少数精鋭
- 1 名前:IMY 投稿日:2004/03/06(土) 14:39
- はじめまして。
短・中編に挑戦したいと思います。
主要は某記念日さんの天然眼鏡王と最年少の大人。
あとグラマーな缶コーヒーと男前な乙女も少々。
週1、2ペースでのろのろ行きます。
お手柔らかに。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/06(土) 15:16
- 少し下がってから書きたいと思います。
- 3 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 21:44
- とても暑い季節のとても暑い時間帯のくせに、空は腹が立つくらいの
青一色なのはどうしてなんだろうか。
本日の気温、摂氏33℃。異常気象ナリ。
野菜を収穫したいからカゴ係やってよ、と言われて庭に出たのがちょうど12時。
太陽に負けて、家の中に非難したのがその10分後。
軒下の日陰から頭だけ出して、枝を切っている柴田を見ながら
村田はカゴを抱えなおした。
「柴田くん、ガンバレ!」
「ていうか手伝ってよ!あたしだけ暑いじゃん!」
柴田くんの視線は時として冷たいなぁ。と思う。
ヒマなので、かといって手伝いに行っても邪魔する自信しかない。
なんだか手持ちぶさたになって、なんとなく村田はカゴを抱えているのだった。
- 4 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 21:44
-
裸足の足をぶらつかせながら、カゴの中身を見てみる。
中には自然な赤のトマト1個。中くらいのキュウリ2本。
スーパーにはない輝きがキラキラ。
なんというか
「太陽がいっぱい?みたいな…。あー。」
要はとてもおいしそうだということだ。
何もしないんだからせめてコレ冷やしといてよ、と渡されているトマトを
手にとって触れてみる。
つるつるじゃないざらざらの感触が伝わって、本当のトマトを知る。
- 5 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 21:46
- そういえば、この野菜を作ったのは柴田だった。
意外なことに、家庭菜園を作るのが趣味らしい。若いのに変わった趣味だ。
その趣味のおかげで今年の夏、村田は苗床から新芽取りまで
植物栽培のフルコースを体験することになった。
怒られていたのはいつもこっちだった。と思い出し笑いをする。
柴田に怒られるのは嫌じゃない。むしろ楽しい。
柴田に会ってから、自分の生活は彩りが出た気がする。
目の前で光っているトマトのような、そんな明るい彩り。
赤色、赤は血液の色、生きてる証。生きてる野菜。
連想をゲームのようにして、疑問にたどりつく。
生きてる野菜って一体どんな味なんだろうか?
だから肉厚の果肉に歯を立てた。瞬間に果汁が口いっぱいに広がる。
野菜のくせにどこか果物みたいに甘酸っぱいのは、柴田が育てたからかもしれない。
噛みながら馬鹿なことを考えていた。
- 6 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 21:54
- 飲みきれなかった果汁が、村田のアゴを伝って太ももにパタッと滴る。
それを拭おうともせずに、ただ囓り続けていた。
日差しのせいか果肉は熱く、皮はハリがあって噛みきる時の抵抗が強い。
単純においしかった。
太陽みたいだなぁ
そんなことを考える。
村田はトマトを太陽に見立てていた。赤く、熱く、生きている。
そう『太陽を食べる』
このトマトを作ったのは柴田だ。
そして食べることで、ちょっとした幸せを村田にもたらした。
- 7 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 21:58
-
柴田くんはもしかして凄い偉大なヒトなのかもしれない。
だって柴田くんはこうして私に元気をくれてるもんねぇ。
いうなれば、柴田くんが私の太陽。なんてね。
やっぱり馬鹿なことを考えていた。
「ああー!ちょっと何先に食べてんの!ていうか汁が、あぁ…。
凄いこぼしてるって!ほら、これで拭きなよ。」
「…ああ。ごめん。つい食べてしまった。おいしいね、コレ。」
「もう、今年の初収穫は一緒に食べようねって言ってたのにさー。」
- 8 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 22:01
- いつの間にかすぐそばに柴田が立っていた。
少し怒っているかもしれない。
だが、それでも首にかけていたタオルで手と足を拭いてくれる。
何だかんだで柴田の優しさを感じて、村田はごめんごめんと謝る。
いつもの日常的な光景だった。
自分の世界に少々トリップしていたようだ。
手に持った囓りかけのトマトを見ると、やっぱり赤かった。
- 9 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 22:06
-
それから仕切直しということで、軒下に並んで収穫した野菜を食べた。
「あのねぇ、柴田くんは私のトマトだと思いました。」
「何それ?」
「さっき、なんかね。そう感じたんだー。」
「えーと、それは褒められてるの?」
「もちろん!生きていくためになくてはならない存在じゃないか。」
「…トマトが?」
「ん?……あ、間違えた。」
あいかわらずトマトはおいしい。
隣に彼女がいて、話をしているときは特に。
- 10 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 22:08
- E
- 11 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 22:08
- N
- 12 名前:トマトの中の神様 投稿日:2004/03/06(土) 22:08
- D
- 13 名前:Good sleep,good night 投稿日:2004/03/07(日) 20:36
-
本当にごくまれに、眠れない日がある。
今夜の空はとても澄んでいた。
三日月の明かりが柔らかく窓辺に差し込んでくる。
涼やかな風が、お風呂上りの濡れた髪に通り抜けてとても心地いい。
普段と何も変わらない夜に、その日だけは心惹かれて
ベランダに立ってから結構な時間が過ぎていた。
「んー……。」
ずっと立ってるのも何なので、窓際に腰掛ける。
星を見ながら夜風を楽しむのは、村っちゃんに会って増えたかもしれない。
- 14 名前:Good sleep,good night 投稿日:2004/03/07(日) 20:39
- スタンドの明かりと月明かり。
その両方に照らされた村っちゃんは、眠っているくせに
柔らかくあたしに笑いかけている。
キチンと手入れされて透き通った茶色の髪と滑らかな起伏が続くラインに
思わず奥歯を噛みしめた。
眠ってる村っちゃんはとてもキレイだと思う。
偏食のせいで気持ち悪いくらい細い体は、生きてる感じがしない。
たまにだけど、死んでるんじゃないかなと思うときがある
それをキレイって言うのはおかしいかもしれないけど。でもキレイ。
それが、そこに一人しかない村ちゃんを証明してるんだ。
と、まぁ何となく思ったりとかして。
自分でもよく分からないけど、そんなことをふと考えた日には
こうやって外の景色を眺めたりしている。
- 15 名前:Good sleep,good night 投稿日:2004/03/07(日) 20:46
-
あたしにとっての村っちゃんは芸術品を連想させやすい。
色白だし、細いし、たまに分かりづらい言動とかあるし。
芸術ってそんな感じだきっと。
でもあたしの芸術品のイメージはそれだけじゃない。
前に、村っちゃんて芸術品みたいだよねって本人に言ったら喜ばれてしまって
もう言うのはやめようと思ったことを思い出した。
単純に褒めたわけじゃなかったから。
芸術品は壊れやすい。
村っちゃんもそんな雰囲気がある。
いつか村っちゃんともサヨナラするんだろうな。
どういう形になるかは分からないけど、先にサヨナラするのはあたしより
村っちゃんの方がたぶん早くなると、漠然とそう感じる。
永遠に一緒にいることなんてないって、知っている。
知っているけど、知っているから辛い。
- 16 名前:Good sleep,good night 投稿日:2004/03/07(日) 20:52
-
村っちゃんは気づいてるんだろうか?
あたしが想像以上に村っちゃんを必要としているのが。
「大事なんだからね。そこんとこ分かってんの?
今さ、毎日が楽しくてしょうがないんだよ。悔しいケドさ。」
自分でもやけに弱気な声は、窓からの風に掻き消えていった。
言い足りない気もしたけど、眠ってる人間にこんなこと言う
自分が恥ずかしくなって、途中で外に目を反らした。
何やってるんだろうか。
流れていく雲がゆっくり月を隠していく。
それに反比例していくかのように、頬が熱くなるのを感じていた。
- 17 名前:Good sleep,good night 投稿日:2004/03/07(日) 20:57
-
「うー…ん…あれ?柴田くん。起きてたの?」
「うん、何だか月が見たくなっちゃって。」
「それはそれは。月と語りあっていたのかぁ。いいね。」
きっと他の人に言われたら、バカにされてると思う台詞も
この人が言うと、こんなにも自然に聞こえるのはどうしてなのか。
「ところで柴田くん。寒くないの?」
「うーん、ちょっと寒いかも。」
「今夜は少し冷えるよ。ほら、おいでなさいな。」
細い手が布団の端をめくって、ポンポンと自分の横を示していた。
- 18 名前:Good sleep,good night 投稿日:2004/03/07(日) 21:04
-
「私は体温低いけど、まぁ何もないよりましでしょう。」
腰に回された村っちゃんの手は、いつもどおり暖かくなかったけど
いつもどおり優しかった。
「柴田くんのほうが枕より抱き心地よしで、幸せじゃのう。」
「目的はそれか。」
「よいではないか、よいではないか。」
「あんた殿様か……でもまぁ、あったかいし、いいや。」
本当にごくまれに、眠れない日がある。
そういう日村っちゃんは必ず起きてくる。ような気がする。
村っちゃんは知ってるんだろうか?
あたしが想像以上に村っちゃんを必要としているのが。
「…まさかね。」
そうしている内に、あたしは眠りに落ちていった。
- 19 名前:Good sleep,good night 投稿日:2004/03/07(日) 21:05
- E
- 20 名前:Good sleep,good night 投稿日:2004/03/07(日) 21:05
- N
- 21 名前:Good sleep,good night 投稿日:2004/03/07(日) 21:05
- D
- 22 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:38
- +++
どんな風に出会ったかは忘れたけれど、好きな人がいる。
その人は少しずれた気の利かせ方をする、という素敵な人物で、
とらえどころがなく、捕まえるのが難しい。
その人のそんなところが好きで、そんなところが苦手だった。
そして相手に気を利かせるような状態にさせる、自分が嫌いだった。
- 23 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:39
-
『優しさの痛み:S』
- 24 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:40
-
「柴田くんに触れたいな。柴田くんと、したい。」
ぽつりとつぶやいた残響が皮膚に吸収され、消えた。
村っちゃんちに遊びに行って、ご飯食べて、テレビを見てる時だった。
紅茶の入ったカップを、口元に運んでる村っちゃんがやけに色っぽくて
ぼんやり見ていたら、突然そう言われた。
驚いて言葉が出てこなかった。
やたらストレートで直球な言葉にもそうだけど、それだけじゃない。
ついさっき考えてたことを読まれたと思ったから。
首の下がぐっと熱をもっていくのが分かった。
自分が口に出して言ったみたいに、恥ずかしくてしょうがない。
- 25 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:42
- 横を見る。村っちゃんが息のかかりそうな至近距離にいた。
見上げると目が合う。村っちゃんは微笑んで軽く頭をなでてくれた。
体温が音のように波となって伝わってくる。
あたしはまるで体を動かすことができなくて、じっと座っているしかなかった。
レンズの向こう側の瞳から、視線で何かが流れてくる。
何か言おうとするのだけど、言葉が出てこない。
いや、言えたのかもしれないけど、その前に唇を唇でふさがれていた。
空気が笑った。
村っちゃんはいつもあたしの言葉を奪う。
心にもない言葉も、口に出して伝えなきゃいけないと思っている言葉も。
いつも無理しなくていいよって顔してうやむやにしてしまう。
不安定な体勢なんだけど心配はない。
村っちゃんは絶対無理なことはしない。そのことをあたしは知ってるから。
知っているから、少し悔しくなった。
- 26 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:42
-
村っちゃんの腕はとても細くて、あたしの首や脇の下にするっと入ってきてしまう。
そんな行動を前に、どうしてあたしは何もできなくなるのかと思ってしまう。
村っちゃんの首に手を回すなり、手を握ったりすればいいのに。
一つひとつを眺めているしかできない。
村っちゃんの指や鎖骨なんかを見ていると、普段の変で頼りないお姉さんのイメージ
が消えて、知らない大人に感じた。
そんな大人の部分部分が、あたしを女性でなく無力な子供に感じさせて
なんとも言えない気持ちにさせる。
その目が、唇が。
「…きれいだね…。」
小さな空間にあたしはピン止めされたまま動けない。
「こうしたかった。」
声が首の辺りを撫でていく。
村っちゃんの指先で、自分の体の線を感じる。
- 27 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:43
-
「あのさ」
やっと声が出た。
必ずくだらないことを言うと自分で分かる。
「いいよ、大丈夫。私も…緊張してる。」
あたしが話し出す前にそう言って、村っちゃんは額をくっつけてきた。
お互いの唇でお互いの息を感じて。
まぶたを開くと目の前にうすく微笑んでいる彼女がいた。
「村っちゃん。」
「んー?」
「何で、村っちゃんはそんなにあたしの…」
「あたしの?」
「……なんでもない。」
―――言葉を奪うのが上手いの?
- 28 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:44
-
そう言う代わりに、首を捕まえて引き寄せた。
「柴田くん?」
「たまに…つらいよ。」
急に引っ張られて体勢を崩した村っちゃんの髪がばっさりかかってきたけど
どうでも良かった。
驚いた表情の顔から眼鏡を外させる。
眼鏡の行方を追って視線がずれた瞬間、口付けていた。
「んっ…」
「っ…誰もいないから平気だよ。」
「…?」
「今あたしの言葉を聞いてるのは村っちゃんだけ。」
- 29 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:44
-
村っちゃんはあたしの気持ちを先取りする。
それは凄く心地よくて、楽で、アタシを怠けさせる。
あたしはもともと気持ちを素直に口にするタイプじゃないから、恥ずかしくて
言わなくていいんならそれに越したことはない。
幸か不幸か、村っちゃんはそんな考えまで察してくれてたみたいだ。
だけど
「言わなきゃいけない言葉って、あるんだよね。」
両腕を首に回して。
言うのが恥ずかしくて、でもどっかで言いたいと思ってて、
それでも優しさに甘えて言わなかった言葉を。
- 30 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:45
- ―――――――――
――――――
―――
―
見えないし、どこにも聞こえない。
目の前には、やっぱり微笑んでる村っちゃん。
でも気のせいかちょっとだけつらそうな顔。
あたしが吹き込んだ熱い空気は、村っちゃんのどこかに伝わるんだろうか。
ううん。
その熱はきっとあたしの中に貯まっていくんだ。
そしてその熱が貯まるたびに、きっと。
「村っちゃんをもう離せない。」
- 31 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:45
- E
- 32 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:45
- N
- 33 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/11(木) 23:46
- D
- 34 名前:失恋 投稿日:2004/03/13(土) 18:59
- その唇に願いを込めたら、私の曇り空も光が差しこむよ。
あの子の虜になりましょう。
過ぎて終わりがくるこの時間のなかで。
さぁあの子の唇に口付けをひとつ。
幸せを、私ともう一度幸せを。
世の中の人は、毎日歩いているんだよね。
世の中の人は、時に恋愛してるんだよね。
あたし達は、今恋愛してるんだよね。
毎日言葉に出さないと、罪になるの、恋愛って大変ね。
少し切ない。
- 35 名前:失恋 投稿日:2004/03/13(土) 19:00
-
結構無理して買った洋服に、体を通して一人で歩く。
私の心に雨が降る。
平気だよ。全然なんともない。
こんな人間だって恋はする。
あの子の心に雨が降る。
平気だよ。全然…なんともない。
恋の痛みに気づいたのなら。
愛の孤独が癒えないのなら。
おでかけしよう、買い物に行こう。
これはデートなんだよ。あたしからの自己主張。
世界はもの凄い速さで広くなるって、きっとそう思ってた。
- 36 名前:失恋 投稿日:2004/03/13(土) 19:01
-
昨日から目が冴えた。星に見えたスタンドライト。
今日からあの子はどこかへ。今日からあの子はどこかへ。
ぐるぐる回る大人な笑顔。
すぐ出かけましょう。
何もなく流れていく、ほんのり浮かぶのか、最後の言葉が。
思い出そう。
心に描く残像、まだまだ、全てある気がして。
恥ずかしそうに照れながら、神妙で奇怪なセリフ。
赤い顔してたあの人は、見たことのない顔をして。
あたしは、おめかししたあの人連れて。
今ごろ泣いているのかな。
- 37 名前:失恋 投稿日:2004/03/13(土) 19:01
-
今でも甘い、あの子のキーワード。
私が凍る前に見つけ出さないと。
心の中、いつかあの子のこと忘れるんだろう。
染めて染められて、泣いて泣かされて。
心の中、いつかあの子のこと忘れるんだろう。
こんなに無口な夜。
のんびり一人、部屋でひとり。
呼吸忘れる。幸せなのに。
外側からなぞられる、甘い香りに忘れはしない。
素敵な夜と、素敵な夢と、素敵なあの人のこと。
- 38 名前:失恋 投稿日:2004/03/13(土) 19:03
-
+++
可愛くて美人な女の子と
視線が集まるおしゃれな女の子。
時計はもう廻り疲れた。
もしかしたら、今日が忘れていただけで。
なにもないのかもね。
そんなことを考える夢を見ていた。
- 39 名前:失恋 投稿日:2004/03/13(土) 19:03
- E
- 40 名前:失恋 投稿日:2004/03/13(土) 19:03
- N
- 41 名前:失恋 投稿日:2004/03/13(土) 19:03
- D
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/16(火) 15:20
- BANG! BANG! 狙い撃ちされたのをいいことに読んでいると
ふんわりと過ぎて終わりがきました。
このスレの中毒性に注意し、決められた用法用量をまもりつつ
読み返して甘い時をリプレイしようと思います。
更新頑張ってください。
- 43 名前:IMY 投稿日:2004/03/17(水) 02:47
- >>42 名無飼育さん
某グループのイメージこれで崩してたらごめんなさい。
なんかパクリに近くてごめんなさい。
でも誰か気づいてくれたら嬉しいなって思って、付けたし書かなくて
ごめんなさい。
自分から狙ったくせに、本当に気づかれてビビってごめんなさい。
こんなナイスなレス貰っちゃってごめんなさい。
ありがとうございます。ほんと。
- 44 名前:付けたし 投稿日:2004/03/17(水) 02:51
- ↑「失恋」は
某アーティストの1、2アルバムの歌詞を引用しています。
ていうか引用しすぎの超お得パックです。
不快に思われた方はごめんなさい。
- 45 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 02:59
- +++
どうして仲良くなったかは知らないけど、好きな人がいる。
その人はクールで守りが堅いくせに親切、という困った人物で
捕まえたと思っても、すぐいなくなってしまう。
その人のそんなところが中々どうして好きだった。
だから、捕まえていられるよう頑張っていたんだ。
- 46 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:00
-
『優しさの痛み:M』
- 47 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:06
-
「ねえ、村っちゃん。」
「なあにー?」
「好き。」
ああ、まただ。
目を見ることができなくて、思わず無視するような形になってしまった。
照れ隠しに見えていればいいなぁと思う。
嬉しい、どうしようもなく嬉しい。だけど困る。
二人で歩く帰り道は夕焼けで、全部がオレンジ色で、とてもいいムード。
どうして上手く反応できないんだろう?
少し前までなら、立場はきっと逆だったはず。
私から柴田くんの腕をとって、嫌がられてもお願いするといつだって折れてくれる。
何だかんだで最後は嬉しそうな顔をしてくれるから、私は自分のしたことが良かった
と思える。
- 48 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:12
-
一応年上だし、照れくさい気持ちも私のほうがないと思うから。
役割とかそういう訳じゃないけど、そうするのが一番自然で、柴田くんも
きっと楽だと思うから。これは長い付き合いの経験。
いや、本当は柴田くんの様子を見て、言葉にしなくてもお互い分かり合える
っていうのを、自分が確認したかった。のかもしれない。
あの日から、柴田くんは変わった。
以前より向こうから手を繋いだり、腕を組んだりしてきてくれる。
それに、私が柴田くんの様子をうかがうより先に、言葉に出して気持ちを言ってくれる。
それだけといえばそれだけのこと、なんだけれど。
- 49 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:19
- 二人の生活習慣が変わったわけでも、仲が悪くなったわけでもない。
むしろ柴田くんが積極的になったのだから、傍目に見たって良くなったと思う。
これは喜ぶべきことであるはずだ。それ以上はない。
なのに、それを自分に言い聞かせている私もどこかにいる。
これは何なのだろう?
ふと、どこかで聞いたことのある言葉を思い出した。
追いかけられる位なら、追いかけたほうがマシ。
そう、いつだって仕掛けるのは私。仕掛けられるのは彼女だった。
恋愛において、告白する方とされる方。
例えばそれが不成立だった場合、後味の悪い気持ちになるのはどちらか。
- 50 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:24
-
「村っちゃん、ちょっとこっち来て。」
「あ、はいはい。」
少し離れていた柴田くんにテクテク追いついて、横に並ぶ。
一緒にいる私がこんなことを考えてるって知ったら、この子はどんな顔をするかな。
気づかれたくなくて、口もとを無駄に引き締めた。
「お願いがあるんだけど…そのメガネかけてみてもいい?」
「えぇ?あ、いいけど。また急だねぇこれ。」
「んーなんだろ、たまにかけてみたくなるんだよね。ほら、学校とかでもなかった?
メガネかけてる人が頭良く見えたり、おしゃれなのだと可愛く見えたりしてさー。
村っちゃんのも可愛いから一回かけてみたいなって。」
「あぁ、なるほど…ハイどーぞぉ。」
「ハイどーもぉ。」
- 51 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:31
-
語尾上がりで渡っていった眼鏡は、憎らしいくらい柴田くんに似合った。たぶん。
ぼやけた輪郭を見ながら、きっと可愛い子には何でも似合うんだろうなぁと。
どう?頭良く見える?という柴田くんの問いに、ぐっと目を細めるけれど
「うぅーん…ぼやけててあんまり分からないねぇ。」
「え?あ、そっか。そうだよね。メガネなしじゃ見えないに決まってるか。」
柴田くんの笑い声が聞こえて、次の瞬間首から引き寄せられる。
この感覚は二回目だ。と思った直後にキスされていた。
視界がランダムに変わる。
- 52 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:36
- フレンチなんて親切なもんじゃない。
胸が詰まった。よく分からないけれど苦しい。
裸眼だと柴田くんの笑顔が見れなくて残念だなぁ。程度の私の思考をあっさり
打ち砕く、強くて深くて熱い感触を、唇に感じて。
それにしても突然すぎた。予想の範囲を超えていた。
反射的に引いてしまった体もすぐ引き寄せられて、さらにさらに。もっともっと。
求められていた。体も。そして心も。
短くて長い時間。
たぶん、下がったままの私の拳は、痛いほど握られてたんじゃないだろうか。
- 53 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:43
-
当然、体が離れたときも視界はぼやけたままだった。
「はい、ありがとう。」
「…どういたしまして。」
受け取った眼鏡の良好な視線の先には、夕焼け色に染まった柴田くんが。
「…ははっ、やっぱ照れるね。でもさ、あたし決めたんだ。正直が一番だよね。
さっきのも急にしたいなって思ったから……だってしたいって思ってるのに、
好きだって思ってるのに言わないのは、ふつう変だし村っちゃんに失礼だもん。」
「そんなことは…。」
「いいの、いいの。さぁ帰ろう。」
違うんだよ、別にそんなの望んでたつもりじゃないんだよ。
私はただ追いかける側でいたかっただけ。
きっと自分が傷つかないように、保険をかけてるだけだったんだよ。
- 54 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:48
-
柴田くんにそう伝えたかったけれど、声に出すことはできなかった。
言ったところで、それは彼女にとって些細なことでしかないと知っているから。
そう分かっているのに言わないのは、私が私を許せないからかもしれない。
優しさにもなってない中途半端な気持ちは、人を傷つけるどころか自分に返ってきた。
繋いだ手から柴田くんの温度が伝わってきて、暖かくなる。
あの時の言葉。ずっと分からなかったけど、今なら分かるよ。
「…たしかに。たまに、つらいね。」
今日も甘さと切なさで胸を痛ませながら、私は彼女の隣を歩いている。
- 55 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:48
- E
- 56 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:48
- N
- 57 名前:優しさの痛み 投稿日:2004/03/17(水) 03:48
- D
- 58 名前:プロローグ 投稿日:2004/03/18(木) 11:15
-
人と人との間には、越えちゃいけない壁があるってのを知ってるかい?
それを越そうとするには、それなりの苦労と労力が必要になってくる。
越えた壁の向こうには何があるのか。気にならないこともない。
でも実際越えようとする人、どのくらいいるのでしょうか?
きっとなかなかいないだろうね。
そこの君、あなたには何人友達がいる?その中で本当に親友と呼べる人は?
そこの君、あなたには恋人がいる?その人のことどれだけ理解してる?
そこの君、あなたには家族がいる?知らない事があって驚いたことは?
- 59 名前:プロローグ 投稿日:2004/03/18(木) 11:19
-
越えちゃいけない壁を越そうとするには、結構な苦労と労力が必要になってくる。
でもそこまでしようとする人なかなかいない。
これには簡単な理由があるよね。
だって、そんな事しなくても生きていける。
ていうか、ある程度で済ませといた方が楽しく暮らしていける。
だから、皆どこか一人で生きてきた。
そしてこれからもきっと、そうやって生きていく。
- 60 名前:プロローグ 投稿日:2004/03/18(木) 11:25
-
何かあった時、寂しいと感じるけれど誰かにぶつけられるほど強くはない。
誰かに助けて欲しいと思っても、一人で解決できないほど弱くはない。
頼るものはすぐそこにあって、手が届きそうなのはいつものこと。
でも透明な薄い壁が目の前ではばんで手が出せない。
だから、皆どこか一人で生きてきた。
そしてこれからもきっと、そうやって生きていく。
- 61 名前:プロローグ 投稿日:2004/03/18(木) 11:25
-
『セロハングループ』
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/18(木) 11:27
- _
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/18(木) 11:27
- _
- 64 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/03/20(土) 23:29
-
彼女にとってその日は最悪としか言いようがなかった。
- 65 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/03/20(土) 23:30
- 「そういう訳だからさ、別れてくれない?」
付き合って半年になる彼氏に突然呼び出されて、その声がいつもと違ったので
どうしたんだろうと心配しながらやってきた公園。
彼氏の姿は見えず、知らない女しかいなかった。
ベンチに座って彼氏を待っていたら、その女がつかつかとハイヒールを響かせて
やってきて、開口一番がこれ。
「あなた柴田さんだよね。悪いけどあいつあなたと付き合っていくのが
疲れたんだってさ。」
「は、……えぇ?」
- 66 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/03/20(土) 23:30
- 知らない人に突然そんなこと言われて、しかもその女は彼氏のことをよく知って
いるみたいで、そして柴田を呼び出した張本人はここにいない。
この状況からして、出てくる答えは大抵ひとつではないだろうか。
「あ、それってつまり、その…。」
「別れたいって。」
派手なスーツを着た女はさらっと言って、その言い方が、柴田さんさっき呼ばれてたよと
教えるような感じだったから、理解するのが遅くなった。
その代わり彼氏の、ちょっと軽いけど親切な人のいい顔を思い出して
視界がゆがんできた。
あたしなんかしたっけ?
何か悪いことをしたかと考えたけど、それは彼氏にしか分からないだろう。
- 67 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/03/20(土) 23:30
- 「っていうか、あいつ他に好きな人ができたんだって。」
泣きそうな表情になった柴田に困ったのか、女は早口で言って気まずそうに
ちらりと腕時計に目をやった。
「悪いけどアタシ急いでるんだよね。」
組んでいた腕を解いて、ポケットからハンカチを取り出して柴田に押し付ける。
言い方は乱暴だが、もしかしたら意外と人の良い性格なのかもしれない。
「とりあえずあなたも早く忘れることだね。
アタシが言うのも変だけど、下手な別れ方するよりこっちの方が良かったんじゃない?」
慰められても、こんな別れ方が良いとは柴田は全く思えなかったが。
- 68 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/03/20(土) 23:31
- あの、好きな人ってどんな人なんですか?」
「そんなこと知ってどうするの?」
「知りたいんです。あたし、何で嫌われたのか分からないから。」
「………。」
女はため息をつくと、うざったそうに髪をかきあげた。
お水関係の仕事でもしているのか、と思うような金髪がさらさらと波打った。
「アタシに聞かれても…あんたの彼氏と仲いい訳じゃないから詳しく分からないけど、
でも、知らない方が身のためだと思うよ。」
「それって、どういう…」
「あ、ちょっと待った。」
思わず立ち上がった柴田だったが、大きな手のひらに遮られた。
女は左手をがっと開いて柴田を制したまま、右手でかばんをあさっている。
こんな時だけれど、逆らえる空気ではなかった。
- 69 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/03/20(土) 23:32
- 何も言わないで待ってるなんて友達の性格が移ったかな、と思う柴田をよそに、
あったあったといいながら女は携帯を取り出す。
「はい、もしもし?何。今からですか?あぁ、はい分かりました。」
「……?」
「ごめん、アタシこれから仕事なんだわ。そういうことだから。
あいつとは別れなさいよ。別れなさいね?分かった?じゃ。」
「あ、ちょっと!」
とんでもない念押しをしながら走っていく女を、唖然として見つめながら、
柴田は片手を突き出したままぼーっと突っ立っているより他はなく、
愉快な話し合いは、約五分という長短時間決戦で終了と相成った。
- 70 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/03/20(土) 23:32
- 「え…今…あたし…失恋し…たんだよね?」
しかも彼氏本人に呼び出されたにもかかわらず、行ったら知らない女がいて
別れろって言われて、さらにその女はやけに高圧的な態度で断定口調だし、
彼氏に好きな人がいるという衝撃告白をされた挙句、走って行かれてしまった。
言い逃げに近い行動だ。
聞きたいこともあったのに、何も聞けなかった。
言われたことが信じられなくて、携帯を出して彼氏に電話する。
『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか…』
無性に腹が立って携帯を放り投げた。
「っばっかやろーーー!!急に言われたって訳分かんないよ!何なんだよ、一体!!」
そんな柴田を不思議そうに眺めながら、小学生の一団が通り過ぎていく。
今日も公園は平和に時間を消費していった。一部を除いては。
「お姉ちゃん、はい電話。投げちゃダメでしょ。」
「………ありがとう。」
親切な子供が持ってきた携帯を受け取って、柴田の情けなさは本日最高を記録した。
- 71 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/03/20(土) 23:34
-
彼女にとって、その日は最悪としか言いようがなかった。
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 23:34
- to
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 23:35
- the
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 23:35
- next
- 75 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/03/22(月) 12:23
- ジーっというフィルムの回る音が耳に入ってくるのを確認する。
村田は目を細めて相手役の首に腕を回した。
相手役の肩ごしから、彼女に向けて分からないよう片目を瞑って見せる。
そして相手役の顎をつかむと、そのまま口付けた。
「はい、OKでーす。お疲れ様でしたー。」
現場監督の声がかかって、村田はゆっくりと体を起こした。
ふーっと息を吐いてううんと伸びをする。体の節々がぱきっと鳴るのを心地よく感じる。
今日も自分を削って働いた。疲れた疲れた。
自分にお疲れ様を言うのは、村田の恒例行事になっている。
- 76 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/03/22(月) 12:23
-
この世界は大変だ。競争率が激しいし、不規則なスケジュールも我慢しなくてはいけない。
売れたら売れたで、人の目を気にしなくてはいけない。
まぁ、どうでもいいか。
だけど、村田は結局それで納得してしまう。楽天的な性格と言われるかもしれない。
非現実的でリアルな世界を、適当な感じで村田は生きている。
「お疲れ。今日もいい仕事だったよ。」
「んー。」
現場監督の斉藤がそう言って、右手をあげた。
その手に自身の手を重ねて軽く握り合って離す。これは二人が一緒に仕事したとき
の恒例行事。最近はやっとお互い忙しくなって、回数が減ってきたように思う。
「あ、そういえば斉藤くん。」
- 77 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/03/22(月) 12:24
- 「その呼び方やめてよ。なんか恥ずかしい。」
「えー?そうかねぇ。んじゃ、ひとみん。」
どっちかと言えばひとみんの方が恥ずかしいと思うが、何も言わない。
言い慣れたあだ名を呼びかける。
「さっきのシーンだけど、聞こえた?」
「何が?」
「……あぁ、聞こえてないなら、いいんでございます。」
「なにそれ。気になるじゃん。教えてよ。」
「いやー、村田の思い違いでした。ごめんごめん。ではお疲れっす。」
釈然としない斉藤からふいっと離れて手をひらひらさせると、村田は
すたすたと更衣室に向かって歩いていった。
「またそれか…。」
後ろからのつぶやきは聞こえないふりをしておく。
- 78 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/03/22(月) 12:25
-
「はぁー、参ったねぇ。こりゃ。」
斉藤には思い違いと言っていたが、少々困ったことになった。
更衣室に置いてあったイスによいしょと腰掛けて、ぼんやり天井を眺める。
『愛してる。』
カットの声が掛かる直前、相手役の男優に言われた言葉。
仕事柄アドリブが入ることも多々あるので、気にしていなかったが
どうにも変な感じがして斉藤に聞いてみたらこの有様。
やはりあれは村田だけに言われたものらしい。
口元をへなっと曲げて、彼女独特の苦笑い顔を作る。
- 79 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/03/22(月) 12:25
-
村田は自分が同業者にモテる理由が分からない。
これで今年に入って三人目だ。
しかも全員が全員それから何も言ってこないからタチが悪い。
おそらく、これからの仕事を考えてなのだろうと予測はつくけど。
しかし、何度も同じ人と共演することが多いこの世界だ。
一方的に愛されても村田としては仕事がやりにくい。
「なんでだろぉ…」
一体どうしてこうなるのか。
確かにスタイルだけいえば、維持する努力をしているので自信はあるが、
それ以外は何なのか。
しばし、人によっては喜ばしい限りの悩みに思いをはせる。
- 80 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/03/22(月) 12:26
- 「眠い、それにお腹すいたな…。帰ろ。」
しかし、考えたところで分かるはずもなく
結局三大欲求の内の二つに負けて、帰ることにした。
「あ、村。帰り?」
「うん、お先に失礼します。」
「さっきピザ頼んだんだけど、もうすぐ来るから食べてったら?」
その言葉を聞いてひとみんは気遣いの人だなぁと村田は思う。
普通の監督さんだったら、そんなことはしない。
暇なし、金なし、仕事なしは皆一緒だからだ。
だが、村田は斉藤のそういったところが嫌いではない。
なので、ご相伴にあずかろうかと村田は歩いて行って、しかし足を止めた。
「どうした?」
「あー、用事思い出した。今日はいいや。また今度ねぇ。」
「そうなの?じゃまた今度。」
今度とはいつなのか。不確かな約束をして二人は別れる。
- 81 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/03/22(月) 12:27
-
腕を大きく振りながら村田は歩道を歩いていた。
外に出るまで分からなかったが、真っ青な空が広がっている。
ピザを食べたいのは山々なんだけども。
斉藤の後ろに立っていた男優と目が合って、そういう気分もなくなった。
今日は長居せずに、早めに帰るのが利口な判断といったところでしょうか。
それに、今日は他にしたいことがあった。
用事を思い出したことは嘘ではない。
快晴の天気の下、鼻歌を歌いながら歩く村田の横を
ピザ屋のバイク便が軽快に走り抜けていった。
- 82 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/22(月) 12:27
- to
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/22(月) 12:27
- the
- 84 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/22(月) 12:28
- next
- 85 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/03/23(火) 14:02
- 階段をカンカンと小気味よいリズムで上る。
左手には、近くのコンビニで買ってきたウーロン茶と単三電池。
右手にはピザ。一人で食べるには少々大きいサイズ。けれど今はそれ位がちょうどいい。
ちなみに現在の時刻は午後六時ちょっと過ぎ。
にもかかわらず、大谷は今日まだ何も口にしていなかった。
「お腹がすいて、力がでない〜ってね。」
なんとなく聞いたことのある言い回しをつぶやきながら、自分の住んでいる階の
狭い廊下をてくてく歩く。
- 86 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/03/23(火) 14:02
-
「しっかし、まぁ今日はビビッたビビッた。」
三本指でギャルソンよろしく持っていたピザの箱を、右脇で抱えなおして鍵をさす。
可愛らしいクマのキーホルダーが揺れた。
「朝気づいたら時計止まってるんだもんな。買ったばかりって甘くみてた。
やっぱ電池の買い置きは必要だな。うん。」
玄関でブーツを脱ぎながら、今日の反省点をぶつくさつぶやく。
「はっさく、ただいまー。」
「おかえり。」
- 87 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/03/23(火) 14:03
-
返ってくるはずのない返事に驚いて振り返ると、ぐったりした物体が床に倒れていた。
「…?…うぁっ!?あゆみん!何してるの?怖っ!」
「うーん…さっきまで寝てたみたい。」
「…やめてよ。心臓止まるかと思ったじゃん。あーびっくりした!」
そんな大谷をスルーして柴田はむっくりと体を起こすと、蛍光灯の紐を引っ張る。
何回か点滅した後、ぼんやりした光が大谷の1DKの部屋を照らし出した。
- 88 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/03/23(火) 14:04
- 「お母さんの実家からリンゴ送られてきて、持ってってあげなさいって。
一人暮らしは大変だからって。その他にもいろいろ。ハイ。」
「おぉー、ありがとう。おばさんにもよろしく言っといてよ。」
「うん。伝えとく。」
大きめの紙袋を受け取って、台所に持っていく。
柴田が死体みたいに転がっていたせいで、心臓はドキドキしたままだったが
差し入れのおかげで気分は大分に良くなった。
今日は今朝からついてなかったけど、これでプラスマイナスゼロかなと思う。
貴重なタンパク源とビタミンを冷蔵庫に入れていく。
貧乏人にとって、こういう物はとてもありがたい。
- 89 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/03/23(火) 14:04
- 「またピザ食べてるの?体悪くなるよー。」
後ろから柴田の声が聞こえてくる。いつもより少し元気がない。
「タダ同然なら食べなきゃ損でしょ。ていうか今日はどうしたの?
いつもは連絡入れてから来るのにさ。何かあった?」
考えもせずに何気なくかけた言葉は、地雷に上手にヒットしたらしい。
気のせいか部屋の空気が重くなり、大谷の飼っているハムスターが車輪を
カラカラ回す音がクリーンに耳に入ってきた。
「うー…。」
「何々、どうしたよ。」
机の上に両肘をついて、手のひらで顔を覆ったままうめいている柴田の前に
ウーロン茶の入ったコップをポンと置く。
大谷自身は残り半分を、ペットボトルのままがぶ飲みした。
からっぽの胃に気持ちよく水分が吸収されていくのを感じる。
はーっと息を吐いてから、大谷は顎に手を当てて名探偵ポーズに収まった。
- 90 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/03/23(火) 14:05
-
大谷が記憶する限りで言えば、こんな柴田を見るのは今回が二回目だ。
これは意外と少ない回数じゃないかと思う。
昔から自己責任欲旺盛で、甘え下手なしっかり者の従姉妹は、普段から
なかなかどうして大谷のお姉ちゃんに弱味をみせたくないらしい。
その証拠に柴田の表情は、両手に覆われてうかがい知ることができなかった。
「あー、泣いてるの?」
カマをかけてみる。
「それはない。」
あっさり答えが返ってきた。少し拍子抜けする。
- 91 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/03/23(火) 14:05
- 「で?」
「…失恋した。」
短い質問に短い応答があった後、長い沈黙が部屋を支配した。
遊び疲れたのか、大谷の丸いペットのゲージからは物音さえしない。
「えーと、それって前見せてくれたプリの彼?」
「そう。」
「…そっか。」
大谷はしばらく考えていたが、空中に視線を泳がせた後
お互い黙ったままでも仕方ないよねと言って立ち上がった。
どうにもこういう空気は苦手である。
「とりあえずお腹すいてない?せっかくあるんだからピザ食べようよ。
わたしもう限界。」
とりあえず空気を変えるために大げさにリアクションして、そうしてから、
乱暴に柴田の頭をぐいぐい撫でた。
慰めるのは、空腹を癒してからで間に合うだろう。たぶん。
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 14:06
- to
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 14:06
- the
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 14:06
- next
- 95 名前:斎藤瞳 投稿日:2004/03/25(木) 13:25
- 「っつ……かれたぁー!ヤバいよ!超ヤバい!!」
大きめの声でそう言うと、斎藤は目の前の電柱に思いきり抱きついた。
そこが大通りから離れた路地であったのは、斎藤にとって幸運以外の何者でもない。
座りこむのを防ぐため電柱に寄りかかりながら、熱を持ったままの右手を
額にべったりと押し付ける。
なにがどうヤバいのか自分自身でも分からなかったが、とりあえず
言葉でない言葉を口に出すことで、感情の高ぶりを抑えたかった。
会う約束をして、話しておきたいことも結構あった。なのに。
「話がちがうじゃん。」
待ち合わせの時間に少し遅れて行ってみれば、あの男は知らない女を
ナンパしていやがった。
呆れてものが言えなかった。遅刻した言い訳をどうしようかと
考えてたこと事態がムダに思えてくる。
- 96 名前:斎藤瞳 投稿日:2004/03/25(木) 13:25
-
関係ないけれど、斎藤はムダが大嫌いだ。礼儀にも、見た目とは裏腹に
小さいころから躾けられていて厳しい。
そんな道徳的で倫理的な心は、あいにく男の裏切り行為を見逃すほど
優しくできてはいなかった。
「ほんとドラマみたいなことしちゃったよ。」
ずるずるとその場にしゃがみこむと、テンションもゆっくり下りていく。
頭が冷静になってくると、右手の痛みがぶり返してきた。
アルコール臭い息を吐き出して、手のひらを握ったり開いたり。
後悔先に立たずとはよく言ったものだが、今自分が感じているのは
罪悪感と、人の頼みごとを二つ返事で聞いてはいけないということだけだ。
- 97 名前:斎藤瞳 投稿日:2004/03/25(木) 13:26
-
そういえば、初めて人を殴った。
「柴…田さん、だっけ?あの時泣いてたな。」
口を真一文字に結んで、こっちをまっすぐ睨んでいた子は、斎藤の見る限り
男にさんざん貢がせて弄ぶ性悪女とは思えなかった。
カールした茶髪がさりげなく似合ってる可愛い子だった。
ナチュラルボーンの美人っていうのはああいうのを言うんだろう。
それにしても
「…最悪。」
涙はなかったものの、あれは確実に泣いていた。
泣かしたのは、こうやって今更後悔してる自分だ。
早急の仕事があったから、用件だけ済ませて愛想悪く立ち去ったが、
あの時に関しては逆に助かったと思う。
さらに傷つける言葉を言っていたかもしれないからだ。
- 98 名前:斎藤瞳 投稿日:2004/03/25(木) 13:26
-
斉藤が悪いわけではない。
だが、そんなドライに割り切れる人間とそうじゃない人間がいる。
斎藤の場合、それは後者だった。
腹が立って仕方がない、柴田を振った男にも自分にも。
まぁ、どちらかといえばあの男に対してがほとんどなのだけれど。
しばらく電柱に寄りかかったまま、斎藤は空を見上げていた。
昼間晴れていたにもかかわらず、星ひとつ見えない。
時折、飛行機のライトが点滅しているのを目で追っていた。
- 99 名前:斎藤瞳 投稿日:2004/03/25(木) 13:27
-
「アタシが何でここまで考えてんのかなぁー。」
訳もわからず悔しい気持ちだった。
損な役割を全て押し付けられたような気がする。
本当にバカバカしい。
何のために実家から出てきたのか。何のための一人暮らしなのか。
自分のために決まってる。
- 100 名前:斎藤瞳 投稿日:2004/03/25(木) 13:27
- 「あ、汚れちゃったよ。」
座りっぱなしのせいで、コンクリートの感触を存分に楽しんだ
お気に入りは、しばらく着れなさそうだ。
斎藤はよいしょと立ち上がると、申し訳程度に汚れをパンパンとはたいて
大きく伸びをした。
友達の言葉を思い出したから。
『あのねぇ、辛いことや嫌なことの後には体を伸ばすといいんだ。
楽になった気がして、気持ち切り替えられるから。』
楽にはなれなかった。
- 101 名前:斎藤瞳 投稿日:2004/03/25(木) 13:28
-
スーツを脱ぎながら留守録のボタンを押して、冷蔵庫から水を取り出す。
『件数 2件 です。』
『お母さんです。瞳、たまには新潟に帰ってきたらどうなの?…』
斎藤はため息をつくと、シャワーを浴びに浴室へと歩いて行った。
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 13:29
- to
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 13:29
- the
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 13:29
- next
- 105 名前:名無し飼育 投稿日:2004/03/26(金) 22:35
- 好きなメロンCPで嬉しいっすw
続き楽しみです。ワクワク
- 106 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/06(火) 18:08
- 同じくワクワクw
文章も綺麗で大好きです!更新頑張って下さい。
- 107 名前:IMY 投稿日:2004/04/18(日) 18:27
- >>105 名無し飼育さん
こちらもレスもらってドキがムネムネです。
>>106 名無し読者さん
大好きとか言われて緊張でムネが一杯です。
ありがとうございます。
- 108 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/04/18(日) 18:28
-
気持ちを切り替えるのは思ったより簡単だった。
女というのは結構そういった所があるかもしれない。
他の人の話を聞いていても、男の方が引きずること多いみたいだし。
だとしたら、あたしよりアイツの方が実は未練あったりするのかな。
そこまで考えてから、柴田は自分が振られていたことを思い出した。
それはもうあっさりと。
- 109 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/04/18(日) 18:29
-
「柴ちゃん?ぼーっとしてどうしたの?」
「え?あーええと、明日休みだから部屋の掃除しようか悩んでた…。」
「…ちょっと、明日いっしょに遊ぶ約束してなかったっけ?」
「あ。」
適当な返事に失敗した。
ていうか、約束本当に忘れていた。
目の前の友達は少々ご立腹のようで、少々マズい。
謝罪の意味を込めて、柴田は手に持っていたおかずパンを差し出すことにした。
- 110 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/04/18(日) 18:29
-
「突然なんだけどさ、振られたことある?」
「えー?ないなぁ。」
聞いた直後に後悔が襲ってくる。
そりゃそうでしょう、あなた可愛いもんね。
絶対口に出して言ってやらねぇと思いながら、目の前の友達にほめ言葉を送って
手にしていたパックのストローをがじがじ噛みしめる。
- 111 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/04/18(日) 18:29
-
「どうしたの?珍しいね。柴ちゃんがそんな話すんの。恋の悩みですかぁ?」
「違いますぅー。」
口元に手を当ててにんまりする友達の、芝居がかった顔をのけて
柴田は手をひらひらさせた。
変なプライドのせいか、どうにもコイツにだけは知られたくない。
「でもね、ちょっと不思議に思ったことがあって。」
「不思議に思ったこと?」
「うん。」
- 112 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/04/18(日) 18:30
-
これは友達の話なんだけどね。
理由はよく分からないけど、どうも別れてしまったらしい。
振られたその人はもう吹っ切ったみたいなんだけれど。
気持ち切り替えるのは簡単なんだけど、後遺症みたいなものはある。
誰かと付き合うと、どうしても相手が生活の中心みたいになって
環境も変わってきて、楽しかったり寂しかったり。
それが今ザックリなくなって、軽い喪失感みたいなものを感じている。
だからといって別に、もう一度付き合いたいと思っている訳でもない。
なんとも不思議な感じ。物足りない感じ。
- 113 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/04/18(日) 18:30
-
「って言っててさ。これってまだ未練があるってことかな?」
「うーん、聞いてる限りじゃ違う気がする。」
「じゃあ、この気持ちは何なんだろ?」
「思うんだけど、その子は本当に相手が好きだったのかなぁ。」
好きだったに決まってんじゃん。
そうじゃなかったら泣くわけがないし、こうして考えることもない。
心の中だけで反論する。
疑いもせず生真面目に答えてくれる友達に感謝しつつも、
「何でそう思うの?」
質問をせずにはいられない。
「だって、もう付き合いたいと思ってないんでしょ?
私だったら結構引きずっちゃうなー。自分のどこが悪かったんだろうとか、
せめてもう一回顔みたいとか。好きだったら諦め切れないじゃない?」
- 114 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/04/18(日) 18:31
-
もう一回顔みたいというのはなかったかもしれない。
自分は諦めがいいほうなんだろうかと柴田は思う。
「そういうものですか。」
「そういうものだと思うよ。」
「でも振られたことない人が言っても全然説得力ないよね。」
とりあえず痛いところをぐさっと突き刺して、残った牛乳を流し込む。
鈍感な友達でもこれ以上話しているとボロが出るかもしれない。
何よ聞いてきたのはそっちじゃん、とむくれる友達をはいはいと流して
柴田はさっさと世間話に逃げることにした。
- 115 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/04/18(日) 18:31
-
「ところで明日どうしよっか?」
「約束忘れてたくせに調子いいよね。別にいいけど。
前にビデオ見ようって話してたじゃん。明日借りてどっちかの家で見ない?
今なら私のお手製料理もつけちゃう!」
「料理は勘弁だけど、ビデオは賛成。」
「何それ!?ちょっとひどくない?」
お約束になりつつあるやり取りを交わしながら、柴田は先ほどの意見を
反すうしていた。
好きだったら諦め切れないものなんだろうか?
やっぱりそういうものなんですかねぇ。
むーっと唸った柴田が投げた紙パックは、本人の心情に反して
ものの見事にゴミ箱に収まった。
それで少しだけ気分が良くなった。
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/18(日) 18:33
- ???
- 117 名前:『世紀末2XXX年』 投稿日:2004/04/18(日) 18:34
-
私の名前は紺野あさ美。花も恥らうOLだ。
- 118 名前:『世紀末2XXX年』 投稿日:2004/04/18(日) 18:34
-
「すいません!来る途中で難破していた救急車をヒッチハイクしてたら
遅れました!」
「むーう、それでは仕方ないな。」
毎日こうやってデスクワークをするのも大変だ。
次から次へと仕事がやってきて忙しい。敏腕腰かけOLの名は伊達じゃない。
コピー機の修理三年、部長のお茶に茶柱が立てられる技術八年だ。
そういうわけで今日も、プッチンプリンをひっくり返さず食べながら、
私はひたすら電球の交換にいそしんでいた。
本当に海外事業部の仕事は、グローバルでインターナショナルだと思う。
- 119 名前:『世紀末2XXX年』 投稿日:2004/04/18(日) 18:35
-
「あっ、紺野さん。仕事ですか?大変ですね。」
受付の小川さんが、にこやかにやって来た。
今日も右手にはかぼちゃ、左手にはごま豆腐を持っている。
本当に仕事熱心な人だ。
「そうなんですよー、ワットの違いで商談にヒビでも入ったら困りますから…。
この前なんか白熱のを暖色に変えただけで、減俸反対のストライキがアイスランド
で起こったそうですよ。本当に気を使います。」
- 120 名前:『世紀末2XXX年』 投稿日:2004/04/18(日) 18:35
-
いけない。思わず日ごろのストレスを口にしてしまった。
こんなことでは小学生のとき、“縄跳び:こうさの部”で第十位だった
私のプライドが許さない。
「わぁ、エリートはやっぱり仕事が違いますねぇ。かっこいいなぁ。
あたしなんか受付ですから、毎日ヒマでヒマで仕方ないですねぇ。」
小川さんはそう言って笑った。その笑顔が素敵で、受付にはこういう人が
向いているんだろうなと思った。やはり『スマイリーガレージスクール』に
通わないとあんな笑顔にはなれないんだろう。
私に受付は向いていなさそうだ。
- 121 名前:『世紀末2XXX年』 投稿日:2004/04/18(日) 18:35
-
「何言ってるんですかー、聞きましたよ。しつこい宗教の勧誘にあえて
根負けした振りして、入会した後教祖になりかわったそうじゃないですか。」
「いえいえ、受付といえばそれ位しか能がないですから、当然ですよぉ。」
小川さんは手をひらひらさせて謙遜すると、じゃあ仕事の途中なんでと
歩いていってしまった。
「私も頑張らないと!」
とりあえずこの後は、女子トイレの電球を代えて、石油の価格を下げさせる予定だ。
やる気が出てきた。
- 122 名前:IMY 投稿日:2004/04/18(日) 18:36
- ↑という夢をみました。
- 123 名前:IMY 投稿日:2004/04/18(日) 18:37
- 意味不明です。自分が。メロンじゃないし。
嫌な人は飛ばして読んでください。
- 124 名前:IMY 投稿日:2004/04/18(日) 18:37
- 出来心です。二度としません。できません。ごめんなさい。
- 125 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/04/23(金) 23:57
-
いつものように買い物をして、いつものように家に帰る。
村田の一日は日々そうして締めくくられる。これは日課だ。
一人暮らしを始めてから朝帰りは仕事を除いて、ない。
規則正しい生活は、安心と安定をもたらすと村田は思う。
だから今日も、近くの激安スーパーへ足を動かす。
「今日はいい日だから、ちょっと贅沢しちゃおう。」
本日も仕事をさくさくこなして、気分はいいし天気もいい。
まだ昼時だけど、これ位のご褒美なら許していいだろう。
- 126 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/04/23(金) 23:58
- 両手に赤と白のワインを取って、見比べる。
「どっちがいいかなぁ。」
通を気取るならばやはり赤だろうか。いやいや白も捨てがたい。
酔っ払えるのならどちらでもいい気がするが、これも数少ない楽しみである
食事を、有意義に楽しむひとつのスパイスだ。
そういう訳で、迷いに迷う。
二本の瓶を持ったまま微動だにしない村田を、店員が怪訝に眺めても
迷いに迷う。
「むー…こっちかね。」
ひとしきり唸った後、白を残すことにした。
今日の夕飯――白身魚のフライと付け合せにサラダ――の軽めの夕食
にはこっちの方が合うだろう。
夕方に窓辺に座って、よく冷えた白にサラダをつまみながら
のんびり読書に洒落込むのは想像しただけで気分が良さそうだ。
「そうと決まれば早く帰らなくては。」
よいしょと瓶をカゴに入れて、村田はレジへと歩き出した。
- 127 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/04/23(金) 23:58
-
「あ、村田さんじゃないですか。」
「あら?あ、どうもですー。」
声をかけられたのは、あと少しの距離で家につく時のことだった。
モデル歩きで近づいて来た美人は柔和な笑みを浮かべて
「仕事帰りですか?」
と首をゆったりと傾けた後、口角をぐっと持ち上げた。
相変わらずの完璧なスマイルに、思わず村田の口からため息が漏れる。
彼女の顔を見るのは随分久しぶりの様な気がしていた。
- 128 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/04/23(金) 23:59
-
「はい、今日は早めに終わったので家でのんびりしようかと。」
片手に持ったビニール袋を持ち上げて、目の前の人に負けず劣らずの
柔らかさで、村田は答える。
「それは羨ましいですねー。ワタシも休みが欲しいです。」
オーバーリアクションぎみに両手を持ち上げる格好で、やれやれと
首を振る彼女に、村田はハハハと声を上げた。
彼女が言うと、そんな言葉もどことなくイヤミに聞こえない。
本当なら、言われて最も腹がたつだろう間柄なのに、これはひとえに
彼女の人柄が良いからに違いない。
- 129 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/04/24(土) 00:01
-
たしか以前、彼女にそう言って褒めたことがあったが、
それは相手が村田さんだからですよ。と返されたのを思い出す。
お得意の笑顔に隠された彼女の真意は実際わからない。
が、村田は一応褒め言葉として受け取っていた。
「今日は何か用事で?」
「ええ、近くに寄る所がありまして。でもまさか村田さんに会える
とは思ってませんでした。」
「私も。声かけられてビクっとしちゃいましたよ。」
「えぇー?それ何だかショックだなぁ。」
歓談する二人は、傍目からみれば仲のいい友人同士に見えたかもしれない。
- 130 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/04/24(土) 00:02
-
「そういえば、まだ仕事あるんじゃないですか?」
「ああ、実はもう一軒回らないといけないんです。」
腕時計にチラっと目を走らせた彼女の行動が合図になって、
二人はゆっくりと姿勢を戻した。
疲れた表情を作る彼女に、ねぎらいの笑みを送る。
短い時間でしたが、元気そうでこちらとしても何よりでした。
- 131 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/04/24(土) 00:03
- そう最後まできっちりと挨拶して、歩いていく仕事美人に村田は声をかける。
「あ、アヤカさん!」
背中がかっこよかったからと言う理由は内緒だ。
「はい、何ですか?」
「こんな所で言うのも変だけど…ありがとう。」
「仕事ですから。それに…。」
頑張ってるのはお互い様です。
そう言ったあと綺麗にお辞儀した彼女の笑顔は、やはり完璧だったと
しばし村田は思った。
そして、自宅に向けて歩き出した。
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/24(土) 00:03
- to
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/24(土) 00:03
- the
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/24(土) 00:04
- next
- 135 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/05/16(日) 14:03
-
「ふわぁあ〜……ねむぅ…。」
何とも盛大な大あくびは、暖かくなったとはいえまだまだ冷える早朝に
溶けて消えた。
あと数時間だ。がんばれ自分!がんばれわたし!
そんな励ましで意識を保ちながら、大谷は旗を持った手をぐるぐる回す。
家に帰ったら速攻寝ることにしよう。
さすがに深夜からのバイトは、体力の消耗が激しい。
けれど働いていると言う実感が沸いているのもまた事実で、その達成感と
割高な収入に文句はあまりない。
とにかく何もしないでごろごろしているよりは、よっぽどマシだ。
- 136 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/05/16(日) 14:04
- 「よしっ!頑張るぞ!」
一人で頷いて、大谷は固まった肩をぐいっと回す。
だがその瞬間、大谷の声は結構なスピードで走って来たタクシーによって、
豪快にもかき消された。
水溜りをかぶるおまけ付きで。
「なっ…んだ!?今のは…。全く。」
文句を言いたくても相手は車。とっくのとうに見えなくなっている。
弱気な悪態をつきながら腕を払うと、もともと小雨で湿っていた合羽は
完全なびちょ濡れになって、不快感を大谷に伝えてきた。
はいはい、しょうがないですよね。こういう事もありますって。
小声でそうつぶやく姿は何ともせせこましい。
- 137 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/05/16(日) 14:04
-
「大谷ちゃんお疲れ!眠くないのかい?」
「あー、ははっ大丈夫です。こういうの慣れてますから。」
「でも夜通しやってりゃきついだろう。やっぱり女の子なんだから
体には気をつけろよ。」
「いやーどうもです。」
時間帯が一緒で仲良くなった、同僚のおじちゃんに苦笑いをする。
言葉と一緒に渡された缶を受け取って、返事代わりに頭を下げた。
大谷が女というのが珍しいのか、何かと親切にしてくれるいい人である。
だが、ここのバイトは今日でおしまいだ。
- 138 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/05/16(日) 14:04
-
「短い間でしたけど、何かとお世話になってありがとうございました。」
「今日で会えなくなるのは寂しいが、まぁ若いのにえらいなぁ。よくやるよ。
またどっかで会うかもしれないが、頑張れよ!」
「はい。」
自分の持ち場に重そうな体を揺すって歩いていく、年の離れた同僚に
大谷は爽やかな笑みを浮かべた。
笑顔でサヨナラばいばい。
バイト三昧の大谷は、幾度とこれを繰り返してきた。
- 139 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/05/16(日) 14:05
-
そういえば、あのおじちゃんはリストラされたと言ってたな。
休憩時間に家族の写真を見せてもらいながら、よくたわいもない
世間話をしたものだ。
会社勤めゆえの夢や、憧れの話もよく聞いていたな。
自宅への帰り道を急ぎながら、大谷はぼんやりと思い出していた。
「若いのにえらい…かぁ。」
先ほど言われた言葉を反芻して、無意識に唸る。
あのおじちゃんの目は確かに、生活に苦労している人独特の雰囲気が
あったような気がする。
確かに誰が好き好んで、大変な肉体労働をするというのだろうか。
もちろん中には大谷のような者もいるとは思うが。
がむしゃらに働くことはそれだけで凄いと言って貰えるらしい。
- 140 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/05/16(日) 14:05
-
大谷自身、裕福とは言いがたいが、かといって金銭的で特に困っているわけではない。
しかし、周りからはそういう風に見えてしまうのだろう。
そして生まれた奇妙な連帯感が大谷を包む。
それは雨に濡れて冷えた大谷の体を震えさせた。
――おじちゃんには悪いけど、ワタシはああはなりたくない。
「…うー、さぶさぶ。」
でもとりあえず今は何も考えないで、ゆっくり眠りたい。
何たって12時間後には次のバイトが入ってるのだから。
体の疲れを早く取らなくては。
大谷は今日も家路に急ぐ。
忙しい事のどことない幸福感と、物足りない充実感を抱えて。
- 141 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/05/16(日) 14:06
- to
- 142 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/05/16(日) 14:06
- the
- 143 名前:大谷雅恵 投稿日:2004/05/16(日) 14:06
- next
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/16(日) 16:32
- 夢の話・・・・
やべぇ 面白すぎてツボッた
これからどうなっていくのか目が離せません
- 145 名前:IMY 投稿日:2004/05/30(日) 01:18
- >>144 名無飼育さん
やべぇ レスもらっちゃった。
メロンは需要の割に供給が少ないですよね。
ありがとうございます。
訂正 斎藤→斉藤でした。
細かいですけど、はい。
- 146 名前:斉藤瞳 投稿日:2004/05/30(日) 01:19
-
インターホンを鳴らしても反応がないのでドアノブを掴むと、抵抗もなく
ガチャリと扉が開いた。
部屋は誰もいないかの様に真っ暗で、仕方なく斉藤は明かりを求めて手探りで
壁をぺたぺたと触り、それらしいのを見つけてパチリとスイッチを入れる。
蛍光灯の点滅する音がして、青白く光りだすフローリングに目を細めて
軽く息をついた。
「……ちょっと。大丈夫?」
「やぁ…いらっしゃい。」
数日前に会った奴が、目の前でぐったりと座りこんでいた。
- 147 名前:斉藤瞳 投稿日:2004/05/30(日) 01:20
-
青白い顔の目元だけがほんのりと赤く染まり、弛緩した手足をそのままにして
視線だけを自分に向けてくる村田を見て、瞬時に斉藤は状況を把握する。
こいつ酔ってるな。
「あのさー、ひとつ言っていい?」
「どーぞー。」
「あんたから電話があって、アタシはここに来たわけなのね。」
「そうだねぇ。」
「『もう、ダメかもしれない。』とか意味深なメッセージ残して、直後に通話切るわ
掛けなおしても電源切られてるし。人として気になるよね普通。」
- 148 名前:斉藤瞳 投稿日:2004/05/30(日) 01:20
-
いやー今の時代わかんないよ。でも、ひとみんなら来てくれるかなと思って。
ていうか私のモノマネ上手だぁねぇ。
酔っているせいか、普段より少々粗めな笑顔でそう言う村田に、怒る気も
あっという間に失せた。
どうにもやはり自分はお人良しらしいと、斉藤は諦めることにする。
とりあえず断りなしに部屋に上がって上着を脱ぐと、置いたままになっていた
皿とワインの瓶を片付けるために台所へ向かった。
人がせっかく心配して来たのに、
ここまで無理言って飛ばしてきたタクシー代返してよ。
そう文句を言いたかったが、さすがにプライドが邪魔して口に出すことは
できなかった。
- 149 名前:斉藤瞳 投稿日:2004/05/30(日) 01:20
-
蛇口をひねって水を出し、付け置きされていた食器も洗うことにする。
そういった所がお人良しであることに、斉藤は気づかない。
そしてそれが、斉藤がきつい事を言ってもどこか憎めない性格と周りに
感じさせていることも。
ふらりとやってきた村田をそのままにして、斉藤はもくもくと洗い物を続ける。
「ごめんね。まさか本当に来ると思ってなかったから。」
「何言ってんの。わざわざ来るような電話かけたくせにさ。」
さすがに悪いと思ったのか、少々バツの顔をして謝ってきた村田を
怒った口調で、けれど軽口でいなす。
- 150 名前:斉藤瞳 投稿日:2004/05/30(日) 01:21
- 村田はわけの分からない変な所で気を使うから困る。
気を使うなら使う、使わないなら使わないで、その時は最後まで頼ればいいのだ。
普段頼ってこない村田の一面を見たせいか、仕方ないなこの子はという気持ちを抱く
母のような気持ちで、斉藤は苦笑した。
ただそれも、あら、バレました?とマダムのような手振りまでご丁寧に付けて
声色を180度転換させた村田を見るまでだったが。
「それにしても手際がいいわねぇ。」
「いやいや、普通だって。村がやらなさすぎなの。家事ちゃんとやってる?」
「んんー…。」
やっていないことが声に出ている。
- 151 名前:斉藤瞳 投稿日:2004/05/30(日) 01:21
-
どうせ買ってきたお惣菜とか、温めるだけで良いものを主流にして
生活しているんだろうことを考えると、斉藤は信じられない気持ちになった。
健康的に生きるためには、しっかり三食取らないと力が入らない。
朝起きてすぐ甘いものを口にするのが、斉藤の日課だ。
「結婚したらきっといい奥さんになるね、これは。」
おそらく村田は褒め言葉で言ったのだろう。
「…結婚…ねえ。」
目線を上げると使った形跡のなさそうな鍋が規則正しく置いてあるのが目に入る。
アタシだったらこの鍋を使って何を作るだろうか。
そこまで考えて、斉藤は考えを打ち消すように頭を振った。
「今は…絶対したくない。」
そしてまるで何かのカタキのように、布きんをぎゅっと握り絞った。
- 152 名前:斉藤瞳 投稿日:2004/05/30(日) 01:22
- to
- 153 名前:斉藤瞳 投稿日:2004/05/30(日) 01:22
- the
- 154 名前:斉藤瞳 投稿日:2004/05/30(日) 01:23
- next
- 155 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:09
-
柴田の朝は早い。
家から大学までの距離が結構あるので、早朝に出かけないと
朝一の講義に間に合わないのだ。
車の免許を取ろうかとも考えたが、次の休みに休みにと引き伸ばしている内に
あまり取る気もしなくなって結局そのままになっている。
そういう訳で、今日も柴田は電車に揺られていた。
- 156 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:09
-
早いので通勤ラッシュとは言っても座席に何とか座れる余裕はある。
指定席になりつつある端の席を陣取って、柴田は壁にもたれながらぼけっと
窓の外に流れる景色を眺めていた。
昨夜から続く雨が、プラスチックの窓に斜めになって張り付いている。
ガタンガタンと電車が揺れるたびに、頭が壁に当たって痛いが、
寝て乗り過ごす訳にもいかないので、丁度いいやとそのままにしておく。
いつも通りの無駄で贅沢な登校の時間を、柴田は自堕落に過ごす。
- 157 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:10
-
「あー…レポート。」
何も考えないでいるのも限界があるもので、何となく他の乗客を観察していたら
参考書を読んでいる学生が目に入ってきた。
切羽詰まったような感じからして、もしかしたらテストがあるのかもしれない。
その様子を見ていたら、自分の懐かしい制服時代を思い出し、ついでに
思い出したくないレポートのことも浮かんできた。
- 158 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:10
-
期日は今日だったっけ?
記憶は曖昧だが、マズイかもしれない。
半分書いてほったらかしにしたままの宿題は、カバンに入ってはいるものの
どうにも書く気が起きない。
しょうがない。大学行ったら誰かに期日聞いて、ヤバかったら
図書館で死ぬ気で頑張るか。
夏休みの終わりギリギリな小学生的発想で、柴田はやっかいな問題を
あっさり片付けた。
- 159 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:10
-
「頑張れよ。高校生。」
自分のことは棚にあげて、名前も知らない学生にエールを送った後
再び外の景色に視線を移す。
相変わらずの曇り空が憂鬱そうに広がっていた。
そのまま数十分経った頃。
プシューというドアの開く音とドカドカという音に、柴田はパチリと
目を覚ました。
下を向いたままで痛くなっていた首を元に戻す。
「危ない危ない。いつの間にか寝てた。」
- 160 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:10
-
さっと時計を確認して、下車する駅が通りすぎていないことを知って
ほっとため息をつく。
疲れが溜まっていたのだろうか、眠りの世界に旅立っていたらしい。
「やっぱり徹夜ってのはキツかったかなぁ。」
この前の休みに、約束通り友達とビデオを借りに行った時。
やはり様子がおかしいと思われたのか、柴ちゃん好きなの借りていいよと言われ、
調子に乗って多めに選んでしまったことをちょっと後悔する。
結局寝てしまった友達を傍らに、一人で完徹してしまったのが
今になって来てしまったらしい。
もうあたしも若くないのかなぁ。と柴田はひとりごちた。
- 161 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:11
-
車内はいつのまに乗って来たのか、人がごった返して、座るところも
既になくなっているようだ。
柴田の前も、つり革につかまった人で混雑している。
向かいの窓の景色も、遮られて見ることができなくなっていた。
はぁー、暇だな。
鑑賞したいほど素晴らしい景色でもないし、第一見飽きている風景だけど
見るものが何もないのはそれはそれで結構苦痛だったりする。
唯一見ることができる、自分の目の前に立っている人のスカートを
見つめながら、再び柴田は緩やかな眠りに落ちていった。
寝過ごしかけた柴田が、アナウンスに飛び起きて慌てて走ったのは
それからさらに数十分後のこと。
- 162 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:11
- to
- 163 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:11
- the
- 164 名前:柴田あゆみ 投稿日:2004/05/30(日) 18:12
- next
- 165 名前:IMY 投稿日:2004/06/24(木) 00:19
- 中編途中ですが、気分転換に短いの一つとショートショート一つ。
長編にするつもりが、読みづらくなったのでこんな形になりましたよ。
むしろショートショートは好きですよ。
- 166 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:20
-
彼女との援助交際は好きだった。
でも決して楽しいとは思えなかった。
- 167 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:20
-
部屋は薄暗く殺風景だった。
その中に身を横たえるベッドは、何とも言いがたい雰囲気を醸し出していた。
締め切ったカーテンの隙間から、街灯と暮れた日の光が僅かに漏れる。
「ごめんね。待った?」
カチャリとドアが閉じられる音がして、
部屋が完全に締め切られた。
- 168 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:21
-
「抱かせて。」
思い返せばほとんどが突然の衝動だった。
自分の放った一言は、突然とてつもなく大きな意味を成す。
こんな直線的な言葉を放ったのは初めてのことだ。
「ん?!…えぇーと…」
何かが終わってしまいそう、でも終わらせなくては。
理屈の無い不安と決意。
あたしの援交ごっこに、これ以上つき合わせていいのだろうか。
自分の不安を消し去るだけ、それだけのために。
きっと彼女はそんなことも知っているのだ。
そんな事も頭を掠めたけれど。
- 169 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:22
-
「本気だから。」
どうかしている。
きっとそう、どうかしているのだ。
驚いた村っちゃんの瞳は、真っ直ぐに私を映し出す。
彼女はすぐにおどけて全てをうやむやにする。
逃がしたら、終わりだ。
こちらから無理矢理引きずり込む。
- 170 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:22
-
不安はね、無くなるものじゃない。
何かで埋めるものなんだ。
こうして身体で忘れさせて、またそうやって忘れた頃に襲ってくる。
キレイだなぁ。
ただそう、囁いて欲しいだけ。
なのに。
「ねぇ、柴田くん。」
絶対に言うことはなく、それでいて知っていながら問いかけるのだ。
- 171 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:22
-
「…何?」
何とか上手く答えないとと思っていても。
声を聞いたら涙声しか出ないだなんて、それも最初から知っている。
「何かあった?」
「…別に。」
本当は自分に何も無いことだって知っている。
ただ訊いて欲しいだけ、そんな私の気持ちさえもきっと見透かしていた。
「うーん・・・あんまり無理とかしないほうがいいよ。」
お願いだからやめて欲しい。
本当はあたし、こうして肩を抱かれる事だって慣れてない。
- 172 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:23
-
「村っちゃんは優しいから誰も突き放さないの?」
声だけはいつものトーンを保っている、それが救い。
でないと、声を上げてしまいそうだった。
「違うよ。」
肩を抱く手にすがってしまいそう。
「…柴…あゆみが、」
そんなに強く抱き締められたら、
本当に彼女を求めてしまいそう。
「好きだからだよ。」
ライクともラブとも取れる曖昧な言い方。
助けてよ。
いまあたし、何て言ったんだろう。
- 173 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:23
-
夢中にキスをしたように思う。
その首筋に顔を埋めて、濡れた体のラインのまま、唇を滑らせて。
抵抗はほとんどされなかった。でも協力もされなかった
胸に揺れる銀色のネックレスごと肌に触れたら、彼女が少しだけ声をあげた。
彼女は目を固く閉じて、左右に広げられた手をしっかりと握って…。
胸元からは村っちゃんの顎のラインが見える。
お風呂の湯気で湿った髪の毛が、頬に貼り付いていて、
そのいつもと一つひとつ違う村っちゃんの雰囲気があたしを妙な気にさせていった。
「めぐちゃん。」
下の名前を呼んだ。
問いかけに意味は無かった。
ただ、名前を呼びたかった。
応えてくれる彼女が、彼女であるという事を確かめるために。
- 174 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:23
-
さすがにあたしだってそんな経験が有るわけじゃないから。
目の前の人がどんな風に感じて、どんな風に気持ちよくなってくれるのかが
いつまでたってもてんで予測出来なくて…。
相変わらず無我夢中で触れる全ての所に手を伸ばしていたように思う。
少しだけ反応する首筋も、背中から差し入れた手の動きも
顔を背けた時に見せた鎖骨の出っ張りも、
全部…全部…あたしは…彼女の全てを知りたいと思って…手を伸ばした。
誰よりも…あたしが一番知っていたいと思って。
彼女の何も知らなくても、その愛は知っている。
- 175 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:24
-
仰け反る首筋。
その首筋に顔を埋めて、耳元のピアスに口を寄せる。
確かこのピアスは最近のお気に入りと言っていた気がする。
すぐさっきの事も明確に思い出せない。
頭がぼんやりして、不思議にどうしようもなくドキドキする。
彷徨っていた村っちゃんの細々とした手があたしの首元に差し込まれ
撫でるように触れていた途端、ぐっと強く握り込まれ、顎が上がった。
何だろうと思って目線をあげると、めったに見られない村っちゃんの
真剣で潤んだ目がこっちをまっすぐ見ていて。
ぞくっとした。
口元を緩く引き結んだ彼女の顔が近づいてくる。
思わず目をつぶったあたしの予想とは裏腹に、唇の感触は額に落とされた。
- 176 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:24
-
「どうしよう…すごい……参ったな。」
壊れ物でも扱うような触れ方をされて、大事に大事にされてるのが
嫌ってくらい伝わって、いつだってどこだって優しくて。
本当に困ったような顔で、そんなことを言われて。
そんな風にされてしまっては、こっちの方がどうしようと言いたい。
目の前に村っちゃんがいるのに。めちゃくちゃ、何か、胸が詰まる。
「っうぅ…っふ…。」
「…あゆみ?」
ほんと、マジ泣けてきた。
- 177 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:25
-
村っちゃんは自分の手をあたしの腰にまわすと、そのままぎゅっと抱きしめて
凄く小さい声で言う。
「私はいつだって君のもの。」
その艶やかな仕草はいちいち脳細胞を直撃する。正常な人間神経系を麻痺させる。
その声は聴覚を刺激して麻痺してしまった神経に快感を送る。
体中が、ずっと求めていることを、望めば良い。
なにも考えなくって良い。
どこか達観というか、やけくそぎみにぼんやり考えた。
体がここにないくらい、ふわふわしていた。弛緩しきった頭でやたら笑っていた。
もう腕や足の感覚もなかった。ただ、笑いかけていた。
なんだかおかしかった。
- 178 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:25
-
結構力任せだった筈なのに傷一つ無い。
それが欲しかった筈なのにどうして、こんな気持ちになるのだろう。
「悔しい。」
それでもこの時は、消えてしまうものなのだろうか。
綺麗に形を整えて、ずっと保管するよりもきっと深く刻み込む方法がある筈だ。
彼女はそうさせてくれなかった。
本当にあたしの望むことは叶えられたことがない。
「むぅ…柴田くんは難しいことを言うね。」
彼女だからそうしたい。
いくら傷ついたって、それを深い痕に。
- 179 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:25
-
「正直私には理解しづらい感情だねぇ。」
遠慮を知っているのに、知らないよう振舞う彼女の言葉は一句一句胸に突き刺さり、
それなのにかすり傷も負わせてくれはしないなんて。
「初めて、こんなの。」
村っちゃんの目からはどんな風に見えていただろう。
会った瞬間から誘うだなんて淫ら過ぎるだろうか。
それとも、全て知っているからにあたしを臆病だと思う?
消えちゃうのが怖い。
あたしたちの関係が本当に終わってしまいそうで、
それはいつか別れが訪れるだなんて承知の上。
だから、深い思い出を。
「…でも、」
いつだって一番欲しいもの、わかってるのにくれないね。
- 180 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:26
-
「玉子焼いて。」
「はーい。」
「あぁー!!…やっぱあたしする。」
「…はーい。」
朝の風景。
「ごめんね…昨日…何か情緒不安定だったっていうか…たまにあるんだよね。
…あはは、あんま気にしないで。」
我ながら無理なことを言っていると思った。
「あーそうなんだ。分かったよ。」
この人たぶん分かってる。そのくせ言わない。怒らない。
- 181 名前:無題 投稿日:2004/06/24(木) 00:26
-
「……。」
「……。」
村っちゃんは彼女の優しさを卑怯にも逆手にとったあたしを、一秒もない言葉で許した。
だけど本当に欲しがっているものは最後までくれないつもりらしい。
それとも、そう受け止めるあたしの方が違う。そうなのかもしれないけど。
腹立たしかった。
「これ食べ終わったらもう来ない。」
「…そっか。」
あの時口から言葉が出たのは勢いもあった。諦めもあった。意地もあった。
それ以来彼女には会っていない。
彼女もまた出会って別れる人間の内の一人だったのだと、そう思うことにした。
あたしは今日も当てもなく街を歩く。
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/24(木) 00:27
- もう一つ。
- 183 名前:電話にて 投稿日:2004/06/24(木) 00:28
-
ただなんとなくポンと時間があいたので。
マサオに電話することにした。
- 184 名前:電話にて 投稿日:2004/06/24(木) 00:28
-
コールは3.5回
「もしもし。」
「あ、マサオ?」
「うん、どうしたの?」
どうしたもこうしたも、特に理由はないんだけどね。
- 185 名前:電話にて 投稿日:2004/06/24(木) 00:29
-
「どうもしてない。」
「はい?」
何も考えてなかったので、当然だけど会話が成り立たない。
呑気な声だけど心配そうに頭でも打った?と聞かれたので
おかしなこと言うねって言ったら、ひとみんの方がおかしいよって返された。
- 186 名前:電話にて 投稿日:2004/06/24(木) 00:29
-
「今寝てた?」
「ううん、起きてゲームしてた。」
そういえば昨日会った時もゲームばっかしててあんまりこっちを見てくれなかった
気がする。思い出して少し腹が立った。
- 187 名前:電話にて 投稿日:2004/06/24(木) 00:29
-
「楽しい?ゲーム。」
「楽しいよ。ひとみんもする?」
「んーん、いいや。」
大して上手くないし。同じ画面をずっと見てると目が疲れるし。
何でそんなにマサオがずっとやってられるかがわかんない。
そう言ったら、おばさん入ってるってそれ。と笑われた。
- 188 名前:電話にて 投稿日:2004/06/24(木) 00:29
-
「ひとみんこそ何してたの?」
「何もしてなかった。」
これは本当。何もしてなかったから電話した。
自分でも理解不明でバカ正直な返事をして、どう返してくるかマサオの反応を待つ。
しばらく無言の状態が続いて、たぶん言ったとおりゲームしてるんだろう
後ろから小さく効果音が聞こえてきた。
ウザがられた?シカトだろうか。
携帯を耳に当てたまま、持った手のひらに汗が出てきた。
- 189 名前:電話にて 投稿日:2004/06/24(木) 00:30
-
「…じゃあ今ヒマなんだよね?家にいんの?」
「うん、そう。ヒマとはちょっと違うけど、時間はあるよ。」
「…じゃあさ、ウチ遊びにおいでよ。」
しばらくの沈黙のあと、ポツリと言われる。
「うん、わかった。」
アタシはそのまま速攻で自分の家を出ると、隣の部屋の前に行ってチャイムを
鳴らした。
ガチャンと鍵が外れる音がして、派手な髪型の彼女が顔を出す。
「あのさー、部屋隣同士なのに電話で話す意味ってあるのかな?」
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/24(木) 00:30
- つ
- 191 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/24(木) 00:30
- づ
- 192 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/24(木) 00:31
- けれるのか…
- 193 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/06/25(金) 00:15
- >>161
いつものように早朝、六時にセットした目覚ましで起き上がり、ニュースを
知るためテレビをつけてしまうと、村田はやることがなくなってしまった。
髪のブローも着替え始めるのも、もう少し後でいいし、朝食は好んで食べない。
見慣れた自分の部屋を見回して、たわんだ背骨を気持ちよく鳴らす。
テレビの上に細々とした小物は置かない。
いつぞやに買って放置ぎみに育ててあるサボテンと、伏せられた写真立てが一つ。
中身は抜いて捨ててしまった。父と母と兄の写真。
- 194 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/06/25(金) 00:16
-
やることがないと、どうでもいい事を考えてしまう。
父も母も優しい人だった。他の家庭を知らないが、想像しうる範囲で村田にとっては
そうだった。
兄も良くできた人で、小さないざこざがあっても険悪な空気が長続きすることは
いまだかつて一度もなかった。
落ち着いたら今の彼女と結婚したいと言っていたのを思い出す。そんな日が早く来て、
結婚式で時代遅れのテントウムシのサンバを歌ってみるのも良いかもしれない。
- 195 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/06/25(金) 00:16
-
私は。村田は考える。
私は今幸せだろうか。身を削ってという意識は持っている気がする。
けれど決して嫌々に自分の人生を生きているつもりはない。
むしろこれは村田自身が決めたことで、責任感みたいなものが働いているのかもしれない。
『ごめんな。ありがとう。』
以前、簡潔な手紙が一度だけ送られてきた。
気配り上手な兄が、毎月口座に振り込まれる高額の振込みに気づかない訳はない。
連絡を取らなくなってもうどのくらいか。
父と母は元気にしているだろうか。
- 196 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/06/25(金) 00:16
-
がくんと首が傾いた拍子に、村田は目を覚ました。
知らず知らずの内に半分眠りに入っていたらしい。
はっと気づいてみれば、時計の針はそろそろ七時を回ろうとしていた。
勢いをつけてイスから立ち上がると、反動でふらついた。
いつだって、優しい思い出を断ち切るのはしんどい。
- 197 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/06/25(金) 00:17
-
これは運がいいのか悪いのか。
どちらかといえば悪いほうに入る気がする。
ドアを開けてみれば外は小雨で、この程度なら我慢すれば大丈夫。
そう思って出てきたものの、やはり甘かったらしい。
後悔は、電車の窓に張り付く水滴の量を見てやってきた。
降り続く雨は一向にその勢いを弱めることはなく、むしろ強さを増して
容赦なく傘を叩いている。
今朝の天気予報は昨日に引き続き雨で、当然傘を持たなくてはいけない
状態なわけで、当然村田も持って出るつもりだった。
一本しかないコンビニ傘を、貸したことを気づくまでは。
- 198 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/06/25(金) 00:17
-
「…うー、気持ち悪い…。」
大振りな赤い傘をくるくる回しながら歩く道のりは、湿気と蒸し暑さで
じめじめとし、気分爽快とはあまり言いがたい。
先ほどまで密集した人ごみに埋まっていたせいか、服もしっとりと肌に張り付き
飲みすぎたワインの効果もあってか、胃が不快感を村田に知らせていた。
たいして飲めもしないくせに、慣れないことをするものではない。
しかし今日は仕事のある日。おいそれ休むわけにもいかない。
- 199 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/06/25(金) 00:17
-
「それ、可愛いですね。」
「え?」
「傘。」
仕事場につくと、出会い頭にスタッフにそういわれた。
珍しく女性のスタッフで、村田は面食らいながらうぅんと頷いてみせる。
撮影場所はまだ閑散としていて、急ぐこともなかったかなと後悔した。
少なくともあの人を呼び止めるくらいの時間はあったと思う。
- 200 名前:村田めぐみ 投稿日:2004/06/25(金) 00:17
-
「でも、借り物なんだけどね。」
物はいいようだな。
村田は苦笑すると、自分には似合わないそれを丁寧に折りたたんだ。
照明が組みあがるまで時間はあるだろう。暇な時間ができてしまった。
余計なことを考えないよう、村田はコーヒーを飲みに出るため外に出た。
雨はまだパラついている。
- 201 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/25(金) 00:18
- to
- 202 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/25(金) 00:18
- the
- 203 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/25(金) 00:18
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