徒然草≠ニ書いてとぜんそう≠ニ読む

1 名前:NYPD 投稿日:2004/02/26(木) 16:41



ユク河ノナカレハタエスシテシカモモトノ水ニアラス――


                           鴨長明 『方丈記』
2 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:42

プリンセスサユ
3 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:43

「なあなあ、プリンセスサユ′ゥに行かん?」
4 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:44

昼休みにれいなにそんなことを言われた。
ん? プリンセスサユ=H あのチョー有名な?

「……絵里聞いとる?」
「……プリンセスサユ≠チて、アノ?」
まさかと思い、わたしは聞いてみた。
「他にプリンセスサユ≠チているん?」
「いや、たぶんいないと思うけど……」
「? 変な絵里。まあいいや。とにかくホラ、コレ」
そう言って、れいなはポケットに手を入れた。
「ジャーン! どーだー!」
私の前に二枚のチケットをかざす。
「知り合いに貰ったんだ。次の日曜日なんだけど、行くでしょ?」
まるであなたに断る権利はないんですよとでも言っているかのよう。
でも私もプリンセスサユは見たいので、コクリと頷いた。
「よし決まり。それじゃあ朝十時に迎えに来てね」
そう言ってれいなは自分の席に戻っていった。
ずいぶんと自分勝手なれいなに普段なら腹が立つところなのだが、
私はプリンセスサユのことで頭がいっぱいだったため、特に気にはならなかった。
5 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:45
プリンセスサユ
この名前を聞いたことのない人はいないんじゃないかって思うぐらい、
チョー有名人。
その活躍ぶりは、スポーツ新聞の一面を飾るぐらいで、
特に女子中高生からカリスマ的な人気を誇ってる。
今では彼女のグッズの売上が何億円にもなってるんだって。
私の部屋にもポスター(1,000円+消費税)が貼ってあったりする。
でも一番の売れ筋はプリンセスサユのストラップ。
店頭に並ぶと、すぐ売り切れになっちゃう。
予約だけでも半年待ち。
だからこのストラップをつけてる子はみんなから羨望の眼差しで見られる。
隣のクラスのアラガキさん……だっけ?
よくわかんないけど持ってるらしい……、いいなぁ。
6 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:45
グッズだけでなくモチロン本業の方もすごくて、
この人を見るために何万ものお金を払って、チケットを手に入れようとする人もいるらしい。
それぐらいすごい。
わたしも何度かテレビで見たけど、CG?って思っちゃう。
同じ人間とは思えない。
実は宇宙人でしたって言われても信じちゃうもん。
うまく言えないケド、可愛いしかっこいい。
それがプリンセスサユ。

だから、れいなにプリンセスサユ見に行かん?って
何でもないように言われてビックリしちゃった。
だからアホっぽくなっちゃったんだけど、普通驚くよね。
だってあのプリンセスサユ≠生で見れるんだよ!
7 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:46
そんなこんなで日曜日。
わたしはれいなを迎えにいき、電車で会場に向かった。
電車の中ではモー娘。とかあややの話をしたけど、
わたしは心ここにあらずって感じだった。
だってプリンセスサユ≠生で見れるんだよ。
昨日は眠れな……いやぐっすり寝たけど、
とにかくなんだか変なテンション!
思いっきり叫びたくなっちゃう。叫ばないけど。

『 次は〜原宿〜原宿〜 』

わたし達の降りる駅だ。
もう心臓がドキドキしてる。
駅から歩いて少し行った所に代々木体育館が見えた。
もうすでに長蛇の列が出来ている。
「誰かチケット譲ってくださーい」
「チケットあるよー」
「いくらですか?」
「いえ、タラちゃんです」
など様々な声が聞こえる。

「いや〜、みんな必死だね〜」
他人事のように言うれいな(他人事だけど)。
こんなプラチナチケットをれいなは誰から貰ったんだろう?
8 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:47
『こちらに並んでくださーい!!』
スタッフっぽい人が声を張り上げている。
わたしもそっちの方へ行こうとしたら、れいなに腕をつかまれた。
「絵里。こっちこっち」
裏の方を指差してれいなは言った。
「え? でもこっちに並べって……」
「いいから、いいから」
ズルズルとわたしを引っ張って裏の方へ行く。

当たり前だけど、裏門にはスタッフが立っていた。
「なんだい君達は? ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「あの、わたし達、これなんですけど」
れいなはチケットをスタッフに見せる。
すると、スタッフはドアを開けてくれた。
「最初の角を右に曲がると行けるから」
「どーも」
れいなはスタスタ行ってしまった。
わたしも慌てて追いかける。
9 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:47
「ん〜、こっちかな?」
れいなは最初の角を右に曲がらず、左へ進んで行った。
「ちょっとれいな! 右だよ、右。お箸持つ方」
「うん」
「うんじゃなくて、そっちはお茶碗持つ方だよ?」
「いや、ちょっと挨拶に」
キョロキョロ見回しながられいなは進んでいった。
しょうがなくわたしもついて行く。

途中、ジャージを着た人達とすれ違ったけど、
「どーもー」と言うれいなをチラッと見るだけで何も言われなかった。
「ねえ、知ってる人なの?」
「全然知らない」
…………。

「あっ、ココじゃないかな」
れいなが立ち止まった。わたしも続けて立ち止まる。

コンコン

れいながノックする。
相手の返事も聞かないうちにドアノブをまわした。
そこにいたのは――、
10 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:48
「さゆ〜、オヒサ〜」
「あっ、れいな。ヒサシブリ〜」

プリンセスサユだった。

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ??!!
声を出せていたならわたしはこう叫んでいたと思う。
でも声にならなかった。
口をパクパクしているだけ。
驚いているわたしを尻目に二人は世間話をし出した。

「ちょっと太ったんとちゃう?」
「えー、何言ってるのよー。こんなにカワイイじゃない♪」
「可愛いことじゃなしに、太ったんと――」
「わかったー。ひがんでるんでしょう? わたしがこんなにカワイイから♪」
「ハイハイわかった、カワイイカワイイ」
「れいなもカワイクなったよね」
「そりゃどーも」
「でもー、わたしの方がもっとカワイイ♪」
「うんうん、そーだね」
「でしょ、最近特にカワイクなったの、あのねー、まつげが――」
11 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:49
プリンセスサユがひたすら喋って、れいなが適当に流している。
その様子を見て、わたしは一人混乱した。

???
ほえっ? 何ナノコレ? あれ? プリンセスサユ?
似てるけど、でも本物はもっとクールだったような……。
ニセモノ? でもニセモノがこんなとこにいるはずないし――。
???

「あっ、そうそう、絵里ー」
ハッ!
れいなの一言で、わたしは戻ってこれた。
「こっちがプリンセスサユ≠アと道重さゆみ。知ってるよね。
さゆ、こっちは亀井絵里。同じクラスのコ」
「こんにちは」
とても笑顔のプリンセスサユ。
「コ、コンニチハァ……」
トテモギコチナイワタシ。
12 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:49
「ちょっと、絵里固すぎ。もっとリラックスして」
そんなこと言われても、目の前にプリンセスサユがいるのに出来るわけがない。
それに挨拶したときから
じ――――――――――――――っとプリンセスサユがわたしの顔を見てる。
それだけで相当恥かしい。

プリンセスサユはじっと見て、言った。
「う〜ん、あなたもカワイイけど、わたしのほうがカワイイ♪」
「ちょっとさゆ! 絵里ゴメンね。このコ、いっつもこーなの」
「うん、わたしはいつもカワイイよ♪」
「そんな話してるんじゃないの!」
「えー、カワイイじゃなーい。ぶー」
「ぶーじゃないの」
「じゃあ、べー」
わたしのことはまた忘れ去られたみたい。
13 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:50
わーわーぎゃーぎゃー二人で言いあっていると、誰かが入ってきた。
「ちょっとサユ! そろそろ出番よ! 早く来なさい!」
「はーい」
プリンセスサユは、むくれた顔で返事した。
「それと、あなた達もそろそろ席のほうへ戻りなさいね」
「じゃあさゆ、またあとでね」
「うん、ちゃんと、カワイイわたし見ててね」
「ハイハイ。絵里、行こう」
「う、うん」
「絵里ちゃんもカワイイ私見ててね♪」
「あっ……ハイ」
プリンセスサユがバイバイと手を振った。
わたしはちょこちょこと申し訳なさそうに手を振った。
14 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:51
「どお? ビックリしたでしょ?」
楽屋から出ると、してやったり顔のれいながいた。
「ちょっとれいな、説明してよ」
「いや〜実はね、わたしとさゆって従姉妹同士なんだ。
それでね、チケット譲って貰ったの」

……ナンダソリャって感じ。
「れいモガッ……」
文句言おうとしたら口を手でふさがれた。
「まあいいじゃないの。早く行こ。始まっちゃうよ」
15 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:51
会場は満員のお客さんでいっぱいだった。
親子連れの人。
ビジネスマン風の人。
若いカップルの人。
お年寄りの人。
八百屋っぽい人。
サユ命と書かれたハチマキを巻いている集団。
逆立ちで三回まわってワンと叫んでいる人等々。

何万人ぐらいいるんだろうか?
いまテロとか起きたら大変だろーなぁ。
同じ体育館でも、わたしたちの高校とは全然チガウなぁ。
そんなバカみたいなことを考えながら、開始時間を待った。

そして開始時刻を三分過ぎた午後六時三分――、
16 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:52


すたああああふぁいやあああああああ!!!!!


ぼぉぉん!
17 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:52
何もない所から、火柱とともにプリンセスサユの登場!
わたしもれいなも、そして会場の人たちも一気にヒートアップ!
プリンセスサユはわたしたちに恒例となっている投げキッスのサービスをし、
マイクパフォーマンスをしだした。

『みなさーん、こんばんはー♪』

ウオオオオオオオッ
会場全体が鳴り響く。

『今日も、わたしは、かわいいで―――す♪』

ウオオオオオオオオオオオオオッ
もっと鳴り響く。
所々カワイー、カワイー、カワイー、川合ー、という声が飛び交う。

『それじゃあ、今日もがんばりまーす♪』
18 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:53
そしてプリンセスサユは歌を歌いだした。
まるでどこかのアイドルのコンサートのよう。
ただ、歌がヘタクソでたまらない。
何でそんなに音程が外れるんだろうか?

三曲歌い終わり、満足げなプリンセスサユ。
相変らず場内は熱狂の渦。
「……やっぱり音痴は直っとらへんね」
れいなは渋い顔。
わたしもそれほどじゃないけどチョットネ……。

『それじゃー、マジックやりまーす♪』
でもここからがスゴかった。
19 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:53
先ほどのジャージを着た人が現れて、箱の中に入っていった。
布をかけて、わんつぅすりぃ、とプリンセスサユが唱えて布をとると、
中の人がいなくなって、代わりにハムスターが出てきた。
プリンセスサユが、

すたああああふぁいやあああああ

と唱えると、天井から先ほどのジャージの人が降って来た。
その人に向かって、また、

すたああああふぁいやあああああ

するとその人が三人になってステージに着地する。
ここでプリンセスサユはペコリとご挨拶。
場内は割れんばかりの大拍手。
もちろんわたしも手が痛くなるぐらいぱちぱち叩いた。
20 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:54
その後も火の輪くぐりや水中大脱出をしたあと、最後に観客の人をステージに招いた。
選ばれたのは、見事ボールをキャッチした菅谷梨沙子ちゃん。
おどおどしてる梨沙子ちゃんに向かって、
『だいじょーぶ、わたしがついてるから♪』
と最高の笑顔で答える。
すると梨沙子ちゃんも緊張がとれたみたいだった。

『じゃあ、しーっかりつかまっててね♪』
プリンセスサユは梨沙子ちゃんを抱え込んで叫んだ。

すたああああああふぁいやあああああああああああああ
21 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:55
ぽひゅん、という音とともに、プリンセスサユと梨沙子ちゃんは空を舞った。
「すごい!すごい!!」
わたしは思わず声が出ちゃった。
れいなは「あれきっとピアノ線だよ」と夢もないようなことを言う。
でもプリンセスサユはクリンクリンまわっている。
「……あれもピアノ線?」
「…………」

『今度は梨沙子ちゃん一人で跳んでみよっか』
「えっ?」

そしてプリンセスサユは梨沙子ちゃんから手を離した。
22 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:55






23 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:56





24 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:56
「すごいじゃん! さゆあれどうやってるん? なあなあ、教えてーやー」
「だーめ。ネタばれしたら面白くないでしょ。それよりもさ、今日もわたしカワイカッタね♪」
公演が終わって、わたしとれいなは再びプリンセスサユの楽屋におじゃました。
「カワイカッタから、教えてーな。最後のヤツ」
「教えてっていっても、すたあああふぁいやあああああって言ったらできるんだもん♪」
「そんなわけないじゃん。教えてよー最後の飛ぶヤツ」
「ダーメ。絵里ちゃーん。わたしカワイカッタでしょ?」
「あぁ! また話をそらすー」
「うん……可愛かった」
「でしょー。やっぱりわたしってカワイイ♪」
「あんた何回カワイイって言わせたら気が済むんよ。いいから教えてよ。最後にみんなで飛んだヤツ!」
25 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:57

  ◇  ◇  ◇

梨沙子ちゃんの手を離して、すたああふぁいやああああと叫ぶと、梨沙子ちゃんは空中で止まった。
「えっ? えっ?」
梨沙子ちゃんは戸惑いを隠せない。観客も静まり返ってる。

『ほらわたしみたいに飛んでみて? カワイイよ?』
プリンセスサユは頭の上をビュンビュン飛び回っている。
それはカワイイのだろうか?
梨沙子ちゃんは?って顔をしてた。
『こーゆー風に飛びたい!って思ったら飛べるよ♪』
そぉ〜っと梨沙子ちゃんは動き出した。
「あ! ほんとだ! 飛べる!」
『でしょ? 飛べちゃうんだよー』
二人で会場中を所狭しと飛んでいる。みんな凄すぎて声も出ないみたいだった。

『それじゃあ、皆さんも一緒に飛びましょっか?』

すたあああああああふぁいやあああああああああああああああああああ
26 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:58
「えっ? えっ?」
突然わたしの体が軽くなって、ふわふわと浮かんでいった。
まるで、水の中から水面に上がっていくみたい。

「……浮いてる」

ふと気付くと、れいなも会場の人もみんな浮いていた。
呆気にとられた表情で、ふわふわふわふわ。
クラゲの大量発生みたいに何万人もの人が空中に漂っていた。

『ほんとはみんなにも思い切り飛んで欲しかったんだけど、まだコレぐらいしか出来ないのー』

普段なら、いったいどうなってるんだろう?とか思うのに、
その時はぼぉ〜っとして頭が働かなかった。

気持ちいいな、

それだけだった。

  ◇  ◇  ◇
27 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:59
「もー、ガッコで浮かんでみんなビックリさせたいから教えてよ」
「あれはカワイイわたしがいないとできないよ♪」
「嘘や。なんかトリックあるんでしょ?」
「ううん、ないない。あれは、わたしの、ちょーのーりょく」
「ちょうのうりょく? それでいいから教えてってば」
「無理だよ。れいなわたしほどカワイクないもん」
「えーい、腹立つ! 教えろって言ってんだよー!!」
「きゃー、れいなこわーい♪」

楽屋でドタバタドタバタ。
やっぱりわたしは忘れ去られてるみたいだ。
……なんか悔しい。
わたしはありったけの大声を上げた。
28 名前:     投稿日:2004/02/26(木) 16:59

「わたしのほうが、さゆより カ ワ イ イ !!」






       了


29 名前:あとがき 投稿日:2004/02/26(木) 17:00
バレーボール物だとミスリードして下さった多くの方々、残念でした。
ん? 最初からマジック物だと思った? さいですか。
それと、この作品を書いて思ったのですが、

ふぁいやあああああああああああああああああああああああああああああああああ

↑気持ち悪いですね。なんかヘンな感じ。
あと、マジックは読むものではなくて、見て聴いて楽しむものですね。僕が間違ってました。
お前の文才がないからだとか言わないで下さい。
知ってますから。
     nypd(西の洞窟で見つけた、勇者の剣で、ペットボトルを切ったら、どぅーん)
30 名前:NYPD 投稿日:2004/02/26(木) 17:01


流し

31 名前:NYPD 投稿日:2004/02/26(木) 17:01


タマネギ

32 名前:NYPD 投稿日:2004/02/26(木) 17:02


お茶と、餅さえあれば、ちゃいこーです。

33 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:24

しゃるうぃーらぶ?

34 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:25

「おっ、真希おっせーぞ」
「はぁーい」
「あんたさぁ、この間貸したCD早く返してよ」
「わかってる」
ウ゛ィーンウ゛ィーン
Pi
「もしもし?
 何やってたの?
 どこ行ってたのよ?
 嘘だ。
 まぁいいけどね。
 今からバァイト行くところ。
 忙しいんだから切るね」
Pi
「おぅおぅ、無理してるね」
「バイトなんかしてないじゃん」

べいびべいびべびしゃぁるうぃらぁぶ……

35 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:26

其の壱
人の意見を聞かないごっちん

36 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:27
俺の名前は田辺村三郎次【たなべむらさぶろうじ】。
みんなは俺のことをてっちゃんと呼ぶ。
きっと悪質なイジメか何かだろう。
おっと、そんなことはどうでもいい。
早く真希に電話しないとエライ事になる。
えーっと、真希真希……、これだ。

Pi

とぅるるるるるるるるる

それにしても参ったなぁ。
歩いてたらいきなり目の前の人(横山クリスさん)が産気づくなんて。
ほっとくわけにもいかないから、産婦人科まで連れて行き、
挙句の果てには「お父さんもそばにいてあげて」とか言われて
赤ちゃんが産まれるのを立ち会うことになったからなぁ。
見事元気な男の子が産まれたときは俺も感動して泣いちまったよ。
看護婦さんに「お父さん似ですよー」とか言われたけど、
それはうれしくもなんともない。
とりあえず笑っといた。
横山さんに「名前は何にするんですか?」と聞いたら、
「アナタハ何テ名前デスカ?」と聞き返されたので、
「村三郎次です!」って言うと、
「ソレデハまいけるニシマース」だって。
俺をイジメろと国連で決定されたのだろうか?
とにかくこれまで携帯つかえなかったから、そこら辺をうまく真希に言わないと。

Pi
37 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:27
『もしもし?』
「あ、真希? おれおれ」
『何やってたの?』
「いやーじつはね、横――」
『どこ行ってたのよ?』
「へ?」
『嘘だ』
「もしもし?」
『まぁいいけどね』
「ちょっと待――」
『今からバァイト行くところ。忙しいんだから切るね』
Pi
つーつーつーつー

……神様、俺前世でなんか悪いことしましたか?
38 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:28

其の弐
全く噛み合わないごっちん

39 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:28
「あぁ〜腹減ったなぁ、なんかねえのかよお前ン家は」
「うるせえなぁ、さっきピザ五枚食ったのどこのどいつだよ」
「お前じゃねえか」
「俺か? そうか。んじゃラーメンでも頼むか」
「そーしてくれ」

ピッポッパのポンポロリン

とぅるるるるるるるるる

「お前今090から始まってなかったか?」
「気のせいだろ? 何言ってんだよ」
「……おかしいな?」

Pi
40 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:29
『もしもし?』
「あ、カッパ寿司?」
『何やってたの?』
「牛丼豚抜き二つ」
『どこ行ってたのよ? 嘘だ』
「三分以内ね」
『まぁいいけどね』
「五〇円で」
『今からバァイト行くところ。忙しいんだから切るね』
Pi

つーつーつーつー

「……お前どこに電話してんだよ」
「???」
41 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:30

其の参
あれ? ごっちん?

42 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:31
俺の名前は田辺村三郎次【たなべむらさぶろうじ】。
みんなは俺のことを呼ばない。
…………。
とにかく真希に電話しないと。

とぅるるるるるるるるる

Pi
43 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:32
『もしもし?』
「あ、真希? おれおれ」
『誰だぷー』
「は?」
『誰だってんだよぷー』
「……田辺村三ろ――」

ガチャン
つーつーつーつー

…………。

うん、どうやら間違ってたみたいだ。もう一回電話してみよう。

とぅるるるるるるるるる

Pi
「もしもし?」
『お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりま――』
ガチャン
つーつーつーつー

……生きるって、大変だなぁ……。
44 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:33

其の四
ワラヘ

45 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:33
ある日、俺は某所で次のようなスレッドを見つけた。


【ついに】 ゴマキの携帯電話の番号! 【発見】
1 名前: 投稿日: 2004/02/27(金) 23:04

090−××××−××××

2 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:04

ゴマキいうな

3 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:05

糞スレ立てんな!

4 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:10

やっべー、マジでごっちん出てきた。

5 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:11

嘘つけ

6 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:11

まじだって! かけてみ(藁

7 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:13

たしかに(w

8 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:14

だからなんなんだ?

9 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:15

( ´ Д `)<もしもし?

10 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:16

ワラタ

11 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:17

ワラタ

46 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:34
? 笑うようなことなのだろうか?
とりあえず、俺もかけてみることにした。

090の××××の××××、っと。

とぅるるるるるるるるる

……話中のようでつながらない。八回目でやっとつながった。

Pi
47 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:35
『もしもし?』
「お? まじで?」
『何やってたの?』
「ん?」
『どこ行ってたのよ? 嘘だ』
「あぁぁ、なるほど」
『まぁいいけどね』
「やられたなー」
『今からバァイト行くところ。忙しいんだから切るね』
Pi

つーつーつーつー

48 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:35
なんてことはない。
『SHALL WE LOVE?』の冒頭部を録音したものだろう。
確かにごっちんの声は聞けた。

俺は再びスレを見た。


34 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:31

ワラタ

35 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:31

ワラタ

36 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:32

ワラタだけで1000を目指すスレはここですか?

37 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:33

ワラタ

38 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:33

ワラタ

39 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:34

ワラタ

40 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:36

ワラタ

41 名前: 名無し募集中 投稿日: 2004/02/27(金) 23:36

ワラタ


俺も書き込んでおこう。
ワラタ、っと。
でもほんとに笑っているのは俺や、その他のモーヲタではなかった。
49 名前:     投稿日:2004/02/27(金) 16:37
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
二月の携帯代が二十万を越えていた。
やられた……。
ワン切りと同じ理屈だ。
テレビをつけるとニュースでこのことをやっていた。
ごまっとう詐欺。
なんともバカバカしいネーミングだ。
被害者は四百人ほどだそうだ。
俺はその四百人のうちの一人か……。
情けない。


       了

50 名前:あとがき 投稿日:2004/02/27(金) 16:38
最初この曲聴いたとき思わず突っ込んでしまいました。
みなさんも、あぁたしかにそうだよね、と思ってくれると信じています。
最初は全部ギャグで突っ切るつもりでしたが、書いてるうちに其の四を思いつきました。
それぐらいかな?
     nypd(野に咲く花のように、やっぱり、ポイ捨てされて、どぅーん)
51 名前:NYPD 投稿日:2004/02/27(金) 16:39

流し

52 名前:NYPD 投稿日:2004/02/27(金) 16:39

はくさい

53 名前:NYPD 投稿日:2004/02/27(金) 16:39

わしにはわかるじゃ

54 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/29(日) 11:01
おもしろい
55 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:22

頭の中の万歩計

56 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:22

よんじゅうなな、

よんじゅうはち、

よんじゅうきゅう、

ごじゅう。

57 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:23
トイレから教室まで五十歩かぁ。
よぉし、じゃあ次は三十歩にするぞ。

いぃぃち、

にぃぃい、

さぁぁん、

しぃぃい、

ごぉぉお、

…………、
58 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:23
……ぅろぉく、

にじゅぅなぁな、

にじゅぅぅはぁち、

にじゅぅぅぅきゅぅぅ、

さんじゅぅぅぅぅぅう!

やった! 三十歩でいけた!

「……何やってるの?」
へっ?
わたしは声のしたほうをくるりと振り返った。
同じクラスの洋子ちゃんが、まるで変なものでも見るかのような顔で立ってた。

「最近あのぉ、よく、歩く歩数ってあるじゃない? 
で、それを万歩計なんかを着けるんじゃなくて、自分の中で数えてんのね。
いちにぃさんしぃってずーっとずーっとやって」
「なにそれ?」
「ほんとにね、これを一回やりだすと、目標がでるの。
スゴイでてきちゃって、なんかね、五十歩だったら次は三十歩にするぞっとか」

洋子ちゃんはなんだか納得してないような表情だった。
「わかる?」
「う〜ん、わたしにはよくわかんないや。でも大股で歩いてるのってヘンだよ」
そう言って洋子ちゃんは言ってしまった。
……やっぱりわかんないのかなぁ?
59 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:24
これをしてどーなる? とか言われちゃったら困るんだけど、
なんだろうなぁ?
でも、あっこんなに歩くんだって思うの。
結構、歩いてるんだよ?
なんかねぇ、近い距離でも、スゴイ百歩とか歩いたりして、
なんか百って考えると、すごいオッキイ気もするけど、
百の距離はスゴイ少ない。
気付くと、もう簡単に百になっちゃう。ホントに。
楽しいよ?
やってみてください。
60 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:25
その日の夕方、
「……亀井何やってんの?」
トイレから楽屋まで何歩になるかを数えている時に矢口さんに声をかけられた。
わたしは学校で洋子ちゃんに言ったことと同じことを繰り返す。

「ふーん、なんか意味あるの? それ」
言われたら困ることを矢口さんはズバッと聞いてきた。
うーん、わたし自身もよくわかんないんだけどなぁ。
とりあえず感じたことを言ってみた。

「百って考えるとオッキイけど百の距離は少ない……か」
あれ? 納得してくれたのかな?
矢口さんはうんうんと頷いている。
なんだかグリコのおまけみたい――そんなことを思って笑いそうになった。
「ん? 何?」
いえいえ、なんでもございません。
61 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:25
「なんか……深いね」
「?」
「う〜ん、おいらもうまく言えないんだけどね、例えばさ、今年はまだあと十ヶ月あるでしょ?」
「そうですね」
「十ヶ月って聞いたらどう思う?」
「どう思うって……」
矢口さんはいきなり何を言い出すんだろう? 十ヶ月?
どう思うって言われてもなぁ……。

「聞き方が悪かったかな? それじゃあさぁ、十ヶ月って短い? 長い?
亀井の思ったとおりの答えでいいから」
「……長いと思います」
「そうか、じゃあ娘。になって、今までは長かった?」
わたしは去年の一月頃を思い出していた。
さゆとれいなとわたしが受かって、藤本さんと一緒に娘。に入った時――。
まるで昨日のように思い出せる。

「短かったと思います」
「そっか、でも娘。に入って――正式には五月からだけど、一年以上経ったわけでしょ?」
「そうですね」
「それと同じなんだよ、さっき亀井が言ったのと」
62 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:26
同じ……かなぁ?
そう言われればそうなのかもしれない。
時間と距離は違うけれども。

「十ヶ月は――、なんか半端だなぁ。一年で考えるね。
一年って聞くと長く感じるけど、実際に一年経ったら短かったって思うでしょ?」
「はい」
十ヶ月って言い出したのは矢口さんじゃないですか、って藤本さんやれいなだったら言うのかな?

「亀井は今じゅう……ごだっけ?」
「十五です」
「だから、亀井にとってみれば、一年は十五分の一なわけだよ。
おいらだったら二十一分の一、裕ちゃんなんか三十分の一だもんね、亀井の二倍だよ」
「はぁ……」
わたしは矢口さんの言っていることがよくわからなかった。
二倍? 二分の一倍だよね?
どうしよう、つっこんだほうがいいのかなぁ?

「聞いてる?」
「あっ……はい」
「? とにかく、これから先、今感じてる以上に時間って短いなぁって思うと思うのね、
自分の中での一年の占める割合っていうのかな? それがどんどんちっちゃくなってくっていうか……、
あぁー、なんかよくわかんないなぁ! おいらが言おうとしてることわかる?」
63 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:26
正直よくわからない。
「なんとなくですけど……時間は大切ってことですよね?」
「んー、まぁそんな感じかな。なんかおいらバァサンみたいだね、もう歳かなぁ?」
「まだ二十一歳じゃないですか」
「そうだよね、うんうん、まだ二十一」
そう言って矢口さんは歩き出した。

何だったんだろうなぁ? 矢口さん。
……まぁいいか。
わたしは歩き出そうとして、何歩歩いたかを忘れていることに気がついた。
……まぁいいか。ここから数えていけば。
いち、
にぃ、
さぁん、
しぃ、
ご――、
64 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:27
「かめい!」

振り返ると矢口さんがこっちを向いていた。

「今楽しい?」
わたしは少し考えてこう言った。
「キツイですけど、楽しいです!」
「そうか……、うん、ならいい。ガンバレ!」
「ハイッ!」


楽屋に戻るとれいなとさゆにからまれた。
「絵里なにしとっと? 遅くない?」
「きばってたの?」
「そんなんじゃないよぉ」
「じゃあなにしとっと?」
「矢口さんとお話してた」
「何話してたの?」
「えーっとねぇ……」
どうしようかなぁ、言おうかなぁ、うーん、
やっぱりぃ……、

「ヒミツッ!」
「なんやのそれ!」




       了


65 名前:あとがき 投稿日:2004/02/29(日) 20:28
この話は、正直何書いてんだかわかんなくなりました。
あと、僕の書くヤグはなんか病んでますね。
     nypd(海苔巻を、よく見たら、ピーナッツが入っていて、どぅーん)
66 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:29
流し

67 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:30
にんじん

68 名前:NYPD 投稿日:2004/02/29(日) 20:30
絵里が2回もコケてた(はーと)

69 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/02(火) 10:54
本文よりあとがきが好き
どぅーん
70 名前:     投稿日:2004/03/02(火) 23:00

目の見えない女の子と女の子の話

71 名前:     投稿日:2004/03/02(火) 23:01

わたしは目が見えない。


四歳のときに熱を出した。
高熱だ。
両親はわたしの死を覚悟したらしい。
三日三晩うなされたが、奇跡的にもわたしの熱はさがった。
ただ、視力は失われていた。

その頃からだろうか、
わたしは隙間に挟まることが大好きになった。
わたしの体に適度に加わる圧迫感。
挟まることで体全体を安心感が包む。
目の見えないわたしにとって、日常生活は危険がいっぱいで、
常に注意しておかなくてはならない。
隙間はわたしの心休まる唯一の場所だった。

歩く時に歩数を無意識のうちに数えるようにもなった。
そのおかげで家の中では見えているのと同じくらいスムーズに歩くことができる。
多分近所でも杖なしで歩き回ることはできると思う。
両親が心配するのでしないけど。
72 名前:     投稿日:2004/03/02(火) 23:02
わたしはその日も公園に向かった。
いつものベンチに人がいないことを確認し、腰を下ろす。

座っているだけで、とりわけ何をするでもない。
お日様の笑顔を体に浴びたり、
小鳥の歌声や木々の内緒話に耳を傾けたり、
噴水で水遊びする子供達の陽気な様子を感じたりする。
お散歩中のおじいちゃんやおばあちゃんと友達になって、
お話したり、飴を貰ったりもする。

今日は誰もいないみたいだった。
そういえば天気予報で今日は寒いといっていたことを思い出す。
わたしは冬は嫌いじゃない。
花の匂いが感じられないことは残念だけど、
落ち葉をサクサクと踏みしめることは楽しい。
冷たくて澄んだ空気が体に突き刺さり、肺に不法侵入する感覚はたまらない。
こたつにみかんも好きだけど、あったかい格好をして散歩するのも好きなのだ。
関係ないけど、みんなは寒かったら震えるみたいだけど、わたしはクネクネしちゃう。
きっと他の人よりも視覚以外の感覚――この場合は触覚?――が優れているからだ。
わたしはそう思っている。

わたしは木々の吐き出す新鮮な――といっても田舎のようにきれいなものではないけれども
家の中の締め切ったのものよりはきれいな――酸素を吸いながら、
ぼーっとすることにした。
73 名前:     投稿日:2004/03/02(火) 23:02
ふと、誰かが公園に入ってくる気配がした。
でも足音は聞こえない。
おかしいな、気のせいだろうか。
しかしその誰かさんは、ふらふらと公園をうろついて、わたしの前にやってきた。

<なにしてるのかなぁ?>

誰かさんが言った。
いや、言ったという表現は間違っているのかもしれない。
その声≠ヘわたしの心に響いた。
こんなことは生まれて初めてだ。
わたしはそこにいるはずの誰かさんに向かって声をかけた。

「誰ですか?」

わたしの声に誰かさんは反応した。
どうも驚いているようだ。

<のんのこと見えるの?>

歳はわたしと同じかそれより下だろうか、
子供独特の不安と好奇心の入り混じった声≠ナ誰かさん――のん≠ウん?
女の子だからのん≠ソゃんかな?――は言った。
「ううん、わたし目が見えないの」
顔を左右に振りながらのん≠ソゃんに答えた。
74 名前:     投稿日:2004/03/02(火) 23:03
<目ぇ見えないの?>
「うん、ちっちゃい頃に熱出して、見えなくなっちゃったんだ」
わたしはいつも小さい子に話していることを繰り返した。
でもいつもと違っているのは子供のお母さんがやってこないことだ。
ここにはわたしとのん≠ソゃんしかいない。

<見えないのになんでのんのことわかったの?>
「なんでだろう? あなたの気配がしたの」
<のんの?>
「うん、それに声≠ェ聞こえたの」
<こえ?>
そーなんだー、へぇー、とのん≠ソゃんは感心している。

<これまでのんのことわかったのは飯田さんと紺野ちゃんだけだよ。
でものんの声が聞けたのは……、えーっとぉ……>
「亀井、亀井絵里」
<うん、亀井ちゃんだけだよ>
のん≠ソゃんはうれしそうに言った。

のん≠ソゃんは何者なんだろう? 同じ人間のようには思えない。
幽霊か何かなのかな?
でもわたしはこれまで幽霊を感じたことはなかった。
聞いてみようか……。
「あの――」
<ねえねえ、隣座っていい?>
「あっ、うん」
<ありがとー>
75 名前:     投稿日:2004/03/02(火) 23:04
のん≠ソゃんは隣に座った……はずだ。
隣に気配はあるけど、座った時のギシギシといったベンチの音はしなかった。

<いや〜、ずっと浮いてるのって結構しんどいんだよね〜>

ずっと浮いてる=H
やっぱり幽霊なんだろうなぁ、とわたしは思った。
でもおそろしいとは思わなかった。
それはのん≠ソゃんの雰囲気が優しかったからかもしれない。

<それでさぁ、なにやってるの?>
のん≠ソゃんは不思議そうに尋ねてきた。
「うーん、なにって言われてもねぇ……」
正直な所、何もしていなかったのだ。
そのことをのん≠ソゃんに伝えた。
<ぼーっとするの好きなの? なんだかごっちんみたいだね>
そう言ってのん≠ソゃんは笑った。
なんだか馬鹿にされたようだ。
「じゃああなたは……のん≠ソゃんでいいの?」
<辻希美です。のんちゃんでいいよ>
「のんちゃんはこんな所で何してるの?」
<のんは、お空をふわふわ散歩してて、
その途中で亀井ちゃんが一人でいたの見つけて、なにしてるのかなーって思って>
「じゃあのんちゃんも散歩の途中だったんだ」
<そうだねぇ>
そのイントネーションが変だったからわたしは笑った。
のんちゃんもてへてへと笑った。
76 名前:     投稿日:2004/03/02(火) 23:04
そのあとわたし達は色々な話をした。
多分はたから見ていたら変だったと思う。
わたしが一人で喋ってるみたいだから。
何人か公園を横切っていったけど、変な顔してたんじゃないかな。

そろそろ日も落ちる頃になって、わたしはのんちゃんに何気なく聞いてみた。
「触ってみてもいい?」
<ほぇ? いいよ>
わたしはのんちゃんのほうに手を伸ばした。
すると……なんて言えばいいのかな? なんだか空気の塊のようなものがあった。
そしてそこだけはまわりと違って暖かかった。

「あのさ、のんちゃんって幽霊なの?」
<のん? うーん、どうなんだろう?>
むむむむむっとのんちゃんは考えてるみたいだった。
<飯田さんは、たしかイキリョウ≠チて言ってたケド>

生霊?
確か生霊って人に取りついて呪い殺すヤツのはずだ。
そんな物騒な物――物?――には思えない。
「……多分だけど違うんじゃないかなぁ」
<うん、飯田さんも「あっれー? おっかしーなー?」って言ってたもん>
そう言ってのんちゃんはケラケラ笑った。
……笑っていいのかなぁ?

その時、
「絵里!!」
後ろからお母さんの声が聞こえた。
77 名前:     投稿日:2004/03/02(火) 23:06
「もう、こんな時間まで一人で何やってたの。心配したじゃない」
「ゴメン」
やっぱりお母さんにはのんちゃんは見えていないようだった。
<それじゃあのんも帰るね。またね>
「うん、バイバイ」
のんちゃんは空へ飛んでいった。
「?? 今誰に言ったの?」
「……何でもない」
わたしもお母さんと一緒に帰った。

その夜、わたしは夢を見た。
夢をみることは不思議なことじゃない。
でもわたしは視覚からの情報がないから、見えなくなるまでの四年間を元に作られたそれは、
見ていてもよくわからない物が多い。
だけどその日の夜は違った。

一人の女の子がいた。
多分わたしじゃない……と思う。
自分の顔はわからないけど、お団子頭?にはしたことはない。
それにわたしの歯はリス?みたいじゃないからだ。
その女の子は……何かの色の――わたしは色≠ヘもう忘れてしまっている――
オーバーオール?を着て、ピョコピョコと、まるで何かを主張しているかのように飛び跳ねていた。
わたしはその女の子が、感覚でのんちゃんだとわかった。
可愛らしい女の子だった。
でも時折見せる表情は大人っぽく、美人だった。
そこでわたしの夢は途切れた――。
78 名前:     投稿日:2004/03/02(火) 23:07
次の日もわたしは公園に向かい、
お決まりのベンチに腰を下ろした。

今日は昨日とは違ってポカポカと暖かかった。
昨日には感じられなかった春の匂いがした。
こたつとみかんに別れを告げる日もそう遠くないかもしれない。
そう考えると少し寂しいけれど、春には春の良さがある。

小鳥のさえずりや木々のざわめき、
子供達の笑い声や、ゲートボールの玉を突く音が聞こえる。
何も変わらない。
そう思ってたけど、今日から少し変わるみたい。
いや、昨日から変わっていたかもしれない。

ザッザッっと砂を踏みしめる音がした。
それはまっすぐわたしの方にやってくる。
みんなを照らすお日様の笑顔を遮って、代わりにわたしに天使の笑顔を向ける。
わたしも天使とまではいかないけど、ニコッと笑顔をかえした。


「のんちゃん、おはよう」
「おっはよー!」







     了




79 名前:あとがき 投稿日:2004/03/02(火) 23:08
今の時点で75lが亀井ちゃん主役か……、自分でもビックリですね。
これはですね、メール欄でも言っていましたが、ちょっと前から書きたいなと思っていた物の一つです。
正確にはある長篇(そのうち書く予定)のサイドストーリーの番外篇です。
例をあげるならば、
ゆでたまご先生の『キン肉マン』における『闘将!!拉麺男』のソーメンマン主役の話みたいなもんですね。
話は戻りますが、
『目の見えない〜』は本来よっすぃ主役にする予定でした。
ただ、僕にはよっすぃは書けませんでした。書きやすいという人の顔が見てみたいです。
誰にしようか迷っていた時、あるラジオを聞きました。
これや!と思いました。
そのお陰で『頭の中の万歩計』ができ、『目の見えない〜』ができました。
この話ほど亀井ちゃんのエピソードが無理なく仕上がっている小説はないんじゃないかな〜と自惚れております。
あと、きっと誰も言わないと思うので自分で言いますが、これ好きです。
なんか良くないですか?
     nypd(残り湯で、浴槽が、パリパリのときは、どぅーん)
80 名前:NYPD 投稿日:2004/03/02(火) 23:08
流し
81 名前:NYPD 投稿日:2004/03/02(火) 23:09
おれんぢ
82 名前:NYPD 投稿日:2004/03/02(火) 23:10
だっかぁらぁねぇぇぇ こぉくはぁくしぃたらぁだぁきぃしぃめてぇぇ
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/03(水) 10:14
この話し好き
良かったです。
84 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:45


部外者以外立ち入り禁止


85 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:45
うつらうつら……

PURURURURURURURURURU――

はっ、いっけない!
電車の発射ベルの音に気付き、わたしは急いでホームに飛び出した。
プシューっと音を立ててドアが閉まり、電車は去っていく。
危ない危ない、もう少しで乗り越すところだった――、
ホッと一息ついたところで、駅名を書いた看板が目にはいる。
それはわたしが降りる二個前の駅であることを指していた。

あ〜あ、美貴やっちゃったよ、と自分にツッコミを入れる。
さて、どうしようか、
ここから家までは歩いて四十分はかかるだろう。
次の電車が来るのを待とうか……、
いや、たまには歩くのも悪くない。
そう思い、わたしは改札口へ歩いた。
86 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:46
駅の周りは家が立ち並んでいて、コンビニがチョコチョコあるぐらいかなぁ?
わたしはこの辺りのことを良く知らない。
わたしの通った小学校や、中学校の校区から外れているため、
友達も住んでいないここにはほとんど来たことがないからだ。

それでも線路沿いに行けば着くだろう。
っていうか着くに決まってんじゃん。
わたしはてくてくと歩き出した。

途中で道が途切れていたため、
わたしは線路から離れた道を歩くことになったのだが、その道は厄介だった。
どうも入り組んだ細い道が多い。
そのうえアスファルトもデコボコしている。
……歩くんじゃなかったなぁ、
わたしがそう思い始めた矢先、遠くでガタンゴトンと音がした。
電車がわたしを追い抜いたようだ。
わたしからやる気をなくすのには十分すぎるほどのタイミング。
……サイアク。
わたしはブツブツと悪態をつきながら、家路を急いだ。
87 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:47
ちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん♪

鞄の中でケータイが鳴り響く。
こんな時間にかけてくるのは一人しか思いつかない。
イッコ下の亜弥ちゃんだ。
まったくもう、こんな時に――、
Pi

「もしもし」
『あっ、みきたん? 今ヒマ?』
「……ヒマじゃない」
『ちょっとぉ〜、なんかみきたんコワイよぉ、なに? どしたの?』
わたしはこのイライラの原因をざっと説明した。

『やっだ〜、みきたんってばチョードジー』
電話の向こうで亜弥ちゃんは爆笑してた。
「うるさいなー、どうせ用事ないんでしょ、もう切るよ」
『あぁー待って待って、切らないでー』
「っていうかさっきまで一緒にいたじゃん」
亜弥ちゃんとわたしはいつも同じ電車で帰っている。
わたしがウトウトしていたのは亜弥ちゃんが降りた後の話だ。
『えぇー、とにかく切らないでー』
「嫌だ、切る」
『切らないで』
「切る」
『切るな』
「切る」
『もう! みきたんのあほー』
Pi
つーつーつーつー

……結局亜弥ちゃんが先に切ってんじゃん。
88 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:47
亜弥ちゃんの電話の後もわたしは歩き続けた。
なんだか自分がどこを歩いているのかわからなくなってきた。
ふと気付くと、横手に看板がチラッと映った。
わたしは通り過ぎようとしたが、なんだか変な気がして、
その看板の前まで戻った。


部外者以外立ち入り禁止


いやいやおかしいから、間違ってるから、
普通は関係者以外立ち入り禁止だから、
これだったら部外者だけ入れることになるから、
全くかんけーない美貴も入れちゃうことになるから。

そう頭の中でツッコミを入れた。
流石に声に出すのははばかられたが、先ほどまでのムシャクシャが取れたみたいで
スッとした。

その看板の向こうは草がボーボーに茂っていて、怪しげな建物があった。
築何十年も経っているようなコンクリートのビル。
特に気にすることもなく、わたしはその場を立ち去った。
89 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:48
それから十日ほど経ってからだろうか、わたしはまた二つ前の駅で降りてしまった。
今度は次の電車を待つぞ!と思った時、ふいにあの看板が頭に浮かんだ。

部外者以外立ち入り禁止

……やっぱり気になる。
ツッコミとしての性なのだろうか?
わたしはまた歩いて帰ることにした。

なんとなく道順は覚えていた。
前と同じ道を進んでいく。
すると途中で、こっちに来いと呼ばれている気がした。
なんだろう? 気のせいかな?
でもなんだかそっちの方へ行きたくなった。
わたしは本能の赴くままに歩いてみた。

そこはこの前の建物の裏側にあたる場所だった。
こちらの方が正門のようだ。
やはり部外者以外立ち入り禁止≠フ看板がある。
ちょっと違うのは、ロープで敷地の入り口が遮断されていることだった。
遮断されているといっても、またぐことができるぐらいちんけな物だったが。

何なのこのロープ、またげちゃうから、意味無いから、
それにこっちも部外者以外立ち入り禁止ってあるけど、
やっぱり間違ってるから。

んー、やっぱりスッとするなー。
わたしはその場で軽く伸びをして、家に帰った。
90 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:48
ここのところ寝不足が続いている。
次にその駅に降り立ったのは五日後だった。
やっぱり歩いて帰り、看板にツッコみ、スッとする。

次は三日後だった。
わたしは看板の前まで行き、ツッコンで帰ろうとしたが、
そこである物に気付いた。

足跡だ。

草が男物の靴の足型に踏みつけられていて、
その足跡はオンボロビルの方へ向かっていた。
それだけならべつに変なことじゃないだろう。
もしかしたらわたしみたいに変だなと思って中に入ったのかもしれないし、
本当にこのビルの関係者の人かもしれない。
気になったのは、こちらへ帰ってくる足跡がないことだ。
オンボロビルには人のいるような気配はしない。
少なくともわたしは感じなかった。
まさか行きの足跡に合わせて帰ってはこないだろう。
推理小説の雪の上の足跡のトリックじゃないんだし。

それだったらこの足跡の人はどこに行ったんだろう?

わたしは考えてもわかりそうにないことは考えない主義なので、
そのまま家に帰った。
91 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:49
それから二日後、
どうもおかしい。
なにかがわたしをあの屋敷に引きつけているみたいだ。
まあいい、足跡も気になる。
わたしはオンボロビルに向かった。

……何?これ?
わたしはツッコムことも忘れて呆然と立ちすくんだ。
ボーボーの草がメチャメチャに踏みにじられていた。
そしてビルの扉はちょうど腕一本入るぐらいの隙間が開いていた。

ゾクッと寒気が襲う。
気付けばわたしはロープを乗り越えていた。
わたしの足が誰かに乗り移られたみたいに勝手に動いていく。
フラフラとゾンビのように歩いていく。

いや、これはわたしの本心だ。
心の中でくすぶっていた好奇心が燃え盛り、わたしの中で暴れだしたそれは、
マリオネットのようにわたしを操る。
この先に何があるのか、それを確かめたい――。

わたしの手が、扉に手をかけようとしたときだった。
92 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:50
ちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん♪

あきらかに場違いな音が鳴り響き、
それと共にわたしの体は糸が切れたように力が抜けていった。
震える手でケータイを取り出し、ボタンを押す。
Pi

『もっしもーし、みきたん?』
「…………」
声が出ない。
息の漏れる音がするだけ。
『? ちょっとー、みきたん? 聞いてるのー?』
「ぁ……ぅ……」
『みきたーん! なによー、わたしのことバカにしてるでしょー!
もうみきたんなんか嫌いだ! べー』
Pi
つーつーつーつー












気付けばわたしは家のベッドで寝ていた。
制服のまま倒れ込んだようだ。
布団もかけずに寝たせいか、それとも他の要因か、
とにかくわたしは風邪をひいた。
93 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:50
お母さんが言うには、わたしはあの日家に帰ったあと、部屋に鍵をかけて、
夕食の時間になっても下りてこなかったそうだ。
階段を上がるときのわたしの顔は真っ青だったらしい。

ケータイを見ると、メールと留守電は亜弥ちゃんからのものでいっぱいだった。
最初はわたしを罵倒しまくったものだったが、
途中から『みきたん、怒ってるの? わたし何かしたかな?』というものに変わってきて、
最後には
『わた……ヒック、しが……悪かった……グス、からぁ、ヒック、……みきたん、グス、許して……ヒックよぉ』
と、泣き声で入っていた。

オイオイ、何考えてんだよ。
そんな亜弥ちゃんに苦笑したが、嬉しかった。
わたしはぼーっとした頭でメールを打った。


[ かぜひいただけ ごめんね ]


そのあと亜弥ちゃんからメールが山のように着たのは言うまでもない。
94 名前:     投稿日:2004/03/03(水) 23:51
わたしは快復したあと、再びオンボロビルへ行った。
でももうそれは無かった。
地面は整地され、あの看板の代わりに工事中の看板が立ててあった。
キケン! 立ち入り禁止≠ニ――。


――結局あれは何だったんだろう。
オンボロビルのこともそうだけど、わたしの身に起きた不可解な出来事。
倫理の時間に習ったエスだか自我だがそういった物だろうか?
あれは性に関することだったかな?
……やーめた。
この世は不思議でいっぱい。それでいいじゃん。

ちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん♪

……そういえばこの子も不思議だな。
ハイハイ、そんな慌てなくったって今でますよ。
Pi
『もっしもーし。みきたーん?』







     了





95 名前:あとがき 投稿日:2004/03/03(水) 23:52
         グリグリ
     ノノノハヽ  ★ノノヾヽ
オラオラ>川VvV) ⊃))*^ヮ^)<イヤーン

やっと亀井ちゃん以外の主役です。誕生日からちょっと空いたけど。
なんだかホラーっぽい話ですね。最初はこんな予定じゃなかったんだけどなぁ。
つっこんで終わり! みたいなギャグものだったのに……。
星新一さんを二人足して、2の10乗で割った感じかな?
あと、あの着メロは『ロマ浮か』です。
     nypd(盗まれた、弥生時代の、ペン立てが、どぅーん)
96 名前:NYPD 投稿日:2004/03/03(水) 23:52
流し
97 名前:NYPD 投稿日:2004/03/03(水) 23:52
はまぐり
98 名前:NYPD 投稿日:2004/03/03(水) 23:53
えぇいぃがぁのぉやくそくをしたぁ そのひにぃなぁってもぉぉ
99 名前:54 投稿日:2004/03/04(木) 22:10
毎日更新チェックするくらい好きです。
今回のもおもしろかったです。
100 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:11


それで推理小説と言えるのか?

101 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:12
「――ってことだとカオは思うよ」

カオリは自らの推理を披露した。
それはわたしには穴がないように思われ、
これで事件は解決したものだと思っていた。

「だから、この条件にあてはまるのは小川しかいないの、
正直に言ってくれる?」

カオリは優しくまこっちゃんに諭した。
まこちゃんはさっきからずっと下を向いたままだった。
どことなくプルプルと震えているようにも見える。
泣いているのだろうか?
自分の犯した罪の重さに耐えきれなくなって――。

いやいや、それほどたいした罪でもないべ。
その証拠にカオリと梨華ちゃん以外は知らん顔だしね。
わたしはヤグチとじゃれ合ってるし、
よっすぃとののとあいぼんはなんだかヒーローごっこやってるし、
高橋は……宝塚の雑誌?読んでるし、
六期の三人は誰がカワイイかでもめてる。
そういえば紺野と藤本がいないなぁ……。

さてさて、そんなまこっちゃんはと言うと、
……微妙に左右にゆれている。
それは規則正しくゆ〜らゆらと楕円のようにふり幅が大きくなり、
そしてついに……、


カクンッッ

ハッッ


落ちた―――! そして起きた――!
102 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:12
「ちょっと! 聞いてるの?!」
「へ? 何がですかぁ?」
「だ か らぁ 石川のケータイがなくなったことだよ」
カオリが怒鳴る。
まこっちゃんは、ぽけ〜とした顔で聞いてる。
あ〜あ、かわいそうなまこっちゃん。

その横で梨華ちゃんがオロオロとしていて……、
あっ、目が合っちゃった。
梨華ちゃんは満面の笑みのまま、わたしと一匹の所に走ってきた。

「安倍さ〜ん、矢口さ〜ん、聞いてくださいよ〜」
「なんだよ石川、あっちいけ、シッシッ」
「えー、ちょっとまりっぺヒッドーイ!」
梨華ちゃんがヤグチを羽交い絞めにする。
「あーっ、わかったわかった、ギブギブ、参った」
「もうちょっとこうしていましょ〜よ〜」
梨華ちゃんはギュギュギューと抱きしめる。

「……梨華ちゃん、それ以上絞めたらやばいんでないかい?」
「大丈夫ですよ〜、これ位屁でもないですよね〜?」
ね〜、と梨華ちゃんがヤグチに笑顔を向けたその時、

「ぐえっ」

かえるが踏み潰されたような声を出して、ヤグチは落ちた。


ヤァグチィ――!

ヤグチー!

ヤグチー!

コロンボー
103 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:13
「で? どうしたんだべ?」
落ちたヤグチは地面に転がしといて、わたしは梨華ちゃんから話を聞いた。

「実は、実話なんですけど……プッ、これ、面白くないですか?」


・ ・ ・ ・ 

わたしは梨華ちゃんのアゴをつかむ。
「砕いて欲しいのはこのアゴかい?」
「いえ、すみませんでしたゴメンナサイ」

「コホン、……で、ど〜したの?」
「ケータイがなくなったんです」
「どっかに置き忘れちゃったんじゃない?」
「そう思って探したんですけど、どこにもないんです!
おかしいなと思って、飯田さんに相談したら……」
そう言って梨華ちゃんは振り返った。

カオリがまこっちゃんにまだ説教しているようだ。
「い〜い? 麒麟さんが好きなんだけど、象さんも好きなんだよ、
でもカオね、象っていう漫才師見たことないの、知ってる?」
「ちょっとわからないですねぇ〜、グレートチキンパワーズなら知ってますが……」
グレチキは漫才師じゃないと思うべ。

「カオリに頼んだ梨華ちゃんが悪いべ」
「そうですね、以後気をつけます」

ガチャっと楽屋のドアを開けて、藤本と紺野が入ってきた。
「あっ、安倍さん、マネージャーさんがよんdふぇましたよ」
「アッハハ、何かんでんの、マジ受けるんだけど」
「大福がちょっと……」
紺野ちゃんはポッと頬を赤らめた。
104 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:13
「そうだ、二人とも、ケータイ知らない?」
「なっちのこと呼んでたの?」
「りかちゃんの? 知らない」
「っんぐ、はい、呼んでましたよ」
「どこ探してもないのよー」
「そっか、じゃあまたあとでね」
「電話したら?」
「はい、それでは」
「どこに電話するのよー」
「あっ、ヤグチが落ちてるからあとお願いね」
「いやいや、梨華ちゃんのケータイに」
「わかりました」

わたしは娘。の楽屋を後にした。
「あっそうか、そーだよねー。気付かなかったー」
「普通すぐに気付くよ?」
梨華ちゃんと藤本の漫才を背に受けて。

リハが終わったあとトイレの前を通ると変な着メロが流れてた。
ちゃ〜み〜は〜♪ みたいな不快な電子音。聞かなかったことにするべ。
楽屋に戻る時にモーニングのみんなと擦れ違った。
ほんと、ここの廊下は狭い。
ぶつからない為にはカニ歩きしなくてはならない。
カニ、カニ、蟹、ハマチ、

あっ、そうだ。
わたしは引っ掛かっていたことを口に出した。

「まこっちゃん!」
「? 安倍さんなんですか?」
「な〜んで壁の方向いてんの?」




       了



105 名前:あとがき 投稿日:2004/03/06(土) 14:14
書き終わって気付いたけど推理してないね。犯人誰だかわかってないし。
スンゴイ駄作ですが、こんなのもたまにするのでゴメンナサイ。
もしかしたら頻繁にするかもしれないのでゴメンナサイ。
駄作載せる時はもう一個載せることにします。
この話は、シリーズの残り二作を書くためだけに穴埋め的に書いたんで、
忘れてチョーダイ!(酒井くにお・とおる風)
あとね、坂本龍一の曲聴いたから書きますが、ピアノの黒の鍵盤だけで弾くと中国っぽくなるよ。
マメマメ知識でした。
     nypd(ニコチンを、薬草に包んで、ポイッと捨てたら、どぅーん)
106 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:15


復讐と殺戮と注射器と平和

107 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:16
ふぁぁぁぁ、
暇だなぁ。なんかオモシレーことないかなぁ。
コンビニの前で大欠伸をした俺は、街行くやつらを眺めていた。
サラリーマン風の男達が鞄と携帯片手に行き来してるだけだった。
面白くとも何ともない。

……しょーがねえ、どっか行くか。
俺は立ち上がり、ズボンの砂を手で払って人ごみの中に身をゆだねた。
誰かヤラせてくれる女いねえかなぁ。
キョロキョロと視線を動かす。
いるのは婚期の過ぎたようなOLだけだった。
くそったれ。

すると後ろから、

「ねえ」

と声をかけられた。

振り向くと、十七、八ぐらいの女がいた。
どことなく顔が魚っぽい女だった。
黒のコートに黒のパンツ。
すらりと伸びた足は黒のバッシュに納まっていて、
左の耳に天使をモチーフにした今流行のピアスをしている。
かなりの上玉だ。
線は細いが乗り心地はよさそうだ。
どうやら今日の俺の運勢は大吉らしい。
108 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:16
「なんだ?」
「あのさ、ちょっと顔近づけてくんない?」
はぁ? いきなりキスか?
そんな女会ったことねえぞ?
別段断る理由もなかったので、言われるがままに俺は屈んで顔を近づけた。

チャッ

ん? 俺の首筋に何か冷たい物が当たった。

「動くな」
……どうやらナイフを突きつけているようだ。
刃が日光を反射しているのだろう。とても眩しい。
おいおい、マジかよ。
いきなりナイフ突きつけられりゃあさすがにビビる。
他の歩いてる連中は気付いていない。
カップルが道端で何やってるんだという風にしか見ていないだろう。
それぐらい俺と女との距離は近かった。
この女、なかなかやるな。

「今から言う奴等を集めろ」
冷たい声で女は四人の名前を言った。俺の悪友ばかりだ。
俺は何気なく女に言った。
「わかったよ、とにかくそれ下ろしてくれないか? 電話も出来ない」
女はナイフを下ろした。
今ここで殴り倒したくなる衝動を押さえ、踏みとどまる。
この野郎、調子に乗りやがって。まあ今は言いなりになっておこう。
あとで絶対マワシてやる。

俺は電話をかけた。
クスリか女のことしか頭にないようなヒマ人ばかりだ。
四人とはすぐに連絡がついた。
二時間後にいつものところで会おうと告げる。
109 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:17
俺は女を連れていつもの場所――第六倉庫に行こうとしたら、
女はそれを拒否した。

「まだいいからさ、それより服買ってくんない?」
はぁ? コイツさっきから意味がわからん。
「何でだよ! バカかお前は」
「いいじゃん別に、金あまってるんでしょ?」
金ならそこそこある。全部人様から奪った物だけどな。
「お前に使う金なんかねえよ」
「ケチッ!」
女はそう言い残してスタスタ歩いていってしまった。
一回頭診てもらったほうが良いんじゃないか?
とりあえず俺もついていく。

女は109の某有名店に入っていった。
「これと、……あとはこれかな?」
女は適当にTシャツとパンツを選び、レジに向かった。
早ッ、服選びに三分かからない女なんてはじめて見た。
やっぱりどこかイカレテル。

「ねえねえ」
レジで女がおいでおいでしている。
しょうがなく俺は女のもとへ行った。
「何の用だ」
女は悪びれた様子もなく言い放った。
「払って」
……勘弁してくれ。

結局女と店員と客の視線に負け、俺は金を払った。
八千六百五十二円だった。
笑ってられるのも今のうちだ。ぜってー犯す!
110 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:18
俺達が第六倉庫に着いたのは電話してから三時間後だった。
「西海林おっせーよ!」
「なんだ、彼女連れか?」
「自慢しにきたのかよ!」
勝手なこと言いやがって……。
俺は反論しようとした時、女が口を開いた。

「ヨシザワって知ってる?」

「吉沢? 泰郎丸のことか?」
一番太った細川梯が答えた。
「ちげーよ、こいつの名字は土神山だろ」
チビの大水杜が言う。
「なんで俺の名字間違えてんだよ」
泰郎丸がくってかかる。
「やんのかよ」
「なんだよコラァ」
「まあまあ落ち着けお前ら」
坂上野が二人をなだめる。

「お前も知らないのか?」
ヨシザワ……、確か小学校の頃にいた気がする。
大体ヨシザワなんてゴマンといるだろう。
「……知らねえな」
「そうか」
女にドンッと突き飛ばされて、俺はよろけた。
「……っテメエ! 何しやがる!」
111 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:18
「むかしむかしあるところに、吉澤ひとみちゃんというたいそうかわいい女の子がいました」
女は語りだした。
「ひとみちゃんはすくすくと育ち、十五歳になった時はとても美人な女の子に成長しました」
……待てよ、吉澤ひとみ?

「あっ」
大水杜が声を上げる。
「なんだよ」
「覚えてないか? ほら、二年前にヤッタ――」
「あぁ」
思い出した。黒のショートカットに白い肌でほくろの多い女――。
街でナンパして無理矢理犯した奴だ。もう二年程前のことだろうか。

「ひとみちゃんはある日、悪い男達に捕まり、悪戯されそうになりました」

間違いない。あいつのことだ。

「ひとみちゃんは泣き叫んで許しを請いましたが聞き入れてもらえず、
モノのように扱われて捨てられてしまいました」

女は淡々と語り続ける。

「ひとみちゃんはそれを苦に自殺してしまいましたとさ、おしまい」

女は話しおえて顔を伏せた。
112 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:19
「なんだ、アイツ死んだのか、結構ヨカッタんだけどなぁ」
ヒッヒッヒッヒッヒと細川梯が笑う。大水杜と泰郎丸も笑った。
俺は笑う気になるほど悪じゃないから笑わなかったが、
どうも女の様子が変だ。
顔を伏せたままブツブツと言っている。

「それで? まだなんかあるんだろ?」

「――よしこはね、ビルから飛び降りて死んだんだ」
伏せたまま女は喋る。
「顔から落ちてね、わたしでもわかんないぐらいグシャグシャになってた」

ゾクッ
……なんだ? 恐怖? こんな女に?
膝もガクガク震えてきた。

「あんなにきれいな顔だったのにね……グシャグシャになっちゃったんだよね」
「そいつはおめでたいこったなぁ、ヒャヒャヒャヒャ」
もうやめろ。
さっきから煽っている細川梯にそう言おうとして声が出ないことに気付く。
この女、なんかヤバイ。俺の第六感が悲鳴をあげる。

「……だからね」
女は顔を上げた。


「あんたたちもグシャグシャにしてあげる」

113 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:20
パキッと乾いた音が女の右腕から鳴った次の瞬間、

ダンッ!


跳んだ!

女は五メートルはあるだろうか、倉庫の天井近くまで跳び、
もといた場所から七メートルは離れた細川梯の目の前に音も無く降り立った。

「…………」
細川梯は唖然としている。
いや、ここにいるやつ全員――勿論女は含まれない――が呆然と立ちすくむ。

「  死 ね  」

ブンッ
べちゃっっ
ぶしゅー

女の右腕が振り下ろされると、細川梯の頭は肉片となって壁に張り付き、
それ自体の重みでずるずると壁に真紅の道を作り出していて、
頭に上るはずの血液は、行き場を失ってそこらじゅうに巻き散っていた。
細川梯の体は指揮官を失ってフラフラと漂ったあげく、紅い噴水が収まると共に地面に倒れこんだ。

「ぁ……ぁ……」
なんだこれは?! 地獄絵図を前にして、俺の頭は思考を停止したかのように全く動かなかった。

「  次は お 前 だ  」
「ひぃっ」

ブンッ
べちゃっっ
ぶしゅー

「  次  」

ブンッ
べちゃっっ
ぶしゅー

ブンッ
べちゃっっ
ぶしゅー

倉庫中に鉄の臭いが充満し、俺はむせ返りそうになった。
女はくるっと身をひるがえし、こちらの方へ歩いてくる。
114 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:21
キュッ キュッ

こんなにバッシュの足音が恐ろしいと感じたことはない。
俺は逃げ出したかったが、体の使い方を忘れてしまったかのように、
いや、むしろ魂が抜け落ちてしまったかのように。
俺の頭は壊れてしまったMDのようにひたすら同じ単語を繰り返す。

殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ


               死


――逃れられない。

キュッ
女は俺の前で立ち止まる。
全く動けない俺に向かって女は微笑む。
いや、目の錯覚だろうか、顔は無表情のままだったが、俺には確かに笑っているように見えた。
それはクスリでイッテるやつのそれと酷似した。

紅く染まった右腕を高々とあげて、口を開いた。

「あ〜、そうそう、服あんがとね」

女が腕を振り下ろす。









115 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:22
『昨日未明、東京湾沿岸の第六倉庫で男性五人が惨殺されているのが発見されました。
殺害されていたのは、大み――』
Pi

ポイッとリモコンを捨てて、飯田さんはう〜んと伸びをする。
「ふわぁぁぁあ、とりあえずさ、一区切り着いたんだよね?」
「そうですね、これでもう夢は見なくなるんじゃないでしょうか?」
「だったら良いんだけどね〜」
ふわぁぁぁあともう一回欠伸をする。

ドタドタドタという足音が鳴り、紺野ちゃんがガチャっとドアを開けた。
「あっ、飯田さん、石川さん、おはようございます」
「うっす」
「おはよう紺野」
「あの、今朝のニュースはやっぱり……」
「うん」
「……そうですか」

ごっちんの過去はここにいる人ならほとんどが知っている。
もちろん紺野も――。

「……あれで、よかったのでしょうか……」
「う〜ん、カオはよくわかんないけど、ごっちんが良いならそれで良いんじゃないの?」
「しかし……」
「たしかに、ただの人間相手に注射器三本はやりすぎだとは思うけどねぇ」
「さっ、三本も使ったんですか?」
「そうだよ。昨日の夜叩き起こされてねぇ、眠いったらありゃしない」
そういえば、今日は一段とクマが酷い。
116 名前:     投稿日:2004/03/06(土) 14:23
飯田さんはコキッコキッと肩を鳴らす。 
「三本も使うほど憎かったんだろうねぇ。さっ、紺野、続きやるよー」
「飯田さん、待ってくださいよ」
「平和のため〜にカオは行く〜♪」
変な歌を歌いながら飯田さんと紺野はラボに消えていった。

ロビーにはわたし一人だけが取り残される。
平和のため……か。
クスリとわたしは笑った。
それじゃあわたしも平和≠フためにやりますか。
紅茶を一気に飲み干して、わたしは席を立った。





       了



117 名前:あとがき 投稿日:2004/03/06(土) 14:24
(0^〜^)<……  ヨシコゴメンネー>(´ Д ` )  

題はてきとーです。なんでもよかったんで。
このスレしっかり読んでくださってる方はわかると思いますが、
こちらは長篇(中篇ぽいかも)の番外篇になります。
例をあげるならば、『キン肉マン』で米の人が主役の話になります。
でも思ったのですが、『キン肉マン』や『闘将!!拉麺男』は書かずに、
ロビンマスクや壺蹴るヤツ(名前忘れた)の話ばっかり書く方が良いかもしれません。
読み手の方は謎の多い話に引き込まれる(かなぁ?)でしょうしね。
書いてみて思いましたが格闘難しい。 _| ̄|○
西海林も変な感じ。人間が書けてないとはこういうことを言うのでしょうね。
あ、ピアスはショマキエルのつもり。
     nypd(西陣織が、よく売れるのは、パチンコ玉を、どぅーん)
118 名前:NYPD 投稿日:2004/03/06(土) 14:25
流し
119 名前:NYPD 投稿日:2004/03/06(土) 14:25
しらたま
120 名前:NYPD 投稿日:2004/03/06(土) 14:26
へっとずぴかる
121 名前:NYPD 投稿日:2004/03/06(土) 14:45
( ・e・)<……ニィ

_| ̄|○
122 名前:NYPD 投稿日:2004/03/08(月) 23:04
メール欄に書いていたとんでもない話(仮題:なまこの皮を剥ぐ方法)は、
・構成力の無さ
・表現力の無さ
・やる気の無さ
・つっぷりつっぷりつっぷり
この四点を理由に断念しました。心よりお詫び申し上げます。
123 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:04


ふっくらブラジャー愛の跡


124 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:05
「はあっ、はあっ、はあっ、ングッ、はあっ、はあっ」

あたし、斉藤美海はただいま猛スピードで爆走中。
というのも、あたしがこれから通う事になる高校の入学式に遅れそうだから。
入学式が九時からで、今の時刻が九時三分。
……訂正。もう遅れてました。

でもね、もしかしたら式が始まるのが遅れてるかもしれないでしょ?
少しでも可能性があることには全力で立ち向かう。
これがあたしの座右の銘(今決めた)だったりするのね。
それに遅れたからってトロトロ歩いていくのってなんかカッコ悪いでしょ?
あたし、カッケ〜くなりたいんだー。
無駄な事に全力を傾けるのってカッケ〜でしょ?

何? さっき言った事と矛盾してる?
さっきなんて知らない。
あたしは今、今が一番大事なの。
終わった事は気にしなーい。
125 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:05
必死こいてガッコまで来たけど、何処で式してんのかな?
体育館か講堂だよね? でも講堂あったら体育館使わないよねー。
じゃあ講堂か。ヨシ、今日のあたしってば冴えてる。
昨日十八時間寝た甲斐があったってもんだね。

……講堂って何処だっけ?

アレ? おっかしいな〜? 確か講堂で入試受けたから行った事あるはずなんだけど……。
どっかに地図無いかな?
とりあえずそこら辺をブ〜ラブラ歩いてみる。

オッ、発見発見。
え〜っと、ナニナニ? ここをこうこうこう、かなるほどね。
あたしは、サル〜、ゴリラ、いっぱんじ〜ん♪と歌いながら講堂に向かった。
当たり前だがもう式は始まっていた。
どうやって忍び込もうか?

うむむむむ。
あたしは腕を組み、悩み悶えた。
126 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:06
姉さん、なかなか敵は強力だったようで、
僕ができる事はお客様に納得の行くサービスをするだけで、
あのドラマの主役は松方弘樹なのかと疑ったりもするわけで、
それにマイケル富岡も最近見かけないわけで、
昔はヤキソバンやってたわけで、
悪役のデーブ・スペクターに向かって、
揚げ玉ボンバーしたり、ソースガンが5メートルしか飛ばなかったり、
青のりフラッシュ撒き散らしたりしながら必死に戦っていたりしたわけで、
その後のヤキソバニーが松雪泰子だったわけで、

Aコースはヤキソバニー寝袋よ♪ Bコースは○○××よ♪
食べる(食べる)送る(送る)当たる(当たる)♪
ゴーゴーヤキソバニープレゼント♪ ア〜ン♪

みたいな歌を歌っていたわけで、
それを今でも覚えてるわけで、
でもBコースを思い出せないわけで、
あれ? Bコースが寝袋だっけ? とか思うわけで、
それが悔しくてたまらないわけで、
それに今でも松雪泰子=白鳥麗子でございます≠フイメージが強いわけで、
懐かしいなぁと思うわけで、
一応『HOTEL』ネタでせめるつもりだったのに、
どんどん脱線していったわけで、
こんなのわかる方がいるのかといえば疑問符が出るわけで、
姉さん……
127 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:06
「ねえ!」
「うひゃい!」

いきなり声をかけられた。そのお陰で変な声がでた。
声とともに心臓も口から出そうだった。
そういえば昔よくやったなぁ。
川島さんが出しすぎて救急車で運ばれたっけ。
そういえば最近出してないな。
ちょっとやってみよーっと。

「ねえ、あなた一年生でしょ?」

あたしの手が食道を通過している時にそんな事を言われた。

「ふぁい、ふぉふふぇふふぇふぉ」(はい、そうですけど)

「ふぁんふぇふぉんふぁふぉふぉふぉふぃふぃふふぉ? ふぃふぃふぁふぃふぁっふぇふふぉ?」
(何でこんな所にいるの? 式始まってるよ?)

「ふふぁふゅふ? ふぇんふぉ・ふぇふぃふぁっふぉふぉ? ふぃっふぁふぉふぉふぁふぃふぇふふぇ」
(ユタ州? ケント・デリカットの? 行った事無いですね)

「ふぉんふぉ? ふぁふぁふぃふぉふぁっふぁんふぁふぃふぁふぁふぃふふぃふぁふぉ。
『ふぃゅーふぃんふふふぁー』ふぁふぃふぉふふぁふぉふぇ!」
(ほんと? 私も八反安未果大好きなの。『シューティングスター』最高だよね!)

「ふぁふぇふぇふふぁふぁふぃ。ふぁいふぁーふぁんふぁふぁふふぉふふぁんふぁふぁふぁふぃんふぇふ」
(止めて下さい。ライダーマンは弱小なんかじゃないんです)
128 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:07

     キュポン!

「で、何でココにいるの?」
彼女は一足先に心臓を出したようだ。きれいなオレンジ色だった。
「ふぉふぇふぁふぇ……」

     ズポッ!!
 
「それがですねぇ、寝坊しちゃいまして、実は昨日『中川家ん』を5回分ほど見たので、つい……」
あたしのは昔より少し黒くなってたなぁ。
やっぱりもう歳かなぁ。昔はあんなに(五月)みどりだったのに……。

「ダメじゃない。初っ端から遅刻だなんて、安倍さんを見習いなさい」

あたしは安倍さんが誰だかわからなかったけど、
目の前の久留米城さん(仮)とのやり取りの中で、
安倍さんはこのガッコの金魚鉢係だと確信したので素直に謝っといた。
「ごめんくさい」
「わかってくれればいいの。ふぉんふぉふぁら(今度から)気をつけてね」
久留米家さん(狩)は笑って心臓を飲み込みながら許してくれた。
それにしてもかわいい声だなぁ。まるでまいちゃんサイコー≠ンたいだ……。

「??? もう戻りません≠チて何?」
「ふぁふぃふゃんふぁふぃコー(まいちゃんサイコー)って言うのは、一種の自己暗示のことですよ」
心臓を飲みながらあたしは草刈雅夫風に答えてあげた。
129 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:08
「そっか〜、じゃああたしは犬ゾリ要らないね」
ルンルンという文字が久留米寺さん(汗)の周りに飛び交っている。
その中にルパンルパンという文字があることは言うまでもない。

「それにしても、何であたしが考えてた事わかったんですか? もしかして心が読め――」
「そうだ、まだ名前聞いてなかったね。 なんて言うの?」
……見事にスルーされた。さすが久留米教会さん(捕鯨)だ。
それにしてもどうしようか。
人に名前を聞くときは己から名乗らんかい、とゼブラ―マン風に言うべきだろうか?

「あたしは木村麻美。ボランティア部なの」
久留米有田焼さん(とにかく定義がどうのこうのって言えば天才っぽく思われるよね)は、
ナニワ金融道っぽく答えてくれた。
またあたしの心を読んだのだろうか?
久留米縄文土器さん(昔CM見てて、なんで女の人ってパンパースみたいなの着けるんだろう? 自分でトイレも行けないのかな? それともトイレ休憩の無いような過酷な仕事してんだろうか? とか思ったのは作者だけじゃないはずだ)は恐ろしい。
とりあえず答えておこう。
130 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:08
「あ、あたしは斎藤美海って言います。えっと……よ、よろしくお願いしまッす」
「あたしは木村麻美。2年生でテニス部、よろしくね」

木村さんって言うのか……、きれいな人だなぁ。
少し色黒(?)だけど、テニス部だもんなぁ……。
でも健康的だし、可愛いし、美人だし、可愛いし……。
ついついあたしは見惚れてしまっていた。

「ん? 大丈夫?」
「あっ……、はゅ、はい、大丈夫でッす」
「でもなんかヘンだよ?」
笑いながら木村さんが言った。
その笑顔がまた素敵でキレイで可愛くて……。
「あっ、イエ、大丈夫です」
でも体がなんだか熱くて、心臓もバクバクしてて、

もしかして、これって、 恋  だったりするのかなぁ?

いや、でも同姓なんだし、でもそんなこと関係ない位可愛いんだけども……。

131 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:09
「あっ、えっと……」
「? どうしたの」
「あの、その……、木村……さん……」
「やだなぁ、木村さんだなんて、敬語は止めて。リーダーちゃんでいいよ」
「え、でもぉ……」
「いいよ別に、あたし堅苦しいの嫌いだし……、ね?」

……女神のような笑顔で、ね?、なんておねだりされたらもう堪りません。

そ、それじゃあ、遠慮無く言わせて頂きます……。


「り、リーダーちゃん……」

132 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:09

     ピキッ!

え、何? 今の音? なんだかリーダーちゃんのこめかみのあたりから聞こえたような気が……。


「あぁん?」


その時のリーダーちゃんの顔は、まるで修羅か羅刹のようでした。



「オイ斎藤」
「ひゃ、ひゃい」
「テメー誰に向かって口聞いてんだよコラ、あぁん?」

やばいよこの人、目が完全にいっちゃってる……。
……でも声は可愛いんだよね。
イントネーション変えて「あぁん(はーと)」だったら似合うだろうな――。

「聞いてんのかオラァ!」
「いや、はい、あの……、リーダーちゃんに……」
「テメー下だろ。それが先輩に対する態度かボケェ!」
「え、でも、さっき、堅苦しいのは嫌いだって言っ――」
「それでもフツー、そんな事出来ないですよ、っつーだろ。何真に受けてんだよ、カスが」
「でも、りーだ――」
「き む ら せ ん ぱ い だろ。敬意を示せこのドブネズミ!」


それから延々六時間ほどリーダーちゃ……、いや、木村先輩の説教を聴く羽目になった。
木村先輩が、最近の子はなってないだの云々語っている間、
あたしはずっとビックリマンチョコのことを考えてた。
133 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:10
そうそう、あたしと木村先輩の制服が、どうも違うなぁ、と思ってたけど、
あたしの受かったガッコはここから歩いて三〇分の所にあった。
あの日以来、木村先輩とは会っていません。
今頃何処で何してるんでしょうね?





     了


134 名前:あとがき 投稿日:2004/03/08(月) 23:10
( `ш´)<引けば?

はいやっちゃったーー!
意味わかりませーーん!
よっす……じゃなくてみうなの一人称が難しかったです。
どうも他の方はよっ……みうなは主役にしやすい(ん?)そうですが、
僕にはよ……みうなは書け……、あー! まどろっこしい!
みうなもよっすぃも書けまへん! 以上!
本当は、遅刻する場面と最後の3レスだけの予定でしたが、
自分を止められませんでした。
一応書いときますが、あさみはヤンタンでボランティア部だったって言いました。
それと、だれかBコース教えてください。
     nypd(日本海で、吉田君に会って、パンチしたら、どぅーん)
135 名前:あとがき 投稿日:2004/03/08(月) 23:11


王様の耳は――


136 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:12
新聞を取りに行くのはわたしの仕事だ。
今日も同じ。
いつものようにあくびをしながら、
いつものようにパジャマの上にカーディガンを羽織り、
いつものようにリビングの暖房をつけ、
いつものようにとてとて走り、
いつものように玄関まで取りに行き、
いつものようにリビングに戻り、
いつものように新聞と折り込み広告を分けて、
いつものようにテレビ欄と四コマ漫画を見る。

ただ、いつもと違ったのは、分ける際に、一枚の広告だけするりと落ちたことぐらい。
わたしは寝起きでパキパキと鳴る腰を屈めてそれを取り、テーブルの上に置こうとした――、
けどそれは出来なかった。
なぜなら、それには次のような――わたしの興味を引くには十分な――文章が書かれてあったからだ。
137 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:12



――あなたは本気で叫んだことはありますか?


                        お叫び処 Donkey's Ears

138 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:13
Donkey's Ears≠ヘ日本語にするとロバの耳≠セ。
……王様の耳はロバの耳?
確か壺の中に、「おぉさまのみみはろばのみみぃ」って叫ぶやつだよね?
あぁ、だからお叫び処≠ゥぁ、
絵里なっとく。

いやいや、店の名前はこの際どうでもいい。


――あなたは本気で叫んだことはありますか?


……多分ないなぁ。もしかしたら幼い頃はあるかもしれないけど。
叫ぶ≠ヒぇ……。

「絵里ぃ、顔洗ってらっしゃいよ」
「は〜い」

わたしは洗面所に向かった。
今日も同じ。
いつものように歯を磨きながら、
いつものように自分の顔をチャックし、
いつものようにめざましTVをつけ、
いつものように席に座り、
いつものようにパンを口に運び、
いつものように紅茶を飲み、
いつものようにお母さんは忙しそうにしていて、
いつものようにお父さんにいってらっしゃいと声をかける。

ただ、いつもと違っていたのは、わたしの頭がさっきの広告のことでいっぱいだったことぐらい。
139 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:14
うーん、
食べ終わったあともなんだか心にもやもやがあった。

お叫び処 Donkey's Ears

……行ってみよう。
端っこのほうに小さく書かれてある地図を見ると、
ここから歩いて二十分ぐらいのところのようで、それほど遠くはない。

「お母さーん、今日ちょっと出かけるねー」
わたしは洗濯物を洗濯機に放りこんでいるお母さんに言った。

「なにー?」
最近耳が遠くなったのだろうか? まだ若いのになぁ……。
わたしは同じことを大きな声で繰り返した。

「構わないけど、春休みの課題はどうするのよ?」
「帰ってきたらやりますー」
「あんた昨日もそう言って結局やらなかったでしょう」
「まだ休みは長いんだからだいじょーぶー」
「またそんなことを言って、休みになるたび――」
もー、いちいちうるさいなー。
わたしはウダウダ言ってるお母さんを無視して自分の部屋に行った。

「ちょっと、絵里ー、聞いてるのー?」
聞いてません。
140 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:14
部屋について、とりあえずケータイのメールをチェックする。
さゆから二通、れいなから一通、どちらもそんなに大したことじゃなかった。
てきとーに返事を返しておく。

そのあとわたしはTシャツやらパーカーやら、着る物をポンポンベッドの上に投げた。
お気に入りのスカートを手にとって、ちょっと待ったをかける。
今日は歩くし、寒くなるみたいだからジーンズにしよう。
わたしはスカートを元に位置に戻し、代わりにパンツを放った。

あとはそれらを組み合わせて……っと、
わたしはピーコ並のファッションチェックを行う。
……シャツはピンクのほうがいいかなぁ?
ベッドの上にあったシャツとピンクのシャツを取り替える。

……うん! コレで良し!
わたしはカーディガンとパジャマを脱ぎ捨てた。
141 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:15
鏡の前でもう一度確認。
鏡の中には、まるでどこかのモデルのようなかわいいオンナノコが立っていた。
……それはちょっと言い過ぎかな?
ぺろっと舌を出してみる。

でもやっぱりさゆなんかよりもわたしのほうがかわいいもんね!
自分の姿を写メールで撮って、さゆに送りつけた。

「それじゃあ行ってくるねー」
「あんまり遅くならないようにしなさいよー」
わかってるっつーの。
142 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:15
ケータイと財布と鍵とさっきの広告を持って、家を飛び出した。
わたしは時折地図に目をやりながら、てくてく歩く。

こっちのほうかなぁ……。
どうやらお目当ての場所は少し裏道のほうらしい。
晴れているにも関わらず、わたしの行こうとしている道は薄暗い。
それに左右のビルのせいでビル風がキツイ。
びゅーびゅーびゅーびゅー吹いている。
あぁ、寒っ。
わたしは寒さでクネクネしちゃうのを抑えながら、小走りで駆け抜けた。

少し開けたところに出る。
目の前には小汚いビルが建っていた。
地図を見ると、どうやらココのようだ。
その割には看板も何も出てないなぁ。
143 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:16
視線をキョロキョロ動かしていたら、ビルから誰か出てきた。
やばい! 見つかる!
わたしはピャッと電信柱の後ろに隠れる。
……隠れてから思ったけど、別に逃げることないよねぇ?
だからといってジャーンと飛び出るわけにも行かないので、
とりあえず様子を見ることにする。

中から出てきた人はピンクの服で全身を包んでいた。
「よ〜し、今日からポジティブにいくぞ〜!」
お肉スキスキ〜♪などとへったくそな歌を歌いながら、
わたしの側をスキップで通り過ぎていった。

…………。
帰ろうかなぁ……。
いやいや、せっかくここまできたんだしねぇ……、
……うん、行こう!
わたしはビルに入った。
144 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:16
一階はがら〜んとしていて何もなかった。
奥に非常扉があった。
きぃ〜と扉を開けて、わたしは二階へと上ってみた。

それにしても静かだ……。
誰も叫んでいるどころか、話し声すら聞こえない。
聞こえるのは階段とわたしの靴がぶつかる音だけ。
本当にお叫び処なんてあるのだろうか?
わたしの不安度は今では九十五パーセントに達している。

きぃ〜と音を立てて、わたしは二階の扉を開けた。
なんて言うんだろうか、例えるならカラオケボックスのように、
201、202などの部屋が並んでいた。
その中の一つに、お叫び処 Donkey's Ears≠ニ書かれた札がかけてあった。
その前に立ち、二回深呼吸をする。
すぅぅぅはぁぁぁ
すぅぅぅぅぅはぁぁぁぁぁ

よし、

わたしは意を決してドアノブをまわした。
145 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:17
「――だって、笑っちゃうよねー、それでカオね、バケツに――」
「あっ、いらっしゃーい」
「ちょっとなっち! 聞いてるの? 鎧が――」
「カオリってば! お客さんだよ!」
「ん? あぁ、いらっしゃい、それでね、麦茶を――」
「えーい! うるさいべ! ちょっとは商売しろ―――!!」
わたしは静かにドアを閉めた。

「ちょっとちょっと、いきなりどこ行くのぉ、ささっ、入って入って」
童顔の人がガン! とドアを開けてわたしの腕をとり、
帰る気満々だったわたしを無理矢理部屋に引きずり込んだ。

「ままっ、座って座って、で、どうしたんだい?」
ニッコニコの笑顔でわたしに問い掛けてくる。
……変なところに来ちゃったなぁ。
しょうがないから渋々椅子に腰掛ける。
146 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:18
「えーっと、コレを見てきたんですけど……」
わたしは広告を広げた。
「あっらぁ、ホントに? いや〜、うれしいなぁ」
童顔の人はコロコロと表情を変える。
その全てが笑顔だった。
対照的に背の高い人はむすっとしたままこっちをじ〜っと睨んでいる。

「それで何部屋がいい? 普通の部屋もあるし、ボクシング部屋もあるし、
あぁそうそう、今はねぇ、アロマテラピー部屋が一番人気だねぇ」
ほかにもね、なっち一押しなのはねぇ、なんとかかんとか。
どこから取り出してきたのかパンフレットを机において、
童顔さんはわたしを置いてけぼりにしてぺちゃくちゃぺちゃくちゃ喋り捲る。
どうやらこの人も自分勝手のようだ。
……ムカッ!

「――でもね、今使ってるからね、あと五分もしたら――」

「 あ の っ ! 」

ビクッと童顔さんは顔をあげた。
「だめだよ〜、ここはオプションに入ってないから叫ぶなら他の――」

「 聞 い て く だ さ い !」
ドンッ!! と机を叩く。
……痛い。
でも効果はあったみたいで、童顔さんもノッポさんも黙ってこっちを見てくれた。
147 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:18
「わたし、コノ広告見て、何なんだろうって疑問に思って、それでここに来たんで、
いきなり部屋がどーのこーの言われてもわかんないんですっ!
大体ここは何するところなんですか?」
興奮して少し早口になってしまった。

「だから、お叫び処だよ?」
ノッポさんが答えた。
「……そのお叫び処≠チて何なんですかぁ?」
「だから、叫ぶところ」
しれっと答える。
あぁ、絵里なんだか泣きそう……。

「だからなっちはコレだけだと意味わかんないからやめようって言ったんじゃんか」
「でもそれでこの子来てくれたんだよ? カオのお陰じゃん」
ドンッ!!
……静かになってくれた。

「あのね、ここは、大声で叫ぶことで、日ごろのうっぷんをね、解消しませんかっていう所なの」
童顔さんは幼稚園の子に話し掛けるような口調で言った。
「ここは全室防音だから、何言っても部屋の外には漏れないんだよね。やってみない?」
「えーっとぉ……」
そんな急に振られても困る。
148 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:19
ノッポさんが童顔さんの隣に座った。
「カオね、思うんだけど、最近さ、人殺しのニュースとかでね、
あんなに大人しかった子が人を刺すなんて信じられません、みたいなことってよくあるでしょ?」
ノッポさんは途中でわざとらしく声色を変えて話した。

「でもね、いくら大人しいって言ってもね、怒らない人間なんかいないと思うんだ。
きっとそういう人は、怒りをずーっとずーっと自分の中に溜めちゃう人なんだよ。
ずーっとずーっと溜めちゃった物が何かの拍子で爆発しちゃうと、
取り返しがつかなくなることが出てきちゃうの。
そんなね、自分の中に怒りを溜めちゃう人たちを救済するのがココ、真剣十代叫び場なの」
「ちょっと、店の名前変わってるっしょ」
「あなた名前はなんて言うの?」
「……亀井絵里です」
「絵里ちゃんね、絵里ちゃんは叫んだこととか本気で怒ったことってある?」
「……ないです」
「一回ね、本気で叫んでみて? スカッとするから」
ノッポさんはそう言って奥のほうへ引っ込んでしまった。
149 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:19
わたしは圧倒されていた。
なんだかノッポさんの言葉には鬼気迫るものがあった。

童顔さんはノッポさんの行方をずっと見ていた。
「あの……」
「えっ? ああ、そうだね、うん、カオリはそう言ってたけど、
別に深く考えなくてもね、うおりゃ――とか、べさ――とか叫べばね、なんか変わるかも……、
ってな〜に笑ってんのぉ?」
「クスクス、いや、うおりゃ――の時の動作が変だったんで……つい」
「ついって、それちょっとひどくないかい?」
あははははっとわたし達は笑った。

「それで、絵里ちゃんはど〜するのぉ?」
「……今日は、帰ることにします。そんなにむかついてたこともなかったんで」
「そっか、うん、それが一番だべ」
150 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:20
童顔さんは出入り口まで見送ってくれた。
「なんかむしゃくしゃしたことがあったらおいで、待ってるから。
ん? 待ってるってのは変だね。イライラしろって催促してるようなもんだよね」
「いやいや、そんなこと……」
童顔さんは空を仰ぎ見て言った。
「ほんと言うとね、こんな商売潰れちゃったほうがいいんだよ」
「……でも、そうしたら叫びたい人が叫べなくなって……」
童顔さんはうんんと首を横に振った。

「そうじゃなくてね、叫ばないでもいいような社会になればいいなぁって思ってるの。
今なっち達ね、結構儲かってるんだ。多分同じ年代のOLよりもね。
でも複雑なんだよ。それだけ多くの人が病んでるってことだからね」

その時わたしは童顔さんの悲しそうな顔を始めて見た。
わたしの表情を読みとったのか、すぐに笑顔に戻る。
151 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:20
「うん、なんか変な話しちゃったね、ゴメンね。それじゃあ気をつけて帰るんだよ」
「はい、どうもありがとうございました」
ぺこりと挨拶して帰るわたしに、童顔さんはずっと笑顔で手を振ってくれていた。

最後に見せた童顔さんのあの表情はなんだったんだろう?
もしかしたら、童顔さんのほうが普通の人よりも病んでいるのかもしれない。
それにノッポさんのあの力説……。
…………。

わたしはどうなんだろう?
わたしは……。
わたしは……。

152 名前:     投稿日:2004/03/08(月) 23:21



――あなたは本気で叫んだことはありますか?






       了




153 名前:あとがき 投稿日:2004/03/08(月) 23:22
ノノ*^ヮ^)<お肉スキスキ♪ 作者病み病み♪  それわたしの……>(T▽T )

亀井ちゃんは目が見えても見えなくても、寒かったらクネクネします。
お叫び処、きっと流行るんじゃないでしょうか?
    nypd(何回も、やばいときも、ピッコロさんが、どぅーん)
154 名前:NYPD 投稿日:2004/03/08(月) 23:22
流し
155 名前:NYPD 投稿日:2004/03/08(月) 23:23
タン塩
156 名前:NYPD 投稿日:2004/03/08(月) 23:23
まぁけねぇ ぜってぇまぁけねぇ にしきぃかぁざるぅ ひぃまでぇ オイオイオイ まけやしねえぇ
157 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:31


羽蟻と亀

――a winged ant と その付属物――


158 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:36

 ◇ ◇ ◇

蟻はせっせと働いて、キリギリスは遊び惚けた。
亀はひたすら歩き続け、兎は途中で眠りこけた。

その結果、

蟻は生き残り、キリギリスは野垂れ死に。
亀は勝者に、兎は敗者となった。

誰もが知ってるイソップの寓話。

 ◇ ◇ ◇

159 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:37





――みんないつかは死ぬんだよね





160 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:38
文の途中にこそ――已然形≠ェでてきた場合は、逆接の意味に――

カッカッとチョークを黒板に打ちつける小気味いい音と、
白髪のおじさん――名前はワスレタ――の語りを右の耳から左の耳へと流しながら、
わたしはただ外の景色を目に入れる作業を繰り返していた。
青い空を白く切り取った雲、電信柱にたむろする鳥、洗濯物の集まるベランダ――、
変わることのないそれらを汚れたガラスのフィルター越しに眺める。

それは何も古文の時間に限ったことではなく、
例えば人が呼吸をするのが当たり前であるかのように、
そして死んでしまえば呼吸をすることをしなくなるかのように、
学校にいる間の――少なくとも授業のある六時間は――わたしの当たり前の行為だった。

窓際の席といえば誰もが羨む場所だけど、わたしから言わせてみれば、
太陽の触手がわたしの机を何時間もかけてうごめく様は、鬱陶しい以外の何者でもない。
別にそんなことは――そして窓の外の単調なものも――慣れてしまえば大した問題ではないけれども。
わたしは無意味で建設的でない時を、ただ悪戯に過ごしていた。
161 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:39
顎を掌の上にのせて外を見る様は、何も考えていないように人には映るかもしれないが、
無心になるなんて器用な真似ができるのは死んだときぐらいだ。
だからきっとその日も何かは考えていたんだろう。

推定なのは何も思い出せないからだ。
思い出せないからといって、それがどうでもいいことなのかはわからないけど、
わたしが考えることなど高が知れている。
兎に角、あれ≠聞くまではいつもどおりだった。


ポッ


その微かな――しかしわたしの意識を引くには十分の――音によって、
わたしの虚ろな視点は机上に投げかけられた。

透明のモノをつけた黒いそれは、存在意義を忘れさられたノートの上に不時着していた。
羽蟻だった。
162 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:39
気づいた時にはもう手が出ていた。
タンッっと鳴った乾いた音は、それの命を奪うことはなかったものの、
それから飛ぶという機能を失わせたようだった。
もしかしたら最初から飛べなかったのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

わたしの手が離れてすぐ、それは六本の足をうりうりと慌しく動かし、
必死に魔の手から逃げようとしている。
ノートの外に逃れようとするそれを、ピッっと手ではたいて元の位置に戻す。
退屈凌ぎにはもってこいの玩具だ。
そう易々と逃がしてたまるか。

逃げる。はたく。スタートに戻る。
逃げる。はたく。スタートに戻る。
逃げる。はたく。スタートに戻る。

少し強くはたきすぎることもあったが、
そのときはフッっと神風を起こしてやる。

逃げる。はたく。スタートに戻る。
逃げる。はたく。スタートに戻る。
163 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:40
同じことの繰り返しも飽きてきた。
わたしはそれを右手でつまむ。
それはもぞもぞと這い出てくる。
なんともいえない奇妙な感触。

わたしはもう片方の手の親指と中指の爪でそれの羽をつまんだ。
それは六本の足を――もう何本かはあまり動かなくなっているが――じたばたと動かしていた。
二度と手に入れることのできない自由を求めて。

そういえば羽蟻を見るのは久しぶりだなと思った。
いや、こんなにまじまじと観察するのは初めてかもしれない。
左手首のスナップをきかせる。
羽蟻は足だけでなく、頭を回し、触角をこれでもかと言うほどに働かしている。

蝶々の触角は味覚を感知できる、
昔そんなことを耳にしたことがあった。
ものを喰らう前に――正確には吸っているけど――味がわかるなんて便利なことだけど、
そんな機能がわたしにもあったらなんか嫌だなぁと思った。
164 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:40
じゃあ、目の前にいる羽蟻は何を知ろうとしているんだろう。
そもそも虫の触角にはなんの機能があったっけ。
視覚? 嗅覚? 触覚はあるだろう。同じ読みだし。
こんなときに大人は思うのだろうか、もっと勉強していればよかったと。
兎に角、羽蟻が他の六本以上に小さな二本を動かして、なんとか情報を得ようとしているのは事実。

必死な羽蟻を見ているうちに、わたしの中で何かが、得体の知れない何ものかが鎌首をもたげた。
それは、とうの昔に忘れ去ってしまった記憶の中に宿るもので、
今考えると笑いたくなっちゃうような幼稚なものと分類されるけども、
人間はモラルという名の防護壁を使ったとしても、終始その甘い薫りに悩まされるもの。

曰く、残虐。

165 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:41
わたしはまず、それの右の羽に指をかけ、力を入れた。
飛べないものに羽はいらない。
付け根の部分が引っ張られ、軽い――そう、ほんとに軽い――抵抗を感じる。


もいだ。


それの羽には白い筋が何本かあり、透明と思っていたそれは少し汚れていて、
これまでそれを飛ばしていた証のようだった。
ふーん。

捨てた。

もう片方も抜いた。
四分の一程が残り、鋭利な刃物が生えた。
心の中で舌打ちし、残りも抜いた。
空気の中へ溶け込ます。

それはもう羽蟻ではなく、単なる蟻へと化した。
それでもまだ生への情熱は衰えてはいなかった。

むかついた。
166 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:41
掴んでいた指を離す。
狂ったようにそれの足は本来の働きをしだした。
でも逃がさない。
ピッ。

わたしはシャーペンの頭を数回ノックした。
久しぶりだ。
でもわたしはこれに本来とは違った働きを期待している。

腹の部分を抑え、それの胸に同じ黒いものを軽く押し付ける。
少しつぶれた。
もう一度押し付ける。
もう一度。
もう一度。

次第にそれは動かなくなってきた。
当然だ。
でも押し付けた瞬間にだけはまだ動くことができるようだ。

今度は押し付けたままにしてみる。
何かを懸命にすくっていた足が、その波に飲み込まれていった。

止まった。
167 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:42
黒い杭を抜いた。
まだ動けるはずだ。
思わくどおり、それは虫の息を吹き返し、六本の足のうちの何本かをぴくぴく動かした。
まだ情報が欲しいのか、それとも他に頼る物がないのか、
二本の触角も生き返った。

再びつまむ。
躍動感が伝わってこない。
人差し指の爪でそれの体を弄ぶ。
止まる。
強い衝撃を加える。
蘇生する。

弄ぶ。
止まる。
衝撃。
蘇生。

弄ぶ。
止まる。
衝撃。
蘇生。
168 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:43
弄ぶ。
止まる。
衝撃。
無反応。

衝撃。
無反応。


衝撃。



無反応。






169 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:44


死んだ。


それは死んだ。
もう動くことはない。
もう飛ぶことはない。
なぜか?
死んだからだ。





わたしが 殺したんだ。






170 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:45


なんだろう、この喪失感は。
羽蟻を一匹殺しただけなのに。
そう、羽蟻だ。
羽蟻なんだ。
ちっぽけな下等生物。
わたしが羽蟻を殺したのは、
子供達が無邪気に虫を殺すのと同じ。
昔のわたしが無邪気に虫を殺したのと同じ。
なのに何故――。



それは、今のわたしには子供のような純粋さが――純粋な残虐性が――なくなったから、
自らの感情、狂気という感情に支配される恐れを抱いたから、
そしてそれが何であれ、命を奪うこと、殺したという事実に恐れを抱いたから――。



171 名前:     投稿日:2004/03/18(木) 04:47

チャイムが鳴った。
学級委員が声を上げる。
起立、礼、着席。
教室はがやがやとうるさくなる。
そう、何も変わらない。
変わらないはずだった。
いつもと同じ、単なる通過点で今日も終わるはずだった。
なのに――。



わたしは羽蟻の骸をそっと机の中にしまった。







       了




172 名前:あとがき 投稿日:2004/03/18(木) 04:51
生きるってなんですか?
死ぬってなんですか?
何で僕こんな遅くまで起きてるんですか?

名前全く出てないけど、主人公は亀井ちゃんですよー。
     nypd(狙いをつけて、指を、パッってやると、どぅーん)
173 名前:NYPD 投稿日:2004/03/18(木) 04:52
流し
174 名前:NYPD 投稿日:2004/03/18(木) 04:52
せんべい
175 名前:NYPD 投稿日:2004/03/18(木) 04:55
☆ノハヽ            ☆ノハヽ
ノノ*^ー^)<モグモグ モグモグ  ノノ∩o∩<ウェー ウェー
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/18(木) 13:17
ずっとシリアスな道重さんな感じを脳内で作ってました。
でも亀井さんと言われればああそうだなぁという感じです。
あと「どぅーん」好きですw
177 名前:1 限りなくヒステリックに近いブルー 投稿日:2004/03/31(水) 21:52


限りなくヒステリックに近いブルー


178 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:52



あの日、わたしは彼女に恋をした。



179 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:53
「うるさいなー、もー終わったの! 
え? 何よ? そういうしつこいところがキライなの!
もう二度と電話してこないで!」  
Pi

「何? 彼氏から?」
「モ、ト、彼氏です。もう他人です」
「ふーん」
矢口さんは疑っているような目つきでわたしを見てくる。
その視線を無視して、ミルクティーに手をつけた。

熱ッ。

「それでさー、松浦は今日何しに来たんだよー」
矢口さんが、髪の毛に指を絡ませながら聞いてきた。
「暇つぶしに来たんですー」
部屋の中をキョロキョロ見回しながらわたしは答えた。
綺麗に片付いた部屋は、小さな彼女の面倒見の良さを表している。

「なんだよそれ、おいらはオモチャかよ」
「似たようなもんですねー」
「おいおい」
180 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:53
机の上の写真が目に入った。
近所のテニススクールで取った写真。
わたしがアイドル顔負けの笑顔で写っている。
矢口さんは普段は良く笑うくせに、写真だと結構クールだ。

「そうだ、矢口さん、昔の写真とか見せてくださいよー」
「昔? 昔っていつだよ?」
「わたしと矢口さんが会う前のやつですよ。ほら、赤ちゃんの頃の写真とか、小学校の卒業アルバムとか」
「えー、嫌だよ。恥かしいじゃんか」
「いいじゃないですか、減るもんじゃなしー」
わたしはぶうたれる。

「わかったよー、ほんとにもー」
矢口さんはぶつぶついいながら、下に降りていった。

数分後、何冊かアルバムを抱え、よたよたと戻ってきた。

「とりあえずてきとーに取ってきた」
ベッドの上にドサッと置く。
「どれが一番古いやつですか?」
「えーっとねぇ、多分青いプーさんのやつかな?」

わたしは青表紙のプーさんのアルバムをめくった。
181 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:54
「うわ〜、カワイイ〜」
そこには今よりも幼くて、少しふっくらした矢口さんがいた。
「なんか恥ずかしいなぁ……」
矢口さんの顔は真っ赤になっている。

「これはいつの頃のですか?」
「え? いつだろ? 小学校の……五、六年? いや、相田先生がいるから六年生だね」
指差した人はおっとりして優しそうな人だった。
「うんうん、この人が天然ボケでねぇ、そういやこの頃からツッコンでたね」
「へぇ〜」

ふ〜るい〜ア〜ルバ〜ム〜め〜く〜り〜♪
涙そうそうを歌いながら、わたし達は矢口さんの軌跡を追っていた。
そこにはわたしの知らない矢口さんがいっぱい。
最初は恥かしがっていた矢口さんは、次第に饒舌になっていった。
182 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:55
「あー、この山は登るのきつかったなぁ。途中で雨降ってきて大変だったなぁ」
「おいら達の作ったラーメンうまかったんだよね〜」
「中学最後のバレーの試合は怪我で出れなくてね、悔しかったぁ」
「キャハハハ、ガン黒コギャル時代じゃーん」

矢口さんは写真を見るたび表情をコロコロと変えていた。
昔の矢口さんと、それを説明する今の矢口さんを見てわたしは楽しんでいた。

ふと、矢口さんがページをめくる手を止めた。
どうしたんだろう?
わたしはページを覗きこんだ。
四枚ほど写真が挟んであったが、そのうちの一枚に目を奪われた。

そこにはコギャルチックなメイクをした矢口さんと、
もう一人、女の人が写っていた。
元気いっぱいの矢口さんに負けない笑顔。
183 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:56
その人をみた時、ぎゅぅぅと心臓をつかまれた様な切ない、
それなのに心と体が火照ってくる。

次第に早くなっていく心臓の鼓動が聞こえた。



わたしは彼女に――そう、同姓であるにもかかわらず―― 一目惚れしたようだった。



184 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:56
わたしは同性愛にはさほど偏見はなかった。
好きなもの同士がくっつくんだから別にいいじゃないかという感じ。
でも、それはあくまで他人の話。
わたしはノーマルで、女の子を愛するはずがない。
そう思ってた。

「この人はね――」
矢口さんが喋りだした。
「藤本っていってね、渋谷でナンパされて困ってるのを、おいらが助けたんだ。
北海道から引っ越してきたばかりでね、誰も知り合いがいないって言ったから、
じゃあおいらが友達になってあげるよって言ってね、それから仲良くなったんだ」

わたしのなかに、こんな自分を否定する自分がいる。
でもそれはほんとにちっぽけなもので、わたしの体は正直だ。
矢口さんの話が耳に入ってきても、それを認識することが出来なかった。
わたしはひたすら彼女を、二次元な彼女を見つめていた。
185 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:57
次のページにも、彼女と矢口さんの仲むつまじい写真があった。
笑っている彼女。
ぷぅとふくれている彼女。
変顔している彼女。
その中に、矢口さんとうれしそうに抱き合っているものがあった。
わたしの中で、ある感情が鎌首をもたげた。
それは俗にいう嫉妬と言うやつで、ワガママなわたしとは切っても切れない感情だ。

矢口さんの男好きは有名だけど、だからといって女の子が好きじゃないとは限らない。
事実、わたしは彼女の写真だけで心を奪われてしまった。

矢口さんと彼女の本当の関係≠ェ知りたい。

わたしは彼女から目を離して、矢口さんに尋ねた。

186 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:58
矢口さんは、空を見つめて――もしかしたらずっと見つめていたのかもしれないけど――、
唇を下でぺろっと舐めてから、静かに話し出した。

「……藤本さんは、おいらのかけがえのない友達、親友だったんだ。
親友≠ネんて言葉を使うのは、ちょっとくすぐったいけれど、本当に本当に大切な親友……」

よく考えれば、たとえ付き合っていたとしても、
「おいらの彼女なんだよね、カワイイだろ! キャハハ」と答えるよりも、
誤魔化す可能性のほうが高い。
わたしでもそうするかもしれない。
でもその時のわたしは、頭が回らなかった。
矢口さんが藤本さんを、親友≠ニいったことでいっぱいだった。

矢口さんの眼は、部屋の白い壁を突き抜けて、どこか遠くを見ている。
きっと、出会ったころなどを思い出しているのだろう。
その考えは、今思えばあながち間違いではなかったのかもしれない。
187 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:58
こうなったら、矢口さんには、わたしと藤本さんの仲人役になってもらおう!
わたしは矢口さんに提案をした。

「矢口さ〜ん、今度、藤本さんと三人で遊びませんか?」

矢口さんの目の色が変わった。
いや、中澤店長のようにカラコンをつけたり取ったりしたわけじゃないけど、
わたしには、灰色に変わったように見えた。

「……それは、無理だと思うよ」
「えーなんでですかー?」
わたしは間髪いれずにツッコンだ。
もしかして、矢口さんはわたしに藤本さんを取られると思っているのかな?
わたしは矢口さんの袖を掴んで、いやいやと左右に振った。

でもいつもと様子が違う。
矢口さんは、なんだか神妙な面持だった。
なんだかすごく場違いな感じがして、わたしは手を離した。
188 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 21:59
「……矢口……さん?」

どれぐらいの時間が流れたんだろう。
一分も経っていないぐらいだったと思うけど、
その間、わたしの体内時計は正常な時を刻まなかった。

ふーっと深いため息をついて、矢口さんは重い口を開いた。
「……彼女はもういないんだ」
「……いないってどういうことですか?」
可笑しなもので、普段ツッコマれているわたしがツッコミ担当になった。
あの時はわたしも必死だったのだ。

「やーぐーちーさーん」

そのせいで、自分の周りのことが目に入らなかった。

「やーぐーちーさーんってばぁ」

ゴメンね矢口さん。わたし、ワガママ過ぎましたね。

「……彼女は……彼女は」
矢口さんの目から、一筋の光がこぼれた。

189 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 22:00





彼女はもう、死んだんだ。





190 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 22:00







191 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 22:01

花を入れ替える。
こまめに訪れに来ている人がいるのか、周りのとは違い、
入れられていた花は少し萎れている程度だった。

線香に火を付けようとして、ライターもマッチも持っていないことに気付いた。
しまった、煙草とか吸っといたら良かったなぁ。
辺りを見まわすと、ラッキーなことに、少し離れた所にマッチが置いてあった。
ドラマの中だけだと思ってたけど、ほんとにあるんだね。

ありがたくお借りして、マッチを擦った。
二本目で灯った火を線香につけ、振る。
線香入れにあった燃えカスを取り除き、新しい煙を置いた。
これで良し。

数珠を取り出そうとして、バケツと柄杓の存在に気が付いた。
…………。
今からでも遅くはないよね。
いや、……うん、遅くないんだ。
自分に言い聞かせ、線香にかからない様に、丁寧に、無くなるまで水をかけた。

正面にしゃがむ。
手を合わせ、目を閉じた。

192 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 22:01

――あのあと、わたしは半狂乱になった。
好きになった相手がもうこの世にはいないと聞いて錯乱したのだ。
矢口さんの肩を揺さ振り、ねえどうしてなんでしんだのそれうそでしょどうしてうそつくの
かくしてないでおしえてなんでおしえてくれないのよと泣き叫んだ。
矢口さんは嗚咽しながらひたすらごめんなさいを繰り返すばかりだった。
二人とも体力の限界に達して、息も絶え絶えになりながらも、彼女の自宅を聞き出した。

彼女は某企業の社宅に住んでいた。
お父さんが東京に転勤になり、彼女も東京の大学に受かったので、
家族みんなで引っ越してきたそうだ。

チャイムを鳴らす。
お母さんらしき人が現れた。
わたしは、北海道で彼女にお世話になってどうのこうのと、口からでまかせを述べた。
前もって考えていたものだったけど、しどろもどろになってしまった。
それでもわたしの熱意が伝わったのか、家にあげてくれた。

彼女の住んでいた家。彼女が生活していた場所。
全てのものに彼女が宿り、その一つ一つがわたしを歓迎してくれているようだった。
193 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 22:02
お母さんは座敷に案内してくれた。
足を踏み入れた瞬間、彼女を強く感じた。
ここでも彼女はとびっきりの笑顔でわたしを迎えてくれた。
わたしの愛は、静かに頬を濡らした。

お仏壇に手を合わせる。
わたし達の愛は止まらずに流れ続けていた。

ぽつりぽつりとお母さんは話し出した。
「……あの子は、優しい子でした」
うん、ほんとに優しかった。

「わたしもお母さんみたいな看護婦さんになりたい、って言っていまして――」
よく言ってたもんね、病気の人を助けてあげたい、元気付けてあげたいって。

「その夢は結局かなわなかったのですが――」
そう、かなわなかったんだよね。

「死ぬ間際に……あの子は……微笑んでいたそうです」
矢口さんをかばって、代わりに車に轢かれたんだよね――

194 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 22:03




あれあれ? もしかして妬いてる?


そりゃ妬くよ! わたしが一番じゃないとイ・ヤ・な・の!
私以外の人には笑顔を見せないで欲しいの!


まったくもう! ワガママなんだから。
こっちはどれだけ待ったと思ってるの。
でもまぁ、これからは二人っきりなんだからいいんでないの?


うん! もう絶対離さないもんね。ずっと一緒だから。
わたしがぜーったい幸せにするからね。




195 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 22:03
わたしは墓石の下から骨壷を引っ張りだした。
同じような物がいくつかあったが、それはまぎれもなく彼女だった。
待っててね。今助けてあげるから。
胸の鼓動が高鳴る。

蓋を開ける。



やっと、会えた。



彼女はやっぱり笑っていた。
今日の勤めを果たし終えようとしている陽の色が、彼女の頬で反射する。

彼女を監獄からわたしのテリトリーへと救い出し、束縛していたものを再び闇の中へと葬った。

彼女に見つめられて、わたしの中がじゅんと濡れた。

さびしいの? うんうん、我慢したもんね。この手、使っていいよ。

そっと彼女の手をとり、下着の中の濡れた奥のほうへと導いた。

彼女の指がゆっくりと吸い込まれていく。

一本、

二本、

三本、

本数が増えるたび、わたしと彼女の結びつきは強固なものとなり、
そのことに快感を覚えた。
196 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 22:04
それは、二十四本目を入れたときだった。

「あの、すみません」

はっとして声のしたほうを振り返る。
声の主は夕陽を背にしていて顔はわからなかった。
右手は柄杓を入れてたバケツを、左手は花を持っていた。

「あ、こんにちは」

ザッザッと一歩づつ近づいてきた。
徐々に顔があらわになる。

わたしは自分の目を疑った。

そこには彼女が立っていたのだ。

「あの、聞こえてますか?」

嘘だ、そんなはずはない。
彼女は今、わたしと繋がっているはずだ。
だったらわたしの前に立っているのは誰?
え? 何? いったいどうなってるの?

目の前の誰か――彼女であるはずがない誰か――が口を開く。
でもわたしには何も聞こえない。
目から水が落ちる。膝が笑う。
彼女は怪訝な顔をしてこちらへやってきた。

いやだ。やめて。こないで。

わたしはたまらず駆け出した。
彼女が何か叫んでいたけど、理解できなかった。



道路へ飛び出した瞬間、車のクラクションが鳴り響いた。
197 名前:     投稿日:2004/03/31(水) 22:05


「美貴は……ってもう名前言っちゃってるけど、藤本美貴って言います。藤本なつみの妹です」





人は皆 目に見えるものだけを
        追い掛けようとする
でもホントに大切なのは
    目に見えない ここ にあるもの。
        だったりスル
見えているのに
        忘れてしまっている人
  もっと真っ直ぐつかまえて
今は今しかないんだから。
  自分は1人しかいないんだから。
  信じて  愛して  正直に * *

『ALBUM 1998-2003』(安倍なつみ著)三十五頁







       了





198 名前:1 限りなくヒステリックに近いブルー 投稿日:2004/03/31(水) 22:05
暴力
199 名前:1 限りなくヒステリックに近いブルー 投稿日:2004/03/31(水) 22:06
ドラッグ
200 名前:1 限りなくヒステリックに近いブルー 投稿日:2004/03/31(水) 22:06
セックス
201 名前:かみんぐあうと 投稿日:2004/03/31(水) 22:07
参考文献
『おいら』(矢口真里著)
安倍なつみ〜憧れの親友〜(百十、百十一頁)

骨まで愛して、みたいな。
むしろ骨を愛して、みたいな。
ヒステリックというよりも狂ってますね。
ブルー?なんですかそれ(コラコラ) 

「笑いのツボが一緒」の記述を入れるかどうか迷いましたが、
入れたらすぐになっちだとバレルと思ったんでやめました。
なんでなっちの名字が藤本やねん!の件はスルーしてくらさい。だめ?

骨壷が簡単に取れたかどうかは疑問です。 
最後らへんは抽象的な記述ばかりですが、テリトリーは鞄とか袋を、指は骨を表したつもり。

ラストですが、その後に轢かれたのか、ミキティに助けられたのか、
そこらへんは想像してみて下さい(逃げ)
僕は、クシャミした拍子に手が触れて鳴っただけで車は遠くを走っていると思っています(ヲイ!)

最後の詩はなんとなく入れてみました。なっちはいいこと詠いますね。

スレ流しは、タイトルの元ネタ作品を構成する三要素です(よね?)

自スレですが、この作品を読んでくださった方は一度は必ず訪れたことがあると思いますので、
それ以後もご贔屓にして下さったら光栄に思います。
最後に、bさんがかけって――ぢゃなくって、
なっちごめんね。
202 名前:あとがき 投稿日:2004/03/31(水) 22:08
もう↑でほとんど書きました。
まぁ、作品を一言であらわすなら、なっちとミキティは似ているってことです。
……それだけか?
萌えを期待した人、スミマセン。僕は萌えを書けません。
えーっと、今後、作風が暗くなる&死人が続出する可能性がありますのでご注意下さい。
     nypd(ノリツッコミで、有名な、ピン芸人に、どぅーん)
203 名前:NYPD 投稿日:2004/03/31(水) 22:08
流し
204 名前:NYPD 投稿日:2004/03/31(水) 22:09
素うどん
205 名前:NYPD 投稿日:2004/03/31(水) 22:09
どっとどっとすらーっしゅ
206 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 20:53


オガワマコト殺人事件


207 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 20:53

はじめに

本作品はフィクションです。
現実の人物、事件、団体とはまったく関係ありません。
警察がトンデモナイモノとして書かれている箇所がありますが、
別世界の物としてお読み下さい。
それと、この作品は三人称で書かれています。
イライラしている方、妊娠中の方、身長が三メートルに満たない方はご注意して下さい。

208 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 20:54

登場人物紹介

紺野あさ美   ……高校二年生
加護亜依    ……同上
辻希美      ……同上

出嶋椎間二餅 ……警視庁捜査一課の警部補
中澤裕子    ……出嶋の部下

○○○○○○ ……容疑者b

オガワマコト     ……被害者

209 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 20:56




女はせっせと机を拭いていた。

机だけではない。椅子やタンス、テレビのリモコンに窓の冊子、ドアのノブなど、
ありとあらゆる所を丹念に、何度も何度もぬぐっていた。
その目は血走っており、何かに取り付かれたかのようであった。

一通り拭き終えたあと、今度は一心不乱に掃除機をかけ始めた。
目に見えないものも全て吸い取るように丁寧に端から端へと移動する。
自らの毛髪が新たに落ちないように、バンダナを巻くほどの徹底振りである。
大きいとはいえない部屋を三往復ほどし、彼女は掃除機をかけるのを終えた。
210 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 20:57
最後に女は部屋をぐるっと見回した。指紋はもちろん、塵もホコリも落ちてはいないだろう。
女は自分の行動に満足し、壁時計に目をやった。

午後二時五十二分。

あの女が――いや、もう女≠ニいうのは無理があるが――やってくる時間まであと八分か。
何とか間に合った。
女は両手を上に突き出し、ぐぐっと背筋を伸ばした。
211 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 20:57

ピンポーンとチャイムが鳴った。
それと同時に壁時計がボーンボーンボーンと鳴る。
あいかわらず時間にピッタリだ。
女はパチッっと頬を叩き、作り物の笑顔を浮かべて玄関のドアを開けた。

「こんにちは。ごきげんよう」
少し低いがはっきりとした声で、貴婦人のような女が喋った。
ピーコも辛口の答えにつまるほど、お洒落に着飾っている。
「お待ちしておりました。どうぞ」
女はその貴婦人を家へと迎え入れた。
212 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 20:58
貴婦人は、まるで品定めをするように玄関をじろじろと見ている。
前に来た時もそうだった。
女は内心で苦々しく思っていたが、そんなことは顔には――もちろん声にも――出さない。
自分が不利になることを、女はよく理解していた。

女はリビングの扉を開く。
貴婦人は入り口で一旦立ち止まり、部屋中に視線を張り巡らす。

「お紅茶、お入れしましょうか?」
「……そうね、頂くわ」

女は台所へと姿を消した。
それと同時に貴婦人は部屋をぐるりと回り、その強烈な視線をありとあらゆる物にむける。
しかし、期待していた物が見つからなかったのか、つまらなそうにソファに腰掛けた。
その様子をこっそり見ていた女は、小さくガッツポーズをした。
213 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 20:59

お義母さんにもう文句は言わせない!
そのために今日は何度も何度も、それこそ死に物狂いで掃除した。
そして今、私をいびることが出来なくて、腹立たしく思っているに違いない。
見てよ、あの滑稽な表情!
私だってやるときはやるのよ。オホホホホ。

女は声を上げて笑ってしまうのを何とか抑えながら、紅茶を入れた。
しかし、女はまだ知らない。
このあと自分が姑に紅茶の入れ方で一時間も説教されることを。




ちょうど同じ頃、撲殺された死体が見つかった。


214 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 20:59



しゃかしゃかしゃかしゃか……。

紺野あさ美【こんのあさみ】が洗面台に立って、もう二十分が経過しようとしている。
髪のセットに時間がかかったわけではない。
彼女の髪は、今も爆発したままである。
ではこの二十分間何をしていたのかというと、なんてことはない。
ずっと歯を磨いていたのだ。
215 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:00
そう、あさ美は歯磨きフェチである。
毎朝三十分は歯を磨いている。
これをしないことには、彼女の一日は始まらない。
そして風呂上りに三十分磨いて、彼女の一日は終わりを告げるのである。

あさ美の持っている愛刀ならぬ愛ブラシにはこだわりがあった。
あさ美の歯ブラシは、今流行の変な形のものではなく、
ましてやジャックやケイトが宣伝しているような電動歯ブラシではない。
(あさ美が言うには、電動などは邪道だそうだ。)
216 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:00
あさ美はホテルに置いてある歯ブラシを使っている。
白くて妙に固いあれだ。
あれでないと、あさ美は本当に磨いた≠ニいう気にならないのだ。
幸いなことにあさ美の父親はホテルマンである。
そのお陰で、毛先がダメになってもすぐに次のブラシを手に入れることが出来る。
あさ美にとって父親はヒーローであった。
同年代の女の子のほとんどが父親を毛嫌いしているなか、このことは異例と言える。
217 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:01
歯磨きフェチのあさ美のこだわりは歯ブラシに限ったものではなかった。
磨き方にもこだわりがある。
最初の二十五分間は、左手を腰に当て、利き手である右手でブラシを扱う。
左下裏、右下裏、右上裏、左上裏、そして最後にいー≠チとして表面を磨く。
磨いている際にほっぺたの揺れ具合で今日の体調をチェックすることも忘れない。
これを何回も何回も時間がくるまで繰り返す。
毎日延べ五十分のこの行為が、今のクラスの腕相撲チャンピオンへ導いたことは言うまでもない。
218 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:01
最後の五分間――あさ美はこれをゴールデンタイムと呼んでいる――は特に至福のときだ。
歯ブラシを右手から左手に持ち替えて歯を磨く。
それだけである。
いたってシンプル、しかしこれが絶大の威力を発揮する。
利き手と違う手で自慰行為をすることに似ているといえばわかりやすいだろう。
ぎこちなさともどかしさが、あさ美の快楽のスイッチを程よく刺激するのだ。
当たり前のことだが、こんこんを性の対象にしてはいけない。
219 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:02
しかし、左手の扱いがうまくなってくることに反比例して、あさ美の満足度は下がってくる。
そこであさ美は次の一手を講じた。
それが後世に語り継がれるであろう、こんこん's れふとはんど ぶらっしんぐ≠ナある。
噛め噛め歯=Aどどん歯=A磨貫口内殺砲=Aナッ歯%凵A
某漫画をモチーフにした数々の磨き技がある。
このお陰で、あさ美は左手だけで五ミリ四方の紙で折り鶴を折れるようになった。
もう一発芸に困ることはない。

あさ美が新技こまったときの占い歯歯≠ノ差し掛かったときのことだった。

220 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:03





――オガワマコト





221 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:03
あさ美の動きが止まる。
あれ? 今確かにオガワマコトって聞こえた気が……。
耳を澄ましてみるが、テレビのニュースの音しか聞こえない。
……気のせいか。
あさ美は薬指の爪にヘアゴムを巻きつける作業を再開した。



――オガワマコト



あさ美は、はっと顔をあげた。
確かに聞こえた。それも今の声はBSフジの『宝島の地図』のおねえさん≠アと、
中野美奈子アナの声だ。
222 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:04
どうしておねえさんがマコトの名前を呼ぶのだろう?
……もしかして、何か事件に巻き込まれたんじゃないだろうか?
こうしちゃいられない!
あさ美は左手をパジャマのズボンの右足の裾から引き抜くことも忘れ、
父(ホテルマン)、母(スーパーのレジ)、妹(幽霊部員)の待つリビングへと器用に駆けて行った。

「どうだ? 最近、なにか、変わった、こととか、ないか?」
父がパンをモグモグと頬張りながら妹に話し掛けるが、妹はずっとケータイをいじっている。
「お父さん、食べながら喋るのはよして下さいよ」
「母さん、喋りながら食べているんだよ」
どっちも同じじゃないかと母は思った。
223 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:04
「もう、食べる時ぐらいは携帯電話は置いておきなさい」
母の言葉に渋々ではあるが従う。
父だけが除け者にされているが毎度のことだ。
そのとき、
「ニュース! ニュース! ニュース!」
今では当たり前になってしまった家族風景を、ぶち壊してあさ美がやって来た。
口から出ている泡はアパガードだ。
可笑しな格好で飛び出してきた姉を見て、妹はその日の日記にこう記した。

『あー、一人暮らししてー』

224 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:05
「何アンタ? NEWSに興味あったの?」
わりと芸能に詳しい母があさ美に尋ねる。
あさ美は無視してテレビに見入った。

画面はどこかの建物を映し出していた。
これってうちの近所じゃない? とあさ美は誰に問い掛けるわけでもなくボソッと呟いた。
ゾクッと寒気があさ美を襲う。
パジャマ一枚だけでは、朝はまだ寒い季節だ。

中野おねえさんの原稿を読む声が流れてくる。
225 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:05

――とのことです。オガワマコトさんは、バールのような物で撲殺されており、
争った痕跡がないことから、警察は顔見知りの犯行ではないかとして捜査を進めている模様です。

映像がインタビューに切り替わる。
モンペ姿が映し出され、小河さんの近所の方≠ニテロップが出る。
画面左上の時刻が七時十四分に変わる。

「あの人はね、ほんとにいい人だったからねぇ、道で会っても挨拶してくれたし、
その人が殺されたんですか? 物騒な世の中ですねぇ」

画面はスタジオに戻る。
「それでは続いてのニュースです。東京都港区で、幼稚園児を乗せたバスガス爆発が――」
女子バレーで泣きじゃくっていた男性アナが次のニュースを読むが、あさ美には届かなかった。
226 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:06

嘘、マコトが撲殺されたなんて、そんなの信じられない――。
あさ美は呆然と立ち尽くした。
いや、立ち尽くすといった表現は間違っているかもしれない。
なにせ、あさ美の左手はいまだにズボンの中なのだから。

家族はみんな下を向いていた。妹などは肩を震わせている。
「あさ美……」
見かねた父が、あさ美にそっと新聞を差し出した。
父の手も震えていた。
母は堪えきれなくなったのか、もうリビングにはいない。
虚ろな目で文字を追っていたあさ美だったが、途中から表情が変わった。

227 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:06



その日の日記に、あさ美はこう記した。

『NEWSさんが好きです。でも、WaTさんのほうがもぉっと好きです』

だってあの二人、すっごく ぁ ゃ ι ぃ んだモン!
紺野あさ美、高校二年生、そういうことが気になるお年頃なのだ。
228 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:07




一人の女の子がてくてくと――いや、のしのしと歩いていた。
歩き方は重そうだが、彼女の心は今日の空のようにじつに晴れやかである。

「よぉ〜し、今日もがんばるぞぉ〜」

自分に気合を入れて、勢いよく教室のドアを開けた。

「おっはよ――!!」
229 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:07
…………。
あれ? おっかしーなー?
いつもならあさ美ちゃんが「オハヨウ」って返してくれるのになー。
遅刻かなぁ? 珍し――。

「あのさ、何回も言うてるけどな、自分クラス間違ってるし」

彼女の思考回路は、お団子頭の女の子の容赦ないツッコミによって遮られた。
「あー、あいぼん、おはよー」
「それさっき聞いた。今週で三回目だよ? クラス間違えるの」
お団子頭の女の子の名前は加護亜依【かごあい】。二人は中学校からの付き合いである。
ちなみに、今日は水曜日である。
230 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:08
「そっか、んじゃまたあとでね」
彼女は踵を返し、隣のクラスへと向かった。
「……あんたのクラス、イッコ上の階やで」
ツッコム気にもならず、亜依は席についた。

すると、
「でぇぇぇい、とうちゃーく!」
と威勢良く女の子が入り口でたむろしていた何人かを吹き飛ばしてやってきた。

「……のの、もうちょっと静かにこれへんか?」
「おお、これはこれはあいぼんさん、おはようさん」
「おはようさん、いや、そやのうてね」
この元気いっぱいで八重歯の女の子は辻希美【つじのぞみ】。
亜依とは小学校からの悪友だ。
231 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:08
「あのさ、英語のノート貸してくんない? なんかさー、まったくわかんなくって」
答えを聞く前に、希美は亜依の鞄をゴソゴソやっている。

「……朝から疲れるわ」
「ん? なんか言った?」
「何でもない」
亜依は決して量が多いとはいえない前髪を気にしながらも、どこか楽しそうだった。
そんな二人を入り口で吹っ飛ばされた数人が恨みがましく見ていた。
232 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:09

一方その頃、極度の方向オンチの彼女がようやく自分のクラスへと辿り着いた。

よーし、こんどこそ、うん。
彼女は本日十一回目のセリフを繰り返した。

「おっはよ――!!」
「あっ!」
「あさ美ちゃーん、おっはよ――!!」
十二回目である。
233 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:09
あさ美は自分の机でなにやら作業をしていた。
しんぶんし?
そんなものをジャバラに折ってどうするんだろうか?
彼女は首を傾げた。

ぱぁっとあさ美が顔を輝かせる。
作業していたものが仕上がったらしい。
いそいそと端を手で持って、彼女の元へと駆けて来た。

そんなにわたしに会いたかったのかなぁ、
でっへっへ、照れるなぁ。
ポリポリと腕を掻きながら、あさ美を待った。
234 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:10
あさ美はそのスピードを維持したまま、振りかぶって、
「マコト死んだんじゃなかったんだねー、オハヨウ!」
と言いながら、ハリセンを彼女に叩き込んだ。


べしこん


小川麻琴【おがわまこと】はその場に崩れ落ちた。
235 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:10

時は少しさかのぼる。
とあるマンションの一室、多くの人が出入りするなか、男が一人ぽつんと玄関口で突っ立っている。
男性の平均よりもやや低め、痩せ型で、グレーのコート、
ぼさぼさの髪の毛には所々白いものが見え隠れしていた。

「……中澤くーん、どう、キレイ?」
中澤と呼ばれた女が顔を出して答える。
「まだキレイなほうやと思いますよ」
「そうか、なら大丈夫かな、でもなぁ……」
男はあまり気が乗り気でない様子でのろのろと室内に入っていった。
236 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:11
パシャパシャと写真を撮っている者や、パタパタと粉を撒き散らしていた者たちが、
その男の出現によって一斉に手を止めた。
その表情が、娘のピアノの発表会を見に来た母親のような顔つきに変わる。
男は気にせずに、足音も立てずに一歩一歩進む。

フローリングの上に白い布がかかってあった。
男はその物体に手を合わせ、呼吸を整えたあと意を決したように勢いよく布を剥ぎ取った。

男はその姿勢のままで固まる。
237 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:12
「……出嶋さん?」
男は何も言わず、すくっと立ち上がった。
女はまたかと顔をしかめながら、あっちですと右手で方向を指し示す。
男はどたどたとトイレに駆け込んだ。



「おぇぇぇぇぇぇぇ!!」



238 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:12
鑑識の一人が女に声をかける。
「毎回毎回、中澤刑事も大変ですね」
「……もう慣れましたわ」

ジャァァァと水を流す音がして、男が出てきた。
いつもに増して青白いその顔は、サスペンスドラマからオファーがきてもおかしくはない。
もちろん死体役だ。
ふらふらの男に向かい、はぁとため息をついて女は言った。

「出嶋さん、いつになったら死体に慣れてくれるんですか?」
239 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:13
男の名前は出嶋椎間二餅【でじましいまにもち】。
警視庁捜査一課の警部補で、現在三十五歳、独身である。
しかし、その童顔ゆえに二十代に見られることもしばしばだ。

女のほうは中澤裕子【なかざわゆうこ】。
わがままで、気が強く、ケチンボで酒乱。
典型的な関西のおばはん刑事だ。といってもまだ三十歳、女盛りである
240 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:14
胃の辺りをさすりながら、出嶋は言った。
「人はみんな苦手な物があるでしょ、僕はそれが死体だっただけ」
「だったら交通課とかに行ったらよろしいじゃないですか」
中澤に言われなくても行けるもんなら行きたい。
しかし行けない理由がある。

簡単なことだ。出嶋は上の人間のお気に入りなのである。
241 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:14
人は見かけによらないという言葉は出嶋にぴったりとあてはまる。
出嶋はぱっと見た感じ、とてもじゃないが刑事、しかも殺人課には見えない。
むしろ、万引きをしてスーパーの奥に連れて行かれるほうが似合っている。

けんかも弱いし足も遅い。実際、警察学校で出嶋に柔道で負けたものは皆無であり、
五十メートルは八秒五である。小学生並だ。

それでも出嶋が挙げたホシの数は、それこそ星の数にのぼる。
上の人間にしてみれば、出嶋の死体嫌いは大した問題ではなかった。
一人でも多くのホシを挙げて、我々はこんなに頑張っているんですよということを
国民に知らせれば叩かれることはない。
無罪か有罪かは裁判所で決めることだ。


出嶋椎間ニ餅、誤認逮捕の多さは他の追随を許さない。

242 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:15
この前など十八件もの誤認逮捕を行って、自己記録を更新したところだ。
それでも首にならないのは、なんだかんだ言って最終的には真犯人を挙げるからである。

しかし、いくら真犯人を挙げると言っても、
現場の人間にとってみると、出嶋の存在は邪魔以外の何者でもない。
出嶋が重要な手掛かりをゲロまみれにしたことも一度や二度ではないのだ。
三度である。
もっとも中澤と組むようになってからは、そういった惨劇は起こっていないのだが。
243 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:15
「えーっと、それでは始めますよ」
「あ゙〜気持ちワル。すみません、水ありますか?」
中澤は無視して喋りだした。いつもの光景だ。

「被害者は小河誠【おがわまこと】さん。五十二歳、UFA銀行の部長です」
「台所はもう使っていいんですか? そうですか、どうも」
「第一発見者は愛人の阿井仁子【あいじんこ】さん、二七歳。UFA銀行の秘書課に勤務しています」

がらがらがらっ ぺっ

244 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:16
「連絡が取れないのを不審に思い、被害者から渡されていた合鍵を使って入ったところ、
被害者が殺されているのを発見し、すぐに通報しました。午後三時十二分です。
死亡推定時刻は午後一時から二時の間と思われます」
「んー、ちょっとすっきりしたかな?」
「後頭部をバールのような物で数回殴られていますので、おそらく撲殺でしょう。
争った痕跡も荒らされた後もないので、顔見知りの犯行ではないでしょうか」
「あーそうだ、君の子供、幼稚園に上がったんだって? おめでとう」
「……出嶋さん、なにか気になることはありますか?」
「そーだねー、煙草吸っていい?」
「……どうぞ」
245 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:16
出嶋は左の胸ポケットからマルボロ赤のソフトを取り出し――もちろん左手で取ったのである
――百円ライターで火を付けて吹かした。
吹かすぐらいなら吸わなければいいのにと中澤は思うが、
それは出嶋の刑事は黙ってマルボロ≠ニいうポリシーに反する。

煙草の灰が落ちそうな頃になって、出嶋はやっと口を開いた。
246 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:17



「バールのような物って何だろうね?」



赤い灯がカーペットを焦がした。
247 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:17




「そんなのわたしに言われても困るんだけどさぁ……」
麻琴は赤くなったおでこをさすりながらあさ美に訴えた。
わたしのほうも同姓同名が殺されて気分悪いっての。
「いーや、マコトのせいだ。お陰で私は家族皆から笑われちゃったんだから」
あさ美はぷうっと膨れる。
やっぱり河豚に似てるなぁと麻琴は思った。
248 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:18
「まあまあ、無事だったんだからいいじゃないの」
「むぅ―――!」
あれあれ、ひょっとして心配してくれたのかな? ウレシイナァ、と
口に出そうとして思いとどまった。
そんなことをしたら火に油を注ぐことになるのは目に見えている。
あぶないあぶない。
249 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:18
「マコト……なんでそんなにニヤニヤしてるの」
表情には出ていたようだ。
「いやいや、そんなんじゃなくってぇ、あのー、そのー……」
しばしの沈黙が流れる。

「……えへへ」
「えへへってなんだよー」
ぱちぱちと麻琴の腕を叩くあさ美。
幸せだなぁ、と麻琴は思った。
250 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:19

きんこんかんこんとチャイムが鳴り、今日の授業が全て終わった。
「あさ美ちゃん、帰ろ」
「うん」

麻琴とあさ美の家は途中まで同じ道を通って帰る。
いつものようにペチャクチャと喋りながら歩いていた。
すると、
「あれ、なんだろ?」
あさ美が何かに気付いたようだった。
「どったの?」
「ほら、何か人だかりが出来てる……」
251 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:20
麻琴はあさ美の指差すほうを見た。
複数の人がワイワイやっているように麻琴には見えた。
「……どうしたのかな?」
「行ってみよ?」

二人はてってと走り寄った。
252 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:20
「ちょっと待てって! なぁ、俺の話も聞けよ、オイってば、なんだよやっぱり無視かよ!
ちくしょう! どうなってんだよ! なんだ? やっぱり前世か? 前世が悪いのかー?」

知らない男がわめき散らしていた。
その男は数人の男に両腕を腕をつかまれ、連れ去られていた。
車に乗り込むと、助手席の男が窓から手を出し、ランプを車の天井に取り付けた。

「すっごい! 逮捕の瞬間とか初めて見ちゃったよ!」
「私も! すっごいね……」
253 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:21
サイレンを鳴らしながら、覆面パトカーは走り去った。
そういえば、と麻琴は思った。
刑事さんたちは何であんなに嫌そうな顔をしていたのだろうか。

やれやれと野次馬達が自分の家へと戻っていく。
「私たちも帰ろっか?」
「そーだね」
254 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:21


取調室に三人の男女がいる。
出嶋と中澤、それと麻琴達の目の前で逮捕された男。
「俺が、何したって、言うんですか、国家ぐるみで、イジメられるほど、悪いこと、してないですよ。
前世も、見てもらったら、なめくじって、言われたんだから――」

先ほどからずっと泣きっぱなしだった。
出嶋はうんうんと頷きながら、しきりに腕時計を気にしている。
「それでだね、そのー、えーっと、……君名前なんだっけ?」
255 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:21
だんっと机を叩き、男が立ち上がる。

「だから、田辺村三郎次【たなべむらさぶろうじ】だってさっきから何回も言ってるじゃないですか!」
「あぁ、そーだったね。それでは改めて、たな……、コホン、キミは火曜日の昼頃何してたの?」
「……うわぁぁぁぁん!!」
とうとう男は机に突っ伏して泣きだしてしまった。

そんな男を見る中澤の目線は、S丸出しだった。

タイミングよくガチャっとドアが開いた。
「ヘイ! 親子丼二人前です」
「あぁ、ご苦労。ここと、そこに置いといてくれ」
256 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:22
出嶋は自分のいる机と中澤のいる机を指した。
トンと丼を置かれた音を聞き、男が顔をあげる。

「モグモグ十二時からモグモグ三時ぐらいのモグモグアリバイをンモグモグ教えてくれないモグモグかな?」
「うわぁぁぁぁん!!」

親子丼に七味をたっぷりかけながら、昨日もこんな光景見たなあと中澤は思った。
昨日は、第一発見者の阿井仁子が泣き叫んでいた。
257 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:24


男を釈放して中澤は言った。
「――結局、何でもなかったですね」
男には完璧なアリバイが在ったのだ。
「そう、だったね、惜しかった、なぁ」
どこが惜しいのだと小一時間問い詰めたいのを我慢しつつ、
爪楊枝でしーはーしーはーしている出嶋に、次はどうするんですかと尋ねた。
「うーん、もう一回付近住民に聞き込みを……っと、電話だ」
ズボンのポケットから携帯電話を取り出した。

「出島ですけど何か問題でも?」
おぎやはぎのような第一声はいい加減やめてほしいと中澤はいつも思う。
258 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:24
「……はい……いやでも僕も追ってる事件があるんで、……何ですか?
はぁ? ええ、そうですけど……、何ですって? ……ほんとですか?
わかりました。すぐに向かいます。」

出嶋はいそいそと携帯をズボンに戻して車のほうへ向かった。
「出嶋さんどうしたんですか? また事件ですか?」
「うん、こんなこと僕の刑事人生で初めてなんだけど、殺しだ」
「? 殺しぐらいならしょっちゅうありますよ?」
「いや、殺されたのがトンデモナイやつなんだ」
「誰ですか? そのトンデモナイ被害者っていうのは?
出嶋に聞きながらも中澤は自分の頭の中で考えてみた。
259 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:25
トンデモナイ被害者というのは誰やろか、政治家? 芸能人? スポーツ選手?
いや、もしかしたら同じ刑事かもしれへんな。他には誰かおるやろか?

しかし出嶋の口から出た言葉は中澤の想像をある意味で越えていた。

「それほんまなんですか?」
「そうらしいね、免許証に書いてあったらしい」

信じられないといった感じで、中澤は今聞いた言葉をそのまま繰り返した。
260 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:26



「そうらしいね、免許証に書いてあったらしい」



「はぁ? どうした中澤?」
「へ? あぁ、いや、なんでもありませんよ」
どうやら混乱しているようだ。アカンアカン、チカンアカン。

とんとんと頭を叩いて先ほど聞いた驚愕の事実を呟く。
261 名前:     投稿日:2004/04/16(金) 21:26




「オガワマコトが殺された?」




262 名前:NYPD 投稿日:2004/04/16(金) 21:27

263 名前:NYPD 投稿日:2004/04/16(金) 21:28
to be continued
264 名前:NYPD 投稿日:2004/04/16(金) 21:29
 
265 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:47




「月っが〜、でったでぇ〜た〜、つっきが〜でた〜、アよいよいっと」
よっぽど良いことがあったのだろうか、その男は千鳥足で河川敷を歩いていた。
と、ふらふら〜と歩いていた男の足が止まる。
川縁になにかを見つけたようだ。
「なんでぇあ、ありゃあ? ヒック」
男はよたよたとそのモノ≠ノ近づく。
お月様が雲の間からひょこっと顔を出した瞬間、男の悲鳴が水面を揺らした。
266 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:48


「……中澤くーん、どうかな?」
出嶋の不安げな問いかけに中澤はキッパリと言い放った。

「やめといたほうが良いですね」
「そうだよね、うん、僕もそう思ってたよ、ハハハハハ」
出嶋達の前にはビニールシートで包まれたモノ=A
それは本当に人だったのかも疑わしいぐらいに膨れ上がっていた。
267 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:49
「それで、このオガワマコト≠ウんはどういった方なのでしょうか?」
中澤は一足早く現場に来ていた刑事に聞いた。

「うむ、ガイシャは尾川眞人【おがわまこと】、六十四歳、あと少しで年金がもらえたのに残念だな。
ゼティマ警備会社に勤務していて、ピッコロタウンに警備部長として派遣されている」

ピッコロタウン――。

「ん? 中澤刑事、どうかしましたか?」
「え? ……あぁ、いや、何でもないです。続けて下さい」
「? そうですか、わかりました。ガイシャは溺死ではなく――」
刑事の言うことをメモにとりながら、中澤は昔を思い出していた。
268 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:49

 ◇ ◇ ◇

『なんで? あんなに好きって言ってたやんか?』
『いや、もう無理だ』
『なんでやのん? 嘘ついてたん?』
『いや、嘘じゃない。今でも好きだ』
『それやったらええやんか。なぁ、頼むって』
『それでも限度があるんだよ。わかってくれ』
『いーや、わからへん。アンタがウンって言ってくれな動かへん』
『勝手にしろ』
そう言って彼は去っていった。わたしはいつまでもジェットコースターの前で待っていた。
『あのー、もう閉園時間なんですけどー』
『じゃかましいわ! だあっとれ!』

 ◇ ◇ ◇

あのピッコロタウンでの出来事以来、中澤はデートしたことがなかった。
269 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:50
「中澤君、なにかわかった? 死因は? それよりも涙ぐんでるけどどうしたの?」
ふと気がつくと刑事はどこかへ行ってしまっていた。
「いえ、なんでもないです。それでは先ほど聞いた話を――」
中澤はメモを取り出した。

「死因はおそらく絞殺ですね。首に縄の跡がありました。
犯人はその後川に捨てたものと思われます。
死亡推定時刻は月曜日の午後七時から十時の間です」
270 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:50
「そうか、小河の前だね。それにもしかしたら同一犯なのかもしれないわけだ」
「同一犯というと、やはり小河殺しと何か関係はあるんでしょうか?」
「それはまだわからないけど、もしそうだったら犯人はよっぽどオガワマコト≠ェキライなんだね」
出嶋はふーっとマルボロを吹かす。煙が青空に消えていった。
「しかし、ある特定の名前のやつが憎いから同じ名前を持つやつも殺す、
みたいな話は聞いたことありませんよ?」
「うーん、殺人犯の考えることはわからないな。大体同一犯かどうかもわからないし――」
271 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:51
出嶋は胸元から携帯灰皿を取り出した。
灰皿の中は吸殻でいっぱいだったが無理矢理押し込んだ。

「むしろ同一犯じゃない可能性のほうが高いだろうからね。
とにかく我々は小河誠殺しのホシを挙げるために近所に聞き込みに行くとしよう」
「わかりました」
二人は車に乗り込み、来た道を引き返していった。
272 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:51


しゃかしゃかしゃかしゃか……。

木曜日の早朝、小川麻琴はごくごく普通に歯を磨いていた。
その時間、わずか三分。あさ美の十分の一である。
歯を磨き終えて、朝飯を食べる前に麻琴は家を出た。
まだ辺りは闇に包まれているなか、ある場所へと向かった。
273 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:52
「おはようございまーす」
「おぉ、おはよう、今日も頼むよ」
「任せてくださいってぇ」

挨拶もそこそこに、麻琴はチラシを朝刊に次々と挟んでいった。
274 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:52
麻琴の家は貧乏だ。
トン吉、チン平、カン太といった三兄弟がいるわけではないのだが、
いろいろとあって麻琴の家は貧乏なのである。
そのため麻琴は朝刊配りのアルバイトをしている。

その日も慣れた手つきでチラシを折り込んでいったのだが、
どうも最近は寒い日が続いたせいか、

「ぶえぇっっっくし」

クシャミをしたときに新聞が――布団ではない――吹っ飛んだ。
275 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:53
「麻琴ちゃん風邪かい? 気ぃつけなよ」
「はひ、すみましぇん」

ずるずると鼻をすすりながらバラバラになった新聞を集めていた麻琴の目に
ある文字が飛び込んできた。


ガンッ!

「イタッ!」
276 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:54
右目をこすりながらその文面を読んでみた。

― ― ― ― ―

荒川に絞殺死体 浮かび上がる

昨日未明荒川下流で尾 ┏━━━━━━━━━━━
川眞人【おがわまこと】さ┃
ん六十四歳の絞殺遺体┃ 便秘にはちゃーみらっく
が発見されました。調べ┃
によりますと、尾川さん ┃( ^▽^)<しないよ
は日曜日の昼頃から行┃ 
方がわからなくなってお┃ の文字が目印です
り、たまたま通りがかっ┃ 

― ― ― ― ―
277 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:54
……またなの?
オガワマコト≠チて殺されるような人ばかりなのかなぁ……。

……わたしは大丈夫だよね?

「麻琴ちゃん、口開いてるよ」
「はっ」
麻琴は気をつけないと口が開いてしまう体質だった。
278 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:55
麻琴は口を閉じつつあることを思いだしていた。

誰かが言ってた。
ニュースっていうのは基本的に不幸なことを取り扱ってて、
でも人がそれを見るのは、他人の不幸を見ることで世の中は物騒だけど
自分は無事だという安心を得るからなんだって。
でもわたしはそのせいで、自分に振りかかるかもしれない恐怖に怯えてるじゃん。

朝からへこみ、麻琴は新聞を配りに行った。
279 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:56

ガラガラガラ
「おはよ――!」
「あんな、何回言うたらええのん? ここあんたのクラスちゃうねん」
「……そっか、じゃーねー」
ガラガラガラ

「なんなんや? 今日のまこっちゃんなんか暗かったな、
いつもと違って挨拶にっ≠ニ!∴鼬ツ足らんかったしなぁ……」
亜依は細かかった。
280 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:56
「おはよ」
「あれ? マコトどうしたの?っ≠ニ――≠ニ!!≠ェ足らないよ?」
あさ美も細かかった。

麻琴はぶはぁと大きなため息をついて、
「あさ美ちゃん知ってるでしょ? 例のアレ」
「うん、またオガワマコト≠ェ殺されてたね……」

ぼはぁと再び大きなため息をついた。
281 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:57
「ため息をついたらその分幸せが逃げるって言うよ?」
「うーん、そーだねぇ」
あさ美は後ろに回りこみ、麻琴の肩からひょこっと顔を出した。
「何? もしかして次はわたしの番かも、とか思ってるの?」
「あー、どーなんだろー」
「マコト、口開いてるよ」
「はぶっ」
麻琴は両手で口を押さえた。
282 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:57
「だいじょーぶだよ。マコトが殺されるわけないじゃん。偶然だよ、ぐ、う、ぜ、ん」
「……そ、そーだよね、わたしが殺されるわけないよね」
わははははと急に笑い出す麻琴。
「うんうん、他のオガワマコト≠ヘどうか知らないけど、わたしは殺されるキャラじゃないもんね」
すぐにいつもの麻琴に戻ったのを見て、
もうちょっとへこんだままでも良かったかなぁとあさ美は思った。
283 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:58




「――そうですか、どうもご協力ありがとうございました」
中澤はぺこりと頭を下げ、マンションの一室を後にした。
あかんなぁ、まったく手掛かりがあらへん。
あ―――と中澤は髪をかきむしった。

それにしても、最近はご近所付き合いっちゅーもんはどうなっとんねん!
それやからウチ等が苦労するんやんか!
あー、腹立つ!

その顔はまるでメデューサか、あるいはメデューサのようであった。
もしくはメデューサのようであった。
284 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:58
中澤がエスカレーターで下降中のとき、携帯のバイブ音が響き渡った。
ごそごそと携帯を取り出す。

Pi
「もしもし?」
『あ、中澤君? バイブって便利よね』
「はぁ?」
『いやいや、こっちの話だよ。で、何かわかった?』
「収穫ゼロですわ。出嶋さんはなにかありましたか?」
『僕? ダメだったよ。とんだ無駄足を踏んだようだ』
「そうですか」
285 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:59
チンッとエレベーターのドアが開き中澤は外に出た。
「……ひとつ聞いていいですか?」
『なんだい?』
中澤は携帯の電源ボタンをピッと押した。

「別に電話した意味なかったんじゃないですかね?」
「いや、なんとなくね」
目の前には携帯片手の出嶋が立っていた。
286 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 14:59
「それにしてもツインタワーのマンションはなんか嫌だな」
「なんでですの?」
「話せば長くなるけど聞きたい?」
「結構です」

出嶋はアイフルのチワワのような目線を投げかけたが、見事に無視された。

「……とにかく一旦戻ろうか」
「そうですね」
287 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:00
それからも出嶋達は調査を続けたが、何も進展しなかった。
容疑者候補すら存在しなかったのだ。
ただ悪戯に時が刻まれていった。

「中澤君、僕思うんだけどね」
出嶋は運転中の中澤に向かって言った。
「やっぱり尾川と関係あるんじゃないかな?」
288 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:00
「でも同一犯説を否定したのは出嶋さんじゃないですか」
「いや、同一犯説のほかにもう一個思い浮かんだんだけどね」
「なんですか?」
信号が赤に変わり、中澤はブレーキを踏む。
横断歩道にいっせいに人が群がり始めた。
その光景を眺めながら、出嶋はゆっくりと口を開いた。
289 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:01
「……交換殺人とか」
「こうかんさつじん?」
「ん? 知らない? 交換殺人って言うのは――」
「意味は知ってます。知ってはいますが……」
「まあ、あくまで一つの可能性だよ。そのほうが推理小説としては面白いしね」
「小説と現実は違いますよ」
290 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:01
信号が青に変わり、中澤はアクセルを踏んだ。
「わかってるよ。現実は小説みたいにはいかない。
だいたい密室殺人なんかするよりも暗闇で後ろから一突きにしたほうが捕まる可能性は低いに――」
「出嶋さん、話がずれてます」
「ん? ああ、ごめんごめん、ついね。でも交換殺人はありえないとも言い切れないよね。
今はネットでちねちね≠ニかすぐにできる時代だし、それに
こんなにやっても手掛かりも容疑者の一人も割り出せないのは異例だ」
291 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:01
あんたが逮捕しまくるから容疑者が減っていくんやろと言いたいのを中澤はぐっと我慢した。
「それでは尾川の事件の担当と話をしてみましょうか?」
「うん、お願いね」
そして出嶋は夢の世界へと旅立った。

「交換殺人、か……」
中澤はハンドルを切った。
292 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:02

中澤は警視庁に戻るなり、すぐに尾川事件を担当している刑事の一人に話をしてみた。

「確かにそのセンはありますね。オガワマコト=\―同じ名前の読みの人間が月曜日と
火曜日に殺されるなんてことは前代未聞ですし、犯行手口が異なることも
交換殺人なら考えられますね。わかりました。調べてみましょう」
「お願いします」

中澤は相手に小河誠に関する資料を渡し、代わりに尾川眞人の資料を受け取った。
293 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:02
そこだけ台風が来たかのような自らのデスクにドンと資料を置き、
中澤は一つ一つ丁寧に見ていった。

尾川眞人の履歴、交友関係、関係者の供述、その他諸々。
しかしこれは徒労に終わった。
まず、尾川に恨みを抱いているような人物が発見されなかった。
尾川の妻は六年前に他界しており、二人の間には子供もいなかった。
そのせいか、職場の後輩達をまるで我が子のように可愛がっていたそうだ。
294 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:03
あーもー、どないしたらええねや!
バンッとデスクを叩いた拍子に雪崩が起きた。

くすくすと笑いが起きる。
「なんやねん!」
笑い声がぴたっと止まる。
屈強な刑事達も中澤の前では蛇に睨まれたかえるだった。
295 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:03
捜査が暗礁に乗り上げたまま、時は過ぎるはずだった。
しかし翌週の月曜の夜、一本の電話によって事件は新たな局面を迎えた。

じりりりりりりん じりりりり――
がちゃっ
「はい。こちらは警視庁ですが」
『……あの……』
「どうかなされましたか?」
296 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:04
『……死んでるんです』
「はっ?」
『いえ、ですから、彼女が、息をしてなくて、心臓も止まってて、
それになんか冷たくて、脈もうってなくて――』
「もしもし? 落ち着いてください。すぐにそちらに伺いますので、
住所を教えてくれませんか?」


「姐さん、事件です」
「何を言ってるんですか?」
297 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:05
「とにかく行くよ」
出嶋はもうすたすたと歩き出している。
「ちょっとちょっと出嶋さん、事件ってどんな――」
「アレ@高ンかもしれない」
「アレ≠チて言われても――」
そう言って中澤は気付いた。
その予想が当たっているかどうか恐る恐る尋ねる。

「もしかして、またオガワマコトが殺されたんですか?」
298 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:05
カンカンと階段を下りながら出嶋は答えた。
「正確には違う。今回殺されたのは佐々木洵【ささきまこと】、無職、二十五歳」
なんだ、と中澤は胸を撫で下ろした。
「それやったらこの前のヤツと関係ないやないですか」

二人は一階に降りた。廊下を歩きながら出嶋が言う。
「通報してきたのは被害者の婚約者だ」
299 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:06
三十路女は婚約≠ニいう言葉に敏感だった。
あー、もうすぐ結婚するはずやったんや、かわいそうになぁ。
それよりウチも早く結婚したいなぁ。

「婚約者の名前は緒川圭助【おがわけいすけ】、製薬会社ハチャマに勤務している」

どっかにええ相手おらへんかな――、ん?
「出嶋さん、今なんて言いました?」
300 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:06
「ん? 今? じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ、かいじゃりすいぎょのすいぎょ――」
「いやそんなん言うてなかったですやんか」

「つまり」
出嶋は人差し指を顔の横に掲げた。特に意味はない。


「被害者はオガワマコト≠ノなる予定だった人だよ」


出嶋達は扼殺死体の発見されたマンションへと向かった。
301 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:07

その次の日、各メディアは一斉にこの奇怪な一連の事件を取り上げた。
警察には全国から問い合わせが殺到した。

「俺の一歳になる息子がオガワマコト≠ネんさー、とても不安なんさー」
「あのぉ、わたし、オガワマコト≠チて言うんでぇごす……ですけど、どうしたらいいんですかね?」
「あたし離婚してオガワマコト≠カゃなくなったんだぎゃー、でも怖いんだぎゃー」
「ワタシノナマエ、おが・わまこと<iンデスケド、ぽりすハモチロンホゴシテクレルヨネ?
ナニ? シテクレナイノ? ソレデモぽりすナノ? コノ××××!!」

等々。
302 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:08




まだ昼の一時だというのにその部屋は夜の一時であるかのように暗かった。
その部屋の主はカーテンを閉めて日光を完全に遮断しており、
テレビとパソコンのモニターだけが、ゴミでいっぱいになった部屋を照らしだしていた。
303 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:08
と、階段を上がってくる音がする。
足音は部屋の前で止まり、食料――お菓子だのジュースだの――を扉の前に置いた。
足音が去ったのを確認し、部屋の主はそっとドアノブを回し、それを中に入れ、食した。
ガツガツと全てを胃袋に納め、部屋の主が満足した頃、ブラウン管からは今話題の
オガワマコト℃E人事件のニュースが流れた。
304 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:09
出演者達がVTRを見てなんやかんやとコメントしているのを聞き、部屋の主は唇の端をつり上げる。
部屋の主は重い腰を上げ、机の引き出しから包丁を取り出した。
その刃には、神妙な面持の司会者が映っている。

切っ先に自分の指をあてがう。
すーっと赤い川が流れ、雫がぽたぽたと落ちた。
305 名前:     投稿日:2004/04/24(土) 15:10

「……みんな……みんな、死ねばいいんだ」
部屋の主はぎゅうときつく包丁を握り締めた。

ソウだ! みンなしネ! イや、こロス! コろシてやル!

部屋の主は涎をたらしながら、クックックック、ケッケッケッケと笑った。
その笑い声は悪魔の笑いのように家中に響き渡った。
306 名前:NYPD 投稿日:2004/04/24(土) 15:10
307 名前:NYPD 投稿日:2004/04/24(土) 15:12
to be continued?
308 名前:NYPD 投稿日:2004/04/24(土) 15:12
309 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:24




水曜日の朝、がらがらと教室のドアが開かれる。
「だからあんたのクラスはちがうっちゅうねん!」
「ほぇ?」
亜依の振り向いた先には希美がぽかんと立っていた。
「あれ? のの?」
「おす」
「おす……うーん、今日もどーしたんだろ?」
「何が?」
「いや、まこっちゃんが二日連続で来てないのよ」
「マコト? マコトならさっき会ったよ?」
「へ? そうなん?」
310 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:24
希美は自分の机に腰を下ろし、その机の隣に荷物を降ろして話し出した。
「なんかねぇ、ものすごくブルーだったよ」
「ブルー? あのまこっちゃんが?」
「うん。かぼちゃプリンが売り切れだった時よりも落ち込んでた」
「マジで?」

あのまこっちゃんが? そんなに落ち込んでるん?
いつもノーテンキでゲヘゲヘ笑ってるまこっちゃんが?
なにかあるたびにボデェタッチ≠オようとしてくるまこっちゃんが?
これはなんかあるな。
311 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:25
「ちょっと様子見に行こか」
「そーだね。なんかマジでおかしかったもん」
あいぼんさんがちょっと人肌脱がなあかんな、と亜依は思った。

その頃麻琴のクラスはというと、
「はぁぁぁぁぁぁ」
「マコト、だいじょぶだって、ね? 冷静に考えてもみなよ、そんなことあるわけないじゃん」
「でもぉ」
先ほどからあさ美が必死に麻琴を勇気付けていた。
312 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:25
「昨日ね、ガッコ休んだじゃん? その時警察に電話したんだけどぉ……」
「そうなの? で、どうだった?」
「警察の人もあんまりわかってないような感じでよくわかんなかった……」
ぐでーと麻琴は机に突っ伏せる。

うーん、どうしたらいいのかなぁ、
あさ美はまるで漫画のようなポーズをとって考えた。
警察もイマイチ当てにならないし、だからと言って漫画や小説みたいに、
一市民である私が犯人を捕まえるなんてこと出来るわけないし。
313 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:26
へこんでいる麻琴、考え中のあさ美、
その後ろから二匹のちっちゃな悪魔がやってきていることなど二人は気付きもしなかった。

「マコト!」「まこっちゃん!」

「うわぁぁ!」「のんちゃんに、あいぼん!」

「いやー、ののからまこっちゃんがなんかブルーだって聞いたから、
このあいぼんさんが元気付けたろかい、って思ってね」
「あー、そーなんだー」
「でさ、マコトは――って、どしたの?」
314 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:27
麻琴の顔は引きつり、変な格好のままで静止している。
額には脂汗がにじみ出ていた。

「マコト?」
あさ美が尋ねる。
麻琴はそーっと右腕を動かし、背中のあたりを指差した。

「……こし……が……」

麻琴は保健室に運ばれた。
315 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:27

麻琴が運ばれたあと、希美と亜依は、あさ美から連続殺人について詳しいこと
――といっても新聞に書かれてあることぐらいだが――を聞いた。

「ふーん……」
「それでまこっちゃん、昨日も今日もウチのクラス来なかったんだ」
「のんちゃんもあいぼんもさ、ニュースとか新聞読もうよ」
「テレビ欄と四コマ漫画しか見ないし」
「のんも」
「…………」
316 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:27
「とにかくさ、マコトはアブナイんだよね?」
「うーん、もしかしたらってこともあるかもしれないし」
「そっか……」
「せやけど……でもなぁ」
三人よれば文殊の知恵と言うが、なにもいい案が浮かんでこなかった。
そもそも警察でもわかっていないことを、このズッコケ三人組がわかるはずもない。
それでも親友の命がかかっているのだ。

「どうすればいいんだろう……」
希美の呟きは誰にも反応されることなく空へと溶け込んでいった。
317 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:28

「どうすればいいんだろう……」
「出嶋さんはその場で待機していて下さい」
「アイアイサー」
月曜の夜、つまり電話を受けてからすぐに、出嶋達は佐々木洵のマンション
――部屋の主が扼殺死体で発見された場所――に来ていた。
中澤は死体に手を合わせ、そっと布を被せた。

「うぇっ、ひっく、どうして、へっくちん、洵が、こんな、ずずっ、ことにっ、ぶびー」
文科系と言うよりも体育会系の男――名を緒川圭助という――が大泣きしていた。
ちなみに最後の音は彼が鼻をかんだ音である。

「さっきからずっとこうなんですか?」
出嶋は鑑識の一人に聞いた。
「そうです、我々がついた時にはもうこんな感じでした」
出嶋はふーんといった感じで第一発見者を見る。
318 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:28

「なんだかヘンな泣きかただね、まあ人それぞれだけども」
「こう言っちゃワルイですが、花粉症みたいですね」
「花粉症……、そういえば今年はそんなに花粉飛んでないのかな? ニュースでも聞かないし」
一人呟きながら、ぶらぶらと中澤の方へ歩いていく。

「あの男のアリバイとかはどうなってるの?」
「緒川圭助ですか? それがずっと泣きっぱなしでまだなにも……」
緒川圭助の周りにはティッシュの箱が二箱、空になっていた。
319 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:29
「なーんかあやしいんだよねぇ」
出嶋は腰をグッグッと左右に振った。乾いた音がパキパキと鳴る。
「あー、毒殺とかなら即行で緒川を逮捕するんだけれどもなぁ」
「無茶言わんといてくださいよ」
中澤は、前屈してそのあと身体を後ろに反らしている出嶋に言った。

「人間もうどんも腰は大事だからね、でもアイツは怪しいぞ」
「何か根拠はあるんですか?」
「警部補のカン」
「あの様子だと今日は事情聴取も出来そうにないですね、帰りますか?」
「そだね」
320 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:29
制限速度ぎりぎりを飛ばす中澤、その横でなにやら考え込んでいる出嶋。
なにかがひっかかる気がする。なにかが――、
と、出嶋が叫んだ。「中澤君、ストップ!」
ききぃぃぃ、と車が停まる。
「中澤君、ハチャマに向かってくれないか?」
「ハチャマと言いますと、緒川の会社のですか?」
「うん、頼む」
「わかりました」

中澤は適当な場所でUターンし、ハチャマへと車を飛ばし――たが、急ブレーキを踏んだ。
「ん? どうしたの?」
「出嶋さん、こんな夜遅くだと誰も居ないんじゃ……」
時刻は火曜日の午前零時十七分を指していた。
「……あと十時間後ぐらいにしようか」
321 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:30

それから十時間と十四分後、
二人はハチャマにつくと、受付嬢に警察手帳を見せ、中を案内してもらった。

「ここが緒川さんの働いている第三開発事業部です」
「どもども」
そこでは六人ほどが、素人の出嶋や中澤には到底理解不能な作業をしていた。
「なんだか工場見学みたいだね」
「そうですね」

「こちらがここの責任者の間野孫太郎【まのまごたろう】です」
受付嬢が連れてきた男、孫太郎は創立者の一人である間野麿麻呂【まのまろまろ】の孫である。
ちなみにこのハチャマは麿麻呂のほかに、羽野裏ヰ亭【はのうらゐてい】、
茶野一茶【ちゃのいっちゃ】によって創設された。
322 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:30
「こんにちは、間野です」
「警視庁捜査一課の出嶋椎間二餅です」
「部下の中澤です」
「こちらにでもお掛けになって下さい」
三人が椅子に座る。
「いきなりですが、この第三開発事業部というのは何を開発されているのでしょうか?」
「おもに薬局に売っているものを取り扱っていますね」
「というと、風邪薬や花粉症の薬なんかもそうなのでしょうか?」
「ええ、緒川君が研究していたのは花粉症についてでしたね」
323 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:31
「そうですか。どうもありがとうございました。中澤君、行くぞ」
「えっ? もう終わりですか? まだ話し始めたばかりなの……に……」
出嶋の姿はすでに小さくなっていた。
「今日はどうもありがとうございました」
中澤も一礼し、出嶋の後を追った。
「…………」
孫太郎は一人取り残された。


「もう犯人は緒川で間違いないね」

324 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:31
車を発進させるなり出嶋はそう断言した。
「ほんまですか?」
「間違いない! って、玉緒だー! 気をつけろー!」
「似てないですって」
「佐々木洵殺しはそうだろう。だけど他のヤツはどうかなぁ?」
「それでは署のほうに戻りますか? おそらく緒川も第一発見者として呼ばれているはずですし……」
「って、玉緒だー!」
「もういいですから」
325 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:33


その後三日かけて、出嶋は緒川圭助を落とすことに成功した。
動機はこうである。
佐々木洵と一旦は婚約したものの、埴輪【はにわ】大学の材全【ざいぜん】教授の娘、菜臣【なおみ】との
縁談が持ちかかった緒川は、逆玉の輿、なおかつ製薬会社内でのポジションを確立するために菜臣を選び、
邪魔になった佐々木洵を殺害しようとした。
幸いにもオガワマコトが連続して殺されるという報道を北海道で聞き(そのころ緒川は北海道に出張に行っていた。
よって小河、尾川殺しの犯人ではなかった)、それに便乗した、というのが真相だった。
こんなことなら杉花粉を鼻に詰めなければと緒川は後に語った。


326 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:33




「でもさ、まだ油断は出来ないんでしょ?」
「うん。最初の二件は同じ人の犯行かもしれないってニュースでも言ってたもんね」
腰に湿布を貼った麻琴とあさ美が窓際でひなたぼっこしながら話していた。
キーンコーンカーンコーンとなるチャイムが昼休みの終わりを告げる。
「次なんだっけ?」
「なんだったかな?」


「――じゃあここの『that』は何を指しているのでしょうか? ハイ、紺野」
「えーっと、えーっと、……ワカリマセン」
あさ美は英語が大の苦手だった。
327 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:34

「ワカラン、誰がオガワーズを殺したんだ?」
「オガワーズってなんですのん?」
「小河と尾川だ」
「わかりますけど……」

そのとき、テレフォンがリンリンリンとなった。
出嶋がガチャッと受話器を取る。
「はい、こちら捜査一課の中澤ですが」
「なんで私の名前言うんですか」
「――はい? それ、ほんまやねんのんか?」
「それ何弁ですか?」
「わかりました。すぐシバキに行きますさかいに待っといてや」
ガチャン。
328 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:34
「またオガワマコトですか?」
「いや違う。半塔豪【はんとうごう】だ」
「それ誰ですか?」
「小河誠殺しの犯人」
「はい?」
「自首してきたんやて、とにかく取調室にでも行こか」
「その似非関西弁やめて下さい」
329 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:35

窓の側には数人の刑事が満員電車のように詰め込まれて立っており、中の様子をうかがっていた。
その中には白髪の男と黒ぶち眼鏡の男、そして幸薄そうな男がいた。
ちなみにあちら側からはこちらの様子は見ることが出来ないようになっている。

「アレが半塔ですか?」
「出嶋か。うむ、そうだ」
刑事の一人が顎で指す。その先には白髪の男が座っていた。

「半塔豪、三十歳、元鍵職人。今は――といってもここ数年の間は泥棒をしていたらしい。
これまでに二十数件の容疑を認めている。で、殺人の方だが、事件の日は侵入した直後に運悪く小河が帰ってきて、
クローゼットに隠れたものの見つかってしまい、とっさに手で持っていた金槌でガツン、これが半塔の供述だ」
330 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:35
「やっぱりバールじゃなかったのか……」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ何も。それでどうして自首してきたんですか?」
「それが、ここ数日の間小河が夢に出てきて仕方がないらしい。尚且つもともと恐がりの性格で、
ワイドショーなどで小河と尾川殺しは同一犯だ、などと取り上げられ、もしも捕まったときに濡れ衣を
着せられるならさっさと自首してしまおうという、ま、我々からすればありがたい被疑者だな」
「そうですか……」
331 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:36

中澤は取り調べ室の隣の小部屋から出てきた出嶋を捕まえ、半塔のことを尋ねた。
「動機はなんだったんですか?」
「うん、なんでも、うっかり≠オていたそうだ」
「はい?」
「国民の義務もうっかり≠フ一言で許してもらえる時代だからな。
『太陽のせい』と答えるよりも無罪になる可能性が格段に高いのは明白だ。自明の理だ」
「何を言ってるんですか?」
「やはり自己責任≠ェ問われるのだろうな……」
「……もういいです」
中澤はむさ苦しい中へと入っていった。
332 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:36

数分後、圧迫死されそうなぐらい窮屈な所から解放され、半ばキレ状態の中澤。
「あー、絶対設計ミスやな。それにしても結局は偶然だったんですね」

それを聞いた出嶋は、煙草の煙で輪っかを作ろうと必死になりながらこう言った。

「すもももももももものうち、偶然も必然のうち、必然も偶然のうち、あいつの物は俺の物、だよ」
「最初と最後は違いますね」

333 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:37
小河誠、佐々木洵の件は思った以上に早く解決したものの、尾川眞人殺人事件の捜査は難航した。
国民の関心――というよりもテレビ局の関心だが――もオガワマコト殺人事件≠ゥら、
鈴木亜美復活?≠フ話題を取り上げるようになっていった。

出嶋と中澤はどうしているかというと、元々彼らが追っていたのは小河誠殺人であり、
また新たなヤマを追っているのだった。
334 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:37
「俺は何もしてないですよ! 何回逮捕すれば気がすむんですか!」
「九十二回」
「うわぁぁぁぁん!!」
「えーっと、とりあえずキミ名前なんだっけ?」
「グスッ、どうせ聞く気ないんでしょ?」
「いや、すごく聞きたい。教えて欲しいなぁ」
「……ほんとですか?」
「ききたい。これほんと。インディアンうそつかない」

あんたインディアンちゃうやんかと中澤は心の中で突っ込んだ。

「……田辺村三ろ――」
「はっくしょい! あー、風邪かな? で、キミがやったんでしょ?」
「うわぁぁぁぁん!!」
335 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:38




「とにかくよかったね。これでもう大丈夫やろうし」
「うん、今夜からはぐっすり寝れそうだよ」
「そんなこと言って、昨日授業中爆睡してたじゃない」
「いやぁ、あれは、ほらぁ、最初の犯人が捕まって気が緩んだというかなんというか――」
「マコト、口開いてるよ」
「んぐ、って喋ってるんだから口開くに決まってるじゃんかー!」
336 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:38
学校からの帰り道、亜依、あさ美、そして希美に玩具にされながらも、麻琴はとても嬉しそうだった。
オガワマコト殺人事件≠ェほぼ解決、しかも犯人は『オガワマコト』の名前に興味があったわけではなかった
ことを知り、またいつもの麻琴――あさ美達曰く、変態オバサン――に戻ったのであった。

「んじゃまた明日ね」
「うん、バイバイ」
「マコト、口開いてる」
「もーいいってばー」
十字路に差し掛かり、亜依と希美は東に、あさ美は西に、そして麻琴は北へと歩いていった。
337 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:39
一人で歩いていると、お腹が減っていることに気がついた。
麻琴は少し遠回りをして商店街のお菓子屋に向かうことにした。
All一割引きの店である。
麻琴はそこでチョコレートとポテトチップス、よっちゃんイカ、
そして迷ったあげくにうまい棒コーンポタージュ味を購入した。

早く帰ってお菓子食べよぉっと。
制鞄とビニール袋を持ち、たんたかたんと店を出た。
338 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:40
あり?
麻琴は店に入る前と、商店街の空気が違う気がした。
なんだろう? あたりを窺うと、少し離れた一角で人々が遠巻きに何かを見ていた。
その目線は誰か――それもあまり歓迎すべきではないような者――に注がれているような視線だった。

誰かいるのかなぁ?
麻琴からはアングルのせいか、見ることが出来なかった。

と、
339 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:40
悲鳴と共にその一角が崩れ、男の人の側で一人の女の人がその場に倒れこんだ。
麻琴にはなにが起きたのか理解できなかった。
その男が一人のおばさんに近づくと、そのおばさんも崩れ落ちた。
男は笑い声とも咆哮とも区別のつかないような声を上げて麻琴のほうへやってくる。

男の白いTシャツの、赤い色が目についた。
日光を反射して煌く刃が身体を貫く。

麻琴は手に持っていたものを落とした。
340 名前:     投稿日:2004/05/01(土) 18:41


――今日午後四時過ギ、朝娘商店街デ男ガないふヲ振リ回ストイウ事件ガ発生シマシタ。
男ハ通報デ駆ケツケタ警官ニヨッテ取リ押サエラレマシタガ、
オガワマコトサンガ死亡、四人ガ重態デ――







     了




341 名前:あとがき 投稿日:2004/05/01(土) 18:42
最後三レスのためだけの膨大なネタ振りでした(ヲイヲイ)
_| ̄|○<まこっちゃんゴメンナサイ。読者さんゴメンナサイ。

祐子、佳織、安部、真理、沙耶香、梨香、亜衣、哀(ン?)、真琴、理沙、等々、
娘。の名前を間違えたことのある人全てに――。

     nypd(波しぶきが、容赦なく、パンツの中へ、どぅーん)
342 名前:NYPD 投稿日:2004/05/01(土) 18:43
流し
343 名前:NYPD 投稿日:2004/05/01(土) 18:43
かぼちゃ
344 名前:NYPD 投稿日:2004/05/01(土) 18:43
マジデ デジマ マジデジマ♪
345 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/03(月) 11:01
どぅーん
346 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/13(木) 20:00
これで終わりデスカ?
347 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:22


SOS(すとろべりーおんざしょーとしょーと)


348 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:23

ショウカンシヨシザワ


二〇××年、私はニューヨークの日本総領事館で、外交官として勤務していた。

ミカがL.A.に行った後、半ばクビのような形でココナッツ娘。を卒業した私は、勉強し直して
某大学に入学した。同じ学部の先輩――年齢的には私の方が上だったけど――の影響もあり、
外交官になろうと思った。国家公務員T種試験を受けて、なんとか合格。
そして私はアメリカにやって来た。

ここでは誰も私が日本のアイドルだったことなど知らない。私と同じように、日本から派遣されて
いる人でさえもだ。それが少し寂しくもあるけど……仕方ないかな?
ニューヨークでの生活はとても忙しく、そして新鮮で、とても充実していた……のだが……。

その日、私はオープンカフェでランチをし職場へ戻った。

“What’s up Mike?”         (やあ、マイク。調子どう?)
“Oh! Ayaka! Who’s he?”   (オー! アヤカ! あそこのかっけー#゙は誰だヨ?)
“He?”                    (かっけー#゙?)

私はマイクの指差す方を見た。
そこにはここ何年も会っていない彼女≠ェ、シャーペンをクルクルと回していた。
彼女は私の存在に気付くと、何年経っても変わらない、その笑顔を浮かべた。
「ハイ、アヤカ! どぅーゆーはぶあしゃーぷぺんそー?」
「よっすぃ!?」
349 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:23
そこにはよっすぃ≠アと、吉澤ひとみがいたのだった。
そのあまりの驚きで、私は、「シャーペンは英語で a mechanical pencil って言うんだよ!」
と突っ込むことも忘れていた。

「こんな所で何してるの?」
一般人の彼女が、そう簡単に日本総領事館の、それも私のデスクに来れるわけがない。特に
最近は、アメリカ国内でのテロが流行っていることもある。先週もマディソンスクエアガーデンで
爆破未遂事件が起きたところだ。

よっすぃは、私の質問に答えることなく、ふところから何やらゴソゴソと書類を取り出した。
「はい、アヤカ。コレ」
「……何コレ?」
それは外務大臣からの帰国命令だった。私は寝耳に水をかけられた気持ちになった。

「そういうことだから、帰ってきてね」
よっすぃはそう言うと、スタスタと出て行こうとした。
「ちょっとよっすぃ!」
私はよっすぃの後姿に、もう一度同じ質問を投げかけた。

「オレ?」
よっすぃは振り返り、そのかっけー笑みを満面に浮かべてこう言った。


「オレは、召還使吉澤だ!」


召還:@めしかえすこと。よびもどすこと。
    A派遣国の命令による外交使節や領事の帰還。 「大使を――する」


翌日私は帰国した。


召還使吉澤     了
350 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:24

脇役による一人称シリーズ


「もういい! なんだよみんなしてさ。そんなに遺産が欲しいのかよ!」
わたしは応接間のドアを、今はもう金の亡者へと変貌してしまった姉妹への当て付けのように、
おもいっきり閉めた。梨華が「真里姉さん……」と、まるでわたしを心配しているかのように
呟くのが聞こえた。

わたしたちの家――通称『蒲公英館』――は、かつて、父と母、そして彩、圭織、わたし、梨華、
亜依の五人姉妹、計七人が住んでいた(普通なら使用人の一人や二人雇っても構わないのだが、
父はそれを嫌った)。
父は貿易会社の社長、母は主婦業の傍ら、フランス語で書かれた小説を翻訳していた。
とても仲のいい、理想的な家庭だった。

最初の不幸はわたしが十四歳の時だった。母が二トントラックに轢かれた。即死だった。相手の
運転手は酒を飲んでいた。もちろん有罪だったが、その刑期はわたし達の希望したものよりも、
はるかに短いものだった。

その後、元々体が弱く、高齢だった父は病気になり、どんどんと衰弱していった。
そしてわたし達の家族はバラバラになった。
彩姉さんが結婚して家を出た。圭織姉さんはヨーロッパへ留学した。父同様、体の弱い梨華は
北海道へ療養に行った。亜依は関西の私立中学へと進学した。
その結果、わたしが父の面倒を見ることになった。
351 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:25
まだ二十にもなっていないのに介護するなんて嫌だなぁ、と思ったこともあった。それでもやっぱり
わたしは父の娘だし、少しでも長生きしていて欲しいから、わたしは誠心誠意、父の世話をした。

快復の兆しを見せ、一時は自分で歩けることも出来るようになったのだが、今年になってから病状が
悪化し、父はあっけなく逝ってしまった。

葬式が終わり、五人がそろったときに、遺産相続の話になった。
父の遺言には、最後まで看病してくれたわたしに三割、まだ成人していない梨華と亜依に一割ずつ、
残った五割は寄付するように、と書き記してあった。
もちろんこれに激怒したのが彩姉さんと圭織姉さんだった。
「ちょっと、これどういうことよ! 私の旦那の収入知ってんの?」
「芸術にはお金がかかるんだよ。絵の具だって、す――っごく高いんだからぁ」
その怒りの矛先は、当然のごとくわたしに向けられた。

「あんたが何か吹き込んだんじゃないの? 『父さんの面倒見てるのはわたしだから、たくさん遺産
やるって遺書に書いてね。上の二人はどうでもいいから』とかなんとかさ!」
「そうよ。アンタ生意気よ」
「ちょ、二人とも何言って――」
「あんた達も何か言ったら? わたし達五人姉妹だから、二割は貰えたのよ?」
彩姉さんの鋭い眼光に、梨華と亜依は「でも……」と言葉を濁した。
それが、わたしが、ブチ切れた理由だった。
352 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:26

まったくもー、彩姉さんや圭織姉さんがそんな人間だったなんて思わなかった! 梨華や亜依も、
言いたいことがあるならはっきり言えよ! あームカツク!

応接間をあとにしたわたしは、ワインセラーから一本赤ワインを取ってきて、それをグラスに注ぎ、
一気に飲み干す。アルコールに強いとは言えないが、こうでもしないとやってられない。
続けて二杯目、三杯目を飲む。

ったくよぉ、大体自分のやりたいことやってきといて、遺産だけ貰おうだなんて、どういう神経してん
だよ! 昼ドラか! それとも『ザ・ジャッジ』か! みのもんたかお前ら!

酒と苛立ちのせいで、わたしは背後の不穏な気配に気づかなかった。
四杯目を飲もうとしていると、後ろでガタンと言う音が鳴った。
わたしは振り向こうとした。が――、

     ガ ツ ン

わたしは後頭部に鈍い痛みを感じ、その場に崩れ落ちた。

――っ、……え? な……に……?

熱い。とても熱い。どくどくと血が流れ落ちる音が聞こえる。視界がぼやけ、地面が回っている。
わたしの意識レベルは急速に低下していった。薄れ行く意識の中、黒い布が目に入った。

あ、の……ス……カー……トは、……た……し……か……、あ――


     ガ ツ ン 


〜被害者Aの場合     了
353 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:27

お気にの服とマシンガン


それは、わたしとコンちゃんが二人で買い物をしている時だった。

「マメさ、『セーラー服と機関銃』って映画観たことある?」
「『セーラー服と機関銃』? 聞いたことあるけど、観たことは……」
「主人公が機関銃撃って、『快感』って言う場面は知ってる?」
「あー、それはテレビかなんかで観たことあるね」
「あれさ、ホントに快感≠ネのかなぁ?」
「え? うーん、どうだろう? わかんないなぁ。それがどうかしたの?」
「なんか気になってね、試してみたくなったんだ」
「へ?」

コンちゃんはどこから取り出してきたのか、マシンガンを手に持った。

「ちょっ、ちょっとコンちゃん。そんなのどこから――」
「マメはちょっと退いといてね。えーっと、どうしようかなっと」
コンちゃんは道行く人に、まるで値踏みでもするかのように視線を投げかけた。そしてサラリーマン
風の人に目をつけると、その人にズカズカと歩み寄り、
「あの、大変申し訳ないんですけども、『野郎ども、やっちまえ!』とか何とか言いながら、私に
襲いかかって来てくれませんか?」
そう言ってタスキを渡す。それには本日の主役≠ニ書かれてあった。

「え? 僕ですか? 参ったなぁ……」
言葉とは裏腹に、嬉しそうな顔でタスキを掛けるサラリーマン風の人。
それを物欲しげそうな顔で見つめる通行人。
それらを怪訝な顔で見つめるわたし。もちろん眉毛は寄っている。

「他の人は『オー!』って言いながら来てください」
周りの人から歓声が上がる。わたしからため息が漏れる。
354 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:27
「準備できましたか?」
「はい、いつでもオッケーですよ」
「それじゃあお願いします」

サラリーマン風の人はおおきく息を吸い、「野郎ども、やっちまえ!」と言いながら、コンちゃんに
突進していった。周りの人も「オー!」と叫びながら、同じく突進。わたしはそれを見てるだけ。

どぱらたたたたたたたたたたたたたた……

コンちゃんはその人達に向かって容赦なく銃弾の雨を降らせた。
銃弾の雨は血の雨に変わり、ぎゃーわーひえーと言う悲鳴の嵐に変わり、最後には脳味噌や
肉片、骨粉や糞尿その他が降ってきた。
わたしは傘を持ってこなかったことを呪った。どうして今日に限って、ヨシズミの予報が当たる
のだろう。

コンちゃんが撃つのを止めた。わたしはコンちゃんに歩み寄る。
「……どうだった?」
「最悪です。お気にの服が脳味噌まみれです」

コンちゃんは頭から湯気を出し、プンスカ怒りながら行ってしまった。薬師丸を訴えてやります、
と言う声が、風に乗って隣町へと流れていった。

わたしはコンちゃんの代わりに皆さんに礼を述べ、札束をばら撒いた。
ヨシズミの予報は最後に外れたのだった。



       了

355 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:27



昔々、今から三百年ほど前の話のことじゃ。
あるところに、たいそう美しいお姫様がおったそうな。
そしてまたあるところに、たいそう可愛らしいお姫様がおったそうな。




「メルヘン担当、村田めぐみです!」

「村上愛【めぐみ】です。【あい】じゃありません」



二人はたいそう幸せに暮らしたそうな。めでたしめでたし。



プリンセスメグメグ     了
356 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:28



第一セットは20−25で敗れてしまいました。次のセットまで取られると日本は後がなくなって
しまいます。
中澤監督は苦渋の選択の末、みちしげをベンチに下げることにしました。守備強化のためです。

みちしげさゆみ。その恵まれた体格を活かした攻撃力は代表選手中トップクラス、特にバックアタ
ックは破壊力抜群なのです。
しかし、唯一みちしげに足らない物がありました。それはレシーブの悪さです。

みちしげのレシーブの悪さを研究していたのか、アメリカは明らかにみちしげを狙っていました。
第一セットでみちしげはバックアタックを七本決め、合計でも十ポイント取りましたが、みちしげの
レシーブミスで取られたポイントが十五もあっては意味がありません。

しぶしぶベンチへ下がるみちしげの代わりに、中澤は孤高のエース、#4藤本みきを選びました。
その起用はあたり、藤本のバックアタックで第二セットは日本が勝ちました。

その後一進一退の攻防が続きました。第三セットは敗れたものの、第四セットは#9高橋のスパイク
が決まり、第4セットを勝ち取った日本。セットカウント2−2で、場内は大盛り上がりです。
そんな中、浮かない顔が一人。第一セット以後ベンチのみちしげです。
357 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:28
あ〜ぁ、せっかく今日も録画してきたのに、カワイイわたしほとんど映ってないじゃないの!

ぷぅと頬を膨らますみちしげ。それでもカメラがこっちを映しているのがわかると途端にスマイルです。
カメラが違う方向を映すと、すぐに沈んでしまいます。

なんでわたしにばっかりボールぶつけてくるんだろう? やっぱりわたしがカワイイからかなぁ?

勝つために敵の穴を攻めるというのは勝負事の常識なのですが、それに気付いていない様子。
と、ロマンティックいらいらモードの彼女のもとに、ロマンティック浮かれモードのみきが歩み寄ります。
実はこの二人、その筋ではデキテイルんじゃないかと評判の二人なんです。会場の視線が二人へ
注がれます。

「さゆぅ、どしたの? 何悩んでるの?」
「カワイイわたしがまったく映らないんです」
「そっちかよ!」
ビシッと突っ込むみきに、ジャニーズ見たさにやって来た観客ももうめろめろです。
「みきから監督に言ったげよっか? さゆが出たくて出たくて溜まりません! って」
「……オネガイシマス」
顔を真っ赤にして答えるみちしげの頭をポンポンと叩き、みきは監督に話をしに行きました。
すぐにみきは戻ってきて、「さゆ、行くよ」と一言。
パァと顔を明るくするみちしげ。その様子がテレビに映りました。果たして何人の視聴者が、その
妄想をかきたてられたことでしょう。
358 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:29
第五セットはアメリカのチェルシーのサーブから始まりました。当然狙いはみちしげです。
しかし力加減を誤ったのか、アウトしてしまいました。みちしげはホッと胸を撫で下ろします。
日本は最後の五輪【みりおん】戦士、キャプテンの飯田がサーブをします。
肩を支点に腕を回すように打つサーブをレファが拾います。
ミカがトスを上げ、センター、ダニエォが強烈なスパイクを決めました。0−1。

その後はシーソーゲーム。みちしげはレシーブをミスらず(というよりもまだレシーブしていません
でした)バックアタックで貢献しています。

13−13となったとき、ついにダニエォのサーブがみちしげの腕を捕らえました。当たり前のように
レシーブできないみちしげに、味方からもため息が漏れます。
その後もみちしげはミスを重ね、15−20となってしまいました。

あ〜ぁ、やっぱりわたしはレシーブできないんだ、みちしげが諦めかけたとき、ダニエォのスパイクが
ブロックを破り、みちしげの元へと飛んできました。ぼーっとしていたみちしげは反応できません。
やばい、顔に当たる! みちしげがそう思ったときでした。
359 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:29


     「吉澤レシーブ!!!」


どーん (ボールが吉澤の腕に当たった音)

ばこーん (ボールが天井に当たった音)

会場の空気が止まります。みんな何が起こったのか理解できていません。みちしげも頭から?マークを
三個ぐらい出しています。そんなみちしげに向かって吉澤は、
「危なかったね、大丈夫かい?」
と、とてもさわやかな笑顔で手を差し伸べます。とりあえずその手を握ってみるみちしげ。ギュ。

ピピピピピと笛を吹きながら審判がやってきます。
「こら! お前は誰なんだ!」
「む? オレか? おれは吉澤ひとみ、ヘルメット吉澤だ――ってちょっと待てよ、おい」
吉澤は両腕をつかまれ、警備員に連れて行かれました。
「自己紹介の途中に攻撃するってどういう事だよコラ、お前らは仮面ライダー一号が変身途中に凍ら
せたゲルショッカーかよ、おい、聞いてンのかよ!!」

小さくなっていく声を聞きながら、みちしげは自分の中になにかアツイモノが込み上げてくるのを感じました。

「アイツなんだったんだろうね――って光ってるし!」

みきがつい突っ込んでしまうぐらい、みちしげの身体は光っていたのでした。
360 名前:     投稿日:2004/05/15(土) 21:30
「と、とにかく試合を続行します」
審判がピッと笛を吹き、試合が再開しました。
直後、ダニエォのスパイクが火を噴きます。燃え盛るボールは一直線にみちしげの元へ。
会場から悲鳴が上がります。それほどにえげつないスパイクだったのです。

誰もがあきらめていました。同じ釜の飯を食ったみきでさえも。しかし、ただ一人、みちしげだけは違いました。
みちしげの脳裏には先ほどの光景が蘇り、その身体の輝きが増しました。

わたしも……あんなレシーブがしたい!


   「みちしげレシーブ!!!」


どーん (ボールがみちしげの腕に当たった音)

ばこーん (ボールが天井に当たった音)

どんがらがっしゃん (天井が崩れ落ちた音)


 ◇ ◇ ◇


「吉澤さーん!」

ヘルメット吉澤が振り返ると、みちしげが走って来るのが見えました。その後ろから、包帯をグル
グル巻きにしたみきが、のろのろとやって来ます。

「やはり、行ってしまわれるんですか?」
「うん。この街にはキミがいる。オレは次の街へ行くよ」
「そんな……、わたしには、まだあなたから学ぶことが沢山――」
吉澤はみちしげが喋るのを防ぐように手を前に突き出し、
「もうキミは立派なヒーロー、メガジェットだ。メガジェットみちしげだよ。それじゃあ」
そう言って吉澤は行ってしまいました。

やっとみちしげに辿り着いたみきは、「……メガジェットって何?」と小さく突っ込みました。
当の本人は、「……メガジェットってカワイクナイ」と不満顔でした。



吉澤レシーブ&メガジェットみちしげ     了


361 名前:あとがき 投稿日:2004/05/15(土) 21:31
『ショウカンシヨシザワ』
某作品の題名のパロ。元作品も元々作品も読んだことないです。

『脇役による一人称シリーズ〜被害者Aの場合』
( ‘д‘) <ゴメンナ〜   ゴメンデスムカ!>(^◇^〜)
普通に主役っぽかったのはご愛敬。

『お気にの服とマシンガン』
ガキさんが(一応)主役であることに意義があります。
関西(だけじゃなくて関東以外の地域全て?)では良純の予報は映りません。残念です。

『プリンセスメグメグ』
とぜんそうは、プリンセスメグを応援します。
村上愛ちゃんは、自分と同じ名字のベテラン芸人を知っているのでしょうか?

『吉澤レシーブ&メガジェットみちしげ』
とぜんそうは、プリンセスメグを応援します。
吉〜は『武士沢レシーブ』第一巻。メガ〜は『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』第六巻。
それと2chのレオメグスレを参考にしました。あくまで娘。ですが。

     nypd(夏草や、弱者【よわもの】どもが、パンの粉、どぅーん)
362 名前:NYPD 投稿日:2004/05/15(土) 21:31
流し
363 名前:NYPD 投稿日:2004/05/15(土) 21:31
ヒメマス
364 名前:NYPD 投稿日:2004/05/15(土) 21:32
从*・ 。.・从<ゆーあーざだんしんぐくいーん やんぐあんどすぃーと おんりーせぶんてぃーん♪
365 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:43


底に小石を投げつけろ!


366 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:44
絵里と一緒に歩いている時だった。
何気なく目に入ったあるものに、わたしの注意は引きつけられた。
「ん? れいなどうしたの?」
突然歩くのを止めたわたしに、絵里は口をアヒルのようににゅっと突き出しながら尋ねた。

「あれ、何と?」
わたしが指差す方を絵里も見た。
「井戸ォ?」
絵里は素っ頓狂な声を上げた。ちょっとオーバーすぎるたい。
「行ってみると?」
「うん」
わたし達はそれに向かって駆け出した。

それは確かに井戸だった。昭和の最後の年そして平成生まれのわたし達にとって見れば、
漫画や時代劇コント――あくまで時代劇コント≠ナ時代劇≠カゃなか。時代劇みたいに
ジジクサイもんは見んとね!――の中でしか見たことのない過去の遺物だ。

中を二人でひょこっと覗き込む。ちょっと絵里、あんたくっ付き過ぎと。キュウクツたい。

「真っ暗で何も見えないね」「そうたい」

オー――イと絵里が叫んだ。オーイオーイとやまびこのように反響した。
おおすごい、とぱちぱち手を叩く。絵里、あんたかなりガキっぽいと。

「どれぐらい深いのかなぁ?」
「さあ? わからんと」
「石落として見よっか?」
「そうとね」
絵里はそこら辺に落ちてある小石を拾って、ひょいっと落とした。
小石は井戸の中を落下している。
ひゅ――――――――――――――――――――。

「……かなり深いと」
「……かなり深いね」
小石はまだまだ落下中。

その音がだいぶ小さくなった時に、ようやく底に辿り着いたみたいだった。

ひゅ――――――――――――――――――――、


































                                              ドゥーン。




                了

367 名前:あとがき 投稿日:2004/05/28(金) 22:45
最後の一行が書きたかったから別に良いけど、博多弁って難しい从 ´ ヮ`)<にゃ〜。

というわけで、ここに聖誕祭(プチ)の開会を宣言しますッ!

(●´ ー`)`.∀´) ⌒ー⌒)从#~∀~从从‘ 。‘从(o゚v゚o)川=‘ゝ‘=||<でっかいどぅ
368 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:45


星が欲しかったの


369 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:46
「うわっ、飯田さん……なんですかこの部屋」
「なんですかって何よ、りっぱな部屋じゃんかー」
「……ゴミだらけなんですけど」
「ゴミって失礼な。必要な物もいっぱいあるんだよ?」
「これなんですか?」
「干しシイタケかな?」
「……虫わいてますよね?」
「…………」
「…………」
「さーってと、荷造り荷造り〜♪」
「ちょっと飯田さーん」
「ハイ石川、口じゃなくて手を動かす、手を」
「……わかりましたぁ」



「飯田さーん、この布どうしましょう?」
「えーっと……、そんなのあったかなぁ? まあいいや、捨てといて」
「はーい」

「……飯田さーん……この草捨ててもいいですか?」
「ダメだよ! それヘッピリコツバンソウじゃんか。大事な物なんだからー」
「……はぁ(そんな大事な物だったらちゃんと管理してて欲しいんだけどなぁ)」
「なんか言った?」
「イエ、何も」

「飯田さーん、この石なんですか?」
「ん、石? ドレ?」
「コレですけど」
370 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:46
「あー、懐かしー、コレ探してたんだよー」
「これも大事な物なんですか?」
「うん。コレはね、星≠ネのよ」
「干し?」
「星! お星様」
「お星様って、夜空に浮かんでるアレですか?」
「うん、そうだね」
「えー、うっそだー。どこにでもあるような石じゃないですかー」
「ホントだって。あのね、カオが二十ぐらいのときだったかなぁ、カオの目の前に、天使が現れたの」
「てんしぃ?」
「確かね、エリザベス亀井【きゃめい】って言ってた」
「えりざべすかめい?」
「キャ、メ、イ! そこ間違われるのは嫌なんだって」
「(そんなのどうでもいいけどなぁ)」
「何か言った?」
「いえいえ、どうぞ」
371 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:47
「あれはね、東京にしては珍しく綺麗な夜だったの。
星とか、何百個も輝いてて、あーきれいだなー、って思って見てたのね。
そしたらね、いきなりエリザベスが現れたの。
『あなたはとても心の綺麗な人です。それに見た目も美しい』なんて言うもんだから、
『はあ、それはどうも……』って言ったの。そしたら急に、
『なにか願い事はありませんか?』って言われて、普段だったらどうしよーかなーとか迷うじゃん?
でもカオは直ぐに『お星様が欲しい』って言ったのよ」

「(その天使って意味不明……)そ、そしたらその石くれたんですか?」
「いや違うの。なんか丸い物が段々夜空を埋め尽くしていくのね。
で、気付いたら地球にどぅーんってぶつかって、地球もその丸い物も爆発しちゃった――」
「……はい?」
「――っていう夢を見てぇ」
「夢オチかよ!」
「でもね、朝起きた時に枕元にこの石があるのに気付いたの。
あーエリザベスがくれたんだーって思ったの」
「……夢が現実になったんですか?」
「多分そうなんだろーね、カオ難しいことわかんないけど」
372 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:47
「……飯田さん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「うんいいよ」
「朝起きた時どんな感じだったんですか? 例えば頭痛かったとか……」
「あ、そうだ。何か頭痛いなぁって思った。お酒も飲んでなかったのにへんだなーって。
でもそれは多分エリザベスに会ったからなんじゃないかな」

「……もう一ついいですか? なんであそこの窓――」
「ああ、あれ。二年ぐらい前かなー、気付いたら割れてたんだよね。
でもそのころすんごく貧乏で、ガラス換えるお金なかったんだー。
それでこっち側と外側からガムテープ貼ったんだけど……、そういえばずっとそのままだったなー。
でも、それがどうかしたの?」
「(言えない! そんな残酷なこと言えるわけが無い!)……引っ越しの準備再開しましょうか?」
「そうだね」






     了

373 名前:あとがき 投稿日:2004/05/28(金) 22:48
ハロモニコントの片付けられない女役の飯田さんってなんかカワイイ。
でもほんとの飯田さんは掃除機かけまくりだそうです。
ALLセリフって難しいですね。最初は飯田さんとミキティの予定でしたが、急遽変更しました。

ん? 誰の聖誕祭かわかりませんか? まぁ次の作品読んで下さったらわかりますよ、きっと。

( ´ Д `) ^▽^)‘д‘)`w´)川σ_σ)VvV)<マドモアゼール かきまじぇーる
374 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:48


                    碧い舞台


375 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:49
  一人の少女――名を高橋愛という――がその大きな目を薄く見開いた。真っ暗で、何も
見えない。彼女は腹筋と腕の力を使って布団を跳ね除け、むくりと起きだす。
  頭をガシガシと掻き、うーっと顔をしかめたまま、しばらくの間は上半身を起こした姿勢の
ままで、ボーっとしていた。手の平で、顔を無造作にごしごしとこする。その後、中指と薬指で
両の目頭と目尻についた目糞を掻き出した。その少し粘っこいものを指から取ろうと、彼女
は指パッチンをするように親指と中指、薬指を擦らせる。

  へっくちんとくしゃみが出た。ズズッと鼻をすすった後、布団に入りっぱなしだった両足を
抜き、いそいそと洋服ダンスに駆け寄って、ハンガーから白いパーカーを取り出す。胸元に、
NEW YORK≠ニ鮮やかな赤いロゴの入った、彼女の身長にしては大きいXLサイズの
それを、頭からがぼんと被った。
  彼女は机の上に置いてある携帯電話を開いた。彼女の少し猿顔で、まだ眠そうな顔が、
ディスプレイの光に照らしだされる。眩しそうに目を細めた。現在の時刻――午前二時五十
八分だった――を確認し、彼女は部屋の扉を静かに開いた。

  壁に手をつきながら、ミシミシとなる廊下を音を立てないように爪先立ちでちょこちょこと
歩く。彼女は洗面所に立ち寄って髪の毛をポニーテールにし、顔を静かに洗った。
376 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:49
  玄関に辿り着いたところで、靴下を履くのを忘れたことに気付き、自室へ戻る。その時、
ドアを開けた音が、きぃーと家中に響き渡った。彼女の動作が止まる。

  何も変化はなかった。どうやら母親はぐっすりと眠っているようだ。遠くからぐうぐうと寝息
が聞こえる。彼女はほっと胸を撫で下ろし、靴下をもぞもぞと履いた。

  玄関へと引き返し、靴を履く。と、家を出る頃になって今度は鍵を持っていないことに気が
ついた。あーもー、と自分自身に苛立つ。
  どうしようかと彼女は考える。靴を脱ぐのは面倒だ、ハイハイして戻ろうか、いや、それだと
音がするかもしれない。いっそのこと鍵を閉めないで行こうか、いや、いくら短い間とはいえ、
それも不安だ。……しょうがない。

  彼女は靴を脱いで取りに戻るという結論に達した。抜き足差し足忍び足で廊下を横断し、
今度は音が出ないように注意しながら扉を開け、鍵を鞄から取り出し、来た道を戻った。

  玄関にしゃがみこむ。右足の爪先を靴に入れ、踵の部分を人差し指で押さえながらぐっと
足を押し込む。左足も同様。最後に立ち上がって、とんとんと調節する。
  コレで大丈夫、もう忘れ物はないしね。

  彼女はロックを外し、ゆっくりとドアノブを回した。
377 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:50
  扉を閉める。鍵はパジャマ代わりに履いているジャージのポケットの中へと滑り込ませる。
彼女はてってと小走りでマンションの廊下を渡り、非常階段へと向かった。
  ここまで来れば誰にも見つからないということを、彼女はその経験から理解していた。
彼女はカン、カン、カン、カンと一段飛ばしの小気味良いリズムを刻みながら、非常階段を
駆け上がる。しかし、最初は順調だったペースが次第に落ちていき、徐々に息も乱れていく。
  彼女が目的地である屋上の扉を開けるときにはもうバテバテになっていたが、彼女の体
はほどよく熱を帯びていた。

  ふうふうと息を整え、がばっとドアを開ける。途端、彼女の体を冷たい風がびゅーと襲った。
思わず体が縮こまったものの、彼女はナンノコレシキ、と背筋をピンと伸ばす。

  彼女は耳を澄ます。車が一台走っている音が耳に届いた。
  彼女は周りを見渡す。まだ真っ暗で、ところどころ街灯の明かりが目に入る。
  彼女は空を見上げる。星がちらちらと瞬き、月がぼぉっと朧げな光を醸し出していた。

  ……いつもよりもすこし早く来てしまったようだ。

  彼女は扉に背を着けて体育座りをし、右頬を膝につけた。

  ――わたしの出番まで、まだ時間がかかる。
378 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:50

                    ◇ ◇ ◇

  彼女が初めてその光に魅せられたのは、モーニング娘。として上京してきて少し経った頃
だった。
  ダンスレッスンやボイストレーニング、そして芸能界の常識を学び、慣れない取材や写真
撮影に加え、福井と東京の違い――その人込みの多さや入り組んだ交通網――など、田舎
で生まれ育った彼女は当初、その急激な環境の変化に戸惑うばかりだった。福井では感じた
ことのない不安や、ストレス、疲労で夜も眠れない日が続く。
  彼女はそのあまりの辛さに、モーニング娘。に入ったことを後悔し始めていた。どうして
わたしはオーディションに応募したんだろう、どうしてわたしは合格したんだろう、どうして――。

  そんなある夜のこと、うつらうつらと浅い眠りについていた彼女は、前髪がこしょこしょと顔
を撫でていることに気付き、目を覚ました。目を凝らしてみると、カーテンがふわふわと揺れ
ている。窓を閉め忘れたのだろうかと思った彼女は、よろよろと立ち上がって窓の方へと近
づいた。
  彼女はふと、カーテンの裾から伸びた淡い光の影に気付いた。風が吹くたびに、伸びたり
縮んだりするその光は、寝惚け眼の彼女の興味を惹くのに十分だった。
  カーテンに手を伸ばし、薄く開く。外の光が彼女に差し込んだ。彼女は目を見張った。

  碧かった。
  碧い、淡い世界が彼女の目の前にあった。

  彼女はカーテンを全開にし、窓を開けた。彼女の部屋が碧く彩られた。カーテンが風で
なびいている。

  彼女は夜が明けるまで、碧い世界を見つめていた。

                    ◇ ◇ ◇

379 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:51
  彼女の体がびくんと波打ち、ハッと顔を上げた。涎が垂れる。顔を剥ぐ様に口元を拭いな
がら、彼女は急いで目を凝らした。周りの状況を確認すると、ほっとため息をついた。
  アブナイアブナイ、このまま寝入ってしまう所だった。でも、その間に準備は整ったみたい。
  彼女は全身の筋肉と関節を伸張させた。先ほどまで無理な体勢でうたた寝していたせい
か、体がパキパキと乾いた音を立てる。

  そして彼女は碧い舞台へと飛び出した。

                    ◇ ◇ ◇

  碧い光を夜な夜な見ているうちに、彼女自身にも説明のつかないある衝動が芽生えた。
そしてある日、彼女はその衝動を実行に移した。屋上へ上がってみて、彼女は自分の予想が
当たっていたことに安堵した。いや、むしろ予想以上のその光景に彼女は文字通り狂喜乱舞
したのだった。
  彼女は屋上の中心部でぺこりとお辞儀をし、くるくるとバレエを踊りだした。バレエと言って
も見る人が見ればバレエとはいえないような滅茶苦茶な代物だったが、踊ることが楽しくて仕
方が無い、そう彼女は訴えかけているようだった。幼い頃にバレエを習っていた時も、そして
娘。加入当初もあれほど踊ることが嫌いだったのにも関わらず。

  ――踊っている時は全てを忘れられる。つらいことも、嫌なことも全て。
380 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:52
  愛ちゃんの踊りってカッコイイよねとメンバーから言われだしたのはそれからしばらくして
からだった。もっとも彼女は気付いてなかったが、碧い舞台で、形はおかしくても全てを出しき
ってひたすら踊っていたことで、指先などに針金が入ったかのごとく、要所要所でピッと決まる
踊りが身についていたのだった。

  次々とメンバーが入れ替わるモーニング娘。の中で、気付けば彼女はその真ん中にいた。
コンサートやテレビの歌収録の際、数々のライトやサイリウム、仲間の歌声、ファンの声援、
それらに包まれて彼女は歌い、踊っていた。
  しかし何かが足らないと彼女は感じていた。いや、あまりにも満ちすぎていて、自分の力量
を越えているのかもしれない。そんな日の夜は決まって彼女は碧い舞台に立った。どんなに
疲れていても、彼女はコンクリートの冷たい床の上で踊り続けた。

  音楽もない、観客もいない、あるのは夜空の碧さだけ、それでも彼女には十分だった。

                    ◇ ◇ ◇

  東の空が赤みを帯びてくると、彼女の舞台は幕を閉じる。誰にでもなくぺこりとお辞儀をし、
軽く整理体操をした後、彼女は塀によじ登った。真冬などは幕が閉まるとすぐに部屋に帰る
ようにしているのだが、この季節は早い時間に日が昇る。どうせならと思い立ち、特等席で
太陽が昇るのを見ることを日課にしていたのだった。

  塀の上をとてとてとおぼつかない足取りで歩く。と、一陣の風が吹き、彼女は足を滑らせた。
  落下音の後、太陽が頭を覗かせた。今日も憂鬱な一日が始まる。









                通常版  了


381 名前:     投稿日:2004/05/28(金) 22:53



  ててててて、あ゙ーケツうったー。アザんなっとったらどないしよぉ……。とにかく塀にのぼろ。

  よいちょ。

  今度は落ちんように金網持っとかな。でもコレもったら手ェ汚れるしのぉ……ってうわぁ!



  あー、なんかクロイのんついたー。もぉーサイアク。なんで今日こんな風つよいんやろか?
もー、ブツブツ……。

  あ、おてんとさまが顔だした。あの雲ジャマやなぁ。どっかイケ、シッシ。

  あ、そや。この前イロイロ言われたからちょっと練習しとこ。まだ早いからダイジョウブやろ。
えっとぉ……手をこう鼻の前に……って汚れとったんや。トニカク手を……ん?

  クンクン、クンクン。

  あ゙ーなんかテツくさいぃ。もぉええよ。こうひきつけて……おもいっきり、









  「どぅ――――――――――――――――――ん!!!」





   誕生日すぺしゃるえでぃしょん  了



ガラガラガラッ
          「うっせーぞ!」
                    「スンマセン」
382 名前:あとがき 投稿日:2004/05/28(金) 22:54
通常版
なんとなく最初に一マス開けてみましたが、いかがでしょうか?(只今レイアウトに迷走中)
『魔方陣グルグル』の二巻の巻末になんとなーく似てます。あれはエエ話ですね。

誕生日すぺしゃるえでぃしょん
「どぅーん」は伸ばさず、爆発させるように、「ドゥン!」と発音しましょう。
つまり、この愛ちゃんは間違っとります。声かわいいけど。

以上をもちまして、村上ショージ聖誕祭(プチ)もとい、どぅーん祭りを閉会させていただきます。
村上ショージさん誕生日おめでとうございます。

     nypd(何を言う 早見優、止めて 右手 左手、パ行は……えーっと……、どぅーん)
383 名前:NYPD 投稿日:2004/05/28(金) 22:54
流し
384 名前:NYPD 投稿日:2004/05/28(金) 22:54
しらたき
385 名前:NYPD 投稿日:2004/05/28(金) 22:55
川*’ー’)<ヤッマッデッラノ♪ ドゥーン! ドゥーン! ドゥーン!
386 名前:N 募集中。。。 投稿日:2004/06/07(月) 23:53
そろそろこのスレも折り返し地点に到達します。
村上ショージさんも四十八歳だったのが、いつのまにか四十九歳になられました。
そこで、少しばかり形式を変えようと思います。

・名前欄変更。NYPD=ィN 募集中。。。=@    =ィ =@あとがき=ィ後書
・メール欄は返レス(レスつかないけど)のみ使用。
・nypdはどぅーん祭りで区切りがついたので終了。
・流しは色々。
・更新は各月に最低一回を目標。

とぜんそうのコンセプト>>1は変わっていませんのでよろしくです。

                                          かっことじとじ♪
387 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:53


SOS2(しょーもないおはなしのしょーとしょーと2)


388 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:54

オンナノワライ


「だぁあぁあぁ」
ごとうさんなに笑っとるんですかと高橋が言った。
「いしししし」
そういうたかはしも笑ってるじゃないと後藤が言った。

だってぇ笑うしかないじゃないですかぁと高橋は言った。
そうだよだからわたしは笑ってるんだと後藤は言った。
なるほどさすがごとうさんですねぇだから笑っとるんですねと高橋が言った。
そうだよそれであんたも笑ってるんでしょと後藤が言った。

すると「きゃはははは」と笑いながら矢口がやってきた。
おうおめえら笑ってるかおいらはもちろん笑ってるぞと矢口が言った。
なんだやっぱりやぐっちゃんも笑ってたんだと後藤が言った。
みんなけっきょく笑ってますねと高橋が言った。

「だぁあぁあぁ」「いしししし」「きゃはははは」「だぁあぁあぁ」「いしししし」「きゃはははは」

と、三人の目の前の瓦礫の山がパラパラと崩れた。
中からう、う、と苦しそうな呻き声が聞こえる。
しかし三人は気が付かない。

「だぁあぁあぁ」「いしししし」「きゃはははは」「だぁあぁあぁ」「いしししし」「きゃはははは」

次第に呻き声は小さくなっていった。
そして声の主は力尽きたのか、何も聞こえなくなった。瓦礫の山が崩れ落ちた。

「だぁあぁあぁ」「いしししし」「きゃはははは」「だぁあぁあぁ」「いしししし」「きゃはははは」

三人は銀色のぴかぴかのお揃いの服を着て笑っていた。
金属の乗り物の残骸のようなものの前で笑っていた。
今が西暦五千二百八年だと知って笑っていた。
地面が灰まみれだったので笑っていた。


三人しか笑える人間は居なかった。

もう笑うしかなかった。



Woman's laughter   了

389 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:54

             五分前


レコーディングまでまだ時間があったので、コロ助のマネをしながら屋上に行くことにした。
「はじめてーのーチュー キミとチュー♪」
うん、喉の調子もバッチリ。この分だといいパート貰えそうだ。

扉を開くと、目の前にいしかわさんがいた。

すっぽんぽんで寝っ転がっていた。

「何してるんですか?!」
「ん? 亀井?」
いしかわさんはむくりと起き上がると「わたしはね、体焼いてるの」と言った。
ほらっとクルクル回りだす。わたしには何も変わったようには見えなかった。
元々黒いから気付かないだけなのかもしれないけれど。
それにしてもなんで屋上なんかで体焼いてるんだろう。
お金がっぽり稼いでるんだからそういうトコいけばいいのに。
それと、下着ぐらい着て下さい。

「あ、今何時かわかる?」
いしかわさんのペースにまんまと乗せられてるなあと思いながらも、
「ちょっと待って下さい」とわたしはポケットの中から携帯を取り出す。
「一時四十五分です」
もちろん午後の一時四十五分。午前二時前に体焼いてる人なんか見たことない。

「そっか、じゃああと五分ぐらいだね」
いしかわさんはまた寝っ転がった。コンクリートの上に直に背を付けている。熱くないのかなぁ?
一時五十分に何があるかわかんないけど、暇だったから待ってみることにした。
わたしはてくてくと影のあるところに行った。お肌は大切だ。
390 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:55
一時五十分になった。するといしかわさんはすくっと立ち上がり、
「チャ―ミーのチャ≠ヘジェットコォスタァのチャ―――!」と叫び、
おもむろにぺりぺりと皮を剥がしていった。

なーんだ、それかとわたしは思った。
それならそうと早く言ってくれたら絵里も手伝ってあげられたのかも知れないのに。
こう見えて、絵里って日焼けとかの皮めくるの得意なんですよ。しゅーってキレイに取れちゃう。
この前もれいなの手伝ってあげたんだから。もちろんお昼おごってもらったけど。

さすがにいしかわさんは慣れたもので、あっという間にカラダを脱ぎ捨てた。
ピンクの迷彩のジャージ(あれ欲しいなぁ、いつかくれないかなぁ)を着ながら、
いしかわさんは「亀井もやる?」と聞いた。
「いえ、わたしはまだ大丈夫です」

実を言うと、わたしはまだしたことがなかった。
怖いとかそういうんじゃなくて、その必要がなかったからだ。
れいなはもう四、五回やってるらしい。流石だなと思う反面、かわいそうにも思った。
もちろんこれはわたしの考え。
れいなからすれば、わたしのほうがかわいそうに思えるのかもしれない。
きっと血液型が関係しているのだろう。れいなはO型で、わたしはAB型だ。
あれ? そういえば加護さんもAB型だったよね?
…………。
きっとわたしはトクベツなんだ。うんうん。けっしてヘンじゃないぞ。

「それじゃわたし戻るね。
こんなー身体 脱ぎー捨ててー あたーしがー新しくなーる♪」
そう歌いながらいしかわさんは消えていった。


やっぱり、卒業が相当堪えてるんだろうな。



               了
391 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:55

              鍵穴


おかしい。何故だろう。
わたしは自分の部屋の前で鍵を持ち、阿呆みたいに立ちすくんでいた。
そこにはいつも在る筈のものが欠如していた。

……鍵穴は?

わたしはドアノブの表面――そこにあったはずの¥齒鰍ノ触れてみた。滑らかだった。
ガリガリと擦ってみても何も変わらない。おかしい、実に不可思議だ。
表札を確認した。1206 藤本≠ニ書かれてある。
わたしの名前は藤本美貴だ。確認するまでもない。
表札の板にわたしの顔が反射した。いつものように目が離れていた。
魚っぽいなあ。んあんあ。

ドアノブを回そうとした。びくともしなかった。たとえ鍵をかけていても多少は回る筈なのに。
まるでドアノブがドアから生えている様だ。
突然、ドアノブが膨張する気がしたので手を離した。もちろん膨張しなかった。
ドアノブとはそういうものだ。

隣の部屋も鍵穴はないのだろうか――。
わたしは隣の部屋のドアの前に立った。鍵穴はなかった。その隣も、その隣もなかった。
もしかして鍵穴なんて物は最初から存在しなかったのかもしれない。懐疑心がわたしの中を駆け巡る。
それではこの右手に持った鍵は何の鍵なんだろう。
視線を落とす。鍵だと思っていた物は、男根の形をしたゴム製品になっていた。
握ると先から白濁色の液がどくどくと出てきた。
とりあえず戻ろうと思い、わたしは振り返った。
392 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:55
ひたすら黒いドアが左右に並んでいた。無造作に置かれているオブジェの様に見えた。
八十年前に訪れたMOMAを思い出した。その時は全くわからなかった。モダンアートはわたしの専門外だ。
一つめのドアを通り過ぎる。二つめ、三つめ、四つめ、五つめ……。
行けども行けどもわたしの部屋には辿り着かなかった。
七百三つめから数えるのを止めた。それ以後はもうドアとは思えない代物だったからだ。
ドアノブも表札もない、覗き穴のついた板ばかりだ。板ですらない物もある。
その一つの穴を覗いてみた。ビンタされた。覗かなきゃよかった。
覗きは犯罪だ。チカンアカン。

へこたれずに歩きながら考える。さてどうしよう。わたしの部屋はどこなんだ。
妙に汗ばむ。だから雨季はいやなんだってあれほど言ったのに、環境庁は何を考えているんだろう。
さっさとシャワー浴びて眠りたい。家の風呂は最新式の防水加工を施してある。
そういえば明日は何の仕事だっけ。たしか十四時にBanのCM撮影だ。
そのあと十八時からBanのCM撮影で、十九時からBanのCM撮影、二十二時からはBanのCM撮影。
二十三時も二十七時も三十一時も四十九時もずーっとずーっとBanのCM撮影だ。
あいわなばばんゆーわなばーん。ばばんばばんばんばんあびばびばびば。
意識をうつつに戻すと頭皮を蚊に喰われていた。かゆいかゆい。
風が吹いた。張りぼてが壊れた。私には関係なかった。

膝に違和感を感じた。気付くと足が棒になっていた。
左足を叩くと木の硬い音がした。右足は腐って使い物にならない。害虫のせいだ。
わたしは右足を破壊した。太ももが露になった。誰もいないから気にしない。
それにしても足が棒になるほど歩いたのは久しぶりだ。
どれほど歩いたのか見定めようと思って後ろを振り返った。

何もなかった。前を見た。やはり何もなかった。



               了

393 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:56



――のんがこのいえにかわれて≠ゥら、いっしゅうかんがたったのれす。



のんはなかまたちといっしょにおみせ≠ナうられていたのれす。

でものんはなかなかかって≠烽轤ヲませんれした。

みんなはどんどんうられて≠「くのに……のんはだめなこなんれしょうか?

でもあるひ、あのひと≠ェあらわれたのれす。

あのひと≠ヘのんのめのまえにたちました。

びじんなひとれした。めがぱっちりとおおきくて、せがすごくたかかったのれす。

ああ、こんなおおきなひとらったら、のんはかって≠烽轤ヲないんらろうなとおもいました。

おおきなひとは、たいていよっすぃやみちしげちゃんをかって≠「たかられす。

でもあのひと≠ヘのんをじーっとみて、「これにする」と、のんをかって≠ュれたのれす。

みんなと(とくにあいぼんと)はなれるのはつらかったけろ、とってもうれしかったのれす。
394 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:56

れも、あれからいっしゅうかんたってもあのひと≠ヘのんにみむきもしなかったのれす。

のんはおもわずなきらしてしまいそうになるほろかなしくなりました。

やっぱりきにいってもらえなかったのれしょうか?

あきらめかけていたそのとき、あのひと≠ェのんをみながらえがおれやってきてくれたのれす。

ああよかった、みすてられていたわけれはないのれすね。

のんはおもわずなきらしてしまいそうになりました。

もちろんうれしなみられす。

あのひと≠ヘのんをへやのそとへとつれていってくれました。

かってきて≠ュれたひいらいれす。

れも、きょうはあのときとすこしそとのようすがへんらなとおもいました。

すると、あのひと≠ヘいきなりのんのぼたん≠とったのれす。

そしてすっとおともなくて≠いれられました。

びっくりして、なにがなんらかわかりませんれした。

あまりのれきごとことに、のんのあたまはしょーとしてしまっていたのれした。

のんがぱにっくになっているあいらに、あのひと≠ノなかのもの≠烽ュいっととられてしまいました。

そして、のんはゆっくりとひらかれて≠「きました。

ようやくのんはじぶんがされていること≠ェわかりました。

いくらうられて≠「たとはいえ、のんはまらけいけん≠オたことはありませんれした。

これがはつたいけん≠黷オた。
395 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:56
あのひと≠ヘのんをげんかいまれひらいた≠ワま、そとにれました。

そとにはなんにんかひとがいました。

みんなにみられているようなきがして、とてもはずかしかったのれす。

れもあのひと≠ヘかまわずずんずんとあるきらしました。


のんはぬれ≠ワした。


こんなことはじめてれした。

あたまがまっしろになりました。

じぶんれもせつめいれきません。

たらわかっているのは、それがとてもきもちいい≠ニいうことれした。

のんはへんたいなんれしょうか?

こんなきもちになるなんて……、のんはとてもはれんち≠ネこれす。

れも……はずかしいれすけろ、……とてもきもちいいのれす。


しずく≠ェぽたぽたとたれていきました。


のんはもうびちょびちょ≠黷オた。

396 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:57


「あ、なっちオハヨー」

「あ、圭織。……あれ? もしかしてそれ……」

「コレ? この前さ、新しいの買ったんだ」

「おニュー? それすっごくカワイイー。水色もキレイ」

「でしょ? 一目惚れしたんだよね」

「でもちょっと小さくないかい? 肩濡れてるよ?」

「あ、ほんとだ。でもまあしょうがないよ。この柄コレしかなかったんだし、

それにこれすっごく気に入ってるからね」

「あーなっちも新しいの買おっかなー」

「そういえば、同じとこにピンク色のきれいなのあったよ」

「ほんとに? じゃあ今度買いに行こうっと」




 圭織のパラソル     了

397 名前:後書 投稿日:2004/06/07(月) 23:57
『オンナノワライ』
某作品の題名のパロ。元作品も元々作品も読みました。
正しくはman・slaugh・ter≠ナ切るそうなので、殺人は人が笑いながら行うわけではないようです。

『五分前』
川本真琴さんの『10分前』の歌詞に五感が全部ひらかれていく≠チていうのがありますが、
僕の耳には股間が全部ひらかれていく≠ノ聞こえます。

『鍵穴』
(注)MOMA(Museum of Modern Art ニューヨーク近代美術館)1929年開館。
途中から紺野ちゃんにしようかと思いましたがやめました。だっふんだ。

『圭織のパラソル』
ののごってかきにくいれすね。
もちろん題名は江戸川乱歩賞&直木賞受賞作品を参考に。

六月あぷ予定作品は企画の影響で七月上旬になります。御了承下さい。
398 名前:N 募集中。。。 投稿日:2004/06/07(月) 23:58
ノノ*^ー^) <コロスケナリヨ〜
399 名前:N 募集中。。。 投稿日:2004/06/07(月) 23:58
( ´ Д `) <ニモ
400 名前:N 募集中。。。 投稿日:2004/06/07(月) 23:58
( ‘д‘)´D`) <ツー・ツー・ツー・ツ・トー・ツ・ツー・ツ
401 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:09
↑までで、232232 byteでした。こーゆーのちょっと嬉しい。

訂正
>100 それで推理小説と言えるのか? → 見切り発車と携帯と
タイトル変更。

>392
あいわなばばんゆーわなばーん →あいわなばばんゆーあばんがーる
リスニングはにがてなのれす。
402 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:09


SOS3(さきほどからおまちしていませんでしたしょーとしょーと3)


403 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:09

イヌノジュモン


紺野犬――野良犬帝国最高顧問補佐補佐――は悩んでいました。
うーん、どうしようかなー、困ったなーと前足で頭を叩いてみました。
しかし、いいアイデアは浮かんできません。
その場をグルグル駆け回ってみました。それでも何も解決策が見出せません。
その後もうんうん唸りながら、舌をハッハと出してみたり、鼻の頭を濡らしてみたり、
穴を掘ってみたり、鼻の頭を濡らしたりしましたが、徒労に終わってしまいました。

紺野犬ががっくりした様子で地面にグデッと這いつくばっていると、高橋犬が田中犬を連れてやって来ました。
「ワワワン。ワン、ヤヨヤヨワンワン」
「キャン、キャンタイキャン。キャン」
「いやー、最近めっきり食べ物も減っちゃって、国犬全部をまかなえなくなっちゃったんだよね」
「ワワン? ワーン、ヤヨヤヨワンワン!」
「キャンタイキャキャン、キャタイキャン!」
「そんなこと言われても……」
紺野犬の目に涙が浮かびます。やりすぎたと思って必死で慰める犬二匹。
「どうしたらいいかなぁ……」
三匹を、沈黙が襲います。紙屑なんかが、カサカサと風で飛んで行ったりします。

「タイ!」
と田中犬が急に吠えました。何か良いアイデアでも浮かんだのでしょうか?
「キャキャンタイキャン、キャンキャンタイキャン!」
「ワンワンヤヨヤヨワン!」
「なるほど! れいなあったまいいー」
「キャタイキャン」
紺野犬と高橋犬から褒められて、田中犬は顔をポッと赤らめました。
「そうとわかったら、早速出発だ!」
「ヤヨー!」「タイ!」
404 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:13
三匹は、野を越え山を越え川を越え谷を越え途中電車に無賃乗車してみたり網棚でごろりごろりなんかしちゃったりしてでも高橋犬だけ捕まって保健所に送られそうになったり送られたり送られたり穴掘って脱走したりあそこにわたしとともだちになったこおるんやけどあのこもにがしてあげたいえーそんなのむりだよそんなんいわんとたのむってこんのさんどうしますどうしよっかだいたいたかはしさんにともだちできるとかまじかんがえらんないんですけどわたしもそうおもうんだけどなあたのむってれいなどうするどうしましょうなーおねがいやからそれよりもなんであいちゃんとれいなふつうにしゃべってるのわんやよやよわんきゃんたいきゃきゃんいやもうおそいからなどなどあれしたりこれしたりこれしたりほんといろいろあって、とある場所へとやってきました。
405 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:13
「よし、やるよ。準備はいいね」「ヤヨ」「タイ」「んあ」「れす」
紺野犬はチャイムをムギュっと押しました。ピンポーン。
すると中から「ハイハイどなたですかー?」という声がしました。
三匹+αは思わず身構えました。

ガチャっと扉を開けたのは中年男性でした。
「あれ? 誰もいないじゃ……」
中年男性の前には、三匹の仔犬その他がいました。どの犬も眼がうるうるしています。
な、な、なんてカワイイ犬なんだ……。
中年男性は、三匹とゆかいな仲間達のあまりの可愛らしさに釘付けになってしまいました。
いまだ! と紺野犬が横目で合図しました。せーのっ、

          「クーン……」「んあ」「れす」

中年男性は一発ノックアウトされてしまいました。彼はすぐに某金融会社に電話しました。

一年後、
「美貴帝、いかがでしょうか」
「……浮かれモード」
「ありがたき幸せ……」
紺野犬は最高顧問兼書記に昇格していました。
そして、中年男性の部屋ならびに付近の部屋は野良犬帝国の植民地と化していました。

「ああ、またそんなところでウンチして、コラッ!」
「クーン……」「しないよ」
「おおゴメンゴメン、お前はカワイイねー、よーしよしよし」
「クーン……」「べさ」「ニィ」「ぽぽぽぽー」
「おおよしよし、お前達もカワイイよー」

男の郵便受けからは、未払い料金お知らせの手紙が溢れかえっていました。

ご利用は計画的に。



DOG SPELL   了

406 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:13

          白いトマト


あなたの目の前には皿、そしてその上に置かれてある白いトマト。
テーブルをはさんで座っている亀井絵里は、ニコニコとあなたを見ている。
その目が「早く食べてよぉ」とあなた――紺野あさ美に訴えかける。

さてどうしたものか、とあなたは考える。
何故亀井はオフの日にわざわざ部屋に来たのだろうか。いや、それはまだいい。
問題は亀井が両手で大事そうに包んで持ってきたであろう、この物体。
亀井は台所に行き、水で軽く洗うと、皿にのせて白いトマトをおずおずと差し出したのだ。
喰え、ということに違いないが、こんな素性のわからないような物喰いたくはない。
先ほどから亀井はあなたを見たままだ。あなたはその目線に耐えられなくなり、白いトマトを
視界に入れる機会が増えている。そっと顔を上げる。亀井はまだ見つめている。
あなたは見る≠ニいう行為を自主的に遮断する。目は開いているがその瞳には何も映ってはいない。

ちりんちりんと風鈴が鳴る。それはあなたが一昨日買ってきたものだ。
いつの間に封を開けたんだろう、とあなたは記憶を探る。しかし思い出せない。
そもそも風鈴なんて物買っただろうか。
「もう夏ですね」と亀井が呟く。それはあなたが普段から聞きなれた亀井の声のようであり、
普段とは違う聞きなれない声のようにも思える。
あなたは「そうだね」と何も考えないまま答える。
「トマトって……」亀井は口を開く。あなたはアヒル口に吸い込まれそうになる感覚を覚える。
407 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:15
「トマトって、ナス科の野菜で、熱帯では多年草、温帯では一年草なんです。
南米原産で、メキシコで栽培トマトに分化したんですよ。茎には――」
亀井はトマトの説明をひたすら述べ続ける。それも棒読みだ。始末が悪い。
まるで壊れたラジオのようだと、あなたはもちろんうんざりしている。
机の上に視線を向ける。白いトマトが最初よりも少し膨らんだ気になる。
「――澱粉原料となるのが多くて、主食にしてるところも結構あるみたいですよ。
歴史的には、東南アジアを中心とする熱帯、亜熱帯だとタロイモとかヤムイモが――」
いつのまにか亀井がイモの説明をし出していることに気付く。どっちにしろ退屈であることには
変わりはない。あなたにとって、芋は喰らうもの、味わうものであり、聞くものではないのだから。

「あのさ、いい加減にしてくれない?」
あなたがようやく亀井に話し掛けたのは、もう東の空が明るくなってきた頃だった。
亀井は一瞬きょとんとした表情を見せるものの、すぐに口元を綻ばす。
ニヤニヤとした後クスクスと笑い、遂には声を上げて笑い出す。
あはははは。あはははは。とても無邪気な笑い声。
壁に反射するせいか、あなたには亀井が何十人もいるように感じる。

何故そんなに笑っていられるのだろう。可笑しなことなんて何もないのに。
「あなたが食べてくれないからですよ」
じゃあ食べたら黙ってくれるのか、とあなたが口を開く前に先手を打たれる。
「それはわかりません。黙るかもしれないし、笑い続けるかもしれない、爆発するかもしれない。
でもそれは全く関係のないことですよ。選択肢が増えるだけ。物事の本質には至りません。
それにわたしが何を可笑しいと感じようと、あなたには関係ないじゃないですか」
亀井はぷいと出て行こうとする。あなたはそれを止めるため腰を上げ、手を伸ばす。
それがなんの意味も成さないことは、十分承知しているにも関わらず。
あなたの目には、全てがスローモーションのように映る。
408 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:15

          ◇ ◇ ◇


あなたの目の前には皿、そしてその上に置かれてある赤いトマト。
テーブルをはさんで座っている亀井は、それをニコニコと美味しそうに食べている。


でも、あなたは知っている。水で洗えばトマトは赤色ではなくなることを。




             了

409 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:16

鼻血


亜依がその赤くて丸いりんごにがぶりと噛り付いた瞬間、ポタッという音がした。
何かが落ちた音のようだと思い、亜依は下を見た。フローリングの床には、赤い水玉模様が咲いていた。
……血ィ?
とっさに亜依の頭には、りんごを食べると歯茎から血が出ませんか?≠ニいうフレーズが思い浮かんだ。
指を口の中に突っ込み、色々触った後に抜いてみるが、赤くはなかった。
歯茎から血は出てないみたいだ、おかしいなと思いつつ、亜依は床の血を拭いた。

ドアを開ける音がして、亜依はそちらのほうを振り返った。そこにはトイレから戻ってきた希美がいた。

「あれ? あいぼん、鼻血出てるよ?」
希美が亜依の顔を見るなり、素っ頓狂な声を上げた。
「鼻血?」
鼻の下を拭ってみると、指に何かがついた感じがした。見ると赤い液体だった。

「あ、ほんとだ」
「何? もしかしてエロいこと考えてたんじゃないの?」
「いやー、ワタシもお年頃ですから……ってなんでやねん」
アハハハハと無邪気な笑い声が部屋に響く。
「あ、のんもこれ食べる?」と亜依は手に持っていたりんごを差し出した。
「うん、食べる」希美はりんごを受け取り、あーんと大口を開けて、がぶりと噛り付く。

ポタッという音がした。



          了

410 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:16

包帯患者の行列


「すらっとした長身、その美貌、なによりその黒髪。間違いない、あなたこそ私たちが捜し求めていた人だ」
頭と両腕そして胸から左足にかけて、少し黒く湿った包帯を無造作に巻いた男に話し掛けられ、
さすがの飯田圭織も驚いた。
この人は何を言ってるんだろう、と飯田は思う。そりゃ確かに、カオはモデルみたいで綺麗だけどさ、
夜中の三時に、それも公園のブランコの前で見ず知らずの人から言われることじゃないんじゃない?

男は不気味な笑みを浮べている。さながら獲物を見つけた鮫のようである。
「ささっ、早くこちらへ。皆がもう待っております」と、飯田の細い二の腕を掴もうとして手を伸ばす。
とっさに飯田はその手を払った。男は不思議そうな顔をする。
「どうされましたか、事態は一刻を争うのですよ。こうして話をしている時間でさえも惜しいので――」「あのっ!」
飯田は無理矢理話を遮る。「ちょっと待ってください。さっきから何を言ってるんですか」
「何を? はっはっは、あなたも冗談がお好きですね」
「いや、ほんとにわけわかんないんですけど」
「はっはっは、さすがゴールデンの女優さんは違うなあ。まるで本当に知らないようですよ」
「いや、ゴールデンのドラマはなっちとかごっちんとか松浦で、私は出てないと思うんですけど……」
「そうでしたか。まぁそんなことはどうでもいいのですがね」
TBSの二時間ドラマは出たんだぞと言ってやりたい気持ちを抑え、飯田は再び伸びてきた男の手を払う。
男は眉間に皺を寄せる。
411 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:16
「あなたもわからない人だ。それでも          なのですか」
飯田には男の言ったことが一部聞えなかったが、特に気にすることもせず、
「もう時間が時間なので私は帰ります」と、つかつかと歩き出した。
なんだったんだアイツは。ファンの人かな? それにしては言ってることが、メチャクチャだったけど。
なんとなく気になったので、数歩歩いた所で振り返ってみた。男が逆方向へと歩いていくのが見えた。
どうやら諦めてくれたみたい。よかったよかった。飯田は再び歩き出した。

何回か角を曲がると、今度は人の長い列があった。
こんな所においしいラーメン屋さんなんてあったっけ、新しくオープンしたのだろうか、と飯田は思う。
その列に近付くにつれ、飯田はあることに気付いた。人々の目が虚ろで猫背。口を開けている者や
ブツブツと独り言を喋っている者もいるが、皆薄青い服にスリッパ。そして包帯を巻いていた。
なんだか気持ち悪いなと飯田が思っていると、何処から現れたのだろうか、先程の男が飯田の通り道に立っている。

「ほら、ここにいる皆がお前のことを待っているのだ。いい加減に協力したらどうだ」
どうして抑圧的になっているんだと口を尖らしつつ、「そこを退いて下さい」と一言。
「俺達も手荒な真似はしたくない。無駄な抵抗は止めろ」
そう言うや否や、男は宇宙人が持っているような、いかにもチープな光線銃を取り出し、飯田に向けて発砲した。
飯田の意識はそこで一時中断する。
412 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:17

気付くと飯田はベッドの上でうつ伏せになって寝ていた。両手両足はベルトで固定されていたが、
どうやらそれも形だけのようだ。力を入れるといつでも引き抜くことが出来る。
とりあえず「おーい、誰か居ないのー?」と叫んでみるも、返事がない。
飯田はなんだか馬鹿らしくなってきた。するとドアが開いてあの男がやってきた。

「どうなってるんだ。こんなの契約違反だぞ!」顔は真っ赤で、鼻や耳から煙がポォーと勢いよく出ている。
その様子がマンガみたいだったので、思わず飯田は笑ってしまった。
「笑い事じゃない! なんなんだ君は。それじゃあ包帯が作れないじゃないか」
「何のことでしょうか」笑うのを必死に堪えながら飯田は尋ねた。
「とぼけるな! 最高の包帯という物は純度百パーセントでなくてはならない。それがなんだ。
君のはネルキドィオオイの割合が三十四パーセントもあるじゃないか」
何のことだかよくわからないが、飯田は「生まれつきですから仕方ないでしょ」とだけ答えた。
「こういうのは生まれつきとは言わん。製造ミスだ。もういい。帰れ」
「言われなくったって帰りますよーだ」
「ええい、問答無用」男は光線銃を自らのこめかみに当て、引き金を引いて自殺した。
飯田は男の包帯をびりびりと引き裂くと、ジーンズのポケットに捩じ込んだ。それでも少しはみ出ていたが、
飯田は構うことなく走った。走る度に包帯は次第にずり落ちてきて、長くなっていく。
そして包帯が地面に触れる頃には、飯田の頭部から産毛が生えていた。
最新技術を駆使した、機械の髪の毛である。







゜皿 ゜)ノ

          了

413 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:17

           机運


例えば、じゃんけんにめっぽう強い人がいるように、
例えば、歩いているとほとんど信号に引っかからない人がいるように、
例えば、パチンコで大勝ちはしなくても、決して負けたことはない人がいるように、
その逆の人も世の中には存在する。
どうやらこの世の中には色々な物に運≠ニいうものがあって、それが生まれつき備わってたり、
欠如したりしてるみたい。

そして、この平凡だったわたしもあることに関しては運≠ェ人並みはずれて悪かったりする。
そんな命に関わったりするような重大なことじゃないし、もう半分慣れっこになっちゃってたけど。
だけど……やっぱりイヤじゃん。一年間使う机がイマイチだったりしたらさ!

そう、わたしはガッコで使う机に恵まれたことがなかった。いわゆる机運≠ニいうものがなかったのだ。
机運≠チて美貴の造語だけど。

最初にこの机運≠ノ悩まされたのは小学校一年生の頃だった。
初めてのランドセルに、初めての給食、初めての大勢の友達に、初めての勉強――っと、これは違うな、
とにかく期待でいっぱいだったわたしをいきなり落ち込ませたのが、左端に
1ねん3くみ ふじもと みき
と書かれた紙が張られた、濃い茶色の机だった。

わかる? 濃い茶色だよ? 薄茶色とか黄土色じゃないの。濃いィ汚ッらしい茶色。古くっさい茶色。
周りの子も同じようなのだったらまだいいけどさ、それがわたしとあと三、四人だけだったんだよね。
ね、わかる? この悲惨さ。純情だった――って今も純情だけど、一年生の心を踏みにじるような机ね。
もう泣きそうだったね。美貴強いから泣かなかったけど。

でね、授業とか真面目に受けてたから、机の上にノート置いて下敷き敷いて、鉛筆持って一生懸命
勉強しようとしてたわけよ。でもね、ガタガタするのよ、机が。まったく、なんでピカピカの一年生に
こんなボロいの与えるんだろうね。
……誰か今、デコって言わなかった? 気のせい? ならいいけど。
まあ、机のガタガタはティッシュを脚に噛ませたからなんとかなったけどね。美貴えらいでしょ。
でもあの色は嫌だったなぁ。あの頃梨華ちゃんに会ってたら、わたし梨華ちゃんを命がけで守った気がするね。
なんとなくだけど。
414 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:17
結局ね、一年間その机使ったんだ。
ウチの担任はさ、席替えする時は自分の席ごと移動させるって人だったから。
ほんとエライよ美貴。自分で言うのもなんだけどさ、文句の一つも言わずにキレイに使い続けてさ。
……何? ラクガキ? 失礼な。あれは芸術なんだけど。
多分今だったら一千万ぐらいすると思うよ。あのとき担任に無理やり消させられなかったらね。
ほんと残念。

で、二年生。わたしを待ってたのはガタガタ地獄。それも机と椅子の両方。
机は何とかなるよ。またティッシュ噛ませば良いだけだし。問題は椅子のほう。やっぱり動かすたんびに
ティッシュが取れてガッタンゴットン。電車かよ! とは美貴(当時七歳)のツッコミ。
この頃からツッコミキティだったんだよね。それはいいとして。
結局ガムテープでティッシュと脚を固定した。少しグニグニしてたけどガタガタよりはましだったから。

三年生。今度はフックっていうのかな? 鞄とか掛ける所。アレがなかった。しかも両方。
流石にこれは変えてもらった。それでやってきたのがまたオンボロだったのよ。

教科書とか入れる引き出しみたいなのあったでしょ。あっこがね、バッカバカ。
鉄? ステンレス? 材質はよくわかんないけど、とにかく金属と木を止めるネジがゆるいの。
ほんと嫌になっちゃうね。二学期の後半には取り外し可能になったし。
おりゃって体重かけるとガコンッて取れて、それで、おりゃってはめると元に戻るんだけど、
もうこんなの捨てろよって思った。市長なんとかしろよって。
それぐらいからかな、年賀状の自分の住所を北海道の真ん中ら辺って書くようになったのは。
415 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:18
四年生。給食の時とかって、班ごとに机くっ付けるでしょ? あれがヤになった。
だって、美貴の机低かったんだもん。なんだろう、見下されてるって感じ。嫌いなんだよね。
他にもね、低い机の子はクラスにいたよ。でもどういうわけか、美貴と同じ班の子達はみんな美貴より
おっきい机なんだよね。わたしより背の低い子まで大きい机。なんでだよって感じ。
どうやらあの頃は席替え運≠煦ォかったみたい。わたし教室の前から三番目までの間を
行ったり来たりしてたしね。それも窓際でも廊下側でもなかったし。
誰だよあみだクジで決めようって言ったヤローは、って呪いかけてたもん。
そしたらその子、体育祭の時に足の骨折っちゃった。まぁ美貴のせいじゃないんだけど。

五年生。机の表面が剥がれてた。ほんと、バリバリバリってな感じで。ちょっとだけ繋がってたんだけど、
クラスの男子に引っ剥がされた。なんかムカツイたから、股間蹴ってやった。そしたらうーんうーんって悶えてた。
あれは笑ったね。快感。そこからかな、女王様って悪口言われるようになったのは。満更でもなかったけど。
ん? 美貴帝はまだ先の話だよ。ちゅーがく時代ね。
で、机の話なんだけど、換えてもらったのが去年の机。これにはもう笑うしかなかったね。
一人でうひゃうひゃ大爆笑。いきなり壊れちゃった美貴を見てみんな引いてたなぁ、うん。
その顔もすぐに恐怖に引きつったんだけど。

六年生。つまり学校の中で一番エラくなるのね。ほんとはその二、三年程前から美貴の天下だったんだけど。
そんなわたしの机がなんと、とんでもなく綺麗なやつだった。別に皮肉じゃないよ。本当に新品で。
あぁ、やっと美貴もふつーの机に当たったんだって思った。その日の夜はもちろん酒盛り。

でもそんな幸せも、長くは続かなかった。
416 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:18
六月ぐらいかな、朝ガッコに着いたら、なんか机の上に変なのがあった。ネバネバした液体。
なんだよこれ、悪質なイタズラかって思って、クラスのみんなに聞いてみた。これ誰がやったのって。
黒板の前に一列に並ばせて、一人一人の目を見ながら。そしたら誰も知らないって言うのね。
うそだーって思って何とか吐かせようとしたんだけど、血と朝ご飯しか出なかったんだよね。
本当に知らないのかなー、おかしーなーと思いながらもポケットティッシュでそれ拭いたの。
命の次に大事なティッシュが減っちゃったじゃんかと思って、その日はずっとイライラモードだった。

次の日もね、またあったのよ。その変なネバネバの液体。
もしかしたら他の組の子かもしれないと思って、知ってるよねって聞いて回ったんだけど、
みんな地面に崩れ落ちるだけだった。やっぱりその日もイライラモード。

その次の日もその液体があって、美貴のイライラも頂点に達したの。
町にでも狩り出そうかと思ってたんだけど、クラスで一番頭いい女の子が……そういえば変な声してたな、
いつも震えてる感じだったね。それはいいとして、その子がね、もしかして樹液じゃない? って言ったんだよね。
樹液? そうなのかなぁって思って机をよく見ると、なんかそんな感じだった。なんか亀裂入ってたし。
やっぱり原因は机だったのね。ほんと、美貴って机運≠ネいよね。
その日からガッコには行かなくなった。だって樹液が染み出る机でべんきょーなんかできっこないじゃん。
でも音楽はしとかないとって思って、ずーっとカラオケ行ってた。
それでかな、美貴が歌手になりたいって思ったのは。

今こうして娘。に居るんだから、わたしの机運≠ノは感謝しないといけないかもね。
417 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:19











「……っていうことだよ。ね、美貴ちゃんも色々苦労があったんだよ。昨日言ったように矢口さんも、吉澤さんも、
愛ちゃんも大変だったんだけど、それを乗り越えてやってきたんだから。私だって最初は赤点娘。だったんだけど、
それをバネにハングリー精神でここまで来れたんだし、だから七期のキミ達も頑張ってね」

「ハイッ!!」




「……オイ紺野」
「ゲッ、美貴ちゃん?!」






            了


418 名前:後書 投稿日:2004/07/03(土) 23:21
SOSシリーズは基本的に原稿用紙五枚以内の作品群を目指していますが、
たまに一・五倍増しになるなどの例外が生じます。

『イヌノジュモン』
某作品の題名のパロ。元作品は読みましたが元々作品は読んでません。
目が大きくて若い子選ぶとこの三人になりました。らららむじんくん(セイン・カミュ)。

『白いトマト』
白いトマト≠ニいう単語から、妄想してホニャラホニャラ。ラストも考えずに書いていきました。
ラストを書いたあと、おっ!と思って前のほうをチョコチョコ修正。辻褄が合う感じにしました。でも意味不明。
あと、初めて二人称書いてみました。わけわかりませんでしたが、意外とおもろい。

『鼻血』
鼻血≠ニ打とうとして、何回鼻地≠ニ打ったことやら……。

『包帯患者の行列』
さまよう入院患者(包帯)≠ゥらホニャラホニャラ。最近こんなんばっかりしてます。タイピング遅い、
なんちゃって自動記述みたいな感じですかね。ちなみに包帯の多くは木綿布で(以下略

『机運』
樹液が机から染み出て飲み込まれる≠ゥら妄想してホニャラホニャラ……のつもりだったんだけど、
意味不明話はやめて真面目な話(というかありそうな話)にしました。そしたらオチが思いつかな(ry


七月上旬予定のヤツは、筆がピタッと止まってしまいました。なんか書けない。
梨華ちゃんが卒業するまでには完成させよう。

後書の後書
久々に更新するとこれだよ。名前欄ミスってるし(そのまま突っ走った)、
『イヌノジュモン』と『白いトマト』は文字数オーバーとかなるし。ほんと_| ̄|○
419 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:22
川o・-・)< ゲンバノ キャメイサーン
420 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:22
ノノ*^ー^)¶ <ハイハイハイハイ コチラゲンバノ
421 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/07/03(土) 23:22
クネッ ノノ*^ー^)ゝ¶ <エリ ザベス キャメイデース
422 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:32


                メガジェットみちしげのお手柄


                 新たなヒーロー誕生?の巻


423 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:33
ヘルメット吉澤に(勝手に)ヒーローに任命されたメガジェットみちしげ≠アとみちしげさゆみと、
みちしげの姉貴的存在の藤本みきは、二千四年八月、ギリシャのアテネに居ました。

どうしてこの二人がアテネに居るかというと、実は日本女子バレーボールチームがオリンピックの
出場権を勝ち取ったからなのです――なんて説明はしなくてもいいですね。
テレビやラジオ、新聞、雑誌、インターネットであんなにも報道されたのですから。
特に、アメリカ戦で屋根を破壊し、出場停止処分になっていたみちしげが戻ってきてからの活躍は
筆舌に尽くし難いものがあります。

さて、二人は練習の休みの日を使ってショッピングに出かけていたのでした。
「あ、この服もカワイイ。わたしに似合いそう。だって、わたしって、カワイイんだもん♪」

最近ますます巨大化してきているみちしげにとって、大きなサイズの服を売っている店は日本だと
限定されてしまいますが(それにそのほとんどがカワイクない服ばかりなのです)、その点外国ですと
大きなサイズでもカワイイ服が、それこそ山のようにあるのです。
みちしげにとって、ここはまさに夢のような世界でした。

「……さゆぅ、まだ〜?」
「えー、もうちょっと待ってくださいよぉ。まだ見てるんですから」
「そのセリフさっきも聞いたんだけど」
みちしげとは対照的にテンション低めのみき。それもそのはず、かれこれ五時間もみちしげの
荷物持ちになっているのです。

みきのほうが先輩なんだけどさぁ、と先程からぶつぶつ小言を言ってはいるものの、内心は
満更でもないようです。やはりみちしげが可愛いんでしょうね。
424 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:33
「藤本さんもカワイイ服とか買いませんか? ホラ、これなんかピッタリ」
みちしげが手にしているのは淡いブルーのミニスカート。太ももなんかばっちり露出しちゃいそうです。
「いや、みきは別にいいから」
「そうですか……、じゃあこれわたしが買っちゃお」
「お前がはくのかよ!」
ビシッと突っ込むみきに、ショップの店員さんももうメロメロです。
もちろんアテネの人に日本語が通じるわけはないのですが、良いものは国境を越えるのです。

「じゃあコレとコレと、あとコレもお願いします」
みちしげが店員に服を渡します。店員は笑顔で受けとると、タカタカタカと電卓をはじき、
「百八十六ユーロになります(ギリシャ語)」と言いました。

「百八十六ユーロかぁ、もうちょっと安くなりませんか?」とバリバリの日本語で話すみちしげ。
もちろん通じるはずありません。不思議そうな顔をする店員。

「あの、えーっとなんだっけな。あ、そうだ。しっとだうん。しっとだうん」
みちしげは手を下へやりながら、しっとだうんしっとだうんと繰り返しました。
そんなにも店員さんを座らせたいのでしょうか。それにアクセントが一本調子なので
座れ≠ニいう意味も伝わっていません。
ますます店員さんは困り顔。しまいには肩をすくめて首を振るというジェスチャーまで飛び出しました。

見兼ねたみきがやってきます。
「もう、さゆはちょっと退いといて。あー、Would you give me a disucount?」
なんとみきが英語を話しました。これは驚きです。みきはバイリンガルなのでしょうか。
425 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:34
“Sorry.This is a discount price.”     (ごめんなさい。これは割引きした値段なの)
“Would you give me a disucount?”   (まけてくれませんか?)
“I’m afraid I can’t.”               (申し訳ないけど、ちょっと無理ね)
“Would you give me a disucount?”   (まけてくれますよね?)
“............”                  (…………)
“............”                  (…………)
“...... OK,180euros.”           (……わかったわ。百八十ユーロでどう?)
“Would you give me a disucount?”   (まけてくれますよね?)
“............”                  (…………)

このやり取りは、店員さんが「五十ユーロで勘弁して下さい(ギリシャ語)」と泣きつくまで続きました。

さすが孤高のエース≠ニ呼ばれた藤本みきです。帝≠ニ呼ばれる女です。
皆さんも見習いましょう。

「だから、Would you give me a disucount? だっての!」
「うっじゅーぎぶみーあでぃすかうんと?」
「全然ダメだよ」
「ぶぅー」
「いやいや、ぶぅーじゃないから」
「それにしても、うっじゅーなんとかっていうやつの意味ってなんですか?」
「えーっとね、最近みき英語習い始めてさ(実話)、その教材の中にあったんだよね」
「ふーん、そうなんですか」
「でね、おっ、便利じゃんと思って、これだけひたすら発音練習したんだよね」
皆さんも見習いましょう。
426 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:34
さて、お買い物を終えたみちしげはるんるんと、みきは荷物を持ってよろよろと歩いていました。

「……あのさ、なんでみきが全部持ってるのかな?」
「るんるん♪ お買い物は楽しいの♪ くるくるー♪」
「おーい、さゆちゃーん、ねえー」
「わーいわーい、くるくるーくるくるー♪」
「回ってないでさぁ、ちょっとぐらい持ってよー」

二人のやりとりで、一体何人の外国人が彼女達にハートキャッチされたことでしょうか。
人だけでなく、のらいぬやのらねこたちも見惚れてしまっています。
これでメガジェットみちしげも世界レベルになったのです。

二人のやりとりはそれこそエンドレスで続きそうでしたが、なんともまあ上手い具合に

            「キャ――――――!!」

と悲鳴が上がり、二人のやりとりは中断されました。ガッカリする外国人と動物達。
「空気読めよ!(ギリシャ語)」と、ミルクを飲んでいるシャルさんの心の声が聞こえます。

悲鳴を聞き、そちらのほうを向くみき。すると、だばだばだばだばと変な大男が走ってくるのが
見えました。その奥には幸薄そうな色黒の女の人が倒れています。

「鞄を取られたのー。誰か、そいつを捕まえてー(日本語)」と色黒の女の人が話すのを聞いて、
みきは思わず、「日本人かよ!」と突っ込んでしまいました。黒人さんだと思ったようです。

変な大男は猛スピードでだばだばとみきの側を通り過ぎていきました。
両手に荷物を持っていて、なおかつ咄嗟の出来事だったため、みきは反応できませんでした。
427 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:35
「し、しまった! さゆ!」
「はーい、なんですか?」くるくる回りながら答えるみちしげ。まだこの状況を理解していない様子。
「回ってないでそこの変な奴捕まえて!」
「……変な奴って誰ですか? 藤本さん?」
「いや、違うから。何ボケてんのよ。そうじゃなくってさゆの隣を横切った――って行っちゃったし!」

変な大男はだばだばだばだばと走り去っていきました。
「さゆ! 追うよ!」とみきは猛スピードでだばだばと走り出しました。もちろん荷物は持ったまま
です。そのあまりの格好よさに、外国人がバッタバッタと失神していきました。
まるでジャニーズのコンサートのようです。ええ、おそらく。

みちしげも何が何だかわからないという顔をしながらもだばだばと二人を追いました。
そのあまりのキュートさに、動物達となんとか持ちこたえた外国人は心が癒されました。
まるで夏川りみのコンサートのようです。ええ、おそらく。


だばだばだばだば
               だばだばだばだば
                              だばだばだばだば


差はなかなか縮まりません。次第にみきの走るペースが落ちていきます。
両手に荷物(それもとても重い)を持って走るというのは、とても難しく、体力のいることなのです。

「やばい、ハァハァ、疲れてきたかも」
「何言ってるんですか、まだちょっとしか走ってないですよ」
あんたの荷物持ってるからだよ、と突っ込みたいみきでしたが、もう腕が上がりません。

「どこかに、ハァハァ、ボールさえあれば、ヒィヒィ、(さゆが)アタックして、ゼェゼェ、あいつ止められるのに」
「ボールですか? どこかにないかなぁ……」
きょろきょろと辺りを見回すみちしげ。サッカーボールやバスケットボールならともかく、
バレーボールが街中にあるはずはありません。
428 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:35
「……空から降ってこないかなぁ」とみちしげは空を見上げました。
すると、驚いたことにバレーボールが振ってきたのです。みちしげはそれをキャッチしました。
「藤本さん。ボールありました」
「へっ?」
はい、と差し出されたボールを見てきょとんとするみき。#9高橋のようにビックリ顔になっています。

「どこにあったのコレ?」
「上から降ってきたんです」
「上から?」
みきが見上げると、すぐ側のビルの屋上にOLが三人ほどいるのが見えました。
どうやらそこからボールは落ちてきたようです。

「なんて都合のいい展開……」
「あ、藤本さん、アイツ行っちゃいますよ」
「ホントだ。グズグズしてられない。やるよ、さゆ!」
「はい!」
みきは荷物を地面に置き、ボールを掲げました。

と、レシーブの格好をしたみちしげは自分の中になにかアツイモノが込み上げてくるのを感じました。

「じゃあ――って光ってるし!」

みきがつい突っ込んでしまうぐらい、みちしげの身体は光っていたのでした。

「もうあんなアホみたいなレシーブはしないでよ」
「わかってますよ」
「それじゃあ、ほい」とみきがみちしげにボールを放ります。

「みちしげちょこっとレシーブ!」みちしげはぽーんと軽いレシーブをし、少し後ろに下がります。

何か言いたそうな顔で頭上にトスを上げるみき。みちしげはそれと同時に加速し、その勢いを
見事に跳躍に伝えます。そして腕を振り被りました。

くらえっ、やぁーっ!


     「みちしげバックアターック!!!」


429 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:39

323 :名無し募集中。。。 :04/05/23 20:37 ID:ZNZv9QLA
┏━━━━┓
┃  依頼  ┃
┗━━━━┛
シゲさんがプリンセスメグばりのバックアタックしてるところお願いします。


324 :名無し募集中。。。 :04/05/23 22:26 ID:muh5oVop


                                __
                               ./.i|
                             ./キ .||
                             /キキキ.||
               .    ノハハヘヽ  ,/キキキキキ||   アタックですよ〜
                   (‘ 。‘;∩/キキキキキキ .i| ─v────────
       .       彡 ノノノハ∩..,/彡キキキキキ/||
            ○    (VoV∩/☆oノノハヽ'. . .||
∋oノハヽo∈._________________ ( ∩ ,/キキ ⊂(・.。 ・*从、 ||________________________________
. ( ´D`)            〉 ,/キキキキキキ ,〉 ⊂ノ ミ
  ( `っ`っ          と/キキキキキキ/(__/`し'    ノハハヽ∩
  (_)__)             ii ||キキキキキ/     Σ て    (^▽^ )/
                 ||キキキ./  ∩ノノハヽW     ⊂    ,ノ
                 ||キ../.  ∩(〜^0 )      ( ( (
                 ||/    ヽ     )       (__(_)
                 ||       ( ( (
                 ||      (_)_)
___________________________________,...||_________________________________________



325 :名無し募集中。。。 :04/05/23 22:27 ID:muh5oVop
あっバックアタックか・・・ゴメソ

430 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:39

326 :名無し募集中。。。 :04/05/23 23:13 ID:NdfaZKLy
>323

                   |i'\
                   |lXX\
                   ||.XXX.\
                   ||XXXXX.\
                   ||XXXXXXX\
            ∩ミ    ||\XXXXXXX\     \从/
        〃ノ_,ハ,_ ノ) ヽ从// 、XXXXXXX\    ノノハヽ
        从*・ 。.・) )) Σ    \XXXXXXX\. ∩;^▽^)
 ______ と とソ 彡' /Wヽ\ ___\XXXXXXX\ヽ   ) ___________
      / ι'ー'                \.XXXXXX.||(__(_)::.:...           ...:.:.
        ///        .:..:..:.     rgミ \XXXXX||          \人//
     //               〃ノハヾヽ \XXXj||     .:     〆⌒@ノハ@
         .:..:..          ∩D`  )   \XXl| .:.:.:...     Σ○)д´)
 \从//               ヽ   )     \||         (⌒)つ つ    .:.::...
                          'JJ    .:.:.::..   ||          (__ノ
        ..::.:.:.... .:.:                      ||       .:.::..      ..:..:    ::.:...
 _____________________||________________


330 :名無し募集中。。。 :04/05/24 22:59 ID:nm7D67NI
>324>326
さんきゅです


                                AA作成依頼専用スレッド in モ板 part3 より

431 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:40
「痛ぁっ、ってなんでやねん。なんでウチが引ったくり犯やねん」
ボールをぶつけられた変な大男、もといあいぼんさんは、右頬に手を当てて涙目になっています。

「大体男ちゃうやん。見たらわかるやん。こんなぷりちーやねんで。どんな目ェしてんねん。
それとな、男言われたんも腹立つけど、大≠チてなんやねん、大≠チて。失礼なんとちゃうんか。
これはな、初潮や! わかるか初潮。そらからしゃーないねん。三倍にもなるわ。アホ!」

「何さっきからブツブツ言ってるのよ」
あいぼんさんが振り向くと、そこにはみきとみちしげが立っていました。

「なんやねんあんた等。あんた等にウチの気持ちがわかってたまるか!」と毒づくあいぼんさん。
「お前も日本人かよ!」と突っ込むみき。
「でも、引ったくりは悪いことだと思うの」とマイペースなみちしげ。
「そうれすよ。わるいことしちゃいけねーのれす」と見事なトスを上げた#2辻ことののたん。

「え、トス上げたのってみきじゃん。それにさゆはいつの間に事情理解したのよ」
「あげたのはののれすよ。AAみてないんれすか?」
「辻さんのトス完璧でしたよ」
「認めちゃった……。さゆ認めちゃったよ」
「れしょう? たけした、なんてつかえねーなまえはらめなのれす」
「使えない名前ってどういう事よ」
「使えないんですか?」
「まらわかんないんれすか? それじゃあのんがていねいに――」
「待て待て、ウチを無視すんな! ココから先はウチが話す!」
432 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:40
急にあいぼんさんが前に出てきました。すかさずののたんがショートケーキを差し出します。
「そうそう、これがあったらね、前髪が決まらなくてもわかりやすく High! って今関係ないねん!」
見事なノリツッコミに、みちしげとののたんはおぉーっと感心しました。
「ええか、よー聞けよ」とあいぼんさんが話し始めました。

「あんな、君らよー考えてみ。愛ちゃんが#9高橋なんはわかるよ。名字一緒やねんから。みきちゃん
とののもわかる。しげさんも顔似とるからええとしよう。で、ここからが問題や。なんでウチだけ引った
くり犯やねんっちゅー話や。な、考えてみ。日本女子バレーには大友愛っちゅー選手がおるやんか。
ウチの名前ってあいやろ。確かに字は違うで。ウチは亜依で、彼女は愛や。でももう愛ちゃんが#9
高橋役で出てんねんからウチが#13もろてもええんちゃうのん? それとやな、ほかにもおかしいこと
あんねんけど、なんで飯田さんがキャプテンの吉原役で出てんねん。なあ、全然違うやん。名前とか
亜依と愛以上に違うしやな、髪形なんてショートカットとロン毛やで。似てるのんって背ェだけやんか」
「あれはきゃぷてんとりーだーをかけてるとおもうのれす。それにもんくがあるんなら326さんにいって
ほしーのれす」
「ミツル? なんやミツルが悪いんか。おいこらミツル! お前今何処におんねん! 最近見ィひんぞ!」

ちっちゃな二人があーだこーだと言いあっています。さすがのみきもこれを収めるほどのトークの技術は
持っていませんでした。
「マジ意味わかんないんだけど、てかさ、何話してんの君達?」
途方にくれるみちしげとみき、それに外国人。

こういうときに無力な人々は思うのです。

助けてヒーロー、と。

433 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:41
すると、東の地平線からなにやら変な物体が猛スピードでだばだばと走って近付いてきました。
                                          ~~~~~~
「オイ、あれはなんだ?(ギリシャ語)」
「鳥か?(フランス語)」
「飛行機か?(スペイン語)」
「いや、違う。あれは……どこのどいつだ?(ドイツ語)」

最初は突っ込もうかと思っていたみきも、オチのあまりのくだらなさにどうでもよくなってしまいました。
その時みちしげは何をしていたかというと、
「わー、お前可愛いね。うん、わたしにぴったり。にゃーおにゃお」と、野良猫と遊んでいました。

さて、その猛スピードで駆けて来た物体は、いつのまにか近くまでやって来ていました。


「この、バッカモ――――――――――ン!!」


ばしこーん (あいぼんさんが張ったおされた音)

ばしこーん (ののたんが張ったおされた音)

ずざー (あいぼんさんが地面に叩きつけられた音)

ずざー (ののたんが地面に叩きつけられた音)


もうもうと立ち上る砂煙のせいで、その場にいた全員がゴホゴホと咳き込みます。
「ゲホッゲホッ、どうしたんですか?」「まったくもう、ゴホゴホッ、なんなのよ」
次第に砂煙が晴れ、うっすらと人影が見えてきました。足元に倒れているのはあいぼんさんと
ののたんのようです。二人とも目を回しています。

そして視界が良好になりました。
「あ、あなたは――」「あ、お前は――」「そう、オレの名は――」

434 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:41

「吉澤ひと「吉澤さ「えーっとだれだっけ?」元気でしたか?」澤だー!」



…………。



「って被ってんじゃねえかー!! ゴルァ!」 (シャーという効果音)
「ちょっと、目光ってるし。それとそのシャーっていう効果音なんなのよ」
「うるさい。ヒーローの登場シーンを邪魔するなんて最低だぞお前ら。もう一度やるから今度は黙って
見てるんだぞ、いいな!」
そう言うと吉澤は再び地平線の彼方へと消えていきました。

「……別にどうでもいいんだけど」「藤本さん、しーっ」

数十秒後。
だばだばだばだばだばだばだばだば。だんっ。「とぉっ!!」くるくるくるくる、すたっ。

「ハァハァ、吉澤ひとみこと、ヘルメット吉澤、ハァハァ、ただいま到着!
あ、あと、ハァハァ、オレをこれ以上、ハァハァ、詮索するな、ハァハァ、詮索するなぁー!! ゼェゼェ」
「めちゃくちゃ息上がってるじゃん!」

「吉澤さん、お久しぶりです」
「おー誰かと思えばメガジェットじゃないか。ますます巨大化してきてんなー、お前」
「もー、メガジェットって呼ばないでくださいよー」
二人はいつのまにか意気投合し、仲良く談笑し始めました。
アハハハハ イヒヒヒヒ ウフフフフ エヘヘヘヘ オホホホホ
435 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:41
疎外感いっぱいのみきは居たたまれなくなって、強引に話を元に戻しました。
「あのさ! なんであんたがここにいるわけ?」
「なんでって、2レス前の文中で助けてヒーローって呼ばれたからだ」
「いや、2レス前とか意味わかんないんだけど?」
「……あれ? おかしいな、オレ何言ってんだろ?」
「さっきからなんか変なんだよね」
「そうですよね、変ですよね。なんだかさゆお腹空いてきちゃいました」
「文章おかしいから。とにかくあそこの二人を何とかしてあげてよ。あんたが張ったおした二人」

吉澤がみきの指差すほうに顔を向けると、あいぼんさんとののたんが目を回して倒れているのが見えました。
「あ、そうだよ、あいつらに説教しなきゃいけないんだった」
吉澤はだばだばと二人の元へ駆寄ると、二人を無理矢理立たせ、「起きろ!」と張り手を見舞いました。

「イタッ! おんどれ何さらしとんねん!」「ひーん、いたいのれすー」
「うるさい。おまえらヒーローのくせして何やってんだ!」
「え、お二人もヒーローなんですか?」
「なんだメガジェット、知らなかったのか? こいつらは地球戦隊Wだぞ!」

地球戦隊Wは、子供達の平和を守るために結成された、地域密着型の下町ヒーロー戦隊なのです。
436 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:42
「……あのさ、地球戦士≠ネんじゃないの?」
「滝的役割のくせに何を言う。知った口を利くんじゃない。ここでは戦隊でいくの」
「何よその滝的役割って」

滝的役割――それは仮面ライダー一号と二号をなんとかサポートするいっぱんぴーぷる滝和也のことで、
ドラゴンボールでいう所のクリリン的役割に似た感じなのです。

「つまり脇役だ。戦闘員には勝てるが怪人には勝てない役立たずってことだよ」
「ハァ?」
「あれですよ、滝川のシンボルっていう感じですよ」
「さゆ。それはタブーだぞ」
いっけないという感じでみちしげは口元を押さえました。その横では吉澤が腹をプスプスと笑っています。
「笑うな!」

「てかウチらのこと忘れんなや!」「そうなのれす!」
「お、すまんすまん。だって滝川……ボフゥーン」
「だから笑うな! てかそれ笑ってるのか!?」
「とにかく、君達は地球戦隊Wなんだから、ちゃんとヒーローをしなさい」
「へーい」「わかったのれす」

あいぼんさん隊員とののたん隊員は、どこからともなくあの段ボール箱を運ぶような乗り物を取り出すと、
日本に向かって出発しだしました。
もちろんののたん隊員が乗って、あいぼんさん隊員が押しています。
437 名前: 投稿日:2004/08/01(日) 23:42

「辻さーん!」

ののたん隊員が振り返ると、みちしげが走って来るのが見えました。その後ろから、荷物を両手に
抱えたみきが、のろのろとやって来ます。

「やはり、行ってしまわれるんですか?」
「うーん、せったーのかわりはたけしたがいるんれすけろ、あいぼんのぱーとなーはのんしかいねーのれす」
「そんな……、わたしには、まだあなたから学ぶことが沢山――」
ののたん隊員はみちしげが喋るのを防ぐように手を前に突き出し、
「もうみちしげちゃんはりっぱなえーすなのれす。らからのんもあんしんしてぬけれるのれす。ひーろーとの
けんぎょうはたいへんれすけろ、がんばるのれす。それじゃあ」
そう言ってののたん隊員はあいぼんさん隊員と共に行ってしまいました。

やっとみちしげに辿り着いたみきは、「……なんか前と似てるんだけど、デジャブ?」と小さく突っ込みました。
当の本人は、「……辻さん、加護さん、さゆは寂しいです」と泣き顔でした。

「それじゃあオレも帰るよ。また会おう!」と言い、吉澤はだばだばだばだばと走っていきました。
「みき達も帰ろっか」「そうですね」二人は選手村へと帰っていきました。
動物達や外国人も家路につきました。





そして、幸薄そうな色黒の女の人だけがぽつんと取り残されました。名前は石川梨華。通称チャーミー。
石川はむくりと立ち上がると、ピンクのワンピースについたほこりをパンパンと払いました。
払いながら、なにやらブツブツと呟いています。

「ブツブツ何よこの役、ブツブツ完全に放置じゃないのブツブツ、もう人っ子一人居やしないじゃないブツブツ、
だいたいわたしの鞄はどこいったのよブツブツ、まったくもう!」
と、石川はクルリと読者のほうを向き、だばだばだばだばと駆寄ってきました。

「だから最後ぐらいわたしが飾ってもいいよね? それでは皆さんごきげんよう。グッチャー♪」







                        了


438 名前:後書 投稿日:2004/08/01(日) 23:43
とぜんそうは、プリンセスメグを応援します。

『メガジェットみちしげ』はヒーロー物です。怪人とか出てないけどヒーロー物です。
正直怪人の出ないヒーロー物とか書きにくくて仕方ありません。アイデアが浮かびません。
それにしても俺メタ好きだなぁ……やっちゃった感いっぱいだよ……ウフフフフ……。
てかあれは『武士沢レシーブ』最終話のオマージュです。

選手村の規則とか物価とかギリシャ人が屋上でバレーするとかその他もろもろはスルーしてちょ。
あと、324さんと326さんには感謝でいっぱい。ほんとにさんきゅです。
一レスで一気にしたかったんだけどなぁ>AA エラーが出ました……。


極私的カキコ
のの、あいぼん、四年四ヶ月お疲れ様、そしてありがとう。これからはWで頑張ってね。
439 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/08/01(日) 23:44
( ‘д‘) <デモエガオハータイセーツニシターイ♪
440 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/08/01(日) 23:44
( ´D`) <アイスールヒトーノタメーニー♪
441 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/08/01(日) 23:45
( ^▽^)‘д‘)´D`)0^〜^)ノ <FOREVER in your heart
442 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:25






























                                                  模型的な彼女 (仮)

443 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:26




「梨華ちゃん、最近疲れてるんじゃないの?」
ダンスレッスンの休憩時間、休んでいる所を美貴ちゃんに話し掛けられました。
とっさにわたしは嘘をつきました。
「そう? それならいいんだけどね。何か悩み事とかあったら言ってよ? 出来る範囲で
力になるから」
そう言って美貴ちゃんは高橋のところに行きました。

美貴ちゃんはああ見えて(と言えば失礼ですけど)、他人のちょっとした変化に敏感です。
だからわたしの変化――そして先ほどついた嘘――にも気づいたことでしょう。
それでも彼女は深追いしてきませんでした。普段は容赦なく突っ込む彼女ですが、私を
気遣ってくれたのだと思います。
はーい、休憩終わりー、と夏先生が言いました。みんなから溜息が漏れます。
あと二時間の辛抱だ、そう自分に言い聞かせ、わたしは余力を振り絞って踊りました。

あー終わったー、今日もきつかったねー、とみんなが口々に言っていましたが、わたしは
会話の中に入らず、そして美貴ちゃんの視線にも気付かないふりをして、シャワー室に
向かいました。
いつもよりも少し冷たい水を頭からかぶりました。火照った体がどんどんと熱を奪われて
いきます。ある程度冷えたところで温度を上げました。冷やし過ぎはわたしには――そう、
特に今の わ た し には――よくないでしょうから。
444 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:26
シャワーから出ると、矢口さんが着替えているところに遭遇しました。
「あ、梨華ちゃん、このあとさ、一緒にご飯食べに行かない?」
スミマセンわたしちょと用事があるんですと言うと、「またー? 最近梨華ちゃん付き合い
悪くない? あと七ヶ月位しか一緒にいられないのにぃ」と駄々をこねられてしまいました。
わたしは罪悪感を感じつつも、ゴメーン、また今度奢ってねと足早にその場を去りました。
矢口さんは、オゴリかよ! と突っ込んでいました。

わたしはタクシーに乗り込み、家の近くのコンビニで降ろしてもらいました。
正直なところあまり食欲はありませんでした。むしろ吐き気の方が多かったです。それで
もわたしは栄養をつける必要がありました。億劫ですが、食べなくてはいけません。今は
便利な世の中で、栄養だけならサプリメントに頼ればいいのですが、わたしはどうも古い
考えのようで、錠剤なんかは信用できません。
わたしは弁当とおかず数品を持ってレジに向かいました。
今日はいつものレジのお姉さんではありませんでした。

鍵を回し、明るい家に戻りました。明るいというのは比喩ではなく、蛍光灯の光が明るい
のです。エコロジーなミュージカルをしてたのに、と自分でも思いますが、無駄にしている
わけではないので、地球さんも許してくださることでしょう。

ただいまーと声をかけると奥の部屋からゴソゴソと音がしました。

                                        思わず笑みがこぼれました。
445 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:27


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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄  ̄  ̄ ̄ ̄
石川梨華なんか白くない?

1 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:34:31
   最近白いよな?

2 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:34:59
   黒い

3 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:35:11
   目医者逝け

4 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:36:21
   そりゃテニス部時代よりは白いでしょ

5 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:36:27
   ( ^▽^)<しろいよ!

6 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:37:32
   ( ^▽^)<しないよ!

7 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:38:42
   ( ^▽^)<ふぁんでーしょんはつかってません

8 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:39:51
   あれ、俺だけ?そうか・・・

9 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:41:02
   a

10 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:42:06
   ( ^▽^)


446 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:27

                    ◇ ◇ ◇


わたし≠ヘ何もない真っ白な(しかし純白ではありません、古いフィルムのような、濁っ
た白色です)空間に溶け込むように、ただ一人で立っていました。
地面と空の境界線もわからないほどに全てが白い世界は、見ていると目が痛くなりそう
でした。きっと紺野だったら「精神と時の部屋みたいですね」とでも言うのでしょうか。ただ、
ドラゴンボールとは違い、元の世界へと戻る宮殿はありませんでした。

わたし≠ヘあてもなく歩いていました。ただひたすらに歩き続けていました。歩いて、
歩いて、歩いて、また歩いて、休むこともなくわたし≠ヘ歩きました。
わたしは歩くことの繰り返しを見せられ、そしてわたし≠ェその日に――正確には
その前日なのでしょうけれど――わたしが着ていた服や歌の衣装を着て歩くので、目が
覚めると、わたしのカラダは、まるでわたし自身が歩き続けていたかのように疲れ切って
しまっていました。
まったく単調で変化のない嫌な ユ メ ……。

それから毎日わたし≠ェ白い世界を歩く ユ メ を見るようになりました。
一時期からは仕事量が減ったとは言うものの、依然としてハードスケジュールでしたし、
それに加えてつい先日聞かされた、娘。卒業後の新ユニットのために、いつも以上に
ボイトレや腹筋をこなさなくてはいけませんでした。
日々蓄積される疲れを取るためには睡眠が一番なのですが、眠っても疲れが取れない
日が続きました。このままでは過労死してしまう、本当にそう思いました。

ユ メ を見続けて一ヶ月ほどしたある日のことでした。
その日、わたしは吐き気や頭痛、腰痛を理由にダンスレッスンを休みました。
それらの症状は夜になってもっと悪化し、今日食べたものを全て戻してしまいました。
これはやばいな、今日はもう寝よう、明日はオフだから一日中ずっと寝とこう、そう思って、
ノーシンピュアを飲み、口にマスク、首にタオルを巻いて布団に入りました。
あの ユ メ を見ませんようにと祈りながら。
447 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:28

その日の ユ メ はいつもと少し違っていました。
わたしの目にはわたし≠ヘ映っておらず、ただ真っ白い世界だけが網膜に入ってくる
のでした。周囲を見渡してみても、わたし≠ヘどこにもいませんでした。



                                三人称だった ユ メ が一人称の ユ メ になったのです。

不思議なことに、わたしはこれが ユ メ であることに気付いていました。
毎日見ているあの ユ メ でさえも、見ているときには ユ メ であることなどこれっぽっちも
思ったことはありませんでしたが――そんなことは考えもしなかったのでしょう、わたしは
ただの傍観者にすぎなかったのです――、今日ははっきりとわかるのです。
だからと言って、頬をつねるなんてことはしませんでした。
なぜなら一人称のこの世界には、三人称の世界に見えなかったものがあったからです。
いや、もしかするとわたし≠ノは見えていたのかもしれません。きっとわたし≠ヘ
それを目指して歩いていたのでしょう。
わたしは、おそらくわたし≠ェしていたのと同じように、それに向かって歩き出しました。

それはだんだんと大きくなっているように見えました。実際は近づいているからそう見えて
いるだけなのですが、それはVTRで早送りされた植物の成長のように、ぐいぐいと地面か
ら生えていくように思えました。
448 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:28

                                 それはガチャガチャでした。


駄菓子屋やおもちゃ屋、その他もっと色々な場所に設置されている機械です。百円玉を
入れてレバーをひねるとカプセルが出てくるあれが、目の前にありました。
ただ、それはわたしが現実で見たことのあるガチャガチャとはずいぶん違っていました。

まずその大きさ。それはわたしの身長の二倍ぐらい、いやそれ以上ありました。
おそらく四メートルはすでに越しているんじゃないかなと、ふと思いました。それでもガチャ
ガチャは飽き足らないのか、まだ伸びる気配を見せていました。
色は、赤と黒の絵の具がぐちゃぐちゃに混ざったような色でした。なんとも形容し難い色
です。背景が全て濁っているとはいっても所詮は白色なので、とても目立ちます。嫌な目
立ち方です。
そしてその形状。一般的にガチャガチャは直方体だと思うのですが、これは円錐でした。
正確には逆円錐といった感じで、頂点が地に、底面が空に向いていました。わたしより
高い所にあるので、もしかしたら底面は平面ではなく、デコボコしているかもしれません。
でも、そんなことはどうでもいいことです。

こんなものが現実の世界にあれば、誰もガチャガチャだとは思わないでしょう。
しかし、ここで考えなければいけないことは、それが何故ガチャガチャなのかということで
はなく、そのカプセルの中に何が入っているのか、ということでした。
なぜなら、これは ユ メ だからです。 ユ メ の中では、その特異な世界に矛盾を感じない
よう、そこでのみ通用する、正しい――と言っても差し支えのない――情報が刷り込まれ
ていることが多々あります。取扱説明書と言っても良いかもしれません。
今回はそのヘンテコなものはガチャガチャである≠ニいうことが書かれてあったのです。
449 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:29
さて、今のわたしには、その中身に対する情報は入っていませんでした。
何が入っているのかという疑問を解決するのは、簡単なことで、百円玉を入れてレバーを
ひねり、出てきたカプセルを開ければ良いのです。
しかし頭では理解していても、それを実行に移すにはいくつかの問題点がありました。
まず、わたしはお金を持っていませんでした。仮にその問題をクリアしたとしても、百円玉
を入れる穴もレバーも、そして取り出し口もありませんでした――それでもこれがガチャガ
チャであることには変わりありません。

しかし幸運なことに、ガチャガチャはカプセルを一つ、ペッと吐き出しました。
上半分が透明で、下半分が薄緑色……のはずですが、透明の部分はおそらく入っている
ものの色素で赤黒く染まっていたのでしょう、中身を見ることは出来ませんでした。
大きいような、小さいような、わたしにはよくわかりませんでした。

カプセルはわたしが触れる前に自主的に開きました。
と、同時に中から赤黒い液体――おそらく血液でしょう、それ以外には思いつきません
――がこんなに入っていたのかと思うほど、とめどなく流れてきました。
血液にしてはやけに粘性があり、そう、まるでもののけ姫に出てきた変な液体(液体?)
の動きに似ています。それでもこれはきっと血液なのです。
血液は純白だった世界を汚すかのように、ゆっくりと地面を覆っていきました。
不思議なことに、血液は目の前にいたわたしに対しては、下腹部しか染めませんでした
(いや、下腹部だけ≠ニ表現したほうが適切でしょう。血液のその行動にわたしはなに
か作為的なものを感じたのです)。

洪水や大雨なんかの ユ メ を見ると尿意を催したりして目が覚めるものですが、今回は
血液だったせいか、なんだか痛い、と感じただけでした。ユ メ のなかでは痛覚≠感
じることはありませんので、今現在眠っているわたしが痛みを感じたのでしょう。
それでも耐えれないほどではなかったので、幸か不幸か(おそらく後者でしょう)わたしは
ユ メ の世界に居続けました。
450 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:29
目には赤黒いそれの冒涜し続ける光景が、耳には白い世界のつんざくような断末魔の
叫び声が飛び込んできました。地平線に達すると、血液はその欲望の矛先を空という、
新たな獲物に設定したようで、涎を垂らしながら一気に染めていきました。
わたしは、パソコンのペイント機能で赤黒い色のペンキを選び、それを最初の白いキャ
ンバスにクリックする感じを思い出しました。一瞬だったのです。

すっかり世界が一変してしまいました。
凌辱しきって満足したのでしょうか、ようやく血液の排出は終わりました。
そして、カプセルの中に血液で出来たスライム状の球体が残りました。
わたしは両腕を球体の中に突っ込み、その中に入っているものを取り出そうとしました。
手を入れていくにつれて、それまで形を保っていた球体が、ぼぎゅぼぎゅという嫌な音を
たてながら崩れていきます。あまり気持ちのいいものではありません。
わたしは悪戦苦闘しながらも、球体の死骸から血まみれの棒のようなものを救出するこ
とに成功しました。

これ、なんだろう? そう思い、わたしは着ていた服でごしごしと棒の血を拭いました。
綺麗になったところであらためてよく見てみると、それは棒ではありませんでした。
どうして勘違いしたのだろうかと思うほど、それは棒とはかけ離れたものだったのです。

それは透き通るように白い、肘のあたりから切断された右腕≠ナした。

不思議と恐怖感はありませんでした。
それはわたしが血がドバァーと出るような映画が好きだから、という理由ではなく、これ
が ユ メであることを知っているからだと思います。
451 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:29
右腕≠つんつんと突っつくと、ぴくぴくと指≠ェ動きました。
その動作はわたしに親戚の赤ちゃんを思い出させました(腕だけではよくわかりません
が、右腕℃ゥ体は赤ちゃんのものではなく、おそらく五歳ぐらいの腕でしょう)。
手のひらに指を添えてみると、ぎゅっと掴まれました。それはとてつもない力で、わたし
の指先は、見る見るうちに変色していきました。
行き場を失った血のせいで、指先はドス黒く、直径五センチ程度に膨れ上がりました。

                                    あ、破裂する

と思いましたが、その前に右腕≠ェ手を離したのでわたしの指先はしゅるしゅるしゅる、
と元の指に戻りました。
その光景とわたしの表情――きっと間の抜けた、可笑しな顔になっていたのでしょう、こう
いう時、一人称の ユ メ は不便ですね――がそんなにも可笑しかったのでしょうか、右
腕≠ヘきゃっきゃと愉快そうに笑いました。
笑い声は収まる気配を見せず、それどころか逆にドンドンと大きくなり、
ついには


        あ は は は は


                    と、爆笑し始めました。

その勢いで、地面や空に寄生していた血液が――既にカサブタになっている所もありま
した――ひび割れ、崩れ落ちていきました。
血液の剥がれた所は血液の侵食作用か、それとも声圧のせいか、地面にも空にも深い
亀裂が走っていました。わたし自身も、右腕≠フ声圧で、カラダがバラバラになりそう
でした。
その様子がツボにはまったのか、右腕≠ヘ益々大爆笑しました。catastropheです。

長いトキが過ぎ―― 一分、一時間、いや、あるいは一秒程度だったのかもしれません。
そもそも ユ メ の世界で時間を計ることほど無意味なことはありません。 時間は時計に
よって具象化されているものですから、大事なことは、自分がどう感じたか≠ニいうこと
なのです――、すべての血液が地面の上にドロドロと落ちてきて、ようやく右腕≠ヘ声
を発しなくなりました。
452 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:30
一息ついたのも束の間、右腕≠ヘわたしのお腹を指して、今度はニヤリと笑いました。
右腕≠ヘ五指を器用に使って、ズズズ……とゆっくりゆっくり這ってきました。
それは、昔よっすぃと一緒にプレイしたバイオハザードに出てくるゾンビのようでした。

今はよっすぃもいませんし、もちろんゾンビを撃つ為の銃もありません。
何よりあれはただのゲームで、これは ユ メです。 ユ メ といっても、世の中には悪夢や
怖い夢は存在します。あの時よりも今のほうが数倍も怖い状況のはずです。
それでもわたしは何故か、まったく怖くありませんでした。


                      むしろ――。


右腕≠ヘ、わたしの前でピタッと止まりました。そしてその血管が三倍に膨れ上がると、
まるで餌を目の前にした犬みたいに、わたしのお腹に飛びついてきました。
でも当たり前のことですが、右腕≠ヘ犬とは違いました。

右腕≠ヘわたしのお腹に勢いよくぶつかりました。
例えばこれが紙屑だったなら、紙屑が当たって、ぽてっと落ちるだけでしょう。
例えばこれがののやあいぼんだったなら、わたしは吹っ飛んでいるだけでしょう。
例えばこれが鋭利な刃物であれば、わたしはうずくまって血を流しているだけでしょう。
しかし、右腕≠ヘわたしの予想を越えていました。

右腕≠ヘ、指先から溶けるように消えていきました。
抵抗する間もありません。わたしはそれを受け入れざるをえませんでした。
右腕≠ヘ、服や、皮膚、筋肉、血管、脂肪、その他のものを通り抜けて、わたしのお腹
の中に潜り込み≠ワした。
何か得体の知れない異物――といっても、正体は右腕≠ネのですが――が、わたしの
お腹の中を掻き乱しています。
                             ねちゃり ねちゃり ねちゃり
まるでわたしを弄ぶかのようでした。
わたしという存在、わたしのカラダの組織、が組み替えられていくようです。
わたしはその場に膝を付きました。立っていられなかったのです。

キ――ンと鋭い痛みがして、血が太ももを伝いました――。


453 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:30

わたしは目を覚ましました。真っ暗でした。かつてないほどに最悪の目覚めでした。
なんて気持ちの悪い ユ メ なんだろう……、思い出すたび吐き気がしました。心なしか、
口の中がとても酸っぱい感じがします。体中も汗ばんでいます。
今何時ぐらいだろうと思い、わたしは枕元の携帯をとろうと体をひねりました。
その時、太ももが何かぬるぬるしたものに当たったのに気がつきました。

……気持ち悪いな。なんだろうこれ。
寝惚け眼のまま、もぞもぞと太ももを擦らせてみました。寝ているうちにパジャマを脱い
でしまっていたようなので、それかなとも思いましたが、どうも感触が違います。
働かない頭を使って色々考えを巡らせていましたが、論より証拠、わたしは布団の中に
手を入れて、弄ってみました。

                             ネチャッ

嫌な感触がし、思わず眉間にしわを寄せました。
引き抜くと、指の間にねばーっと糸が引いており、それが月明かりにキラキラと反射して
いるのが見え、手は真っ赤に染まっていました。鉄の臭いで咽そうになりました。
わたしは完全に目が覚めました。なにこれ? なんかやばいんじゃ――。
するといきなりわたしの足に重みが加わりました。息が止まり、背筋が凍りつきました。
わたしはおそるおそる布団を引き剥がしました。


        血塗れの布団の上に、右腕≠ェありました。

454 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:30

                    ◇ ◇ ◇


膝の上に右腕≠乗せながらコンビニ弁当を食べていたわたしは、初めて右腕
産んだときの事を思い返していました。
今思えば笑い話ですが、その時のわたしは正常な判断が出来なかったのです。だって、
自分の子供が右腕だけだったなんて信じられますか?
わたしがクスクスと笑うと、右腕≠ヘどうしたのとでも言うようにわたしのTシャツをぐい
と引っ張りました。なんでもないわよ、とわたしは静かに撫でてあげました。よっぽど気持
ち良いのでしょう、右腕≠ヘすぐにうとうとし始めました。


――あのあと、わたしはイヤイヤを繰り返し、迫り来る右腕≠ノ、そこらじゅうのものを
投げつけました。明らかに幼児虐待です。でもそのときのわたしはパニック状態に陥って
いました。わたしにとって、ホラー以外の何物でもなかったのです。
ついに右腕≠ェ泣き出してしまいました。無理もありません。自分の母親に虐げられて
いるのですから。
泣き声を感じた途端、わたしの中で、なにかが弾けました。どうしたのでしょう、急にその
右腕≠ェ愛しく感じられたのです。
あぁ、わたしはなんて酷いことをしてしまったんだろう、あんなにも怯えてるじゃない!

自然と涙が溢れてきました。まるで私の犯してしまった罪を洗い流すかのように止めどなく
流れて、気づいた時には、まるで赤ん坊のようにワーワーと泣き出してしまっていました。
と、頬に温かな感触がありました。見ると、それは右腕≠ナした。

右腕≠ェわたしの涙を拭ってくれていたのです。先程まで暴力をふるわれていたのに
も関わらず、わたしを慰めてあげようと一生懸命になっているのです。そのいじらしさに、
益々涙してしまいました。まったく、どっちが子供なんだかわかりません。
嗚咽しながら、わたしはつい先程までの自分を責めました。そして二度と、この子≠
悲しますようなことはしないと誓ったのです――
455 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:31
すっかり眠ってしまったのを確認すると、わたしは右腕≠そっと抱き、隣の部屋へと
向かいました。ベッドに寝かせると、右腕≠ヘ何かを握るような動作をしました。思わず
口元がゆるんでしまいます。どんなユメを見ているんだろう。いや、赤ちゃんはユメを見な
いんだったかな。
タオルケットを掛けてあげましたが、いつものように、すぐ引き剥がしてしまうでしょう。右
腕≠ヘとても腕白で、寝相が悪いのです。

それに比べると、隣にいる左足≠ヘとても行儀よく、すやすやと寝ています。
だからといって、左足≠ェ右腕≠謔閧燉Dれているとか、劣っているとか、そういう問
題ではありません。これは個性であって、わたしにとってみれば、右腕≠熈左足≠
どちらも可愛い、そして賢い我が子≠ネのです。わたしがハワイに行っていた時だって、
キチンとお留守番できていましたし。帰ってきたときは随分と泣きつかれましたけど。

安らかな寝顔を眺めていると、不意に頭が痛みました。
ズキズキとしたこの痛み、そういえば、時期的にはそろそろです。もう一ヶ月経ってしまっ
たのですね。今年の夏ももう終わり。最近特に時間が早く感じられます。二十歳を過ぎる
と急に早く感じるそうです。わたしはまだ十九歳ですが。きっと中澤さんはトンでもなく早い
のでしょうね。

明日は美勇伝新曲のスタジオ歌収録。三好ちゃんはともかく唯ちゃんは大丈夫だろうか。
リーダーのわたしが引っ張らなくっちゃ。でも体力がすぐに回復するのかなぁ……、いや、
そんなことで弱気になってどうするのよ石川梨華。ポジティブポジティブ!
いつのまにかうとうとしだして、わたしは ユ メ の世界へと旅立ちました。

456 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:32


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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄  ̄  ̄ ̄  ̄ ̄  ̄ ̄ ̄
石川梨華なんか白くない?

1 :名無し募集中。。。 :04/08/29 12:34:31
   最近白いよな?

217 :名無し募集中。。。 :04/08/30 21:44:31
   いや、あれは白いぞ。おそらく鈴木その子だ。

218 :名無し募集中。。。 :04/08/30 21:45:11
   >203


219 :名無し募集中。。。 :04/08/30 22:08:46
                                    。___________。
                 ___ハヽヽ☆______  | 歌はね、          |
                〃  ∩从^▽^从        〃⌒i 上手い下手じゃない。.|
          ____|   ヽヾ "゙"゙"゙)    ..__i:::::::::::i 良いか悪いかなんだ。 |
         [__]___|    /⌒ヽ   〈 |ミ   [_]  :::::::::|.       ‐ 石川梨華 ‐│
          | ||___|___./ ソ ,'ヾ ノ ミミ,,,_,| ||    ::::::| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ゚̄
          |(______ノ /    | (_ノ__::| ||    ::::|
          | LLLLLLLL ゝ〜んソ  ゙|LLLLLL:| ||二二二_」
          |_||        し'.ノ^、_.ゝ     |_||     l_ll "'"'"'"
         "'"'"  "'"'""   (_ノ    "'"'"  "'"   "'"'"
                  "'"'"'"'"'""'     "'"'"'"'"

220 :名無し募集中。。。 :04/08/30 22:09:37
   昨日のハロモニは白かった気がしないでもない
   その子マンセー
457 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:32
221 :名無し募集中。。。 :04/08/30 22:12:02
   ( ^▽^)<やせたいひとはたべなさい

222 :名無し募集中。。。 :04/08/30 22:30:52
   (0^〜^)∬ ´▽`)( ‘д‘)←食べたい人たち

223 :名無し募集中。。。 :04/08/30 22:38:27
   ( ^▽^)<たべたいひとはやせなさい

224 :名無し募集中。。。 :04/08/30 22:41:47
   よすぃこはやせたよね

225 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:00:35
   ライト当てまくりで白く見えたんだろう

226 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:02:12
   それでも( ^▽^)は黒い

227 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:04:03
   塗りたくってるんだよ
   もしくは貧血

228 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:04:55
   白いよな、漏れもそう思ったんだけど

229 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:05:29
   ( ^▽^)<まっしろになーれ ホイッ

230 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:05:33
   辻より白くなかった?

231 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:05:57
   そこまでは白くないかと・・・

232 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:06:26
   言いすぎた・・・

233 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:06:44
   ( `D´)<りかちゃんといっしょにすんな!なのれす

234 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:07:19
   ( T▽T)<人間って悲しいね…

235 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:07:54
   ハワイ行ったけど焼かなかったのか?

236 :名無し募集中。。。 :04/08/30 23:08:02
   >229
   黒魔術ですか


458 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:33




「あのさ、梨華ちゃん大丈夫?」
メイク中、美貴ちゃんに話し掛けられました。大丈夫って何が? と返しましたが、
「いや……何が、ってことでもないんだけどさ」と言葉を濁されました。
もう、変なミキティ、なんてわたしは笑い飛ばしましたが、自分の体のことは自分が一番
よく知っています。最近疲れやすくなっているのは事実です。めまいがすることもしばしば
で、これは人から注意されて気付くのですが、ボーっとしていることも多いそうです。この
前は唯ちゃんに突っ込まれてしまいました。少しショックです。

しかし一番の変化は体の色でしょう。お風呂に入る時など、鏡で自分の裸を見る度思う
のですが、あきらかに色が白くなっています。流石によっすぃほど白いわけではありませ
んが、前ほど黒くはないのです。これで体調が悪化していたら悪い病気なんじゃないかと
も思ってしまいますが、むしろ快調なので何も心配していません。二十歳に近付いて、体
質が変化してきたのでしょうか。
今では鏡の前に立つ度に、コレでわたしも色白美人ね、なんて言ってみたりなんかしちゃ
ったりして。

そんな時、背後から女の子≠フ溜息をつい聞いてしまうと、何とも言えない感じになっ
てしまいます。例えるなら、男の子が鏡の前でボディビルダーの真似をしている所をママ
に見られたときのような感じでしょうか。わたしの場合は親子の関係が逆転してしまって
いるので、余計に決まりが悪いのです。メンバーはまだしも、流石に自分の女の子
から呆れられてしまっては堪りません。
そう、我が子≠ェ女の子≠セと気付いたのは、つい先週胴≠産んだ℃桙フ
ことでした。その日まで性別すら知らなかったなんて、情けないったらありません。
459 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:33
胴≠ヘ、産まれたその日から、六人≠ニ仲良く遊んでいました。
仲の良い七人≠ヘ、次の日には四人≠ノ、そしてまた次の日の朝には一人≠ノ
なりました。一体化したのです。どうして彼女達がくっ付いてしまったのかはわかりません
が、彼女達は不思議そうな顔をしながらも、とても嬉しそうでした。女の子≠ェ嬉しいと、
わたしもハッピーになってしまいます。その日はずっと遊んでいました。

とても不思議なことですが、子供の成長は早いのです。一人≠ノなった女の子≠ヘ
益々好奇心旺盛になり、ぱたぱたと走り回っています。わたしが、そんな所にお絵描きし
ちゃダメでしょ、なんて小言を言うと、ぷぅと膨れたりするのがわかります。その様子がま
た可愛くて可愛くて。今ではすっかり親バカになってしまいました。
あと三ヶ月でわたしは残りの三つの部分――左上腕∞左腕≠サして頭=\―を
産むのでしょう。早く、完全な女の子≠見てみたいなと思います。
娘。に居られる時間も、もう残り三ヶ月ちょっとです。仕事もそしてプライベートも、わたし
はとても充実していました。

お正月用のテレビ収録が終わり、メンバー達と食事する予定だったのですが、わたしは
マネージャーから、事務所に来るように言われてしまいました。せっかく矢口さんに奢って
もらおうと思っていたのに、残念です。
失礼します、と会議室に入ると、そこにはつんくさんが座っていました。
460 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:38

「おう石川早速やけどなお前に話があんねんまた年始に発表しよか思うたんやけどなそ
れやったらまた一月の六日とか七日になるやろそれも芸ないな思うてな今度は元旦に新
聞発表したらええんちゃうかとも思うたんやけどそれは紅白に負けてまうやろ衣装対決が
どうのとかあと民放の視聴率に話題取られてまうそこで今度は年開ける前の十二月三十
日に発表すんねん去年の藤本加入今年の辻加護卒業に続く年始計画第三段やいや年
末年始の大計画っちゅーたほうがええなどうやこれ?アカンか?まあええわほんでな確か
に去年今年に比べたら少し話題性は欠けるかもしれん加入卒業と来たらもっと凄いもん
を待っとるからなそしたらこれは少し弱いもしかしたら新聞もそれほど扱ってくれへんかも
しれんせやけどな悪いようには流れへんあそうそうあの二人のことやとりあえずデュオで
やらすことにした一人か二人加入させよか思てんけどなもともとお前のために作ったユニ
ットやったけどあいつらも随分化けたし二人でも大丈夫やろ心配することあらへんそれに
しても俺の予想を越える奴が多くてかなわんな嬉しい誤算や話は戻るでお前のことやけど
もう曲を作ったんやお前の声にあったエエ曲や歌番組もメジャーな所は押さえるつもりや
北は北海道から南は博多までキャンペーンも行ってもらうと言っても公開ラジオなんかが
主やピンでラジオやっとるからトークも上がったやろ今回は握手会やミニライブはやらん
そん次は写真集を出すここでお前のフォトジェニックさを存分に見せたれ少女やのうて女
としての石川梨華やわかるやろほんでドラマにも出させてもらうテレ東の正月ドラマよりも
もっとエエ役やこれから急がしなんでお前やったらきっと松浦に匹敵するいやそれ以上の
存在になれるかもしれん期待してんでほなな」

461 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:38
一方的に捲し立てると、つんくさんははっはっはと笑いながら去って行きました。
わたしには何のことだかさっぱりでした。そもそも、年末に何を発表するのでしょうか。
何が何だかさっぱりわからず不思議に思っていると、不意にポケットが振るえました。
メールでした。


   2004/12/23 20:48
   from ごっちん
   sub おめでとー
   ―――――――――――――――
   鐔居蒐鐓?衆鐔わ什鐓??鐔逸?鐓??
   鐔逸?鐔
   假スカ??スャ?晢スソ?幢セ費セ呻セ晢セ?セ
   橸スッ??
   鐔居?鐓??鐓?衆! 鐓??鐓??鐓??鐔假
   スカ??スャ?晢セ会スカ?シ?ョ?ウ?假スョ?ク??
   セセ?セ橸スウ?カ???ッ??スイ?ウ?会セ奇スア
   ?晢セ?セ橸スケ??セ??コ?暦スコ??
   鐔誌讐鐔件?鐔鰹??鐔鰹?鐔醐?鐔??
   鐔件?鐓鐔?種修ナッチ鐔件蒐鐓??鐔?
   駈?鐔??鐓??鐓?鐔鐔?器?鐓??鐓?週
   鐓?蹴鐓


へ? 何コレ? 全然読めないじゃない、と思わず口に出してしまいました。こんなメール
は初めてです。まったくわかりません。ごっちんは何を言いたいのでしょうか。件名から察
するに、何かを祝ってくれているのかもしれませんが、なんだかイタズラのようにも思えま
す。からかわれているのかも知れません。
何を送ったのか、ごっちんにメールで聞こうとしましたが、不思議なことに何度送っても送
信エラーになってしまいました。それならばと電話しようとしましたが、圏外です。先程まで
は、確かに三本立っていたはずなのに。いったいどうなっているのでしょうか。
462 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:39
わたしはもう一度、今度は丁寧にメールを読んでみました(正確には文字を追っていただ
けですが)。すると、ナッチという文字があることに気付きました。他の文字が変な漢字だっ
たり、?だったり、セやスだったりする中で、ナッチだけが異質のような気がします。
安倍さんと何か関係があるのかなと思っていると、また携帯が振るえ出しました。それは
上手い具合――というよりも、むしろ作為的な、まるでシナリオがあるかのように――安
倍さんからの電話でした。

「あ、もしもし、梨華ちゃん? いやー良かったねぇ。おめでとう」
わたしはつい反射的に、はぁ、ありがとうございます、と返事をしてしまいました。それが
伝わったのか、「ん、どうかしたの?」と言われてしまいました。

実はですね、何がおめでとうなのかさっぱりわからないんですけど。
「え、つんくさんから聞いたんじゃなかったの?」
えーっと、話は聞いたんですけど、一方的に話されたというか、何が話したかったのかが
よくわからなかったんです。そのすぐ後にごっちんからもメールが着たんですが、変な漢
字とカタカナとハテナマークばっかりで、まったく読めなかったんですよ。でもそこにナッチっ
ていう文字があって、安倍さんと関係あるのかななんて思ってたら、ちょうど安倍さんから
電話がかかってきたんです。だから何も知らないんですよ。
え、なっちから? あれぇ? おかしいな? という安倍さんの声が聞こえました。
「まあいいか、それよりも、ほんとに知らないの?」
? はい、知りません。
463 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:40
「あのね、梨華ちゃんは娘。卒業して、そvcfrygt87546う4い9ぱおcんxwmjcんhすrj
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464 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:41
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465 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:41
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yb64¥yべ――」



ふと気がつくと、電話はもう切れてしまっていました。
結局その日、ごっちんと安倍さんには連絡がつきませんでした。

466 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:44


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石川梨華(白)184

1 :名無し募集中。。。 :04/12/26 09:45:53
   やばいほど白くなってしまった梨華ちゃんを応援&心配するスレ
   過去スレは>2参照

678 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:29:48
   おとついのMステよりはましか

679 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:30:15
   あれはやばかったな。なんか死人みたいな顔色だった  

680 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:30:33
   ハロモニ撮ったの2、3週間ほど前か
   加速度的に白くなってる気がする

681 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:30:52
   腕とかやばいな

682 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:31:38
   M捨て見逃した。どこかに画像ない?

683 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:32:01
   黒いほうがよかったな。なんか違和感がある

684 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:32:50
   >682
   >21

685 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:33:32
   ( ^▽^)<しろいよ!

686 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:34:11
   おれも黒いほうが健康的でハアハア
467 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:44
687 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:34:29
   >682
   ありがと
   これは白すぎるな・・・

688 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:34:52
   自分にレスしてどーする
   >684 ありがと

689 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:35:06
   おれのは黒くてハアハア

690 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:35:14
   しろいよ! が しないよ! に匹敵してるのがいやだ

691 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:35:47
   ( ^▽^)<するよ!

692 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:36:27
   よっすぃみたいに健康的な白ならいいが、死にそうな白はいやだな

693 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:37:03
   でも一番笑顔だぞ

694 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:37:54
   青白いし、やっぱり貧血? でもあんな踊ってたしな

695 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:38:38
   貧血ならいいけど

696 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:38:59
   おしろいならいいけど

697 :名無し募集中。。。 :04/12/26 12:39:22
   小麦粉ならいいけど

468 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:45


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石川梨華(白)212

1 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:21:31
   やばいほど白くなってしまった梨華ちゃんを応援&心配するスレ
   過去スレは>2-参照

5 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:22:44
   乙

6 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:22:48
   また重複してるよ

7 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:22:53
   どうだろう、売れるかなぁ

8 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:22:59
   >1 おつです

9 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:23:02
   あっちのほうが出来たの早いな

10 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:23:03
   >1 otu

11 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:23:10
   どっちで語っても一緒 すぐ1000
469 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:45
12 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:23:17
   タイトルからまだマシっぽいけど

13 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:23:32
   ( ^▽^)うまくうたえる!

14 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:23:40
   dだっぽい?

15 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:23:44
   石川梨華(白)212が3つもあるな

16 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:23:58
   dだの?

17 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:24:30
   dだ

18 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:24:52
   楽曲がよければそこそこ売れるだろ

19 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:25:12
   人大杉

20 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:25:19
   年末だ

21 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:25:21
   ( ^▽^)<うれるよ

22 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:25:45
   年末ジャンボ3億円

23 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:25:56
   握手会しないかな・・・

24 :名無し募集中。。。 :04/12/30 19:26:13
   誰でもいいからいい曲作れ


470 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:45


二千五年三月二十七日、さいたまスーパーアリーナにて、
わたし石川梨華は、モーニング娘。を卒業しました。
泣かないでおこうとは思ったものの、みんなが一言一言声をかけてくれる時に、堪え切れ
なくなって大泣きしてしまいました。モーニングのみんなとは、これで会えなくなる訳ではな
いのですが、モーニング娘。の一員として、一緒に歌ったり踊ったりすることが出来なくな
るんだと思うと、涙が溢れます。
最後の曲は、みんな――今日が初コンサートの七期の子も――泣きながら、笑顔で歌い
ました。ピンク色のサイリウムに照らされながら。

コンサート終了後、見に来てくれていた先輩方や柴ちゃん達と一緒に打ち上げをしました。
慣れないお酒を飲みながら、いっぱい写真を撮って、いっぱい話して、いっぱい泣いて、
そして、いっぱい笑いました。


家に帰ると、これで終わったんだなぁという思いでいっぱいでした。
微酔いのまま、布団に潜り込みました。おそらく今夜、頭≠産む≠ヘずです。
どんな顔をしてるんだろう、きっとわたしに似て可愛いんだろうな、顎はしゃくれてなかっ
たらいいな、なんてことを考えながら、わたしは ユ メ の世界に行きました。


471 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:46




ガチャガチャを見るのも十回目になります。わたしが正面に立つと、ガチャガチャはカプ
セルをペッと吐き出しました。そしてわたしが触れる前に、カプセルは開きました。
これまでの場合、この後大量の血が排出されて、わたしの下腹部と白い世界が血塗られ、
それが終われば、カプセルの中のスライム状の血液の球体から我が子≠取り出し、
あとは彼女≠ェ大声を上げて笑い、わたしのお腹の中へと消えるのを待つだけなので
すが、今回は少し様子が変でした。

カプセルは開いたまま、何も起こらないのです。不思議に思って近付いてみると、その中
にはこれまでとは違う、おかしなものがありました。

              そこにあったのは、大きな鉈でした。

それを見た瞬間、わたしは全てを理解しました。わたしは鉈を両手で持つと、迷うことなく
切っ先を首筋に宛がいました。
わたしは鉈で、自分の首を切断しなくてはならない
理由なんてありません。そう決まっているのです。
わたしは両手に力をこめました。刃がすうっと首に差し込まれていき、
                                              ぷつん
と、いとも簡単に首が体から離れました。

首はゴロゴロと白い地面を転がっていきます。その光景を、わたしは 見 て い ま し た。
不思議なことに、わたしの視点は首があった時からまったく変わっていないのです。よっ
て、わたしの視界には、わたしの首が映っているのです。
一人称視点と三人称視点の入れ替えでも起きたのでしょうか、それとも先程切ったはず
の首は、本当はわたしの首ではなかったのでしょうか。
472 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:46
首はゴロゴロと転がった後、顔をこちらに向けて停止しました。苦痛に歪んでいるわけで
もない、ひどく無表情なその顔は、わたしの顔のように思えました。いや、その考えは間
違っているかもしれません。日頃あんなにも自分の顔を見ているというのに、わたしは自
分の顔の判別に自信がもてなくなってきていました。
わたしはあんなにも眉が薄かっただろうか、おでこの横にホクロがあっただろうか、一度
疑い出すと切りがありません。髪の毛の色はあんなだっただろうか、もっと目は大きかっ
たんじゃないか、あんなにもしゃくれてたっけ、鼻も耳もほっぺも口も――。

そして、わたしはあれほどまで 白 か っ た だろうか。

わたしはふと、どうして首を切られたのに血が一滴も流れないんだろうと、不思議に思い
ました。

すると突然、わたしの首が目を見開きました。そして白い世界がガラガラと崩れていきま
した。まるでジグソーパズルのピースが地震によって少しづつ剥がされていくかのように、
バランスを保っていた世界が崩れていくのです。
剥がれた後には、何も残りません。わたしはすぐに逃げようとしました。何処かに逃げれ
るような所があるのかどうかもわかりませんが、ここにいては危険だと思ったのです。
しかし、わたしは動けませんでした。わたしの目に見つめられ、その眼力によってか、ど
うしても動けなかったのです。

白い世界が崩れていきます。
わたしは首の辺りを圧迫され、目に見守られながら意識を失いました――。




  闇の中 光を求めてわたしは彷徨う

  その光が 例え食人種の宴の炎であったとしても

  その光に この身を滅せられたとしても

  光があれば 光さえあったなら

  わたしは彷徨わずにすんだのに



473 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:46
首に強烈な圧迫感を感じ、わたしは目を覚ましました。
すると女の子≠ェ物凄い力でわたしの首を締め付けています。こんな小さな体のどこ
に、これほどの強い力があるのでしょうか。いや、 ユ メ の中で、わたしは指を破裂され
そうになったことがあったことを思い出しました。
今の状況で、わたしは成す術もなく、

                        ぷちん

と首を捻り千切られてしまいました。首はコロコロと転がっていきます。 ユ メ とは違い、
わたしの視界も回っていました。

女の子≠ヘわたしの髪の毛を掴み、ズルズルと引っ張っりました。着いた先は鏡の前。
わたしの頭を持つと、女の子≠ヘ自らの首へと持っていきました。

   首≠産むのではなく、わたし自身が女の子≠フ首≠ノなったのです。

しかし鏡に映った姿は、可愛いとは程遠いものでした。わたしの顔は苦痛に歪んでいまし
たし、なによりバランスが悪すぎます。いくらわたしの頭が小さいとはいえ、五歳児の体に
は少し大き過ぎるのです。
女の子≠ヘわたしの顔を笑顔にし、今度は両手で押して頭を小さくしようと躍起になっ
ていました。しかし大きさは変わりません。頭蓋骨は少々の力では変形しませんし、まして
や小さくするなんて、常識では考えられないことなのですから。

女の子≠ェイライラするのを見て、わたしは不甲斐なさでいっぱいになりました。
わたしは我が子≠フ些細な欲求も、叶えてあげることが出来ないのです。なんて酷い
母親なんでしょうか。わたしは声にならない声で謝り続けました。
しかし、ごめんで済めば警察は要らないのです。女の子≠ノとって、わたしの謝罪など
無価値なのです。
474 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:47
女の子≠フイライラが頂点に達したのでしょう、わたしを掴むと窓に向かって、勢いよく
投げつけました。わたしは窓ガラスを破り、空へと飛び出しました。
ここは地上から何十メートルもあります。おそらく助からないし、助かるべきでもないでしょ
う、そう思っていました。次第に地面が近付いてきます。あと十メートル、五メートル、三メ
ートル、一メートル、そして――。


                        ぼんよよよん


わたしは地面にぶつかると、まるでゴム鞠やスーパーボールのように勢いよく跳ね、再び
上空へと舞い戻ってしまいました。
再び落下します。そしてまた跳ねます。初めて知ったのですが、人間の頭は意外と弾力
性があって、跳ねるんですね。わたしは、ぼよんぼよんと跳ねながら移動していました。

しかし、地球には重力があります。ついにわたしは跳ねるのを止めてしまいました。
ここはどこだろう、と転がりながらわたしは思いました。今はちょうど顔が地面に向いてい
るため、周りの景色がわからないのです。顔の筋肉を使って、なんとか動こうとはしてみ
ましたが、無駄な努力のようでした。

と、顔にかすかな震動が響きました。誰かの歩行の震動だろうか、そう思って、わたしは
あることに気がつきました。
音が聞こえないのです。足音も、風の音も、何も聞こえません。
何時頃から聞こえなくなったんだろう、そういえば跳ねている時に自動車の音を聞いただ
ろうか、窓ガラスの割れる音は?
475 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:47
必死に記憶を探っていると、いきなり視界が開け、わたしは上昇しました。誰かに持ち上
げられたようです。わたしの目線が半回転しました。そこには一人の女の人が立っていま
した。この顔、何処かで見たことがある、誰だったっけ……。

「                                                    
                             
                                                    
                              」

彼女は何かを言いましたが、わたしには聞こえません。読唇術の心得もないので、何を
言いたいのか、さっぱりわかりませんでした。

彼女は、少し釣り目気味の目を不思議そうにし、眉をひそめて「きこえないの?」と言っ
たように見えました。わたしは頷こうとしましたが、首が千切られているため出来ません
でした。彼女はハァ? とでも言いた気な、そして怒ったような顔をしました(表情から察
するに、彼女はどうも怒り慣れしているような感じがしました)。

彼女はわたしを持つと、塀の上に置こうとしました。しかし上手く立つことが出来ません。
どうしても左側に傾いてしまいます。彼女は何度かトライしたあと諦めたのか、わたしを
横向きに置きました。

彼女は、ちょっと待っててね、というようなジェスチャーをすると、肩にかけていた鞄をゴソ
ゴソと探りました。そして取り出した物――というよりむしろ者――に、わたしは驚いてし
まいました。
476 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:47
それは首のない女の子≠ナした。わたしの子≠ノも似ていましたが、この子≠ヘ
三歳児ぐらいの大きさで、その……、SM縛りとでも言うのでしょうか、そのようなことをさ
れていました。縄が皮膚に食い込むぐらい、とてもきつく縛っていて、非常に可哀相な有
様でした。おもわず目を背けたくなります。

「                                          
                                                    
                                                     
                                          」

彼女は何かを言うと、女の子≠鞄の中に入れ、わたしもその中に入れました。
そして彼女はゆっくりと歩き出しました。

鞄の中で、わたしは女の子≠フ泣き声を聞きました。とても悲しい泣き声でした。
わたしは女の子≠何とか助けてあげたいと思いました。自分の子≠ノ、何も出来
なかった分、せめてこの子≠ノは何かしてあげたかったのです。
わたしは女の子≠フ縄をなんとか噛み千切ろうとしました。絶対に助けてあげるんだ、
そう強く思いながら。いつしかこの子≠ノ我が子≠重ねていたのでしょう。罪滅ぼ
しがしたかったのかもしれません。

時間はかかりましたが、何とか噛み千切ることが出来ました。彼女≠ヘ縄を解くと、わ
たしにありがとうと言い、鞄の口から勢いよく飛び出しました。

そしてわたしは浮遊感を感じました。次の瞬間、鞄が落下しました。
額にガンッと強い衝撃を受け、一筋の血が流れました。
わたしにもまだ血が流れていたんだ、鞄の暗闇の中で、そのことにひどく安堵しました。

外ではなにやら揉めているような感じがします。ここから先は、わたしの入る余地はありま
せん。彼女と女の子=A二人の問題なのですから。
477 名前: 投稿日:2004/09/19(日) 00:48


辺りはしんと静まり返りました。わたしの血液がどくどくと流れる音だけが、場違いのように
響いています。血液はゆっくりと鞄の中を充たしていき、既に鼻の穴を塞いでしまいました。
今は口の端っこから何とか息をしていますが、それも時間の問題です。わたしはこのまま
溺れ死んでしまうのでしょう。……少し、悔しいな。

























                                                         アップルアップル

                                                             了

478 名前:後書 投稿日:2004/09/19(日) 00:49
個人的に、とぜんそう最高傑作だと思うよ、うん、多分そうじゃないかな。
ということで五月上旬→六月下旬→七月上旬あぷ予定作品でした。脱稿まで長かった。
梨華ちゃん卒業発表だの美勇伝だの七期だの、この数ヶ月に色々な要素があって、
一部(むしろ全部)強引ですが、より無茶苦茶(処女詩?まで書いちゃった。突っ込み厳禁)で、
より良いものが出来ました。ヤな大人みたいな意見だな……、 ( ^▽^)大の大人がふぉー
おそらく二度と近未来系のリアルは書かないでしょう。もうこりごりです。
読後感がえらくちゃいてーですが(コンサートの所を書いてるときは、ラストを知ってるだけに、
俺は何しようとしてるんだろう、と自己嫌悪に陥りました)、あくまで妄想なんで勘弁して下さい。
今は梨華ちゃんに対する罪悪感で胸が張り裂けそうです。いっそのこと、張り裂けてしまえばいいのに!
ちなみに、『硝子の少女』(十五回短編企画投稿作品)と文その他が似てるっぽいけど、
こっちのほうを先に書いてたから、あっちが似てしまった感じ。つまり妹ね、姉妹作品。
ほら、幸薄姉妹だ、わっはっは。

次はそんなあの人の誕生日に更新。気長にお待ち下さい(保全レス≠ヘ要りません)

P.S.
娘。春コンって五月まであるんだね。今日知ったよあはははは。
479 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/09/19(日) 00:49
川VvV) ( ^▽^)               ( ´ Д `)从‘ 。‘从(●´ー`) コーイノ ピロリンピロリン♪
480 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/09/19(日) 00:50
…… 川VvV) (^▽^ ) ……
481 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/09/19(日) 00:50
グスッ 川つv T)⊂(^▽^;) オロオロ
482 名前: 投稿日:2004/10/10(日) 23:55


特別企画

ヘルメット吉澤VSメガジェットみちしげ


483 名前: 投稿日:2004/10/10(日) 23:55
ヘルメット吉澤とメガジェットみちしげが机の前に立ちました。机の上には大きめの洗面器。もちろん
水がいっぱい入っています。
二人を洗面器を掴み、すぅーと息を吸い込みます。吉澤は口から、みちしげは鼻から。
吉澤のせーのという合図で二人は顔をざんぶとつけました。



     第一試合
              どちらが長く顔を水中につけていられるでしょうか対決



水の中でみちしげはぎゅっと目をつぶり、口をつぐんでいます。一方の吉澤は目を大きく見開いて、
まるであややのマネをしているかのようなおすまし顔です。さすがはヒーローといった様子。

さて、まだ新米ヒーローのみちしげの口から泡がぽこぽこと漏れてきました。
足をバタバタとさせ、その表情も苦しそうです。
そしてついに耐え切れなくなったのか、ボコッと大きな泡を吐き出したかと思うと、みちしげは
ブハッと顔をあげました。始まってからまだ二十四秒しか経っていません。
本当にヒーローなのでしょうか?

「ゴホゴホッ、すーはー、すーはー。あー、しんどい」
いっぱいいっぱいのみちしげの横で、吉澤はいまだに顔をつけ続けていました。
もしかして、わたしが顔あげたこと気付いてないのかなぁ? ……ラッキー!

みちしげの中に純粋な感情が生まれました。決してズルしようという意図があったのではありません。
まだ子供なのです。
息を吸い込むと、みちしげはもう一度顔を水につけました。
484 名前: 投稿日:2004/10/10(日) 23:56
二十秒後、再びみちしげは顔をあげました。ゲホゲホと咳き込みます。
みちしげをかばうようではありますが、いくらヒーローとは言っても苦手なものはあります。
例えばウルトラマンは地球では長期戦が出来ません。仮面ライダーも変身途中は無防備です。
それと比べると息が続かないのは可愛いもんです。
いざとなれば紺野博士でも登場させればいいのです。きっと魅力的な道具を作ってくれることでしょう。

吉澤はというと、先程からピクリとも動いていません。あやや顔のまま、ごくたまに鼻からぷくっと
泡が出るぐらいです。といってもまだ五十秒程度なので、驚くに値しないのですが。

みちしげはそんな吉澤の様子をぼーっと見ていました。
なんでこの人こんなに頑張ってるんだろう?
それは吉澤がとんでもなく負けず嫌いだからなのですが、そのことをみちしげは知りませんでした。

始まってから二分三十秒が経ちました。この頃になると、あやや顔も前田健になってきて、
口からボコボコ泡が漏れてきます。
そろそろかな? と、みちしげは息を吸い込み、顔を水につけました。
なんて無邪気なんでしょうか。この場にみきがいないのが悔やまれます。

その後すぐに吉澤は顔をあげました。
「ブハッ、ゴホッゴホッ、ぜーはーぜーはー、ぜーはーぜーはー」
肩で息をしながら、吉澤は自分の時計を見ました。二分三十五秒が経過していました。
「自己ベスト(二分四十七秒)にはちょっと届かなかったな」とは言いつつも納得の表情を浮べる吉澤。
しかしその表情も、隣を見たときに凍りつき、白目をむきました。

「な、なぬぃ―――――!!」 (がびーんという効果音)

485 名前: 投稿日:2004/10/10(日) 23:56
そこには平然としたみちしげが、顔を水につけ続けて(六、七秒経って)いました。

このオレが負けたのか? と吉澤は真っ白になりながら思いました。
そんなはずはない。うん、これは何かの間違いだ。そうに決まっている。オレはヒーローなんだし、
そりゃアたしかにコイツもヒーローだけど新米なんだからオレのほうが凄いわけだし、どれぐらい凄いかって
言うと、それはもう言葉では言い表せないぐらいで、いや決してオレの語彙力がないとかそんなんじゃ
ないんだけど、とにかくオレが凄いことには変わりないんだから、あえて言葉にする必要もなくってブツブツ。

違う世界に旅立っていた吉澤は、みちしげのじたばたする音でこっちの世界に戻って来れました。
ヤバイ、こいつ顔あげる。こうなったら――。
吉澤は息を吸い込むと、洗面器に顔を突っ込みました。ええ、自分が勝つ≠スめです。
ヤなヒーローですね。

圧倒的な差で勝ってオレの凄さを見せ付けてやるからな! と吉澤が水中で思っているときに、みちしげは
ブハッと顔をあげました。散々休んでいたにもかかわらず、やっぱり息が続かないのがみちしげです。
「ゴホッゴホッ、すーはー、すーはー。……クシュン」
何故かくしゃみをしてしまうみちしげ。ちなみに記録は二十三秒でした。

呼吸が落ち着くと、みちしげは対戦相手のほうを見ました。吉澤は顔を水に(平然と)つけっぱなしでした。
あれ? さっきはあんなに苦しそうだったのに、おかしいなぁと不思議に思うみちしげですが、純粋かつ天然
なので、吉澤の周りが不自然に濡れていても、疑ったりすることはありませんでした。
もちろんみちしげの周りも不自然に濡れていました。

しょうがなく、みちしげは再び顔を水につけました。ここで1レス前に戻ると一生楽しめます。
486 名前: 投稿日:2004/10/10(日) 23:56
吉澤が顔をあげました。
「コイツまだ息が続くのか! こなくそ」と、二十秒ほど経ってから、再び顔をつけました。

みちしげが顔をあげました。
「あれぇ? なんでだろう?」と、二分二十五秒ほど経ってから、再び顔をつけました。

吉澤が顔をあげました。
「コ、コイツ……てやんでぇ! ガッタス!」と、二十秒ほど経ってから、再び顔をつけました。

みちしげが顔をあげました。
「えー? おかしーなー?」と、二分八秒ほど経ってから、再び顔をつけました。

吉澤が(ry
「この知ったかぶりっ子め! ガッタ(ry

みちしげが(ry
「吉澤さんすごいなー。でもなんか変だなぁ?」と、一分四十九秒ほど経ってから(ry

吉(ry
「な(ry

み(ry
「わ(ry

(ry

487 名前: 投稿日:2004/10/10(日) 23:57
すでに日が暮れてしまいました。一体何十、いえ何百回繰り返したのでしょうか。
やはり審判役でみきを出すべきでした。みきのことです、今はもう全快したそうですが、例え声の調子が万全で
ない状態であったとしても、フリップとペンさえあれば、凄まじいツッコミをしてくれたはずです。

みちしげが顔をあげました。といっても、洗面器にはほとんど水が残っていません。
「うわー吉澤さんすごーい。でもなんか不思議なのー」と、三十七秒ほど経ってから、再び顔を水につけました。

その二秒後、吉澤が顔をあげました。こちらも洗面器にはほとんど水が残っておらず、吉澤の場合、その顔面が
ものの見事にふやけてしまっていました。
「ぜーはー、ぜーはー」と、とても苦しそうな吉澤。タイムは遂に四十秒を切ってしまいましたが、インターバルが
二十秒そこらでこの記録なのです。これはスタンディングオベーションものです。
吉澤は、みちしげが顔を水につけっぱなしなのを見ると、「ヤルナ、コノヤロウ。ハーハー」と、とても弱々しい声を上げました。

すると突然、みちしげがブハッっと顔をあげました。
「ゲホゲホッ、ずるずる、ゲホッゲホ、ずずー、ゲホゲホッ」
どうやら鼻に水が入ったようです。ひどく咳き込むみちしげ。鼻水もずるずる出ています。
そして吉澤はその様子を唖然と見つめていました。

「もぉ、ずるずるー。あ、吉澤さん、ティッひゅもってまへんは? ずるずるー」
「いや、持ってないな」
「あ、そうでふは。ずるずるー。……あれ? 吉ひゃはひゃん?」
「ん? 何だよ?」


ずるずるー。


「……あ、」




第一試合 どちらが長く顔を水中につけていられるでしょうか対決

 × ヘルメット吉澤 ―― メガジェットみちしげ ○



              了


从*・ 。.・) <ワーイ カッタノー     ナットクイカネー> (`〜´0)

488 名前:後書 投稿日:2004/10/10(日) 23:57
とぜんそうはNEC退部間近な?プリンセスメグを応援します。
あまりにも単調だったんでお蔵入りしていましたが、結局載せてしまいました。
やっぱりツッコミ役は必要です。つっこミキティ偉大。
次は本当にあの人の誕生日に更新しよう、おそらく、多分、出来たらいいな。
489 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/10/10(日) 23:57
从*・ 。.・) <フレディVSジョンソン
490 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/10/10(日) 23:58
从*・ 。.・) <エーリアンVSプレデター
491 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/10/10(日) 23:58
从*・ 。.・) <ツギハ、コレガ、エイガカサレルノー     イヤ、アリエナイカラ> ⊂(VvV从
492 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:42


                さようならメガジェットみちしげ

           どこ行ってもプリンセスはプリンセスやよ!の巻


493 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:42
○月×日 晴れ

日本女子バレーボール界の至宝であり、そして日本を守るヒーローメガジェットみちしげ≠アと
みちしげさゆみと、みちしげの姉貴的存在である藤本みきは、新とうきょう国際空港にいました。

というのも、えぬいーしーと些細なことで喧嘩したみちしげが、イタリアせりえあーの某チームから
誘われたからです。
ちなみに些細なことと言うのは、ユニフォームがカワイクないというレベルの問題でした。

「これで日本ともお別れかぁ」感慨深そうにみちしげが呟きました。
「オフになったらいつでも帰ってこれるじゃん。てかさ、なんでみきがさゆの荷物持ってんのかな?」
お菓子やぬいぐるみがパンパンに詰まった鞄を両手に持ちながら、みきが言いました。

「最後ぐらい……甘えさせてくださいよ」
「……しょーがないなぁ」
いつも持っている気がするみきでしたが(実際いつも持っていましたが)、みちしげの最後≠ニ
いう言葉に寂しさを覚えたのか、それ以上突っ込むことはしませんでした。

「なんか随分と静かですね」
二人のいるフロアには、他に数人しかいませんでした。
「マスコミいっぱいに囲まれてたほうがよかったの?」
「そういうわけじゃないんですけど……」
みちしげはつい先ほどまで会見を行い、その際マスコミに最後は来ないで下さいと言っていたため、
テレビ局も新聞社も空港にはいなかったのです。

みちしげは側のベンチにすとんと腰を下ろしました。
「なんか、これで藤本さんと会えなくなっちゃうのかなって……痛ッ」
みきは荷物を持ちながらも、器用にみちしげをはたきました。この技は世界中で、おそらくみきしか
使えません。
「バカなこと言うんじゃないの」
「……すみません」
「メールとか電話とか、それにテレビ電話ってのもあるんだからさ、いつでもかけておいでよ」
「……はい」
494 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:42
妙な沈黙。話したいことはいっぱいあるんだけど、何を話したらよいのかわからない、二人はそんな
空気に包まれました。
居心地の悪さに耐え切れなくなったのか、みちしげは「ちょっとトイレ行ってきますね」とパタパタと
駆けていきました。
ぽつんと取り残されたみきは、ぼーっと大きな窓の外を眺めてました。ジャンボジェット機がゆっくり
と動き出し、まもなく離陸しようとしています。頭では分かっていましたが、みちしげが日本を離れる
ということがふいに現実味を帯びてきて、みきは無性に悲しくなりました。

「……寂しくなるなぁ」
みきが背もたれに体重を預けると、ベンチがぎいぎいと鳴りました。手を頭の後ろに組み、飛んで
いくジャンボジェット機を見ながら、みきは昔のことを思い出していました。


 + + +

わたしがさゆと出会ったのは二年前、一緒に女子バレー日本代表チームに選ばれた時だった。
「どうも、監督の中澤裕子です。バレーボールは弱肉強食やから、ビシバシいくんで覚悟しといてや」
「キャプテンの飯田圭織です。オリンピック目指して頑張ろうね」
「つぃののみれす。ののってよんでくらさい。よろしくれす。てへてへ」
なんていう風に順番に自己紹介をしていった。わたしの簡素な紹介のあとがさゆの番だった。

「みちしげさゆみです。よろしくお願いします」
さゆはぺこりとお辞儀をした。みんながパチパチと拍手しているなか、さゆは一人一人の顔をじーっ
と見ていった。そして最後にわたしの顔を見ると、
「みなさんもカワイイんですけど、でもわたしが一番カワイイです♪」
と笑顔で言い放った。

みんなが唖然とするなかで、わたしは思わず「断定形かよ!」と突っ込んでしまった。
495 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:43
そのせいで監督から、「お前とみちしげは同じ部屋な」と言われ、強化合宿中はそれこそバレーを
強化しているのか、突っ込みを強化しているのかよくわからないほど突っ込みまくる羽目になった。
突っ込めば突っ込むほど、さゆはわたしになついていき、どこに行くにもわたしにくっ付くようになった。
そう言えば、こんなこともあった――


「あ、藤本さん、どこ行くんですか?」
「どこってトイレだけど」
「じゃあわたしも行きます」

てくてく ガチャッ

「……ねえ、ちょっと聞いてもいいかな?」
「はい、なんですか」
「なんでみきと同じ個室に入ってこようとしてるのかな?」
「え、ダメなんですか?」
「駄目に決まってんじゃん」
「えー」
「えーじゃないから。ほら、隣空いてんだからそっちでしなさい」
「もー、ブツブツ」 ガチャッ バタン
「いや、怒ってる意味わかんないから」 バタン


ジャー ガチャッ バタン

[あー藤本さん、早すぎですよぉ]
「はぁ?」
[そこで待ってて下さいね]
「何でみきが待たなくちゃいけないのよ。……てかおっきいほう?」
[はい、うんちですけど]
「うんちですけど、じゃなくって」
[うんこですか?]
「言い方じゃないから」
[…………]
「……もう、早くしなよ」
[はい♪ ウゥゥゥゥゥン、クッ]
「ぉぃぉぃ……」

「あれ? みき何してんの?」
「あ、飯田さん。いや、さゆ待ちで」
「ふーん、なんかすっかりみちしげのお姉ちゃんって感じだね」
「なんですかそれ」
[さゆのお姉ちゃんはもっとカワイイの。そんなに目がきつくないの]
「そんなのいーからさっさとうんこしろ!」


ジャー ガチャッ バタン

「やったぁ。スッキリ♪」
「やったぁ、じゃないから。こっちはなんかガックシだよ」
「でもほんとに待っててくれたんですね。藤本さん優しい♪」
「ほんと、藤本さん優しい♪」
「飯田さんまで何言ってんですか。まったく……ほらっ、もう行くよ」
「あ、待って下さいよぉ」

496 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:43

――思えばあの頃からさゆに振り回されてたみたいだ。
これまで強面で通ってたから、日本代表の試合を見に来たファンの子とかから、すっかりイメージが
変わりました(はぁと)、みたいなファンレターが結構きたしねぇ……。



そうそう、みきてぃとメガジェットと言えば、こんなこともあったよな。


 + + +

「どうして、どうしてなの……」
「藤本さん……」
「どうしてみきじゃなくて、さゆがヒーローに選ばれたのよ!」
「…………」
「確かにみきはびんぼーだし、生まれたのも真ん中らへんだし、実家の裏のローソンはつぶれちゃっ
て果物屋に変わったけど、だけど、だけど、……グスッ」
「藤本さん、それは――」
「それはオレの口から説明してやろう! とう!」

バッ クルクルクル スタッ

「グスッ、あ、あなたは、史上最強にして最高で、いまやヒーローの代名詞、その甘いマスクに秘められ
たアツイ勇気とハートを持ち、文武両道、強気を挫き弱きを助け、悪は絶対許せない正義の味方、今
年のMVH(most valuable hero)の最有力候補にして、受賞すれば五年連続五回目となり、自身の
持つ四年連続記録を上回ることは確実視されていて、なおかつ史上最年少の、しかも現役としては初
のヒーロー殿堂入りを目前にしている、今全世界が最も注目しているヒーローの――」

「そう、オレの名は、吉澤ひとみことヘルメット吉澤だ! あ、あと、オレをこれ以上詮索するな、詮索
するなぁー!!」

ババーン

「吉澤さん! 教えてください。どうしてさゆなんですか? みきだったら駄目なんですか?」
「みきてぃ……残念な知らせだが、君の顔は――」
「みきの、みきの顔が何なんですかっ?」
497 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:43
  ヒール
「悪役面なんだよね、素の顔が」
「倒置法かよ!」

とうちほうかよ

トウチホウカヨ

――

 + + +


「んでもって、そのあと『みきは世界征服しちゃうんだからね』とか言って、必死に店頭のペットボトルなん
かの特典とかポイントシールとか剥がしてたよな。懐かしいなぁ、うんうん」
「そうそう、お陰で家にはぽっぽあややとかあやトラとかヤキソバニ―寝袋がいっぱいで大変大変――って
 な ん で や ね ん !!」


 ナンデヤネン!
   ノノノハヽ
    川VvV)
  / U  つ ビシッ
  し'⌒∪


みきはいつのまにか自分の隣に座り、回想場面に入り込んできたヘルメット吉澤に突っ込みを入れまし
た。それもノリツッコミな上に関西弁と言う、これ以上ないというほど気合が入っているものでした。

「みきがヒーローになりたいなんて何時言ったのよ! それにあの長ったらしいアンタの説明の意味わか
んないし! あとそんなチンケな方法で世界征服できるわけないじゃん! てか『倒置法かよ!』みたいな
突っ込むトコ間違ってる突っ込みしないから!」
「何? 『倒置法かよ!』じゃ駄目なのか?!」
「駄目に決まってるじゃん。てかなんであんたこんな所にいるのよ。自称℃j上最強ヒーローなんでしょ?
暇なの?」
「カワイイ弟子が旅立つんだから、見送りに来るのは当然だろう。それにヒーローは二十四時間勤務であ
り、そして二十四時間オフだからな」
わかったようなわからないことを言いながら、ヘルメット吉澤はみきの隣に腰掛けました。
498 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:44
「それに、日本にはオレやメガジェットの他に何人もヒーローがいるからな」
「ヒーローって、確か辻ちゃんともう一人の……」
「地球戦隊Wな。でも他にもいっぱいいるぞ」
「ふーん」
「ジャガージュン石こと梨華ちゃん(通称チャーミー)とか、いっぱいいるんだぞ」
「へぇ」
「めちゃめちゃいるんだぞ」
「3へぇ」
「すっごいいるんだぞ」
「2へぇ」

なんとかしてみきの関心を惹きたい吉澤。それを察してか、意地でも仕掛けに食い付こうとしないみき。
この押し問答は、みちしげが帰ってくるまで続きました。

「あ、吉澤さん」
「おう、メガジェット。久しぶりだなー。二日ぶりぐらいだなー。元気か?」
「はい。わたしはとってもカワイイです」
「いや、そんなこと聞いてないから、てか二日ぶりかよ!」
「相変わらずだなお前は。はっはっは!」
高笑いをした後、吉澤は「ところでお前に言っておくことがあったんだ」と急に真面目な顔をして言いました。

「なんですか?」
「おう。日本には数多くのヒーローがいるから、お前がいなくなっても日本の平和は大丈夫だ」
「はい。わかりました」
「うん。ほんとにたくさんいるからな」
「はい」
「数え切れないぐらいいるからね」
「はい」

呆れ顔のみきをよそに、なんとかみちしげの興味を惹こうとする吉澤でしたが、みちしげスマイルを崩すこ
とは出来ませんでした。
こうなったら奥の手を使うしかない! 吉澤の目がキュピーンと怪しく光ります

ゴホンゴホンと咳払いをした後、吉澤は仰々しく口を開きました。
「日本には昔からヒーローと呼ばれる人たちが数多く存在し、例えば仮面ライダーなんかもカクカクシカジカ」
「自分から言っちゃった!」
「戦隊物ではペチャクチャペチャクチャ」
みきの突っ込みもなんのその。吉澤の自己満足に過ぎないヒーロー談義は続いていきました。
499 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:44
「――なんてのがいるんだよな。あれは良かったぁ、うんうん。他にも割と近いところだと……っつっても今
はもうベテランだけど、島崎和歌子(ちゅうかないぱねぱ)とか、さとう珠緒(超力戦隊オーレンジャーのオ
ーピンク)とか、それにケインコスギ(忍者戦隊カクレンジャーのニンジャブラック)何かがいるんだぞ。あ、
そうだ、すっかり忘れてた」
何かを思い出したのか、吉澤はみちしげとみきの間をすり抜けて、読者の前にやってきました。

「『オガワマコト殺人事件』内で、出嶋椎間二餅警部補が、『って玉緒だー』と言っていましたが、正しくは
珠緒≠フ間違いでした。読者さん、並びに関係者さん、部外者以外さんに深くお詫び申し上げます」

「いや、部外者以外って関係者だし。てかいきなり何言い出してんの?」
「あれ? オレどうしたんだろう?」
どこかで聞いたようなツッコミの後に注意された吉澤は、?マークを出しながら首を傾げました。

「とにかくだ。まだまだ他にも日本にヒーローはいっぱいいるからダイジョーV」
ブイブイと左右の手のピースサインをくっ付ける吉澤。東京下町の地域密着型ヒーロー戦隊である地球戦
隊Wがこの場に現れないのをいいことに、平然とパクっています。
ええ、ここでは芋掘りに他県とかには行かない設定なんです。

「で、話は終わったの?」
折角のさゆとの別れを邪魔されたことに、少々イライラモードのスイッチが入ってしまっているみきは、まる
で修羅か羅刹のような目で吉澤に問いただします。しかし吉澤は気にすることもなく、「あ、話は一応終わっ
た」と一言。

「あっそ、それならいいんだけど」
「でもまだ用件は済んでないぞ」
「はぁ? 何? まだあんの?」
「おう。未来のナンバー2の修行の見送りにいっぱいヒーローその他が来てるんだよ。あ、言うまでもないけ
どナンバー1はオレね。それもダントツ」
「いっぱいって何に――」

みきが喋ろうとしたその時です。チャンチャラチャンチャチャッチャンチャチャン♪というどこかで聞いたような音楽がどこか
らともなく流れてきました。
500 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:45
すると、いつのまにかすっかり夢の国へと旅立っていたみちしげがガバッと跳ね起き、
「これはマツケン、マツケンサンバなの! それもUのほうなの!」と叫びました。
実はみちしげはマツケンサンバが大のお気に入りなのです。着メロはマツケンサンバT。着メールはマツ
ケンサンバUにするほどお気に入りなのです。
それでもついこの間まで、歌っている人は杉様だとばかり思っていたのは秘密です。

「ということは、アイツだな」「アイツってだれよ」「来ればわかるよ」「多分わかんないし」
なんて吉澤とみきが喋っている間に、音楽は遂にサビの所にやってきました。
すると、なにやら金ぴかの白衣(というのも変な言い方ですが)を着たちっこいのがやって来ました。

「フフフフーフン フフフフーフン フフフフフフフーフフフフーン♪」
「ハミングかよ!」
「アイツ歌詞知らないんだよ」

「オーレー オーレー ジャカジャカジャン コマンダーやぐちぃ〜♪」






「……は?」
「だから、おいらの名前だよ。おいらコマンダー矢口って言うんだよね。こう見えて、世界ヒーロー協会の
会長やってんだぞ。えらいんだぞ。キャハハ」
そう言うとちっこいのこと、コマンダー矢口は金ぴかの白衣を脱ぎ捨てました。
「下も白衣かよ!」
みきのツッコミには触れず、コマンダー矢口はとことことみちしげの元へと歩いていきました。

「なーるなる。キミがメガジェットみちしげだね。噂は(吉澤から)聞いてるよ」
矢口は手を差し出しました。みちしげはちょこんとしゃがんで握手します。
「みちしげさゆみです。矢口さん初めまして」
「うん、初めまして。キミには色々と期待してるからね。頑張ってよ」
「はい!」

矢口は手を離すと、吉澤のほうへ向かって「他のやつはまだ来てないの?」と尋ねました。
「みんな急がしいっすからね。ま、間に合うでしょ。そんなことよりも……」
吉澤は矢口をまるで犬(パグ)のように抱きかかえると、その耳元でささやきました。
501 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:45
「あのさ、今年のMVHのことなんだけどさ、やっぱりオレだよね」
「ん〜、色々あったからねぇ。新人賞は多分メガジェットみちしげだけど、MVHはやっぱりまつーらが……」
「はーい、やぐちさ〜ん。氷だよ〜。おいしい氷があるよ〜」
「キャウゥゥン。クーンクーン」(日本語訳 : あぁ、氷! あいらの大好物の氷だぁん)
「オレをMVHにすると約束したらこの氷あげても――」
「キャンキャン。ハッハッ」(日本語訳 : モチロン! よっすぃが今年もMVH! だからおいらに氷おくれ)
「ほんとにぃ〜?」
「デハーデハーデハー」(日本語訳 : ホントだってば! おいら嘘つかないよ! だからおいらに氷おくれ)
「ほーら、取ってこーい」
吉澤は氷をおもいっきりブン投げました。それと同時に矢口(パグ)が追いかけました。

「はっはっは。チョロイチョロイ」
「……バカばっかり」
「あの犬。結構カワイかったなぁ」
「あー。わかるわかる。飼い慣らすとかなり便利だしね。さすが元中間管理職」
「でも一番カワイイのはわたしなの」

今年のMVH(確定)と新人賞(予定)のよく分からない会話に突っ込む気も起きず、小休止して完全に素に
なっていたみきは、突然の

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ッ

という音に以上に反応してしまいました。
「あ、藤本さん。今すごくビクッってなってたぁ」
「何嬉しそうに言ってんのよ」とは言いつつ、実は恥ずかしいみき。顔が赤くなるのを誤魔化すかのように、
「これ何の音なのよ?」と吉澤に問い詰めます。

「あー、期待の新人を見送るために、ヒーローが集結してるんだよ」
「はぁ? 何よそれ」
「でも来るのはごく一部で、ほんとはもっと多くのヒーローが――」
「いや、もういいから」

藤本の不安をよそに、ヒーロー御一行は新とうきょう国際空港にやって来ました。
502 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:45

注 時間の都合により、以下はダイジェスト(セリフ)にてお送りいたします。

「ナツミレンジャア!」
「アヤヤレンジャア!」
「ゴッチンレンジャア!」
「三人合わせて、変愛戦隊シツレンジャア! 参上!」
「変∴、って! 僕の変人≠ノなって下さいっていう小学生のラブレターの誤字かよ!」
「え、膣レンジャーさんですか?」
「さゆ! あんたなんて聞き間違いしてんのよ!」

「ポロリン星人登場ポロリン」
「思いっきり敵じゃん! てか中澤監督!? あんた何やってんですか!?」

「じょんそん参上。ブイィィィン」
「十三日の金曜日はジェイソンだから。それに敵だし。飯田さんチェーンソー向けないで下さいよ」

「ロボット刑事Kei、参上よ」
「古ッ! 三十年以上前のやつじゃん! てかなんでみきも元ネタしってんのよ」

「旧サイボォグしばたと他三人参上」
「旧ってなんだよ! あと他三人て!」

「ジャンジャカジャンジャカジャンジャカジャンジャカジャンUSA」
「いや、意味わかんないから」

「えーっとぉ、アントニオ小川でぇ〜す。はっするはっする。でっへっへ」
「キャラ間違ってるし」

「豆垣塾塾長見参! 眉毛微意無!」
「ビームって武者頑駄無シリーズかよ! てかちょっとの意見も無いのかよ!」

「田中麗奈だけど、私場違いじゃない?」
「なっちゃんのほう来ちゃった」

「わたしアムロ=レイナらしいんやけど、帰っても良いと?」
「またガンダムかよ! いや、一応いたほうがいいんじゃない?」

「私たち三人合わせて、田舎娘。でーす」
「帰れ」

“My name is Ayaka.Nice to ......”  (わたしの名前はアヤカよ。お会いできて――) 
“Would you give me a disucount?”    (まけてくれますよね?)

「わたしたち、はろぷろしょうじょたいでーす」
「あっちにねぇ、ブギートレインっていう乗り物があるから、それ乗って地の果てにでも行ってこい!」

503 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:46
その他にキリギリスとか、元OPD(おおさかぱふぉーまんすどぅーん)や、びゆーでん二人に対しても突っ込
み続け、みきの体力は限界に達していました。

「あーもう、どうなってんのよ!」
「うん。思ったより多くなったな。てか何人いるんだ?」
この時フロアには、46人+1人(田中麗奈)−2人−W−ジャガージュン石−コマンダー矢口−田中麗奈
=40人でごった返していました。
ちなみに、最初に数人いた人達は、いつのまにかここではないどこかへ行ってしまいました。

「で? さゆはドコ?」
「多分……あの群集のまんなからへん?」
吉澤の指差す先には、それこそ黒山のような人だかりができていました。長身のみちしげの姿が見えない
ぐらいに凄まじい人だかりでした。
時折聞こえる、わたしが一番カワイイのーという声で、なんとかみちしげの生存を確認することができます。
「何か面白そうだ。オレも行ってこよーかな」
「勝手に行けばいいじゃん」
「みきてぃは行かないのか?」
「みきは行かない……てか気になってたんだけど、みきてぃって何?」
「よっしゃあ、暴れてくるぞー!」
そう言うと吉澤はだばだばと駆けていき、黒山の中へ突っ込んでいきました。
手持ち無沙汰になったみきは、再び小休止することにしました。

で、なんだかわけがわからないそんな中、一人遅れてあの子がやってきました。
504 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:46

「パンパカパーン 美少女戦隊キャメレンジャーさんじょう とぉ! キャメッスルキャメッスルー」


     ☆ノハヽ
     ノノ*^ー^) <キャメッスルキャメッスルー!
      (っ : jっ¶
     <シノ ハゝ
      U U


しかし誰もキャメレンジャーに絡もうとはしませんでした。というのも、黒山の人だかりはそれどころではあり
ませんでしたし、小休止中のみきも、(どうしようか、突っ込むと厄介そうだな。一人で戦隊ってなんだろう?
って言いたいけどなぁ。でもしんどいもんな。それにこれだけ現実と同じじゃん)という風に思っていました。

最初は「こっちにくるかも?」なんて思っていたキャメレンジャーでしたが、結局はみんなから無視された格好
になってしまいました。残念ながら、来るのが少しばかり遅かったのです。
キャメレンジャーは、「もういいもん。ばかぁ」と毒づくとベンチとベンチの間に挟まりました。
「エリには隙間があるんですっ!」
すっかり役柄を忘れて、ついつい自分のことをエリと言ってしまいました。
「隙間があれば何も要らないんだから!」
精一杯の強がりを言うものの、しかし本当は、あの黒山の人だかりの中に入って、みんなから押されてみた
いと思っていたのでした。なんていじらしい子なんでしょうか。

さて、キャメレンジャーは隙間に挟まり、ちゃいこーなときを過ごし始めましたが、黒山の人だかりはというと、
依然としてお祭り騒ぎが繰り広げられていて、まったく収拾のつかない感じになってしまっていました。
というのも、ヒーローが何十人も集結するなんてことは滅多にありませんので、みんなはいつも以上にテンシ
ョンが高くなっていたのです。
阿鼻叫喚。魑魅魍魎。薔薇。檸檬。轟。とにかく大混乱です。カオスです。もうどうにもとまりません。

このままだとさゆ、飛行機に乗り遅れちゃうんじゃない? みきがそう思ったときでした。



ドゥンドゥンドゥーンドゥドゥンドゥン♪ ドゥンドゥンドゥーンドゥドゥンドゥン♪


505 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:46
どこかで聞いたようなリズム(なんちゃってパーカッション)が聞こえてきました。
「……何の音だろ?」いつのまにか、黒山の人だかりもピタッと停止し、耳をすませていました。
すると、なにやらナスビだのラッキョウだの、変な声が聞こえてきます。

「あ、あそこ!」
みちしげが何かを指差しました。みんなもつられてそちらのほうへ顔を向けます。

「高橋さんなの!」

そう、そこにいたのは、#9高橋こと、高橋愛でした。
これまでその存在は確認されていたものの、まったく登場してこなかった、あの高橋愛です。
自分の中で、精一杯やらしい部分を出そうとしては、失敗し続けている高橋愛です。
それでもやる気だけはありますとも!≠ネ高橋愛です。

すると高橋愛は、地の文に気付いたのか、こちらを振り向くと、
「あたしはもう高橋愛やないやよ! これからはタカハシアイでいくやよー!」
と叫び、ビョィンと無駄にジャンプしました。そして高橋愛改めタカハシアイは、左手に持っていた紙を見て、

ドゥンドゥンドゥーンドゥドゥンドゥン♪ ドゥンドゥンドゥーンドゥドゥンドゥン♪

というリズムに無理矢理のせて、おもむろにラップしだしました。


『舌がダコダコ』 / 作詞:高橋愛

ドゥンドゥンドゥーンドゥドゥンドゥン♪

なすび ダイキラーイ  あなたも ダイキラーイ
本当はあなたは 大好きだけど
なすびは本当に 嫌いなの
ダコダコ Yeah! ダコダコ Yo!

ダコダコの意味ぃ わかってモラエナイ
この切ないキモチー あなたにはワカルカシラ
ダコダコ Yeah! ダコダコ Yo!

デモある人にィ わかってモラエタ
その時はカンドォシタノヨ その名はタナカレイナァ
「わかるぅ! わかるぅ!」
ダコダコ Yeah! ダコダコ Yo!


506 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:47
物凄い字余りのラップでした。しかし歌(ラップ)は上手い下手ではありません。良いか悪いか、それが一番大事
なのです。そしてこのラップは抜群に良かったのです。
一回目は様子見でしたが、二回目のダコダコ Yeah! ダコダコ Yo!≠ゥら何人かがのってきて、そして三回
目には、その場にいた人間全員が一体となって、ダコダコ Yeah! ダコダコ Yo!≠ニ叫んでいたのです。
そう、あのみきまでものせられてしまって(というよりもむしろノリノリになって)いたのです。

「スゲェ! お前天才だよ! オレこれまで生きてきて、こんなドープなリリック聞いたことなかったよ!」
吉澤はタカハシアイのあまりの凄さに、自分の感情を押さえきれず、回りのヒーローを片っ端からコブラツイスト
していきました。
「うん。まったく意味ワカンナイけど、なんかすごい」
「すごいの。高橋さんって、ラッパーだったんですね」
みきとみちしげも、すっかりタカハシアイに魅了されていました。
「おぉ。なんか好評みたいなんで、もう一曲いくやよ。それでは聞いてください。『ホヮイホヮイホヮイ』」

ドゥンドゥンドゥーンドゥドゥンドゥン♪

チイサイコニーイシヲナゲラレター

――――――――

――――――

ダコダコイェイ! ダコダコヨゥ!

――――

――


507 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:47

気付いた時にはすでに、みちしげの乗る予定だった飛行機は飛んで行ってしまっていました。
「あぁ、行っちゃってる」
「さゆがあんなにノリノリになってたからじゃない」
「藤本さんに言われたくないですぅ。ぷー」
みちしげが膨れっ面になるのも仕方がありません。なんせ、みきはあの集団の中で、一番ダコダコを気に入っ
てしまっていたのですから。

「なんだ。メガジェット、飛行機乗り遅れたのか?」
「そうです。藤本さんのせいなんですよ」
「Yo!」
「「ダコダコ Yeah! ダコダコ Yo!」」
「…………」
どうもみきには、よ≠ニいう語尾に以上に反応してしまうセンサーが付いてしまったようです。
「みきてぃってこんな人だったんだぁ、へー」
「ウルサイ。アンタもさっさと帰れ!」
「へーへー。じゃあなメガジェット」
「あ、はい。今日はわざわざすみませんでした」
吉澤は夕陽の向こうへと走り去っていきました。
その他のヒーロー達もそれぞれ自分の持ち場へ、タカハシアイは福井へと帰っていき、フロアにはみちしげと
みきだけが残されました。

「ゴホ、ゴホン。それでさ、さゆはどうするの?」
「なにがですか?」
「何がじゃなくて、これからだよ。次の便でイタリア行くの?」
「あー、どうしようかなぁ……」
みちしげは四、五秒考えたあと、笑顔で言いました。
508 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:47
「わたし、ぱいおにあに入ります」
「はぁ!?」
「なので、これからよろしくお願いしますね」
「いやいや、ちょっと何それ? 意味わかんないんだけど。てかイタリアは?」
「ん〜、イタリアもいいんですけど、でもやっぱり日本かなって」
「じゃあ何でウチのチームなの?」
ぱいおにあというのは、藤本みきや、キャプテン飯田の所属しているチームのことです。

「えーだってー」みちしげは屈託のない、キラキラとした最高の笑顔を見せました。
「藤本さんと一緒にいたいんだもん」

みきはまるでアホの子のようにぽかんとした後、フフンと思わず笑ってしまいました。
そして、みちしげのキョトンとした顔に、パチンとデコピンをしました。
「……まったく、世話が焼けるんだから」
「えへへ」
みちしげの肩を抱き寄せると、二人は出口のほうへと向かっていきました。

「またお世話になりますね。よろしくお願いします」
「こっちこそ、またお世話します。よろしくね」








ア、ニモツオキッパナシダ。
モウ、フジモトサンシッカリシテクダサイヨ。
テカサ、アレサユノニモツダヨネ?
509 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:48

数日後――

「藤本さーん、早くー」
「早くーって、そんなこと言うんならちょっとぐらい荷物持ってくれてもいいんじゃんかぁ」
みちしげとみきは渋谷にショッピングに出かけていました。毎度のことですが、やっぱり今日もみきが荷物
持ちをしています。
みちしげが急かす理由は、早く家に帰って、買ったばかりのカワイイ服を着てファッションショーを開きたい
からでした。言うまでもなく、観客はみき一人です。

みちしげがマンションの前につくと、はふはふという音に気付きました。
ん? なんだろう? みちしげがひょいと見てみると、そこには目のクリクリとした、幸せそうに焼きイモを頬
張っている女の子がいました。

「あ、紺野さん」
「ん? あ、みちしげちゃん。お久しぶり」
「お久しぶりです」

この女の子の名前は紺野あさ美。世界ヒーロー協会所属の博士なのです。需要があってもなくても、色々な
発明品を日々作っている、食べることが大好きな女の子です。
そして時たま、USAという不思議なヒーローとして活躍したりもしています。

「おめでとう。みちしげちゃんは二千四年の新人賞に選ばれたよ」
「あ、そうなんだ。ありがとうございます」
はいコレ、と紺野博士はみちしげに、

しんじんしょお これからも正義のためにがんばれ。もっとがんばれ。  やぐち

と書かれた賞状を手渡しました。

「……これカワイクないの」ぷぅーと膨れるみちしげ。
すると紺野博士は待ってましたとばかりに、「実はね、みちしげちゃんの新人賞のお祝いに作った物がある
んだけど……」と、ふところから何やらいかがわしい物を取り出しました。


「……ハァハァハァ、もう、これ一体何キロあるんだよ、フゥフゥ」
みきがへばりながらもヨタヨタと歩いていると、マンションのほうから、ふじもとさーんという声が聞こえてきま
した。
顔をあげたみきの視線の先に、とんでもないものが映りました。
510 名前: 投稿日:2004/11/28(日) 23:48

          __
         c2__ヽ
         从*・ 。.・)<メガジェットロボー
          ( 0¶¶0
      ,.---─[ ̄ ̄]──--、.
    ,,;;'''               `:、
   ,i'                  `:、
   ,i   /   /   /   /\  \  \ `;
  ,i'  /   /   /   /  \  \  \゙|
  |  |                 ::!
  |  |    ●        ●  ::|
  |  | * ..:::...        .:::..  ::!
  ∧ ∧         ○       ∧  ひんどぅーん
 /  / ヽ、__         ・   /ヽヽ
       /`'''ー‐‐──‐‐‐┬'''"
       /         ::::i \
      /  /       ::::|_/
      \/        :::|
         |        ::::|
         i     \ ::::/
         \     |::/
           |\_//
   ドカーン.    \_/   ドカーン





「あーさゆちょっと見ない間にこんなに大きくなったんだねぇ――ってなんじゃそりゃ!」
「紺野さんからもらったのー」
「……それどこ置くのよ」
「……じゃあ藤本さんの部屋に」
「絶対ムリだし!」


どうやらみきは、まだまだみちしげに振り回されるようです。








        了


511 名前:後書 投稿日:2004/11/28(日) 23:49
とぜんそうはどこに行ってもプリンセスメグを応援します。
ということで、メガジェットみちしげシリーズはおしまーい。どうもありがとうございましたー。
ダコダコ Yeah! ダコダコ Yo!

川VvV)人从*・ 。.・)人(^〜^0)
512 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/11/28(日) 23:49
川*’ー’) <ドンウォーリィ
513 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/11/28(日) 23:50
川*’ー’) <マザーハホントニヒイテタワ
514 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/11/28(日) 23:50
(●´ー`)从VvV)川*’ー’) <ダコダコイェイ! ダコダコヨゥ!
515 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:00


           ば る ん る ん ば ら る ー で ん す



516 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:01

雪が、ちらちらと降っていた。

ある人は寒そうに体を縮こめながら、またある人は白い息を手にかけながら歩いてる。サラリ
ーマン風の人は仕事が上手くいってないのか、少し厳しい表情を浮べながらせかせかと、カッ
プルは、まるで二人の愛の熱さでこの寒さを吹き飛ばしてやるんだといった感じで、ベタッとく
っ付きながら歩いてる。

しゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃん......

鈴の音が鳴った。透き通った空気に透き通った音が響いた。一枚の硝子板をはめ込んでいる
みたいだ。そして、この季節にすでに定番となっている曲が、何処かしらから流れてきた。ネオ
ンがぴかぴかと輝く。赤とか、青とか、緑とか、黄色の光。
店先に置かれたサンタや雪だるまの人形が、道行く人々に無償の笑顔を投げかけてた。
その無機質なプラスチックの目には、今のわたしの姿はどう映っているのだろう。

……くしゅん。

鼻をすする。まだ少しむずむずしている。もう一回くしゃみが出た。
くしゃみを一回すると、もう一回してしまうのはどうしてだろうといつも思う。くしゃみを一回する
ことは、誰かが良い噂をしているときだっていうのを聞いたことがある。くしゃみが二回の時は
悪い噂だそうだ。……わたしは嫌われているのかな? そう思ったらまたくしゃみが出た。
くしゃみが三回以上出たときは、単なる風邪だと思う。

鼻をしゅんとすすりながら、わたしはショーウィンドウに映る自分の姿を確認してみた。
硝子の中で、わたしは頭に雪を少し積もらせながら、真っ白なコートを身にまとって、ぽつんと
立っていた。フードの所にふわふわしたファーが付いている。下は白のデニムで、真っ白のス
ニーカーを履いていた。左手には真っ白い鞄。
まるで雪から生まれてきたかのように、わたしは全身真っ白だった。
栗色の髪とのコントラストが綺麗に映えているなと思った。自分のことだけど。
517 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 00:01
     ________
     *~☆~*~☆~*~||。    ○  o     ○
     SALE] 。    O /||  O   。    。 °
     y^ヽ   /"'Y'"ヽ//||         o
     i: l |  .| l i: | |  ||  ○   。  o  O 。
     i: i」   L| i:.|_|。 || 。   o     ○
     | ̄ 。   ~~l~~   ||    。  o    o
     | O  ☆ノハヽ ノハヽ☆  O
     |_____ ノノ*^ー^) (^ー^*从 。  。 o  °o 
     //// ,O"':i''"OO"'i:''"O、 o   ° o
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ i__ l:__i□  。   o
     。  o °  o し´し' o    。  。   o


……くしゅん。

わたしは何枚着ているのかを調べてみた。ブラを入れて三枚だけだった。
これは本当に風邪を引いたかもしれないなぁ。いそいそとコートのチャックを閉める。そのとき、
Tシャツの左胸の所に、赤い刺繍がしてあるのに気が付いた。




     E ・ Kamei




……そういうブランドなのかなぁ。

それにしても、どうしてわたしはこんな格好をしているのだろう。
そもそも、ここは一体何処なんだろう。
518 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:02
ぶるぶる、ぶるぶると鞄が鳴った。いや、正確にはその中の携帯のバイブ音だった。誰から
だろう。パカッと開いた画面には非通知の文字。不安に思いつつも、通話ボタンを押した。今
のわたしには情報量が圧倒的に欠如していた。

「……もしもし?」口から出た息が白い。
「…………」
相手は何も話してこない。電波が悪いのか、時折雑音が入るけど、何も話してこなかった。
「もしもし? ねぇ、ちょっと!」
「…………」
いたずら電話だろう。そう判断してわたしは電話を切った。

そのまま鞄にしまおうとして、携帯の裏にプリクラが貼られているのが見えた。


     ┏━━━━━━━━┓
     ┃*・゜゚・*:.。..。.:*・゜゚・*:.。┃
     ┃ ノノハヽ ノハヽ☆. ┃
     ┃(●´ー`)(^ー^*从 ┃
     ┃(つ"'i:と つi:''と). ┃
     ┃安倍さん 亀ちゃん┃
     ┃*・゜゚・*:.。..。.:*・゜゚・*:.。┃
     ┗━━━━━━━━┛


安倍さん≠ニ亀ちゃん=Bこの亀ちゃん≠ヘさきほど窓に映っていたわたしそっくりだ
った。つまりわたしは亀ちゃん≠セ。多分そうなのだろう。
隣の安倍さん≠ヘ誰だろう……。仲良さそうに映っているから、きっと親しい間柄だったに
違いない。さん&tけだから、先輩か何かだろうか。見た感じだと、わたしより一つか二つ、
歳が上のように感じた。

ん、携帯? そうだ、携帯電話だと何か情報があるかもしれない。アドレス帳とか、スケジュー
ル帳とか、その他にも見つけられるだろう。
わたしは早速調べてみた。


プロフィール
名前  亀井絵里【かめいえり】
п@  090××××××××
アドレス ××××@do‐webfone.ne.jp

アドレス帳
なし

スケジュール
なし

着メロ
あぁ いいな!  (マナーモードによりバイブのみ)
519 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 00:03
あまり役に立ちそうな情報は得られなかった。着メロがドラえもんのエンディング曲なのは、少
しひっかっかったけど。
それにしても、まったくアドレス帳に記録されていないのはどうしてだろう。安倍さんさえもない
のはおかしい。消されたのだろうか、それとも自分で消したのだろうか……。

……やーめた。深く考えてもわかんないものはわかんない。
とにかくどこか行こう。雪が降ってるのに、じっと路上に突っ立ってるだけなんて、アホの子み
たいだ。適当なお店にでも入ろう。

てくてくしゃくしゃくと歩き出す。鞄がガチャガチャ鳴った。そう言えば、鞄には何が入っている
んだろう。わたしはビルの、屋根がちょっと突き出た所で雪がしのげる所で立ち止まると、鞄
の中身を探ってみた。

出刃包丁と、覆面があった。

それを見た瞬間、わたしの前にさっと陽の光りが射したような気がした。雪は相変わらず降り
続けているけど、とても晴れやかな気持ちになった。心なしか、外気温も暖かくなったようだ。
包丁を掴む。この手になじんだ感触、フィット感。刃に反射した自分の流し目がエロティックだ。
ふと見ると、道路を越えた向かいには、UFA【あっぷふろんとえーじぇんしー】銀行。自然と頬
が上がる。ニヤニヤ。ニヤニヤ。唇をペロッと舐めると血の味がした。いつの間にか唇が切
れていたようだ。そのことが余計にわたしの神経を高ぶらせる。

わたしのすべきことが決まった。覆面をもぞもぞと被り、右手に包丁、左手に鞄を握りしめると、
雪でツルツルに滑りやすくなったアスファルトと、そこを行き来する車に注意しながら横断し、せ
かせか急ぐ通行人をぐんぐんと追い抜いて、自動ドアの正面に立った。

 扉がゆっくりと開いた。
520 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:03
出てきたおばあちゃんとぶつかりそうになった。
「おや、ごめんなさいね、ゴホゴホ」「あ、いえ、大丈夫ですから」
腰がすっかり曲がって、わたしの半分ぐらいに縮こまったおばあちゃんは、ごほごほと咳をつ
らそうにしながらよたよたと歩いていった。ふと、わたしの鼻もむずむずしてきた。

……くしゅん。

鼻をすすろうとして手の甲を顔に持っていくと、ぱふっとヘンな感触が伝わったことに気がつい
た。あれ? と思ったわたしの目に入ってきたのは右手に掴んだ綺麗な花束。わたしの後ろで
すーっとドアが閉まった。振り返ってみると、そこにうっすら映ったわたしの姿は、覆面ではなく
代わりに立体の風邪マスクをし、花束を右手に、フルーツ詰め合わせのバスケットと白い鞄を
起用に左手に持っていた、まるで誰かのお見舞いでもするかのような格好になっていた。
あまり良いとはいえない頭をフル回転させてみるも、今の状況が把握できない。一体これは――。

「あ、亀井じゃない」と、声をかけられた。見ると、すらっと背の高い看護婦さんが立っていた。
目の大きな、綺麗な人だった。
「どうしたの? そんな所に突っ立ったりなんかしちゃったりして」
「あ、いえ、その……」
「あ、そのお花綺麗だね。えーっと、名前何だっけな……」
うーん、うーんと看護婦さんが唸っている間に、わたしは周りをさっと見渡してみた。そこは何
処かの大きな病院のロビーだった。
わたしは銀行に向かってやってきたはずなのに。外を見ると、先ほどまでとはまったく違った風
景が広がっていた。いつのまにか、テレポーテーションでもしたんだろうか。

「あー、思い出せない。もう歳なのかなぁ……」
頭の中が混乱気味なわたしの隣で、がっくりと首をうなだれる看護婦さん。美人な人は感情を
表にあまり出さないというおかしな偏見を持っていたわたしにとって、その人は少し意外だった。
看護婦さんはわたしの視線に気付いたのか、少しばつが悪そうな顔をすると、「あ、なっちなら
いまお散歩してると思うから、部屋に行って待ってたらいいと思うよ」と言って、忙しそうに歩い
ていってしまった。
521 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:03
なっち。
看護婦さんが何気なく口にしたその名前。それが安倍さんを指していることを感覚的に、いや
先天的にと言ったほうがいいのかもしれないけれど、とにかく安倍さんのことだと感じた。

わたしはキョロキョロと天井に書かれた標識を辿りながらナースステーションに向かった。
ナースステーションには数人の看護婦さんが働いていた。先ほどの看護婦さんはいなかった。
「すいませーん」と、わたしはカウンター?の側にいた少し年配の看護婦さんに話しかけた。
「はい、どうしたの?」
「あの、お見舞いなんですけど、部屋がわからなくて」
「お見舞いね、誰のお見舞いなの?」
「安倍さんなんですけど」

安倍さん、そう口にした瞬間、頭の中でなにかぼんやりとしたイメージが駆け巡った。
何が楽しいのか、まるでバカみたいにうヘヘヘヘと笑うわたしの横で、安倍さんが幸せそうに
ころころと笑っている。何かを話すわたしに向かって、安倍さんはもぉとでも言いそうな顔でぺ
ちぺちと叩いてくる。わたしの頭をなでる安倍さん。いっしょに歌う安倍さん――。

「アベさん――というと、なつみさんのことかしら?」
安倍なつみ。そう、安倍さんの下の名前はなつみだ。
「はい。そうです」「なつみさんなら503号室よ」「そうですか、どうもありがとうございます」
わたしはぺこっとお辞儀をすると、503号室に向かった。


503 安倍なつみ
ドアの前にはこんなプレートが書かれてあった。どうやら安倍さんだけの個室らしい。
「失礼します」
スライド式のドアを開くと、そこには安倍さんの姿はなかった。やっぱりお散歩してるのかな。
わたしはベッドの側の台にバスケットを置き、花瓶に入ってあった花と持ってきた花を取り替
えた。そして丸椅子に腰掛けて、安倍さんの帰りを待った。

気がつくと、辺りはオレンジ色の光に包まれていた。いつのまにかうとうとしていたらしい。
目をしぱしぱさせながら病室を見渡すも、安倍さんはいなかった。まだ帰ってきていないのか、
それとも再び何処かへ行ってしまったんだろうか。わたしは部屋を出ることにした。

 ドアをスライドさせた。
522 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:04
……あれ? わたしは自分の目を疑った。目の前に上へと続く階段があったからだ。病院の
廊下だったはずなのに。おかしいと思いつつ、病室に戻ろうとドアを横に動かそうとした。でも
それは出来なかった。いつのまにかドアノブがついていて、前後に開閉するタイプの物に変わ
ってしまっていたからだ。しかも鍵が掛かっているのか、ウンともスンともしなかった。

不思議に思いながら、わたしは階段を上ってみることにした。
歩く度にカンカンカンと音が鳴る。たまにギイギイ。あまり新しい物ではないようだ。手すりはも
う錆びてしまっているのか、ザラザラしていて気持ち悪かった。

行けども行けどもドアがなかった。もう何階分上っただろう。わたしはすっかりへとへとになっ
ていた。額から珠のような汗がにじみ出て、前髪がおでこに張り付く。背中やわきや腰の辺り
がびちょびちょになっている。太ももが上がらない。
限界だ、そう思ったわたしの前に、やっとドアが現れた。階段もそこで終わりのようだ。あとち
ょっと。わたしは最後の力を振り絞って、一歩一歩足を進めた。
上りきったわたしは、ドアの前でぺたんと腰を下ろした。呼吸を整える。
しばらく休憩したあと、立ち上がり、ドアに手をかけた。ガチャリとドアが開いた。ほっとした。

ドアの外は真っ暗だった。どうやらこの建物の屋上らしい。風がぴぃぴぃと吹いている。今は
涼しいと感じるだけだけれども、しばらくしたら汗で体が冷えてしまうかもしれない。

「あのぉ、誰かいませんか」「あれぇ、亀井じゃん」
わたしが喋ったのと、おかしなアニメ声が聞こえたのは同時だった。最初は、安倍さんかなと
も思ったけど、何だか違う気がした。声のしたほうを振り返る。でも真っ暗で何も見えなかった。
おかしいな、確かに声がしたのに……。
「どうしたの? もしかして亀井も月光浴?」
依然として声だけが聞こえる。まだ暗闇に目が慣れていないだけかもしれない。相手が黒い
服を着ていて、闇にまぎれているのかもしれない。
「いや、違いますけど」「ふーん、そっか」
523 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:04
段々目が慣れてきた。なにやら人影のようなものが見える。……あれ? ハダカ? いや、ま
さか。それで闇にまぎれたり出来ないし――。そこで、あることに気付いた。
「……あの、月出てないと思うんですけど」
月が出ているのなら、少しぐらい辺りの様子が見えるはずだ。

するとアニメ声の人はアハハハハと笑い出した。なぜか無性に腹が立った。
「月は出てるよ。新月って言ってね、月の力がもっとも強くなるの」
「え、でも新月って、太陽と一緒に回ってるとかなんとか、ってのを学校で習いましたけど」
「学校の教えることが、全部正しいわけじゃないのよ」
アニメ声の人はぺたぺたと歩いて行ってしまった。途中でふっと足音が消えた。
あれ、どうしたんだろう。気になったので、足音の消えたほうへたったっと駆けていった。
急に地面の感触を感じなくなった。がくんと視界が揺れる。その場に沈滞していた空気を一部
分切り裂いて、わたしは下へと向かっていく。反射的に、わたしは屋上の縁をつかんでいた。

何で? 何でこの屋上には塀とか柵とか、そんなのがないんだろう。ぎしぎしと指が痛む。
さっきのアニメ声の人も、ここから地面に叩きつけられてしまったんだろうか……。想像したら
ゾッとした。やだ、まだわたし若いのに。
なんとか上に這い上がろうとしたけど、つかまっているので精一杯だった。
「誰か、誰かいませんかぁ」
かすれ気味の声で必死に助けを求める。でも誰からも返事をもらえなかった。

どれぐらいの時間そうしていただろうか。次第に腕も痺れてきた。懸垂はそんなに得意じゃな
いのに。
もう、ダメかもしれない。ふと頭によぎったその弱みに、体も支配されてしまったのか、急に力
が抜けてしまった。
「あっ」
つるんと指が滑り、わたしの手は空を切った。

 体全体で地球の重力を感じた。
524 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:04
次第に加速度が低下していく。そして遂には微妙な上下運動のみになってしまった。
……あれ? すっかり観念していたわたしは、ぎゅっと閉じていた目を開けた。
これは……何処かのホール?
天井から薄いライトが幾筋か伸びていて、それらが豪華なセットの上に降りそそいでいた。
その光りに照らされて、二人の女の子がビュンビュン飛び回っている。

「すごい、浮いてる……」
いつの間にか隣にいた女の子が呟いた。ふわふわふわふわと浮いていた。
「すごい、すごいよ! ねえ、絵里! すごいすごい!」
女の子はすごいすごいを連発しながら、わたしと手をつなごうとした。でもコントロールするこ
とが出来ず、その場でくるくると回りだしてしまった。
わたしはというと、まるで魔法のような不思議な世界に惹かれてしまっていた。考えることを拒
絶させる、その有無を言わせない強制的な、なのに何だか心地よい、まるで子供のわがまま
に付き合わされている様な、不思議な感じだった。
それにしても、ここにも安倍さんはいないようだ。何処に行ったら会えるんだろう……。
やがて、浮遊感が少なくなっていった。

 地面に足をつけた。

いつの間にか、わたしは学校の廊下に立っていた。なぜか足をめいいっぱいに広げていた。
「……亀井何やってんの?」
キョロキョロと周りを見渡す。でも誰もいなかった。もちろん安倍さんも。
「ちょっと、亀井ってば。こっち、こっちだよ。見下〜げて〜ごらん〜♪」
声に従うと、そこには小さな小さな女の人がいた。
「あ、どうも」
「どうもじゃないよ。なんでおいら達、めだかさんと他の新喜劇の人のやり取りしてんだよ」
「はぁ……」
「まあいいや、とにかくおいら急ぐから。じゃあね」
小さな女の人はそう言うが早いか、足元から煙を撒き散らしながら、すぐそばの教室へと走っ
ていった。わたしも後を追った。

 教室に入った。
525 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:05
教室の中には全長五メートルはあるだろう、大きな蟻がいた。背中にうっすらと羽が見えた。
羽には白い筋が何本かあり、透明と思っていたそれは少し汚れていて、これまでそれを飛ば
していた証のようだった。安倍さんではなかった。
羽蟻はわたしを確認すると、ゆっくりと近寄ってきた。間近で見た羽蟻は、とても恐ろしい顔を
していて、まるでプレデターのような、そんな感じの顔だった。
わたしの前まで来ると、羽蟻はその頭を垂らした。まるで女王様に服従する兵隊のようだった。
その頭に手を触れる。硬くてごつごつしていて、そして冷たかった。
羽蟻は満足したのか、ゆっくりと動き出したあと、汚れた窓ガラスを突き破り、大空へと消えて
いった。多分死ぬんだな、そう思った。

ぶーん、という音がした。水槽のポンプの音だった。水槽は、先ほど羽蟻がぶち破った窓ガラ
スのすぐ横で小さくまとまっていた。普段太陽の光を十分に浴びているのか、緑の藻がびっし
りと生い茂っていて、中に何が入っているのかはわからなかった。

 水槽の中を覗き込んだ。

真っ暗で何も見えなかった。突然顔のすぐ側で、オ―――イという声を聞いた。この声何処か
で聞いたことある……。顔をあげたわたしの隣に、ふわふわ浮かびながらすごいすごいを連
発していた女の子の笑顔があった。
「石落としてみると?」
女の子はわたしの了解も得ずに、笑顔のままで手に持っていた黒曜石を井戸の中に投げ入
れた。しばらくすると、コツンという音がした。石が底についたようだ。途端に女の子の笑顔が
曇る。
「なんやつまらん。結局これでもなかったとね」
女の子は博多弁で本当につまらなさそうに言うと、絵里行こ、とわたしの手を引いて走り出し
た。よくわからないけど、もしかしたら安倍さんのいる所に連れて行ってくれるかもしれないか
ら、大人しくついて行くことにした。
わたしたちの向かった先には、大きな鏡があった。

 鏡に自分の姿が映った。
526 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:05
横からドカッと押されて、わたしは吹っ飛んだ。
「ちょっとさゆ、あんた強引すぎ」「えー、だって絵里が、ずーっと大きな鏡独占してるから悪い
んじゃないの」「でもやり過ぎだってば」「うん、やっぱりわたしが一番カワイイ」「ちょっと、人の
話聞いてるん?」
ふわふわ浮いていたときに舞台の中央にいた女の子のおっきい方と、博多弁の女の子が言
い争い(といってもわたしには子猫のじゃれあいのように感じた)をしていた。
周りを見渡す。さっきの小さな人が白い人や双子?に玩具にされてたりしたけど、安倍さんの
姿はなかった。

そこへ、おでこと眉毛を妙に強調した女の子が目立たないようにやってきた。
「まーたアンタ達はケンカしてる! いっつもおんなじことの繰り返しじゃないかぁ」
おそらく自慢にしているのであろう眉毛と眉毛の間に、数本皺が刻まれる。そして逆ハの字に
なった眉毛は、自慢のおでこにも皺の領域を広げていた。

「だって絵里がずーっと鏡ばっかり見てるから悪いんだもん。わたし悪くないんだもん」
「でもさゆは限度ってもんを知らなすぎると!」
「まぁまぁまぁまぁ」と眉毛おでこちゃんは、あくまで目立たないように、ごく自然にさり気なく、二
人を静めさせた。そしてわたしの耳元でこそこそと話し掛けてきた。

「キリがないからさ、亀井ちゃんは折れてくれないかな? ほら、まだシゲさん子供だし」
親指でくいっとおっきい方の子を指す。その子の方を見ると目が合った。あっかんべーされた。
「イヤです」
「え〜なんでだよぉ!」眉デコちゃんは、自慢の眉毛を今度はハの字にして情けない声を出す。
「イヤなものはイヤなんです」
「そんな亀井ちゃ〜ん。ほら、イッコ上なんだからさぁ〜」
「イ・ヤ・で・す」
527 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:06
そんなやりとりをしていたわたしの視界に、ちらり、ちらり、と何かがよぎった。紙だろうか、い
や、あれはチラシ? 広告? ひらひらと一枚の紙がどこからともなく舞い下りてきた。それは
わたしの膝の上に、まるでプロのスカイダイバーのように、すとんと着地した。
眉デコちゃんが、目立たないように情けない声を上げ続けるのを右から左へ聞き流しながら、
わたしはその広告を手に取った。

 広告の文面を読んだ。

「あ、久しぶりじゃん」
広告(その広告には日本語じゃない、おかしな文章が印刷されていた)から顔をあげると、最
初に会った看護婦(ノッポさん)が座っていた。でもナース姿ではなくラフな格好で、まごの手
で背中をポリポリとしていた。
そこは素っ気無い部屋だったけど、なんとなく安倍さんの匂いがした気がした。

「何? 最近イライラしてるの?」
背中をポリポリ。立ち上がったと思ったら、煎餅を取り出してきてそれをバリバリ。
「ちょっと、カオが聞いてるんだよ? なんか言ったらどうなのよ」
傘でゴルフのスイングをしているノッポさんは、聞く体制になっているようには見えなかった。
「……まぁいいか。はい、着いて来て」
ノッポさんは傘を持ったまま、奥へと入っていってしまった。私もあとに続く。
ノッポさんはくるっと振り返ると、「ここに五つの鍵があります。どれがいい?」と目の前に鍵を
ぶら下げてきた。どれでも良かったので、真ん中を選んだ。
「ふつーの部屋か、まぁ初心者にはいいかもね」わたしに鍵を渡しながら、「あっこの角を右に
曲がった部屋だから、気がすんだら戻ってきてね」とノッポさんは傘をブンブン振り回しながら
戻っていった。わたは指示に従うことにした。

 曲がり角を曲がった。
528 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:06
ジャンボジェット機が飛び立つ。どうやら空港のようだ。そこには人がいっぱい(四十二人ぐら
い)いた。黒山の人だかりの真ん中らへんから「Yo! Yo!」 という掛け声が聞こえる。何故だか
わからないけど、無意味に物凄く盛り上がっているようだ。
こんなにいっぱいいたら、もしかしたら安倍さんがいるかもしれない。そう思って目を凝らして
みたけど、安倍さんはいなかった。すでに去った後のような気がした。
よく見ると、みんなおかしな格好をしていた。真っ白なわたしは、ひどく場違いなように思える。
とりあえず休憩しよう。

 椅子に座った。

割と片付けられた、でも生活感の溢れる部屋に変わっていた。
「はい、おまたせ〜」
思わずつついてしまいたくなるようなほっぺたを持った女の子が、目の前の机に、コトンとお
皿を置いた。マスカットが乗ってあった。食べろってことだろうか。わたしは安倍さんを探さな
きゃいけないのに。でもそのおいしそうな果実を見たわたしの体は正直で、お腹がうまい具
合にきゅぅと鳴った。ウフッとほっぺたさんが嬉しそうな顔をする。わたしは顔が真っ赤になる
のを誤魔化すかのように、マスカットに手をつけた。

「……このマスカット、なんだか剥きにくい……」
爪で剥こうとしてもうまくいかず、果汁が爪と指の間に染み込む。ほっぺたさんは、ぷるぷると
顔を振りながら、「違う違う。これはね、こうやって食べるんだよ」房から一粒取ると、皮の付い
たままでぱくり。えっ、とわたしが驚いている中、ん〜と堪能している。ごっくんと飲んだ、咽の
躍動がやけに色っぽい。はぁ〜おいしぃ、と幸せそうな笑みを、顔じゅうに浮べるほっぺたさん
を見ていると、この人はまるで食べるために生きているんじゃないかと思えてしまう。
529 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:06
「桃太郎ぶどうっていってね、岡山かどっかかなぁ、多分岡山で作られたんだと思うけど、皮ま
で食べれちゃうんだよ。その代わり種はあるけどね」と、種をぺっと出した。
今はそんなのまで作られてるんだなぁなんて思いながら、わたしは剥きかけのぶどうをぱくり。
おっ、と思わず声に出してしまっていた。シャリシャリとした食感が、口の中に広がる。

「どぉ? おいしい?」
「……これイケルかも」
「でしょ〜!」
まるで自分の子供を褒められたように喜ぶほっぺたさん。しゃりしゃり、しゃりしゃり。
「……これ、ぶどうっていうより、なんかさくらんぼっぽくないですか?」
「え、そうかな……、亀井ちゃん面白い味覚してるね」
ぺっと種を出す。こういうところもさくらんぼっぽいなと思った。
「まだあるから、遠慮しないで食べていいよ」
「じゃあ遠慮なく頂きます」わたしはもう一粒、房から取った。

 口の中に放りこんだ。

あれ、今度はみかんの味――。手元を見ると、みかんとその皮がいっぱいあった。指も黄色
になっていた。机と椅子はいつのまにか、こたつと座布団になっていた。


       .\____________/
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        |i!ii!i!i   ||≡≡≡≡≡ ノハヽ☆
       /       (::゚::)(::゚::)旦(^ー^*从\
            l二二二二二二二と  ヽ
          / ※※※※※※※※ヽ_)
          ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

お茶とみかん。もちのほうがよかった気がするけど、みかんでも十分なごむ。
依然として雪は深々と降っている。雪を見ていると、安倍さんの顔が思い出された。
530 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:08
安倍さんは、一体何処にいるんだろう。
なんだかいたたまれなくなって、足をバタバタさせた。こたつと床に足が当たった。
こたつの中はワンダーランド。そんなことが頭をよぎった。こたつの中はワンダーランド……。
わたしはぺろりと布団をめくる。

 こたつの中に潜り込んだ。

ウーンという機械の音がした。目に見えない圧迫感を感じる。デジタル表示された数字が、一
つずつ数を増やしていく。わたしはエレベーターに乗っていた。
デジタルの数字は、もうすぐ五十を超えようとしている。それなのにボタンが一つもないから何
階に向かっているのかわからない。でもどうすることも出来ないので、ぼーっと数が増えていく
のを見ていた。
百を超えてから、でたらめになった。パネルの裏でネオンが好き勝手に点いたり消えたりして
いる。もじもじくんみたいだ。そしてふっと消えた後、おかしな文字が現れた。
 ナ マ ズ ≠サう読めた。

 エレベーターの扉が開いた。

そこはお城だった。
お城の、おそらくお姫様の部屋か何かで、お姫様(らしき人)と、ヘンなキノコの帽子を被った
人達(そのうちの一人は、あの小さな人だった)がいた。でも安倍さんはいなかった。ここいな
らいると思ったのに。

「はいどーもー、ヤグチキノコでーす」
「どーもー、ヨシザワキノコでーす」
「二人合わせてー、シテイーズでーす」
「さ、もう師走ですけども、なんか気付いたらさ、おいら達だけだよ? 公認の師弟コンビは」
「そぉですね〜、まだ飯田さんと梨華ちゃん残ってるけど、相方卒業しちゃいましたからねぇ」
「まぁね、ハロプロライブとかだと師弟コンビも復活したりしてるんですけどね」
「いやでも、わたし思うんですけど、やっぱりわたしたちが一番師弟コンビとしては良かったん
じゃないですかね。むしろ、他のは師弟じゃないじゃん! みたいな感じでしたからねぇ」
「へぇ、よっすぃ毒舌だねぇ。なんでなんで?」
「いやぁだって――」
531 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:08
「他の師弟(シティー)コンビは、田舎もんがいたじゃないですか!」
「うまいねよっすぃ! 山田君、座布団持ってきて!」

場の雰囲気が凍りついた。これはないだろう、というのが流石のわたしでもわかった。お姫様
も無表情のままだ。困った小さなキノコさんがおろおろと解説しだした。
「姫、あのですね、これはダジャレになっていまして、師弟とシティーをかけたんでございます」
「いや、それはわかったんだけどね」どことなく魚っぽいお姫様がぼそぼそと呟く。
「千葉と埼玉って、同じぐらいなんじゃないかなって思ったから」
「あ……、はぁ、そうですね。同じぐらいです……かね」
「じゃあ今のはなかったことで、はい。次いきます。東京都の――」

そのあとも寒いネタばかりが続いた。たまにお姫様が笑ったけど、それはおっきいキノコさん
の力技で、ネタとかそんなの関係なかった。
安倍さんだったら、こんなのでも笑うんだろうな。そして、そんな安倍さんにつられて、わたしも
笑っちゃうんだろうな。……安倍さん……。

「あ、亀井じゃん。どうした? そんな涙目になって」小さなキノコさんがわたしに気付いて近寄っ
てきた。おっきなキノコさんとお姫様もやってきた。
「あれか、おいらのおもしろさに思わず涙しちゃったか?」
「そんなわけないじゃん。やぐっちゃんすべりっ放しだったし」
「えー、そんなぁー。よっすぃ、ごっちんがいじめるぅ」
「あ、わたしもごっちんに同意ぃ」
「えー、な、亀井は? 亀井はおいらが面白かったと思ってるよね? ね?」
わたしはぶんぶんと首を横に振った。

「ん? 亀井なにか袖から出てるよ」お姫様がわたしの左腕をとる。
「……包帯?」「何? 亀井怪我してんの?」「え、いや……」
包帯に覚えはなかった。もしかすると、雪の中で突っ立っていたあの時から巻いてあったのか
もしれない。
532 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:09
「だいじょーぶ? 痛いの?」「骨折?」
わたしが黙ったままでいると、お姫様とおっきなキノコさんは、親身になって包帯のことを心配
してくれた。ちっちゃいキノコさんはというと、部屋の隅のほうでエグエグと泣いていた。
「あの、えっと、大丈夫だと思います。痛くないですし」
でもねぇ、と二人は気になって仕方がない様子だった。わたし自身、とても気になっていた。

ぐいと左腕の袖を引き上げた。手首の出っ張った骨の部分から、肘の下辺りまで包帯は巻か
れてあった。結び目をお姫様に外してもらって、少しずつ包帯を解いた。次第に露になってい
くわたしの左腕。

 そこには通信機があった。

通信機がはめ込まれてる。まるでマンガや映画のようなこの事実に声も出せないでいると、
「ん? 何もなってないじゃん」「も〜、亀井は人騒がせなやつだなぁ」と、二人はわたしの頭を
ぺちぺち叩いてきた。なんで? 何で驚かないの? 通信機だよ? もしかして、二人にはこ
れが見えないの?

「やーぐちさーん、いつまでヘコんでるんですかー、休憩終わっちゃいますよー」
「それじゃあね。また今度あそぼーね」
二人は小さなキノコさんを無理矢理立たせて行ってしまった。
わたしは部屋で一人たたずむ。これからどうしよう。左腕は通信機になってるし。
と、突然左腕にぴりりと、まるで電気が走ったような刺激があった。

「あーあー、マイクテス、マイクテス」
え、この声は……安倍さん!?
「あ、カメちゃん? 聞こえる?」
「安倍さん!? はい! 聞こえます! バッチリです!」
「うっわー、カメちゃん元気だねー」
「あ、*@※☆¥%」
焦ってしまって、思いっきり噛んでしまった。通信機の向こうから、ケラケラと楽しそうな笑い声
が聞こえる。でも今のわたしには、落ち着いてというほうが無理な話だ。
533 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:09
「安倍さん、今何処にいるんですか?」
「えぇ? そう言うカメちゃんこそどこにいるのさー。もうみんな集まってるよ」
「集まってるって――」
「もぉ、カメちゃんったら。しょうがないな。これは裏ワザだからね。お母さんにも教えてないん
だからね。ナイショだよ」
そう言うと安倍さんは、通信機の転送能力について教えてくれた。
「じゃあ、あとでね。待ってるからすぐ来るんだよ」
「あ、安倍さん――」通信は途絶えてしまった。もうウンともスンとも言わない。

早く会いたかったので、わたしは安倍さんの言っていた、通信機の裏ワザを試してみた。
すると、足の先から徐々に金色の粒子に変わっていった。わたしの全てが金色の粒子になる
と、言葉では言い表せないような、不思議な煙に包まれた空間をいつのまにか駆けていた。
いや、駆けていたというよりも、誰かの手に引かれていたというほうが正しいかもしれない。確
かな感触があった。あったかい。
これは誰の手のひらだったっけ。それを思い出した途端、頭の中がスパークした。

 そう、これは安倍さんの感触だ。

「がんばっていきまっしょーい」
気付くとわたしはステージ衣装に着替えて、円陣を組んでいた。各々がライブ前特有の、テン
ションの上がった雰囲気になっていた。至る所で奇声が聞こえる。そんな中、わたしは一人キ
ョロキョロと安倍さんを探していた。

急に腕を引っ張られた。さゆとれいなだ。
「ほら、絵里行くよ」「あ、ちょっと待って――」「待てないよ、だってもう出番きちゃうんだもん」
「でもダメなものはダメなの!」わたしは無理矢理二人の手を解いた。
「あ、ゴメン……」
「絵里……」
「わかった。先行ってるから」
ほらさゆ、とれいなはさゆを連れて行った。さゆは不安そうな表情を浮べていた。
心の中で二人にありがとうを言いながら、わたしは安倍さんを探した。

安倍さん、どこですか? 絵里はここにいます。安倍さん?

 「カーメーちゃん」

それはわたしの後ろからだった。
久しぶりに聞いた生の声が、わたしの全神経にすぅっと吸収されていった。
534 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:11

「安倍さん……」

やっと、会えた――。
安倍さんはニコニコと微笑みながらやってきた。
「ダメじゃない。ほら、カメちゃん。みんな待ってるよ。早く行かなくちゃ」
安倍さんの指差すほうを見ると、暗い階段の向こうに、ステージライトとサイリウムに彩られた
みんなが立っていた。みんな早くコッチにおいでという顔をしている。でも、なんでそんな悲しい
顔をしているの? なんでわたしだけを見ているの? 安倍さんは? どうして?
折角こうして会えたのに、安倍さんを置いてなんて行けないよ。安倍さんが行けないのなら、
わたしもここに残りたい……。

「カメちゃん」
安倍さんのほうを見る。安倍さんの目の中に、今にも泣き出しそうな自分が映っていた。
全てを許してくれそうな、優しい微笑を浮べながら、わたしの頭をやさしくポンポンとたたいて、
「大丈夫だよ。なっちはすぐに追いつくから」
「でも、でも……」
「ホラホラ、メイク崩れちゃうってば。も〜この子は」

泣き虫なんだから、と指で涙を拭いてくれた。そんな安倍さんの指が、とても温かかった。
とっさに口から言葉が出た。

「安倍さん。あの……指切りして下さい」
安倍さんの温もりを、安倍さんが帰ってくるまでずっと心に残しておきたいんです。
何だべ急に? ……ダメですか? ダメじゃないよぉ。はい小指出して。いくよ、せーのぉ

ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます ゆーびきった

「それじゃあ、行って来ますね」
「うん、行ってらっしゃい」
わたしは安倍さんに背を向け、ステージに向かって駆け出した。


「あ、カメちゃん」


535 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:12


                      誕生日おめでと。


536 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:12

振り返ると、そこにはもう安倍さんの姿はなかった。
左手の小指を見つめる。安倍さんに包まれている感じがした。
安倍さんは、いつもすぐそばで見守ってくれているんだ。左腕の通信機だってあるんだもんね。
よし、頑張るぞ。
みんなの待つ光の渦の中に、わたしは笑顔で飛び込んだ。








                                                    了



537 名前:後書 投稿日:2004/12/23(木) 00:13
多分ホイジンガのホモ・ルーデンス=y遊ぶ人】から思いついたような気がするけど、
この『ばるんるんばらるーでんす』というタイトル、語感はイチバン気に入ってる。
『あぁ いいな!』は歌詞が意味不明チックで大好き。
なちえり! なちえり! なちえり!


    o  ゚ o  。゚ o  。  。 o o ° o  。゚ o  。  。 o   o °
      _____o___o___ o   ゚ o  。゚ o  。  。 o   。
    o/  o   o      。    o  \゚  o  。  o    o  。    o  
    ┗━゚━━━━━o━━━゚━━━┛ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄o ̄ ̄ ̄ ゚̄ ̄ ̄|o
    || 。| ̄o .| ̄||| ̄ ̄ ̄||| ̄o ̄ ̄o ̄o | o.// o    ゚ o ゚ o   ゚ | 。
    || ̄ ̄| ̄o ゚.|||  o   .|||o. | ̄ ̄|。  ゚|// o  。 ゚     。    o |
    || ̄|o ゚̄_|_ _|||    o|| 。|o. _|  ゚ |o ☆ノハヽ ゚   。ノノハヽヽ o ...|o
    ||。 ̄|o _||| I o ゚ |||    ̄o  o 。|  ノノ*^ー^)U  ∪(´ー`●) /|
    ||_o|三三|。_.|||.    o ||| o  o  。 | ||( o  つ====⊆ 。⊂)|| ./|°
    ||o_|三三| o|||    。 |||  |[[[[[[[[[[| o| 。||  ̄ || ) || o゚||( (。 || ̄|| ..o |
    || 。|| ||o   |||゚ 。  |||。 ゚/.―――ヽ└――――――――――――┘。
    .o. ̄|| || ゚̄/ ̄ ̄ ̄ ̄\||. ̄ ゚̄ ̄.|| ゚
538 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:13


        ば る ん る ん ば ら る ー で ん す

                                    の お ま け



539 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:14
        o   。         ______o  O   。    。 °
      。 ○  o    ○   /  ィ     ○  o    ○
             o      /ニニニ)⌒ヽ        o
         o          (^ー^*从__ ) シャンシャン
       ○   。  ○  / ○⌒○) /|,. o  シャンシャン  O  o
     。  o    o   ∠ (/)-( /)_/ /     ○
           o    .|/ ̄ ̄ /_|/  ○   。  o  O 。
      o  O     /∩ ̄ ̄/∩   o    。
           。  ノ      /    o         O
      o   o  ψ  ψ _ ノ)ψ  ψ___ノ)    。   o      ○
        o   (・(▼)・ ) (・(▼)・ ) つ  o   °      o   。
      。   o ∪-∪'"~  ∪-∪'"~  。  。 o   °o 。
          __  _ 。    __   _  o  o__       _ °
       __ .|ロロ|/  \ ____..|ロロ|/  \ __ |ロロ| __. /  \
     _|田|_|ロロ|_| ロロ|_|田|.|ロロ|_| ロロ|_|田|.|ロロ|_|田|._| ロロ|_
540 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:14
サンタさんになったわたしは、二匹のトナカイに引かれるまま、雪の降る空を駆け抜けた。
「わぁ、いい気持ちィ」

しゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃん......

何処からともなく鈴の音が聞こえてきた。なんだか心がウキウキしてきた。まるでちっちゃい頃
に戻った気分。すっかり楽しくなってしまったわたしは、いつの間にか、
じんぐるべーる じんぐるべーる と鼻歌を歌っていた。


   じんぐるべーる じんぐるべーる 
   じんぐるおーざうぇーい
   らったったーら らったったーら
   ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん へい
   じんぐるべーる じんぐるべーる
   じんぐるおーざうぇーい
   よいこーははやーく ねむりなさい へい
   じんぐるべーる じんぐるべーる


……歌詞どんなんだっけ? 思い出せないな、えーっと、えーっと……わかんないな。
じんぐるべーる じんぐるべーる――

541 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:15
次第に高度が下がっていった。ん、どうしたのかなと思っていると、
「お空のお散歩はいったんお終い。サンタさんサンタさん、いまからお仕事をしなくっちゃ」
と左の手綱のトナカイ君が言った。
わぁ、トナカイが喋ったぁ、なんて違うことに感動していると、
「そりゃあ喋るとも。赤鼻のトナカイは普通のトナカイとは違うんだ。ただ飛べるだけじゃないん
だよ。それにキミもサンタさんなんだから、普通の人間とは違うんだよ」

今度は右の手綱のトナカイ君。
「さあさあサンタさん。早くプレゼントを子供にあげようよ」
トナカイ君の言葉はまるで、意識というスポンジに染み込まれる水のようだった。
「そうだね、わたしはサンタさんなんだもんね。トナカイ君、子供たちのところに案内してね」
「そうこなくっちゃ。サンタさん、しっかり掴まっててね」

びゅーん、とトナカイ君は一気に雪の階段を駆け下りた。風圧がスゴイ。目も開けていられない。
わたしはぎゅっと手綱を握りしめると、ぐいと足を踏ん張って、ソリから飛ばされないようにした。

びゅーん、びゅーん、びゅ――――ん



「……タさんサンタさん。子供の家に着いたよ。起きて起きて」「……ぅ、ぅ〜ん」
いつの間にか気を失ってしまっていたようだ。トナカイ君の声で気がついたわたしの目の前に、
一軒の家があった。
「ここは……二階?」
「うん。この部屋に女の子がいるんだ。その子にプレゼントをあげよう」
「わかった」

わたしはプレゼントの入った袋を持った。思ったよりも軽かった。いっぱいの子にプレゼントを
あげなきゃいけないから、とても重いはずなのに。
「それはね、」と右の手綱のトナカイ君が言った。
「袋の中に入っているのは、子供たちのおもい≠ネんだよ。袋の中から取り出したときに初
めて具象化されたりするんだ。それにキミはサンタさんだから、袋が重くて動けない、なんてこ
とにはならないよ」
なるほど。確かに、袋が重くて動けないサンタさんなんてカッコ悪すぎだもんね。
542 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:15
窓に手をかけると、ガチャガチャという音がして、カラカラと窓が開いた。
「最近は煙突のない家のほうが多くなっちゃったから、いつの間にかサンタさんに身に付いた
能力なんだ」と右のトナカイ君。サンタさんもタイヘンだ。

「おじゃましまぁす」
そぉ〜っと部屋の中に入った。カーテンがパタパタとはためく。外の寒い空気が部屋の中に入
っちゃうといけないから、静かに閉めた。
抜き足差し足忍び足。サンタというよりむしろ泥棒みたいだけど、わたしはこっそりとベッドに
近付いた。

女の子は今にもベッドからずり落ちそうな格好で眠っていた。
あーあ、布団蹴っ飛ばして。そんなんじゃ風邪ひいちゃうよ? わたしは女の子の体勢を整え、
布団を肩までしっかりかぶせてあげた。
うんうん。ぐっすり眠ってる。カワイイなぁ。頭ナデナデしちゃおう。ナデナデ。
ときたま口をモグモグモグモグさせている。食べ物の夢でも見てるのかなぁ? このあとウェーウェー
ってやって――じゃなかった。プレゼントだ。

袋の中に手を入れると、お菓子の詰め合わせがあった。この子にピッタリだ。
プレゼントを枕元に置いて、わたしはあることに気付いた。
あれ? 靴下とか置いてないのかな? この子の雰囲気からすると置いてそうだけど……。
うーん、まぁいいか。とにかく後は帰るだけ。最初のお仕事は無事完了だ。
油断したのが悪かったのか、急に鼻に違和感を感じた。むずむず、むずむず。あ、ヤバイ!


……くしゅん


しまった! はっと顔をあげると、女の子がぽかんと口を開け、寝惚け眼でわたしを見ていた。
手で顔を荒っぽくぐしぐしとこすり数回瞬きをすると、視界が戻ってきたのだろう、女の子はぱ
っと顔を輝かせ、わたしを指差した。
「あー、サンタさんモガッ」
咄嗟に女の子の口を押さえる。でも肝心な所はほとんど言われてしまっていた……。
モガモガとしている女の子に、わたしは人差し指を口の前に持っていって、シーッとした。女の
子もわかってくれたのか、こくこくと頷いた。
543 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:16
はぁ〜、まいった。こんなんじゃ、サンタさん失格だよぅ……。わたしが落ち込んでいると、
「あの〜、サンタさんですか?」と女の子が言った。
「うん、まぁ一応サンタさんだね」子供に見つかっても、わたしはサンタさんだ。
「スゴイ! ホントにサンタさんっているんモゴッ」
シッ、シッ、シッ、シッ、シー、とわたしは必死にアピールする。こくこくと頷いた。

「やっぱりサンタさんっていたんだぁ。ののの思ってたとおりだ」
てへっと笑うと、ちらりと八重歯がのぞいた。その人懐っこくて可愛らしい笑顔を見ていると、
溜息をつきたくなる気持ちが薄れ、わたしまで笑顔になってしまう。もちろん笑っていられる
状況じゃなかったけど、ばれたら仕方ないよね、みたいな軽い気持ちになっていた。
わたしは女の子――のん≠ソゃんかな?――の前にしゃがみ込んだ。
「見つかっちゃったね。のんちゃんこんばんは。メリークリスマス」
「わ、のんの名前知ってるの?」
「知ってるよ。だってわたしはサンタさんなんだから」
本当は、さっきから自分で名前言ってるからわかったんだけど。

「すごいなぁ、のん、サンタさんに会うのは初めてだ……」
「そりゃそうだよ。いつもはね、子供達がすやすや寝てる間にプレゼントを置いていくから、
誰もサンタさんを見たことはないんだ。だけど、今日は初めて失敗しちゃったんだ」
「サンタさんでも失敗するんだぁ」
「……たまにね」
初仕事で失敗だから、確立百パーセントだけど。

「それにサンタさんは恥ずかしがりやだから、あんまり子供達の前には姿を現さないんだけだ
けど、子供達の喜ぶ笑顔が大好きだから、プレゼントをこっそりと置いていくんだよ」
「へぇ〜」
「特に一年間イイ子でいた子が好きなんだ。のんちゃんは今年一年イイ子でいたのかな?」
「うん! のんとってもイイ子でいたよ!」
「そうかそうか、よく頑張ったね。来年もイイ子でいなさいね。ナデナデ」
「てへてへ」
あぁ、口から出まかせばかりだ。当たらずも遠からずといった感じだけど、心が痛いなぁ……。
キミはわたしみたいになっちゃダメだぞ。ナデナデ。
544 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:16
「でも……」急にのんちゃんはうつむいた。
「そうだったら、あいぼんはイケナイ子なの?」
「えっ!?」
「あいぼんが言ってたんだ。『サンタさんなんておらへん!』って。のんが、『違うよ、サンタさん
はいるもん!』って言っても、『そんなやつおるか』って。いるもん、おらへん。いるもん、おらへ
んってケンカになっちゃった……。ねえサンタさん、サンタさんはあいぼんには見えないの?
あいぼんはイケナイ子なの?」
「え、いやー、えーっとぉ……」

あーもう! さっきのわたしのバカバカバカァ! 何であんなこと言っちゃったんだろう!
わたしはなんとか頭をフル回転させた。うーん、こんな時は他力本願だ。
「トナカイ君、ねぇ、トナカイ君ってば」わたしはこそこそと話しかけた。トナカイ君はもそもそと
窓を開けてやってきた。
「だったらさ、今からその子のところに行ってみないかい?」
「え、いいの?」
「うん。その子にもプレゼントをあげるんだし、まぁ起こしちゃうことにはなるけど、それで幸せ
になれるんならいいんじゃないのかな」
「そっかぁ、そうだよね」「しっかりしてよ。サンタさんなんだから」「はぁい」

じゃあ行ってくるね、と言いかけて、のんちゃんが必死に口を押さえているのに気付いた。
「……何してるの?」
「いや、トナカイが喋ってるから……ビックリして、おっきな声出しそうになって」
「そっか、静かにしてなきゃって思ったんだね、えらいなぁのんちゃんは」
ナデナデ。てへてへ。

「それじゃあねのんちゃん。また来年――」「あ、待ってサンタさん」
「ん?」
「あの、えーっと……」
「どうしたの? 何か言いたいことがあるんでしょ?」
「……のんも、あいぼんのところ行きたい。てかソリ乗りたい」
「え、あー、どうしようかなぁ」
乗せてあげたいけど、サンタさんがそんなひいきしちゃいけない気もするし、でものんちゃん
にはばれちゃったしなぁ……。
545 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:16
わたしの結論は決まった。いや、最初から決まっていたかもしれない。
「よし。のんちゃん行こうか」「ほんと? ほんとに!」「うん。ほんとだよ」「やったーモゴ」
これはのんちゃんが自分で口を押さえた音。そのあと小さくやったーと叫んだ。

「それじゃああったかい格好に着替えて。外は寒いから」
「あ、そのままでも大丈夫だよ」右のトナカイ君が喋った。
「え、そうなの?」
「だって赤鼻のトナカイなんだもん。それにサンタさんだって寒くなかったでしょ?」
そういえば、風は強かったけど寒いとは感じなかったことを思い出した。
「じゃあ行こうか」「うん」
わたしたちは、ソリに乗り込んだ。

しゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃんしゃん......

「わぁ、ほんとに飛んでるー。家とかあんなにちっちゃくなっちゃったぁ」
わーいわーいと、のんちゃんはソリから飛び出してしまいそうにはしゃいでいた。
のんちゃんの無邪気な笑顔を見ながら、わたしはある考えをまとめていた。実を言うと、まと
めきれないものなのかもしれないけど、トナカイ君の袋の話が頭に引っ掛かってたから。

「……さっきの話だけどね」
「ん? 何?」
「あいぼんちゃんがさ、サンタさんはいないっていってた話」
「あぁ、……あのさ、あいぼんちゃんってヘンじゃない」
「……じゃあ、あいちゃんでいいかな」
「そのほうがいいと思う」
「じゃああいちゃんで。あのね、あいちゃんがサンタさんはいないって言ってたけど、それはあ
いちゃんがイケナイ子だからって言うのとは違うと思うんだ。だってのんちゃんだって、今日始
めてサンタさんに会ったわけでしょ?」
「あ、そっか」
「サンタさんっていうのは、言ってみれば子供たちの想像の産物なんだ。大人になるにつれて、
信じなくなったりもするし……、でも大人になってもサンタさんを信じてる人はいるんだよ」
「うん」
「信じる信じないは人それぞれなんだけど、クリスマスぐらいはさ、夢を見たいと思うよね?」
「思う」
「今からさ、あいちゃんにも楽しい夢を見せてあげよう」
「うん!」
546 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:16
「そろそろ着くから、しっかり掴まっててね」
びゅーん、とトナカイ君は一気に雪の階段を駆け下りた。風圧がスゴイ。目も開けていられない。
のんちゃんは大丈夫かなと隣をちらりと見ると、
「わぁぁぁぁぁ、じぇっとこぉすたぁみたいだぁぁぁぁぁ!」
……のんちゃんすごいな。

びゅーん、びゅーん、びゅ――――ん

流石に二回目だから、気絶はしなかったもののすこし気分が悪い。一方、のんちゃんはもう
ベランダに降りてる。なんて元気なんだろう。
「サンタさん、早く早く」「うんわかった、ちょっと待ってね」
よいしょと袋を担いで、窓をあける。「おじゃましまぁす」「おじゃましまーす」

あいちゃんは、今にも「はにゃぁ」とでも言いそうな感じですやすやと寝ていた。袋の中からプ
レゼントを取り出す。髪の毛につけるボンボンだった。これも、ピッタリのような気がした。
それにしても、この子の家にも靴下はなかった。今の子供は、靴下を置かないのかなぁ。

のんちゃんはあいちゃんのほっぺをつんつんしている。
「あいぼん、ほらあいぼん、起きてってば」
「む〜、もう食べられへんって……ムニャムニャ」
この子も食べ物の夢を見ているみたい。思わずぷっと吹き出してしまった。
「ほら、そんなボケいいから。起きろってば。おーい」
のんちゃんはつんつんからぐりぐりへとパワーアップしていた。
「もうちょっと優しく起こしてあげたほうがいいんじゃない?」
「大丈夫だよ。あいぼんはたくましいから。ほら、あいぼん。サンタさん来てるよ」
のんちゃんの攻撃に負けたのか、あいちゃんは薄く目を開いた。
「ん、ううーん、……のの?」
「へへ、おはよ」
「……なんでこんなとこにおるん?」
「へへへ。サンタさん連れてきたよ」
「はぁ?」
547 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:17
ほら、サンタさん出番だよ、とのんちゃんに背中を押されて、多少バランスを崩し気味なまま、
わたしは自己紹介をした。
「あ、どうも。サンタさんです」
「…………」
あいちゃんは大きな黒目をぱちくりぱちくりさせながら、わたしを頭の先からつま先までじぃっ
と見た。そのあと、彼女はとんでもないことを言った。

「……このコスプレねーちゃん誰?」

「はぁ!? 何言ってんの? サンタさんだよ。サ・ン・タ・さ・ん!」「いや、これ女やん。白髭の
ジジイと全然ちゃうやん。てかサンタなんかおらへん!」「ここにいるもん!」「これ偽モンやん!
サンタなんかいるか!」「いるもん!」「おらへん!」「いるもん!」「おらへん!」

……いやー、とても元気なお子様たちで――じゃない。とにかく止めないとご近所迷惑になる。
「あのーあいちゃん、紹介したい子がいるんだけど」
「あぁ? そんなんしるか! コスプレねーちゃんは黙っといてもらえるか」
「あ、どうも、左の手綱引いてます。トナカイです」
「…………」
「……黙っちゃったのあいぼんじゃん」

数分後。
「とにかく、サンタさんはいるの。白い髭のおじいさんじゃないけど、サンタさんはいるの」
「うー、確かにトナカイが喋っとるんは不思議やけども、でもそこのねーちゃんがサンタさんっ
ちゅーのは信じられへんなぁ……」
「なーんであいぼんはこんなに物分かり悪いのかなぁ?」
「そんなこと言ったかて、なーんか信じられへんもんは信じられへんねんもん」
わたしはというと、なんだか居心地の悪さを感じていた。確かに、わたしがサンタさんであるこ
とを証明する物はなかったし。

それに、とあいちゃんは付け加えた。
「今日まだ二十二日やねんもん。あ、十二時過ぎたから二十三日か」

「え?」これはのんちゃんの声。
「えぇ!?」これはわたしの声。
「うそだぁ、あいぼんそんなこと言っちゃって――」
「いやほんまやて。見るか?」
あいちゃんは、ベッドの脇にあった時計を手に取った。

   ( ‘д‘)つ <ホラ↓
548 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:17
                (`   )(^;从从 <アッ…

そうか、それで靴下がなかったんだ。なんてことだろう。見つかるわ日にちは間違えるわ。
「あの……あわてんぼうのサンタクロースってことで……」
「いや、歌やないねんから」
ばっさり切られてしまった。

「でもさ、それだったら今夜は空いてるんでしょ?」
「うん、プレゼント配らなくていいからね……」
「だったらさ、みんなで空の散歩しない?」
「えっ?」
「そやな。こんな夜中に叩き起こされたんやし、それぐらいはしてもらわなアカンわな」
「ほらほら、あいぼんも乗り気なんだし、いいでしょ〜」
「そやそや、減るもんやなし」

のんちゃんとあいちゃんは、悪役の顔をしてわたしに迫ってきた。でも目が笑っている。
そんな二人が、とっても可愛かった。
「そうだね、今夜はお空の散歩をしよう!」
「やったー!!」

「うっわー、すごい! 空飛んでるでぇ! めっちゃ気持ちええわぁ!」
「でしょでしょ? すごいでしょ?」
「いや、ののがすごいんやないから。それに自分、いつも空飛びまわってるやん」
「え、のんちゃん空飛べるの?」
「ちょっとだけね」と指でちょこっと大きさを現す。
「でもこんなに早く飛べないし、高くまで来たことないもん。それに風とかもわかんないし」
のんちゃんはなんだか不思議な能力を持っているみたい。
「ところでさー、あいぼん」
「のの、なんやー?」
「これで、サンタさんがいるってわかったでしょ?」
あいちゃんはわたしのほうをチラッと見てから大声で叫んだ。
「サンタさんは、サンタさんなんかおるかー!」
「いるもん! てか今見てたじゃん!」
「おらへん!」「いるもん!」「おらへん!」「いるもん!」「おらへん!」「いるもん!」「おらへん!」
「も〜、あいぼんのアホー!」「アホ言うやつがアホじゃー!」

上空で憎まれ口を叩きあうチビッ子二人。でも言葉とは裏腹に、二人の頬は、ゆるみっぱなしだった。






                                                           了

549 名前: 投稿日:2004/12/23(木) 00:18

           ☆ See You Next Christmas ☆

     + ゜☆ 。゜  +   ゜   ° ゜
       入 +  ゜  °゜_† +  ゜  °゜
     。 丿乂。  ___/ ./ヽo +   +  ゜  °゜
      乂パゝ ./      !_ !  !、 o
     .彡J八 /       / /.ヽ \ +C<⌒ヽ、  
    ノノ彳\ヾ| ̄ ̄ ̄ ̄| [] [] [] [] |   ⊂ニニ⊃∩
     ロo|!i| .| ∩∩∩ | .....| ̄|.......|   ノノ*^ー^)/ <またね!!
     ''"゛  `´`"゛゛゛"卅卅,...、-‐''`"゛ (⌒ノ○ : i


ノノ*`ー´)つ <って次のクリスマスはあさってじゃん!

550 名前:後書 投稿日:2004/12/23(木) 00:18
『ばるんるんばらるーでんす』に入れようと思ったけど、語り口調が違いすぎたのでやめました。
サンタさんの服を着たおねえちゃんはらいすっきれす。てへてへ。

極私的カキコ
亀井ちゃん誕生日オメデトー! あんど 写真集オメデトー!
551 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/12/23(木) 00:19


                       ((  ヽ○ノ <ワーイオワッター
                           |
                          ノヽ  ))



以上をもちまして、徒然草≠ニ書いてとぜんそう≠ニ読む はおしまーい。

どーもありがとーございましたー。


                                          N募集中。。。

552 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/12/23(木) 00:19
これで推理小説と言えるのか? 【第一回駄作短編集企画】
ttp://mseek.xrea.jp/event/pacifico03/1075790235.html

ブレスレットレイン'04(苦しいとか言うな) 【第一回駄作短編集企画】
ttp://mseek.xrea.jp/event/pacifico03/1075893719.html

黒ベージュは遠すぎる 【第十四回短編コンペ 斜陽】
ttp://mseek.xrea.jp/event/pacifico04/1079190176.html

硝子の少女 【第十五回短編コンペ 硝子】
ttp://mseek.xrea.jp/event/messe05/1087824457.html

この笛を鳴らしたらあなた 【第十六回短編コンペ 合図】
ttp://mseek.xrea.jp/event/big06/1096180596.html

徒然草≠ニ書いてとぜんそう≠ニ読む 【青板】
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/blue/1077781307/
553 名前:N募集中。。。 投稿日:2004/12/23(木) 00:20
                                 //;:;:/
                             //;:;:/
                             ノハヽ☆
                      _    /(^ー^*从
                        \   !、.ノ⊂ )
                   \      // し'し'
               、/    \_ノ     ゙′
              /\/  
               /\へ
                 〈〉
           \     |
       -   \   /
   \/         ̄
   /\/\
     〈〉

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