Only one
- 1 名前:ginkgo nut 投稿日:2004/02/22(日) 01:04
- はじめまして。
小説系の文章を書くのって初めてなもので、何かありましたら、
ご指導お願いいたします。
なっち語りのガキさん主役。
明るい話ではありません。
sage進行にて。
では、よろしくお願いします。
- 2 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:05
- 「お疲れ様でした〜」
ラジオの収録を終え、後は東京に戻れば明日は1日オフ。
「久しぶりにのんびりするぞぉ〜」
と思っていた私の目に飛び込んできたのは、携帯の画面に映っている紺野からのメール。
『里沙ちゃんが倒れて病院に運ばれました』
すぐに紺野の携帯に電話をしてみたが、聞こえてくるのは
『電源が入っていないか…』
とうい無機質なアナウンスのみ。
(病院に居るのかなぁ?)
タクシーの窓越しに流れていく町並みを見ながらため息をついた瞬間、携帯の着信音が鳴る。
画面には『矢口』の文字。
『あっ、なっち?』
「うん」
『なっちには連絡行った?』
「紺野からメールが来てた。私、ラジオの収録中だったからさっき気づいたんだ」
『運ばれたのはJ医大病院だって。おいらこれから行ってみるけど、なっちはどうする?』
「私はこれから飛行機で東京に戻るから、着くのは夕方になっちゃうなぁ」
『そおかぁ。何かわかったらメール入れておくから、こっちに着いたら開いてみて』
「うん。わかった」
- 3 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:07
- “里沙ちゃんが倒れた”
そんな連絡に、私達がそれほど驚くこともなく冷静に会話をしているのは、こんな日が近いのではないかと思っていたから。
モーニング娘。4代目リーダー新垣里沙。
裕ちゃんが卒業した後、モーニング娘。にとって卒業と新メンバー加入は、まるでそれが当たり前のことのように繰り返された。
私と辻・加護が卒業した次の年には、7期メンバーとして4人がモーニング娘。に加入した。
その後も一人、一人と定期的な行事の様に卒業は繰り返され、カオリの卒業時、リーダーは梨華ちゃんが引き継いだ。
その梨華ちゃんも今は女優をメインにしたタレントとして独立して活動している。
8期メンバーを迎えた現在のモーニング娘。11人の中で、私が在籍中に一緒に活動したメンバーは、5期の新垣と紺野、6期の亀井と道重の4人だけ。
「こうなることがわかっていたのに、何もしてあげられなかった」
そんな私のつぶやきは、空港の雑踏にかき消された。
- 4 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:07
- 羽田空港に到着して、すぐに携帯を取り出してメールをチェック。
矢口からメールが入っていた。
『極度の過労とのこと。しばらく入院が必要。内科病棟1008号室』
一応、矢口に電話してみたが、まだ病院に居るのか繋がらなかった。
病院へ向かうタクシーの中で目を閉じた私の脳裏に浮かぶのは、ちょうど一年ほど前に事務所で会った時の里沙ちゃんの笑顔。
「モーニング娘。はまだまだ走り続けますよ」
そう言ってにっこり笑った新リーダーの里沙ちゃん。
ため息と共に開いた目に映ったのは、まだ残暑の残る東京の町並み。
病院の裏口につけたタクシーから降り、帽子を深くかぶって、里沙ちゃんの居る病室へと向かう。
病室の前の廊下には、事務所の人間が一人。
近づいてくる私を見て、一瞬緊張したようだったが、すぐに誰だか気づき病室を指さした。
- 5 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:08
- ドアをノックし、静かに開くと、そこはアイボリーで統一された殺風景な病室。
一つ置かれたベットの前の椅子には、うつむき加減の紺野がベットに向かって座っていた。
ベットから少し離れた所には矢口が壁を背にして座っている。
そして、その横にはやはりうつむき加減の梨華ちゃんが居た。
「なっち…」
訪問者を見た矢口の声に残りの二人も顔を上げる。
矢口に向かってうなずき、ゆっくりとベットに向かうと、紺野が立ち上がって頭を下げた。
私が彼女の前に止まった時、ゆっくりと頭を上げた紺野の目には、みるみる内に涙が溢れてくる。
「私は…私は………」
紺野の頬を一粒の涙が流れ落ちた時、私はそっと彼女を抱きしめた。
静かな病室の中に、私の胸の中ですすり泣く紺野の声だけが聞こえる。
どれくらいそうしていたのか、少し気持ちが落ち着いた紺野は、ゆっくりと私から離れると、
「すみませんでした」
と再び頭を下げる。
- 6 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:09
- 紺野を椅子に座らせ、
「で、どうなの?」
と、矢口に尋ねた。
「過労の方は、しばらく休めば大丈夫だろうってことなんだけど…」
「けど?」
「うん。精神的な部分がどうなのかがわからないみたいで」
「……」
「おそらく、今までずっと張りつめていたのが、耐えられなくなってぷっつりと切れちゃったんだと思うんだ。
今はそっちの方が少し心配」
「そっか。そうだよね。ほんと大変だったんだもんね…」
振り返って見たベッドでは、疲れ切った顔の里沙ちゃんが静かに眠っている。
お化粧ってひどいよね。大切な後輩がこんなに追い込まれているのに。それすら私達から隠しちゃってたんだから。
「私、何も力になってあげられなかった…」
そうつぶやいたのは、前リーダーの梨華ちゃん。
「それは、みんな同じだよ…」
隣に座っていた矢口が梨華ちゃんの手を握って慰めている。
梨華ちゃんが忙しい中、里沙ちゃんの相談にのってあげていたのを私は知ってるよ。
- 7 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:11
- 「ところで、二人はこの後はどうなってるの?」
「おいらは、明日の午後まではスケジュール空いてるから」
「私は明日、名古屋で仕事なので、朝こっちを出ないと」
「なっちは?」
「私は明日は終日オフだよ」
「そぉいえば、他のメンバーは?」
振り返って紺野に聞いてみた。
「みんな来るって言ってたんですけど、大人数で押しかけたらそれこそ病院に迷惑かけるし…。
今コンサートの練習入ってるじゃないですか。それを投げ出して来たら、リーダー怒るよって言ったらみんな納得してくれたみたいで…」
「なんか保田さん思い出すなぁ」
「何で圭ちゃんなのさ」
「だって、メンバーが病気とかでぇ、心配してて練習に身が入らなかった時に、『あんたがそんなじゃ本人が悲しむわよ』って、よく叱られたんですよぉ」
そこからしばらくの間、なつかしい話が続いたが、ふと会話がとぎれる。
- 8 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:12
- 「紺野。後はおいら達に任せて、家に戻って休みな」
突然、話を振られた紺野はちょっとびっくりして、
「え?でも……」
「あんただって現役のメンバーでサブリーダーなんだからさ。
それこそ、こわぁいおねえさんに見つかったら後ろからひっぱたかれるよ」
「はぁ?」
「「「はははは」」」
私がこの部屋に入ってきてから、初めての紺野の笑顔。
「リーダーだって怒るよ。きっと…」
そういって紺野に微笑むと、紺野は意を決したように、
「わかりました。それでは後はよろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げた後、
「また来るからね」
と、少し寂しそうな顔で里沙ちゃんに声をかけ病室を出て行った。
そんな紺野を3人で見送る。
しばらくの間、再び3人で思い出話を続けた。
- 9 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:13
- 「梨華ちゃんは大丈夫なの?」
「え?私はいざとなったら矢口さんの所に泊めてもらいますから」
「なんだよ。それ」
「「「プッ」」」
それぞれがソロの芸能人として活動をしているけど、娘。同士が集まれば今でもあの頃と変わらない。
「どこで歯車がずれちゃったんだろうね…」
私がつぶやいた一言に、それまでクスクス笑っていた二人は、真顔になって振り返った。
「今回のは“ずれ”なんてのじゃないよ。
だって、全部デマじゃん」
矢口は怒った様に言い放つと悔しそうに唇を噛んでうつむく。
梨華ちゃんも同じ…。
- 10 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:14
- 矢口が次の言葉を継ごうとした時、病室のドアが開いた。
入ってきたのは、モーニング娘。のマネージャーの一人。
「あなた達も楽なスケジュールじゃぁ無いんだから、事務所の人間が送っていくからもう家に戻って休みなさい」
私達3人を見回し、ため息混じりに告げる。
壁に掛けられた時計を見上げると、とうに0時をまわっていた。
しょうがないと立ち上がり、後はよろしくお願いしますと、部屋を出て行こうとした私達に、
「ありがとうね…」
と、声をかけてくれた。
- 11 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:15
-
そして今、なぜか3人揃って私の部屋にいる。
別に申し合わせたわけじゃない。
車で送ってもらっている時にも特に会話があったわけじゃない。
たまたま、私の所が最初になったんだけど、ごく自然に3人揃って車を降りてしまったし、送ってくれた事務所の人も特に不思議がる様子もなかった。
部屋に入って、私もなんか我に返ったというのか。
「で、どうすんのよ」
「いや、どうすんのよって言われても、こうなったら泊めていただかないと」
「矢口さんに同じです」
「なんか、間抜けな会話だね」
「確かに…」
3人揃って苦笑。
- 12 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:16
- 「ベット一つしかないけど、大きいから二人で寝られるっしょ。
矢口と梨華ちゃんそこで寝てね」
「なっちどうするのよ」
「私はソファーで寝るから」
「それはだめですよぉ。
私がソファー使わしてもらいます」
「お客さんにそんなことさせるわけにはいかないべ」
「だ・め・で・すっ!」
なんか、二人で意地になってきた感じのところで、
「はいはいはい。
おいらから提案」
「なに?」
「3人で一緒に寝ればいいじゃん」
「「!!」」
「いくらなんでも3人じゃきついべさ」
「なっちがまともな寝相で居てくれれば大丈夫」
「う゛っ」
「それと梨華ちゃん、なっちの寝顔は見ないように。
夢に出てくるから」
「やぁぐぅちぃ〜っ」
「きゃははははは」
- 13 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:16
- 「あぁ、もう頭に来たぁ。
矢口ちっちゃいんだから、ソファーで一人寂しく寝なさい。
私は梨華ちゃんと二人仲良くベッドで寝るから」
「いいんだ。いいんだ。なっちはおいらのことを捨てて、梨華ちゃんをとるんだ。
どうせ、おいらなんて、おいらなんて。しくしくしくしく」
「あのぉ。二人とも。もうすぐ2時なんですけどぉ。元気すぎません?」
「梨華ちゃん明日早いんだっけか。では、早々に眠りにつきましょう〜」
「って、矢口さんまだハイテンションだしぃ」
「じゃぁ、二人はこれに着替えてね」
私のトレーナーを渡したが、矢口には少し大きすぎたかな。
「じゃぁ、お休みなさい」
「「おやすみぃ〜」」
…
……
………
- 14 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 01:17
-
「なっち寝た?」
「ん?」
「あっ、起きてたんだ」
「なんか寝付けなくてさ…」
「私もダメです」
「梨華ちゃんもか…」
「ねぇ。何とかならないのかなぁ。
やっぱおいら達には何も出来ないのかなぁ」
「もうどうにもならないところまで来ちゃってるしねぇ」
「私達ってもうモーニング娘。ではないけれど、それでも仲間ですよね。
それなのに、全部をお豆に背負わせたままで何もしないなんて出来ないですよぉ」
「そうだよねぇ」
「よし。私、明日は一日オフだから、いくつか当たってみるよ」
「安倍さん、よろしくお願いします」
「どうなるかわからないけど、とりあえずは任しといて」
「なっち、がんばってね。おいらも協力するから」
「うん」
そんな会話をした後、私達は眠りに落ちていった。
- 15 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 23:08
-
翌朝、まだ寝ぼけ眼の梨華ちゃんを急かすように送り出した後、午前中は仕事がない矢口と作戦会議。
まずは、あの人に連絡せねばということになった。
電話をしようとした私に
「朝は機嫌悪いよ」
と矢口。
「そうだね。メールにしておくわ。
『時間が空いたら急ぎ連絡下さい』っと。
これでいいっしょ」
私がこの世界に入ってから、いつも私を守ってくれた人。姉であり母でありかけがえのない仲間であり、本当に大好きな人。
しかし、その我らがリーダー裕ちゃんから連絡が来たのは、矢口がそろそろ行かなくちゃとなった、昼近い時間だった。
「うん。うん。じゃぁ、あのお店で」
「裕ちゃん、なんだって?」
「今日、病院の方へ行こうと思ってたから、一緒に行こうって」
「そか。おいらは仕事で行けないけど、頼んだね」
「うん。何か良い案が浮かべばいいんだけど」
二人揃って家を出て、矢口は仕事へ、私は裕ちゃんと待ち合わせのお店へ向かった。
- 16 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 23:09
-
裕ちゃんと待ち合わせをしているお店は、娘。時代から時々行っている喫茶店。
小さなお店なんだけど、ケーキがとってもおいしいんだよね。
お店に着いた時には約束の時間を10分程過ぎていた。
裕ちゃんもうきてるかなぁ。
「いらっしゃいま… あらっ。久しぶりねぇ」
「ご無沙汰してま〜す。えぇと、もう来てます?」
「奥のいつもの所に居るわよ」
このお店には、奥の方に周りからはあまり見えない一角があって、私達はよくそこを使っていた。
「お待たせぇ」
「遅いっ」
「えぇ、そんなことないっしょぉ」
「まぁ、あんたの遅刻には慣れてるけどね」
「あぁ、ひどいなぁ」
「ま、はよ座り」
私だっていい大人なんだけど、裕ちゃんと一緒になると、なんか昔に戻っちゃうんだよねぇ。
- 17 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 23:09
- 「何にする?」
「アイスレモンティーお願いします」
この奥さんの笑顔にいつも助けられたんだよなぁ。
そんなことを思っていると、裕ちゃんが本題を切り出した。
「あんまり時間もないから、ちゃっちゃっと話すすめよ」
「うん」
「私さぁ、今回のことについては、おおよそのことは聞いているんだけどあんまり詳しくは知らへんのよ。
なぁんかさぁ、蚊帳の外ってかんじ?」
「そんなこと無いよぉ」
「まぁ。今日こうしてあんたと一緒になったんやし、詳しい話聞かせてや」
「うん。
私とか矢口とか梨華ちゃんとか、裕ちゃんに迷惑かけたくなかったんだよ。
だから、なんか話す機会失っちゃったって言うのか…」
「あのなぁ。かわいい後輩が、傷ついて悩んでるのに迷惑なんて思うはず無いやん。
なんなのよ、まったくぅ」
「怒らないでよぉ」
「怒ったりしてへんて」
「じゃぁ、私が知っている範囲で話すね」
アイスレモンティーを一口飲んで、私は今回のことについて話し出した。
- 18 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 23:10
-
「今回のことが、一体いつから始まったのかは、知らないっていうのか、誰にもわからないんじゃないかとおもうんだ。
私が最初に聞いたのは圭ちゃんからだったの。
事務所でたまたま一緒になった時に、なんて言うことは無い世間話の中で『ネットでまた変なデマが横行し始めてるよ』って圭ちゃんが言っていたの。
『どんな?』って聞いたら、『新垣が新人いびってるって』って。
あぁ、またかぁとしかその時は思わなかったんだ」
「そんなの、うちなんて言われっぱなしやったもんなぁ」
「そだね」
「それで?」
「その時は圭ちゃんも『またいつものことだよ』って言っていたし、気にもとめなかったのね。
あの頃は、里沙ちゃんもリーダーになったばっかりで、凄く張り切ってたし、
7期の子達も慣れてきていて、『リーダーが凄く厳しいんですよぉ』とか『凄く怖いんですよぉ』とかネタでいっていたから、
その言葉尻をとらえて騒いでいるだけだって思ってたんだ」
裕ちゃんはふむふむっていう感じで私の話を真剣な顔で聞いていた。
- 19 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 23:10
-
「それからしばらくして圭ちゃんに会った時に、『新垣のいびりは、ネットではもう定着しちゃった』って言っていたの。
私はその意味がよくわからなかったんだけど、嘘もつきつづければ本当になるっていうのか、
それが根拠のないデマだとしても、何百回と繰り返されている内に、それを読んでいる人にとっては、現実のことと同じになっちゃうっていうのか。
だから、ネットでは、里沙ちゃんが新人をいびっているというのは常識みたいな感じになっちゃってるって」
「なんやそれ」
「私も圭ちゃんにそんなのおかしいじゃんって言ったんだけど、そういう世界なのよって。
それでもまだ、そのことはそれほど重大なことではないと思っていたのね。
里沙ちゃんのがんばりを見ていれば、そんなデマなんてそのうち忘れられちゃうだろうって。
だけど、そんな時にあの事件が起こったの」
私はそこで一旦、話を切った。
裕ちゃんも少し険しい顔をして何かを考えているよう。
- 20 名前:Only one 投稿日:2004/02/22(日) 23:12
- ************************************
あの日、私は矢口からの電話で目を覚ました。
前日夜遅くまで仕事だった私は、ホテルのベッドの上で携帯の着信音によって眠りを妨げられて、やや不機嫌に携帯に出た。
ほとんど寝ぼけた状態だったんだけど、携帯から聞こえてきたのは、ものすごくあわてた矢口の声だった。
「なっち!すぐにテレビつけてっ!」
「う〜ん。なんだよぉ。こんな朝早くからぁ」
「何でもいいから早くテレビを見てっ!」
眠い目をこすりながら、私はベッドの脇にあるテレビの電源を入れた。
ちょうど情報番組をやっているところだったが、画面に映っている文字を見て私は眠気が一気に吹き飛んでしまった。
「なによこれっ!」
「おいらにもよくわからないんだけど、事務所に電話してもつながらないんだ。おいらこれから急いで事務所行ってみるから」
矢口はそういって電話を切った。
- 21 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:14
- 「一体何が起こったの…?」
ベッドの横にあるテレビの画面には、“モーニング娘。のメンバー自殺”という文字が映っていた。
「誰が?なんで?」
私の頭はもうパニック状態になっていた。
ベッドから飛び降りて、マネージャーさんの居る隣の部屋のドアを思いっきり叩いた。
ドアを開けたマネージャーさんも何がなんだかわからないという表情をしていた。
「何がどうなってんですか?」
「私にもわからないのよ。
事務所から電話があって、詳しいことは戻ってからだって。
急いで東京に戻れってことだから、急いで準備して。
事務所が車を用意するって言ってたから」
「車?」
「駅も空港もマスコミがね」
そぉいえば、高橋とまこっちゃんも仕事でこっちにいるんだっけ。
急いで部屋に戻って、準備をした。
しばらくすると、車が来たからとマネージャーさんが迎えに来た。
走る車の中からアドレスを知っている現役メンバーに片っ端からメールしてみたが、いっこうに誰からも返事は無かった。
電話をしてみても、みんな電源を切っているらしく繋がらない。
- 22 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:14
-
そんなこんなで1時間ほどした頃に、矢口に電話をしてみた。
「矢口今どこにいるの?」
『家に戻ってきたところ』
「事務所は?」
『タクシーで事務所まで行ったんだけど、とても入れるような状態じゃなくてさぁ。
もう、前の通りは黒山の人だかりって感じで…。
そのまま通り過ぎて戻って来ちゃったよぉ』
「そぉかぁ」
『なっちは今どこにいるのよ』
「東京に戻る車の中。あと2時間以上はかかるのかなぁ」
『こっちで何かわかったら連絡するね』
「うん。よろしく」
結局、東京へはそれから3時間ほどかかって戻ったんだけど、それまでこれといって新しい情報は得られなかった。
「どこからか携帯番号なんかが漏れているらしくて、事務所の人間を装う電話がメンバーに入ったりしているので、
確実に相手のわかる電話以外は出ないように。
携帯の電源も極力切っておくこと。
それと外出はしないように。
事務所からの連絡は自宅の電話に入れるから。
連絡があるまでは自宅で待機しているように。」
マネージャーさんはそう言い残し車で事務所へ向かった。
- 23 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:15
-
部屋へ入るとまずテレビをつけてみる。
しばらくすると、モーニング娘。のニュースが流れたが、相変わらず目新しい情報はなかった。
テレビはとりあえずつけっぱなしにしておこう。
「こんな時に一人っきりって言うのは辛いなぁ」
音楽でも聴けばいいのだろうけど、そんな気にもなれなかった。
ベッドにうつぶせに倒れ込んで、ため息一つ。
「何があったんだよぉ」
ふと気づくと、どうやら寝てしまっていたらしい。
時計を見ると2時間位経っていた。
「はぁ」
出てくるのはため息ばかり。
そんな時、いきなりインターホンがなった。
- 24 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:15
-
「だれだべさ」
まだ眠気の残る目をこすってインターホンに向かう。
モニターを見たが誰も映っていない。
「あれぇ?」
ついいつもの癖で受話器を取ったところで、いきなり謎の物体がモニター一杯に映った。
「きゃぁぁぁぁ〜っ!」
ドスンッ!
あまりにびっくりして受話器を放りだして尻餅をついてしまった。
「なんだべ。なんだべ」
モニター一杯に映った謎の物体が後ろに下がった。
圭ちゃんだった。
『あれ?なっち?お〜い』
「けけけ圭ちゃん?」
『何よ、今の悲鳴』
「びっくりさせないでよぉ」
『って、なっち、いきなり悲鳴はすご〜く失礼じゃないのさ』
「圭ちゃんカメラに近づきすぎっ」
『だって、こういうカメラって覗きたくならない?』
「もうっ!」
『ところで、私は中に入れていただけないのでしょうか?』
「あぁ、ごめんごめん。今開けるね」
少しして今度は玄関のチャイムが鳴る。
ドアを開けて圭ちゃんを招き入れる。
- 25 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:15
- 「よっ!」
「よっじゃないべさ。まったく」
「久しぶりなんだから、そんなふくれっ面じゃなくて、いつものなっちスマイルで迎えてよぉ」
「べぇ〜っだ」
「「…ぷっ。あはははは」」
「だけど、外出禁止じゃなかったっけ?」
「そうだったっけ?」
圭ちゃんはとぼけたふりをして答える。
「まったくもぉ」
「ねぇ、同じようなこと二度言うのもなんだけど、私はいつまでこの玄関に立っていなくちゃいけないの?」
「あぁ、ごめんごめん」
「それも二度目」
そういって圭ちゃんは笑った。
靴を脱ぎながら
「元気そうでよかったよ」
そうつぶやいた。
圭ちゃんは昔も今も変わらない。
いつもメンバーのことを見ていてくれる。
そして悩んでいると、そっと近くにやってきてくれる。
言葉は多くはないんだけど、その時かけてくれる一言二言がこれまたしみるんだなぁ。
「ありがと…」
私もつぶやく。
圭ちゃんはにこっと笑った。
- 26 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:16
-
居間に入ると、
「矢口はまだ来てないんだ」
と、さらっと言った。
「はぁ?なにそれ?」
「いや。矢口も来るって言ってから」
「はぁ???」
「安倍さん、安倍さん。顔が昔の気の抜けた時のまことになってるよ」
ぽかんとあいてしまっていた口をぎゅっとすぼめる。
あっけにとられていると、インターホンが…
そこに映っていたのは、誰が見ても間違うことのない容姿をした矢口。
『お〜い。いもなっちぃ〜。あほなっちぃ〜。早く出ろぉ〜』
むっ。
「このインターホンは現在使われておりません」
『おいらが、わるぅございました。ごめんなさい。開けて下さい』
「……」
『これでもおいら一応芸能人なので、このような場所に放置されるとちょっと困るんですけど…』
お仕置きは完了。
「入ってよろしい」
「おありがとうごぜぇますだぁ」
数分後、うちの居間には、私と矢口と圭ちゃんの3人が座っていた。
- 27 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:17
-
「矢口さぁ。少しは隠そうって気はないわけ?」
「だって、いつもこうだもんっ」
「ねぇ。矢口も圭ちゃんも、そう、紗耶香もそうだったけど、なんで2期の人間って、こうもアクティブなのよ」
圭ちゃんと矢口は一瞬目を合わせた。
「う〜ん。矢口達も同じような感じだと思うんだけど…。
私がこの世界に入ってきた時、そこには大きな壁が5つあったの。
世界は先に向かって動いているわけだから、立ち止まっているっていうことは、後ろに下がっているのと同じ。
一生懸命前に向かって走ってやっと前に進む壁と同じ距離を保てるっていう感じで。
だから、壁に追いつくには、その壁を乗り越えようと思うなら、もう死ぬ気で走るしかなかった。
それが染みついてるんじゃないかなぁ。
何もしないでいることは後ろに下がるのと同じ、とにかく動けってね」
- 28 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:18
- 矢口もうなずいている。
「う〜ん…」
「まっ、今日の場合は、なんか一人で居たくないからってのがあったんだけどさ」
「こんな時に一人だと、おいらもほんとにろくなこと考えないからさぁ。
自分のことだったら凹んでも気合い入れ直せるんだけど…」
「「「はぁ」」」
3人のため息が見事にハモった。
「実は、今日来たのはさ、なっちにちょっと見せておきたいものがあってさ」
そういって圭ちゃんはバックの中からノートパソコンを取りだした。
「どうしようか悩んだんだけど、なっちには前にちょっと話したことがあるからさぁ」
「ん?なになに?」
「実は、また始まったんだよ」
「何が?」
「祭が」
「は?」
矢口も何のことやらっていう顔をしている。
- 29 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:19
- 「ほら、前に新垣が新人をいびってるってあったじゃない」
「あぁ。そんなのがあったねぇ」
「あれが、今回のことでさらに悪い方向にさぁ」
私には事情がよくわからなかった。
「まぁ、言葉だけで説明するより、現物を見た方がわかると思って」
圭ちゃんはパソコンを私の方に向けた。
そこには、何やら沢山の文章が。
『新垣のせいだ』『新垣が殺した』『新垣も死ねばいい』……
「なんだべっこれはっ!」
私はカァ〜っと頭に血が上るのが自分でもわかった。
「前のやつはさぁ。まぁしばらくすればみんな飽きるんだろうと思って見てたんだけど、その熱が冷める前に、今回の事件が起こっちゃったから。
当然のごとく、結びつけて騒ぐわけよ」
「だって…、そんな…」
矢口は圭ちゃんのパソコンの画面をじっと見つめていた。
「いっつもそうだ…。
別に、悪口言うなとは言わないけど、あまりにもひどすぎるよ…」
「これは、ほんの氷山の一角で、実際にはもっとこの手の話が広まってると思うのよ。
なっちさぁ、前に私が言ったこと覚えてる?」
「ん?」
- 30 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:20
- 「嘘が現実にってやつ」
「あぁ、覚えてるよ」
「下手すると、これもそうなりかねないっていうのか…」
「えぇっ?
いくら何でも、こんなのが本当の話なんて思わないんじゃ…」
「なんていうのかさぁ。真実かどうかが問題じゃないんだよね。
ここでこうやって騒いでいる連中の大半だって、こんなのが本当の話だなんて思っちゃいないんだから。
ただ、騒ぐネタ程度にしか思ってないんだよ」
「ひどい…」
「だからさぁ、こういった中だけで騒いでいるならまだいいんだけどさぁ。
実は、前の時も一部の週刊誌なんかが取り上げてたんだよ」
「え?」
「なんていうのかなぁ、アイドルグループ内の確執みたいな感じで、そんな噂が出回ってるって」
「ほっんと、勝手だよね」
「そういう話ってのは、グループだったらどこでも言われる話だからまぁほっときゃいいんだけどさぁ、今回のはちょっとネットの外に出たらまずいかなぁって」
- 31 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:20
- 「こういうのって消すように言えないの?」
「手遅れ」
「なんでよ?」
「もう、読む人間は読んじゃってる。それこそ何万、何十万って人が。
それに、下手に圧力かけようもんなら“事実なんだろ”位に言われかねないのよ。
本来ならこういうのは放置しておくに限るんだけど、今回のはちょっとダメージが大きくなりそうな気がするんだよね」
圭ちゃんは冷静な声で話していた。
「圭ちゃん、何か冷たくない?」
「なにがよ」
「だって、なんかどうでも言いように聞こえるもんっ!」
「そんなわけないじゃない」
「だって、そう聞こえるもんっ!」
矢口が少し熱くなっている。
- 32 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:21
- 「矢口っ。私を誰だと思ってるのよっ!」
私はえっ?と思った。
そう、圭ちゃんって感情的にしゃべることって滅多にない。特に怒ってっていうのは。
「私だってモーニングのメンバーだったんだからねっ。
今回叩かれてるのは、その後輩なんだからっ。
私がモーニングを抜ける時に涙を流してくれたかわいい後輩なんだからっ。
私が悔しくないとでも思ってるのっ!」
「……」
矢口は唇をかんで下を向いてしまった。
圭ちゃんは涙浮かべてる…。
- 33 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:21
- 矢口と圭ちゃんって仲良いんだよね。
仲が良いっていうのかそれ以上っていうのか。
私と矢口は親友って言い合える仲なんだけど、それとはちょっと違うんだな。
そんな私でも、矢口と圭ちゃんが二人で居ると、間に入っていけない雰囲気の時があるんだもん。
私とかおりの間柄ともちょっと違う。
矢口と圭ちゃんがこんな言い合いするのを間近で見たのって初めてかもしれない。
矢口だって圭ちゃんの気持ちはわかってる。
圭ちゃんも矢口の気持ちはわかってる。
そんな二人がこんな言い合いをしてしまう位にショック大きかったんだ。
それは私も同じ…。
- 34 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:21
- 「ほらぁ。二人とも落ち着いて。ね?」
圭ちゃんが軽く鼻をすすり上げてしゃべり出した。
「今度のは、前のとは違うの。
煽って騒ぐのは勝手。だけど、それでもやっちゃいけない線ってのはあるはずなんだよ。
今回はその線を越えちゃう可能性が大きいんだ。
だからといって、こっちが感情的になったって何の解決にもならないでしょ?
冷静にどうするべきなのかを考えておかないと」
「うん」
矢口はうつむいたまま答えた。
- 35 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:22
- 「他の元メンにもこういうのが出始めてるってのを話しておこうと思ったんだけどさぁ、かおりも裕ちゃんも石川も吉澤もテレビのロケやらなんやらでこっちに今いないし。
辻と加護はツアー中。高橋とまことは私達と違って真面目に自宅軟禁状態だろうし。
矢口となっちゃんにだけは、とにかく早く話しておこうと思ってさ」
うつむいたままの矢口の頭をポンポンと叩いて圭ちゃんは言った。
泣き笑いで顔を上げた矢口のおでこを圭ちゃんがつついた。
「ごめんね。圭ちゃん」
「なぁに、しんみりしてんのよ。あんたらしくない」
「だって、圭ちゃんの怒った顔が怖かったんだもん」
「どつくわよ」
「「「ぷっ。ははははっ」」」
いつもの二人が戻ってきた。
- 36 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:22
- 「だけど、これってどうしようもないべさ」
「そうなのよ。
事務所にこんな噂が出てるって言ったところでほっとけって言うだけだろうしさ。
だけど、この話がネットから表にでて一人歩き始めたらもう誰にも止められなくなるよ。
そうなってから否定したってもう手遅れ」
「じゃぁやっぱどうしようもなってこと?
今回の事件でただでさえいっぱいいっぱいになってるはずなのに、こんなのまで加わったら新垣つぶれちゃうよぉ」
「だからさ、私達が直接何か出来なくても、少なくともあの子達の支えになってやらないと」
「そうだね」
「だから、二人ともさ。こういうのが存在していて、多分近いうちに顔を出してくることになると思うから、それぞれその時の為に考えておいてほしいんだ」
「うん。わかった」
私と矢口がそう返事をした時、電話がなった。
- 37 名前:Only one 投稿日:2004/02/24(火) 21:23
- ディスプレイに表示されているのはマネージャーさんの名前。
「はい…はい…。わかりました。
え?…えぇ、うちにいます…はい…二人とも…はい…わかりました。言っときます。
はい、それでは」
電話をしていた私を見ていた二人に振り向いて、
「さぁて、二人にはこれから説教タイムが待ってるわよぉ」
「「げっ!」」
「二人のマネージャーさん探し回ったみたいだよ。
これから迎えに来るってさ」
「圭ちゃん…」
「なによ」
「逃げようか?」
「殺されるわよ」
「しょうがない。おとなしく怒られよう。はぁ」
うちの居間で、二人はそれぞれのマネージャーさんから長々と説教を受けた後、襟首を捕まれるようにして帰っていった。
- 38 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 20:58
-
私達元メンの中でも年長者は翌日から仕事に復帰した。
ただし、今回の件については一切ノーコメントで通すこと。
まぁ、実際何も知らないのでコメントのしようもないのだが、うっかり何か変なことを言ってしまわないとも限らないので、その点は厳重に注意を受けた。
圭ちゃんが危惧したことは、思ったよりも早くやって来た。
ネットでの騒ぎをマスコミが取り上げたのだ。
アイドルグループのメンバーの自殺。原因はグループ内のいじめ?
見るものにこれほど興味を抱かせるネタはない。
色々な媒体がこの騒ぎを多かれ少なかれ取り上げることとなった。
あわてた事務所は否定のコメントを出したが、これも圭ちゃんの言っていたとおりに焼け石に水で、その後の対応も後手後手にまわった。
- 39 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 20:59
-
しかし、事務所が次の決断を下すのは早かった。
“モーニング娘。解散”
私達にとっても最悪のシナリオ。
歌手になること、ただそれだけ夢見てオーディションを受け、一旦は落選したものの、再度チャンスをもらってモーニング娘。としてデビュー。
16歳で上京して今までやってきた。
今では一緒に活動したメンバーは少なくなってしまったけど、モーニング娘。は私の青春そのものだったし、第二のふるさとだった。
それは、他のメンバーにとっても同じ。
そのモーニング娘。が無くなる。
- 40 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 20:59
-
矢口はパーソナリティを務めているラジオのエンディングで『モーニング娘。が解散するそうです』と伝えた。
その声は震えていた。
テレビ局の廊下でたまたま圭ちゃんとすれ違った。
お互いに急いでいたので会話は無かったが、圭ちゃんは目を伏せて首を横に振った後、私の目を真っ直ぐに見てうなずいた。
そう、今一番辛いのは私達じゃぁない。
同じ事務所に所属しているとはいえ、元々モーニング娘。の現役メンバーと顔を合わす機会が少なかった上、今彼女たちは自宅待機が続いているのでまったくあう機会がなかった。
あちらこちらで現リーダーに対する噂が、誹謗中傷が語られ続けていた。
- 41 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 20:59
-
メンバーの自殺が報じられてから1週間経った日。
事務所の廊下で紺野と出会った。
「紺野?」
「あぁ、安倍さん」
紺野は疲れ切った表情をしていた。
「大変なことになっちゃったね」
「はい…」
「今日はどうしたの?」
「里沙ちゃんと事務所に呼ばれて…」
紺野はうつむいたままだった。
「モーニング娘。は即時解散で、予定されていたコンサートも中止にって話で」
「しょうがないよね」
「だけど、里沙ちゃんがなんかそれにものすごく反対して」
「え?」
「最後の横浜アリーナ最終日2公演だけやることになりました」
「ええ?なんで…」
そこにマネージャーから
「安倍。急いで」
とお呼びがかかってしまった。
「はぁい。あ、えっと、また連絡するから」
「はぁ」
そういって私は次の仕事へと向かわざるを得なかった。
なんで?どうして?
今コンサートなんて出来る状態なの?
- 42 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 20:59
-
その後1週間、私は仕事で全国を廻ることになっていたりでタイミングが合わず、里沙ちゃんはもとより紺野とも連絡をなかなか取れずにいた。
というか、里沙ちゃんとは連絡を取ることは不可能な状態だった。
紺野との短かな携帯メールのやりとりではあったが、あの日里沙ちゃんと事務所の間で何が話されたのかは大体わかった。
そして、紺野が体力の限界ギリギリであること、それ以上に里沙ちゃんがもう限界を超えているであろうことも…。
元メンともなかなか連絡が取れずにいたが、矢口と圭ちゃん、それに梨華ちゃんには今わかっていることを伝えた。
それぞれが、他のメンバーにも連絡を取ってくれた。
そんな矢先に里沙ちゃんが倒れた。
- 43 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 21:01
-
************************************
私は里沙ちゃんと事務所の間で行われた話し合いの内容についても話していた。
ずっとテーブルの上に置いた自分の手を見つめながら話していたんだけど、その手には、いつの間にか涙が幾粒も落ちていた。
話し終わって、裕ちゃんに目をやると、裕ちゃんも泣いていた。
「うちはな。かおりから石川にリーダーが受け継がれた時、石川なら大丈夫と思ったんよ。
あの子は、モーニング娘。として何をすべきなのかをちゃんと理解していたから。
そんでな、その石川から新垣にバトンが渡される時も、モーニングは大丈夫とおもったんよ」
視線を落としていた裕ちゃんは顔を上げて、見つめている私と視線を合わせた。
- 44 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 21:01
- 「うちは新垣とはモーニングで一緒に活動はしておらんやん。だけどな、ハローのメンバーとしてあの子のことは見ていたし、うちと同じで手を抜くことを許さない矢口が手放しであの子のことをほめとったやろ?
だから、新垣ならきちんとモーニングのメンバーのあり方を伝えてくれると思ったん。
だけど、これほどとは思わへんかった…」
「裕ちゃん…」
「よしっ。とにかく病院へ行こ」
「うん」
と、裕ちゃんは立ち上がろうとしたが、
「ねぇゆうちゃん。そのまんまの顔で病院行ったら警察呼ばれるよ」
「はぁ?」
「涙で化粧がぐずぐず…」
「あらぁ、いややわぁ。って、あんたも人のこと言えへんで」
急いで二人とも顔を修復。
タクシーで病院へ向かった。
- 45 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 21:02
-
病室のドアを開けると、ベッドの中で座り窓の外を見ている里沙ちゃんがいた。
私達が入ってきたのを見ると、少し驚いたように目を大きくした。
裕ちゃんはゆっくりとベッドに向かって歩いていった。
少し放心状態だった里沙ちゃんは、裕ちゃんがベッドの横まで来ると、ぱっと跳ね起きて、ベッドの上に正座して、頭をベッドにこすりつけるように土下座状態になってしまった。
「すみません。私のせいでモーニング娘。が…。
全部、私が悪いんです」
里沙ちゃんはすみません、すみませんと繰り返している。
「里沙ちゃ…」
私が声をかけようとすると
「新垣はなんもわるいことあらへん」
裕ちゃんが優しく声をかけた。
それでも里沙ちゃんは頭を下げたまますみませんと繰り返すばかり。
裕ちゃんは里沙ちゃんの肩に手をかけて
「頭あげぇな。あんたが謝ることなんてなんもあらへん」
それでも里沙ちゃんは頭を上げなかった。
泣いているのだろう、肩が小さく震えている。
- 46 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 21:02
-
すると裕ちゃんは大きな声で
「新垣っ!」
その声に驚いて里沙ちゃんは、
「はいっ」
と言ってぱっと頭を上げた。
顔は涙でくしゃくしゃ…。
そんな里沙ちゃんを裕ちゃんが優しく抱きしめた。
矢口が絶賛した里沙ちゃん。
どんなに辛くても弱音を吐かなかった里沙ちゃん。
そんな彼女が裕ちゃんの胸の中で声を出して泣いていた。
「あんたはよぉがんばったよ。つらかったやろ。ほんとごめんなぁ。うちらがもっと早く気づいてやらなあかんかった」
裕ちゃんは里沙ちゃんが泣きやむまでそのまま彼女を抱きしめていた。
里沙ちゃんが落ち着いてきた時、裕ちゃんは里沙ちゃんの肩に手をやり、
「新垣の決意を無駄にはさせへんで。
いや、あんた一人に背負わせへん」
裕ちゃんは何かを決心したようだった。
- 47 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 21:03
-
「なっち。うちらは仲間やな」
「そうだよ」
「後輩に見せたろやないか。仲間ってのがどういうもんなのか」
「ん?」
裕ちゃんは何をするつもりなんだろう?
「それじゃぁ、うちらはそろそろおいとまするけど、えぇか新垣。あんたはとにかく体調を整えることを最優先し。えぇな」
「はい…」
裕ちゃんは里沙ちゃんの頭を撫でて微笑んだ。
裕ちゃんにかかったらお子様扱いだね。
そんなことを考えて微笑んでいたら、
「ほら、いくで。まったくあんたはいつまでたっても」
って、私も子ども扱い。
「なんだべさ。人を子どもみたいに」
といってふくれたら、それを見ていた里沙ちゃんがにっこりと笑った。
「安倍さん。完璧子どもです」
「あっ、里沙ちゃんまでそんなこというのかい」
そういいながら、私は彼女の笑顔に送られて病室を後にした。
- 48 名前:Only one 投稿日:2004/02/25(水) 21:03
-
「裕ちゃん待ってよぉ」
「とろとろ歩いてるんやないでぇ」
「これからどこ行くの?」
「事務所」
裕ちゃん、戦闘モードだ。
このままでは、喧嘩になるんじゃないかという私の危惧はどこへやら。
事務所との話し合いで、裕ちゃんはものすごく冷静に話を進めていった。
そう。今回流れることになっていたコンサートはハローのコンサート。
ということは、ハローのメンバーは開演されることになったコンサートに出るかでないかは別にして、スケジュールは空いているはず。
裕ちゃん曰く
「これを不幸中の幸いっていうんやろうな」
- 49 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 02:01
-
コンサートの当日。
案の定、最悪のコンサートとなった。
通常とは構成を変えて、モーニング娘。はラスト部分のみで、2曲歌って挨拶をして終了という形だったが、とにかくひどいことになった。
最後にリーダーである里沙ちゃんが挨拶と謝罪をする時には、罵声だけでなくサイリウムやペットボトルまでがステージの彼女に向けて投げつけられた。
それでも彼女は深々と頭を下げたままだった。
- 50 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 02:02
- 1回目のステージを終えた後の控え室の雰囲気も最悪だった。
誰もしゃべらずうつむいたまま。
私達がモーニング娘。の控え室を覗きに行った時には、そんな後輩達の間をリーダーとサブリーダーが声をかけて廻っていた。
「あと1回、辛いかもしれないけど、きっちりけじめつけて終わろう」
「私達はいいです。だけど、これじゃぁ新垣さんが…」
「私は大丈夫よ」
私達は知っていた。
里沙ちゃんはまだステージに立てる様な状態じゃない。
ましてや、あんな状態のステージに。
病院から半ば強引に出てきたんだ。
立っているだけでも辛いだろうに。
そのことを知っているメンバーは紺野だけ。
- 51 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 02:02
-
二人ともいつの間にこんなに強くなったんだろう。
私は、モーニング娘。に彼女たちが入ってきた時のことを思い出していた。
いつも4人でひとかたまりになって、自信なさげにしていた彼女たち。
今、リーダーとサブリーダーになったこの二人の姿をあの頃の彼女たちから想像することなんて出来ない。
もうひとがんばりだよ。
私は心の中でそう声をかけて彼女達の控え室を後にした。
2回目のステージ。
モーニング娘。のラストステージ。
1回目以上にリーダーに対する罵声がひどくなった。
2回目は1回目よりも30分ほど早くラストを迎えた。
これは予定通り。
一人一人のメンバーをリーダーである里沙ちゃんがステージから送り出していった。
最後に一人ステージに残った里沙ちゃんには容赦のない罵声が浴びせられた。
深々と頭を下げている彼女にはものが投げつけられていた。
それでも最後に真っ直ぐに前を見てステージを後にした。
- 52 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 02:03
-
普通なら、ここでステージは暗転し、会場の照明がついてお開きになるのだが、今回は違った。
スポットライトがステージセンターの昇降口を照らし出した。
そこに現れたのは裕ちゃん。
会場はざわめいた。
裕ちゃんコールも聞かれる中、裕ちゃんはゆっくりと話し始めた。
「これから、皆さんに大切なお話があるので、静かに聞いて下さい」
ざわめいていた会場が静かになる。
「とりあえず、みんな出てきぃ」
裕ちゃんの言葉を合図にステージに出てきたのは、歴代の元メンバー達。
全員が揃ったところで裕ちゃんは話を再開した。
「まずは、今日は来てくれてありがとう。
今日はモーニング娘。のラストとなるステージでした。
だけど、みんなさぁ。ちょっとひどかったんちゃう?
まぁ、うちもモーニング娘。に関してどんな噂が広まっているのかは知っているけど、今日のはちょっとひどすぎたんちゃうかなぁ」
裕ちゃんはここで一呼吸おいて、会場の反応を見ていたが、ややざわついただけだった。
- 53 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 02:03
-
「なんでみんなあんなデマを信じてもうんたん?
ゆうとくけど、うちは事務所とかにこれいわされてるんとちゃうで。
今、本当に悔しいんよ。
実際に、現リーダーと後輩達がどういう関係だったのか、それはこの後でなっちに話してもらいます。
新垣から色々と相談されていたみたいだしね。
ただ、私からもちょっと言わせてもらうわ。
モーニング娘。のオリジナルメンバーとして、初代のリーダーとして、ここではっきりと言っておきたいのは、あんな噂は全部嘘というのが一つ。
そしてもう一つは、新垣は歴代リーダーの中で最高のリーダーだったってこと。
これだけは、誰がなんと反論しようと曲げる気はありません。
では、なっちよろしく」
そういって、裕ちゃんは私にマイクを手渡した。
- 54 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:05
-
「もう結構前になるけど、リーダーが後輩をいじめてるっていう噂が広まってるって聞いた時にね、私すごくショックだったの。
だってさ、そんなこと全然無いのに、あたかもそれが事実みたいに語られてたから。
だけど、そういうのって今までにも結構あったし、またいつものかとか思ってたのね。
里沙ちゃんは確かにリーダーとしては厳しいリーダーだったと思うんだ。
私は初代の裕ちゃんから4代目の里沙ちゃんまで全員知ってるわけでしょ。
裕ちゃんはなんていうのかなぁ、にらみを効かせてみんなをまとめて引っ張っていくっていうタイプのリーダーだった。
その裕ちゃんからリーダーを引き継いだのはかおりだったけど、正直最初はどうなるんだろうって思ったのね。
だけど、かおりは裕ちゃんとは違うタイプのリーダーになった。
みんなを見守りながら、要所要所で後ろからそっと背中を押すようなタイプ。
本気で怒ると怖いんだけどね。
- 55 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:05
- そのかおりからリーダーを引き継いだのは梨華ちゃんだった。
その時私は既にモーニングのメンバーじゃなかったんだけど、梨華ちゃんは、行くわよぉ〜って感じで一見裕ちゃんタイプに見えることもあるんだけど、実際にはかおりタイプのリーダーだったね。
そして、その梨華ちゃんからリーダーを引き継いだのが里沙ちゃん。
彼女はね、裕ちゃんタイプでもかおりタイプでも無かったと思うの。
こう、後輩の隣に居て、行くよぉ〜って言って横から腕を組んで一緒に一歩前に出るって感じかなぁ。
私達って、仕事のない日でもダンスレッスンとか色々あるんだけど、私も何度かレッスン場でモーニングのメンバーと一緒になったことがあるの。
結構遅い時間に行ったりすると、よく里沙ちゃんと会ったなぁ。
里沙ちゃんが後輩をいじめてるって根拠みたいにされてたのに、ダンスで居残り命令とかあったでしょ。
居残りさせたりしていたのは事実なの。
だけどね。肝心な部分が抜けてるの。
- 56 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:06
- モーニングのメンバーって、全員が揃うことってなかなか無いのね。
だから、ダンスなんかは全員が揃えた時には、それぞれは完全にマスターしてないとダメなのね。
だけど、やっぱ遅れちゃう子とか出てくるわけ。
モーニングは人数が多いので、フォーメーションが狂うと凄く危ないの。
だから、どうしても覚えきれないメンバーが居たらやっぱり居残りしてでも覚えてもらわないと他に凄く迷惑かけるのね。
で、里沙ちゃんもリーダーとしてやっぱり遅れている子がいれば、一人残って覚えるまで練習するように言うわけさ。
だけどね、里沙ちゃんはね、いつも一緒なの。
後輩を本当に一人きりで残したりしなかった。
レッスン室にビデオカメラ持ってきて、一緒に踊ってビデオで確認したり、上手に踊れる子を撮ったビデオと比べて悪いところを直したり。
里沙ちゃん本人だって、そういう子と同じように通常のレッスンをこなした後にやってたの。
そういったメンバーとして共通のこと以上のことをやって、それ以外にもリーダーとしての仕事もあったんだから、それは大変だったと思うんだ。
- 57 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:06
- 私ね。聞いたことがあるの。大変でしょって。
だけど里沙ちゃんは、それが役割ですからって笑ってた。
リーダーとしての相談っていうのは、梨華ちゃんやかおりにはしていたみたいなんだけど、私は相談っていうよりは、一緒に食事に行ったり買い物に行ったりって感じで、息抜きっていうのか、プライベートな部分でよく一緒したりしてたのね。
そんなときに、まぁ色々な話をするんだけど、里沙ちゃんの話ってね、決まって後輩の自慢話だった。
あの子は凄いとか、凄く今頑張ってるとか。
自分はどうなのよって聞くと、まぁそれなりにって笑ってた。
- 58 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:06
- さっきね。一人一人が里沙ちゃんに送られてステージから下りてくる時、何人かが里沙ちゃんに話しかけてたでしょ。
みんなね、リーダにごめんなさいって言ってたんだよ。
リーダーに全部背負わせてしまったままでって。
今日のコンサートだって、本当は中止のはずだったんだ。
だけど、里沙ちゃんがどうしてもやって欲しいって頼み込んだの。
床に額をこすりつけるようにして。
後輩達をね、モーニング娘。が解散したからモーニング娘。じゃ無くなったんじゃなくて、みんなが卒業したからモーニング娘。が無くなるんだっていう形にしてくれって。
今、叩かれているのは自分一人だから、それをそのままにしておけば後も他のメンバーには大きな影響でないからって。
ステージでは自分が体張ってでも後輩守るからって。
- 59 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:07
- リハーサルの時に里沙ちゃんに尋ねたんだ。
これからどうするのって。
そしたらね、すっぱり身を引いて、出来ることなら一般人としてみんなのファンやりたいですって。
自分にとって、この世界にいるっていうことは、モーニング娘。であるってこととイコールだからって。
ねぇ。あの子、全部自分だけで背負っていく気だよ…。
それでいいのかなぁ…。
私はさぁ……。」
最後は言葉に出来なかった。
涙の止まらなくなった私からマイクを受け取って裕ちゃんが話を始めた。
「あのな。今なっちが話してくれた様な子が、後輩いびるか?」
会場はまったくの無言だった。
- 60 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:07
- 「実は、ある方から一通の手紙を渡されたんよ。
この手紙のことは今の今まで存在をしっていたのは、私に手紙を渡してくれた人と私だけ。
その人は、私にこれを渡す時に、娘は新垣さんを本当に尊敬してたし、大好きだった。いつも迷惑ばっかりかけて申し訳ないって言ってたんですよ。だから今の状態を娘はとても悲しんでいると思う。できるならこの手紙の内容をファンの方々に知らせてあげて下さいって」
裕ちゃんはそういって白い封筒から便箋を取りだし読み始めた。
「リーダーへ。
私が悩んでいる時、いつも助けてくれた。
ダンスがうまく覚えられない時も最後まで一緒に練習してくれた。
リーダーは一人っ子の私にとって大好きなお姉ちゃんでした。
そんなお姉ちゃんに何もお返しできないまま、最後まで迷惑をかけてしまってごめんなさい。
もし生まれ変わってまた会える時があったなら、今度はもっと優秀な妹として出会えるように頑張ります。
さようなら」
遺書?
そんなものが残っていたの?
- 61 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:08
- 「これを私が手渡されたのは昨日だったん。
色々整理していたら出てきたんだって…」
なんでもっと早くに…。
「それと、一部の人は気づいたかもしれないけど、新垣はさっきステージから下がる時にまた倒れました。
今頃、病院に向かう車の中だと思う。
本当は、今日ステージに立てる状態じゃなかったんよ。
だけど、後輩達を送り出すのが私の最後のつとめだからって無理矢理出てきたん。
みんなこれだけは忘れないで居てほしいんよ。
今日、11人の内10人のメンバーがモーニング娘。を卒業しました。
たった一人、その10人を見送って、モーニング娘。に最後に起こった悲しい出来事を抱えたまま自らは卒業しなかったメンバーがいたことを…」
ステージ上の元メンバー全員で頭を下げたとき、どこからともなく拍手が起こり、それは会場中に広がっていった。
そでに下がる時に、
「その拍手…遅かったんや」
裕ちゃんがそうつぶやいた。
- 62 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:08
-
本人が遺書らしい遺書を残さずに逝ってしまったため、結局、自殺の原因はわからないままになった。
いくつか取り上げられた噂もあったが、それらはどれも噂以上のものではなかった。
それだけに、彼女が唯一残した里沙ちゃんへの手紙は人々の記憶に残ることになった。
- 63 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:09
-
……………♪
「はぁい、今日最後の曲は私のモーニング娘。時代最後のシングルになった愛あらばIT'S ALL RIGHTでしたぁ。
なんか懐かしいですねぇ。
って、モーニング娘。も解散してからもう半年たつんですねぇ。
なんか昨日のことのように感じるなぁ」
私は自分がパーソナリティを担当しているラジオの放送中。
「では、最後にお手紙を」
その時、ディレクターさんから差し替えっていうジェスチャーと共に手紙を渡された。
なんちゅうタイミングでわたすんだべと心の中で悪態ついたが、文句を言う暇はない。
- 64 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:10
-
「えっと。あぁっと。
えぇ、失礼しました。ちょっと今ディレクターさんと秘密のやりとりがありましてぇ。
では、お手紙です。
安倍さんこんばんわ〜。
はい、こんばんわ。
私で〜す。
って、だれだべさ。
お豆でぇ〜す。
えっ!?
お豆って…り、里沙ちゃん!?
わぁ、里沙ちゃんからですよ。新垣里沙ちゃん。
じゃぁ読みますね。
安倍さん相変わらずお元気そうで、私もすっかり元気になりました。
こないだの安倍さんのコンサート行きましたよぉ。
えぇ〜。言ってくれれば良かったのにぃ。
小学生の頃にもどって団扇持って。
をいをいって感じでしょうかね。
未だに北海道訛りの抜けない安倍さん見て安心しました。
あはははは。
今じゃ、立派ななちヲタに復帰してまぁす。
って、里沙ちゃん…。
これからも応援してますから頑張って下さいね〜。
それでは〜」
- 65 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:10
-
う〜、ディレクターさんの意地悪〜。
「いやぁ、ほんとびっくりしたぁ。
今、この手紙渡されたんですよ。打ち合わせでは別の手紙読むはずだったのに。
里沙ちゃん元気にやってるみたいだね。
私も頑張ってるからねぇ。
今度会おうねぇ〜。
ということで、今日もおしまいの時間がやってきました。
それでは、みなさん、また来週お会いしましょう〜。
ばいば〜い」
エンディングのテーマ曲が流れ出し、私はマイクのスイッチを切った。
ピンクの便箋に書かれた短い手紙。
懐かしい里沙ちゃんの字。
- 66 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:10
-
あの日、病院に運ばれた彼女の所へは結局行くことが出来なかった。
私達年長者は、当日の夜も仕事が入っている人間が多かった。
私が仕事から解放されたのは夜半を過ぎてからのこと。
携帯には高橋からメールが入っていた。
『お豆は安定してますので安心して下さい』
病院に行きたかったが、こんな時間では迷惑になるだけ。
翌日からは新曲のイベントやらで地方を廻る仕事が入っているので、しばらく会うことは出来ないなぁ。
そんなことを思いながら、空港近くのホテルの一室で眠りについた。
私が東京に戻ってきたのはそれから2週間以上経ってからだった。
里沙ちゃんがご家族の意向もあって地方の病院へ転院したことは、地方周りの途中で紺野から聞いていた。
ただ、どこの病院へ移ったのかは紺野も教えてもらえなかったらしい。
今までの環境と切り離すのが目的だからしょうがないのかなぁ。
しばらくすると、そんな話題も話に出なくなった。
それは、みんなが彼女のことを忘れたわけではなく、今はそっとしておかなくてはいけない。そんな風に思っていたんだと思う。
- 67 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:11
-
そして、半年の時が過ぎ、今日突然私のラジオ番組に彼女からの手紙が届いた。
「もう〜。帰ってきてるなら連絡くれればいいのに。まったく」
帰り支度をしていた私の所にディレクターさんが来た。
「もう、ほんとにびっくりしましたよぉ」
「はははは、ごめんごめん。
やっぱこういうのは突然の方が良いと思ってさぁ」
「まぁ、嬉しい手紙だから良いですけどぉ」
「そうそう、実はさぁ、手紙あれだけじゃないのよ」
「え?」
「なっち宛に個人的な手紙も一緒に入ってきてたんだ。これね」
ディレクターさんはそう言って、封筒を渡してくれた。
表に“安倍なつみ様”とだけ書かれていて、裏には“新垣里沙”とだけ書かれた封筒。
「安倍さんに渡して下さいっていうメモが入っててさ。ま、今日はお疲れ様」
そういってディレクターさんは立ち去った。
表に車を待たせているので、私は手紙をバックに入れてラジオ局を後にした。
帰りの車の中で封筒を開けてみる。
- 68 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:12
-
『安倍なつみ様へ
前略。
長い間ご無沙汰していました。
ラストステージで私が倒れてしまった後のこと、あさ美ちゃんから教えてもらいました。
安倍さんや中澤さんを初め、皆さんが私なんかのためにして下さったこと、絶対に忘れません。
横浜の病院にいる時に、中澤さんがお見舞いに来て下さいました。
とにかく今は体の調子を第一に考えて養生しなさい。みんなへの連絡はそれからでいいからっておっしゃって下さいました。
本当は皆さんにお礼を言ってから転院したかったのですが、急にそんなことが決まり、連絡する機会を失ったままになってしまいました。
移った先の病院は、本当に何もない田舎にある病院で、真っ青な大きな空と広い緑の畑に囲まれたところで、毎日ぼぉ〜っとしているには最高の所でした(笑
精神的に追いつめられていることに自分自身が気づかずに過ごしていたことに気づいたのは、転院してからだったんです。
自分は冷静な人と思っていたんですけど、てんぱりっぱなしな人だったんだと思い知らされちゃいました。
- 69 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:12
- 何度もみなさんに連絡を入れようと思ったのですが、皆さん忙しいことはわかっていましたし、突然私なんかが連絡入れたら迷惑かなとか思っちゃって、本当に元気になったら、改めてお礼に伺おうと、中澤さんのアドバイスの通りに自分自身のリフレッシュに専念することにしました。
こっちに戻ってきたのは10日ほど前で、実はあさ美ちゃんには連絡したんです。
そうしたら、関東復帰記念とかまたわけわからないことを言って、安倍さんのコンサートのチケットをくれたんですよ。
いつまでたってもあさ美ちゃんは謎の人物です。
モーニング娘。時代にもなかなか安倍さんのステージを見に行くことが出来なかったので、本当に久しぶりに見た、ステージで歌う安倍さんはやっぱり私の憧れの人でした。
- 70 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:13
-
えぇと。
書こうかどうか迷ったんですが…。
本当のことを言うと、まだ体調戻ってないんです。
っていうか、体に無理させ過ぎちゃったせいなのか、内臓のあちこちにガタが来ちゃっていたみたいで、検査入院とか繰り返していたりするんですよ。
急に調子悪くなることもあったりで…。
これ、知ってるのあさ美ちゃんだけなんで、内緒にしておいて下さいね。
まだ、当分の間はこんな生活が続きそうなんですけど、皆さんのコンサートとかには体と相談しながら行きたいと思っています。
後輩達には、どこかで私が見ている。手を抜くようなことしたら許さないからって脅しといて下さい(笑
あっ。こういうこと言うからいけないのかなぁ(汗
- 71 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:14
-
今日も、これを書き終わったら病院です。
う〜ん。
こんな弱気な文章、私には似合わないですね。
でも、ちょっとだけ甘えさせて下さい。
安倍先輩!
それでは、皆さんのご活躍を心から祈っています。
また、何か機会がありましたら。
安倍さんが大好きな
新垣 里沙
』
- 72 名前:Only one 投稿日:2004/02/27(金) 23:14
- 手紙から目を上げて、車窓に映るのは今日も変わらない東京の夜景。
一歩ずつ、進もうね。里沙ちゃん。私もあなたに嫌われない様に一歩ずつでも進歩し続けるからさ。
私のラジオを聞いていた何人かから電話があった。
「元気そうで何よりだよね」
私は、もう一つの手紙のことについては話さなかった。
一人だけ、裕ちゃんには事務所宛で手紙が届いたそうで、彼女の気持ちを尊重しようということになり、里沙ちゃんの現状については触れないことにした。
「戻ってくればいいのに」
そんなことをいう子もいたけれど、
「そうなったらいいね」
と微笑むしかなかった。
「なんで会いに来てくれないんだろう」
そんな疑問にも
「きっと色々忙しいんだよ」
と曖昧に言うしかなかった。
みんな東京や神奈川でのイベントの時などには客席に彼女の姿を探しているようだった。
- 73 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:27
-
そうして、1年近い月日が流れたある日、紺野から連絡が入った。
『今度のハローのコンサートを里沙ちゃん見に来るみたいですよ』
「体調は良くなったのかな?」
『もう、ほとんど普通の生活と同じだって言ってました』
「そうかぁ。よかったねぇ」
『はいっ』
紺野は本当に嬉しそうだった。
その日事務所に行くと、裕ちゃんも仕事の打ち合わせに来ていた。
紺野からの連絡の話をすると
「そぉかぁ、そらよかったなぁ」
と言った後に、視線を上に上げて何か考えている。
ん?なにかたくらんでる?
- 74 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:28
- 「なっち、この後の予定は?」
「へ?」
「へ?やあらへんがな。今日のよ・て・い」
「あぁ、えっと、打ち合わせが終わったら、夜はラジオだけど」
「一緒に食事する位の時間はあるんか?」
「うん。大丈夫だと思うけど」
「じゃぁ決まり」
「何が?」
「何がって、お食事会。本日開催」
「なんなのさ。急に」
「ちょっと相談したいことがあるねん」
「なんか怖いなぁ」
「襲ったりはせぇへんよ。それとも襲って欲しいか?フフフフ」
「裕ちゃん、おっさん入ってるよ」
「けっ。なんとでも言い。とにかく打ち合わせ終わったら電話してな」
「うん。わかった」
「それじゃぁ、後ほど〜」
手をひらひらさせながら、裕ちゃんは事務所から出て行った。
「なぁに企んでるんだろ?」
そんな疑問を抱きながら私は仕事の打ち合わせに入った。
- 75 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:28
-
打ち合わせが終わって裕ちゃんに電話をすると事務所の近所にあってたまに使うレストランにいるとのこと。
お店にはいると、奥の方のテーブルに裕ちゃんがいるのが見…。
あれ?隣にいるのは圭ちゃん?
ハローのリーダーとサブリーダー。
この二人が揃ってレストランでひそひそ話。
かぁなり怪しい雰囲気だべさ。
ちょっと不安を感じながらも席に向かった。
「おぉ、来たか」
「なっちおひさ〜」
「なぁんか、凄く怪しい雰囲気だよ」
「怪しいって失礼な」
相変わらずな挨拶を交わし、注文をする。
全員の食事が揃ったところで、
「まぁ、食べながらぼちぼち話そうか」
そう言うと、裕ちゃんは話し出した。
- 76 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:30
-
…………………
「そんなことできるの?」
裕ちゃんの話を聞いて、私は驚いてしまった。
「まぁ、みんなの協力が得られることが大前提やけどな」
「大抵のことは協力してくれるだろうけど、これはかなり厳しいんじゃないかなぁ」
さすがの圭ちゃんも自信なさげ。
「全員に直接影響が出るっていうわけやないけど、段取りの変更もあるし、全員の了解は得なならんな」
「直接影響が出るのは誰になるのかな?」
「一応、対象は元モーニングのメンバーに限ろうと思うんよ。他の子たちには必要以上の迷惑かけとうないし」
そこまで話が進んだところで、
「あれ?裕ちゃん?」
振り向くとごっちんが立っていた。
- 77 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:30
- 「圭ちゃんとなっつぁんも。こんな所でなぁに悪巧みしてるのぉ〜」
さすがはごっつぁん。鋭い…。
「丁度いいところにきたわ。ちょっとあんたも話に参加し」
「何かな?何かな?」
裕ちゃんはごっつぁんに計画を話した。
「後藤はいいよ」
「いいって?」
「後藤は協力するよ」
「ほんまに?」
「うん。後藤もずっと気になってたことだしね」
「よっしゃぁ!」
裕ちゃん気合い入りすぎ…。
「事務所に話を持っていく前に、メンバーの方を先にせなならんな。
とにかく、全員の了承をもらわんと」
「協力してくれるかなぁ」
「それを説得するのが、うちらの任務や」
「うちらって…。もう決定してるわけね」
圭ちゃんは苦笑いした。
「いやなんか?」
「ぜぇんぜん」
ごっつぁんはそんな会話を楽しそうに聞いている。
「そぉいえば、なっち自身はOKなんだよね?」
「何を今更そんなこと言ってるのよぉ」
「いや、一応さ」
圭ちゃん律儀なんだから。
- 78 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:31
-
「それじゃぁ、まずは直接影響の出るメンバーを手分けして説得するっていうことでええな?」
「うん。里沙ちゃんが戻ってきてからも連絡できなかった理由もみんなに説明したほうがいいね」
「そうやな」
「分担表作らないとね」
「まずは辻と加護はっと…。なっちにやってもらおうか」
「圭ちゃんだったら、脅迫しそうだもんね」
「ごとぉ〜」
「ほらほら脱線しとらんで。次は小川と高橋はっと。これは圭ちゃんに頼もか」
「ほいよ」
…………
そんな感じで、それぞれの分担が決まった。
裕ちゃんは元モーニングのメンバー以外の子たちに事情を説明して協力をお願いすることになった。
「時間に余裕がないので、急いでたのむで」
こうして、私達の計画はスタートした。
- 79 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:32
-
「もしもし。お久しぶりぃ。
うん。なつみだよぉ」
お互いいい歳なのにののとは相変わらずこんな感じで会話が始まる。
「実はさぁ、ののとあいぼんにお願いしたいことがあるんだ」
二人はテレビの仕事で北海道にいた。
「協力してくれるの?」
ののとあいぼん二人が交互に電話に出て話をした結果、二人は協力してくれることになった。
「ありがとうね。細かなことが決まったらまた連絡するからね」
私が担当したメンバーはこれで全員がOK。
誰一人悩みもしないで即答。
なんだろう、この一体感は。
「さてと、とにかく裕ちゃんに早く連絡しないと」
裕ちゃんへ電話しても話し中ばかり。
きっと、モーニング以外のメンバーへの説得をしているんだろう。
- 80 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:32
- 何度目かの電話でやっとコールが鳴った。
「あっ、裕ちゃん」
『おぉ、なっちか。どうやった?』
「私の担当したメンバーは全員OKだったよ」
『そうかぁ。嬉しいなぁ。みんな思いは一緒なんやなぁ』
「そうだね。圭ちゃん達はどうなってるの?」
『圭坊からはさっき何人かつかまらないって連絡があったけど、他はOKやって』
「そぉかぁ」
『この感じなら、ごっちんの方も大丈夫そうやな』
「うん。そうだといいね」
『あんたも、明日は仕事やろ?』
「うん」
『無理なお願い聞いてくれてありがとな』
「全然無理なことじゃないよ」
『そやな…』
- 81 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:32
-
裕ちゃんが事務所へ話をしに行ったのは、その2日後のことだった。
裕ちゃんと圭ちゃんの二人で行く予定だったらしいが、紺野がどうしても一緒に行かせてくれと粘ったそうで、三人で事務所へ行くことになったそうだ。
当然のことながら、最初はそんなこと出来るわけがないという返事だったようだが、裕ちゃん達はあきらめなかった。
直接影響が出るメンバーだけでなく、ハローのメンバー全員から了承をもらっていること、全員がのどに小骨が引っかかった様な状態のままでいると言っていること…。
とにかく、粘り強く事務所の人間と話をしたそうだ。
最後には、自分は司会だけでも良いとまでいったそうで、圭ちゃんも紺野もそれにはびっくりしてしまったと言っていた。
事務所側もなんとか納得はしてくれた様だが、コンサートとなると主催者やスポンサーなどの問題もあるので、即答は出来ないとの答えだった。
ただ、これで一歩進んだことに間違いはなかった。
- 82 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:33
-
主催者やスポンサーさんへの説得には、翌日裕ちゃんと圭ちゃんも事務所の人と一緒に行くことになった。
こういった動きは逐次、ハローのメンバーにメールで報告されていた。
その日の夜、久しぶりにあの二人がラジオで爆弾を投下した。
そう。
辻と加護。
ゲストで生出演したラジオで、
『今、私達にとってとっても大切な計画が進んでるんですよ』
その一言から始まった。
パーソナリティの人は、二人の新展開か何かの話だと思ったんだろう、その点をさらに聞いてきた。
恐らくマネージャーは慌てたと思うんだけど、そんなことは分かり切っている二人は、一気に言い放った。
『もしその計画がダメになったら、ショックで私達もう引退しちゃうかもしれないんです』
そこで不自然にコマーシャルになった。
- 83 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:33
- そのラジオ番組のスポンサーは、計画を進めているコンサートのスポンサーにもなってくれている会社だった。
「あの二人絶対に確信犯だ」
やると決めた無茶をやらしたらあの二人の右に出るものはいない…。
最近はもう大人になっていたのですっかり忘れてた。
「それにしても無茶しすぎだよぉ」
今度会ったら、徹底的にお説教しないと。
でも、そんな二人の気持ちが嬉しかった。
お説教が終わったら思いっきりほめてあげないと…。
なんか、矛盾してるのかなぁ。私。
『あんまり無茶なことやるんじゃないよ』
とメールを入れたら、すぐに返事が返ってきた。
『今夜のスケジュールは夜通しお説教』
こんな返事が来るようなら大丈夫だね。
- 84 名前:Only one 投稿日:2004/02/29(日) 01:33
-
翌日の夜、裕ちゃんから連絡が入った。
あの事件の前後にあったことは、それなりに報道もされたので、みんな知っていた。
前夜の辻・加護の爆弾に効果があったのかどうかはわからないが、主催者もスポンサーの会社の人たちも、それなりに理解を示してくれたとのことだった。
当日のステージを担当してくれるスタッフの人たちへの挨拶回りも裕ちゃんと圭ちゃんがやってくれた。
そう、当日は二つの台本を用意しなくてはならない。
主人公が来ない場合も考えられるんだから。
現場を裏で支えてくれているスタッフの人たちにかかる負担は非常に大きなものになる。
根回しは全て終了した。
後は、当日を待つのみとなった。
- 85 名前:dada 投稿日:2004/03/03(水) 03:06
- 初めまして!今日初めて読みました。
深夜なのに‥(w
初めての小説ですか!?
上手すぎます!
かなり泣かせていただきました。
メンバーが変わっても娘の絆は強いと思います。
垣さんは確か合宿でも泣かなかったんですよね。
この話の通り強く振る舞っちゃう人なんだと思います。
ところで藤本さんと田中さんの名前が出てきて無い気がしたんですが…(w
かなりはまっちゃったので次の更新も待ってます。
計画は成功するのでしょうか?
- 86 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:33
- >85
dadaさん
コメントありがとうございます。
最初に落として以来、この板の底辺に張り付いたまま、
自分でもこりゃ放置スレにしかみえんなと思ってました(w
そんな物を読んでいただきまして感謝感激です。
ミキティーは確か最後の方で名前がと思っていたのですが
れいなは…出てない。
書き直しました(w
では、調子にのってラストまで一気に大量更新しちゃいます。
最後で使っている歌とのかねあいもあるんで(^^;
(エンドレスで聞きながらこの話を書いてたりする)
ちょっと最後の各メンバーの描き方が甘いとは思うんですが、
現状の自分の能力ではこれ位が限界ってことで。
- 87 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:34
- ハローのコンサートはなにせ出演者の数が多い。
楽屋はまさにごった返しているのがいつもの習わしだった。
だけど今日は少し違った。
私のいる楽屋には、今8人の元モーニング娘。のメンバーだけがいた。
そう、あの8人だけが…。
今、裕ちゃんは3人の元メンバーと真剣に話をしている。
私は矢口に
「相変わらず準備するのが遅いんだからぁ」
と言われながら、メークの真っ最中。
圭ちゃんは部屋の隅で本を読んでいるし、カオリは私の横で交信中…。
「……ありがとな。よろしく頼むわ」
裕ちゃんのそんな声が耳に入った時、楽屋のドアがノックされた。
「はぁい」
矢口がドアを開けると、スタッフの人が顔を覗かせた。
「台本Aです」
「ほんとですか!?」
「本人の入場が確認されました。
よかったですね」
「ありがとうございますぅ」
「もうすぐ始まりますので準備急いで下さいね」
そういってスタッフの人はドアを閉めた。
「よっしゃぁ。気合い入れて行くでぇ」
裕ちゃんが立ち上がる。
- 88 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:34
-
「ねぇ。久しぶりにこの面子でさぁ。やらない?」
「「「ん?」」」
「あぁ。やるか?」
そういって裕ちゃんが手を前に出した。
一つ一つ手が重なって、
「それでは…がんばって、いきまっしょぉいっ!!」
「この顔ぶれでやるのっていつぶりだべさ」
「なっちが痩せてたころぶり」
「やぁぐちぃ〜っ」
「きゃはははははは」
「ほらっ、じゃれ合ってないで行くでぇ」
「「「「はぁい」」」」
廊下に出ればもう人混み状態。
いよいよ、計画の本番がスタートした。
- 89 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:35
-
当然、お客さんは何が用意されているのかは知らない。
ただ、コンサートも半ばにさしかかった頃には、おかしいということにほとんどの人が気づいているようだった。
事前に広まっていたセットリストと内容が違うんだから当然だよね。
2曲やるはずのところが1曲だったり、中間に入るミニ演劇が無かったり。
こういう時には、後半何かがあるのをファンの人たちもよく知っている。
ただ、この時期に事前に何の情報もなく一体何があるのかは想像すら出来ない状態だろうし、不安に感じるよね。
ごめんなさい。
通常なら2時間強あるステージが1時間半位でエンディングを迎えた。
全員揃ってありがとうございました〜と挨拶し、ステージからはけていく。
- 90 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:35
-
が、はけていったのは全員ではなかった。
ステージのセンターには裕ちゃんが一人残った。
会場はざわめいている。
暗くなったステージの中スポットライトに一人照らされていた裕ちゃんは、少し間を開けてから話し出した。
「えぇ。本日はハローのコンサートに来て頂いてありがとうございました。
そして、最初にまず皆さんに謝らなくてはなりません。
皆さんもおわかりの通り、今日のこのステージは通常より短くなっています。
歌を聞くのを楽しみにいらっしゃって下さった皆さんにはまことに申し訳ありませんでした」
そういって裕ちゃんは深々と頭を下げた。
- 91 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:35
-
「今日、このように時間をおしてコンサートを行ったのには理由があるんです。
ここからは、皆さんにお願いなのですが、私達がこれから行うことに是非立ち会って頂きたいんです」
裕ちゃんにそのように言われて会場はさらにざわめきが大きくなった。
私達元メンもステージに出て、裕ちゃんの後ろに横一列に並んだ。
「この横浜アリーナのステージで、コンサート終了直後に、こういう形で私が皆さんにお話をするというのが、以前にもあったこと覚えています?」
裕ちゃんは会場にそう語りかけた。
「あの時、私がファンの皆さんに覚えておいて欲しいとお願いしたことが何だったか、覚えていてくれてますか?」
「覚えてるよぉ〜」という声があちこちからかかる。
「実は、これからそのことにきっちりとけじめをつけようと思うんです」
静かになっていた会場は再びざわめいた。
- 92 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:36
-
その様子を見回していた裕ちゃんがいきなりこう呼びかけた。
「新垣。来てることはわかってるんよ。ちょっとステージまで上がってきてや」
それを聞いた会場は、一瞬静まりかえったが、
うぉぉぉ〜という歓声で包まれた。
しかし、新垣らしい人物が動く気配は無かった。
といっても、私達は事前に彼女がどの席にいるかは知らされていたので、彼女が下をうつむいているのはステージから見えていた。
しばらくその様子を見ていた裕ちゃんは
「う〜ん。よし。
高橋っ。小川っ。あんたら同期やろ。
捕まえてこ〜い」
って、裕ちゃん。それ過激すぎ。
「えぇ、今から二人がそちらに行きますが、皆さんそのまま静かに待っててな」
裕ちゃんから指名を受けた二人はステージから客席へと飛び降りると、センター席横の通路へと進んでいった。
- 93 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:36
- 10列目を過ぎた辺りで二人は立ち止まり、通路横の席でニット帽をかぶり下を向いている人物の肩を叩いた。
観念したのか、荷物を持って二人に挟まれて彼女はステージに向かってきた。
片手に黒いデイパック、片手に…私の団扇!?
挙げ句の果てに、ステージに上がってきた時にその団扇を持った手で照れ隠しに頭をかいたもんだから目立つ目立つ。
それを見た会場は笑いに包まれた。
里沙ちゃん。私の方が恥ずかしくなっちゃうよぉ。
ぺこぺこと頭を下げていた里沙ちゃんだけど、明らかに頭の上に?マークを飛ばしまくっていた。
- 94 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:37
-
そんな里沙ちゃんを見ていた裕ちゃんは、再び正面を向いて
「あの日、私はファンの皆さんにこういいました。
“たった一人、卒業しなかったメンバーがいたことを覚えておいて”
って。
世間では、あの日モーニング娘。は解散したことになってます。
だけど私の…私達の中では、今でもモーニング娘。は解散してないんです。
一人残っているから…。
あの日、中途半端に終わってしまった続きをやらせて下さい。
そして、モーニング娘。をきちんとした形で終わらさせて下さい。
お願いします」
そういって裕ちゃんは頭を下げた。
会場は拍手に包まれた。
「ありがとうね」
裕ちゃんはにっこり笑って再度頭を下げた。
「さてっと。
そういうことや。これからはあんたのためだけにステージやるで。
ええな」
「はぁ?」
恐らく里沙ちゃんの頭の中は現在パニック状態。
そんな彼女の所に紺野が行き、手に持った荷物を受け取り、代わりにマイクを渡した。
- 95 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:37
- その時、会場からは一斉にガキさんコールが巻き起こった。
「里沙ちゃんじゃなくてガキさんかい」
そんな私の一言に
「らしくて良いじゃないの」
と圭ちゃんが笑いながら言った。
「ほれ。挨拶しぃな」
裕ちゃんに即された里沙ちゃんはマイクを顔の前に持ってきて話し始めた。
「えぇ、本日はお日柄もよく…」
ステージにいた私達は全員がこけそうになった。
会場全体から笑いが起こる。
「えぇと。これ何なんですか?中澤さん」
こりゃだめだと思い
「里沙ちゃん。これからあなたの卒業式やるんだよ」
と声をかけた。
「えっ?」
里沙ちゃんはステージに並んでいる元モーニング娘。のメンバーを見回した。
全員がうなずいている。
「…そんなぁ…」
やっと事情がのみこめたようだ。
- 96 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:38
- ガキさんコールの鳴りやまない会場を見渡した里沙ちゃんは、下を向いてしまった。
そんな里沙ちゃんの肩に手を置いて裕ちゃんが
「ほら。しっかりせな。お客さん待ってるで」
と声をかけると、
「はい…」
と言って、顔を上げた。
会場が静かになる。
マイクを持ち直し再び話し始めた。
「今日、こんなことが起こるなんて全然知らなくて、いきなり名前を呼ばれてびっくりして、なにがなんだかわからなくて……ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げた彼女に里沙ちゃんコールがあちこちからかかった。
「あの日以来、沢山のファンの方々から励ましのお手紙をいただきました。
本当にありがとうございました。
おかげさまで、こうやってコンサートを見に来れる位に元気になりました。
これも、暖かい言葉を送って下さったファンの皆さんやメンバーの…おか…げ……」
里沙ちゃんはここで感極まってしまったのかうつむいたまま涙で言葉が出なくなってしまった。
会場は拍手とガキさん・里沙ちゃんという声に包まれた。
- 97 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:39
- 横にいた裕ちゃんは里沙ちゃんの肩を抱き、
「さっき言ったように、これから新垣の為のステージをやらせてもらいます」
その言葉に、里沙ちゃんは泣き顔のまま顔を上げた。
「モーニングの歴代メンバーがこんだけ揃ってるんや、あんたの歌いたい歌リクエストしぃ。
モーニングでの好きな歌、思い出の歌、なんでも一緒に歌ったるよ」
「ほんとにいいんですか?」
「えぇよえぇよ。
ただ、音を用意する時間がいるので、スタッフさんから合図あるまでショートショートなMC入れてな。
それと、コンサート用の本格的な音源は用意しきれなかったので音はそれなりになっちゃうけど、そこんとこは勘弁な。
あと、モーニングの曲を最初から全部歌えってのはダメやからな。
時間的に5曲位やな」
里沙ちゃんは“ちぇっ”と舌打ちをした。
「まさかねらってたんかい!」
「そんなこと無いですよぉ」
いぃや、絶対ねらってたべ。
- 98 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:40
-
里沙ちゃんは大きく一つ深呼吸をした。
「えぇと、これからリクエストさせてもらいますけど、やっぱその曲のオリジナルのメンバーでってので良いですか?
お客さんも聞きたいですよね?」
会場は歓声の嵐。
「それじゃぁ1曲目は、私達5期のメンバーが加入して最初のシングルだった、Mr.moonlightでお願いします。」
「うちは休憩や」
と舞台後ろの段に腰掛ける裕ちゃん。
入れ替わりにステージ中央には私達13人が。
「あらぁ、おねぇさんチームで休憩はうちだけかい」
と言った裕ちゃんに
「ひがまないの」
と矢口のつれない一言。
会場には再び笑いが起こった。
- 99 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:40
- この曲は里沙ちゃんで始まるんだよね。
私とごっつぁんとよっすぃの3人がソロやってるんだけど、この3人以外で唯一ソロ部分があるのが里沙ちゃんだったんだよね。
曲が始まると会場は一気に盛り上がった。
今では絶対に聞くことの出来ないオリジナル構成で歌われるモーニング娘。の曲。
それは歌っている私達にとっても同じ。
こういう形で歌えるなんて夢にも思っていなかった。
- 100 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:41
- 会場の盛り上がりが凄く、歌っている私達の方が客席のみんなから煽られてる感じ。
みんなちゃんとダンス覚えてるもんだねぇ。
だけど、さすがに動きが激しいと息が…。
あの頃の裕ちゃんと同じような年齢になって、当時裕ちゃんが嘆いていたのがよくわかるわぁ。
1曲目が終わった段階でおねぇさんチームは既に息が上がり気味。
「久しぶりにやったけど、さすがにもうきついねぇ」
カオリが真顔で言うと
「ねぇ、笑ってっ!」
と会場から声がかかった。
カオリは苦笑いしながらダメダメと手を振る。
これで、シャボン玉とか言われたら私死んじゃうとマジで心配になった。
「それじゃぁ、2曲目はですねぇ」
そこで、少し考えている様子の里沙ちゃん。
それを真剣な眼差しで恐々と見つめるおねぇさんチームの面々。
- 101 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:41
-
「私って、安倍さんにずっと憧れてた子だったじゃないですか。
で、その安倍さんとモーニング娘。として一緒に歌った最後の曲。
愛あらばIT'S ALL RIGHTお願いしま〜すっ」
これなら何とかなる。
私がモーニング娘。の一員として最後にリリースした曲。
卒業コンサートの時の会場からの応援凄かったなぁ。
今でもはっきりと覚えている。
2曲目も終わり3曲目を里沙ちゃんが再び思案中。
「あっ、そうだ。
中澤さ〜ん。ちょっといいですか?」
「ん?なに?」
「あと。安倍さんと飯田さんと矢口さんと保田さんも」
なんだ?なんだ?
とりあえずステージ中央へ私達は集まった。
- 102 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:42
- 「えぇと。
今、ここにオリジナルメンバーの方が3人いるわけじゃないですか。
全員には2人たりないですけど。
で、2期の先輩も2人いるわけじゃないですか」
そこまで言って、里沙ちゃんは客席の方を向いて
「みなさんも聞きたいですよねぇ」
と言った。
どうやら、会場の人たちには里沙ちゃんの意図が伝わったらしい。
「今の私って、みなさんの一ファンなわけですよ。
その私の前にこれだけのメンバーがいて、何リクエストしても良いって言ってくれてるわけですから、そうなったらやっぱ聞きたいじゃないですか。
そうですよねぇ。みなさん」
会場中からおぉ〜っという歓声が起こった。
「ということで、モーニングコーヒーと真夏の光線を“聞かせて”下さい」
里沙ちゃんは“聞かせて”の部分を区切り気味に言った。
「いや、聞かせてってあんた」
私達はそういうリクエストに驚いたが、さすがに裏にあと3人いるとは口が裂けても言えなかった。
- 103 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:42
- 「じゃぁよろしくお願いしますね。私は特等席で聞かせてもらいますから」
そう言って里沙ちゃんは客席方向へ歩いていったかと思うと、ステージから下りてしまった。
「ちょっとどこへ…」
そんな声を無視して、ステージと客席の間にある、緩衝用兼撮影用の通路を歩いて、ステージの中央の位置に来ると、頭の上で大きな丸を作った。
「あんたなぁ」
裕ちゃんは苦笑い。
「ちょっと待っててな」
裕ちゃんはそういうとステージから一旦裏へ入っていった。
すぐに戻ってきた裕ちゃんは私達に向かって横に軽く首を振った。
「じゃぁ、やるか」
まさか、コンサートのステージ上でこのメンバーでこの歌を歌えるとは思いもしなかった。
他の4人も同じ思いだったと思う。、
「みなさ〜ん。モーニングコーヒーは静かに聞きましょぉ〜。その分真夏の光線で盛り上がりましょぉ〜」
と里沙ちゃんの仕切りが入った。
モーニングコーヒーを歌い、そのまま真夏の光線へと入る。
里沙ちゃん、ノリノリ…。
- 104 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:43
- 2曲歌い終わり
「ほ〜んと、久しぶりに歌ったねぇ」
と言い合っていたところで、
「新垣さぁ」
と圭ちゃん。
「あんたもさぁ娘。なわけじゃない。
だから、私達と振りが合うならわかるけど、お客さんの方と動きがシンクロしてるってのどういうことよ」
『ガキさん最高〜っ』
というお客さんのかけ声と共に会場は笑いの渦に包まれた。
ステージに戻ってきた里沙ちゃんに
「時間もあるんで、最後になるけど何歌う?」
裕ちゃんに言われて里沙ちゃんはちょっと真面目な顔になる。
「モーニング娘。の最後になったコンサートの時、本当は新曲を披露する予定だったんですよね。
だけど、結局お披露目することも出来なかったし、CDの発売も中止になっちゃって…」
里沙ちゃんはうつむき加減で唇を噛んだ。
「ダンスフォーメーションがちょっと複雑だったんですけど、メンバーのみんな凄く頑張って練習したんですよ。
あれからずいぶん時間が経っちゃったのでちゃんと出来るかわからないけど、最後にあの曲を歌わせて下さい」
- 105 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:43
- 当時、宣伝として一部のラジオなどで1コーラスだけとかが流れただけで幻の曲となってしまった曲。
メンバーの子たちが苦労していたのは私も知っていた。
確か里沙ちゃんのパートはほとんど無かったはず。
だけど、彼女は最後の曲にこれを選んだ。
後輩思いの里沙ちゃんにはずっと心に引っかかっていたんだろう。
私達ハローのメンバーはこの曲のCDを持っている。
だけど、一般の人はこの曲をフルコーラスで聴いたことはないはず。
モーニング娘。最後のシングル曲。幻の曲がスタートした。
この曲が歌われるのは多分これが最初で最後。
会場のお客さんは曲に聴き入っていた。
曲が終わると割れんばかりの拍手が会場を包み込む。
胸を張って会場に向いて整列している、最後のモーニング娘。11人。
そう、里沙ちゃんはこの曲が始まってからずっと首から提げた透明なパスケースに入った1枚の写真を胸の所に押さえて歌っていた。
その写真はこのステージに来たくても来ることの出来ないあの子の写真だった。
- 106 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:44
-
そんな様子を見ていた時、隣で圭ちゃんが、
「まったく、最後まであの子は」
と、小さく頭を振りながら言った。
「ん?なにかあった?」
「なっち気づかなかった?」
「なんだべ?」
「全員が歌ったんだよ」
「ん?」
「新垣ってさぁ、モーニングのファン歴長いじゃない。
だけどさぁ、最後にって言われて曲選ぶとしたら、若干は偏るでしょ。」
「あぁ。そういうこと…」
「うん。
オリジナル編成で歌って、誰一人歌に参加できなかったメンバーがいないって、偶然なのかなぁ?」
後輩達と一緒にお客さんに手を振っている彼女の様子からは、それが偶然だったのかどうかはわからなかった。
- 107 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:45
-
「なんか、私だけダンスがグダグダでしたね」
そういって里沙ちゃんは頭をかいた。
「私達ずっと練習してましたから」
「え?」
メンバーの一人からそう言われて里沙ちゃんはびっくりしていた。
「だって、リーダーが戻ってきた時に…ちゃんと…出来ないと…怒られるから…」
涙が止まらずに下を向いた里沙ちゃんの頭を紺野がポンポンと優しく叩いた。
「…ありがと…それじゃぁ私が一番ダメなメンバーだったわけだ」
そういった里沙ちゃんは泣き笑いだった。
その時、会場に曲が流れ出した。
里沙ちゃんは不思議そうに周りを見渡す。
?状態の里沙ちゃんを中心に最後のモーニング娘。9人のメンバーが集まる。
- 108 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:45
-
空を〜見上げる時は〜いつもひとりぼぉっち〜♪
紺野が歌い始めたのは、松浦の昔の曲“風信子”だった。
。
1フレーズずつ順にメンバーが歌っていく。
そして9人揃って
ありがとう〜あなたがくれた〜すべて〜にありがとう〜♪
里沙ちゃん。
これはね。あなたの後輩達がリーダーに送らせてくれって頼んできたんだよ。
2コーラス目は9人そろって歌っていく。
途中から会場のお客さんも加わりだした。
そして、最後には会場全体の大合唱になった。
- 109 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:46
-
しゃくり上げてしまっている里沙ちゃんの肩を紺野が歌いながらそっと抱いた。
紺野の肩に顔を埋めたまま里沙ちゃんは泣いていた。
ありがとう〜あなたがくれた〜すべて〜にありがとう〜♪
ありがとう〜あなたがくれた〜すべて〜にありがとう〜♪
ありがとう〜あなたがくれた〜すべて〜にありがとう〜♪
ありがとう〜あなたがくれた〜すべて〜にありがとう〜♪
曲が終わった時、里沙ちゃんは客席に向かって深々と頭を下げた。
あの日、同じように頭を下げていた里沙ちゃんにはサイリウムやペットボトルが投げつけられた。
だけど、今日同じように頭を下げている彼女には客席中から暖かい拍手が送られていた。
鳴りやまない拍手の中、顔を上げた里沙ちゃんを中心にして9人のメンバーが一塊りになって抱き合って泣いていた。
里沙ちゃんはそんな後輩達一人一人の頭を撫でながら声をかけていた。
- 110 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:47
- 今ステージの背後には私達元モーニング娘。のメンバーが横一列に並んでいる。
紺野が一塊りで泣きやまない後輩達に声をかけると、彼女たちも涙をぬぐいながらその列に並んだ。
紺野は里沙ちゃんに言葉をかけて、自分は列の反対側にいる裕ちゃんの隣に並んだ。
里沙ちゃんは、端から順番に歴代メンバーに声をかけていく。
8期・7期の子たちは里沙ちゃんに手を握られてもうつむいて泣き続けていた。
あのコンサートにメンバーとして立っていた、亀井と道重は、ともに泣きながら里沙ちゃんと抱き合った。
田中は里沙ちゃんの手をとって口をキュッと結んだまま里沙ちゃんの目を無言で見つめて頷いていた。
口を開くと涙をこらえきれなくなっちゃうんだろうね。
藤本は里沙ちゃんの頭をポンポンと叩いて“お疲れ様”と声をかけた。
同期の高橋と麻琴は、2人揃って里沙ちゃんを抱きしめた。
ののとあいぼんは頬に涙の跡を残したままハイタッチしていた。
よっすぃは笑顔で里沙ちゃんの頭を撫でていた。
- 111 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:48
- 梨華ちゃんは、里沙ちゃんの手を取るまでは微笑んでいたが、手を取った瞬間にうつむいて泣き出してしまい、里沙ちゃんに抱きついた。
前リーダーとして彼女の力になれなかったとずっと落ち込んでたもんね。
ごっつぁんは里沙ちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でていた。
圭ちゃんは里沙ちゃんを抱きしめてありがとうといっていた。
矢口は里沙ちゃんの涙をぬぐってあげてお疲れ様と。
カオリは無言のまま潤んだ目で里沙ちゃんの目を見つめたままやさしく頭を撫でて微笑んでいた。
私の前に来た里沙ちゃんは
「ありがとうございました」
と頭を下げた。
「私達はたいしたことしてないよ。
みんな里沙ちゃんが頑張ってきた結果だよ」
そういって頭を撫でてあげた。
そして裕ちゃんの前に里沙ちゃんが立った時、
「あのな、新垣の卒業はイコールモーニング娘。の最後でもあるやんか。
だから、ちょっと無理言って特別ゲストに来てもらってるんよ」
裕ちゃんはそういって後ろを振り返ってステージの裾の方を見た。
- 112 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:48
-
そこから3人の人物が出てきた。
この3人の登場には会場も驚いた様だが、一番驚いたのは里沙ちゃんだったみたい。
目はまん丸。口はぽか〜んと開いたまま。
「新垣、息するの忘れてるぞ」
そう矢口から突っ込まれても口をパクパクするだけだった。
「モーニング娘。最後のリーダーでありモーニング娘。最後のメンバーの卒業。そしてモーニング娘。の最後の挨拶やもんな。
やっぱ、全員揃ってと思ってな」
裕ちゃんを含めた4人からお疲れ様と声をかけられてもまだ放心状態の里沙ちゃん。
- 113 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:49
-
そして、最後に残った一人。
モーニング娘。のメンバーとして、歴代のメンバーの中でもっとも辛い時間を共にリーダー・サブリーダーとして過ごした2人。
里沙ちゃんと紺野は抱き合ったまま声を出して泣いた。
私達はそんな2人を見守っていた。
しばらくして、顔をぬぐいながら2人が離れると、裕ちゃんが里沙ちゃんに声をかけた。
- 114 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:49
-
「それじゃぁ、新垣。あんたがモーニング娘。の解散を宣言してや」
「え?それは中澤さんが…」
「何言ってん。
今のモーニング娘。のリーダーはあんたやないか。
あんた以外の誰がこの役務められると思ってん」
そう言って微笑むと、目で里沙ちゃんをそくした。
里沙ちゃんは軽く頷くと、一歩前に出た。
「今日、私新垣里沙は皆さんと歴代のモーニング娘。メンバーの皆さんのおかげで卒業を迎えられました。
本当にありがとうございました」
里沙ちゃんはここで一呼吸置いた。
「そして、今日モーニング娘。は本当に解散します。
今までモーニング娘。を応援して下さったファンの皆さん。
ありがとうございました」
そういって頭を下げた里沙ちゃんに合わせて、並んでいる歴代メンバー全員も頭を下げた。
- 115 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:50
-
「今、このステージには、これまでモーニング娘。として活動したメンバー28人全員が揃っています」
そう言ってから裕ちゃんは
「彩っぺ、明日香、紗耶香、無理言って悪かったなぁ」
と3人に声をかけた。
「これからもみんなそれぞれの道で頑張っていきますので、皆さん応援おねがいします」
大歓声の中、
「それじゃぁ、あれで最後はしめようか」
裕ちゃんがそういうと、28人全員が手をつないで、前に走りステージ最前で両手を上げ、手をつないだまま頭を下げる。
そして、全員手を振りながらステージをあとにした。
こうして、モーニング娘。は本当の解散を迎えた。
里沙ちゃんが全てをかけて守ってくれたのは、後輩達だけではなかった。
モーニング娘。であった私達先輩の誇りも守ってくれた。
里沙ちゃん。
お疲れ様。
そして、ありがとう。
- 116 名前:Only one 投稿日:2004/03/03(水) 23:51
-
………もし、ソロデビューはどうだ?って話になったらどうする?
ソロの話は断って、次回のモー娘。増員を待ちます。…………
only one 終わり
- 117 名前:ginkgo nut 投稿日:2004/03/04(木) 00:23
- 以上。
初小説終了出来ました。
やっぱ、個々のメンバーのとらえ方が甘いなと思いつつ。
ガキさんにぞっこんってわけじゃない…なのかな?(w
まぁ、ハンドルからしてどういう奴なのかは想像できる
と思いますが。
最後に使ったオーディション時の一言が強烈な印象として
残っていること。
メンバーや娘。ファンにとって辛いことがあっても、ステージ
を見れば、精一杯モーニング娘。を表現している彼女がいた
こと。
中学生なのにことある毎にプロの顔を見せる彼女を題材に
と思ったらこんなのになっちゃいました。
ならもっと明るい話にしろと自分に突っ込み。
読んで下さった方いらっしゃいましたら、どうもありがとうご
ざいました。
と、最後に一発ageて終了。
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 01:22
- 作者様、お疲れ様でした。
ガキさん、お疲れ様でした。
ドキドキしながら読んでました。
ガキさんが救われて良かったです。
良い小説をどうもありがとうございました。
- 119 名前:dada 投稿日:2004/03/04(木) 01:24
- 大量更新&完結お疲れさまです。
わざわざ書きなおしていただいてありがとうございます(w
中澤さんを始めみなさんのトークのテンポよかったです。
最後のメンバー全員の動きそれぞれの特徴をつかんでいてよかったと思いますよ。
他にもここで作品を書いていただけるんでしょうか?
次の作品も期待してます。
とても良い話でした。
- 120 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 02:55
- 一気に読みました。
最後感動してモニターが霞んでしまいました。
只セリフの羅列で情景描写が少な目だったのが残念です。
情景描写を巧く活用することで、その場面を浮かび上がらせ
特にコンサート部分のやるせなさもしくは最後の感動も深くなった様に感じました。
余計なことを長々かきましたが、初めて書かれてこれだけ感動させて
作品を完結した作者さんは素晴らしい。そしてありがとう。
次回作書かれる事があれば、ぜひ読まして下さい。
_│ ̄│○<お願いします。
- 121 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 22:10
- 読んでました。完結おつかれさまでした。
良かったです。
特にガキさんが全員歌うようにした所とか、
ガキさんいい奴!(笑)
- 122 名前:ginkgo nut 投稿日:2004/03/06(土) 21:50
- >118
名無し飼育さん
何か悲劇を彼女が襲い、しかしみんなの力で…って感じに、
まずは主人公を救うところから話が頭の中で出来上がったり
してまして。
また機会がありましたらおつきあいよろしくお願いします。
- 123 名前:ginkgo nut 投稿日:2004/03/06(土) 21:50
- >119
dadaさん
メンバー全員の部分。
もう少し細かく描けたらなぁと思ったんですが、文章力が
ついて行かずでして。
細かく書くと助長な文章になっちゃいまして。
また、今度がありましたらよろしくお願いします。
- 124 名前:ginkgo nut 投稿日:2004/03/06(土) 21:50
- >120
名無し飼育さん
確かに、読み返してみると情景描写が少なすぎますね。
解説系の文章は結構書いていたりしたんですが、細かくやり
出すと理屈っぽくなりすぎる人なもんで、今回はなるべく
あっさりと思ったらあっさりしすぎてしまいました。
書いている時に、頭の中では映像化されてたので、そこから
台詞抜き出しみたいな感じだったので、自分の中ではそれな
りに情景浮かんでいたんですが、それじゃしょうがないです
ね(^^;
次回の注意点として肝に銘じておきます。
- 125 名前:ginkgo nut 投稿日:2004/03/06(土) 21:51
- >121
名無し飼育さん
おつきあいいただきましてありがとうございます。
書き始めた頃にあややの風信子のラジオ初オンエアーがありまして、
ラストにこれ使おうと思った物の、さてどういう流れでと思案した
結果、全員を引っ張り出したんだから歌っていただきましょと(w
オリジナル編成で聞きたいってのは、自分の願望丸出しなのかも。
- 126 名前:ginkgo nut 投稿日:2004/03/06(土) 21:51
- 調子に乗って、次のに着手はしてみたものの。
アンリアルで、高橋を軸に、娘。の初代ツートップが主に絡むという。
後者のお一人の方は、こっち界隈でも、もうほとんど見かけないですね。
出だし1000行ほど書いてみた物の、ダラダラ感が。
また、一人殺すし…。
何とかなりそうかなと思ったら、こちらのどこかの板におじゃまさせて
いただこうと思いますので、その際にはお手柔らかにお願いします。
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/13(土) 20:20
- 最近読みましたが、まずはいいお話をありがとう。
みんなが一丸となって前に進もうという話は、いやらしいヒネリがなくて素直に気持ちよかった。正攻法は強いね。
このまっすぐな気持ちよさは現実のモーニング娘。そのものに通じると思う。作者さんの娘。への愛情を感じられて嬉しくなったよ。
キャラたちがみんないいけど、やはりここのガキさんは本当に素晴らしい。いい子だ〜。自分の中で新垣主役の代表作になってます。現実の新垣もますます好きになってしまった。
もう一度ありがとう。
- 128 名前:ginkgo nut 投稿日:2004/03/17(水) 23:22
- >127
名無飼育さん
ご評価いただきありがとうございます。
そおいえば、最近ってこういうベタなやつってあんまり見かけないですかね?
これを書いたせいなのか、どうも最近新垣さんが気になります。
ガキさんの小説だと「青く塗れ!」とかは結構影響されてるかなぁと。
ジュマペールの管理人ガキさんも好きなんですけどね(w
- 129 名前:ラグ 投稿日:2004/03/27(土) 02:22
- 感動しました!Only one さん次回作楽しみにしてます!
この小説を読んで、涙してしまいました。ガキさんは、
本っっっ当に最高です!!!
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