一人ぼっちの彼女達
- 1 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/05(金) 21:46
- 85年組みが総出演。
気分によっては他メンもチラホラ。
初な上に内容もハア?な文章ですがよろしくお願いしまつ。
- 2 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/05(金) 21:47
- とりあえず一旦落ち。
- 3 名前:G-side 投稿日:2004/03/05(金) 21:49
-
―ガラ―
教室の扉が開き、一人の少女がクラスに入ってくる。
先にいた何人かの生徒が彼女に目を向けるが、
入ってきた少女の顔を確認すると話しかける事もなく、談笑の輪の中に戻っていった。
また、入ってきた少女もいつも通りのその光景に何を感じるわけでもなく、黙ったまま自分の席へつく。
- 4 名前:G-side 投稿日:2004/03/05(金) 21:50
-
彼女の名前は後藤真希。
彼女はいつも一人だ。そしてその声を聞くこともない。
別にクールを装っているわけではない。単に友と呼べる人物がいないのだ。
だからといって、自ら作ろうという気はさらさらない。
もっとも、いたとしても彼女は人と関わる事を極端に嫌っていたし、
常に、心ここに在らずのスリーピングな状態なのでそう変わりはないのだろうけど。
- 5 名前:G-side 投稿日:2004/03/05(金) 21:52
- ただ、彼女には友という域を通り越して親友と呼べる人物がいた。たった一人の幼なじみ。
ただしその人物はこの学校にはいない。
だから後藤はいつも一人でいるし、喋ったりもしない。
別に苦ではない。
それなりに充実した高校生活を送っていた。
今日も彼女の携帯がポケットの中で唸る。
気だるそうに身体を起こすと、喧しく唸る携帯を開き、黙らせる。
メールが一件、届いていた。
- 6 名前:G-side 投稿日:2004/03/05(金) 21:53
-
メールを読む彼女の顔には珍しく表情があった。
笑っていた。
しかし孤立している彼女を気に留める人間などこのクラスにはいないわけで。
微笑む後藤に気付く人間は誰一人としていなかった。
- 7 名前: 投稿日:2004/03/05(金) 21:55
-
- 8 名前:M-side 投稿日:2004/03/05(金) 21:57
- ―ガラッ―
教室の扉が開き一人の少女が入ってきた。
先にいた生徒達が彼女に目をむけ、その少女を確認する。
途端に静まり返る教室。
「お、おはよう・・・」
誰かが発したその挨拶は小さく震えていて、
耳を済ませていなければ聞こえないほどの声だった。
- 9 名前:M-side 投稿日:2004/03/05(金) 21:57
-
少女は耳が良かったのか。その声を確認すると、
「おはよう。」
そう言って笑顔を浮かべた。
- 10 名前:M-side 投稿日:2004/03/05(金) 21:58
-
彼女の名前は藤本美貴。
彼女もまた一人だ。だが、友達がいないわけではない。
このクラスを出れば下らない話をしあう友人は何人かいる。ただ、大抵いつも一人でいる。
何故一人でいるのか。
それは周りの皆が彼女を恐れているから。
- 11 名前:M-side 投稿日:2004/03/05(金) 21:59
-
夏休み中にヤクザ相手にタイマンはっただとか、一人で暴走族のチームを一つ潰しただとか、
白バイ警官に二人乗りを注意され、その警官の乗っていた白バイを蹴り倒しただとか、
その他もろもろの噂が彼女の周りを取り巻いていた。
- 12 名前:M-side 投稿日:2004/03/05(金) 21:59
-
当の本人はその噂を否定するでも肯定するでもなく、
(つーかヤクザ相手に喧嘩してたら、美貴今頃生きてないし。)
(族を潰すって、頭の奴のしたら消えるのかな?)
(アレは蹴り倒したんじゃなくて、たまたま倒しちゃっただけで、しかもチャリンコだったし。)
と一人、心の中で突っ込んでいた。
- 13 名前:M-side 投稿日:2004/03/05(金) 22:00
-
そんな噂が積もり積もって、藤本の周りに壁を作っていた。
だから藤本は一人だ。
- 14 名前: 投稿日:2004/03/05(金) 22:01
-
- 15 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/05(金) 22:02
-
とりあえず今日はココまで。
- 16 名前: 投稿日:2004/03/06(土) 10:57
-
- 17 名前:Y-side 投稿日:2004/03/06(土) 10:59
- 吉澤ひとみは急いでいた。
何故急いでいるのか。答えは簡単。彼女は学生だから。
彼女の通う高校では、8時45分にSHR(ショート・ホーム・ルーム)が行われる。
そこで朝イチの出席が取られるのだ。
そして今の時刻は9時10分。
SHRどころか一限目ももう遅刻である。
とにかくそんな理由で彼女は急いでいた。
- 18 名前:Y-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:00
-
結局学校に着いたのは5分後の9時15分。
駐輪場に愛車を停め、玉のように浮かぶ汗を拭き、一言。
「ふぅ、間に合った。」
- 19 名前:Y-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:00
-
全然間に合っていない。
間に合うどころか、教室にも着いていない。
だがこの一言を言わなければ彼女は気が済まなかった。
だって、一生懸命必死になって漕いできたのだ。
何のために汗を浮かべ、頑張ってきたんだ!と、彼女の中で憤慨の念が生まれる。
その念を打ち消すために。
間に合っていないけど、自分の必死な行動を無意味にしないために。
一言言っておかなければ気が済まなかった。
- 20 名前:Y-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:01
-
そして教室へ。
ヘラヘラとニヤけ顔を浮かべ教室に入ってきた彼女を、
クラスメイト達はまるで異物を見るかのような目で見やり、
ある者は黒板へ、またある者は教科書へと目を落とした。
- 21 名前:Y-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:02
-
そう、彼女も一人だ。
スポーツ推薦で入学したこの高校、実はとんでもない進学校だったのだ。
中学時代ロクに教科書を開いていなかった彼女の頭がついていける訳もなく、
あっという間に置いてけぼりになった。
エリート特有の尊大な自尊心は、未来のエリート達にももう既に備わっているようで、
彼女と親しくしようという物好きな人間はこのクラスには誰一人としていなかった。
そして彼女は一人になった。
- 22 名前:Y-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:03
-
ただ、進学校だからといって頭の堅い、難しい奴ばかりではない。
吉澤のようにスポーツ推薦で入学してきた生徒もいる。
そしてそういった生徒達は、一般のスポーツ人のようにバカな奴が多くいた。
だから吉澤はクラスで一人でも淋しくなかったし、
自分で自分は一人だと、自覚するような事もなかった。
- 23 名前:Y-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:04
-
それになにより。
この学校に友はいなくとも、
昔から、いや、これからもずっと親友と呼べる人物が彼女にはいたから。
周りから見れば彼女は一人だった。
けれど、彼女は一人ではなかった。
- 24 名前:Y-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:04
-
一人だと、自覚する事はなかった。
どんな時でもヘラヘラと笑っていた。
- 25 名前: 投稿日:2004/03/06(土) 11:05
-
- 26 名前:R-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:07
- そしてここにも一人ぼっちの生徒が。
彼女は本当に一人だ。一人になってしまった。
そう、クラスで、学年で、もしかすると学校中の女生徒からハブられているのだ。
その声に嫌悪感を抱くのか、はたまたその完璧すぎる容姿に激しい僻みを覚えるのか。
大抵の女生徒がそのどちらかの感情を抱えて彼女と関わっていた。
- 27 名前:R-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:08
-
彼女の名前は石川梨華。
ちょっと黒くてネガティブで。ネガティブだけどやたらポジティブで。
可愛いけれども声はキンキンのアニメ声。まあ、最近はその声を聞くこともなくなったが。
- 28 名前:R-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:08
-
彼女の容姿は美しい。ちょっと黒いのが玉にキズ。
それでもちょうど盛り時の男子生徒達はそんな黒さを物ともせず、
事あれば石川の事を噂していた。
面白くないのは女生徒達だ。
最初の内はそれなりに石川とも付き合っていたが、
あまりにも男子生徒が石川、石川!と五月蠅いのと、
その対応にいちいちブリブリする石川に苛立ちが募り、一人、二人と離れていった。
そして今に至る。
- 29 名前:R-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:09
-
しかし石川は分からない。
何故私はハブられてるの?
石川には分からない。
だって石川はブリッ子なんだもの。天然物のブリッ子なんだもの。
天然だから気付かない。
演じている訳ではない。元からそうなのだ。
しかたないのだ。しょうがないのだ。
何故自分が皆から外されているのか。
それが未だに分からない。
- 30 名前:R-side 投稿日:2004/03/06(土) 11:10
-
分からないまま一人でいる。
一人で自問自答を続ける。しかし答えは分からない。
だって彼女は気付いてないから。
自分が相当のブリッ子だって事に。
気付かないまま、今日もまた延々と自問自答を続ける。
- 31 名前: 投稿日:2004/03/06(土) 11:10
-
- 32 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/06(土) 11:11
-
更新終了。
- 33 名前:名無し 投稿日:2004/03/06(土) 17:48
- 面白い! こりゃ楽しみだ
- 34 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/07(日) 23:49
- うわあ、レスがついてる!
33 名無しさん
>ありがとうございます!
面白いですか?うわあ、嬉しいなあ。
小説書くの初めてなんでそう言って貰えるとありがたいです。
最後まで書けるように頑張ります!
ってなわけで更新します。
- 35 名前: 投稿日:2004/03/07(日) 23:50
-
- 36 名前:M-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:50
- 藤本は屋上に来ていた。
サボっている訳ではない。今は休み時間だ。
屋上の柵に身体を預け、空を見上げる。
先程、仲の良い友人から聞かされた話がまだ頭の中で流れている。
- 37 名前:M-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:51
-
「美貴、アンタまたやらかしたの?」
「何を?」
「何をって、アレよ。交番のガラス。アレやったの美貴だって聞いたんだけど。」
「交番のガラス?割れたの?美貴が?」
「え、違うの?何か白昼堂々とバット持ってさぁ、おもっきしヤってたってよ?」
「はは、楽しそうだね。でも美貴じゃないよ。」
「マジ?なーんだ。白昼堂々ってトコで美貴だと思ったんだけどな。
あー、武勇伝候補の一つが消えちゃったよ。」
- 38 名前:M-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:52
-
しかしこの友人も言ってくれる。
白昼堂々って、彼女は学生だ。しかも結構真面目な。
真昼間から交番に赴くなど、自首を決意したコソドロくらいしかしない。
それに何故そこで藤本の名前が挙がってくるのか。
彼女にはソレが分からない。おまけに武勇伝候補って何だ?
皆して私を陥れたいのかな?
- 39 名前:M-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:52
-
そんな考えがチラっと頭を過ぎったが、考える事はやめる事にした。
もうすぐチャイムがなる。
藤本は結構真面目な生徒なのだ。
どっかのバカのように遅刻などしない。
ふぅ、と大きく息を吐いて、屋上を後にした。
- 40 名前:M-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:53
-
授業開始まで、後約一分。
大丈夫、間に合いそうだ。
- 41 名前: 投稿日:2004/03/07(日) 23:53
-
- 42 名前:G-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:54
-
その時間、珍しい事に後藤が起きていた。
しかし授業を聞いているのかどうかは分からない。
どこか遠い目をしてボーっと窓の外を眺めている。
教師としては、後藤が授業中に起きている事など奇跡に等しいので、
ノートを開いていなくても、現国の授業なのに数学の教科書が出ていても、
注意をするような事はしなかった。
授業に参加してくれればいい。
自分の話をちょっとでも聞いてくれたらいい。教師はそう祈っていた。
- 43 名前:G-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:55
-
しかし教師の祈りも虚しく、後藤は授業などこれっぽっちも聞いていなかった。
自分の出した教科書の違いに気付いただけだった。
気付いたからといってソレを引っ込めるでもなく、後藤は考えていた。
放課後の事、親友の事。
- 44 名前:G-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:55
-
先程後藤を夢の世界から引き戻し、
表情を作らせたそのメールは親友からのものだった。
『部活休み。』
- 45 名前:G-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:56
- たった四文字(と句読点)のメール。
四文字だけの短い短い、用件だけのメール。だが後藤には、
部活が休みなんだあーだこーだとはしゃぐ親友の姿が、手に取るように見えていた。
「んあ、楽しみ。」
- 46 名前:G-side 投稿日:2004/03/07(日) 23:57
-
科目の違う教科書と閉じたままのノートを重ねて枕に。
下を向いてコッソリ笑うと僅かその3秒後。
後藤はまたまた夢の世界へとトリップしていた。
そんな後藤を現国教師が呆然とした表情で見つめていた。
- 47 名前: 投稿日:2004/03/07(日) 23:57
-
- 48 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/07(日) 23:58
-
短いけど。
更新終了。
- 49 名前:名無し。 投稿日:2004/03/08(月) 19:37
- 面白い!早く続きが読みたいです。
- 50 名前:名無し 投稿日:2004/03/08(月) 22:34
- 楽しみ楽しみ
- 51 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/09(火) 02:12
- おもしろそ〜
85年組み好きなんで楽しみです。
- 52 名前:dada 投稿日:2004/03/10(水) 01:37
- 私も85年組大好きなんですよ!
4人はこの先どうなるのかな?
楽しみです。
- 53 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/10(水) 23:23
-
49 名無し。さん
>ありがとうございます。
更新遅かったりしますが楽しみにしていただければ幸いです。
50 名無しさん。
>ありがとうございます。
頑張ります!
51 名無し読者さん。
>85年組み好きですか?
自分も大好きです。楽しみにしててください。
52 dadaさん。
>この先どうなっちゃうんでしょうね〜?
85年組みは最高です。
みなさんレスありがとうございました。
- 54 名前: 投稿日:2004/03/10(水) 23:24
-
- 55 名前:Y-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:24
-
吉澤はうかれていた。
何故うかれているのか。答えは簡単。今日は部活が休みだから。
スポーツ推薦を推奨しているだけあって、この高校の部はどこもレベルが高い。
県大なんて当たり前、全国なんて出て当然。
そんな部がゴロゴロとして在る。
吉澤の所属しているバレー部もそのゴロゴロしている部の内の一つだ。
さすが全国レベル。練習はハンパない。
- 56 名前:Y-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:25
-
これバレーにゃ関係ねーだろーぶーぶーと叫びたくなるような、
本当に何のために、何を鍛えているのか全く分からない特訓が一週間続く事なんてザラだ。
二学期になってバレー部の人数は一学期当初の人数に比べ、半数が減っていた。
練習がキツく、皆辞めていったのだ。
しかし吉澤は辞めたりしない。
だってバレーが好きだから。それに痩せられる。一石二鳥じゃないか。
それが表向きの理由。
- 57 名前:Y-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:26
-
もう一つの理由。
誰にも言えない、本当の理由。
だって辞めたら。
私の居場所がなくなってしまう。
- 58 名前:Y-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:26
-
現にそうであった。
吉澤の真の笑顔が、声が聞けるのはこの部活動中でしかなかった。
この学校で友と呼べる人間はバレー部の中にしかいない。
バレーを辞めてしまったらどうなる。
スポーツ推薦で入学したこの進学校。
私に居場所はないじゃないか。なくなってしまうじゃないか。
- 59 名前:Y-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:27
-
だから吉澤は部活を辞めない。
辞めろと言われても辞めない。
辞めたくなっても、辞めれない。
- 60 名前:Y-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:27
-
そんなバレー部が珍しい事に今日は休み。
吉澤はうかれていた。
授業中にコッソリ携帯を開き、メールを送った。
クラスメイトは皆、前を、教科書を見ている。
携帯を弄る吉澤に気付く者は誰一人としていなかった。
- 61 名前: 投稿日:2004/03/10(水) 23:27
-
- 62 名前:R-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:29
-
石川は窓の外を眺めていた。
ボーっとしているわけではない。授業を聞いているわけでもない。もちろんノートも取っていない。
考え事をしているのだ。
そう、また今日もいつものように彼女の仲では自問自答が繰り広げられていた。
一つの事に集中すると、他の物にはてんで気がいかない。これは彼女の性情だ。
- 63 名前:R-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:29
-
実はこの石川梨華という人物、ちょっとブッ飛んでいる。
いや、ちょっとどころではない。前言撤回、かなりだ。かなりブッ飛んでいる。
そして被害妄想が在り得ないくらいに激しいという事も知っておいて欲しい。
石川は机に肘をつき、外を流れる雲を見ていた。
頭の中では先程の休み時間、クラスの女生徒達が交わしていたやりとりがグルグルと廻っている。
- 64 名前:R-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:30
-
「ていうかさぁ、石川さんまた黒くなってなぁい?」
「あー思う思う。なんかメラニン2倍増!!ってカンジだよね。」
「プハハ、ちょーウケるぅ!メラニンさんじゃん!」
「んふ、いいねえ。ちょっと言ってみようか?」
「反応するかな?」
「「「メラニンさん!!!」」」
- 65 名前:R-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:31
- 突然発せられた声に驚き、石川は声の出所を振り向いた。
コレは何らおかしい事ではない。
突然の大声に反応する。人間なら誰でも持ち得ている普通の感覚だ。
しかしこのクラスにあの言葉。
あっという間に笑いが伝わり、石川は訳の分からぬまま皆の笑い者になっていた。
- 66 名前:R-side 投稿日:2004/03/10(水) 23:32
-
(どうせ呼ぶならメアリー!とか、キャシー!とか、あと・・・ルーシー?ううん、
どうでもいいけどもっと可愛い名前で呼んで欲しかったわ・・・チャーミーってのもありよね。)
言っておくが、この石川梨華という人物、かなりブッ飛んでいる。
- 67 名前: 投稿日:2004/03/10(水) 23:32
-
- 68 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/10(水) 23:33
-
今日はココまで。
- 69 名前:dusk 投稿日:2004/03/11(木) 01:54
- この小説の雰囲気、すごく好きです。
85年組がメインだなんて、ワクワクです♪
期待しております。
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 04:32
- いい感じですね。
よしごまかな!?
だったらうれしいかも
最近少ないから
頑張って☆
- 71 名前:名無し娘。 投稿日:2004/03/15(月) 19:02
- 石川さん! 最高です
- 72 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/15(月) 22:37
- 69 duskさん。
>この雰囲気を壊さないように頑張ります。
85年組万歳!!
70 名無飼育さん。
>自分よしごま好きですからちょっとよしごまテイスト入ってます。
最近少ないですよね〜。頑張ります!
71 名無し娘。さん。
>ええ、石川さんは最高です。
レスありがとうございました。
- 73 名前: 投稿日:2004/03/15(月) 22:37
-
- 74 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:38
-
時刻は午後五時。
一人ぼっちの彼女達(約一名は頑なに否定するが)の住む街から一駅二駅離れた繁華街。
その一角に位置するファーストフード店に二人の少女。後藤と吉澤。
ポテトをパクつきながら吉澤は後藤に、今日の遅刻話を面白おかしくチョイと色をつけて話していた。
- 75 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:39
-
「・・・でね、今日は遅刻しちゃったわけなのさ。」
「んあー、大変だったねー。」
「そぉとぅね。」
「んはは、そぉとぅ?」
「へへ、そぉとぅ。」
「んあー。」
「えへへ。」
- 76 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:40
-
二人の会話はスローペースな上に、傍から聞いているとただ笑いあっているようにしか見えない。
しかし二人の中ではちゃんと通じているのだ。だってこの二人昔からずっと一緒にいたんだもの。
目を見れば相手の言いたい事なんてすぐ分かってしまうのだ。
この二人だけに共通する特技。
『目で会話』
- 77 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:41
-
(ごっちん可愛いなあ)
(よしこはバカだなあ)
「えへへぇ、ごっちんに言われたくないよぉ。」
「んあー、照れるじゃんかぁ。」
「へへへ。」
「んはは。」
- 78 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:41
-
ホラ、こんな風に。
二人は二人。ちゃんと通じ合ってる。
約一時間前に購入したMサイズのポテトは、既に萎びている。
- 79 名前: 投稿日:2004/03/15(月) 22:42
-
- 80 名前:R-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:42
-
石川は校庭を歩いていた。
早退するわけではない。ましてやサボるわけでもない。
今日の授業は全て終了したのだ。
そう、今は下校時間。
ある者は部活へ、そしてどの部にも所属していない者は家へ、または街へと繰り出す時間帯である。
- 81 名前:R-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:43
-
石川は無所属。どの部にも所属していない。
いや、正確に言えば少し前までは所属していた。テニス部に。
しかしあまりの下手っぷりと彼女の発するキンキン声に部員が頭痛を覚え、
皆を代表したテニス部部長から退部をお願いされたのだ。
だから石川は無所属。
所属しているのは帰宅部。
- 82 名前:R-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:43
-
帰り道を共にする友人などいやしない。
石川は一人で校庭を歩いていた。
- 83 名前:R-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:44
-
空は抜けるような青。
しかし彼女はその青に反比例するように暗く、黒く、沈んでいた。
肌色の事ではない。彼女の心中が、だ。
彼女は真っ直ぐ家へ帰ろうとしていた。
今日び石川のように授業終了後真っ直ぐ家へ帰る女子高生など珍しい。石川は稀少種だ。
大抵の子は街へと繰り出しているのだ。
というか、石川だって本当は街へ出たいのだ。でも行きたくない。
だって私は一人だし。クラスの子に、学校の子に出会ったらどうしよう。
―怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・―
- 84 名前:R-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:44
-
だから今日も彼女は真っ直ぐ自宅へ向かう。
俯いたまま規則的に足を動かす。
だから、気付かない。
- 85 名前:R-side 投稿日:2004/03/15(月) 22:45
-
後ろから猛スピードで人が追いかけてくる事に。
距離は後5メートル。石川はまだ、気付かない。
- 86 名前: 投稿日:2004/03/15(月) 22:45
-
- 87 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/15(月) 22:46
-
更新終了。
- 88 名前:名無し娘。 投稿日:2004/03/16(火) 20:20
- わぁー。どうなるんだろ。楽しみ
- 89 名前:son 投稿日:2004/03/19(金) 16:16
- さくしゃさん、面白いよ!!
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 20:13
- うわ!おもしろいよ!
はやくはやくっぅ
- 91 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/22(月) 22:36
-
88 名無し娘。さん。
>どうなっちゃんでしょうね〜自分にも分かりません・・・
89 sonさん。
>面白いですか?ありがとうございます。
90 名無し飼育さん。
>ありがとうございます。更新遅くてスイマセン
レスありがとうございました。
- 92 名前: 投稿日:2004/03/22(月) 22:37
-
- 93 名前:M-side 投稿日:2004/03/22(月) 22:38
-
藤本は街を歩いていた。
何をするわけでもなく、ただフラフラと一人、歩いていた。
とあるファーストフード店の前を通りかかった時、ある見慣れた顔を見つけた。
白い肌にキンキンの髪。吉澤だ。
何故藤本は彼女を知っているのか。答えは簡単。藤本はバレー部“だった”から。
- 94 名前:M-side 投稿日:2004/03/22(月) 22:40
-
バレー部だった。
何故過去形なのか。それも答えは簡単。辞めたから。
正確に言うと辞めさせられたから。
高校に入学し、部活決めの時藤本は迷わずバレー部に入部した。
部紹介など聞いちゃいない。
中学の時バレーをしていたから。だからバレー部に入部した。
吉澤を見かけたのは中学時代の大会の時だ。
- 95 名前:M-side 投稿日:2004/03/22(月) 22:40
-
で、入部したはいいが、彼女の通う高校のこのバレー部、実はとんでもない部だった。
バレー部なんてのは名前だけ。
活動なんてしちゃいない。練習なんてありゃしない。
いや、アタックだけはあった。
でもそれもバレーじゃない。男にアタックしているのだ。
このバレー部の実際の活動と言えば、部室に男を連れ込みヤりまくる。
そんな部だった。
当然藤本は激怒した。
だって彼女は真面目な生徒。学校で男とHなんて許せない。
- 96 名前:M-side 投稿日:2004/03/22(月) 22:41
-
ある日部室に乗り込んで、まさに事の最中だった部長と男に強烈なスパイクをお見舞いし、
見事逝かせた。
そしてその翌日。
顔の腫れ上がった部長に退部を命じられた。
だから今の藤本は無所属の帰宅部。
家へ帰る気にはなれず、街をうろついていると、吉澤を見かけた。
一人の少女と楽しげに話をしている。
「バレー辞めたのかな?」
- 97 名前:M-side 投稿日:2004/03/22(月) 22:42
-
藤本は呟くと、吉澤に声をかける事なくその場を後にした。
時刻は午後五時。
家にはまだ、帰りたくない。
- 98 名前: 投稿日:2004/03/22(月) 22:42
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- 99 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/22(月) 22:43
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短いけど。
今日はココまで。
- 100 名前: 投稿日:2004/03/23(火) 16:37
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- 101 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/23(火) 16:38
-
後藤と吉澤はファーストフード店を出て街を歩いていた。
日はもう沈みかけている。夜の匂いが近づいている。
ゲームセンターの前で後藤が足を止めた。足を止めて奥をじっと見つめている。
彼女の視線の先にはパンチングマシーン。数人の男達がパンチ力を競い合っている。
止まったままの後藤に気付き吉澤も足を止める。
立ち止まったままの彼女から視線が送られてくる。
アレ、やろう。
吉澤は眉根に皺をよせ、後藤を見やる。
しかし彼女の意思に変わりがない事を知るとフンっと鼻から息を出し、
後藤の左手を握りズンズンと店内へ入っていった。
その後ろで後藤は嬉しそうだ。
- 102 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/23(火) 16:39
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男達は競い合っていた。
彼らはこの街に巣食うチンピラの端くれ。平日の夕暮れ時になると、必ずこの店に現れる。
そして競い合う。一番下、一番弱いものは誰だ。勝負する。
負けてしまった者はその日の彼らの夕飯を奢るという暗黙のルールがある。
だから彼らはいっつも真剣。チンピラなんだもの。まともに仕事をしているわけがない。
だから彼らはいっつも真剣。
今日の賭け事はパンチ力。
一番強いのは誰だ。一番弱いのは誰だ。
そして今日奢ってくれる奴は誰だ。競い合う。
- 103 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/23(火) 16:40
-
順番は廻り廻って彼らの中でリーダー面をしている男の番に。
袖を捲り上げて力こぶを作る。厚い胸板に太い腕。
隆々とした筋肉が彼の力強さを物語っている。
グローブをつけて、機械の前に立つ。
低い声と共に繰り出されたパンチは重い音をたて、3ケタの数字を吐き出した。
周りから感嘆の声が漏れる。
どうやら彼、この機械が設置されて以来の最高記録を出したらしい。
- 104 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/23(火) 16:41
-
満足気に笑う男とその周りを囲むチンピラ達。
その群れの中に少女が二人、紛れ込んでいく。吉澤と後藤だ。
好奇の視線を向ける男達を無視してコインを入れる。
グローブをはめたのは吉澤。どうやら彼女、ノリノリだ。
「うっしゃ。」
パンパンとグローブを叩き、拳を繰り出す。
「どっすーん!!!!」
奇妙な掛け声と共に弾き出された数字を見て男達は目をむいた。
なんと吉澤、記録更新。
ニタニタと笑っていた男の顔から笑みが消えた。
- 105 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/23(火) 16:42
-
そんな男達を見向きもせずに、吉澤は後藤にグローブを渡す。
満面の笑みを浮かべる後藤。
まるで今まで欲しくてしょうがなかった玩具を手に入れた子供のよう。
制服の腕を捲くり、パンチを一発。
「んあー!!!!!」
まるで気の抜けた後藤の声。
しかし数字はグングン上がる。
笑みの消えた男、今度は顔が真っ青になっていた。
彼女のパンチ力、先程吉澤の出した記録をはるかに上回っていた。
- 106 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/23(火) 16:42
-
「んあー、スッキリ。」
「ごっちんカッケー!!・・・あれ、でも左じゃん?」
「んあ、カバンずっと持ってたら右手痺れちゃって。テヘへ。」
「あー、そうなんだ。」
「んー、そうだよ。」
「えへへぇ。」
「んははぁ。」
- 107 名前:G&Y-side 投稿日:2004/03/23(火) 16:43
-
ニコニコと笑いながら彼女達はゲームセンターを後にした。
残された男達は皆同様に青い顔をして呆然と立ち尽くしていた。
最高記録を表示した機械だけがピカピカと、彼女達の後姿を照らしていた。
- 108 名前: 投稿日:2004/03/23(火) 16:43
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- 109 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/23(火) 16:44
-
更新終了。
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 22:01
- よしごま癒されるー。
本当にありそうな話ですね。
- 111 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/26(金) 17:36
- 110 名無飼育さん。
>よしごま癒されました?結構自己満のために書いてたんですけど、
そう言って貰えると嬉しいです。
レスありがとうございました。
- 112 名前: 投稿日:2004/03/26(金) 17:36
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- 113 名前:R-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:38
-
石川は倒れていた。倒されていた。
突然背中にもの凄い衝撃を受けたかと思うと受身を取る暇もなく、ペシャンコに潰れてしまった。
潰れた石川の上には一人の少女。
「ありゃ、潰しちゃった。」
- 114 名前:R-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:38
-
テヘっと可愛く笑う少女。
その下では石川が死にかけている。お花畑が見えてきた。
少女が石川の上から退き、お花畑を流れる川を目前にしたところで石川が復活する。
制服はボロボロ、砂塗れ。
立ち上がった石川の鼻からは赤い液体。赤い?
- 115 名前:R-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:39
-
「キャアアアアアアアア!!!!」
耳が痛くなるような甲高い叫び声を上げて石川は気を失った。
鼻血を出して。自分の体内を流れる赤い血液を見て、石川はまたも倒れた。
- 116 名前:R-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:40
-
倒れた彼女の頬をペチペチと叩いてみる。
反応はない。
倒れた彼女の身体を揺すってみる。
反応はない。
彼女のスカートを捲ってみる。ピンクのパンツが顔を覗かす。
「うひゃ、キショ。」
反応は、ない。
- 117 名前:R-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:40
-
「しょーがないなー。」
石川にダイブした少女は倒れたままの彼女の足を引きずって校舎へと戻っていく。
スカートが捲れて可愛いパンツは丸見え。
それでも石川に起きる気配はない。
そして石川を引きずる少女に、スカートを直してあげようという気はこれっぽっちもない。
- 118 名前:R-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:41
-
小さな少女とパンツ丸見えの石川を、
下校途中の男子生徒が顔を赤く染めてじっと、ずっと、コッソリ見ていた。
- 119 名前: 投稿日:2004/03/26(金) 17:41
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- 120 名前:M-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:42
-
藤本は歩いていた。まだ街をうろついていた。
空はもう暗い。街の明かりがやけに眩しい。
明るく光る街の中、その中でも一際目立って輝くゲームセンターの前を通りかかった時、
一団の男達にぶつかった。
何かあったのか、皆同様に沈んでいる。
先を行くリーダーらしき男が藤本にぶつかる。
彼女が怪訝な顔で見やると、「スンマセン」と、蚊の泣くようなか細い声で身を竦めて足早に去って行った。
後ろの男達が金魚の糞のようについて行く。誰も、彼女と目を合わそうとしなかった。
- 121 名前:M-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:43
-
別に彼女睨んだわけではない。
ちょっと、「何すんのよアンタ」ぐらいに見ただけだ。
それだけなのに。なんだかなぁ。
- 122 名前:M-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:43
-
彼女の周りに壁が出来る原因の一つに、彼女の目つきが挙げられる。
何でも相当にヤバク見えるらしい。
冷たいとかキツイとかそういった度合いではない。
一度警察に出向いた時など、「人を刺した事があるだろう」などと、とんでもない事を言われてしまった。
もちろんそんな事はない。人を刺すどころか虫だって殺した事がない。・・・まぁ、ソレは嘘だが。
- 123 名前:M-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:44
-
大体目が怖いなんて言われたって彼女にはどうする事も出来ない。
だって生まれつきなんだもの。
整形?無理無理無理。お金がない。
それに親から授かった大事な大事な自分の顔だもの。
目が怖いって言われたんです・・・。なんて、そんな理由でメスを入れたくはない。
- 124 名前:M-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:45
-
それに。
目が怖いなんて言われてもね。
彼女はもっと凄い人を知っている。
彼女よりもっと凄い、恐ろしい、強力な目力を持った人を。
- 125 名前:M-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:46
-
そう言えば最近会っていない。元気だろうか。
生きているだろうか。
まだ、あの目は健在しているだろうか。
ちょうどお腹も空いてきた。
アノ人の所に寄って夕飯でもご馳走になっていこう。
うん、それがいい。
- 126 名前:M-side 投稿日:2004/03/26(金) 17:46
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時刻は午後六時半。
明るく輝く街を彼女はさっそうと駆け出した。
- 127 名前: 投稿日:2004/03/26(金) 17:46
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- 128 名前:さくしゃ 投稿日:2004/03/26(金) 17:48
-
更新終了。
次回更新遅くなるかもです。
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/27(土) 10:30
- おー!更新されてる!お疲れさまです!丸見えって・・毎度楽しく読ませてもらってます!次回も楽しみに待ってますよー
- 130 名前:さくしゃ 投稿日:2004/04/12(月) 20:07
- 129 名無飼育さん
>レス感謝です。
大分遅くなりましたが、更新します。
よっすぃ、誕生日おめでとう。
- 131 名前: 投稿日:2004/04/12(月) 20:08
-
- 132 名前:G&Y-side 投稿日:2004/04/12(月) 20:09
-
駅。
ホームに列車が滑り込んで来る。
白線の内側に二人の少女。後藤と吉澤。
スーツ姿のサラリーマンが溢れる中で制服の短いスカートが浮いている。
乗降する人込みに揉まれながら別れを言う。
- 133 名前:G&Y-side 投稿日:2004/04/12(月) 20:10
-
「んあ、今日は楽しかった。」
「へへへ、ウチも。あーやっぱごっちんといる時が一番楽しーや。」
「おぅ、マジ?・・・でもごとーも。よしこといる時が楽しいよ。」
「んんー、そぉとぅ?」
「んぁ、そぉとぅ。」
「oh,カッケー!!」
「んへへ。・・・ホラ、もう電車出るんじゃない?」
「あー、そーっぽい。んじゃ・・・」
「んあ。ばいばい。」
- 134 名前:G&Y-side 投稿日:2004/04/12(月) 20:10
-
吉澤に向かって手を振る後藤。しかし吉澤は俯き、返事がない。
左右に振っていた手を止める。
と、突然吉澤に抱きしめられた。キツク、キツク。
吉澤は何を思っているのか。抱きしめたまま動かない。何も言葉を発さない。
「う゛、ちょ、よしこ。ぐるじい゛・・・」
照れと圧力から真っ赤になった後藤。
吉澤の背中をバシバシ叩きギブアップのサイン。ようやく吉澤が離れた。
離れたその顔はとても満足そう。
「もー。いきなり何すんだよぉー。」
- 135 名前:G&Y-side 投稿日:2004/04/12(月) 20:11
-
照れ隠しの為か、言葉遣いが乱暴になる後藤。
でもその顔には締りがない。
「へへへー、充電。」
「じゅうでん?」
「うん、だって・・・今度いつ会えるか分かんないし。会える時にいっぱいごっちんを補充しとかなきゃ。
ウチの部・・・学校もそーだけどさ、かなりキビシーから。やってらんないんだよ。」
「・・・何か。恥ずかしいじゃん。でもさ、それってごとーもよしこに会えないって事だよね?」
「んー、そーなるねぇ。」
「ほほう。それじゃ。」
ぎゅーーー。
- 136 名前:G&Y-side 投稿日:2004/04/12(月) 20:12
- 後藤の腕の中で固まる吉澤。
メーターがグングン上がっていくように、顔がどんどん赤くなっていく。
完熟トマトのように吉澤の顔が真っ赤に染まり、ようやく後藤が腕を離す。
「んあ、じゅーでんかんりょー。」
ごちそうさまでした。と、ペコリとお辞儀を一つ。
それにつられて吉澤も。
発車音が鳴る。閉まりかけたドアに片足を突っ込む。
「んじゃ、バイバイ!!」
「んあ、おやすみー!」
手を振って彼女にキスを。
吉澤の右手から放たれたキスは後藤の真ん中。
心臓めがけてストライク。
胸に手を置き去り行く電車へ。
去り行く彼女に向かってもう一度、大きく手を振った。
そして気付いた事。
- 137 名前:G&Y-side 投稿日:2004/04/12(月) 20:13
-
「あ、ごとーもあの電車乗んなきゃ帰れないじゃん・・・」
「んあー、しくった。恋人ごっこしてたらすっかりしくった。」
後藤の呟きは人のいなくなったホームにポツリと響いた。
- 138 名前: 投稿日:2004/04/12(月) 20:13
-
- 139 名前:さくしゃ 投稿日:2004/04/12(月) 20:14
-
更新終了。
次回更新も遅くなりそうです・・・
- 140 名前:dada 投稿日:2004/04/13(火) 00:18
- 恋人ごっこなんかしちゃうごっちんとよしこが大好きです。(w
マイペースにがんばってください。
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 21:39
- ほのぼのしてておもしろい。
これが、よしごまだね♪
- 142 名前:さくしゃ 投稿日:2004/06/19(土) 00:25
- 140 dadaさん
>レスありがとうございます。
マイペースに頑張ります。
141 名無飼育さん
>レス感謝です。
よしごまといえばほのぼの&まったりですよね。
レスありがとうございました。
- 143 名前: 投稿日:2004/06/19(土) 00:26
-
- 144 名前:R-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:26
- 白、白、白。
気がつくと石川はベッドの上に横になっていた。
目に入ってくるのは白い天井に白いシーツ。
ほのかに漂う薬剤の香りで保健室だと認識する。
でも何で?
私はさっきまで歩いてて。家に帰る途中だったはず。
それなのに何故?何で私はこんな所にいる?
ふと鼻に違和感を感じた。
何コレ。
鼻に手を伸ばす。ティッシュが詰められていた。
- 145 名前:R-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:27
-
「ちょ、何よコレェ・・・」
ブツブツ呟きながらティッシュを取り去る。
先端が赤く染まっていた。
「血?やぁーだぁー!!」
高い声で叫ぶとそのままポイ。放り投げた。
ベッドから降り、窓際に立つ。閉まっていたカーテンを開ける。
外は真っ暗だ。壁に掛かった時計を見る。円形の時計を針が縦半分に綺麗に割っていた。
「やだ、もうこんな時間。早く帰らなきゃ。」
- 146 名前:R-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:27
-
乱れた制服をパッパと手で直し、床に置いてあった鞄を掴む。
その時、視界にとある物体を確認した。
何だ、アレは?
ちっこくて、キンキンしてて、ちっこくて。
何よアレ。すっごく気になる。
でも。
「さ、早く帰ろ。」
もう暗いしね。パパとママが心配するわ。
「って無視かよ!!」
- 147 名前:R-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:28
-
石川が保健室の扉を開け、帰路へと足を踏み出そうとしたその瞬間、
ちっこい金ピカの物体が声を上げた。
「キャ、やだ!人?」
「あーあーうっせーなぁー、人だよ人。ちっこいけど人間だよ!
小さいからってバカにすんじゃねーぞ?これでもお前よか年上なんだかんな?
つーかお前の声はいちいちうっせーよ。キンキンしてるよ。なんつーの?
頭ガンガンする。超音波だよ、超音波。は?超音波?超音波って何だよ!
超音波ってオイラ蝙蝠かよ!嫌いだよ蝙蝠キモイんだよ!身体鼠なくせして何で羽ついてんだよ!
極めつけはあの鼻だよ鼻!豚鼻だよオイ。いいのかよその鼻!って、オイラなんの話してんだよ!
おお、そーだ、お前だお前。お前いちいち声がやばいんだよ!どうにかしろよ!
って、オイ!いないよ!どこだよ!」
ちっこい金ピカ頭が一人熱弁をふるっている頃、石川は昇降口にいた。
- 148 名前:R-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:28
-
「ったくなんなのよ、アノ人。いきなりギャーギャー喚き出して。もう、頭おかしいんだわ、きっと。
キンキン五月蠅いし。はぁー、もうこんな時間だわ。早く帰んなきゃ。」
そこで石川はある重大な事に気がついた。
「アレ?私裸足だわ。」
- 149 名前: 投稿日:2004/06/19(土) 00:28
-
- 150 名前:M-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:29
- 藤本は駅前の広場にいた。
ある人のところへ行くつもりだったが、その本人をココで見つけてしまったから。
藤本は駅前の広場にいた。
広場脇の植え込みに、スケッチブック片手にぼんやりと座っている。
視線は宙をフラフラいったりきたり。
・・・ああ、ぼんやりしてんじゃない、交信してるんだ。
- 151 名前:M-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:30
-
彼女の癖を思い出し、フッと笑みを漏らした。
夕飯はまだお預けか。
そんな事を思いながら彼女の方へ歩み寄って行く。
残り2メートル程の距離になった時、それまで宙を彷徨っていた彼女の視線が藤本の姿を捉えた。
目が合って藤本は立ち止まる。
と、彼女が口を開いた。
「カオには分かる。」
- 152 名前:M-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:30
-
ああ、また始まったよ。
苦笑を浮かべ、彼女から少し距離を取って植え込みに座る。
「藤本。アンタは今、お腹が空いている。」
「ええ、まあ。夜ご飯まだですし。」
「うん、カオもお腹空いてるんだ。朝から何も食べてないから。」
「へー、そうなんですか。」
流れて行く人、人、人。
突然飯田が立ち上がった。
「藤本、鍋するよ。」
「はあ?」
- 153 名前:M-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:31
-
本当にコノ人は。
何を考えているのか。いや、何も考えていないのか。
もの凄くぶっ飛んでいる。
「カオはね、今、もの凄くカニが食べたいの。」
手をチョキチョキ動かしながら真顔で力説する飯田。
「今カニを食べないと、カオはカオじゃなくなってしまうの。」
「へーそうですか。」
一方、冷め切っている藤本。
「だから。」
「だから?」
「カニを食べよう。」
- 154 名前:M-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:31
-
ああ、ダメだ。
この人ってば。ホントに。本当に凄いよ。
ある意味催眠術だよ。目を見てしまったならもうそこでジ・エンド。
地元北海道で、チームを一睨みで壊滅させたという噂の目力は、未だに健在しているようだ。
「しょうがないですね、じゃあ飯田さんトコで。」
「ん。いいカニ選んでくんだぞ?」
「はいはい。」
じゃあな〜と長い髪を靡かせて人込みに混れていく飯田。
その姿が消えてから、藤本は歩き出した。
はあ、まったく。
一体どこの世界に制服姿でカニを担いで歩く女子高生がいるというのだ。
自分の歩く姿を軽く想像してみる。
ああ、恥ずかしくてやってられない。
けど。
- 155 名前:M-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:33
-
彼女と食事をするのは楽しい。
彼女といるのは楽しい。
彼女と過ごす時間は、とても輝いている。
- 156 名前:M-side 投稿日:2004/06/19(土) 00:35
-
恥ずかしいのは一瞬さ。
割り切って。カニだろうとなんだろうと担いでやろうじゃないか。
堂々と歩いてやろうじゃないか。
「うん、お腹空いたな。」
そして藤本も人込みの中へと消えていった。
- 157 名前: 投稿日:2004/06/19(土) 00:35
-
- 158 名前:さくしゃ 投稿日:2004/06/19(土) 00:36
-
更新終了。
また七月ぐらいに・・・
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/10(土) 17:38
- おもしろいっす。がんがってくらさい。
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/01(日) 14:42
- 8月になったねえ……
- 161 名前:さくしゃ 投稿日:2004/08/04(水) 11:11
- 159 名無飼育さん
>頑張ります。マジで。
160 名無飼育さん
>すんません、8月になっちゃいました。
ウソついてごめんなさい。
更新します
- 162 名前: 投稿日:2004/08/04(水) 11:11
-
- 163 名前:Y-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:12
- 吉澤は一人電車に揺られていた。
車両に人は少なく、吉澤を含め五人ほどしか乗車していない。
一人電車に揺られ思い出していた。
親友の事、そしてついさっきの出来事を。
- 164 名前:Y-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:13
- 両の手には彼女の感覚がまだ残っている。
まだ彼女の温もりを覚えている。
目を閉じればすぐ近くに彼女を感じられるくらいに。
体はまだ火照っている。
彼女に抱きしめられたから。
顔だって未だに赤いんだろう。
頬に手をやり確信する。
うん、熱い。
- 165 名前:Y-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:14
- 吉澤は自分の取った行動が信じられずにいた。
何故。
なんでウチはごっちんを抱きしめたんだろう。
一生の別れでもなんでもないのに。
そしてそれと同時に、親友の取った行動にも疑問を抱いていた。
何故、ごっちんはウチを抱きしめたんだろう。
単なるお返しのつもりなんだろうか。
それとも・・・
そこまで考えて吉澤は考える事をやめた。
わかんねーや。
ウチ、バカだし。
頭使うと体痒くなんだよね。
- 166 名前:Y-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:14
-
腕を掻きながら座席に背中を預ける。
規則的に揺れる電車のリズムが吉澤を眠りへと誘う。
駅までまだあるし、少し眠るか。
吉澤は静かに目を閉じた。
- 167 名前:Y-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:15
-
考えるのをやめたのは自分がバカだからなんかじゃない。
答えに行き着くのが、その答えを知ることが怖いから。
- 168 名前:Y-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:15
- 自分自身の答えはきっともう出ている。
だけど彼女はどうだろうか。
もし自分と違っていたら。
知ることが怖い。
- 169 名前:Y-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:15
-
だから気付かないフリをする。
答えはもう出ているのに。
わざと分からないフリをする。
- 170 名前:Y-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:16
- 電車はリズムを刻みながら吉澤を乗せ走っていく。
駅まではまだもう少し。
吉澤は夢の中。
電車は走っていく。
- 171 名前: 投稿日:2004/08/04(水) 11:16
-
- 172 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:17
- 後藤はホームに設置されているベンチに座っていた。
目を閉じている。
しかし考え事をしているわけではない。
寝ているのだ。
- 173 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:17
- 一つ言い忘れていた事がある。
彼女の特技はどんな場所でも、どんな状況でもすぐに眠れてしまう事。
それものび太君並みの寝つきの速さで。
そしてそれはココでも例外ではない。
後藤はベンチに座り、膝の上に鞄を置いて眠っていた。
- 174 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:18
- 夢を見ていた。
そこは見渡す限りの青。何もない。
青の空間に一人、立っている。
遠くで誰かが自分を呼ぶ声がする。
―後藤、後藤!
声は聞こえる。
けれど誰が呼んでいるのか分からない。
一生懸命に目を凝らして見てみる。
しかし顔の部分だけ靄がかかっているようではっきりしない。
誰?誰なの?
声の呼ぶ方へ歩もうとする。
すると今度は反対の方からまた別の声が聞こえた。
―ごっちん、ごっちん!
- 175 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:19
- あぁ。
踏み出そうとしていた足を戻し、体の向きを変える。
誰なのか確認しようとすればやはり顔は分からないのだろう。
けれど。
後藤は迷う事無く、後から呼ばれた声の方へ歩んでいった。
「よっすぃ。」
- 176 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:19
- 呼ばれた彼女は後藤の手を握りニィっと笑った。
彼女の隣に立ち、もう一人の声の主の方を見やる。
やはり顔は分からない。
しかし、その靄のかかった顔の部分が悲しそうに笑ったような気がした。
- 177 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:20
- 突然、辺りが白い光に覆われた。眩しくて目を開けていられない。
思わず顔を覆う。
必然的に、彼女と繋いでいた手は離れてしまった。
―よっすぃ、よっすぃ!
辺りに手を伸ばしてみるがその手は空を斬るばかり。
眩しくて目は開けられない。
―よっすぃ、ドコにいるの?
- 178 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:20
-
―大丈夫だから。
突然聞こえた彼女の声。
―大丈夫だから。近くにいるから。
白い光が退いていく。
―スグ近くにいるから。
そっと目をあけてみる。
―ほら、ね?
- 179 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:21
- そこは最初に見た青の空間。
そして振り返れば―
「よっすぃ。」
彼女がいた。
- 180 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:21
- そして後藤は夢から覚めた。
まだボーっとする頭で考える。
なんだったんだ?さっきの夢は。
よしこと・・・あともう一人は誰だったんだろう。
宙を睨んで脳みそフル回転。
しかし。
「やめた。あたまいたい。」
どうやら後藤さん、少しばかりおつむの方が弱いみたいで。
- 181 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:22
- ホームにアナウンスが流れる。
コレを逃すと家には帰れない。
後藤は立ち上がり、電車が入ってくるのを迎える。
そういえばついチョット前にココでよしこにギュってされたんだよな。
一人思い出して赤くなる。
あぁ、恥ずかしい。
その後の自分の行動を思い出し、更に赤くなる。
その場から逃げ出すように電車に飛び乗った。
中にいたおばさんと目が合い笑ってごまかす。
扉が閉まり、電車が動き出す。
- 182 名前:G-side 投稿日:2004/08/04(水) 11:22
-
後藤は席に座り目を閉じていた。
考え事をしているわけではない。寝ているのだ。
そう、彼女の特技は・・・まぁ省略しておこう。
その特技はココでも例外ではないって事で。
既に夢の中にいる後藤を乗せ電車は走っていく。
駅までは、まだもうすこし。
- 183 名前: 投稿日:2004/08/04(水) 11:23
-
- 184 名前:さくしゃ 投稿日:2004/08/04(水) 11:25
-
次の更新も多分遅くなると思います。
今月中か、来月か。頑張ります。
- 185 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/27(金) 17:18
- おもしろい!
つづき待ってます。
- 186 名前:さくしゃ 投稿日:2004/10/01(金) 23:56
-
185>名無し読者さん
お待たせしました。
レスありがとうございます。
更新します。
- 187 名前: 投稿日:2004/10/01(金) 23:57
-
- 188 名前:R-side 投稿日:2004/10/01(金) 23:58
-
石川は考えていた。
靴はどこにあるのだろう。
そもそも私は何故保健室なんかにいたのだろう。
そして保健室にいたあの変な生き物は何?
分からない。
どうも思い出せない。
帰ろうと校庭を歩いていたはずなんだけど。
そこから先の記憶がはっきりしない。
- 189 名前:R-side 投稿日:2004/10/01(金) 23:59
-
とりあえず今分かっている事は、私は何故か保健室にいて、その保健室にはちっこい金ぴかの喧しい奴がいて、
そして多分だけど私の靴はそこにあるという事。だって目が覚めたら保健室にいた。そうとしか考えられないもの。
正直あの保健室の戻るのは気が進まなかったが、裸足で帰るわけにはいかないし、
もしかしたらあの金ぴかの奴もいないかもしれないという思いで暗い廊下をまた保健室へと戻っていった。
が、あの金ぴかの奴がいないかもという考えは廊下の角を曲がった瞬間に消えうせた。
声が聞こえるのだ。
何と言っているのかは聞き取れないが喚く声が聞こえる。
保健室の明かりはまだついている。
- 190 名前:R-side 投稿日:2004/10/02(土) 00:00
-
あぁ、どうしよう。やっぱり帰っちゃおうかしら。
でも靴がないわ。靴はきっと保健室。
でもアソコに入るのは少し怖い。
だけど裸足では帰れないわ。
あぁ、どうしよう。
石川が薄暗い廊下を一人ブツブツ呟きながら行ったり来たりしていると突然保健室の扉が開いた。
中から小さな塊が飛び出してくる。
- 191 名前:R-side 投稿日:2004/10/02(土) 00:01
-
「っだぁー!!!てめぇ!!黙れ黙れ黙れー!!!
独り言言うんなら頭ん中で言えっつーの!!煩くてしょうがねぇよ!!」
その小さな塊は姿を現すと同時に喚き散らした。
耳がガンガンする。石川は耳を押さえてその人物を見た。
小さい。
自分よりもはるかに小さいその人は身長150もないくらいだった。
そして目が痛くなるようなド派手な服に金ぴかの頭。
プリン状になることなく、綺麗に染まっている。頭皮が白く見えているのは触れないでおく。
この人。
石川の頭からサーっと霧が退いていくような気がした。
この人。
石川には見覚えがあった。目の前で喚き散らしている人物に、石川は心当たりがあった。
金髪でちっちゃくて声がでかくて常に厚底のブーツを履いているこの人。
- 192 名前:R-side 投稿日:2004/10/02(土) 00:02
-
「・・・まりっぺ?」
石川は恐る恐る声をかけた。
途端にその小さな人物は喚くのをやめた。
「石川ぁ・・・」
石川の顔に笑みが浮かんだ。
周りのオーラがピンク色の変わっている。
「まりっぺぇ!!」
「・・・まりっぺ言うなあああああああああ!!!!!!!」
もの凄い音をたてて石川は吹っ飛んだ。ざっと5メートルくらいか。
金髪のソイツは堅く握った拳を解いた。
「ったく、テメェはキショイんだよ。」
そう言って笑った。
その声が聞こえたのか聞こえていないのか。
石川は廊下に横たわったまま、鼻血を出しながら笑った。
- 193 名前: 投稿日:2004/10/02(土) 00:03
-
- 194 名前:M-side 投稿日:2004/10/02(土) 00:03
-
「ったく、重いっつーの・・・」
街中をカニが歩いていた。
不思議なカニだった。横に歩くのではなく、真っ直ぐに歩いているのだ。
「ぁあ?見てんじゃねーよ、ヴォケ!!」
突然カニが口を聞いたので慌てて前へ廻って覗いてみる。
人がカニに食われていた。どうやら女子高生のようだ。
「だから見んなっつってんだろーが!!」
殺されそうだったので逃げた。
- 195 名前:M-side 投稿日:2004/10/02(土) 00:04
-
「・・・ったく。」
藤本は歩いていた。
カニを背負って。
さっきから人の視線を感じる。
好きでやってるわけじゃないのに。
全部アノ人のせいだ。
カニが食べたいなんて言うから。
いいカニを用意しろって言うから。
魚屋のオヤジもオヤジだ。わざわざ一番デカクていい奴をくれなくても。
こちとらたったの二人なのだ。二人でこんな、食べれるわけがない。
でもアノ人が食べたいって言うから。
藤本は歩いていた。
街中を、カニを背負って汗だくになりながら。
- 196 名前:M-side 投稿日:2004/10/02(土) 00:06
-
飯田のアパートに着いたのはそれから暫らく経ってからだった。
アパートのチャイムを鳴らすとジャージ姿の飯田が藤本を出迎えた。
丸い食卓の上には鍋がセットされている。
「おー、いいカニじゃん。」
「いいカニとかどーでもいいんですけど。それよりシャワー貸してくれません?カニ臭くって。」
ここまで汗だくになってカニを背負ってきたのだ。藤本は早くシャワーが浴びたくてたまらなかった。
飯田は顎でバスルームを指すと藤本からカニを受け取り、早速料理し始めた。
タオルで頭を拭きながら出てくると部屋中にカニの匂いが充満していた。
普段漂っている絵の具の臭いはカニに消されていた。
- 197 名前:M-side 投稿日:2004/10/02(土) 00:07
-
「美貴、カニ食おう。カ・二。」
飯田は箸をパチパチと鳴らした。
どうやらカニのハサミを表現しているらしい。
「はいはい。じゃあ頂きます。」
「いただきまーす。」
藤本が席に着くと早速飯田はカニをつつきはじめた。
目がキラキラと輝いている。藤本は何だか心が温かくなった。
- 198 名前:M-side 投稿日:2004/10/02(土) 00:07
-
飯田は突然に無理難題を吹っかけてくる。
当然藤本だって頭に来る事はある。
けれど何だかんだ言ってその難題をクリアしてしまうのは、
その先に飯田のこの笑顔があるからなのかもしれない。
藤本の目の前でカニを頬張りながら顔を綻ばせている飯田。
その嬉しそうな顔を見て、藤本はカニに箸をつけた。
- 199 名前: 投稿日:2004/10/02(土) 00:08
-
- 200 名前:さくしゃ 投稿日:2004/10/02(土) 00:10
-
ここまで。
次回はよしざーとごとーさん。
多分。
- 201 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 17:10
- 面白いデス!
次のごっちん楽しみ〜!
- 202 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 17:39
-
笑えるしなんだか心が落ち着く。癒されます。
- 203 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/01(水) 21:15
- ほぜん
- 204 名前:ナナシ 投稿日:2005/01/01(土) 23:27
- ほぜん
- 205 名前:さくしゃ 投稿日:2005/01/30(日) 01:01
-
201>名無飼育さん
ありがとうございます、ごっちん書きますよ
202>名無飼育さん
そんな貴方のレスで自分が癒されます。ありがとうございます
203、204>保全どうもです。すいませんでした。
大分期間が開いてしまいました。遅くなってスミマセン。
レスくれた方どうもありがとうございます。
更新します
- 206 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 01:02
-
- 207 名前:G&Y-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:04
- 「あ、よしこ。」
駅のホームに電車が滑り込み、吐き出される人の波から後藤が顔を出すとそこには吉澤が立っていた。
先程まで完全なるスリープモードに入っていた後藤の頭は吉澤の姿を確認すると急速にフル回転し始めた。
吉澤は恥ずかしそうにはにかんで後藤を待っていた。
「先に帰っちゃったんじゃなかったの?」
そんな吉澤のもとへと後藤は嬉しそうに駆け寄っていく。
吉澤は困ったように笑うと頭を掻いた。
「や、なんとなくさ。」
「待っててくれたんだね、アリガト。」
「いや、そーゆーわけじゃ・・・」
「んー、ありがとー。」
口を横いっぱいに広げて満面の笑みを浮かべる後藤を見て、吉澤は言葉を飲み込んだ。
腕を絡めてくる後藤に何も言えず、されるがまま、俯いた。
そんな吉澤に気付いて後藤が首を傾げる。
「よしこ、どした?」
- 208 名前:G&Y-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:05
-
口を閉じたまま、覗き込もうとする後藤から逃げるように顔を背ける。
真っ直ぐに伸ばされた腕の先、拳を堅く握り締めて。
「なんか悩み事?おなかいたいの?」
後藤は全く訳がわからずに困った表情を浮かべ吉澤に恐る恐る伺う。
それでも吉澤は黙ったまま。
自分からは表情が伺えないため、吉澤が今何を思っているのか、どんな顔をしているのかが全く分からない。
沈黙が二人を包む。
発車音が響き電車が出て行く。辺りから人が消え、ホームには二人の姿だけが残る。
なんとなく、特に理由はなかったけれど後藤は絡めていた腕をそっと解いた。
- 209 名前:G&Y-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:06
-
腕を離して後藤は俯く。
何か気に障るような事でもしたのだろうか。なにか怒らせるようなこと言っちゃったんだろうか。
考えながら後藤は自分の足元を見つめる。汚れて潰れたローファー。
よしこどうしちゃったんだろう。何か言ってくれてもいいのに。
頭を垂れる。
それにしても汚れてるな。なんでこんなに汚いんだろう。
よしこと一緒に買ったのにごとーのに比べてよしこのは全然綺麗だ。
少しだけ目線を上げると吉澤の足が見える。泥一つ付いていない、ましてや踵など潰れてもいない綺麗なローファー。
何故こうも違うのだろう。
ぼーっと考えていて気付かなかった。
気が付くと目の前に吉澤が立っていた。
何か言いたげな、悲しそうな、苦しそうな表情を浮かべて。
こんな顔の吉澤を見るのは初めてで、だから少しだけビックリして、後藤は一方後ろに足を引いた。
「・・・どうしたの?」
- 210 名前:G&Y-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:07
-
後藤が口を開くと吉澤は何かを諦めるように頭を振った。
頭を振って笑った。寂しそうに。
「・・・や、なんでもない。帰ろっか。」
「なんでもなくないでしょー。何か言いたい事があったら言いなさい?ごとーさんが聞いてあげるからさ。」
「うん・・・まあどーでもいいことだからいいよ。帰ろう。」
気になってしょうがないけれど吉澤が早く帰ろうと急かすので。
あんまりしつこく聞いても嫌われちゃうかななんて自分でも思ったりなんかして、結局真意を聞きだせる事はなく帰路をたどる。
吉澤は後藤の少し前を歩いて時々空を見上げながら「今日の星もカッケー!!」なんてはしゃいだり。
吉澤が空をみてはしゃぐのはいつものことだ。でも今日は何かが違う感じがした。
何かが違うんだよな。
初めて見たさっきの表情が気になって、やっぱり何かあるんじゃないかと思い、問いただしてみても吉澤は笑ってごまかす。
「そう気にすんなよぅ、それより星が綺麗なんだな、今日は。ほら見てみ?空。」
吉澤に言われて空を見上げてみる。
濃い群青の空に青白く輝く星。無数の星。遠くに細く白く三日月が浮かぶ。
「ね?綺麗だべ。」
いつのまにか自分に回されていた腕。
そっと吉澤の肩に頭を乗せて頷いた。
「うん、綺麗。」
- 211 名前:G&Y-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:08
-
私が気にしてる事なんてきっととてもちっぽけな事なんだろうな。
夜空に浮かぶ星を見て後藤は思う。
でもだって気になるんだもん。どんだけちいさくったってさ、よしこの事だもん、気になっちゃうよ。
自分に回された腕は温かい。
横目で隣にいる吉澤を見ると目をキラキラ輝かせて上を見ていた。
あー、横顔綺麗だな。星空なんかより何倍も綺麗だよ。
フト頭の中で浮かんだ言葉が年代物のドラマのようにくさくって、少しだけ可笑しくて後藤は笑みを浮かべた。
吉澤はやっぱり空をみている。
細く白い三日月が二人の影をアスファルトの上に黒く落としていた。
- 212 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 01:09
-
- 213 名前:R-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:09
-
「まりっぺぇ。」
「だからまりっぺ言うなっつってんだろ。」
「まりっぺぇえ。」
「キショい。置いてくぞ?」
「ああ、やだぁ、待ってよう」
- 214 名前:R-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:10
-
二人の少女がもう暗い校庭を歩いていた。
一人は小学生かと見間違える程の小さな身長。明るい金髪と派手なメイクが自身が小学生ではないという事を証明している。
もう一人の少女。鼻にティッシュを詰めて何やら嬉しそうに満面の笑みを浮かべて歩いている。
その肌は辺りと同化してしまっているかのように黒い。
「おい石川、自分家ドコよ。こっから遠い?」
「えぇっとぉ、結構近いですよ?一時間くらい。」
―バキッ
「全然遠いじゃねーかよ!何処がどう近いんだよ!」
「ぇひぇ?だっで電車で一時間ですよ?歩いてじゃない・・・」
八の字眉で困ったようにでも少し嬉しそうに笑いながら、赤く腫れた頬を庇い、賢明に弁解する。
そんな石川の肩をガッシと掴み頭から湯気を出しながら小さい金髪頭ががなる
- 215 名前:R-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:11
-
「だから遠いだろうが!お前は一体何処から学校来てるんだ?ああもう信じらんね。」
「ぇえー、遠くないですよぉー。ねぇまりっぺぇ、一緒に帰ろうよぅ、ね?」
「分かった分かった。一緒に帰ってやることは帰ってやる。だけどその前に・・・」
金髪の少女から了承の返事を貰い嬉しそうに笑う石川。
その目の前で金髪の少女は屈伸を始める。
「ねぇまりっぺぇ、早く帰ろうよぅ。」
「ああ、だからな・・・」
- 216 名前:R-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:12
-
一歩、二歩と石川から距離を取って離れていく金髪の少女。
石川は嬉しそうな笑みを浮かべたままそこから動かない。
3メートルほどの距離を置き、金髪の少女が立ち止まる。
石川は状況がよく飲み込めていないのか、それとも分かりながら動こうとしないのか。
どちらかは計り知れないが棒のように突っ立ってやはり笑みを浮かべている。
と、金髪の少女が土煙を上げて駆け出した。
「・・・まりっぺ言うんじゃねぇぇぇぇぇえええええ!!!!!」
地面と水平になりながら。
石川の腰に深く突き刺さって二人倒れた。
- 217 名前:R-side 投稿日:2005/01/30(日) 01:12
-
「・・・さ、帰るぞ。」
「うん。」
土埃を掃いながら立ち上がる二人。頭上には沢山の星が浮かぶ。
青白い月に照らされる二人の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
- 218 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 01:12
-
- 219 名前:さくしゃ 投稿日:2005/01/30(日) 01:14
-
近いうちに更新できますように。
忙しくって敵いません・・・
- 220 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/30(日) 21:20
- 作者さん待ってましたよ。
やっぱよしごまは良いですね。
- 221 名前:さくしゃ 投稿日:2005/02/23(水) 23:17
-
220>名無飼育さん
お待たせしました。
よしごまは永遠に不滅ですよ
- 222 名前: 投稿日:2005/02/23(水) 23:18
-
- 223 名前:M-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:19
-
「ん?カオの顔に何か付いてる?」
「いえ、別に・・・」
「あ、言っとくけどギャグじゃないからね。」
「・・・分かってますよ。」
- 224 名前:M-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:20
-
目の前でカ二を頬張る飯田を見つめながら藤本は考えていた。
なんで、なんてこの人はアホなんだろう。
芸術をやる人には変人が多いだなんてただの噂かと思っていたがどうやらそうでもないらしい。
彼女は確かにおかしい。
とつぜん街中で寝転んでみたり(寝転んで「私は今、全世界の中心になっている。」などと語りだした)、
時々部屋をのぞいてみると長い髪を振り乱して変なリズムを刻んでいる。(本人曰く『全ての音との同化』だそうだ)
黙っていれば美人なのに。男の一人や二人くらいいても何らおかしくはないのに。
勿体ないなと思う。
ああ、でも。きっと本人は全くそんな事気にしてなどいないのだろうな。
彼女の事だ。普通の人とは違うのだから。
考えていて少し可笑しくなった。
この人アホというより面白い人だよ。
堪えきれずに下を向いてコッソリ笑った。
- 225 名前:M-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:20
-
「美貴。」
突然名前を呼ばれて顔を上げる。
そこには何やら真剣な表情の飯田。どうかしたのだろうか。
もしかしたら私が笑ってた事が気に食わなかったのかな。
「なんですか?」
「カニ食いな。」
全く拍子外れでそれがまたおかしくて藤本はやっぱり笑った。
飯田はやっぱり真剣な表情でずいとカニを突き出している。
「はい、頂きます。」
- 226 名前:M-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:21
-
カニで咥内をいっぱいにしながら藤本は飯田を見ている。
そして考えてみる。
何故コノ人と食事をすると楽しいのだろう。
目の前には湯気で眼鏡を曇らせた飯田の姿。
じっと見ていると目が合った。
「・・・美貴、このカニ食っていいかに?」
- 227 名前:M-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:21
-
理由なんてない。
多分自分はコノ人が好きだ。
好きだから楽しいのだろう。それが食事なんかじゃなくてもきっと。
考える必要なんてきっとない。
「どうぞ食べてください。」
藤本の答えに飯田はニッコリ笑った。
「アリガト」
- 228 名前: 投稿日:2005/02/23(水) 23:22
-
- 229 名前:Y-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:23
-
「じゃあね、おやすみ」
家の前でバイバイと手を振って別れたのが一時間前。
ベットに寝転んで窓から見える夜空を眺めていた。
遠くに浮かぶ三日月を眺めながら吉澤は思い出していた。
あの時自分は何が言いたかったのか。
何を言って何がしたくてそして何故言えなかったのか。
思い出して、考えていた。
- 230 名前:Y-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:24
-
電車に乗って一眠りして気付いた。ごっちんがいない。どうやら置いてけぼりにしてしまったらしい。
まあごっちんの事だから次の電車で来るだろう。それならチョットくらい待っててやるか。
そう思って電車を降りても駅を出ずに待っていた。後藤が降りてくるのを。
そして吉澤の予想したとおり、次の電車で後藤は帰ってきた。
沢山の人に揉まれ、すこし不機嫌な顔をした彼女。
こんな沢山の人の中から一目で見つけ出してしまう自分は少し凄いんじゃないかと思ってしまう。
ただ、それは後藤も同じようで。
顔を上げるとすぐに自分の姿を見つけたらしく、ニヘーと笑いながら駆け寄ってきた。
「あ、よしこ」
まるでお日様みたいな笑顔を浮かべて。
その顔を見たとき?いや、もっと前からかな。どうなんだろう。
気付くのが遅かっただけで本当はもっと前からだったのかも知れない。
ウチ、ごっちんの事が好きだ。
- 231 名前:Y-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:24
-
女同士じゃないかなんて関係ない。
親友だとか、幼馴染だとか、そんなんも関係ない。そんなんじゃない。
恋だ。
ごっちんに恋してんだ。
好きだ。
大好きだ。
愛してんだ。
- 232 名前:Y-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:24
-
胸が痛い。苦しい。心は今にも張り裂けそうだ。
ついさっき別れたばかりじゃないか。
今日だってずっと一緒にいたじゃないか。
それなのに何故、今どうしてこんなにも彼女に会いたい。
- 233 名前:Y-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:25
-
携帯を手に取りメモリをスクロールさせる。
今。
今、もし彼女に電話をかけたとして彼女は出てくれるだろうか。
今、もし彼女にメールを送ったとして彼女は返信してくれるだろうか。
自分で考えてみてそんな事は考えるのはとてもくだらない事だと気付いた。
彼女の事だ、ワンコールもしないうちに出てくれるだろうし、メールだってすぐに返してくれるだろう。
けれど。
自分は彼女に電話を、メールを送ったとして何がしたいのだろうか。
彼女を好いていることはもう自覚している。それはただの友情なんかじゃない事も。
自覚しているけど、自覚して自分はどうしたらいいのだろうか。
彼女に電話して何て言えばいいのだろうか。
彼女に何とメールを送ればいいのだろうか。
そして彼女はそんな自分をどう思うのだろうか。
- 234 名前:Y-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:25
-
頭が痛くなって携帯を放り投げた。
分かんないよ、考えてみるだけじゃあ何も答えは出ないもの。
ずーっとグルグルグルグル頭の中で悪い方へ良い方へ行ったり来たりがエンドレスなんだ。
実際に行動を起こしてみないことには何も分からないんだ。考えるだけ無駄なんだ。
でも自分にその行動を起こす勇気があるのかと言われれば答えはNOだ。
何故なら自分は臆病者だから。自分は弱虫だから。
傷つく事が怖いし今のこの関係を壊したくないし、彼女が自分から離れていってしまうかもしれない。
そんな事にだけは絶対になりたくない。
けれど自分のこの気持ちに気付いてしまった以上、このまま今の状態を維持していけるなんて事は考えてもいない。
自分はどうすればいいのだろう。
彼女はこんな自分をどう思うだろう。
- 235 名前:Y-side 投稿日:2005/02/23(水) 23:26
-
会いたい会いたい抱きしめたい。
むしゃくしゃして布団を掴んで足を絡めてぎゅうと抱きしめた。
けどそんなんじゃ全然彼女の代わりなんか務まらなくて、虚しくなって布団を放して窓を開けた。
遠くに浮かぶ三日月を眺めて彼女も今この月を見ていればいいのにと思った。
違う場所で同じ月を見てるなんてロマンチックだよ。なんて思いながら。
でもそんな事言ったらどっかの変な親父たちも一緒に見てるかもしれないななんて変な考えが頭を過ぎって月から目を離した。
開け放した窓から入る風が冷たくて身体をブルッと震わせ窓を閉めた。
窓を閉めて物音に気がつく。
耳を澄まして部屋を見渡す。
床の上で携帯が静かに唸りながら誰かからの着信を告げていた。
- 236 名前: 投稿日:2005/02/23(水) 23:26
-
- 237 名前:さくしゃ 投稿日:2005/02/23(水) 23:28
-
ここまで。
美貴帝の生誕日合わせたかったけど忙しい
近いうちにまた
- 238 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/27(日) 21:46
- よしごま発見!
続きが気になるーーーーーーーー。
- 239 名前:さくしゃ 投稿日:2005/03/04(金) 23:03
-
238>名無飼育さん
最近はよしごま少なくなりましたね。
栄枯盛衰ってやつでしょうか・・・。レスありがとうございました
更新します。
- 240 名前: 投稿日:2005/03/04(金) 23:04
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- 241 名前:R-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:05
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「お前キモイ」
ベッドの上に陣取った小さな金髪頭は何やらニヤケた笑みを浮かべる石川をピシャリと一喝した。
それでも石川はその笑みを絶やすことなく、なぁんでですかぁ〜?なんて言いながら嬉しそうにその金髪を小突く。
「だから石川、キモイ」
- 242 名前:R-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:05
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石川と小さな金髪頭―名は矢口真里と言う―は、一時間ほど前に石川家にたどり着き、
着くや否や石川の母親が用意したクリームシチューをぺろりと平らげ、
そして一息ついた今石川の自室で特に何をするわけでもなくまったりと寛いでいた。
いや、寛いでいたはずだった。矢口は。矢口は寛いでいたのだ。しかしもう一方の方が。
「まりっぺぇ、なんか遊ぼうよぅ」
どこから声を出しているのか、耳障りな甘ったるい声を出して矢口に擦り寄ってくるのだ。
これで寛いでいられるわけがない。
擦り寄ってくる石川を足蹴にし、矢口は窓を開けた。
目の前に迫る夜空に少しの感動を覚える。冷たい空気が頭の中を、体中を駆け巡り爽やかな爽快感を残す。
石川は窓を開けたまま固まってしまった矢口を前にどうかしたのかと首をかしげている。
眉を寄せて黙ったまま突っ立っていると矢口が口を開いた。
- 243 名前:R-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:06
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「石川、ココから飛び降りてみようか」
- 244 名前: 投稿日:2005/03/04(金) 23:06
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- 245 名前:M-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:07
- 「美貴」
少なくなった鍋の中身を一人空しくつついていたら上から声が降ってきた。
その声に顔を上げると湯気で眼鏡を曇らせた飯田の姿が。
「どうかしました?」
突然立ち上がった飯田を少し不審に思い様子を伺うように訪ねる。
そんな藤本に飯田は反応することなくフラフラと身体を揺らすとそのままドサリと床の上に崩れた。
「飯田さん?ちょ、大丈夫ですか?」
- 246 名前:M-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:08
-
床に崩れ落ちた飯田の元へ駆け寄る。
肩をグラグラ揺らして頬を一発引っ叩くとグルンと首を回して目を見開いた。
それが下手なホラーより恐ろしくて、藤本は息を呑むと少し身を引いた。
飯田はそんな藤本を見てムクリと起き上がった。
「美貴」
「は、はい?」
飯田に見据えられ固まる藤本。
飯田も藤本を見つめたまま固まり動かない。
沈黙が辺りを包む。
そして。
「おなかいたいよう」
- 247 名前:M-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:08
- 子供のように小さく細く泣いて飯田は身体を折った。
藤本はその飯田の発言に拍子抜けして気が抜けて近くにあったタオルをぱさっと飯田に投げつけた。
飯田は顔を上げると弱弱しく笑った。
「トイレつれてって?」
「自分で行ってください」
冷たくあしらうと藤本は中身の少なくなった鍋の前に再び陣取った。
視界の隅にあーだとかうーだとか奇声を上げて身体を攀じる飯田の姿が見える。
あれだけ動ければ大丈夫だよな。
一人で納得すると鍋の中身をつつく。
白菜の芯やらカニの切れ端やらを拾っていると奇声が聞こえなくなった。
飯田の方を見やると小さくなってじっと動かない。
「飯田さん?」と声を投げかけてみても返事がない。
箸をおいて飯田の傍へよる。
- 248 名前:M-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:09
-
「飯田さん?大丈夫ですか?」
肩を掴んでグラグラと揺らすと突然その腕をガシっと掴まれた。
何事かと思い飯田の顔を覗きこむといきなりニヤっと笑われた。
訳が分からずにニヤつく飯田の顔を凝視しているとぐいと引っ張られた。
引っ張られてそのまま飯田に抱きすくめられるような形になる。
何が起こっているのか全く理解出来ずにされるがままに。
目の前に飯田の胸を見つけその大きさに少し憧れ、そして嫉妬しながらもようやく今の自分の状況を理解する。
ぎゅうと自分を締め付ける飯田の長い足と腕を必死の思いで振り解き息をつく。
「いきなり何するんですか、苦しいですよ」
「だって人間を抱きしめてみたかったんだもの」
「はあ?」
「もうカオはお腹痛いから寝ることにする。ビフィズス菌を摂ってからね」
「はぁ」
- 249 名前:M-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:10
-
また訳の分からない事を言っている。
即興の歌であるのだろう、なにか口ずさみながら薬瓶をガサゴソと探す飯田の姿を見て藤本は軽く息を吐いた。
飯田はそんな藤本の事など全く気にしていないのだろう、薬を三粒程手に取るとそのままガリガリと噛み砕いた。
「じゃあね、おやすみ。泊まっていってもいいよ」
「はぁ」
グシャグシャと乱暴に藤本の頭を掻き回すとヒラヒラと手を振って隣の寝室へと姿を消した。
後には乱れた髪の藤本と食べ散らかしたままの食卓。
「泊まってってもいいよ」
飯田のこれは泊まっていきなさいの意だ。
そして食べ散らかしたままの食卓。
つまり、後片付けをヨロシクだ。
全く。
ということは飯田がお腹が痛いといって倒れたのも嘘だったんだろうか。
彼女とご飯を食べるのは楽しいし自分は好きだ。
だけど彼女は面倒くさがりだ。片付けは絶対にやらない。今日だって。
ふぅ、とまた息を吐いて藤本は立ち上がった。
しょうがないか、作ってくれるのは彼女なんだし。片づけくらいはしないとな。
- 250 名前:M-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:10
-
立ち上がって飯田が消えていった部屋の戸をそっと開ける。
月明かりに照らされたベッドの上に飯田がいた。
こちらを振り向いて、目が合う。
「どした、帰る?」
「いいえ」
そっと部屋に入って飯田に近づく。
青白い月に照らされた彼女は普段よりとても美しく感じた。
それは自然に。そう、とても自然に。
藤本は腕を伸ばしてそっと飯田を抱きしめた。
- 251 名前:M-side 投稿日:2005/03/04(金) 23:11
-
「・・・美貴?」
素で驚いたような彼女の声。
可笑しくなった。
彼女はいつでもどっしり構えていて大きくて、ぶっ飛んでる人間なのに。
私が抱きしめただけでビックリして心臓バクバク言ってんだ。
彼女はぶっ飛んでるけどでも人間だ。
私と変わらないよ。同じだった。
腕を離して、驚いたままの飯田の顔を見つめる。
「ふふ、飯田さんを抱きしめてみたかっただけですよ」
- 252 名前: 投稿日:2005/03/04(金) 23:11
-
- 253 名前:さくしゃ 投稿日:2005/03/04(金) 23:12
-
次回更新は今月中に。
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 14:00
- 更新お疲れ様です。
それぞれ二人の微妙な関係が良いですね。
次回も楽しみに待っています。
- 255 名前:さくしゃ 投稿日:2005/03/28(月) 22:21
-
254>名無飼育さん
レスありがとうございます。
それぞれ二人の関係性もこれからどんどん変化していきますよ。
楽しみにしていただければ幸いです。
- 256 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 22:21
-
- 257 名前:G-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:22
-
やっぱり今日のよしこはどこか少しおかしかったよ。
吉澤と別れて自宅で、自室でごろごろと転がりながら思う。
突然に抱きしめられるし何か言いたそうで結局何も言わなくて空元気振り回して。
いつものよしこじゃなかったよ。
- 258 名前:G-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:23
-
寝転がって窓から見える月の美しさに暫し見とれる。
星が綺麗だな。よしこも星が綺麗だなんて言ってたな。
そんな事言ってる彼女の横顔の方が綺麗だったよなんて事は自分の胸のうちにだけしまっておくけど。
携帯を手に取り意味もなく閉じたり開いたり。
よしこ今何してるだろう。
彼女も今この瞬間空を見てればいいのに。
そしたら私とよしこ、同じ感動を味わってるんだ。違う場所で同じものを見て。
よしこ今何してるかな。
もう寝ちゃってるかな。
身体を起こして窓を開ける。
風は冷たくて、温まった身体に少し痛いけど気持ちいい。
机に向かって引き出しからアルバムを引っ張り出す。
大分昔の、まだ自分がこんな複雑な感情を抱く前の頃のヤツからつい最近のアルバムまで。
全てを引っ張り出して古い順にペラペラと捲っていく。
- 259 名前:G-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:23
-
彼女とは幼馴染だ。
親同士仲がよかったのか、小さい頃から一緒に遊んでいたのだろう。
自分自身に記憶はないが、彼女と写った写真が主を占めている。
記憶があるのは小学校からだ。
学校に行くのも帰るのも、遊ぶのも常に隣に彼女がいた。
彼女が隣にいる。それが当たり前の世界だった。
親から聞くと、病弱な彼女が学校を休むとなると自分も学校を休むといって聞かなかったらしい。
どれだけ彼女が大きかったのだろう。
でも、もし。
もし今彼女と同じ高校に通っていたとして、それと同じような状況に遭遇しても自分はその頃と同じような事を言うのだろうなと思う。
だって、つまらないじゃないか。
彼女がいると楽しい。
彼女といると嬉しい。
彼女がいれば自分は幸せだ。
- 260 名前:G-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:24
-
彼女がいないと寂しい。
彼女がいないと悲しい。
彼女がいなければつまらない。
- 261 名前:G-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:24
-
なんだ、今でも変わらない。
彼女は今でも私の大部分を占めている。
私の世界は彼女で成り立っている。
私、よしこの事が好きなのかも。
自分で結論を出してみて一人赤くなる。
好き。
LIKEじゃない。LOVEだ。
愛だ。
愛してるんだ。
好きじゃない。
私、よしこの事愛してるんだ。
- 262 名前:G-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:25
-
アルバムを閉じる。机の上には携帯。
窓は開けたまま。月は細く、遠くに浮かんでいる。
一度、息を大きく吐いて携帯を手にとった。
彼女は出てくれるかな。もう寝てるかな。
心に一つ、思いを秘めて携帯を開いた。
- 263 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 22:25
-
- 264 名前:R-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:26
-
ココから飛び降りてみるか?
- 265 名前:R-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:26
-
「え?」
矢口の言ったことが理解出来ずに石川は聞き返した。
彼女は今なんと言った?
私の聞き間違い?
「だからぁ」
矢口は不機嫌な声を出して振り向く。
そして窓を指して言う。
「こっから飛び降りてみるか?」
- 266 名前:R-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:27
-
聞き間違いなんかじゃない。
それにきっと冗談なんかでもない。
現に彼女の表情はいつになく真面目だ。
でも、でもいきなりなんで?
意味が分からないよ。
「えーと、遠慮しときます」
「あっそ」
とりあえず断ると、矢口はつまらなさそうに一言呟きそのままベッドに潜り込んだ。
訳が分からずに布団をそっと捲るとこちらに背を向けて小さく丸くなる矢口の姿がそこにあった。
何と言っていいのか分からずに、口に出す言葉が見つからなくて石川はそっと布団を元に戻した。
しばらく沈黙が続く。
長いような短いような時間が過ぎて布団の中からくぐもった矢口の声が聞こえてきた。
- 267 名前:R-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:27
-
「石川」
「はっ、はい?」
突然の呼びかけに石川の声が裏返る。
いつもなら突っ込まれるところなのだが矢口は全く触れずに話していく。
「お前、学校楽しいの?」
「えーと、楽しい・・・ですよ?」
「馬鹿、お前嘘つくの下手なんだよ」
即座に返ってきた矢口の言葉に心臓がドキリとする。
それでも自分の心を悟られぬように言葉を並べる。
「嫌だなぁ、なんで私が嘘なんかつくんですかぁ?このチャーミーがですよぉ?楽しいに決まってるじゃないですかぁ」
「お前・・・」
「なんなんですか、矢口さんらしくない、もっとハッピーにいきましょうよぉ!」
「石川・・・」
「ホラ、ハッピィ〜!!」
- 268 名前:R-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:28
-
ウザイくらいに声を上げて。
傍から見ても作り物だと分かるくらいの笑顔で、自分を偽って。
悲しかった。
こんな自分が。
布団の中で小さくなる矢口の姿が。
そして小さくさせているのは自分。
悲しかった。
- 269 名前:R-side 投稿日:2005/03/28(月) 22:29
-
前に突き出した両腕をそっと下ろした。
開け放した窓から入ってくる風は冷たく、心の中を、体中を吹き荒んでいく。
そこからみえる月はとても遠くて細くて白くて儚くて無性に悲しみが募った。
自然と頭が下がる。
布ずれの音が聞こえる。どうやら矢口が布団の中から這い出してきたようだ。
部屋の隅で小さくなる石川。
その垂れた長い髪の隙間から一粒の雫が零れ落ち、絨毯に小さな染みを作った。
布団から身体を出した矢口は部屋の温度の低さに体を震わせる。
石川の肩が震えているのはきっと寒いからなんかじゃない。
開け放されたままの窓を閉め、悲しい月が見えぬよう、カーテンを閉めた。
- 270 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 22:29
-
- 271 名前:さくしゃ 投稿日:2005/03/28(月) 22:30
-
次回更新もまた近いうちに。
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 22:52
- よしごまの続きが見たいです。
- 273 名前:さくしゃ 投稿日:2005/04/12(火) 21:47
-
272>名無飼育さん
実はよしごま話はラストまでもう考えてあります。
けれど85's4人同時に進行させていきたいものですから・・・
しばしお待ち下さい
レスありがとうございました
- 274 名前: 投稿日:2005/04/12(火) 21:47
-
- 275 名前:Y-side 投稿日:2005/04/12(火) 21:48
-
携帯が鳴っている。
低く、静かに唸っている。サブディスプレイに表示されているのは先ほど別れた親友の名前。
後藤からの着信を告げる携帯を目の前に吉澤は立っていた。
- 276 名前:Y-side 投稿日:2005/04/12(火) 21:49
-
電話だ。
さっき別れたばっかのごっちんからの電話だ。
さっき自分が内に秘めていた思いに気づいた、その人からの電話だ。
出ようか、出るまいか。
考えて、やめる。
何を自分は悩んでいるのだ。出ればいいじゃないか。
親友からの電話だ。
きっと今日は楽しかったねだとか、今度はいつ遊べるの?だとか、そんな類の電話じゃないか。
出ればいいじゃないか。何を自分は戸惑っているのだ。
分かっている。
怖いんだ。
内に秘めていた、隠していた気持ちに気づいた今、その親友からの電話をとることが途轍もなく怖いのだ。
今まで通り普通に喋れるわけがない。
自分のこの思いを曝け出してしまうかもしれない。
それが怖い。
彼女との関係が崩れてしまうかもしれない。
それが怖い。
- 277 名前:Y-side 投稿日:2005/04/12(火) 21:50
-
低く唸る携帯に手を伸ばしては引っ込め、また伸ばしては引っ込める。
心が苦しい。痛い。
彼女に全て打ち明けたい。けれど打ち明けたくもない。
矛盾する自分のこの感情。どうしたらいいのか分からない。
誰か教えてよ、自分はどうしたらいい。
誰か教えてよ、彼女はこんな自分をどう思ってるかな。
心の中で叫んでみても答えてくれる人はいないし、窓から見える夜空に解を求めてもそこにはただ星と月が浮かぶばかり。
答えなど誰も教えてくれやしない。
自分で答えを出さなければならないのだ。
それでも。
やっぱり怖いんだよ。
- 278 名前:Y-side 投稿日:2005/04/12(火) 21:50
-
静かに唸り続ける携帯に悲しい視線を送り、窓を閉めた。
月は遠くに浮かんでいる。
電気を消すと布団を被った。一面に広がる闇。
このまま溶けてしまえたらいい。この感情と共に消えてしまえたらいい。
ごめん、ごめんよごっちん。
どうやらウチは自分で思ってたよりかなりの臆病者だったみたい。
こんなに大切な君からの電話をとれないなんて。
ごめん、本当にごめん。
- 279 名前:Y-side 投稿日:2005/04/12(火) 21:50
-
携帯が唸るのを止める。
部屋は暗く静かになり、そして微かに鼻を啜る音がくぐもって聞こえている。
部屋の隅に放置された携帯が親友からの電話が在ったことを小さなランプで虚しくも必死に告げていた。
- 280 名前: 投稿日:2005/04/12(火) 21:51
-
- 281 名前:M-side 投稿日:2005/04/12(火) 21:52
-
食べ散らかした後の食卓を片付けながら藤本は考える。
私なんでこんなことしてんだろう。
この家の主はとっくのとうにオヤスミモード。軽く鼾が聞こえてくる。
かすかに鼾が聞こえるリビングで食卓の後片付け。食器を洗ってテーブルを拭いて。
私何やってんだろう。
一通り片付け終わって一息つく。
すっかり綺麗に片付いた部屋からは先程のカニの残り香といつもの絵の具の匂い。
そういえば彼女は美大生だ。いつでも絵の具塗れの繋ぎかやっぱり絵の具塗れのスウェットかジャージ姿だ。
部屋だったり彼女自身だったりからはいつでも絵の具の匂いを感じるが彼女自身が絵を描いている所はまだ一度も見たことがない。
彼女が描いた絵そのものだって見たことがない。彼女の家にはもう何度か来ているのに。
彼女自身とももう随分親しくなったのに。
- 282 名前:M-side 投稿日:2005/04/12(火) 21:53
-
ふと興味が沸いた。
いつでもぶっとんでる彼女はどんな絵を描いているのだろう。
彼女の世界はどんなだろう。彼女はいつもどのようにしてこの社会を見ているのだろう。
そして知りたくなった。見てみたくなった。
この家にはもう何度か来ている。
トイレだって借りるしバスルームだって借りるし寝室で寝た事だってある。
唯一つ。ある部屋だけにはまだ一度も入ったことがなかった。
匂いの発信源。彼女が絵を描くスペースとして使っている部屋だ。
何度か入ろうと試みた事はあるが、その度に何かと理由をつけられては結局入れずじまいになっていた。
- 283 名前:M-side 投稿日:2005/04/12(火) 21:53
-
寝室の扉をそっと開けてみる。
月明かりに照らされて彼女は夢の中。
幸せそうな寝顔で軽く鼾を立ててぐっすり就寝中。
心の中で失礼しますと一言述べて扉を閉める。
寝返りを打ったようだったが起きる気配は無かった。
わけもなく心臓がドキドキする。
これはアレだ、いつだったか所属していたバレー部の部室に乗り込む前のあの心境に似ている。
心臓がドキドキ言ってちょっとばかし掌に汗かいて。
ああ、でも似ているけど少し違う。今回は少し楽しみな気持ちも混じっているもの。
あの時は唯怒りと緊張とで心臓バクバク言っていたのだけど。
今回は違う。
- 284 名前:M-side 投稿日:2005/04/12(火) 21:54
-
閉ざされた扉の前に立つ。
リビングを出て、もう絵の具の匂いしかしない。
彼女はいつもココで絵を描いているのだ。
胸が高鳴る。彼女の新たな一面を見れる。
彼女の世界が見られる。
冷たい扉にそっと手をかけた。
- 285 名前: 投稿日:2005/04/12(火) 21:54
-
- 286 名前:さくしゃ 投稿日:2005/04/12(火) 21:55
-
ここまで。
よっすぃ誕生日オメ。次回更新は今月中に。
- 287 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 17:54
- 久々に全部読みました!やっぱイイ!更新待ってます!
- 288 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/18(月) 00:11
- 飯田さんと藤本さんのヘンテコな関係が好きです
- 289 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/07(火) 04:55
- 待ってますよ
- 290 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/10(金) 03:56
- 待ってます
- 291 名前:さくしゃ 投稿日:2005/06/11(土) 11:01
-
>>287-290
お待たせしてしまい申し訳。
新生活が思いのほか忙しく更新できず・・・orz
>>288
いいらさんともっさんのコンビ好きなんですよ
レスありがとうございました、更新します
- 292 名前: 投稿日:2005/06/11(土) 11:01
-
- 293 名前:R-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:03
-
「石川ぁ」
矢口の声が聞こえる。
けれど顔を上げたくない。こんな顔、見せたくないもの。
彼女に涙なんて、見せれないもの。見て欲しくないもの。
体育座りの格好で膝に顔を埋めたまま何ですか?と問いかける。
大丈夫、ちゃんと喋れてる。
大丈夫。
「オイラ達ってさ、友達だろ?師弟の関係じゃん」
部屋の隅で小さく固まったままの石川を見つめながら頭をかく。
どうしたものか。きっと今彼女は泣いている。
天井を仰いでふうと息をつく。
「話したくなかったら話さなくていい。無理に聞こうなんて思わないしね。
けど話してくれるんだったらオイラは何時間でも付き合ってやる。
オイラに話すことでお前が楽になるんだったらオイラはいつまでだってお前の話を聞いててやるぞ?」
- 294 名前:R-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:03
-
石川は動かない。
口を開く様子もない。
ただじっと固まっている。
もう一度頭をかくとそのままベッドに横になった。
頑固者なトコロは相変わらずだ。昔からちっとも変わってやしない。
昔、まだ自分も石川も小さかった頃を思い出して少し懐かしい気分になる。
まるで金魚の糞のようだったな。
何処へ行くにも自分の後ろには石川がついていた。いつでも、どこでも。
小さな自分の後ろを大きな石川がついてきて少しだけ嬉しかったんだよ。少しだけ。
それがいつからか彼女は自分の隣に並ぶようになり、中学の卒業と同時に自分から離れていった。
別れの前日もこんなだったよな。
部屋の隅っこで石川が固まってオイラはこんな風にしてベッドの上で寝ころんでたんだ。
あの時と同じだ・・・。
- 295 名前:R-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:04
-
部屋を沈黙が包む。
石川は膝に埋めていた顔をそっと上げた。
ベッドの上で矢口が横になっている。目は閉じている。どうやら寝てしまっているようだった。
何よ、話に付き合うなんて嘘っぱちじゃない。一人で先に寝ないでよ。
けれど。話そうとしなかったのは自分。矢口を責める理由など何処にもありやしない。
立ち上がって軽く伸びをする。
ベッドの上の矢口はそれはとても幸せそうな寝顔で夢の中。起きる気配は全くなかった。
本当は全部話したいの。
全部話して楽になりたいの。だって矢口さんならきっと何らかの解決法を見つけてくれるでしょう?
でもそれじゃダメなの。
私はもう昔の私じゃない。
全部が全部、全てにおいて貴方にくっついていた頃の私とはもう違う。
変わりたいの。
私自身で何とかしなきゃいけないの。
貴方に出来るのならきっと私にも出来るでしょう?
- 296 名前:R-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:05
-
矢口の寝顔を見つめながら思う。
小さな彼女は大きくて彼女より大きな私は彼女より小さい。
昔から。きっと今でも。
でも、変わりたくて、何かを変えたくて自ら彼女と距離を取った。
何かが変わると思った。変えれると思っていた。
それがどうだ。
結局何も変わりやしない。こうしてまた今彼女と会っている。
また彼女は自分を助けてくれようとしている。
何も変わってなんかいない。昔のままだ。
何も変わっていない。
小さな彼女は大きくて彼女より大きな私は彼女より小さい。
ねえ矢口さん。
私はどうしたら貴方みたく大きくなれるかしら。強くなれるかしら。
どうしたら。
- 297 名前:R-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:06
-
部屋の明かりを消す。
月の光はカーテンに遮られ闇が広がる。
ベッドの上に横になっていた矢口に布団をかけ、その横に自分の身体をそっと滑り込ませる。
暖かい。
全く起きる気配の無い矢口の肩辺りにそっと顔を埋める。
昔と変わらない、彼女の匂いがした。
それは例えるならば、そう。太陽のような。
太陽のような暖かい匂いがした。
矢口の肩に顔を埋めて石川は目を閉じた。
- 298 名前: 投稿日:2005/06/11(土) 11:06
-
- 299 名前:G-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:07
-
寝てるのかな。
彼女と話がしたいと思って電話をかけたら留守番電話サービスセンタに接続。
彼女はいつもワンコールで出てくれるのに。
寝てるんだよね、きっと。
繋がらなかった携帯をパチンと閉じるとそのままベッドの上に放った。
- 300 名前:G-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:08
-
よしこ、ねえ私貴方の事が好きみたい。
よしこ、ねえ私貴方の事が好きだった見たい。
よしこ、貴方は私の事どう思ってる?
一人で問いを投げかけてみても答えてくれる人はいないし、答えなんて分からない。
答えは分からないけど分かっている事は唯一つ。自分は吉澤が好きだ。
もし彼女に嫌われたとして、彼女が自分を嫌いになったとしても自分は吉澤が好きだ。それだけは譲れない。
- 301 名前:G-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:09
-
開け放したままでいた窓を閉める。
雲が出ていた。
遠くに浮かんでいたはずの細い三日月はその姿を雲に隠して姿を見せなかった。
「今日は星が綺麗なんだな」
帰りに彼女の言っていた言葉がふと甦る。
星は見えるかな。ああ、見える。
小さいながらも懸命に光を放ち存在を証明している。
よしこは今何してるかな。空を見ていればいいのに。
ああ、でも。きっと見ていない。寝てるんだろう、電話には出なかったもの。
少しだけ寂しくなってカーテンを閉めた。
会いたいな。
会って喋って近くに感じていたいよ。
思い出すと寂しさが募る。
ついさっき会っていたばかりなのに。
自分はこんなにも寂しがりやな人間だったのだろうか。少しだけ可笑しくなる。
ああ、だめだ。寂しいよ。会いたい。声を聞きたい。
あのふにゃふにゃした笑顔で私を見つめてその柔らかい声でごっちんって、そう呼んでよ。
ねえよしこ、私今貴方に恋してるの。貴方は分かってくれるかしら。
でもよしこは鈍感だからなぁ、気付いてくれないかもしれないね。
- 302 名前:G-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:09
-
ベッドの上に放っていた携帯を取り上げる。
データフォルダを開いてフォトメモリを開く。
そこにあるのは吉澤と自分との数々の思い出。
日付なんか見なくても、いつ、どこで、何をしていたのかなんてことすぐに思い出せる。
まるでつい先程あった出来事のように鮮明に。
けれど。
写真なんかじゃ物足りない。
もっと傍に、自分のすぐ隣に居て欲しい。
声を聞きたい。体温を感じていたい。彼女を独り占めしていたい。
恋愛らしい恋愛なんて今まで一度もしてこなかった。不思議な事に。
それなりに言い寄られた事だってあったけれど全く相手にしてこなかった。
だから愛や恋だなんてよくは分からないけれどきっと今、自分がこの胸に抱いている感情はその愛や恋なのだと思う。
だってこんなに胸が痛いんだもの。こんなに苦しいんだもの。彼女に会いたいんだもの。
- 303 名前:G-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:10
-
痛い痛い苦しい。
ねえ、よしこ。
この痛みに効く薬があるのならばそれはきっと貴方だよ。
貴方が笑いかけてくれるならばこんな痛みすぐに吹っ飛んじゃうし、
貴方が会ってくれるならばこんな苦しい思いなんてしなくてすむと思うんだ。
ねえよしこ、どうしよう。
私どうやらホントの本気で貴方の事が好きみたい。
本当に本気なんだよ。
- 304 名前:G-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:10
-
携帯を閉じて胸に当てる。
繋がっている時はそれは本当に嬉しいのだけれど彼女が電話に出てくれなかった今、それはとても悲しい。
閉じたり開いたり、耳に当てたりしてみてもそこからは何も聞こえないし彼女を感じることは出来ない。
明日になったら出てくれるだろうか。またかけてみようか。
ベッドにダイブして天井を見上げる。
そこには昔彼女が誕生日プレゼントとしてくれた世界地図が貼ってある。
なんで世界地図なのかと聞くとごっちんはお馬鹿さんだからと真顔で言われた。
その時はその言葉を間に受けて必死で勉強したものだ。おかげで高校に受かる事が出来た。
けれど後々になってその真意を問いただすと、いつか二人で外国に行こうとこれまた真顔で言われた。
だからその時のために今から何処の国に生きたいか考えておいてねとの事だった。
彼女はあの時の約束を覚えているだろうか。
もう行きたい国は決まったよ。
- 305 名前:G-side 投稿日:2005/06/11(土) 11:11
-
天井を見上げながら夢は膨らむ。
周りはまるで映画の中の世界。その隣にはもちろん彼女の姿。
私が彼女と異国の地に立っている時、私たちの関係は変わっているだろうか。
近くなっているだろうか、遠くなっているだろうか。変わっていないだろうか。
遠い未来に夢を馳せながらそのまま眠りの中へと落ちていった。
- 306 名前: 投稿日:2005/06/11(土) 11:12
-
- 307 名前:さくしゃ 投稿日:2005/06/11(土) 11:12
-
ここまで。
なるべく近いうちに更新します
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/11(土) 19:21
- 更新お疲れ様です。
うーん、せつないですねぇ。
また続き楽しみに待っています。
- 309 名前:kk 投稿日:2005/06/15(水) 17:08
- おぅ更新されてる!
矢口やさしいなぁ
よしごまに幸あれ
- 310 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 15:54
- 最初から読み返してみました。
やっぱこれ好きだ・・・
更新待ってます。
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/26(火) 14:29
- この話好き!!
更新待ってます。
- 312 名前:さくしゃ 投稿日:2005/08/18(木) 20:16
- レスありがとうございます
更新します
- 313 名前: 投稿日:2005/08/18(木) 20:17
-
- 314 名前:M-side 投稿日:2005/08/18(木) 20:18
-
「そこまで」
背後から突然声がして、藤本は肩をビクっと揺らすと後ろを振り向いた。
飯田がいた。
「覗き見なんてカオは好きじゃないよ」
それだけ言うと飯田はスタスタとその場を去った。
ベッドに倒れこむ音が聞こえる。
後ろを振り向いたその姿のまま固まっていた藤本はふうーっとゆっくり息を吐き出すとそのままその場にへたり込んだ。
- 315 名前:M-side 投稿日:2005/08/18(木) 20:19
-
怖い、マジで怖い。下手なホラーよりマジで怖い。
心臓は動く事を今思い出したかのようにもの凄い速さで打ち始め、背中を汗が流れる。
何でいるんだ。いつの間に後ろにいたんだ、寝てたんじゃなかったのか。
バクバク鳴り続ける心臓を押さえて立ち上がる。手に顔にグッショリ汗をかいている。
彼女はもうこの場にはいない。けれど彼女の言葉が響いている。
目の前には閉ざされたままの扉。開けばそこには彼女の世界がある。
手をかければもうスグ目の前だ。けれど藤本はその扉に手をかけることが出来なかった。
頭をブンブン振ってその場を離れた。
諦めたわけじゃない。見るなといわれたら見たくなるのが人間の本能だ。
けれど彼女に嫌われたくない。彼女を騙す事なんて出来ない。
- 316 名前:M-side 投稿日:2005/08/18(木) 20:19
-
寝室の扉をそっと開ける。
月明かりに照らされた飯田の眠るベッドがそこにあった。
開いたままのカーテンを閉める。途端に広がる暗闇。
先に布団の中に入っていた飯田の隣に潜り込む。モゾモゾと動いて飯田が口を開いた。
「完成したらね」
突然のその言葉に反応出来ずにいると身体を起こして飯田が言った。
「制作過程を見られるのは好きじゃないの。完成したらね」
そう言って優しく微笑んだ。
さっきのことか。頭の中で整理すると藤本は頷き返した。
「約束ですよ」
指きりしようと手を差し出すと手の甲にキスをされた。
「仰せのとおりに、お姫様」
飯田は眠たそうな瞳でバチリとウィンクを一つ決めると目を閉じた。
- 317 名前: 投稿日:2005/08/18(木) 20:19
-
- 318 名前:Y-side 投稿日:2005/08/18(木) 20:20
-
土曜日。
一般の学生にとっては待ちに待った休日。
けれど吉澤にとっては違った。
通っている高校は県内でも有数のスポーツ強豪校。
そして自分が所属するのはそのなかでもかなりの成績を修めているバレー部。
休日返上で練習なんてのは当たり前だ。むしろ休みになる事のほうが珍しい。
今日はそんな当たり前の土曜日。朝から練習だ。昼に少しの休憩があってそれからまた練習。
帰ってくる頃にはもうヘトヘトだ。それが明日の日曜日も続く。
「おっしゃ」
一人玄関先で気合を入れ、スポーツバッグを肩にかけて家を出る。
駅まで軽くジョギング。こうして身体を慣らすのだ。
ホームに立ち電車が来るのを待つ。その少しの間に昨日の出来事を思い出す。
思い出して少しブルーな気持ちになる。ポケットに入れた携帯が重い。
昨日の電話なんだったんだろう。ごっちんは何か言いたかったのかな。何て言いたかったのかな。
考えてみても分からない。だって自分はその電話を拒否してしまったから。
彼女が何を伝えたかったのかなんてことは分かるはずもない。
ポケットに入っている携帯を弄くる。頭に浮かぶのは彼女の顔。
- 319 名前:Y-side 投稿日:2005/08/18(木) 20:21
-
ねえごっちん。
私昨日君からの電話拒否っちゃったんだ。
ねえ、何が言いたかったのかな?
電話に出なかった私の事怒ってる?
ねえごっちん。
ごめんね、私臆病なんだ。
こんなにも君の事が大好きなのに、大好きだからこそ君からの電話に出れないんだ。
ごめんね、ごっちん。
- 320 名前:Y-side 投稿日:2005/08/18(木) 20:22
-
一人感慨にふけっているとホームに電車の滑り込んでくる音。
一斉に動き出す人の波に飲まれて思考が現実に戻ってくる。
押して、押されて電車に乗り込む。
人、人、人。
いつも思うことだがこの小さな町に一体どれだけの人が住んでいるのだろうか。
朝の電車はいつも人がいっぱいだ。スーツ姿のサラリーマンやOL。
そしてどこか遊びにでも出かけるのだろうか、少しお洒落した女の子や男の子。
ジャージ姿の自分が少しだけ恥ずかしい。鞄を漁ってウォークマンを取り出し装着。
目を閉じて鞄をかけなおす。線路の上を走る電車のリズムはそれは昔は慣れないものだった。
しかし今となってはそれも心地よい。駅につくまでの間、電車に揺られて少しの仮眠。
今日の練習もきっときついだろうな。
かなり優秀な成績を残しているこのバレー部。そこに推薦で入ってきた吉澤。彼女の腕前はかなりのものだ。
最近では大学や実業団バレーチームの監督なんかが練習をよく見に来ている。
吉澤の夢は大きい。世界だ。その夢を実現させるべく、練習には人一倍気合をいれている。
今日の練習もきっときついだろうな。でも頑張るぜ。だってきっと輝く未来が待っている。
下を向いて目を閉じて。ニヤリと唇を軽く歪ませ眠りに落ちる。
電車はガタゴトと揺れながら輝く未来へ繋ぐその場所へ吉澤を運ぶ。
- 321 名前: 投稿日:2005/08/18(木) 20:22
-
- 322 名前:さくしゃ 投稿日:2005/08/18(木) 20:23
- 次回更新は石川さんと矢口さんの予定
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/05(月) 01:58
- 他の二人もいいけどよしごまが気になる
- 324 名前:さくしゃ 投稿日:2005/09/08(木) 00:02
- >>323
レスありがとうございます
更新します
- 325 名前: 投稿日:2005/09/08(木) 00:03
-
- 326 名前:R-side 投稿日:2005/09/08(木) 00:03
-
「ありゃ、石川?」
眠たい瞳をこすりながら矢口がその小さな身体を精一杯伸ばした後隣を見るとそこにいたはずの石川がいない。
部屋を見回してもいない。トイレにでも行ったかなと思い暫し待っては見るものの姿を現さない。
部屋の隅に丸く収められたパーカーから携帯を取り出し石川の番号をコール。
何やってるんだアイツは。コール音が7回鳴って聞き覚えのある甲高い声が聞こえた。
「石川?お前何やってんの?つーかどこにいんの?」
『あん、矢口さん!今日すごく天気いいですよ、石川困っちゃいますぅ!』
「いやいやお前が困っても別になんともないし。つーか質問に答えろよ!」
『あは、今川にいるんです。後から来てくださいね〜グッチャー!!』
甲高い声で奇声を発して電話を切られた。
携帯を片手に矢口はまだ夢の中にいるようだ。
携帯をいじってみたり布団を捲り上げたり、意味もなく部屋の中を動き回って見たり。
やがてさっきの出来事は現実での出来事だと気付く。
「石川あああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
- 327 名前:R-side 投稿日:2005/09/08(木) 00:04
-
矢口は猛スピードで化粧を施し、階下で鉢合わせした石川の母親から貰ったトーストを一枚完食すると石川の家を飛び出した。
その小さな体のどこからそのスピードを出しているのかと不思議に思うほどのスピードで街を駆け抜けてゆく。
所狭しと建物が建ち並ぶ混み込みとした街中を走り抜けて突然眼下が開ける。
街を流れる川にたどり着いた。
そこには水も緑もそして鳥達もいる。人工的なこの街に似つかわしくない自然な場所だった。
まだ朝も早く人の姿はあまり見えない。犬の散歩をしているおじさんとあと少し頭のおかしい・・・石川?
目をこすってみる。これでも矢口は結構目がいいほうだ。
しかしあの光景は。もう一度目をこすってある箇所をじっと見てみる。
全身ピンクに包んだアレは石川だよな。矢口の視界にははっきりと石川の姿が写っていた。
しかし何をしているのだ。
石川は全身ピンクのその格好でまるでフィギュアスケートの選手よろしくクルクルと廻っているのだ。
矢口はもう一度目を瞬かせ見てみる。
廻っている。やはり廻っている。
見なかったことにして帰ろう。そう思い矢口は背を向けた。と、その瞬間。
「あ、真里っぺえええぇ!!!!!!」
- 328 名前:R-side 投稿日:2005/09/08(木) 00:04
-
矢口の頭ががっくりと下がる。
その後方では喜色満面の石川の姿。手を振りながら走ってくる。
見つかってしまったならしょうがない。矢口は振り返った。
目の前にせまる全身ピンクの石川。腕を開いて待つ。
石川は嬉しそうに笑いながら飛び込んで・・・・・
「真里っぺ言うんじゃねえええええ!!!!!!!!」
軽く5メートル吹っ飛んだ。
矢口はパンパンと手を払い、ニッコリ笑いながら倒れた石川の傍に立つ。
「おはよう石川」
「お、おはようございました」
差し出された腕をしっかり握って石川は満面の笑みを返した。
- 329 名前: 投稿日:2005/09/08(木) 00:05
-
- 330 名前:M-side 投稿日:2005/09/08(木) 00:06
-
「飯田さん?」
目を覚ますとやけに静かな空間。
少し変に思って飯田が寝ているはずの寝室をのぞくとそこは蛻の殻。姿がなかった。
何処に行ったんだ?時計を見てみるとまだ早朝。低血圧な彼女が早起きとは珍しい。
どこかに何かメモでもないかと探してみるとあった。玄関のドアに紙切れが貼ってあった。
『美貴へ
インスピレーションが働いた
頭の中で鳴り止まないので川に行く
きっと河童に会えそうな気がする
もしかしたらアザラシも来るかもしれない
キュウリ持って川に来て
カオリ』
- 331 名前:M-side 投稿日:2005/09/08(木) 00:06
-
はあ。
全く理解できない。いや理解は出来る。彼女は今きっと川にいる。
だけど何だって?河童?アザラシ?キュウリを持ってこい?
全くアホらしいと言うか何と言うかついていけない。
ついていけないけれどきっと彼女は本気だ。今まさに川で自分がキュウリ片手に現れるのを待っているはず。
なんだかなあ。
つい昨日はカニを担いだし今日は今日で片手にキュウリ。
私いったい何してるんだろう。
溜息をついて腕を組む。
困った。
朝早くからキュウリ片手に出かけなきゃ行けない事もそうだけど、その事をとても楽しみにしている自分がいる。
これは困った。
いつからこんななっちゃったんだろう。私こんな子じゃなかったのに。
きっと彼女と出会ってからだ。きっとそうだ。
- 332 名前:M-side 投稿日:2005/09/08(木) 00:07
-
まだ少し寝惚けていた頭は完全に起き出し、藤本はんっと伸びをした。
顔を洗って彼女の服を失敬しててキュウリを持って川に行こう。
今の時間なら人も少ないし見られる事だってあんまないさ。
飯田さんが待ってる。もしかしたら河童やアザラシも。
心なしか浮かれている自分に気付き少し恥ずかしくなるけれどだってしょうがない。
やっぱり彼女といるのは楽しいんだもの。楽しみなんだもの。
顔を洗って服を着替えて。少し大きめの彼女の服は僅かだが絵の具の香りがする。
でも彼女の香りだ、気にならない。ここでアノ人なら圭織の香りだなんて寒い洒落を言うんだろう。
下らない事を考える頭を左右に振って切り替える。早く行かなきゃ。彼女が待っている。
キュウリを片手に持って部屋のドアを開ける。
目の前に大きな朝日が、静かな街を照らす。
紐をギュッと、つま先をトントン蹴って。
飯田が待っているはずの川へ、朝焼けの広がる町を藤本は駆け出した。
- 333 名前: 投稿日:2005/09/08(木) 00:07
-
- 334 名前:さくしゃ 投稿日:2005/09/08(木) 00:08
- 次回更新は後藤さんの予定です
- 335 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/09(金) 19:23
- 更新お疲れ様です。
石川さん達も飯田さん達もそれぞれ良い味だしてますね。
次回も楽しみに待っています。
- 336 名前:さくしゃ 投稿日:2005/09/22(木) 18:46
- >>335
レスありがとうございます
更新します
- 337 名前: 投稿日:2005/09/22(木) 18:46
-
- 338 名前:G-side 投稿日:2005/09/22(木) 18:47
-
「んあー・・・」
珍しい事に後藤は早起きをした。
別に何の用事も無い。というか用事があっても寝坊するのがいつもの後藤だ。
だけど今日は何故か。
「あー・・・起きちゃった」
上半身を起こしてベッドの上でボーっとしてみる。
いつもならこれで二度寝、三度寝とできるのだがどうやら今日はそうもいかないらしい。
目をパチパチ瞬かせて首を回して欠伸を一つ。両腕をぐんと伸ばして伸びをすると完全に目が覚めてしまった。
「んあー、どうしよ・・・」
頭をかいてふと脇を見ると閉じたままの携帯。
そうだ、よしこからメールきてるかな?ちょっとドキドキしながら携帯を開く。
「・・・来るわけ無いか」
- 339 名前:G-side 投稿日:2005/09/22(木) 18:48
-
メールも着信も何もなし。寂しい土曜日だ。さっきから独り言ばっかりだし。
フッと自嘲気味に笑う。寂しいな。最近よしこ冷たいよ。
そりゃ昨日は確かに遊んだけどさ、それだってかなり久しぶりだった。
久しぶりだったのに帰りはなんだか微妙だったし電話には出てくれないし。
近くにいたのに遠くに感じたよ。私だけかな?
寝転んで天井の世界地図と睨めっこ。
あーむしゃくしゃする。
よしこ今何してるかな。今日も練習かな?学校行ってるんだろうか。行ってみようかな。
突然行ったら驚くかな?何でいるのー!?ってビックリして喜ぶかな?
そうだ、よしこの学校行ってみよう。一度行ったことがあるから行けるはず。
そうだよ、待っててダメなら自分から行けば良いだけじゃん。なんでこんな簡単な事気付かなかったんだ。
今日は早起きしちゃったしやること無いしよしこから電話もメールも無いし行ってみよう。
けど・・・よしこは会いたくないかな?
- 340 名前:G-side 投稿日:2005/09/22(木) 18:49
-
晴れ渡った後藤の心に少しの暗雲。
会えなかったらどうしよう。会いたくなかったらどうしよう。
そうだよ、自分が今から突然行っても彼女が来て欲しくなかったらどうしよう。
現に彼女は昨晩電話をかけても出なかった。
ただ寝ていただけかもしれないけどそれなら今日の朝にでもメールで詫びが入ってるはずだ。
律儀な彼女の事だ、今までだってそうだった。
だけど今日は何もない。
どうしよう、どうしようかな。
ベッドの上をゴロゴロゴロゴロ行ったり来たり。
何往復かしてそのまま床に転げ落ちた。
行こう。
パッチリ目を開いてスタっと起き上がり服を着替える。
いつもの彼女からは想像もつかない脅威のスピード
ドドドと階段を駆け下りると階下には休日の朝を寛ぐ家族の姿。
「ちょっとでかけるから」
それだけ言い残して後藤は家を出た。
行くって決めたんだ。自分で決めたんだ、よしこに会いに行く。
- 341 名前: 投稿日:2005/09/22(木) 18:49
-
- 342 名前:R-side 投稿日:2005/09/22(木) 18:51
-
「石川ぁ、お前朝から何やってたの?」
朝日を迎える川原に石川と矢口は二人肩を並べて座っていた。
矢口はだらしなく胡坐を掻いて石川は綺麗に膝を折って草を毟ってはばら撒き毟ってはばら撒きを延々と繰り返している。
さっきまでは妙にテンションの高かった石川だが何故か分からないが今もの凄く落ちている。
黙ったまま草を毟ってははらはらと撒き散らす。
急に元気のなくなった石川を隣に矢口は頭を抱えた。
なんだよなんなんだよいみわかんねーよオイラなんかしたかよ。
横目で石川を見るとやっぱり表情は暗いまま。
なんだよーなんもいわなきゃわかんねーってあーもうなんだよオイラなんで朝っぱらからこんな奴とつるんでんだよー呼び出したのお前じゃんかよーさっきまでメチャはしゃいでたのになんだよーアレか?オイラが言った事気にしてんのか?冗談だよー朝っぱらからこんな太陽の下で踊り狂うなんてそりゃ真っ黒にもなるわなんてそんなのただの冗談じゃないかよー
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
- 343 名前:R-side 投稿日:2005/09/22(木) 18:52
- 突然隣で奇声が聞こえたかと思うとその瞬間もの凄い風に煽られた。
片腕で顔を覆いながら片目を開けてみるとピンクの布が捲りあがって褐色の脚とバックプリントのウサギが可愛い白パンツ。
石川。
隣に座っていたはずの彼女は遥か遠くって程もないけどもの凄い勢いで川原を駆け下りていく。
ピンクのスカートはためかせて褐色の脚は止まらない。まるで獲物を追うチーターのようにそれは美しい。
それはとても美しいけど石川、もうそろそろスピードを落とすべきだ。
矢口の脳裏にその思いが過ぎった瞬間、こけた。これでもかと言うくらい派手に石川は、こけた。
緑が広がるその中に咲いた一輪の花。ピンク。
転んだまま石川は動かない。
もしかして頭でも打ったか?
心配しながら自分は転ばないようそれでも少し急いで川原を駆け下りる矢口。
- 344 名前:R-side 投稿日:2005/09/22(木) 18:53
-
「矢口さん!!!!!!」
ガバっと起き上がって叫ぶ石川。どうやら怪我はないらしい。頭の方はどうだか分からないが。
つーかこっちが死にそうだ。
慎重にそれでも急いで石川の元へ駆け寄っていた矢口。
それが石川の突然の声によってバランスを崩しただ今転倒中。中。
小さな矢口さんの身体はそれはまるで昔話のおむすびころりんよろしくコロコロと転がって、
下で待ち構えていた石川さんによって止められましたとさ。
「ああ、もう矢口さんったら大丈夫ですか?急に走ったりしたら危ないですよぉ」
お前に言われたくねーよ・・・つーかお前のせいだ・・・
大転倒を遂げた矢口は必死で呼吸しながらそれでも石川へ突っ込んだ。
転んだままの矢口の隣に石川が寝そべる。
寝ころんだまま二人で空を見ていた。そういえば最近空なんて見てないな。
ああ、眩しい。日焼け止め塗って来ればよかったかな。ああ、眩しい。
「ダイジョーブ?」
眩しかった空は突然人影によって遮られた。
- 345 名前: 投稿日:2005/09/22(木) 18:53
-
- 346 名前:さくしゃ 投稿日:2005/09/22(木) 18:54
- 次回は藤本さん
- 347 名前:名無し読者 投稿日:2005/09/26(月) 11:12
- ごっちん行動あるのみだ!
人影は次の登場人物かな?
- 348 名前:さくしゃ 投稿日:2005/10/08(土) 00:26
- >>347
レスありがとうございます
人影はもう少し先の更新で明らかに・・・少々お待ち下さい
更新します
- 349 名前: 投稿日:2005/10/08(土) 00:27
-
- 350 名前:M-side 投稿日:2005/10/08(土) 00:27
-
それは突然。
早朝だもの、こんな時間に出歩いてる奴なんていないよな。
そう高を括っていたのが間違いだった。
フルスピードで飯田の元へ、四つ角を曲がった瞬間に世界がひっくり返った。
まるでリレーのバトンのように握り締めていたキュウリを手放さなかったのがまずかった。
早朝から藤本は派手にこけた。それでも右手に握り締められたキュウリはキズ一つなく無傷。
「あちゃあ、ゴメンなさい、大丈夫?」
- 351 名前:M-side 投稿日:2005/10/08(土) 00:29
-
顔を顰めて起き上がろうとする藤本にぶつかった相手であろう人物が手を差し伸べる。
逆光になっていて顔が見えない。髪の毛が長い。女。
ったく誰だよこんな朝早くから走ってんじゃねーよ馬鹿か。
自分の事は棚に上げて心の中で悪態をつきながらも表には出さず差し伸べられた手を借りて立ち上がる。
「ありがとう。貴方こそ怪我はない?」
上辺だけは丁寧に、でも相手の顔は見ずに自分の服の汚れを掃う。
あーあ、飯田さんの服なのに。幸い破れてはいないようだけど。
「んあ、ごとーは大丈夫だよ」
妙に間延びした柔らかな声が聞こえて藤本はそこで初めて相手の顔を確認する。
あ、この子。
吉澤さんとと一緒にいた子だ。
記憶力は悪くない。確かにそうだ。
ゴトー。この子も自分で自分の名前言ってる。飯田さんと同じだ。
どうやら長い間彼女を見すぎていたらしい、ゴトーさんが口を開いた。
「あ、あの、ごとー急いでるから・・・」
少し俯いて手を後ろでモゾモゾさせて。
ついさっきぶつかったのに彼女には何の汚れも傷もない。どうやらぶっ飛んだのは自分だけのようだ。
・・・こいつのせいか。
藤本は目の前で後藤が早くこの場を離れたそうにしているのを気にもせず、右手を掲げキュウリを睨みつけた。
- 352 名前:M-side 投稿日:2005/10/08(土) 00:30
-
「・・・それ・・・きゅうり?」
声に引き戻され後藤の顔を見るとポカンとした表情で藤本の右手を見つめている。
途端に恥ずかしくなる。
朝っぱらからキュウリ持ってフルスピードで走ってキュウリ庇って大転倒なんてヤバイ、マジで恥ずかしい。
顔が熱くなるのが分かる。しかもこの子吉澤さんと知り合いっぽいし。
別にだからどうって事はないのだが何故か恥ずかしくなる。
慌ててズボンのポケットに突っ込むと藤本はまた走り出した。
「私は大丈夫だから」
捨て台詞を残してその場を走り去る。
ああマジで恥ずかしい。学校で寝惚けて教師の事をお母さんと呼んでしまったいつかの時より恥ずかしいかも。
耳まで真っ赤になりながらそれでも藤本は走った。もうすぐ川が見えるはず。そこには飯田がいるはずだ。
形の良い藤本のお尻で緑色のキュウリが踊っている。
四つ角にはポカンとした表情のまま後藤が一人取り残されていた。
- 353 名前: 投稿日:2005/10/08(土) 00:30
-
- 354 名前:Y-side 投稿日:2005/10/08(土) 00:31
-
「吉澤」
呼ばれて振り返るとバレー部の先輩である里田まいがジャージのポケットに両手を突っ込んで立っていた。
里田はバレー部の中で吉澤が一番懐いている先輩だ。
「なんすか?」
一人ストレッチをしていた吉澤はタオルで汗を拭いながら里田に向き合う。
「監督が呼んでた」
里田はそれだけ言うと近くに転がっていたボールを拾い上げて去っていった。
監督が呼んでた?
私何かしたかな?
必死で呼び出される理由を思い起こしてみようと思うけれど思いつかない。思い出せない。
監督は鬼のように恐ろしく厳しい事で有名だ。これまでにも何人かの部員が犠牲になっている。
でもその鬼監督だからこそ上位常連強豪チームでいられることも事実だ。
吉澤は強くありたい。上手くありたい。だから今までついてきたしこれからだってついて行こうと思っている。
けど呼び出し。監督から呼び出し。
何かしたかな?考えてみるけど分からない。
観念したように頭を乱暴に掻くと監督が待っているであろう教官室へ足を向けた。
わっかんねーもん、なるようになるっしょ。
もしやめろなんて言われても絶対やめてやんないんだから。
- 355 名前:Y-side 投稿日:2005/10/08(土) 00:31
-
「吉澤かー」
里田の周りには輪が出来ていた。といっても彼女を入れて三人だけの小さな輪だったが。
里田を伺うようにして二人は見つめている。
視線に耐え切れなくなったのか里田はがああああああああああと叫んで頭を掻き毟った。
「私は何も知らないの!時期が来れば監督なり吉澤本人なりからなんかあるでしょ、おとなしく待っときなさい!」
逃げるようにしてその場を離れた里田は近くにあったボールに躓いて派手に転んだ。
里田に怒鳴られた二人はそれをさも可笑しそうに腹を抱えて笑っている。
そんな二人を恨めしげに睨むと里田はそのボールを掴んでスパイクをかました。
「ったく、お前ら笑いすぎ!!」
- 356 名前:Y-side 投稿日:2005/10/08(土) 00:32
-
向こう、五月蠅いな。
また、里田さんが何かやらかしてるのかな。
吉澤は監督と机を挟んで向き合って座りぼんやりと考えていた。
ここはぼんやりして良い場所などではない。頭では分かってはいるけれどどうもだめだった。
思考が散漫になる。あんな事を聞かされた後では。
「・・・じゃ、まあよろしく考えといてくれ」
監督の声がやけに遠くから聞こえる。
ちがう、目の前にいるじゃないか。
返事。返事をしなければ。体育会系人、基本中の基本だ。
「はい・・・失礼します」
- 357 名前:Y-side 投稿日:2005/10/08(土) 00:33
-
フラフラとした足取りで吉澤は席を立つと監督に一礼し部室の戸を閉めた。
戸を閉めて二、三歩歩いて立ち止まる。
これは夢?現実?
自分の頬を軽く抓ってみる。痛い。現実。
でもまるで夢みたいだ。
「・・ざわ・・・」
誰かが私を呼んでる・・・これは現実?それとも幻?
「・・・しざわ・・・吉澤!!!!」
一際大きな声と何か白い物体。
確認したその時目の前で火花が弾け飛んでその瞬間に全てが現実である事を実感した。
- 358 名前: 投稿日:2005/10/08(土) 00:33
-
- 359 名前:さくしゃ 投稿日:2005/10/08(土) 00:34
- 次回更新は後藤さん
人影の正体も明らかになる予定です
- 360 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/23(日) 22:34
- 楽しみにしてます。人影の正体は髪の毛の長い人だと予想してみるテストw
- 361 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 20:22
- 初めてレスしますがこの話大好きです。
読んでいるとなんだか幸せな気持ちになれます。
これからも楽しみにしているので頑張ってください。
- 362 名前:さくしゃ 投稿日:2005/11/06(日) 12:22
- >>360
ありがとうございます。
人影の正体は・・・更新分読んでくださいw
>>361
>読んでいるとなんだか幸せな気持ちになれます。
大変ありがたいです。頑張るので楽しみにしていてください。
レスありがとうございました。更新します
- 363 名前: 投稿日:2005/11/06(日) 12:22
-
- 364 名前:G-side 投稿日:2005/11/06(日) 12:23
-
後藤は呆けた表情のまま立ち尽くしていた。
何だったんだ?さっきの。曲がり角曲がろうとしたら突然現れた人とぶつかって。
年は同じくらいだったかな、サイズの合わない服を着て。
自分も走っていたけど相手も相当走ってた。こんな朝早くから何を急いでいたのだろう。
というかそれより。
ぶつかった相手は手にきゅうりを握り締めてた。
きゅうり離せば転ばなくて済んだかも知れないのに派手にこけてやっぱりきゅうり握って。
そんなに大事なものだったんだろうか。朝ごはんなのかな?走りながら食べるんだろうか。
それにしてもきゅうりって。
なんだか可笑しくなって後藤は少し笑った。
「がんばってねー」
何を急いでいたのかは知らないけれど。
ぶつかった相手が走り去っていった方向にヒラヒラと手を振って自分も走り出した。
- 365 名前:G-side 投稿日:2005/11/06(日) 12:24
-
気持ち良い。
久しぶりに走っている気がする。
長い髪を靡かせて人の少ない早朝の街を走る。
車もあまり無いせいか自分の足音がやけに大きく聞こえる。
リズムに乗って走り続ける。
たまにすれ違うおばさんやおじさんの微笑が暖かい。
うん、こうゆうのもたまには悪くない。
後藤は走りながらまた笑った。
もう少ししたら駅が見えてくる。電車に乗ってまた走ってよしこに会いに行く。
胸を打つ鼓動が早くなるのが分かる。
これはきっと走ってるからだけじゃない。
少し息が苦しくなる。
それでも足は止めない。止めちゃいけない。
駅に電車が入ってくるのが見える。よし、アレに乗ろう。
少し落ちかけていたスピードを上げて後藤はまた走り出す。
- 366 名前:G-side 投稿日:2005/11/06(日) 12:25
-
心臓のドキドキが止まらないのは走っているから。
よしこに会いに行くから。嬉しいから。ちょっと緊張しているから。
そして少しだけ、怖いから。
- 367 名前: 投稿日:2005/11/06(日) 12:25
-
- 368 名前:R-side 投稿日:2005/11/06(日) 12:27
-
―First contact-0―
「ダイジョーブ?」
その声に石川が目を開けるともの凄く近い距離に人の顔。
頬に何か当たると思えば長い黒髪。
「っきゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
急に暗くなって声が聞こえて耳が痛くなって矢口は隣に寝転んでいるはずの石川を蹴った。
が、感触が無い。
もう一度蹴ってみる。だが足は宙を切るばかり。
「矢口さん!!!!!!!!!」
もう一度声が聞こえて顔を上げると黒いはずの石川が真っ青。顔面蒼白。
ぶるぶる震えて自分を指差して。
「何だよー」
矢口はのんびりと起き上がった。
体の節々が痛い。
伸ばすたびに痛みで声がでる。
「っくあ〜イテテテて・・・ってうあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
仲良く並んだ石川と矢口。
二人して真っ青。二人して同じ方向指差して
「貞子おおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫んだ。
- 369 名前:R-side 投稿日:2005/11/06(日) 12:28
-
「うわー、失礼だなー貞子ちゃんよりは美人だと思うよー?きっと」
貞子呼ばわりされたその女性は不機嫌そうな顔をしながらこっちへ近づいてくる。
石川はガタガタ震えて矢口の後ろに隠れようとするが矢口がそれを許さない。
「ちょっ、石川お前の方がでかいんだからお前がオイラの後ろに来るのは間違ってるだろ!!」
「ななな何言ってるんですか、ややや矢口さんの方が年上ですよ!!」
「ばばば馬鹿どうみてもオイラの方が年下っぽい!!!」
「そそそそんな私の方がか弱」
「ねえ、大丈夫?」
「「あヒャアアアアアアアアアアアアアアアアひぇええええええええええええええ!!!!!!」」
「・・・大丈夫?」
「「ごめんなさいごめんなさい呪わないで下さいこんな小さいですけど黒いですけどまだ生きたいんです夢とかないようでありそうな気がしてるんですごめんなさいごめんなさいまだ呪われたくないんです死にたくないんです背伸びたいし顎なんとかしたいしセクシービーム出したいし白くなりたいし石川にまだかけてない技とかあるしいつか矢口さん投げ飛ばしたいしまだ死にたくないんです呪わないで!!!」」
- 370 名前:R-side 投稿日:2005/11/06(日) 12:29
-
必死に土下座する二人を前に長髪の女性はボーっと空を見ている。
その間も石川と矢口は泣き叫びながら何か訳のわからないことを口々に叫びただひたすら土下座する。
この人たちはイスラム教信者。今はお祈りの時間だから唯一神アッラーにお祈りをしている。きっとそうだ。
女性は見当違いの答えを頭の中で納得し鼻歌を歌い始めた。
石川と矢口は何を勘違いしたのか更に大きな声で泣き叫ぶ。
「「やめてやめてやめて呪いの歌とかもういいから石川の歌だってちゃんと聴くからやぐちさんのじゃんけんぴょんだって痛々しいとかもう言いませんから助けてください助けてください誰か助けてくださいw背drftgyふじこレxrcvbんm、おdcfvghbんjm!!!!」」
「来る」
「いやあああああああああ来ないで来ないで殺さないでィひゃああああああああああああああ!!!!!!!」
泣き叫ぶ二人をよそに女性はいきなり立ち上がり呟いた。
そして後ろを振り返る。
「美貴、遅いよ」
振り返った先には息を切らして右手にきゅうりを握り締める藤本の姿があった。
- 371 名前: 投稿日:2005/11/06(日) 12:30
-
- 372 名前:さくしゃ 投稿日:2005/11/06(日) 12:31
- ここまで。
次回は藤本さんと吉澤さん
- 373 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 15:07
- 更新お疲れ様です。
なんかリンクしてていいですね
- 374 名前:知つぁん 投稿日:2005/11/07(月) 21:20
- 更新おつかれですw
最後のほうで画面を見ながら、にやけてしまいましたw
家族からみたらすごい怪しい風にみられたかもしれませんがw
次回の更新も期待しています。
- 375 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/09(水) 22:55
- 更新お疲れ様です。
石ヤグコンビひどいなあw
- 376 名前:さくしゃ 投稿日:2005/12/09(金) 21:21
- >>373
ありがとうございます
>>374
にやけすぎ注意ですよ、でも嬉しいw
>>375
某小説の影響か、暴力的でだけどこっそり愛情のある石ヤグコンビ書きたかったんで・・・
レスどうもありがとうございました。
更新します
- 377 名前: 投稿日:2005/12/09(金) 21:21
-
- 378 名前:M-side 投稿日:2005/12/09(金) 21:22
-
「ちょっ、飯田さん何してるんですか?」
川についた藤本は早々に飯田の姿を見つけ河原を降りていく。
見つけ出した飯田の近くにはなにやらちっこいのとピンクいのが馬鹿みたいに土下座を繰り返していた。
飯田は何も気にしていないようで鼻歌を歌っている。
「はい、これキュウリです。で、この人たち誰ですか?」
ここまで来る途中いろいろとあったが無傷のままのキュウリを飯田に手渡し必死で土下座を繰り返す二人を指差す。
飯田は藤本からキュウリを受け取るとそのまま口に入れた。
「この人たちはイスラム教信者のアゴンさんとおちびさんだよ。
ねえ、美貴。カオはマヨネーズがないとキュウリ食べれないんだけど」
藤本は呆然とした表情で飯田を見つめている。
自分で食べるの??
河童は?アザラシは??
急に泣きたくなったけれど我慢した。
マヨネーズが無いと食べれないなどと言いながらも飯田はキュウリ一本を完食。
ポンとお腹を叩いて満足そうな笑みを浮かべる。
そんな飯田を見て藤本は虚しく笑った。
- 379 名前:M-side 投稿日:2005/12/09(金) 21:23
-
「で、いいかげんこの人たち誰なんですか?」
もう何を喋っているのかも分からない鼻水と涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔の二人を指差す。
何度土下座を繰り返しているのだろう、二人ともおでこが草のせいで青い。
「ん〜、なんか転がってったから頭打っておかしくなっちゃたのかも」
やけに遠いところから声が聞こえる。
二人を観察していた藤本は顔を上げた。
近くにいると思っていたはずの飯田がいない。どこにいった?
パシャンと水音がして振り返る。
川の中に飯田が入っていた。水飛沫を上げてとても楽しそうだ。
「美貴もおいで」
手招きして自分を誘っている。
ちょっとマジかよ本気かよ。
朝から川なんて入りたくないよ。
だって濡れちゃうし冷たいし着替えだって持ってないし微生物がいっぱいだしああでも楽しそうだから良いや。
彼女が私を誘うし。
- 380 名前:M-side 投稿日:2005/12/09(金) 21:24
-
ジーパンの裾を上げてそろそろと水に足をつける。
冷たい。ジーンとした感触が指の先から全身に広がっていく。ああ、なんか気持ち良いかも。
目を瞑っていたら突然世界がひっくり返った。
と、全身に冷たい冷たい水の感触。
水の中から飯田の笑う顔が見える。揺れる、揺れる。
ユラユラ揺れて飯田の顔が消える。そして近くで大きな水音。
ふわふわ浮力に逆らわず自由に浮いてた藤本の左手をそっと包む手。
水の中で目が合って、静かに笑う。
水は冷たい。遥か遠くの太陽は眩しい。コポコポ泡の鳴る音が聞こえる。遠くで泣き叫ぶ声が聞こえる。
水は流れる。そして冷たい。
けれど繋がった手だけとても暖かい。
- 381 名前: 投稿日:2005/12/09(金) 21:24
-
- 382 名前:Y-side 投稿日:2005/12/09(金) 21:26
-
「吉澤!?大丈夫!?」
あー痛えー顔面直撃とか久しぶりだよー里田さんだーつーか痛えーあー熱い鼻が熱いって鼻血!!!!
「ちょっ!うおっ!!うひゃあ、鼻血!!!」
「嬉しそうに叫ぶな!!!」
久しぶりに見る鼻血に吉澤が興奮して騒ぐとすかさず里田の突込みが入った。
すんませんと謝りながらも何故か吉澤はヘラヘラと笑っている。
ヘラヘラ笑いながら鼻血をたらす吉澤を見て里田は大きく溜息を吐いた。
- 383 名前:Y-side 投稿日:2005/12/09(金) 21:26
-
とりあえずコレ詰めとけと里田に渡されたティッシュを鼻に詰めて白髭おじさんの出来上がり。
声を出すたびにモゾモゾくすぐったい。
吉澤は里田とトスパスをしていた。
「吉澤ー」
―パン
「何すかー?」
―パン
「さっきの話なんだったー?」
―パン
「ん〜内緒っス」
―パン
「・・・先輩に内緒事して良いと思ってんのか?」
「さぁ・・・でも内緒っス」
- 384 名前:Y-side 投稿日:2005/12/09(金) 21:27
-
やっぱり吉澤はヘラヘラ笑う。
コイツ隠し事できない人間だ。里田は思う。
内緒なんていいながら全部顔に出てやがる。
突っ込んでやろうかと思ったけれど本人は内緒にしているそうなので黙っておく。
里田は何かにかけて吉澤をすぐ弄るがこれでも結構優しい人間だったりするのだ。
それでもやっぱり吉澤のヘラヘラ笑う顔がなんだか少しムカついたので、
何も気にしていないふりをしながら吉澤からのパスを受けるとそのままアタックをかました。
いきなり里田から強烈なアタックを喰らった吉澤は当然受ける事もよけきる事も出来ず、
顔面に本日二度目の白球を綺麗に喰らい、ふがあと気の抜ける変な声を出してばったり倒れた。
里田は近づいて吉澤の顔を覗き見る。
やっぱりヘラヘラ笑っている。
オメー鼻血出て興奮してるだけじゃねーだろ。心の中で思う。
今年は吉澤か。
里田は小さな声で呟くと首にかけていたタオルを吉澤の顔にそっとかけた。
新たに溢れる鼻血が白いタオルを赤く染めてゆく。
じわじわ、じわじわ。
ゆっくり、でも確実に広がっていく赤の色が体育館に妙に映えていた。
- 385 名前: 投稿日:2005/12/09(金) 21:28
-
- 386 名前:さくしゃ 投稿日:2005/12/09(金) 21:29
- 今回はココまで
次回は石ヤグコンビと藤本さん
- 387 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:28
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 388 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/13(火) 13:46
- 更新お疲れ様です。
みんなが馬鹿で可愛くて真面目で馬鹿で馬鹿で一生懸命で馬鹿で最高です。
- 389 名前:さくしゃ 投稿日:2005/12/17(土) 22:11
- >>387
お疲れ様です
>>388
ありがとうございます最高に褒められてるような気がします
レスありがとうございました更新します
- 390 名前: 投稿日:2005/12/17(土) 22:12
-
- 391 名前:R-side 投稿日:2005/12/17(土) 22:13
-
「あれ、貞子は??」
矢口の声で石川は地面に伏せていた顔を上げた。
いない。
川原には自分たち二人の姿しかない。消えた?
「・・・やったー!!オイラ達の祈りが通じた!!貞子消したぜヒャッホーイ!!」
汚れた顔ではしゃぎまくる矢口をよそに石川は妙な胸騒ぎを感じていた。
もう一度注意深く辺りを見回す。
すると。
「や、矢口さん・・・アレ見て・・・」
見つけてしまった。
川の淵に丁寧に置かれた靴。
アレは間違いない、何度も土下座した時に見たもの、貞子が履いていた靴だ。
石川の指差す方向を見て矢口は固まっている。
- 392 名前:R-side 投稿日:2005/12/17(土) 22:14
-
「ど、どうしましょう・・・」
「どうするじゃねーよなんでお前見つけてるんだよ馬鹿か!!馬鹿か!!馬鹿かお前は!!お前は馬鹿か!!」
「だってぇ〜・・・」
八の字に眉を歪めて今にも泣き出しそうな石川。
矢口は決心したように頷くと自ら頬をバチンと叩いた。
「よし、石川。オイラがちょっと見てくるからお前はここで待ってろ」
カッコつけて笑って見せるけれどその声には震えが隠し切れない。
石川は立ち上がって目に浮かんでいた涙を拭った。
「私も一緒に行きますぅ・・・」
矢口の腕をしっかり掴んで。
矢口も石川のピンク色したスカートをそっとギュッとこっそり掴んで。
二人で顔を見合わせ頷いた。
- 393 名前:R-side 投稿日:2005/12/17(土) 22:14
-
恐る恐る近づいていく。
丁寧に揃えて置かれた靴。二足。二足?
貞子はさっき一人だったはずじゃ・・・石川が一人思案に耽っていると隣で矢口が小さく声を上げた。
「さ、貞子が二人に分裂してる・・・」
矢口が指差す水中を見てみるとなるほど確かに二人いる。
って何故。
石川が声を出そうとした瞬間、水面が盛り上がって水飛沫と共に勢いよく二人の人間が飛び出してきた。
「っだああああああああああああああああ苦しい!!!!!!!!!!!」
「へへーん、カオの勝ちだね♪」
突然現れた二人の前に矢口は泡を吹き白目をむいて倒れ石川はガクガクと顎を鳴らしながら二人を指差していた。
- 394 名前: 投稿日:2005/12/17(土) 22:15
-
- 395 名前:First contact 投稿日:2005/12/17(土) 22:16
-
―First contact-1―
「あちゃー、そりゃ悪かったね」
随分と高く昇った太陽が照らす川原に四人の人間。
一人は寝、二人は並んで座り、もう一人は走り回って。
石川と藤本は二人並んで座って話していた。
石川の隣には矢口がピクピクと痙攣しながら横たわり時折「貞子・・・」などと呟いている。
そして遠くには飯田が幻のなんたらを見つけた!!などと言い走り回っている。
藤本のびしょ濡れだった服も大分乾き石川の汚れていた顔ももうとっくのとうに綺麗になっている。
「だって本当にビックリしたんだもん。あの飯田さん?本当に怖かったんだから」
石川は笑いながら話す。その目には無邪気に走り回る飯田の姿が映っている。
藤本も飯田を見ながら相槌を打つ。確かにアノ人の真顔は怖いよな。
「でもそれは本当に心配してたからだと思うよ」
- 396 名前:First contact 投稿日:2005/12/17(土) 22:17
-
いつだったか自分が風邪で寝込んでいた時の事を思い出し藤本が言う。
目を開けた瞬間に飛び込んできた飯田の顔。あれはホント怖かった。
自分しかいないはずの部屋に人がいて長い髪を垂らしてじっと見つめていたのだから。
後になって話を聞くと電話を掛けても全然でない、なんの連絡もないしで心配して様子を見に来てくれたのだそうだ。
でも鍵掛けてましたよ?と問うとちょっとコイツでねとひん曲がった針金を出してウィンクして見せたのだ。
過去を思い出して藤本は優しく微笑む。視線の先にはやっぱり走り回っている飯田の姿。
石川も笑みを浮かべて走り回る飯田を見つめた。
柔らかな風が吹く。太陽はポカポカと気持ち良い。
どれくらいの時間が経っただろう会話もなくなり、
朝早くに目覚めた石川が少し眠気を感じ始めた時隣で声がして矢口が起きあがった。
「あ、おはよーございます」
挨拶をする石川につられて藤本も軽く頭を下げる。
「・・・どーも」
- 397 名前:First contact 投稿日:2005/12/17(土) 22:18
-
矢口はボーッとつったったまま動かない。
目をギュッと瞑って頭を掻いて。
「貞子の仲間あああああああああ!!!!!」
叫んでまた倒れた。
遠くで走り回っていた飯田が何事かとこちらを向いて走るのを止めた。
石川と藤本は顔を見合わせ再び倒れてしまった矢口を見つめる。
風は相変わらず優しく吹いている。
- 398 名前: 投稿日:2005/12/17(土) 22:18
-
- 399 名前:さくしゃ 投稿日:2005/12/17(土) 22:19
- 年内の更新は無しです
次回は後藤さん
また来年!!
- 400 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/18(日) 08:45
- 更新乙です
矢口はほーんと小身者だなあ!
来年まで後藤さんと吉澤さんのこれからを想像してニヤニヤして待ちます。
日曜日も早寝早起きして待ちます。
- 401 名前:さくしゃ 投稿日:2006/01/03(火) 15:54
- 新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
>>400
レスありがとうございます
ニヤニヤしすぎて顔溶けないようにしてくださいw
更新します
- 402 名前: 投稿日:2006/01/03(火) 15:55
-
- 403 名前:G-side 投稿日:2006/01/03(火) 15:56
-
急に会いにいったらビックリするかな?なんて。
ドキドキ、ワクワクしながらこっそり体育館を覗いてみる。
ネットを張って行き来する白球。人。目当ての人物を探してみる。
あれ?おかしいな、いつもならすぐ見つけられるのに今日はなかなか見つからない。
もういちど大きな目を更に開いてじっくり見回して見る。日の丸?よしこ?
ビックリした。
驚かせようと思ってた自分が驚くなんて。
後藤が体育館の隅々まで見渡してようやく見つけた親友の姿はそれは無残なものだった。
死人よろしく白いタオルを顔にかけられしかもそのタオルには日の丸のごとく赤い染みが丸く浮き上がっているのだ。
吉澤は腹の上で手を組んだままピクリとも動かない。
どうしたの?どうしちゃったの?何があったの?よしこ。
今にも泣き出しそうな表情で動かない吉澤を見つめる後藤。
ずっと彼女を見ていたので気が付かなかった。背後に立つ人影。
「何してんの?」
- 404 名前:G-side 投稿日:2006/01/03(火) 15:56
-
ぽんと肩を叩かれはっと振り返る。
不信そうな表情を浮かべる里田がそこに立っていた。
「いやっ、えと、あのー怪しいものじゃないんで・・・」
またまたびっくりした。
不意打ちなんて卑怯だよ、心臓が止まっちゃうじゃないか。
必死で弁解する後藤。
だが里田の不信感は強くなる。
だってさっきからずっと見てたけどこの子絶対おかしいって怪しいって。
やけにキョロキョロ辺りうかがうしさ、必死に首伸ばして中覗くしさ、声かけたらかけたで泣きそうな顔してるしさ。
何なのこの子。
「アンタ誰?」
里田はストレートに問いただす。
「ごっ、ごとー!」
- 405 名前:G-side 投稿日:2006/01/03(火) 15:57
-
「はあ?」
あまりにもぶっ飛んだ返答に眉をしかめて頭を抱える。
いや、そうなんだろうけどさ、確かに貴方はゴトーさんなんだろうけど、そうなんだけど違うんだよ。
別に名前聞きたいとかじゃなくてまあ聞きたくないって言ったら嘘かもだけど、
「いや、そうじゃなくて・・・質問が悪かったかな、何しにきたの?」
少し態度を柔らかくして再度問いただす。
「あの・・・会いにきたの」
言って俯く後藤。
対照的に里田の顎が上がる。
何なんだこの子。一々こっちから話振らないと何も話さないのかよ。
ちょっとイライラしてる。けど怒っちゃダメだ。初対面の相手に対して失礼だもの。
里田はオホンと咳払いをして再三問いただす。
「んー、誰に会いに来た?」
「・・・よしこ」
やや間があってから後藤は消え入りそうな小さな声で答えた。
そして耳まで真っ赤にする。
- 406 名前:G-side 投稿日:2006/01/03(火) 15:58
-
答えを聞いて里田は納得する。
類は友を呼ぶってか。吉澤もかなりのもんだけどこの子も相当きてるね。
でも嫌いじゃないよ。そうゆうの。
後藤の一連の仕草を見て里田からさっきまでのイライラが消えていった。
後藤はやっぱり俯いたままモジモジ後ろに手を回して耳まで赤くしている。
「わかった。じゃあここで待ってなよ」
顔を上げた後藤にニッコリ笑いかけると里田は館内へ入っていった。
友の名を呼ぶ大声が聞こえる。
良い人なのかな?
里田に対して少しの恐怖感を抱いていた後藤はぼんやりとそんな事を思った。
「顔洗ってくるからちょっと待っててだって」
再び自分の前に現れ笑いかける里田を見てやっぱりこの人良い人だと後藤は思った。
だから自分も里田に笑った。「ありがとうございます」の言葉も忘れずに。
「いいよ」と里田はまた笑った。
足音が聞こえてくる。じゃあねと手をヒラヒラさせて里田は消えていった。
- 407 名前:G-side 投稿日:2006/01/03(火) 15:59
-
足音が近くなる。心臓が早くなる。足音と心音の比例。
後藤の心音スピードがマックスに達して。
「あれ、ごっちん?」
吉澤の顔がひょっこり覗いた。
- 408 名前: 投稿日:2006/01/03(火) 16:00
-
- 409 名前:さくしゃ 投稿日:2006/01/03(火) 16:02
- とりあえずここまで
次回更新は河原にいる人達
今年中に完結を目指したい・・・
- 410 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/05(木) 21:06
- 今年も楽しみにしてます。
よしごまに幸あれw
- 411 名前:さくしゃ 投稿日:2006/01/13(金) 22:51
- >>410
ありがとうございます
今年も頑張ります
更新します
- 412 名前: 投稿日:2006/01/13(金) 22:51
-
- 413 名前:―First contact-2― 投稿日:2006/01/13(金) 22:53
-
「疲れた」
そう言って飯田が矢口の隣に倒れこんだのは10分ほど前。
矢口は相変わらずダウンしたままだ。
石川と藤本は特に何をするわけでもなく伸びきった二人を眺めている。
先程まではまるで旧来からの知り合いであるかのように話が弾んでいたものの、
やはり初対面の人間同士、一度会話が途切れると次に出す言葉が見つからない。
それでも気まずいという事はなく、ただのんびりと川の流れる音を聞きながら互いの連れを見ている。
「うう・・・」
小さな声が聞こえて伸びていた矢口がモゾモゾと身体を動かす。
「くぁ・・・よく寝た」
大きな欠伸を一つして矢口がちっこい身体をうんと伸ばす。
寝てたのかよ!心の中で突っ込みながら藤本は遠くから見る。
飯田はまだ起きそうにない。
「真里っぺ、大丈夫?」
心配そうに駆け寄った石川だが目覚めてすぐの矢口にパンチを食らう。
「真里っぺ言うな!」
- 414 名前:―First contact-2― 投稿日:2006/01/13(金) 22:54
-
眉間に皺を寄せて石川を殴った右手を撫でる。
全く何なんだこいつは。何度言っても聞きやしない。殴られたいのか。Mか。そうか。
短い溜息を吐いて石川を見る。嬉しそうにニヤニヤ笑う石川がいた。
Mか。
「お前キモイよ」
呆れたように呟くと石川から目を逸らした。と、視界に入ってくる人影。
あれは・・・
「っぎゃ・・っぐ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目を剥いて叫び声を上げようとした矢口だが、石川の黒い手で口を塞がれ声は発せられなかった。
口と一緒に鼻の穴まで押さえられ、呼吸する術を失った矢口は石川の手から逃れようともがく。
だが石川は何を勘違いしてるのかさらに強く矢口を押さえつける。
「や、矢口さん、大丈夫ですよ、あの人は良い人なんです!落ち着いて!!」
お前が落ち着け!!!
声を大にして叫びたい矢口だがそれは無理な話だ。
苦しい。息が。頭に血が上る。破裂しそうにドクドクなる。
足がじたばたと地を蹴る。驚きと恐怖で目を剥いていた矢口だが今はもうそれどころじゃない。死にそうだ。
- 415 名前::―First contact-2― 投稿日:2006/01/13(金) 22:55
-
藤本は遠くから二人を見ていた。
小さな矢口がジタバタともがく様はそれはとても面白く、腹を抱えて笑っていたのだが異変に気付く。
石川は相変わらず矢口を押さえつけている。
「あの・・・、そろそろ離してあげないと貴方犯罪者になっちゃう」
腰を上げて二人の元へ駆け寄り、石川の肩を小突いて伝える。
近くで見た矢口の顔は血が上って真っ赤だ。熟したトマトみたいだな。藤本は思った。
トマトのような矢口と目が合った。涙が浮かんだその瞳が藤本に助かったよと伝えていた。
石川は藤本の言葉の意味が分からず、それでも矢口を離すと速攻後ろ回し蹴りがHITした。
軽く5メートル吹っ飛んだ石川の方へ唾を吐き呼吸を整える矢口。
「あ、大丈夫ですか?」
藤本の言葉に矢口は苦しそうな顔をして頷いた。
石川が駆けて戻ってくる。ニコニコ笑いながら。
「やーぐーちーさーん!!!良い人だったでs」
言い終わらないうちに矢口の右ストレートが綺麗に決まり石川は今来た道をまた飛んで戻った。
緑の中にポツンとピンクの塊。
「良い人どころか命の恩人救世主だ」
矢口はそう言うと背伸びをして藤本の肩をポンと叩いた。
「サンキュな」
クシャっと笑う矢口につられて藤本も微笑んだ。
吹っ飛んでいったまま動かない石川を二人で見ていた。
- 416 名前: 投稿日:2006/01/13(金) 22:55
-
- 417 名前:G&Y-side 投稿日:2006/01/13(金) 22:56
-
「まいちーん、あの子何者?」
一定のリズムを保ちながら軽やかな音をたてて行き来する白球の間を縫って声が聞こえる。
里田は自分の頭上に落ちてくるボールを指先で押し返すと少し考えた。
友達。友達?なんか違うな。でもただの知り合いって訳でもなさそうだし。
時々押しかけてくる『ヨッスィファンクラブ』なるものの会員でもなさそうだし。
なんなんだろう。
考えた末里田は再び自分の頭上にやってきた白球と共に返事を返した。
「なんか変な子だよ」
- 418 名前:G&Y-side 投稿日:2006/01/13(金) 22:57
-
変な子。
里田にそう呼ばれた後藤は吉澤と二人でいた。
体育館の外、扉の近くに二人並んで壁に凭れている。
「いやー、びっくりしたなあもう」
吉澤は鼻が気になるのか指先で鼻の頭を弄くりながら言う。
後藤はそんな吉澤を見て少し笑う。
「びっくりしすぎてまた鼻血でちゃいそうだよ」
後藤の方を見て吉澤は困ったように笑う。
後藤の心臓がチクリと痛んだ。
やっぱ来なきゃよかったかな・・・。
笑顔を浮かべ心の中でそっと思った。
- 419 名前:G&Y-side 投稿日:2006/01/13(金) 22:58
-
遠い。いつも近くに感じていたはずの君が何故だか今日、今、とても遠く感じるよ。
言葉が堅い。いつもみたいに柔らかくない。
それ台詞じゃない。棒読みすぎるよ、よしこ。
笑顔作るの下手だよ。役者さんにはなれないね。
出来るだけ自然に吉澤から視線を逸らしそっと下を向いた。
あんなに走ったのに。汚れたスニーカーを見つめる。
走る必要なんてなかったじゃん。
下を向いたまま唇を無理矢理歪めて自嘲気味に笑う。
と、視界に吉澤の顔が映りこむ。
「ごっちん、どうした?」
その声は冗談めかしてもいなく、かといって心配そうでもなく、ただ純粋な問い。
吉澤は大きな瞳をパッチリ開いて不思議そうにこちらを見ている。
大きな、綺麗なその瞳に吸い込まれていきそうで目を閉じた。
胸が痛い。苦しい。鼻の奥がツーンとする。
頭の中が熱くなって、突然自分の体の自由が利かなくなった。
耳のすぐ側で呼吸する音が聞こえる。
冷たい壁に凭れていた背中には暖かい温度を感じる。
きつくもなく緩くもない束縛。
目を開けるとだだっ広いグラウンドが広がる。肩越しに。
抱きしめられてる。よしこに。よしこが私を抱きしめてる。今。
「よっ・・・すぃ・・・?」
- 420 名前:G&Y-side 投稿日:2006/01/13(金) 22:59
-
恐る恐る声を出すと身体に回されていた腕に力が入るのが分かった。
少し痛い。でも嫌じゃない。離さないで、このままでいいよ。
「泣かないで」
頭の後ろから声が聞こえた。
「ごっちんに泣かれると私も悲しい」
吉澤の声だった。どこか寂しそうな吉澤の声。
その声で初めて後藤は自分が泣いていた事に気付いた。
両脇に下げていた腕を上げてそっと吉澤の背中に回した。
「もう・・・泣いてないよ」
吉澤の肩に顎を乗せて目を閉じた。
冷たい風が通り過ぎていくのを感じた。
- 421 名前: 投稿日:2006/01/13(金) 22:59
-
- 422 名前:さくしゃ 投稿日:2006/01/13(金) 23:01
- 次回更新は2月ぐらいになるかもです
- 423 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 10:23
- 石川さんのキショささえも愛おしい・・・
- 424 名前:さくしゃ 投稿日:2006/01/28(土) 20:07
- >>423
どんな石川さんも大好きです
二月になってないけど更新します
- 425 名前: 投稿日:2006/01/28(土) 20:08
-
- 426 名前:―First contact-3― 投稿日:2006/01/28(土) 20:09
-
「正直、スマンかった」
藤本の足元に金色の頭。
遠くにはピンクの物体がまだ転がったままだ。
呼吸も落ち着き顔色もようやく普通に戻った矢口は藤本の前で土下座している。
「や、そんな謝られても・・・顔上げてください」
困惑顔で藤本は矢口に声をかける。
その声でパッと顔を上げた矢口に笑顔が戻った。
体中に付いた草やら土やらを払い落とし手を差し出す。
「スマンかったね、オイラは矢口。君は?」
「あ、藤本です」
笑顔で尋ねる矢口につられて藤本も笑みを浮かべて答える。
差し出された手を強く握った。
手を握りながら首を傾げる。
「あ、あの・・・あの子は大丈夫なんですか?」
- 427 名前:―First contact-3― 投稿日:2006/01/28(土) 20:10
-
藤本の視線の先、吹っ飛んで行ったまま動かない石川の姿があった。
矢口は石川の方へ一瞥くれると眉間に皺を寄せた。
「ああ、アイツね。もうそろそろ復活するって」
矢口がそう言葉を吐いた途端、むっくりと起き上がるピンクの塊。
そして。
「やーぐーちーさーん!!!」
大きく手を振りながらピンクの裾をはためかせ、満面の笑みを浮かべながら猛ダッシュでこちらへ駆け寄ってくる石川。
石川の周りだけ異次元の世界になっている。
「「うわ、キショ」」
二人の声が綺麗に重なった。
- 428 名前: 投稿日:2006/01/28(土) 20:11
-
- 429 名前:Y-side 投稿日:2006/01/28(土) 20:12
-
目を開けたら一面真っ赤で何だと思ったら自分の血に染まったタオルで、
鼻の辺りはカピカピしてて弄くってたら里田さんに呼ばれて。
また監督からの呼び出しかと思いでも何で外に?なんて思いながらそれでも顔を洗って外に行くとごっちん。
「何となく来ちゃった」って君は言うけど何となくじゃあ困るんだな。
なんて言うか正直昨日の今日だし事前連絡も何もないし急すぎるし心の準備とかなんかいろいろある。
って言うのは多分自分の動揺を隠す為の言い訳なんだろうけど。
とにかく意識しないようにって思うんだけど心のどこかでやっぱり意識してるっぽい。
いつも通り、普段どおりに話せば良いだけなのに、来てくれた事を素直に喜べば良いのに、
言葉が見つからないし、心の底からの素直な笑顔が出来ない。
あちゃあ、こんなことならバレーボールなんかじゃなくて演劇部にでも入って演技練習しとけば良かったかな、なんて。
ごっちんもなんとなくいつもと雰囲気が違うのを察してるんだろうか。
なんか違う。
沈黙が続いて、いつものそれならとても心地が良いものなのに今はそれが嫌だ。ぶち壊したい。とても苦しい。誰か助けて。
何とか誤魔化そうと私は笑顔を作ってみるけどそれはとても笑顔なんて呼べるもんじゃなく、滑稽だ。
少し弱い頭の中から言葉を探し出してきて口に出してみるけどとても空虚だ。虚しい。
風が冷たい。寒い。
- 430 名前:Y-side 投稿日:2006/01/28(土) 20:13
-
横顔に感じていたごっちんの視線が消えた。
そっと横目で見てみると俯いてしまっている。
栗色の長い髪がサラサラ揺れてる。それがとても寂しい。
上手く呼吸が出来ない。胸が苦しい。叫びだしたいような衝動に駆られる。
私は顔を上げてすっと前を見た。
風が土煙をあげてグラウンドを通り過ぎる。
深呼吸を一つする。
「ごっちん、どうした?」
- 431 名前:Y-side 投稿日:2006/01/28(土) 20:13
-
出来るだけ自然に、長い髪の下から覗き込んだそこには目にいっぱい涙を溜めたごっちんの顔。
少し驚いたような表情をして、その瞳から雫が一滴、私の頬に落ちた。
暖かい、ごっちんの涙。
寂しい、冷たい、悲しい。
その瞬間、私の心臓は爆発した。
身体は私の言う事を聞かない。勝手に動いていた。
気が付くと腕の中にはごっちんがいた。すっぽりと、綺麗に収まって。
心臓がドキドキする。体中が熱い。抱きしめた腕が、唇が震える。
体の中はもの凄く熱いのに、外というか表面はピリピリ寒い。緊張と、恐怖と、なんだか変な感情。
「よっ・・・すぃ・・?」
ごっちんの小さな、震えている声。
何でそんなに悲しそうな声をするの。寂しそうな声をするの。
私は強く、強く抱きしめた。
悲しまないで。寂しいなんて思ったりしないで。
ごっちんが悲しいと私も悲しい。ごっちんが寂しいと私も寂しい。
そんな寂しそうに、悲しそうに泣かないでよ。泣かないで。
- 432 名前:Y-side 投稿日:2006/01/28(土) 20:15
-
ごっちんの腕を背中に感じる。
暖かい。
もう泣いてないよという声はいつものほんわかした、だけど少し鼻声のごっちんの声。
ごっちんの顔が綺麗に肩の上へすっぽり収まる。何と言うか安心感。
緊張も恐怖も暴走気味だった心音も何処かに行ってしまった。
ごっちんの体温を体全体で感じる。何だか気持ちよくて目を閉じた。
今、凄く幸せな瞬間かもしれない。
そっと笑って、もう一度ギュッと抱きしめた。
- 433 名前: 投稿日:2006/01/28(土) 20:15
-
- 434 名前:―First contact-4― 投稿日:2006/01/28(土) 20:17
-
「酷いですよお、矢口さん」
口を尖らして石川が言う。
酷いですなんて口で言う割には随分と嬉しそうな顔をしてるな、と藤本は思う。
矢口は眉間に皺を寄せ石川を見上げると少し前に出た顎をぐいと掴む。
「何が酷いだ、本当は嬉しいくせに」
掴んだ顎を前後にがくがくと揺らしながら石川を睨みつける。
「それにな、酷いのはお前の方だ」
がくがく
「オイラは危うく死ぬところだった」
がくがく
「何が悲しくてお前の腕の中で死ななきゃならない」
がくがく
「お前のこの顎が引っ込むまでオイラは死なん!」
最後にずんと突き放すとその衝動で石川は後ろへ倒れこんだ。
「酷いじゃないですかーこの顎もう引っ込みませんよー矢口さんもう死ねませんよーどうしてくれるんですかー」
- 435 名前:―First contact-4― 投稿日:2006/01/28(土) 20:18
- 矢口の指の跡がしっかりと残った顎をさすりながら石川が言う。やはりどこか嬉しそうに。
矢口は呆れたように溜息を一つ吐くと石川に手を差し伸べ引き起こす。
「どうもしなくていいよ、当分死ぬ予定はないしお前はその顎がとってもキュートだから」
半ば馬鹿にしたように、嫌味ったらしく矢口が言う。
石川は何を勘違いしているのか身体をモジモジくねらせて喜んでいる。
仲が悪いのか仲が良いのかよく分からない二人だ。その前にどういった関係なのだろう。
少しだけ悩んでみたけどあまり深く考えない事にした。
何だかんだで石川さんは嬉しそうだし矢口さんも楽しそうだ。
藤本は目の前で小競り合う二人を見てそっと笑った。
「あなた」
突然上から声が降ってきた。
首を後ろに逸らして見ると長い髪を垂らして真顔で立つ飯田の姿があった。
その右手はすっと地面と水平に伸ばしてあり、その一本だけ突き出た人差し指の先には困惑顔の石川。
矢口は突然現れた飯田の存在に目を見開いたまま顔色悪く固まっている。
- 436 名前:―First contact-4― 投稿日:2006/01/28(土) 20:19
-
「な、なんですかぁ〜?」
眉を八の字に曲げて泣きそうな声で石川が尋ねる。
飯田は瞬きもせず、上げた腕も下ろさず、その大きな瞳で石川を見つめる。
藤本は首が痛くなって後ろを見ていた顔を戻した。
石川と目が合う。助けてと訴えている。困ってしまって曖昧な表情をを浮かべた。
石川の手が藤本の服の裾をぎゅっと掴んだ。
「カオのモデルになって」
静かな河原に飯田の声がよく通った。
石川と矢口と藤本は三人で目を見合わせ、それから同時に飯田を見た。
伝えるべき事を言い終えた飯田の顔には満足気な笑みが浮かんでいた。
遠くで犬が吼えている。
- 437 名前: 投稿日:2006/01/28(土) 20:19
-
- 438 名前:さくしゃ 投稿日:2006/01/28(土) 20:20
- 次回は吉澤
- 439 名前: 投稿日:2006/02/04(土) 21:39
-
- 440 名前:G&Y-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:40
-
「よしこ」
ごっちんの声が聞こえる。
「何?」
目を閉じたまま答える。
「暖かいね」
ごっちんの声がくすくすくすぐったい。
私はもう一度ぎゅっとしてごっちんに答えた。
- 441 名前:G&Y-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:41
-
「いつまでサボってんだ吉ざ・・・わ?」
突然聞こえた声に二人は勢いよく離れ、そしてお互いにそっぽを向いた。
顔を合わせるのはなんとなく恥ずかしかった。
「あ、練習・・・どうする?」
里田はマズイ所に来てしまった事を何となく感じているのかぎこちない笑みを浮かべながら吉澤に問う。
いつもなら堂々としている里田がどことなく挙動不審で吉澤はそれが可笑しくて笑った。
吉澤の笑い声につられて遠くを見ていた後藤も振り返る。
二人に見つめられ里田は変な汗を浮かべながらまたぎこちない笑みを作った。
「その、鼻血出してるしさ、もしアレなら帰っていいし・・・」
里田は視線をキョロキョロとさせる。
- 442 名前:G&Y-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:42
- 嘘だ。
吉澤はすぐに見抜く。里田は嘘をつくとき視線がキョロキョロと定まらない。
本当は練習に戻れって呼びに来たんだ。
里田と無理矢理に目を合わせる。
困ったような顔をして里田は吉澤の腕を引っ張った。
「ちょっとお借りしますね」
後藤に断って体育館の中へ連れ込んだ。
よしこ、学校にも仲の良い人いるんだね。
もつれあう様にして体育館の中へ消えていった二人を思う。
ちょっとだけ嬉しくて、羨ましくて、あと、少しだけ悔しかった。
何を話しているんだろう、二人は出てこない。
風が通り過ぎていく。
冷たくて後藤はそっと肩を竦め、そしてさっきまで暖かかった自分の身体をそっと抱き、吉澤の温もりを思い出した。
- 443 名前: 投稿日:2006/02/04(土) 21:42
-
- 444 名前:Y-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:42
-
「ちょっ、里田さんどこまで行くんですか」
里田に腕を掴まれた吉澤は抵抗もせず大人しくついていく。
無茶な抵抗は無駄な被害を生む事を吉澤はこの先輩から嫌と言うほどに教わっていた。
それにしても、だ。
一体何処まで連れて行く気だろう。
里田はずんずんと進んでいく。目の前に器具倉庫。
立ち止まり、扉を開け吉澤を押し込み次いで自分も入ると後ろ手で扉を閉めた。
「吉澤、あの子誰?何?」
扉の閉まる音と被る様にして里田の声が聞こえる。
困ったような怒ったような泣き出しそうななんだかよく分からない顔で里田は自分を見る。
吉澤は里田のこのような表情を見るのは初めてだったので少し驚いた。
「何って、えーと、ごっちんですよ」
そうゆう事じゃないだろ彼女がゴトーさんだって事ぐらいとっくのとうに知っとるわい!
- 445 名前:Y-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:43
-
言葉は声にならず代わりに里田の右手が吉澤の頭を叩く。
聞かれた事に素直に答えただけなのに。
突然頭を叩かれた吉澤は驚きとその痛さで目を白黒させて少し後退る。
そんな吉澤の両腕をがしっと掴み里田は再び問う。
「あの子はアンタの何」
里田の真っ直ぐな瞳に見つめられ吉澤は言葉に詰まった。
幼馴染、友達、親友。
表現の選択肢はある。だけど咄嗟に出てこなかった。
何故。
自分の気持ちに気付いたから。自分の気持ち。それは恋。
想い人。
ごっちんに恋してる。
幼馴染、友達、親友、こんな言葉じゃ片付けられない。
吉澤は言葉に詰まる。どうしよう。
自分の気持ちに嘘はつきたくない。
だけどまだ誰にも知られたくはない。
「あー・・・大事な人、です・・・」
本当じゃないけど嘘でもない。
考えた挙句の果てに出てきた言葉は小さく掠れそうな声だった。
里田は吉澤の瞳を見つめる。
迷い、戸惑い、恐れ、恥じらい、嘘、本当。色々な感情が入り混じった瞳。
大事な人、ね。
- 446 名前:Y-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:44
-
「・・・アンタもう今日帰んな。家で大事を取って休む事。あの子と一緒に帰れ」
里田は大きく頭を振ると吉澤の腕を離した。
その言葉はぶっきらぼうだけど温かい。
吉澤が里田を見ると照れくさそうに頭をかく姿があった。
「その、また鼻血出されても困るし、知らない人に練習見られんのもなんかアレだしさ」
無造作に積まれたマットをバシバシ蹴りながら言う。
吉澤が何か言おうと一歩前へ足を踏み出した瞬間、扉を叩く音が聞こえた。
「まいちん、練習やるよー!吉澤も!!」
その大きな声で言い出すタイミングを失った吉澤は唇を噛んで黙った。
「すぐ行くから!」
大声で答えた里田は吉澤の背中をバンと叩く。
「そんな顔すんな、先輩命令だ」
里田はニッコリ笑って扉を開ける。
里田の背中。その後ろにもう一人の先輩。
そしてそのずっと奥。
体育館の入り口からひょっこり覗く後藤の顔があった。
- 447 名前: 投稿日:2006/02/04(土) 21:44
-
- 448 名前:M-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:45
-
「飯田さん」
藤本は前を歩く飯田に声をかけた。
飯田は立ち止まり振り返る。
「結局何がしたかったんですか?」
率直な疑問をぶつける。
朝早くから川に来て飯田が何をしていたのかはわからないけど自分は。
川に引きずり込まれてずぶ濡れになって貞子の仲間になって知らない二人組みと何故か仲良くなって。
楽しくなかったと言えば嘘になるけど彼女は何がしたかったのだろうか。
「んー、散歩?」
飯田は面倒臭そうに言うと乱暴に髪をかきあげてまた歩き出した。
いや、散歩?って聞かれても。インスピレーションがどうたらこうたら言ってたじゃん。
もやもやした思いを抱きながらも飯田の後を追う。
「インスピレーションは何だったんですか?」
飯田は顔をしかめて藤本を見る。
高い所から見下ろされて藤本は少し後ろに引いた。
「インスピレーションは多分きっとメイビー気のせいだったのかもしれないね、でもその一瞬心にビビッとキタのよ」
- 449 名前:M-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:46
- わけが分からん。
藤本が小さく溜息を吐くと飯田の顔が目の前に現れた。
飯田は何故か満足そうにニッコリ笑うと藤本の手を握った。
手を握るとまるで小学生宜しく前後に大きく振って歩き出した。
藤本も慌ててそれに合わせ歩き出す。
「ちょ、いきなり何するんですか」
声が自然と大きくなる。
見上げた先の飯田はやはりニコニコ笑っている。
「なんか楽しいじゃない」
飯田は軽くスキップを始める。
「朝から美貴と遊べてカオは楽しいよ!」
今にも飛んでいきそうな勢いで飯田はスキップする。
「こうゆうの、いいじゃない!!」
流石に歩くのはもう無理で藤本は小走りで飯田の隣を行く。
声が笑っている。とても楽しそうに。
川に引きずり込まれてずぶ濡れになって貞子の仲間になって知らない二人組みと何故か仲良くなって。
彼女が何をしていたのか、したかったのか結局何も解らないけれどもういいや。
だって今、凄く楽しい。
「楽しければそれでいいんだよ」いつか飯田が言った言葉を思い出す。
藤本は走るのをやめて飯田とスキップする。
チラッとこちらを見た飯田と目が合う。目が合って笑った。
楽しい。楽しいよ。
こうゆうの、悪くない。嫌いじゃないよ。
- 450 名前:M-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:46
-
笑ってた。自然に、素直な笑顔で。
隣には背の高い彼女。
彼女の腕に引っ張られて大空の中に吸い込まれそうだ。
彼女と行けるならそれも良いかも知れない。
「飯田さん!」
大きな声で呼んだ。
笑顔の彼女が振り向く。
「楽しいですね!」
飯田は笑って頷いた。
眩しい光に笑顔が溶けた。
青い空に向かって一層大きく繋いだ腕を振り上げた。
- 451 名前: 投稿日:2006/02/04(土) 21:46
-
- 452 名前:R-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:47
-
「帰るぞー石川ー」
矢口の声で石川は腰を上げた。
太陽はもう頭の真上近くまで昇っている。
お腹空いたな。
石川はワンピースの裾を軽く叩くと矢口の元へ向かった。
「だー腹減ったー」
矢口はだらしなく舌を出すと石川にパンチを繰り出した。
難なくそれを避けて石川は八の字眉で笑う。
避けられた矢口は少しムッとするものの、肩を竦めると大人しく手をしまった。
「帰ったら一緒にお昼食べます?」
石川の問いに矢口は大きく頷いた。
よかった。
石川は微笑むとと矢口の先にたって歩き出した。
「つーかよー」
不機嫌そうな大きな声が後ろから聞こえる。
振り返ると不貞腐れた様な表情でポケットに手を突っ込み立ち尽くす矢口の姿。
「なんですか?」
「何ですかじゃねーだろー!」
矢口は肩を怒らせて石川の目の前まで詰め寄る。
そして顎を掴み、顔をグイと下げ目を合わせる。
「お前本気でやるの?」
- 453 名前:R-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:48
-
怒った様な表情とは裏腹に出てきた声には不安が混ざっている。
一瞬矢口が何の事を言っているのか思い出せず、顎を掴まれたまま首を傾げる。
「絵のモデル!」
顎を離し矢口が言う。
ああ、その事か。
赤くなった顎をさすっていた石川はポンと手を叩いた。
「勿論じゃないですか、やりますよ」
満面の笑みで答える石川の顎がまたも矢口の手中に納まる。
「お前ダイジョブか?知らん人なんだぞ?変な事されたらどうする!オイラは助けてやれんよ!?」
石川は矢口の肩を押さえながらヘラヘラ笑う。
その姿がちょっとだけ怖くて矢口は石川の顎を離して少し離れた。
「なーに言ってるんですかー良い人ですよー変な事なんかされませんよー」
石川は胸の前で手を組み何処か遠いところを見ながら笑う。
キモイ。お前今最高にキモイよ。
けど、すげーカッコいいな。
矢口は相変わらず笑い続ける石川から目を逸らした。
何だか少しだけ寂しかった。心に隙間が出来たみたいに。
- 454 名前:R-side 投稿日:2006/02/04(土) 21:49
-
だけど自分がどうこう言う問題じゃない。
石川が決めた事だ。オイラが口を出しちゃいけない。
大きく鼻を啜るとヘラヘラ笑う石川の頬をパチンと叩いた。
「ホラ、さっさと帰るぞ!腹減って死ぬ!!」
河原を駆け上がり大きな声で叫ぶ。
石川は叩かれた頬を擦りながら笑った。
「もう、待って下さいよ〜!!」
ピンクの裾をヒラヒラはためかせながら河原を上がる。
途中で立ち止まって後ろを振り返った。
静かになった河原に人の姿は見えない。
水がサラサラ流れていく。水に反射する光が眩しい。
目を細めて今朝の出来事を思い出し少しだけ笑うとまた前を見た。
矢口が待っている。
「真里っぺええええ!!!」
何だか楽しくて石川は大きな声で叫んだ。気持ちいい。
矢口はこれ見よがしに大きな拳を作って見せた。それでも笑ってた。
だから自分も笑った。吹いている風が心地良かった。
- 455 名前: 投稿日:2006/02/04(土) 21:49
-
- 456 名前:さくしゃ 投稿日:2006/02/04(土) 21:50
- 次回よしごま
- 457 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/02(木) 04:11
- いつも楽しく読ませてもらってます。
個人的に飯田さんと藤本さんの奇妙な関係が気になります(奇妙なのは主に前者の方ですが・・・)
次回更新も楽しみに待ってます。
- 458 名前:さくしゃ 投稿日:2006/03/12(日) 01:03
- >>457
飯田さんと藤本さんは書いてて楽しいです。大好きです
レスありがとうございました
更新します
- 459 名前: 投稿日:2006/03/12(日) 01:03
-
- 460 名前:G&Y-side 投稿日:2006/03/12(日) 01:04
-
「でさ〜、油断してたら顔面直撃ってわけ。いやーまいったまいった」
吉澤がはははと乾いた声で笑う。
先輩命令を受けて後藤と帰宅する事になった吉澤。
少し前を吉澤が自転車を押しながら歩き、その後ろをゆっくりと後藤がついていく。
高く昇った太陽が二人を真上から照らす。
「よしこ、練習抜けてきて本当に大丈夫だったの?」
やっぱり急に押しかけたら不味かっただろうか。
何かの大会が近いという事も聞いていたし本当は練習やら無きゃいけなかったんじゃないのかな?
無理言って抜けたんだろうか。もしそうだったとしてそれが自分のせいなら尚更不味い。
不安そうな顔で後藤が尋ねる。
「なーに言ってんの、大丈夫だって。先輩命令出たし」
吉澤は振り返って何故かガッツポーズを作って見せた。
先輩。
ああ、アノ人のことかな?
後藤の脳裏に里田の顔が浮かぶ。
「先輩って、よしこ呼んでくれた人?」
「そーだよー」
- 461 名前:G&Y-side 投稿日:2006/03/12(日) 01:05
- 吉澤は嬉しそうに笑うと里田について饒舌に語りだした。
一つ上の二年生である事。
一番初めに自分に話しかけてきてくれた人である事。
バレー部の中で一番仲の良い人である事。
部活内に限らず学校の中で一番仲が良い人である事。
黙っていれば美人なのに喋るとオッサン臭い人である事。
よしこ黙っていれば頭良さそうなのに喋るとアホっぽいなあ。
吉澤の話に笑みを浮かべふんふんと時折相槌を打ちながら聞いていた後藤は心の中でこっそり思った。
そしてやはり仲が良かったという事実については納得しながらもどこか少し寂しかった。
里田さんはきっと私の知らないよしこの顔もきっと見てるんだろうなあ。
そう思うと胸の奥がキュッと切なくなった。
ふと気付くと吉澤が黙ったまま見つめていた。
さっきまでの笑顔は消えている。
自分の顔が笑ってなかったことに気付き、慌てて笑顔を取り繕う。
「どーしたの?」
吉澤は俯き加減に片手で自転車を支え、もう片方の手を握ったり開いたり。ずっと繰り返している。
後藤が少しずつ吉澤の方へ歩み寄る。
すると吉澤が顔を上げて言った。
「あ、あのさあ!」
「な、なにさあ?」
突然の大きな声に少し驚く。
目が合った吉澤の顔は赤い。
手はやっぱり握ったり開いたり。
「そ、その・・・手、繋ごう・・・か?」
風に飛ばされていきそうな細い声で吉澤が言った。
「・・・うん」
今にも消えてしまいそうな声だったけどちゃんと聞こえてたよ。
後藤は下を向いてこっそり笑った。
そしてこっそり掌を服で拭いた。
- 462 名前:G&Y-side 投稿日:2006/03/12(日) 01:05
-
「でもよしこ、自転車片手で押せるの?」
後藤は素朴な疑問を吉澤にぶつける。
前の籠にはジャージやらシューズやらの入ったバッグがギュウギュウに詰めてある。
吉澤はチラリと愛車を見るとヘヘンと笑った。
「コレはね、ハンドルの丁度T字になってるトコを掴めばモウマンタイなんだな。わかる?
モウマンタイ、のーぷろぶれむ。バランス取れて丁度良いんだよ。・・・って里田さんが言ってた」
吉澤はそう言うと左手でがしっと自転車を支えた。
そして。
「さあ」
どこか恥ずかしそうに右手を差し出す。
後藤はその差し出された手をそっと握った。
吉澤の手は暖かかった。
自然と笑みが浮かんだ。
少し恥ずかしいのと、それと、凄く嬉しい気分が混じって変な感じだった。
「さ、かーえろ」
吉澤が照れくさそうに笑って一歩踏み出した。
その瞬間。
がしゃーん
派手な音がして自転車が綺麗に倒れた。
- 463 名前: 投稿日:2006/03/12(日) 01:06
-
- 464 名前:M-side 投稿日:2006/03/12(日) 01:06
-
「美貴」
スキップしながら飯田が呼んだ。顔を向ける。
「お腹空いた」
顔をしかめて飯田が言った。
そして飯田の言葉が終わると同時に藤本の腹が盛大に鳴った。
そうだ、そう言えば朝起きてから何も食べてないじゃん。飯田さんはきゅうり食べてたけど。
「お腹空いたぁ〜あ゛ぁ〜」
隣りでは長い髪を振り乱して飯田が叫びながら舞う。
白昼のホラーだ。
暴れ回る飯田を背後からガシッと掴み取り押さえる。
飯田は恨めしそうに藤本を睨んだ。
や、そんな睨まれても。つーか怖っ。
飯田は黙ったまま目を見開いて藤本をじーっと見続ける。
あーぁ、またいつものパターンか。
頭を掻いて心の中で大きく溜め息を吐くと倒れたままこちらを睨み続ける飯田を引き起こした。
- 465 名前:M-side 投稿日:2006/03/12(日) 01:08
-
「はいはい、帰ったら何か食べましょーねー」
半ば投げやりに泣き出しそうな笑顔を浮かべて藤本が言う。
途端、飯田の表情は喜色満面。わざとらしく胸の前で手を組む。
「ウソ、美貴が作ってくれるの!?」
・・・飯田さん、貴方台詞回しの練習したらどうですか?
その台詞、耳にタコが出来るくらい聞かされてますけど全く旨くなってませんよ。
飯田は大きな目をパチパチさせながら自分を見る。
そうやって嫌だと言えない空気を作るんだ。汚いよ。
しかもその姿、とても可愛い。卑怯だよ。
藤本は一つ大きく溜め息を吐くとニッコリ笑った。
「作りますよ、何食べたいですか?」
「卵ごはん」
「自分で作れよ」
「・・・ガッデム」
- 466 名前: 投稿日:2006/03/12(日) 01:08
-
- 467 名前:G&Y-side 投稿日:2006/03/12(日) 01:09
-
二人で手を繋いで帰ろうとしたその矢先まるで二人を邪魔するかのように倒れてしまった吉澤の愛車第三代快速メルヘン号。
なんだよさとださんでたらめおしえやがってちくしょーゆるせねーぜったいはなぢださせてやるーりょうほうのあなからださせてやるー
なんて吉澤は吼えたものの、結局前の籠にギュウギュウ詰まってるバッグがバランスをとり難くしている原因なのではないか
という後藤の全く的確な指摘により籠に詰めていたバッグを後藤がかつぎ、吉澤は自転車を押し、そして手を繋いで帰っている、今。
「やーしかし里田さんもたまには役に立つ事教えてくれるなーいやー凄いなー尊敬だよー」
吉澤は満足そうに笑いながら自転車を押す。
さっきまで貶してたくせに事がうまく運ぶとべた褒めだ。
後藤はおかしくて笑った。でも少し寂しかった。
だってさっきから先輩の話ばかりだもん。
とても楽しそうに話すんだもん。なんか寂しいよ。
最近よしこがわからないよ。
昨日は素直にとっても楽しかったのに、それでも帰り際は何か違った。
電話しても出てくれなかった。そうだ、昨日電話したんだよ、私。
「ね、よしこ」
「んー?」
笑みを浮かべて吉澤が振り向く。
「あの・・・さ、昨日の夜・・・電話したんだけど・・・寝てた?」
吉澤が笑顔のまま固まる。
- 468 名前:G&Y-side 投稿日:2006/03/12(日) 01:10
-
ああ、気付いてたんだ。
私が電話した事、気付いてたんだ。
だけど、出なかった。
そっか。
「・・・や、あの、うわ、ああ、ああれごっちんだったの?」
いいよ、言い訳なんかしなくても。
いいんだよ、大した用事なんてなかったし。
「うそーそうだったのかー」
だから、いいんだって。
よしこ、芝居下手すぎるよ。
「あちゃー、ごめんね?まじでごめん」
だからもういいって。
気付かなかった振りしてバレバレの演技で謝られてそんなの悲しすぎるよ。
「ううん、いいんだ、別に大した用事じゃなかったから」
自然に言葉を発した。
精一杯の笑顔を作った。
私は上手く笑えたかな?
ちゃんと、笑えていますように。
- 469 名前:G&Y-side 投稿日:2006/03/12(日) 01:10
-
「・・・ごめん」
吉澤の顔が悲しそうに歪む。
そんな顔しないでよ、泣きたいのはこっちなのに。
一生懸命我慢してるのに、そんな悲しそうな顔しないでよ。
「ううん、ホントいいんだって。それより早く帰ろうよ、ね?」
無理矢理笑った。
心が捻じ曲がって痛かった。
心の中で泣いた。悲しかった。
後藤が歩き出すとそれに合わせて吉澤も歩き出した。
繋がっていたはずの二人の手はいつの間にか離れていた。
吉澤の押す自転車がカラカラ音をたててそれが余計に寂しかった。
- 470 名前: 投稿日:2006/03/12(日) 01:11
-
- 471 名前:さくしゃ 投稿日:2006/03/12(日) 01:11
- 次回吉澤
- 472 名前: 投稿日:2006/04/01(土) 01:00
-
- 473 名前:Y-side 投稿日:2006/04/01(土) 01:01
-
こんなに簡単だった。
なぜ自分は迷っていたのだろう。
昨夜、自分が言い出せなかった言葉はとてもシンプルで、そしてとても簡単な事だった。
きっと小学生以来。
記憶の片隅に残るその感触と幾分も変わっていない。
きっと変わったのは手の大きさだとかすこし骨ばってきてるかな?とかそれくらい。
暖かさは、変わらない。
変わってなくて、嬉しくて、幸せだったのに、何故。
とても簡単に繋ぐ事の出来た手はとても簡単に離れてしまった。
隣をそっと見ると下を向いて歩く後藤の姿。
さっきまで繋いでいたはずの手はポケットの中にしまわれている。
なんで。
なんでなんでなんで。
自分のせいじゃん。
- 474 名前:Y-side 投稿日:2006/04/01(土) 01:02
- 少し離れて歩く後藤に気付かれないように小さく溜息を吐いた。
何で昨日夜電話でなかったんだよ。
何で今日の朝でも掛け直さなかったんだよ。
自分自身に腹が立つ。
でもだけど。
昨日の夜電話に出たとして自分は彼女と普通に喋れていただろうか。
今日の朝彼女にメールを入れたとして彼女は学校まで来てくれていただろうか。
応、とも答えれるし否、とも。
結局現実は自分は昨日彼女からの電話を知らんぷりしてしまって手を繋いでいたのにいつの間にか離れてしまったという事。
彼女は作り笑いをして瞳の奥で泣いて手を離して少し離れて下を向いて歩いているという現実。
ああもうなんで。
昨日までの関係に戻りたい。
自分の気持ちに気付かずにあのままずっといられたらきっと今だって楽しかった。
自分の気持ちに気付かずに。
でもまてよ?
気付かないって事はいつかは気付くって事もあるわけだから?結局今のような状況は何時かしら起こり得る事だったのだ。
それが昨日だったって事だけで、遅かれ早かれこうゆう状況には陥る運命だったんだ。そうだ、運命。This is運命。なんかカッケー。
カッケーよ。カッケーって何?クール?クールだ。イカしてる。
- 475 名前:Y-side 投稿日:2006/04/01(土) 01:03
- 「ねえごっちん」
自然と彼女の名前を呼んでいた。
彼女は少し驚いたような顔をしてこちらを向いた。
「昨日ね、電話気付いてたんだけど出なかったんだ」
悲しそうに顔が歪む。
ごめん、だけど泣かないで。まだ話を聞いて。
「でも、出なかったのには理由があるんだ」
ん?と泣き出しそうな顔で首を傾げる。
「理由があったからなんだけど・・・その理由は・・・今はまだ言えない」
そっか。
口だけ動いて泣いてるのか怒ってるのかよく分からないような顔で笑った。
「でもね、これは運命なんだ。This is 運命。ゆーのう?」
微妙な笑顔で固まる。
「うん、これはごっちんとよしこの歩むべき運命の道なんだよ。ほわっといずでぃーす!でっすぃーざですてにー!!」
少し後ろに下がる。
- 476 名前:Y-side 投稿日:2006/04/01(土) 01:03
-
「コレから先!きっといろんな問題が二人の前に立ちはだかるでしょう!それが私たち二人のですてにー!
きっとたぶんぜったい!でもだけど!君は僕を信じてくれ!!僕は君を信じているから!!あーゆーおーけーぃ??」
「・・・よしこ、英語下手だね」
泣きながら後藤は笑った。
ポケットに突っ込んでいた手を差し出した。
「ごとーはよしこの事いつだって信じてるよ」
そう言って柔らかな笑顔を浮かべた。
差し出された後藤の手を握った。やっぱり暖かかった。
そして。
がしゃこーん
派手な音をたてて第三代快速メルヘン号は本日二度目の転倒を見事10点満点で決めた。
- 477 名前: 投稿日:2006/04/01(土) 01:04
-
- 478 名前:R-side 投稿日:2006/04/01(土) 01:06
- 「そういえば矢口さん」
後ろから石川の甲高い声が響いて振り返る。
「なんで此処にいるんですか?」
「ああ?そりゃオメーが呼び出したから・・・」
「そうじゃなくって、なんでこの町にいるんですか?」
石川の問いかけに矢口は口を噤む。
不機嫌そうな顔をして石川を睨むとそっぽを向いた。
「あ・・・あ、ああ、そっか!私が寂しがってると思って会いに来てくれたんですね!?やぁだぁ〜、真里っぺたら〜!!」
石川にしては珍しく空気を読みわざと明るい声を出してはしゃぐ。
だかそれは逆にその場の雰囲気を一層気まずいものにした。
「もぅ〜、私寂しくなんかないですよぉ?だってホラもう、高校生!真里っぺより背だって大きいんだからね!」
大きいのはは中学生の時からだ。
真里っぺ言うな。
- 479 名前:R-side 投稿日:2006/04/01(土) 01:06
- 「全く、心配性なんだから!そんなんだから小さいんですよぉ」
「うるさい」
「・・・え?」
「お前五月蠅い。少し黙れよ」
明らかに起こっている雰囲気の矢口。
小さな体から怒りのオーラが湧き上がっている。
石川は矢口の頬を突こうとしていた腕を下げた。
「・・・ごめんなさい・・・」
腕を下げ眉を下げ頭を垂れる。
どうしよう。本気で怒らせちゃったかな。
ふざけて怒るいつもの雰囲気とは明らかに違っている。
何か不味い事言っちゃったかな。何が気に食わなかったのだろう。
地面に転がる石ころをつま先で弄る。
「あのさあ」
石をコロコロこねくり回していたら矢口の声が聞こえた。
顔をあげるとやはり少し怒ったような小さな矢口の姿。
「・・・その内話すから今は気にすんなよ」
地面を睨みつけて矢口が言う。
頭を掻いて土を蹴った。
石川はどうしたらよいのか分からずに相変わらず眉毛を下げたまま矢口を見る。
「っだー、もうめんどくせーなーおめーは!!」
突然肩をど突かれる。
勢いで少し後ろによろけた石川の腕を矢口が掴む。
- 480 名前:R-side 投稿日:2006/04/01(土) 01:07
- 「いちいちそんな顔すんな!オイラは別に不機嫌でもないし怒ってもないしそんな顔されると困るだろ!!」
どこか照れくさそうに矢口が叫ぶ。
「お前はただ顎突き出してニヤニヤ笑っとけばそれでいーの!!」
腕を掴んでいない空いている方の手で顎を掴む。
「ほら、笑え!」
「あ、ああ、あはははは」
「違うだろ、もっと笑え!」
「あはははははははははははは・・・・」
「キモッ!!」
矢口に顎をつかまれたまま石川は笑い続ける。
石川の顎をガクガク揺らしながら矢口も笑った。
良かった、笑ってくれた。
石川は嬉しくなってまた笑った。
「笑いすぎ!」
顎から手が離れて石川の頭を矢口が叩く。楽しそうに。
晴れた空に矢口の笑い声と石川の甲高い声が響いた。
- 481 名前: 投稿日:2006/04/01(土) 01:08
-
- 482 名前:さくしゃ 投稿日:2006/04/01(土) 01:08
- 次回藤本
- 483 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/01(土) 19:29
- オモロイ
- 484 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/19(水) 21:29
- よしこさんバカっぽくて面白いです。
- 485 名前:さくしゃ 投稿日:2006/04/22(土) 20:46
- >>483
ありがとうございます最高の褒め言葉です
>>484
バカなよしこさんは書いてる自分も楽しかったです
レスありがとうございました
更新します
- 486 名前: 投稿日:2006/04/22(土) 20:47
-
- 487 名前:M-side 投稿日:2006/04/22(土) 20:48
-
「そんなしょげないでくださいよ」
「だって冷たい」
藤本の突き放すような言葉に飯田は肩をがっくりと落として歩いている。
藤本は大きく息を吐いた。
だって卵割って混ぜて醤油かけて終わりじゃん。作るも何も幼稚園児だって出来るよ。
それとも貴方が言う卵ご飯は私達が知っているものとはまた別のものなのですか?
彼女なら在りえるかも知れない。彼女は時々おかしな事を言う。
「分かりましたよ、卵ご飯でも何でも作りますからそんな変な歩き方しないでくれます?」
俯いて肩を落としユラユラと歩く姿はまるでホラー映画の中から出てきた幽霊のようだ。
長い黒髪が恐ろしさを倍増させている。
藤本の声に顔を上げると飯田はようやく笑った。
「ありがとっ」
- 488 名前:M-side 投稿日:2006/04/22(土) 20:48
- 全く困ったものだ。
自分より年上のくせにまるで子供のよう。
怖いしどこかおかしいし変人なんだけど笑うと凄く可愛いんだ。
本当に困った。
笑ってくれたのが嬉しくて照れくさくってなんだか体の奥がむず痒くなって藤本は走り出した。
それを追いかけるようにして飯田も走り出す。
身体をすり抜けてく風が気持ち良い。なんだか楽しかった。
お腹空いたな。
飯田さん、ちゃんとついてきてるかな?後ろを振り返ると遥か後方を飯田が楽しそうにスキップしている。
あの人スキップするの好きだなー。
笑みを浮かべて速度を落とす。
「飯田さーん、早く来ないとご飯抜きですよー」
藤本の声に飯田は一瞬立ち止まり、そして地面に膝をつく。クラウチングスタートの格好。
心の中でヨーイドンを言った瞬間飯田にも聞こえていたのか勢いよく走り出した。
おーすげー!テレパシーだ。
少し興奮しながら飯田の走る様を見ながら後ろを向いたままゆっくり走る。
だから気付かない。
藤本の前方、5メートルの距離に二人の人間とカラカラ音をたてる自転車。
藤本はまだ気付かない。
笑いながら飯田が追いつくのを見ている。
- 489 名前: 投稿日:2006/04/22(土) 20:49
-
- 490 名前:G&Y-side 投稿日:2006/04/22(土) 20:50
- 「じゃあごとーん家でご飯食べようよ」
「いいねーそうしよう」
駅まで少し遠回りをして川沿いの道を歩く吉澤と後藤。
二人とも昼ご飯がまだだったという事に気付き後藤家で昼食を取る事が決定した模様。
二人の手は仲良く繋がれたまま、吉澤は片手で自転車を押している。
と、いきなり後藤が立ち止まった。
「あ、あの人」
後藤の視線の先に後ろ向きで走る人の姿。
そのまた先には長い髪を靡かせて走る女性の姿。
「なに、知ってる人?」
吉澤も立ち止まり後藤に顔を向ける。
知ってる人、なのかなあ?
後藤は少し考えた。
人違いかな?でも良く似てる。
朝方走っていたときにぶつかった女の人に。
服装とかあの後姿とか。
キュウリ持ってたけど今は持ってないからやっぱ朝ごはんだったのかな?
「知ってる人というか〜、知らないといえば知らない」
「なんだそれ」
後藤のよく分からない回答に吉澤は苦笑する。
「でも面白いことしてんね」
「ねー、器用だね。後ろ向いたまま走って」
- 491 名前:G&Y-side 投稿日:2006/04/22(土) 20:51
- 暫し立ち止まって後ろ向きで走るその女性を眺める。
その先にいる女性はきっと知り合いなのだろう、何やら楽しそうに言葉を交わしながら走っている。
「つーかさ」
吉澤が声を潜める。
後ろ向きのまま走る女性との距離はもうそんなに遠くない。というか近い。
だんだんと近づいてくる。
「あの人うちらに気付いてなくない?」
「危ないねえ」
後藤はこの状況を楽しんでいるのか笑顔で答える。
「ぶつかっちゃうよ」
「注意した方が良いかな?」
「だめだよ、楽しそうなんだからこのままにしてあげなきゃ」
優しいのか優しくないのかやっぱり楽しんでいる後藤は笑顔で答える。
吉澤は困ったように笑うと、もしぶつかっても怪我などしないよう自転車を少し離れたところに止めた。
「よしこ優しいね」
後藤は笑った。
そして二人で見る。待つ。
彼女が自分たちにぶつかるその瞬間を。
もう、あと少し。
繋いだ手に少しだけ力が入った。
- 492 名前: 投稿日:2006/04/22(土) 20:51
-
- 493 名前:R-side 投稿日:2006/04/22(土) 20:52
- 「ただいまー」
石川が真っ赤になった顎を擦りながら自宅へ戻ると外出しているのか家族の姿は見えなかった。
「うえー、昼抜きかよー」
いち早く察したらしい矢口は後ろで悲壮な声を上げて呻く。
少し間があって石川は矢口へ振り向いた。
「よし、じゃあ私が作りますよ!」
大きな声でそう宣言した途端矢口は露骨に嫌な顔をした。
ガッツポーズを作る石川の腕を取り椅子に座らせる。石川は不満そうに矢口を見る。
「お前が作るくらいならオイラが作るよ・・・」
一つ大きな溜息を吐き、腕まくりをするとキッチンにたった。
石川は立ち上がり矢口の後を追う。
「私も何か手伝いますよー」
どこから出してきたのかフリルの沢山付いたピンク色のエプロンを身に纏いニッコリ笑う。
おめー死ぬほどセンスねーなー。
ピンクのワンピースの上にピンクのエプロンとか。しかもフリル。吐きそうだよ。
怒鳴る気力も失せて矢口はまた溜息をついた。
「いいからお前座ってろよ」
そんな矢口に石川は顎と口を突き出し猛抗議する。
「なんでそんな事言うんですか!言っておきますけど私料理できるんですからね!」
頬を膨らませ腰に手を当て恨めしそうに矢口を睨む石川。
矢口は卵を溶いていた手を一旦止めると石川を蹴った。
へたり込む様にして倒れた石川の肩に手をかけ顔を覗き込みその目を見て言う。
- 494 名前:R-side 投稿日:2006/04/22(土) 20:53
- 「お前が料理出来る事は知ってる。多分下手じゃない。だけどな」
一旦言葉を区切り、石川の耳元で囁く。
「臭うんだ」
悲しそうに言うと石川の肩をポンと叩きまた手を動かし始めた。
一方倒れたままの石川は「私はしないわよ」などと訳の分からないことをブツブツと呟いている。
延々と続くかに思われたその行為だったが矢口に「邪魔」と蹴飛ばされると石川は呟くのを止めリビングに戻った。
ソファに腰を下ろしてテレビの電源を入れる。
始めの内は静かにしていた石川だったが突然立ち上がり甲高い声で歌いだした。
耳障りなその声に少しカチンと来たものの、空腹の方が勝っていた。
頭を振り気にしないように勤め、両腕を忙しなく動かす。
矢口が何も言わないのを良いことに石川は調子に乗って更に大声で調子はずれな歌を歌う。もう歌なのかさえ分からない。
もう無理。我慢の限界。
矢口は手にしていた菜箸を石川に向かって投げつけた。
矢口の手から離れた箸は一直線に石川の元へ。額のちょうど真ん中に刺さった。
石川は一瞬白目を剥きそしてそのままソファに沈んだ。
卵の焼ける良い香りがする。
ようやく静かになったリビングで泡を吹き倒れている石川を尻目に矢口は少し遅い昼食に箸をつけた。
- 495 名前: 投稿日:2006/04/22(土) 20:53
-
- 496 名前:さくしゃ 投稿日:2006/04/22(土) 20:55
- 次回―another contact―
- 497 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/25(火) 13:48
- おお、今度はこっちの組み合わせですか
楽しみです
- 498 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 20:08
- いいなあ
- 499 名前:さくしゃ 投稿日:2006/05/18(木) 21:46
- >>497
お待たせしました
>>498
ありがとうございます
更新します
- 500 名前: 投稿日:2006/05/18(木) 21:46
-
- 501 名前:―Another contact― 投稿日:2006/05/18(木) 21:48
- 「美貴、後ろ」
飯田の大きな声が聞こえた瞬間だった。
クスクス笑い声が聞こえてそして軽い衝撃。
転ぶ。そう思ったけれど転ばなかった。
転ばなかった代わりに自分の腕が他の誰かに掴まれていた。
「大丈夫ですか?」
何が起こったのか一瞬分からなかったが理解する。
途端に恥ずかしくなって耳の先まで赤くなった。
「あ、あの大丈夫ですから・・・」
顔を見られないよう俯きながら離れる。
何事も無かったかのように去らなければ。恥ずかしすぎる。
走り出そうとした藤本だったがそう上手くはいかなかった。
「あ、やっぱり」
先程とは違う声が聞こえて藤本は立ち止まる。
やっぱり?
どこかで聞いた事があるような無い様な声。
声の主を定めようと藤本は顔を上げて自分を止めた人達を見る。
「あ」
顔を上げて目が合った瞬間藤本も声を上げた。
そこに立っていたのは二人の女性。
しかも二人とも自分が見た事のある人間。
一人のほうは自分が一方的に知っているだけなので訳の分からなさそうな顔をしていたが問題はもう一人の方。
朝ぶつかった子じゃん。
死にたくなった。穴があれば入りたいって多分こうゆう時に使うんだろうな。ぼんやりと思った。
- 502 名前:―Another contact― 投稿日:2006/05/18(木) 21:51
- 「またぶつかっちゃったね」
相手は栗色の髪の毛をサラサラ揺らして笑っている。
藤本は曖昧な笑みを浮かべて頷いた。
「ぶつかった?また?何それ?」
自分ひとりを置いてけぼりにして会話する二人に割り込むようにして入ってくる吉澤。
あーあー、話さないで。一日に二回も他人にぶつかる女の話なんかしないで。
朝方も朝方で最悪だったけど今なんかもっと最悪だよ。
自分が転ばなかったって事はその前の出来事だってきっと全部見てるだろうし、そんなの恥ずかしすぎる。
だってメチャクチャ笑顔だったもん。あ、でも後ろ向いてたからわからないか。ってそーゆー問題じゃない。
まず後ろ向いて走ること自体おかしいじゃん。そんなとこ見られてたなんてイヤ、恥ずかしすぎる。
あーもーお願いだから話さないでー。
「あのね、朝よしこに会いに行こうと思って走ってたらぶつかったんだよ、この人と。ねー?」
藤本の願い虚しく後藤は説明を始める。
ねー?とか同意求めないで。
それでも頷いてしまうのは律儀な藤本の優しさ。
「ぶつかったって、大丈夫だった?」
心配そうな顔で吉澤が尋ねる。
チラチラと自分を見るその目はあまり気にしないでおこう。
- 503 名前:―Another contact― 投稿日:2006/05/18(木) 21:52
-
「んー、ごとーは大丈夫だったけど・・・大丈夫でした?」
「あ、あーあー、大丈夫、全然平気だったから・・・」
突然話を振られて慌てて笑顔を取り繕う。
あーもう逃げ出したい。つーか飯田さん。
飯田の事を思い出しさっきまで彼女がスキップしていた方向を見やる。
いない。
いない?
は?どこ行ったの?何してんの??
藤本の頭に無数のクエスチョンマークが浮かぶ。
そんな藤本をよそに後藤は少し自慢げに話し続け、吉澤も馬鹿丁寧にその話を聞いている。
ちょっと飯田さんマジどこ行ったんですか。
貴方が登場してくれないと私この場から逃げ出せそうにないんですけど。
泣きそうになりながら視線を左右へと動かし飯田の姿を探す。
いない。
ちょっと本当にどうしよう。
忽然と消えてしまった飯田を探しに行こうと藤本が口を開きかけた時。
「よーしーざわっ!!!」
一段と楽しそうな声が聞こえて金髪頭の後ろから笑顔の飯田がひょっこり現れた。
- 504 名前: 投稿日:2006/05/18(木) 21:52
-
- 505 名前:―Another contact― 投稿日:2006/05/18(木) 21:53
-
何がビックリしたって突然現れた彼女になんだけど、
それ以上にその彼女が金髪頭のバレー部員と知り合いだったという事にもっと驚いた。
「カオリさんじゃーないですかー!!」
吉澤は嬉しそうに笑う。お互いに腕を広げてハグする。
藤本と後藤は少し離れた場所から二人を見ていた。
「あの人は誰?」
後藤がのんびりした声で藤本に尋ねる。
見ず知らずの赤の他人に何でも丁寧に教えてあげる義理なんかねーよー。
なんて思いながらも何故か何でも話したくなってしまうのは眠たそうな柔らかい雰囲気とのんびりとしたこの口調のせいなのだろう。
「飯田さん」
「飯田さんと貴方はお友達なの?」
「・・・んー、どうだろ・・・」
そっかそっかと後藤はニッコリ頷く。
そういえば私と彼女の関係って何だろう。今まで考えたことなかったな。
後藤の素朴な問いに藤本は答えはしたものの考え込んでしまった。
ただの知り合いにしては深すぎるし友達って言葉で片付けてしまうのも難しい。
なんなんだろう。彼女は私の事どう思ってるんだろう。
- 506 名前:―Another contact― 投稿日:2006/05/18(木) 21:54
- 「そうだ、ごとーはごとーなんだけどアナタの名前聞いても良い?」
腕組みをして難しい顔をしていた藤本の前にひょっこりと顔が覗く。
藤本は少し驚いた。
昔から自分が考え事をしていたり逆に何も考えてなかったりしている時、顔が怖いとよく言われていた。
きっと今だってそうだった。
顔が怖いと言い、大抵の人は自分を避けたり、ましてや顔を覗きこむような真似をしてこなかった。
ところが目の前の彼女はどうだ。
自分の目を見てくるばかりかニコニコと笑っている。
少し驚いて、何となくだったけどほんの少しだけ目の前で笑う彼女の事を好きになった。
「美貴。藤本美貴って言うの」
後藤は口を横いっぱいに広げてにいっと笑った。
「藤本さん。美貴ちゃん。みきちー」なんて言いながら楽しそうにしている。
可愛いなと思った。
「あ、そうだ。あのデカイのはね、よっすぃーだよ」
後藤が吉澤を指差しながら言う。
知ってるよ、吉澤さん。よっすぃーって呼ぶのか。
中学の時に見たことがある。名前も聞いたことはある。
だけどこんな至近距離で見るのは初めてだった。
「ちょーもーやめてくださいよー」
後藤に指を指されている吉澤は自身より幾分か背の高い飯田に弄られ悲鳴を上げている。
それでも楽しそうだった。飯田も。
- 507 名前:―Another contact― 投稿日:2006/05/18(木) 21:55
- じゃれあう二人を見て藤本は少しだけ寂しくなった。
飯田が自分の知らない人と仲良くしているのを見たのは初めてだったから。
彼女は大学生だし学校に行けばそれなりに仲の良い人はいるのだろうけど、
それでも自分が見ている時の彼女はいつも一人だったから。
一人でいるか、その隣にはいつも自分がいた。
心のどこかで自分は彼女にとって特別な人間だと思っていたのかもしれない。
それが今、音をたてて崩れていく。
だってとても楽しそうだ。もしかしたら自分より吉澤の方が彼女の事をよく知っているのかもしれない。
それは分からないけどなんとなくそんな気がして悔しくて少し寂しくてほんの少しだけムカついた。
複雑な思いで二人を見ていたら飯田と目が合った。
目が合った飯田は吉澤を引きずるようにして藤本の前に立った。
「ホラ、挨拶」
飯田にドンと背中を押され吉澤がよろけながら前に出る。
藤本は怪訝な表情で飯田と吉澤の二人を見る。傍で後藤は楽しそうに笑いながら見ている。
吉澤は飯田と藤本の顔を交互に見やり困ったように頭を掻いた。
「・・・どーもー、ヨシザワでーす・・・」
ヘラヘラと笑いながら手を差し出す吉澤。
頭、どうしちゃったの?凄い事になってるんだけど。
何がなんだか分からずに藤本は吉澤と握手する。
と、その上から飯田の手が重なる。
すると傍観していたはずの後藤までもが加わってきた。
- 508 名前:―Another contact― 投稿日:2006/05/18(木) 21:56
-
「ちょ、飯田さんなんですかコレ?」
困惑顔で藤本は飯田に問うが飯田は答えない。
それどころか。
「さっ行くよ〜!!!」
ノリノリで叫びだした。何このテンション。
藤本は手を振り解き離れようとする。
もうダメ。ついていけない。変人にも程がある。一人でやってくれ。
「気合入れてくよ〜!!!」
「「おー!!!!」」
藤本は目を剥いて隣で笑う後藤を見た。
誰も付いていけるはずのないこの変人のテンションに軽く乗っちゃった!
何この子。変人。仲間。同類。兄弟?
後藤は出会ったその時からずっと変わらない笑顔でニコニコとしている。
藤本は後藤の事を少しだけ好きになったその理由が何となく分かったような気がした。
だってこの子飯田さんに少しだけ似てる。
藤本は可笑しくなって笑った。声を上げて笑った。
そして皆が声を上げて笑う。飯田も後藤も吉澤も。
出合ったばかりのはずなのに奇妙な友情を感じて藤本は少し嬉しかった。
- 509 名前: 投稿日:2006/05/18(木) 21:56
-
- 510 名前:さくしゃ 投稿日:2006/05/18(木) 21:57
- 次回石川
- 511 名前: 投稿日:2006/06/10(土) 05:54
-
- 512 名前:R-side 投稿日:2006/06/10(土) 05:55
-
「お、やっと起きたか」
矢口が最後の一口を胃袋に納めると同時に石川が目を開いた。
額に突き刺さっていた菜箸を引き抜き頭を振る。
しばらくぼーっと宙を見つめ、我に返る。
ぐぅ〜・・・
何か言おうと口を開いた石川だったが言葉が出てくるより早くお腹が鳴いた。
矢口は口元を食べかすで汚したまま哀れむ様な目付きでこちらを見ている。
泣きそうな笑顔を浮かべてようやく言った。
「ごはんください」
息を吹返して30分。
石川は目の前に置かれた料理を黙々と食べている。額の真ん中には絆創膏。
一仕事終えた矢口はリビングでのんびりと寛いでいる。
チラリとその姿を見るとまた箸を動かした。
久し振りに食べる矢口の料理は相変わらず少し塩気が多いものの美味しかった。
「オイラが作ってやったんだからお前後片付けしとけ」
そう言い残して矢口は二階へ消えていった。
二人分の食器と調理器具を洗い終えて石川は一息ついた。
今日は朝からやけに活動的だった。その疲れが今どっと押し寄せて来ている。
エプロンを外しソファに体を預ける。
活動的だったし妙にテンションが高かった。こんな自分久し振りだ。今朝の出来事を思い出してそっと笑う。
見ず知らずの人とも仲良くなれた。多分矢口さんがいたから。
なんだ、私ってば何も変わってない。
結局一人じゃ何も出来ないんだ。カッコわるい。
- 513 名前:R-side 投稿日:2006/06/10(土) 05:55
-
「んなことねーよ」
突然背後から声が聞こえて振り返った。
腕を組み不機嫌そうに睨み付ける矢口の姿。
どうやら心の中で思っていた事をそのまま口に出してしまっていたようだ。いつもの悪い癖。
途端恥ずかしくなって石川は体を固めると俯いた。
わざと大きな足音を立てて矢口が移動してくる。俯いていた石川の視界に矢口の爪先が写り込んだ。
「お前は変わったよ。少なくともカッコ悪くなんかなかったね」
静かに、でもどこか怒ったように矢口が言う。
「一人じゃ何も出来ないだって?そりゃそうさ、人間なんて皆そんなもんだ。けどな」
一呼吸置く。
石川は聞いているのかいないのか微動だにしない。
「絵のモデルやるって言ったのは誰だ?お前だろ。お前が自分で考えて自分でやるって決めたんだろ?
何が一人じゃ何も出来ないだ、自分で、一人でやってるじゃねーか」
大きく息を吸った。
石川は相変わらず下を向いている。見られているわけではないが、恥ずかしくなってそっぽを向いて言った。
「そん時オイラは、お前の事少しだけカッコいいと思ったけどね」
石川の肩がピクリと動く。
目敏くその動きを見つけると矢口はその場から離れ大きな声で誰にとも無く喋り出す。
「あー飯食ったら体が重くてしょーがねー。ちょっくら外走ってこよーっと」
わざとらしく身体を動かしそそくさとリビングを出て行く。玄関を出て行く大きな音。
静かになったリビングのソファで石川は泣いた。
そして外に出て行った矢口の事を思った。
「食べた後すぐに運動したらお腹痛くなっちゃうよ・・・」
石川の小さな呟きはやがて彼女自身の啜り泣く声に埋もれて消えた。
大きな窓から入る痛いくらいに眩しい光が部屋の中に影を作った。
- 514 名前: 投稿日:2006/06/10(土) 05:55
-
- 515 名前:Y-side 投稿日:2006/06/10(土) 05:56
- びっくりした。
まさかこんな所で出会うとは思ってもいなかった。世界って意外と狭い。
なんとなく、似てるような気はしてた。変な走り方とあの長い髪の毛。でもまさかってね。
後ろ向きで走ってきた女の子を受け止めて、暫くしてさっきまでもう一人が走ってたはずの前方を見るけどそこに姿はない。
どこいったんだろうなんて思ってたら突然背後からのご登場。相変わらず驚かせるの好きですね、変わってない。
背後から現れた人は見間違いでも気のせいでもそっくりさんでもなんでもなく本物の飯田圭織その人。
びっくりした。
「久しぶりだね、ハッスルしてた?」
ピョンピョン跳ねながらやけに楽しそうに聞いてくる。
言動が少しおかしいのもやっぱり変わってない。ああ、飯田さんだ。
懐かしくて嬉しくて楽しかった。
「まあそれなりにやってましたけどそれにしても偶然ですね」
「偶然?馬鹿言っちゃ困るね、カオは吉澤に会える様な気がしてたんだ、ここ一週間くらい」
親指をグッと立て、大きな目でウィンクしてみせる。
そう言えば彼女に会うときはいつもそんな事を言っていたような気がする。
ハハ、やっぱ変わってない。
変わってないけど何故彼女はこんなにも汚れているのだろう。
目の前でニコニコと笑う飯田さん。綺麗な人なんだけど服、めっちゃ汚れてますよ。草とか土とか。
「ああ、コレね。幻の大アリクイを探してたんだ、藤本と」
心を読まれてしまったのだろうか、彼女は汚れた服を広げながら後ろを振り返った。
その先には後藤とぶつかってきた女の子。藤本さん、ね。
それにしてもあの二人何話してるんだ。ごっちんと話が合うヤツは私くらいしかいないと思っていたのに。
なんだよ、ごっちんのヤツニコニコしちゃって。仲良さそうに何話してんだよう。
だいたい朝方ぶつかったくらいでそんな話すことあるのかよ。一瞬でそんな仲良しさんになれる薬があるなら分けてくれよ。
後藤と楽しそうに笑ってる藤本を見て胸が少し苦しくなった。
- 516 名前:Y-side 投稿日:2006/06/10(土) 05:57
-
「おい」
突然頭上から影が差したかと思うと頭をグシャグシャ掻き回された。
「ちょ、やめてくださいよ」
「やーだー」
飯田は口を尖らせて尚もグシャグシャと髪を乱す。笑いながら。
「ほんとやめてくださいよー、せっかくのヘアスタイルがー」
「大丈夫、今年はコレが流行るよ!流行最先端だ!」
そう言って出来上がったのは見るも無残なまるで枯れ枝を寄せ集めて作った鳥の巣のような金色の頭。
飯田はニッコリ笑った。彼女がとても満足そうな顔をしていたので取り合えず笑っておいた。
こんな頭じゃ家まで帰れないよ。ましてやごっちんの隣なんて歩けない。
視線を感じた。
冷たい、刺すような痛い視線。
誰?何?振り返ろうとしたら飯田に腕を掴まれた。
「髪形もきまった事だし、自己紹介しなさい」
「は?何言ってるんすか、カオリさん私の事もう知ってるでしょう?」
「違う、カオのお連れの方に」
飯田さんは声を落として言った。
何、何なのよ。
とりあえず藤本さんの前まで連れて来られる。ああ、そんなに頭見ないで欲しいんだけどなあ。
藤本の少し後ろには後藤の姿。
ごっちん、笑いたければ笑っていいよ。そんなに我慢しなくていいさ。
吉澤の思いが通じたのか後藤は声を出さずに笑い出した。
背中を突いて飯田が急かす。
- 517 名前:Y-side 投稿日:2006/06/10(土) 05:57
-
「どーもー、吉澤でーす」
恐る恐る手を差し出すと相手も恐る恐るだが握り返してくれた。
疑うような怪しむような負のイメージが奥底で渦巻いている瞳。
ああ、さっきの視線はこの子だったか。藤本さん。
笑顔を浮かべて心の中で思った。少し悲しく思ったけどちょっと同情したりもした。
「さ、行くよー」
もうそろそろ手を離したほうがいいんじゃないかしらなんて思ったその矢先上から被さってきた飯田の手。
何が始まるのかと思いきや後藤までもがノリノリで気合入れをはじめる。
なんだコレついていけねー。
後藤を見やるととても楽しそうに笑っている。そういやごっちんも少しおかしいトコあるもんな。
彼女なら飯田さんと仲良くなれるかもしれない。ニコニコ笑う後藤を見て思った。
藤本はといえば訳が分からないといった表情で飯田と後藤を交互に見やっている。
うん、これがまあ常識人の反応だよね。だって絶対おかしいもん。
里田さんならこれスクワットの方向に持ってくよな。ぼんやり考えてたら突然笑い声が興った。
藤本。楽しそうに笑っている。
そうか、彼女は飯田さんのお連れの方だもんな、ちょっと変わってる人だったんだ、そりゃそっか。
つーか類は友を呼ぶって何、本当だね。今まさにこの場で証明しちゃってる。
貴方達、おかしいよ。
そして多分私もきっと。
楽しくなって吉澤も笑った。
- 518 名前: 投稿日:2006/06/10(土) 05:57
-
- 519 名前:M-side 投稿日:2006/06/10(土) 05:58
- 「で、いい加減教えてくれてもいいじゃないですか」
スキップしながら先を行く飯田に声をかける。
けれど飯田は答えないし、鼻歌まで歌いだす。
もう、何がそんな楽しいのさ。何で教えてくれないのさ。
イライラして足元の小石を蹴った。
「美貴、ちゃんと牛乳飲まなきゃ。カルシウムが足りないからイライラするんだよ?」
「だって牛のお乳ですよ?ありえない」
「ああ、だから美貴の胸は」
最後までは言わせなかった。
悪いとは思いながらも背後から飛び蹴り。もんどりうって飯田が崩れる。
元から汚れてたし大丈夫。土煙が巻き起こるその場を見ながら冷静に思う。
やがて煙が晴れて飯田が姿を現す。
「ひどいなあ、カオは美貴の小振りのおっぱいも好きなのよ?」
まだ言うか。
目を吊り上げて睨むと飯田は困ったように笑いながら謝った。
まあ別にいいんだけどさ。本当は大して気にしてなんかいない。
気にしてるのは貴方と吉澤さんの関係。それだけ。
「昔バイトしてたの、家庭教師」
土煙を掃いながら飯田が話す。
「そん時教えてたんだよ、吉澤に。それだけ」
そう言って首を傾げてみせる。まだ聞きたい?
藤本は首を振って答えた。
なんだ、それだけ。小さいなあ自分。少し反省する。
でもだって仕方ないじゃないか。あんな仲良さそうなんだもん。
しかも何、家庭教師って。私そんな話聞いたことない。何でも知ってると思ってたのに。
安心すると共に少し寂しさも感じた。
- 520 名前:M-side 投稿日:2006/06/10(土) 05:59
- 「カオだって一応勉強できるんですからね、分からなくなったら教えてあげるよ」
「や、結構です」
満面の笑みで誘う飯田に対し満面の笑みで綺麗にさっくり断った。
だってきっと彼女に教えてもらうなんて常人じゃ理解できないところまで話のベクトルが向いて行きそうだもん。
放っておくときっと宇宙の真理まで話が及んじゃうよ。そんな家庭教師お断りだ。
そうだ、家庭教師。吉澤さん。
「飯田さん、その家庭教師ってどれぐらいやってたんですか?」
「一年」
人差し指を立てて答える飯田。
藤本はついさっき分かれた吉澤の事を思った。
吉澤にとってそれが良かったのか悪かったのかは分からないけど取り合えず楽しそうだったから良かったんじゃないかと思う。
でも一年はなぁ。よくやるよ二人とも。
妙にスッキリした気分になって藤本は大きく一つ深呼吸した。
途端に大きな声で鳴くお腹の虫。そう、昼食。
「いい加減、帰りましょう」
藤本の言葉に「そだね」と軽く答えると二人並んで歩き出す。
ここ数時間で色々あり過ぎだよ。飯田に気付かれないよう藤本はこっそり苦笑した。
隣を歩く飯田を見上げるとニコニコ笑いながら歩いている。
まあ、なんだかねえ。うん、悪くないねえ。
所構わず突然スキップをする飯田の気持ちが少しだけ分かったような気がする。
フッと息を吐くと飯田を置いてスキップした。
後ろから飯田の声が聞こえる。ああ、楽しい。
風に乗って鼻歌なんかも歌ってみたりした。お腹の虫も同調してる。
家まではまだもう少し。
後ろから飯田の楽しそうな声が聞こえる。
- 521 名前: 投稿日:2006/06/10(土) 05:59
-
- 522 名前:さくしゃ 投稿日:2006/06/10(土) 06:00
- 次回後藤と吉澤
- 523 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 07:29
- 更新ありがとうございます。
- 524 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/19(月) 19:06
- 癒される〜
- 525 名前:さくしゃ 投稿日:2006/07/22(土) 12:54
- >>523
読んでいただいているようでこちらこそありがとうございます。
>>524
マイナスイオン量産目指します。
レスありがとうございました、更新します
- 526 名前: 投稿日:2006/07/22(土) 12:55
-
- 527 名前:G&Y-side 投稿日:2006/07/22(土) 12:56
- 「へー、家庭教師ってあの人だったんだ」
「そーだよー。しかもあの人さー突然変な話しだすから参っちゃうんだよねー」
飯田と藤本と分かれ、相変わらずのんびりと歩く後藤と吉澤。
自転車がカラカラ乾いた音をたてる。
「英語の勉強してたはずなのにいきなりなんだっけ、盛期ルネサンス?の話しだすんだ。
ダヴィンチだとかミケランジェロだとか。吉澤髪の毛短くしてパーマかけたらダビデだねーとか。もう訳わからんくてさー」
そう言いながら吉澤は懐かしそうに笑う。
訳わかんないなんて言いながらも結局は楽しんでたんだね。後藤もそっと笑った。
一時期変なパーマかけてたのはその話からきたのかなーなんて思ったりもした。
「そういえばさ」
突然吉澤に話を振られる。
「ごっちんとあの、藤本さん?何話してたの?」
「んあ?別に大した話はしてないよー」
後藤はそう言って笑う。
本当かよ。だって何か楽しそうだったよ?
「ああ、そうなんだ・・・」
- 528 名前:G&Y-side 投稿日:2006/07/22(土) 12:57
-
聞きたいけど聞きたくない。
彼女がそう言うならその言葉を信じよう。
会話が止まる。
黙り込んだまま歩き続ける。車輪の回る音が五月蠅い。
後藤は何を考えているのか分からない。楽しそうにしてただ歩いている。
何か息苦しく感じるのは自分だけかな。
後藤に気付かれないように小さく溜息をついた。
恋をするってとっても辛い。
後藤のポケットに突っ込まれた手を見る。
んー、さっきまで繋いでいたはずなんだけどなあ。
次いで自分の自転車を押していないもう片方の腕を見る。ぐー、ぱー、にぎにぎ。寂しいよ。
しつこいかな?しつこいよね。ばれちゃうかな?ばれちゃうだろうね。
あーでもごっちんは鈍感そうだしもしかしたらきづかないかも。いや、でもやっぱりきづくかも。
恋をするってとっても勇気がいる。
「ねーよしこー」
突然後藤がこちらを向く。
吉澤は慌てて開いている方の腕を体の後ろに隠した。
「な、なに?」
「手、つなごー」
- 529 名前:G&Y-side 投稿日:2006/07/22(土) 12:57
- 一瞬自分の耳を疑った。
え?ごっちん、今何て言った?
手、つなぐ?
後藤を見るとニコニコ笑って手を差し出している。
わあ何だコレ、以心伝心ってやつ?こうゆう時に使うんでしたっけ飯田さん?
かつての家庭教師から教わった四文字熟語を頭に浮かべてニンマリ笑う。
差し出された後藤の手をそっと握った。
「手、暖かいね」
「ポケットん中で暖めてたからね」
「ナイス温もり」
2人は顔を見合わせて笑う。手を繋いで歩いていく。
自転車がカラカラ音をたてる。
空の高いところで小鳥が歌った。
- 530 名前: 投稿日:2006/07/22(土) 12:57
-
- 531 名前:R-side 投稿日:2006/07/22(土) 12:58
- 矢口さん、遅いな。
もしかして迷子にでもなったんだろうか。それはやばい。
今頃寂しくて怖くて一人で泣いてるかもしれない。探しに行かなきゃ。
石川が腰を上げたとき、玄関の方から大きな声が聞こえてきた。
「いぢがわー!!じぬー!!」
何事かと思い慌てて玄関へ行くと泥に塗れ血に塗れ顔を涙でグシャグシャにした矢口の姿があった。
「矢口さん!!どうしたんですか!何があったんですか!!!」
「耳元で叫ぶな!殺す気か!!」
矢口のビンタを右頬に食らい少し安心する。この様子じゃ死にそうには無い。
しかし何故彼女はこんなにも無残な姿で地べたに這い蹲っているのだ。
取り合えず矢口の腕を取り立ち上がらせると風呂場へ連行する。
汚れているままでは何も分からない。石川が矢口の服を取り脱がせにかかる。
「ちょちょちょちょーっと待った、お前何をする!」
「何って服脱ぐんですよ?ホラ、万歳して?上手く脱げない」
「ホイ、ばんざーいって馬鹿!一人で出来るわど阿呆!消えろ!!」
石川の無駄な親切心は矢口に足蹴にされ石川自身事風呂場の外へ蹴りだされた。
何よ人がせっかく親切にしてあげてるのに。
ブツブツ呟きながらも石川はリビングへ戻り矢口が風呂場から出てくるのを待つ。
時折風呂場のほうから叫び声が聞こえてきたりしたが石川は気にせずにテレビを見ていた。
やがて頭を拭きながら矢口が姿を現す。
着替えにと用意しておいた石川のジャージを身に着けた矢口の姿はとても滑稽だったが石川は笑うのを堪えた。
- 532 名前:R-side 投稿日:2006/07/22(土) 12:59
- 「・・・笑いたきゃ笑え」
自嘲気味に矢口は呟き石川の隣に腰を下ろす。
「笑ったりしませんよ、それより外で何してたんですか?」
「お前言ったな?笑ったりしないって言ったな?」
「言いましたけど?」
「・・・犬に苛められた」
「・・・」
「・・・」
「ぁヒャひゃははっはっはっはははhwwwwwww何ですか犬に苛められたって犬を苛めたじゃなくて犬に苛められた?
ちょっと作り話でしょう?もー矢口さんったらあはははははは・・・はは・・・は・・・やぐちさん?」
「死ね!百回死ね!生き返ってまた死ね!!」
矢口は叫ぶと足音荒く二回へ駆け上がっていった。
目元にうっすら光るものがあったような気がしたが見なかったことにしておこう。
矢口がいなくなったその後でも石川は笑いを止める事が出来なかった。
だってあのジャージ姿。裾も丈も全く合ってないしピンクだ。矢口がピンク。
その挙句が犬に苛められたときた。笑えないわけが無い。
ソファの上で石川は一人で泣いた。
笑いながら涙を流した。
- 533 名前: 投稿日:2006/07/22(土) 13:00
-
- 534 名前:M-side 投稿日:2006/07/22(土) 13:00
- 「飯田さんって普段何してるんですか?」
飯田の家で昼食を取り、一息ついている飯田と藤本。
飯田はごろりとだらしなく寝そべりその側で藤本はクッションを抱き壁に背を預けている。
ちなみに昼食は飯田のリクエスト通り卵ご飯。何の変哲も無い所謂普通の卵ご飯。
それを藤本はわざわざ飯田の為に卵を割り、混ぜ、醤油をかけて食卓に出した。
そんな昼食を終えての一時。
近くの公園ではしゃぐ子供達の声は五月蠅くも無く窓から差し込む光はポカポカと暖かい。
「んー、何してるんだろうねえ?」
飯田はやはり寝転んだまま面倒臭そうに眠そうな声で答えた。
膝を抱える。
『あの人は誰?』
河原で出会った、正確に言えば早朝に既に出会っていた後藤が藤本に言ったこの言葉。
『よーしーざーわ!』
初対面だと思っていたけれど実際は違っていた吉澤に見せたあの笑顔。
さっきから頭の中でずっとグルグル回っている。
『あの人は誰?』
「飯田さん」
『飯田さんは貴方とどういった関係?』
「・・・」
何でそこで言葉が出てこないんだよ。何かあるだろ。何か出せよ。
ってゆーか此処は普通に考えなくても出てくるところでしょう?何で考えなきゃいけないの。
何考えてんだよ。しかも考えた挙句答えは無言。自分自身に腹が立つ。
なんで?なんでだよ。
「飯田さん」
出てきた声はいつもの自分の声とは少し違う、何処となく弱い声だった。
違和感を感じたのか飯田は寝そべっていた身体を起こす。
- 535 名前:M-side 投稿日:2006/07/22(土) 13:01
- 「なに、どうした?」
「・・・私って何でしょう・・・」
言葉は上手く見つからないし、それに加えて何だか泣きそうになっている。
なにこれ。如何しちゃったんだ私。しっかりしろよ。
抱えていたクッションに顔を埋めた。
「・・・藤本も哲学を学ぶようになったか〜」
飯田は柔らかく言葉を吐く。
そういう意味じゃないんだけどな。やっぱ言葉が足りなかったか。
「貴方にとって私の存在って何なんでしょう」言いたかった言葉。
飯田の少し的外れなその言葉に思わず口元が緩む。
「大丈夫、美貴は美貴だよ」
何が大丈夫なんですか?何で大丈夫なんですか?どういう風に大丈夫なんですか?大丈夫って何ですか?
分かんないよ。ああ、もうイライラする。
違う。イライラしてるんじゃない。本当は悲しいんだ。
小さく鼻を啜った。
「・・・カオはあんたの事好きよ」
小さくなっていた藤本を飯田はそっと抱きしめた。
腕の中で藤本の体が微かに動くのが分かった。
クッションに顔を埋め膝を抱える藤本の髪をそっと撫でた。
小さく鼻を啜る音がまた聞こえた。
- 536 名前: 投稿日:2006/07/22(土) 13:01
-
- 537 名前:さくしゃ 投稿日:2006/07/22(土) 13:02
- 次回後藤と吉澤
- 538 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/23(日) 08:38
- 更新お疲れさまです。
・・ちょっとウルっときてしまいました。
次回更新も楽しみにしています。
- 539 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/30(水) 06:11
- ずっと続いて欲しい
- 540 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/28(木) 23:04
- 待ってます。
- 541 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/06(火) 10:44
- 楽しみに待っています。
- 542 名前:さくしゃ 投稿日:2007/02/12(月) 23:11
- >>538-541
ありがとうございます。
前回の更新から半年近く経っています。
正直な話、娘小説、娘本体からもだんだんと興味が薄れかけてきています。
私生活でのゴタゴタがあり、吉澤さんの卒業が決まり、不幸があり、放棄してしまおうかとも思いました。
けれども読んでくれている、待ってくれている人がいるということはとてつもなく嬉しい事なのです。
なので書きつづけてみようと思いました。完結させようと。
この話自体書き出したのが2004年なので、今の彼女たちと比べると少し違和感を感じてしまうかもしれません。
私自身も、今ディスクの中に眠っている文章を読んで懐かしく思ったり違和感を感じたりすることがあります。
けれど、あくまでもこの話の中での彼女たちは2004年当事のままの彼女たちのイメージで読んで欲しいのです。
リーダーをやっている吉澤さんではなく、美勇伝に所属している石川さんではなく、卒業してしまった飯田さん、矢口さんではなく。
勝手かもしれません。押し付けです。けれど、今の彼女たちのイメージで話が進むとどうしても。
半年近く放置していながら、好き勝手言って申し訳ありません。
それでも読んでやろう、という人がいたのならば幸いです。
更新の頻度はきっと遅くなるでしょうが、それでも気にしてくれている人がいるのならば。
更新させていただきます。
- 543 名前: 投稿日:2007/02/12(月) 23:11
-
- 544 名前:G&Y-side 投稿日:2007/02/12(月) 23:12
-
「久し振りだなー」
後藤家で昼食をご馳走になりその二階にある後藤の自室で寛ぐ二人。
吉澤はキョロキョロと落ち着きなく部屋を見渡す。
後藤の部屋にはもう半年以上もお邪魔していなかった。
「何か変わったね」
「んー、そうかなぁ?」
「ごっちんは毎日見てるから気付かないんだよ」
どこか憂うように、そして懐かしむように軽く微笑むと近くにあったキャラクター物のぬいぐるみを手に取り腰を下ろす。
後藤もぱふと音を立ててベッドに腰を下ろした。
あ、この座る位置は変わってない。
吉澤は嬉しくて手にしていたぬいぐるみをギュッと抱いた。
というか部屋自体はあまり変わってない。
雑誌が散らかってたりわけの分からないガラクタがゴチャゴチャしてたり、そんな外観は変わってないんだ。
変わったのは中。私と彼女。私と彼女の関係性。
彼女は少し大人っぽくなったし私は背が伸びた。この部屋に入った時、妙に天井を近く感じたのもきっとそのせい。
成長してるんだ。
そして今までの彼女と私の関係。
幼馴染み。友達。親友。
だけど今はどうだろう。
彼女は多分今でも私の事を親友だとか幼馴染みだとかいうカテゴリーに置いているのだろう。
けれど私は。
幼馴染みだし親友だしそれは変わらないけど、恋心を抱いてしまった。
幼馴染みであり大親友である同性の彼女に。
- 545 名前:G&Y-side 投稿日:2007/02/12(月) 23:13
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思考を止めて目を開く。
ベッドの上でゴロゴロと寝転がる後藤の姿が映る。
あ、ヤバい。心臓がドキドキする。
ごっちん、服捲れてるよ。
心臓がドキドキする。
・・・って、何興奮してるんだ自分。
何一々気にしてんだ、気にするなよ。
ごっちんはいつもこうだったじゃないか。そうだよ。
そして私は何も気にしてなんかいなかったじゃない。
それが何だ、何で今こんな心臓バクバク言わせてんのよ。
「よしこどーした?顔赤いよ」
「ぅえっ?えっ?あ、あらそう?」
「どーしちゃったの」
後藤は可笑しそうに笑った。上手い言い訳が見つからず、合わせるようにして吉澤も笑った。
後藤がベッドから降りてくる。吉澤の正面に座り込んだ。
何を考えているのか、ニコニコと笑ったまま。
- 546 名前:G&Y-side 投稿日:2007/02/12(月) 23:14
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「ね、よしこ」
ぬいぐるみを抱いていた腕を取られる。
正面からマジマジと見つめられ鼓動が少し早くなる。
取られた腕の触れ合う部分がやけに熱い。
落ち着け、落ち着け。
体が火照ってきている。
平常を保て。動揺するな。
後藤の目を見つめ返す。ほら、大丈夫。
大丈夫?
後藤は大きな目を細めてニィと笑った。
笑って、言った。
「よしこ、ごとーの事好きでしょ?」
- 547 名前: 投稿日:2007/02/12(月) 23:14
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- 548 名前:G-side 投稿日:2007/02/12(月) 23:15
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なーんか、気付いちゃったんだよねえ。
確信すら持ってた。
ジカジョーかなぁ、なんて思ったりもしたけどその反面、そんなはずはないとも思ってた。
だってどう見てもよしこはおかしかったよ。
のんびりぼんやり適当に生きるがモットーの私でもそりゃあ気付くって。甘く見過ぎだよよしこさん。
抱き締めてくれたのは貴方の優しさだったのかも知れないけど信じてくれってあの言葉は告白と同レベルだよ。
気付いてないと思ってたんでしょう?気付いちゃったよ。全くバカだなぁ、よしこは。そーゆートコ、嫌いじゃないけど。
手、握ろうなんて中学生じゃあるまいし。別に嬉しかったから良かったんだけどね。
それでもまだちょっと確信し切れなくてこっちから手、にぎろー?なんてカマかけて見たらあっさりのっちゃって。
死ぬか生きるか結構ドキドキの賭けだったのにあんな嬉しそうな顔されたらもうそう思うしかないっしょ。
なんだかなあ。私達はきっとよく似てるよ。似た者同士が惹かれあっちゃったんだね。
きっとよしこも気付いてるよね?ごとーの気持ち。
私、君の事好きよ。
「ね、好きでしょ?」
「ぅあ?は?え、ぇあ、なによいきなり」
「こたえてよー」
うはは、動揺しちゃって可愛いなぁ。
さぁどう答える?
嘘ついても無駄だかんね。よしこの嘘はすぐわかるもん。下手っぴだから。
「あー、うー、えー、んーと、まぁ、嫌いでは無いよ」
うわ、逃げた。
でもその言葉、嘘じゃないよね。
- 549 名前:G-side 投稿日:2007/02/12(月) 23:17
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「つーか何だよいきなり」
少し怒った様にしてぶっきらぼうな言葉を吐くとともに手にしていたぬいぐるみを投げ付けてくる。
分かってるよ、照れ隠しの動揺隠しだって事。
あぁ、ごとーのベン君(1才3ヶ月)が可哀相に巻き添え食らっちゃって。
よしこは顔真っ赤にして睨んでくる。
「あは、何となく聞いてみただけだから気にしないで」
言ってみるけどきっと気にしちゃうだろうね。ごめんね。
床に転がってるベンを手に取りベッドに上がる。
「よしこさぁ、覚えてる?」
寝転がって天井を見つめる。いろんな色で塗り分けられたこの世界の縮小図。
貴方が私にくれたもの。
「ごとー、行きたい国決まってるんだよ」
「ああ、それ」
よしこが近付いてくる。
ベッドに凭れて一緒に地図を見る。
言ったよね、いつか一緒に行こうって。約束したよね。
- 550 名前:G-side 投稿日:2007/02/12(月) 23:17
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「ごっちんの行きたいトコならきっと私も行きたいトコだよなぁ」
そう言って目を細めて笑った。
そして突然姿勢を正すと腕を組み、偉そうにふん反り返って急かす様に言った。
「ごっちんの行きたいトコ、当ててあげようか」
「どうぞ?」
私は寝転んだまま余裕な表情を浮かべて言った。
さぁ、よしこに分かるかな。
たっぷり間を置いてよしこは笑顔で言った。
「ソビエト?」
- 551 名前: 投稿日:2007/02/12(月) 23:17
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- 552 名前:さくしゃ 投稿日:2007/02/12(月) 23:18
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またよろしくおねがいします。
次回は石川さんと矢口さんの予定です。
- 553 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 04:06
- 更新キター!
乙です。
次回楽しみにしてます。
- 554 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 09:53
- おおおおおおおお更新だ!!!!!!
うれしい!
- 555 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/14(水) 03:42
- 更新再開本当に嬉しいです。最初から読み返しましたよ。
まだ頬がふっくらしてたよしこはまだここにいたんですね。
読んでいて「悲しいほどに美しい」 っていう古いアルバムのキャッチコピーを思い出しました。
次回も楽しみにしてます。
- 556 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/21(水) 20:12
- 更新ありがとうございます!
待っていたかいがありました!
- 557 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/17(火) 22:06
- ずっと待ってるよ
- 558 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/11(火) 22:47
- 続きがどうしても気になる…
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