逃避行
- 1 名前:いこーる 投稿日:2004/02/06(金) 11:03
- まりりかCPメイン その他、藤本・高橋出演
リアルな設定からスタートします。
エロ含み。
お目汚しとならぬよう頑張りますので。
よろしくお願いします。
- 2 名前:・・・ 投稿日:2004/02/06(金) 11:05
-
「ねぇみんな。生きているときってどんなとき?」
「食べてるとき」
「寝てるとき」
「ねぇみんな。本当に生きてるなぁって思えるのはどんなとき?」
「好きなことしてるとき」
「好きな人といるとき」
「そんな時間・・・わたしたちにあったっけ?」
- 3 名前:・・・ 投稿日:2004/02/06(金) 11:06
-
1.出発
- 4 名前:1.出発 投稿日:2004/02/06(金) 11:06
- 新幹線の2階の窓から見える景色は
くすんだ色をしていた。
こう見えるのも、
自分を取り囲む数々のしがらみのせいかもしれない。
でも、
今日でもう終わり。
仙台では、コンサートの準備が
着々と進んでいるのだろうか。
突然、出演者が2人も逃走したと
なったら一体どうなるだろうか。
―――中止?
いや、
それはいままでの経験からいって
ない。
多分、体調不良で2人欠席のまま、
コンサートは行われることだろう。
大勢の思惑が絡む私たちとは、
そういう存在なのだ・・・。
人形、看板、イメージ、表象文化財、カリスマ、アイドル。
そこから、私たちは逃げる。
- 5 名前:1.出発 投稿日:2004/02/06(金) 11:07
- 「私、疲れちゃいました」
物語はこの梨華のこの一言からはじまった。
といっても
「そう・・・おいらも、疲れたよ」
梨華の発言がすべての始まりだったのか、
真里の頭の中にはすでに逃避行の計画があったのかは
わからない。
ともかく、梨華にとってはこれが
すべての始まりだった。
「なんかもう、逃げたいですよね」
これは
何気なく、言ってみただけの言葉。
だって梨華にはわかっていたから。
自分は既にいろいろなことから逃げている。
仕事、生活、人間関係・・・恋。
どこまでも後ろ向きに、
途方もなく消極的に、
ポジティブなんて言葉が白々しく響くほどネガティブに、
梨華はこれまで逃げ続けてきた。
「逃げちゃおうか。その・・・おいらと2人で」
そう言われたときも、
特別な気はしなかった。
重要な決断だとは考えていなかった。
大事なことだったのに。
- 6 名前:1.出発 投稿日:2004/02/06(金) 11:08
- その晩に電話がかかってきて、
詳しい計画を聞かされた。
―――警察には知らされないように、
―――みんなには心配かけないように、
―――大騒ぎにならないように、
真里はそんなようなことをひとしきり梨華に話して
その後、逃亡の方法を語りだしたのだ。
- 7 名前:1.出発 投稿日:2004/02/06(金) 11:08
- 家族の前から姿を消すと、スタッフよりも先に
警察に捜索依頼をする可能性が高いから×。
逃走するなら、仕事中または移動中がよい。
なるべく、
すぐには追って来れないような状況で。
なるべく、
自分たちの行き先を予測させない方法で。
そしてなるべく、
スタッフの落ち度となるような状況で・・・
移動中にメンバーが2人失踪したとなれば
これは会社を揺さぶる大問題である。
会社は威信にかけてでも、自分たちの手で
2人を探そうとするだろう。
そうすればしばらくの間は
警察の介入も避けられる。
もっとも、
成人している真里が家出したところで
大掛かりな捜索が行われるはずがない。
梨華だって10代ではあるが
家出したくらいで警察が本格的に動くとは考えにくい。
ただ、例えば2人が失踪したと
大きく報道されてしまった場合、
有名人である自分たちの目撃情報は
あっという間に集まってしまうだろう。
だから、なるべく
会社が2人の失踪を隠したがるような状況で
逃げ出すのがいい。
- 8 名前:1.出発 投稿日:2004/02/06(金) 11:08
- 新幹線は腹が立つほど高速で走っている。
・・・急ぎなさい。
・・・慌てなさい。
・・・早くしなさい。
・・・追い込まれなさい。
新幹線は真里の神経を逆なでするほど高速で走っている。
―――何を急ぐんだよ・・・
何度も考えた。
自分は何を急いでいるんだろう。
自分は何に必死なんだろう。
答えは
出るわけない。
真里は車内の様子をうかがっていた。
今は、誰も自分たちに注目していない。
移動中なので、誰からも見られていない。
そんなひと時が貴重。
いつからだろう。
見られることに疲れ、
見せることが嫌になり、
それでも自分を演出し続けた。
そうしているうちに、自分の中の一番自分らしい部分が
見つからなくなっていった。
- 9 名前:1.出発 投稿日:2004/02/06(金) 11:09
-
まもなく郡山に到着いたします。
車内アナウンスが流れる。
「ちょっと、トイレ」
真里は打ち合わせどおりのせりふで
席を立った。
車両後方の扉を抜けてデッキに出た。
車両の出入り口には見張りのスタッフが一人立っている。
といっても、
いちいちトイレに行くメンバーを
引き止めたりはしないので
真里は無言でそばを通り過ぎ
洗面所へと入った。
ここで、梨華が来るのを待つ。
梨華が今朝東京駅の改札を通した切符を2枚
持ってくるはずだ。
メンバー用の切符はスタッフが保管してしまうので
真里は事前に自由席切符を仕入れておいた。
今朝、
スタッフの目を盗んで、東京駅の改札の外から
切符だけをするりするりと投入し、
改札を先に通った梨華がそれをすばやく受け取った。
そうして真里は
他のメンバーとともにスタッフの持っていた切符で
新幹線に乗り込んだのだった。
- 10 名前:1.出発 投稿日:2004/02/06(金) 11:09
- しばらくして
扉の開く音。
足音が近づいてくる。
そうして梨華が洗面所に来た。
「石川・・・。本当にいいの?」
「はい」
「じゃ、行こう」
真里は洗面所から顔を覗かせ
さっきのスタッフの様子を確認する。
こちらを向く気配はない。
そもそも彼は、メンバーのいる車両に紛れ込もうとする
一般の乗客を止めるのが仕事であって
メンバーが自分の意思で逃げ出すなんて
予想もしていないだろう。
タイミングを見計らって外に出ると
音を立てないように階段を降りていった。
後ろから梨華がついてくる。
出入り口の前に立つと、
新幹線がちょうど駅に滑り込むところだった。
- 11 名前:1.出発 投稿日:2004/02/06(金) 11:10
- 真里はポケットに忍ばせてた帽子を取り出し、
今かぶっている帽子と交換した。
背の低い真里のことを
スタッフは帽子でしか認識できない。
帽子さえ取り替えてしまえば、
それが真里であることがわからないだろう。
まして敵はみな、2階席にいるはずだ。
顔は見えない。
梨華も帽子を取り替えた。
梨華は特別背が低いわけではないので
帽子だけでは不十分だったが、
あまり手の込んだ変装をする余裕はなかった。
扉が
開いた。
―――みんな、さよなら
これで
人間関係や、周囲の期待に
押しつぶされそうな毎日とはおさらば。
ここからは
―――おいらと石川の逃避行。
2人は走り出した。
17:59 郡山着
- 12 名前:いこーる 投稿日:2004/02/06(金) 11:13
- 本日の更新は以上になります。
感想等いただけると嬉しいです。
- 13 名前:愛のシャボン玉 投稿日:2004/02/06(金) 11:19
- 面白そうな設定なのでこれからも楽しみにしたいです
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/06(金) 12:20
- この先がものすごく気になります
続きが早く読みたいです
- 15 名前:みっくす 投稿日:2004/02/08(日) 08:15
- 今回もおもしろそうですね。
前作も読ませていただいていました。
ここに繋がっていたんですね。
次回も楽しみにしてます。
- 16 名前:いこーる 投稿日:2004/02/10(火) 00:55
- 続きを更新します。
- 17 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 00:57
- 「電車って不思議なものでね、
乗っている人たちは全然動かないんだ。
止まっている。
それなのにみんな、自分たちが何かをしていると
信じて疑わない」
- 18 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 00:57
-
2.逃げるものと追うもの
- 19 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 00:58
- 新幹線の改札を抜けて、
大急ぎで在来線のホームへ向かう。
「途中で見つかったときに、すぐ針路変更できるように
在来線を使ったほうがいい」
電話で真里はそう言った。
停車駅の少ない新幹線よりも
在来線の方が小回りが効く。
本数も新幹線より多いからこまめに移動できる。
「青春18切符を15回分買ってあるから、
二人で一週間は乗れるよ」
郡山で新幹線を飛び降りて、
東北本線に乗り換え、
後の進路はその場で決める。
それが真里の計画だった。
18:15 郡山発
- 20 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 00:58
- 扉が閉まって電車が動き出した。
みんなはもう2人が降りたことに気がついただろうか。
―――上手くいった・・・
そう考えると
梨華は笑い出したくなってしまった。
「石川?なににやけてるの?」
真里が覗き込んでくる。
「だってぇ。上手くいったなぁって」
梨華は小声でそう答えた。
「15分待ちで乗れるなんて、
郡山にしてはめずらしいよね」
真里は言ったが、その辺のことは
梨華にはよくわからなかった。
19:18 黒磯着
- 21 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 00:58
- 19:24 黒磯発
乗り換えもスムーズ。
周りの人たちも騒ぎ出さないし、いい感じだ。
といっても最近の人たちは芸能人くらいでは
大騒ぎしないが。
本人がいなくなってから友人にメールで報告する
程度だろう。
だから、あまり大人は心配いらない。
また、真里たちの熱狂的なファンも
一部を除いて安全だ。
彼らは、真里たちを見つけるとギリギリのところまで
近づいてはくるが、それ以上のプライバシーゾーンには
むやみに入り込んでは来ない。
危ないのは・・・
中高生の集団。
例えば
あっ、と誰かが叫ぶ。
何?何?何?
えっ、石川梨華?矢口真里?
私も見たい!
キャーキャーキャー
下手をすると取り囲まれてしまうこともある。
気をつけなくてはならない。
- 22 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 00:58
- 窓の外にはさえぎる物もなく、
ただただ景色が広がっている。
もう日も沈み、夜が垂れ込めている。
そのため、
この景色がどこまでいって
どこで途切れているのか認識できない。
梨華には野原が無限に広がるように思えた。
「矢口さん。どうして私を誘ったんですか?」
そんなことを聞いてみた。
「どうしてって・・・」
真里は返答に詰まっている。
「石川、逃げたいって言ってたじゃん」
「そうですけど。もしかりに、私が行かないって言ってたら
矢口さん一人で逃げてましたか?」
「ううん。石川がいないなら、おいら逃げてなかった・・・」
「どうして?」
「どうしてって・・・」
再び真里は返答に詰まる。
22:02 赤羽着
- 23 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 00:59
- 22:07 赤羽発
「あっ、乗り換えますよ」
愛の声がする。
「わかってる・・・」
美貴は短く答えた。
赤羽で、2人は電車を降りた。
美貴も気づかれないように下車する。
愛もついてきた。
美貴はふぅっとため息をついた。
東京駅で、
真里が投入した切符を梨華が受け取っているのを
美貴は目撃してしまった。
新幹線で
真里につづいてトイレに立った梨華を見て
―――梨華ちゃん・・・
美貴は思わず後をつけてしまった。
するとなんと
2人は郡山で途中下車をしてしまったではないか。
手ぶらで、
誰にも言わずに走り出す二人を見て
美貴も新幹線を降りてしまったのだ。
- 24 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 01:00
- ―――梨華ちゃん・・・待って。
美貴は、
2人の後をつけていくことに決めた。
真里が梨華とどういう関係なのか・・・
梨華が何を考えてみんなの前から、いや
自分の前から姿を消そうとしているのか。
―――どうせ梨華ちゃんにとって美貴はその程度だよね
悔しかった。
2人を追いかけようとしたときに気がついた。
もう一人、新幹線を降りてくる。
「愛ちゃん」
愛だった。
「何してるの?」
- 25 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 01:00
- 「藤本さんこそ、どうしたんですか?急に降りちゃうなんて」
「2人が降りたの、気づかなかった?」
「え?誰が?」
美貴は説明する時間がもったいなかったので
愛を置いて走り出した。
「あっ、待ってください」
しかし
愛はしっかりとついてきてしまった。
まったく、
突然4人もメンバーが消えては大騒動だ。
しかし、美貴には引き返すつもりはなかった。
梨華を追いかけて、どこまでも行く覚悟だった。
「どうして連絡しないんですか?」
愛が咎めるように聞いてくる。
「うるさい。文句があるなら美貴の前から消えて!」
愛は黙ってついてきた。
―――このコ、どういうつもりだろう。
美貴にはわからなかった。
- 26 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 01:01
- 22:30 渋谷着
渋谷で降りる。
真里と梨華は堂々とハチ公口をくぐり、横断歩道を渡った。
「矢口さん・・・渋谷はやばいですよ。見つかっちゃう」
「大丈夫!」
真里はずんずん進む。
「もう、この時間なら中学生はいないでしょ?かえって渋谷は安全だよ」
途中でコンビニによってお金を30万円おろした。
これで当面の生活には困らない。
すれ違う人たちは2人を見て一瞬注目するが
そのまま素通りしてしまう。
―――なるほど。
渋谷の人々は芸能人に慣れているから、
たとえトップアイドルが目の前にいたとしても大騒ぎはしない。
すれ違ってしばらくしてから、
今の石川梨華じゃない?
そう。
ここはかえって安全なのだ。
梨華は林立するビルに切り取られ、
肩身の狭くなった夜空を見上げた。
空は暗く、不気味。
地上は、ネオンや街頭のおかげで
やたらと明るい。
渋谷は
梨華の希望と不安みたいだった。
- 27 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 01:01
- 「さぁ石川。ついた」
「?」
ここが?
梨華が一番心配していたのは宿だった。
逃避行するにも、寝る場所は必要だ。
ちゃんとしたホテルは名前を書かなくてはならないし、
顔がわれてしまう可能性がある。
カプセルホテルは女が泊まれるところは少ない。
アイドルが野宿というわけにもいかなかった。
―――だからって・・・
「渋谷のホテル街は有名なんだよ」
それは知っている。
ラブホテルの中には顔さえ見せなくても入れるところもあるし
確かに一番安全だ。
同性お断りの場合もあるが・・・OKの店もある。
「それに安い」
真里は言う。
「だからって・・・」
「でも、他にないでしょう?」
「そうですけど・・・」
真里はすいすいとホテルに入ってしまった。
- 28 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 01:01
- 「うそでしょう・・・」
美貴は声を漏らした。
二人を追いかけてみたら行き先はラブホテル。
―――もう、2人はそんなところまで・・・
美貴は感傷に浸りそうになるが、
踏みとどまる。
それよりも、
この状況をどうしたらいいのだろう。
もう時間が時間だから自分たちも
寝る場所を決めなくてはならない。
ちゃんとしたホテルは顔がわれるかもしれないし
カプセルは女じゃ利用できない。
野宿は論外。
―――だからって・・・
「藤本さん。どうしましょう」
愛と2人でここに泊まらなければならないのか。
「泊まるしか・・・ないよね?」
「そうですけど」
愛も戸惑っている。
「シングルルームなんてあるわけないし・・・愛ちゃん」
「はい?」
「変なこと、考えないでよ!」
美貴はホテルへと入っていった。
「あっ・・・待って」
愛がついてくる。
- 29 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 01:02
- 「ねぇ石川」
部屋の中。
ホテルの妙な雰囲気につつまれて
同じベッドに横たわる真里と梨華。
「はい?」
梨華は真里の方を向いた。
「その・・・ありがと」
真里は目を伏せながら言う。
「なにが?」
「おいらに・・・ついて来てくれて。嬉しかったよ」
「そんな。私も矢口さんが誘ってくれて嬉しかった」
真里の目が梨華を向く。
「おいらたち、気がついたらすんげぇことになってて、
みんなの期待にこたえてさぁ。
休む暇もなく、夢に向かって突っ走ってきたけど・・・
疲れたよね」
「うん・・・」
「なんか、夢をつかまえて、次に行こうとしたら。
おいら、急に怖くなっちゃって」
「・・・」
「でも、みんながおいらを見てて。正直キツかった」
「矢口さん・・・」
―――矢口さんがそんなふうに思っていたなんて。
「明日はさ、一旦横浜に出るよ。ロッカーに荷物が置いてあるんだ」
なんと準備がいいのだろう。
こんなに計画的な逃亡なら、
梨華は上手くいく気がした。
- 30 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 01:02
- 「矢口さん・・・私、矢口さんと一緒に行きます」
「石川?」
「ついていきますから!」
「ありがと」
真里がまっすぐな目で梨華を見る。
しばらくそのまま。
突然、
真里の顔が近づいてきた。
―――あっ!
梨華はとっさに後ろに引く。
―――矢口さん。今・・・キスしようとした?
梨華は目を伏せてしまう。
「石川・・・」
真里の
落胆。
失望。
梨華はどうしていいかわからない。
「やぐ・・・ち・・さん?」
「ご・・・めん」
違う。
急に来たからびっくりしただけで、
―――別に私は・・・
「ごめんね」
また真里が謝る。
「・・・」
「もう、寝よっか?明日は早朝に出るからね」
真里は無理やりといった感じで目を閉じる。
梨華も気まずさに耐え切れずに目を閉じた。
- 31 名前:2.逃げるものと追うもの 投稿日:2004/02/10(火) 01:02
- 愛がようやく部屋に戻ってきた。
ベッドに横になったまま美貴は聞く。
「何してるの?」
「2人・・・明日は横浜に行く見たいです」
「立ち聞きしたの?」
美貴はため息をつく。
「だって、明日何時に出るかわからなきゃ、
追いかけられないじゃないですか」
確かにそうだけど。
どうしてこのコはこんなに追跡に乗り気なのだろう。
「もう疲れました。寝ます」
「え?」
愛はドサッと音を立ててベッドに倒れこんできた。
美貴はあわててスペースを作る。
「ありがとうございます」
愛は笑顔でベッドにもぐりこむと
―――・・・
即効で寝た。
「まったく」
美貴はつぶやく。
愛の胸が呼吸に合わせて小さく上下する。
―――変なこと、考えないでよ!
言うまでもなかった。
愛は何も考えていないのだろうか。
2人は横浜へ行く。
追いかけてやる。
美貴は眠れなかった。
- 32 名前:いこーる 投稿日:2004/02/10(火) 01:03
- 本日の更新は以上になります。
- 33 名前:いこーる 投稿日:2004/02/10(火) 01:10
- >>13 愛のシャボン玉さん
ありがとうございます。
この設定でなるべく面白い物語を書いていきたいと思います。
期待を裏切らないよう頑張っていきます。
>>14 名無飼育さん様
ご期待いただきありがとうございます。
一定のペースで更新できるように書いていきますので
よろしくおねがいします。
>>15 みっくす様
ありがとうございます。
前作からの読者様がいらっしゃると
非常に嬉しいです。
微妙に人物がリンクしておりますので
その辺も含めてよろしくお願いします。
- 34 名前:みっくす 投稿日:2004/02/10(火) 08:04
- 更新おつかれさまです。
こういうことだったのですね。
あの娘があの娘を思っていてでも、
あの娘はあの娘を思っている。
次回も楽しみにしてます。
- 35 名前:14 投稿日:2004/02/10(火) 08:54
- 更新、乙です
けど、またもや続きが気になりすぎです
期待して待ってます
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/11(水) 00:55
- どき×2わく×2が似合う作品ですね。
面白いです!
更新、期待してます。
- 37 名前:愛のシャボン玉 投稿日:2004/02/11(水) 13:16
- 更新お疲れ様です
さらに面白くなってきました
次回も期待しています
- 38 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:15
- 「私は、
自分じゃなくて
君を選んだんだ」
- 39 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:15
-
3.朝日の中
- 40 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:15
- 早朝に飛び起きた。
人のいない渋谷。
いつもは何百人何千人で共有しているスペースを
いまなら自分たちだけで使えてしまう。
それは、
ちょっとの解放感。
ちょっとの後ろめたさ。
―――なんか、学校サボった日に似てるな。
真里はそんなふうに思った。
本当は仕事をしなきゃいけない時間に
自分の好きなようにできる。
本当はみんなといなきゃいけない場面に
好きな人と2人だけでいる。
―――本当は、こんなことしてちゃいけないんだ・・・・・・
その後ろめたさが
なぜか
妙に
不思議に
不可思議に心地よい。
真里と梨華は東横線に乗り込んだ。
5:00 渋谷発
- 41 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:16
- 先頭車両には、誰もいない。
寝不足の中で早起きをしたのでまだ頭がボーッとしている。
しかし、
もたもたしていては人が集まって身動きが取れなくなってしまう。
横浜で荷物を取り出しているところを目撃されるかもしれない。
「やぐちさぁん」
梨華も眠いようで、しゃべり方に力がない。
でも
―――かわいい
そう思った。
真里は昨日の寝る前のことを思い出す。
梨華にキスしようとして、
逃げられた。
―――そりゃそうか。おいら石川のなんでもないんだ。
ただ、
現実から逃げたいと思った2人の
目的が一致したから
一緒にいるだけだ。
- 42 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:17
- 真里は外の景色を見た。
ちょうど朝日が昇ろうとしている。
きれいな景色だった。
「やぐちさぁん」
梨華があいかわらずの調子で話しかけてくる。
「ん?」
「きのうのあれ・・・・・・なんだったですかぁ?」
「えっ」
真里の心拍数が一気に上がった。
「なにって?」
「矢口さん。キス、しようとしましたよね」
「ん・・・・・・ごめん」
「いいんです。そうじゃないんです」
「え?」
「ただ、矢口さんは、どう思ってるのかな?それが知りたい」
電車がガタゴトと揺れる。
- 43 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:17
- 「おいらは、普通に、石川とキスがしたかった・・・・・・」
ボソボソと言う。
「それは、辻加護にしているような遊びのキスですか?」
梨華の口調はあいかわらず。
「石川・・・・・・おいら」
真里は、梨華を向く。
外は朝焼けで橙に色づいている。
「ん?」
「今回の逃避行。石川がいなかったら、
石川じゃなかったら、こんなことしてなかった。
だって、石川と一緒に行きたかったから。
おいらは、石川と一緒にいたかったから・・・・・・」
「矢口さん」
そのとき、
朝日が車両内に差し込んで、視界が光であふれる。
すべてのものが明るく、眩しい。
それが力となった。
真里に舞い込んだのは
ほんのちょっとの勇気。
- 44 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:17
- 「おいらの気持ちっ」
そういうと
真里は
梨華に
「んっ・・・・・・」
梨華は今度は逃げなかった。
2人はすぐ離れていく。
ほんのちょっとだけのキス。
「矢口さんの気持ち・・・・・・」
しかし梨華にはたっぷりと伝わった。
真里の熱い唇から、たっぷり感じた。
梨華は
真里の肩に頭を預ける。
背の低い真里の肩に頭を乗っけると
首が変な角度になってしまったが、
梨華はそのまま。
この人に自分を預けてみたい。
自分を任せてみたい。
そう、思えた。
「石川」
真里は光につつまれていた。
5:40 横浜着
- 45 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:18
- 横浜駅に降りる。
「石川。おいら、トイレに行ってくる」
真里はトイレに行ってしまった。
梨華は改札の中で真里を待つ。
―――ん?
梨華は変なものを見た。
新しくなった東横線改札。
その改札の外。
時間が早いのでまだ人は多くない。
そこに
見慣れた人影がある。
妙な存在感を放っていた。
早朝の横浜駅に場違いな存在。
ないはずのものがそこにいるという違和感。
しかし、
そんな環境的なバックアップがなくても
その人物は
自発的に
内から発せられる
不思議な存在感を持っていた。
- 46 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:18
- 梨華は改札の外に出て人影のところまで走る。
「あなたは・・・・・・」
その人物が、梨華を見上げた。
「どうしてあなたがここに?」
- 47 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:19
- 美貴と愛は東横線を降りて横浜駅の改札へ向かう。
2人に気づかれないように間隔をあけながら。
階段を降りかけたところで梨華の声が聞こえてきた。
「どうしてあなたがここに?」
―――何?
一体何が起きたのだろう。
美貴は階段を降りて柱の影に入った。
愛もぴったりついてくる。
そっと顔を出して様子を伺う。
―――え?
信じられなかった。
―――なんでこんなところに・・・・・・
- 48 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:19
- 梨華は相手に言う。
「何しに来たの」
相手は答えない。
キョロキョロと周りを見ている。
「あなた・・・・・・矢口さんに会いに来たのね?」
相手は答えない。
そのとき、遠くから
「石川ー?石川ー?」
真里が梨華を探す声がする。
―――はっ!
真里に見せてはいけない。
真里と会わせてはいけない。
梨華は
「矢口さん、来ちゃだめーーーーーー!」
ありったけの声で叫んだ。
梨華の甲高い声が響き渡る。
- 49 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:19
- そうして梨華は
再び目の前の人物に向かう
「お願い。矢口さんに会わないで・・・・・・。
私たち、2人で行くって決めたの。
お願い、邪魔しないで」
言う。
「石川ー?どうしたの?」
声が近づいてくる。
「矢口さん・・・・・・。来ちゃだめ!」
梨華は再び叫んだ。
目の前の少女は、
―――何よ・・・・・・そんな目で私を見ないで
まるでお化けを見るような目を梨華に向けた。
梨華は少女の目を凝視する。
―――このコの目・・・・・・
- 50 名前:3.朝日の中 投稿日:2004/02/13(金) 11:20
- 梨華は少女の強烈な存在を感じた。
それは周囲を圧倒するような存在感ではなく。
まったく逆の
―――吸い込まれそう
油断していたら
こちらが惹き込まれていきそうな
強力で絶大な存在感。
「石川?」
真里が梨華の後ろに来た。
―――ああ、矢口さん。
「どうし・・・・・・」
真里が少女に気づいた。
「矢口さん!」
少女が真里に話しかける。
その、引力のありそうな
つぶらな大きな瞳で・・・・・・。
真里の動きが止まった。
「村上・・・・・・」
- 51 名前:いこーる 投稿日:2004/02/13(金) 11:20
- 本日の更新は以上になります。
- 52 名前:いこーる 投稿日:2004/02/13(金) 11:26
- レス返しをさせていただきます
>>34 みっくす様
ありがとうございます。
ここからも単調にならぬように
更新していきます。
>>14
ありがとうございます
なるべく目の離せない展開を持続していきたいです。
>>36 名無し飼育さん様
ありがとうございます。
ワクワクしていただけると嬉しいです。
>>37 愛のシャボン玉様
ありがとうございます。
今後も頑張って更新していきますので
よろしくおねがいします。
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/13(金) 16:24
- やばい!気になります。
引き込まれた。
逃避行中毒かもw
旅にでようかな・・・w
- 54 名前:14 投稿日:2004/02/13(金) 16:54
- ミキティと高橋の方もどうなるんでしょうか?
続き気になりまくりです
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/13(金) 20:13
- むらむら(旧めーぐる)登場ですか
- 56 名前:みっくす 投稿日:2004/02/13(金) 21:36
- 意外な人物の登場ですね。
どうなるのかな。
次回もたのしみにしてます。
- 57 名前:4.大人として 投稿日:2004/02/16(月) 15:45
- 「横浜駅って変に閉塞感がない?」
「何それ?」
「天井とか別に低くないのに、
上から何かがのしかかってきそうな
そんな雰囲気があると思わない?」
「何の話?」
「私、ときどき思うんだよ・・・・・・
・・・・・・天井なんて見えなければいいのに」
- 58 名前:4.大人として 投稿日:2004/02/16(月) 15:45
-
4.大人として
- 59 名前:4.大人として 投稿日:2004/02/16(月) 15:46
- 早朝の横浜駅。
真里の前に突如現れた少女。
なぜこんな時間、こんなところに小学生がいるのだろう。
「矢口さん・・・・・・行っちゃうんですか?」
聞いてきた。
ボソっと、
消え入るように、
すがるように。
「矢口さんがいなかったら、私たち・・・・・・」
少女は、まっすぐ真里を見ている。
―――あぁ・・・・・・なんてこと
自分は、
このコたちを置き去りにして、
逃げようとしている。
自分の都合で、
まわりの期待を無視して
こんな子どもの声を無視して
それで自分は
逃げようとしている。
なんという、
自分勝手。
- 60 名前:4.大人として 投稿日:2004/02/16(月) 15:46
- 梨華は、じっと真里を見ていた。
少女の瞳と正面から向き合って
真里が揺らいでいるのが梨華にはわかった。
―――矢口さん・・・・・・
ああ、ひょっとしたら
ここで自分たちの逃亡は
あっけなく終わるのかも知れない。
真里が帰るといえば
梨華は、真里を置いてまで逃げることはしない。
一緒に逃げようって言ってくれた。
嬉しかった。
それが、
こんなところで
―――矢口さん・・・・・・!
梨華は祈るような気持ちになった。
- 61 名前:4.大人として 投稿日:2004/02/16(月) 15:46
- 少女の目を見ると
真里は自分が
いかに荒んだ
汚い大人になってしまったかを
思い知らされたようだった。
汚い大人の世界から逃げたくて、
そう思って飛び出してきた自分が
子どもに自分の都合を押し付けようとしている。
「村上・・・・・・このこと」
真里の口から
「言っちゃダメだからね。誰にも言うんじゃないよ!」
言葉が出た。
結局、身勝手なせりふ。
自分もやはり、
ずるい人間になってしまったのだ。
どこに逃げようと
それは変わらない。
- 62 名前:4.大人として 投稿日:2004/02/16(月) 15:47
- 少女は
絶望的な表情を浮かべ
その瞳からは
ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
周囲の視線が3人に集まってくる。
―――やめて・・・・・・
真里は、注目を集めている。
―――おいらを、見るな!
自分なんてただのわがまま。
救いようのない自己中。
注目に値しない存在なのに・・・・・・
―――もう、おいらを見ないで・・・・・・
「矢口さん!人が集まってきちゃう」
梨華に手を取られて
真里は
走り出した
- 63 名前:4.大人として 投稿日:2004/02/16(月) 15:47
- 梨華は真里の手を取ったまま
階段を駆け降りた。
猛スピードで走る。
大人2人が小学生を泣かせた。
誰かが2人を捕まえて
問いただしてくるかもしれない。
すぐにでも
ここを去らなければならない。
右寄りに走り
JRの改札へと向かう。
右手には、部活の遠征試合だろうか。
ジャージ姿の中学生が20人くらいたまっている。
その中の一人と
目が合ってしまった。
向こうはおや?という顔をする。
―――気づかれた!
梨華は左方向に切り返し
京浜急行の改札へ走る。
真里もついてくる。
「矢口さん!カード!!」
梨華は叫んだ。
真里は財布から2枚のカードを出し
1枚を梨華に渡した。
カードを自動改札に通して
ホームに駆け上がる。
ホームにはちょうど電車が入ってくるところだった。
- 64 名前:4.大人として 投稿日:2004/02/16(月) 15:47
- 美貴と愛は東横線の改札を出る。
「愛ちゃん!ダメ!!」
愛が泣いている少女の方へ駆け出そうとする。
美貴は愛の腕を引っ張って
2人の後を追った。
階段を降りると
2人は京浜急行の改札を通るところだった。
美貴はダッシュする。
カードを取り出し改札をくぐると
発車ベルが鳴っている。
―――待って!!
美貴は階段を1段とばしにホームへと駆け上がると
止まっていた電車に飛び込んだ。
―――間に合った・・・・・・
ドアが閉まる。
愛は
ついてきていない。
―――まいっか。知らない。
電車が動き出した。
階段を上ってくる愛の姿が見えた。
そしてホームの端に
―――!
真里と梨華がいた。
―――2人・・・・・・乗ってない
ホームはそのまま後方へと流れていく。
美貴1人を乗せて特急電車は走り出した。
- 65 名前:4.大人として 投稿日:2004/02/16(月) 15:48
- 梨華はホームに着くと電光掲示板を確認した。
6:05に特急電車が発車。
つづけて
6:07に普通電車が発車予定になっている。
まだ朝は早かったが特急電車は混んでいるかも知れない。
そこに乗り込むのは危険だと思った。
梨華は目立たないようにホーム端まで行って
そのことを真里に告げる。
真里は息を切らしながらうなづいた。
特急電車はホームを出て行った。
続けて普通電車がホームに入ってくる。
―――あっ・・・・・・届かない。
普通電車はホーム中ほどまでしかなかった。
梨華と真里はホームを移動して
普通電車に乗り込んだ。
6:07 横浜発
- 66 名前:いこーる 投稿日:2004/02/16(月) 15:49
- 本日の更新は以上です。
- 67 名前:いこーる 投稿日:2004/02/16(月) 15:59
- レスをいただきました。
>>53
ありがとうございます。
この話、旅行中に浮かんだんですよ。
自分はしょっちゅう逃避の旅行をしています(一人;汗)
これからもよろしくお気にかけてやってくださいませ。
>>14
いつもレスありがとうございます。
今後追跡組がどう絡んでいくのかについては
徐々に・・・・・・。
今後もよろしくお願いします。
>>55
ありがとうございます。
それにしても「むらむら」命名はやはり矢口さんでしょうか。
彼女のネーミングセンス結構渋いと思いますw。
これからもよろしくお願いします。
>>56 みっくす様
いつもレスありがとうございます。
本当はここ、別の人物にする予定だったのですが・・・・・・。
本当の彼女はこんなこと言わないだろうけど
イメージ的にマッチしたのでご登場いただきました。
これからもよろしくおねがいします。
- 68 名前:いこーる 投稿日:2004/02/16(月) 16:00
- ところで作中の「愛」はあいちゃんです。
めぐみちゃんじゃありません。
両方登場さすからややこしいことになった;汗
- 69 名前:ss.com 投稿日:2004/02/16(月) 18:44
- 始めから読んでいましたが、こちらのスレには初レスです。
いこーるさんご自身がおっしゃる通り、前作とは雰囲気がガラリと変わっていますね。
ほんと、意外な人物の登場。そして、逃げる二人と追う二人。先がすっごい気になります。
頑張って下さい。期待しています。
- 70 名前:みっくす 投稿日:2004/02/16(月) 23:08
- どうなる事かとおもいましたが、
無事に?解決。
次回も楽しみにしてます。
そういえば、めーぐるも愛でしたね。
あいとめぐみだけど、漢字は一緒ですもね。
- 71 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:40
- 私の命が解放されるとしたら・・・・・・
そこに必要なのは愛だけだ
- 72 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:43
-
5.カタルシス
- 73 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:44
- 美貴を乗せた電車が次々と駅を通過していく。
特急はやはり速かった。
必死に2人を追っていたら
とんでもないドジをしてしまった。
―――上大岡まで止まらないのか。
どうしよう。
2人がこっちに来るとは限らないし・・・・・・
その時
美貴の携帯が鳴った。
ヤバッ・・・・・・
車内ではマナーモードに切り替え
通話はご遠慮ください。
あわてて携帯を取り出すと
愛からのメールだった。
件名:なし
本文:
2人は次の電車の先頭車両です。
私は最後尾に乗ってます。
気づかれてません。
- 74 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:44
- 美貴は返信をせずに携帯をしまった。
―――ムカつく・・・・・・
なぜ自分の憎悪が愛に向かっているのだろう。
彼女が何をしたわけではない。
それなのに、
自分は彼女に対して理由もなく怒っている。
―――いや、理由ならあるか・・・・・・
愛のお節介がムカつくのだ。
自分とは関わりのない事件に
首を突っ込もうとする愛。
それが、無性に腹立たしい。
特急電車は上大岡に到着する。
―――2人が途中駅で降りませんように。
美貴は電車を降りた。
再び携帯を取り出す。
―――ん?
見るともう一件メールの着信があったようだった。
夜、電源を切っている間に届いたもののようだ。
―――誰から?
美貴は中身を見た。
- 75 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:45
- 梨華と真里は並んで座った。
―――大丈夫だったかな?
横浜で大声を出してしまったし
ずいぶん目立つ動きをしてしまった。
ひょっとすると追っ手が横浜に来ているかもしれない。
梨華は車内の路線図を見た。
電車はこのまま乗っていると
浦賀へといってしまう。
そうなった場合、
横浜方面へと引き返すしかなくなってしまう。
―――乗り換えなきゃ・・・・・・
電車は上大岡に到着した。
上大岡で市営地下鉄に乗り換えて戸塚へ、
戸塚から東海道線で西へ逃げられる。
「矢口さん、乗り換えた方が」
梨華は立ち上がって真里を見た。
「矢口さ・・・・・・」
真里は、
唇をきつくむすんで
何かをこらえるような表情をしていた。
手が
わずかに震えている。
さっきの一件がこたえているのだ。
―――矢口さん・・・・・・
梨華は、
どうしていいのかわからなかった。
そのまま、
ドアが閉まってしまった。
電車は動き出す。
- 76 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:45
- 美貴は最後尾の車両に乗ると愛を見つけた。
「おかえりなさい」
愛がおかしそうに言う。
「帰ってない」
美貴は面白くない。
電車が発車した。
「愛ちゃん」
「はい」
「あのコ。あなたが呼んだんでしょう」
「そうです」
「なんで、余計なことすんの?」
愛は無言で携帯を取りだしていじる。
そうして、
「これ」
美貴に携帯を渡した。
表示されているのはメールだった。
4人が新幹線から失踪したという話を聞いた。
どうにかして真里に会いたい。
居場所がわかるなら教えて欲しい。
そんな内容だった。
「これを、放っておけって言うんですか?」
- 77 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:46
- 美貴はため息をつく。
―――まったく、お人よしさん。
「いい?みんな自分のことで必死なの!
あの2人だって遊びでこんなことしてんじゃないの!
あなたが余計な世話をやいたせいで、
見たでしょう?さっきの。
泣いてたじゃない!
結局、矢口さんは逃げていったじゃない。
もう、おせっかいなんてやめなさい
自分が損するだけよ」
「亀井ちゃんたちのときみたくですか?」
「何だって?」
「・・・・・・なんでもないです」
愛はしまったという顔をして黙った。
―――こいつ・・・・・・
- 78 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:46
- 美貴には仲間がいなかった。
同期で入った3人はみんな美貴よりも
遥かに年下。
でも、
美貴は同期の仲間として
彼女たちと仲良くしたかった。
彼女たちは、何かに悩んでいた。
美貴は力になってやりたいと思った。
相談を受け、
励ました。
協力した。
彼女たちのために
いろいろと世話を焼いた。
だが、
3人の関係は最悪の形で崩壊した。
美貴は自分を呪った。
余計なことをしたばっかりに3人は
泥沼にはまってしまったのだ。
ついさっき、上大岡で
れいなからメールが届いていたのに気がついた。
メールには
美貴の献身に対する礼と、
3人の関係が修復されたことの報告が書かれていた。
- 79 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:46
-
自分が関わったところで破綻がおこり
自分の関わらなかったところで解決した。
なんて、
できの悪い物語だろう。
自分は何の意味もない。
自分なんていないほうが、
余計なことなどしないほうがよかったのではないか。
―――もう、いい人役は嫌。
いろいろしてやっても、
自分には結局何も残らない。
人に何をしてやることもできない。
だったら、
もっと自分勝手に
自分の都合で動いた方がよいではないか。
結果を出さない親切は最悪。
自分の利益のためなら、
皆がやってること。
その方がまともに思えた。
―――今回の美貴は、悪役なんだ。
今度は、
自分の欲しいものを
手に入れる。
―――梨華ちゃん・・・・・・
何をしてでも
手に入れてやる。
「愛ちゃん」
美貴は愛に言った。
「親切のつもりでついて来てるなら消えて」
- 80 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:47
- 電車は金沢八景を越えた。
真里がさっきからずっと
床を睨みつけたまま
悲壮な顔をしている。
―――矢口さん
梨華はずっと真里を見ている。
大丈夫だろうか。
方々からの期待が真里を押し潰そうとしている。
梨華にはそれがわかっていた。
だから、こうして逃げているのだ。
さっきの少女のせりふ、
―――矢口さんがいなかったら、私たち・・・・・・
真里の受けたショックははかり知れない。
せっかく逃げてきたのに、
その矢先に
真里の責任感に巨大な錘をのせる一言だったに違いない。
再び真里は潰されそうになっている。
「おいら・・・・・・卑怯だ」
- 81 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:47
-
真里はそう言った。
声が震えている。
「石川。おいら・・・・・・」
「泣いていても」
梨華は
「卑怯でも」
真里の
「私は矢口さんと一緒です」
手を握った。
「ありがと」
真里の目から
涙がこぼれて梨華の手の甲に落ちた。
電車は堀ノ内に着いた。
「降りましょう」
「うん」
2人は電車を降りる。
6:53 堀ノ内着
- 82 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:48
- 6:58 堀ノ内発
このまま行くと
三崎口、三浦半島の先端まで行ってしまう。
梨華はルートを頭に描く。
1. 久里浜で乗り換え
2. 引き返して上大岡で地下鉄
3. 引き返して横浜
そのいずれか。
梨華は真里を見る。
下を向いたままの真里。
今の真里を連れて
横浜方面に戻る気にはなれなかった。
さっきの少女がどのような騒ぎとなっているか
わからなかったし
真里の精神状態からいっても
横浜方面に引き返すのは危険に思われた。
久里浜が、最後のチャンス。
電車はホームへと入っていく。
7:04 京急久里浜着
- 83 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:50
- 京急久里浜を降りると2人は
外に出た。
休日の朝はのんびりしていた。
駅前のロータリーは閑散としている。
店もほとんど開いていない。
ようやく
2人は人の少ない場所に来た。
―――これならどこかで朝食をとれるかも・・・・・・
梨華はそのことを真里に告げた。
「あのね、石川」
「はい?」
「マフィン食べよう」
真里はまだ鼻声だったが
幾分かは元気を取り戻したようだった。
暖かい風が通り抜けた。
- 84 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:51
- ファーストフード店。
念のため帽子を深くかぶりなおして
2人でマフィンを注文した。
店の一番端の席に座った。
2人・・・・・・並んで。
「矢口さん・・・・・・」
「ん?」
「この後どうしますか?」
「久里浜からJRに乗って・・・・・・乗り換えは・・・・・・」
「大船です」
―――・・・・・・。
真里は考える。
大船・・・・・・大船。
どんなホームだっただろうか。
それほど大きな駅ではない。
2人が京浜急行に乗ったという
目撃情報がすでに流れているとしたら
追ってはどこまで来ているだろうか。
待ち構えるなら
戸塚
あるいは
大船。
「大船は・・・・・・危ないかもね」
「矢口さん、私考えたんですけど」
梨華が真里に
計画を語る。
- 85 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:51
- 「大船の直前、鎌倉で乗り換えたらいいんじゃ・・・・・・」
「鎌倉ってことは、江ノ電?」
「そうです。江ノ電はホームが小さいから見つかるとやばいけど、
あの電車遅いし、逃亡中の私たちが使うなんて予測できないと思うんです」
「なるほど」
「それで終点の藤沢まで行っちゃって、後は・・・・・・」
「東海道線で西に逃げる」
「そうです」
梨華は大真面目に言う。
けど
―――あっ・・・・・・
「石川、ついてるよ」
梨華の口元に
玉子のカスがついてる。
真里はナプキンで
梨華の口を拭いてやった。
拭いてやってる間
なぜか梨華は目を閉じていた。
「はい、いいよ石川」
梨華が目を開ける。
すぐ近くに
梨華のキラキラした瞳。
―――かわいい・・・・・・
- 86 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:51
- 真里と梨華はしばらくそのまま
見つめあう。
梨華は、まっすぐ真里を見てきた。
「うはははっ・・・・・・恥ずかしい!」
真里は突然大声で笑った。
照れ隠しだった。
梨華は
「あっ・・・・・・石川?」
さっきよりも真里の方に寄ってくる。
2人はぴったりとくっついた。
真里は
ドキドキ。
「おいしいね・・・・・・」
「はい」
真里は久しぶりのマフィンの味も
よくわからず、ただ口に運ぶ。
でも、
―――美味しい・・・・・・
そう思えた。
- 87 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:52
- JR久里浜駅は
京浜急行の駅からは5分ほど離れていた。
その道のりを
真里は
ぴょんぴょんと
スキップしながら進んだ。
「矢口さん。恥ずかしいから止めて」
梨華は止めようとするが
「だって、なんか楽しくってさ!」
止めてくれない。
―――よかった・・・・・・矢口さん元気になって
梨華も止めることはすぐにあきらめた。
このぐらい元気な方が真里らしく思えた。
そのまま久里浜駅まで。
パチンコ屋のそばにある小さな駅で
2人は18切符にスタンプを押してもらう。
電光掲示板を見ると次の列車は
7:32発。
時計を見ると
7:31
「石川、急ごう」
真里は改札を抜けて階段を駆け上がる。
梨華も階段を駆け上がる。
- 88 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:53
- ホームに到着したころには
電車は出発していた。
「もう・・・・・・京急なら待ってくれるのにぃ」
梨華は不満そうな声を出す。
ホームには他に誰もいなかった。
久里浜の駅には潮風が漂っていた。
―――海の匂い・・・・・・
真里はいいようのない懐かしさを感じた。
なんだろう、
この気持ち。
―――それに・・・・・・
梨華と一緒にいられるのが
嬉しくてしかたがなかった。
都会の喧騒を忘れ
過酷だった仕事を抜けて
たどりついたのは
小さな駅。
―――いままで、キツかったから・・・・・・
肉体的にも、
精神的にも。
それなりに充実していたとは思う。
しかし、こうしてのんびりとした
風景の中に身をおいてみると、
これまで自分がいかに
せかせかした生き方をしていたのかが
身に沁みた。
- 89 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:53
- 2人だけの自由を手に入れたんだ・・・・・・
そう思うと
―――やだ・・・・・・また・・・・・・
再び涙が込み上げてきた。
ボロボロだった今までの自分。
自分で自分を追い込んで
自分で参っていた悲惨な日々。
そういうのとは
これでさよなら。
「矢口さん・・・・・・」
だから、
喜んでいいはずなのに
もっと弾んでいいはずなのに
どうして泣きたくなるんだろう・・・・・・。
「矢口さん。大丈夫?」
梨華は真里を
ぐっと抱きしめた。
小さな真里の頭は
梨華の胸の中。
- 90 名前:5.カタルシス 投稿日:2004/02/19(木) 13:54
- 「矢口さん・・・・・・元気出して」
ぎゅっとされた。
梨華の優しさに触れ
梨華の胸の中にいて、
もっともっと涙が出てきた。
「矢口さん。
大変だったんだよね?
つらかったんだよね?
もう苦しくないんだよ。
我慢しなくていいんだよ」
限界だった。
これまで溜め込んでいたもの
全てを吐き出すように
「うわぁぁぁぁぁぁん。うわぁぁぁぁぁぁ」
真里は声を上げて泣いた。
子どものように
梨華の胸で
思いっきり泣いた。
真里の苦しみは
あたりを駆け抜け
散逸していく。
次の電車がくるまで、
まだしばらく時間があった。
- 91 名前:いこーる 投稿日:2004/02/19(木) 13:55
- 本日の更新は以上です。
- 92 名前:いこーる 投稿日:2004/02/19(木) 13:59
- レスありがとうございます。
>>69 ss.com様
どうも、レスありがとうございます。
前作ボーダーレスとはちょっと趣向を変えてチャレンジしています。
というか今思えば、「ボーダレス」の勢いが信じられないです;
これからも頑張って更新していきますのでよろしくおねがいします。
>>70 みっくす様
解決したか後を引くかは現時点ではなんとも……。
毎回楽しみにしていただいて本当、励みになります。
これからもよろしくおねがいします。
- 93 名前:いこーる 投稿日:2004/02/19(木) 14:03
- 補足説明です。
>>78-79
この部分には下敷きとなるエピソードがあります。
金板「ボーダーレス」 完結済
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/gold/1073350337/
読まなくても、こちらの話がわからなくなるわけじゃありませんので
問題ないですが一応宣伝させていただきます。
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/19(木) 14:10
- ちょっちボーダレスが入っていたので
嬉しかったりします。
更新がんばってください。
- 95 名前:14 投稿日:2004/02/19(木) 20:57
- 電車や駅を頭の中で思い出しながら読んでいます
二人は、一体どこまで行くのか、この先も目が離せませんね
- 96 名前:みっくす 投稿日:2004/02/20(金) 01:39
- 今回はなんだかすごく切ないかんじになりました。
いろんな思いが交差してるんですね。
どの思いが実をむすぶのかなぁ。
次回も楽しみにしています。
- 97 名前:名無子 投稿日:2004/02/20(金) 23:24
- 臨場間があって引き込まれます。
気丈に見えたけど追い込まれていた矢口さん、支える石川さん、追う二人の出方もとても気になります。
- 98 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:34
- 「帰りたいの?」
「え?」
「私は、帰りたくない・・・」
- 99 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:34
-
6.接近
- 100 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:35
- 電車がやってきて
2人は電車に乗り込む。
そこでようやく
美貴はホームに行くことができた。
―――見つからないように追いかけるのって・・・・・・
しんどかった。
しかも後ろにはぴったりと
「待ってください」
愛。
―――うっとうしい・・・・・・
それにしても2人の行き先がまるで読めない。
延々南下してきたと思ったら、
横須賀線。
どこへ行こうというのだろう。
「ねぇ愛ちゃん?」
「はい?」
「2人はどこ行くんだと思う?」
「わかりません」
即答。
―――役に立たない・・・・・・
でも、
ずっと追いかけている2人にも
行き先がわからないのだから
後から来ている追っ手たちには
2人を捕まえようがないだろう。
小さな会社。
警察じゃないんだから。
ひょっとしたら
目的地を悟られないために
わざと変なコースをたどっているのかも知れない。
―――なんか、2人。上手く逃げそうじゃん・・・・・・
美貴は電車に乗り込む。
7:45 久里浜発
- 101 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:35
- 電車が発車するとようやく
真里は泣き止んだ。
「矢口さん」
梨華が話しかける。
「ん?」
「もう私の前では、から元気はやめてくださいね」
「え?」
「矢口さん、いつも元気に見えるから
みんな元気な矢口さんを期待してるんじゃないですか?
でも、私はそんなうわべの矢口さんを見てるんじゃない」
なんか、
ものすごく
嬉しい言葉。
「私には、そのままの矢口さんでいてください」
「ん・・・・・・わかった。ごめん」
素直にそう言った。
―――おいら、なんか・・・・・・
飾らない自分にたどり着けそうな気がした。
- 102 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:36
- 「藤本さんすごい!トンネルの中で止まっちゃいましたよ」
田浦はホームが短いのでトンネルの中に
もぐったままの車両がある。
この車両からは乗り降りできない。
「あはっ、面白い」
すっかり旅行気分の愛。
このコは本当になんで美貴についてきているのだろう。
まぁ・・・・・・今はまだ座って二人を追っているだけだから
のんびりでもいい。
―――今はまだ・・・・・・
美貴の心は全然のんびりしていなかった。
- 103 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:36
- 逗子を越え、電車は鎌倉に到着した。
「よし、降りよう」
8:15 鎌倉着
「うわー混んでますね」
休日の鎌倉は人が多かった。
茶色い屋根の駅舎を出ると、小さなロータリー。
左手に見える商店街の人ごみが半端じゃない。
―――本当は、お寺とか回りたいけど
真里はそんなことを思った。
だが、藤沢までは急いでいきたかった。
追っ手が藤沢まで来ているとは考えにくかったが
もう横浜周辺からは離れたい。
江ノ電の小さなホームへと入る2人。
8:24 鎌倉発
江ノ電はゆっくりと
軋み音を鳴らしながら出発した
- 104 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:36
- 「ねぇ石川」
「はい?」
「あのさ、温泉いこう」
「温泉?」
「うん、ゆっくり2人で骨休め」
「あ、いいですねー」
気軽にOK。
―――やっぱ石川は友達感覚だ・・・・・・
真里は、
思ってしまう。
―――石川は私のこと・・・・・・
梨華は真里に優しい。
一緒に楽しんでくれる。
嬉しい言葉をもらえる。
でもそれは
親切心?
先輩だから
仲間だから
一緒に逃げているから
そういう優しさであって
愛情というのとは
まるで違うのかもしれない。
- 105 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:36
- 今朝、
真里は梨華に突然キスをした。
梨華も、それを拒みはしなかった。
しかし、
それだけ。
梨華からレスポンスがあったわけでもなく
梨華の気持ちが確かめられたわけでもない。
ただ、
真里の気持ちが一方通行に梨華に流れただけだった。
愛情。
電車は江ノ島を出発した。
―――おいら、何期待してるんだろう・・・・・・
一緒に現実から逃げている。
梨華と、一緒にいる。
それだけでも、
夢にまで見たような
嬉しい時間なのに
夢が叶ったと思ったら
すぐに多くを望んでしまう。
- 106 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:37
- 真里は自分のそういう性格が厭わしかった。
そんなふうに次々とあれこれ期待しては
いつか、来る。
満たされない欲求に
どうにもならない願いに
自分が絞られてやせ細って
枯れてしまう時が。
だから、
今の状況・・・・・・
たとえ友達であっても
梨華と2人でいられる状況を
保持するのがいいのかもしれない。
まだ、想いを抑えていられるうちは・・・・・・。
―――ぜいたく言っちゃダメだ。
真里は、立ち上がって
「行こう」
電車の出入り口へと向かう。
電車は藤沢に到着するところだった。
8:58 藤沢着
- 107 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:37
- 江ノ電の藤沢駅を出てJRのホームに向かう。
階段を上って行くと改札。
「藤沢も人でいっぱいだね」
「そうですね」
よかった。
これなら追っ手がたとえ藤沢で待ち構えていたとしても
2人を見つけることはできないだろう。
18切符で改札をくぐると
電光掲示板を確認する。
「あ、石川!もう電車が来るよ」
真里と梨華は急ぎ足でホームに下りた。
ちょうど、電車が出発するところだった。
「よし、間に合った!」
9:01 藤沢発
車内は人が多かったため
席に座ることができない。
2人は茅ヶ崎まで立ったままだった。
- 108 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:38
- 茅ヶ崎に着くと、人がたくさん降りていく。
―――あいた!2人分・・・・・・
梨華はひょいと席のところまで行って
ボックスシートの通路側に座っていた老人に
「すいません」
というと窓際の席に腰掛ける。
真里は向かいの空いている席に座る。
113系のボックスシートは狭い。
梨華のひざが真里のひざに当たってしまう。
ジーンズ越しに真里のひざが触れているのがわかった。
「ねぇ矢口さん」
「ん?」
「温泉、どこに行きます?」
梨華がそう聞くと真里は
「へへへっ」
と笑って
「今日のためにちゃんと調べてきたんだよ!
穴場の温泉があるんだ。大勢いる所だと
落ち着かないでしょう?」
「誰かに見つかるのも嫌ですよね」
- 109 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:38
- 梨華がそういうと真里は再び
「へへへっ」
と笑った。
「矢口さん?」
梨華は不審に思って声をかける。
「どうしたんですか?」
「誰にも見つからずに、梨華ちゃんと2人だけで
温泉に行けるなんてね・・・・・・」
―――あっ・・・・・・
「私も、嬉しいです」
「ほんと?ほんとに?」
真里が身を乗り出して来た。
ひざが、
動いてまたぶつかる。
「もちろんです」
梨華は答える。
梨華はどこを見ていいのかわからなくなって
窓の外へと目をやった。
- 110 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:39
- 「海・・・・・・きれい」
電車は早川から根府川に向かっていた。
山の斜面の中に線路があるため
視点が結構高かった。
そのため
海がよく見えた。
「ほんとだぁ」
真里は、さらに身を乗り出して
景色を見る
・・・・・・振りをしている。
―――ちょっと・・・・・・
梨華の目からも
真里が梨華に近づこうと身を乗り出しているのが
わかってしまった。
「ちょっと矢口さん」
「ん?」
すぐ近くに迫る真里の顔。
「ダメ」
梨華は言った。
「え?・・・・・・」
「みんな乗ってるんですよ。ダメです」
- 111 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:39
- 真里は「何が?」とは聞かなかった。
おそらく、真里は自分の魂胆を見透かされて、
「・・・・・・」
―――へこんでる?
真里は席に着く。
ボソッと
「石川には、わかんないよ・・・・・・」
言った。
沈黙。
―――どうしてそんないじわるなことを言うの?
梨華には痛いほどわかっていた。
自分が真里に愛されているということは
身にしみて感じていた。
ただ
まだ梨華の中には、正体の知れない
戸惑いがある。
- 112 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:39
- ―――私・・・・・・
自分は真里の気持ちに
どう応えてやったらいいのか。
今朝、告白されたばかりで
まだ心の整理がついていない。
真里の想いは充分に伝わってきたが
それに対して、
―――私、矢口さんのために何ができる?
わからなかった。
別に真里の気持ちが嫌なわけではない。
というか、嬉しかった。
自分がこれからゆっくりと真里のことを
好きになればいいのかもしれない。
ただ、
その自信が
この期に及んで
持てないでいた。
2人は黙ったまま。
「・・・・・・降りよ」
真里が梨華のほうも見ずに小さくそう言う。
梨華は立ち上がって
真里のほうを見ずに出口のほうへ向かった。
9:59 湯河原着
- 113 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:40
- 「ゆがわらぁ?」
美貴は前の車両で立ち上がった2人を見て
思わず声を上げてしまった。
―――なにしてんの?
乗り換え地点でもないこの駅に何の用があるのだろう。
しかも熱海の手前。
「ねぇ、愛ちゃん。温泉なら熱海だよねぇ」
「そんなことないです。
湯河原温泉は有名だって聞いたことがあります」
「そうなの?」
自分が知らないだけなのだろうか。
それにしてもコンサート欠席して2人で温泉なんて・・・・・・
―――いい気なもんだね
2人が降りたのを見て
美貴は電車を降りる。
愛も降りる。
- 114 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:40
- 改札を出ると
梨華がバスに乗り込むのが見えた。
奥湯河原行き
と書いてある。
音がしてバスのドアが閉まる。
―――あっ!
「藤本さん!行っちゃいます」
愛がバスに向かって走り出した。
「ちょっと愛ちゃん」
美貴もあわてて愛の後を追った。
しかし愛がバスのもとに着く前に
バスはそろそろと動き出してしまった。
「愛ちゃん、見つかる!!」
ぼうっと立ち尽くす愛。
―――2人に見つかっちゃう
- 115 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:41
- 美貴は大急ぎで愛の元に駆け寄る。
バスが車体を大きくまわし始めた。
周囲に隠れられるような所はない。
―――顔だけでも隠さなきゃ
美貴は愛の手を取って
ぐいと自分の方へ引き寄せる。
「馬鹿!!」
美貴は愛の頭を抱えて
自分の胸元に押し付けた。
そうして下を向き
自分の顔を愛のうなじに埋めるようにした。
バスは
行ってしまった。
―――見つかった?
わからない。
美貴の腕の中に愛の小さな体がある。
愛の髪から石鹸のような香りがした。
「・・・・・・ん」
愛が声を発した。
- 116 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:41
- 美貴は何か・・・・・・変な気分だった。
「愛ちゃん・・・・・・」
美貴は、愛を抱く腕にさらに力を入れる。
なぜかギュッっとする。
愛は
「・・・・・・さい」
何か言った。
「ん?」
「離してください」
その一言で美貴は自分たちの状況に気がついた。
ぱっと手を離した。
「あっ・・・・・・あの、愛ちゃん?」
「どうしましょう、行っちゃいましたよ」
バスは行ってしまった。
2人がどこで降りるかわからない以上、
次のバスで追いかけることもできない。
- 117 名前:6.接近 投稿日:2004/02/22(日) 18:41
- 「タクシーで追いかけますか?」
愛はそういった。
―――タクシー・・・・・・。
運転手に
今のバスを追いかけて!
・・・・・・。
無理がある。
顔を覚えられてしまっては困る。
「いい。それより愛ちゃんお腹すかない?」
「へ?」
「そこのファミレスでご飯食べよ」
「はぁ・・・・・・」
- 118 名前:いこーる 投稿日:2004/02/22(日) 18:42
- 本日の更新は以上です。
- 119 名前:いこーる 投稿日:2004/02/22(日) 18:50
- >>94
ありがとうございます。
前作もお読みくださったんですね。
嬉しいです。
これからもよろしくおねがいします。
>>14
ありがとうございます。
駅構造や電車の構造を考えて
書けそうなものを選んでいるんです。
作者自身思い出しながら書いています。
>>96 みっくす様
ありがとうございます。
私はなんか、思いや視点の交差する作品が好きなんですよ。
これからもよろしくおねがいします。
>>97 名無子様
ありがとうございます。
地名だけでなく人間ドラマの方も臨場感がでてると
いいなぁと思いながら書いています。
これからもよろしくおねがいします。
- 120 名前:14 投稿日:2004/02/22(日) 21:30
- 次回で、二人はさらに進展するのか?
またもや、気になって仕方ありません
- 121 名前:みっくす 投稿日:2004/02/22(日) 23:54
- みきてぃなんか策があり?
梨華ちゃんは自分の気持ちに
自信をもつことができるのかな?
やぐちぃのためにも頑張れ梨華ちゃん。
- 122 名前:94 投稿日:2004/02/23(月) 00:58
- やばい。キテマス!
肩まで浸かってしまいました。
あとは・・・潜るしかないい。
純粋矢口がいい感じ!次回が楽しみです。
- 123 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:50
- 2人並んで歩いていると距離のとり方に困る。
もっとくっつきたい。
もっとぴったりくっついていたいのに
くっついたらきっと2人とも転んじゃう。
―――でも、転んでもいいか。2人なら・・・・・・
- 124 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:50
-
7.2人の距離
- 125 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:51
- バスで10分程移動。
坂の途中のバス停で2人は降りた。
辺りには土産物屋や旅館が並んでいる。
真里はバス通りを離れ、小さな脇道へと入っていった。
梨華は後を追いかける。
歩いていくと、斜面がどんどん急になっていく。
坂の途中から町が見下ろせた。
くねくねと進む坂道の間に、温泉施設が点在している。
車の数は少なく、人もちらほらとしかいない。
のどかな景色だった。
梨華は真里の方を見る。
真里は梨華をおいてずんずんと進んでいく。
さっきから一言もしゃべらない。
「もう・・・・・・待ってよぉ」
梨華は小走りに坂道を登っていった。
たどり着いたのは民家のような建物だった。
看板には小さく「日帰り温泉」と書いてある。
注意して見ていなければ見過ごしてしまいそうだった。
- 126 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:51
- 真里は先に入り口をくぐった。
梨華はまだ追いついていない。
「大人2人」
真里は2人分の料金を払って、
タオルを2枚と
「バスタオルは・・・・・・1枚でいいです」
バスタオルを1枚購入した。
- 127 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:51
- 梨華が建物に入ったとき、
真里は既に奥の方へ歩き出していた。
「何なの?」
梨華には真里の行動が理解できない。
―――ひょっとして、さっきのこと怒ってるのかな?
電車の中で気まずい空気になってから
ろくに会話を交わしていない。
―――でも、私にどうしろってのよ・・・・・・
温泉街の空気はゆったりとしていて
その中にいるだけで余計な気分が洗い流されていきそう。
それなのに、真里の機嫌が悪い。
梨華にはその不釣合いが無性に許せなかった。
真里の態度は理不尽。
梨華はあわてて脱衣所まで行った。
脱衣所の靴置き場には
靴が3足。そのうち1足は真里のものだった。
―――お客さん、これしかいないの?
確かに穴場だ。
- 128 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:52
- 梨華は真里の隣に駆け寄って服を脱ぎ始めた。
真里は既に入浴の準備が整っている。
真里の不機嫌な声が聞こえた。
「石川、貴重品」
見ると真里がロッカーに鍵を掛けようとしている。
「あっ・・・・・・じゃあこれお願いします」
真里は、梨華の差し出した財布と携帯を
ひょいと取ってロッカーの中に投げ入れた。
バタンッ
大きな音を立ててロッカーを閉めると
さっさと浴室へ入っていってしまった。
「何?・・・・・・今の」
梨華は、裸のまま止まってしまう。
真里はいつまで怒っているのだろう。
「もう知らない!」
梨華は、そのまま脱衣所の椅子に腰をおろした。
―――矢口さんと一緒にお風呂なんか入らないから。
時計の針の音が響く。
ただ、それだけ。
- 129 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:52
- 梨華は脱衣所を見回した。
大きな鏡の横には張り紙があった。
<ここの温泉は湯温が40度と低くなっております。
ぬるめの湯にみぞおちから下だけで20分程つかると
体も温まって、効能が程よく効いてきます>
心臓に負担を掛けない、半身浴というやつだ。
他には、何もない。
時計の針の音が響く。
ただ、それだけ。
思えば逃避行をしてから
1人きりになったのははじめてかもしれない。
ずっと一緒にいたから、こうして1人で座っているのは
居心地が悪い。
かといって真里を追いかける気にもなれない。
梨華は落ち着かなかった。
梨華はそのままじっとしていた。
ガラガラと浴室の引き戸が開いて2人の老婆が出てきた。
「あれ?」
梨華に気がつくと話し掛けてくる。
「中のコ。あんたの友達じゃないの?」
「あ、いちお・・・・・・」
- 130 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:53
- 梨華は下を向いた。
あまり人と話したくなかった。
「あのコ、湯にもつからずじっとしてたよ。
どうしたんだろうね?」
「なんか苦しそうな顔してたねぇ・・・・・・。
具合でも悪いんじゃないだろうか」
―――矢口さん!
梨華は立ち上がって
浴室の扉の前まで走った。
引き戸を開けようとしたとき
ガラガラ
向こうから、扉が開いた。
目の前に
真里がいた。
真里の顔が半べそ。
「やぐちさ・・・・・・」
「もう!どうして来ないんだよ?
待ってたのに・・・・・・。
梨華ちゃんと一緒に入ろうと思って
ずっと待ってたのに!」
- 131 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:53
- ―――ここで、同調したら負け・・・・・・
梨華は、
平静を装って浴室へと入っていった。
「あっ、思ったより狭いんですね。
まぁ他にお客さんいないし、ちょうどいいか」
「・・・・・・」
梨華は真里の横をすり抜けて奥へと進む。
真里のことなど気にしていないかのように
明るく振舞う。
「奥のドア、ひょっとして露天風呂?入りたーい!」
露天風呂への扉の前で
背中から
真里が手をまわしてきた。
―――矢口さん?
真里の体が小刻みに震えている。
「帰っちゃったかと思った・・・・・・」
「・・・・・・」
真里はひっくひっくとしゃくりあげている。
「いなくなっちゃったかと思った・・・・・・」
「矢口さん・・・・・・ごめんなさい」
「こら!ダメだよ石川」
真里はいつもの声に戻っている。
「え?」
「お風呂に入る前に体を洗わないと」
真里は
泣き笑い。
- 132 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:53
- ファミレスに入ると窓側の席に座った。
「ここからなら、バスから降りる人が見えるでしょ?」
「あ、そうですね」
2人がバスで他の駅に行くとは思えない。
おそらく温泉に入ってから、湯河原駅に戻ってくるだろう。
それまでここで見張っていればいい。
ウェイトレスが注文を取りにきたので
美貴はサンドウィッチを
愛はスパゲティとドリアを注文した。
「そんなに食べるの?」
「お腹すいた」
「あっそう」
窓から駅を眺める。
小さな改札が一つ。
駅前にはこれまた小さなロータリー。
そこから、温泉街らしいアーケードの商店街があった。
―――って何が温泉街らしいのか美貴にもわからないけど
自分で突っ込んでみる。
少し、美貴には余裕ができていた。
昨日から行き先の読めない2人の逃避行を追い続けて、
かなり疲れていた。
今、2人は温泉に行っている。
しばらくは戻ってこないだろう。
ここらでちょっと休憩がしたかった。
- 133 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:54
- 料理が運ばれてくる。
愛が、
「藤本さん。どうして2人を追いかけてるんですか?」
聞いてきた。
美貴は聞き返す。
「愛ちゃんは?どうして追いかけてるの?」
「さぁ・・・・・・」
理由はなしか・・・・・・。
ずっと美貴についてきている愛。
一体何なのだろう?
「美貴はね、自分の幸せのため。
絶対、幸せになってやるんだから」
「2人の邪魔をすることが、藤本さんの幸せなんですか?」
「違う!美貴だってねぇ」
「石川さんに、ふられたんでしょ?
まだ追いかけてるんですか?」
―――こいつ・・・・・・
- 134 名前:7.2人の距離 投稿日:2004/02/25(水) 08:54
- 美貴は立ち上がって
ガッ!
握りこぶしで愛を殴った。
愛は突然おびえたような表情になり
美貴を見上げる。
その顔に
ガッ!
もう一発。
愛は泣き顔で立ち上がると店を出て行ってしまった。
美貴のもとに店員が近寄ってくる。
美貴はすいませんといい、お金を払って店を立ち去った。
- 135 名前:いこーる 投稿日:2004/02/25(水) 08:55
- 本日の更新は以上です。
温泉行きたい……
- 136 名前:いこーる 投稿日:2004/02/25(水) 08:59
- 毎度毎度レスありがとうございます。
本当、嬉しいです。
>>120
ありがとうございます。
なかなかじれったい展開になってしまいそうです。
期待していただいてすみません;
>>121
ありがとうございます。
それぞれの悩みが書けたているかどうか
こころもとないですが今後ともよろしくおねがいします。
>>122
ありがとうございます。
どっぷり浸って頂いているようでかなり嬉しいです。
私は半身浴でゆったりするのも好きですw
- 137 名前:14 投稿日:2004/02/25(水) 12:25
- やぐの態度が不思議だけど
愛ちゃんも気になります、大丈夫か?
- 138 名前:みっくす 投稿日:2004/02/26(木) 00:18
- 仲直りですかね。
今後の展開に注目です。
みきてぃなかなか策士ですね。
でも、よく考えるとそうなんですよね。
それにしても、愛ちゃん大丈夫?
次回も楽しみにしてます。
- 139 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:32
- 「あなたの過去は
私にください」
- 140 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:32
-
8.過去
- 141 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:32
- 真里は露天風呂に入っている。
隣には梨華。
2人とも湯に下半身だけでつかって
上半身は湯から出している。
湯は熱くなく、のんびり入っていることができた。
「梨華ちゃん?」
「はい?」
「ミキティと何があったの?」
「・・・・・・知ってるんですか?」
「そりゃ、わかるよ」
―――だって、ずっと梨華ちゃんのことを見てたから
「変なこと聞いてごめんね・・・・・・ちょっと気になって」
「別れたんです」
- 142 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:33
- 真里が梨華を想いはじめたのはもう随分前。
新人との顔合わせで4人を見た。
「あれ?1人多い」
新メンバーは3人だと聞いていたのでちょっとびっくりした。
―――あのコ・・・・・・
その4人の中に
梨華がいた。
どうして好きになったのか、
どこが気に入ったのか、
今となってはわからない。
ただ、真里は梨華のことをずっと想っていた。
でも、
どうしても伝えることができなかった。
勇気がないのと、
先輩として4人と接していかなくてはならないという責任感から、
梨華に告白できずにいた。
そうこうしているうちに
何年も経ってしまった。
想いをくすぶらせたまま。
そんな時、
梨華が美貴とデートしたという噂を聞いた。
そのときからずっと真里は
そのことが、気になっていた。
- 143 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:34
- 梨華はゆらゆらと動く湯の表面を眺めていた。
「どうして、別れたの?」
「なんかペースが合わないっていうのかな?
ミキティは私と一緒にいられるときは
ずっと一緒がいいって思ってたみたい。
でも、
私は、自分だけの時間も欲しかった」
- 144 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:34
- 告白は美貴からだった。
「友達とかじゃなくって、もっともっと梨華ちゃんと一緒にいたい」
そう言われた。
しかし、女同士で付き合うということに抵抗を感じていた梨華は
NOと返事をした。
「私にとってミキティはLOVEじゃなくてLIKEなんだよ」
恋人としてではなく友達として、美貴と一緒にいたかった。
だが美貴はその後、めげずに何度も何度もアタックを続けてきた。
やっぱり好き。
ただの友達じゃ、やだ。
―――そんなに、想ってくれるの?
梨華は傾いた。
こんなに好きでいてくれるなら、
梨華は美貴の気持ちに応えてやろうと思った。
- 145 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:34
- 美貴とのデートは楽しかった。
長時間一緒にいて飽きなかったし、ワクワクした。
キスもした。
梨華は、美貴のことが好きになれそうだった。
しかし、
美貴は予想以上に積極的だった。
毎日の電話、メール。
みんなといる時でも、こっそりとアピールしてくる。
梨華は、引いてしまった。
「梨華ちゃんがいるから生きていけるんだよ」
そんなことを言われた頃から、
梨華は不安になった。
こんなに愛されていながら
自分は何も返してあげられないのではないか。
―――ミキティの気持ちに応えてあげなきゃ
自分で自分を追い詰めて、
結局自分の気持ちがどこにあるのかわからなくなってしまった。
それでつい先日、美貴に
友達に戻ろうと告げたのだ。
- 146 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:35
- 「梨華ちゃんは・・・・・・」
真里が話してくる。
「ずっと一緒とか、いつもベッタリとかは嫌なの?
自分だけの時間が欲しい?」
「欲しいです」
「そっか」
何か、真里が暗そうだ。
―――ひょっとして私、変なこと言っちゃった?
そう、
この状況。
仕事も生活も捨てて真里と2人だけの逃避行を続けるという
今の状況。
その中で梨華は、自分だけの時間が欲しいと言った。
それは
真里と距離を置きたいと言っているようなものだ。
梨華は考え込んでしまう。
真里に想いを告げられ嬉しかった。
―――でも・・・・・・
迷いがある。
自分は真里の気持ちをどう受け止めればいいのだろう。
―――私・・・・・・また同じこと繰り返そうとしてる?
- 147 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:35
- めいいっぱい愛されて
それを受け入れようと
必死に、
がむしゃらに、
一生懸命に
相手の気持ちを考え、
相手の喜ぶことをして、
それで1人で疲れて1人で悩んで
最終的にはお互いを傷つけてしまう。
そんな後味の悪い結末はもう嫌だ。
―――でも
だからといって、今から引き返すことなどできない。
梨華と真里は、もう戻れないところまで来てしまっている。
―――私に必要なのは、真里ちゃんを愛する覚悟・・・・・・
湯につかって二人の体はほんのりと赤味を帯びていた。
- 148 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:36
- 美貴は外に出た。
小走りに改札の方へ向かう。
―――あっ・・・・・・
改札のところに、愛が立っていた。
―――無視
美貴はあたりを見回す。
梨華たちが戻ってくるのを見張れる場所は・・・・・・
美貴は改札の横にある喫茶店へと入っていった。
店内に入ると窓際の席に座る。
ウェイトレスにコーヒーとサンドウィッチを注文した。
窓からロータリーの様子を眺める。
人は、少なかった。
もういい加減、
追いかけるだけというのも嫌になってきた。
そろそろ、2人にアプローチを仕掛けてみようか。
- 149 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:36
- 梨華の驚く顔を想像する。
幸せが逃げていくのを
指をくわえてみているほど我慢強くない。
梨華が逃げていくなら、捕まえるしかない。
―――2人は今ごろ、温泉かな?
美貴はもどかしかった。
美貴の知らないところで梨華の物語が進んでる。
そのことが不愉快でならない。
たとえどんな形であれ、梨華のいる物語に
自分を関わらせていたかった。
そうしないと、
まるで自分とは無関係に時間が進んでいるかのような
美貴の体が自分をおいて勝手に動いているような
そんなひどい不安に襲われる。
どうしても、美貴は梨華の物語の中にいたかった。
サンドウィッチが運ばれてきた。
さっきファミレスで食べ損ねてしまったので
お腹がすいていた。
「あっ、あとスパゲッティとドリアをください」
―――!?
愛が、
美貴の前に座ろうとしている。
- 150 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:37
- 「愛ちゃん?」
「はい?」
「何なの?あんた」
「藤本さんサンドウィッチ食べるんでしょ?
私もさっき食べ損ねちゃったから、お腹すいた」
愛は座ってしまった。
「ねぇ愛ちゃん」
「はい?」
「うざいんだけど・・・・・・。美貴に付きまとわないでくれる?」
愛は美貴の水をんぐんぐと一気飲みしてしまう。
「あー、私のお水!」
「ぷはぁ。うめぇ」
- 151 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:37
- ―――なんだこいつは・・・・・・
つい先ほど、美貴に2発も殴られたというのに、
それを忘れたように振る舞う愛。
「信じらんない」
「へへっ」
美貴には愛の行動がまったく理解できなかった。
何かを企んでいるのか、何も考えていないのか。
ただ一つだけわかっていた。
―――邪魔。
勝手についてきておいて
無神経な発言をして・・・・・・。
いい加減にして欲しい。
しかしここでもう一度愛をぶん殴るわけにもいかない。
この店を追い出されたら今度こそ2人を待つ場所がなくなってしまう。
料理が運ばれてくると愛は一言もしゃべらずに
ガツガツを食べ始めた。
- 152 名前:8.過去 投稿日:2004/03/01(月) 00:37
- 真里と梨華は温泉から出ると
そこで昼食をとった。
焼きそばを食べながら、梨華は聞いた。
「矢口さん。何時に移動しますか?」
「え?梨華ちゃん・・・・・・仕事じゃないんだよ。
2人だけなんだから時間なんか・・・・・・」
そうだった。
つい、いつもの感覚でいた。
食事も遊びも何もかも
次、○○分に移動でーす。
もう、そういう生活はしなくていいんだ。
時間に追われてせかせかしなくていい。
そんなことが梨華にとっては新鮮なことだった。
「一度建物から出ちゃうと再入場できないからね」
「矢口さん・・・・・・もう一度お風呂入るの?」
「おう!せっかくお金払ったんだからたっぷり入っておかないと」
「そうだね」
しかし、
温泉につかって食事をすると
2人はすっかり眠くなってしまった。
「ふぃぃ。ちょっとだけ横になろ」
「私も・・・・・・」
2人は畳の上に寝そべると、
そのまま眠りに落ちて行った。
- 153 名前:いこーる 投稿日:2004/03/01(月) 00:38
- 本日の更新は以上になります。
- 154 名前:いこーる 投稿日:2004/03/01(月) 00:48
- >>137 14様
それぞれの関係がどうなっていくのか
ご注目いただいてありがとうございます。
>>138 みっくす様
張り込みとか待ち伏せとかの作戦考えるのは
意外と難しいのですが、藤本さんはそういうの
一瞬で考え付きそうなイメージ(?)があります。
- 155 名前:みっくす 投稿日:2004/03/01(月) 01:56
- そんな展開になちゃうのね。
ミキティ達ちょっとかわいそうな感じが・・・
2人がかなり良い関係になってきてる?
あと、愛ちゃんの行動に?
- 156 名前:14 投稿日:2004/03/01(月) 12:57
- ますます目が離せませんね
って、更新早いですね(うらやましい)
ミキティ 愛ちゃんに優しくしてあげてよー
- 157 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:33
- 愛が欲しい。
愛をください。
愛に触れたい。
そんな願いが叶えられようとしている。
不揃いな吐息・・・・・・
- 158 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:34
-
9.鼓動と接触
- 159 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:34
- 起きた時には夕方になっていた。
畳の上で何もかけずに寝たので、
体が冷え切っていた。
真里は、梨華を見た。
まだ・・・・・・寝ている。
「梨華ちゃん?」
真里は梨華の体を揺するが、
梨華は起きない。
すーぴーというかわいい寝息が聞こえてくる。
―――もうちょっと、このままでいいか。
真里は梨華の寝顔を見つめている。
建物の中は静かだった。
2人の他には人影がない。
―――2人きりだ・・・・・・
従業員も部屋にこもっているようだ。
おそらく呼ばないと出てこないだろう。
- 160 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:35
- 真里は梨華を見つめる。
少しずつ、顔を接近させていった。
もう少しというところで真里は止まる。
―――寝てる間にキスなんかしたら、怒るかな?
梨華の唇まであと少し。
真里は、そのまま動けない。
鼓動が高鳴っている。
―――どうしよう・・・・・・
鼓動が高まる。
顔が熱い。
手が震える。
梨華の鼻息を頬で感じる。
それでも真里は動けない。
―――あっ
梨華の目がパチっと開いた。
梨華の目が真里を捉えた。
バレた。
しかもキスする前に。
―――最悪・・・・・・
- 161 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:35
- 「矢口さん?」
「ん?」
「キス・・・・・・したいの?」
「・・・・・・」
真里は黙ってしまう。
徐々に、顔を遠ざけていった。
「いくじなし・・・・・・」
梨華はそう言うと
真里の首に腕をまわして
チュッ
真里にキス。
―――梨華ちゃん・・・・・・
梨華は手を離す。
ドサッ
梨華の頭は畳の上に降りた。
- 162 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:35
- 真里は気持ちに勢いをつけて
梨華の唇に接近する。
「ん・・・・・・」
もう一度キスをした。
今度は、梨華を離さない。
ゆっくりたっぷり唇をくっつける。
梨華は目を閉じたまま。
2人は
離れてはくっつき離れてはくっつく。
なんどもなんどもなんどもキスをした。
「矢口さん・・・・・・」
「梨華ちゃん・・・・・・」
「お風呂、はいろ!」
「うん」
- 163 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:36
- 露天風呂で2人仲良く半身浴。
お湯の中にいると体があったまってきた。
「そういえば矢口さん。私たちずっと着替えてないね」
「そうだね・・・・・・。横浜で、荷物取れなかったから」
「どうしましょう」
「明日さ、2人で買い物しない?
着替え買わないといけないでしょ。
あと着替えを入れておく鞄も買って・・・・・・」
「私・・・・・・靴が欲しい」
「え?靴は荷物になるから・・・・・・」
「新しい靴が欲しいよぉ」
梨華はそう言ってくいくいと身をよじらせる。
―――・・・・・・。
「わかった。靴も買おうね」
「本当?矢口さん大好き!!」
梨華が抱きついてくる。
「わっ・・・・・・ちょっと」
さっきから気になっている。
―――梨華ちゃんの・・・・・・胸。
上半身を出しているものだからバッチリ目に入ってしまう。
抱きつかれた時は真里の腕に当たった。
- 164 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:36
- 気にしてはいけない、見てはいけないと思いながらも
真里はちらちらと梨華の胸を盗み見ていた。
―――きれいな形してるんだな・・・・・・
ずっと、気になってしまった。
真里はこれまで梨華のことを思い続けてきたが
こんな気持ちになったのは初めてだ。
―――梨華ちゃんに、触りたい。
どさくさに紛れて触ってしまおうか。
幸い、そういうのは得意だった。
「えいっ」
真里はお湯をザバァと梨華にかけた。
「きゃっ・・・・・・。もう、やったな!」
梨華がお返しにバシャバシャとお湯をかけてくる。
「っぷわ・・・・・・。こんにゃろ」
―――ここで・・・・・・
真里のくすぐり攻撃・・・・・・
「いやぁ」
梨華がドシンと真里をど突いて真里は後方にふっとぶ。
・・・・・・くすぐり攻撃失敗。
- 165 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:37
- 「もう・・・・・・真里ちゃん。何するの?」
梨華は真正面から真里を見つめてきた。
見つめられてドキっとした。
残念ながら、こういうのは苦手だった。
「あっ・・・・・・あの。えっと・・・・・・」
真里はうつむいたまま黙ってしまう。
梨華は真里をじっと見つめる。
「どうしたの?矢口さん」
梨華が聞いてくる。
子どものいたずらをしかるお母さんみたいな口調で。
―――あれ?今・・・・・・
「今、梨華ちゃん。真里ちゃんて呼んだ?」
「え・・・・・・?そんなこと言ったっけ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
- 166 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:37
- 「あのね・・・・・・」
真里がボソボソと話す。
梨華は
「うん?」
あいかわらずの優しい笑顔で真里の話を聞いている。
「おいら・・・・・・梨華ちゃんに触りたい」
「触りたいって・・・・・・どこ?」
真里はちょいと指をさす。
「え?触りたいって・・・・・・おっぱい?」
「うん・・・・・・」
言うと、顔から火が出そうだった。
心臓がドキドキ鳴ってうるさい。
―――やだ。おかしいって思われる・・・・・・
「そんな・・・・・・」
梨華も困惑した表情。
そのまましばらく沈黙が続いた。
- 167 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:38
- 沈黙を破ったのは真里だった。
「うははっ。おいら何言ってんだろ。
ごめん石川。気にしなくていいから・・・・・・」
真里はお湯から上がった。
梨華に背を向けて、室内に入ろうと歩き出す。
すると背中に梨華の声。
「いいよ」
「え?」
真里は振り返った。
梨華は、覚悟を決めたような表情で
「触っても・・・・・・いいよ」
言った。
梨華はお湯から上がって真里のほうへ歩いてくる。
そうしてひょいと真里の手を取ると
再び湯船の中へ入っていった。
真里も引かれるままにお湯の中へ入る。
2人の周りに湯気が少々。
梨華は、風呂の中で両手をおろして立っている。
真里は正面から梨華の裸に見惚れていた。
- 168 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:38
- 真里は一歩前に出ると
自分の右手の両手を梨華の胸へと近づけていった。
鼓動が半端じゃないことになっている。
心臓の音が指先にまで伝わって手が震えそう。
真里の手は
梨華の心地よさに
包まれた。
「んん・・・・・・」
梨華は目を閉じている。
「梨華ちゃん・・・・・・やわらかいよ」
「はぁ・・・・・・矢口さん」
真里は、手を動かす。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
梨華の息遣いが耳元で聞こえてきた。
梨華の胸も、ものすごい速さで脈打っている。
―――梨華ちゃんもドキドキしてるんだ・・・・・・
真里はゆっくり優しく
梨華の胸をいじくる。
- 169 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:39
- 「あっ・・・・・・」
真里は右手の人差し指を梨華の突起に当てた。
そうして今度は何度も指ではじくように乳首を刺激する。
「はぁ・・・・・・気持ちいい」
ふらっ
梨華が倒れそうになるのを
真里は左手で抱き止める。
右手は相変わらず胸を触ったまま。
「あぁ・・・・・・あぁ・・・・・・」
梨華の顔が紅潮している。
- 170 名前:9.鼓動と接触 投稿日:2004/03/02(火) 15:39
- 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
息がどんどん荒くなっていって最後に
バシャ
梨華は崩れ落ちた。
「梨華ちゃん!」
真里は慌てて梨華を湯船から引きずり出す。
「ごめん・・・・・・のぼせちゃった?」
真里は
従業員を呼んで梨華を運び出してもらった。
「長湯しすぎたみたいです・・・・・・」
のぼせた理由は隠した。
あたりまえだけど・・・・・・。
- 171 名前:いこーる 投稿日:2004/03/02(火) 15:40
- 本日の更新は以上です。
- 172 名前:いこーる 投稿日:2004/03/02(火) 15:44
- >>155 みっくす様
温泉はゆっくりと(笑)
旅情が出ているといいなと思って書きました。
>>156 14様
調子のいいときは更新ペースを保てるんです。
連載中はなるべくハイペースで更新したいとは
思っています。
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/02(火) 19:52
- 早い更新ペースに感激してます。がんばってください!!
- 174 名前:14 投稿日:2004/03/02(火) 22:03
- おおー!!癒されました
次も期待しています
- 175 名前:みっくす 投稿日:2004/03/02(火) 22:48
- いやー、なんか読んでるこっちが恥ずかしくなってきますねぇ。
ふたり良い感じですね。
次回もたのしみにしてます。
- 176 名前:10.孤独なこと 投稿日:2004/03/05(金) 19:06
- 不安に襲われた。
この線路にも、いつか行き止まりがある。
今は2人でいるけれど
いつか、行き止まりがある。
- 177 名前:10.孤独なこと 投稿日:2004/03/05(金) 19:06
-
10.孤独なこと
- 178 名前:10.孤独なこと 投稿日:2004/03/05(金) 19:07
- 2人は20時を過ぎてから湯河原駅に戻ってきた。
美貴と愛も後を追う。
20:23 湯河原発
美貴と愛は2人から一つ車両を置いて座った。
―――どこまで行く?
時間からいって、そろそろ寝る場所を探すのだろう。
さっきから真里が携帯をいじくっている。
ホテルを検索しているのかもしれない。
―――また、ラブホテル?
たぶん、そう。
わざわざ旅館が立ち並ぶ温泉街から遠ざかって
宿を探そうとしているのだ。
おそらく、名前も顔もあかさずに泊まれる宿を
探しているのだろう。
自分たちもそこに泊まらなくてはならない。
愛はきっとついてくる。
もう、うんざり。
- 179 名前:10.孤独なこと 投稿日:2004/03/05(金) 19:07
- ファミレスで言われた愛の言葉が蘇ってくる。
―――石川さんに、ふられたんでしょ?
まだ追いかけてるんですか?
まだ、追いかけている。
梨華が本当に美貴の手の届かないところに行ってしまうまでは
いつまでだって追いかける。
自分はこんなに梨華のことが好きなのに、
梨華には何も想われず、
梨華には何もしてもらえず。
まるで美貴とのことなんて
何もなかったかのように振る舞う梨華。
―――私だって
自分はまだ梨華の世界からいなくなったわけじゃない。
自分はまだ、存在している。
20:47 沼津着
- 180 名前:10.孤独なこと 投稿日:2004/03/05(金) 19:08
- 沼津から15分程歩いて
2人は案の定ホテルに入っていった。
美貴も入る。
部屋は広かった。
壁一面が淡い水色で、ライトを当てると
まるで海の中にいるみたいだった。
―――愛ちゃんは?
愛が部屋に入ってこない。
何をしているのだろう。
また、2人の会話を盗み聞きしているのだろうか。
携帯を棚に置いて。
美貴はベッドに横になる。
- 181 名前:10.孤独なこと 投稿日:2004/03/05(金) 19:08
- 梨華たちはどこの部屋にいるのだろう。
もう、寝ただろうか。
いいことでもしているのだろうか。
―――何でよ!もう・・・・・・
美貴は
棚の上の携帯を取って
部屋の壁に思いっきり叩きつけた。
―――何で矢口さんなの?何で私じゃダメなの?
携帯は電池が外れ
そのまま床に落下した。
ひよこのストラップが転がる。
―――なんで・・・・・・?
美貴の目から、
涙が落ちた。
- 182 名前:10.孤独なこと 投稿日:2004/03/05(金) 19:08
- ガチャ
愛が入ってくる
「明日は朝ギリギリまで部屋でのんびりするそうです。
私たちも10時に出て追いかけましょう」
美貴は答えない。
「藤本さん?」
美貴は答えない。
「寝ちゃったんですか?
もう私も寝ます」
愛は
ソファにバサッと倒れこんだ。
- 183 名前:10.孤独なこと 投稿日:2004/03/05(金) 19:09
- ―――え?
美貴はてっきり愛がベッドに入ってくるのだと思っていた。
愛は
微妙に美貴を避けている。
―――そりゃそうか。殴っちゃったもんな。
愛はまだつきまとってきているとはいえ
美貴との距離を慎重に測るようになっているのだろう。
ソファから、愛の寝息。
ダブルベッドは美貴1人では広すぎた。
- 184 名前:いこーる 投稿日:2004/03/05(金) 19:09
- 本日の更新は以上になります。
ちょっと少なめですが……
- 185 名前:いこーる 投稿日:2004/03/05(金) 19:14
- レス返しをさせていただきます。
>>173
ありがとうございます。
更新ペースが途切れそうな予感もありますが;汗
これからもよろしくおねがいします。
>>174 14様
ありがとうございます。
癒しという点では自信がなかったのですが
そういう感想をいただけると嬉しいです。
>>175
ありがとうございます。
絡みシーンは書いていても落ち着いていられないです……。
今まで気がつかなかったんですが
各所で取り上げていただいていますね。ありがとうございます。
それと、某掲示板に応援メッセージをカキコしてくれた方。
ありがとうございます。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
- 186 名前:14 投稿日:2004/03/05(金) 23:57
- おおー更新早えー!!
いいことでも...すげー気になります
- 187 名前:みっくす 投稿日:2004/03/06(土) 07:56
- 更新おつかれさまです。
気になりますねぇ。
どういう展開になるのでしょうかね。
- 188 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/08(月) 04:48
- いい話ですね。
- 189 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:54
- もっと思いを伝えたい。
もっと愛に触れたい。
もっと孤独から解放されたい。
そのためには障害物が邪魔。
取り除いてあげよう。
愛を隔てるもの全部。
自分の手で取っ払ってやろう。
- 190 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:55
-
11.悪意
- 191 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:55
- 朝10時に出発して電車に乗る梨華と真里。
10:20 沼津発
その後をしっかりと追っていく美貴と愛。
―――全然気づかないんだから。
2日間。
延々ここまで尾行されていて気づかないなんて
―――ちょっと・・・・・・浮かれすぎじゃない?
美貴はわざとらしく溜め息をついた。
窓から景色を見る。
よく晴れた、いい天気。
暖かい陽射しが車内にも降り注いでくる。
愛はさっきから
「愛ちゃん、まだメールやってるの?」
携帯をいじっている。
「え?いや・・・・・・これゲームです」
「ゲーム?どんな?」
「架空の町で生活するんです。
朝起きて、学校にいって、友達としゃべって・
で、この友達ってのもプレイヤーでどこかのPCか携帯から・・・・・・」
「それ・・・・・・楽しいの?」
「楽しいですよ」
- 192 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:56
- 美貴にとって、ゲームは現実を忘れるための道具みたいなものだった。
嫌なことをすっかり忘れてゲームの世界に没頭する。
いわば現実逃避だ。
「ゲームの中まで現実生活なの?」
「そうですけど、私たちって普通の生活してないじゃないですか。
だから、楽しいんです」
「あなたもなの?」
「何が?」
「愛ちゃんも、
この業界・・・・・・私たちの世界から逃げたいって思っているの?」
「っていうか、私たちのやってることって
どこか現実離れしてるっていうか・・・・・・。
私はこのゲームで現実に戻れるんです」
前の車両には
現実から逃避した2人。
そして、美貴の目の前には
現実に戻りたがってゲームをしている愛。
美貴にはどっちが現実で
どっちが逃避だかわからなくなっていた。
11:14 静岡着
- 193 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:57
- 静岡で降りた2人を追って、美貴と愛も電車を降りる。
―――なんでまた、こんなところで・・・・・・
改札を抜けて歩いていく。
2人は、ショッピングセンターに入っていった。
「買い物?」
「そうみたいですね」
買い物してる途中なら、2人がバラバラになることもあるかも知れない。
―――よし。
美貴は店内へと入っていく。
中は人だらけだった。
「愛ちゃん?」
「はい?」
「着替え買わないとね。美貴の分も買っといて」
「ええ?」
「バイバイ」
美貴は愛をおいて走り出した。
「あっ・・・・・・」
後ろで愛の声がする。
このまま人ごみの中に入ってしまえば愛は追って来れないだろう。
- 194 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:57
- 美貴はエレベーターに乗った。
―――2人は着替えを買うはず・・・・・・。
下着も何も着替えてないのだからいい加減
気持ち悪くなっているだろう。
美貴は、レジの近くまで行くと
柱に身を隠して待った。
ショッピングセンターには家族連れが多い。
幸せそうに買い物を楽しむ人々。
そんな中で美貴は、自分の存在が
リアリティを失いかけているような錯覚に陥った。
「矢口さん・・・・・・トイレ行ってきます」
「ん?いってらっしゃい」
―――!!
今のは梨華の声だ。
トイレに行く?
柱のかげから様子をうかがっていると
すっと
梨華が
通っていった。
よし。
美貴も梨華の後を追って洗面所へと向かった。
- 195 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:58
- 梨華はトイレに入った。
個室がいっぱい並んでいたがどれも空いていた。
―――お店は混んでるのに、ここは誰もいないんだ。
梨華は個室の一つに入ろうとした。
そのとき
―――え?
ドンっと背中を押された。
梨華は倒れ込む。
―――誰?
見上げると、
美貴が立っていた。
「はーい、梨華ちゃん」
「ミキティ!?」
どうして美貴がここにいるんだろう・・・・・・。
「梨華ちゃん、会いたかったよ」
「なんで?」
美貴は個室の戸を閉めて鍵をかけた。
- 196 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:58
- 「何してるの?」
梨華がそう聞くと
美貴は、
梨華に抱きついてきた。
「やだ・・・・・・ちょっと離して!」
「梨華ちゃんのことずっと追いかけてきたんだから」
「え?」
「梨華ちゃん、勝手に美貴の前からいなくなっちゃやだよ」
「むっ・・・・・・」
美貴がキスをしてくる。
梨華は嫌悪感に総毛立った。
「むんん・・・・・・んんっ!!」
梨華は必死に引き離そうとするが
美貴の唇は執拗に絡みついてきた。
梨華は
両手で美貴の体を押しのける。
「嫌っ!何するの?」
梨華は美貴の体を退かして
個室の鍵を開けようと、ノブに手をかけた。
背中に美貴の声がする。
- 197 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:58
- 「梨華ちゃんは美貴には冷たいんだね」
無視。
カチャ
鍵が開いた。
「鍵閉めてよ」
「何言ってるの?もうついて来ないで!」
「梨華ちゃんたちの居場所・・・・・・みんなにバラしちゃうよ」
「え?」
美貴の声が
急に低くなった。
「鍵・・・・・・閉めて」
梨華は
歯を噛み締めながら
カチャ
鍵を
閉めた。
「バラされたら困るんでしょ?」
「お願いミキティ、そんなことしないで・・・・・・」
- 198 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:59
- 背後から美貴の腕が伸びてきて
梨華は美貴に抱きしめられた。
「梨華ちゃんが美貴に優しくしてくれたら
みんなには黙っといてあげる」
「何?何をすればいいの?」
「何もしなくていいよ。
ただ、美貴のそばにいて」
「どうして・・・・・・
どうしてこんな酷いことをするの?」
美貴の声が
「黙れよ」
すぐ耳元で響いてきた。
「み・・・・・・きてぃ?」
「お前の方が酷いだろうが、人の心を弄んで!」
梨華の足がガクガクと震え出した。
「美貴がどんなに好きか知りながら・・・・・・
突然、別れようなんて納得できる?
もう私の気持ちは決まったからなんて・・・・・・
1人で勝手に決めてんじゃない!!」
「ごめんなさい!」
震えが、止まらない
- 199 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 13:59
- 突然
美貴の声色がもとに戻る。
「別に梨華ちゃんは謝らなくていいんだよ。
梨華ちゃんと美貴は、これから幸せになるんだから」
「ミキティ・・・・・・やめて」
「梨華ちゃん震えてるの?怖いの?
ごめんね。ちゃんと優しくするから許してね」
―――やめて・・・・・・
美貴の手が、梨華の胸を触った。
「嫌!」
「静かにしてよ。美貴・・・・・・また怒っちゃうよ」
「・・・・・・」
梨華は
目を閉じて
歯を食いしばって
立っていた。
背後から美貴の手が
梨華の胸をいじくってくる。
梨華は
何も見ないように
何も感じないように
ただただ、耐えていた。
- 200 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 14:00
- 美貴の手が
スルスルと梨華の下半身の方へと移動していく。
梨華は美貴の手を押さえる。
「離してよ梨華ちゃん」
「お願い。そこはダメ。
矢口さんともまだなの・・・・・・」
「矢口さん矢口さんって・・・・・・」
「ミキティ?」
「ムカつく・・・・・・」
美貴の手が届いた。
冷たい手の感触がショーツの中に進入してきた。
「やっ・・・・・・いやぁぁぁ」
梨華の目に涙が浮かんできた。
美貴の手はモゾモゾと動いて徐々に近づいてくる。
梨華は鳥肌が立った。
「ひっ!」
「へへ、とうちゃーく」
美貴の指があそこに触れる。
「んん・・・・・・」
梨華は意識が遠のきそうになる。
- 201 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 14:00
- 美貴の指は、容赦なく侵入してきた。
「あっ・・・・・・あぁ・・・・・・」
「梨華ちゃん感じてるんだね。気持ちいいんだね」
―――矢口さんごめんなさい。
「はぁ・・・・・・あぁ・・・・・・」
美貴は梨華の中で指を曲げたり回したり出し入れしたりして
梨華を弄んでいく。
「あぁ・・・・・・んっ!」
「!?」
2人の動きが止まった。
個室の外から
「梨華ちゃーん!おーい。梨華ちゃーん?」
真里の声がしている。
「あれ?トイレじゃないのかな?」
梨華は息を潜めている。
―――矢口さん・・・・・・来ないで。
- 202 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 14:01
- 「んっ!」
梨華の口から声が漏れそうになった。
美貴が行為を再開したのだ。
「梨華ちゃーん?」
美貴の指がさっきよりも激しくうごめいく。
「んんん・・・・・・んんん・・・・・・・」
梨華は声を出すまいと必死に唇を結んでいる。
後ろから美貴が囁いてくる。
「我慢しないでさ。矢口さんにも見てもらおうよ。
私たちこんなに仲良しですって」
―――なんて・・・・・・残酷な仕打ち
「あっれー。他のトイレかなぁ・・・・・・」
真里の声が遠ざかって行く。
―――よかった・・・・・・
- 203 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 14:01
- 梨華がふと気を抜いた瞬間、
「あぁぁぁ」
美貴の指が一気に奥まで入ってきた。
頭の中が真っ白になる。
「梨華ちゃん・・・・・・イッた?」
足に力が入らなくなって
梨華は美貴にもたれかかった。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
「梨華ちゃん、かわいい」
チュッ
美貴が再びキス。
「気持ちよかったでしょ?
美貴と一緒にいてくれたらまたしてあげる」
梨華は息も絶え絶えに言う。
「・・・・・・やる」
「え?」
「殺してやる・・・・・・」
- 204 名前:11.悪意 投稿日:2004/03/08(月) 14:01
- 美貴の体が離れた。
梨華はそのまま床に倒れた。
「どうして・・・・・・?梨華ちゃん。
美貴のことがそんなに嫌い?
そんなに矢口さんがいいの?」
ゴッ
美貴は梨華のみぞおちを蹴り飛ばした。
「うっ・・・・・・」
「また、会いに来るからね。
美貴からは逃げられないから」
美貴はそう言って
行ってしまった。
梨華の体と
梨華の苦しみだけが残った。
- 205 名前:いこーる 投稿日:2004/03/08(月) 14:06
- 本日の更新は以上です。
- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/08(月) 18:26
- ミキティ怖すぎ・・・
- 207 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/08(月) 22:03
- なんか、ここにきてミキティが一気に爆発したみたいですね(悪い意味で?)
これからも目が離せません。楽しみにしてます。
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/08(月) 22:14
- 更新お疲れ様です。
高橋と藤本の数少ない絡みをいつも
楽しく読んでます。
- 209 名前:14 投稿日:2004/03/09(火) 00:29
- 梨華ちゃんがー(TT)
やぐ やさしく抱きしめてやるんだ!!
- 210 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/09(火) 04:58
- ここにある、出発到着時刻は時刻表か何かで調べられてるんですか?
- 211 名前:みっくす 投稿日:2004/03/09(火) 07:58
- 更新おつかれさまです。
う〜〜ん、梨華ちゃん(T_T)
今後はどうなるんだろう?
- 212 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/09(火) 11:14
- 更新ありがとうございます。
ミキティ(T−T)なんであなたがそんなに黒いの…怖いよ。ってか、愛ちゃんとはどうなるんだろう?
楽しみです。
- 213 名前:我道 投稿日:2004/03/09(火) 15:14
- 藤本さん怖いです(ブルブルガタガタ)
でも面白いです。どこか引き込まれる文章です。
頑張ってください。
- 214 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:08
- この線路は一体どこまで続いているのだろうか。
考えても、答えは出なかった。
- 215 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:12
-
12.捜索
- 216 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:12
- あの日。
周囲が4人の失踪に気づいたのは、
なんと仙台に到着してからだった。
スタッフは
新幹線の中でメンバーが頻繁に席替えをするため
どの席に誰が座っているか把握しきれていなかったのだ。
その後、
真里の予想通り、スタッフは警察への連絡を渋った。
それどころか家族への連絡すら翌日になってからだった。
まだ行方不明と決まったわけではない。
スタッフにはそんな信じがたい通達がなされていた。
かくして真里の目論見どおり、
捜索に当てられた人員はごく少数となったのである。
しかし予想外の事態が2つ起こっていた。
- 217 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:12
- 1つは、ファン達からの目撃情報が
即時にネット上に公開されていたこと。
特に横浜での騒動の目撃情報が多数寄せられ
午後にはメンバーがコンサートに欠席というニュースが流れたあたりから
皆、目撃情報を積極的に提供するようになっていた。
これは何かが起きている、と。
もう1つは
捜索に一番必死になったのが
スタッフでも
家族でもなく
メンバーであったこと。
- 218 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:13
- 当然
メンバーにはスタッフからきつく緘口令が敷かれた。
これはグループの存亡にかかわる一大事である。
各人、勝手な行動は慎むようにと……
しかし
残されたメンバーは誰一人として行動を惜しまなかった。
心当たりに片っ端から電話をかけ、
携帯からネットに接続し目撃情報を収集した。
あまり大きく動いてはそれこそグループの存続が危うくなる。
そのことは皆よくわかっていた。
だが
自分たちの将来よりも
4人の安全を優先させるべし
それがメンバー全員の共通見解であった。
- 219 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:13
- 真里と梨華は、メンバー・関係者問わず、全員の電話、メールを
着信拒否していた。公衆電話からかけてもつながらない。
一方、美貴と愛の電話は着信拒否はない。
ただし美貴に送ったメールの返信は一通もなかった。
里沙が愛に送ったメールには、一件だけ返信がきていた。
心配しないで
その一言だけ。
それ以降、4人からの連絡は完全に途絶えてしまった。
ネットに公開された目撃情報は以下の通り。
失踪当日
23時過ぎに渋谷のコンビニで
矢口・石川を目撃。
失踪2日目
早朝の横浜駅で走っている
矢口・石川、続けて藤本・高橋を目撃。
失踪2日目
朝 久里浜のファーストフード店にて
矢口・石川を目撃。
- 220 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:13
- 失踪2日目
午前 藤沢駅改札で
藤本・高橋を目撃。
失踪2日目
お昼頃 湯河原のファミレスにて
喧嘩している藤本・高橋を目撃。
失踪3日目
お昼頃 静岡のショッピングセンターで
高橋を目撃。
以上。
- 221 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:14
- 圭織は頭を抱えていた。
目撃の場所がどうにもちぐはぐだ。
どうしても目的地が見えてこない。
4人はどこに向かっているのか
皆目検討がつかないのである。
部屋の中にはメンバーが集合している。
皆、苛立っていた。
「ねぇ……」
あさ美が隣に座っている里沙に聞いた。
「郡山からずっと西へ向かうとして、
普通に行ったらどんな駅を通る?」
「え……?そんなわかんないよ……」
「路線図見る?ホテルのロビーにあったのをコピーしてきたから」
ひとみがそういってあさ美に大きな紙を渡した。
- 222 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:14
- 「黒磯……宇都宮……大宮……上野……品川……」
あさ美がぶつぶつと言っている。
皆、黙って聞いていた。
「横浜……大船……藤沢……小田原……熱海……」
「ちょっと見せて」
亜依も乗り出して路線図を眺める。
そうして亜依の口から1つの疑問が出た。
「4人は……どこに向かってるんだろう?」
「だから、方向がバラバラなんだって!」
圭織は思わず怒鳴ってしまった。
「いや……」
亜依の発言。
「バラバラじゃないよ」
- 223 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:15
- 「え?」
全員の視線が亜依に集まった。
「目撃情報の場所を思い出して!
渋谷、横浜、久里浜、藤沢、湯河原、静岡。
この中から渋谷と久里浜を消すとさぁ……」
亜依は、路線図を郡山からつーっと指でたどっていく。
横浜・藤沢・湯河原・静岡。
「ほら、東北本線から東海道線へとまっすぐ西に向かってる」
「ちょっと待て加護。なんで渋谷と久里浜を消すの?」
「そこはちょっと用があっただけじゃない?寄り道したんだよ」
圭織はふぅっと溜め息をつく。
亜依の話の趣旨がまるでつかめない。
「寄り道ってあんたねぇ……
久里浜なんて寄り道するような所じゃ……」
「かおりんは地図を見た?この路線図見てよ」
圭織は路線図を覗き込んだ。
亜依は再び指でなぞる。
東北の郡山から延々南下して横浜へ、そうして東海道を静岡まで。
それは、随分と大きな行程だ。
なるほどその大筋からみれば、三浦半島に立ち寄るくらい
ほんのちょっとの回り道にも思える。
確かに、4人の行程には方向性があるのかも知れない。
- 224 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:15
- 「じゃあ、加護は……目的地はどこだと思うの?」
「それは、あてのない旅なんじゃないかな……」
「はぁ?だって、4人の動きには方向があるって言ったじゃない」
「でも、あてのない旅なの」
「?」
亜依を除く全員が首をかしげた。
「だって、目的地があるなら新幹線でも飛行機でも使えばいいじゃん。
なんでわざわざ横浜とか、藤沢とか、鈍行電車で移動してるの?
だからどこかゴールがあるわけじゃないんだ……」
「だから、4人の行き先がわからなくて困ってるのよ」
「違う……」
「何がいいたいのよ!」
「ちょっと待ってください」
あさ美が立ち上がった。
- 225 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:16
- 「あてがないってのと方向がないっていうのは別ですよ。
いや、むしろ
あてのない旅だからこそ、方向性がある
そうじゃないですか?」
全員の目が、あさ美を向いた。
「あてのない旅だから
温泉に入りたくなったら、途中下車する。
お腹がすいたら、駅を出て美味しいものを食べる。
急がなくていい。
でも、
そういう旅でも
逆戻りだけはしないと思うんです。
気分的な問題ですけど……。
でたらめな方向に進むこともないと思う。
逃避行だとしたら、
少しずつでもいいから
どこかに進んでいたいんじゃないですか?」
「そう、私もそれが言いたかった」
- 226 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:17
- 亜依も立ち上がった。
「だからあちこち寄り道はしてるけど
4人は東京に戻っては来ないと思う。
目撃情報から考えて4人は
なんとなく西を目指してる。
そうじゃない?」
圭織の頭は忙しく回転していた。
目的のない旅だからこそ、
なんとなく決まった方向に進む。
確かにそうかもしれない。
あさ美が言った。
「東海道線に乗って移動しているなら
途中でややこしい方向変換はしないで
まっすぐ東海道線を移動したくなる。
人の心理ってそんなもんじゃないですか?」
- 227 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:17
- 「でも、4人は実際おかしな行動を取ってるじゃない……」
「だからそれは寄り道なんですよ」
「じゃあ……」
圭織があさ美に聞いた。
「結局4人の行き先はわからないの?」
「行き先はわからなくていいんですよ。
ただ
東海道線沿いに進んでいく以上、必ず通過する駅がある。
スタッフさん達にその駅を教えてあげれば」
「4人は見つかる……」
「かもしれない」
「なるほど」
しかし……
- 228 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:17
- 「そっか……」
圭織は再び考え込む。
もし4人に悩みがあってこんな逃避を続けているのだとして
それを自分たちの手で中断してしまっていいものだろうか。
「でもやっぱり、自分の意思で逃げ出したんだよね……」
その場の全員が沈黙した。
圭織はメンバーの全員を信頼している。
もし誰かが、自分の決断でグループを抜け出したのなら
そこには自分の推し量れない事情があるに違いない。
それを邪魔する権利が自分にはあるだろうか……。
- 229 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:18
- 圭織はその疑問を皆に投げかけた。
希美が
圭織を見て
「悩みは私たちで聞いてあげたらいいじゃん」
そう言った。
「みんな忙しかったりして、周りの人の悩みとかに
気づいてあげられないこともあるけど、
私は、矢口さんや梨華ちゃん、ミキティや愛ちゃん。
みんなの味方だもん」
「それに……」
ひとみも加わる
- 230 名前:12.捜索 投稿日:2004/03/11(木) 10:18
- 「4人だけで、もしなにかあったら、
4人だけで、もし危ない目にあったら……」
圭織が立ち上がった。
「そうだね。
よし、4人を探そう!」
4人を探して、
圭織は言ってやりたかった。
何があっても私たちは味方だから
逃げなくてもいいんだよ
そんなふうに
声をかけてやりたかった。
―――お願いだから、自分たちだけで苦しまないで……
圭織は西の方角を向いて祈った。
- 231 名前:いこーる 投稿日:2004/03/11(木) 10:19
- 本日の更新は以上になります。
- 232 名前:いこーる 投稿日:2004/03/11(木) 10:25
- 前回慌てていてレス返しができませんでしたので
まとめて返させていただきます。
>>188
ありがとうございます。
面白い話を書き続けられるように頑張っていきます。
>>186
>>209 14様
ありがとうございます。
着々と更新できていますのでこれからもよろしくお願いします。
>>187
>>211 みっくす様
ありがとうございます。
今後の展開にご期待くださいませ。
- 233 名前:いこーる 投稿日:2004/03/11(木) 10:31
- >>206
私の予想以上に怖くなってしまいました……
>>207
ようやく接触しはじめました。
今後ともよろしくおねがいします。
>>208
どうもです。
ああやはり、そういう読み方をする読者様もいらっしゃいますよね!
絡み少ないですが(本当に;汗)よろしくお願いします。
>>210
手元にある時刻表に従っています。
ダイア改正とかがあった場合は、もうずれているかもです。
>>212
やっぱり藤本高橋の動向を気にしていただいている方が
結構いらっしゃいます。
ご期待に沿えるかどうかは書いてみないことにはわかりませんが
よろしくおねがいします。
>>213 我道様
文章にはそれほど自信がないので
そう言っていただけると嬉しいです。
- 234 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 15:57
- 更新はやっ!いつも楽しみに読んでます!
頑張ってください!
- 235 名前:14 投稿日:2004/03/11(木) 17:54
- これから他メンの動きも気になりますね
- 236 名前:みっくす 投稿日:2004/03/11(木) 22:46
- おお、他の娘。も動き出すのかな?
次回も楽しみにしてます。
- 237 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:31
- あんな最悪なことになって
後悔していないはずがない。
- 238 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:31
-
13.ネガティブ
- 239 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:32
- 「梨華ちゃん?」
梨華の声が聞こえた。
意外なところで。
「どうしたのさ?そんなところで」
賑わうショッピングセンターの中にあって不自然なほど
静けさと暗がりの似合う場所に
梨華はいた。
「おーい、梨華ちゃん?」
真里は手すりから身を乗り出し下を見る。
この位置から地面は遠い。
くるくると四角い螺旋を描く階段の
ちょうど1階分程下った位置にいる梨華。
動く気配はない。
真里は、階段を駆け下りていく。
梨華の体は小刻みに震えていた。
暗みの中に落ち込んだ梨華。
- 240 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:32
- ―――フィットしてる。
そんな場違いな感情を真里が抱いたとしても
責めることができないくらい、
梨華はその場にふさわしい暗さを放っていた。
光が入り込むのを嫌うように
階段は影を作っている。
その影の中に浮かぶように
非常階段の踊り場で
うずくまって泣いている。
ここでは梨華が影そのものであった。
階段室。
ひっくひっくとしゃくりあげる梨華の声が
遥か上方の天井から、遥か下の床まで反響しているようだ。
縦長の筒の静けさの中を、梨華の泣き声が行き来していた。
真里が到着した。
梨華は顔をあげない。
相変わらず泣いている。
真里は
無言で
梨華の隣に腰をおろした。
- 241 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:32
- 手を取る。
そっと……
そうして
「どうした?石川」
聞いた。
梨華の悩みを取り除いてやりたい。
このときばかりは
真里も自分の感情や自分の想いを置いて
先輩として梨華を救ってやりたいと思った。
梨華はゆっくりと、本当にゆっくりと顔をあげた。
ぽつりぽつりと話し出す。
「私……酷いことしてた。
ミキティに、すごく酷いことしてた……」
梨華の目はどこを向いているのだろう。
俯きながらも、どこか遠い過去を見ているようだ。
「私が中途半端な態度でいたから……
私がいい加減な気持ちでいたから……
ミキティを傷つけちゃったんだ」
「石川……」
- 242 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:33
- 「ねぇ矢口さん。
途中で投げ出すような優しさなんて最悪ですよね。
責任もとらずに、救うこともできずにただ優しくするだけなんて
そんなのは卑怯ですよね」
梨華はそう言って、
携帯を取り出した。
梨華の携帯には、ひよこのストラップ。
「私、矢口さんと一緒にいるって決めたのに、
何もかも捨てて矢口さんと逃げるって決めたのに、
まだ思い出に浸ってた」
梨華の手が
ひよこを握りしめる。
「私……」
声が
震えている。
「何でこんなに弱いんだろう。
ミキティと別れるって、私1人で勝手に決めたことなのに
ミキティを愛しきれないって、自分で感じたはずなのに
どうして思い出ばかり引きずってしまうの……」
- 243 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:33
- 「梨華ちゃん。そのひよこ、ひょっとして……」
「ミキティとデートしたときに買ったの。
私がダダをこねて欲しがって、
ミキティは嫌がったんだけど、でも最後には
2つ、お揃いでつけてくれて
嬉しかったなぁ」
真里にはわかった。
梨華には、自分の過去と決別するだけの勇気がない。
過去を切ることで、
たとえ一部分とはいえ自分の存在を否定することが
できないでいる。
それは、救いようのないレベルの逃避だ。
でも
「石川は卑怯なんじゃないよ」
真里は言った。
梨華の性格。
どんなに忌まわしいと感じても、
どんなに避けたくなるようなものでも、
ばっさりと切り捨てることのできない、
曖昧なままで置いておきたい弱さ。
「それって、優しいんだと思う」
- 244 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:34
- 「矢口さん……」
人に喜んで欲しいから
人に必要とされていたいから、
拒否することをせずに流れていってしまう。
確固とした自分を持つことから逃げることで
自分の存在を曖昧なままで保とうとする。
「石川はもっと自分勝手にならなきゃダメ」
「え?」
「ほらっ、いつも相手の気持ちとか考えて行動してるんでしょ?
そうじゃなくって、これからは自分の気持ちに正直に
行動したらいいんだよ」
それが、
存在するということだ。
―――おいらとのことも……
梨華は優しすぎて真里に冷たくできないだけで
本当の梨華の気持ちはどこにあるのかわからない。
ひょっとしたら、まだ梨華は
美貴との関係を引きずっているのかもしれない。
それも
梨華が自己主張をしないから
真里には何も伝わってこない。
- 245 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:35
- 「でも……」
梨華が
何かを言おうとする。
「矢口さん。私の気持ちは……」
「あっその前に」
真里は梨華のせりふをさえぎって言う。
―――……おいらも弱い
結局真里には、
梨華の本音を聞くだけの覚悟がなかった。
「おいらにも自分勝手なことを言わせて」
「?」
「そのひよこ。今ここで捨てて」
梨華が
「え?」
と小さな声で言う。
「ミキティとの思い出の品なんでしょ?
そんなのいつまでぶら下げとくの?」
「でも……これは」
- 246 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:35
- 真里は梨華の手から
ひよこを奪い取った。
「矢口さん!」
「私だって……妬いちゃうよ。
梨華ちゃんがこんなもの大事に持ってたら」
真里は手を振り上げる。
「投げるよ」
「待って!」
梨華が叫んで真里の動きが止まった。
「私が、自分で捨てます」
「梨華ちゃん」
梨華の目から
迷いが消えていた。
落ちていく……
手から離れたひよこが一番下まで落下するのを
梨華も真里も見なかった。
そのまま、
2人は階段室を出て行った。
- 247 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:36
- 美貴は
梨華と真里の声がすると言う愛に連れられて
非常階段の一番底に来た。
上を見ると
階段が延々と続いている。
その途中から、
声が聞こえてきた……
「ミキティとの思い出の品なんでしょ?
そんなのいつまでぶら下げとくの?」
「でも……これは」
真里の声に続いて梨華の声。
2人は自分たちに気づいていない。
美貴は先ほどの梨華を思い出した。
殺してやると言ってめいいっぱいの憎しみを美貴にぶつけてきた梨華。
あんな梨華を見たのははじめてだった。
―――あんなことしなきゃよかった
最低だった。
- 248 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:36
- 「矢口さん!」
「私だって……妬いちゃうよ。
梨華ちゃんがこんなもの大事に持ってたら」
2人の声が上から響いて、美貴に降り注ぐ。
自分の罪悪に2人の声がのしかかってくる思いがした。
「投げるよ」
「待って!」
―――梨華ちゃん……
「私が、自分で捨てます」
梨華が自分との思い出を捨て去ろうとしている。
美貴は叫んで梨華の行為を止めてやりたかった。
しかし、
声を出すことができない。
梨華を陵辱し、殺してやるとまで言われたのだ。
そんな自分が何を言えるというのだろう。
- 249 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:37
- ねぇミキティ、あのストラップ欲しい……
素敵な思い出さえも、
美貴の悪意に汚れ
梨華の悲しみへと成り下がってしまった。
きゃーーー。ミキティ大好き!
あのころの思いを、
梨華に返してやりたい。
純粋に梨華を想い、梨華と楽しい時間をすごした記憶を
もう一度、梨華のもとに届けてやりたい。
思い出のひよこが落ちてくる。
美貴の気持ちを待つことなく、
あっけなく落下する。
美貴は、受け止めることもできず、
ひよこが地面にぶつかるのをただただ眺めていた。
- 250 名前:13.ネガティブ 投稿日:2004/03/15(月) 10:37
- ―――私……捨てられちゃった
暗い地面に転がったひよこのストラップ。
美貴はふらふらとひよこのもとへ歩いていく。
―――捨てられた……
泣くこともできなかった。
ただ呆然と立ち尽くすだけ。
―――終わっちゃった
どんなに優しくしようと
どんなにいじわるをしようと
もう自分は梨華の時間にかかわることはできない。
美貴を置いていったまま、物語が進んでいく。
世界に否定される方がましだった。
- 251 名前:いこーる 投稿日:2004/03/15(月) 10:38
- 本日の更新は以上です。
- 252 名前:いこーる 投稿日:2004/03/15(月) 10:44
- >>234
楽しみにしていただいてありがとうございます。
今後もがんばっていきますのでよろしくおねがいします。
>>235 14様
ありがとうございます。
とりあえずこういう形で続きました。
今後も楽しみにしていてくださいませ。
>>236 みっくす様
ありがとうございます。
ご期待を裏切らないように頑張っていきます。
- 253 名前:ハルヒ 投稿日:2004/03/15(月) 16:49
- こちらではお初になります、どうもです。
ずっと見守ってきましたが、とうとう美貴様が、美貴様が…!
と思うとしゃしゃり出ずにはいられませんでした。
福井の人がこれからどういう動きをするのかが気になります。
それにしても、長い話を書ける方はみなさんすごいなあ…
自分は頭がパンクしそうになりました(苦笑)
- 254 名前:14 投稿日:2004/03/15(月) 17:56
- ヒヨコがかわいそうと思ったのは自分だけでしょうか...
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 18:25
- おもしろい! age!!
>>254 それは、私も思いました(ストラップだけどね…)
- 256 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 19:04
- うわ、ミキティ、こうなりましたか。
これからどうなるでしょう。はぁ、楽しみですw
頑張ってください。
- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 21:51
- 愛ちゃんどんなふうにからんでくるのか・・・
- 258 名前:みっくす 投稿日:2004/03/15(月) 23:39
- 物語がいっきに展開しそうな感じですね。
愛ちゃんの行動もきになるところ・・・
- 259 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:19
- 泣きやんだと思ったのに
また泣けてきた。
涙に終わりなんてないのかもしれない。
- 260 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:20
-
14.曇りガラス
- 261 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:20
- 静岡のホテルに泊まることになった。
梨華を休ませたかった。
梨華に先にシャワーを浴びさせ、
その間に真里は、今日買った着替えを広げる。
曇りガラスの向こうからシャワーの音が聞こえる。
途中で梨華が落ち込んでしまった。
理由はわからない。
買い物は中途半端に終わってしまったが、
最低限の着替えだけは手に入れることができた。
カチャ
戸が開いて、シャワーを交代。
真里はバスルームに入ると
戸を閉めた。
曇りガラスは
―――あんまり曇ってない……
外から中の様子を微妙に窺い知ることができるガラスだった。
まぁ本来ならそういう関係の男女が泊まるための部屋だ。
わざとこういうつくりにしているのだろう。
さっさと体を洗って外に出た。
- 262 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:20
- 梨華はベッドに横になっている。
真里はその隣に寝た。
毛布をかけた。
「矢口さん……よかった」
「え?」
「なかなか出てこないから、寂しかった」
時計を見る。
「でも、たった10分だよ」
「……」
言ってみたが真里にもわかっていた。
何かを失った人間が
孤独に襲われるのに10分も必要ない。
- 263 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:21
- 「ごめん梨華ちゃん……。
これからは、もう離れ離れにならない。
ずっと一緒にいよう。
寝るときも、お風呂はいるときもくっついていよう」
「……」
「梨華ちゃんがつらいことは、私が埋めてあげる。
落ち込んでても、泣いてても、私が全部
梨華ちゃんの悩みを埋めてあげる」
「真里ちゃん」
抱きしめた。
「ありがとう……。私、真里ちゃんから離れないからね。
もう絶対、ぜーったい!ずっと離れないから」
「……うん」
そのまま2人はしばらくいた。
一緒にいた。
梨華は、黙っている。
梨華の温もりが伝わってくる。
梨華の鼻息を肌で感じた。
2人のあたたかさは
毛布にくるまれて
そうして
また2人をあたためてくれる。
- 264 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:21
- ―――守られてる。
真里はふいに思った。
この毛布は、外界と自分たちとを隔てる防壁だ。
毛布の中で自分たちはやわらかくなっていく。
わずらわしい人間関係。
現在を束縛する過去。
自由を奪う時間の流れ。
言葉なんて教わったもの。
時間なんて押し付けられたもの。
社会なんて見えもしないのに想像させられていたもの。
世界なんて教科書でしか知らないもの。
今、毛布の中で
そういった一切のものとの関係を断ち切って
世界の存在全てを否定してみて、
梨華と2人だけでいるリアリティ。
この毛布は、真里と梨華が落ち着いた小さな宇宙。
「梨華ちゃん……」
- 265 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:22
- 仕事にかまけて、生活に追われて
生きていることの意味なんて忘れていた。
それこそ
現実逃避じゃないか。
今、
社会に背を向け
仕事から勝手に抜け出して真里は
ようやく生きていることを実感できた。
ようやく存在した。
生きていく自信というのだろうか。
そういったものが真里の中に湧き起こってくる。
真里は、
はじめての
たぶん生まれてはじめての言葉を
口にした。
「……愛してる」
- 266 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:22
-
………………。
- 267 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:23
- 今回は3度目だったから
2人の間に不自然なんてなかった。
引き寄せられるように
唇が近づいた。
2つの唇は熱を持ち
お互いを求め合う。
こんな心地よさを誰が知っているだろう。
こうしているだけで、
2人はこの世界のありとあらゆるものから
逃げることができる。
今、この物語にいるのは
2人だけだ。
梨華の
舌が口の中に入ってきた。
真里も舌を挿入する。
2人の舌は絡み合い、
お互いの口内を探りあう。
- 268 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:23
- 2人の鼻息が
ぶつかり合って
2人の熱となった。
2人の間の境界は溶け落ちる。
頬から火が出そうなほど顔が熱い。
やがて
2人は
ゆっくりと離れていった。
「はぁ……はぁ……
真里ちゃんの唾、いっぱい飲んじゃったよぉ」
「ん……おいらも」
お互いに目を伏せている。
照れ臭くって、
まともに見ることができない。
「あのさ……」
「はい?」
「もっといろんなとこ、舐めてあげる」
- 269 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:24
- 真里は
梨華の首筋にキスをした。
「きゃん……、真里ちゃんくすぐったい」
舌を這わせた。
「くすぐ……たい……よぉ」
―――感じてるくせに。
真里は舌を
すーっと首筋から耳たぶに移動する。
そうして今度は
「んん……」
仔犬みたく舌をチロチロさせる。
「や……熱い」
はみっ
耳たぶを甘噛みする。
「はぁぁ」
梨華の体がピンっと張った。
そして直後、
ぐったりとする。
- 270 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:25
- 真里は一旦、舌を休めた
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
梨華が呼吸を整えるのを待って
「攻撃再開」
「え?……きゃあ!」
真里は梨華に覆い被さる。
首に手を回した。
「にひひ……梨華ちゃんに乗っかっちゃった」
「真里ちゃん……」
キス。
離れて、
もう一度キス。
「もう、一生降りてあげないから」
「もう、一生離しません」
- 271 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:25
- 真里は
体をすりすりと梨華の上で器用に移動させた。
手で梨華の胸に触れる。
「あぁん……気持ちいい」
ゆったりと包み込むように小さな手を動かす。
少しずつ、力を込めていく。
「あん……はぁ……」
―――すっごいやわらかい。
真里は右手をさらに下に持っていった。
すっとショーツの中に手を滑り込ませる。
そーっと探って『梨華』を探した。
中指をゆっくり核心に近づけていく。
―――梨華ちゃんに届く……
- 272 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:25
- そう
思ったとき。
「やっ!!」
ドン
梨華に突き飛ばされた。
真里の体は宙に浮き
勢いあまってベッドから転げ落ちてしまった。
「……ってぇ」
真里は体を起こす。
「梨華ちゃん……?」
真里の動きがとまる。
ベッドの上の梨華は
震えていた。
小さな震えが徐々に大きくなって……
「やぐ……ち……さん」
震えは止まらない。
- 273 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:26
- 何がおきたのかわからない。
真里は呆然と、梨華を見ていた。
「私……」
梨華は飛び起きたかと思うと
突然駆け出した。
真里が追いかけようとすると
バタン
梨華はバスルームに逃げ込んでしまった。
「梨華ちゃん?」
真里はバスルームのドアを開けようとしたが
―――鍵?
梨華が中から鍵をかけていた。
梨華は、曇りガラスの向こう。
- 274 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:26
- 真里がドアの向こうから声をかけてくる。
梨華は
耳を塞いだ
真里が触れようとしたのは
今日、ついさっき美貴が踏み荒らしていった場所。
真里に触られたとたんに
その苦汁がよみがえってきた。
突然
人に触れられることに激しい恐怖を感じた。
まだ震えが止まらない。
―――なんで……私こんなに弱いの?
今、抱いてくれていたのは真里だ。
美貴ではない。
自分が一生ついていこうと決めたはずの真里だ。
その真里に、
自分を預けることが、
―――こんなに怖いなんて
梨華は愕然とした。
- 275 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:27
- 真里に愛されているという事実が怖い。
真里に抱かれるのが怖い。
……真里が怖い。
愛情は容易く憎悪へと姿を変える。
今日、美貴にそのことを嫌というほど見せつけられた。
感じさせられた。
真里の強い一直線な気持ちも、
いつ牙をむき出すかわからない。
これは信頼なんてレベルの問題ではない。
もっと、愛情の根本にある欲動。
人を喜ばせ人を狂わせ人を叩きのめす
強大な想い。
梨華の震えは止まらない。
- 276 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:27
- ―――誰かのせいにして……
自分で自分の気持ちに必死にいいわけをしても
梨華にはもうわかっている。
真里が怖いんじゃない。
梨華が今恐れているのは
自分が……人を狂わせてしまうということ。
自分自身の存在がどうしようもなく恐ろしい。
美貴を、
美貴の時間をおかしくしてしまった。
そんな
おぞましい自分に
真里は触れようとしている。
「梨華ちゃん!」
真里の声が聞こえてくる。
真里が……今にも梨華に侵食してきそうで怖かった。
透けた曇りガラス一枚では、梨華を守ることはできない。
- 277 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:28
- ガラス戸をドンドンと叩く真里。
―――やめて……
「梨華ちゃん!!!」
―――やめて!
梨華は……向き合って見下ろした。
ガラス越しにぼやけた真里の像。
なんでこんなに背が低い。
なんでそんなに髪が明るい。
なんでそんなにはしゃぎまわる。
なんでそんなに
―――私に構おうとするの?
こんな自分に……
- 278 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:28
- 梨華は、
自分をもう誰にも見せたくなかった。
誰にも入ってきて欲しくなかった。
本気で逃げ出したかった。
この状況から、
この世界から、
真里から逃避したかった。
「梨華ちゃん!!」
「うるさい!」
梨華の声はバスルームに反響して
無数の叫びがあちこちから響いてきた。
「りか……ちゃん?」
「私は私」
言った。
- 279 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:28
- ―――私……なにしゃべってるんだろう
沈黙。
ぼやけた真里。
はっきりと見える自分。
梨華は
泣いていた。
「お願い、放っておいて……」
その言葉がガラスを通り抜けて真里のもとに届く。
真里の像が、とぼとぼと移動していくのが見えた。
―――ごめんなさい。
こうやって自分は、
幸せのチャンスから逃げていく。
―――逃げてばっかり……
涙が止まらない。
- 280 名前:14.曇りガラス 投稿日:2004/03/19(金) 11:29
- 真里が戻ってきた。
「ごめん……」
本当に小さな声で話した。
「梨華ちゃん。おいらソファで寝るから、
梨華ちゃんベッドで寝て。
もう寝ようよ。
ずっとそこにいたら風邪引いちゃうよ。
おいらもう、梨華ちゃんには近づかないから
お願いだから出てきて……」
真里は
今度こそ行ってしまった。
それからたっぷり1時間、
曇りガラスは2人を隔てていた。
- 281 名前:いこーる 投稿日:2004/03/19(金) 11:30
- 本日の更新は以上です。
- 282 名前:いこーる 投稿日:2004/03/19(金) 11:34
- >>253 ハルヒ様
レスありがとうございます。
私は短い中にエスプリを利かせることのできる短編書きさんを
うらやましく思うことがありますよ。
>>254 14様
そういうご意見をいただくとは思っていなかったので
面白かったです。私も考えてしまいました。
きっと矢口さんの想いがそれだけ強かったということなんでしょう。
>>255
ありがとうございます。
これからもよろしくおねがいします。
- 283 名前:いこーる 投稿日:2004/03/19(金) 11:38
- >>256
ありがとうございます。
頑張って更新していきます。
>>257
展開について作者が予言できないのが残念です。
ご期待を裏切らないように頑張っていきます。
>>258
展開のテンポってなかなか把握できなくて
いつ展開させるか作者自身、出たとこ勝負なところがありますが
よろしくおねがいします。
- 284 名前:@ 投稿日:2004/03/19(金) 17:53
- いつも読んでましたがはじめてレスさせていただきます。
黒すぎる藤本さんにりかみきヲタの自分でもミキティを嫌いになりそうなほど
すばらしい文章力で尊敬していましたが、
やっぱりミキティを嫌いにはなれませんでした
だってこの切なさ…藤本さんを幸せにしてあげてほしいけど
やぐいしの逃避行…大好きですw
- 285 名前:みっくす 投稿日:2004/03/19(金) 21:44
- う〜ん、せっかくいい感じだったのにぃ。
頑張れ梨華ちゃん、やぐちぃ。
- 286 名前:14 投稿日:2004/03/19(金) 21:52
- ああー、鍵もガラスもなければいいのに
- 287 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 00:25
- 生きてるって素晴らしい
- 288 名前:すかっしゅ 投稿日:2004/03/20(土) 22:45
- シリアスだぁ
- 289 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:02
- 孤独じゃないこの時間が大切。
- 290 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:02
-
15.意味
- 291 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:02
- 10:35 静岡発
「どこまで行けるかな?」
突然梨華が聞いてきた。
それまで、まともな会話などなかったのに、
梨華が突然そんなことを聞いてきた。
「私たち……どこまで逃げられるだろう」
追っ手はまだ自分たちを探し続けているのだろうか。
しかし、こうして電車に乗って移動を続けている限り
簡単には発見されないだろう。
いつまでも、旅は続く。
2人の関係が進展しないまま、
2人の間がギクシャクしたまま、
2人の空気が凍りついたまま、
それでも
留まることを恐れ
戻ることを嫌い
ただ
旅を続けている。
惰性だけが2人の原動力。
- 292 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:03
- さっきから茶畑が目に飛び込んでくる。
平地でも斜面でも、
ちょっとした隙間を見つけては
広がる茶畑。
真里の目に入ってくる茶畑は
なにかを形取りそうでいながら
明確な形にならない。
なにかを暗示しているようでありながら……
―――きっと意味なんてないんだ……
真里は既に、
流れる風景をいちいち自分たちの旅の中に
位置付けることを放棄していた。
ポツポツと工場が見える。
お茶と工場。
そんな風景がしばらく続いた。
- 293 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:03
- 「ねぇ石川……」
「はい?」
―――よかった。返事があった。
「このままどこまでいっても同じじゃないかな?」
「え?」
言ってはいけないセリフなのだろうか。
昨日までの真里ならこんなことは言わなかっただろう。
しかし、
昨日の夜、梨華に拒絶されてからの真里は
全てに投げやりになっていた。
もう、
逃避行を続けるのも面倒だった。
梨華と、これ以上近づけないというほど近くに存在して
挙句に梨華に拒まれた。
あとは、発展しない関係が延々続いていくのかも知れない。
だから
言ってみた。
- 294 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:04
- 「きっともう、追っ手は来てないよ。
このまま進んでいっても何も変わらない」
「そうですけど……」
「っていうか、たとえどこに言っても
みんなおいらたちを知ってるわけだし。
TV見てりゃさ、その内、行方不明だってことも
わかっちゃうだろうし……」
「そうだね……逃げ切れない」
進展もしない。
目的もなくただ逃げるだけの逃避行。
それなのに、
どうしても戻る気にはなれなかった。
この胸の奥を鷲掴みにされたような
どうしようもない切なさを感じながら、
真里は旅を止めることができないでいる。
- 295 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:04
- もし帰ってしまったら、
この苦しさともお別れ。
それなら、
煮え切らない今の状況の方が
よほどましに思えた。
梨華を想う苦しみが消えてなくなってしまう。
苦しみさえも残らない。
自分が梨華を愛する気持ちが全て
流されてしまう。
それが耐えられない。
そんな結果になってしまうならなら……
―――死んだ方がいい
11:46 浜松着
- 296 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:04
- 新快速に乗り換え。
11:50 浜松発
もうとっくに意味を失効しているというのに
なぜまだ追い続けているのだろう。
梨華はもう、美貴のことを完全に忘れ去った。
それなのに、
あきらめきれずに追い続ける美貴。
―――バカみたい……
目的も意志も未来もない。
物語にもならないくらい
何もない時間。
新快速は揺れも少なく、音もうるさくない。
美貴は
本当に、ただ座っているだけ。
- 297 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:05
- 「これ……新しい車両なんだね」
美貴はそんなことを言ってみた。
―――あれ?でも新快速ってそんなに最近でもないか……
「新しいといえば、
こないだどっかになんとかっていうビルができましたよね?」
なんだそりゃ……。
何の話をしているのかさっぱりわからない。
「あのビル。やばいらしいですよ」
「何が?」
「建築基準を満たしてないそうです。
なのになぜか完成しちゃって。
町おこしのために行政で建てたものだから
壊すに壊せないそうですよ。
地震のときとか、1階がペシャンコになっちゃうかもって」
「……」
なんの意味もない会話。
旅に出る前の日常生活のように
まるで無意味な会話。
ひょっとすると
旅が日常化してしまったのかも知れない。
そう思った。
- 298 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:05
- 12:24 豊橋着
「え?」
2人は豊橋で降りた。
―――なんで降りたの?
そのままホームに立ったまま。
「藤本さん、これまずいですよ」
「……うん」
新快速から降りた客が一斉に階段へと向かう。
もしこのまま立っていたら、
ホームには人がほとんどいなくなってしまう。
「行こう。一旦上へ」
「はい」
美貴たちは人の流れにのって歩き出した。
今は人が多いから向こうも気づいていないが
もし誰もいなくなったら、簡単に見つかってしまうだろう。
美貴と愛は、階段を上っていく。
- 299 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:05
- 「これからどうしますか?」
「ここで……待っていよう。外に出るつもりなら必ずここを通るし。
電車が発車するときだけ階段の上から様子を見ればいいよ」
そうすれば、
2人が電車に乗ったとしても
気づかれずに追いかけることができる。
階段の上から様子を窺う。
12:37に来た新快速を2人は見送った。
―――なんか……
2人の様子がおかしい。
2人ともうなだれたまま。
顔をあげようともしない。
会話もない。
―――どうしちゃったの?
- 300 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:05
- すぐ
次の電車が来た。
―――!
「愛ちゃん。2人乗った」
「急ぎましょう」
「うん」
発車ベルが聞こえてきた。
美貴は階段を駆け下りる。
急いで目の前の車両に飛び込んだ。
続けて愛が乗ってくる。
直後、
扉が閉まった。
「ふぃー。間に合った……」
「しっ!」
美貴は愛を制する。
- 301 名前:15.意味 投稿日:2004/03/22(月) 09:06
- 真里と梨華がすぐそこにいた。
下を向いたまま、
まるで自分たちに気づく様子がない。
美貴は、少しだけ間をあけて
席に着いた。
愛が隣に座る。
―――ここなら見つからない……
溜め息が出た。
2人は豊橋で新快速から普通電車に乗り換えた。
―――あくまで鈍行にこだわるか……
何がしたいのかさっぱりわからない。
2人の行動に意味なんてない。
そして、
自分の追跡に意味なんてない。
もはや、美貴が関わる意味は
どこにもなかった。
12:39 豊橋発
- 302 名前:いこーる 投稿日:2004/03/22(月) 09:06
- 本日の更新は以上です
- 303 名前:いこーる 投稿日:2004/03/22(月) 09:15
- >>284 @様
ありがとうございます。
藤本さんのキャラについていろいろなご意見いただきましたが
黒い藤本さんを書いてしまったので結構大丈夫だったかな?
と心配だったりします;
これからもよろしくおねがいします。
>>285 みっくす様
結構だるい展開になっているような……;
応援いただいてどうもです。
>>286 14様
2人の間の隔たりが上手くかけているといいのですが……
>>287
私は飼育に浸かっている時間が生きていてよかった
と感じる時間だったりしますw
>>288 すかっしゅ様
私どうしてもシリアスが好きなんです。
次回はコメディにチャレンジしようと画策中(聞いてない;)。
- 304 名前:14 投稿日:2004/03/22(月) 20:40
- 本当にどこまで行くんでしょうか?
それにしても高橋の心境は一体...
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/22(月) 21:02
- >>304
うん。高橋はどんなつもりで一緒にいるんだろう?
気になる・・・・
- 306 名前:みっくす 投稿日:2004/03/22(月) 22:31
- う〜ん、早く仲直りしてほしいですね。
がんばれ梨華ちゃん、やぐちぃ
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/22(月) 23:53
- おもしろい!
あと、高橋のキャラクター・ヴァリューがすごく気になる!
PS.いこーるさん、更新、お疲れ様です。
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 04:07
- なんか、死に場所を探してるみたいでいや。
- 309 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 20:42
- いこーるさん、悲しい最後(最期?)だけは避けてあげて下さい。
よろしくお願いいたします。
- 310 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:17
- 奪いたいんじゃない。
与えたいんじゃない。
- 311 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:17
-
16.奪取
- 312 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:18
- 電車は走り続ける。
ひたすら走り続ける。
「ちょっと……ご飯も食べないつもり?」
2人は動こうとしない。
電車はなんどもなんども駅に停まった。
それでも
2人が動く気配は一切ない。
- 313 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:18
- 朝から何も食べてない。
何も食べる気にならない。
食べたらエネルギーがついてしまう。
エネルギーをつけたら動いてしまう。
梨華は流れる景色を見ていた。
動く気分なんてどこへ行ってしまっただろう。
自分たちは、ただ座っているだけ。
さっきまで空腹でお腹が痛かったが、
もうそれも通り越してしまった。
意識が朦朧としている。
腕が痺れ始めている。
―――貧血で倒れたりして……
今自分が倒れたら、
真里は助けてくれるだろうか。
それとも、放っておくだろうか。
―――私が弱いせいで……
大切にしようと思っていたはずの
真里との関係も崩壊した。
- 314 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:19
- 呼吸をするたびに
梨華からエネルギーが逃げていき
反対に悪い空気が胃に溜まっていくような気分だった。
視線を動かすたびに
脳みそが揺さぶられるような感覚。
景色を見ているだけで酔いそうだった。
―――だるい……
会話をしたくない。
体を動かしたくない。
頭を使いたくない。
このまま眠ってしまおう。
梨華は目を閉じた。
途切れていく意識の中、
梨華は声を聞いたように感じた。
メンバーの声。
高い声だったり低い声だったり……
皆が梨華を責めるような調子だった。
―――みんな……ごめん。
- 315 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:19
- またしても
幸せが逃げていく。
―――違う……
逃げているのは自分自身。
自から距離をとった。
身勝手に遠ざかった。
逃避した。
自分のわがままを押し通してここまできたのに
自分の幸せをつかむことすら放棄してしまった。
―――ごめんなさい……。
ああ、もう自分はどこにも帰れないな……。
これが、現実逃避した人間に降りかかる現実。
何もかも失ってしまった。
それでも、線路はどこまでも続いている。
電車は進み続ける。
- 316 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:20
- 美貴はイラついていた。
お腹が空きすぎて気持ちが悪い。
電車の振動が胃に響いてくる。
―――ああ、もう電車降りたい。
席を降りて
前かがみにうずくまった。
「藤本さん?」
愛の声がどこか遠くから聞こえてくるようだった。
車両の床がすぐ近くに迫る。
美貴は床に両手をついた。
―――気持ち悪い……
床の振動が腕を伝って頭が揺さぶられる。
―――最悪だ。
もう、終わりにしたい。
―――さっさとこの旅を終了させたいのに……。
美貴にはそれができない。
美貴は梨華を追いかけることしかできない。
- 317 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:20
- 気がついたら始まっていた真里と梨華の逃避行。
いつのまにか追いかけていた自分。
梨華を求め梨華を追いかけ梨華に近づいた。
そうして、終わってしまった。
もうこれ以上発展することのない恋物語。
それなのに、旅は続く。
このまま餓死するまで電車に乗っていようか。
―――それも悪くない……
そんなふうに思った。
これまで2人にまるで何も関われなかった。
真里が梨華を連れて行くのを
ちっとも阻止できなかった。
今、美貴が空腹で動けなくなっても
電車だけはどんどん進んでいく。
- 318 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:21
- どうして自分はこうも時間の流れに無縁なのだろう。
どうして物語上に位置することができないのだろう。
電車は
美貴の体なんて関係なく
美貴の意識なんて見向きもせず
美貴の存在なんて気にかけることもなく
進む。
梨華にとって
時間にとって
世界にとって
自分なんて
邪魔もできない存在。
無視されるための個。
見向きもされない石。
物語に紛れた不用物。
それでも……
この逃避行を終了させるくらいのことはやれる。
―――終わらせよう。
こうなったらどんな結果になっても構わない。
せめて……この物語を自分の手で閉じよう。
- 319 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:21
- 「うぅ……」
美貴は、うなり声を上げながら立ち上がった。
乗客が自分に注目する。
―――頭に血がまわってこない……
美貴の見ている景色は
色彩も平衡感覚を秩序もなかった。
美貴はふらふらと梨華のもとへと歩み寄る。
梨華と真里の
目の前に立った。
―――矢口さんの前に姿を見せるのは初めてだ……
- 320 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:22
- 「お前……」
真里は
驚愕に目を見開いてこっちを見上げている。
梨華は、目をそらした。
「なんで?」
美貴は震える声で言った。
「なんで美貴を見てくれないの?」
梨華は目をそらしたまま。
「なんで?」
「ミキティ……お願い。もう消えて……」
「梨華ちゃん……。
私は過去じゃない。
私は思い出じゃない。
私は記憶じゃない。
ねぇちゃんと私を見て……」
梨華は目をそらしたまま。
「見てよ!!」
美貴はめいいっぱいの力で梨華の手首をつかむ。
- 321 名前:16.奪取 投稿日:2004/03/25(木) 09:22
- 「痛っ!」
梨華が抵抗するがお構いなしに引っ張った。
梨華の体が美貴へと引き寄せられる。
美貴は梨華の両肩に手をかけると
出口に向けて
ドン
突き飛ばした。
梨華の体は
車両の外へ……。
美貴も
後を追って電車を降りる。
振り返ると電車の扉が閉まるところだった。
降りそこねた真里の呆然とした顔が見えた。
電車はホームから出て行った。
ホームに残っているのは
梨華と美貴だけだった。
- 322 名前:いこーる 投稿日:2004/03/25(木) 09:23
- 本日の更新は以上です。
- 323 名前:いこーる 投稿日:2004/03/25(木) 09:24
- 皆様レスありがとうございます。
今回は個別レスは省略させていただきますが
それぞれのレス、大変ありがたく受け取っております。
今後ともよろしくおねがいします。
- 324 名前:14 投稿日:2004/03/25(木) 12:16
- うわっこれから一体...
電車内の二人も気になる
- 325 名前:14 投稿日:2004/03/25(木) 12:16
- 電車内の二人も気になります
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 12:31
- ミキティがまた暴走するんじゃないか心配です
- 327 名前:みっくす 投稿日:2004/03/25(木) 22:38
- どうなちゃうんだ。
- 328 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:50
- この痛みこそが存在証明。
- 329 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:50
-
17.優しさ。暴力。
- 330 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:50
- 突き飛ばされた勢いで
転んでしまった。
ひざがすりむけ血が流れた。
曇り空。
電車のいなくなったホーム。
美貴が梨華に近づこうと
ふらふらと歩み寄ってくる。
梨華は立ち上がった。
空腹のせいで力が全然入らない。
美貴がすぐそこに迫っている。
―――死んでいる……
- 331 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:51
- 焦点の合わない目。
青白い顔。
それが、
ゆらゆらと自分の方へ近づいてくる。
それには威厳も存在感もなかったが
―――喰われる……
恐怖に落とし込む闇を放っているように
梨華には感じられた。
「りか……ちゃん」
「いや……」
梨華は後ずさる。
美貴の歩みが速まる。
「来ないで!」
梨華は全速力で走り出した。
- 332 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:51
- 真里をのせた電車が速度を上げて走る。
―――早く……
景色が後方へ跳ぶように流れていく。
―――早くしないと梨華ちゃんが……
あのときの美貴の表情は尋常じゃなかった。
―――あの目は、
極限まで追い詰められて
極端の攻撃性を備えていた。
梨華を求めすぎて梨華に捨てられた美貴。
―――おいらと同じ。
真里には美貴の気持ちが痛いほどわかる。
―――覚悟している。
美貴は
梨華と最後の決別を果たすつもりなのだ。
―――梨華ちゃん!!
景色は跳ぶように流れていく。
- 333 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:52
- 誰も立っていない改札を通り抜け
駅舎の外に出た。
走る。
電柱が跳ぶように後方に流れていく。
「待ってーーー!」
―――追いかけてくる
ひざが痛くてまともに走ることができない。
美貴の足音が徐々に近づいてきていた。
どこかに隠れてしまいたかったが
まわりは田畑ばかりで隠れられそうにない。
- 334 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:52
- 「助けて!」
叫んだがあたりには誰もいなかった。
左手が後方にぐいと引っ張られる。
流れていた景色がピタッと止まった。
前に進めようとした足が宙に投げ出される。
梨華は
お尻から落下した。
「待てっての……」
息を切らした美貴がそう言った。
- 335 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:52
- 景色の流れが速度を緩めて
電車は岐阜に到着した。
ドアが開く時間がもどかしい。
真里はホームへと降りて走り出した。
14:45 岐阜着
木曽川に引き返す電車の時刻を確認する。
次の電車は
―――え?
14:57分までない。
- 336 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:52
- 「梨華ちゃん」
梨華は泣いている。
「お願いミキティ……もう許して」
「違う。もうなにもしない。
なにもしないから、美貴の話を聞いて」
梨華は
小さくうなづいた。
美貴の中で、
さっきまでの
梨華を奪ってやろうという意欲は
急速に萎えていった。
大好きな梨華を泣かせてまで
自分の欲を押し通すことなどできない。
なぜか突然にそう思った。
「美貴は、梨華ちゃんのことが大好きでした」
- 337 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:53
- もう、
気持ちは
過去のものでも構わない。
「梨華ちゃんが一緒にいてくれて、すごく幸せでした」
梨華に否定されながら追うのはもう終わり。
せめて梨華の中で、
「梨華ちゃんにとって美貴との思い出が
嫌なものになってしまうのだけはやだ」
梨華の物語のなかで
過去の思い出としてでもいいから
美貴との関係の記憶をとどめておいてほしい。
- 338 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:53
- 「梨華ちゃん、ごめんなさい。
美貴は梨華ちゃんに感謝しなくちゃいけないのに、
最高にすてきな時間を美貴にくれて、
お礼をいっぱい言わなきゃいけないのに
梨華ちゃんを恨んでばかりいた」
声が震える……。
涙が出てきた。
―――ちゃんと言わなきゃ……
「りかちゃん、ありがとう。
そして……」
―――これで、私の時間は終わり。
「さようなら」
- 339 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:53
- トラックが1台、2人の横を走りぬけた。
暖かい風が駆け抜けていった。
「邪魔ばっかりしてごめんなさい」
美貴が涙を流しながら
必死に笑顔をつくってくれている。
「矢口さんと、頑張ってね」
「ミキティ……ごめん」
梨華は下を向いた。
「ごめんね」
「ううん。いいんだよ。
美貴は、梨華ちゃんに幸せになって欲しいんだから。
大好きな梨華ちゃんが、矢口さんと幸せになってくれれば
美貴はそれでいいから」
「違うの」
「え?」
「私と矢口さん、終わっちゃうかも」
- 340 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:54
- 梨華がそんなことを言った。
「なんで?」
「私……こわくって、
矢口さんにすべてを任せることができない。
本当に好きな人だったらこんなふうにはならないでしょ?
私は、矢口さんのことを愛しきれない」
―――ああ、なんてこと
美貴は
梨華の胸倉をぐいと掴む。
「このバカ!バカ正直!」
梨華を掴んで揺さぶる。
「なんであなたはそうなっちゃうの?
なんで幸せから逃げてっちゃうの?
梨華ちゃんがそんなだったら……」
揺さぶる。
「私は……」
いつまでたっても梨華を忘れられやしない。
- 341 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:54
- 「ミキティ。私には、幸せになる資格なんてないんだよ」
美貴は手を離した。
「せっかく真里ちゃんと逃げ出したのに
またそこから逃げてきちゃった。
私なんて、幸せになれなくっていいんだ」
パンッ
美貴は梨華の頬を思いっきり叩いた。
梨華は畑の中に倒れた。
「梨華ちゃん。そんなこと言わないで。
美貴はりかちゃんのことが……」
―――!?
最後まで言う前に美貴の背中が押された。
体が前のめりになって畑の中に転がった。
- 342 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:54
- 「梨華ちゃんになにすんだ!」
「矢口さ……」
振り返った途端
真里の靴底が美貴の顔面を直撃した。
美貴は後方にふっとぶ。
―――顔面を蹴られた……
「矢口さん」
―――なんでこいつは……
こんなにも美貴の邪魔をするのだ。
梨華に別れを告げたかった。
それだけのシーンにどうして割り込んでくる。
―――こいつ……
美貴の中の全ての悪意が
真里に向かう。
―――こいつさえいなければ……
真里の気持ちを
ズタズタにしてやろう。
- 343 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:55
- 「矢口さん?」
「何?」
「私の、勝ちですからね」
真里の表情に不安がさした。
その表情で美貴は理解した。
―――弱点
真里は自分に、梨華の前の恋人である自分に
劣等感を持っている。
「矢口さんまだなんでしょ?
梨華ちゃんは私が先にもらっちゃいましたから」
「……いつ?」
昔、恋人として結ばれたなら自然なこと。
しかし
真里のすぐそばで奪ったとなれば、
「昨日、静岡で」
真里は打ちのめされるはずだ。
「お前……なんてこと」
- 344 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:55
- ゴッ
真里のつま先がみぞおちに入った。
「うっ」
美貴は思わずうめき声をあげる。
「このやろう!」
真里は容赦なく美貴の腹を蹴りつける。
2発、3発、4発。
―――まだ蹴るの?
美貴は体を丸めて腹を抱えたが
真里の足は休まることなく美貴を蹴り続けた。
美貴は咳き込んだ。
咳と一緒に血が口から出てきた。
- 345 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:56
- 梨華は真里が美貴を蹴りつけるのを呆然と見ていた。
―――なんでこんなことに……
自分のせいで美貴だけでなく
真里まで暴走している。
―――もうやめて……
思うが言葉が口を出てこない。
―――もう嫌!
梨華はいますぐにでも逃げ出したかった。
この場所から
この場面から
この世界から逃げてしまいたかった。
- 346 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:56
- 「殺してやる!」
梨華は見た。
真里が両手に、真里の頭ほどもありそうな
大きな石を抱えている。
真里が
「殺してやる!」
再び言った。
梨華は
「矢口さん。ダメーーーーーーー!!」
叫んだ。
- 347 名前:17.優しさ。暴力。 投稿日:2004/03/28(日) 10:57
- しかし真里は聞こえていないのか
石を振りかぶる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
真里は頭上に持ち上げた石を
美貴目がけて振り下ろした。
ガッ
予想していたよりも軽い音がした。
血の付着した石が梨華の足元まで転がってきた。
- 348 名前:いこーる 投稿日:2004/03/28(日) 10:58
- 本日の更新は以上です。
- 349 名前:いこーる 投稿日:2004/03/28(日) 10:59
- ネタバレを避けるため、個別レスは省略させていただきます。
レス頂いた皆さん、本当にありがとうございます。
- 350 名前:いこーる 投稿日:2004/03/28(日) 10:59
- ……
- 351 名前:94 投稿日:2004/03/28(日) 13:57
- 久しぶりに胃が熱くなった。
よい作品に出会えることは
人生において至福の瞬間です。
ありがとうございます。
- 352 名前:14 投稿日:2004/03/28(日) 16:06
- 高橋はどうしたんだろー?
- 353 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/28(日) 16:33
- あぁ〜
どう言ったらいいか分からなくなりました。
続き待ってます。
- 354 名前:みっくす 投稿日:2004/03/28(日) 22:58
- う〜〜ん、なんて言っていいのか。
みんな精神的にいっぱいみたいですね。
- 355 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/29(月) 00:51
- 目標は破壊されました。
- 356 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/29(月) 14:14
- 続きが...続きが気になる...
- 357 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:36
- いきているときってどんなとき?
- 358 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:36
-
18.逃避行
- 359 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:36
- 梨華は
呆然と真里の足元を見た。
足元には
2人倒れている。
美貴に覆いかぶさった愛が
右手から血を流していた。
- 360 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:37
- とつぜん跳び込んできた愛の伸ばした拳が
石の軌道をずらした。
真里の振り下ろした石は
美貴を襲うことなく地面に落ちた。
ガッ
愛に小突かれた石は
そのまま梨華の方へ転がっていく。
「高橋……?」
愛は、
青白い顔で
震える声で
「やぐ…ちさん」
真里を見上げると
搾り出すように言った。
「人が……来ます。
見つかる前に逃げてください」
「でも……」
「早く!」
見ると木曽川駅の方向から
男が数人こちらに走ってきている。
- 361 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:37
- 「はやく……」
愛が苦痛に顔をゆがめる。
―――けが人が3人……
無理だ。
逃げ切れない。
「いいんだ高橋。もう……いいんだ」
どうせ行くあてもない逃避行。
どうせ進展しない恋。
ここで終わるなら終わってしまえばいい。
真里は観念した。
- 362 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:37
-
「梨華ちゃん?」
- 363 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:38
- すっと
梨華が立ち上がった。
道路に上がる。
一つ一つの動作が重い。
だが、そこには迷いも揺らぎもなかった。
男たちを睨みつけている。
何か強靭な意志が梨華を動かしている。
「私と真里ちゃんを……」
男たちの動きが止まった。
「邪魔しないで!」
甲高い叫び声はあたりの時間を止めたように
響いた。
梨華は男たちを睨み続ける。
- 364 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:38
- そのとき
奇跡的に
1台の
タクシーが走ってくる。
真里は右手を挙げてタクシーをとめた。
愛を支えてタクシーまで歩いた。
梨華は
「ミキティ、立てる?」
美貴の肩をとり、
タクシーまで連れて行く。
「どちらまで?」
「えっと……」
真里は考える。
騒ぎになってしまった以上、木曽川駅は使えない。
―――岐阜までタクシーで行くか?
「ねぇキミたち……」
運転手が話しかけてくる。
真理たちに気がついたようだった。
長時間この車に乗っていたら不審に思われる。
―――どうしよう……
- 365 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:38
- 美貴が
「黒田まで」
言った。
「この辺は名鉄がすぐ近くを走っています。
黒田までならすぐに行けるはず」
車が発進した。
狭い道路をすいすい走り抜けていく。
あっという間に黒田に到着した。
4人は黒田駅のホームへと入った。
無人駅だった。
4人の他には誰もいない。
15:41 黒田発
- 366 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:38
- 電車に乗ると4人がけのシートに座った。
けがを他の乗客に見られないように。
15:55 新岐阜着
- 367 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:39
- 到着。
電車を降りた。
駅を出て宿を探す。
しかしけが人が素性も明かさず泊まれそうなホテルは見つからない。
ドラッグストアを探し、
そこで消毒液とガーゼとテープ、ファンデーションを買った。
人目のないところまで行き
梨華と愛の傷口を消毒して薄く切ったガーゼを
肌色のテープでとめる。
そうして上からファンデーションをたっぷりと塗った。
近くで見ると不自然だが
遠くからでは梨華と愛が
けがをしていることはわからないだろう。
- 368 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:39
- 次に電話ボックスに入って
備え付けの電話帳をめくり
適当な名前と住所を暗記する。
「この人には悪いけど名前借りちゃおう」
でたらめな住所を書いても良かったのだが
ありもしない住所を書いて従業員に不審がられるのを避けたかった。
―――本当に逃避行だな……
真里は思った。
「免許証見せろとか言われないよね?」
真里は梨華に聞く。
「いや、平気でしょう」
- 369 名前:18.逃避行 投稿日:2004/03/31(水) 13:39
- 「あの……」
美貴が言った。
「2部屋とりましょう」
「え?」
「矢口さんと梨華ちゃん。
2人がいいでしょう。
もう、美貴たちは邪魔をしません」
「ミキティ……」
美貴の心遣いが真里の心にしみた。
自分は
―――本気でこのコを殺そうと……
なんということだろう。
自分はそんなに簡単におかしくなってしまうのか。
真里は自分が恐ろしくなった。
手の震えをさとられなように必死で隠した。
- 370 名前:いこーる 投稿日:2004/03/31(水) 13:39
- 本日の更新は以上です。
- 371 名前:いこーる 投稿日:2004/03/31(水) 13:41
- 毎度毎度、嬉しいレスありがとうございます。
ネタバレしないようにレス返しするのが難しいので
完結まではレス返しできませんが、
みなさんのレスは本当、ありがたく読ませていただいています。
引き続きよろしくおねがいします。
- 372 名前:14改め飛べない鳥 投稿日:2004/03/31(水) 19:43
- ネタばれなので感想はメル欄
- 373 名前:みっくす 投稿日:2004/04/01(木) 04:49
- そういうことでしたか。
まあよかった。
- 374 名前:すかっしゅ 投稿日:2004/04/01(木) 14:54
- 更新乙です。
- 375 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:40
- もう迷うことなんてない。
もう孤独なんてない。
もうへこまない。
- 376 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:40
-
19.決心
- 377 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:40
- 美貴たちとは別々の部屋に泊まることになった。
真里が鍵を開けようとしている。
カチ
鍵が上手く穴に入らないようだ。
カチカチ
鍵は入らず何度もふちにぶつかった。
―――矢口さん?
カチカチカチカチ
「矢口さん!」
真里の手が震えてる。
「どうしたの?」
震えは止まらない。
梨華は真里の手から鍵を取り
鍵を開けた。
ドアを開く。
中に入るとすぐドアを閉めた。
- 378 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:41
- 真里の手を引いてベッド脇まで歩く。
梨華は真里を抱きしめる。
真里の震えがおさまるように
きつく抱きしめた。
真里の体から振動が伝わってくる。
「離せ!」
真里は両手で梨華を押しのけた。
「真里ちゃん?」
真里は
全身で震えていた。
梨華は再び真里を抱き寄せた。
真里の背中で両手をかたく結ぶ。
「離せ!離せよ!!」
「真里ちゃん!落ち着いて」
真里は梨華の腕の中で暴れた。
梨華は真里を離すまいと腕に力を入れる。
- 379 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:41
- 真里のひざが梨華のすねを蹴飛ばす。
狂ったように頭を振る。
真里の頭が肩にガツガツとぶつかった。
梨華が力を緩めたすきに
真里の爪が
すっと
梨華の頬を引っかいた。
梨華は思わず手を離す。
真里は逃げるように
梨華から離れていった。
「まり……ちゃん?」
「来るな!」
「ねぇどうしたの?」
真里の震えは止まらない。
「おいら……あいつを殺そうとした。
おいら人殺しなんだよ!」
「そんなこと……。
誰も死んでない!真里ちゃんは誰も殺してない!」
「来るな!」
- 380 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:41
- 真里は電気スタンドを手に取る。
梨華に投げつけるふりをして威嚇する。
「お願い真里ちゃん……落ち着いて」
「それ以上来ると本気で投げるぞ!」
梨華は一歩踏み出した。
真里が
スタンドを投げた。
スタンドは一直線に梨華に向かう。
「きゃっ」
梨華の目の前まで来て
ささったままのコードに引っ張られてスタンドは落下した。
ちょうどベッドの上に落ちる。
「出て行け!」
「まりちゃん……」
「出て行かないと殺すぞ!」
「おねがいまりちゃん」
「出て行けーーー!!!!」
真里は本気で梨華を傷つけようとした。
もし自分がもう1歩進んでいたら
もしコードがあと1m長かったら、
とんでもないことになっていた。
- 381 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:42
- ―――なんで?
梨華はショックに立ちつくす。
「早く出て行け!!」
梨華は、
真里に背を向けた。
―――さよなら……
ドアまで歩く。
ドアノブに手をかける。
- 382 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:42
- ―――逃げるの?
梨華は動きを止めた。
―――どうして逃げるの?
苦しいことがあると逃げた。
辛いことがあると逃げた。
美貴から愛され逃げた。
現実が嫌になり、
仕事を投げ出し、
生活を投げ出し、
真里と一緒に逃げ出した。
今自分は、
―――逃避行からも逃げようと……
苦しんでいる真里を置いて
自分を愛してくれる人を置いて
梨華が
愛している
大切な
なによりも大事な
―――真里ちゃん!
真里から逃げようとしている。
- 383 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:42
- 「うぅ……」
背中に真里の声。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
耳をつんざく泣き声が聞こえてくる。
―――私は……
いつだって逃げるばかりじゃないか。
へこんで立ち直って
迷って決心して
転んで起きて
でも結局は逃げる。
今回だって同じ。
最初から逃げてばかりだったんだ。
自分には逃げることしかできないんだ。
幸せがあったって、何があったって
逃げることしか考えていないんだ。
- 384 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:43
- どうしようもない。
それが自分だから。
それがこれまでのやり方だから。
簡単には変えられない性格。
自分のために戦うことなんていつまでたってもできない。
―――いいよ……それなら
自分のことから逃げるしかできないけれど……
梨華は戻った。
真里のもとへと戻っていった。
泣き叫ぶ真里。
そっと、真里の頭を抱えてやる。
自分の胸元で、真里の涙を拭いてやる。
「りかちゃん……」
- 385 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:43
- 「真里ちゃん私はね、
生きていても逃げたいことばかりだった。
仕事も人間関係も恋愛も
逃げてしまいたいことばっかりだった。
なんかさ、私たちのいる世界って
変なことばかりで
逃げるしかないようなことばっかりで
なにも信じることなんてできなくって……。
でもね……
1つだけ逃げたくないって思えるものができたんだよ」
梨華は逃げない。
たった今、決心した。
これだけは絶対に逃げない。
「私は、真里ちゃんを愛してる」
真里の小さな手が
梨華の肩を掴んだ。
ぎゅうって掴んだ。
「真里ちゃんがどんなだって私は逃げないから」
「梨華ちゃん!」
真里の
震えが
止まった。
- 386 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:43
- 梨華はそっと真里を離す。
ちょっとの距離。
真里は口をへの字に曲げて
梨華を見上げている。
―――泣きやんだ……
こんどは
「梨華ちゃん、泣いてるの?」
「……え?」
梨華が泣いていた。
「私、今……」
「梨華ちゃん?」
「はじめて、本気で全力で
生きていこうって思った。
真里ちゃんのために」
「梨華ちゃん。
おいらたち2人のために
これからも生きていこうよ」
「うん!」
- 387 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:44
- 見つめあう。
たっぷりと見つめあう。
2人の間に
もう
距離なんてない。
「おいらね」
「うん?」
「梨華ちゃんが欲しい」
「えっ……ひゃあ」
真里が跳びついてキスをしてきた。
勢いあまって2人は
パサッ
ベッドに倒れ込む。
- 388 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:44
- ベッドの中でも真里の唇は梨華を離さなかった。
むさぼるように梨華を求める。
「んんっ……」
真里の舌が入ってくる。
真里の舌は梨華の口内で激しく暴れ回った。
―――すごい……
梨華は気持ちよさに脳が溶けそうになる。
荒い鼻息が頬にかかって熱い。
真里は両手で梨華の両頬を押さえて
梨華の口の中で舌をピチャピチャと這わせた。
梨華は
真里に
任せていた。
- 389 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:44
- キスの最中に
真里の右手がするすると梨華のシャツの中に入っていった。
ブラの下に手がもぐりこむ。
優しく
胸を触ってきた。
全身痺れるような快感が梨華を襲う。
キスの安心感。
胸を触られている感触。
「む……んんっ……」
口のまわりは2人のよだれでベトベトになっている。
そうしてようやく
2人の唇が離れていった。
しかし真里は胸を揉む手を休めない。
忙しい刺激に
梨華はなされるがまま。
「はぁ……いい……」
真里の指先が乳首をツンツンと弾く。
- 390 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:44
- 「あっ……あっ……真里ちゃん、激しすぎるよぉ」
その言葉で
真里のペースがさらに上がった。
「ああああ……」
目の前が真っ白になって
イッた。
ぐったり。
「はぁ……はぁ……」
呼吸を整える。
「梨華ちゃん、かわいいよ」
「真里ちゃん……」
「ん?」
「おかえし!」
梨華は真里の両手を掴んで
「うわぁ」
真里に覆い被さった。
- 391 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:45
- スルスルと真里のシャツをたくし上げる。
ブラを外すとかわいい胸があらわになった。
「ちょ……ちょっと待って」
「なに?」
真里は両手で抵抗する。
「おいら……触られるのは苦手……」
「感じちゃうから?」
「……」
梨華は真里の両手を
「えいっ」
ベッドに押し付けた。
真里はなんとかして逃れようと
体をもぞもぞと動かす。
「ダーメ。逃がさないんだから」
唇を真里の胸へと近づけて乳首に
チュッ
キス。
- 392 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:45
- それだけで真里の体がピンと張った。
―――真里ちゃん……感じてくれてる
舌先をチロチロさせる。
「はぁ……あぁ……ダメっ!だめぇ」
真里が足をバタバタさせて暴れる。
「もう、真里ちゃん!おとなしくしてて」
「だって……だって……」
真里は泣きそうな声を出した。
「この足がいけないんだ」
梨華は真里の両足をがっちりと脇に挟んだ。
「うわっ……梨華ちゃん?」
手を器用に動かしてジッパーを降ろす。
「そっちは……そっちは待って!」
真里の声を無視してズボンを下ろしてしまった。
- 393 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:46
- 真里がまた暴れるので足を押さえる。
「うわぁ……」
顔を近づける。
ショーツを口でくわえてスーっと引っ張って脱がした。
「梨華ちゃん……恥ずかしい……」
見ると
真里は目を閉じて何かに耐えるような表情をしていた。
―――かわいい……
「真里ちゃん……いい?」
「……」
「優しくするから……」
「……うん」
梨華は『真里』にキスをする。
「はぁ……気持ちいい」
梨華は自分の舌を中へと入れた。
真里の体が痙攣するように何度もビクビク反応する。
- 394 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:46
- 「ああああ、イクっ!」
さっきの真里のように中で激しく舌を動かした。
「ああ!」
中から
大量の液が飛び出てきた。
「はぁ……はぁ……」
「真里ちゃん、かわいい……」
「はぁ……はぁ……今度は梨華ちゃんの番だからね」
真里はがばっと起き上がると抱きついてきた。
「真里ちゃん……そんなに元気なの」
「うん……もう抑えられない!」
「そっか……」
- 395 名前:19.決心 投稿日:2004/04/03(土) 11:46
- 「ねぇ、いいでしょ?」
「……うん」
梨華はベッドに横になる。
真里の指が『梨華』をいじくってくれる。
「ん……」
「梨華ちゃん、気持ちいい?」
「うん……すごく気持ちいい」
―――私は……真里ちゃんと一緒になれる
真里の指が
中に入ってきた。
―――もうずっと一緒にいたい。
梨華は、この心地よさがいつまでも続くように祈った。
・
・
・
・
それからのことはよく覚えていない。
何があったのかは、想像するしかない。
想像に難くはないが。
- 396 名前:いこーる 投稿日:2004/04/03(土) 11:47
- 本日の更新は以上です。
- 397 名前:いこーる 投稿日:2004/04/03(土) 11:48
- ・・・
- 398 名前:いこーる 投稿日:2004/04/03(土) 11:48
- ・・・
- 399 名前:いこーる 投稿日:2004/04/03(土) 11:51
- ・・・
- 400 名前:飛べない鳥 投稿日:2004/04/03(土) 14:33
- 隣はどうなったんだろう
- 401 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/03(土) 20:17
- 矢口、梨華ちゃん、よかったね。
…でも、やっぱ隣、気になります。
- 402 名前:みっくす 投稿日:2004/04/04(日) 00:26
- ほんと、よかった、よかった。
同じく、隣、気になります。
- 403 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/05(月) 18:39
- 部屋が隣とは限らないわけで・・・。
- 404 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:38
- 「……。」
「……。」
- 405 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:38
-
20.結末
- 406 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:38
- 夜が明けた。
よく晴れた
すがすがしい日。
2人くっついて部屋でテレビを見た。
照れ臭くてまともに会話ができない。
でも
これまでとは違って
居心地のいい沈黙だった。
もう、
逃げなくてもいいかも知れない。
真里がそばにいてくれる。
仕事していようが、
何をしていようが、
真里が梨華と一緒にいてくれる。
どこにも逃げなくっていい。
- 407 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:38
- 「真里ちゃん?」
「ん?」
「私たち……どこまで行く?」
「そうだね、どっか遠くの国に行っちゃおう」
「え?」
「人目を気にしなくていいように
思いっきり遠くに行っちゃおうよ。
おいらと梨華ちゃんの貯金を合わせれば
のんびり暮らせるでしょう」
自分たちはどこへ行く?
真里と一緒なら
どこへだって行けるだろう。
「さーて、出かけますか」
「うん」
駅まで歩く。
「ミキティたちは、どうしてるかな?」
「まだ、追っかけてたりして」
「まぁそれならそれでいいよね」
10:05 岐阜発
- 408 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:39
- 「ねぇ矢口さん」
「ん?」
「本当に追っかけてきてますよ」
「どこ?」
梨華は隣の車両を指差す。
「本当だ」
「手を振ってみましょうか」
「いいよ、向こうもどっかに行くつもりなんでしょ」
「そっか」
よく晴れた景色が広々と流れていく。
電車は徐々に速度を緩めて到着した。
10:16 大垣着
大垣で降りて待合室に入った。
次の電車まで少し時間がある。
黒いスーツの男が4人
待合室の出口に立った。
- 409 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:39
- ―――!?
真里と梨華はとっさに立ち上がる。
反対側の出口から出ようとしたとき
真里は左腕をつかまれた。
強い力で体が引っ張られる。
「梨華ちゃん!」
梨華に手を伸ばしたが
届かなかった。
「真里ちゃん!」
2人は男たちに捕まった。
階段を上り改札の外へ出る。
―――捕まっちゃった
ついに来てしまった。
梨華との逃避行が終わる。
梨華を見た。
梨華はじっと俯いたまま。
- 410 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:39
- 駅舎を出ると
車が
2台停まっている。
―――え?
男たちは2人を別々の車へと連れて行った。
現実に引き戻される。
梨華と離れ離れになる。
梨華と一緒の時間が終わる。
―――嫌だ……
真里は足を止めた。
男が真里を引っ張る。
―――嫌だ……
真里はさらに強い力で引っ張られた。
- 411 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:40
- じっと地面を凝視していた梨華のもとに
「梨華ちゃーーーん!」
声が届いた。
梨華は顔をあげた。
「梨華ちゃん!」
真里が
男たちの手から
必死に逃れようと
暴れている。
「嫌だよ!嫌だよ!
梨華ちゃん!!」
わーわーと泣き叫びながら
こちらに向かおうともがいている。
「離せ!離せ!梨華ちゃん!」
―――真里ちゃん……
梨華の目から涙が溢れた。
- 412 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:40
- 真里の体は男たちによって
車の中へ押し込まれた。
扉が閉まった。
真里を乗せた車が走り出す。
梨華は
車に向かって
「真里ちゃん!ありがとう!!」
叫んだ。
- 413 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:40
- 車が走る。
真里を乗せた車は速度をあげて走っていく。
―――梨華ちゃん……
涙が止まらない。
前の座席から声がした。
「おーい、いつまで泣いてんだ」
「え?」
顔をあげた。
そこによく知っている顔。
「圭織!」
「今日スケジュール空いたからさ、無理言って来ちゃった。
あんたたちがいなくなったせいで仕事にならないんだから」
- 414 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:40
- 「圭織……ごめんなさい」
「別に謝らなくていい。
それより、なにがあった?」
「梨華ちゃんが好き」
答えになってかったが
圭織はそれ以上聞いてこなかった。
「この4日間、生きてたか?」
「うん。いつも以上に、おいら生きてたよ」
「じゃあさ」
「うん?」
車が信号でとまる。
「ここからは恩返しをしないと」
「そうだね。生きていることを実感できたんだ。
今度はおいらがみんなに恩返しをしないと。
いっぱい元気を与えて、
生きてて良かったってみんなが思えるように」
- 415 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:41
- 「じゃなくて」
再び車が走り出す。
「矢口が一番恩返しをしなきゃいけないのは……」
「え?」
「石川に、でしょう。
これからも石川のこと、大事にしてやるんだよ」
―――ありがとう圭織
「そうだね」
「ところで」
「ん?」
「藤本と高橋は?」
「え?いないの?」
「一緒じゃなかったの?見つからないんだよ」
- 416 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:41
- 待合室に入ろうとしたら、
スーツの男たちが階段を下りてくるのが見えた。
美貴は愛の手を引っ張って走り出した。
「藤本さん?」
奥のホームに停まっていた
美濃赤坂行きの電車に乗り込む。
そのまま2人はじっとしていた。
扉が閉まって電車が走り出した。
「よかった……見つかってない」
「藤本さん?」
ホームが後方へ流れていった。
- 417 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:41
- 「いつまで続けるんですか?」
「……ごめん。もうちょっとだけ」
美貴は窓の外を見る。
またしても
自分とは関係のないところで物語が幕を閉じた。
結局自分は何をやっても
世界に関わることなんてできやしない。
脇役にすらなれない。
「愛ちゃん……」
美貴は泣いていた。
「美貴、最悪だ……」
「どうしたの?」
「美貴、梨華ちゃんの邪魔ばっかりしてて
結局何も残らなかった。
何もしてやれない。
何もしてもらえない」
もう、
自分が自分として存在することに耐えられない。
- 418 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:42
- 「美貴はもう戻れない。
もう、現実に戻って生きていくことなんてできない」
電車がカタコト揺れている。
美貴は泣き続ける。
「戻れんのなら……」
愛が、小さな声で
「戻らんでもええよ」
言った。
「愛ちゃん……」
「もっと行こうよ、美貴ちゃん!」
―――愛ちゃん、あなた……
愛は、やわらかい笑顔。
―――ずっと美貴のことを想ってついて来てくれたの?
- 419 名前:20.結末 投稿日:2004/04/06(火) 21:42
- 自分は愛に冷たかった。
自分は愛に酷いことをした。
自分のせいで愛はけがをした。
自分のわがままでさんざん振り回した。
どうしようもないことばかりしてきたのに
―――私はあなたに甘えてしまう。
「愛ちゃん……」
美貴は愛の肩に顔をうずめて泣いた。
もう少し、もう少しだけ
こうしていてもいい?
これは美貴の逃避行。
これは美貴の物語。
電車は美濃赤坂に到着する。
- 420 名前:いこーる 投稿日:2004/04/06(火) 21:43
- 本日の更新は以上です。
- 421 名前:いこーる 投稿日:2004/04/06(火) 21:44
- レスありがとうございます。
はい、もうちょっと続きますがよろしくおねがいします。
- 422 名前:いこーる 投稿日:2004/04/06(火) 21:44
- ・・・
- 423 名前:いこーる 投稿日:2004/04/06(火) 21:44
- ・・・
- 424 名前:飛べない鳥 投稿日:2004/04/06(火) 23:12
- ?? ちょっとよくわからなかったんですけど...深読みしすぎ??
- 425 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/07(水) 06:26
- …?
またレス、分からなくなってきました。
更新待ってます。
- 426 名前:いこーる 投稿日:2004/04/07(水) 21:42
- メル欄に補足。
作者の意図しないところでそれ以外の含みがテキストに含まれている
可能性はありますが;
説明を意図的に省略していますので……。
- 427 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:44
- 愛は自分と一緒にいる。
愛は自分のもとにある。
愛は、
―――わたしのもの・・・・・・
- 428 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:45
-
21.君と歩く
- 429 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:45
- 10:28 美濃赤坂着
美濃赤坂に到着。
小さな階段を降りて駅舎へと向かった。
駅舎に入ると木の匂いが心地よい。
ベンチも表札もほとんどが木造の建物だった。
愛は、ずっと美貴の手を握っていてくれた。
美貴は愛に引かれるようにして道を歩いて行く。
狭い道路には車もなく、人もいない。
愛が、ふと足を止めた。
美貴を見る。
「泣きやんだ?」
いたずらっぽく微笑む愛。
美貴は思わず吹き出してしまった。
「あっ笑ったなー」
「ごめん。なんか嬉しくって」
「何が?」
「私なんかのこと、心配してくれるなんて」
ゆっくりと進む空気に包まれたからだろうか。
美貴は
素直になれた。
- 430 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:45
- 「愛ちゃん。歩くの?」
愛はこくりとうなづいた。
「電車って不思議なものでね、
乗っている人たちは全然動かないんだ。
止まっている。
それなのにみんな、自分たちが何かをしていると
信じて疑わない」
美貴は、愛の言いたいことがつかめずに
首をかしげた。
「だから、
今は歩いた方がいいよ」
美貴は
愛の手をギュッと握った。
「美貴ちゃん?」
泣きやんだと思ったのに
また泣けてきた。
涙に終わりなんてないのかもしれない。
「どうしたの?」
- 431 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:46
- 「大丈夫・・・・・・」
―――愛ちゃん、ありがとう
平気。
これは嬉しくて泣いてるだけ。
美貴は空を見上げた。
澄み切った青い空。
雲もなく、天井だってもちろんない。
悲しみを自分に押し込めるものなんて何もない。
「ねぇ愛ちゃん」
「ん?」
「横浜駅って変に閉塞感がない?」
「何それ?」
「天井とか別に低くないのに、
上から何かがのしかかってきそうな
そんな雰囲気があると思わない?」
「何の話?」
「私、ときどき思うんだよ・・・・・・
・・・・・・天井なんて見えなければいいのに。
そんな風に思う」
突き抜けるような空を見ていると
自分にのしかかっていた
なにもかもから自由になれそうだった。
- 432 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:46
- しばらく歩いていく。
2人の不揃いな足音。
そんな音も美貴には
気持ちよく感じられた。
「あっ」
小さな線路が見えた。
「あれ?こんなところに線路がありますよ」
「そうだね」
「美濃赤坂で終点じゃなかったのかな?」
「じゃあ、貨物列車用の線路なのかも」
「そっかー」
愛は線路を見ている。
首をくいと曲げて線路の先の方まで。
美貴も真似をして
同じ方向を見た。
細い線路が奥のほうまで伸びている。
この線路は一体どこまで続いているのだろうか。
考えても、答えは出なかった。
「美貴ちゃん」
「何?」
「行ってみよう!」
- 433 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:46
- そう言って
愛は線路を歩き出した。
「ちょ・・・・・・ちょっと」
美貴も引っ張られて線路の上。
「平気だよ。貨物列車なら、すぐには来ないでしょ」
「そうだけど、あんまり先に進むと戻れなくなるよ」
「帰りたいの?」
「え?」
「私は、帰りたくない・・・」
「愛ちゃん・・・・・・」
「私は、美貴ちゃんとずっと一緒にいたい」
美貴は下を向く。
線路の枕木が目に入った。
「私も」
「え?」
「私も、愛ちゃんと一緒にいたい」
「本当?」
「うん」
愛は、
「きゃーーー」
とか言いながら美貴に抱きついてきた。
- 434 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:47
- 美貴は愛を受け止める。
「愛ちゃん。
私、戻らなくていいの?」
「戻っちゃダメ。ずっとこうしてて」
「現実に、戻れなくていいの?」
愛の体がすっと離れて行った。
「愛ちゃん?」
愛は、小さな声で言う。
「私は・・・・・・私にとっては・・・・・・
あなたといる時間が一番生きている。
仕事さぼって、みんなから離れて、
美貴ちゃんといるときが、一番いきいきしてる」
愛は再び美貴の手を取った。
「美貴ちゃんが私にとっての現実」
「愛ちゃん。こんな私のために・・・・・・」
「私は、
自分じゃなくて君を選んだんだ。
だからさぁ
どこまでも逃げてこうよ」
- 435 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:47
- 2人は線路を進み続けた。
ずっと歩き続けた。
足が痛くなっても歩き続けた。
孤独じゃないこの時間が大切。
2人並んで歩いていると距離のとり方に困る。
もっとくっつきたい。
もっとぴったりくっついていたいのに
くっついたらきっと2人とも転んじゃう。
―――でも、転んでもいいか。2人なら・・・・・・
美貴の足が棒のようになって
意識が少し朦朧としてきた。
石を蹴飛ばしてしまった。
ころころと転がっていく。
そのとき
不安に襲われた。
この線路にも、いつか行き止まりがある。
今は2人でいるけれど
いつか、行き止まりがある。
美貴は進む足を止めた。
- 436 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:47
- 「美貴ちゃん?」
「私、また贅沢なこと考えてる。
また・・・・・・勝手なこと考えてる」
「どうしたの?」
「私、もっと愛ちゃんの近くにいたい」
「ははっ。大丈夫だよ。手、離したりしないから」
「そうだけど・・・・・・」
「ほら行こう」
愛はまた美貴の手を引っ張る。
引っ張られた美貴はその勢いのまま
愛へと近寄って、
肩と肩がぴったりとくっついた。
手はつながったまま。
「美貴ちゃん・・・・・・やっぱり前のこと引きずってるね」
「え?」
「石川さんとのこと、後悔してるんでしょ?」
「そりゃ・・・・・・」
あんな最悪なことになって
後悔していないはずがない。
「怖いの?美貴ちゃん」
- 437 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:47
- 「・・・・・・どうだろ?怖いというか、
美貴は今でも、あのときの自分が嫌」
「私・・・・・・美貴ちゃんのために何かできる?」
―――私の命が解放されるとしたら・・・・・・
そこに必要なのは愛だけだ
「もっとそばにいて」
愛は無言で、
美貴へと近づいてきた。
膝と膝がぶつかった。
愛はそれでも近づいてくる。
「あなたの過去は
私にください」
愛の唇がゆっくりと
美貴の唇に
触れた。
- 438 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:48
- そっと触れた。
愛の両手が美貴の両頬を包み込む。
優しい唇は次第に熱くなっていく。
「ん・・・・・・」
―――もっと近く・・・・・・
美貴も両手で愛の頬を持った。
自分の唇をさらに強くつける。
愛の優しさが
どこまでもいつまでも美貴といてくれた。
「美貴ちゃん・・・・・・」
「愛ちゃん・・・・・・」
愛は美貴の肩を、寝かしつけるように押してくる。
美貴は
線路の上に横たわった。
上から愛が覗き込んでる。
「美貴ちゃん・・・・・・いい?」
「・・・・・・うん」
- 439 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:48
- 愛が欲しい。
愛をください。
愛に触れたい。
そんな願いが叶えられようとしている。
不揃いな吐息・・・・・・
キス。
背中に石がごつごつ当たって痛かったが
愛の唇の心地よさに
美貴は
そのまま。
胸に触れる
愛の手が気持ちいい。
耳たぶを吸う
愛の唇がいとしい。
愛の
髪の匂いがあたたかい。
- 440 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:48
- いい加減
背中の痛みがひどくなってきた。
愛はそれでも
美貴に快感を与え続ける。
背面の激痛と表面の快楽。
双方向の刺激に美貴は恍惚した。
この痛みこそが存在証明。
これまでのような不安定はない。
起きているのか寝ているのか
生きているのか死んでいるのか
判然としない惰性の毎日。
そんな不安はもうない。
体が痛い。
体が愛を感じる。
美貴は、
確かにそこに存在していた。
ようやく存在した。
- 441 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:49
- 愛は美貴の中に入ろうとする。
「ん……待って愛ちゃん」
「ん?」
「私も、愛ちゃんに触りたいよ」
もっと思いを伝えたい。
もっと愛に触れたい。
もっと孤独から解放されたい。
そのためには障害物が邪魔。
取り除いてあげよう。
愛を隔てるもの全部。
自分の手で取っ払ってやろう。
愛のシャツをめくり胸に触れる。
「はぁ……」
「愛ちゃん、かわいいよ」
見たこともない愛の表情。
美貴を感じてくれている顔。
- 442 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:49
- さらに求めていった。
―――愛ちゃん……
奪いたいんじゃない。
与えたいんじゃない。
ただ、
ここでこうして
一緒にいたいだけ。
「一緒に中に入ろう……」
「うん」
美貴の指が愛に包まれる。
- 443 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:49
- 愛が
「んんっ!」
美貴の中にいる。
もう痛くなんてない。
気持ちよすぎて
痛いなんて感じない。
―――愛ちゃんと一緒なら……
「はぁ……もう美貴、離れたくない」
「私も」
「い……イク」
「美貴ちゃん……一緒に……一緒にイッて!」
「うん!」
美貴の意識は空を飛んだ。
現実も夢もなにもなかった。
感じるのは愛だけ。
- 444 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:49
- 石と線路の匂いが漂ってくる。
ごつごつした感じが蘇ってくる。
となりに
愛。
2人で
横になっている。
「……。」
「……。」
全身から力が抜けていて、動きたくない。
「空が綺麗だね」
「うん」
自分たちは、この空の下。
長い長い線路の上。
「私たち、すごいところまで来ちゃったね」
「帰りたくないね」
- 445 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:50
- 愛がいる。
一緒にいてくれる。
―――帰らなくていい
「愛ちゃん?」
「ん?」
もう迷うことなんてない。
もう孤独なんてない。
もうへこまない。
もう、
あんなところへは戻らない。
「ずっとこうしていよう」
疲れて眠くなった脳に
自分の囁く声が響いてくる。
「ん?」
やすらぐ愛の声。
「電車が来て、私たちを轢いちゃうまで
ずっと一緒にここで寝てよう」
- 446 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:50
- 「そうだね」
全てのものから逃げて
君と2人きりで。
「一緒に轢かれちゃおう」
「うん……」
逃げるのはもう終わり。
「でも、誰かが私たちを先に見つけちゃうかも」
「そしたら、それでいい……」
「……そうだね」
「運命なんて私たちが決めることじゃない」
- 447 名前:21.君と歩く 投稿日:2004/04/09(金) 20:50
- 意志なんて
自我なんて
未来なんて
愛といる永遠にくらべたら……
―――ねぇ愛ちゃん。私たち、たどりついたのかな
2人は線路の上。
延々続くような青空の下。
―――もう、逃げなくたっていい。
じっと眠るだけでいい。
2人を迎えに来るまで。
「おやすみ」
目を閉じた。
- 448 名前:・・・ 投稿日:2004/04/09(金) 20:50
- この小説はフィクションであり
物語中のいかなる、個人・団体・出来事も
実在のものとは一切関係がありません。
- 449 名前:いこーる 投稿日:2004/04/09(金) 20:51
- 逃避行完結です。
- 450 名前:いこーる 投稿日:2004/04/09(金) 20:57
- あとがき
ところどころで更新ペースについて言われていますが
実はこの作品、コンサート遠征の前日に設定がひらめいて
18切符での移動中にこんなシーン入れよう、あんなシーン入れよう
ってな感じで構想を練って行ったんです。
帰ってきたときには脳内に逃避行物語が出来上がっていました。
そのときに絶対書きたいと思ったシーンは
章でいうと3・11・20。
最終章での美貴の選択については
理由を明示するパターンと明示しないパターンの2つを書いてみて
後者を採用しました。
美濃赤坂という場所を知っていれば推測可能だと思ったのと
この作品においては人物の心理を作者も把握しきっていないので。
後半は、更新を重視したためレス返しをしていませんでしたが
その間レスしてくれた一人一人の方にはとても感謝しています。
この場でお礼申し上げます(4月はありがとう月間)。
こうなりましたので皆様の感想、いただけると大変嬉しいです。
よろしくおねがいします。
- 451 名前:飛べない鳥 投稿日:2004/04/10(土) 02:07
- 更新乙です
素晴らしい作品をありがとうございました
逃げられたらアレですけど、現実の彼女たちを少しは休ませてあげたいですね
- 452 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/10(土) 02:43
- すばらしい作品だったけど、終ってしまったのか〜(涙)
あー! 終ってしまった〜!! いやだよ〜、終らないでよー!
- 453 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/10(土) 15:55
- もう、ただただ面白かったです。
読み始めたのは最近だったので、かなりまとまって読めてすごい得した感じでした。
ありがとうございました。
- 454 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/10(土) 20:58
- 藤本と高橋の最後は死ぬのか、それとも救助されるのか・・・
そういう所を読者の想像にまかせたのが味わい深いです。
- 455 名前:いこーる 投稿日:2004/04/10(土) 21:20
- 制作ノート
新幹線
私は新幹線があまり好きではないです。
根っからの庶民なので鈍行のギシギシ感に馴染んでしまっているんですね。
スイスイ走る列車に乗ると酔ってしまう;汗
経済的だし旅は鈍行が一番です。
渋谷のホテル街
有名なのでしょうがホテル街自体は
なぜかひっそりしていて妙な雰囲気なんですよね。
東横線
はて、こういう時間に朝日の差し込むことがあるのだろうか。
あるとしたら季節はいつ?
細かいことを考え出すとキリがないのでその辺は放置で(オイ)。
マフィン
ファーストフード店の朝メニューってあるじゃないですか。
職業柄、そういう時間にファーストフード店に行くことはまずないのですが
旅行やコンサート遠征のときだけは朝から動くので朝メニューにありつけるんです。
だから私にとって朝メニューっていうと旅行気分なんですね。
ということで2人の逃避行でもきっと朝メニューだろうと勝手に想像してみました。
- 456 名前:いこーる 投稿日:2004/04/10(土) 21:20
- パチンコ店
どこにでもあるんですよね。本当に。
113系
ぎしぎし感が大好きです。
ただシートが狭くて前の人のひざがガシガシぶつかるのだけは勘弁;
恋人のひざがぶつかるのなら嬉しいんだろうなぁ。
早川〜根府川
言わずと知れた絶景ポイント。
この区間だけは文庫本を休めて景色に魅入っています。
湯河原
作中に登場した穴場の日帰り温泉は実在のモデルがあります。
店主さん、みそおでんご馳走様でした(謎)。
ファミレス
バスロータリーが見える食堂は確かにありますが
あれをファミレスと呼べるかは微妙……。
藤本さんの感性がとんでいたんだと理解しよう(するな!)
喫茶店
こっちならバス降り場がばっちり見えるはず。
- 457 名前:いこーる 投稿日:2004/04/10(土) 21:22
- 突然、制作ノートなんぞを更新……。
作品進行中のレス返しでは言えなかったことなど
書かせていただきました。
後半分も書こうかな……。
- 458 名前:ROM読者 投稿日:2004/04/10(土) 22:04
- >後半分も書こうかな……。
是非!お願いします。
正直わからない部分もあったので、読み返す楽しみが増えます。
- 459 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 02:15
- 「ここはどうかな」と疑問に思うところもありました。
だけど、本当に面白い作品でした。
とくに最後に視点がぐいっと移動するところでやられたというか。
美濃赤坂という場所は知らないのですが、郡山からそこまで来たからこそ、
こういう結末に持っていけたというか、とにかく面白かったです。
- 460 名前:みっくす 投稿日:2004/04/11(日) 05:45
- おつかれさまでした。
でも、最後のシーンが気になりますね。
二人はどうなったんだどう。
でも、こういう終わり方好きです。
- 461 名前:いこーる 投稿日:2004/04/13(火) 21:44
- ゲーム
私は携帯ゲームが大好きです。
メールするのと同じ姿勢でゲームをするもんだから
現実の人と話してるのかゲームをしているのかたまにごっちゃになります。
簡易な現実逃避ツールですね。
いつか携帯ゲームを題材にした小説を書きたい。
捜索
直感で推理しそうな加護と紺野。
探偵加護、大好きです(とか微妙に宣伝;汗)。
ショッピングセンター
百貨店の非常階段ってなんであんなに寂しいんだろう。
新快速
作者はバタバタ動かせるシートを見て感動した田舎者です。
高層ビル
架空の建物ですが……
名鉄
豊橋から延々JRと並走してます。
神奈川の京急と京浜東北線もそんな感じか。
線路が別々で微妙に距離があるもんだから乗換えが面倒なんですよね。
岐阜
駅近くにラブホテルがなくて困った困った(私が知らないだけ?)。
そのおかげで強引に話を変更してしまいました。
大垣
駅構造が面白かったので使っちゃいました。
貨物列車
鉄道ファンの間ではわりと有名な路線のようです。
- 462 名前:いこーる 投稿日:2004/04/13(火) 21:48
- ということで制作ノートでした。
>>451 飛べない鳥 様
ずっとお読みいただきましてありがとうございます。
実際の彼女たちには前向きに頑張って欲しいです。
でもたまには休んで欲しいですね。
>>452
そういっていただけて何よりです。
私も完結の嬉しさと寂しさの微妙な感情でいます。
>>453
こちらこそありがとうございます。
まとめて読まれる方もいらっしゃるのですね。
書いてて良かった……
>>454
ラストはいろいろ悩みましたが
結局こういう形になりました。
どうもありがとうございます。
- 463 名前:いこーる 投稿日:2004/04/13(火) 21:52
- >>458
ありがとうございます。
後半分もUPいたしました。
ただよくわからなかった点はおそらく作者の説明不足……
>>459
疑問に思われた点が、作者の狙っていた箇所であればいいのですが
単に筆力がなくて「どうかな?」と思われたのだとしたらごめんなさい。
旅がどこまで続くのかは早い段階で固まっていました。
どうもありがとうございます。
>>460
ありがとうございました。
気にしていただいているのも作者にとっては嬉しかったり。
終わりはこうなりましたが楽しんでいただけたらなによりです。
- 464 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/19(月) 22:11
-
- 465 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/04(火) 22:06
- いこーるさん、このスレッドは終了してしまうのですか?
そんなのやだーーーー!!
- 466 名前:いこーる 投稿日:2004/05/15(土) 22:14
- 新作を更新します。
- 467 名前:_ 投稿日:2004/05/15(土) 22:15
-
「縦の衝撃」
- 468 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:15
- スプレンディッドタワー。
地方都市の21階まである高層ビル。
地下は3階まで。
この地域では最大規模だった。
これが、大災害のとき
少女の命を閉じ込めようとした
巨大な障害物である。
4階はレストランフロア。
2階と3階がぶち抜きの大ホール。
1階から地下3階までがショッピングモール。
但し地下1階は駐車場があるため
ショップは1件もない。
ちなみに5階から上はオフィスフロアである。
4F レストランフロア
3F 大ホール
2F 大ホール
1F ファッションショップ街
B1 駐車場
B2 ショッピングセンター(食料品中心)
B3 ショッピングセンター
ここの大ホールで
国民的アイドルグループのコンサートが行われるはずだった。
- 469 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:15
- 衝撃が走ったのはその前日午後9時直前。
まだ前日なので
付近にはファンはいなかった。
ショッピングセンターは8時に閉まってしまうため
地下ではまだ、係員たちが忙しく動いていたが
客は一人もいなかった。
ホール内にいるのは
会場準備のためのスタッフと、
リハーサルをしていたメンバー達。
メンバーは9時に引き上げるため
着替えをして荷物を持って
ホテルに向かう準備をしていた。
「その前にトイレ行ってきます」
愛が立ち上がった。
「あ、私も!」
希美も立ち上がった。
「じゃあのんちゃん、行こう」
2人は控え室を出て行った。
荷物を残して。
- 470 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:16
-
亜依は
迷路のようなホール通用路で
迷子になっていた。
- 471 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:16
- トイレにたどり着いた2人。
しかし、
「え?ここ個室が一個しかないの?」
愛は言った。
2つあるトイレの個室の片方には
故障中の張り紙がしてある。
「いいよ、愛ちゃん使って。
この先にもう一つトイレがあったと思うから
のんはそっちを使う」
「いいの?」
「うん」
「ありがと」
愛は入って行き
希美はトイレを出て奥にある扉へ向かった。
- 472 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:16
- ガチャ
扉を開ける。
「違う・・・」
階段だった。
非常階段だろうか・・・。
急な角度の階段。
螺旋がずっと下まで続いていて
眩暈がしそうだった。
「うわぁ・・・すごい」
希美は階段室の中へと入ってしまった。
その時
災害史上に残る大型震災が発生する。
直下型の地震でタワーのあった地域の震度は7。
大量の家屋が崩壊。
電気、水道、ガス、電話。
ライフラインは全てストップした。
- 473 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:17
- 希美は階段室に入って下を見た。
吸い込まれそうな果てしない螺旋。
―――2階のトイレを使っちゃおう。
希美は階段を2階までおりた。
「きゃっ」
階段が大きく揺れた。
希美はバランスを崩し
1階と2階の間にある踊り場まで
転げ落ちた。
「つっ・・・」
腰を思いっきり打ってしまった。
しかし普段から運動をしていたので
その他の怪我はなし。
希美はすぐに立ち上がって
1階まで行って扉のノブに手をかけた。
扉は
開かなかった。
- 474 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:17
-
「ウソ・・・」
がちゃがちゃと何度もノブを引っ張るが
扉はびくともしない。
よく見ると周囲の壁には横一直線に亀裂が走っている。
壁が歪んで扉が開かなくなってしまったということは
希美にもすぐにわかった。
希美は階段をもう一つ降り、
今度は地下1階の扉に手をかけた。
ガチャ
開いた。
駐車場が目に入る。
希美は駐車場に入って行った。
- 475 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:17
- 愛が用を済ませ立ち上がった
ちょうどその時
衝撃が走った。
愛は突然、地面が消えたように感じた。
愛はそのまま仰向けに倒れる。
ゴッ
―――いたぁ・・・
鈍い音がして
愛は便器に後頭部を強打。
目に火花が散ったと思うと
すっと意識が遠のいていった。
- 476 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:17
- 震災があってすぐ、
ビル内に残っていた人々は避難を開始する。
非常階段は西側がほとんどの階で扉が開かなくなっていたため
全員東側階段から避難した。
希美のいた階段とは反対側である。
地下に残っていた従業員も、
次々と東側階段から避難。
控え室にいたメンバーはスタッフの誘導にしたがって
続々と避難して行った。
ただ一人、
スタッフが止めるのを振り切って
「愛ちゃん呼んでこないと!」
里沙が通路の奥へ走って行ってしまった。
- 477 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:18
- このとき
スタッフ15人、メンバー3人が負傷。
うち8人が足をひねるなど、
避難に支障をきたすけがをしていたため
その場にいた全員がけが人をかばいながら
必死に避難していたのである。
そのため
愛を連れてくるといった里沙を止める余裕の
あるものは誰もいなかった。
こうして、数名のメンバーを残して
全員の避難が完了したとき
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
再び地面が揺れ
1階にある柱という柱が砕け散り
1階部分が押し潰されたのである。
- 478 名前:1 投稿日:2004/05/15(土) 22:18
- まるでダルマ落としのように、
1階を潰して、その他の階は
すべて元の形を維持する。
それだけでも奇跡的なことだった。
しかし
2階3階はホールであるため窓がほとんどない。
わずかにあった窓は、瓦礫に埋もれたり
ひどく歪んだりしていて人が入れるような
ものではなかった。
交通が麻痺したため救助は遅れる。
巨大な箱の中の暗闇に
少女たちは閉じ込められることになったのである。
- 479 名前:いこーる 投稿日:2004/05/15(土) 22:19
- 本日の更新は以上になります。
更新ペースはゆっくりになるかもしれませんがよろしくお願いします。
- 480 名前:いこーる 投稿日:2004/05/15(土) 22:20
- >>465
ありがとうございます。
物語は違いますが更新しましたのでよろしくおねがいします。
- 481 名前:みっくす 投稿日:2004/05/16(日) 04:13
- おお新作だ。
期待してます。
次回も楽しみに待ってます。
- 482 名前:ROM読者 投稿日:2004/05/16(日) 08:54
- 壮大なスケールだけど、決して人事じゃない設定に
引き付けられました。楽しみにしています。
- 483 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:43
- 広い駐車場に1歩足を踏み入れたとき、
「また?」
再び地面が大きく揺れた。
後方で大きな音がした。
そして
「きゃ」
目の前が真っ暗になった。
完全な暗闇。
見えない。
何も見えない。
希美は目を凝らす。
希美が通常いる室内の闇は
しばらくすると目が順応してきてうっすらとものが見えるようになる。
希美はそれを待っていた。
しかし
いくら待っても何も見えてこない。
あたりを見回す。
しかし
やはり何も見えない。
- 484 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:43
- 「だれかー!誰か来てー!」
叫ぶ。
叫んだ声が辺りに反響しているのが聞こえた。
しばらくして
沈黙。
声は深く垂れ込めた闇に吸収されたみたいだった。
音だけが響く。
希美は泣き出したくなるのをこらえて考える。
―――落ち着け……
この闇の中で自分の居場所がわからなくなっては最悪だ。
わからなくならないうちにさっきの階段まで戻ろう。
希美はそろりそろりと歩き出す。
手を前にかざしてゆっくりと進んでいった。
何かがつま先に触れ、カランカランと音がする。
石ころか何かを蹴っ飛ばしてしまったのだろう。
希美が歩く度に
ザッザッと砂利を踏んだような感触が伝わってくる。
- 485 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:44
- カランカラン
再び石を蹴った。
もう一歩。
カラカラカラカラ
今度は複数の石を同時に蹴ってしまった。
もう一歩。
希美は転ばないようにすり足で前に進む。
靴の底が砂利を擦るような音を立てて
その音が周囲に響いている。
室内の空気が埃臭い。
―――砂利?
希美は立ち止まった。
―――石?
不意に恐怖が希美を襲った。
なぜ地下一階に砂利や石があるのだろう。
ここはコンクリート敷きの駐車場だ。
石が落ちていることくらいあるだろうがさっきから
蹴飛ばしている石の数が多すぎる。
それに砂利が敷いてある筈がない。
- 486 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:44
- ―――違う……
これは瓦礫だ。
崩れかけた建物の破片だ。
―――早く逃げないと
地震で建物に亀裂が走っている。
それは停電の直前に確認した。
この場所も
いつまで安全かわからない。
希美は再び前へ歩き出す。
ゴッ
つま先が引っかかった。
身をそーっとかがめて右手でつま先に触れたものを確認する。
ゴツゴツした手触り。
大き目の瓦礫だった。
スイカ1個分くらいの大きさ。
―――こんなものが崩れてくるなんて……
一体どれだけ大きな地震だろう。
希美はぞっとした。
- 487 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:45
- もし崩れる箇所がずれていたら、
もし自分がもう少しゆっくり進んでいたら、
この瓦礫が希美の頭を直撃していたかもしれない。
「やだ……助けて!」
希美は一歩踏み出す。
ゴッ
また大きな瓦礫に躓いた。
慌てて進もうとしたため今度は前のめりに
倒れこんでしまった。
「痛っ」
ゴツゴツした斜面に前進を打ってしまった。
しばらく起き上がることができない。
斜面に倒れた体はそのまま斜め。
―――え?
そう、
希美は斜めに倒れていた。
暗闇の中で
自分の平衡感覚がおかしくなったのだろうか。
―――違う……
- 488 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:45
- 希美は手で斜面の様子を探る。
確かに斜面ができている。
積みあがった瓦礫が坂を作っていた。
このような瓦礫の山ができるということは
一箇所から大量の瓦礫がなだれ込んできたのだ。
希美は斜面をよじ登る。
ほどなく頭が天井にぶつかった。
手を上にやってペたペた天井を触った。
天井はどこも崩れていない。
ひびが入ったような跡もない。
―――何で?
この瓦礫の山はどこからできたのか。
答えは1つしかない。
- 489 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:45
- 瓦礫は階段の入り口からなだれ込んだのだ。
今、自分のいる位置はさっきまで階段の入り口だった場所。
そこが埋まってしまった。
洒落じゃなく、あと一歩遅れていたら、
希美はこの瓦礫の中に埋もれていただろう。
「助けて!」
希美は叫ぶ。
声が響く。
「助けてーーー!」
希美はあらん限りの声で泣き出した。
- 490 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:46
- 里沙は左手で壁をなぞるようにして歩いていた。
視界ゼロの暗闇ではこうしていないと
自分の進んでいる方向がわからなくなってしまう。
里沙はトイレの方向を誤っていた。
どこをどう間違えたのか、
愛と離れている時に非常事態になって里沙は気が動転していた。
控え室スペースと一般客用のロビーを隔てる扉を通り抜け
ホールの3階ロビーにいる。
それに気がついたのは停電になってからだった。
早足で歩いていた。
早く、愛に会いたかった。
左手にひんやりとした感触が伝わってきた。
何か、金属の板のようなものに触れたようだった。
里沙は両手で板を触る。
指先ですっとなぞると、でこぼこししている。
―――これは……案内板?
ホールの座席が書いてある案内板だ。
ということは、ホールへの入り口が近い。
こうして何も見えない状況で迷路のような廊下を進んでいくよりも
ホール内を抜けて控え室スペースに行った方が早そうだ。
- 491 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:46
- 里沙は両手で壁の広い範囲をなでる。
―――あった!
右手が蝶番に引っかかった。
それを手がかりにして里沙は体を扉の正面に移動させる。
両手で扉を押して
真っ暗なホールへと入っていった。
視界が開けることはなかったが
空気の流れと音の反響具合から
自分が広い空間に出たのだということは認識できた。
極限状態の緊張感と暗闇が
里沙の感覚を鋭敏に研ぎ澄ましている。
―――ここのホールの構造は……
里沙は
座席表がどんなだったか
自分の記憶をたどる。
だが
思い出せなかった。
- 492 名前:2 投稿日:2004/05/18(火) 20:46
- ということは
―――結局壁をつたって歩くしかない。
里沙は左手で壁をなぞりながら歩き出した。
―――ステージに上がって舞台裏の控え室スペースに戻ろう。
しばらく歩いていると壁が直角に曲がっている。
ホールの端まできたのだ。
そこからステージへと方向変換をして
ゆっくりとまた歩き出した。
足に何かが引っかかった。
たぶん
階段の滑り止め。
里沙は足を踏み外さないようにそろりそろりと
段差を降りていった。
- 493 名前:いこーる 投稿日:2004/05/18(火) 20:47
- 本日の更新は以上です。
- 494 名前:いこーる 投稿日:2004/05/18(火) 20:48
- >>481 みっくす様
お読みいただきありがとうございます。
これからも期待を裏切らぬよう更新します。
>>482
ありがとうございます。
あまりスケール広げると作者の能力を超えてしまいますもので;
今後ともよろしくおねがいします。
- 495 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:49
- ようやく瓦礫の山から下りることができた。
希美は立ち尽くす。
右手の爪を齧りだした。
―――やばい……
階段がふさがってしまった。
希美は地下駐車場に閉じ込められた形になる。
―――このままじっとしている?
建物が崩れかけるほどの大きな地震。
救助はいつになるだろうか。
爪を齧る。
しかし、
この暗い中を下手に動いては危険だ。
―――このまま、このままじっとしていよう。
待っているほうが気が楽だ。
真っ暗なのが怖くて仕方がないが
眠ってしまえば関係ない。
ここは瓦礫が多いからもう少し
地面のきれいなところまで行って休んでいよう。
そう
考えた。
- 496 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:50
- 爪を齧る。
しかし
―――みんなは私が3階にいると思ってるんだ……
トイレを探していたら地震が来て
たまたま地下まで逃げてきたのだ。
希美の捜索が始まっても、
まずは地上フロアから探そうとするはず。
ここに来るのはいつになるだろう。
爪を噛みすぎて指が痛くなってきた。
「お腹すいた……」
もし救助が何日も後になった場合、
食糧はおろか水分もないこの状況では命に関わる。
誰かが来るまで、
生きていられるだろうか……
指から血が流れていたが
希美は見えずに齧り続ける。
- 497 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:50
- 覚醒して最初に感じたのは
後頭部の痛みだった。
―――私……トイレで転んで……
目を開けた。
目を開けたのに何も見えなかった。
―――停電?
「誰かー!誰かおらん?」
声が響く。
反響して自分のところに返ってくる。
―――トイレの中じゃ誰も気づかないか……
愛は体を起こした。
手を前にかざして壁にぶつからないように
ゆっくり歩き出す。
トイレの出口のあった場所をなんとか思い出しながら歩いていった。
- 498 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:50
- 扉に手が触れる。
ガチャ
ノブを回して廊下にでた。
廊下に出ても闇が延々続く。
―――みんな……避難したのかな?
頭に浮かんだのは愛しい人のことだった。
……
…………。
「来週からツアー開始だね」
「うん……またあちこちに行ける」
「そうだね。最初の日って、例の大きいビルでしょ?」
「そうそう、展望台とかもあるって」
「楽しみだなー。愛ちゃんとの思い出がまた増える」
「でも……遊ぶ時間とかないんや」
「そう?」
- 499 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:51
- 彼女の
唇が近づいてきて
「ん……」
すぐに離れていった。
「思い出を作るのに、時間なんていらない」
「……」
ほんのちょっとの隙に、素敵なことをたくさんしよう。
彼女はそう言って微笑みかけてきた。
…………
……。
今は暗い廊下の中にいる。
―――まだ、何にも思い出作ってない……
早くここから出なくてはならない。
「誰かー!誰かー!」
声は響いてばかりで、
その他は何も起きなかった。
- 500 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:51
- みんな逃げた。
彼女も逃げた。
自分が1人
取り残された。
愛は自分の身体を抱き寄せた。
打ち捨てられたものを愛でるようにそっと抱いた。
寒さは感じなかったが
全身が震えていた。
―――連絡とってみよう
ポケットを探る。
―――?
ポケットの中には何も入っていない。
―――置いてきちゃった……。
まずい。
―――すぐ控え室に戻らないと……
愛は慌てて歩き出した。
方向もよく考えずに。
- 501 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:51
- トントン
ホールの階段を降りる自分の足音だけが聞こえてくる。
何も見えずにただひたすらに足を進めていた。
視界が効かないとこんなにも広く感じるものなのか。
もうずっと昔から自分の足音ばかり聞いていた気がする。
疲れのせいで足の感覚がおかしい。
自分の足なのにまるで
不随意に勝手に単独に足だけが進んでいくようだった。
気分が悪くなる。
―――愛ちゃん……
短調な作業が里沙の思考をネガティブな方向へ持っていく。
里沙に
ちょっと前の思いがよみがえってきてしまった。
- 502 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:51
- ……
…………。
愛が自分に気がないことくらい
里沙にもわかっていた。
わかっていながら、
想いを止めることはできなかった。
「ごめんな……気持ちは嬉しいけど」
―――ウソ。
迷惑そうな表情の愛。
ちっとも、喜んでなんかいない。
「ほらっ、うちら友達やん。これからも……」
「そ……だよね。友達……だよね」
俯く里沙。
- 503 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:52
- 「愛ちゃん……ひとつ聞いていい?」
「ん……」
「好きな人、いる?」
「……うん」
胸がギュっと締まる思いがした。
その思いが
咽をつく。
嗚咽となって表に出た。
「……里沙ちゃん。ごめんな」
誰とは聞かなかった。
ただ、自分の想いが叶うことはない。
…………。
……。
- 504 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:52
- 今、暗いホールの中で愛を探している自分。
―――何してんだろ……
自分は愛のためにならいくらでも危険を冒す。
危険を冒して愛を想っても、
愛から想われることはもう、絶対にない。
なのに自分は
咄嗟に愛のことを想い
こうして果てない闇のなかを歩いている。
もしここで里沙が死んでも、
その命が報われることはない。
愛の心は
愛の相手へと向かうだけ。
―――私だって、好きなのに……
- 505 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:52
- いや。
自分はその人とは違う。
自分は愛のために死ぬことも辞さない。
その覚悟でこの中に残ったのだ。
そこまでの想いが、愛の相手にあるだろうか。
気持ちの強さでは
自分の勝ちだ。
それでも
里沙の想いが幸せになれるわけではない。
愛に想われる、そんな幸せが来るわけがない。
里沙の思考も
里沙の行動も
決してゴールにたどり着くことはない。
- 506 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:52
- まったく見えない。
出口がわからない。
どこを目指して
何を手がかりに
何をしたらいいか
何もわからない。
希美はただただ
駐車場に地べたにうずくまって
どうしようもなく恐ろしい状況で
自己を保つのに必死だった。
爪を噛む。
指先に激痛が走る。
―――誰か来てよ……
このまま死んでしまうなんて耐えられない。
ここでずっと孤独なまま死に行くなんて。
誰かの顔を見て
誰かの声を聞いて
誰かの温もりを感じたい。
爪を噛む。
激痛。
- 507 名前:3 投稿日:2004/05/21(金) 20:53
- 無限の闇に全身を囲まれている。
口から出た声を吸い込む黒い空間が広がっている。
埃の匂いばかりが鼻腔をつく。
爪を噛む。
激痛。
指先がベトベトしてくるのがわかった。
爪を噛みすぎていることはわかっていた。
しかし
痛みでも何でもいいから
自分の体がそこにあることを確認せずにはいられない。
自分の鼻先すら見えない中で
死への恐怖と闘っている
希美をかろうじて現実に留めているのは
指先に感じる痛み。
それだけだった。
- 508 名前:いこーる 投稿日:2004/05/21(金) 20:53
- 本日は以上になります。
- 509 名前:みっくす 投稿日:2004/05/22(土) 02:42
- どうなるんですかね。
みんな無事にたすかるのでしょうか?
- 510 名前:ROM読者 投稿日:2004/05/22(土) 09:42
- 日頃色々考えていても、実際に直面した場合に行動
できる自信がありません。どうなるのでしょうか。
- 511 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:21
- 愛は複雑に入り組んだ通路にさまよいこんでしまった。
控え室の位置はもはやわからない。
―――!
突然、床が消えたように感じた。
トン
愛の足は一段下がったところで落ち着く。
「階段……」
愛はそろりと身をかがめて
床に手を這わせた。
ゴムの滑り止めに手が触れた。
間違いなく階段だ。
この建物の階段室には基本的に扉が設けてあるはず。
廊下を歩いていて突然階段に出くわすはずがない。
そう思いながらゆっくりと段差を降りてみると
案の定、それは5段しかなく
また平坦な通路に戻った。
- 512 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:21
- 微妙な高さの変更。
―――ひょっとするとホールが近いのかも
客席に段差を作っているホールの出入り口は
当然いろいろな高さにある。
だからこの通路もこのように微妙な階段があるのだろう。
―――それなら
愛は両手いっぱいに手を広げた。
右に移動して右手で壁をなぞる。
一歩踏み出す。
今度は左に移動して左手で反対側の壁をなぞる。
どちらに入り口があるかわからない状況では
こうやって進んでいくしかない。
何度か同じ作業を繰りかえすと
左手が扉に触れた。
―――あった、ホールの扉。
ホール内の方が自分の位置がつかめる。
そう判断し
愛は中へと入っていった。
- 513 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:22
- ホールに入って真っ先に感じ取ったのは
音の反響具合の変化だった。
扉が軋む
そのちょっとした音の聞こえ方が廊下にいたときとはまるで違っていた。
響きが遠い。
途端に、
自分がなにもかもから置いてきぼりにされた気がして泣きたくなった。
―――なんで私だけ……
扉が閉まる。
なぜ突然
好きな人から引き離され
常軌を逸した世界に投げ込まれなければならないのだろう。
愛の中の恐怖が理不尽な怒りへと変わる。
- 514 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:22
- ―――せっかく……
つかんだ幸せはほんの一瞬で見えなくなった。
愛の目の前には暗闇のみ。
やり場のない怒りは無力感となって愛に戻ってくる。
再び愛は恐怖に支配された。
「うっ……」
愛は泣き崩れた。
膝から崩れるとカーペットはやわらかかった。
「……」
声にならない。
涙が出てくるだけ。
- 515 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:22
-
「誰?」
遠くで囁くような声がした。
―――誰かいる
愛は全身から力が抜けていくのを感じた。
誰かはわからないが、人がいる。
自分の身体すら見えないこの状況で、その事実は何よりも心強かった。
「誰ですか?」
再び声が聞こえてきた。
「里沙ちゃん?」
「あ……愛ちゃん?」
これまで重くのしかかっていた空気がふと軽くなった気がした。
- 516 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:23
- 「どこー?」
音響のいいホール内は
声が反響してしまって発生源が定かではない。
再び、途方にくれた。
里沙の声は確かに聞こえてくるというのに……。
「愛ちゃん?」
里沙の声が四方から響いてくる。
「段差を下ってステージで会おう!」
「わかった!」
足を少しずつ動かしていく。
滑り止めに引っかかる感触で足を浮かせ段差を降りた。
その繰り返し。
一段一段ゆっくりと下って行った。
やわらかすぎるホールの床は何の音もたてなかった。
耳には自分の呼吸音しか聞こえない。
段差がなくなる。
手を前にかざしてステージにたどり着いた。
「着いたよー!ステージの下」
- 517 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:23
- 「ちょっと待って」
里沙の声が聞こえてくる。
―――どこから?
愛は下を向いて耳に神経を集中させた。
自分の呼吸。
自分の鼓動
……。
!
聞こえた。
吐息の音。
何かが擦れるような里沙の微かな呼気の音。
―――どこから?
すぐ近くから聞こえた。
「里沙ちゃん?」
背中と首筋の間あたりに生暖かい風を感じた。
「あ……あいちゃんっ!」
- 518 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:24
- 愛が振り返るよりも早く
里沙が愛を両手で抱きしめていた。
きつく。
きつく。
うなじに走る里沙の吐息。
愛は……
強引に振り返ることはしなかった。
―――拒まない……
里沙の行動を拒むことは
今は里沙を追い詰めることになる。
―――受け入れる……
心からそう思った。
「よかった、よかった」
- 519 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:24
- 里沙の震えが両手を伝ってくる。
里沙の嗚咽が背骨をくすぐった。
里沙の涙がシャツの背中をぐしょぐしょに濡らした。
その湿気がかすかに愛の背中に入り込んでいく。
里沙の両手に拘束されたまま、
愛は脱力していた。
「よかった……」
里沙はまだ泣いている。
―――よかったよ。里沙ちゃんがいてくれて
そう思ってしまった。
自分に、
そして彼女に罪悪感があった。
孤独と絶望の中で
背中だけが温さを感じていた。
- 520 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:24
-
↓
地下。
地下駐車場の壁に右手をあてて進んでいた。
こうやって歩いていってどうなるかなんてわからない。
ただ、このまま待っているだけでは自分は恐怖に押しつぶされてしまう。
だからぼんやりとしたあかりを頼りに
一寸先しか見えない目を頼りに
歩を進めていく。
足で瓦礫を蹴とばすことはなかったが埃くさいのだけはどうにもならなかった。
―――親指が痛いよ……
そのとき
何かが足に触れた。
え?
石じゃない。瓦礫じゃない。
もっとやわらかいものがつま先に触れた。
―――何?
- 521 名前:4 投稿日:2004/05/24(月) 21:24
-
希美は身をかがめて転がっているものに手をあてた。
布に触れた。
表面をなぞってみる。
動かす手が突起につっかえた。
手を浮かして突起に手をあてる。
やわらかい感触と抵抗があった。
さらに手を動かしてみる。
「ひとだ……」
希美の足元に横たわっていたのは人間だった。
- 522 名前:いこーる 投稿日:2004/05/24(月) 21:25
- 本日の更新は以上です。
- 523 名前:いこーる 投稿日:2004/05/24(月) 21:27
- >>509 みっくす様
どうなるか気にしていただけると更新も頑張れます。
これからもよろしくおねがいします。
>>510 ROM読者様
私自身はおそらくパニックになるかと……。
今後もよろしくです。
- 524 名前:ROM読者 投稿日:2004/05/24(月) 22:33
- 更新お疲れ様です。
読むにつれ、言い知れぬ恐怖感が襲ってきます。
極限の中で、それぞれの心理がどのように推移して行くのか。
怖いけれど、ワクワクしてます。
- 525 名前:飛べない鳥 投稿日:2004/05/24(月) 22:44
- おおー新作が...
これまた続きが気になる話ですね
また拝見させて頂きます
- 526 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/25(火) 00:47
- 普段あまり感情移入することはないんだけど
むちゃくちゃ怖えぇ!
逃げていいっすか?
- 527 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/25(火) 15:19
- ひとってひとって・・・
気になるこわいたのしみだ!!!!
更新待ってます
- 528 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:22
-
↑
一度だけ……
デートをしたことがある。
- 529 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:22
- 愛は目を閉じていた。
リハの疲れ。暗闇で全身が緊張していた。
それが今
ほんの少しほどけていく気がした。
背中から愛に手をまわしている里沙が泣きやむまで
この感覚を味わっていようと思った。
自分の気持ちが
彼女から里沙に傾かない程度に……。
―――ずっと、好きだった……
その気持ちに嘘はない。
彼女を好きな気持ちに嘘は一切ないはず。
今はただ、
暗くて怖くて疲れているから
ほんのちょっと里沙の想いに浸かっていたいだけ。
―――私……ひどいことしてるのかな?
彼女に、そして里沙に対する罪悪感があった。
- 530 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:25
- 恐怖なんて完全に麻痺した。
愛の背中からかすかに伝わってくる温度と汗が
里沙のネガティブを全て麻痺させていた。
―――愛ちゃん……
いつまでもいつまでも
このつながりにいたかった。
愛のお腹の前で結ばれた里沙の両手。
里沙はこれを永遠に離したくないと思った。
愛を他の人に渡したくなかった。
―――このまま閉じ込められていればいい。
外にでて愛の想いまで飛んでいってしまうのは耐えられない。
―――このまま
自分が愛の不安につけこんでいるだけなのはわかっていた。
でも、
ずっと好きだった里沙のやり場のない気持ちが
ほんの一瞬でも報われるならそれでいいと思った。
報われないなら自分は死んだのと同じなのだから。
- 531 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:26
- ↓
希美は
横たわっている身体をまさぐった。
逃げ遅れたのだろうか。
怪我をして気を失ってしまったのか。
頬に触れた。肩に触れた。
うなじの匂いをかいで
鼻先を薬指でなぞったときすでに希美はその身体の正体をつかんでいた。
「……あいぼん」
亜依はピクリとも動かない。
「あいぼん!」
身体は温かい。
呼吸も聞こえる。
亜依は生きている。
でも、
肩をゆすってもいくら呼びかけても
亜依が動く気配はない。
- 532 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:26
- ↑
愛の手はゆっくりと自分のお腹のところにある里沙の両手を包んだ。
やわらかくゆっくりと里沙の手を解いた。
―――これ以上はダメ……
愛の頭に靄がかかり始めていた。
どうにかして外で待つ彼女の顔を呼びおこした。
「里沙ちゃん……ここから早く逃げよう」
「……うん」
愛は里沙の手を取ってステージにのぼった。
「どうするの?」
「思い出したの。舞台裏には電話があるはず」
- 533 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:26
- 「そうなの?」
「それで外と連絡を取る」
里沙の動きが止まった。
「電話……本当に見つかるの?こんな暗いのに」
「わからない……」
「停電してるのに使えるの?」
「電話線が切れてなければ停電してても電話は使えるよ」
「切れているかも」
愛はふうっとため息をついた。
「里沙ちゃん……お願いやから……」
「ごめん。そうだよね。きっと連絡取れるよね」
―――生きて帰るからね
- 534 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:27
- ↓
亜依はどこをどう通ってここまで来たのだろう。
なぜ、地下駐車場になんかいたのだろう。
―――……あいぼん
このままではいけない。
どうして気を失ったのかはわからないが
意識不明の亜依をこのままにしてはいけない。
―――助けなきゃ……
しかし
自分1人であっても助かるかどうかわからない。
そもそも出口があるのかどうかさえわからない。
- 535 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:28
- そんな中、どうしたらいいか
希美には判断がつかなかった。
結局希美には
亜依の頭をそっと抱いてやることしかできない。
でも……
―――よかった。バラバラじゃなくて
真っ暗な中でも、亜依が気がつかなくても
2人でいられてよかった。
そう思った。
- 536 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:28
- ↑
「愛ちゃんが!愛ちゃんが中に……」
「ミキティ、落ち着いて!」
「愛ちゃん!」
「ほら、みんないるんだからお願い落ち着いて」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「わっ、ちょっとダメだって!中には入れない。
ちょっとみんな、ミキティ押さえるの手伝って!」
↓
- 537 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:29
- 「ねぇあいぼん」
希美は返事のできない亜依に語りかけている。
「一緒にいようね。一緒にいようね」
反応のない頭を抱いている。
顔が見えないが亜依が息をするたびに胸がふくらんではしぼむ。
そのリズムを希美は感じていた。
―――このまま、目を覚まさなかったら……
もし助からないのなら
今、語りかけている言葉が亜依への最後の言葉となる。
聞こえてはいないのだろうけれど希美は必死に語りかける。
「のんは……ずっと好きだったよ」
亜依の呼吸は、変化せず。
まるで安らぎの中にいるみたいな亜依の呼吸。
- 538 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:30
- 「仲良すぎて……気づかなかったかもしれないけど、ずっと好きだったよ」
希美の目から大粒の涙がこぼれた。
「一緒にいようね。一緒にいようね」
亜依は
動かない。
手を離す。
亜依の頭が再び地面へと置かれた。
―――いままで何度もしてたけど
特別な意味はないのかもしれない。
希美は
意思のない、言葉をつむがない
亜依の唇へと自分の唇を重ねた。
- 539 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:30
- 希美の鼓動は猛スピードになっていたが
亜依の鼻からでてくる呼気のリズムは変わらなかった。
希美の涙は亜依の頬を濡らした。
そのとき感じた。
亜依の唇から感じた。
―――生きてる……
小さな命。
希美にとってとても大きな命。
大きな闇の中で何よりも明るく何よりも切ない
亜依の命を感じた。
「ごめんあいぼん……助けを、呼んでくるよ。待っててね」
希美は亜依から離れていった。
- 540 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:31
- ↑
普段の中では決して認識しないくらい儚い光だったが
少なくとも愛にとっては救いの光に見えた。
小さく緑色に点ったランプは電話が生きていることを表している。
「あったよ。あった」
「……うん」
2人はランプのもとへと駆け寄る。
受話器を取った。
ツッツッツッツッツッ
受話器から短く途切れ途切れの音が聞こえてくる。
これは内線用の信号音。
「外線……外線……」
ツッツッツッツッツッ
愛は必死に目を凝らした。
しかし……どのボタンに何が書いてあるかまるで見えない。
- 541 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:32
- 愛は目を閉じて考える。
―――確か電話機のそばに紙があったはず
手探りで紙を見つけると拾って緑のランプのところまで持っていく。
「やっぱりこれだ。使い方が書いてある」
近くまで持っていくとかろうじて内容が読み取れた。
<外線は最初に「0」を押す>
愛は指でなぞって「0」のボタンを探した。
ツッツッ…………ツーッツーッツーッ
―――え?
外線に切り替わった途端に信号音が変化した。
混線?
地震の影響で電話回線がパンクしているのだろうか。
一度受話器を置いてもう一度試してみる。
しかし、
同じだった。
- 542 名前:5 投稿日:2004/05/29(土) 22:32
- 「つながらない……」
「使えないの?」
「内線は使える。でも外とは連絡が取れない」
―――どうすれば……
「ねぇ里沙ちゃん」
「ん?」
「のんつぁん、どうした?」
「え?」
「戻ってきてた?」
「……見てない」
「じゃあ……」
希美は奥のトイレに行くと言っていた。
地震があったのは希美と分かれて間もなくのこと。
「ひょっとして、まだ建物の中にいるんじゃ……」
愛は紙を再び取った。
ランプの小さな明かりを頼りに、説明を読む。
「どうするの?」
「内線なら使える。のんつぁんがどこかにいれば連絡がつくはず」
まずは3階の電話に片っ端からかけていった。
里沙はずっと後ろで立っていた。
- 543 名前:いこーる 投稿日:2004/05/29(土) 22:33
- 本日の更新は以上です。
- 544 名前:いこーる 投稿日:2004/05/29(土) 22:39
- >>524
ありがとうございます。
追い詰められているときの心理を上手く描けるか
チャレンジしながら書いています。
これからもよろしくお願いします。
>>525
気にしていただいてありがとうございます。
ご期待にそえる作品になるよう頑張ります。
>>526
私は書いていて逃げたくなりますw。
実際にこうなったら本当、怖いでしょうね。
>>527
ありがとうございます。
気にしていただきまして、裏切らない展開になったかどうか。
今後もよろしくです。
- 545 名前:飛べない鳥 投稿日:2004/05/29(土) 23:13
- 誰が残されて、誰が外にいるのか、気になりますね
- 546 名前:ROM読者 投稿日:2004/05/29(土) 23:14
- 更新お疲れ様です。
生きる希望、生存への執着。大切なのはわかっているけれど
実際、維持していられるかどうか。
- 547 名前:ぽっと 投稿日:2004/05/31(月) 22:48
- すごく面白いです。読んでいて、物語に引きこまれていきそうです。
ミキティが愛ちゃんに過剰に反応していますが、もしかしたら、前の『逃避行』と少しつながりがあるのですか?
- 548 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:05
- ピピピピピピピ
音源は遠そうだったが、
電子音は駐車場内を反響して希美の耳元にも届いた。
―――電話?
間違いなく電話の音だ。
希美は音の発生源を探して進んで行った。
ピピピピピピピ
ゆっくり、ゆっくり。
途中で何度か駐車中の車に身体が引っかかった。
ピピピピピピピ
それを回避して、
希美は歩き続ける。
ピピピピピピピ
何台目かの車を避けたとき
―――あった。
ピピピピピピピ
遠くで点滅する緑のランプが目に入った。
- 549 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:06
- 希美は電話機目指して駆け出す。
ピピピピピピピ
―――あとちょっと
あとちょっとで電話機にたどり着くというところで
「……つっ」
希美は足を何かに引っ掛けて転んでしまった。
ピピピピピピピ
なんとか身体を起こそうとする。
!
右足首に激痛が走った。
ピピピピピピピ
足を動かすことができない。
―――くじいた……
最悪だった。
一寸先でランプが点滅している。
- 550 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:06
- ―――取らなきゃ……
ピピピピピピピ
希美は懸命に腕を伸ばした。
10回目のコールがなったとき
ピピピピピ……
―――よし
受話器に手が届いた。
「もしもし……」
一瞬の間があった。
「のんつぁん!?」
「うん」
―――この声は……
「愛ちゃん、今、どこ?」
「ビルの3階。真っ暗で出口がわからん。のんつぁんは?」
「地下駐車場」
- 551 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:06
- 「……え?」
「階段降りてるときに地震があって、ここまで逃げてきたの」
「こっちまで、上がってこれる?」
右足の痛みはまだ疼いている。
「足を挫いて……」
「……」
「だから愛ちゃん、先に逃げて!」
「でも……」
「電話取ろうとして転んで、今は動けないよ。だから逃げて」
「……え?」
- 552 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:07
-
「足を挫いて……」
受話器の向こうから、希美の声が聞こえてくる。
声は、かすれていた。
「……」
「だから愛ちゃん、先に逃げて!」
「でも……」
自分たちもどうしたらいいかわからない。
この建物は2階も3階も窓がほとんどない。
「電話取ろうとして転んで、今は動けないよ。だから逃げて」
「……え?」
愛は固まった。
―――それって
「私が電話なんてかけたから……」
「ううん。違うよ、のんが慌ててただけ」
愛の体に
責任感と罪悪感が錘のようにのしかかった。
- 553 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:07
- 「のんつぁん、そこで待ってて。助けに行くから!」
「だめだよ愛ちゃん!」
ガチャ
愛は受話器を置いた。
自分が余計なことをしたせいで希美が苦しんでいる。
助けに行かなくてはならない。
後ろから、里沙が
低い声で
小さな声で聞く。
「助けに行くの?」
「うん。だって放っていいわけない」
「でも場所はわかるの?」
愛は手に持っていた紙を再びランプの元へと持っていった。
今かけた番号は……
<内線011:地下1階 東階段口>
「ここだ!ここにのんつぁんがいる」
- 554 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:08
- 「……」
「里沙ちゃん。ステージから東階段ってどう行けば?」
「……」
「里沙ちゃん!」
「……確か、こっち」
愛は里沙に手を引かれた。
掌の汗は感じたが、里沙の背中は暗くて見えなかった。
里沙に引かれながら移動した。
ゆっくり進んでいたので時間がかかった。
ゆっくり進んでいたので緊張と集中が散りはじめた。
音の反響具合でしかわからないが
ステージから通路に出たらしい。
愛の身体は徐々に
暗さに慣れてきている。
垂れ込めた闇。
―――沈む夢に似てる。
最近見るようになった夢。
- 555 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:08
- 何か暗い水の中にいる愛。
浮かび上がるなんて発想もなく
身体はどんどん沈んでいく。
静かだった。
こんなに落ち着くのならいいと思った。
それは
死にたい
という積極的な気持ちではなく
死ねばいい
という投げやりな無責任な感情だった。
心地よいと思った。
- 556 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:08
-
そんな夢。
目が覚めると決まって恐ろしくなる。
自分はなんで
死ぬことを心地よいなんて感じたのだろう。
あのとき……
死ぬことを思ったのだろう。
愛は
自分と彼女の不安定な感情を恐れていた。
通路を進んでいる。
呼吸音から里沙との距離がわかる。
頬をなでる空気から、進んでいる速度がわかる。
暗闇に馴染みはじめている体。
このまま暗闇に沈んでいくのもいい。
―――悪くない。
ふと
そんなことを思ってしまった。
- 557 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:09
- 「愛ちゃん?」
里沙に呼ばれて
ようやく自分が足を止めていたことに気がついた。
―――まずい……
「な……なんでもない。早くのんつぁんを助けに行こう」
―――沈みたくなるなんて……
以前
生きるのに執着することから解放されたいと思った。
2人で。
そのときと同じ。
今回
閉じ込められたと知ったときからそうだった。
死を想う心と闘っていた。
- 558 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:09
-
外で待つ美貴のため。
下で待つ希美のため。
なんとか理由をつけて行動していないと
急に死への誘惑に襲われそうになる。
死ねばいい
それは
このどうしようもない恐怖の中で
最悪の逃げ。
―――だめだ。もう考えない。
必死に美貴の顔を思い浮かべようとした。
上手くいかなかった。
- 559 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:09
- 背中に愛を感じながら
里沙は手を引っ張って歩いていた。
―――愛ちゃんと2人の時間がもう終わる
里沙は俯いていたが、歩はしっかりと前に進めていた。
建物の構造は曖昧だったがステージから階段までの道のりは覚えていた。
―――待てよ……
里沙はさっきの電話の内容を思い出す。
―――ひょっとして
里沙の頭がめまぐるしく回転した。
!
そうして思考は一つの答えにたどり着いた。
この極限状態で
ここまで自己中心的なアイデアを考え出した自分に悪寒が走る。
―――……ダメ
急に浮かび上がった悪意に抗いきれない。
- 560 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:09
- 「里沙ちゃん?こっちであってる?」
愛の声。
背中から聞こえてくる愛の声。
「あ……あってるよ。あってる」
そのとき里沙の右手がノブに触れた。
「確かここが階段室」
ガチャ
扉を開けるたとき真っ先に感じたのは埃のにおいだった。
「……っぷわ!」
里沙は咳き込まないように呼吸のペースを落とす。
ゆっくりと
足を踏み出した。
!
しかしすぐに止まった。
- 561 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:10
- 「里沙ちゃん?」
階段室の扉を開けて一歩進んだきり
里沙の動きが止まっている。
「どうしたの?」
「瓦礫が落ちてる」
「え?」
「ちょっと待って……触ってみる」
愛の右手が下方向に引っ張られた。
里沙がしゃがんで地面を確認しているらしい。
「里沙ちゃん?」
しかたなく
愛もしゃがんだ。
そっと手を伸ばしてみる。
「なにこれ……」
すぐに異常に気がついた。
手に当たる硬い、ごつごつした感触。
手を移動させてもやはり同じ。
- 562 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:10
- 「愛ちゃんわかる?」
「……うん」
階段室のフロアは無数の瓦礫に埋め尽くされている。
こんな瓦礫だらけの階段を降りていかなくてはならないというのか。
それも視界ゼロの状態で。
「どうしよう……」
「行くしかないよ。このすぐ下にのんつぁんがいるんだ」
「でも危ない」
「行く。私が先に行くから里沙ちゃんついてきて」
愛の手が里沙を後ろに引っ張った。
「階段は私が先に行く。大丈夫なところ見つけるからついてきて!」
「……うん」
闇に閉ざされた中
階段室は信じられないほど静まり返っていた。
2人の息だけがやたらに大きく響いている。
愛は
中々前に進まない。
- 563 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:11
- ―――無理だ
さきほど里沙も手で足元を触ってみた。
あの瓦礫の量は普通ではない。
足元さえ見えない中
階段を降りていけるはずがない。
ガラガラガラ
大きな音が聞こえた。
音は徐々に小さくなりながら下方にのみこまれていく。
瓦礫が階段を転がりおちたようだ。
「愛ちゃん?」
「ん……大丈夫」
つないだ手が小刻みに震えていた。
- 564 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:11
- 見えない足場へと踏み出す愛は緊張していた。
瓦礫を踏まないように全神経を右足に集中させる。
ゆっくりと足を伸ばすと平らなところに降ろすことができた。
―――よし……
続けて前に進もうと左足を踏み出したとき
「きゃっ」
足場が突然前に移動した。
平らだと思っていたのは薄くなった瓦礫で、
愛が踏んだことでその瓦礫が滑ったのだと
気づいたとき既に、
愛の身体は落下していた。
―――ダメだ……
立て直しようがない。
愛は咄嗟に里沙の手を強く引いていた。
「わっ」
そのまま愛は背中から階段に倒れこむ。
- 565 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:11
- 激痛が走り呼吸が止まる。
身体は勢いに任せて階段を転げ落ちていった。
身体がバウンドするたびに瓦礫がぶつかった。
右肩。
左のすね。
頬を強打。
もういい加減にしてくれと思ったところで身体は転がるのをやめた。
一瞬の間があって
「うっ……」
何かが落下してきてみぞおちが悲鳴を上げた。
自分の顔から血が引いていくのがわかった。
他の箇所の痛みを知覚できないくらいの激痛。
全身から汗がどっと出てきた。
「うぅ……」
地獄のような痛み。
愛は
―――死んじゃいたい……
本気でそう思った。
こんな苦しみを味わうくらいなら死んだ方がいい。
- 566 名前:6 投稿日:2004/06/01(火) 22:12
- しばらくは
呼吸を整えるのに必死で動くこともできなかった。
息をしようにも腹部への圧迫が続いていた。
愛は乗っかっているものをどけようと手を伸ばした。
その瞬間
バサッ
覆いかぶさってきた。
愛の体が地面に押し付けられる。
―――何?
髪の毛が愛の顔にかぶさってくる。
「里沙ちゃん!?」
愛にまたがってそのまま倒れこんだ形になっていた。
「里沙ちゃん!」
声をかけても里沙からの返事はなかった。
「里沙ちゃん!里沙ちゃん!」
返事はない。
「大丈夫?返事して!里沙ちゃん!!」
- 567 名前:いこーる 投稿日:2004/06/01(火) 22:12
- 本日の更新は以上です。
- 568 名前:いこーる 投稿日:2004/06/01(火) 22:18
- >>545
ありがとうございます。
要救助者の数が把握できないと救出も難航しますね。
書くほうはその辺、ぼかしているほうがやりやすいですが。
>>546
いただいたレスを読みながら
次の内容を思い浮かべてややびっくりしましたw。
これからもよろしくおねがいします。
>>547
ありがとうございます。
面白いと言われると本当嬉しいです。
藤本さんて感情が出やすいタイプかと思いました。
- 569 名前:ROM読者 投稿日:2004/06/02(水) 06:12
- 更新お疲れ様です。
責任感が勝るあまり空回りしてしまう。リアルと多少
重なる部分もあるように思えます。
前レス、フライングしてごめんなさい。自重致します。
- 570 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:14
- 一度だけ……
デートをしたことがある。
2人で買い物くらいならしたことがあった。
しかし、里沙の気持ちを知ってから
里沙を誘ったのはその一度だけだった。
まだ、恋人ができる前。
里沙の告白はその場で断っていたし
これからも友達でいようと宣言した。
- 571 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:14
-
目の前で泣き崩れた里沙に愛は言った。
「あんなぁ、これからも一緒に遊び行ったりしよう!
これがきっかけで、気まずくなるの嫌だし」
「……」
「なぁ里沙ちゃん」
「……うん」
それからしばらくは本気で気まずかった。
いままでだったら会話なんてしなかった場面なのに
―――何か話さなきゃ
妙に焦ってしまった。
里沙がまるでこっちを見ようとしないのでなおさら焦った。
それで夜に電話をして
「映画に行こう」
と伝えたのだ。
- 572 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:14
- 待ち合わせに遅れた愛は
改札で待つ里沙を見てかわいいと思った。
髪のつやがいままでと違っていたし
服装が里沙とは思えないほど大人びていた。
映画の始まる前も映画が終わってからも
常に里沙は笑顔だった。
楽しそうだった。
―――よかった。普通の関係に戻れて……
愛はそう思った。
いや。
これが友達に戻るためのお出かけではないことくらい愛にもわかっていた。
里沙は、その想いを断ち切れていない。
というよりも抑えようとすらしない。
愛の行動、発言、何もかもを見て嬉しそうに目を細めるのだった。
まだ、好きでいてくれた。
その状況を愛はくすぐったく感じていた。
- 573 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:15
- 好きだと言ってきた里沙に対して
自分が変な優越感を覚えていたのだと、今になってわかる。
里沙のアプローチに気づかない振りをしているのが楽しかった。
里沙の思いを受け流していることで自分が里沙よりも優位に立ったように錯覚していた。
例えば、歌だったりなんだったり実力面で優劣を感じることは多々ある。
それは仕事上、そんなに悪いこととは思えない。
しかし愛が里沙に感じてた優越感は
里沙の想いの上で胡坐をかくような
非道で愚かな感情だったのだと、これも今になってわかる。
―――弄んでいただけだ……
自分にはその気もないくせに、
里沙から想われていることだけを確認したい。
そういう劣悪なエゴだった。
里沙がたまたま愛のことを好きになった。
だからといって
愛が威張るようなことではないし
愛に里沙を踏みにじる権利があったわけでもない。
それなのに愛は
自分勝手に遊んでいた。
…………。
……。
- 574 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:15
- 里沙は
愛の身体の上でぐったりとしたまま動かない。
「なぁお願い……里沙ちゃん返事して」
愛に引っ張られてそのまま階段を転落した里沙。
重かった。
ここへきて愛の全身がずきずきと痛み出した。
「ごめんね……ごめんね……」
後悔がどっと湧き出てきて愛を襲った。
「ごめんね……」
死ねばいい。
自分みたいな人間は閉じ込められて死ぬべきだ。
人の想いを自分のためにしか利用できない。
友達に辛い思いをさせておいて、
それに気づいているはずだったのに何もしなかった。
「……ごめん」
里沙のために流した、
はじめての涙だった。
- 575 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:15
- 建物に大きなショッピングセンターがあると聞いて
希美は亜依と、買い物をする約束をした。
それぞれがかわいくなれるように、
いろいろなオシャレを買い込む約束をした。
高そうなお店は冷やかすだけにしよう。
途中でおいしいものも買って一緒に食べよう。
携帯使って、試着室で写真撮影会をしよう。
でもおこられるかな?
そんな軽い計画を立てていた。
地震でみんなが逃げた今なら
買い物し放題。
お菓子食べ放題。
亜依のためにいっぱいいろんなものを持ってこられるはずなのに、
足が痛い。
足を痛めてうずくまっているしかない。
小さく震えながら独り言。
「……あいぼん。ここから出たら買い物しよう。どこか別の場所で」
聞き手のいない発話はあいかわらず闇に吸い込まれていく。
希美は愛が助けに来るのをじっと待っていた。
もう爪は噛まなかった。
- 576 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:16
- 「のんつぁん」
愛は、階段の踊り場で里沙を抱えたまま動けない。
「里沙ちゃん……」
自分は一体どれだけ迷惑をかければいいのだろう。
自分はどれだけ疫病神なのだろう。
―――最悪……
そういえば、美貴も同じように悩んでいたっけ。
自分の存在が無意味であることに耐えられない。
彼女はそう言っていた。
そのときは笑いながら慰めることができた。
しかし今度は自分が
こんな形で思い知らされることになるなんて……。
「里沙ちゃん」
!
動きがあった。
微かにではあったが確かに、
愛の胸の上で里沙が動いた。
- 577 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:16
- 「里沙ちゃん!!」
「……うぅ」
里沙の右手が愛の肩をつかんだ。
「大丈夫?しっかりして!」
「……ん、ごめん。大丈夫。膝を打っただけ」
突然、
バランスを崩した愛に手を引っ張られて
そのまま里沙は階段を転落した。
何がどうなったのかは覚えていない。
踊り場に着地する瞬間、右ひざを強打した。
痛みが走るよりも先に胃が収縮するのを感じた。
吐き気。
深呼吸をしようとするが上手くいかない。
視界が白黒に切り替わったように感じた。
そもそも真っ暗で何も見えていなかったというのに。
自分が愛の上にまたがっていたのはわかってた。
だが苦しくて動くことはおろか、声を出すこともできなかった。
そうして里沙は気を失ったのだ。
- 578 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:16
- どのくらい失神していたのかはわからない。
覚醒したとき、里沙は同じ体勢のまま愛の上に乗っかっていた。
―――のかなきゃ……
そう思って起き上がろうとした。
「……うぅ」
途端に膝に電流のような痛みが走り
そのまま倒れてしまう。
「……愛ちゃん、ごめん」
「いいよいいよ。痛みが落ち着くまで」
「ごめんね」
「大丈夫だって、なんならこうしてゆっくりしてもらっても」
里沙はくすっと笑った。
この状況では切ない軽口だった。
「ずっと乗っかっててもええよ」
「でも、それじゃ辛いよ」
「いいのいいの。動けないんなら死ぬまでこうしてたって……」
「……」
「……」
- 579 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:17
- 沈黙。
先の見えない闇。
その暗さが一層深くなったように思えた。
「どうせ、すぐ死ぬからさ」
「愛ちゃん!」
「ははっ。生きてても里沙ちゃんを悲しますことしかできん……」
「ねぇ、何言ってるの!?」
「階段がこんなボロボロに崩れてるんじゃビルも長くは持たないし。
うちらすぐ死ぬ」
埃くさい。
絶望が2人の周りを舞っているみたいに
ここは埃くさい。
「美貴ちゃんごめんな。
思い出、作れそうにないや……」
「……愛ちゃん」
里沙は、愛の好きな人の名前を知った。
できれば別の状況で聞きたかったな。
そんなことを思った。
- 580 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:17
- 里沙は頭の中で選択肢を吟味していた。
必死に生きる道を探して
汗と涙と鼻水でベトベトになりながら死んでいくのと、
ここでこうして
安らぎと埃の中で愛と一緒に死んでいくのと……
「愛ちゃん」
仮に生き延びたとして
外の世界には美貴がいる。
里沙の幸福は満たされない。
それなら
「もうちょっと、こうしていたい……」
普段なら
恥ずかしくてとても頼めないわがまま。
膝はたぶん平気だけど、
どうせなら、
どうせ死ぬなら、
こういて愛と一緒にいたかった。
- 581 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:17
- 愛の両手が里沙の頭を抱えた。
―――ああ、愛ちゃん。
こうされることをどれだけ願っただろう。
地震で閉じ込められなかったら
きっと永久にこんな幸福は訪れなかった。
お互いの顔が見えたら、照れくさくて仕方がないだろうけど
何も見えない今は、純粋に嬉しかった。
「なぁ里沙ちゃん……」
「ん?」
「キス……しよっか」
言葉は自然に、ごく自然に響いてきた。
違和感なく、なんのノイズも感じない響き。
「うん」
愛の両手が里沙の後頭部から離れた。
里沙はちょっと頭を浮かせる。
両手で愛の頬を持って位置を確認しながら
自分の唇を近づけて
「……んっ」
キスをした。
- 582 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:17
- ステキなこと。
ステキな思い。
それが
死への恐怖も絶望も打ち消してくれる。
ここに2人だけで存在する。
それだけを感じることができた。
埃くさいのにも慣れてきた。
たっぷり時間をかけて
2人の唇は離れていった。
- 583 名前:7 投稿日:2004/06/04(金) 22:17
- 希美はポケットを探り、携帯を取り出した。
ディスプレイを眺める。
右下に圏外の表記。
地上フロアまで行くことができれば
連絡が取れる。
「……あいぼん、待っててね」
希美は立ち上がった。
挫いた足に動きが響いて
気分が悪くなった。
「今、行くからね」
希美は壁に手をかけて立った。
- 584 名前:いこーる 投稿日:2004/06/04(金) 22:18
- 本日の更新は以上になります。
- 585 名前:いこーる 投稿日:2004/06/04(金) 22:19
- >>569
ありがとうございます。
いえびっくりしただけでしてとくに困ったわけではございません。
のでこれからもよろしくお願いします。
- 586 名前:飛べない鳥 投稿日:2004/06/04(金) 23:05
- ネタバレ防止に感想はメル欄
- 587 名前:ROM読者 投稿日:2004/06/05(土) 10:47
- 更新お疲れ様です。
物語が展開するにつれて、深みも増してきました。
更新を待つのがとても楽しみです。
- 588 名前:ぽっと 投稿日:2004/06/06(日) 21:56
- 深いなぁ。日本海溝並に深いです(?)。
更新も早くて嬉しいです。
- 589 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:03
- 鼓動が響きあう。
普段よりもずっと速い愛と里沙の心臓の音。
それがお互いの胸を通じて相手に伝わっていった。
―――心地、いいな
愛は思った。
こんなふうに求め合えるなら……
「死にたくないね」
すごく小さな声。
でも里沙には届いたはず。
- 590 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:03
- 死んでもいいと思った。
自分が人を苦しませることしかしないのなら
その命は消えてなくなればいい。
本気でそう思った。
でも愛は
生きているし喜べるし確かめ合える。
2人の鼓動が感じさせてくれた。
「愛ちゃん……」
「ん?」
「膝なら、もう大丈夫」
「本当?平気?」
「ん。痛いけど、割れたりしてないと思う。単なる打撲だよ」
「動ける?」
「……うん」
里沙のおかげで
なんとか自分を奮い立たせることができた。
人にもたれかかっていれば
生きていこうと思える。
―――頼ってばっかり……
愛は
里沙の両肩をそっと持ち上げて起こしてやった。
自分も起き上がった。
一瞬だけ立ちくらみを覚えた。
- 591 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:03
- 扉は……階段はどこだ?
希美は壁に手をついている。
怪我した足をかばって立っていた。
愛が助けにくると言っていた。
しかし、この広い駐車場の中を上手く探せるだろうか。
この建物はエレベーターは多いが階段は極端にすくない。
亜依と案内を眺めながらそんなことを話したのを覚えている。
希美が降りてきた階段はすでに瓦礫に埋もれてしまっている。
もし愛が降りてくるとしたらもう一つの階段からのはずだ。
希美は
階段までなんとか移動しておきたかった。
愛まで地下で迷子になっては困る。
- 592 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:04
- 愛は
今度は慎重に斜面を下っている。
2人が下っているところは瓦礫がスロープ状をなしていた。
愛も里沙も
お尻をつきながらゆっくりと進んでいた。
滑り落ちないように。
「ねぇ扉がある」
前方から愛の声が聞こえた。
里沙は膝を使わないように
両手と左足でバランスをとりながら斜面を降りていった。
「どこ?」
「んっと」
そのときふいに
里沙の腕がつかまれた。
「これ……里沙ちゃんの手?」
「そう」
里沙の腕をつかんだ愛の手にぐいと引っ張られた。
「ほれ、ここ」
- 593 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:04
- 里沙は手から感じた。
コンクリートではない金属の感触。
冷たさ。
「でもこの扉、埋もれちゃってるんじゃない?」
足元に転がっている瓦礫。
扉は階段室に内開き。
これでは瓦礫が引っかかって開かないだろう。
「そこまで積もってはないと思うけど。
それに3階から降りてきたからここは2階でしょう?
関係ない。さ、行こう」
「……うん」
―――やっぱり
愛は気づいていない。
この扉が開かなければ地下1階で希美と合流して脱出することはできない。
- 594 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:05
- しかし
里沙は何も言わなかった。
先を進む愛についていくだけだった。
―――どうせ死ぬんだ
愛は死にたくないと言った。
しかし
閉じ込められている間しか叶わない願い。
逃げ出したら諦めなくてはならない想い。
それなら
―――2人きりがいい
里沙は瓦礫の斜面を下っていく。
2人だけの空間を目指して深く。
- 595 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:05
- 壁をなぞっていた希美の手に
ひんやりとした金属の感覚があった。
―――見つけた!
携帯の灯りを案内表示に近づけて確認する。
<B1 東側階段>
間違いない。
この扉を開ければ階段だ。
希美はノブに手をかけた。
―――え?
ノブは回るが扉は何かに引っかかって開かない。
―――まさか、こっちまで……
何度か試してみるが
やはり扉は開かなかった。
- 596 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:05
- 「どうしよう……」
エレベーターが使えるわけない。
階段は片方は埋もれてもう片方は扉が開かない。
希美は両手で扉をガンガン叩いた。
何度も何度も何度も
しかし、
扉は動いてくれない。
―――完全に閉じ込められた……
希美は
その場にへたりこんでしまう。
「う……うぁぁぁ」
搾り出すような声だった。
- 597 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:06
- 前から愛の声がする。
「あったよ、一階の扉」
下にいくにつれて瓦礫の数は少なくなっていた。
「でも、まずはのんつぁんを助けないとね」
里沙はそっと、降りて行った。
里沙にも扉の位置が把握できた。
「里沙ちゃん?」
里沙はその場にしゃがみこんだ。
「ごめん。膝が……痛くって」
「大丈夫?」
上から愛の声がかぶさるように響いてくる。
- 598 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:07
- 「ごめん……ちょっとだけ」
里沙は
音を立てないようにそっと
右手に抱えていた瓦礫を置いた。
扉が開かないように。
「里沙ちゃん」
「ごめんね。もう平気。さぁ行こう!」
「本当に?」
「本当だよ。早くのんちゃんのところに行かないとね」
―――……のんちゃん、ごめんね。
愛の助けを借りて
里沙は立ち上がった。
―――私たちが死ぬまで、死ぬまでだから……
2人はさらに深く進んでいく。
―――邪魔しないでね。
- 599 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:07
- 「ん?」
愛の髪に、パラパラと降ってくる。
―――何?
今度は
「きゃ」
砂がまとまって降ってきた。
―――まさか
耳を澄ます。
上方で
カラカラと何かが転がる音がする。
そのさらに上。
ぞっとした
―――まずい……
正体不明の重たい音がする。
- 600 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:08
- ゴッ
断続的に
ゴッ
そのたびに砂が降ってきた。
「愛ちゃん?何この音……」
「……崩れる」
―――どうする?
目の前の扉を開けて避難したい。
しかし
「のんつぁんが……急ごう、里沙ちゃん」
愛は再び階段を降りはじめた。
- 601 名前:8 投稿日:2004/06/08(火) 21:08
- ―――早く……
希美は扉に体当たりを繰り返している。
―――早く逃げなきゃ……
こんなところにいたくない。
「うわぁぁぁぁ」
泣き叫びながら体当たりを繰り返している。
右足の痛みが耐えがたかった。
それでも希美は体当たりを繰り返している。
「あいぼん!あいぼん!!……助けて!」
―――……崩れる、崩れる
一秒だってこんなところにいたくない。
「助けて!!」
狂ったように叫びながらぶつかる。
扉は開かない。
- 602 名前:いこーる 投稿日:2004/06/08(火) 21:09
- 本日の更新は以上になります。
- 603 名前:いこーる 投稿日:2004/06/08(火) 21:11
- >>586
いつも見守っていただいてどうもです。
これからもよろしくおねがいします。
>>587
いつもありがとうございます。
深さが出るかどうかこれからもチャレンジですので
よろしくおねがいします。
>>588
結構深いんですねw。
更新ペースなるべく保てるように頑張ります。
- 604 名前:ROM読者 投稿日:2004/06/08(火) 23:07
- 更新お疲れ様です。
極限での倒錯した心理状態が更に恐怖を煽ります。
- 605 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:33
- 「君はいっつも私の後ろをついてきてたよね。
覚えてる?渋谷で待ち合わせをして
原宿まで歩いていったことあったじゃん。
そのときも、美貴がどんどん先に行っちゃって
愛ちゃんが靴みてる間に離れちゃった」
座らせてとりあえずは落ち着いていた。
それからしばらくしてはじまった美貴の独り言が
その場の皆をやりきれない悲しみに落とした。
「慌てて追いかけてきてくれて、嬉しかったんだ。
やっぱりついてきてくれる。そう思って嬉しかった」
延々、途切れることなく続いていた。
虚ろな目はどこを見ているのだろう。
「でも……ほんとは、すごく……ふあん……だった」
途切れ途切れになったと思ったら
嗚咽がはじまっていた。
「いつか……きみが、ついてこなくなるんじゃないかって。
いっつも。いっつも先にいっちゃう美貴のこと……
あきれて……もう、来てくれなくなるんじゃないかって……」
救助を待っている。
美貴のつぶやきが終わるのを皆、待っている。
- 606 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:33
- 「なんで?なんで中に残ってるの?なんで出てこないの?
早く……早く追いかけて来てよ……」
「美貴ちゃん……すぐに助けが来るから。
愛ちゃん大丈夫だから……」
「なんで?なんでよ!
なんで美貴は外にいるの?
なんで愛ちゃんは外にいないの?」
その言葉が最後。
美貴は泣き崩れて
何もしゃべれなくなった。
灯りも景観も失った街を月が照らしている。
泣きやまなかった。
- 607 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:33
-
扉を開けた。
「のんつぁん?どこー?」
愛はめいいっぱいの声で叫ぶ。
「のんつぁん?」
愛の声は奥へ奥へと吸い込まれていった。
返事はない。
―――どこいったの?
希美は地下一階の階段付近の電話のそばで待っているはずだ。
しかし、希美の返事はない。
―――まさか、怪我が悪化して……
返事もできないような状態にあるのだとしたらまずい。
愛は、自分の位置がわからなくならないように左手を壁にかけて
進んで行く。
「里沙ちゃん?来てる?」
確認。
- 608 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:34
- 「いるよ」
すぐ後ろから里沙の声。
!
ちょっと進むと緑のランプが目に入った。
「電話だ……のんつぁん?」
少し急いで移動した。
「いないの?愛ちゃん……」
愛は
目を閉じた。
視界に変化はないがこうしていると
音に集中することができる。
―――近くにいるならなにか音が……
しかし
何も聞こえて来ない。
感じるのは里沙の気配だけ。
愛は受話器を取った。
「どうするの?」
- 609 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:34
- 「のんつぁんがどこにいるかわからない。
連絡取ってみないと……」
愛は、
とりあえずさっき記憶していた番号を押す。
内線011
―――ここにかけてもつながらないか……
すると
―――?
呼び出している。
―――なんで?
受話器からカチャと音がして
つながった。
「もしもし」
向こうから希美の声。
「のんつぁん?今どこ?」
「は?」
- 610 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:35
- 一瞬間があった。
「動いてないよ。扉を見つけたけど開かないんだ」
愛は考える。
同じ番号にかけたのだから希美は同じところにいるはずだ。
内線011
地下1階 東階段口
「愛ちゃんどこにいるの?」
「私も地下1階にいる」
「へ?そうなの?のんは東階段のところだよ」
だとすると、
自分はどこにいるのだろう。
「ひょっとして私、降りる階段間違えたかも」
「……」
「のんつぁん?」
「もう一個の階段は崩れちゃってる。降りてこられない」
「え?」
「ねぇ愛ちゃんどこ?」
「私は……」
どこだ?
どこに迷い込んだ?
- 611 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:35
- 瓦礫に足を取られて踊り場まで落ちた。
そのあと扉を2つやりすごしてここまで来た。
つまり3階分下ったことになる。
―――どこでずれた?
とんでもない数の瓦礫。
なぜか階段を降りていくうちに瓦礫はなくなっていた。
どこか、集中的に崩れたことになる。
「のんつぁん?」
「なに?」
「もう一個の階段は、一階のところが崩れたの?」
「わからない。のんが駐車場から出ようとしたときにはもう出口が埋まってた……」
―――出口が埋まるほどの瓦礫……。
東と西でそれぞれ一箇所ずつ崩れた。
―――……潰れたんだ
- 612 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:35
- どこかの階
おそらく1階部分がぺしゃんこに潰れた。
階が一つ減っていることを知らずに自分達は階段を降りていったのだ。
階段が瓦礫で埋もれていたというより
まるまる一階分
階段が砕けていたのだ。
自分はその継ぎ目の部分で落下したのかも知れない。
だから階段が途切れていることに気がつかなかった。
「わかった」
愛は言った。
「今、のんつぁんの真下にいる」
- 613 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:36
-
受話器を置く音。
愛の足音が近づいてきた。
「里沙ちゃん、いる?」
「ここ」
「どこ?」
どん
愛がぶつかってきた。
「ごめん。見えなかった」
「そりゃそうだ」
「なぁ里沙ちゃん。うちら階を間違えてた。のんつぁんは一つ上だ」
「……そ」
―――気がついちゃったか
「のんつぁんのところ、ドアが開かないって。
早く助けに行ってあげないと……」
―――邪魔はさせない
愛の襟首をつかんだ。
- 614 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:36
- 「わっ……ちょっとなにすんの?」
めいいっぱいの力で床に
ドン
愛を叩きつけた。
「……痛っ」
里沙が覆いかぶさってきた。
「ちょっと……里沙ちゃん?」
「助からなくったって……」
愛は混乱した。
「一緒にいられる……」
首に強い圧迫がかかった。
「…ぐっ……」
首を絞める力がさらに強くなる。
- 615 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:36
- 「私は……」
里沙の声が重たく響く。
愛は
全身で暴れた。
しかし里沙の手は弱まらない。
「逃げないで愛ちゃんのところに残った!
なのになんで逃げようとするの?
そんなに私から逃げたいの?」
意識が遠のきそうになる。
「もういいよ。ここで死のう。
さっき愛ちゃんそう言ったでしょ!
あれは嘘だったの?」
愛は左拳を
里沙の右ひざに叩き付けた。
「っく……」
里沙の手が緩んだ。
そのすきに逃れる。
「げほっ……げほっ……」
「ううっ」
「バカなこと言わないで。
私は生きて帰る」
- 616 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:36
- 「いっつもそうだ。愛ちゃんは」
「え?」
「いっつも私に思わせぶりなこと言って
私が本気にしたところで逃げるんだ……」
見えない里沙の声が
心臓を鷲づかみにしたみたいだった。
「……ずるいよ」
「里沙ちゃん……」
「すごくずるい」
「私のため?私のために建物に残ったの?
避難できたのに……」
「だって愛ちゃんいなきゃ、生きててもしょうがない」
―――なんてこと
自分のいい加減さが
里沙を追い詰め
里沙を危険な目に晒した。
「生きて、帰ろうよ」
「……やだ。私はここで死ぬ」
里沙の命を閉じ込めたのだ。
「置いていけばいい。いつもみたく。
私はもう、外になんて出たくない」
- 617 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:37
- 生きる希望も何もかも
里沙のなかのすべては
この暗い箱のなかに閉じ込められた。
「……里沙ちゃん、お願い。行こう」
「……」
地下深くで沈んだ里沙の精神を
「里沙ちゃん!」
浮上させられるのは
「もういいんだ。私は終わっちゃったから。
愛ちゃんには幸せがあるんだから早く逃げなよ。
私はもういいんだ」
おそらく自分だけだ。
「新垣さん」
- 618 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:37
- 「え?」
「ごめんなさい。君の気持ちを……せっかくの想いを
私のわがままで振り回した。
そのお詫びと……」
「愛ちゃん」
「これからのことは出てからしっかり話します」
「……これからの……こと……」
「全部、私が曖昧な気持ちだったからいけないんだ」
―――美貴ちゃん……ごめん……
「なぁ里沙ちゃん。一緒に生きて帰ろう!」
「……」
「ここから出たらさ、一緒に原宿行こうよ。ね!」
立ち上がる気配を感じた。
里沙が愛の手を握った。
「……愛ちゃん、ごめんね」
2人はもと来た階段へと引き返して行った。
- 619 名前:9 投稿日:2004/06/11(金) 21:37
- マスコミ取材の車は到着したというのに
救助はまだ来ない。
泣いている美貴を慰められる余裕のあるものはいなかった。
「愛ちゃん……お願い。帰ってきて
愛ちゃん……お願い。帰ってきて」
夜は深くなっていった。
- 620 名前:いこーる 投稿日:2004/06/11(金) 21:38
- 本日の更新は以上です
- 621 名前:いこーる 投稿日:2004/06/11(金) 21:39
- >>604
ありがとうございます。
追い詰められてくると人の心理は
本当に怖いと思いますが
頑張って更新しますのでよろしくおねがいします。
- 622 名前:ぽっと 投稿日:2004/06/11(金) 22:51
- 読んでてて
ふと、平和ってなんだろう?とセンチな気持ちになってしまいました。
みんな助かるといいですね・・・。
- 623 名前:ROM読者 投稿日:2004/06/12(土) 17:45
- 更新お疲れ様です。
日本ではいつどこで起こってもおかしくない現状ですが、
いざその時に今の自分に何ができるのだろう・・などと
真面目に考えたりしています。
- 624 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/14(月) 21:00
- >マスコミ取材の車は到着
実際の現場もそんな感じが多いですよね。
肝心なモノほど邪魔が入って辿り着けない。
震災時を思い出します。
- 625 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 20:58
- ワイヤー式のエレベーターは
ワイヤーが切れれば落下する。
普通はだから、非常時には落下が止まるようにブレーキが作動する。
ワイヤーだけでなくブレーキごと破壊された場合
エレベーターは落ちる。
地上にある限り、ものは落ちようとする。
縦方向に下方向に向かおうという力が働く。
―――誰かに引っ張り上げてもらわないと……
ぐんぐん沈んでいってしまう。
責任感。無力感。自分の身勝手さに嫌気が差したとき。
いつもの感覚が襲ってくる。
―――死ねばいい……
- 626 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 20:58
- そんなときはいつも好きな人のことを思い出している。
恋のことを考えている。
この先、
こんなことをして
こんな風に思い出作って
幸せになって……
誰かのことを想うことで
引っ張りあげられていた。
―――……里沙ちゃん
こんなときでも
- 627 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 20:59
- 先を進んでいるのは里沙だった。
さっき下ってきたのと同じはずの階段。
里沙に引っ張りあげられるように愛は登っていった。
美貴の存在がどんどん現実味をなくしていく。
自分たちの住む世界ははじめから暗闇であったと
そんな気になる。恐ろしいくらい馴染んできている。
リアルなのは目に見えることではなく
今
てのひらを通して伝わってくる想いの方だった。
その感覚が、
―――ごめんね……美貴ちゃん
新たな罪悪感となって
愛を沈めようとする。
愛は沈むまいと必死に里沙を想う。
引っ張り上げてもらいたくなる。
―――悪循環。
抜け出せないと、そう思った。
- 628 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:00
- そのとき手が扉に触れた。
愛は表面をなぞってノブを探る。
―――あった。
ノブをつかんで引っ張ってみた。
「んん……」
何かが引っかかっている。
更に力を込めた。
すると
ギギギギギ
と床を擦る音がして扉が開いた。
「瓦礫か何か引っかかってたみたい。でも開いたよ」
「うん」
今度は愛が里沙の手を取って
扉の中へと入っていった。
- 629 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:00
-
ガンッ
扉を叩く。しかし開かない。
ゴッ
身体をぶつけてみる。しかし開かない。
―――出られない
途方もない無力感が希美を襲う。
―――もう……帰れない
日の光を見ることも
亜依の表情を見て自分のテンションをあげることも
今の希美には叶わない。
「あいぼん……疲れちゃったよ」
希美はへたり込んだまま
目を閉じた。
「ごめん。もう疲れた」
扉の目の前。
意識は薄まっていった。
- 630 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:02
-
沈まないために
生きていくために
誰かを想っていなくては保てない。
そんな自分が厭わしい。
美貴を振り回す。
里沙を振り回す。
そのときは、その瞬間は
本気で好きなんだと自分にいいきかせる。
それで終わり。
人のことを想ってないと
生きていこうとすら思えない
自分の身勝手さが嫌になる。
こんな状況のときは特にそう思う。
「なんで?」
愛は電話の前で佇んでいた。
手にある里沙の感触も忘れていた。
「ねぇなんで?なんでのんつぁんいないの?」
へたりこんでしまった。
- 631 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:02
- 「私もわからない……」
ザッという音がした。
里沙も座ったらしい。
後悔が全身を襲って寒気がした。
―――なんで?
完全に見失った。
自分はどこにいるのか。
わからなくなってしまった。
疲れを感じた。
ひどく据わりの悪い疲れ方だった。
- 632 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:02
- 自分がどこをどう移動してきたのか何もわからない。
「私たち普通に階段を降りてきただけだった。
なのに……どうして?」
「……」
「ううっ……ごめん里沙ちゃん。わたしのせいだ」
「そんなこと」
―――わたしのせいだ
希美を助けようとむきになって
結局自分の立ち居地がわからなくなってしまった。
里沙を巻き込んだ。
「……ごめん」
「愛ちゃん!」
肩を揺すられた。
愛に返事をする余力はなかった。
- 633 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:02
- ……。
…………。
「愛ちゃんさぁ」
「ん?」
「なんで美貴のことまでそんなに背負い込むの?」
「でも……私があのとき……」
「美貴の問題でもあるんだからさ。1人で負わないでよ」
「だって……」
「んもうっ。ほんっとにじれったいなぁ」
「ごめん」
「ほら、すぐ謝る」
「……ごめん」
…………。
……。
- 634 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:03
- 「……ごめん」
「愛ちゃんいいよ。待ってて。私、ちょっと周りを探ってみる」
「里沙ちゃん?」
里沙はつとめて明るい声をだした。
「愛ちゃんここで待ってて。ここなら電話のランプがあるからすぐわかる」
「でも……」
「ずっと責任張って疲れたでしょ?ちょっと休んでなよ」
「……」
「お願い!」
―――そうでないと……
「私、行ってくる」
―――さっきのこと、償えない。
自分の行動に鳥肌がたった。
衝動的に
本気で愛を殺そうとした。
隔離された環境が里沙を狂わせている。
愛のために
少しでも前向きなことをしていたかった。
里沙は壁に手をついて歩き出した。
- 635 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:03
- 里沙の足音が遠ざかっていく。
―――ここは、どこ?
頭がぼうっとしてきた。
里沙の言うとおり疲れがきているのかもしれない。
朦朧とした意識のなかで
断片的な考えが浮かんでは消えて行った。
―――なんでこんなところに来ちゃったんだろう
かたっぱしから電話をして
希美の居場所をつかんだ。
―――助けなきゃ
希美の居場所はわかっているのに
自分がどこにいるのかがわからない。
―――のんつぁんの居場所……
つながった番号からわかったのだ。
今、
自分の目の前にある電話の番号さえわかれば
どうにかなる。
- 636 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:03
- しかし
緑のランプ以外に光源のない状況では
この電話の番号がわからない。
―――のんつぁんの居場所はつきとめられるのに……
つきとめられる。
電話をかければ。
!
―――ひょっとして
愛は受話器を取った。
希美のところへかける。
しばらくしてつながった。
「……愛ちゃん。もうダメだ……」
「のんつぁん!しっかりして!!」
「……どうしたの?」
「お願いがあるの」
愛は小さな声で言った。
「そっちで、内線を片っ端からかけてみて」
- 637 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:04
-
里沙は歩いている。
手の感触だけを頼りにすすんでいる。
!
棚のようなものに触れた。
更に探ってみた。
ガサガサとビニールの音がした。
掴んでみる。
―――レタス?
手を動かす。
かごにぶつかって落ちてきた。
身をかがめてそれを確認する。
―――ねぎだ……
目の前にあるのは野菜棚だった。
―――食料品ってことはここは……
- 638 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:04
-
愛は電話をにらみつけていた。
―――かかってきて……
祈るような気持ちだった。
―――お願い!
ピッ……
―――来た!
ピピピピピピピ
「もしもしのんつぁん」
「よかったつながった」
- 639 名前:10 投稿日:2004/06/15(火) 21:04
-
受話器の向こうから愛の声が聞こえてくる。
「のんつぁん。何番にかけた?」
「ちょっと待って……」
希美は携帯の灯りを頼りに案内を見た。
自分がかけているのは
<内線021:地下2階 東側階段>
「地下2階だ。のんの真下にいる」
- 640 名前:いこーる 投稿日:2004/06/15(火) 21:05
- 本日の更新は以上になります。
- 641 名前:いこーる 投稿日:2004/06/15(火) 21:08
- >>622
どうもありがとうございます。
センチな気持ちですか。読んでそう感じていただけて……
これからもよろしくおねがいします。
>>623
ありがとうございます。
私ならとっくに逃げ出したい状況でしょうね。
実際の様子を想像しながら書いていますが……
>>624
救助を待つときって本当にいらだたしいと思います。
早く早くと願っているときはとくに
- 642 名前:ROM読者 投稿日:2004/06/16(水) 21:44
- 更新お疲れ様です。
まさにLIFE LINE。良い結果につながるよう祈っています。
- 643 名前:飛べない鳥 投稿日:2004/06/16(水) 22:44
- 他のメンバーはどこにいるんだろ?
気になって仕方ありません
- 644 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/21(月) 10:37
- 初レスです。結構前から読ませてもらってたんですが、久しぶりに逃避行を読み返しました。
そこで気付いたんですが、逃避行中のたかぁしさんと帝の会話の中に今作のフリがすでに入っていたんですね♪
これからも期待してます
- 645 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:53
- 空間が歪んでしまったのかと思った。
階段を上ってたどり着いたここが地下2階。
自分たちは階を間違えて地下3階まで行っていたことになる。
愛と里沙は
再び階段室にいた。
瓦礫ばかりの階段。
そこをのぼっている。
「なんで、階を間違えたんだろう」
愛が言った。
「……わからない」
里沙は答える。
―――なんで?
埃くさい。
足元がぐらぐらしておぼつかない。
- 646 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:53
- いや。
怪我の痛みと疲れで
すでに足の感覚などなかった。
知らぬ間に階段を余計に降りていたのかも知れない。
平衡感覚のない深淵の中を
不安定な足場を頼りに進んでいる。
少しずつのぼっている。
こんな非日常的な場所にいる。
どんな非現実的なことだって起こり得る。
歪んでいると思った。
すでに明るい世界の記憶が呼びおこせなくなっていた。
常識の枠組みなど、
ここでは無意味。
2人とも息を切らしていた。
おかげで離れ離れになる不安はなかった。
- 647 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:53
-
―――もう、わけわかんない。
自分たちは地下1階を目指していた。
建物が崩れて階ごと減っていることに気がつかなかった。
だから……地下2階に行ってしまったのだと思っていた。
そこで階段を上がってきたら、そこがまた地下2階。
―――なんで?
階段を踏む。
のぼっているのだろうが
疲れで感覚麻痺を起こした足には
のぼっているのか足踏みをしているのか定かではない。
愛は寒くなった。
地下深くから暗闇に引っ張られていて
いつまでたっても進めない。
そんな気がしていた。
そのとき
何か、音がした。
―――上から?下から?
- 648 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:54
- 直後
今度は足元でざらざらと音がした。
細かい石が転がっていく音。
足元を
転がり降りている。
「……揺れてる」
―――嫌だ……
「もういやぁぁぁ!」
愛の叫び声が縦に響いていく。
声は遥か天井に吸収された。
地面に吸収された。
愛は
座り込んだ。
「……もうだめだ、引きずりおろされる」
「愛ちゃん?どうしたの」
上からか下からか
里沙の声がする。
- 649 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:54
- 「もうだめだ……」
―――呑み込まれる
意識しなければ知覚できない微震だったが
遥か地下深くから愛を呼んでいるように感じられた。
上下の感覚がおかしい。
ただ
このまま闇につかまれて沈んでいく。
そう思った。
そのとき
!
足首をつかまれた
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
愛は狂ったように暴れた。
- 650 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:54
-
伸ばした手が愛に触れたらしい。
愛の足が突然暴れだして
里沙の腕を蹴った。
「痛い……」
「引っ張るな!引っ張るな!!」
―――……愛ちゃん
耳が痛くなるような声だった。
「お願い落ち着いて!」
「また……また崩れる」
今度は
消え入りそうな声だった。
「一階がなくなった。今度は、ここだ。ここがなくなる」
「……え?」
里沙は
思わず気の抜けた声を出してしまった。
- 651 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:55
- 「一階が……なくなった?」
愛は確かにそういった。
「そうだよ。一階は地震でぺしゃんこになったんだ。
だから地下2階に行っちゃった。
それに気づいてのぼってきた。そしたらまた地下2階だった……」
里沙は呆然とした。
「もう、抜け出せないんだ。もうだめなんだ……」
絶望する愛のすぐそばで
里沙は
「……そうか」
ようやく事態を理解した。
「愛ちゃん、違うよ。間違えてる」
- 652 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:55
-
注意していなければ感じ取れない程度の余震だった。
しかし
美貴は再び崩壊した。
「崩れちゃうよ!愛ちゃん!!」
「美貴ちゃん……大丈夫だから!」
「早く!早く!なんで誰も助けにいかないの?」
揺れはすぐ収まった。
「なんで?」
「ほら、もう揺れてないよ……」
「……また揺れたら?愛ちゃんは?」
「……」
何も言えなかった。
余震の危険が過ぎ去っていないことは
誰もが了解していた。
- 653 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:55
-
「愛ちゃん、最初にステージ裏でのんつぁんに電話をかけたよね?」
「うん」
「そのとき愛ちゃんは自分は3階にいるって言ってた」
「そうだよ。だって3階で地震にあったんだから」
「いや、そうじゃないんだ」
ふいに襲った地震と停電。
それで正常な思考ができていなかった。
「私たちはあのとき2階にいたんだよ」
「……え?」
里沙は早口でしゃべっている。
瓦礫と埃だらけの階段。
愛を落ち着かせたらすぐに出たかった。
「いい?愛ちゃんがホールに入ったときは確かに3階にいた」
「うん」
不思議だった。
ついさっきこの階段室で
愛と一緒に死のうと思った。
その自分が愛を必死に励ましている。
- 654 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:55
- 「ホールは建物の2階と3階を使ってるんだ。
段差をいっぱいつくらなきゃならないから。
ステージは当然その一番下。つまり2階部分なんだよ」
「あそこは……2階?」
「そう。しかも1階が崩れてなくなっているなんて知らなかった」
「だから……階が2つもずれた……」
「うん。
私は一階がなくなっているなんてわからなかったから
階がさらにずれていたことに気づかなかった」
「2人とも、別の理由で……」
「そう」
勘違いが2つ重なったのだ。
「だからのんつぁんはこのすぐ上にいるんだ」
里沙は
見えない愛に向けて言った。
「行こう」
- 655 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:56
-
再び
開かない扉のところまで戻ってきた。
「……早く、助けて」
亜依の顔を思い浮かべようとした。
上手くいかなかった。
―――こんなときに……
ときどきこうなる。
大好きな亜依の顔が途端にわからなくなる。
愛おしさがいっぱいになるほど
その表情の具体的なところが思い出せなくなる。
―――……もう無理かも
地下駐車場に閉じ込められたまま
何も見えず
好きな人の顔も思い出せないまま終わるのだろうか。
「……助けて」
もう叫ぶ気力もなかった。
- 656 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:56
- そのまま眠りに落ちそうになったとき
ガンッ
大きな音が鳴った。
びくっと起き上がる。
ガンッ
ガンッ
金属質の重たい音。
ガンガンガンガン
―――叩いてる……
扉の向こうから
扉を叩いている音だった。
「愛ちゃん!!」
- 657 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:56
-
しばらく待った。
希美が扉のところにいるのなら、
返事があるはずだった。
ガンガンガンガン
―――いた!
「のんつぁん!」
愛はノブを回して扉を引っ張る。
―――……ダメだ
扉はビクともしない。
「里沙ちゃん。下の瓦礫をどけよう」
「わかった」
2人は足元に山積している瓦礫を階段の下へと投げ始めた。
- 658 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:56
-
希美の全身に力がみなぎったみたいだった。
―――助かる
「……助かるよ、あいぼん」
希美は手に持っていた携帯を握り締めた。
地上に出られればきっと外部と連絡が取れる。
希美は
扉の開く音がするのをひたすら待った。
足の痛みも忘れていた。
ギ……
!
擦れる音がした。
「のんつぁん」
愛の声だ。
「愛ちゃん」
- 659 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:57
- ふっと
力が抜けた。
久々に直接に
人の声を聞いた気がする。
「……まだ、引っかかってる。
お願いのんつぁん。そっちから押して!」
「わかった」
希美は
全体重をかけて扉を押した。
ギギギギ
「よし、隙間ができた。
待ってて、私もそっち行く」
扉を押していた希美の肩に
愛の手が触れた。
希美は愛の腕を夢中でつかんでいた。
「よかった。助けに来てくれた……」
その向こうから
「愛ちゃん」
声がした。
- 660 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:57
- 「里沙ちゃん!一緒だったの?」
「電話では愛ちゃんしか話してなかったもんね。
私たちずっと2人でいたんだよ」
「そうなんだ」
「さあ、行こう。早く逃げよう」
「……え?」
愛が小さな声を漏らした。
吐息と間違うほどの小さな、しかし恐怖に満ちた声。
「この音……」
希美にも聞こえた。
音は次第に大きくなっていった。
- 661 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:57
-
10時直前。
再び衝撃が走った。
美貴は立ち上がる。
最初の揺れよりは遥かに小さかったが
弱った街のあちこちから悲鳴が聞こえた。
「……愛ちゃん」
美貴は
―――どうして?
へたりこむ。
- 662 名前:11 投稿日:2004/06/22(火) 20:58
-
揺れはすぐに収まった。
3人ともしばらく沈黙していた。
愛が口を開く。
「建物はなんともないみたい。早く逃げよう」
「あいちゃん!」
里沙の声。
心臓が止まるかと思うほど悲愴な声だった。
「どうしたの?」
「開かない……扉が開かなくなっちゃった」
「まさか……」
今の余震で
階段の瓦礫が崩れてきて扉をふさいだのだろうか。
「……」
愛は
呆然とした。
「閉じ込められた……」
後ろで希美がそう言った。
- 663 名前:いこーる 投稿日:2004/06/22(火) 20:58
- 本日の更新は以上になります
- 664 名前:いこーる 投稿日:2004/06/22(火) 21:04
- >>642
ありがとうございます。
電話線の存在のおかげで物語が進めやすくなりました。
その意味でもライフラインでしたw。
>>643
毎度気にしていただきながら
中々答えを出さずにすみません。
これからもよろしくおねがいします。
>>644
初めまして。レスありがとうございます。
以前からお読みいただいていたのですか。
ありがとうございます。
>逃避行中のたかぁしさんと帝の会話の中に今作のフリがすでに入っていたんですね♪
はい見つけてくれて嬉しいです。
これからもよろしくおねがいします。
- 665 名前:ROM読者 投稿日:2004/06/22(火) 22:10
- 更新お疲れ様です。
少しずつ点が繋がりそうですが、まだまだ展開は読めません。
- 666 名前:konkon 投稿日:2004/06/22(火) 23:07
- めちゃおもしろいです。
逃避行から続いてたんですね〜。
- 667 名前:ぽっと 投稿日:2004/06/22(火) 23:10
- 4人が合流できて良かったですが、一難さって、また一難ですね。
ハラハラさせますねぇ〜。
- 668 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:08
- 2人で新しいことを始める。
そこに不安はまるでなかった。
少しくらいなら頼ってもいい。
少しくらいなら傷つけてもいい。
少しくらいなら喧嘩してもいい。
それだって
結局は上手くいく2人だとわかっていた。
それだけの信頼関係があった。
頑張って仲良くやっていこう。
そう確認しあった。
自分たちの力でどうにもならないところに追い詰められるまでは
どんどん突っ走っていこうと。
- 669 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:08
- 信頼を簡単に壊すことなどできない。
そう思った。
確かに2人の関係は強固なものだった。
しかし、1人1人が強いわけではない。
1人ではどうにもならないことがたくさんある。
そんなときはいつも支えあってきたのだ。
万が一にでも
相方の姿を見失ったとき
絶対の支えを失ったとき
自分たちは本当にやばいことになるだろう。
それは弱点かも知れなかった。
しかしその弱点を克服できるほど
自分の足だけで立っていられるほど
環境は甘くない。
どうしても相方への依存は強くなって行った。
それが
唯一感じる不安。
- 670 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:09
- 深く眠っていたので
最初はそこが自分の部屋でないことに気がつかなかった。
しかし
汗ばんだ二の腕が
革のソファにべったりとくっついていたのがわかった。
続けて感じたのは
消毒液の匂い。
さらに音。
かすかに、
しかし方々から
すすり泣くような声が聞こえてくる。
ようやく目が開いた。
白い壁、白い床。
病院のロビーにはたくさんの人がいた。
床に横たわって苦しそうにしている人もいた。
亜依は
ゆっくりと小さく唸った。
- 671 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:09
- 意識が朦朧としている。
小さく身体を動かすと
パリパリと音を立てて
皮膚が革からはがれた。
―――ここは?
亜依は身体を起こそうと力を入れた。
「加護?」
突然、肩をつかまれた。
「待って。無理に起き上がらない方がいい。
頭を怪我したかもしれないから」
「矢口さん……」
真里がそっと
亜依の両頬を持ってのぞきこんでいる。
「矢口さん……私、どうしたんですか?」
「助け出されたときのこと、覚えてない?」
「はい」
- 672 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:09
- 自分の声に力が入らない。
しかしそれ以上に
亜依は真里が憔悴しているのが気になった。
「私……どのくらい眠ってましたか?」
「助け出されてから、1時間くらいかな」
「そう……」
ふと
真里の両手が離れて
両頬が涼しくなった。
真里の表情が見えない。
亜依は真里を見ようとしたが
―――気持ち悪い……
頭を動かそうとすると
とたんにマーブルを描いたように
意識がぐにゃりと歪んだ。
―――頭が痛い……
- 673 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:09
- あちこちから
人の嗚咽が聞こえてくる。
亜依はもう一度ロビーを見た。
「ちょうど車があったから
怪我人はまとめてここに運んだんだけどね」
ロビーは人だらけだった。
皆、疲れきった顔をしていた。
「この状態でさ。
病室は緊急の処置が必要な人を優先させたみたい。
加護はここになっちゃった。
こういうときは芸能人とか関係ないね。
まぁ、ソファで大丈夫っていう判断なら
そんなに大きな怪我じゃないのかも……
よかったよ」
やはり、
真里の声にはまるで元気がなかった。
「……矢口さん」
「ん?」
「他のみんなは?」
「……みんな……無事だよ」
まるで元気がなかった。
- 674 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:10
- 「のんは?」
「え?」
「のんはどこにいるの?」
「辻は……ちょっと、足をひねってさ。
それで今こっちに向かってる。
あー加護、おいらの看病じゃ不満か?
しょうがないよ。みんな手一杯なんだから」
声のトーンが途端に高くなった。
亜依は思った。
―――ウソ……
真里のウソはすぐにわかってしまう。
「矢口さん!本当のことを教えて」
「ほんとだって!大丈夫。何も心配ない」
「もう1時間以上経ってるのに、
足ひねっただけののんがまだこっちに向かってる?」
「……道が、上手く動かないんだよ」
「そこまでして、こっちに向かってるの?」
頭を怪我して意識を失っていた亜依が
ソファという待遇なのに
足ひねった希美がここへ来たところで
たいした処置は期待できないはずだ。
- 675 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:10
- 「お願い!教えて!!のんはどうしたの?」
「……」
沈黙した。
さっきからロビーには
悲しい声ばかりが飛び交っている。
「加護、助け出されたときのこと、本当に覚えてないの?」
「質問に答えてよ!」
「……」
真里はもう一度黙った。
真里は両手で亜依の両手を握りしめる。
その力がとても強かった。
- 676 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:10
- 「……辻は、あのビルの中で……」
ロビーの中に
悲しみがまた一つ。
「高橋と……それから新垣も……」
話の途中で
真里は泣き出してしまった。
「……そんな」
亜依は
不安で泣き出すことも忘れていた。
真里が再び話せるようになるまで
時間がかかった。
- 677 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:10
-
美貴が地面に両手をついて泣き叫んでいる。
梨華は必死で美貴を慰めていた。
「ねぇ……もう泣くのやめようよ」
美貴は泣きやまない。
「前向きに考えようよ。
ここで泣いても愛ちゃんのためにならない」
「そんな……こと……」
しゃくりあげながら
美貴は梨華を見上げた。
「わかってる……」
「じゃあ」
「わかってるけど……でもダメ!嫌!」
「ねぇ、祈ろう。3人のために」
梨華が美貴の肩に手を置いた。
美貴は泣きやまなかった。
- 678 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:11
-
真里の話が終わる前に
取り乱して顔をくしゃくしゃにして
亜依は真里の肩を殴りつけていた。
真里は
それを抵抗せずに受け止める。
「なんで?……なんでうちだけ助かったの?」
「加護……落ち着いて……」
真里の肩をつかんで必死に揺さぶった。
「なんで?なんでのんはいないの?」
「……」
真里も
つられて泣き出した。
「……ごめん、矢口さん」
「ううん」
- 679 名前:12 投稿日:2004/06/26(土) 17:11
- 亜依は、
真里の肩を引き寄せる。
抱き合った。
泣いたまま2人で寄り添っていた。
真里のすすり泣く声が
耳元で聞こえる。
そのままでいた。
「ねぇ矢口さん……」
「ん?」
「私が気を失っていた間のことを教えて」
- 680 名前:いこーる 投稿日:2004/06/26(土) 17:11
- 本日の更新は以上です
- 681 名前:いこーる 投稿日:2004/06/26(土) 17:14
- >>665
先が見えない展開にできるようにと
無い知恵絞って苦心しているところです;汗
ここからどうなるか……。
>>666
ありがとうございます。
同じ板どうし頑張っていきましょう。
>>667
ありがとうございます。
次をどうしようかとこちらもハラハラですw
- 682 名前:ぽっと 投稿日:2004/06/26(土) 18:48
- 展開が変わりましたね。
残りの3人は、どうなったんだろう・・・?気になります。
- 683 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 23:08
- 亜依だけが、いつの間に。。。
更新がじれったいです。
- 684 名前:ROM読者 投稿日:2004/06/27(日) 18:49
- やっぱり、痛くならざるを得ませんね。
ここは暫く静観したいと思います。
無理をなさらずに創作されてください。
- 685 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:00
- 偶然が重なった。
それが事実であり真実。
そこには何の因果もないはずである。
しかし
亜依はどうしても納得がいかない。
自分の生きていることが不安で仕方がなかった。
自分は偶然、助け出された。
希美は偶然、出られなかった。
―――なんでうちだけ助かった?
揺れのタイミングがずれていたら
希美がここに座ってたかもしれない。
亜依がここに座っていなかったかもしれない。
―――なんでのんがいないの?
運命を分かち合っていたはずの2人。
自分が希美であったかも知れない。
希美が助かっていて
自分が助からなかったかも知れない。
そんな漠然としていながらも
圧倒的な不安。
- 686 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:00
- 「矢口さん」
「おいらも……よくはわからない」
「いいの、知ってることなんでもいいから教えて」
状況をもう少し知ることができれば
原因がもう少しはっきりしてくれば
少しは安心できるだろうか。
―――無駄なこと……
そうも思った。
だがそれでも亜依は確認したかった。
自分の助かったのは偶然ではないと。
「私が助け出されたとき、何があったのか教えて」
真里は
亜依が意識を失くしていた間のことを説明しはじめた。
「直接見たわけじゃないんだけど……」
- 687 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:01
-
いくら押しても
扉は動かなかった。
一番最初に諦めたのは希美だった。
「だめだ……開かないよ」
希美の声が
里沙の耳元まで届いて
里沙がぎりぎりで持っていた気力が
沈んでいってしまった。
―――……だめか。
里沙は扉から手を離すと
その場に座り込んだ。
「ねぇのんつぁん」
「ん?」
里沙は聞いてみた。
「他に出口ってなかったっけ?」
「……階段は2つだけ。
もう一つの階段も塞がってる。
エレベーター動いてるはずないし……」
- 688 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:01
- 頭のちょっと上で
愛が息を切らしていた。
「……愛ちゃん?」
「ここを開けないと……」
「愛ちゃん。無理だ」
「でも……」
愛の返事は
弱々しい。
―――今度こそここで、死ぬのかな?
里沙は思った。
―――必死になったって、出口がないんじゃしょうがない。
思えば自分は今まで
どうにもならないことに一生懸命になりすぎていたかもしれない。
たとえば
仕事の様々な局面。
自分の表現ではとても実現しないような
高すぎる目標を掲げて
ぐしゃぐしゃになるまで努力して絶望する。
- 689 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:01
- それからたとえば
恋。
愛に好きな人がいるというのに
いつまでも頑張ろうとしてしまう。
何を頑張ったらいいのかすらわからなかったのに。
こうして外界から隔離され続けて
愛の気持ちが動いただろうか。
―――せめて死ぬ前に、確認したいなぁ
いままでのこと全てから切り離されて今
愛は里沙のことを想ってくれるだろうか。
死への恐怖が確実に迫ってきた今
愛は里沙を求めてくれるだろうか。
それさえ
確かめられれば
―――安心して寝られそうなのにね。
- 690 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:01
-
希美は携帯を握り締めていた。
電波さえも閉じ込められた空間で
それは電話としてはまるで役に立たない。
それでも希美は大事に握っていた。
ボタン一つで亜依と会ったような
気分になれる魔法の道具。
毎晩亜依とメールだってした。
―――死ぬなら……
少しでも亜依を近くに感じていたかった。
―――こんなところ、早く離れよう
希美はゆっくりと立ち上がる。
「ごめん。2人とも、ここにいて」
「え?」
足元から里沙の声。
「いや違うか。
私はもう戻ってこないかも。
だから愛ちゃんたちは待ってなくていいや」
「どうしたの?」
「最後くらいは、ゆっくりしていたいの」
- 691 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:02
- 「……のんつぁん」
「愛ちゃん、里沙ちゃん。
ごめんね。助けに来てくれたのにわがまま言って。
でも、もう終わりだからそっとしておいて」
そういうと希美は
からだの向きを変えて歩き出す。
自分が2人を巻き込んでしまったことはよくわかっていた。
それに対する罪悪感も痛いくらいにあった。
でも
―――こんなときくらい、わがままでもいいよね。
そんな責任感を投げ捨てられるほど
希美は追い詰められていた。
できればこんな現実からは一秒でも早く逃げ出したいと思った。
現実逃避。
―――それなら得意だ。
だから2人から距離をとったところに行きたかった。
- 692 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:02
-
希美の足音が遠ざかっていく。
愛は、胸が押しつぶされそうな気持ちと
必死で闘っていた。
―――本当に?本当に出口は無いの?
自分の勝手な判断で
自分の存在のせいで
里沙が死に直面している。
いくら責めても自分を許せない。
―――助かる方法は?
考える。
疲れも恐怖も感じなかった。
―――どうにかして……
助けなくてはならない。
自分を想いつづけた里沙の命を
なんとかして助けなくてはならない。
―――連絡が……とれれば
建物の電話は外につながらない。
連絡は取れない。
- 693 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:02
- ―――ここは地下1階。
!
「のんつぁん!」
大きな声を出した。
「なに?」
希美の声が
思ったより近くから聞こえてきた。
「ここは地下だから換気口があるはず
そこから上に逃げられるんじゃない?」
「天井にあったら上れないしフタがしてあったら入れない。
第一、暗くて見つけられない」
希美の声は暗く低かった。
「駐車場の車を使って、ドアを破るのは?」
「キーがなきゃ動かせないよ。
この暗い中キーのささった車なんて見つからない」
何もかもを投げ出してしまったような
重みを持った声だった。
「他にも、何か手が?」
「何かって?」
- 694 名前:13 投稿日:2004/06/29(火) 21:02
- 希美の言葉が
冷たく沁み込んでくる。
「なんで?なんで諦めちゃうの?」
愛の声は涙で震えていた。
―――何か手があるはず……
ここは地下一階。
!
「ねぇのんつぁん」
「ん?」
「携帯……持ってない?」
「持ってる」
―――よかった。
愛は
ゆっくりと
声のした方を向いて言った。
「地下1階で、電波の届く場所を探そう」
- 695 名前:いこーる 投稿日:2004/06/29(火) 21:04
- 本日の更新は以上です。
- 696 名前:いこーる 投稿日:2004/06/29(火) 21:07
- >>682
はい少しだけ展開を変えてみました。
これからもよろしくです。
>>683
なるべくじらさないようなペースで
更新したいとは思っています。
あるいは適度にじらすペースでw
よろしくおねがいします。
>>684
ありがとうございます。
自分でも中々ペースがつかめないでいるので
そのようなお言葉は心強いです。
- 697 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:33
- 「美貴はね……愛ちゃんとは似たものどうしだと思う」
少し落ち着いた。
最初、建物が崩れたとき
美貴はその現実を受け止めることができなかった。
「なんか、変にエリート意識ってのがあってさ。
自分の限界認めたがらないみたいなとこあった」
心にぽっかりと開いた喪失感。
それを埋めることなどできないと思った。
「もう無理だってわかってるのに
もっとやらなきゃって思っちゃう。
お互い似てるんだよね。そういう悪い部分が」
喪失感を埋めることに抵抗があった。
愛が閉じ込められたまま自分だけが
日常へと戻ろうとすることは裏切り。
いや、
もっとひどい。
この喪失の中で
愛がいない世界で
平常に戻っていったとしたら
それは愛のいない生活を認めたことになる。
愛を
否定したことになる。
- 698 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:33
- そう思って、美貴は努めて
落ち込もうとした。
悲しもうとした。
悲しんでいられるうちは
まだ愛は死んでいない。
そう信じ込むことにした。
「そっか、だから気が合ったのかもね……」
「そりゃ、全然合わないってとこもあったけどね」
気持ちが
少しましになった。
梨華に話を聴いてもらうことで
すこしずつ、整理がつきはじめていた。
「なんか変なタイミングで自信過剰になっちゃって
独りで追い詰められるところはそっくりなんだけど
その後が違うんだよね。
対処の仕方ってのがまるで違うの」
しゃべり続けた。
しゃべり続けてなんとか平常を保ち続けた。
- 699 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:33
- 「ねぇ……。外の人たちはもう私たちが死んだと思ってるのかな?」
3人の足が止まった。
希美の言葉に時間が止まったみたいだった。
まるで悪意のない発言。
愛に希美の表情は見えないが
声が素朴な素直な疑問であることを伝えていた。
他意のない発言。
だからこそ
重く響いた。
「そんなことない!」
愛は必死に否定をする。
「みんな……私たちのこと、見捨てたりしないよ」
「何人くらいの人が、死んだと思ってるんだろうね」
―――のんつぁん……
希美の発言。
希望をまるでなくしてしまったような声。
- 700 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:34
- 目に入っていくるのは携帯のディスプレイの光。
ずっと圏外の表示が消えない。
「早く見つけないと……」
「本当にあるの?電波入る場所なんて」
後ろから
感情のこもっていない希美の声が聞こえてきた。
「地下だよ。ここ全部地下だよ。
携帯使えるわけないじゃん!」
「じゃあ……どうしたらいいの?」
「知らないよ」
―――そんな……
自分だって、
歩き回ったくらいで電話が繋がるなんて思っていない。
「無駄だよ。疲れるだけだ。もうやめようよ」
希美の言うとおりなのだろう。
自分のやっていることは無駄。
自分たちは
建物の崩壊と同時にぐしゃぐしゃにつぶされて死んでいくのだろう。
- 701 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:34
- 「もういいよ。やめよう」
愛は希美を無視して歩き続ける。
―――里沙ちゃん。
自分の命はあとわずか。
―――せめてそれまでは……
里沙のために動いていたいだけ。
里沙になにもできずに死んでしまうなんて
―――最悪。
中途半端に人を傷つけて
自分の生きた価値は何だ。
生きているうちに
自分の罪悪だけは清算したい。
それが本当に里沙のためかどうかはわからない。
しかし、愛は必死に電波を探した。
里沙を救いたい。
- 702 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:34
-
梨華はずっと美貴の目を見て聴いていた。
しかし美貴の目は梨華を見ることなく
遠くに向かっている。
「美貴は困ったとき、楽しきゃいいじゃんって思うようにしてるの。
楽しんでやれば、なんでも乗り越えられる。そう思う。
だけど愛ちゃんは違うんだよね。
追い込まれてから更に自分を追い込む。
もう無理だってところにきても
まだやらなきゃって感じでずっと頑張っちゃうんだ。
負い目で動いてるようなもんだよ。あのコは」
「負い目?」
「いや負い目っていうか責任……かな?
何もすることがないと不安なんだって。
自分がやらなきゃって状況でないと、生きているのが怖いとか
前に言ってた。生きる意味がないって……。バカだよね」
- 703 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:34
-
「ねぇ愛ちゃん。まだ歩くの?」
愛は立ち止まってこぶしを握ってこらえる。
―――なんでこいつは……
どうして希美はこうも否定的なのだ。
「ここで休んで……どうなるっていうの?」
「歩いてたって同じだ」
いらいらが
音を立てて溜まっていくような気がした。
「でも、ひょっとしたら……」
「無駄だって」
―――なんで……
希美の考えがわからない。
恐怖で、すべてに投げやりになっている。
それだけなのだろうか。
「のんつぁん、さっき私たちを置いてどこか行こうとしたよね」
「……」
「何かあるの?」
「別に……」
「あるんでしょ!」
「あったら……何?
関係ないじゃん。死んじゃうんだ。関係ない」
- 704 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:34
- 愛は違和感を感じた。
希美の声が幼くなったように感じた。
なにかまるで
自分の部屋に他人が勝手に入り込んだときの子どもみたいだ。
「もういいじゃん!死ねばいいよ!関係ないよ!」
死ねばいい。
その言葉で愛の我慢は限界を越えた。
振り向いて声のした方へ手を伸ばした。
シャツを掴むと壁のあるはずの方へ
思いっきり
ガンッ!
叩きつけた。
- 705 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:35
- 「痛……」
「のんつぁん」
自分でもビックリするくらい低い声が出た。
「……ウザい」
希美の呼吸のリズムは
かわらない。
愛のいらだちがどこまで希美に伝わったか
視界の限られた状況で確認する術がない。
もう一度
「ウザいよ!」
怒鳴った。
すると今度は
「……この」
!
ものすごい力で髪を引っ張られた。
- 706 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:35
- 「痛い!」
「携帯返せ!!」
さらに強い力で引かれる。
そのまま顔面を
ガンッ
金属面に叩きつけられた。
鼻が潰れて目に火花が散った。
「……つぅ」
「返せ!」
顔が再び後方に引かれる。
―――やめて……
そのまま
ガンッ
もう一度叩きつけられた。
- 707 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:35
- 「ちょっとのんつぁん」
里沙が止めに入ってきた。
「落ち着いてよ2人とも」
愛は手をついた。
―――里沙ちゃん……
「お願い。こんなところでけんかしないでよ」
里沙の声はかすかに震えていた。
―――ごめん……
- 708 名前:14 投稿日:2004/07/03(土) 22:35
- またしても
里沙を泣かせてしまった。
―――何やってんだろ……私。
金属のひんやりした感じが
手のひらを伝ってくる。
「え?」
―――壁じゃない……
「ねぇここ……」
「え?」
愛はつぶやいた。
ほとんど独り言だった。
「エレベーターだ」
- 709 名前:いこーる 投稿日:2004/07/03(土) 22:36
- 本日の更新は以上です。
- 710 名前:トキ 投稿日:2004/07/04(日) 11:25
- 初めて感想書きます。
カップリング云々より、話しが凄く気に入りました。
それにしても藤本さんは切ないですね。
中にいる新垣さんとは違った意味で辛い。
話しはもう佳境でしょうか?
最後まで楽しみに読ませて貰います。
- 711 名前:ぽっと 投稿日:2004/07/04(日) 17:56
- 外の世界と建物の中の世界で食い違いが・・・。
実際でも、よくありますよね、こんなこと。
- 712 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:31
- 「ねぇエレベーターだよ」
「……それが?」
「階段が塞がれてるなら
今はエレベーターだけが逃げ道」
「動いてるわけないじゃん!」
愛はゆっくりと
ドアに手のひらを這わせた。
「動かなくてもいいんだよ」
「え?」
ドアとドアの隙間。
そこが
わずかに開いていた。
―――やった!
ちょっとした奇跡だった。
1階が崩れたとき
ここに大量の瓦礫が降ってきたはず。
その衝撃でドアが壊れてしまった。
「これ……手で開けられるかも」
- 713 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:31
-
美貴は延々しゃべっていた。
愛のことを。
愛とのことを。
途中
現実を思い出して泣き出しそうになったが
梨華がしっかりと美貴を支えてくれていた。
「ほんと愛ちゃん。責任感強いもんね」
「そう。美貴との関係でもそうなんだ。
梨華ちゃんたちの逃避行のときだって……。
なんで美貴についてくるの?って聴いた。
なんて答えたと思う?」
梨華は首を振る。
「藤本さんは独りにしちゃいけないんですよ。
だってさ。おかしいでしょ?
あのコが私と付き合ってるのは好きだからじゃない。
私を独りにしちゃいけない。
そういう気持ちで私と一緒にいたんだ。
ずっとそうだった」
- 714 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:31
-
愛は隙間に手を入れて両側に開こうとした。
しかし
「……っくぅ」
簡単には開かない。
「ねぇ愛ちゃん。ドア開けたって逃げられないじゃん。
エレベーター動いてないんだよ」
「エレベーターシャフトをよじ登って行けば地上に出られる」
「そんなの危ないよ。それに出口は?
ここみたくドアが開いてるとは限らない」
「そうじゃなくってさ」
一旦
手を離した。
そうして希美に言う。
「携帯持って地上に出れば連絡がつく」
- 715 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:31
-
「自分のためじゃなくて美貴のために一緒にいる。
それが愛ちゃんのやり方なんだよね。
グループのため。みんなのため。
たまには自分のためだけに時間使ったらいいのにって思う」
美貴から見ても愛は
おそろしいくらい不器用だった。
「美貴が頑張る時って、自分のために頑張ってるんだ。
自分楽しめなきゃ仕事してる意味ないって思ってる。
でも愛ちゃんは、人が喜ばなきゃ何しても意味ないって感じなんだよ」
「それって優しさでしょ?」
「……そう、なんだけどね。
恋愛までそんな感じなんだもん。
息が詰まっちゃう」
「でも……好きだったんでしょ?愛ちゃんのこと」
「ほんっとに」
美貴の目に再び涙が溜まってきた。
「憎たらしいくらい責任感強いんだもん」
- 716 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:31
-
「ちょっと待って愛ちゃん」
里沙が会話に入ってきた。
「携帯持って、シャフトの中を登っていくの?」
「うん」
「……危ないよ」
確証はないがおそらく
ワイヤー式のエレベーターなら
シャフト内にレールがついているだろう。
「いい、私が行く」
「……」
そこを使えば登れるはずだ。
危ないかも知れない。
しかし
このまま3人とも閉じ込められて死んでいくわけにはいかない。
「のんつぁん」
「ん?」
「ドア、開けられる?」
- 717 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:32
-
「ねぇ梨華ちゃん。ガキさんがいなくなる前
何て言ってたか知ってる?」
「愛ちゃんを呼んでくるって」
「うん。そう言ってた。
もしそれを愛ちゃんが知ったら」
美貴の顔が
はじめて梨華を向いた。
「あのコ、きっとすごい責任感じるよ」
「でもそれは、愛ちゃんのせいじゃないじゃん」
「それでも自分のせいだって思い込む。
そういうコなんだよ。なんでも抱え込む。
まるで抱え込まなきゃ生きていけないみたいに、
関係ないことまで背負い込んじゃうんだよ」
- 718 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:32
-
ドアが音を立てて開いた。
「よし」
愛は一つ深呼吸をした。
「のんつぁん、里沙ちゃん、待ってて」
携帯のディスプレイの小さな光で
シャフト内を照らした。
―――あった
入り口から見てシャフトの右側面。
はしご状のレールがついていた。
愛は位置をよく覚えて
携帯をポケットにしまう。
「……愛ちゃん」
里沙の声。
「大丈夫、登れそうだ」
- 719 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:32
- たいした距離ではない。
ちょっとの跳躍で充分に届く。
問題は
「愛ちゃん、やっぱりやめたほうがいい。
何も見えないのに飛び移るなんて……」
レールが見えないこと。
ジャンプして移動できても
視界ゼロの状態で
果たしてレールをつかめるだろうか。
しかし
携帯を点して手に持ったままでは
やはりレールをつかむことはできない。
最悪、
携帯を落としてしまうかもしれない。
「……平気だよ。やってみる」
「でも……」
やらなきゃならない。
死ぬ前に
何かやっておかなくてはならない。
- 720 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:33
- 「もし落っこちたら、
2人で頑張ってね」
「……」
「なんてね……」
恐怖はなかった。
なにもせずに死んでいくよりはまし。
怖い気持ちはまるでなかった。
「助け呼んでくるからね」
愛は一歩、足を進めた。
足の裏で淵のぎりぎりの所を把握して
そこに立った。
「待って!」
後方から里沙の声。
「携帯、私が持ってるよ。
それで照らしておくよ」
「え?」
「明かりがあれば
安心でしょ?」
「でもそれじゃ……携帯持っていけない」
「愛ちゃんが向こうに飛び移ってから渡す。
愛ちゃんと私の両方から手を伸ばせば届くでしょ」
「……」
- 721 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:33
- 確かに
2人で手を伸ばせば届かない距離ではない。
それにジャンプするときに目が見えているのは
心強い。
「わかった。お願い」
愛は里沙に携帯を渡す。
里沙が入り口のすぐそばまで来た。
薄い光がシャフト内を照らす。
レールが見えた。
下を見た。
途中の埃に遮られて
弱い光では底まで照らせない。
「気をつけて」
「うん」
息を吸った。
吐く。
吸って……
愛は地面を蹴った。
- 722 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:33
- 手を伸ばす。
自分の体が影をつくって
レールが視界から消えた。
―――まずい……
伸ばした右手に
レールが触れた。
愛は
レールをつかんだ。
体の重みで手が離れそうになる。
「……くっ」
片手だけでは体重を支えきれない。
慌てて
左手で取っ掛かりを探す。
「愛ちゃん?」
体は
安定した。
- 723 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:33
- 「里沙ちゃん!携帯を!」
里沙の手がゆっくりと伸びてくる。
愛は今度は右手をレールから離した。
―――まずい……
左手が汗ばんでいて
しっかりとつかめない。
「……もうちょっと」
あと少し
あと少し伸ばせば携帯を受け取ることができる。
しかし
これ以上体を動かせば左手がレールから離れてしまう。
―――あとちょっと……
手が
届いた。
しかし
左手はレールを滑って
愛の体はガクンと落下した。
- 724 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:34
- 右手が上方に引かれる。
「あい……ちゃん」
里沙が愛の右手をしっかりとつかんでいた。
携帯が
愛の右手からはがれた。
肩にぶつかってそのまま
シャフトの奥深くへと落ちていった。
「里沙ちゃん、危ない離して!」
「ダメ!ちゃんとつかまって」
体が再びガクンとさがった。
―――ああ……里沙ちゃん
「お願い離して……このままじゃ2人とも落ちる」
愛は
里沙の手を振りほどこうと
暴れた。
- 725 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:34
-
「あのコは……
きっと死ぬまで自分を責め続けるんだ……」
- 726 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:34
-
愛の右手が
里沙を弾いた。
「愛ちゃん!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
愛の悲鳴が
下方へと遠ざかっていく。
里沙は
更に手を伸ばした。
届かない。
!
自分の体がぐらりと前方に傾く。
- 727 名前:15 投稿日:2004/07/06(火) 21:34
- ドサッ
落下した音が聞こえた。
―――ウソ……。
全身から
力が抜けた。
希美が里沙の足首をつかんでいたみたいだったが
靴が脱げただけだった。
―――ごめんね……
そうして里沙も
シャフト内へと吸い込まれていった。
- 728 名前:いこーる 投稿日:2004/07/06(火) 21:35
- 本日の更新は以上になります。
- 729 名前:いこーる 投稿日:2004/07/06(火) 21:40
- >>710
初レスありがとうございます。
話を気に入っていただけたようで嬉しいです。
藤本さんの切なさって妙に魅力を感じるんですよね。
この物語でその様子が少しでも出ていれば幸いです。
これからもよろしくおねがいします。
>>711
ありがとうございます。
外が見えない。中が見えない。
お互いのもどかしさみたいなものが
あるのだろうと思います。
- 730 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/07(水) 23:05
- が・・・頑張っているのに泥沼・・・。
- 731 名前:ぽっと 投稿日:2004/07/08(木) 19:35
- えらいことになってきましたね・・・。助かるのかな?
- 732 名前:トキ 投稿日:2004/07/10(土) 09:00
- 藤本さんの心情が今回も痛いですね。
マイナス思考全開というか何というか。
それにしても高橋さんは...
今回も引き込まれました。
- 733 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:42
- 気持ち悪いのが徐々に治まってきた。
消毒の匂いだけがさっきから鼻をつく。
「じゃあ私、3階で迷子になって……」
「そう。見つけたときにはもう倒れてたの。
それであわててみんなで運んだんだよ。
その他にもスタッフさんとか怪我しちゃって……
それで、新垣が行っちゃうのを誰も止められなかった」
けが人はすでに
入り口の外にまで溢れかえってしまっていた。
- 734 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:42
- 「のんは……」
「ん?」
「ちゃんと携帯持っていったんだね?
じゃあ、建物の中にいても寂しくない」
真里が不思議そうに亜依を見る。
「え?」
「のんさ、本気でやばくなると爪を噛む癖あったでしょ?」
「うん」
「最近あんまり噛まなくなったんだけどね。
そのかわり、追い詰められてくると携帯いじりだすんだ」
- 735 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:42
- 息が詰まったみたいな感覚とともに覚醒した。
右足に激痛。
頭から落下したと思ったが
どうやら違ったらしい。
やわらかいものの上に落ちたおかげで
助かった。
吐き気が押し寄せてくる。
深呼吸をして
気分を落ち着かせた。
左足の感覚が麻痺していて力が入らない。
手を動かすと皮膚が焼けるような痛みを感じた。
両腕から血が出ているようだ。
- 736 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:42
- 里沙は
「愛ちゃん……」
自分を落下の衝撃から救ってくれた
愛の身体を撫でた。
絶望的な落差ではなかった。
建物は地下3階までで
もともといた場所が地下1階だった。
そして
ワイヤーの切れたエレベーターのケージが
底に落っこちてきていたため
落下はせいぜい5メートルくらいである。
しかし
里沙の下敷きとなった愛は動かない。
- 737 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:43
- 「愛ちゃん」
何度か
愛の身体を叩いた。
「しっかりして」
しかし愛は動かない。
気を失っているだけなのか
それとも……
「愛ちゃん……」
里沙は自分の頬を
愛の顔の近くに持っていった。
頬はかすかに
ほんのわずかに
愛の弱々しい呼吸を感じ取った。
―――生きてる……
- 738 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:43
- 愛は生きていた。
―――よかった……
「愛ちゃん!しっかりして」
里沙は愛を揺さぶる。
愛は動かない。
「大丈夫?」
愛を助けなくてはならない。
里沙はあたりを見回した。
エレベーターシャフトの底。
―――どうしよう……
- 739 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:43
- そのとき
ふっと
視界が暗転した。
―――明かりが消えた。
意識していなかったが
さっきまで
里沙は確かに見えていた。
あたりの様子が確かに見えた。
ほんの薄い光ではあったが
確かに見えた。
愛の顔も確かに見えた。
―――携帯だ
携帯も一緒に落下してきた。
その明かりで見えていたのだ。
それが自動的に省エネモードに切り替わって
暗くなった。
- 740 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:44
- 里沙は目を閉じて
あたりに手を這わせる。
誤って携帯を弾いてしまわないようにゆっくりと。
―――どこ?
手のひらが瓦礫の上を移動している。
ゴツゴツしていて何度も引っかかった。
―――どこなの?
瓦礫に埋もれていることはないだろう。
きっと表面にあるはず。
!
手が携帯をつかんだ。
ディスプレイを点す。
―――よかった壊れてない。
再び
少しだけ明るくなった。
愛の表情が見える。
安らかに眠ったままの愛。
- 741 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:44
- ―――早く助けないと……
携帯を見た。
当然、圏外。
―――この表示は?
ディスプレイの隅に
封筒のマークがついていた。
―――メール?
希美はすっと地下にいた。
メールを受信できたはずがない。
―――受信メールじゃない……
里沙はメール画面を開く。
思わず息を呑んだ。
未送信メール12件
ディスプレイにはそう表示されていた。
―――なにこれ?
里沙は未送信メールを開いた。
- 742 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:45
- ↓
地下。
地下駐車場の壁に右手をあてて進んでいた。
こうやって歩いていってどうなるかなんてわからない。
ただ、このまま待っているだけでは自分は恐怖に押しつぶされてしまう。
だからぼんやりとしたあかりを頼りに
一寸先しか見えない目を頼りに
歩を進めていく。
足で瓦礫を蹴とばすことはなかったが埃くさいのだけはどうにもならなかった。
―――親指が痛いよ……
そのとき
何かが足に触れた。
え?
石じゃない。瓦礫じゃない。
もっとやわらかいものがつま先に触れた。
- 743 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:45
- ―――何?
希美は身をかがめて転がっているものに手をあてた。
布に触れた。
表面をなぞってみる。
動かす手が突起につっかえた。
手を浮かして突起に手をあてる。
やわらかい感触と抵抗があった。
さらに手を動かしてみる。
「ひとだ……」
希美の足元に横たわっていたのは人間だった。
↑
- 744 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:46
- 「のんはね……しょっちゅううちとメールしてた。
寂しがりやなんだよ」
「……」
亜依が話す。
自分と希美とのこと。
「メールあるからずっと一緒にいられるね。とか
そんなこと話してた。
1回さ、メールの途中でうちが寝ちゃったときがあって、
朝になってみたら着信15件ってなっててびっくりした。
のん、ずっとメール送り続けてきたんだよ」
「そんなに?」
「うん……しかも、
返事してないのにのんの頭の中では会話になってたみたいで
話が進んでたの。
きっと寂しくって、うちの返事を勝手に想像してたんだね」
「加護……まさかそれって……」
「依存症?そうかも知れない」
- 745 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:46
- 「それじゃあ田中と同じ……」
突然出てきた名前に
亜依はうなづいた。
「辛い時に携帯いじるってのは、
要するに現実逃避だね。
でもさ、今回みたく真っ暗な中ずっと閉じ込められてたら
私だったらおかしくなっちゃう。
たぶんのんは携帯いじってるよ。
のんのお話の中では、私ものんと一緒にいることになってたりして」
亜依の目から
涙がこぼれてきた。
「でも、いいじゃない。
怖くって寂しくって、それなのに助けを待ってるだけなんて……。
のんがかわいそうだ。
せめてその間は、夢の中にいてほしいよ……」
「……加護」
「助かったら、絶対もう寂しい思いさせないんだから……」
- 746 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:46
-
里沙は携帯を凝視していた。
それはメールというよりは物語だった。
希美の物語の中では
亜依もいっしょに地下に閉じ込められている。
希美は亜依を助けようと必死になる。
おそらく希美はそうやって妄想を広げることで
自分が絶望しないように
ぎりぎりのところで恐怖と闘っていたのだろう。
―――のんつぁん……
- 747 名前:16 投稿日:2004/07/11(日) 14:46
-
希美は
愛と里沙の声が消えていったシャフトの脇で
ずっとうずくまっていた。
携帯は落っこちた。
愛も里沙も
落っこちた。
完全に独りになってしまった。
「……うう」
助かる可能性も途絶え、
誰も回りにいない中、
絶望が腹の底に溜まっていくように感じた。
―――おしまいか……
泣く気も起こらなかった。
- 748 名前:いこーる 投稿日:2004/07/11(日) 14:47
- 本日の更新は以上になります。
- 749 名前:いこーる 投稿日:2004/07/11(日) 14:50
- >>730
ありがとうございます。
マジで泥沼ですね……。
これからもよろしくおねがいします。
>>731
えらいことといえばまぁ最初からえらいことだったわけですが
ここへきてさらにという感じで書きました。
これからもよろしくおねがいします。
>>732
話の設定上どうしても痛くなってしまいますね;
次回もよろしくおねがいします。
- 750 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/13(火) 01:08
- 悪いお知らせ。
電気通信事業法第八条
重要通信の確保
電気通信事業者は、天災、事変その他の非常事態が発生し、又は発生するおそれがあるときは、災害の予防若しくは救援、交通、通信若しくは電力の供給の確保又は秩序の維持のために必要な事項を内容とする通信を優先的に取り扱わなければならない。公共の利益のため緊急に行うことを要するその他の通信であつて総務省令で定めるものについても、同様とする。
- 751 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/13(火) 01:09
- 2 前項の場合において、電気通信事業者は、必要があるときは、総務省令で定める基準に従い、電気通信業務の一部を停止することができる。
- 752 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/13(火) 01:11
- 3 電気通信事業者は、第1項に規定する通信(以下「重要通信」という。)の円滑な実施を他の電気通信事業者と相互に連携を図りつつ確保するため、他の電気通信事業者と電気通信設備を相互に接続する場合には、総務省令で定めるところにより、重要通信の優先的な取扱いについて取り決めることその他の必要な措置を講じなければならない。
以上のこと及び電力不足により携帯電話が繋がる可能性は低いと予想されます。
- 753 名前:ぽっと 投稿日:2004/07/13(火) 17:32
- 更新お疲れ様です。
読んでて、少し混乱してきました・・・。
(あと、上のレスの方は、よく調べたものです・・・。)
- 754 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/13(火) 17:40
- >>750-752
あなたは知識をひけらかしていい気分でしょうが、
作者さんの意図するところではないと思います。
今後の展開に絡んでくるのであればネタバレですし、
知らなかったとすれば、あなたが書いたことによって
大きな方向転換を図らねばならなくなってしまうかもしれません。
いずれにしても、いらん事はするなということです。
あくまでもこの小説は作者さんのものであり、
それを楽しむ読者がいるのですから気にいらないのなら
読まないようにすればいいのではないでしょうか。
- 755 名前:いこーる 投稿日:2004/07/14(水) 21:01
- >>750
いや知りませんでした……。
まぁその事実は
作品と全く矛盾しませんので続けます。
しっかし、建築の知識とかもあやしい;汗
- 756 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:05
- 愛の意識は
ゆっくりと浮かび上がってきた。
愛を呼ぶ声がする。
身体が揺さぶられる。
誰かが肩を持って
愛を呼んでいるようだった。
また
身体が揺さぶられた。
―――やめて……
ぐらぐらと動かされるたび
感覚がぐらりと傾く。
―――気持ち悪い……
愛を呼ぶ。
愛を揺する。
―――里沙ちゃんやめて
- 757 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:05
- 愛は
声を出そうとした。
「……んん、うぁぁ」
その瞬間
胸に突き刺ささるような痛み。
どっと汗がふきだした。
「愛ちゃん!」
里沙の声が
すぐ近くで聞こえてきた。
「愛ちゃん、大丈夫」
―――だい……じょう……ぶ
口だけが動いた。
―――声が……出せない
- 758 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:05
- しゃべろうとすると
胸部に激痛が走る。
呼吸も
意識してゆっくり行わなくてはならない。
―――どこか、内臓が壊れたかな……
エレベーターシャフトの底。
声一つろくに出せない。
もう二度と這い上がれないと思った。
「り……さ……ちゃん」
「愛ちゃん!」
里沙が愛をのぞきこんでいる。
頬が
あたたかい。
愛は
ゆっくりと呼吸をして
なんとか
言葉をしぼりだす。
「…………苦しい」
口から出たのは
そんな言葉。
- 759 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:05
- ―――はは、おかしいな。
いつ、そのときが来るかわからないのに
どれが最後の言葉になるかわからないのに
……死にかけているのに
苦しいだなんて。
そんなことしか言えないなんて。
「苦しい?苦しいの?どこが痛い?」
自分の存在はなんだ。
里沙をこんな目に合わせて
何かしなくてはいけないのに……
「……う……うう」
話すらまともにできない。
もう、死ねばいい。
- 760 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:05
- 「愛ちゃん」
それでも里沙は
―――声をかけてくれるんだね……
こんな
役立たずの自分のために。
―――そばにいてくれるんだね。
「りさちゃん……ご…めんね」
「何言ってるの!?」
「せっかく…………」
痛みが胸を締め付ける。
愛は
一度唸った。
「うう…………せっかく好きだって
………言ってくれたのにな。
ごめんね……」
「……バカ」
- 761 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:06
- 里沙は囁くような声で
腕の中の愛に話し掛けている。
「私のことなんてどうだっていい……」
自分の気持ちも抑えられずに
愛を追い詰めてしまった自分のことなんて
「今は……愛ちゃんが……」
愛が苦しんでいるのに
―――私のことなんて……
- 762 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:06
- 時間が止まったみたいだった。
ただ断続的に
愛が大きく息をする。
それを感じるだけだった。
里沙は見上げた。
どこをというわけでもなく
ただ暗闇が延々と上方に伸びているのを
眺めた。
上に行くことができれば助かる。
しかし
自分たちにその方法はない。
こうして底でじっと
待つしかない。
- 763 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:06
- そのとき
里沙の腕がぎゅうとつかまれた。
「愛ちゃん!?」
愛が
ものすごい力で里沙にしがみつく。
その手がガタガタと震えていた。
「愛ちゃんどうしたの?」
「……寒い…………」
震えは止まらない。
「寒いの?」
里沙は急いで自分の着ていたシャツを脱いだ。
そうして愛にかけてやる。
自分の着るものがなかったが
誰が見ているわけでもない。
そんなことに構っていられなかった。
- 764 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:07
- 「はぁ……はぁ……寒いよ……」
しかし愛の震えはおさまらず
どんどん大きくなっていく。
里沙はきつく愛を抱きしめた。
「愛ちゃん……」
愛の歯が
ガチガチ鳴った。
愛は更に強い力で里沙をつかんだ。
「死にたくないよ……死にたくないよ……」
「死なないよ。すぐに助けが来る」
愛は里沙の腕の中でずっと震えていた。
里沙は、愛の震えをおさえるように
ずっと抱きしめていた。
「お願い……おいて……いかないで。
おいていかないで……」
「大丈夫だよ。
ずっと愛ちゃんと一緒にいるよ」
- 765 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:07
- 「おいていかないで……。
おいていかないで……」
愛はずっと
それを言い続けた。
「おいていかないで……。
私のこと……」
―――……愛ちゃん
里沙は思った。
ここへ来て愛は
ようやく、
自分の都合で
自分勝手に
自分のために
生きようとしている。
「死にたくない……」
里沙のためとか
希美のためとか
美貴のためとか
そんなふうに
無理を張った愛はいなかった。
- 766 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:07
- 「死にたくないよ」
ただ
単純に
純粋に
わがままに
生きようとしている。
―――死なせない……
里沙は
ちょっとだけ
笑顔になって
「愛ちゃんらしい」
そう言った。
「いつもみたく無理してないで、
自分の気持ちをストレートに出して。
そういう方がすごく愛ちゃんらしい」
「……」
「好き。
愛ちゃん。
私は絶対おいていかないよ」
「……あ……りがと……」
それきり
愛は口を閉じた。
- 767 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:07
- しばらくすると震えはおさまった。
でも愛は
里沙に抱きついたまま。
「なぁ……」
耳元で
愛の声。
ひどく
弱い声。
「何?」
「ずっと……一緒に……いてくれる?」
「……うん」
里沙はそっと答えた。
暗くて
愛には届かない微笑を見せた。
「そっか…………よかった……。
……よかったよ、美貴ちゃん」
―――…………畜生
- 768 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:08
- 「なぁ美貴ちゃん?」
愛がぎゅっとした。
里沙は
「ん?」
返事をした。
「……一緒にいてね」
「美貴は……」
里沙が言う。
「ずっと一緒だよ」
愛の頭を撫でてやった。
- 769 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:08
- ―――愛ちゃん。ちゃんといるよ。
自分は愛の見ている人ではないけれど
愛が安心してくれるなら
それでいい。
里沙も愛を抱きしめた。
「からだの……感覚がなくなって……」
「愛ちゃん?」
「なぁ……美貴ちゃん……」
「ん?」
「キス……してよ」
里沙は
唇を噛んだ。
「なぁ……最後かもしれん」
「……愛ちゃん」
「美貴ちゃん?」
「わかった……いいよ」
優しくそういうと
里沙は
愛に
「……ん」
ゆっくりキスをした。
- 770 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:08
- 「……ありがと」
里沙に聞こえた愛の声は
本当に
悔しいくらいに
穏やかだった。
安らいでいた。
「少し、眠りたい……」
「うん。美貴がずっとこうしているから
寝ちゃっていいよ」
「おやすみ」
そう言って
愛は眠った。
里沙は
愛の頭に顔をうずめて
泣いた。
- 771 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:08
-
眠った。
愛も里沙も希美も
みんな眠った。
暗い中で
安心したり
悔しかったり
絶望したりしながら
みんな眠った。
たくさん時間をかけて
ゆっくり眠った。
- 772 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:09
- 目を開けると白い壁が見えた。
目の奥が多少ずきずきした。
―――駐車場の壁って白かったんだ……
希美は
誰かの頭にあるライトの眩しさに目を細めた。
「要救助者1名発見」
そんな声が聞こえてきた。
大きな駐車場だった。
「大丈夫?」
「2人は……」
希美は
小さな声で
「エレベーターに落っこちました」
言った。
そうして何人かに担がれて
瓦礫の除けられた階段を地上に登った。
- 773 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:09
- 上から光が降り注いできて
里沙は目を開けた。
「おーい!」
声が響いてきた。
―――助かった……
「要救助者2名発見!」
大きな声だった。
- 774 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:09
- 深夜2時半。
3人は救出された。
地震発生から5時間半が経過していた。
3人のうち愛だけが
ずっと意識を失ったままだった。
病院への移動中、
ずっと美貴が愛に付き添っていた。
里沙はその様子をぼんやり眺める。
車は揺らさないように慎重に走っていた。
「藤本さん」
「ん?」
「愛ちゃんね、ずっと美貴ちゃん美貴ちゃんって言ってた」
美貴は
ちょっと驚いた表情を見せた後
「そう」
と言った。
- 775 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:09
- 「目を覚ましたら、
声をかけてやってください」
「うん」
極限状態のほんの一瞬だけでも
愛は自分に必死にしがみついてくれた。
愛は自分を求めてきた。
それでいい。
自分の想いはそれでいい。
もう
愛のことは美貴に任せよう。
里沙は
泣き出したのを悟られないように
ひざに顔をうずめた。
- 776 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:10
- 病院に入るとまず愛が奥へと運ばれた。
座っている亜依の横を通り抜けて。
亜依は顔を上げた。
「……のん」
希美がすぐ近くに来た。
無表情の希美。
「のん!」
ぎゅっとした。
いっぱい涙が出てきた。
- 777 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:10
- 「……よかった」
希美はしゃべらない。
「ごめんねごめんね。これからはずっと一緒にいようね」
「……あいぼん」
亜依の頭を希美が抱きしめた。
「ごめん。心配かけて。
大丈夫だから泣かないで」
そう言われて
希美の優しさにふれて
もっと涙が出てきた。
「これからは
2人でいようね」
「うん」
- 778 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:10
- 白い壁が見える。
病室で目が覚めて
久々に明るさに触れた。
不思議な感じだった。
「あ、気がつきました?」
愛に気づいた看護婦が近づいてきた。
「治療はまだこれからだけど
致命傷はないって」
「……あの、他の人たちは?」
「ああ、外で待ってる。
今呼んできてあげるね」
―――みんな、無事だったのかな?
いろいろと言いたいことがある。
里沙にはちゃんと謝りたい。
そしてお礼を言いたい。
希美にも。
それから……
- 779 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:10
- ガチャ
ドアが開いた。
入ったのは美貴だった。
美貴の不安そうな表情は
愛の顔を見た途端に歪んだ。
「愛ちゃん……よかっ……た」
そばまで駆け寄ってきた。
「美貴ちゃん……」
美貴が愛の手を握った。
「ん?」
「怖かった……」
「もう……大丈夫。美貴、ずっといるから」
- 780 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:11
- 「お見舞い、毎日来てよね」
美貴はくすっと笑う。
「うん、わかった」
「甘いもの買ってきてね」
「オッケー」
「モンブランはやだよ」
「はは……わかってるって」
美貴が愛の髪をくしゃくしゃやった。
そして
抱き寄せた。
愛の頭が美貴の腕の中におさまる。
「……美貴ちゃんいい匂い」
「そう?」
「ずっとこうしてていい?」
「ん……いいよ」
今は
たっぷり美貴に甘えたかった。
気の済むまで甘えたかった。
- 781 名前:17 投稿日:2004/07/14(水) 21:11
- ―――いいよね?
怪我が治るちょっとの間
もたれかかっていたい。
元気になったら
―――また頑張るからさ
嬉しかった。
こだわりも
違和感も
罪悪感もなく
そのまま美貴に甘えることができた。
こんなふうに人にもたれかかったのは
久しぶりかもしれない。
愛は
美貴のシャツの匂いをかいだ。
―――いい匂い。
美貴の中で
ずっとずっと安らいだ。
「おやすみ、愛ちゃん」
- 782 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 21:12
- この小説はフィクションであり
物語中のいかなる、個人・団体・出来事も
実在のものとは一切関係がありません。
- 783 名前:いこーる 投稿日:2004/07/14(水) 21:12
- 縦の衝撃、完結です。
- 784 名前:いこーる 投稿日:2004/07/14(水) 21:18
- >>753
すみません。
混乱させってしまって……
説明不足は否めないです;
>>754
フォローありがとうございます。
こんな形になりましたので。
ここまでお付き合いいただきました読者の皆様
本当にありがとうございました。
- 785 名前:ぽっと 投稿日:2004/07/14(水) 21:38
- 更新、お疲れ様です。そして、完結おめでとうございます。
最後に繋がりましたね。とても、ハラハラして、面白かったです。また、あえる日を楽しみに待ってます。
- 786 名前:トキ 投稿日:2004/07/14(水) 23:58
- 完結お疲れ様です。
ドキドキさせられた分、気持ちが良いラストでホットしました。
次回作も期待してます。
- 787 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/15(木) 21:41
- 完結おめでとうございます。お疲れ様です。
感動をありがとうございました。
- 788 名前:飛べない鳥 投稿日:2004/07/16(金) 01:32
- 完結お疲れ様でした
最後は新垣さんに涙でした
- 789 名前:ROM読者 投稿日:2004/07/17(土) 22:21
- お疲れ様でした。
様々なシーンで、それぞれのメンバーの揺れ動く心模様が
切なくもあり痛くもあり。でも、ラストは感動致しました。
- 790 名前:いこーる 投稿日:2004/07/23(金) 22:35
- たくさんのご感想ありがとうございます。
とても嬉しいです。
>>785
こちらも連載中にストック切れをなんども起こし
ある意味ハラハラでした;
また、どこかでお世話になります。
>>786
ありがとうございます。
次回作……、期待を外さない作品を書くようにします。
よろしくおねがいします。
>>787
お読みいただきありがとうございます。
どうにか完結させられました。
ありがとうございました。
>>788
どうもです。
本当はもっと新垣さんメインにするつもりだったんですが
気がつくと……;
次回作では新垣さんにご活躍いただきたいと思っています。
>>789
ありがとうございます。
心理描写、上手くいっていたかどうか作者は不安ですが
そういっていただけて嬉しいです。
最後までおつきあいいただきありがとうございます。
- 791 名前:読者 投稿日:2004/12/05(日) 09:58
- 作者さんが書く辻希美は年相応な感じでいいですね
Converted by dat2html.pl v0.2