僕と君との物語り。3
- 1 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/02/15(日) 16:03
- 一応僕と君との物語り。2の続きです。
前スレ:http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/sky/1057055686/
不定期更新。
でもってあいかわらずマターリでいつ終わるかわかりませんが
よろしくお願い致します。
ageでもsageでもochiでも何でもいいのですが、ちょっと荒れてる
間はひっそりと…
- 2 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:04
- 今日は紗耶香に借りてたCDを返す為に紗耶香の家の近くまで来ていた。
さっきまで一緒にいた石川さんも一緒。
返しに行ったついでに外で御飯食べようかって流れになったから、今は軽い空腹状態。
まぁCD返すだけだしそんな時間かかんないっしょ。
そんな風に思ってたんだけど・・・
到着寸前、聞こえてきたのは大音量のごっちんの声。
多分、紗耶香の部屋から聞こえてきてるんだと思う。
・・・すごい声量。
これじゃあ近所から苦情くるよ。
絶対に。
夫婦喧嘩は犬もなんとかって言うけど、どうにもただ事じゃないような気がして、
急いで紗耶香の部屋に向かった。
ごっちんがキレるなんて滅多にないことだ。
- 3 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:05
- が、喧嘩真っ最中。
インターフォンを押しても出て来る気配無し。
すぐ側からは大声で騒ぐごっちんの声。
お隣さんが迷惑そうに玄関から顔を出してしかめっ面をしている。
こりゃよくないでしょ。
すみません、すみませんって頭を下げながらドアノブを掴んだら、普通に回って普通に空いた。
鍵もかけずに不用心だなぁ。
そんなことちょっと思いながらも素早く扉を閉めて中を覗いたら、ちょっとした戦場みたいだった。
「いちーちゃんのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「だからちげーって言ってるだろ」
切れまくりのごっちんが紗耶香に向かって手当りしだいモノを投げてる状態。
紗耶香はそれを冷静に避けながらまいったなぁという風に頭をかいている。
だから散らかり方がすごいすごい。
『掴めるモノ投げてます!』みたいな。
- 4 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:07
- 「・・・吉澤くん?」
「ん?」
「ごっちんって、キレるといつもこんななの?」
「いや、こんなキレかたしてるの、見たのはじめてです」
玄関にボケ−ッと立って、凄まじさを眺めていたら、飛んで来た辞書顔面直撃とか。
「よ、吉澤くん!!!!」
いつも以上に高い声が部屋に響き渡って、ごっちんの声がぴたりと止まった。
そして代わりに僕の鼻からは血が流れてきた。
これ痛い。
今日のパーカー白なんだよね。
そんでもって何か違和感あるんだけど・・・眼鏡、壊れてない?
- 5 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:07
- 「あれ?いつからそこにいたの?」
・・・紗耶香。
「・・・よしこ」
・・・ごっちん。
「て、ティッシュティッシュ!市井さん、ティッシュ下さい!!」
僕ら、CD返しに来ただけなんだよ・・・。
- 6 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:08
- 鼻にティッシュを詰め込まれ、やっぱし壊れた眼鏡をしまい込み、狂犬みたくグルグル唸っている
ごっちんと、そんなごっちんをなだめている石川さんを前にして、僕と紗耶香は何故か正座している。
「本当、何したのさ」
「だから俺は何も・・・」
「嘘つき!」
「ち、ちょっと落ち着いてよぉ」
こんな会話を何周しただろうか。
僕からはじまり石川さんで終わる。
紗耶香が喋ろうとすればごっちんが唸る。
ごっちんが唸れば石川さんが慌てる。
あのさ、何度も言うようだけど僕らCD返しに来ただけなんだよね・・・。
これじゃぁまるで僕まで怒られてるみたいなんだけど。
眼鏡も壊れるし、鼻血も出すし、パーカーにはちょっと血がつくし、お腹は空いたし。
これって紗耶香とごっちんの喧嘩なんだよね。
僕らが巻き込まれるっていうのは間違いだよね。
そうなんだよね、そうだって言ってよ・・・。
- 7 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:08
- 「もういちーちゃんなんて絶対信用しない」
「・・・ごっちん、何があったかよかったら教えてくれない?」
あぁ石川さん、そんな優しさみせちゃダメだよ。
ごっちんは掴んだら離さないんだから。
絶対なんだから。
僕はそれでどんなに苦労をしてきたことか・・・。
いや、そりゃ手助け出来るならしたいけどさ。
「・・・梨華ちゃん」
涙をたっぷりと溜めてごっちんが石川さんを見ている。
・・・こりゃ久々の手助け決定かな。
そして出ました。
ごっちんの口から。
喧嘩の元になったその言葉が。
「あのね、いちーちゃんが浮気したの」
- 8 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:09
-
・・・浮気ですか。
市井紗耶香くん、浮気疑惑ですか。
「だからちげーってさっきっから言ってるじゃんか」
「いちーちゃんの大嘘つき!」
「ちょ、ちょっと、ごっちん落ち着いてよ」
紗耶香はもう勘弁してくれって顔をしながら煙草を吸っている。
多分もうこんな会話に疲れちゃったんだろう。
僕らが来る前からずっとやってたんでしょう。
まぁ確かにさ、昔は酷かったけど、紗耶香はごっちんと付き合いだしてから本当に真面目になった。
それは僕も思う。
だから浮気なんて絶対しないと思うんだよなぁ。
「紗耶香、何でそんな風に思われるようなことしたのさ」
「ほら、ごっちんもちょっと市井さんの話聞こうよ、ね」
- 9 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:09
- 知らんぷりしようとするごっちんと格闘すること数分間。
泣きそうな石川さんを見て、やっとこさごっちんはムスーっとした顔でまっすぐと座った。
そして紗耶香が話してくれた内容。
簡単にまとめると
・会社帰り、同僚数名と久々に飲んでいた。
・このことはごっちんに伝えてある。
・同僚の一人が酔いつぶれた。
・紗耶香にその同僚が抱きついた。
・ベタなドラマのように襟元に口紅くっついた。
・デロデロの同僚をタクシーに乗せた。
・紗耶香、別のタクシーで自宅に戻る。
・夜は眠くて、朝は寝坊したからYシャツをそのままにして出勤。
・帰ってきたらごっちんがYシャツを握りしめて正座していた。
・爆発。
・僕が鼻血を出す。
- 10 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:10
- こんな感じだ。
昔がタラシな紗耶香だっただけに、ごっちんはあっという間に火がついてしまったらしい。
どんなに紗耶香が説明しても聞き入れない。
とりあえずガス抜きは終わったらしく、今はおとなしく唸っているぐらいだ。
「本当にさ、どうやったら信じてくれるんだよ」
ぐったり紗耶香を見ていると、何だかちょっと哀れになってくる。
今までのように浮気がバレたからはいさようならって出来ないんだよね。
そんだけごっちんのこと好きなんだよね。
紗耶香・・・あんたってやつは・・・あんたってやつは・・・何だか泣けてくるよ。
「・・・後藤決めた」
ごっちんが立ち上がった拍子に、握りしめていたらしいYシャツがハラリはらりと落ちていく。
落ちていくYシャツを手に掴んでちょっと近付けて見てみると、クッキリ残った襟元の少しピンクの唇の痕。
あぁ何て綺麗に残ってるんでしょ。
こりゃつけた方も確信犯か、酔っぱらって相手を間違えたかだね。
ごっちんが怒るのも無理な・・・
「よし子と浮気してやる!!」
- 11 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:11
- ・・・へ?
今度は僕の手からYシャツが落ちていく。
そしてこの場にいた全員が見事フリーズとか。
「・・・あのぉ、ごっちん?」
うわっ、ちょっと睨まないでよ。
呼んだだけじゃんか。
「よし子、ちゅーしよう」
「「「はぁっ?」」」
襟元掴まれて引き寄せられて。
テーブルに腿強打。
近付きすぎ、ねぇごっちん近付きすぎだってば。
嫌だよ、やめてよごっちん!
そのうえ痛いよ、今日は痛すぎだよ。
「だ、ダメだよごっちん!離してあげてよ!」
「待ってってば、ちょっとごっちん!」
- 12 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/15(日) 16:11
- 皆必死。
すげー必死。
近い!顔近い!!
首反らし過ぎて僕つりそうなのさ。
痛いよ、今日本当に痛いよ。
「・・・勘弁してくれよ」
紗耶香、それは僕のセリフだよ。
あぁもう嫌だ。
戻りたい、この家に来る前まで戻りたい・・・。
「よし子逃げるな!」
「「逃げるよ!!」」
「・・・ったく仲のいいこった」
- 13 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/02/15(日) 16:12
- 更新しました。
『市井紗耶香と後藤真希』は多分後2、3回。
- 14 名前:silence 投稿日:2004/02/16(月) 11:13
- 新スレおめでとうございまー。って、いきなり喧嘩から
始まるのかい!! これからもマターリ付いていくので
頑張ってくださーい!!!
- 15 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/18(水) 09:57
-
* * * *
ぐでーっとなってる吉澤くんとごっちんを連れて、とりあえず市井さんの家から吉澤くんの家に向かう。
別に二人っきりにして帰してもいいと思ってるけど、さすがにあんなことを口走って、
さらにキスまでしようとしたごっちんと吉澤くんを二人きりにするのは・・・何かね。
両手に吉澤くんとごっちん。
仲良く三人で手繋いで歩いてる。
・・・んな感じでもない。
「・・・梨華ちゃん怒ってる?」
「別に、大丈夫だよ」
怒るっていうか驚いた。
展開が早すぎて追いつけなかったっていうか、何ていうか。
「・・・よし子怒ってる?」
「・・・ちょっとね」
- 16 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/18(水) 09:58
- この幼馴染み同士の気まずい空気も何ていうか。
とりあえず引きずるようにして吉澤くんの家に到着。
一緒に私とごっちんもお邪魔します。
あ、麻琴。
お風呂でも入ってたのかな?髪乾いてないじゃん。
「・・・お兄ちゃん何かしたの?」
「違うよ、何もしてないよ。だけどお腹好いたの。麻琴、ごめん何か作って」
吉澤くん疲れまくりみたいだね。
そんなこと頼むの珍しいでしょ。
ごめんね麻琴、後で私も手伝いに行くから。
部屋に入っても微妙な空気。
ここは幼馴染み二人に話させた方がいいのかも。
こんな空気じゃ何も起きないでしょ。
ムッスリしている二人をおいて、下に麻琴の手伝いをしに行こぉっと。
「あぁ、ごめんなさい石川さん」
「んぁ、ごめんね梨華ちゃん」
はいはい、別にいいですよ。
だから私が戻ってくる前に仲直りしておくんですよぉ。
- 17 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/18(水) 09:59
- 「ごめんなさいねぇ」
「麻琴が謝ることないよ」
「でもさぁウチのお兄ちゃんがまた何かしたんでしょ?」
「したっていうよりも巻き込まれたってやつかな?」
鍋の中にキャベツ投入。
簡単美味しいインスタントラーメン。
出来上がりまでは後数分。
「ふ〜ん・・・何か石川さんも大変なんですね」
「いいよ、敬語なんて使わないで」
くすぐったいくすぐったい。
何度言ってもなかなか直らないんだよねぇ。
最近じゃ敬語とのミックスバージョンだし。
「ねぇ石川さん」
「ん?」
「今度石川さんの家、泊まり行ってもいい?」
何か話したいこととかあるのかな。
ぐっと口を結んで珍しく麻琴が真剣な顔をしている。
「いいよ、おいで」
笑ったら、麻琴も笑った。
いつでもいいよ。
麻琴の平気な日においで。
お姉ちゃんが頑張って料理なんて作ってあげるから。
「ラーメンのびちゃったね」
「いいよ、ちょっとくらい」
- 18 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/18(水) 10:00
-
* * * *
「・・・梨華ちゃんに悪いことしちゃった」
「反省してるんでしょ?だったらもう気にしないでいいよ」
多分、石川さんもわかってると思うから。
だからさ、いい加減顔上げなよ。
元気のないごっちんなんて違和感ありまくりさ。
「紗耶香、本当に浮気したと思ってるの?」
「・・・わかんない」
ごちゃごちゃしてるらしい。
頭の中だ。
そうだよね、あんなハッキリした口紅の痕見たら動揺しちゃうよね。
ごっちん、紗耶香のこと、本当に好きなんだもんね。
「でも、あんなの見ちゃったら頭の中爆発しちゃった」
- 19 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/18(水) 10:00
- 抱えたクッションが形を変える。
凹みまくりごっちんの髪がゆらりと揺れた。
そういえば、ごっちん髪切ったんだよね。
何年か前まみたく短くなったんだよね。
その髪が小刻みに揺れている。
ぶつかる気持ち、反省する気持ち、信じたい気持ち。
ごちゃごちゃごちゃごちゃ絡まった糸。
行き先の見つからない気持ちがごっちんの涙にカタチを変える。
不安で、怖くて、どうしたらいいのか分からない。
クッションからもれる声が、ずっと紗耶香の名前を呼んでいる。
この場にいるべきなのは、きっと僕や石川さんじゃなくて紗耶香なんだよね。
まぁ元を作った張本人だけど。
きっとさ、ごっちんも落ち着いたら紗耶香の話、きける余裕出来るだろう。
だから、それまでは僕が紗耶香の代わりに隣に座っててあげるよ。
昔とは逆みたいに。
ごっちんが泣き止むまで、隣で寝たフリでもしてあげるさ。
- 20 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/18(水) 10:01
- 並んで座って頭に手を置いた。
まだ小刻みに震えるごっちんの髪は温かくて、きっと涙を温かいのかなぁなんて思った。
バカ紗耶香。
泣かすなよ。
ごっちんが僕の大事な幼馴染みってこと、忘れたワケじゃないでしょ?
「・・・音楽でも聴こうか」
頭が小さく縦に振られた。
コンポの中に入っていたCDは、ずっと昔に買った名前も知らないアーティスト。
わからない英語だけど、いいよね、こういうのも。
歌詞の内容とかはわかんないけど、曲だけ聴いてるっていうのもさ。
ゆったりゆったり時間が流れて、少しずつ、手の下で感じていた揺れが治まっていく。
ドアが小さく叩かれて、麻琴と石川さんが湯気たつどんぶりを持ってきてくれた。
- 21 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/18(水) 10:02
- 「私、そろそろ帰るね」
「あ、じゃぁ駅まで送っていきますよ」
「いいよいいよ、今日はごっちんの側にいてあげて」
そんなのよくない。
危ないじゃん。
それにこんなのいいワケないよ。
「・・・梨華ちゃんも、一緒に食べようよ」
頭から手が落ちた。
赤い目をしたごっちんがニへッと笑っている。
行かないで、ごめんなさい。
沢山の感情を込めて笑ってる。
「麻琴もおいで」
多分、人はそんな強くない。
頑張って、胸はって、泣きそうになったって頑張って生きてる。
そんな人もいる。
- 22 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/18(水) 10:03
- 「石川さんも麻琴もおいでよ、皆で食べた方がおいしいって」
だから人がいてくれる時は、もたれ掛かって頼ってもいいと思う。
そんな相手がいるなら、弱くなったっていいと思う。
「梨華ちゃん、今日後藤とこ泊まっていけばいいよ」
そんな風に頼られるのも、悪くないと思うし。
そんな風に頼るのも、悪くないと思う。
「じゃぁ、そうさせてもらおうかな」
仲間ってさ、いいもんだと思うよ。
出会えた僕は幸運さ。
「じゃぁあたしお兄ちゃんとこで寝る」
- 23 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/18(水) 10:03
- 苦笑いした石川さんとか、ふにゃって笑ってるごっちんとか、何故か握りこぶしを握ってる麻琴とか。
出会えたことは素敵なことで、繋がれたのは幸せなこと。
まだ少し続く冬に、そんなことを思い出す。
忘れがちだよね、こういうのって。
当たり前すぎて感じない。
「梨華ちゃんも大変だね」
だから時たま、こうやって思い出せるっていうのはいいことなのかも。
どんなキッカケで生まれてくるかわからないけど。
悪いことじゃないと思うな。
「嫌だねぇ、なんか一人で黄昏れちゃってる人がいるよ」
「お兄ちゃん、たまにあんな風になるよね」
「・・・吉澤くん」
いいじゃん、たまには。
こんな僕だっていいじゃんか。
ねぇ。
答えの代わりは、皆の苦笑いした顔だった。
- 24 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/02/18(水) 10:05
- 更新しました。
後2回。
>silence 様
どうもありがとうございます。
えぇ、いきなり喧嘩からです(・∀・)
それもいちごまで。
ここの話しはメインがいしよしのはずなんだけどなぁと思っているのは内緒です。
- 25 名前:SINKI 投稿日:2004/02/18(水) 14:33
- 3スレめ、おめでとうございます。
最初から喧嘩はやはり驚きました。
それにしても吉澤くん、、、(苦笑)
また、優しくなりましたね。
鼻血までだしちゃってちょっとかわいそうでした。
これからもがんばってください。
ゆっくりマタ−リと更新待ってます。
出きればはやいほうが、、、(殴)
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/19(木) 00:57
- 新スレ、おめでとうございます♪
いちごまの今後・・・気になりますねぇ。でも、それ以上に
いしよしのマイペースな恋愛の行方が気になりますねぇ。w
次の更新もワクワクドキドキしながら待っておりまーす。
- 27 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/20(金) 12:15
-
* * * *
「ごっちんと市井さん、仲直りしたのかな」
「いや、まだみたいですよ」
只今私の家で夕飯準備中。
狭い台所に二人して立って、包丁動かしたり鍋かき混ぜたり。
ちなみに今日はうどんと冷ややっこ。
簡単だけどスープは手作り。
私が市販のスープの味が苦手だからね。
「もう2週間くらい経つんだっけ?」
「そうですねぇ、もうそんくらいですね」
「あ、そこのお皿取ってもらえる?」
「こっちですか?」
「うん、ありがとう」
- 28 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/20(金) 12:16
- どうやら一方的にごっちんが『会わない』って突っ張ってるらしい。
あんな怒り方しちゃったから気まずいっていうのもあるみたい。
「大変ですよ、毎日ごっちんがウチ来て紗耶香の話しばっかして
そのままプクーっとしちゃうまま寝ちゃうっていうのも」
え?それは初耳。
毎日ごっちん来てるの?
寝てるの?
「1時間ぐらいゴロゴロして帰りますけどね。
聞けば聞く程紗耶香のこと好きなんだなぁって思っちゃいますよ」
吉澤くんは苦笑いを浮かべながら『あれは完璧なノロケですね』なんて言ってるけど、
そういうの聞いておきたかったよ・・・。
幼馴染みっていうのでごっちんと吉澤くんが仲良しっていうのも知ってるけどさ。
二人っきりっていうのはやっぱしいい気はしないもんだよ。
- 29 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/20(金) 12:17
- 私がちょっとシュンってしてたのをあっという間に気付かれてしまったらしい。
隣で吉澤くんが自分のジーパンで手をぐしぐし拭いてから私の頭に手をポフッて置いて
『ごめんね』って言った。
何かさ、こういうちょっとした時に自分がすごく大切にされてるって感じる時があるんだよね。
よく見ててくれてるんだなぁとかそんな風に思っちゃったり。
何だか嬉しくなっちゃって、隣にいる吉澤くんにポフッと頭を預けてみた。
よしよしと撫でてくれる手の感触が気持ちいい。
ふに〜っとなってくる。
こんな風に一緒にいると、いつもお別れの時がさみしくなっちゃうんだよなぁ。
でも今はもうちょこいこうやっていたいなぁ。
だからぎゅいっと頭をさっきよりも強く押し付けた。
「い、石川さん?」
「う〜ん、もうちょっとだけ」
- 30 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/20(金) 12:18
- 大丈夫、寝ちゃわないから。
もうちょっとだけでいいから頭撫でてて。
気持ちいいんだ。
すんごく。
チクタクなる時計の音と、吉澤くんの心臓の音をしばらく聞きながら
背中にくいっと腕を回してから顔を上げた。
あら?吉澤くん顔赤いよ。
何さ何さ、今だに緊張しぃなんかい?
「おうどん、伸びちゃうね」
「で、ですね、早く食べましょうか」
吉澤くんはえへへッと笑ってギュッて一度抱きしめてくれた。
何か久々にこんな甘い時間を過ごしていたような・・・。
気のせいかしら。
・・・照れ屋だからなぁ、吉澤くん。
まぁ一緒にいれればいいんだけどね。
「僕こっち持つんで、コップお願いしますね」
- 31 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/20(金) 12:19
- お皿を持って先を歩く背中を見て、バレないようにちょっと笑ったんだ。
子供っぽい所があるくせに、たまにすごく大人っぽくなるところがあって、
今どんな顔してるのかなぁって想像したら何かちょっと笑えてきちゃったから。
「早く仲直り出来るといいね」
「本当、そう思いますよ」
しょうがない。
いいよ、ごっちん。
市井さんと仲直り出来るまで吉澤くん使っちゃって。
で、早く仲直りしちゃいな。
でも吉澤くんと浮気するとか言っちゃダメだからね。
いただきますをしようとした時に鳴るチャイムの音。
誰だろうね?って顔を見合わせてから吉澤くんが玄関まで歩いて行く。
私もその後ろにちょこちょこついていって少し離れて立ってみる。
のぞき穴を覗いてから、吉澤くんが何だか嬉しそうに笑った。
- 32 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/20(金) 12:20
- 「うどん、もうちょい茹でなきゃいけないみたいですよ」
そう言って鍵を開けて扉を開けたら、ののとあいぼんがニコニコしながら立っていた。
「バカップル部屋突撃隊隊長辻希美です!」
「同じくバカップル部屋突撃隊副隊長加護亜依です!」
『突撃〜!』って言葉と共に部屋に入ってきて私に二人がタックルとか。
それなりに加減してくれてはいるんだけどさすがに二人はキツイもんで。
でもさ、久しぶり。
就職活動してた二人に働いている二人。
最近じゃすれ違いもしなかったからねぇ。
あ、そうだ。無事二人は就職決まったんだ。
ののはデザイン会社に、あいぼんは近くの保育園の先生に。
何かそんなこと考えると時間ってあっという間に経つんだなぁって思った。
鍵をかけながら吉澤くんは私達三人を楽しそうに眺めている。
そっか、吉澤くんはののとは学校で会ったりするんだもんね。
あいぼんとはどうなんだろう?久しぶりなのかな?
- 33 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/20(金) 12:21
- 「よっちゃん、何だか老けたね」
「いや、老けたって…僕まだそんな年じゃないんだけど…」
多分、あいぼんと吉澤くんが会うのは久しぶりなんだろう。
何となくだけど、予想。
でもって、ちょっとした自信あり。
「でもね、よっちゃん学校じゃ人気あるんだよ」
「嘘!?そうなん?」
「ののの友達とかも言ってるもん」
べったりと私にくっついたまま交わされる会話。
いや、まぁわからなくもないけどさ。
うん、だってねぇ。
チラッと吉澤くんを見たら『ほえ〜』って顔してた。
このニブチンさんは、きっとそんなのには気付いてないんだろうなぁ。
「二人とも御飯食べた?」
「「まだ〜」」
「じゃぁ僕うどん茹でてきますね。あ、伸びちゃうから先食べてて下さい」
- 34 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/20(金) 12:22
- 元気良く手を上げる二人をテーブルの前まで連れて行って、お言葉に甘えて
少しの伸びかけていたおうどんを三人で一足先に食べ始めた。
どんぶりなのにそこからお椀に入れるというどうにも変な食べ方で。
あんまし伸びちゃうとおいしくないもんね。
「最近は一緒に御飯食べてるの?」
「う〜ん時間が合った時はそうだね」
「よっちゃんの家は行ったりしないの?」
「たまには行くけど、そんなには行かないかなぁ」
質問攻めにあいながら進む食事だからどんどんと麺は伸びていく。
ついでにスープも冷めていく。
だけど二人の質問は止まらない。
「ほら、石川さん困ってるじゃんか」
そんな時にあらわれる救世主。
・・・でもないか。
次は吉澤くんが質問攻めとか。
上手く逃れようとしてるのはわかるんだけど、あいぼんが食い付いて離れないから無理らしく、
さっきの私よりも大変そうだ。
- 35 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/20(金) 12:23
- 「ま、まぁさ、とりあえず食べちゃおうよ。こっち食べていいからさ」
二人のペースにはまりまくりだけど、久々にこの四人で食べる御飯っていうのも美味しかった。
いつの間にかちょっと大人になっちゃってて、でも変わってないところもあって。
食事が終わった後も話しが途切れることもない。
吉澤くんは時間だからって帰っちゃったけど、二人は泊まる気満々だったらしく
鞄の中に御泊まりセットを準備してきていた。
この日は、狭いベッドに三人で無理矢理入って眠った。
ちょっと窮屈で眠りは浅かったけど、顔を寄せあって眠っている二人を朝見た時、
何だか幸せな気持ちになった。
そうだね、最近全然遊んでなかったよね。
今年は時間見つけてまた四人で遊びに行こうね。
窓の外は、今日も良い天気だった。
- 36 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/02/20(金) 12:24
- 更新しました。
後1回。
メインはいしよし。
そうです、そのはずなんです。だからいしよしです(・∀・)
>SINKI 様
ありがとうございます。
何故か一番最初に浮かんできたのがいちごまの喧嘩とか(・∀・)
いやいや、吉澤くんは優しく、そしてちょっと運がな(ry
いつもよりもちょっとはやめの更新ですた。
頑張りますです!
>26 名無飼育さん 様
ありがとうございます。
今日はいしよしのちょっとした日常編って感じですかね(w
マイペースないしよしですが、安定してます(・∀・)
- 37 名前:alone 投稿日:2004/02/21(土) 03:03
- 遅ればせながら、新スレおめでとうございます〜!!
また吉澤君たちに逢える機会をいただけまして、嬉しい限りです。
これからもマイペースにがんばってください〜。
- 38 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:38
-
* * * *
あぁもぉ俺にどうしろってんだよ!
この日何回目のため息とぐしゃぐしゃにされた髪。
飲んでも吸っても落ち着かない。
電話かけても取ってもらえない。
メールしても返事はこない。
来たのは一つだけ『店の迷惑になるか家には来ないで』
でもこのままでいても絶対に後藤からは折れない気がしたから、明日にでも後藤の家に行こうと思った。
で、実は今シュミレーション中。
自宅で脳内シュミレーション&動いてみてシュミレーション。
・・・俺何やってんだろ。
一人で突っ込んで一人で軽く笑ってみた。
- 39 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:39
- でもって翌日、仕事終わり。
俺はスーツ姿のままで変に緊張しながら後藤の家の近くまで来ていた。
手に持っているのは鞄だけ。
だって、別にいらないじゃん。
シャッターの下りた商店街を通り抜け、温かくなった風を感じながらゆっくりと歩く。
もうすぐ到着っていう頃にはガラにもなく緊張してて、手に変な汗までかいていた。
『普通に店に入るようにして入ればいいんだ』
そう思いながら足を一歩踏み出そうとした時だ。
後藤の家の隣から話声が聞こえて、そっちに顔を向けたら部屋着みたいのを着た後藤と、
部屋着みたいのを着た吉澤が出てきた。
それを見た瞬間、何も考えずに俺は吉澤に向かって走って行ってて、胸ぐらを掴んだ。
多分、ずっと後藤に会えなかったこととか、何か色々あって相当キてたんだと思う。
それは、今だから思うことであって、そん時は全然考えらんなくて、
胸ぐらを掴んだまま、自分よりも結構デカイ吉澤の頬めがけて思いきり拳を振り上げていた。
吉澤が、そんなことするはずないって分かってたはずなんだけど、止められなかったんだ。
そん時は。
- 40 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:39
- 「…いちーちゃん?」
どんくらいしてからだろう。
自分を呼ぶ後藤の声で、ずっと掴んだままだった服が手からゆっくりと外れていった。
驚いて固まっている後藤の顔とか、わけわかんないって顔してる吉澤の顔とか、
自分の息がすげー切れてるのとか、右手が痛いとか、吉澤の眼鏡が地面に落ちていることとか、
そんなの全部後から気が付いたことだった。
そして気付いた時にはもう遅い。
自分の親友で、恋人の幼馴染みを俺は思いきり殴っていた。
チラッと見た吉澤の口からはうっすら血が出ていて、吉澤は俺の方を見ながら
何も言わずに手で口元の血を拭って、そのまま俺を後藤の方へと突き飛ばした。
「これ以上、僕を巻き込まないで」
突き放した言葉は冷たいみたいなのに、実は温かくて。
突然殴られたこととか、後藤がかけた迷惑とか、そんなの全部知らないとでも言ってるようだった。
- 41 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:41
- 「よし子!」
「ごっちんもさ、いい加減素直になりなよ」
眼鏡を拾うゆっくりとした動作とか、だんだんと赤くなっていく頬とか、
表情を隠すように伸びた前髪なんかを、ただじっと、俺は見ていることしか出来なかった。
かっこ悪すぎ。
俺って、かっこ悪すぎ。
「紗耶香もさ、これ以上ごっちんを泣かすようだった
僕も本気で殴りに行くからね」
アイツの怒りの感情とか、そんなのは一体何処にあるんだろう。
そんなことを思う程あっさりと、そしてゆっくりと吉澤は俺と後藤の前から姿を
隠すように家に入って行った。
あの扉の奥で、吉澤は今どんな表情をしてるんだろう。
どんなことを思ってるんだろう。
痛んだ右手がさっきよりもずっと痛んだ。
「…いちーちゃん」
16日ぶりくらいに聞く声。
懐かしくて、早く聞きたかったはずなのに、今は逃げ出したかった。
- 42 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:41
-
「いちーちゃん」
背中にその声を受けた。
背中に強い衝撃を受けた。
拳の感触。
きっと俺の右手なんかよりもずっと痛んでいるであろう拳の感触。
何度も何度も叩かれて、最後に思いきり頬を平手で叩かれた。
「よし子になんてことするのさ!」
それは、自分が望んでいた言葉とはすこし違ったけど、今の自分の気持ちを代弁している言葉だった。
さっきまでは『遅い』とか『バカ』とか後藤らしい言葉を望んでいた。
後藤から流れる意味がわからない涙。
その涙は自分が望んでいた言葉なんかよりもずっと重くて、ずっと痛い。
「何か言ってよ!何しに来たのさ!!後藤言ったじゃん。
来ないでって言ったじゃんか!!!」
そんな言葉を言いながら、胸に飛び込んでくる後藤。
それはまるで
『何も言わないで。早く来て。早く後藤に会いに来て欲しかった』
そんな風に言っているみたいだった。
- 43 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:42
- 「…ごめん」
逃げ出したかった気持ちが、あっという間に変わっていく。
触れていたかった体の感触とか、こいつの香とか、そんなのが一気に溢れてくる。
一つ一つが魔法のようで、一つ欠けるだけでも自分がダメになってしまいそうな感覚。
ゆっくりと背中に腕を回して、まだ泣き続けている背中をそっとさすった。
「…遅いんだよぉ」
ベタなドラマの展開よりもあっという間。
素直になった後藤がぎゅっとスーツを掴んで、その涙でシャツを濡らした。
濡れたシャツはきっとしばらくは乾かないんだろう。
本格的な春にはまだ少し時間がかかるから。
- 44 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:43
- 「よっしゃ、後藤、キスしよう」
「は?突然何言ってるのさ」
しばらく抱きしめ続けた体をちょっと離して唇を近付けたら手で顎を押し返される。
ググ−っと近付けようとすると両手で阻止される。
完全拒否ってヤツ。
「いや、ちょっと待ってよ」
「いいじゃんか」
「だってここ何処かわかってんの?」
あぁ、そういやここってば吉澤の家の目の前じゃん。
ま、いいさいいさ。
別に誰が見てるワケでもないんだ。
「いちーちゃん!いちーちゃんてば!!」
何度も呼んでくれる声が嬉しいんだ。
ずっと、聞きたかったから。
自分を呼んでくれる声。
おまえの、声。
- 45 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:44
- 「後藤」
「もう、本当にバカ…」
髪に指が通り、自分よりもちょっと下の位置から唇が押し当てられた。
バカだよ、俺。
でもさ、こんなバカだけど大好きなんだよ。
回した腕にもっと力を込めて、近所迷惑関係なして大声で叫んでみた。
「大好きだぜぇーーーー!!!」
はたかれた頭はちょっと痛かったけど、そんな嬉しそうな顔みれるなら何度だって言ってあげるよ。
ってい言ったら次やったら怒るからなんて言われちった。
吉澤に謝りに行こう。
もう一回だけキスをしたら。
あ、嘘。
プラス後3回。
さっきの右手はまだ痛かった。
だから、早く直してしまおう。
よっしゃ、吉澤ちょっと待ってろ、すぐ行くから。
後1回したらすぐ行くから。
- 46 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:44
-
「…そういうのはよそでやってよね」
窓から一部始終を見ていたひとみの呟きは自身の笑顔にかき消された。
- 47 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:46
-
「あれ?ひょっとして市井先輩じゃないですか?」
無事仲直りも出来て、後藤と二人して外で飲んでた時のことだ。
目の前から歩いてきた二人組。
一人はすんごくよく知ってる顔。
「あ、市井さんだ」
それは喧嘩のキッカケをつくった張本人。
Yシャツにつけた口紅をつけてた人。
「松浦じゃん」
「どうもぉ、今帰りですか?」
「あぁ、まぁね」
誰この人って感じで俺の袖をひっぱる後藤に同僚の松浦亜弥の紹介をする。
そして松浦から隣にいる人の紹介を受ける。
・・・ん?
- 48 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:47
- 「美貴のこと、忘れちゃったんですか?」
ニヤニヤと笑っている顔。
あれ?何か知ってるぞ、こいつ。
「・・・ひょっとして・・・藤本?」
「気付くの遅すぎです。でもまぁ、お久しぶりです、市井先輩」
吉澤と初めて会った時付き合ってた人だ。
藤本美貴。
そうだ、覚えてるよ。
「美貴たん市井さんのこと知ってるの?」
「うん、高校時代数日間付き合ってたの」
ピクンと隣で後藤が動いた。
あ、あのぉ、後藤、これは昔のことで・・・
「美貴たんが前話してくれた市井さんってこの市井さんのことだったんだ。
確かやってる最中同じクラスの人に見られちゃった事件だよね」
- 49 名前:市井紗耶香と後藤真希 投稿日:2004/02/23(月) 15:49
- ピクンピクンと隣で後藤が動いた。
だ、だから・・・それは昔のことで・・・
藤本の隣では松浦が俺のことをすんごい目で睨んでいる。
俺の隣じゃぷすぷすと不機嫌なオーラを出しながら後藤が立っている。
「まだ女遊びしてるんですか?美貴の時もそうだったみたいだけど
いいかげん、女の子に優しくしないといい死に方できませんよ」
「は、はは…」
藤本と松浦はそのまま腕を組んで街の中に消えていってしまった。
固まった笑顔のまま後藤の方を見たら、すんげー赤い顔をしていた。
「いちーちゃんのばかぁぁぁぁあぁぁぁああぁあああ!!!!!!!!!!!!」
ち、違うんだよ。
遊びなんかじゃないんだよ・・・
・・・俺、今度こそ吉澤に思いきり殴られるかもしれないなぁ。
そう思っていた俺に飛んできたのは吉澤のパンチなんかじゃなくて、
後藤のはいていたスニーカーだった。
- 50 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/02/23(月) 15:53
- 更新しました。
『市井紗耶香と後藤真希』はこれでおしまいです。
>alone 様
どうもありがとうございます。
完結したのに新スレたてさせてもらっちゃいました(・∀・)
前よりももうちょっとテンポアップをさせたいと思ってるんですが…
どうなるんでしょうか(苦笑)
マターリですがこれからもよろしくお願いいたしますです。
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/24(火) 18:37
- バカップル…
- 52 名前:SINKI 投稿日:2004/02/25(水) 16:50
- 更新乙です。
吉澤くんは優しいですね。
それにしても、、、間の悪いことですね。
市井くんは運がないのでしょうか?
がんばれ市井くん!!
- 53 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/26(木) 11:13
- 紗耶香に思いきり殴られた後は、数日かけてやっとこさ消えてくれた。
もうね、普通に痛かった。
あそこでこらえられた自分を褒めてあげたいくらいさ。
時間が合わなくて会えなかったから、石川さんに僕の頬が青くなっていることろは見られなかったけど、
その後、一緒にいた時に謝罪に来た紗耶香とごっちんの言葉で知られてしまった。
どうもタイミング悪いんだよなぁ。
春が近付いて、また新しい季節がはじまろうとしている。
桜はまだ咲いてないけど、梅がちょっと咲いてたりしてた。
桜が咲いたらしようといっているお花見大会もこの調子ならきっとそう遠くない日に出来そうだ。
穏やかな風が吹いていている土曜日。
開けた窓からは気持ちのいい陽射しが差し込んできている。
休日でのんびりでお昼寝するにはぴったりで、掃除の終わった部屋のベッドに寝っころがって、
窓から差し込む陽射しを浴びながら一眠り。
小一時間程寝て起きたら、携帯にメールが2件届いていた。
珍しく矢口さんからだった。
- 54 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/26(木) 11:13
- 『おいぃっす。久しぶり。
元気してっかぁ?まぁなっちから
聞いてるから大体分かってるけど(w
でもって突然ですがお知らせです。
今日の夜、皆で海に行きます。
理由は朝日が見たいから。
参加者はいつものメンバー。
強制的に全員参加です。
拒否権なんてありません。
よっすぃー車よろ。
集合はオイラ達の家の前。
紗耶香も圭ちゃんも車出すから合計3台。
時間は23時ね。
不参加の場合は一晩圭ちゃんと添い寝の刑です。
カオリの了解はとってあります。
ってなワケで急いで来てね。
(〜^◇^)遅刻する時は連絡しろよ〜』
何とも一方的なメール。
でもまぁこんぐらい強制的にやらないと皆で集まるっていうのも出来ないからなぁ。
しかし本当突然。
それも朝日が見たいからって・・・。
ま、いっか。
うん、明日も休みだし。
- 55 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/26(木) 11:14
- でもってもう一件は紗耶香からだった。
ごっちんを連れてきてくれってメール。
簡単に返事を打って、携帯を閉じる。
部屋の時計を見たら16時くらいだった。
夜まで長いなぁ。
中途半端な眠りだったけどこれ以上寝れそうもないし・・・
よっしゃ、何かビデオでも借りてこよう。
久々にビデオ観賞っていうのも悪くないよな。
見ているウチに眠たくなっちゃうかもしんないけどたまにはいっか。
向側の麻琴部屋の扉をノックして、一緒に行くかどうか聞いたら即答で頷き。
お互いに部屋着から着替えていざ出発。
車で15分のレンタル屋までの短いドライブを楽しんで、一本ビデオを借りてDVDを一枚買った。
ちなみに麻琴が借りたのは『コヨーテ・アグリー』
で、僕が買ったのは『ショーシャンクの空に』前にも見たことあったし、また借りるなら
買っちゃおうかなと思って衝動買い。
まぁ自分的には良い買い物。
- 56 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/26(木) 11:16
- 「お兄ちゃん、ビデオ一緒に見よう」
そう言ってお茶とお菓子で準備を整えた麻琴が、夕飯の後に部屋に入ってきたからそのまま映画観賞開始。
時間的にも映画見終わったくらいに出ればちょうどいっか。
そんなこと思いながら画面を見てたんだけど、お約束のように途中で寝てしまい、
目が覚めた時にはエンディング間近とか。
映画に夢中になってた麻琴は寝ていた僕とかはどうでもよかったらしい。
「んじゃ、ちょっと出かけてくるわ」
「ここでビデオ見ててもいい?」
「おう、あんまし夜更かししないようにね」
自分の部屋にテレビとかがない麻琴はたまにこうして僕の部屋でのんびりしていく。
下にわざわざ下りるのは面倒だし、眠くなってから階段を上がるの憂鬱なんだそうだ。
ごっちんの携帯に電話をかけて、準備が出来てるかどうか聞くと、準備は出来ているが
そのまま軽く眠ってしまっていたらしい。
ので寝癖ついてるとか。
ごっちんは『まぁいっかぁ』と言いながら電話を切った。
- 57 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/26(木) 11:16
- 「ウぃッス、これ差し入れのコーヒー後藤仕立て」
どこらへんがごっちん仕立てかよくわからなかったけどありがたく頂いた。
紙コップの中の中で湯気をたてているコーヒーを飲干してから矢口さん達の家へと向かった。
「寝癖ばっちりだね」
「ん〜鏡見てないからわかんないや」
ヨダレの痕が残ってたらどうするんだろうと思いつつも、まぁごっちんらしいかと変な納得。
紗耶香はこんなごっちんを見てどう思うんだろうか。
「ほっぺ、まだ痛い?」
「んや、もう大丈夫」
「梨華ちゃん何か言ってた?」
「黙ってたこと怒られただけだよ」
ごっちんは何かちょっと考えるように外に目を向けた。
それから少しの間何も喋らずに外を見つめていて、赤信号で車が止まると僕の頬を引っ張った。
- 58 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/26(木) 11:17
- 「今度からはもっと怒っていいからね」
「…ふぁい」
「よし子、円形脱毛症になっちゃ駄目だからね」
「…ふぁい」
信号が青に変わった。
頬から手を放したごっちんはそのまま目と閉じて眠りに落ちた。
たまに思う。
この幼馴染みの方が円形脱毛症になっちゃうんじゃないかって。
完璧な思い込みかもしれないけど、そんな風に思う。
でもさ、きっとそんなこと言ったら『慣れだよ慣れ』とか返されるんだろうな。
アクセルを踏みながら、石川さんが円形脱毛症にならないようにしなきゃなんてちょっと考えた。
言ったらきっと『そう思われた方がなる』とか言われるんだろう。
・・・この二つに間違いはない気がする。
変な自信が湧いてきて、ちょっとニヤニヤしちゃった。
ははっ、僕ってばキショッ
隣のごっちんが寝ててよかった。
見られたら皆にどんなこと言われるかわかんないからね。
「…マンゴー」
変な寝言を言った幼馴染みは、結局集合場所につくまで眠り続けた。
- 59 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/02/26(木) 11:22
- 微妙に短いですが更新しました。
( ´ Д `)<手で触っただけだからどこくらいの寝癖かわからないんだよねぇ〜
タイトルの『OH! BE MY FRIEND』はハロプロのあの曲です。
まぁ、あまりタイトルに意味はありません←オイ。
この回は後4回くらいな感じです。
>51 名無飼育さん 様
( ´ Д `)<んぁ?ゴとー達がバカップル? ←理解してないようです(w
>SINKI 様
市井くんも吉澤くんもあまり運がないかも(苦笑)
いしよし微妙な安定期。
そんな感じです。
そしてヽ^∀^ノは今後も( ´ Д `)に靴投げられてる予感(w
- 60 名前:SINKI 投稿日:2004/02/26(木) 16:01
- 更新、乙です。
久しぶりの登場ですね。
矢口さん。
メールには笑いました。
相変わらず、なんですね、みんな。
なんだか嬉しいです(←なぜに?)
朝日はきれいでしょうね。
私は朝日というものを見たことがあまりありません。
海で見る朝日なんて本当にないです。
見てみたいな〜と思いつつ、
続き楽しみにしてます。
- 61 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:48
-
* * * *
海まで行くのにどの車に乗るかはくじ引きで決められた。
紙は当たり.普通・外れの三種類。
ちなみに当たりは保田さんの車で、普通は吉澤くんの車、外れは市井さんの車。
外れ扱いされた市井さんはリアルガクをしていじけていた。
当たり車には矢口さんとごっちん。
普通車にはあいぼんと安倍さん。
外れ車には私とののとカオリさんが乗り込むことになった。
- 62 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:49
- 「のんちゃん久しぶりだね」
「へへっ、お久しぶりれす」
後部座席にカオリさんとのの。
助手席に私。
吉澤くんは助手席に私が乗るということを聞いて市井さんに『変なことしないでよ』なんて言ってた。
何とも珍しいと思ったこと、ちょっと照れちゃったことは内緒にしておこう。
当たり車が先頭を走り、後ろに普通車と外れ車が続く。
久々にカオリさんに会えたののはすっかり甘えモードに入っていて、
直ったと思っていた舌ったらずな喋り方が復活していた。
私としてはそっちの方が好きだったりするんだけどね。
「石川さ」
「はい?」
「吉澤と同棲とか考えてないの?」
・・・同棲ですか。
突然なんて質問を投げてくるんですか市井さん。
- 63 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:49
- 「れも梨華ちゃんとよっちゃんは一緒に住んでるみたいなもんれすよね?」
「え?そうなの?」
「いや、全然違いますって」
「らってこの前あいぼんと梨華ちゃんの家行ったらよっちゃん出てきたんれすよ」
ののの言葉に後部座席のカオリさんと、隣の市井さんがニヤっと笑った。
さらにカオリさんはいいこと言ったと言わんばかりにののの頭を撫でている。
ちなみにののは妙に得意顔だ。
・・・オヤジが三人いるように思えてきた。
「時間はたっぷりあるんだからゆっくり聞かせてもらおうじゃないの」
助けて、吉澤くん。
運転席と後部座席の三人が妙に怖いの。
- 64 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:50
-
* * * *
「でね、よっちゃんが梨華ちゃんにこうムチューって」
「マジだべか!」
「違います!!」
こちら普通車、こちら普通車。
出発して30分で相当疲れました。
「いやーよっちゃんも随分大胆になったんだべなぁ」
「だから違うんですってば」
夜ってことでいつもよりもテンションの高い加護に、同じようにテンションの高い安倍さん。
さっきっから加護の脳内想像話に花が咲き、その脳内イメージが安倍さんに受け渡されている。
ちなみにその内容は僕と石川さんの愛の劇場だそうだ。
- 65 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:50
- 「でもさ、よっちゃんと梨華ちゃんやることやっちゃってるんでしょ?」
・・・か、加護。
なんて言い方を・・・。
「そりゃこんだけ時間が経ってればいくらヘタレなよっちゃんでもねぇ」
安倍さん、ニヤニヤしすぎです。
思いっきりミラーに二人のニヤニヤが写ってるんです。
「ほらほら、恥ずかしがることないべ、お姉さん達に言ってごらん」
「そうやそうや、可愛い妹にも報告してごらん」
・・・嫌だ。
何でここはこんなにもオヤジ臭いんだろう。
皆まだ若いよね、女の子だよね。
何でそんなエロオヤジみたいな顔してるのさ。
安倍さん目がエロ目になってますよ。
そんなキャラじゃなかったですよね。
「さぁはりきって逝ってみるべさぁあぁぁああ!!」
「おぉぉぉぉ!!!!!」
・・・早く海つかないかな。
そう思ったら次の信号は赤に変わった。
- 66 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:51
-
* * * *
「今頃後ろ2台の車の中は大変だろうなぁ」
「吉澤も石川も今頃顔真っ赤になってるんじゃない?」
「あはっ、だって圭ちゃんわざとゆっくり走ってるでしょ?」
当たり車。
ここだけが至って平和と言えよう。
本当に当たり車。
色んな意味で当たり車。
「ほほっ、夜明けまではまだまだ時間があるのよ!!」
ちなみに当たり車のトランクの中にはドンキホーテで買った花火が詰め込まれている。
休日家でゴロゴロしていた保田のお尻をカオリがペチペチ叩いて買いに行かせたのだ。
- 67 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:52
- 「よっしゃ、いっちょ唄うか!」
「んぁ〜い、じゃぁ後藤が晴れた日のマリーン唄いまぁす!」
まぁ基本的に楽しければいいんじゃないか思考の当たり車。
後藤持参のCDをセットして、ミニカラオケ大会スタート。
運転席の保田も助手席の矢口もノリノリだ。
「次は俺の天城越えだぁぁぁぁ!!」
「圭ちゃんもっと違うのないのかよ!」
「んぁ〜圭ちゃんだからしょうがないよねぇ」
「後藤!それはどういう意味よ!!」
「はい圭ちゃん天城越え行ってみよぉ〜!」
やっぱり当たり車は平和だった。
- 68 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:53
-
* * * *
「マジで!?」
「…はい」
当たり車が大盛り上がりを見せている頃、外れ車は違う意味で盛り上がっていた。
顔を真っ赤にしてる割にはちょっと沈んだ顔をしている梨華に前を見ながらも目を見開いている市井。
そしてカオリに膝枕をしてもらいすっかり眠ってしまった辻と、その辻の髪を撫でているカオリ。
梨華をのぞく全員が口をポカーんと開けていた。
ちなみに辻はさっきから口を開けて寝ている。
「いやぁそりゃ石川も溜まるわな」
「いやぁの溜まるっていうか何というか…」
「それって吉澤にも言えるよねぇ」
「いやぁそれはよくわからないんですが…」
興味で聞いていた話しがいつしか石川梨華の為のお悩み相談室と化してしまった外れ車。
ちなみ室長は市井で、秘書がカオリだそうだ。
いまいち配役が分からないがそこは目を瞑っておくところらしい。
- 69 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:53
- 「もでさぁ、温泉旅行でしたきりっていうのもすごいよなぁ」
「だってそれってもう2ヶ月くらい前でしょ?」
「吉澤ってさ、お前ん家泊まって行ったりしないの?」
「…大体終電で帰っちゃうんですよ」
久しぶりのネガティブ爆発梨華がかもし出す暗いオーラは車内の空気を読もうともせずにモフモフ出ている。
助手席だけが光りを遮られたような感じだ。
市井もカオリもそんな梨華の暗いオーラで暗くなるワケじゃないのだが、
ヘタレ吉澤のヘタレっぷりにちょっと呆れていた。
そして一人でブツブツと言っていた梨華が突然軽く切れた。
「もう何でキスするのもギュッてするのも吉澤くんからしてこないのよ!」
「い、石川?」
「いっつもいっつも私からで…ちょっとは察しなさいよ!!」
「あのぉ、石川さん?のんちゃんが起きちゃうんだけど…」
「何だ?お前飲んでるのか?」
- 70 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/02/29(日) 12:54
- ぬっちゃけ、かなり大切にされているワケだが梨華としてはそれだけじゃ満足出来ていないらしい。
いつもその場で見るひとみの優しさにデロデロになってしまって、何も言えない自分もいけないと
思いつつもどうしてももうちょっと積極的になって欲しい気持ちもある。
石川梨華23歳。
今の状態を簡単に言うと欲求不満だ。
「…私ってばやっぱり魅力ないんですかね」
「「それはありえない」」
そして二人とちょっと前に目を覚ましていた辻は思った。
魅力がありすぎてひとみが手を出せないんではないかと。
外れ車の車内温度、一部を除いて22度くらい。
除かれた一部は12度くらいだった。
- 71 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/02/29(日) 12:55
- 更新しました。
マターリマターリ
>SINKI 様
皆変わってても変わってない感じは私も嬉しいです。
そしてやぐは
(〜^◇^)<ムードメーカー
だそうです(w
私もそんなに朝日を見たことはないんですが、課題をやってて
朝になってもまだ終わらなくて潰れそうになってる時に
窓から見えた紫の光りは今も忘れられません。
海での朝日私も見たいです(w
- 72 名前:SINKI 投稿日:2004/02/29(日) 14:17
- 更新乙です。
更新があって思わずにやけてしまいました(w
石川さん・・・。
あぁヘタレな吉澤くんがなんともおもし・・・いや、かわいそう。
普通車と外れ車はなんともこっぱずかしい車でしょうね。
恥ずかしすぎて事故らないように>吉澤君
作者さんは紫だったんですか。
綺麗そうですね。
ちなみに私はオレンジっぽい光でした。
感想レスなのに長くなってしまい、ごめんなさい。
マターリ待っています。
- 73 名前:ちゃみ 投稿日:2004/02/29(日) 20:34
- お久です。
助手席、ブリザードですね。
まだまだ、夜は続くようで楽しみです。
- 74 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/02(火) 10:32
-
* * * *
途中でコンビニに寄ったり、先頭車がかなりゆっくり走っていたので、
海についたのは2時頃だった。
途中寝で加護が寝てしまったくらいからは安倍さんと久しぶりにゆっくりと話した。
まぁ、内容は色々だ。
これからのことだったり、今までのことだったり。
駐車場につくと、外れ車からは何故かちょっと暗い石川さんと僕のことを呆れた目で見る
カオリさんと紗耶香と辻が出てきて、当たり車からは汗だくになった3人が出てきた。
ちょっと痛い視線を背中に感じながら全員でゾロゾロと海へ向かう。
まだ春になりかけの海に人陰はほとんどなく、時たま通る車の音と、海と風の音だけが響いていた。
汗の引いた圭ちゃんと矢口さんとごっちんはちょっと寒そうだ。
「やっぱ夜の海は寒いなぁ」
「圭ちゃんは基本的に薄着すぎるんだよ。
後部座席にカオリ上着置いておいたから着てきな」
- 75 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/02(火) 10:33
- カオリさんにそう言われた圭ちゃんは肩をすくめながら車へと戻って行った。
ちなみにごっちんも矢口さんも手にちゃんと上着を持ってきている。
「んぁ、やっぱり圭ちゃんは尻にしかれてるんだね」
「んだねぇ、なっちたまにカオリからそんな話し聞くけどやっぱし見るとリアルだね」
「家出る時だって大丈夫だよとか言って持って行こうとしなかったんだから」
ちょっと呆れ気味のカオリさんの呟きに思わず笑ってしまった。
ビールとカオリさんの手料理でちょっとふっくらしてきお腹を気にしている圭ちゃんは、
言葉じゃ言わないけどすごい幸せそうだ。
そしてカオリさんも圭ちゃんといる時に見せる表情とかがすごく柔らかい。
いいなぁこういうの。
どっちも幸せそうで。
「お前さ、もうちょっと頑張らないと石川のヤツ、他のとこに逃げちゃうぜ」
いつの間にか隣に来ていた紗耶香にぐいっと肩を抱かれて顔を寄せられた。
紗耶香、煙草臭い。
それにこの体勢腰痛い。
「その通りなんれす。よっちゃん、このままじゃ梨華ちゃんに呆れられちゃうよ」
- 76 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/02(火) 10:34
- さらにぐいっと無理矢理腕お辻に引っ張られて腰が変に曲がる。
背の違いが結構あるから当たり前っちゃ当たり前の体勢だけど、かなりつらい。
「ぐわっ!」
「ヘタレで弱き、優しさだけはいっちょまえ」
か、加護。
背中痛いッス。
重いッス。
ついでにむ、胸が・・・
「梨華ちゃん、車の中でちょっとキレたんれすよ」
「嘘!?」
「本当。ちょっとは察しなさいよ!!って感じで」
「でも梨華ちゃんの気持ちもわかるなぁ。よっちゃんヘタレすぎやん」
・・・だからさっき車から出てきた時暗かったんだ。
背中から下りた加護と僕の腕を取っていた辻が手を繋いで石川さんの方へと走って行った。
二人に気付いて笑顔になる表情がちょっと暗いここからでもわかる気がする。
- 77 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/02(火) 10:35
- 「あんさ、大事にされすぎで悩むってかなり贅沢な悩みだと思うけどさ、
不安にさせちゃいかんと思うわけよ」
『まぁ俺が言っても説得力ないかもしんないけど』そう言って紗耶香は煙草に火をつけた。
差し出された煙草を丁重にお断りして、砂浜をのったり歩く。
僕らの前じゃ辻と加護に攻撃されてる石川さんを他の皆も攻撃してる。
「吉澤さぁ、マジもうちょい焦りとか感じた方がいいんじゃない?」
「…焦りって」
「カオリから聞いたけど、石川目当てのお客さんは今でも数人来るらしいよ」
ひょっこり現れた圭ちゃんが僕の頭をこつンと叩いた。
「どうするのさ、そっちになびいちゃったら」
それは絶対嫌。
そんなの嫌にきまってるじゃん。
「突然現れた人が相性ぴったりで好みもドンピシャ。やばいよね」
「だよね、絶対やばいよね」
- 78 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/02(火) 10:36
- ごちゃごちゃごちゃごちゃ会話が流れてニヤニヤしながら紗耶香と圭ちゃんが先を歩く。
わかってるよ、二人が言いたいこと。
でね、僕もこんなじゃいけないなぁとか思ってるよ。
「吉澤くん!花火やろうよ!!」
でもさ、何か大事すぎて触れるのもちょっと怖いんだよね。
本当は無理してるんじゃないかとか思うとさ。
そりゃさ、本当はもっとギュッといたいけどさ。
「よ〜し〜ざ〜わ〜ひ〜と〜み〜く〜ん!」
・・・こんな風に思ってることでもっと無理させてたのかなぁ。
ぽけぽけと空を見上げてたら、むにゅっと頬を掴まれた。
この手、石川さんでしょ。
「ほら、交信してないで花火するよ」
いつもみたくニコッと笑ってるちょっと冷たい手。
もっとさ、僕の前で怒っていいんだよ。
怒らせるようなことしたくないけど。
いつもさ、笑ってなくたっていいんだよ。
ずっと笑顔でいさせたいけど。
- 79 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/02(火) 10:37
- 「あのぉ…」
「ん?どうしたの?」
どうやって言えばいいんだろう。
っていうか、こんな所で伝えてしまっていいんだろうか。
そもそも場所なんて関係あるんだろうか。
いや、あるか。
「おぉい、吉澤く〜ん」
…後で言おう。
今日中に言おう。
朝日が昇る前に言おう。
よし、絶対そうしよう。
「行きましょう」
遠くで多分ニヤニヤしてるだろう皆の所へ。
手なんて握って行ってみちゃったりしますか?
いいや、見せつけちゃえ。
「ちょ、吉澤くん!」
- 80 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/02(火) 10:38
- 走りますよ。
競争じゃなくて一緒に。
どりゃ−って感じで。
小さな手をぐっと握って、砂に足をとられながらダッシュしてみる。
握り返してくれた手をもっと強く握って青春映画みたいにダッシュしてみる。
「バカップル−!早く来いよぉ!」
「圭ちゃんに言われたくないよぉ!」
悩みすぎってばよくないよね。
話さなきゃね。もっと、色々。
「石川さん」
「ん?」
でも今はこれだけ言っておこう。
皆の所につく前に。
- 81 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/02(火) 10:38
- 「ずっと一緒にいましょうね」
言った後とか恥ずかしくて自分の顔も見られたくなくて、石川さんの顔も見れなかったけど、
言ったことは後悔してない。
本心本心。
これが僕の本心だから。
「手なんか繋いで見せつけるんじゃねーのれす!」
「じゃぁカオリと手繋ごうか」
「いや、カオリ。それはちょっと違うと思うよ」
夜明けまであと数時間。
春寸前花火大会カッケ−!
- 82 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/02(火) 10:39
- 更新しました。
あと2回
>SINKI 様
当り車は普通でいう『楽しい』でしょうね。
そして普通車と外れ車は一部の人だけが『楽しい』
って感じでしょうか(w
朝日、私も見るまでは赤かったりオレンジだったりするのかなぁ
って思ってましたけど、見たのは紫でしたねぇ。
疲れ目だったからでしょうか(苦笑)
いまだにあの紫っぷりはあの時以来見てませんけどねぇ。
>ちゃみ 様
どうもどうもお久しぶりです。
助手席は近寄ると一瞬にして冷えます(・∀・)
夜はもうちょい続きますね。
マターリと楽しみに待ってて下さい(w
- 83 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/03(水) 12:58
-
* * * *
保田さんが買ってきてくれた花火は結構な量があった。
手持ち花火に打ち上げ花火。
少し風は強いけど、こうやって皆で集まってするのはすごく楽しい。
男性三人組は花火を持って海まで走って行き、一旦引き返して来たと思ったら
市井さんと保田さんが吉澤くんのポケットから財布やら携帯を取り出して、
さらに上着まで脱がせて私に預けてきた。
二人のニヤリと笑った顔と、一人の固まった顔が花火の明かりに照らされて浮かび上がる。
「ありえないからぁぁああああ」
珍しい吉澤くんの叫び声が辺に響いてそのまま寒い海にドプーン。
ついでに勢いあまった市井さんもドプーン。
それを見て保田さんがお腹を抱えて笑っていた。
「いやぁ、よし子もいちーちゃんも圭ちゃんも元気だねぇ〜」
「市井さん、携帯とか水没しちゃったんじゃ…」
「大丈夫だよぉ、後藤がさっき抜き取っておいたから」
- 84 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/03(水) 12:59
- パチパチしゅーしゅー音が鳴って、いろんな色の煙りといろんな色の明かりが皆の笑っている顔を照らしている。
さっきまでちょっと暗かった私は皆のおかげで何処か遠くへ飛んで行き、
逆に温かい気持ちと嬉しい気持ちが溢れてきている。
皆の優しさもそうだけど、吉澤くんの『ずっと一緒にいましょうね』って言葉。
なんかさ、プロポーズとはきっと全然違うんだけど、ちょっと泣きそうになった。
車の中で少しだけキレてしまった自分を猛烈に反省。
後で謝っておかなきゃね。
「何ニヤニヤしてるのさ」
「矢口さん」
「んぁ、線香花火だ」
座っている砂浜はさっきよりも冷たくなくて、くっついていればもっと温かい。
三人でピタッとくっついて、アホみたいに騒ぐ男三人衆や道産子コンビと砂でお城を作っている
ののとあいぼんを見ながらちょっと語りあったり。
「ったく本当馬鹿だよねぇ」
「いちーちゃんの馬鹿は今に始まったことじゃないみたいだけどね」
一度濡れてしまってどうでもよくなったのか、吉澤くん達は海に足を入れて波の蹴りあいをしている。
風にあたっているだけでも肌寒いのに本当元気だ。
- 85 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/03(水) 13:00
- 「でも、あんなにはしゃぐ吉澤くんって初めて見るかも」
沢山の時間を一緒に過ごしてきて、それでもまだ知らない表情が沢山ある。
まだまだ時間が足りない感じ。
「ん〜よし子は昔からおとなしかったからねぇ。
梨華ちゃんに会ってからじゃないかな。あんな風になったの」
「人っつぅのは変わるもんなんだねぇ」
「ね〜、後藤もビックリだよ」
あ、また転んだ。
背中から海に沈む吉澤くんを見たのはこれで何回目だろう。
意外にどんくさいのかな。
まぁそんなのも可愛いっちゃ可愛いか。
「よし子も一応運動神経いいはずなんだけどなぁ」
「「そうなの?」」
「うん。体育の授業とかでも何となくな感じで色々こなしてたよ」
…ちょっと意外。
っていうかあんまし想像つかない。
あ、いや、うん、だって、ねぇ。
「でもやっぱり決まらない感じだったけどね」
- 86 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/03(水) 13:01
- ふにゃっと笑ってからごっちんが大きなあくびをした。
日の出まで後まだ数時間あるよね。
ちょっとこの時間は私の眠いかも。
「後藤車で寝てるね、日の出前に誰か起こして下さいな」
深々とおじぎをしてからごっちんは車に戻って行った。
ザパーンザパーンと波の音がして、ちょっと寒いけどその音がまた眠気を誘う。
う〜んでも寝たら皆を起こす人が…。
「なっち達もちょっと車で休んでくるわ」
ちょっと眠気と格闘していたら安倍さんと手を繋いだののとあいぼんが手を振ってきた。
こりゃもっと寝れない。
ついでに仕事終わりの矢口さんは隣ですでにこっくりこっくりしている。
だから車に戻る安倍さん達に矢口さんも一緒に連れて行ってもらった。
こんな所で寝たら風邪ひいちゃうもんね。
うん、やっぱり寝れないな。
頑張れ梨華!負けるな梨華!
一人自分応援をしてみて、ちょっと寒いことに気付いた。
で、誰も見てなくてちょっとだけよかったって思った。
いや、でも突っ込んで欲しかったかも。
よし、頑張れ梨華!負けるな梨華!めげるな梨華!
・・・やっぱりちょっと寒かった。
- 87 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/03(水) 13:02
-
* * * *
「ウチら絶対にこのままだと風邪ひくね」
「だね、まだ春にもなってないのにアホすぎだよ」
足を海に突っ込んで何でちょっと満足気だった僕らの頭にそれぞれ降ってきたタオル。
ぽふぽふぽふっと頭を三人それぞれ叩かれ、全員一斉に振り向いたら呆れた顔をしたカオリさんが立ってた。
「どうしたのこれ?」
「絶対にこういうことするおバカさん達がいると思って持ってきといたの」
こりゃこりゃどうもありがとうございます。
っていうか凄いですね、本当。
圭ちゃん、頭上がらんないでしょ。
「あれ?他の皆は?」
「石川以外は皆車で横になりに行ったよ。
ほら、早くボディーガードボディーガード。あんたの姫様も寝てるんだから」
- 88 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/03(水) 13:02
- カオリさんに背中を思いきり押された紗耶香は、ちょっと前につんのめりながらも素直に
車の方へ走って行った。
ごっちん絡みになると本当素直だ。
「ほら、吉澤も何ぼけっとしてるの。石川も一人なんだから早く行ってやんなさい」
でもって紗耶香と同じように背中をポフッと叩かれた僕。
カオリ姉さんにおまけにおケツまで叩かれて走らされる。
濡れたジーパンとかって走りにくいんだよなぁ。
そんなこと頭の隅でちょっと考えながらくるりと一瞬後ろを向いたら、
カオリさんが圭ちゃんの腕に自分の腕を絡めているところだった。
思わず笑ったのはニヤニヤしてじゃなくて、それがあまりにも自然で絵になってたから。
海の風がカオリさんの長い髪を乱すときっと隣で圭ちゃんは笑いながらそれを直してあげたりするんだろう。
きっとそれもあまりにも自然な絵で、僕はきっとまた笑ってしまう。
だからバレないようにしなきゃね。
きっと圭ちゃんは『何笑ってんのよ!!』とか言って追いかけてくるから。
その後は振り返らずに石川さんの方へ向かった。
- 89 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/03(水) 13:04
- 更新しました。
自分の中で賞味期限切れをおこしてします前に。
ズバッとズバッと。
- 90 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:49
- 「楽しそうだったね」
「びしょびしょですけどね」
くついたら石川さんまで濡れてしまうなぁと思って少しだけ距離を開けて体育座り。
風が吹く度にブルブル震えそうになるけど、バレないようになんとか我慢。
まぁ当たり前なんだけどこんな季節に海で転んで濡れるとかってありえないよね。
「結構寒いでしょ」
バレないようにとか考えてても、普通に考えると寒いだろうなんてバレてるワケで。
石川さんはずっと持っててくれた僕の上着を肩にかけてくれた。
抱きしめられていたおかげてホクホクしていた上着はちょっと石川さんの香がした。
圭ちゃんとカオリさんの姿はもう見えなくなっていた。
二人で散歩にでも行ったんだろう。
なんだかんだ言いながらもいつだって圭ちゃんはカオリさんを、カオリさんは圭ちゃんを大切にしている。
「いいよね、ああいうの」
「うん。何か、いいですよね」
- 91 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:50
- いつかあんな風になれるかな。
なれたらいいな。
なりたいな。
圭ちゃん達には恥ずかしくて言えないけど。
「…ックシュ!」
うわぁ・・・すげー突然くしゃみ出た。
鼻水は出なかったけど、ちょっと出そうになっちゃったよ。
「まだ夏じゃないんだから寒くて当たり前だよ。
月曜日仕事でしょ?風邪とかひいちゃったらどうするの」
「…すみません」
かっこわるー。
僕ってば最高にかっこわるー。
ちょっとしたお説教にヘボたれてた僕の上着が持ち上げられて、ピトッと石川さんがくっついてきた。
「僕濡れてるから冷たいですよ」
「知ってる」
「石川さんまで濡れますよ」
「知ってる」
- 92 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:51
- ギュッて握られた手は温かくて、僕の手なんて今握ったら冷えちゃうよと思っても離せない。
温かくなる僕の手とは反対にちょっと冷えてしまった石川さんの手。
同じくらいの体温になると少し冷たいくらいだ。
「日の出まで後どれくらいですかね」
「う〜ん2時間くらいかなぁ」
2時間手を繋いでおいたらどれくらい温かくなるんだろう。
ちょっと、試してみようかな。
痛くならない程度に握ってさ。
石川さんの肩からずれ落ちそうになる上着をもう一度かけ直して、ぴっちり治まるように
もうちょっとくっつく。
それでもまだ足りなくて、もうちょっとギュッてくっついてみた。
でも僕の右側と石川さんの左側がくっつけるには限界がある。
だから濡れた服の袖をまくりあげて上着の下から石川さんの細い腰に右手を回して、
空いた左手で石川さんの左手を握った。
これならもうちょっとギュッと出来る。
「冷たいですよね」
「うん」
「ごめんね」
「うん」
- 93 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:52
- きっと濡れた所もこうしたらもっと早く乾くだろう。
自分の体温と、石川さんの体温で。
悪いなぁと思ってみても、もっとくっついていたいんだよね。
だから今だけごめんなさい。
「夜ってさ」
「ん?」
「不思議だよね」
『何か素直になれちゃう』そう言いながら空を見つめた石川さんの横顔はすごく綺麗で、
惹き付けられるように僕は近付いてしまう。
呼んで振り向かせて唇を重ねる。
お互いに冷えてるから冷たいけど、少しだけ驚いた顔が笑顔に変わる瞬間、温かい幸せに包まれる。
夜はやっぱり不思議だ。
周りに誰もいないとはいえ、ここは外だったりするワケで。
こんな風にくっついているのも、こんな風にキスをするのも普段の僕からは考えられないことで。
夜の不思議っていう言葉で隠してしまえば僕のこの気持ちは隠れてしまうだろうけど、
夜の不思議っていう言葉を借りて素直になれる。
「…ごめんね」
「何が?」
「紗耶香とかから聞いたんです。車の中でのこと」
- 94 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:53
- 石川さんは何か言いかけようとして口を開いて、その後すぐに口を閉じた。
暗闇の中で、少しだけ頬に色がついたような気がした。
「何か、ちょっとまだ怖かったんですよね」
ヘタレでごめんなさい。
鈍感でごめんなさい。
謝ること多すぎてごめんなさい。
「でも、あのぉ、そういうことがしたくないとかそんなじゃ全然なくて…」
照れとかそういうモノは伝染するんだろうか。
サラリと言ってしまえればもっときっと伝わるんだろうけど、どうにもこうにもゴニョゴニョゴニョ
「うん…こっちこそごめんね」
謝ることじゃないことを、石川さんは謝る。
それはきっと僕の中じゃ謝らなくてもいいことでも、石川さんの中じゃ謝らなきゃいけないことだったんだろう。
だから素直に受け取っておいた。
- 95 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:54
- 「僕、何か鈍感だしヘタレだから察してあげることとかあの、苦手なんですけど…」
言ってて凹むけどこれってば事実。
直さなきゃなぁと思いつつもなかなか直らない。
でも、伝えなきゃいけなことっていうのはまだまだあって、これからもきっと増えてくる。
だから、伝えなきゃいけない。
伝えたいから。
「もっと、言って下さい。僕ももっと言うようにしますから」
良い子でいようとか思わないで、なんていうか、もっとこう素な感じ?
いや、僕は結構素を出しているつもりなんだけど、敬語がどうにも抜けないんですよ。
あ、信じてないですね?
じゃぁどうやったら信じてくれます?
「もっとさ、一緒にいよう」
『今以上、もっともっと』
肩に感じた重みと、潮の香と石川さんの香。
人を好きになるっていうのがどんな事なのかわからなかった時、今を想像することも出来なかった。
『お互いがお互いを必要として、そうやって生きていけたら』
いつか読んだ本に書かれていた言葉は、その文字よりも大きくなって僕の心に根をはっていた。
- 96 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:55
- 石川さんがいない生活なんてもう想像も出来ない。
想像する未来にいつでもいてくれて、いつもそこで僕といる。
こんなことを思えて、一緒にいれるっていうのはすごく幸せなこと。
ありがとうとも違うけど、もっともっとよろしくね。
足りないなぁ、まだまだきっと。
贅沢なモンだよね、本当。
欲がつきない。
「もう眠いですか?」
「うん、でもまだ起きてる」
それから少し二人して話していたけど、途中からぼんやりと二人して星を見てたらいつの間にか
石川さんは僕の胸らへんに頭をくっつけて眠ってしまった。
仕事だったんだよね、今日。
疲れてたんだよね。
頑張り屋さんなこの人は、きっと朝日が昇る寸前まで起きているつもりだったんだろう。
それは僕が引き継ぐよ。
だからもうちょい寝てな。
- 97 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:56
- 空の色が変わりそうになる前に、圭ちゃんとカオリさんは腕を組んで戻って来た。
隣でぐっすり眠る石川さんの幸せそうな寝顔はばっちり二人に見られて、
代わりに幸せそうな二人の顔をばっちり見ておいた。
ちょっと見られたのは恥ずかしいけど、重ねた手も回した腕も退けたくなかったんだ。
きっともうすぐ朝日が昇る。
圭ちゃんとカオリさんが皆を起こしに行ってくれてる間に石川さんを起こしてあげよう。
そして一番におはようって言おう。
きっと、今なら簡単にできるはずだから。
- 98 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:57
-
* * * *
カオリと圭ちゃんが戻ると、もう全員が目を覚ましていた。
ずっと起きていた紗耶香が起こしておいてくれたようだ。
「起きてるなら向こう行ってればよかったのに」
圭ちゃんの言葉に全員が一瞬固まって、その後全員が気持ち悪いくらにニヤッと笑った。
カオリでもわかるよ、そんくらい。
っていうかさ、圭ちゃんも人が悪いよね。
わざと吉澤達の方通ってこっち来るんだもん。
「んぁ〜あんな後ろ姿みちゃったらねぇ」
「なっち達もそりゃねぇ」
「気使うよねぇ」
嘘だ!と言いたくなる程ニヤ気顔。
でもきっとカオリもニヤニヤしてると思う。
あの二人のくっついてる姿は滅多に見れないし、見たら見たで何か微笑ましいんだけど、
思わずニヤニヤしちゃうんだよね。
- 99 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:57
- 「まぁでももうそろそろ行った方がいいんじゃない?
あんまし遅く行くと吉澤達も気使うと思うし」
圭ちゃんの言葉に全員が頷いて、ニヤニヤをこらえながら海へと向かって行った。
さっきまで肩を並べていた二人は、立ち上がってこっちの方を見ていた。
きっと待ってたんだろう。
その後、全員横一列になって朝日が昇るのを見た。
そして一番端の紗耶香が『海最高ー!』と叫んだのをきっかけに次々と皆が大声を上げ始めた。
それは『んぁ〜』だったり『また来るっしょ〜!』だったり『横浜だ〜!』だったり
『ホルモンと軟骨だー!』だったり『ずっと一緒やで〜!』だったり『のんすと〜っぷ!』だったり。
カオリの隣は吉澤で、その隣だったから絶好球を投げてあげようと思った。
「皆も圭ちゃんも愛してるよー!」
朝日が眩しかった。
すごく。
でもね、皆の笑った顔はよく見えた。
- 100 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:58
- 吉澤に視線で『言ってやれ』って合図したら、ちょっとハの字眉毛になったけど、
でも大きく息を吸って『皆大好きだー!』って叫んだ。
皆はね、ちょっと拍子抜けしたような顔してたけど、カオリはちゃんと見てたよ。
吉澤と石川が手を握りあってたの。
でね、最後に石川が言ったんだ。
「ハッピー!」
って。
固まった空気の後、皆が石川に『キショッ!』って言った時にはもう太陽は海の中から出てきてた。
駄目だ、カオリ笑いすぎてお腹痛くなっちゃった。
石川、多分すごく合ってるけどすごく間違ってるよ。
海がキラキラ輝いていた。
皆がキラキラ輝いてた。
もっと繋ぐ手が増えたらいいなって、カオリ思ったんだ。
- 101 名前:OH! BE MY FRIEND 投稿日:2004/03/04(木) 18:59
-
* * * *
「吉澤くん」
石川さんを家まで送ってそのまま帰ろうとした時、振り向きざま石川さんが言った。
「ずっと一緒にいようね」
今日もいい天気が続きそうだ。
寝不足の目に太陽はちょっと痛かったけど、僕に新たな思いを運んでくれた。
- 102 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/04(木) 19:00
- 更新しました。
『OH! BE MY FRIEND』はこれでおしまいです。
- 103 名前:SINKI 投稿日:2004/03/05(金) 14:25
- 更新、お疲れ様です。
ちょっと見ない間にこんなに更新してあってびっくりしました。
繋ぐ手が全員に回ったら圭織は喜ぶでしょうね。
でもさやかは誰にもつながさせないっていいはりそう(笑)
現実世界の本人たちはいろいろありますが、
マターリしつつ微笑む人間関係が大好きです
- 104 名前:名無し丸の介 投稿日:2004/03/06(土) 02:21
- こんばんわ。こちらに書きこみは初めてで…嗚呼ドキドキ(何)
自分が誰かは言わないでおきましょ…(ぉ/そちらのサイトさんのほうにもあまり書き越してないROMな奴ですけど/ぉ)
遅くなりましたが、新スレおめでとう御座います。
これからのいしよしがどうなるのかとても楽しみです。
車の中の事もとてもやっぱ個性的で面白かったです。
これからも頑張って下さい〜
- 105 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:00
- 「ふふふ〜んふふ〜ん」
私って結構単純かも。
そんな風に思う午後7時過ぎ。
今日は久々にヨシザワくんがここまで来てくれるんだよねぇ。
あ、ここっていうのは、私が働いてる所ね。
商品を整理しながら鼻歌唄ってみたり、ちょっと小躍してみたり。
何だかんだで忙しいんだよねぇ、特にヨシザワくんとはなかなか会えないし。
だからこうやって会えるのが久々で嬉しいのさ。
「ふっるふ〜んふふ〜ん」
ちょっと外れてるとか言われる鼻歌も絶好調。
たったかブーツを鳴らしてみたり、ともかく浮かれ状態だ。
でもそれはちゃんとお客さんがいない時だよ。
入り口のカランカランって音が鳴ったらちゃんと止めるもん。
「いらっしゃいませ」
- 106 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:00
- こんな風にね。
音楽やってる人なのかな?ギターか何かかついでる人と、もう1人は・・・
・・・何だかすごく似てる人知ってるかも。
はっ!こんなお客さまウォッチングなんてしてちゃダメじゃない私。
いかんいかん、浮かれモードが長引きすぎちゃった。
お仕事お仕事と心の中で呟いて、カウンターの中へひとまず退散。
お店はあんまり大きくないから私1人立っても商品見ずらくなっちゃうもんね。
商品の整理をしてたら奥から涙目でダンボールを抱えたカオリさん登場。
ん?カオリさん、そんな大きなダンボール抱えてどうしたんですか?
っていうかそのまま歩くと・・・
「アイタッ!」
・・・ぶつかりますよ。
ってもう遅いか。
涙目で痛がっているカオリさん。
きっとこの場にヤスダさんがいたら苦笑い浮かべながらさすってあげたりするんだろぉなぁ。
- 107 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:01
-
* * * *
うぅ…これは痛いよぉ…。
一瞬ケイちゃんの笑ってる顔が出てきた気がしたの、気のせいだよね…。
気のせいじゃなかったら今日の夜のお酒は取り上げちゃおう。
今日は本当にいい天気。
こんな日は何となくいいコト起こりそうな気がする。
って思ってたんだけどなぁ…こんの思いきり額ぶつけたのって久しぶりだよぉ。
そだ、ケイちゃん、お布団干してくれたかな。
『起きたら干しといてね』って置き手紙してきたんだけど。
考えることが散らばってる状態。
こんな時に交信してるとか言われてるのかなぁ・・・。
そんなつもりないのにぃ。
「大丈夫っすか?」
色々考えてたら、女の子のお客さんに声をかけられた。
「ああ、ハイ。スミマセン…大丈、夫…」
・・・次は、違う意味で固まったよ。
つーか。
ヨシザワ、背、縮んだ?
いや、そこじゃないか。
なんか急に女らしくなったんじゃ…。
いや、そこでもないか。
- 108 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:02
- とにかく。
その女の子は。
カオリの知ってる男にそっくりだった―――。
なんとも恥ずかしいところを見られたので、カオリはそそくさと違う棚に移動し、商品整理を始めた。
合間に、さり気にさっきの子を再確認したりして。
一度似てると思っちゃうとどんどんと似て見えてきちゃうんだよねぇ。
不思議、本当不思議。
『この人とこの人、そっくりだよね』
なんて言われたらきっとカオリは素直に頷いちゃう気がする。
えぇ、似てないよぉとか言うかもしれないけど、周りが『似てる似てる似てる』
って言ったらだんだんそう見えてきちゃうんだろぉな。
今回はそんなのなくて、誰が何を言ったワケじゃないけどすごく似てた。
こりゃビックリだ。
「あの、カオリさん」
ちょいちょいっと小さく手で呼ばれたてレジに向かうと、イシカワにこそっと耳打ちされた。
「あのお客さん、ヤスダさんに似てません?」
「ケイちゃん?」
カオリは壁の絵を見上げてる女性のお客さんを、そっと横顔が見れる位置まで動いて確認してみた。
・・・確かに、そっくり。
「ほんと…ケイちゃんが女だったらあんな感じだろうね」
っていうかカオリさっきから何か動き怪しい気がする。
こんな店長なんていいのかしら。
そんなことを思いつつ、脳裏に『女装した夫』の画像を思い浮かべてみた。
・・・ちょっとおかしいので即終了。
見てみたいけど…見てみたいけど……夢に出てきそう。
- 109 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:02
- あの絵を見上げてる人は普通に女性だろう。
横顔や体の線、黒いストッキングに包まれた足も女性のそれだった。
ケイちゃんは、なんて言うか最近ちょっとお腹のお肉気にしてるみたいだけど、
もうちょっと体のラインとかが男の人って感じ。
カオリは気にするくらいならお酒控えればいいのにって思ってるんだけどね。
「さっきアクセサリーを買われたんですけど、なんていうか、ちょっとした仕草とかも似てました」
「マジで?」
イヤだわ、あの人も軟骨好きだったりするのかな。
そんでもって、晩酌にはビールを欠かさないとか。
それでまたお風呂場とかでお腹触ってみたりとか。
・・・ハァ、そんなこたぁないか。
きっと、普通に可愛らしい女の子だろう、うん。
お店から出ていく二人の後ろ姿をイシカワと二人で見送った後、やっぱり似てるねぇなんて頷きあった。
そしてカオリは、ヨシザワの女装もちょっと見てみたいとか頭の片隅で思ったりした。
イシカワには言わなかったけどね。
きっとケイちゃんよりも似合うと思うな。
- 110 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:04
- カオリは家に帰って今日の出来事をケイちゃんに話してみた。
眼鏡をかけてるケイちゃんに、眼鏡をかけていないヨシザワにそっくりな女の子の
話をしたら『へえ』と素直に感心してた。
『ちょっと見てみたいかもね』
なんて言ってたし。
きっと驚くよ、ケイちゃん。
カオリ以上に驚くと思う。
何となくだけど。
で、女版ケイちゃんのネタふってみた。
こんなにもずっと一緒にいるカオリが似てるって思った女の子ケイちゃんのこと。
男の子ケイちゃんはビール飲みながら目を見開いてる。
あ、軟骨もらい。
「俺にそっくりな女の子?」
「そう。ほんと、ケイちゃんが女装してるのかと思った」
「私が女装したらちょっとすごいわよ?」
ケイちゃんはニヤリと笑う。
しかもオカマ言葉で。
「いやー、見たいような見たくないような」
- 111 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:04
- ほら、夢に出てきそうじゃん。
良い夢?
悪い夢?
ははっ、どっちでしょうぉねぇ。
「失礼ねー。ホラ、見てよ!この脚線美!」
ケイちゃんはセクシーなポーズまで決めちゃってくれながら、ジャージの裾をまくって自分の足を見せてきた。
ノット脱毛。
でも体毛の薄いケイちゃんの足、確かに綺麗だったりするんだけど・・・
「カオリも負けないもん!」
ほら、見てよ見て。
絶対カオリの方が綺麗だって。
いやー、まあ、それはさて置き。
またいつか会うかもな、あの二人に。
カオリ、そんな気がしたんだ。
結構当たるんだよね、こういうの。
そしてその日は結構あっさりと訪れた。
- 112 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:05
- 今日はケイちゃんと久しぶりにデート。
やっぱり結婚してもこんな風に外でデートしたい。
だから寝癖頭でホゲホゲしているケイちゃんを無理矢理起こして外に連れ出したんだ。
「カオリ〜俺腹減ったぁ」
「じゃぁあそこの喫茶店入ろう」
朝御飯も食べずに連れ出しちゃたからなぁ。
カオリもちょっとお腹空いてる。
『喫茶・タンポポ』
そう看板に書かれたお店にカオリ達は入って行った。
何かね、可愛い感じがしたお店。
「いらっしゃいませ」
聞こえてきたのは元気な声。
それもカオリもよく知ってる声で・・・
「・・・おぅ?や、矢口?」
- 113 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:06
- すごく似ている人を知ってたりする。
ちょっと、ケイちゃん思ったことすぐ口に出さないでよ!
カオリだって我慢してるのに。
「あぁ、えぇっと・・・AセットとBセット、両方コーヒーでお願いします」
カウンターでいきなり質問された、カオリの知ってる矢口そっくりなお姉さんは、軽く固まってたりしてた。
そりゃそうだよね。ほら、ケイちゃん後でちゃんと謝ってよ。
でも、この間のケイちゃんとヨシザワとそっくりな人と同じくらい矢口そっくり。
きっとカオリの知ってる矢口がもうちょい若い時はあんなだったのかもって思う。
「何か、最近そっくりさんの出会いって多いよね」
「みたいだね。俺は初めてだけど」
ケイちゃんはまだカウンターの奥の方をチラチラと見ている。
だよねぇ、見ちゃうっていうのが心理ってやつだよねぇ。
「おまたせしました」
・・・背の高さまでそっくりだ。
すごいよ、これすごいよ。
料理を運んできてくれたお姉さん見つめて思わずカオリも固まっちゃったよ。
- 114 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:07
- 「あのぉ・・・」
「あ、ご、ごめんなさい。すごく知り合いにそっくりだったもので」
あわあわしながら謝ったら、喫茶店のお姉さんはちょっと驚きながらも笑いながら
『いや〜オイラもそっくりな人知ってるんですよ』なんて言って。
いや〜世界には自分に似ている人が3人だっけ?そんくらいいるって言うけど本当なんだね。
びっくりびっくり。
すごい偶然の重なりあいに驚きつつ、感動なんてしていたらカランカランと入り口の方で音が鳴った。
ここ、人気あるお店なんだ。
でも納得だな。
料理おいしいし、コーヒーもおいしいし。
何か聞き慣れた声を遠くでもない近くで聞きつつ、ケイちゃんと運んで来てもらった
食事を食べていたら、服をバンバン叩く音がすぐ近くで聞こえた。
- 115 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:08
- 「「あ」」
カオリ、また驚いちゃったよ。
交信じゃないからね、交信じゃないけど固まっちゃった。
女の子なケイちゃんと、カオリみたいな女の人。
あぁっと、えぇっと、カオリ、双児の姉妹なんかいたっけ?
って、ケイちゃんも妹さんなんていなかったよね。
あれ?
ん?
・・・世の中には不思議なことが沢山あるんだね。
- 116 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:10
-
* * * *
あぁ、こりゃすごい。
カオリに聞いた時はそんな想像も出来なかったけど、俺そっくり
ってか今カオリと話てるカオリさんもカオリそっくり。
名前まで同じなんて凄すぎだよ。
はぁこりゃすごいねぇ、長生きするもんだ。
「やっぱし軟骨と白子は外せないですよね」
「ですよね、やっぱし外せないというより外すことが犯罪みたいな」
趣味とか好みまで見事同じで驚くよりもおもしろい。
やっぱし絵とかも俺くらいに芸術的だったりするのかな。
・・・こんなおもしろいことをカオリと二人だけで楽しむなんてもったいないよね。
現大文明の武器、携帯。
ほほっ、すばらしき愛のメールを送ってやらなきゃ。
「ちょっと失礼」
- 117 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:10
- カオリにこの素晴らしき思いつきをメールで送って、目で答えをもらう。
だよね、やっぱし楽しみは共有しなきゃいけないよな。
ピピピピッとメールを打って送信送信。
おまたせしました。
あ、そだ、今度一緒に飲みに行きましょうよ。
うん、よければ皆誘って。
「よく飲むんですか、そちらのケイちゃんも」
「そうなのよ、ダイエットがはかどらないって本人言ってんだけどね」
あのぉ、俺、結構気にしてるんだけど・・・いや、あの、はい。
ごめんなさい。
「でも仕事終わった後に飲むビールって旨いんだよなぁ・・・」
「わかります、わかりますよ・・・」
こんな俺らの会話を聞いて、目の前でカオリとカオリさんが苦笑いを浮かべていた。
はぁ、しかし本当似てるな。
- 118 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:11
-
* * * *
「タンポポ、タンポポ…ここですね」
ヨシザワくんはズレた眼鏡を直し、看板を手で示した。
今日、私達はたまには電車に乗ってぶらぶら散歩でもしに行こうと、いつもよりちょっと
早めに待ち合わせて一緒にいた。
で、これから何処に行こうかななんて無計画丸出しの会話をしていたところにヤスダさんから
『今すぐふたりでいらっしゃい!来ないとアンタたちの恥ずかしい秘密を…グフフ』
なんていうメールがきたもんだから、ヨシザワくんと慌ててやって来たんだ。
っていうか私達の恥ずかしい秘密って・・・いや、それってどんな秘密・・・。
「僕ら、何か恥ずかしい秘密ってありましたっけ?」
「…わかんない」
でもきっとヤスダさんはとんでもない秘密、握ってるんだろうな。
あぁ、考えたら何か背中に寒気が・・・・早く入ろう。
ヨシザワくん、早く中に入ろう。
- 119 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:12
- カランカラン。
ドアのベルを鳴らして入っていく。
「来たわね!」
そして私達を出迎えたのはオカマ言葉のヤスダさんと、片手を上げるカオリさん。
「よ、吉澤!?」
・・・オカマ言葉でない、フツーに女の人のヤスダさんのような人と。
「いしか、わ…?」
カオリさんのコピー、いや、生き写しのような人だった…。
・・・私達、この前もこんな感じのような不思議偶然にあった・・・よね?
同意を求めようと思ったら、ヨシザワくんは隣で口をあんぐりと開けて固まっていた。
あぁ眼鏡ズレてる、ズレてるよ。
固まっているヨシザワくんからもう一度同じように驚いた表情をしている目の前のお姉様方へ視線を移す。
ん?あの女の人のヤスダさんみたいな人って・・・
「あ、この前の―――!いつかうちに来てくださったお客さんですよね!?」
そうだ、絶対そうだ。
忘れるはずないもん!だってヤスダさんそっくりだったんだもん!!
「ど、どうも。その節は…」
- 120 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:14
- あぁやっぱしそうだ!
すごい、すごいこの偶然!!
ねぇヨシザワくん凄いってば!!
軽い興奮状態ってヤツのままグイグイ服を掴んで引っ張った。
「…ケイちゃん、妹さんいたの?カオリさんも双子のご姉妹が…」
「いや。つーか、俺らは単なるそっくりさん」
「いやー、カオリもびっくりしたっしょ」
ヨシザワくんは興奮状態っていうよりは、まだ呆然としてる感じ。
妙な余裕を持っているのはヤスダさんとカオリさんの二人だけ。
あ、でも私もちょっと落ち着いてきたかも。
「…なんか、あちらの店員さんもどこかで見かけた気が」
ヨシザワくんの動いた視線を動かすと、これまたビックリだよ。
落ち着いてきたけどビックリするもんはビックリする。
だってヤグチさんがいたんだもん。
いや、あのヤグチさんっていうか、ヤグチさんそっくりな店員さんがいたんだもん。
「あ、やっぱり?」
ヤスダさんの笑いを含んだ声がスコーンと通り抜けた感じがした。
- 121 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:15
-
* * * *
こ、これは一体・・・。
自己紹介をしてわかった事だけど、そっくりさんは名前まで同じで全てがそっくりさん。
ダブルカオリさんとダブルケイちゃん。
店員さんは矢口さんで矢口さんだし・・・あぁ待ってまだ混乱してるかも。
僕以外の人達はこのすごい組み合わせの環境にさっそく慣れ始めていて楽しみ始めている。
ちょっと離れた所から見ているとすごい光景。
中学校の時に双児だった人が学年に3組みくらいいたけど、その人達が全員集まった感じだもん。
「そういやさ、カオリ前ヨシザワにそっくりな子見たって言ってなかったっけ?」
「うん。保田さんと一緒にいた子がね、そっくりだったの」
「あ、うんうん、アイツも吉澤って言うんですよ」
「圭ちゃんが言ってた石川にそっくりな子ってこの子のことだったんだ」
- 122 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:15
- ・・・か、会話が。
会話がおかしい。
いや、おかしいんじゃないけどおかしな感じに聞こえるんだ。
「やっぱし…呼び出すしかないよね?」
すいすい進む会話の流れに乗って、女の人の保田さんの方がニヤリと笑って携帯を持ち上げた。
皆が頷いてる。
隣で石川さんまで頷いている。
だから僕もつられて首を縦に振った。
ちょっと、会ってみたいっていうのもあったんだよ。
皆が頷いたのを見ながら保田さんが通話ボタンを押した。
『来ないと熱い夜を強制的に味わわせるわよッ』
携帯を耳に当てて保田さんの言った言葉は、何処かの誰かが言うセリフにそっくりだった。
絶対兄妹って言っても通じますよ。
何だか怖いくらいに似てますもん。
- 123 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:16
- しばらくすると、本当に急いで来たんだろう、息を切らしながら二人の女の子が店に駆け込んできた。
まぁこの流れから言うとすごく予想が出来るんだけど、だから覚悟してたんだけど、やっぱし、驚くワケで。
「ちょっと、アンタら必死すぎよ!」
「あんな電話もらったら必死になるッスよ」
膝に手をついて肩で息をしている人は、多分、名前が吉澤さん。
「み、水…矢口さん、お水下さい」
石川さんと同じようにピンクを着ているこの女の人が、きっと予想だけど、石川さん。
っていうか、絶対そうな気がする。
えぇっと、こんな時はどう挨拶するべきなんだろう?
やっぱり『はじめまして』
それとも『こんにちは』
う〜ん、まずはやっぱりこっちだよね。
「は、はは、はじめまして」
きっとさっきの僕らのように驚いているんだろう。
目の前の二人は目を見開いている。
でもって、僕の見事な噛みっぷりに周りの皆は爆笑。
あぁもう何でこう決まらないんだよぉ・・・
- 124 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:17
-
* * * *
「じゃぁイシカワさんが保田さんの言ってたイシカワさんだったんスか」
「多分、そのイシカワさんだと思うよ」
ヨシザワくんの見事な噛みっぷりでひとしきり笑った後、また簡単に自己紹介をした。
これって営業妨害じゃないよね?なんて考えながらも話し出すと同じようなところが結構出てきて
おもしろいおもしろい。
テレビで見たモノマネ紅白歌合戦で、本人登場じゃないけど、同じような人がいてビックリみたいな。
それのスペシャルバージョンみたいな。
もちろん、よく見ると微妙に違ったりはするんだけどね。
私と同じ名前の石川さんを並べて見て『カッケ−』とか叫んでいた吉澤さんは、
本当にヨシザワくんを女の子にしたような子だった。
多分、ヨシザワくんの眼鏡取ったらもっと似てるんだろう。
すごいなぁ、本当最近はそっくりな人によく会うよ。
「ヨシザワ〜ちょっと眼鏡取ってみてよぉ」
- 125 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:18
- そして私が頭の中で思っていたことを口にしたのは男の方の保田さん。
肘をテーブルにつけてニヤニヤしている。
そして皆もその言葉通り、ヨシザワくんが眼鏡外すのを期待しているみたいだ。
もちろん、私もちょっと期待してたりするんだけど。
「べ、別に取らなくたっていいじゃないですか」
「ケチケチすんなよぉ、いいじゃん。ほら、イシカワも楽しみにしてるみたいだしさ」
チラッと送られた視線に期待を込めて頷いてみる。
大丈夫だよ、取っちゃえ取っちゃえ。
って言うよりも取って。
「…イシカワさん、目が輝きすぎです」
「何照れてんのさ。なんだ?ひょっとしてヨシザワが吉澤さんに惚れそうとか?」
「な、な、何言ってるんですか!!」
「吉澤とヨシザワくんのカップルかぁ…いや、それもおもしろいかも」
「保田さん…何言ってるんすか」
同じような顔した二人が同じような顔して項垂れてて、私の隣では私と同じような顔をしている
石川さんが私と同じように苦笑いを浮かべている。
- 126 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:19
- 「ひょっとして、そちらの吉澤さんもヘタレ気味だったりします?」
「あ、ひょっとしてそちらのヨシザワさんもですか?」
お互いに連れがヘタレとか・・・。
結構苦労してたんじゃないですか?
あ、やっぱり。
「ケイちゃん、最近体だけじゃんくて言うことまでオヤジっぽくなってきたよね…」
カオリさんの呟きはフワフワと浮いてヤスダさんの口の中に吸い込まれ行った。
そっか、ヤスダさんは最近体もオヤジっぽくなっちゃったんだ。
そっかそっか、ヨシザワくんにはそうならないように気をつけてもらわなきゃ。
「ほら、ヨシザワくん、パーッと眼鏡取っちゃいなって」
私、眼鏡取ったヨシザワくんの顔好きなんだよ。
だから今日はサービスサービス。
取らないなら私が取る。
大丈夫だって、そんな隠さなくたって。
- 127 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:20
- ポんッと背中を叩いてあげるよ。
ね、何なら今日は良く頑張ったね賞でもあげるから。
「イシカワも大変だねぇ」
「将来ヨシザワは尻に敷かれるタイプだな」
ガハガハ笑いあってるダブルカオリさんとダブル保田さん。
聞こえてます。
聞こえまくりです。
・・・恥ずかしいなぁ。
「やっぱり、似てるんですね」
石川さん、お互いに頑張りましょうね。
そして諦めたようにため息をついてヨシザワくんが眼鏡を取った。
そうだよ、絶対逃げれないもん、正解だよ。
しかし・・・しかし・・・
- 128 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/06(土) 22:21
- 「「「「「「「おぉ…」」」」」」」
見事に重なった7人の驚きの声。
こりゃ、すごい。
確かに男の人と女の人だしちょっと違うんだけど、でもかなり似てる。
きっとヨシザワくんが女の子だったらこんな感じで、
きっと吉澤さんが男の子だったらこんな感じ。
ヨシザワくんの双児の妹って言っても通じるんじゃないかな。
あ、でもそんなこと言うと麻琴がやきもち妬いちゃうか。
「…似てるんですかね」
「…似てるんスよね」
「「似てるよ」」
多分、私達も同じくらい。
そして皆があまりにもジロジロ見るもんだから困ったヨシザワくんと吉澤さんが同じようなタイミングで
困ったような顔したからもう皆大爆笑。
あぁ、お腹痛い。
今の反則だよ。
- 129 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/06(土) 22:25
- 更新しました。
短編な感じで。
『もくまおう』はもう1回です。
でもって続きは明日にでも。
ちなみにタイトルの曲はcoccoです。
えぇっと、とりあえず見守ってやってて下さい(w
>SINKI 様
自分の中で書いたモノが賞味期限切れを起こしてしまうような
気がしたもんで、結構連続で更新しました。
仲間がだんだんと増えてきました。
そして私が書ききれなくなりました(苦笑)
>でもさやかは誰にもつながさせないっていいはりそう(笑)
ヽ^∀^ノ<あたりまえじゃん!
正解みたいです(w
>名無し丸の介 様
こちらでははじめまして。
誰だかすごくよくわかるわけですが(w
ありがとうございます。
マターリないしよしですが、今までよりは多分スピードアップ
して進んで行くと思います。
( `.∀´)<あまぎ〜ご〜え〜〜〜〜〜〜〜〜♪
車の中は魅惑の世界です(w
- 130 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/06(土) 23:17
- なんかこの喫茶店、すっげー覚えがあるのですが…(w
この冒頭とかに出てくるやすよしコンビとかも。
…明日を楽しみにしてます。
- 131 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/07(日) 19:28
- ベベベベー…グハッ(吐血。
更新楽しみにしてます。
- 132 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:00
-
* * * *
その後、僕らは河原へと場所を移した。
あまりにも長くいると営業妨害になっちゃうしね。
今はそっくりさん同士、会話に花を咲かせている。
僕も僕と顔のそっくりな女の吉澤さんと並んで堤防に腰をおろした。
よく晴れた日。
フワフワと吹く風が気持ちのいい日だ。
「背、高いですね」
人見知りをするってワケじゃないけど、あまり初めて会った人と話すことに慣れていない僕は、
移動途中に気付いたことを口にした。
言葉を探してたワケじゃないけど、話すキッカケってヤツ。
「あ、ハイ。165、くらいかな」
女の人だったら結構高い方なんだろうなぁ。
僕の知り合いでもそれくらい背が高い人ってカオリさんくらいしかいないし。
それに、持っているのはギターかなんかな?
- 133 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:00
- 「僕は183かな。…それ、ギターですか」
「あ、ベースっす。バンドやってるんで」
背が高くてカッコ可愛いバンドマン。
こりゃモテそうだ。
「カッコいいな」
素直な感想。
きっと似ているけど僕にはないようなモノを沢山持っているんだろう。
うん、なんかそんな感じする。
話しやすいし、多分、僕程口下手でもない。
「何か皆も盛り上がってるみたいですね」
「やっぱ似た者同士って気があうんスかねぇ」
ポケラぽけらと雲が進んで、ポケラぽけらと言葉が出てくる。
吉澤さんはなかなか話しやすい人で、ぺちゃくちゃ喋るっていうワケじゃないけど、
そんな悩んで言葉を探すっていうことをしないでも、僕の口からは言葉が不思議と出てきた。
きっと、こういうのも吉澤さんの魅力なのかもしれないな。
- 134 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:01
- しばらく吉澤さんと話していたら、イシカワさん達がこっちにやってきた。
何だかその顔はすんごくキラキラとしていて、そのキラキラは可愛いモノを見つけた時のような輝きに似ている。
どうしたんだろう?どんな会話をしてたんだろう?
そんな風に思う程の輝き具合。
「やだー、カワイイー!」
ぱたぱたと走ってきて、僕の隣に座っている吉澤さんの顔をのぞきこむ。
っていうか近いから、近いからイシカワさん。
ほら、吉澤さん後ろにのけぞってるじゃん。
珍しくはっちゃけているイシカワさん。
きっと自分と同じような趣味の人と会えて話せたからなんだろうな。
いつもよりもテンションが高い。
でもさ、やっぱり近いと思うワケよ。
あの、ほら、やきもちとかじゃなくてね、うん。
僕の後ろに立っている石川さんもそんな二人の様子をちょっと困ったように笑いながら見ている。
「ヨシザワくんが女装したらこの吉澤さんみたいになるのかな」
いや、ちょっと待って下さい。
何言ってるんですか。
「…勘弁してくださいよ、イシカワさん」
- 135 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:03
- ほら、これでも一応僕男なんですよ。
きっとキショッて思いますよ。
うん、だからほら、そんなキラキラしないで下さい。
期待を込めた目で僕を見ないで下さい。
情けない顔をした僕と、まだ後ろにのけぞってる吉澤さんと、僕と吉澤さんの顔を交互に
見ているイシカワさんを、やっぱり後ろに立ってる石川さんはちょっと困ったように笑いながら見ていた。
- 136 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:05
-
* * * *
「いやー、まさか自分に似た女の子と出会うとはねー」
何か、今だに信じられない感じなんだよな。
違う空間に迷い込んだようなそんな気分。
趣味も似てるし好物も似てる。
そしてきっと、大事な人も似てるんだろうな。
「あのカオリちゃんはキミのカノジョ?」
「あ、ハイ」
何処までも似てるな、本当。
不思議なくらいに。
「そっか。あ、うちのカオリもそーゆーの全然気にしないから」
好きな人が好き。
これってさ、すごい普通なことだと思うんだよね。
だからさ、こう気にする気にしないっていう言葉を使わなきゃいけない世の中はまだ悲しい気がする。
きっと俺が女だったとしても、きっと同じような出会い方をして、同じような時間の過ごし方を
していたらカオリのことを好きになる。
そう、思う。
- 137 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:07
- 「いい、奥さんなんですね」
保田さんの言葉を聞きながら煙草をくわえた。
本当いい妻だよ。
「だから結婚したの」
「というか、どうしてアタシとカオリが、って分かったんですか」
まぁ、ごもっともな質問か。
何も言ってないんだもんね。
んだなぁなんて言えばいいのかな…
「ん〜?なんでだろうねえ。トモダチにしてはアレだし、それはやっぱ」
分かる人は分かると思うよ。
例えば俺とかね。
あとはカオリとか。
ってかあっちにいるヤツラも分かってるかもね。
「俺ら女のシュミ似てんのかね、そっくりなだけあって」
今までカオリ以外に付き合ったことのない俺には他の人との恋愛ってよくわかんないけど、
きっと好きになった人っていうのは似てるのかもね。
くわえていた煙草に火をつけた。
穏やかに吹く風に流されて煙りが後ろへと流れていく。
- 138 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:07
- 「アタシ」
「うん?」
「カオリと結婚しようと思うんです」
「そう」
「法的に夫婦にはなれないでしょうけど、カオリもそれでいいって言ってくれてるんです」
保田さんの声には、心地の良い力強さがこもっていた。
うん、いいと思うよ。
「若いのに、偉いな」
俺なんて保田さんくらいの年の時にはそんな声出せなかったよ。
『アタシには、あの子しかいませんから』そう言って笑った保田さんの言葉はまるで自分の言葉みたいだ。
カオリがカオリだったから。
カオリだから。
ずっと側にいて欲しい。
俺にも、カオリしかいない。
「俺らやっぱシュミ似てんのね」
吹く風がいつもよりも優しく感じた。
- 139 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:10
-
* * * *
カオリとカオリちゃんはケイちゃんと圭ちゃんのことについて語りあっていた。
カオリ達の後ろで喋っていたケイちゃん達もきっとカオリ達のこととか話してるんだろうな。
そんな気がした。
「カオリさんは、じゃ、ずっとヤスダさんのこと好きだったんですか」
「ん。むこーも気付いてるんだかいないんだか、なっかなか進まなくてイッライラしたけどね」
ケイちゃんの気持ちは何となくわかったんだけど、確信なんてもてなかったから。
きっとケイちゃんもカオリの気持ち何となく気付いてても確信なんてもてなかったんだろう。
っていうか気付いてたのかなぁ。
あの人ニブチンだからなぁ。
カオリはケイちゃんがカオリの旦那さんになる前のことをちょっと思い出してみた。
…気付いてなかった気がした。
- 140 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:11
- 「カオリちゃんは?圭ちゃんと最初からラブラブだったの?」
「ずっとカオの片想いでした。圭ちゃん、付き合ってるひといたし。
カオも北海道にいるひとと遠恋したりしてたし」
「そう」
「でも、ずっと好きでした」
「じゃ、カオリとおんなじだね」
「え?でも、お互い付き合ってるひといたんですよ。
しかも圭ちゃん、ニブチンだからなっかなか気付いてくれなかったし」
ずっと好きだったのに相手には付き合ってる人がいた。
それって、カオリ的には辛いかも。
ケイちゃんはカオリ以外の人と付き合ったことないって言ってたけど、
もしケイちゃんに好きな人がいたらどんなだったんだろう。
カオリは幸せを願ってあげられたかな。
ケイちゃんと、他の誰かの幸せを願ってあげられたかな。
・・・今のカオリには分からないや。
もうケイちゃんがいない生活なんて考えられないし、きっとケイちゃんもカオリのいない生活って
考えられないんじゃないかって思うし。
「ニブイのはあっちのケイちゃんも同じ。
ウチらカオリンズにメロメロなとこまでそっくしじゃん」
- 141 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:12
- ニブチンで、ちょっと変なところあって、でもそれも可愛いくて。
ついでにひょっとして照れ屋だったりするのかな?
何か色々知りたいなぁ。
カオリちゃんと圭ちゃんのこと。
違うところはあるんだろうけど、きっと似てるところの方が多いよ。
でね、すんごい突然って思われるかもしれないんだけど、ちょっと気になっていうか
知りたいのがあるんだよねぇ・・・
「オンナノコ同士のエッチって気持ちいいのかな」
カオリ体験したことないんだ。
どうなんだろう。
思ったことをそのまま口にしてたらカオリちゃんはちょっと引いてるようだった。
「まあ、好きなひととするエッチが気持ちよくないワケがないしね」
「そうですね」
「カオリちゃんはリードするほう?されるほう?」
ちなみにカオリんとこは最近じゃケイちゃんがリードしてる。
照れ屋さんもベッドに入ってテンション上がってくるとだんだんと変わってくるんだよなぁ。
「ん〜?カオ的にはたまには最初からリードしたいんですけど、なにせむこー照れ屋
だし、おだてたり持ち上げたりしてやっと言う事聞いてくれるみたいな…」
「コラ」
エッチ話して盛り上がっていたら、カオリ達の後ろの方にいたはずのケイちゃん達がいつの間にか近くに来ていた。
カオリちゃんは赤い顔をした圭ちゃんに軽く頭をこづかれてて、ケイちゃんは煙草を吸いながら隣で笑ってる。
何かちょっと御機嫌な感じだね、ケイちゃん。
頭を押さえてるカオリちゃんと、まだ赤い顔をしている圭ちゃんを見て笑ってるケイちゃんと目があった。
うん、カオリも同じだよ。
御機嫌な感じ。
笑ったらケイちゃんはさっきよりも目を細めて笑った。
- 142 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:15
-
* * * *
皆で堤防でまったりしていたら、遠くから私もよく知っている声が聞こえてきた。
っていうか、近付いてきた。
「んあ〜、ちょい早いってー」
んぁ〜って、んぁ〜って。
これってあの人の言うんぁ〜だよね。
「ごっちん…?」
吉澤さんが立ち上がって声の方を向いたらんあ〜声の主が
『おう、よしこ。散歩?…え』そう言って犬を連れたまま私達を見て固まってしまった。
ついでに私も固まってしまった。
髪が長い時のごっちんと同じだ。
すんごく。
『よしこ』って呼ぶ言い方とか、『んあ〜』具合とか。
「ゴ、ゴトウ?」
- 143 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:16
- ヤスダさん、素敵な私の代弁者です。
そうですよね、やっぱりごっちんですよね。
んあ〜のごっちんですよね。
「ん、んあ。あたしは確かにごとーです…圭ちゃん?」
「アタシはここよ」
「んあ!どゆこと!?…わッ!り、梨華ちゃんとよしこもふたりいる!カ、カオリまで!?」
あれ?さっき気付いて固まったんじゃなかったのかな?
あ、それともこうもっとジーッと見てもう一回驚いちゃったってやつ?
っていうか混乱ってやつか。
そんな後藤さんに保田さんが説明をしてくれている。
こっちの保田さんも私の代弁者のようだ。
W保田さんってすごいなぁ。
私がそんな感心をしていたり、後藤さんに連れられた犬はおとなしく座って大きなあくびをした頃には
後藤さんは納得していたらしく『んあ〜』と言っていた。
「僕の幼馴染みにも後藤さんそっくりのゴトウマキって女の子がいますよ」
そうヨシザワくんが言うと、後藤さん眠たそうにしていた目を見開いた。
驚くよね、そりゃ。
私もそんなこと突然言われたら驚くもん。
後藤さん正解。
- 144 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:17
- 「んあ〜、驚いた。しかし世の中には自分にそっくりなひとが三人だっけ?ホントなんだね〜」
そしてマイペースな感じも似ているらしい。
後藤さんはすでにこんな状態に慣れているようで、バッグの中からデジカメを取り出すと
『写真撮ったげるよ。こんなオモシロイこと、ちょっとないよ』と言った。
すごいなぁー適応能力高いなー。
でね、皆盛り上がることは大好きらしい。
そう思った。
そっくりコンビのポーズとか多分、相当おもしろいと思う。
交信×2のカオリさんコンビとかは私も一瞬みただけなのに思わず吹いてしまった。
その瞬間も写真におさまってるかも。
後は、石川さんと後藤さんのアイーンポーズとか。
写真撮ってくれたおねえさんも吹き出してしまう程だったし。
見どころ満載だね。
いやーすごい思い出の写真だと思うよ。
「んじゃ、ごとーバイトあるからまたねー」
後藤さんはそう言うとすぐにまた犬に引きずられるように行ってしまった。
個人的にはもうちょい話してみたかったなぁ。
もちろんWごっちんの組み合わせも見てみたかったけど。
- 145 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:19
- 「すっげーな。口ぐせまで似てる…んあ〜とか」
ヤスダさん、本当に私の代弁者だわ。
っていうか皆の代弁者か。
きっと皆が同じようなこと思ってる気がするもん。
「あの、そちらのゴトウさんはよく食べて眠たがりだったりします?」
「ハイ、僕の部屋でよく勝手に寝てます」
その通りです飯田さん。
私も最初は驚きましたもん。
ってかさ、あのさ、さっきっから気になってたんだけど聞いてもいいのかな。
いいよね、聞いてもいいよね。
うん、きっと大丈夫。
「吉澤さんと石川さんはラブラブなの?」
「え、あ、その」
あ、直球すぎたかしら。
吉澤さんも石川さんもちょっと焦っちゃったみたい。
「わ、分かります?」
「うん、バレバレ」
だって二人ともお互いを見る目がすごい優しいもん。
あとね、一緒にいる時の雰囲気とか。
私がヨシザワくんに惹かれたのと同じように石川さんもきっと吉澤さんに惹かれてるのかなぁって。
もちろん、違う風にだと思うけど、きっとそうなのかなぁって。
何かね、一緒に喋ったり、一緒にいる所見てたらそう思ったんだよね。
- 146 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:19
-
「あの」
「はい?」
そしてヨシザワくんよりも照れ屋さんじゃなさそうな吉澤さんの
「ヨシザワさんはイシカワさんを『イシカワさん』って呼んでるんですか?」
この質問にさっきまで涼しい顔をしていたヨシザワくんがボフッと音が鳴りそうな程の
勢いで赤くなった。
なんて素敵な質問なのかしら。
吉澤さん素敵なキラーパスだわ。
「だ、だだだって…下の名前で呼ぶの…恥ずかしくないですか?」
本当にね、もうね、照れ屋すぎ。
いや、そんなところも可愛いんだけどね。
そしてちょっといじめたくなるんだよねぇ。
「そーなのよー。名前で呼んでって言ってるんだけどね。ね、ヨシザワくん♪」
赤い顔で俯いているヨシザワくんのほっぺを指でつついたら、余計にヨシザワくんは赤くなった。
そして皆に聞こえないくらいの声で『り、り、りりりりり梨華さ、ん』とかぶつぶつ言っていた。
こりゃしばらくは呼んでもらえないかな。
まぁさ、慣れたからそんな急いで呼んでもらおうとは思ってないけどいつかは呼んでもらいたいもんだね。
- 147 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:20
-
* * * *
若い4人が戯れているのをウチらは少しだけ離れた所で眺めていた。
デッカイヨシザワがイシカワを中心にちょこちょこ弄られて、何故か吉澤さんと一緒になって
縮こまってる画っていうのもなかなか面白いもんだ。
「元気だねぇ、吉澤さん」
俺の呟きにカオリさんも保田さんも隣でしゃがみ込んでいるカオリも笑った。
さわさわした風がさっきよりも気持ちがよく吹いている。
それもちょっと冷たい。
まだ本格的な春じゃないからな。
昼を過ぎて夕方に近付くと少し肌寒くなってくるもんだ。
「あ、カオリ布団干したまんまだった」
「そっか、んじゃぁもうそろそろ戻るか」
すっかり話しこんじゃったな。
あっという間に過ぎた時間を時計を見て改めて感じた。
- 148 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:22
- 「んじゃぁウチらは先に戻りますね」
「あ、はい」
「話せてよかった。今度是非飲みでも行きましょう」
いつかさ、こうカオリさんとカオリも一緒にさ。
外でもいいし、ウチでもいいし。
いつか紗耶香とか矢口とかなっちとかごっつぁんとかにも会わせてあげたいんだよね。
「じゃ、飲み勝負しましょう。負けませんよ」
妙に自信ありげに笑って差し出された手。
ほほぉ、こりゃ楽しみだ。
もちろん俺だって負けるつもりないよ。
「カオリちゃん、またね」
「はい、また圭ちゃん達について熱く語りましょうね」
二人で抱き抱きしてたカオリを連れて向こうでまだまったりとしている四人に声をかける。
会おうと思えばまた会うことだって出来るだろう。
できればまた会って話してみたいな。
そんな風に思う人達だった。
- 149 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:24
- 「カオリ」
「ん?」
「スカートに芝ついてるよ」
駅までの道を久々に手を繋ぎながら歩く。
喋らないで歩いてるのに、繋いだ手からカオリが沢山伝わってくるみたいだった。
「…カオリ」
「何?」
「…ん、何でもない」
やっぱいいや。
「ふ〜ん」
「うん」
聞かなくても何となくわかるや。
っていうか、分かるよ。
「今日は久々に俺が料理作るかな」
「えぇ〜じゃぁカオリも手伝うよぉ」
「あ、何それ。俺だけじゃ不安だっての?」
「うん」
即答かよ…。
まぁいいや。
今日は一緒に作ろう。
- 150 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:25
- 伸びる影を追い掛けるように足を進めると同じように影は伸びていく。
先に行ったり、後をつけたり、横に伸びたりするけど自分の影。
その影の手と手が繋がっているのを見ればさっきの質問の答えはそこにある。
「カオリ、幸せだよ」
ぎゅっと握ってくれる手。
答えはいつもここにある。
「おう」
きっと保田さんもカオリさんも同じように幸せを掴んでいるんだろう。
そしてこれからも掴んでいくんだろう。
吉澤さんも石川さんも。
帰る頃には布団は冷えちゃってるだろう。
でもいっか。
二人で温めればいいんだもんね。
カオリとゆっくり歩くこのスピード、嫌いじゃない。
そう強く思った。
- 151 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:27
-
* * * *
ケイちゃん達が帰った後少しして保田さん達も行ってしまった。
確かにもう夕方だし、少し寒くなってきたし、お開きにする時間と言えば時間な気がする。
「じゃぁ、僕らもそろそろ」
「そうっすね。何かちょっと寒くなってきたし」
いつも薄着気味なイシカワさんもちょっと寒そうで、吉澤さんの隣にいる石川さんも少し寒そうにしている。
二人とも微妙に薄着なんだよねぇ。
えぇっと、うん、石川さんの方は吉澤さんまかせた。
「これ、着て下さい」
「え?いいよいいよ、大丈夫だよ」
「ほら、梨華ちゃんもこれ着て」
「あたしは大丈夫。それよりひとみちゃんこそそんな格好じゃ寒いでしょ」
「「駄目、着て」下さい」
- 152 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:28
- 並んでぐいっと上着を押し付けてみる。
僕このセーターの下にもシャツ着てるんだし大丈夫です。
だから着て下さい。
駄目、風邪とか本当ありえないんで。
「着てくれないと帰らないですよ」
「…変な所でいじっぱりだよね、ヨシザワくんって」
「前から分かってたことじゃないですか」
僕の白いセーターは明らかにでかくて、イシカワさんは袖をぶらぶらさせている。
『大きすぎるんだよぉ』とか言ってるけど、僕的にこのちょっと大きなサイズを着た姿とか
結構ノックアウトコース。
…ね、狙ったワケじゃないよ。
「じゃぁ、ちょっと借りるね」
そう言いながら石川さんも少し大きめな吉澤さんの上着を着た。
よし、準備万端。
石川さんにも吉澤さんの服はちょっと大きいらしく、イシカワさん達は二人して
袖を折ってたりしている。
- 153 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:29
- 「こう、何か違うのにどこか似てるんですよねぇ」
「そうなんスよね」
二人してジーパンのポッケに手を突っ込んで、イシカワさん達を眺めてみる。
隣にいる吉澤さんは優しい目で石川さんを見ている。
いいね、石川さんは幸せもんだね。
どうやらヘタレ同士らしいけど、石川さんは幸せだと思うな。
「今度写真お店に持って行きますね」
「うん、ありがとう」
双児が握手してるみたい。
そんな感じ。
「吉澤さんも、またお店の方に遊びに来てね」
「あ、はい」
変な感じだなぁ。
僕じゃないけど僕と似てる人がイシカワさんと握手してるんだもんなぁ。
僕とイシカワさんが握手してたらこんな風に見えるのかなぁ。
まぁ背の高さとか色々抜いてだけど。
「ライブ、いつか見に行きますね」
「私も行く行く!!」
- 154 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:30
- 僕の隣で元気よく手を上げているイシカワさんに吉澤さんも石川さんも笑ってた。
いつもよりもちょっと子供っぽい感じがするのは僕のセーターが大きいから?
それともちょっと浮かれてるからかな?
ともかくテンションが上がってるのは確かだよねぇ。
「石川さん」
「「ん?」」」
あぁ、そっか。
どっちも石川さんなんだった。
えぇっと、えぇっと…
「り、りりりり梨華さんの方じゃなくて石川さん」
「「へ?」」
そうだ、どっちも下の名前同じだったんだ・・・。
かなり頑張って『梨華さん』だなんて呼んだのに・・・・・・。
「ははっ…えぇっと、また会いましょう」
最初からこう言えばよかった・・・。
空回りしすぎた。
はぁ、もう決まらないねぇ、本当。
苦笑いをしていると、僕が呼んだ方の石川さんが笑って手を差し出してくれた。
- 155 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:32
- 「はい、また会いましょうね」
お姉さんだなぁ。
吉澤さん、これじゃぁ結構尻に敷かれてるんじゃないかなぁ。
そんなことをちょっと思いながら差し出された手を握った。
あ、何か背中にちょっとした嫉妬の視線感じる気がするんだけど…。
吉澤さん、絶対独占欲強いでしょ。
多分ね、すんごい同じ。
いや、僕は口には出したことないけどね。
「それじゃぁ行こうか」
「うん。じゃぁまた」
進む方向がお互い逆だったみたいだからここでお別れ。
イシカワさんは一度後ろを振り向いて、吉澤さん達に向かって大きく手を振った。
逆光でよく見えなかったけど、吉澤さんの隣で石川さんも手を振ってるようだった。
「石川さんが言ってたんだけどね、吉澤さん達のバンドってアマチュアだけどすごい人気らしいよ」
「へぇ、じゃぁチケットとか取るの大変そうですね」
「それもね、保田さんもバンドのメンバーなんだって」
- 156 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:32
- まだいつもよりもテンションの高いイシカワさんは、長い袖をフリフリしながら
楽しそうに石川さんと話したことを教えてくれた。
そして少しだけ前に向かって走ると、クルりとこっちを向いてニカーって笑った。
…なんか、言いたいことちょっとわかるや。
多分ね、99%僕の考えてることは当たってると思う。
「もう一回梨華さんって呼んで」
ほら、ビンゴ。
絶対そう言うと思ってましたよ。
イヤですよ、恥ずかしいじゃないですか。
「梨華ちゃんでもいいよ」
どっちも同じようなもんです。
駄目です、駄目。
ほら、早く行きましょう。
ブーたれてないで行きましょうよ。
僕お腹空いちゃいました。
ね、だから早く行きましょ。
- 157 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:33
- 「…温泉行った時は呼んでくれたのにねぇ」
!!
な、なんてことを言いだすんですか!!
「ま、いっか。ほら、早く帰ろう」
・・・あぁ、イシカワさん、足早いです。
おいでおいでじゃないですよ。
いや、行きますけどね、行きますけどね。
・・・今日は何だか振り回されっぱなしだなぁ。
でもいっか、楽しかったし。
「ヨシザワく〜ん」
「はーい」
まだ、もうちょい待ってて下さい。
あの、色々あるんですよ。
だから、だからもうちょい待ってて下さいね。
- 158 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:34
-
* * * *
「こんにちはー」
河原で皆とお別れをしてから数日後。
後藤さんが撮ってくれた写真を石川さんと後藤さんがお店に持ってきてくれた。
今日保田さんは仕事で、吉澤さんとかはバイトらしい。
「んぁ〜、これこの間の写真です」
「ありがとね。イシカワ奥いるから呼んでくるよ」
畳んでいたTシャツを棚に置いて、カウンター奥でごそごそと探し物をしているイシカワを呼ぶ。
ってかあんたどんな格好してるのさ。
そんな短いスカートはいてるんだからちょっとは気をつけなさいよ。
まぁお店からだったら見えない位置だけどさ。
- 159 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:36
- 「イシカワー、石川さんと後藤さんが写真持ってきてくれたよぉ」
カオリがそう言ったらイシカワは『キャッ』なんていう声をあげてスカートの後ろを押さえた。
いや、遅いし。
もう見えちゃったし。
っていうか見ちゃったよ、カオリ。
だから今さら隠しても遅すぎなワケで。
そんでもってそこ気をつけないと頭ぶつけ…
ゴンッ
ちゃうんだよね。
もう何回目よ、いい加減気をつけなさいよ。
カオリ、先行くからね。
イシカワも早くおいでね。
「ごめんねぇ、もうちょい待っててね」
「あの、何か、い、色んな音が聞こえたんですけど…」
「んぁ」
「ははっ、まぁいつものことだよ」
- 160 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:37
- いつもじゃないけど、たまにのことだけど。
今頃イシカワはまだ目をウルウルさせていることだろう。
もうちょい時間かかる気がしたから、二人にはお店の中でもうちょい待ってもらうことにした。
今日のイシカワは珍しくピンク星人じゃなくて、黒っぽい感じにまとめていた。
こう言っちゃなんだけど、まぁそんな悪いセンスじゃないと思う。
「お、おまたせしました」
しばらくお店のメンテをしていると、やっとこさイシカワが両手にファイルの束を持って奥から出てきた。
いや、そんな一気に持ってこなくてもよかったんじゃ・・・
そんな風に思う程の量だ。
よろけてるじゃん。
酔っぱらいみたいにふらついてるじゃんか。
「どうしてそんな一気に持ってくるのさ」
「早く戻ってきたかったんですよぉ」
あのねぇ、そんなハの寺眉毛攻撃カオリにはきかないよ。
転んだりしたらどうするの。
駄目だよ無理しちゃ。
- 161 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:38
- 「んあ、どうも。
あ、今日ここに来れないメンツから手紙みたいなの預かってるんでー、見てやってください」
カオリがイシカワのことをお説教しようとしたら、後藤さんがごそごそと便箋を取り出した。
手紙みたいなの?
手紙じゃなくて?
でも気になる。
「おー、どれどれ」
「わー♪」
手紙にはすごい顔に似た顔文字と一緒に、それぞれの字で素敵なコメントが書いてあった。
『
(0^〜^0)ノ<ヨシザワアニキ!また熱く語りましょう!イシカワさんたちと
うちのライブ見に来てください!
カッケー!
(〜^◇^)<このまえはどうも〜。いやマジみんなそっくりでびっくりしたし!
オイラにそっくりな方ってやっぱ美人っすか?
キャハハ!ヤグチでしたー
川‘〜‘)|| <今日は行けなくてザンネンです。今度圭ちゃんとお店に遊びに
行きますね。あ、そうだ。
圭ちゃんが『飲み勝負に絶対勝つわ!』って燃えてるんですけど…止めます?
( `.∀´)<このまえはどうも!今日は仕事なのでうちの女子チーム部員を
そちらに派遣します。
また遊びましょう。それでは世界の恋人・保田圭でした!(チュッ!)
』
- 162 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:39
- 飲み勝負か、そういえばケイちゃんもそんなこと言ってたっけ。
なんか燃えてたんだよねぇ。
『勝つのは俺だぁぁぁ!』とか言ってた気がする。
でさ、でさ、すんごく気になったのがあるんだよね。
イシカワもそうでしょ。
絶対そうでしょ。
だよね、目がうったえてきてるよ。
「「…あのお」」
「ハイ?」
「この…保田さんの文章の下…右下らへんにある、犬かと思われる地球外生命体みたいなイラストは…?」
「…んあ」
あのね、カオリすんごくそっくりな絵を描く人知ってるの。
この棒みたいな体を描いて『前より成長した!』とか喜んでる人知ってるの。
「犬…です。多分」
「んあ、圭ちゃんのオリジナルすぎイラストです」
・・・やっぱり。
「……」
「あの…カオリさん?イシカワさん?」
- 163 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:39
- あぁ駄目だ。
保田さんには悪いけど、ごめんカオリ我慢出来ない。
「ぎゃ…ぎゃははは!ほらぁ、だからカオリ言ったじゃん!
こ、これはうちのケイちゃんといい勝負だよお!」
「ハ、ハイ!そうですね!…キャハハ!」
イシカワの超音波のような笑い声も全部がツボに思えてくる。
もう涙出てきちゃったよ、止まらないよ。
「言ったっていうのは?ヤスダさんといい勝負っていうのは…?」
あぁそっか、ごめんごめん全然意味わかんないよね。
コテンと首をかしげてる後藤さんと石川さんにもこの笑いを分けてあげる。
っていうか知って欲しい。
まだ涙が治まんなくて、ひくひくしながらスッテカーコーナーにある隠しアイテムを渡す。
- 164 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:41
- 「…ぶ…こ、このシュールなイラストは…ぶふふ」
『売り切れゴメン』
何枚かケイちゃんに描いてもらったんだよね。
ステッカーが品切れ状態になった時にはじめて見れるスペシャルアイテム。
確か初めてイシカワがこれ見た時も涙流しながら笑ったんじゃなかったっけ。
今の後藤さんと石川さんと同じように。
「カオリ言ったんだよね。ナンコツずき、ビールずき。で、あの猫目。
きっと画力も似てるんだって」
「カオリさんの言う通りでしたね」
でしょ、あそこまで同じでこの最大のポイントが違うはずないよ。
「…ハハ、そうですね」
石川さんのこぼした言葉、後藤さんの笑った顔。
今日帰ったら全部ケイちゃんに教えてあげよう。
きっとこの手紙も読んだら大喜びするはず。
そうだ、そのヤスダ画伯の描いた絵、全員分プレゼントしよ。
そのポケットの奥全部に入ってるんだ。
もちろん返却不可ね。
- 165 名前:もくまおう 投稿日:2004/03/07(日) 22:41
- これは今日の夜聞いたことなんだけど、ケイちゃんは石川さん達がお店に来てくれた時くらいに
かなーり盛大なクシャミを会社でかましたんだそうだ。
カオリは、そんなタイミングでクシャミをして鼻をすすっていたケイちゃんと同じ布団に入りながら
もう一度一緒に手紙を喚んだ。
ね、今度保田さん達と飲み飲み合戦しようね。
- 166 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/07(日) 22:45
- 更新しました。
んぁ…またしても誤字脱字が_| ̄|〇
最後の『喚んだ』は×で『読んだ』だが○っす。
多分まだあった気が_| ̄|〇_| ̄|〇キヲツケタノニ
『もくまおう』はこれでおしまいです。
気付いた方もきっと沢山いらっしゃると思いますが…
今回と前回の更新は海板の『屋根の下のベース弾き』と一緒の舞台で同じ時間が流れています。
ごまべーぐるさん、読んで下さった皆さん、本当に感謝感謝です。
かなり楽しかったです。
本当にありがとうございました。
でもって僕君。はこれからもマターリ続きます(・∀・)マダマダツヅクヨー
>130 名無し読者 様
( `.∀´)(0^〜^)♪
↑私もすんごい見覚えがあります(w
そして他にも見覚えのある方々が沢山いました(・∀・)
楽しんでいただけたでしょうか?
私は楽しかったです(w
>131 名無飼育さん 様
(;`.∀´)<た、大変よ!!
(;`.∀´)<吐血しちゃったよ!!!
(;゜皿 ゜)人(゜皿 ゜;)ピーガガガガガガガガ
( ´ Д `)<…ぐる〜
大正解です(w
楽しんでいただけましたか?
楽しんでいただけたなら幸いです。
- 167 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/07(日) 22:47
- また書き忘れが_| ̄|〇
『屋根の下のベース弾き』の中の『幸わせの小道』と同じ舞台で
同じ時間の流れです。
- 168 名前:オレンヂ 投稿日:2004/03/07(日) 23:00
- コラボ作品さいこ〜う!かっけー!
いつもチェックして読んでるんですけど、
ものすごくたまにしかレスつけないやつです(^^;
どっちが「くん」でどっちが「さん」で・・・って軽く混乱しながらも
楽しく読ませていただきました!これからもマターリがんがってください☆
- 169 名前:ごまべーぐる 投稿日:2004/03/07(日) 23:23
- 『僕と君との物語り。』読者の皆様、初めまして。
海板『屋根の下のベース弾き』作者です。
この2日ほどこちらのほうにお邪魔させていただきました。
わたくしのほうの拙文とあわせてお読みいただければ、とても嬉しく思います。
作者さまに業務連絡。
どうもありがとうございました。
そして、山ほどご迷惑をおかけしたことと思います。申し訳ありません。
そろそろ私は一読者に戻ります。大変お邪魔いたしました。
では。シモテハケー
キリキリ逝くわよッ>(`.∀´ )))三3
- 170 名前:名無し読者M 投稿日:2004/03/08(月) 13:08
- 2作品のコラボレーション、楽しく読ませていただきました。
基本へたれでちょいとお兄さん気分が心地よいですね。
それにしてもこうしてみると、これほどまでに・・・って
改めて気が付きましたよ。
- 171 名前:SINKI 投稿日:2004/03/08(月) 13:13
- 二回目のコラボ、読ませていただきました。
少々混乱しましたがおもしろかったです。
これからマタ−リ、僕君。楽しみにしてます。
- 172 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:07
- 「お兄ちゃ〜ん」
「ん〜?」
うきうきワクワクしている麻琴。
さっきっから部屋を出たり入ったり出たい入ったり転んだり。
「あたしの歯磨きセットどこあるか知ってる?」
「知らないよ、洗面台見た?」
「見たけどないんだよぉ」
「んじゃぁ行く前にコンビニ寄って行こう」
まぁこんな感じ。
麻琴は今日から石川さんの家に泊まる。
それも三日間。
学校には石川さんの家から通う。
- 173 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:08
- 何でもごっちんと紗耶香の浮気事件の時に僕の家に来た時にそんな話しをしたんだそうだ。
石川さんも楽しそうに部屋の片付けをしていたからまぁたまにはこんなのもいっかって思う。
「準備出来た?」
「もうちょいで終わるよぉ」
今だドタバタ階段を走っている音を聞きながら、多分今頃は夕飯でも作っているであろう
石川さんにもうすぐ出発するとメールを打った。
ちょっとして返ってきたメールには『途中コンビニで飲み物だけ買ってきて』って書かれてあった。
返事を打って送信して、やっとこさ準備の出来た麻琴を連れて家を出た。
車の中の麻琴はいようにテンションが高い。
石川さんの家に泊まり行くのは初めてだし、行くのも初めて。
まぁそりゃ浮かれるか。
「そだ、これ石川さんに渡しておいて」
「ん?これこの前お兄ちゃんが買ったDVDだよね」
「うん。見たいって言ってたから」
ちょっと道路が混んでたから、麻琴にメールで少し遅れることを伝えてもらった。
コンビニで飲み物や麻琴の歯磨きセットやその他適当なモノを買ってからまた進んだんだけど、
すっかり渋滞にハマってしまい、ついた頃には約束の時間を1時間も過ぎてしまっていた。
- 174 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:09
- 「じゃぁ3日間よろしくお願いします」
一緒に夕飯を石川さんの家で食べてから僕だけ家に帰るのも何だか変な感じ。
玄関まで出て来てくれた石川さんに頭を下げて、後ろで笑ってる麻琴に大事な一言を伝える。
「あんまり迷惑かけないようにね」
満面の笑みで『わかってるよぉ』なんて言ってるけど、本当大丈夫?
何だか不安なんだけど。
笑顔の二人に見送られて、僕は一人家に戻った。
まさか僕よりも先に石川さんの家に泊まるのが麻琴だとは思わなかったな。
- 175 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:10
-
* * * *
「あ、そうだ。これお兄ちゃんから渡しておいてって頼まれたんです」
そう言いながら麻琴が鞄をごそごそとあさって渡してくれたのは、この前私が
吉澤くんに貸してと言っていた『ショーシャンクの空に』のDVDだった。
「麻琴はこれもう見た?」
「ううん。まだ見てない」
「そっか、じゃぁお風呂入ったら一緒に見ようか」
明日はお互いに学校と仕事だけど、まだ9時だから見てから寝ても大丈夫だろう。
麻琴が先にお風呂に入ってる間に吉澤くんにメールを打っておく。
今頃部屋の中でごろごろしてるだろうからね。
麻琴がお風呂に入ってる間にもう一枚布団を敷く為にテーブルとかを移動したり、
せかせか動いて就寝準備完了。
我ながらすばらしく無駄のない動きだったわ。
しばらくすると麻琴がお風呂から出てきたので私も入れ代わるようにしてお風呂に入った。
いつもよりも少し短かめでね。
その後は二人並んでDVD観賞会。
麻琴は隣で口を開けながらも真剣な面持ちで画面を見ていた。
- 176 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:11
- 「じゃぁ電気消すよぉ」
「はーい」
すっかり遅くなっちゃった。
ついついDVD見た後にぺちゃくちゃ喋ってたらもう2時過ぎとか。
「ベッド、本当にあたし使っていいんですか?」
「いいよーいいよー。だからほら、早く寝ちゃいな」
さっきからぽよぽよしてたじゃん。
無理して起きてると明日起きれなくなっちゃうよ。
いつもよりも早く出なきゃいけないんだから。
「んじゃぁおやすみなさい」
「ん、おやすみぃ」
私も眠かったけど、麻琴が一体どんなことを悩んでいるのかをちょっと考えた。
とりあえず初日は慣れてもらおうと思ってたからいいんだけど、もし力になってあげれるならなってあげたいし。
色々考えていたけど、瞼を閉じたらあっという間に私は夢の世界に引きずり込まれた。
疲れた体はとても素直だ。
- 177 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:12
-
* * * *
「ふ〜ん、じゃぁ麻琴は昨日から梨華ちゃん家泊まってるんかい」
昼休み。
美味しそうに箸を動かしながら安倍さんはのほのほしている。
やたらと大きな焼売が入ったお弁当は矢口さんの手作りだそうだ。
名付けて『シューマイ弁当』そのまんま。
「よっちゃんも大変だねぇ」
「いや、僕はそんな大変でもなんでもないんですけどね」
ちなみに僕のは購買で買ったお弁当。
温めるのを面倒と思ってしまった為に冷たかったりする。
「んだ、これもう見た?」
「何ですか?」
「来年度の先生と講師の先生とTAのリスト」
- 178 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:13
- 手渡された紙はこの間僕が職員室の先生やら講師室の先生に配った紙だった。
コピーしながら沢山見たし・・・
「安倍さん、僕がこれ安倍さんに渡した時に色々話ししたじゃないですか」
忘れてたんですか。
そうですか。
あ、別にいいですよ。
怒ってるワケじゃないんで、えぇ。
「あれま。なっちすっかり忘れてたよ。ごめんちごめんち」
極上の笑顔を浮かべながら安倍さんは大きな焼売を一口で食べて目をシロクロさせた。
いや、無理はよくないと思いますよ。
「ゲフゲフッ、うあぁ、苦しかった」
胸をドフドフ叩いてお茶を一気飲みして安倍さんはまたしても極上の笑顔を浮かべた。
今日も平和だな。
うん、本当。
- 179 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:15
- 「吉澤さ〜ん、403号室の鍵あけて下さ〜い」
「はいよぉ」
まだ残ったお弁当に蓋をして立ち上がろうとしたら安倍さんが思い出したように手をポんッと叩いた。
そして呟いた。
「何か忘れてると思ってたけど、なっち携帯忘れてきたんだ」
どうして突然それを思い出し、どうしてそれに今まで気付かなかったんだろうという疑問を残したまま
僕は短い昼休みにさよならをした。
「あ、吉澤さん服に御飯粒ついてるよ」
「本当だ。うわ〜微妙にカッコ悪〜」
「はいはいごめんねぇ、カッコ悪くて」
うん、今日もやっぱり平和だ。
- 180 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:16
-
* * * *
「で、悩みって何?」
只今の時刻、22時48分
お風呂も入った。
歯磨きもした。
目覚ましもセットした。
麻琴のお望み通りに電気も消した。
お布団にも入った。
絶対に完璧。
「…その前にちょっといいですか?」
「ん?よくわからないけど、どうぞ」
暗闇ですこしだけ沈黙が続いて、麻琴がベッドから私の布団の方へと移ってきた。
いつも体温が高くて、お風呂上がりで、多分ちょっと眠い麻琴はほかほかだ。
「どうしたの?寂しくなっちゃた?」
「…違うなぁ」
「へ?」
- 181 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/08(月) 20:17
- 抱きしめようとした手が宙を舞う。
違うと言われて何が何だかよくわからない私を置いて、麻琴はベッドに戻って行った。
「あのぉ、麻琴?」
「違うんですよねぇ、やっぱし。うん、違う」
ブツブツぶつぶつまるで吉澤くんのような言葉使いで違う違うとくり返し、さらには違うことを納得。
えぇ、私には何だ何だかさっぱりわかりません。
『やっぱりなぁ』とか『でもなぁ』とか呟く言葉は独り言かもしれないけど、
静かなこの部屋には独り言がかなり大きく響いてる。
「…石川さん」
「ん?」
「お兄ちゃんとは最初友達だったんですよね?」
「うん、まぁね」
あぁやっぱりそっか。
うん、何となくそんな感じしてたんだよね。
聞きたいんでしょ?
色々と。
そっかそっか、じゃぁちょっくらお姉さんが話してあげるよ。
あ、恥ずかしいから暗いままでね。
顔赤くなってるのとかあんまし見られたくないし。
「んじゃぁ静かに聞いてますんでよろしくお願いしまぁす」
- 182 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/08(月) 20:18
- 更新しました。
今日から平常営業。
次回からいつものようにマターリ更新になります。
>オレンヂ 様
おぉ、お久しぶりです。
やっぱる混乱されましたか(苦笑)
カタカナと漢字で分けても私も混乱しました。
これからも頑張っていきます。
ありがとうございます。
(0○〜○)<か、かかかかかっけー! 噛みすぎだから>(^▽^ )
>ごまべーぐる 様
いやいや、私こそかなーりご迷惑おかけしました。
申し訳ありませんでした。
ごまさんはある意味僕君。のお母さんですね(・∀・)
本当にありがとうございました。
>名無し読者M 様
楽しんでいただけたなら幸いです。
私自身、ごまさんの書かれるベース弾きからもかなり影響受けてる
もんで似てるCPになってきてたかもしれませんね。
だからこそって思える楽しさもありましたけど(w
萌えCPマンセーです( `.∀´)<萌え!
>SINKI 様
私も書いている途中とか軽く混乱してました(苦笑)
メモしながら組み合わせチェックしてみたりと。
私もかなり楽しませていただきました。
そんでもってマターリ僕君。もまだまだ続きます。
- 183 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/11(木) 10:56
- 最初はね、全然話もしなかったんだよ。
同じクラスだったけど、ただのクラスメイトってやつ。
吉澤くん、今よりも無口だったし何か人をあんまし寄せつけないって感じだったから。
クラスに何人か友達はいたみたいだけど、あんまし深く付き合おうって思ってなかったみたい。
入学して数カ月経った頃の吉澤くんの記憶ってあんまりないんだ。
やっぱりただの背の高いクラスメイトだったから。
でね、二年になった春。
私定期無くしちゃってさ、デッサン室まで探しに行ったの。
その日の最後の授業がデッサン室だったからね。
でさ、そこに行ったら吉澤くんがね何か下見てて、その後私のことを見たの。
最初は視界に入ったっていう感じだったかな。
そのあとジーッと。
うん、よく覚えてるよ。
最初の出会い。
何か衝撃的だったからね。
- 184 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/11(木) 10:57
- 多分私相当困った顔してた思う。
定期はあ見つからないし、吉澤くんには見られるし。
それまで話したこともなかったし、暗そうなイメージあったし、正直ちょっと苦手かもって思ってたからね。
でね、どうしていいかわかんなくて声かけたら吉澤くんが壊れたおもちゃみたいに喋ったんだよ。
もうガチガチ。
テンパってるのとかがんがん伝わってきた。
でもね、何かそれで一気に私が思ってたイメージが壊れたの。
あぁなんかおもしろい人だぁって。
その後さ一緒になって定期探してくれて、でもその間ずっと沈黙。
私も人見知りする方なんだけどさ、吉澤くんの方がもっと人付き合いっていうかそんなの苦手そうだったから
何か喋りかけようと思ったんだけど、吉澤くんただひたすら定期探しに夢中になってたみたい。
まぁ定期探しのオチっていうのがまたベタで私の服のポケットに入ってたってやつなんだけどね。
もうね、笑えないの。
迷惑すごいかけちゃったから。
でも、あの日がなければ今の私達はないなって思ってる。
今なら、そう思えるかな。
- 185 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/11(木) 10:58
- 吉澤くんってさ、本当恥ずかしがり屋でね。
でもそのくせテンパルとよく噛むけどすごくよく喋るの。
そのうえ私よりもネガティブだったし。
何かね、その頃の吉澤くんはコンプレックスの固まりみたいだった。
他の人から見れば全然そうじゃないんだけどね。
不思議な人って思ったよ。
でね、何だかこう守ってあげたい!じゃないけど、手助け出来たらなぁって思った。
最初は友達にもなれないクラスメイトって感覚だったんだよ。
境界線とかって曖昧だけど、お互い『クラスメイト』って言葉使ってた。
それがね、『友達』になったのって春の雨の日。
しばらく吉澤くんが学校来ない時があったの。
本当の理由は吉澤くんのお母さんが倒れちゃってってことだったんだけど、
色々あってね、私吉澤くんが学校休む前に『応援する!』とか言っちゃってさ。
でも何も出来ないくて、その後すぐに吉澤くん休むし。
もうね、ごちゃごちゃだった。
何もしないのが一番嫌だって思った。
だから吉澤くんの家まで行ったんだ。
途中雨降るし、もう最悪ね。
でもね、行かなきゃって思った。
その時からだよ『友達』になったの。
きっとさ、その前からもう友達だったんだろうけど、でもその日に友達になったんだ。
すごい、嬉しかった。
- 186 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/11(木) 10:59
- 後は普通。
一緒に遊んだり、皆で遊んだり、メールしたり。
普通の友達。
それが恋に変わっていったのって…いつだろう。
…気付いたらかな。
きっとね、無意識だよ。
惹かれていったのって。
一度ね、お互いに距離が空いた時があったの。
どうしていいかわからなくて、でも会いに行くことも出来なくて。
友達か親友か知り合いか一体私って吉澤くんにとってなんだったんだろうって。
今まで普通に友達してたけど、連絡とれなくなって、初めて考えた。
その時かな、吉澤くんを失うのがすごく怖くなったって気付いたの。
まだ恋って自覚はなかったけどね。
その頃、吉澤くんがちょっと変わっちゃったんだ。
今まで通りに見ようと思っても見れないの。
でもそうしようと思って見てた。
吉澤くんが戻って来てくれた時、嬉しかったな。
また仲良く出来るって思った。
- 187 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/11(木) 11:00
- 吉澤くんは気付いてなかったと思うけどさ、手を繋ぐのだってすごくドキドキしてた。
クリスマスとかさ、吉澤くんとののとあいぼんが計画してくれた時だって嬉しかった。
恋愛感情とかそんなのさ、その時は考えてなかったんだ。
ただ、一緒にいれることが嬉しかったから。
曖昧だよ。
すごく。
私自身がそうだったの。
前にね、私達がまだ学生だった時なんだけど、皆が私の誕生日にパーティーを開いてくれたんだ。
その時にさ、私吉澤くんと踊ったんだよ。
踊れないけど、周りは皆友達だし、見よう見まねなんだけどね。
その時、吉澤くんに触れられた時、私さ、心臓壊れちゃうかと思った。
すごいドキドキしちゃってね。
赤くなってることとかも知られたくないし、今日は特別な日だ!って思って
吉澤くんに甘えてみた。
ちょっと恥ずかしかったけど、嬉しかった。
- 188 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/11(木) 11:00
- 恋愛感情とかそんなのよく分からないけど、もういてくれなきゃ困るの。
自分の気持ちが分からない相手っていうのは吉澤くんだったし。
いつからか一人でいることがもう辛かった。
そんな時、ずっと一緒にいて欲しいと思った相手は吉澤くんだった。
きっとね、ずっと前から好きだった。
一緒にいるのが当たり前になるくらい好きだった。
だから気付かなかったんだね。
分からなかったもん。
全然、好きだーとか分からなかった。
でも一度意識しちゃうともう駄目。
抱きしめられたらドキドキするけど安心するし、側にいてくれるって言葉で何でも出来ちゃう気がしたし。
繋がる約束が出来るだけでも嬉しくて、同じように会えることがすごく嬉しかった。
付き合う前ってね、そんなに会えなかったの。
でね、いつか吉澤くんが来てくれたんだ。
『会いたくて来ちゃいました』って。
もうね、私も吉澤くん不足の禁断症状出てたから嬉しくて嬉しくて。
- 189 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/11(木) 11:01
- 初めてキスした時なんて嬉しくてさ、もう家帰ってから私すごかったんだよ。
思い出しては照れて、思い出しては照れて。
でもその後何が変わるってワケでもなくてね、今まで通り会ってたり、時たまキスしたり。
まだね、恋人同士ってワケじゃなかった。
いや、恋人だったのかもしれないけど、そんな言葉使ってなくてでも一緒にいた。
私は吉澤くん好きだったし、多分吉澤くんも同じように思っててくれたと思う。
いつまでも曖昧でさ、お互いにお互いの気持ち分かってる気がしてるんだけど言葉にしたことなかった。
でもね、言葉にしたらもっと近くなった気がしたの。
何かね、今喋ってても矛盾がいっぱいある気がする。
いつ好きになったとか全然わかんないんだもん。
今思っちゃうとひょっとしてあの時も好きだったんじゃないの?
とか思えるけど、その時は気付いてなかったのかもしれないし。
でもね、私は今こうやって吉澤くんと一緒にいれて幸せだよ。
麻琴とも会えたしね。
だからさ、なんて言えばいいのかわからないけど、大切にした方がいいと思うよ。
気持ちっていうの。
うん。絶対に。
- 190 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/11(木) 11:03
- 更新しました。
『教えて石川お姉ちゃん』は後1回です。
- 191 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/13(土) 14:47
- 何か今さらだけど恥ずかしいなぁ。
こんな風に話すのって。
これってばノロケみたい。
いや、完璧なノロケだよね。
「…石川さん」
「ん?」
「石川さんって、自分の世界に入って暴走するタイプでしょ」
グサッときた。
ねぇ、麻琴、そんなニヤニヤしないでよ。
暗くても見えるんだからね、こっちみて笑ってるの分かるんだからね。
聞いてきたから答えたんじゃない。
ブーッと反論しようと思ったら麻琴はちょっと黙ってから天井の方を向いた。
- 192 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/13(土) 14:48
- 「…あさ美ちゃんはね、たまにお泊まりで向こうのウチとか行くとね、
ふざけて『ピーマコ一緒に寝よ』とか言うの。
でね、クラスでも仲良しなの。まこっちゃんとか言うけど、たまに麻琴って呼ぶの」
きっと、さっきの私みたに恥ずかしいんだろう。
ぐいっと顔の近くまであげた布団をポフポフっと叩いてからさっきよりも深くお布団に潜った。
「一緒に寝るとドキドキするし、一緒にいれると嬉しいんだ」
あぁだからさっき違うって言ったんだ。
そりゃ私なんかと一緒の布団入ったってドキドキしないでしょ。
「でもね、あさ美ちゃんはあさ美ちゃんで、あたしの親友なの。
でも、親友だけどきっとあたしはあさ美ちゃんが好きなんだと思う。
だからね、どうしたらいいのか聞こうと思ってたの」
「…さすがに吉澤くんには聞きにくいもんね」
「うん。だからね、石川さんに聞こうと思ったけど、もう大丈夫。
何か、話し聞いてるウチにもう聞かなくても大丈夫って思った」
- 193 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/13(土) 14:48
- もう一度麻琴がこっちを向いた。
「もう寝るね、おやすみなさい」
言葉が明るかった。
だから安心した。
力になれたかどうか自信なんてないけど、ちょっとでも麻琴の気持ちが晴れたならって思う。
「うん、おやすみ」
麻琴はしばらくすると静かな寝息をたてはじめた。
私はそんな麻琴の寝息を聞きながら、出会ってから今までの吉澤くんのことと、
これからの私達のことをちょっと考えたりした。
未来は、どんな道になっているんだろう。
そんなことを考えながら瞑った瞼の奥で、まだ見えない未来の夢を見た。
- 194 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/13(土) 14:49
-
* * * *
「忘れ物ない?」
「うん、多分大丈夫。あったらお兄ちゃんに届けてもらうよ」
三日目の夜。
学校からそのまま石川さんの家に向かうと、そこには前よりももっと仲良くなった二人の姿があった。
甘えんぼモード全開の麻琴にそんな麻琴を可愛がる石川さん。
ペットと御主人様じゃないけど、見てるとそんな気がしてくる。
もちろん御主人様は石川さんね。
「またいつでもおいでね」
「うん、また来るね。石川さんもおいでね」
パタパタ振る手に同じようにパタパタ返してゆっくりと麻琴と二人で駅まで歩く。
ちょっとスッキリしたような顔をしてる。
何かがあって、何かがちょっと解決したんだろう。
- 195 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/13(土) 14:49
- 「石川さんってさ、いい人だよね」
「うん、そうだね」
のったり電車に揺られて、のったりと歩いて家へと帰る。
もう春が来るなぁと思いながら歩く夜道はもうそんな寒くない。
卒業式はもうすぐで、入学式ももうすぐだ。
もうすぐ桜が咲くことだろう。
「麻琴もさ、友達誘って花見おいでよ」
繋ぐ手が増えていく。
幸せなことだ。
本当に、そう思う。
「石川さんもごっちんも来るしね」
後はまだ麻琴が会ったこのない人だけど、きっと大丈夫だよ。
皆いい人だから。
それに麻琴のこと、皆知ってるから。
そして皆麻琴に会いたがってるから。
「うん、そうする」
桜が散る前。
きっと入学式前は忙しいからその後だな。
きっと時期的に桜が満開か散り始め。
無理にでも時間作ろう。
きっと楽しいと思うよ。
- 196 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/13(土) 14:50
- 家に帰ってから、石川さんと電話で話した。
ゆっくり会えなかったし、メールよりも声が聞きたかったから。
麻琴が帰ってしまった後、ちょっと寂しいという石川さん。
今はきっとハの字眉毛なのかな。
そんなこと考えながら色々言葉を交わした。
『じゃぁ、またね』
電話を切る前の微妙な切なさ。
そして実際ちょっと寂しいと思っている石川さん。
そして同じように思ってる僕。
「あの、石川さん」
『ん?』
「…おやすみなさい」
何を言おうかなって考えて、でもパッと言葉が出てこなくて。
でも、返してくれる『おやすみ』が嬉しくて。
この先、何回くらい『おやすみ』や『おはよう』が一番に言えるんだろう。
切った電話を枕元に置いて、ボケ−ッと天井を見上げた。
- 197 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/13(土) 14:51
- 春が来る。
新しい季節が来る。
この季節はどんな風に過ぎていくんだろう。
忙しいのはまだまだ続くけど、もっと、一緒にいたいな。
「お兄ちゃ〜ん、お風呂出たよぉ」
「はいよぉ」
もっと、もっと。
寂しい思いをさせないように。
もっと、一緒にいられるように。
- 198 名前:教えて石川お姉ちゃん 投稿日:2004/03/13(土) 14:51
- 朝、珍しく携帯が鳴った。
『おはよう』の一言。
『おはようございます』の一言。
次はもっと近くで言えたらいいな。
っていうか言おう。
うん。
バタバタと階段を昇る音。
どうやらまた麻琴は寝坊したらしい。
いつもと同じような朝。
でも、朝に聞けた声はいつもとちょっと違う朝。
「お兄ちゃんも遅刻しちゃうよ!」
遅刻?
ん?遅刻??
その言葉で時計を見たら・・・寝坊じゃん!!
やばやばい!急がなきゃ!!
やっぱしいつもとちょっと違う朝。
まぁたまには、ね。
「「行ってきまぁぁぁす!」」
飛び出したら外はもう暖かかった。
冬はもう終わるんだ。
そう思った。
- 199 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/13(土) 14:53
- 更新しました。
『教えて石川お姉ちゃん』はこれで終了です。
次回は久々にいしよしだけで。
- 200 名前:SINKI 投稿日:2004/03/13(土) 17:03
- 更新、お疲れ様です。
麻琴も恋してるんですね。
がんばれ!!
今度はひさびさにいしよしだけだそうで。
楽しみです。
私的には老夫婦カップルであるなちまりが読んでみた、、(殴)
すいません、ばかSINKIがわがまま言って(相方)。
相方に怒られたので引き上げます。
これからも楽しみにしてます。
- 201 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:14
- もう最近ぽっかぽか。
休みの日とかこんなだと、陽射しの入り込む所にゴロンと横になってお昼ねしちゃうくらい。
まぁ起きた時には陽射しは移動しちゃってるんだけどね。
そんなポカポカの日。
外に出れば気持ちいいんだろうけど、私達は家でまったりしてます。
だってここも気持ちいいんだもん。
吉澤くん膝枕に窓からのぽかぽか陽射し。
さらに髪なんて撫でられちゃって・・・極上だね。
最近こんな風に二人でゆっくりと昼間から過ごすことなんてなかったからもう幸せ一杯だよ。
「眠いですか?」
「ん、大丈夫」
嘘です。
すごく嘘です。
眠いです。
でも寝たくないんです。
今日の昼間は今日しかやってこないんです。
- 202 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:15
- 「眠そうじゃないですか。いいですよ、寝ちゃって」
駄目なの。
だってもったいないもん。
久しぶりなんだよ、こんな風に丸一日お休みが被ったのって。
ほら、だからね、もったいないじゃん。
もっとお話したりさ、ちょっとじゃれてみたりさ。
「大丈夫ですよ、まだまだ沢山時間あるんだし」
でもー、でもー・・・
と思っていたのに、髪を撫でられるのが気持ちよかったり、春に近い陽射しが気持ちよかったりで、
私見事に寝ちゃいました。
それもたっぷり1時間。
起きた後はごめんねごめんねと謝りまくり。
だって絶対足疲れたでしょっていうか痺れちゃったりしたでしょ。
そんな笑って大丈夫とか言ってるけど、ほら、足触っただけで変な逃げ方したじゃん。
あ、ちょっとおもしろいかも。
「ちょ、ちょっとたんまです!いや、マジたんまです!!」
- 203 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:16
- じりじりと壁まで追い詰めて、さぁて次はどうしましょうか。
って私どんなキャラなのかしら。
まぁいいや。
で、第二攻撃をしようとしたら捕まえられました。
はい、腕の中にすっぽりです。
ギュイッと抱きしめられました。
「悪いと思ってるなら悪戯しないで下さい」
「…は〜い」
春のせいかねぇ、なんかほのぼの。
こんな風に吉澤くんから抱きしめてくれるのなんて珍しいもんね。
照れ屋照れ屋。
でもね、こうギュッとされるのは嬉しいの。
照れ屋さん、今日は何だか積極的だね。
ピとッとくっつけた胸からバクバクなってる心臓の音が聞こえてくる。
聞こえる距離にいるんだよね、これってすごいことだよね。
- 204 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:17
- 「この体勢、キツクないですか?」
「う〜ん、ちょっと。でも大丈夫」
『だいじょばないです』って言われて抱きしめられていた腕をほどかれた。
何よー、いいじゃない。
多少の無理してでもピタッとしてたい時だってあるんだから。
ちょこっと膨れっ面してたら、鼻の頭をちょっとかいて吉澤くんが立ち上がった。
「何か、ビデオでも借りに行きましょう」
差し出された手をちょっと見つめてみた。
吉澤くんは笑ってる。
もう一度手に視線を移した。
掴みたくなった。
- 205 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:18
- 「気持ちいいねぇ」
「もう気温とかは春みたいだし、後は嵐が来るの待つだけですね」
ビデオを借りるついでにお昼御飯を外で済ませて、夕飯の買い物もちょっとした。
買い物袋とレンタルしたビデオの袋を持った吉澤くんの両手は塞がっているから、
ぽかぽかの陽射しの中、二人で肩を並べてゆっくり歩く。
少し遠回りをして緑の木々の下を通り、少し遠回りをして公園のベンチで遊ぶ子供達を眺め、
そしてまた少しの遠回りをしながら家へと向かう。
ゆっくりと流れる時間を楽しむように歩いて歩いて、先に鍵を開けて扉を開けたら、
入ろうとする私を制して吉澤くんが先に家に入って行った。
不思議に思いながらもそのまま続いて家に入ったら、吉澤くんが振り向いて『おかえり』って言ったんだ。
一瞬、時が止まったみたいだった。
さっさか買ったモノを冷蔵庫に入れてる後ろ姿とか、鼻歌唄いながら手を洗いに行く姿とか、
いつも見ているような姿なのに、すごくドキドキした。
「お茶飲みますか?」
「あぁ、うん。ありがとう」
- 206 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:19
- もう何処に何があるか覚えっちゃってるから慣れた手つきでお茶を入れてくれて、
そんな姿を見てたいんだけど何かドキドキが治まらなくて見れなくて。
いや、見たいんだけどさ、見たいんだけどね。
あぁやばい、なんだこれ。
「あれ?顔赤いですけど暑いですか?」
違うんですよ、全然違うんですよ。
いや、全然違うんじゃないけど、そりゃちょっと暑いんですけど、暑いっていうか暑いっていうか。
あぁ駄目、今額に手なんてあてないでぇぇぇぇぇぇ・・・
・・・落ち着くわ。
「熱とかはないみたいだし、やっぱ暑かったんですね。窓でも開けますか」
ガラガラっと窓を開けて、フワ−ッと吹き込んでくる風が吉澤くんの髪を揺らして、
春のにおいが部屋に入ってきて、何か今日はいつも以上に甘々ほわほわなんですけど。
春マジックかしら。
「気持ちのいい日ですねぇ、本当」
「今年は春が来るの早いよね」
窓辺に並んで春風に吹かれながらピとっとくっついて、あら、肩なんて抱いてくれるの。
珍しい…じゃなくて嬉しいよ。
やっぱり春マジックだね。
- 207 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:19
- 春ってさ、何か起きたりするんだよねぇ。
それも突然。
学生の時は花びらが吉澤くんと仲良くなれるキッカケを運んできてくれたんだよね。
今年の春は…風がね、運んできてくれたみたい。
- 208 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:20
-
「一緒に、暮らしませんか?」
やっぱり、突然。
すごく、突然に。
「もちろん今すぐにってワケじゃないです。でも、一緒に考えていきたいなぁって」
ポカポカした日、さわさわ風の吹く日。
借りてきたビデオは『魔女の宅急便』で買ってきた夕飯の材料は人参とかキャベツとか。
いつもと同じようで、ちょっと違う日の今日。
まだ太陽は白く明るくて、オレンジの夕日が眩しくて前が見えないじゃなくて、嬉しくて前が見えなくなった。
泣いてないよ、嬉しくて泣いてるとかじゃないよ。
全部が眩しすぎるんだよ。
だから、一瞬。
ほんの一瞬目を閉じて前が見えなくなったんだよ。
「…うん」
- 209 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:21
- その日の夜。
二人で狭いベッドに入っている時に雨は降り出し、ぎこちなくお互いに触れる手が
重なりあってる間もずっと降り続けた。
腕の中で聞いていた雷の音は短かった冬に終わりを告げて、新しい春を迎えた。
季節の変わり目。
暖かい腕の中で感じる雨音や雷の音は怖いとかじゃなくて心地よくて、ずっと聞いていたいような音だった。
- 210 名前:冬の終わりと春の始まりの間に 投稿日:2004/03/16(火) 00:22
- 「おはよ」
「…ん、おはよう」
いいよ、まだ寝てて。
眠いんでしょ?瞼重そうだもん。
ん?大丈夫だよ、今日は午後からだから。
知ってるでしょ?ほら、だから眠っちゃいな。
寝れるまで私が髪とか撫でてあげるから。
瞑った瞼に唇を落として、昨日とは逆に抱きしめる。
私と同じ髪の香。
私よりも白い肌。
すぐに寝息をたてはじめた唇を一瞬塞いでしばらく寝顔を眺めた。
昨日の雨と雷が嘘のように空は青く、薄い白い雲がゆっくりと流れていた。
腕を伸ばして少しだけ開けた窓からは雨の後特有の匂いが入り込み、暖かな風がまた私を眠りの世界に誘い込む。
時たま揺れるカーテンから漏れた陽射しは暖かく、吉澤くんと同じような太陽の匂いがした。
- 211 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/16(火) 00:27
- 更新しました。
甘々が書きたい時期だったもんで、いつもより砂糖が多めになってます。
>SINKI 様
たまにはこんな(0○〜○)( ^▽^)もありかなと(w
老夫婦カップルななちまりは後5、6回更新したら出てくるんでは
ないかと思われます
(●´ー`)<…出番少ないべさ
(;0○〜○)<…すいません。
よろしければマターリと待っていて下さい(w
- 212 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/16(火) 01:23
- 甘くて落ち着く〜
二人暮しですか…楽しみ〜
- 213 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/16(火) 14:34
- >>212
ちょっとネタバレ注意報でございます。
いい作品はやっぱりどきどきして読みたい!
- 214 名前:レオナ 投稿日:2004/03/16(火) 15:53
- 更新お疲れ様です。
まったりした感じが良いです。
これからも、がんばってください。
- 215 名前:桜色。 投稿日:2004/03/20(土) 08:45
- 春。
季節が変わった。
新しく入学してきた生徒も、新しく学校へやってきた先生も、皆が生き生きをしている。
「よっすぃー、悪いんだけどこれコピーとっといてもらえる?」
そして、きっと僕も生き生きしている。
時間を見つけては一緒に部屋を探したり、家具なんかを探しに行ったり。
もうちょい時間はかかるけど、ちょっとずつちょっとずつ色々なことを進めてる。
「はい、こっちもですか?」
「ん?あ、それ違った。ごめんごめん。それだけでいいんだ」
もう家族には話してある。
すぐに引っ越しとかはないけど、ちゃんと話しておきたかったから。
石川さんも御両親にそれとなく僕のことを話していたらしく、これを気に是非一度と言われている。
いつかはちゃんと挨拶に行きたいと思っていたし、近いウチに石川さんの実家にも行くだろう。
「そだ、木村先生、安倍さんがさっき探してましたよ」
「アヤカでいいって言ってるじゃん。まぁいいや。うん、わかった」
木村アヤカ先生も春からこの学校にやってきた新しい講師の先生。
平均年齢の高い講師の先生の中でもまだ20代半ばという木村先生は入学式の挨拶から
人気に一気に火がついて、休み時間や授業の終わった後とかよく生徒達が周りに集まっている。
- 216 名前:桜色。 投稿日:2004/03/20(土) 08:47
- 順調だよ。
本当、色々なことが。
順調すぎてちょっと怖いくらいだけどね。
「おぉ、よっすぃー」
「あ、矢口さん!どうしたんですか?珍しい」
っていうか来るの初めてじゃないですか?
あれ?確か今日って仕事じゃなかったでしたっけ?
「なっちがさぁ、せっかくオイラが作ってやった弁当忘れていっちゃったから
届けに来たんだよぉ。もうね、最悪。途中で道迷うし、お巡りさんには後ろから声かけられるし」
身長145cmの矢口さんは後ろ姿で小学生に間違えられたんだそうだ。
まぁ今日のオーバーオール姿だったら納得できるっちゃできるけど・・・相当御立腹のようだ。
『セクシー隊長だっつぅの!』とか言いながらまだぷりぷりしている。
「あれ、矢口じゃん?どしたのさ」
「あぁあぁぁぁあぁああ!なっち!どしたのさじゃないよ!これ、忘れもの」
- 217 名前:桜色。 投稿日:2004/03/20(土) 08:47
- 後ろでぎゃーぎゃー騒ぐ矢口さんと、そのぎゃーぎゃーを聞き流す安倍さんを置いてコピーコピー。
あぁ!もうすぐ休み時間終わっちゃうじゃん!!
「よっちゃん、なっちこの後授業あるからこのお弁当職員室持って行っておいてくれない?」
まぁともかく順調です。
忙しいけど。
「あぁ!よっすぃー!!コピーそれじゃなくてこっちだった!!」
春、皆がボケ−ッとしちゃう季節。
・・・なりすぎはどうかと思います。
- 218 名前:桜色。 投稿日:2004/03/20(土) 08:48
-
* * * *
「紗耶香、こっちで酒類は用意するけど料理どうすんの?」
「一人一品制。カップルでじゃなくて一人ね一人」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「ちょ、こっち投げないでよ!!」
「ニャァァァァァァァ!」
決まったことをメモしながらフムフム頷く。
酒も料理も場所もシートもOK
「ふぅん、じゃぁ結構な量になるなぁ」
「まぁね、吉澤の妹とかその友達も来るみたいだしね」
「うわぁぁぁぁ!こ、こぼれた!こぼれたよ!!」
「茸、変なキノコがあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!」
「ニャァァァァァァァ!」
- 219 名前:桜色。 投稿日:2004/03/20(土) 08:49
- 参加者もいつものメンバー+何人か。
多いねぇ、今年は。
「今年は新しく来た若い講師の先生って人も来るんでしょ?」
「あぁなんか20代ってなっちと吉澤とその先生しかいないんだろ?まぁいいんじゃない?」
「なっち拭きなよ!これなっちのヨーグルトでしょ!?」
「何いってんのさ!矢口だって一緒に住んでんだからなっちだけのせいじゃないべさ!!」
「ニャニャニャニャ!!」
こりゃ楽しくなりそうだ。
うん。
あんま飲める人もいないはずだし、安上がりっぽいし。
「まぁね、ワイワイ楽しくやるのも楽しいし」
「んじゃこれで大体決定でいっか」
「うぎゃぁぁぁこっちまで流れて来たべ」
「拭け!ともかく拭け!!こら!矢口お前舐めようとするんじゃない!!」
「フニャ?」
これもOKこれもOKその他諸々OK
よっしゃ、漏れとかないね。
- 220 名前:桜色。 投稿日:2004/03/20(土) 08:50
- 「んじゃこれ全員に配っておくよ」
「サンキュ、よろしく頼むよ」
「矢口じゃなくて矢口!手についてるよ!キノコヨーグルト手についてるよ!!」
「うそぉぉぉ!うぎゃー!矢口オイラの服で拭くなよぉぉぉぉぉ!!」
「んニャ?」
ってかさ、ってかさ・・・
「「うっさい!!」」
「「「ん?(ニャ?)」」」
この部屋の主人達さっきっから騒ぎすぎ。
「あのさぁ、今日は花見のこと最終的に決める日って言ってたじゃん」
「だから俺も圭ちゃんもなっち達の家来たんだぜ」
「あ!ポチポチたまが始まる!」
「おぉ、今日は早春の2時間SPの日だっけ」
「ニャン!」
ってか聞いてないっしょ。
聞く気ないっしょ。
- 221 名前:桜色。 投稿日:2004/03/20(土) 08:52
- 「…あのさ」
「…うん」
「ほれ、矢口もこっちゃおいで」
「あ、圭ちゃんと紗耶香そこのキノコヨーグルト片しておいて」
「ンニャァー」
わざわざ来たんだよ。
ここまでさ、金曜の夜にさ。
「別にさ、何かさ、ここでやる必要なかったよね」
「…何でここにしたんだっけ?」
「始まったべ」
「見てるんだからわかってるってば」
「ニャンニャー」
いつもならもう家でまったりビールでも飲んでるっての。
カオリの手料理食べてるっていうの。
「…矢口が呼んだから」
「…そっか」
「今日はグローバルな感じだね」
「ニュージーランドかぁ行きたいなぁ」
「ニャンニャ」
もうさ、御飯いらないって電話もしちゃったんだよ。
今日は外で済ませるからって言っちゃったんだよ。
- 222 名前:桜色。 投稿日:2004/03/20(土) 08:53
- 「…呑んで帰ろうか」
「おう、そうしよう」
「ヨーグルト−」
「ヨーグルト−」
「ニャーニャニャニャー」
でもさ、これじゃぁ帰れそうないよね。
絶対、このままで帰ったら両方の矢口に引っ掻かれそうだよね。
「…掃除っすか」
「…掃除っすね」
「これ終わったらなっち達も手伝うからさ」
「おう!酒の一杯ぐらいおごるさ」
「んニャ」
お腹空いたよ。
もう腹ぺこだよ。
「…2時間もかかるかよ」
「高い酒代だなぁ」
「はぁ、いつか行ってみたいねぇ」
「んだねぇ、いつか行ってみたいねぇ」
「ンニャーニャー」
でもさ、でもさ、やるしかないんだよね。
「「しゃーない、やるか」」
「「「よろしく(にゃん−)」」」
頑張ろう、紗耶香。
で、高い酒でもおごってもらおう。
「「はぁー」」
- 223 名前:桜色。 投稿日:2004/03/20(土) 08:54
- 結局、掃除は2時間もかからなかった。
だから矢口達にまじってポチポチたまを一緒に見た。
もちろん、カオリに電話を入れてね。
ちょうどカオリも同じのを見てたらしく、ニュージーランド!ニュージーランド!と叫んでいた。
隣で紗耶香はげんなりしながらも猫の方の矢口を抱えてポチポチたまをじっと見てたし、
まぁ、たまにはこんなのもいっかって思った。
ってか思おうとした。
「後藤も店の手伝いしながら同じ番組見てたみたいだよ」
『来年は絶対幹事は吉澤に回そう』紗耶香と俺の同意見だった。
- 224 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/20(土) 08:56
- 更新しました。
( `.∀´)<書いた時期バレバレだよね
ヽ^∀^ノ<な、本当だよ。
『桜色。』はもうちょい続きます。
>212 名無飼育さん 様
時たまこんな砂糖を入れたくなるんですよねぇ。
そしてクセになるとか。
私も楽しみです(w
>213 名無飼育さん 様
そんないい作品だなんて・゚・(ノД`)・゚・。
ありがとうございますです。
ドキドキしてもらえるように精進しますです。
>レオナ 様
マターリしすぎな気が自分でもしてたりするワケですが(苦笑)
でもそれが良い感じと言っていただけるならまたマターリも良いかなぁ。
ありがとうございます。マターリしすぎない程度に頑張ります。
- 225 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:31
-
* * * *
「じゃぁ、僕先行くから後からおいでね」
「うん、あさ美ちゃんが来たらすぐに行くよ」
お花見です。
晴れてます。
お花見の場所はウチの近くにある土手。
意外に穴場なんだよねぇ。
桜は綺麗だし、広い所だからそんなに人で溢れるってこともない。
すでに紗耶香と圭ちゃんとカオリさんは到着してるらしく、もうすぐ安倍さん達も到着するとのこと。
一番家の近い僕とごっちんだけど、ごっちんは寝坊、僕は麻琴起こしてたり、料理作ってたら
すっかり遅くなってしまい、今の時間で集合時間よりも少し遅れてしまっていた。
家を出る寸前、携帯に石川さんから『今ついたよぉ』というメールが届いた。
貼付ファイルを開いたら、くすぐったそうにしてる石川さんの顔と、その石川さんの頬にキスをしている
辻と加護の写真が出てきた。
あいつら、僕がいない間に…
- 226 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:31
- もうすっかり春。
あたたかいからTシャツに薄手のシャツ一枚で外に出れるくらい暖かい。
片手に料理、片手に家にあったチョコ詰め合わせなんて持って土手までの道をフラフラ歩く。
気持ちいいなぁ。
横を走り抜ける子供達の頬も桜色って感じ。
皆がいる所の近くまで行くと、どうやら僕を待っていてくれたらしい三人が出迎えてくれた。
「おはよ〜」
「よっちゃん遅刻!」
「一番家が近いくせに何してるれすか」
あれ?いきなり駄目出し?
二人が両サイドでぎゃーぎゃー言っているのを、ちょっと離れた所で石川さんが可笑しそうに見ていた。
今日の石川さんの服装は春らしい爽やかな感じ。
桜色のロングスカートが風にゆられてフワフワ揺れてて、上に羽織った薄手の白いシャツも
スカートと同じようにフワフワ揺れてる。
目を細めながら髪を押さえている姿は、僕らが出会った5年前の春ときっと同じで、
僕らが初めて話した4年前の春ときっと同じ。
早いな、もうこんなに時間が経ったんだ。
もうこんなにも季節は巡っていたんだ。
- 227 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:32
- 「おはようございます」
「おはよう、吉澤くん」
もう23歳か。
僕らが初めて話したのは僕がまだ20歳になったばかりの時だったんだよね。
今年でTAも3年目。
本当早いな。
「もうね、木村さんや安倍さん達来てるんだ」
僕の手から一つ袋を取り上げて、空いた方の手を辻と握って石川さんは小走りで先に行ってしまった。
取り残されたのは僕と加護。
空いているのは左手一つ。
「ウチらも早く行こう」
塞がった左手を引きずられるように走って前を行く二人を追い掛ける。
これじゃぁ僕と加護が付き合ってるように見えるんじゃないの?
ふと思った疑問を横に押し退けて背中達に辿り着く。
追い付いた背中達と一緒に少し歩くと、桜の香がする土手で、皆はこっちに向かって手を振っていた。
- 228 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:33
- 「ひゃっほーい、よっすぃー元気ー?」
すっかり皆と打ち解けていた木村先生はすでに御機嫌なようだった。
見るとすでにビールの缶が何本も空いている。
圭ちゃんだな、このほとんど。
柔らかな芝の上に敷かれたシートに料理を置いて、あえて芝の方に座った。
やっぱし春はね、こっちの方が気持ちいいのさ。
「木村さんスタイルいいですよねぇ」
「アヤカでいいって、それに敬語もいらないよぉ」
木村先生の隣に腰を下ろした石川さんはさっそく絡まれている。
ってか近いです。
木村先生、石川さんとの距離近すぎじゃないですか?
「よっちゃんて以外にやきもちヤキーだよね」
「なっち、そんなの前から分かってたことじゃん」
「ま、本人は顔に出してないつもりらしいけどな」
「ほほっ!バレバレだっつーの」
- 229 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:34
- ・・・この酔っぱらい四人組め。
ちょっと悔しくて芝をいじくっていたらそれを見た木村先生と石川さんまでもが爆笑していた。
あ、辻と加護まで!!
はぁ、味方はカオリさんだけですよ。
って思ったらカオリさんもニヤニヤ笑ってた。
・・・もういいですよ。
しばらくすると、ごっちんと一緒に麻琴とそのお友達のあさ美ちゃんだっけかな?
まぁ三人がケタケタ笑いながらやってきた。
「お兄ちゃ〜ん、これ忘れてたでしょ」
ヒョイッと投げられたのは僕の財布。
麻琴は呆れたぞポーずみたいに腰に手を当てて笑っていた。
「吉澤の妹?」
「うん、腰に手を当ててる方が麻琴」
ごっちんと石川さん以外は麻琴に会ったことないんだもんね。
皆興味津々といった顔をしている。
- 230 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:35
- 「こんにちは吉澤麻琴です。で、こっちが友達の紺野あさ美ちゃんです」
「は、はじめまして」
麻琴が隣の子を紹介すると、紺野さんは真っ赤な顔をしながらあたふたと頭を下げた。
なんかこのテンパり具合は誰かに似ているような・・・
「紺野さんってちょっと吉澤くんに似てる部分あるかもね」
石川さんの一言に皆が大きく頷いていた。
・・・ですよね、そんな気がしました。
「んぱ?」
- 231 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:35
-
* * * *
いつも以上の大人数。
でも麻琴も紺野(本人がそう呼んでと言ったので)もカオリさんの膝の上でじゃれあっているし、
アヤカさんも皆と一緒に楽しそうに話している。
「梨華ちゃん」
「ん?」
「梨華ちゃんとよし子、一緒に暮すんだよね」
「今すぐってワケじゃないけどね」
隣でごっちんはちょっと考えるように空を見上げた後、私の方を向いてフニャッと笑った。
「後藤の幼馴染みのこと、よろしくね」
そして手に持っていたビールをぐいっと飲んで『ぷはー』なんて言ってからまた空を見上げた。
白い薄い雲がゆっくり流れていて、少し風が吹くと桜の花びらがちょっと散る。
散った花びらを目で追ったら、その花びらはフワフワと飛んで、保田さんの手によって
早くも潰されて芝生に寝転がっている吉澤くんの髪の上に着地をきめた。
- 232 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:36
- ごっちんは持っていた缶ビールを私に預けるとゴローしている吉澤くんの頬をぺちぺち叩いて
かけていた眼鏡をひょいっと取った。
吉澤くんはそんなごっちんを手だけで『あっちいけー』みたいにしてる。
本当仲が良いんだよね、この二人。
吉澤くんに小突かれて芝生をごろごろ転がるごっちんはニカニカ笑ってるし、
それを見てる皆も笑ってる。
そして私も笑ってる。
ごっちんは髪や服に芝をくっつけたまま吉澤くんの眼鏡を、ビールを持っていない方の私の手に置いて
もう一度吉澤くんいじりの旅に出かけた。
「僕の眼鏡何処やったんだよー」
「梨華ちゃんのブラの中」
「な、なんてとこに入れてんのさ!!」
慌てて立ち上がるにもまだお酒がぐるぐる回ってるらしく、吉澤くんはフラフラっとしながら
ごっちんに詰め寄った。
あやつり人形みたいだ。
それもちょっと糸こんがらがっちゃいましたーみたいな。
詰め寄られたごっちんはお腹をかかえて『よし子必死すぎ』とか言いながら笑い転げて、
皆も私もその吉澤くんの慌てっぷりがおもしろすぎて涙を流しながら笑った。
- 233 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:37
- 「やだー、よっすぃーってばエッチー」
「き、ききき木村先生まで何言ってすんですか!」
「だぁからぁアヤカでいいってば。そう呼ばないと本当に梨華ちゃんのブラの中に眼鏡入れちゃうよぉ」
あ、アヤカさん!
ちょ、って本当にやる気ですか!!
ひえー、吉澤くん!吉澤くんってば!!
「あがぁあぁぁ分かりました、わかりましたから石川さんから離れて下さいよぉぉぉお」
ぐいっと引き寄せられてあらら吉澤くんの腕の中。
周りから『おぉ〜』って声が聞こえてくる。
酔っぱらうと吉澤くんって結構テンション上がって大胆になったりするんだよねぇ。
っていうかね、あのね、吉澤くん。
これってばやっぱり恥ずかしいんですよ。
皆がニマニマしてるのが見えないけど想像つく。
あのね、あのね、吉澤くん。
こんな所で大胆になる必要なんてのは全然ないんですよ。
- 234 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:38
-
ていうか・・・
クンクン
「…お酒臭い」
ビール服にこぼしたでしょ。
ここ、胸の所。
お酒臭いよ。
ほれ、だから離しなさい。
酔っぱらいさんはもうちょい芝生で寝てなさい。
ベリッと吉澤くんを引きはがして芝生にコロッと転がしておく。
デカイ体をお空に向けて、吉澤くんは『そういえば眼鏡は〜』とかぶつぶつ言ってた。
はいはい、眼鏡は私が責任を持って預かっておくから少し寝てなさいねぇ。
「よっすぃーってお酒弱いんだね」
「うん。家でも飲まないみたいだし、飲んでもすぐ酔っちゃうみたい」
- 235 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:39
- 少しお酒の抜けてきたアヤカさんは芝生に寝転がって前髪をいじくっている吉澤くんのことを
何だか優しい目で見つめていた。
・・・あれ?
これってライバル出現の予感?
違うよね、違うよね。
私が背中に冷たい汗をかいていると、アヤカさんは可笑しそうにクスッと笑ってから
私の頭をナデナデとした。
「大丈夫だよー、あたしよっすぃーを恋愛対象として見てないから」
「あ、いやぁ、あの…」
「よっすぃー見てるとでっかい弟見てる感じになるんだよねぇ」
『だから心配しないでいいよ』なんて言われて『梨華ちゃん可愛いー』とか言われながら
ギュイッと抱きしめられて何故か今私はアヤカさんの腕の中。
アヤカさんっていいかおりするなぁ。
どんな香水使ってるんだろ。
- 236 名前:桜色。 投稿日:2004/03/23(火) 20:39
- 「こりゃ吉澤が見たらすげーやきもち焼くな」
市井さんがおかしそうにビールを口に運んで笑っていた。
そしてその吉澤くんはいつの間にか夢の中へ。
「梨華ちゃんあんまし飲んでないべ。ほれ、なっちと熱く飲み語ろうぞ!」
そしてほげほげと酔っぱらいのなっちさんに誘われて私も酔っぱらいの輪の中に仲間入り。
アヤカさんも参戦してそのまま熱き語り合いに突入。
春って何だか笑いたくなる季節なんだよねぇ。
ほかほかしてるからかな。
皆それで顔の筋肉がゆるんじゃってるのかな。
それにお酒も入ればもう御機嫌。
時間も忘れてともかく楽しんじゃえ!
そんな感じだったから時間はあっという間にすぎていった。
- 237 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/23(火) 20:40
- 更新しました。
『桜色。』は後1回です。
- 238 名前:桜色。 投稿日:2004/03/26(金) 22:06
-
* * * *
僕が目覚めた時、石川さんと安倍さんと辻と加護が潰れていた。
で、何故か麻琴と紺野さんがカオリさんの膝の上でじゃれあっていて、
圭ちゃんとアヤカさんと紗耶香とごっちんと矢口さんが熱く語りあっていた。
えぇっと・・・僕が寝ている間に一体何が。
「おぉ、やっと起きたか」
「もうね、寝過ぎだよ寝過ぎ。オイラ達が何しても起きないくらい熟睡してるんだもん」
へ?何したんですか?
ねぇ僕に何したんですか?
ギャハギャハ笑いながら膝をバシバシ叩いている姿はまさにオヤジ。
オヤジ×5
・・・あそこら辺酒臭そう。
- 239 名前:桜色。 投稿日:2004/03/26(金) 22:07
- ってか僕の眼鏡は?
あれ?何処いっちゃんたんだ?
体のあちこち触ったりして眼鏡を探していたら、それに気付いたごっちんがちょいちょいっと
石川さんのことを指差した。
ぐっすりと眠っている石川さんの手の中には眼鏡があって、どうにもそれは起こさずに
取れそうなワケでもなくて・・・
・・・ま、いっか。
起こしちゃうのもね。
そう思いながらビールじゃなくて烏龍茶を持って酒臭い輪の中に入りこんだ。
で、その後は起きた4人も交えてまた楽しくわいわい飲んで、夜桜も見ようという
紗耶香の一言でさらにお酒追加。
途中罰ゲーム付きトランプババ抜き大会やら矢口さんと安倍さんがわざわざ家から持ってきた
がらがらを使ってビンゴ大会。
景品まで用意されてかなり皆熱く燃えた。
ちなみに一番いい景品は安倍さんお手製のお菓子で後は駄菓子屋さんで買ってきた
こまごましたお菓子。
干し芋をゲットした紺野さんはかなり嬉しかったようで、わふわふ言いながら走り回ってた。
- 240 名前:桜色。 投稿日:2004/03/26(金) 22:08
- でもってまたしても石川さんは意外にお酒に強いカオリさんの手によって潰されました。
矢口さんも途中でダウンしちゃって、アヤカさんの膝を借りて爆睡しちゃった。
そろそろお開きにしようという時間になってもこの二人は起きなかったから、
石川さんを僕が、矢口さんを圭ちゃんがおんぶをして夜道をフラフラと歩いた。
分かれ道になった所で圭ちゃんとカオリさんとアヤカさんと安倍さんと矢口さんと辻と加護とお別れをして、
これからまだ飲みに行くという紗耶香とごっちんとも、もうちょっと進んだ所でバイバイをした。
紺野さんは確か今日泊まっていくんだったよね。
麻琴が昨日言ってた気がする。
背中でぐっすりと眠る石川さんと麻琴と紺野さんと一緒に家へと帰り、麻琴達の手をかりて
石川さんを僕のベッドに寝かせておいた。
楽しかったんだろうな、寝顔がすごく幸せそうだ。
「石川さん、起きないね」
「疲れもたまってたみたいだからね」
下で何か作って食べようか。
あんまり食べてないからお腹空いたでしょ。
僕がそう言うと紺野さんが目をキラキラとさせた。
干し芋をゲットした時ばりの笑顔だ。
- 241 名前:桜色。 投稿日:2004/03/26(金) 22:09
- 「あさ美ちゃんは食べ物の話しになると光り輝くよね」
「まこっちゃんも人のこと言えないよー」
楽しそうに話す二人の背中を押して、とりあえず下へ移動する。
帰って来た時も静かだったからもしやと思ったけど、父さんも母さんもすでに寝てしまったらしい。
「音たてて起こしちゃうのもなんだし、僕ちょっとコンビニ行ってくるよ」
石川さんのことを二人に頼んで、財布だけを掴んで外に飛び出す。
外は夜のにおいと桜のにおいが両方してて、昼間よりもちょっと寒いけど歩いているのが
楽しくなるような気温だ。
鼻歌混じりに夜道を歩いて、コンビニで適当に食料を買って、やっぱり鼻歌混じりで夜道を歩く。
家に帰って部屋に戻ればそこには石川さんがいてくれる。
そう思うだけで心のウキウキもドキドキも止まらなくなる。
それがたとえ酔いつぶれて寝ている姿だって。
ウキウキ気分のまま家に帰って買ってきた物を二人に渡す。
二人に報告にやると石川さんはまだ眠っているらしい。
そうかそうか、御苦労さん。
ありがとね。
- 242 名前:桜色。 投稿日:2004/03/26(金) 22:10
- そぉっと自分の部屋のドアを開けたら報告通り、石川さんは僕のベッドの中でスヤスヤと眠っていた。
少しだけ開いた窓から吹き込む風や、カーテンの隙間からもれる街灯の光り、そして暗い部屋に光る星。
その中に石川さんは存在していて、僕が育ってきた空間で眠っている。
時間も何もかも飛び越えて、今がだけがここにあるみたい。
そっと近付いてずれていた布団を肩にかけ、その寝息を背中に聞きながらフワフワした空気を吸う。
チクタク聞こえる時計の音や、麻琴の部屋から流れる静かな音楽。
全部、僕を不思議な気分にさせた。
足を床に投げ出して、背中をベッドの横にくっつけて、頭だけを布団の上にポフッと置く。
くすぐるように石川さんの寝息が僕の髪を揺らして、僕をまた不思議な世界へと連れ去ってくれる。
今に現実感がなくて、全てが夢みたいで。
瞼を閉じたら消える幻がすぐ近くにあるみたいだ。
- 243 名前:桜色。 投稿日:2004/03/26(金) 22:11
- 「…梨華、さん」
恥ずかしくて呼べない名前。
こうしている時は何度だって呼べてしまう。
「梨華、ちゃん」
眠っているのがわかってて、こんな風に言ってることなんて気付かれてない。
先に眠ってしまった顔を見ながら何度も呟いた言葉。
「…梨華」
それはすごく特別で、大事すぎて呼べない名前。
呼ぶごとに気持ちは膨れ、眠る額や瞼に唇を落としていた。
だって、気付かれてないんだもん。
だから出来るんだ。
きっとね、こう呼んだら喜んでくれるんだろうなって沢山思った・・・思ってる。
だけどさ、いざ呼ぼうとすると胸がドキドキしすぎるんだよ。
面と向かって言えないんだよ。
名前を呼ぶだけなのにね。
なのにさ、特別なんだ。
照れくさいっていうのもあるんだけど『梨華』って呼ぶと、それだけで『梨華』になっちゃうんだよ。
きっと、僕にしかわからない。
大切な、大切な名前なんだよ。
- 244 名前:桜色。 投稿日:2004/03/26(金) 22:12
- 体を起こして眠る顔を近くで見つめてみた。
どんな夢を見ているんだろうね。
起きたら忘れちゃってる夢かな。
もう、覚えてない夢かな。
それでもいい。
いい夢を見れてるんならそれがいい。
触ると柔らかい頬、薄く開いた唇。
そっと指で触れれば伝わる温かさ。
頬や唇を何度か指でなぞって、そっと、触れるだけのキスをした。
「梨華…」
額にかかった前髪を優しくのけて、額や瞼に唇を落とす。
もっといい夢がみれますように。
窓からは夜と桜のかおりが部屋へと入ってきている。
春が部屋に流れ、春がきっと夢の中へと流れていく。
- 245 名前:桜色。 投稿日:2004/03/26(金) 22:13
- 「おやすみ、梨華」
呆れるくらいに呼んであげる。
喜んでくれるなら何度だって呼んであげる。
そう思っているのに出てこないこない言葉を何度も声にした。
大切な人に、もう一度触れるだけのキスをした。
いつもよりも少し冷たい唇の感触は、その夜中ずっと僕の唇の上に残っていた。
緊張して眠れないとかそんなのは全然なくて、むしろその逆。
ベッドからちょっと離れた所で毛布にくるまって寝たんだけど、同じ空間に石川さんがいると
思うだけで安心して、すごくよく眠れた。
感じる幸せ。
背中に聞く静かな寝息も、この部屋の時計の音も、全部が桜色に染まっているようだった。
- 246 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/26(金) 22:14
- 更新しました。
『桜色。』終了。
- 247 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/27(土) 00:30
- 更新、お疲れ様です!
(雰囲気を壊したくなかったので更新終了までレス我慢してみたりw)
なんともいえない幸せな気分。イイですね〜。
これからも楽しみにしておりまーす♪
- 248 名前:写真。 投稿日:2004/03/29(月) 21:26
- 「あ、あのぉ本当にこんな格好でいいんですかねぇ」
この台詞を聞くの何回目だろう。
ジーパンに襟付きシャツ姿の吉澤くん。
いつも通りの格好でいいよと言ってるのに『パーカーは良くないでしょ』とか思いながら
夕べ必死に服を選んだんだそうだ。
桜はもう散ってしまった。
今は梅雨を待とうとする季節に変わっていて、春とも呼べない中途半端な季節。
そして今日は石川家でのお食事会。
私が久々に実家に帰ると言うと、両親が『だったら吉澤さんも連れておいでよ』と。
吉澤くんのことはもう話してあるんだ。
前に電話で聞かれた時に話したのがキッカケ。
そんな隠す必要もあるとは思ってなかったからね。
そのことをママから聞いたパパはしつこくママに『相手はどんな人なんだ』とか聞いてたらしい。
私の予想だったら吉澤くんとパパは気があうと思うんだけどなぁ。
どうなんだろう。
- 249 名前:写真。 投稿日:2004/03/29(月) 21:27
- 吉澤くんの運転で向かってるんだけど、運転席に座っている吉澤くんは誰が見てもわかる程緊張してる。
いつもよりも顔怖いもん。
引きつってるっていうよりも強ばってる。
ガチガチすぎ。
そんな緊張するような人達でもないんだけどなぁ。
むしろ私の方が不安なんだよ。
「まだ時間あるんだしちょっと寄り道してこうよ」
お茶でも飲んでリラックスしましょ。
木漏れ日の店にでも行ってお茶でもしましょ。
私も久々に雅恵さん達に会いたいし。
- 250 名前:写真。 投稿日:2004/03/29(月) 21:27
- ってことで久々に木漏れ日の店へとやって来ました。
雅恵さんもめぐみさんもかなり元気そう。
「今日はこれから何処行くの?」
軽いナンパのような口調の雅恵さんにめぐみさんはカップを拭きながら苦笑いを浮かべてる。
久々だけどやっぱり全然変わってないなぁ。
とくに雅恵さん。
いや、めぐみさんもか。
「これから実家に帰るんです。で、この人も一緒なんですけど見ての通りガチガチで」
指でこつンと押したらそのままの姿勢でコテンと床に落ちちゃうんじゃない?
そう思っちゃうよ。
「まぁ緊張するなって方が無理だろうけど、梨華ちゃんとこの御両親だったら
絶対に大丈夫だと思うけどな。お父さんはちょっと怖い顔してるけど」
雅恵さんはカウンターに肘をついてニヤニヤ笑う。
やっぱそう思いますよね。
私もそう思ってるんですけど・・・
- 251 名前:写真。 投稿日:2004/03/29(月) 21:28
- 隣でコーヒーの入ったカップを両手で包んでジーッとしてる吉澤くんの頭をぺしぺしする。
それでも動かない吉澤くんに、めぐみさんのチョップが入る。
それも何故か両手チョップだ。
でもって結構な力がこもっていたらしく、ぐいんと吉澤くんの長い首が揺れた。
「シャキッとせい!若者よ!!」
連続の両手チョップ。
ぐわぐわ揺れる吉澤くん。
これでもかってくらい揺れている。
あのぉ、ちょっとやり過ぎじゃないですか。
ねぇめぐみさん、それやり過ぎじゃ・・・
そろそろ止めようとした時に、めぐみさんの手がピたッと止まって、
固まっていた吉澤くんお口から『ふぃ〜』という息が漏れた。
私も雅恵さんもめぐみさんもピタリと動きを止めて、固まって吉澤くんの方をジーッと見つめる。
「…うん、もう大丈夫です」
よくわかんないけど、何かが吉澤くんの中で解決したらしい。
それはめぐみさんの強烈なチョップのおかげか、それとも全く別のこか。
でもまぁ、解決したならそれでいい。
- 252 名前:写真。 投稿日:2004/03/29(月) 21:29
- 「よっしゃ!石川さん行きましょう!」
満面の笑み。
突然立ち上がって腕をぐんと伸ばして一人やる気モード突入。
シッポがついてたらすんごい勢いで振ってそうな目で私に『早く早く』と言っている。
どうしたんだろう、変なスイッチ入っちゃったみたいだよ。
ねぇ、これって行かないと噛み付かれる?
噛み付かないよね、うん、でも行く。
よくわかんないけど行くよ。
「えぇっと、あの、また今度ゆっくり出来る時に来ますね」
雅恵さんとめぐみさんに見送られて車に戻った。
一足先に運転席に座っていた吉澤くんは眼鏡をフロントガラスの前に置いて、
おでこをピた−ッとハンドルにくっつけていた。
エンジンもかけないでピた−っとくっつけてた。
「無理なんてしなくてもいいのに」
「…だってあのままじゃカッコ悪いじゃないですか」
「今日は、辞めとく?」
「いや、行きます。絶対に」
- 253 名前:写真。 投稿日:2004/03/29(月) 21:29
- ハンドルから頭を上げて、シートに頭を乗せてからさっきみたいに大きく息を吐く。
それから頬をぱしぱし二回叩いて、吉澤くんは眼鏡に手を伸ばした。
エンジンをかけて、少し窓を開けて、車はゆっくりと走り出す。
助手席から見た吉澤くんの頬は強く叩きすぎたのか、ちょっと赤くなってた。
あぁ、もうその緊張が無駄だってことを早く教えてあげたいよ。
ゆったりと走る車。
それでも進んでるんだから到着する。
だから到着した。
私の実家に。
「車ここでいいんですか?」
「うん、大丈夫」
もう夜でも寒くない季節になったんだよねぇ。
薄着だとほんのちょっと寒いけど、でも前に比べたらかなり暖かくなった。
息をふーってやっても白くないし、木は緑の葉をふぁすふぁすと鳴らしている。
「あのさぁ、先に言っておきたいんだけど…」
「ん?どうしたんですか?」
さっきっから緊張してるから言うってワケじゃないからね。
ただ、やっぱし先に知ってないと驚いちゃうと思うから言っておくね。
- 254 名前:写真。 投稿日:2004/03/29(月) 21:30
- 「パパとママのテンションが高くてもひかないでね」
私がこう言うと吉澤くんは首を横にコテンと倒した。
いや、うん、分かんないと思うから、知っておくだけでいいんだ。
ずっと言ってるけど、そんな緊張するような人達じゃないからね。
ってか多分緊張してたのがバカに思えてくるかもよ。
だからね、ずっと言ってたんだよ。
そんな緊張しなくても大丈夫だって。
何か言おうとする吉澤くんの背中をポんッと叩いてさぁ行こう。
ちょっと震えてる吉澤くんの手をぎゅっと握ってからそっと放した。
大丈夫、大丈夫。
むしろ私の方が今は不安なくらいなのさ。
ママが変なこと言わないだろうとか、パパが暴走しないだろうとか。
まぁでもここで考えてても分からないか。
・・・よし、行こう。
意を決して玄関の扉を開く。
「ただいまぁ」
- 255 名前:写真。 投稿日:2004/03/29(月) 21:31
-
パシャッ!
どうして不安っていうのは的中するんだろう。
きっと私の後ろで固まっているであろう吉澤くんの表情を想像して私はため息をついた。
浮かれないでって言っといたんだけどなぁ。
やっぱし無駄だったかぁ。
後ろを振り向いたら想像通り吉澤くんが驚いた顔をして固まっていた。
まぁ、そりゃそうなるよね。
入ってくるなり突然写真撮られたんだもんね。
それが正解のリアクションだと思うよ。
私達の目の前にはママのフリフリのエプロンをつけて、ちょっと複雑そうな顔をしてお玉を持ったパパと、
今光らせたばかりのフラッシュがついているポラロイドカメラを片手に持ったママがズデンと立っていた。
- 256 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/03/29(月) 21:32
- 更新しました。
『写真。』は後一回。
>247 名無飼育さん 様
幸せな気分になってもらえてえがったです・゚・(ノД`)・゚・。
マターリしすぎてどうしようと思っている状態ですが、
でもやっぱりマターリいくと思います。
レス我慢までして下さったみたいで(w
ありがとうございますです。
- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 22:28
- あばばばば・・・
おもしろーいい!!!
なにがおもしろいかは内緒内緒
次回更新まってますよ!!!!!!!!!!!!!1
- 258 名前:茅ヶ崎のマヤヤ☆ 投稿日:2004/04/02(金) 00:11
- 更新お疲れ様です。
かなりお久しぶりです!でもずっと読ませていただいていました。
いっやぁー!おもしろい展開ですねぇ!!こりゃ次回がかんなり楽しみっす!!
更新待ってます!!
- 259 名前:名無し丸の介 投稿日:2004/04/02(金) 12:36
- 更新乙ですー。
お食事会、たのしみですー。
フリフリエプロンパパワロタ(w
- 260 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:28
-
* * * *
あぁ、こりゃぁ…何と言うか
「梨華!あんたでかしたわね!!」
「…君がママの言ってた吉澤ひとみくんか」
「そうだよ、そうだからママもちょっと落ち着いてよ…」
僕の目の前では石川さんのお母さんがぎゅっと石川さんを抱きしめていて、
その石川さん達のちょっと後ろではピンクのフリフリエプロンをつけてお玉を持ってる
ちょっと強面な石川さんのお父さんがジーッと僕の方を見ている。
『パパとママのテンションが高くてもひかないでね』
この言葉の意味を今になってやっとこさ理解できた。
言葉の通りだった。
というか、テンションが高いのは石川さんのお母さんだけのような気もするけど・・・
「…まぁ、ともかく上がりなさい」
- 261 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:28
- …こえー。
いや、お玉で促されたとかそんな理由じゃないんだけど、静かすぎる感じが怖いんだよね。
「お、おじゃまします」
ピンクのエプロン姿の後を追ってリビングに入ると、そこにはすごい豪華な料理が並べられていた。
何も言わずに台所に立っているピンクエプロンの後ろ姿が一瞬光って見えた。
というかそんな風に見えるはずないのにそう見えたのは僕があまりにも緊張をしているせいなのかなぁ。
黙々と腕を動かし続ける後ろ姿を見つめていたら、玄関から戻ってきた石川さんのお母さんが
僕の腕をバシッと叩いてからすごい笑顔でニコッと笑った。
石川さんの笑顔に似てるなぁと思いながら笑い返したら、石川さんのお母さんはさっきよりも
嬉しそうに笑って僕を席に座らせた。
こう、肩をグイッと押して椅子に座らせた。
…な、何が始まるんだろう。
目の前には石川さんのお母さん。
その後ろにはお椀とお玉を持った石川さんのお父さんがいて、僕の隣にはちょっと怒った顔をした
石川さんが座った。
- 262 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:29
- こんな時は何も言わない方がいいんだろうか。
いや、それとも何か言った方がいいんだろうか。
考えろ、考えろ僕。
この脳をフルに使って考えるんだ。
何で石川さんは怒った顔をしてるんだろう。
何で石川さんのお母さんはあんな笑顔で僕を見ているんだろう。
何で石川さんのお父さんは何も言わずに黙々とお椀にスープをよそっているんだろう。
あぁっと、えぇっと…聞けるようなことが何もない。
いや、でもここは何か喋った方がいいよね。
だよね、この空気微妙だよね。
あ、でも何て呼べばいいんだろう。
さすがにお母さんとかお父さんはマズイよね。
って当たり前じゃん!
あぁテンパってる。
僕かなりテンパってる。
でも駄目だ。
何か喋らなきゃ。
覚悟を決めてグッとばれないようにテーブルの下で手を握った時、ずっと僕のことを見ていた
石川さんのお母さんが口を開いた。
「こりゃ孫が楽しみだね」
そう、言った。
- 263 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:30
-
* * * *
「ママ!いきなり何言ってるのよ!!」
吉澤くんまた固まっちゃったじゃん。
電話で何度も言ったよね、変なこと言わないでねって。
「何って普通のことじゃない。
電話じゃ背が高いってことしか聞いてなかったからママどんな人が来るのかと思ってたら
こんな綺麗な顔してる子が来るんだもん、驚いちゃったわよ」
ま、まままっま孫の話しと関係ないじゃん。
それって吉澤くんに対する感想じゃん。
なのに何でいきなり孫の話しに飛んじゃうのよ。
今日ってただの食事だよね、普通にちょっと気を使いながらお話する程度の予定だったんだよね。
少なくとも私はそうだったんだよ。
いや、そうは出来ないとは思ってたけどそんな願望を持ってたんだよ。
「ひとみさん、だっけ?」
「あ、はい」
「梨華のことよろしくね。この子ねぇ小さい頃から空気を読むのが下手でねぇ」
ママ!そんなの今話す必要ないじゃん!!
ってかパパ止めてよ、浮かれちゃってるママの暴走止めてよ…
- 264 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:31
- 「…まぁとりあえずわたし達のことはお父さん、お母さんと呼んでいいから」
…嘘。
いや、パパ何言ってるの。
ねぇフリフリのピンクのママのエプロンつけて何言ってるの?
ありえないでしょ、そりゃありえないでしょ。
普通は父親ってそんなこと言わないよね、すぐ言わないよね。
会ったその日で数分しか経ってない状態でそんなこと言わないよね。
こう『お父さんなんて呼ぶな!』みたいなこと言ってテーブルとかひっくり返すんじゃないの?
違うの?ねぇ、違うの?
「いや、君を見てるとね、昔の自分のことを思い出すんだよ」
昔って何よ、何よ昔って。
吉澤くんとパパ全然似てないじゃん。
吉澤くんはそんなパパみたいな強面してないもん。
それに何処みて何思い出したのよ。
何で遠い目をしてるのよ…
…思い出話しスタートですか。
そうですか。
- 265 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:31
- 「は、ハハッ…」
駄目だ、何か疲れてきちゃった。
まさかこんな酷いとは思わなかった。
っていうかこんな浮かれてる二人を想像してなかった。
そしてこんな展開になることも想像してなかった…。
あぁ、ごめんね吉澤くん。
絶対驚いてるよね、ちょっとひいてるよね、軽く怯えてるよね。
ごめんね…私もこんなになると思ってなかったの。
私が乾いた笑いを浮かべながらした食事は、おいしいはずなのに味なんて感じなかった。
あぁもう本当ごめんね、ごめんね吉澤くん。
- 266 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:32
-
* * * *
「またいらしてね、パパも今日はすごい楽しかったみたいだし」
帰り際、そう言いながら石川さんのお母さんはそっと薄い封筒を僕の手に渡し、
人さし指を自分の口にくっつけると口ぱくで『内緒』と言った。
ちゃめっけタップリな感じでウィンクのおまけつきだ。
やっぱり石川さんのお母さんなんだなぁって思いつつも、そういえば石川さんってウィンク出来ない
んだっけかなぁとか思ったり。
来るまではかなり緊張してたのに、今じゃ良い具合に肩の力が抜けている。
石川家マジックだね、本当。
「ひとみくーん、今度は電車でくるんだぞー」
「もぉ玄関先で大声出さないでよ。恥ずかしいなぁ」
最初怖って思ってたお父さんも実はかなり愉快な人だった。
ピンクのフリフリエプロンも違和感なく見えてるくらいだし。
本当はさぁ、もう殴られるんじゃないかって思ってたんだよね。
『大事な娘に何しやがる!!』バチーンみたいな。
そんな風に思ってたお父さんもビール片手に今じゃ御機嫌。
色んなことを話してくれた。
- 267 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:32
- 石川さんは今日はこのまま家で泊まっることになっている。
だから帰りは僕一人だ。
玄関先でお父さんとお母さんに見送られながら石川さんと車までゆっくりと歩く。
石川さんはちょっと疲れてるみたいだった。
まぁ、理由は何となく分かるんだけどね。
「パパね、夕べ落ち着かなかったんだって」
車のドアに手をかけようとしたら石川さんがポツんと呟いた。
ちょっと酔っぱらってて赤くなってる顔を空に上げて、車に背中をくっつける。
「ママが言ってたんだけど、結構複雑な心境だったらしいよ。
梨華の連れて来たヤツが変なのだったらどうしようとか、
梨華がどんどん遠くへ行ってしまうとかお布団の中でぶつぶつ言ってたんだって」
石川さんは背中を車にくっつけたまま、肩を小さく揺らして笑った。
お父さんは石川さんのこと、すごい大事にしてるよね。
今日沢山話してくれたのもね、ほとんど石川さんのことだったんだよ。
気付いてたと思うけど。
伝わってきたよ、もうすごい沢山。
- 268 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:33
- 「ビックリしたよ。いきなりお父さんとお母さんと呼んでいいからなんて言うんだもん」
少し間を空けてから石川さんは落ちてきた髪を耳にかけて、
足で地面に落ちてた小石を蹴り、その小石の進む先をジッと見つめて言った。
「パパ、きっと言うこと沢山考えてたんだよね」
小石は壁にぶつかって、乾いた音をたてて少し転がってからその動きを止めた。
静かな住宅街。
何処かで犬の鳴いてる声が聞こえる。
「…また、パパとママに会ってくれる?」
「もちろんですよ。今度は電車で来ます」
石川さんは僕の方を見ると、いつもみたくニコッて笑って車から背中を浮かせた。
「何か、すごい夕飯だったね」
「ですね」
「明日はね、夕方前には帰るからね」
「じゃぁ家出る時教えて下さい。駅まで迎え行きますから」
- 269 名前:写真。 投稿日:2004/04/02(金) 21:34
- 家に向かって走ってく石川さんの背中を見送ってから車を発進させた。
長い道のりをゆっくり走って、家についてからお母さんから渡された封筒を開けてみた。
中には玄関で突然撮られた写真が入っていた。
そこに写ってる僕の顔はかなり緊張していて、隣に写ってる石川さんはちょっとハの字眉毛をしている。
すごい記念の一枚。
僕はそれを机の引き出しの中に大事にしまっておいた。
飾っるっていうのも何かね、恥ずかしいし。
眠る前、もらった写真を写メールで石川さんに送っておいた。
返事は明日の朝見よう。
そう思いながら布団にもぐりこんだ。
- 270 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/04/02(金) 21:35
- 更新しました。
不定期な更新申し訳ないです。
次回以降もこんくらいにペースで更新できるように頑張ります。
(これ以上は落とさないように頑張るです)
>257 名無飼育さん 様
内緒キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
激しく気になるワケですが(w
マターリな更新で申し訳ないです_| ̄|〇サボリスギタ
パパの料理の腕はかなりのものだそうです。
>茅ヶ崎のマヤヤ☆ 様
おぉ、どうもお久しぶりです。
えらく時間かかりましたがやっとこさここまできますた(・∀・)
そして脳内妄想ではシリアスな予定だったのに…アレ?(w
>名無し丸の介 様
すんませんお待たせして(汗
石川パパはいつかのハロモニの石川さん参照です。
あれにフリフリエプロンつけておたまを持たせて下さい(w
- 271 名前:名無し( ゜皿 ゜) 投稿日:2004/04/03(土) 14:34
- >>270
(▼▽▼)<アンタ、あのこのなんなのさ
こんな感じっすか?
あ、いつも読ませて頂いてます。
これからもがんがってください。
- 272 名前:お日様と布団の中。 投稿日:2004/04/07(水) 20:47
- 「明日だったっけか?よっちゃん達の引っ越し」
ポカポカな陽が続いてます。
通り過ぎた冬も、あっという間に過ぎていこうとする春も、全部がポカポカしています。
「違うよ、再来週だよ」
オイラの目の前ではサンドウィッチをもぐもぐとおいしそうに食べているなっちがいて、
なっちの背中にはハタキがくくりつけられています。
ちなみにオイラの背中にはハタキはくくりつけられてないけど、ズボンのポッケには
タオル(雑巾ともいう)がつっこまれてます。
季節外れの大掃除。
言い出しっぺはなっちだ。
「でもよっちゃんと梨華ちゃんが同棲だもんね。なっちはまだ信じらんないよ」
- 273 名前:お日様と布団の中。 投稿日:2004/04/07(水) 20:48
- 何故突然大掃除なのかと突っ込んだら、何となくってかえってきた。
…ワケわかんないよなぁ。
よっすぃー達の引っ越し。
それは意外にも早い時期に行われることになった。
いい物件がすぐに見つかったっていうのも理由の一つらしい。
っていうかちょっと中途半端な時期な気もするけど、まぁ二人がいいならオイラはそれでいいと思う。
春は過ぎて、もうすぐ梅雨が終わる。
本格的に夏になる前に引っ越しをしたいっていうのがあるっていうのを石川から聞いた。
っていうか、聞かされた。
あれだ、ノロケってやつだ。
「ね、オイラもまだ信じらんないくらいだもん」
二人してもぐもぐお昼御飯を食べてまた大掃除開始。
いつしかあまり使わなくなったもう一つの部屋。
余っていた布団は布団圧縮袋に入って押し入れの中から出番を伺っているかもしれないけど、
当分出してあげることは出来ないと思う。
- 274 名前:お日様と布団の中。 投稿日:2004/04/07(水) 20:49
- たまに思うんだ。
なっちとオイラはいつまでこうしてられるんだろうって。
一体オイラ達の関係って何なんだろうって。
なっちに聞いたことはないけど、たまに答えが欲しくなる。
実際のところ、オイラはぶっちゃけなっちがかなり好きだ。
好きだっていうか、もう生活の中になっちがいるのが当たり前すぎるくらい当たり前で、
それが普通で、これからも普通な気がする。
…なっちは、どうなんだろう。
「ほれ、矢口なしたのさ。押し入れの中ジッと見たって何も出てこないっしょ」
そうなっちが言ったら、押し入れの中から『ニャぁ』と鳴いて矢口が出てきた。
一体こいつは何処から入ってきて、いつまでここにいたんだか。
こいつがいる生活も、それが普通なんだよね。
- 275 名前:お日様と布団の中。 投稿日:2004/04/07(水) 20:50
- 夕方前には終わった掃除。
ピカピカした部屋はかなり気持ちがいい。
太陽の匂いのする布団も、ふかふかの枕も、全部が気持ちいい。
オイラとなっちは代わる代わるシャワーを浴びて、それぞれベッドとソファーにゴロンと横になった。
「夕飯、外に食べ行こっか」
「んだね、なっちもちょっと疲れちゃったよ」
お互いにお風呂に入ってさっぱりしちゃったせいもあって、気がついたら眠ってしまっていた。
目が覚めた頃にはもう外は暗くなってた。
起き上がろうとして体をよじったら、いつの間にか隣にきていたなっちの存在にやっとこさ気付いた。
なっちは足をぐいっと上げて壁にくっつけて寝ている。
いつ見ても疲れないんかいって突っ込みたくなるような寝方だ。
しばらくおかしな格好で寝ているなっちを見ていたら、上げた足が矢口に向かって降り下ろされた。
この寝相の悪さでオイラは夜中に何度起こされたことか。
そんなことを思いながらも、オイラはニヤニヤが止まらなかった。
いつもは恥ずかしがってあまりやらせてもらえないチューをして、お日様の匂いのするなっちを抱きしめた。
- 276 名前:お日様と布団の中。 投稿日:2004/04/07(水) 20:51
- 「ねぇ矢口」
「ん?」
結局、外に出るのも面倒だと頼んだ出前。
ズズ−っとラーメンを食べながら出て来る鼻水と格闘してたら、なっちが箸を持ったまんま
オイラの顔をジーッと見てきた。
「なっちと矢口はぴったんこだべ」
なっちはズルイと思う。
本当、そう思う。
肝心な言葉はいつも隠して、だけどオイラのことをしっかり見ていてくれて、言ってくれる。
煮え切らないよ。
でも、伝わってくる。
オイラもなっちもお互いにお互いがいることを普通と感じている。
だから、こうして一緒にいれる。
「当たり前じゃん、何突然言い出してるんだよ」
素直になれないのは、オイラだって恥ずかしいから。
二人してもくもくとラーメンを食べて、鼻水と格闘して、夜は一緒の布団でぐっすりと眠った。
オイラは知らない。
なっちが寝ているオイラの口にムチューっとしてることなんて。
だからオイラはなっちをズルイと思ってしまう。
だけど、やっぱりオイラはなっちが大好きだったりする。
ずっと、ずっと前から変わらないよ。
- 277 名前:お日様と街の外。 投稿日:2004/04/07(水) 20:52
- 「んぱ。ねぇいちーちゃん、これなんてどうかな?」
「それ思いっきりお前の趣味じゃん」
えぇ、でも絶対よし子も梨華ちゃんも気にいると思うんだけどなぁ。
いちーちゃんがスタスタと先に歩いて行ってしまうから、後藤は手に持っていた
ドラちゃんマグカップ(片方はドラみちゃん)をしぶしぶと元の場所に戻した。
よし子と梨華ちゃんのお引っ越しの日が近付いてきて、いちーちゃんと後藤は
引っ越し祝いを探しに都心の方まで出てきていた。
休日ってこともあって結構は人の量。
いちーちゃんは『カップルばっか』なんて言ってたけど、そんなカップルの中の一組に後藤達も
入っていること、気付いてるんだろうか。
デパートなんかをぐるぐるまわったけど、どうも『これだー!』ってものが見つからない。
だから後藤達はまたちょっと電車に乗って移動をした。
「あれ、加護と辻じゃん?」
そしてちょっとおもしろ雑貨なんかが並ぶ道を歩いていたら、いちーちゃんが後藤の肩を叩いてそう言った。
ちょこっと首を伸ばして言われた方を見てみると、確かにそうだ。
ののとあいぼんだ。
二人ともちょっとお洒落をしていて、でもって手にはちょっと大きめな袋を持っている。
- 278 名前:お日様と街の外。 投稿日:2004/04/07(水) 20:53
- 「やっほ〜い」
「あ、ごっちんだ」
「本当だ。ごっちんだ」
軽く存在をスルーされたいちーちゃんは隣で苦笑いを浮かべていたけど、まぁ別にいいや。
「ごっちん達もよっちゃん達の引っ越し祝い探しれすか?」
「んぁ、そうなんだけどなかなか良いのがなくてねぇ」
「ウチらもう見つけたよ」
そう言ってあいぼんが掲げてくれたのは大きな袋。
中に何が入ってるかは分かんないけど、二人はすごい満足そうな顔をしている。
そっか、いいのが見つかったんだ。
後藤達も負けてらんないね。
ののもあいぼんもこれからまだ遊びに行くらしいので、その場でバイバイをした。
元気だね〜、二人とも。
「後藤、こんなのどうかな」
そして存在を軽くスルーされてた間に何か探していたいちーちゃんは不思議なカタチをした
灰皿を指差していた。
- 279 名前:お日様と街の外。 投稿日:2004/04/07(水) 20:54
- 「よし子も梨華ちゃんも煙草吸わないよ」
いちーちゃんも人のこと言えないね。
ま、ゆっくりと探しましょ。
後藤もいちーちゃんも今日はゆっくりできるんだしね。
「これなんてどうかなぁ?」
「…それ、さっき他の店で見たヤツと全く同じやつじゃん」
…そうだっけ?
このドラちゃんとドラみちゃんマグカップセット、可愛いと思うんだけどなぁ。
- 280 名前:お日様と部屋の中。 投稿日:2004/04/07(水) 20:55
- 「軍手ってどこしまったっけ」
圭ちゃん、分かってる?石川達のお引っ越しは来週なんだよ?
今からそんなドタバタ準備したってまた片付けちゃうんだよ?
ねぇ、あんまり分かってないでしょ。
土曜日。
いつもカオリが起こすはずなのに、圭ちゃんは今日は一人で起きて、朝からテキパキと動いていた。
パンを焼いたり、卵の殻入りで卵焼きまで作ってくれた。
思わず熱でもあるんじゃないかって思って額に手を当てたらちょっと怒られちゃった。
「タンスの上から3段目に入ってるでしょ?」
落ち着きのない圭ちゃんに理由を聞いてみたら
『だってあの二人の同棲記念日だよ?落ち着いていられるはずないじゃん』って言われた。
何で圭ちゃんが落ち着いていられないのかはよく分からなかったけど、
まぁ、ともかくあの二人の同棲記念日が来週に迫っているから圭ちゃんが落ち着かないっていうのは分かった。
あれ?よく分かってないのかな…。
「おぉ、あったあった。ん、準備万端!!」
- 281 名前:お日様と部屋の中。 投稿日:2004/04/07(水) 20:55
- だからさ、引っ越しは来週なんだってば。
もう、ちょっとは落ち着きなよ。
「よっしゃ、ちょっと出かけてくるね」
行動モードがオンになった圭ちゃんは恐ろしい程よく動く。
いってらっしゃいをして、圭ちゃんが散らかした服とかを片付ける。
しばらくして帰ってきた圭ちゃんの手には野菜とか豆腐とか鍋の材料が沢山詰まった袋が握られている。
「今日は鍋ね、鍋。やっぱ力つけないとな、うん」
だからさ、来週なんだって。
カオリはこの日何度目かの突っ込みを圭ちゃんにして、一緒に夕飯の準備をした。
- 282 名前:お日様と部屋の中。 投稿日:2004/04/07(水) 20:56
- で、夜。
二人でボケーっとテレビを見ていたら、圭ちゃんが話してくれた。
圭ちゃんはあの二人がまだくっつく前から二人の気持ちを知ってたり、
『ちょっとした吉澤くんの勘違い暴走劇』に巻き込まれたことがあったから、二人が同棲するっていうのが
何だか他人事のような気がしないんだそうだ。
まるでパパみたいな意見だね。
「じゃぁカオリがママか」
圭ちゃんが笑ってそう言った。
考えてみてちょっと違う気もしたけど、圭ちゃんが美味しそうにビールを飲んで
カオリのことを抱き寄せてくれたらそれでもいっかなぁなんて思った。
- 283 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/04/07(水) 20:57
- 更新しました。
ペースがた落ち。
ごめんなさい。
今回はいしよし以外の方達です。
>名無し( ゜皿 ゜)様
>>270
>(▼▽▼)<アンタ、あのこのなんなのさ
>こんな感じっすか?
そうです、まさにそんな感じです。
あれにフリフリエプロンとかおたまとか持たせれば完成です。
マターリですみません。
ちょこちょこ頑張っていきますです。
- 284 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:23
- 明日はついに引っ越し。
帰ってくるけど、この部屋で毎日を過ごすのも一応今日が最後。
…そんな風に思うと変な感じがするな。
本当は夏とかに引っ越せればいいかなぁって思ってたんだけど、
予想外に色々と早く決まって、驚く程早く時間は過ぎていって、気付いたら今日になってた。
天気予報じゃもうすぐ梅雨明けって言ってた。
まぁ時期としてはよかったかも。
雨の日の引っ越しじゃ大変だしね。
夏になる前のまだ蒸し厚くない季節に引っ越しが出来るのもいいよね。
荷造りを終えた僕はいつものようにベッドにゴロッと横になる。
やっぱり早すぎて実感が湧かない。
明日も明後日も明々後日もずっとここに帰ってくるような感じがしちゃうんだよなぁ。
この部屋から持っていくものはそんなにないから、見た感じがそんな変わるワケでもない。
ここにある電化製品はほとんどここに置いていくからかな。
変わった感じがしないのって。
- 285 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:24
- しばらくゴローっとしてたら、麻琴がガチャッと部屋に入ってきた。
またしてもノックなし侵入。
悪気ゼロ。
「お母さんが明日の朝何か食べたいものあるかって」
「んや、得にないよー。いつも通りでいいよ」
僕の言葉を受け取って、麻琴はまた階段をぱたぱたと降りて行った。
皆いつもと変わりない。
今日は学校から直接帰ってきたから、いつもよりも早く家についた。
早く帰るということを前もって伝えてあったから皆食事を食べずに待っていてくれた。
久々に家族4人揃って食べる夕飯もいつも通りで、でもさりげなく僕の好きなモノが
並べられていた。
母さんは何も言わなかったけど、多分、色々考えてくれてたんだろう。
日付けがもうすぐ変わる。
…早いなぁ。
そんな風の思いながらごろごろと寝返りを打ってたらベッドの上からリモコン落下。
プラスチックの音がして電池が飛び出しコロコロ転がってベッドの下へとこんにちは。
面倒だなぁって思いつつもベッドから起き上がってベッドの下に手をつっこんでみる。
手探りで電池を探しながら、掃除をまめにしておいてよかったなぁなんて思ってみたり。
しばらく腕を動かしてたら、電池じゃないけど紙みたいのに触れた感触がした。
あれ?掃除ちゃんとしたよなーって思いながらもその紙を引っ張り出したら、
シールで封をした茶色の小さめの封筒が出てきた。
そこには父さんでも母さんの字もなくて、麻琴の字で『お兄ちゃんへ』と書かれていた。
- 286 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:25
- ベッドに座って、封筒から手紙を出した。
白い紙に描かれた麻琴の絵。
その中心には一言、『大好きだよー』そう書かれていた。
気付かなかったらずっとずっとこの下で眠り続けていたであろう麻琴の手紙。
変なところで照れ屋なんだよなぁ。
直接渡してくれればいいのに。
でも、麻琴が僕の部屋に入ってこそこそとこの手紙を隠している姿を想像したら、何かちょっと笑えてきた。
「お兄ーちゃ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして手紙を持ったまま一人で笑っていたら、ノックなし侵入をしてきた麻琴が叫んで
こっちに向かって走ってきて、手紙めがけて飛び込んできた。
ヒョイッと持ち上げた手紙を掴みきれなかった麻琴は僕の腹めがけてかなりきっつい頭つきをかましてくれた。
「…んがぁ」
みぞおち直撃。
めっさ痛い。
ってか勢いつけすぎ。
必死になりすぎ。
- 287 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:25
- 「何でそれ持ってるのさぁぁぁ」
「いや、ベッドの下で見つけたから…」
「何でベッドの下なんか覗いたのさあぁぁぁ」
「電池、転がっちゃったから…」
顔赤っ!
なんだよーいいじゃんかよー、だってこれ僕への手紙でしょ?
だったらいつ読んだっていいじゃんかよー。
「…はぁ、もう予想外すぎ」
「そんなこと言われちゃってもなぁ」
麻琴はムクッと起き上がると、まだ乾ききっていない髪をガシガシとしながら椅子にダラーっと座った。
「本当はあたしがいない時に見つけてもらう予定だったんだけどなぁ」
どうやら麻琴は、僕が出る前にもう一度ベッドの下とかをチェックすると踏んでいたらしい。
でもって、その頃には車に荷物詰め込んだりで忙しいから手紙は引っ越し先で読むはずだと思っていたそうだ。
- 288 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:26
- 「深読みしすぎ」
そう言うと麻琴はちょっと照れたように笑った。
多分、麻琴はかくれんぼとかしてもすぐに見つかっちゃうタイプだろうな。
深読みしすぎて見つけやすい所に隠れてるタイプ。
「ま、見つかっちゃったもんはしょうがないか。
ちゃんと大事にするんだよー。じゃなきゃピーマコの呪いが降り注ぐからね」
どんな呪いかはわからないけど、もちろん大事にしますとも。
んなの分かってるでしょ?
いつもみたく麻琴は笑って、クルクルと椅子を回転させてから立ち上がった。
「んじゃ、おやすみね」
「おう、おやすみ」
そういえば、麻琴は何を言いに来たんだろう。
そんな大事な用事じゃなかったのかな。
とりあえず明日も早いから今日はもう寝よう。
僕は麻琴から貰った手紙を鞄の中にしまってから、部屋の電気を消した。
- 289 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:26
-
- 290 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:27
- 「荷物それだけ?」
「うん、大きいのはもう運んであるから」
翌朝、家の前まで車を出してくれた圭ちゃんと一緒に昨日のうちにまとめた荷物を詰め込んだ。
そんなに量もないからすぐに終わったんだけど、圭ちゃんはすでにうっすらと額に汗を浮かべていた。
『年?』って聞いたら普通に叩かれた。
でも、圭ちゃんの顔は何か生き生きしている。
何が楽しいのかよくわかんないけど、すごく楽しそうだ。
「っしゃ、じゃぁ行くか」
「あぁ、ちょっと待って」
圭ちゃんを車に残して、部屋にいる麻琴の所にたったかたったか走って向かった。
そうだそうだ、言い忘れるところだったよ。
「麻琴ー、入るよ」
「なにー」
麻琴は寝間着のままベッドに寝転がって漫画を読んでいた。
まったく、もうお昼だよ、いつまでダラダラしてるのさ。
ちょっと軽説教をしてから麻琴がちょっとズレてスペースをつくってくれた所に腰を下ろす。
- 291 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:27
- 「父さんと母さんのこと、よろしくね」
ぽふぽふと麻琴の頭を叩いてから部屋の窓をガラッと開けて、新鮮な空気を部屋にいれた。
そら、起きてシャキシャキ動きなさい。
起こしてくれと言わんばかりに差し出された腕を掴んでぐいっと起こしてもう一度寝癖のついた頭をぽふぽふした。
「じゃぁ、行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
麻琴と一緒に階段を降りて、圭ちゃんの待つ車に行こうとしたら、途中で母さんに紙袋を渡された。
片付けとかで夕飯作る余裕ないだろうからと色々とタッパーに詰めてくれたらしい。
『気をつけるのよ』の言葉に見送られて圭ちゃんの運転で新しい家へと出発した。
- 292 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:27
-
- 293 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:28
- 家に行くと、すでに石川さん宅から第一便が運び込まれた後だったらしく、簡単に梱包されたモノを
解いたりしてくれてるカオリさんと安倍さんと辻と加護とアヤカさんがいた。
「もうすぐ第二便が到着するよ」
そう教えてくれたカオリさんの言葉通り第二便はすぐに到着をし、紗耶香とごっちんと
石川さんが荷物をえっちらおっちら運んできてくれた。
簡単に挨拶を済ませて一緒に車から荷物を運び出して、そのまま圭ちゃんの運転で
もう一度石川さんの家に向かった。
- 294 名前:HOME 投稿日:2004/04/12(月) 20:28
- 大きな荷物はもう先に運んでおいたから、引っ越し自体は結構早く終わった。
荷物がごてごてとあちこちに散らかってるから、落ち着くまでにはちょっと時間がかかるかもしれないけど
皆が手伝ってくれたおかげで僕の予想よりは綺麗な状態になっている。
本当、感謝感謝だよ。
皆に貰った引っ越し祝い。
何か照れくさいっていうのもあったけど、嬉しかった。
ん、やっぱちょっと恥ずかしいってもあるけどね。
すぐにお礼をすることも出来ないけど、今日のお礼はまた近いうちにしようね。
二人きりになった部屋の中で石川さんは僕の言葉に頷いていた。
そっか…そうだよね。
今日から、二人なんだよね。
今さらだけど、うん、そうなんだね。
時間があっという間に過ぎていった。
ここまで来るのも、引っ越しするのも、皆が手を振って帰っていくのを二人で見送るのも。
早いなぁ…すごく。
早すぎだよね。
でも、ここにいるんだよね。
一人じゃなくて、二人で。
時間が追い付いてない感じがした。
…石川さんも同じなのかな。
分からないけど、僕は君とだったら追い付いていない時間も、現実感のないようなこの空間も、
全部、変えていけると思うんだ。
- 295 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/04/12(月) 20:30
- 更新しました。
>>292の空白は失敗だったりします_| ̄|〇ゴメンサイ
『HOME』は後1回です。
時間すっとばし過ぎた感があるのはきっと気のせいです。
- 296 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:40
-
* * * *
もう随分前に夕日は沈んでしまった。
吉澤くんのお母さんが渡してくれた御飯を二人で食べて、その後に再開したお掃除。
私と違って部屋をいつも綺麗にしている吉澤くんはさっさかさっさか
ダンボールの中から荷物を取り出している。
一人暮らしの時から使ってたテレビとか冷蔵庫とかはもう使える状態になってるし、
後はちょっとずつ、部屋を綺麗にしていけばいいだけだ。
そんな風に私は思ってるけど、吉澤くんは出来るとこまでやっちゃいたいらしい。
一緒になってモノ移動させたり閉まったり。
お風呂をためながらせかせか動いて、ちょっと疲れたなぁって思いながら見なれていない壁や窓を見た。
そして吉澤くんを見た。
- 297 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:40
- 突然、すごい突然、それはやってきた。
部屋に積まれているダンボールとか整理している吉澤くんとかを手を動かしながら見て、
『今日からここで一緒に暮すんだ』
そう思ったら、すごい嬉しくて、すごい楽しみで、すごい幸せのはずなのに、
何だか突然、怖くなってしまったんだ。
自分でも驚く程、すごく突然、胸の中がぐいっと重くなって、喉に何かたまっているような
感覚に陥ってしまった。
「…吉澤くん」
助けて。
違う、わかんない。
でも、怖い。
「ん?どうしたんです?」
幸せすぎて、怖くなったのかな。
あっという間すぎたからかな。
あまりにも早すぎて感覚がちゃんとないからかな。
どうなんだろ。
全然わかんない。
でも、怖いよ。
私、今怖いよ…。
「…どうしたんですか?」
- 298 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:42
- 思わず両腕で自分を抱き締めてまだ片付けられていない部屋に置かれた白いソファーに座り込んでしまった。
こんな私を見て、吉澤くんは抱えていたダンボールをダンボールの上に積むように置き、
二人で座ってもまだ余裕のある白いソファーに腰を下ろした。
優しい声が近くで聞こえる。
隣で感じる体温は、側にいてとても心地よい。
この心地よさは、私だけが今こうして独り占めしていていいものなのだろうか。
逃げていったりしないのだろうか。
私は、ここにいていいのだろうか。
「…私の」
この、どうしようもない気持ちは何処に向けて走らせればいいんだろうか。
「私の、どこが好き?」
不安とか、恐怖感とか、幸せとか、全部ぐちゃぐちゃしてて、今が現実じゃないみたいで、
ただ不安で、ただ、怖くて。
- 299 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:43
- 「…そうですねぇ」
なんだろう。
本当どうしてなんだろう。
突然知りたくなった。
言って欲しくなった。
訊きたくなった。
「この手とか」
今が今ということを知りたくて、ここが現実だと知りたくて。
いつまでも覚めない夢を見ているような感覚から逃げたかったのかな。
驚く程素直に出てきた私の言葉。
突然すぎるこの言葉に、吉澤くんは笑ってくれた。
「この鼻とか」
欲しいと思ったのかな。
確かな言葉とか
「この瞼とか」
確かな存在とか。
触れてくれる指とか。
「この、唇とか」
吉澤くんの声と指が優しく降ってくる。
触れるだけじゃなく、拭われるように。
怖いと思っていた私を触れるごとに拭ってくれて、欲しい言葉とか、求めていた感覚とか、
夢を現実にしてくれる。
- 300 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:43
- 「…ダから」
小さな声で、二人しかいないのに小さな声で言ってくれた言葉。
魔法みたいに私の閉じていた瞳を開かせてくれた言葉。
目の前には吉澤くんがいてくれて、
独りぼっちじゃないよって言うみたいに私に触れていてくれる。
どうして欲しい言葉をこうやってくれるだろう。
何でそんなに優しいんだろう。
ぐるぐるまわる考えとか、そこからまた溢れてくる不安とか、出口がない迷路みたいに走り続ける気持ち。
向ける先。
わからなかった。
違う、向けていいのかわからなかった。
悩む必要なんてなかった。
この、どうしようもない気持ちはここに向けて走らせてよかったんだ。
吉澤くんにもたれ掛かるようにして肩と首に腕を回すと、私を包むように吉澤くんが
私の腰と背中に腕を回してくれた。
だっこされてるみたいな格好。
恥ずかしい気もするけど、今はこれくらい、側にいて欲しい。
- 301 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:44
- 「不安になっちゃいましたか」
背中に回された腕が動いて私の髪をゆっくりと撫でる。
いつか見たアメリカ映画のワンシーンのように。
それに憧れていた私が、今、同じようなワンシーンの中にいる。
「…大丈夫ですよ」
勝手に不安がって、勝手に泣きそうになったのは私なのに、なのに、吉澤くんは私を包んでくれた。
突然現れた感情が嵐のように過ぎ去っていき、残ったのは隣にある温もりと、優しい言葉。
時間にしたら1分くらいかもしれない。
でも、その1分っていうのは、私の中では1分じゃなくて、もっと長くて、もっと、大切で。
「きっと、大丈夫ですよ」
大丈夫の意味は大きくて、きっとの意味はまだ分からないけど大丈夫ってこと。
いつもはヘタレなくせに、私が倒れてしまいそうな時には隣にいてくれる。
一緒にいるのが当たり前になるくらい一緒にいるのに、私の吉澤くんに対する
想いっていうのは消えることがない。
普通って思えるくらい当たり前な場所にいて、いなくなってしまうと私が見ている道が
その場でぷちんと切れてしまうよう。
- 302 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:45
- どうしてこんな気持ちが生まれるんだろう。
ずっと、続くんだろう。
そして、どうしてこんなにも誰かを好きになることが出来るんだろう。
気付かない時の方が多いけど、ふとした時に気付く自分の気持ち。
気付く時っていうのは大体独りぼっちでいる時だったり、吉澤くんのことを考えてる時。
この胸の苦しさとか、怖い程に鳴る心臓の音とか熱さとか。
全部吉澤くんに反応している。
部屋が変わっただけで、一緒にいるのが変わるワケじゃなくて。
でも、離れてしまわなければいけない夜に感じる寂しさはここにいればきっとなくなる。
変わっている。
ちょっとだけかもしれないけど、確実に、何かは変わっている。
数分前のあの不安な気持ちは本当何処にいってしまったんだろう。
どうしてこんなすぐにこの人は私の不安な気持ちを消してくれるんだろう。
怖かったり、寂しかったり、嬉しかったり、悲しかったり。
沢山ある感情。
引き出してくれるのはこの人なのかな。
しまわずに包んでくれるのもこの人なのかな。
- 303 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:46
- 長い首に鼻をうずめてみた。
柔らかい髪が私の髪と一緒になる。
吉澤くんのにおい、私が知ってる吉澤くんの温かさ。
「くすぐったいですよ」
頭のすぐ近くで聞こえる笑い声。
体が揺れて、一緒に私も揺れていく。
吉澤くんの髪が揺れれば私の髪も一緒になって揺れるし、吉澤くんが笑えば私も何だか笑えてくる。
ちょっと顔をあげて吉澤くんの右の頬にちゅってキスをしてからもう一度首に顔をうずめて抱きついた。
触れている手、感じている温もり、吉澤くん。
好きだよ。
全部。
最近はさ、あんまり言葉に出してないけどさ、すごい、好きだよ。
- 304 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:47
-
- 305 名前:HOME 投稿日:2004/04/16(金) 19:47
- 片付けは中途半端になっちゃったけど、それでもいいよね。
吉澤くんの寝間着の袖を握りながら眠りについた夜。
聞こえたおやすみの声。
引っ越しとかで疲れちゃったからすぐに眠りに落ちてしまった私。
おやすみちゃんと言えたかな。
どうだろうね。
分かんないや。
だからさ、明日はおはようを一番に言うね。
だって、言える距離にいるんだもん。
こう思ったのは私が見た夢なのかな。
どうなんだろうね。
「おはよ」
でも夢でもいいや。
一番に言えたから。
「ん、おはようございます」
変わらない感じ。
でも変わってる感じ。
明日も明後日も明々後日もおはようって一番に言える距離にいれるんだね。
こうやって、きっとこの先も変わっていくんだろうな。
- 306 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/04/16(金) 19:48
- 更新しました。
『HOME』はこれでおしまいです。
- 307 名前:レオナ 投稿日:2004/04/18(日) 15:00
- 更新お疲れ様です。
ついに、同棲生活はじまりましたか。
いや〜、いいですね。
次回も、たのしみにしております。
- 308 名前:夏の風 投稿日:2004/04/24(土) 12:03
- 仕事帰り、23時までやってるスーパーで買い物して帰るとエアメールが届いていた。
差出人は見なくたって分かる。
ほら、やっぱり柴ちゃんだ。
柴ちゃんとは月1くらいでずっと手紙のやり取りをしている。
メールとかもあるけど、やっぱりポストに手紙が届いているっていうのは嬉しいもんだ。
今回はどんなこと書いてあるのかってワクワクしながら、野菜やお肉や牛乳を冷蔵庫に
しまってから読んだ手紙には
『7月3日一時帰国。ばかー・゚・(ノД`)・゚・。 』
これだけが書かれていた。
…ばかーって。
いや、ばかーって言われても…。
何がばかーなんだろう?
近状報告は手紙でやりとりしてたから知ってるはずだし…
ばかーって言われる理由が分からないんですけど…。
その後、夕飯の準備をしてる時に帰ってきた吉澤くんに手紙を見せたら私と同じように首を傾げていた。
ね、ワケわかんないよね。
- 309 名前:夏の風 投稿日:2004/04/24(土) 12:04
- 「じゃぁ僕その日外で食べてきましょうか」
夕飯の最中、吉澤くんはお味噌汁を片手に思い出したようにつぶやいた。
「何で?一緒に食べればいいじゃん」
「えっ、だって僕邪魔じゃないですか?」
お豆腐をモグモグして烏龍茶を飲んで、それから吉澤くんは目をパチクリさせる。
きょとんとした顔がちょっと間抜けな感じがして思わずクスッと笑ってしまった。
「邪魔なはずないじゃん。いいよそんな気使わなくたって」
「そうですか…。あ、そういえばお客さん用の布団奥の方にしまっちゃた」
「いや、そんな焦んなくたってまだ日あるから」
疲れてるのかなぁ…。
吉澤くんは最近ちょっとおとぼけ気味だ。
まぁそれも可愛いからいいんだけどさ。
っていうかこれが素なのかなぁ。
ご飯をモグモグしながらそんなことを思った。
吉澤くんはちょっと眠そうな目でお味噌汁をすすっていた。
あ、吉澤くんの口の横に御飯粒ついてるや。
- 310 名前:夏の風 投稿日:2004/04/24(土) 12:05
- 「最近、ちょっとお疲れモードだね」
その日の夜、ベッドサイドの灯りだけをつけて本を読んでいた吉澤くんにこう言ったら、
吉澤くんは読んでいた本をお腹の上に置きながらこっちを向いた。
「んー、そう見えますかねぇ」
ちょっとクマの出来てる顔。
ちょっと疲れがたまってるように見える顔。
そんな顔で曖昧に笑ってから吉澤くんは本を閉じて、眼鏡をはずした。
ちょっと前までは眼鏡な吉澤くんを沢山見てたけど、一緒に暮らすようになってからは
眼鏡をかけてない吉澤くんをよく見るようになった。
だから新聞を読んでる時だったり、今みたく本を読んでる時だったり、眼鏡をかけている
方を見るのがちょっと楽しみだったりする。
もちろん、どっちも好きなんだけどね。
「うん、何かそう見える」
私が枕に顔を埋めながら言うと『木曜日ですから』と言って、いつもみたく頭に手を置いてくれた。
大きい手、自分の手が小さいから余計にそう思えちゃうのかな。
大好きな大きな手で髪を撫でられ、私はそのままお布団にくるまってベッドサイドの灯りが消えるのを
瞼の奥で見つめてから眠りに落ちていった。
と、思う。
だって眠る寸前なんて覚えてないから分かんないもーんだ。
でも、あんまり意識することのなくなってしまっていた幸せを感じていた気がした。
- 311 名前:夏の風 投稿日:2004/04/24(土) 12:06
- 「梨華ちゃーん」
それから数週間後、柴ちゃんは荷物を持って改札から出てきた。
前よりも短くなった髪とか、前と変わらない声とか、懐かしさを全身からフリまいているようだ。
「変わってないね」
「梨華ちゃんも相変わらず黒いね」
ケタケタ笑って私の頬をムニッと掴む。
怒った顔をしたつもりなのに、こめかみをクイッと人差し指で押されてハの字眉毛を直された。
何処か行きたい所あるかきいたら『とりあえず新居が見たい』と即答されたので、
荷物を半分持って前みたくたわいない話しをしながらテクテクお家と歩いていった。
もうすっかり汗ばむ陽気だ。
最近は熱い日がよく続く。
- 312 名前:夏の風 投稿日:2004/04/24(土) 12:06
- 「結構綺麗に片づけられてるじゃん」
部屋に入って一番最初に口にした言葉。
それも意外といった口ぶり。
どうせ私の部屋は汚かったですよーだ。片すの下手だったしさ、
お料理だってすっごい旨いってワケじゃないしさ…。
「なぁに一人でネガティブさんになってるのさ」
下がった眉を上にあげられ、へんちくりんな顔になった私を見てケタケタ笑う柴ちゃんは、
やっぱりちょっと変わったところがあって、やっぱり変わってないなぁって思った。
しばらく会っていなかったことが嘘みたい。
寝室覗かれそうになって焦ったり(別に変なのが置いてあるワケじゃないよ)
他愛もない話しで盛り上がったり。
遠くで生活する親友と私の距離。
それでも変わらないものは確かに存在していた。
- 313 名前:夏の風 投稿日:2004/04/24(土) 12:07
-
* * * *
「ただいまー」
玄関を開けたら聞こえてくる笑い声にいつもよりも一足多い靴。
いつもみたく玄関まで迎えに来てくれた石川さんと一緒に柴田さんもおかえりなさい。
はい、お久しぶりです、こんばんは。
「ただいまー、おかえりーってもう何か痒くなってくるなぁ」
にやにや笑いで石川さんのことを肘で突っ突いてる柴田さん。
あれですね、全然変わってない。
うん、何か懐かしい感じがしますよ。
「一応ビールとか買って来たんですけど足りてました?」
「ううん、もう1本くらいしかなかったの。ありがと」
おろ?すでにほろ酔い状態ですかね?
ちょっと頬がピンク色に染まってますよ。
あ、柴田さんもだ。
何だ、二人とも酔っぱらいコースなんですね。
じゃぁ僕ちょっとつまみになるようなの作りますね。
鞄置いてたり着替えたりしてると、奥から『いい旦那だねー』って声が聞こえてきた。
- 314 名前:夏の風 投稿日:2004/04/24(土) 12:07
- …脱ぎかけのTシャツに手をかけたまま固まっちゃったよ。
いや、あーなんかさ、僕こういうの普通に照れるんですけど。
石川さんの反応とかちょっと気になりつつ台所に行くと、石川さんはすんごい普通のほろ酔い状態な顔で
ビールをぐいッと飲んでいた。
あ、そうですか。
そうだよね。
普通『何言ってるのー』とか言って流しちゃうよね。
うん、そうだ、そうだよな、うん。
「おたくの旦那さん大丈夫なの?なんか壊れたおもちゃみたいに頷いてるけど」
「ん?あぁ大丈夫だよ、平気平気」
そっか流しもしないんだ。
僕旦那でいいんだ…
…顔がニヤけちゃうのは仕方ないでしょ。
気付かれなきゃ大丈夫だよね。
こんな風に自分に言い聞かせながら、僕は鼻歌混じりで台所で包丁を動かしてみた。
なんか、飲んでないけど雰囲気で酔ってきた感じだ。
背中側からは笑い声、時たま聞こえるオヤジっぽい言葉はスルーしよう。
簡単に作ったおつまみを持って酔っぱらい軍団の輪に入る。
昔とかだったらこんな風に柴田さんと一緒に飲むこともなかっただろう。
三人でどっかの家で飲むとか想像もしてなかった。
- 315 名前:夏の風 投稿日:2004/04/24(土) 12:08
- 「何だか吉澤くん変わったよね」
「そうですか?」
ビールをぐいッとやって柴田さんは僕のことをジーッと見てくる。
ともかく見てくる。
これでもかって見てくる。
「め、眼鏡かけてないからじゃないですかね」
正直、そんなジーッと見られると照れるっていうか、なんか変な感じ。
あんまし慣れてないんだよー。
石川さん以外の人からこんな直視されることってほとんどないからさ。
ちょっと慌てた僕を石川さんは隣で可笑しそうに見て笑っていた。
「んーそういう外見だけじゃないんだけどねぇ。ま、いっか」
ニヤッと笑ってから柴田さんはもう一口ビールを飲んだ。
- 316 名前:夏の風 投稿日:2004/04/24(土) 12:09
- 酔っぱらい二人組は僕が買い出しに行っている間に眠ってしまっていた。
まったく、人に『酒買ってこーい』なんて言っておきながらおねんねですか。
ま、二人とも疲れがたまってるんだよね。
そんなことを思いながらタオルケットを二人の上にかけて、僕も同じように眠りについた。
ちょっと酔っぱらっていた僕もあっという間に夜を送りだし、朝を迎えた。
起きたら柴田さんと石川さんはすでに起きていて、一緒に台所に立って朝食をつくっていた。
「おはようございます」
「あ、おはよう」
「おはよー」
ぶんぶんと菜箸を振る柴田さん。
ぶんぶんとお玉を振る石川さん。
…飛び散ってるの、気付いてるよね?
気付いてるかなーと思ってジーッと見てたら『あ、私目瞑ってるからおはようのチューするならしていいよ』
って柴田さんに言われた。
…やっぱし変わってないですね。
御飯を食べた後、笑顔で帰っていく柴田さんを見送ってから久々に二人してお昼寝をした。
夢の中で石川さんが僕のことを『あなた』って呼んだのはずっと、内緒にしておこう。
- 317 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/04/24(土) 12:12
- 更新しました。
>レオナ 様
ありがとうございます。
なんか一気にここにきちゃったなー(棒
そんな感じなんですが、でもまったりとまた書いていくと思います。
いや、多分ですけど。
あんまし変わらない気がしないでもないですが、ここのいしよしも
まったりと同棲生活を楽しんでいくんではないかと思います(w
- 318 名前:レオナ 投稿日:2004/05/05(水) 21:22
- 更新お疲れ様です。
あいかわらず、柴っちゃんは良いキャラですね。
まったりとこれからも、楽しんでいきたいと思います。
次回も、がんばってください。
- 319 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:20
- あー夏風邪?
そんな言葉を使ったのはどんくらい前のことか。
あ、そんな前でもないかな?
まぁともかく、体がとってもだるいワケですが。
「吉澤くん、お弁当お弁当」
ポケーッと玄関を出ようとしたら、赤チェックのエプロンをした石川さんに呼び止められて
ハイッと渡してくれたお弁当。
そうだ、もう鞄の中に入れた気になってたけどまだ入れてなかったんだ。
駄目だ…頭ちゃんと働いてない。
「顔赤いけど、平気?」
ピたッと頬に柔らかい手の感触。
冷え性でおまけに今まで台所で水仕事してたからちょっと冷たくて、何とも気持ちがいい。
んー、もうちょいヒンヤリ感を味わいたいけど時間が…。
そんなことを思いながら行ってきますをしたら、ぐいっと服を掴まれた。
「ねぇ、本当平気?」
「ん、大丈夫です」
本当大丈夫だから。
そんな心配そうな顔しないで下さいよ。
ほら、元気元気。
今日は金曜日だし、明日は休みだし、ほら、もうちょこい頑張れば土日と連休です。
ばっちこいです。
どんとこいです。
だからもうちょい頑張ってきますね。
- 320 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:21
- はたはたと手を振って家を出たのはいいんだけど、正直ちょっと辛い。
それは通勤中も、授業中も変わりなく、むしろもっともっと辛くなってる感じがしていて、
帰る頃には体からSOSが出ている状態。
それもこんな日に限って残業とか。
もうこんな時間だよ。
いつもならお風呂入ってる時間だよ。
帰るだけのに…帰るだけなのにそれが辛いとか。
でも頑張れ、頑張れ自分。
もうちょっとで家に帰れるんだ。
が、思い込み作戦はあっさり失敗に終わる。
帰りの途中で立ってるのにも限界を感じ、途中下車してそのまま駅のベンチに座り込み。
久々にすごい辛くて、体の節々がかなり痛い。
さらいに一度座ってしまうと次立つのもかなりしんどい。
でも動かないワケにもいかないから、頑張って立とう。
実際、自分がどれだけそのベンチに座ってたかなんて分からない。
周りには酔っぱらったサラリーマンとか若い学生がいたりしてた。
熱くてボーッとする頭でベンチに座ってたら、ズボンのポッケに入れてた携帯が震えた。
- 321 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:21
- 「…もしもし」
『吉澤くん?今何処にいるの?』
電話の向こうからはちょっと心配そうな石川さんの声が聞こえる。
いつもよりももっと遠くから聞こえる気がするのは僕のこの体SOSのせいなんだろうか。
「えぇっと…市ヶ谷です」
『市ヶ谷?』
「はい、駅のホームです」
ごめんね、心配かけちゃって。
大丈夫だなんて言ってごめんね。
全然駄目でした。
ちょっと、帰るのもしんどかったりします。
あーそだ、あと連絡も入れないでごめんなさい。
『ちょっと、大丈夫?…じゃないよね、今すぐ迎え行くね』
プツんと切れた電話。
いや、僕ここからタクシー乗りますし。
こう言おうと思ったらもう遅くて、僕は切れた携帯電話を耳に当てながら石川さんはどういう交通手段で
ここまで来るのかなーなんて考えていた。
っていうか、さっさとタクシー乗って帰ればよかった。
ちょっと、高くつくかもしれないけどさ。
- 322 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:22
- 「吉澤ー、帰るぞー」
それからまたしばらくボーッと駅のベンチに座ってたら、後ろから肩をペシンと叩かれた。
なかなか動かない体を無理にねじると、後ろには心配そうな顔をした石川さんと、
スーツを着てちょっと眉間にシワを寄せている紗耶香が立っていた。
「もう、どうしてもっと早く連絡くれなかったの」
「…すみません」
「ほれ、説教は後でいいからとりあえず出る出る」
僕の荷物を石川さんが持ってくれて、僕の体を紗耶香が支えてくれて、僕は何とも情けない姿で改札を出た。
金曜の夜に鞄を持ってもらったり、体を支えてもらったり。
これじゃぁまるで酔っぱらって潰れたサラリーマンだ。
ちょっと、っていうかかなりかっこわるい。
駅前で駐車出来る所はないからと、ちょっとだけ改札から離れた坂の途中に止められた車。
中にはごっちんが座っていた。
そっか、デートの途中だったんだ。
ごめんね、邪魔して。
ごめんね、迷惑かけて。
「んぁ、別に。後藤何もしてないし」
ごっちんは助手席から顔を出していつもみたくふにゃっと笑ってて、隣じゃ紗耶香が車をスタートさせてて、
僕の隣では真面目な顔した石川さんが僕の手を握ってて、僕はともかく体が熱くて
窓を開けて夜風に当たってて、僕の手はやっぱり石川さんが握ってて。
朦朧とした意識の中、僕は紗耶香やごっちんや石川さん達に助けられてどうにか家に帰ってきて、
『お礼は今度の酒代でいい』と言う紗耶香と『梨華ちゃんに感謝しなよ』と言うごっちんが
帰って行く音を布団の中で聞いていた。
- 323 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:23
- 眠れなかった夜。
それは僕以上に石川さんが眠れなかった夜。
飲み物を飲ませてくれたり、着替えさせてくれたり、熱くて痛い体を気遣ってくれて、
僕が眠っている間をずっと看病をしてくれた石川さんは、朝、僕が起きたらベッドの下で眠っていた。
服装は寝間着じゃない。
多分、昨日着てたやつだろう。
まだ熱の下がりきっていないのか、体はまだダルイし、熱かったり寒かったりする。
でも昨日に比べたら全然楽だ。
薬のおかげだけじゃないよね、ずっと、看病してくれてたんだもんね。
ありがたさもあるけど、申し訳なさも沢山あった。
昨日は仕事だったはずだ。
今日だって午後から出るって言ってた。
沢山疲れてるはずなのに…ごめんね、ありがとね。
僕はもう一度瞼を閉じた。
眠りに落ちるのはとても簡単だった。
もう一度目が覚めた時、僕の額に手を当ててくれている石川さんを見て、僕は夢を見ているのかと思った。
そう言ったら、石川さんはちょっと笑ってから僕の髪を撫でてくれた。
- 324 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:23
-
* * * *
目を閉じてベッドの中で眠っている吉澤くんの顔は、熱のせいかまだ赤くて、そしてまだ熱い。
汗で額にはりついた前髪をそっとのけたらその汗が私が少し濡れた。
私はその指を見てそっとため息をついた。
- 325 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:24
- 昨日、遅くなる時は必ず連絡をくれる吉澤くんから連絡がなくて、ちょっと心配になって電話をしてみたら、
電話の向こうからはいつもと違う感じの声が聞こえてきた。
声は吉澤くんなんだけど、ちょっと辛そうな感じの声で、いつもよりもちょっと弱い感じの声だった。
駅のホームに一体どれくらいいたんだろう。
どれくらい一人でいたんだろう。
どうしてすぐに連絡しなかったの?
こんなことを私は吉澤くんを迎えに行く準備をしながら考えていた。
どんな状態か分からなかったけど、私一人じゃちょっと無理な気がしたから市井さんに電話を入れた。
夜も遅かったから迷惑かなって思ったけど、事情を話したら市井さんとごっちんは、すぐに車で迎えに来てくれた。
吉澤くんの前じゃいつものように振る舞ってたけど、ごっちんは吉澤くんを迎えに行く車の中で、
ずっと、心配そうな顔をしていた。
ごめんねって言ったら、誰も謝る必要なんてないよって言ってくれた。
駅のホームに行くと、吉澤くんが椅子に座って下を俯いていた。
遠目からでも体調が良くないことが分かった。
ばか、バカ馬鹿ばかばかばか。
気付かなかった私のバカ。
無理にでも引き止めなかった私のバカ。
私は車の中も、今も、私は沢山自分を怒った。
髪を撫でると気持ちよさそうに目を細めて、頬に触れるとくすぐったそうに小さく笑う。
子供みたいな表情をする吉澤くんが、私は痛々しく見えてしまった。
- 326 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:24
- 熱の下がりきっていない口元からは熱い息が漏れてるけど、夕べに比べたら全然楽そう。
でもまだ熱は下がってないし、直りかけがが肝心ってことで、ぐずる吉澤くんを午前中に病院に連れて行き、
私はそのままお店の方へと向かった。
そして夜、いつもよりも早めに帰ってくると、吉澤くんがベッドの中で規則正しい寝息をたてていた。
- 327 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:25
- なんか、随分前にもこういうの見た。
そうだ、吉澤くんが倒れちゃった時だ。
あ、それに逆の時もあったよね。
私の場合は倒れたっていうか、吉澤くんみたいに風邪ひいちゃった時。
ねぇ、吉澤くん。
今吉澤くんも甘えたい?
泣きたい?
どうしたい?
もっと私に頼ってくれたっていいんだよ?
…なぁんてね。
あのね、我慢のしすぎだけはやめてね。
それから連絡しないのも駄目だからね。
心配するんだよ?
どうしたんだろうって。
何かあったんじゃないかって。
私、意外に心配性なんだから。
柔らかい髪を撫でながら、心の中で言った言葉。
いつ伝えようかな。
風邪直ったらにしようかな。
それとも明日にしようかな。
明後日にしようかな。
- 328 名前:僕ってばまたですか 投稿日:2004/05/09(日) 11:26
- 言いたいこと。
怒りたいこと。
どの日を選んでも吉澤くんがいる。
こんな時だけど、ちょっと幸せを感じちゃった自分。
ごめんね、苦しんでいる時に。
でもね、手を伸ばせばすぐに触れられる距離にいれること。
すごい、すごい嬉しくて、胸が痛くなるんだ。
どうやったら伝えられるんだろう。
どうしたら、もっと私の気持ち、伝えられるんだろう。
あのね、毎日の生活の中でね、忘れちゃうこともあるの。
側にいてくれるのが当たり前になってるから。
でもね、たまに思うの。
今みたいなこと。
撫でる手を止めたら、吉澤くんがちょっと唸って体をよじった。
ボーッと見開かれた目。
見てるのかな、私のこと。
ちょっとお間抜けな顔をして私の方に目を向けてから、吉澤くんはまた目を閉じた。
私は吉澤くんの少し熱い頬に唇を落としてからベッドの下に布団を敷いて横になった。
そして目を閉じ、吉澤くんと同じように眠りに落ちた。
- 329 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/05/09(日) 11:29
- 更新しました。
遅くなってすいません。
こちらの生存報告も含めて急ぎ書き上げ更新でした。
さっ
>レオナ 様
色んな人に『柴ちゃんは?』とか言われてますた(苦笑)
彼女は不思議なキャラです。
そして彼女が来ると石川さんが生き生きしてくるように思えます。
え、はい、私はそう思ってます(w
遅くなって申し訳ございません。
今後もマターリでしが続けていこうと思っております。
- 330 名前:alone 投稿日:2004/05/11(火) 00:10
- お久しぶりです。
更新をまったりと待っていたら書込みするのを忘れてしまい(笑)、
だいぶご無沙汰してしまいました。
日々チェックさせて頂いてはいたんですけどね〜。
少し間が空いたので心配していたのですが、
とにもかくにもご無事で何より。
また元気そうな彼ら(若干1名元気でない人もいるようですが・笑)に
逢えて嬉しかったです。
続きをまったりと、しかし楽しみに待たせていただいておりますので、
これからもご自分のペースで頑張って下さい。
どうかご無理はなさらないよう。
ではまた。
- 331 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 18:55
- 「好きなんだ、吉澤さんのこと」
夏、熱い日が続く日。
雲一つない青い空と熱い太陽が照りつける道で言われた言葉。
時間は17時。
僕はこれからスーパーで買い物をしようとしていて、そしてそのまま家に帰ろうとしていて、
今日の夕飯はそうめんとかにしようかなって思っていて、今日は僕よりも遅く帰ってくる
石川さんが帰ってきたら夕飯が出来ているようにしようと思っていて、少し急ぎ足で歩いていて、
呼び止められて、振り返ったら学校の事務の里田がいて、少し間を開けて電車が汽笛を鳴らして通りすぎた。
それはとっても熱い日で、僕は流れてくる汗が落ちた音を聞いた気がした。
- 332 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 18:56
- 「…そっか」
「うん、あ、はい」
網戸にした窓から入り込んでくる風もぬるい夜、石川さんが少しは涼しくなるかなと言って
近くにつけた風鈴が風に吹かれて音を出している夕飯時。
ちょっと僕の様子がいつもとあっという間に石川さんに見抜かれてしまった夕飯時。
目の前じゃ麦茶を入れたコップが汗をかいていて、その水滴で机が濡れている。
視線をちょとあげると石川さんが座っていて、片手にお箸を持ったままちょっと固まってた。
「ちゃんと、言ったんです。僕付き合ってる人いるって」
「うん、それさっき聞いたから大丈夫、分かってるよ」
「あ、すみません…」
あの後、里田さんは『伝えたかっただけだから』そう言って僕に一礼をして走り去ってしまった。
僕はその後ろ姿を見つめながら、どんな言葉をかけていいのかが分からなくて、
熱くて、地面が揺れているような道端でぼんやりと里田さんが走り去っていった方を向いていた。
- 333 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 18:56
- 里田さんは友達というか、一緒の学校に勤めている人で、前に安倍さんやアヤカさんや他の先生達と飲みに
行った時に一緒にいた記憶とか、後は僕が用事があって行った事務所でちょっと話したくらいの
記憶しかなかったりする。
だから僕は里田さんのこと、実は全然よく知らなくて、知っていたのは里田さんだっていうこと。
そんくらいなんだ。
「今日のおそうめん、ちょっとやわらかめだね」
「考え事してたら、茹ですぎちゃいました」
「考え事って…里田さんのこと?」
まぁ、80%はそうかな。
僕の断り方とか、あの時の態度とか、本当にあれでよかったのかなとか。
次会う時は、どんな顔したらいいのだとか。
グルグル頭の中で、ずっと夕方の場面が流れ続けていた。
伝えたかっただけだと言って走り去った背中。
僕はあの時、追い掛けなくて正解だったんだろうか。
それとも、それは間違いだったんだろうか。
答えはいつもなくて、考えて出てくるものでもなかった。
- 334 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 18:57
- 「…あのさ」
コトッと音がして、視線をあげると、石川さんがさっきまで持っていたお箸を置いて
僕のことをジーッと見ていた。
「私は吉澤くんがした行動、間違ってたなんて思わないよ」
チリーんと静かに風鈴が鳴った。
外から聞こえる蝉の鳴き声とか、扇風機の動く音とか、さっきと同じように部屋に流れて、
その中で一緒に、だけどしっかりと石川さんの声は僕の元に届いてくる。
「優しすぎると、かえって辛いことってあると思う。
中途半端にさ、優しくされると、ずっとずっと、辛いことってあると思う」
少し目を伏せてから、石川さんは笑って『早く食べちゃおう』そう言って茹ですぎて
やわらかくなってしまったそうめんに箸を伸ばした。
僕は同じように箸を伸ばし、そうめんを口に運んだ。
それはさっきよりもずっと柔らかく感じた。
- 335 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 18:58
-
* * * *
正直、ちょっと心配とか、嫉妬とかした。
吉澤くんは優しすぎるから。
だから気を使い過ぎてまた里田さんの所に行っちゃうんじゃないかって思った。
そしてそのまま私の元を離れていってしまうんじゃないかとも思った。
毎日こうして一緒にいて、ちょっと遅く帰る時には家に光りがあって、疲れていても
好きな人がこうして側にいてくれる。
私はすごい幸せものだけど、もし私と出会う前に吉澤くんが違う人と出会っていて
そしてその人と恋に落ちて一緒に暮していたら。
全部想像のことだけど、もし、そうだったら。
私が里田さんの立場だったら。
信じてないワケじゃない。
だけど、不安だってある。
あまり口に出して言ってくれない言葉とか、言われすぎると信じられなくなるけど、
言われなさすぎても不安になったりする。
…贅沢だ。
私、吉澤くんに出会ってどんどんと贅沢になっていってる気がする。
- 336 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 18:59
- 「眠れないですか?」
この声とか、隣で体の向きを変える動きだとか、そして少し動くベッドとか。
これは私が吉澤ひとみという人に出会えたから感じれること。
あの日、あの時、全てが動いていて、私が側にいることを吉澤くんが心地よいと感じてくれたから。
じゃぁ出会う順番が違かったら?
私が里田さんで里田さんが私だったら?
考えていたら後ろから腕がまわってきた。
暑い日が続いていて、ちょっと隙間が出来てた私達の間がなくなる。
「あの、僕がこんなこと言うの、変かもしれないんですけど…」
ちょっと口籠った後、吉澤くんはもう一度私のことを確かめるように腕に力を入れた。
「ここにいるのが石川さんで、あの日出会ったのが石川さんで、ずっと一緒に過ごしてたのが
石川さんだったから、僕は今ここにて、石川さんはここにいるんです。
っていうか、僕がそれを望んだからなんですけど…あの、う、うまく言えないですけど
ずっと、一緒に、いたいっていうのは、あの、石川さん、ですから…」
- 337 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 18:59
- 最後は消えるように。
そんな言葉がぴったりあうような喋り方。
でも、ちょっと泣きそう。
何さ、普段はそんなこと言わないくせに。
どうしてこんな時に言うのさ。
卑怯だよ卑怯。
「…っ!」
悔しくって回された手の甲に爪をたててみた。
逃げようとする手をそのまま捕まえて、今度なその大きな手の上に自分の手を重ねた。
「…どうして?」
「へ?」
「どうして、私の考えてたこと分かったの?」
こう言ったら吉澤くんがちょっと間をあけてから体を震わせて笑った。
あー何よ、ちょっと、ワケわかんないんだけど。
一人で何笑ってるのさ。
私ワケわかんない。
じたばたと動いて腕の中から抜け出そうとするのにそれを許してくれない長い腕。
しばらくベッドの上で小さな格闘が続いた後、吉澤くんが急に力を緩めて私のことを解放した。
- 338 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 19:00
- 「昔から変わってないですよね」
「…何がよ」
「思ってることとか、考えてること、声に出しちゃうの」
目を細めて肩を震わせて、それからゴロンと私に背を向けて吉澤くんは羽毛布団をひっぱりあげた。
私の分の布団、ないじゃん。
それじゃぁ私お腹壊しちゃうよ?
ねぇいいの?
抗議を込めて羽毛布団をボフボフ叩いたら、チョイッと布団がめくられた。
どうぞどうぞお入りなさい。
こんな風に言うように。
「寝ないの?」
「…寝るわよ」
でも何か悔しいから吉澤くんに背を向けるようにして布団に入った。
布団のはしギリギリまで動いて壁に顔くっついちゃうんじゃないかってくらい間を空ける。
何が悔しくて、何でこんなことしてるか分からなくなっちゃったけど、何だかすごい悔しい。
どうしてか、すごい胸が苦しい。
何だか泣きそうになって、私はそれを我慢したくて、ぎゅっと胸の前に左手を置いて目を瞑った。
でも、それでも涙が流れてきそうになる。
どうしてだろう。
どうしてこんなに涙が出そうになるんだろう。
- 339 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 19:01
- 「…石川さん」
「…。」
「石川さん?」
答えるのがイヤなんじゃない。
『何?』って一言返事したいだけなのに、今喋ったら絶対に涙が出てくる。
だから言えない、振り返れない。
駄目、近付いてこないで。
私だって泣きたい理由が分からないんだから、上手いこと説明なんて出来ないもん。
「…梨華」
- 340 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 19:02
- どうしてこの人はこんなにもズルイんだろう。
揺すられる体で流れたワケじゃない涙。
久々に呼ばれた名前。
全部が、そのタイミングの全部がズルイと思う。
振り向かされて、抱きしめられて、私の涙で吉澤くんのTシャツが濡れていく。
子供をあやすように背中をポンポン叩かれて、おまけに髪まで撫でられて。
ズルイよ、吉澤くんはズルイ。
いつもはヘタレなのに、夜だってそんなギュッてしてくれないくせに、おやすみのキスだって
自分からなかなかしてくれないくせに。
なのに、どうしてこうやって私を夢中にさせて、こんなに安心させちゃうのよ。
「ごめんね」
「ング、なん、で、謝るの」
「だって、不安にさせちゃったでしょ?」
私が分からない涙の理由、吉澤くんの理由がそのまま私の涙の理由に変わる。
気付かせてくれる。
あんな態度とってたけど、実は自分が思ってる以上に不安になったりする気持ちだとか、
想像して止まらなくなる今とは違う生活のこととか。
- 341 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 19:02
- 「僕が帰ってくる所は、ここだから」
クサイ台詞も言えちゃうこの口。
いつもはそんなこと言いもしないのに。
ポフポフ叩かれていた手が背中を優しく撫でるように動いていく。
「石川さんが寝るまで起きてるから、ね」
顔を上げたら、吉澤くんが優しい顔をしてた。
だからこのまま寝ちゃおうかなって思ったけど、だけど、ちょっと寝たくないって思った。
「寝ないよ」
「へ?」
「まだ寝ない」
ねぇ、久々にさ、ちょっと暑いけどさ。
何か言葉を返される前に唇を塞いだ。
- 342 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 19:03
- いいよ、熱くたって。
どうせ普通にしてても暑いんだから。
私が濡らしたTシャツは、明日私が洗うから。
だから吉澤くん、干してね?
天気予報じゃ明日も快晴って言ってたから。
夏日だって言ってたから。
いいよ、別に、汗かいたって。
シーツも洗って乾かしちゃおう。
久々に触れた気がする肌。
ちょっといじわるしてやろうと思って噛み付いた腕。
張り付いた前髪も、信じるよ、この存在。
だから、もっと信じさせて。
- 343 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 19:04
- 呟く言葉を天井に放ち、伸ばした腕を風鈴の音を鳴らして風と今さっき私が噛み付いた腕が捕まえる。
夏がきて、秋がきて、この先冬や春が何回訪れても、ずっと、ずっと、この腕に抱かれていますように。
普段の私だって言えない言葉。
耳元で囁くと、赤くなってからすごい優しい顔をして抱きしめてくれた。
風鈴が静かになる部屋で、私はいつかみた描かれた星空を見た。
手を伸ばせば触れられる空と星。
その星空を見た。
長い夜。
私はこんな夜がキライじゃなかったりす。
こうして、あなたと一緒にいられるなら───
- 344 名前:夏日。 投稿日:2004/05/17(月) 19:05
- 週が変わった月曜日。
帰ってきた吉澤くんの顔はいつもと同じような笑顔だった。
だから私もいつもと同じような笑顔で『おかえり』って言えた。
二日酔いだったらしいアヤカさんと里田さんは、今度は吉澤くんや私や他の皆との
二日酔いコースを計画中なんだって。
また繋ぐ手が増え、私達は新しい季節を過ごしていく。
全てが今まで通りになんかいかないかもしれない。
時間が解決してくれること、時間以外が解決してくれること。
どっちも存在すると思う。
どっちだってそこに誰かがいて、何かを思って生きているから。
そうしてまた人は違う恋に目覚めたり、違った人との付き合い方だってしていける。
それは全て人それぞれで、同じ歩調でなんかいかないし、進む先だって違うと思う。
だけど、それでも全ては無駄なんかじゃない。
風に響く風鈴の音を、私達手を重ねながら聴き続ける。
この夏も、この先の夏も、ずっと、一緒に。
そして私の予想は外れることなく、重ねた手もほどかれることなく、季節は巡り続ける。
- 345 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/05/17(月) 19:06
- 更新しました。
次回からはひょっとしたら時間がぶっ飛ぶかもしれません(予想)
相変わらず遅い更新で申し訳ないです。
>alone 様
おぉどうもお久しぶりです。
どうにも不定期更新で遅くて申し訳ないです。
無理をしない程度に頑張ろうと思っていたら、すっかり遅くなってしまいますた(´・ω・`)
それでもこれからも頑張っていきます。
ので、お暇な時にでも彼等を見てやって下さい(w
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/19(水) 22:09
- 半年ぶりくらいにレスさせてもらいます。 いつもROMってばかりですが、たまにはと・・・次回、どのくらい時間とんじゃうのか!おっかなびっくり?で待ってます。
- 347 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:42
- もうすぐ、梅雨なんかかがやってきたりする。
そして、この家で暮しはじめて、もうすぐ一年経ったりする。
同じ空間で呼吸をするようになって、時間は前よりも早く過ぎるようになった。
今日は、梅雨入りもしてない5月だけど、結構激しい雨が降っている。
そして今、石川さんは───
「ひまー、ねぇ暇だよー」
───かなり退屈してるらしい。
大雨という言葉がぴったりくる程の雨。
久しぶりにお互い土曜日の休みが重なったんだし、遊園地行っちゃう約束なんかしてたのにこの天気。
昨日はあんなに晴れてたのにね。
朝、明るくない外を見た石川さんは、外と同じくらいに大きな雨雲を背中に背負って
ドンヨリとした表情でクッションを抱えていじけていた。
どうやら石川さんは、遊園地巡り一日計画みたいなものを考えていたらしく、それが実行できなかったのが
とっても残念で悔しかったらしい。
こんなこと言うのはどうかと思っちゃうけど、ちょっとその背中が可愛らしかった。
- 348 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:43
- 「よーしーざーわーくーん、ねぇなんかしてあそぼーよー」
ついでにさっきまで拗ねていた石川さんは、まるで子猫のように僕にじゃれついてきている。
背中に張り付いては僕の頭の上に顎をのせて遊んでみたり、僕が新聞を読んでるのを知っていて
わざと新聞をめくる手をとって眼鏡を奪って逃げてみたり。
僕もなんだかそれが楽しくなってきて、わざと素っ気無い素振りをしたりしてみたり。
ザーザーっと音が聞こえる程の大雨の日、僕はちょっと楽しんでたりする。
「だーかーらー、暇なんだよー」
グワッしグワッしと肩を捕まれ、激しくガクガクからだを揺さぶられる。
髪が動いてなんだか脳味噌まで揺れてるみたいな勢いだ。
ちょと、酔いそう…。
いい加減このままじゃ吐きそうだと思って石川さんにSOSを送ろうとしたら、すんごくタイミングよく
ピンポーンと音が鳴った。
ピタリと止まる石川さん。
軽く頭がガンガンしてる僕。
一緒に玄関の方を向いて、一緒に顔を合わせた。
「…誰だろう」
「こんな雨強いのに…お客さん?」
- 349 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:44
- コテンと首をかしげて立ち上がろうとしたら、外からとっても聞き慣れた声が聞こえた。
こんなにも間延びした声でガンガンドアを叩くやつは、多分、僕が知ってる限り一人しかいない。
ねぇ、石川さん。
きっと、そうだですよね。
絶対そうですよね。
よし、じゃぁちょっと行ってきま…
「ごっちんだーーーーーーーーー」
石川さん、ねぇ石川さん。
ちょっといつもとキャラ違いますよね。
んげー違いますよね。
揺れる黒髪とピンクTシャツとピンクのジャージの背中を追いながら、僕はぼんやりとそんなことを思っていた。
「んぁはーい、今日もばっちりピンクだねー」
で、僕らの目の前には雨がっぱに長靴というなんともいえない格好で立って笑っているごっちんがいて
「吉澤、てめー出てくるの遅い」
その斜後ろには不機嫌丸出し、濡れた髪を後ろにもっていってるせいでおでこ丸出しの紗耶香が立っていた。
- 350 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:44
-
- 351 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:45
- 「着替え置いとくから使ってね」
「んぁーい、ありがとー」
濡れたままだと風邪ひいちゃう。
ってワケで、今ごっちんは風呂入ってます。
あの後、紗耶香はなんか用事があるらしくそのまま家にあがることなく帰って行った。
今日は泊まる気満々だったらしいごっちんは、右手と左手に大きな荷物を持っていた。
っていうか、事前連絡無しですか。
相変わらずだね、まぁいいけどさ。
ぽかぽか浮かんでくる言葉は今までと同じように僕の頭の中だけで浮かんでは消えていく。
懐かしいな、なんか、こういうの。
「石川さん石川さん」
「ん?」
くるりと振り返ってキョトンとした顔。
何度も見てるのにいつだって僕のツボ。
たとえ全身がピンクだろうが、たとえちょっと寝癖がついていようが、とてもツボ。
「どうしたの?」
「あ、いや、えーっと、なんだっけ…」
本当、なんだっけ。
何で呼んだんだっけ。
あれ?
「まだぼけるには早いよー」
- 352 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:46
- 両手でタオルを持って顔をクシャッてして笑ってまた髪が揺れる。
最近っていうか、なんていうのかな、僕らが一緒に生活をはじめるようになって、
なんか、僕自身がなんだけど、すごい楽っていうか、一緒にいてすごい落ち着くというか、
そんな気持ちになってきていた。
そりゃ、些細なことで喧嘩みたくなったりすることだって無いってワケじゃない。
だけど、それってお互いに本音を言えて、お互いに素を出していられるってことだと思う。
気を全く使わないっていうのじゃないけど、一緒にて、すごく、それが自然な気がしてならない。
「梨華ちゃーん、タオル何処置いとけばいい?」
「あ、洗濯機の上でいいよー」
「んぁーい」
こう、ずっとこのままでいたいっていうのはあるけど、ちゃんと、カタチにしたいっていうのもある。
石川さんとそういう話しってあんまりっていうか全然しないけど、僕の中ではそういうのがあったりする。
なんか、不思議な感覚だ。
ワクワクするような、ドキドキするような。
部屋に何かが増える度に、思い出が増え、思い出を思い出と思わないようになり、そしてまた日常が続いていく。
疲れて帰ってきた時、家に誰かがいてくれて、それが自分の大切な人だったりすると、
それだけで今日一日頑張ってよかったって思える。
- 353 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:47
- 「おーい、よし子−、何固まってるんだよーい」
「なんかね、最近カオリさんみたく交信すること多いんだ、吉澤くん」
ついでに、実は子供が出来たら誰どんな名前つけようとか、そんなことまで考えてたりする。
僕の脳内は最近こんなのばかりだ。
未来予想図を思い描いてそれでもっと頑張ってみたり、仕事帰りに色々なお店めぐりして探しモノしたり。
思い描く未来に向けて、なんだかとってもワクワクしてる。
で、喜ぶ顔の想像なんていうのもしてみたりしてる。
まぁ何が言いたいかっていうと、僕は今、とってもハッピーだってことだ。
「んぁ、帰ってきた」
「おかえりー、コーヒーが丁度飲み頃になってるよ」
そう、たとえ目の前にダブル全身ピンキーがいようとも。
- 354 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:48
-
* * * *
ごっちんが持ってきてくれたもの。
それは小さい頃の吉澤くんやごっちんが写っている写真だった。
部屋を掃除してたら出てきて、これは私に見せなきゃって思ったんだって。
で、こんな大雨なのに市井さんを電話で呼び出してわざわざ届けに来てくれたみたい。
市井さん、なんかしっかりごっちんの尻に敷かれてるんだなぁ。
なんかブーたれながらも言うことをきく市井さんを想像するとちょっと失礼だけど笑っちゃう感じ。
もう市井さんとの出会いがナンパだなんて遠い遠い昔で幻みたく思えてくる。
気付いたら、随分と沢山の時間を過ごして、沢山の時間を吉澤くんと一緒にいる。
「やっぱしさ、幼稚園の時とか見たいっしょ?」
「何でそんな懐かしいの持ってるのさ」
「よし子ん家にもあるって、絶対ある。見ないだけだよー」
で、この二人はもっと沢山の時間を一緒に過ごしてたんだよね。
ちょっぴりジェラシー。
だけど、なんだか相手がごっちんだと思うと全然憎めないから不思議。
なんかね、この二人って一緒にいるのを見ててすんごい微笑ましいの。
こっちまで思わずニコってしたくなるような感じ。
私のこんな思いを知ってか知らずか(まぁ知らないか)ごっちんがニコニコしながら
持ってきた写真をビラ−っと広げた。
- 355 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:48
- 「これがねぇ、よし子が2歳の時の写真」
ごっちんが指差してくれたのは水色と白の縦ラインの入ったジャージみたいな服を着てる写真。
眼鏡はかけてないんだけど、見ればなんか一目で分かるような写真。
ちょっと上目遣いがまたなんともかぁいい。
あーこんな子が自分の子供だったら絶対に溺愛しちゃうよなー。
ごっちんにビタッと体をくっつけて、食い入るように見つめちゃうこの写真。
ねぇ、ごっちん、今度これPCの方でいいから画像送って。
お姉さん手帳に入れて宝物にするから。
「梨華ちゃん、まだまだ甘いよ、続いてはよし子3歳の時の写真」
隣でごっちんがニヤッて笑ったのが伝わってきた。
それ程までに傑作なんだろう。
口ドラムロールが隣で聞こえて、口シンバルが隣で聞こえて指差されたのは
ちょっと髪が伸びてていて、本当に女の子みたいな写真。
…やだ、可愛いすぎるじゃない。
「この後すぐに切っちゃったみたいでね、これしか後藤は持ってないんだけど
どうよ梨華ちゃん、これすごいでしょ?」
- 356 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:49
- すごいもなにも…ねぇ、これも送って。
これも手帳に入れて宝物にするから。
可愛いなー、本当かわいいなー。
やっぱり将来子供が生まれたらこんな可愛い子とかになるのかしら。
…ってちょっと何考えてるのよ、梨華、浮かれ過ぎよ梨華!
「んぁ、なんか今日の梨華ちゃんテンション高い?」
「うん、なんか、テンション高い」
あーでもいいなー。
なんかこうやって将来自分の子供とかに小さい頃の写真見せてあげてお話しとかしいたいなー。
何だか今日の私ってばテンションが高め。
理由はどうだか分からないけど、自覚症状があるくらいにテンションが高い。
だからこの後もごっちんが見せてくれた写真に興奮しまくりでした。
小さな吉澤くんがごっちんと肩を並べて笑ってる写真、泣いてる写真、寝てる写真、
砂浜で転んでる写真、おいしそうに食べ物食べてる写真、その他諸々もう全部宝物。
- 357 名前:雨降り訪問昔の昔 投稿日:2004/05/31(月) 20:49
- ごっちんありがとう。
こんな大雨の中わざわざ来てくれて。
今日ね、夕飯当番は吉澤くんなの。
だからさ、もうちょっと色々きかせてね。
うんうん、そうだね、今日はお布団並べて寝よう。
私明日も休みなんだ。
だからちょっとくらい夜更かししちゃってさ。
「よし子ー、じゃぁ今日は後藤が梨華ちゃんもらうねー」
「はいよー、くれぐれも寝ながら蹴ったりしないでねー」
今日はさ、遊園地には行けなくて、せっかく考えてたプランはゴミ箱行きになっちゃったけど、
すごいね、なんかね、楽しいの。
だから、もうちょっと、この楽しい時間を皆で一緒に過ごそうね。
- 358 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/05/31(月) 20:52
- 更新しました。
なんだか時間経過しちゃってました。
でも、なんだかあんまり変わってません。
良かったのか悪かったんかは分かりませんが、まだまだ続く気がします。
とりあえず更新遅くて本当申し訳ありません(土下座)
>346 名無飼育さん 様
実は私も時間飛ばすのにはおっかなびっくり(爆
だもんてやっぱし勇気が出なくてこんな感じに(苦笑)
なんていうか、まぁ相変わらずマターリです。
それでも、一応、まぁ、きっと進んでいます。
( ´D`)<多分
- 359 名前:レオナ 投稿日:2004/05/31(月) 21:41
- 更新お疲れ様です。
まったりの、更新でも全然OKです。
作者様の、小説だいすきなんで。
男の子でも、吉澤君かわいいんですね。見てみたいですね。(笑
次回も、たのしみにしてます。
- 360 名前:梅雨のナカヤスミ 投稿日:2004/06/15(火) 18:54
- 「いいらさーん!!」
その日、あいぼんの首根っこを捕まえて、さらにカオリは結婚してもう飯田じゃなくなったのに
それでも昔のようにカオリのことを呼んでくれながら、のんちゃんとあいぼんが我が家に遊びに来てくれた。
玄関で靴を脱ぐと、すごい勢いでジャンプをしてきて、体当たりのようにへばりつく。
これでもかーってくらいに頬をスリスリされて、これでもかーってくらいに頬にぶちゅーっとされた。
のんちゃんの後ろじゃあいぼんが苦笑いしてて、本当に掴まれてた首根っこ当たりを摩ってる。
「二人とも元気してた?」
「みてのとうりなのれす」
「見られた通りだよー」
まだカオリの首にぐいっと腕を回してるのんちゃんと、のんちゃんの脱ぎ捨てられたような状態の靴を
きちんと直したてから自分の靴を脱ぐあいぼんを引き連れて、今日はカオリしかいない
お部屋で三人でまったりとお茶を飲む。
独りぼっちでちょっと寂しいなって思ってたからこの突然の二人の訪問は嬉しかったりする。
- 361 名前:梅雨のナカヤスミ 投稿日:2004/06/15(火) 18:55
- 「今日ヤススの圭ちゃんはどうしたんれすか?」
「出張。明日の夜には帰ってくるよ」
「ふーんじゃぁ今寂しい真っ最中だんだ」
あ、あいぼん、ちょっと生意気になったんじゃない?
何そんなニヤニヤしてるのよ。
まぁそんな顔も可愛かったりするし全然憎めなかったりするんだけどね。
お茶を飲んだその後は、あいぼんが持ってきてくれたラピュタをカオリを真ん中にソファーに並んで
座って観て、最後のエンディングを三人で並んで大合唱。
なんだかすっごい達成感。
圭ちゃんともまた観たいなぁなんて思ってたら、あいぼんが貸してあげると言ってくれたから
お言葉に甘えてあいぼんレンタル屋からラピュタレンタル。
そして一緒にのんちゃんからはトトロレンタル。
フフッ、なんかジブリ週間になりそう。
- 362 名前:梅雨のナカヤスミ 投稿日:2004/06/15(火) 18:55
- 「ありがと。今度の休みにでも観るね」
借りたDVDを棚にしまってたら、背中に二回程の衝撃。
少し前のめりになってペタンと床に手をつくと、コロッコロッとカオリよりも小さな二人が
絨毯にコロコロ転がって、ビラッビラッと手足を伸ばした。
「やっぱしカオリンのお家はいい匂いがする」
「へいっ、たまにこうやってくるとなんかリラックスできるのれす」
「そぉ?それは良かった。」
フフッ、本当に可愛いなぁ。
なんか二人がいると癒されるっていうか元気が出るんだよね。
気持ちよさそうに目を閉じてるこの子達をみてると思わずほっぺにチュッてしたくなる。
「けめちゃんが知ったら嫉妬されそうれすね」
「うん。で、体育館裏呼出されてボコボコにされそう」
こう言って二人が笑ったのはカオリが思ったことを行動に移したから。
大丈夫だよ、圭ちゃんそんくらいじゃプンスカしないから。
多分だけど。
っていうか、そんなボコボコにするような人じゃないよー。
- 363 名前:梅雨のナカヤスミ 投稿日:2004/06/15(火) 18:56
- その後、しばらくゴロゴロとしているうちに眠ってしまった二人を起こさないように
小さなボリュームで音楽をかけて、二人の寝顔が見れる位置で本を読んでたんだけど、
なんていうの?悪戯心??うん、きっとそう。
まぁそんなのが突然出てきてしまい、カオリは二人を起こさないようにしながら
ちょちょいっと顔に落書きをして、その天使のような寝顔をそれぞれパパとママに送った。
ハハッ、いいね、これ。
カオリも大切にとっておこぉっと。
今日は暑いけどカラッたとしたいい天気。
朝干した洗濯物はもう乾いてることだろう。
うん、いい一日だ。
- 364 名前:梅雨のナカヤスミ 投稿日:2004/06/15(火) 18:57
- ***
「カオリさんからメールだ」
「こっちにも」
ほぼ同時刻に届いた『天使』というタイトルのメール。
本文は為し。
ようは画像を見ろってことか。
で、添付ファイルを開いてみたら…なるほど、こりゃ確かに天使だわ。
「ねぇ、これはネズミさんと猫さんのどっちだと思う?」
口に手をあてて三日月方に目を細めてる彼女の手の中には、僕の携帯に届いた画像と同じように
左右に3本ずつおヒゲが描かれた子の画像があった。
こっちはヨダレのおまけつきだ。
あぁ、絨毯こいつのヨダレでべとべとになっちゃってるんじゃないのかな?
「こっちはどうだと思います?」
- 365 名前:梅雨のナカヤスミ 投稿日:2004/06/15(火) 18:57
- なんとなく答えは同じかなぁって思いながら自分の手の中にあるヨダレが垂れてない方の画像を見せたら、
彼女は口からフハッと息を漏らして何度か首を縦に振った。
「白猫とビター色の猫だ」
うん、僕もそう思った。
僕の方に届いた白猫さん、石川さんの方に届いたビター色猫さん。
両方とも似たような寝顔で似たように口を開けてる。
ほほえましいなぁなんて思って携帯を握りながらニマニマしてたら、石川に手で呼ばれて
きゅいっきゅいっと頬になんか描かれた。
いや、何描かれたかはなんとなーく分かってるんだけどね。
そして彼女も同じようにきゅいっきゅいっと自分の頬に黒い線を描く。
そしてもう一度呼ばれるままに近づいて、言われるままに頬を寄せてはいポーズ。
- 366 名前:梅雨のナカヤスミ 投稿日:2004/06/15(火) 18:58
- …軽く恥ずかしいの分かってるよね。
石川さん、僕が恥ずかしいって思ってるの分かってやってるでしょ。
あ、笑顔で頷きましたね?
まったく、僕が石川に対して激弱なの知っててやってるんですよね。
あ、また頷いた。
あー勝てないなぁ。
まぁそんな勝とうとも思わないけどさ。
でも今更なんと言おうと、もうすぐ子猫達の近くにいる人のもとに親猫達のなんともいえない画像が届く。
僕としてはその場から画像が広まらないことを祈るばかりだ。
…無理だろうけど。
久々に晴れたからか今日の石川さんはテンションが妙に高い。
だからすんごくイヤな予感がする。
- 367 名前:梅雨のナカヤスミ 投稿日:2004/06/15(火) 18:58
- 「ねぇねぇ吉澤くん」
「イヤですよ」
「ぶー、まだ何も言ってないじゃーん」
そして、そんな予感はけっこう当たったりなんかしちゃったりする。
「絶対変なことさせるつもりですよね」
「変なことじゃないよ。ニャーって言ってみてほしいだけ」
ほら、やっぱし当たった。
「無理です絶対無理です」
梅雨の中休み。
初夏の香りがする中で寝ぼすけ子猫達から電話を耳にあて、僕は3匹のヒゲ猫軍団に負けることになる。
小さな鳴き声は恥ずかしくなるくらいの笑いを誘い、隣でと電話越しで涙を流された。
耳まで熱い顔を窓に向けたら外はもう夏を迎えようとしていた。
- 368 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/06/15(火) 19:00
- 短いですが更新しました。
生存報告ってことで。
生きてます。
遅い理由がキーボードが叩きにくいなんて言い訳しません。
…本当すみません(土下座)
>レオナ 様
またしても例のごとくまったりしすぎました_| ̄|〇スイマセン
なんかこう切り取った一部の日常のはずがどうにもこうにも
切り取れなくて(苦笑)
いや、はい、ごめんなさい。
頑張ります、すんごく。
吉澤くんの幼い頃は、
( ´ Д `)<だれよりも泣き虫だったよー
だそうです(w
きっとそれもまたかわいいと思うんですけどね。
- 369 名前:naomi 投稿日:2004/06/21(月) 06:47
- 今まで読んできたいしよしの中で一番大好きです。
これからも心がホッカホカになるような素敵な物語を
書いてくださいねっ(*´∀`*)ノ
応援してます・・・。
- 370 名前:小さな大きい映画館 投稿日:2004/06/23(水) 19:37
- 「ねぇ、吉澤くん」
その日は、夏らしい陽気で、暑くて、風も冷たくなくて、なんていうか、夏って感じの日だった。
二人でホームセンターに出かけて日用品買ったり、今日の夕飯のことを考えながら買い物カゴに品物を
入れたりしてたそんな夏の日。
「ちょっと、寄りたい所があるんだけどいい?」
レジで精算を待っている時に石川さんがニコッと笑いながらこう言った。
幸いカゴの中には生物は入っていない。
よし、大丈夫。
これだったら車の中で腐っちゃうようなモノはなにもない。
いいよ、限界はあるけど行ける所まで車に行きましょう。
断る理由もなければ腐るモノも買ってない。
全然問題ないじゃないですか。
それにしても、どうしたんですか?突然。
と、まぁ不思議に思ったけど口にはせず、買い物袋をトランクに入れて、言われたままに車を発進させる。
- 371 名前:小さな大きい映画館 投稿日:2004/06/23(水) 19:38
- 風は南風。
静かに冷たくない風が吹いている。
だけど渋滞にはまってないから冷房は切っちゃおう。
窓を開けて風を呼び込む。
僕の髪を乱す風が助手席に座っている石川さんの髪も同じように乱す。
夏の陽射しが腕にあたって、運転焼けしそうだなぁんてぼんやり頭の隅の方で思ったりしてみる。
赤信号で車が止まれば背中や椅子にくっついてる太腿がじんわりと汗ばんでくるけど、
僕らはそのまま窓を開けたまま、夏の暑さを味わっていた。
- 372 名前:小さな大きい映画館 投稿日:2004/06/23(水) 19:38
- 「そこ、右に曲がって、次の信号も右でお願い」
運転すること早1時間。
全く知らない道に出て、頼りになるのは石川さんのナビだけな状態。
まぁ別に道に迷ったって走ってればどうにかなるだろうなんて思っちゃうんだけどね。
車は走る。
迷うことなく進んでいく。
場所的に、石川さんの地元っていう所でもなさそうだ。
だけど彼女の指示は的確で、迷うことなく目的地に向かっている感じがした。
しばらく走って、急行電車の止まらない駅にある小さな商店街を右手に見て、少し進んだ所を左に入る。
さらに進んで近くにあった30分100円のコインパーキングに車を入れて、一歩前を行く彼女の背中を
周りの景色を見ながら追いかけた。
- 373 名前:小さな大きい映画館 投稿日:2004/06/23(水) 19:39
- 「やっぱり、もう潰れちゃってたか」
そして歩くこと数分。
僕が近くのお豆腐屋さんに目を奪われてると、石川さんが残念そうに、だけどもやっぱりなっていう声を漏らした。
彼女の目にある前の小さな建物の入り口はシャッターが下ろされ、シャッターにはスプレーで落書きがされている。
アートと呼ぶにはちょっと違う感じの落書きと、壁を走るツタ達が、この建物の古さを物語っているようだ。
実際、多分かなり古いんじゃないかって思う。
「…ここは」
「昔ね、お父さんとよく来た映画館だったの」
破れたポスターによく見れば見つけられる映画館の看板。
車通りの少ない道路を渡って錆びたシャッターに手を当てみた。
熱い夏の陽射しが降り注ぐ中、建物と建物の間に挟まれて光りがあまり当たらないこの場所のシャッターは、
手のひらに冷たくて気持ちのいい温度を僕に伝えてくれた。
- 374 名前:小さな大きい映画館 投稿日:2004/06/23(水) 19:40
- 「ここね、いつも満席ってワケじゃなかったけど、この劇場サイズだからっていう
あったかい感じがあってね、私、大好きだったんだ」
思い出すように言葉を口に出し、石川さんは僕の隣に立って同じようにシャッターに手をあてた。
蝉が鳴いてる午後。
遠くで聞こえるバイクの音や鳥の鳴き声が、静かにこの閑静な住宅街に色をつけていた。
昔、その昔というのは当たり前だけど僕の知らない石川さんが過ごしていた時間。
石川さんについて、知らないことっていうのは、まだまだ沢山あると思う。
何も知らないっていうワケじゃないけど、知らないことっていうのは、沢山あると思う。
それがこういう思い出だったり、まだ、僕が知らない石川さんの思いだったり。
「最後に来たの、もう何年も前だもんなぁ」
風が吹いている。
僕の髪も、石川さんの髪も、そよそよと揺れるような風が。
その風に吹かれながら、道路に座って空を見上げていたら、少ししゃがれて、でもハッキリとした
声が聞こえてきた。
- 375 名前:小さな大きい映画館 投稿日:2004/06/23(水) 19:41
- 「ひょっとして石川んとこのお嬢ちゃんかい?」
顔を上げたのは石川さん。
そしてみるみる笑顔に変わって、少しだけ離れた所で立ち止まっているおじいさんの所に走って行った。
背中が少し曲がった白髪で小柄のおじいさん。
それはこの映画館の館長さんだった人らしい。
永年歩き続けてきた道。
それは今も変わることなく踏みしめられる道。
終わりが最後の終わりじゃない。
今も、終わっていない道を歩き続けてるんだとおじいさんは言った。
大好きだったこの場所は、雨の日も、晴れの日も、毎日毎日自然と足が向くんだって。
「3年くらい前にね、隣の駅に大きなビルが建ってね、その中にまた大きな映画館が出来ちゃんたんだよ」
おじいさんは笑う。
最後の日のこと、そして昔のことを思い出して話してくれながら笑う。
今日で閉館だって言った日に、皆が来てくれたこと。
そしてその後、映画館で昔のフィルムを流してずっと朝まで皆で騒いで語ったこと。
一つ一つを、まるでアルバムをめくるかのように大切そうに、楽しそうに話してくれる。
- 376 名前:小さな大きい映画館 投稿日:2004/06/23(水) 19:42
- 「今日はいい日だ。石川んとこのお嬢ちゃんにまた会えたし、
その大切な人にも会えた。本当に、いい日だよ」
ほとんど車の通らない道に三人並んで座った日陰に入った道路の冷たさ。
目を細めて見上げた空。
こうして好きな風景がまた増えていく。
そして、また人との繋がりが出来ていく。
「お父さんにも、よろしく言っておいてね。それでいつかまたこの映画館で昔の映画を流して
皆で観よう。もちろん、来てくれるよね?」
「はい、絶対に行きますよ」
「君も、来てくれるだろ?」
おじいさんは笑う。
細めた目は薄く光る。
不思議な色に変わった瞳は空から差し込む光でキラキラ光る。
ニコッと笑ったシワだらけの顔に、自然と僕の頬もゆるんでく。
- 377 名前:小さな大きい映画館 投稿日:2004/06/23(水) 19:42
- 「もちろんですよ」
『その時は、手紙を出すよ』
そう言ってくれたおじいさんに住所を書いたメモを渡し、そしておじいさんの住所も教えてもらう。
住所の書かれたメモを大事そうに石川さんがしまって、同じようにおじいさんも僕らの渡したメモを
大事そうに自分の胸のポケットにしまいこんだ。
そしてまた会う約束をして、僕らはシャッターの降りた映画館を後にした。
半年後?数年後?そんな遠くない未来で、きっとまたおじいさんと会えるだろう。
その頃には、僕らはどうなってるかな?
ひょっとして子供とかいたりして。
…なーんてね。
自分で考えてニヤニヤしちゃったよ。
小さな商店街を並んで歩く。
途中、お母さんに手をひかれる子供を見て、石川さんが柔らかく微笑む。
手とか握っちゃってもいいかな?
いいよね?なんかさ、こうぎゅって握ってたいんだよね。
よそ見をしながら、さりげないフリをして手を握る。
口笛を吹くように明後日の方向を見ながらそっと治まるように握り直す。
隣で小さく笑う声が聞こえて、彼女の指に力が少しだけこもった。
『暑いね』なんて言いながらもほどかれない手。
汗ばんだ手を途中で拭いて、そしてまたさっきと同じように手と繋ぐ。
車に乗るまで、ずっと、ずっと。
- 378 名前:小さな大きい映画館 投稿日:2004/06/23(水) 19:43
- 「どうして、突然来ようって思ったんですか?」
空の奥の方の色が変わり始めた頃、窓を開けた車の中。
ゆっくりと進む道の途中、ふと思った疑問を石川さんに投げてみた。
助手席で少しだけ眠そうな顔をしていた彼女は、少しだけ窓の外を見てから、
少し、恥ずかしそうに口を開いた。
「私の思い出の場所、もっと知ってもらいたいっていうか、もっと、同じような場所でも違う思い出を
吉澤くんと、つくっていきたいって、思ってるから」
半年後?数年後?
そんな遠くない未来で、きっと僕らはまたここに来て、僕らのアルバムのページが増えるだろう。
いや、増やす。
いや、きっと、自然と増えていく。
その時は二人?それとも三人?ひょっとして四人?
思い描く未来の隣に君がいて、思い描く未来の先には夢がある。
だからさ、僕もっと頑張りますね。
ずっと、ずっと幸せな顔でいれるように、僕、もっと頑張りますね。
いつの間にか眠ってしまっていた石川さんの髪は、西日を浴びて、綺麗なオレンジ色に染まっていた。
- 379 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/06/23(水) 19:45
- 更新しました。
地元じゃ何故かもうスズムシさんが鳴いてます。
>naomi 様
いつまでもホッカホカになるようなモノをお届け出来ればいんですけどね(w
応援ありがとうございます。
頑張ります。すんごく。とっても。
ホッカホカのレス、ありがとうございます。
- 380 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:17
- 「ほらーもっとしっかりこげー」
「文句言うなら自分でこぎなよ」
「無理、俺箸よりも重いもん持ったことないから」
「ったく、嘘ばっかついてっと後藤に怒られるよ」
夏の風はまだ残っていて、秋と言うのは早すぎる。
まだ夏が名残惜しいとその場に残っているこんな時を、きっと残暑なんかと言っちゃうんだろう。
荷台に乗っかって背中を僕の背中にくっつけ、紗耶香は楽しそうにケタケタ笑ってる。
ちょっと前を自転車でキコキコ進む圭ちゃんもケタケタ笑ってる。
圭ちゃんの自転車のカゴに入れた袋は風を受けてカサカサと音をたて、紗耶香を後ろに乗せた僕は
額に浮かんだ汗を拭いながらキコキコ音の鳴る自転車をこぎ続けていた。
- 381 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:18
- 袋の中には花火。
それからペットボトルやお酒とか。
夏にさよなら花火さんをしようと買い出しに行った僕ら。
花火をする場所は実家のすぐ近くにあるいつもの土手をちょっと上流に進んだ方。
だから、僕は昨日から実家に帰ってたりする。
そして麻琴の熱烈な歓迎を受けてたりもした。
ごっちんは寝癖頭のまま片手をヒラヒラと振っていつもみたく『おはよー』と言ってくれた。
ゴミ捨てに出た帰りだったんだろう、Tシャツハーパンサンダル姿で顔にはヨダレの痕が残ってた。
石川さんは今日合流する予定だ。
そしてそのまま一緒に帰る予定。
麻琴は今日、高橋さんっていう麻琴の親友と紺野さんと高橋さんの家でお泊まり大会らしい。
何が大会かよく分からないけど、麻琴がそう言ってたからまぁ大会なんだろう。
石川さんが僕と一緒に帰ってこなかったことを知るとかなりしょぼくれた顔をしてたけど、
その後、麻琴の携帯に届いた石川さんからの写メールに、顔をニパーッとさせていた。
本当、麻琴は石川さんが好きなんだよなー。
- 382 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:19
- 「しかしなんで俺らの仲間内ってのはこう集まって何かしようってのが好きなのかね」
「いいじゃん、楽しいんだから」
「矢口となっちとかが来れないのは残念だけどね」
自転車のカゴの中でペットボトルが跳ね上がると、紗耶香は大袈裟に『イテー』と言って
僕の背中にもたれるように体重をかけてきた。
どうやら今日はかなり御機嫌らしい。
理由はよく分からないけど、まぁ悪いことじゃないか。
携帯をいじる圭ちゃんの背中を追い掛けるようにして自転車をこぎ、キコキコしながら目的地の河原に向かう。
陽が沈みそうで沈まない時間の夕日を横から受け、少し汗ばんだシャツの袖をはためかせ、
キコキコきこきこ自転車は進む。
こぐから進む。
紗耶香はこがないけど進む。
こういうの、嫌いじゃないな。
紗耶香を後ろに乗せてるっていうのじゃなくて、こういう時間に、こういう場所で、
こんな風に自転車をこぐのがって意味でだ。
- 383 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:20
- 目的の場所の近くまで行くと、それまで僕の背中にあった紗耶香の重さが消えて、さらに荷台も軽くなって
僕の横を通りすぎて僕の前を紗耶香が駆け出していっていた。
敏感なのか鼻がいいのか。
紗耶香は遠くにごっちんを見つけていたらしく大声で『おーまいはにー』なんて言ってごっちんのことを
抱きしめようとして普通に頭をはたかれていた。
そしてそれを見ていた石川さんは辻加護はお腹をかかえて笑っていた。
夏の晴れた夕暮れ時に、皆の笑い声は透き通るように響いて聞こえた。
少し寂しいような夏の終わりの秋の訪れ。
ほら、やっぱり僕こういうの嫌いじゃないよ。
「そういえばカオリさんは?」
「カオリなら浮気中」
圭ちゃんはそう言って自分の携帯を渡してくれた。
画面には麻琴や紺野さんと、多分この子が高橋さんなんだろうな、ともかくこの3人とカオリさんが
顔を寄せあって撮った写真がうつっていた。
- 384 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:20
- 「駅でね、偶然あったんだと」
そうして見せてくれたメールには、
『カオリはこの3人の可愛さにすっかりやられてしまったので一緒にしばらく語らってからそっちに行くねー』
こんなことが書かれていた。
そうですか、浮気ですか。
どうも妹がご迷惑をばおかけしました。
「いいよ、なんかカオリも楽しんでるみたいだし」
そう言って圭ちゃんは笑って携帯をしまった。
閉じた時のパタンという音が、蝉の声と一緒に広い世界によく響いた。
夕暮れ時。
そういうのは今のことをいうだろう。
奥の方から暗くなっていく空。
僕らの頭上の空はオレンジで、もっと遠くの空は暗く、その境目は不思議な色をしている。
電線が見えないだけで、空はこんなにも広くなる。
高い建物がないだけで、空はその大きさを教えてくれる。
流れる雲のスピードを、僕はのんびりと見つめていた。
- 385 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:21
- 「なぁ吉澤」
暗くなった空と雲に少し隠れた月と星。
少し離れた所で花火を持って騒いでる皆を見ていたら、隣にビールを二缶持った紗耶香がやってきた。
少し温いビールなんてまた微妙だなーなんて思いながらも素直に受け取って二人で軽く乾杯をする。
薄いアルミの乾いた音は、少し離れた所にいる皆にはきこえなかったことだろう。
隣からは風にのって煙草の匂いが香ってくる。
紗耶香、場所交代しよう。
風下にいって。
ジェスチャーつきてそう言ったら、紗耶香は面倒くさそうに立ち上がって風下に腰を下ろした。
昔からだったら考えられない。
どうやら、ごっちんに大分鍛えられてるらしい。
ナイスごっちん。
さすがごっちん。
「おまえ、結婚とかって…考えたことある?」
- 386 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:21
- 遠くで聞こえる笑い声。
花火の音も風に乗り、花火の匂いもここに届く。
紗耶香は『まじーなー』とか言いながらビールを飲んで、皆と一緒に笑っているごっちんを見ていた。
「…まぁ、うん」
具体的にとかじゃないけど、全く考えてないってワケじゃない。
その先に広がる未来予想図、その前にも広がる未来予想図。
いつからか見るようになった夢。
なんていうか、当たり前じゃないよ、こう、側にいてくれるっていうのが昔じゃ考えられない程に
当たり前みたくなってきている今だから、最近余計に考えるようになった。
「そっか、うん…そっか」
「うん…そう」
- 387 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:22
- 紗耶香はそれ以上、この話しについては訊いてこなかった。
煙草を携帯灰皿に押し込み、ゴロンと芝に横になって、デカイあくびを一つ夜空に放つ。
空には薄い雲がかかっていて、三日月の姿を薄くし、光りを淡い光へ変化させていた。
この辺は街灯が少ないから、花火の光りと蝋燭の頼り無い光だけが皆を照らすわずかな光りだ。
少し幻想的で、少し儚い色。
今夜みたいに夜空の光りの力が弱い日には、余計に夜の世界は暗くなる。
時たま消える光に、すぐに輝く光。
その色が皆の顔を照らし、そして石川さんの笑顔も照らす。
僕はこの色が好きだった。
濃く、だけども明るく。
光りと影のコントラストがつくり出す色のマジック。
空に浮かぶ三日月と同じように笑う目元が色とりどりの光りに照らされ、いつもと違った笑顔が見える。
「…これ、ぬるいね」
「贅沢言うなよ、残りモンには福があるとかいうだろ?」
「残りもんだったんだ」
「そ、最後のニ本」
- 388 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:23
- 花火を持った辻に追いかけられてるカオリさんとか、圭ちゃんのお尻に花火の火を近付けようとしてる
加護の真剣な顔とか、その後ろにそーっと近付くごっちんとか、それを見た皆が笑ってる顔とか、
全てがキラキラ輝いていて、目を細めたら消えてしまうような、けれど何度でも蘇るような気のする風景。
夏特有の風のにおいや虫の声が僕らの周りにある。
後どれくらい、この声を聞いていられるだろうか。
夏は、あとどれくららい残っているのだろうか。
夏休みを後残り何日かとカレンダーと自分の指を使って数えた日々。
そうやって過ごしてきた夏とは違う、沢山の仲間がいる夏。
夏を迎えるゴトに夏が好きになって、同じように、季節を迎えるごとに、もっとその季節が好きになる。
そして、もっと人を好きになる。
「おまえちょっと酔ってきてるだろ」
「んなぁことないよ」
皆にちゃんと伝わってるかなー。
僕がこんなにも皆のことが大好きだってこと。
ねー、伝わってるかなー。
「ったく、本当おまえは酒によえーよな…」
- 389 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:24
- 紗耶香と同じように芝生に横になって空を見上げる。
気のせいかもしれないけど、空が揺れてて落ちてきそうな空が見える。
あー夏だー、夜だー。
芝生がいい匂いする。
このまま眠っちゃおうっかなー。きっと気持ちいいだろーなー。
太陽と夜の匂いのする芝生がベッドなんてすごい贅沢だよなー。
少しチクチクするけどそれがまた気持ちいいってことで…
「おやすみなさい」
「いや、早いし。ありえねーくらい早いし」
さぁ眠ろう。
ひょっとしたら蚊に刺されるかもしれないけど、いいや、いいや、今は眠っちゃおう。
いい夢みれるよ、きっと、絶対。
それか夢もみないで眠っちゃうね。
あーなんだろう、すっごいいい気分。
風に撫でられてるみたいだ───
- 390 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:25
- 僕の意識は、そこで一旦途切れていた。
眠ったのは20分くらいだったみたいだけど、目を覚ましたら皆が周りにいて
一番近くには何故か圭ちゃんがいて、それも目の前にいて、どうしてか目覚めがちょっと悪かった気がした。
今日の夜風は、とても気持ちがいい。
寝転がったまま手を大の字に広げてみたら、両隣りに寝ていた辻加護の腹におもいきし腕を乗せて
しまったけど…でも、いいや。いや、嘘嘘、ごめんね。
…なんだよぉ、んな怒ることないじゃんかよーわざとじゃないんだからさ。
ぶつぶつガシガシ言う辻と加護を両腕にひっつけて、ぽわーっと空を見つめてみた。
さっきまでかかっていた雲はまだ残っていて、お月様にかかったままで
少し光りが弱い気もするけど、うん、いいよ。
小さな光りでも、ここなら全然寂しくないから。
ここは、とっても温かいから。
- 391 名前:夏にさよなら花火のひかり 投稿日:2004/07/03(土) 07:25
- 「んぁーもうすぐ秋だねー」
「今年もあとちょっとで終わっちゃうね」
この人の隣は、何処よりも温かいから───
「まだ酒抜けきれてないヤシがここにいるわね」
「圭ちゃんだって軽く酔っぱらってんじゃんか」
今年の夏よ、もうすぐさよなら。来年もまた、よろしくね。
だからとりあえずは…
「おやすみなさい」
そう言ったら皆に色々な所を叩かれた。
ここは、多分、きっと…温かい場所だ。
夏よりも、もっと、温かい場所だと…思うよ。
頭がぽわぽわする状態で、僕はそんなことを思って目を閉じた。
叩かれる手の中で、一つだけ皆よりももっと温かい手があって、それに気付いたっていうのは、
ちょっとの間だけ内緒にしておこう。
- 392 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/07/03(土) 07:26
- 更新しました。
地味にですが、一応物語は進んでいます。
- 393 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/03(土) 16:54
- 更新おつかれさまです。
この作品すんげー好きです。流れてる空気が優しくて。
この人たちの中に混ざりたいなとよく思います。
- 394 名前:naomi 投稿日:2004/07/12(月) 02:19
- 更新おつかれ様です(≧▽≦)ここのヨシコ大好きっ!!
私もこの中に混ざりたいっす!!
これからもがんばってくだしゃい(*´∀`*)ノ
- 395 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:47
- 「クラス会?」
「はい、中学の時の」
手渡された手紙。
あまり鮮明ではない印刷された写真には、今よりもずっと背が低くて真っ黒な髪をした吉澤くんが
クラスメイト達の中に混ざって、はにかんだような笑顔を浮かべていた。
「へぇ、なんかちょっと違う感じだね」
「そうですか?あーでもまだそんなに背、高かったってワケでもないですからね」
んー、そういう感じじゃないんだけど…
まぁ、いっか。
行くのかどうかを訊いたら、吉澤くんはちょっと考えるように天井を見上げて首を縦にふった。
「じゃぁその日は先に寝てるね」
「はい、朝にはならないように帰ってきますよ」
- 396 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:48
- 少しお茶目になった吉澤くん。
この頃はどんなだったんだろうか。
今よりもずっと幼くて、今よりも背が低くて、きっと、繋いだ手だって今よりも小さい頃。
久々に会った皆はどんな風に思うのかな。
私が知らない頃の吉澤くんを知ってる皆はどんな風に、吉澤くんを見るのかな。
少しだけ、本当に少しだけだよ?
好奇心もあって、不安もあって。
だけども口には出さないよ。
ちょっと知られるの、恥ずかしい気もするし。
だから笑って送ってくの。
ベッドの中で天井を見つめて、それからたまに時計を見て帰りを待つと思う。
うん、多分そうしてるかな。
あのね、私はさ、吉澤くんが思っている以上に吉澤くんのこと、好きなんだよ。
笑って背中にへばりついたら、そのまま床にゴロリと転がされた。
見上げた天井は、そんなに高いワケでもなくて、首を少し無理に動かして見た窓の外の空は
もう濃い夜の色に変わりはじめていた。
少し、日が短くなってきた気がした。
- 397 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:48
- 時間というのは、あっという間に過ぎていき、季節というのはすごく早いスピードで巡っていく。
春の気配がして、夏の気配がして、秋の気配がして、冬の気配がして、
1年はぐるぐるグルグル回り続ける。
だから、3週間後の金曜日の夜なんていうのはあっという間にくる。
だって金曜日を3回数えたらくるんだもん。
そりゃ早いよ。
朝、寝癖頭でお見送りをして、自分も仕事に行く準備をして、それから少し早めに外に出た。
緑の色から色が変わってきた葉を見上げたら、少し曇った空模様。
天気予報じゃ曇りときどき晴れって言ってたけど、どうなんだろう。
すごい私的予想なんだけど、雨とか降る気がするな。
んー、一応折り畳み傘持ってこっと。
一度家に戻って傘を鞄の中に入れてから、もう一度外に出てみたら、さっきよりも
太陽が雲の隙間から顔をのぞかせていた。
なーんだ、傘取りに行く必要なかったじゃん。
───なんて思っていたのにね。
- 398 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:49
- 何だかいつも以上に忙しい日。
新人さんも入ったし、やらなきゃいけないことは山程ある。
時計を見る暇もなく動き回って気付いた頃にはもう夜とか。
暗い空には雲がかかっていて、遠くの方で雷の音が聞こえてくる。
カオリさんと一緒にお店を出る頃には、ポツッポツッと弱く天井を叩く雨の音が聞こえはじめていて、
途中、遅くまでやっているスーパーに寄っていたら雨は本格的に降り出していた。
吉澤くん、傘持って行ってなかったよなぁ。
- 399 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:50
-
* * * * *
「ごらぁ!よしざー!!おまえちゃんとーのんでるんかぁ!!」
「はいはい飲んでるよ、飲んでるからくっつかないでよ」
「うぉーい!酒追加してくれー」
「そんなの自分で頼んでよ」
わいわいがやがや。
誰が言ったかそんな言葉。
そして今はそんな言葉がとっても似合うこんな場所。
渋谷の街に集まった数年前の同級生達。
多分その数十数名。
遅刻した人もいたけど、それなりに人数が集まったりしてる。
いや、正直に言うとこんなにも集まるもんだとは思ってなかった。
集まった中にはもう結婚してお父さんにやお母さんなった人もいれば
マッサージ師になってる人も会長秘書とかになってる人もいた。
まぁ沢山色々いるってことだ。
でもクラスメイト同士で結婚してる人がいたのにはちょっと驚いたな。
まさかおまえらが結婚するとは!!
って感じ。
- 400 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:50
- 久々に聞く名前に顔は思い出せなかったりしたけど、それでも出てくる思い出話しに
結びついて記憶は奥の方から顔を出す。
そうだ、この人知ってるって。
当たり前だけど、昔はこんなにも酒癖が悪いって知らなかった人とか、
いつの間にやらすごく綺麗になった人とか、いつの間にかヒゲはやしていかつくなった人とか、
記憶はまた新しく結びついて、また昔の記憶と繋がっていく。
「痛ッ!」
そう、こんな風に噛み癖があるヤツだって昔は思いもしなかったよ。
あーあー、これ絶対痣になる。
噛まれた右腕を摩りながら窓の外を見たら、いつの間には雨が降り出していた。
天気予報じゃ雨なんて言ってなかったのに。
僕、傘なんて持ってきてないよ。
- 401 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:52
- 皆は色々な所に動いている。
あ、ちょっと離れた所でまた誰か噛まれた。
酒に弱い僕はちびちびと隅の方で飲んでいたんだけど、気付いたら何故か女性陣に囲まれていて、
隅なんかに座っちゃったから逃げれなくて、逃げれなくて…
皆が興味津々な目で僕を見ていた。
「つきあってる人いないの?」
「えぇっと、い、います」
「写真は?」
持ってるけど見せないですよ。
イヤですよ、恥ずかしいじゃないですか。
あ!ちょっと!!何勝手に鞄あさってるんですか!
「写真みーっけ!!」
あー!!ちょ、ちょっと!!!
しゃ、写真が…石川さんの写真が…
「おぉ、吉澤の彼女レベル高けーなオイ」
「すげー可愛くね?」
- 402 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:53
- 遠くへ、遠くへと回っていく…
果てしなく回り続けそうな予感がして、手元に戻ってこないような気が激しくして、
取り返してこようと、飲んでいたコップをテーブルの上に置いて立ち上がろうとしたら、
隣に座っていた娘に突然腕をガッと掴まれた。
確か…確か名前は…
「吉澤…くん」
…なんだっけ?
ヤバい、全然思い出せないや。
えぇっと、えぇっと、思い出せ−、思い出せ僕。
「今夜、暇?」
…へ?
えぇっと、今、なんて言ったの?
君は、今なんて言ったの?
「ねぇ、暇?」
掴まれた腕に力が加わる。
少し虚ろで、僕を見ていないような瞳が僕を刺す。
これって、つまり…
「暇なら、ちょっと一緒に抜け出そうよ」
- 403 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:53
- …あの誘い。
身体を求められている誘い。
…いや、無理だし。
絶対無理だし。
暇とかそんなんじゃなくて駄目だよ。
僕には石川さんいるもん。
浮気とか考えらんないし。
「いや、僕彼女いますから」
やんわり手をほどいて抜け出そうとするのに離れない手。
爪をたてられた所はさっき友達に噛まれた時よりもズキズキ痛む感じがする。
きっと、ここも内出血するんじゃないかって思う程の力。
「大丈夫だよ、バレたしりないから」
「駄目ですよ、石川さんを裏切るようなこと出来ないです」
だから無理です。
本当に何言われてもダメですよ。
- 404 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:54
-
「…彼女、石川って言うんだ」
何度も誘いを断っていたら、突然彼女の目が細められ、僕の腕から手が遠のいた。
突然…そう、本当に突然。
ゆっくりと僕の隣を離れ、ゆっくりと他の人の横に行く後ろ姿に感じるさっきとは違う違和感。
なんだろう、すごくイヤな予感がする。
右腕には大きめな痣の横に、4つの細い爪の痕。
内出血を起こしたその部分は、細く赤く三日月のカタチを作っている。
すぐに消えない痕を残して、彼女はその後、一度も僕の隣に来ることなく終止他の誰かと喋っていた。
なんか、さっきまでそれなりに楽しかったのに、すごく一気に引いてしまった感じだ。
僕はその後も相変わらず隅の方の席で烏龍茶をちびちびと飲んでいた。
こんなんじゃテンションなんてあがんないよ。
…うん、無理だよ。
- 405 名前:umbrella 投稿日:2004/07/25(日) 19:54
- 雨はその夜ずっと降り続けた。
僕は誘われた二次会を断って、雨の中を傘も買わずに濡れるままに家へと向かい、
そしてずっと起きて待っていてくれた石川さんがかけてくれたバスタオルに包まれて、
濡れた髪をタオルで拭いてもらってる間も、湧かしておいてくれたお風呂に行くように背中を
押されている間も、僕はずっとイヤな予感が拭えなくて、シャワーを全身に浴びながら視界に
入ってきた右腕の4つの三日月の痕を見ていた。
- 406 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/07/25(日) 19:55
- 更新しました。
『umbrella』は後二回くらいです。
ついでに言うとトントンと進んでいく気がします。
>オレンヂ 様
遅くなってすみません。
好きって言ってもらえるように頑張ってるつもりなんですがゴニョゴニョゴニョ
はい、言い訳しません。
いつか混ざることがあるかもしれないですよ?(w
こんな感じの人達の中は、ひょっとしたら近くにいるかもしれませんから。
>naomi 様
本当すみません。
頑張ってみました(w
この中にいる人達は中にはエロ河童もいるようですが(・∀・)
でもきっと、やっぱし近くにいるかもしれませんよ。
- 407 名前:token 投稿日:2004/07/26(月) 01:44
- 更新お疲れ様です。
飼育に来る回数が激減したため、『僕君3』になってから
何気に、初めてのレスだったりしてw
このお話の人々の環境も、ずいぶん様変わりしたようですが、
お話の持つ良い雰囲気は、まるで変わっていないと思います。
願わくば出来るだけ長く、この物語を読み続けたいものです。
では、また。
- 408 名前:naomi 投稿日:2004/07/28(水) 16:52
- 更新お疲れ様です(*´∀`*)ノエロ河童・・・WWW
- 409 名前:blue 投稿日:2004/07/29(木) 05:25
- この小説を読んでおっぱいが好きになりました
これからも楽しみにしてます
- 410 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:18
-
最近よく鳴る吉澤くんの携帯。
着信音のメロディー、それは休日の朝とか平日の夜とか関係なしに鳴り響く。
『出ないの?』と訊いても、吉澤くんは『いいんです』と言って携帯に手を伸ばさない。
少し、前よりもやつれた気がするのはきっと気のせいなんかじゃない。
仕事がたまってるらしく、帰ってくるのも遅いけど前よりも疲れて見えるのはそれだけじゃない。
- 411 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:19
- クラス会のあった日。
ずぶ濡れで帰ってきた吉澤くんは、いつもよりも真剣な顔をしていて、その時は何があったのとか
訊けないような感じがして…なんていうか、雰囲気が、いつもと違って柔らかくなかった。
きっと何かあったんだ。
そう思わずにはいられないし、多分これは正解なんだと思う。
だって、最近の吉澤くんってピリピリしてるもん。
いつもはほんわかしてる笑顔を浮かべて、ちょっと辛い時にだって私にばれないように気をつかって
柔らかく優しくいようとしてくれてるのにさ、最近じゃそれも上手くいってないよ。
夜中に起きてるのだって気付いてるよ。
ねぇ、力になれないかな。
私じゃ、力になってあげられないことなのかな。
何度も訊いた。
だけど、吉澤くんは笑って大丈夫だと言う。
全然、大丈夫そうじゃないのに。
- 412 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:20
- あの雨の日からもう数週間。
まだやつれた感の抜けない吉澤くんだけど、今日から学校の合宿の引率で2泊3日で長野の方に行く。
正直、不安だよ。
倒れちゃうんないかって思うくらい。
一緒に朝御飯を食べて、少し時間が余ったから一緒に洗濯物を干す。
いつもしている動作なんだけど、今日はちょっと流れが違った。
違った、うん、吉澤くんが違った。
「あの、石川さん」
「なに?」
「僕がいない間、実家に帰りますか?」
だってこんなことを突然訊くんだもん。
びっくりしたよ。
本当、びっくりした。
帰る予定なんてなかったし、仕事もあるからこっちにいようって思ってたから。
「どうして?」
「いや、もしそうなら僕がいない間だけそうしてもらった方がいいと思って」
- 413 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:20
- 『ほら、最近物騒じゃないですか』
おまけみたいにつけられた最後の言葉。
何?どうしたの?
あのね、こんな風に中途半端に言われた方が不安になるんだよ?
分かってる?言ってよ、はっきり言って。
何があったのか、何が起きてるのかちゃんと私に教えてよ。
じゃなきゃ帰ってって言われても帰らないからね。
何言われたって帰らないからね。
私がそういうの、頑固だって知ってるよね。
駄目だよ、いくら吉澤くんの頼みだって聞いてあげない。
イヤだよ、何その思いきり私に不安という言葉を投げ付けるような言葉。
首を縦に振るとでも思ってるの?
ハッキリ言って。
じゃなきゃ私、納得出来ない。
秋の少し冷たい風が私達の頬を撫でた。
色素の薄い吉澤くんの瞳が、朝の光りを浴びていつもよりも茶色に光る。
真直ぐに、少し、困ったような色を浮かべて。
- 414 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:20
-
「…心配なんです」
言葉にもこもった困ったような色。
『僕がいなくて、石川さんが見えてない時に何かあったらって思うと、心配なんです』
らしくないって言ったらそれは違う。
だけども心配の度がいつもと違い過ぎる。
そんな顔されたら私の方がもっともっと心配になるじゃん。
どんなに訊いても答えてくれなくて、そうしているうちに時間はきちゃって、
玄関で交わした口付けは少し冷たくて、残された私はすごくやるせない思いが心に残った。
- 415 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:21
- そして私は、結局実家には戻らず、吉澤くんがいない間もずっとこの家で過ごした。
一人で眠るには大きすぎるこのベッドから少しずつ吉澤くんの香が消えていくのが、すごく寂しかった。
毎日くる電話だけじゃ、この寂しさは全然埋まらなかった。
私、いつの間にこんなにも一人じゃいれなくなったんだろう。
前よりも、ずっと、ずっと、私は寂しさに敏感になっていた。
それはきっと、隣の温もりの優しさを知ってしまったから。
その隣に吹く風の優しさを、知ってしまったから。
それ程までに私は吉澤くんを必要としていて、不安があっても信じていて、そして求めていた。
だから、逃げ出したんだ───
- 416 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:21
- 合宿から吉澤くんが戻ってくる日、私は体調とかそういうのがすごく心配で、
連絡なしで学校まで吉澤くんのことを迎えに行った。
こんな日に限って電車が信号機故障で遅れていて、吉澤くん達の乗ったバスの到着予定時刻よりも
遅くに駅に着いちゃって、いつもは階段だから使わない近道を使って急いで学校に向かった。
イヤな予感なんてして全然してなかった。
ただ、単純に心配で、ただ、早く会いたかったから。
だから私は走ったの。
だけど息を切らしながら着いた学校にはもう吉澤くんはいなくて、近くにいた先生に
行き違いになっちゃったことを聞いて知って、私はまた駆け出した。
電話を一本かければよかったのに、そんなこともしないでひたすら走った。
今日はよく走る日だなんて思いながら、私は走った。
- 417 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:22
- そして見つけた後ろ姿。
見間違えるはずのない後ろ姿。
遠くて、だけど隣では私の知らない女の人がいるのがハッキリと見えて、
その女の人は吉澤くんの腕を自分の腕に絡めて楽しそうに吉澤くんに話し掛けていて…。
体をピたッと寄せるその姿、離れているのに見える女の人の表情。
背中だけで、どんな顔をしているのか分からない吉澤くん。
周りの音が一度消え、辺全体が暗くなって二人だけが遠くで浮かび上がった。
二人の足音だけなんて聞こえるはずないのに、感覚だとそれだけが聞こえてるみたい。
スポットライトが照らし、闇に溶けるまで二人の姿が視界に入る。
カツン、カツンと響いた音が、私のことをもっと遠くへと引き離していく。
駄目、届かない。
でも、追い掛けられない。
ただ、見つめるだけ。
私は二人の後ろ姿を数秒見つめてから、その場から走るように逃げ去った。
- 418 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:22
- 声をかけることもなく、いや、そんなこと出来なくて、突然すぎて全然何も考えられなかった。
その時、私の目からは涙も出ないかった。
だけどすごく胸がドキドキしていて、それは家に着いてからも同じで変わることがなくて、
私は部屋の隅で膝を抱えるように座り込んで、真っ白な頭で一生懸命今日の、
今さっきのことを考えたフリをしていた。
太陽が隠れて、暗い世界が外を覆う時まで、ずっと、そうしていた。
あまりにも突然すぎてよく分からなくて、だけども私にずっと内緒にしてた理由とか
最近帰りが遅かった理由とか、あれは誰なんだろうとか、よく吉澤くんの携帯を鳴らす人は
誰なんだろうとか、最近ずっと疲れたような顔をしていた理由とか、
二人は、今何処で何をしてるんだろうとか…
胸が詰まって苦しくて、喉がカラカラで、なのに嗚咽だけは喉から溢れてくる。
苦しくて、すっごい苦しくて、全然理解できない。
乾いた喉を潤すことのない涙が次から次へと溢れ出してきて、私の膝が濡れて乾くことを知らなくなる。
- 419 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:23
- 私は今日吉澤くんのことを迎えに行っただけ。
心配だったから迎えに行っただけ。
何かを見たかったワケじゃない。
こんな風に知りたかったワケじゃない。
「ただいまー」
私がどれだけ心配してたと思ってるの?
信じてたんだよ?
私、どんなに不安でも吉澤くんのこと、信じてたんだよ?
「あれ?石川さん??」
それはずっと前から続いてることで、私はいつだって不安と一緒に怯えてた。
だって、吉澤くんは誰にでも優しいから。
それに、素敵な人だから。
「あ、いた」
だから頑張って信じてきたの。
抱きしめてくれる腕と、その腕の中の温かさをずっとずっと、信じてきたの。
度が過ぎる心配の理由も、全部、全部私の為だって信じてた。
- 420 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:23
- 「どうしたんですか?電気もつけず───」
「遅かったね」
こんな時、自分の高い声をどうにかしたくなる。
棒読みに聞こえちゃうし、怒ってる意思表示にすらならない気がするから。
「あ、えぇっと、ちょっと急に仕事が入っちゃって」
「…女の人と会う?」
暗くて、姿は見えないのに、吉澤くんが息を飲む音だけが聞こえた。
膝から顔をあげてみても表情は読めない。
それは少しの救いなのか、それともその逆なのか。
隠し事が上手くない吉澤くんは、こんな風に浮気をしててもすぐにばれちゃう人だ。
「…な、んで」
「私と違って背が高くて綺麗な人だったね」
どうしてこんなことになっちゃったんだろうね。
ついさっきまではこんな気持ちになるなんて思ってなかったよ。
こんな、頭が痺れるような、心が冷たくなるような気持ちになるなんて思ってなかった。
- 421 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:25
- 「…全部、嘘だったんでしょ?私が心配だとか、そういうの、全部嘘だったんでしょ?」
「ちょ、それは違います!」
「嘘!何よ!!私がどれだけ心配してると思ってるの?
ずっと、ずっとずっと不安だったこと、吉澤くん全然分かってない!!」
立ち上がっても勝てない深長差。
だけど上から見られることがイヤで、私は胸が潰れそうなくらいに苦しくて、
ここから早く、今すぐにでも逃げ出したかった。
「やめて!触らないで!!」
「石川さん…」
横を通りすぎる時に触れられた手を、私はこの時初めてした拒絶した。
聞いたことのないような悲しい声も、所在なく漂う手も、この時の私には全然届かなくて、
ただ、私は自分の気持ちだけを爆発させてた。
「裏切られるくらいなら信じなければよかった!!
騙されるくらいなら、最初から信じなきゃよかった!」
止められない私。
こんなにも頭が痺れて、涙が溢れてくるのなんて今まで一度もなかった。
苦しくて、ただひたすら苦しくて、目の奥がすごく熱くて…
- 422 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:25
- 「どうしてなの?何で言ってくれなかったの?
もう私のこと、嫌いになったって、飽きたって」
「何、言ってるんですか」
自分で言ってる言葉なのに、言葉は熱いナイフに変わり、そのナイフは私のことを思いきり突き刺し、
悲しくなって、まだ涙は溢れてきて、喉の奥はさらに熱くなる。
こんな終わり方するなんて思ってなかった。
永遠が、夢みたいな永遠が続くと思ってた。
見るよりも、言われた方がまだマシだったんだろうか。
それとも、見て言われなかった方が楽だったんだろうか。
どっちにしても苦しい気持ちは変わらなかっただろう。
こんなこと考えてる余裕は全然なかった。
これは、後から思ったこと。
この時は、ただ動く口が、言葉を吐き出していた。
「心配でもないのに心配なフリして、実家に戻ってろ?
何?見られることがイヤだったの?バレるのが怖かったの!?」
「石川さん…聞いてくだ───」
「何を?言い訳?私のこと、ずっと騙してきたっていうことに対する謝罪?
何を聞けっていうのよ。何を、聞けっていうのよ…」
- 423 名前:umbrella 投稿日:2004/08/01(日) 00:26
- 二人を見た後、ここに戻ってきたのは吉澤くんに会いたかったから。
嘘なんてつかれるんじゃなくて、ちゃんと説明してもらいたかったから。
だけど、実際会ってみたら余裕がないのは私で、逃げることしか出来なかったのは、私だ。
本当は、もっとゆっくりと考えれば吉澤くんがそんなことする人じゃないってこと、分かったんだと思う。
ちゃんと、話し聞けばよかったんだと思う。
だけどその時の私はもう頭の中で何か考えられる状態とかじゃなくて、なんていうか、
沢山、傷つけたと思う。
感情のままに飛び出す言葉は、きっと沢山傷つけた。
吉澤くんも、私自身も。
「梨華!!」
こんなこと考えたのは、いつの間にか降り出した雨が降る暗い世界に飛び出した後。
情けないくらいに、濡れた頬をさらに濡らす雨が降る世界に飛び出した後だった。
やっぱり傘は必要だったんだよ。
今は、持ってないけど。
必要なんだよ。
- 424 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/08/01(日) 00:28
- 更新しました。
『umbrella』は後一回くらいです。
今回更新分の中に、数カ月前に生まれた言葉がいます。
ここまで長かった。
そして混乱してる時って、周りが見えないもんなんだなと思いました。
>token 様
おぉ、どうもお久しぶりです。
僕君。内も最初の方から随分と変わりました。
予想よりは随分時間かかりましたけど(w
何処で終わるか私もよく分かっていないので、まだきっと終わりません。
いつまでもこんな風に言っていただけるように吉澤くん達には頑張ってもらわないと(・∀・)
>naomi 様
おまたせしました。
エロ河童はヽ^∀^ノで隠れエロ河童は( `.∀´)だと
そんな予想を私がたてているのは内緒です。
>blue 様
ヽ^∀^ノ<何処かでπに繋がったんだな
えぇっと、えぇっと、頑張ります。
- 425 名前:グング 投稿日:2004/08/01(日) 02:00
- 更新お疲れ様です。
んでもって初めましてです。
2人のすれ違い・・・どうなっちゃうんでしょ
これ見てる間なんでかゆずの「悲しみの傘」が流れとりました。
2人が幸せになる事を心より祈っとります。
- 426 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/08/01(日) 08:45
- 更新お疲れ様です。
初のけんかですね。やきもちを焼いちゃう梨華ちゃんもかわいいけど、吉澤くんずいぶんと男らしくなりましたね。
初めのころのへたれ振りがうそのような成長です。
いつも楽しく読ませていただいています。これからもよろしくお願いいたします。
- 427 名前:naomi 投稿日:2004/08/05(木) 01:09
- お疲れ様です。(*´∀`*)ノここのいしよし・・・・・やっぱサイコォ〜!!!
ええかんじっすっ!!!(≧▽≦)2人にとっての初めての喧嘩・・・
でもこれを乗り越えてより一層甘×Aの2人になるようにねがっとります☆
やっぱりエロガッパは( `.∀´)でしたかwww
- 428 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:36
- あの後、慌てて追いかけたけど、石川さんの姿を見つけることが出来なかった。
暗い雨の中を走っていくタクシーの後ろ姿を見つけて追いかけたけど、車に僕の足が勝てるはずもなくて、
しばらく走った後、暗闇の中にエンジン音と姿を溶かし、彼女を乗せたであろうタクシーは消えてしまった。
立ちすくんでしまう時って、きっとこういう時なんだろう。
力が抜けてるのに座りこめなくて、タクシーの消えた方を呆然と見ることしか出来ない。
どんなに叫んでも雨音にかき消されてしまいそうなこの中で、僕は天を仰いだ。
どんなことを言われたとしても、きちんと石川さんには話すべきだったんだ。
そして僕がもっと気をつければよかったんだ。
そうしたらこんなにも彼女を泣かすことなんてなかったはずだったんだ。
誤魔化して、解決してから話そうと思っていた結果がこれだ。
傷つけた。
僕が、彼女を傷つけた。
- 429 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:36
- …何やってるんだよ。
僕、一体何やってるんだよ。
守ることも出来ない無力な手。
大事な人一人を抱えることも出来なかった無駄に大きな手。
掴んでいればよかったんだ。
もっと、もっと掴んでいればよかったんだ。
後悔なんて後から後から溢れ出てきて、どうしようもない時間を戻してゼロにしたくなる。
無理なのは知ってる。
だけど思わずにはいられない。
- 430 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:37
- 今の季節の雨は冷たい。
過ぎ去った夏を痛感させられる程に。
濡れた体に吹き付ける風は全然優しくなくて、僕にもっと追い討ちをかけてるみたいだった。
全部が、僕を攻めてるみたいだった。
そしてそれは正解だった。
部屋に置いてかれた石川さんの携帯やお財布。
彼女が座りこんでいた所は冷たくなっていて、床の上をずっと手を滑らしてみたら、
温もりの変わりに残っていた小さな水溜まりが指に触れた。
僕は彼女がさっきまで座っていた所に同じように腰を下ろし、彼女の流した涙の色を自分の指へ
移すようにずっと触れていた。
- 431 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:37
- あの後、しばらくしてから皆へかけた電話。
誰に訊いても帰ってくる答えは同じで、通話時間はほとんど10秒。
その電話も、最後にかけたカオリさんの所で通話時間が少し長くなった。
『吉澤!?あんた石川に何したの?』
「そこに、石川さんいるんですね?」
『さっき来たんだよ。誰かと思って出てみたらずぶ濡れになった石川がいてさ、
何も持ってないし、泣いてるし、鼻水出てるしタクシー代貸して下さいとか言うし』
その姿を想像しただけで目の奥が熱くなるような感じがした。
悲しみに溺れさせてしまったことを、どんな言葉で伝えたらいいか分からないけど、ともかく後悔した。
違う、いや、違う。
後悔だけど、それだけじゃない。
電話の奥で説明を求めるカオリさんに、僕はことのいきさつを説明した。
迷惑をかけたのに何も話さないワケにもいかなかったし、きっと、カオリさんの声なら
彼女に少しは届くと思ったから。
ほら、もう卑怯だ。
まだ直接伝えようとしてない。
違う、早く伝えたいんだ。
…伝えたいんだ。
- 432 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:38
- 『ちゃんと説明しなかった吉澤もよくないと思うよ』
「…はい」
『もう少しここに置いておくから、ちゃんと解決したら迎えに来なね。
石川にはカオリから説明はしとくから』
「すみません、ご迷惑おかけして」
電話から流れるツーッツーという悲しくなるような音。
暗い部屋にあった唯一の光りは消え、またここは凍えるような世界に変わる。
彼女に出会う前、僕はどうやって一人の時間を過ごしていたんだろうか。
この部屋で、一人彼女は何を思い、一人で寝るには大きすぎるこのベッドの上で、
どんな夢をみていたんだろう。
世界の中心は彼女だった。
僕の、世界の中心は彼女だった。
そんなこと知ってたし、気付いてた。
だけど、その大きさは今まで気づけないでいたのかもしれない。
- 433 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:38
- …違う、今はこれを考える時じゃない。
後悔ならまだまだ出来る。
今じゃなくたって出来る。
早く迎えに行くんだ。
早く僕の口から説明するんだ。
その為にしなきゃいけないことをしなきゃ。
もっと、はっきりと伝えなきゃ。
手に握っていた携帯を開いて、ついこの間までは知らなかった番号に電話をかけた。
本当は、もう少しだったんだ。
明日には終わらせるつもりだったんだ。
全てを、石川さんに全てを説明できるところだったんだ。
全部、解決してから話すつもりだったから。
- 434 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:39
- いつだってタイミングは悪い。
狙ったかのように悪い。
空回りで、躓いて、だけども走ることを止められないのが僕らだから、
不器用だけど、繋がっていて、まだ、繋がっていたいから。
僕はまだ走り続ける。
もう少し、もう少し待ってて。
すぐに迎えに行くから。
全部、伝えに行くから。
呼んだタクシーはすぐに来て、まだ自分の服が濡れたままなのもかまわずに僕は乗り込んだ。
きっと運転手さんにとったら迷惑な客だっただろう。
濡れてしまったシートに、濡れてよれよれになったお札。
開いた扉からおつりも受け取らずに飛び出した外はまだ雨が降っていて、
僕が呼出した公園の街灯の下で、彼女は赤い傘を広げて待っていた。
- 435 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:39
- 「やっと、その気になってくれたの?」
「違うよ、お別れを言いにきたんだよ」
彼女の手から赤い傘が落ちた。
逆さまになった傘には、雨がだんだんとたまっていっていた。
大丈夫、冷静でいれる。
ちゃんと、見えてる。
「僕は、吉澤ひとみで、君の大切な人じゃないから」
あの日、クラス会の幹事をしていやヤツに聞いて、僕は彼女と仲の良かった子と連絡をとった。
そして聞いた。そして、知った。
彼女には結婚を約束していた人がいた。
だけどその人は突然彼女の前から消えた。
何の連絡もなしに、本当に突然と消えた。
彼女の愛は、他の人が見たらそれは異常だと思う程だったそうだ。
それ程に愛していた彼に裏切られ、その直後に彼女は僕とクラス会で出会った。
背が高くて眼鏡をかけていた僕は、彼女の婚約者によく似てたんだそうだ。
彼女は僕に彼の面影を重ね、そして空いた穴を埋めるように僕に近寄り、僕のすぐ側にいる
石川さんのことを憎み、僕をその彼だと思いながら毎日、電話やメールを送り、学校まで現れた。
そう、今日も。
- 436 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:40
- 「なんで?だって私達、結婚するんでしょ?
そうなんでしょ?ねぇ、そうなんでしょ?」
「違うよ、それは僕じゃない」
もっと、早く見つけてあげれればよかった。
そうしたら誰もこんなに傷つかなかったのかもしれない。
いや、そうじゃなかったかもしれないけど、だけど、少しくらいなら傷は浅くてすんだのかもしれない。
君はクラスメイトだったから、ただ、突き放すだけは出来なかった僕は、周りの人を傷つけて、
一番大切な人を深く傷つけて…
だけどやっと終われる。
終わらせられる。
ほら、今公園に駆け込んできた彼、君の大切な人でしょ?
スーツもネクタイも雨で濡らして駆け寄ってくるのが、君の大切な人でしょ?
なんだよ、全然似てないじゃんか。
背の高さと眼鏡だけじゃん。
- 437 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:40
- 数週間、時間はかかったけどやっと見つけた電話番号。
伝える為に電話をかけて、さっき、今度は教える為に電話をかけた。
逃げ出した彼と、逃げ出された彼女。
後悔した彼と、幻影を追いかけていた彼女。
もう一度出会うことがあれば二人の間は何か変わるだろうか。
でも、それは僕が関わることじゃない。
もう、関わることじゃない。
それでも思う。
きっと二人はもう大丈夫だろうと。
はじまりが突然なら、終わりも突然だ。
でも、それがいいと思った。
もうとっくに消えた腕の三日月。
本当は、消える前には解決したかった。
- 438 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:40
- 僕は二人を残し公園を出た。
道で掴まえたタクシーに乗り込んで、窓の外の空を見上げた。
雨は、もう少し降るだろう。
朝には上がるだろうか。
僕も早く彼女の上に降る雨から守ってあげたい。
傷つけることなく、本当は守ってあげたかった。
もっと早く終わらせて、伝えて、安心させてあげたかった。
また言葉で後悔をした。
前みたく、僕は守るフリをして彼女を傷つけた。
どうして上手くいかないんだろう。
どうして、素直に伝えて一緒になって解決しようとすることが出来ないんだろう。
…ほら、違う。
今は後悔する時じゃないんだって。
迎えに行くんだ。
走るタクシーは水溜まりを走り、街灯の下を抜け、ワイパーは雨を切り、ヘッドライトは闇を照らした。
この光りが、早く彼女の元に届きますように。
願って、見上げた空は、まだ雨が止みそうもなかった。
- 439 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:41
- そして止まない雨は、光りを遮り、彼女を照らしてあげることは出来なかった。
石川さんは、泣きつかれてカオリさんの家で眠ってしまっていた。
カオリさんが話している間も涙は止まらず、カオリさんがコーヒーを煎れてる間に眠ってしまったんだそうだ。
圭ちゃんもカオリさんも、今夜は家に泊めておくからと明日迎えにおいでと言っていた。
僕は玄関先で頭を下げ、新聞紙のつめられた石川さんの靴を見つめて待ってもらっていた
タクシーにもう一度乗って家へと戻った。
よく朝、起きたらありえない程に頭が痛んだ。
考えてみたら当たり前なんだけど、僕は濡れた服のまま床で寝ていて、暖房もつけずに震えていたのだ。
アホだ。
多分、っていうか相当アホだ。
こんな状態だけど、早く迎えに行きたくて、カオリさんに電話をしたんだけど、いざ声を発してみたら
全然出てこなくて、かろうじて出る声を出したけど、カオリさんにはゆっくり休めと言われてしまい、
もう一日石川さんは泊めとくっていうのと、圭ちゃんをこれから派遣するって言われた。
…文句は言えないけど、ちょっと考えてしまった。
- 440 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:42
-
* * * *
電話の着信音が聞こえて、顔を上げた。
カオリさんが呆れたような、だけど心配そうな顔をしていて、そして聞こえてくる内容で
私は吉澤くんが風邪をひいてることを知った。
昨日、カオリさんから聞いた話の内容は今でもちゃんと覚えてる。
そして何も聞かずに、言葉だけ投げ付けて、追いかけてくる吉澤くんの姿に気付いても
無私をして、何も知ろうとしないで逃げ出した私はすごく後悔した。
だけど、まだ少し怒っていた気持ちがあったのは否定できない。
- 441 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:42
- いつだって自分の悩みは一人で抱え込んで、相談してくれることなんてあまりなくて…
心配なんだよ、すごく。
吉澤くんが私を心配するみたいに。
借りた毛布を畳んでいると、カオリさんが吉澤くんおことを教えてくれた。
私が昨日眠ってしまってる間に迎えに来たこととか、もう、解決したこととか。
保田さんがニマニマしながら私の頭を叩いた。
背中を、押してくれた。
だけどまだ素直になれなくて、気持ちの整理がちゃんとついていない私の背中を、
ずっとカオリさんは撫でててくれて、保田さんは何も言わずにコーヒーを煎れてくれた。
私は、また涙を流した。
- 442 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:43
-
* * * *
電話をしてからどれくらい経ったんだろうか。
ノロノロと着替えて脱いだ服もそのままにソファーに横になっていたらガチャッと玄関が開く音がした。
石川さんが圭ちゃんに鍵を渡したのかなって、まだ痛む頭でぼんやり考えていたら、
一日聞かなかっただけで寂しくなった声が聞こえた。
「熱、下がった?」
石川さん…?
声を出したいのに出せなくて、起き上がりたいのに起き上がれないけど、だけども触れたくて、
伝えたくて手を伸ばしたら、柔らかくて、冷え性な石川さんの少し冷たい指が僕の手を掴んだ。
- 443 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:43
- 「…バカ」
彼女はまた泣いた。
僕の胸に顔を押し付けて泣いた。
そして謝った。
石川さんが謝ることなんて何もないのに。
歯車はいつも上手く回らない。
たまに壊れて、たまにどっかに行っちゃって。
だけど僕らは離れない。
だって、離さないから。
怒濤のように過ぎた昨日一日。
沢山詰まって、色々なことがあって…
でも、今は上手く伝えられないかもしれないや。
だけど好きだっていうのだけは今すぐに伝えたい。
声さ、ちゃんと出ないけど伝えたいんだ。
- 444 名前:umbrella 投稿日:2004/08/05(木) 17:43
- 素直な君と、素直になりきれない僕。
繋いだ手からだけじゃ伝えきれない何かがあって、抱きしめあうだけじゃ伝わりきらない何かがある。
ごめんね、いつも心配かけて。
ちゃんと言わなくて、いつも悲しませて。
オレンジ色に空が変わる頃には、きっと伝えられる。
絶対伝えるから。
今はこの手から伝えるね。
あまりにも早く過ぎた日々で、全てのことが遠い昔の記憶のようだけど、
それは確かに存在した日々で、存在した時間だった。
言葉を伝えて、全部終わったことを伝えて、怒られて、だけどすごく愛されてることを痛感した。
不器用な僕は、いつだって空回りだ。
だけど、君がいれば大丈夫。
まだ、もっと走っていける。
手を繋いで、ソファーから一緒に見上げた空は大きくて、鮮やかなオレンジ色だった。
僕は、きっと、この日のこの色を忘れないだろう。
忘れてしまうかもしれないけど、忘れないでいようって思った。
傘は、僕が届けてあげるから。
ずっと、雨から守っってあげれるように。
- 445 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/08/05(木) 17:45
- 更新しました。
『umbrella』はこれで終了です。
次回更新はなるたけ早めにしたいと思います。
>グング 様
こちらこそどうもはじめましてです。
恋愛感情ってどうにもこうにも上手いことばかりあるワケじゃなんですよね(苦笑)
私も書いている間は特定の音楽とか特定のジャンルの音楽とかかけて書いたりしてますね。
そしてたまに脳内音楽もあったり(・∀・)
私も二人が幸せになる事を心より祈ってます。
ありがとうございます。
>ななしのよっすぃ〜 様
どうもお久しぶりです。
最初の頃からくらべると大分吉澤くんも本当成長しましたよねー。
そして成長してもやっぱし何処かぶっ飛んでる感のある石川さんは健在です(爆
どこまでいくか分からないですが、これからもよろしくお願いします。
きっと、まだ成長してくと思いますので(w
>naomi 様
波があるようであんまし爆発的な喧嘩はしたことない二人ですからね。
でもたまにはこんなことだって起きてしまうんではないかと(苦笑)
エロ河童は( `.∀´)です。
そしてその裏には川‘〜‘)||の存在がいることを忘れてはいけません(爆
で、ですね。
私もなるべくはやめの更新を心掛けているんですが、どうしても間が空いてしまう
時がありますので、なるべくレスの時はsageで頂けると嬉しいです。
ageでもsageでもどちらでもいいと自分で言っておきながらなんですけど、
申し訳ありませんがよろしくお願い致します。
(何か日本語がおかしい気が…)
- 446 名前:名無飼育 投稿日:2004/08/06(金) 22:35
- 更新、お疲れ様です。
ドキドキハラハラしましたが・・・うんうん。(感涙
とっても素敵なお話でした。
次回の更新も楽しみにしてます。
- 447 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/11(水) 05:20
- 一気に読ましてもらいました。
ここの作品すごく好きです。
雰囲気がほのぼのとしてとっても好きです。
今回のでよりいっそ深まったって感じで
ホントよかったっす。
- 448 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:37
- 冬の空気が好きだ。
吸い込みすぎたらむせて咳きが出てしまうけど、だけどこの凛としいた空気は、すごく好きだ。
そして言うならば冬の夜の方が好きだったりする。
でも、秋の空気も好きだったりする。
冬へ移り変わる準備をした秋の中で、世界は暖色系の色を着こなしていく。
それは隣にいる彼女にも言えることで、それは僕にも言えること。
「やっぱりこっちの方がいいいかなぁ」
随分前に仕度が終わった僕は、ソファーに座ってのんびりと音楽を聴いて本を読んで
少し冷めてしまったコーヒーを飲んでいた。
出発予定時刻は20分前。
それでもまだここにいるのはさっきっからドタバタと走り回ってる彼女のせい。
「ねぇ、こっちとこっち、どっちがいいと思う?」
「左手の方ですかねぇ」
「もう、ちゃんと見て選んでよー」
- 449 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:38
- こんな会話を何度したことだろう。
膨れっ面になってまた駆け出す彼女の姿を想像して笑みを浮かべてしまう僕は
ちょっとばかり性格が悪いんじゃないかなって思ってしまう。
ゆっくりでいいよって言えば彼女は悩む。
多分、かなーり悩む。
時間を気にしながら悩むと思う。
だから何も言わずに本を読んでみたりしてる。
いつものことだから怒ったりしないのはきっと彼女も分かってるんだろうけどね。
チクタクと針が進み、区切りのよくないところで彼女が僕の手から本をつまみ上げる。
『おまたせ』の言葉の変わりに僕の前でクルリと一回りしてペコリと頭を下げる姿に
頬の筋肉は緩みまくりだ。
悩んだわりにあまり部屋着と変わらないようなこの感じも、やっぱり彼女らしさの一つなんだろうか。
ジーンズと白地にピンク色の小さな花が鏤められた薄手のシャツ。
車に乗せて持っていくコートは、彼女と一緒に買い物に行った時に、あまりにもピンクばかりを
見ている彼女に勧めたもっと大人っぽいコート。
似合うかなーなんて言っていたけど、似合うことは僕が胸を張って言ってあげれる。
だって、今の彼女を誰よりも見ているのは僕だから。
- 450 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:39
- お昼ちょっと過ぎ。
太陽が傾く前に車はエンジン音を響かせて、そしてゆっくりと出発した。
今日はいつもよりも少し寒い。
薄手だった石川さんは車の中でもちょっと腕を摩っている。
お洒落の為にする薄着。
実はまだ僕はそれを理解しきれてなかったりする。
言わないけどね?そんなこと、言わないけどね。
それよりごめんね、先に車あっためておけばよかったね。
僕のセーターを着るかどうか訊ねてみたけど、石川さんは笑顔で首を横に振った。
それからちょっとして、思い出したように石川さんが後部座席に腕を伸ばして
積んでいた小さな毛布を膝にかけてから親指をビッと立てた。
…これは、ちょっと古いけど、あのサインなんだろう。
深くは考えないで、僕はアクセルを踏んだ。
さぁまた少し下がった車内温度を上げようじゃないの。
音楽はやっぱりノリノリだよね?え?トランス??
助手席じゃ踊らないでね?
もう季節は秋から冬に変わる寸前なのかもしれない。
境目なんてよく分からないけれど、そんな気がする。
そしてそんな季節にどうにも合わないような夏満載な空気を車内に閉じ込めて、
車は進む、目的地に向かって。
- 451 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:40
-
* * * * *
夕べ、お風呂にも入って、寝る仕度もバッチシして、湯冷めもしないような格好でソファーに座って
ペラペラと雑誌をめくっていたら、お風呂上がりな頭の上にタオルを乗せた吉澤くんが、
作りたてホヤホヤなをホットミルクを二つ持ってやってきた。
どうぞどうぞというように、ちょっこり横にずれて座って座ってと促すと、何故だか吉澤くんは
私の前にしゃがみ込んで、私にホットミルクを手渡した。
お礼を言って、両手で温かいカップを包んで座らないのかと訊ねたら、吉澤くんはニへッと笑って
『明日の予定はなですか?』
って訊いてきた。
久々に自分の視線よりも下にいる吉澤くんの姿を見て、かぁいいなぁなんて思いながらも
明日の予定を考えてみる。
お風呂掃除もトイレ掃除も部屋の掃除も今日休みだった吉澤くんがやってくれた。
買い物だって終わってるし…
- 452 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:40
- 「お暇ですか?お嬢さん」
「はい、そうです、全くもってその通りです」
「じゃぁちょっこしドライブなんていかがでしょうか」
「喜んでお受けしますわオホホホ‥‥‥」
あらやだ、最後の笑いは余計だったかしら。
止まらないで、固まらないで、呆然と私を見ないで。
ついでに持っていたミルクを波立たせる程肩を震わせて笑わないで。
最初に言い出したのは吉澤くんじゃん。
私はのってあげたの。
ここすんごい大事なんだからね。
あ、聞き流したでしょ。
いいもん別に、明日一人でどっかいっちゃうから。
プイッとそっぽを向いて怒ったぞの意思表示をしたら、吉澤くんはさっきよりも笑って、
持っていたカップを机に置いてから私の頭をわしわしと撫でた。
こんな画を、私は何処かで見たことがあった。
確かテレビで…
- 453 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:41
- 「石川さんって、なんか猫っていうか犬みたい」
あれだ、動物大好きな人と動物の番組だ。
ねぇ、それ違う。
むしろ吉澤くんの方が犬っぽいってば。
絶対そう。そうだって。
「そこなんだ」
そう言って、笑ってから吉澤くんはポフッとソファーに腰を下ろして机に置いていたカップを口へと運んだ。
ゆったりとした時間の中、静かにミルクを飲みながら、吉澤くんの肩に頭を置く。
もうすっかり習慣になったこの動作。
吉澤くんはいつもみたく優しく肩を抱いてくれる。
ついでにたまにくすぐりの攻撃まで加えてくる。
夜は不思議だ。
どうしてか人を素直にさせる。
それは今も昔も変わりない。
修学旅行とか友達の家に泊まりに行った時、夜になると素直に口は開き、内緒話しをするように、
小声で笑ったりちょっと照れたりしながらずっとずっと話してた。
まぁ今はそれとはちょっと違うけど、だけどやっぱり夜っていうのはちょっと時間が違っていて、
昼よりもゆっくりと空気が流れていて、昼よりも素直に甘えることが出来た。
- 454 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:42
- 「明日、何時に出るの?」
「んーお昼過ぎくらいでいいですよ。
せっかく休みなんだし、午前中はゆっくりしましょう」
空になったカップはじゃぶじゃぶと吉澤くんが洗っている。
だからその間に私はベッドの中に潜り込んで、冷たくなった手を温めてあげれるように、
ちょっと冷たい布団の中を、私の体温で温めておく。
明日のことを考えながら、すぐにやってきた睡魔に負けないように頑張って目を開ける。
だけども体はさっき飲んだミルクでほかほかしていて、すぐ側にある枕からは吉澤くんの匂いがする。
あぁ駄目だ。
最初から睡魔に勝とうとしたのが無駄だったんだ。
だって勝てる要素が回りにないもん。
吉澤くんもまだいないもん。
あ、いたら逆にもっと早く負けるかも。
薄れゆく意識の中で、私はそんなことを考えていたんだと思う。
だってちゃんと覚えてないんだもん。
夢をみたのは覚えてる。
だけど内容は覚えてないの。
そんな感じよ。
目が覚めて、最初にみたのはカーテンの隙間からもれる明るい光で、次に見たのは
口をちょっと開けて寝ている吉澤くんの姿。
プラスでヨダレのおまけつきで、冬に口あけて喉痛めないかなぁなんて思ってた。
- 455 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:43
- これが数時間前の出来事。
そして今いるのは吉澤くんが来たかったという場所。
途中から着くまで寝ちゃった私は気付かなかったけど、ここって、あの場所だよね。
駐車場から歩いている途中に確認するように辺りを見回した。
夏と冬とじゃ全然景色は違く見えるけど、確かにそう、だと思う。
「覚えてますか?」
風が吹くその中に、コートを着た吉澤くんのポケットの中に、私の手はすっぽりとおさまる。
大きすぎず、小さすぎずのこの場所は、冬の私の定位置だ。
「ここ、もう何年も前にののとあいぼんと一緒に来たよね」
静かに頷く気配を感じながら、私達は砂浜を避けて冷えたコンクリの上に腰を下ろした。
やっぱり寒い。
だけど、すごく綺麗。
ゆっくり行こうなんて言っていたけど、きっと吉澤くんは時間を計算して連れてきてくれたんだ。
広がるオレンジの空と交わる紫の色。
果てしなく延びていく空と海。
季節は違うけれど、忘れないこの場所。
- 456 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:44
- 「覚えてないかと思ってました」
「そんなわけないじゃん」
分かってるでしょ?そんなこと。
遠くを見つめる横顔をちらりと見て、私はその答えを確信する。
意外に悪戯っ子だね、吉澤くんて。
「二人とも、忙しいみたいですね」
そう、ののもあいぼんも最近じゃ連絡は取合ってるけど中々会えないでいた。
皆一緒にってなるとどうしても夜とかになっちゃって、夜に外で会って食事とかはできるけど、
こういう所に前みたくほいほいこれるかというとそうじゃない。
ずっと子供だって思ってたのに、それは全然違くて、二人ともいつの間にか大人へとなっていってしまっていた。
私達の関係は変わらないよ、だけどほんの少しだけ寂しいって思う時もあっちゃうの。
親心みたいなやつ?
あれ?違うかな。
「でもさ、また皆で来たいですよね」
うん、本当にそう思う。
変わらないから、一緒にいる時間は減っちゃっても変わらないから。
だからまた皆で一緒に来たい。
きっと、いつか来れる。
いつでも来れるよ。
- 457 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:44
-
言葉少なめに私達は沈んで行く夕日を見つめた。
あの日に帰ることなて出来ないけれど、また新しい日を一緒に作っていくことは出来る。
あの子達が変わっていくように、私達も変わってきているのだろう。
だけど、ずっと、変わらないモノがあるんだ。
『一度繋いだ手はいつになったって離れることはないから』
小さく呟いた吉澤くんの言葉が私の胸にしみ込んだ。
- 458 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:45
- 「どうしてあそこに行こうって思ったの?」
帰りの車の中、渋滞にはまってしまてなかなか進まない道で吉澤くんに訊ねてみると、
吉澤くんがニ枚の写真をセーターの下に着ていたシャツの胸ポケットから取り出して渡してくれた。
写真はニ枚合わせたら一枚の写真になるように撮られていた。
海と空の写真。
きっと二人が並んで同じ高さに合わせて撮ったんだろう。
それぞれの写真にサインみたいな名前と、『沖縄最高』というメッセージが書かれていた。
「昨日届いたんです。で、なんかちょっといいなぁって思って」
何処までが嘘で何処まで本当か分からない。
だけども吉澤くんは鼻の頭をちょこちょこっとかいた。
そっか、まぁ、いいや。
嘘半分の本当半分にしといてあげるよ。
もう夕日はとっくに沈んでしまった。
海の写真は撮ってないし、今じゃ空を撮っても真っ暗だろうから、私は運転中の吉澤くんの横顔を
携帯で撮って、タイトルをつけて二人に送信した。
- 459 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:45
- 翌朝、目が覚めてから携帯を見ると、吉澤くんにも私にも『らh』という件名で
二人が頬を寄せあって笑ってる画像が届いていた。
二人の写っている背景は、昨日私達が行った所によく似ていて、なんだかそれがすごく可笑しくて、
私はしばらくベッドの中でその画像を見つめていた。
「石川さーん、もうそろそろ起きてくださーい」
台所の方から吉澤くんの声が聞こえる。
さぁ、また今日がはじまる。
シャンとしよう。
そしてまた頑張ろう。
いつか4人で並んで撮ろうね。
あの場所の空と海の写真。
それはいつでもいいから。
だって、いつだっていけるのは分かってるから。
色んなことを考えながらベッドからもそもそと出て、パジャマのボタンに手をかけたら
聞こえてきたのはチャイムの音。
こんなに朝早く誰だろうと思いながら下着に手を伸ばしたら、聞こえてきたのは二人の声。
- 460 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:46
- 「「おはよーございます」」
さっきまで画像で見ていた二人の声。
私ってば思わず飛び出しちゃった。
だってまだ朝の7時前だよ。
パジャマのボタンを全部外したこともすっかり忘れて玄関までの短い距離を走ってみれば、
何だか固まっている吉澤くんと、その背中越しに見える二人の顔。
は?何なに?どうしたの?
「えーっと、突然ですが」
「今日から一ヶ月程お世話になろうと思いましてれすね」
ドスンどすんと響くは二つの音。
ひょっこりと吉澤くんの背中から顔を出すと、玄関には大きなボストンバッグがふたーつドンどんと並んでいた。
ちなみにパンパン。
チャック無理矢理しめたんじゃないの?って思うくらいに。
「えーっと…」
- 461 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:46
- 混乱ですよ。すんごく。
だって今日は月曜日で、昨日は何も連絡なくて、泊まるなんてことも何も聞いてなくて、
それも一ヶ月とか全然聞いてなくて…
「とりあえず、上がったら?」
私以上に冷静な吉澤くんがサラリと言って二人のバッグを両手に持つ。
おいてかれた私はお口あんぐり。
はてはて一体どうしたものか。
石川さん、一体何が起こっていて、何がどうなろうとしてるか分かりませんよ?
「梨華ちゃん、着替えるなら着替えるで着替えないならパジャマのボタンしめたら?」
「のの達に朝っぱらから見せつけてほしくねーのれす」
懐かしい舌ったらズさ。
すでにたまにしか出ない関西弁。
全てが二人のまんまなワケで、今から1時間もいない間に吉澤くんは仕事に行くワケで。
って、二人とも今日仕事でしょ?
- 462 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/21(土) 00:47
- 「石川さーん、早く来ないと冷めちゃいますよー」
驚く程冷静な吉澤くん。
何が何だか分からない私。
元気良くリビングに走って行くののとあいぼん。
よく分からないけど朝は来た。
呆然としながら玄関に立っていたら、ののに手をぐいっと引っ張られた。
そしたら突然思い出した。
昨日吉澤くんが言ってくれた言葉。
『一度繋いだ手はいつになったって離れることはないから』
もーよく分からないけどとりあえず御飯食べよう。
吉澤くんが台所で二人の分も大急ぎで作ってる音が聞こえてきてるし手伝わなきゃ。
そうだ、ぶっ飛んでるのが私じゃないか(矢口さん談)
いいや、きりかえよー。
話しは御飯食べながら聞こう。
詳しいことは帰ってきたら聞こう。
「おかーん、はーやーくー」
とりあえず、慌ただしい朝が突然やってきたんだ。
- 463 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/08/21(土) 00:50
- 更新しました。
早めと言っておきながらこんな間空いてしまって申し訳ありませんでした。
つ、次こをは早めに(焦
本当は二週間前に更新したかったのは内緒です。
『秋も冬もこれから先も』は後二回くらいの更新になる予定です。
>>446 名無飼育 様
いえいえ、お楽しみいただけたみたいでよかったです。
好き過ぎてどうにもこうにもならなくなってしまう時、
こんな時もあったりするんですよね。
早めとか言っておきながらたっぷり一週間以上間空いてしまって
申し訳ありませんでしたorz
頑張るっす!
>>447 名無飼育さん 様
おぉ、それはどうもお疲れ様でした(w
自分でも何処まで行くのか分かってないですが、
きっとこのままほのぼのんと進んで行く気がしてます。
多分きっとこんな感じです(・∀・)
もしよろしければこの先もまったりとここの二人を見守ってやってて下さい。
- 464 名前:通りすがり 投稿日:2004/08/21(土) 03:55
- 更新お疲れ様でした。
毎回楽しく読まさせて頂いてます。
とてもマッタリとした風景が目に浮ぶようです。
こういうマッタリ感とても好きです。
今回最後の「おかーん、はーやーくー」は結構ハマリました。
次回更新も楽しみにしています。
- 465 名前:◆ChamyvFM 投稿日:2004/08/23(月) 15:57
- 更新お疲れ様でした。いつも影ながら応援しています。
- 466 名前:naomi 投稿日:2004/08/25(水) 02:25
- お久しぶりです!!!&お疲れ様です(*´∀`*)ノ
&sageの意味がやっとわかりましたw(←バカw)
のぉ〜んびり待ってますんでがんばってくださいね☆
- 467 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:48
-
* * * *
「で、結局一ヶ月よっちゃん達の所にいるってことになったんだべか」
「はい、それも今朝からスタートです」
現在の時間は12時45分。
そうです、お昼御飯時です。
ちなみに僕の今日のお弁当は辻ん所に行ったので、コンビニで買ったお弁当です。
おまけで言うなら石川さんの分のお弁当は加護の所です。
今朝、突然とびきりの笑顔でやってきた二人。
驚いたけど、二人ならなんでもありかもって思ったらあっという間に冷静になれた僕。
しばらく呆然としてた石川さん。
そんな四人で朝食を食べながら訊いた二人のお話。
それはこんな感じだ。
- 468 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:49
- 一昨日から加護が一緒に住んでいるお爺さんとお婆さんが一ヶ月の旅行に出かけたんだそうだ。
加護の両親からのプレゼント。
で、加護はお爺さんとお婆さんがいない間はどうしようかと考えて、辻の所に行ったんだって。
二人は相談。
そして決定して決行して見事成功した。
辻はちょっと迷ってから、『よっちゃん達と期間限定家族になろう』と言ったらしい。
その時の目はマジ。
加護も思わずそれで頷いたって言ってた。
「あいぼんのお爺さんとお婆さんとかののの御両親ははそのこと知ってるんかい?」
「えぇ、いいよって言ったらすぐに二人が電話しましたから。
電話で何度もすみません、よろしくお願いしますって言われましたよ」
奈良にいる加護の御両親からも。
辻の御両親からも。
- 469 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:50
- すごいですよね、僕らが断るってことは全く考えてなかったらしいですよ。
絶対大丈夫だっていう確信があったって言ってましたし。
もうね、すごいパワーなんです。
それも一緒にいて全然違和感がないんです。
不思議ですよね、これ、本当に。
なんか御飯食べてて、おかわりって言われてもそれが普通みたいな。
友達が泊まりに来た時の感覚というか、何と言うか。
「でもなんか分かるなー。よっちゃん達、昔から家族みたいな感じだったし」
そう言って安倍さんは笑ってから矢口さんお手製弁当を口に運んだ。
ちなみに今日はタコさんウィンナー弁当らしい。
「どうなんですかね、自分じゃちょっと分からないんですけど」
「あーでも、麻琴とかすごい嫉妬しそうだね」
「…確かに」
楽しく進むお昼休みな時間の中、もうすぐ次の準備をしようと思っていたら携帯が震えた。
石川さんからきたメールには、今日の夕飯のことが書かれていた。
なんかすんごい当たり前な感じなんだけど、その中に書かれた材料の多さに、あ、そっかなんて思ったり。
今日は早く帰れるといいな。
なぁんて思っていたのに、時間が経つのはすごく遅くてすごく早くて、あっという間に時間は過ぎて、
時計を見たらもう20時とか。
大急ぎで手に取った鞄と開いた携帯。
だけど携帯だけすぐにズボンのポッケにしまってから、僕は急ぎ足で駅に向かった。
- 470 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:51
-
* * * *
「梨華ちゃーん、お塩何処にあるの?」
「そこの棚の上、そうそうそこ」
「ただいまー、鍵つくってきたよー」
「あ、あいぼんおかえり」
「おかえりー」
いつもよりも狭く感じる台所。
いつもよりも騒がしい家の中。
さっきっから聞こえるドタバタ足音は私じゃなくて、手を洗ってから腰にグワッと抱きついてくるのは
私じゃなくて、ウェーブ頭な女の子。
朝から夜はあっという間にやってきて、急いで帰ってきたらあいぼんが家の前に座ってて、
今さら鍵渡すこと忘れてたのを思い出して、合鍵作りに行ってもらってたり、買い物袋を持って
玄関に入ったら後ろから元気よくののが飛びついてきて、わーわー言ってる間に時間が流れて…
この家はいつもの4倍くらい騒がしいことになっております。
- 471 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:52
- ののとあいぼんも一緒な最初の夜。
全員が時間バラバラだけども最初はやっぱり皆で食べたいよなーって思って過ごした夕方に
今朝のことをカオリさんに話したら、カオリさんはすごく羨ましそうな顔をしてから
ニコッと笑って、それから『特別ね』と言って私をいつもよりも早く上がらせてくれた。
何だかあっという間の出来事で、わちゃわちゃしてるうちに時間は過ぎていったけど、
ののも手伝ってくれたおかげで料理はいつもよりも早く出来上がり、あいぼんがお風呂掃除してくれた
おかげてやらなきゃいけなかったことはもっと早く終わった。
後はお父さんのお帰りを待つだけな状態で、三人一緒にテレビを見ながら吉澤くんの帰りを待ってたら
すぐに鍵の音がして扉が開く音がした。
大きな小さな子供達はソファーから飛び下りて駆け出して玄関に走っていって、
私はそんな後ろ姿を微笑ましく見つめながら玄関に向かった。
「おかえりなさい」
「ただいまー、ごめんね遅くなって」
「それはいいから早くするのれす!!」
「お風呂よりも先にごはんごはーん」
私の手には吉澤くんの鞄でののとあいぼんの手には吉澤くんの手。
ドラマで見るような家族達に、思わず頬がゆるんでしまうのは仕方のないこと。
着替える暇も与えないで強制的に座らせて、早く早くと私を呼ぶ。
あぁ可愛いなぁ、本当に可愛いなぁんて思ってたのに、やっぱり食事となると騒がしくて、
何度も注意したり注意されたりした。
- 472 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:53
- 二人で過ごすのもすごくいいけど、こうやって四人で過ごすのもすごく楽しい。
昔から二人は私にとって子供みたいな存在だった。
それは今も変わらなくて、大きくなってもやっぱり妹っていうような感覚よりも子供っていう感じ。
その感覚はすごく自然な感じで、二人は当たり前のようにスイッと私達の生活の中に溶け込んで
馴染んでそれが普通なカタチに変わっていく。
吉澤くんも私に似たような感覚でいるみたい。
ソファーに座って本を読んでる顔は柔らかくて、ソファーの前の床に寝転がてテレビを見ている
二人を時たま見て微笑んだりしている。
「石川さん、洗い物僕やっておくんで先お風呂入っちゃっていいですよ」
こんなことを言ってくれる吉澤くんの言葉に甘えてお風呂に行こうとしたら
飛びついてくるのはちびっ子二人。
っていうか家のお風呂じゃ三人一緒には入れないよ?
え?無理矢理??
「それじゃぁよっちゃん、お先に行かせていたらくのれすあります」
「であります」
「はーい行ってらっしゃーい」
ソファーで手を振る吉澤くんに見送られて私は強制的にお風呂場に連行される。
両腕をがっちり掴まれて。
あのね、ちょっと待ってね、私寝間着も何もまだ用意してないの。
「ウチらは用意してあるから大丈夫」
「そうなのれす」
- 473 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:54
- いや、でも私これだとバスタオル巻きだし。
「よっちゃーん、後で梨華ちゃんの寝間着持ってきてー」
「パンツもねー」
「は、はーい」
…何だかドタバタしてるけど、こんな四人の生活も悪くないと思うよ、本当に。
うん、そう思う。
だけど、だけどさ、ちょっとばかし、あの…ま、いっか。
「吉澤くーん、お願いねー」
こんな生活も、うん、いっか。
いいよいいよ、非常にいい!
冷や汗だってかくこともあるけど、だけどもとっても楽しいもん。
あいぼんにシャワー攻撃くらったって、私とあいぼんの胸を見てちょっと凹んでるののに
背中ぺしぺし叩かれたって、私の頬の筋肉は緩みまくり。
だってさ、お風呂上がってすぐベッドの下に敷いたお布団に入り込んで楽しそうに笑って、
吉澤くんがお風呂に入ってる間、私がさっきまで吉澤くんが座ってたソファーに座って本を読んでいたら
いつの間にか寝ちゃっているような二人が可愛くて仕方ないんだもん。
- 474 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:54
- 「二人とも、はしゃぎ過ぎて疲れちゃったんじゃないですか?」
頭をガシガシと拭きながらお風呂から上がってきた吉澤くんは、私の後ろに立って
寝室を覗き込み、小さな声でそう言った。
そっと戸を閉めてさっきまで一人で座ってたソファーに二人で並んで座ると、吉澤くんがちょっと
横にずれて自分の太腿をぽんぽんと叩いてくれた。
「お疲れ様」
いつも以上に楽しい時間は、いつも以上に体力を使った時間。
その時は気付かなかったけど、だけどもこうやって横になってみると、自分の体が
すごく重くなていることに気付いたりする。
「月曜日からこれじゃぁ週末まで体持たないかもね」
額や腕に吉澤くんの手のひらの温度を感じながらそう言ったら、吉澤くんは笑って頷いた。
ね、本当に大変だよね。
だけどさ、こういう生活も楽しいよね。
家族が増えたらこんな感じなのかね。
- 475 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:55
- 吉澤くんに膝枕をしてもらいながら色々なことを話した。
今日のこと、明日のこと、来週のこと、もっと先のこと。
今日は二人きりじゃないから小声で。
それも笑い声を抑えながら沢山話した。
そしていつの間にか私は眠ってしまっていたらしい。
ついでに私は吉澤くんにベッドまで運んでもらったらしい。
眠る前の記憶は見上げて見つめていた吉澤くんの顔だったのに、目覚めた時に見えたのは
毎朝起きた時に見る部屋だった。
「かぁちゃん起きろー!!」
ぼんやりとした頭で天井を見つめていたら、バタンドスンと音が鳴り、重さ感じて布団の上を見てみれば、
八重歯を除かせて笑う辻希美さんがいて、時計を見ようと思って首を捻ってみれば、
そこにはとっても顔が近い加護亜依さんがいた。
さらにおまけで逆に頭を向けてみれば見えたのは…壁。
- 476 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/08/29(日) 20:56
- 「とうちゃんならもう起きとるで」
あー二日連続で寝坊したー。
こんな風に思ったのはそれから数十秒後。
まだ火曜日なのに体は金曜日のように疲れてる気がする。
…長い一週間がはじまりそう。
「石川さん、もうそろそろ起きて下さーい」
でも可愛い子供達とちょっとヘタレなとうちゃんの為にも頑張るぞー!!
おー!!
っしゃー!えいえいえおー!
いぇいっ!
「…朝から変なテンションなのれす」
「のの、先に御飯食べよ」
なんか今日天気良いみたいだし梨華はりきっちゃうぞ!
「石川さーん」
「はーい!今いくよー」
たとえどんなに寒いって言われようが頑張っちゃうんだから!
- 477 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/08/29(日) 20:57
- 更新しました。
『秋も冬もこれから先も』は後一回の予定です。
>通りすがり 様
4期が一緒にいるのを書くのがすごい楽しいんですよ。
そして実際こんな風だと思ってたりしますから(痛
いつまでもこのマッタリ感を忘れないようにいけたらなーなんて思っております。
あれです、お茶が似合うような感じでいきたいですね(w
>◆ChamyvFM 様
|▽^)<ありがとうございます
( ´v`)<かぁちゃん!
>naomi 様
我がまま言ってすいません。
そして本当にのんびり更新しちゃったとか(・∀・)
次回は今回よりもちょっと間が空いてしまうかもしれませんが、
だけどもなるたけ早く更新したいなーなんて思っております。
- 478 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/30(月) 00:02
- やっぱり4期は一緒がいいね
- 479 名前:通りすがり 投稿日:2004/08/30(月) 01:06
- 更新お疲れ様でした。
本当に4期は最高&最強ですね!
もうハマリまくりですw
光景が目に浮びます。
梨華かぁ〜ちゃんがんばれ!w
リアルに4期のユニット組んで欲しいと切実に願うw
- 480 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/09/06(月) 21:31
- 四人の一期間限定生活が始まって早3週間。
我が家の朝は、毎日のように騒がしい。
「のの!お弁当忘れてる!」
「よっちゃーん、ウチのお財布知らん?」
「昨日の夜テレビの横で見たよ」
「ちょっと、あいぼん定期落ちてるわよ」
まぁこんなドタバタな様子を、僕はコーヒーを飲みながらソファーに座って見てたりする。
ちなみに僕はバッチリ仕度済み。
皆よりも早めに出るし、朝はそんなにドタバタしたくないからさ。
しばらくゆっくりとしながら慌ただしく動く三人を見つめ、いつもの時間になったのを
確認して立ち上がる。
ここの空間から離れなきゃいけないのは、毎朝思うことなんだけど、結構苦痛だったりする。
後ろ髪を引かれる思いで靴に足を入れて、いつものように振り返る。
「じゃぁ行ってくるね」
「あ、行ってらっしゃーい。私今日ちょっと遅くなるから」
- 481 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/09/06(月) 21:32
- 玄関まで小走りにやってきて、それからいつもみたくニコッと笑ってくれる。
今日一日頑張れるくらいにエネルギー充電。
サンダルを履いてわざわざ玄関出るまでお見送りしてくれて、誰も見ていないのをキョロキョロッと
確認してから本当に素早くチュッて頬にキスをしてくれる。
赤くなった顔で目を三日月型にしてからパタパタと家の中に消えていく姿に、僕の鼻の下は伸びまくり。
だから知らない。
この様子を辻と加護が見ていたことなんて。
それも、ほぼ毎日。
ともかくこんな風にして日々は過ぎていった。
慌ただしい毎日は飛ぶように過ぎていき、気付いたらもう最後の週。
それでも変わらない日々に忘れがちな時間と曜日。
カレンダーを見てみれば、赤丸印しは金曜日。
残りの日数は今日を含めて3日間とか。
そんなこんなな金曜日のこの日に、カオリさんとごっちんと安倍さんが遊びに来ることになった。
ちなみにパートナーは皆仕事らしい。
- 482 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/09/06(月) 21:33
- ごっちんはすごく張り切っていて、少し早めに来て料理を作ると言っていた。
そしてその言葉通りに今日仕事が休みな石川さんと夕方くらいからすでに料理を作っているらしい。
僕は安倍さんや他の先生と一緒に学校を出て、途中で会ったカオリさんと合流して
飲み物とかの買い出しと辻と加護に頼まれたビデオを借りてから家に向かった。
「ただいまー」
「「おかえりなさーい」」
まず迎えてくれたのはちっこいヤツら。
辻が安倍さんの手を、加護がカオリさんの手をとって部屋へと引きずりこんでいく。
「おかえりなさい」
「ただいま。なんかお酒類多くなっちゃったけど平気ですか?」
「うん、多分今夜は皆すごく飲むと思うし」
「よし子ーおかえりー」
「ただいまー」
何やらトランスががんがんかかった部屋の中。
絶対に石川さんの選んだヤツだと思う。
だって僕の鞄を持って歩く石川さんがノリノリで体を動かしているし。
- 483 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/09/06(月) 21:34
- 「今日はすごいよー。めちゃめちゃ豪華」
「夕方くらいから頑張ってみたいですね」
「うん、途中ビデオとか見てたけど、それでもすごい頑張っちゃったんだから」
あーすごい頭撫でて欲しそうな顔してる。
シッポ生えてたらすごい勢いで振ってそうか顔してる。
両手塞がってるから今出来ないから後でね、もうちょい待っててね。
買ったモノを冷蔵庫に入れて、頼まれたビデオを加護に渡して、それから着替えたり色々してると、
口の横にケチャップをつけた加護が準備出来たよと呼びに来てくれた。
すでに皆は座り込んでいて、スタンバイOKな状態。
加護と同じように口の横にケチャップをつけた辻に早く早くと急かされて、ごっちんとカオリさんの間に
ストンと腰を下ろすと、安倍さんが突然思い出したよにコンポに向かって走って行った。
小さな人さし指で押されたボタンでトランスは強制終了。
代わりに流れてきがのは聴き慣れたジングル。
「矢口に怒られるところだったべ」
- 484 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/09/06(月) 21:35
- そうか、今日や矢口さんのラジオの日か。
『危ない危ない』と言いながら座り直した安倍さんの音頭で乾杯をして、賑やかな宴ははじまった。
お酒の力もあったおかげか、疲れてるっていうのもあったのか、皆火がつくのがえらく早い。
…火がつくのが早いっていうか、テンションが高いっていうかは分からないけど。
ラジオ矢口さんの声は軽快にこの部屋を流れ巡る。
安倍さんは片手の辻、片手の加護といった感じに餌付けのように二人の口に食べ物を運んでいるし、
石川さんはカオリさんと何やら不思議トークで盛り上がっているらしく、肩を叩きあって
涙を流しながら笑っていて、石川さんはそのまま辻の方に倒れこんで笑い続けている。
「んぁー今日もここの一家は楽しいねー」
「ごっちん、今日はハイペースだねぇ」
「だって楽しいんだもーん」
いつもみたくふにゃりと笑うごっちんを見て、最近全然二人で話したことないことに気付いてみたりした。
昔はもっと同じ時間を一緒に過ごしてたんだよなー。
人が付き合ってるんじゃないかって思う程よく一緒にいた時だってあったし。
まぁごっちんに恋愛感情抱いたことなんて一度もなかったけどさ。
最近全然帰ってないもんなー。
ごっちんもお店の手伝いとかで忙しいみたいだからそんなにこっち来れないし。
- 485 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/09/06(月) 21:36
- 「そだ、麻琴寂しがってたよ?お兄ちゃんが帰ってこなーいって」
「…なんか目に浮かぶよ」
そうだよなー今度一度顔出しに帰ろうかな。
多分麻琴は石川さんにも会いたいだろうし。
今年中には、うん、今年中には帰ろう。
一人決心をして、ごっちんと雑談とかしていたら、聞こえたきたのは矢口さんの声。
まぁさっきっから聞こえてたんだけど、ちょっとだけ静かになった時に聞こえてきたってことね。
それも何んか聞き慣れたような名前だから皆がそのまま固まったってヤツ。
『はい、じゃぁ次はラジオネームのんつぁれらチーズさんのリクエストで…
ってなんかオイラこのういう字を書く人をすっごく知ってる気もしなますが…まぁいいや。
はい、じゃぁのんつぁれらチーズさんのリクエストで映画となりのトトロから、さんぽです』
皆の視線が一人の子に集まる中、曲のイントロにかかった『ぜってぇーアイツしかいねー』という
矢口さんの笑い声が部屋の中に響き渡った。
テヘテヘ笑って安倍さんの腕に寄り掛かっているののはちょっとほろ酔い気味。
僕の隣じゃ加護が驚いたような、でも嬉しそうな顔をして辻のことを見ていた。
矢口さんのラジオに手紙を出していたのも驚きだけど、それよりもっと驚きなのが
あの番組から『さんぽ』が流れているということ。
多分初めてなんじゃない?こんな感じのが流れるのって。
- 486 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/09/06(月) 21:38
- 「ののはれすねー、あいぼんがらいすっきなのれーすよー」
そう言って安倍さんの膝を乗り越えて加護の膝に顔を埋めた辻。
あーなんかいいなーかぁいいよなー。
将来子供生まれたらこんな二人みたく育って欲しいよなー。
安倍さんも辻の背中を優しく摩りながら笑っていて、カオリさんも石川さんもごっちんも
皆同じような顔してお酒を飲んだり食べ物に手を伸ばしたりしていた。
今日は二人の二人勝ちだな。
なんか全部綺麗に持っていかれた感じ。
全然悪くないし、むしろ最高。
だからこそ思ってしまう。
一ヶ月一緒に暮してきた二人がいなくなってしまうと寂しいっていうことを。
会えないワケじゃないし、お別れってヤツじゃないんだけど、だけどさ、毎朝騒がしくて、
毎晩騒がしくて、だけど全然嫌いじゃなくてむしろ好きだから、本当に自分の子供みたいだから
余計に寂しく感じちゃうのかな。
皆が帰った後、簡単に掃除をして、布団に二人を連れて行った時に余計それを感じた。
- 487 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/09/06(月) 21:38
- 最終日も、またいつでも来ていいからと言った自分がなんか寂しさを人一倍感じてしまってる気がした。
石川さんも辻も加護もまたいつでも会えるし、こうやって騒げるの知ってるせいか、
そんな寂しそうには見えなかった。
まぁ、それはすごく気のせいだっていうのはすぐに分かるんだけどね。
本当にすぐに。
二人を駅まで見送ってから家に戻ると、石川さんは寂しそうな顔をしてから僕を見て笑った。
そうだよ、寂しくないはずがない。
帰ってきてものちっこい二人が迎えてくれるのが突然なくなっちゃうんだもん。
皆それぞれに生活があって、いつでも会えるっていってもこんな風に長い間一緒にいることなんて
あまり出来ないってことも皆知っているから。
まだこれからも会えるんだけど、こうやってずっと一緒に過ごしてきた人がまた違う所で生活するんだもん、
寂しくならないはずがないよ。
それに石川さん、実は僕以上に寂しがり屋だし。
「なんか、静かだね」
「…うん」
「前と同じように戻っただけなのに、なんだか違う空間みたい」
- 488 名前:秋も冬もこれから先も 投稿日:2004/09/06(月) 21:40
- そう石川さんが言う程に、この家は辻と加護と石川さんと僕色で染まっていた。
きっと時間が経てばまた前のようになるのだろうけど、それは今じゃない。
もう少し時間が経ってから。
ちょこんとソファーに座った石川さんの横に腰を下ろして、頭をわしわしと撫でた。
不思議そうに見上げる顔に笑いかけて『この前、なんか撫でて欲しそうだったから』って言ったけど、
石川さんの頭にはクエッションマークが沢山浮かんでいた。
そりゃそうだよね、覚えてた方がすごいもん。
だけども僕の手を振りほどかずにそのままでいたから、髪に指を通しながらしばらくマッタリと
この時間を過ごしていた。
「今度は四人で海にも行きましょうね」
「うん」
「後は山とか川とか雪合戦とか」
「うん」
その日の夜は、眠りにつくまで石川さんは僕の手を握っていた。
同じように僕も石川さんの手を握っていた。
見えないけど、繋がっている手。
だから、大丈夫。
一度繋いだ手はいつになったって離れることはないから。
だから秋も冬もこの先ずっと、僕らは一緒にいられるから。
- 489 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/09/06(月) 21:41
- 更新しました。
『秋も冬もこれから先も』はこれで終了です。
次回更新まで少し間があるかもしれませんというのを言ってみたり。
>478 名無飼育さん 様
4期は永遠です。
私もこの4人が一緒にいる画が大好きです。
>通りすがり 様
梨華ーちゃんもひとーちゃんもまだまだ頑張れです(w
4期ヲタでもある私。
本気で4期の写真集とかユニットでないかなーなんて思ってましたよ。
と、いうか今でもきぼん(・∀・)
- 490 名前:通りすがり 投稿日:2004/09/07(火) 17:03
- 更新お疲れ様です。
通り過ぎようかと思いましたが、ここに居座る事に決定!(笑
いいね!いいね!いいね!!
ジタバッタする程(・∀・)・・・・・イイ!!!!!!
あぁ〜いいなw
- 491 名前:naomi 投稿日:2004/09/09(木) 22:23
- 更新おつかれさんです(≧▽≦)ノ4期サイコー!!!!
私も辻加護みたいな子供がほしいですっ!!!
次回もたのしみにしてまぁ〜す(*´▽`*)
- 492 名前:名無しっこ 投稿日:2004/09/22(水) 14:19
- かわいいです!
- 493 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:32
- 寒くなって、焼き芋屋さんが辺りを走り回り出した季節の冬。
忙しさの渦の中でもがいていた僕は綺麗にクリスマスの日も夜までずっと仕事で、
家に帰った頃には24時過ぎてて『お仕事じゃしょうがないじゃない』と言ってくれた彼女に
肩をポンポン叩かれたそんな冬。
ちなみに、プレゼントまで買いそびれていたとか、そんな間抜けなエピソードもおまけつきだ。
もう何年も前から使い続けてるマフラーを巻いた口元から時折見える白い息と
コートのポケットの中で温かくなっていく両手。
冬の終わりはもうちょっと先な気がするそんな夕方。
手袋をはめた両手を後ろで結んで白い小さな紙袋をぶら下げて、僕との距離を気にしながら
斜ちょっと前を歩く彼女の姿に、きっとその顔は笑顔なんだろうなぁなんて想像する。
そう、数時間前とは違ってキラキラしてる笑顔かなぁって。
- 494 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:32
- 今朝、朝食の準備をしていると、寝癖頭の石川さんがドタドタと寝室から飛び出してきた。
そして『おはよう』の言葉を言い切る前に石川さんは僕の前を突っ切って、カレンダーに飛びついた。
「やっぱり、昨日だった…」
「…へ?」
その場に四つん這いになって項垂れて、その体勢でしばし固まること数十秒。
いいのかなーいいのかなー、声かけちゃっていいのかなーなんて思いながらお玉を持ってキッチンから
眺めていたら、チラッとこっちを見る黒めがちな瞳。
待ってる、これは待ってるぞ…すごく声をかけてもらえるの待ってるぞ。
黒い負のオーラを背負ったかのように見える彼女は、まだ僕から目を反らさない。
「ど、どうしたんですか」
「…訊くの遅いよぉ」
項垂れた黒い猫…じゃなくて石川さんは四つん這いのまま、ズルズルとこっちまで歩いてきた。
もっと早く声かけろよーといわんばかりの瞳はそのままに。
味噌汁が沸騰しちゃうよーって逃げようとしたけど、動こうとした瞬間に
四つん這いとは思えないスピードで石川さんは走ってきて、僕のズボンをグワッと掴むと
究極の潤め上目遣いで僕を見上げてきた。
- 495 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:33
- 「今日、日曜日だよね?」
「…はい」
「昨日は土曜日だよね?」
「…はい」
「じゃぁ…」
「一昨日は金曜日ですよ?」
「…だよね」
そう言って石川さんは床におケツを突き出したようなカタチで伸びてしまった。
今まで一緒に暮してきた中では見たことのないような姿でグでグでになってしまった石川さんを、
キッチンの火を消してからよっこらせと起き上がらせて、その手を引いてソファーまで誘導する。
脱力しきってクラゲみたくふにゃふにゃした体を時折支えて最後はポフッと軽くソファーに投げてみる。
ぐでんぐでんの体はちょっと揺れて、それからその場でピたッと動きを止めた。
『超脱力系キャラ石川梨華』そんなキャッチフレーズがついちゃいそうな程のグでグで具合。
目の前にしゃがんで手を振ってみるけど反応無し。
『オーイ』と声をかけてみても小さく手が振られるだけ。
ちょっと考えて耳に強めに息を吹き掛けてみたら、体がビクッとなって、石川さんは始動しだした。
- 496 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:34
- 「どうしちゃったんですか?昨日何かあったんですか?」
「…昨日、映画行った後に行きたい所あるっていったでしょ?」
「はい、確か…言ってたと思います」
映画館から出てきた石川さんは血がドバーって出る映画に大興奮で、
そんな事すっかり忘れちゃってるでしょ?って状態だったの、すんごく覚えてます。
というか、石川さん自身、実際忘れてましたよね?家帰ったらすぐに寝ちゃったし。
そんなことを思いながらも、気付いていながらその件に触れなかった妙な罪悪感が
胸をチクッと軽く刺して消えていく。
だってまさかこんなにも落ちていっちゃうなんて思ってなかったら。
今さら悔やむ、正に後悔。
「昨日限定だったの…それも夜からスタートだったのに…」
そう言って、石川さんはまたグデーっとなってソファーに沈みこんだ。
そしてちょっとしてから小さなため息と一緒に『しょうがないか』っていう小さな声が聞こえた。
ちょっと待って、ちょっと待ってね石川さん。
そんな真っ黒で落ちないで。
こういうの、どうにかしてあげたいのさ。
だからちょっと待って、もうちょっと待って。
だがしかし、はてさてどうしたもんか…どうしよう。
- 497 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:35
- 声に出さないで唸って考えてみた。
黒を白に変える方法を。
だけども電球マークは光らないに、そんなに頭も冴え渡らない。
どうしよう、どうしよう。
このブラック石川さんを白色に変えるにはどうしたらいいんだろう。
うーんうーんと考えてみたけどよく分からない。
だからとりあえず気分転換しましょうよなんて結論へ。
そうそう、お出かけ。
二日連続お外でデート。
そうだよ、ちょっと寒いけど出かけましょうよ。
目的もなくフラフラっとさ。
そうと決まれば実行ですよ。
細い肩を抱き上げて、寝癖頭と真正面から向かい合う。
「出かけましょうか」
「…へ?」
「外出ですよ外出。ちょっと買い物行きましょう」
「でも、今日はやる事あるんでしょ?」
「別にそれは夜でもできますから」
だからさ、行きましょう。ってか行こう。行かないなら僕についてきて下さいよ。
そうそう、だから行きましょう。
朝御飯食べて、それからちょっと掃除とかして、そうですね、お昼過ぎにでも行きましょうか。
その前にちょっと作業しちゃえば夜もそんな遅くまで起きてなくても終わるだろうし。
- 498 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:35
- 「…でも」
「僕が行きたいんです。付き合って下さいよ」
のんびり外歩いて景色見て、それでまったりしたりして。
おまけで寒いっていうのはついてくるけど、喫茶店でも入って温かいコーヒーなんて飲んだりしながら
外を眺めてぼーっとするのも絶対気持ちいいはず。
いいじゃないですか、最近そんな色々な所行けなかったんだし。
っていうか、僕が忙しかったせいで行けなかったっていうのが正解かもしれないけど…。
ともかく、こうやって一緒に家で過ごしたらり買い物行くのもいいですけど、
ふらりと出て、ふらりと何処か入って、そんな過ごし方、しましょうよ。
「…何か必死じゃない?」
「そうですか?」
黒目がちな瞳がジーッとこっちを覗いてくる。
表情は読み取れないけど、何故かちょっとハの字眉毛だ。
あれ?困らせましたか?ちょっと強引すぎました?
今さらになってちょっと焦りはじめて、だけど引き返せなくて、目も逸らせない。
しばらくそのままで時間は過ぎていった。
そして僕が本格的に焦りだした頃、石川さんの目がスッと三日月型に変わった。
- 499 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:37
- 僕の右斜前を歩く彼女。
自分流の一定の法則を作って地面を蹴り、時たまこっちを振り返ってはまた歩き出す。
いつかの小さい頃、横断歩道の白い部分だけを選んで歩いていたような、
そんな感じで彼女の背中はひょこひょこ揺れる。
途中で立ち寄ったお店でいつの間にやら何かを買ってて、それから御機嫌は一気に良くなってて、
その機嫌の良さを表すように白い小さな紙袋は左右に揺れる。
何を買ったのか訊ねてみると、その言葉には『内緒』って言葉が笑顔と一緒にかぶさっていく。
そしてその言葉を発する度に彼女のマフラーで少しだけ隠された口元からは
中々訪れなかった冬に冬をあげるように白い息が溢れて空中に消えていく。
「楽しそうですね」
「うん。だけど嬉しいのもあるよ」
並んで歩くのもいいけれど、こうやって喜びを溢れ出す背中を見ながらゆっくり歩くのも悪くない。
風に揺れる黒髪とか、楽しそうに踊る足元とか、並んで歩いてたら見えないものも見えちゃったりするしね。
いつまでものんびり歩いていたくなるような夕方。
だけど、少し強めの風が吹いてる中でそんなに長い間外にいるワケにもいかないから、
ちょっと大股で歩いて彼女と並んで足の方向を自宅の方へと向けて行く。
僕の温まった右手で彼女の手を手袋の上から握りながら。
- 500 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:38
- 「あのさ」
「ん?」
「白い息と白い息をぶつからせたら、白色はもっと濃くなるのかな」
どうだろう。そんなの考えたことないや。
実際やってみます?あ、もちろんここじゃない所でですよ?
ほら、他にも沢山人いるんだし。
「大丈夫だよ、そんなこと今しないから」
彼女は笑って繋いでいた手をすっと外して駆け出して、それからちょっと先にある店の前で立ち止まった。
手作りの看板が寒い外で風を受けながら立っているのを見て、前にここに来たのはもう
何ヶ月前だろかなんて考えてみたり。
偶然見つけたお店に二人して入ったのは、こっちで一緒に暮し始めての頃だったかな。
それからたまにフラりと立ち寄ることもあったんだけど、最近じゃちょっと足が遠のいてた。
- 501 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:38
- こじんまりとしてるけど、だけどオレンジ色の照明が温かな色を出していて、
こんな寒い冬の日は、一歩足を踏み入れるだけで体をホクホクとさせてくれるようなそんなお店。
大谷さん所のお店にちょっと雰囲気は似てるかも。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥から、髭のはえたちょっと太めのおじさんが、にこやかに声をかけてくれる。
中には小さな子供連れの家族が一組いて、ちっちゃい子がガラスに両手を貼付けて、
あれでもない、これでもないとケーキとにらめっこしていた。
そうだよね、悩むもんなんだよね、分かるよ、そういうの。
可愛いなぁなんて思いながら眺めていたら、中々決まりそうにないので先にどうぞと言う
その子のお母さんのお言葉に甘えて僕らは一足先にモンブランなんて買ってみた。
そして店を出る頃、その子は大きな星がの板チョコがついたチョコレートケーキを指差ししてニパーッと笑った。
- 502 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:39
- すっかり暗くなってしまった道を、お互いに空いてる方の手を握りあってフラフラ歩く。
今日はいつもよりも冷える。
今夜、雪降るかもしれないね。
ひょっとしたら今冬最後の雪かもよ?
もっと冷え込む前に早く帰ろう。僕料理作ってる間にお風呂、お願いしますね。
早足で帰った暗い家の中。
外出してる間に冷えちゃった部屋を灯りと暖房で温めながら、朝みたく台所に立って手を動かしていると、
お風呂場から石川さんのちょっとズレた鼻歌が聞こえてきた。
どうやら朝の暗さは完全に吹っ飛んだみたい。
よかったよかった。やっぱり彼女にはずっと笑顔でいてもらいたい。
思わず笑みが口元に浮かぶのを自覚しながら僕も同じように鼻歌を唄いながら手を動かした。
それからしばらくして丁度料理も出来上がって火を止めた頃、洗濯物を畳んでいた石川さんが
小さく『あっ』という声を上げて僕の所へやってきた。
「雪、やっぱり降ってきたよ」
- 503 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:40
- 少し開いたカーテンから見える世界。
そこから見える世界では、街灯に照らされた雪が暗闇の中を走り抜けていく。
温まってきた部屋に冷たい空気を入れるように、少し窓を開けて腕を外に出してみれば、
雪は手に着地して溶けて小さな水滴に変わる。
その水滴のついた手を石川さんの方に差し出すと、彼女は首をコテンと横に倒して『ん?』と目だけで言ってきた。
「ゆき」
「…へ?」
「いや、何となく…なんですけど」
ただやってみたくなっただけというか、拭ってしまうのはちょっと違う気がしたからというか…
別に何か考えたワケでもなかった行為なんです。
ただ、それだけなんです。
なんとも引っ込めがたくなってしまった手をどうしようかと思っていたら、
石川さんがその水滴を覆うようにして僕の手を握ってきた。
「私も、何となく」
彼女は笑った。
『拭ってしまうのは違う気がして、舐めるっていうのはもっと違う気がしたから』
そう言って、笑った。
- 504 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:41
- あー何か今すんごく連れ去りたいって思った。
このすぐ一枚奥の扉の方へと連れ去りたいってすごく思っちゃった。
だけども明日の為のお仕事が残ってる。
だけどーだけどー…
なーんて、こんな風に悩んでいたら、石川さんのお腹がグぅッと小さな音をたてた。
…ですよね、お腹空いてますよね。
そういえばお昼ちょっとしか食べなかったですもんね。
そうだそうだ、御飯にしましょ。
頭をスパッと切り替えて、ついでにスパッとお仕事も終わらせちゃいましょ。
- 505 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:41
- …だけども物事はそんな上手く行くワケでもないらしい。
結局なんだかんだで明日の準備が終わった頃には石川さんは夢の中。
今日買った白い袋の中身まで聞きそびれしまっていた始末。
てっぺんをとっくに回った時計の針。
何時間寝れるか計算してみようとしたけれど、滑り込んだベッドの中は彼女の体温で程よく温まっていて
僕をすぐさま夢の世界に引きずり込んでいった。
- 506 名前:ONE DAY 投稿日:2004/10/24(日) 16:42
- 翌朝、僕より早く起きていた石川さんは、鼻歌を唄いながらパンにジャムを塗っていた。
見なれない小ビンに入ったジャム。
畳まれた白い袋を見て、昨日の買い物の中身を僕はここで知る。
窓の外が微かに白いのを確認しながら寝癖頭に手をかけながら挨拶をしたら、
石川さんも同じように寝癖頭に手をあて『おはよ』と言った。
結局、あんなにも欲しがっていたモノが限定発売のケーキだったってことは、今日の夜知ることになる。
それも今日の夜のベッドの中での事の後に。
日は巡る。
同じ日は一度としてない。
限定ケーキはもうないかもしれないけれど、きっとまたいつか出てきますよ。
違うやつかもしれないけれど。
だけどそしたら今度はそれを買いに行きましょう。
今度こそ忘れないように、しっかりと小指を絡めて約束しましょう。
また忘れちゃっても、いつでもきっと何処にでも行けるから。
そんな約束も一緒にしちゃいましょ。
- 507 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/10/24(日) 16:43
- 更新しました。
少しのはずが二ヶ月弱も…すみません。
そして突然区切りが訪れることもあるかもしれませんと言ってみるテスト。
>通りすがり 様
お待たせしました(汗)
( ´v`)( ‘д‘)が動き出すと書いていて楽しくてしょうがないです。
大人になっていってるはずなのに、だけども変わらない所がある二人とか
その周りに人々も私大好きなんですよ。
>naomi 様
4期サイコー!(岡女風に)
いいですよねー辻加護みたいな子供。
だけど母ちゃんはとっても大変そうな罠(w
それでもきっと良き家族な気がします。
お待たせしてすいませんでした。
>名無しっこ 様
>かわいいです!
( ^▽^)<私?
( ´v`)?
( ‘д‘)?
(0○〜○)<…僕?
- 508 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/24(日) 19:49
- うわ、更新されている!!
いやぁ、いいですね。二人のほんわかとした雰囲気が伝わってきました。
これからもがんばってください。
- 509 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/07(火) 22:57
- 待ってまーす。
- 510 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:18
-
いつもよりも暖かくて、雪がほとんど降らなかった冬が過ぎて春が来た。
TAから教師へと変わった僕は、また新しい春に足を踏み出す。
- 511 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:19
- 春の陽射しが気持ちの良い日曜日。
重なった休日に、ずっと前から春に学校へ行きたいと言っていた石川さんと並んで歩く桜並木。
疲れのたまった体には家でゴロゴロとしているよりも、こうして陽の下を歩いている方がいい気がする。
香ってくる春の風。
ついつい瞼を下ろしたくなるような陽射し。
春は、人の心にすっと入ってきては、穏やかな気持ちにさせてくれる。
そんな不思議な季節だと毎年思う。
「まだ仕事忙しいの?」
「いや、もうそんなじゃないですよ」
「そっか、よかった。最近ずっと帰り遅かったからさ、
ちょっと心配っていうか…不安っていうか、うん、寂しかったから」
何度季節が巡っても、出会った頃と同じように三日月方に細められた目で照れたように笑う石川さんは、
こんなこと言うとまた惚気かよって言われそうだけど、本当、可愛い人だと思う。
差し伸べられた手を握って、いつもと半分くらいのペースで歩き慣れた道を歩く。
途中で寄ったコンビニでおにぎりとかを買い込んで、お花見客で溢れてるであろう桜に囲まれた公園に足を向けた。
- 512 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:20
- 「やっぱり、お花見だったら吉澤くんの実家の方の土手がいいみたいね」
公園の隅の方、ちょうど空いた木のベンチに座って石川さんは辺りを見回して笑った。
青い空と白い雲。緑の葉にピンクの桜。電線や街並。
一枚の画をシンプルに描くことが出来ないような場所だけど、ここはここでまた違った春がある。
過ぎ行く季節の中で過ごす数々の春は、毎回違う色を僕に教えてくれる。
隣で、彼女もそう感じてくれてたらいいな。
右腕に石川さんの腕の温度を感じながら僕は改めてそんなことを思った。
もう、出会って何回か一緒に春を過ごしたんだよね。
信じられないくらいに駆け抜けて行く時の早さを感じるよ。
少し昔を懐かしみながら横を見たら、彼女の着ている薄手のピンクの小さな花びらが鏤められた
白いシャツと、少しウェーブがかった綺麗な髪が春風を受けてそよそよとなびいていた。
春は、彼女に良く似合う季節だ。
つい微笑みがこぼれる正午過ぎ、腰掛けたベンチの上でお互いの腕の温かさを感じながら
僕らは言葉少なめに時間を過ごし、それからちょっと遅めの昼食をとり、太陽が傾く前、
さっきよりも優しくなった陽射しが眠気を誘ってくる前にベンチを後にした。
- 513 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:20
- いつもと変わらない場所にある、いつもより全然静かな場所。
電気のついていないロビーや階段はオレンジに変わる前の太陽の陽射しで明るく所々光りを放っている。
小さくあげた声なのに、すごく響く気がするのはいつもの音の多さに慣れちゃってからだろうか。
「上の方に行っても平気?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「じゃぁ早く行こう。陽が落ちる前に行きたい所があるの」
歩き出す背中を見ながら、きっと石川さんの行きたい所と僕の行きたい所は同じなんだろうなって思った。
そう、あの場所。きっと、あそこ。
二人分の靴音をあちらこちらに散らばいて僕らは進む。
途中で立ち寄った職員室で僕が引き出しの中に隠し持っていた石川さんの写真を見つけられてみたり、
階段の手前で石川さんが学生時代にやってみたかったという『階段で隠れてチュッ(石川さん命名)』で
強引に唇を奪われてみたり。
そんなことをしながら僕らは陽が沈むのとは逆に、だんだんと上の方に昇って行った。
- 514 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:21
- 彼女が行きたいと言っていた場所は、意外にも屋上だった。
「私、ここから見る風景って好きだったんだ」
そう言う彼女の横顔を、沈みかけた夕日が静かに照らす。
フェンスに指をかけて遠くを見つめる先を同じように見つめ、握られた手を握り返した。
「今の時間帯が一番好き。ビルの影も、空の色も、全部綺麗なの。
ここから見るのはね、夕暮れが一番綺麗なんだよ。
夜は街が光り過ぎて星を消しちゃうし、昼は学生とか人が沢山いたからゆっくり出来なかったし」
「煙草吸う人が集まってたし」
「朝はそんな早く来ないし」
「授業はサボらないし」
「そうそう。吉澤くんもそうだったもんね」
そう言って彼女と僕は顔を見合わせて笑った。
後数分もすれば太陽は完全に沈むだろう。
高い建物に囲まれたこの場所の太陽は、広い大地みたいにのんびり屋さんじゃない。
「行く?」
「いいんですか?」
「うん。だってまた来れるでしょ?」
もちろんです。石川さんが望むなら、いつだって。
朝でも夜でも昼でも夕方でも、来れる時ならいつだって大丈夫ですよ。
だから風邪をひいちゃう前にちょっといいですか?
寄りたい所、僕にもあるんです。
不思議そうに首をかしげた彼女の手を引いて、陽が当たらなくなって暗くなった階段と廊下を進んで行く。
いやいや、そんないつまでも不思議そうな顔してないで下さいよ。
僕が石川さんと行きたい所っていったらあそこしかないでしょ?
- 515 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:21
- 進み慣れた暗い廊下を進んで扉を開けて、暗い教室に灯りをつける。
独特の雰囲気があって、僕にとったらすごく大事な場所。
蛍光灯がジージーなる5階の教室。
「わざとここに来るの避けてました?」
からかうようにこう言ったら、石川さんは曖昧に笑って首を縦に振った。
ちょっと予想外な答えに戸惑いつつ、こもった部屋の空気をかえる為にカーテンと窓を開けて、
今だに入り口に佇む石川さんの方を向いた。
「ねぇ、吉澤くん」
「ん?」
「ここの電気、消してもいい?」
「え?あ、はい。別に大丈夫ですけど…」
僕の返事を待って消される電気。
太陽の光りが届かなくなった教室は灯りと一緒にその温度も奪っていく。
屋上にいた時くらいにちょっと肌寒く感じる室内。
少し窓を閉めようと体の向きを変えようとしたら、目が暗闇に慣れるのを待っていた石川さんが
ゆっくりとした足取りで僕の方へ歩いてくるのが見えた。
一歩ずつ近付く距離。それはここだと何だか特別なモノに感じのは僕だけだろうか。
- 516 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:22
- 「…ここ、来たくなかったですか?」
「違うの」
「じゃぁ…眩しかった?」
「全然違うの」
彼女の声は、ちょっと震えてた。
触れた細い肩が声と同じように少し震えていて、突然どうしたんだろうとか、やっぱりここを避けて
歩いてたんだから連れてこない方が良かったのかなとか、色々なことが僕の頭の中を一瞬で駆け抜けていく。
「あの…石川、さん?」
「違うの…」
小さく呟いて僕の胸に顔を埋める彼女。
そしてその呟きよりも小さな声で『ここには沢山の想いありすぎて、苦しくなっちゃうんだ』こう言葉を零した。
この声は悲しい声とかじゃなくて、ゆっくりと吐き出された息も、悲しみに染まったような感じじゃない。
あのさ、幸せを感じていてくれてるのかな。そんな風に思っちゃっていいのかな。
都合の良い考えが頭をよぎっていく中で、背中に腕を回して、髪に指を通して、それから暗い部屋の中で
石川さんのことを強く抱きしめた。
多分だけど、僕が覚えてる中で、一番強く彼女を抱きしめた瞬間だったと思う。
- 517 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:23
-
これは春の香り。
違う、石川さんの香りだ。
静かな空間の中で、心地よい振動が伝わってくる。
彼女が僕を満たしてくれる。
それがすごく、自分で分かる。
この時のこの瞬間は僕を世界中の誰よりも幸せにしてくれて、口には出来ない幸せを教えてくれて、
そしてこの時のこの瞬間、僕の中でずっと温め続けていた種が華開いた。
これも自分で凄く分かった。
だからだと思う。
言おうって思って言ったとかじゃなくて、自然に、そう、自然に言葉が生まれたんだって…そう、思う。
- 518 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:23
- すごい今さらなんだけど、僕の中で組み立てられたプランっていうのは実行されることが本当少なくて、
だけどその方が上手くいって、凹むこともあるけれど、だけど凹むことばかりじゃなくて、
なんて言うか、そのおかげで上手くいくってことが多々あったりする。
石川さんと出会えてからもそれは同じで、むしろそれは回数を増やしていた。
考えるよりももっと良い方に持ってってくれるみたいに。
こんな風になるのが彼女の力なのか、それとも彼女といる僕の自然な状態なのか。
そんなこと分からないし、両方かもしれないし、ひょっとしたら全然違う何かかもしれないけど、
僕はそれでもいいって思っている。
だからね、今もそれがいいと思うし、これが一番だって思うんだ。
石川さんが超ロマンチストで他の方法でって考えてたら先に謝る。ごめんなさい。
先にこれだけは心の中で謝っておこう。
言葉にするのはもうちょっと後でもいいや。
だから言い訳を口にするのももうちょっと後でいいよね。
ダメでも後でね。今は、心の中で言い訳しとくから。
- 519 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:24
- 本当にね、色々僕なりに考えてたんだよ。
時季はいつで、時間はいつで、場所はあそこ。
何処に行って、こんなことしてとかそんなことをずっと考えたんだ。
その時をいつか作ろうって思ってた。
だけどそれは作るとかそういうものじゃなくて、その時はいつかのいつかじゃなくて、きっと今この時。
腕の中に彼女を包んでいる今。
ずっと大切にしていた種が開花した今。
僕はあるべき時がどんな時だとかそんなの分からないし、無理矢理に知ろうとも思わない。
だけどそれが訪れきたのなら拒もうとも思わない。
だから生まれた言葉も拒まないよ。
もう喉元で止めたりなんかしないよ。
だからさ、もうこの先二人でいる夜の夢の中で、孤独になる夢を見て震えたりしないで。
「ずっと、一緒にいよう」
生まれた言葉に僕の想いは沢山詰まってるから。
もう、不安になんてさせないから。
- 520 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:24
- 言葉を発して、時が止まってどれくらい経ったのだろうか。
数秒?それとも数十秒?
自分でも分からないくらいに静寂が包むこの空間の時間が止まっていた。
だけど、答えを訊くのが怖いとは不思議と思わなかった。
伝わっていないとも思わなかった。
今までこういう会話をしたことがなかったけど、不思議な程怖いとは思わなかった。
それは多分、意図的に避けてた会話っていうよりも、そこにあった空間のせい。
いつまでこの関係が続くのだろうとか思わないくらいに自然な空間だったから。
あくまでも僕の憶測だけど、多分そう。
もちろん喧嘩もしたことはあった。
だけど、だからこそ今があると思う。
溜め込むことなく素直に言えることがあって、だからこそ気づかえる気持ちがあるから。
だから怖くはなかった。
むしろ喜びすら感じている。
この言葉をやっと口に出せるっていう、そんな喜び。
すごく穏やかな気持ちだ。
- 521 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:25
- 僕の予想だったら、この言葉を口にするこの日の僕は前の日から落ち着こうって思っていても落ち着けなくて、
きっとデートの最中も色々考えちゃって石川さんに心配かけちゃって、きっと言えないで長い時間を過ごし
彼女を不安にしちゃうんだろうだった。
そんな風にならない為にはどうしたらいいんだろうかとか、結構ベッドの中で考えてたりしてて、
だけど解決策は見つからなくて、だったらやっぱりもっと落ち着くしかないんだろうとか思ってて、
だけども考えただけで緊張してたりしてて、眠る前に、ちょっと凹んだりしてた。
何度もこっそりとプロポーズの練習とかしちゃってて、だけど上手くいかなくて、へこたれてた。
そんな僕だったはずなのに、凄い緊張して噛みまくったっていう圭ちゃんとは違って、
素直に、そして穏やかな状態で言葉は生まれ、気持ちは溢れた。
「僕と、結婚してくれませんか」
- 522 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:25
- 数年前、確かな繋がりを持っていなかった僕らは明日の約束さえしていなくて、
常にに不安定な綱の上を歩いていた。時に立ち止まって、自らその綱を降りようとしたりしながら。
長いようで短いようで、だけど長いような時間は、確かに僕らの後ろに存在していて、
そして時間はまだまだ続いていく。
誰に教えられるワケでもなく生まれた感情に導かれるように進んで来た綱はいつしか道に変わり、
全然違う道を歩いてきた僕らの道がいつからか並びはじめた。
今度はその道を重ね合わせたいんだ。
ずっと、この先もずっと、僕と石川さんの道を、一緒に。
こういう言葉を全部、今なら言える気がする。
っていうか伝えるよ。全部。
訊きたいって思ってたであろう言葉も、気持ちも、僕の想いも。
全部、君にならあげれるから。
だから聞いて。そして教えて。
君の気持ちを。
- 523 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:26
- 腕の中でしばらく動きを止めてた彼女は、そっと体を離して、暗闇の中で僕の顔を覗いた。
多分、突然過ぎて言葉の理解出来てないのかも。
見開かれた目だけが僕の方へメッセージを送ってくる。
ごめんね、突然で。本当に突然で。
だけどね、何かきたんだ。今ね、凄いのきたんだ。
僕も今日の朝はこんな風に言うなんて思ってもみなかったんだよ?
きっと他の人はこんなじゃないのかもしれない。
もっとちゃんと色々考えて、それで何となく相手も気付いてて、みたいな。
よくドラマとか本とかでみるようなのかもしれない。
僕は他の人のことなんて分からないけど、なんて言うか、もう後付けみたくなっちゃうんだけど、思うんだ。
きっと巻き起こった風は、ここだからなんじゃないかって。
今がある奇跡っていうか、今ここで二人して立っていられる、そんな僕らが作り上げた奇跡のはじまりの
場所がここだから、きっと今、この場所で一歩足を出せたのかもしれないって。
本当ね、僕もよく分からないんだ。
だけど、突然だけど聞いて欲しい。
いい加減な気持ちじゃなくて、流されたような気持ちでもないから。
僕の言葉を聞いて欲しいんだ。届けたいんだ。
僕の考えたこと。伝えたいこと。
もっと、もっと伝えたいんだ。
- 524 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:27
- 「ちゃんとさ、先生になったらって、決めてたんだ。
ずっと曖昧な状態で一緒にいたけど…ちゃんとカタチにしたいんだ。
もちろん、それが全てだなんて思ってないよ。だけど、ずっと、考えてたことだから」
言わなきゃ、言わなきゃって思ってた言葉。
そして言いたかった言葉。
本当はもっと早くに言いたかったけど、自分の中で決めてたことっていうのがあったりして、
ずっと、ずっと大切に温めてた。
目を閉じなくたって思い出せる君との出会い。
春の桜舞う季節のこと。
腕の中で彼女を感じながら次々と溢れてくる記憶。
愛おしくて、すごい大切で、ずっと、一緒に歩いていきたいって思う人。
僕には、君が必要なんだ。
- 525 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:28
- まだ僕の腰に回されたままの手を片方とって、僕よりもずっと小さいその手を握る。
微かに震える手が僕にも震えを運んできて、今になって僕はちょっとテンパり出した。
「よし、ざわくん…」
…いや、ちょっと待って。
もうちょい待って、落ち着いて。
色々なこと考えないで、ともかく待って。
この距離じゃ心臓の鼓動がダイレクトに伝わっちゃうから。
待って、待って…
同じように震え出した手が石川さんの手から離れてそのへんに漂う。
大きく鳴り出した鼓動は自分の耳をすごく刺激してくる。
まだ言いたかった言葉は全部言ってない。
まて、まって…あの、本当に僕、待って…
「あ、あの、へ、へ返事とかは今すぐじゃ、なくって、あの、全然いんんで…」
…噛んだ。
うあ…あぁ…あ…もう最悪。僕最悪。最後の最後にこれかよ…
- 526 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:28
- 僕がリアルに凹みそうになった時、石川さんがクスッと笑ってから僕の頬を両手で包んだ。
僕は桜の味なんてよく分からない。
だけど、その時の口付けは桜の味のような気がした。
そして石川さんの唇はやっぱり柔らかくて、暖かかった。
ちょっとだけ、そう、ちょっとだけ、僕はズレた眼鏡の奥で泣きそうになった。
- 527 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:29
-
***
時間は凄い勢いで流れていく。
君を好きになるよりも前から歩き続けてきていた僕の道は、君を好きになってから
もっと早く道をつくり出し、そしてその上を僕らは進んでいっている。
あの時渡したかった指輪は、あの後家に帰ってから彼女の薬指に綺麗にはまった。
仕事の後に内緒で他の先生に紹介してもらったバイトとかして買った指輪を
どうやら彼女は気に入ってくれたみたいだった。
並んで入ったベッドの中で何度も手をかざして見てくれるのが嬉しくて、照れくさくて、
布団を大きく持ち上げて、彼女をくるんだ日が遠い日に思える。
「本当に大丈夫?」
「だから平気だってば。大丈夫じゃないのはよっちゃんの方でしょ?」
- 528 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:29
- 僕を呼ぶ呼び方が変わった日だってもう随分なんだよね。
結婚式をするよりも前に婚姻届を出した僕ら。
本当は彼女の誕生日とかにしたかったんだけど、彼女の誕生日は過ぎたばかりだったし、
同じように僕の誕生日も終わったばかりだったから、誕生日とかそういうのとは全く関係ない日に
石川梨華は吉澤梨華になった。
ちょっとその事を気にしていた僕に、彼女は笑って『新しい記念日が増えるんだからいいじゃない』って言ってくれた。
そして二人で色々探して回って決めた結婚式場はすごい人気だった所らしく、ほとんどの日が
埋まっていたけれど、偶然にも僕らが式場を訪れた日にキャンセルが入ったんだって。
嘘のような本当の話し。
今を逃したらきっとしばらくは空きは出来ないと言われて僕らはそこに決めた。
「…よっちゃんってば」
- 529 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:30
- 式の前、疲れのせいか体調を崩してしまっていて病院に行った彼女も今日は元気そうだ。
多分、僕の方が遥かに彼女よりも顔色が悪いと思う。
あの、すごい緊張のせいで。
右腕と右足が同時に出ちゃうみたいなそんな感じ。
まばゆいフラッシュも、聞こえてくる拍手も声も、すごく遠くに聞こえるし、
目の前にいる皆の顔も、さっきっからどうにも霞んで見える。
自分の言った言葉とか、二人でまわったテーブルで紗耶香とか圭ちゃんにからかわれた事とかも、
今さっきのことなのに、すごい前の出来事のよう。
感謝の手紙じゃ読みながら大泣きしちゃてた彼女につっつかれて慌てて立ち上がったはいいけれど、
最後の挨拶じゃ見事僕噛みまくり。
僕のキャラを知っている皆はしんみりするどころか大爆笑。
いや、うん、しんみりするよりもそういう方が全然良かったりするんだけどね。
涙違いで隣のまでも笑い泣きする始末だし。
決まった服だって決まらない。
よっちゃんらしいと言われる僕の心境はちょっぴり複雑だけど、だけど彼女が笑ってくれれば僕はそれでいい。
皆の声が聞こえて、冷やかしも聞こえるけど、だけど目の前には皆がいて、僕らのことを祝福してくれてた。
涙ぐんだりもしたけれど、絶対に泣かないぞと決めていた僕の誓いは果たされようとしていて、
そして、大緊張のまま迎えた式も、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
っていうか、終わるはずだったんだけども、最後の最後になって突然彼女のぶっ飛びキャラが姿を現した。
- 530 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:31
- 突然『ハイッ!』という声と共に挙げられた手に固まる空間。
高々と真直ぐ。学校の先生が見たら『これが正しい手の挙げ方ですよ』って言っちゃう程の綺麗っぷり。
固まる皆を他所に、彼女は自らマイクを貰いに進み出て、それから僕の隣に戻ってきてから
僕の腕を掴んで強制的に立ち上がらせた。
「あー、あー、あ、マイクちゃんと入ってた」
ダメだよ、本当はマイクって叩いちゃいけないんだって。
って、そうじゃない。そんな冷静なツッコミじゃなくて、あの…どうしたの?
皆固まってるよ?僕もだよ?だってもう皆お見送りして終わりだよね?
こんなのあるなんて知らなかったよ?
「えーっと、皆さん、本日は私達の為にわざわざ集まって下さって本当にどうもありがとうございました。
この超緊張マンのよっちゃんに変わって改めてお礼を言わせて下さい」
すでに緊張がとれてるらしい彼女は、すぱーすぱーっと喋り続ける。
すごい笑顔で、すごい空気を読まずに。
- 531 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:31
- 「あの、本当は今言うべきことじゃないのかもしれないですけど、
それでも皆さんに伝えたいことがあるんです」
皆の目も、僕の目もぱちくりしているのが分かる。
そしてマイクを口元から外した彼女が小さな声で『ハンカチの用意してね』と言った。
一体何で僕が今ハンカチを用意しなきゃいけないのかもよく分からないし、
何で彼女が今こんなことをしているかも分からないし、用意してねって言われたって、僕の体はフリーズしてる。
なんか、全然ついてけてない。
だけどもそんな中で彼女は一つ大きく深呼吸をしてマイクをもう一度口に近付けた。
そして、皆がさらに固まるような言葉を発した。
「実はですね…本当突然なんですけど、私、妊娠しましたー!!」
- 532 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:32
- 時が止まるとはまさにこのこと。
会場中、母さん達も麻琴も皆固まっている。
僕だって固まってる。
今、なんて言った?ねぇ、何て言ったの?
「あ…あれ?」
彼女の高い声がマイクを通して会場に響いていく。
そして誰もがややっぱり固まっている。
今さらになって空気が読めた彼女がマイクを掴んだまま僕に助けを求めて腕をゆさゆさと揺らしてくる。
「えぇっと…ねぇ、よっちゃん?」
ねぇねぇ、あのさ、僕、聞き間違えてないよね?
そうだよね?違うよね??
「…梨華、ちゃ、ん?」
「…うん」
- 533 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:32
- 上目遣いでちょっと心配そうに眉をハの字にして僕を見上げてくる彼女に、僕の中で一気に喜びが弾けた。
式場だというのを忘れて喜びを声に変えて彼女を泣きながら抱きしめたりしてしまった。
そしてハッと冷静になって現実に戻ってきた瞬間に今だ固まっている皆の姿が目に飛び込んできた。
「「あ…」」
どうしよう、ねぇ、僕ら二人して空気読めてないよね。
って、それより大丈夫?立ったりしてて平気なの??
僕今思いきり抱きしめちゃったけどお腹、大丈夫だった??
色々なことでさらにテンパって、壇上でアワアワとしていたら近くの席から聞き慣れた声が放たれた。
「パパ、しっかりしろよ」
目をやると、紗耶香がニヤッと笑っていて、隣でごっちんが本当嬉しそうに笑っていてくれた。
そして起こった割れんばかりの拍手や祝福の言葉や冷やかしの言葉に僕らは包まれた。
- 534 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:33
- 明日に通る道は、僕達のまた新しい道。
緩い上り坂を昇るように重なって行った僕らの足は、途中で赤信号にひっかかったりしたけれど、
この先ずーっとずーっと続いていく。
立ち止まる時間だって君と一緒ならそれは幸せの待ち時間。
同じ信号を見上げ、いつ青に変わるのかを一緒に待つ。
もうすぐ繋ぐ手も増えるし、きっと、この先だって光りは照らし続けている。
最後は泣き笑いになっちゃったけど、くちゃくちゃにされた髪ももう気にしないよ。
本当は皆の前で泣くのとかって凄いイヤで頑張って式の途中何度も我慢したりしてたんだけど、今はいいや。
むしろ止めることの方が無理なくらいだし。
季節は巡る。
この先もずっと。
その季節を僕らは一緒に過ごしていく。
春は君に良く似合う季節だ。
そして、僕らの季節だ。
見上げた空の下、僕は桜のような君のことを抱きしめた。
この先も、ずっとずっと、抱きしめ続けるからね。
きっと未来はもっともっと明るい。
僕と君の手の中にあるはじまりの桜の花びらは、きっとこの先もずっと消えたりしないだろう。
だって、全てのはじまりは僕らの手の中にあるんだから。
だからさ、もっと幸せになっちゃおうよ。
もっともっと、この先もずっとさ。
「梨華」
「ん?」
皆に囲まれながら、僕は彼女に声を出さずに言葉を送った。
彼女は笑って、桜色に頬を染めた。
終わらない物語、一緒に幸せ色でつくってこうね。
- 535 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:33
-
- 536 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:34
-
- 537 名前:桜抱く時の中で 投稿日:2004/12/09(木) 22:34
-
- 538 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/12/09(木) 22:35
- 更新しました。
そして今回更新分で本編は終了となります。
後半は更新ペース乱れまくりでごめんなさい。
そして2年弱の間、ここの吉澤くんと石川さんを見守ってきて下さった皆様、
本当にどもうありがとうございました。
この後の生活とか、色々ありそうな物語りは番外編として自サイトでやってこうとも思ってます。
ってことで、終わりません。
だけど本編はここで一区切りというカタチにさせていただきます。
また何処かで吉澤くん達を見かけたらそん時は柱の影からこっそり覗いてやって下さい。
多分、相変わらずほんわかやってると思いますから(w
>>508 名無飼育さん 様
ぬるま湯に浸っているような二人の雰囲気が気に入っていただけてるみたいで嬉しい限りです(w
そしてお待たせしてゴメンナサイごめんなさいゴメンナサイ…
物語りはまだまだ終わりそうもないのでこれからも頑張ります。
そしてありがとうございました。
>>509 :名無飼育さん 様
おまたせしましたー。
待ってくれててありがとうございます。
- 539 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/09(木) 23:17
- 更新お疲れ様です。
なんかこうほんわかとした雰囲気が伝わってきて、涙が出そうです。
終わってしまうのですね。
さびしい感じもしますが、二人の物語はまだまだ続くということで良しとしましょう。
#ところで作者様のサイトはどこですか?
番外編もぜひ読みたいです。さしつかえなければ教えてください。よろしくお願いします。
- 540 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/10(金) 01:05
- なんつーか涙がでてきました。感動と寂しさが入り混じった複雑な涙です。
ちゃみよし聴いてスグだったから余計に感慨深いものがあります。
今までロムっているだけでしたが最後にレスさせてもらいました。
素敵なお話をどうもありがとうです。いしよしの2人にもありがとうを。
- 541 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/10(金) 15:13
- 完結キタ━━(*^▽^)^〜^0)━( *^▽)〜^* )━( *´)`* )━━ !!!!!
半年ぐらい前からずっとROMってました。
も〜涙涙です.・゚・(0つ〜`)・゚・。
初めは吉が男だったのでちょと抵抗あったんですが
読んでいくうちに作者様の書く吉澤くんと石川さん
がすごくよくてどっぷりハマってしまいました。
ほんと2年弱の間お疲れ様でした。
番外編も楽しみに待ってますw
- 542 名前:token 投稿日:2004/12/10(金) 23:15
- ☆完結おめでとうございます!!
このお話を最後まで読めて嬉しかったです。
不思議と寂しさは感じていません。
なぜかと言えば、すでに作者サマが番外編の執筆を
明言されているから、もあるんですが、
作者サマだけが知っている、どこか僕らが知らない街で
彼らはこれからも生活を続けていくような気がしているから。
そして、このお話では主役のいしよしが幸せならば、
きっと周りの人たちも幸せに違いない、と確信できるから。
長い物語り、お疲れ様でした。
それと、いしかぁーさん、色々な意味でグッジャブ!!(w
- 543 名前:名無し丸の介 投稿日:2004/12/11(土) 00:36
- 完結!!!
おつかれさまです…!!!!
長い間ROMさせていただいていました(一回?書きこみはさせてもらいましたけど)
なんかうまく言えないんで…難しい言葉はなっすぃんぐで行っちゃいます。
2年間半本当に、心から有難う御座いました。そしておつかれさまです。
番外編も楽しみにしております。
では〜
- 544 名前:gung 投稿日:2004/12/11(土) 16:42
- ・゚・(ノД`)・゚・。
完結おめでとうございます、そしてお疲れ様です。
僕君を見つけてから2年半。はやいですねぇ・・・
1からもっかい全部読んできましたw
終わっちゃったなぁ・・・という寂しさもありますけど
あぁよかったなぁ・・・っていう満足感もあります。
ホントにいい作品を有難うございます。
番外編楽しみにしてますね。
- 545 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 23:17
- 完結おめでとうございます。
エロゲみたいな流れで気楽に読めました。
- 546 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/12/31(金) 10:01
- >>539 名無飼育さん 様
終わらない物語が僕君。なんです(w
マターリとした雰囲気でずっといきたいなーって思ってたんで、そう言って頂けてよかったです。
私も二人の物語りを書けて本当、良かったです。
ちなみに私のサイトアドは
http://homepage3.nifty.com/anponman/
になります。
お暇な時にでも足を運んでやってみて下さい。
>>540 名無飼育さん 様
今まで読んで下さってどうもありがとうございましたです。
そしてはじめましてです(w
( ^▽^)<こちらこそ
(0○〜○)<ありがとうございます
( *^▽^)テヘヘ
沢山の二人に祝福された二人はすんごい幸せもんです。
そして私も幸せもんです。
いしよし最高!
>>541 名無飼育さん 様
いやーどうも本当ありがとうございます。
家で僕君。を書いてる途中も、はじめてうpする瞬間も(0○〜○)が受け入れられるのか
どうかっていうのは不安がありました。
だけど皆様に見守られてここまで来れました・゚・(ノД`)・゚・。
ありがとうございます。
番外編も頑張りまーす(w
- 547 名前:匿名匿名希望 投稿日:2004/12/31(金) 10:02
- >>542 token 様
石川さんGJという言葉が良く私のメールに届くワケですが(w
いっつも脱稿した後ってやっぱり何処かで寂しさを感じるんです。
だけど僕君。ってそんなの感じなかったんですよね。
終わらないというか、私の頭の中ではまだまだ話しは続いているのです。
っということで、周囲に幸せをふりまきながらきっと二人とまだ見ぬ子らは暮していくと思います。
どうもありがとうございましたです。
>>543 名無し丸の介 様
おひさしぶりです(w
こちらこそ2年半の間どうもありがとうございました。
私も難しい言葉とか上手く使えないので『ありがとう』以上の言葉を
伝えられないんですが、本当にどうもありがとうございました。
番外編も
川o・-・)ノ<よろ〜
川*´▽`)!!
>>544 gung 様
1からの読み返しお疲れ様でした(w
本当、僕君。を書き始めてから2年半っていうのはあっという間でした。
あんまりそんな書いてたぞっていう実感も実ないんですけよね(・∀・)
番外編もいつまで続くか、何処まで続くかっていうの分からないですけど、
柱の陰からこっそりと覗いてやっていて下さい。
こちらこそ本当どうもありがとうございました。
>>545 名無飼育さん 様
ありがとうございます。
気楽に読めたのなら良かったです。
( ^▽^)ヨッチャンエロー
(;0○〜○)!<違う、それ違いますから
皆様本当沢山のレスありがとうございました。
感謝感謝です。
そして良いお年を。
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