もしかして、それは私が一番、苦手にしていたこと。
そうじゃない自分を、どこか誇りにさえ思っていた・・・・だけど・・・
普通・・・本当にそれが一番かも・・・くだらないこだわりは、自分を小さくするだけ・・・
もうすぐ、昼休みも終わる・・・私たちは立ち上がる・・・
「あのさ、ココって・・・学校の外なんだよね・・・」
サユが、辺りを見回すと・・・エリに尋ねる。
「うん、そーだよ。」
「て、ことはさ、ここから・・・その・・・外へとか・・・抜け出せるの?」
「うん・・・・一度だけだけだけど・・・やったことある・・・」
「えっ?マジで・・」
「うん・・・授業中・・・」
「ウソー!!」
サユが大きな声を出す・・・それは本当に意外だったから・・・エリのエスケープ・・・それこそ・・
「ありえなーい!」
- 192 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 12:04
- 「・・・一学期の半ばだったかな・・・具合悪くて・・・てゆーか・・生物の時間・・・・解剖・・あったじゃない・・・」
「あーあ、食用ガエルの・・・」
「うん・・・アレ・・・お腹開けなくても・・・ダメだから・・・」
「アタシ、平気・・」
「サユはね・・アタシもアレは嫌だったけどね・・・さすがに解剖はね・・・」
「でね、保健室、行こうかなって思ってたんだけど・・・お天気が良かったから・・・
ここで、ちょっと・・・まったりとしてたんだけど・・・」
「うん・・」
「何となく・・・抜けられるかなって・・・」
「行ってみたんだ・・・」
「うん・・・あの坂の途中に・・・植込みが・・・もさっとしてるとこあるの分かるかな・・・」
「ああ、あるね・・・・・そこに出るの?」
「うん」
「道とかあるようには見えないけど・・・」
「道って感じじゃないかな・・・やっと通れるくらいの・・・木と木の隙間・・・って感じ・・・」
「ふーん・・・・で、出たの?」
「うん・・・お散歩してた・・・」
「お散歩ねー・・・・何か、それはエリらしいけどね・・・
じゃさ、今度・・・やってみようか・・」
「えっ?」
「三人で・・・」
「いいね・・それ・・・やろ!」
サユの提案に、エリが乗って・・・
「何の時間がいいかなー・・・・」
「古文!!」
「えっ?」
エリの意外な発言に、私とサユは耳を疑う・・・・
- 193 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/01(月) 12:20
- 「古文?」
「うん・・・・何か・・あの先生の困った顔みてみたい・・・」
「は?」
「・・・・私ね・・・好きなんだよね・・・あの先生・・」
「だから、困らせてみたいわけ?」
「うん!」
「なんか・・・小学生みたいだね・・それって・・」
「そーかも・・」
サユはかなり呆れてるけど・・・
「アタシも・・・見たいかな・・それ・・・どんな顔して怒るんだろーてのもあるし・・・」
「でしょ!」
「アンタタチ・・・少しS入ってるよね・・・」
「うん!!」
私はエリと顔を見合わせて笑う・・・・
先生・・・私たちって、きっと、とんでもなく悪い生徒だよね・・先生にとって・・・
これまでもイッパイお世話になってるのに・・・それでも、もっと面倒みてもらいたかったりする・・・
先生にとって・・・一生忘れられない・・ダメな生徒になってみたい・・・
きっとエリも、そんなふうに思っているんだ。
「レナ・・・のさ、そーゆー笑顔・・・初めて見たような気がするんだけど・・・」
「あっ、そーかも・・・・かわいい顔するんだね・・・レナって・・・」
って、今度はサユとエリが大笑いするから・・・
怒ろうかとも思ったけど・・・・
何かイイヤって気分になって・・・・私も笑う・・・
笑うっていいかも・・・・笑うって・・・
- 194 名前:トーマ 投稿日:2004/03/01(月) 12:21
- 今日はココまでにします。
- 195 名前:@ 投稿日:2004/03/01(月) 16:18
- ごっちんがピクついたぁ!!
目覚める兆候にはあるのですね
後藤さんと石川さんもう1つの側面が気になります。
- 196 名前:みっくす 投稿日:2004/03/01(月) 22:13
- ごっちんの目覚める日も近い?
もう1つの側面かぁ、なんだろう。
3人組もホントの友達になれた感じですね。
よかったよかった。
- 197 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 09:21
- >@様
>みっくす様
後藤さん・・・・どーなるんでしょうねー・・たぶん、これは完結までお預け・・かな
- 198 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 09:47
-
「今日・・・ですよね・・」
放課後の職員室で・・・私はそんなわかりきったことを、中澤先生に尋ねる。
やっぱり、少しある不安な気持ちが、そんな会話で紛らわせられるものではないのだけれど・・・
「そーや・・・・まあ、何もないと思うんやけどな・・・
一応、夕べな、アイツの弁護士さんの方に聞いてみたんやけどな、静岡の実家の方に帰ることになってるらしいんよ・・・」
「そーですか・・・この際だから、なるべく遠くに行って欲しいですよね・・偶然にでも、出くわすことのないぐらい・・・」
「そやな・・・・で、今日はアンタラ、ついててくれるんか?」
「ええ・・・ヨッシーと三人でごっちんの処へ寄って・・そのあと・・アタシが家まで・・」
「・・アンタも大丈夫なんか?・・女の子やからなー・・・吉澤の方がええんちゃう・・」
「・・・あのー・・もしもし・・お忘れかも知れませんが・・一応・・吉澤さんも女の子なんで・・・」
「あっ、そやったな・・・ホンマ、ついつい忘れてしまうわ・・・アイツの日頃の言動みてると・・」
「ですけどね・・・・でも、アタシなら、本当に大丈夫ですよ・・・車で送りますし・・・」
「ならええけど・・・・向こうの落ち着き先、確認出来るまではな、悪いけど頼むわ・・大変やろけど・・・」
「それはもちろん・・・・」
「それに・・今はごっちんの処に、みんなで行くの楽しいんですよ・・だいぶ具合がいいんです・・
ホント、おとといより昨日って感じで良くなってるみたいだし・・・」
「そやってな・・ホンマ良かったなー・・・アタシも行こうかな・・今日、一緒に・・」
「いいですねー・・・何か、声の刺激とかいいみたいだから・・先生なら、もってこいです!」
「どーゆー意味や・・アンタかて結構煩いで・・」
「ですけどね・・・」
- 199 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 10:03
- 「裕ちゃーん・・何、楽しげに話してるのよ・・アタシも混ぜてよ・・」
「あっ、圭ちゃんか・・・アンタも行くか?後藤のトコ・・」
「何々・・みんなで行くの?今日・・」
「はい!」
「そー・・・じゃあ、混じろ・・裕ちゃんも一緒なら、お邪魔虫扱いもされないし・・」
「そんな扱い・・したことないじゃないですか・・」
「そーかー・・・何かさ、アンタラって、いつまでも先生、先生ってさ、何か同僚っぽくないんだよね・・敬語だし・・」
「それはそーですよ・・・学校の中で、先生のこと先生って言うのは当たり前だし・・
それに、アタシタチにとっては・・どんなふうに立場とか変わっても・・
保田先生も、中澤先生も・・・一生・・頼れる、尊敬する先生なんですよ・・・」
「そーなの?」
「ええ・・いわゆる恩師ってやつなんです・・」
「恩師ねー・・・・それ、何か死語やけどな・・」
「そーよねー・・久しぶりに聞くわ、その言葉・・」
「そーですかねー・・・お二人には死語ぐらいがちょうどお似合いかと・・」
「そら、どーゆー意味や!」
中澤先生が、少しキレタふりをして、私の頭を軽く小突く・・
そのまま、三人で顔を見合わせて・・笑う・・・
それは、やっぱり・・・どこかにある不安な気持ちを打ち消すため・・・
- 200 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 10:26
-
「アンタたちで・・・最後かな?」
校門に立っていた、石黒先生に、そう聞かれる。
今週は、試験前で、部活も禁止で、特に今日は6限までだから、下校時刻は4時までとされていた。
サユが忘れ物を探しに、教室に戻ったことで、私たちはギリギリの時間になっていた。
今までにも、たまにサユと一緒に帰ることはあったけど、
今週は、部活のないエリも交えて、自然と三人で下校するようになっていた。
「ええ、たぶん・・・」
「じゃあ、これで閉めていいのかな・・・」
校門には、セキュリティーのためのカメラと、中から操作出来る施錠システムが付いているはずだから、
普段は、先生がそこに立っていることはない・・・
「じゃあ、気をつけて帰りなよ!」
「はーい、さよーなら・・」
石黒先生は、私たちを見送ると、校門のカギをかけて・・・通用門の方まで確認に行ってる・・
「・・・・何か・・・あるのかな・・・」
サユの疑問は、私たちの共通の疑問・・・
「だよね・・・何か・・ものものしい・・」
「ほら、おととい・・校長先生も・・言ってたし・・」
「うん・・」
「・・・不審者とか・・・いたりするのかな・・」
「かもね・・・」
今、世間では、小学生の連れ去りや、高校生の殺害事件なんかが、頻発してるし、
元々、女子校の周りには、変な趣味をもった男なんかがうろつくのはよくあることで、
先生たちがピリピリするのは当然だと思うけど・・・今日の様子は少し度を越してる・・・
HRでも、やたらと早い下校を強調していたし・・・・
- 201 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 10:44
- 「ねー、駅前のクレープ屋さん、寄ってかない?」
そんな、私たちの違和感を、消し去るように、エリが明るく提案して、
「いいね、そっしよーか!」
って、サユが同意する。
・・・・・・・・・えっ?・・・・・・あれ?!
「ね、今・・・・あそこ・・・木の所・・・何か・・黒いもの・・・」
「うん、私も・・・そんな気がする・・・」
「何々?」
「ほら、昨日・・・学校から抜けられるって・・・エリが言ってた・・・」
私たちは、その坂の途中の茂みへと急ぐ・・・
「あ・・何か人が通ったみたいな・・・」
「でしょ・・・あるよね・・・そんな感じ・・・」
私たちは、その木と木の間に入り込んで、その先を捜す・・・・・
「・・・何も見えないけど・・・」
確かに、私たちの視線の先には・・少し紅葉しかけた木々と、刈られずに伸びきった雑草しかない・・・でも・・
「・・・人が通ったみたいなアト・・・・あるよね・・」
「うん・・・」
「知らせよ!」
サユは、そう言うと、走るように坂を上り出す。
私とエリも急いで従う・・・
「気のせいかも知れないけど、一応、知らせよ!」
「そーだね、出れるってことは、入れるってことだものね・・」
「うん・・・何かあったら大変だし・・・」
「・・・間違いなら・・間違いで・・・あっ、すいませーーんですむから・・・」
サユの口調は、いつもどおりの穏やかさだったけど、その先を急ぐ姿には・・何か確信めいたものがあった。
- 202 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 10:57
- 校門まで戻って、そこのインターフォンを押そうとしていると、
中を覗きこんでいた、エリが、花壇の所にまだ残っていた石黒先生を見つけて、声をかける。
「先生!開けて下さい!」
「どーしたのアンタたち・・・また忘れ物?」
「いいえ・・・何か・・・とにかく開けて下さい!」
エリの大声に、石黒先生が門に駆け寄る・・・
「あの・・・誰か・・・抜け道から・・・」
その切羽詰った声に、先生も慌てた様子で、カギを開けて、私たちを門の中に招き入れる・・・
「何よ・・落ち着いて・・・」
「あの、抜け道があるんです・・・体育館の裏から出れる・・」
「うん・・」
「そこから・・・人が入ったみたいな・・・」
「えっ?!とにかく、こっち、いらっしゃい!」
先生はカギをまたかけると、私たちを従えて、職員室に急ぐ・・・
その石黒先生の様子に、やっぱり今日は特別なことがあるんだと・・私たちは確信する。
特別な・・・何か良くないことが・・・・
- 203 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 11:21
-
職員室の前のドアが、乱暴に開け放されて・・・石黒先生が飛び込んで来る。
「裕ちゃん、大変!」
その後ろに・・・あの子達がいる・・・・何かしたのかな・・・
「あのね、この子達が・・見たんだって・・・あの・・その・・だから、大変!」
「落ち着きー・・わからんやろ・・」
「あっ、そーだね・・・誰か入るのを見たらしいの・・」
石黒先生は、息を大きく一つ吸ってから・・・そう言う・・・えっ?
「どこから?」
中澤先生の問いに・・・石黒先生の後ろにいた亀井さんが答える・・・
「あのー、体育館の裏に・・壊れている所があって・・そこから外に出れるんですけど・・・
そこにつながる・・木の茂みのところで・・・人を見たような気がして・・・
あの・・・間違いかも知れないんですけど・・・・・」
「・・・・・あっ、あそこ・・・あのままやった・・
イシカーは?・・・石川はどこや!」
中澤先生の声に、私たちは職員室を見渡す・・・・・いない・・
他の先生方も・・首を振っている・・・・・・いない!
その時、後ろのドアが開いて・・・私たちは一斉に、そっちを見る・・
- 204 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 11:37
- ・・・・・・ヨッシー・・
「ヨッシー、梨華ちゃんは?」
「・・・知らないけど・・・何かあったの?!」
「・・・もしかしたら・・アイツが・・学校の中に入ったかもしれんのや・・」
「えっ?!」
そんな中澤先生とヨッシーのやり取りを聞きながら、
私は携帯を取り出して・・・・・梨華ちゃんを・・呼び出す・・・・
・・・・・・・出ない・・・・出ない・・・・・・切られた!
「危ない!!」
その私の様子に反応して・・・ヨッシーが・・
「・・か・・化学準備室!」
って、叫ぶと・・駆け出す・・・・そのあとを保田先生と・・あの子達が追って・・
・・・あっ、そーだ・・私は念のためにマスターキーを取りに戻る。
中澤先生は、石黒先生に・・
「一応、警察に連絡して・・ちがうな、すぐ来てくれって!」
って、頼むと・・戻ってた私と一緒に走り出す・・・・・4階の化学準備室・・・
息を切らして、そこに辿り着くと・・
ヨッシーが、その中を捜し終えて・・それに続く化学室から出てくるところだった・・・
「・・・いない・・」
「あの・・・国語準備室・・・石川先生なら・・・たぶん・・・」
その入口で待っていた、田中さんが・・そうつぶやく・・・
その言葉が終わらないうちに・・ヨッシーがまた走り出す・・・2階のそこに向かって・・・
慌しく、私たちもそれに続く・・・・何もないことを祈りながら・・・・・だけど・・・
- 205 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 11:51
- だけど・・・・・
私たちが追いついた時には、
その開かないドアと格闘しているヨッシーの姿がそこにはあって・・・
中からカギがかけられている・・・・いけない・・
「消火器!」
ヨッシーは、少し離れた所にある、それを持ち上げようとしてる・・・
あの時と同じ・・・
私は思わず叫ぶ・・
「ヨッシー、違う!あの時とは違う!・・・大丈夫だから・・きっと・・」
そうして、用意したきたマスターキー示す。
そう、あの時と同じはずはない・・・
きっと梨華ちゃんが、なにかの都合で、カギをかけているだけなんだ・・・きっと・・
今にも、消火器を振り下ろそうとしていたヨッシーが・・固まって・・
「そーだよな・・同じでいいわけないよな・・・・」
って、それを下に降ろす。
私は手の震えで、鍵穴を何度か間違えたけど・・・・・開いた・・・・
そのまま・・ドアを静かに開ける・・・自分の不安を押え込むように・・・
でも・・・そこにあったのは・・・・あっ、やっぱり・・・
あの時と同じ・・・・・
- 206 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 12:03
- ・・・・・・
そのあまり広くない部屋の奥には・・・・
黒い大きな背中・・・・
その向こうに・・・・半ば隠されている・・・白い服・・・・
・・・・・梨華ちゃん・・・
私たちに気づいて、振り向いた男のてにある光るものが、
そのまま駆け寄ろうとした、私たちの足を止める。
「来るな!!」
男は・・その光るもの・・ナイフを・・梨華ちゃんの頬に当てて・・
もう一つの手で・・・彼女の肩を抑えている。
私は、とっさに身を乗り出そうとしている、三人の少女を、自分の背中に隠す。
「ヤメロ!!」
ヨッシーが怒鳴る・・
「そや、そんなことヤメー!山崎!」
中澤先生が、三人の生徒を廊下に出すと、私たちの横に出る。
「またオマエラか・・・・どーして、俺たちの邪魔をする!
来るな!!消えろ!!」
「ふざけんな・・オマエこそ消えろ!」
ヨッシーが動かせない足をもどかしがるように・・拳を堅く握る。
- 207 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 12:21
- 「勝手なことヌカスナ!
・・・・なあ、会いたかったんだよな・・・梨華、オマエも・・・
俺、嬉しかったよ・・・・まさかココでオマエに会えるなんてな・・・
オマエの匂いが残ってるんじゃないかって・・・・ココに来てみたんだ・・・
そーしたら、いるじゃないか・・・オマエが・・・
ココで待っててくれたんだよな・・・・俺の帰りを・・・
嬉しかったよ・・・やっぱり・・・俺たち・・通じ合っていたんだよな・・・・」
男は、梨華ちゃんの頬に当てたナイフを・・・・
ゆっくりとそれをなでるように動かしながら・・・そんなことを言う・・・・・ああ、どうしたら・・・
「俺は・・・ずっとオマエのことだけ思ってた・・・
オマエに会うのだけを楽しみに・・・あの中にいた・・・毎晩オマエを抱いてた・・
オマエも・・オマエもそーだよな・・・
なっ、この細い指で・・・・俺のこと思って・・・自分を慰めていたんだろ・・・」
男の汚い手が、梨華ちゃんの肩から、腕をなでるように落とされて・・
彼女のその手をいやらしく玩ぶ・・・・・
梨華ちゃんは、その男の顔を・・黙って睨みつけている。
「そー・・・その顔・・・その顔で・・・いつも俺を誘ってた・・・・
ホラ・・・・・もー、大きくなってる・・・・」
男は握ってる梨華ちゃんの手を、自分の股間にあてがう・・・
彼女の手は、それに抵抗するように・・・硬い拳を作っている。
そして・・・・・・・
- 208 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 12:39
- そして、意を決したように・・・開かれた梨華ちゃんの口から・・・
「私は、私は、あなたなんて知らない!」
小さく、でもしっかりと、そんな言葉が・・・・言い放たれる。
「私は、あなたなんか知らない!見たこともない!」
「そんなわけないだろ!」
男の声に、怒気が含まれる。
「私の人生に、あなたはイラナイ!
どんなことをされても・・・例え殺されたとしても・・・
私の人生に・・あなたは関係することなんて出来ない!」
「・・・そんなこと・・・そんなこと言うなよ・・・なあ・・梨華・・・・」
「私の名前を呼ばないで!!」
男の哀願に似た言葉を、梨華ちゃんの声が強く阻む。
その強さに、気圧されたのか、男のナイフを持った手が下に降ろされ、
その首が少し項垂れるように・・・前に落ちる・・・
それを合図にするように・・ヨッシーの足が少し・・動く・・
その小さな音を聞きつけたのか、
男の体が、こちらに大きく向き返る。
「来るな!」
・・・・と・・・・その拍子に・・・えっ?・・・何?!
- 209 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 12:45
- 「キャー!!!!」
誰ともわからない悲鳴が響く中・・・・
梨華ちゃんの身体が・・・・ゆっくりと床に沈む・・・
「あ・・・」
男は呆然と・・・そこに立ち尽くして・・・・
「梨華ちゃーん!」
「石川!」
「先生!」
私たちは・・・・その男の存在を忘れたかのように・・・彼女の元へ駆け寄る・・・
彼女の白いブラウスは・・・ナイフが刺されたままの・・
その場所を中心に・・・・・・赤く染められて・・・・・・
・・・・・梨華ちゃん・・・・・・・
- 210 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/02(火) 12:54
-
・・・・・・・・・
「・・・・ごっちん・・・ごっちんいるの?」
「うん・・・ここにいるよ・・・・」
「・・・・捜したんだよ・・・いっぱい・・
・・・・・・どこにもいないから・・・・・」
「アタシはずっとここにいたよ・・・・ずっと・・・」
「あっ・・・そーだよね・・・ここにいたんだよね・・・
じゃあ、行こうか・・・みんなの所へ・・・・」
「あっ、うん・・・・でも・・ちょっとここにいない?
二人で・・・」
「えっ?」
「アタシね・・・・みんなといるのも好きだけど・・・・
梨華ちゃんと二人でいるのも・・・・結構・・好きなんだよね・・・」
「・・・そっか・・そーだね・・・・私も・・そーかも・・
じゃ、しばらく・・ここにいようか・・・・・」
「うん・・・・ここにいよ・・・」
- 211 名前:トーマ 投稿日:2004/03/02(火) 12:56
- タイトル欄を・・・ずっと間違えてしまった・・
この章は・・・・・「キミといた場所」です。
本日はココまでにします。
- 212 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/02(火) 13:11
- 衝撃的な展開が!!
ますます目が離せないです。
更新も頻繁なのはすごく嬉しいです。
毎日チェックしてますので、がんばってください。
- 213 名前:みっくす 投稿日:2004/03/02(火) 22:30
- ほんとに衝撃的な展開!!
どうなるんだろう。
次回もたのしみにしてます。
- 214 名前:トーマ 投稿日:2004/03/03(水) 09:16
- >212様
>みっくす様
ありがとうございます。何か書くと、自分でネタバレしそうなので・・・とりあえず続きを・・
- 215 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 09:32
-
私たちは・・・手術中の赤ランプの前に立っていた。
あれから・・・・何がどうなったのか・・正直、はっきりとした記憶がない・・・
ただ、ここに着いてから、目に残るおぼろげな映像と、他の人たちの話を繋ぎ合わせて・・・
その記憶を組み立ててみる・・・
あれからすぐに駆けつけた警察に、あの男が連れて行かれたこと・・
保田先生が救急車を手配して、それに私とヨッシーが同乗して・・ココまで来たこと・・
中澤先生の車に、あの子達が、どうしても・・と言って、乗り込んで・・追いかけてきたこと・・
そして、今・・・緊急手術が、この中で行われていること・・・
それから、これは今しがた気づいたことなのだけど・・・
ココが、ごっちんがいる病院だということ・・・・
「大丈夫だよね・・・」
私のつぶやきに、肩を抱いてくれているヨッシーが・・大きく頷く。
「決まってる・・」
「大丈夫や!・・・さっき、ココの看護婦さんもゆーてた・・場所が良かったって・・」
「そーですか・・」
中澤先生の声が、明るいトーンだったから、私たちは少し安心して・・
誰からとはなく、そこに置かれた椅子に腰を下ろす。
- 216 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 09:59
- 「アンタラ・・・やっぱり、ココにおるんか?」
中澤先生が、隅で固まって立っている、三人の少女に声をかける。
「はい・・出来たら・・先生が出ていらっしゃるまでは・・・」
田中さんがはっきりとした口調で答える。
「そーかー・・そやな・・・心配やもんな・・今、帰ったかて勉強もてにつかんやろしな・・・
なら、こっち来て、座りー・・」
中澤先生は、空いている長椅子に、三人を呼ぶ・・・
私たちは・・・・その場でしばらく黙り込んでいた・・・
ふいに・・・田中さんが口を開く・・・
「あの・・・・こんな時に・・・こんなこと・・・聞いていいかどうかわからないんですけど・・・」
「なんや?」
「・・・・・この前の校長先生の説明と・・・石川先生がもらしてた言葉と・・・今度の事件と・・・
なんか・・ちゃんと結びつかなくて・・・・さっき藤本先生が言ってた言葉も・・・」
中澤先生は少し怪訝な顔・・してたけど・・・
私には、彼女の疑問の訳が・・・わかっていたから・・・どうしょうかな・・・
私は、ヨッシーの顔を窺う・・・・
ヨッシーは・・・大きく頷く。
「話・・・してあげようか・・この子たちに・・みんな・・・」
「・・・・・うん・・そーよね・・・この子たちになら・・・梨華ちゃんも・・たぶん話すると思うし・・・」
「そーだよね・・・きっと、そーするよね・・・」
「・・・お願いします・・・決して・・興味本位で知りたいんじゃないんで・・・」
「わかってるって・・・・話、するよ・・・アタシ達にあったこと・・・あの学校で・・・
てゆーか・・梨華ちゃんと・・それから・・今この病院で休んでる・・彼女の一番の友達に・・起こったこと・・」
「そやな、話してやりー・・・ホンマのとこは・・アタシもよーは知らんのやけどな・・」
- 217 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 10:23
- 駆けつけてきた、梨華ちゃんのご両親に挨拶をして、
ことの事情を説明している中澤先生と保田先生を、その場に残して・・
私たちは、少し離れた待合室に移動する。
ヨッシーが自動販売機のジュースを彼女たちに渡して・・・私たちと向かい合わせに座らせると・・
大きく一つ息をする。
「いつのことから話そーか・・・・・・アタシ達は友達だった・・・・
アタシと梨華ちゃんは・・中等部から・・・・美貴ちゃんと・・もう一人・・ごっちん・・後藤さんって言うんだけど・・
その二人は、高等部から・・・本当に・・・いい友達だった・・・」
「・・・三年になって・・・それぞれ別のクラスになったけど・・・やっぱりいつもつるんでた・・
三年の授業は、午後からは全部、選択制なんだけど・・・・
梨華ちゃんが理科系の科目取って、ごっちんが文科系の科目選択するって聞いた時は・・
正直・・二人で驚いたよね・・・」
「うん・・・ごっちんはともかく・・梨華ちゃんは当然そのまま・・ウチの大学って思ってたから・・
中等部からココだったし・・・彼女の成績だったら、楽々だったし・・・
アタシも・・その時点では・・ウチの教育の体育にでも行こうって思ってて・・・
まあ、アタシの場合は内部推薦受かる為には、もうちょっと勉強しなきゃだったけどね・・・」
「アタシは・・・看護科がないから・・どーしよーかなって考えてたけどね・・・」
「うん・・・ごっちんは・・考えてみれば・・国立ってのはわかるんだ・・
彼女の家の経済的なこと・・・少しは知っていたから・・・梨華ちゃんは・・それにあわせたのかな・・・
まあ、あの子なら・・・そんなこと関係なくても・・充分にどこでも受かるんだろうけど・・」
- 218 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 10:44
- 「で、選択科目を二人で相談してたみたい・・・その授業を一緒に取れるってこともあって・・
お互いに不得意分野を教えあって・・よく勉強してたから・・・三年になってからは・・特に・・
で、社会科は公民を一緒に取って・・・理科は化学・・・
後から考えたら・・・それがいけなかったんだけどね・・・」
「うん・・・でも・・2年の時の化学の先生は転任してて、
あの時点で新任のアイツのことなんて・・・何も誰も知らなかったし・・・・
ごっちんは・・・一月も経たない内から・・・ヤバイ、ヤバイって言い出してた・・・
アイツの梨華ちゃんに対する目つきは・・・普通じゃないって・・・・」
「そーだったよね・・・梨華ちゃんは・・そんなの思い過ごしだよって・・笑ってたけど・・・
でも、その頃から・・彼女は悪質なストーカーに悩まされてて・・・
自宅の電話も・・何回も変えなきゃだったし・・・変な届け物とかあるって言ってた・・・
でも、そのこととアイツを結びつけることは・・さすがにごっちんにも、アタシ達にも出来なかった。」
「うん・・梨華ちゃんが、誰かに付きまとわれてるってゆーのは・・それこそ中等部の頃から・・
何度もあったことだったし・・・男子校の生徒とか・・・
だから、それ自体は・・今度は少し酷いよねって程度で・・・・・」
「・・・そー・・あの頃、梨華ちゃんは・・なんだろ・・女のアタシ達から見ても・・急に色っぽくなっちゃってて・・
ごっちんは・・それもあって・・・すごく心配してた。
でも・・・・夏が終わる頃までは・・・これってことはなかったんだよね・・・」
- 219 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 11:12
- 「・・・あの日・・・ちょうど今と同じ頃・・・・
もちろん三年だから・・部活とか・・みんな引退してたけど・・・それでも時々は覗いたりしてて・・
それが・・中間前で休みになってて・・・
アタシ達は、特別の用でもない限り、いつも一緒に帰ってたから・・・
下駄箱の所で・・・三人で梨華ちゃんを待ってた・・・・」
「・・・・なかなか来なくて・・・・アタシ達は・・彼女の教室まで・・・迎えに行った・・・・
でも・・・いなくて・・・そこに残ってた子に聞いたら・・・
化学の山崎に・・・・呼ばれたって・・・・」
「・・・・それを聞いた時の・・ごっちんの顔・・・今でも忘れられない・・・
血の気が引いたように固まって・・・で、次の瞬間・・・ごっちんは何も言わずに走り出した・・・
「アタシ達は・・・訳もわからないまま、そのあとに追って・・・・
化学準備室・・・追いついた時、ごっちんは開かないドアを必死に引っ張ってた・・・」
「・・・アタシはそれを見て・・やっと事態が飲み込めて・・・・
側にあった消火器で・・・・ドアのガラスのところを・・・叩き壊して・・・
だから、今日もついついね・・・・」
「ごっちんが、その開いた穴に手を入れて、カギをはずしてる間・・・
アタシ達は・・・その隙間から・・・二つの人影を見つけてた。
黒い大きい方が・・・アタシ達のたてた音で・・・急に立ち上がったような感じで・・・」
「・・・ドアを開けると・・・アイツは両手でズボンのベルトを直していた・・・・
口にはナイフが咥えられてて・・・・アタシはとっさにごっちんを庇おうとしたけど・・
彼女は・・・アイツの存在なんか無視するように・・・
真直ぐ、奥で倒れてる・・梨華ちゃんの所に駆け寄ってった・・・」
- 220 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 11:35
- 「・・・アイツはさすがにバツ悪そうに・・・アタシ達の方を見ないようにして、
ごっちんとすれ違うように・・アタシ達の横を抜けて・・・部屋から出て行った・・」
「アタシは・・・アイツのナイフが・・やっぱり気になってたから・・
アイツが階段を下りるのを見届けてから・・・中に入った・・・」
「・・・・・ごっちんは・・・梨華ちゃんの服の胸元を合わせながら・・・泣いてた・・
制服のブラウスのボタンが・・・たぶんナイフで弾かれたんだろうな・・・四つほど飛ばされてて・・
下着も少し・・・裂かれてた・・・
梨華ちゃんは・・・・唇が噛み切られたみたいに・・・・頬にも殴られたような痕があって・・・
目を見開いたまま・・・涙を流してた・・・・」
「・・・彼女の両腕は・・後ろ手に縛られてて・・・アタシは急いで・・それをはずした・・
手首に赤く・・・キズが付いてて・・・彼女の抵抗の痕が・・・悲しかった・・・・」
・・・あのやろー!・・・そー叫んで、ごっちんが立ち上がった・・・
その時・・・・それまで・・声も出せずにいた梨華ちゃんが・・・・
・・・お願い・・黙ってて・・間に合ったから・・・
みんなのおかげで・・・・間に合ったから・・・・
そんなふうに言って・・・・ごっちんを止めた・・・すがるような目をして・・
その言葉の意味は・・わかったけど・・・アタシは釈然としなかった。」
「アタシも・・・あんなヤツ・・絶対許せなかったし・・・
でも、最初にそれに同意したのは・・・一番、頭にきているはずの・・ごっちんだった・・・」
- 221 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 11:59
- 「ごっちんには・・・・そのことが・・わかり過ぎてたから・・
確かに・・こーゆーことは・・・それが知れた時・・・周りは被害者側に冷酷だから・・・
ごっちんは、そのことが身にしみてたから・・・・
でも、梨華ちゃんは・・・そー言ってしまった自分が、
そー言ってしまった、その瞬間から・・・許せなくなったんだ・・・
ごっちんの似たような過去を知らされた時・・・・それも全部含めて・・
彼女の存在全てを・・そのままの形で・・・認める・・・と自分は言っておきながら・・・
自分は・・このことを恥じとして・・・隠そうとしている・・・
アタシは・・・梨華ちゃんの顔が曇るのがわかった・・・
でも・・・・いったん口から出てしまった言葉は・・・元に戻すことは出来なかった・・・」
「隠すとなれば・・ちゃんと・・・親にも、学校にもわからないように・・・・
アタシは、自分のロッカー置いてある・・・ジャージを急いで取りに行って・・
それを着せると・・・彼女のブラウスを丸めて・・彼女の鞄に突っ込んで・・落ちてたボタンも拾い集めた。
唇の血は・・ごっちんハンカチでぬぐって・・
アタシは、自分のハンカチを水で濡らして・・・・彼女の頬に当てた・・・・」
「壊れたドアは・・・・さすがにどーにも出来なくて・・・
でも、アイツに羞恥心のカケラが残っていれば・・・自分で取り繕うだろうって・・
三人で判断して・・・・ガラスもそのままにして・・・そこを離れた・・」
- 222 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 12:17
- 「アタシ達は・・・抱えるようにして・・梨華ちゃんを歩かせて・・・
三人で、彼女の家まで送って・・・・
階段で転んじゃって・・・私たち一緒にいたのにすいません・・なんて言い訳をして・・
梨華ちゃんは・・・自分がボケてたからなんて、笑顔さえ浮かべて取り繕ってた・・・」
「しばらく・・彼女の部屋でついていたいからって言う・・ごっちんを残して・・・
アタシ達は帰った・・・・
悲しくて、悔しくて・・・二人して・・途中の公園で泣いた・・・
でも、そのあと・・何もなければ・・・それでいいと思った・・・それでいいと思ってた。」
「・・・・これから、みんなで気を付けてあげればいいって・・・
アイツが指一本でも、梨華ちゃんに触れることがないよう・・気を付けてあげればいいって・・
実際・・・そのあとしばらくは・・・それまでのストーカーみたいなのも、なくなったし・・
あのドアのことも、アイツが処理したみたいだったから・・・
終わりだと思ってた・・・このことはもう終わりなんだって・・・
梨華ちゃんも・・・何にもなかったように明るく振舞っていたし・・・
アタシ達も・・忘れてしまえばいいことだぐらいに思ってた・・・だけど・・・・」
- 223 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 12:45
- 「試験も終わって・・・連休があって・・・・
休み明けの学校は・・・いつもと違うザワメキがあった・・・
アタシ達は・・いつも結構目立ってて・・・だから、人の噂に上ることも・・
何か言われたり、見られたりすることは・・よくあることで・・・
でも、その日は・・・何かいつもとその空気が違っていた・・・
何かあったのかなとは思ったけど・・・それでもその日は・・・・何事もなく・・・」
「次の日の放課後・・・アタシは部活の後輩に呼ばれて・・・・
図書館のパソコンで、あの書き込みを見せられた・・・
で、慌てて・・・三人を呼びに行った・・・・
やっぱり、それもあとから思ったことだけと・・・あれをあの二人に見せたのは・・・良くなかったんだよね・・
アタシと美貴ちゃんとで、すぐに中澤先生に言って・・処理してもらえば良かったんだよね・・・
でも、その時は・・・そんなところまで気が回らなくて・・・
とにかく四人で・・・・・それを見た・・・・
ごっちんは・・・見るなり・・駆け出していた・・・
アタシは・・それを追おうとする梨華ちゃんを止めて・・美貴ちゃんと二人で職員室に行くように頼んで・・
一人でごっちんのあとを追った・・・
梨華ちゃんをアイツの側に行かせることは出来なかったから・・・」
「それは・・アタシも同じで・・・ごっちんを追おうとしてる梨華ちゃんを無理やり引っ張って、職員室に行って・・
中澤先生を捜した・・・・それが一番いい方法なんだって・・必死で彼女を説き伏せながら・・・」
- 224 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 13:06
- 「アタシが追いついた時・・・・
ごっちんは・・化学室の前の廊下で・・・アイツにナイフを突きつけられていた。
ナイフで脅されながら・・・それでも、ごっちんは・・アイツを真直ぐ睨みつけてた・・・
・・・卑怯者!何て汚い真似・・
そんなごっちんの言葉に・・・・アイツはにやけて・・・こたえた・・・
・・・あれは本当のことなんだ、梨華は毎晩のように俺に抱かれてる・・・
オマエが知らないだけなんだ・・・
・・・ウソダ!梨華ちゃんは・・オマエなんかに指一本だって触れさせたりしない!
・・・梨華ちゃんは・・アタシのものだ!!・・・・
そんな・・ごっちんの叫びに・・アイツは顔色を変えて・・・
ナイフを彼女の顔の前に差し出して・・・
・・・女のオマエに何が出来る・・女のオマエに・・
って、ごっちんに詰め寄って・・・・
ごっちんは後ずさりしながら・・・でも、しっかりと・・
・・・アタシはアンタより遥かに・・梨華ちゃんを愛してる・・梨華ちゃんだって・・」
「・・・・愛してるって・・言ったんだ・・ごっちん・・知らなかった・・」
「うん・・たぶん・・あの時、ごっちんが言える・・精一杯の言葉だったんじゃないかな・・それが・・・
そー言うと・・ごっちんはアイツのナイフを持つ手を掴んで・・
その手に噛み付いて・・・・そのナイフを床に落とさせた・・・
それを見て、アタシもそこに駆けつけたんだけど・・・・だけど・・・
- 225 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 13:25
- 「・・・・アイツは・・ごっちんの腕を・・逆にねじ上げて、そのまま・・・
持ち上げるように・・・階段の方に引きずって・・・
・・・死ねー!!・・・
って・・・投げ捨てるように・・・・本当に投げ捨てるように・・・
ごっちんをそこから・・・・落とした・・・
嫌な音がした・・・・アタシは・・・そこに立って、下を見下ろしてるアイツを突き飛ばして・・
ごっちんの所へ・・・・駆け下りた・・・・」
「アタシと梨華ちゃんは・・中澤先生と・・それから、そこにいた二人の男の先生を連れて・・
階段を駆け上ってた・・・・・上から言い争う声がして・・・・
目の前にごっちんが降って来た・・・・大きな音がした・・・
ごっちんは・・3階と4階の間の踊り場の壁に・・・・・頭を打ち付けて倒れた・・・・
上から降りてきた、ヨッシーと・・アタシ達が下から駆け寄って・・・
ごっちんに取り縋ろうとする梨華ちゃんを・・中澤先生が・・ゆすったらアカンって制して・・
梨華ちゃんはその場に・・へたりこんでた・・・
アタシは・・救急車の手配を頼まれたけど・・・手が震えて・・携帯のボタンが押せずに・・
結局・・中澤先生にかけてもらった・・・・」
「男の先生が・・・・・アイツを取り押さえて・・・・」
「アタシ達は・・・・ごっちんと一緒に救急車に乗った・・・まるで今日みたいに・・・
やっぱり・・・手術中のランプの前で・・・・二人で梨華ちゃんの肩を抱いてた・・・
手術は成功したんだ・・・そー言ってた・・・・
だけど・・ごっちんは・・・・その日から・・眠ったまんまなんだ・・・・」
- 226 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 13:43
- 「・・・・あの紙が・・おとといのね・・あれが・・学校に撒かれたのは・・・
その次の日のことだった・・・・誰がやったか知らないけど・・・・
そのせいで・・ごっちんのことも・・梨華ちゃんのせいだとか・・・身代わりだとか・・
色々・・言うヤツもいて・・・・
でも、梨華ちゃんは・・・・そんなことでは傷つかなかった・・・
その前に充分・・傷ついていたから・・・
自分が・・ごっちんの忠告してたのを気にとめないで・・アイツに呼ばれた時、出向いてしまったこと・・
そのことを・・隠し立てして・・・結果、アイツを暴走させて・・・ごっちんを怪我させてしまったこと・・
でも、たぶん・・彼女の気持ちを・・一番重くさせたのは・・
黙っていてくれるように頼んだこと・・・・
たぶん・・そのことが一番・・自分の中で許せなかったんだと思う・・・
だから、もしかしたら・・・あの書き込みが・・あんな形で人の目に触れたことで、
かえって彼女の気持ちは楽になったのかも知れない・・・・
それほど・・梨華ちゃんの心の傷は大きかったから・・・・」
「・・・それでも・・・アタシ達は・・・・精一杯、梨華ちゃんを守ろうと思った・・・
悪質な中傷や非難の声から・・・・
それが・・彼女を守るためにこんな目にあってしまった・・ごっちんのために出来る、
唯一のことだとも思ったし・・・・」
- 227 名前:キミといた場所 投稿日:2004/03/03(水) 13:59
- 「・・・・・アイツは殺人未遂で刑務所に入った。
傷害ですまなかったのは、ナイフを持ってたことと、死ね・・って言葉をアタシが聞いてたから・・
それでも・・・たった5年で出てきた・・・・・それが今日・・・
また、守ることが出来なかった・・・・今日、出てくるって知ってたのに・・・」
三人は・・・・黙って・・・・私たちの話を聞いていた・・・半分泣きながら・・・・
「・・・・ごめんなさい・・もっと早く・・あの抜け道のこと・・言ってたら・・」
亀井さんは、そう言って下を向く・・・膝の上で握られた両手の甲に・・涙が落ちる。
その肩を・・田中さんと道重さんが・・両方から抱えて・・・
「・・・アタシ達も・・・知ってたのに・・・」
「仕方ないよ・・・・アンタ達は・・あの男が、来るなんてこと・・・知らなかったんだから・・・」
「でも・・・」
この子たちがそのことを後悔する気持ちは、わかるけど・・・・
そんなこと言ったら・・・それこそ私たちは・・どうすればいいんだろう・・・
自分の無力さ加減に・・・・私は腹を立てていた・・
そして、今はただ・・・梨華ちゃんの無事だけを祈っていた・・・・
- 228 名前:トーマ 投稿日:2004/03/03(水) 14:00
- 本日はココまでにします。
- 229 名前:RYO 投稿日:2004/03/03(水) 14:14
- 毎日更新お疲れ様です。勤務中にもかかわらず、リアルタイムで日々拝見してます。
最後がどうなるのかとても楽しみです。梨華ちゃん無事でいてください。
- 230 名前:さすらいゴガール 投稿日:2004/03/03(水) 21:32
- なんだか胸が痛い…。
ただただ、そんな気持ちです。
毎日の更新、お疲れ様です。
- 231 名前:みっくす 投稿日:2004/03/04(木) 00:33
- 毎日、更新おつかれさまです。
そういう背景があったんですね。
どうかみんなに幸せがきますように。
- 232 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/04(木) 08:54
- ますます目が離せなくなる。
勤務中にも何度も更新していないか気になって
覗きに来てしまいます。w
昔の仲間も、今の仲間もどっちも幸せになるといいなぁ。
- 233 名前:トーマ 投稿日:2004/03/04(木) 09:11
- >RYO様
>さすらいのゴーガール様
>みっくす様
>232様
ありがとうございます・・・・・先に言っちゃお・・・今日で終わっちゃいます・・・
- 234 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 09:28
-
「・・・アンタラ、何、泣いとるんや!
手術、終わったで!今、先生が出てきてな・・大丈夫やて!
軽かったって・・2週間もすれば、退院できるんやて!!」
「本当ですか?」
「ホンマや!・・・・ほら、行こ!・・・・出てくるで・・もうじき・・」
手術室から、運び出されてきた梨華ちゃんは・・・
少し顔色は悪くしてたけど・・・その表情は穏やかで・・何かいい夢でも見ているようだった。
私たちは、彼女の後に従って・・病室に向かう・・・
「えっ?・・ここ・・」
「ああ、アタシから頼んでな・・・本当は、病棟が違うみたいなんやけど、軽いってゆーし、
・・・ほら、後藤が目覚ました時に・・石川がおらんかったら・・・寂しがるやろし・・
石川かて・・・ココの方が、安心して、入院してられるやろしな・・・
やから、無理ゆーて、お願いしたんや・・・親御さんたちにもな・・・・」
梨華ちゃんが運ばれたのは・・ごっちんのベッドの隣だった。
「ちょっと狭いけどな・・・・・・あの、よろしいですよね・・」
「はい、私たちも・・この方がいいと思います・・」
ごっちんのお母さんと、梨華ちゃんのお母さんが、笑顔で頷いて・・・
小さな病室に・・二つのベッドが並ぶ・・・・・
- 235 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 09:48
- 「明日の朝には・・石川は目を覚ますそーや・・」
「 ・・・・・アンタラ・・もー遅いんやから、帰り・・・・なんなら、送ろか?」
三人の少女に、中澤先生が声をかける・・・
「あ、いえ、駅まで近いんで・・・歩いて帰ります・・」
田中さんが、そう言って・・・三人はもう一度、梨華ちゃんの顔を覗きこんで・・
それから・・・
「この人が・・・・後藤さんなんですよね・・・」
って、田中さんが、ごっちんの顔を見っめたまま・・誰にともなく尋ねる。
「そー・・・この人が、後藤さん・・ごっちん・・」
私がそう応えると・・・田中さんは、私の方に顔を向けて・・小さく頷く・・
「・・・きれいな・・人ですね・・」
道重さんがそう言うと・・
「だろ、アタシラといい勝負だろ!」
って、ヨッシーが、明るく応えて・・・・病室は一気に和む・・・
「お、それから・・アンタラ・・心配せんでいいよー・・古文のテスト・・もー出来てるから・・
良かったなー・・用意のいい先生で・・・なんや、そのがっかりした顔は・・
普通にやるで・・中間・・やから、ちゃーんと勉強せなアカンよ!」
「ハーイ」
「・・・・・あの・・明日・・来てもいいですか?・・・学校の帰りに・・・」
亀井さんが・・まだ涙のあとが残っている顔を上げる・・
「・・・そら、いいけど・・・・・・そやな、そーしー・・」
「ハイ・・・じゃあ、今日は失礼します・・・」
- 236 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 09:54
-
すっかり暗くなった道を・・・・
エリを真中にして・・三人で手を繋いで歩く・・・・
「アタシたち・・・・先生たちに・・追いつけるかな・・・」
私の独り言のような言葉に・・
「えっ?」
サユが小首をかしげて・・・
「今は・・・・まだ無理かな・・・」
って、エリが応える・・・・・
「でも・・・・追いつきたいよね・・・・」
「うん!」
夜の秋の風は・・・少し冷たくて・・・・
でも・・・私は・・・身体の中に・・・何か暖かいものを感じていた・・・・
- 237 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 10:13
-
あの子たちを帰したあと、しばらく二人の様子を見て・・・
私たちも、病室を辞した・・・・
「ちょっと付き合わんかー・・」
って言う、中澤先生の言葉で・・・私は、空腹にはじめて気づいて、
私たちは、保田先生と4人で、近くのファミレスに入る・・・・
「・・・まあ、よかったよね・・軽くて・・・」
「そやな、不幸中の幸いってヤツやな・・」
「そーですね・・・本当によかった・・・・」
「・・・・でも、梨華ちゃん・・・・・何で・・あんなふうに言ったんですかね・・アイツに・・」
ヨッシーがぽつりと言う・・・
「う?」
「・・・嫌い・・でも・・憎い・・でもなく・・・知らない・・関係ない・・って・・・・」
「あーあ・・・・あれか・・・あれはな・・相手に対する全否定やからな・・・
究極の愛情表現が、全肯定なら、究極の拒絶は全否定や・・・
憎いとか、嫌いとかでも、そーゆー感情がある限り、相手にとらわれているってことやからな・・・
よかったんちゃうかな・・・あれはあれで・・・」
「そーですかね・・・」
「たぶん・・・あん時・・・石川は思ったんやろな・・・・このままじゃ、一生、付きまとわれるって・・
何度・・刑務所とかに入ってもな・・・アイツが出てくる度にビクビクしてなーならんって・・」
「ええ・・・」
「だから・・もしかしたら、殺されるかも知れんけど・・・
それでもいいって、本気で思ったんやないかな・・・・あの時は・・・」
「えっ?!」
- 238 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 10:35
- 「・・・・あんなもんに、一生振り回されるくらいなら・・・その方がましやて・・・
それに・・・石川の中には、やっぱり後藤に対しての負い目みたいなもんがあって・・・
自分のために犠牲にしてしまったゆー・・・・やから、今度は・・自分自身で・・ちゃんとけりつけよーってな・・・」
「・・・・・」
「・・・・でも・・今度は・・大丈夫なんでしょうか・・・また出てきますよね・・そのうち・・」
私は、私の中に残る不安を言葉にする・・
「そやな・・・わからんけどな・・・
アイツ・・萎れてたやろ・・・あん時・・・刺すつもりもなかったみたいやしな・・・」
「ええ・・・・梨華ちゃんにああ言われて・・・確かに・・・そんな感じはありましたね・・項垂れてるみたいな・・」
「あーゆーのは、一種の思い込みやからな・・・どこでどー間違えたか・・・・
たぶん、アイツの中では・・・石川も・・アイツのこと思ってることになってたんやろな・・・
・・・・・・・
あれで、あの男も・・目を覚ましてくれればいいんやけどな・・」
「ええ・・・」
「アンタたち・・しんみりし過ぎ!いい方に考えよーよ・・」
「そやな・・」
「そーよ・・・そーそー、後藤の方は、本当にいいらしいよ・・」
「そーなんか・・圭ちゃん・・」
「うん、さっきさ・・担当のお医者さんが、そー伝えてくれって・・みんなに・・」
「なんや、それを先に言わんかい!」
「ごめん・・」
「まあ、ええことやからいいけどな・・・そーかー・・・
じゃあ、ホンマに、石川がいる間に・・・起きるかもしれんなー・・」
「そーですね・・・きっとそーなりますよ・・・」
- 239 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 10:56
- 「・・・・あのー、中澤先生・・折り入ってお願いがあるんですけど・・」
「なんや、よっさん・・・あらたまって・・」
「卒業式・・・やってくれませんかね・・」
「あ?」
「・・・・アタシたち・・・4人の・・・ごっちんが・・その・・出れるようになったら・・」
「ええ?」
「アタシたち・・・出てないんですよ・・・卒業式・・・4人とも・・・」
「・・・・あー・・そやったな・・」
そう、あの卒業式の日・・・私たちは、ごっちんの卒業証書を預かって・・・
4人だけの卒業式を・・・・彼女の病室で・・・した・・
「やっぱり、ちゃんと・・講堂の壇の上で・・・先生から頂きたいんですよ・・卒業証書・・
仰げば尊し・・とか歌っちゃって・・・」
「あん時・・・アタシはまだ・・校長やなかったけどなあ・・」
「でも・・・中澤先生がいいな・・・どーせ頂くなら・・」
「・・・そーかー・・・なら、そーしょかー・・」
「いいわね、ソレ・・・アタシもさ、介添えやるよ・・・袴とかはいて・・」
「ええ、圭ちゃんの介添えか・・・・なんや・・華がないな・・・」
「何よ・・ソレ!」
「あっ、保田先生で充分です・・・・もらう方に・・華・・ありまくりですから・・」
「コラ!藤本・・またそんなこと言って・・・でも、いいね・・ソレ・・4人の卒業式・・」
- 240 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 11:10
- 「うん、やろ!後藤が退院したら・・・」
「ええ、お願いします・・・目覚めても・・リハビリとかあると思うんで・・・
いつになるかはわからないですけど・・・」
「いつになってもエエやん・・・待つのは馴れたろ・・・みんな・・」
「そーですね・・」
「あの・・・それから・・アタシもあるんですけど・・」
「何や・・藤本・・」
「ごっちんが治って・・・・卒業式終えたら・・・・アタシ・・結婚しよーって思ってて・・」
「ええー?!!」
「何よ、美貴ちゃん・・それ!」
「ヨッシーにも・・言ってなかったよね・・」
「彼氏は知ってるけど・・」
「うん、待たせてるんだ・・彼・・・結構・・
やっぱさ、みんなに出てもらいたいじゃん・・・結婚式・・・・だから・・」
「ふーん・・・羨ましい話やな・・・それ・・」
「また、先越されちゃったね、裕ちゃん・・・」
「アンタもやないか!」
「だねー・・・」
「あっ、もちろん・・そーなっても、仕事は続けるんで・・そこんとこはよろしく!」
「わかってるがな・・・アンタが、ただお嫁さんやってる姿なんて想像できんもん・・」
「ですよね・・」
「・・・でも・・・アンタラ・・・・ホンマにエエ友達やな・・・」
「ハイ・・それだけは自信あります!」
「だね・・・」
- 241 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 11:24
- 中澤先生たちと別れて・・・・・私たちは夜の道を歩く・・・
「・・・美貴ちゃん、アタシたちさ、あの学校に・・・戻ったのってさ、
やっぱり、何か・・・置き忘れてきたからなんだよね・・・それを取りにさ・・・」
「うん・・・そーだね・・・なんてったって・・・卒業式してなかったし・・・」
「だね・・・」
あのあと・・・私たちは・・逃げ去るように、あそこを離れた・・・
けれど・・・3人とも戻ってきた・・・何かに引き寄せられるように・・・
そして・・・・ごっちんも・・・・
「美貴ちゃん・・アタシさ・・」
「何?」
「その忘れ物・・・」
「えっ?」
「卒業式終わったら・・・・ちょっとさ・・取りに行こうかなって・・」
「何を?」
「あのさ・・・笑うなよ・・」
「うん・・てか、ことによるけど・・」
「じゃ、笑うかな・・・あのさ・・アタシ・・・梨華ちゃんに・・ちゃんと告ろーかなって・・」
「あーあ・・やっぱり・・・」
「って、知ってたの?・・・アタシの・・なんだ・・その・・気持ち・・」
「うん・・・最初から・・・アンタたちと友達になってすぐの頃から・・・」
「そーなんだ・・・それって・・アタシより早いね・・・
アタシが・・ちゃんと気づいたのは・・・ごっちんのことがあってからかも知れない・・・」
- 242 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 11:44
- 「・・・・思い返すとさ・・・たぶん中等部の頃から・・・そんな感じあったかも知れないけど・・
ほら、でもみんなが・・そのー・・騒ぐからさ・・・だから・・そんなわけないって・・一生懸命・・自分で否定してて・・」
「あーあ、お似合いって感じあったもんね・・・見るからに・・・」
「うん・・・みんなに煽られてるだけだって・・・思ってて・・
で、ごっちんが現れて・・・・・いつの間にか・・取られちゃってて・・
だから、やっぱり違うんだって・・・思い込もうとしてて・・・」
「・・・で、どーして今更・・だって・・・」
「そーだよね・・玉砕するのはわかってるんだけどさ・・・でも・・ほら・・
初恋って・・・引きずるじゃん・・・」
「うん・・そーかも・・・」
「だから、ちゃんと終わらせなきゃってね・・・」
「わざと玉砕しちゃうんだ・・・しかもわざわざ・・対戦相手の復帰を待って・・・」
「うん・・・・それでそのことからもちゃんと卒業して・・・
それから・・ちゃんと新しい恋とかしようかなって・・・・・
あっ、それから・・何・・その・・・アタシ・・・決して・・そーじゃないから・・・」
「知ってるよ・・・マッチョの彼とかいたじゃない・・アレ・・別れたの?」
「うん・・・マッチョはさ、いいんだけど・・・彼、頭の中まで筋肉で出来てて・・」
「はーあ・・それはご愁傷様・・・」
「・・・でもさ、ヨッシー・・・今度の恋の相手が・・普通に男でも、たとえまた、女の子でもさ・・
ちゃんと紹介してよね・・・」
「うん、ちゃんと紹介する・・・みんなに・・」
「でさ・・・もしも・・女の子だとしたらさ・・・出来たら・・アタシより・・かわいい子にしてね・・」
「えっ?」
- 243 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 11:59
- 「・・・アタシさー・・少し好きだったんだ・・・高校の時・・ヨッシーのこと・・」
「・・・そーなんだ・・知らなかったなー・・・
そりゃ、惜しいことしたかな・・・もしかして・・・」
「そーだね・・・お互い・・・惜しいことしたかも・・・・」
「・・・ごっちんもさ・・・ヨッシーの気持ち・・・知ってたよ・・・」
「えっ?」
「たぶん・・・知らなかったのは・・梨華ちゃんだけ・・・
ごっちんは知ってた・・・だから・・・・あのこと・・・ヨッシーに言ったんだと思う・・・」
「そーなのかな・・・そー言えば・・美貴ちゃんは・・いつごっちんの話・・聞いたの?」
「・・・ヨッシーに話たっていう・・すぐあとだよ・・・
美貴ちゃんにだけ話さないのは・・不公平だなんて・・変な理屈つけてたけど・・ごっちん・・
で、それをヨッシーに話したって聞いて・・・わかったんだ・・・
ごっちんはヨッシーの気持ちに・・・気づいてるんだなって・・・・」
「そーか・・・・」
「・・・・・あの二人・・・どーなるんだろーね・・・」
「うん?」
「良くなってもさ・・・ほら、もう・・女子高生じゃないし・・・」
「あーあ・・・でも・・・どんな形でも・・・あの二人は、一緒に生きて行けるんじゃないかな・・・
・・・たとえ、お互いに・・別の家庭とか持ったとしてもさ・・・なんかの形でね・・・
なんたって・・・運命・・らしいから・・」
「運命?」
「うん・・・運命・・」
- 244 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 12:18
- 「・・・・まださ、梨華ちゃんが・・後藤さんって呼んでた時にさ・・・
アタシ・・・さんざん彼女から聞かされた・・・
運命感じるって・・・最初に見たときから・・すごく惹き付けられたって・・
初めて・・話が出来たときなんて・・・本当に・・・バカみたく喜んじゃって・・・
本当にこれが・・あの・・石川梨華?って感じでさ・・・
アタシの気持ちなんて知らないからさ・・・まあ、その時はこっちもはっきりはしてなかったけど・・
何かさ、アタシはそんな彼女の言葉でさ・・・頭の中・・・ガーン!ってマンガみたいになってさ・・」
「ふーん・・梨華ちゃんも罪だねー・・・」
「うん・・それでさ・・・ごっちんからも同じようなこと聞いたんだ・・・
それはもう結構後の方で・・・伊豆の海に行った・・・あの晩だったかな・・・
初めて会った時から・・気になってたって・・・
でも、梨華ちゃんの周りは・・・これもマンガみたいな表現だったけど・・・
梨華ちゃんのバックには花びらが舞ってて・・・自分の背景には縦線入ってたって・・
だから・・違う世界の人なんだなって思ってて・・・
初めて話した時・・・屋上らしいんだけどさ・・・自分を追ってきた足音が・・・
彼女のものだってわかった時は・・・信じられないくらい胸が躍ったって・・・
一生懸命・・そっけなくしたけど・・・・その日は眠れなかったって・・・・」
「・・・・なんか・・ものすごいのろけ話だよね・・・二人とも・・」
「うん・・・」
「ヨッシー・・・かわいそ・・」
「でしょ・・・」
- 245 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 12:26
- 「・・・・でも、だから・・・二人はやっぱり・・・運命なのかなって・・てね・・」
「うん・・・きっと・・そーなんだよね・・」
「本当・・早く良くなるといいよね・・・ごっちん・・」
「だね・・・でも、今はさ・・24時間・・・・一緒だもの・・早くなるんじゃないかな・・」
「そーだね・・・案外・・明日、お見舞いに行ったらさ・・・二人で話してたりして・・」
「かもね・・・そーなるといいよね・・」
「うん・・・」
夜の道は暗かったけど・・・
あの二人の未来は・・・私たちの未来は・・・
きっと明るい光に満ちている・・・・
それが・・・今は・・・見えるように思えた・・・・・
- 246 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 12:38
-
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
あれ・・・暗いな・・・・どこだろ・・・ココ
・・・・・・・・・
ウチじゃないし・・・・・
学校でもないし・・・・
・・・・・・・・・・・
何だろ・・・うまく体が・・・・・動かないや・・・・
少し・・・寝過ぎたのかな・・・・
・・・・でも・・まだ眠いし・・・・・
誰もいないのかな・・・
・・・・・・・・・・・・
う?・・・・あれ・・・・あっ・・・・梨華ちゃんだ
・・・・・・・・
梨華ちゃん・・・・寝てるのかな・・・
じゃあ、夜なんだよね・・・きっと・・・・
そっか・・・・夜なんだ・・・じゃあ・・も、ちょっと寝てようかな・・・
朝になったら・・・起こしてもらえるよね・・・
梨華ちゃん・・・・・朝・・強いから・・・
うん・・・・じゃあ・・・もうちょっと寝よ・・・
それで・・・朝になったら・・・・起こしてもらおう・・・
梨華ちゃんに・・・・
・・・・ごっちん、いつまでも寝てないの・・って・・・
いつものように・・・・・・
いつものように・・・・・・
- 247 名前:キミといる場所 投稿日:2004/03/04(木) 12:40
-
「君のいる場所・キミのいた場所」・・・・・完
- 248 名前:トーマ 投稿日:2004/03/04(木) 12:51
- 完結しました・・・
今まで、こんな駄文にお付き合いいただき、暖かいレスまで、下さった皆さん、
本当にありがとうございました。
今まで短編しか書いたことがなかったので・・
物語が破綻することなく完結させることを目標に書いてきましたが、
一応・・それはどうにかなったかな・・と・・・
ただ、ここに立てることもなかった位の・・・長さで収まってしまって・・・
また、新しい構想が練れましたら、ココで書かせていただきたいと思います。
板の底でコソコソやってましたが・・・最後ですのでageときます。
何かご感想などありましたら・・・なんなりと・・・
- 249 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/04(木) 13:14
- いやぁ、文句なく面白かったです。
最後にはごっつぁん目覚めたのかな?
その部分も含め後の部分は各読者の想像の世界になるわけですね。
それとも、次回作としてその後が語られたりするのでしょうか。
今後もトーマさんの作品楽しみにしています。
しばらくはもう片方のスレに書かれるのでしょうか?
いずれにしても楽しみにしています。
- 250 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 13:28
- 完結おめでとうございます。あーでもとても残念でもあります。
トーマさんの書かれるこの85年組が活躍する世界にまだいたかったです。
次作も楽しみにしております。
- 251 名前:RYO 投稿日:2004/03/04(木) 13:42
- 完結お疲れ様です。
できればごっちんが目覚めたあとの話も読みたかったです。
次回作も楽しみに待ってます。
- 252 名前:名無し読者M 投稿日:2004/03/04(木) 17:33
- 完結お疲れ様でした。
トーマさんの書かれる彼女達の世界がすんなりと思い描けて
とても心地よく読ませてもらってました。
次回作&あちらの短編も楽しみにしております。
- 253 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/04(木) 21:34
- 完結おめでとうございます。85年組の友情が良かったです。
石川さんと後藤さんはずっとせつない展開だったので
ひたすら甘い話を続編でも新編でもぜひ読んでみたいなと期待してみたり。。。
- 254 名前:さすらいゴガール 投稿日:2004/03/04(木) 21:47
- 完結、お疲れ様でした。
実は、途中から読み始めたのですが、実に引き込まれました。
今環境が変わりつつあるので、なかなか腰をすえて読めないのですが、
じっくりとゆっくりと、時間をとって作品に浸らせていただきたいと思っています。
- 255 名前:みっくす 投稿日:2004/03/04(木) 22:13
- 完結お疲れ様でした。
ハッピーエンド終わって良かったです。
みんなそれぞれ幸せになってくれるでしょう。
- 256 名前:あず 投稿日:2004/03/05(金) 19:23
- 完結お疲れ様でした。
すごくはまってしまって
更新がすごく楽しみでした。
できれば続編を読んでみたいです。
次回作楽しみにしています。
- 257 名前:みるく 投稿日:2004/03/05(金) 20:47
- 完結お疲れ様でした。
更新を楽しみに毎日過ごしたのはとても久しぶりでした。
物語にとても引き込まれました。
できれば続編も読んでみたいです。
次回作も楽しみにしています。
- 258 名前:HS 投稿日:2004/03/05(金) 21:00
- 完結お疲れ様でした。
最後は期待を持たせた終わり方になってますね。
続編も読んで見たいです。
- 259 名前:@ 投稿日:2004/03/07(日) 10:59
- 完結お疲れ様でした。
トーマさんの素敵な世界観に引き込まれてしまいました。
パッピーエンドになりきらないいしごまが
きっとこの後は幸せになったんだろうななんて思えちゃいます
短編集同様こちらでの次回作?も期待してます。
- 260 名前:佐藤 投稿日:2004/03/10(水) 00:01
- 読みはじめた時のBGMは「GO THE DISTANCE」でした。娘の曲でもないのに、
この小説にしっくり合ってるようで、その後更新のたびにCDをリピートしながら
読みました。後藤さんが目覚めると小説が終わってしまうと思っていたので、
ラストは物語のスゴイ幸福感と同時に、個人的には春休みの終わりのような微妙な
切なさを感じながら「完」の文字を眺めていました。
作者さんありがとう。小説を読み切ったのはホント久しぶりでした。
- 261 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 01:20
- 今日見つけて一気読みしたんですが
すげぇよかったです。ありきたりの感想しか書けませんが
こう胸にずんとくる感じで、すごくよかったです
85年組と6期の話しがリンクしてるのもよかったし、
それぞれの友情や想い、感動しました。
出来るなら続編読みたいです。いいものをありがとうございました。
- 262 名前:名無し 投稿日:2004/04/05(月) 00:10
- 期待保全
- 263 名前:トーマ 投稿日:2004/04/12(月) 10:13
- >249 名無し読者様
>250 名無し飼育様
>251 RYO様
>252 名無し読者M様
>253 名無し様
>254 さすらいゴガール様
>255 みっくす様
>256 あず様
>257 みるく様
>258 HS様
>259 @様
>260 佐藤様
>261 名無し飼育様
暖かいレスありがとうございました。
本来なら、個々にレス返しをするべきなのでしょうが、同じような言葉になってしまうと思うので、
失礼とは思いつつ、纏めさせていただきました。
その代わりと言ってはなんですが、ご要望の多かった「続編」を書こうと思います。
ただ、実は本編を書く際に、冒頭の部分と、ラストシーンが最初に出来ていてという経緯があり、
その完成度は別にして、物語としては一つの完成形になっていると思うので、
その続編となると、正直ただの蛇足の駄作になりかねないなという懸念が、作者自身の中にあります・・・・・
さて、物語は、ほぼ石川さんと後藤さんのその後だけになります。
なお、同学年設定で、誕生日をそのままにしているので、年齢に違和感があると思いますが、ご容赦ください。
- 264 名前:キミとの時 投稿日:2004/04/12(月) 10:15
-
「キミとの時」
- 265 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 10:25
-
「梨華ちゃん・・・・」
懐かしい声を聞いたような気がした・・・・・
私は、どこから来るものともわからない痛みに、目を覚ました。
頭の芯のほうがぼやけている。
ゆっくりと開いた目の先にあるのは・・・白い天井・・・・
・・・・・・どこ?
・・・・・痛みの元が、お腹の方にあるのがわかる。
「梨華・・」
声のあるほうに顔を向けると・・・・・
お母さんが、すぐ近くで私の顔を覗き込んでいた。
「梨華、起きた?・・・・痛む?」
「・・・・うん・・」
「今、看護婦さん呼んだから・・」
看護婦さん?・・・・・そうか、ここは病院なんだ・・・・
頭の中に途切れた記憶を繋ぐ・・・・
- 266 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 10:47
- 私は、放課後の廊下を、いつものように国語準備室に向かって歩いていた。
そのドアを開いた所で、強い力が首にかけられ、それと同時に冷たいものが頬にあてられた。
そのまま部屋の中に押し込まれ、背中に鍵のかけられる音を聞いた。
あの男だ・・・・・やっぱり・・
五年前の恐怖が蘇る。
忘れようとしても、頭の奥にこびり付いて離れない・・悪夢。
でも、私はあの日の自分ではない。
あの不意打ちのような突然の乱暴に、ただ震えていた私ではない。
あの日・・・私は・・ごっちんが駆け込んで来てくれたそれまでの間、ただただ無意味な抵抗しか出来ずにいた。
男の力に屈し、その手のナイフに怯え・・・
でも、今のこれは予想できたこと。
もしかしたらどこかで待っていた事。
そう、自分自身で何かの決着をつけなければいけないこと。
そのまま押されるように、部屋の奥に連れて行かれながら、私は何度も自分の中で念じた。
私は負けない・・・こんなヤツには負けない・・・・
あの日、私を守ってくれた彼女のためにも、私は負けてはいけない。
だから、向き直らされて、その男と対峙する形になってからは、
その黄色く濁った目を、逸らすことなく凝視した。
今まで、思い出さぬように、忘れ去るように、どんなに努力しても、
私の頭の奥で、不気味に笑い続けていた、その顔がそこにあった。
どんなに憎んでも、憎みきれないその存在・・・・・・・
- 267 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 11:09
- でも、今日を限りに、私の中のこの男を完全に抹殺してしまおう・・・完全に・・・
そうしなければ、私はこの先、一歩だって前に進めない・・・
男は不適な笑みを浮かべて、私を押さえつける。
そして、私が動かずにいることを確認すると、安心するかのように、少し離れて・・・・
男の目が、私の身体を這い回る。
その粘るような視線に、私の身体は・・やはり、硬直してしまう。
・・・・ダメだ・・・・負けちゃダメだ・・・・・
一度・・・ゆっくりまぶたを閉じて、その裏に、眠っている彼女の顔を思い描く・・・・
大丈夫、私は負けない!
ドアの外に声がして、鍵が開けられる音がする。
その気配に、男は私の肩を掴み、ナイフがもう一度、頬にあてられる・・・・
ヨッシーや、美貴ちゃん・・中澤先生の声が響く・・・・
ありがとう・・・・・ありがとうみんな・・・
でも、これは私の問題なんだ。
これ以上誰かを巻き込むことは許されない。
男は無意味なことを言い募る。
それは本当に私にとっては何の意味も持たない言葉・・・
だから・・・・・
私は自分の中で決めていた言葉だけを言い返す・・
「あなたなんか知らない・・見たこともない・・私の人生にあなたはいらない・・
例え殺されても、私の人生にあなたが関わる事は出来ない・・・
私の名前を呼ばないで!」
自分に言い聞かせるように・・・
そう、二度とこの男の口から、私の名前が呼ばれるのを聞きたくない・・二度と・・・・
そのあと・・・・お腹の方に何か当たる衝撃を覚えた・・・・
そこが・・・・熱くなるのがわかった・・・
目の前が暗くなって・・・・
私を呼ぶ声が聞こえる・・・
ヨッシーの・・・・美貴ちゃんの・・・・中澤先生の・・・
それから、私の可愛い教え子たちの・・・・・
そしてもう一つ・・・
ごっちんの・・・・
- 268 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 11:34
- お母さんが・・・痛み止めの注射を看護婦さんが打ってくれている間に・・・
あの男にナイフで刺されたということ、その後、男は警察に連れて行かれたということを教えてくれた。
点滴を付け替えてくれている看護婦さんが、笑顔で、内臓の一部を損傷しただけで、浅い傷だったこと、
手術が成功したから、長い入院にはならないだろうことを説明してくれた。
あとで担当の先生の方からきちんとしたお話があるからと、その場を辞しながら・・・
それをぼやけた頭で聞いていた私を少しからかうように・・
「横を向いてごらん・・」と言い置く・・・・
・・・・・・横?
お母さんも笑いながら・・
「あなたまだ気がついてないでしょう・・」
と、自分の反対側を向くように、顎で示す。
ゆっくりと向きかえる・・その先に・・・
ごっちん?・・・・
あっ、そうか、ここ・・・・・どこかで見た場所だと思ったら・・・・
五年も毎日通ったはずの病室を、少し居場所が変わっただけで、気づかなかった自分が少しおかしくて、
苦笑しかけると、お腹に痛みが走る・・・・でもやっぱりおかしくて・・・
そんな泣き笑いのような状態にいる私に、お母さんも笑いながら続ける・・
「中澤先生が、掛け合ってくれて・・・同じ病室にしてもらったの・・
この方が二人とも安心だろうって・・・
それに、私たちも・・・後藤さんのお母さんと私もね・・交代で看れるから・・・・便利でしょ・・」
とか、少しおどける。
そうか、私はごっちんの隣で寝かされていたんだ。
だから、浅い意識の中で、彼女の声を聞いた気がしたんだ・・・・
彼女の寝顔は穏やかだった・・・・それを確認して、私は目をつぶる。
痛み止めが効いてきたのだろう・・・お腹の痛みは遠のいて・・・意識が少しぼやけてゆく・・
閉じたまぶたの裏には、ごっちんの笑顔が映る・・・
ふわーっとした彼女独特の笑顔・・・・・その顔につられるように・・・私もいつか笑っていた・・・
- 269 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 11:41
- ・・・・・・・・・・
・・・・・・・
話し声が聞こえ・・・・・いくつかの・・・・明るい・・
薄く目を開けて、その声の方を見ると・・
ぼんやりと制服の子たちの影が映る。
何人いるのかな・・・・アタシの知らない子たちみたい・・・
梨華ちゃんが寝ている枕もとで・・・・キャッキャッしてる・・
新しい友達が出来たのかな・・・
部活の後輩か何かなのかな・・・
梨華ちゃんは優しい先輩だから、慕ってくる子も多いんだよね・・きっと・・・
楽しそうだね・・・・
声をかけようかなって思ったけど・・・・
なんかうまく口が開けない・・・・
まっ、いいか・・・・
うん・・・
まだねむいや・・・・
おやすみ・・・・・・・・
- 270 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 11:47
- ・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
どこかで聞いたような声・・・・
あれ、ヨッシー?
うん、ヨッシーだ・・・・・・あの笑い方はヨッシー・・・
で、もう一つ・・・
やっぱ、美貴ちゃんだよね・・・
梨華ちゃんとまた、掛け合い漫才みたいなことしてる・・・・
三人の笑い声・・・・
じゃあ、ここは教室なのかな・・・・
うん、きっと教室なんだ・・・
そうだ教室・・・・・だって、先生たちの声もするもの・・・・・
何の授業?
歴史?・・・・・英語?・・・・
まあ、どっちにしても、アタシのスリーピングタイムには変わりはないから・・
おやすみ・・・・・
- 271 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 12:05
- ・・・・・・・
・・・・
梨華ちゃん?
・・・・アタシの手を握ってるの・・・・梨華ちゃん?
そうだよね・・・・やっぱり・・・
じゃあ、目を開けたら・・・・顔があるんだよね・・・そこに・・・
開けてみよー
・・・・ぼやけてるけど・・・・ぼやけてるけど・・・やっぱ・・梨華ちゃんだ・・・
「ごっちん!ごっちん・・・起きたの?見える?!」
相変わらず甲高い声だね・・・梨華ちゃんは・・・・
どうしたの・・そんなに興奮して・・・・見えるに決まってるじゃん・・・・少しぼやけてるけど・・・・
「ごっちん!ごっちん!」
わかったから・・・・・・
「・・・あ・・・」
あれ、うまく声が出ない・・・・夢の中なのかな・・・・
「・・・・う・・」
梨華ちゃんの握る手が強くなって・・・・アタシのこと揺すってる・・
「・・・あ・・・」
あれ、離れちゃうの?・・・・・どこ行くの・・・・行っちゃやだよ・・・・
あっ、誰か知らない人・・・
アタシのこと色々触って・・・・やだな・・・
眩しいよ・・・・うわっ、口の中とかも看ちゃうわけ?・・・・・
あれ、梨華ちゃんが泣いてる・・・・あっ、お母さんも・・・
「ごっちん・・よかったよ・・よかったよ・・」って、
「真希ー、真希ー・・」って・・・・
なんか騒がしいね・・・・
でもよかったらしいから・・いいけど・・・・
梨華ちゃんがまた手を握ってくれた・・・・
やっぱ・・・・いいよね・・・・これ・・・・
- 272 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 12:26
- 私は、入院二日目には、立って歩くことが出来るようになって、お母さんの付き添いも断わった。
少しお腹に引きつる感じは残っているけど、三日目の今朝からは、おかゆの食事も摂れるようになって、
ベッドで横になって、ごっちんの顔見ているだけじゃ物足りないから、
彼女のお母さんが留守の間は、やっぱりいつものように、彼女のベッドサイドの椅子に腰掛けて、
色んな話をしている。気になっている学校のこととか、今朝のニュースの話とか・・・
でも、長く座っていると、やっぱり少し苦しいから、ベッドに戻ろうかななんて思って・・
その挨拶に、繋いだ手を少し強く握る・・・・少し動いたりしないかな・・この前みたいに・・・
えっ?
ごっちん・・・目・・・開いたよね・・・・今・・・少し・・・ね!
「ごっちん!ごっちん・・・ね、起きた?ねっ、見える?」
彼女の目元が少し笑うように揺れて・・・・
その口が少し開いて・・・
「・・・・あ・・・」
あっ、ね、起きたの・・・・ね・・
「ごっちん!ごっちん!」
「・・・・う・・」
ね、起きたのよね・・・ごっちん・・・・
「・・・あ・・・」
私は慌てて・・・・ナースセンターに駆け込む・・・・
「あの・・ごっちんが・・・後藤さんが・・・あの・・目を・・」
担当の先生と看護婦さんが、急いでついて来てくれて・・・・・
ごっちんの瞳にライトを当てたりして、色々調べて・・・・
「おめでとうございます・・・・覚醒したようです。」
「あっありがとうございます・・・」
買物に出ていたごっちんのお母さんも帰って来て・・・
「真希・・真希・・・よかったね」って
「梨華ちゃんありがとう・・」って、私の手をとって泣いてる・・・
本当によかった・・・・ごっちん・・・よかったよ・・・本当に・・
- 273 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 12:45
- 「これからは、徐々に快復なさいますよ・・・・しゃべろうとする意志もあるようですから・・・・
長いこと使ってませんでしたからね・・・少し時間はかかると思いますけど・・
目覚めている時間もだんだん長くなっていくでしょうし・・・
様子を見ながら、少しずつ検査をしていきますから・・・」
そう言って、病室を出て行く先生に頭を下げて・・・
「それにしても、石川さん、あなたまだ走ったりしちゃいけないでしょ・・
ナースコールってものがあるんですから、ちゃんと・・」
って、看護婦さんにベッドに入るように叱られて・・・
でも、やっぱり寝てなんかいられなくて、うろうろしてたら・・・
ごっちんのお母さんが、看護婦さんに掛け合って・・二つのベッドをピッタリくっつけてくれた。
私は恐縮しながらも、その好意に甘えて・・・
ベッドに入って・・・・布団の下で彼女の手を握る・・・
こうやって、手を繋いで眠るのは・・・・あの海の夜以来かな・・
小さな民宿の六畳の部屋で、四人で雑魚寝して・・・
夜中にごっちんが布団の中で手を繋いできたから・・そのままで寝たら・・
朝起きた時には、私はごっちんの抱き枕状態になってて・・・
先に起きてた美貴ちゃんに・・
「おあついことで・・」なんて、
なんか朝食の間中からかわれて・・・・私が赤くなってたら、ごっちんはムキになって反論してた・・
「朝方寒かったから・・」とか・・
あの日は暑すぎるほど暑い日だったけど・・・・
そんなこと思い出しながら・・・・・
握ってたごっちんの手が、握り返してくれた・・・・これはもう気のせいじゃないんだよね・・・
- 274 名前:1.目覚めの時 投稿日:2004/04/12(月) 12:48
- 短いですけど・・・本日はここまでで・・
- 275 名前:RYO 投稿日:2004/04/12(月) 13:34
- 待ってましたよ。
続き楽しみにしてます。
- 276 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/12(月) 22:29
- 続き、ずっと待ってました
目覚め、その後、楽しみにしてますね
- 277 名前:トーマ 投稿日:2004/04/13(火) 09:28
- >RYO様 ありがとうございます
>名無しさん ありがとうございます
- 278 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 09:45
- 初めは、本当に少しずつだったけど・・・・
ごっちんが目覚めている時間もだんだん長くなって、その顔に表情も少しずつ出てきて・・
言葉も・・・・・
「・・・・り か ちゃん・・」
彼女が目覚めてから三日目に、そう呼んでくれた時は、しばらく涙が止まらなかった。
ごっちんのお母さんは・・
「本当にもー・・・・やっぱり・・梨華ちゃんなんだからー・・」
なんて言ってたけど、もちろんすぐに
「おかあさん・・」
の声も聞けて・・・・やっぱり泣いていた。
一週間もすると、ベッドの背を立てて、少しのおしゃべりは出来るようになって・・・
身体の方も少しずつ動かせるようになってきて、
彼女の記憶や知能に殆ど何の問題もないことがわかって・・・・
「梨華ちゃん・・・・少し大人っぽくなったよね・・」
なんて聞くから・・
「・・・・ごめん・・・・私・・・今、22なんだよね・・・ごっちんはお誕生日過ぎたから・・・23・・・」
「へっ?」
それは、担当の先生からも何度も説明されてたみたいだったけど、
やっぱりすぐには飲み込めないことらしくて・・・
あらためて私は、その年月の重さを感じてしまう。
彼女が失ってしまった・・・五年の歳月・・・・
それはやっぱり取り返しの効かないもので・・・・・
- 279 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 10:03
- 私たちの病室には、毎日誰かが訪ねてきた。
私のお姉ちゃんや、弟・・・それから私の知らなかった・・お姉ちゃんの子供・・・
ヨッシーや、美貴ちゃん、中澤先生、保田先生・・・
それから梨華ちゃんの生徒たち・・
その制服の少女たちが来るたびに
「何・・・テニスの後輩?」
なんて聞いてしまって、
「・・・・・教え子なの・・」
なんて、何か申し訳なさそうに答える梨華ちゃんは・・・確かに少し大人っぽかったけど・・・
何かやっぱりピンとこなくて・・・・
私はまだ自分が、五年も寝てたなんてことが理解できずにいた。
ヨッシーも美貴ちゃんも先生やってるとか、中澤先生が校長になったとか・・・
みんながそう言うから・・・そうなんだろうと思うけど・・・
どこかやっぱり確信が持てないから・・時々トンチンカンなこと言ってしまう。
でも私が、そんなこと言うたびに、梨華ちゃんの顔が曇るから・・・なるべく言わないように気を付けて・・
取り合えず、このままにならない身体を、早く動かせるようにって・・リハビリに集中する。
・・・何か少しでも新しいことが出来るようになるたびに・・
例えば足の指を動かすとか、そんな小さなことでも・・・梨華ちゃんがすごく喜んでくれるから・・・
- 280 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 10:24
- 私がスプーンを持つ事が出来るようになった頃、梨華ちゃんが退院することになって・・・
そう言えば何で入院していたんだろうって聞いたら、
ちょっと怪我したからって言ってたけど・・・・
だから退院するのはおめでたいことなんだろうって思うけど・・・
梨華ちゃんが隣にいなくなっちゃうのは、やっぱり淋しいから・・・
ついつい
「イヤダ・・」って言ってしまう。
梨華ちゃんは困った顔して・・
「毎日来るから・・」って言ってくれるけど・・・
今までずっと一緒だったから・・
「イヤダ、イヤダ・・」とだだをこねる。
「ごっちん・・・子供みたいなこと言わないでよ・・・」
って、言う梨華ちゃんが、少し涙ぐんでて・・・
「真希、いい加減にしなさい・・本当に赤ちゃんみたいなんだから・・」
って、お母さんにも怒られて・・・・
でも、きっと私は・・・・赤ちゃんになっちゃったんだって思った・・・
五年も寝てたんだとしたら・・・・きっとそれで・・・
だってまだ・・・・・ハイハイだって出来ないんだし・・・・・
でもそんなこと言ったら、本当に梨華ちゃんが泣いちゃうだろうから・・・・
私は、この頃・・・自分の怪我の原因を、はっきり思い出していた。
きっとそれで、梨華ちゃんは責任を感じているんだろうなってこともわかって・・・・
梨華ちゃんが退院して、淋しくなった病室で、
お母さんから、五年間、彼女が毎日きてくれたこと、入院費の負担までしてくれたことを聞かされた。
本当にありがたい事だって、お母さんは泣いてた。
そうか、私は眠っていたけど、毎日、梨華ちゃんと一緒にいたんだよね・・
だから・・・それは、きっとこれからもそうなんだって・・・安心して・・・・・
- 281 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 10:46
- 梨華ちゃんは、本当に毎日来てくれた。
学校の終わる五時過ぎから・・・消灯時間の九時まで・・・
土日は午後からずっと・・・
一緒にリハビリに付き合ってくれたり、ご飯を食べさせてくれたり・・
今日あったこと・・それから、私の失った五年間に世の中であった色々なことを、少しずつ話してくれた・・・・
でも、気のせいかな・・自分のことはあまり話したがらないみたいだった。
私は彼女のいない時間も、一生懸命リハビリに励んだ。
体中痛くてしょうがなかったけど・・・・
彼女が来た時に、何か一つでも前の日より出来るようになっていると、
本当に嬉しそうな顔で笑うから・・・
ヨッシーや美貴ちゃんも、短い時間だったけど、よく来てくれて・・・・・
四人でいると、私の記憶の間が抜けてるなんてこと忘れてしまうほど、
みんな高校生のまんまみたいだった。
・・・・ただ、やっぱり・・・髪の色が変わっていたり、きれいにお化粧してたり・・ちょっと太ってたり・・
梨華ちゃんも入院している時は、ノーメイクだったから、あまりそう思わなかったけど・・
お見舞いに来てくれるようになってからは、ちゃんとスーツとか着てて、きちんとお化粧してて、
やっぱり、どこかお姉さんだった。
・・・・そんなふうに思うと・・・
私の中にだんだん苛立ちのようなものが芽生えてきた。
取り返さなきゃいけない・・・失った時間を・・・一人、置いてきぼりをくってる。
早くみんなに追いつかなきゃ・・・早く・・・
そんな焦りの気持ちから・・・・
私のことを子供扱いする梨華ちゃんに・・・・八つ当たりみたいなことして・・・
- 282 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 11:03
- 12月に入って始めた歩行訓練は、それまでと違ってなかなか進歩しないでいた。
立つまでなんともなかったのに・・・・一歩が踏み出せないでいる。
怖くて・・・・なかなか足を前に出すことが出来ないでいた。
そんなある日・・・梨華ちゃんが、
「少しずつでいいからね・・焦らなくて大丈夫だからね・・」
って、くじけてへたり込んでいる私の頭をなでてくれた。
その様子が、本当に小さな子供を扱うようだったから・・・
私はつい・・
「子供扱いしないでよ!・・アタシは梨華ちゃんの教え子じゃないんだから!」
って怒鳴ってしまった。
梨華ちゃんは、
「ごめんね、ごめん・・・そーゆーつもりないんだけど・・・ごめんね・・」
って・・・ただ謝ってて・・・・そんな彼女になおさら腹が立ったから、
「もー帰ってよ!梨華ちゃんの顔なんて見たくない!」
なんて言ってしまった。
彼女は何にも反論しないで、本当にすまなそうな顔して・・本当に帰ってしまった。
そのドアから出て行く背中を見送りながら・・・
私はすぐに自分の言葉を悔やんだけど・・・でもその時はまだ、腹立ちが残っていたから・・・
- 283 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 11:25
- 次の日、五時が過ぎても・・彼女は現れなかった。
六時になって、食事の時間が終わっても・・・
私は昨日の自分を呪ったけど、
まさかあんなこと真に受けて、梨華ちゃんが来なくなるなんて思えなくて・・・
時計ばかり見ていた。
もしかしたら、私は大きな間違いを犯してしまったんだろうか・・・
秒針の音が大きく響いて・・・分針が少しずつ角度を変える。
梨華ちゃんが来ない・・・・もしかしたら、この先ずっと・・・
だって私が、顔を見たくないって言っちゃったから・・・・
あんなの本気にしちゃったのかな・・・
私、この頃ずっとイライラしてて、わがままで・・・
だから、もう付き合いきれないって思っちゃったのかな・・・・
梨華ちゃんが来ない・・・・
毎日来てくれたから・・・彼女が来るのは当たり前で・・・
彼女が私に構ってくれるのは当然で、彼女が側にいてくれるのは・・・・・
でももしかしたら・・・それって大変なことなんだよね・・・
彼女には彼女の生活があって・・・ちゃんと毎日働いていて・・・・
それなのに毎日来てくれて・・・私のわがまま聞いてくれて・・・
それって本当は、とっても大変なことなんだよね・・・・
自分の生活の中から梨華ちゃんがいなくなるなんて・・今まで考えたこともなかったけど、
それはここでのことだけじゃなくて、彼女と友達になったその日からずっと・・
そんなこと想像さえしてなくて・・・・
でも・・・・よく考えてみたら、彼女はもうすぐ23になる社会人で、
もしかしたら恋人とかもいたりして・・・
いつまでも私なんかに構ってられるわけもないし・・・・・
- 284 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 11:37
- ・・・・・・
だけど・・・だけど梨華ちゃん、私・・・やっぱり考えられないよ・・・
梨華ちゃんが私の前からいなくなるなんて・・・
ムリ・・・・全然ムリ・・・
時計は無常に時を刻む・・・・・もうじき七時も回る・・・
やっぱ・・・そんなのムリ・・
そうだ電話しよ・・電話して謝っちゃお・・
昨日の言葉はみんな嘘だって・・・取り消さなきゃ・・
毎日・・ううん・・・一日中だって・・ずっと梨華ちゃんの顔が見ていたいって・・
そう話さなくっちゃ・・・お願いだから・・顔見せてって・・・
私はベッドサイドに置かれた車椅子に・・身体を引きずり落として・・
ナースセンターの前に置かれてる公衆電話に急ぐ・・
この時間は、お母さんも家に帰ってるから・・押してくれる人もいなくて・・
結構大変なんだけど・・・・でも・・早く電話しなくちゃ・・
梨華ちゃんの携帯・・・・・・
・・・・
繋がらない・・・
繋がらない・・・
電源が切られてる・・・
どうして・・・・どうしてなんだよー!
- 285 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 11:53
- ・・・・・・
「ごっちん・・どうしたの?こんなところで・・」
私は受話器を置いて・・・あっ、梨華ちゃんの声だよね・・・これ・・後ろから・・
「だって・・・電話繋がらない・・・」
なんてマヌケなこと言ったりする・・・すぐに謝らなきゃいけないのに・・・
「えっ私?・・・・・だって・・ここ病院の中だもの・・・携帯の電源・・きらないとね・・でしょ・・」
梨華ちゃんは笑って、私の車椅子をくるっと回して・・・
「あれ・・どーしたの・・泣いてるの?」
って・・・・・私・・いつの間にか泣いてたんだよね・・もしかしたら病室からずっと・・
「どこか痛い?」
なんてアホなこと聞くから・・つい・・
「梨華ちゃんのバカ!」
なんて悪態をつく・・
「あっごめん・・遅くなっちゃって・・・・もしかして怒ってた?」
「うん!」
怒ってなんかないけど・・・怒ってなんか・・・
「ごめんね・・・・あのね・・ちょっと中澤先生と話してて・・
ね、部屋に戻ろうか・・・話あるから・・・・」
そういいながら、私の車椅子を押して部屋に向かう・・梨華ちゃん。
私がベッドに戻るのを手伝ってくれて・・・・丁寧に布団をかけてくれて・・・
- 286 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 12:13
- 「あのね、今日・・中澤先生とも相談したんだけどさ・・
ごっちん・・・大学・・行く気あるかな?」
「へっ?」
「大学・・・・ウチのね・・大学・・」
「どーゆーこと?」
「・・・あのね、ごっちんの成績なら・・・問題なく内部推薦出来るみたいなのね・・
あの時点で・・単位も充分らしいし・・・だから・・退院したら・・四月から・・
それに・・特待生みたいなものがあるらしいのよ・・・
これは中澤先生の方からごっちんのお母さんに相談してみるって・・・
その・・・なあに・・学費免除みたいなことも出来るみたいで・・・・
これはさ、私の勝手な考えなんだけど・・・
やっぱり、すぐに社会に出るのって・・・大変だと思うのね・・・」
「ああ・・うん・・」
「だから、少し色々考える時間を持つためにも・・・・学校に行った方がいいかなって・・・
でも、ごっちんが嫌なら・・いいんだけど・・・ほら、せっかく勉強してたじゃない・・大学行くんだって・・・」
「・・・そのこと・・話してて遅くなったの?」
「うん・・・色々・・成績とか・・履修単位とか調べてもらったり・・」
「そーなんだ・・・・・
アタシ、てっきり・・・昨日の事、怒っちゃって来ないのかと思ってた・・・」
「えっ?・・・そんなことあるわけないじゃない・・
でも、本当に顔が見たくないんだったら・・仕方ないけど・・」
そんなことを、少しからかうように言う梨華ちゃん・・悔しいから・・
「バカ!」
「えっ?」
「なわけないじゃん・・バカ!」
「もー、さっきから・・バカバカ言わないでよ・・」
- 287 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 12:30
- 「だって・・・すごく怖かったんだもん・・・
梨華ちゃんが来ないんじゃないかって思って・・・・」
「バカ!・・・ごっちんの方がよっぽどバカじゃない・・・
やっぱり、これはもーちょっと勉強した方がいいな・・・で、どーする?」
「大学?」
「うん・・」
「・・・・少し考えてみる・・・行きたいことは行きたいけど・・・アタシ・・23なんだよね・・」
「・・・うん・・」
「だとしたら、27になんだよね・・卒業するの・・」
「・・・・うん・・」
「じゃあ、やっぱり少し考えてみる・・」
「そーね・・・大事なことだから・・焦って決めなくてもいいけど・・・ねえ、ごっちん・・」
「う?」
「ごっちんはまだ・・・どんな可能性だって持っているんだからね・・」
「あーあ・・」
「将来のこととか良く考えて・・・まだどんな道だって・・・選べるんだからね・・」
「・・・うん・・・少し年食っちゃってるみたいだけど・・・」
「ごめん・・・それは・・」
「あっ、梨華ちゃん・・・そーゆー意味じゃないから・・・
でも、やっぱ焦ってる・・だからイライラしてて、あんなこと言ったりしちゃった・・」
「・・・気にしてないから・・・」
「・・・考えるよ・・・ちゃんと・・・考えてみる・・・」
そうなんだ考えなきゃいけないんだ・・早くここから出ることを・・早く社会に復帰することを・・
早く一人で歩けるようになることを・・・・
一人で・・・やっぱりそうなんだよね・・・・・一人で歩かなきゃいけない・・
いつまでも梨華ちゃんに頼ってちゃいけないんだ・・・
けどね・・・・だけどね・・・・
- 288 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 12:42
- 梨華ちゃんには、私の不安がわかっちゃうのかな・・・
「ごっちん・・私なら・・・ごっちんがいいって言うまで・・・しつこくここにだって来るし、
そのあともね・・・・邪魔だって言われるまでしつこくね・・・ちゃんと側にいるから・・・・」
「梨華ちゃん・・・・」
「ほら、私・・・ずっとそーだったじゃん・・・最初話した時からずっと・・・
しつこくてさ、ごっちんの迷惑顧みずって感じで・・・・・」
「・・・・迷惑なんて・・思ったことないよ・・」
「えっ?」
「一度も、一度だってそんなふうに思ったことないから・・・」
私は、怒ったように答える・・・そんな私の無愛想な顔に、
梨華ちゃんは優しく微笑みかけてくれて・・・
「そー・・なら、良かった!」
「うん・・」
そう、一度だってそんなふうに思ったことはない。今だってこれからだってきっと・・・
でも、彼女のこの好意ってやっぱり・・・責任感からきてるものなのかな・・・
でもいい・・今はそれでもいい・・・
甘えよう・・・それならそれで・・・だって、私にはやっぱり必要だから・・
梨華ちゃんが・・・・
- 289 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 12:53
-
間近に形のある目標を置いたことがよかったのか、
ごっちんの身体は、それから目覚しい勢いで快復して・・二月には退院出来ることになった。
中澤先生とお母さんとの話し合いもスムーズにいって・・
学校からは充分な見舞金を頂いてるからという、学費免除の辞退を、
卒業後は教職について、この学園に貢献してもらうという条件で納得してもらって、
それがごっちんの意志とも合致して・・彼女はウチの大学の教育学部に進むことになった。
「アタシ、梨華ちゃんたちと一緒に先生になる!」
なんて、まるで小学生みたいに明るく言ってもらったときは、本当に嬉しくて・・・
それはたぶん・・・その何年後かにまだ・・彼女が側にいてくれるということが約束された・・・
そう思えたからなんだと思う。
- 290 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 13:07
- 二月の初めに、退院することになった。
身体は殆ど元に戻って、週に一度、通院すればいいだけになって・・・
私は家に帰る・・・私の家・・・あの下町の懐かしい家・・・・
退院は本当に嬉しかった・・・だけど・・・
毎週水曜日と決められた通院日には、梨華ちゃんと病院で待ち合わせして、
というか、待っててくれて、家まで送ってくれて・・・
土曜日には・・お昼過ぎからウチまで来てくれて・・
日曜日には、一日、これもリハビリだからなんて、渋谷や原宿で買物したり、映画を見たり、
天気のいい日は、まだ花には早い公園を散歩したり・・・デートみたいに・・・
そんなふうに過ごしてくれるけど・・・だけど・・・
会えない日はメールをくれるし、眠れない夜は電話で付き合ってくれる・・・だけど・・
私は家にいる時は、お料理を作ったり、家事の手伝いもしたけど、
殆どの時間を勉強して過ごした。
やっぱり少し頭がボケてるから、このままじゃ大学の講義にはついていけないと思うし、
お情けで入れてもらったみたいにはなりたくなかったから・・・
だから、ヒマをもてあますとか、そんなことはなかったけど・・・・
だけど・・・・
- 291 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 13:27
- 順調に進んだリハビリのおかげで、ごっちんの退院は少し早まって、
二月の初めにはその日を迎えた。
私が学校を終えて、病院に駆けつけた時、
彼女は大勢の看護婦さんやお医者さんや、リハビリ仲間の人たちに囲まれて、
きれいな花束を受け取っているところだった。
その顔は、少女のように華やいでいて・・・
私はその場に近づけずに、入口の所に立ったままで、しばらく見とれていた。
そんな私をごっちんが見つけて、はじけるように笑ったと思ったら、いきなり駆け出して、
・・・まだそんなこと・・・大丈夫かななんて心配してる私の前に、飛びつくようにやってきて・・
「ハイ!」
って、その手の大きな花束を差し出す。
「えっ?」
「これ、梨華ちゃんに・・・」
「だって、それ・・みんながごっちんに・・・」
「だから・・アタシから梨華ちゃんに・・・」
戸惑う私に、婦長さんが、
「これは石川さんにとっても、退院なのよね・・」
って、拍手をする。続けて、他の看護婦さんたちも・・・拍手が一段と大きくなって・・・・
ごっちんのお母さんや、お姉さんも笑ってて・・・
私はすごく照れくさかったけど・・
「ありがとう」って、それを受け取る。
そうなんだね・・きっと・・・このごっちんの退院は、私にとっても同じ意味があって、
五年の歳月で、ここにいる全ての人と家族みたいに親しくなってたし・・・
- 292 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 13:44
- 「後藤さんは、まだしばらく通院してもらうけど、石川さんもたまには顔見せ手てよね、
まあ、この前みたいのは、困るけどね・・」
「あ、はい・・」
「大丈夫、アタシが来る時は、必ず付き合わせるから・・・ね、梨華ちゃん!」
「あ、うん・・」
「こら、いつまでも甘えてんじゃないの!」
って、ごっちんがお母さんに叱られて・・・子供みたいに舌を出してる・・
私たちは、名残惜しげに見送る人たちと別れて、
ごっちんの弟のユウキ君が友達から借りてきたという、ワンボックスの大きな車に乗り込む。
一番奥の座席で隣り合って座る私の手を握るごっちんが、
「本当に・・・・付き合ってよね・・病院・・・」
なんてぽつっと言って・・・・
「・・・・・水曜日よね・・いつもより早く終わるから・・・病院に迎えに行けるかな・・
お家まで送るけど・・・・・来る時はどーしよっかー」
「・・・・一人で大丈夫だよ・・もー・・」
「本当?」
「うん、全然平気・・・・もう走ったりも出来るし・・」
「電車・・・・間違えないでね・・」
「通学してたのと同じなんだから・・・そんなバカになってないよ・・・いくら頭打ったからって・・」
「そーよね、でも電車で寝過ごさないでよね・・」
「うぁ、それはあるかも・・・」
「でしょ、やっぱさ、誰かに送ってもらった方がよくなあい?」
「それは・・・ダメ・・・」
「どーして?」
「せっかくなのに・・・二人でいられなくなる・・・」
「・・・・あっ・・うん・・」
「ちゃんと起きるから・・・一人で来れるから・・・」
「・・・・・」
- 293 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 13:59
- 「・・・でさ、他の日は?」
「えっ?」
「その・・・・病院じゃない日・・・・ウチ・・・やっぱ遠いよね・・・」
「あっ、土曜日にはお邪魔する・・・三時頃になっちゃうかな・・」
「ホント!」
「うん、で、日曜には・・・・・デートしよっか・・」
「へっ?」
「リハビリにもなるって、先生も言ってたし・・・普通の女の子が行くような場所・・・
あっちこっちね・・・私の行きたい所に・・付き合わせちゃうの・・・」
「あっ、うん・・」
「イヤ?」
「そんなわけないじゃん・・・・・でもさ、ホラー映画は勘弁ね・・それから絶叫マシーンも・・・」
「ああ・・・ダメだったよね・・ごっちん・・そーゆーの・・見掛け倒しに・・・」
「梨華ちゃんが、見かけと違い過ぎんだよ!」
「そーおー・・かな・・・でも、いいよね・・そんなんで・・」
「うん・・・じゃあほかの日は・・・」
「えっ?・・・・・メールする・・」
「だけ?」
「電話する・・・」
「・・・・」
「・・・・ごっちんが夜遊びとか出来るようになったら・・・ほら、大学通うようになれば、近くだから・・・
そーしたら、みんなでノミにも行けるし、カラオケとかね・・・」
「・・・うん・・」
「ヨッシーと美貴ちゃんも楽しみにしてる・・・何気に中澤先生も・・・」
「えっ?」
「ごっつあんと飲み明かすって・・・」
「はー・・・」
「でも、ほら、少しずつね・・・・そーゆーのも・・・・」
- 294 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 14:18
- 「うん・・・・でも・・・・やっぱり淋しいかな・・・」
「何が?」
「・・・・毎日会えなくなる・・・」
「あっ、うん・・・」
「今まで・・毎日会えたのに・・」
「・・・・・・メールする・・」
「毎日来てくれたのに・・・」
「・・・・・・電話する・・・」
「・・・・・・我慢する・・・」
目覚めてからのごっちんは・・・少し子供っぽくなっていた。
前から時折やけに幼さなげなところとかあったけど、それって普段は隠している部分で、
表面上は、どっちかって言うとクールで、マイペースで・・・私なんかより遥かに頼りになって、強くて・・
だからこんなふうに思いっきり甘えられると、少し困惑するけれど・・・
考えてみれば、五年間も眠っていたのだから・・・・精神年齢がそこで止まっているのは仕方ないこと・・・・
それはやっぱり、私のせいだから・・・私はなるべく甘えさせてあげる。
それにそれは、私にとっても心地よい関係で・・・
この間・・ヨッシーがこんなこと言ってた・・
「ごっちんは、生まれたての雛みたいなものなんだね・・で、親鳥は梨華ちゃん・・・
目覚めた時に最初に見ちゃったからね・・・・そーゆーものらしいよ・・
最初に見たものを親と思い込むんだって・・・動物はみんな・・」
ごっちんは雛で、私が親鳥・・・・だからいつか巣立つ日がくるのだろうけど、
でも、それまでは必要としてくれるのだろうから、私はそれで構わないと思った。
どんなふうな思いから、ごっちんが私に執着しているのだとしても、それが執着である以上、
私には嬉しいことに違いはないのだから・・・・
- 295 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/13(火) 14:30
- そう、たぶん本当はあなた以上に私はあなたを必要としている。
私の方がよりあなたに執着している。
自分でも時々怖くなるくらいの強い思いで・・・・
でも、そんな感情に名前をつけることは、やっぱり臆病な私には出来ないから・・
だから、あまり深く考えないようにしてる。あまり考えないようにして、
あなたの甘えに応える形で、今の関係を繋いでいる。
ごっちん・・・・私だって会いたいんだよ・・毎日・・
でも、毎日あなたの家まで押しかけたら、やっぱり普通にご迷惑でしょう・・・
それにね、私はなるべく長い期間・・・あなたとのこの関係を続けたいと思ってるの・・
だから常識的な範疇で・・・お互いの生活をきちんと守りながらの常識的な関係・・・
たぶん非常識な感情を持ってしまっている私が、そんなこと言うのもおかしいけど・・・
でも、今ならまだ充分に・・・・
友情と言う美しい言葉で、括れる関係なのだと思うから・・・
- 296 名前:トーマ 投稿日:2004/04/13(火) 14:31
- 本日は・・この辺で・・
- 297 名前:名無し 投稿日:2004/04/13(火) 21:14
- 大量更新お疲れさまです!!
大変だと思いますが、頑張って下さい。
影ながら応援しています!!
- 298 名前:みっくす 投稿日:2004/04/14(水) 06:39
- 続編更新おつかれさまです。
続編楽しみにしておりました。
がんばってくださいね、楽しみにしております。
- 299 名前:トーマ 投稿日:2004/04/15(木) 09:29
- >297名無し様
>298みっくす様
ありがとうございます。時間のある限り頑張りたいと思ってます。
- 300 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 09:53
-
私はたぶん・・・・・梨華ちゃんに甘えてる。
五年のハンデに甘えてる。
梨華ちゃんの責任感に甘えてる。
・・・・でも、今はまだそれでいいと思った。
土曜日の午後は、明日のデートの計画を立てて過ごす。
遠慮する彼女をムリムリウチの夕食に付き合わせる。
もちろん、私が作るそれを、美味しい、美味しいって食べてくれるから・・・
彼女は、すっかり私の家族とも馴染んでいて、私の幼い姪なんかとも遊んでくれて、
お母さんは、娘が一人増えたみたいだって喜んでいるし、
お姉ちゃんは、アンタよりずっとかわいいって、半分マジに言ってるし、
弟は、ちょっと目つきがヤバイから、なるべく近づけないようにしてるけど、そんなヤツにも梨華ちゃんは優しくて、
だから泊っていけばいいのにって、いつも言うけど、九時前にはやっぱり帰っちゃう・・・
でも明日があるから、土曜日は素直に見送れる。
だけど・・・一日遊んで、私を必ず送ってくれる日曜の夜は・・・・
やっぱり帰したくなくて・・色んな事言って引き止めるけど・・・
「ごめんね」って言って帰ってしまう・・・・・
だから私は、次の水曜日に会うためだけに、新しい週を迎える。
彼女が授業していると思う時間は、なるべく勉強に集中したりして、休み時間に返って来るメールを待つ。
そのうち慣れると思ったそんな生活に・・・・・やっぱりあんまり慣れなくて・・・
会いたいよ梨華ちゃん・・・
毎日でも・・一日中でも・・・ずっと側にいて欲しい・・・
そんな自分の感情が、たぶん恋なんだって気づいてる・・・・
おかしいかな・・・それって・・・
- 301 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 10:13
- 私は、あの眠りにつく前から・・・
ううん、初めて出会ったあの入学式の日から・・・本当は彼女に恋をしてた。
それは、女子校だから、あまり珍しくもないことだったし・・・
ほら、私だって色んな子から、告られたし・・・梨華ちゃんだって・・・
だから、友情とかとあまり変わらない感情だって思ってて・・・
だけど、梨華ちゃんがどんどん私の中で大きくなって、私は正直、ヨッシーや、美貴ちゃんにさえ、嫉妬していた。
だから、あの男がやったこととか本当に許せなくて・・・
たぶんあの時、アイツに殺されていたとしても・・・ちっとも後悔しなかったと思う。
そんな感情が、今はもっと大きくなってる。
それってただの依存なんだろうか・・・・
お母さんが言ってたみたいに・・・生まれたての赤ちゃんが、母親に甘えるような感情なんだろうか・・・
梨華ちゃんはたぶん・・・責任感が強くて、友情に厚くて、誰にでも優しすぎる人だから・・・
だから、こんな私に付き合ってくれてて・・・・
私が思う気持ちと、彼女の気持ちでは、きっと全く意味が違うんだろうけど・・・・
でも、それでもいいと思ってた。
どんな気持ちからでも、彼女が側にいてくれたなら、それだけでいいと思ってた。
だから、三月の初めの・・・晴れて暖かな日曜日・・・・
「ねえ、ごっちん・・・・一緒に暮らしてみない?」
って言ってくれた時には、本当に嬉しくて・・・人目がある公園なのに、
飛びつくように抱きついて・・・子供みたいにピョンピョン跳ねたりした・・・
躍り上がるような気持ちを抑えきれずに・・・
- 302 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 10:33
-
二月の終りのある日、中澤先生に校長室に呼ばれた。
「石川・・・四月からは、正規採用にするから・・」
それは嬉しいはずの言葉だったけど・・・
「担任も持ってもらうし・・・もちろん部活の顧問もな・・・」
「・・・ええ・・」
「アヤッペもな、料理研究会の申請が出てるからな、そっちに専念したいやろし、
やっぱり、テニス部もな、いつまでも亀井だけっちゅーのもマズイやろ・・」
「はー・・」
「アイツのな、全国も見えてきたみたいやし、そーなったら、遠征とかもいかんなあかんやろし・・」
「・・・はい・・」
「ええな・・・何や、都合悪いんか?・・・・もう、病院かて、行かんでいいんやろから・・・別に問題ないやろ・・」
「はい・・わかりました。ありがとうございます。よろしくお願いします・・」
中澤先生からのこの提示は、私にあることを決意させた。
これより少し前、私は姉からある相談をされていた。
それは、この四月からの義兄の海外赴任が決まり、せっかく買ったばかりのマンションの部屋を空ける事になるから、
そこを留守番代わりに、私に使わないかと言うものだった。
「梨華、アンタもそろそろ親離れしなくちゃ・・・管理費だけ払ってくれればいいから・・
赴任期間が決まってないから・・他人に貸すわけにもいかないし・・・」
「うん・・・魅力的な話だけど・・・結構広いよね・・掃除とかでも大変そう・・」
「まあね、なるべくきれいに使って欲しいけど・・・・友達とでもシェアしたら・・・
なんなら、彼氏とかでもいいけど・・・・ああ、それはお父さんが許さないか・・・」
「そうね・・・・考えてみる・・」
- 303 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 10:46
- この姉の提案を受けよう・・・・
それで、そこにごっちんを誘ってみよう・・
一人暮らしには、ちょっと広すぎる部屋は、
そうじゃなくても家事の苦手な私には、少々もてあましぎみだし・・
あそこなら、私の学校も、それに隣接している彼女の通うことになる大学も近いし、
彼女がまだ時々は訪れなければならない病院にも・・・
そこまで、片道一時間半以上かかる彼女の自宅より、遥かに便利なわけで・・・
そんな理由付けを一生懸命考えて・・・・
渋る父を、姉が説き伏せてくれて、何とか決まった独立に、
ごっちんを誘おうかと思うと言った時、両親はかえって喜んでくれた。
一人暮らしは、何かと危険だという父と、
アンタ一人じゃ、自炊もままならないだろうと心配していた母が、
ごっちんのお母さんを説得してくれて・・・
姉夫婦が、ロサンゼルスに出発する四月からの同居は、思いのほかすんなり決まった。
- 304 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 11:16
- そんな中、本物の高等部の卒業式の翌日、私たちは四人だけの卒業式をしてもらうことになった。
最初に、美貴ちゃんからその話を聞いた時は驚いたけど、
考えてみたら、ごっちんはもちろん、私たちも式には出ていなかったわけで、
それに、彼女の大学進学のためにも、そう言う区切りは必要なんだと思った。
ただ、ごっちんが、どうしてもみんなで制服を着ると言った時には、さすがに少しどうかと思ったけど、
三人で相談して・・・誰も見てないからいいかなんて、結局それに同意した。
「なんか、ものすごーく、なんちゃって高校生なんですけどー」
って、箪笥の奥から引っ張り出してきた制服に、美貴ちゃんが照れて、
「アタシなんか、スカートのフックとまらない・・・」
って、マジに困ってるヨッシーのスカートを安全ピンでとめながら、四人で笑いこけた。
「さすがに・・ちょっとね・・」
って、更衣室を出るのを戸惑う私たちに、
「似合ってるよ・・全然大丈夫・・」
って、ごっちんがはしゃいで・・・確かに不思議なくらい、ごっちんは似合っていたけど・・
こんなところ、生徒たちには、絶対見せられないよね・・
中澤先生も保田先生も、そんな私たちの姿をからかって、笑っていたけど、
式に入ると、それなりにみんな神妙な顔になって・・・
それぞれの家から持って来た卒業証書を、あらためて中澤先生から頂いた。
一人一人の証書が丁寧に読み上げられて・・・
何かやっぱり感激してしまって、四人ともやっぱり泣いてしまった。
何も言ってなかった私の母が、ごっちんのお母さんと一緒に来ていたのは、
さすがに照れたけど、涙しているごっちんのお母さんの手を、ウチの母がとっている姿は、
また別の感激を私たちにもたらした。
保田先生の用意したデジカメに恥ずかしがりながら、
でもなんだかんだ言って、最後の方はノリノリで、ブリッコポーズを決めたりして、
何十回もシャッターが切られた。
- 305 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 11:39
- 「さっ、もういい加減、恥ずかしいから着替えよ・・」
なんて、更衣室に戻ろうと、渡り廊下を歩いていると、
ヨッシーに「梨華ちゃん、ちょっと・・」って、手首をとられた・・
ニヤニヤ見送る美貴ちゃんと、ぽわっと口をあけているごっちんをその場に置いて、
体育館の裏に連れて行かれた。
「ね、どーしたの?」
「うん、こーゆーのは、やっぱ・・体育館裏が定番でしょ・・」
なんて、ヨッシーが妙に納得してて・・
「だから・・何が?」
「うん、いいから・・・そこに立ってて・・」
ヨッシーは、私を向き合う形に立たせると、少し後ろに下がって・・
「石川梨華さん・・」
「へっ?どーしたの・・あらたまっちゃって・・」
「もー、いいからちょっと黙って、聞いててよ・・」
「あ・・・うん・・」
「・・・・石川梨華さん・・・アタシは・・ずっとあなたのことが・・・・・好きでした・・」
「は?」
「は?じゃなくて・・・・これでも結構マジなんだから・・」
「・・あっ・・はい・・」
「・・・・アタシは・・ずっと・・たぶん中等部の生徒会やってた時から・・梨華ちゃんのことが好きだったと思う・・」
なんて、本当に真面目な顔して言っちゃうヨッシー・・
だから、私も・・真面目に答えるべきなんだよね・・
「あ・・・ありがとう・・・私はヨッシーのこと・・・
私はあなたに・・ずっと助けられてた・・ずっと支えてもらっていた・・
大切な友達だって思ってる・・・・これまでずっと・・出来たらこれからも・・」
「・・うん、わかってる・・・いいんだ・・一度、ちゃんと言とかなきゃって、思っただけだから・・
アタシがちゃんとココを卒業するためにね・・・・」
「あ・・うん・・本当にありがとう・・・私、ココでヨッシーに会えて、本当によかったよ・・」
「こちらこそ・・・梨華ちゃんに会えてよかった・・
それから、これ気にしないでね・・・このもう似合わない制服脱いじゃったら、
きちんと終りになることなんだから・・・」
「・・・・・」
- 306 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 11:51
- 「あ、友達はね、ずっと変わらずそーだから・・たぶん一生・・」
「うん、本当にありがとう・・・・これからもよろしく・・」
「よろしく!」
私たちは握手をする・・・・それは、これからも変わらない友情の約束。
ヨッシーのその告白は、私にとっては、まったく思いもよらないことだったけど、
彼女のそのあとに続けた言葉の意味はよくわかった。
制服と一緒に脱ぎ捨てる思い・・・・・
女子高生だから許された幼い淡い思い・・・・
私が今もごっちんに抱く思いは、それとは違うものなのだろうか・・・
それとも、止まっていた時が、動き出せば、それと同じものだと気づくのだろうか・・・
同じものであったなら、それが一番イイコトなのだろう・・・・だけど・・・
「さっ、アタシたちも着替えよ!・・・もー、いい加減苦しくてさ・・」
「ああ、うん急ごうか・・」
「おー、急ご・・今日はフルコースらしいから・・」
「フルコース?」
「うん・・・焼肉、カラオケ、居酒屋・・・それから・・」
「えっ、まだあるのそれ以上・・」
「うん・・朝までらしいから・・・」
「・・・はあー・・」
「ほら、覚悟を決めて・・・」
- 307 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 12:07
- なんちゃって女子高生の私たちが、本物と決定的に違うのは、
もう立派な大人で、合法的にお酒が飲めること・・・
さんざん盛り上がったカラオケのあとの居酒屋に、
目がすわり始めてる、中澤先生と保田先生を置いて、私たち四人はファミレスに避難した。
「もーいくらなんでも付き合いきれないよね、あの酒豪たちには・・」
「うん、やっぱり年季が違うよ・・」
「そりゃそーだ、なんてったって、アタシラはさっきまで制服着てたわけだから・・」
「だよねー、なんだかんだ言って、結構似合ってたもんねー・・」
「そーおーかー・・やっぱさ、かなり無理あったんじゃない・・」
「そーよ、あのさっきの写真・・公開でもされたら、すました顔して、教壇なんかに立てないもの・・」
「だねー・・」
なんて、たわいのない話で笑う・・・
「・・・・でも、よかったよね・・・・本当に・・・ごっちんがさ、戻ってくれて・・」
突然しんみり、そんなことを言い出す美貴ちゃん・・
「うん・・マジ良かったよなー・・」
「うん・・・」
「これで、アタシもやっと結婚できるし・・」
「「 えー!!」」
「あっ、梨華ちゃんとごっちんには、まだ話してなかったっけ・・」
「うん・・初耳・・彼氏いるのは知ってたけど・・・やっぱりあの人?」
「うん・・もうちょっとしたら、招待状送るから・・・ジューンブライドにするの・・
もう式場の予約とか済ましたし・・・」
「そーなんだ・・おめでとう・・」
- 308 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 12:25
- 「・・・もしかして・・アタシのこと待ってたの?」
「そーだよ・・ごっちんが良くなるの待ってたんだ・・やっぱさ、みんなに祝ってもらいたいでしょ・・」
「そっか・・・なら、本当に良かったってわけだ・・
いつまでも寝てたら、美貴ちゃんに恨まれるところだったんだね・・」
「そーだよ・・アタシだって、中澤先生たちみたくなりたくないからさ・・」
「だね・・」
「・・・・でも、みんなそーゆー年頃なんだね・・・知らぬ間に・・・」
ごっちん・・・・ごめん・・
「じゃあさ、ヨッシーとかもやっぱいたりする?彼氏?」
「・・・ああ、安心して・・アタシはこれから・・・さっき失恋したばっかだし・・」
「へっ?」
ごっちんは、マジに不思議そうな顔して、そんなことをさらっと言っちゃうヨッシーを見てる。
恥ずかしいから、それ以上のことは言わないでよね・・って思ってたら・・
「それより、梨華ちゃんとごっちんもいよいよ同棲しちゃうわけよね・・」
なんてこと言い出すから・・
「・・同棲とか言わないでよ・・・一緒に住むだけ・・」
「それを同棲ってゆーんじゃないの・・」
「それ、違うから・・・同居・・・ルームメイト・・」
「ふーん・・違うんだ・・」
なんて、美貴ちゃんまでにやけてからかうから、
「いいじゃん・・どっちだって・・」
って、ごっちんが赤くなっちゃってて・・・
ヤダなこの二人・・・そんなふうに思っているのかな・・・
確かに私はごっちんが好きで・・たぶんごっちんも私のこと嫌いじゃない・・
だけど、やっぱりそういうんじゃないから・・・
というか、そんなふうになったら・・・困るから・・・
- 309 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 12:49
- 私たちは・・・決して、そういう関係じゃない・・・・と思う・・・
ごっちんとは・・一度だけキスをした・・・
でもあれは・・・そういうことじゃ決してなかった・・・・と思う。
あの日・・・・あの男に乱暴されたあの日・・
私はあんな事された自分を、汚れてしまった自分を、みんなの前に立たせておくことが出来ずに、
早く帰ってくれるよう、お願いした。
でも、ごっちんだけは、どうしても帰らないって・・ついているって言って・・
私は絶えられなくて・・・
ごっちんを自分の部屋に残して・・・シャワーを浴びた。
そんなことで、洗い流せるものじゃないけど・・・あちらこちらに痛みの残る身体を何度も洗って、
何度も歯を磨いて、何度もうがいして・・・・
それでも、彼女に顔を見せられなくて・・・・戻った部屋で、背中を向けて座ってた・・・
ごっちんは・・・・そんな私を背中からそっと抱きしめてくれて・・・・
その優しさと、自分の不甲斐なさに泣いている私に・・・
「梨華ちゃんは、きれいだよ・・・きれいなままだよ・・」
って、正面に廻ると・・・・
優しく・・本当に優しく・・私の痣を残した頬にくちづけてくれて・・・
それから・・・・少し傷がついている・・・唇に・・・
ごっちんはたぶん、私がどんなことをされたのか・・・みんなわかっていたんだろうと思う・・・
私の唇の隙間に舌を入れて・・・あの男の感触の残る口の中を・・・
まるでその汚れをぬぐい取るように・・ゆっくりと、優しく・・・
それから・・・首筋から、胸に・・・あの男が残した跡をたどって・・・
それはまるで神聖な儀式か何かのようで・・・
私は彼女のなすがままに身をゆだねていた。
「梨華ちゃんはきれいだよ・・」
そう、何度もつぶやきながら、丹念に丁寧に・・・まるで壊れ物を扱うように・・
私の身体にくちづけを落としてくれたごっちん・・・
- 310 名前:2.双葉の時 投稿日:2004/04/15(木) 13:00
- 私の涙が止まるのを待って、ベッドに寝かしつけてくれながら・・
「アタシは・・・・梨華ちゃんが好きだよ・・ずっと変わらずに好きだよ・・」
って、彼女は言ってくれたけど・・・
あの行為自体には、それ以上の意味はなかったんだと思う。
あれは、あの男の穢れを私の身体から、拭い去るための、神聖でさえある儀式。
私を落ちた穴の中から救い出すために、差し伸べられた救いの手・・・・
あれは、彼女の優しさ・・・
それ以上でもそれ以下でもない・・・・友情の証・・・・
もし、ごっちんがあの時・・・ああしてくれていなかったら・・・
私は羞恥心で、あれっきり人前に出て行くことが出来なかったかもしれない。
自分の肉体を蔑んで、立ち直ることが出来なかったかも知れない。
だから・・・・だけど・・・
- 311 名前:トーマ 投稿日:2004/04/15(木) 13:01
- 今日はココまでにします。
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/16(金) 00:20
- 更新お疲れさまです。
続編、めちゃくちゃうれしいです。
二人はこれからどんな答えをだしていくのでしょう??
楽しみにしています。
- 313 名前:名無し 投稿日:2004/04/16(金) 19:59
- 続きがメチャメチャ気になります!!
梨華ちゃんとごっちんの想いが繋がって欲しいです。
続き頑張って下さい!!
- 314 名前:@ 投稿日:2004/04/16(金) 20:54
- 最近まったく時間が無くて飼育に来れずにいましたけど
はじまってたんですね。まさか続編が読めるなんて夢にも思っていませんでした。
なんか胸が高鳴ります。泣きたくなります。
続き楽しみです。
- 315 名前:トーマ 投稿日:2004/04/30(金) 09:38
- >312 名無し飼育様
>313 名無し様
>314 @様
暖かいレスありがとうございます。
ただただ後藤さんと石川さんの話が書きたくて、書いてるような話になってしまうと思いますが、
気長にお付き合い願えれば、幸いかと思います。
- 316 名前:若葉の時 投稿日:2004/04/30(金) 10:03
-
「春休み中には、引っ越すから、遊びに来てね。」
「手伝おうか、引越し・・」
って、ヨッシーは言ってくれるけど、
「ううん・・家具とかそのまま使わせてもらうし、あまり荷物ないから・・」
「そーなんだー・・・・新婚さんの部屋よね・・もしかして、ベッドとかも使っちゃうわけ?そのまま・・」
美貴ちゃんが、少しにやけてそんなこと聞く。
「もーすぐそーゆーことゆーんだからー・・自分が結婚するからってさ・・
でも、なんかそれ、やっぱり遠慮したいじゃない・・
だから、寝室はそのままにしようかなって・・・時々、風通すぐらいで・・」
「へー、って、そんなに広いの・・・一部屋遊ばせるくらい・・」
「うん、結構広いよ!ビックリしたよアタシ。」
って、ごっちんが少し興奮気味に話し出す。
まあ、確かに若い夫婦二人には、少し贅沢な空間かも。
お姉ちゃんを手放したくなかったお父さんが、どうしても近くに住まわせたくて、
さっさと頭金を出して、強引に契約してしまった3LDK。
結局、一年もしない間に海外赴任ってことになって、離れて行っちゃうんだけどね。
広めのキッチンが対面式になっている20畳ほどのLDと、ウォークインクロゼット付きの10畳程の寝室。
その他に、義兄さんが書斎に使っている部屋と、将来生まれてくるであろう子供のための部屋が、
たぶん6畳ぐらいなのかな、そこをごっちんと私でシェアする。
都心に向かって、広めのバルコニーもついていて、14階のそこからの眺めも悪くない。
- 317 名前:若葉の時 投稿日:2004/04/30(金) 10:24
- 「それがさ、その書斎にあるオーディオとか、PCとか、そのまま使っていいって・・
すごいんだよそれが・・・・」
ごっちんが気に入ったのは、義兄さんの書斎。
色んな機械が多すぎて、機械音痴の私には、いまいち抵抗があるその部屋に、
ベッドを持ち込んでしまうと、ずいぶんと窮屈になってしまうけど、
初めて見に行ったその日から、ごっちんは、もう一目で夢中で、
嬉々として義兄さんに、それらの説明を受けていた。
まあ、梨華には、こっちの方がお似合いよね・・なんてお姉ちゃんにからかわれた私の使う部屋は、
カーテンまで、他の部屋のシックさとは違って、ライトグリーンのギンガムチェックで、
フローリングさえ、ずいぶんと明るい色調、
確かにここに学習机と二段ベッドとなんかを入れれば、いかにも子供部屋って感じの部屋。
今は何も置かれていない、その部屋に入れる私の荷物は、学生の頃から使っている机とベッドと書架ぐらいなもので、
それを業者に頼んでしまえば、それだけで済んでしまう簡単な引越しになるはず・・・
「食器とか、細かいものは、二人で買いに行けばいいし・・・」
「ほら、やっぱり新婚さんみたいじゃない。」
「だって、梨華ちゃんに任せたら、みんなピンクになっちゃうじゃん・・・」
「そら、そーだ。趣味悪いかんなー!」
なんて、さんざんからかわれて・・・・・・
- 318 名前:若葉の時 投稿日:2004/04/30(金) 10:46
-
簡単に終わるはずだった引越しが、春の日が暮れかかっても片付かないのは、
私の手際の悪さのせいだった。
「第一、本とか多すぎ!」
自分の部屋をとうに終えて、私の手伝いをしてくれながら、
ごっちんがため息をつく。
「こんなのみんなPCの中に入れちゃえばいいのに・・・梨華ちゃんは原始的過ぎだよね。」
確かに、本の他にも、資料のファイルなんかの紙類が多すぎると、自分でもあらためて自覚するけど、
「うん、でも活字じゃないと、なんかダメなんだよね・・・」
「それに、服だって・・・こんなのいつ着るの?」
ベッドの上に重ねて投げ出されている、いくつかをつまみ上げて、ごっちんはまたため息をつく。
「うん・・・・これでも、ずいぶん絞ってきたつもりなんだけどね・・」
学校へは、一応スーツとかで通ってるし、日常はラフな格好をしているから、
たぶんめったに着ないヒラヒラのワンピースなどなど・・・
「まあ、梨華ちゃんらしくていいけどね・・・」
そんなことを言いながらも、手際よく、クロゼットや箪笥の中に収納してくれるごっちんに急かされて、
なんとかその日眠るスペースが確保できた時には、もうすっかり夜を迎えていた。
「これじゃ、買物は無理だね・・」
「ごめん・・」
「明日から仕事なんだよね、梨華ちゃん・・」
「うん、新学期の準備あるからね・・・・でも午前中で終わるけど・・」
「なら、お昼に駅で待ち合わせしようか・・」
「うん・・・・・・でも、どーしよーか今夜・・」
「ディナー?」
「そー・・・・・ピザでもとろおか・・」
「ピザねー・・・まあいいけど・・」
「ワインがあるし・・」
- 319 名前:若葉の時 投稿日:2004/04/30(金) 11:07
- 「待ってる間にさ、ちょこっと行ってくるから、梨華ちゃんはあそこ用意しといてよ・・」
って、ごっちんがバルコニーを指差す。
「明日の朝ご飯・・・・コンビニで・・パンでいいよね・・」
「じゃ、取り合えずカンパイ!」
そこは少しまだ肌寒いけど、じきにワインが身体を温めてくれる。
「ココ、いいよね・・・・・洗濯物は干せないけど。」
「うん!」
リビングに続くバルコニーには、丸いテーブルとデッキチェアーが二脚置かれていて、
そこは、ごっちんが書斎の次に気に入ってる場所。
このマンションの決まりで、布団も洗濯物も干してはいけないそのスペースは、
お姉ちゃんの手で、きれいに緑が飾られていて、
そこでの食事は、ピザでさえ、どこか優雅な気分にさせられる。
「こーやって見ると、都心も悪くないよね・・・」
遠くに瞬く都会の明かりは、星屑を落としたように、幻想的ですらあって・・・
「朝もね・・・・・いいんだって」
「朝?」
「うん、晴れた日の朝日がビルの間から昇る前の、一瞬の赤がいいって・・・お姉ちゃんが言ってた・・」
「そー・・・今度見てみるかな・・徹夜して・・」
「あれ、早起きしてじゃないの?」
「ああ、それはたぶん無理。」
「そっか、ごっちんだもんね。」
「そっ、アタシだからねー・・」
私たちは少しの間、言葉をしまって、光の瞬きを眺める。
「
- 320 名前:若葉の時 投稿日:2004/04/30(金) 11:18
- 「・・・・・・よろしくね・・」
私のつぶやきに、ごっちんが小さく笑って、グラスがまた合わせられる。
「うん・・お世話になります!」
「いえいえ、こちらこそ!」
「あっ、そーかもね・・梨華ちゃん、何にも出来ないもんねー」
「あっ、バカにしてるでしょ!」
「そんなこと・・・あるかな・・」
「もー」
「いいから、いいから、ゴトーに任せなさいって!」
ごっちんが、大げさな身振りで胸を叩く。
これから始まる、新しい生活を祝福するかのように、
優しい風が通り抜けた。
- 321 名前:若葉の時 投稿日:2004/04/30(金) 11:37
-
次の日からの私は、何かと慌しかったけれど、
しばらくは暇だからという、ごっちんのお蔭で、週末にはなんとか生活の形も出来て、
ヨッシーと美貴ちゃんを、落ち着いた空間に招くことが出来ていた。
「へー、かなりいい部屋じゃん!」
一通り室内を見回った後、リビングのソファーに腰を沈めながら、ヨッシーが言って、
「ねえ、見た?・・・バスルーム、シャンプーとかみんな2セットあんの・・歯磨き粉まで・・」
って、その隣に腰掛けた美貴ちゃんが変なところにつっこむ。
「えっ、何か変なのそれ?」
「なんかねー」
「好みがちがうんだもの・・・そーゆーの・・」
「ふーん」・・
「ねえ、知ってた?朝とカだって、アタシはコヒーだけど、梨華ちゃんは紅茶なの・・」
って、ごっちんが妙に嬉しそうに言って、
「へー、大変だねそーゆーの・・・・アンタたちって、相性がいいのか悪いのかわかんないよね本当・・
まさか、食事も別々とかじゃないよね・・」
「まさかそこまではね・・・てーか、朝ご飯は梨華ちゃんが簡単なもの作っておいてくれるけど、
夜はもっぱら、アタシがすることにしてるし・・・」
「何で?」
「って、そのわけは聞いて欲しくないんですけどー・・・あらためて聞かなくてもわかるでしょ・・」
って私のセリフに、ヨッシーが少し間を置いて、あーあとか言いながら、大笑いをする。
ここ、ウケルところじゃないんだけどなー。
- 322 名前:若葉の時 投稿日:2004/04/30(金) 11:59
- 「じゃあ、梨華ちゃん的には、大助かりなわけだ!」
美貴ちゃんも笑いながら言うけど、確かにそうだから、
「うん・・・洗物ぐらいしかやれることなくて・・」
「だね・・」
ごっちんが、どこまでが演技かわからないような、大げさなため息をつく。
「たくー、しゃーないなー梨華ちゃんは、このままじゃ嫁に行けないよ!」
って、ヨッシーが私の肩を結構な力で叩く。
「まあ、今のところはアタシがお嫁さんやっといてあげるけどね・・」
なんてごっちんが言うから、
「いいお嫁さんもらったねー!あーあ羨ましいことで・・」
って言う六月の花嫁に、
「何よ、美貴ちゃんだって、私とそー変わらないでしょが、大丈夫なの?」
って、切り返す。
「ウチはさ、いいんだって・・家事折半の約束だし・・あっちがさ、仕事不規則だから、
めったに夕食とか一緒に出来ないし・・・」
「そーなの?」
「うん、勤務医だからねー、そーゆーのもあって結婚急いでたみたいなんだけどさ、
ろくにデートも出来ないからね・・・」
美貴ちゃんのお相手は、彼女が看護研修の時に知り合った、当時はまだインターンだったお医者様。
今まで何度か顔を合わせたけど、ヨッシーに言わせると、美貴ちゃんって面食いじゃなかったんだねって、感じの人で、
温厚そうな、でもどこか垢抜けない人。
美貴ちゃんいわく、男は優しさと誠実さが一番・・なんだとかで、
そんな彼を、数あるボーイフレンドの中から選んだ彼女を、私はどこか見直していた。
- 323 名前:若葉の時 投稿日:2004/04/30(金) 12:26
- 「でも、お医者さんなら、玉の輿だよね・・」
唯一、彼を知らないごっちんの素直な問いかけに、
「医者っていっても、ただの下っ端の勤務医でさ、家も普通のところだから、
奨学金もらって、大学通ってたからね、今、それ返すの結構キツイみたいよ・・」
「でも、それならソートー優秀なんだよね?」
「まあ、医者の息子で、寄付金積んで入ったみたいのとは違うんだろーけどさ、
将来の夢が、ドクターコトーだからね、美貴も苦労するかも・・・」
「あっ、それってメッチャカッケー!」
ヨッシーの言葉に、
「わけないでしょ・・・」
って、美貴ちゃんはため息をつくけど、
彼女が無医村みたいな所で、あの人と一緒に、溌剌と動き回る姿が、
私には容易に想像できた。・・・・・・きっと幸せなんだろうなって・・・
「それよかさ、結婚式にはバッチリキメテきてよね!本物の玉の輿紹介するから!」
「えっ、アタシタチに?」
ヨッシーが目を輝かせて、
「・・・・・アタシはまだいいよ・・しばらくは学校とかに慣れるのが先決だし・・・」
って、ごっちんが本当に気のなさそうにつぶやく。
「なこと言わないで・・そーゆーことも、いいと思うんだけどな、今のごっちんには・・
間違いないの捜してあるし・・」
「でも、まだいいよ、遠慮しとく・・」
「あっ、もしかして、この甘い生活に、男は要らないてか?」
「そんなんじゃないよ!」
って、ごっちんが少しムキになって、それを美貴ちゃんとヨッシーにからかわれてる。
でも、やっぱり美貴ちゃんの言うように、ごっちんが社会にあらためて馴染んでいくためにも、
そういうことも本当は必要なことなのかも知れない。
考えておかなきゃなのよね・・・・ごっちんに親しい男友達が出来ること・・恋人が出来ること・・
それは、ごく自然なことで、私たちくらいの年頃なら、当たり前のことで・・・
- 324 名前:若葉の時 投稿日:2004/04/30(金) 12:45
- 「梨華ちゃんには、それこそ取って置きの用意してあるから!」
少しぼんやり、そんなことを考えていたところに、ふいに言われて、
しばらくその言葉の意味を取りかねていると、
「何、とぼけた顔してんのよ・・・直々のご指名なんだからね、まあ、楽しみにしててよ!」
ってぽんと肩を叩かれる。
「へー、いいなー、アタシはアタシは?」
「ヨッシーにはね、もちろんソフトマッチョ!」
「おっ、わかってるねー!」
「でしょ!それになかなかのイケメンでね・・・・」
なんて、二人が盛り上がって、
それを見て笑ってたごっちんの顔が、ふと私に向けられる。
私が浮かべたあいまいな笑顔を、彼女はどんなふうに受け取ったのだろう・・・
彼女の顔も、どう読んでいいのかわからない表情を作っていた。
チン!
オーブンの音が鳴って、
「あっ、次の料理、出来たみたい・・・」
と、キッチンに急ぐ彼女の後を追って、私も手伝いに行く。
オーブンで焼き上がった、自慢料理の海鮮ドリアを出しながら、
お皿の用意をしている私に、やっと聞き取れるくらいの小さな声で、
「美貴ちゃんの結婚式も、なんか気が重いよね・・・」
なんて言い置いて、私の応えも待たずに、
「お待たせー!」
って、リビングに消えるごっちん。
私は彼女のいなくなった空間を、しばらくぼーっと眺めていた。
- 325 名前:トーマ 投稿日:2004/04/30(金) 12:47
- 本日はここまでにします。
- 326 名前:名無し 投稿日:2004/04/30(金) 20:01
- 更新待ってました!!
いつかごっちんにも男が出来るのでしょうか。
少し寂しい気持ちになります。
- 327 名前:トーマ 投稿日:2004/05/06(木) 08:58
- >326 名無し様 ありがとうございます
どうでしょうねぇ これから始まる彼女たちの日常の中に、そんなこともあるのかな?
- 328 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 09:23
-
入学式を終えても、しばらく講義は始まらなかったし、部屋の片付けも済ませてしまえば、
持て余してしまうその時間に、私は当初の予定通り、バイトを探すことにした。
同居前に相談した時、梨華ちゃんは、
「まだあまり無理しないでね・・」
なんて心配してくれていたけど、
病院に通うのも、四月からは月に二回程の生活状況の報告みたいなものだけになるし、
梨華ちゃんが断わるのを、なんとか説得して、やっと折半にすることにした生活費も、
やっぱりちゃんとお母さんに頼らずに入れたかったから・・
「ねぇ、梨華ちゃんは何やったの?バイト・・」
「うん・・・色々やったけど、やっぱり主に家庭教師かな・・多い時はね、いっぺんに四人持ってた。
受験生とか嫌だったんだけどね、結局何年も持った子とか、そーなっちゃうじゃない・・
自分の時よりも大変だったな・・心配で・・」
「ふーん・・・面白かった?それ・・」
「うん、教師になろーって決めてたからね・・そのためにもいい経験だったし、
みんな可愛かったよ・・小学生とかもいて・・」
「そー、じゃあアタシもそーしよーかな・・」
「ごっちんも先生になるんだもんね・・・・それなら、学生課に行けば、いっぱい紹介とかあるんじゃないかな・・
変なところで見つけるよりも確かだと思うけど・・」
「うん、そーしてみる。」
「・・・因みに、他はどんなのやったの?」
「えっ?・・・・色々・・ファーストフードとか・・・・
あと、美貴ちゃんに誘われて、イベントコンパニオンとかもやったけど、あれは辛かったな・・」
「えっ、どーして?楽しそーじゃん・・」
「時給とかね、いいんだけど・・・変な人、たくさんいてね・・
PCソフトの会場だったんだけど、なんか写真とか撮られたりして・・・」
「ああ、そーゆーことか。そりゃ、最低だ。」
- 329 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 09:40
- 「美貴ちゃんみたいに、上手にあしらえればいいんだけどね・・」
「なるほどね・・駅とかで、男子校生に取囲まれちゃってた状態みたいなものか・・
携帯番号とか聞かれて、ぴしっと断われなくてモジモジって感じ?」
「まあ、当たってるかな・・ヘタクソなんだよね、そーゆーの・・」
「成長してないんだねー、今でも?」
「・・・かもね。」
「そー・・・・でも、良かったな・・」
「って、何が?」
「アタシが寝ている間にさ、梨華ちゃんが、そーゆーの・・上手くあしらうとかさ、出来るよーになるとか・・
なんつーの・・・変わってたら、ヤじゃん・・」
「あっ・・・でも、きっと少しは成長してると思うんだけどな。」
「まっ、少し老けたかな・・」
「もー、すぐそーゆーふーに言うんだからー」
私の記憶のない五年の間に、梨華ちゃんは、すっかり大人の女の人になっていて、
時折みせる少し憂いのある表情なんて、どっきっとするほど、綺麗だったから・・・
私はその五年の年月にヤキモチを妬く。
私の知らないその日々を、彼女はどう過ごしていたのだろう。
決して、自ら進んでは話そうとしないその時間の彼女を、私は何気ない普段の会話の中で探る。
たぶん、小さな安心を積み上げるために・・・・・
- 330 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 09:49
- 一つ目のバイトは、思わぬ形で決まった。
引越しの挨拶で、顔を見知ったお隣の奥さんに、マンションの入口で出くわした時、
「あそこの学生さんなら、ウチの子達、見てくれないかしら・・」
と、声をかけられて、そこの小学生の兄弟の勉強を、土曜日の午前中にみることになった。
ヤンチャ盛りの男の子と遊んでくれるだけでもいいから、なんて言ってくれる気軽さと、
感じのいいその奥さんの笑顔に、私は迷わず即座にOKした。
それともう一つ・・・学生課で斡旋してもらった学食の厨房の雑用。
「そりゃ、メチャクチャ地味だねー」
なんて、メールで知らせたヨッシーに言われたけど、
私はたぶん、今の行動範囲を、大きく広げることに、まだ少し抵抗があったのかもしれない。
- 331 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 10:18
-
新学期からの私の担当は、持ち上がりの形になる二年の古文と、二年C組のクラス担任。
それからテニス部の顧問。
色々な意味で、大きな関わりを持つことになった三人の少女たちは、それぞれ別々のクラスになったけれど、
私の組には道重さんがいて、彼女はいつの間にか、テニス部のマネージャーにもなっていた。
「アタシ、ミーハーだから、我校のプリンセスの付き人とかしちゃいまーす!」
なんて言って笑う彼女は、以前に増して、不思議な自信に溢れていて、どこか頼もしかった。
彼女がプリンセスと表現した亀井さんは、すっかり新しいフォームも自分のものにして、
この春の大会では、地区優勝を狙えるレベルに達していて、
堂々のエースっぷりで、テニス部を名実ともにリードしてくれていた。
田中さんは、相変わらず部活には所属していなかったけれど、
去年の暮れ頃から、ウチの大学のロックサークルに出入していて、
今では、その中の一つのバンドのボーカルをやっているらしい。
なんでも、秋の学園祭で聴いたその演奏に魅せられて、そのままその楽屋に押しかけたとのこと。
その話は、以前の殻に篭ったような彼女を知る私にとっては、驚きだったけど、
彼女がそんなふうに積極的に自分を表現したいと思い始めたということは、
彼女の成長に他ならないと思う。
それは、道重さんが言う、
「レナはエリと戦える武器が欲しいのかな・・」
ってことが、当たっているのだとしたら、お互いに刺激しあえる関係を持てたということで、
彼女たちにとって良き友人に巡り会えたということだろうし、
それは、どこか当時の私達四人の関係にも通じるものがあるように思えた。
- 332 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 10:35
- 担任や部活の顧問をするということは、想像以上に大変なことだった。
教科の他に、40人のクラスの生徒たちの家庭環境や、他の教科の成績や何かを、
きちんと把握してなければいけなかったし、
小さなことだったけど、毎日のように、なんだかのトラブルも誰かしら起こしてくれた。
すぐに大きな大会が始まるテニス部も、亀井さん一人に付き合っていたのとは、わけが違っていたし、
なんだかんだとやってるうちに、学校を出るのは、七時を回ってしまう日々が続いていた。
そんな疲れ気味の私の帰りを、
いつもごっちんが作ってくれる美味しいかおりが出迎えてくれて、
美貴ちゃんが言うように、本当に私はイイお嫁さんをもらったのかもしれない。
同居するようになってからの彼女は、それ以前のように、極端に甘えることもなくなって、
勤務中のメールなんかも、余程の用事がない限り、入らなくなっていて、
少しずつ本来の彼女らしさを、取り戻していっているようだった。
大学の講義も始まり、バイトも決めて、自分の生活を一歩ずつ確かなものにしていっている・・
そんな彼女の様子を見るのが、少し淋しく感じられるのは、
やっぱり私のワガママなんだろう。
- 333 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 11:04
- いつも夕食の席で、その日のこととか、お互い取り止めのない話をする。
「今日さ、同級生と歩いてたら、愛ちゃんに、先輩!って声かけられちゃって、
四年生に先輩だからね・・・やんなっちゃうよ、あっとゆー間に年増だってバレちゃった・・」
「へー、高橋さんに会ったんだー」
「うん、そしたらさ、ほら、ウチの高等部からの子とかも多いじゃない、
何気にみんなアタシの名前とか知ってて・・・ああ、あの後藤さんなんだー、とかさ・・」
「・・・ああ」
「なんかさー、いっぺんに超有名人。色んな子に声かけられちゃった・・・
ある意味ヒーローみたいなんだって・・」
「ヒーロー?・・・あっ、そーかもね・・」
「あーあ、石川先生の恋人ですよねー・・とかさ・・」
「えっ?何それ?」
「高等部からきた一年生たちの共通認識らしいよ・・それが・・」
「あっ、なんかごめんね・・・去年、色々あったからかな・・」
「ううん・・だから、そーだよって言っといた。」
「えっ?」
「あれ、違ったっけ?」
って、ごっちんは冗談のようにそう言って笑う。
「なんか本当、ごめんね・・・女子校の乗りそのままって感じなのかな・・
ごっちん、もしかして変な目で見られちゃってる?」
「な、感じじゃないよ。ほら、なんせヒーローだからさ、お姫様守った・・」
「お姫様って、私?それはないでしょ・・いくら何でも・・生徒にしてみれば、煩い教師の一人だろーし・・」
「いやー、そーでもないらしいよ・・石川先生は素敵だって、評判だよ・・
それにさ、面白い噂もあったんだって・・」
「なあに?」
「吉澤先生がどっちなんだろーって・・」
「どっちって?」
「美貴ちゃんと梨華ちゃん・・」
「はっ?」
「だからー、どっちと出来てたんだろーって・・」
「あっ、何か言ってたねー、それ・・」
- 334 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 11:26
- 「そー、それで、アタシの事件の話とか聞いて、梨華ちゃんはアタシだから・・・
それなら、美貴ちゃんだってことでさ、今はもっぱら、藤本先生が結婚しちゃうから、
吉澤先生かわいそー・・・だって・・」
「はー、そーゆーことになるわけなんだ・・・なら、ヨッシーはマスマスもてちゃうわけよね、生徒たちに・・」
「うん、大学の中でも、みんな言ってるもの・・カッコイイって・・」
「なんか変わんないだね、女子大も女子校と・・」
「まあ、大学生の方は、ただのおしゃべりのネタみたいなもんだけどね・・・」
「そー言えば、梨華ちゃんって、国立行ったんだよね・・」
「うん、ごっちんと約束してたところ・・」
「そっか、じゃあもちろん共学だよね・・・・・ボーイフレンドとかいた?」
「あっ、普通にしゃべるくらいの友達はいたかな・・ゼミ一緒とか・・・」
「そ・・・・・彼氏は?」
「へっ?」
「彼氏・・・付き合ってたみたいな・・」
「あーあ・・・いなかったかな・・そーゆーのは」
「一人も?」
「うん・・・あれ、もしかしたら私、彼氏いない歴23年とかかも・・・もてないんだねー・・」
「そーゆーんじゃないでしょ・・・もてすぎて、男、ウザイとかなんじゃないの・・
てーか、好きな人とかいないわけ?ずっと・・」
「そー言えば、そーかな・・」
「淋しいねー・・それは・・」
「うん、淋しい人生なのよ・・」
なんて、冗談みたいに終わらせるそんな話題。
好きな人か・・・・異性に恋することが、本当の恋だとしたら、やっぱり私はまだ恋を知らない。
ううん・・・もしかしたら、出来ないのかも知れない。
こういうことを、さらっと聞いたりするごっちんには、そんな恋をした経験があるのだろうか。
気になるけれど・・・
やっぱり、私にはそのことを聞く勇気はない。
- 335 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 11:41
- 「そー言えば、愛ちゃんが、遊びに行ってもいいですかって、言ってたけど・・」
「ここに?」
「うん、梨華ちゃんの許可もらわないとって思って、返事してないけど・・・」
「遠慮しなくていいのに・・いつでも来てもらえば・・・・って、私、邪魔かな?」
「あ、ううん・・梨華ちゃんに会いたいみたいなこと言ってたし・・・梨華ちゃんはイヤ?」
「ううん、いいよ、いつでも。」
あれから、高橋さんとは学校で顔を合わせることがあっても、会釈ぐらいで、話はしていない。
あんなことがあったから、気にはなっていたんだけど・・・
直接の知り合いってわけでもないし、向こうも避けてるようにみえたから・・・
「じゃあ、今度誘ってみるよ。」
「うん、そーしてあげて・・」
さっそく、次の休みの昼下がりに、ケーキを下げて尋ねてきた高橋さんは、
玄関で私の顔を見るなり、
「すいませんでした!」
と、頭を下げた。
「えっ?」
「ずっと謝らなきゃって思ってて・・・」
「あっ、気にしなくてよかったのに・・・」
「いえ、本当にごめんなさい!」
そんな私たちの様子に、
「ね、なんかあったの?」
って、ごっちんが不思議そうな顔して・・
「ううん、たいしたことじゃないの・・・ね、高橋さん・・」
「あっ、はい・・」
「それより、こんな所じゃなんだから、ほら、あがって・・」
「あっ、はい・・おじゃましまーす・・」
- 336 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 12:06
- 「コーヒーと紅茶・・どっちにする?」
「あっ、どっちでも・・」
「両方いれるから・・・好きな方言って・・」
「両方ですか?」
「うん、ごっちんはコーヒー党なんだけど、私、ダメだから紅茶なのね・・
だから、好きなほう選んでくれていいから・・」
「はー、なら、コーヒーで・・」
飲物を用意しながら、キッチンから窺う、ごっちんと話をしている高橋さんは、
少しはにかみながら頬を赤らめていて、あの日、体育館で私を睨みつけたその人とは、まるで別人のようだった。
そう、あんな感じは、確か・・・部活帰りの私たちを追って、ごっちんを呼び止めていた・・
あの夕暮れと同じ表情。
「お持たせで悪いんだけど・・・」
彼女のお土産のケーキで、お茶をしながら、談笑する。
高橋さんは、大学の先生たちの噂話や、キャンパス内のあれこれ・・・
それから、自分が指導している高等部のバスケ部のこととか、早口でごっちんに語りかけている。
優しい笑顔で、それに応えているごっちんは、度々私に話をふるけど、
私はなんとなく二人の会話に入っていくことが躊躇われて、短い相槌だけを返していた。
「ちょっとお手洗い・・」
ごっちんが中座する。
彼女の姿が、リビングから消えるのを確認するかのように見送ると、高橋さんは、私の方に向き直る。
「石川さんは後藤先輩とどーゆー関係なんですか?」
小さい声で、でもしっかりした口調で、いきなりそんなことを切り出す。
「えっ?・・・・友達だよ・・」
「それだけですか?・・恋人とか・・」
「あっ、何か変な噂あるみたいだけど・・・そんなの真に受けないでね・・
女子校にありがちな、冗談みたいなものだから・・・」
- 337 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 12:34
- 「じゃ、本当なんですね・・・ただの友達なんですね・・」
「うん・・・でも、ただのってわけじゃないかな・・・一番大切な・・・親友。」
「そーですか・・・よかった・・だったら、私、諦めなくていいんですよね。」
「えっ?」
「・・・・私、好きなんです、後藤先輩が・・」
「あっ・・・うん・・」
「憧れとかそーゆーんじゃなくて・・・・本気で好きなんです。」
「何、マジな顔して話してんのさ・・」
ごっちんが戻ってきて、私たちの話は途切れる。
「ううん、たいしたことじゃないの・・」
高橋さんが、ごっちんのことを好きなのは・・・知っていた。
まだ、彼女が中等部にいた頃から、よくバスケの練習を見にきていて、
後藤さんのファンです・・・とか言って、バレンタインにはチョコを渡していた。
高等部に上がると、私たち三年の教室のある二階を、仲間達とよくウロウロしていた・・ごっちんを捜して・・
もちろん、バスケ部にも入っていたし・・・
その当時のごっちんのファンは、ヨッシーに負けないぐらいたくさんいて、
高橋さんと同じように、ごっちん目当てにバスケに入る子とかも少なくなかったけど、
あの、私とヨッシー、ごっちんと美貴ちゃんが付き合っているって噂が広まった後でも、
他の子たちが、少しヒク中、高橋さんは変わらず、ごっちんを追っかけていた。
美貴ちゃんに言わせれば、
「少しは空気よめよ」
なんて感じで、私たちが四人で食堂にいる時とか、肩を並べて下校している時とかに、
遠慮なしに、ごっちんに声をかけていた。
だから、あの事件の後の彼女の私に対する態度は、納得できるものだったし、
彼女がごっちんを思う気持ちの強さもわかっているつもりだった。
でも、五年の月日を経て、それぞれが少し大人になっている今、
あらためて、真直ぐに自分の気持ちを表現できる彼女に、私は少しの驚きと、ある種の羨望を感じていた。
同性を愛する気持ちを、少しも臆することなく、戸惑うことなく受け入れ、
それを他人に平気で言ってのけられる強さ・・・・
それは、臆病な私には、とても持つことが出来ないものだったから・・・
- 338 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 12:52
- 「あの子、本当にごっちんのことが好きみたいね・・」
高橋さんを駅まで送って、帰ってきたごっちんに、私はやっぱりそんなことを話し掛けてしまう。
「ああ、そーみたいだね・・よく言ってる・・」
「そー、よく言うんだ・・」
「うん、前からだけどね・・」
「で、ごっちんは?」
「何が?」
「・・・好きなの?あの子・・」
「そーだな・・・まあ、好きな方かな・・かわいいし・・」
「そーね、かわいいわよね・・・そっか、ごっちんも好きなんだ・・」
「あれ、梨華ちゃん妬いてるの?」
「えっ?・・・そんなことないよ・・」
「心配しなくても、梨華ちゃんより好きなわけじゃないし・・・
てーか、梨華ちゃんより好きな人とかありえないし・・・」
ごっちんは、ふわっとした笑顔のまま、そんなふうに言う。
私は、彼女の言う”好き”の意味を測りかねて、言葉を返さずに、
彼女の顔から、視線を外す。
「さっ、そろそろご飯の用意でもしよっかなー・・」
ごっちんが、少し出来た言葉の空白を埋めるように、立ち上がって、キッチンに向かう。
「あっ、たまには私しようか?」
「いいって・・・任せといてよ・・・てーか、梨華ちゃんは洗濯でも回しといてよ・・」
「あっ、それならもう乾燥中・・」
「おっ、珍しく手際がいいね・・・じゃ、お風呂でも洗っといて・・」
「あっ、うん・・」
日常から逸れそうになる会話が、日常に戻ってくる。
- 339 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/06(木) 12:59
- ごっちん・・・・私はね、彼女みたいに、簡単に好きとか言えないけど、
真直ぐに好きとか言わないけど・・・・
それは、この時間を大切に思うからなんだよ・・
アナタの心の中を探ったり、二人の気持ちの質を比べたり、
そんなことをすることで、この穏やかな生活を壊したくないから・・・
ごっちん、私はこうしてアナタと過ごす時間が持てているだけで、
今、充分に幸せなんだよ・・
充分すぎるくらいに・・・・・
- 340 名前:トーマ 投稿日:2004/05/06(木) 13:00
- 今日はここまでにします。
- 341 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 09:57
-
愛ちゃんは殆ど毎日のように、誘いのメールをよこす。
私は、講義も多めにとっていたし、バイトも家の事もあるから、たいていの場合断わっていたけど、
それでも五回に一回くらいは、その誘いを受けた。
彼女と過ごす時間もそれなりに楽しかったから。
「愛ちゃんはヒマそーだねー」
「ええ、就職も決まってますから・・」
「ふーん、だから余裕なんだ・・・どんなとこ?」
「普通のメーカーのOLです。まあ、親のコネなんですけどね。
それより、今日はカラオケ行きましょうよ・・」
「ああ、いいけど・・・」
「先輩、上手いんですね!」
「愛ちゃんほどじゃないよ・・」
「いいえー、すごいです!・・・この前、みんなで来た時、歌わなかったから、苦手なのかと思ってました。」
「あっ、この前はね、よくわからなかったから・・・」
「えっ?」
以前、愛ちゃんに誘われて、何人かで行ったカラオケから帰って、何気なく梨華ちゃんに、
「みんなが歌ってる歌、全然知らなくてさー、最新のとかなら、少しは聞いたことあるんだけど、
スタンダードってゆーの・・・わかんなくてさー、いまいちのれないんだよね・・」
なんて言ったら、
次の週末に、大量のCDと、それから映画のDVDを私の前に並べて、
「ごめん・・気がきかなかったよね。これ一応、ごっちんの好きそーなの・・・
それから、映画とドラマのヒットしたヤツ・・」
「もしかして、五年分の?」
「ああ、うん・・会話の中に普通に出てきそうなものだけだけど・・・」
「これ見ろって?」
「うん・・その方がいいかなって・・・あっ、私もね見たいし・・・嫌ならほっといてくれればいいけど・・」
「イヤじゃないけど・・・・どーしたの?こんなにいっぱい・・」
- 342 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 10:15
- 「ああ・・・CDはね、美貴ちゃんやヨッシーに借りてきたの多いから、早めにMDに落とした方がいいかな・・
DVDは、ウチにあったのと・・・あとちょっと買ってきたけど・・・・」
って、未開封の多いじゃない。
これって、安くないよなーなんて、根が貧乏性な私は、すぐに計算とかしちゃうけど、
こういう所はやっぱり、梨華ちゃんはお嬢様気質なんだと思って、彼女との育ってきた環境の違いを感じてしまう。
でも、それを口にするのは、高校の時から、彼女が一番嫌がることだったから、
ここは素直に彼女の好意に甘える。
さすがにそんなヒマなかったから、DVDの方は、殆ど手付かずだったけど、
CDは、家にいる間はずっと、何かしら流しているから、自然に耳に馴染んで、
お気に入りの曲も何曲も出来たから、同級生なんかとのカラオケで選曲に困るようなことはなくなっていた。
そういえば、梨華ちゃんたちと行った時って、みんな気を使ってくれてたんだな・・・
私が眠りにつく前の曲ばかり歌ってくれてた。
「先輩、次何にします?」
「どーしよーかなー・・・・てか、その先輩ってゆーの、やめない?」
「えー、どーしてですかー?」
「だってさ、今は愛ちゃんの方が先輩じゃない・・」
「はー・・」
「ごっちんでも、ごっつあんでも何でもいいから・・・」
「・・・・それはちょっと・・」
「じゃあ、せめて後藤さんとかにしてくれないかな・・」
「はー、なら後藤さんで・・」
「うん、決まりだ!」
- 343 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 10:39
- 「あの・・・後藤さん・・」
「う、何?」
「あのー、私、本当に後藤さんのことが好きなんですよ・・」
「ああ」
「出来たらちゃんと付き合って欲しいんです!」
「付き合ってるじゃない・・こーして・・」
「そーじゃなくて・・・後藤さんは・・・そのー、やっぱりダメですか?女の子とは・・」
「えっ?」
「そのー、恋人みたいな付き合い方・・・ダメですかそーゆーのは・・」
「・・・・・」
「気持ち悪いとか・・・やっぱりそんなふうに思いますか?」
「そーじゃないよ・・・でも、そーゆー意味なら・・・・付き合えないかな・・」
「私とはってことですか?」
「うん・・」
「・・・・・やっぱり石川さんなんですか?」
「えっ?」
「好きなんですか?石川さんのこと・・・」
「あっ、うん好きだよ。」
「でも・・・・石川さんは友達だって言ってました・・・」
「うん、友達だよ、もちろん・・」
「なら、やっぱり女の子には、そーゆー感情は持てないってことなんですか?」
彼女は真直ぐに、私の目を見つめてる。
その視線の強さが、彼女の思いの真剣さを伝えている。
私はここでこの子に、自分にはその気はないからと言えばいいんだろうか・・・
そう言えば、この子はすっぱりと私のことを諦めたり出来るんだろうか・・・・
ううん・・きっとそれは違う。
この子は、本当はとっくに私の気持ちを見抜いている。それは、自分も同じような思いを抱いてる者の直感として・・・
だから、下手な言い逃れは、この子の気持ちを惑わせるだけだろうし、
それに、本当のことを言うことが、気持ちに応えてあげることが出来ない私の精一杯の誠意なんだとも思う。
- 344 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 11:07
- 「・・・・あのね、愛ちゃん・・
アタシは梨華ちゃんのことが好きなの・・・
でもね、それは女の子だから好きっていうんじゃないんだ・・」
「えっ?」
「梨華ちゃんだから好きなの・・・彼女の性別とか、アタシの性別とか・・そんなの関係なしに・・
梨華ちゃんが好きなの・・・・それは他の人とは比べられないんだ・・」
「そーなんですね・・やっぱり・・・でも、もしそれが片想いだとしたら・・・・」
「うん、そーかもしれないね・・・アタシが彼女を想うような感情は、彼女にはないかも知れない・・・
でも、それはそれでいいんだ。
彼女が今、アタシの側にいてくれる・・・それがどんな形でも・・それだけで・・いいんだ・・」
「・・・・そーですか・・・でも、私も諦めませんから!私も同じですから・・
普通にこーして会うだけなら・・・・いいんですよね?」
「あっ、それは構わないけど・・・」
「なら、今まで通りに・・・何も特別なことは要求しませんから・・
でも、私の気持ちは忘れないで下さい!私がアナタのこと好きな気持ちは変わりませんから!」
「あっ、うん・・・」
その後、店を変えてお酒を飲んだ。
「自棄酒に付き合ってください!私のことふったんですから、後藤さんにはその義務があります!」
なんて絡まれて・・・・
チュウハイをあおるように飲みながら、何度も「好きです」を繰り返す愛ちゃん・・
「ハイハイ、わかったから」なんてあしらう私を、
「本気ですから!」って、座り始めた目が睨む。
「好き」という言葉が、少し酔い始めた頭の中を廻る。
そういえば、私は、梨華ちゃんからその言葉をもらったことがない。
「ずっと側にいるから・・ごっちんの側にいるから・・」
そんなふうには言ってくれてるけど・・・・
彼女の唇が「好き」と動いたことはない。
アルコールが時間の感覚を失わせて、
いつの間にか日付が変わっていた。
- 345 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 11:37
-
「今日は愛ちゃんとあうから、少し遅くなる。ご飯は冷蔵庫のものチンしてね!」
って、メールが勤務中に入ってて、
私は一人の夕食を済ませる。
遊びに行く時くらい、私の食事のことなんて気にしなくていいのに・・・
本当に彼女は、私が何にも出来ないって思ってるんだから・・・まあ、確かに威張れるようなものは作れないけど・・・
久しぶりにつけるテレビは、ドラマなんかも中途半端で、面白くないから、
ニュース番組だけさらっと眺めて・・・
いつもは週末にまとめてやっている洗濯物を片付けて、
お風呂に入ってしまえば、手持ち無沙汰な時間が残る。
最近は少しは手際がよくなって、仕事も殆ど持ち帰ることがなくなっていたし、
読みかけの本もない。
「遅くなるから、心配しないで、先に寝てて」
なんてメールを受けて、
一度は、一人には広すぎるリビングの灯りを小さくして、自分の部屋に入ったけど、
何かやっぱり落ち着かなくて、古い本を一冊持って、リビングのソファーに戻る。
何回か読み返しているその小説は、ページを繰っているだけで、頭には入ってこない。
ごっちんが友達と遊んで遅くなることは、今までも何度かあったけど・・・
時計を見ると、もう12時を回っていた。
「本当に遅いんだね・・・」
つい口から漏れる独り言が、広い部屋を廻って、私の耳に戻ってくる。
高橋さんとお酒でも飲んでいるのかな・・・
あの後、時折学校で顔を合わすと、微笑むようになった彼女の顔が頭に浮かぶ。
かわいいよねあの子・・・小柄なせいか、とても来年には社会人になるなんて思えない彼女は、
着ているものが違わなければ、高等部の生徒たちと見分けがつかないだろう。
だから、女子高生の時のままの感情を持ち続けていることに、違和感を感じさせないのかも・・・・
- 346 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 11:51
- いつの間にか、ソファーにもたれて眠っていた私を、玄関の物音が揺り起こす。
慌てて迎えに出ると、ごっちんは後ろ手に鍵を掛けているところだった。
「おかえり」
「あっ、起こしちゃった?」
「・・・ううん」
ふわっと笑う彼女は、少し目元に赤みがさしていて・・・
酔ってるのかな・・・
靴を脱ごうとして、少しよろめく。
慌てて手を貸す私にもたれかかると、そのまま私の首に両手をまわして・・
「りかちゃーん」
って・・・・酔ってるんだね・・
「大丈夫?」
「うん、平気・・・・それよか梨華ちゃん、待っててくれたの?」
「そーゆーわけでもないけど・・・」
「心配だった?」
「それはね・・」
「・・・・・りかちゃーん、好きだよー、アタシは梨華ちゃんが大好きなんだよー!」
あっ、本当に酔っ払っちゃてるんだ・・
そんな言葉を繰り返す彼女を、抱えるようにリビングのソファーに座らせて、
「お水持ってくるから・・」
って、絡んだまんまの腕をほどこうとすると、
「ねー、梨華ちゃんはー、梨華ちゃんはどーなの?」
なんて、かえって腕の力を強めるごっちん。
- 347 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 12:04
- 「もちろん好きだよ」
「ホント?」
「本当!」
「・・・・じゃあ、なんでいつも言ってくれないの?」
「えっ?」
「初めてだよ、梨華ちゃんがそーゆーの・・」
「そーだっけ?」
「うん・・・いつもアタシばっか・・・愛ちゃんなんかくどいくらいに言ってくれるのに・・」
「あっ・・・だって、そんなの当たり前のことだから・・・」
「当たり前?」
「うん、当然のことでしょ?」
「そっか、当然のことなんだ・・・」
「そ!だから、ちょっと離してね・・・お水飲んだ方がいいよ・・」
「あっ、うん」
やっと解放された身体を、キッチンに運んで、冷蔵庫のミネラルウォーターをグラスに注ぐ。
あんなふうに言ってはみたけど、好きだって言ってないことは、私も本当は知っていた。
それが当たり前のことだからというのは、当たってはいるけれど、それだけじゃない。
その言葉の持っている意味を、ついつい考え過ぎてしまっているから・・・
それを気軽に口に出すことに躊躇いがあるから・・・
そんな言葉で簡単に表現してしまえない程、私の気持ちは重たかったから・・・
そして、たぶんそれは、アナタに背負わすには重すぎるものだから・・・
- 348 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 12:36
- いつの間にか、ソファーを降りて床にへたり込んでたごっちんは、
冷たい水を一息に飲み干すと、頭を垂れて、グラスを私に差し出す。
私はそれ受け取ってをテーブルに置く。
屈んで、彼女の両脇に腕を差し入れて、
「さ、ベッドに行こ!」
って、立たせようとしたけど、そのまま彼女にしなだれかかられて、床の上に倒されてしまう。
私より少し大きい彼女は、酔いのせいか、いつもよりも重たい。
私がやっと半身を起こすと、彼女の頭が私の膝を枕にするように倒れこんできて・・・
・・・もう寝ちゃったのかな・・・揺すっても、閉ざしたまぶたを開けようとしない。
私のくずれた膝に、片手を当てて、向こう向きで丸まって眠ってるごっちんの姿が、
何か幼い子供のようで・・・・私に起こすのを躊躇わせる。
私は、彼女の綺麗に茶色く染められた髪を指で玩ぶ。
珍しいな・・・こんなに酔うの・・・
お酒には、私よりずっと強いごっちんのこんな姿は、今までに一度しかみたことがなかった。
四人で海で泊まった高三の夏・・・・
美貴ちゃんがちゃっかり用意してきたお酒を、
「まずいんじゃないの」って私の制止を無視して、三人で飲み始めて・・・
なんだかんだいいながらも、結局私も付き合っちゃったけど・・
あの当時は、まだ誰もアルコールに慣れてなくて、たぶんみんな相当酔っ払っていた。
もちろん私もそうだったから、定かな記憶じゃないけれど、ごっちんの体が揺れていたのは覚えている。
そのまま雑魚寝して、ごっちんは甘えるように手を繋いできた。
いつもあまりスキンシップをしな彼女のその行為に、私は酔いながらも戸惑いを感じていた。
この子はきっと、酔うとこうなるタイプなのよね。
だからもしかしたら、あの永い眠りから覚めた後のしばらくの甘えん坊ぶりは、
一種の酩酊状態だったのかも知れない。
- 349 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 12:43
- 最近では、めったになかった、彼女のこんな甘え方が、やっぱりどこか嬉しくて・・・
私の指は、彼女の髪をとかすのをやめることが出来ずに、
私の口は、彼女が眠っていることに安心させられて・・・
「ごっちん・・・好きよ・・アナタが・・・誰よりも・・・一番・・・・」
なんて言葉をこぼしてしまう。
- 350 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 13:02
-
いつの間に眠ってしまったんだろう・・・・・
カーテンの隙間から入る光に目を開けると、
私の頭は、梨華ちゃんの膝の上に置かれていた。
見上げてみると、彼女はソファーにもたれて眠ってて・・・
私は夕べ、酔っ払ったふりをしていた。もちろん多少はアルコールで気持ちを高ぶらせてはいたけど・・・
酔ったふりをして、梨華ちゃんの言葉を引き出した。
最初のあれは、酔っ払いに対する、その場の相槌みたいなものなのだろうけど、
それだけでもいいと思ってた。
でも、私が寝たふりをして、梨華ちゃんの膝の心地よさを楽しんでいたあの時の・・・
あの言葉は、相槌じゃないよね・・・・
あのつぶやきは本物なんだよね・・・・
私たちの気持ちは、ちゃんと繋がっているんだよね・・・
私は起き上がると、自分のベッドから枕と毛布を運んで、そのままの場所にそおっと彼女を横たえる。
床は堅いから、少し身体が痛いかな・・・
でも、彼女を抱え上げるほどの腕力は、私にはなかったし、
たぶん寝不足の彼女を、起こしてしまうのも可哀相だし・・・・
ごめんね梨華ちゃん・・・・こんな所で寝かしちゃって・・・
今、何時だろう・・・壁の時計を見ると、もう6時を過ぎていた。
夕べはそのまま寝ちゃったから、朝のシャワーを浴びる。
今日は土曜だから、私は講義は休みで、お隣に10時に行けばいいだけだけど、
梨華ちゃんは、どうなのかな・・・
- 351 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 13:23
- コーヒーを沸かして、朝食の用意をする。
朝が苦手な私には、めったに出来ないサービスだけど、膝枕のお礼に、少し豪華な食卓にする。
もちろん梨華ちゃん用に、ティーポットの用意もして・・・
食後のコーヒーを飲んでいると、
毛布が動き出して、半身を起こした梨華ちゃんは、子供のようにまぶたをこする。
「あっ、寝ちゃったんだ・・・・ここで・・」
「オハヨー!」
「毛布掛けてくれたんだね・・・ありがとう・・」
「こっちこそ、ゴメンネ・・・酔っ払ってたみたいで・・・・身体痛くない?」
「あーあ、ちょっとね・・・・それより、二日酔い大丈夫?だいぶ飲んでたみたいだけど・・」
「平気!なんか結構スッキリしてる。」
「そう、あっ、今何時?」
「もうすぐ8時!」
「大変、起きなきゃ!」
「出かけるの?」
「うん、テニスのね、試合があるの・・」
起き上がった梨華ちゃんは、毛布をたたんで、枕と一緒にソファーに置くと、私の前に座る。
「うわっ、おいしそー!
ゴメンネ、朝飯まで作らせちゃって・・」
「珍しく早起きしたからね・・・何時に出るの?」
「えっとね、9時には・・」
「帰りは?」
「夕方になるかな・・」
「じゃ、お弁当?」
「うん・・・何かちょこっと詰めてく・・」
「アタシが作ってあげるよ・・」
「えっ、悪いよ、朝食もさせちゃったのに・・・」
「いいって、遠慮しないの!たまにはゴトーの愛情弁当、持っててよ!
梨華ちゃんのよか、数段上手だから・・・」
- 352 名前:若葉の時 投稿日:2004/05/07(金) 13:30
- 「それはそーだけどね・・ならお願いしちゃおかなー・・
って、なんかごっちん、朝からテンション高いよね・・」
「うん、かなりご機嫌なんだ!」
「ふーん、何かいいことでもあったの?」
「うん、枕がよかったかな・・よく眠れた・・・」
「えっ?」
「梨華ちゃんの膝・・・・」
「あ・・あー・・」
梨華ちゃんの頬に小さな赤みがさす。
「また、してね!」
「あ・・・うん・・」
いつも私を少し不安にさせる、彼女の曖昧な返事も、今朝は素直に受け取れる。
だって、梨華ちゃん、
私たちは、ちゃんと繋がっているんだよね・・・
気持ちが・・・ちゃんと・・・・
- 353 名前:トーマ 投稿日:2004/05/07(金) 13:31
- 今日はこの辺で・・・
- 354 名前:JIN 投稿日:2004/05/07(金) 20:41
- いいですねえ・・・。いしごまファンとしてはこんな雰囲気最高です。
連日の更新ご苦労様です。楽しみにしてこまめにチェックしてます。
しかし、ご無理なさらぬよう、応援しております。
- 355 名前:名無し 投稿日:2004/05/08(土) 19:21
- 大量更新お疲れさまです!!
寝たふりなんてさすがごっちんらしいです。
頑張って下さい!
- 356 名前:トーマ 投稿日:2004/05/11(火) 09:51
- >354 JIN様 ありがとうございます
最近リアルな絡みを見る事が出来ないのは残念ですけど、
やっぱり「いしごま」はイイですよね!
>355 名無し様 ありがとうございます
「ごっちん=寝ている」というのは、さんざん使われているイメージだと思いますが、
この物語では、あえてそれを主題に使わせてもらってます。
「寝たふり」「まどろみ」とかの睡眠と覚醒の間のような状態が、
もしかしたらここではキーになってくるかもしれませんね・・・
- 357 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/11(火) 10:17
-
美貴ちゃんの結婚式は、盛大なものだった。
都心のホテルで行われたそれは、私のお姉ちゃんのささやかな式とは比べ物にならなくて、
場慣れしていない私は、式の間中、落ち着かないでいた。
式の始まる前に、花嫁の控え室に、三人で訪れた時、
「ごっちんもちゃんとおめかししてきたじゃん!エライ、エライ」
なんて、花嫁さんにからかうように誉められた私の今日の衣装は、
梨華ちゃんが、メールで許可を得て、お姉さんのクロゼットから引っ張り出してきた、
ブランド物のシルバーグレイのカクテルドレス。
鏡に映すと、満更でもなくて、自然と心が浮き立つけど、
やっぱりこんなの着慣れてないから、どう振舞ったらいいのかわからずに、いつまでたっても緊張が解けない。
「少し大人っぽい方がいいよね」って選んだ梨華ちゃんのドレスは、シャンパンゴールで、
いつもよりも少し濃い目のメイクが似合ってた。
美貴ちゃんに、
「おっ、ピンクじゃないんだー!」
なんて言われて、
「花嫁さんより可愛かったらまずいでしょ!」
って、照れくさそうに返してた。
「今日は女の子だねー」
って、みんなに同じ言葉でからかわれたヨッシーは、濃い目のパープルのドレスで、
そんなことを言われるたびに、大きめにカットされてる胸元まで赤く染めてた。
もちろん主役の花嫁は、息を飲むほど綺麗で、
黙っていれば、どこかのお姫様みたいで、真っ白なウエディングが眩しかったけど、
ついつい突っ込み気質が、顔に出ちゃうから、
「どんなにつまらないスピーチとかでも、雛壇で睨んだりしちゃダメだからね!」
なんて梨華ちゃんに言われて、控え室の鏡の前で、営業スマイルの練習なんかやらされてた。
- 358 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/11(火) 10:39
- フルコースのフランス料理は、目にも鮮やかで、たぶん相当おいしいんだろうけど、
隣の梨華ちゃんのまねをしながら、マナーに気を使って食べてるから、どこに入ったんだかわからなくて、
「ウチで食べる方がおいしいよね・・」
なんてポロリとこぼしたら、
「私もごっちんの料理の方が好き・・」
なんてまるで悪戯を相談するみたいに口を手で隠しながら、小声で返してくれた。
「なんか面白いことやってよね」
なんて言われて引き受けていた私たちの出し物は、ヨッシーが選曲した「ハッピーサマーウエディング」
もちろんセリフは、花嫁の席にマイクを渡して・・
打ち合わせなしのそのアドリブに、少し戸惑ってた美貴ちゃんは、
それでもさすがって感じに綺麗にセリフをまとめて、
長いスピーチの連続で、少し堅苦しかった会場が、一気に和む。
そのあとすぐの、花婿さんの仲間連中は「世界で一つ・・・」なんかを歌った後に、
悪乗りして胴上げした花婿さんを床に落としたりして・・・
最後の花束贈呈では、さすがの美貴ちゃんも涙ぐんでて、って花婿さんの方がグチャグチャだったんだけど・・
私たちも感動のおすそ分けをもらった。
たっぷりと三時間はかかった披露宴を終えるとすぐに、二次会の会場に案内された。
最上階のバーラウンジを借り切ったそこには、ここから参加する人も多いらしくて、
すでにかなりの賑わいを見せていた。
旦那様の友達の仕切りの会だったから、見知った顔も少なくて、
私たちは入口近くの隅のテーブルで、小さくなってカクテルなんかを飲んでいた。
- 359 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/11(火) 11:01
- 三十分程して、今日何度目になるのかな・・・今度はシックなドレスに衣装替えした、
新郎新婦が入場してきて、大きな拍手が沸き起こった。
あれは旦那様の病院の看護婦さんたちなのかな・・若い女の子が、二人の周りを取り囲んで、
なにやら騒ぎ立てて、花婿さんがテレまくっている。
私たちは、そんな様子を少し呆気に取られながら、眺めていた。
「あんたたち、何、こんな所でくすぶってんのよ!」
って、いつの間にかその輪の中から抜け出てきた美貴ちゃんに、
「ちょっと、こっち来て!」
って立つように促されて、奥のテーブルに案内される。
そこには三人の男の人がいて・・・・・
「えっとね・・・こっちから・・・・外科、小児科、整形外科・・」
なんて紹介されて、
「何だよ、その病院の受付みたいな・・・」
って、小児科って言われた人が不満そうに言うのを、
「だつてそーじゃない!」
って、返す美貴ちゃんは、このたぶん旦那様の友達なんだろうこの人たちと、
すっかり気の置けない関係になっているんだろうなって感じで・・・
「でね、こっちは国語とたぶん数学、で体育・・」
「オイ、こっちもかよ!」
って、ヨッシーが苦笑して・・
「まあ、名乗りは自分たちでどーぞ!・・・アタシはまだしばらくあっちに顔出さなきゃだから・・・」
「えっ、行っちゃうの?」
なんて不安そうに言う梨華ちゃんを無視して、
「後はよろしくー」
なんてどこかに消えちゃう美貴ちゃん。
- 360 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/11(火) 11:21
- 「えっと、石川さんに・・・・後藤さん、吉澤さんでいいんですよね・・
まあ、お掛けください。」
外科が席に促して、私たちは彼らの前に座る。
「えっ、ご存知なんですか?私たちのこと・・」
って、梨華ちゃんの質問に、
「ええ、美貴ちゃんから色々聞かされてますから、そーかなって・・
それに、僕、石川さんには前に一度お会いしたことあったんですけど・・・お忘れですか?」
「は?」
「もう二年程前になりますかね・・・六本木の・・・あっ、僕、木下って言うんですけど・・」
「あっ、あの時・・」
「ええ・・」
なんて、外科が梨華ちゃんに話し掛けてる・・・知り合いなのかな・・
「僕、田口です。こっちは山本・・」
小児科が、私に声をかけて・・・なるほど、この人たちが美貴ちゃんの言ってたイイノってわけか・・
で、この人たちが私たちのことを聞いてるってことは、カップリングも決まってるのよねきっと・・
外科が梨華ちゃんで、小児科が私、で、少し体格のいい整形外科がヨッシー。
「僕、サッカーやってたんですよ・・」
なんて話し出した整形外科と、ヨッシーはすでに意気投合したって感じで、
サッカーから格闘技までスポーツ話で盛り上がり始めて・・・
私の前の小児科は・・・たぶん話の上手い人なんだろうな・・自分のことをあれこれ紹介しながら、
さりげなく私の趣味とか好みとかを聞いてくる。
私はそれに短く答えながら、隣の話に聞き耳を立てる。
- 361 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/11(火) 11:48
- この二人が会ったというのは、二年少し前、
美貴ちゃんと旦那様の平野さんが付き合い始めの頃に主催した合コンの席。
「あの時は、美貴ちゃんに飲もうと誘われて・・・まさか他の人が一緒だなんて知らなくて・・・」
どうも梨華ちゃんは、騙されて参加させられたみたい・・・
男の人は平野さんのインターン仲間で、こっちの二人はいなかったみたい。
他の女の子たちは美貴ちゃんの看護学校の友達。
たぶん見知った顔がいない梨華ちゃんは居心地悪かったんだろうと思う。
「もっとたくさんお話したかったのに、すぐに帰られてしまって・・・
今日、お会い出来るって、平野から聞いて、本当に楽しみにしていたんですよ。」
なんて、外科は身を乗り出すように話してて、もうすっかり口説きモードだ。
梨華ちゃんは、少し困ったように俯きがち・・・
コイツが美貴ちゃんの言ってた「とびっきり」ってヤツか・・・・
まあ、確かに育ちのよさそうな物腰の、スッキリとした二枚目。
テレもしないで「おきれいだ」なんて言っちゃって、その言葉に嫌味がないのが、かえって癪に障る。
・・・美貴ちゃんの人をみる目は、結構正しいから、たぶんソコソコには、いいヤツでもあるんだろう。
こっちの二人もそれぞれタイプは違うけど、いかにも爽やかな青年医師って感じで、
ずいぶんともてるんだろうな・・・・ずいぶん場慣れした感じだし・・・
「飲物・・・新しいの持ってきますね・・同じ物でいいですか?」
なんて、外科がさりげなく私たちのグラスを確認して、立ち上がる。
目の前の人がいなくなるのを待って、梨華ちゃんが大きく息をするのがわかる。
緊張しているのかな・・・・
アイツのこと気に入ったりしているのかな・・・
器用に、それぞれ形の違うグラスを持って戻ってきたそいつは、私たちの背中の方から、
それをテーブルに置いていくと、最後に梨華ちゃんの前にピンクのカクテルを置きながら、
さりげなく、その肩に触れたりする。
一瞬、ピクリとなった梨華ちゃんの膝でハンカチを握っていた手に、少し力が入ったのがわかる。
・・・・イヤなのかな・・それとも意識し過ぎているのかな・・・
- 362 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/11(火) 12:17
- それぞれだった会話が、学生時代のバカ話みたいなものに移って・・・
それなりに楽しい会話が続く。
もちろん私たちのことも聞かれて、
それには主にヨッシーが、冗談交じりで、高等部時代のエピソードを披露して応える。
いつの間にか話は、ここには不在の新郎の悪口みたいなものになって、
「しかし、アイツが一番に嫁さんもらうとはなー」
「だな、一番もてなかったのになー・・・しかもあんなかわいい子・・」
「でも、そのおかげで、こんな素敵な人たち、紹介してもらったんだから感謝しなくちゃ・・」
「それは言えてる!」
「でも、皆さんは不自由してないでしょ・・彼女とか・・」
「それが、そーでもないんですよ。学生時代はともかく・・なんせ仕事がハードだから・・
でもアナタ方は・・やっぱりいるんですよね・・彼氏とか・・」
「イエイエ、女ばかりの職場ですしねー」
なんて、無口になっている私たちの代わりに、ヨッシーが一人で会話を繋いで、時々私をつっつく。
私は、その度に適当に相槌は打ってるけど、やっぱり少し様子のおかしい梨華ちゃんが気になる。
「・・・あの、ちょっとごめんなさい・・」
梨華ちゃんが急に立ち上がる。
「あっ、アタシも・・」
って、慌てて洗面所に追いかけると、彼女は鏡ので、気分悪そうに、洗面台に両手をついて、
それに依りかかるように、項垂れていた。
「大丈夫?」
「あっ、なんかね・・・少し酔っ払っちゃったかな・・・・
あのさ、悪いんだけど・・・先に帰らせてもらえるかな・・」
「えっ?じゃあ、アタシも・・」
「・・・二人で一度に消えたら、美貴ちゃんに悪いし・・・・そんなに酷くないから・・
ごっちんは残ってくれないかな・・」
「うん・・・でも本当大丈夫?」
「うん、下ですぐに車拾えるし・・・」
「でも、やっぱアタシも帰るよ・・」
「それはダメ・・ヨッシーに三人の相手させるの・・かわいそうでしょ・・」
「それはそーだけど・・」
「ね、楽しくやっててよ・・・感じよさそうな人たちじゃない・・」
「あっ、まあね」
「じゃ、私は美貴ちゃん見つけて、挨拶して帰るから・・」
- 363 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/11(火) 12:37
- 「あれ、梨華ちゃんは?」
「あっ、気分悪いから先に帰るって・・・飲み過ぎたみたい・・」
「それは残念だな・・・・それに具合が悪いなら、僕が送ったのに・・」
「送り狼はダメですよ!」
「イヤー、バレたかー」
なんて、外科はしばらくアタシたちと話していたけど、
お目当ての人に帰られちゃったせいか、やっぱり所在なさげで、
「オレ、ちょっと平野の所へ行ってくるわ・・」
なんて席を離れる。
「アイツさー、マジに石川さんに一目ぼれだったらしくてさー、
もう二年にもなるのに、ことあるごとに美貴ちゃんに、会わせろ会わせろって言ってたんだよ。」
なんて、小児科が面白そうに話して、
「本人の了解がないからダメ!なんて言われるたんびに、マジに凹んでたもんな・・
で、今いないんでしょ彼氏?」
「梨華ちゃん?」
「うん」
「いないんじゃないのかな・・・今のところ・・」
「じゃあ、チャンスだね・・・アイツさ、俺らと違って、大病院のぼんぼんだし、
それでいて結構いいやつだし・・・君達もさ、薦めてやってよ・・・お似合いだと思うけど・・」
「そうね・・・」
私は曖昧な返事をする。
確かにお似合いなのかもしれない。
さっき美貴ちゃんたちが並んでいた、あの場所に、あの二人を置き換えれば、
それはそれで、絵にかいたような光景になるのだろう。
その場所の梨華ちゃんは、今日の美貴ちゃんのような、幸せな笑顔を浮かべているのだろうか・・・
- 364 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/11(火) 12:59
- 「でさ、僕たちも何気に似合ってない?」
なんて、小児科の問いかけに、
「へっ?」
なんて顔をしていると、
「そっちはともかく、こっちは完璧でしょ!」
なんて、整形外科が胸を張る。
「だね!」
なんて、ヨッシーが同じポーズをとるから、四人で笑う。
まあ、少なくとも、この人たちが悪い人ではないのはわかった。
「じゃ、取り合えず、ダブルデートしよう!」
なんて、なんだかんだ言って、アドレス交換までしてしまう。
って、明日なの?
長い休暇が取れない新婚さんが、すぐにはいけない旅行の代わりに、
今晩はここのスイートに泊るって、その部屋に、
少し浮かない顔をしている外科も引っ張って、五人で押し掛けて・・・
さんざん邪魔して、日付が変わる頃にやっと引き上げる。
悪乗り気味にはしゃぐこの男連中が、どんなに良い仲間関係であるのかが、
そんな短い時間の中でも、よくわかって、
この人たちを、私たちに紹介した美貴ちゃんの気持ちもよく理解できた。
「送るよ」って言葉を断わって、ヨッシーと二人で車に乗り込む。
私たちのマンションの一つ手前の駅のそばに、
最近、アパートを借りて、一人暮らしを始めたヨッシーを先に降ろしながら、
「本当にするの?ダブルデート・・」って聞いたら、
「もちろん!」って、返された。
まあ、してもいいけど・・・
ていうか、ヨッシーはあの整形外科とかなり気が合っていたし、彼の言うように、お似合いなのかもしれない。
そういえば、この前失恋したみたいなことも言ってたし、
新しい恋がそのキズを癒すなら、それに協力してあげるのも、友達ってものだろう。
でも、今は・・・気分を悪くして、先に帰っている梨華ちゃんの方が気になる。
- 365 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/11(火) 13:25
- 小さな灯りだけがともる部屋に帰って、彼女のベッドを覗くと・・・
すっかり熟睡しているみたいだった。
横向きに寝ているその顔は、穏やかそうだったから、たぶん具合は良くなったんだろう。
あんまりお酒が強い方じゃない彼女が、そんなに飲んでいた印象はなかったけど、
少しずつでも、日の高いうちから、乾杯のビールや、食事の時のワインやらと、
間を置かずに飲んでいたわけだから、いつの間にかアルコールの許容量を越えていたのかもしれない。
私はベッドに腰をかけて、彼女の額にかかった髪を指でとかす。
あの人が一目で気に入ったという、その時の梨華ちゃんは、どんな感じだったんだろう。
私が一目ぼれした時の彼女は・・・・・今より少し背が低くて、今より少しふっくらしてた。
キラキラ笑うその顔が、光を失っていた私には、眩しすぎて・・・
あの時のことを思えば、今こうしているのが不思議に思える。
いつの間にか、一番近くになったその存在は、
でも、どこかやっぱり遠い。
その距離を縮めることを・・・・やっぱり望んじゃいけないのだろうか・・・
私は、このまま抱きしめてしまいそうになる衝動に、ブレーキをかける。
二人暮しの日々の中で、かけつづけているこのブレーキが、
いつか磨り減って、かからなくなるその前に、
この華奢な身体を、誰かの腕の中に送り届けることが・・・私に出来るのだろうか・・
そんな想像だけで、沸き上がってくる嫉妬心のようなものを、振り切るように、
その人のもとを離れて、バスルームに向かう。
少しヌル目のシャワーで、アルコールのせいだけじゃなく、ほてっている身体を冷す。
梨華ちゃん、私、変なのかな・・・
気持ちだけじゃない何かを欲しがるのって、欲張りなのかな・・・
同型の私たちが、それでも一つになりたいって・・・・そう望むことは、
やっぱりいけないことなのかな・・・・
- 366 名前:トーマ 投稿日:2004/05/11(火) 13:26
- 今日はここまでにします。
- 367 名前:仕事中 投稿日:2004/05/11(火) 15:31
- う〜ん、石川さん気になるねぇ。
ダブルデートも気になるし。
- 368 名前:トーマ 投稿日:2004/05/12(水) 09:47
- >367 仕事中様 気になりますね〜
お仕事頑張ってください!
- 369 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 10:07
- 目を覚ましたら、もうお昼近くになっていた。
食卓には、いつの間にか朝の遅い休日の定番になってしまった
梨華ちゃんにしては少し手の込んだ、ブランチが用意されていた。
彼女も遅く起きたのかな・・それとも私のために温め直したのか、まだそんなに冷えてない。
「ごっちん、今日、なんか用ある?」
夕べ慌しく決められたダブルデートは、午後三時の待ち合わせ。
それを言うべきかどうか迷っていると、
「あのさ、さっきお母さんから電話あってね、なんか付き合えって言うのよ・・
お父さん、出張でいないんだって・・」
「ふーん」
「でね、たまには外食したいって・・・で、夕方から出かけるんだけど・・」
「あっ、アタシもお昼から出るから・・ご飯食べてくるよ・・」
「そー、ならちょうど良かったね・・」
「・・・昨日はゴメンネ・・勝手に先に帰っちゃって・・・みんな気を悪くしてなかった?」
「あー、あの人・・・なんていったっけ・・外科の・・」
「木下さん?」
「そー、その人がすごく残念がってた・・・前に会ったことあるんだって?」
「あっ、ちょっとね・・・殆ど忘れてたんだけど・・・」
「ふーん、でも、忘れてたなんて知ったら、傷つくだろうなー、向こうはずっと忘れられなかったみたいだから・・・」
「なに言ってんだか・・そんなの社交辞令でしょ、いくらでも女の人とかいそーな感じの人じゃない・・」
「まっ、そーだけどさ・・」
梨華ちゃんは、昨日の少し戸惑ってるみたいな様子とは違って、妙にサバサバしている。
たぶん、忘れていたというのは本当のことなんだろう。
私はそんな彼女の様子に、やっぱり少し安心をする。
- 370 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 10:28
- 「こーゆーのは、やっぱ女の子だけだと出来ないんだよねー!」
なんて、ヨッシーのリクエストで、初めてのビリヤードを教わったりして、
そのあと、
「僕ら、普段はこんな所ばかりで飲んでんですよー」
って、昨日のラウンジより遥かに居心地のいい居酒屋で、少し飲んだ。
明日はお互い仕事だからって、それなりの時間には引き上げて・・・
10時前に部屋に戻ると、梨華ちゃんは先に帰っていて、リビングで本を読んでいた。
「お帰り」って、迎えてくれた顔が、一瞬、沈んでいるように見えて、あれって思ったけど、
すぐにいつもの笑顔に戻って・・・・
私は、どうしょうかなって迷ったけど、やっぱり正直に、昨日の人たちと会って来たことを告げる。
「そー、よさそうな人たちだったものね・・」
って、言う梨華ちゃんの表情は、少しの変化も見せなくて・・・
まるでそんなこと言わなくても知ってましたよ・・って感じで・・・なんか少し悔しい。
次の日から始まったいつもの暮らしの中で、
私は何度か田口さんからのメールを受け取った。
当り障りのないやり取りの続くその中には、デートの誘いみたいなものもあったけど、
いつも通りの忙しさの中で、たぶん私なんかより遥かに多忙なその相手に、
わざわざ時間を合わせて、会いたいと思うほどの、彼に対する関心を、私は持っていなかったから、
適当な断わり文句で、短い返信する。
- 371 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 10:39
- 次の日曜日も、梨華ちゃんは、また「ちょっと出てくる」と言って、
まるで生徒の家庭訪問にでも着ていきそうな、地味なスーツで、出かけて行った。
学校の仕事か何かなのかな・・・
たまにはのんびりするのも悪くないなって感じで、
私は例のDVDの中から、軽そうなのをいくつか選んで、まったりとその画面を眺めて、その日を過ごした。
日が暮れるか暮れないかの時間に、
「ただいま」って、帰ってきた梨華ちゃんは、少し疲れているみたいだったけど、
部屋着に着替えて、リビングに顔を出した時には、いつもの感じに戻ってて、
私が夕食を作っている間に、いつものように洗濯機を回したり、お風呂の用意をしたり、
こまめに身体を動かしていた。
少しいつもより口数が少ないのが気になったけど・・・
仕事のことでも考えてるのかなって思って、あえて何も聞かなかった。
- 372 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 11:05
-
母の電話は、夕方、時間を作れないか・・と言うものだった。
関西に出張中の父の留守に、こっそり美味しいものを食べたいなんて子供っぽい提案に、
「私、昨日、フランス料理だったんだよねー」
って、難色を示すと、
「じゃあ、懐石なんていうのはどう?」
なんて、有無も言わせない感じで・・・・まあ、たまには付き合うのも親孝行か・・なんてOKする。
指定された料亭で、部屋に案内されると、
そこには夕べあったばかりの人と、そのお母さんらしい品のいい女の人が、ウチの母とおしゃべりしていて・・
驚く私に、自分たちが、フラワーアレンジメントの教室の友達であることを笑いながら説明して、
「素敵な人に会ったって言うから、よく聞いてみたら、あの石川さんのお嬢さんのことじゃない・・・
これも何かのご縁よねって、すぐに電話しちゃって・・・」
「こんなことなら、もっと早くに、母に相談しておけばよかったんですけど・・・」
木下さんは、なんだか畏まって、正座なんかをしていて、
「まるでお見合いみたいね・・」
なんて、母が余計なことを言って、笑う。
おしゃべりに花を咲かせる、母たちの横で、
相手に不快感を与えない程度には、愛想を作りながら、美味しいはずの綺麗なお料理を口に運ぶ。
「このあと、少しお酒でも付き合っていただけませんか?」
なんて、当たり前のように言い出す誘いを、
「明日までの仕事を、家に残しているものですから・・・」
なんて、小さな嘘で断わる。
母との帰り道で、
「感じのいい方じゃない。お家もしっかりしているところだし・・・」
なんて、少しはしゃぐようなその言葉に、
「じゃあ、お母さんがお付き合いすれば!」
とか、憎まれ口を返す。
それを、私のテレだと受け取ったのか、
母は、今日会ったばかりの青年をさんざんに褒め称えて・・・・
- 373 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 11:30
- 昨日のようなああいった席での紹介だけなら、
何のリアクションも起こすことなく、流してしまえることだったのに、
こうして何の間違いか親まで出てきてしまうと、
話が大きくならないうちに、きちんと断わらないと、面倒なことになってしまう。
そうじゃなくても、このかなり思い込みの激しい、能天気な私の母は、
すっかり私の花嫁衣裳のことにまで考えが行ってしまっているようで、
このはしゃぎっぷりが、恐ろしい。
早めに何とかしなくてはと、思っていた私に、チャンスは向こうからやってきた。
もちろんそれはデートの約束という形ではあったけど・・・
結婚を前提にお付き合いをして欲しいと、切り出したその人に、
ひたすら頭を下げて・・・
今はその気がないこと・・それはあくまで私個人の問題で、アナタに落ち度はないことを告げる。
残念がるその人が・・・じゃあ、友人としてしばらく付き合いませんか・・と妥協するのにも、
そんな中途半端なことは出来ないからと逃げて・・・何とか話を納める。
たぶん生まれながらの紳士なんだろうその人は、
それ以上しつこくすることもなく、最後には爽やかな笑顔まで浮かべてくれて・・
その人が、とても良い人だということが、よくわかるだけに、
それはやっぱり、私にとっても辛いことだった。
でも、彼がどんなに良い人であったところで、
私がお付き合いできないと言う事実は、どうすることも出来ないことで・・・
帰りの車の中から、母に電話を入れる。
しきりと思い直すように、私の説得を試みていた母も、最後には・・
「でも、お父さんにとっては、その方がいいのかもね・・」
なんて言って、頭を切り替えてくれたようで、この話は終わる。
この場合の父の存在は、私にとっては、大きな味方になる。
姉が思いの外早く嫁いでしまい、その上に私までもとなれば、父は容易には首を縦に振らないだろう。
そのことが、今しばらくの私にとっての猶予期間を作ってくれるはずだ。
- 374 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 11:54
- 週明け早々、私は空き時間に、保健室に美貴ちゃんを訪ねた。
「今、いいかな?」
「あっ、いいけど・・」
「誰かいる?」
「ううん、今日は今のところ、お客さんゼロ・・・まあ、座って・・」
「本当は、勤務中に・・ダメなんだろうけどさ・・」
「あのさ、正式にって言われたから・・・昨日会って、ちゃんと断わったのね・・」
「ああ、木下君?」
「うん」
「夕べ、ウチの方にも電話あったよ・・」
「そー、で、ほら、美貴ちゃんが紹介してくれたわけだから、ちゃんと言っておこうかなって・・」
「・・・イヤだった?彼・・」
「そーゆーんじゃないけど・・」
「あのさ、こんなこと・・・・気を悪くさせちゃうかも知れないけどさ、
彼のトコ、大病院じゃない・・で、跡取だから・・・色々と調べたらしいのね・・梨華ちゃんのこと・・」
「あ、うん・・」
「でさ、知ってるのよ・・・昔のことも去年の事件も・・・」
「そー・・・」
「でね、そんなあれこれ・・・噂も含めてさ、わかった上での話なのね。
だから、もし、梨華ちゃんが、そーゆーこと気にしてってことなら、考え直してみないかな・・
彼、条件とかもいいけど、それ以上に、人としてね・・・純粋でいいやつだからさ・・・」
「うん、悪い人じゃないのはわかるのよく・・・それに自分の過去を気にしてるわけでもなくて・・・」
「・・・・ダメなの?」
「うん・・」
- 375 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 12:17
- 「ねぇ、もしかして・・・やっぱりまだダメなの?」
「えっ?」
「はっきり言っちゃうけどさ・・・・梨華ちゃん・・・なんていうの・・男性恐怖症みたいな・・でしょ?」
「あっ・・・・気づいてた?」
「うん・・じゃないかなってね・・・やっぱりトラウマなんだよね・・」
「なのかな・・・普通に話したりさ、普通に接する分には、何でもないのよ・・・だけどね・・」
「性的対象に見られたりするとダメってやつよね・・」
「そーなのかな・・たぶん」
「ゴメンネ・・・・アタシさ、わかってたんだけどさ・・梨華ちゃんのそーゆーの・・
でも、だからこそね、ほら、木下君、彼、ちょっと中性的ってゆーか、脂ぎった感じないじゃない・・
男臭くないてゆーか・・・・だから、彼みたいのなら、大丈夫かなってのもあってね・・」
「うん、ありがとね・・・色々気を使ってもらって・・・」
「あのさ、カウンセリングとか受けてみない?」
「えっ?」
「あの時のトラウマなんだろーからさ、今後のためにも・・・」
「そーねー・・・・・でも、いいかなって思ってるの・・」
「このままで?」
「うん、ほら、幸か不幸かそーゆーの関係ない環境にいるじゃない!」
「まあね・・」
「それに、お父さんの会社とかも、ゆくゆくはお義兄さんが継ぐわけで、
私がどーとかってこともないし・・・・だからいいかなって・・」
「なに、一生独身でもってこと?」
「うん、その方が気楽な気もするし・・」
「それはさー、今はいいだろうけどさ・・・・年取るよ、そのうち・・・
きっと淋しいよ、そーなってからの一人って・・」
「そーね・・そーかも・・・・まあ、そーなったら、尼寺にでも行けばいいし・・」
「尼寺?頭、丸めちゃうの?」
「あっ、それイメージ違うから・・・・修道院の方・・・」
「ああ、そっちね・・・まあ、黒衣も似合いそーではあるけどねー・・」
- 376 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 12:37
- 「でも、やっぱりもったいないねー、それだけの美貌を持ちながら・・・
どんなイイところにだって、お嫁に行けそーなのに・・・・尼寺ですか・・」
「何言ってんの!美貴ちゃんだって、それだけの美貌で、ゆくゆくは僻地医療でしょうが!」
「そーよね、このシティーガールが・・・・って、それなんだけどさ」
「は?」
「それ、結構、早くなりそーなんだよね・・」
「えっ?」
「あのさ、ウチの旦那ね、ことあるごとに、今の病院の体質はなってないって、
ちゃんと患者に向き合ってない・・・なんて文句ばっか言ってるから、
なら、そんなとこさっさと見切りをつけて、山奥でも離れ小島にでも行けばいいじゃない・・
なんて言ったらさ、いいのかって、付いて来てくれるかって聞くからさ、
ほら、そー言っちゃった手前さ、引けないじゃない・・・・いいよいつでもなんて答えたの。
そしたら、マジに捜し始めちゃって・・・・でね、決まりそーなの・・・南の島・・・」
「ええー!!すぐに?」
「うん、早ければ、夏休み明けくらいにはね・・・」
「本当に?」
「うん!」
「で、やっぱり・・・付いて行くんだよね・・」
「だね」
「・・・・・淋しくなるな・・」
「まあね、でも、たまには都会の空気吸いに帰ってくるし・・・
飛行機と船、上手く乗り継げば、半日ぐらいでつくらしいから・・・・遊びにも来てよ!」
「あっ、うん・・・半日もかかるところなんだ・・・」
「そっ、台風でもくれば、本土と隔離されちゃいそーなトコ・・」
「・・・大変だね・・・・きっと色々・・」
「だろーね、高校の保健室でのんびりしてるのとは、わけが違うよね・・きっと・・
でも、それはそれで楽しいかなって・・」
「愛する旦那様と一緒だもんね!」
「そう!」
「あっ、惚気てるー」
「いいじゃん、新婚の時くらい、惚気させてよ!」
「ハイハイ」
- 377 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 13:04
- 「・・・・でさ、あのさっきの私のこと・・」
「うん?あーあ・・」
「ごっちんには言わないで欲しいのね・・」
「どーして?」
「あの子・・・・そのこと知ったらさ、必要以上に、なんて言うの・・・私に縛られちゃうと思うのね・・」
「ああ、マジに好きだものね、ごっちん・・・・梨華ちゃんのこと・・」
「・・・あの時にさ、私のこと守ってくれたみたいにさ・・・」
「一生側に付いていてあげようとか?」
「うん、そんなふーに思ってくれると思うのね・・」
「でも、それはそれでいいんじゃないの・・・ごっちんの意志なら・・・」
「でも、それじゃ、私、困ちゃうもの・・・ごっちんには、幸せになって欲しいのよね・・
なくしちゃった五年分を取り戻せるくらいの・・・・完璧な幸せに・・」
「幸せかー・・・でも、それって人それぞれ違うわけだし・・・・」
「あのさ、あの子、お父さんを早くに亡くしてるじゃない・・」
「うん」
「だから、よく言ってたの・・・早く結婚して、たくさん子供生んで、楽しい家庭を作りたいって・・」
「それ、いつのこと?」
「・・・高等部の頃・・」
「なら、今はわからないじゃない・・・ほら、そーユーのって変わるじゃない・・
ヨッシーから聞いてるよ・・・梨華ちゃんだって、言ってたでしょ、中等部の時、可愛いお嫁さんになりたいって・・」
「ああ、言ってたかな・・そんなこと・・」
「ヨッシー笑ってたよ・・あの子は、白馬に乗った王子様がいつか現れるって、本気で思ってたって・・・」
「そっ、よく、アンタはお姫様じゃないんだからって、からかわれた・・」
「で、今は違うんだよね・・・それ・・」
「だね」
「だから、ごっちんだってわからないじゃない・・」
「それはそーだけど・・・でも、あの子は私と違って・・・・そのー、大丈夫みたいだし・・
いいお嫁さんになれる条件揃っているし、子供好きだし、だから普通にね、幸せな家庭が築けると思うの・・」
「でも、今は梨華ちゃんの側で、幸せそうじゃない・・」
「・・・・今はね、今はまだそれでいいと思うの・・でも、今の状態はあくまでも仮なんだと思うのね・・
まだ彼女の五年間のハンデは埋められてないと思うし、そーゆー意味では、まだリハビリ期間だと思うのね・・
彼女が本当の幸せを見つけるまでのね・・・・」
- 378 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 13:28
- 「なのかなー・・・あのさ、結婚とか勧めといて、こんなこというのもなんだと思うけど・・
・・・・美貴は、アリだと思ってるよ・・」
「何が?」
「だからー、その同性でもね、愛の形は人それぞれだよ・・・
梨華ちゃんがさ、男の人ダメならね・・・パートナーにね、生きてく上での支えにね、
女の子選んでも・・・・それはそれでアリかなって・・・」
「えっ?」
「それでね、それがごっちんならさ・・・それもすごく自然なことだと思うし・・・
なんかお似合いかなって・・・」
「また、そんなこと言う・・・・違うからね私たち・・」
「かな・・」
「うん、違う・・」
「そーかなー、正直に答えてよ・・今はどーか知らないけど・・
梨華ちゃんにはないの?そーゆー気持ち・・」
「あっ・・」
「あるよね・・」
「・・・・じゃあ、正直に言う」
「うん」
「・・・わからないの・・」
「えっ?」
「ごっちんのことは好きだよ、ずっと・・・たぶん恋してると思う・・・だからずっと側にいて欲しい・・
でも、彼女が普通に幸せになって欲しいと思う気持ちも・・・本当なの・・その方が絶対イイと思うの・・ごっちんにとって・・」
「そっか・・・・・じゃあ、このことはもー言わない・・・」
「でさ、こんな時でもないと照れくさくて言えないからさ、言っちゃうけど・・・
アタシ、梨華ちゃんのこと結構尊敬してるのね・・」
「は?」
「真直ぐで、一生懸命で、利己的なトコないし・・・」
「何よ突然・・・美貴ちゃんが私のこと誉めるなんてくすぐったいよ・・・・煽てたって、何もでないよ!」
「別に、何かくれってんじゃないよ・・・まあ、くれるならくれてもいいけどね・・・
だからさ、梨華ちゃんが、ちゃんと考えて決めたことならね、何でも賛成する。
でもね、もうちょっと自分に甘くしてもいいかなって思う・・」
「・・・・・」
「梨華ちゃんはさ、こーしなければならないみたいなトコ多いじゃない・・
それをさ、もうちょっとね、こーしたいなーみたいな感じでさ・・・」
「あ、うん・・・・ありがとう・・」
- 379 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 13:47
- 「・・・・私も美貴ちゃんのこと尊敬してる・・」
「そりゃ、そーでしょ・・」
「って、ちゃんと言わせて・・・・
美貴ちゃんは、やってることいい加減そーだったり、その場でチクチク人のことつついたり・・」
「何よ、誉めてないじゃない!」
「じゃなくてー、そんなふーに悪ぶってるけど・・・・いつでも正しい方向を見てる。」
「えっ?」
「見てる先が正しいの・・・間違いがないってゆーか、迷いがないってゆーか・・・
だから、颯爽としててかっこいい・・・」
「あっ、それ誉め言葉だよね・・」
「でしょ・・・・だから、よく話を聞いてもらった・・・迷ってる時とか出口を示してもらった・・・
だから・・・やっぱり遠くに言っちゃうのは・・・淋しいよね・・」
「まあ、メールでも電話でも・・相談にならいつでも乗ってあげるし・・・
マジくさいセリフ言っちゃうと・・・アタシはいつだって、梨華ちゃんの味方だから・・・」
「あ、ありがとう・・・これからも頼りにしてるから・・」
「うん、任せてよ!」
「決まったら・・・送別会しないとね・・」
「うん、盛大にやってよ・・・・・でも、やっぱり四人がいいかな・・」
「だね、四人でいいよね・・」
「うん・・」
美貴ちゃんが・・・ここを離れていく。
それは、彼女の望む幸せの形だから、いいことなのだろうけど・・・やっぱり淋しい。
あらためて、私たち四人の出会いは素晴らしいものだったと思う・・・・
もちろん、いつもべったり一緒にいたわけじゃない。
でも、どこかでいつでも繋がっていた。
ごっちんが眠っている間も、それぞれ別の学校で、あまり連絡もとらずにいた時も、
どこかで心が支えられてた。
そうだよね・・・それなら・・
物理的な距離が離れても、心の中の居場所は変わらない。
変わらずいつもそこにいる・・・たぶんずっと・・
- 380 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 14:12
-
梅雨の走りの雨が、朝から降っていて・・・・
「今晩、会えないかな」ってメールが田口さんから入る。
「ムリ!」とだけ返すと、
「他の連中は上手くやってんのにな・・・山本も木下も・・・」なんて、返って来て・・・・
ヨッシーはなんとなくそうだろうなって思ってたけど・・・
梨華ちゃんは・・・・何も言ってなかった。
会ったりしてるなんて、一言も・・・・
でも、そういえば、二週続けて、日曜日には出かけているし・・・あれ、あの人とのデートだったのかな・・
お母さんと食事なんて言ってたの・・・・嘘だったのかな・・
私はそれを確かめるために、田口さんの誘いを受ける。
指定されたカフェで、煙草を吸っていたその人の前に座るなり、
「ね、梨華ちゃん・・・あっ、石川さん・・・あの人と会ってるの?」
って、まるで噛み付くように問いただす。
呆気にとられたように、しばらく間を置いて、
田口さんは少し笑って、吸いかけの煙草を長いままもみ消すと、
「あっ、ごめんあれは・・・木下の方は、半分本当で、半分は嘘かな・・」
「えっ?」
「会うことは会ったらしいんだけど、振られちゃったんだって・・・速攻だよね・・ホント・・」
「振られたの?」
「うん、アイツさ、本気だったから・・・結婚前提になんて言っちゃったらしくて・・・
それがかえって拙かったのかなって・・・」
「そーなんだー・・」
私は少し安心して、ウェートレスのオーダーをとるのに応じる。
「マジに凹んでた。自棄酒付き合わされて・・・あんなに酔ったヤツ見たことなくて・・・」
「・・・」
「あのさ、アイツんち・・・あんな所だから・・・・あっ、これ気を悪くしないで欲しいんだけど・・
色々とね調べたらしいんだ・・」
「何を?」
「君達に昔あったこととか・・・・あっ、だから、君が五年も眠ったままだったて知ってるんだけどね・・」
「あーあ・・」
「いい話だよねアレ。俺、マジに感動した・・で、君に惚れ直したんだけどさ・・」
- 381 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 14:28
- 「でね、そーいった・・あの時の事件とか、そのあとの色々な中傷とか、それから去年の事件もね・・
知った上で、それでも結婚したかったのにって・・・」
えっ、今、なに言った?
「去年の事件?・・・なにそれ?」
「ほら、例の・・えっ、知らなかった?」
「だから、何よそれ?」
「ほら、あの君に暴力振るった例の元教師が、出所してきて・・・で、石川さんのこと刺しちゃったってヤツだよ・・」
「えっ?」
「あー、アレはまだ君が目覚める前のことだったのかな・・・」
梨華ちゃんが刺された・・・・あの男が梨華ちゃんを刺した・・・
「怪我は軽かったみたいだし・・・・関係者が色々手を尽くして、報道もされなかったみたいだけど・・・」
梨華ちゃんが刺された・・・あの男に・・・
「君と同じ病院に入院していたんじゃないかな・・・しばらく・・」
梨華ちゃんが刺された・・・・そっか、あの時、私が起きた時、隣のベッドに梨華ちゃんが寝てた。
どうしたのって聞いたら、ちょっと怪我しちゃってって・・・笑ってた・・・
あの時の怪我って・・・
「その男も、そのままUターンで、刑務所に入って・・・」
目の前の男の人が、まだ何か言いつづけてるけど・・・
私の耳にその言葉はもう入ってこない・・・・
梨華ちゃんが刺された・・・・あの男に刺された・・・
「ごめん、アタシ・・・・帰らなきゃ!」
- 382 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/12(水) 14:33
- そうだ、私は帰らなきゃならない・・・・
今すぐ、梨華ちゃんの所に・・・
そのまま走るように、外に出て、車を停めた。
梨華ちゃんが刺された・・・・あの男に・・・
あの男が、まだ梨華ちゃんに付き纏っていた・・・・
あのいやらしい目で、また梨華ちゃんを見た。
あのいやらしい声が、また梨華ちゃんを呼んだ。
あのいやらしい手で・・・・・・梨華ちゃんを傷つけた。
- 383 名前:トーマ 投稿日:2004/05/12(水) 14:34
- 今日はこの辺にします。
- 384 名前:仕事中 投稿日:2004/05/12(水) 18:51
- なんだか急展開のヨカン!
連日楽しみにしていますよ。
- 385 名前:JIN 投稿日:2004/05/12(水) 18:58
- 連日の更新お疲れ様です。引き込まれますねえ。
自分は仕事中さんではないですが仕事中にもちょこちょこっとね(笑)。
- 386 名前:@ 投稿日:2004/05/12(水) 21:33
- 切なくてたまんないっす
最後の3行がものすごく感情が表れていて 汚い 憎しみ
それでも綺麗に綺麗な文章となってるところが素晴らしいと思います。
次回も楽しみにしてます。
- 387 名前:トーマ 投稿日:2004/05/13(木) 10:48
- >384 仕事中様 ありがとうございます。予感的中!
>385 JIN様 ありがとうございます。お仕事(も)頑張って下さい!
>386 @様 @さんの文章にはいつも感服させられているので、
アナタにそう言っていただけると本当に光栄です。
ここでいうのもなんですけど、今までに一番「やられた!」と思ったのは、
藤本さんの後藤さんに対して思う最後の・・・・うそつき・・・です。
アレはたぶん自分には超えられないなと・・・
- 388 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 11:02
- 「少し遅くなる」ってメールをもらって、一人っきりの夕食の準備を始める。
冷凍庫には、一食分ずつ小分けされた、シチューやカレー、ハンバーグなどなど・・
ごっちんは本当に良く出来た主婦だ。
冷蔵庫の棚も整然としていて、何事も大雑把な私の母が管理している実家のそれとは大違い。
それは、この部屋全体にも行き渡っていて・・・・
そんなものをあらためて見せられる度に、私は小さな罪悪感に襲われる。
ここは・・・やっぱりごっちんのいるべき場所ではないのかもしれない。
彼女が作るであろう、幸せを絵に描いたような家庭は、たやすく想像することができる。
その中で、彼女の横で笑っているのは、
たぶん今日この時間に会っているであろうその人なのだろうか・・・
優しそうな人だった。
いかにも小児科の先生という感じの・・・きっと子供が好きなんだろうな・・・
あの人なら、ごっちんが思う父親像に、上手に嵌るかもしれない。
バカみたいに大きくついてしまったため息に、レンジのチンが重なって・・・
- 389 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 11:17
- 「さてと・・・」
なんて無意味な独り言を言いながら、ささやかな食卓を作っていると、
玄関に大きな音がする。
ごっちんが飛び込むように部屋に帰ってきて・・・・
「あれ、早かったね・・」
そんな私の言葉に答えることもなく、いきなり腕を掴むごっちん。
何か怖い顔をしてて・・・・どうしたのいったい・・
「ね、どこ?」
「えっ?」
「ね、どこ?・・・どこ刺されたの?」
「えっ?何、何のこと?」
「アイツに・・・あの男に刺されたんでしょ・・・ね、どこ?」
どこで聞いてきたんだろ・・・・
「あっ、ここ・・」
私はスカートの上から、その部分をごっちんに捕られたままの右手でおさえて示す。
私の手の位置を確かめるように、しばらくそこを見つめていたごっちんが、
いきなり、その手の下にあるスカートのフロントボタンを外すと、
そのまま下に引き落として・・・
「な、なにするの!?」
「ね、どこ?」
その突然の行為が理解できないまま、後ずさりしようとした私は、
太ももに絡んだスカートにバランスを崩されて、床に尻餅をつく形で倒れこむ。
それを追うように跪いたごっちんの手で、彼女の探す部分が露にされる。
- 390 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 11:37
- 「ね、やめて!」
立てた腕で後ずさりするように逃れる私の両足に、ごっちんが馬乗りになって、その動きを制する。
ずっとその部分だけを目で追っていたごっちんは、私の動きが小さくなるのを待って、
それまでの乱暴さが嘘のように、そっとそこに指先を当てる。
「ね、やめて!」
私の言葉など聞こうとしないかのように、そこを凝視し続けていたごっちんが、小さくつぶやく。
「ね、何で言ってくれなかったの?」
「えっ?」
「アイツに刺されたんでしょ・・・何で言ってくれなかったの?」
「あっ・・・・あの時は、ごっちん、目覚めたばかりで、気持ちが落ち着いてなかったから・・・
別に隠していたわけじゃないの・・・あとでゆっくり話そうと思ってて・・・タイミング逃しちゃって・・」
やっぱり、私の話を聞いているのか、いないのか・・・
ごっちんはひたすらその傷にだけ目を置いて・・・
そしてやっぱり、その指先でそこをたどって・・・
少しくすぐったいし・・・・何より恥ずかしい。
「ね、痛かった?」
「あ、うん・・少しね・・・でもたいしたことないの・・・本当に・・
ほら、すぐに退院になったでしょ、私・・・」
私も背中を立て直して、その五センチほどの傷跡に目をやる。
お臍の右横に斜めに入っているそのアトは、やっぱり少し変色していて・・・
「かわいそうに・・・アタシがいてあげなかったから・・・
梨華ちゃんが、こんな目にあっちゃった・・・・」
「あっ、本当、たいしたことじゃないの・・・・ごっちんとは違って・・・
ほら、傷だって小さいでしょ・・・まあ、ビキニは着れなくなっちゃったけど・・」
- 391 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 12:01
- しばらく黙って、その傷を見ていたごっちんの顔がそこに近づいて・・・
唇がその醜いアトに落ちる。
「あっ、お願いやめて!」
私のそんな声など、たぶん聞こえてないごっちんは、舌をそこに伝わせて・・・
あっ、そうか・・・・あの時みたいに・・・・
ごっちんはきっと、あの時、私を癒してくれたように、
また同じことをしてくれようとしているんだ。・・・・でも・・
「ねえ、ごっちん・・」
私は、両手で彼女の肩を持ち上げて、そこから彼女の顔を引き剥がす。
「ねぇ、ごっちん・・・・これは大丈夫なの・・この傷はね、もうすっかり癒えているの。」
そう、彼女の少し虚ろな目を真直ぐに見て、諭すように言葉を選ぶ。
「えっ?」
「あの時のね、あの時、ごっちんに優しくしてもらわなければ癒せなかった、あのキズとはね・・
これは違うの。」
ごっちんの首が不思議そうに傾く。
「あのね、あの時はね、ごっちんがああしてくれなければ・・・
私はアノ後、アノ部屋から一歩だって外に出られなかったと思うの。
ごっちんが・・キレイだよ・・って言ってくれなかったら、
自分の顔を鏡に映すことさえ出来なくなったと思うの。」
「・・・・うん・・」
「でもね、これは違うの・・・これはむしろ私が進んで受けた傷なのかもしれないの。
アノ男から、ちゃんと離れるために・・・・
あのあと負った、自分の弱さから起きた事への負い目から、ごっちんをキズつけてしまった負い目からね、
少しでも逃れる為に・・・どこか望んでつけた傷なの・・・だからね、最初から癒えてるの。」
「アタシをキズつけた負い目?」
「うん、私の弱さのせいで、ごっちんが受けてしまったキズ・・・・
もちろんこんなものくらいじゃ、全然足りるはずないけど・・・・」
- 392 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 12:19
- 「・・・・ねえ、梨華ちゃんは・・・アタシに負い目なんか感じているの?」
あっ、私・・・・言葉を選んでたはずなのに・・・バカだ私・・
この人に、絶対言ってはいけないこと・・・・言ってしまった・・・
「ねえ、もしかしたら、梨華ちゃんはアタシに負い目があるから・・・こーして一緒にいてくれてるの?」
「ちがう」
「アタシをキズつけた責任で、かわいそうなアタシの面倒をみてくれてるの?」
「ちがう」
「何が違うの?!」
「・・・・私は・・・ごっちんと一緒にいたいから・・・ごっちんの側にいたいから・・・ただそれだけ・・」
「そーだよね・・・じゃあ、アタシはずっと側にいる・・・・
アノ男がまた出て来て・・・梨華ちゃんに近づこうとしたら・・・今度こそちゃんと守ってあげる・・」
どこか遠いところを見ながら、そんなことを言うごっちん。
「あっ、それならたぶん、もう大丈夫だと思うの・・」
「どーして・・・アイツ、二度も襲ったんだよ・・梨華ちゃんを・・」
「うん、アノ人もきっと悪い夢を見続けていたんだと思うの・・でもね、
それは夢だから・・・たぶん、もう覚めたと思うの・・」
「覚めたの?夢が・・・」
「うん・・・たぶん・・・」
「だから、ごっちんも・・・私のことは、もう心配しなくていいの。私もごっちんのおかげで、前よりは強くなれたし・・・
だからね・・・いつでも、行きたいところにね・・・行っちゃっていいから・・・」
「えっ?」
「ほら、好きな人とか出来て・・・ここよりも行きたい所が出来たら・・・
そーしたら・・・いつでも・・・」
- 393 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 12:39
- 「ね、梨華ちゃんは、アタシに早くどこかに行って欲しいの?」
「・・・どこかに行って欲しいとかじゃないけど・・・・
ごっちんには、早くちゃんとした幸せを掴んで欲しい・・・」
「アタシはここが幸せだよ・・梨華ちゃんの側が・・・アタシの幸せの場所・・
だから、お願いだから・・・そんなこと言わないでよ!」
「ごっちん・・・・今はね、今はそれでもいいけど・・・ちゃんと将来のこと考えて・・・」
私の続けようとする言葉を、ごっちんの唇が塞ぐ。
私は、彼女の肩を押して・・・その柔らかい唇を遠ざける。
「ね、ごっちん、やめて!」
「どーして・・・・アタシは梨華ちゃんのことが好きなの・・・
梨華ちゃんだって・・・そー言ってくれたよね・・・
今日、梨華ちゃんが、この前の人と付き合っているって聞いて・・・
そんなふうに聞いて・・・だから確かめに行ったの。
振ったって教えてもらって・・・・安心したけど・・・・
だけどね、会ったって聞いただけでも・・・・会ってるって思っただけでも・・・たまらなかった。
梨華ちゃんが、どこかに行っちゃうって思って・・・アタシを置いてどこかに行っちゃうって思って・・」
ごっちんが私の身体にしがみつく。
泣きながらしがみついてる。
ごっちん、嬉しいよ・・・そんなふうに言ってもらって・・・でもね、
でも、私には何もして上げられなくて・・・・
しがみついてたごっちんの手が、私のシャツを持ち上げて、
その顔が胸元に埋まる。そして・・・
「ね、やめて!・・・ね、どーしたの?ごっちん・・」
もう一度、力をこめて・・・・その身体を遠ざける。
- 394 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 13:02
- 「ねー、どーして・・・・好きなんだよ梨華ちゃん・・・・
好きだから、みんな欲しいの・・・・アタシのものにしてしまいたいの・・・
誰かのものになっちゃうのはイヤなの・・・
だから、アタシのものにするの!
ね、梨華ちゃんも好きだって・・・言ってくれたよね・・」
「うん・・・好きだよ・・ごっちん・・・でもね・・」
「なに?梨華ちゃんの好きは違うの?梨華ちゃんの好きは・・・」
「ちがう!・・・私だって・・・ごっちんのこと欲しいよ・・・でもね・・」
「でも、何なのよ!」
ごっちんが泣きながら叫ぶ・・・・
私もいつの間にか涙をこぼしてた。
その私の頬を伝うしずくを見つけたごっちんは・・・戸惑うように視線を落とすと・・・
やっと聞取れるくらいのつぶやきをもらす。
「ね・・・・アタシ・・・・起きない方が・・・良かった?」
「えっ?」
「・・・ずっと・・あのまま眠っていたなら・・・・梨華ちゃんは・・・ずっと側にいてくれた?」
「あ・・・」
「ねえ、ずっと眠ったままで、こんなことしないで・・・梨華ちゃんを困らせないで・・・
そしたら、梨華ちゃんは・・・・ずっと側にいてくれた?」
「・・・そんなことない・・・そんなことは絶対無い・・・・
私は、ずっとごっちんが目覚めてくれるのを待ってたの・・・ただそれだけを願ってたの・・・」
「なら・・・・どーして!」
ごっちんの声が大きくなる。
「なら、どーして・・・アタシのこと拒むの?
なら、どーして、アタシの気持ちを受け入れてくれないの!」
「それは・・・・」
「おかしいよ梨華ちゃんは!何言いたいのかわかんないよ!
何言ってるのかわかんないよ!」
そー、叫ぶように言い放って・・・・・
そのまま部屋を飛び出していくごっちん。
そのあとを追おうとする私を、別の私が引き止めて・・・・
乱れた服を直させる。
開かれたままのドアが揺れてて・・・・
- 395 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 13:12
- ねえ、ごっちん・・・私も本当は・・アナタが欲しいの。
どんなものと引き換えにしたって・・・アナタが欲しいと思ってる。
でもね・・・・
でもね、ごっちん・・
私たちは、もう、戯れの好奇心で身体を重ねられるほど・・・・子供ではないし、
その場の気まぐれな快楽に、身をゆだねられるほど・・・・大人でもない。
そうだよね・・・ごっちん・・
それにね、ごっちん・・
私は一度結ばれたアナタを、笑って巣立たせることができるほど、
心の広い人間じゃないの。
いつか離れていってしまうことを恐れながら、あなたの腕に抱かれていられるほど、
強い人間じゃないの。
ねえ、ごっちん・・
アナタに触れないでおくことで・・・・私はやっと自分自身を保っているんだよ。
どうしょうもなく弱い自分を・・・・何とか立たせているんだよ・・
ねえ、ごっちん・・・・
- 396 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 13:28
-
暗い街をあてもなく走る。
雨が髪を濡らして・・・
しずくが顔にあたるから・・・まるで私・・・泣いてるみたいだよ。
ねえ、梨華ちゃん、わかんないよ私。
ねえ、梨華ちゃん、私、何をした?
あの人から聞いた梨華ちゃんのキズ・・・・確かめるために・・・急いで戻った部屋で・・
ねえ、梨華ちゃん、私、何をしちゃった?
ねえ、なんで梨華ちゃんの綺麗な身体に、あんなアトがついてるの?
ねえ、なんで梨華ちゃんは、それを大丈夫だなんて言っちゃえるの?
ねえ、なんで梨華ちゃんは、私の身体を遠ざけるの?
梨華ちゃんが好きだった・・・初めて会ったその日から・・
ずっと好きで・・・ずっと一緒にいて・・・
だから、同じ学校に行きたくて・・・一緒に勉強してたよね・・
なのに、アノ男が梨華ちゃんをキズつけて・・・
だから、私はどんなことしてでも、アイツから梨華ちゃんを守ろうと思った。
だって、梨華ちゃんは・・・私のものだったから・・・
だから、守ったよ・・・・アイツに言ってやったんだ・・・梨華ちゃんを愛してるのは私だって・・・
でも、守りきれてなかったんだね・・・私が寝てたから・・・
だから悔しくて・・・だから切なくて・・・
なのに梨華ちゃんは・・・
- 397 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 13:42
- ねえ、梨華ちゃんは、私に負い目があるとか感じてたの?
側にいてくれたのは・・・側にいるって言ってくれたのは・・・
好きだって言ってくれたのも・・・・ただの償いなの?
ねえ、それだけだったの?
暗い街が、私を包む。
走る力を無くした足が・・・・それでも少しずつ・・・
私の身体を、梨華ちゃんから遠ざける。
ねえ、なんでどこかに行っていいなんて言うの?
ねえ、なんで好きな人が出来たらなんて言えるの?
私が好きなのは・・・アナタ一人だって・・・・知ってるはずじゃない・・・
ねえ、なんで好きなものを欲しがっちゃダメなの?
やっぱり私・・・・眠ったままでいれば良かった?
梨華ちゃんは、毎日来てくれてたって聞いた。
私が眠っている間、ずっと側にいてくれたって聞いた。
だから、目を覚ましてからだって・・・
いつまでもそうだと信じてた。
ねえ、それって、いつか終わってしまうものだったの?
それとも手を伸ばさずにいたら、
黙ってただそこにいたら、
眠ってる時と同じように、大人しく、ただそこにいたのなら・・・
そしたら変わらず側にいてくれるの?
- 398 名前:時雨の時 投稿日:2004/05/13(木) 13:48
-
ねえ、梨華ちゃん、
私・・・・起きちゃったんだよ・・・
だから、手が伸びるんだ。
だから、抱きしめたくなっちゃうんだ。
だから、離したくなくなるんだ。
ここ、どこなんだろう・・・・
何も持たずに出てきたから・・・・
そのまま飛び出してきちゃったから・・・
私、雨の中で一人だよ。
暗い夜の中で一人だよ。
これが本当の私の場所なのかな・・・
私、本当は一人だったのかな・・・
ねえ、梨華ちゃん・・・暗いよ・・・
ねえ、梨華ちゃん・・・冷たいよ・・・
ねえ、梨華ちゃん・・・・私・・・ヒトリボッチダヨ・・・
- 399 名前:トーマ 投稿日:2004/05/13(木) 13:49
- 今日はこの辺で・・・
- 400 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/13(木) 15:35
- 画面の前で、泣いてしまいました。不覚にも。
続き、楽しみにしています。
- 401 名前:さすらいゴガール 投稿日:2004/05/13(木) 17:41
- 胸が痛い…。
つらいなぁ。
- 402 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/13(木) 20:35
- 錯綜する思い…
二人ともお互いを思った行動ですよね。幸せになってほしいです。
- 403 名前:トーマ 投稿日:2004/05/14(金) 10:02
- >400 名無し飼育様
>401 さすらいゴガール様
>402 名無し飼育様
ありがとうございます。どうしても自分の中の後藤さんは切なさが似合ってしまうんですよね。
でも、幸せになりますよ・・・きっと(作者がネタバレしてどーするのかと・・・)
- 404 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 10:14
-
「あれ・・・・ごっちん・・・どーした?」
いつの間にか、明かりにつられて、立っていたコンビニの前で、声をかけられる。
・・・・ヨッシー?
そっか、ここ・・・・ヨッシーの家の近く・・・
「ね、ごっちん、どーした?」
「ヨッシー!」
私は、ヨッシーの傘の中に飛び込む。
・・・・あっ、暖かいね・・・ヨッシー・・・
「何だよ、びしょぬれじゃないか・・・・・とにかくアタシんとこおいで!」
「頭、拭いて・・・」
ヨッシーがバスタオルを投げてくれる・・
「あっ、でも、シャワーの方がいいか・・・服もずぶぬれだし・・・」
「取り合えず、これでも着ててよ」
温かいシャワーを浴びて出てくると、スェットノ上下と・・真新しいショーツが置いてあって・・・
「上はさ、無理だから・・・ともかく、それだけ着ときな・・」
「季節はずれだけどね・・」
なんて出されたココアが、温かい。
- 405 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 10:22
- 「何かあった?」
「・・・・・」
「梨華ちゃんと喧嘩でもした?」
「・・・・・」
「そっか・・・とにかく少し休んでな・・」
何も答えない私に、そう言うと、
私の髪をくしゃくしゃって一つなでて、部屋を出て行くヨッシー。
私は、ワンルームのその部屋で、ベッドにもたれてうずくまる。
ヨッシーらしい何の飾り気もないその部屋に、一枚だけ貼られた写真。
・・・・・四人で海に行った時の・・・・
眩しい夏の写真。
美貴ちゃんとヨッシーの間で、
私と梨華ちゃんが、頬をくっつけるようにして・・・・笑ってる・・・・
- 406 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 10:35
-
やっぱり捜しに出なくちゃ・・
バッグも携帯も置いてっちゃったし・・・
でも、どこに・・・そんなことを思い迷っていると、
私の着信が鳴る。
・・・・・ヨッシー?
「あっ、梨華ちゃん・・・今、ごっちんを街で拾った。」
良かった・・・・
「ヨッシーのところにいるの?」
「うん、ずぶぬれだったから、取り合えずシャワーさせた。」
「ありがとう・・・・どう様子?」
「うん・・何も言わないんだけどさ・・」
「そー・・」
「何かあった?」
「・・・・・うん」
「言いにくいこと?」
「だね・・」
「そっか・・・じゃ、とにかく早く迎えに来てよ!」
「あっ・・・・あのさ、迷惑じゃなかったら・・・このまま泊めてあげてくれないかな・・」
「・・・何で?」
「うん・・・少し気まずいかも・・・」
「ね、梨華ちゃん・・・・別にさ、泊めるのは構わないんだけどさ・・
時間がたつと、もっと気まずくなっちゃうよ・・・」
「あっ、うん・・・」
「何もさ、聞かなくてもさ、だいたい察しがつくんだけどさ・・・
気持ちは、すれ違ったままにしとくと・・・・本当に離れちゃうかもよ・・・」
「・・・・」
- 407 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 10:52
- 「あのさ、アタシ、だてに長く二人と付き合ってないからさ、わかってるつもりなんだけど、
傍から見てると、じれったいんだよね・・・二人とも・・・」
「・・・うん、でも・・・」
「でもなんなわけ?・・・・世間体?」
「・・・それは違う・・」
「だよね。二人とも、色んなコトあって・・・色々中傷とかされて・・それでもちゃんと自分を通してきたんだもんね・・
今さら世間体でもないわな・・・」
「うん」
「じゃ、何さ?」
「・・・・私、ごっちんには・・・ちゃんと幸せになってもらいたい・・・」
「ちゃんと幸せって・・・男作ってとか?」
「・・・うん、まあ、そんなこと・・」
「あのさ、梨華ちゃん・・・・ごっちんはもてるよ・・マジで・・」
「知ってる」
「だからさ、彼氏とか作ろうなんて思ってたら、とっくに出来てるって・・」
「あっ、うん・・」
「その気がないから出来ないの!・・・・そのわけは知ってるよね?」
「・・・うん」
「なら、いいじゃん・・二人で幸せになれば!」
「だけど・・・・」
「だけど何さ・・・・梨華ちゃんだってその方がいいでしょ・・
知ってるよ・・・・梨華ちゃんが、男の人・・・ダメなこと・・」
「あっ、それどーして・・」
「だから、だてに付き合い長くないって言ってんじゃん・・
まあ、あんなことあったから無理ないよ・・・そーなるのも・・
梨華ちゃんの様子見てれば、すぐにわかるって・・誰でも・・・」
- 408 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 11:15
- 「・・・じゃあ、ごっちんも?」
「ごっちんはさ・・・・たぶんわかってないんじゃないかな・・・
ある意味盲目だからね、梨華ちゃんに関しては・・・」
「・・・・良かった・・」
「で、何、もしかして、自分がそっちダメだから、こっちみたいなそんな安易なこと出来ないとか・・
そーゆーこと?」
「うん・・・てゆーか・・・・巻き込みたくない・・」
「って、充分、巻き込んでるじゃない、もう・・」
「かな・・・」
「あのさ、アタシ思うんだけどさ・・・
色んなことありすぎて・・・だから、色んなこと考え過ぎて・・・で、おかしなことになってるみたいだけどさ・・・
よく考えてみなよ・・・・
梨華ちゃんは、あんなことあるずっと前から・・・・ごっちんのことが好きだったじゃない・・」
「あっ・・・・うん・・」
「アタシにさ、話が出来たって、友達になれたって・・・メチャクチャはしゃいで話してたじゃん・・」
「・・・・うん」
「梨華ちゃんはさ、男の人ダメで、だから女の子とかそんなんじゃなくて、
初めから、ごっちんのことが好きだったじゃない・・」
「うん」
「それはさ、色んなことあって、ありすぎて・・・だから、複雑に考えちゃうのはわかるけどさ・・
でも、違うよね・・・・・それ・・」
「・・・・・」
「それにさ、来るか来ないかわからないような将来のこととか考えて、
今の気持ちを捻じ曲げるのって、おかしいって・・」
「えっ?」
「明日がどーなるかなんて、わかんないしょ・・・もしかしたら、明日世界が終わっちゃうかもしんない・・それをさ・・」
「うん、まあね・・」
「それに、未来なんて、今が積み重なって出来るものでしょ・・」
「・・・うん」
- 409 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 11:32
- 「じゃあ、ほら、早く迎えにきな!
アタシが送ってもいいけど・・・・やっぱ、ごっちんは梨華ちゃんが来るのを待ってると思うし・・」
「あっ、でも・・・」
「何、まだグチャグチャ言ってるわけ!?」
「・・・・・」
「そんなに梨華ちゃんが、煮え切らないんなら、
アタシがごっちんのこと貰っちゃうよ!」
「えっ?」
「アタシ、バイだよ・・・・ごっちんのこと抱けるよ!」
「何言ってんの・・・」
「ほら、アタシ、前、梨華ちゃんに告ったよね・・・」
「あっ、うん・・」
「あれさ、本気だったんだよ・・・・梨華ちゃんが男の人ダメなの知ってたから、
OKだったら、その場でだって抱くつもりだったよ・・」
「あ・・・」
「それにさ・・・アタシ、あんまりSEXとか面倒くさく考えるたちじゃないからさ、
抱けるよ・・・すぐにでも・・・ごっちんのことも好きだし・・
あんなふうに打ちひしがれてるの・・・・ほっとけないでしょ・・」
「ね、冗談だよね・・」
「こんなこと冗談なんかで言えないよ・・・
ただ、断わっとかないとね・・・黙ってして・・後で梨華ちゃんに恨まれるのは辛いから・・・
ほら、なんせ初恋の人なわけだしさ・・・
そーだな、あと一時間、あと一時間以内に迎えに来なかったら・・・
梨華ちゃんの代わりに、アタシがごっちんのこと抱いてあげる・・・わかったね!」
そのまま切れる携帯・・・・・
- 410 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 11:48
- ヨッシーの言ってることは、ただ私を迎えに来させる為の方便。
私の背中を押してくれてる、優しい嘘。
そんなことはわかっている・・・けれど、やっぱり・・・少し想像してしまう・・
ヨッシーに抱かれるごっちんを・・・
行かなきゃ・・・
でも・・・・迎えに行って、連れて帰って・・・それで私はどうするつもりなんだろう。
そんな思いが、出ようとする足を留める。
私は・・・ごっちんに何がして上げられれる?
ううん、そうじゃない・・・・私は・・・私をどうするつもりなんだろう・・
思考が滞って・・・時計の針がすすむ。
あっ、ダメだ・・・取り合えず行こう・・・取り合えず行って・・・
外に出ると、さっきまでの雨が嘘のように上がってて・・・少し夏の匂いがする。
ヨッシーの部屋までは、タクシーでワンメーターちょっと・・・
なかなか来ない空車に苛立。
やっと捕まえた車を走らせながら、ヨッシーの言っていたその言葉を思い返す。
・・・・初めから・・・何もない時から・・私はごっちんが・・・好きだった・・・
- 411 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 12:11
- 彼女を初めて見つけたのは、高等部の入学式。
あっ、知らない顔だって思った・・・少し睨まれたように感じた。
講堂に移動する渡り廊下の途中で、つまらなそうに佇んでた彼女の髪を、
春の風が吹き上げて・・・少し眩しそうに、乱れた前髪を直すその人が・・・・綺麗だと思った。
綺麗過ぎて、かけようと用意した言葉を飲み込んだ。
同じ教室だった。
前から二番目の廊下側の私の席とは、ずいぶん離れている窓際の一番後ろ。
そこで彼女は、いつでも外を見ていた。
誰とも話さず、誰にも笑わず・・・
授業中に、ふと首を回して窺うと、本も立てずに眠ってたりして・・・
不思議な人だと思った。
なんでこんなに気になるのかわからないまま、目が離せなくなって・・
時々ぶつかる視線が怖かったけど・・・それでも、その姿を追うことをやめられなかった。
始業のベルが鳴る中、廊下に出る彼女の後を、屋上まで追いかけて・・・
そんなことをしている自分が不思議だったけど・・・
精一杯の勇気を出して・・・話が出来て嬉しかった。
それからは毎日、少しずつ勇気の数を増やして・・・・嫌そうにしている彼女に話し掛けて・・
いつか笑うようになってくれて・・・
人と親しくするのに、あんなに積極的になったことも、友達になれてあんなに嬉しかったことも・・・
そう、あの時だけ・・・・
なんで好きになったのかとか・・・そんなことはわからない・・
色々な理由を考えるけど、きっとそれは後から思うこと。
私は、初めから・・・ごっちんのことが好きだった・・・
彼女がどんな人だとか、彼女が何を考えてる人だとか・・・たぶんそんなことは関係なく・・
私はごっちんが好きだった・・・・
- 412 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 12:29
- 彼女に部活を勧めたのも、きっと本当は一緒に帰りたかったから・・・
志望校を変えたのも、ただ同じ学校に行きたかったから・・・
アノ男に乱暴された時、駆け込んで来たアナタを見て、最初に感じたのは・・・
そう、あんな姿を本当は・・・アナタだけには見られたくなかった・・・
もう、アナタにまともに顔を向けられなくなった・・・そう思えて悲しかった。
そしたら、アナタの方から来てくれた・・・あんな私でも好きだと言ってくれた。
汚れてしまった私の身体に、アナタはキスをしてくれた。
キレイだといってくれさえした。
だから、私は・・・顔を伏せずに歩けたんだ・・・・
アナタをあんな目にあわせて・・・
私のせいであんな目にあわせて・・・
そんなことをしてしまいながら・・・それでも私はアナタと一緒にいたかった。
アナタが眠っていて、何も言わないのをいいことに・・・
毎日、ただアナタの顔が見たくて、病室に通った。
本当のことを言えば、眠っているアナタに・・・くちづけたことさえある・・・
アナタが目覚めて・・・それは本当に嬉しかったけど・・・
でも、どこか不安だった。
目覚めたアナタが、どこかに行ってしまわないかって・・・
私を置いて・・・どこかに行ってしまうんじゃないかって・・・・
- 413 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 12:42
- だから・・・・だから、その時のために、
心の中に、いっぱい予防線を張って・・・
アナタがいなくなっても、自分が傷付かなくてすむように、
いくつもの言い訳を考えて・・・
私は卑怯だ。
アナタのためとか言いながら、
本当はいつでも自分が傷付かないようにしていた。
私はただの卑怯者だ。
こんなつまらない自分を守るために・・・
ゴメンネ・・・ごっちん・・
私、ごっちんのこと困らせたよね・・・
私、ごっちんのこと傷付けてたよね・・・・
アナタはちゃんと言ってくれてたのに、
私はそれを、どこかでちゃんと信じることが出来ないで・・・・
ゴメンネ・・・ごっちん・・
私、ちゃんと信じてみるよ・・・アナタの気持ちを・・・
それから、自分自身の気持ちを・・・・
アナタのことが大好きな・・・その気持ちを信じてみるよ。
- 414 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 13:06
- ヨッシーの部屋に着いた時には、あれからもう50分以上たっていて・・・
「おそい!」
ドアを開けたヨッシーに叱られながら、
部屋の奥のごっちんの前に急ぐ。
膝を抱えて座っているごっちんは・・・・顔を伏せて、私の方を向いてくれない。
私は無理やりその手を捕って、
「ね、帰ろ!」
座ったまんまのごっちんは、伏せたままの頭を振ってイヤイヤをする。
「ね、帰ろ!私たちの部屋に・・」
ごっちんは首の動きを止めてくれない。
「ね、帰ろ・・・・私たちの場所に・・」
私は、ごっちんの頬を両手で挟んで、その動きを止める。
「ね、ごっちん・・・・私の所に帰って来て!」
伏せられていたごっちんの目が、ゆっくりとあげられて・・・私の視線を捕らえてくれる。
「ね、ごっちん、帰って来て・・・それで・・もうどこにも行かないで!」
ごっちんの目は、私の言葉を疑って、唇はきつく結ばれたまま・・・
「ね、ごっちん・・・好きなのアナタが・・」
私は、ごっちんの閉ざされたままの口元に・・・自分のそれを近づけて・・
ねえ、ごっちん・・・私だって、ずっとこうしたかったんだよ・・・
「あちゃー!やるね梨華ちゃんも・・・ハイハイ、続きはオウチでやってね!」
まだ立ち上がろうとしないごっちんを、ヨッシーが背中にまわって持ち上げて、
ポンッとそのお尻を一つたたく。
「ヨッシー、ありがとう・・」
「うん・・・このお礼は期待してるから・・・なんなら梨華ちゃんのキスでもいいよ!」
なんて、軽口を叩きながら、玄関に私たちを送り出すヨッシーを、ごっちんが睨んで・・
「オー、こわ!心配すんなって、アタシだって命は惜しいんだから・・」
ドアを閉めながら、もう一度「ありがとう」を言う私に、
ヨッシーはウインクして、親指を立てる。
「グッラック!!」
- 415 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 13:27
- 雨の上がった街を、ごっちんの手を引いて歩く。
とぼとぼとついてくる彼女は、まだ何も言ってくれないから、
私はただその繋いだ手に力を入れる。
空には、いつの間にか星さえ瞬いていて・・・・
何台も空車の灯りが通り過ぎて行くけど、
私はアナタと歩いていたかった。
「ゴメンネ・・・ごっちん・・・
私、バカだったよね・・・どーしよーもない大バカで・・
それにとんでもない卑怯者で・・・情けなくて・・・」
「梨華ちゃん・・・」
ごっちんの口が、ようやく開く。
「言わないでよ・・・そんなこと・・・」
「えっ?」
「アタシの好きな人の悪口・・・言わないでよ・・」
立ち止まって、横に並ぶその人の顔を窺う・・・・
そこには、あのふわっとした・・・私の大好きな笑顔があって・・・
ごっちんが笑ってくれたから、私も笑顔を返す。
ごっちんは、繋いだ手を、指を絡める形に握り直して・・・
「さ、帰ろ!アタシたちの場所に・・」
そう言って、今度は急ぎ足で、私を引っ張ってくれる。
- 416 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 13:39
- 明るくしたまま出てきた部屋の灯りを・・・・私は、そこに入るなり落として・・・
そして、ついさっきまで、言い争っていたその場所に戻る。
ね、ここから始めよ!
どこかいつも遠くの方に置いておいた気持ちを、
アナタが近づけようとしてくれた子の場所で、
今度は、私から近づいてみるの・・・・
私は、さっきごっちんが剥がそうとした同じ服を、
一つ一つ自分から取り去る。
気持ちに被せたベールを一枚一枚脱ぎ去るように・・・・
ね、ごっちん・・・・・これでいいんだよね・・
ごっちんは、そんな私を、少し離れて・・・戸惑うように眺めてて・・・
だから、私は手を伸ばす・・・
アナタの気持ちに届くように・・・
私の腕に捉えられたアナタが、優しく私を抱きしめてくれて・・・
私たちは、本当のくちづけをかわす。
「ねえ、ヨッシーの服は脱いじゃって・・」
「えっ?」
慌てたように、自分の着ているものに手をやるごっちんは、子供のように笑って・・
「そーだね・・・似合わない・・」
- 417 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 13:49
- 生まれたままの私たちは、何も知らない子供のように、
ただ欲しい物だけをむさぼる。
アナタに触れられたところが熱を持って・・・
その熱が、いつか身体中を覆う。
アナタの唇の柔らかさを感じて、
アナタの指の優しさを感じて、
アナタの身体の温かさを感じて、
・・・・・アナタの気持ちに辿り着く。
そう、これが私の欲しかったもの・・・
初めて出会ったその時から、私の心が欲しがっていたもの。
気持ちと身体は別々になんて存在しない。
それは、やっぱり同じ場所にあって・・・
だから、私たちは溶け合える・・・・・・
私たちは、飢えた獣のように、何度も求めて、何度も果てて・・・
ねえ、ごっちん、愛し合うって・・・・こういうことだったんだね・・
ねえ、ごっちん、幸せって・・・・こういうものだったんだね・・・
- 418 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 14:05
- 何度目かのまどろみの時に・・・
私の胸の上に乗ったアナタの肩越しに、カーテンの隙間から・・・
空がのぞく・・・・あっ!
「ね、ごっちん!」
私は、彼女を促して立ち上がらせると、その手を取って・・・
ベランダに続くカーテンを思いっきり開く・・・・
「あっ!」
そこにあるのは・・・・コバルトブルーの空・・・・そして・・・
「そーだ!」
ごっちんは、何かイイことを思いついた子供のように、
自分の部屋から大きなシャツを二枚持ってきて、
一つを私の頭から被せて、もう一つを纏って・・・・・
私たちは、初夏の香りが漂い始めたベランダに立つ。
真上には、まだ星の残る濃紺の空。
そして、都心に立ち並ぶビルに向かって、少しずつ色を薄くしていくブルー。
少しのライトグリーンの下に・・・・・
燃え立つような・・・赤・・・
「朝焼け・・・」
「うん・・・朝焼け・・」
私たちは、ベランダの柵の上に腕を置いて、
その神秘的なまでの美しさに見入る。
夜と朝の間の・・・・赤・・・・
そして、それは次の日の太陽の明るさに、思いの外あっけなく消されて・・・・
あとはただ・・・・眩しい空。
- 419 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 14:24
- 夕焼けが、遠慮がちに近づいてくる夜に、なかなか消されないのに比べて、
朝焼けは、昇る太陽の強さに、あっという間に飲み込まれる。
だから、なおいっそう・・・美しいのかも知れない・・・・
私たちの関係は、もしかしたらそれに似ているのかも知れない。
何の保障もない、未来なんて決して約束できない関係。
でも、それでいいと思った。
ヨッシーが言うように、明日がどうなるかなんて、誰にもわからない。
来るか来ないかわからない未来を思い悩んで、
今を蔑ろにするのは、やっぱり愚かなことだろう。
私の横には、今、この人がいる。
手を伸ばせば、そこには、私の一番好きな人がいてくれる。
だから、私は手を伸ばす。
そして、その身体を気持ちごと、もう一度きつく捕らえる。
そして、小首をかしげているその人に言うんだ・・・
この明るい空の下で・・・
「愛してる・・・・」
口から出かけた言葉を・・・・・・グー・・・・
無粋な音が邪魔をして・・・
「あは、梨華ちゃん・・・お腹鳴ってる!」
気恥ずかしく俯いている私を、
「お腹減ったねー!」
って、ごっちんがフォローして・・・・・そういえば・・・
「ねー、もしかしたら、夕御飯・・・・食べてないでしょ・・」
「うん、ほら、用意してるところに、ごっちんが帰って来て・・・」
「だよね、てか、アタシも食べそびれちゃった・・
他のものはさ、ご馳走・・・いっぱい食べたんだけどさー」
そんな冗談に似た言葉が、恥ずかしいけど・・・・嬉しくて・・
- 420 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 14:39
- 「早いけど、朝御飯にしようか・・・」
「・・・そーね・・・・てか、今、何時?」
部屋に戻って、時計を見ると・・・・もうすぐ五時・・・
うわっ、今日って・・・
「学校だよね・・・」
「・・・・うん・・」
「もしかして、寝てる時間ないよね・・」
「・・・・うん・・・」
夢のような時間が・・・・すっかり日常に戻って・・・
出されたままの夕食を温め直して、パンを焼いて・・・
シャワーを浴びて、髪を乾かして、のりの悪い顔にお化粧を施して、
少し残った時間に、ため息をつく・・・・
「アタシ、今日休んじゃお!」
なんて、気楽にコーヒーを飲んでいるごっちんが恨めしくて、
「いいなー、学生さんは・・」
「いいだろー・・・・普段真面目にやってるからねー、一日ぐらいサボったって、ゼーンゼン問題なし!
ほら、梨華ちゃんの分も寝ててあげるから・・・・社会人は、仕事、仕事!」
「授業中、ねんなよー!」
なんて、送り出されて、学校に向かう。
あーあ、きっとヨッシーに寝不足の顔をからかわれるなー・・・
二限目が空いてるはずだから、美貴ちゃんのところで、少し休ませてもらおう・・・
重たい通勤の足に、朝の日差しが眩しい。
- 421 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 14:50
- ・・・・・・・・・
でも、あんなことがあった後でも、こうして普通にやってくる日常は、どこか嬉しい。
そう、私たちは何も変わらない。
私たちの暮らしは、なにも特別なことなんかじゃなくて・・・・
ただ・・・・
御飯を食べるように、キスをしよう・・・
お掃除をするように、愛をかたろう・・・
そして、アナタを感じながら・・・・眠りにつこう・・・
普通の暮らしを、アナタと過ごそう。
それが、私たちの幸せの形。
それが、私たちの幸せの時間。
ね、ごっちん、それでいいんだよね?
そんな私の問いかけに、きっとアナタは、こう答えてくれる。
「うん、梨華ちゃん・・・・それがいいんだよ・・・」
- 422 名前:キミといる時 投稿日:2004/05/14(金) 14:52
-
「キミとの時」・・・・・完
- 423 名前:トーマ 投稿日:2004/05/14(金) 15:04
-
完結しましたので、あげておきます。
拙い話にお付き合いしていただいた皆さん、本当にありがとうございました。
タイプミスなど多々あって、恥ずかしい限りです。
また、ご感想などをいただければ、嬉しく思います。
まだ、ここの容量をだいぶあまらせていますよね・・・
この続編は無理だと思いますが、また何か書きたいと思っています。
ただ、今、構想しているものが、だいぶここのテイストと違うので・・・・
ここにするか、あちらをリアルを外して・・・まだ迷っているところです。
いずれにしても、またどこかでお目汚しさせていただくことになると思います。
- 424 名前:トーマ 投稿日:2004/05/14(金) 15:05
- 隠します。
- 425 名前:仕事中 投稿日:2004/05/14(金) 15:12
- 完結おめでとうございます。
そして、すばらしい話をありがとうございました。
素直に、「いい話だったなぁ」と言えます。
人のことを思っているようで、
実際には自分のことが第一になってしまっていること多々あります。
そんなことも考えさせられるお話でした。
最終的にはみんな幸せになれたようで、よかったよかった。
次回作楽しみにしています。
- 426 名前:RYO 投稿日:2004/05/14(金) 16:25
- 完結お疲れ様でした。
終わってしまって少し寂しいですが、
ふたりが幸せになってよかったです。
- 427 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/14(金) 16:26
- 素敵なお話をありがとうございました。
毎日の更新が本当に楽しみでした。
幸せな余韻にしばらく浸っていたいと思います。
それにしても、85年組の4人はみんな個性的で魅力的ですよね。
リアルでもアンリアルでも。
では、次回作も楽しみにしています。
- 428 名前:mun 投稿日:2004/05/14(金) 16:30
- 完結おめでとうございます!!
とても胸が痛かったです。
相手を思う気持ちや世間体や、人の気持ちだけで繋がってるものが、
どんなにもろいものか、しかしそれは何よりも強かったんですね。。
また次作、楽しみにしています。
- 429 名前:みるく 投稿日:2004/05/14(金) 19:00
- 完結お疲れ様ですm(_ _)m
いろいろと感想を書きたいのですが、うまい言葉が見つかりません。
なので一言だけ…
ホント素敵な小説をありがとうございました。心が暖かくなりました。
次回作楽しみにしてます。
- 430 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/14(金) 23:13
- マジでよかった!いいものをありがとう
愛するっていいなと思わせてもらった
- 431 名前:さすらいゴガール 投稿日:2004/05/14(金) 23:51
- 完結おつかれさまです。
すばらしい物語、本当にありがとうございました。
上手くいえないんだけど、こういう物語が書けるトーマさんが本当にうらやましいです。
どうぞ、トーマさんのペースで。ゆつくりと楽しみに待ってます。
- 432 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/15(土) 12:12
- レスが苦手でずっとROMってましたがこんな良いお話を読ませてくれた
作者さんに最後くらいお礼を述べなくては・・・
本当にありがとうございまいた。
そしていしごまが大好きになっちゃいました。
- 433 名前:名無し 投稿日:2004/05/15(土) 16:11
- ほんとうにほんとうにこんなイイ作品を
読ませて頂きありがとうございました!!
- 434 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/16(日) 14:11
- 名作でした♪
思春期真っ只中の田中達、
かつてはその時代を過ごして来た先輩四人、
それらを見守ってきた中澤達。
自分の大切な人達への思い方や、インターネットによる脅威、
己のエゴのみによる暴力。
ごっちんが目覚めるまでのストーリーは、娘。小説を超えて、
一般でも通用すると思います。
できるなら、田中達のその後の成長した姿も見たいですね。
素晴らしい作品をありがとうございました。m(_ _)m
- 435 名前:トーマ 投稿日:2004/05/26(水) 10:09
- >>425 仕事中様
>>426 RYO様
>>427 名無し飼育様
>>428 mun様
>>429 みるく様
>>430 名無し飼育様
>>431 さすらいゴガール
>>432 名無し飼育様
>>433 名無し様
>>434 名無し飼育様
温かいレス、本当にありがとうございました。
ここに書き始めた頃は、ただ自分の書きたいことを書いているだけで楽しかったのですが、
最近は、完結後の皆さんのレスを読ませていただくのが一番の楽しみになってしまっていることに気づいて、
少し自分に呆れています。
以前、違うテイストのもの云々と言いましたが、皆さんの感想を読ませて頂いて、
やっぱりここでは、あまり雰囲気の違うものはよろしくないのでは・・・と考え直しました。
ただ、これ以上の続編や、田中さんたちの世代の話も、残念ながら今のところ浮かんできません。
というわけで、別の話になります。
田中さん視点で、もちろん登場人物は、ほぼ前作通りです。
年齢はほぼ実年齢。但し、85年組はやっぱり同級生にしたいので、
石川さんと藤本さんには一つサバを読んでもらってます。
ありきたりな、ひとつの夏の物語です。
- 436 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 10:11
-
「 夏の記憶 」
- 437 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 10:30
-
7月の最後の月曜日、私は真上にギラつく太陽に炙られながら、自転車をとばしていた。
朝夕は、寒ささえ感じる日のある、いわゆる避暑地の、この高原の町も、
梅雨がスッキリ明けた後の日中は、充分30度過ぎまで、気温が上がるから、
ワイシャツ一枚の制服でも、もうすっかり汗に濡れて、背中に張り付いている。
一週間前から、夏休みには入っていたけど、
一応受験生である私たちには、夏期講習が今週いっぱいまで、組まれていて、
それを特別サボるような用事もなく、受講せずとも胸を張れるような成績も修めていない私は、
毎日、午前中3時間の授業を受けに、片道30分の道をせっせと通っていた。
とはいえ、それほど過酷な受験態勢というのでもない。
上の学校への進学を意識していなければ、いくつかの地元の公立校のレベルがわずかに変わる程度。
これといった将来の目標を持たない私は、せいぜい仲の良い友達と一緒に、
制服がかわいい学校に行ければいいかなって程度で、結構気楽な中3の夏だった。
だから、いつもだったらこの道も、サユとタラタラ寄り道しながら、帰るところだけど、
今日ばかりは急いでいた。
今日、あの人が来る。
- 438 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 10:56
- ウチの父が、管理を任されている別荘の一つ、石川さんチの真中のお姉さん。
それまで、毎年のように家族で夏の間の数週間を、ここで過ごしていたその人は、
去年は、受験だとかで、その前の二年間は部活が忙しいからと言って、
この三年、その家族の中に姿を見せていなかった。
もちろん、家族でとか言っても、小父さんはいつでも週末に顔を出すだけだったし、
他の姉妹も、たぶんその人と同じような理由で、時々いなかったりしたけど・・・
その人が四年ぶりにやってくる。
ウチの父は、本職は管理人ではない・・・と、本人は言っている。
どうしても画家なんだとか。
まあ、そっちの方の収入は殆どないのが現状みたいだけど、ともかくこの町に住んでいるのは、絵を描くためらしい。
で、その副業として、何軒かの別荘の管理の仕事をやっていて、これはなかなかの評判らしい。
自称芸術家としては、ありえないぐらいのマメな性格の父は、
例えば、食材の準備を頼まれれば、市販のものを調達するだけじゃなくて、
山に入って、山菜やキノコを採ってきたり、川魚を釣って、スモークしておいたりしていたし、
家のメンテナンスはもちろんのこと、庭の手入れのついでに、
頼まれもしない花壇を作って、季節の花を欠かさないでおいたり・・・
母に言わせれば、こっちの方がよっぽど天職らしいのだけど、本人にそれを言うと、いたって不機嫌になる。
そんな父を微笑ましく思っているらしい母は、父とは美術の大学で知り合った仲で、
そこで学んだことを活かしているのか、彫金のアクセサリーを作ったりしていて、
「趣味よ」とか言っているけれど、
その作品は、ホテルの売店や、サユの家がやっている店において置くと、かなり売れるみたいで、
たぶんそれが、我が家の生計の半分は支えている。
- 439 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 11:19
- 石川さんの家の管理は、私がまだ生まれる前、父と母がここに移り住んで間もなく、
知り合いの紹介で始めた、最初の管理人の仕事で、
その他の何軒かは、父の仕事振りを気に入ってくれた、石川の小母さんの紹介だとか・・。
この贅沢な別荘が立ち並ぶ、古くからの避暑地の中で、
石川邸は、中くらいの規模で、もう何十年も前の建物。
でも、きっと造りがいいんだろう、古いというよりも、年季が入っているという感じ。
元々は、小母さんの方の家の持ち物だったとかで、
昔からここに住む、サユのお祖父ちゃんは、今でも「あそこのお嬢さん」と小母さんのことを呼んで、
その人がいかに清楚で美しい少女だったかを語ったりする。
まあ、確かに今でも、ちょっと浮世離れした感じの品のいいその人は、
我が家の男勝りな母なんかとは、雲泥の差で、
この高原の町の雰囲気にいかにも似つかわしかった。
税理士か何かをやっているらしい小父さんも、スマートで穏やかな紳士って感じの人で、
だから当然のように、そこのお姉さんたちは美しい。
私より六つ上の長女が、一番お母さんの娘時代に似ているらしくて、
おっとりした感じの美人さんで、その二つ下と五つ下の三姉妹。
私は生まれてすぐから、夏が来る度に、その人たちとよく遊んでもらったらしくて、
まだ赤ん坊の私を幼い彼女たちが、抱っこしている写真が、
私のアルバムの最初の方を飾っている。
- 440 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 11:47
- はっきりと物心がつくようになってからの私の夏の記憶の中には、いつでも彼女たちがいて、
それで、どういうわけか、年が近くて一番遊んだはずの、末のお姉さんよりも、
真中のその人のことばかりが鮮明に思い出される。
あれは、たぶん4つのときだったと思う。
一つ違いのその子と、玩具の取り合いにでもなったのだろうか、
はっきり覚えているのは、私が大泣きしているシーンから・・・
泣きジックリをついている私に、その人がおいでって手を引いてくれて、
二人で森の中に入った。
泣きべそをかきながら少し歩いて、大きな木下に着くと、
その人はその木の根元の木の葉を手でよけて、傍に落ちていた木の枝で、そこを掘って、
そこに埋められていた幾つかの白い石の一つを取り出すと、
「これ、私の宝物なの。レナちゃんに一つあげるね。特別だよ。」
って、私の手の中に握らせてくれた。
あれは、どこかの川原で拾った物だったのかな、
白くて、所々に青と紫の線が入った少し歪な楕円をした石。
それからしばらくの間、それは私の一番のお気に入りで、
今でも机の引出しの奥の方に、小箱に入れて、しまわれている。
そんなことがあってからなのかな、
私はその人の後ばかり、ついて歩くようになった。
それは、ある時期からツーショットばかりになったアルバムの写真が物語っている。
- 441 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 12:03
- 森で遊んだ。川原にも行った。夜には花火もした。
みんなで鬼ごっこやかくれんぼをする時でも、小さい私は、いつでもお豆で、
ただその人の後ろを付いて回った。
花火は、必ず火をつけて渡してくれたし、川原の石の上では、手を引いてくれて、
転んで膝をすりむくと、オブって家まで送ってくれた。
小学校に上がった頃かな、
近くに出来たばかりの大きなプールに連れて行ってもらって、
今では、ちょっとした滑り台にしか見えない、そこのウオータースライダーが怖くて、
なかなか滑れないでいると、
「じゃ、一緒にやろーか」
って、膝に抱えてくれた。
一度滑り降りてしまえば、はまってしまったその楽しさに、
何度も一緒にすべることをねだって、何度かめに、
「もう、一人で出来るよね」
って、言われた時は、何か切なかったけど、
「大丈夫、下で待っててあげるから・・」
って、その人が微笑むから、勇気を出して滑り降りて、
下のプールに浸かって待っててくれたその人に、水の中で抱き上げられて、
「えらい、えらい」って誉められた。
そんなふうに誉められることに気を良くした私は、
それからは少しずつ無理をして、木に登ったり、高いところから飛び降りたり、
「すごいね、えらいね!」って、言われる度に、
だんだんオテンバと呼ばれる子供になっていった。
- 442 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 12:25
- 小学校三年の時、その頃、すっかり毎日つるんで遊ぶようになっていた、
近所の同級生のサユと、一つ年上のエリと一緒に、
春先から、森の中に秘密基地を作った。
基地と言っても、木と木の間に出来たくぼみに、
ダンボールとビニールシートを運んで作った、いかにも子供っぽいものだったけど、
それでも毎日のように手を入れていたから、
夏前には、狭いながらも、子供三人が雨避け出来るぐらいには仕上がっていた。
そこに、その人が来るなり、連れて行った。
「わー、すごいねー、これ。レナちゃんが作ったの?」
って、感心してもらえたから、協力者の名前は言わずに、胸を張った。
今にして思えば、その時には、4つ年上のその人は、中学生になっていたのだから、
そんな子供騙しを、本気で喜んでくれてはいなかったのだろうけど、
その夏は、毎日のように、そこで遊んだ。
サユもエリも、暗黙の了解といった感じで、その人がいる間は、殆ど顔を出さなかったから、
二人だけのその狭い空間は、その人の口から語られる、お伽噺のような世界に繋がっていた。
それは、不思議の国のアリスのようでもあり、ネバーエンディングストーリーの世界のようでもあり、
時には、SFチックだったり、スパイ映画みたいだったり・・・
たぶん、まるっきりのアドリブで語られるそれの、辻褄なんてのは合ってなかったのだろうけど、
その夏の私は、そんな想像の世界にすっぽりと入ってしまっていて、
秋が始まってからも、しばらくは空想癖が治らなかった。
- 443 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 12:40
- 次の夏からは、少し大人びた事もした。
その人が中学から始めたというテニスを教えてもらったり、湖のボートにも乗った。
数えるほどだけど、時には、乗馬なんかもさせてもらった。
もちろん、私は手綱を持ってもらって、ゆっくり歩かせる程度だったけど、
その人は、私に「休んでてね」ってソフトクリームを持たせて、
遠くの広い馬場で、馬を走らせていた。
そんな姿を眺めている時は、やっぱり子供相手じゃ面白くないのかなって思ったりしたけど、
汗を拭きながら、私のところへ帰ってくるその人が、
「レナちゃんはスジがいいから、すぐに上手になるよ。」
なんて言ってくれる言葉を、鵜呑みにしていた。
別荘のデッキで、オバサンの作るケーキや、クッキーでお茶をご馳走になったり、
夕方まで遊んで、そのまま夕食の席についてしまうのも度々だった。
夜のバーベキューに家族で呼ばれることも、毎年の行事のようだったし、
近くで行われる花火大会にも、必ず一緒に出かけた。
私にとっての夏は、
一年の中で一番刺激的で、一番贅沢で、一番素敵な季節だった。
- 444 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 12:58
- 小学校最後の夏、
「今日から、石川さんチも来るよ」
って、父から聞いて、
始めたばかりのスケートボードを誉めてもらいたくて、
別荘の周りを、それに乗って、待っていた。
前の年までのセダンとは違うワンボックスの大きな車が入って来て、
中から降りたったオバサンが、私を見つけて、手を振ってくれたけど、
いつまで待っても、その人は降りてこなかった。
じっとその場に立っていた私の前に、末のお姉ちゃんが、近づいてきて、
「今年は、梨華ちゃん来ないよ。残念でした!」
って、一言言い捨てるようにして、家の中に駆け込んで行った。
それを呆れるように見送った小母さんが、すぐにやってきて、
「今年はね、学校のクラブの練習が大変みたいで・・・
でも、梨華がいなくても、いつでも遊びに来てね!
小母さん、れいなちゃんが好きなケーキ作るから・・・」
って、言ってくれたけど、
結局、その夏は、家族で呼ばれたバーベキューに一度行ったきりで・・・・
それまでで一番長い夏休みになった。
でも、不思議なもので、長いと感じたその夏が、終わってみれば、一番短くて・・・
秋に入ってしばらく経った頃、
ふと思いついて、あの小石が埋まっていた場所を探しに、森の中に入った。
けれど、幼い記憶は曖昧で、
結局、その場所を見つけることは出来なかった。
- 445 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 13:11
- 中学に入ると、迷わずにテニス部に入った。
でも、それはその人に教わったのとは違っていて、
私はそれまで、テニスに硬式と軟式があるのなんて知らなくて、
ふにゃふにゃのボールは、やっぱりかなり安っぽくて、手応えがなかったけれど、
サユを誘って入っちゃったし、
彼女が中学に先に上がってから、なんとなく疎遠になっていたエリもそこに在籍していたから、
それは、それなりに楽しかった。
その夏、私はあの別荘の近くには行かなかった。
ただ、父の口から、今年もその人が来てない事は聞かされていた。
部活の練習に学校に通った。
サユとエリとプールに行ったり、自転車をとばして、駅前のショッピングモールに行ったり、
時には電車に乗って、大きな街まで、遊びに行くこともあった。
最後の一週間は、ためていた宿題に追われて・・・
その夏は終わった。
次の年もあまり違ったものにはならなかったけど、
エリが三年になって、一学期で部活を引退してたのと、
サユが好きになったという高校生を見に、
彼らが練習をしているサッカーグラウンドに、何回か通ったりもした。
- 446 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 13:24
- そしてこの夏、
夏休みが始まったばかりの頃、夕食の終わったテーブルで、父が話し掛けてきた。
「今年は、石川さんチ、家族が来る前に、真中の・・・なんていったっけ、オマエのお気に入り・・・」
「あっ、梨華さん?」
「そう、その子が、友達としばらく使うからって、連絡もらったんだけど・・・」
「いつから?」
「うん、来週の頭から・・・明日から準備し始めなきゃかな・・・
食料は自分たちで用意するみたいなこと言ってたけど、何にも用意しなくていいのかな・・・」
なんて、ボソボソと独り言のように言いながら、お酒を飲んでいる父に、
どうしても緩んでしまう口元を見られたくなくて、
急いで、自分の部屋に上がった。
小学生になったばかりの弟が追ってきて、ドアの外でなんか言っているけれど、
無視して、鍵を下ろした。
「そっか、今年は来るんだ・・・・」
- 447 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/26(水) 13:36
- 次の日、学校に向かうために、自転車を並べていたサユに、
「ね、あの別荘のさ、あのお姉さん、覚えてる?」
「あっ、あの石川さんとこ?」
「うん、あそこの真中の・・・」
「あーあ、キレイな人だったよね・・・レナとよく遊んでた・・・」
「うん、あの人、もうすぐ来るんだって・・・友達と・・」
「ふーん、久しぶりだよね・・・・あの人ってさ、今いくつだっけ?」
「あー、4つ上だから、たぶん大学生・・・・去年、受験だとか言っていたから・・」
「そっか、もう大学生か・・・・じゃあ、彼氏とかと来るのかな?」
「えっ?」
「ああ、でも、自分チの別荘じゃ、それはないかな・・・」
「・・・・・うん」
「でも、もてんだろーね、あの人・・」
「ああ、だろーね・・」
サユとのそんな会話が、大きく膨らんでいた気持ちを、少し小さなものに変えた。
ただ、それがどうしてなのかは、その時の私は、わからずにいた。
- 448 名前:トーマ 投稿日:2004/05/26(水) 13:38
- 本日はこの辺にしておきます。
まだ導入部ですけど、たぶんあまり長くない話になると思います。
- 449 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/26(水) 13:53
- 新作ですね。
いいところで終わってるなぁ。
続き楽しみです。
- 450 名前:トーマ 投稿日:2004/05/27(木) 09:57
- >>449 名無し飼育様 さっそくのお越しありがとうございます。
しばらく、静かな展開が続きます。
- 451 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 10:14
-
自転車を少し遠回りさせて、あの別荘の前に着く。
久しぶりに見るそこは、何か印象が変わっていて、
たぶんそれは、庭木の丈が高くなっているのと、私の背が少しだけ伸びたせいなのだろう。
まだ車の着いていない家の前には、見慣れたバイクが置かれていて、
捜すと、庭の隅で父が背を丸めて、花壇の手入れをしている。
私は、それを見つけると、そのまま敷地を取り巻く柵の外に自転車を止める。
「手伝うか?」
私に気づいた父が、顔を上げる。
首を振ると、
「そっか・・」
初めから、私が応じることなど期待していない父は、目をすぐに手元に落として、作業を続けながら、
「もーすぐ着くんじゃないかな・・・さっきインターを降りたって、連絡があったから・・」
なんて、独り言のようにつぶやく。
私は、自転車のハンドルに手を置いたまま、木々の間を渡る小鳥を目で追いかけて、
少し気まずい時間をつぶす。
しばらくすると、公道の方から車の近づく音がして、
黒っぽい・・・キューブってやつなのかな・・・が、ゆっくりと門の間に入って来て、
ぎこちなく建物の前に止められる。
- 452 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 10:36
- その駐車位置を確認するように、ゆっくりと手袋を外した父が歩み寄る。
それを見つけて、助手席から、女の人が降り立つ。
デニムのミニスカートに、白い薄手のパーカーを羽織った黒髪の人が、
父と挨拶を交わして、鍵を受け取っている。
続いて、運転席から、膝丈のパンツに、タンクトップを重ね着した茶髪の人が降りて、
後部座席からは、金髪でジーンズにティシャツの少し背の高い人と、
少し小柄な、ホットパンツに、ノースリーブのブラウスを着た人が出てきて、
それぞれ父に頭を下げている。
洒落た車を背にその人たちが立つ姿は、時々開く、カジュアルファッションの雑誌の一ページみたいで、
それを盗み見ている私とは、まったく別の空間にいるみたいだ。
父が、鍵を渡した人に、その顔の方を向いたまま、肩の上にあげた親指で、
私の方を指し示す。
その先を追った人と・・・・目が合った。・・・あっ・・・
私を見とめて、にこっと笑ったその人は、その笑顔のまま小走りに近づいてきて、
「わー、レナちゃん、大きくなったねー、久しぶり!」
なんて、いきなり私の両手を取って、ぶんぶんと振る。
「それ、制服だよね。もー、中学生なんだよねー、わー、でも、変わんない!」
少しぼーっとしている私に、
「あれ?もしかして忘れちゃった?」
なんて、小首をかしげて、本気で戸惑っているような顔をするから、
「いえ・・」
って、短く答える。
「よかったー、でも、本当久しぶり・・」
- 453 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 10:54
- その人の後ろには、いつの間にか他の三人も来ていて、
「あっ、この子がレナちゃん?」
「うん、私の妹みたいな子・・」
なんて言葉が照れくさくて、頬が少し赤くなるのがわかる。
「へー、でもちょっと意外かも・・」
「えっ?」
「梨華ちゃんが、かわいい、かわいいって言うから、綿菓子みたいな子だと思ってたら、
なんかニッキアメみたいな子だよね・・」
なんて、運転席の人が言って、
「あっ、これ、かわいくないって意味じゃないよ・・
プリティーって言うんじゃなくて、キュートって感じってことだからね!」
って、金髪の人が、他人の言葉をフォローする。
「てか、フツーにかわいいじゃん!ね、中学生?」
なんて、ホットパンツが、近くで見ても小さい顔を突き出して、私の顔を覗き込む。
「ね、そんなにみんなで・・・ダメでしょ!・・・ちゃんと紹介するから」
それぞれ口々に勝手なことを言っている三人を嗜めるように、
その人は、私の肩に腕を回すと、三人に向き合う形に、私の隣に立つ。
「えっとね、この子がー、あの小父さん・・・田中さんの所のれいなちゃん。
れいなって、ちょっと言い辛いから、ちっちゃい頃から、レナちゃんって呼んでるんだけど、
・・・・いいよね、レナちゃんで・・・」
なんて、私の顔を覗き込む。・・・・・・・甘い香りがした。
私が頷くのを確認して、
「それで・・・・あっ、もう中三になるんだよねー」
- 454 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 11:15
- 「・・・それでね、この人たちは、私の高校の時からの友達で、
こっちから、ごっちん、よっちゃん、美貴ちゃん・・・」
「えー、それでいいわけ?!」
って、ミキちゃんと言われた人が、不満気に言って、
「えっ、ダメなの?」
「ったりまえでしょ、ちゃんと紹介しなさいよってか、アタシは藤本美貴。よろしくね!」
「んじゃ、吉澤ひとみでーす!」
「ゴトーは・・・後藤真希・・・アレ?なんか変だよね・・・」
なんて挨拶に、小さく頭を下げて応える。
あらためて一人一人の顔を確認すると、それぞれ全然違うタイプだったけど、
みんな都会的で・・・・・キレイな人たち。
そして今、私の肩に手を置いているこの人は・・・
私の幼い記憶の中で、いつも美少女の代名詞みたいな人だったけど、
何年かぶりに、間近で見ると・・・・あらためてキレイだったし・・・
それから、ずいぶんと大人だった。
何か、大人の女性って感じで、一緒に私の秘密基地で、
「今日はスパイごっこしよっかー!」なんて無邪気に言ってた人と同じ人とは思えなくて、
私は、その人に触れられている部分が熱くなってる気がして、恥ずかしかった。
「レナちゃん、今晩さっそくバーベキューやるから、来てよね!」
正面に回って、また私の両手を握ると、言い聞かせるようにそんなことを告げるその人に、
小さく頷くだけの返事をする。
と、安心したみたいに、大きな笑顔になって・・・・あっ、この顔は・・・同じ。
記憶の中の少女が重なる。
- 455 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 11:31
- 「じゃ、あとでね・・・」
って、手を振って、車の中から荷物を降ろすと、建物の中に消えていく四人。
私は、しばらくその場で、閉められたドアを見つめていた。
「れいな?」
父の声に、慌てて自転車に跨る。
家に向かって風を受けながら、ぼんやりとさっきの言葉を思い返す。
夜のバーベキューに誘われた・・・・・
誘われたには違いないけど、それって、それまでは来るなってことなんだよね・・きっと。
私は、その人と一緒に過ごした最後の夏を思い出してみる。
朝起きるなり、出かけようとする私を、いつも母が、
「朝早くからはご迷惑だから、10時過ぎるまではダメ!」とか引き止めて、
時計の針を待ちきれずに飛び出す私の背中に、
「お昼はちゃんと帰って来なさいよ!」って、叫んでたけど、
たいていは、小母さんに勧められるままに、お昼は一緒にご馳走になって、
それじゃあんまり悪いからって言う母に言いつけられて、
何度かは、私がその人の手を引いて、無理やりウチでお昼を付き合わせたりもした。
そして、いつも日が落ちるまで遊んだ。
たぶん毎日ではなかったと思う。
その人が家族と出かけることもあったし、私の家の用事もあっただろうから・・・
でも、記憶の中では、ずっと一緒にいたことだけが、繋がっている。
- 456 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 11:39
- そうなんだよね。
その人は、友達と来ている。
中学生と大学生では、たぶん話す話題も、したい遊びも違っていて・・・
それに、あの人たちは、みんなキレイで大人っぽくて、ちょっときつそうで・・・
あんな人たちと普段過ごしているのだから、私みたいな子供といても面白いはずはない。
私だって、弟の友達なんかとは、遊ぶ気にはならないのだから。
サユの言葉で、少し小さくなっていた胸の中のものが、
なおいっそうしぼんで・・・・
代わりに、なにか暗いものが、そこに広がる。
- 457 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 11:58
- 夕方になっても、グズグスと部屋にいた私に、母が声をかけに来る。
「今、梨華ちゃんから電話あったわよ・・もう始めるから、早くおいでって・・
ゆっくりしてると、お肉なくなっちゃうよって伝えてくれって言われたけど・・」
そんな言葉に押されて・・・
私は、自転車で普通に走ると10分くらいの、まだ日が落ちきっていないその道を、
少し重たい気分を乗せて、ゆっくりと走る。
近づくと、なにやらキャッキャと騒ぐ声が聞こえる。
「ダメじゃん、こんなんじゃー」
「大丈夫だって!」
「無理だよ、燻製作るんじゃないんだからー」
「だから、やっぱりガスにしようよ!」
庭に入ると、その中は、やたらと煙が立ち込めていて・・・
「あっ、レナちゃん、ちょっと助けて!」
私を見つけた梨華さんが、駆け寄ってくる。
「あのさ、どーしてもお肉は炭火だって・・・始めたのはいいんだけど、
上手く火が点かなくて・・・・ほら、ウチはいつもお父さん任せだったから・・」
立ち上る煙をよけながら、バーベキューコンロを覗くと、
木炭の上に、何枚もの新聞紙が焦げていて、何本かの生木も入っている。
「ダメですよ、こんなんじゃ・・」
私は、その中のものを一度全部、トングで地面に取り出す。
- 458 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 12:17
- 「やっぱり、こんなんじゃ点かないよねー」
なんて言う、梨華さんの眉が八の字に下がってて、
私はそんなこの人の困り顔が懐かしくて、ついクスッと笑ってしまう。
いつでもお姉さんぶってるわりには、
木と木の間のクモの巣で、そこを通り抜けられなくて、立ち尽くしてた森の中とか、
隣のおじいちゃんにもらったひよこを見せようと持っていった時とか・・・
苦手だとか、嫌いだとか言えずに、ただこんな顔をしていた。
そんな私の笑みを、バカにされたものと勘違いしたのか、
それまで火を熾そうとしていたらしい金髪の人が、
「なんだよ!」
とか、少し怒ったみたいな声を出して、
「まーまー」
って、小顔の人にたしなめられてる。
私は、そんな声は聞こえていないふりをして、
「レナちゃん、お願い!」
って言う、優しい声だけを耳に入れて、せっせと火の準備に取り掛かる。
初心者なら、簡単に火が点くアイテムがいくらだって売っているのに・・・・って思ったけど、
たぶんそんなことも知らないんだろう都会の人が、半分羨ましくもある。
ウチの両親は、私に小さな頃から、何でもやらせた。
特に、火を上手く熾せるのは、頭のいい証拠・・・という持論を持っている父のやり方を、
見よう見まねで覚えたそれは、友達からも名人芸と言われている。
- 459 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 12:54
- 私は、残っている新聞紙を一枚だけ取って、半分に裂いて、一方を堅くねじって、
残りで、落ちている木切れの中からよく乾いてささくれだった小さなものを選んで、それを包む。
用意された木炭の中から小さく砕けたものを幾つか選んで、コンロに入れて、
まず、新聞紙に点火して、木切れ、木炭と少しずつ火を広げる。
小さな木炭が赤くなるのを確かめながら、少しずつその上に大きなものを重ねて、柔らかく団扇で風を送る。
大き目の木炭に火が移った時、
「オー!」とか言って、今まで黙って梨華さんの隣に立っていた運転席の人が、
いかにも感心しましたって感じで、覗き込んでくる。
「やっぱりすごいねー、レナちゃんは・・」
って、梨華さんが言ってくれて、
「フツーです・・」
って、照れ隠しに、顔を上げないまま、火を大きくする作業だけを続ける。
すぐに鉄板を載せようとする金髪の人に、
「あっ、まだ・・・・・って、あのー、お肉なら金網の方がいいんですけど・・」
って、言うと、
「あっ、そーよね・・・・ね、レナちゃん、これって、油で拭いた方がよかったんだっけ?」
って、梨華さんが、不満気な人を制して、
「ええ、新品なら・・・」
「うん、わかった!」
真新しい金網を、梨華さんが、キッチンタオルに含ませた油で拭く。
「でもさ、金網だと、ヤキソバ焼けないじゃん!」
なんて、金髪が言うから、
「ヤキソバなら、遠赤外線とか関係ないから・・・ガスバーナーがあるんでしたら・・そっちの方が・・・」
「へー、そーゆーもんなんだ・・」
「ええ、そーゆーもんです・・」
- 460 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 13:14
- 少しまだ不満気にしている金髪に、
「今日の奉行はレナちゃんなんだから・・・ハイ、みんな彼女の指示に従って!」
なんて、梨華さんが言ってくれるから、
私は調子にのって・・・・
「あっ、もうアミ載せていいですよ・・」とか、
「まずお肉から・・」とか、
「あっ、野菜は脂ないから、上に焼けてるお肉載せた方が・・・」とか、
「これ、もー食べれますよ・・」とか、
次々に大人たちに指示をして、焼き場を仕切る。
最初は半信半疑だった金髪と小顔も、
「あっ、うめ!」
「あー、ホント、いい感じに焼けてる!」
「レナちゃん天才!」
なんて言いながら、デッキにお皿を運んで本格的に食べ初める。
しばらくそんなことを続けている私に、
「でも、焼いてばかりじゃ、レナちゃん食べれないでしょ・・」
なんて、梨華さんが、
「これいいかな?」
お皿に私の分を取り分けてくれて、
「少しあっちでゆっくりしなよ・・・ジュースもあるし・・」
なんて、後藤さんだっけ・・その人が、トングを私の手から受け取る。
「そーよ、バッチリこつは見せてもらったから、あとは私たちに任せて・・・
それからね・・・」
って、梨華さんが、私の耳に唇を寄せて、
「これ食べ終わったら、あっちのヤキソバもみてあげてくれるかな・・・・
なんかあの二人だと、メチャクチャになりそーだから・・・」
って、テーブルの上のガスバーナーの前にいる二人を指差す。
「あっ、はい!」
私は、新たな使命を受けて、
自分のお皿と、これみんなでって、後藤さんが取り分けた大皿を持ってテーブルに向かう。
- 461 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 13:31
- 「はい、これ!」
って、大皿を置くと、
「オッ、サンキュ!・・・・レナちゃんだっけ・・・アンタ上手いねー」
なんて、すっかり上機嫌になっている金髪に、
「よっちゃん、ビールまだある?」
って、小顔が、クーラーの中から、新しい缶を取り出してきて、
・・・・って、あれ?
「あの・・・」
「あー、アンタものむ?」
「いえ、あの・・・」
「ダメよ、中学生にお酒すすめちゃ!」
って、自分も新しい缶を開けながら・・・・って、この人たち梨華さんの同級生だよね・・
なんて顔をしていると、
「あは、いいんだって!このあと車に乗るわけじゃないし・・」
なんて、まあいいか・・・
庭のバーベキューコンロの前の二人は、せっせとお肉を焼きながら・・・ウーロン茶・・
私の疑問がわかったのか、
「あーあ、あの二人は飲めないから・・」
って、小顔が私の前にジュースを置いてくれて・・・
まあ、大学生なんだもんね・・・私だってビールくらいなら、悪戯で飲んだ事もある。
でも、後藤さんはともかく、梨華さんが飲めない事に、なんか安心する。
「あのさ、これ、どーやるの?」
すっかり私のことを信頼した人たちに、聞かれるままに、
ガスバーナーの上で鉄板を温めて、用意されているヤキソバを焼き始める。
「なんか手際がいいねー!」
なんて持ち上げられて、出来上がったものをお皿に取り分けると、
「オーイ、出来たよー!」
なんて、金髪が庭の二人を呼んで、
残りのお肉を両手の皿に盛った梨華さんたちも、テーブルにつく。
- 462 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 13:52
- 「やっぱ、レナちゃんに来てもらってよかったよ・・」
「本当だねー」
「あのまんま、よっちゃんに任せたら、こっちまで燻されるところだったよ・・」
「うん、反論できねーや・・」
なんて会話が笑いながら続いて、
「やっぱさ、よくやるの?バーベキューとか・・」
「ええ・・」
「やっぱ、こーゆー所に住んでるといいよなー・・」
「まあ・・」
「お父さん、ここの管理人なんでしょ」
「ええ・・」
「あっ、でも、レナちゃんのお父さんは、本業は絵描きさんなんだよ。
芸術家・・・・ここの管理は、ついでにお願いしてるだけだから・・」
「へー、そーなんだー・・」
「うん、お母さんだって、アクセサリーとか作ってて、すごいんだから・・
ほら、これだって・・」
梨華さんが胸元から、ペンダントヘッドを取り出す。
・・・・あっ、それ・・お揃いで作ってもらったの・・・裏にR=Rって入れてもらって・・
私のティシャツの下にも隠れているそれを、取り出そうかと思ったけれど、
「うわ、かわいいね、それ!」
「でしょ!」
なんて盛り上がっているから・・・・・ティシャツの上からそれを握る。
「これね、もらったんだけどさ・・・ねえ、お店とかにも出してるんだよね・・」
「はい・・サユんちの店と・・・Kホテルにも・・」
「へー、すごいねそれ・・ね、今度見に行こうよ!」
「うん・・・・サユって・・・あの子?・・・レナちゃんの同級生・・・背のちっちゃな・・」
「はい・・・でも、今はオッキクなっちゃって・・・たぶんこの人ぐらい・・」
って、私は、金髪を指す。
- 463 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 14:10
- 「へー、よっちゃんくらいあるんだー・・
レナちゃんよりもちっちゃかったのにねー・・なんか想像つかないなー」
「ええ、なんか最近、ぐんぐん伸びちゃって…アタシなんかあっという間に抜かれちゃって・・」
「あっ、でも、レナちゃんが私よりも大きくなってなくてよかったよ・・」
「えっ?」
「だって、私、妹に中学生の時、抜かれちゃって・・・
で、レナちゃんにまで抜かされたら、なんか淋しいじゃない・・」
「あー、それ、ゴトーもわかるな。弟に抜かれた時は、悔しかったもの・・」
「でも、弟じゃしゃーないしょ!女の子よりちっこかったら、マズクネー・・フツー・・」
「よっちゃんのとこは、まだ弟君が小さいからわかんないんだって・・結構ショックなんだから・・」
「そんなもんかねー・・」
「ねえ、レナちゃんは、なにかやってるスポーツ?」
話が急に私に飛んできて・・
「あっ、部活でテニス・・・」
「なら、ちょーど良かった・・・・ねえ、明日、コートとってあるんだけど・・
やらない、一緒に?」
「あっ、でも軟式なんで・・・」
「大丈夫よ、私以外はみんな素人だから・・・」
「素人で悪かったな!」
「運動神経バツグンなの忘れたか!」
人の会話に突っ込む人たち・・・・でも、こんなテンポも聞きなれてくると悪くない。
「前、一緒にやったことあるよね・・・スジ良かったんだから・・すぐ上手くなるって・・」
「はー・・」
「二面とってあるからさ・・・ね、良かったらお友達とか誘ってもいいし・・」
「ええ・・」
- 464 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 14:25
- 「ほら、昔はずっと一緒に遊んでたじゃない・・・それともこんなオバサンたちじゃイヤかな?」
「いえ・・」
「梨華ちゃん、オバサンはないでしょ・・」
「えっ、だって中学生から見たら、18、19は、オバサンらしいよ・・」
「えっ?そーなの?」
「いえ、そんなことないです!」
「なら、決まりね!」
「でも、夏期講習が午前中あって・・」
「あーあ、受験生なんだ・・・でも、午後からだから・・」
「なら・・」
明日の約束が出来て、そのあとは・・
「受験かー、大変だねー」とか、
「どこ受けるの?」とか、
「終われば清々するんだけどねー」とか、
「でも、なんか懐かしいよねー」なんて雑談が続いて・・・
「ねー、まだ火があるんだけどさー」
後藤さんが、バーベキューコンロの火を見に行って来て・・
「じゃあ、あれやろうか・・・ね、レナちゃん!」
「あれって?」
「焼きおにぎり!」
「あーあ・・」
それは、我が家のバーベキューの定番。
お肉を焼いたあとの残り火で、オカカと醤油で握ったオニギリを焼く。
梨華さんチではやらないそれを、ウチで食べた時、しきりと誉めていた梨華さん。
「お昼に炊いた御飯が残ってるから・・・」
二人でキッチンに上がって、一緒にオニギリを結ぶ。
- 465 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 15:00
- 梨華さんの手の中のそれは、いつも小さいねって、サユに笑われる私のものより、
さらに一回り小さくて、
大きなお皿に、私のと合わせて1ダース以上になったそれを並べる。
デッキで騒いでいる人たちの横を通り抜けて、
庭のコンロの上で、それを炙るように焼きながら、
「ね、いい感じの人たちでしょ?」
って、三人の友達の印象を私に尋ねる梨華さん。
「はい・・」
「口がね・・・悪かったり、乱暴だったり、目つきが怖かったりするけど・・・」
あーあ、確かに・・・・
「みんな、基本的に優しい人だし・・・裏表ないし・・・」
「はい・・・」
「だから、仲良くしてあげてね!」
なんて、まるで幼稚園児に言うみたいに・・・・
焼き上がったオニギリは、メチャクチャ好評で、あっという間になくなる。
・・・・・みんな痩せている割に、よく食べる・・
そのあとキャッキャしながら、小さな花火をした。
帰り際に、道まで送ってくれた梨華さんに、ずっと気になっていたことを尋ねる。
「・・・・でも、アタシ、いてもいいんですか?」
「えっ?」
「他の人の・・・迷惑じゃないかなって・・・」
「そんなことないよ・・・そっか、いまいち元気がないと思ったら、もしかしてそのこと気にしてた?」
「ええ・・」
- 466 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/27(木) 15:12
- 「みんな楽しみにしてたの・・・・
ここに来れば、私のもう一人の妹に会えるって・・」
「・・・・・」
「あれ、そーだったよね?」
「・・・はい・・」
「てーか、いつからレナちゃん敬語になったのかなー・・」
「は?」
「前は、フツーだったよね・・」
「あっ、たぶん部活の習慣で・・・・先輩には敬語・・」
「先輩ねー・・まあ、無理にとは言わないけど、出来たら前みたいなのがいいなー・・」
「はー・・」
「まあ、いいか・・・・それより、レナちゃんはいいのかな・・」
「えっ?」
「私たちと付き合うの・・イヤなら仕方ないけど・・」
「いえ!」
「なら、ほら昔みたいに・・・いつでも来てよね!」
「はい・・・・・いつまで、いられるんですか?」
「うん、二週間くらい・・」
「お休み・・・気をつけて・・・」
って、送られた帰り道。
・・・・ペダルは軽かった。
こうして、私の夏が始まった。
- 467 名前:トーマ 投稿日:2004/05/27(木) 15:12
- 本日はここまでにします。
- 468 名前:RYO 投稿日:2004/05/27(木) 15:58
- トーマさんの新作だ!
また仕事に集中できなくなりそう。
続き楽しみにしてますね。
- 469 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/27(木) 16:23
- トーマさんの作品大好きなので、新作
めちゃめちゃうれしいです。
なんか引き込まれちゃいますw
楽しみにしてます!
- 470 名前:dada 投稿日:2004/05/27(木) 21:31
- トーマさんが書く85年組み大好きなんでこれからもがんばってください。
- 471 名前:トーマ 投稿日:2004/05/28(金) 10:00
- >>468 ROY様 ありがとうございます お仕事頑張ってください
>>469 名無し飼育様 ありがとうございます 今回も気に入っていただければ嬉しいんですけど・・・
>>470 dada様 ありがとうございます 85年組いいですよね リアルでも、小説の中でも
- 472 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 10:21
-
教室で、今日のテニスのことを話すと、
好奇心旺盛なサユは、絶対混ぜろといって、きかなかった。
・・・友達も誘っていいって言われたけど・・・
まあ、この子なら、満更知らない仲でもないし・・・
それならと、高校に入ってからは、硬式を始めているエリも誘っうことにした。
お昼を済ませてから、待ち合わせのコートに行くと、もう、球を打ち合っていた。
・・・・確かにヘタクソ・・・
ラケットを借りて、コートに入る。
「あっ、レナちゃん・・・・うーん、思い出すからちょっと待ってね・・・」
梨華さんは、しばらく私の連れてきた二人を観察して・・・
「うんとね、こっちがサユちゃんで・・・・エリちゃんでよかったよね・・」
「当たってます」
「大きくなったねー!本当に・・」
私たちを迎えに集まった人たちに、二人が頭を下げる。
後藤さんが、私と二人を見比べて、サユを指して、
「なんか、この子の方が、綿菓子みたいだね・・・てーか、杏仁豆腐かな・・サクランボの載った。
で、こっちが・・・マンゴープリン・・・違うな、マザービスケットの方がいいかな・・」
いきなりそんなことを言われて、キョトンとする二人に、梨華さんが、
「ゴメンネ・・気にしないでね!
この人、すぐに人のことお菓子にたとえるのよ・・・
私なんか初対面でいきなり指差されて、アポロチョコだって、笑われたのよ・・・ね、失礼でしょ!」
「だって、黒いのがピンク着てるんだもん!」
なんて、失礼な人が笑って・・・
「まあ、梨華ちゃんのアポロは大当たりだけどさ、アタシなんか豆大福だよ・・どーよそれ・・」
「うん、白い顔にほくろがいっぱい!」
「そんなプニプニしてないって!」
- 473 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 10:35
- 「じゃあ、美貴のミントキャンデーなんか良い方なんだ・・」
「あーうん・・・てーか、ハッカ飴って言ったんだけどな・・・アタシ、ハッカ苦手だから・・」
「なんじゃそりゃ!」
そんな会話に、杏仁豆腐とビスケットが、呆気にとられてて・・・
それに気づいた梨華さんが、慌てて、
「あっ、ごめんね・・・ほら、ちゃんと自己紹介!」
なんて言うのを、
「別にいいじゃん・・・アポロと豆大福とハッカ飴・・・で、アタシはゴトー・・」
「わっ、ごっちんだけそれはずるいよ!
じゃあ、この人はね・・・・えーと・・」
「のり塩チップでいいよ・・」
「なんで?」
「今、はまってるから・・・」
「だけ?」
「だけ!」
「もー、なんかずるくない?それー」
なんて、後藤さんに肩をぶつける梨華さん。
・・・・あれ?・・・なんだろう・・この感じ・・・・
私は、捉えどころのない違和感を覚えた。
- 474 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 10:53
- 「とにかく、やろ!」
空いてるコートに入って、エリ対私とサユで、打ち始める。
やっぱり、軟式とは違う・・・上手くラリーが繋がらない。
それを見かねたのか、しばらくすると、梨華さんが寄って来て、
「ね、レナちゃんとサユちゃん・・・面の使い方はー少し抑える感じで」とか、
「あっ、両面使っていいのよ」とか、
「ボール重いから、両手打ちの方がいいかな」とか、
「慣れない内は、落ち際でたたいた方がいいかな」なんて、アドバイスしてくれて、
エリとのラリーが少し続くようになる。
「やっぱり、スジがいいよねー」
なんて、誉められていると、
「ずるいよ梨華ちゃん、アタシラにもまともに教えろつーの!」
なんて、隣のコートから聞こえてくる。
「だって、よっちゃん、何度言ってもちゃんと聞いてくれないんだもん・・
よっちゃんのってさ、それ、野球みたいなんだよね・・・だからホームランばっかでさ・・」
「野球でホームランなら、最高じゃん、アタシ、カッケー!」
「なに言ってんの!取りに走る美貴の身にもなってみろつーの!」
なんてやってるけど・・・・みんなしばらくやってるうちに形になってきて・・・
初心者みたいだったけど、本当に夕べ言ってたみたいに、運動神経いいんだな・・
特に、黙々とやってる後藤さんは、相当拾えてる。
- 475 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 11:14
- 「ね、試合やってみよっか!」
ってことになって、
私と梨華さん、後藤さんとエリでダブルスを組む。
隣のコートでは、吉澤さんと藤本さんが遊んでて、サユが審判。
さすがにエリは、一学期間やってるだけのことはあったし、後藤さんもなかなかのものだけど、
そこはやっぱり年季が違う。
私はだいぶ足を引っ張ったけど、梨華さんに助けられて、
む3ゲームマッチの2ゲーム連取で、やったねって、ハイタッチ。
「梨華ちゃん、マジはずるいよー!」
「これでも、ソートー手加減したんだけどなー」
「うっそだー!梨華ちゃんはさ、勝負事になると、すぐ熱くなるからさ・・」
後藤さんが子供みたいに拗ねて、それを梨華さんが、笑ってかわす。
「はい、チーム替え、チーム替え!」
それから、色々な組み合わせで、ワイワイと試合をする。
それは、珍プレー続出で大笑いできて、面白かったけど、
やっぱり一番楽しかったのは、梨華さんと二人であぶれて、隣のコートで教えてもらったこと。
最初は、普通にラリーしてたんだけど、そのうち指導し始めたその人は、
だんだん真剣モードに入っちゃって、部活のコーチみたいになって・・・
それを隣のコートから見ていたらしいエリが、休憩タイムに、
「アタシにも教えてください!」
なんてこと言い出して、
結局、後の時間は、梨華さんはエリを付きっきりでコーチすることになっちゃって、
なんか、それは傍目にも、私の時以上に本格的で・・こっちのコートとは、別世界だった。
- 476 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 11:34
- 車で帰るその人たちと別れて、自転車を並べるエリが、
「ウチのコーチなんかより、よっぽど教え方上手いんだよね・・」
なんて、感心して・・・
「また、教えてもらえないかな・・・」
私は、そのセリフに軽い嫉妬のようなものを感じて、
「どーかな、忙しそーだし・・」
なんて、ボソリと返して、
「サユんチのお店に行きたいって言ってたけど・・」
って、話を変える。
「あっ、来て欲しいなー!なんか四人ともカッコいいよね・・」
「うん!」
素直な二人は、その後、口々に今別れた、ちょっと大人な人たちの印象を語り出す。
「金髪の・・・なんだっけ?」
「ああ、吉澤さん・・」
「うん、あの人、なんかボーイッシュで・・」
「女子校にいたら、ソートーもてるタイプだよね・・」
「うん!それからあの人、メッチャ顔が小さいの・・」
「そー、ありえない感じだよね・・・それにきつそうだけど、キレイだし・・」
「うん、それから、あの変なこと言ってた・・」
「ゴトーさんだっけ・・」
「そー、あの人、スタイル良くてさ、テニスもなんか様になってるんだよね・・」
「うん、なんだろねあれ、そんなに上手くないのにカッコイイ・・」
「体の使い方がいいのかなー・・・それに個性的な美人だしね・・そのそいものもあるのかな・・」
なかなか出てこない梨華さんの話題に、
少しの不満と、少しの不思議な安心感とを半々くらいに感じていると、
「でさ、梨華さん・・・・」
- 477 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 11:43
- 「・・・なんか、すっかり大人の女の人だったよね・・」
「だねー、昔はさ、もっと線が細いってゆーか、儚げな感じだったけど、
なんかねー、もーすっかりキレイなお姉さんって、感じで・・・」
「イイナー、レナは・・・あんな人と知り合いで・・」
「だねー」
「だけど、エリもサユも知り合いじゃん・・」
「知り合いって言えばそーだけどさ・・・やっぱ違うよ。
レナは特別って感じだもの・・・レナちゃん、レナちゃんってさ・・・」
「そーかなー」
「そーだよ・・・まあ、ちっちゃい頃からだもんね・・」
そんな彼女たちの言葉が、私に大きな優越感を与えて、
さっきまで感じていたエリへの嫉妬心も消してくれる。
そーだよね、私はあの人の特別・・・・妹みたいだって言ってくれてるし・・・・
- 478 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 12:04
- その日、交換したメールアドレスに、次の日からは、
「○○でケーキ食べるんだけど、付き合わない?」とか、
「○○に行きたいんだけど、案内してくれないかな?」とか、
「泳ぎに行くから、水着もっておいでね!」なんてメールが入るようになって、
私は、後ろに三人だと、少し窮屈になる車に、午後からは必ず乗っていた。
このお洒落な車の持ち主は、後藤さんで、この春に入学祝いに買ってもらったとか・・・
それを運転するのは、あとは吉澤さんだけ。
藤本さんは、まだ免許がなくて、ここを離れてからの夏休み中にはとるつもりだとか。
梨華さんは、免許を持っているらしいんだけど、
車のオーナーに固く運転を拒否されてて、
「下手なんですか?」って聞いたら、
「むやみにとばすから・・」なんて予想外の答えが返って来て、
「ハンドル握ると、人がかわる・・・あーこわっ!」なんてからかわれてた。
少したってから、気がついたことだけど、
後藤さんが運転する時の、助手席は梨華さんで、吉澤さんの時は、藤本さん。
それが、自然の決まりごとになっているらしくて、
で、私は必ず後ろの真中。
「座りにくいでしょ・・」とか、みんな言ってくれるけど、
なんとなく端だと、相手にされなくなるかなって気がして、私は結構気に入っている。
親しくなってくると、最初はちょっととっつきにくいかなって思ってた人たちも、
みんな気さくな面白い人だってわかってきたし、
気を使ってくれているのかも知れないけれど、みんな私に構ってくれた。
少し、ペット扱いみたいな感じもしたけど、それはそれで居心地は悪くない。
- 479 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 12:26
- 私の学校のこととか、友達のことを色々聞いてきたりしたけど、
私は、この人たちの話を聞いている方が面白かった。
とても意外なことだったけど、四人とも今は違う学校に進んでて、
どこもなんとなく名前は知っているような所だったけど、田舎者の私にはよくわからなくて、
「梨華ちゃんのトコはね、超、お嬢様って感じの女子大・・」で、
「よっちゃんは、見たマンマ、運動ばっかやってる学校・・」で、
「美貴ちゃんは、こんな顔して、福祉とかやってんの・・」だとか。
「じゃ、後藤さんは?」
って、聞いたら、
「笑っちゃうよ・・・こんなマイペースな人が、心理学とか勉強してるんだから・・」
だそうで、そう思って見直してみると、
後藤さんは、ぼけっとしているようで、なかなかするどいことを言ったりするし、
藤本さんにしたって、口ではきついこと言ったりするけど、
私なんかにも、何気なく気を使ってて、本音は優しいんだろうなって思うし、
吉澤さんのジャージ姿は、それはもうピッタリって感じで、
梨華さんのお嬢様大学って言うのは、もう嵌まり過ぎてる気がした。
「梨華ちゃんのとこってさ、合コンばっかしてんでしょ!」
「なことはないよ・・」
「かなー、で、K大生とばっかでしょ!」
「それは、そーみたいね・・」
「ウチなんか、ろくなトコないからさー、今度呼んでよ!」
なんて、藤本さんが言って、
「私、あんまり行かないからなー」
なんて梨華さんの答えに、
「でも、行くことは行くんだ!」
って、吉澤さんが切り返す。
「人数合わせだよ!」
なんて言う梨華さんが、助手席から運転席を窺って、それに何も応えない後藤さんに、
私はまた、例の違和感を覚える。
- 480 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 12:44
-
金曜日には、夏期講習も終わったけど、
習慣になってしまった時間に目覚めてしまった私は、
もてあまし気味の土曜の朝を、自転車に乗ってつぶしていた。
あまり期待もせずに、通りかかった別荘のデッキに梨華さんを見つけて、自転車を止める。
白いワンピースの梨華さんは、一人でデッキでお茶を飲んでた。
私を見つけて、駆け寄ってきたその人は、
「ね、自転車、後ろに乗せて!」
って、悪戯を誘う子供のように言う。
「は?」
「みんな、夕べ遅かったから、起きてこないのよ・・・ね、二人でどっか行こ!」
「いいですけど・・」
梨華さんは、荷台に横乗りすると、私の腰に腕を回す。
その細い腕が少しくすぐったい。
「どこに行きます?」
「そーだなー、小学校!」
「えっ?」
「レナちゃんの・・・ほら、よく行ったじゃない・・」
・・・よく行った。特別な予定のない日は、森や川原に行くみたいに、学校のグランドでも遊んだ。
私もしばらくぶりに訪れるそこは・・・
「なんか、記憶の中より、何もかも・・・小さいね・・」
って、梨華さんが、私と同じ思いをつぶやく。
「こんなに低かったっけ?」
って、ブランコをこいで、
「これなら逆上がりとか、楽勝そーだけど・・・スカートだもんね・・」
って、鉄棒を、ホットパンツの私が代わりにまわって、
「最初、なかなかできなかったよね・・」
そう、これは、小学校に上がりたての頃、梨華さんに教わった。
- 481 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 12:55
- 「校舎の中、入れるかな?」
なんて、戸を引いてみたけど、休み中のそれは、やっぱり固く閉ざされてて、
「あのさ、あれ、いつだったっけ?
レナちゃんの絵が飾られてるの見せてもらったの・・・・」
それは、最後の夏。
五年生の時、県の大会で、金賞をもらった絵が、ホールに飾られているのを見てもらいたくて、
この人を引っ張ってきた。
「あの絵、よかったよね・・・・さすがはカエルの子だなって思った・・・」
「えっ?」
「ほら、お母さんも芸術家だし、お父さんは正真正銘の絵描きさん!」
「売れませんけどね・・」
「えっ?・・・私、田中の小父さんの絵、好きだけどな・・・温かくて・・・
ウチのね、東京の家にも一枚飾らせてもらってるの・・」
「そーなんですか・・」
「ここの風景画・・・・春の高原・・・すごく優しいタッチで・・」
「へー」
そういえば、そんなことを聞いたことがあったかもしれない。
何枚か買ってもらったって・・・
- 482 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 13:12
- 「でも、私、本当のこと言うと、レナちゃんのあの絵の方が好きかも・・」
「はっ?」
「なんかすごく印象に残ってるんだよね・・・・あれ、今どこにあるの?」
「あっ、何か校長先生が気に入ってくれて、そのまま額に入れて、ここにあるはずなんですけど・・」
「そっか、じゃあ見れないか・・・残念だな・・・」
そう誉めてもらった絵は、乗馬をする人・・・
何度か、梨華さんに連れて行ってもらった同じ馬場に、学校の図工の時間にスケッチに行って描いたもの。
だから、そのモデルになったのは厳密に言えば、別の人だったけど、
私の中では、あの馬上の人物は、いつか見た、この人だった。
だから、こんなに気に入ってくれているのは、あるいはそれを感じ取ってのものかもしれない。
「絵・・・描いてる?」
「えっ?」
「お父さんに教わったりして・・・」
「いえ!」
「そっか、やればいいのに・・・私、そーゆーの疎いから、本当のところはわからないかもしれないけど、
レナちゃん、才能あると思うんだよなー」
「そーですかねー」」
「うん!・・・・・嫌い・・絵?」
「そんなこともないんですけど・・・」
絵は、嫌いじゃなかった。むしろ絵に限らず、何かを作り上げていくことは大好きで、
でも、ちょっとした親の生き方に対する反抗心から、
中学に入ってからは、授業以外では、まともに絵筆を握ったことがない。
「今度、もし描いたら・・・・見せてね!」
「あっ、はい・・・」
- 483 名前:夏の記憶 投稿日:2004/05/28(金) 13:28
- 「さ、そろそろ起き出してきたかな・・ネボスケたち・・」
「あーあ・・」
「帰ろっか!怒られないうちに・・」
なんて、別荘まで「とばして!」って、立ちこぎさせられた。
本当にこの人は、スピード狂なのかも知れない・・・
「どこ行ってたのよー!」
とか、藤本さんが「お帰り」の代わりに怒鳴って、
「ひ・み・つ・・・レナちゃんとデートして来たの・・・ねー」
なんて、微笑まれて、自転車をとばして上気している顔がいっそう赤くなって、
「中学生をたぶらかしちゃいけませんぜー、旦那・・」
そんな吉澤さんの芝居がかったセリフに、
「そーだ、淫行条例違反で、訴えてやる!」
なんて、藤本さんが乗って、二人してうけてる。
もう、ブランチになるのかな、ワイワイと食卓が囲む。
私もいつの間にか決まった、梨華さんの隣の席に収まって、
後藤さんの入れてくれるコーヒーを飲む。
賑やかだけど、どこか落ち着いた・・・・この人たちの作る風景の中に、
私の居場所もちゃんと出来てて、
私は、この人たちのドラマの中に、自分もキャスティングされてるようで、
嬉しかった。
- 484 名前:トーマ 投稿日:2004/05/28(金) 13:29
- 今週は、ここまでにします。
- 485 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/29(土) 10:55
- 梨華ちゃんとごっちんはどんな関係なのかな?
つづきが楽しみです。
- 486 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/01(火) 20:04
- うわー面白い!
ぐいぐいひきこまれる
- 487 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/02(水) 21:56
- 梨華ちゃんとごっちんの関係、気になります。
このメンツ大好きなので、
続きが気になって仕方ありません。
とても楽しみです。
- 488 名前:トーマ 投稿日:2004/06/03(木) 09:12
- >>485 名無し読者様 どんな関係なんでしょうねー・・・たぶんご想像の通りです
>>486 名無し飼育様 ありがとうございます。
>>487 名無し飼育様 作者もこのメンツ大好きなんですよ
ただもっと道重さんと亀井さんも描きたいのですが、
イマイチ上手く使いこなせてないですよね・・・
- 489 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 09:29
-
明日から、吉澤さんと藤本さんが、高校のバレー部の合宿に、
顔を出すことになってるみたいで、
「本当に、車、持って行っちゃっていいの?」
「うん、あそこなら、電車だとえらく遠回りになるし・・・」
「こっちとしてはありがたいけど、ここ、足どーするのさ・・」
「うーん、そーだなー、レンタカーでもいいけど・・・・」
運転手同士の会話に、助手席が割って入って、
「ね、ごっちん、自転車借りない?」
「あっ、それいいかも!ここなら、チャリあれば、ソコソコ廻れるし・・」
「うん、でさ、レナちゃんたちとサイクリングとかもいいよね。」
「だね・・・どこかイイトコある?」
「・・・・・はい、任せてください!」
私はイイコトを思いついてた。
「あっ、でも明日は都合悪いんで・・・」
「うん、明日は日曜で、どこも混んでるし・・・・明後日、どーかな?」
「はい!来週からは夏期講習もないから・・・」
「じゃ、お弁当持って、朝から行こうか!」
「ハイ!」
「なんかいいなー、それ・・・アタシもそっちの方が良かったかも・・・」
「ダーメ!よっちゃんが行かないと、あの子たち泣くよ!」
「人気者は辛いねー」
なんて、バレー部の二人が笑う。
- 490 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 09:51
- 「でもさ、梨華ちゃんはいいの?顔出さなくて、元部長としてはさ・・
確かもうすぐだよねテニス部の合宿も・・」
「あーあ・・・・」
「あれ?美貴ちゃん、知らなかったの?梨華ちゃん、止められてるのごっちんに・・」
「えっ?」
「今のコーチ、危ないからって・・・ね、ごっちん」
「・・・・うん、まあ」
吉澤さんの問いかけに、ばつ悪そうに少し口篭もる後藤さん。
「確かに、あの人、ちょっと・・・・だけどさ。私なら大丈夫だけどね・・」
「梨華ちゃんはさ、甘いんだよ・・」
「そーかなー・・」
「あいつさ、スイングとか教える時とか、必ず腰に手を回すじゃん!
他の時でも、ベタベタ触りまくってさ、セクハラだよね、あれって・・」
「だけどさー、別にもう私が教わるわけじゃないし・・・」
「いーや、三年になってからだって、やたら部活に出るようにしつこく言って来てたし、
絶対、狙ってるって・・・職権乱用して・・・」
「それは、ごっちんの思い過ごしだよ。てゆーか、あのくらい上手くかわせるって・・」
「かも知れないけど・・・・そんなに行きたいの梨華ちゃんは・・」
「・・・・そんなことないけど・・」
「行きたきゃ、勝手に行けばいいじゃん!」
「だから、そんなことないって・・・・」
いつの間にか、語気が強くなってる二人を、
「ハイハイ、痴話喧嘩はいい加減にしてね!」
なんて、吉澤さんが、軽く仲裁に入る。
- 491 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 10:23
- 「まあ、あのスケベコーチなら、ごっちんが心配するのももっともだけど、
でも、梨華ちゃんは、いざとなったら、結構強いからねー」
「そーよね、あの鬼の形相もあるし・・・あれには、アタシの目つきでも敵わないから・・」
「そうそう、あれなら、たいていのヤツは怯むって・・・」
「やめてよ・・・その話は・・」
梨華さんは、吉澤さんと藤本さんの話を止めようとするけど、
意外な言葉に、興味を覚えた私は、
「なんですかそれ?」
って、その話の展開を促す。
興味津々の私に、吉澤さんと藤本さんが、いかにも面白そうに身を乗り出して語り出したのは、
高二の春に行われたクラス対抗球技大会での出来事。
「バレーボールだったからさ、エースアタッカーと、正セッターのいるウチラのクラスが、
断然有利だったわけよ・・・」
この四人は、女子校の二年の時に、同じクラスになった。
「だけど、主催者側としては、どーしても優勝させたいクラスが別にあったんだよね・・」
それは、その年に入学してきた、バレーのエース候補で、
かつ理事長の親戚に当たるという子のいるクラス。
その組には、そこも作為的なのか、他にもバレー推薦で入った子が何人かいて、
「第一、球技大会の種目を、バレーにしたこと自体、そのためなわけで・・・」
理事長自身は、どう考えていたのかわからないらしいけど、
胡麻スリ教頭の作為は見え見えだったという。
だから、順当に勝ち上がって、決勝でそのチームと対戦することになったわけらしいんだけど・・・
「それがさ、先生たちの意に反して、リードしちゃったんだなー、ウチラが・・」
「そ、やっぱ二年の意地ってやつもあったしね・・・
バレー部以外のメンバーも結構、頑張ってくれて・・・・」
焦った教師の一人が取った策は、かなりえげつないもの。
3セットマッチの1セットを先取して、さあ、あと一つって時に、
いきなり藤本さんは、隣のコートで行われている3位決定戦の副審をやるようにって呼ばれて、
「ええっ!!って感じだったけどさ、
あんまりにもミエミエだったから、怒る気にもなれなかったよ・・」
- 492 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 10:43
- それでも試合は、接戦になった。
だから、1対1で迎えた第3セット、ギリギリに決まったはずの吉澤さんのスパイクは、
ことごとく主審のオーバーコールで、アウトにされて・・・
そのいくつか目に、なんとなく諦めムードが味方の中に漂う中で、
藤本さんに代わってセッターに入っていた梨華さんが、主審の体育教師に食って掛った。
「だって、あれは本当に入っていたんだもの・・・
ギリギリとかじゃなくって、ラインの中に入ったの・・・ちゃんと見えたんだもの・・」
この抗議はすさまじいものだったらしく、
「すごい怖い顔しちゃってさ、いつものキャラと全然ちがくて、
味方のアタシだって、ビビッタつーの・・」
なだめる吉澤さんの言うことなんて、耳に入らないって感じで・・・
それに加勢に駆けつけたのは、隣で副審をしているはずの藤本さん。
「美貴ちゃんだけだったよね・・・一緒に抗議してくれたの・・」
「うん、あれは酷すぎたもんね・・・・
てか、あの時初めて、梨華ちゃんのこと見直したしね・・・コイツただのブリッコじゃないって・・」
「私、元からブリッコじゃないし・・・」
「まあ、声と仕草でそー見えてただけだったんだけどさ・・・」
執拗に続けられたその抗議の結末は、
二人とも、その場から退場・・・・そのまま駆けつけた担任の教師に教室へと帰された。
ところが、試合の方は、それ以来あからさまな判定が出来なくなった主審と、
それに奮起した味方のチーム、気圧されて、萎縮した相手チーム・・・
「で、おかげで、優勝しちゃったんだけどね・・」
とにかくその鬼の抗議は、そのあとしばらく学園中の語り草になっちゃったらしい。
- 493 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 11:05
- そんな三人の話を、ぽわっとした顔で聞いているだけの後藤さんが不思議で、
「その時、後藤さんはどーしてたんですか?・・・同じクラスなんですよねー・・」
って、尋ねてみると、吉澤さんが笑って答える。
「それがさ、ごっちんはその時は保健室・・」
「えっ?」
「前の試合で、張り切って大きくコートの外に弾かれたのをレシーブに走って、
そこに運悪く、隣のコートからボールがコロコロと・・・」
「そいつに足をとられて・・」
「捻挫しちゃったわけさ・・・・」
「だから、運良く、ごっちんはこの人の勇姿は見てなかったわけ・・」
「人の不幸を、運良くって・・・」
後藤さんが、吉澤さんのセリフに抗議する。
「だって、あんなもの見たら、百年の恋も冷めるって!」
「・・・・・」
「なこたーないでしょ!美貴なら惚れ直すなー・・」
「かあ?アタシは正直引いたけどね・・・」
「でも、結局あれからじゃない・・・本当にアタシタチ親しくなったのって・・」
「そー言えばそーか・・・まあ、ブリブリよりは付き合いやすいと思ったけどさ・・」
一年の時は、みんなそれぞれ違うクラス。
部活が一緒の吉澤さんと藤本さんは、当然友達だったけど、
この二人に言わせると、何故か縁もゆかりもないはずの後藤さんと梨華さんも、
一年の時からの友達だった。
二人が親しくなったきっかけは、確かにちょっと面白い。
たまたま別々の友人と歩いていた表参道で、いきなり後藤さん梨華さんに、
「あっ、アポロ!」って声をかけて、
「へっ?」なんて立ち止まって、よく見ると・・・・どこかで見た顔・・
あっ、同じ学校だなんてことになって、そのまま合流して、それからの友人関係。
- 494 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 11:25
- それが、二年で同じクラスになって、
吉澤さんと後藤さんが、すぐから気が合って、それに引き摺られる形で、
四人グループにはなったんだけど、吉澤さんと藤本さんにしてみれば、
梨華さんには、なんとなく抵抗があったみたい。
「だって、いつもクソマジメで、女の子女の子してるし・・・
ごっちんが、なんであんなのと親しいのか、わかんなかったよね、正直・・・」
「あんなのって、すごく失礼なんですけどー」
って、笑ってるけど、
ようするに、例えば、制服のリボンをきちんと結んでいる梨華さんに対して、
他の三人は、シャツの第二ボタンまではずしているタイプで、髪も染めてて・・
授業中とかも、しっかりノートを取っている人と、寝てるか、エスケープしてる人たち。
普通なら、同じグループにならない組み合わせ。
特に、サバサバしすぎているくらいの藤本さんは、一見軟弱な梨華さんが、
どっちかって言うと、気に入らない部類だったらしいんだけど、
その球技大会をきっかけに、後藤さんと吉澤さんがあきれるくらい仲良くなったらしい。
「まあ、表面は違うけど、中身は結構似ているんだよねー、梨華ちゃんと美貴って・・」
って、ことなんだとか・・
ともかく、この四人は、それ以来今にいたるって感じで付き合っている。
「まあ、試験前にノート借りれて便利だったしねー」
「なによそれ!」
なんて笑ってるこの人達の高校時代はどうだったか・・・私にはわからないけど、
今は、ごく自然な取り合わせに見える。
- 495 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 11:47
- 「それよか、今日はどーするの?これから・・」
「今日はねー、馬に乗るよ・・」
「馬?」
「うん、予約入れてあるから・・・
レナちゃんも・・・・・そーだなー、Gパンか何かに着替えた方がいいかも・・」
「あっ、はい・・」
そっか、今日は乗馬の予定だったのか・・
それで、梨華さんは私のあの絵を思い出したのかも知れない。
「2時に拾いに行くから・・」
と言われて、いったん自宅に帰る道で、
たいていのヤツが怯むって言ってた、梨華さんの怒った顔を想像してみたけど、
やっぱり上手く思い描けない。
私の中のその人は、微笑んでいるか、困っているか、少し驚いているか・・・
それから時折見せる、やたらとマジな顔。
あっ、泣いているのも一度だけ見たことがある。
あんなに怖がっていた私のヒヨコが、あっけなく死んじゃって・・・
一緒にお墓を作りながら、泣いてる私を慰めてくれてて、
そのうちもらい泣きなのかな、梨華さんもいつの間にか涙していた。
それは、静かなものだったこともあって、こんなキレイな泣き方もあるんだって、
私は自分の悲しみも忘れて、しばらくその涙に見ほれてて、
私もいつかこんな泣き方を出来るようになりたいな・・なんて思ってた。
- 496 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 12:17
- 馬場は、土曜日だったから、比較的混んでいたけど、予約の時間には、それぞれに一頭ずつ用意されてた。
吉澤さんと藤本さんは、初めてらしくて、
手綱を取ってもらって、小さい所をおっかなびっくり廻ってた。
私は少しサバよんで、初級って申告したから、もう相当なおばあちゃん馬だったけど、
一人で乗ることが許されて、梨華さんと後藤さんと一緒に広い馬場に出させてもらった。
後藤さんのライディングは、いわゆるカウボーイスタイルで、
子供の頃に、最初にならったのがそれだったらしくて、その後傾の乗り方は、
すっと背筋を伸ばして、走らせる時に前に屈む梨華さんのとは、また別の格好よさがあって、
私もちょっと真似してみたけど、腹筋と背筋にかかる力が半端じゃなくて、すぐに断念する。
想像以上に高い視界の恐怖心もあって、トボトボとしか歩かせられない私と違って、
後藤さんと梨華さんは、颯爽と馬を進めていて、
そのうち競争なんかも始めて、遠くの方で並走させてる。
そんな二人の光景は、技術の違いだけじゃない差を私に思い知らせる。
馬場を廻って、私の傍に来る度に、馬を休ませて、
「レナちゃんもすぐに上手くなるから・・」
なんて声を二人してかけてくれるけど、
結局、持ち時間の30分の間に、私の馬は、馬場を二周するのがせいぜいだった。
それでも下馬したなりに、張りが出ている内腿をさすっていると、
「明日あたりすごい筋肉痛になるよー」
って、後藤さんに脅されて、
「マッサージしてから寝た方がいいかも・・」
なんて梨華さんも言ってて、
帰りの車の中で、すでにそーなっていることを告げると、
「さすが、若いと痛みの出るのも早いねー」
なんて私のことからかってた、吉澤さんと藤本さんも、車を降りるなり歩き方がぎこちなくて、
後藤さんに笑われてた。
- 497 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 12:29
- 「夕御飯、食べてく?」
って誘いを断わって、早めに帰宅して、エリと連絡をつける。
私が、梨華さんたちに用意する計画には、どうしても彼女の協力が必要だった。
思いの外、完璧に出来た月曜日のスケジュールに満足して、
梨華さんに予定を電話すると、
「じゃあ、みんなの分のお弁当も用意するから!」
なんて、張り切ってくれて・・・
日曜は、前から申し込んであった模試を受けるために、
サユと一緒に県庁所在地にある予備校に出向く。
夏期講習は、参加しているってだけだったし、このところめったに部屋の机に向かってなかったから、
試験はさんざんの出来だったし、足の筋肉痛も酷かったけど、
次の日の計画に心を浮き立たせている私は、終始顔が緩んでいたらしく、
何度もサユに、それを指摘された。
- 498 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 12:52
-
月曜日、自転車で乗り付けると、
別荘の前には、二台のレンタサイクルが並んでた。
きっと、車のあるうちに、駅前で借りてきたんだろうな・・・
お弁当をみんなの分まで用意する、なんて言ってた梨華さんの手伝いをしようと、
早やめに着いた私がチャイムを鳴らすと、
「あれ、早いねー」
って、エプロンをつけた後藤さんが出て来て、
「あっ、お手伝いしようと思って・・」
「へー、えらいねー」
って、キッチンに通される。
半分以上出来上がってるお弁当の前には、梨華さんはいなくて・・
「梨華ちゃんなら、まだ寝てんの・・」
「えっ、じゃこれ後藤さんが?」
「そーだよ・・・・夕べさ、ジャンケンで負けちゃってさ・・
まっ、アタシの方がこーゆーの得意だから、いいんだけどさー・・」
なんて言っている後藤さんの手つきは、言うだけのことはあって、
見る間にキレイなお弁当が仕上がっていく。
手持ち無沙汰にそれを見ている私に、
「レナちゃん、梨華ちゃん、起して来てくれるかな・・
あの人、あー見えて、目覚ましなきゃ、いつまでも寝てる人だから・・」
「はー」
「今朝、一度一緒に起きたんだけどさ、
ねむそーだったから、あの人の分の目覚まし止めちゃってあるの・・・二階の奥の部屋だから・・」
「はい・・」
なんて上がるその部屋は、やっぱり前から、梨華さんが使ってる部屋だったけど、
開けてみると、久しぶりに入るせいか、だいぶ感じが変わっていて、
・・・・あっ、そーか・・・ここ以前は、子供用の二段ベッドがあって・・
それが少し大きめの・・・セミダブルぐらいかな・・のものになっていて、
机の横に新しくドレッサーが置かれてて、
出窓の飾られてた、たくさんのぬいぐるみもなくて、
代わりに、花篭の横に、いくつかの家族写真・・・
その中には、小さい私と梨華さんの2ショットもあって、少し照れくさい。
- 499 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 13:10
- 薄い布団を顔の半分くらいまで引き上げて、大き目の枕に横顔をうずめている人に、
「おきてください・・」
って、小さく声をかけたけど、動く気配がないから、
ベッドに膝をかけて、その肩を揺すってみる。
「梨華さん、朝ですよ!」
「うーん、ごっちん・・・」
って、けだるそうに薄目をあけたその人が、私の顔を見止めて、
「あっ、レナちゃん、どーしたの?」
って、慌てて起き上がろうとして、
起こしかけた身体に、もっと慌てて布団を引き上げる。
そのちょっとした瞬間に現れた肩には・・・何も身につけられてなくて・・・
「あっ、もー来たんだ・・」
「あの、お弁当手伝おうと思って・・」
「そーなんだ・・ありがとう
うん、もー起きたから、大丈夫先に下りてて・・」
梨華さんの早口に押されるように、部屋をあとにする。
キャミででも寝てるのかな・・・・
キッチンに戻ると、少し赤くなっている私の顔を見て、
後藤さんが、面白いものを見つけたみたいに・・
「あれ、もしかしてレナちゃん、梨華ちゃんのハダカ見ちゃった?」
「いえ・・・」
「そー、あれね、あの子の習慣だから・・」
「へっ?」
「なんかねー、先輩から聞いた健康法らしいよ・・・素っ裸で寝ると、風邪ひかなくなるって・・」
「へー、そーなんですか・・」
「今度、レナちゃんもやってみなよ・・・結構気持ちイイから・・・」
「後藤さんも、そーしてるんですか?」
「アタシは・・・ケースバイケース・・」
そう言った、後藤さんの口元は、悪戯っぽく緩んでた。
- 500 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/03(木) 13:23
- 「おはよー!」
すっかり仕度の出来た梨華さんが、降りてきて、
バスケットに詰めるだけになっているお弁当を見て、
「あれ、本当に一人で作ってくれたんだー」
「だって、ジャンケン・・」
「冗談かと思ってた・・・なんかごめんね・・」
「ううん、たまにはサービス・・・・朝御飯も出来てるよ・・」
「よかったら、レナちゃんもどう?」
って、後藤さんがパンケーキとミルクを勧めてくれる。
「あっ、アタシ、済ませてきたから・・」
そう、遠慮する私に、
「でも、少し食べてみて、ごっちんのパンケーキ美味しいんだから・・・
それと、サラダも・・・ドレッシングとかもね、みんなお手製なの・・」
なんて、梨華さんが小皿に取り分けてくれて、
それは確かに、私の少々窮屈なお腹にも、スムーズに入っていける美味しさで、
この人って、本当に何でも出来ちゃうんだなーなんて、あらためて後藤さんに感心する。
食後のコーヒーをのみ終えた頃、
チャイムが鳴って、約束の時間をサユとエリが教えてくれる。
- 501 名前:トーマ 投稿日:2004/06/03(木) 13:23
-
今日は、ここまでにします。
- 502 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/03(木) 15:35
- やっぱりそういう関係なのか!?
田中さん視点からだとはっきりわからないけど、
そんな関係でいてほしいです。
- 503 名前:名のナイ読者 投稿日:2004/06/03(木) 18:35
- おもしろいです!!
私も梨華ちゃんのすさまじい顔は
あまり想像出来ないです。
- 504 名前:トーマ 投稿日:2004/06/04(金) 08:55
- >>502 名無し飼育様 たぶん・・・ですね
>>503 名のナイ読者様 ありがとうございます
作者的には、石川さんのマジギレ顔はかなりツボです
- 505 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 09:16
-
今日は、私たちの案内で、近くの湖まで行く。
そこは、今までも何度か自転車を走らせたことのあるポピュラーなサイクリングコース。
ゆっくりと走っても、一時間半もすれば、目的地に着く。
貸しボートが並ぶ場所から、少し離れた桟橋に、エリの叔父さんの船が繋がれていて、
今日はそれに乗せてもらうことになっていた。
「おお!」
と、手を上げて迎えてくれたこの叔父さんは、彼女のお母さんの弟で、
三十台半ばで、自称遊び人の独身。
親の財産を食いつぶしているって、本人は言うけど、その実は、結構きちんとしたレストランのオーナー。
ただ、派手好きの性格だから、目立つ車とか、こういう船とか買っちゃって、
そこに可愛い女の子を乗せるのが趣味と豪語してる。
まあ、一言で言えば、害のないスケベ。口ほどにはイヤらしくもない。
「おっ、こりゃ豊漁だねー!・・・・もしかしてリリースの必要もないかも・・・」
なんて、子供の私たちが連れてきた、二人のちょっと大人に、目を細める。
「あっ、今日はありがとうございます。本当にいいんですか?」
って、頭を下げる梨華さんに、
「いやいや、基本的にエリの頼みは聞くことにしてますし・・・
それにこんな美しい方々が、ご一緒なんでしたら、こっちからお願いしたいくらいです。」
なんて、満更お世辞でもないことをいいながら、その手を取って、船に招く。
今年になって買い換えたという自慢のクルーザーは、
船室の中にキッチンやシャワールームを備えた、外洋にも出れる本格的なもの。
噂によると、家一軒は買える位のものらしい。
- 506 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 09:33
- 船室に入って、水着に着替える。
胸元にぶら下げたままになっているペンダントに気づいて、
慌てて隠そうとするのを、サユに見つかって、
「なになに・・それ・・かわいい・・」
「うっ」
「見せて!」
「何でもないよ!」
いいじゃない見せてよとか、追いかけられて、
何事かと興味を持ったエリも交えて、おふざけ半分にもみ合っているうちに、
私の手の中から、飛び出したそれが、
もう着替えを終えて、水着の上にパーカーを羽織っている梨華さんの足元に転がる。
それを拾い上げた梨華さんは、自分の胸元に揺れているのとお揃いのそれを、
少し笑って、素早くパーカーのポケットに仕舞い込むと、
追いついた私の耳に手を当てて、
「恥ずかしいの?預かっててあげる・・」って、囁く。
「見せてくれたっていいじゃない・・」
って、追ってきたサユの背中を、
「さっ、行こ!」って押して、
少し赤くなっている私にウインクをする。
隣の後藤さんも・・ペンダントのこと気づいてるのかな・・笑ってて、
「行こ!行こ!」とサユとエリを甲板に促す。
- 507 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 09:47
- 湖の中ほどまで、船を走らせて、
叔父さんの指導で、釣り糸なんかを垂らしてもみたけど・・・
一向に、何かが釣れる気配はなくて、
「泳ごっか・・」
って、後藤さんのつぶやきを合図に、
それぞれ、上に来たものを脱ぎ捨てて、少し冷たい水に入る。
「うひょ、やっぱり今日は豊漁だ!」
梨華さんと後藤さんのビキニ姿に、一段と目を細めた叔父さんを、
エリが睨んでいるけど、女の私の目にも、二人の姿態は眩しかった。
それでも、水の中では、二人とも子供みたいにはしゃいで、
叔父さんが落としてくれた小さなゴムボートに無理やりみんなで乗りこんだり、
それをわざとひっくり返してみたり、
水面から二人していなくなったと思ったら、泳ぎのあまり得意でないサユの足を、
水中から引っ張って脅かしたり・・・・
中学生の私たちとレベルの違わないことをして遊んでる。
特に後藤さんは、そんな悪戯が本当に面白いらしくて、
少しやりすぎて、梨華さんに怒られたりして・・・
でも、きっとそんなことも含めて、楽しんでいる。
- 508 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 10:09
- 充分に泳ぎ疲れて、少し遅いお昼にする。
後藤さんのお手製のそれは、見た目もキレイだけれど、味はそれ以上で、
「いい嫁さんになるなー君!」
なんて、手作りに飢えている叔父さんを喜ばせて、
「本当に一度、考えてくれないかなー」
なんて、冗談ともとれないセリフを言わせる。
それをきっかけみたいにして、
「ねー、君たちいつまでいるの?」
「今度ウチの店でご馳走するよ!」
「他にも案内したいとこあるんだけどなー」
とか、本格的に二人を口説きだした叔父さんを、
「うれしーなー」「そのうちにー」「でも、残念だなー、直に帰っちゃうしー」
いかにも、こういうこと慣れてますって感じで、適当にあしらう二人。
ナンパ師を自任する叔父さんも、暖簾に腕押しって感じで、
いつも手の早い、この人に、二人を紹介することを、少し心配していたエリも、
「ありゃ、全然ムリだねー、大の大人がカタナシだ・・」
って、安心して、
「あの人も、結構イケてる方だと思ってたけど、格が違うって感じだものねー」
なんて、三十男を翻弄する18歳に感心する。
それでも、船を桟橋につけるまで、
私たちには決して握らせない、舵を持たせて、二人に船を操作させたりして、
何とか気を引こうとした叔父さんは、
最後の努力で、決してかかることのないだろう携帯の番号を、梨華さんの手の中に握らせて、
「本当に今日はありがとうございました」
なんて言葉と、笑顔をもらって、マジに喜んでいた。
- 509 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 10:23
- 帰る道で、
「いったいどっちが本命なんだろ・・」
なんて、サユの素朴な疑問に、
「梨華ちゃんでしょ!」
「ううん、絶対ごっちん!お弁当褒めちぎってたし・・」
「なことないよ・・」
「そーだって!」
なんて、二人でやってるけど、こういうのも、いつものことなんだろうなって思う。
きっと、吉澤さんや藤本さんを含めて、街でも学校とかでも、
どうしても人の目を引くこの人たちが、声をかけられたりするのは当たり前のことで、
だから、それを上手にあしらうことなんて、本当にたやすいことなんだろうな・・
「彼氏とか・・・いるんですよね、やっぱり・・」
って、サユが私の前から気になっていることを聞く。
「いないけどー」
って、二人がほぼ同時に返して、お互いに目配せをして笑う。
「うそー!」って、サユに、
「ホント!」って、後藤さん。
「どーしてですかー」って、重ねて聞くサユに、
「うーん、必要ないからかな・・」
って、今度は梨華さんが、明るく答えて、
「それより、あなたたちは?」って、矛先を変える。
- 510 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 10:36
- 「・・・・サユは、好きな人いるよね・・」
なんて、私の言葉に、
「・・・片想いだけどね・・」って、小さく答えて、
「ちゃんと伝えたの?」なんて、梨華さんが少し真面目に聞いて、
「いえ、まだ・・・」
「こんなに可愛いんだから、自信もって告白すればいいのに・・きっと上手くいくよ!」
なんて、励まされてる。
「エリはもてるよね・・」
って、さっきから黙ってる子にふると、
「うん!」
なんて、やけに堂々と答えるエリ。
「へー、ホントそんな感じ・・・で、彼氏は?」
「なかなかいいのがいなくて・・・」
「そー、それはお気の毒に・・」
なんて、梨華さんと顔を見合わせて、笑って・・
「レナちゃんは?」
って、突然、後藤さんが聞くから、
「アタシもいません・・」
「好きな人も?」
「ええ・・・」
「そっか、まあ、マダマダこれからだもんねー」
なんて、少し年寄りじみたことを言う後藤さん。
そういえば、その手の話は、いつも私は聞き役で、
今まで自分の事として考えたこともなかったけど・・・・・
- 511 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 11:00
- 少し行きより遠回りをして、景色を見ながら帰ったから、
サユとエリと途中で別れて、別荘に戻った頃には、夏の日も暮れかかっていた。
勧められるままに、
「ありあわせだけど・・・」なんて夕食をご馳走になった。
「さすがに今日はちょっと疲れたから、明日はぶらぶら買物でもしよーか・・」
「うん、駅前のショッピングモールでいいよね・・」
「レナちゃんも付き合うでしょ?」
「ええ・・」
「でも、きっとビックリするよ・・」
「えっ?」
「梨華ちゃんのショッピング・・・選ぶもの選ぶもの全部ピンクだから・・・」
「ああ、でも、着てる物とか、そーでもないですよね・・」
「だから、ゴトーが付き合うの!」
「・・・なるほど・・」
そういえば、今日の格好とか、いかにも後藤さん好みのモノトーン。
「半分、喧嘩みたいになるよね、試着する時とか・・」
「だって、梨華ちゃん、粘るんだもん、ピンクのフリフリで・・」
「だってー、かわいいじゃない・・そーゆーのやっぱりー」
「歳を考えろつーの・・・まあ、レナちゃん、見ててごらん・・・コントみたいだから・・」
「はー」
その様子を想像してみると、確かにちょっと面白気かも・・・・
「気をつけてね・・」
なんて、送られた時には、もうまあるいお月様も出ていて・・・
家路を中程まで辿った頃、
あのペンダントが梨華さんのポケットの中に入れられたままなのに気づいて、
来た道を戻る。
明日でもいいけど・・・・やっぱり、あれが胸にないのは淋しい。
- 512 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 11:15
- 近づくと、小さく二人の声が聞こえて、
きっとデッキにでも出ているんだろうな・・・今日は本当に月がきれいだから・・・
脅かしてやろうかと思いついて、少し離れた場所に自転車を停めて、
忍び足で近づく。
「なんで、レナちゃんを起こしに寄越すかなー」
「だってさー」
「驚いたよ、本当に・・・・ごっちん、悪戯が過ぎるよ・・」
「でも、ほら、何にも思わなかったぽいし・・・」
「そーおー」
「うん、あーやって寝るのが習慣だからって言っといたから・・」
「習慣ねー、矢口先輩じゃあるまいし・・・・」
「だね、Tシャツをズボンの中に入れなきゃって人だものね・・・いつもは・・・
でも、あーやってたって、ちゃんと寝れてるじゃない・・・スヤスヤと・・・」
「ヤダ、言わないでよ・・・」
何の話してるんだろう・・・・
私の名前も出てきてるし・・・・なんか出て行きにくい・・・・
「それよか、お月様キレイだよね・・・」
「うん・・・」
「・・・・・梨華ちゃんの方が、ずっとキレイだけどね・・・」
「もー、すぐにそーやって、からかうんだからー、
あんな白いものと比べて・・・嫌味だよねそれ、こんな焼けちゃってるし・・・」
「そりゃ、そーだよ・・・真っ黒・・・・だけどそこがまた良いんだって・・・
ゴトーは好きだよ・・・その黒い肌・・・・」
言葉が途切れて・・・・
私は、木立の間から、デッキの方を覗き込む。
- 513 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 11:25
- ・・・・・・えっ?
柵に寄りかかるように立っている梨華さんの影に、もう一つの影が重なって・・・
えっ?・・・・・なにあれ?
月の光に浮かび上がったシルエットは・・・・
後藤さんの腕は、梨華さんの腰に回されてて、
梨華さんのそれは、後藤さんの首を絡めとっている。
・・・・・・えっ?・・・・なにあれ・・・・
キス?・・・・・
思いもしない情景に、いつの間にかその場に突っ立っていた私は、
目をもう一度よく凝らす。
・・・・・・キスしてる・・・・
梨華さんと後藤さんが・・・・キスしてた・・・
そのうち離れた二つの影は、手を取り合うようにして、
・・・・・室内に消える・・・・
どのくらいそこにいたのだろう・・・
私は後退りするようにして、自転車のところまで戻ると、
静かにそれを漕ぎ出す。
いつの間にか速度があげられていて、
・・・・・・・夜の風が・・・・・冷たい
- 514 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 11:43
- 頭の中は、もやがかかったように真っ白になっていて、
どうやって辿り着いたのかもわからない家の戸を乱暴に閉めると、
母が声をかけたようだったけど・・・・
そのまま階段を駆け上がって、自分のベッドに飛び込む。
暗いままの部屋の中で、閉じた瞼の裏に、
イヤでもさっき見たものが・・・・浮かび上がって・・・
それを消そうと、思いっきり目を閉じてみるけど・・・・
そんなふうにしたせいか、
いつの間にか流れ落ちていた涙の一つ一つに・・・
二つの影が映り込んでる。
何も考えたくなかったけれど・・・
何も考えたくなかったけれど、
この何日かの間に見聞きした、二人の仕草や、交わされた言葉が、
次々と頭の中を駆け巡って・・・・
「痴話喧嘩はいい加減に・・」
「百年の恋も冷める・・」
そんな何気なしに聞きとばしていたセリフにさえ、意味があるようで・・・
「彼氏は・・・・必要ないから・・」
「ゴトーは好きだよ・・」
そんな言葉に、梨華さんの笑顔が重なる。
なんだよあれ・・・・
何してんだよ・・・あの人達・・・
何して・・・・
今朝のベッドの中の・・・
梨華さんの慌てたように布団を引き上げる姿を・・・・思い出した時、
私は考えるのをやめた。
もう何も考えない。
もう何も考えたくない・・・・
- 515 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 11:50
- いつの間に眠ったんだろう・・・・
しばらくして目を開けた時、出かけたままの姿でいることに気づいて、
誰も起こさないように、そっと浴室に入る。
シャワーを浴びながら、目に入る鏡の中の自分の姿が、やけに醜いものに見えて、
それを睨む顔が、やけに情けないものに見えて・・・・目を逸らす。
髪も乾かさないまま、
もう一度ベッドに入って・・・・
眠くはなかったけど・・・
もう起きたく・・・・なかった
- 516 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 12:08
-
次の朝、ぐずぐずベッドにいる私を起こす母に、
「具合が悪い」と言って、またウツラウツラする。
携帯が鳴り続けているけど・・・・・ディスプレイを見て・・・・電源を切る。
しばらくして、
「梨華ちゃんから電話入ってるけど・・・」
って、呼びに来た母に、もう一度具合が悪いことを告げて・・・・
食事にも降りてこない私を心配した母が、もう一度部屋に上がって来た時、
本当に熱が出ていた。
「いいよ」と言う私を、無理やり父が病院に連れて行って、
「風邪ですね」って、薬をもらう。
その晩は・・・・今まで経験したことないくらいの高熱が出て・・・
解熱剤で搾り出される汗で、何度も下着を取り替えさせられた。
ぼんやりとした意識の中で、私は・・・
このまま熱が出続けたなら、きっと何もかも忘れられるんだろうなって・・・
それを望んでさえいた。
次の日は、微熱の続く中、ぼんやりとして過ごした。
何度か電話が入ったみたいだったけど・・・私が出ることはなかった。
その次の日は、サユとエリが見舞いに来てくれて、
何か色々しゃべっていたけど・・・・・私は聞いていなかった。
梨華さんたちも、玄関まで来てたみたいだったけど、
「会いたくない」って、母に帰してもらった。
母の手から、「お見舞いに頂いたから」って渡されたオレンジシャーベットは、
手をつけないまま、私の机の上で・・・・・・溶けた。
- 517 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 12:24
-
金曜日の朝には、熱もすっかり下がっていたけど、
やっぱり何もする気になれずに、
朝食を食べ終わると、そのまま自分の部屋の机で、ぼーっとしていた。
時計の針が10時をまわる頃、表に車の止まる音が聞こえて、
しばらくすると、部屋のドアがノックされた。
「ね、レナちゃん・・・・私・・・入っていいかな?」
それは、何日か聞かなかっただけで、もう懐かしくさえある声で・・・
私が返事をしないでいると、
遠慮がちに開かれたドアから、その人が顔を覗かせる。
「ね、具合・・・まだ悪いの?」
机の前に座ったままで、振り返っている私の顔を確認するみたいに、
「ちょっといいかな・・」
って、入って来たその人は・・・・ここに来た時と同じ服を着ていて・・・・
「これから帰るんだけど・・・・」
そっか、今日が・・・・二週間の予定と言ってた最後の日・・・・
「ね、まだ熱があるの?」
傍に歩み寄っていたその人が、私の額にその手を当てる。
ぎこちなく体を引く私に、少し困ったように眉をひそめて、
「残念だったな・・・・もっと遊びたかったのに・・・」
そう言って、一度視線を下げたその人は、もう一度その目を上げると、
少し躊躇うように・・・・
「それとも、何か私・・・悪いことしちゃったかな・・・
レナちゃんに嫌われるような・・・・」
- 518 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 12:36
- その問いかけは・・・・・まるで幼い子供にするようで・・・
憎らしかったから、
私は、絶対口にするつもりのなかった言葉を返す。
「アタシ・・・・・見ちゃったんです!」
「えっ?」
「あの日・・・サイクリングに行った日・・・
忘れ物をとりに行って・・・」
そこまでの言葉に反応して、梨華さんは慌てるように、上着のポケットを探って、
「あっ、これ・・・だよね・・」
と、私の手を取って、それを手のひらに載せる。
私は、それに目を落として、思いっきり握り締めると、
そのまま視線を上げずに、さっきの言葉を続ける。
「見ちゃったんです・・・」
「何を?」
「あの夜・・・・後藤さんと・・・」
そこまで言って、目を上げると、真直ぐにこっちを見ているその人の視線とぶつかる。
つまる私の言葉を窺うように小首を傾げたその人は、
しばらく、何か考えるように、視線を泳がせて・・・・
「・・・・ああ・・」
と、ため息のような声を漏らす。
「そっか・・・・・」
- 519 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 12:53
- 「そっか・・・・軽蔑した?」
「えっ?」
「そーだよね・・・やっぱり普通じゃないものね・・・
そっか、軽蔑されちゃったのか・・・・」
「・・・・いえ・・」
私の短い否定の言葉は、耳に入らなかったのか、
自分に言い聞かせるように、言葉を繋ぐ梨華さん。
「でもね、でも、私は自分を恥じてはいないの・・・」
「・・・・・」
「人がね、なんて思おうと、私は、自分を恥じたりしない。」
「・・・・・」
「本当に彼女のことが好きだから・・」
「・・・・・」
「それはね・・・・初めは戸惑ったよ・・・・自分で自分が変だとも思った。
一生懸命、自分の気持ちを否定してもみた。
でもね、ダメだったの・・・どーしてもね・・彼女のこと好きだって気持ちを変えることが出来なかったの。
だから、開き直ったわけじゃないけど・・・受け入れることにしたの。
それは、他の人の目から見たら、不自然で、もしかしたら汚らわしいことなのかも知れないけど、
私は、自分の気持ちに素直になる方を選んだの。
だから・・・・・自分を恥じてない・・・・」
「・・・・・・」
「ただ、できたら・・・・このこと内緒にしておいてくれないかな・・」
「えっ?」
「親とかに、余計な心配させたくないし・・・・
話さなきゃいけない時が来たら、自分でちゃんと伝えたいから・・・・
たから、出来たら内緒にしといてくれるかな・・・
恥じてないとか言いながら、隠そうとするなんて、矛盾してるのはわかってるんだけど・・・」
- 520 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 13:07
- 「・・・・話したりなんかしません・・・誰にも・・」
「あっ、ありがとう・・」
「話したりなんかしませんから・・・・だから・・・・」
私は、この時気づいてしまった。
私が、あの時あの場所であの光景を見てしまった時に、
胸の中に沸き起こった感情の正体を。
あれは・・・・決して嫌悪感じゃなかった・・・・・
あれは、きっとただの嫉妬心。
思い描いていた憧憬が崩れ去ったことへの怒りみたいなものはあったかもしれないけど、
それより遥かに大きかったのは・・・・喪失感。
この人が遠くに行ってしまったようで・・・・
私の知ってるその人が・・・・どこかに行ってしまったようで・・・・
だから、ほんのちょっとでも、この人の何かを繋ぎとめておきたくて・・・
「だから・・・・アタシにもキスしてください・・・」
自分の口は、たまに思いも依らないことを言ったりする。
ううん、そんなこと言っちゃいけないって止める私を、本当の私が押し切る。
「えっ?」
驚く梨華さんに、本当の私が言葉を繋ぐ。
「誰にも言ったりしません・・・・だから・・・アタシにもキスしてください・・」
- 521 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 13:30
- しばらく困ったように曇っていた梨華さんの顔が、
ほわっと、柔らかい微笑みに変わって・・・・
「・・・・じゃあ、目をつぶつてくれる?」
私は、自分の頬が、一気に赤く染まるのを感じながら、静かに目を閉じる。
少し間を置いて・・・
椅子に座ったままの私の両肩に、梨華さんの手のひらが置かれて・・・
小さな息が近づいてくるのを感じる。
私の閉ざされた左瞼の上に・・・・小さく与えられた感触は、
次に、わずかに口元をかすっただけの頬に落とされて・・・・
それきり、離された手のひらと一緒に・・・・遠ざかっていく。
「・・・・レナちゃん・・・やっぱり、私、出来たらいつまでも・・・
レナちゃんとは姉妹でいたいの・・・」
ゆっくりと開けた視界の中のその人は、そう言って・・・・微笑む。
「あんなこと言っちゃったけど・・・・話しちゃっていいから・・・
それでいいよ・・・・そのことでレナちゃんのこと恨んだりしないし、絶対嫌いにもならない。
レナちゃんは、そー思ってくれないかも知れないけど、
私は、ずっとアナタのことは・・・・妹だと思ってる・・・・」
そう言うと、ゆっくり背中を向けて・・・・私の元から遠ざかる人。
ドアのノブに手をかけながら、もう一度振り向いて・・
「今年は・・・もう帰っちゃうけど・・・出来たら、来年も再来年も・・・ずっと・・・
会いたいなって思ってるから・・・だから、サヨナラは言わない・・・またね・・
レナちゃん、また今度・・」
静かに閉ざされたドアの向こうに、階段を下りる足音が聞こえて・・・
外の気配に、窓から見下ろすと、
梨華さんを見送りに、父と母が門の所まで出ていて、
それを見つけて、車の中から三人の人が降りて、口々にお礼やらお別れやらを言っている。
最後に助手席のドアに手をかけながら、
梨華さんが、私の窓を見上げたから、慌ててカーテンに隠れる。
車がクラクションを鳴らして・・・・走り出す。
- 522 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 13:36
-
私の初めての恋は・・・・
気づいたその次の瞬間には・・・終わっていた。
私は、手に残されたペンダントを、
机の引出しの奥にしまった小箱の白い石の隣に並べて・・・
ゆっくりと引出しを閉じる。
- 523 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 13:55
- 次の日からは、何の変哲のない日々が続いた。
受験生だから、当然勉強もしたけど、普通にサユたちと遊んだ。
高原の夏の終わりは早いから、二学期が始まると、すっかり秋めいて・・・・
何も変わったことのない普通の日々に、少し変化があったとしたなら、
父に絵を習い始めたことと、志望校のランクを少し上げたこと。
それまで、ぼんやりとし過ぎていた将来が、少し形あるものに変わって、
父と母が出会ったというその美術の学校に、私も行ってみようかなって気になり始めている。
そのためには、少し進学率のいい所を狙ってみることにした。
そんな私を、サユは、
「どーゆー心境の変化?」なんて、驚いているけれど、
何気に彼女も、受験勉強にせいを出し始めている。
そんな普通の生活の中で・・・・
自転車で風を受けている時とか、
授業中、ぼんやり外を見ている時とか、
夜中の勉強の手を休めている時とか・・・・
やっぱり、短い夏を思い出す。
過ぎてしまえば・・・・短かった夏。
でも、たぶん私の記憶の中で・・・・一番長いものになるだろう今年の夏。
こうして、秋もふけて、冬を迎えて、やがて春・・・そして夏。
季節は途切れず巡ってくるけど、
それは決して戻ってくるのではなくて、
必ず、前に前にと進んでいる。
だから・・・・
同じ夏は・・・もう二度と来ない。
- 524 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 14:00
-
そんな移り行く年月の中で、
あの人がもう少女じゃいられないのと同じに、
私も子供のままじゃいられない。
同じ夏は・・・・・決して二度とは巡って来ない。
ただ・・・・・
私の描く絵の中の少女は・・・・・
やっぱり、どこかしら、あの人の面影を漂わせてた。
- 525 名前:夏の記憶 投稿日:2004/06/04(金) 14:02
-
「夏の記憶」
完
- 526 名前:トーマ 投稿日:2004/06/04(金) 14:07
- 完結したので、いつものようにあげておきます。
駄文にお付き合い下さった皆さん、本当にありがとうございました。
出来ましたら、何か書いてやってください。
今後の参考にします。
ここの容量もまだあるようなので、そのうちまた何か書きたいと思います。
- 527 名前:トーマ 投稿日:2004/06/04(金) 14:08
-
・・・・・・・・・
- 528 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/04(金) 14:14
- おつかれさまです!
初恋で切なくなった頃を思い出しました。
この話のいしごま、みきよしのサイドストーリーを
読んでみたい気持ちもふつふつと・・・
- 529 名前:さすらいゴガール 投稿日:2004/06/04(金) 14:25
- 完結おつかれさまです。
とても綺麗な物語、ありがとうございました。
どこか切なくて、だけど心地いい余韻に浸っておりました。
次回作も楽しみにしております。
- 530 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/04(金) 14:34
- 完結お疲れ様でした。
初恋の少し切ない思い出が、彼女を成長させたんですね。
石川さん視点が読みたいなーとさりげなく期待して、
次回作をお待ちしております。
- 531 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/04(金) 21:32
- 自然な感じがすごくいい
会話とか、なんてことない日常があって
こういうのあるな〜みたいな感じで
うまく言えないけど、すごく好きです
次回作も楽しみにしてます
- 532 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/11(金) 21:34
- 完結お疲れ様です
爽やかな情景が浮かんでくるようなイイ話でした
できれば彼女達の出あった頃の話も読みたいな〜って思います
- 533 名前:トーマ 投稿日:2004/06/15(火) 09:38
- >>528 名無し読者様
>>529 さすらいゴガール様
>>530 名無し飼育様
>>531 名無し飼育様
>>532 名無し読者様
ご感想ありがとうございました。
・・・・・で、サイドストーリーというか、二人の出会った頃のエピソードを書いちゃうことにしました。
話は少し遡って、彼女たちが高一の春からになります。
リアルなイメージとしては、2000年から2001年位の頃ですかね・・・
ここでの彼女たちは、表題作や、その続編のような大きな事件に巻き込まれることもなく、
極々普通の女子高生です。
加えて、前作の田中さんが憧れのフィルターをかけて見ている程、大人でもありません。
本当に普通の女子高生・・・・ただソレが石川さんと後藤さんだったというだけの・・・
- 534 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 09:39
-
「あの頃・・・」
- 535 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 09:58
-
「あっ、アポロチョコ!!」
いきなりの大声に、私はそれが何のことだかもわからないまま、
その声の発せられた方に目を向ける。
・・・・・・って、こっちの方・・指さしてる・・・・よね・・・
私は思わず、自分の顔を指で示して、目で確認をする。
真直ぐに腕を伸ばして、人差し指を掲げて、大口開けているその子は・・・同じ年くらいかな?・・・
笑った顔のままで、こっくりと大きく頷く・・・・何よソレ!
周りを歩いている人も、私の横で立ち止まってしまった柴ちゃんも、何のことかって顔してるし、
第一、考えてみたら、ずいぶんと失礼な話よね!
ここは、天下の大道・・・原宿の表参道・・・休日だから、人もワンサカいるわけで・・
そこで、いきなりわけのわかんないこと叫んじゃって・・・
って、どこかで見た顔だよね・・・どこだろ・・
うーん、キレイな子だよね・・・ぱっと見、目立つ感じの・・
どこで見たんだろ・・・
隣に立ってる子は、可愛いけど・・・・・うん、これは知らない顔・・・だよね・・
本当、どこで見たんだろ・・・・もしかして、テレビの中の人とかかな・・・
なんて5、6秒、たぶん相当マヌケナ顔して、覚束ない記憶を辿っていると・・・
「同じ学校だよね!」
って、声の主が答えをくれた。
- 536 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 10:15
- あー、なるほど・・・
その顔の下に制服を着せてみたら・・・うん、確かに学校で見たことがある。
でも、たぶんクラスとか違う。
だって、いくら入学してまだ一ヶ月ったって、クラスの子の顔と名前くらいは一致する。
「石川さんだよね!」
って、えっ?・・・私の名前知ってるわけ?
「何、知り合いなの?」
って、肘で小突きながら、柴ちゃんが小声で尋ねる。
「あっ、うん・・・・」
って、曖昧な返事・・・だって見たことは確かにあるけれど・・・・
「あっ、アタシ、G組のゴトー・・後藤真希・・・ゴトーだけに、G組・・なんてね・・」
なんて、わけのわかんない自己紹介。
あーあ、G組の人なんだ・・・じゃあ、はっきりとした記憶がないのもしょうがない。
一学年、8クラスある学校で、私のA組とは、棟も違う。
で、この人は、私の所属しているテニス部にも、委員会にもいない。
・・・・じゃあ、何で私のこと知ってるんだろ・・・
「あのー、私のこと、ご存知なんですか?」
さっきからの疑問を、ふにゃっとしたままの顔に投げかけてみる。
そしたら、明るく大きく、
「うん!」
の一言・・・・・って、それだけ?
それで、そのあとに続いたセリフが、
「ね、今ヒマ?」
って、何だソレ・・・・
- 537 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 10:32
- 「あのー・・・」
って、口篭もる私の代わりに、柴ちゃんが、
「ヒマって言えば、ヒマですけど・・」
なんて言っちゃうから、
「ならさ、一緒にお茶しない?立ち話もなんだから・・」
何よそれ・・・もしかして、私たち、女の子にナンパされちゃったの?
「さっ、行こ!」
なんて、言われるままに、なんとなくついて入ったオープンカフェ。
まあ、そろそろお茶とかもいいかなって思っていたから、これはこれでいいんだけどね・・
後藤さんって言ったその子と、一緒にいた女の子も、ニコニコして並んでて、
何か二人とも可愛いってゆーか、どこかの芸能人みたいなオーラがあって・・・少し照れくさい。
私の横の柴ちゃんは、何気にこの不意の状況を楽しんでるみたい。
取り合えず、飲物のオーダーを済ませて、さっきの質問を繰り返す。
「あのー、なんで私のことご存知なんですか?」
その子は、まるでまだ言ってなかったっけ・・・てな感じで、
「ほら、だって、新入生の挨拶・・・・」
あーあ、そーゆーことか・・・
あの時、確か名前を言ったから・・・・ソレで覚えてるってわけか・・・
なんて納得していると、柴ちゃんが、
「えっ、何なに・・・梨華ちゃん、そんな大役やっちゃったわけ・・何も言ってなかったよね・・
えっ、もしかして、主席入学とか・・うそー、まさかねー、ありえないー」
なんて、何気に失礼なこと早口で畳み掛ける。
・・・・な、わけないでしょ・・・・・
- 538 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 10:53
- 仕方なく、私は、そうなった経緯を説明する。
これって、もう何度も話してるのよね・・・
やっぱり同じように聞いてきた、クラスの子とか、部活の子とかに・・
入学式の当日、いったん入った教室で、私は担任の先生に、一人呼ばれて、
そのまま、教室の前に立っていた教務主任の先生に、職員室に連れて行かれて・・・
で、いきなり命じられたのが、入学式での新入生代表の挨拶。
きょとんとしている私に、それを本来やることになっていた子が、急病で出席出来なくなって、
その代理だからと、無理やり原稿を渡して・・・
「じゃ、なに・・二番とか?」
「じゃなくて・・・・・ただのA組の出席番号1番・・急だったから、ただそれだけ・・」
そっ、本当にそれだけの理由の人選。
「へー、石川で1番ってのも、珍しいよね・・」
「そー、たまたまウチのクラスには、相田さんも安藤さんもいなかったってこと・・」
もちろん、イから始まる名前だから、出席番号5番より下ってことはなかったけど、
1番ってのは、小学校から通して初めてのこと・・・
それが、たまたまあんなことになっちゃうなんて、何かメチャクチャ不運だよね・・
「へー、でもよく引き受けたよねー」
って、呆れ顔の柴ちゃん。
もちろん、私だって、そんなのイヤだって散々断わったけど、
最後には、先生たちが揃って頭なんか下げてるし、
入ったばっかりの学校で、それを拒みきれるほどの気の強さは持ち合わせてなくて・・
結局、人という字を三度飲み込んで、
振るえながら、先生の書いた原稿を読み上げた。
- 539 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 11:10
- 「それが、すごい甲高いアニメ声で、おまけに棒読みで・・・」
って、私の恥ずかしさなんて他人事なんだろう、G組の彼女が、さも面白そうに笑って、
「そーだろーねー」
って、本当に他所事の柴ちゃんが一緒になって笑う。
・・・・本当に失礼しちゃうよね・・・
「で、名前を覚えてたってわけですか?」
「うん、すごく印象的だったから・・・おかげで、楽しい入学式になったし・・・」
だって・・・・もーやんなっちゃう・・
これ以上この話されるのもイヤだったから、私はもう一つの疑問の答えを求める。
「で、さっきのアポロチョコって何ですか?」
「あー、だって、黒いのがピンク着てるから・・・・」
あー、なるほどね・・・って、何よそれ!
そりゃー、確かに私は地黒ですよ!
加えて、このところの晴天続きの下で、ラケット振ってるから、もうすっかり夏バージョン。
黒に磨きがかかったねなんて、さっき久しぶりに会った柴ちゃんにも言われた。
それに、着ている物も確かにピンク・・・・
でも、それをいきなり「アポロ」ですか・・・
月にも行ったことなんてないってゆーのに・・・てか、生まれる前の話だし・・・
少し憮然としている私を一人ぼっちにして、三人でお腹抱えてる・・・
もー、みんな、失礼なんだからー!
- 540 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 11:36
- ひとしきり笑った後、
「ちゃんと紹介してよ」
なんて言う、ずーずーしい人に、
中学の時の友達で、今は共学の公立校に行っている、柴田あゆみを紹介すると、
彼女の隣の女の子は、
「私、後藤さんの中学の後輩で、松浦亜弥でーす!」
なんて、少し間延びした口調。
あっ、やっぱり年下だ・・・しゃべる時にクルクルと目を動かす、砂糖菓子みたいな可愛い中学生。
最初に笑いあったせいか、妙に和んで、
まったく縁もゆかりもないはずの、柴ちゃんと松浦さんが、それぞれの知り合いの過去の話をだしにして、
おしゃべりに花を咲かせる。
・・・・って、何気に私のことばっかりじゃない・・
文化祭でやった演劇で、セリフが棒読みで、ついでにいいところでコケて、
悲劇が喜劇になっちゃったとか、
体育祭でやったチアの真似事で、思いっきり足を上げた拍子に、
靴が脱げて、来賓席に飛んでいったりとか・・・・
私は殆ど初対面の人たちにされるドジ話が恥ずかしかったけど、
「もーやめてよー」とか「ひどいなー大げさだよ・・」なんて、
それでも相槌とかは入れてた。
なのに、
この奇妙なお茶会をセッティングした当の本人は、
公衆の面前であんなに大きな声を出したわりには、寡黙で・・・
「ふん、ふん・・」
って、感じで二人のやり取りを聞いてるだけ・・・
たくー!どーゆー人なんだか・・
- 541 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 11:43
- 結局、そのあとは、不思議と意気投合している柴ちゃんと松浦さんに、引っ張られる形で、
一緒にショッピングしたり、プリクラ撮ったりで、
思わぬ形のゴールデンウィーク初日になった。
それぞれ別の方向に向かう駅で別れる時、
「またね!」
って、後藤さんは言ってたけど、
「面白い子達だったね・・・」
って、柴ちゃんの感想を聞きながら、
なんとなく「また」はないだろうなって思ってた。
だって・・・
あの子たち、ハデで・・・格好がとかじゃなくてね、存在自体が・・・目立ってて、
何か住む世界が違うって感じ・・・・なんだよね。
- 542 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 12:07
-
長い休みの後の学校は、それに入る前とは、何か少し感じが変わっていて、
休み中も一緒に遊んだりしてたんだろうなって感じの子達は、より親密さを増していたし、
私みたいに、そうじゃない子達は、また少し距離が出来ている。
別にまるっきり話す子がいないってわけじゃなかったけれど、
あまり社交的な方ではない私は、
いくつかあるグループの端っこの方にちょこっと座らせてもらってるって感じで、
特別親しい子とかは、まだクラスにいなかったし、部活の方も・・・・
これは、入ってみてからわかったことなんだけど・・・・
一般入試と、スポーツ推薦があるこの学園の力のある体育会系の部活には、殆ど一般入試の子はいなくて、
テニス部の新入生で、一般組は、私だけだった。
だから、入るなり「何、この子」って感じで、モロに歓迎されてないのがわかった。
ただ一応、前からやっていた経験者だったから、入部を拒否されるようなことはなかったけど、
練習に参加して、二週目くらいまでは、あまりの居心地の悪さに、辞めることも考えた。
でも、結構有名なここのテニス部に入ることも、志望動機の一つだったから、何とか今でも踏みとどまっている。
だから、同じ中学の出身者の多いクラブの中で、やっぱり一人・・・・浮いてた。
そんなこんなで、私にとってこの学校には、まだ、
登校の重い足を軽くするような材料は一つも見当たらなかったし、
休み明けの教室で、にこやかに駆け寄って来るような友達もいない・・・
はずだった・・・んだけど・・・
「おはよー」
って、ドアを開けて、向かった私の席で、
ふわっとした笑顔が一つ・・・・私を待ち受けていた。
- 543 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 12:24
- あれ?
「後藤さん?・・・・どーしたの?」
「あっ、オハヨー!梨華ちゃん!」
って・・・・リカチャン?
「どーして・・・ここA組だよ・・って、ここ私の席・・・」
「そのくらいゴトーにだってわかるよ・・そんなバカじゃないし・・
ついでに、出席番号1番がどこの席かってことも知ってる・・」
あーあ、そーなんだ・・・じゃあ、私を尋ねて来たってこと?
「で?」
「うん、あのさ・・・この前ケイタイ聞くの忘れちゃって・・」
「うん?」
「なんとなくさ、知ってる気になってて・・・
そんで、ウチに帰ってから、メールしようと思ったらさ・・アドレスなくて・・」
って、当たり前じゃない、初対面同然だったんだし・・・
「うん、で?」
「聞きに来た・・」
って、自分のケイタイをポケットから取り出して、
教えるのが当然って感じで、ボタンを押そおとしてる後藤さん。
別に拒絶する理由もないから・・・・
私は机の上に置いたバッグの中から、自分のを取り出して、アドレスと番号を表示して、彼女に手渡す。
ピコピコとそれを打ち終わると、その画面を見たまんま、
「じゃ、あとで・・・」
って、手だけ上げて・・・A組教室を出て行くG組の人。
- 544 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 12:37
- 私が少し呆気にとられて、その後姿を見送っていると、
それまで少し遠巻きにしていたクラスメイトの何人かが寄って来て、
「今の・・・後藤真希だよね?」
って、あっ、知ってるんだこの人たち・・・
「うん・・」
「もしかして、石川さん知り合いなの?」
「あっ、うん・・・たぶん・・」
「へー、すごいねー!」
って、もしかして後藤さんって・・・・
「有名人なの?」
「えっ?石川さん・・・知らないの?・・・相当、有名だよ・・・」
「そーなの?どーして?」
「本当に知らないんだ・・・・・陸上部の期待の星・・・もちろん特待生・・」
「そーなんだー・・」
へーって感じよね・・てーか、第一、体育会系って感じしなかったし・・原宿が似合いすぎてて・・
なんとなくだけど、帰宅部だとばっかり思ってた。
それが、陸上の特待生ですか・・・わかんないものよね・・人って・・
しばらく続いた、今までここにいたスターの噂話を、予鈴が終了させて、
私の机の周りは、やっと静かになった。
そっか、あの子・・・そんな有名人だったんだ・・・
私、疎いからなー、そーゆーこと・・
- 545 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 12:56
- 一時間目の休み時間に、さっそくさっき教えたばかりのアドレスにメールが届く。
「お昼一緒にしよ!」
だって・・・・まあ、いいけど・・・
でも、何で私に構うんだろ・・・その有名人が・・・
あっ、そーか、もしかして有名すぎて、みんなに敬遠されちゃってるとかで、
案外、友達いなかったりして・・・・そーなのかな・・・・
まあ、口ほどには感じは悪い子じゃないみたいだし・・・
てなわけで、OKの返信をすると、
「屋上!」って折り返してくる。
この学校で、屋上ってことで開放されているのは、
私たちの教室のあるこの棟の上の二教室分くらいの部分だけ。
他は事故防止のためか、閉鎖されていているんだけれど、二重に柵が張り巡らされているそこだけは、
ベンチが幾つか置いてあって、花壇とかも作られている、所謂憩いのスペース。
ただ、日に焼けやすい私は、今までそこでお昼なんて、考えたこともなくて・・・
どーしよーかなって、窓の外を見たら、今日の雲は晴れるつもりはなさそうだから、
そのままの提案を受けることにする。
それに、そんなに有名人なら、この教室に来られても困るし、
みんなが使う食堂もねー・・
入学式で思わぬ形で、注目されちゃった後、なるべく地味にしようって心がけてる私としたら、
あんまり目立ったことはしたくないわけで・・・
- 546 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 13:11
- 屋上に上がると、すでに彼女は来ていて、ベンチの一つをキープしていた。
「こんにちは・・」
なんて、少し取ってつけたような挨拶に、
「晴れてたら、来なかったでしょ・・」
なんて、思わぬ方から切り帰して来る。
「えっ?」って顔していると、
「日焼け気にしてるでしょ・・もっと黒くなると困るもんね・・・」
って、図星をさして、その自分のセリフに満足するかのように、含み笑い・・
なんか、やっぱりきついよね・・・この人・・
そのイヤミにはまともに返答せずに、さっさと自分のお弁当を広げ始めると、
「あっ、やっぱお弁当持ちの人なんだよね・・」
って、自分はパンを袋から出す。
「やっぱりって?」
「うん、そんな感じの子だなって・・・
きっとお家にいるお母さんが、毎日、お弁当を作ってくれて・・・みたいな・・」
「うん、そーだけど・・後藤さんは?」
「あっ、ごっちんでいいよ・・」
「えっ?」
「呼び名・・・・みんな、そー呼ぶから・・」
「ごっちん?」
「うん!・・・・梨華ちゃんはさー、みんな梨華ちゃんって呼ぶでしょ・・友達とか・・」
「・・・かな・・」
って、まだこの学校で、そう呼ぶ人はいないんだけどね・・
「やっぱりねー・・」
「って、何か私のことなんて、みんなわかってますよって感じだよね・・」
「うん、てーか・・わかりやすい・・」
「そーですか・・」
「そーですねー」
- 547 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 13:33
- 「で、後藤さん・・もとい、ごっちんは、お弁当・・」
「あーあ、たまに自分で作ったりもするけど、朝、弱いから・・・殆どコレ・・」
「お母さんは?」
あっ、もしかしたら聞いちゃいけないことだったかな・・・
「うん・・お母さんは遅くまで働いてるから、朝はダメでね・・
アタシが学校に出る頃は、まだ夢の中なの・・」
あっ、やっぱり聞かない方がよかったよね・・
私っていつもそう、言っちゃってから考えちゃうの・・
だから一言多いんだよとかね、無神経なんだとかね、柴ちゃんによく言われた。
そんな私の思いが作る少し気まずい沈黙を、
「おいしそー!」
の大きな声が、破って、
「えっ?あっ、ウン・・」
私のお弁当箱の中を覗き込む彼女。
うん、コレには結構自信がある。プロの専業主婦を豪語する母は、もちろんお料理は得意。
結婚と同時に父に持たせ始めたお弁当歴は、かれこれ20年近くなるから、
今年から私の分も作れて、ラッキーなんて調子で、毎日、キレイなお弁当を持たせてくれる。
だから、
「良かったら、食べてみる?」
って、ついついその味まで、娘としては自慢したくなる。
「えっ、くれるの?」
「うん、どれがいい?」
って、聞いたら、「それ!」って、キレイに筒形を並べてる厚焼き卵を指差す。
ステックなんて付いてないから、いいかなって、私の箸を渡そうとしたら、
手を出さないで、口だけ開けてる有名人・・・・
何だ・・無防備なカワイイ顔とかしてるじゃん・・
だから、ついついまだあんまり知らない人の口の中に、黄色の固まりを放り込んで上げる。
- 548 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 13:50
- 「うん、美味しい!」
なんて、本当にいい顔で言ってくれるから、調子に乗って、
「じゃあ、コレも食べてみて」
なんて、次々とその口に渡していく内に、気づいた時には半分ほどになったお弁当。
あっと思っていたら、
「はい、これで勘弁!」
なんて、袋の中の、もう一つのサンドイッチを私の前に差し出す。
別に遠慮するほどのことでもなさそうだし、放課後には部活もあるから、空腹は辛い・・
で、それをご馳走になって、パンとお弁当の半分ずつのお昼を終える。
「美味しかったなー、やっぱ、梨華ちゃん誘ってよかったな・・」
なんて、私のお弁当目当てだったのかな・・・この人・・
でも、すごく満足そうな顔してる。
人の幸せそうな顔って、見てるとこっちまで幸せな気分になってくるものだしね。
それに、その後に続けられた会話も、なんとなく間延びしてて、
よく知らない者同士にありがちな、畳み込むような質問とかなくて、
お天気のこととか、午前中の授業で寝ちゃったこととか・・
ぽつんぽつんってリズムが、昔から、よく知ってる人みたいで、
どっちかって言うと、人見知りで、会話のヘタクソな私には、心地いい。
予鈴が聞こえて、
「じゃあ、またね・・」
って、お互いの教室に戻る。
それは、この間の駅と同じセリフだったけど、
今度の「また」は、本当の「また」に聞こえた。
- 549 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 14:10
- でも、その週のうちに、彼女が私の教室に顔を出すことも、
ケイタイが鳴ることも、メールが届いていることもなかった。
・・・・まっ、そんな感じなのかな・・・
それに、友達とかいないのかなっていうのも、たぶん当たってなかったみたい・・
時々、廊下とか、校庭で見かける時の彼女の周りには、いつも誰かしらいて、
すれ違ったりする時に、声をかけてくれそうにするんだけど、
何か、遠慮した方がいいみたいな雰囲気があるから、軽い会釈だけ返して、足を速めた。
私の学校生活は、また少しずつ、休み前のペースに戻った。
クラスメイトとも、それなりに親しくなってきていたし、
と言っても、私って敬遠されちゃうタイプなのかな・・・
休み時間とかお昼とか、傍にいる子となんとなくって感じ。
放課後は、大会を控えて、部活の練習もきつくなって・・
もちろん、一年生の私たちが出場選手に選ばれることはなかったんだけど、
それでも自然と熱の入る練習は、暗くなるまで続いて、
クラブの仲間との距離も、やっぱりまだあったから、
女子校生にありがちな、帰りにクレープ屋さんとか全然なくて、
ただクタクタになって帰宅するだけの日々が続いた。
- 550 名前:トーマ 投稿日:2004/06/15(火) 14:11
-
今日は、ココまでにしておきます。
- 551 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/15(火) 16:52
- 待ってました。
この二人がどうやって付き合うようになるのか楽しみです。
- 552 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/16(水) 02:21
- 続編待ってました
失礼な後藤さんに翻弄される石川さんって好きです
- 553 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/16(水) 02:21
- 続編待ってました
失礼な後藤さんに翻弄される石川さんって好きです
- 554 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/16(水) 02:30
- 2回書き込みになってごめんなさい
- 555 名前:トーマ 投稿日:2004/06/17(木) 09:28
- >>551 名無し飼育様 ありがとうございます
そうなんですよね・・最終的にはハッピーエンド・・・でもそう簡単には行かないようで・・
>>552 名無し読者様 ありがとうございます
作者も、掴みどころのない後藤さんとそれに振り回される石川さんが一番好きなんですけど、
ココの表題作やその続編では、年齢設定もあって、少し大人になってもらっていたので、
今回は、思いっきり、バタバタさせたいと思ってます。
- 556 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 09:55
-
次の週の初め・・・・通学の電車の中で、ケイタイが震えた。
ホームに下りてから、メールを開けると、
「今日、お昼しよ!」
って、あの後藤さん・・・・って、何よ、朝っぱらから・・・・
返信しないまま迎えた二時間目の休み時間に、
「心配しないでいいよ!今日は屋上じゃなくて、体育館ウラ」
だって・・・・・なによこの人、私が今日のお日様を気にしてるって思ってるのかな・・
何か悔しいから、
「イイヨ!屋上で!」
なんて、ついついOKみたいな返事をする。
そしたら速攻で、
「やっぱ体育館ウラ・・イイトコ見つけたんだ!」
だって・・・・まっ、いいか・・
お昼休みになって、一応誘ってくれてるクラスメイトに断りを入れて、指定の場所に向かう。
って、ココって食べれるようなトコあったっけ?
なんて思いながらプラプラしてると、
ふいに目の前に現れたその人に、いきなり手を引かれて、ちょっと小走り。
ぐるっと体育館ウラを回って・・・校舎から死角になってる側。
あっ、ココって芝生になってるんだ・・・知らなかったな・・
体育館と塀の間の3、4メーターくらいのところが粗い芝生になっていて、
道路と学園の敷地を区切っている塀沿いには植木もされているから、適当な木陰も出来ていて、
確かにイイトコかも・・・・
「ねっ!」なんて顔した後藤さんは、その芝生の上に、大き目のバンダナを2枚広げて、
その一つに腰を落とす。
・・・って、もう一つの方に座れってことなんだよね・・・・じゃ、遠慮なく・・
で、おもむろに、手に下げていたバスケットを開いて、
「あっ、今日はお弁当なんだ・・・」
「うん!今朝、早く起きて作ったんだ!」
「自分で?」
「うん、この前、ご馳走になっちゃったから、お返ししよーと思って・・」
「別に気にしなくて良かったのに・・」
- 557 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 10:39
- 「ううん、ね、食べてみてよ・・ゴトーの自信作!」
なんて、カラアゲかな・・それを一つ箸でつまんで、隣に座らせてもらっている、私の前に突き出す。
まっ、いただこーかなって、そのまま口で受け取る。
「うん、美味しい!」
「でしょ!」
って、本当に美味しい。コレって、レイショクとかじゃなくって、自分で作ったんだよね・・
へー、お料理得意なんだ・・
まあ、食べて、食べてなんて、たぶん多めに用意したおかずをどんどん勧められて・・
もちろん、私の分のお弁当もあるから、少し食べ過ぎるくらいのお昼になる。
半分も食べきれない私の残りを、
「ね、コレ、もらっちゃっていいかな?」
なんてキレイに平らげる後藤さん。
この人って、結構大食いなんだね・・痩せてるみたいだけど・・
「朝・・・弱くてさ・・」
なんて、ぽつりと・・
「えっ?」
「なかなか、早起きできなくて・・・」
あーあ、もしかして、お弁当のお返しができなかったってこと?
「なかなか誘えなくって・・」
やっぱ、そーゆー意味なのかな・・・
なんかズーズー人ってゆーか、自分勝手な人だなって思ってたけど、
もしかして、妙に律儀な人なのかな・・・
だから、
「別に気にしなくていいのに・・私が作ってるわけじゃないし・・」
「だけどさ・・」
って、遠慮とかしてるのかな・・・よくわからない人だよね・・
- 558 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 10:56
- 「でも、何で私のこと誘うの?」
やっぱり聞いてみたかったことを口に出す。
「イヤだった?」
って、少し予想とはずれた答え。
「じゃないけど・・・」
「なら、いいでしょ・・」
だって・・・・いいのかなー・・・まっ、いいけど・・・
「ふー」なんて溜息なんかついちゃって・・・
もしかして、この人、いつも私とお昼したいとか思ってんのかな・・・
だったら、
「私、別にパンとか嫌いじゃないよ・・・・てーか、好きかも・・」
なんて、少し探るようなこと言ってみる。そしたら、
「本当?!」
って、何か嬉々としちゃって、
「だったら、毎日、ココでお昼しよーよ!ね、イイトコでしょココ!」
なんか、面白い子だよね・・・
まあ、断わる理由もないしね・・てーか、少し楽しいかも・・
今まで、私の周りにいた人達とは、どこか違う感じのこの人に、興味も出てきちゃってるし、
実を言うば、ここ数日は、なんか期待を裏切られちゃった気分もあったわけだし・・
てな感じで、それからお昼は、この子・・・ごっちんと一緒にするようになった。
毎日、お弁当を持って教室を離れる私を、クラスメイトは不思議そうに見送るけど、
「どこ行くの?」って問いに、
「うん、ちょっと・・」ってだけ返しても、それ以上の答えは要求されなかったし、
周りに少しは目があった屋上とは違って、私たちのその場所は、他に使う人はいなかったから、
あの朝、教室に現れた有名人と、私を結び付けては、誰も考えてなかったみたい。
って、コレは、あれ以来、私に向かって、特にその名前が出てこなかったから、そう思うんだけどね・・
- 559 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 11:08
- そんな日が何日か続いて・・・・雨になった。
どーするのかな・・やっぱりキャンセルなのかなって思ってたら、授業中にメールが届いた。
「講堂の裏口」
「ここなんだけど・・」
って、引っ張られた先は、舞台の上の演台の後ろ。
照明もない雨の日だから、そこは少し薄暗いんだけど、
そんなところに、隠れるように並んで座ると、
遠い夏の日に、案内された秘密基地を思い出す。
「ね、なんかこーゆー所ってわくわくしない?」
なんて、子供みたいに言っちゃう彼女も、やっぱり同じような感じなのかな・・
ついつい声をひそめて、
「でも、よくこーゆートコ、見つけるよね・・」
って言ったら、
「うん、得意なんだ!」
って、胸を張る。・・・・本当、子供みたい・・
でも、コレってなんかありかも。
ちっちゃい子が、親に隠れて、悪戯相談しているみたいで、少し秘密めいてて・・・楽しい。
で、そこが雨の日の定位置になった。
- 560 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 11:27
- でも、私たちの関係って、実はそれだけ。
クラスも遠いから、休み時間とかの接触もないし、もちろん部活も違う。
帰りの時間とかがたとえ同じぐらいになったとしても、
向かう駅自体が、違うみたいで、見かけることもない。
それから、メールだって、
たまに授業中に、「眠い・・」とか、「○○先生の頭がまぶしい」とか、独り言見たいのが入るだけで、
家に帰ってからのやり取りとかいっさいなくって・・・
なんだろーな・・・
メル友ならぬ、メシ友ってヤツなのかな・・
電話でそのことを話した柴ちゃんには、
「なんだか面白いねー」
って、言われたけど、私はそんな関係が結構気に入っている。
ごっちんと過ごすお昼休みの50分は、
他の普通の学園生活から切り離された別の世界みたいで、
その時間の中では、私は、クラスで美化委員なんて面倒くさいもの押し付けられちゃったり、
テニス部で、居心地悪くしている私じゃなくてよかったし、
ごっちんのことも、あのみんなの知っている特待生の後藤真希だって思わなくてよかったし・・
だって、みんなの中で見かける彼女は、本当に近寄り難い。
- 561 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 11:49
- 6月に入ってすぐに、この学校で恒例になっているクラス対抗の球技大会が行われた。
種目はバスケットだったんだけど、
陸上でハイジャンプを専攻しているらしいごっちんのジャンプ力は、
ボール捌きの技術では敵わないバスケット部員をも圧倒していて、メチャクチャ目立ってた。
私もね、実はそんなにヘタじゃない。
小学校の時、ミニバスケのチームにいたし、
「見た目と違うよね」って、よく言われるけど、どっちかって言うとスポーツ少女。
ピアノとかバイオリンを習う代わりに、新体操やスイミングを習っていたし、
中学からは、近くのテニススクールに通っていた。
でも、そんな私から見ても、ごっちんのプレーはカッコイイ。
女子校ってこんなふうになるんだね・・
みんな、キャッキャ言って騒いでる。
もちろんバスケ部の子はみんな上手いんだけどね、そーゆーのって上手さだけじゃなくて、
見た目ってゆーか、やっぱり容姿の問題なのよね・・
一年生では、あと・・・C組の・・吉澤さんってゆーのかな・・・たぶん、バレー部だったと思うけど、
その人も上手かったし、ボーイッシュな感じだから、ごっちんに負けない黄色い声援を受けてて、
一年の決勝で、C組とG組の組み合わせになった時には、なんかアイドルのコンサートみたいになってた。
で、うちのクラスはって言うと、一回戦の対B組で、惜しかったんだけど負けちゃった。
B組って言えば・・・そこに小柄だけど、気の強そうな人がいて、
何気に最初の方に、私が何本かゴールを決めたら、すごい顔で睨まれちゃって、
そのあとは、ずっとワンマーク。
結構キレイな顔立ちの人のキツイ目って、すごい迫力で・・・なんだかねー・・
ボールをたたき落とされた時に、手の甲に出来た傷も、一つや二つじゃなくてね・・・
- 562 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 12:21
- 結局、一年の優勝は、ごっちんの他にもバスケ部員が何人かいるG組で、
2年生には負けちゃって、総合では準優勝だったんだけど、個人的には彼女がMVPって感じ。
うん、こーゆー場所で見ると、やっぱり、ごっちんって近寄り難い。
プレーしている最中とか、私のお弁当を覗いているその人とは同じとは思えないキリっとした表情してて、
もう一つの顔って感じなのかな・・・・
そーそー、時々、気になって見るようになった陸上部の練習中なんて、
キリっとを通り越して、キツイくらいに、真剣な顔してる。
ある日、たまたまこっちの練習が早く終わって、何気に、校庭の隅を見たら、
彼女が、専門のハイジャンプの練習をしていた。
しなやかな背面跳びは、キレイなラインを作って・・・・素人目にも美しい。
ついつい見惚れていると、いつの間にか私の横にまいちゃんが立ってた。
あっ、まいちゃんっていうのは、最近やっと話をするようになった唯一の部活仲間の里田さん。
すごく上手な子で、一年の中では・・・トップかな・・
この子に言わせると、私がイマイチ、クラブに溶け込めないのは、一般組のくせに、妙に上手いからなんだって・・
「だって、やってたんだもの」って言ったら、
「中学の部活じゃなくて、お嬢様テニスだから、腹が立つのよ・・」なんだそーだけど、
私に言わせれば、硬式のテニス部がある中学に通ってた方が、よっぽどお嬢さんなんだけど、
あとでよくよく聞いたら、そんなの極一部で、軟式からの転向組が殆どなんだって・・
でも、そんなふうなことズバズバ言ってくれるまいちゃんは、本当に気持ちのいい子なんだけど・・
で、まいちゃんが私の横で、ごっちんのこと見てね、
「やっぱ後藤真希って、すごいよね!」
って、なんか身内のこと誉められているみたいで、少し照れくさいから、
「そーおー」
なんて、気のなさそうな返事をしたら、
「ジュニアチャンピョンだったんだよ!」
って、私の知らない、ごっちんの過去の栄光の数々を教えてくれる。
小学校の時、都のジュニア記録を塗り替えて、中学では、全国で3位まで入って、ここはもちろん、特別推薦。
なんでも、短距離も二百までだったら、チームで一番で、リレーの選手も兼ねているんだって・・
なんだか、本当に雲の上の人なんだよね・・・・
- 563 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 12:30
- 「でも・・・」
って、続く言葉が気になる。
このインターハイは、あんまりおもわしい結果が出なかったとか・・・
だから、今はあーして、遅くまで、一人残ってコーチとマンツーマンの特訓をしてるんだって。
そー言えば、他の陸上部員は、もう誰もいなくて・・・・
大変なんだね・・・・スターも・・・
そんなふうに、すごい人のはずのごっちんなんだけど、
私とのお弁当タイムは、どっちかってゆーと、しまらない顔してる。
部活のこととか、いっさい話さないし・・・だから私も聞かない。
うん、よくするのは、お料理の話とか、あとテレビのお笑いとか、アニメとか・・・
そーそー、この子、まだドラえもん見てるんだって。
時間が間に合わなかったりするから、わざわざビデオセットして・・・・
なんかねー、そーゆーところは、ウソみたく子供なんだよね。
- 564 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 12:47
- 何かとバタバタしていた一学期も、散々だった期末テストで終了して、
あとに始まるはずの夏休みも、殆ど部活の練習で、毎日の学校通い。
だから、今年は、いつもの別荘にも行けなくて・・・
レナちゃん、どーしてるかな・・・もう、6年生になるんだよね・・
もちろん、ごっちんはたぶん私以上のハードさで、
たまにメールのやり取りはしてるけど・・・・
毎日のように会っていた人に、会えないのって、やっぱり少し淋しいでしょ。
だから、何気にね、
「会いたいなー」って、ぽつんと打ったら、
お盆休み中に、時間と場所指定されて・・・・
花火を見に行ったの。
約束通りに、ちゃんと浴衣を着てね、ごっちんの地元の方の花火大会。
早い時間から、夜店がいっぱい出ていて、すごい混雑だったんだけど、
ちゃんと、カキ氷も食べて・・・そーそー、ごっちんって、冷たいもの食べても頭痛くならないんだって・・
それってやっぱり変よね・・・
あと、並んで金魚すくいもした。
何気にこーゆーことも上手なんだよね、ごっちんって・・・
200円で、何匹もすくっちゃって、
「やっぱ、飼えないよね・・」って、近くにいた子供にあげて、喜ばれてた。
そんなことしながら、暗くなるのを待って・・・・
一つ大きいのが上がったのを合図に、次々と空に広がる光の輪。
やっぱり、花火って、近くで見ると、迫力あるし、美しさも格別。
- 565 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 13:01
- ぼーっと、圧倒されるように、空を眺めてた私の手に、
何かが触れて・・・・
あっ、ごっちんの手・・・
柔らかく繋がれた手に・・・・何か少しドキドキする。
女の子には、やたらとスキンシップする子とかいて、
例えば、一緒にトイレに行く時とか、必ず手を繋いできたり、腕を絡めてきたり、
そんなふうにする子とかいるけど、
ごっちんは普段、あんまりそーゆーことしない・・・だからだね・・ドキッとしたのは・・
で、ぽつりと、
「梨華ちゃん・・・・キレイだね・・」
って、えっ?・・・・って、感じでその顔をうかがったら、
あっ、なーんだ、そーだよね、花火のことだよね・・だって、ごっちんの目は、空を見上げているもの。
だから、
「そーだね・・キレイだね・・」って返す。
繋がれた手が、少し強くなったみたいに思ったのは・・・気のせいだよね・・・
「ウチに寄ってかない?」
って、誘われたけど、
娘の夜遊びを心配するウチのお父さんが、途中まで迎えに来ることになってたから、
遠慮して・・・なんだかねー、本当、ウチの親って、過保護だよね・・
- 566 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 13:26
- あっと言う間に、夏休みが終わって・・・
授業もすぐから、本気モードだし、秋季大会もすぐに始まっちゃうから、やたらと慌しい日が続く。
それに、どーゆーわけか、一年生の中では、まいちゃんと私だけが、大会に、ダブルスで出場できることになって、
たくさんいる部員の中で、二年生にも出場できない人は、何人もいるから、
・・・・なんかメチャクチャ針のむしろ状態。
何かと優しく接してくれた、三年の先輩は、もう引退しちゃったし・・・
「顧問の先生に媚を売ってる」とか、「コーチに色目使った」とか、
わざと聞こえるように発せられる陰口が、
誰にもその実力を認められているまいちゃんに対してのものじゃないことくらいわかるから・・・
まいちゃんは、
「気にしちゃダメだよ、アタシにはアンタの力はわかってるから・・」
なんて、言ってくれるけど、やっぱり気になるよね・・・
だから、試合で酷い結果になって、それ以上のことを言わせないためにも、
いつも以上に練習して・・・もう殆どボロ雑巾みたいな日々。
それに加えて、どこからどー出たのか、
数学の先生・・・三十代の男の先生なんだけどね・・・その先生が、私のこと贔屓しているみたいな噂が出ちゃって、
私が、色目使ってテストの点とか、甘くしてもらっているんだって・・
な、こと出来たら、苦労しないって・・・・そーじゃなくても数学は嫌いなのに、マスマス授業がイヤになる。
でも、何でだろーな、こーゆーの・・・
中学の時とかも何度か言われたりしたけど・・・
柴ちゃんには、先生が横を通る時の、見上げる目つきがいけないとか、
甘えるような声がよくないとか言われたけど、
だけど、素でこーなんだもん・・・・しょーがないじゃん!
だから、そんな中での、お昼ののんびりとした時間は、今の私にとっては、唯一の救い。
- 567 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 13:43
- ごっちんは、いつでも変わらず、まったりしてるし、
もちろんお母さんのお弁当も美味しいけど、ごっちんが時々作ってきてくれるのも、すごく美味しい。
人間、美味しいもの食べて、
のほほーんと過ごせる時間が、やっぱり一番幸せ・・・・・なんてね・・
場所も、他にだーれもいなくて・・・
あっ、でもね、一度・・・
雨だったから、あの秘密基地みたいな、演台の後ろでね、昼食後のまったりとした時間を過ごしていたら、
舞台の袖で音がして、
なんだろって感じで、二人して、足音を忍ばせてね・・・
舞台の袖の段差の下に続く、大道具とかを置いておく控え室に・・・人がいて・・
幕のところに身を隠すみたいにして覗いてみたら・・・
制服の人影が二つ・・・
それがね、近づいて・・・えっ?なんて思って、よく見ると・・・うわっ!
声を出しそうになった私の口をごっちんの手が塞いで、
そのまま静かに、後退り。
音を立てないように、広げたままのお弁当をたたんで・・
足を忍ばせながら、それでも急いで・・・・講堂の外に逃げるみたいに出て・・
「今の・・・あれ・・」
「うん」
「あれ・・・・」
「うん、キスしてたね」
あー、やっぱり・・・うわっ、すごいの見ちゃった。
制服だから、ここの生徒で・・・ってことは・・・女の子同士で・・・
そーゆーのが、あるって聞いたことはあったけど・・・本当にあるんだ・・・
- 568 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 13:55
- ごっちんはあんまり驚いてる様子はなくて、
「あるんだね、やっぱり・・」って、言ったら、
「あるんだよ、やっぱり・・」だって・・・
「でもさ・・」って、横向いたら、ごっちんの顔が、思ってたより、近くにあって、
なんか恥ずかしくなっちゃって、思わず顔をそむけちゃった。
・・・・ヤダ、私、なんか赤くなってるよ・・
そんな私の顔をごっちんが、えっ?って感じに覗き込むから、
「ヤダー」なんて、その背中叩いちゃった。
「あっ、てれてんだ!」って、ごっちんが笑う。
うん、だってあんなの見た直後だもの・・・てれるでしょ、やっぱり・・・
で、そのあと、午後の授業中は、やっぱり少しぼんやりしてた。
だってさ、あるんだよね、あーゆーの・・・女子校って・・・
そー言えば、ごっちんって、キャーキャー言われてたよね・・・ファンとかたくさんいて・・
やっぱり、告られたりしちゃうのかな・・・・
で・・・・あっ、ヤダ、私、何考えてんだろ・・・・
で、
- 569 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 14:12
- その夜、柴ちゃんに電話して、今日見たことを話したら、
「あるんじゃないの、フツーに」だって・・・、
「やっぱ、そーゆーもんですかねー」
「そーゆーもんでしょ・・・恋に恋する年頃に、女の子ばっかなんだもの・・」
「はー、恋に恋するねー・・」
って、私は、そんなこと考えてもなかったけど・・・
「で、やっぱり共学の柴ちゃんとしては、彼氏の一人二人、いちゃうわけですか?」
って、聞いたら、
「それがさー、いいのがいないのよね・・」
なんて・・・少し安心。
「でも、もてるよ・・」
って、次の言葉には少し腹が立ったから、
「何々、告られザンマイ?」
なんて、少しイヤミに聞いたのに、
「まあね!」
だって・・・・・あーあそーですかって、感じよね・・
「そーいえばさー、梨華ちゃん、その気があるなら紹介するよ・・」
「って、なにそれ?」
「いやー、梨華ちゃんと撮ったプリクラ見られてさ、紹介しろって散々言われてるんだけどさ・・どーよ・・」
・・・・・って、何、人の顔、他人にさらしちゃってんのよ・・・断わりもなく・・
「いらない!」
「えっ、そーなの?」
「うん、今、ヒマないし・・」
「なら、ヒマができたら、いつでも言ってね!」
だって・・・・アンタ、さっきいいのがいないって言ってなかったっけ?
それに、ヒマで作るものなの?・・・彼氏って・・・やっぱり・・・
そー言えば、ごっちんって彼氏とかいるのかな・・・あの子、きっともてるよね・・・
それとも彼女がいたりして・・・・な、こたーないか・・・それこそ、ヒマなさそーだし・・
- 570 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/17(木) 14:26
- 秋の大会は、何とか三回戦まで行けて、文句を言われないくらいの成績は修めたと思う。
まいちゃんは、悔しがってたけど、今の私たちは、こんなものだと思う。
うん、次は、もう一つ、上に行こうよ!
で、ごっちんの方の大会も終わって・・・
風の噂では、あまり芳しくなかったとか・・・・もちろんウチの学校の中では、一番よかったらしいんだけど・・
お昼に会う時には、やっぱり何も変わってなくて、
私たちは、部活のこととかいっさい話をしないし・・・・
もしかしたら、ごっちんは、私がテニスやってることとか知らないんじゃないかなって思うくらい。
それに、ここでの顔は、バーを超えてる時の、あの顔とは、あまりにも違うから、
私もついつい忘れてるもの・・
目の前にいるこの人が、ハイジャンプの有名選手だってことを・・
でも、しばらくして、私は、思わぬことから、彼女のもう一つの顔を見ることになった。
それまで、私の知らなかった・・・ごっちんの三つ目の顔・・・・
- 571 名前:トーマ 投稿日:2004/06/17(木) 14:26
-
本日はここまでにします。
- 572 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/17(木) 16:09
- 一体何なんだ!
続きが楽しみです。
- 573 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/17(木) 21:17
- いつ読んでも素晴らしい
更新が待ち遠しいです
- 574 名前:トーマ 投稿日:2004/06/18(金) 09:23
- >>572 名無し読者様 ありがとうございます
・・・てーか、フリのわりには、たいしたことじゃないんですけど・・まだ・・
>>573 名無し飼育様 ありがとうございます
話自体は、出来上がってたりするので、今回はあまり間を空けずに更新できそうです。
- 575 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 09:43
- 大会が終わったこともあって、少しのんびりムードの練習を終えて、
一度校門を出た私は、たぶん部室に忘れたんだろう腕時計を取りに戻った。
街にも学校にも、いたるところに時計はあったし、ケイタイもあるから、
本当のとこ、そんなものは必要じゃないんだろーけど、
せっかちな私は、秒針のついているそれをしていないと落ち着かなくて、毎日腕にはめている。
それを練習前にはずして、バッグに入れておくんだけど、
ロッカーの中にでも落としたのかな・・それがない。
で、守衛室で鍵を借りて、捜すと・・・部室のテーブルの端っこにぽつんと置いてあった。
誰かが、拾って置いておいてくれたのかな・・
戸締りを確認して、再び下校。
秋の日は、すっかり短くなって・・・薄暗い校庭には、もう誰も・・・
えっ、隅の方に・・・あれは・・・
ごっちんがバーを跳んでた。
一人で・・・跳んでた。
・・・・てゆーか・・・・・落としてた。
ある一定の高さに置き直されるそのバーは、
クッションの上に彼女の体と一緒に、何度も落とされて・・・
その無意味にさえ見える繰り返しに、私の足は引き寄せられるように、その場に近づいていた。
そんな私の存在に気づきもしない彼女は、黙々と同じことを繰り返していたけど、
その何度か目に、
助走の足をバーの前で突然止めて・・・・
そのままくずれるように、へたり込んで・・・
両手を地面につけて、肩を震わせて・・・・あっ、泣いてるんだ。
- 576 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 10:06
- そのうち漏れ出した声が、彼女の前に私を引き寄せる。
しゃがんで、その肩に両手を添えると、
不意の接触を不思議そうに見上げた彼女は、
「・・・梨華ちゃん?」
って、私を確認すると、
わっ!って感じに私の胸に顔を預けて、その勢いで、私の腰は地面に落とされる。
そのまま、彼女の頭を抱え込んで、
今までにまして大きな声で泣き出した彼女の背中をさする。
どのくらいそーしていたんだろう。
日もすっかり暮れて、暗くなった校庭で、ふと泣き声を止めたごっちんが、
一言だけ小さく漏らす。
「背がね、やっぱり背が・・・足りないんだ・・」
あっ、と思った。
この競技に関しては、まるっきりの素人の私にも、その意味するところはわかった。
たいていどんなスポーツでも、身長はあればあるほど有利だけれど、
特に高さが要求されるこのハイジャンプで、私より少し大きい程度の彼女は、かなり小さい部類の選手なんだろう。
そー言えば、この前ぼそっと、
「小学生の時から、身長が変わらない・・」なんて言ってた。
160は、小6なら、かなり大きい方・・・でも、ジュニアでの記録は、あくまでもジュニア。
伸びない身長を、人並みはずれた跳躍力で、今までカバーしてきた彼女が、
今ぶつかっているのは、やっぱりそれではもう補えなくなってきた高校のレベル。
何も言ってあげられない。
何の力にもなってあげられない。
私は、ただ、今は歯を食いしばって涙を止めている彼女の顔を見ていた。
今まで見たことのない・・・彼女のその表情・・
- 577 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 10:24
- 「ありがとう」
って、小さく言って、ムリに笑おうとするその顔を、もう一度胸に抱きしめる。
私にお礼なんていらない・・笑わなくてもいい・・・
ムリに笑ってみせなくていいから・・・
着替えてくるのを待って、
「いいよ」って言う彼女を、私とは、違う駅まで送る。
手を握って・・・・何の助けにもならないかも知れないけど、やっぱり何かしてあげたくて、
その手がいつもよりいっそう細く感じたから、
離せなくて、離したくなくて・・・・
駅で手を振るごっちんは、もう一度「ありがとう」と言って、改札を足早に抜ける。
その姿がホームに上がる階段に消えるまで・・・見送った。
次の日のお昼も、いつもと変わらない緩んだ笑顔だったけど、
予鈴で別れる時に、
「別の種目にチャレンジしてみるよ!」
って、明るい調子で、でもきっぱりと一言だけ言ってた。
その後、しばらくして、あの後藤真希がハイジャンを捨てたって言う、噂が流れてきた。
・・・・棒高跳び・・・だって・・って、あるんだー、女子の棒高跳び・・・・
今まで、一流のアスリートとしてやってきたものを辞めて、新しいものに挑戦するのって・・・
やっぱり、大変なことだと思う。
同じ陸上競技ではあるけれど、たぶんそんな簡単なことじゃない・・と思う。
それは、素人の私には、やっぱり窺い知れなくて・・・
- 578 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 10:40
- 私は特に聞いてみようとは思ってなかったんだけど、
ごっちんは、それからは少しずつ陸上の話とかするようになった。
「全然ちがくてさー!」とか、
「もー、腕がパンパン、筋肉痛が酷いんだ・・」とか・・・
だから、私もテニスの話とかするようになった。
まったく他の生活とは、別世界だったお昼休みが、少しずつ日常に繋がって行くのは、
少し淋しいような気もしたけど、
その分、彼女との距離が近くなったように思えることは、悪い感じではなかった。
何気にメールとかも増えて・・・
どっちから誘ったんだっけな・・・
時には、休みの日にデートもするようになった。あっ、デートってゆーのは変か・・
普通に映画見たり、ショッピングしたり、
そーそー、彼女は、私のセンスがメチャクチャだって言って、
私の選ぶもの選ぶもの、ことごとく却下するの。
うん、確かにアナタはカッコイイですよ・・・そこらにいる芸能人なんかに負けないくらい。
だけどね、だけど、私はピンクが好きなのー!
だから、お店の前で小さな喧嘩みたいになる。
でも、それはそれで楽しいし、
ごっちんの選んだもの着て、柴ちゃんに会ったら、
「あれ、梨華ちゃん、ずいぶん垢抜けたねー」
なんて言われたから・・・・じゃ、コレも悪くないかってね。
- 579 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 11:08
- 色んなことがあったその年も暮れを迎えて・・・
私とごっちんは、初詣に行く約束をする。
年が変わる前に、あのはじめて言葉を交わした表参道で遊んで、明治神宮って計画。
さすがに長丁場になるからって、着物はやめにしたけど、お洒落して行こうって約束して、
神宮前での待ち合わせ。
で、会うなり、
「ね、何人に声かけられるか賭けない?」だって、
「何のこと?」って、聞いたら、
「きっとアタシタチ二人って、目立つから、たくさんナンパされるよ・・」
へー、初詣ってナンパされるんだ・・
まっ、確かにごっちんは・・薄っすらとメイクもしてて、今日は一段とキレイ。
よし、って感じで、
「10人、てか、10組!」
って、今まで柴ちゃんと渋谷でとか、あとごっちんといる時とかに声をかけられたのの倍位を言ってみる。
そしたら、
「甘い!・・・アタシはねー、歩きで12、3・・車が止まるのが5、6台てみた!」
だって、えっ、車が止まるわけ?
で、条件は表参道をプラプラと一周。で、近いほうが年越し蕎麦を奢ってもらう。
・・・・で、結果は、私の惨敗。
止まった車は、10台ちょっと、声をかけてきたのは・・・途中からは数えるのをやめた。
その受け答えは、全部彼女に任せて、
年越し蕎麦は、ごっちんのリクエストでラーメン・・・って、これでいいのかな蕎麦って・・
- 580 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 11:26
- フーフーすすりながら、
「ごっちん、もてるねー!」って言ったら、
「梨華ちゃんだよ!」って、返された。
「そんなことないよ、彼氏いない歴15年だもの!」言ったら、
「へー、そーなんだー」って、意外そーな顔して、
「でも、よかった・・・」って、何がいいんだか・・・
まだ混んでいるよとか、少し休憩も兼ねたお茶にして、
その間にも、やたらと声をかけてきた男の人たちを、軽くいなすごっちん。
なんか本当に慣れてるよねー、こーゆーこと・・・だから、
「ごっちんは、いないの彼氏?」って、聞いたら、
「うん!」
って、一言だけ。コレって、今現在はって意味なんだよね。
2時を回ってから、やっとお参りに行く。
こんな時間でも充分混んではいるけど、さすがにもうテレビで見るほどじゃない。
でも、本殿の前に、大きく白い布なんか広げちゃって、
こんな遠くから・・・コレってなんかお賽銭だけ下さいよって感じよね・・
だから、まっいいかって、五円玉一つだけ放る。
これご縁がありますようにって意味なのよね・・・・でいいのかな・・・
でも、願い事はしっかりと・・
成績が上がりますようにとか、テニスが上手くなりますようにとか、
あと、ごっちんの新しいチャレンジが成功しますようにとか・・・少し欲張りすぎかな・・
ごっちんも、なんかえらく神妙な顔して、長いこと祈ってた。
で、おみくじ引いたら、末吉。まあ、こんなものでしょ。
ごっちんは大吉当てて、喜んでる。
私なんて、凶引かないだけマシってぐらいにくじ運悪い人なのに・・・
でも、よかったね、ごっちん!
今年がアナタにとって、本当にいい年になることを、私も祈っているよ。
- 581 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 11:47
- 夜中の電車は危ないから、わざわざウチまで送ってから帰るって言うごっちんに、
「アナタも女の子でしょ!危ないの同じじゃん・・」って、言ったら、
「あっ、そーか・・」だって、
で、相談して出した結論は、ウチまで送ってもらって、
仮眠して、朝になってから、ウチのお父さんに送ってもらうってこと。
ごっちんは遠慮したけど、
いくら終日運転でも、この時間に一人の電車は、私だって怖いから、ムリムリそーすることにして、
電車の中で少しウトウトしながら、家まで引っ張って来る。
こんな時間に、初めて訪れる我が家に、ごっちんは少しキョロキョロしてて、で、
「やっぱ思ってた通りの感じ・・・」なんだって、
「どーゆー感じ?」って聞いたら、
「うん、ほんわか、ゆったりしてる・・」だそーで、
三姉妹で、男っ気はお父さんだけで、家の中は殆ど、のんびり屋のお母さんの趣味なんだよね。
で、通した私の部屋は、想像以上だったらしくて・・・・って、何よ!その顔!
「うーん、ピンクが眩しい・・」とのこと・・
大き目のパジャマを取り出して、先にシャワーを浴びてもらう。
その間に、客間から布団を引っ張りだしてたら、お母さんが起きて来て、
説明すると、
「絶対、ウチのおせちを食べてもらってね!」
って、怒られるかと思ってた私の拍子を抜く。
でも、いいのかな・・・・ごっちんチも、お正月ってのがあるわけだから・・・
一応、ここに来る前に、連絡は入れてもらったけど・・
- 582 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 12:08
- 先に寝てていいよって言ったのに、
私がシャワーから上がった時も、ごっちんは起きていて・・・それからはおしゃべり。
眠気もいつの間にか、どこかに行ってて、いつになく饒舌な彼女に付き合って、
なんだかんだで、窓から初日の出まで見ちゃった。
で、結局、お昼過ぎになって、やっと起き出して・・・
少し、怒られながら、我が家のおせちを振舞う。
お家の方大丈夫って確かめたら、お店やってるから、ご両親ともお正月中、仕事なんだって・・
なら、よかったんだよね・・
ウチの家族とは初対面だったんだけど、
みんな、キレイな私の友達に大はしゃぎで、特に妹は、キャッキャしてた。
中学で一応、陸上部に所属している妹にとって、後藤真希は、憧れだったらしくて、
どーして今まで、友達だって、言ってくれなかったのよって、散々怒られた。
そっか、やっぱりそんなに有名な人だったんだね・・・・
夕方になって、おとその抜けた、父に車を出してもらって、もちろん私も同乗する。
ごっちんの家は、学校を挟んで、本当に反対側なんだけど、
お正月ですいてる首都高にのってしまえば、思いの外近い。
夏に来た花火の時は、電車だったから、すごく遠くに感じたんだけど。
寄ってくように言われたけど、お父さんも一緒だから、また今度来るからって、遠慮して、
彼女とマンションの入口で、別れて、来た道では空いていた助手席に戻る。
「キレイな子だなー」って鼻の下を伸ばしているお父さんを小突いて、
でも、やっぱりそーだよねって思う。
本当に黙っていると大人っぽいごっちんは、夕べは着ている物も大人びてたし、お化粧とかしてたから、
たぶん声をかけてきた人たちも、16だなんて思ってなかったろーな・・
私なんかより二つも三つもお姉さんみたいで、で本当にキレイだった。
- 583 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 12:26
-
三学期に入って早々、私は自分の下駄箱に、一通の手紙を発見した。
・・・・差出人は、知らない名前・・・でも、どこかで聞いたような・・・・
で、内容は、お昼休みに体育館のウラに来てくれってもの・・
っても、私たちの場所じゃなくて、所謂体育館ウラ・・・人を呼び出すには、もっともありきたりの場所。
なんだろう・・・これ・・
お昼を一緒に・・今は外は寒いから殆ど講堂の中なんだけど・・とっている時に、
ごっちんにその手紙を渡して、怖いから付いて来てくれるように頼む。
「だって・・・それって・・」って、渋るごっちんに、怖い理由を説明して、何とか付いて来てもらうことになって・・
その説明ってゆーのはね、
私が中学校の時、どんなにこーゆー呼び出しを受けて、困ったかってこと。
たいていは身に覚えのない言いがかり。
「彼氏を盗った」とか「憧れの誰々の気を引いてる」とか「先生に媚売ってる」とか、
殆ど聞いたこともないような、男の子の名前出されて、それでたいていは相手が複数。
だから、いつも柴ちゃんに付いて行ってもらって、時には、先生を呼びに走ってもらった。
でも、やっぱり不意に殴られたりしたこともあって・・・
そんな私の、少し興奮気味に話しちゃう脈絡のない話を、それでもちゃんと聞いてくれてたごっちんは、
「でも、これって、そーゆーんじゃないと思うんだけどなー」
って、その手紙を何度も読み直してて、じゃ、傍で隠れてるからって・・・
- 584 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 12:46
- 指定の時間に、指定の場所に行ってみると・・・・
やけに小さな女の子が一人・・・立ってた。
気が抜けるくらいにちっちゃな子。・・・・制服だから高校生なんだろーけど・・
「あのー」って、声をかけてみると、
少し赤くなっているその子が、
「オイラ、二年C組の矢口真里ってゆーんだけど・・」
オイラって・・・・二年生なんだ・・・先輩かー・・・背、どのくらいなんだろ・・
でもこの人なら、殴られても痛くなさそうなんて思って見つめたら、俯いちゃって、
「あのさ、石川さん・・・オイラと付き合ってくんないかな・・」
「えっ?」
何言ってんだろ、この人・・・でも、文句とか言いがかりとかじゃないんだよね・・・
「あのさ、付き合ってる人とか、いるんなら・・・いいんだけどさ・・」
「はあ?」
「あのさ、友達ってゆーか、そーゆーんでいいんだけどさ・・」
って、えっ、どーゆーこと?・・・・トモダチ・・・・それなら・・
「友達ですか?・・・・なら、別にかまいませんけど・・・」
なんて、答えたら、ぱっと顔を上げて、
「本当、本当?!」
って、私の手をとって飛び跳ねてる・・・・この人本当に高二なんだろーか・・なんて思っていると、
「ちょっと待ったー!」
なんて、後ろに隠れてもらってたごっちんが、どこかで聞いたようにセリフで、
慌てたようにやってきて、
「ダメだよ、梨華ちゃん!」
「えっ?」
「あのね、友達って・・・梨華ちゃんが思ってるような意味じゃないから・・・」
「へっ?」
「たぶんわかってないんだろーけど、この友達ってゆーのは、特別な友達なんだよ!
そーですよね!」
って、不意の乱入者に驚いているちっちゃな人を睨むようにして・・
「あっ、うん・・そーだけど・・」
「ほら!」
って、よくわかんないんですけど・・・・
- 585 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 13:13
- ・・・・私の頭の?に気づいたのか、ごっちんは、
「ほら、前、講堂で見たでしょ・・・・あーゆーことなんだよ!」
って、えっ、そーなの?
「あっ・・」
って、私は慌てて、目の前の人にとられている手を引っ込めて、背中に隠す。
・・・って、本当にそーなの?・・・・何で?
私の手がなくなった空間で、自分の手の所在を無くしちゃった・・・矢口さんは、
しばらく、私とその隣に立っているごっちんとに、交互に目をやって、
それで、その目をごっちんの顔に据えると、
「アンタ、後藤真希だよね・・」
「ええ・・・・そーですけど・・」
「・・・・・・そっか、そーゆーことか・・まあ、後藤真希がついてるんなら、大丈夫か・・」
って、俯いてボソッと言う・・・・・どーゆーこと?
で、そのあと、下を向いたまま・・・
「あのさ、オイラさ、時々この子がテニスやってんの見かけて、入ったばっかの頃からさ、
でさ、なんか二年からとか苛められてて、オイラのクラスにもいるんだよね・・テニス部。
で、色んなこと言ってる・・・この子のこと、本当に嫌な言葉で、誰が聞いても言いがかりだってわかるようなこと・・
でもさ、見てるとさ、一生懸命なんだよね・・この子・・健気なくらい・・・
だからさ、なんか守ってあげなきゃかなって、守ってあげたいなって・・・・勝手に思っちゃってさ・・
オイラ、こー見えても、結構、影響力とかあんだよ・・・
あっ、知らないかも知れないけど、一応、生徒会で副会長とかやってるし・・・」
あっ、だからか・・・どっかで聞いたことある名前だと思ったんだ・・・
「でさ、オイラの彼女とかになったら、もー苛められないかなって・・
てーか、これってキレイごと過ぎるか・・・たぶん、かわいいなって思ってるからなんだけどさ・・
でも、天下の後藤真希がついてんだったら、問題ないってゆーか、敵わないよね・・」
「あのー・・」
「うん、イイ!・・諦めるし・・・・てーか、そのーよければさ、これもなんかの縁だし、
特別にどーとか思ってくれなくてもいいけど、先輩として、普通に役に立てると思うし、
本当に、もし良ければなんだけど、相談とかね、あったらいつでも聞くし、
たいてい、お昼休みと、放課後は、生徒会室にいるから・・・・」
って、何か言いたいことだけ、早口で言って、走って行っちゃった・・・小さな人・・
なんだったんだろ・・・・あれ・・・・
- 586 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 13:30
- 「やっぱ、付いて来てよかったよ・・」
「えっ?」
「梨華ちゃん、鈍すぎ!・・・あの人、梨華ちゃんのことが、好きなんだよ!」
「あー、でも女の子同士だよね・・」
「って、アレ・・・見たじゃん・・」
「・・・・そっか・・・でもさ、私って、ほら、女の子にもてるタイプじゃないし・・」
「な、こともないでしょ・・・可愛いんだし・・」
「そーかなー・・」
「そーだよ。とにかく、その気があるんならいいけど、ないんだったら、はっきり断わんなきゃダメだよ!
相手が変に誤解しちゃうから・・」
「・・・・はい・・」
そっか、ごっちんは、もてるんだもんね・・・・今まで何度もこんなふうに告白とかされて・・・
「それより・・・本当に苛められてんの・・テニス部・・」
「うん、てーゆーか、しごかれてるかな・・コーチに贔屓されてるとかは言われるけどね・・」
「そっか、大丈夫?」
「うん、前より酷くないし・・・」
「・・・やっぱ、今の先輩に頼んでみる?」
「あっ、平気だよ・・・庇ってくれる人とかもいるし・・・
うん、きっともっと上手になったら、何も言われなくなると思うし・・・」
「そっか・・・梨華ちゃんも大変なんだね・・」
「ごっちんほどじゃないよ・・」
「あっ、アタシは大丈夫だよ・・・・なんてったって、身体能力が高いからねー!」
「だよね!」
あとは笑い話になる。
でも、本当に、あのちっちゃい人・・・なんだったんだろーな・・・よくわかんない・・
中学の時とか、男子から手紙もらったりしたことは、何度かあったけど、
女の子にそーゆーのって初めて・・・
なんだろーなー・・・ピンとこないんだよね・・
- 587 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 13:55
- 三学期は短い。
あっと言う間に、期末で・・・卒業式。
それなりに親しくなっていた先輩との別れは、やっぱり淋しい。
我テニス部でも、春休みに入ってから、送別試合が行われた。
私には、どーゆーわけか、卒業生の中でも一、二を争うを強い人とのシングルマッチが組まれてて、
しばらく受験で、ラケットを握ってないとはいえ、実力が違うから、やっぱり敵わなかったけど、
思ったよりは善戦できたのかな・・・
ゲームセットで握手をした時、
「石川、頑張れよ!期待してるから・・」って笑顔で言ってもらえて、
なんか、一年かけて、やっとこのチームの中で、少しは認められる存在になったのかなって・・・嬉しかった。
そーそー、この三学期にあった事と言えば、
女子校でもやっぱり結構盛り上がっちゃうのが、バレンタインディー。
私も一応、義理チョコを、部活の顧問とコーチ・・・それから、先輩たちにも配った。
でね、どーしよーかなって思ったけど、
あの小さい先輩・・・矢口さんにもね、
「義理ですけど・・・」って、生徒会室に届けた。
「その前置きは、余計だよ!」って、笑顔で怒って、
そこにいたもう一人の人・・・・この人はさすがに知ってる現生徒会長の安倍さん・・に、
「あっ、アナタが石川さんかー・・矢口はやっぱ面食いだねー」
なんて、からかわれて、
「だろ!なんかさ、保護欲かき立てられるタイプだろ!」
なんて返してた。
「いつでも遊びにおいでね、ここ殆ど私物がしてるから・・」なんて、コーヒーをいれてもらって、
何気にお菓子とかもおいてあったりして・・・
学校の中にもこんな所があるんだなって感じ・・
小柄な二人の漫才みたいな掛け合いの聞こえる、この空間は、本来の目的を感じさせなくて、
生徒会長にしては、ずいぶんのんびりとしたタイプの安倍さんの人柄そのものって感じで、
ほんわかと、居心地がいい。
- 588 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/18(金) 14:02
- あっ、そーそー、ごっちんにはもちろんあげたよ。
少し気取ったもの。・・・所謂、友チョコなんだけどね・・・でも、いらなかったかな・・
だって、彼女は本当にたくさんもらってたの・・・
それも手作りのヤツ・・・つまりは、本命チョコ。
やっぱ、カッコイイから、もてるんだよね・・・・
「いいなー!」って、言ったら、
「半分あげよーか・・」だって・・
「そんなわけには、いかないでしょ!」って言ったら、
「じゃ、これ・・・・アタシから・・」
って、渡してくれたのは、ごっちんお手製のチョコクッキー・・
やっぱり上手だよね、こーゆーの・・
とっても美味しくいただいちゃった・・
- 589 名前:トーマ 投稿日:2004/06/18(金) 14:03
-
本日はここまでにします。
- 590 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/18(金) 22:48
- 梨華ちゃんはまだ恋愛感情は無いのかな?
- 591 名前:名のナイ読者 投稿日:2004/06/20(日) 11:50
- 大量更新お疲れさまです!
車まで止めてしまうなんてすごすぎです。
これからどう二人の距離が縮まっていくか気になります。
- 592 名前:トーマ 投稿日:2004/06/21(月) 09:17
- >>590 名無し読者様 どーでしょーねー・・・ここの石川さんは、鈍さがピンク着て歩いてる感じの人ですから・・
>>591 名のナイ読者 あそこは、車は結構普通に止まります。
でも、この二人が顔をさらして歩いてたら、暴動が起こっちゃうんでしょうね・・
- 593 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 09:38
-
迎えた新学期には、当然のようにクラス替えがあった。
で・・・・一緒になっちゃった。
そー、ごっちんと同じクラス。
嬉しいような、そーじゃないよーな・・・・だって、私たちって、メシ友じゃない・・
普段の時・・他の人のいる中でね、どーしたらいいのかわかんない・・
そんな私の戸惑いなんて、関係ないって感じで、ごっちんはごく自然に一緒にいてくれるんだけどね、
・・・・
あの吉澤さん・・あのC組のバレー部の人・・彼女とも同じクラスになってて、
で、すぐにごっちんと親しくなっちゃった。
人気者同士、気が合っちゃうのかな・・それこそ、ずっと昔からの友達みたいに・・・
で、吉澤さんと部活で一緒の・・・あの去年の球技大会の時、私のこと睨んでたB組の人、
彼女、藤本さんって言うんだけど、バレー部だったんだね・・・
その子ともやっぱり仲がいいから、自然と4人でいるよーになったんだけど、
この人たち・・特に藤本さんの方は、私のことあまり歓迎していない感じみたいで、
素なのか、わざとなのか知らないけど、時々睨まれているよーで、
・・・・ちょっと居心地が悪い・・
それに、あのお昼休み・・・なくなっちゃった。
4人でね、するようになったの・・ランチタイム。
これは、あの場所じゃなくて、教室とか、食堂とか・・・誘われるままにって感じで・・
ごっちんは、普通に楽しそうにしてるし・・
だから、文句も言えないのよね。
でも、何かやっぱり・・・・少し残念。
- 594 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 10:04
- それから、新入生の中に、あの松浦さん・・そー、ごっちんと最初に会った時に、一緒にいた中学の後輩の子・・がいて、
よく友達連れて、私たちの教室に遊びに来て、たまにはお昼も一緒にすることもあった。
久しぶりに見た彼女は、一段と可愛くなっていて、なにより愛想がいいから、
吉澤さんも藤本さんももちろん私も大歓迎って感じで・・
で、よく付いて来るのは、同じクラスだって言う高橋愛ちゃん。
この子も、小柄で可愛いんだけど、少しオドオドして・・・なんだろな、吉澤さんとかのファンなのかも知れない・・
いつも顔を赤くしてて、何事にも物怖じしない感じの松浦さんとは対照的で、
その取り合わせは、微笑ましい。
で、その松浦さんにね、テニス部に入りたいんですけどって、相談されて、
もちろん入部を勧めたんだけど・・初心者なんだって・・
でも、いいよね・・・・また、推薦の子とか多いんだろーけど、ごっちんが運動神経イイヨって言ってたし、
私もきっと力になってあげられるだろーし。
そー、私はこの新学期に向けて、一つだけちゃんと決意してることがあるの。
それは、イイ先輩になるってこと。
新入部員は、どんな子達でも、ちゃんとかわいがろーってね。
もともと、妹のいる私は、年下の子達と仲良くするのは苦手じゃないし、
この学校のテニス部では、去年はあまり上手く行かなかったけど、
お姉ちゃんもいるから、本来は先輩達と接するのもヘタじゃないと思う。中学の時とか、まずまず上手くやっていたし、
あれ以来親しくなった矢口さんと安倍さんにも、かわいがってもらっているし・・・
そーいえば、最近、三年生からの嫌がらせみたいなものがなくなったけど、
もしかしたら、彼女たちが何か言ってくれたのかもしれない。
- 595 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 10:32
- その分、変な話だけど、同学年の子達とは、なかなか上手くいかない。
てゆーか、たぶん友達の絶対数が少ない。
中学の時も、親友と呼べるのは、柴ちゃんぐらいで、
今の部活では、まいちゃん・・・・で、ごっちん。
柴ちゃんいわく、浅く付き合うのがヘタ・・らしいんだけど、自分ではよくわかんない。
それに、ごっちんには、わかりやすい性格だって言われたけど、
付き合いの長い、柴ちゃんは、誤解されやすいってって言う。
なんでも、声と仕草に問題があるんだって・・・でも、そんなの素だから、直しよーもないし・・・
まっ、わかる人には、わかるってことでいいんじゃないかなって、
あんまり深く考えてなかったんだけど・・・・そーもいかないみたい。
だって、
ごっちんと吉澤さんたちの付き合いの中に、なんかちょっと入って行き辛い。
・・・私はね、別にこの二人のこと嫌いじゃないし、どっちかって言うと好きな方かな・・
面白いこと言ったり、やったりするし、裏表とかなさそーだし・・・
でも、向こうはそーじゃないらしいのが・・・・わかるから・・
だから、ごっちんには悪いけど、時々、昼休みに生徒会室に避難するよーになっちゃった。
矢口さんと安倍さんは、口はね、結構悪いってゆーか、毒舌だったりするんだけど、
はなから私に対して好意的ってゆーか、全面的に認めてくれてるってゆーか、
それに、矢口さんは、親しくなるきっかけになった告白のことも、気にするなって言ってくれて、
そーだな、出来の悪い妹に対して世話を焼いてくれてるお姉さんみたいな感じで、接してくれる。
で、安倍さんは、矢口さんよりまた一回り大な人で、のんびりとしているんだけど、頼りがいがある。
だから、二人の会話を聞いているだけでも面白いし、
私の今の状況とかもよく理解しててくれて、色々相談にも乗ってくれる。
「まあ、そのうち、なるよーになるよ」って、くらいのアドバイスなんだけどね、
でも、聞いてもらえるだけでも、少しすっきりするでしょ、悩みなんて。
- 596 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 10:56
- で、そんな状態がしばらく続いて、
お休みの日に、久しぶりに、ごっちんと二人でショッピングに出かけて、
・・・確か、ごっちんが、夏物見たいからって、メールくれたのかな・・
また例のごとくワイワイとね、買物を終えて、その帰り道、
ごっちん、急に神妙な顔しちゃって、
「梨華ちゃん、この頃変だよ・・どーしたの?なんかあった?」
って聞くんだけど・・・でも言いづらいから、てーか、言わない方がいいかなって、しばらく黙ってたら、
「もしかして、矢口さんと付き合ってるの?」
なんて、マジな顔しちゃって言うの・・・・じゃないから、話ちゃった。
「なんかあの人たちに、嫌われてるみたいだから・・」って。
そしたら、しばらく・・結構長いことね、考えてて・・・で、
「そーじゃないと思うけど・・・でも梨華ちゃんが、それで嫌な思いしてるなら、
友達やめるから・・」
私、一瞬、自分とって聞こえて・・・目の前真っ暗になっちゃって、でもすぐ、
「ヨシコ達とは、もー付き合わないから・・」
あー、よかった・・・
でも、それも困るから・・・・私のせいで、そんなのイヤだから・・・
だから、
「そんなのダメだよ!きっとそのうち上手くいくから・・・だから、ごっちんは普通にしてて・・」
って、言ったんだけど、
休み明けにね、なんとなく、ごっちんと吉澤さんたち、少しぎこちなくて、
私が中に入って気を使うくらいにね・・・
なんか困るんだよね・・・こーゆーの・・
- 597 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 11:21
- でも、この問題、意外なことで解決しちゃったんだ。
今年は、5月の終りに開催されたクラス対抗球技大会での・・・事件。
その後、結構長いこと、すごい顔してたとか、人は見かけによらないとかからかわれたけど・・
でもさ、あれってマジに酷かったんだから!
一応、スポーツをやってる私としては、あーゆーのは、絶対許せなくて・・
負けず嫌いとか、そーゆーんじゃないの。あんなあからさまな不正って、やっぱイヤでしょ。
勝っても、負けても後味悪いし、相手が誰だって、言うべきことは、言わないとね・・
種目が、バレーボールだったから、
エースアタッカーと正セッターのいるウチのクラスは順当に勝ち上がって、
迎えた一年生との決勝戦。
1セット取ったところで、わけわからないまま、セッターの藤本さんを持っていかれちゃって、
なんだろーって頭にきたけど、でも、そーゆーのはまだいいの。
ギリギリのボールがアウトって判定されるのも、まだ許せるの。
でもね、10何センチも内側のボールをアウトって・・・それはなくない?
私、視力1.2だもの。はっきりと見えちゃったんだもの。
やっぱりさ、言うしかないでしょ!
吉澤さんはね、「しょうがないよ」って、私を宥めていたけど・・・
そーゆー問題じゃないと思ったし、言い始めちゃったら止まんなくなっちゃったし・・
そしたらいつの間にか、隣のコートで副審やらされてるはずの藤本さんが横に来てて、
一緒になって抗議してくれた。
結局、二人して、退場になっちゃったんだけどね・・・
教室に帰る道々で、文句言い合いながら、
なんだろーな、すごく、意気投合しちゃった。
ごっちんも前の試合で、怪我しちゃったし、
抗議した相手の体育の先生からは、その後、いい点もらえなくなっちゃったし、
全体的には、あんまり面白くない出来事だったけど、
でも、美貴ちゃん・・この時から、そー呼ぶようになったんだけどね・・と仲良くなれたってことでは、
悪いことじゃなかったよね。
- 598 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 11:40
- で、その後、よく話すようになってわかったんだけど、
彼女も一般入試で、部活に入って、背がないから、なれないセッターに転向して、
人一倍努力して、正セッターになったって人でね・・・
なんだか、少し私と似ているんだよね・・
で、彼女いわく、
「アンタは、声と外見でソンしてる」んだって・・
どーも、すごくブリブリに見えちゃってたらしいのね・・
後で、よっちゃん・・・これは吉澤さんのこと・・ごっちんはヨシコって呼ぶけど・・にも言われて、
「梨華ちゃんのかわいさは、腹が立つかわいさ」なんだって、
かわいいかどうかは、知らないけどさ・・・腹が立つってなんなのよね!
で、声や仕草が、慣れないとウザイんだって・・・なんか散々な言い様よね・・
第一、私はブリッコじゃないし・・って「それが素だから驚き」だそーだけど・・
なんかねー、やっぱり失礼よね、この人たち!
でも、いったん心を許すと、本当に面白い人たち。
美貴ちゃんは、負けず嫌いで、気が強くて、でも一本スジが通ったみたいに真直ぐな人で、
すごく自分を持ってて、それを大事にしてる。
で、きついこと言ったりするけど、本音は優しくて、友達思い。
よっちゃんは、やることなすことギャグっぽくて人を笑わせるのが大好きな人で、
長いものには巻かれろみたいな所は、どーかと思うけど、それって元来の平和主義から来ているもので、
根が繊細で、少し気が弱いくらいに、周りの人に気を使う。
だから、ファンの子達にも、愛想が良くて、絶対、邪険に扱わないから、
本当によく告られてる。
- 599 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 12:03
- ごっちんも人気あるけど、その対応の仕方は、だいぶ違うみたい。
最初っから、ふにゃっとした顔してる彼女と接していた私には、ピンとこないけど、
よく知らない人から見た彼女の印象は、クール・・なんだって・・
だから、ファンの子達も、遠くから見てるって感じなのかな。
私といえば、相変わらず空回りが多いけど、
クラスにも、クラブの中にも、それなりに居場所が出来て、
他にも、矢口さんや安倍さんとの時間も持てるよーになったから、
なんか二年になってからは、本当の意味で、学園生活をエンジョイできるよーになっていた。
三姉妹の真中ってゆー、生活環境で育った私にとって、
二年生ってポジションがあっているのかもしれないんだけどね・・・
だから、この二年の一学期は、とってもハッピーって感じだったんだけど、
一つだけ、残念なことがあった。
ごっちんの球技大会での怪我は、軽い捻挫だったんだけど・・・・
春の総体には、間に合わなかった。
私たちの前では、平気な顔してたけど、やっぱり相当悔しかったんだと思う。
治ってからの練習への取組み方は、半端じゃなかったから・・・
見てて怖いくらいに、本当に顔色を変えてた。
そんなこともあって、特に一年生からは、クールな先輩ってイメージが強くなっちゃったのかな・・
でも、そんな一年生の中で、唯一ごっちんの素顔を知っている亜弥ちゃんは、
そー、この頃には、部の後輩ってこともあって、そー呼ぶようになったんだけど・・
やっぱり、私たちの教室によくやって来て、今では、美貴ちゃんと一番気が合ってる感じ。
で、相変わらず、高橋さんも付いて来るんだけど、
この子は、本当に何しに来てんだろって思うくらいに、しゃべらないで、いつもオドオドしてる。
やっぱ、あれってよっちゃんのファンだよね・・いつでもびっくり顔で、赤くなってる。
- 600 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 12:16
- そーそー、部活でも、亜弥ちゃんは、のびのびしてて、
まあ、始めたばっかりだから、プレーはマダマダって感じなんだけど、伸び率はすごいかな。
だから、コーチも期待してて、で、やっぱり可愛いから、
他の子に嫉妬されちゃうかなって心配してたんだけど、案外そーでもないのよね・・これが・・
「かわい子ぶってる」なんて聞こえると、
「ぶってるんじゃなくて、かわいいんですー」とか言っちゃって、
それでいて、何かと先輩にも、同輩にも、
「○○先輩のプレーカッコ良くて、憧れちゃいますー」とか、
「○○さん、さすがだねー、教えて!」なんて言えちゃうから、
なんとなく憎めない感じで、結構かわいがられてる。
そーゆーところは、ついついネガティブに考えちゃったり、すぐムキになっちゃった、
私の一年の時とは大違いで、
よっちゃんに言わせると、
「梨華ちゃんのが、腹の立つ可愛さなら、亜弥ちゃんのは、怒る気をなくさせる可愛さ」
なんだとか・・・・
まあ、そーゆーのも、きっと天性のものなんだろーね・・
うん、羨ましい!
- 601 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 12:42
- で、そんなこんなで、一学期が終わって・・・
それぞれ、部活の夏が始まる。
そー、部活といえば、三年生が春期大会で、事実上引退した時に、
顧問の先生から、どーゆーわけか、次期部長をやるように言い渡された。
何で、私なのよって感じで・・・だって、普通に考えたら、まいちゃんでしょ・・
断わったんだけどね・・・やっぱり、オマエがやれって言われちゃって・・
で、まいちゃんに言ったら、
「エースと部長は両立できないから、梨華ちゃんくらいが丁度いいんじゃない・・」
だって・・・何か失礼な話ではあるけど、それもそーかなって少しは納得できたかな。
彼女はもしかしたら、全国大会とかに行っちゃう人で、チームの面倒なんてみきれないかなってね。
だって、部長ってやっぱり結構大変で、
コーチがいない時の練習の段取りを組んだり、
少なからず起こってくるチーム内のトラブルを治めたりね・・
まあ、そーゆー意味でも、色々あった私が適任なのかも知れないけど、
もともと、人を引っ張ってくタイプじゃないから、やっぱりちゃんとやれるかどーか不安。
でも、もしかしたら、少し頼りないくらいのリーダーの方が、
周りが、自分たちで何とかしなきゃみたいな自主性がでて、いいのかもねって、
まあ、これは希望的観測ってヤツだけどね・・・・
で、やっぱり、夏の練習、肉体的にも精神的にも大変だったけど、少しは自信がついたかな・・
そんな部活三昧の夏だったけど、少しは遊びたいねって、
4人でね、ごっちんとよっちゃんと美貴ちゃんと・・・スケジュール合わせて、
一度だったけど、日帰りで海に行けたし、
あと、あの花火大会にも、浴衣で出かけた。
だから、ごっちんと二人で会うみたいなのはなかったんだけど、
その代わりってゆーか、メールは増えたかな。
あとは、時々、夜、宿題とかしててね、途中で電話して、夜中まで話してたりとか・・
本当、何話すことあるんだよって、感じなんだけど、
ごっちんって、私のとりとめのない話によく付き合ってくれる・・・聞き上手なのかな・・
- 602 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/21(月) 12:51
- で、こんな感じで、本当にあっと言う間に、それなりに充実していた夏が終わって、
何か年々短くなってるみたいなんだけど・・・
それだけ年を取ったってことなのかな、なんてね。
で、
二学期が始まってまだ何日もたってないある日、
私は、偶然、ごっちんのもう一つの顔を見ることになっちゃった。
そのことで、私と彼女の関係が、それまでと変わることになっちゃうなんて、
その時は、思いもしなかったんだけど・・・・・
- 603 名前:トーマ 投稿日:2004/06/21(月) 12:52
- 本日はここまでにしておきます。
- 604 名前:名のナイ読者 投稿日:2004/06/21(月) 17:09
- 梨華ちゃんに居場所が出来て良かったぁ。
あぁ、続きが気になります!!
- 605 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/21(月) 20:11
- ついに鈍感な梨華ちゃんも意識し始めるのかな?
- 606 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/21(月) 21:52
- こんな気になる終り方・・・
この話しマジで面白いっす
- 607 名前:トーマ 投稿日:2004/06/22(火) 09:01
- >>604 名のナイ読者様 そーなんですよ。本当にここの石川さんは、不器用なので・・・
>>605 名無し読者様 かな?・・・・・うん、きっと・・
>>606 名無し飼育様 ありがとうございます。
作者も気になるので、早めに更新しちゃいます。
- 608 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 09:24
-
部活を終えて・・・私は、例によって、また時計を忘れちゃって、取りに戻った。
で、もしかしたら、いつも遅くまで練習している、ごっちんがまだいるかなって、
陸上部の部室の方に廻ってみたの。
そしたらね・・・
暗がりの中に人の気配があって、小さく話し声が聞こえる。
なんか、少しヤバイ感じで・・・・だから、曲がり角に身を隠して、窺ってみたの。
・・・・・
ごっちんが、部室の前で誰かと話してるの。
・・・・・
ドアを背にして、そこに寄掛かるようにして、俯いているのは・・・・高橋さん。
で、ごっちんは、片手を壁に当ててね、彼女を見下ろすようにして、
何か淡々と・・・話してる。
で・・・・高橋さん・・・・泣き出しちゃった。
顔に手を当てて、肩が大きく上下してる。
泣き声だってもれてくる。
そんな彼女にね、ごっちんは表情を変えずに・・・・静かに話してる。
何を言ってるのかは、わからないけど、静かに真剣に・・・
冷たいくらいに・・・・淡々と。
でね、私、ピンときたの。
あれって、あの高橋さんの姿って・・・失恋しちゃった姿なんだよなって。
・・・・高橋さんの好きな人って、たぶんよっちゃんで、
だから、ごっちん・・・・頼まれたのかな・・・・
きっと、頼まれたマンマに、説明するみたいに、話してるんだよね。
他人事だから、あんなふーに、冷静に。
しばらく・・・ボーっと見てたんだけど・・・
やっぱり、こーゆーのって、見ていいものじゃないでしょ。
だから、そのまま気付かれないよーにして、帰ったの。
なんか、あんなふーに泣いてる子見ちゃうと、胸にキュンときちゃうよね。
でも、よっちゃんもよっちゃんだよね!
人に頼まないで自分で言えばいいのに・・・・相手にとっては、大切なことなんだから・・・
- 609 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 09:41
- だからね、次の朝、
まだごっちんが来てないうちにね、よっちゃん捕まえて、言ってやったの。
「いくら知ってる子で、言い辛いからって、
やっぱりちゃんと自分で言わなきゃダメでしょ!」ってね。
そしたら、よっちゃん、きょとんとしちゃって・・・何それ?って感じでね。
だから、昨日見たことを説明したのね。
そしたら、よっちゃん、思いっきり笑い出しちゃってさ・・・・何よ!って思ってたら、
横にいた美貴ちゃんが、
「それ、ごっちんだよ・・」って、
えっ?どーゆーこと?
「それ、ごっちん、自分のことだよ・・」
「何が?」
「だからー、愛ちゃんが好きなのは・・・ごっちん・・」
「えっ?」
「梨華ちゃん、マジで知らなかったの?」
「うん・・・・よっちゃんだとばっかり思ってて・・」
「そりゃ、酷い勘違いだ・・・まあ、梨華ちゃんらしいけど、
で、その昨日見たのは・・・きっと愛ちゃんが告って、で、ふられましたってことなんじゃないの・・」
「えっ、そーなの?」
「そーでしょ、フツー・・」って、
・・・・・うそー!だって、だって、だったら・・・・・あんなの・・・・
- 610 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 09:54
- 私は、頭の中に、昨日見た情景をリフレインさせる。
で、それに今の美貴ちゃんの言葉を重ねてみる。
高橋さんが、ずっと好きだったのは・・・・ごっちん。
うん、これはたぶん私が勝手に誤解してただけで、
あの彼女の一連の行動は、ごっちんのことを好きだったとしても、成り立っていて・・・
そこまでは・・・・わかるの。
それで、昨日。
きっと、彼女は、その想いを思い切って・・・告白したんだよね。
たぶん、ごっちんが部活を終えるのを、じっと待ってて・・・・あの場所で・・・
で・・・・ごっちんが、それを振った・・・・
何を言ってるのかは、聞こえなかったけれど、
あんなに彼女が泣くほどの言葉で・・・
それで続けたんだ。
泣いてる彼女に、淡々と・・・・あんな冷静な顔しちゃって・・・まるで大人みたいな・・・
私が見つけるまでに、どのくらいの時がたっていたのか、
あのあと、どのくらいの時間を使ったのか・・・・わからないけど・・
自分の言葉で、自分への思いを断ち切っていたんだ。
静かに、怖いくらいに静かに・・・・
私が今まで一度も見たことない顔して・・・・・
- 611 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 10:00
- 「オハヨー!」
明るい声が、私のとりとめのない思考を途切れさす。
肩をぽんと叩かれて、
「あっ、おはよー・・」って返すと、
そこには、いつものあのふにゃっとした笑顔があって・・・
その笑顔が、あんまり無邪気で、昨日見た人と、全然違うから、つい目を逸らしてしまう。
ヤダ・・・・なんだろ、今、胸が・・・キュンとした・・・・
- 612 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 10:18
- その日は、一日・・・・なんだか知らないけど、ボーっとしてた。
ボーっとした頭の中に、ごっちんの昨日の顔が・・・浮かんで・・・・
英語の時間に、リーディングで指名されて、どこやってるのかわからなくて、
別のトコ読んじゃって・・・先生に、怒られた。
数学の時間に、ずっと化学の教科書を広げてて、授業が終わる頃に気がついて・・・慌てた。
休み時間に、美貴ちゃんに、
「らしくないねー」って、からかわれて、
「どーしたの?」って、ごっちんが顔を覗き込むから、慌てて行きたくもないトイレに走った。
お弁当に箸がつけられなくて、あげるって言ったら、みんな喜んでたけど、
やっぱり心配してくれるから、具合が悪いって言って・・・保健室に逃げた。
部活ぐらい集中しなきゃって思ったんだけど・・・・
さすがに、おでこでレシーブしちゃったから、諦めて、コーチに断わって・・・早退した。
どこをどーやって帰ったのかもわからなかったけど、
気がついた時は、家にいて、
・・・・・・ベッドに倒れ込んでた。
なんだろう、この感じ・・・・わかんないや・・・・全然わかんない!
箸を少しつけただけの夕食を終えて・・・・部屋でボーっとしてた。
なんだろーな・・・・何を考えてるのかさえ・・・・わかんなくて・・
取り合えず、早く寝ちゃおうって思って、シャワーを浴びる。
洗面所で、髪を乾かしてたら・・・・鏡の中の私が・・・・泣いてた。
なんでだろ・・・・なんなんだろ・・・・いったい・・・
別に私が失恋したわけじゃ・・・・・・・ないのに・・
- 613 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 10:32
- 次の朝は、少し冷静になっていた・・・・と思う。
一応、パンもかじれたし、牛乳だって飲めたから。
でも、頭の中に、何かがずーっと引っ掛かってる。
でも、これってきっと考えない方がいいことなんだって・・・
その思いを頭の端っこに押しやる。
だけど・・・・
教室で、ごっちんの顔、見たとたん・・・・隅にいたはずの何かが、前面に出てきちゃって、
そのわけのわからない思いが・・・・心臓を締め付ける。
なんか、息をするのが・・・・苦しい。
だから、なるべくその原因に触れないように、顔を逸らして、一日を過ごす。
美貴ちゃんにも、よっちゃんにも・・・・・ごっちんにも、
「何か変だよ・・」
「具合、悪いの?」
「ね、どーしちゃったの?」
って聞かれたけど、
「何でもない」
「大丈夫」
「気にしないで・・・・」って。
だって、本当になんだか・・・・わかんないんだもの!
- 614 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 10:48
- 夜になってから、柴ちゃんに電話した。
こーゆー時に、離れた場所にいる友達はありがたい。
取り留めのない話をして、気を紛らわそうと思って・・・
でも、やっぱり、私が変なのって、電話越しにもわかっちゃうんだよね。
だから、聞かれるままに、
おととい見たこと。それが勘違いだったこと。
それから、ごっちんの顔がまともに見られなくなっちゃったことを・・・話す。
「で、もしかして、そんな冷酷なヤツは嫌いになっちゃったってこと?」
って、そーなの?・・・・・ちがう・・・・
「ううん、じゃないと思う。酷いとか、嫌いとか・・・そんなんじゃない・・・」
「じゃあ、どーゆーの?」
「それがわかんないの・・・ただね、時々胸が苦しくなって、食欲がなくて・・・
ぼんやりしてると、おとといのことばっかり・・・考えてる・・」
「はー」
「でも、近くにある彼女の顔見てると・・・何か変なの・・・ドキッとしちゃって・・・息が出来なくて・・」
「あー・・・・ね、言っちゃっていいかな?」
「何を?」
「だから、そのー、梨華ちゃんの症状から、アタシが思い当たる・・病名・・」
「えっ?・・・やっぱり、これ・・病気なの?」
「うん、たぶん・・・それもかなりの重症・・」
「えっ、本当?・・・・それ、柴ちゃんわかるの?」
「うん、たぶん・・・何かメチャクチャベタだから・・」
「そー、じゃ、言ってみて・・・」
「うん、言うけど・・・覚悟してよね!」
「わかった、覚悟する・・」
- 615 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 10:59
- 「あのね・・・・・それは・・・・恋かな・・」
「は?」
「は?じゃなくて・・・それはフォーリンラブ・・・恋に落ちましたってやつだよ・・」
「えっ?」
「今まで、そーゆー経験なかったわけ?」
「うん、初めて・・・」
「そっか、梨華ちゃん、相当オクテだよね・・・よかったじゃん、初恋だ・・」
「そっか・・・で、誰に?」
「は?・・・・本当にわかんないの?」
「うん・・」
「マジで・・・・・あのね、梨華ちゃんは後藤さんに恋しちゃったの!」
「うそー!まさかー!」
「って、そーとしか思えないんだけど・・・」
「そーなの?」
「うん・・・だって、ドキドキするんでしょ・・彼女のこと思うと・・」
「・・・・うん」
「胸が締め付けられるようになるんだよね・・」
「・・・・うん」
「食欲ないし・・」
「・・・・うん」
「一日中、ボーっとしちゃうし・・」
「・・・・うん・・・そーだけど・・」
「ほら、それって恋じゃん、本当にベタ過ぎるくらいベタ・・」
「なの?」
「なの!」
- 616 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 11:12
- 「ありえなーい!」
「えっ?」
「だって、ありえないじゃん!・・・ごっちんって、女の子だよ!」
「知ってるよ・・・会った事あるもの・・・キレイで、カッコイイ女の子・・」
「だからさ、ありえないでしょ・・」
「そーかなー」
「そーだよ・・・・それに友達で・・」
「うん・・」
「本当に仲のいい友達で・・・」
「・・・・・好きなんだよね?」
「そりゃ、好きだよ・・・・本当にいい子で、面白くて、優しくて・・・強くて・・・だけど・・」
「だけど?」
「恋・・・なんて、変じゃない・・」
「変じゃないと思うけどね・・」
「・・・・・変だよ、やっぱり・・」
「まあ、当事者がそーゆーんじゃしょーがないけど・・」
「うん、変・・・ありえないから・・・」
「なら、それでいいし・・・」
「あのさ、取り合えず、少し様子を見てみれば・・」
「う?」
「もしかしたらさ、麻疹みたいに、一過性のものかもしれないから・・」
「麻疹?」
「うん・・・すごい熱が出るけど・・・すぐ終わっちゃうみたいな・・・」
「・・・うん・・」
「だから、少し様子みて・・・・ね・・」
「うん、そーする・・」
柴ちゃんは、時々変なことを言う。
・・・・・恋だなんて・・
私がごっちんに恋しちゃったなんて・・・・ありえないよね・・
ありえないでしょ・・・・・ありえないから・・・
- 617 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 11:28
- でも、取り合えず、柴ちゃんのゆーよーに、様子みようと思って、
なるべく考えないよーにとかね・・・・・
でもさ、柴ちゃんがあんなこと言っちゃうから・・・なおさら意識しちゃうでしょ・・
もー、なんだろーなー、すごく変な具合。
こーゆー時、同じクラスって困るよね。
なるべく考えないよーにしよーと思っても・・・・すぐそこにいるわけでしょ。
で、友達だから・・・
気を付けてるつもりでも、おかしいのが、態度に出ちゃってるみたいで・・
私ってきっとポーカーとか弱いんだろーな・・・・平然としてることなんて出来やしない。
だから、ついつい避難しちゃう。
休み時間は、行きたくもないトイレに通ってたら、
よっちゃんに、お腹こわしてんの?とか、大きな声で聞かれちゃって、
だから、今度は、聞きたくもない質問持って、職員室に先生を尋ねたりとかね・・
お昼は、早々に切り上げて、久しぶりに生徒会室に行って・・・
何かあった?って二人で聞いてきたけど・・・・答えなかったら、笑って、ただお茶を入れてくれた。
放課後は、速攻で部室に向かって・・・ひたすらボールに集中して・・
家に帰ってからだって、なるべく何も考えなくていいように、
格闘系のゲームソフトやったりとかね・・・
とにかく、気を紛らわすことだけに専念したんだけどさ・・・・
やっぱり、ダメなのよね・・
- 618 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 11:42
- で、やっぱり、柴ちゃんに電話したわけ。
そしたら、
「いっそのこと、さっさと告っちゃえば!」なんて言うの。
「でも、そんなこと出来ないでしょ・・」
「何で?」
「だって・・・・友達だもの・・」
「だけど・・・好きならさ・・」
「それ、ムリ!・・・・だって、友達に急にそんなこと言われたら、困るでしょフツーに・・」
「かなー?困るかなー?」
「困るよ・・・絶対。・・・例えばさ、もし柴ちゃんが・・・例えば、私にそー言われたら・・困らない?」
「アタシが・・・梨華ちゃんに?」
「困るでしょ!」
「うーん、想像できないけど・・・・どーだろ・・」
「困るって!・・・・私、柴ちゃんにそんなふーに言われたら困るもの!」
「困るんだ?」
「うん、困る!」
「そーだね・・・・困るかもね・・」
「そーだよ、あんまり知らない人とかならさ、いいけど・・・
友達だったら、そのあとどー付き合えばいいのかとか・・・考えちゃうよ・・・」
「でもさ、それって、振られることを前提とした話だよね・・」
「えっ?」
「だからさ、もしかしたら、後藤さんも梨華ちゃんのこと、好きかもしれないじゃん・・」
「・・・・ありえないよ・・」
「なの?」
「・・・うん」
- 619 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 12:00
- 「・・・・ごっちんはさ、もてるのね、本当に・・」
「うん」
「だから、告白とかだって、今回だけじゃなくて・・・でも、付き合ってるなんて聞いたことないし・・」
「つまり、女の子には興味ないってこと・・」
「てゆーか、それが普通じゃないの?」
「えっ?」
「やっぱさ、女の子同士って・・・・変だよ・・」
「そーかなー・・」
「そーだよ・・・やっぱ、それって・・・ちがうと思う・・」
「そーおー、女子校って、結構いるんじゃないの、そーゆーカップル・・」
「うん、中にはいるかな・・でも、それってやっぱり普通じゃないよ・・」
「・・・・じゃ、梨華ちゃんは、後藤さんのことは好きだけど、女の子同士の恋愛は否定するってわけだ・・」
「なのかな・・」
「見てて、嫌なの・・・そーゆーの・・」
「イヤとかじゃないな・・・・恋してたり、キャッキャッやってるのは、見てて微笑ましかったり、
上手くいったらいいなって、思うよ・・・・素直に・・」
「じゃあ、イヤとか、気持ち悪いとか・・・・じゃないんだ・・」
「うん、そんなふーには、思わない・・・・・でも、やっぱり違うかなって・・」
「思ってんの?」
「・・・・・たぶん・・」
「ならさ、その・・・・梨華ちゃんが、正常だと思う、恋愛をしてみよーか?」
「えっ?」
「だから、ちゃんとした男女間の恋愛・・」
「って、そんなの急にしよーと思ってできるものじゃないでしょ・・・」
「てゆーかさ、その可能性を探ってみるってゆーか・・・・ちょうどイイ機会だし・・」
「って、どーゆーこと?」
- 620 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 12:18
- 「あのさ、アタシの・・・・彼氏のね・・」
「って、彼氏?・・・えっ、柴ちゃん彼氏出来たの?聞いてないよ!」
「まあ、最近なんだけどさ・・・それは置いといて・・」
「置いとけないよ・・・・イイのいないって言ってたじゃない・・」
「だからー、学校の子じゃないの・・・大学生・・」
「えっ、大学生って・・どこで知り合ったりするわけ?」
「だからー、その話はまた今度ってことで・・・その彼の友達がね・・・梨華ちゃんのこと気に入ってて・・」
「・・・何で?」
「だからね、そのー・・・写真見て・・」
「って、また、私の写真とか、さらしてるわけ?」
「だからさ、友達紹介しろとかさ、煩いから・・・ついついね・・」
「ついつい何よ?!」
「だからさ、ほら、梨華ちゃんは・・・顔だけなら、アタシの友達の中で、ピカイチじゃない・・」
「って、何よ・・その顔だけって・・」
「イヤイヤ・・・スタイルもね・・・ちょっと黒いけど・・」
「だから、何よ、その外見だけまともみたいな・・・・」
「あー、もちろん中身も・・・・・その、あれよ、可愛い子紹介しろって言われたら、
やっぱ、最初にアナタなわけよ・・彼氏いないって言ってたし・・・」
「だからって・・・」
「まあ、言いたいことはわかるけどさ、それはこの際、置いといて・・・
どーよ・・その人に会ってみない?なかなかのイケメンだし、性格も悪くない・・」
「でも・・・・・」
「でもってね、ほら、前、そーゆーヒマないって言ってたでしょ・・でも今は、
そのー、なんだ・・・女の子に恋するヒマはあるわけだから・・」
「だけどさ・・・」
「それに、よーは、今まで恋したことがなくって、そーゆー免疫がないのが悪いのかもしれないでしょ・・
免疫ないまま、男っ気のないトコにいるわけだから・・・」
「・・・・そーなのかな・・」
- 621 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/22(火) 12:31
- 「取り合えず、会うだけ会ってみて・・・・その・・なんだ・・違う世界に触れてみるってゆーのかな・・」
「・・・・うん・・」
「そーだよ・・そーしよ!付き合うとか、そーゆーのは、会ってみてから決めればいいし、
もちろん、アタシもついて行くし・・・」
「・・・・うん・・」
「それじゃあねー・・・・・・」
結局、説き伏せられるようにして、次の休みのダブルデートの約束が出来た。
って、いつの間に彼氏とか作ったんだろ・・
柴ちゃんのくせに、生意気だ!
でも、本当にそんなんでいいのかな・・・・
でも、いいのかな・・
前に柴ちゃんが言ってたみたいに、恋に恋する年頃に、女の子だけの学校にいたりするから、
間違って、友達のこと好きになっちゃったりして・・・・
で、友達のままでいたいんだから、
恋は、他の方に向けるのが、正解なのかも・・・
そーだよね、間違った感情は、間違いなんだから、
直さなきゃ!
それも、きっと早い方がいい・・・・
このマンマだと、学校にも行き辛いし、いいかげん変だと思われてるし・・・
美貴ちゃんにも、よっちゃんにも、
・・・・・・・ごっちんにも・・・
- 622 名前:トーマ 投稿日:2004/06/22(火) 12:32
- 本日は、この辺で・・
- 623 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/22(火) 12:36
- 間違いなんかじゃないぞ!
素直になれ梨華ちゃん。
- 624 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/22(火) 22:09
- んがっ!またいいとこで
でもこのもどかしさが堪らんw
- 625 名前:トーマ 投稿日:2004/06/23(水) 09:40
- >>623 名無し読者様 ですよね!でも、このグダグダ感が石川さんらしいと思ってたりして・・
>>624 名無し飼育様 作者が人が悪いもので・・・でも、気になるので今日も更新しちゃいます。
- 626 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 10:01
-
次の日曜日・・・遊園地の前で待ち合わせをした。
やっぱりなんとなく気が重くて、少し遅れて着いたそこには、もう三人が待っていた。
初めて見る柴ちゃんの彼氏は、ちょっと三枚目な感じの優しそうな人。
で、その友達ってゆーのは・・・うん、確かにちょっとしたイケメン。
背は少し低い方だけど、ジャニのどこかのグループの一人だって言っても通りそーな感じで、
彼女がいないって言うのが、ちょっと不思議。
「ね、なかなかのものでしょ・・」
なんて、柴ちゃんの耳打ちに、一応、コクンと頷く。
デートの場所が、遊園地ってゆーのは、柴ちゃんによれば、
ちょっとした恐怖を共有することで、人は恋に落ちやすいんだって・・・
だから、いきなり、絶叫系の三連発。
まあ、私は割とそーゆーのは強いんだけどね。
で、とどめはお化け屋敷。これは、ちょっと苦手。
だから、やっぱり、隣の人に掴まっちゃう。
それを見て、柴ちゃんと彼氏は、しめしめって感じで、ニヤニヤしてて、
隣の人も、満更じゃないみたいで・・・
確かに、遠慮がちに肩に腕回す仕草とか、いやらしい感じがなくて・・・悪い人ではないんだよね。
で、お昼になって、敷地内のレストラン。
柴ちゃんたちは、たぶんわざとだよね・・・すごくベタベタしちゃって、
お互いに食べさせあいっことかしちゃって・・・
でね、私にもやってみろって言うの。
はやし立てるみたいにして・・・・で、横の彼も、少してれながら、アーンなんて口あけちゃって・・・
だからさ、フォークでポテト刺して、その口に届けようかなって・・・
思ったんだけどね・・・・
そんなことしてると、どーしても・・・
ごっちんの顔が、そこに重なっちゃうの。
私のお弁当を、口をあけて待ってる・・・あの無邪気な顔がね、
目の前に浮かんできちゃうの。
- 627 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 10:10
- そんなの一度思い出しちゃうと・・・・もうダメ。
次から次に、彼女の声とか、仕草とか、表情とか、
隣の人に重ねちゃって・・・・
でも、そこにいるのは、ごっちんじゃなくて、
だから、居たたまれなくなっちゃった。
「ちょっと・・・」って、呆気に取られるようにしてる人たちに構わず、席を立って、
少し離れたところから、柴ちゃんにメールする。
「ごめん・・・帰る・・・謝っておいて」ってね。
そしたら、
「まったく、しょーがないんだからー!
わかったけど、このカリは大きいからね!覚悟しててね!」だって。
で、しばらくして、
「自分の気持ちには、正直になった方がいいよ・・」って、追伸。
うん、ありがとう柴ちゃん。
でもさ・・・・それ、きっとムリだから・・・
- 628 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 10:27
- 次の週もやっぱり始まっちゃって・・・
なんだろなー、こんなこと、本当にやってなんかいられないんだけど・・
大会も近いし、どーにかしなきゃなんて思ってたら、
お昼休み・・・たまには、二人でしよーよって、美貴ちゃんに屋上に誘われた。
あっ、助かった・・・・って、ついていくと、
「ね、ごっちんと何かあった?」って、やっぱり、そー来るよね。
「何もないよ・・」
「でも、変だよね・・」
「そーかなー」そーだよね、やっぱ変だよね・・
「あのさー、美貴、思ってたんだけど・・・梨華ちゃんが変になったのって、あの愛ちゃんのことあってからだよね・・」
あっ、この人やっぱり鋭い・・・・てーか、私がわかりやす過ぎるのかな・・・
「もしかして、あれ見て、ごっちんのこと、嫌いになっちゃったとか?」
「・・・・ちがう・・」
「ちがうんだ・・・ホント?」
「うん、本当・・」
「ならさ、何よ・・・・まさか、愛ちゃんのこと好きだったなんてないよね・・」
「まさか!」
「だよね・・・・・じゃさ、誰か他に好きな人でも出来ちゃった?」
「は?どーゆーこと?」
「女の子の挙動不審はさ、たいてい恋愛がらみだもの・・」
「そーなの?」
「うん、まあ、梨華ちゃんの場合はさ、普段から少し変だけどね・・」
「何よそれ!」
「まあまあ・・・・でも、今の状態はメチャクチャだよ・・」
「そんなに?」
「そんなに!」
「そっか、メチャクチャなんだ・・・まずいね・・それ・・」
「うん、かなりまずい・・」
- 629 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 10:45
- 「・・・・で、相手はやっぱり・・後藤さんですか・・・」
「えっ?」
「だよね、どー見ても・・・・普通にわかるし・・見え見えだもん・・」
「そーなの?・・・やっぱ、わかっちゃう?」
「やっぱなー!」
「って、もしかして、カマかけた?」
「うん!」
もー、意地悪なんだからー!・・・・でも、困ったな・・
「ね、言わないでよ!絶対、ごっちんには・・」
「どーして?」
「どーしてって・・・・友達だもの・・」
「いいじゃない!友達だって・・・好きなんでしょ!」
そんなこと言ったって・・・・
「だけど、困るでしょ・・・ごっちん・・」
「何で?」
「何でって・・・友達なのに、イヤじゃない?そーゆーの・・」
「かな?」
「・・・・あのさ、最初ね、梨華ちゃんとごっちんと同じクラスになった時、
美貴ね、二人はもう付き合ってんのかと思ってたのね・・」
「えっ?どーゆー意味?」
「だからさ、二人はとっくにそーゆー関係・・・恋人同士みたいな・・・だと思っててさ・・」
「何で?友達だよ・・・普通に・・」
「まあ、そーみたいだけどさ・・・ごっちんは・・好きでしょ・・・梨華ちゃんこと・・前から・・」
「うそー!ありえないよ!」
「かな?」
「そりゃ、もちろん友達だからね・・・気に入ってくれてるとは思うけどさ・・」
「それだけかな?」
「うん・・」
- 630 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 11:05
- 「それにさ、女の子同士だよ・・・たとえ好きでもしょうがないじゃん・・」
「そーかなー、そんなこともないと思うけど・・・いっぱいいるじゃないカップルなんて・・」
「だけどさ、どーにもなるものじゃないでしょ・・」
「まあね、突き詰めて考えればね・・・でもさ、即結婚とかじゃないんだから、
恋愛は自由なんじゃないの・・・男でも女でも、関係なく・・」
「美貴ちゃんはそー思うんだ・・」
「うん、美貴は何でもアリだって思う・・」
「てか、梨華ちゃんはさ、今、どーしたいの?」
あっ、どーしたいんだろ・・・・・わかんないや・・
「ごっちんのことが好きなんだよね・・・・そんなに変になっちゃうくらい・・」
「・・・うん・・」
「でも、友達でいたい・・」
「うん」
「でも、今みたくしてたらさ、友達だって、危ないでしょ・・」
「えっ?」
「こんなふーに、避けるみたいにしてたらさ、ごっちんだってかわいそーじゃない・・」
「あっ・・・」
私、自分のことばっか考えてて・・・そーだよね・・こんなんじゃ、ごっちんに悪い・・
「あのさ、本当のこと言っちゃうけど・・・美貴、頼まれたんだよ・・・」
「えっ?」
「ごっちんに・・・梨華ちゃんがおかしいから、聞いてみて欲しいって・・・この頃、避けられてるみたいだからって・・」
「・・・・そーなんだ・・・私、本当にダメだよね・・」
「心配してるみたいだよ・・・色々・・」
「そっか・・・・・じゃ、頑張って普通に振舞うから・・」
「できるのそれ?」
「うん、頑張ってみる・・」
- 631 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 11:29
- 「そー、でも、本当にいいの?それで・・・」
「えっ?」
「例えばさ、例えばね・・・梨華ちゃんが、そんなことしてる間にさ、
ごっちんが他の誰かと付き合っちゃったりして・・・梨華ちゃんはそれでいいわけ?」
「あっ・・・・わかんない・・」本当・・・わかんない・・
「わかんないんだ・・・」
「うん・・・・でもね、あのさ、ごっちんって、この学校で初めて出来た友達で・・・」
「うん」
「なかなか、クラスにもクラブにも馴染めないでいる時に、最初に出来た友達で・・」
「うん」
「だから、大事にしたいの・・」
「友達でいることを?」
「うん、だってさ、こーゆーの・・・なんてゆーの恋愛感情みたいな・・・これって急にそーなったから、
たぶんね、そのうちおさまると思うの・・」
「かな?」
「うん、たぶん・・・」
「てことは、つまり、梨華ちゃんとしては、一時的な感情で、せっかくの友情を壊したくないってことか・・」
「・・・・そーなるのかな・・」
「そっか、まあ、梨華ちゃんがそー思ってんなら、それでいいと思うけど、じゃ、なんて言っておこーか・・」
「えっ?」
「ほら、一応、頼まれたわけだから、何か言わないとね・・・ごっちんに・・」
「・・・・・」
「大会前で、ナーバスになってるだけとかね・・」
「あっ、それいいかな・・・・ね、そーしといてよ!」
「まあ、それでも心配はするだろーけど・・・
でも、マジに今は大事な時期だよね、アタシタチも、梨華ちゃんもだけど・・・特にごっちんは・・」
「あっ・・・」
そーなんだよね・・本当にこんなことしていられない。
三年生が引退してから、初めての大会で・・・・特に、ごっちんは新しい種目で・・・春のこともあるし・・
それなのに、私がつまんないことで心配かけちゃって・・・
「まあ、ここはそんなんで何とか誤魔化すけど、梨華ちゃんも、もう一回、ちゃんと考えた方がいいよ・・」
「うん・・色々、ごめんね・・」
「美貴はさ・・・・似合ってると思うけどな・・二人・・」
- 632 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 11:48
- 美貴ちゃんはそんなふーに言ってくれたけど・・・
でも、やっぱり、ちがうかなって思う。
私は、この一年半くらい、ごっちんと友達で過ごしてきて、すごく楽しくて、
色々な意味で助けられて、で、少し・・・ドキドキしてた・・
えっ?
してたんだ・・・・・ドキドキ・・
最初、声をかけられた時は、なんだろこの子って思った。
でも、一緒にお昼をするよーになって、無邪気な子だなって思った。
すごく有名な陸上の選手だってわかった時は、驚いたけど、
バスケやってる時とか、バーを跳んでる姿とか、本当カッコよくて、
花火を見上げてる横顔がきれいで、繋いだ手に、少しときめいちゃった。
夕暮れの校庭で泣いてた姿は、ただ愛おしくて、
一緒に歩いた大晦日の表参道では、隣にいるのが誇らしく思えるほど大人で、きれいで。
もう、結構長く友達やってるのに、なにかの度に、別の顔しちゃって、
その一つずつを見つける度に・・・・少しずつ惹かれていったのかもしれない。
もしかして・・・・そーなのかな・・・
私の鈍感な心は、少しずつ溜まっていった好きと言う感情が、
器いっぱいになって、溢れてくるまで、それに気付かなくて・・・・
そーゆーことだったのかな・・・
だったら、これは一時的な感情なんかじゃなくて・・・・
でも、そーだったとしても・・・私はいったいどーしたいんだろ・・
- 633 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 12:14
- テニスのコートにいながら、やっぱりそんなことを考えちゃってる私の視界の端を、
陸上部のランニング姿が、かすめる。
普通に、みんなでトラックを走ってるだけなんだけど、
近くだと見れないくせに、こんな時は、やっぱり目が追っちゃって・・・
で、やっぱり集中が欠けちゃってるから、コーチに叱られる。
本当に、やんなっちゃうよね・・・部長なのに・・・
何とか気を取り直して、一応、練習は終えたんだけど・・
「オマエ、少したるんでるぞ!」って、残って少し走るように言われた。
走って、反省しろって・・・うん、きっとその方がいい。
だから、もう誰もいなくなってる校庭を走る。
何にも考えられないくらいに、疲れ果てるために・・・
どのくらい走ったんだろ・・・もしかして初めてかな・・こんなに走ったのって・・・
さすがにもう、真っ暗になって・・・
外の流しで、顔を洗った。
もったいないくらいに水をたくさん出して、それを何度も何度も顔に叩きつける。
そーなんだ・・・私はすっかりたるんでた・・・頭の中を空っぽにしなくちゃ・・
よし!って、思って、顔を上げて、
流し台の縁に置いておいたタオルに手をのばそーと思ったら、
目の前に、すーっとそれが手渡されて、反射的に受け取って、顔を拭う。
って、誰?
タオルから顔を上げて、伸びてきた腕の先を窺うと・・・
ごっちん?
どーして?
- 634 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 12:37
- 「おそくまで、大変だね・・・罰ゲーム?」
制服の顔が笑ってる。
「あっ、うん・・・そんなよーなもの・・」
うん、きっとこれは罰ゲーム・・・それで、今もその続き・・
「ごっちんこそどーしたの?」
「あっ、帰ろーと思ったら・・・梨華ちゃんが、走ってるのが見えたから・・待ってた・・」
「ずっと見てたの?」
「うん、しっかし、マラソンの選手とかになれるんじゃないの・・一時間以上走ってたよ・・」
えっ、そんなに・・・・そっか、疲れるわけだ・・・
「その間・・・ずっと待っててくれたの?」
「うん、途中で倒れちゃうんじゃないかって心配だったし・・」
「・・・・ごめん・・心配かけて・・」
「・・・・・この頃・・・心配してばっかりだ・・」
「本当、ごめん・・・・着替えてくる!」
そー言って、出しかけた足が、筋肉の張りで、よろめく。
倒れかけた私の身体は、ごっちんの腕が支えられて・・・・そのまま彼女の胸に納まる。
ヤダ・・・何でこんな気持ちの時に・・・思うようにならない身体が恨めしい。
そんな私の気持ちなんて、きっと知らないごっちんは、
抱きとめた腕に力を入れて・・・
私の耳に顔を寄せて囁く。
「何か色々あるんだろーけど・・・・できたらアタシにも話して欲しいな・・やっぱ心配だよ・・
何にも出来ないかもしれないけど・・・・話聞くだけなら・・得意だから・・・」
私はその言葉に返事が出来ない。上手く言葉が浮かばない。
それに・・・・彼女の腕の中にすっぽりと包まれたその柔らかさが、心地よくて・・・
何か言ったら、きっと離れなきゃいけないから・・・
だから、何も言わずに、このまま・・・・・
でも、ダメなんだよね、こーゆーの・・だから、
「ありがとう・・心配しないで・・もう大丈夫だから・・」
って、このまま彼女にもたれていたい、気持ちも身体も立て直す。
「着替えてくるから・・」
って、部室に走る。
よかった・・・・足がまだ動いてくれて・・・
- 635 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/23(水) 12:54
- 彼女は、やっぱり待っててくれて、自分も疲れているだろーに、
いつかのお返しだって言って、私の乗る路線の駅まで送ってくれる。
家までおくろーかってって言ってくれるのを、何とか拒んで、駅で別れる。
久しぶりに二人で歩く道は、やっぱり嬉しかったけど、
そんな時にも、わかりやすいと言われる私の思いが、彼女に通じてしまうのが怖くて、
身を固くしているから、
だから、別れる時の彼女の顔は不安気だった。
ごめんね・・・・ごっちん・・・私、心配ばかりかけてるよね・・
いけないよねこんなんじゃ・・・本当に・・・
だから、次の日から、私はすごく頑張った。
これ以上余計な心配かけないよーに・・・
授業も集中したし・・・そーそー、どーゆーわけか、ごっちん達って、ちゃんとノートとってないから、
試験前には、コピーして配らなきゃいけなかったしね。
部活も、「張り切りすぎー!」って、まいちゃんに言われるくらいに・・・・
で、ごっちんともちゃんと話すようにした。前みたく。
「何か急にテンション高くねぇ?」とか、よっちゃんには言われたけど、
「イイコトだよ!」って、美貴ちゃんはウインクしてくれた。
ごっちんもね、少しは安心したみたい。
美貴ちゃんが、部長になっちゃったテニス部で苦労してるみたいよって説明してくれて、
昨日、走らされてるの見て、なるほどって思ったらしくてね、
「とにかく、頑張んな!」って、言ってくれた。
本当に頑張らなきゃね・・・・色んなこと・・・
そして、ちゃんと友達をやるんだ・・・・前みたく・・・変わらずに・・・
そー思ってたんだよ・・・ちゃんと決心して・・・
でもさ、なのにさ・・・・・
- 636 名前:トーマ 投稿日:2004/06/23(水) 12:55
- 本日はこの辺で・・
- 637 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/23(水) 13:03
- 続きが気になるよぅ!!
- 638 名前:名のナイ読者 投稿日:2004/06/23(水) 20:30
- 更新お疲れさまです。
やっと梨華ちゃんが自分の気持ちに
気付いてくれて良かったです!
- 639 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 20:49
- ぬぁぁぁぁ!またもやっ
毎日これを読むのが楽しみで楽しみで、急いで帰ってきてますw
梨華ちゃん、あと一歩踏み出せ!
- 640 名前:トーマ 投稿日:2004/06/24(木) 09:01
- >>637 名無し読者様 ありがとうございます
>>638 名のナイ読者様 ありがとうございます
>>639 名無し飼育様 ありがとうございます
気にしていただいている続きを一気に書いてしまいます。
・・・・ということは、たぶん今日の更新で・・・・・
- 641 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 09:20
-
このところの土曜日は、ずっと部活だけど、さすがに日曜日だけは、お休み。
そんな日曜の遅い朝に、ケイタイが鳴った。
・・・・・ごっちんから・・・
「久しぶりにさー、遊んだりしない?」って。
・・・・・会いたいんだけど・・私だって・・・でも、
「疲れてるから・・」なんて断わる。
「じゃさ、少し電話してていい?」
・・・・
「メールにしない?」
だってさ、電話とかでも、ほら、私考える前に余計なこととか話しちゃうし、
カミまくって、ドギマギ感が伝わっちゃったりするかもしれないし、
その点メールってさ、一応、言葉選ぶ時間があるし、送信前にもう一度考えたりできるし、
だからね・・・・
で、最初の方は、本当になんてことないことやり取りしてたの。
授業中眠いとか、よっちゃんが変なことやったとか・・・そんなのから始まって、
「最近、部活、大変そーだねー」てのには、
「やっぱり部長になんかなるんじゃなかったよー」って返して、
「ごっちんもどー?棒高跳びって、怖くなあい?」って聞いたら、
「大丈夫、ゴトー、バカだから高いトコ大好き!」なんて返って来たり、
本当にたわいもない話だったんだけど・・・
しばらくしたら、
「最近二人で遊んでないよね・・・」なんて始まっちゃって、
「お互い忙しいからねー」なんて流したのに、
「ゴトーは、結構ヒマ」なんて来るから、
「でも、疲れてるでしょ」・・・・としか、言えないじゃん。
- 642 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 09:44
- そしたらさ、
「やっぱり、アタシ何か悪いことしたかな?」って、
「ちがうよ!そんなことないよ!」って打っても、
「でも、避けてるない?なんか前とちがうよね・・」って、
私、頑張ってるじゃない・・・・頑張って普通にしてるじゃない・・・
でもやっぱり、なんかそんなふーに見えちゃってるのかな・・・そんなふーに思わせちゃってるのかな・・
だから、
「それ、絶対、ごっちんの勘違いだから!」って返す。
そしたら、
「美貴ちゃんには言えることでも、ゴトーには言えないのかな?」
・・・・・どーして、そーゆーこと言うのかなー。
確かにさ、美貴ちゃんとは話したよ。でも、あんなこと、ごっちんに言えるわけないじゃん!
でも、どー返せばいいんだろ・・
「心配かけたくなかったから」・・・で、いいのかな・・・いいよね。
そしたら、
「ゴトーは、梨華ちゃんの事なら、いくらでも心配していたいよ・・・」なんて優しい言葉くれちゃうし・・
だから、
「ありがとう!でも、もう大丈夫だから!」って返す。
で、しばらく間があって・・・もーいいのかなって思ってたら、
「梨華ちゃんと同じクラスになれて、本当に嬉しかったんだ!」って、何時の話よ・・でも、
「もちろん、私も!」
また間があって、
「でも、あの時は本当に矢口さんと付き合っちゃったのかなって焦ったよ」なんて変なこと言うし、
「本当そーゆーんじゃないよ・・今ではすごくイイ先輩。
矢口さんも、あのことなんて忘れてるみたいだし、本当フツー」
「ならいいけど」
そんな感じでお昼を回って、再び鳴る着メロ。
- 643 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 10:04
- 「バレンタイン、ゴトーがあげたの梨華ちゃんだけって知ってた?」
なんて、突然。・・・えっ?そーなの?普通にみんなに配ってるのかと思ってた。
で、どー答えればいいわけ?
「すごくおいしかった!ありがとう!」・・・・で、いいのかな?
「初詣、なにお願いしてたの?」
なんて、また唐突だよね。
「色々、たくさん・・・少し欲張り過ぎちゃった!」って、正直に答える。
そしたら、
「ゴトーは一つだけ」
って、なんだろ・・・でも、聞いていいのかな・・・
迷ってるうちに、次のメールが届いた。
「本当はさ、あの時、梨華ちゃんの前で泣いちゃった日、学校辞めようかって思ってた。
ハイジャンで入ったのに、二つの大会終えても、いい結果出せなくてね」
あっ、そんなに思い詰めてたんだ。
そこまで気付かなかったな・・・いつも平気な顔してたから・・・
そっか、で、そのことを神様にお願いしてたってことなのかな、
新しい種目でイイ成績取れますよーにって。・・・・・だから、
「棒高跳、頑張ってね!」って、返信する。
「うん!頑張るよ!学校辞めたくないもん!」そーだよね、だけど、
「そーだよ!でも、結果なんてどーでも、もー学校辞めよーなんて考えないでね!絶対!」
特待で入学するって、やっぱりすごいプレッシャーなんだね。
本当にそんなことも今までわかってあげてなくて・・・・
好きとか以前に、友達としても失格なのかもね・・・私・・・
- 644 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 10:24
- もう結構長いこと、次の着信はなくて・・・
今日はこれで終わりなのかなって、ケイタイを充電器に戻す。
ふーって、感じ。ちょっと疲れちゃった。
お茶を入れに、キッチンに行く。
ゆっくりと葉っぱを蒸して、入れた紅茶を持って、部屋に戻ると、
・・・・・新着を示すランプが点いてた。
「あのさ、メール・・いつもゴトーからだって知ってた?」
また、急になに言い出すんだろ?
でも、えっ?って思う。そんなことは・・・・ないでしょ・・だから、
「そんなことないと思うけど」
「そーなんだよ・・いつも・・メールも電話も誘うのも・・」
そーだったかなー、そんなことないと思うけど・・・・
もちろんこの頃はね、自分からなんてとても声とかかけられなくて・・・確かに、メールも・・
でも、前は・・・・どーだったろー・・
そんなこと考えて、返信できないでいると、続けて・・
「アドレス、聞きに行った時は、すごく恥ずかしかった」
って、あの朝のこと?そんな感じじゃなかったよね・・普通の顔してた・・
間をおかずに、
「最初に声をかけた時はさ、すごい勇気だした」
って、あのアポロ・・・うそー!公衆の面前で、あんな大きな声出して・・・
でも、ごっちん、さっきからどーしちゃったんだろ・・
昔のこととか、急に話しちゃったりして・・・・いったい何が言いたいんだろ・・わかんない・・
わかんないから、もう一度、今日着いたメールを読み返す。
でも、やっぱり・・・・わかんない。
だから、なんか返信しなきゃいけないんだけど、なんて書いていいのか・・・わかんない。
- 645 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 10:38
- そんなこと悩んでるうちに、夕方になっちゃった。
やっぱり、このままってまずいよね・・・
だから、何でもいいから書かなきゃって、ケイタイを握り直す。
そしたら・・・・・また着信。
「梨華ちゃんチの前にいる」って、えっ?
慌てて、カーテンを引いて、窓の下を覗くと・・・・門の外に、向うむきに立ってる・・・ごっちん・・
来たんだ・・・わざわざ・・・でも、どーして?
上着を羽織って、ケイタイだけポケットに突っ込んで・・でも、一応、鏡だけは覗いて、
階段を駆け下りる。
私の近づく音を聞きとめて、こっちを振り向いたごっちんは、
笑顔をつくろーとして・・・・作りきれてなくて・・・何でそんな切ない顔しちゃうのかな・・
そんな顔見ちゃったら、
走ったせいだけじゃなく早くなってる心臓の音が、マスマス大きくなっちゃって・・・
だから、大きく一つ息をして、なるべく普通に、
「来たんだ?」
「うん、来ちゃった・・」
「いつ?」
「うん、今着いたトコ・・」
「遠かったよね・・」
「うん、やっぱり遠いよね・・・梨華ちゃんチ・・」
あのメールのどのあたりから、こっちに向かっていたのだろ・・・
でも、どーして、わざわざ来ちゃったの?
- 646 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 10:57
- 「ウチ、上がって?」
「ううん、外がいい・・・」
じゃあって、近くの児童公園。
もう夕暮れだから、誰もいなくて・・・二つだけのブランコに座る。
ごっちんが黙っているから、何を話していいのかわからないまま、
キコキコと少し錆びてるブランコの音だけが響く。
「「あの・・・」」の言葉が重なって、また少し続く沈黙の後に、
「美貴ちゃんにね・・・」
「えっ?」
「美貴ちゃんに、言われたんだ・・・」
って、何をって思ってる私の目の前に、ごっちんのケイタイを持った手が伸びてきて、
開かれたまま、手渡されたそこには、一通のメール。
”梨華ちゃんって、完全天然の鈍感さんだから、
ちゃんと言葉で伝えないと、何もわかんないよ!
ごっちんの気持ちも、自分自身の気持ちも・・・・
だから、ちゃんと話しな!! Miki ”
って、失礼な・・・そりゃー鈍いですよ、私は・・でも、鈍感に完全天然とまでつけなくても・・・
でも、なんなの・・・・ごっちんの気持ちって・・・私自身の気持ちって・・・・?
「だからさ、言わないでおこうかなって思ってたこと・・・言っちゃうことにした・・」
「なに?」
ごっちん、何を言っちゃうわけ?・・・ね、嫌なことじゃないよね・・・・
もしかして、高橋さんに言ったみたいに・・・・
ね、私・・・告ってないよね?・・・そりゃ、わかりやすいらしいから、気付いちゃったのかもしれないけど・・
私・・・言ってないよね・・・・なのにさ・・・
- 647 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 11:12
- 「あのさ、初詣の時・・・一つだけお願いしたって言ったでしょ・・さっき・・」
「あっ、うん・・」
よかった・・・・ちがうことだよね・・・
ヤダナ私、考え過ぎだよね・・・そーだよね、きっと部活のこととか・・色々悩んでたみたいだし・・
そっか、それを言ってくれるのかな・・・相談みたいな・・・
「あれさ・・・・梨華ちゃんと・・・」
「えっ?」
って、やっぱり、私に関係してる話なの?
「ずっと一緒にいられますよーにって・・」
「へっ?」
ね、ごっちん・・・・今、なんて言った?
「アタシはね・・・・ずっと・・・・初めて入学式で・・・見た時から、
好きだったんだよ・・・梨華ちゃんのことが・・・」
「・・・」
ね、何のこと?・・・ね、どーゆーこと?
「友達になりたいなって・・・ずっと思ってて・・・
でさ、原宿で見つけた時は、舞い上がっちゃった。
学校でもなかなか会えないのに、広い東京の真中で、あんなに人がいる中で、
会えるなんて、奇跡だと思っちゃって・・・
だから、すごい勇気振り絞って・・・・・声かけたの・・」
「うそ・・・」
だって、あの時って・・・あっ、アポロチョコだなんて・・・ふざけたこと言って、
柴ちゃんと亜弥ちゃんと三人して、人のことバカにした話してて・・・
- 648 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 11:31
- 「あの子・・・なんていったっけ?」
「柴ちゃん?」
「うん、あの子が話す梨華ちゃんってさ、思ってた通りで、思ってた以上で・・・」
ドジだとか、マヌケだとかって話だったよね。
「マスマス好きになったのに、舞い上がってたから、メルアド聞くのも忘れてて、
だから、あの日は頑張って早起きして、思い切って梨華ちゃんとこの教室に行って・・
みんな見てたから、メチャクチャ恥ずかしかったけど・・・」
って・・・・あの時って・・・・普通な感じで、平気な顔してて・・
「だから、一緒にごはん食べれるよーになって、ホント嬉しかったけど・・・」
けど?
「梨華ちゃん・・・普通の時、アタシと一緒にいるのイヤみたいにしてたから・・」
「そんなこと・・・」
「でも、それでもよかったんだけどね・・・友達になれたし・・
二年になったら、クラスも一緒で・・・色々あったけど・・前より仲良くなれたよね・・」
「うん・・」
「でもさ・・・・この頃・・・また、避けてるよね・・アタシのこと・・
もしかして・・・嫌いになっちゃった?」
「そんなことない!ごっちんのこと、嫌いになるわけないじゃん!」
「・・・・ならいいけど・・
でさ、やっぱりわかっちゃったんだ・・・・友達でいいと思っていたんだけど・・
梨華ちゃんが、きっとそーとしか思ってくれてないから・・・
でも、アタシはやっぱり・・・ちがうなって・・・梨華ちゃんとは・・・それだけじゃやだなって・・
出来たらさ・・・・なんだろな・・もっと近くなって・・特別でいたくて・・恋人になりたいなって・・」
えっ?・・・・今、何言ったの・・・ごっちん・・・恋人?
ね、そんなこと言ってたよね・・・
- 649 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 11:59
- 「・・・・・私も・・ごっちんのこと、きっとごっちんが思ってる以上に・・
好きなんだけど・・・ウソみたいに好きなんだけど・・・」
あーあ、言っちゃった・・・・でも、不思議・・言い出しちゃったら、止まらない。
「私、ごっちんのこと好きで、困っちゃうぐらい好きで、急にそんなふーになっちゃって、
だから、どーしたらいいのかわかんなくて、
柴ちゃんには、恋してるって言われちゃうし、ドキドキしちゃうし、息できないし・・
でも、友達だから、どんな顔してればいいのかわかんなくて、
女の子なのになって、思ってみたり、なんかの勘違いだって思ってみたり、
だけどやっぱり、好きで・・・どーしたらいいのかわかんなくて・・・」
「・・・ね、梨華ちゃん、それホント?」
ブランコを小さく揺らしながら、下を向いたままそんなことを言っていた私の肩を、
いつの間にか私の前で中腰になっていたにいたごっちんの両手が支えて、
ふとあげた私の顔を覗き込むよーに、
「ね、今、言ったの・・本当?」
私は、コクンと頷く、まるで子供みたいに・・・・それから、目の前にある笑顔に尋ねる。
「ね、どーしたらいいの?」
「えっ?」
「ね、友達と恋人はどーちがうの?・・・私、ごっちんの前で、どーしてればいいの?」
そー、これ、ずーっとわからなかった・・・・
ごっちんのことが好きで、すごくすごく好きになっちゃって・・でも、それって・・
「うん・・・・ゴトーもよくわかんない・・
もしかしたら、今までと何も変わんないのかもしれない・・・
でも、何でも話して欲しい。梨華ちゃんのことなら、心配してるのだってイヤじゃない。
それで、できるだけ一緒にいたい。会えなくても電話で声が聞きたい。
それから・・・・・できたら・・・」
「できたら?」
「・・・キスがしたい・・」
「えっ?・・・私と?」
「うん・・・梨華ちゃんと・・・」
- 650 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 12:17
- ごっちんと・・・・キス・・
ヤダ・・・私、もしかしたら、今、真っ赤になってるよね・・
そっか、恋人なら・・・・キスとかしちゃうのか・・・・そっか・・
「でも、今じゃなくていいよ・・」
「へっ?」
「あのさ、今・・・すごく頑張ってる。今度の大会に賭けてるんだ。」
「あっ、うん・・頑張って!応援してる・・」
ヤダ・・・私、なに期待してたんだろ・・・気が抜けちゃってる・・
「でね、もし優勝できたら・・・・キスしていいかな?」
「えっ?」
「一生懸命頑張るから、だからご褒美に・・・キスしていいかな?」
「あ・・・・うん」・・・・言っちゃった・・
でも、
「あのさ、そのー、勝てそーなの?」って、何てこと聞いてるんだろ・・私・・
「うん、どーかな・・・・競技人口が少ないからね・・結構イイトコいくとは思うけど・・
一人だけ、すごく強い人がいる・・」
「じゃ、もしかしたら、負けちゃうかもしれないの?」なんて本当に、悪いこと言ってるよね・・
「うん、五分五分かな・・・」
「そっか、五分五分か・・・もし負けちゃったら・・・」
ヤダナ、私・・・本当になにを考えてんだろ・・・
「あっ・・・その時は・・」
ごっちんの腕が、私の身体を立ち上がるように促して、
そのまま優しくその胸に抱きとめて、耳元で囁く。
「その時は、かわいそーなゴトーに、優しい梨華ちゃんが・・・キスして・・」
「えっ?」
「イヤ?」
「ううん・・・そんなことない・・けど・・」
- 651 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 12:41
- 「・・・大丈夫・・ちゃんと頑張るから・・ファーストキスだもん、自分からしたいから・・」
「あっ・・・」
「ね、いいんだよね!」
彼女の胸から離された私の顔をもう一度覗き込むようにして・・・
答えなんて決まってるのに、それでも念を押しちゃう・・・ごっちん・・
「・・・うん・・・」
そのあと、何を話したのかよく覚えていない。
でも、暗くなるまでブランコをこいでた。
ごっちんは妙にはしゃいじゃって、私はずっと照れくさかった。
もう、いくらなんでもおそいからって、駅まで送って・・・
そー、手を繋いでね・・そのー、恋人繋ぎってヤツ・・少し恥ずかしいけど、
でも、こーしていると本当に、ごっちんがすごく近くなる。
からめた長い指が折れてしまいそーで、愛しくなる。
で、駅で別れよーかと思ったら、ごっちんが家まで送るって・・・えっ?って思ったけど、
私もやっぱり・・・まだ離れたくなくて、
そんなの繰り返して、片道10分もかからない道をゆっくり15分以上かけて、三往復。
もうじき、三度目の我が家ってところで、ケイタイが鳴って、お母さんの怒鳴り声。
いいかげん御飯さめるから、帰ってきなさい!って、
だから、しぶしぶのさようなら。
最後にね、キスはお預けだけど・・・って、もう一度抱きしめられたごっちんの胸は・・・
温かくて、柔らかくて、心臓の音が速い。
・・・・見上げた顔が近くて、ちょっと照れくさいけど・・・やっぱり好きだなー、この人って思ってたら、
「やっぱり、好きだなー、梨華ちゃん!」って、先を越された。
それに答えよーって口を開きかけた時に、また着メロ。
だから、今日はさようなら・・・でも、また明日会える。
きっと、いつでも・・・・会える。
- 652 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 12:59
- 「冷めちゃったわよ!」って、叱られながら、食卓についたけど、
きっとニヤニヤしてたんだよね・・
「なに、この子気持ち悪いわね・・」なんて呆れられて、
で、やっぱり胸がいっぱいだから、すぐにごちそーさま。
ベッドにゴロンとして、さっきのごっちんの言葉を思い返す。
さっきはね、頭の中が混乱してて、正直よくわかんなかったけど・・・・
ごっちん、もしかして、私のこと・・・ずっと好きだったって言ってくれてたよね。
会ったその日から、ずっとって。
で、恋人になりたいって・・・キスしたいって・・・・
ウソみたい・・・・思ってもいなかった・・・ごっちんも私のこと好きなんだ・・
私が気付くずっと前から、そんなふーに思ってくれてたんだ。
・・・・あるんだね、こーゆーこと・・・あるんだね奇跡みたいなこと・・
だから、いいんだよね・・・・私、彼女の恋人になっちゃっても・・・女の子同士でも・・
だって、他の誰かなんて、考えられないもん。
ごっちんだけなんだもの・・こんな気持ちになったのって・・
わー・・・どーしよ・・・
やっぱり、よく眠れなかった。
でも、不思議だよね・・・寝不足って感じじゃないの・・・テンションがね、なかなか下がらなくて・・
どーにかすると、通学途中の電車の中とかでも、頬が緩みそーになっちゃう。
でも、学校でそんなふーにしてたら、普通におかしいし、みんなの前ではね、ちゃんとしていたいし、
だから、一度立ち止まって、口元を引き締めて、教室のドアを開けて・・・
- 653 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 13:16
- 「オハヨー!」って、教室に入ったとたん、
ごっちんが飛びついてきた。
「会たかったー!」って、ふにゃーっといつもにまして大きな笑顔で・・
もしもし、あのー・・・・後藤さん?
・・・・でも、まあいいか・・・だって、やっぱりこーゆーのって嬉しいじゃん!
だから、
「私も・・」なんてね・・はずかしー!
「たくー!これが天下の後藤真希かよ!」なんて、よっちゃんが言って、
「まあまあ、新婚さんなんだから、大目にみてやってよ」なんて美貴ちゃんに窘められて、
二人して笑ってる。
他のクラスメイトは、少し唖然とした顔して・・・
でも、いいのかな・・・・だって、幸せなんだもん!
てな感じで、たぶんその日から私たちは、学園一のバカップルになった。
でも、やることはちゃんとやったよ。
授業のノートは、ごっちんの分までちゃんととらなきゃいけなかったし、
まっ、どーせ、よっちゃんと美貴ちゃんにもコピーしてあげるんだけどね。
あと、もちろん部活も・・・そっ、私たちの噂は、あっとゆーまに学園中に広まって、
だから当然、そのことでからかわれるし、それで練習が疎かになったなんて言われたくなかったから、
それまで以上に頑張った。
それに、なんてたって、あの後藤真希の彼女としては、ヘタな成績、修められないでしょ!
- 654 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 13:30
- 大会当日、ごっちんと同じ日に、私たちも試合があって、
一応、こっちは団体で三位に入れた。
個人ではまいちゃん以外は全国大会には残れなかったけど、
団体でのこの成績は、部長としては、誇れるものだと思う。
で、更衣室のカバンの中で、着信を確かめる。
「キスできる!」って、優勝ってことだよね・・
バスで戻った学校に、ごっちんはもう待ってた。
で、手を引かれた先は・・・あの体育館のウラ。一年の時にお昼を一緒に過ごしたあの場所。
「ここ、あの時、必死になって探したんだ。
梨華ちゃん、アタシと一緒のトコ、人に見られたくないみたいだったから・・
二人っきりになれるトコ・・・学校中探して・・・あの講堂のトコもね・・」
そーだったんだ・・・別にそんなに人目を避けてたわけじゃなかったけど、
でも、他に誰もいない二人だけの時間は、まだ恋に気付いていない時から、
私にとっては大切な時間だったから・・・・だから、結果としては、よかったんだよね。
「で、こーゆー時にも役に立っちゃう・・」
「勝ったの?」
「うん、優勝しちゃった!」・・・よかった・・・本当によかった・・
「おめでとう!」って抱きつく・・
- 655 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 13:41
- 「ありがとう・・・・で、ご褒美・・」
「あっ、うん・・」
私は顎をちょっとだけ上げて、目を閉じる。
・・・・で、待ってたんだけど・・・なかなか降りてこない・・・ごっちんの唇。
えっ?って目を開けたら、すごく近くに顔があって・・・
「ごめん・・・見蕩れてた・・」だって、もー、はずかしいんだからー!
「しないなら、いいーもん!」って、少しふて腐れたふりをして、横を向く。
その私の頬を、ごっちんの両手のひらが優しく捕まえて・・・
だから、もう一度目を閉じる。
だって・・・約束だもんね。
優しく落とされたそれは・・・柔らかくて・・・柔らかすぎて・・・
なにがあったのかもわからないくらい・・
目を開けると、真っ赤になっているごっちんがそこにいて・・・本当、かわいいんだからー!
あんまりかわいいから、つい抱きしめちゃう・・・
本当、バカだよね・・・・私たち・・
- 656 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 13:54
-
「ね、梨華ちゃん、さっきから何ニヤニヤしてんの?」
「あっ・・・・あのね、あの頃のこと思い出してた。」
「えっ?」
「・・・・出会った頃のこと・・」
「アタシと?」
「うん・・・ごっちんと出会って、友達になって・・・
それから、付き合い始めた頃のこと・・」
「そっか・・」
って、運転席のごっちんが、少し赤くなってる。
「でも、またどーして?」
「あー、なんだろな・・・さっきレナちゃんと話してて・・
私もあの年頃の時はどーだったかなって、思い返しちゃって・・」
「そー、で、あの子の具合どーだった?」
「うん、もー熱も下がって、結構、元気してた・・」
「よかった・・で、もう一つの病気は?」
「えっ?」
「恋煩い・・・」
「あっ、それも大丈夫だと思うけど・・・・ごっちん、気付いてたんだ・・」
「うん、こー見えても、ゴトーは心理学やってんだから、
梨華ちゃんの気持ち以外は、たいていお見通し・・・」
「私の気持ちはダメなの?」
「うん、今でも時々、理解不能になる・・」
「そーなの?」
「そー、主観が入りすぎると・・ダメみたいね・・人間って・・」
- 657 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 14:14
- ごっちんは、三年の春の大会で全国で準優勝したのを最後に、
あっさりと、陸上競技自体を辞めた。
「もったいないなー」と言う周りの声に、
「自分の限界くらいわかるから」なんて言ってた。
私は、なんとなく彼女の気持ちがわかったから、引き止めることはしなかった。
たぶん、この高校生活の間に受けたプレッシャーは、もう彼女の限度を超えていたのだろう。
だから、当然来ている、大学の推薦は、全部蹴って、それから猛勉強して、今の学校に入った。
心理学を専攻している理由は、たぶん冗談だと思うけど、
一番わかりやすいと思ってた私の気持ちが、一番わかんなかったから・・・なんだって・・
で、私は、今、矢口さんと同じ女子大に行っていて、
そーそー、彼女はコンパの女王なんて言われてて、隣の大学の男子学生のマスコットみたいになってる。
本当、かわいいから、そんなのがすごく似合ってる。
ただ時々、人数合せだって、コンパに誘われるのは、ちょっと困るけど。
安倍さんは、お父さんの故郷の北海道の大学で、酪農の勉強なんかしちゃって、
時々、上京してくるんだけど、メチャクチャなまってる。
亜弥ちゃんは、相変わらず元気で、この春まで、私の次の部長をやってた。
「石川さんも、たまには顔出してくださいよー」とか時々メールくれるけど、
三年の時に代わった今のコーチは、スケベだからって、
うちの旦那様がうるさいから、めったに顔を出せない。
その代わりってゆーんじゃないけど、大学でもテニスを続けてるまいちゃんが、
ちょくちょく後輩の指導に行ってくれている。
それから、あの高橋さんは、あの後すぐから、また私たちの教室に来るようになった。
それが、以前とは打って変わって、よくしゃべって、明るくいつも笑ってた。
今は、音大の入試に向けて、勉強中。
- 658 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 14:27
- 付き合い始めてから、しばらくたった頃、
私の気持ちの変化のきっかけが、あの高橋さんの告白現場を見ちゃったからだって知ったごっちんは、
すごく不思議そーにしてたけど、
あれは、私もやっぱり・・・どーしてなのかわからない。
その後のごっちんの研究成果によると、
普段の印象との振り幅が大きかったから、そのショックが・・一種の危機感みたいなものになって・・・
なんてことと、それまでそーいった対象に思っていなかったのが、
高橋さんに自分を投影することによって、恋愛対象として認識しちゃったから・・・
なんてことらしいんだけど・・・・本当のところは、やっぱりよくわかんない。
それにきっと、あれは本当にただのきっかけで、
あのまま何にもなくても、
私はどこかでやっぱり、自分の気持ちに気付いたんだと思う。
ごっちんのことが好きだって思いは、
やっぱりどこかで、溢れちゃったんだと思う。
- 659 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 14:41
- で、後ろの席の・・・・あっ、寝てるんだ、頭重ねちゃって・・気持ちよさそーに・・
この二人は、それぞれ別の大学に進んでて、
・・・この二人って、本当のトコどーなんだろ・・
私たちなんか目じゃないくらいイチャイチャしてる時もあったりするけど、
美貴ちゃんには、ちゃんとボーイフレンドもいるみたいだし・・・本当のトコはやっぱりわかんない。
何でもお見通しだって言ってるごっちんに聞いても、笑ってるだけだし、
また何も知らないのは、私だけってヤツかも知れないけど、
何か言ってくるまでは、あえて聞かないでおこうと思う。
本当に大事なことは、ちゃんと話してくれる人たちだから・・・
「ね、ヨシコたち、寝てるの?」
「うん、そーみたい・・」
「じゃあ・・・」って、ごっちんは車を路肩に寄せて・・・・停車。
なに?って思ってると・・
「あのさ、あの時みたいな・・・キスしよっか・・・」って、
そっか、私があんなこと言ったから、ごっちんも思い出してたんだね・・・
だから・・・あの時みたいに、うんって頷く。
ふれるだけの優しいキス・・・・
あの場所を思い出させる柔らかいキス・・・
あの頃を蘇らせる幼いキス・・・
小さくふれて・・・・すぐに離れて・・・・見詰め合っちゃったりして・・・
わっ、なんかすごく恥ずかしい・・
気持ちまで、あの頃に戻ったみたい・・・
- 660 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 14:52
- 「でも、やっぱ、物足りないか・・・」って、
無粋な人が、もっと深いものを求めて・・・
何時からかなっちゃった少し大人な関係。
それは、ちょっと淋しくもあるけど・・・・・それはそれで・・・やっぱり幸せ。
だって、ごっちんのことマスマス好きになっていく・・・
いったいどのくらいあるんだろ・・・・私の中の好きの量・・
「あのー、お取り込み中、悪いんですけどー」
って、もっと無粋な人の声がして、
「起きてんだよねー、さっきからずっと・・」
「きゃ!」なんて、身体を離して・・・
「別にいいんだけどさ、ほっとくと、どこまで行っちゃうかわかんないから・・」
って、美貴ちゃん。
「たくー!まだ日が高いつーの!」
なんて、よっちゃん。
「そんなことしないから!」
って、私が言うのに、
「こら、邪魔すんな!イイトコなのに!」
なんて言っちゃうごっちん。
本当に相変わらずバカやってるよね・・・・私たち・・
でも、こーして笑っていられる。
みんなの中で笑っていられる。
それって、本当に幸せなことなんだ・・・・・・あの頃と変わらずに・・・
- 661 名前:あの頃・・・ 投稿日:2004/06/24(木) 14:53
-
「あの頃・・・」 完
- 662 名前:トーマ 投稿日:2004/06/24(木) 15:04
- 完結しました。
最後までお付き合い下さった、皆さん、本当にありがとうございました。
この板に長編を書きに来た割には、長い物も書けず、
結局中編4本で、だいたい容量いっぱいって感じですかね・・・
最後なのまとめておきます。
>>2 〜>>247 「君のいる場所・キミのいた場所」
>>264〜>>442 続編「キミとの時」
>>436〜>>526 「夏の記憶」
>>534〜>>661 サイドストーリー「あの頃・・・」
- 663 名前:トーマ 投稿日:2004/06/24(木) 15:13
-
だいぶ痛めの話から始めたこの板ですが、最後はただ甘いばっかしで・・・
でも、こんななんてことない話も、時にはいいのかなって思ってます。
最後なので、あげておきます。
このスレッドは、あと40biteを残すだけなので、本当にこれで完結です。
しばらくは、赤の方のリアル物でも書いて、
またなんだかの構想が出来ましたら、どこかの板の隅っこの方にでも、お邪魔したいと思ってます。
その時はまたよろしくお願いします。
- 664 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/24(木) 15:35
- 完結おめでとうございます。
運良くリアルでみてました。トーマさんの
作品はどれもツボで大好きで、自分の中で名作です。
サイドストーリーもとてもよかったです。
ハッピーエンドはいいですね〜とにかくとても
素晴らしかったとしか言えません。
本当にお疲れ様&ありがとうございました。
- 665 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/25(金) 00:37
- スレの完結、お疲れ様でした。
新たな名作を期待しております。
- 666 名前:さすらいゴガール 投稿日:2004/06/25(金) 21:09
- 完結おつかれさまです。
切なくてやさしい物語、とても楽しませていただきました。
ありがとうございます。
- 667 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 04:06
- トーマさんのいしごまは最高です
特に梨華ちゃんの描写はが良くて話に引き込まれます。
どうかまた、いしごまの長いの書いて欲しいです。
- 668 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/30(水) 22:53
- 読ませていただきました
普段はごま受推しなのに、トーマさんのせいでいしごまに浮気しそう(w
完結お疲れ様です
次回作もお待ちしてます
- 669 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/14(水) 22:18
- 完結おつかれさまです
またトーマさんの描くいしごまが読みたいです
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