僕たちの時間
- 1 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:54
- 学園モノ。
マターリと。
- 2 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:55
- 日差しが強くなってきました。
ギンギンギラギラの太陽。
もうすぐ夏なんです。
松浦亜弥は今日も鏡で自分の顔を眺め入念にメイクを施すと、満足げに
「うん、可愛い」
と頷いて、家を出ます。
彼女、普通の高校1年生なんです。
彼女、自分が大好きなんです。
ぽかぽか陽気の中、亜弥はとっても上機嫌で学校に向かいます。
通学路の脇の、この間まで黄緑色だった草とか葉っぱとか、そんなものが
いつのまにやら緑色に変わっていました。
亜弥は通学途中にある家へ寄ることを欠かしません。
- 3 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:55
-
「おはよ!美貴たん!」
「おはよう亜弥ちゃん!」
藤本美貴。亜弥の学校の2つ先輩で亜弥の幼馴染だったりする人。
2人は毎朝一緒に学校に通っているのです。
まだ、時期的には早いのですが、昨日までの雨が嘘のように晴れ上がったので
梅雨明けのような気持ちよさ。
美貴も例に漏れず上機嫌でした。
2人は、楽しくお喋りしながら学校へと向かいます。
- 4 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:56
-
しかし、学校へと近づくにつれて俄かに亜弥の顔が曇り始めました。
はぁ、と小さくため息までつく始末。
それに美貴が気付いて声をかけます。
「どうしたの?なんか暗い顔しちゃって」
「はぁ〜…わかる?」
「いや、すっごいあからさまだし…」
「クラスにちょっとアレな子がいてさぁ…ちょっとアレなんだよねぇ…」
美貴は内心で『どれやねん!』と突っ込みながらも、一応推察して見る事にしました。
ちょっと考えて、パッと閃いて、少し口元に笑いをはっつけて。
「好きな子でもできた〜?」
それに対して、亜弥はさも心外そうな顔で、
「何でそーなるのよぉ!」
と返します。
- 5 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:57
- あれ?違ったか…と美貴。
「ちょっとソリが合わないってゆうか…苦手な子がいんのぉ」
気を取り直して亜弥。
「へぇ…。亜弥ちゃんが苦手って珍しいね。割と誰とでも気兼ねなく話すタイプじゃん?」
「そうなんだけど。なんかその子はねぇ…」
「どんな子なの?」
「それが、すっごい真面目なの。なんかいつもツンてしちゃってて、休み時間も本読んでたりするんだよ?」
信じられる?と言わんばかりの亜弥。
美貴は美貴で思い当たるふしがあったようで
「それって、もしかして紺野さん…とか?」
「え?美貴たん知ってんの?」
「いや、そりゃ紺野さんって有名じゃん。多分亜弥ちゃんと同じくらい有名だと思うよ?」
「へ?」
「いやいや…。それにしても、紺野さんかぁ…わかるような」
そう言ってちょっと笑う美貴。
「もー、笑わないでよぉ」
- 6 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:57
-
じゃれてる間に学校の校門についてしまったので
「あ、じゃあまた後でね!」
と美貴。
「ん、じゃねー」
と亜弥。
- 7 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:58
-
亜弥は美貴と別れて教室へ。
日差しは思いのほか強くって、学校に来るまでの道でうっすらと汗をかいてしまいました。
第二ボタンを開けて、手でパタパタと風を送りながら教室の扉を開けます。
「亜弥〜おはよー」
「あやちゃんおはよー」
「おはよー」
クラスから一斉に亜弥に向かって挨拶。
亜弥もそれを笑顔で答えるのですが、
1人だけそんな自分に目もくれずにキチンと机に向かって黙々と本を読んでいる子がいます。
そう、噂の彼女、紺野あさ美です。
- 8 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:58
- 亜弥はそんなあさ美に一瞥をくれると鞄を下ろすために自分の席へとつきました。
亜弥とあさ美の微妙な空気を読み取って
一瞬教室が緊張しましたがすぐに元のざわめきが返します。
というのも、つい昨日のことで、亜弥とあさ美の間に一悶着あったのです。
- 9 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:59
-
亜弥は明るくて快活、オシャレに予断を許さない今風の女の子。
また、自他供に認める秀麗な顔立ちで待って、学年で知らない人は居ないほどの人気者。
一方のあさ美はというとその愛くるしい器量もさることながら勉強、スポーツ何でもこなす万能人間で
生徒の間では憧れの的なのでした。
そんな人気者2人が鉢合わせたこのクラス。
しかし、2人はあんまりにも性行が違うため意見も合わないことしばしば。
昨日も、ちょっとしたことから激しい言い争いになってしまって、
じめじめした雨のせいもあって、とってもいや〜な雰囲気になってしまったのでした。
- 10 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 22:59
- 「あぅあぅ…亜弥ちゃんおはよぉ」
亜弥が席まで行くと、隣の席の麻琴が挨拶してきました。
「まこっちゃんおはよー」
この子、学級委員の小川麻琴。亜弥とも仲がいいのですがあさ美ともとっても仲がいいため
2人の冷戦にかなり気を揉んでいるのでした。苦労人なんです。
- 11 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 23:00
- そうこうしているうちに始業のチャイムが鳴ったのでみんないそいそと自分の席に戻ります。
亜弥は後ろの席で、読んでいた本を鞄に戻すあさ美をチラッと見ました。
そのときあさ美が読んでいた本のタイトル「イモの秘密」が目の中に飛び込み、思わず吹き出しそうになりましたが
なんとなく気に入らなくって我慢しました。
その我慢した、変てこな顔を麻琴が見ていて「ぷはっ」と笑ったので
教室がどういう訳かどっと笑いに包まれました。
ハテナ顔のあさ美と亜弥。真っ赤になる麻琴。
そこに担任の先生が入ってきたので
麻琴は真っ赤な顔をしたまま「起立!」と言いました。
クラスメートはクスクスと口の端に笑いを残したまま朝の挨拶をしました。
カラッと晴れた空に似つかわしい爽やかな朝でした。
- 12 名前:放熱器 投稿日:2004/02/27(金) 23:01
- とりあえずここまでだす。
- 13 名前:放熱器 投稿日:2004/02/28(土) 12:48
- ありきたりこそが善いんだと信じて続き
- 14 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:49
- さて、一日の授業を終えたあさ美は素早く鞄に荷物を詰めると
クラスメートとの挨拶もそこそこに、足早に教室の扉をくぐります。
向かう先は生徒会室。あさ美は生徒会の一員なのでした。
亜弥もそうなのですが、あさ美の場合も有名な生徒ということもあって
通る生徒がみな視線を向けてきます。
亜弥は全然気にしないで寧ろ『私を見て!』オーラを出しているので気付かないのですが、
あさ美にしてみればその視線は非常に気になるので、いつも廊下を歩く時はやや早足になってしまいます。
そうして早足で辿り着いた生徒会室の前。
あさ美は2つこんこんと戸を叩いてから「失礼しま〜す」と言って戸を開けました。
- 15 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:49
- 「んぁ〜?紺野ー早いねぇ」
「後藤さん、こんにちは!」
中に居たのは後藤真希さん。この学校の生徒会長です。
あさ美にとってここは数少ない落ち着ける場所なのでした。
教室でも友達は沢山いて楽しいのですが、神経質な彼女は不特定多数の人間がいる空間が些か苦手なのでした。
生徒会では1年生はあさ美だけなのですが、先輩もみんないい人達でとても居心地がいいのでした。
特に会長の真希とは中学時代から付き合いがあり、いっとう信頼し尊敬する先輩なのでした。
- 16 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:50
- 生徒会の仕事といってもそれ程多くない上に資料整理などの事務的な仕事が多いので
生徒会室ではみんなまったりとしている事が多いのでした。
真希もあさ美が来たときには会長用の椅子にふんぞり返ってメールを打っていましたが
話し相手が来たと見るやあさ美に話かけました。
「紺野〜昨日も喧嘩したんだって〜?亜弥ちゃんと」
「えっ…なんで…」
「あは、ごと〜を誰だと思ってんの〜?」
「……うぅ」
「で?何やったの?やられたの?」
- 17 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:52
- 真希の少し面白がっている風の口調にあさ美も自慢の頬をぽてっと膨らまして答えます。
「や、別に喧嘩…って程でもないんですけど…」
「んー?」
「なんか…こう…松浦さんと話してると…何ていうか…イライラしちゃうんですよね…」
「んー」
んーしか言わない真希に訝しげな表情のあさ美。
「ちゃんと聴いてます?」
「んあ?聴いてるよきいてるよ…そっか…亜弥ちゃん悪い子とかじゃないんだけどねぇ」
「それは…わかってるつもりなんですけど…何ていうかソリが合わないっていうか…」
「ソリねぇ…」
話をしているうちまたドアが開きました。
「あ、石川さん、こんにちは!」
「んあ、梨華ちゃんおはよー」
「おはー、ごっちん、紺野。あれ?今日は2人だけ?」
入ってきたのは石川梨華。生徒会副会長の3年生なのでした。
「うん、高橋はまだ来てないよー」
- 18 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:53
-
それから梨華も加わって3人でわいわいと話しはじめました。
「亜弥ちゃんかぁ…可愛い子だよねー。礼儀正しいし」
「んあ、ごとーはあんまり話した事は無いんだけど…」
「あ、そうか美貴ちゃんの幼馴染だったよね、じゃあごっちんは美貴ちゃんから話きくでしょ?」
「ん、んと…まあね…」
真希はいつもはクールアンドビューティーで正真正銘の校内一の人気者なんですが、
幼馴染の梨華の前ではどうもペースが握れないのです。
それはそうと、あさ美は内心焦りました。
話の内容が段々と『松浦マンセー!』の方向に向かおうとしていたからです。
理由はあるにしても対立している格好の自分としては面白くありません。
- 19 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:53
- そんな変化に気付いた梨華は
「あ、もちろん紺野も可愛いけどね!」
といってウインクを飛ばしました。
あさ美、真っ赤になってしまって
「な、ななな、な…あ、あの…ありがとうございます…」
それを見て笑う2人。
ここ数日、亜弥のことで気を揉んでいたあさ美にとってこの先輩達とのやり取りは
非常にいいリフレッシュになっていたのですが、こうしてからかわれる事もしばしば。
でも、それも嬉しいあさ美なのでした。
- 20 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:54
-
翌朝、昨日の天気が嘘のようにまた空は梅雨へと戻ってしまいました。
泣き出しそうで泣き出さない、もどかしい黒雲が濛々。
やっぱりまだ梅雨なんです。
あさ美は悩んでおりました。
一昨日のあれは、やっぱり自分が悪かったんではなかんべか。
- 21 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:55
- それは本当に些細な事でした。休み時間、わいわいと談笑している亜弥と黙々と本を読んでいるあさ美。
亜弥のアホな暴露話で盛り上がっているのに密に聞き耳を立てていたあさ美はついつい
「プっ」と笑ってしまったのでした。
馬鹿にされたと思った亜弥は、まあ、これまでにも色々ありまして、ついに
突っかかったのです。
そこであさ美が素直に謝るか笑い話で返すかすればまだ収まったかもしれない事態に
「本が面白かっただけですが、何か?」
と、明らかに嘘っぽい高慢な口ぶりで返した事が両者に火をつけてしまいました。
- 22 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:55
- それから言い合いに発展。
勢いと天性の才能でもって間を支配するする亜弥と
冷静に相手の隙をつき揚げ足を取るあさ美と、
バトルは壮絶を極めました。
それでお互い疲れたのか、それまで言い合いを繰り返しながらもよく喋っていた亜弥と
昨日一日まったく言葉を交わさなかった事に、あさ美は言い知れぬ寂しさを、
本人も気付かない心の奥底で感じていたのでした。
ふぅ、とため息を吐き、ハッキリしない御天道さんを睨み上げて
またとぼとぼと歩き始めました。
- 23 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:56
- と、暫く歩いたところに見たことのある背中が見えました。
美貴と、楽しそうに話しながら歩く亜弥です。
あさ美は、美貴が真希の恋人だということも知っていましたし何度か話した事もあったので
挨拶をしなければならないと思うのですが、亜弥が隣にいるのでどうにも声をかけられません。
ちょうど亜弥のことを考えていたこともあってドキリと心臓が鳴りました。
挨拶しなければならない。亜弥にも謝ろうかと考えていた。ならば声をかければいいのですが、
変なところで臆病なあさ美なのです。
- 24 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:57
-
学校までは一本道、喋っている人というのはどうしても歩みが遅くなるものらしく
とぼとぼと歩いていたはずのあさ美と二人の距離は、もう数メートルにまで縮まっていました。
あさ美はえい、と覚悟を決めました。
まるでこのままでは怪しいストーカーのようでしたから。
「藤本先輩おはようございます。それと、おはよう松浦さん」
精一杯凛と声を張って言ってみて、それだけ言うのがやっとだったので
そのままあさ美はすたすたと2人を追い抜いていきました。
- 25 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/28(土) 12:59
- 追い抜かれた2人はその後姿を見送りながらボー然。
というのも、こちらの2人も今の今までその追い抜いていった少女、あさ美の話をしていたところだったのです。
やがて美貴が笑い出しました。
「あはは、律儀だねー。いい子じゃん」
「…うん」
「はやく仲直りしなよ。別に嫌いじゃないんでしょ?」
「…嫌いとか、そんなんじゃなくって…好きだよ?好きだけどぉ…」
「おお、好き発言!」
「あ、いや、違っ、ちょっと美貴たん!からかわないでよぉ…条件反射しちゃっただけなんだからねっ」
思わず言ってしまった言葉に顔を赤くして否定する亜弥。
面白そうにからかう美貴。
そうこうしているうちに、空が轟々となって
雨の礫がぽつりぽつりと落ちてきました。
「もう!美貴たん、早く行くよ!」
「うん!」
2人は手を引いて学校に駆け込みました。
空からは激しい雨が雷鳴とともに降り注いできました。
- 26 名前:放熱器 投稿日:2004/02/28(土) 13:04
- スターマウンテンロコモーション踊ろう♪(意味はなし)
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/28(土) 17:12
- あちゃー。
やられました。これからも読ませて頂きます。
- 28 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/29(日) 13:15
- 亜弥が教室についた頃には窓の外は土砂降りでした。
肩に降りかかった水滴をぱんぱんと払いながら教室内を見渡すと
あさ美はやはり何時ものように席について読書をしていました。
が、誰かが入ってきたのを感じてふと目を上げました。
その瞬間、亜弥とあさ美の目はバッチリと出会ってしまいました。
亜弥は何時もの通りクラスメイトに声を掛けられ
それに応えることで二人の視線は自然とはぐれました。
- 29 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/29(日) 13:16
- あさ美はそのとき亜弥に一種異様な艶麗をみました。
髪からこめかみまでがほんのりと雨に濡れ、唇や瞳にも微かな潤いを帯びていました。
亜弥が極めて美少女であることはあさ美も認めていた事実ではあったのですが
この瞬間のあさ美には、雷に打たれたような衝撃的なモノとして亜弥が映りました。
亜弥はそんなこととは露知らず、しかし先ほどのことが意識をしめていました。
それで、今朝こそ自分が折れてあさ美と仲直りしようという意志を固めます。
- 30 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/29(日) 13:16
- 昨日と同じようにあさ美の方を窺いつつ亜弥に挨拶をした麻琴にたいして
腹を括った亜弥は快活明朗な返事を返すと、そのままあさ美の前に寄りました。
あさ美はあさ美で、亜弥の態度にドキリと身を震わせます。
仲直りの期待が半分、今朝方のことについてでも厭味を言われるのでは
という恐れが半分。
「紺野さん」
亜弥の声に、あさ美はピッと背筋を伸ばして向き直りました。
緊張が、一切顔に出ないのがあさ美の長所でもあり短所ともいえるのです。
亜弥の方でもあさ美の表情はいつも割り切れなくて逡巡してしまうのですが
勢いを要と考える亜弥は臆せずに続けました。
- 31 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/29(日) 13:17
- 「一昨日は、ごめんね。やっぱり私も悪かったみたいだから…」
亜弥の言葉を聞いて、あさ美は分からないように胸を撫で下ろしました。
「私の方こそ、悪かったです。ごめんなさい」
あさ美の声は何時も通り抑揚に欠けるながら、亜弥を満足させるには充分な
返事でした。
そして、その場で一番喜んだのはなんと言ってもまこっちゃん。
何度も繰り返されたやり取りではありますが、麻琴にとって大好きな二人の
仲がいいことは取りも直さず彼女の機嫌にかかわるのです。
他のクラスメイトにしても同じで、クラスの人気者二人の仲直りを
遠目に確認しては一様に安堵の息を漏らし、晴れて雑談に華を咲かせるのでした。
- 32 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/29(日) 13:17
- 教室は俄かに明るい喧騒に包まれ暗鬱だった黒雲は
賑やかな雨音を弾ませる楽隊に変わりました。
あさ美もその賑やかさに乗じて、本を置きお喋りに興じます。
しかし、内心には先ほどの只ならぬ亜弥の印象の訝しさが引っかかっていました。
それで時折見せた笑顔にも、どこか無雑ならぬものがありました。
しかしながら教室の中でそのことに気付く人はいません。
御気楽なムードが漂う朝の教室なのでした。
- 33 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/29(日) 13:18
- 亜弥はその日一日、満足感に浸っていました。
喧嘩の仲直りは先に折れた方の勝ち、というのが亜弥の専らの考え方。
便々と授業を続ける先生の声も耳を抜かせ、窓の外の雨に穿たれる
校庭の泥を見遣りながら鼻歌を歌うのでした。
あさ美はそんな亜弥を後ろの席からちらちらと見ていました。
仲直りこそでき、いつも通りに話せる間柄になったのはいいことなのですが
先ほどから、亜弥に対して感じるただならぬ感覚の正体を掴みあぐねているのでした。
普段から授業中は余所見もしない真面目な生徒であったあさ美が
このときばかりは優等生ではなくなっていました。
(そもそも、一体なんだというのでしょう。松浦さんがどうしたことでしょうか。
別段普段となんら変わらないじゃないですか。いったい…)
あさ美の思考は堂堂巡り。
間抜けな顔で思いふけっているのでした。
- 34 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/29(日) 13:19
- 空が暗いので教室には昼間から蛍光灯が点されていました。
雨が轟々となって、まるで嵐のようでした。
先生はそれを全然気にも留めていない風に淡々と授業を進めましたが
殆どの生徒は授業の方がBGMに変わりつつありました。
それぞれの気だるい授業が終わり放下となりました。
亜弥は特に部活動に所属しているというわけでもないので
時間がたっぷりとありました。
本当ならクラスの誰かを誘ってぶらぶらしたいところだけれど
今日の雨ではその気もなくなります。
- 35 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/29(日) 13:19
- それで亜弥はある所へ向かいました。
それは3年の校舎。そこは亜弥達がいる一年の校舎と中庭を挟んで
向かいにあります。
渡り廊下の屋根を叩く雨音に歩を弾ませて向かった先は…。
「美貴たーん!終わったー?」
そう。美貴のところ。
亜弥は昔から暇さえあれば美貴と遊ぶのが習慣になっていました。
「おーす亜弥ちゃん。ちょっと待ってろ」
教室の掃除をテキパキとこなすと
帰り支度もそこそこに美貴が教室から出てきました。
3年の校舎の真中で大声を出す1年坊。
当然のように注目の的になりますが、それも亜弥には気にならないどころか
面白くさえ思われるのです。
- 36 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/02/29(日) 13:20
- 「お待たせ、で何?」
「何って。美貴たん暇でしょ?一緒に帰ろ?」
そういいながら美貴の腕に捕まる亜弥。
「あー、ごめん。今日はごっちんと…」
「えー」
「いや、えーって」
「美貴たんは私より後藤さんをとるんだ?」
「あたりまえでしょ?何言ってるの…」
ぶーたれる亜弥に呆れ気味の美貴。
こんなことはいつものじゃれあいの一環でした。
いつもなら亜弥はおとなしく教室に戻って、クラスのなかから
暇そうな人を物色して誘うのです。
が、今日の亜弥は違います。
何となく気分がハイになっていました。
「じゃあさ、あたしも後藤さんと一緒に帰っていい?」
暇さえあれば遊ぶ2人の習慣は美貴と真希が付き合いだしてから崩れました。
それが常日頃から亜弥には少し面白くないのでした。
「えー…」
美貴が露骨に嫌そうな顔をするのもかまわず
亜弥は真希を迎えに行く美貴にぴったりとついていきました。
- 37 名前:放熱器 投稿日:2004/02/29(日) 13:21
- それはとても晴れた日で未来なんか要らないと思ってた♪
川o・-・)<今日は雨です
- 38 名前:放熱器 投稿日:2004/02/29(日) 13:23
- >>27
やっちまった。ありがたいです。一人で黙々とやってくのは
寂しいし虚しいので。お付き合いいただければ幸いです。
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/29(日) 17:51
- それぞれの関係性が微妙で面白い。
続き楽しみ
- 40 名前:あかり 投稿日:2004/03/01(月) 17:19
- ごまみき珍しいCPで気になるとこです。
まだ名前しかでてきてないけど高橋さんが
どぉ絡んでくるか楽しみ☆
続きも楽しみに待っておりまぁす♪
- 41 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:00
- 授業が終わったあさ美は、やりのこしていた小さな仕事を終えるため
生徒会室に寄りました。
部屋にはすでに真希と梨華がおり、彼女達の分は殆ど終わっていました。
それほど重要でもない仕事のため、あさ美もおもむろに取り掛かりました。
鬱陶しい窓の外の雨を視界の端に捉えながら
会計資料に目を通していたあさ美は、ふとあることを思いつきました。
同じように暇を持て余している風の真希に視線を向けます。
「後藤さん」
「んあ?」
真希の隣で読書をしていた梨華もつられて顔を上げました。
「ちょっと訊いてもいいですか?」
「なにー?なんでもきいて」
間延びした真希の声を、しかしあさ美は幾分緊張した面持ちで受けました。
「藤本さんとは、どのようにして付き合うに至ったんですか?」
- 42 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:00
- あさ美のこの質問に、真希と梨華は少し面食らったように背を立てました。
しかし、すぐに元の柔和な表情に戻りました。
「なに?もしかして紺野も好きな子ができた?」
少し悪戯な笑みを浮かべて真希が言います。
その言葉にあさ美は
「そんなんじゃないです」
と、キッパリと言い放ちました。
あさ美にとって真希の切り替えしは充分予想できる物でした。
しかも、その内容を思ったときに頭の中に浮かんだ顔が松浦亜弥ただ一人だったことが
あさ美の理性と照らし合わせて『ありえない』という結論を簡単に弾き落としました。
- 43 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:01
-
あさ美が暇もおかずに即答した事に真希と聞き耳を立てている梨華は
なんだ、と些かがっかりした風でしたが、すぐにまた考え直して
口元を吊り上げました。
「あの…」
あさ美が真希の答えを促がすように言いました。
真希は、あさ美の目をみて、若干真面目な感じに取り繕って
「あたしからアタックしまくった」
と答えました。
「ええええ!!!?」
- 44 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:02
- あさ美にとってその返事はまさに寝耳に水。予想の最果ての事実だったのです。
まさか真希のほうからそんなことをするとは、あさ美でなくとも、誰も
信じられない事でした。
そのあさ美の反応を見て梨華がクスクスと笑いました。
「そりゃあまたどうして…?」
あさ美が恐る恐る訪ねました。
真希は暫く考える仕草をしてから、真面目な目であさ美の目を
見据えていいました。
- 45 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:03
-
「美貴が欲しかったから」
その言葉をきいた瞬間あさ美の脳に電流が走りました。
あまりにも、刺激的な、官能的な響きを帯びていました。
あさ美の頭の中に遠くのお寺から響く鐘の音が聞こえました。
その梵鐘はなぜか『ぴんちゃぽー…ぴんちゃぽー』と響くのでした。
暫く放心した後、あさ美は真っ赤になりました。
それを見て大うけの梨華。
真希は相変わらずのクールな表情に、口元だけ笑みを取り戻しています。
- 46 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:03
-
「なんかはじめてあった時から『この人はあたしのものだ』って
直感で思ったね。もう美貴ちゃんしか無いと思った。この世に」
真希の口から飛び出す過激な言葉の数々に、あさ美は半ば陶酔して聞きほれました。
「私の今までの世界が一変したよ。ホントに。で、告った」
あさ美の胸はドキドキと高鳴りました。
何かしら、今まで見ていた真希とは又違う、猛々しい真希がそこにはいました。
「それで…OKだったんですか?」
「いんや。振られた」
その言葉を聞いて又も仰天。天下の後藤真希に告白されて
それを無碍にすることができる人がこの世にいようとは思いもよりませんでした。
- 47 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:04
- 「振られたどころか、『あんた誰?』って、あしらわれたよ」
あさ美は思いました。藤本美貴、恐ろし…。
「なんかさぁ、それが人生で始めての敗北、っていうのかな…決定的な
挫折感を味わった最初だったんだよね」
おぼろげながら理解できる気がしました。真希はいつでも完璧、というイメージは
かなり古くから付き纏っているのでした。
「初めての挫折ですか…それまでは一度も無かったんですか?」
あさ美は少し胡乱がって訊きました。
- 48 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:05
- 「無かったね。というのは、それまでなんつーか、自分の人生に頓着してなかったんだよね。
興味がなかったっていうか、なるようになれ…みたいな。でもその時美貴ちゃんに振られて
初めて物凄い精神的なショックを受けてね、なんか感情がそこまで動揺したのが生まれて
はじめてで、ああ、こんなことがあるんだって思ったのね。それで、もっと美貴ちゃんが欲しくなった。
美貴ちゃんは絶対私が遠い過去に落とした半身にちがいないんだって、そうとしか思えなくなったよ」
最後には少しおどけてみせましたが、あさ美の興をそそるのに充分すぎる話でした。
「それは、思い込みとか勘違いかもしれないって思わなかったんですか?」
「思い込みで勘違いだろうね」
「え…」
「でも、そうかどうかなんて誰にも分からないし、人生終わってみなきゃわかんないしね。
美貴ちゃんがもし運命の人でなくてもそうでも、私は美貴ちゃんと居たいし、一生
側に居たいって思うから。まあ、我侭だけどね」
「そうですか…」
- 49 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:06
- あさ美は真剣に聞いてはいましたが、真希の『運命の人』論には些か反対ぎみでした。
理詰めの思考を善しとするあさ美にとっては不可解きわまりないことでした。
しかし、真希の真摯な目に宿る力を前にあさ美の思考はぐらぐらと揺れるのでした。
「それから、まあ色々とあって、猛アタックのかいもあって、今に至ると、そうゆーわけ。わかった?」
「はい…」
- 50 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:07
- 話が一段落ついた所で三人の耳には再び雨音が戻ってきました。
絶妙なリズムで打つ心地よい雨音は午後の空気と相俟って気だるい空間を作ります。
あさ美はまだ一人胸を打ち鳴らしながら、先ほどの話の内容を反芻していました。
「ねぇ、紺野の初恋っていつ?」
今まで黙っていた梨華が、だらしなく椅子の背もたれにもたれながら
訊きました。
あさ美は暫し黙考。
- 51 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:08
- 「初恋…って、よくわかんないです…。小学校くらいかなって思ってましたが
今の後藤さんの話を聞いてる限りだと、なんだか違うみたいです…」
真希はそんなあさ美を優しげに見守りながら、ふふふと鼻を鳴らしました。
「紺野も今に会うよ。人生の計画表が一気にお釈迦になっちゃうような
凄い人とね」
まったりと机に肘をつきながら真希は柔らかく微笑みました。
- 52 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/01(月) 22:08
- あさ美は、自分の真希にたいするイメージが、また新たに更新されていくのを感じました。
真希はいってしまえば努力しないで成せてしまうタイプの『天才』というのが、大方の持つ
イメージでした。
しかし、美貴の前に崩れ去った話を聞き、尚も渇望した真希の話を聞いた今
彼女には、その『天才』たるを支える極太の芯が通っているのがわかったのです。
あさ美にとってこの発見は喜びでした。
それはもう古本屋で「世界芋陳道中」の初版を見つけたときくらいに喜びでした。
あさ美は、真希をこれまでより一層の尊敬の眼差しを持ってみるようになりました。
- 53 名前:放熱器 投稿日:2004/03/01(月) 22:10
- 屋台じゃ焼きそば20円焼酎が25円で 靴は水のしみるものさ♪
川o・-・)<古っ
- 54 名前:放熱器 投稿日:2004/03/01(月) 22:14
- >>39
特に微妙な主役の二人をよろしく!
川o・-・)<私達です
>>40
ごまみきが珍しいと言われないメジャーカプになるように
頑張りましょう。みんなで。
川o・-・)<他人任せですか
愛ちゃんは空気のように優しく絡みます。見守ってあげてください。
川o・-・)<見えません
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/01(月) 22:30
- どうなるんだろうーどうなっちゃうんだろー楽しみだなー
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/02(火) 00:18
- …意外に積極的だった後藤さん萌え。
ごまみきもいいもんですね。
がんばってメジャーカプにしましょう。みんなで。
- 57 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:10
-
暫くして、真希が壁掛け時計に目を遣り、「お、時間だ」と言って席を立ちました。
残る二人に声をかけて生徒会室を出て行きました。
その後姿をあさ美と梨華はぼんやりと見つめました。
「そういえば、石川さんって好きな人いないんですか?」
梨華のそういった噂は、どこにも出回っていませんでした。
しかし、梨華も容姿端麗、才色兼備の人であり、人気はかなりの物なのです。
「んー、いるよー」
梨華は相変わらず間延びした声で答えました。
- 58 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:11
- 「誰、とか訊いてもいいですか?」
「んー、初恋相手でねー、ずーっと昔からずーっと好きなんだよねー」
その答えを聞いてあさ美はピンと閃きました。
「…後藤さん…ですか?」
「あたりー。さすがこんの、察しがいいね」
相変わらず雨はしとしと。蛍光灯の明かりがチラチラと明滅する室内は
どこか夢見心地なふわふわとした空気。
- 59 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:11
- そんななかであさ美は梨華の言葉に戸惑いました。
さっきの真希の話を終始笑顔で聞いていた梨華の胸中が察せられかねたのでした。
「でも…その、後藤さんには、藤本さんが…?」
「そうだね」
梨華の表情は相変わらず穏やかでした。
「ねぇ、紺野。愛って何だとおもう?」
「愛…?高橋愛…?」
あさ美の苦し紛れのボケに梨華は上品に笑いました。
- 60 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:12
-
「紺野はさぁ、さっきのごっちんの話にえらく感動してたみたいだけど、
まあ、ごっちんと美貴ちゃんの恋愛も一つの愛のかたち。
それとは別に私がごっちんを思う気持ちも一つの愛のかたち。
愛ってね、どんな形って決まってないし一つとも決まってないでしょ?
お母さんが子供に注ぐ愛も愛。激しいのも愛。穏やかなのも愛。わかる?」
「はぁ…」
あさ美は生返事を返しながら若干の混乱をきたしていました。
- 61 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:13
- 「私はずーっと前からごっちんのことが好き。多分物心がついたときからだと思う。
そんなだからごっちんみたいにビビビっていうのは無かったけど、あたしは
ずっとごっちんの側にいたいし、寄り添っていたい。それで甘えて欲しいし
ちょっとくらい甘えたい。今までみたいにね。
こんな愛情のかたちって変だと思う?」
あさ美はぷるぷると首を振りました。
ついでにほっぺもぷるぷると揺れました。
それを見てまた満足そうに微笑む梨華。
- 62 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:13
- あさ美は梨華の話を、不思議な響きを持って聞きました。
今まで自分が考えていた恋愛のイメージは、真希の話と梨華の話をうけて
2重に覆りました。
そして梨華にも、今までに感じたことの無い力強さを感じました。
そもそもあさ美にとって恋愛などというものは殆ど重要な物ではありませんでした。
自分にとって不要の物は省くというのが『あさ美の完璧人生プラン』の大原則だったのです。
しかし、この時になって何が有用で何が不要かということが、どうして分かるのだろう
という自家撞着に陥りました。
さっきの真希の言葉を思い出しました。
――紺野も今に逢うよ。人生計画が一気にお釈迦になるような凄い人とね―――
真希のあさ美に対する『完璧』主義への否定的な換言が含まれている事に
今さらながら気付かされます。
あさ美はこの数分の会話の中で、自分がまだえらく子供であることを
如実に認識しました。
『あさ美の完璧人生プラン』はすでにひびの入ったものとなっていました。
- 63 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:14
-
突然、生徒会室の扉がコンコンとなって開きました。
入ってきたのは高橋愛。
生徒会の最後のメンバーでした。
「石川さん、あさ美ちゃん、こんにちは」
「あ、噂をすれば」
「こんにちは愛ちゃん」
愛ちゃんは梨華の言葉にキョトンと疑問符を並べました。
それに対してくすくす笑うほかの二人。
愛ちゃんはなんだかわからないまま、鞄を置いて座りました。
「何の話してたんですか?」
- 64 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:14
- 梨華にむかって訪ねると、返答の変わりに思いがけない質問が返されました。
「ねえ、高橋は初恋っていつだったの?」
「あ、それあたしも聞きたいです」
あさ美も面白がって尻馬に乗ります。
びっくりしたのは高橋愛。
平素からびっくり顔と揶揄されている愛の顔がさらにびっくりになったので
梨華とあさ美は面白そうに笑います。
「ななに、ゆっとるんですかぁ…そんなんはずかしぃ…」
「いいじゃんいいじゃん、言っちゃえ」
- 65 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:15
-
梨華とあさ美に詰め寄られた愛は渋々話しはじめました。
「あれは忘れもしない小学6年生の頃でした。同じクラスにT君という
とても明朗で活発な男の子がいました」
その気になった愛ちゃんは手を胸の前で組みながら話します。
「そのこはみんなに人気があってそして誰にでも優しいのでした」
「へー。かっこよかったの?」
「顔はそれほどでもなかったです。でも凄く優しかったんです。
当時の私ってなんていうかはみ出していたというか、けっこう
一人でいることが多かったんですよ」
梨華とあさ美は同時に『今もじゃん』と思いましたが言いませんでした。
「それで、なぜか靴とかがよくなくなったりしたんですよね」
(いじめられてたんだね…)
「そんなときに、私が困ってるとよく一緒に探してくれたりしたんです」
「へ〜。いい子だね。」
「それで、どうなったの?」
あさ美が先を促がします。
「どうって…想いは想いのまま…」
「散っちゃったんだ…」
「はい…」
- 66 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/02(火) 20:15
-
あさ美は傘をふりふり帰る道すがら
生徒会室での3人の恋話を思い出しながら考えていました。
ビビビときてモノにした真希。ずーっとそばにいて幸せだという梨華。
結局思いを遂げられなかった愛ちゃん。
あさ美は梨華の言葉を実感していました。
(愛のかたちって一つじゃないんだ…考えてもなかったな)
くーるくると傘を回すと雨のぶつかる音の調子が変わって面白いのです。
あさ美は赤い傘の屋根を見上げながらくーるくる。くーるくる。
(あたしの恋愛って、どんなだろう?)
サァサァと世界中から響いてくる雨の音が心地よくて
あさ美はふと傘を除けてみました。
分厚い、銀の雲から矢のように落ちてくる雨礫があさ美の顔に
心地よい刺激が降りました。
傘を閉じて目を瞑ってしばらくそうしていました。
身体が冷えてきたのを覚えて慌てて傘を指しなおすと家までの道を急ぎました。
あさ美の可愛らしい両頬はなぜかカッと火照っていました。
- 67 名前:放熱器 投稿日:2004/03/02(火) 20:17
- ため息の中にほのかなあこがれが寄りそう
愛されるために羽ばたくような Baby love♪
- 68 名前:放熱器 投稿日:2004/03/02(火) 20:21
- >>55
どうなるんだろう。実は作者もわからないなんて言えません。
从;‘ 。‘从<言ってるよ…
>>56
みきごまいいですよね。目指せメジャーカプ。
というわけで皆さんみきごまを是非(ry
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/03(水) 04:48
- 実に淡いですな。じっくり浸入してきますな。いいですな
- 70 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:30
- 真希は美貴の掃除が終わる時間を見計らって生徒会室を出ました。
そして3年生の校舎に向かっていますところ
向こうから美貴が歩いてくるのを見つけました。
時間バッチリ。愛のちからかしらと一人ごちる真希の視界には
もう一人、美貴の横を歩いている女の子の姿を見止めました。
美貴が真希の姿を確認するのと同時に
真希はその少女が亜弥であることを確認しました。
「ごっちんごめんね。待ったでしょ?」
「ううん。ちょうどやりのこしてた仕事があったから」
美貴と真希が言葉を交わす間を割って亜弥が声を出しました。
「後藤さんこんにちは。今日私も一緒に帰っていいですか?」
それに真希は優しく微笑んで
「亜弥ちゃんひさしぶり〜。いいよ、一緒に帰ろ」
と言いました。
美貴は些か不満でしたが、こういう真希の磊落な性格も
好きだった美貴には言葉はだせません。
- 71 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:30
- 3人は仲良く門の所まで行きました。
門のところで3人は立ち止まりました。
ジャンジャン降り。
傘はそれぞれ持っていましたが、傘をさしたくらいでは
到底防ぎきれる雨ではありません。
美貴は密に相合傘をしようと考えていたのが、これではとても無理。
がっかりです。
その前に亜弥がいるため出来かねたのですが。
「降ってるねぇ」
「降ってますね」
「ジャンジャン降ってるね」
- 72 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:31
- 「行きますか」
3人は傘をさすと歩き出しました。
真希が紺の傘。美貴が濃緑の傘。亜弥がピンクの傘。
3つの傘に弾ける心地よい水音を聴きながらぶらぶら。
「そういえば亜弥ちゃん」
真希が声を出します。
「なんですか?」
雨が五月蝿くて音の通りが悪いので少し大きめに返事。
「紺野と仲直りしたの?」
「え…えと、どうして…?」
「ほら、紺野って私と同じ生徒会じゃん?
それで昨日亜弥ちゃんのこと気にしてたみたいだったから」
亜弥はそういえばそうだと思い出しました。
紺野あさ美は生徒会役員。真希はといえば生徒会長なのです。
「一応…仲直りはしました」
- 73 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:31
- そう答えてから亜弥は何かしら引っかかったのに気付きました。
「気にしてた…んですか?紺野さんが?」
「うん、何か亜弥ちゃんと仲良くできないって悩んでたみたいだったよ」
とても意外な事実でした。
あさ美はそんな事には興味が無い、まして自分には全く興味がないのだと
思っていました。
今朝にしても挨拶をされはしたものの、美貴への社交辞令のついで
であるのは明らかでした。仲直りにしても、亜弥に謝られて仕方なしに、
亜弥はそう思い込んでいました。
日中のあさ美の様子のおかしさに亜弥は全く気付いていないのでした。
(私と仲良く?…あの紺野さんが…?)
- 74 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:32
- 二人の会話に少し蚊帳の外の感じを受けた美貴は
無理やりそこにわって入りました。
「でも、亜弥ちゃんも気にしてたよ。紺野さんのこと」
「へぇ」
真希の軽い返事。
亜弥は何かしら酷く慌てて
「べ、べつに私は…気に…もう、何言うのよ!美貴たん」
慌てる亜弥がおかしくて真希と美貴は笑いました。
雨脚はさっきほどではなくなっていました。
それでも3人の靴下はもうぐちょぐちょになっていました。
- 75 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:33
-
「あ、私たちはこっちだから」
まだ学校に程近い分かれ道で美貴が亜弥に言いました。
訝って訪ねる亜弥。
「どうして?美貴たんちはこっちでしょ?」
すると俄かに美貴が顔を破顔させて言います。
「今日はこれからごっちんと…」
「後藤さんと!?」
「勉強会だから。ごめんね〜亜弥ちゃん。私達受験生なんだよね〜」
- 76 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:33
-
亜弥はぐぅの音もなく黙りました。
亜弥にとって勉強とは最も嫌いな言葉なのでした。赤点スレスレ。
それにこの二人はそう言う時は本当に勉強をしているということも知っていました。
「じゃあ、亜弥ちゃんバイバイ。また明日ね」
「ごめんね亜弥ちゃん。またね」
美貴と真希に笑顔で言われて、素直に頷くより他にない亜弥。
「…さよなら後藤さん。またね美貴たん」
2,3歩進んだところで真希がぱっと振り向きました。
「紺野のこと、よろしくね」
見惚れるような優しい笑顔でした。
- 77 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:34
-
亜弥は唐突に一人ぼっちになってしまいました。
雨の霞む路の向こうに仲良く揺れる紺と緑の傘を暫し眺めていました。
サーサーという単調な音の世界に隔絶されたような感覚。
雨に閉じ込められたように亜弥は突っ立っていました。
真希の言葉が引っかかりました。
なんで自分にあさ美をよろしくたのまれたのか。
(仲良くしろってことかな…私って紺野さんのこと気にしてたのかな…
紺野さんも、私のことをきにしてた…?)
雨がはじけ、頬に当たりました。
それと同時に、意識が戻ってまた歩き出しました。
- 78 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:34
-
とぼとぼ。
辺りは一面灰色。緑の濃くなった街路樹は暗い道の
黒い怪物のように雨の向こうに並んでいます。
ふいに前方に赤い傘が映りました。
亜弥に負けず劣らずゆっくりと進んでいたそれは
道の途中ではたと止まりました。
さして気にしないように努めて横を通り過ぎようとした亜弥の目に
不思議な光景が飛び込んできました。
- 79 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:34
- 赤い傘はぱっと除けられました。
現れたのは亜弥と同じ制服。長い黒い髪。
微かに捉えた横顔に亜弥は小さく声を上げました。
その少女は紺野あさ美でした。
亜弥はどうにも間を詰めるのが憚られて
あさ美の数メートル後ろで歩を止めました。
あさ美の方で亜弥に気付いていないのをいいことに
あさ美の不思議な行動を、無声フィルムでも見るような不思議な心地で見つめました。
- 80 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/04(木) 16:35
-
亜弥の視線の先であさ美は空を見上げました。
そして目を瞑って、雨に打たれています。
雨に溶けるみたいに透き通ったあさ美の頬。
髪が、額が、肩が、どんどん水を浴びて濡れていきます。
傘の赤が照り返ったあさ美の肌はほんのりと赤く染まっているのでした。
(紺野さん…?なにやってるんだろう…あんなところで…風邪、ひいちゃうよ…?)
あさ美がそうであるように亜弥もまた
異様な恍惚をもってその画を見ていました。
なにかしら、赤い羽根の妖精が雨と対話でもしているような
幻想的な風景でした。
やがて我に返ったらしいあさ美が傘を直して再び歩き出しました。
あさ美が視界の奥に消えても
亜弥はその場所にぼんやりと立ち尽くしていました。
- 81 名前:放熱器 投稿日:2004/03/04(木) 16:36
- 海が見たいわって言い出したのは君のほうさ
降る雨は菫色 Tシャツも濡れたまま♪
- 82 名前:放熱器 投稿日:2004/03/04(木) 16:38
- >>69
ありがとう。ゆっくり、まったり、菫色です。
川o・-・)<意味がわかりません
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/04(木) 19:24
- うんうん、いい感じです。コンコンいい感じ
- 84 名前:放熱器 投稿日:2004/03/05(金) 20:25
- 私の文章って読みにくいだろうか。
川o・-・)<文章以前の問題です。
…続きです。
- 85 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:26
- 家に帰ったあさ美はすぐお風呂に入りました。
雨に打たれて冷えた体が熱いお湯と湯気に包まれて
だんだんと熱を取り戻します。
あさ美はのんびりと浴槽に浸かりながら、ぼんやりと物思いにふけりました。
自分の恋について。
真希や梨華や愛ちゃんのこと。
それから亜弥のことも。
取り留めのない思いは白い湯気の間をふわふわと漂い
溶けて消えてはまた沸いてくるのです。
(恋愛かぁ…今まで全然考えてもみなかったな。
私にも、いつか恋人とかできたりする時がくるのかなぁ…
なんか全然想像できないや…)
- 86 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:26
- 浴室に掛かっている小さな鏡を覗き込むと自分の顔とご対面。
湯気で上気した顔は赤らみ何時もよりもむくんで見えますが
それもあさ美のチャームポイント。
しかしあさ美はそのことに気付いていません。
(顔おっきい…ぶさいくだなぁ…)
そんなことないのにね。
今まではあまり気にしなかったことですが
あさ美の回りには美人さんが凄く多いのです。
生徒会の3人、真希は言わずと知れた美形な人。
梨華も清純派の美人さん。愛ちゃんは薄幸美人。麻琴は元気美人。
そして、亜弥。
あさ美は無意識に亜弥のことを考えていました。
今朝みた亜弥の、何かしら異様な綺麗さ。
はしのえみに似てるから亜弥はお笑い系美人だと思い込んでいたのが
いやいやどうしてどうして。
微かに雨に濡れて息を弾ませる亜弥からは
一言には言い表せないような美妙さと、一種の妖艶さがありました。
ぶっちゃけ、やらしい感じすら覚えたあさ美なのです。
「松浦さん、お化粧してるのかな?凄く綺麗だったけど…
今日も煩かったな…。煩かったっけ…?あんまり覚えてないや…」
- 87 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:28
-
風呂はじっくりゆっくり浸かるのがあさ美の習慣だったのですが
考えが妙なところに及んだせいか、少し風邪をひいたものか
いつもより早くのぼせてきたのを感じました。
風呂からあがっても頭の中は妙にふわふわと心許ないのでした。
あさ美は食事が終わると自分の部屋の本棚に向かいました。
「なんか恋愛小説とかあったかな…?読んだ記憶ないなぁ」
あさ美の好む本は、一般には奇書と呼ばれる事の多い類の本でした。
イモの研究書から『鼻行類』『平行植物』などはもちろん宇宙人やUFOに関する
トンデモ本も数多くありました。
もちろんまともな蔵書もありましたが、恋愛小説とは言いがたいものが殆どでした。
恋愛というものに、自分が本当に無頓着だったことが知れました。
(うーん、なさげだなぁ… 愛ちゃんなら持ってるかも、明日聞いてみよ)
床についたあさ美は、自分が少し変わっていっているような気がして
なんだか変てこな気分がしました。が、それが少し嬉しくもあるのでした。
窓の外は相変わらずの雨。
静かな雨の音を戴きながら、やがて深い眠りにつきました。
- 88 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:29
-
翌朝もやはり雨でした。
そらは相変わらずの灰色で降ったり止んだりの梅雨空。
朝の教室も雨の日は会話が浮き上がっているようで
ワンワンと響くように感じませんか?
あさ美はいつものように朝早くから自分の席に着いていました。
しかし本を読むというのではなく、手の上に顎を乗せて
ぼんやりと窓の外の白い彼方を眺めているのでした。
いつもより増して遅れて、チャイムの鳴るギリギリの時間になって
亜弥が入ってきました。
既にそろっていたクラスメイトから一斉に挨拶が交わされます。
それに併せて、あさ美も小さく「おはよう」と言ったのが
しっかり亜弥の耳に届いていて、皆と変わらない調子で
「おはよう」を返され、なんとなく照れ臭くなりました。
この日も朝は、いつもと変わらぬ朝でした。
- 89 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:29
-
隣に座った亜弥に挨拶をかけた麻琴は
その亜弥の顔を見つめていてふとあることに気が付きました。
それで小声で亜弥に話しかけます。
「亜弥ちゃん、ちょっと顔赤くない?風邪?」
亜弥は少しびっくりして麻琴を見ました。
まさか、一目見ただけでそんなことがわかるとは…。
細かな事によく気が付くのも小川麻琴という少女のステキなところなのです。
「うん、ちょっと昨日冷えちゃったみたい。でも、熱もないし全然大丈夫だよ!」
亜弥の返事は本当に元気そうで、麻琴も気になりはしましたが安心しました。
その時始業のチャイムがなりました。
- 90 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:30
- ことが起こったのは4時間目、体育の授業のことです。
雨なので場所は体育館。
体育の授業は普通背の順に並んで
身長の近い二人がペアになって取り組みます。
あさ美と亜弥、比較的身長は近いのですが、普段二人はペアではありませんでした。
しかしこの日はたまたま欠席があって二人はペアになりました。
お互いに、少なからずお互いを意識していました。
が、亜弥にはそれよりも大きな問題がありました。
- 91 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:31
-
二人が背面ストレッチをしている時分。
「松浦さん、熱いです」
「え?」
「背中が熱いです。熱があるんじゃないですか?」
「え、そんなことないと思うけど…」
あさ美の言葉は図星でした。
亜弥は今朝の時点ではそれ程でもなかったのですが
授業を重ねていくうちに、自分でも分かるくらいに熱っぽくなっていたのです。
しかし、あさ美に指摘されてしまっては
なんとも悔しいという思いが先立って強がって見せます。
「休んでいたほうがいいと思いますよ」
「全然大丈夫だよ。たいしたことないし」
背中合わせの会話。
亜弥はどうしてもあさ美に弱みを見せたくない、という感情が
以前よりも増しているのを心のどこかに感じました。
- 92 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:31
-
「おっしゃ、ほな今日はバスケやるぞ!」
この関西弁は体育教師。
あさ美は勉強も得意ですが、スポーツも得意なのでした。
一方の亜弥は勉強こそ不得手ながら、運動に関しては自身を持っていました。
勉強ではどう転んでも勝てない分、スポーツでどうしても勝ちたい。
亜弥は何時にも増してこの日あさ美にライバル意識をもやしていました。
しかし、やがてその異常な熱が、本当に亜弥の体温を上げてゆきます。
バスケのゲーム。敵チームにはあさ美。一進一退。
しゃかりきになってそれに気付かない亜弥。
意識が朦朧としてきて初めてヤバイと思ったときには遅すぎました。
- 93 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:31
-
「亜弥ちゃんパス!」
チームメイトのその言葉が、どこか遠くから聴こえました。
ガツン。体育館に響く鈍い音。
頭にボールの直撃を受けた亜弥は、静かにそこに崩れました。
とっさにすぐ脇にいたあさ美が抱きとめ、床に頭を打ち付けるのだけは避けられましたが
コート内でプレーしていた全員の生徒の動きは止まりました。
- 94 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:32
-
「松浦!」
関西弁の体育教師が慌てて近寄りました。
「脳震盪みたいですが…」
抱きとめたあさ美がそのままの体勢で言いました。
「凄い熱です。風邪じゃないでしょうか」
体育教師が亜弥の額に手を当てて
「ほんまや…保健室につれていかな…」
と言って、あさ美の手から亜弥を受け取り抱え上げました。
「おまえらちょっとまっとれ」
残った生徒に声をかけると、体育教師は体育館を出ようとしました。
一様に心配そうな面持ちで亜弥を見つめる生徒達。
あさ美が、すっと立ち上がって言いました。
「私も行きます」
「ああ、すまんな」
- 95 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:32
-
あさ美は後悔していました。
自分はさっきから亜弥が普通でない熱を出している事を知っていた。
にもかかわらず強く諫言することをしなかった。
あさ美は責任を感じていました。
亜弥を抱えた体育教師とあさ美は保健室の前に立ち止まりました。
そこで体育教師が重大なことを呟きました。
「しもた、今日は保険の先生がおらへんのや…」
「え、それじゃあ」
「俺のポケットに鍵預かっとうから、ちょっと取って開けてくれ」
あさ美は言われるままに教師のポケットから鍵を抜き取り保健室のドアを開けました。
- 96 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/05(金) 20:33
- しんと静まった保健室。
教師は急いで亜弥をベッドに寝かせました。
そして布団を被せ、おでこに『熱冷やシート』なるものを貼り付けました。
「こら、熱いは…風邪やな」
「ですね」
教師とあさ美はテキパキと世話をし、一応の落ち着きを取り戻しました。
「紺野…すまんねんけど…」
「ああ、いいですよ。私がついておきます」
「ほんまか。すまんな、あいつらをほっとくわけにもいかへんし…。
何かあったら、このすぐ横が体育教官室やから、誰か先生おるし。
俺に用やったら内線つこてくれてええから」
「わかりました」
「ほな、おおきに。松浦よろしくな」
「はい」
体育教師はいそいそと出て行きました。
- 97 名前:放熱器 投稿日:2004/03/05(金) 20:34
- 調子付いてた小さな自分 風に遊ばれてやっとここに立っていた♪
( ´ Д `)<zzz
- 98 名前:放熱器 投稿日:2004/03/05(金) 20:36
- >>83
川o・-・)<ありがとう御座います。あなたはいい人です。
間違いありません。完璧です。
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/06(土) 00:43
- なんか読んでてドキドキするな。
見ちゃいけないものを見てるような気分になる。
なぜだろう。思春期の女の子ってなんか…すごいと思う。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/06(土) 04:21
- どうにもならない今日だけど
平坦な道じゃきっとつまらな〜い〜♪
頑張ってください。応援しています。
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/06(土) 18:04
- うむうむ、日常の大切さを感じる。頑張って
- 102 名前:放熱器 投稿日:2004/03/06(土) 19:40
- ですます調、うざいですか?
川o・-・)<うざいです。
オマエモナー
…続きです。
- 103 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:40
- 目を覚ました亜弥の覚束ない視界に第一に映ったのはあさ美でした。
亜弥はうまく働かないだるい頭を回転させて状況を掴もうとしますが
それより早くあさ美がそんな亜弥に気付きました。
「気が付きましたか、よかったです」
あさ美の無防備な、直の安堵の色を浮かべた表情を見て
亜弥は次第に状況が飲み込めてきました。
自分が風邪をひいていたこと、そしてボールの直撃を受けて倒れたこと。
「…紺野さん…?」
自分が保健室で寝ているらしいことまで確認できたところで、わからないことが一つ。
どうして、保険の先生でなくてあさ美がここにいるのかということ。
- 104 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:41
-
あさ美は手に持っていた『人体急所必勝読本』を閉じて脇の台に置きました。
亜弥が目を覚ますまでのあいだ、することがないあさ美が
保健室の書棚を漁って見つけ、読んでいたのです。
亜弥はやはりだるい瞼を持ち上げながらあさ美に疑問の目を投げかけましたが
あさ美は意に介す様子も無く、引出しから小さな棒状のモノを取り出しました。
「熱を測ってください」
あさ美が無防備な表情を見せたのは始めのほんの一瞬だけでした。
それからは淡々と何時もの無表情で、しかし丁寧に世話を焼いてくれます。
亜弥は差し出された体温計をおずおずと受け取りました。
それを体操着の襟元から中に入れ脇に挟みこみました。
「覚えてますか?体育館で倒れたんですよ」
「…うん」
「自分の体調は自分できちんと把握しておくべきです」
「………」
- 105 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:42
-
窓の外からは、パラパラと小雨の落ちる音が聴こえます。
それ以外では保健室はとても静かです。
「どうして、紺野さんが…?」
「保険の先生は今日はおられません。体育先生は授業があります。
でも、ほうっておくわけにもいかないでしょう?」
あさ美の声は相変わらず事務的でした。
しかし亜弥にはどうやら厭味を言われている以上に
自分が気を使われていることが分かりました。
「ごめんね…」
熱の所為で何時もの元気は微塵もありません。
気弱な科白が、いとも簡単に口をつきます。
- 106 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:42
- ピピピ、と甲高い音が静かな保健室に響きました。
亜弥は黙って体温計を抜き取るとあさ美に渡しました。
「8度7分…」
聞いて亜弥は想像以上の熱の高さに驚きました。
あさ美はそれを保健室利用記録に書きとめていきます。
「病名は…風邪ですね…」
書き終わってから、亜弥の方をむいて付け足しました。
「勝手にクスリを飲ませるわけにはいきませんから、とりあえず安静にしておくしかないですね。
それは交換しましょうか」
そう言って亜弥の額を指差しました。
言われて初めて自分の額に『熱冷やシート』が乗っていることを知ったほどに
亜弥の集中力は乱れていました。
- 107 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:43
-
亜弥の熱を吸ったそれは不快な生温かさになっていました。
そこにあさ美の冷たい手が触れ、それを剥がします。
それから新しいそれを出して、同じように貼り付けられます。
キンと極度に冷えわたる額。
亜弥はこちらにも些かの不快感を覚えました。
あさ美の手の冷たさの方がいい、とはさすがにいえない亜弥なのでした。
あさ美は先ほどから潤んだ上目遣いでされるがままになって
自分を見ている亜弥のことがどうしようもなく気になってしかたありません。
顔は熱に上気し唇はぽってりと潤っています。
ほんのりと浮かんだ寝汗が小さな玉となって額に浮いています。
そこに、生え際の毛が微細な曲線を描いて纏わりついているのです。
- 108 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:44
-
正に先日に見た妖艶な亜弥のグレードアップバージョンでした。
あさ美は妙な義務感から買って出たこの仕事を今さらながら後悔していました。
先ほどから亜弥はずっとあさ美を見ているのです。
仮にも、犬猿と謳われた相手である松浦亜弥の前で、彼女の綺麗さにたじろいでいるなどということは
絶対におくびにも出してはいけないことでした。
それであさ美は不自然なほどの無表情をつくろうより他ないのです。
「今…何時かわかる…?」
沈黙が嫌なのはお互い様。
亜弥の方から声が出ました。
熱っぽい、力ない、媚態の篭ったような声。
それを聞くだけで、あさ美は不可解な動悸に襲われるのですが
やはりそれと悟られないように平滑に言葉を返しました。
「あと10分くらいで4時間目が終わりますよ」
「…そう」
それは言い換えればあと少なくとも10分くらいは二人きりということ。
- 109 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:45
-
亜弥は曖昧模糊とした意識の中である場面の断片的な記憶を呼び起こしていました。
それは、自分が倒れたその瞬間。
亜弥の曖昧な記憶の中で、崩れ落ちた自分を支え、抱きとめてくれた人物が
どう考えても紺野あさ美、その人であることが
いよいよ疑えなくなってきたのです。
夢うつつのなかで、その場面が何度となくフラッシュバックされます。
亜弥はいおうようの無い羞恥に襲われました。
自分の不調を見抜き忠告してくれたにもかかわらず強がって見せた
当のあさ美本人によって抱きとめられたのですから。
- 110 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:45
-
亜弥の心臓は早鐘のように打ち鳴らしていました。
この二人だけの空間。
無言の空間が何故かしら自分の熱をずんずんと上げているように感じられるのです。
あさ美はまた傍らに置いた『人体急所必殺読本』を開いて読み始めました。
しかし亜弥は尚もあさ美を見つづけていました。
まるで人物画を見るように丹念に顔や身体を弄るように見つめる亜弥に
さすがにあさ美も気になったと見えて言いました。
「休んでおいた方がいいですよ。まだ熱も高いんだし。
私はここにいますから」
- 111 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:46
-
亜弥の心臓がまたドキリと跳ね上がりました。
それが収まるどころか不協和音になってどんどんと高鳴り
亜弥の耳に自身の心音が埋め尽くされるような
異常な感覚に陥りました。
もう目を開けていられませんでした。
心音があさ美にも筒抜けているのではないかという思いが
羞恥となって一層それを高めます。
(どうしたんだろう…私…おかしいよぉ…)
もちろんあさ美にはそんな音が聞こえているはずがありませんでした。
あさ美の方でも、自分の内から沸きあがる不可解なもやもやと格闘するので精一杯なのです。
『人体急所必殺読本』の内容なんて、てんで頭に入ってはいませんでした。
- 112 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:47
-
亜弥は時々目を開けたり瞑ったりして時間の過ぎるのを待っていました。
静かな保健室。
雨の微かな音が、時計の秒針のコツコツという音の間に聞こえます。
時々廊下を通る人の足音が、不思議な残響をともなって聴こえてきます。
時間は二人にとって恐ろしくゆっくりと進みました。
お互いを間違いなく意識していながら、違う事を考えようとする二人。
特に亜弥の中で時間は延々と引き延ばされていました。
熱は起きながらに悪夢を見せます。
どうしょうもないな不安。内から聳えてくる理解できない恐怖。
そんなものが時の流れを悪戯に操っているような気分。
このとき亜弥はあさ美の居てくれたことにどれだけ救われたことでしょう。
- 113 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/06(土) 19:48
-
キーンコンカンコンカカカン
チャイムが鳴りました。
今は昼休み。静かだった廊下が、俄かに喧騒に包まれてきました。
やがてパタパタとあわただしい足音が聞こえ
保健室のドアを叩きました。
「おお、松浦、大丈夫か?」
関西弁教師でした。
- 114 名前:放熱器 投稿日:2004/03/06(土) 19:50
- 私達の望むものはあなたと生きることではなく
私達の望むものはあなたを殺すことなのだ♪
从;‘ 。‘从<……
- 115 名前:放熱器 投稿日:2004/03/06(土) 19:58
- >>99
同意です。男の子の「時間」が刹那的な煌めきならば、
女の子の「時間」は永遠の静謐なのです。
川o・-・)<…わかりません。
君はわからんでいい。
>>100
ありがとう。わーい、初めて歌に反応してくれた。
川o・-・)<大体曲目が微妙すぎます。
>>101
日常の中に物語があるのか、物語の中に日常があるのか。
頑張ります。頑張りますが、そろそろやばいです…。
川VvV从<ゴルァ
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/07(日) 01:04
- おもしろーい。つか、更新はやーい
- 117 名前:放熱器 投稿日:2004/03/08(月) 20:41
- そろそろオムニバス短編集ですね。
从;‘ 。‘从<まさか、出す気…?
悪いのかよ…。
えっと、続きです。
- 118 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:42
-
「…先生」
「熱は38.7度ありました。早退した方がいいと思います」
辛そうな亜弥にかわってあさ美が答えました。
「そうやな。家に連絡して迎えに来てもらえるか?」
「はい…」
亜弥がか細い声で答えました。
「じゃあ、担任の先生には俺から言っとくわ。ゆっくり休めな」
「はい…」
体育教師は出てゆきました。
続いて、保健室のドアがノックされこんどは麻琴が入ってきました。
「亜弥ちゃん、大丈夫!?」
亜弥の顔は、力ないながら笑顔に変わりました。
「…ごめんね、まこっちゃん…心配かけちゃって…」
「やっぱり風邪なの?」
「…そうみたい」
「もう、無理しちゃダメじゃんかよぅ…」
麻琴の言葉には心から心配しているのがありありとが篭っていて
亜弥は朝のことを思ってはすまない気持ちでいっぱいになるのでした。
「ごめん…」
- 119 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:42
-
「あ、あさ美ちゃんもお疲れ!二人の制服持ってきておいたから」
麻琴はあさ美の方を向いて言うと、手提げから二人分の着替えを取り出しました。
「有難う、まこっちゃん」
「ううん」
麻琴自身はまだ体操着のままです。
自分が着替えるよりまず先に、亜弥とあさ美のことを考える。
小川麻琴というのはそういう子なんです。
あさ美、それに亜弥はそんな麻琴が大好きで、心から謝意を告げるのでした。
「ねえ、まこっちゃんも早く着替えてきたら?」
「え?…あぁ!?」
しかも気付いて無いのでした。
これにはあさ美も亜弥も笑います。こうであってこそのまこっちゃんなのです。
「じゃあ、亜弥ちゃん、お大事にね!無理しちゃだめだよ!」
言うなり麻琴は飛び出していきました。
- 120 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:42
-
再び保健室が二人だけの静かな空間に戻ります。
あさ美は麻琴が持ってきてくれた自分の制服に手を伸ばしました。
それから徐に体操着を脱ぎ始めました。
それを見て、びっくりする亜弥。
あさ美は気にせずといった風にテキパキと着替えてゆきます。
亜弥は薄目にその光景を見つめていました。
どうしょうも無いほどに上がっていく熱を感じながら
どこか別世界に飛ばされた心持でぼんやりと考えるのでした。
(………あぁ、紺野さんってけっこう、細いなぁ…
うわ、胸もけっこう、あるんだなぁ…)
まさに変態親父。しかし本人には全く理性が働いていませんでした。
- 121 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:43
-
やがてあさ美が着替え終わると、亜弥の方向きました。
「松浦さんも着替えたほうがいいですよ。体操着は汗を吸ってるだろうし
冷えちゃいますから。起きられますか?」
亜弥の着替えを差し出しながら見たあさ美の目には
ちょっと逝ってしまっている彼女が映りました。
「無理っぽいですね…」
真っ赤な顔をして目も半開きに荒い呼吸をしている亜弥に
あさ美はかなり慌てました。
「もう一度、計ってみますか?」
返事はありません。
あさ美は体温計を取り出すと、亜弥の布団を少しめくって
襟元を開けるように指示しました。
- 122 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:43
-
あさ美はこのとき、激しい後悔に襲われていました。
読んでもいない『人体急所必殺読本』に必死で目を通しているあいだ
最もすべき仕事を怠っていたのです。
亜弥の様態。それこそあさ美が、この時間に最も気にかけるべきことでした。
ばかな虚夢めいた私事の思考のために大切な義務を怠った。
あさ美は衷心から忸怩たる思いにかられました。
あさ美の手が亜弥の胸元に触れました。
冷たい手と焼けるような肌。
亜弥は膨らみきった感情が、触れた面を通して
雪崩れ込むように思いました。
羞恥で死にそうになりました。
亜弥は、彼女にとっては慌てて、しかし傍目にはとても緩慢な動きで
あさ美の手から体温計を奪い取りました。
そしてやはりたどたどしい動きでそれを自分の脇に挟みこみました。
- 123 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:44
-
「電話、出来ますか…?」
亜弥の目は、殆どあさ美の言葉を解せず、戸惑っていうように
揺れるばかりでした。
「できなそうですね…。私がかわりにしておきます。いいですね…?」
糸で操られたように意思無く頷く亜弥。
それを見たあさ美は、先ほど麻琴が持ってきてくれた亜弥の制服の一式のなかから
彼女の携帯電話を取り出し、自宅に電話をかけました。
おそらく自分の母親であろう人と何やら言葉を
交わしているらしいあさ美を亜弥はスクリーンの向こうの
ことででもあるかのように見つめていました。
「すぐ、来るそうです」
あさ美が電話を終えてそれを置きながら言います。
亜弥は変わらず遠い音を聞いたような感覚で、その意味は
随分後から残響に混じって理解されていきました。
- 124 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:44
-
ピピピ、とまた体温計の鳴るのが聴こえました。
あさ美は素早く亜弥からそれを奪い取ると、目を走らせました。
「9度…2分…」
想像以上に熱が上がっていました。
雨は殆ど止んでいました。
水音は、樋を伝って落ちるぽつ、ぽつという規則正しい音ばかりになっていました。
また、沈黙なにりました。
亜弥は相変わらず、苦しそうに横になっています。
しかしあさ美は、さっきとは違って、ずっと亜弥の方を見ていました。
その顔は既にポーカーフェイスが崩れつつあり
端々に狼狽の色が窺えます。
- 125 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:45
-
亜弥がふと、あさ美の方に顔を向けました。
あさ美はなるたけ優しく、何?という風に眉を上げました。
「…紺野さん……」
「なんですか?」
亜弥の途切れ途切れの声に併せるようにゆっくりとした調子で応えます。
「……お昼、休みだよ…?」
「そうですよ?」
「……お弁当、食べなくて、いいの…?」
バカなことを、と思いなさるな。
高い熱が出ているときは、夢を見ているときに似ています。
意識がはっきりとしているつもりでいて、何が下らないことで何が重要なことか
そんなことが、常識とは異なる錯綜を見せるのです。
亜弥はこのときそれが一番大事なように感じたのです。
何故なら、あさ美はこと食べ物に関する執着が、並々でないことを
平素より見知っていたからでした。
- 126 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:46
-
あさ美は一瞬キョトンとしましたが、すぐに柔らかい表情にもどりました。
「さっきも言いましたが、放っておくわけにもいきませんから。
それに、ここに居る、ともいいましたよね?」
あさ美は実際に、お弁当の事など言われるまで忘れていました。
言われて、お腹が減ってきたのですが、それよりもここに残る事を優先します。
その理由は大きく分けて三つ。
一つは、先刻から感じている責任感でした。
実際はあさ美のせいでもなんでもないのですが、クソ真面目なあさ美は
亜弥を放置する事など到底できないのです。
二つには、例の感覚が挙げられます。
亜弥の何時もと違う弱った姿、それがあさ美にやまだかつてない感覚を起こさせ
ているのです。
それに知覚こそしていないながら、普段の贅言も何処へやらと
臥して弱りきった亜弥に対する優越感も確かにありました。
三つには、あさ美自身にも高熱を出した経験があり、その時に一人で
いることの不安をよく知っていたからでした。
何かに追われるような感覚。起きながらにして見る悪夢。
そんな物が、誰かしらが側に居てくれるだけで、不思議なほどに雲散してしまう。
あさ美は幼少の頃の記憶を辿りながら、それを亜弥に当て嵌めていました。
- 127 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/08(月) 20:46
-
亜弥はあさ美の返事を聞くと安心したように目を瞑りました。
内心にはどうしてもあさ美に行って欲しくないのでした。
亜弥の強張った体から次第に力が抜けていきました。
ベッドの端からだらりと腕が落ちました。
あさ美がそれを見て、その手を両手の中にそっと抱きしめ
ゆっくりと布団の中に帰しました。
亜弥は冷たいあさ美の手の、心地よい温もりに誘われ眠りの中に落ちて行きました。
- 128 名前:放熱器 投稿日:2004/03/08(月) 20:47
- 流れ行く白い雲を 追いかけて追いかけて
人は皆青い海の向こうからやってきた♪
∬´▽`∬<……
- 129 名前:放熱器 投稿日:2004/03/08(月) 20:49
- >>116
ありがとう!でもごめんなさい。もう限界みたいです。
- 130 名前:放熱器 投稿日:2004/03/09(火) 16:40
- でも頑張ります。
続きです。
- 131 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/09(火) 16:41
- 予鈴がなり、五時間目の授業が始まるギリギリになって
あさ美が教室に帰ってきました。
すぐに教師も入ってきて、五時間目が始められました。
五時間目終了のあと、あさ美の回りに数人の級友が集まりました。
「亜弥ちゃんは?」
「早退しましたよ」
「ずっと、あさ美ちゃんがついてたの?お弁当も食べずに?」
「……」
質問に答えながらあさ美も考えていました。
妙な義務感があったのは本当です。
しかし、それだけでない何かがあるように思えました。
時々質問に答えず黙るあさ美を見て
友人の中からはうつったんでないかという心配の声が掛かります。
が、それに軽い調子で否定を加え、あさ美は尚も考えるのでした。
- 132 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/09(火) 16:41
-
放課後。
あさ美は何時ものように生徒会室に向かいました。
窓の外の雨は既に上がって、雲間から光の柱が幾本も降りていました。
こんこんと叩いて開いた扉の中には
強い西日を受けて真っ赤に染まった愛ちゃんが
ちょこなんと椅子に掛けて本を読んでいました。
「こんにちは、愛ちゃん」
「あさ美ちゃん、おはー」
あさ美も愛ちゃんの隣に腰掛けました。
「まぶしくない?」
「まぶしい」
愛ちゃんはニッコリと微笑んで答えました。
あさ美もそれに応えてニッコリと笑います。
愛ちゃんはあさ美よりも一つ年上なのですが
その、独特の親しみやすさからあさ美は彼女に限って
年上であっても敬語は使わないことにしているのです。
- 133 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/09(火) 16:42
- 「何読んでるの?」
「サンクチュアリ」
「……」
愛ちゃんもあさ美同様、読書が好きな女の子でした。
ただ、その好みはあさ美とは違う意味で変わっていました。
「ねえ、愛ちゃん」
「んー?」
「恋愛小説とか持ってない?」
愛ちゃんは、ぱっと顔を上げてあさ美を見ました。
よっぽどあさ美に似つかわしくない言葉に思えたのか
件の吃驚顔になっています。
が、すぐに何時もの綺麗な愛ちゃんに戻りました。
「んー、あたしも恋愛小説ってあんまり読まないからなー…」
なんとなくそれと知っていたあさ美はがっかりするでもなく
夕日に染め上げられた愛ちゃんの麗姿をぼんやりと見つめていました。
- 134 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/09(火) 16:42
-
「十日物語はあったかなぁ。千一夜とか旧約聖書じゃだめなの?」
「愛ちゃん…別にそういうのが読みたいんじゃなくてね…
それらは持ってるし…」
「それにしても、あさ美ちゃんが恋愛小説たぁどーゆぅ風の吹き回しだー?
明日は雨が降るね」
(降るだろうね。天気予報でも言ってたし)
「いや、昨日の後藤さんとか石川さんとか、愛ちゃんの話し聞いてね、
ちょっと興味がでたっていうか…読んでみようかなって」
「へぇー、あさ美ちゃんはお芋にしか興味無いのかと思ってたよ」
全く悪気の無い朗らかな笑顔で言う愛ちゃん。
こういう、天然で失礼なところが愛ちゃんの愛される要因であり
また、苛められる一因でもあるのでした。
あさ美は見かけだけ怒った風をみせて
口を膨らませて反論します。
「もう、そんなわけないじゃない!」
あさ美はこんな、愛ちゃんとのやり取りが大好きなのでした。
- 135 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/09(火) 16:43
-
「恋愛小説ねぇ…尾崎翠あるよ?読んでみる?」
「尾崎翠かぁ、じゃあ今度貸してくれる?」
「うん、いいよ」
突然、きゅ〜とあさ美のお腹が鳴りました。
沈黙。
そして、愛ちゃん大爆笑。
あさ美は真っ赤になりながらお腹を抑えます。
お腹は尚もきゅうきゅうと音を立てました。
「アハハ。どうしたの〜お弁当食べてないの〜?」
「そういえば…」
「え!?本当に食べてないの?あさ美ちゃんが?」
「ごめん。今から食べる」
あさ美は鞄から弁当の包みを取り出しました。
そしてそれを物凄い勢いで食べ始めました。
「あさ美ちゃんが放課後までお弁当食べないなんて…。
こりゃ明日は雪が降るなぁ…」
(それはない)
口いっぱいにご飯をほお張りながら
心の中で突っ込むのでした。
- 136 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/09(火) 16:43
-
あさ美がお弁当を食べ終わりまったりとしている所に
ドアが叩かれ梨華が入ってきました。
続いて真希が。
4人は斜陽を受けたうららかな生徒会室で
のほほんとお喋りに興じました。
あさ美は、今日昨日の自分のおかしな感覚について
先輩達に相談を持ちかけようと思いましたが、止めました。
どうせ、からかわれるだろう、ということ以上に
上手く説明する言葉が見つけられませんでした。
ただ、真希も梨華も愛ちゃんも、何となくあさ美の変化を感じ取り
そしてそれが何であるかも大体の予想をつけていました。
それで、時々一人で悶々と考え事をしているあさ美に
優しい視線を投げかけるのでした。
- 137 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/09(火) 16:44
-
突然あさ美が大きなくしゃみをしました。
驚くは一同。
「紺野だいじょうぶ?」
「はあ、大丈夫です」
言いながら、鼻をすすりました。
(うつったかな…?)
「誰かが噂してんのかもね」
真希がにやにやと笑いながら言いました。
「一つクシャミは良い噂〜。よかったね」
梨華も面白がって言いました。
あさ美は、何となくそれが恥ずかしくて顔を伏せました。
空には、夕日を覆う新たな黒雲がどっとなだれていました。
- 138 名前:放熱器 投稿日:2004/03/09(火) 16:46
- 愛なんて言葉忘れて 会いに来て 夜のブランコでまってる♪
从*‘ 。‘从<……
- 139 名前:放熱器 投稿日:2004/03/10(水) 21:18
- それにしても、今年の夜は明るいですね。
川o・-・)<無理に何か言うのはやめてください。
…続きです。
- 140 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/10(水) 21:19
- 翌日、亜弥はやはり学校を休みました。
熱が昨日よりは下がったものの、まだ7度以上を保っていました。
それに朝起きたら喉が痛く、声も出にくくなっていました。
しかし、体調自体は家族の看病の甲斐もあってかなり復調していました。
亜弥は日がな一日ベットの上で、ぼんやりと自分の部屋の天井を見ていることに
退屈を感じるようになってきました。
(今ごろ、お昼休みかなぁ…そういえば、今日数学あったっけ…
ああ、暇だなぁ…)
ファッション雑誌の類を無精げに枕元に並べますが
既に何度も目を通したそれらには心惹かれません。
この日も予報通りに朝から雨でした。
窓の外は何時もどおり暗く、いつもどおり騒がしいのでした。
- 141 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/10(水) 21:19
-
午後までおとなしく寝ていた亜弥の熱はもうすっかり下がりました。
まだ喉が本調子でない以外は、殆ど問題はなくなっていました。
亜弥はベットに座って窓を開け、ぼんやりと外の景色を眺めました。
濛々とした生ぬるい湿気。
冷たい雨の飛沫が、大分気温が上がってきた初夏の空を
優しく冷ましていました。
向こう隣に見えるのは美貴の家。
幼少より何度も訪れたその家の、雨に打ち晒される姿に
仄かな懐かしい記憶が蘇ってきます。
美貴と遊んだ記憶。
美貴の家に泊まって一緒に眠る事は今でもたまにあります。
彼女は高校3年生。
美貴は大学進学を希望しているのです。
亜弥はいままで殆ど考えていなかったそのことを思い出していました。
(美貴たんが卒業したら、やっぱり遠くへ行っちゃうのかな…寂しいな〜…)
木々の葉は瑞々しい緑でした。
- 142 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/10(水) 21:20
-
いよいよ時間を持て余していた夕刻、窓の外に願っても無い人影を見つけました。
麻琴と数人の仲のよいクラスメイトが、亜弥のためにお見舞いに来たのでした。
雨の中を色とりどりの傘を揺らしながら。
「亜弥ちゃん、大丈夫?」
部屋に上がって麻琴がいの一番に声を掛けました。
亜弥は笑顔で大丈夫、と答えたのですが
その声が枯れていて、とてもじゃないが痛いたしかったのです。
クラスメイトたちは一様にお見舞いの言葉を述べました。
退屈で仕方なかった亜弥にとって
これほどに嬉しい来訪はありませんでした。
ところが
- 143 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/10(水) 21:20
- 「亜弥ちゃん、これ数学の宿題。あと英語の課題。それと
古文の課題、それにetc…」
麻琴に突きつけられた現実に一挙に消沈する亜弥なのでした。
「明日から土日で休みだし、頑張ってね!」
麻琴はクラスの優等生のため、勉強の出来ない人の気持ちは分からないんです。
麻琴と友達は亜弥を囲んで暫しおしゃべりに興じました。
亜弥が思ったよりずっと元気そうだという事が
彼女達を喜ばせます。
話は弾みました。
外に降る雨の雫のように弾みました。
- 144 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/10(水) 21:21
- 「そういえば」
麻琴が不意に声を立てました。
「亜弥ちゃん、覚えてる?亜弥ちゃんが倒れた時
ずっとあさ美ちゃんが看てくれてたんだよ?」
亜弥の心臓がガツンと踊ります。
『紺野あさ美』その名前は、今朝から今の今まで完全に忘れていた
いや、入念な意識の漆喰で塗り固め、その名前を知覚しまいとしていた名前だったのです。
不意に、すべての記憶が映像の洪水みたように亜弥の頭の内を
氾濫し始めました。
「そうだよ、亜弥ちゃん。あさ美ちゃんに感謝しなきゃだめだよ。
亜弥ちゃんが倒れた時だって、あさ美ちゃんが抱きとめてくれなきゃ
亜弥ちゃん本当にアボーンしてたよ」
- 145 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/10(水) 21:21
- 別の友達が冗談めかして言いました。
昨日の保健室のベッドの上で夢うつつに考えていた
その映像が、もうまがいようも無い事実である事が認識されてしまったのです。
亜弥はなま返事をしながらとめどなく渦巻く思考を
抑制せんと必死でした。
思えば思うほど、あさ美が亜弥の頭を締めました。
答えを欲しました。
答えは凄く簡単なことのようで、それがちっとも亜弥の前に顔を出しませんでした。
あさ美は自分を助けてくれた恩人。普段喧嘩しているというのは別の
話として、感謝しなければならない。
わかっています。わかっているのに、どう考えてもそれだけでないのです。
亜弥の中であさ美の存在がどんどん脹らんでいきます。
- 146 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/10(水) 21:22
-
「ちょ、ちょっと…亜弥ちゃん大丈夫?」
「ん、大丈夫…」
亜弥はいつの間にか友達の声を聞き流していました。
あさ美のことが、一挙にその思考のすべてを締めていたのでした。
昨日みた、自分を案じる不安げな表情。
安堵の笑顔。
愛らしい顔。
綺麗な身体…。
(私…やっぱり……やっぱり、紺野さんのこと…)
言葉に出来ませんでした。なけなしのプライドとでもいうものが
最後の音を発せさせませんでした。
「それで…今日、紺野さんは…?」
「普通にいたよ。一緒に来る?ってきいたら『いい』って言ってたけど…
亜弥ちゃんのことは心配してたみたいだった…」
- 147 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/10(水) 21:22
- 「…そう」
「ねえ、亜弥ちゃん。これを機会にあさ美ちゃんと仲直りしたらどうかなぁ」
麻琴が遠慮がちな声でいいました。
「その…二人の性格が全然違うっていうのは分かるし、合わないのも仕方ないと思うけど…。
亜弥ちゃんだってあさ美ちゃんが悪い子じゃないなんてこと、とっくに知ってるよね?
あさ美ちゃんだって知ってると思うよ。だからさ、もう冷戦は終わりにして
ゴルバチョフはブッシュと…」
「まこっちゃん何言ってるの…」
友達がすかさず突っ込みました。
「…うん」
亜弥はそれだけ、掠れた声で呟きました。
外が大分暗くなってきたのが分かって麻琴と友人達は亜弥の
家を後にしました。
亜弥は、彼女達が残していった宿題、課題の山をぼんやりと眺めていました。
もう、殆ど誤魔化す事ができなくなっていました。
そっと目を瞑ると、あの子の顔が、それしか浮かびませんでした。
- 148 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/10(水) 21:23
- もう、疑う余地もありませんでした。
「私…紺野さんのこと…好きなんだ…」
初めて、音にして呟きました。
体中の枷が外れたかのような開放感が
足の先から頭の頂までを電流のように走り抜けました。
それとともに、ドキドキと胸が騒ぎ出しました。
頬は上気し、耳は火照りました。
でも、その一切が、今までの不可解な物とは違う
心地よさとスリルを帯びていました。
亜弥は胸に手を当て、鼓動の収まるまで、そうしていました。
- 149 名前:放熱器 投稿日:2004/03/10(水) 21:25
- 空色のクレヨンで君を描いたんです そっぽ向いた真昼の遊園地で♪
川’ー’)<描き描き
- 150 名前:放熱器 投稿日:2004/03/10(水) 21:29
- なんか一人で盛り上がってる歌はそろそろ止めます。
川o・-・)<飽きたと素直に言いなさい。
一応ネタ元でも。
>>26 「スターマウンテンロコモーション」あがた森魚
>>33「Raining 」Cocco
>>53「こがらし・えれじぃ」加川良
>>67「幸せの轍」サザンオールスターズ
>>81「雨のウエンズディ」大滝詠一
>>97「Wind Climbing 〜風にあそばれて〜」奥井亜紀
>>114「私達の望むものは」岡林信康
>>128「藍よりも青い海」上々颱風
>>137「夜のブランコ」谷山浩子
>>149「空色のクレヨン」はっぴぃえんど
从;‘ 。‘从<どういう基準…?
- 151 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/10(水) 23:59
- え!最後のやついつも楽しみにしてるんでやめないで下さいよ!
別に本編より楽しみだとは言いませんけどね、ええ。
- 152 名前:rina 投稿日:2004/03/11(木) 10:56
- ご、ごまみきですか!?
おいらの一押しCPですvvv
紺野と松浦のこれからもすごく気になります!!
んあ!>( ´ Д `)人川VvV从<ごまみき最高!
- 153 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:14
-
授業が終わって放下となった学校にて
あさ美は麻琴の、亜弥のお見舞いに一緒に行こうとうい誘いを
丁寧にお断りしました。
麻琴が行くのには意味もありましょうが、自分が行ったって無意味どころか
亜弥だって不愉快でございましょう、と。
融通の利かない性格なのです。
あさ美は今日も今日とて生徒会室に向かいました。
あそこは既にあさ美の第2の住まいとなっていました。
生徒会室の前。
人影を見つけて目を凝らしました。
そこに立っていたのは藤本美貴。
真希の最愛のあの人でした。
「あ、紺野ちゃん。こんにちは」
美貴はあさ美を見つけると、嬉しそうに笑って挨拶をしました。
- 154 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:14
- 「藤本さん、こんにちは。今日はどうなさったんですか?」
生徒会室の鍵は役員しか持っていませんでした。
あさ美は生徒会室の戸を開けると、美貴を中に促がしながら尋ねました。
「後藤さんは、教室にはおられなかったんですか?」
美貴は生徒会室に入ると慣れた様子で椅子の一つに腰掛けました。
「ううん、今日はちょっと紺野ちゃんに用事があって」
「私に、ですか?」
「うん、たいした事じゃないんだけどね」
あさ美も何時もの席に腰を下ろし、荷物を置きながら耳を傾けました。
「昨日さ、亜弥ちゃんが倒れたんだって?」
「ああ…」
「それで、紺野さんに随分世話になったって話を聞いたから」
「世話と言うほどの事でもないです…」
「ありがとうね。私がこうやって言うのもなんだけど」
「いえ、とんでもないです」
- 155 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:15
- 律儀と言うか何と言うか。
いくら幼馴染の事とはいえ、下級生に対してわざわざお礼を言いに来る
この藤本美貴という曲者の考えが、あさ美にはいまいちわかりませんでした。
ただ、美貴の目は素直で、純粋な感謝の情が浮かんでいるのを見取り
あさ美も変な勘繰りをやめることにしました。
「亜弥ちゃん、ああみえて無鉄砲なところがあるから。
負けず嫌いだし」
「そのようですね」
あさ美の答えに美貴が笑いました。
あさ美もつられて笑いました。
美貴の笑顔はリスやネズミといった小動物のような人懐っこさがありました。
軽い会話を交わしているうち、その大らかな物言いと
上品な仕草に、あさ美は大きな好感を覚えていました。
真希の『運命の人』藤本美貴。
彼女は確かに不思議な魅力の持ち主でした。
- 156 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:15
-
生徒会室の扉がカラコロと叩かれ開きました。
入ってきたのは会長。
「んあ、美貴ちゃん。ここにいたんだ」
「こんにちは後藤さん」
「お邪魔してるよ〜ごっちん」
「紺野おはよー」
のんびりとした調子で真希は美貴の方に寄りました。
それからあさ美の方に首だけ向けて
「今日は何か溜まってる仕事あったっけか?」
と、分かっていることを訊いてきました。
「今日は無いですよ。今週の分は一昨日で終わらせたじゃないですか」
「だよねー。じゃあ私、帰るわ。行こう、美貴ちゃん」
美貴は真希の手を取ると椅子から立ち上がりました。
「うん。じゃあ、紺野ちゃん、本当にありがとうね!」
「いえ、どういたしまして。後藤さんお疲れ様です」
真希と美貴は仲良く生徒会室を後にしました。
- 157 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:16
-
美貴と真希の後姿を見送ったあさ美の目には
なんだか不思議な憧憬が浮んでいました。
思うに、あさ美には、仲のいい友達こそ沢山いますが
『全部を預けられる存在』はいませんでした。
ちょうど、真希にとっての美貴、美貴にとっての真希のように。
彼女達はそれが『恋人』という名を冠していますが
そうである必要は必ずしもないのです。
あさ美は、自分のすべてを投げ出せる、預けられる
一番大事な人の存在を欲していたのでした。
真希の言う自分の命をかけて愛せる存在。
ヒロイズムというやつです。
あさ美はそのままぼんやりとドアを見ていました。
外の雨はもう今月で何日目かしら、
いい加減うんざりとして耳にも重く抜けてゆきます。
- 158 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:16
-
あさ美の見つめる先のドアがこんこんと音を立て、はたと開きました。
入ってきたのは愛ちゃん。
あさ美は愛ちゃんのことを考えました。
愛ちゃんは大切な友達。大好きな友達。
『恋人』の候補が、愛ちゃんだって構わないのです。
「あさ美ちゃんおはー。何ぽかーんと口開けとん?
キンギョの死骸みたいやよ」
(…愛ちゃんじゃない。断じて違う)
ともあれ、愛ちゃんの笑顔と天然失礼には
あさ美の頬も緩まずにはいられないのです。
憂鬱な雨の午後。
愛ちゃんはのんびりと生徒会室の臙脂色の椅子にもたれました。
- 159 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:17
-
「そうだ、あさ美ちゃん。持ってきたよ」
愛ちゃんはそういいながら鞄を弄り、一冊の文庫本を取り出しました。
「あ、ありがとう。ごめんね、わざわざ」
「いいっていいって。あさ美ちゃんが恋愛に興味持つなんて
とってもおめでたいことだし。私にできることなら、ね」
あさ美は愛ちゃんの手からそれを受け取ると
ぱらぱらと捲ってみました。
年季の入った紙は薄茶色に変色しています。
それに硫酸紙をかけて保護してあり、大切な本だというのがわかります。
愛ちゃんでなくとも、こんな大事な本を他人に貸したりするのは
喜ばしいことでは無いに決まっています。
それでも愛ちゃんがそれをあさ美に手渡す事が出来たのには
あさ美に対する絶大な信頼があるからなのです。
「短編集なんだね」
「うん。だからさくさくっと読めるよ」
愛ちゃんがにっこりと笑うのでつられて
あさ美もニッコリと笑いました。
「ありがとう。愛ちゃん」
- 160 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:17
-
まったり。愛ちゃんとあさ美は斜めに向き合って
それぞれに本を捲っていました。
「ねえ、愛ちゃんは」
あさ美が不意に口を開いたのに、愛ちゃんがふと顔を上げました。
「ん?」
「愛ちゃんは、今好きな人はいないの?」
愛ちゃんはじっとあさ美を見てから
小首を傾げて考えます。
「うーん、微妙だなー。高校入ったばっかりの時は後藤さんのこと
すごく好きだったんだけどね。今も好きだけど、それは違うし」
(愛ちゃんって惚れっぽいんだ…)
「とりあえず、今はフリーかな?」
そういってあさ美の方を向いて、ニッカリと笑います。
どこかしらに揶揄うみたいに。
あさ美も愛ちゃんの目を見ていました。
- 161 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:18
-
「フリーって…そういう使い方するの…?」
「さあ?」
「ともかく、そういうことなら私はいつでもOKだよ。あさ美ちゃん」
「何いってんの…もう」
愛ちゃんがにやにや笑うので
あさ美も表情にはうんざりというのを表して。
でもちょっとドキリとするのでした。
「そういえば」
愛ちゃんが言いました。
「あさ美ちゃん、例の松浦亜弥ちゃんを体育館で抱きしめたんだって?」
「ハァ?」
吃驚仰天のあさ美。
愛ちゃんがそんなことを知っている事にも吃驚なのですが
それ以上に、変なニュアンスが感じ取れて心外極まりないのです。
「いいねー。熱で倒れた亜弥ちゃんを颯爽と飛び出して抱きしめたんでしょ?
それでずーっと看病してたんだよねぇ。かっこいいね。ナイトだね。
2年生の間でも有名だよ?一年生の名物生徒同士の美談だって」
- 162 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:19
-
「ちょっと待ってよ…。確かにそれに近いことはあったけど」
「やっぱり!やーさすがあさ美ちゃん」
「だから…。それじゃあまるで私と松浦さんが恋人同士みたいじゃんか…」
「え、違うの?」
「そんなわけないじゃん…。第一私と松浦さんがめっぽう仲悪いのは
愛ちゃんだって知ってるでしょ?」
「でも、好きなんでしょ?」
愛ちゃんの、直の物言いに一瞬ドキリとするあさ美。
瞬間の狼狽を愛ちゃんはつぶさに見止めましたが
気付かないふりをしました。
「そんな、わけないじゃん。何いってんのよ、もう…」
「ふーん…。でも、やっぱりあさ美ちゃんはかっこいいね。
普通そんなに嫌いな子にそんな事できないよ」
愛ちゃんの言葉の中にある含みに、この時のあさ美は気付きませんでした。
- 163 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/03/12(金) 13:19
-
「そんなんじゃ、ないんだから…」
もごもごと口の中で呟くあさ美を
愛ちゃんは尚優しい目で見つめるのでした。
帰り道。
雨が止んでいるかわりに、霧が辺りに立ちこめていました。
柔らかい乳色。でもどこか恐い。
いつもの道が幻想的な靄の中に霞んでいました。
あさ美は顔に当たる小さな飛沫を感じながら
胸を抱きしめて帰途を急ぎました。
空は相変わらず濛々と黒く
雨上がりの様子は見られませんでした。
- 164 名前:放熱器 投稿日:2004/03/12(金) 13:20
- あなたの燃える手で私を抱きしめて♪
( ´ Д `)<熱いぽ
- 165 名前:放熱器 投稿日:2004/03/12(金) 13:25
- >>151
いろんな意味でぐっときました。お言葉に甘えて続けさせてもらいます。
>>152
「ごまみき最高!」激しく同意です。そしてあやこんも最高!
∬´▽`∬<…
次更新までちょっと間があきます。ごめんなさい。理由は聞かないで下さい。
それから、次から唐突に番外編が始まるかもしれません。
- 166 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/12(金) 20:53
- 早く帰って来てね。
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/17(水) 05:27
- 歌復活して嬉しいっす。
自分も何気に楽しみにしてました
でも前回もCOCCOの歌しかわからなかった・・・
物語もいよいよ、走り出したって感じでしょうか?
紺野さん、あと一歩素直になるのだ!!
- 168 名前:放熱器 投稿日:2004/03/18(木) 19:25
- ここはまだ大丈夫とは思うけど、スレ整理のために自己保全。
もうちょっと間あきそうです。ごめんなさい。
- 169 名前:タララ 投稿日:2004/03/20(土) 17:28
- 今日、全部よみました。
とても面白くて(いろんな意味で)、感動しました。
間があこうが、自分はのんびりまってるんで
気にしないでください。これからも、がんばってください!!
ps 歌のトコもすきです(^v^/
- 170 名前:放熱器 投稿日:2004/03/24(水) 21:57
- ちょっと更新。
以下、予告どおり番外編「つかのまの夜」です。
本編と関係も薄くてつまらないと思うのでsageで。
- 171 名前:つかのまの夜 投稿日:2004/03/24(水) 21:57
- 翌日は土曜日。
亜弥の風邪は日中をおとなしく家で過ごす代わりに
この日一日をかけて完全に治りました。
その夜。
雨が上がり、黒い雲間からぽっかりと月が浮いていました。
濡れたアスファルトが月の光を照り返して
さながら宝石箱のような路。
亜弥は枕を抱えて寝巻きのままで外にでると。
その足で美貴の家を訪ねました。
「美貴たん、一緒に寝よう」
呆れ気味の美貴。
それでも今までどおり拒む事はせず
亜弥を家に招き入れました。
- 172 名前:つかのまの夜 投稿日:2004/03/24(水) 21:58
- 外では、遠慮がちに虫たちが
小さなカリルロンを鳴らしていました。
亜弥は嬉しそうに美貴の部屋に上がりました。
幼い頃から何度も訪れた、勝手しったる第二の我が家。
そして美貴の部屋は第二の自室なのです。
亜弥は見慣れた、少し大きめのベッドに勢いつけて飛び乗りました。
「亜弥ちゃん、風邪はもういいの?」
「もう治ったよ」
「本当に…?移さないでよ。明日はごっちんとデェトなんだから…」
そんな物言いに膨れて見せる亜弥。
でもそんなことは何時ものことなのです。
- 173 名前:つかのまの夜 投稿日:2004/03/24(水) 21:58
-
刻はすでに12時前。
亜弥は早くも美貴の枕の隣に自分の枕を大仰に敷いてベッドインしています。
いやらしいことではありません。
美貴もパジャマに着替えると照明を消して亜弥の隣に潜り込みました。
美貴が入ると、くすぐったそうに身を捩って
しがみ付く亜弥。
何時もよりも甘えたな亜弥に、美貴も少々訝って訊くました。
「今日はどうしたの?めずらしい」
「んー、美貴たんと一緒に寝たかったの」
真っ暗な部屋に窓の下からの一角だけ月明かりに切り取られて
ぽっかりと光っています。
静かな住宅街のことで、自動車の音も聞こえなければ
夜の音はイヌの遠吠えと雑踏の中の虫たちの合唱だけなのです。
静かな中で、亜弥と美貴の篭った声が
秘密の言葉みたいに互いの耳を擽りあいました。
- 174 名前:つかのまの夜 投稿日:2004/03/24(水) 21:59
-
亜弥は何も人肌恋しさに美貴の家を訪れたわけではありません。
いや、確かにそれもありました。それもありましたが、もっと他に
目的があってのことなのです。
「ねえ、たん」
「んー」
呼んではみたものの、続く言葉が出せません。
二人とも目を閉じてじっとしていますが、亜弥は美貴にしがみ付いているので
美貴には亜弥の息使いまでがよく耳に感じられるのでした。
美貴には、なんとなく亜弥の様子の違いが分かっていました。
多分、これはアレなんだろうなぁ、と。
美貴が急にごそごそと身体を動かして
亜弥と向き合う形になりました。
それから、薄く開いた目で亜弥の目を見ながら
優しくいいました。
「言いたいことは言ってみ?悩みだったら美貴が聞くよ?」
そんな美貴に亜弥も安心したようで
訊きたかったことの一端を小さな声で言いました。
- 175 名前:つかのまの夜 投稿日:2004/03/24(水) 21:59
-
「美貴たんと後藤さんって、どんな風にして付き合うようになったの?」
「そっちかい…」
「そっちだよ。他にどっちがあるの?」
「いや、まあいいけど…。そんなことが聞きたいの?」
「うん、聞きたい」
「話すと長いよ?」
「いいよ。明日日曜だから」
「私は困るんだけど…まあいいや。じゃあ、話してあげよう
可愛い亜弥ちゃんのために。御傾聴たまわりたい」
「はーい」
- 176 名前:放熱器 投稿日:2004/03/24(水) 22:03
- 行かなくちゃ、君に会いに行かなくちゃ、君の町に行かなくちゃ、雨にぬれ♪
川VvV从<いかなくちゃ
- 177 名前:放熱器 投稿日:2004/03/24(水) 22:09
- >>166
ごめんなさい。また更新遅れる予感が…
川o・-・)<春厨なので
>>167
歌詞ご好評頂いているようで。しかしすみません、変に偏ってて。
そして物語が動き出したところで番外編とか始まってごめんなさい。
>>169
ありがとうございます。本当にまたーりしてしまって申し訳。
どうぞまたーりまってやってください。歌詞の方も。
- 178 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/26(金) 00:38
- おっ更新きた!またーりまたーり待ってますよ。
焦らず頑張って下さいね。
- 179 名前:ぴけ 投稿日:2004/03/27(土) 19:43
- ミキティ、また渋い歌を知ってるなぁ(w
この話好きなんで、のんびり更新待ってまーす
- 180 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/28(日) 00:36
- 昨日見つけて読み始めました。
「傘が無い」昔は井上さんが真っ暗な
舞台のヘリに座って、弾き語っている
姿しか浮かばなかったけど・・・
今は辻ちゃんが商店街で歌って踊ってるのしか
浮かばない(苦笑
- 181 名前:放熱器 投稿日:2004/03/29(月) 20:04
- オムニバス短編集出しました。楽しかった!
川o・-・)<とんだ恥晒しでしたね。
あれだよ。企画の恥は掻き捨て。
川o・-・)<人はそれを厨と呼ぶ。
…続きです。書き方変わります。悪しからず。
- 182 名前: 投稿日:2004/03/29(月) 20:05
-
〜つかのまの夜〜
- 183 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/03/29(月) 20:06
-
うん、あれはねぇ、去年の9月だな。まだそんだけしか経ってなかったんだ。
もう、十年くらいごっちんと付き合ってたみたいに思ってた。
二人の時間が濃密だったってことかな。へへへ。
-のろけはいいよ-
はいはい。
うん、確かあの時も雨が降ってたな。
放課後の教室にね、ごっちんに呼び出されたんだ。
下駄箱に手紙なんていう古風なやりかたで。
当時からごっちんって凄く有名人だったんだよ。
生徒会長だったし。
-へぇ、後藤さんって2年から生徒会長だったんだ-
うん。前代未聞の3期連続。
なんせ、物凄く人気あったからね。
みんなの憧れの的だったんだよ。
- 184 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/03/29(月) 20:07
- 遠くから眺めてるとごっちんって綺麗でしょ?もちろん近くでみても綺麗だけど。
一種の偶像っていうのかな。アイドルだったんだよね。ごっちんはみんなの。
それで、なんとなく近寄り難いし、みんな遠くから眺めてほんのり憧れて
卒業とともに思い出の中に綺麗に収まる、そんな存在がごっちんだった。
-わかる気がする-
私もそんな一人だったわけ。
ほんのちょっと憧れてね、ちょびっとだけ嫉妬して、ほかの子達と一緒。
-みきたんも?それは以外だぁ-
うん、そんなだったから、呼び出されたときにはめちゃくちゃ吃驚した。
だって話したこともなかったんだよ?
それが、この一介の生徒に何の用?ってなわけ。
梨華ちゃんいるじゃん?生徒会の。
-石川さん?後藤さんと幼馴染だったけ-
うん、そう。
梨華ちゃんとはね、仲よかったんだよ。
- 185 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/03/29(月) 20:08
- あのころ、二人ともバレー部入ってたから。
部活は真面目にやってなかったけど、よく梨華ちゃんとじゃれてた。
今じゃ多分親友かもしれない。
それで、梨華ちゃんとごっちんが幼馴染っていうのは聞いたことがあったのよ。
唯一の接点がそれくらい。
呼び出されたときさぁ。絶対喧嘩売られるんだと思った。
-えー、どうして?後藤さん喧嘩なんかしないじゃん-
うん。そうなんだけど、当時はごっちんのこと、全然しらなかったから、さ。
ホラ、ごっちんって遠巻きに見るとちょっとクールで冷たそうでしょ?
亜弥ちゃんはごっちんとちゃんと喋った事があるからそんなことないだろうけど
普通に知らない子にとったらごっちんって恐そうなんだよ。
-あー、うん。確かに。美貴たんもだけど-
でしょ?美貴もってよく言われるけど、喧嘩強そうでしょ?
- 186 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/03/29(月) 20:08
- そういうイメージずっと持ってたから
あー、これは普段梨華ちゃんをからかったりしてたのにプッツンきたのかなぁ、とか
なんかガンでもつけちゃったことがあったかなぁとか。
でも売られた喧嘩は買わないと。女って引けない時もあるじゃん?
-美貴たん、ずれてるよ-
そう、その時それくらいびっくりしてて、テンパってたわけよ。
それで、誰もいない放課後の教室だよ。
外は雨で教室は暗いんだよ。
ごっちん一人で待ってるわけよ。
今思うと、すっごく綺麗だったんだけど、その時は訳がわからなくて
ドキドキしてたけどかなり警戒してたんだよ。
そんな中で、告白されたわけ。
そりゃあもうびっくりしたなんてもんじゃなくてさ。
混乱して訳わかんなくなってて、気付いたら
「あんた誰?」
って思いっきりガンつけて逃げ出してた。
- 187 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/03/29(月) 20:09
-
-えええぇぇ!?何で!?美貴たん憧れてたんじゃないの!?-
うーんとね…。この時の美貴の心理状態を表現するのが難しいんだけど。
なんつーかね、吃驚しすぎて混乱しすぎて、ヒューズが飛んじゃったんだよね…。
もう完全に理解の範疇を超えちゃってたのよ。
それで、「告白された」っていう事実を頭の中で消去しちゃったの。
すると、(何で呼び出されたんだっけ?ああ、喧嘩か。今何言われたっけ?
そうか、喧嘩を売られたんだな。
よし、このまま怖気付いたら負けだ、ここは一つ、ガンをつけて
うまくやり過ごそう。そうしよう。)
-…美貴たん…アホ…?-
…うん。
それで、普通に教室後にして、普通に帰った。
-それ酷すぎない…?-
だよね…。わかってるんだけど…その時はわかってなかったのよ。
漸くそのときの状況が判然としたのがその日の寝る前のベッドの中でなんだもん。
-ここか…-
うん…。
- 188 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/03/29(月) 20:10
-
そんなこんなだから、その話はいったん終わったの。
頭では理解したけど、感興はなかったし。というかそこまで考えられなかったし。
『後藤真希』に『告白された』っていう事実が
映画のフィルムみたいに機械的な記憶になってた。
それは次の朝もそうだったし、その次も。
でもね、それだけで終わらなかった。
一週間くらい経ってからかな。
ようやっと、アレは悪い夢だったんだって、過去のこととして処理できそうな
目処がたちはじめたときに、もう一度、ごっちんが来た。
- 189 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/03/29(月) 20:10
- 今度は昼休み。
外はやっぱり雨だったと思う。
私のクラスのワイワイと賑わう廊下で、彼女は私を呼び出した。
この時は、割と落ち着いていて、状況も自分なりに整理できてたから
それだからこそめちゃくちゃびびってたよ。
この間の意趣返しに違いないって。さすがに自分がひどいことした
らしいことにも気付いてたしね。
それで、むちゃくちゃ堅い、険のある顔してたと思うんだけど、
ごっちんは違った。
凄く柔らかくって、余裕のある表情で、私を待ってた。
「この間、覚えてる?」
笑顔で聞かれてたじろいだんだけど、顔には表せない。
「ああ…」
それだけ言うのが精一杯。
「こないだは、ごめんね。名前も言わずにあんなこというのもどうかって
言われて気付いた」
言って、にへらと表情を崩すごっちん。
この時の可愛さったらなかったね。
惚気はいいって?
ま、そんなで、ごっちんは尚も続けて
「あたしは、二年6組の後藤真希」
それから、改めて、友達になりたいって言われた。
- 190 名前:放熱器 投稿日:2004/03/29(月) 20:14
- いつまでも降り続け、心へ 君の好きだった雨に優しく包まれて♪
川*’ー’)<素敵な歌は今でも流れてくるよ
- 191 名前:放熱器 投稿日:2004/03/29(月) 20:20
- >>178
この春思いのほか忙しくて…。ごめんなさい。
またーり待ってくれてありがとうございます。
>>179
渋いですね。でもミキティになんか似合ってる気がします。
好きといわれると嬉しくて照れます。更新遅くてごめんなさいね。
>>180
全共闘時代にあってニヒルなよーすいさんかっこよかったですね。
今はただのオサーンですが(w
辻ちゃんは可愛いから何やっても許せちゃいますね(w
川o・Д・)<けっ
- 192 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/07(水) 05:28
- うおー激しく続きが読みたい・・・!
マターリ更新待ってます!
- 193 名前:rina 投稿日:2004/04/07(水) 12:00
- 更新お疲れ様です!
ごまみきっすかぁ〜(w
ミキティの惚気に期待してます(ぇ
- 194 名前:放熱器 投稿日:2004/04/12(月) 14:48
- 自己保全。ごめんなさい。_| ̄|○
- 195 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/16(金) 16:47
- うわぉ!ごまみき&あやこんではないですか!!
気長に更新して下さい〜。
- 196 名前:放熱器 投稿日:2004/04/27(火) 20:32
- さらに自己保全。。_| ̄|○
- 197 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/02(日) 19:34
- 続き期待してます!
- 198 名前:シィさん 投稿日:2004/05/14(金) 20:03
- 早く続き見たいです!!
更新してほしいです。
- 199 名前:放熱器 投稿日:2004/05/22(土) 09:11
- 約2ヶ月放置してしまいました_| ̄|○
そしてこれからもあまり更新速度上がらなそうです_| ̄|○
…とりあえず続きです。
- 200 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:12
- 私?ポカーンってしてたよ。
ナニゴトかしら、って。
何より、自分の持ってたごっちんのイメージが、ドカンと覆されちゃった。
クールで冷静で人に弱みを見せない、なんて、普通そんな人いないんだけど
そう信じ込んでたごっちんが、こんなに屈託無く笑うんだもん。
カーンと金槌で頭をはたかれたみたいになったね。
ごっちんに近づけた最初だった。
二つのイメージがね、全然相反してるくせにごっちんっていう一人の中に綺麗に調和してるの。
わかる?わからんわな。
でも美貴ってそんなに器用じゃないからね。
前のこともあったし、はいそうですか、ってなかなかなれなかったの。
ごっちんに対するイメージなんて全部覆ってたのにね。
- 201 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:12
-
そのときの会話をはっきり覚えてないからアレなんだけど、
とにかく美貴とごっちんは友達になったのよ。
とはいえ、自分でも実感無かったし、どうやって付き合ったもんかと思ってたんだけど
そこに、梨華ちゃんが入ってくれてね。
梨華ちゃんには凄い感謝してるよ。
いろいろ、気を使わせちゃった。
ごっちんは私に好意を寄せてくれたし、私もごっちんに惹かれてたし
梨華ちゃんは共通の親友だったし。
そんな間柄だったから、よく3人で遊ぶようになった。
うん、楽しかった。
ごっちんの新しい一面が次々と見えてきて。
その度にどんどん惹かれていった。
- 202 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:13
-
1月くらいしたころにはもう私達3人親友みたいになってた。
一緒に馬鹿やれるし、冗談も言えるし。
今思うと私は気を使わせてたんだけど。
本当に、楽しかったな。
それと比例して、どんどんごっちんのことが好きになってた。
ごっちんも、最初こそあんなんだったけど
絶対私のことは嫌いじゃないって分かってた。
だから、改めて告白しようって、思った。
でも出来なかった。
-どうして?-
- 203 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:13
-
どうしてだと思う?恋するとね、人って物凄く神経が冴えるんだよ。
冴えすぎて、不安にもなるし、見たくなかったものがどんどん見えてきたりするの。
ごっちんが私のこと受け入れてくれるかもしれないって、
7割まで自信があった。
でもね、残りの3割が物凄く大きいの。
そのときの、今の関係があまりにも心地よかったから
壊したくなかった。全部壊れる気がした。
それにね、
梨華ちゃんも、ごっちんのことが好きだってわかったんだ。
-そんな…-
- 204 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:14
-
梨華ちゃんてね、凄いんだよ。ほんとに。
冗談じゃなくてマリア様みたいな子。
見てたら分かるんだ。ごっちんのこと、すんごく愛してるって。
物凄く優しい目で、いつも見てる。なんかね、コイビトとか、そんな次元じゃないの
梨華ちゃんって。ごっちんがいることがが梨華ちゃんの命になってる。
本気でそんな風に見えるんだよ。
そんな梨華ちゃんのことがわかってみるとね、自分の気持ちって
なんなんだろうって思っちゃうの。最初はただの憧れ。
しかも相手は女の子だし、普通に男の人に抱く感情とは違うわけじゃん?
大切な友達、大きな友情、そんな物が昂じて、愛情みたいな格好をしてる
だけかもしれない。ううん、それは間違いないの。
友情と愛情に垣根なんてないもん。
だから、男の人の代わりに見てるって訳でもないかわりに
何か自分の感情に特別さ、みたいなものを欠いてたの。
梨華ちゃんのことが、もちろん大好き。
でも、じゃあそれが、ごっちんとどう違うんだろう、ってね。
- 205 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:14
-
違いはあった。
確かにあったんだよ。なんとも説明のしようがないんだけど。
私がごっちんに感じていた気持ちが、何か全然今までにない感情だって
どこかで確信してた。でもそれが全然はっきりしないから
恐かった。
知り合って高々一月で、しかも彼女に告白されたっていう事実が
私にキチガイじみた妄想を見せてるのかもしれない。
自分に自信がないのと同じくらい
ごっちんの気持ちにも懐疑的だった。
好きって言われたのは、全部の始まりの雨の教室1回きり。
それに、ごっちんの『好き』が一体ナニモノなのか、得体が知れない。
女の子同士の恋愛ってそこが厄介でね、
割り切れないんだよ。『好き』の意味が。
- 206 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:15
-
3人の楽しい時間はするすると続いたけど、だんだん壊れだした。
壊したのは私。3人ね、似たもの同士なんだけど
私が一番ぶきっちょでね。はは。
二人とも多分そんなことないって言うと思うけど、頭が上がらないよ。
ごっちんは相変わらず優しいし、梨華ちゃんは楽しいし。
でも、ごっちんのことが気になりだして、梨華ちゃんの気持ちにも何となく気付きはじめた
私だけ、なんていうのかな…ギクシャクしだしたんだよね。
いろいろ悩んでたし、ごっちんに惹かれてたし、いっぱいいっぱいになっちゃって。
あの時は成績落ちたなぁ…。
いや、それでも亜弥ちゃんよりは遥かに上だったけど。
- 207 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:15
-
そんなで、ちょっとズレが始まってたある日。冬が来てた。寒かった。
部活も辞めて暇だった放課後に、いつもみたいにごっちんと梨華ちゃんがいる
生徒会室に遊びにいったら、先輩もごっちんも愛ちゃん(あ今2年の高橋愛ちゃんね。
知ってる?)も居なくって、梨華ちゃんと二人っきりになった。
梨華ちゃんって鋭いからね。
生徒会室のストーブを囲んでぼちぼち世間話してるあいだに、いきなり言われたよ。
「ごっちんのこと好きでしょ?」
って。なんもかんも、お見通しってわけ。
「もしかして、私に遠慮してる?」
って、笑ってそんなこと言われたら恐いよ。
無性に悔しくなってね。どうしたって、梨華ちゃんに敵わない気がして。
そのとき、やっぱりごっちんのことが大好きだって、確信したんだけど、
素直に認めたくなかったんだよ、梨華ちゃんのまえで。
今でもだと思うけど、私って子供だから。
すげーいらだった顔して
「何馬鹿なこといってんの?」
- 208 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:16
-
進歩無いでしょー、私。
「私のことだったら、遠慮することないよ。ごっちんが好きなのは美貴ちゃんだから」
全部分かってますって顔。普段だったら気にしないんだろうけど。
カーっと来ちゃったんだよね。
暫く睨み合ってるみたいな状況になって
私もいらいらしてるし、梨華ちゃんも何時になく真剣だった。
その真剣な目に、耐えられなくなったの。
私の底のほうまで透かし見られてるみたいな気がしてね
不快感が一気に奔出して。
いろいろ内に詰まってるモノが一気に出かかってね
それで捲くし立てた。
- 209 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:16
-
「何?知った風なクチ聞いちゃって。ああ、熱いね。奥さんは奥さんらしく
大奥でどっしりですか?勝手な憶測ならべないでくれる?言っとくけどね
私がごっちんや梨華ちゃんとこうして付き合ってるのは暇だから。わかる?
わけわかんないこといわないでよ!何?私がごっちんを好き?あれか、
レズってやつ?梨華ちゃん漫画の見すぎなんじゃないの?」
言って飛び出した。
ドアの外にごっちんがいた。
居るの気付いてた。ごっちんが聞いてるの知ってて言ったの。
そのまま挨拶も何も無し、ごっちんの横をすり抜けた。
- 210 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:17
-
バカでしょ。いっつも馬鹿なのは私。
飛び出して一目散に家に帰ってきたけど
虚しくなった。自分の科白がね、出るたびに
天邪鬼になってくの。同時進行。
言えば言っただけ、もうとっかえしがつかないくらいごっちんのことが好きで、
もうとっかえしがつかないくらいごっちんと梨華ちゃんの心を蹂躙してた。
表情は見なかったけど、どれだけ傷つけたんだろって、
今になってやっと想像できるんだよ。
それから私たち3人の関係は一旦ぱったりと途切れたの。
- 211 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:17
-
私はもちろんそんな状態で梨華ちゃんと話せるはずもないし、ごっちんが
本当に聞いていたのかどうか、あの時は疑わしかったんだけど
それでもごっちんとの間もぷっつり切れた。
私とごっちんとの間ってね、梨華ちゃんっていう存在があって初めて潤滑に
なってたんだってこと、思い知らされた。
梨華ちゃん抜きにしてごっちんに会いに行く理由がどうしても見つけられなかった。
実際ごっちんはあの時の会話の全部を聞いてたわけじゃなかったんだけど
最後に捲くし立てた私の言葉の、全部でなしにニュアンスだけは
しっかりと耳に入れていたみたいだったから、どちらにしても気まずかったし。
自然、ごっちんと梨華ちゃんの間にも亀裂が入ったみたいだった。
私のせいで。
私がいなきゃ、二人はずっと仲良しの幼馴染だったのに、って
考える度に後悔と自責に苛まれたよ。
- 212 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:17
-
もやもやとした日が何日も続いた。
楽しかった日常がまるで夢だったみたいに一変して
気がつけば全部瓦解してて、見える景色は灰色に変わってた。
最初の何日かは全部梨華ちゃんが悪いんだって自分に言い聞かせてた。
そうでもしないと、自分が保てなかったの。
全部壊れてから、あまりに自分がこの数ヶ月の間にいた場所が
大切だったことに気付くの。
あまりに友達、だった二人のことを愛してたことに気付くの。
それに、もっとごっちんのこと…。
1週間くらいかな。
寒い日が続いたよ。何より心が寒かった。
心が落ち着いてから、いろいろ考えたよ。
これまでにないってくらい、どうすべきか、自分はどうしたいのか。
それと、自分は果たしてごっちんに対してどんな気持ちを持っているのか。
- 213 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:18
-
仲直りしたかった。
いや、その前に謝りたかった。
私の言葉を、全部白紙に戻せるのならそれに越したことはないけど
それが出来ないのなら、せめて許してもらえるとか
そういうこととは別にして、彼女たちに詫びたかった。
そういう感情の一方で
姿も見れないでいたごっちんへの感情が前よりもっともっと
肥大化して、私の表面から滲み出るんでないかってくらいになってる
そんな想いが積もってた。
一見すると準じてそうなその二つの感情が実は多大な角逐を持ってたの。
だって純粋に謝って、弁明して、誠意を伝えて、その上でまた
分かれることも致し方ないと思うのと、どうしてもごっちんと話したいし
ずっとごっちんの側に居たいって思う感情と、凄く対立してたから。
- 214 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:19
-
それでどちらにも思い切りがつかなかった。
尻込みしてた。
そしてまた、きっかけをくれたのは梨華ちゃんだった。
ことがあってから1週間位経った放課後
梨華ちゃんが私のところにきた。
私に話しかけた。
私の目を見てる。
私は、彼女の目を見返すのだけでも搾り出すような勇気がいったのに
彼女はまっすぐ私の目を見てたよ。本当に、梨華ちゃんって強いんだ。
「美貴ちゃん。ごめんね」
彼女の口から出た第一声がそれ。
- 215 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:19
- 分けわかんなかったよ。
彼女が私に謝る理由なんて何処を探しても見つからなかったもん。
なのに梨華ちゃんは謝った。
相変わらずのなんとも情けない泣き笑いみたいな顔なのに
それでもどこまでも真剣な目で。
「なに、それ…」
「いろいろと、ね」
梨華ちゃんが笑ったから、私も笑うしか無かった。
でも、笑ったらそのとたん、いろんな感情がワッと溢れ出して来てね。
謝ったよ。私も。
凄い泣いたよ。
梨華ちゃんの胸に縋ってさ…。
誰も居ない寒い放課後の教室で。
- 216 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:20
-
いろんな感情、梨華ちゃんにぶつけちゃった。
あれは今思い出しても恥ずかしいな…。
私が梨華ちゃんに頭が上がらない理由の一つなんだけどね。
その日一日、教室借り切ってさ、いろいろ喋ったよ。
お互い本音でさ。
寒い寒い冬のことだったから、身体くっつけあって。
梨華ちゃんのごっちんへの想いも聴いた。
ちっちゃいころからずっと隣に居てずっと大好きだったごっちんに
何度も思いを告げようとしたけど出来なかったこと。
そのうち、思いを告げることが自分の愛し方じゃないんだって気付いた、って
言ってた。寂しそうな顔で。
私の気持ちも聞いてもらった。
ごっちんの存在、それがまだまだおっきくなってくこと。
数日を費やして頭の中を整理して、それで分かったこと、
ごっちんを特別な感情で愛してるってこと。
- 217 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/22(土) 09:20
-
「ねえ、ごっちんは…どうかな…?」
おずおずと聞いてみた。
「私のこと、まだ想っててくれるのかな…?」
梨華ちゃんはちょっと目を瞑ってから穏やかな声で
「わからない」
って言って微笑んだ。
私の胸に不安がよぎるんだけど、続けて梨華ちゃんが言うんだ。
「でも、人の気持ちなんて何時だって分からないでしょ?
相手の気持ちがわからないから、自分の気持ちは諦めるの?」
私は首を振った。
やっと、決心できたんだ。
その夜は梨華ちゃんの家に泊めてもらって一緒に寝たっけか。
梨華ちゃんの部屋って一面ピンクでね、趣味悪くって…てこれは関係ないね。
- 218 名前:放熱器 投稿日:2004/05/22(土) 09:22
- 歌は…
川o・-・)<休止です
- 219 名前:放熱器 投稿日:2004/05/22(土) 09:28
- >>192
マターリしすぎて申し訳ないです。
>>193
ごまみきは今回はさらっと(ry
>>195
ありがたいお言葉。気長にやらせてもらいます。
川o・Д・)<ゴルァ
>>197
続き、こんなんでごめんなさい。
>>198
更新しました。ごめんなさい…。
- 220 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/23(日) 22:29
- 更新どうもです。
作者さま、どうぞがんばってください!
お気に入りに登録してあります。マターリがんばってください。
- 221 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/28(金) 23:34
- あぁぁぁぁぁ・・
気になる!気になる!気になるヨお
あやこん!!
更新待ってますよ
- 222 名前:放熱器 投稿日:2004/05/29(土) 21:56
- 卒業か…
続きです
- 223 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 21:58
-
とにかく、ようやっと決心がついたの。
私の気持ちを、ごっちんに伝える決心がね。
その結果がどうなるとか、はっきり言って考えてなかった。
いや、そういい切っちゃうと嘘だけど、考えたって悪い方向にしか向かないことだもん。
考えないように努めたよ。
かなり勇気使ったよ。
放課後にごっちんの教室まで行って、そのときに
そういえば私が一人でごっちんのところに行くことって殆ど無かったんだなって
思い出した。いつもあっちが来てくれるか梨華ちゃんと二人で行くかだったから。
一人でごっちんに会いに行くっていうだけで
ものすごく緊張したよ。
つい一週間前までなら全然平気だったんだろうけどね。
- 224 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 21:58
-
雑然とした教室の外からちょっと抑えた声でごっちんを呼んでみたら
小さな声でもごっちんはすぐ気付いてくれた。
それで、本当にほんの一瞬だけ驚いたみたいだったけど
すぐ笑顔になってとことこと私のところに来てくれた。
とにかく二人になりたかったから教室からごっちんを連れ出したんだけど
二人だけになれる場所ってなかなか無くってね。
「美貴ちゃん、随分久しぶりだね〜。元気してた〜」
ごっちんは相変わらず抜けてるしね。
私がなかなか言葉を捜せないで歩いてるのを見ながら
「なんか梨華ちゃんと喧嘩したんだって?」
「うん、、、なんか、いろいろあってね」
「でも仲直りしたんでしょ?って、昨日梨華ちゃんから電話あってさ」
多分ごっちんは大方の事情を知ってたんだと思う。
もちろん梨華ちゃんは多少事実を曲げて伝えたんだろうけど
それでもごっちんは分かってたんだ。頭いいから。
- 225 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 21:59
-
「私もさ〜、ほら、事情がよく分かんないのに
二人がなんかすっごい暗くなるし話さなくなるし、二人とも何故か
あたしとも遊んでくれないしさ、なんなのさって思ってたけど
仲直りしたんなら良かったよ。ってか、なんも出来なくてごめんね。
ほんと、全然状況がわかんなくってさ」
明るい調子で言うごっちんだけど、内容は半分嘘でね。
分かってて、自分が口を挟む状況じゃないっていうごっちんなりの判断だったんだ。
なんにしても、久しぶりでごっちんの笑顔を見れて大分心は軽くなったし
それに久しぶりのごっちんの笑顔は本当に綺麗だったよ。
結局適当な場所が見つからなくって辿りついたのは生徒会室でさ、
ごっちんにすればいつもの場所だけど、私にしたらアレ以来の苦い場所。
でも運よくまだ誰も来てなかったから
私とごっちんは折りよく二人きりになれたの。
- 226 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 21:59
-
その日のこと、はっきり覚えてるよ。
曇っててね、今にも泣き出しそうな空が朝から続いてたんだけど
私とごっちんが歩いてる間にかな、外では雪が降ってたんだ。
それが生徒会室の薄暗い室内から大きな窓一杯に映ってね、
あれは綺麗だったね。
でもその後、
「うわぁ、雪」
って言ったごっちんの綺麗さに勝るものは無かったけど。
私が、「ねぇ、ごっちん」
って呼びかけたら、ごっちんが
「んぁ?」って。
ごっちんって油断してるときは返事がそうなるの。
そのとき完全に雪のほうに気持ちが向いてたからね。
でも油断してるごっちんってレアなんだよ。
私がごっちんばっかり気にしてる先で雪ばっかり気にしてるごっちんって構図は
ちょっとばかり不安にもなったんだけど。
- 227 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:00
-
私にも決心ってものがあるし、意地もあるし、一度決めたら、ね。
それに仄暗い雪明りに翳ったごっちんの姿を見て、やっぱり
たまらなく好きだって思えたし。
「今からちょっと変なこと言うかもだけど、笑わずに最後まで聞いてくれる?」
私の真剣な目を察してくれたのかな、雪から目線を切って
窓を背にして私の方を向いたごっちんの顔は陰になってて暗かったけど
それでも優しくて「なに?」って、ちょっと笑ってくれた。
「あのね、私いろいろと考えたんだけどね、
その、なんていうか、自分の気持ちとかね…」
声が掠れたけど。
「私ね、凄く、ごっちんのこと、をね」
- 228 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:00
-
「好きなんだ、と思う、、、の」
ごっちんの身体か微かに揺れたのが分かったけど
私はとても見れなくて、下を向いて続けた。
「その、どんな意味かっていうとね、あの、ちょっと説明が難しいんだけど
うんと、たぶん、ごっちん、とずっと一緒に居たいの。隣に居たい。
笑ってて欲しいし、私のこと、見て欲しいの…それに」
「美貴ちゃん」
私の言葉が小さくなってくのに、遮ったごっちんの言葉はまっすぐ届いてきた。
ごっちんは真っ直ぐ私を見てたんだって思うと、なんだか余計恥ずかしくなって。
「なんか、ごめん…いきなり変なこと言っちゃって…変だよね…」
また弱気になってた。
ごっちんがあんまり真っ直ぐだったからかな?
- 229 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:01
-
「あのね、美貴ちゃん。あたしは確か最初に言ったよね。
『美貴ちゃんが好きだ』って。その意味はね、多分今美貴ちゃんが言ってくれた
のと一緒だよ。いや、あたしの方がずっとそうだって、勝手に思ってる」
初めて顔を上げたら、逆光でよく見えないながらごっちんの顔は
やっぱり笑ってた。ものすごく綺麗な笑顔で。
でもその目は何だか潤んでたんだ。
「一週間、美貴ちゃんの顔が見れなくってさ、凄く寂しかったよ。
もう死んじゃうんじゃないかって思った。
あたしね、多分もう美貴ちゃんが居ないと生きていけないよ…」
ごっちんの声が涙混じりになってくのに気付いた。
- 230 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:01
-
「ずっとさぁ、好きだって言ってたのに…変なことって言わないでよ。
そんなんだったら、あたしの方がずっと変だよ…」
私も、ちょっと貰い泣きしてた、けど
ごっちんが何だか小さくなったみたいに見えて、肩を震わすんだから
私まで同じようにするわけにいかないから、さ。
思えば初めてだったけど、ごっちんの肩を引き寄せた。
私の肩にごっちんが額を預けるのが、何だか物凄くくすぐったくて
それでようやっと、自分の気持ちが報われたかもしれないんだって気付いた。
暫くごっちんが泣いてね、
私も泣いてたけど、ごっちんよりは先に泣き止んで
そうしてた。
- 231 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:02
-
「ねえ、美貴ちゃん」
そのままの状態でごっちんが言った。
私は、「ん?」って、ちょっと気の抜けるような返事だったんだけど
その時には部屋から緊張感なんて微塵もなく抜け落ちてたから相応しかった、かな。
「美貴ちゃんが言ってくれたこと、ってさ、
あたしは、喜んでもいいことなんだよね…?」
「多分…、でも、わかんない…
私も、なんか嬉しすぎて、よくわかんないや」
そう言ったら、やっと顔を上げてくれた。
泣いてたから目は赤かったけど、それでも飛び切り綺麗な笑顔でね。
「あたし、重いよ?」
「お互い様だよ」
言ってごっちんの方に体重預けたら、二人して崩れて
大笑いしたっけ。
うん、笑って、それで晴れて、私とごっちんは恋人同士になったの。
ちなみに生徒会室に誰も来ないことに今更ながらに訝ってたらね、
扉のところで梨華ちゃん以下、役員全員が張り付いて盗み聞きしてんの。
その日から生徒会公認になっちゃったってわけで、
今に至る、と。
- 232 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:03
-
―――◇ ◇ ◇―――
- 233 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:03
-
「これでおしまい」
言い終わって、美貴は無性に恥ずかしくなったのです。
亜弥が、あまりに反応を示さないものですから尚のこと。
「ねえ、亜弥ちゃん、聞いてた?」
息遣いで起きていることは分かっているのですが。
「聞いてたよ」
亜弥は、美貴の予想に反して、途中からは全く口も挟まないし
静かだったので、さすがの美貴も訝っていました。
亜弥は相変わらずひっそりとしていました。
「どうした?」
「ん、なんか」
亜弥がもぞもぞと動くので、美貴もくすぐったいような気がします。
それ以前に、美貴には先ほどの話の内容が、今更ながらに
恥ずかしくなってしかたないのです。
- 234 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:04
-
いつでも亜弥にたいしてはお姉さん風を吹かせていた美貴。
それが、自分のみっともない面も含めて洗いざらい
亜弥に告げてしまった気がしていたのですから。
しかしながら亜弥はそんな美貴の懸念とは違う感想に捉われていました。
「美貴たんはさぁ…」
「ん?」
「それから、後藤さんと付き合うようになってから…」
「うん?」
「泣いたことはある?」
美貴にしてみれば意外な問いで、少しばかり驚きます。
が、それにしても亜弥にたいしては、出来るだけ誠意を持って対しようという
今夜の美貴なのです。
- 235 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:04
-
「うーん、そりゃあね、泣いたよ。さっきも言ったけどね
恋してると物凄く不安になることがあるからね」
「……」
「ごっちんが私を好いてくれた理由ってね、一目ぼれだったんだって。
なんか、ピンときたんだって、言ってた。だったらさ、また何時
私以外の人に同じようにピンッってくるかさ、わかんないじゃん。
そうしたら自然ごっちんの心は私から離れてくんだろうなぁ、って考えると、ね」
亜弥は黙って頷きました。
「私たちの関係ってさ、先が見えないんだよね。
もし何時までも好きあっていられたにしても、ずっと一緒に居るわけにいかないじゃん?
結婚だって出来ないわけだし…。この先、10年、20年たった時にね、私とごっちん
一体どんな関係なんだろうって思ったら、弥が上にも不安になるよ」
「そうだね…」
- 236 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:05
-
また暫し二人の間に沈黙が流れました。
窓の外から、静かな虫の声がちろちろと響いてきます。
夜気は、優しい帳となって二人を包み込んでいました。
「…どうした?」
美貴が亜弥に呼びかけました。
それは亜弥の目に溜まる潤いを、微かな月光の裡に認めたからでした。
「ん、ちょっと、ね」
美貴にしても、昔のことを思い出していて、少し涙腺の緩む瞬間が
あったのです。しかしどうしてか、亜弥のほうでも。
美貴はまたも、亜弥の胸中をなんとなく察しました。
本当にぼんやりと。今夜の月のようにおぼろげに。
それでしがみ付いた亜弥の頭の後ろに手を回して
亜弥の後れ毛を優しく撫でました。
亜弥はいっそう強く美貴にしがみ付きました。
自分の流している涙の意味が、亜弥自身にもよくはわかりませんでした。
- 237 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:05
-
「美貴たんってさぁ、凄いね」
不意と言われて、また恥ずかしさがこみ上げてきました。
美貴はなるたけ気丈に、亜弥の髪を梳き続けました。
「でもさ、肝心な部分は話してないよね?」
亜弥が突然調子を変えて、少し悪戯じみた声色で言ったのに
美貴はドキリとしました。
「…なかなか、鋭いね…」
「ちゃんと聞いてたもん」
亜弥は目には涙を溜めながらも、面白そうに美貴の耳を擽りました。
- 238 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:06
-
「まあ、その話はまた、いつかね」
「えー」
「ほら、今日はもう寝なきゃ。亜弥ちゃんも病み上がりでしょ?」
「…はーい」
美貴に言われて、亜弥もしぶしぶと美貴から身体を離して
自分の枕の上に頭を預けました。
そうして、静かに息をしながら、真っ暗な中に
ぼんやりと浮かぶイメージを追いかけていました。
亜弥の視界の闇の中には、ある一人の像が現れては消えました。
暫くそうした静寂が続きました。
また不意と、亜弥が美貴の方に身体を向けました。
「あたしのね、初恋って、多分美貴たんだったんだと思う」
美貴は目を閉じて聞きました。
- 239 名前:つかの間の夜 投稿日:2004/05/29(土) 22:07
- 亜弥はそれ以上言葉を続けませんでした。
ただ、自分の目元に溜まった水を、手首で無造作に拭うと
また向き直って目を閉じました。
暫くすると、亜弥からは静かな寝息が漏れ始めました。
美貴は一度目を開けて、亜弥の寝顔を見つめました。
亜弥の幸せそうな寝顔。
それを確認すると、美貴も満足そうに目を閉じました。
それから、いつしか美貴の部屋からは二人分の寝息が粛々と響きました。
柔らかな、つかの間の月夜はゆるゆると更けてゆくのでした。
- 240 名前:放熱器 投稿日:2004/05/29(土) 22:09
- 番外編 つかの間の夜 終わり
- 241 名前:放熱器 投稿日:2004/05/29(土) 22:11
- >>220
お気に入りですか…。ごめんなさい。頑張ります。
>>221
次回から平常営業にもどります。
そちらもどうぞよろしくお願いします。
川o・-・)<長いつかの間でしたね。
…ごめんなさい
- 242 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/30(日) 18:30
- おぉ!!ついに待ちに待った続きが!!!
う〜ん・・・松浦さんと紺野さんの進展がまだなく・・・。
とっても気になります。
作者さま、いつもど〜りマターリがんばってください!!
- 243 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/06/17(木) 16:08
- 続きがきになるよぉ!!!
待ってますよ
- 244 名前:放熱器 投稿日:2004/06/21(月) 13:09
- 自己保全と生存報告
ごめんなさい。。。_| ̄|○
- 245 名前:放熱器 投稿日:2004/07/05(月) 17:07
- もう7月ですね。時が経つのは早いものです。
川o・-・)<物語の時間が現実の時間にあっさり抜かれましたね。
…1ヶ月放置すみません。続きです。
- 246 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/05(月) 17:08
-
あさ美はこの土日まったりと家で過ごしました。
もともとあまり活発に遊び歩くタイプでなかった上に、このじめじめと悩ましい天気では
あさ美でなくともあまり出歩く気にはなれないのです。
あさ美は愛ちゃんから借りた本を日がな一日、まったりと読みふけっていました。
不思議な感覚でした。
幼少より、薄ぼんやりとしたイメージしか持たなかった「恋愛」というモノが、今あさ美の前で不思議な形を形成しつつありました。
- 247 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/05(月) 17:09
- 理屈っぽいあさ美はそんな不可解なものが嫌いでした。
そんな割り切れないモノに生涯を捧げる人の気持ちなど、到底わからないはずでした。
しかし、それでもその不可解なモノによってのみ突き動かされる世界。
愛ちゃんから借りた本の中には、そんな世界が上品な章句とともに幾編にもわたって
綴られていました。
ふと、主人公に自らを移しこんでみたときに、仄かに感じる胸の疼き。
その心地よさに、あさ美は魅せられていました。
いつしかあさ美は愛ちゃんの本に没頭して、読み耽っていました。
外に滴る雨粒は、あさ美の微細な心の揺動を、包むように優しく爆ぜて響くのでした。
- 248 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/05(月) 17:09
-
月曜日。
この日は数日振りで、朝から太陽が顔を出していました。
といって日差しがきつ過ぎるでもない、風があって、とても過ごしやすい
気持ちのよい朝でした。
雨の合間ごとにふと道端の草花を見渡せば、確実にその緑を濃くしているのがわかって
夏に向けて、だんだんと季節の移ろっていることがわかるのです。
木々の梢は陽光を溌剌と跳ね返して、暑い季節を待ちわびています。
休み明けでだるいはずの生徒たちも、なんとなくうきうきとした気分になって
学校への道を登っていくのでした。
夏は、すぐそこまで来ているのです。
あさ美は今日も早い時間に学校に到着しました。
気候のことと、愛ちゃんの本とが、快適な心地よさをもたらしていました。
それで、とても上機嫌で教室のドアーを潜るのでした。
- 249 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/05(月) 17:10
-
「あさ美ちゃん、おはよー」
何人か既に教室に居た友人から、言葉をかけられます。
それにあさ美もはっきと気持ちのいい挨拶を返しました。
やがて麻琴が来て、あさ美に負けない爽やかな様子で挨拶を交わしました。
麻琴は学校が大好きなのです。
それから人がぞくぞくと教室に入ってくると
また学校特有のざわめきが辺りに溢れ出しました。
今日は雨音が無い代わりに、ひゅうひゅうと涼やかな風の鳴る音が
窓の外を駆け巡っていました。
教室に亜弥が入ってきました。
- 250 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/05(月) 17:10
-
「亜弥ちゃん、おはよー。もういいの?」
教室のあちこちから亜弥に声がかかりました。
「おはよー。もうぜーんぜん、平気だよ!」
元気な亜弥の声。
いつもの亜弥がきちんと戻ってきたことに、教室内がまた一段
嬉しさに包まれました。
亜弥の笑顔には、何かしら人を幸せにする力があるのかとも思われるほど
クラスメイトにとって彼女の存在は大きいのでした。
あさ美もちらと亜弥の方に目を遣りました。
なんとなく、先週のことが思い出されて、恥ずかしいやらで
へんな緊張がありました。
それで、挨拶をかけるタイミング掴めなかったのです。
が、亜弥のほうからあさ美に近づいてきました。
内心びっくりするあさ美。
(いや、別に私に近づいて来てるわけじゃないでしょうに。何考えてるんだろう…)
明らかにあさ美に近寄ってきてるのに、間抜けな思考は相変わらずです。
- 251 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/05(月) 17:11
-
「紺野さん」
亜弥の声。
ぱっと顔を上げたあさ美と亜弥の視線はぶつかりました。
あさ美はふと、この間の力無い亜弥の声を思い出して、今の亜弥と被せてみました。
ぜんぜん違う、元気な本当の亜弥の声でした。
「この間はごめんね。それから、いろいろありがとう」
亜弥は笑顔でした。
お日様のように、透き通った笑顔でした。
まったく、本当の亜弥。いつも通りの、元気な亜弥の姿に
あさ美も何だか嬉しくなってくるのです。
「もう、二度とごめんですよ。ちゃんと摂生してください」
あさ美の表情にも小さな笑みが浮いていました。
- 252 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/05(月) 17:11
- それで、亜弥の方でも嬉しくて、にっこりと笑うので、二人は一瞬間目を交わして
大いに微笑みあいました。
それから直ぐに亜弥はあさ美の前から離れて、自分の席に戻っていきました。
空気は、限りなく澄んで、梅雨であることも忘れてしまうくらいの
爽やかな風が教室を吹き抜けました。
クラスメイトの目に映った二人には、やりとりこそつっけんどんですが
以前ほどの険が無くて、じゃれているようにすら見えるのです。
それがなんだかとても嬉しくて、教室はいっぱいの明るさに包まれていました。
麻琴も嬉々として亜弥の側に寄っていき、お喋りの花を咲かせるのでした。
あさ美は、一通り落ち着いた自分の席で
愛ちゃんから借りた本を取り出して、また最初のページを捲りました。
そして静かにまた、物語の世界に耽っていくのでした。
ややして授業が始まりますと、また休みの疲れが
どっと押し流れてくるのですが、それにしても、とても平和な朝でした。
- 253 名前:放熱器 投稿日:2004/07/05(月) 17:12
- とりあえずここまで。短くてすみません。
- 254 名前:放熱器 投稿日:2004/07/05(月) 17:16
- >>242
紺野さんと松浦さんの進展はまだなかなか無さそうですが…。
マターリ待ってくださってどうもです。
>>243
気にならせてすみません…。遅くてすみません…。
ありがとうございます。
从;‘ 。‘从<次はいつ(ry
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 18:06
- 更新おつかれです
こういう平和な風景・・・
目に浮かぶようです。
頑張ってください
- 256 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/06(火) 21:17
- 作者さま、更新お疲れ様です。
254>
はい、これからもマターリ更新を待ちたいと思います。(更新したてでこんなことすいません。)
この話を見てて、なんだか平和だなぁって、眠くなっちゃいました(笑)
更新は、作者さまの都合でいいので、がんばってください。
- 257 名前:放熱器 投稿日:2004/07/08(木) 16:30
- 七夕も過ぎまして、暑くなってきましたね。
( ´ Д `)<だるいぽ
…続きです。
- 258 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/08(木) 16:30
- 窓から時折入る気持ちのよい風に仄かに前髪を揺らせながら
亜弥は授業の間、考え事をしていました。
一昨日の美貴の話、それと自分の斜め後ろに座って、おそらく真面目腐って
授業を受けているのであろうあさ美のことを。
昨日は実はすごく考えていたのです。
今日、どうやってあさ美に接しようかということを。
まだ、確かな実感はありません。
自分の、あさ美に対しての気持ち。一つ、ぼんやりとした輪郭を掴んだだけで
それが一体どんな形の、どんな大きさの、どんな色の気持ちなのか、わからないのです。
どこかでまだ、完全には認めきれないでいる自分がいました。
それでまだ、気持ちの全部があふれ出さないように、小さな堰を立てて
無意識の間にセーブをかけているのです。
それでも、まったく未知の感情と対峙するのと、輪郭だけでも捉えられたモノを相手にするのでは
心の余裕が違います。
とにかく、普段の通り接すればいいのですが
果たして、自分にそれが出来るのか。
そんな取り止めのない思考で、病み上がりの退屈な日曜日を過ごした亜弥なのです。
- 259 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/08(木) 16:31
-
しかしいざ今朝になってみると、そんな考え事が全く徒労であったことがわかりました。
亜弥はあさ美を前にして、全く力みの無い自然な言葉、自然な笑顔が放てたことに
自分自身でも驚いていました。
直前までの、どうしようどうしよう、という煩悶が、あさ美の姿を見たトタンに
砕け散ってしまったように、或いはそんなうだうだとした悩みが、白いペンキ一色に
瞬時に染め上げられたみたいに、自然亜弥の身体は動いていたのです。
それは自身にもよくわかる「いつもの亜弥」でした。
そして、そんな亜弥に対して掛けてくれたあさ美の声。それも「いつものあさ美」。
そんないつもの言葉がどうしようもなく嬉しく感じられたのもまた、小さな驚きでした。
そしてその後に見たあさ美の笑顔、それが今までに感じたことの無いほどに
亜弥の心を満たしたのです。
授業の間、後ろにいてその姿の見えないあさ美の先ほどの笑顔を思い出しては
不思議な鼓動とともに、刻々と見えない気持ちの輪郭がその鮮明さを増しているように思えました。
その過程には、嬉しさがあり、そしてどこかに切なさがありました。
仄かな風と柔らかく澄明な空の青に前髪を揺らしながら机に肘を突く亜弥の目は
その伏せぎみの長い睫の下に微かな憂いを称えて、どこか遠い場所を見つめていました。
ツンと突き出された唇の両端にもまた、仄かな憂いの色がありました。
教師のどこか清清しい講義も亜弥の耳を抜け、窓の外の空に溶けているようでした。
- 260 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/08(木) 16:32
-
昼休み。
亜弥は担任の数学教師に呼び出されて職員室に向かいました。
なんだろう、と首を傾げながら入ってきた亜弥に
教師は机に座って難しい顔をしながら招き入れました。
「先生、なんですか?」
亜弥の疑問符に対して、まぁ座れや。と席を促しました。
まだ昼食もとっていない亜弥は、話が長引きそうな嫌な予感とともに
席に着きました。
教師は亜弥が座るのを確認すると1枚の紙切れを亜弥に示しました。
「これ、なんや思う?」
「はあ、テストですね」
示されたのは松浦亜弥と記名の入った数学のテストの答案。
先日行われた中間テストのモノでした。
「点数や」
「ほお、32点ですか。上出来だぁ」
「…」
- 261 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/08(木) 16:32
-
亜弥がアホやなどとは、友達には周知でも、教師にしてみればテストを実施しない限りわからないことなのです。
「あのな、松浦…、ふつーに考えて1年の一学期の最初のテストでこれっつうのは
かなりやばいぞ…?」
「えー、そうですか?」
ノーテンキな亜弥に辟易の教師。
「とにかく、期末はどう考えても平均、いや平均の7割とらな、赤点確定的やぞ…」
「赤点…ですか」
「赤点とったら楽しい夏休みまるまる潰して補習やぞ」
「!?」
今更ことの重大さに気付く亜弥。
亜弥にとって華の高校生活の夏休みといえば、あんなことやこんなことや、
楽しいことが目白押しの予定だったのです。
それが、『まるまる潰して』補習なんて、ありえない。ありえない。
「それは大変ですね…」
- 262 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/08(木) 16:33
-
「おお、やっとことの重大さに気付いてくれたか」
神妙な顔になった亜弥を見て喜ぶ担任。
「先生、私はどうすれば…」
「うむ。まず、数学に関して言えば、最初にコケると後はまったくついていけんようになるからな…。
ところで、課題やってきたか?」
言いながら、午前の授業中に提出された課題の束を捲りだす担任。
「やってきましたよぉ」
土日には、まだ風邪を引いていた亜弥は外で遊べず、暇を持て余してしぶしぶ課題に取り掛かったのでした。
しかし普段は亜弥の課題をなんやかや手伝ってくれる美貴もおらず、一人で取り組んだ亜弥の課題はというと。
「………あった。殆どまちがっとる…」
「……」
沈黙。職員室のざわめきが、心なし遠くに聞こえました。
「そこでや。お前の夏休みライフを慮って俺が特別に課題を課すことにした」
「ええ…!?」
「お前用に、初歩的な問題を集めたもんや。きちんとやったら次のテストでは
そこそこいける、はず、になっとる」
「特別課題ですか…」
病み上がりにいやーな話を聞かされいやーな話を持ちかけられた亜弥の顔は
不機嫌に歪みます。
- 263 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/08(木) 16:34
- 「ええんか?夏休みかけて補習づくしでも?」
「うぅ…」
「うちのクラスは、ほら、紺野とか小川とか頭ええやつおるし、わからんとこあったら聞け。そして基本だけでもマスターせぃ」
「うぅ…」
「わかりました…」
しぶしぶと顎を縦に下ろす亜弥。
「ところで他の教科は大丈夫なんか?」
「……」
- 264 名前:放熱器 投稿日:2004/07/08(木) 16:34
- ここまでです。また短くて申し訳。
- 265 名前:放熱器 投稿日:2004/07/08(木) 16:41
- >>255
しかし平和は長くは続かなかった…。
川o・-・)<というようなことにはなりません。
ヤマもタニも無い話ですがお付き合い頂ければ幸いです。
>>256
これからもマターリと眠い話が続くかもしれませんが。
よろしくお願いします。更新もマターリ(ry
川o・д・)<ゴルァ
- 266 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/09(金) 04:11
- 更新おつです。
やっぱり平和が1番!
ゆったりとした学園生活ってのが、
紺野さんにも松浦さんにも似合ってます♪
作者さんもゆったりと頑張ってください。
- 267 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/09(金) 21:32
- 作者さま、更新どうもデス。
ん〜ん・・・いつ見てもこうゆう学園生活ってゆーのは素晴らしいデスね。
紺ちゃんと亜弥ちゃんの空気ってなんだかホワ〜ッとしてそうですね。
次回更新を楽しみにしてます。
- 268 名前:放熱器 投稿日:2004/07/18(日) 18:27
- リテイク企画が始まりますよ!
川VvV从<まさかまた出す気じゃないよね?
…えと、続きです。
- 269 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/18(日) 18:28
- 昼休みも半ばを過ぎてから亜弥は憂鬱な面持ちで教室に帰ってきました。
勉強、亜弥の大嫌いなモノ。
これまでも自分がアホだという自覚が無いわけでは無かったのですが
それが一般的にみてそれほどヤバイ状況だということが、眼前に突きつけられたのでした。
しかし、亜弥はそれほど頭が悪いわけではありません。
どちらかと言えば頭の回転は速いほうなのです。
ただ、勉強なんというものは、亜弥の考えにおいてあまりにウエイトが低すぎるのでした。
その証拠には、この比較的レベルの高い高校に、なんとか滑り込めたこと。
高校受験のシーズンは皆受験モードなので、遊び相手がいない。
そこで、なんとなく黙々と勉強をしていた結果、周囲も驚くような受験結果がもたらされたのですが
高校に入ってからは毎日が楽しかったので、勉強なんてする気にもなれなかったのでした。
『やればできる』なんとは、出来ない人の言い訳にすぎません。
また、誰だって『やればできる』のです。
亜弥の場合は、その気になれば『やれる』タイプの人間なのです。
しかし、ずっと勉強を放置していた亜弥には些か荷が重いのでした。
- 270 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/18(日) 18:28
-
特にこの数日の間、どこか甘酸っぱい情動の靄の中にいた亜弥には
一気に現実という地上に叩き落とされたようでした。
されとて、夏休みという非常に甘美な、楽しみを思うと
亜弥も半ばやる気にならざるを得ない気がしてくるのでした。
楽しみの為の情熱は人一倍。
亜弥はそんな女の子でした。
「亜弥ちゃん、おかえりー。何だったの?」
「う、うん…ちょっとね」
教室に帰ると友達からは当然のようにそんな質問。
さすがの亜弥も自分がアホ過ぎて特別課題が課せられたなんとは、言いにくいのでした。
- 271 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/18(日) 18:29
-
教室内は楽しそうな喧騒。
それを見るにつけ、夏休みの楽しい状況が思われるのです。
(やるっきゃないか)
おかしな所に努力のポイントがある亜弥なのでした。
(でも…)
先ほど受け取った課題をちらと思い出す亜弥。
教師は基礎などと言いましたが、亜弥にはてんで出来そうには思えませんでした。
なんせ「いろは」の「い」すら理解できていないのですから当然です。
亜弥は今一度、教室を見渡しました。
相変わらずで、何かの文庫本を熱心に読んでいるあさ美が
一等先に目に留まりました。
仄かに、鳴る心臓を押さえつけて直ぐ視線を切ります。
次に、友達と談笑しながら「特製かぼちゃ弁当」なるものを幸せそうに食べている
麻琴を見つけました。
その、なんともあどけない姿に笑みを漏らしつつ、亜弥は麻琴によっていきました。
「まこっちゃん、ちょっといいかなぁ」
「ほえ?」
口いっぱいにかぼちゃを含んだ麻琴は間抜けな返事とともに振り返りました。
自分に白羽の矢が立ったことなどに微塵も気付いていない麻琴なのでした。
- 272 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/18(日) 18:30
-
放課後、授業が少し長引いたあさ美は、少々急ぎ目で生徒会室に向かいました。
今日は普段のように任意ではなく、集合が掛けられていました。
午後からは、太陽がくっきりと顔を出して、カンカンと照り付けていました。
汗ばむような、夏を感じさせる陽気でした。
あさ美が生徒会室に到着すると、既にみんなは揃っていました。
「遅れてすみません…」
申し訳無さそうにあさ美は言うのですが、そんなことを気にするような人はここにはいないのです。
真希も梨華も愛ちゃんも、穏やかに笑って迎え入れました。
「じゃあ、はじめようか」
あさ美が席に着くと、真希が言いました。
「別にそんな大したことじゃないんだけど、そろそろ文化祭について
動き出さないといけないから、今日ちょっと集まってもらったわけ」
- 273 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/18(日) 18:30
-
「はぁ、文化祭ですか…」
文化祭と言えば秋の話で、まだ6月なのですから実感が沸かないあさ美は
思わず呟きました。
「まぁ、いろいろ準備が大変だからね」
梨華はあさ美に対して、そう笑いかけました。
「そこでなんだけど、とりあえず企画ステージと模擬店とか出し物の
募集をしたいから、募集用紙を作りたいのね」
真希が続けました。
「一応去年の用紙配るから、参考までに。
まあ、それぞれで考えてちょうだいな」
言って、一人一人に用紙を回しました。
あさ美は受け取った用紙をじっと眺めながら考えました。
「文化祭、って、どんな感じなんですか…?」
- 274 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/18(日) 18:31
-
「うーん、まあ、いろいろ出し物やったりパフォーマンスやったり。
私たちはほら、裏方が多いけど、でも楽しいよ。軽音のバンドとかもあるし
他にもイロイロ」
梨華が、あさ美の呟きに応えて言いました。
「食べ物もいっぱいあるしね」
愛ちゃんも、あさ美に向けて、揶揄かうみたいに付け加えました。
からかわれたことに頬を膨らませながらも、あさ美はそれを聞いて
俄然楽しみになってきました。
文化祭。それは高校生活の華。なのかな?
とにもかくにも、あさ美の頭の中ではお祭りイコール食べ歩きの図式が、既に完成しているのでした。
「流れはだいたい、模擬店の出店団体募集して、抽選したり、場所割り振ったり
予算割り振ったり。あとは開会式と企画ステージの内容も募集して
段取り決めて予算決めて…要するにやること結構いっぱいあって忙しいから
ぼちぼちやんなきゃなんないんだよね」
めんどくさい、という言葉を口には出さずに真希は言いました。
- 275 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/18(日) 18:31
-
「とりあえず、今日はそんだけ。また集合かけるから、その時までに考えといてね。
他のことも、例えば何かやりたいことがあったら考えといて」
「はい」
あさ美と愛ちゃんは同時に返事をしました。
「んじゃ、解散ってことで」
真希の言葉とともにまた生徒会室にはまったりとした空気が漂いだしました。
窓からは強い午後の日差し。
何日かぶりで、校庭の木々も活き活きと萌えているようです。
窓から舞い込む風は弱まり、代わりに、夏特有の匂いやかな熱気が
仄かに舞い込んでいました。
真希と梨華は連れ立ってどこかに出かけるのでしょう。
愛ちゃんとあさ美に挨拶をすると、先に室を出て行きました。
こんな日は外に行きたくなるのも道理です。
- 276 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/18(日) 18:32
-
暫く西からの陽のたゆたう生徒会室にてまったりとしていた二人ですが
やがて愛ちゃんが立ち上がりました。
「ほんなぁ、私も帰るね」
「あ、うん、お疲れ様」
愛ちゃんが部屋を出ようとしたところで、あさ美がふと思い出して声をかけます。
「あ、愛ちゃん」
「ん?」
「本なんだけど、もうちょっと貸しててくれる? もう一回読みたいから」
「ああ、もう読んだの?早いね。 どう?面白いでしょ」
愛ちゃんは楽しそうに笑って言いました。
「…うん」
あさ美も、小さく笑って応えました。
愛ちゃんは満足そうに、ぶきっちょなウインクをして見せます。
「返すのは、まあいつでもいいよ。他にも何かあれば、貸してあげたいし、探しとくね」
「ありがとう」
- 277 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/07/18(日) 18:32
-
愛ちゃんが出て行った後の一人の部屋で
あさ美はいろんなことに思いを巡らせました。
文化祭のこと。高校生活ではじめての文化祭は一体どんなものになるのでしょうか。
まだまだ、先の話とはいえ、そんな話を聞いては楽しみになってしまいます。
ふと、愛ちゃんの本を、また読もうと思って鞄に手を入れました。
「あれ…?」
ところが、鞄の中に愛ちゃんの本は入っていません。
よくよく探してみても、どうやら間違いなく文庫本サイズの本はありませんでした。
「教室に、忘れてきちゃった…」
- 278 名前:放熱器 投稿日:2004/07/18(日) 18:34
- ここまでです。話が進まないよママン。
川VvV从<ゴルァ
- 279 名前:放熱器 投稿日:2004/07/18(日) 18:43
- >>266
やっぱし平和が一番ですよねー。変化を求めるなんて贅沢(ry
川;o・-・)<まさかこのまま何事も無く…
>>267
確かにお二人、ほわ〜っとしてそうですねー。学生生活なんて
あっちゅうまに終わっちゃいますから、まったりがいいですよねぇ。
( ´ Д `)<それは更新が遅いいいわけ?
- 280 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/19(月) 20:57
- 作者さま、更新お疲れ様デス。
あさ美ちゃん・・・ドジだなぁ・・・。
でもそこがいいんだよな。
亜弥ちゃん、これからどうなるんでしょう?
続きを楽しみにしておるです。
- 281 名前:放熱器 投稿日:2004/07/25(日) 00:50
- ちょっとまた更新遅れそうです。_| ̄|○
帰ってこなかったら死んだと思ってください。ごめんなさい。
- 282 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/08(日) 21:54
- 生きてますかぁ〜??
大丈夫ですかぁ〜?
- 283 名前:ほしお 投稿日:2004/08/18(水) 13:52
- まってます!
- 284 名前:放熱器 投稿日:2004/08/21(土) 06:10
- ごめんなさい、また企画出しちゃいました。
川o・-・)<ここほったらかして企画とか、呆れてモノも言えません。
本当にごめんなさい…。続きです…。
- 285 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/08/21(土) 06:12
-
あさ美は焦りました。
仮にも愛ちゃんが大切にしている本を、信頼という無償の担保のもとに貸してもらっている身。
それなのに、あまりにも注意力が散漫であった自分を、心の内で叱責しました。
ここ数日続いている、自分でもよくわからない浮ついた気分が
あさ美の注意力を思いのほか落としているようでした。
とにかく、人から借りた物を御座なりに扱うとは、あさ美にとって禁忌に等しいことでした。
時計を見ると、まだ5時前。
教室は8時ごろまで開いているのですから、まだ余裕の時間。
早く気付いたことだけに、救いを求めて、慌てて生徒会室を後にしました。
普段の帰宅時間からすれば格段に早い時間の校舎は
いくらかの生徒で賑わっていました。
体育館や校庭からは、部活動に勤しむ溌剌とした声がこだましていました。
(暑そうだなぁ…)
なんということを、小走りでわたる廊下で、少し額に汗を浮かべながら思うのでした。
- 286 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/08/21(土) 06:12
- 教室の直ぐ側まで辿りついたとき、あさ美はそこから漏れ出る声に気付きました。
まだ、誰かが教室に残っているようでした。
別にそんなことは大して珍しいことではないので、気にすることはないのです。
が、その声の主に心当たって、あさ美の心はほんの一瞬、ドキリと跳ね上がりました。
「あー、もう!わっかんなーい。
ねえ、まこっちゃん!本当にこれって基礎なの!?」
「あぅあぅ…、亜弥ちゃん…。
うん、いやでも、確かにちょっと難しいよね、これ…」
「そもそも、因数分解って何よ!?」
「ぁぅぁぅ…あたしも数学そんな得意じゃないんだよぅ…」
聞いたことのある声色の二名が、どうやら数学と格闘しているようなのです。
あさ美は少し、教室の前で立ち止まって、二人の会話に耳を傾けました。
どうやら教室には二人しかいないようです。
- 287 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/08/21(土) 06:14
- 聞いたことのある声色の二名が、どうやら数学と格闘しているようなのです。
あさ美は少し、教室の前で立ち止まって、二人の会話に耳を傾けました。
どうやら教室には二人しかいないようです。
二人の会話は絶妙な力関係があって、何かしらとても可笑しくって
あさ美は押し殺したような笑みを浮かべるのでした。
とにかく自分の目的、本を回収することを果たさなければいけないので
多少邪魔をして悪いという気も無くは非ずとも、教室のドアに手をかけました。
がらがらと教室のドアが開くと、二人の視線は同時にそちらに向けられました。
あさ美の目の中に、きつい斜陽のオレンジで、その一面を染め上げられた教室と
影と金色の肌とを半々ずつ湛えた、さながら印象派の絵画の登場人物にでも
成り果せたと見える、二人のクラスメイトが映りました。
あさ美はその眩しさに、キュゥと目を細めました。
「あさ美ちゃん!」
いち早く、光の蟠りの中にあさ美の姿を認めた麻琴は、天の助けとばかりに叫びました。
「紺野さん…」
亜弥は意想外のあさ美の登場に、思わず呟きました。
もっともその声は、校庭で活発に部活動に励む生徒の掛け声によって掻き消えるほどの小さなモノでした。
- 288 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/08/21(土) 06:14
-
「なにやってるの?」
あさ美は、自分の席に向かいながら、挨拶程度の意味を込めて言いました。
もちろんその言葉は麻琴に向けて。
麻琴の目が、助けてくれと言わんばかりにあさ美を見上げていることに
少なからず嫌な予感を伴いながら。
「あさ美ちゃん、助けてー」
本当に言っちゃいました。目でモノを言い口でモノを言う。
まこっちゃんは良くも悪くも真っ直ぐな性格なのでした。
亜弥はあさ美の出現に困惑して、急に黙りこくってしまっていましたが
ソフト部の掛け声と、まこっちゃんの声、それに教室を埋め尽くす
金色のカーテンに遮られて、誰にもそれと気付かれることはありませんでした。
- 289 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/08/21(土) 06:15
- あさ美が、麻琴の話に耳を傾けながら彼女の机の中をまさぐって
「あったあった、よかった…」と口の中だけで呟き、小さな本を取り出したことに
あさ美が突然教室に現れた理由を察した亜弥は、徐々に平静を取り戻していました。
ほっとしているはずなのに、どこか残念がっている自分がいます。
オレンジに染め上げられた亜弥の頬には、微かに朱が塗り足されていました。
そうこうしているまに、麻琴の口からは亜弥がアホすぎて特別課題を課されたことまでが
いけしゃあしゃあと述べ立てられていました。
「ちょっと、まこっちゃん。そこはもっと言い方があるでしょ!」
頬を膨らまして唇を尖らせ、抗議の声を上げる亜弥。
この状況下、強がる意味も無いとはわかっていますが、それでも
またあさ美にバカにされる種を得られるのは悔しいのでした。
最も、あさ美はそんなことで亜弥をバカにしたことなど無いのですが。
- 290 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/08/21(土) 06:16
-
どちらにしても、亜弥には本気で怒る気など毛頭ありませんでした。
口で元気な声を発しても、内心ではあさ美の一挙手一投足が気になって仕方ないのです。
亜弥はあさ美の反応を待ちました。
麻琴の口からは続けて、助けて欲しい旨が繰り返し述べられます。
あさ美は、自分の探し物がすんなり見つかったことで
気を楽にしていたためか、あまり気にすることもなく二人の席に寄ってきました。
「どれどれ」
隣同士で机をくっつけて座っている亜弥と麻琴の正面の席の椅子を引いて
座り、二人が格闘していたところのプリントを覗き込みます。
亜弥の心音はまたしても跳ね上がりました。
- 291 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/08/21(土) 06:16
- 「あ、まこっちゃん、ここ間違ってるよ」
「え、嘘!?」
あさ美が麻琴の字で書かれた計算式の一つをさして
軽く言いますと、麻琴はやたらに大きな声で反応しました。
それが何だか可笑しくてあさ美はふと笑みを漏らしました。
それからそのまま、視線を亜弥の方に移しました。
二人の視線が、また出会いました。
あさ美は、やけに清清しい気持ちがして、穏やかに笑うと
「私が教えてあげましょうか?」
亜弥に向かって言いました。
- 292 名前:放熱器 投稿日:2004/08/21(土) 06:18
- ここまでです。
>>287投稿ミス_| ̄|○
- 293 名前:放熱器 投稿日:2004/08/21(土) 06:24
- >>280
川*・-・)<ドジとは失礼な、私は完ぺ(ry
いや、どうなるんでしょうねぇ…私にもわからな(ry
∬;´▽`∬<無責任だね
>>282
生きてたみたいで(ryごめんなさい_| ̄|○
>>283
待たせちゃって本当に申し訳ないです…。
今回も短くてごめんなさい…。
川o・-・)ノ<ところで皆さん、私の写真集が出ますよ!
勿論買いますよね?というか買え!
∬´▽`∬<お金が無(ry
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/21(土) 09:10
- 待ってたよー。
しっかし小川が可愛い…ぁぅぁぅって。
アホと優等生とお人好しと、いい三人組ですな。
夕日が射す教室の描写とか眼に浮かぶようでした。綺麗だなあ。
なんか進みそうなのが楽しみです。
- 295 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/22(日) 22:58
- よっしゃ!!更新ゲッツ!!(古ッ!!)
この三人の光景・・・やっぱ和むな・・・。
これを想像したら、自然と顔がニヤリとして・・・
おっといけねぇ。
続きを楽しみに待ちたいと思います。
- 296 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/09/04(土) 20:08
- いいかんじいいかんじ
- 297 名前:ほしお 投稿日:2004/09/12(日) 12:53
- う〜ん、やっぱり面白いw
- 298 名前:放熱器 投稿日:2004/09/13(月) 18:00
- 月一更新になりつつある…_| ̄|○
それはそうと次は合図(ry
川o・Д・)<ゴルァ
- 299 名前:& ◆KUrWGZCU 投稿日:2004/09/13(月) 18:01
-
亜弥には一瞬、言われた意味がわかりませんでした。
そもそも、あさ美が自分の世話を焼いてくれることなど
先日の保健室の一件を除けば殆ど考えにくいことなのです。
何故なら二人は『仲が悪い』はずなのですから。
しかし、件のこと以来、亜弥の中に大きな変化があったように
二人の間柄にも何かしらの変化が見られているようでした。
二人の間にあった壁が、どこか柔和な、ともすれば取り払えそうかと思える
薄いものに姿を変えていたのでした。
一瞬の後にすぐに我と帰った亜弥は考えました。
意外と頼りない麻琴のことを考え合わせると、学年トップのあさ美の
申し出は願ってもないこと。
なんといっても大事なのは夏休みなのです。
- 300 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:08
- しかし一方で、まだあさ美の世話になるのが悔しいのと
それから、自分の裡にある、それと自覚して間もない最奥の
感情、それによって引き起こされるところの抗い難い揺動が
不快では無いにしても、怖いのでした。
「うわぁ、ありがとう。あさ美ちゃん!」
亜弥が返事をする前に、麻琴がはりのある声で言い放ちました。
あさ美は、麻琴に少し微笑みかけたあと、また
亜弥の顔を少し上目に見るように覗き込みました。
少し悪戯な笑みを浮かべて、唇をついと結んで。
- 301 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:09
-
亜弥の意識はまたしても白い漆にでも塗り固められたように
停止してしまいました。
何故って、あんまりにもあさ美のその表情が可愛らしかったものですから。
「え、えと、じゃあお願いしようかな…」
気がついたときには亜弥の口から、自然とそんな台詞がこぼれ落ちていました。
あさ美はその返事を聞くと、満足そうに一つ笑って
半身の体制から、椅子を180度回転させて
しっかりと二人に向き合う形に座りなおしました。
麻琴も、そのやり取りが嬉しかったと見えて、満足げに笑いました。
それから、おもむろに席を立ち上がりました。
「じゃあ、私はこのへんで…」
「何言ってんの?まこっちゃん。
はい、座って座って」
亜弥の直な言葉に
「ぐぅ…」
と、ぐぅの音を漏らしつつそのまま着席しました。
- 302 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:09
-
ともかく、3人きりの教室で奇妙な勉強会が始まりました。
仲良しの亜弥と麻琴。仲良しの麻琴とあさ美。仲の悪いはずの亜弥とあさ美。
この三人が一つの机を囲んでいるのです。
そして二人が対立して一人が間に入っているというのでもなく
仲の悪いはずの二人が教授し、教授されているのです。
あさ美はまず先に亜弥が判らないと絶叫していた部分について説明しました。
亜弥の予想に反して、その説明は的確かつ丁寧で、ゆっくりとではありますが
次第次第と亜弥にも理解できてくるのでした。
亜弥の頭の中には少なからず
出来る人に出来ない人のことなんて判らないから
あさ美の説明なんて教師の説明と同じで難しすぎてわからないんじゃないか
という疑念がありましたが、それは間違いでした。
- 303 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:10
-
あさ美は飛びぬけて成績のいい生徒でしたが、もちろん頭の構造が人と違うわけでも
なんでもありません。
ただ彼女の負けず嫌いな性格が、授業中に少しでも不明な点を
確実な理解へ導く為の、復習の繰り返しを生んだにすぎません。
何事においても基本、基礎を大事にするというのは
あさ美のスタンスでもあったので、その点であさ美の説明は
基礎のなっていない亜弥と、基礎の復習をする必要を痛感していたところの麻琴とに
とても有益なのでした。
亜弥は、はじめこそ遠慮じみた態度をとっていたものの
淡々としていながら効果的なあさ美の説明によって
少しずつ理解がひらけていくのが嬉しくて、積極的に質問をとばすようになっていました。
あさ美も妥協は許さずに真剣に教えました。
自身の基礎を固め直す意味も込めて。
亜弥はそんなあさ美に、よくついていきました。
- 304 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:10
-
気が付けば1時間近くも、3人は机を囲んでいました。
窓の外ではいよいよ日も斜に向かい、金色の光は何時しか朱を溶かしたような
柔らかい色へと移ろっていました。
「少し休憩しましょうか」
あさ美がそう言って亜弥の顔を覗き込んだ時には既に六時を回っていました。
日はまだ沈んではいませんが、それでも辺りは大分静かな色合いに変わっていました。
真剣に数学に向かっていた亜弥と、こちらも何故か真剣にあさ美の説明に
耳を傾けていた麻琴とは、その言葉を聞いて同時にふうと大きく息を吐き
肩の力を落としました。
しばらく3人は黙って座っていました。
亜弥には、何かしらわからない達成感がありました。
そして嬉しさがありました。
- 305 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:10
-
あさ美にはまた、小さな驚きがありました。
真剣に自分の説明に耳を傾け、理解しようと意欲を示す亜弥の姿は
やはり、普段の軽い亜弥のイメージとは違うものでした。
真剣な亜弥の表情は殊に凛々しく、そして新鮮に映るのでした。
今までに持っていた亜弥のイメージがどんどんと一新されていくのに
戸惑いながらも、嬉しさがありました。
麻琴も、始めこそ亜弥の頼みを断れなくて付き合ったものの
こうして大好きな友人達が、不器用ながら『いい関係』を築きつつある
場を目の当たりにしてみて、結果的にすごく得をした気分になっていました。
それは、また自身の数学の理解が深まったことにも増して
一番の嬉しさなのでした。
静かな、夕暮れの教室の中で三人は
三様の静かな喜びを感じていました。
- 306 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:11
-
あさ美が席を立ち上がって窓辺にいきました。
そして、最後の日の差し込む窓を勢いよく開け放ちました。
とたん、外を縦横に遊びまわっていた風が一度に教室内に吹き込みました。
今朝から強く吹いていた風は、夕刻の柔らかい陽に温められて
心地よく、窓辺に立つあさ美と、亜弥、麻琴の髪をそれぞれに揺らせて
踊りました。
「わぁ、気持ちいい」
あさ美は、小さく声を漏らし、目を細めました。
誘われるように、麻琴が席を立ち、続いて亜弥もあさ美のいる窓辺に向かいました。
風は気ままに教室内を駆け回り、篭っていた空気を一度に空に
押し流してしまいました。
- 307 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:11
-
「綺麗だねー」
あさ美の隣で窓の外を覗き込んだ麻琴が
はしゃいで言いました。
紫がかった最後の夕日に照らされて、校舎から遥かな向こうの空には
繊細にかたちどられ、幾重にも折り重なった群雲が
さながら細密画のように広がっていました。
その姿は荘厳で優しく、麻琴の言葉を受けたあさ美と亜弥も
ただただ嘆息するばかりに美しいのでした。
校庭では、各部活に勤しんでいた生徒たちも
そろそろ片付けに取り掛かろうというところでした。
雨の日が続いた久々のお天気。
この心地よい風の吹きすさぶ中で、彼女たちは一様に
爽やかな汗を拭っているようでした。
校庭一面が影に包まれ、いよいよ陽が沈むという頃まで
3人はそうして外を見ていました。
- 308 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:12
-
「続き、また今度にする?」
麻琴が言いました。
慣れない勉強を、陽が落ちるまで続けた亜弥には
本人が思う以上に疲労がありました。
気丈にそれを表に出さないでいても、やはりよく気がつく麻琴には
直ぐにそれとわかりました。
「そうですね。疲れたでしょうし」
あさ美もそれに賛同したので、ここでお開きとなることが
自動的に決定しました。
3人は言葉少なに帰り仕度をしました。
校舎内には殆ど生徒も残っていないようでした。
3人が教室を出たところで、亜弥がぽつりと言いました。
「紺野さん、まこっちゃん、ありがとね」
「なーに言ってんの、困ったときはお互い様じゃん!
それに、あたしも勉強になったし、よきよき」
直ぐに麻琴がおどけた調子で言いました。
これは彼女なりの照れ隠しでもあるのです。
- 309 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:12
- それから
「あさ美ちゃん、ありがとねー」
あさ美に向かって言いました。
「どういたしまして」
あさ美はニコリと笑って言いました。
「続きは明日ですね。明日もしごきますので、覚悟してください」
少し面白そうに言うと、麻琴が「えぇ!?明日もあんの…?」と
予想通りの反応。
それにクスクスと笑う二人。
それから向けられたあさ美の視線に応えて亜弥は
「よろしく」
と、微笑み返しました。
- 310 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:12
-
3人は一緒に校門を出ました。
並んで歩く三人の背中を追うように
闇はゆるゆると辺りを覆い始めていました。
空にはまた、黒雲が流れ込んでいるようでした。
亜弥は、こうして一緒にあさ美と下校するのが
初めてなことを思い出しました。
それほど賑やかな会話ではないものの、3人は楽しく喋りながら歩きました。
麻琴という元気印のおかげで、亜弥とあさ美の間にも
殆ど壁らしいものは見当たらなくなっていました。
やがて、亜弥がわかれる岐路に着きました。
- 311 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:13
-
「あ、じゃああたしはこっちだから。
今日本当にありがとうね」
「うん、バイバイ亜弥ちゃん」
亜弥はちらとあさ美の方を見ました。
二人の視線がまた出会うと、あさ美は少しはにかんだように笑って
「また、明日」
と言いました。
亜弥も、なんだか嬉しくて
「うん。バイバイ」
と二人に手を振ると、歩き出しました。
- 312 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/09/13(月) 18:13
-
辺りはとっぷりと暮れていました。
一人で歩く道の途中で亜弥は、今日のことを思い返しました。
思えば思うだけ、心地よい心音の高鳴りが感じられました。
あさ美のこと。
今日も、あさ美のいろいろな表情が見れたこと。
そうして、これまで無かったくらいにあさ美と一緒に過ごせたこと。
あさ美との関係が、とても上手くいきかけていること。
亜弥は一人歩く暗い夜道で
今自分が『幸せ』であることをふと感じて
何かとても面白い発見をした子供のように
心躍らせるのでした。
亜弥が家まで辿りつくと、待っていたようにまた雨が降り出しました。
梅雨はまだまだ始まったばかりなのです。
しかし、今日、亜弥は確実な季節の移ろいを実感していました。
- 313 名前:放熱器 投稿日:2004/09/13(月) 18:15
- ここまでです。
( ´ Д `)<出番は?
ごめんなさい…。
- 314 名前:放熱器 投稿日:2004/09/13(月) 18:19
- >>294
∬*´▽`∬<わーい嬉しいです。
進みそうで進まないかも(ry
なんせ、よろしくお願いします!
>>295
川o・-・)<ここに黄金の3人組誕生ですね!
∬*´▽`∬<私の写真集も出るので(ry
从 ‘ 。‘从<(ry
- 315 名前:放熱器 投稿日:2004/09/13(月) 18:22
- >>296
いい感じっすか!よかった!
从 VvV)<これで更新さえ早けりゃねぇ
ごめんなさいね…。
>>297
∬*´▽`∬<面白いですかー。うひょー。
川’ー’川<まことは顔が(ry
またーり待ってくだすってサンクスです。
- 316 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/14(火) 18:08
- いよいよ前進しましたな
小川のおかげかな
- 317 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/14(火) 21:02
- 作者さま、更新乙です。
なんだかんだで二人はいい感じになってきましたな〜。
この後、どうなるんでしょうかねぇ???
次回更新を楽しみにまってます。
- 318 名前:ほしお 投稿日:2004/09/24(金) 00:54
- うふふwなんだかとってもイイ感じじゃないですか?
このままびゅーんと行っちゃってほしいですねぇ〜。
ゆっくり、まったり更新まってます!
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/18(月) 18:39
- 保全
- 320 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/21(木) 23:19
- 保全ですよ
- 321 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/21(木) 23:20
- いいよいいよ!この松浦ツボですよ!
待っておりますよ!
- 322 名前:放熱器 投稿日:2004/10/21(木) 23:32
- ごめんなさい…_| ̄|○
近いうちには…
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/22(金) 20:52
- 作者様へ
いつも楽しく見させてもらってます。
どうか焦らず。ゆっくりで構いませんので。
- 324 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 22:00
- とても楽しみにしてますんで!焦らず、がんばってください
- 325 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/27(水) 22:33
- 保全です!
- 326 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/28(木) 16:06
- hosen
- 327 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/29(金) 23:13
- 保全します。
- 328 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/30(土) 00:57
- (●´ー`)<過度の保全は荒らしと見なされる(案内板より)恐れがあるべさ>>325-327
- 329 名前:放熱器 投稿日:2004/11/09(火) 00:32
- ほんまにすいません…。
放置2ヶ月、近いうちにとか書いてから3週間…。
やまだかつてないスランプに陥っておりまして…。
とりあえず続きです。
- 330 名前:放熱器 投稿日:2004/11/09(火) 00:33
- 明くる朝。
この日もやはり雨でした。
といって梅雨らしくしとしとと降るのでなく、沛然としたもので
いっそ清々するような朝でした。
いつも比較的早起きなあさ美は、この日は更に早い時間に目を覚ましました。
窓の外を滔々と滑り落ちる雨と、鉛色の空を見上げながら
やおらに身を起こしたあさ美は昨日の出来事を徐に思い返していました。
全く不思議な心地でした。
つい先まで仲の悪かったはずの亜弥と、成り行きとはいえ
一緒に勉強したわけなのです。
しかもそれが嫌というどころか、翌朝の今思い出しても何かしら胸の
ざわつくような名状し難い心地よさと、言うなればくすぐったさとの雑じりあった気分。
- 331 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/11/09(火) 00:34
-
あさ美は改めて松浦亜弥というその人のことをイメージしました。
今思えば、どうしてああ、仲の悪かったのかもよく分からなくなりました。
ただ単に、お互いが意地っ張りだっただけのこと。
しかも詰まらない意地を張り合っていただけなのです。
最も性格は大いに違うのですから、合わないだろうことは合わないのですが
思い返してみれば、亜弥のことが「嫌い」などとは、最初の最初から
微塵も感じていませんでした。
あさ美は果して今日、亜弥との関係がどんなモノになっているのか
ということに、少々の期待、少々の不安を感じていました。
あさ美にとって亜弥、というよりは「自分の亜弥に対する感情」は
よく分からない、理屈に割り切れない不気味なモノで
それはいつでもあさ美を不安にさせ、同時に浮ついた快さをもたらすのですた。
息を吸い、吐き出し、見上げる空は相変わらずの灰色。
あさ美は今一度、亜弥の憂鬱を吹き飛ばすような朗らな笑顔を思い出し
それから勢いベッドから降りて、学校の仕度を始めるのでした。
- 332 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/11/09(火) 00:34
-
もうすっかり必需品となった赤い傘をクルクルと頭上に翳しながら
あさ美はのんびりと学校への路を辿りました。
随分と早いこの時間は、通学途中の生徒も殆どおらず
街は静かなものでした。
雨音と、時々水溜りを跳ね上げる自動車の音とが響くばかり。
あさ美はのんびりとそれらの音に耳を澄ませながら往きました。
教室に着くと一番乗り。
あさ美は部屋の電気をつけ、自分の席に座って
いつもなら好きな本でも開いてぼんやり待つところ
今日はどうしたわけか数学の教科書を開いて眺めるのでした。
- 333 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/11/09(火) 00:35
-
亜弥はその頃美貴の家のベルを鳴らしていました。
中学校に上がってから、亜弥と美貴が同じ路を通学できるのは
一年間だけになってしまいました。
大切な朝の時間。
亜弥はきっと朝、美貴の家へ拠るのを欠かしませんでした。
ピンクと濃緑の、色合いの悪い傘は今日も仲良く並んで揺れるのでした。
「亜弥ちゃん、最近楽しそうだね」
不意に美貴が亜弥を見い見い言いました。
些か驚いた亜弥は、そう?と繕って尋ね返しました。
- 334 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/11/09(火) 00:35
-
「何か、楽しそうっていうか、活き活きしてる感じ」
亜弥にははっきり思い当たる節がありました。
そして、そんな自分でもおぼろげに自覚したばかりの感情を
瞬く間に美貴に見透かされたようなのが、何とは無し悔しいのです。
それと共に、丁度一週間ほど前、今日と同じように美貴と隣り合わせて歩いていた
朝の会話を思い出しました。
『好きな子でもできた〜?』
『何でそーなるのよ!』
『それってもしかして紺野さん…とか?』
そんな会話が、たったの一週間後の今、まるで今を予言でもしたかのように
ぴったしと当てはまってしまっていたのです。
- 335 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/11/09(火) 00:36
- 「美貴たんってさー、ほんと、凄いよね」
亜弥は思わず嘆息交じりに漏らしました。
「んー?何なに?」
美貴は意外な亜弥の言葉を、傘に落ちる雨音に遮られて
はっきりと聞き取りかねて尋ね返しました。
「んー、何でもないよー」
「えー何さー」
亜弥は、ずっと一緒にいて誰よりも自分のことをわかってくれる美貴に
改めて感謝にもにた情を抱きました。
そして、今は秘めた自分の気持ち、最初に打ち明けるのはきっと美貴だろう、
そう心の中に確信するのでした。
「今は秘密!まだ秘密!」
「何だよー」
二人は無表情に注ぐ沛雨の間を、晴れやかな笑顔で往くのでした。
- 336 名前:放熱器 投稿日:2004/11/09(火) 00:38
-
ここまでです。少量ですみません。
軌道に乗るまで下げでいきたいと思いますです。
- 337 名前:放熱器 投稿日:2004/11/09(火) 00:47
- >>316
はい、前進しました!多分前進しました…
∬;´◇`∬<進んで無い気が(ry
>>317
いい感じですかー。ありがとうございます。
そしてこの後どうなるのかは誰にも分からな(ry
>>318
びゅーんといって欲しいですねー。いけそうも無いですか…
まったり過ぎて本当に申し訳ないです。
>>321
松浦さんいいですか!ありがとうございます。
从*‘ 。‘从<とーぜんだよね!
>>323
楽しく見てくださってありがたいです。
ゆっくり過ぎて本当に申し訳なく…
>>324
お言葉にべったり甘えさせて貰ってます…。
今後もそう速度は上がらないと思いますが、もし宜しければ(銃声
>>319-320
>>325-327
「狼なら100回落ちてるぞ」的なお叱りですね…。
肝に銘じておきますです…。
>>328
なっちありがとー!
- 338 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 20:31
- 雨の日の透き通った水色が浮かんできた
直接の情景描写じゃなくて二人の心情描写にそう思った お見事
この二人だとやっぱ松浦さんのほうがリードした感じかな 続き楽しみにしてます
- 339 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/11/11(木) 21:11
- 更新お疲れ様です^-^
>>337
本当に誰にもわからないっすね〜。
そこがまたいいんです。
更新、ゆっくりでも構いませんのでがんばってください。
- 340 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/24(水) 13:45
- 更新乙です!
なんかとってもいいですね。
松浦がとても魅力的です。
- 341 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/27(土) 12:16
- 面白いですねぇ。
これから先がすごく気になります。
次の更新たのしみにしてます!
- 342 名前:放熱器 投稿日:2004/12/08(水) 01:10
- また間が開いてしまいまして…
なかなかペースが上がりそうにありません。
よしなに…
続きです。
- 343 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/12/08(水) 01:11
- ぼちぼち教室に人が集まりだすとあさ美は徐に
数学の教科書をしまい、また愛ちゃんに借りた本を読み出しました。
薄暗い教室で朝から数学の教科書を読み耽っているなんという
不自然な状況をクラスメイトに突っ込まれては困るからです。
尤もクラスメイトにとっては何時も朝早く教室にきて
何か読んでいるあさ美がたまたま教科書を読んでいようと
さして違和感を唱える程のものではないのですが。
一人来、二人、三人と人が集まりだすと
静かな教室は俄かに賑やかになってきました。
仄暗い蛍光灯の明滅する教室に、楽しそうな声が響きました。
やがて麻琴が来てあさ美やクラスメイトに挨拶をしました。
麻琴はいつもの通り、何も変わりません。
朝から元気なまこっちゃんでした。
- 344 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/12/08(水) 01:12
-
麻琴の目から見るあさ美も、いつもと変わらない
朝から本を読んでいるオカシナあさ美でした。
暫くすると亜弥も教室に入ってきました。
いつも通り元気に皆に挨拶をすると、いつも通り皆からも挨拶を返されました。
あさ美がちらと視線をやって声を出さずにおはようと言ってみると
亜弥もその視線を受けて、嬉しそうに声を出さずにおはようと返しました。
それ以外ではいつもとなんらに代わり映えの無い朝でした。
雨は相変わらずで窓を曇らせ、辺りを眩めていました。
あさ美は今朝の不安に対しては一遍の取り越し苦労を
期待に対しては仄かな充足を覚えました。
- 345 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/12/08(水) 01:12
- 亜弥と視線が交わされたほんの一瞬は、何かしら
秘密の暗号めいたくすぐったさが伴いました。
まこっちゃん以外に、3人の昨日のことを誰が知っているのか知りませんが
少なくともあさ美は誰にも告げませんでした。
それは不要だからという理由からに違いありませんが
それにしても、些細な、子供めいた享楽を覚えずにはいられません。
それがクラスメイトには不仲と思われているところの
亜弥との間に行われたことに
殊更に可笑しさと愉快さがありました。
- 346 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/12/08(水) 01:14
-
亜弥にとってはその愉しみはあさ美以上のものでした。
彼女としても昨日の今日で、一体あさ美との関係がどのように
変わったものか、些かの不安がありました。
実際、どこかで期待していた程には何も変わりはありませんでしたが
どこかで案じていたよりは大きな進歩がありました。
それが件の目配せでした。
自分の想いが脹れていくのと同時に
些か気になりだしていたところの「あさ美の自分に対する気持ち」が
先ず敵意に類するものでないことが(そんなことは案じるまでもなく
分かり切っていたことですが)確認しえたのでした。
普段開けっぴろげな性格の亜弥にとって
秘密めいたやりとりは馴れなく、そしておもしろいもの。
その相手が当のあさ美ということにまた、小さな幸せを覚えるのでした。
- 347 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/12/08(水) 01:15
-
されとて、二人の距離感がまだ微妙であるのも事実なのです。
朝のその一瞬以来、二人の間にこれといったやり取りはなされませんでした。
昨日のことですっかり打ち解けたと思っていたまこっちゃんばかりが
普段同様に、お互いに関わろうとしない二人に
おろおろと戸惑うばかり。
授業はいつもの通り、のろのろと進みました。
亜弥は時々斜め前の生真面目なあさ美の背中に目を遣りながら
あさ美は教師の声と、浪々と降り続く雨に交互に耳を傾けながら
昨日夕闇の裡に取り交わした些細な約束が
果してまだ効力のあるものなのか、そんなことを考えていました。
- 348 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/12/08(水) 01:15
-
お昼休みになるとみんなは一斉にお弁当を広げだします。
亜弥はいつもの友達と輪になって談笑しながらお弁当を食べました。
あさ美は一人で黙々と、のんびりと食べました。
空は相変わらず暗く、教室は変わらず賑やかでした。
お昼を食べ終わるとあさ美は、そろそろ本を愛ちゃんに返そうと
思い立ちました。
長い間借りていた訳ではありませんが、もう何度か読んでしまった本を
何時までも持っていても仕方ないことですし
借りたものは早く返すのに越したことはありません。
放課後に生徒会室で、とも思ったのですが
何となく暇な昼休みに返しに行こうという気がしました。
- 349 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/12/08(水) 01:16
-
そう思い立つとあさ美は徐に席を立って、2年生の教室のある校舎へ
歩を進めました。
途中に通る渡り廊下の屋根には一定の拍子で雨粒の当たる音が響いていました。
それがなんとも可笑しくて、あさ美はぼんやりと、聞き入りながら歩くのでした。
「高橋先輩いますか?」
そんな風に、愛ちゃんの教室の前で聞いてみると
昼休みをゆるりと過ごしていた愛ちゃんのクラスメイト達が
あさ美の方に視線をやりました。
それで些か気恥ずかしい思いをしたのですが
直ぐに誰かが愛ちゃんを呼んでくれました。
愛ちゃんはあさ美の姿を見るなり、直ぐに来てくれました。
それから頓興な声で尋ねました。
「あさ美ちゃん?どうしたの?」
- 350 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/12/08(水) 01:17
-
「愛ちゃん、おはよう。借りてた本を返そうと思って」
「ああ、わざわざごめんね。
でもそんなん、放課後でもいつでもええのに」
「うん、でも私今日生徒会室行くかどうかわからなかったから」
「何か用事?」
「いや、まぁ…。それより、本当にありがとうね。面白かった」
愛ちゃんはそんなあさ美の様子を見て、満足そうに頷きました。
「それはよかった。あさ美ちゃんがどんなんに興味あるんか
イマイチようわからんなんだんけど、役にたった?」
「うん……ん?」
あさ美はただ愛ちゃんの含み笑いの意味を図りかねたのですが
しかし確かに『役に立った』と思えて、おかしな気分になりました。
愛ちゃんの本を昨日教室に置き忘れなければ
昨日の一事も無かったことなのです。
- 351 名前:僕たちの時間 投稿日:2004/12/08(水) 01:17
-
それと共にそんな考えが浮かんで後、直ぐにまるで内容と関係の無い
『役に』立ち方を想起してしまった自分を叱責しました。
それではあまりに愛ちゃんに対して失礼だと考えたのです。
が、愛ちゃんの方では、もちろんあさ美が何を指して言っているのかは
分からないにしろ、何処かしら嬉しそうな、幸せそうな雰囲気を
帯びてあさ美が目の前に現れたことが、それだけでも嬉しいことなのです。
予鈴が鳴ったため、二人の会話は一旦途切れました。
あさ美はすぐに教室に戻っていきましたが
愛ちゃんの目から見たあさ美の後姿は素敵な光輝を帯びているようでしたし
あさ美は改めて愛ちゃんへの感謝を思うのでした。
- 352 名前:放熱器 投稿日:2004/12/08(水) 01:19
- ここまでです。
ただただ謝ります。_| ̄|○
- 353 名前:放熱器 投稿日:2004/12/08(水) 01:29
- >>338
描写についてお言葉頂けると本当に嬉しいです。
ただ、私は何にも考えて無いやつなので即期待を裏切ってないかと(ry
>>339
いつもいつも見限らずレス下さってありがとうございます。
来年の春頃には多少スピードが上がるk(銃声
>>340
松浦さん人気みたいで嬉しいです。
作者すらよく分からないキャラなんですが勝手に動いてくれて(ry
从*‘ 。‘从<器の差だね
>>341
これから先がなかなか来なくてすみません。
なんて展開が遅いんだと我ながら辟易ですが、それでも
付き合ってくださるなら凄く喜びます。
- 354 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/12/08(水) 08:51
- おお!更新乙です!
作者さんのペースで更新して行って下さい!早いに越したことはないですが・・
こういう空気感をもった話は少ないので毎回楽しみにしてます。
次回もまってます
- 355 名前:七誌さん(旧・紺ちゃんファン) 投稿日:2004/12/08(水) 16:23
- お久ぶり更新乙です。
とある理由でなまえを一つに絞りました。これからは「七誌さん」で。
作者さま、謝らなくても大丈夫ですよ!
あやこんって少ない・・・ってか私はここ以外見たことないのでいつも楽しみです。
二人の仲がどんどん進んでるようなのでもうちょっと!がんばれ!
- 356 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/08(水) 23:54
- ゆったりとしてて何か癒されます。
マイペースで頑張ってください。
- 357 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/09(木) 20:16
- 更新お疲れ様です。
なんだかここのお話を読んでるとほっとします。
これからも頑張って下さいね。
- 358 名前:放熱器 投稿日:2005/01/10(月) 19:06
- 明けましておめでとうございます。
いかがお過ごしでしょうか。
私は年始早々風邪を引いて_| ̄|○
新年になっても相変わらず更新遅くてすみません。続きです。
- 359 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/01/10(月) 19:07
-
変わらず雨が降りしきる中、授業は進みようやっと放下となりました。
一日の圧迫から開放されて一度にざわめき出す教室で
同じように息をついていた亜弥のところに麻琴がやってきました。
「亜弥ちゃん、ほんっとごめんなんだけど、今日付き合えないや!」
「ええー!?何で?」
「ホラ、どうしても抜けられない用事があってね!」
「用事って!何の用事!?」
「それは、おっともうこんな時間、じゃあ、グッドラック!」
「あ、ちょっとー!」
ざわざわとざわめく薄暗い教室で、妙にテンションの高いやりとりをした後
麻琴は颯爽と出て行ってしまいました。
取り残されるは亜弥。あまりのことに呆然と麻琴の出て行った扉を見つめます。
- 360 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/01/10(月) 19:07
-
教室からは次第に人が減っていきます。
ふと見渡すと、既に教室内にはあさ美の姿がないことに気付きました。
亜弥の全身から一気に力が抜けていくのが分かります。
(私何期待してたんだろ…。紺野さんにとって昨日のことなんて
ただの面倒くさいことに決まってるし、「明日」なんて、ただ社交辞令みたいに
言っただけじゃん…)
亜弥はがっくりと椅子に腰を下ろすと、帰りしなの生徒たちの
煩い喧騒につつまれ、蛍光灯の淡い光に映し出された教室を見るともなしに眺めていました。
雨は変わらず軽快に降り注ぎ、外は暗く空はぼんやりとしていました。
(まこっちゃんも帰っちゃったし、紺野さんが一人で
私に付き合ってくれるわけなんてそんなわけ、ないよね…)
私も帰ろうか、そう思った亜弥ですが、なんだか腰を浮かす気力も起きませんでした。
やがて最後の友達が亜弥に声を掛けて出て行きました。
亜弥は一人で、教室の自分の席で佇んでいました。
教室内の賑やかさがなくなったトタンに、亜弥は無性な寂しさに襲われました。
一日何かしら浮かれていた自分が凄く滑稽に思え
そう思うと窓の外を沛然と落ちる雨の音が、カラカラ笑い声に聴こえてきました。
それはとても、惨めな気持ちでした。
- 361 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/01/10(月) 19:08
-
放下となって直ぐに教室を出たあさ美は、小走りに生徒会室に向かっていました。
昨日真希から申し付けられた用紙案。それを即日に作成したあさ美は
忘れないうちにと、生徒会室においてくることにしたのです。
あさ美はたいそう神経質な女の子で、既に出来たものを手元において置いて
また忘れたり、紛失という可能性を残すのが我慢ならないのでした。
「失礼しまーす」
「お、おはよー紺野」
生徒会室の戸をいつものように開くと、今日は梨華と真希がきていました。
あさ美が少し忙しなく戸を開くと、いつものように二人は柔らかく笑って
あさ美を迎え入れました。
あさ美の目に入ったのは、雨の降りしきる暗い窓と、淡い蛍光灯の
光とのコントラストによく映える、絵画の一齣の様な美しい二人でした。
急いていた心も静まって、ただただ
(本当に綺麗な人たちだなぁ…)
と嘆息するあさ美なのでした。
- 362 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/01/10(月) 19:09
-
「あ、後藤さん、昨日の用紙、一応作ってみました」
そういって用紙を取り出すあさ美。
「もう?」
「あはっ、はやいねぇ。さすが紺野だねぇ」
梨華と真希はそんな几帳面過ぎると見えるあさ美に対して笑いながら
その用紙を受け取りました。
「ほい、確かに」
真希が言うと、
「じゃあ、今日はちょっと用事がありますんで、失礼します」
そう言って踵を返すあさ美。
さっさと行ってしまうあさ美の背を、殆ど身動ぎする暇もなく見送った
真希と梨華の二人は、暫しの後、笑いながら囁きあいました。
「珍しいね」
「ねぇ、ごっちん、紺野の用事って何だと思う?」
- 363 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/01/10(月) 19:09
- 「んあ、じゃあ新しいマニアックな食べ物の本の発売日、に
ジュース一本。梨華ちゃんは?」
「私は、ほら、あの子のことだと思うな」
「んあ、ありそう…」
「うふふ…」
「梨華ちゃんって…」
「何?」
怖いね。と真希は口にこそ出しませんでしたが、何だか何でも知っていそうな
石川は確かに怖いのでした。もちろん冗談ですけども。
ふたりは、何をするでもなく雨の生徒会室でまったりと美貴の来るのを待っているのでした。
- 364 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/01/10(月) 19:10
-
あさ美はとりあえず教室までを急いでいました。
といっても真面目な生徒のあさ美は廊下を走ることなどできないので
気持ち、小走りで。
教室を出る時に、亜弥と麻琴に一言声を掛けていけばよかった
と、今更ながらに少し後悔が沸きました。
自分が何も言わずに出て行ったものだから、もしかしたら二人はもう
帰ってしまっているのかもしれないからです。
そんなこんなで、あさ美が少し急ぎ目で廊下の角を曲がると
校門の方に向かう麻琴とばったり出会いました。
「あれ、まこっちゃん?」
「あ、あさ美ちゃん。ごめん、今日付き合えないやー。用があったのすっかり忘れてて」
「え…用って・・・?」
「でっへっへ。今日は『かぼちゃコスモサイコロジー 慎重社』の発売日なのだ!」
一応説明を入れておくと、それは所謂「マニアックな食べ物の本」なのでした。
それを聞いてとたんに目の色が変わるあさ美。
- 365 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/01/10(月) 19:11
- 「あぁ、忘れてた、でもあれって本屋に置いてないことない?」
「ふふふ、実は本屋さんで注文してたの。今から取りにいくのさ」
「くぁ、それは…仕方ないね…
ね、買ったら今度見せてね?」
「もちろん!じゃあそういうことだから」
「あ、うん、バイバイ…ってアレ?じゃあ松浦さんは?」
ここに来てようやっと思い出すあさ美。
「教室で待ってるんじゃない?」
「え、ほんとに…?」
「多分だけど。
じゃあ、急ぐから、頑張ってね!」
颯爽と行ってしまう麻琴を見送りながら、あさ美はようやっと
状況を理解し始めました。
昨日は麻琴がいました。そして三人で勉強していました。
麻琴の話は面白いし、亜弥と麻琴は仲がいいし、あさ美と麻琴とも仲がいいし
スムーズに空気が流れたのは麻琴のおかげといってもよかったのです。
今日は麻琴が、もう今しがた帰ってしまいました。
しかも亜弥は教室で待っているとのこと。
二人…。
「待ってる…?あ、待たしてるんだ。急がなきゃ」
とりあえず思考を無理やり中断して、駆け出すあさ美なのでした。
- 366 名前:放熱器 投稿日:2005/01/10(月) 19:13
- ここまでです。相変わらずの少量をお詫びします。
あと文章が激しく変だと思います。
自覚してるのですが、スランプというか何というか…。
次回までには修正したいな、と。
- 367 名前:放熱器 投稿日:2005/01/10(月) 19:21
- >>354
空気は確かに我ながら独特(というか変)なんだと思います。
それくらいしか取り得(?)のない話ですが今後とも宜しくです。
>>355
あやこんの仲、作者としては進ませよう進ませようとしているのですが
こいつらが中々進みやがりません。動かないキャラで申し訳ないですが
今後とも見守ってやっていただけると幸いです。
>>356
いつもマイペースすぎて本当に申し訳ないです…。
月一更新のぬるま湯に浸ってる自分がいます・・・
時々は叱咤してやってください(w
>>357
ほっとすると言っていただけると私としてもほっとします(w
内容のない話だけに、空気みたいなものを楽しんでいただけたら幸いです。
- 368 名前:七誌さん 投稿日:2005/01/10(月) 20:36
- 更新乙なりよ〜。あ!ちょ〜リアルタイムだ!
まこっちゃん・・・なんだいその本は・・・。
梨華ちゃんって意外(?)と鋭い・・・。
この3人のやりとり・・・ほっとするな〜・・・。
- 369 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/01/13(木) 21:47
- お待ちしてましたよーーーーーーーーーーーーーーー
またいいとこで切りますねぇ・・・
しかーーーーーーーーしマターリ待ってますからねぇ
- 370 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/14(金) 17:30
- 更新おつかれさまです!
あー続き気になります〜。
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 16:38
- ふたりの距離が少しずつ近づいていってますね。
これから一体どうなるのやら…楽しみ。
- 372 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/02/27(日) 12:53
-
こちらは教室。亜弥は一人でまだ佇んでいました。
ぼんやりと窓の外を見て。
雨は降りしきり、窓は曇り、灰色で、妙に優しいのです。
さっきまで亜弥のことを笑い飛ばしていたような6月の雨は
憂い沈む亜弥を優しく慰める風に変わっていました。
思えば亜弥はこの、自分が生まれた6月に降る雨が嫌いではありませんでした。
お天気が一番好きなのですが。雨は気分を沈め、退屈をもたらし
でもその雨自身を見ていると不思議と退屈しなという、
亜弥にとって昔から一風変わった友達でした。
雨は彼女の心にことに敏感で、彼女が打ち沈んでいればきっと慰めてくれました。
彼女の心が弾んでいれば、傘に落ちる雨音はさながら楽隊の太鼓のようでした。
亜弥はそうして雨と対話するうち、いつしか沈んでいた心を取り戻していました。
じっくりと、取りとめもなくいろいろなことを考えました。
自分の16年に及ぼうとしている人生のいろいろ。
その中で始めて出会った恋のことも。
校庭は亜弥のために降り注ぐ雨を粛々と受け止めていました。
- 373 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/02/27(日) 12:54
-
不意に教室のドアが開かれました。
ぼんやりと考え事をしていた亜弥もそちらに首を向けます。
と、そこに立っていたのはあさ美でした。
一瞬間、何がなにやらわからなくなる亜弥。
「ごめんなさい、待たせてしまって…」
少しばかり息を弾ませて申し訳無さそうに言うあさ美。
そのまま、蛍光灯に照らされた薄暗い仄明るい教室を
亜弥の方に向かって真っ直ぐに歩いてきました。
ますます訳がわからなくなる亜弥。
「…紺野さん?…帰ったんじゃなかったの?」
当然そうだと思っていたことなので、当然のように亜弥の口から
そんな言葉が零れました。
- 374 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/02/27(日) 12:54
-
「え、いや、ちょっと生徒会室に用事があって、行ってただけですよ。
すぐ戻ってくるつもりだったんだけど…ごめんね?」
申し訳無さそうに上目に亜弥の顔を覗き込むあさ美。
その姿に亜弥の心臓はまたドキリと跳ねました。
あさ美の方でも実は内心でドキドキと心の打つのを感じていました。
教室に入ってきたときの、誰も居ない教室でたった一人
雨と対話でもするかのように憂いて窓の外を眺めていた亜弥。
その姿はあまりにも綺麗すぎたのです。
それと同時に、たった一人で教室に待たせてしまったことに対する後悔と
たった一人で自分を待っていてくれた亜弥に対する言おうようのない
感情とが入り混じりました。
それは感謝とも違うし、寧ろ安心感に近い感覚でした。
そしてその感覚はそれ自体であさ美を戸惑わせるのに十分でした。
- 375 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/02/27(日) 12:54
-
それだから亜弥の「帰ったんじゃなかったの?」という言葉に
もっと何がなんだか判らなくなりました。
自分の方こそ、亜弥が待っていてくれたなんて思いもよりませんでしたが
少なくともあさ美には、昨日の約束を黙って破棄する理由などどこを探しても
ありませんでした。
ともかく、二人の心境はそれぞれに複雑で
少なからず二人とも混乱を来たしていました。
辺りは雨音の他、殆ど音のない静けさでした。
数瞬沈黙が流れました。
何となく気まずいような、それでいて心地よい気もする沈黙でした。
「えっと、まこっちゃんは何か用事があるからって…」
「あ、うん、私もさっき会いました」
そのせいで遅れたんだけど、と付け加えることはしませんでした。
- 376 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/02/27(日) 12:55
-
「と、とりあえず座る…?」
「あ、うん…」
立ちっぱなしだったことに今気付くあさ美。
そそくさと亜弥の向かいの席に座りました。
「えっと…」
二人きりで向かい合ってしかも沈黙というのはどうにもやりきれなくて
どちらともなく声が出ました。
「始めましょうか…」
「そだね…」
衣擦れや、道具を取り出す音がやけに大きく聴こえました。
昨日の雰囲気とは全く違う二人。
そとはしとしと、雨降りでした。
- 377 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/02/27(日) 12:55
-
昨日のプリントの束を出して、残りの多さにげんなりする亜弥。
あさ美はそんな亜弥をじっと見ていました。
その、自分だけに向けられた視線は、亜弥にとって刺激的で
心地よく、しかしそれ以上の恥ずかしさが募りました。
とりあえず、昨日の続きからの勉強会が始まりました。
といって雰囲気は随分と変わっていました。
鉛筆の滑る音がやけに響き、会話は必要最低限。
亜弥の視線はひたすらプリントに注がれていますし
あさ美は、亜弥に質問されるまでの時間を手持ち無沙汰に過ごしました。
亜弥は昨日あさ美に教わったことに関して
もうほぼ理解していました。
その為、新しいことが出てくるまでは、殆どのことが自分の力で
できるようになっていました。
それはあさ美にとっても目を見張るような成果で
改めて亜弥のことを見直すと同時にどこかしら、寂しいのでした。
- 378 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/02/27(日) 12:56
-
「どうですか?」
「うん…できたっぽい」
あさ美が覗き込んだ亜弥の答案はイージーミスこそあれ、ほぼ完璧でした。
その細かなところを訂正した上で、あさ美は嘆息していいました。
「すごい…ほぼ完璧じゃないですか…。松浦さんってやるときはやる人だったんですね。
休憩します?」
亜弥はその言葉を聞いて、満足感と安堵感の交じった息をつきました。
しかしながら、ひとまずペンを置いたのはいいのですが
休憩といったって、二人妙に緊張していて会話がないものですから
どうともしずらい空気になることを思い出しました。
とりあえず二人、窓の外をぼんやりと見遣りました。
ザアザアと振り続ける雨。
窓に張り付いた水滴がぼんやりとかたちを歪めて
それぞれの顔を映し出しました。
- 379 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/02/27(日) 12:56
-
「雨ですねぇ…」
あさ美が何の気なしに呟きました。
「紺野さんは、雨嫌い?」
亜弥も、大して意味もなく尋ねていました。
あさ美は一度視線を亜弥に向けてから
ぼんやりと考えました。
雨。
その、総体的な憂いを帯びた響き。
煩いはずなのに、晴れの日よりも静かに感じる不思議。
幻のように耳を惑わす、それでいて心地よい音。
視界を眩ませる、どこか翳のある、秘密めいた可笑しさ。
思えば思うだけ、雨の日の妙にくすぐったい懐かしさが浮かんできました。
「好きです」
- 380 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/02/27(日) 12:57
-
あさ美の応えを聞いた亜弥は、仄かに微笑みました。
それは自分でも気付かないくらいの、小さな小さな笑みでした。
「私も雨、好きだなぁ」
「そうなんですか?」
「うん、実はあたしってば来週誕生日なの。梅雨生まれなんだよね」
「へぇ…」
会話はいったん途切れ、また二人黙って窓の外を見ました。
ただ先ほどとは違う、ここにいる二人だけのお互いが
同じように好きな雨を見ているという
安心感にも似た気持ちを抱いて。
二人にとって、会話の無い静かな教室は随分と居心地のいい空間になっていました。
- 381 名前:放熱器 投稿日:2005/02/27(日) 12:59
- ここまでです。
月一すら危なかった_| ̄|○
気が付けばもうすぐ松浦さん高校卒業の年ですよね…。
- 382 名前:放熱器 投稿日:2005/02/27(日) 13:04
- >>368
リアルタイムですか、お恥ずかしい…。
これからもこの話の変な人たちを
マターリ見守ってくださると嬉しいです。
>>369
今回も変なとこで…。細切れで申し訳ないです。
待っててくださって本当にありがとうです。
>>370
作者も続き気になって(ry
どうなるんでしょうね…。
>>371
二人の距離は大分近づいてきたような
まだ遠いような。私自身やきもきさせられてます(w
- 383 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/28(月) 01:56
- 心地よい空気ですね
静かな二人の時間がほのぼのというかじんわり染み渡る感じでした
- 384 名前:七誌さん 投稿日:2005/03/06(日) 20:14
- 更新お疲れ様です〜。
なんか二人の空気ってのか雰囲気ってのかわかりませんが
ほんわかしてていいですね〜。
なんか見てて落ち着きます。
- 385 名前: 投稿日:2005/04/23(土) 21:35
- hozen
- 386 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/03(金) 01:41
- ho
- 387 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/18(土) 21:56
- 松浦さんと紺野さんのCPの話はじめて見ました。
おもしろいです♪更新がんばってください。
- 388 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/18(土) 21:56
- あげてしまいました。ごめんなさい。
- 389 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:47
- それからまた二人は勉強会に戻りました。
さっきの様に黙々と。カリカリと鉛筆の走る音が、よく教室内に響きました。
亜弥はまた数学の問題との格闘に没頭しました。
勉強なんて大嫌い。そんな亜弥が、何故か今この瞬間にはそれらに対してひどく熱中していました。
この、数日前までなら予想だにしていなかった、あさ美と二人きりの空間。
それを、間接的にとはいえ設えてくれたのは今目の前にある忌まわしい課題たちなのです。
嵌ったことにはとことん全力投球の亜弥。
問題が次々と頭の中で解けていくのはとても快感で
特撮ヒーローよろしく、バッタバッタと敵兵を倒していく自分の姿を思い浮かべたりして。
あさ美はそんな真剣な亜弥の表情を、またじっと見つめていました。
さっきよりも、亜弥があさ美に助けを求める回数は減っていました。
自分では気付いていませんでしたが、亜弥の解答速度は随分上がっていました。
あれだけ、山のようにあったと思われた課題が、もう半分以上も片付いていました。
(凄い集中力…私なんか本当に何べんもやらないと出来ないのに…
松浦さんって、ほんと何でもできるなぁ…)
あさ美は思いました。
小さな嫉妬。亜弥はあさ美にとって、自分にないものを無数に持っている人なのです。
その社交的な明るさや、場の雰囲気を一気に変える存在感。
それに、ここ一番というところで発揮する機転、身軽さ。
- 390 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:48
- 今思えば、あさ美はそんな亜弥にずっと嫉妬していたのかもしれません。
そして今、そんな嫉妬が随分馬鹿らしいことだったと思えてきました。
亜弥には確かに様々な才能が備わっていますが、見ていれば、亜弥自信、あまりそれに気付いていないようなのです。
だから鼻にかけるでもなし。彼女は彼女なりに日々一生懸命なのですからあさ美も
そんな姿のどこにも否定の余地を見出せません。
考えが纏まると、今までの自分が急に恥ずかしくなってきました。
つまらない嫉妬とか、そんなものの為に彼女に対して突っ張ってみせたのですから。
亜弥の真剣な、美しい顔を見ながら
あさ美の頭の中では棒人間が一生懸命に白旗を振っていました。
(完敗です)
いったい何の勝負をしていたものか、よくわからないのですが。
- 391 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:49
- それにしても不思議でした。
亜弥に(妄想中でですが)投降していることに、あさ美はちっとも悔しさが沸きませんでした。
今までだったら、意地でも認めなかったことでしょうに。
今亜弥が、あさ美の中で大きな存在であることに不思議な心地よさがありました。
それが誇らしくも思え、胸が高鳴るのでした。
(それって、一体どういうことなんでしょう…
私なんか、変だなぁ…。この間から、ずっと変だ…)
あさ美は悶々、考えていました。
自分の中の小さな違和感。どうにも蠱惑的な、それでいて触れれば崩れてしまいそうな
微妙な感情。そんな部分の存在に、うすうす気付いてはいましたが、今はっきりとそれを知覚したのです。
ただ、それはあまりに触れにくくて、ある種恐怖の対象でもあって、紐解くことができないでいました。
しかし、今胎動しているそれが、直ぐにも爆発的に生長して
あさ美を飲み込んでしまうという予感がありました。
それはやっぱり、怖いことでした。
- 392 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:50
- その頃亜弥は、それはもう勢いづいて、どんどんと敵を薙ぎ倒していました。
なにせ自分には学年トップという、最強の援軍がついているのですから
何一つとして怖いものはありません。
少し手強い相手に当たったら、あさ美に尋ねればいいのです。
あさ美はぼんやりとしていましたが、亜弥が質問すればすらすらと教えてくれました。
いい気分。敵の征圧は間近に迫っています。
さあ、あやや軍の軍旗を掲げ、大物と対峙します。
これは中々に強敵。どうにも隙が見当たりません。
紺野軍に出動要請をしましょうか。そうすれば一発でカタがつきますが…いやいや。
今までの敵を倒してきたあやや軍は一味違うのです。なんの、ちょいと敵に切り込んでみますと
ほうら、陣形が乱れた敵の姿はどこかで見たかたち。
こうなればちょっと変形させて、それから公式を使って一発です。
ワハハハ、あやや軍に死角なーし。
さあ、次もどんと来い。って…
「あれ?」
- 393 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:50
- 思わず素っ頓狂に呟く亜弥。
ない。無いのです。次の敵、いや問題が。紙を捲るとそこは茶色い机の面でした。
「お疲れ様です。すごい集中力でしたね。びっくりしました」
あさ美が言います。
「あれ…?もしかして、終わった?」
「終わりですよ?集中しすぎてトリップしてました?」
思わずあさ美の顔を見上げる亜弥。
あさ美が、なんとも満足そうな、嬉しそうな表情で亜弥を見ていました。
あさ美の顔と、机の上の紙束を交互に見る亜弥。
その姿が可愛らしくて、あさ美はクスリと笑いました。
「うそぉ…」
信じられないという顔の亜弥。
だってあんなにあったのです。さっき休憩したときにはまだ半分もいってなかったのに…
- 394 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:51
- 「2時間半」
「へ?」
「2時間半ぶっ続けには恐れ入りました。私だって絶対無理ですよ」
言われて時計を見る亜弥。7時すぎ。外はもう、殆ど真っ暗でした。
蛍光灯のついた教室が、そこだけ隔絶された空間ででもあるように、闇の中に浮き上がっていました。
「私、やったんだ…」
漸う、気付く亜弥なのでした。
そして気付いた後で、どっと身体を襲う疲労感。
喩えるなら、トップランナーがフルマラソンを走り終えたようなものですから。
それは並大抵のことではありませんでした。
それに休憩前を併せれば3時間強ですから、もう。
亜弥自信ですら想像を絶する数字だったため、そうと知ると疲弊は一入でした。
(もう二度と数字なんて見たくない…)
まあ、そう思うのもご尤も。
- 395 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:52
- そこで、亜弥ははたと気付きました。
「もしかして…3時間も付き合わせちゃった…?」
確認するまでも無いことですから
あさ美は普通に頷きました。
「うぁ…ごめん…」
「いえ」
「超ごめん…」
「いえいえ」
あさ美だって普通に2時間半もじっとしていれば疲れるものですが
不思議、亜弥を見ていると退屈もなくて、ただじっと考え事をしているだけで
やけに楽しかったのです。
でも亜弥にしてみれば、あんまりにも申し訳ないことでした。
「外、もう真っ暗じゃん…ほんとごめんね、紺野さん…」
「いえ、いいですって。なんか…楽しかったですから」
「え…?」
思わず、言ってしまったことにはっとするあさ美。
- 396 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:53
- あんまり小さくなる亜弥に、問題ないことを伝えるための気の利いた言葉が思い浮かばず
思わず感じていたことをそのまま口に出してしまったのです。
しかも、それで動揺してしまったあさ美には、それを取り繕うだけの気の聞いた言葉も
やっぱり思いつきませんでした。
「いや、なんかその…真剣な松浦さんの顔を見れて得したっていうか…」
「……」
「結構その…かっこよかったというか…」
どつぼに嵌っていくあさ美なのでした。
言いながら自分でも訳がわからなくて、顔がどんどん紅潮していくのだけがわかりました。
亜弥のほうでも、ほんのりと頬を染めたりなんかして。
「か…」
「か?」
「帰りましょうか…ほら、もう晩いですし…」
「あ、うん…」
- 397 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:54
- 帰り支度をしようと立ち上がる二人。
腰がずんと重くなりました。
「うぁ…腰…痛…」
「あたしも…」
でも、そんなで妙な歩き方をするのがお互い可笑しくて、笑いました。
笑うと、何やらおかしな空気だったのが拭い去られて
二人は内心でほっとしました。
また無言での帰り仕度。
外ではやっぱりまだ、雨が降っているようでした。
あさ美は昨日親に、今日の帰りが遅くなるかもしれないことを伝えていました。
でも亜弥はそのことを伝えてなかったことに気付きました。
慌てて携帯電話を取り出し、親にその旨をメールする亜弥。
あさ美はそんな亜弥を横目で見ていました。
「携帯もってるんですね」
「紺野さんは?持ってないの?」
「校則違反」
亜弥は思わず笑いました。
「紺野さんらしーや…」
二人教室を出て、廊下に出ると、そこは本当に真っ暗でした。
- 398 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:54
- 外の夜の光のほうが、まだ明るいくらい、廊下は深として不気味でした。
二人の靴音がカンカンとよく響きました。
ちょっとした肝試し。
でも、外から聴こえる雨のおとが優しくて、それにお互いに
隣から感じられる息吹が頼もしくて、勇み歩いていきました。
外に出ると鼻に雨の匂いが届きました。
街灯に照りかえる雨の飛沫。
夜の雨もまた、心地よい響きを二人の元に届けてくれます。
闇の中に、お馴染みの赤とピンクの傘が並んで行きました。
いろんなことが二人の頭を廻っていました。達成感。疲労感。
それよりも、今隣を歩いている彼女のことを。
こうして夜の歩道を二人並んで歩くということは、思えば随分不思議なことでした。
昨日は麻琴と三人。それが今日は二人きり。
それでも、二人並んで歩くことはごく自然なことで
違和感なんてありませんでした。それは人が見ても同じ。立派に、友達どうしに見えることでしょう。
- 399 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:55
- 亜弥は達成感と疲労感に浮ついて、ぼんやりとした頭の中で考えました。
そういえば、これでもう、あさ美と二人でいる理由は無くなってしまったことを。
もともと、ただ勉強を見て貰っていただけで、二人の関係は
それ以上でも以下でもなかったこと。
そしてそれがたといようもなく、寂しいということ。
何も言わず、ずっと自分に付き合ってくれた、あさ美が
やっぱり大好きだということを。
一歩一歩進むたびごと、二人が別れる時間が近づいてくるのです。
もう、こうして隣同士歩くことは、無いかもしれない。
降りしきる雨が、私たちの足を絡めとって動けなくしてくれたらいいのに。
この夜道が、どこまでも、無限に伸びてしまえばいいのに。
その横であさ美は、不意に鳴ってしまったお腹の音を亜弥に聴かれていないかとビクビクしていました。
幸い、その音は雨音に消されて亜弥には届いていませんでした。
- 400 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:56
- 「ほんとうに、ありがとうね」
亜弥が呟きました。
「ふぇ?」
一瞬、お腹の音を聞かれたのかと思って間抜けな声を出すあさ美。
「あ、いや、本当に、いいですよ。完璧です」
「んふふ」
あさ美の台詞が可笑しくて含み笑いの亜弥。
それにあさ美は照れたみたいに、言葉を続けました。
「松浦さんも、この分なら次のテストは大丈夫なんじゃないですか」
「あぁ…テストかぁ。数学は、まぁ何となく自信ついたけど…他の教科がなぁ…」
「ま、地道にやるしかないですね」
あっけらかんと言うあさ美に亜弥は溜息。
「また、難儀するようなら教えてあげますから」
その言葉に亜弥がぱっと振り返りました。
思わず足を止めるあさ美。お互いの傘と傘がぶつかって、二人の間に大粒の水滴が落ちました。
驚いた顔が、次第に溶けて、笑顔になる亜弥。ニヤニヤ顔。
- 401 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:57
- 「いいの?」
そんなニヤニヤ顔に、何か嫌な予感のするあさ美。
「えっと、取り消し…」
「却下!」
俄然強くなる亜弥。たじろぐあさ美。
「うしっ!他の教科も紺野さんパワーで…」
「ちょっと…」
「よしっ、夏休みゲッツ!」
「夏休みって…」
唐突にハイテンションになった亜弥にあさ美は戸惑いました。
だけど、その方が亜弥らしいなと思うと、苦笑いするしかありません。
亜弥は実際のところ、夏休みはともかく
またあさ美と関われる大義名分を得たような気がして、それが嬉しかったのですが
あさ美にはそんなことわかるはずもありません。
- 402 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 08:57
- ともかく亜弥の気分は高揚していました。
二人の帰路の分かれ道。そこに差し掛かっても、亜弥にはまだ
先があるような気がして、そりゃあ別れるのは寂しいけども、楽な気分でした。
ちょっと、勇気だって出せるのです。
「あ、私こっち」
「うん。今日はお疲れ様でした」
「お疲れ様。ほんとうに、ありがとね。紺ちゃん、また明日!」
「ふぇ!?」
亜弥はそういうと、タタタと帰路を駆けていきました。
顔を真っ赤にしているのを、誰にも見られないように。
濡れた草の下にいた虫だけ、その顔を見ていたんですが。
残されたあさ美はまたポカン。
「紺ちゃんって…誰…?」
あんたです。
それに気付いたのはおよそ一分、同じ場所で佇んで、雨に打たれた後でした。
- 403 名前:放熱器 投稿日:2005/07/11(月) 08:59
- 半年ぶり…
すいません_| ̄|○
今年入って更新まだ2回目…
すいません_| ̄|○
- 404 名前:僕たちの時間 投稿日:2005/07/11(月) 09:07
- >>383
空気感じていただけて嬉しいです
これからも単調な空気かと思われますが…
>>384
リアルでもほんわかした二人ですからね〜(松浦さんの突っ込みは激しいですが…)
私も透きなもんで、それを感じてもらえてよかったです。
>>385-386
∬;´◇`∬あぅあぅ…ごめんなさい
>>387
松浦さんと紺野さんのCPは今影でブームらしいですよ
川o・-・)<嘘おっしゃい
更新頑張らないでごめんなさい_| ̄|○
>>388
私としてはあんまりagesage拘りないですのでかまわないんですが
やっぱ他の作者さんに迷惑になったりするのかな…
- 405 名前:放熱器 投稿日:2005/07/11(月) 09:08
- ↑名前欄間違えた_| ̄|○
- 406 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/12(火) 00:50
- わ!!更新きてるっ!!!待ってましたよ作者様!
なんか…イイ感じじゃないっすかこのふたりw
あやこん最高すぎますね!!
- 407 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/13(水) 23:46
- お帰りなさいませ!作者さま。
更新心待ちにしてましたよぉ。
このふたり、ゆっくりとですが確実に歩み寄ってる感じがいたします。
このままいくとこまでいっちゃえ!!(笑
- 408 名前:七誌さん 投稿日:2005/07/17(日) 05:09
- 久々更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
・・・待ってましたっ!そしてやはりこの二人!!
最高っす!
最後の紺野さんのあっけらか〜んとした顔も(´∀`)b<グッドです!
松浦さんの嬉しそうな顔・・・想像したら結構オモロイ・・・w
- 409 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/16(火) 00:26
- hzns
- 410 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/08(木) 23:07
- あまりマイナーなカプは得意な方ではないのですが
すんなり、物語の世界にはいっていけました。
いいですね。あやこん。はまってしまいそうです。
素敵なお話を書いてくれてありがとうございます(笑
次の更新を心待ちにしてまっす!
- 411 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/20(木) 00:53
- 保全です。更新まち!
- 412 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:49
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 413 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 01:55
- 更新まってるよぉぉぉぉ
- 414 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/09(木) 22:23
- 整理も迫ってきたことですし生存報告していただけると嬉しいです
- 415 名前:放熱器 投稿日:2006/02/14(火) 18:21
- 一応生きてます…すみません_| ̄| ○
整理前には更新したかったのに…すみません_| ̄| ○
- 416 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/14(火) 22:11
- 生存報告、安心しました。
いつまでも待ちますよ。
焦らず、作者さんのペースで頑張ってください。
- 417 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/27(木) 00:20
- 待ってます。気になりますとても。
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