My Believe Ways
- 1 名前:我道 投稿日:2004/02/16(月) 10:17
- 初めまして、我道と申すものです。
皆様の小説を読んでいて、私も書きたくなってしまいました。
なのでお粗末ながら書かせていただきます。
初めてなので、文章がおかしくなるかもですが、
頑張りたいと思うので、よろしくお願いします。
- 2 名前:我道 投稿日:2004/02/16(月) 10:24
-
―ハジマリノソノマエ―
- 3 名前:我道 投稿日:2004/02/16(月) 10:38
-
―ウーウーウー
サイレンがけたたましく鳴り響く。
それに驚き、私は薄っすらと目を開けた。
ぼやける視界と意識の中で聞き取った、唯一の会話。
「この子らは、何があってもかえさないよ!」
「どうしても逃げるって言うんなら、力ずくでも返してもらうよ」
「ふん、やってみな!」
会話がそこで途切れると私の身体は宙に浮いたような感じになった。
―ズガン!!
それから、ものすごい音とともに私の身体に何か冷たいものが
降りかかった。
―これは水?
「凶子ぉー!!!」
透きとおるような女の人の声が聞こえた。
途端に私の身体が揺れだした。
「起こしてすまなかったね。今はまだ眠っときな」
女性にしては低い声が私の頭の上から聞こえてきた。
私はそれに従うように目を閉じた。
- 4 名前:我道 投稿日:2004/02/16(月) 10:41
- これはプロローグ的なものです(汗)
あ、あと言い忘れてましたが、オリジナルキャラも出てきます。
そういうのが気に食わない人は、無視してやってください。
それではまた午後にでも更新します。
短くてすいません(涙)
- 5 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/16(月) 12:49
-
今日も今日とて目が覚める。
誇り臭いベッドから起き上がって、一度大きく伸びをする。
そして私が今いる部屋を見渡し、大きくため息。
全体石造りの冷たい部屋。目の前には黒光りする鉄格子。
窓と呼ばれるものが一つもなく、太陽の光など差し込んでこない。
この部屋を照らすのは、一つの薄暗い光を放つ電灯だけ。
今が朝なのかどうかも分からない。
「・・・ハア」
ふと両腕を顔の高さまで上げてみて、再びため息。
冷たい鉄製の手錠をはめられ、動きを制限された両腕。
その両腕を上下に振ってみる。
チャリチャリと、手錠の鎖が音を立てて揺れた。
- 6 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/16(月) 13:04
-
「・・・もう二週間くらいだなあ」
感慨深げに私はそう呟いた。この部屋には“時間”を知るすべが何も無い。
でも大体の時間は分かる。
夜決まった時間に寝て、朝決まった時間に起きる。
私はここに来る前からこの生活リズムを崩したことはなかった。
だからなんとなく分かる。
今日は私がここに閉じ込められてから二週間くらい経ったんだなあ、と。
「今日は何をして過ごそうかな?」
ベッドに腰を下ろし、静かにそう呟く。そして苦笑。
こんなとこで手足拘束されてちゃ、できること、やりたいことなんて
そうそう無い。
三度ため息を吐き出そうとした時、二つの声質の違う声が聞こえてきた。
- 7 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/16(月) 13:24
-
『いたっ、いたいって!もっと優しく・・・』
『五月蝿い!黙って歩け、凶悪犯罪者めっ!』
後からした野太い声は聞いたことがある。ここの看守さんだ。
最初の声は・・・誰だろ?ちょっと低かったけど、女の人の声みたい。
「ほら!犯罪者同士、仲良くしてろ!!」
「ぶへっ!」
野太い声の看守さんはそう言って、私の牢の鍵を開け、
掴んでいた一人の女の子を乱暴に投げ込んだ。
私はその粗雑な扱いに、少しムッとして看守さんを睨みつけた。
それに気付いた看守さんは、ビクッと肩を震わせ慌てて牢の鍵を閉めると
急ぎ足でどこかへ行ってしまった。
「ったいなぁ〜。だから、警察の人って嫌い〜」
うつ伏せに倒れこんでいたその少女は、鼻を押さえながら顔を上げた。
その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「大丈夫ですか?」
私が彼女に近寄って、声をかけてみた。
すると彼女は、一度驚いたような表情をしてから慌てて正座に座りなおした。
「きょ、今日から一緒の牢に入らせていただきます!小川麻琴だす!」
- 8 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/16(月) 13:34
-
「・・・だす?」
「のわぁ!間違えたぁ!!“です”だったー!!!」
悔しそうに両手でバンバンと石造りの床を殴る、小川麻琴と名のった茶髪の少女。
私は呆然とその様子を見ていた。
するといきなり小川さんが顔を上げて、私を見つめてきた。
突然のことに私がびっくりしていると、彼女は満面の笑顔を浮かべて、
「兎に角、よろしくね!」
と元気よく、そう言った。
そこで私は思い出した。
そういえば看守さんが、近々同居人が来るとか言ってたっけ。
「紺野あさ美です。こちらこそよろしくお願いします」
私は彼女に向かって、ペコッと軽く頭を下げた。
- 9 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/16(月) 13:49
-
「丁寧だね〜」
そんな私を見て、小川さんはさらに笑みを深くした。
「はあ。だって初対面ですし」
「そんなんいいよー。聞いたとこによると、あたしとアンタ同い年らしいしさ〜」
「はあ・・・」
「だからさ!お互いもっと親しみを持とうよ〜。ね?あさ美ちゃん?」
小川さんは私に近づくと握手をしてきた。
初対面でここまで馴れ馴れしくされたのは初めてだな。
そんなことを思いながらも、決して嫌な気分はしなかった。むしろ心地よかった。
それは彼女の天性の明るさがくれるものかもしれない。
「あ、その笑顔いいよ!可愛い、可愛い!」
いつの間にか笑ってしまっていたらしく、小川さんに。そんなことを言われた。
すると自分でも分かるくらい、顔に熱がこもってきた。
- 10 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/16(月) 14:12
-
「わっ!?あさ美ちゃん顔赤いよー!大丈夫?」
小川さんが驚いたように、俯きがちな私の顔を覗き込んできた。
「だ、大丈夫です!」
慌てて顔を上げ、そう叫んだ。
小川さんは不思議そうに私を見つめていたけど、再び笑顔に戻って、
「では、改めまして。これからよろしくね、あさ美ちゃん」
と言って、握った手に少し力を込めた。
切り替えの速い人だなあなどと思いながら、私はそれに答えるように握り返した。
「はい、よろしく・・・」
そこまで言ったとき小川さんに軽く睨まれた。
あ、そうだった。
「よ、よろしくね。・・・まこ・・まこっちゃん」
勝手に考えた呼び名なんだけど、どうかな?気に入ってくれるかな?
「まこっちゃんか〜。いいね、それ〜」
私のそんな心配は必要なかったみたい。まこっちゃんはニカッと笑いながらそう言った。
ここに、“犯罪者”紺野あさ美と小川麻琴の共同刑務所生活が始まった。
- 11 名前:我道 投稿日:2004/02/16(月) 14:19
-
一応終了です。
はあ〜〜〜〜〜。
へったくそだなあーーー(泣)
もっと皆さんのを呼んで勉強させていただきたいと思います。
読んでる人はいないと思いますが(藁)、それではこれにて。
- 12 名前:我道 投稿日:2004/02/18(水) 11:04
-
「えー!?そんな凄いことしたの!?」
私は驚愕に、目を見開きベッドの上で寝そべっているまこっちゃんを見つめた。
「ふぁ〜・・・うん、まあね〜」
まこっちゃんは天井を見つめ、欠伸をしながら呑気にそう答える。
いや、あの小川さん?まあね〜って・・・。
まこっちゃんが来てから、お互いのことを知るためにいろいろとお喋りをしていた。
で、何の気なしに私がまこっちゃんは何をしてつかまったのかと尋ねたところ、
『虹橋商事のビル、爆破』
と、さらりと言い放った。これはさすがに私も驚いた。
虹橋商事と言えば、世界相手にビジネスをしているという日本でもトップクラスの企業のこと。
もちろんそのクラスになれば、警備も厳しくなり出入すること歯勿論のこと、近づくことですら厳しい。
噂によれば、ゴキブリ一匹ですら侵入できないらしい。
そこをなんと一人で爆破しちゃったんですから、まさに驚きの一言に尽きると言うものです。
- 13 名前:我道 投稿日:2004/02/18(水) 11:17
-
『なんかね〜、邪魔だったんだよね。家に朝日が入らなくなるわ、花は萎れるわで。
だから何か腹がたってね、ついやっちゃった』
というのが理由らしい。
うーん。やったこともすごいけど、それを実行に移した理由もまた・・・。
彼女、結構大物かもしれない。私は心の中だけで驚嘆していた。
「あさ美ちゃんは何やったの?」
突然まこっちゃんが、のそりと上体を起こして床に座っている私の顔を覗き込んできた。
私はちょっと自分の世界に入っていたので、まこっちゃんの顔がいきなり目の前に現れたことに
驚いて、身を引いてしまった。
「なんだよ〜、その化け物でも見たみたいな反応は〜」
「い、いや、これは。突然、まこっちゃんの顔がすごい近距離にあったからびっくりして・・・」
私の反応に頬を膨らませ、不機嫌そうな表情をつくるまこっちゃん。
慌ててそう弁解した。そうしたら、なぜか笑われてしまった。
- 14 名前:我道 投稿日:2004/02/18(水) 11:25
-
「あさ美ちゃんってよくボーっとしてるよね〜」
今度は私が不機嫌になる番。
「・・・そんなにボーっとしてないもん」
ぷいっとまこっちゃんにそっぽを向く。
でもまこっちゃんは全然悪びれた様子も、慌てた様子もなく、
「あっはは〜。冗談だよ、じょーだん」
と言いながら、私の頭をぽんぽんと軽く叩く。
私は振り向いて、まこっちゃんを睨みつけた。それでもまこっちゃんは笑っている。
はあ・・・。降参です。あなたのその明るさには、勝てないよ。
「で、何したのさ?」
まこっちゃんが再度聞いてきた。
私は少し憮然としながら、まこっちゃんのほうを見ないで聞き取れるくらいの声で呟いた。
- 15 名前:我道 投稿日:2004/02/18(水) 11:40
-
「・・・殺人。五十人くらい・・・」
「ごっ!?」
まこっちゃんが驚愕に目を見開いた。ついでに口も半開きになっている。
その格好のまま、硬直すること約十秒。
「まこっちゃ・・・」
「ごじゅうぅぅぅぅぅぅ!!??」
「ひゃっ」
突然ベッドの上に勢いよく立ち上がって、そう叫んだまこっちゃん。
それに驚いて、私は床に転んでしまった。
「あああさ美ちゃん、アンタ何してんのさ!?」
「えっ?えっ?えっ?」
困惑していたら、ぐわっとまこっちゃんが近寄ってきて頬を両手で挟まれちゃった。
「あたしよか、凄いことしてんじゃん!」
いや、決してそんなことはないと思うんですけど・・・。
むしろ、いや絶対まこっちゃんのやったほうがすごいって。と、これは私の心の呟き。
実際はまこっちゃんの迫力に押されて、何も言えずただまこっちゃんを見つめているだけ。
「このこの〜、可愛い顔して〜。結構大胆なんだから〜」
そのままほっぺをぐりぐりするまこっちゃん。
その時はまた、へらっと笑っていてちょっとほっとした。
- 16 名前:我道 投稿日:2004/02/18(水) 11:57
-
まこっちゃんの性格分析〜紺野レポート〜
「・・・よく、分かんない」
以上。
「は?なにがよく分かんないの?」
「ううん、なんでもないよ」
あなたのことだよ、まこっちゃん。等と、当の本人にいえるはずもなく
その場は曖昧に笑ってごまかした。
まこっちゃんは不思議そうな表情を浮かべていたけど、二秒後にはそれが一転して
今度は眠そうな顔になった。
「ふぁ〜」
「眠いの?」
「まあね。今日の三時ごろにたたき起こされて、そのまま車で新潟からここまで。あんながたがた揺れる所で
寝れるわけもなく、現在寝不足でございます・・・」
あ、寝ちゃった。いや、あの、別に寝るのは構わないんだけど、私のほっぺ挟んだまま寝ないでくれる?
「まこっちゃん。まこっちゃん!」
揺すってみると、ほとんど目を閉じたまま、まこっちゃんは顔を上げた。
「ん〜・・・」
「ほら、寝るならベッドで寝ないと」
- 17 名前:我道 投稿日:2004/02/18(水) 12:07
-
「ん〜・・・」
ベッドをに行くように促すと、まこっちゃんはまるで夢遊病者のようにふらふらと
ベッドに近づいていき、ボスッと倒れこむとそのまま眠ってしまった。
倒れた拍子に埃がブワッと舞い上がり、私は咳き込んでしまう。
「もう、まこっちゃんてば・・・」
埃がおさまるのを待ってから、まこっちゃんに近づき一応ぼろぼろの毛布をかけてあげる。
その時見た寝顔が可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまう。
でもそんな時、先ほどの話を思い出してふと心の中にある疑問が浮かんだ。
「・・・私たちは、何でここにいるんだろう?」
私たちの錆び付いていた時計が、今静かに動き出そうとしていた。
- 18 名前:我道 投稿日:2004/02/18(水) 13:34
-
あ、名前のとこかえるの忘れてた(涙)
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/19(木) 03:02
- 読んでる人はいますよー
- 20 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/19(木) 13:41
-
まこっちゃんが眠っているベッドに背を預けて、床に座る私。
ボーっと天井を見上げながら、先程浮かんだ疑問について考えていた。
少し前に神奈川の伊勢原市で同居していた女性とその娘さんを殺害し、さらに現金を奪った男の人が
強盗殺人などの罪にとわれた。
これはたった(たったと言っちゃ悪いんだけど)二人の命を奪っただけで、死刑判決を受けた。
なのに私はどうだろう。
五十人もの命を奪っておいて、刑務所の中とは言え今こうして生きている。
―――それはなぜ?
『これは弁護の余地がないよ・・・』
と私は弁護士さんに言われた。
そこで私は、「ああ、私死ぬんだなあ」と感じた。
や、別に怖くなかったわけじゃなく、やったことがやったことだからもう諦めはついていたんだ。
でも裁判官さんの口から出たのは、驚きの一言。
『罪人紺野あさ美は、終身刑に処す』
- 21 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/19(木) 13:55
-
その瞬間、検察の人と弁護士さんは目を見開き私を見つめた。
傍観席でもざわめきが起こり、僅かにだけど誰かの泣き声も聞こえた。
私は困惑して裁判官さんを見つめていた。
すると裁判官さんは、何か悔しさをかみ締めたような表情をしていた。
それから検察側の人が大声で何かを叫んだけど受け入れられず、裁判はそこで終了になった。
そして今ここで服役している。
でもここでの生活も考えてみれば、少し、いやかなりおかしい。
刑務所の中に入れば、仕事をさせられると聞いたことがある。
しかし私が来て二週間、それらしきことは何もさせられていない。
ずーっと牢の中でぼんやりと一日を過ごしている。さらにトイレに行きたいといえば
看守さん付きだけどだしてもらえる始末。
―――犯罪者なのに、まるでVIP待遇なこの現状はなぜ?
- 22 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/19(木) 14:11
-
死刑確実だったはずなのに、終身刑。
仕事も与えられず、手枷足枷をされている以外は対応が犯罪者相手にしてはおかしい。
まるで・・・。
「まるで、私たちを生かしておきたいみたい・・・」
でも誰が?
こんな重罪人を誰が生かしておきたいの?
それと、何のため・・・?
「んぅ〜・・・あさ美ちゃ〜ん・・・」
まこっちゃんの私を呼ぶ声ではっと我に返り、振り向く。
そこにはまだスースーと寝息を立てて、眠っているまこっちゃん。
―――さっきのは寝言かぁ。
自分の世界に行ってしまっていたので、呼ばれたときは大げさなほどびっくりしてしまった。
「む〜・・・あさ美ちゃぁん・・・」
難しい顔をして夢の中で私の名を呼ぶまこっちゃん。
―――私の夢見てるのかな?
自然と頬が緩む。
「あさ美ちゃ〜ん・・・金魚みたいだよ〜・・・」
- 23 名前:我道 投稿日:2004/02/19(木) 14:15
-
>>19 名無し飼育さん様
このような駄文を読んでいただき、ありがとうございます!
レスはすごく嬉しかったです。まさに感激の極みです!
本当にありがとうございます!!
- 24 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/20(金) 11:37
- …。
……。
………むぅ。
――ゴツッ!
「――あだぁ!!」
少しムッときたのでまこっちゃんの頭に頭突きをかましてあげた。
すると、やっぱりまこっちゃんはおでこを押さえながら文字通り飛び起きた。
「なにっ?何が起きた・・・って、あ。金魚」
一通りきょろきょろしてから、私を指差して失礼極まりないことを言い放った。
だからもう一発。
「ぐはぁ!!」
「いつまでも寝ぼけてないでよ。それと変な夢見ないで」
ちょっと冷めた口調で私は言う。
まこっちゃんはおでこを押さえて悶絶していたけど、暫くしてから私を目だけで捉えて、
「…見ちゃったもんはしょうがないじゃん」
唇を尖らせ、涙目でそう訴えた。
確かにそうだよね。しょうがないと思うよね。でもね、まこっちゃん。
- 25 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/20(金) 11:38
- 「夢ってね、その人が深層心理で考えたりしてることが出てくるんだって」
「…」
「つまりまこっちゃんは私の事を金魚みたい、とどこかで思っていたと」
何も言えずまこっちゃんは私から目を逸らす。そして・・・。
「グー…」
オヤスミになられた。いやもちろんそれが、狸寝入りだってことは分かりきっています。
でもあえて放っておくことにした。
私はため息を一度吐き出し、再びベッドに背を預けて座った。
そして先ほどまで考えていたことを頭に浮かべる。
「…私の考えすぎかな?」
よくよく考えてみれば、司法権の独立と言う外部からの裁判干渉はできないことを定めた決まりがある。
それが例え内閣でも、国会でも。
だから、私の危惧しすぎだろうか?
あの判決も、私たちがまだ若かったから少し軽めにしてくれたんだろうか?
- 26 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/20(金) 11:40
- 「…そんなことありえるのかなぁ」
首を傾げて、もうちょっと深く考えようと思った、その時
「なーにが『ありえるのかなあ』なのぉ」
「ぐえっ」
まこっちゃんに手錠の鎖で首を絞められた。
いや、ちょっと待って!これ痛いって!苦しいって!洒落になってないよぅ!
「ねえ、何なの?」
「ま、まこ…っちゃん…くる…しい。それ…と、痛い…」
「え?ああ、ごめん」
私がどうにか声を絞り出すと、笑いながら開放してくれた。
いや、笑い事じゃないから…。
「しゃ…洒落に、ハァ、なんないから…」
首を押さえながら荒い息をして訴える私。
でもまこっちゃんはやっぱり笑顔で。
「あっはは〜。メンゴ、メンゴ」
…古いよ、それ。
「で、何何?何考えてたの?」
- 27 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/20(金) 11:41
- 目をきらきら輝かせて、聞いてくるまこっちゃん。…すっごい聞きたそう。
でも私はそんな彼女をキッと睨みつけて、
「今のも含めて、まこっちゃんは私に酷いことをしたから教えてあげません」
と、冷たく言い放った。
途端にまこっちゃんの眉尻は下がり、目は今にも泣きそうに潤みはじめた。
その表情に私は怒りの感情が揺らいだ。
…その顔、反則。
「…反省、してますか?」
私の問いかけに頭をブンブンと勢いよく縦に振るまこっちゃん。
すっごく嬉しそう。
ハアとため息を吐く。本日二度目の敗北。
「わかった。許すよ」
- 28 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/20(金) 12:14
- 「いえーい!やっぱ、あさ美ちゃんは優しいな〜!」
「あだっ!」
ベッドから勢いよくこっちに飛び移ってきて、私は抱きつかれた。
その勢いを殺せず、石造りの床の上に倒れこんで頭を強打してしまった。
…この人、分かっててやってるのかな?
「で、何何?何考えてたの?教えてよ〜、あさ美ちゃ〜ん」
分かってないからたちが悪い。
でも今のはその無邪気な笑顔に免じて許してあげる。
この次は…フフフ。
「まあ、まこっちゃん。とりあえず、起きようよ」
それにまこっちゃんは素直に従い、私から身を離す。
後頭部をさすりながら、起き上がってまこっちゃんを見てみると先ほどのようにきらきらした瞳になっていた。
私は、一度咳払いをして今まで自分が考えていたことを話し出した。
「実は―――」
- 29 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/20(金) 12:15
- ―――――
「あさ美ちゃ〜ん、かんがえすぎだよ〜」
自分の考えを一部始終話し終えた後の、彼女の第一声。
「そおかなぁ?」
「そおだよ〜。裁判官の人もあたしらが若かったから軽くしてくれたんだよ〜」
まこっちゃんはすっごい前向きに物事を考えることが発覚。
でも、そうなのかな?
やっぱり私の考えすぎかなぁ?
「あははー!あさ美ちゃん、あんまし考えすぎるとしわが増えるよ〜」
私が首を傾げて考えていると、まこっちゃんは高らかに笑ってそんなことを言ってきた。
「それよりさ〜、トイレ行きたいんだけど。どうすりゃいいの?」
すると今度は、突然頬を朱に染めながらもじもじしだした。
その様子を見て思わず苦笑する。
「何笑ってんのさー。こっちは結構真剣なんだぞー」
「フフフ、ゴメンゴメン。ちょっと待ってね。看守さーん!」
何か何事にも明るい彼女を見ていると、頭をフル回転させて悩んでいたことが馬鹿みたいに思えてくる。
だから私も彼女と同様に、前向きに考えたいと思う。
「…何だ?」
「彼女がトイレに行きたいんだそうです」
「…ついて来い」
今は与えられたこの刑を全うしよう。
看守さんについて出て行くまこっちゃんを見ながら、私はそんなことを考えていた。
- 30 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/20(金) 12:16
-
…でも、現実はそんなに甘くなかったんだ
- 31 名前:19 投稿日:2004/02/21(土) 00:16
- 動きだす…のか?
頭突きのシーン 好いです♪
- 32 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/23(月) 01:16
- ◇◇◇◇◇
あたしが【あの場所】から逃げ出して、約十年が経った。
未だにあたしは逃げている。
「ハッ、ハッ、ハッ…」
あたしは争いごとじゃ好きでない。だから逃げる。
でも襲われれば致し方ない。こっちだって自分の命は大事やからの。
「―――っつう!」
何かがあたしの足を掠める。それから少し遅れて鋭い痛みがはしった。
見ると太ももの部分がジーパンごとぱっくりと裂かれていて、そこから鮮血が滲み出している。
あたしは走ることをやめ、振り向いて今まで走ってきた道を見つめた。
夜の上に、森の中なので周りは闇色一色。
でもあたしはの目はしっかりと【彼女】を捉えていた。
「やっと止まってくれたぁ」
やけに間延びした声。更にはそのイントネーションまで個性的。
あたしはこの声の主を知っている。いや、忘れるわけない。親友だった彼女の声を。
「―――いいかげん鬱陶しいんやけど」
- 33 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/23(月) 01:18
- 苛立ちを隠さず、冷たく言い放つ。
彼女は気にした様子はない。
「だってぇ、愛ちゃんに帰ってきてほしいんだもん」
彼女が姿を現した。
春といえどまだちっと肌寒いのにへそだしノースリーブに、丈の短いホットパンツ。
…相変わらず派手な格好やの。
「もうあんなとこには戻らんゆうに」
「それじゃ、困るぅ」
何が嬉しいのか、彼女は笑みを浮かべながら甘えた声をだす。
あたしはいつでも飛び出せるように身体を緊張させる。
「松浦がぁ連れ戻すってぇ約束しちゃったんだもーん」
「…アンタの約束なんか、あたしには何も関係ない」
ピシャリと言い放つと彼女―松浦亜弥はブーっといいながら頬を膨らます。
「じゃあ、力づくでもつれて帰っちゃうよー」
でもすぐにまた笑顔に戻った。しかし先ほどまでの笑顔ではない。
それは殺気。確実にそれが含まれている笑顔。
ゾワリとあたしの背中を悪寒が駆け上る。
- 34 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/23(月) 01:19
- 「結局はそうなるんか…」
あたしはぼやきながらも体の緊張を解かず、構える。亜弥ちゃんも構える。
「こっちだってねぇイライラしてたんだよぉ。愛ちゃんいっつも逃げるからさぁ」
「戻りたくないんやもん、逃げて当然やろ」
「でもぉ今日は足に当たってラッキーだったよー。そうしないと愛ちゃん足速いから逃げられちゃうもんねー」
ラッキーなんて嘘やよ。絶対狙いよった。
「じゃあ、いくよー。久々だから手加減できなかったらごめんねー」
相変わらず間延びした感じで言う亜弥ちゃん。その顔から笑顔が消えた。
- 35 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/23(月) 01:20
- ―――来る!そう感じた瞬間、あたしは身を屈めた。
すると後方で木々の倒れる音。
あたしはそれを気にせず、身を屈めながら亜弥ちゃんに走り寄る。
亜弥ちゃんはそれを確認すると、あたしに向かって両手をかざした。次の攻撃に入ろうとしているだろう。
しかしあたしはそれよりも速く亜弥ちゃんに近づくと、その変形し鋭く尖った爪で亜弥ちゃんの身体をえぐった。
いや、えぐろうとした。
でも亜弥ちゃんの身体に触れる前に、あたしの手は何かによって弾かれてしもうた。
あたしがその反動で体勢を崩したところに、亜弥ちゃんは容赦なく攻撃を叩き込んだ。
錐揉みしながら吹き飛ぶあたしの体。いく本もの木々をなぎ倒し、ようやく止まった。
「―――うあっ!」
切れる肩口、飛び散る鮮血。結構深く切られたため、激痛が身体を走る。
- 36 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/23(月) 01:21
- 「あたしの【真空波】の切れ味はど〜お?」
痛みのため肩口を抑え蹲っていたとこに聞こえてきた間延びした声。
どうにもこうにも…。
「…だいぶ…腕を、上げた、痛っ!…みたいやね…」
これは正直な気持ち。嫌味を言う余裕すらないってとこかの。
あたしにそう言われ、亜弥ちゃんは再び笑顔になる。
「でしょ〜!結構頑張ったからね〜。ああいうことしたり、こういうことした―――」
彼女が喋っている間にもあたしの方からは血が流れ続けている。
亜弥ちゃんがよそ見してるから逃げよう思うたんやけど、さっき吹き飛ばされたとき足首捻ったみたいで動けんし。
あ、やばい。目ぇ霞んできた。
- 37 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/23(月) 01:21
- 「――等などして、あたしはがんば…ってありゃ?もうやばそうだねー。いいよ、寝ちゃっても。
あたしがちゃーんと介抱してあげるからねえ」
あたしの様子に気付いて、嬉しそうに言う亜弥ちゃん。
気絶しちゃ駄目だ!って思っていてもどうしようもできず、あたしの意識はだんだんと闇の中に向かって落ちていった。
そんな時聞こえてきたのは、亜弥ちゃんとは性質の異なる一つの声。
「介抱する役はアタシに任せちゃくれないかい?」
その声はどこか聞き覚えがあった。そんなことを思いながらあたしは気を完全に失った。
- 38 名前:我道 投稿日:2004/02/23(月) 01:27
- 今日の更新は終了です。短くてすいません(涙)
>>31 19様
レスありがとうございます!
もう少しで動くと思いますので(汗)
頭突きのシーンは私自身も結構気に入ったりしています(笑)
好いと言ってもらえて、とても感激しました。
本当にありがとうございます!
- 39 名前:19 投稿日:2004/02/23(月) 21:42
- 真空波ってか!いきなり出てきていきなりやられた高橋さん…
- 40 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/26(木) 00:53
- 今日初めて気付きました。2人共普通に会話してますが実際は相当ハードな犯罪者ですよね(^-^;
なんでそんなことになってるのかな。これからの展開に期待してます。
- 41 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/26(木) 11:21
- 眩し…。
瞼の上から当たる光を感じて、あたしはゆっくりと目を開けようとした。
飛び込んできた光のせいで最初はなかなか目を開けられなかったけど、慣れればすぐに目をパッチリと開くことができた。
そこで確認したこの部屋。
見たこともない。どこやろ、ここ?
天井は木で出来ていて、蜘蛛の巣のはり具合とシミの出来具合から大分年季が入っているということが窺える。
ゆっくりと寝かされていたベッドから上体を起こし、あたしが今いる部屋を見渡してみる。殺風景な部屋。
木造の洋服ダンスが一つ置かれているだけで他には何も置かれとらん。窓も…見当たらんし。
「ほんとにどこやよ、ここは…」
知らん部屋に一人でおると何かしら不安っちゅう感情が浮かんでくるもの。それはあたしにも然り。
おもむろにベッドから降りてみる。
「―――ッ!?」
慌てて掛け布団を羽織る。なんで!?なんで…。
「…裸やの?」
完全に裸っていうわけや無いけど、包帯が肩とか太ももに巻かれてるんだけど、身につけているものはそれとパンツだけ。
下手したら裸よりも恥ずかしい…。
- 42 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/26(木) 11:21
- 「――生きてく意味をなくしたときぃ〜♪…おっ!起きたみたいだね」
突然、微妙に音程のずれた歌声とともに床から姿を現した目つきの鋭い女性。そんなとこから現れたんで、一瞬びくっとしてしまった。でもよく見ると…。
「…ドアそんなとこにあったんか」
「ん?ああ、屋根裏部屋だからねぇ」
するすると登ってきて扉を閉めるその女性。
…いっけぇ(でかい)…。
何にも手入れしてなさそうなぼさぼさの髪とか、切り傷だらけの腕や足とかたくさん眼につくとこはあったんやけど
その中でも一番眼についたのは、その馬鹿でかい身長。
日本の女性の平均身長をはるかに超えている。見たところ、だいたい…180、それ以上かもしれん。
こんな大きな女の人はじめて見た。
「んじゃ、包帯かえっからねぇ〜」
その大きな女性はこっちに振り向くとそう言ってあたしに近づいてきた。どうやらあたしにこんな格好をさせたのはこの人らしい。
って言うか…。
「…アンタ、誰?」
- 43 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/26(木) 11:22
- あたしは近寄ってきた長身の女性をけん制しながら睨みつけた。
女性は言われた瞬間はキョトンという表情をしてたけど、すぐに「あ〜」と言う声をあげ立ち上がった。
「なるほど。こんな頭してるから分かんないのかねえ。ちょっとまってな」
そう言ってから女性はおもむろに髪を後ろで束ね始めた。そして束ねた髪をゴムで止める。
癖の強い髪のようで、束ねた髪がまるで花火みたいになっとる。
…あれ?でもこういう人どっかで見た事あるような、無いような…。
「……あっ!」
「思い出したかい?」
ニヤリと笑いながら聞いてくる長身の女性。
…まさか…でもこの髪型、この不適な笑い顔。知り合いでは一人くらいしかいない。
「…もしかして、凶子さんですか?」
なぜかあたしは恐る恐ると言った感じで聞いてしまった。もし、そうだとしたら…。
あたしは全身を緊張させた。
- 44 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/26(木) 11:23
- 「ざっつ、らいと!覚えててくれてアタシもうれ―――」
長身の女性―咲魔凶子さんが何か言い終わる前に、あたしは彼女の横を通り抜け階段へと通じる扉を開き、そこから飛び降りた。
ちょっと高かったけど無事着地。
そして素早く辺りを見回すと、玄関らしきところを見つけたのでそこに向かって猛ダッシュ。
まだちっと肩が痛むけど、逃げるだけなら問題ない。
あたしは後ろを振り返ることなく、勢いよく玄関の扉を開け外に飛び出した。
――よし!成功!と思った矢先に、
「ほれ、怪我人なんだからおとなしくしてな」
なぜか玄関の外で待ち伏せていた凶子さんに捕らえられてしまった。
この人、元来から力が馬鹿みたいに強くて、あたし程度では彼女の束縛は振りほどけない。
「な、なんでこんなとこにいるんやよ!?」
「あん?そんなの、壁突き破って来たからに決まってるじゃないか」
そういって彼女は少し上を見上げた。
あ、この家一階建てやったんや…じゃなくて!
「…はあ」
- 45 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/26(木) 11:24
- 彼女とあたしが見上げたところには人一人が通れそうなくらいこって穴があいとった。
そうやった。この人の辞書に『常識』っちゅうもんはなかったんや。
…ま、あたしたちにもあるのか疑わしいけどの。
「だいたい、高橋。アンタ今自分がどんな格好してんのか忘れてんだろ?」
「えっ?――――あぁ!!」
凶子さんに指摘されてあたしは自分の格好を確認する。
途端に顔に血が上ってくるのが分かる。…忘れとった。
「はっはー!穢れを知らない乙女の羞恥で朱に染まった顔、いいねぇ。ま、募る話もあるから、とりあえず中に入るべやー!ひゃーはははははは!!」
何故か凶子さんは大声で高らかに笑いながら、あたしを持ったまま家の中に入っていった。
その時まだあたしの顔は赤かった。
- 46 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/26(木) 11:24
-
再び、ここは先ほどまであたしが寝ていたベッドの上。凶子さんにあっさり捕獲されたあたしは、寝かせられて…ってちょ、おかしいて!
「なんで縛られんといけんの!?」
あたしは首だけを動かして凶子さんを睨みつけ、叫んだ。
あたしは今、何故か縛り付けられている。しかも鎖で。痛いんよ…。
「あん?だってあんた、そうでもしなきゃ逃げんじゃないか」
「逃げん!逃げんから鎖とってぇ!痛いんよ!肉が挟まれて、ひってもん痛いんよー!」
首を左右に振りながら叫ぶあたし。ほんと、痛いんて!
凶子さんはそれを見て少し唸った後、しょうがないと言った感じで鎖を解いてくれた。
あたしは解放感に安堵の溜息をはいた。
「お♪えらいねぇ。やれば出来るじゃないかい」
「…だっけ、逃げない言うたやよ」
「はっはー!ごめんねぇ。疑ってったわー!はっはー!」
あたしは鎖の後が付いた腕をさすりながら、憮然として凶子さんを睨みつける。
でも凶子さんはそんなこと全然気にせず、しかもさっぱり悪びれた様子も無く謝罪してきた。
あたしは疲れたようにため息を吐き出す。
- 47 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/26(木) 11:25
-
「まあ、それはいいとして。高橋にちょっと頼みがあるんだよ」
急に真面目な顔であたしを見つめてくる凶子さん。この人元から目つきが鋭いんで、そういう顔すると、そのへんのヤクザより雰囲気がある。
あたしは少しビクッとしながらも、凶子さんを見つめ返した。
「な、なんですか?」
平静を保とうとしたんやけど、やっぱ少し凶子さんの雰囲気に飲まれてもうて、ちょっとどもってしもた。
「なに、簡単なことさ。アタシはこれからある人を助けに行くんだけど、なにぶん人手が足りなくてねぇ。そこでアンタに手伝ってもらいたいと思ってるんだけど、どうだい?」
凶子さんがそう言い終ると同時にあたしも表情を引き締めた。なんとなくやけど、分かった。
この人が助けにいく人物、あたしも知っているはず。
「いいですよ」
あたしがそう即答すると凶子さんはその鋭い目をパチパチと数回瞬かせていたけど、すぐにまた真剣な表情になると
低い声で聞いてきた。
「…それをやったら今まで以上に生活が厳しくなるよ。それでも…」
「いいですよ。っていうか、あたしが断ったらどうするつもりやったん?」
あたしがそう問うと凶子さんは真剣な表情を一気に緩め、立ち上がって高らかに笑い出した。
「はーはっははー!それもそうだねぇー!ひゃははははー!!」
…部屋が揺れてる。や、気のせいなんかじゃなく、ほんとに揺れてるんよ。この人の笑い声で。
「何にも聞かないで助けてくれることは大いに助かるよ。ありがとね」
ひとしきり笑うと、凶子さんはあたしを見下ろしてニッと微笑んだ。あたしはそれに対し、不敵に微笑んで見せた。
「聞きますよ。洗いざらい喋ってもらいましょうか」
その言葉に彼女は一瞬苦笑と思われるようなものを覗かせたけど、すぐに不敵な笑みをつくり
あたしの前に椅子を引きずってきて、ドカッと腰を下ろした。
「どんと来な。あんたの怪我が治るまで、喋り続けてやるよ」
あたしは彼女の表情と言葉に身を震わせながら弱々しく、
「…お手柔らかに」
と呟いた。
……この人には、色んな意味で勝てんと思った。
- 48 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/26(木) 11:26
-
「ところで、どうやってあたしを助けたんですか?」
「ん?」
「亜弥ちゃんからですよ。あん時の声、凶子さんやったよね?」
「ああ。そんなもん、アンタ引っつかんでマッハで逃げたに決まってんじゃないか」
「…逃げ切れたんですか」
「ふん。あんな小娘撒くのくらい、朝飯を食うことより簡単さね」
「…」
……やっぱり、勝てんわ…。
- 49 名前:我道 投稿日:2004/02/26(木) 11:35
- 何か、毎回短くてすいません(焦&涙)
>>39 19様
はい、高橋さんやられました!
すいません(汗)
高橋さんこれから出番増えるんで、多分…。
レスありがとうございました!
>>40 名無し飼育さん様
本当に二人ともハードなことしてますね(笑)
期待してくれてありがとうございます!
期待を裏切らないよう頑張りたいと思いますんで、
よろしくお願いします(汗)!
- 50 名前:19 投稿日:2004/02/26(木) 21:47
- あ オリキャラですね
すごい名前
- 51 名前:我道 投稿日:2004/02/28(土) 23:14
-
◇◇◇◇◇◇◇◇
まこっちゃんが来てから約一週間くらいかな?そのくらいが経った。
特に何も変わったことなく、いつも通りに過ごしている。監獄の中だけど。
今日もまこっちゃんは元気…というかテンション高すぎ。今朝食料の支給があって、パンだったんでまこっちゃんは
『またパン〜!(ここ二、三日パンでした)』
って不満げに叫んだんだけど、そのパンがかぼちゃパンだと分かると目の色変えてそれにがっつき始めた。
それを食べ終わると、私の分のかぼちゃパンに狙いを定めて襲い掛かってきた。
かぼちゃパンは私も好き。好きなものをそう簡単に取られてたまるかと、応戦した。頭突きで。
そこからは頭と頭の、おでことおでこのぶつかり合い。両者とも一歩も引かず、結構長い時間争った。
結果は引き分け。
でも、食べ物、特に好物のことになるとめっぽう強い私とここまで張り合ったまこっちゃんに敬意を表し、少し分けてあげた。
するとまこっちゃんは凄く感動したみたいで
『あ゛り゛がどう〜、あざびぢゃーん!!』
と言葉に濁音をつけまくり言って、涙を流しながらかぼちゃパンを味わっていた。
それからなんか凄いなついちゃって、今まるで犬みたいに私に擦り寄ってきています。
「…まこっちゃん」
「ん〜」
私は少し疲れたように彼女の名を呼ぶ。でもまこっちゃんは、座っている私の腿の上に頭を乗せ寝転びながら笑顔で返事。
気持ちよさそうに目を細めての笑顔。
- 52 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/28(土) 23:16
- 「…鬱陶しい」
「ん〜」
聞いてねえ…。はっ!いけない私としたことが。
「……ハア」
まこっちゃんを腿に乗せてから何回目かのため息。いい加減、足も痺れてきた。
でも正直な気持ち、こうやってまこっちゃんの気持ちよさそうな顔が見れるのは私としても嬉しい。
だから良しとしますか。
『もう!信じらんない!任務のことを忘れるなんて!!』
『ごめんって!てゆーか、梨華ちゃんも楽しんでたじゃん!『久しぶりのお出かけ、あ〜嬉しいわぁ』ってさあ!』
石壁に背を預けて、ボーっとしはじめた私の耳に届いた低音と高音の綺麗…では無いハーモニー。
少し高音の方が強いなぁ。
などと呑気に考えていたらその声の主と取れる二人の人物が私達の牢のところにやって来た。
最初に現れたのは、全身ピンクという奇抜な着こなしをした、少し顎の出ている女性。
そのあとから続くようにして現れたのは、背が高く金髪にラフな格好という今時の若者のような男性…あ、ちがった。男っぽい女性だ。
ピンクの女性は腕組みをして金髪の女性にそっぽを向けていたんだけど、先ほどの言葉に反応してかその体勢を解いて、
勢いよく金髪の女性に向き直った。
- 53 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/28(土) 23:16
- 「私が悪いって言うの!?」
その瞬間に聞こえてくる、甲高い怒声。高音担当はこのピンクさんらしい。
「だって実際そーだったじゃんか!」
で、低音担当は金髪さん。二人はそう叫んでから無言で睨みあっている。
金髪さんのほうが背が高いので、自然とピンクさんを見下ろす形となってるけど、ピンクさんはそれをものともしないほどの気迫で金髪さんを見上げている。
「ひとみちゃんが『まだ時間あるから少し街で遊んでいこーよー』って言って、任務のことを忘れちゃってたのが全ての原因でしょぉ!」
「それに乗った梨華ちゃんも同罪でしょ!ってゆーか、忘れちゃってたのって梨華ちゃんも同じじゃん!!」
「なによ!」
「なんだよ!」
睨みあったまま始まった痴話げんか。二人を連れてきた看守さんはその光景を呆然と見つめている。
私も同じ。
まこっちゃんは…。
「グ〜…―――」
……また寝てた。彼女、結構寝るんです。
- 54 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/28(土) 23:17
- 「っの、アゴン真理卿教祖!」
「な!?酷い、酷いよひとみちゃん!アゴンだなんて!ア○勇なんてぇ!」
「あ、ご、ご、ごめん。つい、口が…っていうかア○勇は言ってな――――」
「ック。ウッウッ…」
「あぁ〜!ごめん、ごめんてば!あたしが悪かったから泣かないでよ、梨華ちゃん!」
突然始まった痴話げんかは、これまた突然に終結しそう。
金髪のひとみという女性はピンクさん、もといリカという女性を泣かせてしまったことで慌て始め、あたふたと手を動かしながら何とか泣き止ませようとしている。
でもそれも効果なく、リカさんは両手を眼に当てて俯いたまま、嗚咽を漏らしている。ひとみさんは心底困ったように後頭部をかきむしった。
しかしひとみさんは突然顔を上げると、あらぬ方向を見つめた。その表情はどこか真剣なもの。その顔のまま、まだ泣いているリカさんを見つめると二回大きく深呼吸をした。そしてリカさんの頬を両腕で優しく挟んで顔を上げさせた。リカさんはひとみさんの様子が違う事に気を取られ、抵抗する事を忘れていたみたい。
ぶつかり合う真剣な瞳と、潤んだ瞳。
私は何が起きるか分からず、首を傾げて二人の様子を見つめていた。
でも、次の瞬間に起こった出来事に私は度肝を抜かれた。
「―――:@;。。:*‘P~~=%$#$%!!??」
声に、言葉にならない叫びとはまさにこのこと。
- 55 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/28(土) 23:18
- 私は慌てて口を押さえ、目の前の映像を凝視した。
焼け石みたいに自分の顔が熱くなっているのが嫌でも分かった。
「ん…むぅん……」
リカさんからもれる甘い吐息。
最初こそびっくりしていたものの、今は気持ちよさそうに目を瞑ってひとみさんに唇を預けている。そうです。この人たち、人前であると言うのに
突然その、き、き、キスをしちゃったんです…。
私はその間何故か目を離せず、呆然とその光景を見つめていた。
…長い。凄く長いです。
「っは!…ひとみちゃん…」
ながーい口付けから解放されたリカさんは、頬を朱色に染め、ひとみさんを見上げた。
ひとみさんは申し訳なさそうにリカさんを見下ろしている。
- 56 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/28(土) 23:18
- 「…ごめん、梨華ちゃん。言い過ぎた。ほんとゴメン」
力なくそう言って、軽く頭を下げる。
それに対し、どこか申し訳なさそうに笑って首を横に振るリカさん。
「ううん、私こそゴメン。私にも非があったのに、認めなくて」
「梨華ちゃん…」
ひとみさんが顔を上げて、真摯的な眼差しでリカさんを見つめる。リカさんはその目を見ずに、
少し俯きながらポツリポツリと話しはじめた。
「最近ね、喧嘩多かったでしょ?だから私、少しイライラしてた。それと同時に不安でもあったんだ。ひとみちゃんはもう私を愛してくれていないのかなぁって」
「そんなこと…!」
ひとみさんが少し怒ったようにリカさんの肩を掴んだ。でもすぐに慌てて、手を離した。
リカさんは「うん、分かってる」と呟いてから、続けた。
「そんな事は絶対無いって自分に言い聞かせてた。けど、そこにさっきの言葉。あんな事、ひとみちゃんから一度も言われた事無かったから、不安が爆発して…。でもその後のキス、嬉しかった。凄く愛がこもってて、温かかった」
「梨華ちゃん…」
- 57 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/28(土) 23:19
- 「ねえ、ひとみちゃん。私、石川梨華はまだ吉澤ひとみに愛されていると信じていいですか?」
顔を上げた梨華さんは涙を流しながら微笑んでいた。
私には横顔しか見えないけれど、その笑顔が凄く綺麗で、それでいてどこか切なくて…。
「当たり前だよ!!」
そのリカさんをひとみさんは泣きそうな声で叫び、抱きしめた。
凄く強く、それでいてどこか優しさを感じさせてくれるそんな抱擁。
「あたしには梨華ちゃんしかいない。梨華ちゃん以外見えないよ」
「ひとみちゃん…ありがとう」
二人はひしっと抱き合った。そして再び…。
- 58 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/28(土) 23:19
- 「―――!」
そこで私は視線を外した。私にはまだ刺激が強すぎると思ったから…。
「じゃ、早く帰ってイチャイチャしようか!今夜はねかせないぞ〜」
「もう!ひとみちゃんのエッチィ!」
だんだんと言葉が遠ざかっていく事を感じて、恐る恐るといった感じで牢の外を見てみた。でもそこには先ほどまでいたはずの二人はいなくて、看守さんが座り込んで呆然と自分たちが入ってきた方を見つめていた。
「あはははは」「ふふふ」
二人の笑い声とともに[ガチャ]っという音がして、それっきり声は聞こえなくなった。
…一体…。
「…何だったの?」
私は呟き、暫しの間呆然としていた。
「むにゃ…そのかぼちゃ…ゲッツ!」
…まこっちゃんはまだ夢の中でした。
- 59 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/02/28(土) 23:23
- >>50 19様
あははは(苦笑)
すいません、私の頭の中こんな名前のオリキャラで
埋め尽くされています…。
凶子はこれからも結構出ると思われるので、
以後よろしくお願いします(ペコリ)
- 60 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:31
-
――――――
「忘れてたぁーーーーー!!」
私が茫然自失から抜け出して、まこっちゃんをベッドに寝かせたときに聞こえてきた、慌てた様子の低音の声。
私は驚き、牢の外を見やると先ほどいちゃついて去っていった金髪のひとみさんと、
ピンクのリカさんが肩で息をしながらぐったりしていた。
「ひお、ひとみちゃん…うか、はあ、はあ、また、うっかり、しちゃったね…」
「う、げほ、うん…ごめん、梨華ちゃん…」
「い、いいの。げほ。そ、そんなところも…す、好き、だから…」
膝に手をつくという、二人同じ格好をしながら苦しそうな会話。
でもそんな状態でも二人は笑顔。やっぱり苦しそうだけど。
「はあ、ふう…ということで!」
数回深呼吸し、呼吸を整えてからリカさんが顔を上げて私たちを見つめてきた。
というより、睨んでる?
その前に、なにが「ということ」なんですか?
- 61 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:33
- 「紺野あさ美さんと、小川麻琴さん。あなたたちに間違いは無いわね」
「はあ、そうですけど」
少し気の抜けた返事をしてしまった。何せ、いきなり自分の名前が呼ばれたから。
「あなたたちは私たちと一緒に来てもらいます」
凛とした表情ではきはきと話すリカさん。
その姿に後ろのひとみさんは「カッケー!」と言いながら、拍手をしている。
「…どういう事ですか?」
私はその質問の意味がよく分からず、聞き返した。
いや、質問の意味は分かった。
でもそんな事を言う彼女の考えが分からなかった。
「言ったままの意味よ。あなたたち二人は今からここを出て、私たちに同行してもらいます」
「…なぜそんな事をしなければいけないんですか?」
自分の意図を話さないリカさんを、私は少し目つきを厳しくして、見据える。リカさんはそれを堂々と受け止めている。
そんな時、低い怒号が響いた。
「うっせーな!お前らは黙ってあたしらについてこいばいいんだよ!」
ひとみさんが前に出てきて私たちを睨む。その迫力に私は思わず数歩後ずさりしてしまった。
- 62 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:33
- 「ひとみちゃん」
今にも鉄格子を破壊しないばかりの勢いを見せていたひとみさんを、リカさんは落ち着いた声で呼び止めた。
それだけでひとみさんはおとなしくなり、リカさんの後ろに戻っていった。
でもその双眸は私を睨んで離さない。
「今は着いてきてとしか言えない。でも、着いてきてくれさえすればあなたたちを縛り付けている柵を取り除く事が出来る。それは即ち、あなたたちに自由が与えられると言う事。決して悪い取引だとは思わないでしょう?」
「お断りします」
即答。牢の外の二人は私の言葉に目を見開いた。
「ちょ、お前!何でだよ!?自由だぞ!自由になれんだぞ!!」
ひとみさんが牢にしがみつき私に向かって叫ぶ。
それに対し、私は案外落ち着いて話せた。
- 63 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:34
- 「自由に興味が無いとは言いません。ただ、あなたたちに着いて行って自由になれるとは思えないんです」
「…そんなのあなたに分かるわけ―――」
「―――分かりますよ」
リカさんの言葉を静かに遮って、私は続けた。
「目を見ればその人の人物像が見えるとよく言われますが、それは本当です。“自由になれる”と言った時、あなた達の目は濁りました。…嘘を、つきましたね?」
私はそこまで言ってから、二人をキッと睨みつけた。
リカさんは眉一つ動かさず、私を見つめていたけど、ひとみさんは反対に感情を露にした。
忌々しげに口の端を歪め、はき捨てるように叫んだ。
「ざけんな!あたしらよりガキの癖に、偉そうな事言ってんじゃねぇよ!」
鋭い眼差しで睨むひとみさん。でも私は怯まなかった。
「…私が最初に殺した人も、あなた達と同じ目をしていました」
ひとみさんが息を呑んだ。でも私は気にせず、続けた。
- 64 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:35
- 「その人は人を騙してお金を取りました。それを見てカーッときて。まさか殺すとは自分でも思いませんでしたけど。で、騙すときその人の目が濁っていたんです。ちょうど、あなた達と同じように。それから何度か同じような事があって、気付いたんです。あぁ、嘘をつくとき人の目は濁るんだなって」
そこで切り、ふうっと息を吐き出してからまこっちゃんにぼろぼろの毛布をかぶせた。
そして二人の姿を映さないまま、静かに言った。
「ですから、お二人に同行は出来ません」
そう言い切ってから二人の姿を双眸に収めた。
ひとみさんは戸惑ったようにリカさんを見つめていた。
そのリカさんはというと、目を瞑って溜息を吐き出していた。
「…しょうがないわね」
静かに呟き、目を開けたリカさん。
ゾクリとした。
口の端を禍々しく歪め、私を見つめるリカさんは、ひとみさんとはまた違った迫力をかもし出していた。
ひとみさんが慌てたように牢から手を離し、リカさんの後ろについた。
それを確認したリカさんの右腕が上がり、静かに振り下ろされる。
瞬間…。
- 65 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:36
- 「―――うあっ!?」
私は石畳の上にうつ伏せに倒れこんでいた。
何かに躓いたわけでもない。そもそも私はその場に静止していた。
だから、何かに躓いて転ぶなんてありえないんだ。
「んぐっ!な、何なの…」
隣から聞こえてきた苦しそうな声。首を動かして見てみると、ベッドが真ん中から二つに折れている。
その上にいるのは、さっきまで寝息を立てていたまこっちゃん。
「ま、こっちゃん…だい…じょうぶ?」
起き上がろうとしてみるけど、まるで上から強い力で押さえつけられてるみたいで、全然動いてくれない。
それでもどうにか動こうと、もがいてみる。
そんな時聞こえてきた、甲高く冷たい声。
- 66 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:36
- 「無理よ。あなたたちじゃ指先すら動かせないわ」
リカさんの声だ。私はそれに耳を傾けた。
「あなたがあんまり強情だから、悪いけど力づくで連れて行かせてもらいます。悪く思わないでね」
リカさんがそういい終わったとき、更なる力が加わったみたい。さっきまでとは段違いに身体が重い。
その重さに耐え切れなくなったのか、石造りの床に亀裂が入る。
石畳でさえそんな状況なのだから、ベッドはもっと悲惨だった。
もう元が何かも分からないくらいベシャベシャに潰れていた。
まこっちゃんは仰向けで寝かせてしまったので、苦しそうに目を瞑りながら見えない力に耐えている。
あ、なんか目が…。
『はっはー!!』
- 67 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:37
- 意識が朦朧としだした時、突然聞こえてきた高らかな笑い声。リカさんではない。ひとみさんでもない。
ここにいる誰のものでもない。
では、誰?
「…!今の声は…」
リカさんがそう呟くと同時に、身体が軽くなった。
急いで立ち上がり、まこっちゃんに近寄る。
「大丈夫、まこっちゃん?」
すると苦しそうに呻きながらも、薄っすらと目を開けて微笑んだ。
「どうにか、ね…しかし、何がどうなったの?」
「分からない。突然、あの二人が来て…」
私は牢の外を見やった。
すると、不思議な光景が目にする事となった。
「…ひとみちゃん、今の声って…」
「そんなまさか…。でも、あの変な笑い方は…」
- 68 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:38
- 先ほどまで冷静を保っていたリカさんが、何故かそわそわしていて落ち着きが無い。
それにつられるように、ひとみさんもキョロキョロと辺りを見回している。
その様子を私とまこっちゃんは首を傾げて見つめる。
一体何があの人たちをあんなにまで慌てさせているの?
―――その答えは、すぐに知ることになる
「はっはー!久しいねぇ、お二人さん!」
その人は本当に突然現れた。
「「咲魔凶子!!??」」
リカさんとひとみさんの叫びがはもる。
- 69 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:39
- それを聞いて、石造りの天井を盛大に破壊し現れた長身で目つきの鋭い女性は、口の端を吊り上げた。
…凄く凶暴な笑みが飾られる。
「お前、何で―――」
「悪いけど、あんたらと仲良くおしゃべりするつもりは無いから。んじゃ、バイビー!」
「「っひゃ!?」」
ひとみさんの言葉を遮って、強引に話を終わらせた長身の女性は私たちを両脇に抱え上げ、
自分があけた穴めがけて跳躍した
「――に、逃がさない!」
リカさんの叫びとともに、再び身体が重くなった。長身の女性も、多分その影響を受けているんだと思う。
だって、跳躍した途端その身体はまるで地面に吸い込まれるように落ちていったんだから。
石畳の上に着地。身体が重くて、頭を上げられない。
「たかはしぃぃぃぃぃ!!!!」
そこに響いた、地をも揺るがそうかという叫び声。
声は私の上方から聞こえてきた。
私は、冗談なんかじゃなく、本当に鼓膜が破れるかと思った。
「た、高橋!?あんた、なにやっ…きゃあ!」
「梨華ちゃん!?」
ふと身体が軽くなった。頭を上げて牢の外を見てみると、そこにひとみさんリカさんの姿はなく、
代わりに見た事も無い少女が腕を振り切った姿勢で立っていた。
- 70 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/01(月) 00:39
- その少女がこちらに振り向く。ビクッと身体が震えた。
なぜならその少女の目は、人間のそれではなかったから。
瞳は血のように紅く、瞳孔は獣のように細い。
「さんきゅう!」
私たちを抱えた女性がそう言うと、赤眼の少女は小さく頷き、方向を変えて走り去っていった。
「とうっ!」
女性が再び穴めがけて跳躍。今度は無事成功した。穴を抜けたところは、刑務所の廊下のようだった。
『たかはしぃ!きょうこぉぉ!!』
突然穴の下から聞こえてきた低い怒号。それを聞いて、女性は小さく舌打ちをし、くるりと向きを変えて走り出した。
- 71 名前:19 投稿日:2004/03/01(月) 05:30
- う〜ん まだよくわからないですね
- 72 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 20:18
- 素早く流れていく周りの風景。しかし変わる事の無い景色。
どんなに移動しても飾りっけの無い白い壁だけが続く。
「いたぞ!こっちだ!」
看守さんらしき男の声で、私たちはというか、私たちを抱えている長身の女性は急停止。
苛立たしげに舌打ちをし、踵を返し、急加速。
こんな感じで、さっきから刑務所の中を行ったり来たり。いい加減出口らしきものがあってもいいと思うんだけど、不運な事に全然見当たらない。
私はついさっき、その原因に気がついた。
「あ、あの、ここさっきも通りましたよ…」
私は抱えられながら、頭を捻って長身の女性を見上げ恐る恐るといった感じで呟く。
そうです。この女の人、極度の方向音痴なのです。
「マジでぇ!!??」
彼女はそう叫んで立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回した。
そして首をかしげ、「うーん」と唸る。
そんな時…
- 73 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 20:19
- 「こっちだ!逃がすなあー!!」
先ほどの看守さんの声とともに、左右から大勢の看守さんが現れた。看守さんたちは私たちと一定の距離をとって立ち止まり、
腰についていたホルダーから黒光りする鉄の塊を取り出し、私たちにそれの照準を合わせた。
「もう逃げられん!おとなしく投降しろ!」
その声の後にカチャッという音が廊下に響いた。
私たちに向けられた無数の拳銃の安全装置がはずされたんだと思う。
それからじりじりと迫ってくる看守さんたち。
私は少なからず恐怖を感じた。
「逃げられんだぁ?そんなのはねぇ、アタシの手足をもいでから言うもんだよ!」
そんな時響いた、面白くなさそうな声。
それと同時に私の視界は回転して、一つの窓ガラスを捉えた。
そこに伸びていく、長い足。
――――ガッシャーン!!
という音と共に、窓ガラスは粉々に砕け散り、外とここを遮るものが無くなった。
- 74 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 20:19
- 「どぉりゃあぁぁぁぁぁ!!!」
頭の上から聞こえてきた、気合のこもった大声。それと同時に私は浮遊感を感じた。
下を見てみる。
…血の気が引いていくのが、嫌でも分かった。
「「うわあああああああ!!」」
私の絶叫とまこっちゃんの絶叫が見事にはもった。
地面が遠い。10メートルは確実にある。
「はぁっはーーーー!!」
その距離がだんだんと縮まり、地面が近づいてくる。
何故か拳銃を向けられたときよりも恐怖を感じ、目を強く瞑った。
――ズドン!
身体中に物凄い衝撃が走った。でもいつまでたっても痛みがこない。
恐る恐る目を開けてみると、石畳に亀裂を走らせながらめり込んでいる二本の足。
もちろん、私達のものではない。
私はゆっくりと顔を上げた。
- 75 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 20:20
- 「…し、信じらんない…」
私の気持ちをまこっちゃんが代弁してくれた。その顔は驚愕の表情で埋め尽くされている。
多分私も似たような表情をしているんだろうと思う。
「ふい〜、しびれたねぇ〜」
私たちを抱えた女性は呑気にそんな事を言って、石畳から足を引っこ抜いた。
……ダメージは全くといっていいほど無い様子。
「出口は〜…おっ!あそこっぽいねぇ」
足を軽くぷらぷらさせてから、女性は再び走り出した。その視線の先を追ってみると、重々しくあたりを囲む石垣に一つだけ取り付けられている、鋼鉄製の扉。
- 76 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 20:21
- その扉が唐突に開いた。
顔をだしたのは、先ほど私達の前に嵐のように現れて、去っていった、赤眼の少女。確か、タカハシと呼ばれてたっけ。
でももう瞳は紅くなく、私たちと同じ黒になっていた。
その子が扉から半身だけ出して、私たちに向かって手招きしている。
その表情はどこか焦っている様に見えた。
程なくして扉のところにたどり着いた長身の女性は、止まることなくそこを通過。
少し遅れて、タカハシさんが走りながらその横手についた。
「もう!打ち合わせであれ程出口確認したのに、何で迷うん!?あんた、馬鹿やよ!!」
こっちを見ず、訛った口調で抗議するタカハシさん。
イライラしてるのがよく分かる。
「うっさい!しょうがにーだろ!あの刑務所が無意味に広いのがいけないんだよ!!」
私たちを抱えている女性も苛立たしげに叫ぶ。そこから…。
「なんやよ!」
「なにさね!!」
走りながらの口論が始まった。
- 77 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 20:22
- 私はどうして良いか分からずに、まこっちゃんを見た。そのまこっちゃんも困惑したような顔で私を見ていた。
その間にも、二人の口論は続いている。
その時のこと。
――ズン!!
音と共に、地面が揺れた。二人はそれに驚いて口論をやめ、立ち止まり振り返った。
私は言葉をなくし、目を見開いた。
「…なん、やよ…あれ…」
タカハシさんの途切れ途切れの声が聞こえた。彼女もまた、驚愕しているんだと思う。
むしろ『あれ』を見て驚かない方がおかしい。
――ズゥン…
そこには本来、刑務所があるはずだった。私が三週間ほど服役し、たった今連れ出された刑務所が。
――ズゥン…
- 78 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 20:22
- でもそんなのは無くなっていた。
そこには代わりのように出現した、10メートルはあろうかという灰色の巨人が立っていた。
ごつごつとしていて重量感あふれるその身体。それが移動するだけで、小規模の地震を起こす。
――ズゥン…
その巨人との距離は、およそ800メートル。(結構離れてて驚いた。)
ゆっくりとだけど、確実にこっちに向かってきている。
未知なる物への恐怖が私の心を覆い尽くす。
――ズゥン…
「ちっ!吉澤の奴、高橋に石川殴られてキレたね。〈ゴーレム〉まで出しやがったよ」
私が恐怖に身を震わせている時聞こえてきた、めんどくさそうな声。
そのすぐ後に、私とまこっちゃんはゆっくりと地面に下ろされた。
私たちを担いでいた女性が身を屈め、私の前に膝立ちになった。
そして私にかけられている手枷の鎖を銜えると、
- 79 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 20:24
- 「――――ッフン!!」
気合の声と共に鎖を噛み千切った。私が驚いて目を丸くしている間に、足枷の鎖も同じようにして切断された。
同様に、まこっちゃんの手枷と足枷も。
「どこでもいい、逃げな」
私たちを立ち上がらせ、その女性は静かに言い放った。そしてこちらの返事を待たずに振り向き、
ストレッチを始めた。
「あ、あの!あなたたちはどうするんですか!?」
なんでかな?
あなたたちは何者ですかとか、何で私たちを連れ出したんですかとか、この人たちに対する疑問がいっぱいあったのにもかかわらず、私の口をついで出たのはそんな言葉。
この人たちが誰かもわかんないのに、何で心配しちゃったんだろう?
「大丈夫やよ。後で必ず追いつくから、今は逃げとって」
私の言葉が意外だったのか、タカハシさんは持ち前のびっくり眼をさらに見開いて私たちを見つめた。
けどすぐに微笑んで、優しく言葉を掛けてくれた。
その目に、濁りなんて無かった。
「まこっちゃん、行こう!」
「えっ、ちょっ!?あさ美ちゃん!?」
ポカンと口を半開きにして灰色の巨人を見上げていたまこっちゃんの手を握ると、刑務所とは反対方向に全速力で走り出した。
―――ズゥン…
走りながら少しだけ振り返ってみると、こちらを見つめていたタカハシさんと目があった。それに気付いたタカハシさんは私に優しく微笑んでくれた。
そして既に走り出していた長身の女性の後に続くように、灰色の巨人に向かって走り出した。
- 80 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 20:24
-
どこか懐かしさを感じたその笑顔に首を傾げながら、私たちは林の中を直走っっていった。
- 81 名前:我道 投稿日:2004/03/04(木) 20:27
- >>71 19様
すいません。また今回も核心に触れられませんでした(涙)
しかも、まだ一話(死)
本当にすいません。もうすぐで一話を終わらせたいと思います(焦)
- 82 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 21:42
- オリキャラとのことですが自分の中で既にイメージは固まりました。
ビジュアルはやっぱあの犬神凶子ってことでいいんですよねw
- 83 名前:我道 投稿日:2004/03/04(木) 22:31
- 先ほど、終わりのようなコメントを書きましたが、
今日は時間があるので、一話終了まで更新したいと思います。
- 84 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:45
-
□□□□□□□□□□□□□□□
あんなもの、初めて見たやよ。
あたしは走りながらため息を吐いた。それから気合を入れなおす。
でも、目の前にそびえ立つその灰色の巨人を見るとやる気が失せていくように感じる。
…こんないっけえの、反則やよ。
「おらぁ、たかはすぃ!間抜けな顔してないで、気合入れな!気合!!」
そんな気持ちが顔にまで表れてしもたみたい。凶子さんに怒鳴られた。
再度気合を入れなおしそのいっけぇのを見据える。そして考える。
吉澤さんの『能力』は『石に関すること』だと聞いた事がある。でも実際使ってるところを見た事が無いので、その威力や使い勝手は見た事が無い。
だから正直石なんてたいした事無いとあたしは踏んでいた。
でもこんなのを見せられた日にゃあ、そう勝手に決め付けていた自分が浅はかに思えてくる。
…確実にこの人はあたしよりも強い。
- 85 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:49
- 《お前らだけはぜってー許さねえかんな!!》
あたりに低い怒鳴り声が響いた。発生源は、あの灰色の巨人。
「ふんっ、ピンク狂が気ぃ失ったくらいでガタガタ騒ぐんじゃないよ!バカップルの片割れがっ!!」
《な!何だとぉ!!》
…この人は馬鹿や。それも底なしの。
何でわざわざ、火に油を注ぐようなことをするんかの?
《こぉのー!!》
その掛け声と共に灰色の巨人―先ほど凶子さんが〈ゴーレム〉といった物体の太い腕が天高く振り上げられた。
あたしは嫌な予感がして、咄嗟に急停止。
でも凶子さんは凶暴な笑みをたたえながら、一向にスピードを落とさず〈ゴーレム〉に向かって突っ込んでいく。
《おぉらあぁぁぁ!!!》
空気抵抗をものともせず、それは振り下ろされた。
巨大な拳が落ちてくるその様は、まるで隕石の落下のよう。一つ違うとこがあるとすれば、
それは寸分狂わず目的に向かっているという事。
「きょうこさぁーん!!よけてぇー!!」
- 86 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:50
- あたしは力の限り叫んだ。
それでも凶子さんは走る事をやめず、〈ゴーレム〉に向かって全力疾走。
―――ズガアァァァァ!!!
物凄い音と振動、更に突風を舞い起こして巨大な拳は地面に叩きつけられた。
あたしは風から顔を守りながら、飛ばされぬようにどうにか耐えた。
風が収まってから、巨大な拳が突き刺さっているところを見てみる。
そして、絶望。
顔から血の気が引いていくのを感じ、身体からは力が抜けその場に膝をついた。
「う、嘘や…」
力なく呟く。
その拳の下は、明らかにさっきまで凶子さんがいた場所。
…やから、よけて言うたのに。なんで、走んのやめないんよ…。
- 87 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:51
- 《こいつ馬鹿だねー。わざわざ潰されにくるなんてさー》
あたりに響く嘲笑。あたしはまだ呆然と、凶子さんがいた場所を見つめていた。
『誰が馬鹿さね!!!!』
唐突にその声は張り上げられた。
〈ゴーレム〉から聞こえていた嘲笑が消え、息を呑むのが聞こえた。
あたしは我に返り、その声の主を見つけようと必死に辺りに目を馳せる。
「ど、どこ?どこですか、凶子さん!?」
『この、あんぽんたん!ここに決まってんじゃないか!!』
再び聞こえてきた声の発生源を見て、目を見開いた。
…信じられん。この人は本当に人間なんか?
「ぬぅおるあぁぁぁぁ!!!」
土まみれになりながら、巨大な拳を両手で掴んで押し上げようとしている凶子さん。
少しずつだけど確実にその巨大な拳は持ち上がってきている。
《こ、この、化け物がぁ!!》
少しあせったような怒号と共に、拳に更なる力が加わったみたい。
やって、凶子さんの動きが鈍くなったんやもん。
- 88 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:51
- 「…け…は……」
苛立たしげに何か呟く、凶子さん。その姿を見て、あたしは息を呑んだ。
…明らかに凶子さんの周りだけ、何か空気が違う。なんちゅうんやろ…。
「化け物は、アンタだろぅぐあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
…分かった。間違いない、あれは…怒りのオーラや!
「だりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ひいぃぃぃぃぃ!!」
凶子さんの気合のこもった大声と、あたしの悲鳴が重なった。
やって、あの人あのいっけぇ腕を身体ひねって、付け根からもいじまったんやよ!
《な!?わ、わわわ!》
〈ゴーレム〉は右腕を失ったせいでバランスを崩し、倒れこみそうになった。でも、どうにか持ちこたえたみたい。
…まさか吉澤さんもこんな事になるなんて、思っても見なかったやろな…。
- 89 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:52
- 「ちぃえすとぉぉぉぉう!!」
「うそやよー!!」
あたしは頭を抱えて絶叫した。あ、ありえん。
――バガアァァァ!!
凶子さんが野球のばっちんぐの要領で振り切った〈ゴーレム〉の腕が、本体の頭部にヒット。
衝突の瞬間、腕と頭は粉々に砕け散った。
そしてその衝撃でさらにバランスを崩した〈首なしゴーレム〉は倒れこんできた。
…あたし達のいる方へ。
「ぎゃ――」
「逃げんよ、高橋!」
三度悲鳴を上げようとしたところを、突風のように走ってきた凶子さんに抱えられ、遮られた。
そのまま、凶子さんはさらに速度を上げて林の中へと突き進んでいく。
――ドゴオォォォォ!!
後方からの物凄い音と一緒に、地震が起こった。
でも凶子さんはそれを気にせず、ただ直走る。そして泣きそうな声で、一吼え。
- 90 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:52
- 「どっち行ったら出れるんだよぉぉぉ!!」
…あたしらが林を抜け出すのは、もうちっと(大分)後の事。
- 91 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:53
- ――――
――――――
――――――――
「ハア、ハア、ハア……」
走り続けるのに限界が来て、私とまこっちゃんはその場にへたり込んだ。
逃げろと言われ、走りに走って林を抜け、今人気のない路地裏。昼間なんだけど、全く人の気配が無いので安心して休める。
「ハア、フハ…ふう…」
どうにか呼吸を整え、改めて今まで起こったことを整理してみる。
でも…、
「あさ美ちゃん、一体何がどうなってんの?」
まこっちゃんに声をかけられ、思考は一時中断。
見ると、困惑したような、なんとなく情けない顔で私を見つめているまこっちゃんがいた。
「…私にも何がなんだか…」
「そりゃ、そうだよね」そう言って彼女は俯いてしまった。私もつられて俯く。
- 92 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:54
- 「いた!凶子さーん、いたやよー!」
聞き覚えのある声に顔を上げた。まこっちゃんとそろって左右を見回す。
誰もいない。
――――?
「ひゃあ!?」
「おひさしぶり照り―――ぐはっ!」
それは突然空から降ってきた。着地は…失敗したみたい。
それは無造作に置かれていたゴミの山の中に見事に突っ込み、何かを言おうとしたみたいだけど叶わなかった。私たちがそれに呆気にとられていると、
「…アホや、アホや思うてたけど、まさかここまでアホやとは…」
背後から呆れたような、疲れたような、そんな感じの声が聞こえた。
私たちは慌てて振り返った。
- 93 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:54
- 「あ〜、そんなに怯える事無いよ。あたしら、あんた達の味方やから」
そこには困ったように笑い、手をひらひらとさせているタカハシさん。
「そういや、自己紹介まだやったね。あたし、高橋愛。んで、そっちのデカイアホが咲魔凶子」
高橋さんがそう言って私達の後ろを指差す。それを追って振り向いた。
「フンガァ!アホアホ言うんじゃないよ!…というわけで、咲魔凶子さ。よろしくね」
するとゴミを蹴散らし、出現した長身の女性―咲魔凶子さん。私たちはちょうどこの二人に挟まれる形になっている。
「…紺野、あさ美です」
「…小川麻琴」
相手から名のってくれたんだから、一応私も名乗っておく。まこっちゃんも二人を警戒しつつも、小さい声で自分の名前を呟いた。
「よしよし。でわ…」
「「わっ」」
突然凶子さんに襟首をつかまれ持ち上げられた。
…思ったんだけど、この人凄い力強い。
「ま、待って下さい!一体、何なんですか!?あなたたちは誰なんですか!?」
そのまま歩き始めようとした凶子さんに慌てて尋ねる。あわせてまこっちゃんが幾度か頷いた。
それに対して高橋さんは表情を曇らせたけど、凶子さんは眉をピクッと動かしちょっと不機嫌そうな顔になった。けど、それは一瞬の出来事で、すぐに満面の笑みが飾られた。
「話は家についてから。悪いね」
そう言ってから再び歩き出した。
もちろん私はそんな言葉では納得できない。
「今、はなし―――」
「あ、でもこれだけは言っとくよ」
私の抗議の声を凶子さんは私を見ずに遮った。そして続ける。
- 94 名前:錆び付いた時計、動き出すトキ 投稿日:2004/03/04(木) 22:55
- 「――『さび付いていた時計が、再び、時を刻み始めた』のさ・・・」
それを聞いた私は終始、困惑顔。まこっちゃんも同じ。ワケが分からない。
でも高橋さんだけは、何か痛みに堪えるような表情をしていた。
- 95 名前:我道 投稿日:2004/03/04(木) 22:59
- ぐあァぁぁぁ!!
ワケが分かりませんね、はい。すみません(涙)
でも、これで「マイビリ」一話終了です。謎は二話以降で・・・
>>82 名無し飼育さん様
はい、オケーです(笑)
あの人のちょっと背が高い番って所でしょうか。
- 96 名前:19 投稿日:2004/03/05(金) 03:25
- えぇ、全然わかりませんとも!だから読み続けます。
凶子さんキャラ濃いっすねー(笑)
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/09(火) 14:30
-
―――――選択肢―――――
- 98 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:38
- 目の前に並ぶ、得体の知れない何かが入った数個の皿。
一つは紫色の液体でゴポゴポとあわ立っている。
一つは何かの手のような、足のような…。
一つは風船のように膨らんでいるボール上のモノ。など等。
「さ、腹減ってんだろ。たくさん食いな」
それらをニコニコしながら進めてくる、咲魔凶子さん。
その大きな身体は黒いエプロンを羽織っている。
咲魔さんの家に連れて行かれて、入った途端に私のお腹がなった。
まこっちゃんにパンを半分分けたせいで、お腹が満たされていなかったみたい。
それを聞いた咲魔さんは高らかに笑うと、すぐに行動に移った。
『うんまいモン作ってやるよ。ちょっと待ってな』
と言い残し、台所にこもった。
手伝いに行こうとしたんだけど、意味不明の叫び声やら正体不明の音などが聞こえてきて
恐ろしくなり引き返して終わるのを待った。
- 99 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:38
- そして巨大なお盆いっぱいにご馳走(咲魔さん自称)をのせ、傷だらけの咲魔さんが現れたのは一時間後。
こうして私、まこっちゃん、高橋さんの咲魔料理とのにらめっこは始まった。
「ほうしたんだい?ふはないのかい?」
何かの目玉らしきものをほお張り、噛み砕きながら不思議そうに私たちを見つめてくる咲魔さん。
高橋さんとまこっちゃんはその様子を見て、顔色を青くして口元を抑えた。
なにげに、というか凄く失礼な事したね。
…でもそれもしょうがないと思っている自分がここにいる。
「なんだい、二人とも気分が悪いのかい?」
今度は紫色のスープを啜りながら尋ねてくる。
それに二人は弾かれたように顔を上げ、慌てた口調で捲し上げた。
- 100 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:39
- 「そ、そうなんやよ!ちょっと気分がすぐれんくて、食べられそうにないんよ!」
「い、いや〜、残念だけどこれはみんなあさ美ちゃんに上げるよ。あさ美ちゃん、お腹減ってるみたいだしサー!」
私は絶望し、青ざめた。
…そりゃ、よく言われますよ。私は食べてるときが一番幸せそうだって。
でも、こんなので幸せ感じられるほど、ずれてはいませんよ。
「ちょ、ちょっとまっ―――」
「あさ美ちゃんにはパンわけてもらったしさ、これはあたしからの御礼だと思ってよ!」
引きつった笑いを私に向け、まこっちゃんはとんでもない事を言い放った。
…コノヤロウ。
恩を仇で返すとは、こういうこと。
私はこの時、まこっちゃんへの復讐を誓った。
「ん〜、それならしょうがない、紺野に食ってもらうかねぇ」
もう逃げられない。
私に向かって、輝けるほどの笑顔を向けてくる咲魔さん。
まこっちゃん、高橋さんはあらぬ方向を向いて口笛を吹いている。
私は一度息を呑み、手の震えを押さえながらスプーンを持った。それを紫色の液体にいれ、掬う。
何か四角い物体が乗っていた。
- 101 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:40
- 「…ふぅ〜」
小さく息を吐き、芽を強く瞑って、それを一気に口まで運び飲み干す。
次の瞬間、私は目を見開いた。
「……………おい、しい………………」
「「えええっ!!!???」
私の思わずの感想に、口笛を吹いていた二人は叫び声を上げて椅子ごと後ろに倒れこんだ。
咲魔さんは、納得したように頷いている。
「そうだろ、そうだろ?今日のはアタシが腰によりを刷けて作ったんだからね」
「ほんとにおいしい!何これ!?」
咲魔さんが間違った言葉の使い方をしていても気にならないほど、その料理(?)は美味だった。
だから思わずがっついてしまい、私は三人前をあっという間にたいらげた。
- 102 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:40
- 空になって積み上げられた皿をポカンとした表情で見つめる、高橋さんとまこっちゃん。
…あ、まこっちゃんへの復讐は無かった事にしてあげる。
本当に美味しかったんだよ、これ。
「さて、腹も膨れた事だし、何から説明してほしい?」
咲魔さんのその言葉に、私ははっとした。
咲魔さんは頬杖をついて、笑みを飾りながら私を見ている。目が合った。
「…一体何が起こっているんですか?」
私は少し考え、咲魔さんの目を見つめながら言った。
凄く漠然としているのは自分でもよく分かっている。でも聞きたい事が多すぎて、まとめられない。
だからこういう形で問いかけてみた。
すると咲魔さんはニヤリと不気味な笑みを浮かべた後、口を開いた。
「そうだねぇ、じゃあまずはあの二人のことから説明するかね」
あの二人の事…そう言われた瞬間私の頭に浮かんだ人物はリカさんという全身ピンクの人と、ひとみさんという金髪の人。
多分この二人の事で間違いないと思う。
- 103 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:41
- 「あのピンク狂でアゴの女が石川梨華。金髪のほくろが吉澤ひとみ。こいつら見てるだけで、重りつけて日本海の奥底に沈めたくなるようなバカップルさ」
そこまで言うと、咲魔さんは露骨に顔をしかめた。
なんとなく分かるような気がする。
「で、何でその石川さんと吉澤さんがあたしたちを連れ出そうとしたの?」
そう言ったまこっちゃんは少しイライラしてるみたい。
わけの分からない事が重なって、彼女のストレスを増幅させているんだと思う。
「まあ、そう慌てなさんな。ちゃんと順序ってモンが・・・」
「いいから早く話してよ!」
両手を机に叩きつけて身を乗り出すまこっちゃん。真剣な眼差し。
それはしっかりと咲魔さんを捉えている。
でも咲魔さんは少しも怯んだ様子もなく、それをへらっと笑いながら見つめ返す。
「ちゃんと説明するってばさ。落ち着きな」
「まこっちゃん、今は静かに話し聞こ?」
そんな咲魔さんの態度に腹が立ったみたいで、まこっちゃんは握りこぶしを振り上げた。
- 104 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:41
- でも私が諭す様に言うと、まだ納得のいかないような表情だったけど席に座りなおしてくれた。
私は咲魔さんに目だけで先を促した。
「…『S.P.K.G』って知ってるかい?」
一呼吸置いてから、突然咲魔さんの口から出た単語。
―――『S.P.K.G』?
どこかで聞いたような覚えが…。
「…あっ!」
「はい、紺野」
思わず上げてしまった声。それに反応し、私を指名する咲魔さん。
思い出した。
『S.P.K.G』って・・・。
- 105 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:42
- 「あの、『平和維持』を目標に掲げ行動している会社のことですか?」
「べりーぐっど!見た通り、優秀だねぇ紺野」
私に向かって親指を立て、ニカッと笑う咲魔さん。
「で、その会社がどうしたの?」
そこにまこっちゃんは再び苛立たしげに言葉を発した。
すかさず私は宥める。
「そいつらはね、紺野の言ったとおり『平和維持』を目標にして日々行動しているわけ。ちなみにその活動内容は、武力行使を前提に紛争を止める。本当は法律で禁止されているんだけどね、こいつらは特別。国家公認ってワケ。で、この会社の社員が石川と、吉澤なのさ」
「・・・二人だけなんですか?」
「うんにゃ、違う。もちろん、もっといるさね」
「で、その人たちが何で犯罪者のあたしたちを連れ去ろうとしたの?」
- 106 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:43
- …まこっちゃんいい加減落ち着こうよ。
「そりゃ、単に仲間にしたかったんだろうねぇ」
「「はぁ?」」
私とまこっちゃんの気の抜けたような声がハモる。
…そんな、
「そんなことあるわけ無いでしょう?」
私は少し自嘲気味に言い放った。
それに咲魔さんは無表情で、私を見つめてくる。
「なんで『平和維持』を掲げた会社が、犯罪者をほしがるんですか?そんなのおかしいですよ」
「…犯罪者でもなんでも、あいつらは能力の高い奴をほしがるのさ」
「能力が、高い?」
「そ。小川は一人で『虹橋』のビル破壊。紺野は一人で50人以上を殺害。それもどっちも16歳のガキがよ。それ知ったとき、あいつら喉から手が出るほどほしかったんだろうねぇ。だからわざわざ、裁判所に手回してまであんたらを生かしておいたんさね。そいつらがいなかったらあんたら今頃死刑んなって、この世にいないね」
咲魔さんがそこでいったん言葉を切ったとき、まこっちゃんが目を丸くして私を見つめてきた。
理由は分かってる。
- 107 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:43
- 牢の中での危惧は当たっていた。やっぱり私たちは『生かされた』んだ。
他人に生かされたってのは少し釈然としないけど、でも過ぎた事は仕方ない。しかも私たちにとっては良いほうに仕組まれたんだから、まあ良しとしますか。
一つの疑念は消えたけど、また一つ疑問が浮かんできた。
「え、ちょっと待ってください。じゃあ、なんで咲魔さんたちは私たちが連れて行かれそうになったのを妨害したんですか?」
平和維持を目標に掲げて活動しているんだったら、それを邪魔する事っていけないことなんじゃないのかなぁ?
そう思って聞いてみたんだけど、咲魔さんは顔をしかめて吐き捨てるように言った。
「はっ!ホントに『平和維持』を目指して活動してんなら、アタシはグースカ寝てられるさ!」
「・・・どういうこと?」
まこっちゃんの顔に疑念の色が灯る。多分私も同じ。
でも高橋さんは悔しさをかみ締めるような表情になっていた。
- 108 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:44
- 「そういうことさ。あいつらその活動するため国からもらった金使って、なんかやばそげな事してるんだってよ」
「ヤバそげな事って?」
「それはねぇ…」
息を呑んだ。
いきなり真剣な表情になった咲魔さんが私たちを見つめてきた。元来の目つきの悪さから、それは睨んでいるともとれる。
つまるところ、怖いんです。
私とまこっちゃんは何故か息を止め、次の言葉を待った。
「…知らないぴょ〜ん」
だから二人して机に顔面からつっこんでしまいました。
これまたいきなりへらっと笑って、おどけた様な口調で咲魔さんは言ったからです。
私は額を押さえながら、はあと軽くため息を吐いた。
隣を見るとまこっちゃんがこめかみに青筋を浮かべながら、プルプルと震えていた。
- 109 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:44
- 「…ふざけないでくださいよ」
「はっはー、スマンべなぁ!ホントに知らないんだわぁ」
まこっちゃんを宥めながら、再びのため息。
この人に会ってまだ全然短いけど、この人の性格が分かってきた気がする。
「ま、唯一つ言えるのは『平和維持』なんてたいそうな事掲げてっけど、実際はそんな事どーでもいいんだよ。だからアタシは邪魔するのさ。気にいらねえからねぇ」
そう言ってから、咲魔さんは高らかに笑いながら空になった食器を持って台所へ入っていった。
暫くすると水の流れる音と、上機嫌な歌声が聞こえてきた。
食器を洗っているみたい。
- 110 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:45
- 「ま、そういうことなんよ」
ここで今まで黙っていた高橋さんが口を開いた。どこか曖昧な笑顔を浮かべて。
「…まあ、大体のことは分かったけど、これからあたしらにどうしろと?」
まこっちゃんが椅子の背もたれにもたれながら、高橋さんを見つめた。私も同じ事を思っていたので、頷いてから高橋さんを見る。
「ん〜、出来ればあたし達の手伝いをしてほしいんやけど…」
彼女は頬を掻きながら、曖昧に笑う。
――――どうして、そんな表情をしているんですか?
- 111 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:45
- 「手伝いって?」
「『S.P.K.G』が裏で何やってるかを探るんよ」
「…探ってどうするんですか?」
「…警察に知らせる。いくら国家公認やからって、やばい事しとったら捕まえてくれるやろ」
「ふ〜ん」
まこっちゃんはどうでもよさげに相槌を打ってから立ち上がり、玄関に向かって歩き出した。
「まこっちゃん、どこ行くの?」
「出てくんだよ。あたしらが手伝わなきゃいけない理由なんて無いじゃん。せっかく刑務所から出られたんだし、もっと遊びたいよ」
振り向いたまこっちゃんは少し怒っているみたいだった。
鋭い眼差しで高橋さんを睨みつける。
高橋さんは何か言いかけてたけど悲しそうな表情を浮かべると、口を閉ざして俯いてしまった。
それを見ると、まこっちゃんは鼻を鳴らして、ドアノブに手をかけ、回す。
その時後ろのほうから、嘲笑とも取れるような高らかな笑い声が聞こえてきた。
- 112 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:46
- 「ふふん。まあ、別に出て行っても良いけど、アンタ自分が重罪人だって事忘れてんじゃない?警察の奴ら当然動いてるだろうし、ついでに『S.P.K.G』の奴らも動いてっからねぇ。一体何日、いや何分もつかねぇ」
いつの間にかビール瓶片手に戻ってきていた咲魔さんがそう言うと、まこっちゃんは肩をピクッと震わせた。
ドアノブを掴んでいた手を静かに下ろし、こちらに振り向く。
その顔には表情がなく、まこっちゃんのそんな表情をみた事のなった私は思わず身を引いてしまったんだ。
「だめっ!麻琴、だめやが!」
高橋さんが椅子から立ち上がりそう叫んだとき、まこっちゃんはこっちに向かって何かを投げたようだった。
―――ボンッ!
その直後、後ろで上がった何かの破裂する音。慌てて振り返ってみると、咲魔さんがいたところに煙が濛々と立ち込めていた。
私は何が起こったのかわからず、その煙と、投げた姿勢のままのまこっちゃんを忙しなく見比べていた。
- 113 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:46
- 「おっとっと。マジ切れ寸前3秒前かい?」
晴れていく煙の中から現れたのは、不敵な笑みを浮かべた咲魔さん。
顔中が炭で黒くなって、頭は爆発している。いわゆる、アフロってやつかな。
…何か、どこかの大道芸人みたいだなぁ。
「うるさいよ、いちいち」
なんて失礼な事を考えていたら私の横から腕が伸びてきて、咲魔さんの胸倉を掴んだ。
首を少し捻って見てみると、そこには苛立たしげな感じのまこっちゃん。
怒りの色を浮かべた双眸はしっかりと咲魔さんを捉えている。こんな空気の中でも咲魔さんは笑みを隠さず、でもしっかりとまこっちゃんを見つめ返していた。
「その目つきがムカつく」
「悪いけど、これは生まれつきなんだよねぇ」
「――――っ!」
咲魔さんの態度にまこっちゃんの怒りは頂点に達したみたい。忌々しげに唇を歪めると、拳を振り上げた。
でもその拳が振り下ろされる事は無かったんだ。なぜかって?それはね、
- 114 名前:選択肢 投稿日:2004/03/09(火) 14:46
- 「さんきゅ〜、たかはすぃ」
「…あんまり刺激しないでほしいやざ」
机に突っ伏すように倒れこんだまこっちゃんの後ろから現れたのは高橋さん。どこか疲れたような表情。
「ま、まこっちゃん!?」
倒れこんでから全然起きようとしないまこっちゃんが心配になって、強く揺さぶってみる。
「あ〜、だいじょぶやよ。ちぃーと気絶してもらっただけやから」
高橋さんのその言葉で安心すると同時に、怒りがこみ上げてきた。
そして気付いたら高橋さんに掴みかかっていた。
「なんでっ!なんでいきなりこんなこ―――うっ!」
突然首筋に走った鋭い衝撃。目の前が暗くなり、身体からも力が抜ける。
その時既に、私の意識ははるか彼方に―――。
- 115 名前:我道 投稿日:2004/03/09(火) 14:52
- 97の所名無し飼育さんとなっていますが、あれ私です。
間違えてしまいました。すいません(涙)
>>96 19様
す、すいません!分からなすぎてすいません(凹)
でも読み続けてくれるとは、もう感謝の極みにございます!
これからも頑張ってかいていきたいと思うので、よろしくお願いします!!(ペコリ)
- 116 名前:19 投稿日:2004/03/10(水) 03:06
- 紺ちゃんの頭の中がいいかんじです
あの…作者さん腰低すぎ(笑)
- 117 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:15
-
- 118 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:16
-
「ちょっと、乱暴すぎやよ」
あたしは意識の無いあさ美ちゃんを両腕で支えながら、凶子さんに文句を言う。
…この人、何も言わずいきなし首にズビシやよ。ひどいわぁ〜。
…まあ、あたしも同じ事したんやけどの・・・。
「ほれ、乱暴でも何でもいいから、さっさとこいつら寝かせるよ」
あたしの言葉なんか完全に流し、麻琴を担ぎ上げて寝室に足を向ける凶子さん。
―――はぁ…。
心の中でため息をつきつつ、あさ美ちゃんを運ぶ。
「あ、紺野はそっちの布団ね」
「・・・決まっとんの?」
寝室に敷かれた二つの布団。
指示通り、右側があさ美ちゃん、左側が麻琴というふうに寝かせた。
- 119 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:17
- 「ふふっ」
二人の寝顔を見て思わず頬が緩んでしもた。
麻琴、口開けて寝とったら喉痛めるよ。
あさ美ちゃん、もう夢見とんの?口がパクパク動いてるが。
「可愛いねぇ」
「・・・そうやね」
でも同時に胸が痛んだ。
「どうしたんだい、高橋?どこか痛むのかい?」
よほど辛そうな顔をしてたんかの?
凶子さんが心配げな顔して、あたしの顔を覗き込んできた。あたしはポツリと呟くように話し出した。
「・・・凶子さん、なんで嘘なんかついたんですか?」
「・・・なんだい、その事か」
笑いながら答える凶子さん。その姿に腹が立って、思わず
「なんだとはなんやよ!?」
叫んでしもた。
- 120 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:17
- 途端に凶子さんの大きな手に口をふさがれる。
「あほ、こいつらが起きちまうだろ。話なら、あっちでしようじゃないかい」
凶子さんはそう言って顎でさっき食事をしたところ、つまり居間を指す。
あたしはそれに静かに頷いた。
凶子さんはニッと笑って、あたしの口を塞いだまま居間に移動。
そしてあたしを座らすと、台所に入っていった。
「ビールでいいかーい?」
思わず椅子ごとこけてしまった。台所から「静かにー」って声が聞こえてきたから、「あんたのせいやっ!」と心の中でつっこんでおいた。
音を立てないように注意して椅子を起こし、座りなおしてからこれまた静かに一言。
「…ビール以外でしてんでの」
聞こえたのか聞こえてないのか。返事をしないから分からない。
- 121 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:18
- 暫くすると、ビール瓶2本と日本酒一升を持ちながら帰ってきた。
「ほい」
短くそう言うと、一升瓶をドンとあたしの前に置く。
「・・・なんやよ、これは?」
「?見りゃ分かんだろ。日本酒さね」
そんな事は―――!
「分かっとるよ!なんで、日本酒をあたしの前にだすんかって聞いとるんよ!」
バンと机をはたいて勢いよく立ち上がる。でも次の瞬間には気づいて、反省。
あたしは静かに座りなおして、凶子さんを睨んだ。
「だってあんた、ビール以外のものって言ったじゃないか」
- 122 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:18
-
…………………殺…………………
- 123 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:19
- はっ!いかんいかん!考えがダークすぎやよ!
あたしは自分を落ち着かせるため、一度大きく息を吐いた。そしてもう一度凶子さんを睨みつける。
「・・・未成年に酒出すオトナがどこにいるんよ」
「ここに♪」
あたしが不機嫌なのにもかかわらず、彼女は全然悪びれた様子もなくて。
意地が悪そうに笑っては、自分の事を指さしてる。
- 124 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:19
-
…………………皆殺…………………
- 125 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:20
- はっ!!だめやって!さっきより、ダークになっとるがし!
…はあ、もういいや。こっちが疲れるだけやし。
「・・・で、何でなん?」
あたしはこの人の事を責めるのをあきらめて、話を戻そうとした。
凶子さんはビールをラッパ飲みしながら目だけで「何が?」と尋ねてくる。
あたしはこの人と会ってから何回目になるか分からんため息を吐いた。
「・・・なんで二人に嘘をついたのかってことやよ」
「―――――ぷあっ!あぁ、その事ねぇ」
ビール瓶から口をはずし、明後日の方向を見ながらどこか投げやりに呟く凶子さん。
そしてあたしのほうを見ないで、ビール瓶を見つめながら一言。
「・・・あんた、言って良かったと思ってるのかい?」
先ほどまでとは全然違う声の低さに一瞬びっくりしてもうた。
「そ、そりゃあ、どっちかってーと言ったほうがよかったんやない?」
- 126 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:20
- だからちっとどもりながら答えてしもた。
すると突然凶子さんが、感情の色の入っていない目であたしを睨みつけてきた。
あたしの周りの温度が、数度下がった感じがし、あたしは身を震わせる。
あたしを睨みつけたまま、凶子さんは静かにこう言った。
「・・・真実を言ってたら、あいつらが壊れていたかもしれないとしてもかい?」
言われた意味がよく分からない。あたしは固まりながら呟いた。
「・・・どういう、ことですか?」
「言ったままの意味さ。この短時間で、あいつらの周りにはいろんなことが起きた。だから、あいつらの精神状態はきわめて不安定。穴だらけのジェンガみたいなもんさ。いつ崩れるか分からないってね。そんなとき“ホントのこと”言ってみ?爆発して、なにすっかわかんないよ」
言われてあたしはハッとして、俯いた。
- 127 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:21
- 確かにそうかもしれん。むしろ精神状態が安定してても、“あんな事”言われたら壊れてしまうかもしれないのに…。
なんで、あたしは気付かなかったん?
ううん違う。本とは、気付いてたんや。
でも早く真実を知ってほしいと思ってたから、現実とちゃんと向き合って生きてほしいから、その考えを奥底にしまってしもうたんや。
…あたしは自分のエゴで、あの子たちを壊してしまう所やった。
―――――ひってのくてぇやなぁ、あたし。
「・・・すい、ック、ませ、ヒぅ、んでした」
いつの間にか泣いていたみたい。頬から流れた涙が、ジーパンの腿を濡らす。
―――――のくてぇ上に、情けな…。
「馬鹿だねえ。泣く事なんか無いのに。つーか、何で泣いてんのさ?」
俯くあたしに降り注ぐ、いつもの凶子さんの明るい声。
あたしは顔を上げた。
その瞬間、凶子さんは呆気に取られたような表情になった。
「ヒック。・・・やってぇ、あたし自分が情けなくて・・・自分のエゴあの子らに押し付けようとしとった自分が、ひって恥ずかしくてぇ・・・」
- 128 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:21
- あたしはしゃくりあげながら答えた。その時も凶子さんはポカンとした顔。
でも、
「・・・・・・ぷっ!」
それは唐突に崩れた。
「びゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!な、なにさね、その顔!は、はにゃみずに涙でグシャグシャはははは!ひーひー、腹いてぃーよー!!」
馬鹿みてに腹を押せて笑いまくる凶子さん。
失礼にもあたしを指差しながら。
「こ、ここは笑うとこやないよ!普通、なんか励ましの言葉かけてくれるやろぉ!」
怒りながらも急に少し恥ずかしくなって、机の上にあったティッシュを何枚か取り出して涙と鼻水を拭く。
凶子さんは二人が寝ているのを思い出したみてぇで、声を押し殺しながら笑っている。
- 129 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:22
- 「んくくく、悪い悪い。まあ、アンタの言いたい事はわかった・・・ぶふっ!」
無理やり真面目顔に戻しても、どうやらつぼに入ったらしくすぐそれは崩れて、だらしなく笑い出す。あたしはむくれながら、このアホを睨みつける。
「・・・あんたを少しでもかっこええと思った自分がのくてぇやった」
「ひふふ―――あん?何か言ったかい?」
左右に首を振る。わざと聞こえないように言ったんやもん、誰が教えてやるか。
この、のくてぇ!!
「――?まあ、いいさね。にしても、あー、すっごい笑ったねえ」
アホは気持ちよさげに伸びをする。あたしにとってみれば、腹の立つことこの上なし。
「でもさぁ、小川には少しながら驚いたねぇ」
ムカツキを晴らすため、思わず日本酒に手が伸びててもうた。でも凶子さんのその言葉にピクッと肩が震えた。手もビンに触れる寸でのところで止まっている。
凶子さんは言葉を続けた。
- 130 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:23
- 「まあ、ありえない事ではなかったんだけどねぇ。まさかもう自分の意思で“能力”使えるとはねえ。拍手喝さいだねぇ」
どこか投げやりに言う凶子さんを、あたしは手を引っ込めて見つめた。
「・・・あの人ら、このこと予想してたやろか?」
あたしの言葉に凶子さんは口の端を吊り上げる。凶暴な笑みが飾られた。
「小川のことは予想してただろうけど、予定は狂っただろうねぇ」
「えっ?」
わけが分からず思わず素っ頓狂な声をだしてしもうた。
凶子さんはビールを飲み干し、一呼吸置いてから静かに呟いた。
「アタシらの行動さね」
言い終えてから、肩を小刻みに震わせる。どうやら笑ってるみたいやの。
「今頃、石川と吉澤しぼられてんだろうねぇ。ざまぁみぃって感じだねぇ。ひひゃは」
…嫌な女やなぁ。
- 131 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:23
- そんな失礼な事を思いながらも、どこかこの人は頼りになるなぁと思っていた。
この人自分の事しか考えていないみたいに思われがちなんよ。
まあ、実際ホントにそうなんやけど。ジコチューでチョートツモーシンで、ホントどうしようもねぇのくてぇで。
でも、さっきみてに何気なく他人にだす優しさがあたしは好き。
この人と“再会”したときは、この人の悪い噂しか知らなくて怖かった。
ほやけど、今は頼りにしてるんよ。
まあ、言うと照れるっけ、言わんけど。
「高橋、何ニヤニヤしてんのさ?気持ち悪いねぇ」
オーバーなくらい身を引きながら、言う凶子さん。
…人が褒めてやってんのに、こののくてぇは。
「・・・アンタのアフロがばかみてに似合うっけ、道化でもやったらええとおもってたんよ」
「何気に酷いねぇ、たかはすぃちぃや〜ん」
ぶっきらぼうに言うあたし。
けど凶子さんは全然気にした様子もなく、二本目のビールの蓋を指で開け、再びラッパのみを開始。
…もう、なんか、本格的に疲れてきた・・・。
- 132 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:24
- 「・・・あの子達、これからどうするん?」
だから、これが最後の質問。終わったら、まだ夕方だけど寝る!ぜって!
「ぷはっ!あん?そんなのあいつらに決めさせる」
「はあっ!?」
さっきの言葉を取り消したくなる事を言い放った凶子さん。
やっぱ、ジコチューなんか!?
「なんで?それやったら、わざわざあんな苦労して、ここにつれてくる事なかったやろ!?」
だから頭にきて乱雑に立ち上がって、声を荒げてしもうた。
もちろんすぐに気付いて、口を押さえ、静かに座りなおしたけど。
「本人がここに居たくないってんなら、束縛はできないだろ?」
「アンタ馬鹿!?そんなんやったら、二人とも出て行くに決まってんやよ!」
「だから、明日んなったらもっと詳しく話して、あいつらに選ばしてやるんだよ」
「選ばせる?」
「そ。“出て行く”か、“あたしらと一緒に行動する”ってかんじでね」
「・・・」
- 133 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:24
- そこであたしは暫し考えた。
今のままやったら、確実に二人は出て行ってまう。それは疑りようの無い事。
でも、もっと詳しく説明すれば。自分の置かれている状況を理解すれば、あるいは・・・。
「・・・分かりました。でも、ちゃんと説明してくださいよ?」
「ばか。あんたがするんだよ」
「・・・は?」
「あたし説明にがてだもーん」
凶子さんは声を高くして言い、ウインクなんか決めてみせる。しかも上目遣いで。
―――おえっ!きしょっ!!
「わ、分かりましたから、そのポーズやめてください」
あたしは脱力しながら言う。
- 134 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:25
- 凶子さんはそれを見て、納得したように頷くと再びビールをごくごくと飲み始めた。
「ほれ、たかはすぃも飲みな。うんまいよ〜」
二本目のビールを飲みつくした凶子さんが、今度は日本酒に手をつけようとしている。
あんだけ飲んだにもかかわらず、全然酔っ払った感じがしない。
「・・・あたし、もう寝る」
その姿に呆れて、それだけ言い残し、あたしは寝室に足を運んだ。
「はん、そうだね。もうガキはおねんねの時間だね〜。おやちゅみ〜、あいちゅわ〜ん」
寝室の扉の前で立ち止まる。
振り返って、机の所まで戻り、凶子さんの手から日本酒のビンを奪ってラッパ飲み。
そして一気に飲み干してからビンを置き、凶子さんを睨んで一言。
「・・・あんたが潰れるまで、飲んでやるわぁ」
「ふんっ。そうこなくっちゃねぇ」
不敵に笑って、台所に向かう凶子さん。
少しすると、ビールやら日本酒やらがいっぺ入ったかごを五つくらい持って出てきた。
そしてそれを床に置くと、ビールを2本とって、あたしと凶子さんの前に置く。
凶子さんは指で、あたしは栓抜きで栓をあけて、睨みあった。
「すぐに潰れるんじゃないよ」
「こっちのせりふやわぁ」
言い合うと二人同時にビールを口に運んだ。
- 135 名前:選択肢 投稿日:2004/03/10(水) 15:26
-
ちなみに、十時ごろからの記憶が、あたしには無い。
- 136 名前:我道 投稿日:2004/03/10(水) 15:29
- 本日の更新は終了です。
>>116 19様
ありがとうございます。紺野さんに代わってお礼を申し上げます。
腰、低いですか・・・う〜ん。
あんまり、低すぎるのもいけないと聞いたんで直していこうと思います。
レスありがとうございました!
- 137 名前:我道 投稿日:2004/03/10(水) 15:31
- あ、前回書き忘れたんで今日書かせていただきますね。
凶子さんのキャラの濃さについてなんですけど、自粛させた方が良いでしょうか?
なんか、紺野さんたちよりすっごく目立ってますよね(苦笑)
- 138 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/10(水) 20:30
- 文章のテンポもいいし、気にならないですよ。凶子タソハァハァ…
一読者の勝手な言い分ですが、どっちかというと殺人の数を誇るおがこんにちょっと引きますw
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/11(木) 02:09
- すっげぇおもしれぇ。
名作の予感ムンムンです。ってかすでに名作かもw
凶子さんなかなかいい感じです。
オリジナルだから紺野たちより濃いくらいの方がいいと思いますよ。
- 140 名前:19 投稿日:2004/03/13(土) 03:09
- 作者さんにお任せで!
私はただの読者私はただの読者
- 141 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:23
- 何も無い、真っ白な世界で対峙する私と少女。
髪は肩までのダークブラウン。顔は…なぜかピエロの顔のような仮面で覆われていて窺う事が出来ない。
……あなたは、
「あなたは誰ですか?」
私の問いかけに全くの無反応。
その礼儀のなっていない態度にムッとしながらも、再び訊ねる。
「あなたは、誰ですか?」
今度は反応があった。
その少女は両手を後頭部に回し、何かモゾモゾやっている。
暫くしてその動きが止まり、彼女の顔を覆っていた仮面が地面に落ち、音を立てる。
- 142 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:24
- 私は思わず目を見開く。
だって、そこに居たのは――――。
―――――わたしは・・・あなた。
鏡を見ているよう。
そこには私と寸分狂わぬ姿の『わたし』がいた。
その虚無の色を灯した二つの瞳が、私を捉えて離さない。
―――――・・・違う。わたし『が』コンノアサミ。
『わたし』が静かに呟き始めた。
―――――あなたは、いらない。
彼女の口元に禍々しい笑みが飾られる。私は青ざめ、後ずさり。
―――怖い。多分、今迄で一番・・・。
―――――もう少し。もう少しで・・・。
クツクツと肩を震わせ、笑う『わたし』。その姿が、突然降り注いだ光にかき消される。
―――――今は嫌いなこの光も、もう少しで・・・。
姿は見えずとも響いてくる『わたし』の声。でもそれっきりで、もう響いてくる事は無かった。
光は私ごとこの世界を覆い尽くす―――。
- 143 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:24
-
――――――――
- 144 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:25
- ゆっくりと目を開けた。
見えたのはシミや汚れが目立つ、木造の天井。・・・天井?
「――――っ!」
慌てて上半身だけを起こした。
「――!つうっ!」
その瞬間首筋に鋭い痛みが走った。そこをさすりながら、辺りを見回す。
窓と思われる所には遮光カーテン。[生涯グータラ生活]と書かれた掛け軸。眼につく飾りはそれだけ。
タンスもなければ、棚も無い。どこか侘しい部屋。
「あ、そっか。私、まこっちゃんが殴られたのに怒って、高橋さんに掴みかかって、それから首殴られて、意識が遠くなって・・・」
ようやく自分の状況を理解する。
私は多分気絶させられたんだ。何でだか分からないけれど。
- 145 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:25
- 「!そうだ!まこっちゃんは!?」
「・・・んむ〜、あさ美ちゃ〜ん、ゆるしてぇ〜」
声を荒げて立ち上がろうとしたとき、隣から聞こえてきた情けない声。
見ると、眉をハの字にまげてうなされるまこっちゃんの姿が。私はまこっちゃんが居た事に、一応安堵のため息をつく。
でもすぐにそれに気付いて、顔をしかめてしまった。
「・・・何で私の夢見てうなされてるの?」
「す、すいませぇ〜ん!もう、しないからぁ」
「・・・・・・」
…まあ、いいや。起きたら責めよう。
割り切って、再びこの部屋を見渡してみる。壁に時計がかかっていた。
薄暗いのでよく目を凝らしてみると、三時を回っていた。
次にカーテンの所まで言って、ソッとめくって外を覗く。暗さから言って、午前の三時みたい。
- 146 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:26
- 別に何をしようというわけでもないけど、静かに扉を開けてこの部屋を出る。
―――あっ、昨日食事をした所だ。
そこで昨日食べた、美味しいけど、見た目がグロテスクな料理を思い出す。
―――美味しいんだけどね・・・。
苦笑しながら机の所まで進む。そこで気がついた。机の上に何かが大量に置かれている。
「・・・ビールの、瓶?」
この部屋に入ったときからなんか変な匂いするなぁと思ってたんだけど、これってお酒の匂い?
何か凄い大量ビール瓶が机の上に・・・いや、ちがう!
机を中心に、あちらこちら乱雑に置かれている。
あ、足の踏み場が・・・。
「・・・咲魔さん、一人でこんなに飲んだのかなぁ?」
それらを見回して、呟く。
この量・・・一人で飲んだとしたら、ちょっと危ないんじゃないかなぁ・・・。
などと考えながら、瓶を静かにかき分け、進む。
「・・・ん?」
- 147 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:26
- そんな時、ビール瓶とは明らかに違う感触を感じた。
柔らかいし、あったかい。
なんだろうと思い、屈んでその物体を見てみた。
「く、くるしいやよー・・・」
「わっ!―――ったた・・・」
そこに居たのは、オランウータン。あ、失礼。
ゴホン。そこに居たのは、赤い顔をして苦しそうに眠る高橋さん。
予想もしていなかった出来事に驚き、身を引いたら足が滑って尻餅をついちゃった。
…よかった。ビール瓶脇によけといて。
お尻をさすりながら起き上がると、台所から誰か出てきた。
「酒、なくなっちったな〜・・・あれ、紺野?どうしたんだい?」
残念そうな顔をしながら台所から出てきた、咲魔さん。
でも私がいる事に気がつくと、キョトンとして見つめてきた。
- 148 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:27
- 「あ、ちょっと目が覚めてしまって・・・というか、咲魔さんこそ何してるんですか?」
「まあ、立ち話もなんだし、座りなや」
そう言って咲魔さんは、手に持っていた空のビール瓶で座れと促してくる。
私は素直にそれに従った。
「で、何してたんですか?」
「ん?酒飲んでた」
「・・・もう、3時ですよ?」
私がそう言うと、彼女はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「ばかだね〜。普通、さけっつーのはね、朝まで飲むもんなんだよ。これ、じょーしき」
鼻を鳴らし、嘲るように私を見る。それに、かなりムッと来た。
「・・・そんな常識、聞いたこともありません」
だから、自然と声が低くなってしまう。
でもそうさせた本人は、
「そんな怖い顔すんなって〜。ちょっとしたジョークさね」
なんて言って、笑っている。
- 149 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:27
- …疲れるなぁ。
そう思ったので、この人に対して怒るのはやめにした。
「高橋さんは何でこんなになってるんですか?」
私は床で苦しそうに眠る高橋さんを一瞥し、聞いてみた。
すると咲魔さんはつまらなそうな顔して、高橋さんを見おろした。
「途中までこいつと飲み比べしてたんだけどねえ、あっけなくダウンしやがるのさ。つまんないよねぇ」
「た、たかはしさんも飲んだんですか!?」
私は思わず声を荒げてしまった。
でもそれで高橋さんが「うーん」と唸ったので、慌てて口を押さえた。
「・・・高橋さん、まだ未成年なんじゃあ・・・」
「そうだけど。こいつが飲みたいっつーから、付き合ってやったのさ」
「・・・はあ・・・」
- 150 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:28
- たぶん嘘。
見た感じ、高橋さんは咲魔さんよりかなり真面目そうだし。お酒飲ましてくださいなんて言ってるところ、想像がつかない。
…人を姿見で判断するのは悪い事だけど、この見解はあながち間違ってはいないと思う。
多分、というか絶対咲魔さんに飲まされたに違いない。
私は潰れている高橋さんを見て、少し哀れに思った。
「あ、紺野」
その時、咲魔さんが私を呼んだ。
私は顔を上げ、咲魔さんを見つめた。
「さっきは、殴って悪かったね」
苦笑しながらの謝罪。
そうだった。私この人に殴られて、気絶させられたんだった。
その事を思い出して、咲魔さんを睨みつける。
でもすぐに息を吐き、自分を落ち着かせる。
さすがに怒られると思っていたのだろうか、咲魔さんは目をパチパチと瞬かせて私を見つめている。
「怒んないのかい?」
「・・・殴られたのはやっぱり少し頭にきますが、あの時はしょうがなかったと思います。まこっちゃんも私も、ちょっと怒りすぎてましたし。多分、口で言っても聞かなかったかなと」
- 151 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:28
- 私は少しあきらめたように、言う。
咲魔さんの反応は心底驚いたように、目を見開いている。
でも少しすると、昼間見せていた笑顔に戻った。
「紺野って“可愛い”、“頭いい”、“人柄いい”の三拍子そろってるよねぇ」
「・・・なんですか、その三拍子は・・・」
疲れたように呟く私。でも・・・、
「こんのー、顔真っ赤だよ〜」
「・・・」
分かってます。ええ、分かってますとも。
顔が熱いんですよ。照れてるんですよ。
何気なく言ってくれているけど、実際は結構褒めてもらってるのでそんなに悪い気はしない。
というか、こう面と向かって言われるとむしろ恥ずかしい。
- 152 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:28
- 「ひゃはっ。やっぱり若いねぇ」
どこかしみじみとした口調。未だに笑いながら、私を見つめてきている。
そこで、私は咳払いを一つし、訊ねた。
「まあ、それはいいですよ。ところでですね、聞きたいことがあるんですが・・・」
「ん、なんだい?」
「あのですね・・・」
そこまで言って、出そうとしていた言葉を飲み込み、口を紡ぐ。
この人に聞いて、分かるかな?そもそも、聞いてもいいのかな?
色んな考えが浮かんできて、その場に沈黙が流れる。
しかしそれは咲魔さんによって、すぐに切り裂かれた。
「小川のことかい?」
私は驚愕して、咲魔さんを見つめた。
咲魔さんは先ほどまでとはうって変わって、真剣な表情で私を見つめて・・・というか、睨んでる?
「な、なんで?まさか、咲魔さん、エ―――」
「エスパーなわけないじゃないか。昨日の出来事で、不可思議なのは小川の事しかないだろ?」
…そうでもないですよ。あなたの事とか、高橋さんの事とか。その他諸々。
でも、円滑に話が進む事は良いことなので、そのツッコミは胸の中にしまっておく事にした。
「・・・それで、まこっちゃんは昨日、咲魔さんに何をしたんですか?」
- 153 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:29
- 思い出される映像。
まこっちゃんが何かを投げ、その直後起こった極小規模の爆発。
そのせいで咲魔さんはアフロヘアーに・・・。
「・・・」
咲魔さんが私を見つめて、押し黙る。耳が痛くなるほどの静寂が流れ、何故か私の背中を冷や汗が伝う。多分、この人の眼力によるものだと思う。
「・・・小川本人から聞きな」
咲魔さんの一言で静寂は破られた。
私はプハッと息を吐き出し、何故か安堵した。
「結構大事な事さ。そういうのは本人から聞くのが一番さね」
「・・・もう出会って、一週間と少しになりますけど、彼女何にも言ってくれませんでしたよ?」
私が不満げにそう言うと、咲魔さんはため息を一つつき、あらぬ方向を向いた。
そして、何もはいっていない瓶を持って静かに揺らし、呟きにも近い口調で言った。
「・・・誰にでも言いづらいことの一つや二つ、あるもんだよねぇ」
「――――っ!」
思わず口を紡ぎ、俯いた。
- 154 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:29
- …確かに咲魔さんの言うとおりだよね。
私は自分の無神経さに少し腹がたった。それと同時に、どこかまこっちゃんを信じてないなぁと思って、恥ずかしくもなったんだ。
「ま、あのへタレの事だから、すぐに言ってくるさね。あんたら“トモダチ”なんだろ」
俯いたままの私にかけられた、おどけた様な咲魔さんの言葉。
…“トモダチ”・・・“友だち”・・・“友達”。
うん!まこっちゃん、私待つよ。まこっちゃんが喋ってくれるその日まで、信じて待つよ。
だって、私たち友達だもんね!
「ありがとうございました」
「あん?何で、礼なんか言うのさ?」
困惑した表情で私を見つめてくる、咲魔さん。
私はそれには答えず、微笑んでだけ見せた。それを見て、咲魔さんはさらに困惑したような顔をする。
でも、それも一瞬の出来事。
- 155 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:30
- 「まあ、いいや。ところでさぁ、紺野」
切り替えの速さだったら、この人ギネスに乗るかも。などというくだらない考えが浮かぶほど、咲魔さんは一瞬で表情を普段のものに戻した。
…あまりの速さに、わたくし紺野あさ美、思わず脱帽です。
「あんたさぁ、人が嘘ついたかどうかが分かるんだって?」
「・・・聞いてたんですか?」
それは昨日の刑務所の中での話し。
私たちが石川さんと、吉澤さんに連れて行かれそうになった時咄嗟に私の口をついて出た言葉。
確かに、天井を突き破って入ってきたんだし、聞いていても不思議は無いかな。
「あれは嘘です」
「はっ?うそぉ??」
しれっと言い放った私に、素っ頓狂な声を上げた咲魔さん。
目はパッチリと見開かれていて、その瞳には私が映し出されている。
- 156 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:31
- 「そんな事あるわけ無いじゃないですか。目を見ただけで嘘かどうか、判断できるなんて。そんなことできたら、嘘発見器なんていりませんもん。あの時は、ただあの二人についていくことを本能が拒否したので、口からでまかせを言っただけです」
未だパッチリとしている咲魔さんの目。
…さっきから瞬きしてないような。
「やっぱ凄いわ、紺野って。回転が速くてさー」
やっと瞬きをしたかと思うと、今度は驚嘆の句をもらし、拍手をしてきた。
「はあ、どうも」
どうやら褒められているらしいので、一応会釈をしておいた。
すると納得したように数回頷いて、笑って白い歯を見せる咲魔さん。
「うんうん、礼儀もなってるしねぇ。脱帽しちゃうよ。青天の霹靂だよねぇ」
…青天の霹靂?
遣い方を思いっきり間違えてる、というか、どうして間違えるんですか?今の会話の中じゃあ、全然関係ないじゃないですか。
「ふあ〜あ。時間も時間だし、アタシそろそろ寝るわ。オヤスミ」
私が咲魔さんの言葉の使い方について、考えていたとき、そう言って彼女は机に突っ伏してしまった。規則正しく上下する肩が、咲魔さんが寝ている事を知らせてくれる。
…というか、眠るのはやっ!
「はあ・・・」
ため息を一つつき、寝室に向け足を運ぶ。
ただ話しただけなのに、何故かどっと疲れた感じ。
案の定、布団に入ると眠りにつくまでそれほどかからなかった。
- 157 名前:選択肢 投稿日:2004/03/13(土) 10:31
- ――――また、あの夢かなぁ・・・。
少し眠る事に恐怖を感じながらも、再び眠りの世界へと落ちていった。
- 158 名前:我道 投稿日:2004/03/13(土) 10:41
- 本日の更新はこれにて。
>>138 名無し飼育さん様
テンポいいですか?ありがとうございます!
そう言ってもらえると、嬉々として踊ってしまいそうです←馬鹿です(汗)
あぁ、ひ、引かないで!私が殺されてしまいます(笑)
>>139 名無飼育さん様
お、面白いだなんて・・・。ありがとうございます!
書き手としては最高の褒め言葉を言ってもらえて嬉しい限りです!!
凶子さんはこれからも濃く活躍していくと思うので、よろしくお願いします(ペコリ)
>>140 19様
いつも読んでいただいているみたいで、感謝感激です!
ただの読者なんてとんでもない!読者様は書き手にとって“神様”同然ですから!
- 159 名前:19 投稿日:2004/03/14(日) 13:43
- 紺ちゃんのアレはハッタリだったのか(笑)
まだ何かあるんだろうけど…(ぼそっ
- 160 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:27
- ――――
――――――――
- 161 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:28
- ―――――――――――
今日初めて生活(睡眠)サイクルを壊した。(と言うより、壊された?)
再び目を覚ますと、そこはやっぱりどこか侘しい、そんな寝室。
上半身を起こして時計を見ると、12時10分過ぎ。
こんなに眠ったのは、生まれて初めてかもしれない。
大きく伸びをしてから、左隣を見てみる。
そこにはまこっちゃんの横顔。気持ちよさそうに寝息を立てる、まこっちゃんの横顔。
――まこっちゃんもまだ寝てたんだね。
なぜか嬉しくなり、頬が自然と緩む。
『ちょ、いたっ!ちょっと、やめろって!たかは―――』
『やかましい!あんたのせいで、めちゃくちゃ頭いたいんよ!!この歳で二日酔いしてもうたんよ!!責任取れや、凶子ぉーーー!!』
まこっちゃんの横顔に見とれていたとき、扉の向こうから聞こえた二つの声。
それと何かが砕けるような「ガッシャーン」という音。
私は首を傾げながら静かに立ち上がり、扉の所まで行き少しだけ開け、リビングの様子を窺った。
- 162 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:29
- 「あびゃっ!?ばかっ、皿投げんな!怪我すん―――」
「うっさい!もう、死ね!豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ!!」
「ぬあっ、くさっ!?やめれ!ぬか漬け投げんなーー!!」
慌てふためきリビングの中を駆け回る凶子さんと、それを色んなものを投げながら追う高橋さん。
リビングの中はひどい有様。
ビール瓶はほとんど割れてるし、卵やら、トマトやら、ほ・・・包丁まで散乱してる。
この鬼ごっこは、少し前から続いているみたい。
「・・・はぁ」
私は呆れてため息を一つ吐き出し、ソッと扉を閉めた。その直後。
『にゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!』
『あひいぃぃぃぃぃぃいいい!!』
突然聞こえてきた大地を揺るがそうかという絶叫に耳を塞いだ。
「な、なに!?うわっ!うるさっ!」
- 163 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:29
- あまりの音量の大きさに、まこっちゃんは飛び起きて、すかさず耳を塞いだ。
私たちは必死に耳を押さえ、声が治まるのを待った。
暫くして声はやみ、静寂がおとずれた。
その安心感に脱力してしまった私は、その場にへたり込んでしまった。すると、まこっちゃんが心配したように駆け寄ってきてくれたんだ。
「大丈夫、あさ美ちゃん?」
「・・・どうにか」
自分でも分かるほど疲れた声。いっぱい睡眠してやっと疲れを取ったのに・・・。
私は少し憮然としながら、扉を開けた。
そして、まこっちゃんと共にリビングへ入っていく。
するとしなれた大根を持った右手を高く上げてる咲魔さんと、その足元に倒れこんでびくびくと痙攣する高橋さんの姿が目に止まった。
…痙攣?
「「わ、わぁーーー!!??」」
私とまこっちゃんは慌てて高橋さんの元に近づく。
何か知らないけど、ヤバイのは確か。だって白目向いて、泡吹いてるもん。
「ふ、ふふっ。アタシにたてつこうなんて100億兆光年早いんだよ、たかはすぃ」
わけの分からない単位を言いながら、不敵に笑い大根をかじる咲魔さん。
私はそれをキッと睨みつける。
「何をしたんですか?!こんなになるまで!」
「そうだよ!非道いじゃんか!」
まこっちゃんも咲魔さんを睨みながら、怒鳴る。
でも咲魔さんはそれを一瞥すると、疲れたようにフッと笑い、ドカッと椅子に腰を下ろした。
そして大根をかじりながら、呟く。
- 164 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:30
- 「・・・大人には時として、仲間を見捨てる覚悟も―――」
「ふざけないでください!」「ふざけないで!」
遠い目をしながら、呟く咲魔さんの言葉を私たちは同時に遮る。
その勢いと共にまこっちゃんは咲魔さんの胸倉を掴んで、至近距離で睨みつける。
「ちょっとしたアジアンジョークさね。高橋なら大丈夫だよ。二日酔いしてるだけだから」
「なんで、二日酔いで白目むいて痙攣してんのさ!!」
「そりゃ、こいつが暴れたからアタシも涙を呑んで強行手段をとっただけさ。二日酔いの頭にアタシのウイスパーヴォイスを叩き込んだだけだから、ちょっと寝たら目ぇ覚ますだろ」
全く悪びれた様子もなく、また大根をかじる咲魔さん。
その姿にまこっちゃんも怒りを通り越して、呆れてしまっている。ちなみに私も。
呆れて手を離し、うなだれながら椅子に座るまこっちゃん。
私は、そんなまこっちゃんを気にしながら、隣に腰を下ろした。
「オハヨウ」
座った途端にかけられた、“朝起きたとき”の挨拶。
「・・・今は、お昼です」
「でも起きたばっかりなんだろ?じゃあ、オハヨウじゃないか」
変な所だけマメなんですね、咲魔さん・・・。
- 165 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:30
- 「「オハヨウゴザイマス」」
「ん、ぐっど!」
気持ちが入ってないと断言できるほど抑揚の無かった私達の挨拶でも、咲魔さんは満足してくれたみたい。ニコニコと笑って、残りの大根を飲み込んだ。
…噛んでくださいよ。
「さて、どうする?」
唐突にそう聞かれた。
勿論何のことか分からない私たちは、困惑した表情で咲魔さんを見つめる。
「・・・何が?」
口を開いたのはまこっちゃん。私もそれに同調し、頷く。
咲魔さんはそれで一度何かに気付いたような表情になって高橋さんを見下ろした。未だにノビているのを確認すると、ため息を吐き出し、めんどくさそうにきりだした。
「これからここに残るか、それとも出て行くか。どっちにするかってこと」
「――――!!」
- 166 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:31
- その言葉にまこっちゃんは椅子を倒して立ち上がり、再び咲魔さんの胸倉を掴んだ。
双眸は怒りの色でいっぱい。
多分昨日の出来事を思い出したんだと思う。
「まこっちゃん、座りなよ」
私は諭すように言った。
まこっちゃんは、まだ怒りの色を残しながら振り向いて私を見つめた。
「なんで!?あさ美ちゃんは腹が立たないの?この人たちに勝手なことばっかり言われてさ!挙句の果てには、あたし殴られるしさ!」
「それは、しょうがなかったんだよ」
「はあっ!?何言ってんの?あさ――」
「まこっちゃん、何か言う前に殴りかかってたし。あの状態で口で何か言われて落ち着けた?」
まこっちゃんがバツの悪そうな顔をして、口を噤んだ。
そしてまだ不機嫌そうにして咲魔さんを睨みながらも、襟首から手を離し椅子を起こして座りなおした。
「どうもね、紺野」
短くそう言ってから、深々と頭を下げる咲魔さん。
どうやらその件に関しては本当に悪いと思っているみたい。
- 167 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:31
- 私はその様子を見ながら、短く答えた。
「いえ」
それを聞いてから咲魔さんは顔を上げた。
私はそれを確認してから、いささか冷たいともとれる口調で言う。
「それより、出て行くかここに残るかって事ですけど。私たちが出て行くといったらどうするんですか?」
「好きにすればいいさ」
まさに即答。
それも頭をぼりぼりとかきながらの、本当にどうでもよさげに即答。
こうスッパリ言われてしまうと、思わず拍子抜けしてしまう。
だから、私は今凄く間抜けな顔をしているに違いない。
…隣のまこっちゃんがそうなんだから。
「別にあんたらが嫌だっつってんのに、束縛する気はアタシにはないね。ただし、出て行くんだったらそれなりの覚悟が必要だよ」
言ってから真剣な眼差しで私たちを睨みつける咲魔さん。
息を呑んだ。
- 168 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:32
- 「あんたらが『S.P.K.G』に狙われてるってこと忘れないように」
何も言葉が出なかった。
それほどまでに彼女の迫力がすさまじかったから。
私たちが身体を緊張させていると、咲魔さんは何かに気付いたように私とまこっちゃんを交互に見比べる。
そして唸りながら、席を立ち、台所に消えていった。
「ふはっ、何なの?」
まこっちゃんが開放されたかのように息を吐き出す。私は首をかしげ、台所の入り口を見つめていた。
暫くして、咲魔さんが戻ってきた。なにか白いふわふわした布を持って。
「ほれっ」
突然それを私たちに投げ渡した。
広げてみてみると、それは・・・、
「・・・バスタオル?」
まさにそれはバスタオル。何の模様も無い、シンプルな白いバスタオル。
それを暫しの間見つめていて、気がついた。
- 169 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:32
- …そういえば。
「あんたら昨日、風呂はいってないだろ。急ぐわけでもなし、一風呂浴びていきな。それに出て行くにしても、その格好じゃまずいしね」
咲魔さんが私たちを指差す。正確には私達の着ている囚人服。
白と灰色のしま模様が入ったそれは、所々が汚れている。
…うーん。今更だけど、私今までこんなの着てたのか・・・。
何か、凹みました。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。まこっちゃん、先どうぞ」
「…うん、そうさせてもらう」
答えたまこっちゃんはどこか沈んだ様子。多分私と同じ理由だと思う。
「風呂は廊下出て、突き当たった右の部屋だから。あ、服はこっちで用意して持ってくからねぇ」
まこちゃんはそれに手を挙げて答え、廊下に続く扉を開き進んでいった。
- 170 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:33
- …あれ?と言うか・・・。
「私たちが出て行くって、もう決めたかのような言動ですね?」
「ん?違うのかい?」
「あ、いえ。違いませんけど・・・」
実際合ってるんだから、それ以上は何も言えない。
「漬けもんしかないけど、食うかい?」
でも言ってないのに決め付けられるのはいい気分じゃないなぁ。
そんな事を考え、憮然としつつ答えた。
「・・・いただきます」
例え不機嫌でも、ご飯は必ずいただきます。
それが私、紺野あさ美ですから!!
- 171 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:33
- ―――――*
- 172 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:34
- 私とまこっちゃんの二人はお風呂を済ませ、咲魔さんの用意してくれた服を着た。
色違いのティーシャツとジーパンというシンプルな服装。
そして今はリビングの椅子に座り、咲魔さんと対峙している。
「なんだかんだとありましたが、色々とお世話になりました」
私が深く頭を下げる。まこっちゃんも一呼吸遅れてから、頭を下げた。
「あぁん、いいって事さね。それよりも、気をつけなね」
手をひらひらと振りながら、笑顔で答える咲魔さん。
それに私たちはもう一度お辞儀をして、玄関に向かう。咲魔さんの用意してくれた靴をはき、扉を開け外に出る。天気は雲ひとつ無い晴天。太陽がまぶしい。
- 173 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:34
- 「じゃーねー」
その声に振り返り、軽く会釈して扉を閉めた。
そしてまこっちゃんと共に歩き出した。道に沿って大体3キロ程度歩けば街に着くと、咲魔さんは言っていたっけ。
久しぶりの外界の空気に触れて、思わず頬が緩む。
「気持ちいいね〜」
「そうだね」
まこっちゃんも同じ気持ちみたい。歩きながら気持ちよさそうに伸びをしている。
私はその様子を見て、少し吹き出してしまった。
「な〜に笑ってんのさ〜、あさ美ちゃ〜ん」
「いや、ほんとに気持ちよさそうだからさ」
などと他愛の無い話をしながら、暫くの間歩いた。
「・・・あさ美ちゃん」
大分咲魔さんの家が小さくなった頃、まこっちゃんが静かに口を開いた。
先ほどまでとは違い、真剣な表情。それを見て私も表情を引き締めた。
「・・・なに、まこっちゃん?」
「あのさ・・・あたし・・・あたしね・・・」
- 174 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:35
- 言いよどみ、視線を宙に泳がせるまこっちゃん。
私はなんとなく分かっていた。彼女が何の話をしたいのかを。
でもあえて助け舟は出さなかった。
…まこっちゃんの口から聞きたいから。
「あのさ、昨日あたしが怒ったときさ・・・」
「まこっちゃん」
でも今じゃなくてもいいんだよ。
どんなに時間がかかっても良い。まこっちゃんが話してくれさえすれば、それで・・・。
だから、だからね。
「無理しなくてもいいよ。ゆっくり自分の中で整理できたら、話してくれればいいから。ね?」
言ってから私は微笑んだ。
まこっちゃんは私を見て最初は驚いていた。でもすぐに少しはにかみながら笑顔を浮かべた。
「ありがとう、あさ美ちゃん。なんか少し落ち着けた」
まこっちゃんはそこでいったん句切り、道の少し先を見つめながら静かに話し出した。
- 175 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:35
- 「あたしね、変な能力があるの」
私もまこっちゃんと同じ所を見つめ、歩きながらその話に耳を傾ける。
まこっちゃんはマイペースに続ける。
「あたしが触れたものはみんな爆弾みたいに爆発するようになっちゃうんだ。あの家で怒った時、ドアノブについてた一粒のお米を爆弾に変えて、あのでかい人に投げつけたんだ」
「・・・いつから、使えるように?」
「ビル爆破した時からかな。その前までは全然使えない、ただの10代の女の子だったんだけどね」
苦笑しながら、頬を掻くまこっちゃん。
それから私のほうを向いて、申し訳なさそうに、
「ゴメンね。ずっと隠してて。言ったら、嫌われるんじゃないかなとか考えちゃって・・・ホント、ゴメンね」
と言い、軽く頭を下げた。
私はゆっくりと首を振り、微笑んでまこっちゃんを見つめた。
「いいよ。今、話してくれたし。あとね、まこっちゃん・・・」
- 176 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:36
- なんとなく顔が熱くなった気がした。
やっぱりこういうことって、実際に口に出すと照れちゃうよね。
「私たち、“友達”だから。たとえ人と違う能力があっても、私たちずっと“友達”だから」
「あ、あさ美ちゃん・・・」
まこっちゃんの目じりに涙が溜まる。
私はそれを指で拭って、囁いた。
「まこっちゃんは笑ってるときの顔が、サイコーに可愛いよ」
途端に赤くなるまこっちゃんの頬。私はそれを見ながら、クスリと笑う。
するとまだ赤いままのまこっちゃんに睨まれた。
「・・・あさ美ちゃん、それ口説いてるの?」
「ふぇ!?」
思いがけない言葉に変な声を出して、固まる。まこっちゃんの顔に意地の悪い笑みが飾られた。
…今の私多分、さっきのまこっちゃんより顔赤いんじゃないかな・・・。
- 177 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:36
- 「い、いや、そ、そ、そなことナイヨ!!」
慌ててたから、何か凄い変な言葉になっちゃった。
「あははははっ。どこの国の人だよ、それ〜」
お腹を押さえながら笑うまこっちゃん。
…オマエノセイダ、コノヤロウ!!
「もうっ!からかわないでよ!!」
「あはは、ごめ〜ん!」
逃げるまこっちゃん、追う私。勿論本気なんかじゃなくて、何というかジャレアイだね。
その証拠に私達の表情は笑顔。
「まてー!!」
「まったないよ〜」
脇の原っぱに入っての鬼ごっこ。
柔らかな微風に吹かれてかさかさと音を立てる草の中、その音にかき消される事なく私の耳に届いた言葉。
「・・・ありがとね、あさ美ちゃん・・・」
聞こえていたけど、聞こえてないフリ。
実はちょっと照れてたから。言った本人も、顔は真っ赤。
「止まらないと撃つよー!」
「あはは、何をだよ!」
それから暫く、楽しい鬼ごっこは続いた。
でもその楽しい時間は唐突に終わりを告げた。
- 178 名前:選択肢 投稿日:2004/03/16(火) 10:37
- まるで聞き覚えのない、
「わたしって、可愛い?」
という声と共に・・・。
- 179 名前:我道 投稿日:2004/03/16(火) 10:38
- 長かったかな?
- 180 名前:我道 投稿日:2004/03/16(火) 10:39
- 隠します
- 181 名前:我道 投稿日:2004/03/16(火) 10:42
- >>159 19様
はいっ、ハッタリ紺野さんでした(笑)
い、いやいや、まだ何かあるなんて、そんなことは(焦)
……あるやもしれません(ぼそっ)
はっ!!今のは、聞かなかったことに!!
- 182 名前:19 投稿日:2004/03/16(火) 21:47
- まずは大量更新お疲れさまです。
ところでこの世界はどーゆーのをイメージすればいいんでしょうか?現代風?それとも街と街の間には何にも無いドラクエちっくな世界?その内わかるから黙って読んでろよってカンジでしょうか?
- 183 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/17(水) 00:34
- どんどん面白くなってきますね。次が全く予想出来ない。
- 184 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:37
- ―――あの子はいつからそこにいたのかな?
日傘を差し、ヒラヒラ付きの白いドレスを着飾ったどこかのほほんとした女の子。
その彼女が道端から私たちを見つめていた。
「・・・はっ?」
その子を見つめたまま時が止まっていた私たち。まこっちゃんが先に我に返り、素っ頓狂な声を上げた。
そりゃそうだよね。
いきなり見ず知らずの人に「わたしって、可愛い?」なんて聞く人、おかしいもん。
私も今、同じ気持ちだよ。
「ねぇ、わたしって可愛い?」
再び同じ事を聞いてくる女の子。その言葉と共に私たちとの距離を、少しずつ詰めてくる。
―――何か危ないクスリでもやってるのかな?
何故かこの人は危ない感じがした。
だから、私たちは彼女に距離を詰められないようにじりじりと後退する。
「ねぇ、わたしって可愛いでしょ?」
疑問文から付加疑問文に変わった。
これは私たちに「イエス」と言ってほしいみたいだね。
でも私たちは何も答えず、彼女を警戒し睨みつける。
- 185 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:37
- すると彼女は足を止め、不満げに唇を尖らせてこちらを睨み返す。
「可愛いって言ってくれない。やっぱりあなたたち悪い人」
少女がそう呟いたとき、まるで膝かっくんをされた時のように足から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。何が起こったのか分からずまこっちゃんのほうを見ると、まこっちゃんも困惑した顔で私を見つめていた。
「あ、足に力が入らない!な、何が起きたの!?」
「分からないよ!」
まこっちゃんが叫ぶ。
私は首を左右に振り、立ち上がろうと試みた。結果は失敗。
どうにも力が入らない。というか入れられない。
「わたしって可愛いよね?」
困惑してるときに響いた、のほほんとした声。
でも私にはその声の主を確認する事が出来ない。
- 186 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:38
- 顔が上げられない?!
足だけじゃない、全身に力が入らなくなっていた。
「可愛い?」
その少女が私の顔を覗き込んできた。こちらの気も知らずに、のんびりとした様子。
なぜ彼女だけ動けるの?
…!!まさか、この子がっ!?
あなたが『S.P.K.G』のっ・・・!?
口が開かない!?
何か喋ろうとしても、口が私の意思に反して開こうとはしない。だからただもごもごしているだけに止まってしまう。
―――この子が、この子が『S.P.K.G』の刺客!
もう疑問形ではなく、断定形。
石川さんも吉澤さんも不思議な“能力”を使って、私たちを攫おうとした。
多分これがこの子の不思議な“能力”。
- 187 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:38
- 「―――!」
などという事を考えていたら、突然私の視界がブラックアウトした。
今度は勝手に瞼がおりてきてしまった。あけようとしても、その僅かな力さえ入らない。
「やっぱり、わたしって可愛い」
頭の上からそんな声が聞こえた。同時に頬に当たる冷たい感触。
―――なに!?なんなの?!
見ようとしても、目を開けられない。
それがより恐怖をかきたてる。
「――――いぃっっっつ、まぁぁぁぁい、らぁぁぁいふうありゃあぁぁぁぁ!!!」
そんなときに聞こえてきた、聞き覚えのある声。それとともに起こった地響き。
「にゃあぁ!?」
その後のおかしな悲鳴で、私の身体に力が戻った感じがした。急いで目を開け身体を起こし、まこっちゃんのもとに駆け寄る。
- 188 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:39
- 「大丈夫、まこっちゃん?」
「・・・うん。特になんともないみたい」
そう言ってまこっちゃんも起き上がる。
そこに慌てた様子の声が聞こえてきた。
「二人とも、大丈夫け!?」
私が後ろを振り向くと、顔色の悪い高橋さんが頭を抑えて立っていた。
その後ろには、咲魔さん。
…高橋さんと並んで立つと、この人巨人だなあ。
場違いにも、呑気にそんな事を思ってしまった。
「まさかこんなに早く来るとはねぇ」
咲魔さんが遠くを眺めるような目つきをして、呟く。
振り返ってみると、大体100メートルほど離れた所に木樽が不自然に転がっていた。
何か人が下敷きになっているような・・・。
- 189 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:39
- 「あの子は道重さゆみ。『S.P.K.G』の新人やよ」
高橋さんがその樽を睨みながら、呟く。
「新人だから、アタシが見た事ない顔だったんだね」
「まあの。能力は厄介やけど、身体能力はたいした事ないでの。多分暫くは目ぇ覚まさんやろ」
確かに。全然ピクリとも動かない。
…あれ、咲魔さんがやったんだよね・・・。
「・・・すまんかったの」
私たちが呆然と道重さんを眺めていると、高橋さんがそう言って頭を下げてきた。
そして顔を上げて早々、咲魔さんを睨みつける。
「このアホが無責任にもあんた達を追い出すみたいな事言って・・・」
「え?違いますよ。私たちが出て行くことを選んだんですよ。別に追い出されたわけじゃ・・・」
微かに高橋さんの目が紅くなった気がして、私は少しビクッとしながら答えた。
それに高橋さんは大きくため息をはいて、首を左右に振った。
- 190 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:40
- 「いや。これはあたしらの説明不足が招いたもんやざ」
「・・・まだ何かあんの?」
まこっちゃんがいささか苛立った口調で言う。
高橋さんは申し訳なさそうに、顔を伏せ。口を噤んでいる。
そんな時、咲魔さんがどこか投げやりな声で言い放った。
「アンタらが弱すぎんだってさ。このままだと、すぐに捕まっちまうって」
ハッとして咲魔さんを見上げる高橋さん。
「ちょ、そんな言い方って・・・!」
「こんなん回りくどく言ったってだめさね。言うんなら、ズバッと言った方がいいのさ」
それだけ言うと高橋さんに向けていた視線を私たちに向け、口を開く。
「もう一度聞くよ。“行く”か、“アタシらについて来るか”。どっちだい?」
有無を言わせぬ強い視線。思わず、息を呑んでしまう。
でもまこっちゃんは納得してないみたいで、一歩前に出ると咲魔さんを見上げ、睨みつけた。
「あんたが出てっても良いって言ったんだろ」
「まだ分かんないのかい?」
強い口調で話すまこっちゃんに対し、咲魔さんは何故か呆れたように呟く。
- 191 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:40
- 「なにが―――!」
「アンタら、あの子に手も足も出なかっただろ?」
まこっちゃんが口を閉じ、たじろぐ。
咲魔さんはそれで鼻を鳴らして、続けた。
「あんなのに何も出来ないようじゃ、これからどうしようもないさね」
「で、でも!あの子は、不意打ちをしてきて―――」
私は何か言い返そうかと思い、口を開いた。
けど、咲魔さんの鋭い一睨みによって呆気なく敗退。
…情けないなぁ・・・。
「じゃあ、アタシが今から小川にパンチするから、防いでみな」
咲魔さんは大きくため息を吐き出し、そう言って一方後ろに下がった。
わけが分からず、頭をかしげるまこっちゃん。
それを見て、咲魔さんは面倒くさそうに一言。
「ほれ、ボーっとしてんな。怪我するよ」
言い終わってから、軽くジャンプをする咲魔さん。そして構える。
- 192 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:41
- ハッとしてまこっちゃんも慌てて構えた。
緊張した面持ちのまこっちゃんに、ダルそうな咲魔さん。
「いくよ〜」
気だるそうに咲魔さんが言ったとき、一陣の風が吹きぬけた。
思わず目を瞑る。
そして目を開けて、目の前の光景を見たとき驚愕に目を見開いてしまった。
「―――――えっ・・・?」
その場に倒れているまこっちゃんに、仁王立ちしてそれを見おろしている咲魔さん。
まこっちゃんは困惑した様子で目を見開き、咲魔さんを見つめている。
「何が、起こったんですか?」
隣に立ち、その光景を無表情で見つめていた高橋さんに尋ねた。
すると高橋さんは、私のほうを一瞥するとまた視線を元に戻し呟く。
「凶子さんが麻琴にパンチしたんよ。さっきの風は、凶子さんのパンチの風圧が起こしたもの」
驚きのあまり声が出ないとは、正にこの事。
- 193 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:41
- たかが拳の一振りで、風を起こせるものなの?
ありえない。
人の常識をはるかに超えている。驚きを通り越し、少しの恐怖が芽生えた。
「分かったかい?予告してこの程度じゃ、話にならないんだよ」
咲魔さんがまこっちゃんを起こしながら静かに言う。
まこっちゃんは何か言おうと口を開いたけど、高橋さんがそれを遮って話し出した。
「・・・麻琴、分かって。今のに対応できないんじゃ、ここから先無事にはすまない」
言う高橋さんも少し辛そう。
まこっちゃんは悔しそうに唇を噛み締めると、俯いてしまった。
俯いたまま、拳を強く握りプルプルと震わせているまこっちゃん。
…悔しいんだよね。
それが本当のことだからもっと悔しいんだよね。
- 194 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:42
- 「これが最後の選択だ。“去る”か“ついて来る”か。どっちか選びな?」
咲魔さんが私をいつになく真剣な眼差しで見つめて、聞いてきた。
そこで先ほどなぜ咲魔さんが私達を止めなかったか、理解できたような気がした。
この人は私たちに迫っているものがどれほど危険で、それに対する私達の考えの甘さを教えてくれたんだと思う。
…確かに、甘かったかも・・・。
隠れてれば暮らせばどうにかなるなんて思ってたけど、そう考えていた自分が馬鹿みたい。
私たちが出て行こうとするとき道重さんは来た。タイミングがよすぎる。
つまりあちらの人たちには私達の居場所が分かると言う事。
どうやってか分からないけど、とにかく隠れても無駄って事なんだ。
「・・・私達を・・・連れて行ってください・・・」
俯きながらボソリと呟いた。
…情けないなぁ・・・。
「しゃ。じゃ、高橋。こいつら連れてなるべく遠くまで行きな」
「凶子さんは?」
「・・・客さね」
- 195 名前:選択肢 投稿日:2004/03/18(木) 13:42
- 高橋さんと咲魔さんの会話が終わったとき、背中に悪寒が走った。
心臓の鼓動が早鐘のように速くなり、冷や汗がどっと噴き出す。何故か後ろを振り向けない。
まこっちゃんも私と同じ様子で固まっていた。
高橋さんは私の後方に目をやり青ざめ、咲魔さんは不敵に微笑んでいた。
「久しぶりじゃないか」
咲魔さんが私の後方に声を投げかけた。
「・・・あたしは会いたくなかったな」
すると帰ってきた透き通った声。
別にこれと言う感情がこもっている訳でもないのに、その声が聞こえてきただけで身を震わせてしまった。
「二人を渡してもらうよ」
「却下。失せな、電波」
咲魔さんは喋りながら私の脇を通って歩いていった。
その途中高橋さんの肩を軽く叩くと、高橋さんはハッとして私たちに近づいてきた。
そして、私の後方を気にしながらも小声で囁く。
「・・・二人とも、逃げるで」
言い終わるや否や、高橋さんは私達を両脇に抱え街に向かって走り出した。
…この小さな身体のどこにこんな力があるんだろう?
「ま、まてっ―――!」
「ちぇすとおぉぉぉぉぉうりゃぁああああ!!!」
「きゃあっ!」
途中で聞こえてきた声に首を捻って少し振り向いてみた。
「邪魔しないでっ!」
「うっさい!邪魔はアンタらだっつーの!!」
日本刀のようなものを二本持った薄茶色の長髪の女性。咲魔さんほどじゃないにしても、結構背が高い。
その人が叫びながら咲魔さんに切りかかった。
刹那、二人は巨大な火柱に包まれた。
私は驚愕し、目を見開く。
「な、あぁ、え・・・!?」
言葉が出てこない。
…な、何がおこったの?!
「くっ!とばすで!二人ともしっかり掴まっといて!」
焦ったような高橋さんの言葉と共に、グンと速度が増した。
私は視線を前に戻し、言いつけ通り高橋さんの腕をしっかりと掴んだ。
「ぬあぁぁぁぁぁぁぁ!!!あっちゃぁぁぁぁぁ!!!!」
その直後咲魔さんのものと思われる叫び声と共に轟音が響いたが、私は振り返らずギュッと目を瞑り高橋さんに身を任せていた。
- 196 名前:我道 投稿日:2004/03/18(木) 13:46
- 一話よりもさらにわけの分からなくなっていますね(涙)
申し訳ございませんでした・・・。
- 197 名前:我道 投稿日:2004/03/18(木) 13:51
- 凶<・・・おい。
我<はっ!?凶子さん!
凶<もうちょい、まともな分かけないのかね?最後らへんは、ワケわかんないしさ。
読者の人たちにメーワクだろうが。
我<す、すいません!精進しようと思いますから、頭から手を離してください!
痛いです、潰れちゃいます!
紺<こんな作者ですが、これからもよろしくお願いしますm(__)m
- 198 名前:我道 投稿日:2004/03/18(木) 13:58
- >>182 19様
ありがとうございます(ペコリ)
世界観の説明を忘れていましたね(汗)
主にドラクエチックな世界を想像していただいて、そこにある町々の名前が「東京」だとか「埼玉」だとか。
そういうふうに思っていただければ幸いです。
>>183 名無し飼育さん様
おもしろいだなんて・・・ありがとうございます!
作者はへぼで、よく沈みますが、レスしてくれる皆様の温かい言葉のおかげで今こうやって
生きているようなものです。
本当にありがとうございます(ペコリ)
- 199 名前:19 投稿日:2004/03/18(木) 14:05
- わーいリアルタイム♪
ありがとうございます イメージしやすくなりました。
しげさん一瞬でやられたなぁ てか樽て(笑)
- 200 名前:我道 投稿日:2004/03/20(土) 23:47
-
- 201 名前:我道 投稿日:2004/03/20(土) 23:47
-
私の中の『ワタシ』
- 202 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:48
- 『――三週間前、東京の林中刑務所から脱走した紺野あさ美、小川麻琴両罪人の行方は未だ分かっておらず、警察の必死の捜索が続いています――』
ボロボロのソファーに身を沈めながら、ボーっとテレビ画面に目をやる。
ここの所毎日、私達の事を報じるテレビ局。
…それも、そうだよね。
世間的には極悪犯罪者が逃げ出したってことだからね。
この街を歩いていても、専ら聞くのは私達の噂。「怖いわねぇ」とか、「早く、捕まればいいのに」とか。
…身勝手だよね。
「あさ美〜、ちょっと手伝うて〜」
「あ、うん。ちょっと待ってて〜」
台所から私を訛った口調で呼ぶ人物。
- 203 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:49
- 返事をしてから、立ち上がりそちらへ向かう。
すると電子レンジの前で難しい顔をして、首をかしげている少女、高橋愛ちゃん。
「どうしたの?」
声をかけると、彼女は難しい顔のまま私に振り向いた。
「それがの〜、このポンコツいっくらスタート押しても動かないんよ」
「また?」
私は愛ちゃんの元に近づき、電子レンジを観察。
そしてため息を一つ吐き出し、コードを掴んで愛ちゃんに手渡した。
「・・・電源入ってないよ・・・」
「ありゃ?は、ははは、すまんすまん・・・」
苦笑いをして、コードをコンセントにさす。私は少々疲れた感じで訊ねた。
「・・・他になにかある?」
彼女は苦笑いを浮かべたまま、振り向き、
- 204 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:50
- 「・・・休んどってください」
とだけ言った。
私は頷き、リビングに戻りテレビに再び目をやった。
ちょうど明日の天気をやっていて、それでふと思い出した。
「ここに来て、もう三週間かぁ・・・」
あの日・・・。
私たちが愛ちゃん達についていくと言って彼女に抱えられ、咲魔さんと分かれたあの日。
- 205 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:50
- 咲魔さんの家から3キロほど行ったところにあった街、「埼玉」に入り一時は大騒ぎになった。
どうやら私達の面が割れていたようで・・・。
警察が来たり、町民の方々に襲われかけたり。
その都度、愛ちゃんは私達を抱えたまま街中を右往左往。
夜になり、いい加減愛ちゃんも疲れてきてもう駄目だと思ったとき、目の前を通り過ぎた一台の荷物運搬用トラック。
愛ちゃんは「しめたっ!」とばかりに目をギラッと光らせ、そのトラックに飛び乗った。
荷物を載せるところには大体カバーがかかっているので、街の人たちにばれずに脱出は成功。
で、揺られ揺られること約半日。
翌朝、私たちが降り立った街からは海が見渡せた。やたらでかい山も望め、結構いい雰囲気の街。
近くにあった看板に[静岡へようこそ!]と書かれていた。
どうやら、静岡まで来ちゃったみたいですね。
身体をほぐすため柔軟をしていた所、三人の男性に見つかってしまった。
その人たちは私達のことを知っていたみたいで、朝にもかかわらず騒ぎ立てた。
そしたら、寝起きで機嫌の悪かったまこっちゃんと愛ちゃんに見事なまでにボコボコにされ、瞬時に気絶。
その後に、この三人組は宝石強盗犯だと言う事が分かった。それでまこっちゃんが、
『アジトがあるに違いない!』
と、何の根拠も無く言った。
- 206 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:51
- そんな、探偵モノの漫画じゃないんだから・・・。
そう言ってもまこっちゃんは聞かずその人たちの目を覚まさせて、アジトはあるかと聞いた。
そしたら、見事にビンゴ。
まさか本当にあるとは・・・。そんなことを考えながら呆然と立ち尽くしていた私と愛ちゃんを放って、どんどんと話を進めていた。
アジトの場所を聞き出し、行ってみるとボロボロの一軒家に到着。どうやらここのよう。
それからその中に置いてあった宝石類を全て引っ張り出し、男性たちごとソッと警察署の前においてきた。
あ、その際さらにボコボコにして私達の記憶は抜いておきました。
そして、このボロ屋敷での生活が始まった。
住めば都って言うけど、ここは本当に住み心地がいい。
あの男性たちがガスや電気を民家から拝借していたみたいで、普通の生活並みに暮らす事が出来る。
普通にお風呂も入れるし、ご飯も食べられるしね。
「あさ美〜、できたで〜」
- 207 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:51
- 今までの経路を思い出していたら、エプロン姿の愛ちゃんがお盆を持ちながらやってきた。
「今日はなに?」
「今日は麻琴とあさ美がだいすっきな、カボチャグラタンやよ〜。でも、味の保障はせんけどの〜」
そう言って照れくさそうに笑う愛ちゃん。
ここに暮らして三週間、愛ちゃんとも大分親しくなった。
「愛ちゃん」と呼んでいるのも、敬語じゃないのもそういう理由。
「あれ、麻琴はまだ?」
「うん、まだみたいだね」
普通の生活ができていると言ったけども、着替えはなんともならなかったの。
男性の服しかなくて、しかもそれ洗濯されてなくて・・・。
それを即座に焼却処理してどうしようか悩んでたとき、愛ちゃんがびっくり眼をさらに見開いて私たちに駆け寄ってきた。
その手には・・・。
「しっかしあん時はびっくりしたやよ〜。引き出しあけたら、えらい沢山諭吉さんがこっち見とったからの〜」
「・・・今更だけど、よかったのかな?使っても・・・」
- 208 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:52
- その手には、束になっている福沢さんが。
私たちがあんぐりと口をあけて驚いていると、まだあるといって二階のある個室に通された。
そこにあった洋服ダンスの引き出しを開けると、まこっちゃんは気を失った。
私も危うく、倒れる所でした。
だって、その引き出しにはミッチリと福沢さんが詰まっていたんですから。
「いいんやよ。どうせ、あののくてぇたちの盗んだものやざぁ」
「・・・だから危ない気がするんだけどなぁ」
そのお金を少し使わせてもらって一日交代で必要なものを買いに行っているというわけ。
…不本意だけど、その洋服ダンスの中にあった服を着て。
そうしないと正体ばれちゃうからね。
『ただいまぁ〜』
「おっ。帰ってきたみたいやざ」
- 209 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:52
- 玄関から聞こえた声に愛ちゃんは反応し、駆けていく。
彼女はいつも私達の帰りを出迎えてくれる。
…律儀だよねぇ。
一回愛ちゃんがお風呂入ってたときに帰宅し、全裸で迎えてくれたときもあった。
その後、自分の姿に気付いた愛ちゃんに危うく殺されそうになったのを覚えている。
『お帰りやよ〜』
「・・・迎えてくれるのはいいけど、勝手にキレないでほしいよなぁ・・・」
その時のことを思い出し、身震いしながら、カボチャグラタンをテーブルの上に並べていく。
次に箸、その次にお味噌汁と。
「いいにおい〜」
「ご苦労様」
振り向いてまこっちゃんに微笑む。
まこっちゃんは「ん」と言って、微笑み返してくれると私の右隣に腰を下ろした。
愛ちゃんはエプロンを取って左隣に腰を下ろす。
- 210 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:52
- 「ほいでは―――」
愛ちゃんの声にあわせて両手を合わせる。
そして三人そろって一言。
「「「いただきまーす」」」
それから食事開始。
――お、これは・・・。
「おいしいよ、愛ちゃん。また腕上げたね」
「え?あ、そ、そうけ?あは、あはははは・・・」
愛ちゃんがはにかみながら俯く。
可愛いなぁ。失礼だけど、一つ年上なんかに見えないよね。
「うん!おいしいよ!まいう〜だよ!!この絶妙な焼き加減とか、味付けとか。なによりカボチャという選出がイイ!もうサイコー!!」
「・・・まこっちゃん、急いで食べるとお腹壊すよ・・・」
- 211 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:53
- 私の忠告なんか全然耳に入っていないみたい。
がつがつと物凄い勢いでグラタンを口に運ぶまこっちゃん。
私と愛ちゃんはそれを見て苦笑い。
「相変わらず、麻琴はカボチャが好きやねぇ」
「カボチャが出ると、周りが見えなくなるからね」
そんなまこっちゃんを見ながら、私たちも食を進める。
そこで、ふと思い出した。
「ところで、咲魔さんとはまだ連絡が取れないの?」
愛ちゃんを見る。
愛ちゃんはスプーンを銜えたまま首を傾げて、考え出した。
「うーん・・・何回もかけとるんやけど、電源が切られてての・・・」
「そっか・・・」
この家に着いてから2日後に咲魔さんから電話があって、それで愛ちゃんはここの居場所を教えた。
正直、彼女のことを忘れていた。
愛ちゃんもそうだったみたいで、『あ、生きとったんやね』とか普通に言ってた。
それにはさすがに咲魔さんも怒った様で、『すぐ行くから、覚悟しときな!!』という悪役の捨て台詞のようなものを残して電話を切った。
- 212 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/20(土) 23:53
- それから三週間待っても一向に現れようとはしない咲魔さん。
いくら方向音痴だと言っても、これほどまで迷うわけ・・・あるかな。
うん。あの人ならありうるな。
なんてたって、刑務所の中で迷うくらいだからね。
「ま、あの人の事やから、死んじゃいないとおもうんやけど・・・」
「それは、同感だね」
ふうと一息ついて再びグラタンを口に運ぶ私と愛ちゃん。
まこっちゃんはもう平らげたみたいで、バラエティ番組を見ながら笑っていた。
「ぶあはははは!!何だよ『何か問題でも?』って!アンタラ問題ありすぎだよっ!!」
お腹を押さえながら、テレビの中の芸人さんに突っ込むまこっちゃん。
「・・・ところで、今日も特訓するの?」
その姿を見ながら、疲れたように呟く私。
答えたのは、愛ちゃんのこれまた疲れたような声。
「・・・24時に、例の場所に集合」
「・・・了解」
「ぶはひゃひゃひゃひゃ!!あんたはどうなんだよ!!『間違いない』のかよ!!」
「「・・・・・・」」
- 213 名前:我道 投稿日:2004/03/20(土) 23:56
- 本日の更新終了です。
>>199 19様
リアルタイムで読んでいただき、ありがとうございます!
重さんは結構好きなのですが、こんな扱いになってしまいました(汗)
まだ出てくる予定なので、これからもよろしくお願いします!(ペコリ)
- 214 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/21(日) 00:51
- スピード感ある緊迫した場面もいいですが、こういうのんびりしたのも上手いですねえ。
五期メンっぽいと思います。いつも楽しみにしてます。頑張って下さい。
- 215 名前:19 投稿日:2004/03/21(日) 03:06
- 「お帰りやよ〜」
…ん〜いいなぁ
- 216 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:07
- 深夜12時。つまり24時。
日付が変わるまさにその時間、私とまこっちゃんは愛ちゃんと対峙していた。
ここは静岡から数キロはなれた草原。
周りにあるのは草、木、岩ぐらい。月が出ているので視界は結構明るい。
「じゃ、始めるかの」
静かに言って、愛ちゃんは顔を隠すように腕を交差する。
そしてその腕を勢いよく広げると、両手のつめが長く、鋭く尖った。
彼女が目を開ける。
双眸が変化していた。瞳孔は獣のように細く鋭くなり、瞳の色は血のように紅く染まっている。
もう大分見てきたはずのその目。
だけど、やっぱりゾッとして身震いしちゃった。
「あ、あさ美ちゃ〜ん。怖いんじゃなーいん?」
「まこっちゃんこそ・・・伸ばすとこ間違ってるよ」
見るとまこっちゃんは顔を引きつらせて笑っていた。
…まこっちゃん、小刻みに震えてるよ。
「二人とも、準備はええか〜?」
普段と変わらぬ声で訊ねてくる愛ちゃん。
- 217 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:07
- 私は顔を左右に軽く振って、まこっちゃんはパンと顔を挟むように叩いてから頷く。
それを確認してから、愛ちゃんが少し前傾姿勢になる。
あれが愛ちゃんの戦闘スタイルだそうだ。
「今日は負けないぞーー!!」
まこっちゃんの気合十分な掛け声で、私も構える。
ついて行くという事は愛ちゃん達のお手伝い、つまり『S.P.K.G』の裏の顔を暴かないといけないという約束になっていた。
でも今迄から分かる通り、『S.P.K.G』の社員さんたちは異常な強さを誇っている。
そして私たちは弱い。
だからこうして咲魔さんを待つ間、愛ちゃんに稽古をつけてもらってるわけ。
組み手形式で、私たち二人がかりで愛ちゃんにかすり傷でもいいから、つけたら勝ち。
でもこれを始めてから3週間、戦績は15戦全敗。
能力の使用オッケーだから、まこっちゃんは自分の能力でバンバン攻めるんだけど、能力を使った愛ちゃんの前では全く当たらない。
暖簾に腕押し、ぬかに釘状態ってとこ。
「てりゃあぁぁ!!」
- 218 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:08
- まこっちゃんがポケットに忍ばせていた紙くずを爆弾に変え、投げつける。
今まで愛ちゃんのいたところで小規模の爆発が起こり、爆煙とともに砂埃が舞い上がる。
でもまこっちゃんと私は慌てて後ろを振り向いた。
「麻琴。本気で来いって言うとるやろ?」
そこには現在赤眼の少女、愛ちゃんが不機嫌そうに腕を組んでこちらを睨んでいた。
「・・・相変わらず、素早い移動で」
「トーゼンやよ」
私の言葉に不敵に微笑む愛ちゃん。
微笑んだとき、少し開いた唇の隙間から発達した牙が確認できた。
愛ちゃんの能力は、“獣化”なんだそうだ。
- 219 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:08
- その能力を開放している間、身体能力が獣並みに、いやそれ以上に高まるらしい。
今も、世界最速を誇るチーターをも凌駕するほどのスピードで、まこっちゃんの攻撃をかわし、私達の背後に音も無く忍び寄ったに違いない。
最初はこれに気付く間もなく、一撃でノックアウトされてたっけ・・・。
「ほれ、あさ美ちゃん。笑っとらんで、真面目にするやよ」
「あっ。ごめん」
その時のことを思い出し、少し苦笑していた。
愛ちゃんに注意され、もう一度顔を左右に振る。
「ふっ!」
そして、呼び動作を起こさず愛ちゃんの鳩尾めがけて中段蹴りをお見舞い。
それを、表情を動かさず半歩身を引いてかわす愛ちゃん。
「たりゃあ!」
そこを狙って後ろ回し蹴り。
実は昔、空手やってたんです。
「甘〜い。蜂蜜よりも、甘〜い」
「むっ」
余裕綽々で飛んでかわす。
その姿に少しムッと来たけど、心の中ではガッツポーズを取っていた私。
- 220 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:09
- 「甘いのはどっちかな?!」
嬉しそうに空中の愛ちゃん目掛けて、爆弾(落ちてた石)を本気で投げるまこっちゃん。
…ふふふ。完璧です。
物凄い近距離。普通なら避ける事は出来ない。
そう。普通なら。
「「・・・あっ」」
そこで二人で気付いて、間抜けな声を上げる。
愛ちゃんは欠伸をしながら首を軽く傾げ、楽にその爆弾を回避してしまった。
…完璧じゃなかった・・・。
心の中で凹んだ。
「甘すぎるのー。蜂蜜と砂糖とあんこ混ぜたのよりも甘甘やー」
着地して、伸びをしながらそんな事を呟く愛ちゃん。
- 221 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:09
- 今度こそ本当にカチンと来て、二人で殴りかかった。
「いっつべりー浅はか」
愛ちゃんはそんな事を言いながら、流れるような動きで私達の攻撃を避けていく。
めげずにパンチとキックのラッシュを繰り返す私たち。
「ていっ」
「「あうっ!」」
その攻撃の合間を見て、愛ちゃんの手刀が私たちそれぞれの首筋にメガヒット。
視界が一瞬揺れ、二人仲良くその場に倒れこんだ。
「まだまだやね。二人とも」
「「むうぅぅぅ!!」」
悔しさが私達を突き動かす。
勢いよく立ち上がると、お互い反対方向に飛び退る。
愛ちゃんは私達を見比べて、驚嘆していた。
「ほー。二人とも根性だけはすごいんやねぇ」
- 222 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:10
- 言ってから再び身体を沈める愛ちゃん。
それを確認すると、まこっちゃんは叫んだ。
「ファイトーーーーー!!!!」
「な!?なんやよ!?」
愛ちゃんは驚いて、まこっちゃんのほうについ目が行ってしまう。
その瞬間を待っていた私は素早く愛ちゃんに近づくと、恥ずかしいながらも叫んだ。
「い、いっぱーーーーー!!!」
「――!!しもうた!!」
愛ちゃんをガシッと後ろから羽交い絞めにする。
焦ったような表情になる愛ちゃん。
まこっちゃんは爆弾(間違って買ってきた賞味期限切れのプッチンプリン)を握り締め、投球モーションに入った。
目が合った。
と同時に、二人一緒に叫んだ。
「「つぉりゃあぁぁぁぁ!!」」
それと一緒に愛ちゃんのお腹に爆弾(プッチンプリン)を投げつけた。
ぎりぎりまで引き寄せて・・・いまだッ!!
- 223 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:11
- 愛ちゃんのお腹に爆弾(プッチン(ry)が当たる寸前、急いで愛ちゃんを離して飛び退った。
――ズドンッ!!
先ほどよりもはるかに大きい爆発が、その周辺を包んだ。
私は顔の前で腕を交差させ、爆風に耐えた。
爆風が少しやんでくると、私は慌ててまこっちゃんに駆け寄った。
「ま、まこっちゃん!ちょっと強すぎだよ!」
そう。今のは明らかに、トラック車一台を軽く廃車に出来るほどの爆発。
…やばいよぉ。
やった本人も本人で、おろおろとして情けなく眉を八の字にしている。
「どどどどどどどどどうしよう!!まだ上手くコントロールできなくて・・・」
「と、とにかく!愛ちゃんを連れて・・・あれっ?」
爆風が完全にやみ、愛ちゃんがいたはずの場所を振り向いてみた。
でもあるのは爆発でできたクレーターだけ。
愛ちゃんの姿はどこにも見受けられない。
「ど、どこ?」
二人できょろきょろと辺りを見回す。
…やっぱりどこにもいない。
- 224 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:11
- 故に困惑していた、その時。
「イマのハ、アブなかったやヨ」
どこか不明瞭な声と共に私の喉元に当たる、針の様に鋭い感触。
冷や汗が噴き出し、呼吸が苦しくなる。
それほどのプレッシャーが今私を包んでいる。
「あ、愛ちゃ・・・ん?」
不明瞭だけどその声は確かに愛ちゃん。
…じゃあ、このプレッシャーは何?!
恐る恐る首だけで振り向こうとすると、
「フリむくナ!!」
「「ひっ!」」
怒鳴られ、彼女の手に力が入る。爪が喉に食い込んで、結構痛い。
「あっ。ご、ゴめン・・・」
慌てた様子で手から力を抜く愛ちゃん。
そして申し訳なさそうに呟いた。
- 225 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:12
- 「ちょット、ホンキだしてモうタンよ。ホンキだすと、スガたが180度カワッテまうから・・・恥ずかしいから、見んといて」
彼女の声が不明瞭ではなく、いつもの調子に戻った。
それに気付いて私達を開放してくれた。
振り向いたとき、そこにいたのは苦笑しながら立っている“獣化”の解けた高橋愛ちゃん。
「ホント、ごめんやよ・・・」
深々と頭を下げる彼女。
私たちは安堵のため、その場にへたり込んでしまった。
慌てて愛ちゃんが近寄ってきて、心配そうな顔をしていた。
私はそれに力なく笑って、それからまこっちゃんを睨みつけた。
「・・・愛ちゃんのせいじゃないよ。あれはまこっちゃんの練習不足のせい」
「ちょ、ちょっと待ってよ、あさ美ちゃん!しょうがないでしょ!これコントロールするの難しいんだよ!」
- 226 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:12
- 「・・・先週、特訓休んでたの誰だっけ?」
「あ、あれはお腹が痛くて・・・」
「私たちが帰ってきたとき、お腹が痛いとか言っておきながらポテチ食べて深夜番組見てたの、誰だっけ?」
「うぐっ!!」
「麻琴、あきらめたほうがええ。アンタの負けやよ」
私はまこっちゃんを睨み、愛ちゃんは苦笑いしながら見つめる。
まこっちゃんはそれを交互に見渡し、目を潤ませた。
そして私たちに背を向け、草をむしりだした。
…いじけたな・・・。
「ま、なんにせよ、今日も私達の負けだね」
「・・・いや。今日はあさ美達の勝ちやよ」
肩を落とした私を起こして、愛ちゃんは微笑む。
困惑して首を傾げる私。
- 227 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:12
- すると愛ちゃんは、私に背中を向けて下ろしていた髪を掴んで一つにまとめ、右にずらす。
露になる結構色っぽい愛ちゃんのうなじ。
そこを走る一筋の紅い線。
「・・・それは?」
「さっき麻琴の爆弾から逃げたとき、その爆風にのって飛んできた石が当たったんよ」
「ふーん。あ!動かないで・・・」
相槌を打ってから、服の袖で血を拭う。
「いいよ」
「ありがと、あさ美」
少しはにかみながら微笑む彼女。
私は微笑み返して、まこっちゃんを見た。
…まだ草むしりしてる・・・。
「ほら、まこっちゃん帰るよ」
するとチラッとこちらを振り向いた。
でも、すぐに戻って草むしりを再開。
- 228 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/21(日) 23:13
- 「・・・ふんだ。あさ美ちゃんなんか嫌いだ」
なんて事を言い放った。
私は無表情でまこっちゃんのとこまで近づき、瓦割りの要領で一発。
「押忍っ」
「ぴぎゃっ!」
頭に私の空手チョップを受けたまこっちゃんは奇声を上げ、あっけなく気絶。
気を失ったった彼女を肩に担ぐと、愛ちゃんに振り向く。
「さ、帰ろ」
「あ、う、うん」
目を見開いて固まっていた愛ちゃんは、私の声で正気に戻ると小走りで近づいてきて私の右隣につき、並んで歩く。
「・・・あさ美って、結構大胆やが」
「そう?」
「うん。見た目は結構優等生で、おとなしめな感じするのになぁ〜」
言ってからまじまじと、私を上から下まで見渡す愛ちゃん。
その目がまこっちゃんを映したとき、納得したように頷いた。
「まあ、相手が麻琴やからそうなっちゃったんかもな〜」
「・・・そうかもね」
それから二人で苦笑しながら、静岡に向かってのんびり歩いていった。
- 229 名前:我道 投稿日:2004/03/21(日) 23:13
- 本日の更新終了でございます。
>>214 名無しさん様
楽しみにしていただいているようで、ありがとうございます!
こらからもご期待に沿えるよう頑張っていきたいと思います!
>>215 19様
いいですよね〜(笑)
私も一度こんな事・・・。
すいません、聞かなかったことに・・・(汗)
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/22(月) 00:13
- こりゃまたいいとこで・・・・
続きが気になってしかたありません・・・
妄想かきたてられるっていうか、展開が読めません。
おもしろいし・・・
とにかく更新お待ちしております。がんばってください!
- 231 名前:19 投稿日:2004/03/22(月) 04:29
- 紺ちゃんはやっぱ空手か 最近テレビでやんないな〜
- 232 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/23(火) 15:24
- 我道さんの作品ハケーンw
かなり好きです、コレ。
凶子さんもイイ感じ。
よっすぃ〜とのバトルシーンで思わず、
アン○ンマンかよ!!・・・と、ツッコんでしまいましたw
これからも読ましてもらいます。(ペコリ)
- 233 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:23
- □□□□□□□□□□□□
帰ると午前3時近かった。
気を失ったままの麻琴を布団に寝かせ、あさ美も眠りについた。
あたしは一人居間でホットミルクを飲みながら、暫しの休憩タイム。
「・・・ふう」
息を一つ吐いて、ソファーにもたれかかる。
結構落ち着いた感じに見えるかも知れんけど、内心はちっと焦っとる。
三週間・・・。
この期間何も無かった事は、正直言って奇跡に近いかも知れん。
『S.P.K.G』の科学技術は発達していて、あたし達の居場所を特定する事なんて、なんてこと無いはず。
けど、それらしき人物は全然現れもしない。
あたしらにとっては確かに良いことなんだけど、どうにも怪しい。
あの会社、結構あきらめが悪いからのぉ。
「ふぁ・・・」
考えてたら、欠伸が出てもうた。
――もう寝ようかの・・・。
空になったコップを流しに置いて、あさ美たちの眠る寝室に向かう。
「・・・なんにせよ、用心するに越した事はないの」
伸びながら歩を進める。
- 234 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:23
- そんな時ある不吉な考えが頭をよぎった。
「まさか・・・いや、そんな事は。・・・でも」
歩を止め、再び考え込む。
こめかみを一筋の冷や汗がつたう。
「・・・“あの日”を、待ってんやろか・・・」
ありえないと分かっていても、確実には否定しがたい。
あいつらなら、もしかしたら・・・。
「いや、無い!いくらあいつらでも、“あの日”を特定する事なんて出来ないはずやよ!」
自分に言い聞かせるように叫んで、不吉な考えを追い出そうとする。
でも一度出てきた不安というものは、そう簡単には消せないもの。
その日はなかなか寝付けんかった。
- 235 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:24
- ――――――――――――
- 236 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:25
-
もう睡眠サイクルなど関係ない。昨日、とういうか今日だね。
3時ちょっと前に寝たので、起きた頃はちょうどお昼時の12時半。
まだ二人は眠っていたので、音を立てないようにして台所に行き最初に眼についたパンをかじる。
そしてソファーに身を沈め、テレビのスイッチをオン。
相変わらず流れている私達のニュース。
…しつこいなぁ。
起き掛けからこんなの見てしまうなんて、凄く不愉快。苛立ちながらテレビの電源を切った。
パンを食べ終わり、身支度も済ませソファーでボーっとしていたら一時間が過ぎてしまっていた。
何かこのまま時間を潰すのももったいなく、外も晴れているということで散歩に出る事にした。
買ってきた帽子を目深にかぶり、伊達メガネをかけて、いざ出発。
「やっぱり晴れてると気持ちいいなぁ」
外に出てから思い切り伸びをする。
このボロ屋って、路地裏にあるから、人なんて滅多に来ないんだよね。
ホント、いい所だよ。
- 237 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:25
- 「**公園でも行こうかな・・・」
ぶらりと歩き出す。
ちょっと行くと大通りにでた。人の通りが凄く多くて、私は結構苦手。
その向こうに見える緑色。あの公園は人も少なくて、静かなので凄く落ち着ける。
人の波を掻き分け、**公園を目指す。
――いたっ!足踏まれた・・・。
――あたっ!肩、ぶつかった・・・。
――ひゃっ!?お尻、触られたぁ〜。うわーん・・・。
- 238 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:26
- ―――――――
- 239 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:26
- 暫くして公園に到着。
私はぐったりして、半分涙目。グスグスと鼻をすすりながら、近くにあったベンチに腰を下ろす。
「都会って怖いよ〜・・・」
一人ベンチに座りながら、愚痴っていた。
ふと顔を上げると、思わず目を見開いた。
「えぇ!?な、えっ?あえー!!??」
勢いよく立ち上がり、近くにあった木の下へ駆け寄った。
そしてそこでうつ伏せに倒れこんでいる女性に近づき、声をかけてみる。
「あ、あの、大丈夫・・・うひぃ!」
奇声を上げ仰け反る私。
女性の下になっている草が紅い。
…まままままま、まさかこの人・・・。
「・・・死んでる・・・?」
- 240 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:27
- 顔から血の気が引いた。
いや、私は確かに人をたくさん殺しましたよ。
でも慣れないんですよ!人が死んでる所見るのなんて。
あぁー、どうしよう!このまま、ほっとく?いや、何か可哀想だし・・・。
じゃあ、警察に電話する?うーん、警察苦手だし・・・。それに絶対事情聴取とかされるよね。
そしたら私がやばいし・・・。
「あぁー!どうしよー!!」
「ああ、もう!うるさいなぁ!眠れないじゃん!」
「うひぃやぁーー!!??」
突然起き上がり、不機嫌そうに顔をしかめて私を怒鳴った顔中血まみれの女性。
私は情けない事ながら、腰を抜かしてしまった。
「ひぃ、違うんです!私じゃありません!あなたは別の誰かに殺されたんですよー!」
叫んで四つん這いになり逃げ出そうとした。
「・・・は?アンタ、何言ってんの?」
そこに聞こえてきた、呆れたような声。
恐る恐る振り返ってみると、やっぱり顔中血だらけの女性がこちらを訝しげな眼差しで見つめていた。
「え?だってあなた、誰かに殺されたんじゃないんですか?」
- 241 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:27
- 「なんでミキが殺されなくちゃいけないんだよ・・・」
「だって、その血・・・」
「ああ、これ・・・」
私が震えながら彼女の顔面にべっとりと付着している血を指差すと、その女性は大して驚きもせずその血をごしごしと拭い始めた。服の袖で。
「ああ、くそっ!乾いちゃって取れないや・・・」
苛立ちながらさらにごしごし。
乾いていたようで擦るごとに血がはがれ、地面に落ちる。
完璧には落とせなかったものの、大体の血を落としてから女性は私を見て、
「ね?」
とだけ言った。
わけが分からず首を傾げていると、その女性は苛立ったようにため息を一つ。
「・・・だから、これはミキの鼻血。眠ってたときに出たんだね」
「・・・はっ?」
「だーかーら!ミキはここが気持ちよかったから眠っちゃって、この鼻血はその時出ちゃったもんなの」
- 242 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:27
- 女性が私を睨みつける。
この女性、咲魔さんほどにはないにしても目つきが鋭い。
だから私は思わずたじろいでしまった。
「ミキ、元々鼻線弱いからなぁ・・・」
そんな私には目もくれず、目つきの鋭い女性はその場を立去ろうとした。
第一歩を踏み出そうとしたとき、その身体がぐらりとよろけた。
そしてそのまま地面に倒れこんでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
急いで駆け寄り、抱え起こすとどことなく顔色が悪かった。
その鼻からは再び紅い線が・・・。
「わわっ!」
急いでその人を担ぎ上げ、ベンチの所まで運び仰向けで寝かせる。
そして、持参していたポケットティッシュで鼻血をふき取る。
「う〜、ごめんー・・・」
先ほどの強気な態度とは一変して、申し訳なさそうに謝罪してくる彼女。
「いえ。多分貧血を起こしたんですよ。少し横になってれば直ります」
言いつつ、千切ったティッシュを固めて両の鼻の中に詰める。
女性は頬を赤くして、目を瞑りながら、
「ごべん・・・ばりばぼ・・・」
と言った。
その様子を見て、失礼だけども少し噴き出してしまいました。
- 243 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:28
- ―――――――※
- 244 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:28
-
暫くしてようやく目つきの鋭い女性の鼻血は止まった。
彼女は藤本美貴さんというらしい。仕事でちょっと前からこの静岡に来ているのだそうだ。
まだ若いのに、お仕事熱心で偉いなあと思った矢先。
「いやぁ、慌ててたからこれから会う人の顔確認しないで来ちゃったんだよね〜。携帯も家に忘れてくるしさ〜。ハハハ、参った参った」
見た目結構しっかりしてそうだけど、実はかなり大雑把らしい。
だって、
「ま、何とかなるでしょ」
と言う理由だけでここに止まっているのだから。
…大物、発見しました!
「しっかしビックリしたよねぇ。いきなり『私じゃありません!』だもん。ぷくく・・・」
藤本さんは先ほどの事を掘り返して笑っている。
最初冷たい印象を受けたけど、どうやらあれは人見知りらしくて・・・。
ちょっと話して打ち解けたら、すっごい笑う笑う。
- 245 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:34
-
「自分の心配かよ!こっちの心配もしてよ!って感じだよね。あはは!」
しかも、突込みが鋭いんです。
的を着いた藤本さんのつっこみに、私はたじたじです・・・。
「うっ・・・すいません・・・」
「あっはっはっは!謝らなくていいから!ってゆーか、その顔おもしろい!みゃははは!!」
私を見てさらに笑いを深くする藤本さん。
…どんな情けない顔してるのかな・・・私・・・。
「ひーはー。あー面白い。笑った、笑った」
お腹をさすりながらまだ少し笑ってる。
笑われてるこちらとしては、不快なことこの上ない。
「・・・笑いすぎですよ」
頬を膨らまし藤本さんを見る。
でも彼女は気にした様子もなく、手をひらひらとさせるだけ。
…誰かに似ていると思うのは、私の気のせいじゃないよね・・・。
- 246 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:35
- 「ところでさぁ、君の名前なんてーの?」
「私ですか?私は、こん――!」
そこまで言って、慌てて口を押さえた。
…忘れてた。
私、犯罪者なんだった。毎日テレビに顔写真付き(モザイクなし)で流れてるんだから、今は知らない人のほうがおかしい。
「こん・・・?」
口を押さえ、どうしようか考えていたとき藤本さんが私の顔を覗き込んできた。
キョトンとした表情。
ビックリして咄嗟に出た言葉。
「こん・・・近藤明日美・・・です」
苗字を変えるだけじゃ少し浅いなと感じたから、名前まで変えた。
そしたら・・・誰?ってな感じの名前になっちゃった。
「近藤・・・明日美かぁ。じゃあ、コンちゃんだね」
でも変装のため、私の本当の名前を分からない彼女は無邪気に笑ってそう言った。
ホッと胸をなでおろす。でも罪悪感は否めない。
…すいません。藤本さん・・・。
- 247 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:35
- 「コンちゃんさ、ここに住んでんの?」
私が心の中で謝罪していたとき、藤本さんが聞いてきた。
「あ、いえ。ここには事情があって短期滞在中です。多分もうすぐ、出て行くと思います」
「ふ〜ん、そうなんだ」
相槌を打ちながら、どこか残念そうな表情になる藤本さん。
私は首を傾げながら、訊いた。
「どうかしたんですか?」
「あ、いや。ちょっとね・・・」
どこか歯切れが悪い。
――――?
「・・・いや。やっぱり、いいや。さすがに図々しいもんね」
「言ってみてくださいよ。図々しいかどうかなんてそれから判断するものです」
「うーん・・・じゃあ・・・あっ、迷惑だったら聞き流してね」
それから申し訳なさそうに、呟き始めた。
その言葉に耳を傾ける。
「あのさ・・・暫く・・・住まわせてくれない?」
「ふぇ?」
- 248 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:36
- 私が目を点にして藤本さんを見ると、彼女は慌てたように顔の前で手を振った。
そして同じく慌てたように言う。
「あ、ご、ごめん!やっぱりメーワクだよね・・・見ず知らずのヤツを同じ宿に置くなんて・・・」
…沈んだ。
幡から見ても分かりやすいほど、藤本さんの周りには暗雲が立ちこめる。
それを見て、今度は私が慌てる番。
「あ、いえ!いきなり言われたんでビックリしただけで・・・。べつにメーワクなんて・・・」
…昇ってきた。
藤本さんは物凄い嬉しそうな顔をして、私の手を取る。
「マジに!?じゃあ、オッケーなの!?」
「あ、いや・・・それはちょっと・・・」
「あ・・・そう、なんだ・・・」
再び沈没。
試合後の燃えつきたボクサーみたいにうなだれる藤本さん。
私はその様子を見てため息を一つ吐き出し、少しの間考える。
――――ん〜、どうしたものか・・・。
- 249 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:36
- 一人で住んでるわけじゃないから、私の一存じゃあ決められないし・・・。
かと言って、こんな様子の藤本さんほっとけないし・・・。
う〜ん・・・。
「・・・分かりました・・・」
その言葉に藤本さんは嬉しそうに顔を上げる。
悩んだ挙句、だした結論は、
「いいの?!」
「・・・ついて来てください。私の友達に紹介します」
私は立ち上がり、歩き出す。
それを藤本さんは慌てて追いかけてくる。そして私の横に並ぶと、困惑したような表情で、
「何で、友達に・・・?」
歩を進めながら彼女に私の今の状況を説明した。
「私は今、空き家を勝手に借りて友達二人とで暮らしているんですよ」
「えぇっ!そうなの!?」
「はい。何せお金がなかったですから・・・。それでその私の友達に藤本さんを紹介して、暮らして良いかを訊くんです」
「な〜る」
納得したように手をぽんと叩く藤本さん。
- 250 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/24(水) 04:36
- 「ところで藤本さん」
「ん?何?」
浮かんできて当然の疑問。それを口にだした。
「今までどこで寝泊りしてたんですか?」
苦笑する藤本さん。
その顔のまま地面に向かって指を指し、
「・・・ここ」
「ここ・・・って、この公園ですか!?」
思わず歩を止め藤本さんを見つめる。確かによく見れば、所々土が付いてるし、髪ぼさぼさだし・・・。
「いやー、ちょっとね。財布落としちゃってさー。ご飯はこの辺の木になってる名も知らない果物とか食べてたけど、さすがにお風呂は入れないのはきついなーって思ってたんだよね」
サ、サヴァィバーだ・・・。サヴァィバーが今私の目の前にいる。
目を見開いて、口をパクパク。
そんな事をしてる間に彼女はどんどんと進んで、公園の入り口まで歩いていってしまった。
そこで振り返り、まだ放心している私を呼ぶ。
「おーい!コンちゃん、はやく行こーよー!!」
それでやっと我に返り、慌てて走り出す。途中で転んでしまってまた笑われた。
私はむくれながら、藤本さんは笑いながら並んで同じ場所を目指し歩いていった。
- 251 名前:我道 投稿日:2004/03/24(水) 04:45
- 今日の更新終了です。短くてすいません(涙)
>>230 名無飼育さん様
気になっていただき、ありがとうございます!
これからももっともっと精進して、期待に沿えるよう頑張りたいと思います。
>>231 19様
本当に最近見ませんよね(哀)
あの頃の紺野さんをもう一度と思っている、今日のへぼ作者です(苦笑)
>>232 名も無き読者様
こちらでは初めまして、我道です。
尊敬する名も無き読者様(あちらでは名も無き作者様)に好きといってもらえて、
嬉しいやら、恥ずかしいやらです(苦笑)
お互い頑張っていきましょう!
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/24(水) 08:36
- 新キャラ登場ですね!彼女はどんな役割を演じてくれるのか、楽しみです
- 253 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/24(水) 09:40
- 更新お疲れサマで〜す。
また野性的な新キャラですねぇw
彼女がこれから物語にどう絡んでいくのか・・・楽しみですww
次も待ってます。
PS 尊敬なんて・・・書く方はド素人っすよ?
でもそう言ってもらって感激ですw
- 254 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:04
- □□□□□□□□□□□
- 255 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:05
- 〈ちょっと散歩に行ってきます。 あさ美〉
寝癖の付いた頭をぼりぼりとかきながら、リビングのテーブルの上にあった書置きを読む。
書置きを置いて、テレビをつけてみると画面左上に13時46分の表示。
――――大分寝ちゃったのぅ・・・。
テレビを消して洗面所へ向かった。
目を覚ますために冷たい水で顔を洗う。
「ひゃっこーい!!」
案の定、すぐに目が覚めた。
歯を磨き、寝癖を直してリビングに戻ると麻琴が書置きを呼んでいた。
「オハヨ、麻琴」
突然声をかけられたことに驚いたのか、ビクッとしてこちらを振り向いた。
あたしだということを確認すると、ホッと胸をなでおろしたみたいや。
「なんだ、愛ちゃんか」
「・・・なんだとはなんやよ」
「あはは、ごめんごめん。おはよ〜。っていうか、昼だけどね〜」
ふにゃっと笑う麻琴。
つられてあたしも笑顔んなる。
- 256 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:06
- それからあたしはソファーに身を沈め、麻琴は欠伸をしながら洗面所へ。
別に見たい番組もないんやけど、テレビを点けた。
その時。
『ぶわぁー!!鼻に入ったー!痛い!冗談みたく痛いよー!!』
聞こえてきた麻琴の絶叫。
あたしはそちらを見ずに、呆れてため息を吐いた。
「ったく。ほぼ毎朝同じ事してるんやから・・・」
麻琴は何故か顔を洗うとき鼻で息をする。
だから当然鼻に水が入るわけで。それって結構痛いわけで・・・。
何回も顔洗うときは息止めぇって言うとるんやけど、全然改善された様子もなく。
勝手にしとけって感じやの。
「いたた・・・まだ余波が・・・」
「ええかげん、学習したらどうやよ・・・」
鼻を押さえて涙目で出てきた麻琴に、あたしはピシャリと言い放つ。
すると麻琴は潤んだ目のまま睨みつけてきて、
- 257 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:06
- 「なんだよ?あたしが馬鹿だとでも・・・」
なんてことを言う。
そりゃ、トーゼン・・・
「馬鹿やろが」
「・・・・・・」
真剣な表情で言ったあたしに、馬鹿は何も言い返せない様子。
「・・・今日もいい天気ですなー!はははははは!!」
馬鹿みたいな大声で叫び、高笑いをしながら階段を上っていく。
…外見てないのに、いい天気かどうかなんて分かるわけないやろ・・・。
こめかみを押さえ、大きくため息。
凶子さんといい、麻琴といい、何でそんなにあたしを疲れさせたいん?
「凶子さん・・・どこで、なにしてるんやろ?」
天井を見つめながら静かに呟く。
そして、目を瞑る。浮かんでくる、あの人の顔・・・。
「だぁ!!やめ、やめ!あの人思い出すくらいなら、寝てたほうがまだましやよ!!」
目をバッと開いて、誰にともなく叫ぶ。
…あのヤロウ・・・あたしの頭んなかでも馬鹿にして笑いやがった・・・。
- 258 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:07
- 「どうかしたー?」
そこに着替えた麻琴が不思議そうな顔をしながら降りてきた。
ジーパンに、パーカー。買ってきた中でも麻琴のお気にだ。
「・・・いや、ちょっと嫌なこと思い出しただけやよ・・・」
あたしはそう言って苦笑を麻琴に向けると、彼女は首を傾げたものの何も言わず、台所に入っていった。
それを確認すると、あたしはテレビに目を戻す。
…まあ、見てないんやけどの。
テレビの前でボーっとしていると、パンを銜えた麻琴がやってきて隣に座った。
暫く二人並んでテレビを見る。
「平和だねぇ・・・」
唐突に麻琴がしみじみとした口調でそんなことを呟いた。
あたしはそれを鼻で笑い飛ばす。
「はっ、何を今更。あんたたちはね、犯罪者でしかも化け物集団に狙われてるんよ!ぜんっぜん、平和なんかじゃないわ!」
気付けば麻琴に目と鼻の先ほどまでに詰め寄って、怒鳴っていた。
麻琴は眉を八の字にして、情けない顔をしている。
あたしは慌てて距離をとった。
「あ、ご、ごめん・・・。つい・・・」
視線を麻琴からずらし、呟くように一言。
- 259 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:07
- 「こっちこそ、ごめん・・・。今こうして普通に暮らしてるのが、何か凄く嬉しくて・・・あたしも、つい・・・」
気まずい沈黙。
…何やってるんやろ、あたし・・・。
こんな危ない事に半ば無理やり誘っておいて、いきなりキレるという事は愚かな事この上ない。
むしろ、こんな状況下で平和だと感じてくれる事はええことやのに・・・。
静かなリビングにテレビの音が鬱陶しく流れる。
でもこれを消したら、さらに耳が痛くなるほどの静寂が流れるに違いない。
…それはさすがに耐えられんわ・・・。
あたしと麻琴の間には人一人分が座れるほどの空きが出来ている。
――――――ピリッ・・・
「――――えっ!?」
黙って俯いていたとき、うなじのあたしに微量の電流が流れたような、そんな感じがした。
辺りを見回す。
キョトンとしてあたしを見ている麻琴、他には誰もいない。
――――――ピリッ・・・
でもやっぱりうなじは痺れ続ける。
…なんやろ。何か知らんけど、ヤな事が起こりそうな気がする・・・。
なんちゅーか、野生の勘ってやつ?
「愛ちゃん、どうしたの?」
麻琴が困惑した表情であたしを覗き込んできた。
あたしはそれを一瞥し、立ち上がって階段のところまであるいていく。
そこで立ち止まって一言。
「・・・麻琴。ここを出て行く準備、して・・・」
それだけ言うと、振り返らず階段を上っていった。
- 260 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:08
- □□□□□□□□□□□
- 261 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:08
- 「・・・ボロッ・・・」
我が家(勝手に借りてる空き家)を見ての、これが藤本さんの第一声。
しかも顔をしかめて、少し引いてる。
「・・・失礼ですねぇ」
ジトッと私はそんな藤本さんを睨みつける。
すると慌てたように両手を顔の前で振った。
「あ、ご、ごめん!ミキってつい思ってること口にだしちゃって・・・」
「言い訳になってませんね」
「はぐっ!!」
ピシャリと言い放つと、どんよりとした空気を漂わせてくる藤本さん。
そんな様子がおかしくて、笑いながら呟いた。
「別にここ、私の家じゃありませんけどね・・・ぐえっ」
言った途端後ろから首を絞められた。
思わず、ヒキガエルがひき殺されたような声をだしてしまった。
「そ〜だよ!ここ、コンちゃん家じゃないじゃん!じゃ、別に良いじゃんか!!」
「あぐうっ!す、すい、まっ、せん!」
- 262 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:09
- 叫びながら私の首をブンブンと前後左右に揺さぶる。
―――ギ、ギブッ!ギブです!!
そんな私の心の叫びが聞こえたのか、藤本さんは私の首から手を離してくれた。
私は首を押さえて、荒い息をする。
「さ、はやく入ろ!ベタベタして、しかも臭いし」
そんな私を気に留めた様子も無く、藤本さんは玄関の前に立つ。
そして自分の臭いを嗅いで、顔をしかめる。
「・・・はぁ、はぁ・・・どうぞ・・・」
触らぬ神にたたりなし。
藤本さんを刺激すると危険と判断。よって、ここは素直に家の中へ上げる事にします。
ドアノブを掴もうとしたとき、それが勝手に回った。
私は反射的に後ろに下がる。
「ちょ、ちょっと、愛ちゃん!まだ、あさ美ちゃん帰ってきてないよ」
「あさ美の場所ならなんとなく分かる。探して、はよこの街を・・・」
ドアが開き顔をだしたのは、どこか慌てた様子の愛ちゃんとまこっちゃん。
- 263 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:09
- その愛ちゃんの双眸が私達を捉えたとき、彼女の表情に畏怖の色がはっきりと灯った。
私はどうしたのかなと思い、首を傾げていた。
「あ・・・い、ちゃ・・・ん」
そこに後ろから聞こえてきたかすれた声。
振り向いてみると、藤本さんが目を見開いて愛ちゃんを見つめていた。
その表情が次の瞬間、一変する。なぜか不気味に笑い出した。
背中から何かゾクリとするものが這い上がってきた感じ。
「は、はは・・・嬉しいよ。こんなとこで・・・」
藤本さんが呟くと同時に、その周りに小さく火花が飛び散る。
そしてその爪がジャキッと鋭く尖った。
「こんなとこで、オマエを殺せるなんてなあぁぁぁぁぁ!!!」
藤本さんの瞳が獣のごとく細くなり、色が黒から金色に変わる。
叫んだとき開いた口からは鋭く発達した幾本もの、牙。
その顔は愛ちゃんを捉え、憎悪に歪んでいる。
- 264 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:10
- 「二人とも逃げるやよ!!」
藤本さんの突然の豹変に驚き、恐怖して動けなくなっていた私の手を愛ちゃんが掴んで藤本さんの横を風のごとく走り抜ける。
「逃がすかあぁぁぁ!!」
大通りに出たとき後ろから聞こえた怒号。
それと共に襲ってくる、身体をばらばらにされそうなほどのプレッシャー。
愛ちゃんもそれを感じているのか、横顔は普段見せないような焦燥感を感じる。
「うわっ!なんだ、こいつら!!」
「きゃあ!化け物ぉ!!」
一般人さんの悲鳴を無視し、愛ちゃんはひた走る。
間もなくして、静岡を脱出。
それでも愛ちゃんは足を止めることなく、草原を物凄いスピードで走った。
その時。
――――ピリッ・・・バリバリバリッ!!
私達の横を通り抜けた青白い閃光。
その光が私達の前で一つに凝縮され、人の形を作っていく。
それを見て愛ちゃんは走るのをやめた。
- 265 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:10
- 私達を下ろして、その人型の光をキッと睨みつける。
そこから現れたのは、禍々しい笑みを浮かべた藤本さん。
―――愛ちゃんと、同じだ・・・。
今の愛ちゃんも獣化モード。目が赤く、爪が伸びてる。
「ふ、ふふ・・・ミキからは逃げらんないよ・・・」
身体からパリッ、パリッと青白い光を出しながら少しづつ近づいてくる藤本さん。
私たちは距離を詰められないように、同じように後退していく。
「亜弥ちゃんを傷つけた罪・・・償ってもらうから・・・」
言い終わると同時に、藤本さんの姿が掻き消えた。
「あかん!!」
愛ちゃんはそう叫んで、私達を後ろに突き飛ばす。
尻餅をついた私の目に映った光景は、吹き飛んでいく愛ちゃんの姿。
そしてそれを追う様にして走っていく藤本さん。
その身体に纏わりつく青白い光。
- 266 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:11
- 愛ちゃんが倒れた体勢からすぐ起き上がって、藤本さんを迎え撃つため構える。
その小柄な身体から吹き出るように出現する激しく燃え上がる炎。
それを身に纏い、藤本さんに向かって走っていく。
青と赤がぶつかり、弾けた。
私たちはその余波から逃げるようにその場から距離をとって、振り返った。
愕然とした。
そこにはお互い背を向け合って立っている藤本さんと、愛ちゃん。
藤本さんが振り返る。でも愛ちゃんは振り返ることもせずに、その場に倒れこんだ。
その身体は焦げたように真っ黒。
「・・・弱すぎるよ・・・愛ちゃん」
藤本さんが愛ちゃんに近づき、頭に右手を乗せる。
その瞬間に私の身体が勝手に動いた。
「うあああああ!!」
- 267 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:11
- 気付けば藤本さんに蹴りをいれ、愛ちゃんをかばう様に立っていた私。
藤本さんは鋭い視線を私に送ってくる。
「コンちゃん・・・そういえば、なんでコンちゃんが愛ちゃんと一緒に・・・」
「愛ちゃんは私の友達です!傷つけないでください!」
両手を広げ、藤本さんを睨みつける。
すると藤本さんは、俯いて肩を震わせながら静かに呟いた。
「そっか・・・」
顔を上げた。
背筋を寒気が駆け上る。
藤本さんの顔に飾られていたのは、冷笑。睨まれるより、怒られる事より恐怖を感じた。
「ミキの仕事はね・・・ある三人を連れて帰ること」
言いながら一歩ずつゆっくりと近づいてくる藤本さん。
私の頭の中に、ある会社の名前が浮かんだ。
「高橋愛、紺野あさ美、小川麻琴。この三人を連れて帰ること」
藤本さんが私の前に立ち、目を覗き込んでくる。やはり、冷笑を湛えて・・・。
「コンちゃん・・・ミキに嘘ついたね・・・」
- 268 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:11
- 藤本さんの手が私の頬に添えられる。
私の身体はまるで、金縛りにあってあってしまったように全然動いてくれない。
「ミキが嫌いなのはね、嘘つきと亜弥ちゃんを傷つける人・・・」
頬をさすられる。声も出ない。
「そういう人たちは絶対許せない・・・死んじゃえ・・・」
冷笑が深くなり、頬に添えられた手が左胸に下りていく。
青白い光が生まれ、それが大きくなっていく。
私は瞬きも忘れ、震えながらその光景を凝視していた。
「お前が死ね!この化け物っ!!」
「うあぁっ!!」
突然藤本さんの背中で爆発が起きた。藤本さんはそれに悲鳴をあげ、憎憎しげに振り向こうとする。
その瞬間私は我に返り、横を向いた藤本さんの鳩尾目掛けて渾身の蹴り。
「うぐぁ!」
お腹を押さえ、倒れこむ藤本さん。
私は急いで愛ちゃんを抱え上げると、爆発を起こし私を助けてくれた少女に駆け寄る。
- 269 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:12
- 「ありがとう、まこっちゃん」
「大丈夫だった?」
心配そうに聞いてきてくれるまこっちゃんに、微笑んで頷く。
まこっちゃんはそれで一度頬を緩めたけど、すぐに険しい顔つきに変えて起き上がろうとしている藤本さんを睨みつけた。
「そっちにどういう事情があるのか知らないけど、勝手に殺されるのなんて真っ平御免だから」
言ってから両手に持てるだけ石を持ち、身構えるまこっちゃん。
「・・・ざい・・・」
藤本さんが俯きながら何か呟く。
でも、声が小さすぎて聞こえない。
「・・・なに?」
「・・・い、う・・・・」
―――・・・痛い。
空気が何か違う。ピリピリと肌をさす感じで。
「・・・はっ?」
まこっちゃんは苛立たしげに聞き返す。
その瞬間、藤本さんはガバッと顔を上げ、吼えるように叫んだ。
- 270 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:12
- 「みんな、みんなみんな!ウザぁぁぁぁぁいィぃい!!!!」
叫ぶと同時に天に向かって両手をかざした藤本さん。
その両手に青白い光が集まっていく。暫くその格好のまま静止していた。
―――何か、嫌な感じがする・・・。
「チャンスッ!」
まこっちゃんが叫んで、藤本さん目掛けて走り出した。
私は慌ててそれを追いかける。
「待って、まこっちゃん!なんか、へ―――」
「死ねえぇぇぇぇ!!」
私の言葉は藤本さんの怒号によって遮られた。
私は足を止める。
刹那。
「――――――っぁ!!」
耳を劈くような轟音に耳を塞いで、目の前を横切る青白い光を凝視する。
―――この音は・・・雷!?
- 271 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:13
- 空に光る稲妻。その直後にやってくる轟音。
まさにこの光は、雷と酷似していた。
暫くして光は消えた。地面に残る黒くこげた轍のような跡。
それが、雷が通過していったと教えてくれる。
「!まこっちゃ・・・あ・・・っぁ!」
慌てて藤本さんの方へ向き直る。
言葉を失った。頭を鈍器で殴られた感じがした。
―――嘘・・・。
目に映る、うつ伏せで倒れたまこっちゃん。
全身黒く焦げていて、少し煙が上がっている。
―――嘘・・・嘘だよね・・・。
頭を振る。
でも何が変わるわけでもない。倒れたままのまこっちゃん。
―――いや・・・!嘘だよね・・・・?起きてよ、まこっちゃん!
- 272 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:13
- 「まこっちゃん!!」
気がつけば、叫んでまこっちゃんに駆け寄っていた。
両手で抱えて顔を覗き込む。目は開いてなかったけど、息はしていた。
でも凄いか細くて・・・今にも・・・。
「しぶといね、そいつ」
嘲笑と共に聞こえてきた声。
顔を上げると、苛立たしげな表情の藤本さん。その藤本さんを私はキッと睨みつけた。
「なんでっ!何でこんな事をするんですか!あなた達の目的は私達を連れて帰ることでしょう!?それなのに、それなのに・・・いぅ!!」
私の言葉は藤本さんの頬への蹴りによって遮られた。
まこっちゃんから手を離し、雑草の生えた地面を転がる私。
口の中に広がるさびた鉄の味。どうやら口の中が切れたみたい。
「別に、生きてつれて来いなんて言われてない」
藤本さんは倒れている私の頭に足を乗せ、低い声で言う。
私は目だけを動かして彼女を睨む。
「大体そっちが悪いんだよ、ミキを怒らすから。それに弱すぎるし。特に、あいつなんて」
言って、黒こげで倒れているまこっちゃんを顎で示す。
嘲るような、呆れたようなそんな感情が詰まった目で。
- 273 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:14
- 私の中にふつふつと、出してはいけない感情がわきあがる。
―――許せない!この人だけは、許せない!絶対・・・。
―――――絶対・・・何?
突然頭の中に響いてきた声。
藤本さんのでも、愛ちゃんでも、勿論まこっちゃんでもない。
―――誰?!
頭の中で問いかけると、先ほどと同じか細い声が響いてくる。
―――――誰?ふふっ・・・愚問だね。一度会ってるじゃない・・・。
―――?
まさか!?
思い出されるピエロの仮面。私とまるっきり同じ背格好の少女。
―――でも、あれは夢・・・。
―――――厳密に言うとあれは夢じゃないよ。『わたし』の世界。あなたのもう一つの現実。
―――もう一つの、現実・・・?
―――――ふふっ・・・。
- 274 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:14
- か細い声が不気味に笑う。
―――――さて、本題に移りましょうか。あなたは藤本さんをどうしたいの?
―――えっ?
―――――・・・殺したいんでしょう?殺してあげるよ、『わたし』が・・・。
だから、身体・・・ちょうだい?
―――えっ?!あの、ちょっと・・・うっ!
頭の中での会話が途切れ、私は激しい頭痛に襲われた。
でも案外すぐに治まった。
「――っと!聞いてるの!?ねえってば!」
高いところから藤本さんの声が聞こえる。
再び目だけを動かして、睨もうとした。
―――!?
何で!?目が動かせない!
目だけじゃない!手も足も、すべては『私』の意志では動かなくなっていた。
―――なぜ?!
「ふふっ・・・この身体はもう、『わたし』の身体だからだよ・・・」
私の口が勝手に動いて、言葉を紡ぐ。
そして私の頭に載っている藤本さんの足を、これもまた勝手に腕が動いて払いのけた。
「!」
驚いている藤本さんを見て、微笑みながら私でない『わたし』はゆっくりと起き上がった。
『わたし』は服に付いた砂埃を払ってから、藤本さんに極上の笑顔を向けこう言った。
- 275 名前:私の中の『ワタシ』 投稿日:2004/03/25(木) 22:15
- 「あなたを、殺します」
私の身体は、『わたし』に支配されていた。
- 276 名前:我道 投稿日:2004/03/25(木) 22:20
- 第三話終了です。
今回は短かったですかね?
>>252 名無飼育さん様
藤本さんはちょっとやばい役回りになるかと・・・(汗)
期待を裏切ったらごめんなさいです・・・。
>>253 名も無き読者様
ありがとうございます!
藤本さん、ちょっとやばいやくま(ry
楽しみにしていただき光栄です!これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします(ペコリ)
- 277 名前:19 投稿日:2004/03/26(金) 04:32
- ずーん
- 278 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/26(金) 09:41
- 更新お疲れサマッス。
なんて言うか描写上手ッ・・・。
自分も精進致します。
続きも楽しみにしてますw
- 279 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:46
- 「くっ・・・ま、こと・・・」
麻琴を片腕で抱えて、近くにあった気のところまで匍匐全身。
身体の節々が痛く、少し痺れが残る。
「ふはっ・・・はぁ、はぁ・・・」
麻琴を寝かせ、あたしは木に寄り掛かったまま座った。
麻琴に目をやる。意識が無く、呼吸がか細い。
―――酷い・・・。
藤本さんの能力、“雷獣”。
あの人はあたしと同じく、“獣化”という能力。
一つ違うのは、その属性。あたしは“炎”やけど、藤本さんは“雷”。
あたしは、また負けた・・・。
あたしたちがいるところから大分離れた所にいる二人を見つめる。
あたしは目が良いので、難なく見える。
- 280 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:47
- 「・・・どうなっとるんやろ・・・」
対峙する藤本さんと、あさ美。
でもなんか空気が変やよ。
藤本さんが少し苛立っているみたいというのは別にいいんよ。
でも・・・。
「・・・なんだって?」
「おや、聞こえませんでしたか?あなたを殺す、と言ったんですよ」
やんわりと微笑み、物騒な事を言うあさ美。
あ、ちなみにあたし耳もいいんよ。
「ミキを、殺す?」
元から鋭い目つきを更に鋭くし、あさ美を睨みつける藤本さん。
でもあさ美はさっぱり臆したようすも無く、
―――・・・あさ美・・・?
「はい。殺します。と言うより、消します」
と言って、微笑み続けている。
- 281 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:47
- ―――ゾクッ・・・
身体が震えた。藤本さんにではなく、あさ美に・・・。
「・・・はっ!あは、あははははは!」
突然、藤本さんが顔を押さえて笑い始めた。
でも、それも一瞬の出来事。
「ふざけるなっ!!」
叫ぶと同時に両手に雷をためて、あさ美のところまで走り寄っていく藤本さん。
そのスピードは、人間のそれをはるかに凌駕している。
本当にあっという間にあさ美の目の前まで近づいた藤本さんは、禍々しい笑みを浮かべて拳を握り振りかぶった。
そんなかなりピンチそうな時でも、あさ美は笑みを崩さない。
拳が・・・雷が、小さな身体に撃ちつけられた。
「――――っ!!??」
思わず目を見開いてもうた。
「―――え・・・?」
藤本さんも何が起こったのか分からず、困惑顔。
でもあさ美はやっぱり、微笑み続ける。
「・・・なん・・・で?」
- 282 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:48
- あさ美に撃ち付けた手を離し、愕然としたような表情であさ美と自分の手を交互に見つめる藤本さん。
拳からはもう雷は消えていた。
「なんで、効かないの?なんで、雷、消えちゃうの?」
「さあ。何ででしょうね?」
あさ美は自分のお腹をさすりながら、小首を傾げる。
そこは藤本さんの雷が撃ちつけられ、そして何の破壊も生み出さず消えていった場所。
「ありえない・・・ありえないぃぃぃぃぃ!!」
叫んで再び拳に雷をため、同じ場所に打ちつける。
結果は・・・同じ。
「・・・うそ・・・だ・・・」
「嘘じゃありません。真実です」
藤本さんの右肩にあさ美の左手が置かれる。
その手つきも優しくて、ゆったりしたもの。
―――でも、それが何でこんなに怖いんやろ・・・?
「そして、これも真実」
「あぁあぁぁぁあ!!!」
藤本さんの絶叫と共に、あたしの全身は総毛だった。
- 283 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:48
- 「あ、ああ!腕が・・・!腕がぁぁア!!」
よろよろとあさ美から離れていく藤本さん。
その右腕は、指の先からだんだんと文字通り『消えて』いっている。
「ふふ、すいませんね。痛みは、傷をつけられるときよりも激しいらしいですから」
「ア・・・アぁ・・・」
そして完全に藤本さんの右腕は無くなった。
不思議な事に付け根からごっそりとなくなっているのに、血が一滴も出ていない。
膝を付き、肩口を押さえながら荒い息をする藤本さん。その藤本さんを少し距離を置いて、楽しそうに見つめるあさ美。
「苦しみ、悶絶するときの人間はとても美しいですね」
うっとりとしながら、あさ美は言った。
そしてゆっくりと歩き出し、二人の間の距離を縮めていく。
「くっ!このォ・・・!」
藤本さんがあさ美に向かって左手をかざす。
そこに集まる、青白い光。雷だ。
「まだ、足掻きますか」
- 284 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:48
- あさ美が呟き、歩を止める。
それを見て藤本さんはニヤリと笑った。
「避けないと、怪我するよ!!」
叫ぶと同時に光が矢の形に凝縮し、放たれた。
寸分の狂いも無く、それはあさ美に向かって飛んでいく。
避けられるようなスピードやない。あたしは貫かれたあさ美を想像して、目を閉じた。
「う・・・そ・・・だ・・・」
藤本さんの呟き。畏怖の念が込められた、そんな呟き。
ゆっくりと目を開けてみた。
「先ほどから言っている通り、嘘ではありません」
呆れたように言うあさ美。その身体はまるで無傷。服すら破けていない。
顔色を青くしながら、それを見つめる藤本さん。
あさ美はにこりと微笑んで、再び距離を縮めていく。
「く、くるな・・・」
藤本さんは座りながら、後ずさり。目じりには薄っすらと涙が浮かんでいる。
- 285 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:49
- 「おやおや・・・そんなにわたしが怖いですか?」
苦笑しながら呟き、それでも歩みは止めない。
段々と二人の距離が縮まっていく。
「く、くるなあぁぁぁ!!」
藤本さんはもう耐えられなくなったのか、がむしゃらに雷を放った。
それは・・・っと!危ない。こっちまで飛んできたやよ・・・。
「ふふふ・・・見苦しいですね」
涼しい顔で歩を進めるあさ美。
いくつか当たっているはずなのに、全然効果は無い。
そして、二人の間の距離はなくなった。
「危ないことをする手は、こうですよ」
「いぁあアァアぁァああ!!!」
あさ美が藤本さんの左手を掴んで瞬間、それも右腕と同じ運命をたどる。
十秒も経たない内に、左腕は完全に消失した。
- 286 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:49
- 「あ・・・あぅア・・・ひぅ・・・」
その場に倒れこんでびくびくと痙攣する藤本さん。もう、獣化を保つ体力も無い様子。
普段の藤本さんに戻っていた。
「おや?元に戻ってしまいましたね。面白くないですねぇ」
その姿を見て肩を落とし、首を横に振るあさ美。
「ま、こんなものですかね」
呆れたような声でそう呟き、しゃがんで藤本さんの頭に手をのせる。
―――だめ・・・!
「さよならです、藤本さん」
「駄目や!あさ美ぃ!」
気が付くと叫んでいた。
- 287 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:50
- あさ美が手を離し、立ち上がってこっちに振り返る。
恐ろしいほどの無表情で。
「藤本さんにもう殺意は無い。やっけ、殺さんでもええんやない?」
あたしは木に背中を預けながら起き上がり、あさ美を見つめた。
あさ美はそんなあたしを見ながら、嘲笑を浮かべた。
「ふぅ、これだから甘ちゃんは・・・。いいですか?勝負と言うのは死ぬか、生きるかのまさに瀬戸際です。敗者には死を、勝者には生を。そして藤本さんは負けました。殺されるのが当然と言うものでしょう?」
表情を嬉嬉とし、輝かせながらの力説。
―――・・・ちがう・・・。
「故に私はこの人を殺さなくてはなりません」
「・・・あんたは誰や?」
あさ美である少女を睨んで、呟いた。
彼女の顔がまた無表情に戻る。
「あさ美は、そんな喜びながら人を殺さん。あんたは誰や!」
あさ美を睨みつけて叫ぶ。
あさ美は暫く無表情のままあたしを見つめていたけど、突然俯くと肩を小刻みに震えさせ、クツクツと笑いながら呟いた。
- 288 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:50
- 「おかしなことを言いますねぇ。わたしは紺野あさ美ですよ、高橋愛さん?」
彼女が顔を上げた途端、あたしは後ろに倒れこんだ。
―――なっ!木が・・・!?
先ほどまであたしの背中を支えていてくれた木が今は影も形も無い。
「な―――!?」
「不可思議な事も起こるものですねぇ。木がいきなり『消える』なんて」
突然の出来事に驚き、考え込んでいたあたしの前にいつの間にか、あさ美が立っとった。
クツクツと不気味に笑いながら・・・。
そんな時一つの考えが頭に浮かんだ。
「あんた、ま―――んぅ!?」
「お喋りはここまでにしましょうか?」
考えを言おうとしたけど、それはあさ美の手によって遮られた。
微笑みながらあたしの口を塞ぐあさ美。
―――こいつ・・・やっぱり・・・!
「わたしの楽しみの邪魔をした分、その身体で払ってもらいましょうか?」
- 289 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/27(土) 21:50
- あたしの口を掴む手に力が入った。
―――やぁ!
恐怖に目を瞑った、まさにその時だった。
「いぃぃぃぃぃぃやっはあぁぁぁぁぁぁん!!!」
「なっ!?んむぐぅ!」
意味不明の叫び声、そしてくぐもった声の後にあたしの口が解放された。
ゆっくりと目を開ける。
―――ああ・・・。
いつもなら無駄にでかくて、壁のようなその背中。
いつもならただ、ウザイだけの天然パーマ。
いつもなら五月蝿くて、邪魔なだけの異常なまでの大声。
それが今日は、こんなにも頼もしいと感じた。
その人物がゆっくりとこちらを振り向いた。
視界が霞んでその顔をはっきりと確認する事が出来ない。どうやら涙を流してるみたいや・・・。
でも、あたしは確信する。
「待たせたね、高橋!」
彼女が、咲魔凶子である事を・・・!
- 290 名前:我道 投稿日:2004/03/27(土) 21:55
- 短いですが、更新終了です
そしていきなりですが、すいませんでした!!
藤本さんオシの方々にとって私のこの扱いは、「お前死ねや、ゴラァ!!」
と言うくらい不快極まりないことと思います・・・。
そういう方々には大変申し訳なく思っています・・・。
本当にすいませんでした!
- 291 名前:我道 投稿日:2004/03/27(土) 21:58
- >>277 19様
すいません!重かったですか?
本当にすいませんでした!
>>278 名も無き読者様
重い内容であるにもかかわらず、褒めていただきありがとうございます!
これからも精進して行こうと思います。
お互い頑張りましょう!
- 292 名前:19 投稿日:2004/03/28(日) 03:15
- ふーん
- 293 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/28(日) 10:13
- 乙です。
こ、紺ちゃん・・・。(汗)
何やらえれぇコトになってますが、
彼女なら何とかしてくれると信じますw
- 294 名前:我道 投稿日:2004/03/29(月) 23:06
- すいません。
こんな事を書くのはなんですが、最近ちょっと調子が悪くて・・・。
今日はレス返しだけで許してください・・・すいません・・・。
更新は近日中にしますので・・・。
>>292 19様
はい、こうなりました!
>>293 名も無き読者様
はい。彼女ならきっとやってくれます(笑)
- 295 名前:19 投稿日:2004/03/30(火) 03:35
- 我道さん更新はやいからたまには休んでくださいな
たまにね、たま〜にだけね(プレッシャー 笑)
- 296 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/30(火) 14:07
- 焦らずマイペースでやって下さい。
ゆっくりでもついて行きますからw
- 297 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:24
- 「つーか、遅いやよー!!」
「あたっ!」
座りながら、そのでかい足に一蹴り。
感動的な再開・・・なんかできるわけ無い。
確かに頼れるって思うたけど、もっと速く着いててもよかったはずなんよ!この人は!
「いたいねぇ。せっかく来てやったのに・・・」
「方向音痴にも限度ってもんがあるやよ!!」
「ほうっ!」
もう一発。
この人がもっと速く来てれば・・・。
「こんな事にならなくてすんだんよ・・・」
いきなり声のトーンがガタ落ちしたあたしに、凶子さんはばつが悪そうに頬をポリポリとかいた。
「・・・それは、弁解の余地が無いよ。ほんとにすまなかったねぇ」
あたしはバッと顔を上げ、目を見開いて凶子さんを見つめた。
それに驚いたのか、半歩身を引いてあたしを見つめる凶子さん。
「な、なにさね?」
「・・・何か、変なもんでも拾い食いしました?」
「はっ?何で?」
- 298 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:25
- 「いや、素直に謝ったから・・・」
「・・・あのねぇ・・・」
会話はそこで途切れた。終了したんじゃなくて、終了させられたかな?
凶子さんはチッと舌打ちをすると、ダルそうな顔で振り返った。
「案外、丈夫じゃないか」
「・・・少々油断しました」
そこには口から一筋血を流して、こちらを睨みつけているあさ美が立っていた。
頬には殴られたような跡がある。
「久々の再開なのに、この挨拶は如何なものかと思いますが。どうですか、咲魔さん?」
その血を手の甲で拭い、にこりと微笑んでどこまでも優しい口調で言うあさ美。
しかし目は笑っておらず、それがより一層あたしの恐怖をかきたてる。
「再開?アンタと会った事なんか一度も無いけどねぇ」
凶子さんはその笑顔を正面から受け止めて、吐き捨てるように言った。
そして言い終わると同時に、あさ美に向かって歩き始めた。
「つれないですねぇ」
「事実さね」
「そうですか・・・」
右腕を突き出すあさ美。
嫌な予感があたしの頭をよぎる。
- 299 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:26
- 「凶子さん!駄目!」
あたしが叫んでも凶子さんは歩を止めず、あろうことか走り出した。
その様子を見て、あさ美はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「皆、馬鹿な人ばかりですねぇ」
呟くあさ美。止まらない凶子さん。
あたしの頭の中には、両腕をなくした藤本さんの悲鳴を上げる姿が再び映し出された。
その藤本さんが凶子さんにすりかえられる。
―――駄目や、凶子さん・・・!
あたしは強く目を瞑った。
「うああぁぁぁぁ!!」
―――えっ!?
その悲鳴を聞いてハッと目を開く。
それは凶子さんのものではなかった。
「うっ、く・・・あぁ・・・」
地面にうつ伏せで倒れているあさ美。背中には大きな裂傷。紅き鮮血が流れ出る。
- 300 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:27
- 「うん、いいね」
「ミキたんの仇!」
そのあさ美を取り囲むようにして立つ人物が二人。
一人は凶子さん、そしてもう一人は・・・。
「もっと痛めつけちゃ駄目ですかぁ?」
間延びした声。
でも、いつもならあまり見せたことの無い怒りの感情がそこには含まれている。
「だめさね。こいつだけの身体じゃないんだから」
その人物を宥める凶子さん。
言われた彼女はまだ頬を膨らませて不機嫌丸出しだったけど、何も言わず引き下がった。
―――なんで・・・?
「亜弥ちゃん!」
あたしはその人物を呼んだ。
彼女はあたしに気付くと、トテトテと歩いて近づいてきた。頬を膨らませたまま。
「何で、亜弥ちゃんがここに・・・?」
「愛ちゃん!」
来た途端、あたしの質問も聞かずあたしの肩を掴んで睨みつけてくる亜弥ちゃん。
以前まで狙われていたので、あたしの身体は強張った。
「な、なん・・・」
「ミキたんをちゃんと守ってくれないと駄目でしょぉ!」
- 301 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:27
- いや、あの、そのミキたんさんにあたしは殺されそうになったんですけど・・・。
「ほれ、あやや。あっちに藤本が転がってるよ」
「えっ!?きゃあ、ミキた〜ん!ごめ〜ん」
あさ美を肩に担いで戻ってきた凶子さんがそう言うと、亜弥ちゃんは慌てて藤本さんの元に駆け寄って行った。
「しっかし、また手ひどくやられたねぇ」
あたしと麻琴を交互に見て、呆れたように呟く凶子さん。
あたしは何も言えず、俯いた。
「なーにいっちょ前に落ち込んでんのさ?あんたらはこれからだっつうのに」
「だ、だっで・・・!」
…うあ。言葉濁った。
鼻の奥がツーンとして、視界がだんだんと潤みだす。
駄目!泣くな!情けないし、何より・・・。
「ぶははははは!キタキタキタァァァァ!!涙・鼻水まみれ高橋キタアァ!!むははっは!!」
- 302 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:28
- …何より、この人の相手の気持ちを微塵も考えない馬鹿笑いが嫌だったんよ・・・。
あさ美を肩に担いだまま、腹を抑えての大爆笑。
この状況で・・・この人は・・・!
「さっちゃん、速く行きましょうよ〜」
あたしが凶子さんに怒りの炎を燃やしていた時、響いた間延びした声。
亜弥ちゃんがいつの間にか、凶子さんの隣まで移動してきていた。
背に担いだ、両腕と意識の無い藤本さんを幾度も心配そうに振り向いている。
…少し、胸がチクリと痛んだ。
「その呼び方、やめろっていっただろ?」
亜弥ちゃんを不機嫌そうに睨みながら、麻琴を担ぐ凶子さん。
あたしは意識があるので、歩こうとしたけど、
「馬鹿。怪我人はおとなしくしてな」
「むぉ!」
と言われて、ヒョイと持ち上げられると凶子さんの肩に乗せられた。
麻琴とあさ美は、いつの間にか左右に腕で抱えられている。
- 303 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:29
- …ま、いっか。
それからゆっくりと静岡に向かって歩き出した。
その道中での、阿呆な会話。
「ねぇねぇ、さっちゃん。静岡って何が名産なの?」
少しも悩まず、えらく真面目な表情で凶子さんは一言。
「ブラジルコーヒーに決まってるさね」
…茶やよ、ボケナス。第一、どこからブラジルコーヒーなんて出てくるんやろ?
「へー、そうなんだー」
…納得すんな!自分大好き・世間知らずの阿呆人間!!
「さっちゃんってあったま良い〜」
「あたりきさね。はっはっはっはっは〜ん!」
「・・・・・・」
…こいつら・・・。
- 304 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:29
- ―――――――*
- 305 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:30
- 「ボロいとこだねぇ」
「…あんたんちとドッコイドッコイやよ」
空き家に入ってから露骨に顔をしかめて不平不満を言いまくる木偶の坊に、ピシャリと一発。
その後、ジトリとした眼差しで睨まれたけど思いっきり無視したやったやよ。
「藤本さん、どんげ?」
そこに浮かない顔をした亜弥ちゃんが、階段を下りてきた。
心配していったつもりなんやけど、こちらもジットリとした目で睨まれた。
「誰かさんのおかげで、すっごい苦しそおだよぉ」
「・・・やから、あたしやないって・・・」
向けられた極上の笑顔。
何回あたしや無いって説明しても、「守ってよ!」と一括されて話は終了。
亜弥ちゃんの機嫌は悪いまま。
「…そういえば、何で亜弥ちゃんが―――」
「すとっぷもーしょん!」
ため息を吐きつつ、振り返って尋ねようとしたらいきなり止められた。
- 306 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:30
- 「ちゃんと説明してやるから、なんか飲みもんくんないかい?」
申し訳なさそうなそぶりも見せず、ソファーにふんぞり返って言い放つ凶子さん。
…図々しいヤツ・・・。
「あたっ!」
「・・・」
腹が立ったので、天パの頭にパンチ一発。
その後、無言で台所に入り、コーラ一本とコップ三つを持ち戻った。
「なんだい、ビールないの――ぐはぁ!」
もう一発、今度は顔面に。
その勢いで床に落ちたけど、気に留めずあたしはコーラを注いだ。
「どうぞ、亜弥ちゃん」
「ありがとぉ」
「おい!アタシにはださな―――るぱァ!!」
起き上がりざま、鳩尾にとどめの蹴り。
向かい合って座っているあたしと亜弥ちゃんは、涼しい顔でコーラを飲む。
- 307 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:30
- 「で、何でコレと亜弥ちゃんが一緒にいたん?」
コップを置いて訊ねる。勿論、コレ=凶子さん。
亜弥ちゃんもコップをテーブルにいて、腕を組み首をかしげた。
―――どうしたんやろ?
その姿勢が暫く続いたあと、あたしの疑問に答えたのはしかし亜弥ちゃんではなかった。
「沖縄でばったり会っちゃってね。一緒に来てもらったのさ」
声のするほうを向いた。
床の上に寝転びながら、コーラをラッパのみする凶子さん。
その視線はあたし達のほうではなく、天井を見つめている。
「そうそう!沖縄でね、ミキたんに会えるから一緒に来ないって誘われちゃったんだよ」
パンと手を叩いて、嬉しそうに言う亜弥ちゃん。
…さっきのは、どう言おうか悩んでたのかな?
「あんた等初対面やろ?亜弥ちゃん、怪しいとは思わなかったん?」
「ミキたんに会えるなら、知らない人にでもついていくよ!」
- 308 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:31
- ついていくなよ!
心の中でつっこみを入れつつ、ため息を吐いた。
「・・・騙されてたら?」
「殺すぅー♪」
無邪気な笑顔で、物凄く物騒な事をけろりと言い放つこの人は、どないですか?
…亜弥ちゃんの思考回路は、凶子さん並みに理解不能やよ・・・。
疲れる・・・。
…ん?さっき、なんか変な単語が出たような・・・。
つい先ほどまでの会話を思い出す。
『沖縄でばったり会っちゃってね。一緒に来てもらったのさ』
まず凶子さん。
『そうそう!沖縄でね、ミキたんに会えるから一緒に来ないって誘われちゃったんだよ』
続いて亜弥ちゃん。
ん〜・・・。
『沖縄で・・・』『沖縄でね・・・』
- 309 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:31
-
なにいぃぃぃぃぃ!?
- 310 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:32
- 「ちょ、ちょっと待つやよ!なんであんた沖縄なんかにいるんやよ!?」
勢いよく立ち上がり、凶子さんの胸倉を掴んで吼えるあたし。
沖縄ゆーたら、青い海・サトウキビ・BE○INで有名な、あの海を渡ったとこにある街やよ!
何でそんなとこに、このポンツクが・・・!?
「あたし、ちゃあんと静岡って言うたよねぇ!?」
「あ、いや・・・」
半ば脅迫気味に迫ってみる。
凶子さんは何故か方向音痴のことを指摘されると弱気になる。
「えっ!?どうなんよ!!??」
「仕方ないだろぉ!!気付いたら“めんそ〜れ、沖縄”だったんだからさぁ!!!!」
でもそこを深追いすると、待つのは彼女の逆切れ。
いつもはここで怯むんやけど、さすがに今日という今日は引き下がれん!
「迷いすぎやよ!なんで本州を出るん?!分け分からんやざ!!」
「じゃかあしい!迷うもんは迷っちまうんだよ!あんたらに電話してからパクッたチャリ必死にこいで静岡向かったつーのに、着いた先は沖縄だよ!迷いやすい日本の道に文句つけな!」
「日本の道に罪はないが!あんたのほうが、いや!あんたの存在自身が罪なんやざ!!」
「・・・・・・っ!」
- 311 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:32
- あ、あれ?
どうしてそこで黙るん?もっとなんか言い返してこないんけ?
俯く凶子さん。なんか、あたしが悪い事したみたいやざぁ・・・。
「知ってたのかい・・・」
俯いたまま凶子さんは、やっと聞き取れるくらいの大きさで呟いた。
いつも大声ばっか出してるから、こんなんなると変な感じ。
「・・・へっ?」
間の抜けた声が出た。
やって、いきなり知っていたのかなんて言われても・・・。
何がっ!?って感じなんやけど・・・。
「へって・・・知ってるんじゃなかったのかい?」
「なにを・・・?」
キョトン×2。
いや、ほんとに何言ってるか分からんし・・・。
「なぁんだー。あれはアタシに対しての罵りか〜。ははは。ああ〜、勘違い〜♪」
「????」
今度はいきなり笑い出し、歌いだした。
- 312 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:33
- どうなっとるんよ?
あたしは当然困惑して、おかしい凶子さんを見つめる。
「あっ!ミキた〜ん!」
そんな時、満開の笑顔を咲かせて亜弥ちゃんがあたしの横を通り過ぎていった。
それを追い、振り返ってみる。
「だいじょおぶぅ〜?」
「あ、亜弥ちゃん・・・何で、ここに・・・?」
背を壁に預けながら辛そうに階段を下りてくる、両腕を失った藤本さん。
亜弥ちゃんが心配そうに駆け寄る。
そして藤本さんの身体を支え、こちらまで歩いてきた。
「―――!」
藤本さんの双眸があたしを捕らえたとき、その目が金色に染まった。
瞳が細く鋭くなり、牙が生える。
- 313 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:33
- 「――うっ!」
でもそれも一瞬の事。
すぐにその変化は解かれ、藤本さんはその場に崩れ落ちた。
息が荒い。
藤本さんも、あたしも・・・。
―――・・・心臓に悪いやよ・・・。
この人の強さを身を持って体験したからこそ、あたしはこうなる。
心臓の鼓動が早まり、冷や汗が噴き出す。
―――う〜ん・・・情けな・・・。
ほんとに情けなかったので、凹んでもうた。
「やっぱり畜生は回復が早いねぇ」
ニヤニヤしながらあたしと藤本さんを交互に見やる凶子さん。
…誰が畜生や。このスットコドッコイ!!
「ミキたんは畜生なんかじゃないもん!あたしの恋人だもん!!」
頬を膨らませ凶子さんを睨みながら、大声で恥ずかしい事を言う亜弥ちゃん。
- 314 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:34
- 藤本さんは言われて少し頬が赤くなってる。
でも何も言わないってことは・・・肯定か?
「あたしは寝てても起きてても、いつでもミキたんのことを考えてるよぉ」
座り込んでいる藤本さんに合わせるように、亜弥ちゃんは膝を屈めて藤本さんを覗きこむ。
「ミキたんもそおだよね?」
極上の笑顔。
顔から火が出そうなほど赤い藤本さんは、何も言わず小さく頷いた。
「ほら!そおでしょお!」
その笑顔のまま、今度はこちらを向いてくる。
あたしは苦笑しながら、一応頷いておいた。
そんな時、後ろからため息が聞こえた。
「・・・バカップル、もう一組発見・・・」
…この発言は、結構的を得てると思った。
- 315 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:34
-
〜〜〜〜〜〜
- 316 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:35
- 「あんたのせいかぁぁぁ!!」
「お前が亜弥ちゃんをぉぉぉぉ!!」
「いて!馬鹿、2人がかりはひ――へぼっ!あぶめがっ!!」
「ミキたん、やっぱりあたしのこと愛してくれてるんだぁ」
異様な光景。
あたしが凶子さんを抑え、藤本さんが容赦なくけりを入れる。
それを祈るように手を組んで、嬉しそうに傍観する亜弥ちゃん。
「藤本さん、もっとけちょんけちょんに!」
「分かったぁ!!」
「こ、こら!やめ――みぶへっ!ぎゅりもあっ!!」
顔を中心に更に強さを増した蹴り。
蹴りを入れる藤本さんはまるで鬼のよう。
「あぁ、ミキたん。素敵ぃ・・・」
うっとりと言う亜弥ちゃん。
…素敵・・・か?
「あんたのせいで、あたしと麻琴は!!」
「悪かったって―――いぐあっ!」
事の成り行きはこんな感じ。
- 317 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:35
- 藤本さんと亜弥ちゃん、あたしと凶子さんが向かい合って座った。
色々と聞きたいこともあったし、これから話し合いでもしようかなと思ったからの。
でもまだあたしと藤本さんは険悪ムード。
亜弥ちゃんに言われて、あたしを殺すことはあきらめてくれたんやけど・・・。
…むっちゃ睨まれとる。
『あ、あの藤本さん。謝ってすむことじゃないと分かっとるんですけど・・・あの、ごめんなさい・・・』
『・・・フンッ!』
縮こまりながら謝ったあたしを、鼻で笑い飛ばして低い声で、
『・・・亜弥ちゃんがさぁ、一ヶ月くらい前仕事から帰ってきた時額から血流してたのね。あたし笑顔の亜弥ちゃんが好きなのにさ、グスグス泣いてあたしのとこに来るわけ。それでどうしたのって聞くとさ、愛ちゃんが、愛ちゃんがぁって言うんだよ?』
…うっ・・・睨まれとる。ものすっごい黒いものが詰まった瞳で睨まれとる・・・。
一言であたしの気持ちを表すとすれば・・・逃げたい・・・。
『すいません・・・』
- 318 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:35
- 『すいません・・・じゃねえんだよ!人の彼女に手え出しといて、一言で済ませるってか!?ああん!?命(たま)とるぞ!おぉ!!』
『ひいい!す、すいませーん!!』
完璧にヤクザと化した藤本さんに、あたしが恐怖していたとき。
そんな状況に相応しくない間延びした声が入ってきた。
『ミキたぁん、違うよぉ』
亜弥ちゃんの突然の参加に、藤本さんは驚いて振り向いた。
そこにはキョトンとした顔の亜弥ちゃん。
『え?何が違うの?亜弥ちゃん』
『あたし、愛ちゃんに怪我させられたんじゃないよぉ』
『『へっ??』』
間抜けな声×2。
あたしと藤本さんは目を点にして亜弥ちゃんを見つめる。
『あたし、さっちゃんに殴られたんだよぉ』
『さっちゃんて・・・凶子さん?』
『うん』
- 319 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:36
- ん?待てよ、一ヶ月前?
確か、まだあたしが逃げ回ってる時やね。
あん時は亜弥ちゃんに襲われて、あっけなく敗北して・・・あれ?
あたし亜弥ちゃんに負けたんやざ。額なんか殴った覚えないわ・・・。
『で、でもあん時、愛ちゃんがぁって言って泣いてたじゃん!』
『あ、それはぁ。愛ちゃんが攫われたから悲しかったの。お仕事失敗しちゃて』
虚を突かれたような藤本さん。
脱力して、簾みたいにうな垂れていたけど次の瞬間その顔が鬼のようになる。
あたしの中にもふつふつと怒りの炎が燃え上がっていった。
『日本酒もビールもなんにもな―――』
『『きよぅくおーーーー!!!』』
それは天パの木偶の坊――咲魔凶子に向けられた。
『亜弥ちゃんに怪我をさせたんだってなぁ!?』
- 320 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:36
- 木偶を見上げて、閻魔大王すら尻尾を巻いて逃げ出しそうな目つきで睨みつける藤本さん。
それに臆する事も無く、しかも欠伸をしての木偶の一言。
『怪我?あぁ、あん時ね。あややがあまりにもしつこかったんで、頭突きしただけだけど。何か問題でも?』
ブチブチ、バブチーン!!
切れた。藤本さんとあたしは今確実に、ブチ切れました!
『あんたのせいかぁぁぁ!!』
『お前が亜弥ちゃんをぉぉぉぉ!!』
- 321 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:37
-
と、まあこんな感じかの。
「あちっ!?おい、お前らなんでいつの間にか獣化してんのさ!!あちちっ!馬鹿、熱いって!燃えてるって!痺れてるって!!あっちぃぃぃぃぃ!!」
いっけぇ悲鳴の後、凶子さんの身体は力を失った。床に倒れ、びくびくと痙攣している。
それを確認して、肩で息をしながらソファーに座るあたしと藤本さん。
「・・・すいませんでした」
座った途端あたしにそんな事を言われたからか、藤本さんはキョトンとしてあたしを見つめてきた。
「なにが?」
「この阿呆が殴ったって言ってましたけど、あたしにも原因はあるから・・・」
「あ〜、別にもういいよ。張本人は倒したし」
藤本さんは昔から結構クールな人だと思ってたけど、それはあたしの勝手な解釈やったよう。
割と大雑把な性格と言うことが、今発覚した。
「でも、その腕・・・」
藤本さんの無い両腕を見る。
腕の付け根はまるで、彫刻の腕を折ったかのような断面。
- 322 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:37
- 別に骨も見えなければ、その周りの肉も見えない。ただ白くなっている。ただそれだけ・・・。
あさ美のあの時の顔がよぎり、身が震えた。
「ああ、これ・・・」
藤本さんもやられたときのことを思い出したのか、顔色が青い。
それほどあの時のあさ美は怖かったと言う事。
「これも愛ちゃんじゃないし・・・。でも、さすがにコレはきついな・・・」
青い顔のまま苦笑い。
横から亜弥ちゃんが大丈夫って心配そうに尋ねてくる。
それに精一杯の笑顔で返す藤本さん。でもやっぱちょっと引きつってる。
そして亜弥ちゃんから視線をはずすと、床を見つめながらポツリと一言。
「紺野、あさ美・・・一体、何者なの?」
藤本さんのこめかみを流れる一筋の汗。
それを見て、あたしも俯く。
“こうなること”は大体予想できてた。でも、こんなに突然くるなんて・・・。
- 323 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:38
- 下唇を噛み締める。すると広がる鉄の味。
…なんで、あたしはこんなに無力なんよ!?
「一種の特殊な存在?とでも言うべきかね」
そんな呟きと共に、床から立ち上がる大きな影。
首をぽきぽきと鳴らしながら凶子さんはあたしの隣に腰を下ろした。
さっきまでのあたし達の攻撃で、服こそボロボロだったけど、全然ダメージはなさそう。
…アホみたいに頑丈な身体しとるの・・・。
「特殊な、存在?」
藤本さんが訝しげな視線を送る。
「そうさね。まあ、あんたらもその特殊な存在だけどね」
笑いながらあたしたちを見回す凶子さん。
そして突然立ち上がって、笑いながら台所に向かっていった。
「ま、昔話は小川が起きたときにするさね。アンタラもそれまで休んどきな」
- 324 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:38
- それだけ言い残すと、台所にはいり、なにやらごそごそとやっている。
「ミキたぁん、一緒に寝よぉ?」
凶子さんの言葉にいち早く反応したのは亜弥ちゃんだった。
凄い甘えた声をだして、藤本さんに擦り寄っている。
―――寝よぉって・・・まだ、
「・・・夕方だよ、亜弥ちゃん」
さすが藤本さん。突込みが早いわぁ。
「夕方でも何でも!疲れたんだもん!ねえ、寝よぉ」
「・・・・・・」
上目遣いに藤本さんを見つめる亜弥ちゃん。
そうされて、顔を赤くして視線を宙に泳がす藤本さん。
これはもう、藤本さんの負けやね・・・。
「・・・そ、そうだね。ミキも疲れたし、寝よっか?」
「わーい♪じゃ、行こ行こ!」
「わ!ちょ、ちょっとまって亜弥ちゃん!ミキ、腕ないからバランスが・・・」
- 325 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:38
- 半ば無理やり藤本さんの背中を押し、階段を上っていく。
藤本さんは口ではそんな事をいっていても、顔は朱に染まり、でれでれ。
―――・・・。
頭を勢いよく振る。
あたしも微妙なお年頃。そんな想像もしてしまうんやよ・・・。
「余計疲れんじゃないのかねぇ。あの2人が一緒に寝たら」
「・・・黙れ、天然パーマ木偶の坊」
台所から何も持たずに戻ってきて、最初の発言がこれ。
こいつには恥じらいと言うもんがないんやろか?
…いや、ないんやろな。
「酷いねぇ」
「事実やよ」
「まあ、それはいいとして、ほれ」
突然投げわたされた、透明な液体の入った小瓶。
「?何やよ、これ・・・」
「火傷に効く飲み薬さ。一本しかないから、小川とアンタで分けて飲みな」
言い残すと、凶子さんはリビングを出て行こうとした。
そこを慌てて引き止める。
- 326 名前:“真”を知る 投稿日:2004/03/31(水) 23:39
- 「あ、ちょぉ待って!」
扉のとこで立ち止まりこちらを振り向く。
キョトンとした表情。
―――・・・なんか、面と向かって言うとなると照れるな・・・。
「あの、その、さっきは・・・ぁりがと・・・」
最後の方は、ホント聞こえるか聞こえないか、微妙な小声で。
でも彼女にはちゃんと届いている。
「素直が一番!!はっはっはー!!」
豪快に笑いながら扉を開けてリビングから出て行く凶子さん。
その扉を見つめながら、あたしは苦笑していた。
「あたしはいつも素直やざ・・・」
呟くと同時に薬を一口飲んだ。
―――・・・にがっ・・・。
- 327 名前:我道 投稿日:2004/03/31(水) 23:40
- ただの風邪なんかに負けてたまるか!
ということで、復活の更新です。
レスしてくださった皆様、本当にありがとうございました(ペコリ)
- 328 名前:我道 投稿日:2004/03/31(水) 23:44
- >>295 19様
嬉しきお言葉!感謝の極みにございます!
これからはなるべく速く更新していきたいと思います。
しかし、断定できないのがへぼ作者のへぼである理由・・・。
>>296 名も無き読者様
優しきお心遣い、ありがとうございます!
もう風邪なんかに負けません!
読者様を待たせぬよう、日々精進していきます!
- 329 名前:我道 投稿日:2004/03/31(水) 23:45
- 毎日ストックなんか無視でやってるから、きついかもな・・・。
自分で自分の首を絞めてる私・・・。
キング・オブ・へぼだ・・・。
- 330 名前:19 投稿日:2004/04/01(木) 01:07
- 強いほうの紺ちゃんが喋るとどうしてもヤツを想像してしまう…
フリー(ry
- 331 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/01(木) 01:30
- お疲れです。
あ、調子悪いって身体のコトだったんですか?
てっきり小説の方かと・・・。(汗
でも治ったみたいで何よりです。w
続きも期待。
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 22:37
- たのしいよん!
この高橋けっこうすきです!
- 333 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:26
- あれから一週間がたった。
あの日のうちに薬を飲ませたので、麻琴はすっかり元気になって、今は庭で縄跳び(市販)をしている。
それを藤本さんがカウント。
やっぱり亜弥ちゃんがくっついてるけど・・・。
「だあ!はぁ、はぁ・・・なん、かい!?」
「13回!やったじゃん、麻琴ちゃん!二重跳び自己ベスト更新じゃん!」
「でへへ。藤本さんの教え方が上手いんっすよ〜」
一週間前、殺しあったもの同士とは思えないほど、爽やかな笑顔を交わす両者。
- 334 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:27
- 麻琴が起きて、藤本さんと鉢合わせたときはちょっとした騒動になった。
一応藤本さんは謝ったみたいだけど、麻琴は聞く耳もたんかったようで警戒しまくって・・・。
挙句には、その辺にあったゴミやらを爆弾に変えて藤本さんに投げつけたみたい。
さすがに藤本さんもこれには切れたみたいで、獣化してある意味小さい戦争状態だった。
と言っても、藤本さんの一方的やったけど・・・。
そこに怒り狂った凶子さんが乱入。
喧嘩の振動で、飲みかけのビールが全部こぼれたらしい。
何か意味不明なことを叫びながら、二人に頭突きを一発ずつくらわせると、リビングに戻ってシクシクと泣いていた。
その姿に呆れながらも、あたしは麻琴にことの成り行きを話した。
納得してくれないと思っとったけど、あっさり納得してくれた。
なんでも、
『大切な人を傷つけられたら、普通そうなるよ』
らしい。
それから2人は意気投合。友情が芽生えた、らしい。
―――・・・でも、あれはちょっとやりすぎやと・・・。
- 335 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:27
- 「ぶうぅ。ミキたん、また麻琴ちゃんとラブラブしてるぅ」
その様子がとても気に入らない様子の亜弥ちゃん姫。
頬を膨らませて、2人を交互に睨みつけている。
「ち、違うよ!ミキは亜弥ちゃんだけだって!」
「だってぇ、麻琴ちゃんに笑顔上げたぁ〜」
「あ、あれは友達として、彼女の成功が嬉しくて・・・」
「ぶうぅ!」
しどろもどろになりながら、亜弥ちゃんを必死に説得する藤本さん。
その間に笑いながら麻琴が、あたしのところにやってきた。
「大変だね〜、藤本さん」
「麻琴、楽しんでるやろ?」
あたしの問いには答えず、ニヘッと笑う麻琴。
それを見てため息をつく。そして、藤本さんたちを見る。
藤本さんが頬をつねられていた。
- 336 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:28
- 「あさ美ちゃん、まだ起きないね・・・」
ポツリと麻琴は一言。
そちらの方を見ずに、あたしも一言。
「・・・そやね・・・」
そこで会話は途切れる。
暫くすると、麻琴は踵を返しあさ美のいる二階の寝室へ向かっていったみたいで、階段を上るトントンという音があたしの耳に入ってきた。
そこであたしは少し複雑な気分になる。
あさ美はこの一週間、まるで目を覚まさんかった。
麻琴がほっぺをひっぱっても、凶子さんが胸をもんでも(この後、凶子さんは、あたしも含む皆によって私刑に)、何をしても起きなかった。
麻琴はそんなあさ美を心配して、たびたび二階へ上っていく。
ちなみに麻琴には藤本さんの両腕の話はしてある。
それでも、ただひたすらあさ美のことを心配している。
でもあたしは違う。
確かに心配という気持ちはある。でも同時に起きてほしくないという気持ちがある。
どっちかってーと、後者のほうが強い。
どうしてもあの笑顔が映像として焼きついてしまっている。
頭の中から離れないんよ・・・。
つまりは・・・、
「・・・怖いんて・・・」
- 337 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:29
- 誰にとも無く呟いた。
時によって予期せぬ答えが帰ってくる事もあるんやの。
「ミキも怖いよ・・・」
「藤本さん・・・」
いつの間にかあたしの隣に移動していた藤本さんが、明後日の方向を見ながら呟いた。
その横顔を見て・・・。
「――――ぷっ!」
思わず吹き出してもうた。
「なっ!?ちょっとなんで笑うんだよぉ!」
「や、やって、ほっぺが腫れてるんやもん!おたふくみたいやよー!あはは!!」
多分さっきまで亜弥ちゃんに引っ張られていたせい。
腕が無いのと、愛する人の攻撃なので抵抗できずされるがままにされてたみたいや。
「くっ!折角シリアスに決めてたのに・・・」
「その顔じゃ、シリアスも何もあったもんや無いよー」
悔しがる藤本さん。その様子を見て笑うあたし。
やがて、藤本さんも笑い出した。
- 338 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:29
- しばらく2人で笑いあっているとき、聞こえてきた怨嗟の声。
「ミ〜キ〜た〜ん〜」
「ぐえっ」
その声と同時に、乱暴につかまれる藤本さんの首。
犯人は・・・考えるまでも無いわ。
「今度は愛ちゃんとらぶらぶ〜?」
「ち、ちがっ・・・ふぐぅ!ぐ、ぐるじ・・・」
藤本さんの顔色が赤くなり、今度は徐々に青くなっていく。
やばい状態。
腕が無いからそれを振り払う事も出来ない。
「あ、あの、亜弥ちゃん。そろそろ、やばいと思うんやけど・・・」
恐る恐る声をかけたら、鬼の形相で睨まれた。
「なにっ!?」
「あ、いえ・・・」
すごすごと、あたしは退散。
藤本さんゴメン・・・あたしは無力や・・・。
- 339 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:30
- 「はぁ・・・」
リビングの扉が開き、麻琴ががっくりと肩を落として入ってきた。
あの様子からして、あさ美はまだ目を覚ましていないよう。
内心ホッとし、すぐに自己嫌悪に陥った。
「・・・あさ美、まだ起きてなかったんや」
心にも無いことを聞いてしまった。
さらに自己嫌悪。
「うん、全然目覚ます様子無い・・・」
更に肩を落とす麻琴。
この素直さがうらやましい。
「全員いるかい?」
あたしが沈んでいるとき響いた声。
声がしたほう――扉のほうを振り返る。
そこには大きなビニール袋を両手に引っさげた凶子さん。
- 340 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:30
- 凶子さんはあたしたちがいるのを確認すると、袋をテーブルに下ろし自分もソファに身を沈めた。
それから一つの袋の中身(酒とつまみ)を机の上に出しながら、一言。
「座りな」
その表情はいつに無く真剣。
いつもその命令口調になんか言い返すとこやけど、今日は雰囲気が違う。
やっけ、素直にソファに腰を下ろした。
麻琴と亜弥ちゃんもそれに続く。
「藤本、起こしな」
白目をむいて気絶していた藤本さんを、亜弥ちゃんはひっぱたいて起こした。
自分で気絶させといて、その起こし方はどうかと・・・。
そう思ったけど、あえて口には出さんかった。
「あ、あの、あさ美ちゃんが・・・」
凶子さんの雰囲気がいつもと違うせいか、麻琴が幾分おどおどしながら挙手した。
それを目だけでチラッと見ると、すぐに元に戻しもう一つの袋の中身を開けた。
ドサドサと大量の紙の束が出て、机の半分を占拠した。
「・・・あいつは寝てたほうが都合がいい」
- 341 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:31
- 一言静かにそう呟いて、紙束を一つ掴んであたし達のほうに投げた。
それに視線を落として・・・絶句した。
「た、高橋愛、データ・・・」
それの一番上にでかでかと書かれていた文字。
それは確かにあたしの名前。
「な、んで・・・」
その下の方にはプロフィール。生年月日、身長、体重、血液型etc・・・。
あたしのものと全く一致する。
「ミキのだ・・・」
「あたしのも・・・」
紙面から視線をはずして藤本さんたちを見てみると、困惑したように紙束を見つめていた。
あたしと同じや・・・。
「な、何でこんなのをアンタが持ってるの?!」
- 342 名前:“真”を知る 投稿日:2004/04/02(金) 23:31
- 麻琴に渡された物も同じだったみたいで、声を荒げて凶子さんに詰め寄った。
凶子さんは眉の一つも動かさず、麻琴を座るよう促すと、静かに静かに語り始めた。
「あるところにいたって普通の姉妹がおりました」
語り始めた凶子さんの双眸はとても真剣で、あたしたちは息を呑みながら彼女の言葉に耳を傾けた。
「姉はとても頭が良く、妹は姉の言う事は全て正しいと思い込んで慕っていました」
そこでいったん言葉を切り、柿の種を口に運んでそれをビールで流し込む凶子さん。
一つ大きく息を吐いてから、続けた。
- 343 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/02(金) 23:32
- ある日、姉がある会社を立ち上げました。
自らの目的を果たすための会社です。勿論妹もついていきました。
姉は研究のため実験室に篭りきりになり、妹は心細く一人で遊んだりする日が続きました。
暫くたったある日、姉が一人の赤ん坊を抱いて実験室から出てきました。
そしてその赤ん坊を妹に渡すと、再び実験室に篭ってしまいました。
これは育ててくれという意味なのでしょうか?
そう解釈した妹は、その日から赤ん坊を育てる事に専念しました。
姉に任されたという責任感が、彼女を一生懸命にさせたのでしょう。
赤ん坊は異常に成長が早く、1歳になる前にもう歩き、喋っていました。
その子が2歳になるかならないかという時、姉がまた赤ん坊を抱いて実験室から出てきました。
そしてその赤ん坊も妹に渡すと、実験室に戻っていきました。
妹は再び赤ん坊を育てました。
その子も成長が速く、手間など全然かかりませんでした。
赤ん坊を渡され、育てるという行為があと二回ほど続き、妹は姉が何をしているんだろうと、やっと気になり始めました。
その胸の内を姉に聞いても、何も話してくれずどこかへ去って行ってしまいます。
だから妹は思い切った行動に出ました。
- 344 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/02(金) 23:33
- 姉を観察し、実験室から出る時間帯が分かると、その時間を狙って実験室に忍び込みました。
ただの興味本意だったのです。
しかし入ってからそれが後悔に変わるまで、それほど時間は要しませんでした。
妹の目に飛び込んできたもの。それは紛れも無く人間の赤ん坊でした。
その赤ん坊が、薄緑色の液体の入った円柱形のカプセルの中に浮いていたのです。
その目はしっかりと開かれていて、妹の方を見つめていました。
そこに姉が帰ってきてしまいました。
姉は怒りました。でもその怒りは、妹の怒りにかき消されてしまいました。
妹もいい年です。
姉が何をしているのか、なんとなく分かりました。
姉は人間を作っていたのです。
この行為は行ってはいけない事だと、前テレビでやっていたのを妹は覚えていたのです。
つまり姉は『禁忌』を犯してしまったのです。
- 345 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/02(金) 23:33
- 妹は生まれて初めて、姉に反発しました。
胸倉を掴み、この行為の真意を問うたのです。
でも姉は何も言わず、怒り狂う妹を見て冷笑を浮かべていました。
妹はそんな姉に苛立ちました。そして殴ろうと、手を振りかぶりました。
その瞬間走った鋭い痛み。
妹はその痛みの走った部分―腹部を見て首を傾げました。
―――なぜ、お腹に刀が刺さっているの?
それがその瞬間の第一印象でした。
その刀を目でたどります。
その先には柄を握り、強い眼差しで妹を睨んでいる黒く長い髪の少女。
その子を見て妹は驚愕に目を見開きました。
その子は彼女が最初に育てた赤ん坊だったのです。年齢的に言うと、もう5歳位でしょうか。
―――なんで?
妹はわけが分かりませんでした。
なぜ彼女に刺されなきゃならないのか。
混乱しているうちに、腹部に刺さっていた刀は引き抜かれ傷口から大量の鮮血が噴き出しました。
- 346 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/02(金) 23:33
- 妹はその場に崩れ落ちます。
そんな時、姉が妹の顔のほうに廻りこみ、しゃがんでこう囁きました。
―――無能な妹。最後くらい妾(わらわ)の役に立っておくれ・・・。
言葉の終わりと共に、腕に注射器を押し当てられ何か液体を注入されました。
それと共に襲ってくる、灼熱感。
身体の中が燃えるように熱いのです。
妹はびくびくと痙攣して、やがて動かなくなりました。
そこで再び姉が呟きます。
―――何をしても無能な妹。もう殺す労力も惜しい。お前、牢にいれておいておくれ。
姉のその言葉の終わりと共に、黒い長髪の女の子が頷いて妹を担ぎ上げ実験室を出て行こうとしました。
その時薄れる意識の中で、しかしはっきりと聞いた姉の言葉。
―――妾の野望、『世界の再建』。それには有能な人材しか要らないのじゃ。ほほほほ!
よく分かりませんでしたが、やばい事というのはなんとなく分かりました。
妹は牢の中で横たわっていました。
姉におかしな薬をうたれて以来、身体が言う事を聞かないのです。
意識があるにもかかわらず動けないのです。
- 347 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/02(金) 23:34
-
そんな状態が暫く続きました。
- 348 名前:我道 投稿日:2004/04/02(金) 23:35
- 短い更新終了です(汗)
読み返してみると・・・読みにけぇ〜(涙)
- 349 名前:我道 投稿日:2004/04/02(金) 23:40
- >>330 19様
むむ、誰でしょうか?
すいません、ここの作者は余り物を知らなくて・・・。
良ければ教えていただけないかと(汗)
>>331 名も無き読者様
ふふっ←キモッ!
調子の悪いのは小説の方もですよ〜。
分かりにくい書き方をして申し訳ありませんでした・・・。
続き期待・・・ありがとうございます!
>>332 名無し飼育様
楽しいですか!?嬉しき事かなです。
高橋さんに代わってお礼を申し上げます。
ありがとうございました(ペコリ)
- 350 名前:我道 投稿日:2004/04/02(金) 23:42
- ちょっと引っ越す事とかもあって、また更新が滞るかもしれません(汗)
でも放棄はしないつもりなので、ながーい目で見てくだされば光栄です。
それではお目汚し、失礼しました!
- 351 名前:19 投稿日:2004/04/03(土) 05:58
- ナメック星をぶっ壊した人
あー、私も紺ちゃんのほっぺひっぱったり胸を(ry
- 352 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/03(土) 11:24
- 更新乙彼サマだす。
おぉ〜、物語の核に迫ってきましたね。
果たして一体どうなることやら・・・。
気になりますw
- 353 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:44
- どれくらい経ったでしょうか?
ある日、突然に身体が軽くなりました。
起き上がって確かめるように手を握ったり、開いたりします。
それから腕立てをしたり、腹筋をしたりと、とにかく動いていました。
そんな事をしていると、自分の牢の前に誰かが立っていました。
妹は警戒するように睨み付けます。
―――初めまして・・・。
その子が一歩前に進み出て、挨拶をします。
可愛い子でした。栗色の長い髪に、整った顔立ち。
まだ小さいですが、大きくなったら必ず美人になるだろうと予感させる、そんな女の子でした。
―――アンタも姉貴に創られたのかい?
妹は訝しげな視線を送り、その子に訊ねました。
言ってみてからくだらない質問だったなと、後悔しました。
赤ん坊の時の事など、覚えているはずがないと思ったからです。
だからその女の子の次の一言は、妹を驚かせました。
―――うん、そうだよ。
- 354 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:45
- 目を見開いて、その子を見つめる妹。
その妹の様子に、女の子はくすくすと忍び笑いをもらします。
―――・・・で、アタシに何の用だい?姉貴の頼みなら聞かないよ。
女の子の態度に少々機嫌を悪くした妹は、鋭く言い放ちました。
ビビらせるためです。
でもその子は少しも臆した様子も無く、妹を真正面から見つめ、
―――ある3人を連れ出してほしいの。
と言いました。
妹はわけが分からず、眉をひそめてその子を見つめます。
―――社長のやりたい事、昨日初めて聞いたの。それには最近生まれてきたあるひとりの女の子が必要。でも私、賛成できない。だから・・・。
その子は言ってから、俯いてしまいました。
- 355 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:45
- そしてその体勢のまま、静かに呟きます。
―――・・・勝手なのは分かってる。でも、あなたしか頼れる人がいないから――!
顔をあげ、叫ぶように言うその子は沈痛な面持ちでした。
それとは対照的に、妹は口の両端を吊り上げ笑みを刻みました。
―――ここにもまともなヤツが居たみたいだね・・・。
呟くと同時に手枷と、足枷を気合で引きちぎりました。
そして、その子をひたと見据え、
―――協力してやろうじゃないか。
と言って、さらに笑みを深くしました。
その言葉に女の子はパーッと明るい笑顔を浮かべます。
―――ありがとう。ありがとう・・・。
鉄格子を掴みながら、その子は涙を流しながら何回もその言葉を繰り返しました。
その間、妹はその子の頭を優しく撫でてあげました。
- 356 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:46
- 暫くして、落ち着いた様子の女の子は妹に4枚の紙を渡し、こうきりだしました。
―――これ、その3人の写真。私がここを引っ掻き回すから、あなたはその間にその子たちを連れて逃げて。
―――アンタさぁ、さっき一人の女の子が姉貴の野望には必要って言ったじゃないか?でも、なんで3人も連れ出す必要があるのさ?
―――1人で逃げたんじゃ寂しいでしょ?
妹は納得したように頷きました。
―――アンタはどうするんだい?
―――その後にちゃんと逃げるよ。お願い、その子たちを守って。
懇願するように言う女の子。
妹は何も言わず、親指を立てて笑いました。
そして指を軽くぽきぽきと鳴らしながら、伸びをします。
―――じゃ、さっさとやるかね。
さすがにこれには女の子も驚いたようで、
- 357 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:46
- ―――えっ?今から?
と言って、目を丸くしていました。
―――思い立ったが吉日生活さ!
再び親指を立て、笑います。
最初は驚いていた女の子も、苦笑して親指を立てました。
―――うん、分かった。じゃあ――。
女の子は突然言葉を切りました。
そして険しい顔つきになって、この部屋の入り口の方を見ます。
そしていきなり聞こえてきた、しゃがれた声。
どうやら看守が来たようです。
なにか騒いでいます。
―――五月蝿いねぇ。
妹は鉄格子を掴み、少し力を入れました。
するとその鉄格子はあっけなくグニャリと曲がり、人一人が通れるくらいの隙間が出来ました。
- 358 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:47
- その隙間から妹が出ると、看守の騒ぎ声がいよいよ大きくなります。
警棒でボタンのようなものを殴るように押してから、妹たちに向かって突進してきました。
警棒が振り上げられ、それが妹の肩目掛けて落ちてきます。
ガツッという鈍い音と共に、警棒が発光しました。
次の瞬間、電流が妹の身体を走り抜けます。
看守はニヤリと汚い笑みを浮かべました。でもその表情が、すぐに愕然としたそれに変わります。
そしてその表情で固まって、地面に崩れ落ちました。
その首は直角に曲がっています。
妹は不思議そうに、看守の首を楽々と曲げてしまった手を見つめます。
そこに女の子がビックリしたように聞いてきました。
―――あなた、その力・・・。
妹は眉をひそめ、首を傾げます。
- 359 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:47
- ―――どうなってるんだろうね・・・。えらい力が湧いてくるよ・・・。
でも次の瞬間には、凶暴な笑みが浮かべられました。
―――ま、ことを楽に進められるからよしとするさね。
女の子は苦笑を浮かべます。
その時、サイレンが鳴り響き始めました。
それでも女の子は落ち着いて、扉に向かって歩き始めました。
扉の所までいくと、振り返ってから、
―――・・・お願い、したから。
静かに一言だけ残し、出て行ってしまいました。
その瞬間、扉の外から聞こえてくる悲鳴、悲鳴、悲鳴。
一つの悲鳴が生まれては、消えていく。
それが永遠に続くんじゃないか、そう思うくらいでした。
でも暫くして、悲鳴は上がらなくなりました。
- 360 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:47
- 妹はソッと扉を開けます。
ムアッと広がる、生臭い臭い。思わず顔をしかめました。
床に散らばる、人間だったはずのもの。
それらは無残にも裂かれ、砕かれと色んな手段によって破壊されていました。
―――あのガキ・・・。
妹はそう呟き不敵に笑うと、渡された四枚目の紙――ここの見取り図を広げました。
2ヶ所に赤ペンで丸印がついていました。
―――あっちか・・・ね?
首を傾げながらも、妹は走り出しました。
あの女の子がひきつけてくれている様で、妹の下にはあまり警備は来ませんでした。
それでも途中で何人かの警備員に遭遇しましたが、手際良く片付けて目的の場所を目指します。
迷いに迷って、ようやく目的地に到着しました。
重そうな鉄の扉を無理やりこじ開けると、そこには2歳位の女の子が2人静かに寝息をたてていました。
- 361 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:48
- 母性本能が思わずくすぐられ、顔がにやけます。
ハッと気付き頭を振って、渡された顔写真とその2人の女の子を見比べます。
―――ビンゴッ!
静かに呟いて、その子を両脇に抱えます。
その部屋から出て、次の目的地に向かって走り出した直後の事でした。
―――行かせないっ!
妹の前に日本刀を握り締めた、黒い長髪の女の子が立っていました。
大分背が伸びていたのですが、その子は妹が最初に育てた女の子だとすぐに分かりました。
妹は立ち止まって彼女を睨みつけます。
―――どきな。
その鋭い視線を、全く怯みもせず女の子は真正面から受け止めます。
―――その子たちを返して。
その言葉の終わりと共に、通路の向こう側から何人かの女の子が出てきました。
警備員じゃない。でも、それよりも危険なにおいがする。
本能でそう察知した妹は、踵を返して走り出しました。
―――ま、待てっ!
- 362 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:48
- 黒髪の女の子の焦ったような声。
それを完全に無視して、がむしゃらに通路を走り回ります。
暫く走っていると分かれ道に差し掛かりました。
そこについている、円形の窓。
覗き込むと世界は青く、色鮮やかな魚たちが泳いでいました。
妹はそれでここが海の中にあるのだと一瞬で理解しました。
―――止まれー!
後ろから聞こえてくる怒号。
妹は舌打ちすると、再び走り出しました。
分かれ道を右に進んだことが功を成したようです。
〈非常用〉と扉の上のプレートに書かれているのを見て、妹はニヤリと笑いました。
すぐさまその扉を蹴破ります。
―――ロイヤルストレートフラッシュウアァァァ!!
妹が思った通り、そこには緊急脱出用と書かれた円形の乗り物が5つありました。
- 363 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:48
- ―――返して!
妹は振り返ります。
そこには肩で息をしながら、鋭く睨んでいる黒髪の少女。
妹は笑いながら叫びます。
―――この子らは何があっても返さないよ!
―――どうしても逃げるって言うんなら、力ずくでも返してもらうよ。
黒髪の女の子の周りの空気が、いやこの部屋の空気が変わりました。
何か肌をさすような感覚です。
女の子が日本刀を正眼に構えます。
―――ふん、やってみな!
2人の子供を抱えたまま、妹は女の子に向かって突進していきました。
その瞬間に振り上げられ、そして振り下ろされる日本刀。
それが空を切ったとき、炎の柱が妹目掛けて襲ってきました。
妹はさすがに驚いたものの、気合と根性でその炎を跳躍して避け、女の子の前に降り立ちます。
そして驚きに目を見開いている女の子に、笑顔と蹴りをプレゼント。
- 364 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:49
- 女の子は部屋から飛び出し、数十メートル先の通路まで吹っ飛びました。
それを確認して妹も部屋を出ます。
そして壁に向かって気合一発。前蹴りを放ちました。
壁には亀裂が入り、海水が漏れ出します。
ニヤリと笑って、妹はもう一発。
壁は完全に崩壊しました。勢い良く噴き出した海水が、妹達の身体を濡らします。
それを確認すると、すぐさま〈非常用〉と書かれた部屋に入り、扉を閉じます。
―――凶子ぉー!!!
扉の外からはあの黒髪の女の子の悲鳴に近い叫び声。
妹はこれを完全に無視です。
急いで2人の女の子を脱出用の乗り物に乗せたとき、ふっくらしたほっぺの女の子が妹を見つめていました。
妹は微笑んでその子の頭を撫でます。
―――起こしてすまなかったね。今はまだ眠っときな。
- 365 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:49
- その子は言われるとすぐに目を閉じました。
妹は一度頷くと、2つの乗り物の扉を閉め、脱出シュートに放り込みました。
妹もすぐさま後を追おとしましたが、一つ重大な事に気づきます。
―――やべっ!あと1人頼まれてたんだ!
踵を返し、扉を開けようとします。
開きません。
―――・・・あっ。
妹は間抜けな声を出しました。
扉は開かなくて当然なのです。なぜなら妹が壁を破壊して、海水をこの建物内に入れてしまったから。その水圧で扉が硬くなっているのです。
妹は悩みました。
この状況を打破するには、一体どうしたら・・・。
その時一際大きな爆音とともに、建物全体が揺れました。
顔をあげます。
扉がおかしな形に湾曲し、海水が少しずつ漏れ始めています。
- 366 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/04(日) 13:49
- 妹は悩んだ挙句舌打ちし、振り返ります。
今度は顔を不快そうにしかめます。
5つあったはずの脱出用ポットが一つ残らずなくなっていたのです。
多分、今の爆発で誤作動を起こして海に流れてしまったのでしょう。
―――ちぃ!ちゃんと整備しとけや!!
妹は誰にともなく叫ぶと、息を大きく吸い込み、壁に向かって突進して行きました。
壁の少し前で床をけり跳躍し、壁を突き破って海中に出ました。
水圧で少し耳が痛かったですが、なぜか平気でした。
すこし上のほうまで泳いで、振り返ってみます。
妹がいたはずの建物が崩れて、煙を立ち上らせていました。
海底火山みたい、などと妹は考えながら浮上していきました。
- 367 名前:我道 投稿日:2004/04/04(日) 13:55
- (現実での)引越し前最後の更新でした!
>>351 19様
あー、あの人ですか。個人的には最終形態一歩手前が好きです(←アフォ
私も紺野さんの・・・すいません、耳を塞いでください(汗)
>>352 名も無き読者様
はい、迫っています!
実際、5話くらいで完結させようと思ってるんですけど・・・できるかな?
・・・へぼです(自己嫌悪)
- 368 名前:19 投稿日:2004/04/04(日) 14:38
- 気合いと根性なのか、はたまた別の力なのか・・
- 369 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/04(日) 21:38
- 楽しみにまってますりょー!!!!
意外な過去がわかってドキドキです!!!
- 370 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/05(月) 11:28
- 更新お疲れ様デス。
だいぶ明るみになってきた過去・・・。
でもまだまだ気になる点がありますなぁ。
続きも楽しみですw
- 371 名前:我道 投稿日:2004/04/17(土) 14:17
- すいません・・・二週間も空けちゃいました・・・。
しかももう少しかかりそうなので、今回はレス返しのみとさせていただきます。
すいません・・・駄目人間ですいません・・・。
>>368 19様
彼女は化け物です(笑)
そして気合いオンリーです。
>>369 名無飼育さん様
楽しみにしていただいているのに、更新滞っててすいません(死)
もう少し待ってください・・・。
>>370 名も無き読者様
ありがとうございます!
そして、すいません!
もう少し待っていただかなければなりません・・・。
本当にすいません・・・(凹)
- 372 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/17(土) 15:30
- まぁまぁ、そう気を落とさずに・・・。w
重要なのは完結させることですから
焦って書けなくなってもアレですし。。。
こちらはいくらでもマターリ待ってますので頑張って下さいw
- 373 名前:19 投稿日:2004/04/18(日) 03:22
- うん、我道さんはちゃんと完結させそうだもの
腰低いもの
ていう期待があるせいでこのスレ覗くのが日課になってるW
- 374 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:48
- 浮上して、陸に上がってから妹は悩んでいました。
それは頼まれていた一人を連れ出せなかったこともありますが、実際にはもうひとつのほうが彼女の頭を悩ませていました。
―――・・・どうしたもんか・・・。
波が寄せては返す中、腕を組み眉根を寄せてうなる妹。体は当然のごとくびしょ濡れです。
―――やばいよねぇ・・・。
妹の頭にずたずたにされた警備員の姿が浮かびました。
そして、身震い。
即座に浮かんだ考えは、
―――・・・逃げよ。
でした。
しかし、世の中そう上手くはいかないものです。
―――どこに行くの?
立ち上がって海に飛び込もうとしていたまさにその時。
極限まで優しさを含んだ声が、後方から聞こえてきました。
妹は青ざめ、振り向きもせず海に飛び込みました。
でも・・・。
- 375 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:48
- ―――待ちなさい。
妹はなぜか栗色の髪の少女の目の前に尻餅をつきました。
何をされたかわかりませんが、一つわかることは・・・
―――ねえ、どこに行くの?
絶体絶命だということです。
妹はその少女の恐ろしい笑顔の前で、引きつった笑いを浮かべました。
―――・・・すいません・・・。
情けなく、妹は土下座をしました。
その先には優しく微笑んだ栗色の髪の少女。
―――わたし、三人をお願いって言ったよね?
少女はどこまでもやさしく訊ねます。
妹は顔を上げず、さらに頭を砂にめり込ませて、
―――仰るとおりです・・・。
どこまでも弱々しく。
- 376 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:49
- ―――でも、一人を逃がし忘れて、しかも逃がした二人を見失ったと?
少女の右腕が妹の肩に置かれました。
途端に走る激痛。
でも妹は歯を食いしばって耐えます。
―――・・・すいません。
妹が悩んでいた最大の理由は逃がした二人を見失ったことにありました。
あの海の中の建物から出て、逃がした二人を乗せたポットを途中まではちゃんと追えていました。
でもそこからが問題でした。
急に潮の流れが変わり、二つのポットはそれぞれ反対の方向へ向かったのです。
もちろん妹は焦りました。
- 377 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:49
- 頭をフル回転させて、一つのポットを捕まえてからもう一つを追いかけるという結論を出しました。
そして片一方のポットを追いかけて泳ぎだしたとき、不幸なことに鮫が出現。
しかも群れで。
鮫の群れは妹に群がり、その鋭い歯と強靭なあごで彼女を噛み砕きにかかりました。
妹売られた喧嘩は買う主義。
何匹いるかわからない鮫の群れに勇敢にも応戦しました。
そして数分後。
鮫は全部ひっくり返ってぷかぷかと浮かび、妹はずたずたになりながらもガッツポーズをしていました。
勝利の味に酔いながら近くの海岸に上がって、伸びをしている時彼女は現実を思い出し数分間凹みました。
―――・・・はあ。
栗色の髪の少女はため息を吐くと、妹の肩に乗せていた右腕を自分の額に移動させました。
―――頼む人、間違ったかなぁ・・・。
少女はぼやき、妹はまた謝ります。
- 378 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:50
- ―――もういいよ・・・。
少女のあきらめたような声とともに妹は顔を上げます。
少女は強い眼差しで妹を見つめ、静かに話し出しました。
―――その代わり、これから言う事をして。いい?
妹はぶんぶんと頭を上下に振ります。
少女はそれを見て、ゆっくりと頷きました。
―――じゃあ、あなたは二人の行方を追って。
―――連れ出し損ねた奴はいいのかい?
―――それはわたしが何とかする。だからあなたはそっちのほうに専念して。
妹は大きく頷きました。
- 379 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:51
- そして勢いよく立ち上がります。
―――今度は任せときな!
少女は静かに立ち上がると、親指を立てる妹を見て首を傾げました。
―――本当にお願いね?最低、あの人たちに見つかる前までに。
―――合点承知!!
妹はさらに威勢よく言います。
少女はまだ不安そうながらも、笑顔を作り手を差し出しました。
―――詳しいことは後で話すから。よろしくね。
―――ん、承ったさね。
二人はがっちりと握手を交わすと、自分の仕事を果たすためわかれました。
- 380 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:52
- それから妹の全国放浪のたびは始まりました。
北は北海道から、南は九州沖縄まで。
…などと言ってみますが、実際はそんなに回っていません。
迷いに迷いまくって、どこに言ったのか本人も覚えていないのです。
そんなことを続けていて何年かたったある日、あの栗色の髪の少女が接触を図ってきました。妹は勿論合意。
二人はどこかのレストランで会い、お互いの状況を報告しました。
―――・・・悪い。もうチョイかかりそうだわ・・・。
妹は申し訳なさそうに頭をたれます。
―――そのことなんだけど・・・
妹が顔を上げます。
すると少女は警戒するようにきょろきょろと周りを見回し、囁くような小声で、
- 381 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:52
- ―――・・・12年待ってほしいの。
そんなことを言いました。
妹は勿論わけが分かりません。だから首を傾げ、訊ねます。
―――どういうことだい?
―――・・・この間、社長の私室に忍び込んだとき見つけたんだけど・・・
そこで区切って、少女は自分のかばんをなにやらごそごそとあさり始めました。
そして少女は慎重に鞄に突っ込んだ其の手を引き抜きました。
―――これなんだけど・・・。
テーブルの上にそっと置かれた紙の束。
そこに明記されている文字を見て、妹は目を見開きました。
―――これって――!
―――・・・うん。『わたしたち』の個人データ。
妹は其の紙の束を引っつかみ、凝視します。
読み進めていくと瞬きをするのも忘れるほど見開かれた目が、更に大きく見開きました。
- 382 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:53
- ―――これ、まじかい・・・?
訝しげに妹は聞きます。
それに対して、少女は強い光を双眸に秘め、ゆっくりと頷きました。
―――・・・だとしたら、あいつらも狙ってくるだろ?
―――大丈夫。わたしとあと、あいちゃんも手伝うから。
少女は優しく微笑みます。
負けじと、妹もにやりと笑います。
―――なるほど。で、それまでアタシは何してればいいんだい?
―――特に何も。やりたいことをしてていいよ。
―――りょーかい。
そこで会話は終了です。
二人は出されていた水を一気に飲み干すと、同時に立ち上がり、がっちりと握手をしました。
―――ほんじゃ・・・
―――また、12年後に。
二人は笑いあうと、店を出て、お互い別々のほうに歩いていきました。
- 383 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:54
- 12年という月日は、案外早く流れました。
- 384 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:54
-
- 385 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:54
- 藤本さん、亜弥ちゃん、麻琴の三人は目を見開いて凶子さんを見つめていた。
あたしは・・・どこか冷静に納得していた。
この話、というかもっと省いた話は以前にも聞いていた。
ここまで詳しく聞いたのが初めてでも、大体の内容は知っていたからそんなに驚くことはない。
でも最初に聞いたとき、あたしもこの三人とまったく同じ反応をした。
そして・・・
「ミキたちが・・・つく、られた・・・?」
心の中で苦笑。
あたしとおんなじ反応や・・・。
- 386 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:55
- 「どういうことだよ、それ・・・」
怒ったような麻琴。いつもよりかなり声が低い。
それを凶子さんはどこかとぼけた様な表情で受け止める。
「これはある姉妹の話であって、アンタらには関係・・・」
「ふざけないで!!」
立ち上がり、怒鳴る藤本さん。
やはり、突っ込みは彼女しかいないわ。
「もろアンタの事じゃん!もろあたしたちの事じゃん!!関係ありありじゃんかっ!!!」
凶子さんを睨みつけ、叫ぶ。その瞳はほんのり黄金色。
かなり怒っとるな・・・。
「・・・ばれたか」
―――凶子さん、ばればれやよ・・・。
あたしは呑気にもそう心の中で突っ込んでしもうた。
- 387 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:55
- 「ま、そういうことさね。今の話は全部ノンフィクション。しかもあんたらのことさ」
どうでもよさげに言う凶子さん。
今の状況でその態度はすんごくやばい。
「―っ!ふざけんな、この――!」
「別に蹴ってもいいけど、造られたっていう事実は変わんないからね。そこだけ頭に入れときな」
藤本さんが一歩踏み込んで、今まさに蹴ろうかとしているとき、呆れたような、疲れたような感じで凶子さんは言った。
それでも藤本さんの蹴りは止まることなく、凶子さんの首にメガヒット。
「―――っく!んぅ、あぅ・・・」
藤本さんの嗚咽。その姿を無表情で見つめる凶子さん。
分かってるんや・・・凶子さんが悪くないってこと。
でも、何かに怒りをぶつけないと壊れてしまいそうで・・・。
- 388 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:56
- 「ミキたん・・・」
女房の亜弥ちゃんが藤本さんを座らせ、とめどなくあふれてくる涙を拭う。
そして抱き寄せた。
「うぁ、うあぁぁぁ」
静かに、でも本格的に泣き始める藤本さん。
亜弥ちゃんはそんな恋人を抱きしめながら、凶子さんを睨みつけた。
凶子さんはその視線を無表情で受け止めている。
- 389 名前:“真”を知る〜凶子が話す“真”〜 投稿日:2004/04/18(日) 23:56
- 「破壊衝動って知ってるかい?」
麻琴のほうを見て、唐突にそう切りだした。
麻琴と亜弥ちゃんは首を傾げる。
「なに、それ?」
当然聞き覚えのない単語に麻琴は眉根を寄せる。
―――・・・麻琴・・・。
この話を聞き終わった後、麻琴は壊れずにいられるだろうか・・・。
- 390 名前:我道 投稿日:2004/04/19(月) 00:04
- はい、すいません(イキナリか・・・)
間を空けたにもかかわらず、短い更新終了でございます・・・。
一応今回で凶子さんの昔話は終了にしたいと思います。
次回からは・・・なんでしょうね・・・ぐふっ(凶子さんの鉄拳をもろにくらった)
>>372 名も無き読者様
優しいお言葉をかけてもらったにもかかわらず、こんなのでごめんなさい・・・。
次はがんばりますです!ハイ・・・(ヨワー・・・
>>373 19様
腰の低い作者です(苦笑)中々、直らないものですねぇ・・・。
日課にしていただいて光栄です!
完結目指して、がんばりますっ!!
p.s 作者は腰が低く、うざいです。
ご勘弁を・・・。
- 391 名前:我道 投稿日:2004/04/19(月) 07:01
- 一回寝た後の隠し
- 392 名前:我道 投稿日:2004/04/19(月) 07:01
- もういっちょう!
- 393 名前:19 投稿日:2004/04/19(月) 13:49
- 川o-_-) zzz
- 394 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/19(月) 17:02
- 乙ッス。
栗色の・・・もしやあの人ですか?
凶子さんは昔からこんな感じなんですなぁ。。。
ちょっとマヌk…へぶしっ!?(←凶子さんの蹴り
続きも楽しみですw
- 395 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:00
- ―――――*
- 396 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:00
- 「破壊衝動って知ってる?」
唐突に訊かれた。
首を傾げ、私は『わたし』を見つめる。
「破壊、衝動?」
勿論私には聞き覚えのない単語。オウム返しにそう訊くと、彼女はクツクツと笑い出した。
いきなり現れて、分からないこと訊いて。
それで笑うってのはものすごく失礼だと私は思います。
ここは何もない真っ白な世界。
たぶん私の夢の中、彼女が言うもうひとつの現実。
何をすればいいものかと思い突っ立っていた私の前に、『わたし』が現れたのはついさっき。
開口一番のおかしな言葉と、その失礼な態度に憮然としながら彼女を睨みつける。
- 397 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:01
- 「ふふ、失礼。破壊衝動というものはね、何もかも壊したくなる、そんな気持ちがこみ上げてくることを言うの。人間はイライラがたまって、破壊衝動が起き、そして犯罪に走る」
私にゆっくりと近づいてきながら、言葉をつむぐ『わたし』。
ちょうど私の目の前に来たとき、彼女は歩を止め、私の目を覗き込んできた。
「でも、あなたは・・・あなたたちは違う。造られた能力者は破壊衝動が生涯に一度、必ず起こるの。そして能力が開花する」
「造られた?」
私は彼女の目を見つめながら問う。
怪しい光がそこに灯った。
「そう。あなたたちは造られた。人の手によってね」
普通なら、まこっちゃんなら驚いているところだと思う。
でも私は・・・
「そうですか」
「あれ?」
さすがに少しは驚いたけど、呆然とするほど驚きはしなかった。
反応が予想外だったのか、『わたし』は首をかしげ、不思議そうに私を見つめてくる。
「驚かないの?」
- 398 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:01
- 私は息をひとつ吐いて、彼女の横を通り抜ける。
「あなたみたいな人がいるんです、自分は人間ではないと思うのが妥当でしょう?まあ、私が人造人間だってことには少しびっくりしましたが」
言葉を切って振り向くと、『わたし』はなぜか憮然とした様子でこちらを睨んでいた。
でも次の瞬間には、その顔に笑みがパッと咲いた。
「じゃあ、これは?あなたたちを造った人、実は咲魔凶子さんの姉だった」
胸を張ってそう言う『わたし』。
確実にこれは私が驚くと思ったんだろうな・・・。
「そうですか」
「・・・え?」
私の薄い反応に目を見開く彼女。
「なんで?」
「私は彼女のことを知りません。でも、彼女は私たちを助けてくれる。これは何かあると前から思っていたんですよ」
再び憮然とする『わたし』。
そして、呟き一言。
「・・・面白くないですねぇ」
- 399 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:02
- その呟きは私には聞こえない。それほど小さな声。
私は『わたし』の態度に首をかしげながらも、話を戻してみた。
「ところで破壊衝動の話なんですけど、私の場合、あの50人殺しのときですよねぇ?」
憮然としたままゆっくりと頷く『わたし』。
私は更に続ける。
「私、能力開花しなかったよ」
『わたし』の表情が、憎憎しげに歪む。
背中に悪寒を感じ、半歩身を引いてしまった。
「・・・本当にそう思っていますか?」
私に接近しながら、彼女は呟く。今度は私にも聞こえるほどの大きさで。
私は彼女の迫力にその場を動けないでいた。
「事実じゃ・・・」
「違う!」
私の前で彼女は叫ぶ。
どこか沈痛な感情をこめて・・・。
「わたしが・・・わたしが目覚めたじゃないですか・・・」
- 400 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:03
- 悲しげな光の詰まった二つの瞳が私を見つめる。
―――なぜ、そんな目をしているんですか・・・?
「わたしが目覚めたから、あいつらはあなたの居場所を特定できたんです・・・」
「え――?」
弱々しく俯いて呟く『わたし』。
彼女の言葉も気になったけど、その言葉の意味が更に気になった。
「なんですか、それ?」
「・・・能力者は破壊衝動が起きる前までは、能力を持たないただの人間です。『S.P.K.G』は能力を持つ者のセンサーみたいのがあるそうです。でもそれはあくまで『能力を持つ者』だけ。だから『S.P.K.G』はあなたたちの破壊衝動が起きるまで手の出しようがなかったんですよ」
これは、さすがに驚きましたね・・・。
私が驚いていると彼女が顔を上げ、そっと自分の額と私のとをくっつけた。
何をしたいのか分からず、きょろきょろと目を動かしている私に、
「むかしの記憶、ないんでしょう?思い出させてあげますよ」
『わたし』は淡々と言った。
- 401 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:03
- とたん襲ってくる頭痛。私は歯を食いしばり、目を閉じた。
―――?なに?
頭の中に浮かんでくる映像。見たこともない人が嫌な笑顔でこっちを見ている。
『妾の野望、叶えておくれ』
すぐに映像が切り替わる。
小さな子が二人、こっちを見ている。
『ずっと一緒だね!』
『遊ぼうよ〜!』
切り替わる。
大きな人と、髪の長い人がお喋りしてる。
『あれだけでは危険です』
『ふむ・・・少し、改良するとしようか』
切り替わる。
大きくて、見覚えのある人がこちらを微笑みながら見つめている。
『起こしてすまなかったね。今はまだ眠っときな』
映像はそこで終わった。
- 402 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:04
- ゆっくりと目を開く。
悲しそうな二つの瞳が私を見つめていた。
「思い出しましたか?」
「・・・完璧に。あなたは、そうだったんですか・・・」
『わたし』は嘲るように笑った。
「そう。わたしは・・・わたしがもともとこの身体の主人格。でも、能力があまりにも危険だったからあなたが生み出され、わたしは副人格になった。そして・・・」
「・・・15年間、ずっと一人ぼっちだった・・・」
私がそう呟くと、『わたし』の目から大粒の涙が溢れ出した。
それは頬を伝い、地に落ち、小さな水溜りを造る。
止まる様子は・・・まるでない。
「そうだよ・・・1歳であなたが主人格になってから、まる15年。あなたは私に気づくことなく、脱出用ポットで到着した先、北海道で普通の暮らしを送っていた・・・」
涙を流し微笑みながら、語る『わたし』。
やけに説明口調っぽいのは、彼女の悲しみが深いからなんだと思う・・・。
「・・・幾度もわたしはあなたを呼んだ。でもあなたは、それをただの夢だと思い、きにもとめなかった・・・」
笑みが更に深くなる。
- 403 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:05
- 私は何も言うことができない。ただ、彼女の紡がれる言葉を静かに聴くだけ。
「でも、我慢した。破壊衝動が起きればあなたはわたしに気づいてくれる、そう信じていたから。だから、あんなに人を殺した。なのに・・・それなのに・・・」
『わたし』が私の胸倉を掴み、見上げる。
微笑みは、無い。
あるのは止め処なく流れる涙と、悲しそうに歪められた顔だけ。
「ねぇ、なんで?!なんで、気づいてくれなかったの!?わたしあんなに人殺したのに・・・勝手に身体が動いて変だと思ったでしょぉ!?」
悲痛に叫んで、彼女は私を揺さぶる。
確かにあの時・・・人を殺していたあの時。
私は何にも考えていなかったのに、身体は動いていた。
掴んだ包丁で胸を刺し、頚動脈を断ち切り、何回も串刺しにしたりしていた。
でもなぜか私は何も変には感じなかった。
殺した人たちに対する怒りが、それなりに大きかったから。
電車の中で大声で喋る人たち。優先席で平然と座っている青年たち。コンビニの前でたむろする学生たちetc・・・。
とにかく、そんなマナーを守らない人たちに本当に嫌気が差していたから。
私は殺していることを受け入れ、大して不思議がりもしなかった。
「ねぇ・・・なんでぇ・・・」
それが彼女を悲しませることにつながっていた。
『わたし』は別に望んで破壊をしているわけではないんだ・・・。
ただ私に気づいてほしかっただけ。
真っ白な世界にこだまする、『わたし』のしゃくりあげる声。
幾度も鼻をすすり、涙を地に落とす。
その音しか聞こえない静かな世界で、私はゆっくりと口を開いた。
- 404 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:05
- ―――――*
- 405 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:06
- 「ふーん。つまりあたしはその会社の手のひらの上で踊ってたってわけか」
あたしの予想に反して、麻琴は話を聞き終えても取り乱すことなく極めて冷静に対処した。
それにはさすがの凶子さんもびっくりした様子。
目をしきりに瞬かせている。
「・・・驚かないのかい?」
「驚いたよ。あたしが人造人間で、あんたに逃がされて、破壊衝動でビル壊して、おかしな会社に狙われてる。驚かないほうが変だよね」
苦笑しながら言う麻琴。
―――なんやろ?なんか知らんけど、今の麻琴・・・えっれ大人っぺー・・・。
「でも、そこまでぶっちゃけられると、なんかね・・・こう、逆にすっきりするんだよね。今落ち着いてるのも、多分そのせい」
泣き止んでへこんでいた藤本さんが目を見開いてしまうほど、麻琴は明るく笑った。
つられてか、凶子さんも笑い出す。
「はっ!爆弾の一つ位でも覚悟してたんだがねぇ」
「やってあげようか?あははー」
何やろこの光景・・・。
今、そんなに笑うような話はしてなかったはずやのに。
「・・・なんで笑っとるの・・・」
- 406 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:06
- やから思わず声を低くして呟いた。凶子さんがそれに気づいて、あたしん方を見てきたけど、それより数秒早く、
「・・・あはははは!」
「!」
藤本さんが天井を見上げて、高らかに笑った。
ついに壊れたかと思ってそちらを見ると、なんや?
本当に・・・
「造られたとかいっても、ミキはミキだよね。なんだ、何も変わんないじゃん!あははははー!」
本当に楽しそうに笑っている。
これって・・・。
「そうっすよ!藤本さんは藤本さんなんすから、別に落ち込むことないんすよ。今までどおりに生きればいいんす!!」
麻琴の明るさが、藤本さんを救った?
馬鹿笑いしながら肩を組む二人(つーか麻琴)を見て、あたしは首を傾げ、そして苦笑。
―――改めて思うけど、変わっとらんなぁ・・・。
楽しそうに笑い続ける藤本・麻琴ペア。
するとその背後から強烈な負のオーラを放ちながら、鬼が顔を出した。
「ミ〜キ〜た〜ん〜・・・」
- 407 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:07
- 「ぐほぉっ!?」
鬼、もとい亜弥ちゃんは笑ってない笑顔を飾りながら、藤本さんの首を絞めた。
たぶん・・・いや、絶対冗談抜きで・・・。
「元気になったのはいいけど〜、麻琴ちゃんとべたべたしすぎだよぉ〜」
「ぐぶっ!ぐるじい・・・」
額あたりに血管が浮かびだし、顔は真っ青の藤本さん。
そして数秒後、あっけなく事切れた。
「ふんっ!ミキたんの浮気者」
白目をむいてぐったりした藤本さんを座らせてから、亜弥ちゃんも腰を下ろす。
頬を膨らますという、可愛さを意識した怒り方で。
―――この人は、あんくらいじゃ沈む分けないよな・・・。
目をあわすと食われそうなので、チラ見しながらの苦笑。
横を見ると、涙目になりながら震える麻琴。
―――・・・こういうとこも変わっとらんなぁ・・・。
「元気だねぇ」
こんな状況でも怖気づかないこの木偶はすごいと思う。
笑いながら、のんびりとした口調でそんなことを言った。
「ふんだ!」
- 408 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:07
- それを見て姫は、おへそを曲げられたご様子。凶子さんから顔をそらした。
「・・・ところでさぁ」
もうとばっちりはこないと踏んだのか、まだ少しだけびくびくしながら麻琴が口を開いた。
あたしと凶子さんは彼女を見つめる。
「あんたのお姉さん、あさ美ちゃんでいったい何したいの?」
先程までとは打って変わっての真剣な眼差し。
あたしは身を強張らせ、凶子さんを見つめた。
―――そういやぁ、あたしもそれ詳しくは聞いてない・・・。
「・・・」
あたしたち二人に見つめられる凶子さんは一切の感情を殺した、完全な無の表情。
暫くの沈黙。
唐突に凶子さんは明後日の方角をむき、独り言のように話し始めた。
「12年間、アタシが別にだらけてたわけじゃない。自分を鍛えながら、あいつのやりたいことを調べまわったりしてた。けど・・・」
思わず身が震えた。麻琴身体も硬直している。
その視線の先には、破けそうなくらい唇をかみ締めている凶子さん。
握られた両の拳からはこめられた力の大きさにすでに皮膚が破れ、鮮血が滴り落ちている。
これほどまでに、怒りを露にした凶子さんは始めて見た・・・。
- 409 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:08
- 「全然分からなかった・・・っ!あいつも協力してくれていたのに、何にも・・・っ」
「・・・あいつって・・・?」
麻琴がまだ少しおびえながらも、凶子さんの不明瞭な単語に反応した。
あたしの心臓が一度、大きく跳ねた。
「あいつって誰?」
もう一度訊ねる麻琴。
鼓動が早まる。息が苦しい。
以前、凶子さんから『あの人』の名前を、話を聞いたときもこんな感じだった。
何回聞いても飽きることなく、あたしをどきどきさせてしまう、その名前。
胸を押さえ、あたしは俯く。
「・・・話にも出てきただろ。栗色の髪の少女さね」
「本名だよ!」
わざと凶子さんは言わないようにしたんやろうな・・・。
あたしん時もそうやったし。
あんな、人間そんなこといわれると気になって仕方の無いもんなんやて。
- 410 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:08
- 少しの沈黙の後、ため息のあとにその名前は紡がれた。
「後藤、真希。『S.P.K.G』のエージェントさ」
心臓が一際大きく跳ねた。
―――・・・殺す気ですか?後藤さん・・・。
「その人、今―――」
「音信不通さ。約束の12年後にも現れず、それから連絡なんか取れやしない」
麻琴の言葉を遮って、凶子さんは一息に言う。
でも、あたしの耳にはそんな言葉はもう届いていなかった。
思い出されるあの人のふにゃっとした笑顔。
寝ていたところを無理やり起こされて、初めてキレたあの人の怒り顔。
そして・・・あたしと最後に会った時の、切なく寂しそうな笑顔。
―――後藤さん・・・あなたは今どこで何をしているんですか・・・。
高橋は知りたいです・・・。
あなたが最後に見せた、あの寂しい笑顔の意味が・・・。
- 411 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:09
- 「ねぇ、さっちゃん。なんか外騒がしくなーい?」
自分の世界に完全に入ってしまっていたあたしは、亜弥ちゃんの相変わらずの間延びした声で現実に戻った。
顔を上げると、訝しげに窓の外を見つめている。
「・・・本とだ。どうしたんだろう?」
麻琴が首をかしげ、呟く。
この部屋の中は誰も喋らなければ静か。
だから耳を澄ませば外の音を聞くことは容易いこと。
いつもなら街の人たちの声が聞こえたり、妙な音楽が流れてきたりしている。
でも・・・
「こりゃあ・・・っ」
凶子さんが表情を厳しくして、勢いよく立ち上がった。
あたしたちもそれに続き、立ち上がる。
その間も聞こえてくる、悲鳴としか取れない幾多もの声。
あたしたちは走り出し、玄関の扉を開け外に出た。
その瞬間、燃え盛る炎の大蛇がそのすべてを丸呑みしてしまいそうな大口を開けてこちらに向かってきた。
- 412 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:09
- 「沈下あぁぁぁぁぁぁ!!!」
炎の大蛇対凶子さんは、凶子さんに軍配が上がった。
音速のごとき速度で繰り出された凶子さんの右ストレートが大蛇の頭に激突したとき、大蛇は粉々に四散して、文字通り消え去った。
「うあっちいぃぃぃぃぃ!!!」
叫びながら右腕をぶんぶんと振る凶子さん。
―――・・・相打ち?
「相変わらずの怪力で」
呑気にもそんな言葉が浮かんできたその時、大通側から透き通るような声が聞こえた。
そちらに目をやる。
正直、血の気が引いた。
「よう、お久じゃないか。このクソ電波」
「願わくは、もう二度と会いたく無かったよ・・・」
爽やかに罵る凶子さん、それを平然と受け流すきれいな長髪を持つ二刀流の女性。
二人の間にぴりぴりとした空気が流れる。
「・・・この間卑怯な手つかって逃げるから・・・あの時死んでてくれれば、もう会わずにすんだのに・・・」
- 413 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:10
- 「卑怯とは何さね。あんたの服引っぺがして川に捨てて逃げる。もう完璧にすばらしい方法じゃないか」
凶子さんはニヤリと笑いながら、親指を立てる。そしてそれを上下逆さにする。
飯田さんのこめかみに、うっすらと青筋が浮き上がるのが見えた気がした。
「・・・あれは思い出しただけでも腹立たしい・・・っ!でも今回は確実に息の根を止めてあげるよ。楽しみにしててね」
そう言って、飯田さんはにっこりと微笑んだ。
本格的に寒気がしてきた。
頭の隅っこで「逃げたい!」と思っている自分がいる。
「そして、二人を渡してもらうよ。あ、高橋とあやや、それに藤本は用済みらしいから。始末してあげるね」
「くっ!」
飯田さんは更に微笑んでから両腕を広げた。
両の手に握られた銀の煌きが、静かに左右の二つのビルに刺さった。
刹那。
- 414 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:10
- ――――ドオォォォォォ!!
凄まじい轟音とともに上がった、白き炎。それはすぐさま巨大なビルを丸のみにし、消し去ってしもうた。
狭かった視界が一気に広がった。
そこに「静岡」という街はもう無かった・・・。
あたり一面炭だらけ。
原形を保っているものは、一つも無い。
「これだけ広ければ十分でしょ?」
日本刀を腰に下げた鞘に納め、首を傾げてくる飯田さん。
―――・・・ひどい・・・。
「まぁた派手にやったもんだねぇ」
口調はのんびりとしていたけど、その表情はマジ切れ寸前。
あたしの拳にも無意識的に力が入る。
「邪魔だったからね」
- 415 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:11
- 言ってから飯田さんは、踵を返し炭だらけの地面を歩き始めた。
凶子さんは亜弥ちゃんに何か囁いてから、それに続いて歩き出した。
あたしと麻琴もそれに続く。
「のぉ。さっき亜弥ちゃんになんて言うたん?」
「ん?ああ、藤本を守ってやれってね」
「ああ・・・」
納得。
藤本さんはかなり強い。けどそれは万全の体調での話し。
両腕の無い今、飯田さんに挑んでいくのは、はっきり言って死にに行くようなもの。
街の中央部分だった場所に来て、飯田さんは立ち止まった。
あたしたちも距離を置いて止まる。
ゆっくりと飯田さんがこちらに振り向き、微笑む。
するとどこから現れたのか、見覚えのある三人の少女。
- 416 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:11
- 目つきの鋭く、小柄な少女。
黒髪のセミロングで釣り目がちな少女。
日傘を差した、どこかポワンとした少女。
その三人が飯田さんの横に並び、こちらを睨みつけている。
「あんだい、そいつら?」
訝しげに凶子さんが尋ねる。
そっか・・・凶子さんは会うのは初めてだっけ。
あれ?でも一人はこの間あったような・・・。
「一人とは面識あるでしょ?」
飯田さんが日傘の少女のほうを見る。
凶子さんもその子を見て、暫く首を傾げて、横に振る。
「知らないねぇ。誰だい、そりゃ?」
日傘の女の子がぷうっと頬を膨らます。
どうやら忘れられていたのが、気に入らない様子。
- 417 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:11
- ―――・・・この木偶、おつむ弱いっけの・・・。
「右から田中れいな、亀井絵里、道重さゆみ。新しく入ったうちの社員だよ」
苦笑しながら三人を紹介する飯田さん。
凶子さんは「ふ〜ん」ときの無い返事をする。興味無さそ〜・・・。
「藤本怪我したんでしょ?あややもそっちの看病行ったみたいだし。三対三で丁度いいね」
そう言ってから飯田さんはどんどんと後退していく。
三人が、いや正確には田中ちゃんだけ構えた。
「言っとくけど、その三人結構強いよ〜」
飯田さんのその言葉と同時に、田中ちゃんはこちらに向かって疾走してきた。
その目は深緑に染まり、瞳孔は獣のように細まっている。
それを見てあたしも急いで力を開放した。
「上等だ!ゴルアァァァァ!!かかってこいやあァアぁぁぁ!!!」
鼓膜が破れそうな怒声とともに、凶子さんは田中ちゃんと激突した。
- 418 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:12
- ―――――*
- 419 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:13
- 「―――えっ?」
涙の流れ続ける顔を上げ、『わたし』は私をキョトンとした表情で見つめてくる。
私はその目を静かに受け止めていた。
「怖、かった・・・?」
ゆっくりと頷く私。
彼女はわけが分からないといった様子。
それを見て、私は再びゆっくりと口を開いた。
「あの時は・・・人を殺しているときはそれを受け止めていました。私がそう望んで、行動している、そう思ったからです。でも、それはただ怖かったんだと思います」
私はその場に『わたし』を座らせ、自分も腰を下ろした。
丁度向かい合う形になり、私は言葉を続けた。
「私の中に知らない何かがいる=私は化け物だ。そう考えるのが怖かったんですよ。だから私はその状況を受け入れ、私の中の『わたし』の存在に見向きもしなかった・・・」
実際本当にそうだったんだと思う。
あの時はそうだと受け止めていたけど、言ってみればそれは受け入れたくない意思表示だったんじゃないかな・・・。
「じゃ、じゃあ・・・わたしが人を殺したことって・・・もしかして、逆効果だったの?」
どこか震えている彼女の声。
私は苦笑し、答える。
- 420 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:13
- 「たぶんあれでもう一人の自分に対する意識が引っ込んだんだと思う。それまではほんの少しだけど、あなたへ関心を持ってたから・・・」
目を見開き、口をパクパク。これがまこっちゃんの言ってた金魚かな?
―――・・・似てるかも・・・。
そんなことを思っていたら(夢の中で思うってのもおかしいですけど)、『わたし』は俯いて肩を振るわせ始めた。
「そっか・・・わたしが、あなたを引き離してたんだね・・・」
震える、か細い声。真っ白い床に落ちる、無色の雫。
「ははっ・・・馬鹿だね、わたし・・・気づいてもらいたくて、やったことが・・・逆に、遠ざけちゃうなんて・・・救いようが、無いね・・・」
「そうですね・・・」
私は小刻みに揺れる頭に手を置き、そして撫でる。
自分の頭を撫でるって・・・なんか、おかしな気分ですね・・・。
『わたし』が顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃ。
私はその頭を引き寄せ抱きしめて、彼女の耳元で囁いた。
「でも、それは私も同じです。ずっとあなたを一人にしておいて・・・。どっちかというと私のほうが救いようが無いですよ。でも、過ぎたことをいくら悔やんでもどうしようもない。そうじゃありませんか?」
「・・・・・・」
私は静かに言葉をつむぐ。何故かすらすらと言葉が出てくる。
もしかしたら・・・私は望んでいたのかもしれない・・・。
「問題はこれからをどう生きるかです。そう思いませんか?」
「・・・それって―――?」
『わたし』が再び顔を上げた。涙は止まっていた。
私は彼女に微笑むと、もう一度抱き寄せた。
「・・・私とともに行きましょう。もう一人ぼっちにはさせません」
彼女の身体が一瞬びくっと揺れた。
- 421 名前:“真”を知る〜一人ぼっちはもう嫌です!〜 投稿日:2004/04/19(月) 23:14
-
でも彼女の両腕は、しっかりと私を抱きしめていた。
- 422 名前:我道 投稿日:2004/04/19(月) 23:20
- 本日の更新終了であります。
>>393 19様
レスありがとうございます!
そういえば紺野さん、寝たままですね・・・(苦笑)
でも、次回にはたぶん起きます。だからよろしくです!
>>394 名も無き読者様
レスありがとうございます!
はい、彼女とは、やはり彼女でした(苦笑)
ああ、凶子さん!?
駄目でしょう!読者様にそんなこと・・・びぐはぁっ!(←凶子ラッシュ
- 423 名前:我道 投稿日:2004/04/19(月) 23:21
- いつの間にか400・・・。
長編にする気は無いのですが・・・。
- 424 名前:凶子 投稿日:2004/04/19(月) 23:23
- だらだらしすぎなんだよ!
しゃきっとしなっ!このボケッ!!
我道)<あの、ここ私の喋り場・・・。
- 425 名前:名無しさん 投稿日:2004/04/20(火) 01:10
- 調子戻ったみたいで一安心。
心なしか登場人物達も元気になったような気がしますね。
大長編期待してますw
- 426 名前:19 投稿日:2004/04/20(火) 04:21
- 自分に敬語を使う紺ちゃんw
そしてこの展開はやはりドラゴンボー(ry
- 427 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/20(火) 17:16
- 更新お疲れサマでございます。
やっぱりあの人でしたねw
何やら物騒な強さの方々が出てきて心配ですが
続きも期待しながら待ってます。
- 428 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 08:59
-
- 429 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:00
- 「ぐうっ!」
飛び退るあたしと麻琴。目の前には獣の田中ちゃん。
彼女は傷一つ無い。
でもあたしたちは既にぼろぼろ。服のあちこちが彼女の能力によって“溶かされて”いた。
「・・・弱いね」
チラッと地面に転がるデカイ女の人を見て、呆れたようにため息を吐く田中ちゃん。
「威勢だけじゃん」
こちらに向き直り、口の端を吊り上げる。
―――くっ・・・ここまでとはの・・・。
田中ちゃんと激突した後、凶子さんは白煙を上げながら倒れた。
肉の溶ける嫌な臭いが立ち上り、あたしは顔をしかめた。
田中ちゃんの能力は『獣化』。属性は『毒』。
- 430 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:00
- ―――・・・たち悪い〜。
心底そう思った。
接近戦になれば溶かされるのがオチ。
迂闊には近づけない。凶子さんは身をもってそれを教えてくれた。
成仏してや・・・なんまいだ、なんまいだ・・・。
「・・・誰が弱いって〜」
「なっ!?」
―――・・・そう簡単には死なんか・・・。
田中ちゃんを後ろから羽交い絞めにし、凶暴に笑う凶子さんを見て切実にそう思った。
「いや〜溶解毒はさすがにやばかったね〜。でも、それができんのは爪と牙だけだろ?押さえ込んじまえば怖いものなっしんぐういずゆーさね!ぐあははは!!」
耳の真後ろでものすごい叫ぶもんやから、田中ちゃんは露骨に顔をしかめる。
「やっちまえ、高橋、小川!」
「「言われなくても!」」
- 431 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:01
- 凶子さんがそう言ったころには、あたしたちはもう走り出していた。
あたしは拳に炎をまとわせ、麻琴はその辺に転がっていた石を掴んでいる。
―――!?
絶体絶命のピンチのはずなのに、田中ちゃんの顔には笑みが浮かんだ。
苦し紛れの笑みじゃなく、あれは・・・余裕の笑み。
「くあっ!」
背中のほうから聞こえた麻琴の短い悲鳴。
慌てて振り返ると、倒れこむ麻琴の前にいつの間に移動したのか、亀井ちゃんが立っとった。
「ぐっ・・・!」
麻琴は苦しそうに顔を歪めて、それでもどうにか立とうとしている。
でも、叶わない。四肢が意思に反しがくがく震えて、ろくに力が入らない様子。
次の瞬間、彼女の身に起こったことにあたしは目を見開いた。
「・・・ぇっ、うえあっ!がふっ!」
麻琴の身体がひときわ大きく揺れ、口から大量の血塊を吐き出した。
これは・・・もろに亀井ちゃんの能力を受けた証拠や!
「こぉのおぉぉ!!」
- 432 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:01
- 未だあたしに背を向けている亀井ちゃんに向かって、あたしは炎をまとった拳を突き出す。
彼女は避けようともせず、静かに佇む。
確実に彼女をしとめられたあたしの拳は、しかし彼女の身体に届く寸前で力を失った。
炎が消え、腕が独りでに下ろされる。
次には足の力が抜け、あたしはその場に座り込んだ。
「・・・一人に気を取られすぎですよ」
亀井ちゃんがあたしを見下ろし、淡々と呟く。
恐ろしく冷ややかな眼差し。
何か言い返そうにも口が開かなければどうしようもない。
あたしはただ彼女を睨みつけた。
「・・・さゆ、もっとやっちゃって」
亀井ちゃんの言葉と共に、あたしの視界はブラックアウト。
心の中で小さく舌打ち。それと大きく焦燥。
―――・・・どうする・・・っ!
「うおりやあぁぁぁぁぁぁ!!!」
鼓膜を揺さぶる、いや、大地をも揺さぶる怒号と共にあたしの身体に力が戻った。
- 433 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:02
- 急いで能力を開放し、振り返る。
「な、なんなの!?この人!?」
「化け物?!」
「わたしって可愛いよね?」
「凶子さね!化けもんはあんたらだよ!!鏡見てから出直して来い!!!」
怒鳴りながら拳や蹴りを四方八方に放っていく凶子さん。
焦った様子で、必死にそれを防いでいる三人。
形勢は・・・互角か。
「麻琴・・・大丈夫け?」
一先ずまだ大丈夫そうだったので三人を凶子さんに任せて、あたしは麻琴の元へ駆け寄った。
しゃがんで両腕で抱えてみる。
呼吸がか細く、目も虚ろ。
口の端から流れる真紅の線を見ると、ダメージの大きさを感じさせられる。
「・・・ぁ・・・ゃ・・・」
何か喋ろうとして、再び血を吐き出す麻琴。
- 434 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:02
- 「喋らんほうがええ。亀井ちゃんの能力もろに受けたっけ、ダメージが大きいんやよ。あたしが傍にいるから、安心してや」
言ってから麻琴の頭を抱き寄せた。
「ふぐおあぁぁ!!」
その時、見事にヘッドスライディングをきめて倒れこんできた凶子さん。
服は着ている意味が無いほどぼろぼろになってしまっている。
でも、服以上にその身体の傷はひどかった。
ところどころに5本の爪痕。
薄く切られているみたいで血はあまり出ていないけど、すごく痛々しい。
「くぉんぬぉぉぉぉ!!くそガキャァァァァ!!!」
…でも本人は全然答えてない様子。
勢いよく起き上がると修羅の如き形相で、三人に向かって突進していった。
肩で息をしていた三人は慌てふためく。
「な、なんなの本とに!?なんで『麻痺毒』食らって倒れないのさ!!」
泣きそうになりながら叫ぶ田中ちゃん。
- 435 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:03
- そんな彼女の前に出て、凶子さんに向かって両手を突き出す亀井ちゃん。
表情から少し焦燥感が窺える。
「眠ってよぉ!」
悲鳴に近い彼女の叫びからコンマ一秒、凶子さんは錐もみしながら吹き飛んだ。
彼女の身体はきれいな放物線を描き、激しい音と共に地に落ちた。
その身体が一瞬びくりとゆれたかと思うと、彼女の下に広がる赤黒い水溜り。
もうさっきの様に顔を上げることはなかった。
―――・・・やばいの・・・。
倒れたままの凶子さんから視線をはずし、3人を睨むようにして見る。
田中ちゃんと亀井ちゃんは膝に手を突いて、荒い息をしていた。
どうやら凶子さんとの闘いで、だいぶ体力を削られたよう。
―――・・・これなら・・・。
「れいな〜、えり〜。あの人、睨んでる〜」
- 436 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:03
- 唯一全然疲れた様子のなかった重さんがあたしの視線に気づいたみたい。
まだ息を整えている二人の肩をゆすって、甘えたような声を出す。
二人が顔を上げ、同時にあたしは麻琴をソッと寝転ばせて、立ち上がる。
四肢に炎をまとわせ、姿勢を低くし、3人を睨みつける。
―――・・・やれるだけ、やってやるやざ!
心の中の掛け声と共に、あたしは三人に向かって疾走した。
「くそっ!さゆ、えり!行くよ!」
田中ちゃんが焦ったように指示を出し、向かってくる。
―――やっぱ、さっきより動きがにぶっとる!
言葉にしたらほんのちょっとやけど、あたしにはそれで十分。
「うりゃあぁぁぁぁ!!」
気合一発。あたしは炎の拳を突き出した。
- 437 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:03
- 「くっ!」
両腕を交差させて受け止める田中ちゃん。
間髪いれず、もう一発。
「!」
でもすぐさまその手を引き戻し、後ろに跳び退った。
刹那、あたしがいた場所がまるで掘り出されたように陥没した。
横を向いて確認すると、両手を突き出した亀井ちゃん。
その両手はあたしを目標に捕らえている。
あたしは姿勢を低くし、疾走。
後ろで何かが壊れるような音が聞こえたが、完全に無視。
あたしは一瞬で亀井ちゃんの懐にもぐりこんだ。
攻める隙を与えず、顎を狙っての一撃。
―――決まった!
そう思った瞬間、また独りでに手が下がった。
ハッとして気づいたときには、時既に遅し。あたしは重さんの『領域』にしっかりと踏み込んでいた。
- 438 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:04
- 「学習してくださいよ〜」
間延びした声を出し、あたしの腹部に手を触れる亀井ちゃん。
視界が揺れた。
ガクンと膝が折れ、地面に手をつき、麻琴と同様に赤黒い血塊を吐き出す。
血でできた水溜りの上に、あたしは顔をうずめた。
身体を支える腕にも力が入らなくなった。
―――・・・ヤバいなぁ・・・。
人間窮地に陥ると結構落ち着いてしまうもの。
…あたしだけかな?
「馬鹿ですよね、高橋さん。さゆの領域考えないで、ずかずか攻め込んでくるからそうなるんですよ」
嘲るように笑い、言う田中ちゃん。
その顔を見上げて睨みつける力も、今のあたしには・・・ない。
―――あ〜・・・悔しいな〜・・・。
のんびりと考えてしまう。でも目頭が熱い。
何にもできないあたしが、本当に悔しい!!
- 439 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:04
- 「さよならです、高橋さん」
楽しそうな声と共にゆっくりと降りてくる“殺気”。
見えなくても感じる、嫌な感覚。
あたしの目から雫が一滴、零れ落ちた。
「あ、いくよ!1,2,3−!」
「にゃあ!?」
聞き覚えのあるノリノリの声。
その後の悲鳴(?)と同時に、あたしの身体に力が戻った。
ゆっくりと自分を確認するように起きあがって、振り返ってみた。
「やっほー。愛ちゃーん」
いつもと変わらぬテンションでピースをしニカッと笑う、『風』を遣う少女、松浦亜弥ちゃん。その後ろには苦笑している、『雷獣』、藤本美貴さん。
「助けに来たよ」
藤本さんが、微笑みながら“親指を立てる”。
―――えっ・・・?
「藤本さん、その腕・・・」
- 440 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:05
- しなやかで、程よく筋肉がついた彼女の腕。
あさ美によって消し去られたはずのその腕。
でも、彼女は今確かにその腕を動かした。不自然じゃなく、ごく自然に。
「説明は後で。今はあの子達倒すのが先決でしょ」
言ってからあたしの後ろを睨みつける藤本さん。
―――・・・こわっ!
やっぱり本物は迫力が違う・・・。
…本物って何よ・・・?
一人ボケ、ツッコミをしながら振り向く。
怒ったようにこちらを睨みつける田中ちゃん、亀井ちゃん。
遅れて、倒れていた重さんが起き上がり、睨みあいに参加した。
「・・・病み上がりなのに無理しないほうがよくないですか、藤本さん?」
- 441 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:05
- 不敵に笑って、嫌味を言う田中ちゃん。
それに対して、藤本さんも不敵に笑った。
「別に病み上がりでも、君たち倒すのくらいわけないし」
その言葉に田中ちゃんは口の端を歪める。
彼女の目が更に深い緑色になる。
同時に隣から聞こえてくる、パチパチという火花の散る音。
静寂が流れた。
突然柔らかな風が静かに通り抜け、睨みあうあたしたちの髪の毛を揺らした。
それが合図だった。
- 442 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:06
- 田中ちゃんの姿が掻き消え、横にいたはずの藤本さんの姿も消えていた。
でもすぐに二人は現れ、拳を交えた。
とたんに舞い起こる青白い光と、深緑色の瘴気
あたしそれを見てから跳躍し、両手をあたしに向かって構えた亀井ちゃんに飛び掛った。
本能が彼女の能力の接近を感知する。
「亜弥ちゃん!」
あたしが叫ぶと同時に、亀井ちゃんの周りに風が発生し、砂埃を舞い上げる。
目標を見失って、彼女の能力は調子はずれのほうに放たれた。
やがて風はやみ、クリアになる彼女の視界。
でも・・・
「!!」
「せいやっ!」
- 443 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:06
- でもあたしは既に懐の中。
すばやく彼女の鳩尾に渾身の一撃をお見舞いする。
「うぐぅ・・・っ」
苦痛に顔を歪め、起き上がろうとする亀井ちゃん。
あたしは姿勢を低くし、彼女に向かって一直線に疾走した。
「愛ちゃん、下がって!!」
亜弥ちゃんの叫びが聞こえ、あたしはハッとして急停止。
そしてバク転を繰り返し、亜弥ちゃんの元へと戻った。
―――・・・三度目の正直ってやつかの・・・。
亜弥ちゃんの隣について、亀井ちゃんのところを見てみると、悔しげにこちらを睨んでいる重さんと目が合った。
あたしは苦笑する。
「あんがとの、亜弥ちゃん・・・」
「気をつけてよぉ?後一歩踏み込んでたら、道重ちゃんの“領域”だったんだから」
…反省してます。
学習しなけりゃならんのは、麻琴だけやないみたいやの・・・。
「道重ちゃんの能力って厄介だよねぇ」
「・・・そやね」
- 444 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:07
- 高橋レポート 検索:道重さゆみ
道重さゆみ:能力『脱力の領域』
文字通り彼女の領域――大体、本人から半径5メートルくらいの中に入ったやつを、文字通り「脱力」させる。
瞬きをするときや喋るときも、微量の力が働いているのでできなくなる。
あたしたちの能力も彼女の領域の中じゃ効果がなくなる。
領域内にいても彼女が望めば、その効果を受けずにすむ。
さっき、亀井ちゃんや田中ちゃんが領域内におったのに、ぐたっとしなかったのはそのせい。
補足:日傘を500本以上持ってるらしい。
でも、雨傘は一本もないんやて・・・。
「あ。愛ちゃん口から血が出てるよぉ。だいじょうぶぅ?」
「ああ、これ・・・亀井ちゃんの能力受けてしもうたからの・・・」
ぐいっと口元を手で拭う。んで、舐める。
口に広がる鉄の味。
「よく平気だねぇ」
「・・・ちょっと、やせ我慢もはいっとる・・・」
足が少し震えてるのが分かり、苦笑い。
- 445 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:08
- ―――・・・厄介な能力ばかりやよ・・・。
心の中でため息を吐いた。
高橋レポートverU 検索:亀井絵里
亀井絵里:能力『光速振動波』
空気を震わせ、その振動であたしたちにダメージを与える。
身体に手をつけられると、内臓にじかに負荷がかかるのでマジで危険。いや、ほんまに・・・。
そのたびに手を突き出すのは、集中させるため。
別に手を突き出さなくてもできるけど、威力は落ちる。
補足:下着は常に黒らしいやよ・・・。
ケッ!中坊の分際で・・・。
「ぐっ・・・!」
亀井ちゃんと重さんのとこに田中ちゃんが着地。
口から血の線が引かれ、だいぶ焦燥感が窺える。
「ざっとこんなもんさ!」
- 446 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:08
- あたしの横手にひらりと降り立ち、藤本さんはおどけて見せた。
服はところどころ溶けてるけど、本人にそんなダメージはない様子。
―――・・・やっぱすごいわぁ・・・。
その強さに、簡単のため息を漏らすあたしと藤本さんの幼な妻。
「ミキたん・・・素敵だよぉ・・・」
目をキラキラ輝かせて、どこまでも夢見る乙女。
「もう!三人とも何やってるの!」
一応緊迫した空気に響いた、苛立ったような声。
その声の主は三人の前に立ち、日本刀を一本だけ抜き放ちその切っ先をあたしたちに向けてきた。
「能力ってのはこう使うのっ!」
言うが早いや、切っ先から白き炎が噴出した。
その白き炎は衰えることなく燃え上がり、やがて巨大な蛇の形を形成。
蛇は鎌首をもたげてこちらを睨んでいる。
- 447 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:09
- 「GO!」
発音よき飯田さんの掛け声と共に、大蛇は大口を開け向かってきた。
あたしは小さく舌打ちして藤本さんと亜弥ちゃんを見ると、一発ずつビンタをお見舞い。
「「いたっ!?」」
口をあんぐり開けて、呆然としていた二人はそれで我に返った。
その時大蛇はもうすぐそこ。
慌てて飛び退るあたしたち。
大蛇が地面に突っ込み、その衝撃で熱風が押し寄せた。
それを防ぐため顔の前で手を交差する。
…それがいけなかった・・・。
「さすが飯田さんです」
- 448 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:09
- そんな声が間近で聞こえ、目を開けたときにはもう遅かった。
鋭く尖った爪が振り下ろされる。
「あぐあっ!」
それは正確にあたしの身体に当たり、五本の爪あとを残す。
そして白煙を上げ、肉が溶けるとき特有の悪臭を散布させた。
「愛ちゃん!」
藤本さんの慌てた様子の声を聞きながら、あたしは地面に激突した。
背中の痛みと正面の痛みが相まって、気分は最悪・・・。
でも空は雲ひとつない青空。
…ははっ・・・あたしの気分と全く反対やなぁ・・・。
「あいちゃ・・・むぐぅ!」
視界の片隅に藤本さんが現れ、すぐに消えた。
「ぐっ・・・がほっ、げふっ!」
苦しそうに咳をする。
たぶん亀井ちゃんの攻撃をくらったんやろな・・・。
―――・・・すいません、藤本さん・・・。
- 449 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:09
- 「ほらね、正しく使えばこんなに早くけりがつくでしょ?」
飯田さんのご機嫌な声。
続いて「はいっ」という元気のいい声が三つはもる。
どうやら亜弥ちゃんもやられたよう。
「さ、とどめさしちゃいな?」
「「「はいっ」」」
返事と共にあたしに近づいてくる田中ちゃん。
嘲笑を浮かべながらあたしを見下ろし、腕を振り上げた。
「さよおなら。高橋さん」
腕が振り下ろされた。
- 450 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:10
- 「あああああぁぁアァァァ!!!!」
その刹那の、絶叫。
あたしではない。
あたしは目の前で起きていることに、目を見開いて驚いているだけ。
「いあァぁ!!う、うで・・・腕ァぁあぁぁ!!」
激痛に顔を歪め、涙を流しながら悲鳴を上げる田中ちゃん。
振り下ろされたほうの腕が、指の先から“消えて”いく。
やがて田中ちゃんの片腕は完全に消失した。
「あ・・・あぁア・・・」
田中ちゃんは膝を折り、肩口を押さえ荒い息をする。
その姿が、ほんの一週間前の藤本さんと重なる。
そして、思い出される、あの子の極上の笑顔。
「コホン。お待たせしました」
聞き覚えのある、か細い声。
その子はあたしの横に立ち、やはり極上の笑顔を振りまいた。
でも・・・あたしの中に、恐怖は生まれなかった。
- 451 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/22(木) 09:11
- 「ヒーローは登場する場面を選ぶものです」
やんわりと笑ったまま、あさ美は静かにそう告げた。
- 452 名前:我道 投稿日:2004/04/22(木) 09:18
- >>425 名無しさん様
復帰にありがとうございます!読んでくださってる皆様のおかげです。
キャラたちも元気ですか?いいことです(笑)
大長編・・・期待しないで待っててください(苦笑)
>>426 19様
紺野さん、なぜか書いてる間に敬語になってしまいました(苦笑)
うーむ・・・ドラゴン(ry)は決してぱくっているわけではないんですが・・・
何故でしょうね?(笑)
>>427 名も無き読者様
ありがとうございます!
ぶ、物騒です!物騒すぎました!(苦笑)
期待にそえるようがんばらせていただきます(ペコリ)
レス、本当にありがとうございました!
- 453 名前:凶子 投稿日:2004/04/22(木) 09:21
- あたしどうなってんのさ!?
おいっ、へぼ作者!!
ピュー 〓(我道)
- 454 名前:川o・-・) 投稿日:2004/04/22(木) 09:23
- 川o・-・)<逃げましたね・・・。
(凶子)<・・・殺ーーーーす!!!!
- 455 名前:19 投稿日:2004/04/22(木) 13:44
- おはよう紺ちゃん!
遅れて来たのは食事のためだったり・・w
- 456 名前:shou 投稿日:2004/04/22(木) 15:10
- こうゆう感じの待ってました!!今日、初めて読みましたが一気に読ませていただきました
- 457 名前:我道 投稿日:2004/04/22(木) 23:55
- http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/red/1046953775/681-697
の>>681−697に
息抜きという理由でちょっと書いてみました。
よければ読んでください(ペコリ)
注)果てしなく駄文です。そこを注意してください。。。
- 458 名前:19 投稿日:2004/04/23(金) 02:42
- 惚れ薬の効能に違和感を感じましたが・・
紺野高橋視点以外の我道作品てなんか新鮮です
なんせこのスレももうすぐ500・・・
あ、無駄話すんません
- 459 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/23(金) 17:38
- 更新お疲れ様です。
色々感想ありますが一言。
黒なんだw
次回も楽しみにしてます。
- 460 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:50
-
- 461 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:52
- 驚いたように目を丸くして、こっちを見つめる愛ちゃん。
微笑を返して、その顔のまま片腕の無い少女を見る。
「さて。どう料理しましょうか」
…まるで悪役。
私は咄嗟に言葉を投げかけた。
―――・・・あまり乱暴にしないこと。それと、おかしな台詞回しはやめてください・・・。
それに反応して、表に出ている『わたし』は、クツクツと笑う。
…お願いしますよ・・・。
「分かったよ。それより敬語はやめてって言ったよ?一応“同じ”人間なんだしさ」
―――・・・はいはい。それよりあんまり一人で喋らないで。愛ちゃんが訝しげな視線投げかけてるから。
「君が喋らせててるんだよ」
…それは、すいません。
苦笑しながら愛ちゃんをまたぐ『わたし』。
片膝をつき、苦しそうに肩口を抑える少女を見下ろす。
- 462 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:52
- 少女は憎々しげにこちらを見上げる。その双眸は深緑色。
「足掻いてみますか?」
微笑みながら、首を傾げる。
瞬間、少女は飛び退り『わたし』と距離をとった。
「絵里!」
その子が叫ぶと同時に、少しつり目がちなエリと呼ばれた少女がこちらに向かって両手を突き出した。
でも『わたし』は微動だにせず、笑ってその光景を見つめている。
エリさんが一層強く『わたし』を睨んだとき、それはおきた。
目に見えない何かがやってくる。そんな感じがした。
「対象を“エリさんが『わたし』に与えるダメージ”にあわせます」
静かに『わたし』は呟いた。
その後は・・・何も起こらない。
- 463 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:53
- 何の破壊も無ければ、状態異常も無い。
エリさんと片腕の無い少女は目を見開きこちらを見つめていた。
「何かしましたか?」
―――・・・またそんな挑発的なことを・・・。
『わたし』は悪戯が好きみたいです。そこが何か違うところ。
そして・・・頭を悩ませるところ。
案の定、口元を歪めた二人が飛び掛ってきた。
片腕の少女は鋭い爪を振りかざし、エリさんは掌底を放つつもりらしい。
―――二人相手は少しきつくない?
「そうかな?」
私の少しの不安もよそに、『わたし』は不敵に微笑むと、流れるような体さばきで二人の攻撃をかわすと、片腕の少女の脚に触れた。
「ちょこまか動かれると邪魔ですからね」
―――・・・また・・・。
笑顔を貼り付け、私がため息を吐いてしまう台詞を言うと、『わたし』はそこに“能力”を放った。
「うあぁぁぁぁァアァァぁぁァ!!」
「れいな!!」
その刹那の絶叫。エリさんの驚いたような叫び。
- 464 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:54
- れいなと呼ばれた片腕の無い少女は、片足も無くし絶叫しながらバランスを崩してその場に倒れこんだ。
そこに更に追い討ちをかける『わたし』。
「しばらく起き上がらないでくださ〜い」
「いアァぁぁあぁァァぁぁぁぁ!!!」
ニコリとしながら『わたし』が残ってるほうの脚に触ると、それも音を立てずにつま先から消滅していった。
れいなさんはびくびくと痙攣し、焦点の定まらない目をどこかに向けている。
エリさんはそんな彼女の様子を見て、茫然自失。
『わたし』はそんなエリさんの横を通り抜けた。
その時彼女の頭に触れ、一言。
「・・・“能力”」
「・・・うぐっ」
するとエリさんはくぐもった呻きを残し、その場に崩れ落ちた。
その様子を見て『わたし』は満足そうに笑うと、もう一人の日傘を指している女の子に向き直った。
―――あっ、あの子・・・。
「以前、一度会ってるね」
思い出される白いひらひらのドレス。白く、優雅な日傘。そして、あの言葉。
「れいな、えり・・・」
でも、その言葉は聴けなかった。
私の後ろで倒れているお友達二人を見て、呆然とし、傘を落とした。
でもすぐに我に返ると、『わたし』を睨みつけてきた。
「許さない・・・っ!」
静かな怒りのつぶやきと共に、彼女の周りの空気が一変した。
私は慌てて『わたし』に声をかけた。
- 465 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:54
- ―――気をつけて!あの子、よく分かんないけど、不思議な・・・。
「・・・領域系の能力だね」
でも『わたし』は平然とそう呟いた。
そうしている間に、足の力が抜けていく。
『わたし』は苦笑し、頬をかいた。
「・・・まいったね。一番厄介な人、残しちゃったよ」
そしてついに足から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。
それでもまだ『わたし』は微笑み続ける。
「ちょっと調子に乗って“消し”すぎました。だから後はお願いします、咲魔さん?」
『わたし』はそれだけ言うと、倒れこんだ。
その一呼吸後、聞こえてきたのはやっぱりあの高らかな笑い声。
『はっは〜!まかせときなー!!』
どこから声を出しているのか・・・。
鮮明に聞こえるんだけれど、どこかこもってる。
その答えはすぐに明らかになった。
「しゃあ!!」
「うにゃっ・・・」
気合のこもった叫び、猫のような悲鳴、そしてガスッという鈍い音の後に体に力が戻った。
ゆっくりと起き上がってみて、一つ大きくため息。
- 466 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:56
- 「土竜ですか・・・あなたは・・・」
視線の先にはガッツポーズをとって、土だらけの格好で立っている咲魔さん。
足元には道重さんが目を回して倒れている。
それと大きな穴が。
―――・・・どういった経緯(いきさつ)で、土の中から出てくるの?
心の中で疲れたように呟いた。
「しかも、これはちょっとやりすぎかと・・・」
「アンタに言われたくないねぇ」
振り向いて、ニヤッと嫌な笑みを浮かべる咲魔さん。
口元や服が真っ赤に染まっていた。
さっき倒れていたのはあの三人の誰かにやられたからみたいだね。
「アンタ・・・どっちだい?」
唐突に真剣な表情になり、そんなことを聞いてくる咲魔さん。
『わたし』は苦笑しながら、
「どっち・・・裏、といっておきましょうかね・・・」
と答えた。
- 467 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:56
- すると咲魔さんは『わたし』の上から下をなめるように見わたして、またあの嫌な笑いを浮かべた。
「ふんっ!!」
そして勢いよく体を回転させ、目と鼻の先まで迫っていた『黄金色の巨鳥』に見事な右ストレート。巨鳥は断末魔の悲鳴を上げながら、ぱりぱりと音を立てて四散していった。
「あばばばばばば!!しびれっるぅぅぅぅ!!!」
…その代償が、これ。
どうやらあの鳥は電気の塊だったらしく、殴った咲魔さんの体をしびれさせた様子。
でも、なぜか咲魔さんは悦の表情。
―――・・・なんで?
「・・・意外とMなのかもね・・・」
私たちはその大きな女の人を、呆れた目で見ていた。
「く・・・っ!」
咲魔さんが悦に浸っているとき、聞こえてきた悔しげな舌打ち。
そちらを見ると、二振りの日本刀をもち構える髪の長い女性。
―――え〜と・・・たしか、電波さん・・・?
「違うよ。飯田圭織さん。あの会社のリーダー的存在」
―――・・・よくご存知で・・・。
私は恥ずかしさのあまり赤面。勿論表には出ないけど・・・。
よく考えてみれば、電波さんなんて人、いないよね・・・。
「ふい〜、肩こりが取れてすっきりしたよ。サンクスさね、電波」
- 468 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:57
- 首をコキコキと鳴らし、おどけて言う咲魔さん。
飯田さんは憮然と・・・とゆうか、こいつが憎くて、もう殺したいといった顔でこちらを睨んでいる。
―――・・・怖いよ・・・あの人、さっきから全然瞬きしてない・・・。
「・・・うん。わたしも怖い・・・」
冷や汗が一筋、こめかみを流れ落ちた。
それほどの迫力を彼女は持つ。
でも、どんなプレッシャーだろうと鼻で笑い飛ばす人物が今私の隣にいる。
「はっはー!そう、怒るなや!まいどぅたぁ〜」
ブチッ!
どう表現して良いかわからないけど、今確かにそんな音が聞こえた。
その瞬間、逆立つ飯田さんの綺麗で長い髪の毛。
さらに彼女を取り巻く、怒りのオーラ。
「doughterだ〜・・・?」
低く静かに呟いて、日本刀を交差させ、それを掲げる飯田さん。
そこでコンマ一秒停止。
「アンタに娘呼ばわりされる筋合いは、ない!!」
キッとその大きな瞳でこちらを睨み、日本刀を左右に勢いよく下ろす飯田さん。
- 469 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:58
- そこから生まれた、黒と白。
その二つはだんだんと形を作っていき、やがて巨大な人間のようになった。
でも、あくまでも“ように”だけ。
黒いほうは禍々しく湾曲した翼と、鋭い一本角を持つ、私たちが描く悪魔のような姿に。
白いほうは美麗で整った翼を持ち、頭上に輪のようなものが浮いている、いわゆる天使。
「そいつらを殺して!!」
飯田さんがその二つに向かって叫ぶ。
すると天使と悪魔の瞳無き紅い目が、上から私たちを捉える。
ゾクッと身が震えた。
咲魔さんを見ても、珍しく目を見開いて体を震わせていた。
「いっけぇ!」
主である飯田さんの掛け声と共に、天使と悪魔は拳を振り上げた。
そして間髪いれずにそれを振り下ろしてきた。
迫りくる、巨大なプレッシャー。動きたくても動けない。
苦しそうに顔を歪め、『わたし』はどうにか耐えようとした。
でも、次の瞬間には目の前の光景に度肝を抜かれた。
「いいねぇ!面白いよ!!やっとこさ、やりがいのある奴を出したね、コンチクショウ!!!」
- 470 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:58
- 嬉しそうに、本当に嬉しそうに目を輝かせながら、咲魔さんは二つの巨大な拳を受け止めていた。
時折、拳と咲魔さんの体が揺れるのは二つの巨大な力が葛藤しているからだと思う。
「・・・さっきの震えは武者震いだったみたいだね・・・」
―――・・・恐ろしい人・・・。
私たちは心底そう思い、呆れてその様子を見ていた。
普段はあんなに馬鹿なのに・・・。
「クッ!サタン、ゼウス!」
ありきたりな名前・・・。
考えるまでも無く白がゼウス、黒がサタン。
名前を呼ばれると一瞬黒と白の巨体が小さく揺れ、もう片方の腕を同時に振り上げた。
咲魔さんはそれを見上げると、ニヤリと凶暴な笑みを浮かべた。
「っしゃあああ!!きやがれぇぇぇぇぇ!!!」
咲魔さんが声を張り上げる。そのあまりの音量に私たちは耳をふさいだ。
二つの巨大な拳の接近を、笑いながら見上げている咲魔さん。
「あつ・・・」
- 471 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:59
- 『わたし』が間抜けな声を上げたとき、二つは激突した。
それが巻き起こす砂煙は尋常じゃなく、『わたし』は目を閉じ、顔をそむけた。
やがて砂煙は止み、目を開けた。
地面にめり込む、二つの拳。
咲魔さんの姿は・・・無い。
―――!そ、そんな・・・っ!
「いや、多分・・・と言うか、絶対大丈夫だよ」
私が愕然とし叫ぶと、『わたし』は視線を右のほうに移し、呆れたように呟いた。
すると、その地面の一部が大きく盛り上がった。
「ぅもぅるあっしゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
意味不明の叫び声を上げ、勢いよく土の中から飛び出してきた咲魔さん。
彼女は空中で体を縮こませ縦に回転しながら、黒と白へと近づいていく。
「んなっ!?サタン、ゼウス!!」
それに気づいて飯田さんは叫ぶけれど、もうタイムアウト。
飯田さんが叫ぶころ、咲魔さんは白の懐にもぐりこんでいた。
「おみくじ引いた?!」
拳を握り、後ろに引く。
- 472 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 21:59
- 「“凶”だったーーー!!」
気合?一発、中段回し蹴り。
―――え!?ちょ、ちょっと待って!握った拳はどうなったの?!それに、あの変な掛け声はなに?!
私の叫びに、『わたし』はため息を吐いて首を振る。
そして上半身と下半身を切りはなされ、霧散していく白い天使を見ながら一言。
「・・・あれが咲魔さんだよ」
やがて天使は完全に消え去り、それを見て飯田さんは唇をかみ締めた。
悪魔も表情を歪める。
どうやら術者と同調するらしい。
「どんなもんだい♪!」
ウインクをし、ブイサインを出し、ついでに舌を出す咲魔さん。
無邪気な子供を表現したかったのかな?
「こ、このっ!馬鹿にしてぇ!!」
でも、これが当然の結末。
飯田さんは激怒し、悪魔を動かし咲魔さんに殴りかかった。
- 473 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 22:00
- 「ぬ!やる気か!コノ石川魔神!!」
「なっ!石川と一緒にしないでよ!全然キモくないし、こっちのが色黒いじゃん!」
―――・・・なんか酷い言われよう・・・。
石川さん・・・確かあの色黒の顎女性のことだったと思うけど・・・。
すこし可哀想になってきた。
「哀れ・・・」
―――・・・うん・・・。
「ぬあ!コノヤロ・・・ッ!変なとこさわんじゃないよ!」
「いやぁ!汚〜い!後で殺菌消毒しなくっちゃ!」
繰り出される悪魔の拳。それを自分の拳で受けていく咲魔さん。
知らず知らずのうちに口喧嘩もヒートアップ。
「んだと、このクソ電波!アンタのだって汚いだろがっ!!!」
「なっ!?き、汚くなんて無いわよ!一緒にしないでっ!!」
―――・・・ねえ、終わらせようよ。こんなの見てると疲れちゃうよ。
私はその疲れる戦闘の光景を見ながら、呟いた。
『わたし』もその意見に賛成のようで、ため息を吐くと片腕を持ち上げた。
そして拳を軽く握り、人差し指を立て、それで飯田さんを指さす。
「・・・“飯田さんの右腕”」
「―――いっ・・・くあっ!」
『わたし』の静かな呟きと同時に、飯田さんの右腕の消失が開始。
指の先から音も無く消えていく。
尋常じゃない痛みのはずなのに、それを耐えるように歯を食いしばる飯田さん。
悪魔の姿が揺らめきだした。
- 474 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 22:01
- 「――っあ!は・・・はあ、はあ、はあ・・・」
完全に消失・・・とはいかなかった。
飯田さんが消えていく最中に、自ら肘から先を切り落としたんだ。
それにより消滅の侵食は停止。
肘から先の無い飯田さんの右腕からは、血がボタボタと落ち、地面を紅く染め上げている。
悪魔の姿は今や完全に消え去った。
痛みに意識が行き過ぎて、集中できないのか・・・。
「はっは〜!無様な姿じゃないかい!なあ、電波ぁ!!」
膝をつき、苦しそうに呼吸をする飯田さんをみて高らかに笑う咲魔さん。
…外道・・・その二文字が浮かんだ。
「さあて、アンタにも一緒に来てもらうかとするかねぇ」
ひとしきり笑った後、咲魔さんは飯田さんにゆっくり近づいていった。
―――・・・もう、終わりだね・・・。
『わたし』はふぅっと安堵のため息を漏らした。
- 475 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 22:01
- 「困るぞえ。こやつには、まだ妾の手伝いをしてもらわねばならぬ」
全く聞き覚えの無い声がその場に響いた。
バッと咲魔さんのほうを見てみた。
動きを止め、しきりに辺りを見回している。
心なしか・・・顔色が悪い。
「どこ?!どこさね!!いるんだったら、姿を見せな!!」
「慌てずとも、汝(うぬ)の目の前にいるではないか」
唐突にその人は現れた。
何も無いところから、まるで浮き出てくるようにその女性は現れた。
着物を着て、扇子を口元にあてがって笑うその女性は咲魔さんと同じくらい背が高い。
「実(まこと)に久しいことよ」
- 476 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 22:02
- 女性は扇子をたたみ、咲魔さんを見つめ笑った。
その顔に私たちは呆気にとられていた。
「元気をしていたかぇ?」
わなわなと震える咲魔さんの両の拳。
どうしようもない憤りが彼女の中でふつふつと煮えているんだと思う。
その様子を見て、着物姿の女性は更に深い笑みを浮かべ、こう言った。
「妾の無能な妹よ」
咲魔さんと瓜二つの、その容姿。
『S.P.K.G』の創設者にして、私たちを造った狂人咲魔夢霧(さくまゆめぎり)。
- 477 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/24(土) 22:02
-
現在、世の中でもっとも仲の悪い姉妹の再開は果たされた。
- 478 名前:我道 投稿日:2004/04/24(土) 22:12
- >>455,458 19様
食事・・・その案、イイカモですね(笑)
惚れ薬に違和感?そんなの・・・ぬ!?
ぬあんじゃこらぁ!惚れ薬じゃなくて、キレ薬じゃねえかぁ!!
はっ!すいません・・・つい取り乱してしまいました・・・。
それでは紺野さんの一言です。
川o・-・)ノ<おはようございます。こんなへぼ作者の駄文に毎回レスいただいて、ありがとうございます。
>>456 shou
おお、待っててくれたんですか!?しかも一気まで・・・(感涙)
ありがとうございます!!
>>459 名も無き読者様
そこかよっ!
はっ!すいません、つい突っ込んでしまいました・・・(苦笑)
あ、あと、あっちの作品?にまで感想いただきありがとうです。
これからも名も無き読者様(あちらでは作者様)を見習い精進していこうと思います!!
- 479 名前:麻琴 投稿日:2004/04/24(土) 22:14
- なんかあたし・・・倒れてばっか・・・_| ̄|○
- 480 名前:愛 投稿日:2004/04/24(土) 22:16
- あたしもやよ・・・。
くぬ、へぼ作者が・・・っ!
煤i我道)
- 481 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/24(土) 22:50
- やべー、凶子さんめちゃくちゃおもしれー!いいキャラですね!今後も活躍が楽しみです。
- 482 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/24(土) 22:52
- おみくじ引いた!なんだそりゃ!おもしろすぎ!
- 483 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/25(日) 00:17
- かなり強烈な戦いが繰り広げられてるのに最後の一行見ると姉妹喧嘩で片付いてしまいそうw
紺ちゃんカッケー!倒れてばっかの二人にも出番を与えてあげて欲しいです。
次回も期待してます。がんばってください。
- 484 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/25(日) 00:26
- 更新お疲れ様です。
あ、ツッコんでくれたw
凶子さん、あらゆる常識をブチ破ってくれるその姿に惚れました。
ていうか初?登場の彼女は何処でその言葉遣いを・・・?
続きも楽しみにしてます。
- 485 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:10
- 見分けがつかないくらい似ている二人の女性が対峙している。
一方は睨みつけ、もう一方は微笑を浮かべて。
この場に流れるのは、息が詰まりそうなくらいの緊張感。
『わたし』の頬を冷や汗が伝う。
「・・・久しぶりだねぇ、クソ姉貴」
口の両端を吊り上げて、黒髪の大きな女性、咲魔凶子さんは呟いた。
言われてから赤髪の女性、咲魔夢霧さんは笑みを消し、双眸を細めた。
「口を慎め。妾は神になるものぞ」
そう言って、夢霧さんはクツクツと笑う。
咲魔さんはわけが分からないと言った表情で、目の前にいる実姉を見つめる。
「アンタ、何言ってんだい?」
「ククッ・・・理解できるわけないか・・・所詮、汝は愚民に過ぎぬ故」
扇子を開き、口元を押さえる夢霧さん。
言葉に表せないような怖さが、彼女にはある。少しだけ身が震えた。
- 486 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:10
- 「んのっ!ざけんなあぁ!!」
馬鹿にされたと思った咲魔さんは、怒りを拳に乗せ、放った。
反動を使わず、腰と腕の力だけでの右フック。
それは吸い込まれるように夢霧さんの頬へと向かう。
しかし、咲魔さんの拳は空しく空を切っただけだった。
「!」
「ほほっ。猿どもの攻撃が妾に当たるとでも思ったのかえ?」
咲魔さんは憎々しげに空を見上げた。
咲魔さんの頭上・・・宙に浮く人間が一人。
赤い髪をして、着物を着て、扇子を口にあてがって、笑みをこぼしながら浮いている。
夢霧さんはこちらを見下ろしながら、右腕を天に向かってさしあげた。
「浅はかなところは全く変わっておらぬな」
嘲るように言ってから、彼女は指を鳴らした。
刹那。
咲魔さんの体が吹き飛んで、こちらに向かってきた。
でも『わたし』にぶつかる前に咲魔さんが踏ん張って停止。
「!」
咲魔さんが前方を見て、息を呑んだのが分かった。
でもここからだと、咲魔さんの身体が邪魔で前が見えない。
- 487 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:11
- 「妾の忠実なる僕よ」
『わたし』が咲魔さんの右隣に出るのと、夢霧さんの言葉とはほぼ同時だった。
―――・・・綺麗・・・。
その人を見ての、それが私の第一印象だった。
スラッとしたスレンダーな体、整った顔、そして肩までの美しい栗色の髪の毛。
美人と言うには申し分ない。でも・・・。
「・・・でも、瞳に映す色は虚無ばかり・・・」
『わたし』がボソッと呟いた。
まるで詩人みたいな言い回しだけど、本当にそれしか言いようが無い。
―――あんなに美人なのに・・・。
もったいないと言うより、何故か可哀想という感情が浮かんできた。
「ご・・・とう、さん・・・?」
いつの間にか胸の傷を手で抑えながら、愛ちゃんが隣まで来ていた。
嬉しい反面、戸惑ったような表情を浮かべ愛ちゃんはあの人の名前を紡ぎだした。
でも、その人の虚ろな目はこちらを見ようともしない。
ただまっすぐに視線を送っている。何を見ているのか、何が見えているのか・・・。
「ごとう、さん、どうしたんですか?あたしです、高橋です。ごとうさん!」
うっすらと目尻に涙を浮かべ、半ばすがるように叫ぶ愛ちゃん。
でもやはり、その人の目はこちらにむかない。
ただ、一点を見つめる。それだけ・・・。
- 488 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:12
- 「ご、とう・・・さん?」
「無駄ぞえ」
愛ちゃんが戸惑いながらあの人の名前を紡いだとき、その隣に降りてきた夢霧さん。
静かに、優雅に。
すると突然、夢霧さんが後藤さんの頬を扇子で殴りつけた。
後藤さんは避けようともせず、殴られた勢いで床に倒れこんだ。
でもすぐに何事も無かったかのように立ち上がると、夢霧さんの隣に並んだ。
「ほほっ。こやつ愚かにも妾に歯向かおうとしおった。しかし、こやつの力は強力ゆえ、こうして操り人形として使役してやってるわけよ。ほほっ!」
唖然とした。
この人は、人を人とも思ってない。
私の中にふつふつと怒りの炎が燃え上がってきた。
「うわあぁぁぁぁぁ!!!」
それが最初に爆発したのは愛ちゃんだった。
これまでに無いくらい大きな炎をその身に宿し、夢霧さんに向かって疾走していく。
去り際、光る雫を零しながら・・・。
「おまえがあぁぁぁ!!!」
腕を振りかぶりながら跳躍し、一気に夢霧さんのところまで距離をつめる愛ちゃん。
夢霧さんは微動だにせず、扇子で口元を押さえ微笑している。
- 489 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:12
- 愛ちゃんの爪が振り下ろされた。
しかしそれは、瞳に虚無を移す人物によって阻まれていた。
「・・・ご、とう・・・さ、ん・・・」
悲しそうにな途切れ途切れ言葉。
あんな近くにいるのに、思いが伝わらない。このもどかしさ、苦しさ。
それは、私の想像をはるかに超えるものに違いない。
「ほほっ、無駄じゃ。祖奴は妾の言うことしか聞かぬ。と言うより、聞けぬ」
微笑を浮かべながら、楽しそうに言う夢霧さん。
それと同時に後藤さんは、掴んでいた愛ちゃんをこちらに向かって放り投げた。
「愛ちゃん!」
『わたし』はすぐさま駆け寄り、愛ちゃんを抱え起こした。
でも・・・
「ご・・・と、お・・・さ、ん・・・」
後藤さんのが移ってしまったかのように、愛ちゃんの目は虚ろだった。
そしてそこから大粒の涙が止め処なく溢れ出ている。
『わたし』の腕にもたれかかって、起きようともしなかった。
「ほほっ。では一旦退くとしようかの」
- 490 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:13
- 夢霧さんが呟くと同時に、彼女たちの回りに風が舞い起こった。
咲魔さんは慌てて怒号を飛ばす。
「待てや、クソ姉貴!勝負しろぉ!!」
でも帰ってきたのは冷ややかな笑いと、嘲るようにつむがれた言葉。
「ほほっ。こちらにも多々準備がある故。そこに倒れている奴らはくれてやる。せいぜい足掻いてみるがよい」
言葉が終わると同時に風は止み、夢霧さんたちの姿はもう無かった。
悔しそうに拳を握る咲魔さん。
どうしようもない怒りを、地面に叩きつけた。
でも地面には拳のあとが残るだけ。
本当に強力な攻撃は、無駄な破壊を起こさないって聞いたことがある。
多分これがそれ。
「ご・・・とお・・・さん・・・」
何もなくなった静岡の街に、生気を失ったような愛ちゃんの呟きだけが響き、即座に消えていった。
- 491 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:14
- ******
- 492 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:15
- 流れる沈黙。
テーブルを挟んで、向かいに藤本さん松浦さん。
で、こっちには私、まこっちゃん、愛ちゃん。
咲魔さんは、床に仰向けで大の字になって寝そべっている。
唯一無事だったこの空き家。
ここに帰ってきてから約30分、誰も言葉を発しようとはしない。
重苦しい雰囲気が流れ、まこっちゃんはオドオドしている。
―――・・・どうしたものでしょうか・・・。
私は心の中でため息を吐いた。
―――・・・いつもハジケ役の咲魔さんまで凹んでたら、どうしようもないね・・・。
頭に響く、困ったような声。
確かに・・・。
そう思って咲魔さんを見た。
でも私の視界が咲魔さんを映すより先に、愛ちゃんを映した。
- 493 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:15
- 精魂が抜き出たかのように虚ろな表情のまま俯いている。
止め処なく流れ出る涙を拭おうとせず、ただただ俯いている。
―――・・・愛ちゃん・・・。
その姿はまるで人形。痛々しいことこの上ない。
「・・・愛ちゃん・・・」
そんな彼女の状態に見かねたのか、さっきまでオロオロとしていたまこっちゃんが心配そうに声をかけた。
でも愛ちゃんは聞こえていないのか、全くの無反応。
瞬きもせず、泣き続ける・・・。
――――ガタン・・・
不意に台所のほうから何かがぶつかる音がした。
振り返ってみると、食器棚を担いでカーテンを潜って咲魔さんが姿を現した。
―――・・・いつの間に・・・。
さっきまで寝そべってボーっと天井を見つめていただけの咲魔さん。
そして私が愛ちゃんに気を惹かれている隙に移動して、この奇行。
これはもう、首を傾げるしかない。
- 494 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:15
- ――――バリンッ!
みんなの視線なんかなんのその、と言うか全く無視して咲魔さんは食器棚を担いで外に出た。普通に足で開ければいいものを・・・わざわざガラスをけり破って。
そして食器棚を地面に置くと、一度大きく深呼吸。
そして・・・
「―――!んなっ!」
次の瞬間の彼女の行動に、私は目を丸くした。
いや私だけじゃなく、愛ちゃん以外の人が。
「っだありゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
叫びながら、食器棚に拳と蹴りの嵐を叩き込んでいく咲魔さん。
何を考えているのか分からない。とにかく一心不乱に。
「っしゃありゃあぁぁぁぁぁ!!!」
一際大きな叫びと共に放たれた右ストレートで、食器棚は粉々に粉砕された。
原型なんかとどめているわけが無い。
本当に文字通り“粉々”なんです・・・。
「あああああああああああああ!!!!」
破壊し終わってから、再び、今度は吼えるように叫ぶ。
そして咲魔さんはどこかに走っていってしまった。
その様子を呆気にとられて見つめていた私たち。
「な、何な―――」
- 495 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:16
- 「ただいむあぁぁ!!!」
「「「「どっはぁー!!??」」」」
まこっちゃんが訝しげな表情で何か言おうとしたとき、扉を突き破ってソファにダイブしてきた咲魔さん。
…そんなことされたら当然驚くわけで・・・。
「いったい、なん―――」
「もうぶちギレタよ!アタシは、あの女王気取りのクソヤロウをぶち殺す!!」
またもやまこっちゃんの言葉を遮り、親指を立てて物騒なことを言う咲魔さん。
その顔に浮かぶは・・・あの、凶暴な笑顔。
―――・・・咲魔さんが戻ったね・・・。
自然と綻ぶ、私たちの顔。
でも、次の瞬間にはそれが驚愕に変わる。
「おら!高橋!沈んでるだけじゃ、何もできないんだよ!さっさと戻りな!!」
愛ちゃんの肩を掴み、上下左右に乱暴に揺する咲魔さん。
揺すられる愛ちゃんの瞳は、やはり何も映していない。
私たちは慌てて、咲魔さんの腕を掴み止めに入った。
「ちょ、ちょっと、咲魔さん!愛ちゃんはそっとしといてあげようよ!」
「そうですよ!」
「だあっ!やかましい!」
私とまこっちゃんを乱暴に振り払って、咲魔さんは更に愛ちゃんを揺らし叫んだ。
- 496 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:16
- 「おい、高橋!アンタ後藤のこと好きなんだろっ!好きだってんなら、そんな死人みたいな顔してないで・・・」
そこでいったん言葉を切って、愛ちゃんの耳を引っ張り自分の口元へ・・・って。
ま、まさか・・・っ!?
「しゃきっとしやがりな!このオランウータンがあぁぁぁぁ!!!」
震度5。明らかにそれくらい揺れた感じがした。
大声だけで、家まで揺らしてしまうって・・・。
…どうですか?
「ふんっ!」
未だ死人顔の愛ちゃんを放り投げ、鼻を鳴らす咲魔さん。
床に倒れこんだ愛ちゃんはピクリとも動かない。
「・・・し・・・て・・・」
咲魔さんが不機嫌そうに顔を歪めて部屋を出て行こうとした時、静かなこの部屋に掠れた声が響いた。
続いて、愛ちゃんの身体がゆらりと立ち上がる。
髪がすべて前にいっているため、どんな表情かはうかがい知れない。
「・・・たし・・・て・・・」
- 497 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:17
- 掠れた声で呟きながら、ふらふらと咲魔さんに近づいていく愛ちゃん。
その細い腕が咲魔さんの胸倉を掴んだ。
そして・・・
「な!?」「へ!?」「うそぉ?!」「頭突きかよっ!」
それぞれの反応をする、第三者の私たち。
愛ちゃんは歯を食いしばりながら、額と額とを合わせた咲魔さんを睨みつけている。
「あたしの気持ちも分からんくせして、勝手なことべらべら喋るな!」
悲痛な叫びと共に、もう一発頭突き。
どちらのか分からないけど、額が割れたみたいで紅いしずくが飛び散る。
それも気にせず、愛ちゃんは何回も何回も咲魔さんの額を攻め続けた。
「ひぐっ・・・うあ、うあああ・・・」
突然愛ちゃんは嗚咽を漏らし、ズルズルと床にへたり込んだ。
額を血だらけにした咲魔さんは、それをどこか冷めた目で見下ろす。
そして、スッとしゃがんだ。
- 498 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:17
- 慰めてくれるのかな?
そう思った矢先に、私の期待は裏切られることになった。
「この、馬鹿やろうっ!!!!」
いきなり般若の如き顔になった咲魔さんは、思い切り愛ちゃんの顔に拳を打ちつけた。
そのあまりの威力に吹き飛び外に出て、倒れこむ愛ちゃん。
それを追って咲魔さんは飛び出し、愛ちゃんの胸倉を掴んで持ち上げた。
そしてお互いの鼻がつきそうなくらい至近距離で、
「アンタの気持ちなんだ!アンタしか分かるわけないじゃないか!!」
頬を腫らし、悔しそうに顔を歪め愛ちゃんは咲魔さんを睨む。
咲魔さんは幾分声を低く、小さくし続けた。
「でもね、これだけは分かるんだよ」
そこでいったん言葉を切り、息を吸い込む。
そして、泣く子も昇天するような大声で、
- 499 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:18
- 「辛い真実を知って動かない者と、動く者じゃあその先にある“結果”が違ってくるんだよ!アンタの今とってる行動は、少なくとも何にも起こりゃしないんだよ!!!」
叫んでから、こちらへ向かって愛ちゃんを投げつけた。
まこっちゃんが慌てて受け止める。
「うっ・・・くあっ・・・うあぁぁう・・・」
まこっちゃんの腕の中ではらはらと泣き崩れる愛ちゃん。
悔しい・・・っ!
そんな思いが伝わってきそうで、眉をひそめてしまった。
「・・・ねえ、愛ちゃん」
そこに優しく口を開いたまこっちゃん。
表情も穏やかそのもの。すごく・・・大人に見える・・・。
「・・・あたしさ思うんだけど、もっと人は貪欲に生きないといけないと思う」
―――・・・はっ?
突然何言ってるんですか、この人は・・・?
突然調子はずれの事を言い出したまこっちゃん。
でもその表情は真剣そのもの。
とりあえず私は黙って話を聞くことに。
「自分が大切だと思うものは絶対守ってやる!奪われたんなら、どんな手段を使っても取り返してやるってね。そんくらいの気持ち、持たなきゃ駄目だと思う」
そこで藤本さんが松浦さんのほうを見る。
そして口元を引き締め頷くと、強く抱きしめた。
- 500 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:18
- 「あたし、弱いけどさ、いつもそんくらいの気持ちで生きてるよ」
優しい声色で紡がれる、まこっちゃんの言葉。
愛ちゃんは反応を示さないけど、耳を傾けているんだと思う。
「あさ美ちゃんを守ってやる!ってさ」
―――・・・へっ?
突然私の名前を呼ばれ、心の中で困惑する。
そして頭の回転が停止すること数秒間。まこっちゃんの言葉で我に返った。
「弱いあたしにもできるんだからさ。愛ちゃんにもきっとできるよ。なんてたって、愛ちゃんすごい強いもんね!」
まこっちゃんは言い終わると、おどけたように愛ちゃんの肩をバンバンと叩いた。
「・・・痛いやよ、麻琴・・・」
そこで弱々しくだけど愛ちゃんが顔を上げて微笑んでくれた。
それを見てまこっちゃんは安堵の表情を浮かべる。
「でも、麻琴。あたしのこと買いかぶりすぎやよ。あたし、そんなに強くなやざ・・・」
「うんにゃ、強いね。短いけど一緒に生活してきたわけだし。それに・・・」
やんわりと微笑むまこっちゃん。
愛ちゃんは首を傾げて、まこっちゃんを見つめる。
「あたしらの前で泣いたの、これが初めてじゃん。強いに決まってるよ」
まこっちゃんの優しい言葉に、更に涙を流し始めた愛ちゃん。その胸に顔を埋めながら、嗚咽を漏らす。
- 501 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:19
- その頭を優しくなでてあげるまこっちゃん。
私たちもその様子を見て、安堵のため息を吐いた。
でも、私には一つだけ胸に引っかかっているものがあった。
―――・・・一瞬私に向けた、あの視線は何?
先程私を守ると言ったとき、私に向けた強い意志のこもった視線。
正直ドキッとした。
あんなまこっちゃんの表情を見るの、出会って初めてだったから・・・。
何かが引っかかる・・・胸の中がもやもやする・・・。
「おい、こら!正直に言わないと張ったおすよ!」
―――・・・はっ!
私の意識は、咲魔さんの怒鳴り声で引き戻された。
いつもはこんなことで腹は立てないんだけど、何故だろう・・・?
今日はものすごく頭に来る。
「言いたくないから言わないの!五月蝿いからあっち言ってよ、木偶!」
「んな!?コノヤロウ!これだから最近のガキは―――」
言い争う、鎖で縛られているエリさんと咲魔さん。
咲魔さんが何を言ってもエリさんは聞く耳持たないと言った感じで、そっぽを向いてる。
- 502 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:19
- その様子を泣き止んだ愛ちゃんも含めた、私たち五人は見つめていた。
…イライラが募る
「・・・・・・」
私は無言で台所へ向かい、冷蔵庫をあけた。
目に付いた、真っ赤な果物を手に取り、エリさんのところへ向かった。
「あ、あさ美ちゃん・・・?」
「・・・あさ美?」
途中、まこっちゃんと愛ちゃんが戸惑ったように私を呼んだけど、何も言わず通り過ぎた。
無表情でエリさんの前に立つと、ギロッと睨まれた。
…イラッ・・・
「エリさん?どうしても話してはくれませんか?」
エリさんの顔の高さに合わせてしゃがみ、私の中での最高の笑顔で話しかけたんだけど、何故か彼女は一度小さく身を震わせて、顔を背けてしまった。
…イライラッ・・・
「・・・どうしてもですか?」
- 503 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:20
- こちらを見ずに、静かに頷くエリさん。
…イライライラッ・・・
私は静かに、持ってきたりんごを彼女の顔の高さまであげる。
そして表情を崩さず、
「ひぃ!?」
エリさんの短い悲鳴。
その視線は私の手の中のぐしゃぐしゃになったりんごに向けられていた。
「・・・話してくれますよね?」
私はその手で彼女の顎を掴み、囁くように言った。
「は、話します!何でも話しますぅ!!」
涙を流しながら幾度もそう言うエリさん。
うん、ちょっと気が晴れたかな。
「紺野もやるようになったねぇ」
咲魔さんの感心したような声を聞きながら、私は別のことに頭を捻っていた。
- 504 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/25(日) 22:20
-
―――・・・はて?何でこんなにイライラしてるんだろ?
- 505 名前:我道 投稿日:2004/04/25(日) 22:29
- >>481 名無飼育さん様
凶子さん面白いですか!?ありがとうございます!
今後も彼女はでしゃばる・・・うぶはぁ!(←凶斬りw
・・・いえ、活躍するので、乞うご期待・・・(しないほうがいいですよ)。
>>482 名無飼育さん様
一応、凶という名前に掛けたつもりなんですが・・・(苦笑)
分かりづらかったですねぇ。
期待にそえるようがんばりまっす!
>>483 名無飼育さん様
そうです!結局は姉妹喧嘩なんです(笑)!
川o・-・)<かっこいいですか?ありがとうございます。倒れてばっかりの二人はそのうちで番・・・あるんでしょうか?
>>484 名も無き読者様
ちょっと常識破りすぎたかと思いましたが、惚れていただいてありがとうございます。
夢さんは・・・どこの言葉でしょう?(苦笑/爆)
- 506 名前:お詫び 投稿日:2004/04/25(日) 22:31
- 我道)<前回の返レスのとき、shou様に「様」をつけるのを忘れていました。本当に申し訳ありませんでした・・・。
川o・-・)<救いようがありませんね。
我道)<・・・うぐっ・・・ごもっともで・・・_| ̄|○
- 507 名前:我道 投稿日:2004/04/25(日) 22:37
- ヤバイですね・・・。
いつの間にやら咲魔さんの人気が上昇しています。
凶子)<何がやばいのさ?呼んでくれる人がいるんだからべつにモウマンタイだろ?
あのですね・・・これはあくまで娘。小説であって、紺野さんが主役なんです。
いわばあなたは雑草に・・・ぐぎゃあ!!(流血もの)
- 508 名前:19 投稿日:2004/04/26(月) 02:44
- 遅レスですが・・惚れ薬というか惚れられ・・・
それからゼウスは神では?w
んー高橋さんは紺ちゃんが居ない時のために起きててもらわなきゃならんけど、小川さんは戦闘中は寝ててもらった方が楽でしょう我道さん?w
P.S 皿を割るとストレス発散になるようですが棚ごと壊すのはやめましょう
- 509 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/26(月) 17:35
- 更新お疲れ様です。
いや紺ちゃん怖ッ。。。
で、我道さん血ぃ出てますけど生きてます?w
作者さんの無事を祈りつつ次回も楽しみにしてます。
- 510 名前:shou 投稿日:2004/04/26(月) 18:22
- 更新お疲れ様っす。
紺野かっこいいですね!
高橋と後藤の関係も気になりますが、我道さんも気をつけてください
更新楽しみにしてます。
- 511 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/26(月) 21:37
- >>510
ageんなよ!
- 512 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:09
- 鬱・・・。
確実に今、そんな空気がこの部屋に流れていると思う。
咲魔さんはうな垂れ、愛ちゃんは唸り、まこっちゃんは口を半開きに・・・。
あ、それはいつものことか・・・。
先程咲魔さんがエリさんから聞きだそうとしていたのは、あちらさんの本拠地だったよう。私が無理やり言わせたんだけど、その内容を聞いて、皆一回エリさんに掴みかかったほど、その場所は信じられないところだった。
『た、太平洋の上空ですぅ!』
皆に詰め寄られて、半ば泣きながらエリさんはそう言った。
太平洋の上空って・・・範囲広すぎですよ・・・。
その規模の大きさに、私を含め皆は呆然。それから各々の反応を示した。
「あの〜・・・」
そこに藤本さんが縮こまりながら手を上げた。
皆の視線が、いっせいに藤本さんに集まる。すこしビクッとしながらも、おどおどと話し始めた。
「あのですね・・・紺ちゃん。約束のほうをば・・・」
やくそく?ヤクソク?約束?
あっ。そういえば・・・。
「すいません。じゃあ、ちょっと失礼します。少し痛いですよ」
- 513 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:09
- 私は言ってから立ち上がり、藤本さんと松浦さんの額にソッと触れた。
そして頭の中で彼女を呼ぶ。
―――じゃあ、お願いね?
すると一呼吸おいて返ってくる、私と全く同じ声。
―――了解。
「うっ」「いたっ」
「はい。お終いです」
二人の額から手を離し、フウッと一息。
額を押さえて、藤本さんと松浦さんは渋い表情。
「いったぁ〜。結構痛いね」
「うん・・・でも、これで・・・」
松浦さんの何か尋ねるような目が私に向けられ、私はゆっくりと頷いた。
すると二人は顔を見合わせ、嬉しそうに笑いあった。
傍からそれを見ていた咲魔さん、愛ちゃん、まこっちゃんはそろって首を傾げる。
「――?何しとんの?」
- 514 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:10
- 「ん?ああ。ちょっと、頼まれ事をしててね。事がひと段落着いたら、やってくれって」
抱き合う藤本さんたちを見ながら、私は笑って答える。
愛ちゃんは更にわけが分からないと言った表情で、私を見つめている。
「能力を“消した”んだよ」
「なっ・・・!?」
さらっと言った私に、驚愕する愛ちゃん。
まこっちゃん咲魔さんもそれに同じ。
「の、能力を消したって・・・そんな、簡単に・・・」
「まあ、実際簡単だけどね」
さらに目を見開く愛ちゃん。
その目のまま私をまじまじと見つめ、そして睨みつけた。
「あんた・・・あん時の・・・っ!」
低い声で言う愛ちゃん。
―――勘がよろしい様で・・・。
「こんにちは、高橋愛さん」
- 515 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:10
- 「このっ――!」
「・・・ごめん愛ちゃん。あっちの『わたし』、ちょっとおかしいの」
今まさに殴りかかろうとしていた愛ちゃんが、その場でずっこけた。
そして顔を上げ、再び私をまじまじと見つめる。
呆気にとられたような表情。
こう言っちゃ悪いんだけど・・・凄く間抜け・・・。
「彼女とは眠っている間に和解してね、協力してもらったの」
―――・・・物凄く簡単な説明だね。
…寂しかったっていって泣きじゃくったなんて言われたくないでしょ?
―――・・・・・・・。
「ね、ねえ、あさ美ちゃん。あっちの『わたし』とかっていったい何なの?」
まこっちゃんが少し引きつり気味の笑いを浮かべて、聞いてきた。
私は一つため息をつくと、皆にソファに座るように促す。
「実は・・・そんな面倒くさいことしないで、こうすればいいんじゃない?」
皆が座ったのを確認してから、話し出そうとしたところ、『わたし』に取って代わられた。
そして『わたし』は立ち上がると、有無を言わさずまこっちゃんの額と『わたし』の額をくっつけた。
―――さ、やってよ?
…はあ、身勝手すぎるよ・・・。
- 516 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:11
- 彼女に不平を言いながらも、私はまこっちゃんの頭の中に情報を“創り出す”。
まこっちゃんは歯を食いしばって、苦悶の表情。
…これって結構痛いんだよね・・・。
「はい、終了。次」
脱力したまこっちゃんをソファに沈めると、今度は愛ちゃんの額と合わせる。
やっぱり彼女も苦悶顔。
次に咲魔さん。
咲魔さんはけろっとした感じで、何回か頷いたりしていた。
…ん〜・・・頑丈だね・・・。
「なるほどねぇ」
一通り終わってから、咲魔さんが納得したように大きく頷いた。
そして私の身体をなめるように見回すと、どこか渋い表情に変わった。
「紺野のことは何か最高機密とかになってたらしくてね、ネタが仕入れられなかったんだけど・・・二重人格とはね〜」
―――・・・正確に言うと、ちょっと違うよね?
うん、確かに。
二重人格というものは一つの人格がおきているとき、もう一つの人格は眠っていると聞く。
けど私たちの場合、どっちか片方が表へ出てても、もう片方の私も起きてるし、おきてるほうの私が何をしているのかも理解できる。
一つの器に、完全に違う人間が入っていると言ったほうが近いかもしれない。
- 517 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:12
- 「で、その危険すぎるって言われる能力はいったい何なんだい?」
咲魔さんがそう言うと、今まで松浦さんと抱き合っていた藤本さんがビクッと身を震わせた。
私はそれを横目で見て苦笑しながら、短く、
「“消滅”です」
その危険な言葉を紡ぎだす。
咲魔さんは眉間にしわを寄せ、立ち上がった愛ちゃん、まこっちゃんは驚愕に目を見開き、エリさんは一緒に鎖で縛られている左腕しかない少女を見つめた。
「私の能力は全てを消してしまう・・・危険極まりない能力です」
何の感情もこめずに、淡々と。
皆の表所に貼られた驚きは、剥がれない。
私は向きを変え、無表情でエリさんに歩み寄る。
エリさんがおびえていたみたいだけど、それにはあえて触れずに、私は左腕しかない少女――れいなさんの身体にそっと触れた。
「――!やめ――」
エリさんが泣きそうな顔で何か叫ぼうとした。
けどそれはすぐに彼女の口に飲み込まれ、外に出ることは無かった。
エリさんの目は大きく見開かれている。
- 518 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:13
- 「ぅん・・・えり・・・?」
私が手を離すと、れいなさんがゆっくりと目を開けた。
まだ焦点のぼやける目をパチパチと幾度も瞬かせる。
やがて彼女の瞳は、驚きに固まっているエリさんを捉え、安心したようにフニャっと笑った。
「ああ、絵里、無事だったんだね。よかった・・・」
安堵したように呟いてから、れいなさんは視線を落とす。
するとその表情が、見る見るうちに驚愕のそれに変わった。
彼女の双眸は、傷一つ無い『自分の手足』に注がれていた。
「あ、あれ・・・?なんで、あたし・・・腕とか、無くなった・・・あれ?」
混乱するれいなさんを見て微笑みながら、私は向きを変え、咲魔さんたちに向き直った。
そして、これまた淡々と。
「そして、これが・・・植え付けられたもう一人の私の能力が“創造”。創るもののデータがあれば、何でも創れます。ちなみにさっき額をくっつけたのは、皆の中に『わたし』のきおくを“創った”から」
言ってから藤本さんへ視線を移す。
それに気づいて、藤本さんは両腕を自分の顔の前にかざした。
「これも紺ちゃんが直してくれたんだ。直す代わりに、愛ちゃんたちを助けてって言われたけど」
腕を下ろして、ニッと笑う藤本さん。
それから一瞬の間を置いて、続ける。
- 519 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:13
- 「んで、それが終わったら能力を消してくれって頼んだ。能力なくして、二人で普通に生活してみたいなって」
その言葉で驚きの対象が、私から藤本さんに移る。
愛ちゃんは慌てたように言った。
「な、なして!?手伝ってくれるんやないの?利用されるだけされて、捨てられるなんてムカつくでしょ!?」
必死にそう叫ぶ愛ちゃんに、藤本さんはちょっと苦笑い。
困ったように頬をかいていると、横から松浦さんが口を開いた。
「愛ちゃん・・・ごめんね・・・あたし達、興味が無いの」
絶句。
まさにその言葉がふさわしい愛ちゃんの今の顔。
見開かれた両目は、珍しく申し訳なさそうに眉を八の字にしている松浦さんに向けられている。
「な、な、な―――」
「ごめんね・・・」
言葉が出ない愛ちゃんに、謝る松浦さん。
そのまま暫く時が止まる。
「―――はっ!」
- 520 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:14
- 停止したときを動かしたのは、他でもない。
いつもハジケ役の、大きな女性。
「はっはっはっは!!いいねぇ、あやや!興味が無いか!はははは!こりゃあいい!!」
お腹を押さえながら、大笑いする咲魔さんに愛ちゃんは鋭い視線を投げかける。
「笑い事やないやざ!興味が無い、の一言で済まされることじゃない――」
「それは人それぞれさね」
愛ちゃんの怒りの言葉を遮り、未だ肩を震わせて笑いながら咲魔さんが言った。
愛ちゃんは言葉につまり、バツの悪そうな顔。
「重く受け取るもよし、軽く受け取るもよし。ましてや流すのもよし。てめえ道だ、自分(てめえ)が決めればいいじゃないか。人には足があるんだよ。自分の道を歩くための足がね」
言ってから咲魔さんは不敵に笑う。
俯いて、唇を引き結ぶ愛ちゃん。どうにも納得のいかないといった表情。
「そういや、まだ聞いてなかったねぇ。松浦たちみたいなのが出たから、聞いとこうかねぇ」
それを完全に無視して、ソファとテーブルを持ち上げ外に放り投げる咲魔さん。
何もなくなった部屋の中央に、ドカッと腰を下ろすと、ニヤリと笑って私たちを見回してきた。
「アタシは私怨のためだけにあいつを殺しに行く。アンタらはこれからどうするんだい?」
―――どうする?
- 521 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:14
- 少し楽しそうな声が、頭の中に響く。
それには答えず、私は無言で咲魔さんの前に腰を下ろした。
「私はもう決まっています。あなたのお姉さんが行っている行為、許すわけにはいきませんから」
私が決めた“道”。
それは厳しいかもしれない。なにせ相手は私を狙ってる。
私から乗り込んでいくのは、罠の中に突っ込んでいくようなもの。
でも・・・それでも私は、自分で決めた道を信じる。
「あさ美ちゃんが行くなら、あたしも行く!」
咲魔さんの右隣に腰を下ろすまこっちゃん。
らしくなく、表情は真剣そのもの。
聞く必要も無いと思うんだけど、一応ね・・・。
「本当にいいの、まこっちゃん?もしかしたら、死んじゃうかもしれないよ?」
私のその言葉にまこっちゃんは大きく頭を左右に振って、真剣な色をともした双眸で私を見つめてきた。
…一度、大きく心臓がはねた気がした・・・。
「死なせない!あたしがあさ美ちゃんを守る!!」
…更にもう一つ。
- 522 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:15
- ―――・・・まこっちゃんも死んじゃうかもしれないのにねぇ〜。
可笑しそうな『わたし』の声が響く。
でも、今の私にはそれがほとんど聞こえていなかった。
―――・・・まこっちゃんて・・・こんなにかっこよかったけ・・・?
まこっちゃんの強い視線と、私の動揺した視線が交差する。
「・・・あたしは・・・」
愛ちゃんの静かな呟きで我にかえった。
―――何考えてた、私・・・。
頭を振って、先までの考えを追い出すと、愛ちゃんを見つめた。
俯き、拳を強く握って、悔しそうに下唇をかみ締めている。
するといきなり顔を上げて、決意を固めたような表情で咲魔さんの左隣に座り込んだ。
一度閉じられ再び開かれた彼女の目は、血のように、それでいて決意の炎を燃やしたかのように真紅に染まっていた。
「あたしは、後藤さんを助ける」
それを見て、不敵な笑みを更に深める咲魔さん。
それから静かに右手を差し出し、私たちに目配せした。
差し出された大きな手。その上に自分の手を重ねていく。
「後戻りはできないよ。それでもいいのかい?」
- 523 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/04/27(火) 22:15
- 「考えは変わりません」
「あさ美ちゃんに同じ」
「いい加減、くどいやよ」
言葉が終わって、重なった手に少しの力が加わり、離れた。
そして皆一斉に立ち上がり、頭を捻る。
「「「「さて・・・どうやって空まで行こう?」」」」
―――・・・一番大きな問題が後回しになってたみたいだね・・・。
私の頭の中で、呆れたような『わたし』の声が響いた。
- 524 名前:我道 投稿日:2004/04/27(火) 22:23
- >>508 19様
いやはや・・・まったく19様の言うとおりにございます(苦)
何分未熟なもので・・・すいません・・・。
それでも見捨てないでくれたら、これからも頑張らせていただきますのでよろしくです!
>>509 名も無き読者様
どうにか生きてました(w
まったくあの凶暴女には困ったものです・・・。
紺野さんまで最近、それが移ってきたみたいで・・・(苦笑)
凶子)<・・・ほう・・・。
我道)<・・・はっ!?
>>510 shou様
ありがとうございます!
紺野さんかっこいいですって!よかったですね(w
これからも期待にそえるよう、完結目指して突っ走って生きたいと思います。
>>511 名無飼育さん様
すいません・・・私がちゃんと言わなかったばかりに・・・。
本当にすいませんでした・・・。
- 525 名前:我道 投稿日:2004/04/27(火) 22:26
- 注意点を一つ。
感想レスをつけるときはsageでお願いします。
メール欄に半角でsageと入れるだけなので、簡単です。
ageてしまうと更新されたと勘違いしてしまいます(作者も結構そういう時あります)
なのでよろしくお願いします。
レスもらっておいて生意気なこと言ってすいませんでした。
- 526 名前:キャラトーク 投稿日:2004/04/27(火) 22:31
- 凶子)<ったく。あのクソ作者、レス返しのときまで悪口言いやがって。
紺野)<それで、我道さんはどうしたんですか?
凶子)<今頃ハンマーヘッドシャークの餌になってるさね。
麻琴)<・・・。
愛)<のぉ・・・んなことしたら、続き書けへんくなるで・・・。
麻琴)<・・・(コク)・・・。
- 527 名前:19 投稿日:2004/04/28(水) 05:07
- 言ってみただけなのでお気になさらずにw
消滅と創造の能力ですか・・えらいどデカイ能力ですね。なんか色々と戦闘に生かせそうな感じ。
とか言ってみる
- 528 名前:shou 投稿日:2004/04/28(水) 14:02
- すみませんでした。今度からは、気をつけます。
やり方まで教えていただいて・・・
- 529 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/28(水) 18:24
- 更新お疲れ様です。
で、どうするのさ?って感じですねw
紺ちゃんの能力・・・強そ。。。
続きも楽しみにしてます。
PS:与那国島の近海にでも投げ捨てられたんですか?w
- 530 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:32
- ―――月が綺麗だね・・・。
私の頭の中に響く、感嘆したような声。
私は答えず、ただ黄色に輝く月を見上げている。
皆が寝静まった深夜。
私はこの空き家の屋根に上り、座りながら月を見上げている。
そして昼間のことを考えていた。
『・・・太平洋の上空・・・』
範囲が漠然としすぎだし、仮に場所が分かったとしても、そこへ向かう手段がない。
つまりは・・・困ってるんです・・・。
―――誰かが飛べたらねぇ・・・。
「・・・無理な事言わないでよ・・・鳥じゃあるまいし・・・」
はあっと、ため息一つ。
悩んでも悩んでも、なにもいい考えが浮かばない。
このもどかしさ・・・腹が立ちます。
- 531 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:33
- 「よっと・・・あれ?紺ちゃん?どうしたの?」
静かな空間にひょっこりと顔を出した人物。元“雷獣”、藤本美貴さん。
藤本さんは私を見て、驚いたような表情で近寄ってきた。
「いえ・・・なんというか、眠れなくて・・・」
苦笑しながら答える私。
「そう・・・ミキはちょっと、月が綺麗だなぁって思ってね」
藤本さんは微笑みながら、それを見上げる。
大きくて丸い、黄色に輝く月。
私も藤本さんにつられる様に、再び空を見上げた。
「綺麗ですよね・・・」
「・・・うん。暫く、月なんてゆっくり見てなかったからなぁ」
しみじみと呟きながら、私の隣に腰を下ろす藤本さん。
二人一緒に空を見上げる。
暫くそうして、静寂が辺りを包んだ。
- 532 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:34
- 「紺ちゃん、まだ悩んでんの?」
唐突に藤本さんが口を開き、静寂を破った。
彼女は空を見上げたまま、言葉を続けた。
「すっごく危ないのに、本当に行く気なの?」
そこで初めて私のほうを見てくれた。その瞳は真剣そのもの。
でも、私は逡巡する事はなく、答えた。
「はい」
短いけど、はっきりとした意思表示。
そこに含まれた、私の気持ち。藤本さんは、それをちゃんと感じ取ってくれた。
「・・・そっか」
苦笑いをし、再び空を見上げる。
月の光に照らされて、はっきりと輪郭が浮かび上がる。
―――・・・綺麗・・・。
その横顔に思わず見惚れてしまった。
「・・・紺ちゃんたちは強いね」
幾つもの星が広がる夜空の下、静かに紡がれた藤本さんの言葉。
次いで、哀しそうな笑顔が広がる。
「・・・ミキは弱いね。逃げちゃったんだから・・・」
- 533 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:34
- 「―!そんなこと――!」
その表情と同じで、やはり哀しそうに紡がれる言葉。
私は思わず身を乗り出し、藤本さんに詰め寄った。
「そんな事ないです!藤本さんは自分の進みたい“道”を選んだんです。逃げたというわけじゃありません!」
珍しい私の叫び声に、藤本さんは驚き顔。
でも、次の瞬間弱々しく、儚げに微笑んだ。
「・・・ありがと」
言葉にも力がない。
「らしくないですよ・・・藤本さん」
「・・・かもね」
そして再び流れる沈黙。
なんとなく気まずく、いづらい空気。
空を見上げると、月が少し雲に隠れていた。
「・・・藤本さん」
少し躊躇いながらも、その名を呼んでみた。
そして藤本さんがこっちに振り向くタイミングを見計らって・・・
「はい!」
「ぶふッ!!??」
―――・・・成功かな?
- 534 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:35
- 見る見るうちに藤本さんの顔が歪んでゆき、完璧に締りがなくなった。
そしてついにそれは堪えないものとなり、決壊。
「ぶあははははははは!!!!あひぁはははははは!!!な、なにひひひ!!??その顔、なに・・・あひゃははははははは!!!!」
お腹を押さえ、私を指差して藤本さんは大爆笑。
やっぱり少し恥ずかしいかも・・・。
変形させていた顔を二回軽く叩いて、真剣な顔に戻してから一言。
「コンコンクラッシュ(笑いのツボ編)です」
「ぶあはははははは!!!コンコンって・・・自分のことコンコンって・・・ッ!ぶひゃはははははぁ・・・ぁ、く・・・る、し・・・はひ・・・」
なおも笑い続ける藤本さん。
でもいい加減、酸欠気味になってきたみたい。汗ばんでいる顔は、薄っすらと青い。
「ひぅ・・・死ぬ・・・はひははは・・・」
うつ伏せで寝転がり、ぴくぴくと痙攣し始めた。
私としては、ほんの少し笑ってくれる程度でよかったんだけれど・・・。
藤本さんは思った以上の笑い上戸だったようで・・・しかも、私のコンコンクラッシュ(笑いのツボ編)が、本当に笑いのツボをクラッシュしたようで・・・。
顔が熱いのが自分でも分かる。
自分でやっといて何なんだけど、こう馬鹿笑いされると、結構恥ずかしい・・・。
「あの・・・藤本さん?大丈夫ですか?」
「ひ・・・はひ・・・」
「・・・・・・」
顔が笑顔のまま固まって、涙を流しながら苦しそうに呼吸する藤本さん。
答えなんか聞かなくても分かる状態。
明らかに・・・。
- 535 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:35
- ―――・・・明らかに大丈夫じゃないね、これ・・・。
「ひは・・・はあ、はあ・・・死ぬかと思った・・・」
と思った矢先、すぐに復活して見せた藤本さん。
回復が早いようで・・・。
私が驚いて見つめていると、藤本さんはこちらに向き直り、苦笑いを浮かべた。
「ありがと。おかげで元気でた・・・って言いたい所だけど、実際死ぬ所だった」
「す、すいません・・・」
恐縮し、謝る私。
藤本さんは困ったような笑顔のまま、三度月を見上げた。
そして、また流れる沈黙。
でもこれはすぐに破られた。
「ところでさぁ・・・」
どこを見つめているのか?
そんな感じで、あさっての方向に視線を飛ばしながら藤本さんは呟いた。
「はい?」
「空に行く方法なんだけどさぁ、あれ、亜弥ちゃんの能力だったら結構簡単にいけたよね」
…えっ・・・?
言われてから、私はしきりに目を瞬かせた。
松浦さんの能力って、確か・・・。
「亜弥ちゃん、風を操れるからさ。人を乗せるぐらいの風なら作れただろうし・・・。まあ、もう遅いけどね」
- 536 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:36
- 苦笑しながら私へ向き直る藤本さん。
その時の私は、脳がフル回転で情報を処理していた。
空・・・松浦さん・・・風を操る能力・・・人を乗せる風・・・!!
灯台下暗し!
何でこんな簡単な事に気付かなかったんだろう・・・。
私としたことが・・・一生の不覚です・・・。
私は勢い良く立ち上がると、ビックリしている藤本さんの手をとった。
そして興奮さめやまぬ感じの声で、
「ありがとうございます!藤本さん!おかげで活路が見出せました!!」
「えっ?何が?え、えっ??」
わけが分からないと言った表情の藤本さんの手を離し、輝く月に向かってガッツポーズをする私。
―――・・・君も、らしくないね・・・。
頭の中で『わたし』の苦笑と共に、そんな呟きが聞こえたけど、完璧に無視。
嬉しいときは、人間はしゃぐのが一番です。
「よーし!今日は寝て、明日に備えま―――しょ?」
その勢いを殺さないまま、走って屋根の端で跳躍。
浮遊感を感じながら、下を見てみる。
そこでやっと我に返った。
「こ、紺ちゃん!!??」
藤本さんの驚きの声を上方から聞きながら、私は強かに地面に激突。
目の前が暗くなり、幾つかの星がチカチカと点滅している。
―――・・・はしゃぎすぎだよ・・・もう・・・。
あきれ返った『わたし』の声にかろうじて返事をすると、私の意識は飛んでいった。
―――・・・ごもっともで・・・。
- 537 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:36
- ********
- 538 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:37
- 『ミキたぁーん!!』
「ふぇ!?」
目覚めは本当に突然やってきた。
怒っても間延びした、彼女独特の声。
それが耳に入り、私は夢の世界から舞い戻ってきた。
『わぁー!違うって、誤解だって!亜弥ちゃーん!!』
『うるさーい!膝枕なんて、あたしにもしてくれた事ないのにぃ!!ミキたんの・・・ミキたんの浮気モノぉーーー!!』
痛む頭を手で押さえながら、ゆっくりと上半身を起こしてみた。
見覚えのある壁に天井。
東向きにあるので、調達してきた遮光カーテンがかかるこの部屋。
私たちがいつも就寝する、この部屋。
「?ガーゼに・・・包帯?・・・あ」
頭に巻かれた包帯、鼻に貼られたガーゼ。
それらに触れて首を傾げると、昨夜のことが思い出されて俯いてしまった。
私としたことが、ハッチャケ過ぎてしまいましたね・・・。
反省しながら立ち上がり、部屋を出て、階段を下りる。
扉を開けてリビングに入ると、肩で息をする松浦さんと、その足元で転がる藤本さん。
そして台所から呆れたようにその二人を見ている、残りのメンバーが目に入った。
「・・・おはよう、ございます」
- 539 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:37
- なぜか修羅場のような雰囲気だったので、控えめに挨拶。
すると松浦さんはそれに敏感に反応して、勢い良くこちらに振り向いた。
その顔は・・・
「こ〜ん〜ちゃ〜ん〜」
はっきり言って・・・仁王像より、恐いです。
「な、何でしょう?」
その剣幕に怯えつつも、必死で笑顔を作る。
それでも松浦さんの表情に変化は無し。
じりじりと、部屋の隅まで追い詰められていく。
「ひっ」
そしてついにゲームオーバー。
もう逃げられない。
後方には部屋の壁、前方には仁お・・・松浦さん。
「ていっ」
「ふぇ?!」
松浦さんの先制攻撃、ほっぺ抓み。
掛け声は結構軽かったけど、私の頬をつまむ指にかかる力は尋常じゃなく強い。
「いふぁい!いふぁいれふ!!ほうひはんれふか、まふうらはん!?」
松浦さんの腕を掴みながら、叫ぶ。
- 540 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:37
- 離そうとしても、全然びくともしなくて、更に力が増す一方。
いい加減、ほっぺの感覚が薄れてきた・・・。
「紺ちゃん。ミキたんと“二人っきり”でお月様見てたんだって?」
怖いくらいの笑顔で、そう言う松浦さん。
その間にも、指の力は強くなり続ける。
「ひ・・・ひゃい・・・」
どうにかこうにか、頷く。
すると指にかかる力がフッと抜け、松浦さんが極上の笑みを浮かべた。
ホッと一安心したのも束の間、すぐに指が私の頬から離れていない事に気付いた。
「あ、あの・・・まつう・・・ぴゃうっ!」
恐る恐るその事に触れようと呟いたとき、再び頬を襲った鋭い痛み。
こ、今度は捻りながら伸ばしてるぅ!!
「それって立派な浮気だよねぇ?」
こんなにも笑顔というのは怖いものだったのでしょうか?
その恐ろしき笑顔の前では、全てが無力。
彼女の言う事を否定するなんて出来るはずがない。
私はさながら、水飲み鳥のようにカクカクと機械的に頷いていた。
「そうだよねぇ〜」
「ふう・・・ひぎぅ!」
- 541 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:38
- やっと開放されたと思いきや、今度は首に手をかけられ締め上げられる。
冗談抜きで・・・死んでしまう・・・。
「ぐ、ぐる・・・っ!まつ、う・・・」
「ほれ、あやや。その辺にしときな。もう顔の色が、青っつーか白になってるじゃないかい」
三途の川が見えそうだったとき、救世主が出現。
ああ、この人にここまで感謝した事があったでしょうか?
咲魔さんは松浦さんの両腕を掴むと、軽々と持ち上げてしまった。
その事に当然ご立腹な様子の松浦さん。
頬を膨らませ、咲魔さんを睨みつける。
「ちょっと、さっちゃん。邪魔しないでよ。今紺ちゃんにお仕置きしてるんだから」
「アホ。お仕置きのレベルを超えてるさね。あのまま言ってたら、九割九厘死んでたね」
…全くその通りです。
私は首を押さえて、咳をしながら咲魔さんの横を通り抜けようとした。
けど・・・。
「あぐぅ・・・っ!」
再び私の首に巻きついてくる、人肌の感触。
そして先ほどよりも強い締め付け。
―――・・・あ、向こう岸からピッ○ロ大魔王(初代)さんが手を振ってる〜・・・。
「くぉら、あやや!アンタそういうことするキャラじゃないだろ!」
「むうぅ〜!」
- 542 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:38
- 「ふはっ・・・っ!」
開放されたその瞬間、私はその場にへたり込んだ。
…脚は本当に危ないです。
なんと言っても、腕の三倍の力ですから。
「大丈夫け?あさ美?」
「・・・ぅん・・・どうに――マジ死ぬかと思ったしー」
愛ちゃんが心配そうに覗き込んできたので、半ば無理やり笑顔を作って答えようとした所、またも邪魔が入った。
しかも・・・今のキャラは何?
「・・・やめてよ。変なキャラ作らないで」
憮然と、自分につっこむ。
―――ふふふ・・・。
まったく。『わたし』には困ったものです。
「一人漫才みたいやね」
苦笑いの愛ちゃん。私も苦笑いを返す。
後ろのほうでは咲魔さんの腕から逃れようと、松浦さんが必死にもがいている。
私はそれを見てため息を吐き、ソファに腰を下ろした。
「あさ美。あんたな、さっきまでずっと藤本さんに膝枕してもらってたんよ」
「うん。それでね、第一発見者の亜弥ちゃんが大激怒。もう二人とも殺すって言ってた」
愛ちゃんとまこっちゃんが向かい側に座り、身を乗り出して囁くように言った。
ああ、と松浦さんの怒りぶりに納得すると共に、少し恥ずかしくもなった。
- 543 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:39
- 藤本さんが膝枕・・・ああ・・・。
思い出される昨夜の痴態。
つまりは恥ずかしさの原因であり、松浦さんの怒りの原因。
「・・・藤本さんには悪い事をしました・・・」
未だ床に転がる藤本さんを見て、合掌。
―――心よりご冥福をお祈りします・・・。
「・・・まだ死んでないよ」
「あ、おはようございます。藤本さん」
すると彼女は、ツッコミと共に起き上がった。
鼻の下は血まみれ、右目には痣、そして顔の左半分に引っかき傷という無残な状態。
それなのに『わたし』は、普通に笑顔で挨拶。
ちなみに、今表に出ているのは“消滅”のほうの『わたし』です。
「・・・“消滅”の方の紺ちゃんだ・・・」
藤本さんもそれを悟ったようで、血を拭いながら肩を落とす。
愛ちゃんも心なしか、顔を引きつらせている。
「・・・わたしはまだ不人気ですか?」
…みたいだね。
私も含めて、皆が一斉に頷くと珍しく凹みながら奥の方へと引っ込んでいった。
私は軽く頭を振って、咳払いを一つ。
「のう、あさ美」
- 544 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:39
- そこで愛ちゃんが神妙な面持ちで口を開いた。
私は彼女の方へ顔を向ける。
「昨夜、藤本さんと何話しとったん?」
「それは――」
ここでもう一つ咳払い。
また興奮してハッチャケてしまわないように、気持ちを落ち着かせる。
真っ直ぐに愛ちゃんを見つめ、続けた。
「空に行く方法が見つかりました」
「「えっ!?」」
向かい側の二人がそろって目を見開き、立ち上がる。
さすがにというか、やっぱり驚くよね。
昨日の昼間、誰が頭を捻っても解決しなかった問題だもん。
「ど、どうするの?!」
まこっちゃんがまだ驚きを拭いきれないまま、訊いてくる。
私は静かに隣に座る藤本さんに目をやった。
彼女もまた驚きに目を見開いている。
「昨夜の藤本さんの言葉からそれに気づきました」
そこでいったん句切り、息を吐く。
そして一呼吸間をおいて、正面の二人を見つめた。
「松浦さんの能力・・・つまり、“風”を使うんです」
- 545 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:39
- 「「へっ?」」
今度は二人そろって間抜けな声を出す。
これも予測していた反応。たぶん次の言葉は・・・。
「亜弥ちゃんの能力言うたって・・・あさ美が消してしもたやん?」
「そうだよ。それじゃ無理に決まってんじゃん」
呆れたように言う、愛ちゃんと藤本さん。
まこっちゃんは口を半開きにしたまま、凝固してしまっている。
私はそれを見て、苦笑しながら答えた。
「言いましたよね?私はデータがあれば何でも創れるって」
「――?それがどうしたん?」
「消すということはですね、その消すもののデータを取り込んで、理解したうえで消すんです。つまり―――」
「そっか!一回消したものはデータが頭に入ってるから、いくらでも創れるんだ!」
凝固から解けたまこっちゃんが、感心したように叫んだ。
私はそれに正解とだけ言って、微笑む。
「でも、創れる能力の使用は一回が限度。前みたいに無限に使えるようにするには、莫大なエネルギー量が必要だからね」
その後で、言い忘れていた事を付け加える。
三人は同時に顎に指を当て、感心したように頷いた。
その様子がなんか可笑しくて、思わず吹きだしてしまった。
「ほ〜。これまた凄い事を思いついたね、コンコン」
- 546 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:40
- 突然頭の上にかかった重み。
目だけ動かして確認してみると、ニヤニヤ笑いながらこちらを見おろしている咲魔さん。
なぜか顔には、バツの字に引っかき傷が付いていた。
「あ、亜弥ちゃん!?」
そこに聞こえてきた、慌てたような藤本さんの声。
咲魔さんを退けて、振り返ってみる。
気絶し倒れこんでいる松浦さんを抱えて、わなわなと震えている藤本さん。
…その原因は言うまでもなく。
「・・・やりすぎでは?」
「だって、あややがうざかったんだもん♪」
ジト目で睨む私を気にした様子もなく、ぶりっ子をしてみせる咲魔さん。
ため息が三つ、見事にはもった瞬間。
「うざかっただと・・・?」
誰かと思うくらいの、低い声。
でもそれはまぎれもなく藤本さん。
その藤本さんが松浦さんを優しく床に置き、ユラリと立ち上がっていた。
彼女がこちらに振り向くと、今度は短い悲鳴が三つ見事にはもった。
- 547 名前:キミ達はどう動く? 投稿日:2004/05/03(月) 23:40
- 「きぃさぁまぁ・・・」
その顔はやはり、怒りに燃える顔よりも恐ろしかった。
口の両端を吊り上げ、形だけで笑うその表情。勿論、目は全く笑っていない。
藤本さんはその顔のままこちらにゆっくりと、ゆっくりと距離を詰めてくる。
咲魔さん以外は皆、すでに台所に非難していた。
「もう一度言ってみろぉ・・・」
更に低い声で聞く。
これに褒め言葉を載せれば、何とかなったかも知らない。
でも咲魔さんは馬鹿正直に、けろっとした表情で、
「うざいって、言ったんだけど?」
台所に非難した、私たちは一斉に額を押さえた。
「ころおぉォす!!!」
そして戦闘開始。
あまりにも悲惨なため、目を瞑り、耳を両手で押さえた。
―――さっきボコボコにされてたのはもういいみたいだね・・・。
ここでも、『わたし』の呆れたような声が頭に響いた。
- 548 名前:我道 投稿日:2004/05/03(月) 23:51
- 間が空いてしまい、すいませんでした。
>>527 19様
いえいえ。何かと言っていただけると勉強になるので。
読者様の意見はとても参考になります。
これからも精進していきたく思うので、意見突っ込みetcよろしくお願いします(ペコリ)
>>528 shou様
こちらこそ、レスいただいておいて偉そうに・・・。すいませんでした!
あと、某スレで我道が〜と、かいてありましたがそんな事はございません!
かの作者様は設定、文才、知識など私には真似できないものをいくつも兼ね揃えていらっしゃいます。」
尊敬です!
故に、もうどんどん読み続けてください。
ええ、ここよりも(ぇ
>>529 名も無き読者様
紺野さんの能力・・・強いですねぇ(他人事)
でも強いものには・・・(ニヤリ)←キモッ・・・すいません、無視してください・・・。
与那国島・・・あれは一体どこだったのでしょうか・・・(w
- 549 名前:我道 投稿日:2004/05/04(火) 00:16
- 一応隠します
- 550 名前:夢霧 投稿日:2004/05/04(火) 00:18
- 隠すぞえ
我道)<な、なんで夢さんがここに・・・っ!!??
- 551 名前:19 投稿日:2004/05/04(火) 03:01
- 待ってましたよ。生きて帰れたんですね ヨカッタヨカッタ
(キャラトークは更新遅れる言い訳に使える、とφ(.. ))
てほんの数日空いただけなんだけどw
さぁいよいよ太平洋上空へ・・はまだ無理か
- 552 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/04(火) 10:06
- 更新お疲れ様です。
あ、おかえりなさい。
ちゃんと脚と腕ついてます?w
で、今回はまた皆さんやたらと・・・ですが、大丈夫でしょうか?
全員無事であることを祈って次回も待ってます。
- 553 名前:shou 投稿日:2004/05/06(木) 17:33
- 更新お疲れ様です。
笑い死にしかける藤本さんと殺しにかかる松浦に
笑わせていただきました。
太平洋上空へ行くのは何時になるのか!?(笑
凶子に能力無しで藤本は勝てるのか!?
それを気にしながら更新待ってます。
- 554 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:32
- ――――――
- 555 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:33
- 床に転がる大きな身体を持ち上げ、外に放り投げた。
そして、しまっておいたテーブルとソファを取り出して、部屋の中央に並べる。
「いたたた・・・」
「大丈夫?ミキた〜ん」
すぐに腰を下ろした二人組み、松浦さんと藤本さん。
傷だらけな藤本さんを、心配そうに手当てをする松浦さん。
その様子を見て、私とまこっちゃんはただただ驚愕していた。
「・・・まさか勝つとは・・・」
「・・・うん」
二人には聞こえないように呟いて、視線を外に向ける。
天を仰ぎ、物凄く爽快な表情で転がっている咲魔さん。
その身体は、見るも無残・・・と言ったら大袈裟だけど、それなりに傷だらけ。
―――・・・それだけ、松浦さんのことに関してキレた藤本さんのパワーが絶大だったって事だね・・・。
『わたし』の呟きを聞きながら、一度小さく身震い。
げんなりしながら顔の向きを戻す。
すると意識しなくても視界に入ってくる、申し訳なさそうに縮こまり俯く三人組。
まだ落ち込んでるのかな・・・?
- 556 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:33
- 「あの、三人―――」
「おまたせやよ〜」
何か声を掛けようとしたけど、それは愛ちゃんの元気の言い声で遮られた。
台所のほうへ視線をめぐらすと、ちょうど愛ちゃんはカーテンをくぐったところ。
その両手はしっかりとフライパンが握り締められている。
「こんなもんしか作れんけど」
苦笑しながらフライパンを置く愛ちゃん。
そのフライパンの中にみっちりと並べられた、『こんなもん』呼ばわりされたオニギリ。
そんなことは無いと思うよ。
形も綺麗だし、大きさもちょうどいいし。
「十分美味しそうだよ」
「だね」
私の隣に腰を下ろした愛ちゃんに、そう言って笑いかける。
すると愛ちゃんは頬をほんのりピンクに染めて、恥ずかしそうに笑って、
「そ、そうけ?あんがとの・・・」
と言った。
それから暫くは視線が定まらず、宙を右往左往していた。
―――・・・可愛いよねぇ・・・。
「いっただっきま〜す」
- 557 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:35
- なんて不謹慎なことを考えていたら、もうまこっちゃんがオニギリに噛り付いていた。
相変わらずこういうときだけはやいなあと思いながら私も一口。
そしてそこにいる―愛ちゃんを除いた―皆が一口食べ、時が止まった。
「な、な・・・」
まこっちゃんが目を見開き、手に持ったオニギリを凝視する。
口はパクパクとした閉開を繰り返し、オニギリを持つ手は小刻みに震えている。
ちなみに私も、周りの皆も同じ状態。
「ま、不味かったかの・・・?」
不安そうに眉を八の字に歪め、聞いてくる愛ちゃん。
「なんらー!?これはー!!??」
でもまこっちゃんはそれが聞こえてないみたいで、いつもと違う言葉遣いでそう叫んだ。
それに皆の言葉が続く。
「堅すぎず、柔らかすぎないこの握り方・・・最高だべ・・・」
「そして絶妙な塩加減・・・こんなん、そうそうできるもんやない・・・」
目を見開き、オニギリを吟味しながら呟く藤本さんに松浦さん。
みんな故郷の方言が丸出しになっていても、全く気づかない。
私ももう一口、口に含み嚥下。
その一呼吸後、全員が愛ちゃんのほうへ向き直り、同時に言葉を放った。
「「「「つまりは・・・この上なく美味い!!!」」」」
叫んでから一斉にオニギリに食いつく私たち。
愛ちゃんは叫ばれて一瞬ビクッとしたけれど、私たちの様子を見て苦笑いを浮かべた。
「まだいっぺあるっけ、どんどん食うてや」
私たちはその言葉も無視して、オニギリに夢中で食いついていた。
- 558 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:35
- ―――――――――
- 559 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:36
- 「三人とも、まだ落ち込んでるの?」
並んだ小さな肩がビクッと揺れる。
さっきまでオニギリを元気よくがっついていたとは思えないほど、彼女たちの雰囲気は暗い。
「いえ・・・落ち込んでるってわけじゃないんです」
「・・・それはもう、吹っ切れました」
右端に座る田中さんが先に口を開き、その隣の亀井さんがそう付け足した。
それには私も少しだけ驚いた。
「もう吹っ切れたの?」
三人そろってコクッと頷く。
―――まだ若いのにしっかりしてるね。
私たちも二人そろって感心し、頷く。
昨日、田中さん、亀井さん、道重さんに本当のことを話した。
あなたたちは夢霧さんに造られて、利用されるだけされ捨てられた、と。
その後の三人の反応は予想したとおりだった。
- 560 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:37
- 田中さんは嘘だと何回も繰り返し、その後暴れ回り、咲魔さんに抑え付けられ、亀井さんは狂ったように笑って自殺をはかったけど、愛ちゃんによって止められ、あの道重さんでもポロポロと泣き崩れていた。
その後、三人は三つある寝室の一つに行き・・・というか無理やり入れらた。
咲魔さん曰く、自分たちのことは自分たちだけで話し合ったほうが一番手っ取り早いだそうな。
―――・・・その後に、『んで、一番アタシらが楽』って言ってたよね・・・。
…とにかく、そのショックを暫くは引きずるかと思ったんだけど、意外なほど早く復活して感嘆してると言うわけです。
「・・・じゃあ、何でそんなに元気ないの?」
これは今、もっともな質問。
あのショックから立ち直ったって言うのなら、何故こんなに沈む必要がるのか?
訊くと、三人は一度顔を見合わせ、そして代表として田中さんが俯きながら口を開いた。
「あたしたち・・・紺野さんたちに申し訳なくて・・・」
「ふぇ?どういうこと?」
「・・・あたしたち、特に悪いことしてない紺野さんたちを殺そうとしたし・・・少し考えれば分かりそうなことだったのに・・・」
言ってから悔しそうに唇をかみ締める田中さん。
三人の目じりにはうっすらと涙が浮かび上がってる。
- 561 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:37
- 三人のそんな様子を見て、失礼ながらも微笑んでしまった。
―――純だねぇ・・・若さかな?
何言ってるんだか・・・でも、この純粋さは大切だね。
「それはしょうがないよ。何にも知らなかったんだから」
「でも―――!」
「それに・・・」
顔を上げ、何か言おうとした田中さんを手で制し、続ける。
「私、特に悪い事したしね」
言ってから、苦笑を浮かべる。
三人は同時に首をかしげ、こちらを見つめた。
「殺人者なんだよね、私。しかも50人殺しの重罪犯」
「「「!!」」」
三人が目を見開き、私を見つめてくる。
私は更に苦笑いを深いものにした。
- 562 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:38
- 「まあ、これは破壊衝動のせいなんだけどね」
三人は呆然として目をしきりに瞬かせていたけど、暫くすると顔を寄せ合い、なにやらひそひそと話し合い始めた。
「・・・殺しといてもよかったんじゃない?・・・」
「・・・かも」
「・・・あの人、怖い・・・」
ひそひそと・・・と言うけれど、こちらまでその会話は筒抜け。
―――・・・スタンバイ、オーケー?
呼びかけると、私は奥のほうへと引っ込んだ。
―――・・・オーケー。
『わたし』が返事をして微笑、田中さんの肩に手を乗せる。
ビクッとしてこちらを恐る恐ると言った感じで振り向いた田中さんを気にも留めず、『わたし』は微笑を崩さぬままこう囁いた。
「・・・消しますよ?」
その瞬間三人は背筋を伸ばし、『わたし』に向き直ってまるで水飲み鳥のようにカクカクと頭を下げ始めた。
三人そろって目じりに涙を溜めて。
その様子を見つめながら、未だ微笑み続ける『わたし』。
「分かればいいんです」
その言葉が終わってから、表裏交代。
田中さんたちはまだ頭を下げ続ける。
「陰口は本人のいないところで言ってくださいね」
―――・・・言ってもいいの?
『わたし』のツッコミが来たけど、完全無視。
固まって縮こまる三人を尻目に、私は立ち上がりその場を去った。
- 563 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:39
- ☆☆☆☆☆☆☆
- 564 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:39
- 静岡の近くの原っぱで、あたしは座りながら青く広がる空を見上げている。
流れていく雲がとてものんびりしていて、何か心が和むわぁ。
「あーいちゃん!」
そこに縄跳びを持った犬・・・失敬。麻琴が登場。
や、なんかこっちに走ってくる様子が物凄く嬉しそうで・・・犬だったら尻尾振ってそうなんやもん。
「なした?麻琴」
「あのね、あのね!二十跳び自己記録また更新したんだよ!」
興奮を言葉に乗せ、一気に喋る麻琴。
あたしは彼女のそんな様子を見て、苦笑い。
「そいつぁおめでたいこって」
「・・・棒読み?」
別にあたしには関係の無いことやし。
麻琴が記録更新して喜ぶの、藤本さんくらいやし。
- 565 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:40
- あたしの気の抜けた言い方に、麻琴はぷっくりと頬を膨らませて不機嫌を露にする。
「ほんな顔してんで、ここに座ろっせ」
麻琴はまだ頬を膨らませたままだったけど、あたしの隣にゆっくりと腰を下ろした。
あたしはそれを確認してから、大の字に寝転んだ。
「ああ〜。気持ちいいやざぁ」
太陽の程よい日差しに、心地よい微風。
眠たくなってまうの〜。
「なんかさ・・・」
いつん間にか麻琴もあたしの横に寝そべって、空を見上げていた。
そして視線を空に固定したまま、静かに呟いた。
「なんか、すっごいのんびりしてるよね。いいのかな?」
そこで初めて首を捻り、あたしのほうに顔を向けた。
どこか不安そうな色が見える瞳。
- 566 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:41
- ま、確かにの・・・こんなのんびりしてて、ええんか?とか思うよね、普通。
あたしらは今、物凄い大変な事しようかしとるのに、こんな寝そべって空見てて・・・。
「・・・ええんやよ」
あたしは麻琴から視線をはずし、空を見上げ風を感じながら呟いた。
「え?」
「たまにはこう、のんびりするのも必要なんて」
「でも、闘いに行く前に・・・」
「最近いろいろごたごたしてたし。それに空に行くのだって、そんなに急がんくたってええやろ?短い休暇やと思って、のんびりしようて〜」
そこで大きく伸びをし、起き上がるあたし。
少し離れたところで、亜弥ちゃんと藤本さんがイチャイチャラブラブしている。
微笑ましい様子なんだけど、なんか腹の奥がむかむかする。
「それもそうかもね・・・って、どうしたの愛ちゃん?顔、怖いよ」
多分無意識的に睨んでたんだと思う。
起き上がった麻琴にそう言われ、慌てて顔を元に戻した。
「な、なんでもないやざ!」
「――?そう?」
慌てるあたしに、訝しげな視線を投げかけてくる麻琴。
あたしは幾度も頷き、自分でも分かるくらい引きつった笑いを浮かべている。
- 567 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:41
- 「まこっちゃん、愛ちゃん」
「あ。あさ美ちゃ〜ん」
そこに、首をかしげながらあさ美が近づいてきた。
「何かあったの?様子がおかしかったみたいだけど」
言いながらあさ美は麻琴の隣に腰を下ろす。
「な、なんにもないやざ」
「―――?なら、いいけど・・・」
怪訝そうに眉をひそめながらも、あさ美は一応納得し、空を見上げた。
口がやんわりと弧を描き、目が気持ちよさそうに細まる。
「気持ちいいねー」
「まったくだね〜」
麻琴も同じような表情。
やっぱ、こういうのんびりした時間も大切やね。
「ところで田中ちゃんたちは?」
「ん?家でトランプしてる」
ったく、最近の子供は・・・。いんどあ派やざ。
せっかく天気がええんやから、外で遊べばいいのに。
- 568 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:42
- 「凶子さんは?」
「まだ起きない。出発は明日だね」
あさ美はそういってから深いため息を吐き、苦笑い。
ま、昨日もビール飲んだくれてあんまし寝てないみたいやし、五月蝿くなくて万事良好かの。
それから暫く、あたしたちは口を閉じて柔らかな微風を感じていた。
「・・・今後、三人でこんなにのんびりすることは無いのかも・・・」
突然、あさ美が呟いた。
その顔からは表情が消え、目もどこか彼方の方向を向いている。
そんなことない、ってすぐに叫びたかった。けど、あたしも心の奥底で同じことを思っていて、口を噤んでしもた。
あさ美が無表情のままこちらに振り向いた。
「そんなこと無い!」
その瞬間響いた、強い意志のこもった叫び声。
声の主はあたしとあさ美の間に立ち上がり、歯を食いしばって悔しそうに拳を震わせている。
「・・・麻琴・・・」
あたしがその名前を呟くと、麻琴は一気に悲しそうに眉尻を落とした。
「なんで、そんな事言うのぉ・・・」
彼女の沈痛な言葉に、あさ美も顔を歪め俯く。
- 569 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:43
- すると麻琴はその場にしゃがんで、あさ美の肩に両手を乗せた。
「そんな悲しい事言わないでさ、頑張ろうよ。やる前から諦めてちゃ、できることもできなくなっちゃうよ?」
麻琴って本と、こういうときだけカッコええなぁ。
いつもは開いている口もしっかりと閉じられ、目元も眉毛もきりりとしまっとる。
その麻琴が微笑んで「ね?」と言い優しく肩を叩くと、あさ美は顔を上げ弱々しく頷いた。
瞳を潤ませ、しきりに「ごめんね」と繰り返している。
麻琴はそれを笑顔で受け止め、頭を撫でている。
―――・・・あたしもしっかりせんとな。
両頬を思いっきり叩いて気合を入れると、勢いよくあたしは立ち上がった。
そして、天に向かって拳をかざし、出る限りの声で叫んだ。
「待ってろや!マッドサイエンティストォォォォォ!!!」
ああ、叫んだ後はなんて清清しいんやろ・・・。
- 570 名前:動く直前〜ひと時の休息〜 投稿日:2004/05/06(木) 20:43
- ちなみに・・・。
横で麻琴とあさ美が引いているのに気づいたのは、余韻が冷めた5分後だった。
- 571 名前:我道 投稿日:2004/05/06(木) 20:52
- >>551 19様
どうにかこうにか生きてましたw
>キャラトークは更新遅れる言い訳に使える、とφ(.. ))
ば、ばれた!?(w
はは・・・すいません。今後はなるべく早く更新したく思います(ペコリ)
>>552 名も無き読者様
ええ、どうにか腕と足は健在です(w
皆もぶじですよ〜・・・凶子さん以外(ぼそっ
凶子)<あ?何か言ったかい、クソヤロウ・・・
ひえっ!?凶子さん、なんでここ・・・ひぎゃるあぁ(←複雑骨折・・・
>>553 shou様
笑っていただけて、私も光栄に思います(ペコリ)
凶子さん・・・結局負けてしまい・・・ぐああァァ(もう、言えません・・・
凶子)<次回もよろしくね!
- 572 名前:キャラトーク 投稿日:2004/05/06(木) 20:56
- 凶子)<ああ、いい汗流した。
あさ美)<・・・もしかして、あの川に流れて行ってるの・・・
愛&麻琴)<・・・。
夢霧)<愚かなものたちばかりよのォ・・・
凶子)<!!てめっ!いつからそこに!!
夢霧)<ホーホッホッホッホ!
- 573 名前:キャラトーク 投稿日:2004/05/06(木) 20:59
- 愛)<・・・読んで下さってる皆様、ちゃんと更新はするそうなので・・・。
麻琴)<・・・ゴメンナサイ・・・なんであたしたちが謝らないといけないの?
あさ美)<・・・作者が生み出した、あの暴力キャラのせいだよ・・・。
凶子)<まてや、ゴルア!!
ホーホッホッホッホッホ!>(夢霧)
- 574 名前:19 投稿日:2004/05/06(木) 21:18
- やっぱり捕虜(?)三人とも和解
・・さあさあさあ
- 575 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/08(土) 15:01
- 更新お疲れ様でs・・・ってアレ?我道さん?
何故宙に浮いてらっしゃるので?
あら、足がない。。。(汗
次までに黄泉返ってくれることを祈ります。
- 576 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:39
-
- 577 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:41
- 静かに打ち寄せる波の音を背中に受けながら、微笑みあい、対峙する私たち。
でも、皆悲しそうな笑顔。
「・・・お別れだね」
藤本さんが微笑をたたえたまま呟く。
一度は殺しあった者同士。でも今はお互いを分かり合える、大切な仲間。
仲間との別れは、やはりとても寂しいもの。
「・・・はい」
声が掠れていた。
鼻の奥がツーンとして、視界が潤みだす。歯を食いしばり必死で耐えた。
「あ゛ざびぢゃーん!」
そこに涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたまこっちゃんの、悲しみの突進。
ぶつかったときは少しふらついたけど、どうにかこらえ、まこっちゃんの頭を抱きしめる。
「グスッ・・・ざびじいよお゛ー!わがれだぐないよ゛ー!」
「うん・・・」
たまに大人っぽくなったり、と思ったら急に泣きじゃくったり。
まこっちゃんはとても純粋で、素直。
- 578 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:41
- 「あの・・・」
おどおどしながら声を振り絞ったって感じの田中さん。
私は、
「・・・三人とも元気でね」
我ながらありきたりな言葉だと思う。
田中さんは俯き、何も言葉を発しなかった。
この三人とはなんだかんだ言っても、結構仲がよかったりする。
昨日の夜も遅くまで談笑しあっていた。
「紺野、さん、たちも・・・」
「・・・うん」
下唇を噛み締めながら、途切れ途切れに掠れた声は発する田中さん。
彼女の後ろからソッと亀井さんが抱きしめる。
田中さんたちの能力は全部、昨日のうちに消しておいた。
- 579 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:42
- 私の独断ではなく、彼女たちが望んだこと。
彼女たちも藤本さんたち同様に、普通の生活を送ってみたいんだそうな。
私は笑って頷いていたはずなんだけど、田中さんたちは凄く申し訳なさそうな顔をして、何回も頭を下げてきた。
別に謝らなくてもいいんだよ。
「あなた達が決めた道・・・しっかりと歩んでね」
私の突然の言葉に三人はいっせいにこちらを向いて、目をパチクリ。
でもすぐに表情を引き締めると、力強く頷いた。
―――やっぱり、若さかなぁ・・・。
また・・・何言ってるんだか・・・。
「愛ちゃん、気をつけてね・・・」
「うん・・・亜弥ちゃんも元気での・・・」
私たちの後方で、愛ちゃんと松浦さんが元気の無い声を発していた。
振り返ってみてみると、やっぱり表情も哀しそう。
私たちの周りの空気が、重く沈んだ。
- 580 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:43
- 「あーーーーーーーーー!!!」
その空気をも軽く切り裂いてしまいそうなほどの、怒号。
私も含めた皆がいっせいにその怒号の主に目をやり、目を丸くした。
「しけた面してんじゃないよ!!」
今まで砂浜で一人寝そべっていた咲魔さんが、起き上がり顔をしかめてこちらにズンズンと歩を進めてくる。
通り抜け際、全員に拳骨をプレゼントして。
「な――!」
「また会おうとか言えないんかい、アンタら!!」
その奇行に怒って抗議の声を上げようとした愛ちゃんを遮り、咲魔さんは叫んだ。
全員の目が一気に見開かれる。
「さっきから聞いてたらなんだい!?これが最後みたいな挨拶しやがって!帰ってきたらまた会えるだろうが!?ああん!!」
そう叫んでも咲魔さんの気は納まらなかったようで、近くにいた亀井さんの胸倉を掴んで高々と持ち上げた。
そして、鼻がつく距離まで近づけて「どうなんだい!?」と怒鳴りながら、亀井さんの身体を激しく前後に揺する。
小刻みに短い悲鳴が上がるけど、咲魔さんはそれでも止めようとしない。
「やめてください!亀井さんは別に何も言ってないじゃないですか!」
慌てて、乱心の彼女を止めに入る。
- 581 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:43
- すると今度は黙って揺するのをやめ、亀井さんを静かに下ろした。
目を回し、グッタリとしている亀井さんに田中さんたちが近づき、心配そうに抱えあげる。
「一体なんですか?皆がしんみりしている時に・・・」
「・・・それがやだっつってんのさ」
その様子を横目で一瞥すると、咲魔さんに向き直り、睨みつける。
少し声を低くしてそう言うと、咲魔さんも露骨に顔をしかめて低い声で呟いた。
「なんで行く前からもう帰って来ないみたいな挨拶してるのさ?アタシはそんなの、絶対ヤダかんね」
その双眸にはいつになく真剣な色が点っていて、私は思わず半歩身を引く。
「アタシは絶対帰ってくる。帰ってきて必ず・・・」
そこで咲魔さんは私から視線をはずし、空を見上げた。
瞳には真剣な色が点ったまま。
その瞳で青い空を見上げ、拳を握りながら咲魔さんは力強く言い放った。
- 582 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:44
- 「アタシは帰ってきて必ず、バチカン市国に行く!!」
「・・・はっ?」
―――・・・なぜにそこでバチカン市国?
今ここにいる皆は、『わたし』と同じことを思ったと思う。
藤本さんなんか「はっ?」って感じの顔で固まってる。はっきり言って、怖い・・・。
「アタシはこの目的を果たすために絶対帰ってくるのさ。“絶対”にね!!!」
言ってからこちらに向き直り、不敵に笑う咲魔さん。
皆もう何か・・・呆れて声も出ない様子。
―――・・・何時でも、どんな時でも陽気に凶暴だよねぇ・・・。
頭の中で、呆れたような笑いと共に聞こえてきた呟き。
その言葉に反応して、思わず苦笑。
「笑って言えばいいのさ。“また会おう”ってね。しんみりしたのなんかクソ喰らえさね」
「・・・勇ましいですね」
- 583 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:45
- 苦笑を貼り付けたまま、私は呟く。
でも、正直気持ちが楽になった。
『さよならは、言わないよ』
よくテレビのドラマやアニメとかで使われる、この台詞。
クサイなぁ、とか思って、自分は一生使わないと思ってた。
―――・・・ふふ・・・。
面白そうな、でも控えめな『わたし』の含み笑い。
私はいささか諦めたように肩をすくめ、ゆっくりと振り返った。
キョトンとした顔が7つ、私を見つめていた。
「コホン・・・」
少々顔が熱くなるのを感じつつ、咳払いを一つ。
そして、
「さよならは言いません。また会いましょう」
- 584 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:45
- クサイ台詞・・・一生使わないと思っていた台詞を、紡ぐ。
7つのキョトンとした表情が更に深まる。
でも次の瞬間、眩しいくらいの笑顔を浮かべて私の右隣に駆け寄ってきてくれた人が一人。
「帰ってきたら、二重跳びで新記録目指します!楽しみにしててね!」
まこっちゃんは突き出した拳の親指を立て、元気よくそう言った。
それを見て、私の頬が緩んだ。
「・・・元気やね、麻琴」
いつの間にか愛ちゃんが左隣に来ていて、苦笑いを浮かべていた。
そしてその表情のまま前に向き直ると、頬をうっすらとピンクに染めながら、
「・・・また、会いましょう・・・」
と消え入りそうな声で、でも強い意志をこめて呟いた。
すかさず咲魔さんは愛ちゃんの肩に手を回してもたれかかり、意地の悪い笑みを浮かべた。
「ん〜、どうしたんでちゅか〜?お声がちいちゃいでちゅよ〜」
「・・・・・・」
ふざけた口調で言う咲魔さんを、愛ちゃんは無表情で黙って見つめる。
人間怒りすぎると、感情が顔に出てこなくなるものなんだね・・・。
- 585 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:46
- 私が少し慄きながらその光景を見ていると、咲魔さんの姿が視界から消えた。
「ぐっは―――ぶばがばばば!!」
そのコンマ一秒後に聞こえた水飛沫の上がる音と、明らかな咲魔さんの悲鳴。
見ると浅瀬のところにうつ伏せでプカプカと浮いている咲魔さん。
その様子はまるでドザエモンのよう・・・。
「ふう・・・んの、のくてぇが」
大きく息をつき、手を軽くはらってみせる愛ちゃん。
その目はほんのり紅色。
それだけで私は、何が起きたのかを瞬時に理解。
と言っても、凄く分かりやすい状況ですけど・・・。
「うん。今のは、投げ飛ばされても文句は言えないと思う」
まこっちゃんは腕を組み、海に浮かぶドザエモンを見つめて断固とした口調で言う。
私もそれに同意し、大きく頷く。
「相変わらず面白いね」
- 586 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:46
- 藤本さんが苦笑いを浮かべ、近づいてきた。
私は苦笑いを返すけど、愛ちゃんは額を抑え大きくため息をついた。
「・・・ただ五月蝿いだけやが」
「あはは・・・」
疲れたように呟く愛ちゃんに、更に苦笑を深くする藤本さん。
でも急に真剣な表情に変わって、愛ちゃんの手を両手で強く握った。
愛ちゃんが驚いて見つめる中、藤本さんは静かに、そして優しく囁くように言葉を紡いだ。
「・・・また、遊ぼうね」
言い終わって、ニッと明るい笑顔を浮かべる藤本さん。
私たちは口元を引き締め、ゆっくり、しっかりと頷いた。
「よし!行ってらっしゃい!」
「「「行ってきます!」」」
元気よく挨拶したところにみんなが寄ってきて、手を取り合い笑いあった。
悲しくない別れ・・・やっぱりこっちのほうがいいかもですね。
心の片隅で、さりげなく咲魔さんに感謝をし、この場の空気を心地よく感じていた。
でも、それは海に浮いていた大きな女性の一言で、奈落の底まで沈むことになる。
- 587 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:47
- 「ところで、あいつらがいる所ってどこにあるんだい?」
その言葉を聴いた瞬間、全員から表情が消え、キリキリと咲魔さんを振り返った。
首を傾げる咲魔さん。
私たちはゆっくりと彼女に近寄っていき、
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!」
それぞれが、本気でその大きな肢体に襲いかかった。
殴りながら、蹴りながら、そして咲魔さんの悲鳴を聞きながら私たちはいっせいに叫び声を上げた。
「「「「「「「「いい雰囲気壊すな!!!」」」」」」」」
- 588 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:47
-
――――――――――*
- 589 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:48
- これでよし。
私は心の中で満足そうに呟く。
目の前には傷だらけの咲魔さんが全身を鎖でぐるぐる巻きにされ、木に吊るされている。
気を失っているようで、ピクリとも動かない。
―――でも、実際問題、本当にどうしようかねぇ・・・。
踵を返し、砂浜で座って唸っている愛ちゃん達のもとへと歩き出す。
勿論、私も首を傾げ、唸りながら。
「吊るしてきたよ」
「―――あ、ご苦労さん」
愛ちゃんに声を掛けてから、私もその隣に腰を下ろす。
そして再び首を傾げ、唸る。
「・・・よぉ考えてみれば、行く方法が分かってもその場所が分からんかったらどうしようもないんやの・・・」
「・・・うん」
…そう。それはよく考えれば・・・というか、よく考えなくても分かること。
それなのに見落としていた。それは何故か?
- 590 名前:My Believe 投稿日:2004/05/08(土) 22:48
- 答えは簡単。私が行く方法を発見し、浮かれていたのがいけなかった。
紺野あさ美、一生の不覚です・・・。
―――まあ、過ぎた事はしょうがないじゃん。後悔先に立たず。
…まあ、そうなんだけど・・・。
頭の中であれこれ会話しながら脳をフル回転させる。
がむしゃらに飛ぶ?・・・却下。
飛べるのは一回が限度。それ以上やったら、多分・・・。
「・・・ねえ」
「―――あぇ?」
色んなことを考えていたとき、いつの間にか隣に座っていたまこっちゃんに肩を掴まれ、軽く揺すられた。
首を捻り、まこっちゃんの方をむく。
彼女は何故か口をポカンと開けて、空に視線を固定している。
「――?どうしたの?」
- 591 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:50
- 「あれ・・・もしかしたら、あれじゃない?」
そんなまこっちゃんの様子に首を傾げながら、訊いてみた。
すると彼女は、視線をそのままにして空の一点を指差した。
その指先を追ってみて・・・目を大きく見開いてしまった。
それからもその光景が信じられず、幾度も目をこすっては、再び視線をそれに戻すという動作を続ける。
でも、何が変わるわけでもなく、その『現実』は私のレンズに確かに映し出された。
「・・・嘘・・・」
気の抜けたような声、思わず身を乗り出して少しでも近づこうとしてみる。
そんな私たちの様子に首をかしげた愛ちゃんも、私たちが見つめる先を見て、凝固。
そして私と全く同じ反応を示す。
「・・・マジきゃ・・・」
これまた気の抜けたような声。
それは私と同じく、上空に悠然と浮かぶ仰々しい造りの建物に向けられてのもの。
「・・・あれ、かな?」
「・・・かも?」
「・・・いや、あれしかないやろ」
- 592 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:50
- ここからかなり離れているにもかかわらず、肉眼でしっかりと確認できる。
あれは・・・まるで要塞。
見えるのは小さいけど、確実にそう言える。
何の隠れ蓑も張らず、むき出しになって浮かんでいるそれは、まるで来てほしいと告げているようだった。
そんなことを考えると、いささか頭にくる。
―――何時来ても、特に問題は無い、と・・・。
『わたし』の声も、少々苛立っている様子。
「・・・行こう」
いいでしょう。乗り込んであげますとも。
その後に、後悔という念をプレゼントして差し上げます。
私は決意を胸に立ち上がると、まこっちゃんと愛ちゃんも表情を引き締めて立ち上がった。
私たちは頷きあって、空に浮かぶ要塞を見上げ呆然としている藤本さんたちに向き直った。
「それでは今度こそ、行って来ます」
- 593 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:51
- 私に声を掛けられ、五人はいっせいにハッとし、振り向いた。
まだちょっと驚きが抜けない顔で私たちを見つめる。
「必ず、またお会いしましょう」
私がそういって微笑むと、皆それぞれに微笑んで声を掛けてくれた。
「頑張ってね」「また遊ぼぉねぇ」
「気をつけて」「また今度会いましょう」「わたしの次に可愛いですよ」
「・・・ありがとうございます」
スッと、静かに頭を下げる。
最後のがちょっと引っかかったけど・・・。
「それでは、ちょっと離れていてください」
再び表情を引き締め、藤本さんたちにそう指示する。
皆は大きく頷くと、何も言わず離れて行ってくれた。
- 594 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:51
- 大分距離が開いたのを確認すると、私たちは円陣を組んだ。
お互い頷き合うと、私は目を瞑り、意識を集中する。
何も無い、暗闇が広がる空間に一つの淡い緑色の光が生まれた。
カッと目を開く。
刹那。
私たちを中心として、足元から風が舞い起こった。
最初は穏やかだったそれも、時間が経つにつれだんだんと勢いを増してきた。
そして、ついに私たちの身体を浮かび上がらせた。
それでも風は強くなり続ける。
「おおーい!放置すんなー!」
もう大分地面が離れたところで、聞こえてきた、慌てたような声。
…あ。忘れてた・・・。
「うお!?つよー!!」
- 595 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:52
- 咲魔さんは無謀にも、勢いを増し続ける風の渦の中に突っ込んできた。
ぐるぐると勢いよく回転する咲魔さんを見下ろし、ため息を一つ。
「紺野ー!どうにかしてくれー!」
咲魔さんは回転しながらも、泣きそうな声でそう叫ぶ。
でも、私はあえて無視。
自業自得。身体頑丈だから大丈夫でしょ。
「・・・なんであたしたちは平気なの?」
まこっちゃんが下のその様子を見て、首を傾げながら呟いた。
「私が創った風だからね。ここだけ大丈夫なようにしてあるの」
でも、あくまでここだけ。
咲魔さんのことなんか考えていなかったから、ああいう結果になってしまった。
「ま、ええよ。はよ行これ?」
何気に失礼なことを言って、私に視線を戻す愛ちゃん。
- 596 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/08(土) 22:52
- 私は小さく頷き、身体を反転させて上空に浮かぶ、まだ小さい要塞を見つめた。
そして再び目を瞑り、集中。
その間にも風は強さを増す。
「ぎゃあー!遠心力がぁ!ばらばらになるぅ!」
だから自然と咲魔さんの悲鳴も大きくなる。
私は耳を塞ぎ、あの要塞をイメージした。
「行くよ!」
そう言って目を開けると、風は今までで一番強くなり私たちの身体を舞い上げた。
目標は勿論、あの天空要塞。
「「「「「また会おうねー!」」」」」
飛んでいく途中で、地上の皆の声が聞こえ、思わず頬が緩んだ。
「うっぎゃあぁぁぁ!!いてぇ!冗談抜きでいてぇ!!」
でもその直後の汚い叫び声で、私は眉根にしわを寄せた。
この後すぐに、咲魔さんのいる所だけ、風速をあげたのは言うまでもない。
- 597 名前:我道 投稿日:2004/05/08(土) 22:59
- 最近1スレで終わるか不安になってきた、我道です_| ̄|○
>>574 19様
和解・・・しましたね。
ありきたりですねぇ(ニガワラ)
彼女らはもう出番無いかもしれません(w
>>575 名も無き読者様
どうにかこうにか戻ってまいりました・・・。
鬱憤を晴らすため、小説内の彼女の扱いは酷いものにしてやりました(w
それではこれにて!(←逃走
凶子)<まてや!ゴルアアア!!
- 598 名前:我道 投稿日:2004/05/08(土) 22:59
- 一応隠しです
- 599 名前:れいな&絵里&さゆみ 投稿日:2004/05/08(土) 23:02
- れいな)<隠すとよ。
絵里)<あれ?れいな、その言葉遣い・・・?
さゆみ)<・・・(鏡を見てうっとり)・・・
- 600 名前:19 投稿日:2004/05/09(日) 00:16
- 川o・∀・)<私の次に、私の次に、私の次にカワイイさゆみん♪行ってきます!
そしてサヨナラ凶子さん(ヲイ
- 601 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/09(日) 11:24
- 更新お疲れ様デス。
おぉう、ついに仕返しを・・・。w
ま、大丈夫でしょう彼女なら、多分(コラ
では頑張って逃げ切ってください。
次も楽しみにしてますんでw
- 602 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:05
- 風に乗って近くまで来てみると、私たちはその大きさに唖然とし、目を見開いた。
どうしてこんなことができるの?
今私たちの目の前には、小さな島がひとつ浮いて、その上に巨大な洋館が建っている。
何時だったかテレビでやってた“ラピュタ”という、空に浮かぶ島を思い出した。
「・・・はぁ」
洋館が佇む台地に降りたつと、思わずため息が漏れる。
―――・・・敵ながら、これは・・・。
「すごいね・・・」
まこっちゃんも驚いて、その巨大な建築物を見上げながら感心したように呟く。
愛ちゃんもその隣でゆっくりと頷いていた。
「・・・昔っから頭だけは異常にいいんだよ。あのクソヤロウは」
早くもあの風のダメージから復活した咲魔さんが、憎々しげに呟きながらその洋館を見上げる。表情もまるで苦虫を噛み潰したよう。
「さ。さっさと片付けちまうよ」
- 603 名前:My 投稿日:2004/05/09(日) 17:06
- 言ってから首を軽く回すと立ち上がり、歩き出した。
私たちもその後ろについて歩き出す。
咲魔さんの見つめる先には、大きくて重々しい鋼鉄の扉。
黒光りするそれは、とても頑丈そうで、何人たりとも入れてくれる雰囲気じゃない。
扉のところについて、咲魔さんが軽く叩いた。
反応は・・・無し。
チッと舌打ちして、左手を扉に添え、右手を後ろに引く。
「ふんっ!」
そして右手を勢いよく、突く。
咲魔さんの拳が扉に激突すると共に、重々しい扉はその勢いのまま内側へと開いた。
両側の壁に当たり、バーンという音が洋館内に響く。
「ちょ、ちょっと!そんなに五月蝿くしたら――」
「もうばれてるよ」
慌てたように駆け寄る愛ちゃんの言葉を遮って、咲魔さんはうんざりしたように洋館の中を見つめた。
その視線を追ってみる。
人影が二つ、こちらに向かってゆっくりと歩いて近づいてきていた。
- 604 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:07
- 「けっ!ヤな感じだねぇ」
二人が立ち止まるのと、咲魔さんがそう呟くの、そして扉が独りでに閉まって洋館内の電気がつくのはほとんど同時だった。
巨大なシャンデリアから降り注ぐ人工の光に照らされて、こちらに向かってきた二人の姿が露になる。
―――・・・ああ。この人たち・・・。
『わたし』が何かに気付いたように呟いた。
そう。この二人は、以前に会ったことがある。
「邪魔だよ。失せな」
失礼極まりない咲魔さんの発言にも顔色一つ変えず、こちらを睨み続ける二人組み。
一人は金髪で、どこか男性の凛々しさを感じさせる女性。
一人は色黒で、少し顎のでた、いかにもっていうほど女っぽい女性。
「ちっ!面倒くさいねぇ、ホントに」
無表情、無言で威嚇するように構える吉澤さんと石川さん。
二人の様子を見て、どこと無く違和感を感じた。
―――・・・おかしい?
なんというか・・・何だろう?
- 605 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:08
- ―――・・・“機械”っぽい?
以前、私とまこっちゃんが牢屋に入っている時に会った二人はちゃんと表情を動かしていた。
でも今は眉すらピクリとも動かさない。
そんな二人の様子を見て首を傾げていた私だけど、ある人の姿が頭に浮かびハッとした。
「・・・操られてる」
「――え?」
思い出される、夢霧さんの隣に少しも動くことなく静止していた、人形のような女性。
その女性―後藤真希さんと同じ状態にある、目の前の二人。
得られる答えは一つで、明白だった。
「操られてるって、後藤さんみたいに・・・?」
私の小さな呟きにいち早く反応したのは愛ちゃんだった。
ビックリ眼を更に見開いて私を見つめてくる。
私は「多分」と呟いて、小さく頷いた。
愛ちゃんは少々呆然としながら、視線を、無表情で構えている二人に戻した。
その瞬間唇が歪められ、その小柄な身体の輪郭がうっすらと紅色になる。
「・・・人は、玩具じゃ、ない」
震える声は、彼女の怒りの深さの証拠。
それが私に向けられたものじゃないことが分かっていても、身が震えた。
「許せない・・・」
- 606 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:08
- 隣にいたまこっちゃんも憤然とし、呟く。
私も今、同じ気持ち。
「紺野、小川、先行きな」
ちょうど構えようとしたところに、咲魔さんのその一言。
咲魔さんの言いたいことはよく分かる。
ここは自分たちに任せて、私たちは首謀者を倒せってこと。
私は少しも躊躇することなく、即答した。
「お断りします」
「ヤダ」
そこにまこっちゃんの拒否の声が重なる。
思わず顔を見合わせ、苦笑。
「・・・っは!あんたら、馬鹿だよ」
「それはあなたですよ」
一瞬キョトンとした咲魔さんも、すぐに表情を崩し、笑顔でそう言った。
少しでも早く、あの二人から呪縛を取り去ってあげたい。
そう望んでいるか分からない。けど、あの虚無を映す瞳が何故かとても悲しそうに見えるから。
「5分で片付けるよ」
「3分で十分です」
- 607 名前:My Believe 投稿日:2004/05/09(日) 17:09
- スッと身構える。
その場に緊張感が流れ、暫くは誰も動かない。
その静寂の間に、私は表裏交代。
「・・・裏紺か」
咲魔さんが身体を緊張させながらも、目だけでこちらを振り向いてボソッと呟く。
「何ですか?裏紺って・・・」
「いや、裏の紺野だから、裏紺かなって」
わたしは疲れたようにため息を吐く。
でも心の中では少し、感心もしていた。
―――・・・雰囲気だけで、バレルなんてね・・・。
やっぱり頼りになるよね・・・絶対言わないけど。
「・・・くるで」
愛ちゃんが姿勢を低くしながら、静かに呟いた。
俯き気味になっていた顔を上げて、二人を見てみる。
石川さんが手をゆっくりと上げ、静止していた。
そこで気付いた咲魔さんが、石川さんに向かって駆け出す。
「させるかあ!死ねぇ!」
- 608 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:10
- あ、いや、殺しちゃ駄目なんですよ。二人とも操られているだけなので。
そんな私の気持ちなんか微塵も考えてないらしく、どんどん速度を上げ石川さんに迫っていく咲魔さん。
その表情は、本物の悪党もビックリなくらい邪悪な笑みが浮かべられている。
ちょうどもう手を伸ばせば触れられるという距離に咲魔さんが来たとき、吉澤さんが動いた。
右腕を後ろに引き、咲魔さんめがけて勢いよく突き出した。
咲魔さんはそれの直撃を受け、吹き飛んだ。
鮮血と、砕けた岩の破片らしきものが飛び散る中、愛ちゃんとまこっちゃんは疾走。
どうやらこれは予測してなかったみたいで、愛ちゃんの拳は確実に吉澤さんを捕らえた。
吉澤さんが吹き飛ぶのを横目で見ながら、まこっちゃんは飛び散った岩の破片を一つ掴み、石川さんの腹部に右ストレートをお見舞いする。
石川さんの華奢な身体は、まこっちゃんの拳が当たったと同時に起こった小規模の爆発で吹き飛ばされ、吉澤さんと同じところに倒れこんだ。
二人が荒い息をしている時、『わたし』は慌てて走り出していた。
「愛ちゃん!まこっちゃん!伏せて!!」
『わたし』の声に二人は反応して、振り向こうとしたけれども、それはお互いが壁のほうを向いた状態で停止した。
もう目の前に迫ってきている、巨大で灰色の硬質そうな拳。
- 609 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:10
- それが二人を唖然とさせ、動きを止めたのだ。
わたしは焦燥したように舌打ちした。
―――く・・・っ!間に合わない!
『わたし』が諦めかけたとき、私は叫んで両腕を突き出した。
「任せて!」
その瞬間爆発し、四散する巨大な拳。
その爆発でようやく我に返った二人は、拳の破片が飛び散る中、急いでこちらに戻ってきた。
「すまん、あさ美・・・」
申し訳なさそうに謝る愛ちゃんに、眉を八の字に曲げるまこっちゃん。
私はそれに苦笑を返し、
「万事モウマンタイだよ」
ちなみに言ったのは『わたし』―――つまり、裏紺ちゃん。
「・・・裏紺」
「・・・裏紺や」
やっぱりすぐにばれちゃった。
―――・・・そんなに違う?というか、裏紺広まってる?
ふふっ。いいんじゃない?裏紺で。
「あれ?じゃあ、今のは?」
「今のは亀井さんの能力。・・・紺ちゃんが瞬時に創って、わたしと入れ替わり放ったの」
そう言ってから『わたし』は視線を、愛ちゃんたちの後方に向けた。
愛ちゃんたちもハッとして振り向く。
- 610 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:11
- ―――・・・効いてない。
さすがにこれは驚いた。
先ほどの愛ちゃんとまこっちゃんの攻撃、いくら手加減したとしても気絶くらいはしてもいいはず。
でも石川さんと吉澤さんは、何事も無かったかのように起き上がりこちらに、一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
やはり無表情のままで。
「・・・痛覚も麻痺させられてるみたいだねぇ」
そこにいきなり顔を出した咲魔さん。
額からドクドクと血が流れているにもかかわらず、口調は呑気なことこの上なし。
「裏紺。能力とか消すには、そいつに触れないといけないのかい?」
服の袖を破いて、額に巻きつけながら咲魔さんは訊いてきた。
『わたし』は歩み寄ってくる二人を見つめながら、答えた。
「実体が無く、不確かなものはそれを使役する人に触れないと消すことはできません」
「・・・なるほど」
額の応急処置を終了して、一度首を回すと咲魔さんは視線を二人に向け、ニヤリと笑った。
それと同時に、石川さんと吉澤さんが歩みを止める。
- 611 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:12
- 咲魔さんが視線を二人に貼り付けたまま、小声で呟いた。
「アタシと高橋と小川が食い止める。アンタはその好きにあいつら正気に戻してくれ」
「わかりました」
会話を終えると、『わたし』たちは全身を緊張させた。
直後、目の前に現われる3メートルはあろうかという、灰色の人型をしたモノ。
そのごつごつした身体からは生が、そして意思が感じられない。
それだけで分かる・・・これらがただの人形であることが。
それらが5体、音も無く出現し、私たちを取り囲んだ。
愛ちゃんたちが身構える。
灰色の人形は微動だにしない。
と思った矢先。
「!!」
その灰色の人形がいっせいに高く跳躍し、私たちめがけて下降してくる。
でも、それを黙って待っているほど私たちは馬鹿じゃない。
すぐさま、バラバラに逃げようとした。
- 612 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:13
- 「うぐっ!?」
まさに今一歩を踏み出そうとしたとき、突然身体が重くなって膝が折れた。
四つんばいの格好になって、どうにかその重圧に耐える。
するといきなり感じた浮遊感。
「だっしゃあぁぁぁぁ!!」
地鳴りのような叫び声と共に、『わたし』は宙を跳び、扉にぶつかって停止した。
重圧はもう感じない。
――――ズーンッ!!
その音と共に地響きが起こり、『わたし』はハッとして顔を上げた。
重なる5つの大きな肢体。
その質量に床が耐えられなかったようで、へこみ、亀裂を走らせている。
そこは明らかに、愛ちゃん達のいたところ。
「――!くっ!」
すぐさま駆け寄ろうとしたけれど、石川さんがこちらに手をかざしているのを見て、慌てて停止。まだ、あの人の能力の効果は続いている。
「――?」
- 613 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:13
- 歯痒さを噛み締めながら、打開策を考えていたときに重なり合っていた5つの灰色の人形がピクリと動いた。
スッと目を細める。
その刹那。
――――ズガアァ!!
大量の煙と、強風を起こして灰色の人形は粉々に爆発した。
その破片がこちらに飛んできたので、慌てて避けつつ、前方で起こっていることを確認した。
「ぬおあァァぁぁぁぁ!!!」
気合のこもった声を発しながら、無表情な二人に向かって突進していく咲魔さん。
両脇に愛ちゃんとまこっちゃんを抱えながら、とにかく突き進む。
途中、吉澤さんがその前に立ちはだかり、咲魔さんは動きを止めた。
吉澤さんの両腕は、肘から先が灰色の硬そうな物体で覆われている。
「ふんっ!」
咲魔さんはそれを見て怯みもせずに、鼻で笑ってみせる。
そして愛ちゃん達の襟を掴み、身体を大きく捻った。
「じゃぶらあぁぁぁ!!!」
次の瞬間、吉澤さんの頭を超え、宙を舞う愛ちゃんとまこっちゃん。
吉澤さんはそれに反応し、振り返った。
それは咲魔さんの前でとってはいけない行動の一つ。
- 614 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:14
- 「どこ見てんだい!?このボンクラがあぁぁぁ!!!」
いつもより緩慢だけど、それでも鋭い右フックが吉澤さんの脇腹を直撃し、吉澤さんは錐揉みしながら吹き飛んでいった。
「わっ!」
ちょうどそのタイミングであがった、大きく紅い炎。
見ると愛ちゃんが辛そうにして、炎をまとった拳を石川さんの腹部に撃ち込んでいるところだった。
痛覚が麻痺していても、攻撃による衝撃はどうにもならない。
石川さんは身体をくの字に折って、その場に倒れこんだ。
その瞬間、『わたし』は疾走する。
思った通り重圧を感じることは無く、スムーズに進むことができた。
「・・・頼む、あさ美」
辛そうにして、荒い息を吐く愛ちゃんとまこっちゃん。
『わたし』は一度小さく頷くと、しゃがんで倒れている石川さんの頭に触れた。
そして、
「――んっ」
石川さんを操っていた“もと”を削除。
- 615 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:14
- 石川さんは一度小さく呻くと、そのまま気を失ってしまった。
「さてと・・・」
一つ大きく息を吐き出し、身体の向きを変える。
その先に平然と立ち上がる人物を見て、右手を突き出す。
そして無言で指を一度鳴らす。
「うあっ」
すると彼女も石川さんと同様、小さく呻き、その場に倒れこんだ。
もう起き上がってこないのを見て、胸を撫で下ろす。
任務完了。
二人を操っていた“もの”は完全に消去した。
これで起きたときは正気に戻ってるはず。
「成功・・・みたいだね」
まこっちゃんが呟いてから、脱力したように寝転んだ。
愛ちゃんもそれに然り。
- 616 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:15
- 二人のその様子を見ると、思わず笑みがこぼれる。
「ご苦労さん」
「はい」
その時頭に感じた、大きな感触。
咲魔さんはぽんぽんと軽く『わたし』の頭を叩くと、石川さんと吉澤さんの回収作業に入った。
――――ズキッ・・・
突然、胸に鋭い痛みが走った。
顔をしかめて胸を押さえ、歯を食いしばる。
額を汗は一筋、静かに流れ落ちた。
息が、苦しい。
「あさ美ちゃん?どうかした?」
ハッとなり顔を上げると、まこっちゃんと愛ちゃんが訝しげな表情で『わたし』を見つめていた。
『わたし』は取り繕うように笑顔を浮かべ、言った。
「別になんでもないよ。ちょっと疲れただけ・・・」
良かった、どもってない・・・。
そのことにひとまず安心し、再び胸を撫で下ろす。
「ならいいけど。あんまり無理しないでね」
「うん、ありがと・・・」
まこっちゃんはまだちょっと怪訝そうな顔をしていたけど、一応それで納得してくれたみたい。わたしから視線をはずすと、愛ちゃんと何か喋り始めた。
フッと、安堵のため息をつく。胸の痛みは、もう引いていた。
- 617 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/09(日) 17:15
-
―――・・・『代償』は、確実に私の身体を蝕み続ける・・・。
- 618 名前:我道 投稿日:2004/05/09(日) 17:23
- >>600 19様
川o・∀・)<そうです!重さんは私の次に、わた(ry)へぼ作者、そこを理解しなさい!
・・・すいません。
凶子さん・・・さよならしたいです(ぼそっ
はっ!ダダッ(←逃走
凶子)<あれ?ここに作者のヤロウがいたと思ったのになぁ・・・?
>>601 名も無き読者様
(キョロキョロ)・・・ふう・・・。
全く困ったものです。あのひと、身体頑丈すぎますよ(w
これからも逃げ続けて更新したいと思います(w
でわっ!
- 619 名前:我道 投稿日:2004/05/09(日) 17:24
- 一応隠します
- 620 名前:我道 投稿日:2004/05/09(日) 17:24
- もう一つ
- 621 名前:19 投稿日:2004/05/09(日) 22:13
- うーんと・・・みんな(作者含む)頑張れ!
- 622 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/10(月) 17:53
- 連日更新お疲れ様です。
ラストに何やら心配な一文が・・・。
皆さん頑張って。。。
続きも楽しみにしてます。
- 623 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:34
- 「強い力によって、脳から身体の各部に送られる信号が遮られていました。神経もほとんど機能を停止され、完璧な操り人形と言ってもいい状態でしたね」
壁にもたれて座りながら、並んで眠る二人の女性を見る。
言ってから胸の奥がむかむかした。
下衆、外道、卑劣、独裁者・・・その汚く、下劣な言葉を上げるほど、私の中の怒りの炎は激しさを増す。
「・・・人を人とも思ってないね」
「・・・正真正銘の下衆ヤロウやざ」
愛ちゃんとまこっちゃんが眉間にしわを寄せ、はき捨てるように呟く。
思う事は、私と同じ。
石川さんと吉澤さん、二人を操っていた“もの”を消し、その後能力も消した。
それから私たちは二人の様子を見守ると共に、休んでいる。
…いや、むしろ休憩ついでに二人の様子見、って言ったほうがあってるのかな?
「あ〜いってぇ〜。吉澤の奴、本気で殴りやがったなぁ」
確実に休憩の意思のほうが九割以上を占める女性は、憮然としながら吉澤さんの頬を軽くつつく。
「しょうがないでしょう?操られていたんですから」
「そうは言ってもさ〜」
- 624 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:36
- 私の的確なツッコミにも、むくれて不満そうにする。
そんな咲魔さんは何故か、服を着ていない。
「それより、なんですかその格好は?」
呆れたように、疲れたように。
私はジト目を作って、胸から下に包帯を巻いた咲魔さんを見つめる。
「ん?知らないのかい?こりゃ、サラシっつーのさ!かっこいいだろ?」
ぐるぐると包帯が巻かれた自分の胸を、思いっきり叩く咲魔さん。
その直後見事にむせて、咳き込んだ。
「・・・そんなことは知ってます。なんでサラシなんか巻いているか訊いているんです」
「あん?そんなのかっこいいからに決まってんだろ」
ため息を突きながら聞く私に、さも当然のことのように言う咲魔さん。
その馬鹿にしたような視線に、私のこめかみがぴくっと震える。
暫し無言のにらみ合い。
愛ちゃんはうんざりした様に額を抑えて大きくため息を吐いていたけど、まこっちゃんはオロオロして私たちを交互に見比べていた。
「う・・・ぅん・・・」
突然聞こえたうめき声。
声のしたほうを見ると、吉澤さんが苦しそうに顔をしかめていた。
途端に皆の意識がそちらのほうへ向く。
―――これも何か、能力の影響・・・?
私は息を飲んで、吉澤さんの、汗が光る額に触れようとした。
でも、寸でのところで停止。
「り・・・かちゃあん・・・もう無理だってぇ・・・それ以上は食えないよぉ・・・」
- 625 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:36
- ピキッ・・・。
そんな効果音が聞こえそうなほど、その場の空気が凍りついた。
私は無言で立ち上がり、愛ちゃんたちに軽く目配せ。
皆は同時に頷くと、吉澤さんを囲むように円をつくる。
そして一斉に足を上げると、その幸せそうに緩んでいる顔に思いっきり振り下ろした。
「―――うっぎゃあぁぁぁぁ!!」
攻撃された直後、吉澤さんは顔面を抑えて飛び上がった。
そして滅茶苦茶に部屋の中を駆け回る。
「へべっ」
でも前を塞いでの走行は極めて危険。
吉澤さんは勢いよく鉄の扉にぶつかると、くぐもった呻きをもらし仰向けに倒れこんだ。
そこへ咲魔さんが呆れたように歩み寄っていく。
「このバカ澤。夢の中でもあのブラックアゴーとイチャコラしやがってからに」
ブツブツと文句を言いながら吉澤さんの首根っこを掴み、戻ってくる咲魔さん。
彼女の意見に私たちは大きく頷いた。
「いてっ」
容赦なく放り投げられ、床に倒れこむ吉澤さん。
私たちの靴の跡が付いた顔をさすりながら、ムクリと上体を起こす。
そして私たちに目をやって、目を丸くした。
「わっ!わわわ!お前ら、どうしてここに!?って言うか、どこだここ?あたし、何してたんだ??」
驚き、混乱。
それらの感情を一息に言って、周りをせわしなく見わたす。
- 626 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:37
- 私は苦笑しながら、隣にいた愛ちゃんにポソリと呟いた。
「・・・操られてた時の記憶、無いみたいだよ」
訊いてから苦笑を浮かべる愛ちゃん。
その間に吉澤さんは大事なことに気付いたみたい。
「わっ!?り、梨華ちゃん!!何でどうして・・・」
未だ気を失う石川さんを抱きかかえ、吉澤さんは悲しそうに戸惑う。
その直後、怒りに燃える表情でこちらに振りかえり、睨んできた。
「・・・お前らが・・・っ」
「うんにゃ」
歯を強く噛み合わせ、今にもこちらに殴りかかってきそうな吉澤さんを前にして、咲魔さんはどこか気の抜けたようにそう返事をした。
当然ながら、吉澤さんの怒りは収まらない。
「夢霧さんですよ。あなた達が社長と呼んでいた」
「はっ・・・何言って・・・うっ・・・」
私が言った後ワケが分からないといった顔をし、睨んだ吉澤さんが、突然頭を抑えて俯いてしまった。
皆が困惑する中、私だけは黙したまま彼女のその様子を見つめる。
―――さて、思い出した後彼女はどんなリアクションを見せるかな?楽しみだね。
…悪趣味。だから裏紺なんだよ。
「うぅ・・・ぐぁうぁ・・・っ!」
- 627 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:38
- 吉澤さんを操る“もの”は操られているときのもの、操られる以前のもの、全ての記憶を閉じ込めていた。
私がそれを消してしまった今、その記憶が全て頭の中に流れ込んでくる。
その膨大な情報量は主に一種の副作用――頭痛をもたらす。
痛みを知れば、全てを知る。
どこかでそんなことを訊いた覚えがある。
「はっ・・・はあ、はあ、はあ・・・」
情報の処理が終わったらしく、吉澤さんは疲労困憊した様子で床に両手をつく。
大きく上下する肩が、そんな彼女の状態を物語る。
「・・・そだ・・・そん・・・だ・・・」
荒い息と共に、時折混じる小さな呟き。
小さすぎて聞き取れないけど、どうしてか私にはなんとなく分かった。
「う、そだ・・・そんなの、うそだ・・・」
呟きと共に床を拳で殴りつけていく吉澤さん。
痛々しいその様子。
彼女もまた現実を知ってしまった。
- 628 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:38
- 吉澤さんたちが偶然知ってしまったのか。または・・・夢霧さんが話したのか。
どうやってかは分からないけど、とにかく彼女は真実を知った。
だから夢霧さんは彼女たちを操り人形に変えた。
自分の意のままに動く操り人形に・・・。
「あたしらが・・・創られたなんて・・・そんなの・・・」
床を殴りつける拳の勢いが増す。
打ち付けると共に飛び散る紅い雫と、透明な雫。
私の中の怒りの炎が更に激しく燃え上がってきた。
「うぅ・・・ぐぅ、あぅあぁぁ・・・」
やがて吉澤さんは拳のうち付けをやめ、床に手を突いてうめき出す。
透明な雫が、床にいくつも落ちて、しみを作る。
私は悲痛な空気が漂う彼女のもとへと歩み寄ると、その震える肩にソッと手を置いた。
「・・・早くここから脱出してください。あと数分でこの場所は地球上からなくなります」
吉澤さんが涙を流しながら顔を上げる。
私は精一杯微笑んで見せた。
すると何故か吉澤さんは驚いたように、目を幾度も瞬かせている。
- 629 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:39
- 「・・・?どうしたんですか?」
「あ、いや・・・何か、最初に会ったときからそうだったけど、お前ってたくましいよな」
そう言ってから、吉澤さんは涙を流しながらも弱々しく笑顔を浮かべた。
今度は私が目を瞬かせる。
「そんなに腕は太くないと思うんですが・・・」
袖をまくり、自分の腕をまじまじと見つめる。
「はっ?」
素っ頓狂な声をあげて、口をあんぐりと開け固まる吉澤さん。
でも、すぐに天井を仰いで大爆笑。
「だはははははー!」
「な?!何で笑うんですか!」
いきなり笑われれば誰だって腹が立ちます。
私は声を荒げ、未だ爆笑中の吉澤さんをにらみ付けた。
「お前、それ狙ってんの?はは。んなワケねーか。真顔だったもんな。ははは!」
「一体何なんですか!?」
更に声を荒げる。
ああ、何か変に恥ずかしくなってきた・・・。
「んくく。あのなぁ、あたしが言った逞しいってのはな、お前の心のことなんだよ」
「へぇ???!!!」
- 630 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:39
- 笑いを噛み締めながらの吉澤さんの言葉に、私は間抜けな声を出してしまった。
それと共に顔に熱が集まってくる。
つまり、あの・・・私は・・・。
「お前の細腕見て、いくらなんでも逞しいなんていえないよ!はははー!!」
「・・・・・・」
―――ああ〜、勘違い〜♪
…やめて・・・すっごい恥ずかしい・・・。死んじゃいたいくらいに・・・。
私は静かに袖を戻すと、俯いて目を瞑った。
耳が、頬が、ものすごく熱い・・・。
「ははは・・・あ〜、何か元気でた・・・」
目じりにたまった涙を拭いながら、吉澤さんは微笑。
でも、やっぱりまだ少し力が無い。
吉澤さんは隣で眠る石川さんの髪を撫でながら、ポツリと呟いた。
「一昨日だったかな・・・社長が・・・咲魔夢霧が突然どっか行って。んで、また突然帰ってきたと思ったらさ、ニヤリと笑って言ったわけだよ・・・」
- 631 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:40
- 石川さんをなる手はとても優しく、語る口調はとても悲しい。
「『お前たちは妾が創った。人形は創造者に従うが運命(さだめ)』って・・・そしたら困惑するまもなく目の前が真っ暗になって、それからは・・・」
そこで石川さんから手を離し、悔しそうに唇を噛み締める吉澤さん。
強く握られた拳を床に叩きつけると、押し殺した声で一言一言、言葉をつむぎ出す。
「あたしらは、あいつを信じてやってきたのに・・・世界のためだと思ってやってきたのに・・・っ」
紡ぎ出される言葉は、全て、やり場の無い悔しさと後悔の念が加わっている。
吉澤さんの目から、再び涙が溢れ出した。
「なんで気付かなかったんだろうね・・・部下を力で押さえこむような奴が、世界のことなんか考えてるはず無いのにね・・・」
スッと私は吉澤さんの隣で横たわる女性に視線を移した。
吉澤さんは、黙って床を見つめるように俯いたまま動かない。
石川さんが上体を起こし、天井を見ながら淡々と言葉を続ける。
「バカだよね、私たち・・・少し疑えば分かるようなことだったのに・・・」
…そうですね・・・少し、ほんの少し疑えば分からないようなものでもない。
でも、その『少し』があなたたちにとってはものすごく怖いものだったはず・・・。
- 632 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:41
- 「信じていたものに裏切られる怖さが、あなたたちから“疑う”ということを奪った」
私は誰にとも無くポツリと。
石川さんはびくりと身体を強張らせ、吉澤さんは俯いたまま。
二人の拳が小刻みに揺れる。
悲しみ、悔しさ、自分に対する苛立ち。
そんな感情が、今、彼女たちの心の中に渦巻いているに違いない。
強く結ばれた唇を、一筋の涙が伝う。
「なあ・・・」
掠れた低い声。
まだ少し俯きがちの吉澤さんが、真っ赤に充血した目をこちらに向けた。
「お前ら、これからあいつんとこ行くんだろ?」
あいつ・・・名前を出さなくても、この状況。
易々と察せられる。
私は表情を引き締め、大きく頷いた。
- 633 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:41
- 「そっか・・・じゃあさ・・・はは、何かこんなこと頼むのも情けないけど・・・」
吉澤さんはそこでいったん言葉を切り、自嘲気味に笑った。
でもすぐに真剣な表情に戻すと、私を見つめて、
「多分、まだ二人ぐらい操られてると思う。その人たちを頼む」
「・・・分かりました」
「・・・サンキュ」
力なく言って、天井を仰ぐ吉澤さん。
そしてゆっくりとまた俯いて、立ち上がる。
「行こう、梨華ちゃん・・・」
座ったままの石川さんに手を差し伸べ立ち上がらせると、こちらに歩いてくる。
すれ違い際に、私は一言囁いた。
「・・・強く生きてください」
すると私の真後ろで足音が止まる。
一呼吸の間を置き、力強い言葉が返ってきた。
「お前らもな」
私は振り向かずに、目を閉じる。
―――・・・あの二人なら大丈夫だよ。すぐ立ち直る。
…うん。
- 634 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:42
- 扉が開かれ、また閉じるのを音で確認する。
私はゆっくりと目を開き、風に乗り、地上に降りていく二人をイメージした。
「・・・なんか、やたら素直に帰ったねぇ、あの二人」
戸惑ったような咲魔さんの声。
私は彼女のほうを見ずに答えた。
「自分にもう能力はない、自分たちは何もできないと、感覚的に悟ったんでしょうね」
言ってから下唇をかんだ。
脳内に浮かぶ映像は泣きじゃくる藤本さん。悲しみにくれる田中さん、亀井さん、道重さん。そして、茫然自失とした吉澤さん石川さん。
…許せない。
こんなにも人を悲しませておいて、詫びないというものはいかがなものでしょう?
否。万死に値します。
「あなたの前でこんなことを言うのは何ですが・・・」
「ん?なんだい?」
「あなたのお姉さん、私はどうしても許すことができません」
- 635 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:42
- スッと咲魔さんを見上げ、見つめる。
咲魔さんは唇を引き結んで、難しい顔をしていた。
「ば〜か」
「いたっ!」
でもすぐに不敵に笑うと、私の背中を強く叩いた。
そして咲魔さんは明後日の方向を向き、スッと目を細める。
「アタシだって、あんな奴許せるはず無いだろ・・・」
その物言いはとても静かに響いたけど、そこに込められた憤りは尋常なものではない。
そんなに寒くも無いのに、寒気がするのがその証拠。
「あたしらも許せないでの」
「むしろ、咲魔さんのお姉さんだから、もっと許せないのかも」
愛ちゃんとまこっちゃんが私たちに並んで、微笑む。
私はそれに微笑み返したけど、咲魔さんは目をギラッと光らせて、まこっちゃんの頭を乱暴に掴んだ。
「おがー・・・アンタ、そりゃどーゆー意味だい?」
「あだっ!あだだだ!痛いって!頭の形、変わるって!!」
珍しく青筋を立てながら、笑顔でまこっちゃんを締め上げる咲魔さん。
まこっちゃんは足と手をしきりに動かせて、どうにか逃れようとするんだけど、全く効果なし。
咲魔さんの怪力の前では、まこっちゃんの腕力なんかミジンコに等しい。
―――・・・いや・・・それ以下かも・・・。
- 636 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:43
-
「・・・遊んでないで、行きますよ」
「ちょ、ちょっとあさ美ちゃん!遊んでんじゃないって!たすけ―――あぶあ!」
まこっちゃんが更に手足をじたばたさせて抗議するけど、私はそれを聞き流し、歩き出す。
愛ちゃんが私に続き、その後ろから咲魔さん。
器用にも、まこっちゃんを締め付けながら、すがすがしい笑顔を浮かべて歩いている。
ため息が重なる。
愛ちゃんと顔を見合わせ、苦笑した。
そして視線を前方に戻す。
見つめる先には、またしても鋼鉄の扉。
あの入り口みたいに大きくは無いけど、それがかもし出す雰囲気はやはり重々しい。
程なくして、その扉の前に立つ私たち。
未だにじゃれ合うバカ二人を完璧に無視して、扉に手を掛ける。
「ほぇ?」
出してみてから、恥ずかしくなるような間の抜けた声。
皆がビックリしたように私に注目する。
- 637 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:46
- ―――だって、あまりにもこの扉が簡単に開くから・・・。
かもし出す雰囲気とは裏腹に、僅かな力を入れただけで開いてしまったその扉。
少し縮こまりながらも、更にスライドさせる。
「・・・エレベーター?」
中に進んでみると、全員(まこっちゃん以外)が一斉に首を傾げた。
扉の横に設置されている鈍色のレバー。
そして、扉の上に階数を表すような数字。
「のぉ・・・あれってバカにしとるんかの?」
愛ちゃんが頬をひくつかせて、上を見上げている。
その視線を追ってみて、
ピキッ・・・
その場の空気が凍りついた。
私たちの身体から流れ出る、殺気と怒気。
「・・・行きますよ」
私は低い声でそう呟いた。一同は、勿論肯定の意味で頷いた。
- 638 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:46
- 階数を表す数字の最後、つまり最上階を表す数字のところに書かれた『さくまゆめぎり』の文字を睨みながらレバーを下ろす。
扉が自動的に閉まり、音も無くエレベーターは上に上がる。
扉の上の1の文字が点滅し、暫くすると2に変わった。
「しかし、何でわざわざ10階まで作るのかなぁ・・・」
私は点滅する数字を睨みながら、うんざりしたように呟いた。
「昔はたくさん社員がいたんだよ。まあ、そのほとんどはアタシがあちこち嗅ぎ回ってるときぶちのめしちまったけどね」
やっとまこっちゃんを開放した咲魔さんが、同じように数字を睨みながら言う。
その表情は呆れたように、シラッとしていた。
「でも、何より・・・」
そして視線を私に戻し、肩を落とすとため息と共に言葉を吐き出した。
「・・・何より、あのクソヤロウ、とにかく高いところがすきなんだ。人を見下せるようで、快感なんだとさ」
訊いてから力が抜けた。頭が痛い。
―――どこぞの女王気取りですか・・・。
嫌な沈黙が流れる。
その間にもエレベーターは一階、更に一階と昇っていく。
「―――!!」
- 639 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:47
- すると突然、点滅が5階から6階に変わったとき愛ちゃんが息を呑んでレバーを上げた。
当然エレベーターは急停止。
その振動で私たちは後ろ向きに倒れこんでしまった。
「・・・愛ちゃん?」
でも愛ちゃんは微動だにせず、鉄の扉を睨みつけている。
音も無く、鉄の扉が開いた。
「!」
目に映るは、あの虚ろな瞳。
完璧に表情を消したその女性は、ただぼんやりと100畳はあろうかという、大きな部屋の中心に佇んでいた。
「あ、愛ちゃん!」
まこっちゃんが慌てた様子で叫ぶ。
でも、愛ちゃんは歩みを止めず、ゆっくりとその部屋の中へと進んでいった。
「・・・高橋」
咲魔さんが静かに呟く。
愛ちゃんはそこでようやく歩を止め、こちらに振り向いた。
ハッと息を呑んだ。
- 640 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:48
- 「・・・これはあたしの問題や。あたしが解決しんと。あんた達は先行って、本来の目的を果たして」
沈痛な面持ちの中にも、確かに彩られる決意の色。
目の色がこれまでに無いほど真紅に染まり、全身に解読不明の文字が浮かび上がった。
―――これが、愛ちゃんの本気モード・・・。
「・・・行くよ」
その姿に暫く唖然としていた私は、咲魔さんのその言葉で我に返った。
咲魔さんの手がレバーに伸ばされる。
「・・・愛ちゃん」
ちょうどレバーが下げられ、扉が閉まりかけたとき私は口を開いた。
まっすぐに愛ちゃんを見つめて、愛ちゃんも私を見つめて。
「また会おうね」
笑顔を向けて、はっきりと。
その直後に扉は閉まり、再び上へと上りだした。
- 641 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/12(水) 20:48
- 扉が閉まる寸前、私たちに向けられた愛ちゃんの極上の笑顔。
そして声に出さずつむがれた、『絶対やよ』と言う言葉。
それを疑うすべを私は、私たちは知らない。
- 642 名前:我道 投稿日:2004/05/12(水) 20:55
- もう絶対収まらないだろうと、諦めている我道です_| ̄|○
>>621 19様
あ、ありがとうございます!
作者への激励メッセージ、とても嬉しいです!
みなさんも喜んでます(w
あさ美)<所詮、あなたはおまけでしょう?
・・・ひどいっ(涙&逃避行←嘘です
>>622 名も無き読者様
心配してくださり、ありがとうございます!
みんなテンション落とさずこれからも頑張っていきましょう!
オー!!
藤本)<うっさい!!
や、ヤクザァ〜!!(逃走
- 643 名前:藤本&松浦 投稿日:2004/05/12(水) 20:56
- 松浦)<隠すよぉ♪
藤本)<ミキの扱い・・・ホンと酷かった・・・(怒)
- 644 名前:我道&紺野 投稿日:2004/05/12(水) 20:58
- 我道)<次スレが立つかもですね。
紺野)<またつらつらと、駄文を書き上げるんですか?
我道)<・・・紺野さん、いつからそんな毒舌に・・・。
- 645 名前:19 投稿日:2004/05/13(木) 02:19
- 吉澤さんらはもうサヨナラか
次回はいよいよ・・・?
- 646 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/13(木) 13:00
- 更新乙彼デス。
次スレ、ってことはまだまだ続くってコトですか!?
いやぁ〜、そいつぁ楽しみだw
次回も期待してます。
- 647 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/14(金) 22:16
- エレベーターは音も無く上昇する。
6階から7階、7階から8階・・・。
その間、この小さく限られた空間にいる私たちは一言も言葉を発しない。
皆、唇を真一文字に引き結び、瞳に決意の色を宿している。
先ほどの愛ちゃんがそうだったように。
やがてエレベーターは停止した。
最上階・・・『さくまゆめぎり』と書かれた、その階に。
静かに鉄の扉が開いた。
一気に広がる視界。
先ほどの、5階の部屋と同じように100畳はあろうかという大きな部屋。
側面には窓は一つも無い。
あるのは微かな光を放つ数個のランプと、何枚もの象形画。
部屋の中心に視線を移し、そこにいる人物を睨みつける。
背が高く、髪の長い綺麗な女性。
腰に二振りの日本刀を下げ、ただ静かに佇んでいる。
- 648 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/14(金) 22:17
- その目は、やはり虚無ばかりを映している。
生気なんて感じられない。
感覚でもひしひしと伝わってくる。あの人は、ただの人形・・・。
「電波・・・」
咲魔さんが悔しそうに呟いた。
それと同時に、飯田さんは流れるような動作で日本刀を抜き放った。
そして鞘を放り投げ、日本刀を交差させ胸の前で構えた。
こちらを見つめる目に変化は無い。
私たちは散り散りになりながら、構えた。
そのまま暫く、時は静かに流れた。
唐突に。
飯田さんが交差させた日本刀を天井に向かってかざし、勢いよく振り下ろした。
その瞬間、刀から生まれた相当の大蛇。
その身は蒼い炎に包まれている。
- 649 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/14(金) 22:17
- 大蛇はかま首をもたげて、私たちを睨みつけている。
一呼吸の間があき、あがった叫び声。
「いくぞおぉぉぉ!!」
叫び声と共に大きく跳躍した、大きな女性。
大蛇の前でさえ存在感がかき消されることは無い、彼女。
私たちは咲魔さんに続くように駆け出した。
- 650 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/14(金) 22:17
- ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
- 651 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/14(金) 22:18
- あさ美たちが上っていったことを確認し、あたしは振り向いた。
そこにいるのは、人形にされてしまったあたしの思い人。
静かに歩み寄って、彼女から1メートルくらい離れたところで立ち止まる。
見詰め合っても、あなたの目はあたしを映してくれない・・・。
言い知れない悲しさが、あたしを無意識的に笑顔にした。
「・・・ごとうさん・・・覚えてますか?この能力・・・ごとうさんに手伝ってもらって、開花したんですよね・・・」
自分の腕に視線を落としながら、独り言のように。
正直、自分でも気持ち悪いと思ったこの身体。
全身に解読不明な文字が浮かび上がる、この身体。
最初自分が化け物になってしまったみたいで、怖くて、気持ち悪くて・・・。
あたしは泣きながら、内容物を吐き出したものだった。
「あたしが、この能力で悩んでるとき、後藤さん言ってくれましたよね?『自分をしっかり持て』って。短い言葉やったけど、すごい、救われたんです」
物陰に隠れ、一人声を押し殺し泣いていた。
- 652 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/14(金) 22:18
- そこに来てくれたのが後藤さん。
あなたはそう言ってあたしを優しく抱きしめてくれましたよね?
すごく嬉しくて、本当に救われました。
それから常に傍にいてくれたあなた。
あたしの中の憧れという気持ちは、いつしか愛しいという気持ちに変わっていた。
それからあたしは、
あなたに会うたびに心臓の鼓動がはちきれそうなくらい早くなり、
外界の音を遮断され、
視界にはあなたしか映さなくなっていた。
そこであたしは勝手に自分に課題を設けた。
『この能力が自由自在に使えるようになったら、後藤さんに告白する』と。
- 653 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/14(金) 22:18
- 別に深い意味は無かった。
ただ、少しでもいいから、強い後藤さんに近づきたかったんだと思う。
それからあたしは一生懸命、本当に寝る間も惜しんで特訓をした。
やっと自由に扱えるようになった時、後藤さんはあたしの前から姿を消した。
儚く、寂しい、美しい笑顔を残して。
「あの後、あたし、後藤さんを追って脱走したんですよ。まだ・・・7歳のときでしたね。ませた子供でしたよ。そんな年で人を本気で好きになるなんて・・・」
言ってから苦笑し、後藤さんの目を覗き込む。
あたしには分かります・・・後藤さん・・・悲しいんですね?
「・・・今、解放してあげるからの」
地を蹴り、跳躍。
5メートルほど離れ着地したけど、そんな距離、あたしたちには無に等しい。
- 654 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/14(金) 22:19
- 後藤さんを見つめ、思わず緩んでしまう頬を強く叩いて気合を入れる。
そして目を瞑り、カッと見開く。
途端、あたしを包むように吹き出てくる白い炎。
あたしが出せる最高の熱。
「イきまス・・・」
文字が浮かび上がる不気味な身体。不明瞭な声。
こんな身体になっても、あたしはもう泣き喚いたり、暴れたりしない。
後藤さん・・・あなたに言われた、『自分をしっかり持て』。
これがあたしを支えていてくれているから。
―――後藤さん・・・あなたがいなかったら、高橋はとっくのとうに壊れていましたよ。
後藤さんはあたしを救ってくれた。
だから今度はあたしが救う番。
「ハぁッ!!」
掛け声と共に身を沈め、地を蹴った。
ぐんぐんと縮まる、あたし後藤さんとの距離。
―――例えこの命燃え尽きようとも、あなたを救ってみせます・・・。
- 655 名前:我道 投稿日:2004/05/14(金) 22:23
- はい、短すぎですね・・・スイマセン・・・_| ̄|○
>>645 19様
すいません・・・あんまりことが進んでいなくて・・・。
あと吉澤さんたちですが・・・ちょっとあっさりしすぎましたかね(苦笑)?
>>646 名も無き読者様
思わせぶりなことを書いてしまい、申し訳です_| ̄|○
この話、一応もう少しで完結となる予定ですが、ここでは容量が足りないかもしれないんです。
もし立てたら、お知らせしますのでよろしくお願いします(ペコリ)
- 656 名前:我道 投稿日:2004/05/14(金) 22:24
- 一応隠します
- 657 名前:福井弁講座 投稿日:2004/05/14(金) 22:27
- つるつるいっぱい:水がコップいっぱいにたまっている様子だそうです。
愛)<なんで、そんなのを選ぶんやよ・・・。
- 658 名前:19 投稿日:2004/05/15(土) 01:59
- 今回は高橋訛ってないですね。
このシーンに福井弁は不向きかの
- 659 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/15(土) 14:55
- 更新お疲れ様です。
後藤さんってば素晴らしい方だったんですねぇ。。。
高橋さん、頑張って救い出してあげてくださいまし。
作者サマ、短くても内容がアルので大丈夫デスぜ?
続きも楽しみにしてます。
- 660 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:11
- 白い炎をまとい繰り出される拳を、流れるような体捌きでかわしていく後藤さん。
操られてはいるけど、その強さは健在。
まだ能力も使ってないのにあたしの本気の攻撃を見極めてる。
でも諦めるわけにはいかん。
―――後藤さんを救うって決めたんや。
その決心があたしの身体を突き動かす。
「フっ!」
突き出した拳を、半歩横にずれてかわす後藤さん。
そこを狙い、突き出した拳を開いて横に薙ぐ。
後藤さんは当然のように後方に跳躍したけど、その胸には一筋の裂かれた後。
傷口は炭化しており、僅かな煙を上げるだけで、血は出ていない。
かなり浅い傷であっても、痛みはあるはず。
でも後藤さんはその傷に眼もやろうとはしない。
ただ黙して、生気のない目でこちらを見つめているだけ。
胸の奥がズキリと痛み、そして振り切った腕も痛んだ。
- 661 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:12
- 「・・・」
後藤さんに傷を負わせた腕は、ズタズタに引き裂かれていた。
鮮血が流れ、噴出し床に落ちる。
視線を後藤さんに移した。
変貌。
まさにその言葉にふさわしいことが、あたしの目の前で起きている。
背中の肩甲骨辺りから生え出てきた漆黒の翼。
綺麗な栗色の髪をかき分け、渦を巻いたような形をした黄色の角が顔を出す。
全身に浮かぶのは、あたしと同じ解読不明の文字。
あれが・・・後藤さんの、獣化・・・。
初めて見る思い人の獣化後の姿は、獣とははるかにかけ離れた姿。
まさしく、それは・・・。
「アくま・・・」
カッと後藤さんの双眸が開かれた。
目は銀色に染まり、瞳は細く鋭く変化している。
全身からは黒いオーラが立ち上り、あたしの全身を震わせた。
後藤さんが体勢を低くし、身構える。
あたしも同じように身を屈めた。
その体勢のまま、暫くの静寂が流れる。
- 662 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:12
- 「シっ!」
それを破ったのはあたしのほう。
床を蹴り、後藤さんめがけて疾走する。
本気を出していることもあり、腕の怪我は完治していた。
「ハぁッ!」
後藤さんの手前で跳躍し、宙で体を縦に回転させる。
その反動を利用しての踵落し。勿論、白い炎をまとわせて。
後藤さんの脳天を狙ったそれは、しかし目標にあたることは無く、空しく床を砕き炭化させるだけにとどまった。
急いでその足に力を入れ、前方に跳んだ。
動きを止めず、振り向いてすぐに走り出す。
視線の先には床に右手をついた後藤さん。
後藤さんが触れていたところ――つまり、あたしの足が突き刺さっていたところは、音も無く球型に削り取られていた。
その様子を一瞥しながら、右手の爪をたて、横に薙いだ。
後藤さんは身を引いて避けるも、そこに立て続けに爪で切り込んでいく。
縦に、横に、斜めに。
とにかく反撃の隙を与えさせないように。
後藤さんはその全てを紙一重でかわしている。
- 663 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:13
- 不意に後藤さんの姿が掻き消えた。
腕を振るうのをやめ、部屋の中をぐるりと見回す。
すると突然、右手側に寒気を感じた。
慌てて左に飛ぶものの、コンマ一秒遅かった。
「グ・・・っ」
片膝をつき、こちらを見下ろしている後藤さんを睨みつけた。
汗一つかいていない、涼しげな表情。
…って言うか、表情はやはり無。
あたしは顔をしかめ、自分の右腕に目をやる。
肘から先が無くなっていた。
あさ美のように消したわけやない。ごっそりと引き千切られたいうのが正しい。
断面からは水道から出る水のように、勢いよく血が噴き出している。
あたしは自分の炎でその断面を焼いた。
ジュッと短い音がし、離すともう炭化していて、血は止まっていた。
噴き出した脂汗を拭いながら、立ち上がり身を沈める。
- 664 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:13
- ―――・・・迂闊に近づけん・・・。
身をもって知ることとなった、後藤さんの恐ろしい能力。
昔本人から聞いたことはあったけど、子供ゆえによく理解していなかった。
『あたしね〜、なんか“くーかんをあやつれるのーりょく”なんだって?』
言った本人でさえ首を傾げた、この能力。
今となっては、いやと言うほど理解できる。
“空間を操れる”
それはつまり、どこでも空間を伝って移動できるってこと。
距離なんか本当に関係なく。言ってみれば、自分が好きなときに海外へいけるということ。
それと、その空間に干渉すれば色んなことができる。
たとえば、空間に裂け目を造ればそこは一種の真空状態みたいになる。
そこに手を突っ込めば、さっきのあたしの腕みたいにズタズタに引き裂かれるというわけや。
んで、あたしの腕が契られたのもその応用。
空間に穴を開けることでできる。
裂け目くらいなら規模が小さいから真空状態ですむけど、穴ぼこはそうもいかん。
空間がでかい傷を修正するときのエネルギー量は、半端なくいっけぇ。
裂かれるだけやなくて、巻き込まれて弾け飛んじまう。跡形も残さず・・・。
はっきり言って、負けるのなんか目に見えてわかっとる。
何をやらせてもほとんどそつなくこなしてしまう後藤さん。
会社ん中でも――咲魔夢霧を除いて――実力は一番やった。
そんな超人みてな人と、ほとんど人並みにしかことをこなせないあたしが敵う道理なんて、よく探しても見つかるわけない。
- 665 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:14
- そんなことは百も承知。
それでもあたしは諦めない。
「ゼッたイに、アなタのメニ、光ヲモドシテミセッけの!!」
不明瞭な声で叫んであたしは再び疾走した。
あたしに向かって右腕を突き出す後藤さん。
でもあたしには何も起こらない。
―――!キョリが・・・!
最強で、完璧な能力というものは、無い。
いくら強い力でも、代償や制限があったり、使うための条件があったりする。
後藤さんの能力は『距離の制限』みたいや。
自分の近くにきた奴じゃないと、その強力な能力も意味を持たないらしい。
「ヤッタら!」
もう後藤さんの懐まで入り込んでいたあたしは、慌てて後ろに跳躍した。
その瞬間、あたしの立っていた床が音も無く、えぐられた。
「ふッ!」
着地と同時に上半身を後ろに捻る。
左腕に白い炎が巻きつき、燃え上がる。
- 666 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:15
- 「ダぁッ」
気合の掛け声と共に、上半身を勢いよく戻す。
それと同時に左腕を後藤さんに突き出した。
すると左腕に巻きついていた炎は、まるで火炎放射の如き勢いで後藤さんに向かっていった。
本来なら床や壁なんかは溶けてなくなっている温度やけど、攻撃対象を後藤さんに指定しているので無駄な破壊はもたらさない。
白い炎は一直線に進んで、後藤さんを飲み込もうとしていた。
そしてついに、悪魔を飲み込んだ。
それを見計らって炎を止める。
殺す気なんか毛頭ない。あたしは後藤さんを救うのが目的やからの。
ただ、気絶させるだけ。
あたしの攻撃はそれを念頭においてのもの。
スッと左腕を下ろし、ため息を一つ。そして元の姿に戻った。
脂汗がドッと噴き出し、一気に上ってくる疲労感。
でもそれはすぐに焦燥に変わり、後悔に変わった。
「ぐア・・・ッ」
左腕に走った鋭い痛みに顔をしかめ、前方に跳躍した。
でもバランスを崩して、着地は失敗。
両腕を失ったあたしは、額を床に当て起き上がった。
肩で息をしながら振り向いてみると、変わらない虚無を宿した双眸。
- 667 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:15
-
―――・・・迂闊やった。
後悔しても、したりない。
後藤さんは空間を操れるのに・・・どこでも自由に移動できるのに・・・。
後藤さんの能力の制限を見つけて、頭の片隅で浮かれ取った・・・っ!
浅はかで、弱くて・・・あたしは本当に後藤さんを救うことができるんやろか?
「うぶッ!」
全く無駄のない動きで、あたしに近づいてきた後藤さん。
疲れと、自分への情けなさであたしは動くこともできずに、放たれた回し蹴りによって宙を舞った。
壁にぶつかり、床に落ちるとき、後藤さんに首をつかまれ持ち上げられる。
あたしはも足をじたばたさせてもがくものの、後藤さんは微動だにしない。
あたしの首を掴んだ手に、ゆっくりと力がはいっていく。
じんわりと、まるで焦らすように・・・。
「ウ・・・ぐァ・・・」
くぐもった呻きをもらす間にも、頚動脈が締め上げられ、意識が段々と遠のいていく。
霞んでくる後藤さんの整った顔。
こんなに近くにいるのに、すごく遠く感じる。
やっぱ、あたしじゃ後藤さんは救いだせんよ・・・。
- 668 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:16
- ごめんあさ美、麻琴、凶子さん。
約束・・・破ることになるわ・・・ほんと、ごめん・・・。
スッと瞼が落ち、身体中から力が抜けた。
―――・・・もう、死んだかな?
そう思った瞬間、全身を襲った鈍い衝撃に痛み。
「あぐ・・・うあっ!あああ・・・」
あたしのではない呻き声。それも、すごく苦しそう。
「た・・・か、は・・・し・・・」
ハッとして、勢いよく目を開けた。
久しぶりに聞く、あなたの澄んだ声。
久しぶりに見る、あなたの綺麗な瞳。
思わず、「あぁ・・・」と声が漏れた。
「ご、とう、さん・・・?」
「た、か・・・はし・・・逃げて・・・」
頭を抑え、辛そうに、悲しそうにそう呟くあなた。
それは紛れもなく後藤さんで・・・あたしが思いを寄せた後藤さんで・・・。
壁に寄りかかり立ち上がって、ふらふらと苦しそうに呻く後藤さんに近寄っていく。
- 669 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:16
-
「・・・こないで!」
その途中であがった、後藤さんの悲しそうな叫び声。
あたしはビクッと身を震わせて、その場に立ち止まった。
後藤さんは頭を押さえ、歯を食いしばりながらおぼつか無い足取りで後退していく。
「から・・・だの、自由が・・・きかないんだ・・・近づいたら・・・殺しちゃう」
ついに耐えられなくなったのか、後藤さんは立ち止まって片膝をついてしまった。
そして、やはり苦しそうに続ける。
「だから・・たか、はし、にげて・・・あた、し・・・たかはしを、ころ・・・したくない・・・」
小刻みに痙攣する、後藤さんの身体。
それを見てあたしは下唇をかんだ。
情けない・・・っ。
後藤さんだってあんなにも一生懸命闘ってるのに。
しかも、あたしを助けようと・・・。
- 670 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:17
- それなのに、あたしは何やってんや・・・っ!
弱いからって、何も効かないからって諦めて・・・皆との約束も破って・・・。
悔しさと情けなさで涙が出た。
唇の皮が破れて血が流れ、一筋の紅い線をつくる。
あたしは口元を真一文字に引き結ぶと、無言で後藤さんに歩み寄った。
「だめっ!たかは、し!こな・・・いで!」
それに気付いた後藤さんは、勿論静止しようと叫ぶけど、あたしはそれを無視して歩を進める。
やがて後藤さんとあたしの距離はなくなり、あたしはしゃがみ込んだ。
「後藤さん・・・」
辛そうで、悲しそうな色がこもった後藤さんの瞳。
あたしはそれを覗き込んで、やんわりと微笑んだ。
「今、助けてあげますっけの・・・」
「たか・・・はし・・・?」
言い終わると同時に、お互いの額をあわせる。
後藤さんの両腕が再びあたしの首を掴んだ。
「やだ・・・っ。やめ、て・・・はなして・・・」
後藤さんは悲痛な声をあげ、どうにか手を離そうとしてくれているみたいだけど、身体は意思に反してあたしの首を絞め続ける。
「にげ、て・・・たかはし!にげてぇ!!」
- 671 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:17
-
後藤さんの目から零れ落ちる、綺麗な雫。
やめてくださいよ・・・あなたには、あののんびりした笑顔が一番似合うんですから・・・。
「ぜって・・・助けます!」
残った力を振り絞り、あたしは獣化した。
見える・・・あなたを苦しめるものが。
あたしには、見える!
「あぁアァぁぁぁぁぁぁ!!」
あたしたちを中心として、舞い上がる白い炎。
後藤さんは目を見開き、あたしを見つめている。
その様子を見て、あたしは思わず頬が緩んだ。
―――待っててください。今、後藤さんを苦しめてるヤツを燃えカスにしてやるでの・・・。
「りゃあぁぁぁぁァァァ!!」
一際大きく叫ぶと、後藤さんは一度顔を苦痛に歪ませその場に倒れこんだ。
- 672 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:18
- それを確認すると、あたしはゆっくりと立ち上がり、備え付けてある窓の一つに向かって歩いていく。
未だ燃え続ける炎は、段々とあたしの身体をも飲み込んでいく。
燃え尽きてしまわぬうちに、窓を開け、後藤さんを振り返った。
そして苦笑。
―――やっぱ、あたしだけの力じゃ後藤さんを救うことは無理やったね。
もう所々燃えてしまっている右足を窓に掛けた。
―――あさ美、麻琴、凶子さん。・・・ごめん。どっちにしても、約束、守れんくなった・・・。
苦笑を消さないまま、あたしは窓から飛び立った。
下を見れば、広大な青い海が広がっている。
海は人類の生まれた場所であり、帰る場所でもある・・・。以前どこかでそう聞いた事がある。
あたしは人によって創られたんやけど、海はそんなあたしでも受け入れてくれんのかな?
- 673 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/15(土) 23:18
-
視界が白くなっていくその瞬間でも、あたしはやっぱり苦笑を残した。
- 674 名前:我道 投稿日:2004/05/15(土) 23:24
- 最近マジスランプの我道です_| ̄|○×∞
>>658 19様
訛り・・・なかったですねぇ(苦笑)
入れたほうが良かったかな・・・?まあ、後悔先に立たずです(←バカ
>>659 名も無き読者様
後藤さん・・・いい人です・・・。
高橋さんも頑張ってくれました(カコケイ←笑
内容・・・ありあますか?ありがとうございます!
そう言っていただくと、本気で救われます(涙
- 675 名前:我道 投稿日:2004/05/15(土) 23:24
- 一応隠します
- 676 名前:我道 投稿日:2004/05/15(土) 23:27
- バトルシーン・・・とも呼べるか分からないもの。短くて、更に下手すぎ・・・。
もう駄目だ・・・。紺野さん消してください・・・。
紺野)<・・・消す価値もありません。
我道)<・・・(カキカキ←遺書書き中)・・・
- 677 名前:19 投稿日:2004/05/16(日) 02:06
- あ、訛ってるw
スランプってのはスゴイ人が陥るもののコトだって中学の保健の教科書に書いてありました(ダカラナニ?
あの・・・へこまずに頑張って下さい
てか後藤さんつえーっ!ナンバー2でこの調子だと夢霧さんはどれだけ強いんだろ
- 678 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/16(日) 09:30
- 更新お疲れ様です。
いや不吉な書面を書かないで作者さん・・・。(汗
スランプって言いますが全然上手いですってば。
切ないねぇ。。。
でも次も楽しみにしてます。
- 679 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:16
- ◇ ◇ ◇
- 680 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:17
- ―――死んだ後、ヒトはどうなるんやろか?
―――天国や地獄は本当にあるんやろか?
ゆっくりと目を開けてみた。
何故かのんびりと、自分が死んだことを受け入れながら。
でも、目の中に飛び込んできたのは天使でも悪魔でもなかった。
「バカ高橋・・・」
あたしの思い人で、あたしだけの女神様。
彼女はそう弱々しく呟いて、一筋涙を流した。
あたしは何が起こったのか分からずに、目を瞬かせ辺りを見わたす。
見たことのある天井に、所々がえぐられた床。
向こう側には鉄の扉。
ここは・・・さっき後藤さんと闘ってた場所・・・。
「え・・・どうして・・・?あたし、燃え尽きたはずじゃ・・・」
「うん。あたしが行ったときはもう、燃え尽きる寸前だった」
- 681 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:17
- そう言ってあたしだけの女神様は、悲しそうに微笑んだ。
ふと自分の身体に視線を移した。
―――ありゃりゃ・・・。
なぜかあっけらかんと、のんびりとそんなことを思った。
炭化してしまった両腕、両脚。
五体不満足街道、まっしぐらな今の姿。
幸い、傷口が炭化して血があまり出なかったから、こうやって生きてられるんやろな。
「あの後、あたしすぐ目覚ましてね。窓から外見たら高橋、らしきヒトが燃えて、落下してるわけ。もう、ごうごうと。即空間渡ってさ、高橋んとこまで行って、炎だけ空間干渉でぶっ飛ばして・・・」
窓の外に広がる、雲ひとつ無い青い空を見ながら後藤さんは淡々とそう言った。
あたしは俯いて、苦笑。
また、後藤さんに助けられてもうた・・・。
「でも、助かったよ。高橋がいなかったら、あたしずっと操り人形だったからね」
後藤さんも苦笑いを浮かべる。
あたしは即座に首を振った。
- 682 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:18
- 「・・・あたしは何もしてません。後藤さんが強いから・・・。あたしだけだったら、あん時、確実に死んでました」
「高橋・・・」
ちょっと沈んだ気持ちで天井を見上げた。
無機質で、冷たい感じのする天井。
操られていたときの後藤さんのイメージに、どこか似ていて、フッと笑ってしまった。
あたしだけじゃ・・・何もできない・・・。
結果的に後藤さんは、あたしの知っている後藤さんは戻ってきた。
でも、それは後藤さんの力によるものが8割以上を占める。
後藤さんは強くて、あたしは弱い。
後藤さんは何でもできて、あたしは何もできん。
無能なあたしと、有能な後藤さん。
つりあう訳なんか・・・元々、無かったんや・・・。
見上げている天井が、霞みだし、頬に暖かいものが流れる感触。
「ほんと、バカだよね。高橋は・・・」
- 683 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:18
- スッと、後藤さんの右手があたしの髪を撫で、左手が涙を拭ってくれた。
優しく、暖かい手つき。そして、柔らかな口調と、ふんわりした笑顔。
あたしが見たかった、後藤さんの本当の笑顔。
「高橋じゃなかったら、あたしは戻って来れなかったよ。高橋がいるから、あたしは強くなれるんだ。何もしてなくなんか無い。高橋は、何時でもあたしに力を分けてくれてる」
その優しい言葉が、あたしの心にえっれ響いて・・・。
再び、止まったと思ってた涙が溢れ出した。
「ああ、もう。泣き虫だなぁ、高橋は」
「ごと・・・ごと、うさんの・・・せいです・・・よ」
困ったように笑い、何度も何度も涙を拭ってくれる後藤さん。
泣き顔を隠したくても、隠せない。
後藤さんを抱きしめたくても、抱きしめられない。
四肢が無いことって、こんなにももどかしかったんや。
- 684 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:18
- ふと視界が暗転した。
ふくよかで、暖かい人肌の感触。
目だけを動かして見上げてみると、優しく微笑んだ後藤さん。
そこでようやく、あたしは後藤さんの胸に埋もれているんだと理解した。
「ごとうさん・・・」
スッと目を瞑り、静かに呟く。
直後に「ん?」と言う声が聞こえてきて、あたしは続けた。
「・・・ずっと前から言いたかったことがあるんです」
そこで再び後藤さんを見上げた。
迎えてくれるのは、その優しい双眸。
無機質な人形だった後藤さんは、もういない。
その瞳を見上げながら、あたしははっきりと自分の思いを口にした。
「好きです」
- 685 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:19
- こんなときに言っても良いんやろか?
でも、こんなときだからこそ言えるんかもしれん。
後藤さんはあたしの言葉を聞いても、たいして驚きもせず、あたしを持ち上げた。
ちょうどお互いの目線がぶつかる高さ。
あたしはだんだんと後藤さんに引き寄せられ・・・
「・・・あたしもだよ」
唇と唇が触れるだけの口づけをし、あたしたちは離れた。
そして後藤さんは再びあたしを抱きしめて、優しく呟いた。
視界が再び霞みだし、唇が震える。
いつの間にか、あたしは顔を埋めて嗚咽を漏らしていた。
「・・・えっ、うぅ・・・くぁ・・・」
「ごめんね・・・10年前、逃げた後高橋と合流しようと思ってたんだけど、咲魔夢霧を甘く見すぎてた。すぐに捕まっちゃって、それから・・・ほんと、ごめん」
謝罪しながら、ぎゅっと力をいれて抱きしめてくれる後藤さん。
心地よい強さ。
あたしはその中で、必死に頭を振った。
べつに、ええ・・・。
今こうしてあたしの傍にいてくれるんやから、それで・・・。
そういう意思表示。
「ありがと・・・ごめん」
一言めにお礼、二言めに謝罪の言葉を載せる。
あたしはコクコクと頷いていた。
- 686 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:19
- ******
- 687 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:19
-
「臨界点を超えっと、自分の身体まで燃やされてまうんです」
壁に背を預けて座る後藤さん。
胡坐をかいている足の間に、すっぽりと納まっているあたし。
二人でボーっと窓の外の空を見ながら、あたしはポツリと呟いた。
「正直良かったですよ。燃えるのが下からで・・・。上からやったら、髪の毛無くなってましたからね」
「んあ・・・その前に頭燃え尽きて、昇天してるんじゃ・・・」
「あ、そっか」
二つの笑い声が重なる。
でも、それはすぐに止んで、静寂が流れる。
- 688 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:20
- 「後藤さん・・・」
それは別に居心地の悪いものじゃなかったけど、あたしは口を開いた。
だんだんと顔が熱くなるのを感じる。
後藤さんは無言で待ってくれてるみたい。雰囲気で分かる。
あたしは大きく深呼吸をして、叫ぶように言葉を吐き出した。
「こ、この戦いが終わっても、い、一緒に―――」
「うん。一緒にいよ」
あたしの言葉をやんわりと遮り、繋いでくれた後藤さん。
鼻の奥がツーンとして・・・あ、ヤバ・・・。
また、泣いてまう・・・。
「ほれ、泣くな泣くな」
「うぅ〜・・・」
…あたし、いつからこんな泣き虫になったんやろ?
でも、ま、ええか。
泣きたいときには泣く。人間我慢が一番よくないからの。
「・・・うれし泣きですよ」
「あは。笑いながら涙流してる」
お互い顔を見合い、笑った後、二回目のキスをした。
やっぱり、まだ触れるだけの軽いキス。
でも、あたしにはそれで十分。
- 689 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:20
-
お互いまだ不慣れなので、照れくさそうに視線が宙を泳ぐ。
すると突然、部屋全体が・・・いや、建物全体が轟音と共に揺れた。
パラパラと落ちてくる、天井の破片。
後藤さんは慌ててあたしを抱き寄せると、立ち上がって天井を見上げた。
「・・・闘ってる」
あたしもその視線を追い、天井を見上げ呟いた。
無言で頷く後藤さん。
まだ戦いは終わってない。
そのフレーズが頭に浮かび、あたしは口元を引き締め、
「行きましょう、後藤さん」
強い決心の意と共に、言った。
後藤さんも、その瞳に強い光をともして頷いた。
くるりと身体の向きを変え、エレベーターに向かって走っていく。
扉をスライドさせ、開く。
同時にチッと短い舌打ち。
- 690 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/16(日) 13:22
- 「さっきの振動でワイヤが切れたね」
…脆いなあ。
そんなことを思いながら、下を覗き込んだ。
ワイヤの切れたエレベーターがグシャグシャに変形して、1階に止まっていた。
「・・・しょうがない」
ため息と共に呟かれたその言葉。
次の瞬間、あたしたちの身体は宙に浮いていた。
「この羽、飾りじゃないんだよ」
悪魔の姿に不釣合いな無邪気な笑顔。
後藤さんは背中の黒い翼を羽ばたかせながら、あたしにそう言った。
あたしはただただ驚くばかり。
「あは。高橋、目ぇ見開きすぎ」
楽しそうにあたしの額を小突く後藤さん。
でもそれも一瞬のこと。
すぐに真剣な表情に戻すと、上を見上げ、
「・・・行くよ」
短くそう言った。
「はい!」
あたしも口元を引き締め、はっきりとそう返事をした。
―――待っててや。今、行くからの!
強い意志を持ちながら、あたしたちは急浮上していった。
- 691 名前:我道 投稿日:2004/05/16(日) 13:29
- 読者様のレスにマジでウルッと来てしまった我道です。
>>677 19様
あ、ありがとうございます!(涙
そう言って頂けると、実に嬉しく、涙してしまいそうでした(w
>スランプってのはスゴイ人が陥るもののコト
ほぉ〜、そうなんですか(感心
まあ、私は違いますよ。ただのアホなだけです(w
>>678 名も無き読者様
ありがとうございます!!
もう、嬉しくて昇天してしまいそうです!(←アフォ
ちなみに遺書は、昨日凶子さんに鼻紙として使われてしまいました。
切ない・・・そう感じてくれて嬉しいです。いや、本当に・・・(涙×366
- 692 名前:告知 投稿日:2004/05/16(日) 13:33
- 今回でこのスレでの更新を最後にさせていただきたいと思います(ペコリ)
なるべく、一スレで間に合わせたかったんですが、まだもう少し続きそうです。
準備が出来次第、お知らせしますのでよろしくお願いしますです(平伏
今までレス下さった皆様、青版の作者様、ありがとうございました。
- 693 名前:キャラトーク 投稿日:2004/05/16(日) 13:41
- 我道)<次はどの版でやりましょうかね・・・。
紺野)<決まってないんですか?
我道)<うーん・・・スレ数で言ったら緑か銀に立てようと思っているんですが・・・。
麻琴)<青版っていう選択肢はもう無いの?
愛)<・・・もう思わせぶりなこと書いてしまったけの・・・。
凶子)<あとどのくらい続くんだい?
我道)<・・・さあ?
・・・・・・
チュイーン!
我道)<ギャアアアアアア!!!(身体真っ二つ)
田中)<・・・チェーンソーなんかどっから出したとよ?
亀井)<100レスはいかないと思います。よろしくお願いします。
道重)<れーなー、えりー、鏡知らないー?
後藤)<んあ〜・・・
- 694 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/17(月) 18:04
- 更新お疲れ様です。
キャラトーク、、、(汗
ていうか最後の人トークしてn(ry
何はともあれ次スレも楽しみについていきまつww
- 695 名前:19 投稿日:2004/05/18(火) 05:36
- さ、つぎつぎ
□⊂(・Δ・≡川o・Δ・)つ⌒□<あー忙しい!作者の引っ越しがすんだばかりなのに
- 696 名前:我道 投稿日:2004/05/18(火) 21:54
- http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/white/1084883657/
↑新スレです。
返レスはその時で・・・よろしくです。
- 697 名前:我道 投稿日:2004/05/19(水) 21:57
- 24時間が
- 698 名前:我道 投稿日:2004/05/19(水) 21:57
- 経過したので
- 699 名前:我道 投稿日:2004/05/19(水) 21:58
- あまり意味は無いですが
- 700 名前:我道 投稿日:2004/05/19(水) 21:59
- 落とします。
青板の作者様の方々、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
- 701 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 15:02
- 君の目に、ただ光る雫―――
ああ、青天の霹靂―――
どうしてあんなことしか言えないんだろう?
どうしてあたしはこんなにも不器用なんだろう?
今更だけど、自分で自分が憎らしい。
- 702 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 15:03
- 痛みだけなら二等分―――
痛みは全部彼女が引き受けていた。
あたしは何もできず・・・してやれず、ただただあの子を邪険にした・・・。
そして、結果は青天の霹靂。
あの子の笑顔はとうとう崩れ、光る雫が流れ出した。
それでも、あたしはなにもできず、してやらず。
冷たい瞳であの子を睨み、その場を立ち去った。
- 703 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 15:04
-
「・・・バカや・・・」
今更ながらに自己嫌悪。
冷たい雨が、あたしの身体を打ちつける。
先ほどまでは雲ひとつ無かったのに・・・。
空まで青天の霹靂だ・・・。
- 704 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 15:05
-
「・・・あたしは、大バカや・・・っ」
それは雨なのか、涙なのか・・・。
そっと頬に触れてみるけど、やっぱり分かるわけも無く・・・。
雨は、だんだんと強さを増す。
- 705 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 15:06
-
「・・・な、んで・・・も・・・っと、ひぐっ!やさ、しく・・・」
言葉が続かない。
視界が霞む。
あの子の呆然と泣き出した表情が、脳内スクリーンに映し出された。
再生、終了、巻き戻し・・・。
再生、終了、巻き戻し・・・それの繰り返し。
- 706 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 15:08
- 好きだと言われ、付き合いだしたのはもう1ヶ月も前。
了承したときの嬉しそうな、でもやっぱり控えめな彼女の笑顔。
内心はすっごく嬉しかった。
飛び上がって、叫んでしまいたかった。
でも、あたしのつまらないプライドがそれを邪魔した。
- 707 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 15:09
- 「ほん・・・と、ぐすっ・・・つまらなすぎや・・・」
同じ高校で、同じクラスで、勉強でも運動でもトップクラスにいたあの子。
さらにその控えめな性格がうけ、クラスでもかなりの人気者。
運動はできても、勉強は人並みのあたし。
あたしには無いものをたくさん持っているあの子に、いつしか嫉妬していた。
- 708 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/29(土) 17:01
- 更新お疲れさんです。
おぉ、AKG(略称適当)ですか。
自分も結構好きですw
何やら切ねぇですな。。。
でもグーですw
- 709 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:28
-
- 710 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:29
- 息苦しい・・・。
頭痛い・・・。
吐き気がする・・・。
体調は、はっきり言わなくても、最悪。
自宅のベッドに身を預け、天井を仰ぎながら苦しみと戦っている。
- 711 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:30
- 39度4分・・・。
ほとんどインフルエンザみたいな熱の高さに呆れ、倒れたのはもう4時間前のこと。
あんな雨の中、1時間以上も突っ立ってたんじゃ風邪ぐらい引くというもの。
阿呆やのぅ・・・。
チラッと。
首だけ動かし、壁にかかる時計を見てみる。
- 712 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:31
- 長針と短針が重なり、共に12を指している。
学校は・・・4時間目の途中だろうか。
あの子はちゃんと学校へ行ったかな?
ボーっとする頭に浮かんでくるのは、ぽろぽろと涙を流すあの子の姿。
頭に一際鋭い痛みが走った。
- 713 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:32
-
「・・・くそ・・・っ」
情けなくて、
悔しくて、
自分が憎くて・・・。
もう、このまま死んでしまえばどんなに楽だろう?
涙が頬を滑り落ち、枕を濡らす。
あの子はどんな気持ちだった?
今のあたしよりも・・・苦しんでた?
- 714 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:33
-
考えて、涙を流しながら自嘲の笑みを浮かべる。
何言ってんの?
あたし、バカ?
正真正銘、救えないバカ?
苦しんだに、決まってる。
あんなに大きな目を更に見開いて・・・。
その目に似合った、大粒の涙をポロポロと流して・・・。
- 715 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:34
-
今のあたしの苦しみなんか・・・ゴミみたいなもの・・・。
それなのに・・・何が苦しんだ?だよ・・・っ。
情けなくて、
バカみたいで、
恥ずかしくて、
掛け布団を頭までかぶり、唇を噛み締めた。
- 716 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:35
-
張り付いて消えない、あの子の笑顔と涙を流す顔。
あたしは、こんなにもあの子に依存してしまっているのに・・・。
あたしのつまらないプライド・・・。
それがあの子を認めるのを拒んで・・・。
結果は・・・。
- 717 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:36
- 「・・・・・・もう・・・」
布団の中で、一人呟く。
そこで更に自分を嘲った。
誰もいないのに・・・、
ただの独り言なのに・・・、
何故こんなにも、この言葉を紡ぐことを躊躇うのか?
ここは自宅。
あの子に会える、学校じゃない。
- 718 名前:君という花 投稿日:2004/05/29(土) 21:37
- なのに、どうして、こんなにも胸が締め付けられるんだろう?
それは決して風邪のせいだけじゃ、ない。
「・・・もう、終わったほうがええのかな?あたしたち・・・」
布団から顔を出し、天井に向かって言った、
短い、別れを告げる言葉。
やっぱり、胸が押しつぶされているみたいに痛んだ。
- 719 名前:我道 投稿日:2004/05/29(土) 21:44
- >>708 名も無き読者様
はやっ!見つけるの早いですねぇ(驚嘆
なんというか、恥ずかしいやら、嬉しいやら・・・。
アジカン(私はこう略します)ご存知ですか?いや〜、なんか最近はまっちゃって〜。
一日何回も聞いてしまうんです。
ああ、崩壊アプリファー欲しいなあ(独り言です。スルーしてください)
ご感想ありがとうございます。
本スレのほうも近々更新しますので、よろしくです(ペコリ)
- 720 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/30(日) 14:19
- 更新お疲れ様です。
えぇ、某スレでの一件で学習し、
完結及び引越ししたスレも徹底チェックですよw
崩壊・・・タイトルは知ってますが聞いた事はないッスねぇ。。。
って反応しちゃったよ、スルーしてって言われたのに。
では本スレ同様、楽しみにしてますw
- 721 名前:君という花 投稿日:2004/06/01(火) 06:03
- つまりただそれ―――
砕け散っただけ―――
砕け散ったのかな?
うん・・・
それがいいや。
- 722 名前:君という花 投稿日:2004/06/01(火) 06:04
- 砕け散って消えてしまえば、
あの子も苦しまずにすむし・・・。
でも、
それでも、
それが良策だと分かっていても、
涙を流してしまうあたしは、
ジコチュー過ぎますか?
- 723 名前:君という花 投稿日:2004/06/01(火) 06:05
-
「・・・なんや、この顔・・・」
自宅療養生活も3日目に突入。
いい加減熱も下がってきて、
お風呂に入ろうとした矢先のこと。
鏡を見て、思わず顔をしかめた。
- 724 名前:君という花 投稿日:2004/06/01(火) 06:06
- 「・・・出目金か・・・」
紅く腫れ上がった両方の目。
その下には、何故か隈。
頬には涙の後。
髪もぼさぼさで、
とにかく・・・酷いの一言。
- 725 名前:君という花 投稿日:2004/06/01(火) 06:07
- 「・・・阿呆みたいや・・・」
自分を蔑むように見て、
パジャマに手を掛ける。
ボタンを一つ一つ外していくときも、
考えるのはあの子のこと。
しつこい・・・。
しつこすぎる・・・。
- 726 名前:君という花 投稿日:2004/06/01(火) 06:08
- そう思っても、
勝手に浮かんでくる、あの子の姿。
大きくて、
吸い込まれそうなくらいの漆黒の瞳。
肩ほどまでの、
綺麗なダークグレーの髪の毛。
ふっくらとして、
気持ちよさそうな頬っぺた。
また、涙が浮かんできた。
- 727 名前:君という花 投稿日:2004/06/01(火) 06:09
- 「くそ・・・っ」
ザバァ・・・
洗面器に入れたお湯を頭からかぶり、
湯船に鼻から上を出し、もぐりこんだ。
それでも、
まだじんわりと視界が歪む。
「くそっ、くそっ、くそっ・・・」
- 728 名前:君という花 投稿日:2004/06/01(火) 06:10
- 張り付いて取れない、
あの子の姿を消すために。
何度も、
何度も、
乱雑に。
お湯を掬い上げては、
叩きつけるように、顔を洗った。
でも、
そんなことをしても消えることなんか無くて・・・。
思いは、
何故だか更に強くなる。
- 729 名前:君という花 投稿日:2004/06/01(火) 06:11
- 「なんでや・・・なんでやよ・・・っ」
湯船に零れ落ちた雫が、
静かに波紋を作った。
- 730 名前:我道 投稿日:2004/06/01(火) 06:16
- >>720 名も無き読者様
レスありがとうございます。
なんと言うか・・・作者としても、読者としても尊敬します!
おぉ、反応してくれた(嬉)
嬉しいですよぉ・・・(感涙)
本スレ同様頑張りたいと思うので、今後ともよろしくです!
- 731 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/01(火) 17:29
- 更新お疲れ様デス。
お、もしやあの2人ですか?
でも切ないッスなぁ。。。
続きも楽しみにしとります。
- 732 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/02(水) 23:17
- 作者さま、更新どうもです。
紺ちゃんの活躍(?)を楽しみにしてます。
期待大です。
- 733 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:08
-
「・・・はぁ」
ため息つくと幸せが逃げるって言う。
だったら、
もう大分逃げちゃったな・・・。
- 734 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:09
- 何もする気が起きず、
自室のベッドの上で、
ただぼんやりと時が過ぎるのを感じている。
一人だと、
心身ともに一人だと、
こうも時間の流れというのは遅いものだろうか?
無機質な天井に飽き、
ごろんと寝返り。
- 735 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:09
- 「・・・何ブスッとしてるんよ」
嬉しいくせに・・・。
机に張られた、
何枚ものプリクラ。
笑顔のあの子。
無表情のあたし・・・。
バカみたい・・・。
- 736 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:10
- そこで笑っていれば、
そこで素直になっていれば、
多分・・・
いや。
確実に、
何かが変わっていたのに・・・。
「・・・あほ・・・」
過去に戻って、
そのときの自分に制裁を与えたい。
- 737 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:10
- こんなこと願っても、
どうしようもないことだけれど・・・。
「・・・はぁ」
幸せが、
また一つ逃避行。
何枚もの写真が、
あたしの心に突き刺さる。
再び、
ごろんと。
- 738 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:11
- 無機質な壁と対峙して、
このまま眠ってしまおう。
そして、
明日、
全てを終わらそう・・・。
〜♪〜♪〜
- 739 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:12
- 音は小さくても、
静かな部屋には五月蝿いほど響いた電子音。
静かに起き上がり、
乱雑に携帯を掴んで、開いた。
「――!」
受信したメールを開き、
目を見開き。
ついでに息を呑むと、
携帯を持つ手が震える。
- 740 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:13
-
++++++++++++
T :愛ちゃんへ
3日も風邪って大変だね。
私、気になって授業に集中できなくて
先生に怒られちゃった(苦笑)
でね。
今日、ついに―――
++++++++++++
- 741 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:13
- 飛び起きて、
部屋の窓を乱暴に開ける。
外は、
酷い雨。
――あぁ・・・。
- 742 名前:君という花 投稿日:2004/06/03(木) 19:14
- 雨にぬれた、綺麗な髪の毛。
少し紅潮した、柔らかそうな頬っぺた。
あたしが顔を出したことに、
その子はやはり控えめに微笑んだ。
「・・・紺ちゃん」
傘も差さず、
雨に打ち付けられながら微笑む彼女に、
やっと止まったはずの涙が、
再びこみ上げてきた。
- 743 名前:我道 投稿日:2004/06/03(木) 19:19
- >>731 名も無き読者様
予想、当たりましたか?分かりやすかったでしょうかね?
切ないですか・・・でも、ラストは結構ありきたりだったりして(苦笑)
>>732 紺ちゃんファン様
どうもです。他の作者様のところでも結構見かけますけどね(w
紺野さんは・・・活躍するでしょうか?(爆
- 744 名前:我道 投稿日:2004/06/03(木) 19:31
- マジでテストやばくなってきたので、これよりパソコンを封印します。
最悪で2週間近く空くかもしれません。申し訳ないです_| ̄|○
- 745 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/04(金) 17:55
- 更新お疲れ様デス。
世間でありきたりと言われる文章ほどステキなコトもあるので無問題ですw
しかしテスト、大変ですな〜。。。(ヒトゴトジャネェダロガ
こちらはいくらでも待ってるので現実の生活を大事にして下さいw
- 746 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/04(金) 22:38
- >743 我道 さま。
はは・・・、気づきましたか・・・。
こんなことかいてくださった(?)のはあなただけです。
私は紺ちゃんの出ている小説のようなところをさがしています。
いろんなとこで書きまくってますし。
どこかいいところあったら教えてください。
- 747 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/04(金) 23:04
- ↑付けたし。
作者さま、私をどこで見ましたか?とっても気になります。
・・・と言ってもたくさんのところに出没してますが・・・
- 748 名前:19 投稿日:2004/06/07(月) 00:17
- いやー、ははっ
終わった後気付くとはね。へぇアジカンですか
家の中だけで完結、高橋以外セリフ無し。いい一人語りを読ませていただきました。
- 749 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:37
- ―――*
- 750 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:38
- カチ、コチ、カチ、コチ・・・
いつもはそう感じない、
時計の時を刻む音。
二人・・・
何も話さずにいると、
こんなにも耳につく、五月蝿い音。
彼女がチラッとあたしを見る。
あたしは慌てて視線を逸らす。
- 751 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:39
- あたしのパジャマを着て、
あたしのバスタオルを頭に掛けて、
彼女は悲しげに目を伏せた。
あたしの心は大混乱。
何で来たの?
もう、嫌になったんじゃないの?
あたしたち、もう終わり―――
「・・・今日ね、数学小テストがあったんだよ」
- 752 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:40
- 紺ちゃんが口を開く。
どこと無く、
声が暗い。
この部屋の空気を消したいがために、
発せられた言葉というのは嫌でも分かった。
「・・・ほうけ」
素っ気無く。
俯きがちの彼女の口元が、
悲しげに歪んだ。
「・・・あの――」
「・・・のぉ」
聞きたくない。
だから遮った。
- 753 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:41
- どうせ終わるのなら、
あたしから。
最後になる、
あたしのエゴ。
「あたしらさぁ・・・」
未だ止まない、雨を見ながら。
あたしは言葉を紡ぐ。
自分勝手で、
サイテーな、言葉を。
「・・・もう、終わりにせんか?」
ズキリッ・・・
そんな効果音がしそうなほど、
あたしの胸は痛んだ。
でも、
すぐにそんな自分を嘲笑う。
都合のいい・・・
- 754 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:42
- 「なんで・・・?」
少し、
震え気味の声。
あたしの胸の痛みは増す。
「・・・なんで、そんな事言う――」
「・・・厭きたから」
ぴしゃりと。
なるべく、
彼女の中にあたしが残らないように・・・。
最後の最後で、
彼女を想う行動は、
またしても自己中心的で・・・。
「あんたのお節介とか、
付きまとわれたりとか、
なんもかも、ぜーんぶ、嫌んなった」
- 755 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:43
- 振り向かず、
投げやりな口調で。
今にも泣き出しそうな紺ちゃん。
見えないけど、
ひしひしと伝わってくる。
ぎゅっと。
拳を握る。
「友達と遊びのキスしただけで、
それを見ただけで泣きじゃくるような奴は、
嫌んなった・・・」
何都合のいい事言ってんの?
あたしが悪いのに、
あたしだけが悪いのに。
- 756 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:43
- 分かれようと思い、
口に出す言葉一つ一つに、
あたしは腹立つ。
でも、
これが最良の策――
「・・・やから――」
「・・・嘘」
あたしの言葉を遮り、
紺ちゃんは力ずくで、
あたしの顔を自分のほうへと向かせた。
見詰め合うあたしたち。
紺ちゃんの頬には涙の通った跡。
潤んだ目は、
あたしを見つめて、悲しそうに歪む。
- 757 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:44
- 「・・・嫌になったんだったら、
どうして・・・
どうして、涙なんか流すの?」
「・・・え?」
- 758 名前:君という花 投稿日:2004/06/09(水) 16:44
- ソッと頬に触れてみる。
指に付着する、
暖かい液体。
なんで・・・
どうして・・・
あたしが・・・
あたしなんかが・・・
紺ちゃんの前で無く資格なんてない、あたしが・・・。
- 759 名前:我道 投稿日:2004/06/09(水) 16:51
- テスト一日前で、何をしてるんだ私は_| ̄|○
>>745 名も無き読者様
お心遣い、ありがとうございます(w。
作者は意志が弱く、パソコンを封印することは叶いませんでした。_| ̄|○
>>746 紺ちゃんファン様
あなた様のチェックなさってる作品はほとんど現れてます(w
なにせ、私も紺野さんが好きなものでして・・・
ちなみに作品は・・・どちらかというと紺ちゃんファン様のほうが知っていますよ(w
>>748 19様
実は終わりじゃなかったんですね〜(苦笑)分かりづらい書き方をしてスイマセンです。
いい一人語りとは・・・恐れ多い言葉です。
- 760 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/10(木) 19:12
- あ、更新されてる。
お疲れ様です。
お気持ちはわかります。
自分も毎回封印するんですが気付いたら・・・。
次も楽しみにしてますw
- 761 名前:19 投稿日:2004/06/11(金) 04:10
- 終わってないじゃんマルガリさんのバカ〜!・・・てか俺の馬鹿!
スイマセンスイマセンスイマセ
頑張りすぎて成績に影響が出ては大変ですよん
- 762 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/11(金) 20:25
- 759我道 さま。
そうでしたか!!あなたも紺ファンでしたか!!
仲間ですね♪
ちなみに今お気に入りに登録してある小説(?)は・・・30超えてます(笑)
どれも良い作品ばっかですよ?
話がそれた・・・更新、引き続きがんばってください!
- 763 名前:我道 投稿日:2004/06/12(土) 15:59
- 雨も上がり、
あたしは紺ちゃんに言われるがまま、外に出た。
雨雲が流れていき、
待ちわびたように顔を出した太陽が、
下界を照らす。
「ここ、
いい眺めでしょ?」
控えめな笑顔・・・。
- 764 名前:君という花 投稿日:2004/06/12(土) 16:00
- 君が泣いたとき、
もう二度とその笑顔は見れないと思った。
でも、
今あたしの前には、君がいる。
それは、何故?
あたしの別れの言葉を聞き入れず、
裏の丘に行こうといった君の優しい表情。
何のつもり?
また傷つくよ?
辛い思いをするよ?
早く別れようよ・・・。
- 765 名前:君という花 投稿日:2004/06/12(土) 16:01
- 「・・・のぅ」
「ん、何?」
やめて・・・。
その笑顔を向けないで。
汚れたあたしに向けないで。
苦しいよ・・・すっごく、苦しい。
「・・・さっきの返事」
「だから、嫌」
その話題を出すと、
笑顔は消え、君の顔は強張る。
でも、
小さいけど、はっきりと、
躊躇うことなく、あたしの決断を拒む。
- 766 名前:君という花 投稿日:2004/06/12(土) 16:01
- 「なんで・・・なんでやよ!?
もう、これ以上は疲れたんやよ!
面倒なんよ!」
「嘘!
愛ちゃん無理してる!
涙流してまで、私と別れたくないんでしょ?!」
「うぬぼれんな!!」
言葉で駄目なら、
力づくで・・・。
ほんと、
最悪やな、あたし・・・。
- 767 名前:君という花 投稿日:2004/06/12(土) 16:02
- 「もうウンザリなんよ!!
まいんち、まいんち、
しつこいくらいに付きまとって、
もう、アンタなんか・・・」
「じゃあ、
何で、それつけてるの?」
胸倉を掴まれても、
紺ちゃんは怯むことなく、
あたしの瞳を見つめ返してくる。
その、細い指先が指し示した物は、
あたしの首に掛かる、
君がくれた愛の象徴。
思わず、
手を離し後ずさった。
- 768 名前:君という花 投稿日:2004/06/12(土) 16:03
- 「それ、
私が告白した次の日にプレゼントしたネックレスだよね?
私が嫌いになったんだったら、
何で今もつけてるの?」
言葉が、出てこない。
常日頃から、
肌みなさず首にぶら下がっていた、
シルバーのハートがついたネックレス。
仏頂面をして受け取った、君の愛。
いつも、
これを見て一人にやけていたんだよ・・・。
- 769 名前:君という花 投稿日:2004/06/12(土) 16:05
- 離せる訳無いじゃん・・・
捨てられるわけ無いじゃん・・・
君がくれた、初めての愛の形なんだもん・・・
捨てられるわけ、無いよ・・・
「っく!
どうして・・・どうしてやよ・・・
あたしは紺ちゃんを傷つけた・・・
なのに、何で、
普通にあたしんとこきて、
普通に接するんやよ・・・。
んなことしてもらっても、
あたしが惨めになるだけやのに・・・
苦しいだけやのに・・・っ」
嗚咽をはさみながら、
膝をつき、
君を攻めるように紡ぐ言葉。
なんて、
どうしてこうも、
あたしという存在は、
汚く、
情けないんだろう・・・。
- 770 名前:我道 投稿日:2004/06/12(土) 16:10
- >>761 名も無き読者様
おお、同志がいた(w
最近ここへくることが私の生活リズムの一環になってしまって、やばいです_| ̄|○
>>762 19様
いやいや、バカは私ですよ(w
見つけてくださったことだけでも感謝なのに、優しいお言葉まで・・・感謝です(涙
>>763 紺ちゃんファン様
おお、すごい数ですね(w
確かに素晴らしい作者様たちはたくさんいますからねぇ・・・(苦笑
- 771 名前:19 投稿日:2004/06/13(日) 00:07
- 川oTーT)いらないなら19にあげちゃうよ
- 772 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/13(日) 16:26
- 更新乙です。
自分も完全に生活の一部です。(危
いやしかし、愛ちゃん。。。(涙
どうなるんでしょうか?
次も楽しみにしております。
- 773 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/13(日) 20:30
- 770<我道 さま。
納得してくださいましたか!さすが(?)です。
愛ちゃん・・・紺ちゃん・・・がんばれ・・・(涙)
- 774 名前:我道 投稿日:2004/06/13(日) 21:05
- 「君という花」は後もう少しで終わるのですが、どうやら容量が持ちそうにありません。
よって、「My Believe Ways」が終了した際、その後に再録という形を取らせていただきます。
いつも中途半端で申し訳ありません。
- 775 名前:我道 投稿日:2004/06/13(日) 21:17
- >>771 19様
Σ川;’д’) <だ、だめやよー!あたしがもらうんやよー!
こらこら高橋さん、未練がましいですよ(w
>>772 名も無き読者様
あなた様もですか?!何か・・・嬉しいです・・・スイマセン_| ̄|○
さてさて、愛ちゃん・・・どうなるでしょうか・・・
やはり人間は、欲望に忠実・・・?
>>773 紺ちゃんファン様
川o・-・)ノ<ありがとうございます。完璧に頑張ります。
だ、そうです(w
皆様、こんなそこのほうにある話を読んでくださり、本当にありがとうございました。
もう、感謝してもしきれぬほど・・・ありがとうございました(拝
- 776 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/15(火) 21:01
- 775>我道 さま。
完璧にがんばってください!!
2人の進展が楽しみです。
- 777 名前:我道 投稿日:2004/08/11(水) 15:50
- このスレはもう使用しないので、落とします。
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