永久の祈り

1 名前:つかさ 投稿日:2004/03/12(金) 00:06
この板では初めてになります。

やぐちゅー、ツナギのアンリアル。
痛い系になると思います。
ストックある限り、更新はさくさくいきたいです。
長編は初めてなんで不安は不安ですが、
楽しんでいただけると幸いです。
2 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 00:07
第一章
〜〜〜1〜〜〜

「こぉらユウコ〜っ!!!!何さぼってやがるっ!!!」

 馬鹿でかい一室に馬鹿でかい声が響きわたる。
 馬鹿でかいベッドの中で。
 布団もかけずにうつ伏せに眠ってるのだろう・・・・・・近衛隊の隊長。

 午前中。
 ヤグチが礼儀作法の時間、という名目で。
 淑女たるものどういう言葉遣いで、動きをしなければならないのか、延々と。
 実技指導を受けている間。
 きっと惰眠をむさぼっていただろう相手。

「・・・・・・・・う?」

 ベッドの上。
 ヤグチの声が聞こえたのか、ゴロンと寝返りを打ち。
 見えたのは、端整な顔立ち。

「・・・・・・・う・・・・・・ん」

 こうこうと差し込む陽射しに。
 眼を細め。

「後五分・・・・・・」

 もう一度うつ伏せになる相手に。
 ぶちん。
 ヤグチの中の血管が切れる音が聞こえた。

「このアホっ!!!オイラのベッドで惰眠を貪るなっ!!!ってか酒臭いっ。オイラのベッド、酒臭く
なったらど〜してくれんだよっ!!!」

 耳元でヤグチが叫ぶと。

「ん・・・・・・ヤグチ、昼飯の時間やろ?何でここにおるん?」

 半覚醒。

 もろそんな感じで。

「侍女が教えに来てくれたんだよ。中澤隊長が自室でお待ちですって。緊急の用事かと思えば・・・・・」

「・・・・・・・いらんことを・・・・・・」

「何だと?」

 ギロリ。
 鋭い視線にナカザワは器用に寝たまま首をすくめてみせる、という行動に出て。
3 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 00:07
「ちょっと昨日の夜遅かってん」

「そんなこたぁわかってるってかっ!!汗臭いっ!!酒臭いっ!!早くオイラのベッドからおりろっ!!」

 ナカザワの身体を起こそうとして。
 ヤグチは。
 嗅ぎなれない匂いに気付く。

「・・・・・・・・ユウコ、どうしたよ?その傷」

 ナカザワの肩には。
 昨日までにはなかった白い包帯。

「・・・・・・ちょっとドジってもうた」

 ナカザワは苦笑い。
 包帯を見た瞬間から。
 心配そうな、神妙そうな。
 不安そうなヤグチの表情に。

「最近王都でも治安悪いからなぁ。見回りに当たった日にドンパチあるなんてホンマついてへんわ」

 くしゃ。
 怪我をした方とは反対の手で。
 ヤグチの頭を撫でる。

 とりあえず、無法者らは全員ひっつかまえて。
 その報告と怪我の治療でもう朝日は昇っていた。

「・・・・・・今日は通常任務免除じゃないの?」

 やっぱり心配そうなヤグチの視線。

「そうやけどな。今日、町に連れてくって約束したやろ?」

 確実に。
 着替えてシャワー浴びて部屋で寝たら、起きれなさそうな気が、した。
 確かに、こんな日は通常の任務は免除なので。
 一日惰眠を貪るのもいいかなぁ、と思いもしたのだが。

 ナカザワは小さく笑う。

「ヤグチ、楽しみにしてたやん?」

「そ〜だけどっ」

 むぅと。
 ちょっとだけ拗ねた視線。
4 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 00:08
「疲れてるんでしょ?ヤグチ、次でもいいよ」

 物分りのいい言葉。
 それでも。
 残念そうな顔してることにヤグチは気付いてないようだ。

「子どものうちはわがまま言って甘えとけばええねん」

 ナカザワは眼を細めた。
 小さい身体に大きな期待。
 この子が普段、大人びた表情を作って。
 笑顔を振り撒いているのを知っているから。
 自分の前でくらい年相応の子どもっぽさを見せて欲しい、そう思っている。

 昔から。
 そして今も。
 これからも・・・・・・。

「誰が子どもだよっ!!」

 大きく叫んで。
 むぅと膨れっ面。

「だいたい痛み止め代わりに酒飲むの止めろってあれほど言ったのに・・・・・・」

 きつい視線。
 ナカザワはそのまま視線を逸らす。

「怪我して酒飲んだら駄目っての、ユウコの方がよくわかってるんじゃないのかよ〜」

 不意に。
 ぎゅっと怪我をしてない方の腕をつかまれて。
 思わず。
 ナカザワは泣き出しそうな眼をしてるヤグチとばっちり視線があって。

「・・・・・・・・・ごめん」

 へこへこと頭をさげる。

「反省してねぇだろっ!!」

「ってかアンタその言葉遣いなんやねん。礼儀作法の先生泣くで?」

「う・・・・・てか、話そらせるんじゃねぇっ!!」

 トントン。
 控えめなノックの音が二人の会話を止める。

 怪我をしてるとは思わせない動きで。
 ナカザワはベッドから降りる。

 そのままベッドの脇に置いてあった近衛隊の制服を羽織り。
 何事もなかったかのように。
 すっと背筋を伸ばして立つ。

 ちらり、とヤグチはナカザワを一瞥して。

「どうぞ?」
5 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 00:08
 柔らかい物言い。

「マリ様。お食事の用意ができました。・・・・・・ナカザワ隊長もご一緒されます?」

 侍女が顔を覗かせる。

「いいえ、私は結構」

 すっとナカザワは動く。

「マリ様。では昼からの授業は予定通り馬で遠乗りに出かけるということでよろしいですか?」

 さっきの言動からは想像もできない。
 ナカザワの口から流れ出る言葉は流暢だ。

 ヤグチが黙って頷くと。

「準備がありますので私はこれで」

 優雅にお辞儀をして。
 ナカザワは音も立てずにヤグチの部屋から出て行く。

 いつものこととはいえ。
 さすがに慣れないよなぁ。
 小さくヤグチが笑ったのをどう感じたのか。

「ナカザワ隊長、いつ見ても颯爽としておられますね」

 人の部屋で寝こけてる姿、見せてやりたいよ。
 外面だけはいいんだからさぁ。

 勿論、心の中だけにしまっておくが。

「昨日、大変だったみたいだけど」

 肩の傷。
 本当に大丈夫なんだろうか?

「そうですね。でも近衛隊が出動したからにはマリ様が心配されるようなことはございませんよ」

 にっこりと笑いかけてくる侍女にきっと罪はないのだろう。
6 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 00:08
「そうだね」

 作り笑顔をみせるヤグチに、侍女は満足そうに頷いた。

「さ、参りましょうか。コック長がいまかいまかとお待ちかねですよ」

 王室王女、ヤグチマリ。
 近衛隊隊長、ナカザワユウコ。

 二人の付き合いは、もう十何年になるか。
 ヤグチの物心がつく頃に、もうナカザワはヤグチの側にいた。
7 名前:つかさ 投稿日:2004/03/12(金) 00:16
頭の中にこの話が浮かんできた時、一週間くらい無視ってたら・・・・
どんどん話が膨らんでいき。
もう書くしかねぇな、と。
とりあえず長いです。

そして。
頭の中で、登場人物が勝手に動くだけ動いてくれるこの感覚、久々に味わいました。
紫で撤退宣言して舌の根も乾かぬうちに・・・・ってのはマジ自分でも思います。
心配してくれた人、すいませんでした。
狼少年の気持ちが良くわかる・・・・・(苦笑)
懲りずに付き合っていただければ幸いです(ぺこり)
8 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/12(金) 01:04
つかささんの作品キタ〜!!!(w
待ってました。
つかささんの絶妙な痛甘さの虜です。
長編だそうで・・・更新超楽しみです。
9 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/12(金) 01:40
長編ファンタジー面白そうです。
痛い系のtsunagiかー、続きめっちゃ楽しみです。
10 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:22
〜〜〜2〜〜〜

 パカッパカッパカッ。

 軽快に馬を駆る。
 ヤグチの横には、勿論ナカザワの姿が。

『上に立つ者が下にいる者の生活を知らんのは罪や』

 まだヤグチが十歳になるかならないかのそんな時に。
 ナカザワはそう言って。
 ヤグチを城下町へと連れ出した。

 最初は物珍しさだけで。
 段々、ナカザワの言ってることがわかる年頃になると。
 その言葉は重かった。

 昔。
 ある王妃が言ったらしい。
『パンがないんだったらお菓子を食べればいいじゃない?』
 と。
 その王妃がどうなったかとまだ幼かったヤグチは無邪気に尋ねた。

 民衆に殺された。

 端的に、告げられた言葉。

『この世界には知らんでいいことも一杯ある。でも、知っとかなあかんことも多い』

 真面目な表情。
 真剣な面持ちで。

『アタシはその王妃がどんな奴やったんか知らん。殺されなあかんほど悪い奴やったんかもわからん』

 でも。
 ナカザワは言った。

『一国を背負うってことは、知らんかった、じゃ済まされへんのや』

 厳しい言葉だった。
11 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:22
『自分の見える範囲のものしか信じれん、聞きたい言葉しか聞こえない奴に一国を背負う資格はない』

 ナカザワは、知っていたのだろうか。
 ヤグチに、課せられる運命を。

 王室に出来た子どもは、二人。
 男児に恵まれることはなかった。

 隣国に生まれた子どもも女児、だったらしい。

 微妙な力関係。

 ヤグチはまだわからない。
 自分がこの国を背負って立たなければいけないのか。
 もしくは。
 また全く別の国から婿をとることになるのか。

 今は、まだ・・・・・・・・。

「ヤグチ?」

 ナカザワの声が後ろに聞こえて。
 慌ててヤグチは馬を止める。

「何処まで走る気やねん?」

 いたずらっぽい大きな声。

「うっさい、ちょっと間違えただけだいっ」

 ヤグチも負けじと大きな声で返事をして。
 馬の手綱を器用に操って、ナカザワのいる湖畔へとって返す。

 人より身体の小さかったヤグチは。
 馬に乗るのも一苦労だった。
 何度も何度も馬から転げ落ちて、痣を作るたびに。
 王女になんてことをさせてるんだ。
 周囲の雑音に。
 ナカザワは頭をさげまくっていた。
 それでもまぁ。
 ナカザワの厳しめの指導方法はまったく変わることなく。
12 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:22
 今では人並み以上に護身術、応急手当、など。

 結局ヤグチにはこっちの方が合ってるんだけどなぁ。

 おしとやかに、礼儀正しく、物静かに。

 そう言われつづけているのも事実だけれど。

「はぁ〜」

 ナカザワの側に近づくと。
 わざとらしい大きなため息が聞こえる。

「・・・・・・・何だよ?」

「その若さでもう健忘症か・・・・・可哀想になぁ」

「何だと〜っ!!」

 おっと。
 馬に乗ってるの忘れてた。
 立ち上がろうとして。
 さすがにバランスを崩す。

 ひゃっひゃっひゃ、と。

 声には出さず、笑い転げてるナカザワ。

 憮然とした表情を作ろうとして。
 やっぱり笑ってしまう。

 しばらく大きな宮廷行事が続いていて。
 ナカザワにこうやって会うのも久々だったりする。

『今度会ったときは絶対どっか連れてって』

 警備についてたナカザワに偶然会って。
 偶然、二人っきりになれた。
 着飾って、お人形みたいに座ってニコニコ笑ってたけど、ヤグチ的にはもう限界だった。
13 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:23
 泣きだしそうなヤグチを見て。
 ナカザワは何も言わずヤグチを抱きしめた。

 そんな格好も似合ってるで。

 言いかけたナカザワの言葉はヤグチに届くことはなかったけれど・・・・・・。

「うわ〜、天気いい〜」

 湖畔に立っているいかにもぶっ壊れそうな小屋が着替えの場所。
 その脇でぴょんぴょんと飛び跳ねて。
 最初の目的を忘れているかのような姿に、ナカザワは吹きだしながら。

「ほら、はよ着替えな時間なくなるで。今日は屋台出てるとこ行くんやろ?」

「・・・・・・・・ん、今日はいいよ。それよりカオリんとこ行こ?」

 ん?
 ナカザワは首を傾げる。

 前来た時。
 帰る間際に見つけた屋台村。
 行きたい行きたい、駄々こねたのは誰やったっけ?
 もう時間切れやから、今度な?
 宥めるのはめっちゃ大変やった。

「薬とその傷。ちゃんと見てもらいなよ。それからさぁ、ご飯食べよ。ね?」
14 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:23
 大人びたヤグチの表情に。
 ナカザワは髪の毛をかきあげた。

「ユウちゃん忙しいからさ、最近顔出してないでしょ?カオリも喜ぶと思うし」

 ヤグチは言いたいことだけ言って。
 ナカザワに口を挟む隙を与えず。
 さっさと着替えに小屋に入った。

「覗くなよっ」

「誰が覗くかいっ」

 お約束のやりとりをして、だったが・・・・・。

 ナカザワの生活も、ヤグチにひけおとらず。
 結構多忙を極めてる。
 ヤグチがナカザワと一緒に町に出るのを楽しみにしてるのとともに。
 ナカザワも旧友と会えるのが嬉しいんじゃないか、と。
 そんなに普段自由に出歩けるほど時間があるわけじゃないのもわかってるから。

 それに・・・・・。
 着替えながらヤグチはこっそり心の中でため息をつく。
 今日もきっとシャワーだけ浴びてご飯は食べてないのだろう。
 怪我はほっときゃ治る。
 食事はめんどくさい。
 そ〜ゆ〜人だから。

 会うたびに心配になるのだ。

 照れくさいから本人には絶対言わないけれど。
15 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:23
ーーーーーーーーーーー

「見かけは派手だけど大丈夫。かすっただけだよ」

 イイダの所見を聞いてヤグチはほっと安堵の息を漏らす。
 小さな診療所。
 包帯しか見てなかったから。
 傷の大きさを初めて知って、本当にびっくりした。

 見んなや、ヤグチのエッチっ。

 とか何とか。
 ほざいてた大馬鹿者はこの際ほっといて。

 ヤグチも何度かお世話になったことがあるイイダの診療所。
 剣術の練習でボロボロになってた手。
 気にしてないのかと思ってたら。
 ナカザワから差し出された薄手の皮の手袋と、軟膏。

『ごめんな、気つけへんくて』

 情けなさそうな表情に。
 何だか可笑しくて笑ったら。
 ・・・・・・怒られた。

 凄く効き目あったので、聞いてみたら王室の薬箱のものやないんやって。
 アタシの友達がなぁって。

 嬉しそうだったっけ。

「痛い、痛いっ。もうちょっと優しくやってぇな」

 治療を大人しく受けてると思ったら。
 少しの間だけだったらしい。

 ちらっとヤグチはナカザワの方を窺う。

「怪我してるんだから当たりまえじゃん?かすり傷だってほっとくと大変なことになるんだからね?」

 至極最もなイイダの意見。

 ・・・・・・・・・・・。

 それより。
 ヤグチはナカザワの後姿。
 傷跡の多さに息を呑んだ。
16 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:23
 何度か、包帯を巻いてる姿も見た。
 それでも。
 血まみれでナカザワがヤグチの目の前に姿を現すことなんてなくて。
 当然のことだけれど。
 ナカザワが身を置いてる世界。
 ヤグチが身を置いてる世界。
 全く別のものだと。
 まざまざと思い知らされるようで。

 ヤグチは黙り込む。

「・・・・・・・・ヤグチ、見てんの嫌やったら外行っとき?」

「そんなんじゃない」

 とっさに出てきた言葉。
 眼をそらしちゃ、いけない。
 生命をかけて。
 ナカザワが守ろうとしたもの。
 守ってきたもの。

 この傷跡に眼を背ける、ということはそういうことだ。

『この世界には知らんでいいことも一杯ある。でも、知っとかなあかんことも多い』

『一国を背負うってことは、知らんかった、じゃ済まされへんのや』

『自分の見える範囲のものしか信じれん、聞きたい言葉しか聞こえない奴に一国を背負う資格はない』

 ヤグチはぎゅっと拳を握り締めた。

「死なないでね」

 一瞬の沈黙。

「なんやぁ?えらい素直やなぁ」
17 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:24
 照れ隠しのようなぶっきらぼうな声音に。
 想いは伝わったのだろうか。

「やっぱ外出てるっ!!」

「何やねん、それ」

 言いながら。

 部屋の外に出るヤグチの耳に。

「死なんよ。約束する」

 届いた言葉。
 例え、気休めだとしても。
 ナカザワは今まで。
 ヤグチとの約束を破ったことはない。

「絶対だからな」

 その言葉が届いたかどうか。
 届かなくても。
 きっとナカザワはわかってる。
 そうヤグチは思った。

ーーーーーーーーーー

「ヤグチ、ユウちゃん、これからどうすんの?」

 治療を終え。
 身支度を改めて整えてるナカザワと。
 その横で手持ちぶさたにしているヤグチに。
 イイダは声をかける。

「ん〜?屋台村の方、行ってみよかなぁって」

「違うでしょ。ご飯食べに行くの」
18 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:24
 全く正反対の声。
 心配してくれてるのはわかるが。
 やっぱりヤグチの行きたいところに連れて行ってやりたい。
 ナカザワの正直な気持ちなのだが。

「ええよ別に。あんまりお腹すいてへんし。屋台村でも何かあるやろ」

「とか言って食べないつもりでしょ?好き嫌い多いんだから」

「んなことないって。・・・・・・多分」

「多分かよっ!!」

 他愛もないじゃれあいに、イイダが笑っている。

「ほら、カオリに笑われちゃったじゃん」

「アタシが悪いんか?別にええやん、一食抜いても二食抜いてもそんなに変わらん・・・・・・」

「ユウコっ!!」

 ヤグチにキッと睨みつけられて。
 ナカザワは肩をすくめてみせる。

「ならカオリんとこで食べてく?そんな立派なものは用意できないけど。簡単なものなら作れるよ?」

「・・・・・・・・ん・・・・・・・そ〜やなぁ」

 ナカザワはちらっと脇から見上げてくる視線を受け止める。
 どうやら本気で。
 何か食べるまで許してくれなさそうな視線に。
 諦めたように笑った。
19 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:24
「んじゃ、お言葉に甘えてご馳走になるか。・・・・・ヤグチはあかんで」

 以前。
 町で売られている食べ物に興味津々だったヤグチは。
 さんざん飲み食いして。
 晩、王宮で。
 ヤグチがご飯を食べないということで大騒ぎになったことは記憶に新しい。

「わかってるよ・・・・・ってか、カオリ、ヤグチ、見てていい?」

「手伝ってくれる?」

「いいの?」

「うん。何作ろっか?」

 仲良く肩を並べて部屋を出て行く二人を見つめて。
 知らず知らずのうちにナカザワは笑みを漏らす。

 でこぼこコンビやねぇ。

 姉妹さながらのその姿に。
 安心できる場所。

「・・・・・・・・ねむ・・・・・・・」

 大きな欠伸を一つ漏らして。

 ちょっとくらいやったらええやろ。

 ゴロリ、とナカザワはベッドに横たわる。
 ほとんど眠ってなかったせいもあり。
 睡魔に負けるのに、そんなに時間はかからなかった。
20 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:24
ーーーーーーー

「ん〜、トマト駄目でしょ。野菜類全般に嫌いだしなぁ」

 キッチンで。
 首を傾げるヤグチのかたわら。

「大丈夫だよ。ヤグチが作ったらユウちゃん全部食べてくれるよ?」

「え・・・・・でもオイラ、作ったことない」

 不安そうな眼差し。

「カオリ、手伝うからさ。誰だって最初は初めてなんだよ?」

 二コリ、とイイダはヤグチに笑いかける。
 ちょっとびっくりしたような表情を見せて。
 ヤグチは嬉しそうにコクコクと何度も頷いた。

「そういえばさぁ。何かお祭りでもあるの?」

 刀の方がまだ使い慣れてるんだけどなぁ。
 物騒なことを言いながら、包丁を持つヤグチの手つきは危なっかしい。
 それでも。
 興味が湧くのはやっぱり町の様子。

「お祭り?」

 イイダは首を傾げる。

「何かさ、いろいろ売ってていつもより派手だった」

「あぁ」
21 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:25
 合点がいったようにイイダは頷く。

「もうすぐバレンタインだからだよ」

 ポトフにしようか。
 切って、煮て。
 初心者でも美味しくできる料理。

 野菜と格闘するヤグチの横で。
 イイダは鍋の準備。

「バレンタイン?」

 包丁を動かす手を止めて。
 ヤグチは不思議顔。

「知らない?大好きな人にチョコレートあげて好きですって告白する日だよ」

「・・・・・・ふ〜ん」

 もっと話しに飛びついてくるかと思いきや。
 ヤグチは何も言わずまた包丁を使い出す。

 その横顔は少し寂しげだ。

 町でみかけた色とりどりにラッピングされた可愛い小物。
 華やかで心浮き立つ彩りに。
 何だかヤグチまでワクワクしたのだけれど。
22 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:25
「なら、オイラ、無理だなぁ」

 不意に呟かれた言葉。
 イイダは自分の失言に気付く。

「あとねぇ、日頃お世話になってる人に、ありがとうって感謝を伝える日」

 少し意味が違ってるような気がしないでもないが。

 イイダなりの一生懸命なフォロー。

 ヤグチはちょっと笑った。

「気、使ってくれなくてもいいよ。オイラもわかってるしさ」

 切り終わったかなりふぞろいな形の野菜類。

 いい?

 イイダはこくり、と頷く。
 そのまま鍋に野菜を放り込んで。

「後は煮込むだけだから」

 先ほどの表情から一転して。
 ヤグチはニコニコと嬉しそうだ。

「オイラ、料理したの初めて」

 照れくさそうに言う姿が何だか微笑ましい。

「イイダ先生〜?いないの〜?」
23 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:25
 玄関から。
 声が聞こえて。
 イイダは振り返る。

「ごめん、患者さんかな?後は煮込むだけだから大丈夫」

 ヤグチの返事も待たずに。

 パタパタパタ。

 足音が遠ざかって行く。

 しばらく真剣に鍋を睨みつけていたヤグチだったが、さすがに飽きてきた。
 そう言えば。
 さっきからナカザワの姿が見えない。
 ゆっくりと足音を消して。
 ヤグチは隣りの部屋を覗き込む。

「・・・・・・寝てやがる」

 気持ち良さそうに。
 胸が規則正しく上下に動いている。
 窓が少し開いていて。
 白い清潔そうなカーテンがはためいている。

 そして。

 窓から見えたのは、小さな庭だった。

ーーーーーーーーーーー
24 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:25
「気持ちいいなぁ」

 大きく伸びをする。
 庭には何か、知らない野菜が植えてあった。
 後は色とりどりの花。
 凄く。
 空気が綺麗なような気がして。
 ヤグチは庭の隅っこにあった縁石にちょこん、と腰掛けた。

 ユウコにご飯食べさせて。
 今日はもうこのまま帰っちゃってもいいよなぁ。

 妙な満足感。

 いつも当然のように出てきた食事。
 今日ヤグチが作ったものとは比較にならないほど、豪華なもの。
 作るの、大変なんだろうなぁ。
 思いながら、見上げた空は。
 青く、澄み渡っている。

「姉ちゃん、誰?」

 不意に声が聞こえて。
 ヤグチはビクッと身体をすくませた。
 いくら着替えて変装してるとはいえ。
 ばれたらマズイ。
 それはナカザワからも散々言われてたこと。

 きょろきょろと周りを見回す格好がおもしろかったのか。

 クスクス笑いが聞こえてきて。
 隣りの家との境目。
 塀からぴょこん、と顔が出てくる。

「そんなにびっくりせんでもえ〜やん。見かけん顔やなぁって思ったから」

 人懐っこい笑み。
 歳は・・・・・13,4といったところだろうか。
25 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:26
「うち、カゴアイ。んでこっちにいんのが・・・・・」

 いったん顔が引っ込む。

 ノノ、どんくさいなぁとか何とか。
 聞こえてくる。

「ちょっと待っといてな」

 一瞬だけぴょこん、とまた顔が飛び出して、消える。

「・・・・・・・・・・」

 何なんだ?

 まぁ、怪しい人ではないみたいだけど。
 安心しながらも。
 ヤグチはまだ警戒を解かずにいた。

 数分もしないうちに。

「ごめんなぁ、こっちの方がしゃべりやすいし」

 イイダの家の庭に。
 侵入者、二人。

「ツジノゾミです」

 カゴアイと名乗った人物の横に。
 にこにこと笑う、女の子。

「アイボンって呼んでぇな」

「ノノはねぇ、ノノ」

「そのままやんっ!!」
26 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:26
 漫才のようなやり取りにヤグチは思わず笑ってしまう。

「姉ちゃん、名前何て言うん?」

「オイラ、・・・・・・・ヤグチ」

 さすがにフルネームを言うのはためらわれた。

「あの怖い姉ちゃんのツレやろ?」

 カゴが自信たっぷりに言う。

「怖い姉ちゃん・・・・・・?あぁユウちゃんのことか」

 クスクスと笑いが漏れる。

「あの姉ちゃんホンマ怖いねんで。怒ると」

「アイボンが怒らせるようなことするからでしょ〜」

「そ〜やけど、子どものイタズラに本気で怒りよって・・・・・大人げないわぁ」

 延々と続きそうな二人のやりとり。

「ユウちゃん、良くここ来るの?」

 何気ないヤグチからの問いかけだったが。
 カゴがちょっと寂しそうに俯いた。

「最近はなぁ、全然やわ」

 子どもはあまり好きじゃないと公言してるナカザワだが。
 好かれてるんじゃん。
 ヤグチがそう思っていると。

 ツジが困ったようにカゴの服の袖を引っ張った。

「ごめんね、ノノもあんまり帰ってこれなくて」

「ええんや。うちかてもう子どもちゃうんやし、ノノはノノで頑張ってるもんな」

 ヤグチは首を傾げた。
 この辺の子どもかと思っていたら違うのだろうか。
 ヤグチの不思議そうな顔を見て。
 ツジが慌てて口を開いた。
27 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:26
「ノノ、空飛ぶための勉強してるんです」

 空を飛ぶ?
 さすがにヤグチは驚いた表情を隠せない。

「学校があるんや。こっからずっと離れたとこに。姉ちゃん知らんかったやろ」

 知らなかったどころか。
 人が空を飛ぶ、なんて。
 夢物語の話じゃないんだろうか。

「機密事項なのです」

 至極真面目に言うツジを見て。
 ヤグチは眼を細めた。

「いつか・・・・・飛べるといいね」

 優しい眼差しに。
 ツジとカゴは嬉しそうに笑った。

「この話聞いて馬鹿にせんかったんは三人目や」

 一人目はイイダさんでぇ。
 二人めがあの怖い姉ちゃんでぇ。

 指折り数えるカゴの頭に。
 パコ。
 いい音がした。

「何すんねんっ!!」

 飛んできたのはゴムボール。
 手加減はされてたらしいが・・・・・・。

「誰が怖い姉ちゃんや。もう一回言ってみぃ」

 半分くらいしか開いてなかった窓が。
 いつの間にか全開に開け放たれていた。
28 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:26
「急に何すんねんっ。不意打ちなんて卑怯や」

「人がおらんとこで怖い姉ちゃんとか言うてる方が卑怯やん」

 まだ幾分眠そうな顔をしながら。
 うぐ、と言葉に詰まるカゴを。
 ナカザワが余裕の笑みを浮かべながら眺めてる。

「それよりいい大人がこんな時間に何しとんねん。もしかして仕事首になってもうたんか?」

 カゴが反撃に出た。

「普段バリバリに働いてるからこそ休みが楽しいんやろうが。っつってもアンタにはまだわからん話
やったなぁ。ごめんなぁ、わからん話してもうて」

 まるで子どもの口喧嘩。

 しばらく二人のやり取りを見ていたヤグチだったが。
 だんだん笑いが込み上げてくる。

「姉ちゃん何笑ってんねん。うちら大真面目やねんからな」

「うちらって誰と誰のことやねん。一緒にすな」

「あ、姉ちゃんいざとなったら逃げるんや。卑怯者や」

「なんやとっ!!」

 いつもこんな感じなの?

 はい。
29 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/12(金) 23:27
 ツジとヤグチ。
 二人でこっそり会話してるのも聞いてないようで。
 二人のやり取りは止まる気配を見せないのだが・・・・・・。

「ユウちゃん、アイボン。いい加減にしなよ。表まで聞こえてるよ〜」

 呆れたようなイイダの声が割ってはいる。
 部屋の中。
 ナカザワの脇から身体を乗り出し。

「ヤグチ、そろそろポトフもいい感じだよ。アイボンもノノもおいで。お菓子食べよう」

 うわ、とか。
 やった。

 歓声があがって。

 五人で囲んだ食卓。
 まぁ一人はご飯、ヤグチとカオリはお茶だけとかいう実に統一性のないものではあったが。
 そして。
 大量の野菜を前にして。
 それでもヤグチが作ったという言葉に。
 残すわけにもいかず。
 カゴにさんざんからかわれながらもナカザワは完食。
 実に賑やかなものになった。
30 名前:つかさ 投稿日:2004/03/12(金) 23:37
>>8 名無し読者さん
>絶妙な痛甘さの虜です。
痛甘になるかは本当に・・・・わかりませんが。
痛いシーンはあります、そして甘いシーンも(きっと意味は違)
更新ペースだけは優良でいきたいものです(待て)

>>9 名無し読者さん
>痛い系のtsunagiかー
・・・・・まだ安倍さん登場してませんが。
おいしい役どころにいるのはいてると思うんで・・・・過去、tsunagiですと
宣言しつつ。tsunagiのかけらもなくなった話は多数あるんで・・・・
あまり期待しないでください(おい)

加護さんと姐さん絡ませるの初めてだったんですが。
意外と書きやすかったです。

っつ〜ことで今日の更新終わり。
31 名前:名無し読者。 投稿日:2004/03/13(土) 02:55
加護さんと姐さんの絡み微笑ましいです。
次期王女の矢口さんって設定も面白いですね。
32 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/13(土) 09:07
すんげぇオモシロイです
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/13(土) 11:51
姐さんと加護ちゃん面白いw
空飛ぶ勉強の話とかもそのうち出てくるのかな。
34 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/13(土) 16:06
〜〜〜3〜〜〜

 夕暮れ前。
 王宮に戻る二匹の馬。

「楽しかったよ〜」

「そやな」

 終始笑顔のヤグチを見て。
 ナカザワも至極満足げ。

「また行こうね。絶対だからね」

 何度もそう繰り返すヤグチの手には。
 大事そうに抱えられたシロツメクサの花冠。

『凄く綺麗なのです。次来たら案内します』

 別れ際。
 ツジとカゴがくれた。

「あんたら姉妹みたいやったで。・・・・・・背丈もおんなじくらいやったし」

「・・・・・むぅ。んじゃユウコがお母さんっ!!」

 てっきり。
 反論が来ると思ってたヤグチだったが。

「ヤグチ・・・・・・寂しくないか?」

 不意に聞こえてきた声は。
 真面目なものだった。
35 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/13(土) 16:06
「・・・・・・・・ユウコ?」

 ヤグチは馬を止める。
 ナカザワも手綱を引いて。

「・・・・・・・・・寂しくないに決まってるじゃん」

 今、自分の顔を照らし出すのが。
 明るい昼間の太陽でなく。
 沈みかけの夕陽であったことに。
 ヤグチは心から感謝する。

 顔は下げない。

 真っ直ぐにナカザワの眼を見つめ返すヤグチの顔を見て。

 ナカザワは何も言わずに。
 ため息をついた。

「・・・・・・・・ユウコ?」

 普段と違う態度。
 それが不安を煽る。

「ツジ、空、飛べるんかなぁ」

 全く関係のない話。
 ナカザワの表情は。
 夕陽の影になって。
 わからない。

「ツジが飛びたいって思ってるならいつか飛べるんじゃないかな・・・・・飛んで欲しいって思うよ」

 例え。
 夢物語だとしても。

 願いつづける限り。
 希望は消えない。

 そう信じたい。
36 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/13(土) 16:06
 ナカザワはヤグチに気付かれないように苦笑する。

 今、自分が抱いている根拠のない不安。
 全部を話してしまえばどれほどすっきりするだろう。
 そして。
 それは。
 ヤグチを眠れないほどの不安な気持ちに陥れることだともわかっていても。

 ナカザワは眼を閉じた。

「ユウコ?」

 いつの間にか。
 ヤグチは馬をおりていた。

 差し出された腕。
 心配そうな表情。

「何、考えてる?」

「・・・・・・何も」

 ナカザワも馬をおりる。
 そのまま数秒間。
 ヤグチを見つめる。

 ナカザワはヤグチの前にひざまづいた。

「ユ、ユウコ?」

 驚きを隠しきれてない声。
 二人の時にこんな行動をナカザワがとったのは初めてだった。
37 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/13(土) 16:07
「アタシはアンタを守る。アタシの生命をかけて」

 それは、誓い。

「覚えといて」

 そっとナカザワはヤグチの手のひらに。
 キスを落とした。

「な、何言ってんだよ?らしくないよ?」

 ヤグチの手のひらが熱くなった。
 きっと顔も真っ赤になってるかもしれない。

「何動揺してんねん?」

 立ち上がったナカザワは、いつも通り。
 ニヤリ、と意地悪く笑うとこまで。

「たまにはこ〜ゆ〜のもええやろ?ってか帰るで。たいぶ遅くなってもうた」

「誰のせいだよっ!!」

 ヤグチの声を聞いているのかいないのか。
 ひらり、とナカザワはヤグチの方を振り向きもせず馬にまたがる。

「置いてくで」

「あ、ひどっ。ってか何なんだよ、一人で納得すんじゃねぇよっ」

 文句を言いながらも。
 太陽の傾き具合。
 ヤグチも慌てて。
 馬に飛び乗る。

「超特急や。遅れんなや」

「ユウコこそっ」

 疾駆する2頭の馬。
 夕陽が照らし出す。
 紅く。
 したたるような血の色で。
38 名前:つかさ 投稿日:2004/03/13(土) 16:14
ちょっとでかけるもので中途半端な時間で更新。

>>31 名無し読者。さん
>加護さんと姐さんの絡み微笑ましいです。
はい。もうワンシーンくらい加護さんと姐さんの絡みはでてきます。
そっから先は・・・どうだろ。
元ミニモニメンバーもいい感じで動いてくれてて嬉しい限り。

>>32  名無し読者さん
>すんげぇオモシロイです
何かストレートに嬉しかったです。頑張ります。

>>33 名無飼育さん
>空飛ぶ勉強の話とかもそのうち出てくるのかな。
・・・・す、鋭い。
そのうち出ます。まぁうちの話はあくまでも姐さんとヤグチさん主体なんで
そこまで深くは書かないとは思いますが。

次の更新は週明けになりそうです。
ふと気付けば。
多分今まで書いた中で最多登場人物を誇る作品になりそうです。
出てくるメンバーは相変わらずなんですけどね(w

今日の更新はここまで。
39 名前:名無し読者。 投稿日:2004/03/14(日) 12:00
連日更新だ〜。(w
週明け楽しみに待ってます。
40 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/15(月) 23:17
第二章

〜〜〜1〜〜〜

 それからしばらく。

 ナカザワはヤグチの前に姿を現さなかった。
 いや。
 姿だけなら何度も見た。
 警備についている姿。
 当然。
 声をかけることなんてできなくて。

 いつもナカザワの側には誰かがいた。

 勿論、ヤグチの側にも、だが。

「ば〜〜か」

 自室。
 バルコニーで。
 ヤグチは一人、空を眺めていた。

『寂しくないか?』

 不意に。
 よみがえる、声。

 ぎゅっと。
 ヤグチは唇を噛み締めた。

 まだナカザワが近衛隊の隊長になる前。
 何年も。
 ヤグチの側にいてくれた時期があった。

『マリ様』

 その呼び方を嫌がったのは自分の方だった。
 だから、約束した。

 ヤグチ。

 そう呼んでくれる声があったから。
41 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/15(月) 23:18
 ナカザワだけがヤグチを甘やかさなかった。
 さすがに手こそあげることはなかったけれど。
 厳しい声と叱責。
 それに萎縮してしまった時期もあった。
 でも。
 そう。
 後で知った。
 ナカザワが何年もヤグチの側にいたのは。
 どうやら後継者争いのいざこざが持ち上がっていた時期だったらしい。

 周囲の態度の変化。

 不安定になっているヤグチを支えたのは。
 まぎれもなく、ナカザワだった。

 今でもはっきりと覚えている。

『アタシはアンタがこの国の後継ぎやから仕えてるんやない』

 ナカザワだけが。
 ありのままのヤグチを見ていた。

『もしアンタが、全部をなくしたとしても、アタシはアンタの側にいる』

 当たり前のことのように。

『アタシはアンタを守る。アタシの生命をかけて』

 ヤグチは眼を閉じる。
 フラッシュバックする、光景。

 あの紅い夕陽の下で。
 ナカザワは何をヤグチに伝えたかったのか。

「言葉、足りなさすぎなんだよ・・・・・・・アホ」

 自分の知らないところで何かが。
 動き始めている。
 間違いなく。
 ナカザワはそれを知っている。

 ・・・・・・・・・・。
42 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/15(月) 23:18
 ヤグチはしばらく眼を閉じていた。
 暗闇。
 静けさの中。
 中庭に何かの気配を感じて眼をあける。
 きっと夜間の見回り途中なのだろう。
 ナカザワはきっちり近衛隊の制服を着こなして、淡々とした表情を見せている。

「・・・・・・、ユウコ」

 小さく零れ落ちた呟き。
 届くはずもないけれど。
 不意にナカザワがこちらを見たような気が、した。

 このバルコニーは何処からも死角になっているはず。
 そうは思っても。
 ヤグチは知らず、息を詰める。

 ナカザワは不思議そうにしばらくこちらを見上げていたが。

 不意に何かに気付いたようで、視線を他の方向にやる。

 ヤグチは。
 見ていた。

 暗闇から出てきた人影。
 差し出されたモノに。
 驚いた様子だったナカザワが。
 その人影と三言四言交わし。
 嬉しそうに笑ったのを。
 優しく。
 その人影を抱きしめるのを。

 そう、それは。
 ヤグチがイイダから教えてもらった日。
『大好きな人にチョコレートあげて好きですって告白する日』
 ぎゅっとさっきより更に拳を握り締め。
 ヤグチはそれ以上見なくて済むように。
 ただ、涙を堪えて。
 俯くしかできなかった。
43 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/15(月) 23:18
ーーーーーーーーーーーー

 王宮の深夜の見回り。

 ナカザワは結構その時間が好きだった。

 静寂。
 昼間からは想像もできないほどの暗闇。

 怖いのは。
 昼間、あたりにウロウロしてる魑魅魍魎。
 表の仮面を外したら何を考えてるのか。
 利益や損得。

 器は怖く、ない。
 怖いのは中身・・・・・・・。

 ナカザワは苦笑い、して。

 不意に。
 視線を感じた、と思った。

 振り仰いだ先に見えたのは、壁だった。

 ・・・・・・・・あの辺りは・・・・・・ヤグチの部屋?

 城の設計は全て頭の中に叩き込んである。

 侵入者?

 すぐさま浮かんできた考えを。
 追い払う。

 昔。
 後継者争いのごたごたがあったとき。
 ヤグチの護衛を何年もナカザワは任されていた。
 絶対に誰も侵入できない場所。
 それだけを考慮してナカザワはヤグチの部屋を選んだ。
 侵入者は絶対に有り得ない。
 そうすると、感じた視線は。
44 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/15(月) 23:18
 ・・・・・・・ヤグチか?

 都合のいい考えに。
 再度ナカザワは苦笑する。

 パキ。

 小枝を踏む音。

 ナカザワは素早く剣の柄に手をかけた。

「誰や?」

 こんなに近づかれるまで。
 気配を感じなかった自分に舌打ちしながら。
 ナカザワの口から出るのは低い、声。

「・・・・・・・ユウ、ちゃん」

 中庭の。
 木々の間から姿を現したのは。
 ヤグチに仕えている、侍女。

「何や・・・・・・ナッチか」

 安堵を感じつつ。
 ナカザワは警戒を解かない。

「どうしてん?こんな時間に」

「馬鹿っ!!」

 声はひそめながら。
 アベはナカザワに近づく。
 暗がりに怯えるように。
 アベの身体が震えているのに気付き。
 ナカザワはやっと警戒を解いた。

「馬鹿って何やねん・・・・・・アタシ何かしたか?」

 そういえばしばらく会ってなかった。

 涙眼になりながらナカザワを見上げてくるアベに。
 戸惑いを覚えながら。
45 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/15(月) 23:19
 それでも。
 こんな時間にこんなとこに来るなんて多分、よっぽどのことなのだろう。

「今日、会いに来てって言ってたっしょ?」

 ナカザワは首を傾げる。
 申し訳ないが。
 ・・・・・・・・覚えてない。

「今日、バレンタインだったんだよ?」

 責めるような響きに。
 やっと合点がいく。
 困ったようにナカザワは髪の毛をかきあげる。

「・・・・・・ナッチ」

「ナッチ、待ってたんだよ?」

 差し出されたモノと。
 零れ落ちる涙。

 不謹慎かもしれないが。
 想いの強さに。
 ナカザワは微笑みを浮かべた。

「ごめん」

 そのまま。
 未だ震えているアベの身体を自分の腕の中に抱き込んだ。

「・・・・・・・怖かったよぉ」

 やっと安心したのか。
 グスングスン、と。
 腕の中でアベは鼻をすする。

「・・・・・・ありがとな」

 忙しかった。
 そんな言い訳より。
 感謝の言葉が。
 ナカザワの口から発せられ。
46 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/15(月) 23:19
「・・・・・・・馬鹿。もう知らない」

 そう言いながらも。
 アベはナカザワの身体に手を回したまま。

「悪かったって」

 ナカザワはアベに軽いキスを落とす。

「今日はこれで機嫌直して?」

 さすがにこれ以上は。
 まだ見回りの最中でもある。
 それでもさすがにまだ、アベは拗ねている。

「どうせユウちゃんはマリ様の方がナッチより大事だもんね」

 その言葉。
 ナカザワは肯定も否定もしない。
 いつものことだ。

「ならどうすんねん?」

 揶揄するような響き。
 アベは挑戦的にナカザワの眼を見つめた。

「絶対に渡さない。マリ様とはこんなこと、できないんでしょ?」

 重なる、唇。
 先ほどよりも、深く・・・・・・・・。

「・・・・・・っ、もぉええやろ?」

 途中で。
 ぐい、と。
 ナカザワはアベの身体を引き離す。

 潤んだアベの瞳。
47 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/15(月) 23:19
 ナカザワは眼を逸らす。

「・・・・・・・・・怒った?」

「別に。送っていく」

 淡々と告げられる言葉に。
 アベは視線を落とした。

 その姿を見て。
 ナカザワは小さくため息をついた。

 突飛な行動をとって迫ってくるかと思えば。
 急にこんな風な弱気な態度。
 ・・・・・・・そして。
 それが嫌いなわけじゃない自分に。

「もうちょっと時間とれるようにするから。・・・・・・な?」

 宥めるように肩を抱いて。
 歩くように促す。

「・・・・・・・わかった。今日は我慢する」

 アベの言葉を聞きながら。

 この国の情報が漏れている。
 最近、ナカザワたち近衛隊は、血眼になってその密通者を探ろうとしていた。
 今は、まだささいな情報しか漏れていない。
 今は、まだ。
 いろんな場所で情報収集をしていると。
 変な噂も聞こえてきた。

 隣国の王女が行方不明だ、と。
 科学者や有力者たちの失踪。

 微妙なバランスの上になりたっている王国の力関係。

 何かが起こる、かもしれない。
 止めれるだろうか?
 止めきれる、だろうか。

 ヤグチの身に、危険が迫る前に。

 厳しい表情を崩そうともせずに。
 脇を歩くナカザワを。
 アベは切なげな視線で見つめていた。
48 名前:つかさ 投稿日:2004/03/15(月) 23:24
>>39 名無し読者。さん
>連日更新だ〜。(w
ストック続く限りさくさくと・・・・まぁしかし、3章終わったら止まる予定(w

やっとなっち登場です。
っつ〜か・・・・矢口さん。
頑張らないでゆっくり休んで下さい。
届くことないメッセージなんすけどねぇ。
頑張らなくていい、と。
まぁ頑張りたきゃ頑張れ、と。
自分のスタンスはこんなもんです(苦笑)
49 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/16(火) 02:40
なっちゅーキタ〜(w

50 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/16(火) 16:06
安倍さんとても積極的でw
この3人がまた微妙な立場関係ですね、どうなるんだろ(ワクワク
51 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:09
〜〜〜2〜〜〜

 長く続く回廊。

「マリ様。お疲れのようですが」

 控えめな声。
 ヤグチは小さくため息をついた。

「大丈夫。それよりごめんね、サヤカ。わざわざ部屋まで送ってもらったりして」

「いえ。当然のことをしてるまでです」

 午前中の勉強時間。
 どうしても体調がすぐれなくて。
 結局中止になった。

 たまたま通りかかった近衛隊の副隊長、イチイに。
 部屋までの護衛の命令がくだったのは偶然。

 ナカザワの腹心、側近。

 当然のごとくヤグチとイチイの付き合いも長い。

「・・・・・・・サヤカが戻ってきてるってことはユウちゃんも・・・・・・?」

 ヤグチがナカザワのことをユウちゃん、と呼ぶことを知っている。
 限られた人間の中の一人。

「はい。ナカザワ隊長も今日は王宮の警備ということでしたので・・・・・・まぁ適当に息抜きしてるんじゃ
ないですか」

 軽い口調でイチイは答えて。
 それにつられてヤグチも。
 笑みを浮かべる。
52 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:10
 安心したような表情を浮かべるイチイに。

 心配かけてるなぁ、と。

 申し訳ない気分になるヤグチだったが。

「噂をすれば・・・・・・アレ、ナカザワ隊長じゃないですかね」

 イチイが足を止めた。
 回廊の手すりから下を眺めている。
 ヤグチもそれを見習って。
 覗きこもうとしたが。

「・・・・・・・っ、いや見間違いだったみたいです」

 焦ったように。
 イチイがヤグチの前に立ちふさがった。

「何?」

「申し訳ありません。見間違いでした。行きましょう」

 強引な態度に。
 むぅ、と。
 ヤグチは頬をふくらませる。

「嫌」

 こういう時。
 小さい身体は便利だなぁ、なんて。
 ヤグチはイチイの脇をすり抜けて。
 回廊の手すりの上に顔を出す。

「ちょ・・・・・マリ様っ!」

 制止の声もなんのその。
 ヤグチの視線の先。
 50メートルほどの距離に。
 抱き合ってる人影。

 見間違い様もなく。
 一人は近衛隊の制服に身を包んだナカザワ、だった。

「あちゃ・・・・・・」
53 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:10
 イチイは頭を抱える。
 多分。
 確実に。
 ナカザワにばれたら怒られる、だろう。

 ・・・・・・勤務中に女とイチャイチャしていた自分の非は棚にあげて。

 とりあえず、ヤグチに黙っといてもらおうと。
 何とか口を開こうとするイチイに。

「誰、あれ?」

 ヤグチがキツイ視線を投げかけてきた。

「・・・・・・・・・・」

 ヤバイ。
 ヤグチが怒ってる。
 付き合いが長い分だけ、わかる、その。
 ヤグチの後ろに漂うどす黒いオーラ。

「相手の子、誰?」

 イチイは何度か口を開けて、閉じてを繰り返し。
 変わらぬヤグチのキツイ視線に。
 やがて観念したかのように渋々口を開く。

「最近入宮した新しい侍女です」

「何でサヤカがそんなこと知ってるの?」

「・・・・・・・可愛い子が新しく入ったって噂になってたし・・・・・・ユウ・・・・・・いや、ナカザワ隊長が
珍しく彼女を侍女の中から選んだっていうのでも噂になってたんで・・・・・・・」

「近衛隊ってタラシの集りだっけ?」

 キツイ嫌味。

 イチイは頭を掻く。

 女子ばかりで構成された近衛隊の面々は。
 女同士の恋愛が禁止されてるわけでもないこの国で。
 良くもてる、というのは常識。
54 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:10
 ナカザワ自身もとっかえひっかえというわけではないが、女の出入りの激しい方だ、というのは
ヤグチも知っていた。
 知っていたが。
 現実見るのとでは大違い、という奴で。

 ナカザワ自身も女の出入りは認めてはいつつ。
 王宮内。
 ヤグチの眼の届く範囲で、そのような所業は一切見せなかった。

「・・・・・・まぁオイラが口出しする問題じゃ全然ないんだけどね。ユウコが誰と付き合おうがオイラには
関係ないし」

 しばらくの沈黙の後。
 ぽつり、とヤグチが呟いた。
 関係ない、とは言いつつ。
 ヤグチの表情は寂しげで。

 イチイの前では昔はともかく。
 滅多に最近は使ってなかった一人称。
『オイラ』
 きっと。
 今こぼれた言葉は
 ヤグチの本音なのだろうけれど。

「・・・・・・マリ様」

 なんとも言えない表情で、イチイがヤグチを見つめる。

 もう何も言わず。
 ヤグチはもう一度。
 視線を下に向ける。

「・・・・・・・ん?」

 先ほどから数分しかたっていないにも関らず。
 ナカザワは一人、だった。

 そして。
 ヤグチとイチイがいる回廊を見上げていた。
55 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:10
『あとで部屋、行くから。ヤグチに伝えといて』

 近衛隊だけに伝わる手旗信号。

『あんまり世話、やかさないでよ』

『悪かったってか、何でヤグチ、そこおんの?午前中、勉強やろ?』

『体調悪いみたいでさ。イチイ、部屋まで護衛しろって言われた』

『大丈夫なん?』

『わかんないけど、ヤグチは大丈夫って。心配ならユウちゃん、部屋送ってく?』

 少し、間が空いた。

『用事、できた。後で行く。そう伝えといて』

『了解』

 声は一切出さない。
 手で合図を送りあう二人を見て。
 ヤグチはちょっと羨ましそうな表情。

 会話を終えると一礼して。
 ナカザワはあっという間に姿を消した。

 しばらくヤグチとイチイはその後姿を眺めていた。

「ナカザワ隊長、後で部屋行くと。そう伝えといてとおっしゃってました」

「いいなぁ」

 あまりにくだけすぎた口調。
 人気のない回廊だが。
 どこで誰が何を聞いているかわからない。
 そして。
 口さがない連中が、暗躍している事実。
 ヤグチはコホン、と咳払いをする。
56 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:10
「もしよろしければこれを」

 イチイが胸のポケットから紙を取り出した。
 受け取ったヤグチはそれを見て。
 首を傾げる。

「手旗信号の基本パターンです。それだけではありませんが。まぁ暇なら覚えてみたらどうですか?」

 イチイは笑う。

「ただ、あまり便利なものではありませんよ。夜間は使えないですし・・・・近衛隊で使ってるのは私と
ナカザワ隊長くらいですね」

「くだらない会話してそうね」

「それくらいしか使い道ないですから」

 しれっと。
 当たり前のようにそんなことを言うイチイ。

「そんなこと聞いたら考案した人、泣くんじゃない?」

「それもまた時代の流れです。諦めてもらうしかないですね」

 使ってもらえるだけ有り難いと思え、くらいな。
 不遜な態度に。
 突っ込みたいのはやまやまだが。

「部屋、戻るわ」

 本気で頭痛がする。
 ナカザワともしばらく会ってなかったが、それ以上にイチイとも久しぶりで。
 話しこみたいのもやまやまなのだが。

「申し訳ありません。歩けますか?」

「歩けないって言ったらどうするの?」

 ヤグチのイタズラっぽい笑み。
 イチイはニヤリ、と笑う。
57 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:11
「勿論、おんぶさせて頂きます」

 クスリ。
 笑みを漏らして。
 ヤグチは歩き出す。

 後に続くイチイ。

「ケイちゃん、元気してるかな」

「たまに手紙が届きますよ。辺境警備隊で元気にやってるみたいです」

 黙ってヤグチは頷く。

 身分の違い、立場の違い。
 そんなものを超えて。
 イチイサヤカ。
 ヤスダケイ。
 大切な幼馴染。

 泥だらけになるまで遊んで。
 迎えに来るのは決まって。
 その頃、近衛隊に入ったばかりの新人、ナカザワだった。
『ま〜たこんなにして。怒られるのアタシやねんで』
 ぶつぶつ言いながら。
 実に適当に、汚しても怒られない服を用意して。
『好きなだけ遊んできぃ』
 あっさりとしたものだった。

 未来なんて。
 何もわからずに。
 笑いあっていた。

 15歳にになった時。
 ヤスダが近衛隊に入隊した。
 その後を追うようにイチイも。

 その頃はもう、そんなに会う時間も作れなかったけれど。

 ヤスダが辺境警備隊への配属が決まった時。
 三人で夜、中庭で送別会をした。

 初めてお酒を飲んだ。
 三人で眺めた夜空は。
 小さい頃、見た空と。
 何も変わってないような気が、した。

 けれど・・・・・・。

「マリ様?」

 訝しげなイチイの声。
 ヤグチはいつの間にか。
 部屋の前に来ていた。
58 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:11
「ぼんやりしてた。ごめん」

 一つ大きく頭を振る。

「ゆっくり休まれてください」

 イチイは本当に心配そうな表情を見せる。
 ふと。
 聞いてみたくなった。
 本当に純粋な好奇心。
 それだけだったのだが。

「サヤカ。人は空を飛べると思う?」

 一瞬にして。
 イチイの表情が変わった。

「ヤグチ?何処でそれを?」

 腕を痛いくらいに掴まれた。
 怖いくらい真剣な眼。

「・・・・・・・え?」

 イチイが近衛隊に入って。
 そんな行動をとったのは初めてだった。
 言葉の内容はともかく。
 どんなに人がいないところでも。
 敬語を使ってヤグチと話していたイチイが見せた感情。

「・・・・・・・・ただ、思っただけ・・・・・・なんだけど」

 何となく。
 ナカザワの名前も、ツジの名前も。
 出さない方がいい気がして。
 ヤグチは口ごもる。

「・・・・・・・・申し訳ありませんでした」

 戸惑ったヤグチの表情を見て。
 イチイは我に返ったようだ。
59 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:12
 ヤグチから手を離す。

「ただ、不用意に今、その話題を出すのは控えた方がいいと思います・・・・・・どうしても気になるなら。
ナカザワ隊長にお聞きください」

 硬い声。

 ヤグチは周りを窺う。
 誰もいてないようだ・・・・・が。

「ナカザワ隊長が私にそれを教えてくれるとは思えないんですが」

「ならばマリ様は知る必要のないことです」

 一刀両断。
 イチイはヤグチの言葉を切って捨てる。

「・・・・・・近衛隊は今、何をしてるの?」

 ナカザワを筆頭に。
 王宮に姿を見せなくなった近衛隊の幹部たち。
 何処で何をしているのか。

「私の口から申し上げるべきことではございません」

「サヤカ」

「用があるのを思い出しました。申し訳ありませんが、これで失礼させて頂きます」

 これ以上は。
 何を聞いても無駄だ。
 わかっていても。
 自分だけ、蚊帳の外。
 ヤグチは唇を噛み締めた。

 イチイは。
 ぎこちなく一礼して去っていく。

 何かが起こっている。
 そんな嫌な予感だけ残して。
60 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:12
ーーーーーーーーーーーーーーー

 ナカザワがヤグチの部屋に姿を現したのは、午後も遅くなってからだった。

「どうや、調子は?」

「ん・・・・・・ちょっとだるいくらい」

 ベッドの中からヤグチは答える。

 あれから、部屋に入って。
 すぐ眠ってしまった。
 昼食を知らせに侍女が来たが。
 欲しくない、と。
 とりあえず、眠りたかった。

「昼ご飯、食べてないんやって?」

 頭を撫でてくる優しい腕。
 ヤグチは黙って布団の中。
 コクリ、と頷いた。

「どうせそんなことやろうと思って、差し入れ持ってきた」

 部屋にナカザワが入ってきた時から気になっていた、手にしていた袋。
 その中から出てきたのは。

「うっそ、これどうしたの?」

 ヤグチは思わず布団の上。
 起き上がる。

「丁度非番で町行くっつってた奴おったから。頼んでん」

 自慢げに。
 ナカザワが手にしているのはフルーツ。
 王宮の食卓に上るような凄いものではないが。
 前に町に出た時、初めて食べて。
 ヤグチが大絶賛したもの。
61 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:12
「ご飯食べてからな?」

 すぐにでも食べたそうなヤグチは。
 拗ね顔。

「やだ。欲しくない」

「アタシが作ったって言っても?」

 いたずらっぽく。
 ナカザワが発した言葉。
 ヤグチはしばらく固まる。

「え?」

「味の保証はせん。何せ初めて料理なんてしたからな」

 堂々と威張って言うようなことではないと思うのだが。

 ヤグチの不安そうな表情に。
 ナカザワは苦笑する。

「大丈夫や。残りもんのご飯、煮てみた。香辛料とかはちょっと使ったけど」

「う〜〜」

 それでも渋るヤグチ。

「喰わんかったらもう二度と作ってやらん」

 これも堂々と威張って言うようなことではないと思うのだが・・・・・・。

「わかった」

 渋々頷いたヤグチだったが。
 ナカザワが侍女を呼ぼうとすると。
 それを止める。
62 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:12
「・・・・・・もし全部食べれなかったらごめんね」

 申し訳なさそうな表情に。
 思わずナカザワの顔がほころんだ。

「別に構わんよ」

「ちゃんとさ、食べれる時にまた作ってくれる?」

 先ほどの。
 不安そうな表情はこれを意味してたのか、と。
 やっとナカザワは気付く。

「いくらでも作るから。ヤグチのためやもんな」

「・・・・・・アホ」

 素直じゃない言葉の裏にこめられた気持ち。
 ナカザワもヤグチも。
 結局は似た者同士だ。

ーーーーーーーーーーー

 侍女が運んでくれた食事。

 包丁なんて持ったことない・・・・・・・。

 果物を剥くナカザワの危なっかしい手つきに。
 侍女は笑いながら、綺麗に剥いてくれた。

 ヤグチにとっては。
 綺麗に剥かれて串にさされたフルーツよりも。
 ナカザワが不器用な手つきで剥いてくれた。
 それが、美味しかった。

 無理せんでええで?

 食べてるヤグチよりも。
 作ったナカザワの方が何だか恐縮してた。

 でも。
 ナカザワが作ってくれたお粥・・・・・雑炊もどきは。
 あっさりとしてて、それでいて少し辛めの味付け。
 ヤグチの好みを充分把握してるもので。
 凄く美味しかった。
63 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:13
 殆んど食べて。
 薬を飲んで。
 再びベッドに横たわったヤグチ。

「大丈夫か?気持ち悪くないか?」

「・・・・・・・何だよ、そんなに自信なかったのかよ?」

 やっぱり頭を撫でてくれる優しい手に。
 ヤグチは眼をつぶる。

「そ〜ゆ〜わけやないけど」

「手、ちゃんと洗っただろうな?」

「当たり前やろうがっ!」

 笑いが漏れる。
 当たり前の、空気。
 空間。

「寝る?」

「ううん。気持ちいい。・・・・・・・安心する」

 本当に。
 眠ってしまいたい気持ちもあるけれど。

 起きたらきっと。
 絶対。
 ナカザワはいない。

「ユウコ・・・・・昼間の子、さ」

「うん」

 優しい手つきは変わらない。

「好きなの?」

「・・・・・・・ん。大事に思っとる」

「・・・・・・・・オイラよりも?」

 手が、止まった。

 ヤグチは眼をあける。
 見上げたナカザワの表情は。
 この場にふさわしくなく、真剣なものだった。
64 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:13
「・・・・・・・真面目に答えていいんか?」

 ヤグチは眼を閉じた。

「ううん。いい」

「・・・・・・・・なら聞くなや」

「ごめん」

 もう一度。
 手が動き始める。

 素直に謝ったヤグチの心を。
 真剣になったナカザワの心を。

 お互いにわかりながら。

「んでなぁ」

 不意に。
 ナカザワが口を開く。

「ん〜?」

 ぽやぽやしてたヤグチの耳に飛び込んできた声は。
 言葉は。

「アタシ付き合ってる子、ちゃんと紹介しときたいねんけど」

 とんでもない言葉で。

「・・・・・はぁ?」
65 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:13
 何を言ってるんだ、コイツは?

 思いっきり。
 ヤグチは覚醒する。
 というより。
 ガバ。
 思わず勢い良く起き上がり。

「はい?」

「仲良くしたって欲しいっつ〜か。・・・・・まぁ会った方が早いかなと」

 有無を言わせない強引さ。

 ちょっと待ってよ。

 ヤグチの言葉を聞くより何より早く。

「ナッチ。どうせいるんやろ?」

 ナカザワが扉に向かって声をかけていた。

ーーーーーーーーーーーーー
66 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:13
「アベ、ナツミです」

 とても。
 不機嫌そうな、表情に声で。
 アベはヤグチに挨拶をする。

「・・・・ヤグチマリです」

 負けないように。
 眼に力を込める。

「知ってます」

 ぷい、と逸らされた視線。

 何なんだよ〜。

 救いを求めるように、ヤグチはナカザワに視線を走らせる。
 困ったような・・・・・顔をしてると思いきや。
 ナカザワは思いっきり。
 開き直った表情。

 コイツがこんな表情をしてる時は。
 ロクな時じゃない。

 過去の経験からそれを知っていたヤグチだったが。

「しばらくまた勤務が忙しくなるので、こちらに顔を出す機会もそうないかと思いまして」

 ヤグチは顔をしかめる。

 これ以上?

 ナカザワの身体は。
 以前にも増して痩せたように思う。

「どういうことだべさっ」

 アベが騒ぎ出す。
 一瞬、アベの訛りを。
 聞いたことがあるような気がしたヤグチだったが。

「まぁそういうことで、マリ様の側にナッチを置いていただけないかなと思いまして」

「「そんなの聞いてないっ!!」」
67 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:14
 奇しくも。
 二人の声が揃う。

「侍女長の許可は頂いております」

 嫌だ、と言わせる隙もあたえず。

「何だべそれ。ナッチの意志は無視かい?!ユウちゃんの馬鹿っ!!」

「馬鹿って何やねん。だいたいアタシの出身の方はアホは言うても馬鹿っつったらアカンのやっ」

「そしたら何度でも言うさっ。ば〜かば〜かば〜か」

「アタシ、カバちゃうわっ」

「そ〜ゆ〜こと言うから馬鹿なんだべさっ!!」

「何やとっ?!」

「だいたいねぇ、ユウちゃんはいつだって、マリ様マリ様。今日の約束だってドタキャンしてさぁ」

 思わず、呆然と。
 ヤグチはナカザワとアベのやり取りを聞いていたわけだが。

 拗ねたようなむくれたような。
 アベの素直にころころ変わる表情。
 ついでに言うなら。
 挨拶した時の不機嫌そうな様子の理由もわかって。
 ドタキャンくらったのかぁ。
 そりゃ怒るよねぇ。
 うんうん。
 納得したりなんか、する。

「体調悪い奴がいたら心配するやろ。それもしたらアカンって言うんかいっ!」

「ナッチそんなこと言ってないべさっ」

「あのさぁ」
68 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:14
 とりあえず。
 いい加減ベッドの足元。
 外にまで聞こえそうなやりとりと。
 自分のことをすっかり忘れ去ってしまってそうな二人に。
 ヤグチは声をかける。

 途端にピタッと止まるやりとり。

「・・・・・・・・・・ぁ」

「も、申し訳ございません」

 バツが悪そうな顔してるナカザワと。
 アベは顔を真っ赤にしてる。

「別に構いません。今日は私が調子を悪くしてしまってナカザワ隊長には迷惑をおかけしたので、
そんなに怒らないでいただけますか?」

 コクコクと。
 慌てたように頷くアベにヤグチは笑いかける。

「ナカザワ隊長の推薦と言うことでしたら、私の方は一向に構いません。ただ、アベさんが嫌だと
言うのでしたら勿論それは考慮にいれてもう一度侍女長と話しますけれど」

「いえ、全然いいべさ」

 焦ったようなアベの口調。

「きっと私たち、気があいそうな予感がしますわ。・・・・・・ナカザワ隊長のことでは、ね」

 多少の嫌味も込めて。
 ちらり、と。
 ヤグチがナカザワを見ると。

 え?

 ナカザワは。
 驚くほど冷めた視線で。
 アベを見ていた。
69 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:14
「・・・・・・・・・二人で何を言われるのか。覚悟しておきます」

 すぐにナカザワはその表情を消し。
 微苦笑を浮かべる様は。
 いつも通りだったけれど。

「それでは。私はこれで失礼させて頂きます。まだ仕事が残ってますので」

 言外に。
 アベに今日はもう会えない、という意味も含ませて。
 ナカザワは優雅に一礼し。
 部屋をでていく。

「・・・・・・・・・・忙しい人だなぁ」

 ヤグチは嘆息する。

「でも、マリ様のことになるとどれだけ忙しくても、時間を作る人、ですよ」

 少し羨ましげなアベの言葉。

 先ほどのナカザワのやり取りとは違う。
 宮廷言葉。

 ヤグチは小さくため息をつくと。

 立ち上がった。

「・・・・・・ぁ。身体のお加減はもう大丈夫なのですか?」

 慌てて。
 アベがヤグチを支えようと近づく。

「もう大丈夫」

 身体のだるさ。
 少し残ってる気もするが。

 いつの間にか。
 夕暮れ。
 沈む太陽をヤグチは窓から眺めた。

「私は・・・・・アベさんが羨ましいけれど」

「・・・・・・・・・・どうしてですか?」

「私はアベさんの立場にはなれないから」

 はっきりとそう告げて。
 そのまま。
 ヤグチは俯かず、真っ直ぐに太陽を見つめていた。
 眩しいはずの太陽が唯一。
 柔らかい光を放つこの時間が。
 ヤグチは昔から好きだった。
70 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/16(火) 23:14
「私は・・・・・・この国の後継ぎを産まなければならない」

 王族には許されない、自由恋愛。
 求めてはいけない、温もり。
 禁忌。

 幼い頃は知らなかった。
 気付かなかった。

「・・・・・・・・・マリ様」

 気遣うような声のトーン。

「ユウコをよろしくね」

 そう言って綺麗に笑ったヤグチ。
 何故笑えるのか。
 ・・・・・・・・アベにはわかった。
 同じさだめを持つ者として。

 知らず。
 アベはヤグチを抱きしめて。
 涙をこぼしていた。

 それから。

 急速に二人は仲良くなった。
71 名前:つかさ 投稿日:2004/03/16(火) 23:20
>>49 名無し読者さん
>なっちゅーキタ〜(w
・・・・・・・はい、ただどこまでなっちゅーが続くのかは・・・・・・(滝汗)
ほんと申し訳ないです(苦笑)

>>50 名無し読者さん
>この3人がまた微妙な立場関係ですね、どうなるんだろ(ワクワク
更に微妙な立場関係に持っていきます。
っつ〜か姐さん、さりげに鬼畜だ(w

伏線貼りまくりの章なんで読みにくいかも知れないですが・・・・この章ラストと
3章であぁなるほど、と思っていただければ。

矢口さん復帰祝いというわけではないですがどこで切ればいいのかわからず大量更新(w
72 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/17(水) 08:06
やっぱりなっちも○○○○○(w
大量更新大歓迎〜。

裕ちゃんが主演ドラマの主題歌歌うそうで・・・作詞作曲つんくさんらしい・・・。
今日も主題歌決定お祝いに大量更新お願いします(w

73 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/17(水) 23:17
ツナギだ〜。
市井もキタ〜。
74 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/17(水) 23:37
〜〜〜3〜〜〜

「だからさ、その時のユウちゃんにやられちゃったんだな、ナッチは」

「たまにさ、へタレなくせにめちゃ格好いいんだよね、あの人」

「そうそう普段なんか、めっちゃ弱々なのにねぇ」

「言えてるっ!」

 キャハハハと。
 楽しげな声が。
 中庭の休憩所から漏れ聞こえてくる。

 アベは入宮して一ヶ月ほどしかたたない新米の侍女だった。
 宮廷の作法など。
 見習いの期間をこなしている時に、ナカザワに出会った。

「ナッチ、ドジでさぁ。その時も怒られてこっそり泣いてたんだぁ」

『どうかしたか?』

 不意に現れた、影。
 アベは身体をすくませた。
 もうだいぶ夜も更けていた。
 相部屋の自分の部屋で泣くこともできず。
 暗がりも怖かったけれど。
 人気のない、王宮の片隅。

『いつもここで泣いてんねんなぁ・・・・・・・そんなに見習い、しんどいか?』

 泣きじゃくったまま。
 声も出せなかった。

『アタシの胸で良かったらいつでも貸すから。もうそんなに泣かんといてぇや』

 抱きしめられた腕。
 そして胸は。
 とても柔らかくて。
 暖かかった。

「それをだよ?後になって泣いてる子どもには弱いねん、ってちょっとひどくないかいっ?!」

「そんなのまだマシだよぉ。オイラなんてねぇ」
75 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/17(水) 23:37
 ナカザワの誕生日。
 ヤグチには自由に使えるお金なんてないし。
 凄く考えたのだ。
 頭が痛くなって。
 ご飯が食べれなくなるくらい。

『え?プレゼント?ありがとうなぁ』

 考えて考えて。
 あげたのはネックレス。
 王室のアクセサリーには手をつけるわけにはいかなかったから。
 こっそり侍女の一人に頼み込んでもらった銀の写真入れのペンダントにチェーンをつけて。
 ヤグチの写真なんて入れるわけにはいかなかったから。
 四葉のクローバーを入れた。
 幸運と。
 無事を祈って。

「それをだよ、三ヶ月でなくしやがったんだよ、あのアホっ!!!」

 凄くショックだった。
 まぁ、でも。
 後で聞いたところによると。
 それをなくした戦闘はひどかったらしい。
 勝つには勝ったが、半数以上が怪我を負い。
 死者も多数に上っていた。
 ナカザワ自身も、瀕死の重傷を負って。
 生きているのが奇跡だった、と。

「だからそれはいいんだけどさ。そ〜ゆ〜のも何も教えてくれなくて、ただ『なくした』って。それ
聞いてたらヤグチだって怒らずに済んだわけじゃん?」

「そ〜だよねぇ。絶対的に言葉不足。もう信じらんないくらいっ」

 拳を握り締めて。
 力強くアベが頷く。
 ・・・・・・・多分、実体験に基づいているのだろう。

「それにさぁ、オイラユウちゃんからプレゼントなんてもらったことないんだよ?今年二十歳になった
のだって、『そうなんや?おめでと』だけだよっ?!」

「それ言うならナッチだってさぁ。付き合って初めてのクリスマスだったんだよ?それをさぁ・・・・」

 延々と続きそうなナカザワへの愚痴、不満。
 というか。
 ナカザワはここ一、二ヶ月。
 完全に、ヤグチたちの前から姿を消していた。
 華やかなパーティの警備についているのは。
 見知った顔の近衛隊の面々だったけれど。
 ナカザワではなかった。
76 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/17(水) 23:37
 アベの所にも一切顔は出していないらしく。

『もう信じられないっ!!』

 アベが激怒していた。

 絶対に。
 完全に戻ってきてない、ということなど有りえないのだ。
 宮廷内の警備を一手に担っている近衛隊の隊長という職務。
 それが滞っているという話も聞かない。

 ということは。

「もう、何でナッチのところにもヤグチのことにも顔出さないんだべさっ。次、会ったら・・・・・・・」

「・・・・・・・アタシのことで盛り上がってる最中悪いんやけど」

 不意に。
 声が、飛んできた。

 え?

 ヤグチは速攻で後ろを振り向く。

「ユウコっ!?」

「ユウちゃんっ!?」

「こんな真昼間からこんな誰に聞かれるかわからん場所でアタシの悪口言わんといてくれへんかなぁ、なんて」

 ナカザワが苦笑いしてた。
 傍らにはイチイの姿もある。

 二人とも。
 疲労の色を隠せない表情。

「今戻ったので、ご挨拶をと思いまして」

 イチイが膝をつく。
 ちらっとナカザワはイチイを一瞥して。
 そのままイチイに倣う。

「ご無沙汰しておりました。やっと抱えていた調査も終わりましたのでまたしばらく宮廷任務に専念させて
いただきます」

 儀礼的なナカザワの挨拶。

「「ホントっ!?」」
77 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/17(水) 23:38
 アベとヤグチ。
 二人の声が重なる。
 嬉しそうに笑う二人とは対照的に。

 ナカザワ、イチイの顔は厳しい。

「・・・・・・・・ここで話してたの、まずかった?」

 いつにない二人の表情に。
 段々ヤグチとアベの顔からも笑顔が消える。

「・・・・・・・・そういうわけではございませんが」

 口を開かないナカザワに変わって。
 イチイが答える。

 中庭の池の真ん中にある休憩所。
 ここに来るには橋が一本だけ。
 誰が来てもすぐわかるということで。
 最近の二人のおしゃべりの場はもっぱらここだったのだが。

「ここだったら大丈夫じゃん。ユウちゃんもサヤカも立ちなよ」

 ヤグチに促されるように立ち上がる二人。

 よく見ると。
 最後に会った時より更にシャープになった頬。
 精悍になった身体つき。

 何処で何をしていたのか。
 聞いても答えてはくれないだろうが。

 沈黙が、支配する。

 イチイは。
 アベを凝視していた。
 厳しい視線。

「・・・・・・・・・どうしたのさ。ユウコ、おかしいよ?」

 やっとナカザワはヤグチの眼を見た。
 今まで。
 ナカザワはヤグチと眼を合わせていなかった。
 そのことに、ヤグチは気付く。

「・・・・・・・サヤカ。とりあえずこの件はアタシに一任してくれんか?」

 重い、静かな声。

「・・・・・・・・・いずれはっきりさせなければいけないことですよ?」
78 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/17(水) 23:38
「・・・・・・・・責任は、アタシがとる」

 そう言われて。
 イチイはやっとアベから視線を外した。

「・・・・・・・・わかりました。ただ、責任の一端は私にもあります。それだけは覚えておいてください」

「報告書、まかすわ。アタシは別の今日中に片付けなあかん書類あるから」

 イチイがぎこちなく一礼して。
 その場を去っても。
 ナカザワはしばらくその場を動こうとしなかった。

 落とされた視線は。
 何を見ているのか。

「ヤグチ、部屋まで送る」

 アベが不安そうに身じろぎしたのに気付いたのか。

「その後、ナッチな。大丈夫や、忘れてへんし」

 やっとナカザワが顔をあげた。

「アタシおらん間にアタシの悪口ばっかり言ってたんやろ?」

 場の空気を変えようとする、おどけた口調。
 何となく。
 それにのっていけなくて。
 ヤグチとアベは顔を見合わせたまま、口ごもる。

「絶対アタシのファン減ったなぁ。アンタらのせいやで」

 変わらないおどけたナカザワの様子に。
 やっと空気が動く。

「ユウちゃんがいないのがいけないっしょ?」

「そもそもファンなんているのかよっ!」

 ぴったりのタイミング。
 やっとヤグチとアベの顔に笑顔が戻る。

「そりゃいっぱいいるに決まってるやろぉ。ミカちゃんにノリちゃんにヨウコちゃんやろ」

「そんなにいるのかっ!」
79 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/17(水) 23:38
 キャハ。
 ヤグチは笑うが。

「・・・・・・・・・ふ〜ん」

 アベは笑ってない。

「・・・・・・・・・あ」

「ユウちゃん、後でゆっくりお話しよっか?ね?」

 ニッコリと。
 アベが笑う。
 決してその眼は笑っていないが。

「いらね〜こと言うからだよ」

 ヤグチがナカザワをこづく。

「アンタらがアタシの悪口言ってるのが悪いんやん」

「悪口じゃないよ、誉めてたっしょ?」

「どこがやねんっ!」

 呆れたようにナカザワはオーバーに肩をすくめてみせる。

「どこがって・・・・・・」

 ヤグチとアベは眼を見合わせて。

「「全部っ!!」」

 笑い声が池に響く。

「はいはい・・・・・・ってか、冗談言ってんともう行くで」

 ナカザワは重い腰をあげる。
80 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/17(水) 23:39
 思った以上に仲良くなった二人。
 ヤグチの笑顔に。
 橋を渡っている最中。
 隣りで。
 イチイが驚いたように足を止めたことに。
 ナカザワは気付いていた。
 ナカザワ自身も。
 宮廷内で。
 自分以外の相手に、そんな風に笑っているヤグチを見たのは初めてだった。

 アタシは間違ったんやろうか。

 ヤグチとアベを部屋まで送りながら。

 ナカザワの足取りは重い。

 ここ半年ほどの不穏な空気。
 密通者の特定。
 すべてがはっきりとした今。

 それでも晴れないこの気持ちはなんなんだろうか。

 ナカザワは自問をやめない。

「送ってくれてありがとう。ナカザワ隊長、無理だけはしないでくださいね?」

 ヤグチ部屋の前。
 ヤグチはにっこりとナカザワに笑いかけた。

 歩いている最中。
 心、ここにあらずだったナカザワに。
 ヤグチもアベも、勿論気付いていた。

 心配だね?
 うん。

 眼と眼でこっそり会話してた。

「・・・・・・・・寂しくなかったですか?」

 不意に自分の口から出てきた言葉。
 言ったナカザワ自身が一番驚いていたのだが。

「アベさんがいてくれたから。友達ができたみたいで、凄く楽しかったです」

 ・・・・・・・・・・・・。
81 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/17(水) 23:39
 ナカザワは。
 眼を見開いた。

 ヤグチとアベは。

 何だよ、照れるべさ。

 いいじゃん、ホントのことだし。

 聞かれないように、小さい声。
 楽しそうに笑いあっていた。

「・・・・・・・・そうしてると、何かペットみたいやな」

 何だと?
 何言ってるんだべさ?

 さすがに廊下で。
 どたばた騒ぎを起こしこそしなかったものの。

 見上げてくる二人の視線。

 自然とナカザワの口から笑い声が漏れた。

「そう言っていただくと、紹介させて頂いた甲斐がありました」

 心の迷いがふっきれた感じ。
 急なナカザワの変化に。
 ヤグチとアベがきょとん、としてるのがわかるが。

 ナカザワは笑みを漏らす。

 簡単なことやってんなぁ。

 アタシ、どうなるかわからんけど。

「失礼します」

 一礼して。
 アベと歩き出したナカザワの足取りは、軽かった。
 その胸にある決意は。
 限りなく重いものだったけれど。
82 名前:つかさ 投稿日:2004/03/17(水) 23:47
>>72 名無し読者さん
>やっぱりなっちも○○○○○(w
すげ〜・・・・・○○○○○がドキドキするんですが・・・・(w
自らネタバレは止めとこう(w

>裕ちゃんが主演ドラマの主題歌歌うそうで・・・作詞作曲つんくさんらしい・・・。
>今日も主題歌決定お祝いに大量更新お願いします(w
明日は大量更新です。ってか主題歌・・・・つんくさん・・・・・・。
はい、思わず調べてきました。ちなみに、今週末は名古屋に行ってきます(w
久々の生姐さんっ!!!ほんとに楽しみっす。

>>73 名無し読者さん
>市井もキタ〜。
市井さんのしゃべり方・・・・ちょい不安に思いつつ。
宮廷言葉と普段の言葉・・・・ん〜、使い分けするんじゃなかったかなぁとも思いつつ。

まぁぼちぼち・・・・話は進んでいきます。
今日の更新はここまで。
83 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/18(木) 00:12
ストーリーに引き込まれちゃってます。
毎晩読んで寝るのが日課になりつつ・・・(w
84 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/18(木) 16:31
不穏な動き、中澤さんの決意、
次で真相が明らかになるのかな、続き待ってます。
それにしても‥‥姐さんタラシだw
85 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:11
〜〜〜4〜〜〜

 それから数日が何事もなく過ぎたと思ったら。

 その日の朝、アベはヤグチの部屋にやってこなかった。
 ナカザワが戻ってきてから。
 アベの様子がおかしくなった。
 気にはなっていたが、周りに他の侍女がいたため、話を聞くことはできなかったけれど。

 アベの代わりに現れた侍女に聞いても。
『私にはわかりかねます』
 そっけないものだった。

 そして。

「武術訓練?」

 午前の勉強が終わったヤグチを部屋で待ち構えていたのは、ナカザワだった。

「うん。昼からアタシ、空きやし。しばらく相手できてなかった分、埋め合わせや」

 快活に笑うナカザワからは。
 不穏な空気はかもし出されていない。
 そう思ってしまいそうになるけれど。

 首を傾げるヤグチを前にして。
 ナカザワも不思議そうな表情になる。

「何や?久しぶりにカオリのとこにも顔出そう、って思っててんけど行かんの?」

「行く、行きたいっ!」

「なら早く支度しぃや。置いてくで」

 微妙な違和感。
 ヤグチに考える暇も与えず、嵐のようにナカザワは去っていった。

ーーーーーーーーーー

 イイダの診療所。

「何や姉ちゃん、また来たんか?」

 言葉の内容とは裏腹に。
 嬉しそうなカゴの声に迎えられた。

「アタシもいるんやけど?」

「げ」
86 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:11
「げって何やカゴっ。目上の人に会ったらまず挨拶って教わらんかったんかっ!」

「教わってないわっ」

「んじゃアタシが教えたる、ちょ、待て、逃げんなっ!!」

 どたばたと。
 挨拶代わりのようにおいかけっこを始めた二人。
 その部屋の奥で。
 イイダが笑っていた。

「こんにちわ」

 ヤグチがぴょこん、と頭を下げる。

「いらっしゃい」

 ヤグチはちゃんと挨拶ができて偉いねぇ、なんて。
 呆れたような視線をナカザワとカゴに向けるイイダだが。
 その眼は優しい。

「今、お茶いれたところだったんだ。勿論飲んでいくでしょ?」

「ウチの分、あるやんなぁ?」

「アンタは水で充分やろ」

「何やと?!おばちゃんこそ水でえぇやろ!」

「おばちゃん言うなっ!!」

 息を切らせながら。
 子ども相手にむきにならなくても。
 そう思いながら。
 ナカザワが楽しそうだったので、ま、いっか。
 ヤグチは一人頷く。

「ユウちゃんもアイボンもいい加減にしなさいっ!ユウちゃん、カオに話あるんでしょ?」

 珍しくイイダが一喝。

 とたんに大人しくなる二人。

「・・・・・・・・やっぱりばれてた?」
87 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:11
「何となくね」

 ちょっとバツの悪そうな顔をしながら。
 ナカザワは頭をかく。

「ヤグチ、アイボン、ちょっと向こう行ってて。お茶はもう入ってるから」

「みんなでお茶するんやないんか?」

 カゴの突っ込みに。
 ヤグチも大きく頷く。
 やけにはしゃいでいたナカザワ。
 きっと裏に何かあるというのは。
 確信に満ちた思いだった。

「お菓子も置いてあるから」

「やったっ!姉ちゃん、行こっ」

 イイダの一言で。
 カゴはヤグチの手を引く。

 懐柔されんの早すぎ。

 心の中でため息をついて。
 ヤグチが二人の様子を窺うと。

 真面目な表情で腕を組んでるイイダの側で。

「カゴ、アンタそれ以上横に大きくなったらヤバイねんから、ちょっとは控えや〜」

 能天気な声をあげてるナカザワ。

「ヤグチ、アンタもな。食べ過ぎたらあかんで」

 ひょうひょうとした口調からは何も読み取れない。

 黙ってコクリ、と頷いて部屋を出て行くヤグチを見て。
 ナカザワは満足そうに頷いた。

 ヤグチとカゴが部屋をでていくのをイイダとナカザワは黙って見送った。

ーーーーーーーーーーーーー
88 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:12
 暖かい風が。
 部屋を吹き抜ける。
 一枚、二枚。
 机の上に置かれていた書類が、舞った。

 部屋の中。
 ナカザワとイイダは無言で。

「ナッチをヤグチに紹介したんや」

 ナカザワはイイダと眼を合わそうとしない。

 イイダは無言で。

 町医者のイイダのところにはさまざまな情報が集う。
 ナカザワは眼を閉じる。

「ツジに会った」

 無邪気な笑顔を思い起こし。
 ナカザワは眉をしかめた。

「・・・・・・・・・助けてくれたの?」

「約束したやろうが」

 小さくナカザワは苦笑して。
 イイダの眼を今度は凝視する。

 隣国が空を飛ぶための、人体実験を行っている。
 それにツジが関っている。
 イイダからの密告だった。

「・・・・・・ホンマに子どもだけを集めて人体実験なんかやっててんなぁ・・・・・・」

 ナカザワは嫌そうな顔をして。
 そのまま、笑う。

「アタシには殺せんかった。子どもらは全部逃がした。だから安心しぃ」

 不安そうな顔をしているイイダ。
89 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:12
「逃がして・・・・・ユウちゃんは大丈夫なの?」

 近衛隊の、隊長。
 勝手な判断を下すこともできるが。
 きっと。
 逃れられない責任問題。

「アンタが気にすることちゃうやろうが・・・・・・なるようになるやろ」

 そう言いながら。
 ナカザワは視線を遠くに飛ばす。

 誰のことを考えているのか。
 イイダはナカザワから視線を外した。

「密告者の件も、今回の遠征ではっきりしたし」

 やはり。
 ナカザワもイイダも無言だ。

 イイダから得た情報。
 それが意味するものは。

「逃げないの?」

 イイダが。
 診療室の窓を。
 閉めに立ち上がる。

「何のために?」

 イイダの質問に。
 ナカザワは疑問形で返す。

 決意を秘めたナカザワの横顔。
 見つめて。
 イイダはため息をついた。

「・・・・・・・ヤグチは知ってるの?」

「知らん」

「でも、不安には思ってそうね?」
90 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:12
 しばらく。
 ナカザワは口をつぐんだままだった。

「こういう時だけ、勘、えぇねんから」

「ユウちゃんが関ってるからでしょ」

 苦笑を浮かべるナカザワの前に。
 イイダは立つ。

「全部ヤグチに話して。一緒に逃げて」

「・・・・・・・・・何のために?」

 見上げるナカザワの視線は。
 穏やかなものだった。

「アタシのために、ヤグチに全部を捨てさせることはできんよ。アタシはそれを望まん」

 ナカザワはきっぱりと言い放つ。

「・・・・・・・ヤグチがそれを望んだとしても?」

「聞かん」

 ナカザワは立ち上がった。

「アタシはヤグチを守るために生まれて来た。それが全てや」

「ユウちゃんっ!」

 イイダは泣き顔だ。
 対するナカザワの顔に。
 涙はない。

「ヤグチも泣くよ?」

 それを聞いて。
 ナカザワは困ったように。
 髪をかきあげた。
91 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:12
「どの道を選んでも、あの子の泣き顔しか浮かんでこんのよ」

 ナカザワは眼を細めた。
 閉められた窓。
 その眼はその向こうに何を見るのか。

「でもアタシは信じてる。アタシがいなくなったくらいでヤグチは駄目になるような奴やないって」

「違うよ。ユウちゃん間違ってるよっ」

 イイダの泣き声に。
 ナカザワはイイダを見つめる。

「間違ってると思うで。間違っててもな」

 やはり。
 ナカザワの声は静かだった。

「何が正しい答えなんか、アタシにはわらかんから。だからアタシはヤグチに胸を張れる答え、選ぶんや」

 イイダは首を振る。

「いろいろありがとな。・・・・・・・ないとは思うけど、もし何かが起こってヤグチがここ頼るような
ことがあったら力になったって」

 ナカザワは部屋を出ようとして。
 立ち止まった。

「会わない方が良かったんかもしれん」

 それは、独白。

「アタシがいなかった方がヤグチは幸せになれたんかもしれん」

 ドアノブを見つめて。
 ここを開ければ。
 もう、後戻りはできない。
 わかっているから。
92 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:13
「でも、アタシは、ヤグチに会えて幸せやった。ヤグチの傍にいれて。幸せやったよ・・・・・・・」

 イイダは。
 しばらくドアの前で立ち尽くしていたナカザワが。
 背筋を伸ばし。
 胸を張って、部屋から出て行く姿を。
 ただ見ていることしかできなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「姉ちゃん、このお菓子、おいしいなぁ」

 前、五人で囲んだテーブルで。
 ヤグチとカゴは並んで座る。

 お菓子の山に、よだれをたらさんばかりの勢いで。
 カゴが飛びつく。

「そうだね」

「姉ちゃん、全然食べてないやん」

 ヤグチは。
 隣りの部屋が気になっていた。
 でも。
 きっちりと閉まったドアからは。
 話し声は漏れてこない。

「・・・・・・・・・・姉ちゃん、ナカザワさんと付き合ってるんか?」

 お菓子を半分くらい平らげて。
 不意にカゴから発せられた言葉に。
 ヤグチは黙り込む。

「・・・・・・・・・付き合ってるように見える?」

「・・・・・・・・わからんけど、好き合ってるようには見える」

 ヤグチは少し笑った。

「うん」

 否定も肯定もせず。
 ヤグチは頷いた。

 ナカザワがいたから。
 ヤグチはヤグチでいられた。

「何でそんな顔するん?」

 ・・・・・・・・・・・。
93 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:13
「泣かんといてぇや。うち、何か悪いこと言った?」

 頬を伝う熱い液体。

「ご、ごめんね。カゴが悪いわけじゃないの。そうじゃない・・・・・・・」

 一生懸命拭うけれど。
 止まる気配がない、それ。

「・・・・・・・あんなぁ」

 カゴが大きな声を出す。

「ノノから手紙きてん。ノノ、もうすぐ空、飛べるようになるって」

 一生懸命な言葉。

「うちも最初はあんまり信じてなかってん。でも、ノノは空飛びたいって、行ってもうて」

 ヤグチは頷く。

「寂しかったけどな、でもノノが空飛べるようになるって聞いて」

 やっぱり涙は止まらないけれど。

「信じればきっと叶うねん。姉ちゃんも。叶うから、な」

 一生懸命な視線に。
 やっぱり、涙は止まらない。

「・・・・・・・・ユウコ」

 出てくる言葉は、それだけ。
 信じれば、叶うならば。
 叶うならば。
 願うことは、たった一つだけ。

 ヤグチは、信じることはできないけれど。

「ヤグチっ?!」

 驚いたような声に。
 カゴが慌てて診療室のドアを見つめる。
94 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:13
「どうしてん?」

 駆け寄ってくる足音。
 差し出される腕。
 それでも。
 その腕が。
 自分を抱きしめることはないと。
 知っている。

 知ってしまった。

 ヤグチは頭を振る。

「・・・・・・・・カゴ?」

「うちは何もしてない」

 焦ったような声に。

「違うよ、ごめん。違う」

 ただ、ヤグチは。
 否定することしかできない。

 眼に移るナカザワの手が。
 痛いくらい。
 白くなるくらい。
 拳を握り締めてる。

「・・・・・・・・・ヤグチ。ごめん。ごめんなぁ」

 いつの間にか。
 ナカザワが謝っていた。
 ヤグチに触れることはない。
 その距離で。

 立ち尽くすナカザワと。
 ヤグチの距離。

 カゴは見ていた。

 見ることしかできなかった。

 触れられない、ガラス細工のようなもろさ。

 ただ、見ていることしか、できなかった。

ーーーーーーーーーーーーーー
95 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:13
 診療所から離れる時。
 イイダは姿を見せなかった。

 ヤグチが泣いているときは、泣いていなかったカゴが。
 泣きそうな顔になって。

『また来てなぁ』

 そんな風に言ってたのが印象的で。

 ヤグチは馬に乗って。
 前を行くナカザワの背中を見つめる。

 何故ヤグチが泣いていたのか。
 ナカザワは追求してこようとはしなかった。
 でも。
 その空気の重さは。
 息苦しさを感じるほどだった。

「ヤグチ。ちょっと遠回りするか?」

 やっとナカザワが口を開いたと思ったら。
 いつも通りの声。
 振り返ったナカザワは。
 いつもの笑顔を見せていたから。
 ヤグチは何も言えなかった。
 それは・・・・・・いつものこと。

「練習していくか」

 冗談っぽく笑いながら。
 草原。
 ナカザワがヤグチに剣を投げて寄越した。

 握る柄の重み。
 ヤグチはぎゅっとそれを握りなおした。

「本気できてええで」

 ナカザワの表情は。
 真剣で。
 それでも隙のない、構え。
96 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:14
 何度対峙しても。

 息を呑む、瞬間。

 ヤグチが打ち込む。

 ナカザワの剣は。
 軽々と。
 宙を舞った。

「・・・・・・・・・・・・なぁ」

 喉元に剣先を突きつけられているというのに。
 ナカザワがヤグチに向ける視線は、穏やかだった。

「このままアタシ、殺してみん?」

「・・・・・・・・・・殺せるなら、殺してる」

 お互いの表情は。
 あまりにも対照的だった。

「・・・・・・・そやな」

 ナカザワが弾き飛ばされた自分の剣を拾ったと思ったら。

 今度はヤグチの剣が。
 宙を舞う。

 逆転する、立場。

 逆転する、表情。

「アタシのこと、怖くないんか?」

 剣先。
 喉元に突きつけて。
 する会話じゃない。

 それでも。
 ヤグチは笑う。
 穏やかな表情。

「ユウちゃんになら、いいよ」

「・・・・・・・・・アホやなぁ」

 すぐに。
 ナカザワは剣先を引っ込めた。

 見つめ合う。
97 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:14
 逸らさない。
 逸らせない、互いの眼。

「ヤグチ」

 ナカザワの声は。
 震えていた、かもしれない。

「アタシと一緒に、逃げんか?」

 ヤグチは。
 答える。
 迷いは、ない。

 あるのは。
 ナカザワを信じる心だけ。

「言わんでええ」

 遮ったのは。
 ナカザワだった。

 俯いたまま。

「ユウコ」

 アナタが望む答えが。
 言葉が。

 今、自分の中にあるものだとしたら。

 ヤグチが諦めてしまった。
 信じる心が、叶うのだとしたら。

「・・・・・・・・・・・・明日、近衛隊の緊急会議がある」

 搾り出すような声。

「ヤグチ、アタシのこと、嫌いになれるか?・・・・・・・憎めるか?」

 俯いたまま。
 頑なにヤグチの眼をみようとしない姿。

 見えてない。
 わかっているからこそ。
 ヤグチは頭を横に振った。

 そのまま。

「オイラのこと、信じれない?」
98 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:15
 ナカザワの肩に手を、伸ばした。

 触れ合う、指先と肩。

 ナカザワの身体が揺れて、視線が上がる。
 見つめあう、眼。
 ナカザワは眼をそらさない。
 その眼は。
 真っ直ぐだ。

 ヤグチは小さく笑った。
『もしアンタが、全部をなくしたとしても、アタシはアンタの側にいる』
 思い出した、言葉。
 あの時の。
 あのナカザワの言葉が、自分を救ってくれたように。

「例え、全世界が敵になったとしても。オイラはユウコを信じてる」

 一語一語はっきりと。
 ナカザワにヤグチの想いが届くように。
 ヤグチそう、告げた。

「・・・・・・・・・・・・」

 静けさ。
 風の吹く音だけが。
 二人を包み込む。

「カゴがさ、もうすぐツジが空を飛べるようになるって言ってたんだ」

 信じればきっと叶う。

 そう続けようとしたヤグチの言葉を再びナカザワは遮る。
 その眼は。
 さっきから一転して。
 寂しそうな色を、称えていた。
99 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:15
「知ってる。ツジにも会った」

 短くそれだけ告げて。
 ナカザワはヤグチから眼を逸らした。

「信じれば叶う、なんて。アタシはもう思われへんけど・・・・・な。元気しとったで」

 何で。
 何処で。

 何も聞けない雰囲気をナカザワはかもし出していた。

「ヤグチ、これやるわ」

 唐突に。
 ナカザワは右の耳からピアスを外した。

「・・・・・・・何で?ユウコ、それ大事にしてたじゃん」

 ヤグチが物心ついた時から。
 ナカザワがそのピアスを外したところを見たことがなかった。

『大事なものや』

 まだ何も良くわかっていなかった頃、ヤグチがねだっても。
 ナカザワはこれだけはアカン、と言って。
 くれなかったもの。

「大事やから、片方だけやる。・・・・・・・もうアタシから何もプレゼントもらったことなんてない、なんて
言わせへんで」

 不器用なウィンク。
 すぐに。
 ナカザワはヤグチから背を向けた。

 アベとの会話。
 覚えてたんだ。
 そんな風に、ヤグチがちゃかす前に。

 ドクン。

 ヤグチの心臓が。
 嫌な跳ね方を、した。

「行くで」

 相変わらずヤグチを待とうともせず、馬の背に乗ったナカザワは。
 妙にすっきりとした表情をしているけれど。

 ドクン、ドクン。

 嫌な鼓動は止まらない。

 やめてよ。
 こういう時のヤグチの第六感はやけにあたるんだから。

 自分で心臓を押さえても。
100 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:16
 止まる気配がない、それ。

 そして。
 それが外れてなかったというのは。

 ヤグチとナカザワが王宮内に戻った時。

 駆け寄ってきた。
 武装された数十人の近衛兵。

 ナカザワが馬から引きずりおろされるのを。
 ヤグチは呆然と眺めていた。

「ナカザワ隊長。反逆罪の容疑がかかっています。来ていただけますね?」

 言葉だけは丁寧だったけれど。
 後ろ手にされ。
 そのまま連行されるナカザワの姿。
 近衛隊のメンバーの視線は限りなく冷たく。

 反逆罪?

 ヤグチの頭の中、その言葉だけがぐるぐると回る。

「マリ様。ご無事でしたか?」

 馬から下りるのに手を貸してくれる近衛隊の隊員の声がやけに遠くに聞こえる。

「明日、緊急会議が開かれます。マリ様にも出席していただくことになりますので」

「・・・・・・どう、して?」

 ヤグチの声は掠れていた、かもしれない。

「どうしてユウちゃんが・・・・・・反逆罪、なの?」

 ナカザワ隊長と呼ぶことも忘れて。
 ヤグチの顔からは。
 血の気がひいていた。

 聞きたくない。
 聞かなければいけない。
101 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/18(木) 23:16
 矛盾する、気持ち。

「隣国王女、アベナツミの逃亡補助、及び隣国への密通の疑いがあります」

「・・・・・・・・・え?」

 頭を殴られたようなショック。

「アベナツミって・・・・・・・・」

「王宮へあがる侍女の身辺調査は確実に行っていたはずなのですが、申し訳ありません」

 頭を下げる近衛兵。

 ヤグチはナカザワの姿を探した。

 絡みあう、視線。

 嘘でしょ?

 ナカザワは。
 ヤグチを見つめていた。

 その視線は、否定も肯定も映し出すものではなかった。

 ヤグチにはわかった。
 ヤグチにだけしかわからなかかっただろう。

 その視線は。

 まるでヤグチとの別れを惜しんでいるかのように。
 真っ直ぐで。
 そして。
 ヤグチに別れを告げていた。
102 名前:つかさ 投稿日:2004/03/18(木) 23:30
>>83 名無し読者さん
>毎晩読んで寝るのが日課になりつつ・・・(w
なりつつ・・・どうなるのか(w
週末更新はちょっと来週も無理になります。
まだストックはあるので・・・大丈夫かと思いつつ(ちょっと弱気)

>>84 名無し読者さん
>それにしても‥‥姐さんタラシだw
タラシでへタレでかっけ〜姐さんじゃなくなったら娘。小説やめますっ(待て)

はい、だいぶ謎の部分は解明されたんじゃないかと・・・・自分の頭の中の構成と
文章力がついていってるのかは激しく不安に思いつつ。
後、明日から週末の更新はなしです。
次の更新は週明け。
やっぱ加護さんと姐さんの絡み、いい味出してるなぁと自画自賛しながら今日の
更新はここまで。
103 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/20(土) 13:06
相変わらず、姐さんと加護ちゃんいいコンビで。
姐さん……どうなるんだろ、やべ〜気になる。
104 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:22
第三章

〜〜〜1〜〜〜

 近衛隊の緊急会議。

「半年ほど前から、わが国の情報が隣国へ漏れていることが明らかになり、以後、ナカザワ隊長の
指揮下で我々近衛隊は内密な調査を行ってまいりました」

 会議室に淡々とイチイの声が響く。

「当初、隣国への情報の漏れはとるにたらないものでした。些細な・・・・・国王や王妃、マリ様の食事の内容、
王宮にいる近衛兵ではなく、侍女の数などです」

 王と、王妃、貴族たちも参加しているその会議は。
 時々はヤグチも参加していたものだった。
 聞いていてもわからない話。
 ただ、ナカザワがいたから、ヤグチはその日を楽しみにしていた。

 今日、そのナカザワの姿は、ない。

「どれほど王宮内を調査しても、密通者の特定には至りませんでした・・・・・まぁその程度の内容でしたら
王宮にいるものなら誰でも手に入る内容でしたし。しかし、密通者、密通経路がわからない状況を
放置しておくわけにはいかない、というナカザワ隊長の指示がありました」

「それはナカザワの指示だったのか?」

 王の重々しい声が部屋に響く。

「はい。危険な兆候があることを放置しておくわけにはいかない、というナカザワ隊長のご判断でした」

 イチイは。
 逃げることなく、王からの視線を受け止めた。

 王は頷く。

「我々は隣国付近まで調査の手を伸ばしました。その結果おもしろい情報を入手しました」

 イチイは手にしている報告書に眼をやる。

「隣国で後継者争いが起き、王女が行方不明というものです」

 ヤグチは眼を閉じる。
 それが・・・・・・ナッチだったというのか。
 中庭で。
 ヤグチとアベ、ナカザワとイチイで対峙した時。
 イチイがアベに向けていた視線の意味は。
 こういうことだったのか。

「・・・・・・それに付け加え、科学者や有力者が何人か失踪しているという事実。後・・・・・これは根拠の
ない噂ではありましたが、隣国が新兵器開発に力をいれているのではないかと」

「・・・・・・・・過程はいい。結果はどうだった」

 王の言葉に。
 イチイは。
 数瞬、黙り込んだ。
 そして口を開く。
105 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:22
「噂は事実でした。隣国は人体実験を行っていたのです」

「どんな?」

 王の質問は要所要所をついている。

「人間に空を飛ばせる、というものでした」

 え?

 ヤグチは凍りつく。
 聞いたことがある話。

『ノノ、空飛ぶための勉強してるんです』

 ツジの笑顔。

『学校があるんや。こっからずっと離れたとこに。姉ちゃん知らんかったやろ』

 自慢げなカゴの顔。

『不用意に今、その話題を出すのは控えた方がいいと思います・・・・・・どうしても気になるなら。
ナカザワ隊長にお聞きください』

 あの時の、イチイのおかしな態度。

「そこでは・・・・・・兵士ではなく。子どもを集めていました」

 息を呑んだように静まり返る大広間。

「空を飛びたい、飛べる、そう信じる子どもをかどわかしたり・・・・・・・言葉巧みにいい含めて人体実験
を行っていたのです」

「・・・・・・誰が調査を行った?」

 王とイチイのやり取り。
 激しいものではないが。
 周りの人間全てがその言葉に固唾を飲む。

「私と・・・・・・・・ナカザワ隊長、二人で現場に潜入しました」

「イチイ、お前も見たのか?」

 二人のやり取りは続く。

「見ました。・・・・・・・・子どもたちと話もしました」

 イチイは唇を噛んでいた。

「それは成功したのか?その子どもたちは・・・・・空を飛べるようになっていたのか?」

 ヤグチの脳裏に浮かぶ、カゴの言葉。

『ノノから手紙きてん。ノノ、もうすぐ空、飛べるようになるって』

 あの話が本当なら。

「・・・・・・・・・まだ実験段階で成功ではなかったです」

 イチイの声は苦しげだ。

「場所は?」

「・・・・・・・・・隣国との我が国の境目。辺境警備隊が足を踏み入れない僻地でした」
106 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:22
「何故すぐ報告しなかった?」

 厳しい叱責。

「・・・・・・・・・実験のデータは全て廃棄しました。実験が行われていた場所全て焼き払いました」

 それがイチイの答えなのだろう。

「実験に使われていた子どもたちは?」

 しかし止まらない王の追及に。
 イチイは黙り込む。

「イチイ」

「・・・・・・・・・生きている子どもたちは逃がしました」

「誰がそんな勝手な判断を下したっ」

 初めて王が声を荒げた。
 イチイは。
 覚悟を決めてるかのように。
 顔をあげている。

「ナカザワ隊長と、私です」

「・・・・・・・・・・ナカザワは全部自分が下した判断だと言っている」

「・・・・・・・・・え?」

「報告すべきだと主張するイチイに剣を向けて脅した、と」

「・・・・・・・・・・っ!!」

「弁明は認めん。黙れっ!」

 声を上げようとするイチイを王は怒鳴り声で制した。

「マリの侍女として仕えていたアベナツミが隣国の王女だということはいつわかった?」

「・・・・・・・実験が行われていた場所で確認が取れました。王女だということはわかりませんでしたが、
密通者が侍女だということは漏れる情報から予想はついてましたので」

「すぐ報告すべきだというイチイの意見に耳を貸さずナカザワが独断で時間を稼いだ、という報告
も受けている」

 あの時あの場所で。
 中庭。

『サヤカ。とりあえずこの件はアタシに一任してくれんか?』

『いずれはっきりさせなければいけないことですよ?』

『責任は、アタシがとる』

『わかりました。ただ、責任の一端は私にもあります。それだけは覚えておいてください』

 何故そんな話になるんだ?
107 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:23
 ヤグチは拳を握り締めた。
 それに。
 ナカザワがイチイに剣をむける?
 有りえない。

「ナカザワは隣国の王女アベと恋愛関係にあったらしいな?」

「それは・・・・・・・・」

 呆然と立ち尽くすイチイ。

 ヤグチは。
 アベの笑顔を思い出していた。
 いろんな話をした。
『ナッチねぇ、ユウちゃんが初恋なんだ。ヤグチにだって渡さないよ?』
 冗談ぽく告げられた。
 でもアベの眼は本気だった。

 何で。
 隣国の王女?
 ナカザワはいったいどんな想いでそれを受け止めたのだろうか。

「マリ。お前は侍女のアベと仲が良かったらしいな?知っていたのか?」

「え?」

 不意に向けられた話の矛先。
 ヤグチに向けられる、視線。

 ヤグチの顔色は真っ青で。
 動揺を隠せず小刻みに、震えていた。
 言葉に出さなくても、わかる態度。
 一同は納得し。
 同情の視線をヤグチに送る。

「・・・・・・・・・・・知らなかったのだな」

 優しげな声を出し。
 王は再びイチイに厳しい視線を向けた。

「お前のとった行動は決して許されるものではない。・・・・・・・しかし更に許せないのは」

 王は会議室の扉に目をやった。

「ナカザワをここへ」

 その言葉を待っていたかのように。
 扉は、開いた。
108 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:23
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「今話していた内容に相違ないな?」

「はい」

 突き飛ばされるように部屋の中に入ってきたナカザワは。
 縄で縛られ、ひざまづかされている。

「何故アベを逃がした?」

「アベナツミは・・・・・・催眠術にかけられていました。本人も密通をしてる自覚はなかたのです」

「そんなことは聞いてない。何故逃がしたか、と聞いてる」

 イチイとのやり取りとはまた違った。
 静寂、緊迫感が会議室には満ちている。

「・・・・・・・・・捕らえてどうするつもりだったのですか?」

 ナカザワは、顔をあげ。
 王の視線を動じることなく受け止めた。

「隣国との交渉の取引に使うつもりでしたか?・・・・・今の隣国の状況ではそれは無意味です。それでは
拷問にかけますか?・・・・・・・アベは何も知らなかった。自分が利用されてることも。人質としても無意味、
拷問にかけても大したことはしゃべらない・・・・・・・きっと最後は処刑されていたでしょうね」

 王の顔色は変わらない。

「格好の隣国から攻め込まれる口実を作ることを私は望みませんでした」

「・・・・・・・・・それだけか?」

「それだけです」

 ナカザワの声は静かだった。

 ナカザワの姿を見た瞬間。
 ヤグチは思わず立ち上がっていた。
 それでも。
 ナカザワの視線が。
 ヤグチに向けられることはない。

「ならば再度問う。何故空を飛べる研究に関ってた子どもたちを保護しなかった?」

「・・・・・・・・保護?実験を繰り返すためではなく?」

 空気が、変わる。

「お前は私を信用してくれなかったのか?」

 ナカザワは。
 一瞬言葉に詰まった。

「子どもたちは、空を飛べると言う夢を信じただけでした。子どもたちに罪はなかった」

 馬が交通手段のこの時代。
 人が空を飛べるというのは画期的な発明になるだろう。
 そして。
 それが意味するのは。
 その発明を所有した国は物凄い力、を持つということ。
 今までの戦争が無意味になる。
 それほどの意味を秘めている。
109 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:24
「・・・・・・・・・王がその子どもたちを使ってそれを戦力に育てあげるとは思いませんでした。しかし、
それを悪用しようとする人間は必ずでてくるでしょう」

 王は眼を伏せた。

「兵士を使っての実験であれば、拉致し、研究成果を我が国のために使うべきだと思います。しかし・・・・・」

「その判断はお前が下すものではない」

 王の言葉に。
 ナカザワは黙った。

「隣国王女の件に関してもそうだ。お前のしたことは越権行為、そして我が国を裏切る行為以外の何者
でもない」

「・・・・・・・覚悟はできています」

 ナカザワは頭を垂れた。

 昨日の草原の草の匂い。
 流れた風。

 不意にヤグチはそれを思い出していた。

『アタシと一緒に、逃げんか?』

 ナカザワは全てを知っていた。
 全てを知った上で、戻ってきた。
 何故逃げなかったのか。
 零れそうになる涙をヤグチは耐える。

『ヤグチ、アタシのこと、嫌いになれるか?・・・・・・・憎めるか?』

 戻ればどうなるか。

「・・・・・・・・・処分を下す」

 静まり返った部屋に。
 王の言葉が響いた。

「イチイを一週間の謹慎処分にする。近衛隊副隊長としての任務をまっとうできなかった責務は負って
もらう。しかし、今回の件に関しては全てナカザワの独断と先走った行動に責任がある」

「違うっ」

 イチイが飛び出した。
 ひざまづくナカザワの傍に駆け寄る。

「隊長がしていることは知ってました。隊長だけの責任ではありませんっ」
110 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:25
「黙れ。ナカザワはお前には何も教えていなかった、と言っている。その言葉がある以上、お前が
何を言ってもナカザワを庇ってるとしか思えない。・・・・・・それにナカザワはもう隊長ではない」

 イチイは。
 ナカザワを見る。

 ナカザワは、微笑んでいた。

 立ち尽くすイチイ。

 ナカザワの微笑みを見た瞬間。
 ヤグチにもわかった。

 ナカザワは。
 全てを自分で被ったのだ。

「ナカザワ。お前のしたことは許されることではない。懲罰房に入ってもらう」

 部屋がざわついた。
 懲罰房?
 聞きなれない言葉にヤグチは首を傾げる。

「私はお前を信じていた。この王国を守るためではなく、マリを守るために命を賭ける、というお前を
信じた。お前はマリをも裏切った。それがわかっているのか?」

「・・・・・・・確かに裏切ったことになるのかもしれません」

 ナカザワの言葉に迷いはなかった。

「ただ、私は夢を信じた子どもたちを政治の道具にすることも、隣国王女の処刑をすることもマリ様が
望むとは思いませんでした」

「・・・・・・勝手な思い込みだな」

「責任は全て私にあります」

「・・・・・・・・・ナカザワを連れて行け」

 その時。
 近衛兵にひきたてられて部屋を出て行こうとするナカザワが、誰かを探すように。
 こちらを振り返った。
 ほんの一瞬だけ。
 ナカザワがヤグチを見た。

 すぐにそれは伏せられたけれど。

「駄目だっ」

 凍りついたように動かなかったイチイが。
 近衛兵を止めようと動いた。
111 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:26
「イチイを取り押さえろ」

 王の命令を待つまでもなく。
 取り押さえられるイチイ。

「連れて行け」

 イチイはヤグチを見た。
 救いを求めるような視線。

 突然。
 イチイが回りの近衛兵を振り払った。

 以前。
 ヤグチがイチイに手渡された手旗信号の紙。
 時間の暇な時、ヤグチは遊びで眺めていた。

『ユウ・・・・・・ころさ・・・・・け』

 イチイからのメッセージ。
 わかったのはそれだけだった。

「イチイ、何やってる。一週間の謹慎処分を更に重くする気か」

 叱責の声に。
 イチイは動きを止め。
 もう一度ヤグチを見つめ。

 うなだれたまま、部屋を出て行った。

ーーーーーーーーーーーー

 貴族や王妃が部屋を出て行き。

 残っていた近衛兵を王はヤグチと話がしたいから、と部屋から追い出した。

「・・・・・・・・知らなかったのだな」

「教えてくれなかった」

 今更ながらに。
 涙が溢れてくる。
112 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:26
「・・・・・・・・賢明な判断だった」

 王の言葉は。
 ナカザワを非難するものではなかった。

「ナカザワがお前に今回のことを教えていたら、私はお前にも処罰を下さなければならなかった」

 ヤグチは首を横に振った。

「ユウちゃんは・・・・・・・どうなるの?」

 王はその質問には答えず。

「隣国の王女だとは思わなかったが・・・・・・お前がアベと楽しそうにしているのは見ていた」

 会議室の部屋の窓から外を眺める。

「私はこの国を治める王だ・・・・・・・時として非情な判断を下さなければならない時もある」

 王の横顔。
 ヤグチは黙りこむ。

「ナカザワは賢明な判断をした」

 王は繰り返した。

「ユウちゃんは・・・・・・・ナカザワ隊長はどうなるの?」

 いくら。
 賢明な判断を下したとしても。
 そのことにより、ナカザワは捕まった。

 ヤグチの心配はその一点だけにあった。

「それを聞いてお前はどうするつもりだ?」

 やっと。
 王がヤグチを見つめた。

「・・・・・・・・・・・・・」

 真剣な眼差し。

「ナカザワが近衛隊に入った時、アイツは私にこう言った」

『アタシにはこの国がどうなろうが関係ない。アタシはヤグチを守るためだけに動く』

 王は小さく笑った。

「お前がまだ5歳。そんな時だ。ナカザワが何故そんな風に思ったのか、私にもわからん」

 ただ。
 その言葉に見合う以上の働きをナカザワは、した。
 してきた。

「お前はアベを殺せたか?アベが拷問を受ける姿を見ていられたか?アイツはお前を守りきった。
ナカザワは満足しているだろう」
113 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:27
「そんなことを聞いてるんじゃないっ!!」

 ヤグチは机を叩いた。

「・・・・・・・・ナカザワはお前がしようとしていることを望んではいない。私にはわかる」

 ナカザワが満足している。

 そんなこと。
 王に言われるまでもなく、ヤグチにはわかっていた。

『アタシはアンタを守る。アタシの命をかけて』

 こんな風にしてくれ、なんて。
 ヤグチがいつ言った?
 勝手に考えて。
 勝手に動いて。
 勝手に満足して。

「オイラが人形じゃないって教えてくれたくせに」

 頬を。
 熱い液体が伝う。

 この国にも昔あった後継者争い。
 血をわけた妹。
 そこからの刺客。
 ショックだった。
 笑うことも、泣くこともできなかったヤグチを抱きしめた細くて暖かい腕。
『泣け』
 堰を切ったように。
 泣き出したヤグチに。
『泣きたいだけ泣いたら、また笑ってな。アタシはアンタが笑ってる顔が一番好きやから』

 許さない。
 絶対に許さない。

 こんな勝手な幕引き。

 血のでるほど。
 ヤグチは唇を噛み締めた。

「もし・・・・・・お前がナカザワを助け出すようなことがあれば、私はお前を処罰しなければいけないだろう」

「王位継承権を剥奪されたって文句なんか言わない」

 涙に濡れた眼で。
 ヤグチが王を睨みつけた。
114 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/22(月) 00:27
「ユウコがいなくなるなんてオイラは絶対に認めないっ!!」

 部屋を飛び出して行く愛娘。
 王はため息でそれを見送った。

 王位継承権を剥奪されても構わない。

 そこまで言うとは思わなかった。

 窓の外から小鳥のさえずりが聞こえてくる。

「ナカザワ」

 知らぬ間に王の口から零れ落ちる一人の名前。
 どうしたものか、と。
 王はそのまましばらく。
 物思いにふけっていた。
115 名前:つかさ 投稿日:2004/03/22(月) 00:31
>>103 名無し読者さん
>姐さん……どうなるんだろ、やべ〜気になる。
・・・・・・・まぁどうなるかは矢口さん次第ってことで。

まぁストーリーに関係なく。
矢口さん、復帰おめでとうございます。
でも無理はしないでください。
やっぱ声元気なかったなぁって思います。
そして名古屋の姐さんは凄く可愛くて綺麗で、もうマジ大好きだと思いました。
ドラマ、楽しみにしてます。
今日の更新はここまで。
116 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/22(月) 01:02
>>115
いつも楽しませてもらってます。
裕ちゃーーん!!(号泣
私の中でも中澤姐さんってこういうイメージです
余計な事は言わない。自分の中でケリをつけるんですよね。
実際の中澤さんの発言で「大事な事は誰にも相談しない。自問自答を繰り返して
結論を出す」みたいのありましたから。
続きがんばって下さい。

それにしても名古屋いかれたんですね。羨ましいなあ。
各所でレポ読みましたが相変わらず麗しかったみたいで見たかったです。
長良川ききたい・・・
117 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/22(月) 19:21
中澤さんも気になるし、
安倍さんの行方も気になるし‥‥
毎回楽しみに読んでます、続き待ってます。
118 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/23(火) 04:45
がんばれヤグチ
そして、一発殴ってやれ(グーで)
119 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:29
〜〜〜2〜〜〜

 それから二日間。
 ヤグチは憔悴しきっていた。

 自分の無力さを。
 これほどまでに思い知らされたことはなかった。

 イチイが部屋を出て行くときに送ってきた手旗信号。
 部屋に戻って記憶をたどって、手旗信号の紙と見比べた。
『ユウちゃん、殺される。助けて』
 解読できたメッセージ。
 懲罰室が、拷問室と呼ばれていて。
 今までそこから生きて出て来た人はいない、と。
 そこまで情報を集めた。

 それでも。

「・・・・・・・情報なんて意味ないじゃん。何処にあんだよ、それ」

 近衛兵からの情報は皆無に等しかった。
 王からの指示でそれについては一切教えることはできません。
 取り付くしまもない、とはこのことだ。
 イチイもいない。
 頼れる人がいない四面楚歌。
120 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:29
 眠れない。

 眼を閉じると浮かんでくるのはナカザワの・・・・・・苦しんでいる表情。
 流れる、血。

 一度みたことのある傷だらけの背中。

「・・・・・・・・探そう」

 夜も更けた頃。
 ヤグチは立ち上がり、自室を抜け出す。
 だだっ広い王宮。
 ヤグチはこの二日間、夜になれば部屋を抜け出していた。
 一刻を争う。

 もし今日、見つからなければ。
 王に直談判しよう、と。
 ヤグチは決意していた。
 何をどうすればナカザワの命が救えるのか、わからないし。
 前の王の態度であれば。
 泣こうが喚こうが、教えてくれる可能性はゼロに等しい。

 ならば。
 ヤグチは護身用にいつも携帯している小さな刀を見つめた。

 ナカザワの存在が。
 自分の中でどれほどのものだったのか。

 会いたい。

 心の中で思うのはそれだけ。
 生きて、再会を果たしたい、と祈る気持ちもあるけれど。

 もし、それが叶わないのであれば。
121 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:29
「・・・・・・・・・ヤグチ?」

 夜のしじまを破る小さな声に。
 ヤグチは飛び上がった。
 慌てて小刀を隠す。

「やっぱりヤグチだ・・・・・・アンタこんなとこで何してんのよ?」

 ぐい、と手をひかれた。

「・・・・・・・ケイ、ちゃん」

 ヤグチの眼が驚きに見開かれる。

「あ、そだ。マリ様って呼ばなきゃいけないんだった」

 ぽりぽりと頬を掻いて。

「ま、久しぶりの感動の再会ってことで許してよ」

 屈託なく笑うその顔は。
 数年ぶりに会う、幼馴染。
 辺境警備隊で任務についているはずのヤスダケイ、だった。

「懲罰房ってどこっ?!」

「・・・・・・・はい?」

 何もかもをすっ飛ばしたヤグチの言葉に。
 ヤスダの表情が不審げなものに変わる。

「ユウちゃんがそこにいるの。お願い。教えて」

「はぁ?」

 ヤグチの必死な視線。
 ヤスダの眼が物言いたげに細められた。
122 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:30
「あたし、今日辺境から戻ってきたばっかで何にもわかんないだけど。・・・・・・それはサヤカの謹慎と関係
あるわけ?」

 ヤグチはコクコクと頷く。

「ユウコが死んじゃう」

 ヤグチはヤスダの腕をぎゅっと握りしめた。
 かすかに震える小さな手。
 ヤスダはもう一度眼を細めた。

「わかった。案内するけど、説明はしてもらうわよ?」

ーーーーーーーーーーーーー

 厩舎の脇。
 そこに、懲罰房への入り口があった。

 狭く、かび臭い階段を下りると。

「マリ様っ?!」

 扉の前に武装した近衛兵の姿。

「・・・・・・どいて」

「いくらマリ様といえ・・・・・ここは誰も一歩も通すな、と」

 いきなり。
 ヤグチが脇にいたヤスダの腰から。
 剣を抜いた。
123 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:30
「ちょ、ヤグチ、アンタ・・・・・っ!」

「どいて」

 ヤグチの表情は、鬼気迫るものだった。
 その表情と喉元に突きつけられた剣先。
 近衛兵は蒼白になって、扉から離れる。

「・・・・・・・・」

 無言で。
 ヤグチは扉をあけた。
 鼻に付く、異臭。
 部屋の中は、暗かった。

「・・・・・・・・・」

 部屋の中にためらわず数歩、ヤグチは足を進める。

「・・・・・・・・っ!!」

 部屋の奥。
 両腕を鉄のわっかに通され。
 吊り下げられているナカザワが、いた。
 両足には鉄球。

「ユウコっ!!」

 ヤグチは剣を放り投げる。

「ちょ、危ないって・・・・・」

 ヤグチから遅れて部屋に入ってきたヤスダが抗議の声をあげるが。
 ナカザワの様子を見て、息を飲む。
124 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:31
「ユウコっ!!」

 ナカザワに駆け寄るヤグチ。
 自分は、遅かったのだろうか。
 ナカザワの身体はぴくりとも動かない。

「何だよこれっ!」

 自分の身長では届かない。
 鎖の留め金。

「・・・・・・・ユウコ、返事してよ、ねぇ、ユウちゃん」

 ヤグチの泣き声。
 吊り下げられているナカザワの身体は。
 氷のように冷えきっている。

「やだよぉ、一人にしないでよ。ユウコ、眼、あけてよ」

「・・・・・・・勝手に殺すな、ちゅうねん・・・・・・・」

 弱々しい声。
 けれど。
 ナカザワの声。

「・・・・・・生きてた」

「だからなぁ・・・・・・アンタは・・・・・・」

 途切れ途切れ。
 苦しげにナカザワは息をする。

「もうしゃべらなくていいから。オイラ、助けにきたんだ」

 ヤグチは周りを見回す。

「あたしが外すわよ。ヤグチ、支えてあげてね」

 いつの間にか。
 ヤスダがすぐ後ろにいてた。
125 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:31
「何で・・・・・アカン・・・・・・」

 ナカザワの制止の声。

 ヤグチとヤスダが聞くはずもなく。

 両腕の拘束はすぐに外された。
 もう自分では立っていられないのだろう。
 ナカザワが崩れ落ちるのをヤグチが支える。

「・・・・・・・・・っ」

 あまりのナカザワの軽さに。
 ヤグチは声を失う。

「ほら、ヤグチ。ぼ〜っとしてるんじゃないわよ」

 いつの間にか。
 ヤスダは足の拘束も外していた。
 一人では歩けないナカザワを。
 ヤスダが背負う。

 扉の脇で。
 近衛兵がどうしたらいいものか、と。
 所在無さげに突っ立っている。

「ヤスダさん・・・・・戻ってこられてたんですね」

「アンタ、いい?明日の朝まで報告に行くんじゃないわよ。後・・・・・そうね、朝になったら王女命令で
ナカザワを保護した、と。そう伝えなさい」

 ヤスダの指示に。
 近衛兵はほっとしたように頷いた。
 ヤグチは。
 きっとその近衛兵を睨みつける。

「ユウコに何かあったら・・・・・絶対許さない」

「ヤグチ、アンタも余計なこと言ってないで。行くわよっ」
126 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:31
ーーーーーーーーーーーー

 運びこんだヤグチの部屋。
 明るい下で見ると。
 ナカザワの身体の傷は。
 正視できたものではなかった。

 ナカザワ自身。
 運ばれている途中から意識が朦朧とし始め。
 荒い息を吐くだけ、の状態になっていた。

「ヤグチ、ベッド借りるわよ。シーツも破くからね」

 てきぱきと。
 ヤスダはナカザワの怪我の手当てを始める。

「オイラ、救急箱持ってる」

 何かあった時のために。
 いつも常備されているそれ、だったが。
 その中の薬全部を使っても。
 ナカザワの傷、全部に処置をすることはできない。

 赤く染まる、身体。

 ヤスダは小さく舌打ちをした。

「出血が多いわね・・・・・・」

 先ほど。
 氷のように冷たかったナカザワの身体は。
 シーツにくるまれ。
 今度は燃えるような熱を発している。

 ヤグチは無言でナカザワの頬に手をあてた。

「医者、呼んで来る」
127 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:31
 言うと同時に。
 立ち上がる。

「ちょ、待ちなさいって・・・・・・誰に頼むつもりよ?懲罰房に入ってたってことはとりあえず王宮の医者
はあてにできないんでしょ?」

「町にいる」

「アンタ・・・・・・何言ってるかわかってるの?」

「知り合いが町にいる。呼んで来る」

「そんな危険なこと・・・・・・許せるとでも思ってるわけ?アンタ自分の立場を・・・・・・」

「そんなの関係ない。オイラはオイラのしたいようにする」

 完全に。
 ぶち切れた視線を向けられ。
 ヤスダはぐっと唇を噛んだ。

 こうなったらヤグチはてこでも動かない。
 それはわかっているが。

「それならあたしが行く。場所は・・・・・・・」

「ケイちゃん、王都、何年かぶりでしょ?無理だよ。オイラが行く」

「ちょ、待ちなって・・・・・わかったから。あたしが乗ってきた馬、まだつないだままにしてるし、だいたい
門をあけてもらうわけには行かないんだから・・・・・抜け道教えるわよ」
128 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:32
 ナカザワを一人、このままにしておくことはできない。
 ヤスダはちらっとナカザワを見た。
 呼吸が・・・・・・不規則になってきている。
 迷っている時間はない。

「何かあったら逃げるんだよ?アンタに何かあったら、あたしがユウちゃんにぶっ飛ばされるんだからね?」

 何度もそう念を押して。
 ヤスダはヤグチを見送る。

 まぁ。
 ヤグチ一人でこの時間。
 王都に行かせた、なんてことがばれた段階で。
 きっと袋叩きなのだろうが。

「何でこんなことになってんのよ・・・・・・・・どうせヤグチ絡みで馬鹿やったんだろうけど」

 水で絞った濡れたタオル。
 ないよりはマシだろう、と。
 何度もヤスダは絞りなおし。
 ナカザワの額に当てる。

『いい景色やねぇ』

 辺境警備隊に行くことが決まった夜。
 中庭でヤグチとイチイとの別れを済ませ。
 見張り台へ足を運んだヤスダにかけられた声。

『ナカザワ隊長』

『アンタ酒臭いで・・・・・ほら、これでも飲んどき』

 ナカザワから投げてよこされたのは水。

 見張り台の兵士から更に上。
 物置のような部屋だが。
 そこからの眺めは最高で。
129 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:32
『ヤグチも酒飲んだん?』

 いつから見られてたんだろう。

 ヤスダの疑問を見抜いたかのような言葉。

『・・・・・覗き見なんて趣味悪いですよ』

『そういいなさんな。何かあったらまずいやろうが。一応、護衛や』

 そう言って。
 ナカザワは首を回す。

『・・・・・・・・ここの景色もしばらく見れなくなります』

『一生見れんわけやないやろ。・・・・・・ドジ踏んで戻ってこれん、とかなんなや』

『縁起悪いこと言わないでください』

 二人で眼下に広がる町の光を見つめていた。

『辺境警備隊もええとこやで。何年かの辛抱や。腕磨いて帰ってくればええ』

 ヤスダはナカザワを見つめた。

『何かあったらアタシに言っといで。あそこの隊長にはいっぱい貸しがあんねん』

 ニヤリ、と。
 ナカザワは笑う。

『ヘイケ隊長ですか?』

『ぺーぺーの時から一緒やからなぁ。脅せるネタ、二三個教えとこか?』

『・・・・・・結構です』

 何やつまらん、とか何とか。
 ナカザワはひとしきり騒ぐと。
130 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/23(火) 23:32
『アタシもう行くけど。こっちは任せとき。アンタはしばらく自分のこと、頑張ればええから』

 多分きっと。
 それが言いたかったのだろう。
 立ち去るナカザワの背中に。
 ヤスダはぺこり、と。
 敬礼を送った。

「戻ってきたら、今度は一緒にお酒、飲もうなぁって言ってたのは何処の誰よ」

 苦しげなナカザワの呼吸音は変わらない。

 でも、やっと出血は止まったみたいだ。
 ヤスダは丁寧に傷口のガーゼを取り替えて。
 水差しで水をナカザワの口に運ぶ。
 ほとんどが零れてしまうが。
 コクリ。
 喉が動いたのを見て、ヤスダは表情を和らげる。

 今朝、辺境警備隊に届いた急な知らせ。
『ヤスダケイを近衛隊に復帰させる』
 国王からの勅命だった。

 何か起こったのだろう、と。

 とるものとりあえず、馬を飛ばして半日。

「何がこっちは任せとき、よ。自分がドジ踏んでるんじゃない」

 ヤスダはちらり、と窓の外を眺める。
 深い闇から。
 薄明かりが漏れ始めている。

 もうすぐ夜明けだ。

 ヤグチ。
 早く。
 早く戻ってきて。

 夜が明ければ。
 いくら王女の立場といえ。

 ヤスダは自分の剣に手を置いた。
 ナカザワを救い出す時に見せたヤグチの殺気。
 あれは本物だった。

 今は一分一秒が惜しい。
 闇があける前に。

 ヤスダは祈る。

 ヤグチの帰還を。
131 名前:つかさ 投稿日:2004/03/23(火) 23:44
>>116 名無し読者さん
>それにしても名古屋いかれたんですね。羨ましいなあ。
無茶な日程組んで結構疲れ果てたんですが・・・・歳を感じました(w
やっぱ生はちゃうな〜と。
また機会があれば是非行きたいっすね。
そしてまたレポさせてもらいます(w

>>117 名無し読者さん
>安倍さんの行方も気になるし‥‥
・・・・・す、鋭い(待て)
安倍さんはちょっとひっぱるかも。のんびり待っててください(苦笑)

>>118 名無飼育さん
>そして、一発殴ってやれ(グーで)
思わず笑ってまいました。
この状況でグーで殴っちゃったらさすがにやばいよなぁ、と。
でも思わず付け加えたくなっちゃったシーンですね(笑

矢口さん、頑張ってます。
ん〜、まぁぼちぼち。
のんびり話は進んでいきます(・・・もはやこうしか書けない w)
今日の更新はここまで。
132 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/24(水) 21:25
こんなときはやっぱり圭ちゃん!
姐さんヤバそうですね、矢口ガンバレ。
133 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/24(水) 23:15
先が読みたい〜!!ドキドキ(w
134 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:45
〜〜〜3〜〜〜

「派手にやったわね」

 イイダはナカザワを見てまずそう賞賛するかのように呟き。

 手早く何個かの傷口を確認する。

「いい応急処置、してるわ」

 そのまま。
 持ち込んだ大き目の鞄から何個か薬を取り出す。

「錠剤は飲めそうにないから・・・・・・とりあえず、砕くか」

 まかせておいて大丈夫なのだろうか。
 不安になりそうなことを呟きながら。
 イイダは手際よく、液体や。
 錠剤を砕いたものを混ぜた水をナカザワの口に流し込む。

「脱水症状起こしかけてるから、とにかく水、飲ませといて。どうせ意識ないんだし、多少
荒っぽくてもいい」

 ・・・・・・・・・・。

 きっと。
 ナカザワにとっては異論が山ほどあるはずの指示だろうが。
 ヤスダは黙ってそれに従う。

「・・・・・・・大丈夫なの?」

 薬を飲ませて。
 身体の殆んどの部分に巻かれている包帯代わりのシーツ。
 はぎとるイイダに向かってヤグチが恐る恐る尋ねる。

「ユウちゃんがヤグチ残して行くはずないでしょ。大丈夫、地獄の淵からだって呼び戻してみせるよ」

 ヤグチは。
 そっと枕もと。
 ナカザワの表情を覗き込んだ。
135 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:45
 苦しげにしかめられた眉。
 辛そうな表情。

「ユウコ・・・・・・ユウちゃん。ヤグチだよ。もう大丈夫だかんね。カオリ、来てくれたよ」

 そっと頬に手を滑らせる。
 まだ。
 かなり熱い。

 不安そうなヤグチの表情をじっとヤスダは見ていたが。

「それよりそろそろ教えてくれない?一体全体、何がどうなってこうなってんのよ?」

ーーーーーーーーーーーー

 イイダがナカザワの治療を行っている間。

 ヤグチはかいつまんで事情を説明する。

「ばっかじゃないの?」

 話を聞き終わって第一声。
 ヤスダはこめかみに指を置いて。
 頭痛をこらえてるかのようだ。

 ヤグチは俯く。

「何で隣国の王女庇ってこんなややこしい状況、作ってんのよ。ほっときゃいいじゃない」

「・・・・・・ナッチは知らなかったんだ。催眠術にかけられてたって・・・・・・・」

「サヤカの馬鹿も何でユウちゃんを止めないかなぁ」

 ヤスダはため息をつく。

 そして。
 気付く。
 窓から差し込んでくる、陽の明るさに。
136 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:46
「それよりヤグチ、アンタどうすんのよ。もうバレてる頃よ・・・・・・」

 ヤグチが何かを答えようとして。

 タイミング良く。
 ドアが勢いよく開いた。

「ヤスダ。戻ってきたのだな」

「お久しぶりです、国王陛下」

 慌ててひざまづくヤスダ。
 ヤグチはぎゅっと唇を噛み締めて。
 王を見上げた。

「・・・・・・・・・・マリ。お前は自分が何をしているのかわかっているのか?」

「わかっています」

 王の後ろには何人かの近衛兵が見える。

 ここは絶対に通させない。

 両足を踏ん張って。
 ヤグチは王の視線を受け止め。
 睨み返した。

「どけ」

「どきません」

「・・・・・・ちょ、ヤグチ・・・・・・」

 アンタ、相手が悪いわよ。

 ヤスダの声も二人のやり取りに阻まれる。

「・・・・・・・お前に何ができる?」

 王からの問いかけに。
 ヤグチは笑った。

 全くその場にそぐわないその表情。
137 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:46
 ヤスダは嫌な予感を覚える。

「ナカザワ隊長は命をかけて私を守る、と言ってくださいました」

 ヤグチの手にきらり、と光るモノ。

「ならば私も。命をかけて守ります」

 止める隙はなかった。
 ヤグチの腕から。
 流れ出した赤い液体。

 その場にいた全員が絶句する。
 いや。
 ベッド脇のイイダだけは。
 扉のところでのやりとりを聞いているのかいないのか。
 振り返りも、しなかったが。

「それ以上一歩でも中に踏み込めば」

 ヤグチは小刀を自分の喉にあてる。

「わ、わかった。わかったから。その物騒なものを引っ込めろ」

 さすがに。
 王の顔色が変わる。

「先に引いてください」

 ヤグチは。
 赤い血を滴らせたまま。
 綺麗に笑う。

「・・・・・・・・おい、そこにいる奴」

 不機嫌そうに、王が部屋の奥。
 イイダに向かって呼びかける。

 話を聞いていなかったわけではないのだろう。

 イイダはちらっと扉に視線を向けた。

「お前、医者だな?」

「・・・・・・・そうだけど」

 治療の邪魔しないでくれる?

 いかにも、な表情。

「マリの手当て、してやってもらえるか?」
138 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:46
 イイダは喉元に自ら刃を向けているヤグチ、流れ出る血を見ても。
 動揺の色一つ見せない。

「こっちが終わったら後でね。こっちの方が急患」

「・・・・・・・・・・・・」

 ぐっと。
 王はイイダを睨みつけたが。
 イイダはもう話は終わったとばかりに、再びナカザワの治療にとりかかっていた。

「薬は好きなだけ使ってもいい。ナカザワの意識が戻ったら教えてくれ」

 そう告げて。
 王はヤスダに視線を向ける。

「ヤスダは来い。話がある」

「・・・・・・・え?」

 戸惑いの色を隠せず。
 ためらいを見せるヤスダに。

「国王命令だ。さっさと付いて来いっ」

 明らかに八つ当たり。
 王の怒声が響いた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・・・・・無茶するんだから」

「ごめん」

「ユウちゃん、怒るよ?」

「・・・・・・・ユウコにだけは怒られたくない」

「・・・・・・・そりゃそうだ」

 王たちが姿を消すと同時に。
 イイダはヤグチの所にすっ飛んできた。
 気にしないふりをしていたのは、どうやら王の指示に従うのが嫌だったらしく。

 ヤグチの腕に包帯を巻く手付きは優しい。

「痕、残っちゃうかも」

「いいよ、別に」

 別に、構わない。
 ヤグチは横たわるナカザワの横。
 ベッドに腰をかける。
 軋むスプリングに。
 ナカザワが顔をしかめる。
139 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:47
「水、飲ませた方がいいんだよね?」

「・・・・・・・・うん」

 イイダも戻ってきて。
 ほとんど手当ての終わってる傷跡に。
 包帯を巻く。

 薬が効いてきたのか。

 ナカザワの呼吸はかなり落ち着いてきている。
 身体の熱も。
 それでも、普段よりは全然熱いのだけれど。

「・・・・・・・・・・ヤグチ、ごめんね」

「何でカオリが謝るのさ?こっちこそごめん。オイラのアホが迷惑かけちゃって」

 ヤグチは。
 水を飲ませた後、愛しげに。
 ナカザワの髪を撫でる。

「ノノが戻ってきたの」

 ちらり、とヤグチは。
 イイダに視線をやり。
 そのまま逸らせた。

「カオリがユウちゃんに頼んだの。ノノを連れ戻してって」

 ヤグチの手の動きが、止まる。

「カオがユウちゃんに・・・・・・密告したんだ。子どもたちを親元に帰すっていう条件付きで」

 町医者であるイイダの元には。
 かなりの患者が訪れる。
 怪しげな患者も、数多い。

 個人的なつながりは勿論。
 ナカザワは貴重な情報源としてもイイダを重宝していた。

 イイダの元に届けられる噂は。
 王都内だけのものではなかった。
 漏れ聞こえてくる、怪しげな話。

 ツジがそれに関っているかもしれない。

 イイダは人知れず、胸を痛めていた。

「・・・・・・・カオリは全部知ってたんだ?」

 静かな、ヤグチの言葉。

 泣きそうな顔で。
 イイダは頷く。

「ナッチのことも知ってた」

 呟かれた言葉に。
 ヤグチは反応する。
140 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:47
「・・・・・ナッチは、本当に何も知らなかったの?」

「うん。ユウちゃんは、最後まで悩んでた」

 新兵器開発の報告を怠ったこと。
 勝手に資料を燃やし、子どもたちを逃がしたことに対する責務。
 アベを捕らえて。
 公の場に引き出せば。
 それを補う。
 余りある失点回復。

「・・・・・・・ヤグチ、ナッチのこと、友達だってユウちゃんに言ったんだって?」

 ヤグチは黙り込む。
 何で。
 自分はそんなことをナカザワに伝えたのだろう。

「それで迷いは吹っ切れたって。自分はどうなってもいいって」

 隣国の情報。
 イイダはナカザワよりもそれを握っていた。
 アベは・・・・・・利用されたのだ。
 隣国で起こっていた内紛。
 王弟派がアベをこちらに送り込んだ。
 ばれて殺される方が好都合。
 アベは。
 記憶さえもいじられていた。

「カオリがナッチの催眠術を解いたんだ。ナッチは逃げないって最後まで言いつづけてた」

『ナッチを逃がしたらユウちゃん、どうなるかわかってるのかいっ?!』

『アタシのことは気にせんでええ。何とかなる』

『ならないっ!!気休めはいらないべさ』

 何時間も続いた説得。

『アンタには、背負う国があるやろうがっ!!』

 最後に響いたナカザワの怒鳴り声。

『アンタがせなあかんことはこの国で殺されることか?アンタには守らなあかんものがあるんちゃうんか?』

 アベは。
 泣いていた。

「絶対に、この国と戦を交えるようなことにはさせないって。ナッチが国を統治するって」

 イイダはポツリ、と。

「ナッチは本当に・・・・・・いい子だよ」
141 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:48
 そんなこと。
 わかってたし、わかってる。

 ヤグチは。
 まだ眠りつづけるナカザワを覗き込む。

 気付いてしまった、想い。
 気持ち。

「・・・・・・・・・え?」

 ふと。
 サイドテーブル。
 置かれているものに。
 ヤグチの視線が釘付けになった。

「・・・・・・・これ」

 取り上げたのは。

『なくした』

 そう言われた、銀の写真入れのペンダントにチェーンをつけて、ヤグチがあげたもの。

「それ?ユウちゃんのでしょ?凄く大事にしてた」

 ヤグチは。
 震える手で、写真入れの部分をパチン、とあける。
 もう、黒ずんでしまった四葉のクローバーに。

 ・・・・・・・・・・ヤグチの写真。

「大事な人からもらったんだって・・・・・・え?ちょ、ヤグチ?」

 ぎゅっと。
 ペンダントを抱きしめて。
 ヤグチは声を上げて泣き出した。

 言葉足らず。
 アホ。
 何で。
 ぎゅっと心臓をわしづかみにされて。
 揺さぶられたような感覚。

 大事なことは、いつだって。

 後になって気付く。

「オイラ・・・・・・・王位継承権なんていらない」

 子どものように泣きじゃくりながら。

「ユウコがいればオイラ、それでいいんだ」

 こんな風に。
 ナカザワが傷ついているのを目の当たりにするまで、気付かなかった感情。

「オイラの為にユウコが死ぬなんて、そんなのやだよぅ」

 いつだって。
 ナカザワは死の隣り合わせにいたのに。
142 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:48
 気付かなかった。
 気付かせてくれないほどの明るい笑顔に。
 いつだって。
 ずっと。
 どこまでも。

「死んじゃやだ。オイラ、置いてかないで」

「ヤグチ、ヤグチ」

 錯乱状態になってしまったヤグチを。
 イイダは必死に宥める。

 感情の暴走。

 ナカザワが捕らえられて。
 アベがいなくなって。
 その日から。
 必死に一人で抱えていた気持ち。
 我慢していた、怖さ。

 一人になってしまう、恐怖。

 イイダはヤグチを抱きしめた。

「大丈夫だから。ユウちゃんは死なないから。だから、落ち着いて」

 しばらく。
 ヤグチはイイダの胸で泣き続けていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 腕の中の呼吸音が落ち着いていく。

 イイダはヤグチの顔を覗き込んだ。

 真っ赤に腫れた瞼。
 未だ、しゃくりあげてる喉。
 それでも。
 ヤグチの眼はさっきよりもしっかりしている。

「・・・・・・・・・落ち着いたね?」

「うん」

 ヤグチは恥ずかしそうに頷く。

 イイダはヤグチの身体から手を離し・・・・・・・。
 離そうとして。
 自分の背中。
 手が当たってるのに気付く。
143 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:48
 ん?

 ここには。
 ヤグチとイイダ。
 そして・・・・・・・ナカザワしかいないはずで。

 恐る恐る。
 ベッドの上。
 ナカザワの顔がある辺りにイイダが視線をやると。

 実に恨めしげな。
 ナカザワの眼。

「・・・・・・・・・・げっ!!!」

 イイダは慌てて。
 ヤグチから腕を離し、そのままの勢いで飛び上がる。

 揺れる、ベッド。

「・・・・・・・・勝手に・・・・・人のこと・・・・・・殺さんといて・・・・・・・ってか・・・・・・ヤグチ・・・・・」

 苦痛に顔を歪ませながら。
 掠れた、声。

「水だねっ?!カオリ、用意してくるっ」

 水差しを抱えて。
 洗面所にすっ飛んでいくイイダ。

 ヤグチはまだ、呆然と。
 ナカザワを振り向けずにいた。

「・・・・・ヤグチ」

 自分の名を、呼ぶ声に。
 ヤグチの眼から。
 再び涙が溢れ出す。

「何、泣いてる・・・・・ねん・・・・・・・縁起でも・・・・・・・ない」

 途切れ途切れの言葉。

 ヤグチは。
 振り向く。

 ナカザワは。
 微笑んでいた。

「アタシ・・・・・・アンタ・・・・・・・の笑った顔、・・・・・・一番・・・・・・好きや・・・・・・から」

「ユウコっ!!!」

 ヤグチは。
 抱きついていた。
 ナカザワの身体。
 強く、強く。

「ヤグチ、いい加減離さないと、ユウちゃん、マジ死んじゃうよ?」

 イイダが止めに入るまで。
 それでも。
 激痛に襲われながら。
 ナカザワはヤグチの温もりを感じて。
 穏やかだったりした。
144 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:49
ーーーーーーーーーーーーーーーー

 水差しの水を全部飲みほし。

 ナカザワは満足そうに眼を閉じる。

「ここ・・・・・・ヤグチの部屋やんな?」

 比較的しっかりした声。

「ごめんなぁ、ベッド占領してもうて」

 思わず。
 思いっきりナカザワの頭を殴りそうになって。
 一応、ヤグチは自制する。

「アタシ、どうしたんや?・・・・・・あぁ、そっか・・・・・・・・」

 眼を閉じたまま。
 ナカザワはしばらく黙っていた。

「・・・・・・・・とりあえず、お粥かなんか、食べるものもらってくる」

 イイダの言葉に。
 ナカザワは眼をあけた。

「ヤグチ、何も食べてへんやろ?」

 どうしてもう、この人は。

 死にかけてたっていうのに。
 人の心配ばっかり。

「オイラのことはどうでもいいっ!」

「良くない」

 ナカザワは手を動かそうとして。
 身体中の痛みに。
 声を殺す。

「どれくらい・・・・・・経ってるんや?」

 二人のやり取りを無視して。
 席を外してしまったイイダに変わり。
 ヤグチが答える。
145 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:49
「緊急会議のあの時から四日・・・・・だよ」

 少し。
 驚いた様子のナカザワ。

「そんだけしかたってないんや」

 疲れたように。
 そのまま。
 ナカザワは荒い息を吐く。

「水・・・・・・まだいる?」

「うん」

 ヤグチが水の準備をしている間。
 ナカザワは考えをまとめているようで。
 じっと眼を閉じて。
 考え込んでいる。

 もう一度。
 ほとんど水差しの水を飲み干し。

「んで・・・・・・誰が戻ってきたんや?みっちゃんか?・・・・・いや、ちゃうな・・・・・ケイ坊か」

 何でそれを。
 ヤグチは驚きの声をあげるより。

「もういいよ、しゃべんなくて。オイラ、傍にいるから」

 辛そうなナカザワの様子が気になって堪らなくて。

「・・・・・・王もその様子じゃ、顔出したな」

 ヤグチの声を聞いているのか。
 ナカザワは言葉を止めない。

「無茶、したんちゃうやろうな」

 ナカザワは。
 動かせない身体の変わり。
 視線をヤグチの左手に向ける。

「・・・・・・・ユウコに言われたくない」

 ヤグチは。
 口をへの字に結ぶ。
146 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:50
「そら・・・・・そ〜やけど」

 ナカザワは困ったように笑った。

「アタシとアンタじゃ・・・・・立場がちゃうやん」

「何の立場?」

 不意に込み上げてきた怒り。
 ヤグチはナカザワを睨みつけた。
 というより。
 泣きそうな顔、といった方が正しかったりするのだが。

「立場なんて違わない。・・・・・・ユウコ、約束して」

 ・・・・・・・・・・。

 ナカザワは雰囲気の違うヤグチの様子に。
 怪訝そうな表情を見せる。

「命なんてかけてオイラのこと、守ってくれなくていい」

 ヤグチの顔が、歪む。

「オイラのこと大切に思うなら。生きていて。生きて、オイラの傍にいて」

「・・・・・・・・・ヤグチ」

「もう、こんな想いすんのやだよ」

 ヤグチの頬を伝う、一筋の涙。

 動かない、身体へのもどかしさ。
 ヤグチの想い。
 痛いほど伝わってきて。

 ナカザワは黙り込む。

「ユウちゃん、ヤグチ、ご飯もらってきたよ〜」

 イイダがその雰囲気を壊すまで。

 ナカザワはヤグチの涙。
 それを見つづけることしかできなくて。

 イイダの声の明るさに。
 ナカザワはほっと一息ついたのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーー
147 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:50
 軽くお粥を食べて。
 薬を飲んで。
 再びナカザワは眠り込んでしまったようだ。

 ・・・・・・・・ふと目覚める。

 部屋の暗さ。

 ナカザワは身体を動かそうとして。
 身体中に走る痛み。

「・・・・・・・・っ」

 それでも。
 ナカザワは身体を動かそうとする努力をやめない。

 こめかみから汗が流れる。
 身体が悲鳴をあげている。

 ただ。
 そんなことに構っている場合じゃない、というのも。
 わかっている。
 痛みに耐えつつ、身体の節々を動かして確認する。

 まだ骨に異常ないだけましやな。

 拷問。
 ナカザワは嫌いだった。
 まぁ、立場上。
 何度か立ち会ったことはあるけれど。

 手加減、してくれたんかな。

 身体を起き上がらせて。
 ナカザワは少し、荒い息を吐いたまま。
 しばらく動かない。
 ・・・・・・・・動けなかった、という方が正しい。

「ユウコ?何やってんの?起きて大丈夫なの?」

 不意に。
 脇から飛んできた声。

 あかんなぁ。
 隙だらけやん。

 痛みを耐えるのに精一杯で。
 人の気配を感じる余裕もない自分の現状。
148 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:50
 部屋の隅に、毛布の塊。
 それはイイダだろう。

「ヤグチこそ寝てたんちゃうん?」

「・・・・・・そうなんだけどさ」

 ベッドの脇から人影が動く。

 頭元。
 小さな光がともされる。
 浮かび上がったヤグチは。
 何だか、照れくさそうな表情を浮かべていた。

「何か、駄目なんだよね・・・・・・ちゃんと生きてるかな、呼吸してるかなって心配になっちゃう」

 何度も何度も眼が覚めて。
 何度も何度もナカザワの呼吸を確認して。
 もうめんどくさくなってしまった。

 だから、ベッド脇。
 無理な体勢だけれど。
 ナカザワを感じれる場所で眠りたかった。

「・・・・・・・・ごめんな」

 ナカザワは眉をひそめる。

「謝んないでよ・・・・・・・アホ」

 そっと。
 ヤグチの手が。
 ナカザワの頬に触れた。

 ナカザワは眼を細めた。

「痩せたんやない?」

「誰のせいだよ」
149 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:50
「そんなん言うの・・・・・・ずるいやん」

 まだ熱は下がってないのか。
 ナカザワの拗ねたような口調に。
 ヤグチはクスクスと笑いが漏れる。

 こんな風に。
 もう一度。
 言葉が交わせる、なんて。

「・・・・・・・ねぇ、一緒に寝ていい?」

「・・・・・・・・はい?」

 驚きの余り。
 ナカザワは身じろぎして。
 走る、激痛。

「ちょ・・・・・・そんな驚かないでよ」

「驚くやろ」

 きっちり突っ込みいれつつ。
 ナカザワはきっぱりと。

「でも、あかん」

「何でだよぉ。・・・・・・・・傷が痛いから?」

「ちゃうけど」

 そう言って。

 ん?

 ナカザワは思う。

 傷が痛いってことにしといた方が良かったかもしれん。

 何で?何で?
 膨れっ面のヤグチ。

 この顔に。
 ナカザワは実に弱い。

「・・・・・・・・汚いから」

 ぼそっと言って。
 ナカザワは髪の毛をかきあげようとして・・・・・・。

 ・・・・・・・・痛い。

 途中で諦める。
150 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:50
「血とか、汗とかな。それにアタシ、しばらく風呂、入ってへんし」

 困ったような顔のナカザワに。
 ヤグチはしばらく呆れ顔。

「死にかけてた人間の言うことかよ、それ」

 問題なしだね。

 いや、大有りやろ。

 ぼそぼそと。
 やり取りしつつ。

「もう、どうでもいいじゃん。オイラ、眠い。安眠させろ」

 問答無用。
 ヤグチはナカザワの脇にもぐりこむ。

 しばらく。
 諦めたようにヤグチを眺めていたナカザワだったが。

「あのな」

 ちょんちょん、とヤグチの身体をつつく。

「何だよ?」

「トイレ、行きたい。顔洗いたい」

 少し。
 驚いたような顔をしたヤグチだったが。

「うんうん」

 きっとそんな風に言えるようになったということは、回復の証。
 それに気付き。
 嬉しそうに頷く。

 立ち上がるナカザワの身体を支えたヤグチは。
 やっぱり。
 ナカザワの身体の軽さに。
 唇を噛む。

「・・・・・・・大丈夫?カオリ、起こそうか?」

「ん・・・・・・・何とかな」
151 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:51
 ヤグチの肩に手を置いて。
 ナカザワはゆっくり足を進める。

 ・・・・・・・・さすがにきっついなぁ。

 毎度。
 怪我をする度に、思う。

 でも。
 怪我をした時にこそ、動かしといた方がいい。
 それは、ナカザワの持論。

 ヤグチはそっと。
 ナカザワの顔を見上げる。
 ぎゅっと食いしばられた口からは。

 痛い、とか。
 しんどい、とか。

 そんなセリフは漏れてこない。

 ただ。
 肩に置かれた手が。
 じっとりと汗ばんでいるのがわかるだけで。

「・・・・・・覗くなや」

「アホ。でも鍵はかけちゃ駄目だよ?」

「ん」

 部屋の中にあるトイレ。
 シャワーもある。

 ・・・・・・・広すぎやろ。

 トイレに行くだけで何でこんなに疲れなあかんねん。

 普段なら何気ない距離なのだが。

 トイレを済ませ。
 鏡を覗き込む。

 ひどい顔してるなぁ。

 自嘲しながら。
 顔を洗う。

「ユウコ?大丈夫?」

 ドアの外から。
 控えめなヤグチの声。

「・・・・・・・・おぅ」

 いつもの軽く倍の時間はかかってる。
 動かない身体にナカザワは舌打ちしながら。
 それでも。
 それだけで。
 襲ってくる疲労感。
152 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:51
 ホンマにやばいとこまで行っててんな。

 多分。
 拷問室にいれられてる時間が後一日でも長ければ。

 ぎゅっと。
 ナカザワは拳を握り締めた。

 死への恐怖。

 絶望。

 諦め。

 膝が崩れ落ちかける。

「・・・・・・・・・ユウコっ!!」

 何とか体勢を整えて。
 中の物音を聞いていたのだろう。
 ヤグチが中に飛び込んできた。

「大丈夫や」

 そんな、泣きそうな顔。
 辛そうな顔。

 ぐっとナカザワは足を踏ん張る。

 ベッドに戻るまで。
 ヤグチはナカザワがいいと言うのにも関らず。
 ナカザワの傍を離れようとしない。

 ナカザワが横になったのを確認して。

「・・・・・・水、飲む?」

「・・・・・・助かる」

 水差しから流れ込む、冷たい液体。

 ナカザワはやっと一息ついた。

「・・・・・・・・一緒に寝るんちゃうんか?」

 不安そうな表情そのままに。
 いまだベッドの脇に立ち尽くしたまま。
 動こうとしないヤグチ。

 ナカザワは笑いかける。

「大丈夫やから。おいで」

 ほっておけば。
 一晩中でもそうしてそうな、感じ。

 さっきの勢いはどこへやら。
 ヤグチは恐る恐る、といった感じでナカザワの傍にもぐりこんできた。

「・・・・・・・・・初めてやんな」

「・・・・・・・・うん」
153 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:51
 髪の毛でも撫でてやりたいところだが。
 さすがに、さっきの無茶で。
 ナカザワの身体は動きそうになくて。

 そんなナカザワの身体にヤグチはそっと身体を摺り寄せてきた。

「変な感じやなぁ」

「・・・・・・・・うん」

 くんくん、と。
 ナカザワの匂いを嗅いで。
 安心したように眼を閉じるヤグチ。

「犬ちゃうねんから」

「・・・・・・・いいじゃん」

「薬臭いだけやろ?」

「そうでもないよ」

「・・・・・・・・・変な匂い、した?」

「ばっかじゃねぇの?」

 むっと。
 ヤグチは眼をあけて、ナカザワを睨むが。

「ちゃんと・・・・・・ユウコの匂い、したよ」

 情けなさそうなナカザワの眼に。
 それ以上睨むのは止めた。

「ならええんやけど」

 ほっとしたようなナカザワの声。

 本当に。
 ばっかじゃないの?

 先ほど繰り返した言葉。
 ヤグチはもう一度今度は心の中だけで毒づく。

 こっちがどんな想いしてるのかわかってんのかよぉ。

 本当に。
 心臓が止まりそうになるのだ。
 今のナカザワの身体の動き。
 本調子とは程遠い。
 というか。
 今にも崩れ落ちて。
 そのまま。

 ヤグチはナカザワの身体に頭を預ける。

 暖かい。

 それだけで。

 泣きそうになるほど。
 安心するのに。
154 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:51
「・・・・・・・・・・マーキングしてんかぁ?」

 この人には全然伝わってなさそうだけど。

 のんびりとしたナカザワの口調に。
 今の状況を忘れてしまいそうになる。

「ユウコ。ナッチのこと・・・・本当に好きだった?」

 ナカザワは一瞬黙り込む。
 どう答えようか迷っているような雰囲気。

「ナッチ逃がしたの、オイラが友達っつったからだけじゃないよね?」

 ヤグチの言葉は確信に満ちていた。
 それを聞いて。
 諦めたように。
 ナカザワは小さなため息をつく。

「最初近づいたのは、ホンマはナッチのこと疑ってたからや」

 情報が漏れ始めた前後に。
 王宮にあがってきた侍女。
 何度調べても、身元ははっきりしていたが。

「・・・・・・・・それで何で付き合ってんだよ・・・・・・・」

「まぁ何となく、流れ的に・・・・・・・」

 困ったように笑うナカザワに言葉に嘘はないのだろう。

「手、早すぎなんだよ・・・・・それで?」

「ん〜、状況的にはナッチが一番怪しかったけど、他にも候補はいて。それにナッチのあの性格やろ?
ちゃうんちゃうかな〜って思ってて、まぁ・・・・・大丈夫かなって思ったんは別に理由はあってんけど」

 口ごもるナカザワ。

 ん?

 不審なものを感じて。
 ちらっとヤグチはナカザワを見る。

「別の理由って?」

「・・・・・・・・・・・いや。ナッチ、初めてやったから・・・・・・・・」

 初めて?

 何が?

 一瞬。
 疑問符が頭の中を飛んだヤグチは。
 顔を赤くした。

「な、何言ってんだよっ!!」
155 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/24(水) 23:52
「や、だって・・・・・・まぁそれでナッチが隣国王女ってわかった時、何か変な術にかけられてるんやろう
なってピンときてんけど」

 普通、有りえんもんなぁ。

 ナカザワの冷静な観察眼。
 ヤグチは頭痛を覚える。

「・・・・・・隣国の王女やなんて考えてなかった。一応、容疑者の一人として、一番情報を得にくい場所
っつ〜ことでヤグチの傍に置いたんや・・・・・・」

「ナッチといる時そういうことばっかり考えてたの?」

「・・・・・・いや、そ〜ゆわけでもない」

 ふと。
 ナカザワの言葉が途切れる。

「まぁ・・・・・そんなんなくても、好きは好きやったで」

 投げやりな言葉だけれど。

 もしかして。
 さっきまでのあのセリフの数々は。
 照れてたり、したんだろうか。

「情は・・・・・・あった。愛情やなかったかもしれんけど」

 ポツリ、と。
 ナカザワは漏らして。
 そのまま黙りこむ。

 何と言えばいいかわからずに。

 しばらくの沈黙。

 そして。
 ヤグチが口を開こうとして。

 その耳に飛び込んできたのは。

「・・・・・・・・・寝てやがる」

 穏やかな、寝息。

 もうちょっと聞きたいことはあったけれど。
 ヤグチは肩を竦める。

「おやすみ・・・・・・ユウちゃん」

 暖かな温もり。
 生きている、鼓動。
 それが。
 こんなにも安眠剤になるとは。
 知らなかった。

 ヤグチは大きく伸びをして。
 眠りにつく。
 ここ数日間で一番穏やかな眠り、だった。
156 名前:つかさ 投稿日:2004/03/24(水) 23:57
>>132 名無し読者さん
>こんなときはやっぱり圭ちゃん!
頼りになりますよねぇ・・・・ってか素直にケイちゃん以外思いつかなかったっす(w

>>133 名無し読者さん
>先が読みたい〜!!ドキドキ(w
大量更新の割に話が進んでない・・・・(おい)

ヤグチさん、無茶しますねぇ・・・・ってか。
まぁやっぱりストーリーには触れないで置こう。
自爆しそうなんで(w
今日の更新はここまで。
157 名前:ハルカ 投稿日:2004/03/25(木) 16:52
更新お疲れさまです。
つかささんの更新速度には、脱帽です。
更新速度は早いし、ちゃんと内容もあって。
自分的にすごくツボなストーリーで毎日チェックするのが楽しみです。
どこまでも付いていくので(笑)身体には気を付けて、頑張ってくださいね。
158 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/25(木) 19:49
なんだか2人とも、
イチャイチャ甘い雰囲気出してるな〜(w
159 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/25(木) 23:12
〜〜〜4〜〜〜

 その日一日。
 ナカザワ眠ったり起きたりを繰り返していた。

 起きて。
 身体を動かしてみては、薬を飲んで再び眠る。
 その繰り返し。

 窓の外。
 太陽がだいぶ傾いて来たころ。

 ヤグチの部屋のドアがゆっくりとノックされた。
 侍女のものではない。

 ヤグチとイイダは。
 不安そうな顔でドアを見つめる。

『ナカザワの意識が戻ったら教えてくれ』

 王が去り際に残していった言葉。
 無視するつもりではなかったが、結果的に・・・・・。

 いらだったようにもう一度繰り返されるノック。

「ヤグチ、羽織るもん、適当に借りたで」

「「・・・・・・・っ!!」」

 足音も立てず。
 ヤグチとイイダの脇にいたのは、眠っていたはずのナカザワ。

「大丈夫や」

 ヤグチに笑いかけるナカザワの顔色は。
 まだまだ本調子とはかけ離れたものだったけれど。

「・・・・・・どうぞ」

 凛とした声が出せたのは、きっとそのおかげ。

ーーーーーーーーーーーーーー
160 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/25(木) 23:12
「・・・・・・・・・だいぶ派手にやられたみたいだな」

 身体中に巻かれたナカザワの白い包帯に眼をやり、王の言葉。

「・・・・・・・かすり傷です」

 入ってきたのが、王とヤスダだけだったことにナカザワは眼を細める。

 ゆっくりと歩を進め。
 ナカザワはヤグチとイイダを背に庇うように立つ。

 まぁ。
 ヤグチはともかく。
 イイダは我関せず。
 ナカザワが起きてきた段階で自分の役割は終わったと考えてでもいるのだろうか。
 視線を宙に飛ばし。
 王とナカザワのやり取りを聞いているとも思えない雰囲気を漂わせている。

「今回の件、申し訳ありませんでした」

 ナカザワは王の前。
 片膝をつく。

「・・・・・・・そんなことする必要ないじゃんっ!」

「ヤグチ」

 ナカザワの強い視線に。
 ヤグチは黙り込む。

「・・・・・・・・いや。こちらも監督不行き届きだった」

「どのような形で報告を受理されたのですか?」

「私の命令で懲罰房から出した、ということにしてある」

「ありがとうございます」

 ナカザワは片膝をついたまま。
 頭を下げる。

「もういい。立て」

 ナカザワは立ち上がる。
 その立ち上がり方を。
 王は鋭い眼で観察していた。

「・・・・・・・・っ」

 ぐっと歯を食いしばり。
 何事もないかのように優雅にナカザワは笑顔を浮かべてみせるが。
161 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/25(木) 23:12
「・・・・・・・・三日間、静養しろ。それが終わったら辺境警備隊へ行け。正式な処分だ」

「わかりました」

「そんなの・・・・・っ!!」

 ヤグチの声とナカザワの声がだぶる。

 王はヤグチを見て。
 もう一度ナカザワを見る。

「もう二度とマリに会うことは許さん。わかっているな?」

 ナカザワは。
 無言だった。

「・・・・・・・・・嫌だっ!」

 叫んで。
 王に掴みかからんばかりのヤグチを。
 ナカザワは手で制す。

「お前はこの国の後継ぎだ」

 まだ叫びそうな勢いのヤグチは。
 王からの視線を受け。
 身体の動きを止める。

「王族に自由など、許されない」

 重い、言葉。

「王は、民を守るのが仕事だ。わかってないとは言わせん」

「オイラは・・・・・・っ!!」

「私たちに、感情などいらない。いるのは冷静な判断だけだ・・・・・・・私はお前が親しく思っている
人間を皆殺しにできるだけの力がある。お前自身の命でもってもそれを守ることはできない。
お前は自分の無力さを知るだけだ」

 死刑宣告に等しい。
 残酷な言葉。
162 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/25(木) 23:12
「お前には24時間監視をつける。今までの私はお前には甘すぎたようだな」

 ヤグチは。
 蒼白になったまま動けない。

「ナカザワ、お前も身分をわきまえろ。ここは王族の寝室。お前ごときが長居していい場所ではない」

 ナカザワは俯く。

「ヤスダ、その町医者とナカザワを部屋から出せ。その後、近衛隊でマリの護衛をさせろ。いいな」

 そう言い捨てて。
 王は部屋から出て行った。

 ・・・・・・・・・・重苦しい沈黙が部屋を包む。

「・・・・・・ケイ坊。世話、かけたみたいやな」

「ユウちゃん・・・・・・・」

 何とも言えない微妙な表情。
 ナカザワは笑う。

「まぁこうなることは予測できてたやろ。これが一番ええ方法やし」

 そのまま、ふぅ、と大きく息を吐き。

「ヤグチのこと、頼むな・・・・・・絶対変なこと、させんなや」

 ちらり、と。
 何も言わずヤグチの左腕に視線を走らせるナカザワは。
 何が起こったのか知っているはずもないのだが。
 だいたいの予想はついてるのだろう。

「うん・・・・・・ごめん」

 側にいてたのにも関らず。
 止めることができなかったヤスダからの謝罪。

 ナカザワは頷いた。

「・・・・・・・・ヤグチ」

 ヤグチは。
 蒼白な表情をまったく動かさず。
 ナカザワからの呼びかけに。
 感情を押し殺した眼を、向ける。
163 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/25(木) 23:13
「・・・・・・・・・もう、嫌だ」

 機械的な口調。

「もう、大事なもの・・・・・・無くすなんてオイラ・・・・・・耐えれない・・・・・・・」

「アカン」

 ヤグチの動きより。
 ナカザワの動きの方が速かった。

 ヤグチが喉元を突こうとした小刀は。
 ナカザワの腕をかすめて。
 そのまま床に落ちた。

「・・・・・・・一人逃げは許さんで?」

 身体中の痛み。
 激痛。

 そんなもの、どうでも良かった。

 ナカザワはヤグチを抱きしめた。

「まだ最悪な状況やない。アタシは生きてる。アンタも生きてる。お互いの居場所もわかってる。そやろ?」

 耳元。
 ゆっくりと、ヤグチに届くように。
 ナカザワは言葉をつむぐ。

「アンタがアタシを守ってくれたんやろ?命がけで助けてくれたんやろ?」

 小刀がかすめたナカザワの腕。
 包帯の下から血が滲み出す。

「・・・・・・・・ぁ・・・・・・・・」

 呆然と。
 ヤグチはそれを見つめている。
 ナカザワの言葉が届いてる様子は、ない。
164 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/25(木) 23:13
「アタシが生きてるって印や。なぁ・・・・・死んでもうたら終わりやねん。アタシは生きてヤグチと一緒に
いたい」

 ヤグチの眼が。
 大きく見開かれた。

「アタシは生きる。約束する。ヤグチが守ってくれたこの命、絶対大事にする」

 だらん、と。
 垂れ下がったままだったヤグチの腕が。
 何かを探して動く。

 そして。
 ぎゅっと。
 ナカザワの背中。
 しがみついた。

「泣け」

 堰を切ったように。
 泣き出すヤグチ。

「泣きたいだけ泣いたら、また笑ってな。アタシはアンタが笑ってる顔が一番好きやから」

 いつかも聞いた言葉。

 ヤグチは。
 ナカザワに笑顔を向ける。
 涙でぐしょぐしょで。
 きっと見れた顔じゃないだろうけど。

「このピアスあるやろ?」

 ナカザワが自分の右耳についたピアスを触る。

「うん」

「片っぽやったやろ?」

「うん」

「・・・・・・・・これな、アタシの産まれた地域での言い伝えでな、伝説のピアスやねん」

 冗談っぽく細められた眼。

「これ片っぽづつ持ってたらな、どんな離れたとこでも、相手の言葉が聞こえるって」

「・・・・・・・聞こえるはずないじゃん」

「ピアスが呼び合うんや」

 ヤグチの突っ込みにナカザワは楽しそうに笑った。

「だから、生きてれば、絶対また会える。絶対、アタシはヤグチの傍に戻ってくる」
165 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/25(木) 23:13
「・・・・・オイラも。オイラも、迎えに行く」

「うん」

 邪魔できない二人の空間。
 緊迫した空気が、終わりを告げる。

「・・・・・・・ユウちゃん、そろそろ」

 ヤスダが複雑そうな表情でナカザワを促した。

「んじゃ、ヤグチ・・・・・・またな」

 扉の前。
 ヤグチを振り返ったナカザワは。
 綺麗な笑顔を見せていた。

「うん、またね」

 大丈夫。
 会えるよ。
 きっとまた。

 信じれば。
 叶うよね。

 ナカザワとイイダの姿がなくなった後。
 一人部屋に残されて。

 不安に押し潰されそうな心。

 ぎゅっと。
 ヤグチは。
 ナカザワからもらったピアスを握りしめた。
166 名前:つかさ 投稿日:2004/03/25(木) 23:25
>>157 ハルカさん
>更新速度は早いし、ちゃんと内容もあって。
いや、この話は過去例になく多量にストック作ってあげ始めた作品なんで・・・。
一応今まで書いたのも全部ある程度は書きだめはしてました。
このまま一気にいけるかはちょっと微妙だったりするんですが、楽しんじゃってください。

>>158 名無し読者さん
>イチャイチャ甘い雰囲気出してるな〜(w
状況を考えろよ、おいとか思いつつ(w
ナッチの話を出したくて・・・・出てこねぇ・・・・二人の世界じゃん、と。
すげ〜困りまくり。異様に長くなってしまったシーンです。

いちゃいちゃしてる二人が大好きなんですけど。
んでもってきっと反動で絶対二人のシーンが長くなりそうな気はするんですが。
ずっといちゃいちゃされてても話は進まないんで・・・・。
今日の更新はここまで(苦笑)

後、週末更新できるかはちょい微妙。
ネット繋ぐ時間あれば明日か日曜くらいにはしたいと思ってます。
167 名前:名も無き読者 投稿日:2004/03/26(金) 18:35
初めまして。
いや〜、切ない・・・。
感動しました。何で同じ板にいて今まで読んでなかったんやろ?
とか悔やみつつ、これからも付いて行かしてもらいますw
168 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/28(日) 00:30
これからどうなっていくのか?すっごい展開が楽しみです〜!!
169 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 00:28
〜〜〜5〜〜〜

 ナカザワの出立の日。

 早朝。
 馬を出すナカザワの元に。
 意外な人物の姿があった。

「来ると思ってました」

「・・・・・・・・見送りぐらいはな」

 薬を渡すために姿を見せていたイイダは。
 ちらっとそちらに眼を向け。
 嫌そうな表情を見せる。

「そんなに嫌わないでくれないか・・・・・・確かに悪役だが」

 困ったような笑い声。

 イイダはそれに反応しない。

「体調の方はどうだ?」

「だいぶマシです」

 三日間の静養。
 ナカザワの顔色は普通に見える。

「もうちょっと休んだ方がいいのに」

 イイダの拗ねた声。

「医者も大丈夫だ、と太鼓判押してくれてます」

「・・・・・・私にはとてもそうは聞こえないが」

 笑い声が響く。
 今までの因縁をまったく感じさせないやり取り。
170 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 00:28
「世話になったというか、なるべきではなかったというか」

「・・・・・・・・それ、アタシも同感です」

 ナカザワは苦笑を浮かべる。

「会わない方が良かったかも、とは。何度も思いました」

 誰に、とはあえて付け加えない。

 ふと。
 遠くを見やる視線。
 それは穏やかだ。

「でも、今は会って良かったと。そう思っているのだろう?」

 誰のことを指してるのか。
 理解している、声。

「勿論」

 ナカザワは笑みを浮かべる。

「ヤグチが気付かんかったら、ずっとこのままでいいと思ってたんやけど」

「そうもいかないらしいな」

 三日前の出来事。
 今回の一連の行動を通じて。
 ヤグチのナカザワへの想いのベクトルは、明らかに変わった。
 想われる者から、想う者へ・・・・・・・。

 お互いの視線が合う。

「次に会う時は・・・・・・剣を向け合うことになるのかな?」

 確認する響き。

「・・・・・・それは、まだ時期尚早かな、と・・・・・・・隣国の様子はどうなってます?」

「・・・・・・・アベは苦戦しているようだな」

「・・・・・・そうですか。辺境で探ってきます。アタシにも関係あることやし」

「戦争にならなければいいのだが」

「そうですね」

 無益な戦い。
 望まないのは誰しも同じ。

「ナカザワ。お前は情にもろすぎる・・・・・・・もし、私がお前に刃を向けるようなことがあれば」

 小さくナカザワは笑った。

「アタシにアナタは斬れません。見つからんようにこっそり逃げます」

「・・・・・・しょうがない奴だな」
171 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 00:29
 しばらく。
 言葉を探す沈黙が続く。

「マリを教育し直しておく。・・・・・戻ってきてお前を忘れていたらどうする?」

「・・・・・・・そんな風に簡単に断ち切れる想いなら」

 ナカザワは真っ直ぐな視線を向ける。

「もっとお互い幸せで楽な道を選べたでしょうね」

 返事を待つことはしなかった。
 ナカザワは馬に飛び乗る。

「カオリ、王都のことは任せたで。変なことあったらすぐにサヤカかケイ坊に連絡してな」

「・・・・・・・カオリ、王宮嫌いだもん。皆、素直じゃない」

 ぷい、と逸らされた顔は。
 今回のことをかなり不満に思ってる証。

「・・・・・・ヤグチに会いに来たってや。それやったらええやろ?」

「でもこの人、邪魔する」

 この人呼ばわりされて。
 苦笑いする、人物。

「構わんよ、それくらい。・・・・・・・マリにとっても王都の様子を勉強することは良いことだろう」

 イイダはまだ不満気だったが。

「頼んだで」

 ナカザワの言葉に。
 不承不承頷いた。

「それでは。行って参ります」

 馬の上からの敬礼。
 失礼にあたるのは百も承知の上で。
 ナカザワは不敵に笑う。
 そして。
 去り行こうとする姿。

「一つだけいいか」

 静かな声。

「何故、あの時戻ってきた?何故逃げなかった?」

 馬の上から。
 ナカザワは見下ろす。

 ・・・・・・・・・・国王を。

「どうせ死ぬなら、ヤグチの傍で死にたかった」

 その言葉を残し。
 ナカザワは旅立つ。
 辺境の地へ。
172 名前:つかさ 投稿日:2004/03/29(月) 00:39
>>167 名も無き読者さん
>いや〜、切ない・・・。
これを読み・・・・切ない話なんだよなぁと再確認(待て)
ストーリーの構成はできてるんですが・・・・なんだろ。
不幸の中のほうが幸せは見つけやすい。
きっとそんな単純なことなのなか、っつ〜気がします。

>>168 名無し読者さん
>これからどうなっていくのか?すっごい展開が楽しみです〜!!
とりあえず、一段落。

体調悪めってことで・・・今日の更新はここまで。
173 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/29(月) 18:54
姐さんカッコイイこと言うな〜。
でも、矢口的には(〜^◇^)<アホだね。
と思ったに違いないw
174 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/29(月) 22:49
ワクワク・・・ドキドキ・・・目が離せません!!(w
175 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 23:03
第四章

〜〜〜1〜〜〜

 ナカザワがいなくなって一週間。
 ヤグチは。
 笑わなくなった。
 誰ともあまり。
 言葉を交わすこともしなくなった。
 最低限の食事を採り。

 ぼんやりとしてることが多い、時間。

「ヤグチ、いい天気だよ」

 それを一番心配していたのは。
 ナカザワの後を継ぎ、近衛隊の隊長を引き継いだイチイと。
 そして、副隊長を任ぜられたヤスダだった。

「・・・・・・・うん」

 明るい太陽の陽射し。
 ヤグチはちらっとそちらに視線を向ける。

 本当に。

 言われたから、向ける。
 それだけの動き。

 感情がないわけではない。
 押し殺しているわけでもない。
 純粋に。
 何だか現実に感情が追いつかない。

 ヤグチは小さくため息をついた。

「心配してくれるのはわかってるんだけど・・・・・・ごめんね」

 申し訳なさそうな表情だけは。
 増えたと思う今日この頃。

 変わったばかりの新隊長。
 イチイは仕事に忙殺されている。

『何でこんな量、普通にこなしてたんだよっ!!!』

 引継ぎの間もなく去っていった前隊長に恨み言。
 まぁそんな暇もなく。
 イチイはあっちこっち走り回ってる。
 ヤスダもそのサポート。
 辺境警備隊とは勝手が違うのに、戸惑いながらも。
 よくやっている方だろう。
176 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 23:03
 仕事がどんなに忙しくても。

 イチイ、ヤスダ、どちらかは。
 一日一回は必ず。
 ヤグチの部屋に顔を出す。

 別に大した話をするわけでもないのだが。 

「もうねぇ、あたしもサヤカもいっぱいいっぱいよ。寝る時間もないんだから」

「うん、大変だね」

 ヤスダの言葉へのヤグチの返答。

 だが。
 言葉が。
 上滑りしてる。

 そんな感じが否めない。

 ヤグチはそれから話しを広げることなく。
 再び黙り込んでしまった。

「・・・・・・・・・ねぇ、ヤグチ。正直に話して。ユウちゃんのこと、ずっと考えてるの?」

 ナカザワとヤグチの別れの時。
 正直、あれに立ち会った身としては。
 ヤスダはヤグチの前でナカザワの話題をあまり出したくなかった。
 ヤグチの感情の暴走を。
 ナカザワのように止めれる自信がなかったから。

 それでも。
 見てられない、ヤグチの姿。

 ナカザワの名前を出されて。
 ヤグチの表情が動く。

「・・・・・・・うん」

 困ったように。
 どんな表情を浮かべていいのかわからないまま。
 ヤグチは頷いた。

「どうしてるのかな。怪我、治ったのかな。また無茶して、悪化させてないだろうな、とか」

 そのヤグチの瞳は。
 遠くをさまよっている。

「・・・・・・・・辺境の話、しようか?そんなに悪いとこじゃないよ?あそこの隊長、ユウちゃんの悪友なんだよ」

 ヤグチが。
 ヤスダを見た。
177 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 23:04
「・・・・・・・・いいの?」

「何で駄目なのよ?」

 ナカザワがいなくなって。
 初めてヤグチが見せた、興味、反応。

「・・・・・・と、でも今日はもう行かなきゃ。明日また来るよ」

「うん。・・・・・・・楽しみにしてる」

 ヤグチが笑った。

 久々の、作り笑顔でない笑顔に。
 ヤスダの顔がほころんだ。

 それから毎日。
 イチイとヤスダは、ヤグチの部屋にやってきて。
 さしさわりのない程度。
 ナカザワに関係する話を、ヤグチにした。

 最初は、その話にだけしか反応しなかったヤグチだったが。
 次第に、他の話にも興味を示すようになっていき。

 徐々に、感情のこもった受け答え。
 それを見て。
 イチイ、ヤスダはほっと胸を撫で下ろしていた。

 ナカザワから半ば脅しに近く。
 ヤグチに何かあったらただじゃ済まさない。

 ヤグチのことになると、ナカザワの冗談は冗談ではない。
 きっとりと身に染みてそのことを理解している二人だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 夜の静寂の中。
 ヤグチは眼を覚ます。

 最近。
 自分がちゃんと笑えていることもわかっている。

 でも。
 ねぇ。
 待つしかできないことが、こんなに辛いなんて思わなかったよ。

 暗い空。
 見上げた先に、ナカザワはいる。

 バルコニーに出て。
 ヤグチは手を伸ばしてみた。
178 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 23:04
 怪我、してないだろうな?
 ご飯、ちゃんと食べてる?

 ・・・・・・・・・ヤグチのこと、ちょっとでも思い出してくれてる?

 想いが、届けばいいのに。

 ヤグチの身辺には。
 王の言葉どおり二十四時間護衛・・・・・・もとい、監視がついていた。

 今も。
 部屋の前に近衛兵が寝ずの番をしていることだろう。

 そばにいることが当たり前だった。
 ナカザワが戻ってくるのは自分の場所。
 いつか、王国を継ぐ事になっても。
 ナカザワは当然のように自分の横にいて笑ってると。

 どうしてそんなこと、信じていられたのだろう。

 伝えたい、気持ちがある。
 聞きたい、ことがある。

 一緒にいる時は、わからなかった。

 いなくなって。
 こんなにも。
 いつだって。
 ずっと。
 どこまでも。

『これ片っぽづつ持ってたらな、どんな離れたとこでも、相手の言葉が聞こえる』

 別れ際。
 ナカザワの言葉。
 ヤグチはあれからずっと。
 ナカザワからもらったピアスを肌身はなさず持っている。

「・・・・・・・・でも、聞こえないよぉ」

 ヤグチは顔を覆う。

『泣き虫やなぁ。いつからそんなに涙もろくなってん?』

 声は、聞こえない。

『んじゃ、今日は特別やでぇ。ユウちゃんがとっておきの話、きかせたろ』
179 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 23:04
 自分でも。
 ほとんど泣いた記憶なんてなかったのに。
 この数週間。
 ずっと泣いてる気がする。

「・・・・・・・・姉ちゃん」

 声が、聞こえた。

 誰もいるはずのない、バルコニー。

 侵入者がないように、計算しつくされた。
 外敵から完全に守られているヤグチの部屋。

「・・・・・・・え?」

 ヤグチが悲鳴をあげなかったのは。
 あまりの驚きで。
 声がでなかっただけ。

「泣いてばっかやったら幸せになれんで?」

 幻聴とも思えない声。
 聞いたことのある声に、ヤグチが顔をあげると。

「・・・・・・・・カゴっ?!・・・・・・・・ツジも」

 眼の前。
 3メートル先に浮かんでいる二つの人影。

「そっち入ってもいいですか?・・・・・・・アイボン、重い」

「重いって何やねん、うちは・・・・・・」

 言い合いを始める前に。
 ツジはバルコニー。
 カゴを降ろして。
 自分はふわり、と着地した。

「・・・・・・・・・・久しぶりです」

 八重歯が印象的な笑顔。
 ツジは、何も変わっていない。
 いや、変わっていないように見えた。

「姉ちゃんの部屋、わかりにくいとこにあんねんな〜。うちら、探しまくったで」

 ツジの横でカゴが笑う。
 屈託のない笑顔に。

 自然、ヤグチの顔もほころんだ。

「ツジ、飛べるようになったんだ?」

「うん」

 ツジの笑顔は。
 少し寂しげだった。
180 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 23:04
「ノノ、殺されるかもって思ったけど・・・・・・・ナカザワさんが助けてくれたのです」

「・・・・・・・姉ちゃん、ここ寒い。騒げへんから中いれてくれへん?」

 ツジの雲った笑顔に気付いてないはずもないのだろうけど。
 カゴの声は明るくて。

 何だか癒される気がした。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「イイダさんがな、落ち込んでてん」

 お菓子がないのにちょっと残念そうな顔をした二人だったが。

 紅茶を前にしてしゃべりつづける。

「ノノを助けてくれってナカザワさんにイイダさんが頼んで、それでナカザワさんがどっか遠いとこ
行っちゃったって」

 ヤグチは頷く。

 事実だけれど。

 きっとナカザワは。
 イイダの頼みがなくても、ツジを殺せなかっただろう。
 子どもたちを殺すことはできなかっただろう。

 そう思うから。

「ユウちゃんは・・・・」

 言いかけたヤグチの言葉。
 まったく無視して二人の会話は続く。

「だからな、うちらその遠いとこって行って見てん」

「あんまり遠くなかったのです」

 ・・・・・・・・・・・。

 一瞬。
 ヤグチの思考回路が止まる。

「あの姉ちゃん怖いだけやと思ってたけどそうやなかってんなぁ」

「二人で怒られたのです」

 夜。
 暗くなってすぐ出発したこともあって。
 普通なら馬で半日かかるところ。

 二人は一時間ほどで着いた。

 驚いた様子で何も言わないナカザワに。
 二人で話をした。
181 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 23:05
『ノノ助けてくれたせいで、こうなったのなら、ノノ、お返しをするのです』

『そうや。ノノのこの力あれば、隣りの国まで行くのもすぐやで?何か情報調べてきたら姉ちゃん王都
戻ってこれるやろ?』

 無邪気な二人の言葉に。

『アホかっ!!アタシはそんなことさせるためにアンタ助けたんちゃうわっ!!』

 ナカザワの怒声が響いた。

「姉ちゃん言うんや。ノノが空を飛べることみんなにばれたら、みんながノノの力を欲しがって
ノノを追い掛け回すって」

 ツジは隣りで頷く。

「もう絶対こんなことで空を飛んじゃいけないって言われたのです」

「でもな、ノノが戻ってこれたの姉ちゃんのお陰やん。だから聞いたんや。何かうちらにできること
ないかって」

「そしたら、ヤグチさんの様子見てきてって」

 ヤグチは。
 やっと。
 凍り付いていた舌を動かす。

「ユウコは・・・・・・?ユウコは?顔色悪くなかった?痩せてなかった?無理してなかった?」

 泣き出しそうなヤグチの顔を見て。
 ツジとカゴは顔を見合わせる。

「暇でたまらんって笑ってたで。何か、一ヶ月は勤務につくなって偉い人から言われたらしいねん」

 カゴの答えに。
 少し。
 ヤグチの肩から力が抜ける。

「同じ眼、してたのです」

 え?

 カゴとヤグチ。
 二人分の視線に。

「ナカザワさん、ヤグチさんと同じ眼、してました」

 カゴは黙り込んで。

「・・・・・・・・姉ちゃんひどいねんで。ヤグチが元気そうやったら、ちゃんと笑えてたら、声、かけずに
帰って今までのこと全部忘れろって」

「アイボン」

 きっと。
 とがめるような目をツジがしたのは。
 ナカザワに口止めでもされていたのだろう。

 一度口を開いたカゴの言葉は止まらない。

「ホンマはな、姉ちゃんと会ったこともヤグチさんに言うなって言われてた」

 やっぱり。

 自分の考えを裏付けてくれるカゴの言葉に。
 ヤグチは唇を噛む。
182 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 23:05
『何でなん?なぁ。姉ちゃんヤグチさんのこと好きなんやろ?』

『聞いてなかったんか?ヤグチはこの国の後継ぎや』

『そんなん関係ないやん。何で好き同士やのにあかんの?』

 ナカザワは。
 辛そうに黙り込んでしまった。

 ツジは。
 黙ってそのやりとりを聞いていた。

『もっと力ついて・・・・・ちゃんとアタシがヤグチ守ってやれるまで。ヤグチはアタシのこと忘れた方がいい』

 ナカザワの答えは。
 カゴを到底満足させるものではなかった。

 カゴは、前。
 ヤグチが泣いたのを、見た。
『好きあってるように見える』
 その一言で。
 今まで笑顔を絶やさなかったヤグチが。
 泣いたのを見た。

 ナカザワが。
 触れられない距離に。
 白くなるくらい、拳を握り締めてるのも、見た。

 ヤグチが王女だという話を聞いて。
 納得した、距離。
 でも。

「何で忘れた方がいいのか、全然わかれへん。・・・・・・姉ちゃんはナカザワの姉ちゃんに会ったこと、
忘れたいって思ってるんか?」

 もし次会えば。
 触れ合える距離に近づけば。

 ヤグチは自分の取る行動がわかっていた。

 だから。
 ナカザワが。
 何故ヤグチが自分のことを忘れた方がいいと言ったのか。
 その理由。

 わかってしまったから。

 ヤグチは。
 黙りこんでいるツジの前にしゃがみこんだ。

「ツジ・・・・・・・オイラ、ユウちゃんのとこ、連れて行ってくれない?」

 ツジは眼を伏せている。

「・・・・・・・ツジを助けたのはユウちゃん。それを頼んだのはカオリ。だから、オイラ関係ないよね」

 ヤグチは少し笑う。
 そして。
 そのまま。
183 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/29(月) 23:05
「だから、お願いします。オイラ、ユウちゃんのとこに連れて行ってください・・・・・・どうしても言って
置きたいことがあるんだ」

 深々と。
 頭を下げた。

 ツジは驚いたように、少し眼を見開いて。

「ヤグチさんは・・・・・後悔しないのですか?忘れた方がいいって思わないのですか?」

 空を飛びたい。
 それを信じて。
 ツジが行った先に何があったのだろう。
 ヤグチの胸は痛む。

『人体実験を行っていたのです』

 イチイの言葉。

『空を飛びたい、飛べる、そう信じる子どもをかどわかしたり・・・・・・・言葉巧みにいい含めて人体実験
を行っていたのです』

 ツジが見た世界は。
 夢の世界じゃなかった。
 それがきっと現実なのだろうけれど。

「オイラはね・・・・・・忘れたい、なんて全然思わないよ」

 眼を閉じれば。
 浮かんでくる。
 大馬鹿者。

「全部、全部大事だから。過去とか、思い出とか。そんなんにしてやんないって」

 ヤグチはツジの眼を覗き込んだ。

 ツジの潤んだ、眼に。
 本心を告げる。

「オイラ、あのアホにそれ、教えたい。先がなくても、未来なんてなくても、それでも」

「わかりました」

 ヤグチが全部言い終わる前に。
 ツジは笑顔を見せる。

「届くといいですね、ヤグチさんの気持ち」

 その笑顔はやっぱりまだ。
 少し翳りがある。

 それでも。

「いつにしますか?」

 前向きな言葉。

 そして。

 決行日は三日後。

「姉ちゃんの部屋の前とか、なんか兵隊ごろごろいるやん。いつやったら警備少ないん?」

 カゴの言葉で決まった決行日。

 王宮で。
 パーティーがある日。
 その日だったら、会場に近衛兵が詰めていて。
 見回りの警備が少ないのをヤグチは知っていた。

 勿論。
 ヤグチは急病のため、それに欠席。

 お見舞い、誰も来ないようにしとこう。

 そう思うヤグチの表情は。
 ここ数週間にないほど。
 生き生きしたものだった。
184 名前:つかさ 投稿日:2004/03/29(月) 23:13
>>173 名無し読者さん
>(〜^◇^)<アホだね。
从#~∀~#从<・・・・・(凹)
(〜^◇^〜)<オイラの傍でユウコ、死なせるわけないだろ?
从#~∀~#从<・・・・・・あ。
(〜^◇^〜)<だから、アホだってんだよ(ちょっと照)
な〜んて会話が頭の中に即座に浮かんで来ました(w

>>174 名無し読者さん
>ワクワク・・・ドキドキ・・・目が離せません!!(w
っつ〜ことで今日も更新してみました(w

貼ってた伏線が勝手に(これ強調)うまくはまった時ほど書き手にとって嬉しい
ことはない、と。
適当に構成作って細かい部分まで決めない自分にとって今回のシーンが浮かんできた
時は思わずニヤリ、としましたね。
それにしてもヤグチさんの暴走っぷり・・・・さすがとしかいいようがない。(思わず他人事 w)

今日の更新はここまで。
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/30(火) 02:30
なるほどね、あの伏線がここにきて…


それにしても、辺境の姐さんが心配だ。浮気してないかどうか(そっちかよ)。
186 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/30(火) 23:12
みっちゅーもあるのかなぁ?(w
187 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:07
〜〜〜2〜〜〜

「・・・・・・ツジ。アンタ、もう来んなってアタシ言ったやろ?」

 と言ったまま。
 間抜けに固まるナカザワ。

「来ちゃった」

 ツジの脇で。
 笑うヤグチを何度もナカザワは見つめなおし。

「・・・・・・・・・・」

 無言のまま。
 くるっと踵を返す。

「おいこら・・・・・・・さすがにその反応はひどくない?」

 ヤグチが。
 後ろからナカザワに抱きつくと。

 それでも。
 やっぱりナカザワは無言だったが。

「・・・・・・・何で・・・・・・来たん?」

「ツジに抱えられて」

「・・・・・・アタシが聞きたいのはそうやなくて」

 やっと。
 ナカザワがヤグチの顔を見た。

 途端。

「・・・・・・・・・・ユウコ。苦しいよ」

「逢いたかった」

 息苦しくなるほど。
 強く。
 ヤグチはナカザワの腕の中。
 抱きしめられていた。
188 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:07
 ヤグチは。
 そっとナカザワの背に手を回した。

 暖かい温もりに。
 ナカザワの胸の中。
 ぎゅっと頭をこすりつける。

 考えていた言葉。
 全部が頭の中から飛んでいく。

「・・・・・・・・ホンマもう・・・・・・想像できんことしてくれるなぁ」

 やっと。
 腕が緩んだと思ったら。
 覗きこんでくるナカザワの顔。
 穏やかで。

 ヤグチは小さく笑う。

「ユウちゃんが弱気になってるからだろ?」

「アタシのせいか?・・・・・・まぁ、弱気にはなってたけど」

 コツン。
 ナカザワがヤグチにおでこをぶつけて。
 腕の中には。
 お互いの温もり。

 幸せそうに笑っている二人。

「・・・・・・・・邪魔するようで悪いんやけど」

 大人しく。
 その光景を少し離れたところから見ていたツジがびくっと身体をすくませて。
 声をかけた人物の顔を見て、安心したように笑う。

「・・・・・・・・・ホンマ邪魔やで?」

「ならテントの中でやってえな・・・・・・・・え?」

 見回りの最中の、ヘイケの姿。
 軽いやり取りの中で。

 ナカザワの腕の中にいる人物。
 見間違えようもない、その人物の姿。

「・・・・・・・ユウちゃん」

「見んかったことにしといて」

 ヤグチの姿をヘイケの視線から遮るように動くナカザワの身体。

「貸し一個、ですからね」

「・・・・・・・・・しゃ〜ないな」

 間近に見える、ナカザワの顔。
 ヤグチはじっと見つめる。
 表情が、動く。
 柔らかく。

「んじゃ、ツジまかせてええか?」

「はいはい」

 クスクスとヘイケは笑いながら。
 自分のテントへツジをいざなう。

「まぁミッちゃんで良かったか。見られたの」

 ぶつぶつ呟いて。
 髪の毛をかきあげるナカザワの様子。
189 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:08
 圧倒的な愛おしさが胸に込み上げてきて。

 ヤグチはぎゅっとナカザワにもう一度抱きついた。

 一瞬。
 ナカザワは驚いた表情を見せるが。
 そっと。
 ヤグチの身体を抱きしめなおした。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・・・・・・結構綺麗にしてんだ」

 きょろきょろと。
 ヤグチは物珍しそうにナカザワのテントを見回す。

「まぁな」

 飲み物を用意するナカザワの手つきは、慣れたもので。

「ほら」

 手渡されたカップには。
 ヤグチが見たこともない液体。
 湯気がたっているそれは。
 ツジに抱えられ。
 いくら時間は短かったとはいえ、結構な高さの飛行。
 冷え切ったヤグチの身体にはありがたものだった。

「・・・・・・・美味しい」

「うん」

 一口飲んで。
 甘い、液体。
 眼を細めたヤグチをナカザワは嬉しそうに眺めている。

 半分ほど。
 カップの液体をふーふーと飲んでいたヤグチは。
 不意に、思い出す。

「そうだ」

 ん?

 首を傾げるナカザワに構わず。
 とりあえず、カップをベッドの脇のサイドテーブルに置き。
 ヤグチはナカザワの真正面に立つ。

「脱げ」

「・・・・・・・・・・・」

 あまりと言えばあまりのヤグチのセリフに。
 さすがのナカザワも黙り込む。

「・・・・・・・ちょ、待って〜やっ」
190 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:08
 ヤグチの手が。
 ナカザワの上着。
 ボタンを二、三個外すに至り。
 ナカザワはやっと焦った声をあげる。

「怪我っ」

 下から見上げてくる怒ったようなヤグチの視線に。
 やっとナカザワは合点がいく。

「大丈夫やって・・・・・・動き、見てたらわかるやろ?」

「わかんない」

「だから、あんま見て気持ちええもんちゃうから・・・・・・」

 抵抗するナカザワに。
 脱がそうとするヤグチ。

「ちょ、危ないって・・・・・・・」

 もみ合ううちに。

 ドサ。

 いつの間にか。

 ヤグチはナカザワを押し倒していた。
 ベッドの上。

「いい加減、観念しやがれ」

 驚いたように動きを止めるナカザワに・・・・・・・。
 動きを止めないヤグチ。

「・・・・・・・・・」

 ナカザワの上着。
 ボタンを外しおえ。
 ヤグチは無言になる。

「結構、傷跡は見れたもんちゃうけどな・・・・・・まぁ、包帯取れたし、傷も綺麗にふさがってるし」

 急に止まったヤグチを見て。
 ナカザワはやれやれ、と諦めの表情。

 しかし。
 それも眼に入らないくらい。
 ヤグチはナカザワの身体から眼を離す事ができなかった。

 以前。
 イイダの診療所で見た傷とは比較にならないくらい。
 銀のペンダントが揺れる下。
 身体中、縦横無尽に走っている傷跡は。
 痛々しく。

 治りかけの証だとはわかっていても。
 盛り上がりかけてるピンクの肉が。
 まざまざとナカザワの身体がどれほどの苦痛を受けたかを物語っている。
191 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:08
「・・・・・・・ヤグチ、ヤグチって」

 頬にナカザワの手の感触。
 ヤグチはノロノロと視線を上げる。

「これ、アタシにとって勲章やから。でも・・・・・・・・見られるのはちょい、恥ずかしいなぁ」

 身体を隠そうとするナカザワの手。
 ヤグチはその手を止める。
 ナカザワの胸に顔をうずめると。

 トクン、トクン。

 鼓動を刻む、心臓の音。
 ちょっと速い、かもしれない。

「・・・・・・・・・・・あのなぁ・・・・・・・・・・」

 ナカザワの困ったような声。
 ヤグチが顔をあげると。
 案の定。
 困った顔をして見つめてくる、眼。

「いい加減、離してくれへん?」

 ヤグチは黙って。
 ナカザワの眼を覗き込む。

 ベッドの上。
 ボタンを外された、服をまとうナカザワの姿。
 のしかかるヤグチ。

「ねぇ?」

「なん?」

 打てば響く。
 そんな風に言葉を返してくるくせに。
 ナカザワの身体はぴくりとも動かない。
 動かさない。
 それがわかるから。
 ヤグチは笑みを漏らす。

 ヤグチは身体をずらして。
 ナカザワの首筋に。
 顔を埋めた。

「ユウコ・・・・・・・好き、だよ」

 ぴくり。
 ナカザワの身体がわずかに身じろぎする。
 言葉は、ない。

「オイラ、ユウコ以外何もいらないよ・・・・・・・・ユウコがいればそれでいい」

 ペロリ。

 ヤグチがナカザワの首筋を舐めると。

 初めて。
 ナカザワが動く。
 ヤグチを押しのけようとする。
 弱々しい腕の力。
192 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:08
 例えば。
 ナカザワとヤグチの道は全然違うもの。
 ヤグチは。
 当然のように、それを理解してきた。
 ナカザワが誰かのものになっても。
 ヤグチが誰かのものになっても。
 それが当然で。

 触れ合う距離に、近づくことは。

 決してないと。
 どうしてそんな風に考えてられたのだろう。

 いつだって。
 きっと。
 ずっと。
 どこまでも。

「好きだよ。本当に好き・・・・・・・愛してる」

 互いの顔。
 ゆっくりと近づき。

 初めての、キス。

 触れるだけのものは。
 本当に一瞬だった。

「ユウコ・・・・・・・オイラだけのものになって」

 熱っぽいヤグチの眼を見て。
 ナカザワは眼を閉じる。

「アタシはいつだって・・・・・・アンタだけのものや」

 ゆっくりと。
 ナカザワはヤグチの背に手をまわす。
 暖かくて、小さい身体。
 ずっと。
 守ってきた。

 いつだって。
 ヤグチがいたから。
 ヤグチだけのために。
 戦いつづけてきた。

「なら。オイラもユウコのものになる。ユウコだけのものになりたい」

「・・・・・・意味、わかって言ってるんか?」

 お互いの視線が絡む。
 きっともう。
 離せない。

「後悔、しない・・・・・・・国は妹が継げばいい。ユウコが好き。・・・・・・ユウコは?」

 オイラのこと、どう思ってる?

 ヤグチの掠れた声に。
 ナカザワは乱暴なキスで応える。

「気、狂うほど。ずっとアンタのこと、想ってた」
193 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:09
 トサ。

 ヤグチの身体が反転する。
 気が付けば。
 ナカザワがヤグチにのしかかる格好で。

「言って」

 ぐっと。
 そのまま言葉に詰まってしまったナカザワの首筋。
 ヤグチは腕を回す。

「・・・・・・・・好きや。ホンマに・・・・・・言葉にできんほど」

 愛している。

 その囁きとともに。
 もう一度唇が振ってくる。

 ヤグチは眼を閉じて。
 それを受けた。

 忘れればいい。
 そんな簡単な言葉で。
 この気持ちが、消えるのならば。

「ごめん・・・・・・優しくしてやれんかも」

 ヤグチの服を脱がすナカザワの手つきは荒っぽい。

「いいよ・・・・・・」

 ナカザワの手が。
 ヤグチの素肌に触れる。
 ピクン。
 触れられただけで。
 跳ね上がる身体。

「・・・・・・・・大人になったなぁ」

「親父」

 脱がされて。
 第一声がそれかい、と。
 ヤグチは思わず突っ込み入れつつ。

「アタシも脱ぐの?」

「今更じゃん?」

 暗がりの中。
 脱いだナカザワの身体の傷にヤグチは目を細める。
194 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:09
「勲章、だよね?」

 ヤグチの指が。
 傷跡をたどる。

「・・・・・・・・・うん」

 もう一度。
 覆い被さってくる身体。
 ぎゅっと抱きしめあう。

「ヤグチの身体、綺麗やなぁ」

「も〜、そんなこと言わなくて・・・・・・んっ」

 首筋に触れる、ナカザワの吐息。
 まさぐられる、身体。
 ナカザワの手。
 熱くなる。

「・・・・・・・・・っぁ」

 気付かないほど。
 ひそやかに。
 心の中に入り込んでいた。

 今。
 こうなって。
 当然と思う、気持ちに。
 多分。
 ナカザワはずっと前から気付いていたのだろう。

「もう、止まらんからな」

 強いナカザワの瞳。
 ヤグチは笑う。

「言わないよ。でも・・・・・・・ぁあっ」

 胸元を襲う刺激。
 ヤグチはのけぞる。

「・・・・・・でも?」

「・・・・・・・初めての相手がユウちゃんで・・・・・・・良かった・・・・・・・っ!」

 途切れ途切れのヤグチの言葉。
 ナカザワは不意に。
 柔らかい笑顔を見せる。

「そっか・・・・・・・そやんな」

 手は止めないまま。

 ずっと。
 こんな日がくればいいと祈っていたが。
 くるはずもないと、諦めていた。

 超えれない壁。

 苦しかった時期があった。

 戦うことで。
 命をかけて、守っている。
 それだけが自分の存在意義になりそうな時があった。

「・・・・・・・ヤグチ」

 見えない位置。
 ナカザワはキスマークをつける。
 ヤグチの吐息。
 存在。
 全てがナカザワを狂わせていく。

 ・・・・・・・・手加減できんわ、やっぱり。

「・・・・・・・ヤグチ・・・・・・・いい?」

 時間の感覚が狂う。
 欲望が身体の中を暴れまわる、そんな感覚は初めてで。
 ヤグチはしばらくナカザワの言ってることがわからなかった。
195 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:09
「・・・・・・・んっぁあっ」

 太ももあたりを蠢くあやしい手つき。

 苦しさではない涙が。
 目じりを伝う。

 知識だけは、あった。
 知らず。
 強張ったヤグチの身体を。
 ナカザワは優しく抱きしめた。

「怖い?」

「・・・・・・・ちょっとだけ」

 どうなってしまうのか。
 そんなこと。
 誰にだってわからないなら。
 今、この瞬間を後悔しないように。

「・・・・・・・オイラ、全部ユウちゃんのものにしてよ」

「頭のてっぺんから、つま先までアタシのもんや」

 ナカザワの声が聞こえたような聞こえなかったような。

 それからすぐに。
 ナカザワの指がヤグチの中に入ってくる・・・・・・・。

 もう。
 ナカザワの声を聞いてる余裕なんてヤグチにはなかったけれど。

「地獄に落ちても構わん」

 オイラも。
 ユウコと一緒だったら。
 地獄でも。
 構わないよ。

 そんな想い。
 そうそうできるもんじゃないよね。

 ヤグチはナカザワの身体にしがみつく。
 どこかに飛んでいきそうな、感覚に。

「あ・・・・・・・・もう、何か・・・・・・・・ぁあっ!」

 のぼりつめた身体。

「・・・・・・・・・ん」

 眼をあけると。
 ナカザワの顔。
 照れくさい気持ちもあるけれど。
 ぎゅっと。
 ヤグチはナカザワに抱きついた。
196 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:09
ーーーーーーーーーーーーーーーー

 このまま。
 この腕の中で。
 ずっと過ごしていたい。

 眠ってしまいたい。

 まどろみの中。

 感じるのは、ナカザワの暖かい腕と。
 匂い。

「離れたくないよぉ」

 掠れた声で。
 正直な。
 ヤグチの今の気持ち。

「ん?起きてたんか?」

 髪の毛を撫でてくれるナカザワの優しい手つき。

「起きてたよ」

 そっと。
 ヤグチはナカザワの肩。
 キスを落とす。

 紅い痕に。
 それだけで、嬉しくなる。

「・・・・・・・痛くなかったか?」

 ナカザワの言葉の意味。
 わかるから、ヤグチは頬を染める。

「別に」

 赤くなったのを見られるのが嫌で。
 ナカザワの肩に顔をうずめる。

「可愛かったで」

「・・・・・・・も、いいって」

 腰のあたりに残る、鈍い痛み。
 それさえも。
 何だか愛しい、と思える感覚。

「そういえば、さ」

 多分。
 夜明けまでそれほど時間は残っていない。

 以前、王から聞いた話。
 ナカザワが近衛隊に入った時の話。
 ヤグチがまだ五歳くらいの話。
『アタシにはこの国がどうなろうが関係ない。アタシはヤグチを守るためだけに動く』
 そう言ったナカザワは。

「まだ、オイラ、ユウコと会ってなかったよね?」
197 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:10
 本当に、不思議そうな表情になっているヤグチ。
 ナカザワは少し黙りこんだ。

「・・・・・・・・夢を、見たんや」

 照れくさそうな、声音。

「小さい時から。ずっと同じ夢、見た」

 小さい女の子と。
 自分が。
 笑いあってる、そんな絵。

『ヤグチ』

 その名を呼ぶときの、自分の胸の高鳴り。

『ユウちゃん』

 何て。
 可愛い子だろう、と。
 ずっと思っていた。

「いろんな夢、見た」

 その相手が。
 王宮の王女だと言うことを知った時。
 ナカザワは近衛隊に入ることを迷わず決意した。

「ずっと好きやってん。ずっと探してた」

 自分の。
 たった一人の相手。

「・・・・・・・ユウコって予知能力とかあったっけ?」

 そっと。
 ヤグチはナカザワの頬を撫でる。

「全然ないよ」

 ナカザワは笑う。

「でも、アンタだけは・・・・・見えた。他の時代の夢も見たで。アタシはいつもアンタを・・・・・・愛してた」

「オイラ、そんな夢・・・・・見たことない」

「愛が足りん証拠や」

 拗ねたようなヤグチに。
 ナカザワはクスクス笑う。

「姉妹の時もあった。親子の時もあったし。何か・・・・・ようわからんけど、一緒に歌って踊ったりしてた
時もあった」
198 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:10
 話の合間にも。
 ヤグチとナカザワの身体は密着している。
 ついばむようにヤグチがナカザワにキスを落とす。

「王女や、とかそんなんより」

 やっと出会えた。

 ナカザワにとってはそれだけだった。

「アタシはアンタだけをずっと見てた。昔も、今も、これからも。それだけは・・・・・・譲られへん」

「見てるだけで良かったのかよ?」

「・・・・・・・・ヤグチがそれでいいなら」

「・・・・・・・アホ」

 他の人が聞いたら。
 信じられない話かも、しれないけれど。
 ヤグチにはわかった。
 ナカザワが真実を話していると。
 ナカザワにはきっと。
 見えていたのだろう。

「オイラ、忘れないよ」

 お互いに、濡れた瞳。

「だから、忘れろ、なんて言わないでね」

 この温もりを。
 この腕を。
 愛している。
 そんな気持ち。

 忘れられるはず、ないのだから。

「ヤグチ・・・・・・・」

 ナカザワが何かを言いかけた時。
199 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/03/31(水) 23:10
 控えめに。
 テントの外から声がかけられる。

「姐さん。起きてはります?」

 しばらく。
 ナカザワとヤグチは顔を見合わせて。

「・・・・・・・時間か?」

「はい。夜明けまでには帰さんとマズイんちゃいます?」

「・・・・・・・そやな」

 ゆっくりと。
 ナカザワは身体を起こす。

「・・・・・・・・・ユウコ」

 何かを。
 訴えかけるようなヤグチの視線に。
 ナカザワは俯いて首を横に振った。

「迎えに行く」

 ヤグチは黙りこむ。

「待てない」

「・・・・・・・・・ヤグチ」

 ヤグチの発した言葉。
 ナカザワは眉根を寄せる。

「また来ていい?」

 擦り寄ってくる身体。
 これでどう答えろと。
 ナカザワは苦笑する。

 また来る、ということは。
 ツジに空を飛ばせる、ということ。

 その危険性に眼をつぶって。

 それでも。
 手放せない、と思う。
 この温もりに。

「・・・・・・・・ツジがいいって言ったらな」

 遠回りしてきた二人の気持ちが。
 今、重なった。
 超えなくてはいけないハードルは。
 まだ山のように待ち構えている。
 そんな現実を残しながら。
200 名前:つかさ 投稿日:2004/03/31(水) 23:17
>>185 名無飼育さん
>それにしても、辺境の姐さんが心配だ。浮気してないかどうか(そっちかよ)。
さすがに・・・・そこまでは考え付きませんでした(w

>>186 名無し読者
>みっちゅーもあるのかなぁ?(w
・・・・・登場はしますっ<みっちゃん
しかし・・・・・全然皆目。
深く掘り下げても考えてなかったっす・・・・<みっちゅー
姐さんの横にいるのが当たり前なんで(待て)

稀少価値なこのシーン。
やっぱこ〜ゆ〜の書くのは苦手だと思いつつ(苦笑)
ついでにみっちゅーとか・・・・・・古いよなぁ、自分書くCPと思いつつ。
これしか思いつかないのでしゃ〜ないか、と(開き直り 笑)

今日の更新はここまで。
201 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/01(木) 15:18
更新お疲れ様です。
こうきますか・・・。
これからどうなるのか、楽しみですねw
続きも期待しております。
202 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/01(木) 22:17
やっとお互いの気持ちが、
通じ合えてよかったなーと思いつつ。
姐さん‥‥なっちはどうするんだろ‥
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 22:21
っていうか、二人の王女の初(略
……なんてやつだw
204 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:12
〜〜〜3〜〜〜

 矢口の唐突な訪問から数日。
 ナカザワのテントには辺境警備隊、隊長。
 ヘイケミチヨの姿があった。

「隣国が変な動きしてますわ」

 ナカザワの取って置きの酒。
 ぐびぐびとヘイケは飲み干す。
 恨めしげなナカザワの視線はまったく無視したまま。

「ちったぁ手加減して呑めや」

 ナカザワはぶつぶつ言いながらも。

『貸し一個な』

 これくらいで済むのなら安いものだと思いつつ。

 最近頻繁になってきている隣国とこの国の境界線での小競り合い。

「でかいのが攻め込んできそうな・・・・・・・こっちも兵力の増強、考えた方がいいんとちゃいます?」

「・・・・・・・・そやな」

 短くそう答えて。
 ナカザワはしばらく思案顔。

 王都での失態。
 一兵士として、辺境警備隊に飛ばされてきた割りには。
 身体の傷も癒えないナカザワを迎え入れたのは。

『一ヶ月通常勤務から外れてもらいます。怪我してる人間をこき使うほどこっちも人材不足なわけや
ないんで』

 冷たいようでナカザワにとってはありがたい話。
 まぁ。
 三日の静養期間があったにもかかわらず。
 半日の馬の移動。
 そのまま一週間寝込んでしまった身としては。
 何も言えない状況ではあった。

「隣国は・・・・・どないなんですか?」

 暇にまかせて。
 隣国への潜入調査。
 ナカザワはたびたび行っていた。

 無論。
 ヘイケがそれを知らないはずもなく。
 この辺境警備隊で階級は何の意味も持たない。
 隣国との小競り合いを繰り返すここは。
 生き残るための腕試しの場。
 いくら隊長でも。
 一兵士でも。
 生き残るための判断を下す方に兵士は従う。
 当然のことだ。
205 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:12
「・・・・・・・・町は結構、静かやったけどな・・・・・・・でかい軍隊が在駐してる様子もなかったし、気配も
感じんかった」

 しばらく。
 お互い無言で酒を酌み交わす。

「でも確かに何か変な感じやな・・・・・・・今、小競り合いで国境来てる向こうの兵士の数、おかしいやろ」

 過去。
 何度も繰り返された国境での戦闘。
 それは。
 明確な意思を感じられた。
 殺意、戦闘への高揚した気分。

「偵察・・・・・ですかね」

「・・・・・・・・でかいの、あるかもしれんな」

 頻繁になった小競り合いで。
 向こうの兵士を捕まえて。
 口を割らせても。
 何も知らない兵士ばかりだった。

「戦い慣れてない奴、多いしな・・・・・・・多分こっちの地形とかそんなん調べてるんやろ」

「・・・・・・・・王都で密通者がでたって話ですけど」

 ちらり。
 ヘイケが真面目な眼をナカザワに向ける。

「どこまで情報は漏れたんですか?」

 ナカザワは黙り込む。

「内部に潜りこんでいた奴、一人は確認した。そいつはが得た情報は流れても価値ないもんや。でも・・・・・・」

 いったんナカザワは言葉を止める。

「もう一人、いたかもしれん」

「一人確認された方がダミーってことですか」

「やり方があまりにもお粗末すぎるからな」

 二人は無言になる。

「王都の情報はほとんど漏れてるって考えた方がいいですね」

「そやな」

 いかなる場合でも最悪の状況を考えて行動する。
 それは、軍隊にいる限り、鉄則。

 ここ何十年か。
 隣国と平和協定を結んで。
 このようなことが起こることはなかった。
 自然。
 この国で縮小された軍隊の数。

「ったく。後継者争いはええけど、こっち巻き込むなっちゅ〜ねん」

 苛立たしげにナカザワは酒を飲み干した。

「・・・・・・・・王都までいかれたらまずい。それまでに叩かんと」
206 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:12
「どう動かします?」

 しばらくの沈黙。

「この山の地形利用せん手はないやろ。こっち突破されたとして・・・・・・入り口のとこで叩けばええ」

 新しい酒片手に。
 ナカザワは眼を細める。

「そこの指揮はサヤカが適任やろ。王都の守りに関してはどうしても兵力が手薄になるから、
引退した元軍人ひっぱってこい」

 素人からたたき上げるには。
 最低一年はかかる。
 的確な意見、指示に。
 ヘイケは頷いた。

「ケイちゃんやなくてサヤカでいいんですか?」

 イチイが。
 王都を離れるとなると。
 多分、名実ともにヤスダが王都の近衛隊の指揮をとることになる。
 癖のある軍隊で。
 王都に戻って間もないヤスダが指揮をとるとなると。
 不満が出てくるのは否めないだろう。

「サヤカのとこが一番重要なポイントになるからそこで指揮系統狂ったらまずい。それにどうせ
近衛隊に元軍人とかあやしげなん放り込むんやったらそっちをさばけるのはケイ坊の方やろ」

 サヤカ、意外と抜けてるもんな。

 ニヤリ。
 ナカザワは楽しげに笑う。

「遊撃に向いてるのは確かにサヤカの方ですね。柔軟性、あるし」

「そやろ?ケイ坊は慎重ってか固いもんな」

「・・・・・・・教育係の違いでしょうね・・・・・・・・」

「一言多いわ」
207 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:13
 ぽかり。
 ナカザワはヘイケをこづく。

 イチイを新人の頃からたたき上げ。
 自分の右腕にしたのはナカザワだった。
 その代わり、というか何と言うか。
 イチイも自由奔放なところがあり。
 単独行動も辞さない動きは。
 ナカザワを髣髴とさせるものだ。

 一方。
 ヘイケのもとでたたき上げられたヤスダ。
 慎重で物事を冷静に見れる眼。
 客観的な意見にヘイケが助けられたことは数多い。
 三年の辺境勤務で副隊長にまで上り詰めた手腕は。
 間違いなく、本物だ。

 そして。
 相対する二人の性格をナカザワとヘイケはしっかり掴んでいる。
 だからこその、配置。

「・・・・・・・いざとなればこっちは私が指揮とります。姐さんは好きに動いてください」

 いつの間にか。
 静まり返った空気を。
 ヘイケが破った。

 確実に。
 本格的に攻め込まれたら突破されるであろう辺境警備隊。
 辺境警備隊を増強しない、ということは。
 ここでできる限り相手を叩き。
 それでも流れ込んだ隣国の軍隊を。
 待ち構えて叩く。
 突破されたら困るラインはここ、辺境警備隊ではなく。
 イチイが指揮する軍隊になる。

「・・・・・・ここを突破させんかったらいい話やろ?」

「考える時は最悪な情況を踏まえて考える。姐さんの持論ですよね?」

 いたぶらっぽい瞳に。
 ナカザワは笑う。

「まぁもうちょっと時間はあるやろ。こっちもいろいろ打てる手はあるし」

「そうですね」
208 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:13
 そのまま。
 ヘイケはしばらく考え込み。

「アベナツミって知ってます?」

 唐突にでてきた単語。
 ナカザワの手の動きが一瞬だけ、止まる。

「・・・・・・・・隣国王女やろ?」

「排斥される動きやったんですけど・・・・・・どうも最近、その王女も後継者争いに名乗りをあげたみたいで」

 ナカザワは眉をひそめる。

「正統な血筋から言えば彼女が第一後継者ですからね・・・・・・・しばらく姿見せてなかったんで、暗殺
されたんじゃないか、とか噂が飛び交ってましたが。でも姿を現した・・・・・・・彼女が政権をとるような
ことがあれば隣国と戦争状態は避けれるんじゃないかと」

「・・・・・・・・そやな」

 ナカザワは。
 厳しい表情を崩さない。

「アベナツミと・・・・・・関係があったらしいですね」

 ナカザワは何も言わず。
 黙りこむ。
 噂。
 もしくは。
 きちんとした情報として、ここまで流れてきたのか。

 ヘイケは。
 警戒した表情を崩さないナカザワを見る。

「今回の戦いで、私は姐さんのこと、頭数にはいれてません」

 静かなヘイケの言葉。

「私はこの国を守るために戦うけど、姐さんがそうじゃないってことはわかってるつもりですし」

 近衛隊に入った時から。
 ナカザワが誰の為に規律正しい軍隊に入隊したのか。
 口には出さずとも、ヘイケはわかっていた。

 届くはずもない、願い、祈り。

 届いてはいけない、と自制するナカザワの想いを。
 ヘイケは理解していたつもりだ。

「王都で何があったかなんて私には関係ないし、王女との恋愛が禁忌やとか野暮なことを言うつもりも
ないです」

 ナカザワは言葉を挟むことなく。
 ヘイケの言葉を聞いている。

「ただ、もし」

 ヘイケはいったん言葉をきり。
 真っ直ぐにナカザワを見つめた。
 見つめ返してくる真剣な眼差しに。

「アベナツミのことで、王女を裏切るようなことがあれば、私は姐さんにだって容赦しませんから」

 告げられた言葉。

 ナカザワは受け入れる。

「わかった」

 思い出すのは。
 アベとの別れの時。
209 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:13
『ナッチは・・・・・・・みんなを裏切ってたんだね』

 震えていた。
 自らの罪の重さ。
 いろんなことに。

『アンタが悪いんちゃう』

 ナカザワがかけたのは気休めでしか有りえない。

 この世界には知らなくていいことも一杯ある。でも、知っとかなければいけないことも多い。
 一国を背負うことは、知らなかった、では済まされない。
 自分の見える範囲のものしか信じれない、聞きたい言葉しか聞こえない人間に一国を背負う資格はない。

 昔、ヤグチに教えた。
 ナカザワは国王からその言葉を教えてもらった。
 背負うものの大きさを。
 国の重さ。

 アベは。
 なるべくして、国を追われた。
 現実に向き合う強さを持てない人間に。
 一国は背負えない。

『・・・・・・・・・・逃げ』

 兵士でない人間に、剣を向けれない。
 甘いなぁ。
 そう思いながら。
 ナカザワにはそれ以外の言葉を見つけることはできなかった。

 もし。
 アベが、普通の生活を望むのであればそれで良かった。
 無事、逃げて。
 幸せになれるなら。

『ユウちゃんは・・・・・・・』

 アベの眼の奥に。

 一緒に逃げよう。

 その言葉、見れなかったわけじゃない。

 ただ、ナカザワは。
 ナカザワにとって。

『アタシはアタシのしたことに責任、取らなあかん。・・・・・・・戻るわ』

 ヤグチの元へ。
 言葉に出さなかったけれど。
 アベにはわかったのだろう。
210 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:14
『・・・・・・・・・ナッチも、戻るよ』

 震えていた、小さな子ども。
 愛しさを、感じなかったわけではない。
 自分が幸せにしてやれるのであれば。
 そう思わなかったと言えば、きっと嘘になる。

 ただ、それ以上に。

 自分にとって大事なものがあった。
 それだけの話。

「ただな、アタシがヤグチを裏切るようなことがあれば」

 静寂。
 その中で。
 ナカザワは。
 穏やかな笑みを見せた。

「アンタに殺されるのを待つまでもなく、アタシは自分でケジメつけるわ」

 ヘイケは。
 黙ってその決意を秘めた顔を見つめ。
 ただ、頷いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ケ、ケイちゃ〜ん」

 ヤグチの部屋の前。
 警備についていたヤスダは非情に情けない声に耳を止める。

「・・・・・・・サヤカ、アンタ何よその格好?」

「何か実践訓練だって、演習やってたんだよぉ」

「それは知ってるけど・・・・・・いったい何の演習よ?」

 イチイは。
 上から下まで泥だらけ。

 隣国の変化は速やかにヘイケから王都に報告された。
 兵の分割、そして配備。
 王からの指令は近衛隊に伝えられていて。
 イチイ率いる部隊はここ一週間ほど。
 森の中の実践練習を朝から晩まで繰り返している。

「ひどいんだよ。もう手加減なしで向かってくるんだもん」

 王都の警備にしかついたことのない兵士たちにとって。
 森の中は勝手が違う。
 そしてさらに。
 相手をしているのは元辺境部隊の引退した老兵たち。

「指令が飛んでるんだろうけど・・・・・・・・」

 ヤスダは眉をしかめる。

「急すぎるわね」

 ヤスダの頭の中、浮かぶのは。
 辺境警備についている面々・・・・・・というか。
 もろ、ヘイケとナカザワの顔。
211 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:14
「何か向こうで動きあるのはわかるけどさぁ。ケイちゃんの方が適任じゃん。何でイチイなんだよ」

「・・・・・・・文句は後で聞くから。さっさと身体洗って来なさいよ。これからパーティの警備よ?」

「も、イチー、駄目っす」

 がくり、と肩を落とし。
 倒れこみそうなイチイを見て。
 ヤスダは苦笑い。

「何かいろいろ変な動きはあるけど・・・・・・ねぇ、サヤカ、最近ヤグチ、おかしくない?」

 ん?

 きょとん、と。
 ヤスダを見つめるイチイの眼に、不思議さ以外は感じられないが。

「・・・・・・・・・何か、すごく綺麗っていうか・・・・・・艶めいてきた、よね・・・・・・・」

 確信はないが。
 王都からもうすぐ辺境地域へ移動になるイチイに変わり。
 ヤグチの近辺警備を仕切ってきたヤスダには。
 ここ一ヶ月ほどのヤグチの変化は。
 何となく、の域を越えて。
 妙な感じを受ける。

「・・・・・・・・・・ヤグチだって年頃じゃん?綺麗になってんだったら別に構うことないと・・・・・・・」

「本当にそう思ってる?」

 ヤスダの強い視線。
 イチイは困ったように笑う。

「ユウちゃんがいてたら、真っ先にユウちゃん疑うとこだけど・・・・・・」

 ぶつぶつ呟くヤスダは。
 もうイチイを見ていない。

「・・・・・・・・わかった。イチイ、ちょっと話して見る」

「アンタ、その格好で入る気?」

 泥だらけの姿に。
 ヤスダは嫌な顔をするが。

「椅子には座らないよ〜。それに着替えたらもう警備つかなきゃいけないじゃん」

 至極最もなイチイの意見に。
 渋々頷く。

 何となく。
 疑念の色を浮かべたヤスダの追求から逃げるように。

「どうぞ?」

 中からの返答。
 イチイはさっさとヤグチの部屋の中に入った。
212 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:14
「・・・・・・・・・サヤカ、凄い格好じゃん。・・・・・・・シャワー使う?」

「遠慮しとくっす。あらぬ誤解受けたら嫌だもん」

 ヤグチの言葉に。
 ペロリ、と舌を出すイチイ。

 近衛隊から別部隊への配属。
 王都から離れることが決定したその時から。
 イチイのヤグチへの言葉遣いはざっくばらんなものに変わった。

『そりゃ立場ってもんがあるじゃんか〜。ユウちゃんだって、他の人いるとこじゃちゃんとしゃべってた
っしょ?意外と近衛隊の中、規律厳しいんだよぉ』

 屈託なく笑うイチイは。
 近衛隊から外れることに全く違和感は持ってないようだった。

『イチイ、堅苦しいの嫌いだもん。ユウちゃんが隊長だったから何とかやってこれたけどさぁ』

 新たな部隊を率いて、辺境地域への出兵。
 イチイは、何となく。
 そこにナカザワからのメッセージを感じていた。

 戦闘が近づいている。

 イレギュラー尽くしの実戦でのイチイの評価。
 無難な戦い方を好むヤスダとイチイの違い。
 イチイはそれをわかっていた。

「・・・・・・・・それよりさ、ヤグチ・・・・・・・・・」

「ん?何?」

 イチイに向けて笑みを浮かべるヤグチの表情に。
 女っぽさを感じて。

「・・・・・・・・・・・あのさぁ、ツジノゾミって知ってる?」

 とりあえず。
 回りくどいことはやめて。
 イチイは単刀直入に。
 キーワードを口にする。

 ほんの一瞬だけ。
 わずかに表情を動かしたヤグチ。
 イチイの眼が細くなった。

「誰それ?」

 ヤグチの見事なポーカーフェイス。

 さすがにばれたらやばいってことはわかってるんだ。

 イチイは腕を組んで。

「イチイ、ユウちゃんと一緒に会ったよ。・・・・・・・ツジに」

 ヤグチは黙り込む。

「空を飛ぶために集められた子どもたちの中の一人だった」
213 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:15
『絶対に剣は抜くな。子どもは殺すな』

 要塞、といっても過言ではない建物。

『約束できんなら、アタシ一人で行く』

 ナカザワは至極真面目だった。

『抵抗してきたら?』

『気絶させて縛っとけ。できんのやったら置いて行く。どうする?』

『・・・・・・・警備の大人はいいんだよね?』

『事情知ってそうな警備兵や科学者は残すな。後々めんどくさいことになるから』

『それならOK』

 イチイは一つため息をついた。

「・・・・・・・実験室はひどい有り様だったよ」

 解体された子どもたちの身体。
 分析されかけている、脳。

「ツジとユウちゃんは知り合いみたいだった」

 皆殺しにされるんじゃないか。
 死に物狂いで。
 武器と呼べないような武器を手にして抵抗してきた子どもたち。

 2,30人はいただろうか、その人数。
 一人一人の力は弱いものの。

「殺さないでって思ったら、中々大変でさぁ」

 怪我させるのもどうかと思っていたイチイだったが。
 何人かは手加減せずに殴り飛ばしてしまった。

『カオリに頼まれたんやっ!』

 ナカザワの言葉に。
 ツジが武器を捨てるまで。
 それを見て他の子どもたちがそれに従うまで。

「実験は成功していたの?」

 ヤグチの質問。
 ちらり、とイチイはヤグチを一瞥した。

「それはヤグチが一番良くわかってるんじゃないの?」

 無言は、肯定の印。

「ユウちゃんに会ったんだろ?」

「・・・・・・・・うん」

 こくり。
 ヤグチは頷いた。
214 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:15
 パーティー用に着飾ったヤグチの姿。
 華やかな服装に似合わない、表情。

「ユウちゃん、元気だった?」

 え?

 イチイの穏やかな声に。
 ヤグチは顔を上げる。

「イチイのこと、舐めないでよ・・・・・・イチー、これでもユウちゃんも一番弟子だったんだよ?」

 イチイは笑った。
 嬉しそうな顔で。

「心配してたんだ。辺境の様子なんて、イチイ入手できないしさ。ケイちゃんに聞いても知らない、
の一点張りだし」

 全く自分の気持ちに気付いてなさそうな幼馴染に。
 不器用でヘタレな元隊長。

 はたで見ていて、やきもきしていた。

「ここしばらくヤグチが元気だなぁって思ってた」

 イチイ自身、忙しくて。
 話をする時間も取れなかったけれど。

「多分ユウちゃんに会ったんだろうなぁって思ってたよ」

 そして。
 安心していた。
 ヤグチが元気だということは、ナカザワもまた然り。
 辺境でヤバイことになっていないだろうか。
 その不安は綺麗に拭い去られた。

「・・・・・・・・報告、しないの?」

 まだ、不安そうな色を隠し切れないヤグチに向かって。
 イチイは安心させるように笑いかけた。

「何て報告するのさ?」

 そして続ける。

「今更、空を飛べる子どもがいました、なんて言えないしさ、だいたいヤグチを監視つけとけっつ〜
国王命令、思いっきり無視してるじゃん。近衛隊の面目丸つぶれだよ〜」

 イチイはヤグチの頭に手を乗せようとして。
 泥だらけの自分の身体。
 今更ながらに気付く。

「幸せならそれでい〜じゃん。イチイはそう思うしさ」

 どの道、後悔するなら。
 一番後悔しない道を選べばいい。

 イチイはナカザワに、それを教えてもらった。

「あ・・・・・でも」

 イチイはいたずらっぽく笑う。
 そのまま。
 大きく開いたドレスの胸元を指差して。
215 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 00:15
「ここはファンデーション、もうちょっと濃くしといた方がいいよ・・・・・・ケイちゃんとか国王、
卒倒しちゃうから」

「も〜・・・・・・・・アホ」

 綺麗に笑うヤグチから。
 先ほどの心配そうな。
 物憂げな表情は欠片も感じられない。

 今は。
 それでいいんじゃないかと。

 ナカザワに会っているのなら。
 ヤグチも感じているだろう、不安。

 隣国の動き。

 戦闘は。
 もう、避けられない、事実。

 だからこそ。
 今は、皆で幸せに、ひたろう。
216 名前:つかさ 投稿日:2004/04/02(金) 00:22
>>201 名も無き読者さん
>こうきますか・・・。
思わず。
期待外れだったのだろうか、期待以上だったのだろうか、と思いつつ(w
こうなりました・・・・・(汗)

>>202 名無し読者さん
>姐さん‥‥なっちはどうするんだろ‥
・・・・・・・・・・・・(無言 おい)
とりあえず・・・・・頑張ります(それだけかい w)

>>203 名無飼育さん
>>っていうか、二人の王女の初(略
そうなんすよねぇ。
思いっきり意識した書き方はしてるんですが(笑)

っつ〜か問題は何も解決していない・・・・・。
まとめきれるのなかぁ・・・・・・・。
っつ〜超不安は感じつつ(待て)
話は進みます、進めます。

今日の更新はここまで。
217 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/02(金) 09:24
更新乙彼サマです。
>期待外れだったのだろうか、期待以上だったのだろうか
むふふ・・・、さてどっちでしょうね?
色々気になる問題が浮上してきてますがみんなが幸せになれればな、と。
でも実際どうなのかな、と。
気になる今日この頃・・・。
次も楽しみですw
218 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:03
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・・・・・・ん」

 呼ばれる声に。
 ヤグチは身じろぎを、した。

「ヤグチ?」

 月明かりが差し込むテントの中。
 身体を重ねたのはもう、何回になるだろうか。

 何度も愛され。
 そして愛し。

「ユウちゃん」

 ヤグチはそっとナカザワに身体をすりよせる。
 すぐに回されてきた腕に。
 中々眠気は抜けない。

「・・・・・・・・ちょ、寝んといてぇや。・・・・・・・話あるねん」

 話があるというのなら。
 人の耳たぶを噛みながら話をするのは止めて欲しい。
 ヤグチは軽くナカザワを睨む。

 ここ一ヵ月ほど。
 ナカザワの元を頻繁に訪れているヤグチ。
 勿論。
 そういうことをする日もあれば。
 ナカザワとヘイケやツジも交え。
 今の情勢。
 隣国との戦闘や。
 雑談など。
 多岐にわたる話。

『近くの町の女の子や・・・・・・・アタシの彼女。手、出すなよ』

 さすがに。
 頻繁に訪れていると自然、噂になるヤグチの存在。
 他の隊員の前でそう言い放ったナカザワは、堂々としたものだった。

 常識人に見えるヘイケまでも。

『そう言われれば似てるなぁ、で誤魔化せるもんやで。ばれたらばれた時や。諦め』

 あっさりとしたものだった。

 まぁ。
 ヤグチ自身。
 彼女、という言葉と。
 アタシのもんや、と。
 言わんばかりにナカザワから回された腕。
 ドキドキしすぎて逆に、ばれる心配など全然してなかったのだが。
219 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:03
 そんなヤグチの様子を見て、大物やわぁ。

 ナカザワとヘイケは笑っていた。

「・・・・・・・・ん、で話って何?」

 いたずらを始めたナカザワの腕を。
 軽く叩いて。

 ヤグチはベッドから下りると、ナカザワの寝間着を羽織る。

「何やねん、逃げんでもえぇやん」

「だってユウコ、エロいんだも〜ん。この前、ホント次の日辛かったんだからね」

 べーと舌を出すヤグチの可愛さに。
 思わずナカザワは頬を緩ませるが。

 自分が今から話さなければいけないことを思い出し。
 髪の毛をかきあげた。

 真面目な表情になったナカザワ見て。
 自然、ヤグチも顔も真面目な表情を浮かべる。

「今度隣国に潜入調査入るねん」

 前置きも何もないナカザワの言葉。

「だから、しばらく来んとき・・・・・・・その潜入調査にはツジも連れてくから」

 ヤグチはしばらく。
 眉をひそめて考え込む。

「・・・・・・・・ナッチに会ってこようと思ってる」

「・・・・・・・・・・・」

 やっぱり。
 ヤグチは眉をひそめて考え込んだまま、ナカザワから視線を外そうとしない。
 落ち着かなさげに。
 先に眼をそらしたのはナカザワの方で。

 ヤグチは小さくため息をつく。

「オイラも連れて行って欲しいとこなんだけどなぁ」

 アベナツミ。
 隣国王女とか、そういうのではなくて。
 一緒に過ごした時間。
 友達として。
 ヤグチはアベに謝りたかった。
220 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:04
「無理なんわかってるやろ?」

 ヤグチはベッドに腰をおろす。

「・・・・・・・・あのさ、ユウコ」

 不安げな眼差し。
 訝しげにナカザワの表情が動く。

「オイラとこうなったの・・・・・・・後悔してる?」

 何を馬鹿なことを。

 言いかけたナカザワの言葉を遮る真剣な眼差しに。
 ナカザワはため息をついた。

「後悔してるはず・・・・・・ないやろ」

 ナカザワの手が。
 ヤグチの頬を撫でる。
 揺れる、ヤグチの身体。

「アタシ、ナッチのこと好きやったし・・・・・・やっぱり今でも好きは好きやで。でも」

 怯えたような。
 潤んだ眼。

 ナカザワは一つため息をついた。

 アベに手を出したこと。
 後悔・・・・・してないといえば嘘になるかもしれない。
 けれど。
 その一瞬は確かに存在したから。
 だから、今。
 ナカザワとヤグチはこうしている。
 そう思う。

「愛してるんはアンタだけや・・・・・・アタシが愛してるっていうのはアンタだけやから」

 ゆっくりと。
 ナカザワはヤグチの身体を抱きしめた。

 ヤグチは小さく息を吐く。

 ナカザワの言葉に。
 嬉しく思う自分。
 アベへの申し訳なさと。
 それでも抑えきれない幸福感。
221 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:04
 今の隣国との状況。
 いつ、戦闘が開始されてもおかしくない。
 おかしくないけれど、確証はない話。
 王都から。
 さかんに隣国の情報を求める使者がやってきていることをヤグチは知っていた。
 わかっている。

「連れて行ってよ・・・・・・・オイラもナッチと話したいよ。もう王都には戻らない」

 ヤグチの眼は。
 今にも泣き出しそうで。
 限りなく真剣だった。

「それにユウコ、戻ってこれるかわかんないんでしょ?」

「・・・・・・今回はそこまで深入りして調査することやないから・・・・・・」

「でも、戦争が始まったらわかんないじゃんっ!!」

 叩きつけるように。
 ヤグチの声は。
 切羽詰っていた、かも知れない。

「もう、やだよ。駄目だよ」

 ぎゅっとヤグチは。
 自分の心臓の辺りを押さえた。

 どうして、今まで。
 ナカザワが出て行くのを。
 平気で見ていられたのか。

 決して、ナカザワは死なないと。

 根拠のない、そう。
 それは、本当に根拠がなくて。

 知ってしまった。

 ナカザワがどれほど。
 死と隣り合わせで。
 生きてきたのか。

 誰かとの約束を守るために。
 ナカザワがどれほどの犠牲や痛みを。
 じっと一人、胸の中、抱えてきたのか。

「ヤグチ」

 抱きしめられた腕の中で。
 ヤグチはただ。
 涙を零すことしか、できない。
222 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:04
 愛される喜びを知った。
 愛する喜びを知った。

 けれど。

 それは永遠ではない。

「ヤグチ、なぁヤグチ」

 ナカザワはヤグチの眼を覗き込む。
 真っ直ぐな瞳。
 決意を秘めた眼。

「約束、しよ?」

「・・・・・・・・・・約束?」

 赤い目。
 そっと瞼の脇にナカザワはキスを落とす。

「この隣国との何かわからん関係終わったら・・・・・・・戦争になってもならんくても」

 締め付けられるような気持ち。

 ヤグチの願いを叶えてやれないジレンマ。
 それでも。
 ナカザワは言葉をつむぐ。

「アンタを迎えに行く。どんな手段使ってでも、アタシは生き延びる。生きて、アンタと幸せになる」

 ぎゅっと。
 痛いくらい掴まれたナカザワの腕。

「カオリとか、ツジとかカゴとか。皆で一緒に仲良く暮らせたらええなぁ」

「・・・・・・・・ケイちゃんとかサヤカとか遊びに来たりして?」

「うんそうや。ケイ坊に酒の呑み方教えたらなあかん」

「・・・・・・・別に教えて欲しい、なんて思ってなさそうじゃん」

 夢のような。
 未来の話。
223 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:05
「アタシはアタシのしたことに責任を取らなあかん。そうやなかったらアタシはアタシやなくなる」

 隣国への潜入調査。
 王女に会うという話を聞いたとき。
 ツジの目つきが変わった。

『連れて行って欲しいのです』

 渋るナカザワ。

『連れて行ってくれなかったら付いていく、絶対に』

 裏切られた悲しさ。
 夢と現実の違い。
 その狭間を見たものの、必死な視線。

 ナカザワは。
 殺せなかった。
 生きていれば。
 生き延びることで、見える何かがあると思っていた。

 しかし。
 死より、辛い生があるかもしれない、と。

 今。
 ヤグチを手に入れて。
 そう思うようになった。

 そしてアベ。
 逃がすしか、出来なかった。
 けれど。
 ずっと気になっていた。
 自分の中で。
 決着をつけなければならない、こと。

「今回だけ・・・・・・・・アタシの我侭、聞いてくれへんか?」

「・・・・・・・・・今回だけじゃないじゃん」

 コツン。

 ヤグチはナカザワの胸に頭を預けた。

 テントの中。
 蝋燭の揺れる光。
 ぼんやりと辺りを照らし出している。

「浮気したら許さないかんな?」

「うん」
224 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:05
 ぎゅ。
 唇をへの字に結んで。
 ヤグチはナカザワを見上げる。

「・・・・・・・・・このペンダント、な」

 ナカザワは。
 そっとヤグチの手を自分の胸元ぶらさがっている銀の写真入れに触れさせる。

「めっちゃ効果あんねんで?」

 そっと。
 触れ合うだけのキス。

「何回も、もうあかんかなって思ったこと、あってんけど」

 死んでもおかしくなかった戦闘。

 もらって。
 二ヶ月で無くした時には。
 必死に探し回った。
 戦場で。
 死体の傍ら。
 ヘイケも一緒だった。
 呆れかえられながら。
 一週間かかって。

 普通、見つけられないまま終わるはずが。

「・・・・・・・・・・くれた奴の想い、めっちゃ感じたで」

「・・・・・・・・そんなこと、今まで一回も言わなかったじゃんよ」

 夕陽に光ったもの。
 そんな偶然。
 そんな奇跡。
 あるはずないと思いながら。

 戻ってきたペンダント。

「愛してる」

「・・・・・・・誤魔化すな」

 そう言いながら。
 眼を閉じるヤグチ。

 懲罰房で。
 もう駄目かなぁ、と思ったときも。
 いつでも、ナカザワの傍にあった。

 どれほどこれがあって勇気付けられたか。

 思いの丈をぶつけるように。

 ナカザワはヤグチの唇を奪った。

「・・・・・・・・危ないことしちゃ、駄目だからな」

「うん」

「妙に短気なんだから、知らない人に喧嘩売っちゃ駄目だよ?」

「・・・・・・・・・・うん」

「あ、ちゃんとご飯食べろよ?めんどくさがったら承知しないからな?」

「・・・・・・・・・わかってるって。子どもちゃうねんから」

「子どもじゃん」

 拗ねたようなヤグチの口調。
 クスクス笑うナカザワの声。

 別れの時がくるまで。
 二人、話しつづけた。
225 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:05
〜〜〜4〜〜〜

 パカッ。パカッ。

 馬のひづめの音が軽快に響く。

「・・・・・・・・・昼間に行って大丈夫なのですか?」

「昼間に行かな情報収集にならんやん。それに夜やったらあやしい者に間違われそうやし」

 ・・・・・・・・・・・あやしい者、そのもののような気がする。

 ツジは。
 ナカザワに後ろから抱きかかえられるような格好で、馬の上、首を傾げる。

 ナカザワにとっては通いなれた道。
 何度も隣国へは足を運んだ。

「それよりありがとな、ヤグチのこと」

 ツジには、ナカザワが今、どんな表情をしているのかわからなかったが。

「ホンマは嫌やったんちゃうん?」

 空を飛ぶな。
 そう言ったのは自分だったのに。

 ナカザワは少しだけ。
 自嘲する。

 結局は、会いたい。
 その気持ちを抑えきれなかった。

「・・・・・・・・・ナカザワさんはヤグチさんに会いたくなかったのですか?」

 ツジは。
 自分の背中、ナカザワの身体が強張ったことに気付いた。

「会いたかったよ・・・・・・・・でも、会ったらあかんって思ってた」

 静かな、ナカザワの言葉。

「アタシは自分の感情を抑えきれる自信がなかった」

 多分。
226 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:05
 ヤグチもそうだったのだろう、と。
 それでも。
 迷わず飛び込んできたヤグチに。

「アタシと一緒にいるためにはヤグチは全部を捨てなあかん・・・・・・・今まで生きてきた環境も、仲間
とかそういうのも全部」

 髪の毛一本でも。
 ヤグチを傷つける存在が許せなかった。

 ナカザワ自身がその元凶になることは、できないと。

 ヤグチがナカザワのことを望まなければ。
 ナカザワは自分の想いをきっと。
 自分の命が尽きる時まで封印しておくつもりだった。

「でも・・・・・・・もう無理やなぁ」

 全部を捨てさせて。
 一緒にいたいという欲望。
 ナカザワは知ってしまった。

 愛される喜びを。
 愛する喜びを。

「ヤグチさんは、ノノに頭をさげたんです」

 じっと。
 ナカザワの独白を聞いていたツジが、やっと口を開いた。

「ノノはヤグチさんもナカザワさんも好きです。だから・・・・・・・」

 うまく言えなくて、口ごもるツジ。

 今まで。
 ツジを利用してきた人たちとは明らかに違う、人。
 もう。
 誰にも騙されたり、利用されたりしたくなかった。

 ナカザワに言われるまでもなく、イイダにも重々言われていた。
227 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:06
 空を飛ぶな、と。

 でも。
 ヤグチとツジは数え切れないくらい飛んだ。
 ツジにとって、メリットがある話ではなかったけれど。

 命令でも何でもなく。
 ヤグチは頭をさげてきた。
 ツジを一人の人間として、見てくれた。

『もう昔のことはええやん。皆で仲良く暮らそうや』

 カゴの笑顔。

 でも。
 ツジは知りたかった。
 迷惑をいろんな人にかけて。
 ただ、ツジは空を飛びたかっただけ。
 その気持ちを。
 死んでいった仲間たちの夢を踏みにじった、人の顔を。

 だから、隣国王女に会いに行くと言ったナカザワに食い下がった。

『ナッチは多分何も知らんと思うで?』

 ツジを巻き込むことを嫌がり。
 額に皺を寄せて、ナカザワはツジを説得しようとして。
 ツジの頑固さに結局折れることになったのだけれど。

「どうして皆、幸せになれないんでしょう」

 ツジの口から零れ落ちた言葉に。
 ナカザワは眉をひそめた。
 歳不相応な、大人びた言葉。

「・・・・・・・・・・信じれば、叶うんやろ?アタシは空を飛べるって凄いことやと思うで」

 ツジは首を横に振った。

「いっぱいいろんな人に迷惑をかけたのです」

 涙をこらえる。
 自分のわがままのせいで。
 ナカザワにも迷惑をかけた。
 いろんな人に心配をかけた。

「ツジが空飛べるおかげでアタシはヤグチともう一回出会えた」

 柔らかい、声音。

「ヤグチとこの一ヶ月、いろんな話した。楽しかった。嬉しかった。全部アンタのおかげや」

 ありがとうな。

 背中からの暖かい温もり。
 ツジは黙って俯いた。
228 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:06
ーーーーーーーーーーーーーーーー

「これも、あれも、全部美味しそうなのですっ!!!」

 露店が建ち並ぶ、隣国王都のメインストリート。
 ツジが目の色を変えて走り出す。

「・・・・・・・・・ほどほどにしときぃや」

 とりあえず、昼ご飯時。
 適当にツジに小銭を握らせて。
 ナカザワは辺りを見渡す。

「おっちゃん、調子はどないよ?」

 人ごみの中、顔見知りの仕入れ屋を見つけてナカザワは近づいていく。

「おぉ、姉ちゃんか。調子は・・・・・・まぁ、ぼちぼちな」

 ニヤリ、と。
 人相悪く笑う相手は、至極上機嫌なようだ。

「えらい機嫌良さそうやん。大口の仕入れ場所でも見っけたん?」

 人が動けば、物は必ず動く。
 ナカザワの身体の中を緊張感が走る。
 あくまでも表にそれを出さないように、だが。

「まぁちょっとな。そういう姉ちゃんこそいつの間に子どもなんか作った?おっちゃんショックや」

 からからと笑う相手に。

「アタシがあんなでかいガキ作るような歳に見えるんかいっ」

 思わずナカザワは真面目モードで反論してしまう。

「冗談や・・・・・・妹ってとこか?」

「・・・・・・・・・性質悪い冗談やで」

 憮然としながら。
 両腕に一杯抱えた食べ物をツジがどれから食べようと。
 道端、首を傾げている仕草に。
 ナカザワの顔が思わずほころぶ。

「・・・・・・・・・・・姉ちゃんの仕事何してるんかおっちゃん知らないけどな」

 少しの間。
 仕入れ屋はナカザワの様子を見ていて。
 ちょっと声をひそめる。

「もし離れれるんだったら、王都から離れた方がいい。近々、隣国とドンパチある」

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 ちらっとナカザワは仕入れ屋を見た。

「ナツミ様がクーデター起こそうとしてるって話もある・・・・・・・・可愛い妹さん、巻き込みたくないん
だったら考えといた方がいい」
229 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:06
 そこまで言って。
 仕入れ屋はぴたり、と口をつぐんで。

「しかし見事な食べっぷりだな・・・・・ここで会ったのも何かの縁だ、おっちゃんが何か買ってあげよ」

 ナカザワの脇から腰をあげ。
 ツジに近づいていく。

 ナカザワが怪しい奴じゃない、とツジにサインを送る。

「いいのですかっ?!」

 嬉しそうに。
 仕入れ屋の後をついて歩くツジから眼を離さないようにしながら。
 ナカザワは考え込む。

 動きがあるのは事実みたいやな・・・・・・・・。

 ただ、一般市民はそれに気付いてない。

 多分、戦争になることに反対する世論を踏まえてのことなのだろうが。

「・・・・・・・・・Xデーは間近ってことか」

 隣国への情報収集。
 辺境部隊にいる兵士がそれを行うのが通例なのだが。
 嫌がる兵士は、多い。
 仲良くなって、情報を引き出すだけ利用して。
 確かに、あまり気持ちのいいものではない。

「・・・・・・・・・・・・ツジ、そろそろ行くで」

 ナカザワは立ち上がった。

「おっちゃん、ありがとな」

「おう、気、つけてな。また妹さん連れて遊びにこいよ」

 仕入れ屋の笑顔に。
 笑顔で返しながら。
 少しだけの、罪悪感。
 いつものことだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
230 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:07
 深夜。

「ナカザワさん、空飛んでいったら速い・・・・・」

「アホか。そんなことさせるために連れてきたんちゃう」

 ツジの提案を一刀両断。
 ナカザワは敵国の王宮内。
 慣れた足取りだ。

 王宮内を探るために。
 侍女をたらしこんだ、なんてばれたらえらいことになりそうやな。

 苦笑しながら。
 ナカザワは静かな王宮内。
 足音を立てないように、一つの部屋の前で立ち止まった。

「・・・・・・・・・・ここ、なのですか?」

 さすがに、緊張感を隠し切れないツジの口調。
 黙って。
 ナカザワは一つ頷いて。
 鍵穴に金属状の物体を差し込む。

 部屋の鍵の構造で行けば・・・・・・・・。

 ほどなく。
 カチリ、と小さな音が廊下に響いた。

「ツジ、入ったらすぐドア閉めて、鍵かけてな」

 簡単な指示。

 ナカザワは物音も立てず滑り込むように部屋に入る。
 一歩踏み出した瞬間に、違和感。
 後ろのツジをとっさにかばいながら。
 きらめく刃の色。
 部屋は漆黒の闇に包まれている。

 ナカザワは迷わず。
 相手がいるであろう足元。
 足払いをくらわせる。
 よろめく気配。
 剣の位置で相手の立ってる場所がわかる。

 まだまだやな。

 心の中での呟き。

 ツジが部屋のドアを閉める音、鍵を下ろす音まで確認する余裕がナカザワにはあった。

 体勢を立て直してもう一度襲ってくる刃・・・・・・・。
 しかし。
 刃が通り抜けたところにナカザワの姿はない。
 手加減なしで。
 相手の背後からナカザワは首筋に手刀を叩き込む。
231 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:07
「・・・・・・・・・・・っ!!」

 ゆっくり崩れ落ちる相手の呼吸音。
 気絶したふりをしているだけなのか、そうではないのか。

 しばらく、ナカザワは動かなかった。

「・・・・・・・・・・ナカザワさん?」

 不安げなツジの声。

「大丈夫や。そこでじっとしとき」

 小さくナカザワは答えて。

 部屋の奥。
 気配を探る。

 とりあえず。
 これ以上、襲い掛かってくる気配は、感じない。

 ナカザワは一つ深呼吸をして。

「ナッチ。いるんやろ?」

 大き目の声が。
 部屋中に響く。

「・・・・・・・・ユウちゃん?」

 それから間もなく。
 白い光が部屋を照らし出す。

「光、小さめにな。あやしまれたら困る」

 そっと。
 窓にかかるカーテンの分厚さ。
 簡単に外の状況をチェックして。
 ナカザワは部屋の中を振り向いた。

「ごっちん?!」

 部屋の入り口。
 扉の前にたたずむツジの前。
 倒れこんでる人間。

 アベが素早くベッドから下りる。

「ごめん、手加減できへんかった・・・・・・・気絶してるだけや」

 対峙している時には気付かなかったが。
 その少女は幼い面持ち。
 倒れてもまだ、剣を離していない姿に、ナカザワは眼を細め。

「護衛か?」

「そうだけど・・・・・・やりすぎじゃないべか?」

 ナカザワは肩をすくめる。

「手加減してたら殺されてたで、アタシ」
232 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:07
 打ち込んできた相手から感じたのは。
 殺気以外の何物でもなかった。

「しばらく首は痛むやろうけど、一週間くらいなもんや」

 ゴトウに駆け寄り。
 起こそうとしているアベの姿を見て。
 ナカザワは小さくため息をつく。

「・・・・・・・・もう一回起きてまだこの物騒なもん振り回すようやったら、容赦せんからな?」

 アベの返事も待たず。
 ナカザワはゴトウの鳩尾に一発。
 拳を軽く放り込む。

「・・・・・・・・ん」

 うめき声。
 ゴトウは身体を動かす。
 そのまま。

「・・・・・・・痛い」

「当たり前や。しばらくそこ、転がっとき」

 ツジに。
 ゴトウから距離をとるように促すと。

 ナカザワはゴトウのそばに跪いたままのアベの顔を覗き込んだ。

「んで、まぁこんな状況で何やけど・・・・・・久しぶりやな、ナッチ」

 ナカザワの眼を見つめたまま。
 アベは動けなくなる。

「話は聞いてるで。頑張ってるみたいやん」

「・・・・・・・・・・ユウちゃんも。生きてたんだ・・・・・・・・・」

「勝手に殺すなちゅ〜ねん。ったく、ヤグチもアンタも揃ってひどいこと言いやって」

 懲罰房での再会のときのヤグチのセリフ。
 同じような言葉をアベにも言われてしまい。
 クスリ。
 笑みを漏らすナカザワ。

「ナッチ・・・・・・・・泣かんといてぇや・・・・・・・・」

 暖かい指が、アベの頬を拭う。

「ユウちゃん・・・・・・・ユウちゃん」
233 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:07
 我慢できなかった。
 アベはナカザワの胸に飛び込んだ。
 ナカザワは。
 手を下ろしたまま。
 アベを抱きしめ返そうとは、けしてせず。
 黙って、嗚咽を聞く。
 震えるアベの身体に。
 眉間に皺を寄せたまま。

「ナッチ・・・・・・・知り合い、なの?」

 転がったままだったゴトウが。
 身体を起こす。

「・・・・・・・・・ぁ」

「ちょっとな」

 慌ててナカザワから身体を離すアベを。
 ナカザワはちらっと一瞥する。

「言ってくれれば」

「言う暇もなく斬りかかって来たのは誰やねん」

 軽口のようでそうじゃないナカザワとゴトウの緊迫感漂うやり取り。

 そして。
 ゴトウはもう一人の侵入者。
 この部屋に入ってからほとんど言葉を発していないツジに眼を向けた。

「・・・・・・・・・・?」

 ゴトウはそのまま首を傾げる。
 ツジは、凍りついたようにゴトウを見つめたまま、動かなかった。

「あっ」

 何かを思い出したように。
 ゴトウの顔が明るくなる。
234 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:08
「研究所にいてた子どもだよね?何?もしかしてナッチ助ける手伝いに来てくれたの?」

 ナカザワの表情が微妙に変化した。

「研究所燃えて、何処行ったかわからなくなったって聞いてたけど・・・・・・生きてたんだ。他の子どもたちは?」

 悪意のない言葉の羅列。
 ツジが後ずさり、する。

「アンタ・・・・・・・あの悪趣味な実験室に関ってたんか?」

 アベが止める暇もなかった。
 長剣一本たずさえていないナカザワの懐から。
 短剣が飛び出す。

 部屋に沈黙が落ちた。

 ゴトウの首筋にあてられた鈍い光。

「・・・・・・・・・・関ってたんか?」

 静かな、声。
 いつ、ゴトウの首。
 頚動脈が切れてもおかしくない、雰囲気。

「出資してた。ホントそれだけだよっ!」

 必死なゴトウの声。
 ナカザワはちらり、とツジを見る。
 真偽を確かめるように。

「・・・・・・ノノ、その人あんまり見たことないから・・・・・・・」

「・・・・・・・・そうか」

 ゆっくりと。
 ナカザワはゴトウの首筋に当てていた短剣を外す。
 締め上げていた喉元から手をはずすと。

「・・・・・・・・・・・誰よ、アンタ?」

 ゴトウから鋭い視線が飛んだ。

 ナカザワは眼を細める。
235 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:08
「・・・・・・・・・・・・アンタにとっては敵国の辺境警備隊の一兵士や。元王宮近衛隊隊長、でもある」

 不思議そうにゴトウが首をかしげて。

「ナッチ、何でこんな人と知り合いなわけっ?!」

「大声出すな」

「助けてくれたんだべ」

 三者三様の反応に。
 ナカザワはしばらく考えこんだ。

「ツジ、アンタ、コイツと話しとき。アタシ、ナッチに話があるねん」

 空を飛ぶための研究に携わっていた関係者。
 実験室の要塞を燃やした後。
 ナカザワが隣国への潜入調査を繰り返していたのは、そこにも理由があった。
 首謀者を絶たなければ、また同じことが繰り返される恐れがある。
 もしくは。
 逃げた子どもたちに追跡の手が伸びる可能性。

 だいたいは片付けたと思っていたのだが。

「実験室の話、したり」

 あまり。
 関っていた人間を許す気にはなれなかった。
 けれど。
 それを決めるのは自分ではない、と。

 それだけはナカザワも理解していた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
236 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:08
「悪かったな、変なとこ見せてもうて」

「・・・・・・・・・・ツジさんのこと、心配じゃないの?」

 一応、敵国の。
 事情はよくわからないが、訳ありのような二人。

「別に。大丈夫や」

 根拠のない自信のようで、そうじゃない。
 ナカザワはそこまで無責任じゃない。

「何でって訊いてもどうせ教えてくれないっしょ?」

「ご名答」

 ニヤリ、とナカザワは意地悪く笑う。
 空を飛べる人間の存在を。
 誰にも告げる気はナカザワにはなかった。
 アベはじっとそんなナカザワの様子を見ていた。

「んで・・・・・・・何のようだい?」

 アベは行儀悪く、頬杖をついて。
 単刀直入に訊く。

「どうせナッチのとこ来るってのはロクな用件じゃないべ」

「決め付けんでもええやん」

「どうせヤグチ絡みのことのくせに」

 久しぶりに会ったというのに。
 最後の別れは本当に、もう。
 会えないかも、くらいの切羽詰ったものだったにも関らず。
 二人の言葉は軽い。

「・・・・・・・・黙るってことは図星だべ・・・・・・・ヤグチ、元気にしてるかい?」

「まぁな。いろいろあったけど」

「な〜んか・・・・・・・・」

 ポツリ。
 呟いて。
 テンポのいい会話が止まった。
237 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:08
「・・・・・・・・うん、なんかだな」

「わからんってそれじゃ」

 一人納得した様子でうんうん、と頷いてるアベに。
 切れ味良くナカザワが突っ込む。

「ヤグチがね、一回言ったんだ。『ナッチが羨ましい』って」

 遠くを見ているアベの視線。
 追いかけようとして、ナカザワは諦める。

「今は・・・・・・ナッチが言いたいな、と思って・・・・・・・な〜んてね」

 アベは眼を伏せた。

「敵同士、なんて・・・・・・・・今度はナッチがヤグチの立場になっちゃった」

 小さな囁きに満ちた言葉。
 ナカザワは。
 黙り込む。

「ナッチ、そのことやけど」

 しばらく、ナカザワはためらって。

「アタシ、ヤグチを抱いた」

 率直に、告げた。

 アベは。
 拳を握り締めた。

 ナカザワが。
 誰を一番に想って。
 誰を一番に愛してたか、なんて。

 何度キスをしても。
 抱かれても。

 わかりきっていた。
238 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:09
 それでも、こうやって言葉に出されると。
 痛む、胸。

「おめでとう、なんて言えないよ?」

 アベは俯いて。
 しばらく、言葉を探す。

「謝らないでよ?」

 先手を打って。
 謝られたら。
 ますます自分が惨めになるだけだ。

「・・・・・・・・・・ナッチ」

 ナカザワの声だけで、わかる。
 ナカザワが今、どんな表情をしているのか。

 不器用で。
 優しくて、強いように見えて、もろい人。

「・・・・・・・・・・ユウちゃんにとってナッチはヤグチの代わり、だった?」

「違う」

 そして。
 嘘のつけない人。

 アベは眼を閉じた。

「・・・・・・・・怒れないじゃん」

 恨むことの方が簡単なのかもしれない。

 もう一度、ナカザワに会いたかった。
 この国を継いで。
 そうすれば、会える、と思った。

 ヤグチが。
 王女という立場を守り。
 ナカザワを傍に置いておく。
 そのスタンスを変えないなら。
 自分にも勝ち目があるかもしれない、なんて。
 都合のいい解釈。

「・・・・・・・ナッチのこと、ちょっとでも、好きだった?」
239 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:09
「好きやったから・・・・・・・逃がした。幸せになって欲しかった」

 堪えきれない涙を。
 アベは必死に我慢する。

「おめでとう、なんてとても言えないけど、わかった」

 短く告げられた言葉。
 ナカザワは何も言えず。
 黙るしかなかった。

「・・・・・・・・・・んで、何が聞きたいんだい?」

 静かな沈黙のあと。
 ふと。
 アベは真面目な表情になった。

 少しだけ、ナカザワは悩む。
 そして。

「・・・・・・・・・後継者争いの方は何とかなりそうなんか?」

 婉曲な、質問。
 アベの表情が、少し困ったものに変わる。

「今の主流はやっぱり・・・・・・弟の方だね。変な動きしてるし・・・・・・・」

 ちらっと。
 アベは窺うようにナカザワを見る。
 ナカザワは、ポーカーフェイスを崩さない。

「アンタがこの国に戻ったのはアタシ、関係あるんか?」

 ナカザワの視線は。
 アベに嘘を許さないもので。
 アベは黙り込む。

「・・・・・・アタシ、ナッチの傍にいて、幸せにはしてやれんけど。誰よりも幸せになって欲しいって
思っとる。だから・・・・・・・」

 アベは首を横に振った。

「もう・・・・・・・戻れないよ」

 戻れない。
 何も知らなかった頃に。

 ナカザワと、もう一度会いたい。
 それもあったけれど。
 王弟派のやりかたにアベは賛同できなかった。
 戦争を起こさせないために。
240 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:09
 ・・・・・・・・・邪魔することはできなかったけれど。

 決意を秘めたアベの眼を見て。
 ナカザワは苦笑いを漏らし。

「帰るわ」

 立ち上がった。

「・・・・・・・・・・聞きたいこと、他にあるんじゃないかい?」

 静かなアベの声に。

「ん、やっぱええわ」

 ナカザワは首を横に振った。

「・・・・・・・・・・・・・何で?」

「・・・・・・・・・・・・・何でやろうなぁ。アタシにもわからん」

 困ったようにナカザワは髪の毛をかきあげある。

「馬鹿じゃないかい?」

「だから、アタシの住んでたとこではアホは言っても馬鹿は・・・・・・」

 クスリ。
 以前にもした会話。
 変わらない空気。
 ナカザワの言葉が止まり、そのままお互い、笑みを漏らす。

「帰るわ。無事な顔見れて安心したし。次・・・・・・・・・はもうないかもしれんけど」

 ナカザワは立ち上がる。

「元気でな」

「・・・・・・・・・待ってよ」

 ぎゅっと。
 アベはナカザワに抱きついた。

「決行日は次の満月。それと同時にナッチはこっちでクーデターを起こす。兵力がそっちに
向かってるその時しかチャンスはないから」

 ナカザワは。
 自分の胸に顔を埋めたアベの頭をじっと見ていた。

「こっちの兵力は五千。真っ向勝負で五千なら勝てるって思ってるみたい」

「・・・・・・・・・・いいんか?」

 そこまで教えて。

 アベはゆっくりとナカザワの身体から腕を解いた。
 そして。
 綺麗に笑う。

「勝ってよ、ナッチも勝つからさ。そしたら、今度はヤグチも連れてきて。・・・・・・・・文句いっぱい
言うから」
241 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:10
「ナッチ」

「敵じゃ、ないよ。ナッチはそんなの望まない。だから」

 ナカザワは。
 ここに来て、初めて。
 アベを抱きしめた。

 柔らかな、温もりに。
 頬が緩む。

「勝って、皆で幸せになろ」

 叶うだろうか。
 届くだろうか。

 兵力の違いに、眩暈を感じるほど。
 辺境警備隊、近衛隊、新しく作ったイチイが率いる軍隊。
 全部あわせても。
 千五百に足りるだろうか、というその数で。
 どう戦えばいいのか。

 でも。
 もう、采は投げられた。

「生きて・・・・・・また会おな」

 互いの無事を祈り。
 ナカザワとアベは別れる。
 それぞれの戦う場所へ。
242 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:10
ーーーーーーー

「5千・・・・・・・・・敵さんも中々やってくれはりますね」

 ツジと合流して、馬を飛ばして二時間ほど。
 朝方、辺境警備隊に戻ってきたナカザワはツジをベッドへと追いやり。
 そのまま疲れも見せずヘイケに情報を伝える。

「王都入られたら終わりやな」

 兵力の違い。
 もはや、奇襲しか策はない。

「奇襲言うても・・・・・・・・・」

「ミッちゃん。王都で辺境警備隊で引退した奴、百か二百用意できるか?」

「・・・・・・・・・・二百はきついですね。ぎりぎり百くらいなら」

「なら、アタシ遊軍っつ〜ことでそっちの指揮とるわ」

「・・・・・・・・・かなり個性派ぞろいのメンツになると思いますけど」

「何とかするわ。後、サヤカの部隊に近衛隊から二百くらい追加しといて」

「王都の警備が五百切りますよ?」

「しゃ〜ないやろ。王都で叩くような接戦にはならんで?」

「・・・・・・そらそ〜ですけど」

 ヘイケは渋い表情で。
 広げられた地図を覗き込んで、難しい顔。

「かなりあくどい戦い方せな、やばいなぁ」

 ふぅ。
 一つため息をついて。
 ナカザワは髪の毛をかきあげた。

「相手の戦力は伏せるか・・・・・・・いや、国王の判断次第ってとこかな」

 ぶつぶつ言いながら。
 地図上であ〜だこうだとルートを確認していたナカザワは。
 ヘイケが静かに考え込んでいることに気付く。
243 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:10
「・・・・・・・・・ど〜かしたか?臆病風に吹かれたとか?」

「そうやなくて」

 ヘイケは俯く。

「ここまでなるまで何でわからんかったんかなぁ、と」

「あちらさんの動きの方が速かったで・・・・・・・アタシもちょこちょことは隣国の方までは行ってたけど
全然気付かんかったし」

 しばらくの、沈黙。
 ナカザワはヘイケをじっと見つめ。
 観察し、考える。

「・・・・・・ど〜でもええけど、自責の念にかられて自爆覚悟で突っ込んで行くのだけは止めといてな」

 ある意味、冷たいとしか取れない言葉。

「責任感じるんやったら、勝てばええ話や。アタシが奇襲かける。ミッちゃんはここで相手、
迎え撃つ。ある程度の打撃与えたら、退くんや」

 ヘイケはやっと顔をあげる。

「最終ラインはサヤカのとこや。ここの兵力で五千とまともに戦っても無駄死にするだけやで」

 噛んで含んで。
 言い聞かせるように。

「サヤカのとこで、敵さんを挟み撃ちにする・・・・・・・・ちなみに、向こうがこっちに戦争しかけたら
あっちではクーデターが起こる手はずになってる」

 ヘイケの表情が少し、変わる。

「どうなるかはわからん・・・・・・・ただ、こっちは出来るだけ相手の戦力を減少させることや。
向こうさんの戦意を喪失させるためにもな」

「・・・・・・・諸刃、ですね」

 ナカザワは頷いた。

 クーデターが起こったことで、途中で相手の軍隊が退いてくれるか。
 もしくは、最悪。
 戻る場所がない、切羽詰った勢いでそのまま。
 雪崩れこまれるか。

 どううまく計算して見積もっても、叩けるのは、この辺境で千、イチイのところで二千。
 残る相手はまだ・・・・・二千もいる。

「・・・・・・・・相手さんのとこの情報操作もせなあかんけど・・・・・・・そこまでうまいこといくかどうか」

 なるようになる。
 明日は明日の風が吹く。
244 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:10
 実に適当に言い放って。
 ナカザワは大きく伸びをした。

「・・・・・・姐さん、それ私の取っておき、なんですけど」

「固いこといいなや。どうせ戦争始まったら抱えて戦うわけにいかんのやから」

 勝手に戸棚をあさり。
 ナカザワが手にしてるのは酒瓶にグラス。

「ベッドも借りるで。アタシのとこツジに占領されてるし・・・・・・あぁ、ツジが起きたらアタシのとこ
誰か呼びにくるようにしといて。話、あるねん」

 本気で頭痛を覚えて。
 ヘイケはこめかみに手をやる。

「あぁ、後な」

 まだこれ以上あるのか?

 射抜くようなヘイケからの睨みは。
 カエルの面に水。
 ナカザワには全然効果はなく。

「ヨシザワ、辺境部隊に寄越しといて」

 ニヤリ、と。
 不敵な笑み。
 それは、構わないのだが。

「・・・・・・・・・・ケイちゃんが怒り狂いますよ?」

「まだあっちにはイシカワおるやろ・・・・・・五百くらいやったらケイ坊とイシカワで何とか指揮できるわ」

 ナカザワの返答は。
 きっとヤスダが聞けば怒り狂うもの、間違いなく。

 ナカザワの指示通りにするとなると。
 結果的に。
 近衛隊からナカザワ、イチイ、ヨシザワが抜けることになる。
 近衛隊から分散させて作ったイチイの軍隊に、更に二百、近衛隊から追加させ。
 戦力の大幅なダウン。
 指揮系統の乱れ。
 それらを全部踏まえた上でナカザワは指示を出しているのか。
 ヘイケの疑念を含んだ視線。

 ナカザワは手の中。
 琥珀色のグラスをくゆらせた。

「王都に人材集めて太刀打ちできるんやったらアタシかて何も言わん」

 真剣な眼差しが。
 グラスを射抜く。
245 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:11
「どう考えても王都入られた段階でアタシらの負け、確定やん」

 兵力の違いを埋めるには。
 どうしても。
 王都決戦は不利だ。

 ヘイケは黙り込む。

「ヨシザワ・・・・・・・弓の名手やったよな。大雑把な性格の割に」

 山の中での地形を有利に活かす為に。
 ここでは、兵士の数の違いはあまり問題にはならない。
 効果的な戦い方。
 それが重視される。
 何をどうすればいいのか。
 ナカザワが頭をフル回転させて出した結論。

「ヨシザワは遊軍で・・・・・アタシのサブっつ〜ことで動いてもらう。王都の守りが心配なんやったら
ヨシザワ以上の弓の達人連れて来い。それが条件や」

 ナカザワは、舌の上。
 酒を転がしてじっくりと味わう。

「どう転がってもアタシらの方が不利やねんから、最良の布陣で望みたいやん。勿論、状況次第で
変わるもんやけどな」

 ヘイケは動かない。

「まぁ・・・・・・・判断下すのはミッちゃんや。アタシはそれに従うんで、好きにしぃ」

 最後の最後であっさりとまた適当に・・・・・・・・。

 ヘイケは嘆息する。

 確かに。
 ナカザワは今、この辺境警備隊で一兵士にしか過ぎない。
 作戦の判断の良し悪しを決定する責任は。
 ヘイケ、そしてイチイ、ヤスダ。
 王都の守りをここまでないがしろにする兵配備を王宮が認めるとはとても思えないが。

 総合軍会議を開くための時間は、ない。

 そして。
 今、決定を下せるのは自分しかいないだろう。
246 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/02(金) 23:11
「・・・・・・・・・国王に伝達します。近衛隊の緊急会議による否決は認めない。総合軍隊の指揮権は今、
私にあるはずなんで強権発令、と」

「そやんな〜。アタシ、外れてもうたし」

 能天気に笑って欲しくない。

 ヘイケは肩を落とす。

「こ〜ゆ〜のは姐さんの方が向いてますよ」

「・・・・・・・・大丈夫や。王は誰が裏で指示出してるのかわかってるはずやし」

 何がどう大丈夫だと言うのか。

 ナカザワは一杯目のグラスを空にして。
 慣れた手つき。
 継ぎ足される酒。

「私も一杯だけ、もらっていいですか?」

「・・・・・・・・アンタの酒やで?」

「・・・・・・・・・・・そうでしたね・・・・・・・・・・・」

 情けない表情のヘイケに。
 カラカラと。
 悪気もなく、楽しそうに笑うナカザワ。

 いつだって。
 これも、変わらない風景。
 どんなに切羽詰った状況でも。
 二人の変わらない雰囲気。

 最初は二人で近衛隊の新人だった。
 順調に、階級をあげていき。
 ふと気付けば、近衛隊、隊長。
 そして辺境警備隊、隊長。
 束ねる立場に変わっても。

「早く復帰してくださいね。アタシ、総合軍隊の指揮権なんて全然欲しくないんで」

 きっちり一杯だけ飲み干して。
 ヘイケは動く。

 ヘイケの言葉に。
 薄い笑いを浮かべて。
 ナカザワは何も言わなかった。

 アタシだって、総合軍隊の指揮権なんて欲しくないわ。

 欲しかったのは、いつだって。
 今でも。
 やはり、ただ一つ。
 それだけだから。
247 名前:つかさ 投稿日:2004/04/02(金) 23:19
>>217 名も無き読者さん
>色々気になる問題が浮上してきてますがみんなが幸せになれればな、と。
みんなが幸せになるために。
それぞれがそれぞれの場所で頑張る・・・・でしょう。
結果はどうなるんだろ(w

多分、自己最高大量更新。
っつ〜か昨日更新し忘れてた個所が・・・よっぱで更新するもんじゃないな(笑)
いよいよ終盤に向かって動き始めました。
明日の更新はなし、です。
送別会でぶっつぶれる予定なので(笑

今日の更新はここまで。
248 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/03(土) 00:39
面白い・・・けど痛い系なんだものね・・・。
痛くなるのだものね・・・。。読みたいけど痛いのよね・・・。
でも読みますけど。みんな幸せになるといいなー


249 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/03(土) 19:06
なっち、辻ちゃん、みんな切ないな。
この戦い、どんな結末を迎えるんだろ…
250 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:34
第五章

〜〜〜1〜〜〜

 ナカザワの眼の前の広場に集められているのは。
 屈強な体つきの人間から、まだ動けるのか?
 疑問に感じそうな老兵たち。
 数は百五十はいるえだろうか。

『とりあえず、集めれるだけ集めて』

 名目上はヘイケの指示。
 ヤスダは忠実にそれを実行したみたいだ。

 厳しめの視線。
 全員が使えるとは勿論、思っていない。
 ナカザワは値踏みするように広場を見つめる。

 それを邪魔する声・・・・・・・。

「ナカザワさん、お久しぶりです」

「おう、ヨシザワか」

 律儀にぺこり、と頭を下げてくるヨシザワに、軽く手をあげてナカザワは応える。

「悪かったな、急にこんなとこ呼び出して」

「・・・・・・・・・デートの誘いなら、王宮でして欲しかったですねぇ」

 飄々としたしゃべり。
 ナカザワは眼を細める。

「まぁそう言うなや。ここもええとこやで」

「ま、ヨシザワ的にはナカザワさんが相手してくれるってことで全然オッケーなんですけど」

「・・・・・・・・・誰に教わってん、そんな口説き文句」

「あれ?ナカザワさんがそれ言います?」

 クスリ。
 笑いあう二人。

 近衛隊で、ナンバー3と言えばナカザワ、イチイ、ヨシザワ。
 実力に比例するとともに人気もかなりのもので。
 たらしこまれ、たらしこんだ侍女の数は相当なものという噂は名高いもの。

「っつ〜か懲罰房ではありがとな」

 謹慎中だったイチイに変わり。
 陣頭指揮を取っていたのはヨシザワで。
251 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:35
「かなり手加減してくれたやろ?」

「・・・・・・・・ちょっと迷ったんですけどねぇ。一思いに、とか」

「・・・・・・・・・・おい」

 思わず。
 ナカザワは苦笑い。

 ただ。
 ヨシザワの気持ちもわかるなぁ、というのはある。
 拷問の辛さは良くわかっている。
 苦しむ時間を長くするよりは、一思いに、というのも。
 一つの優しさだから。

「でも、マジ勘弁でしたよ・・・・・・・・イチイさんが怒り狂うのはわかってたけど、王女も充分怖かったっすよ・・・・・」

 ん?

 ナカザワは首を傾げる。

「ナカザワさんが辺境飛んで、ウチ、もう散々怒られまくりですよ、もう」

『お前は臨機応変って言葉を知らないのかっ!!!』

 謹慎から戻ってきたイチイの怒声に始まり。

 廊下ですれ違った王女からは。
 ニッコリと笑顔で微笑まれ。

『あなたがヨシザワさん?・・・・・・・・ナカザワ隊長がお世話になったそうね・・・・・・いろいろと』

 ドスの効いた声。
 笑顔だけれど、眼はけして笑っていなかった。

「拷問しなくてもOKだって教えてくれりゃ、こっちだって好き好んでナカザワ隊長に手、あげるわけ
ないじゃないっすか」

 憮然とした表情を崩さないまま。
 ヨシザワはぶつぶつと愚痴る。

 だいたい、国王にしたってそうだ、と。
 辺境からの報告。

『ナカザワの指示か?』

 ナカザワの指示であれば殆んどスルーパスで通す、部隊の編成。

「そこまで信用してるんだったら、懲罰房、とか言わないで欲しいっすよ」

「・・・・・・・・・・まぁアンタにはだいぶ迷惑かけたみたいやな」

 今の状況をわかってないはずもないが。
 いつも通りマイペースさを崩さないヨシザワに。
252 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:35
 こいつ、こっちに呼んで正解やな。

 心の中でナカザワは呟く。

「ほんっと。大迷惑だったんで・・・・・・・・早く近衛隊復帰してくださいね?」

 ニコ。
 笑って、ヨシザワは締めくくる。

「イチイ隊長って何か呼びづらいっすよ・・・・・・やっぱ怒るのもナカザワさんのドスの効いた声じゃないと」

「またサヤカに怒られるようなこと言ってんちゃうで」

 ゆっくりと。
 ヨシザワを促して、ナカザワは兵士が集る広場へ進む。

 どんな状況にも対応できる柔軟な姿勢。
 土壇場で普段より力を発揮できる。
 それは天性のものだ。
 緊張でガチガチになってるかと思いきや。
 充分リラックスムードのヨシザワに。
 ナカザワは高評価を与える。

「この人たち全員で部隊組むんすか?」

「まさか・・・・・・・・まぁ、見とき」

 小声でやり取りして。

 ナカザワは一つ、深呼吸をする。

「この中でアタシと腕試ししたい奴、いるか?」

 凛とした声。
 ざわついていた広場が一瞬にして静まり返った。

「こっちとしても、腕の立たん奴はいらん。女のアタシに指揮されるのなんて真っ平やと思ってる
奴もな・・・・・・・サシでの勝負や・・・・・・・武器は好きなん使ってええし」

「ちょ、・・・・・・・・ナカザワさん」

「これがここの流儀や。黙って見とき」

 見かねて。
 ヨシザワがナカザワの服の裾を引っ張るが。
 まったく聞く様子もないナカザワ。

 二、三時間経った頃。
 ナカザワは既に五、六十人の剣を跳ね上げ。
 そのうち気絶して、転がってる人間十数人。
253 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:35
「姐さん、もうそれくらいで充分でしょ?」

 夕闇迫る頃。
 ヘイケが広場にやってきた。
 さすがに。
 肩で息をしているナカザワは。
 一つ、頷く。

「・・・・・・・良くわかってると思うけど、戦場は遊び場やない。付いて来れん奴は置いて行く。
死んでいい覚悟やない奴は帰れ」

 ゆっくりとした声の響きに。
 何人かが立ち上がる。

「飯くらい喰ってから、帰り」

 フォローを入れたのは、ヘイケで。
 ナカザワは残った人間の顔を見渡す。
 ナカザワと剣を交えなかった人間の方から五人。
 剣を交えた方から五人。
 選び出して。

「明日からしばらく実戦形式で演習行ってもらう。組分け、適当にしとき。勘、戻らん奴はふるい
落とす。演習やからって舐めてたらエライ目に合う覚悟はしとくように」

 その後、簡単に、選び出した五人、五人の中からリーダーとサブリーダーを決めるように説明し。

「ヨシザワ、アタシらも休憩や。行くで」

 付いてくるようにヨシザワを促した。

「・・・・・・・・今の、何だったんですか?」

「デモンストレーションや。こっちの力、見せ付けとけばちったぁぐだぐだ言う奴も減るやろ」

 荒っぽいことこの上ないやり方。
 しかし。
 最初、広場に集っていた人を舐めたような老兵たちの顔つきは。
 この二、三時間で驚くべき変化を見せていた。

「時間ないしな・・・・・・統制とれへん軍隊なんて指揮する気、ないで」

 今まで。
 ヨシザワはナカザワの直属の下で戦場に出た経験はなかったが。
 上に立つものの、オーラ。
 まざまざと見せ付けられたようで。
 思わず黙り込む。
254 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:35
「あっちはこれで片、付いた。後は・・・・・・アンタや」

 へ?

 有無を言わさず。
 武器庫として使われているテントへ直行したナカザワは、武器を指差す。

「好きな弓選び。狙ってもらうんは・・・・・・そやな」

 ぐるっとテントの周囲を見渡して。

「ミッちゃん。そこでちょ、そのリンゴ持って立ってくれへん?あぁ、もうちょっと手横にして」

「・・・・・・・・・なんですかぁ?何か嫌な予感するんですけどぉ」

「動かん方がいいで。危ないから」

 数言のやり取り。
 そのままナカザワはヨシザワを向く。

「あのリンゴ、狙えるか?」

 たっぷり百メートル先。
 リンゴを手の平に乗せて。
 ヘイケが横を向いて立っている。

 夕闇が迫る、中。

 ヨシザワは眼を細めた。

「ミッちゃんに当てるかも、ってちょっとでも思うんやったら・・・・・・・・・」

 ナカザワの言葉を最後まで聞く気にもならず。
 ヨシザワは武器庫の中から一つの弓矢のセットを取り出し。
 もう一度、ヘイケとの距離を確認。
 そのまま動作に入る。
 引き絞られた弓の弦。
 構えられた一本の矢。
 迷うことなく。
 ヨシザワは矢を放った。
255 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:36
「・・・・・・・・・・・・っぎゃっ!!!!」

「よし、合格」

 ヘイケの悲鳴をバックに。
 ナカザワは満足そうに頷いた。

 見事に。
 矢はリンゴを付き通し。
 ヘイケの背後にあった木に深々と突き刺さっていた。

「・・・・・・・・・姐さんっ!!!!ヨシザワぁっ!!!!!」

 合格、はいいのだけれど。

 その後。
 散々怒り狂ったヘイケに追っかけまわされ、逃げ回りながら。
 もう少し、的を選んで欲しかったなぁ、なんて。
 しかし。
 たった一日だったけれど。
 ナカザワに完全服従してるとどうやら、大変な目に合う、ということと。
 辺境警備隊は、近衛隊とは全然違う、ということだけは。
 良くわかったヨシザワだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「ちょっと、ヤグチ、邪魔するわよっ!」

 深夜、乱暴なノックの音に。
 聞き覚えのある声・・・・・・・・。

「ケイちゃん・・・・・・・・勤務は?」

「今晩あたしはヤグチの護衛に付くの、だからいいのよ、ここにいたって!」

 あれから数時間。
 ヤグチはため息をつく。
 床に転がっている酒瓶の数は気にしないで置こう。
 イチイが近衛隊から兵を引き連れて出兵し。
 代行、という形でヤスダがイチイの跡を引き継いだ。
 規律厳しい、と言われている近衛隊に戻って。
 ヤスダもイチイと同じくヤグチに対して敬語を崩さないようになっていたのだが・・・・・・・。

「もう、ふざけてんじゃないわよっ!!!」

 ドン、とヤスダが床を殴りつけ。
 その拍子にコップが倒れ。
256 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:36
 オイラのお気に入りの絨毯・・・・・・・・・・。

「ちょっとヤグチ、聞いてるの?!」

 茶色い染みが広がる絨毯。
 非常に哀しげ・・・・・そして恨めしげなヤグチの視線は全く無視。

 ヤスダは止まらない。

「こんだけ王都の警備手薄にしてど〜すんのよっ!!考えてることまるわかりじゃないっ!!悔しいっ!!」

 思わず。
 ヤグチは黙り込む。
 絨毯のことは、頭の中から吹っ飛んだ。

「ど〜ゆ〜意味?」

 近衛隊がバタバタと動いているのは知っていた。
 出兵していった数百の兵士を見送った。
 でも。
 近衛隊の会議も。
 王宮全体の会議も、何もなく。

 ・・・・・・・・・ヤスダも忙しそうで声がかけれなかったということもあり。

 ヤグチは黙ってそれを見ていることしかできなかった。

「・・・・・・・・戦争が始まる」

 酔っ払い特有の、赤みがかった眼。
 真っ直ぐにヤグチを見据えていた。

「うん」

「辺境で全部決着をつけるつもりよ。・・・・・・・・今、王都の警備に回されてるあたしらは形だけ残されたの」

 黙って。
 ヤグチは言われた言葉を反芻する。

「要するに、あたしたちは蚊帳の外ってこと」

 ヤスダは淡々と言葉をつむぐ。
257 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:36
 王都で火の手をあげさせる戦い方をナカザワは好まなかった。
 先手必勝。
 自らの情報網などを駆使し。
 辺境警備隊でも名高かったナカザワ。

 柔軟性のない自分の戦い方。
 辺境でそれを勉強してこい、ということにヤスダが気付いたのは比較的早い時期だった。

 破天荒な・・・・・・時として無茶苦茶にしか移らない辺境警備隊の暴走。

 近衛隊にいる時には見えなかった兵の流れ、動かし方。

「三年・・・・・・・かかって。やっと王都に戻ってきたと思ったらお留守番?あたしはそんなに役立たず?」

 ヤスダは悔しそうに唇を噛んだ。

「王都の警備を任されたってことはそれだけ信用されてるってことじゃん」

 何度か。
 ヤグチは辺境でナカザワとヘイケが難しい顔をしているのを見た。

『サヤカのサブにケイ坊、やっぱ無理かなぁ?』

『王都誰が仕切りますのん?ここで王都で反乱、とかシャレになってないですよ』

 地図を前にして。
 腕を組んでた二人。
 地図にはいろんな書き込みがしてあった。
 ・・・・・・・・・・・ヤグチにはわからない書き込みだったが。

『サヤカ、何か変なところで突っ走るからなぁ』

『私らでフォロー回るしかないですやん?』

『・・・・・・・そうやねぇ』

 最後は、諦めたように二人、笑っていたっけ。

「信用されてるのはわかってるわよっ!!」

 どん、とヤスダは床を叩く。

「ケイちゃん・・・・・・・頼むからさぁ、もうちょっと静かに・・・・・・・」

 もう時刻は深夜をだいぶ回っている。
 しかしヤスダの怒りは留まるところを知らないらしい。

「あたしを辺境に戻して、ユウちゃんを王都の警備にって話も出てたのよっ!!」

 ・・・・・・・・・・初耳の話。

 ヤグチは眉をしかめる。

「ただ辺境からの最終返答はNO。・・・・・・ど〜ゆ〜ことよ」

 ヤスダは勢い良く酒をあおる。

「ヤグチ、アンタも飲みなさいよっ」

「・・・・・・・え?オイラ・・・・・・・・」

「まさかあたしの酒が飲めないってわけじゃないでしょうね?」
258 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:36
 延々と。
 ヤスダの自棄酒につきあわされ。
 お気に入りの絨毯には酒の匂いが染み付き。
 次の日、ヤグチは勿論、最大級の二日酔い。
 何となく。
 何でこうなるんだ?
 というか。
 緊張感のかけらもないよなぁ、と。
 痛む頭を押さえながら。
 ヤグチは遠く、辺境の地へ想いを飛ばす。

『アンタを迎えに行く。どんな手段使ってでも、アタシは生き延びる。生きて、アンタと幸せになる』

 約束、したんだからな。

『アタシは生きる。約束する。ヤグチが守ってくれたこの命、絶対大事にする』

 ぎゅっと。
 ナカザワがくれたピアスを握りしめる。

『これ片っぽづつ持ってたらな、どんな離れたとこでも、相手の言葉が聞こえるって』

『ピアスが呼び合うんや』

 だから、戻ってくる。

 だから、怖くない。

 だから、自分のできることを今、精一杯やるだけ。

 祈るしか。
 願うしか。
 それしかできないなら。

 ナカザワが戻ってきたら、いっぱい文句を言おう。
 そして。
 一緒に歩いていこう。

 届いて欲しいの言葉はたった一つ。

 無事に生きて帰ってきて。

 祈りを込めるように。
 ヤグチはピアスを握りしめ続けていた。

ーーーーーーーーーーーーー
259 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:37
「だいたい地形、覚えたか?」

 囁き。
 ヨシザワは黙って頷く。
 急な山の斜面。
 道なき道を音も立てずに移動する、なんて至難の技、というか不可能だと思っていたが。
 辺境警備隊へ来て二週間。
 だいぶマスターした。

 まぁそれもこれも。

 パキ。

 小さな音でもすかさず飛んでくる裏拳。
 何度崖を転げ落ちそうになったか・・・・・・・・。

 過去、近衛隊でナカザワの直接指導を受けたことはなかったヨシザワだったが。

『ナカザワ隊長のしごきは鬼だ』

 この数週間でそれをしみじみと体感することになった。

「んじゃ、ひきあげるで」

 遠くに見える、灯り。
 広範囲に渡っている。

 灯りが見えなくなった頃。
 ナカザワが足を止めた。

「とりあえずアンタに狙ってもらうのは敵さんの持ってるタイマツに陣営で焚いてる火や。
ありったけ全部に矢、ぶち込んでや」

 ナカザワが率いる遊軍の戦闘訓練にヨシザワは一切参加を許されなかった。

『悪いけど、山での戦闘訓練がないアンタは戦力外や。自分の仕事終わったらさっさと逃げ』

 最初聞いた時は不満だらけだったヨシザワだったが。

 道なき道を歩き、音を立てない山の歩き方。
 木々が密集する中での剣さばき。
 夜の静けさの中、声を立てることはできない状況で、囁きでの会話の仕方。

 すべてにおいて近衛隊とは勝手が違った。
260 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:38
「・・・・・・・・・・ナカザワさん、辺境警備隊に配属されたことありましたっけ?」

 それを完璧にマスターして、なおかつ効果的な戦略を練るナカザワは。
 近衛隊の隊長として指揮をとっていた時よりもいきいきしている。
 しかし。
 ヨシザワが覚えている限り、ナカザワが辺境へ援軍として軍を出したことはあったが。
 何年、という単位で配属されたことはなかったような気がする。

 ナカザワはちらり、とヨシザワを見た。

「ちょこちょことは遊びに来てたで・・・・・・・・正式に配属されたことはないけどな」

 ナカザワは小さく笑う。

 山での戦い方。
 教わるものではない、慣れるしかない場所。
 天性のものが試されるその場で、ナカザワは尋常ではない適応能力を発揮した。
 結局剣の腕とヤグチへの忠誠の評価。
 その結果近衛隊に落ち着いたものの、当時の辺境警備隊からは惜しむ声が続出した。

「こればっかは慣れるしかないからなぁ。でも飲み込み良かったで」

 ヨシザワに課せられた指令。
 灯油を含ませた矢で相手の陣営の火を狙って矢を撃ちこむ。
 火の手があがった段階でナカザワ率いる遊軍が敵陣営に突っ込む。
 実にシンプルな戦略。

 そして。
 矢の放たれる位置が特定された段階でヨシザワの方に向かってくるだろう、敵軍隊の処理。
 どうすればいいか聞いたヨシザワにナカザワはあっさりと。

『逃げ』

 絶句したヨシザワに、ナカザワは至極真面目だった。

『アタシらアンタの退却路まで確保できへんもん。アタシらの陣営まで逃げれたら敵さんも
そこまでは追っかけてこえへんやろうし』
261 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:39
『・・・・・・・・追っかけてきたら?』

『ミッちゃんらいるやろ?まぁ戦っとき。一人対何百人かより勝ち目あんで』

 その時は。
 物凄く理不尽だと思ったヨシザワだったが。

「・・・・・・・・・・・・・ナカザワさんも無事に帰ってきてくださいね」

 この二週間の厳しい戦闘訓練で、ナカザワの遊軍は百人程度まで減っていた。
 その兵力で敵陣営に突っ込んでいく恐怖感はどれほどのものだろう。
 それに気付いてヨシザワはナカザワにもう何も言わなかった。

「そんなにマジに突っ込む気、ないで。とりあえず混乱させりゃそれでOKやしな」

 ふぅ、とナカザワは大きく息を吐く。

「アタシらは大丈夫や。それよりヨシザワこそドジ踏むなや。嫌やでぇ、こんなへんぴなとこで
アンタの死体探しまわるの」

「大丈夫ですよ、懸賞金かかりますから。見つけてくれたら大金持ちっ!」

「誰がかけんねん、そんなもん」

「心当たりがいすぎて・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・アンタの場合ホンマにいそうで嫌やわ」

「ナカザワさんも人のこと言えないっしょ?」

 明日が決行日だというのに、何なのだろう、この緊張感のなさ。
262 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/04(日) 23:39
 二人、眼で笑いあう。

「帰るか。ミッちゃん心配してそうやしな」

「はい」

 かなりの早足。
 音も立てずに脇をついてくるヨシザワに気付き、ナカザワは眼を細めた。

 えぇセンスしてるわ。

 もう少し鍛える時間があれば十分戦力として使えたのだが。

 後方部隊にヨシザワを据えたことが吉とでるのか凶とでるのか。
 守れる余裕がないことはわかっていたから。
 ナカザワにとって出来るだけ安全な場所に配置はしたつもりだ。
 敵軍隊の灯り。
 規模の大きさや、そんなことよりも。

 生きて帰れるだろうか。

 そんな不安がナカザワの頭をよぎった。

 何度も大きな戦いに参加して。
 そんな風に思ったのは初めてだった。

『オイラのこと大切に思うなら。生きていて。生きて、オイラの傍にいて』

『連れて行ってよ・・・・・・・オイラ、もう王都には戻らない』

 いつだって。
 生命なんて惜しくなかった。
 ずっと。
 触れられない距離に。
 絶望しか、感じられなかった。

『オイラ、ユウコ以外何もいらないよ・・・・・・・・ユウコがいればそれでいい』

 簡単に心を奪っていった、言葉。
 存在。

『好きだよ。本当に好き・・・・・・・愛してる』

 届くなら。
 片耳に残ったピアス。
 想いを伝えて欲しい。

 全部が終わったら、必ず迎えに行く。

 そして。
 祈りを託す。
 胸元に揺れる、ペンダント。
 どうか。
 もう一度逢えるように、と。
263 名前:つかさ 投稿日:2004/04/04(日) 23:48
>>248 名無飼育さん
>面白い・・・けど痛い系なんだものね・・・。
>痛くなるのだものね・・・。。読みたいけど痛いのよね・・・。
あんまり書いてる自分は痛い系を書いてる気はなかったり・・・(笑)
まぁラストは見えてます。最初にJ痛い系とは書いたけど、どう転んでも自分の
中ではあまり痛い系とは思ってません・・・(あくまでも自分の中では 笑)

>>249 名無し読者さん
>この戦い、どんな結末を迎えるんだろ…
意外とツジさんの話が多くなったのは自分の中では凄く不思議だったりは
したんですが(苦笑)

さて、ヨシザワさんまで登場してしまい・・・・ほ〜んと。
いい味出してくれることを祈ります(祈るだけ 爆)

矢口さん、エンディングテーマ何に決めるんだろ。「明日への扉」は結構好きだったんで
名残惜しさは感じつつ。
今日の更新はここまで。
264 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/05(月) 03:11
中澤〜市井〜吉澤って・・・自分の中で男前3です。(w
まだまだラストに向かわないで下さい。出来るだけ長編に引っ張ってください。(w
265 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/05(月) 14:01
矢口さん以上に姐さんも無茶しますね。
戦闘シーンもあるのかな〜、楽しみです。
266 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/05(月) 17:03
更新お疲れです。
彼女まで登場ですか。
楽しみです。色々と・・・。w
267 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/07(水) 23:02
〜〜〜2〜〜〜

 何度聞いても慣れない。
 戦いの声。

 ヨシザワは山の中腹。
 下を見下ろした。
 灯りが揺れている。

『灯りが山の方に向かってきたら逃げていい。っつ〜か逃げろ』

 怖いくらい真剣だったナカザワの眼。

『誰一人として無駄死は許さん』

 部隊を前にして。
 ナカザワは迷うことなくそう言いきった。

 ナカザワが何故、絶大な支持を部下から受けるのか、垣間見た瞬間だった。

 ヨシザワは弓を引き絞る。
 放たれた矢は正確に敵陣営。
 灯油を含ませた矢は炎をいっそう燃え上がらせた。

 用意していたのは二十本の矢を三組。
 ヨシザワは腰をあげる。
 移動しなければならない。

 場所は何度も確認した。

「・・・・・・・・・・・ナカザワさん」

 敵軍隊はこちらにはまだ気付いてないはず。
 そう思いながらもヨシザワの足は震える。

『今回アンタにしてもらうのは今までアンタがやったことない役目や』

 静かな、ナカザワの言葉。

『見えない敵と戦う恐怖に負けるんやったら逃げていい。アタシはアンタを恨まん』
268 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/07(水) 23:03
『・・・・・・・・そんなことっ!!』

『わかってる。でも生と死の狭間では何が起こるかわからんからなぁ』

 苦笑を浮かべてナカザワは、ヨシザワの頭をぽんぽんと叩いた。

「ヨシザワは負けませんからね」

 ぐっと足を踏ん張り。
 ヨシザワは出来るだけ音を立てないように次の地点に移動する。

 まだ動揺が治まらないように揺れている相手陣営の灯り。
 冷静に。
 用意されている灯油の袋、弓に。
 異常がないことを確認して。
 ヨシザワは弓を引き絞る。
 何度も、何度も。

 燃え盛る炎。
 叫び声はここまで聞こえる。

「まだ・・・・・・まだ大丈夫」

 三ポイント目。
 灯りがこちらを目指す気配はない。

 ただ。
 灯りをともさずに敵軍がこちらに向かっていれば。
 その可能性は、消せない。

 ナカザワの言葉の意味を噛み締めながら。

「ヨシザワはここで逃げるわけにはいかないっすっ!!」

 声は場所を特定されるから出すな、と言われていたが。
 不安と恐怖。
 ヨシザワの口から自然と漏れ出る言葉。
269 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/07(水) 23:03
 懲罰房でのこと。
 ナカザワは一切ヨシザワを責めなかった。

 逆に申し訳なかったと、ありがとう、と。

 意識が朦朧とし始めたナカザワが口にしていたこと。
 きっとナカザワは覚えていないだろう。

『・・・・・・・誰も何も・・・・・・・・関係ない』

 そして。

『・・・・・・・・・ヤグチ』

 何度も繰り返された言葉。
 拷問を続けることを決めた責任者は自分だった。
 叱責が怖かった。
 ためらう部下に率先して。
 ナカザワに鞭を振るった。

「・・・・・・・・・・・畜生っ!!」

 腕が震え出す。
 狙いがさだまらない。
 それでも。
 最後のポイントの矢を使いきり。
 ヨシザワは、合図の矢を上空。
 力の限り引き絞った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ヨシザワが部隊に戻るとすぐ後に。
 遊軍が戻ってきた。

「姐さんは?」

「敵陣営の見張りです。動きがあるようであればすぐ連絡するとおっしゃってました」

 ヘイケは黙って頷き。
 部隊の緊急警備を解き、数人の見張りだけ残して、後は休憩に入った。

「いいんですか?」

「・・・・・・・・・動きがあったら連絡してくるやろ?ヨシザワも寝とき。こ〜ゆ〜時しか寝られへんねんから」
270 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/07(水) 23:03
 ヨシザワはため息をついた。
 無駄のない兵の配置。
 決断。
 どれをとっても敵わない。

 用意されているテント。
 ヨシザワはとりあえずベッドにもぐりこみ。

 ナカザワが戻ってきたとヨシザワが聞いたのは何時間かうつらうつらとして。
 昼前くらいだった。

「こっち向かう動きはなかった。昼間は多分大丈夫やと思うけど誰か見張り行かせといて。
昨日の戦績はまぁまぁ。こっち二十くらいやられてもうたけど食料と運搬の馬はだいぶ
やっつけた」

「わかりました。ご飯と風呂は用意してますんで、晩までは休んどいてください」

「何か動きあったらすぐ起こして」

 簡単なやりとり。

 疲れた顔も見せずナカザワはヨシザワの所へ近づいてきた。

「ヨッさん、無事やったか。いい援護射撃してくれてありがとな。命中率、中々のもんやったで」

 ぽん、とナカザワはヨシザワの肩を叩いた。

「ありがとうございます」

「晩からは言うてたようにミッちゃんのサポートしたって」

 ナカザワが指揮する遊軍は。
 攻め込んでこられた際もイレギュラーな山の中に潜むことが決まっていた。
 敵軍の後方への攻撃。
 最初の段階からヨシザワはその遊軍ではなく、司令部にもなる本部の方での待機が決まっていたのだが。

「・・・・・・・・連れて行ってもらえませんか?」

 ナカザワは少し眉をひそめた。

「剣じゃなく、弓なら・・・・・・・」

「サポートはできんで?生き残る確率考えるんやったら、ここにいとき」

 ヨシザワの返事は待たず。

 晩まで良く考え、と。

 あっさりとナカザワは自分のテントへ向かっていってしまった。
271 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/07(水) 23:05
 ヨシザワは黙ってナカザワの後姿を見送った。
 今まで馬鹿にしたような目つきでしかヨシザワの顔を見ようとしなかった遊軍の兵士。
 一晩たって、今日、部隊で合流した時。

『姉ちゃん、いい腕してるなぁ』

 何人かに肩を叩かれた。

 辺境警備隊のあまりかんばしくない噂は良く聞いた。
 一癖も二癖もある連中。
 上官の指示に従わないことが当たり前。
 独断での行動、暴走。

『確かに噂はあまり良くないけど』

 ヨシザワがそう言うと、ヤスダは苦笑いしながら。

『理由もなく暴走したりはしないわ。彼等は彼等なりのポリシーに基づいて行動してるのよ』

 実力のない上官にはついていかない。
 完全なまでの実力主義。
 名声などどうでもいい。
 結局はそういうことらしい。

『ユウちゃんなんかは、辺境警備隊の連中の方がよっぽどつるみやすいって・・・・・・ちょくちょく
あっちまで飲みに行ってたけどね』

 そして。
 どうやら、弓の腕だけは認められたらしい、と。
 ヨシザワは思う。

 足手まといになるのはわかっているけれど。

 考えるまでもなく。
 ヨシザワは遊軍に動向することを決意していた。

「・・・・・・・ならもうちょっと寝とこう」

 ヨシザワは生あくび。
 この切り替えの早さが実に辺境向きだということに、本人はあまり気付いていない・・・・・・。

ーーーーーーーーーーーー
272 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/07(水) 23:06
「・・・・・・・敵軍のここのポイントで叩く」

 午後も早い時間。
 ヘイケ、ナカザワ、その他主要メンバー。
 会議が開かれた。

「このポイントで?早くないですかい?」

「敵軍全体とまともにやりあうんなら、早いけどな」

 ナカザワは小さく笑った。

「頭を叩けばいい。ある程度損害あたえたら・・・・・後はこっちがやばそうになったら、撤退する」

「・・・・・・・・どこへ?」

 ヘイケが森の中、ある一点を指差した。

「ここに第二ベースキャンプを張った。そんなに大したもんやないけど・・・・・・ここで体制を立て直す」

 ピュー。
 口笛が吹かれる。

「仕事、速いねぇ」

 撤退を前提とした戦闘。
 揶揄を含んだ声をヘイケ、ナカザワはともに完全に無視する。
273 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/07(水) 23:06
「この場所を全軍に各自伝えておくこと。その次の指令はそこで出す」

 伝えることだけ伝えて。
 ヘイケとナカザワは席を立った。
 見ているだけだったヨシザワは慌てて二人に続く。

「・・・・・・・・・・策の全貌伝えとかなくていいんですか?」

「・・・・・・・・・・アタシでも無茶な戦略やって思ってんのに・・・・・・・・ばれたら確実に士気、落ちるで」

 ヘイケのテント。

「あちらさんはもう動き出してんねんな?」

「はい。日が落ちる頃には・・・・・・・・・」

「ならアタシらも動かなあかんな・・・・・・・ミッちゃん、ヨシザワに例の件、ちゃんと伝えといてな」

「・・・・・・・・ホンマにやるんですか?」

 嫌そうなヘイケの顔に。
 ナカザワも嫌そうな顔。

「しゃ〜ないやん。一緒に怒られたるから」

「・・・・・・・・姐さんの案でしょ?」

「いや、GOサイン出したのはミッちゃんってことで・・・・・・運命共同体やん」

 何て嫌な運命共同体だ。

 ヘイケはがっくりと肩を落とす。

「ヨッさん、悪いけどアンタには別の仕事できた。だから一緒には連れていけん」

 ふと。
 真面目な顔でナカザワがヨシザワを見る。

「・・・・・・・・・・絶対必要な仕込みやから・・・・・・んでもってそんなん頼めるのアンタくらいしかおらんから」

 口ごもるナカザワに。
 ヨシザワは嫌な予感を覚えながら。

「詳しい指示はミッちゃんに聞いて。んじゃ、第二ベースでまた会おうや」

 最後まで指示の内容は口に出さなかったナカザワ。
 足早にヘイケのテントを後にする。

「・・・・・・・・ヘイケ隊長」

 しばらく地図を見つめながら黙り込んでいたヘイケだったが。

 決意を込めた眼でヨシザワを見つめた。

「アンタにやってもらいたい仕事はな・・・・・・・・・」
274 名前:つかさ 投稿日:2004/04/07(水) 23:14
>>264 名無し読者さん
>まだまだラストに向かわないで下さい。出来るだけ長編に引っ張ってください。(w
・・・・・容量勘違いしてた大馬鹿者の作者ですが(w
ってかう〜ん。まぁ、適当に番外編は考えてます(これでまた自分で自分の首締めるんだろうなぁ 苦笑)

>>265 名無し読者さん
>矢口さん以上に姐さんも無茶しますね。 戦闘シーンもあるのかな〜、楽しみです。
多分飼育書いてきて初めての戦闘シーン・・・(汗)
姐さん無茶すんのはお約束(笑)
ヤグチさんがきっとまた怒り狂うことでしょう・・・・(おい)

>>266 名も無き読者さん
>彼女まで登場ですか。
どうしても彼女しか思いつかなかったもので(苦笑)

何書いてもネタバレしそうなんで・・・・。
今日の更新はここまで。
275 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/08(木) 16:12
更新お疲れ様です。
ん〜、気になる終わり方。。。
ネタバレNGなので
次回も楽しみにしています、とだけ言っておきます。
276 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/08(木) 23:37
どうなるのか???楽しみです。
277 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 00:43
〜〜〜3〜〜〜

 満月から二日経った夜。

 ヤグチは寝付けなくて。
 自室から離れ。
 王宮の回廊にいた。

 遠く離れた地平線。
 そこに、イチイの軍隊がいる。

「・・・・・・・・・・・ユウコ」

 そっと呟き。
 ヤグチは眼を閉じた。

「・・・・・・・・・・・・マリ」

 どれくらい時間が経っていたのだろうか。
 ヤグチの身体が冷え切ってしまう頃。
 ヤグチの背後からかけられた声があった。

「・・・・・・・・・・・父上」

 久々に見た、父親の顔。
 しかし、ヤグチの顔に笑顔は浮かばない。

「風邪をひくぞ」

 ゆっくりと。
 ヤグチの身体にかけられたマント。
 その暖かさに。
 何故か、不意に涙が零れそうになった。

「眠れないのか?」

 ヤグチは黙って。
 頷いた。

 最後に交わした会話は。

『王族に自由など、許されない』

『王は、民を守るのが仕事だ。わかってないとは言わせん』

『私たちに、感情などいらない。いるのは冷静な判断だけだ・・・・・・・私はお前が親しく思っている
人間を皆殺しにできるだけの力がある。お前自身の命でもってもそれを守ることはできない。
お前は自分の無力さを知るだけだ』

 ヤグチにとって。
 辛い言葉の数々だった。
278 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 00:43
 王はヤグチの脇に立ち。
 同じように。
 地平線に眼をやる。

「私を恨んでいるか?」

 静かな、王の言葉。

 ヤグチは。
 黙ったまま、首を横に振った。

「・・・・・・・・・・ナカザワを、愛しているのか?」

 やはり。
 静かな、言葉。
 王は。
 ヤグチを見つめた。
 穏やかな視線に。

 知らず。
 ヤグチの眼から涙が零れ落ちた。

「愛してはいけないなら・・・・・・・・何故出逢わせたのですか?愛さなければ、こんな気持ち、味わわずに
済んだのに・・・・・・・・っ」

 こらきれない、嗚咽。

 愛だとは、思わなかった。

 いつだって。
 ずっと。
 どこまでも。
 当たり前のように。
 自分の傍にいてくれると。
 そう思っているその感情が。
 どんなものか、なんて。

 気付かなければ良かった、なんて。
 もう、そんなこと、想えない。
 想えるはずが、ない。

『愛している』

 優しい眼差しに。
 暖かい腕に。
279 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 00:44
『好きや』

 落とされた、刻み込まれた、愛の証。

 消えない、心の痕。

「誰よりも、愛しています」

 震える声で。
 ヤグチが告げた真実。

 王の顔が微かに歪む。

「・・・・・・・・・・・命をかけてもか?」

「生命をかけて。・・・・・・・生命よりも大事な存在だから」

 思い出すのは。

『アタシはアンタを守る。アタシの生命をかけて』

 ナカザワの真摯な言葉。
 ずっと。
 ナカザワはヤグチを見つめつづけてきてくれた。

『勲章や』

 身体の傷をそう言ってちゃかした笑顔に。

「王位継承権は破棄します・・・・・・・ごめんなさい」

 王の愛情を感じなかったわけではない。
 ずっと。
 心配そうに見守りつづけてくれた愛情を。
 裏切る行為だとわかっていても。

「・・・・・・・・・・ナカザワに抱かれたのだな」

 思わず。
 ヤグチは黙り込む。

「どうやって・・・・・・・などと無粋なことは聞かん」

 王からヤグチに向けられた視線は。
 優しいものだった。

「女の顔をしている・・・・・・・寂しいものだ」

 苦笑しながら。
 王はヤグチを抱きしめた。

「ナカザワが戻ってくれば。好きなようにすればいい。私の負けだ・・・・・・願わくば、ずっと手元に
置いておきたかったが」

「・・・・・・・・・・父上」

「愛したなら・・・・・・・・離すんじゃないぞ。ナカザワはいい奴だ」

 ヤグチの眼から、別の意味の涙が零れ落ちる。

 聞こえる筈もない、戦渦。
 そのまま、二人、耳を澄ませていた。
 たゆまない愛情を胸に。

ーーーーーーーーーーーーー
280 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 00:44
「マジっすかっ!!」

 戦況の連絡は受けていた。
 しかし。
 想像していた敵数より、はるかに多い軍勢。

 イチイは舌打ちをしながら。

 斬りまくる。

 斬っても斬っても。
 途絶えることなく雪崩れこんでくる兵士。

「隊長っ!!」

 兵士の叫び声。

「逃げるな、闘えっ!!」

 叫び返すので必死。
 今残っている王都の軍。
 ここを突破されたら・・・・・・結果は火を見るより明らかだ。

「・・・・・・・・サヤカっ!!」

「ユウちゃんっ?!」

 懐かしい、声。

「援軍やっ!!」

 と言いながら。
 ナカザワが引き連れている兵士の数はどう多く見積もっても。
 五十、いればいい感じ。

「それで援軍って言わないでよっ!」

「しゃ〜ないやろ、こっちもこれでいっぱいいっぱいやっ!」

 再会を喜んでる暇もなく。
 ナカザワ、イチイは最終ラインを守るため、剣を振るう。
 そして。
 イチイのいるラインは死守して。
 ナカザワはイチイを振り返る。

「最終ライン下げるのだけは許さんからな・・・・・・・後一時間、何とか踏ん張ってや」

 イチイの部隊と。
 ヘイケ率いる辺境警備隊で敵軍隊を挟み撃ち。
 ・・・・・・・・しかし。
 敵軍が多すぎて挟み撃ちになっていない状況。

 ナカザワは空を見上げる。
 曇天。
 生暖かい風が吹き抜けている。

「・・・・・・・・相手軍、どれくらいいるのよ?」

 一旦雪崩れこんでくる兵士はいなくなった、空白の時間。

「ようわからんけど、三千くらいには減らしたで」

「・・・・・・・・・三千もいるのっ?!」

「じゃかぁしいわっ、しゃ〜ないやろうが、いてるもんはど〜しようもないやろっ!」

 キレ気味のテンションでナカザワが怒鳴る。
281 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 00:44
「・・・・・・・・・一時間したら状況、変わるの?」

 さすがに無意味な怒鳴りあい。
 体力を消耗させるだけだと気付き。
 冷静になろうとイチイは努めるが。

「森に、火、放つ。巻き込まれんようにしろや・・・・・・・・火の手上がって三十分は撤退禁止な。
三十分たったら残ってる兵士まとめて王都に戻れ。跳ね橋で集合や」

「・・・・・・・・・・・・は?」

 一瞬。
 イチイは何を言われたかわからなかった。

「・・・・・・・森に火を放つって・・・・・・っ?!」

「燃え広がらんように風向きは考える・・・・・・・この天気やったら雨も降るやろ」

「降らなかったらどうするんだよっ。風向きだってずっと一緒ってわけじゃないでしょっ?!」

 深く続く懐深い森。
 その場所に火、はタブー視されてきた。
 山火事の恐ろしさ。
 燃え広がると誰にも止めることができない脅威となる。

「このままやったら全滅なん、わかってるやろうがっ!!」

 ナカザワの一喝に。
 イチイは黙り込む。

「ドジ踏むなや」

 言い捨てて。
 他の攻め込まれている場所への移動。
 ナカザワが合図をしようとしたとき。

「・・・・・・・・・っ危ないっ!」

 イチイの身体が突き飛ばされた。
 そして。
 イチイが立っていた場所。
 肩を押さえてうずくまるナカザワがいた。

「・・・・・・・・ユウちゃんっ?!」

「流れ矢や・・・・・・大したことない」
282 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 00:44
 左肩。
 貫通した矢を一瞥して。
 ナカザワは手早く肩から飛び出した矢の部分を短刀で切り落とす。

「・・・・・・・・抜かないの?」

「出血してえらいことになるで」

 そのまま止血。
 痛みを感じさせない動きでナカザワは立ち上がった。

「左肩で良かったわ」

 そう言う問題ではないとイチイは思うが。

「ここだけは絶対突破させるなやっ!」

 合図の口笛。
 吹いてナカザワ率いる遊軍は他の場所へ移動を開始する。
 それとともに。
 なだれ込んできた敵軍。

「・・・・・・・・後もうちょっと踏ん張れっ!」

 味方を鼓舞するイチイの叫び声。
 戦闘は、終わる気配を見せない。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・・・・・・始まったわね」

 王宮。
 昼間だというのに、静けさに満ちた空間。
 暗い空。
 ヤグチとヤスダは並んで。
 地平線に眼をこらす。
 本当に。
 かすかに聞こえてくる声。

「・・・・・きつい戦いになるわよ」

「戻ってくるって約束したもん」

 ヤスダはちらり、とヤグチを見る。
 真っ直ぐな眼差しは遠くの地平線から動こうとしない。
 そして。
 微かに震える手。

「・・・・・・・・・戻ってくる」

 ヤグチの呟きに。 
 ヤスダは眼を細めて。
 黙り込む。

 どれくらい経っただろうか。
 森に。
 火の手があがった。

 ヤスダが息をのむ。

「・・・・・・・・・誰よ、火なんか使った馬鹿・・・・・・・・・」

 そのまま。
 考え込むこと数瞬。

 ヤスダはいきなり勢いよく立ち上がった。
283 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 00:45
「ケイちゃん?」

「国王はどこ?」

「今日は部屋にいるはずだけど・・・・・・・」

 返事もせずに。
 ヤスダは走り出す。

「ちょ・・・・・・待ってよっ!」

 ヤグチは慌ててヤスダを追いかける。

「援軍よ。王宮の警備は解除する。・・・・・・・ヤグチ、近衛隊に指示出して。十五分後には出発するわ」

 森に火を放つなんて、そんなことをする人物に。
 心当たりは一人しかいない。

 やばい。

 ヤスダの心の中にあるのはそれだけだ。

 森に手をつけることを嫌がっていたナカザワ。
 整備するより、元のままでええやん。
 そんな風に言っていたのを知っている。

『山には山の神様がいるんや』

 そのナカザワが森に火を放つ。
 それが指し示す意味は。

『ケイちゃん。覚えとき。戦闘にはタイミングってあるんや・・・・・・・・上で指示を出すからには
そのタイミング、はずしたら負けや。どんなにこっちが優位に立っててもな』

 ヘイケの言葉を思い出す。

 記録的な速さで近衛隊が隊列を組む。

「いい?あたしらの仕事は向かってくる敵軍を食い止めるだけよ。とにかく時間を稼いでっ」

 形だけの報告を王にして。
 ヤスダは引き出された馬に飛び乗る。

「後は任せたわよっ」

 有無を言わさず。
 城門が開けられた瞬間、走り出す百頭近い馬。
 その後に続く歩兵隊。

「・・・・・・・・・マリ、軍服に着替えておきなさい」

 いつの間にか。
 王がヤグチの脇に立っていた。
 厳しい表情。

「非番の近衛隊の連中を大広間に集めろ。王宮の警備は私が指揮をとる」

「はい」

 そして。
 ヤグチも走り出す。
 嫌な予感を振り払うように。

 空は雲がかかり。
 いまにも雨が降りだしそうな気配を、見せている。
284 名前:つかさ 投稿日:2004/04/09(金) 00:55
>>275 名も無き読者さん
>次回も楽しみにしています、とだけ言っておきます。
まだ続きます・・・まだ楽しみは終わりません、とだけいっときます(w)

>>276 名無し読者さん
>どうなるのか???楽しみです。
こっちとしてはラストで大ブーイング食らうの覚悟しながら・・・・どうしても
書けなかった一文があり。

本当にどうなるんでしょう。
ただ、ラストに向かって残り突っ走るだけっすね。
結構王とヤグチさんの絡みは好きです(自分的に)

今日の更新はここまで。
285 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/09(金) 16:50
一国の王でも、娘のこととなるとやっぱ甘いですね。
これじゃ姐さんには絶対無事に帰還してもらわないとw
286 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:10
〜〜〜4〜〜〜

 夕刻から。
 降り始めた雨。
 燃え上がった森は。
 その雨で延焼を免れたようだ。

 そして。
 戻ってきた兵士の面々。
 ヤグチにとって見慣れない顔ぶれ、ということはきっと辺境警備隊の兵士たち。

 怪我をした兵士の手当て、そして夕食の用意。
 王宮はにわかに活気づく。

「・・・・・・・・ユウちゃんっ!!」

 解放された大広間にナカザワの姿はなく。
 王宮の医務室。
 そこにナカザワはいた。

「姐さん今、手当てしてもらってるから・・・・・・」

 疲れきった表情のヘイケの制止もなんのその。
 部屋の中、ベッドを仕切る白いカーテンをヤグチは勢い良く開ける。

「・・・・・・・・・・・ちょ、ヤグチ・・・・・・・・」

 ベッドの上。
 王宮の医師の前。
 治療の真っ最中だったらしく。
 ナカザワの左肩は真っ赤な鮮血に染まっていた。

「・・・・・・・・・・・・・」

 凍りついたように動きを止めるヤグチ。

「ミッちゃん、ヤグチ外連れて行っといて」

「すいません・・・・・・ヤグッちゃん、ちょ、外出とこ」

 申し訳なさそうなヘイケの声が遠くに聞こえて。
 抱えられて。
 外に連れ出されるのも。
 あまり実感が沸かなかった。

「・・・・・・・・大丈夫なの?」

 差し出された飲み物。
 とりあえず、こくこくと飲み干して。
 ヤグチはこめかみに手をやりながらヘイケに尋ねる。

「流れ矢に当たったんや・・・・・・後は火傷やね。命にかかわるほどちゃうよ」

 簡単な説明。
 射抜かれた肩もそのままに、ナカザワは森の中。
 走り回っていたのだ。

『ヨシザワっ!!』
287 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:10
 合図の声。
 森に効率よく火を放つ為に指令を受けていたヨシザワは。
 辺境警備隊での戦闘には関らず。
 敵軍の進路、煙の位置。
 油を仕込み、延焼を食い止めるために所々木々を倒して。
 用意周到、待ち構えていた。

 準備していた油を仕込んだポイントに。
 火のついた矢を放つ。
 あっという間に燃え広がった火。

『こっちやっ。死にたいんか、来いっ!!』

 後方から敵軍勢に攻撃をかけていたヘイケ率いる辺境警備隊の面々が火にまかれた。
 誘導したのはナカザワで。
 それでも。
 何人かは煙のなかに消えていった。

「・・・・・・・・・・・・サヤカとかは無事なの?」

 ヘイケは頷く。

「ケイちゃんがいいところで援軍出してくれたわ」

 火が出て一時間。
 敵軍に被害は出してもそれ以上に兵力の差は大きく。
 最終ラインが突破され、敗走と追撃。
 そこにヤスダの軍隊が現れた。

「何とか・・・・・・・相手さんは止まってくれたみたいでな。今、サヤカとケイちゃんで王都の城壁の
とこで見張りしてもらってる」

「そっか」

 ほっと安堵の息をヤグチは漏らすが。

「・・・・・・・・指揮官だけ生き残っててどうしろっちゅ〜ねん・・・・・・・・」

 ヘイケは。
 俯いたまま、手で顔を覆ってしまった。
288 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:11
「上に立ってるから死ななあかんのかい」

 何を言えばいいのかわからずに。
 思わずヘイケの脇。
 立ち尽くしたヤグチの後ろから。
 声が飛んでくる。

「・・・・・・・ユウコ」

 ヘイケは俯いたまま動かない。

「アンタが生き残ったってのは命のバトン、託されたってことや。あんまりしょいこみすぎな」

 ナカザワはヘイケの肩を叩く。

「・・・・・・・・・いいこと言ってはりますけど、姐さんにはあんまり言われたくないですね」

「アタシはアタシの生き方があるもん。人は人、自分は自分ってな」

 やっと。
 ヘイケが顔をあげた。
 呆れたような表情に。
 ナカザワがニヤリ、と笑って。

「かないませんわ」

「ミッちゃんはよう頑張ったよ」

 ぎゅっと。
 怪我をしている左腕を庇いながら、ナカザワはヘイケを抱きしめた。

「仕切りなおしや。いつまででも下ばっかり見てたらあかんでぇ」

「だから姐さんにはあんま言われたくないんですけど」

「・・・・・・・誰が言わせるようなことしとんねん」

「私です」

「開きなおんな」

 トン、とナカザワがヘイケをこづく。
 小突き返すヘイケ。
 先ほどまでの重苦しい雰囲気はない。
289 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:11
 けれど。

「・・・・・・・・あぁごめんな、ヤグッちゃん。返すわ」

「アタシ、ものちゃうでぇ」

「ものやったら、いりませんわ」

「なんやとっ」

 お約束のようなやり取りは。
 ヤグチのむぅ、と膨れた表情。
 それを見た瞬間、二人の口はぴたり、と閉ざされて。

「・・・・・・・・・・拗ねんなや」

「拗ねてないもん」

 苦笑いしながら。
 ナカザワがヤグチのおでこ。
 コツン、と自分のおでこを当てる。

「ただいま」

 ナカザワの茶色の瞳がじっと。
 ヤグチの眼を覗き込んでくる。

「・・・・・・・・・それ、反則」

 怒るに怒れなくなっちゃうじゃん。
 ヤグチはそっと。
 怪我をしてるナカザワに負担をかけないように。
 ナカザワの背に手を回す。

「おかえり」

 暖かい温もり。
 相手の存在感。
 欠けていたパズルのピースがはまったような。

 ヘイケがそっと部屋を出て行くのにも気付かず。
 二人、そっと抱きしめあっていた。

ーーーーーーーーーーーーーー
290 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:11
 イチイとヤスダが警備から一時戻ってくるのを待つように開かれた軍会議。
 ナカザワとヘイケも揃っている、豪華な顔ぶれ。

「このメンツで会議って初めてちゃうん?」

 緊張感のないナカザワの声に。

「あ、イチーもそれ、思ってた」

 イチイが快活に笑う。

「アタシ、今日は末席やんなぁ?」

「・・・・・・・・寝んといて下さいね」

「起こしてな」

「寝る気満々ですかっ?!」

「・・・・・・・・・ミッちゃんもユウちゃんもサヤカも、もうちょっと緊張感持てないわけ?」

 呆れたようなヤスダの声は実に最もだ。
 隣国の兵士が王都の間近まで迫っている。
 それなのにカケラもない緊張感。

「やるだけのことやったし、後は王の判断待ちやろ。宮仕えはこれやから楽やねぇ」

 ニヤニヤと。
 真意が見えないナカザワの脇にはぴったりと当然のようにヤグチが付き添っている。

「ってかユウちゃん、ホントに末席に座る気?」

「だってアタシ役職ついてないやん?」

「そ〜ゆ〜問題かなぁ?」

 イチイは首を傾げている。

「そう言って森燃やした責任私になすりつける気でしょ?」

「あ、ばれた?」

 止めても延々と続きそうなのん気なやりとり。
 思わずヤスダは。
 大きくため息をつく。
291 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:11
 会議の時間が間近に迫るころ。

「ヤグチ、席あっちやろ?」

「ヤダ」

 ヤグチはナカザワの服の裾をぎゅっと掴んだまま、離さない。

 ふむ。

 少しだけ困ったようにナカザワはヤグチを見つめ。
 ヘイケの隣りの椅子を引いた。

「ならここ座っとき。ヤグチちっこいからわからんやろ」

 そ〜ゆ〜問題じゃない。

 激しく。
 そのやりとりを聞くともなしに聞いていた人間が全員ツッコミを入れたのだが。

「王が入られます」

 慌しくなった動きに。
 ナカザワは末席に移動する。

 会議室に足を踏み入れた王は、並んだ軍上層部兵を見て。
 その中に愛娘の姿を見つけて眼を細め。
 そのまま一番末席のナカザワを一瞥して。
 苦笑いを浮かべる。

「・・・・・・・・・ナカザワ、無事だったのだな」

「はい。ご心配、痛み入ります」

「今回の辺境での活躍はヘイケから報告は受けている。末席にいることはない。通例のようにお前が
議会進行役を努めろ」

 ヘイケやイチイ、ヤスダらが安堵の笑みを漏らす一方。
 少しだけ、ざわつく会議室。
 主だったものは貴族からのもので。

 それにはまったく我関せず。
 ナカザワは立ち上がった。
292 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:12
「それでは指名を頂きましたこともあり、議会進行役を努めさせていただきます」

 はっきりとした口調。

「まず現在の敵国の軍隊の状況をヤスダから報告させてもらいます」

 いきなりの指名だったにも関らず。
 ヤスダは淡々とそれを受け入れ、ナカザワの後を引き継いだ。

「現在敵国は王都城壁1キロくらいの所で野営を張っています。動く気配はありません。
敵数は少なく見積もって二千・・・・・多ければ三千いるかもしれません」

 会議室に重苦しい沈黙が落ちた。

「それに対して我が国の軍勢は総勢五百・・・・・・辺境から戻ってきた兵を入れても七百程度です」

「付け加えさせていただきます。辺境で戦闘に参加し、戻ってきてる兵の三分の二は手傷を負い、
戦闘に参加できる状態の兵は多く見積もっても百程度かと」

 ヤスダの説明に補足をいれ。
 ナカザワはしばらくの間口をつぐんだ。

「隣国のアベ王女が向こうでクーデターを起こしたという情報があります。成功したか現段階で
どのような動きになっているのかはわかりませんが」

 王の表情が動いた。

「成功したとして、向こうが兵を引く保証は?」

「ありません。今回我が国に兵を差し向けたのは隣国の王弟派の仕業です。アベ王女がクーデターに
成功したとして向こうの軍隊の統治に一ヶ月はかかるでしょう。一ヶ月、こちらがもちこたえれれば
状況は変わりますが・・・・・・・」

「・・・・・・・・・持ちこたえれるのか?」

「不可能です」

 苛立たしげな舌打ちの音が聞こえてくる。

「国を守るための軍隊だろうがっ!!何をやってたんだっ!!」

 貴族の一人が立ち上がった。
 罵声を居並ぶ兵士たちに向かって浴びせる。

「おめおめとよくそんな報告ができるな?今すぐ兵をまとめて敵軍に突っ込むくらいの責任感もないのかっ!!」

「それは戦略でもなにもない。ただの無謀な行為です」

 ナカザワの声は落ち着いている。
293 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:12
「自分の命が惜しいだけだろうが。役立たずめっ!」

 吐きすてるように投げ出された言葉。

 その瞬間。
 居並ぶ兵士の間に。
 剣呑な空気が流れる。

 明らかに、空気が変わる。

「軍会議で方針が決まれば私たちはそれに従います。それが命を棄ててこいという命令であっても。
ただ、その決定を下すのはアナタじゃない。私たちは国王の命令に従うよう定められています」

「詭弁だな・・・・・・・話にならん」

 ぐっと。
 ナカザワは唇を噛んだ。

「何よそれ。アナタたちが戦場に行くんじゃないでしょ?命かけて戦ってるのはこっちじゃない。
何もできないくせにぐだぐだ偉そうなこと・・・・・・・っ!!」

 机をぶったたいて。
 立ち上がったのは。

「ケイ坊、やめぇ。言われてもしゃ〜ない」

「悔しくないの?」

 ヤスダがナカザワを睨みつける。
 本気で怒ってるのだろう。
 鋭い視線を。
 ナカザワは受け止める。

「結果がすべてや。こんな風になったのはアタシらの怠慢やと責められて当然やろうが」

 ゆっくりと。
 ナカザワは王の前に歩を進めた。

「全力は尽くしました。ただ、このような結果になってしまったこと・・・・・・申し訳ありません」

「謝罪なら誰でもできるぞ・・・・・・・っ」
294 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:12
 まだ続く貴族の暴言を。

「もういい、見苦しい」

 王はがつん、と一喝した。

 そして。
 目の前。
 頭を垂れたナカザワを見つめ。

「兵士はよくやってくれた。お前たちもな・・・・・・・軍力の差はわかっていた。ここまでやってくれる
とは思っていなかった」

 その言葉を聞き。
 居並ぶ兵士たち。
 ナカザワに倣い、国王に向かって頭を下げる。

「勝ち目のない死に戦に臨むことを私は潔いとは思わない・・・・・・・正直に答えてくれ。今の段階で、
勝ち目のある戦にできるか?」

 ナカザワは。
 答えるまでに数瞬の時間を要した。

「・・・・・・・申し訳ありません。私にはわからないです」

 静寂が、満ちる。

「わかった。明日には結論を出す。明日の朝8時、もう一度会議を行う。今日はゆっくり休んでくれ。
以上、解散」

 王が部屋を去り。
 ざわめきが、部屋に戻る。

 といっても。

 反目する兵士と貴族たち。

 決して。
 いいとはいえない雰囲気に。

「解散や。各自部屋戻り・・・・・・・ほら、はよせぇ」

 ヘイケが必死に宥める側に回っていた。

「・・・・・・・ユウちゃん」

「ん・・・・・・・・大丈夫や」

「顔色、悪いよ?」

 いつの間にか。
 ナカザワの傍にヤグチの姿。
 ぐらり、とかしぐ身体。
295 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:13
「ユウちゃん?!」

 とっさに支えたのはイチイだった。

「・・・・・・・・・・・悪い、疲れてるとは思うんやけど」

「あたしが警備の方、戻るわよ。朝の会議は出席しないわ。これ以上むかつく話、聞いてたくないし。
報告、サヤカにさせてよ。待ってるから」

「イチイも・・・・・・・」

「いいわよ。戦闘で疲れてるんでしょ?休める時に休んどきなさいよ・・・・・・・サヤカまで倒れたら
シャレになってないし」

 虚無感漂う空気。

「・・・・・・王はそこまで馬鹿やない・・・・・・大丈夫や」

「・・・・・・姐さんに馬鹿って言われたらそれはそれできつそうですね」

「同じ馬鹿じゃないの?も〜・・・・・・信じらんないわよ。よくあ〜ゆ〜会議に参加できてたわね」

 知らず、会議室に残ったのは。
 いつものメンバー。

「いざっちゅ〜時に人間の本性、でるもんやしな」

 ナカザワは支えられていたイチイの腕を外す。
 足取りはしっかりしている。

「まぁ、今晩はゆっくり休ませてくれるらしいし・・・・・ケイ坊、奇襲とかあったらすぐ連絡よこせや」

「・・・・・・・・・誰も起きそうにないから・・・・・・・祈っとくわよ、変なこと起こらないように」

「死んだように寝てる間に焼死体になってました、なんてシャレにもなってないわなぁ」

「やだなぁ、それ」

 軽い笑いが漏れ。
 各自、それぞれの思いを噛み締めるように黙り込む。

 そして。
 ナカザワの服の裾を引っ張る小さな手。

「もうさ・・・・・・・休んだ方がいいんじゃん?」

「そやね。行くか?」

 当たり前のように。
 二人歩き出す。

「・・・・・・ヤグチ、今日はユウちゃんの部屋?」
296 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:13
 イチイの質問に。
 照れくさそうに笑うヤグチの顔が返事の変わり。

「ちゃんと姐さん休ませたってな」

 からかうようなヘイケの声に。
 ヤグチは顔を赤くした。

「もぅええやろ、その辺にしといたってや」

 正直に顔に出てるヤグチの頭をナカザワは撫でて。
 ひらひらと手を振ってみせる。

 二人が部屋を出て行き。

「しっかしええんか?王女がふらふらほっつき歩いてて」

 ヘイケの疑問は最もだ。

「ユウちゃんとこなら安心でしょ?」

 イチイの答え。

「・・・・・・・逆に王とか激怒しそうな気、するけどな」

「ここまでバタバタしてたらばれないって。いいじゃん、知らぬが仏」

 あっさりとした二人のやり取り。
 ヤスダはジロリ、と睨みつける。

「ヤグチ、ユウちゃんといつのまにできてた訳?」

 思わず。
 ヘイケとイチイは顔を見合わせる。

「二人とも知ってたわけよね?」

「・・・・・・・・・ケイちゃん、世の中、謎が多いほうがおもろいで?」

 辺境にヤグチが姿を現せた理由。
 そんなもの、言えるはずもなく。

「そ〜そ〜。ユウちゃんもヤグチも幸せそうだし、それでい〜じゃん」

 ヤスダの拳がぎゅっと握り締められる。

「いいけどねぇ、何でもかんでもあたしを蚊帳の外に置くんじゃないわよ〜っ!!!」

 結局はそれが言いたかったらしい。
 ・・・・・・・・何だかんだと。
 それぞれの夜は更けていく。
297 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:13
ーーーーーーーーーーー

 その頃、ナカザワの部屋では。

「危ないことすんなってオイラ、言わなかったっけ?」

 早々にナカザワをベッドに寝かせつけ。
 まぁ、ナカザワが倒れこんだとも言うのだが。

「ん〜」

 ヤグチの文句も何のその。
 ナカザワは眼を瞑ったまま、動かない。

「・・・・・・・・ちょっと寝なよ。オイラ、ご飯もらってくるからさ」

 さすがに。
 この三日間。
 適当に戦闘の合間、休んでいたとは言え、ナカザワの身体は鉛を詰め込んだように重い。

 ありがとなぁ。

 その声は口から出たのか。
 それすらも定かではなく。

 ヤグチがご飯をもらって戻ってくると。
 案の定、ナカザワは夢の中。

 ・・・・・・・・規則正しくない、寝息。

「熱、出てんじゃん」

 指を滑らせたナカザワの頬は。
 熱っぽい。

 命に関るものじゃない、と。

 そうヘイケは言っていたけれど。
 左肩の傷が気になる。

「心配かけんなよなぁ」

 洗面器に冷たい水とタオル。
 水を含ませたタオルをナカザワの額にあてると。
 ナカザワはうっすらと眼をあけた。

「・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・ありがとな」

「ご飯、食べれそう?」

「・・・・・・・・・・欲しくないけど」

「食べなきゃ薬飲めないじゃん」

 寝起き特有の。
 けだるげな視線にじっと見つめられて。
 ヤグチは何となく居心地が悪くて。
 もぞもぞと動く身体。
298 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:13
 ナカザワはクスリ、と笑みを漏らした。

「んじゃ、ヤグチが食べさせてや?」

 甘えた声。

「ば・・・・・・何言ってんだよっ!」

「・・・・・・・・えぇやん。久しぶりなんやしサービスしてや」

 知らず、赤くなるヤグチの顔。
 ナカザワは人の悪い笑みを浮かべて。

 結局。

「はい、あ〜ん」

 だなんて。

「うまかった」

 全部を食べさせてもらって。
 ナカザワは再びベッドに沈み込む。

「ほら、薬」

「・・・・・・・・口移しで・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

 馬鹿言ってんじゃねぇっ!

 とか。
 いろいろ言いたいことはいろいろあったりしたが。

 熱のせいか潤んだ瞳に。
 優しいブラウンの眼で見つめられたら。
 断れるはずなんて、ないのだ。

「・・・・・・・・ユウ、ちゃん・・・・・・・・」

「ヤグチ」

 触れ合う唇に。
 密着する、身体。

 薬だけのはずが。

 いつの間にか入り込んできたナカザワの舌に。
 簡単にヤグチの息があがる。

「・・・・・・・・・・ん」

 やっと離れた唇。
 こぼれる吐息。
 ヤグチは、こつん、とナカザワの右肩に頭を埋める。

「も〜・・・・・・・・・・・アホ」

「アホやもん」

 ゆっくりと。
 ナカザワはヤグチを抱きしめたまま、ベッドに横たわる。
299 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:14
「・・・・・・・・・・・・今日はずっといてくれるんやんな?」

 想いを伝え合ってから。
 時々見せてくれるようになった、ナカザワの甘えた口調。
 ヤグチはそれが好きだった。

「当たり前だろ。もう、寝ちゃいな?疲れてるんでしょ?」

 体重をかけないように、そっとヤグチはナカザワから身体を離す。
 嫌がるように回される腕。

「傍にいるから。大丈夫」

 安心させるように。
 ヤグチはナカザワの髪の毛を撫でる。

「眼ぇ覚めて、ヤグチがおらんの凄い寂しかった」

 眠る間際。
 こぼされた言葉に。
 ヤグチは驚いたように眼を見開いて。

「もっとムード考えて言ってよね・・・・・・・・」

 慈しむように。
 ナカザワの髪の毛に自分の指を絡ませる。

 もう一度水をしぼったタオルをナカザワの額に乗せる。

「・・・・・・・ん」

 身じろぎしたが。
 眼を覚ますことなく。
 ナカザワは穏やかな寝息を立てている。

「・・・・・・・・服、着替えさせるの忘れてた」

 喉元。
 襟が苦しそうで。
 ただ、起こすのもためらわれた。

「ま、いっか」

 簡単にボタンを一つ二つ外して。
 ヤグチは自分もそれにならって。
 ナカザワの脇にもぐりこんだ。

「・・・・・・・ヤグチだって寂しかったんだからな」

 明日は。
 初めて迎える二人の朝になるんだなぁ、とか。
 妙にドキドキした気持ち。
 少しだけ照れくさかった。

ーーーーーーーーーーーーーー
300 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:14
 目覚めると。
 ヤグチの顔が。
 ナカザワの目の前にあった。

「・・・・・・・・・・・・」

 ナカザワはしばらく考え込む。

 あぁ、そうか。

 現実感を伴って、流れ込んでくる記憶。

 ゆっくりと。
 ナカザワは身体を起こし。
 軽い痛みに顔をしかめながら、髪の毛をかきあげた。

「・・・・・・・・シャワー浴びてくるか」

 夜明けまで、まだ時間はある。

「・・・・・・・どこ、行くの?」

 ヤグチを起こさないように気をつけたつもりだったが。
 寝ぼけたような、小さな声がナカザワの動きを止める。

「ごめん、起きた?」

「・・・・・・・・・・・ん」

 眠そうに眼をこする小さな手。
 ナカザワはそっと包み込む。

「まだ寝とき?シャワー浴びてくるだけやから」

「・・・・・・・・やだ。置いてかないでよぅ」

 舌足らずな声。
 ナカザワの頬が。
 知らず、緩む。

 そのまま。
 ヤグチの腕がナカザワの腰に巻きつき。

「動かれへんやん」

「動けなくしてるんだもん」

 くはぁ。

 大きな生あくびをして。

 ヤグチはずるずると移動。
 ナカザワの膝の上に頭を落とす。

「おはよぉ」

「・・・・・・・・まだおはよ、って時間でもない気、するけどな」

「身体、大丈夫?」

 心配そうに下から覗き込んでくる目。

「うん・・・・・・・昨日はありがとな」

 ナカザワは柔らかくヤグチの頬を撫でる。

「・・・・・・・・熱、下がったみたいだね。良かった」

 ふわり、と笑顔になるヤグチは本当に安心したようで。
301 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:14
「熱、出てたんや?」

「うん・・・・・・・・あんま、覚えてなかったりする?」

「ん〜。会議のとこあたりまでは覚えてるんやけど」

 ナカザワは。
 やっと、頭元に転がっているタオルに気付き。
 当然のように用意されている洗面器いっぱいに汲まれた水。

「・・・・・・・・看病してくれたん?」

「・・・・・・・・そんな大げさなもんじゃないもん」

 恥ずかしげに。
 ナカザワの膝の上。
 ヤグチは器用に身体を反転させて顔をうずめる。

「ありがとな」

 優しい声に。
 やっとヤグチは顔をあげた。

「危ないことしないって言ったじゃん。な〜にまた怪我してんだよ〜」

 言葉とは裏腹に。
 ナカザワの左肩、撫でるヤグチは心配そうで。

「・・・・・・・そもそも設定に無理あるやろ」

 戦場で戦う人間に向かって危ないことはしないで。
 確かに。
 無茶言うな、という話だ。

 むぅ、とヤグチは膨れる。

「・・・・・・・・・また行くの?」

 不意に落とされたヤグチの視線。
 ナカザワは困ったように髪の毛をかきあげる。

「王の判断次第やけどな」

「もう、負けちゃうんでしょ?」

「かも、しれんな」

 ナカザワは。
 ヤグチを抱き寄せた。
 小さい肩。
 少し、震えている。

「みんな、死んじゃうの?」

 ナカザワは黙り込む。

「・・・・・・・・オイラ、死ぬのは怖くない・・・・・・・・けど」

 甘えるように。
 ヤグチはナカザワの肩に頭をこすりつけた。

「最後までユウコと一緒にいたい」

 そのまま。
 ナカザワの腕の中、ヤグチはしばらく動かずにいた。
302 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:15
「当たり前やろ?」

 当然のようなナカザワの声に。
 ヤグチはしばらく。
 抱きしめられている感触を味わって。

「・・・・・・・嘘だよ」

 顔をあげて、小さく笑った。

「・・・・・・・・・何が?」

 真剣なナカザワの眼差し。

「ユウちゃんは生きてよ・・・・・・・・こ〜ゆ〜時って王族は皆殺しでしょ?ユウちゃんは関係ないじゃん」

「アホか」

「父上もそう考えてると思うよ。オイラにはわかるから・・・・・・・・・ユウコは逃げて」

「何言うてんねん」

 ナカザワの視線が、きつくなる。

「アタシは・・・・・・・・」

 その時。
 部屋のドアが慌しくノックされた。

「ナカザワ隊長っ!ヤスダ司令官から緊急連絡です、失礼しますっ!」

 飛び込んできた兵士。

「敵軍に動きがあります。夜が明けると同時に侵攻してくるのではないか、とっ!」

 ナカザワの部屋に。
 王女がいることなど眼に入らない様子の。
 必死な口調。
 ナカザワを隊長と呼んだことすら、気付いてないようだ。
 以前の呼び名。
 だた、そんなことに構ってる暇はない。
303 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:15
 ナカザワは舌打ちをした。

「めっちゃ動き速いやんけ・・・・・・・大したダメージやないってことか、それとも・・・・・・・」

「ひとたび剣を交えることになればもはや止めることはできません・・・・・・王宮の指示はっ」

「国王は?」

 兵士の言葉を途中でさえぎり。
 ナカザワは動き出す。

「すぐにこちらに来ると・・・・・・」

 再び。
 兵士の言葉が遮られる。

「ナカザワ」

 王が部屋の入り口に立っていた。

「すぐ使者に立て。そして伝えろ。全面降伏だ・・・・・・王宮を開放する」

 一瞬。
 ナカザワの身体の動きが止まった。

「王都を火の海にしたいのかっ!!」

 王の怒鳴り声。
 ナカザワは何も言わず。
 剣を掴み、部屋を飛び出そうとして。

「・・・・・・・・ユウちゃんっ!!」

 呆然と、なす術もなくやり取りを見ていたヤグチの叫び声。

 ナカザワは何も言わず。
 綺麗な笑顔をヤグチに見せた。
 ぐっと親指を立て。

 まかしとけ。

 そんな合図。

 そのまま、あっという間に。
 ナカザワの姿は消えた。
304 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/09(金) 23:15
 しばらく。
 誰も何も言わず。
 静寂だけが部屋を包み込んだ。

「・・・・・・・・伝令、ご苦労だった。すぐにヘイケとイチイを私の部屋に来させろ」

 一つ大きく息を吐いて。
 王は兵士の方を振り向く。

「わかりました」

 頭を下げ。
 兵士が部屋を出ていき。

「マリ、部屋に戻っておけ・・・・・・・・・状況がわかり次第、緊急会議を開く」

 ぎゅっと。
 ヤグチは唇を噛み締めた。

「ナカザワを危険な目にばかりあわせて悪いとは思っている・・・・・・・アイツにもお前にも幸せになって
欲しいと思ってはいるのだ」

 思いもかけない王の言葉。
 ヤグチが王に視線を向けると。
 弱々しい微笑みを浮かべた王がいた。

「アイツがもう少し無能であれば私も考えたのだが・・・・・・・すまなかった」

「・・・・・・・・・父上」

 部屋を出て行く王の姿。
 ヤグチは引き止める言葉を持たなかった。
305 名前:つかさ 投稿日:2004/04/09(金) 23:21
>>285 名無し読者さん
>これじゃ姐さんには絶対無事に帰還してもらわないとw
無事に(?)帰還。
二人のシーンが無性に長いのは気にせずに・・・・(w

どうなんでしょうねぇ・・・・。
明日は飲み会あるんで更新はなし。
春の交通安全週間、せいぜいポリさんには気をつけましょう(全く本題とはかけはなれてるけど 笑)
今日の更新はここまで。
306 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/10(土) 11:14
更新お疲れサマです。
また凄絶なコトに・・・。(汗
心配です、色々と。
次も期待してます。
307 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/10(土) 21:30
裕ちゃーーんっ!!

続き楽しみにしています。
308 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/11(日) 23:31
〜〜〜5〜〜〜

 その日の昼過ぎ。
 ・・・・・・・・・・ヤグチの部屋の浴室から機嫌のいい鼻歌が。

 そして部屋のドアをノックする音。

「どうぞ」

 顔を出したのはヨシザワだった。

「ナカザワさんに言付かって持ってきました」

 手にしているものは綺麗にたたまれた近衛隊の軍服。

「置いといて」

 ヤグチの言葉は実に投げやりで。

「・・・・・・・・・・ナカザワさんは?」

 ヤグチは黙って浴室を指差した。
 何とも複雑そうな表情をヨシザワは浮かべて。

「一時間後に会議が始まるから、会議室に集合してくれ、と王からの伝言です」

「わかった」

 簡単なやりとりで。
 人の気配を感じたのか、シャワーの水音が止まった。

「・・・・・・・・誰か来た?」

 ぴょこん、と顔を出したのは。
 朝一で敵軍に使者として赴いたナカザワ。
 実にすっきりとした顔をしている。

「・・・・・・・・・・軍服、届いたよ。後、一時間で会議だって」

「了解」

 それからほどなくして。
 カシカシとタオルで頭を拭きながら。
 新しい軍服に身を包んだナカザワが姿を現す。

「あぁ、ヤグチ、ちょ、包帯巻くの手伝ってや」

 のんびりとした表情。
 それでも。
 ヤグチの不機嫌そうな表情には気付いているのか。

 ぷに。

 ヤグチの頬を押す。

「・・・・・・・・・・普通、風呂入るかぁ?」

 ジロリ。
 ヤグチの睨みにナカザワは肩をすくめた。

「しゃ〜ないやん、ジタバタしたって」

「そうだけどさぁ」

 全面降伏。
 王宮の開城。

 命がけの使者だと誰しも思っていた。
 それが。
 二、三時間ほどして。
 拍子抜けするほどの、元気な姿。
309 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/11(日) 23:32
『王都の外に配備している兵は引き上げました。そのまま王都内の警備につかせます』

 ナカザワとヤスダの報告。

 そして。
 無条件で敵国軍が王都内に進軍してきた。
 もう、敵軍は王都の中に入り込んだ頃だろう。
 王宮の中にも。

 王宮内には最低限の王族への護衛しかついていない。
 残った兵士は王都の治安維持の為に出動している。

「・・・・・・いいやん、アタシ、ヤグチの護衛ってことになったんやし」

 肩に巻かれた包帯。
 ぐるぐると大きく動かして。
 ナカザワは満足げに頷いた。

「そうだけどさぁ」

 まだ不服そうなヤグチをナカザワは腕の中に閉じ込める。
 いい匂いがヤグチの鼻をくすぐる。

「何か不満か?アタシのお姫さんは?」

 クスクス笑い声と。
 ヤグチの首筋に押し付けられる唇。

「・・・・・・・・・こら、もう」

「・・・・・・・・・好きやで」

「・・・・・・・・・・うん、ヤグチも」

 先のことよりも。
 ただ、今、この瞬間。
 抱きしめていてくれる温もり。
 それだけを求めている自分に気付いて。

 ヤグチは知らず、苦笑を漏らす。

 これからどうなるか・・・・・・・不安はあっても。

 ナカザワは今、ここに。
 傍に、いる。

「離さん、からな?」

「知らないからね・・・・・・そんなこと言っちゃって」

 信じちゃうよ。

 しがみついてくる腕の強さ。

『ユウちゃんは生きてよ』

『ユウコは逃げて』
310 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/11(日) 23:32
 ナカザワは眼を閉じる。
 ヤグチは。
 知らないのだ。

 だから、そんなことが言える。

「アタシはアンタのもんやろ?アンタもアタシのもんや・・・・・・・・地獄に落ちてもな」

 ヤグチの震える腕に。
 中澤は抱きしめる腕に力を込めた。

「今更なかったことになんかせんといてや?」

 今更。
 ヤグチを失って。
 どうやって生きていけ、というのだろうか。

「・・・・・・・ユウちゃん」

 今にも零れ落ちそうなヤグチの涙を。
 ナカザワは唇ですくう。

「ずっと一緒や。・・・・・・・・それでも怖いか?」

 柔らかい、声。
 優しい眼差し。

「傍にいて・・・・・・・・・もう、一人にしないで」

 それだったら、怖くない。

 ヤグチの本音に。

「・・・・・・・・当たり前やろ?」

 ずっと探してた。
 たった一人の相手。

 ナカザワの本音。

 ヤグチの身体の震えが止まる。

 死ぬことよりも。
 一緒にいれないことが怖い。
 そんな気持ち。

「愛してる」

 こんな言葉でしか伝えられないのがもどかしい。

「アタシもや・・・・・・愛してるで」

 もう、言葉はいらない。
 どうなるかなんて、わからない。
 今はただ。
 互いの身体の温もりが愛しすぎて。
 何度も何度も。
 二人、キスを繰り返した。

ーーーーーーーーーーーーーーーー
311 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/11(日) 23:32
 王座がある大広間ではなく。
 集めさせられたのは。
 入れる人間に限りがある会議室。

 ナカザワは王の姿を見つけ。
 目礼する。
 黙って頷きかけてきた王の脇には、ヘイケとイチイの姿が。

「・・・・・・・・・父上」

「アカン」

 王の脇に控えようとしたヤグチ。
 ナカザワは自分の背後に隠す。

「何で・・・・・・・」

 不満一杯のヤグチの表情。
 ナカザワはひるまない。

「アタシの仕事はアンタを守ることや」

 敵国の軍服に身を包んだ兵士の数はこちらの三倍以上。
 扉の位置。
 兵の配備の仕方。
 一番効率的な逃走経路。

 当然のことながら、味方の兵士は十数人しかいない。

 下手をしたら、このまま皆殺し、ってこともありそうやな。

 頭を叩き潰せば。
 残った兵士は烏合の衆と化す。
 わかりながら。
 王族の護衛をおろそかにするわけにはいかない。
 ただその一点で、敵の思う壺になっているこの状況。

 ヤスダ、ヨシザワらなど。

 主要幹部もその辺のところは充分理解しているらしく。

 剣の柄。

 片時もそれを離そうとはしない。

「・・・・・・・・・・そう警戒しないでいただきたいのですが・・・・・・・・・まぁしょうがないですね」

「民を巻き込むな」

「無用な争いは私たちも望みません・・・・・・・・そのためにも」

 敵国の将校と王のやり取り。

「ミッちゃんっ!!」

 ナカザワの叫び声。
 それは、唐突だった。

 きらめく、刃。
 明らかな殺意をもったもの。

 ヘイケが王を庇う。
 鈍い嫌な音に。
 血が舞う。
312 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/11(日) 23:32
「ヤグチ、離れんときやっ!」

 王を庇うために。
 何人かの兵士。

「サヤカっ!ケイちゃんっ!」

 盾になる。

 悲痛なヤグチの叫び。

「後方確保しろっ!」

 入り乱れる、兵士たち。

「こっちやっ!」

 隠し扉。
 当然のようにナカザワが背に守っていたヤグチ。
 そして、ヘイケ、イチイが敵兵士と剣を交える間に、後方に下がってきていた王を。
 先に逃がして。
 ナカザワは振り向きざま、一人の兵士に剣をふるう。

「・・・・・・・・っ!!」

 崩れ落ちる兵士と。
 その先に見えるのは。

 ナカザワは舌打ちをして。
 そのまま隠し扉を閉める。

「・・・・・・・・・・残りの兵士たちは」

「・・・・・・・・・・生きてれば会えます」

 地下通路。
 抜け出た先は中庭だった。

 木々の中。
 ナカザワは頭を低くした。

「見張りか・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・ナカザワ」

 小さな王の声。

 ナカザワは何も言わず。
 王を見つめる。

「王宮に火を放つ。命令は出してある。・・・・・・・・・お前は逃げろ」

 思わず。
 ヤグチが息を飲む。

 ナカザワは。
 平然と。
 顔色一つ変えない。

「マリを連れて行け・・・・・・そして、守れ」

 遠くだったざわめきが。
 声が、大きくなる。

 見張りが動いた。
 剣を抜き。
 声の方に向かい、走り出す。
313 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/11(日) 23:33
「・・・・・・・・・・王は」

「私は戻る。ヘイケたちをそのままにはしておけん」

 ぎゅっと。
 ナカザワは剣の柄を握りしめた。

「誰もお前を恨まない。行け」

 ・・・・・・・・沈黙が、落ちた。

「嫌だっ!」

 蒼白な顔をしてヤグチは王の傍に駆け寄ろうとするが。
 ナカザワは剣を持ってない方の手。
 片手で止める。
 普段の力からは考えられないような力。

 ドーン。

 大きな爆発音。
 地鳴りが、きた。

「・・・・・・・時間がない。マリを頼んだぞ・・・・・・・必ず、幸せにしろ」

 ぐらり、と傾いだ体。
 王はすぐに立て直し。

 ナカザワとヤグチ。
 止める暇もなく。
 走り出す。

「・・・・・・・・・父上っ!!」

 ヤグチの叫び声で。
 敵国兵士がナカザワたちに気付く。

「・・・・・・・・っくそっ!!」

 王との距離はもう五十メートルは離れているだろうか。
 そして、その間を遮る敵兵士。

 ぎゅっとナカザワは剣の柄を握りなおした。

「こい、ヤグチっ、こっちやっ!!」

 爆発音とともに。
 煙が中庭にも流れ込んできている。

 多分。
 何箇所かで火が放たれたのだ。

「・・・・・・・でもっ!!」

「生きてりゃまた会えるっ!ってかアタシらもやばいんやぞ、わかってんかっ!!」

 めったに聞いたことのないナカザワの怒鳴り声。
 ヤグチは黙り込む。
 冷静に考えれば。
 周りは敵兵士ばかり。
 そして、きっと。
 燃え広がるだろう、火に。
314 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/11(日) 23:33
「・・・・・・・・・・わかった」

 そして。
 走り出す。
 何人の敵兵士を斬っただろう。

 ナカザワの剣は血に濡れ。
 ヤグチも剣もまた、然り。

 いつの間にか。
 追い詰められていた。
 敵兵士、ではなく。
 火に。

「・・・・・・・・・・やっぱ森燃やしたの、あかんかったかなぁ」

 ナカザワがぼやく。
 ヤグチはちらり、とナカザワを見上げる。

「そんなことしたのかよ・・・・・・・・んじゃ、諦めろ」

 繋がれた、手。

「そんなあっさり言わんでもええやん・・・・・・・怖く、ないんか?」

「言ったじゃん・・・・・・ユウコと一緒だったら怖くないって」

 交じり合う視線。

「この向こうに・・・・・・・抜け道があるねん」

 崩れてるかも知れんけどなぁ。

 やっぱりぼやくような口調。
 場違いなほど。
 のんびりとした、一瞬。
 燃え盛る炎が。
 前後に迫ってくる。

「・・・・・・・・カオリとか無事かなぁ」

「王都には手、出さんやろ・・・・・・・多分な」

 もはや。
 想像するしか、できないけれど。

「大丈夫や・・・・・・カオリのことやから逃げてるわ。ツジとカゴ連れてな」

「生きてれば、会えるんだよね」

「・・・・・・・・そやな」

 ナカザワの瞼の裏。
 ヤグチの瞼の裏。

 ヘイケの姿。
 イチイ、ヤスダ、そして。
 王と・・・・・・・・近衛隊の面々。

 結局は。
 再会をまみえることがなかったアベ。

「また、会えるわ。絶対な」

「・・・・・・・絶対、だからな」

 もう一度。
 ナカザワとヤグチが眼を合わせる。
315 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/11(日) 23:33
 ナカザワの右耳。
 きらめくピアスと。
 ヤグチの左耳。
 変わらぬ輝きを放つ、それ。

『ピアスの穴、開けてよ。お揃いにしようよ』

 最後。
 二人で過ごす限られた時間の中で。
 ヤグチからのお願いだった。

 目の前の火が。
 少しだけ、勢いを弱めた気が、した。

「・・・・・・・・・突っ込むで」

「うん」

 繋がれた手。
 これだけは。
 離さない。

 驚くほど、二人の心は穏やかだった。

 例え。
 手が、離れたとしても。
 また、めぐり合う。
 そして。
 恋をする。

 ループに続く、永遠の想い。

 互いの存在が。
 めぐり合えたことが。
 今、ここでこうして。
 相手を感じていれることが。

 それだけで。
 それが、二人にとって幸せだから。

 
 今度は、もうちょっと長く一緒にいたいなぁ。

 同年代とかでもええなぁ。

 幼馴染、とか?

 そうやん、めっちゃ一緒にいれるで?

 だといいね。


 燃え上がった王宮は。
 王都に火の手を伸ばすことなく。
 敵軍の手によって消化された。

 そして。
 その後の二人の消息は、しばらくの間、途絶えることになる。
316 名前:つかさ 投稿日:2004/04/11(日) 23:42
>>306 名も無き読者さん
>また凄絶なコトに・・・。(汗
凄絶っすか・・・・・まぁ誉め言葉と(多分違)

>>307 名無し読者
>裕ちゃーーんっ!!
叫びたくなる気持ちはわかります・・・・・(苦笑)

後一章続きます。
このラストは自分の中で決めてたんで・・・・(ちょっと変えたけど)
自分の中でバッドエンドでもハッピーエンドでもないです(あくまでも自分の中では)
ヤグチさんと姐さんに関してはこれで二人は幸せだったんじゃないかな、と。
次の章で姐さん、ヤグチさんは登場しません(断言)

今日の更新はここまで。
317 名前:つかさ 投稿日:2004/04/12(月) 00:05
うわ・・・・・久々にやぐっつぁんの口から「裕ちゃん」という言葉・・・・。
っつ〜か、しゃべってるんだぁ。
っつ〜か・・・・・・・(妄想中)
一瞬でテンションが飯田さんなみに宇宙まで飛びました(笑)
あまりに嬉しかったんで独り言。
318 名前:ハルカ 投稿日:2004/04/12(月) 15:53
更新お疲れさまです。
なんだか泣いてしまいました(照。
ラジオ、いいなぁ。
聞けないんですよ、うち。なんて言ってたんですか?
319 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/12(月) 19:39
国王っ!!願わくば全員無事に…
昨日のラジオ、矢口さんから裕ちゃんって言葉が出てきて思わず二ヤリw
320 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/12(月) 22:19
あーうー(←感想を書きたいのだがネタバレしそうで…)


ラジオはネット配信しなくなってから聞いてないんですよね。
音源さがそうっと。
321 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/12(月) 23:04
第六章

 数ヵ月後。
 王宮の残骸。
 たたずむ二人の人影があった。

「ナッチ」

 呼ばれて。
 アベは俯かせていた顔をあげた。

 その頬に。
 涙がないことに、ゴトウは安心しながら。

 もう一度、呼ぶ。

「ナッチ」

「なんだい、聞こえてるよ」

 小さく笑うアベ。
 心から笑えてないことなんて。
 ゴトウには手にとるようにわかっていた。

 昼過ぎから。
 アベはここで。
 動こうとせずに。
 もう。
 太陽は傾きかけている。

 アベは。
 手に持っていた銀色のペンダントを太陽にかざす。
 きらめく光。

「・・・・・・・それ、ど〜したの?」

 素直なゴトウの疑問。

「・・・・・・・・置いてあったんだ」

「・・・・・・・・どこに?」

 その質問には答えず。
 アベは写真入れの部分をパチン、と開けた。

 中に入っていたのは・・・・・・・色あせた四葉のクローバーに。
 もう一枚の新しい四葉のクローバー。

 ナカザワのものだ、と。
 ピンときた。

 何度か見たことがあった。

 ・・・・・・・・・・中身までは見たことがなかったけれど。

 朝起きたら。
 自室のバルコニーに。
 そっと置かれていた。

 どうせ。
 警備の問題とか、そ〜ゆ〜ことになるから。
 ゴトウには伝えなかった。

 ナカザワがアベの元を最後に訪れてから。
 起こしたクーデター。
 成功したから、アベは今、ここにいる。

『勝ってよ、ナッチも勝つからさ。そしたら、今度はヤグチも連れてきて。・・・・・・・・文句いっぱい
言うから』

 望んだものは。
 こんなことじゃなかった。
322 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/12(月) 23:04
 けれど。
 確かに、アベの中にあるこの固い温もり。

「ヤグチ・・・・・・・ナッチ、まだヤグチに謝ってないよ」

 はらはらと。
 アベの頬を堪えきれない、涙が伝った。

『アベさんがいてくれたから。友達ができたみたいで、凄く楽しかったです』

 そう言われて。
 凄く嬉しくて。
 結局、ヤグチのことを騙したようになってしまったこと。
 ヤグチに何も告げずに逃げるようにしか、この国を去れなかったこと。

「文句も言ってないよ」

 そして。

「ユウちゃん・・・・・・・」

『生きて・・・・・・また会おな』

 あのセリフがあったから、頑張ったのだ。
 頑張れたのだ。

 滅亡した、この国で。
 最後の瞬間、何が起こり。
 どうなって。
 誰が、このペンダントをアベの元に届けたのか。

 アベにとってわからないことだらけだったが。

 隣国の支配を王都の住民たち、この国の住民は受け入れた。

 暴走に近かったこの国への侵入。
 戦争。
 そして。
 王宮の炎上。

 総ては事後報告、だった。

 自国を統治して。
 使者を送ると。
 あっけないほどに、王弟派の人間はこの国の土地、という献上物をたずさえて、寝返ってきた。

 アベにとって。
 とても喜べない献上物。

 どれだけの人間がこの場所で傷つき、血を流し。
 倒れていったのだろう。

「ナッチ・・・・・・・泣かないでよ」
323 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/12(月) 23:04
 アベは首を横に振る。

「泣いてない」

 声をかけたゴトウは思わず黙り込む。
 泣いていることにさえ、気付いてないのだろうか。
 それほどまでに深い傷を負ったのか。

「ユウちゃんとヤグチが死んじゃったみたいじゃん」

 ゆっくりと。
 アベは頬を自分の手で。
 拭った。

 しっかりとした視線。

「ごめんね。もう、泣かないよ」

 拭いきれてない、憂い。

 それでも。
 アベは笑おうとしている。

 ゴトウは一つ、ため息をついた。

「ナッチ、もう一つ行きたいとこ、あるって言ってたよね?」

「うん」

 それは。
 もう一つ、アベにとって大切な場所。

ーーーーーーーーーーーーー

「いらっしゃい」

 突然の訪問にも関らず。
 イイダは驚いた様子も見せなかった。
 うろ覚えだった場所のため。
 何度も迷い。
 その小さな診療所についた頃、日はもうとっぷりと暮れていた。

「・・・・・・・国王と呼んだほうがいいのかな?」

 黒い大きな瞳がアベを射抜く。

「前と同じで・・・・・・・ナッチって呼んでよ」

 ちょっと恥ずかしそうに。
 それでも。
 疲れた表情。

「・・・・・・・・・泊まっていきなよ。カオ、今日、ご飯作りすぎちゃってさ」

 労わるように。
 イイダは自分より頭一つ分小さなところ。
 髪の毛を撫でた。
324 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/12(月) 23:05
「「イイダさ〜んっ!!」」

 無遠慮に、飛び込んできた声。
 以前と変わらず元気いっぱいだ。

「ツジ、カゴ、あんたたちまだ遊んでたの?そろそろ帰らないと家の人、心配するわよ?」

 イイダが振り向いた先。
 何故か。
 アベとゴトウの姿を見て固まっているツジとカゴの姿。

「?」

 二人が人見知り、とはかけはなれた性格なのを知っているイイダは首を傾げるが。

「そ、そ〜なのです。帰るのです」

「んじゃ、また来るわっ」

 ツジの顔を見て。
 アベは考え込む。
 その脇で、ゴトウは驚いたような表情で。

「待ってよっ!!」

 ツジの腕を掴んだ。
 怯えたような顔で、ゴトウを見上げるツジ。

「ゴトー、約束、守ったから。全部、書類処分したよ。あの計画に関った人たちも今回のことで
全員処分した・・・・・・・・ゴトーは殺せなかったけど」

 一生懸命な言葉。

「だから、もう大丈夫・・・・・・・手出しはさせないし、もうあんな計画絶対立てさせないから。謝って
済む問題じゃないけど、本当に悪かったと思ってる。ごめん」

 ツジの。
 怯えた瞳が少しだけ、和らいだ。

『絶対に・・・・・・・・許さないのです』

 ナカザワと忍び込んだアベの部屋で出会ったゴトウ。
 ツジは限りなく冷たい視線を向けた。

『いっぱい死んだのです・・・・・・・・・・・絶対に許さないっ!!』

 糾弾の言葉と。
 実験室の実情。
 初めて聞いたゴトウは蒼白になっていた。
325 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/12(月) 23:05
『殺さないのです。みんなもそれを望んでないと思うから』

 復讐。
 巣食った黒い感情は。
 イイダやカゴ、そしてナカザワが。
 溶かしてくれた。

「許してくれなくていい・・・・・・・ゴトウがしたことが自己満足だって言うのならそれでも構わない。
でも、伝えときたかった」

 真剣なゴトウの眼差しに。
 ツジは首を横に振った。

「ノノこそごめんなさい・・・・・・・ありがとう」

 ほんの少しだけ。
 笑顔が見えた。

 ゴトウはほっと息をつき。

 ただ。
 ツジとカゴはやっぱり居づらそうにあっという間にイイダの診療所から姿を消した。

「・・・・・・・・・何があったんだい?」

 イイダから。
 全ての事情を聞き終えて。
 アベは頭を抱える。

「・・・・・・・ごっちん」

 冷たいアベからの視線。
 ゴトウはひたすらに頭を下げる。

 そして。
 アベを逃がしてからのナカザワとヤグチの動向。
 聞き終える頃には、もう夜もだいぶ更けていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・王宮が燃えて・・・・・・・・・ユウちゃんとヤグチはここには・・・・・・・・?」

 そして。
 アベの口から躊躇いながら、最後の質問が口に出された。

 イイダは黙って首を横に振った。

 アベも黙り込み。
 視線を下に向ける。
326 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/12(月) 23:05
 二人が無事なら。
 ここに、顔を出さないはずがない、という確信。
 来てない、ということは。
 それが指し示す意味は。

 アベはゆっくりと。
 服のポケットからペンダントを取り出した。
 そのまま。
 机の上に置く。

「・・・・・・・・・・これ」

 イイダの視線が訝しげにアベに向けられる。

「ナッチの部屋のバルコニーに置いてあったの」

 ちらり、と。
 ゴトウを気にしながら、ナッチが言葉をつむぐ。

「・・・・・・・・・・ユウちゃんのだ」

 そのまま。
 イイダは黙り込んで。
 微動だにしない、姿。

「・・・・・・・・何人かね、ナッチと同じようにここ、来たよ」

 王宮で。
 生き残った兵士たち。
 ナカザワとヤグチの動向を求めて。
 期待にそえない答えを聞いて、がっかりする人あり、まだ死んだって決まったわけじゃない。
 そう言い放つ人もいた。

 しかし。
 みな、一様に、寂しげな表情を浮かべていた。

 ・・・・・・・今のアベと同じように。

「カオリね、思うんだ。これ、ユウちゃんとヤグチからナッチへのメッセージだよ」

 生きているのか、死んでいるのか。
 生き延びたなら。
 何故、ここに顔を出さないのか。

「ナッチが一人でも寂しくないようにって。きっとそうだよ」

 イイダの頭の中。
 不意に。
 そそくさと立ち去っていったツジとカゴの姿が思い浮かぶ。

 ・・・・・・・・・まさか。

 辺境のナカザワからイイダに。
 王宮が燃え上がるちょっと前に、手紙が届いた。

 ーーーーーー何があってもツジに空を飛ばせるな。カゴから眼を離すなーーーーーーーーー

 短い、書きなぐったもの。

 イイダはため息をつく。
327 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/12(月) 23:06
「・・・・・・・・・・・庭にね、ユウちゃんとヤグチのお墓作ったんだ」

 アベが顔をしかめる。

「縁起でもないって・・・・・・・・怒りに来てくれないかなぁ」

 ぽつり、とイイダは呟いて。
 眼を閉じた。

 魂になって、居場所がないのは可哀想。

 生きていても。
 ここに、ちゃんと居場所があるよ。
 戻っておいで。
 託された、願い。

 アベは黙りこむ。

「略奪とか、揉め事とか全然起こらなかったんだよ」

 王宮に火の手があがった時。
 王都を警備していた兵士たちに広がった動揺。

 それでも。
 彼等は王宮には戻らなかった。

『王から厳命を受けています・・・・・・・王宮に何があったとしても、王都の治安を守ることを最優先
させろ、と』

 王都に血は流れなかった。

「・・・・・・・・ナッチもそんな風にできるといいね」

 不意に向けられた優しい眼差し。
 アベは思い出す。

『偉い人とは話し合わんけど。王都を守るってことに関してはアタシ、王さんと結構馬、あうんや』

 握りしめた、金属からは何も伝わってこないけれど。

『兵士やない奴に剣を向けるの、嫌いやねん、ホンマは』

 邪気のない、笑顔。
 最後まで。
 ナカザワはアベにその笑顔を崩さなかった。

『好きやで』

 向けられた言葉に。
 本気じゃない、とわかりながら。
 惹かれる心を止めることはできなかった。

 ナカザワにとって。
 誰が一番なのか。
 わからないはずはなかった。

 短い時間だったけれど。
 誰よりも。
 ナカザワのことを見つめていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
328 名前:永久(とわ)の祈り 投稿日:2004/04/12(月) 23:06
 次の日の早朝。
 ナカザワとヤグチの墓。
 それは、庭の片隅。
 木の棒が立てられただけのそっけないもの。
 アベはしばらくそこに佇んでいた。

 そして。

「また来てもいい?」

 アベの問いかけに、イイダはにっこりと笑って頷いた。

 木の棒の前で。
 アベは誓いを込めた。

 憎しみを憎しみで返すのではなく。
 血の流れを血で返すのではなく。

 このペンダントが。
 ナカザワとヤグチからのメッセージなのだとすれば。

 負けないよ。

 二つの国を統治していくことは大変だろう。

 遺恨が残ってない、といえば嘘になるだろう。

 でも。
 手渡されたバトン。
 逃げるわけにはいかない。

 立ち去るアベの頭上には。
 限りなく青い空が広がっていた。

                                    【END】
329 名前:つかさ 投稿日:2004/04/12(月) 23:14
>>318 ハルカさん
>ラジオ、いいなぁ。
>聞けないんですよ、うち。なんて言ってたんですか?
話的にはそう大したことは言ってなかったんですが。
HEY×3の時に浜田さんに『胸ちっこいなぁ(笑)』と突っ込まれた後に姐さんと
話をして、顔に関して『可愛くない(うろ覚え)』とか言われるならまだ反応
できるけど、身体に関しては嫌だってことを二人で言ってた、みたいな。

>>319 名無し読者
>国王っ!!願わくば全員無事に…
ははははは(ふと遠い目)
・・・・完結しちゃいました、すいません・・・・・(汗)

>>320 名無飼育さん
>あーうー(←感想を書きたいのだがネタバレしそうで…)
気持ちだけありがたく頂きますってか完結したんでネタバレ上等、感想よろしく
お願いします(ぺこり)
330 名前:つかさ 投稿日:2004/04/12(月) 23:17
まぁ流しとくかっつ〜ことでラジオ話の続き。
上で書いたように大した話じゃなかったけどあ〜ゆ〜話はツボです。
妥当な線としてはハロモニ収録?って思うけど、電話?直接?
姐さんドラマの撮りで忙しいんじゃねぇの?
会う時間は確保してるんだぁ、とか・・・・(交信開始)
331 名前:つかさ 投稿日:2004/04/12(月) 23:22
容量思いっきり計算間違いしまして、残りど〜しようかな、と(いやどうするかは決めてるんですが)
書いてて楽しかったです。
怒涛の更新(自分の中では)付いてきてくれた読者の皆さんありがとうございました、
そしてお疲れ様でした(笑)
楽しんでいただけたなら、幸いです(ぺこり)
332 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/12(月) 23:55
オツカレサマです!
もうね、正直メチャメチャ楽しませてもらいました
スキだ!!
333 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/13(火) 02:09
お疲れ様です。
いいもの読ませていただきました。
やぐちゅーは永遠に不滅です。
次回作?番外編?楽しみに大人しく待ってます。
334 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/13(火) 23:58
あの状況だしやっぱり皆……なんて思ったり。
最初は痛い系ってことでドロドロした話になるかと予想してたんですが、
切ないけど爽やかな、そんな感じの終わり方でよかったです。
連日更新・完結お疲れさまでした。
335 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/18(日) 13:31
完結お疲れ様です。(遅)
月並みな感想ですが、感動しました。
特に最後の青い空・・・、
物悲しくも清々しい印象で感動の一言に尽きます。
これからもついて行くつもりですがとりあえず、
ありがとうございました。
336 名前:当たり前の幸せ 投稿日:2004/06/19(土) 23:22
「誕生日おめでとう」

 大好きな人に。
 大切な人に。
 一番に想いを、気持ちを伝えたい。

 当たり前のことだけど、中々思うようにならないのがオイラたちの仕事。

 リアルタイムでお祝いしてあげれたこと、何回あっただろう。

 そしたらあの人は言うんだ。

 −−−−−−気持ちだけでええからーーーーー。

 オイラも言うよ。

 −−−−−−今年も祝ってくれる、それだけで嬉しいよーーーーーー。

 でも。
 寂しさを感じないって言ったら嘘になるよね。
 だから。
 今年の貴女の誕生日が。
 こんなにも嬉しいんだ。

ーーーーーーーーーーーーー

「「誕生日おめでと〜〜〜っ!!!」」

 クラッカーを盛大に鳴らして。
 サプライズ。
 あらかじめなっちから合鍵は借りてて。
 圭織と一緒に雪崩れ込んだなっちの部屋。

「・・・・・・・え?」

 思いっきりきょとん、とした裕子の顔。

 なっちも圭ちゃんもいてる。
 二人ともすっごい笑顔。

 計画どおりだけど・・・・・・まぁ、フライングって言えばフライングなんだよね。
 だってまだ金曜日。
 後、四時間で。
 裕子は誕生日を迎える。

『・・・・・・ごめん、仕事何時に終わるかわかんないや』

『アタシも次の日コンサートあるしなぁ・・・・・・矢口も仕事やろ?』
337 名前:当たり前の幸せ 投稿日:2004/06/19(土) 23:22
『うん・・・・・・・・・でも、一番に電話するよ?』

『楽しみに待ってるわ』

 そんな電話でのやり取り。
 ちょっぴり寂しそうな声、出してみたりして。
 全部はこのために。

『裕ちゃんの誕生日パーティーしようよっ』

 数日前。
 声をかけた瞬間から嬉しそうに頷いていた圭織に。
 コンサート中にもかかわらず。
 料理頼めるかなぁ?
 そんな非常識な頼み。
 なっちは二つ返事で引き受けてくれた。
 オイラも昨日はここ来て。
 圭ちゃんも当たり前みたいに手伝ってくれた。
 ・・・・・・・・・おつまみばっかりそんなに作ってどうすんだよ〜って。
 三人ではしゃいでた。

「あんたらなぁ・・・・・・・」

 ケーキの箱抱えたオイラと。
 嬉しそうにリボンのついたシャンパンを持っている圭織を見て。
 驚いたようだった裕子が徐々に理解しました、って表情。

「びっくりしただろ〜」

 部屋の中には少しうるさめの音楽。
 それもなっちに頼んだんだよねぇ。
 こっそり入ってくるのに意義があるんのさ。
338 名前:当たり前の幸せ 投稿日:2004/06/19(土) 23:23
 なっちとオイラ、圭織で大盛り上がりしてたら。
 圭ちゃんが一人でため息ついてたっけ・・・・・・。

「も〜、矢口も圭織も遅いっ。なっちいつまで会話もたせればいいか心配したっしょ」

「先に裕ちゃん潰れちゃったら何にもならないしねぇ」

「駄目だよぉ、そんなの。え?まだ裕ちゃんお酒飲んでないよね?」

「矢口、ケーキ振り回さないのっ。ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃない」

 まだ飲んでへんわ、とか。

 矢口の手からケーキ箱を圭ちゃんが取り上げたり。
 一気に賑やかになった部屋。

 なっちからソロツアーの日程聞いた時から計画してたんだ。
 本当は二人っきりで、とも思わなくはなかったけど。
 なっちのファーストソロコンサート。
 お祝いしたいなぁってのもあったし。
 何より。
 みんなで迎えたいなぁって。

 おいでおいでと。
 裕ちゃんが手招きしてる。

 料理の準備始めたなっち。
 圭織はそのお手伝いで。
 圭ちゃんはお酒の準備してる。

 ・・・・・・・・・・・ちょっとくらい、いいよね?

「めっちゃびっくりしたわ」

 見つめ合って。
 こつん。
 おでこに裕ちゃんのおでこがぶつかってくる。
 じっと見つめてくるブルーの瞳。
339 名前:当たり前の幸せ 投稿日:2004/06/19(土) 23:23
「・・・・・・・・・まだコンタクトしたままなんだ?」

「え?あぁ、なっちがせかすねんもん」

 柔らかい微笑み。

 見たかった、表情。

「だって裕ちゃん言ってたじゃん。偶然会ったら凄く嬉しくなるって」

「偶然ちゃうやん」

「うん、オイラは凄く楽しみだった」

「アタシにもその楽しみわけろっちゅ〜ねん」

「そしたらびっくりさせれないじゃん」

「・・・・・・・・そんなにびっくりさせたかったんかい」

 そっと。
 首筋。
 耳元に近いところを撫でられる。

 へへ。

 眼、合わせたまま。
 笑いあう。

 久しぶりだけど。
 当たり前の、時間。

「「矢口っ!!!手伝え〜っ!!!」」

 おや?

 振り返ると。
 丁度、料理のお皿をテーブルに持ってきた圭織。
 キッチンでワインボトル相手に格闘してる圭ちゃんのちょっと呆れた表情。

「あんたら、うまいことハモってんで」

 ケラケラと裕ちゃんが笑う。

「何〜?また裕ちゃんと矢口がイチャイチャしてるって?そんなの当たり前っしょ?」

 カウンター式のキッチン。
 慌しく動いてるなっちの姿。
 声だけで会話に参加してくる・・・・・・けど。

「「「「当たり前かよっ!!!」」」」

 なっちの声に、四人分のツッコミ。
 ・・・・・・・・圭織がちょっとずれてたけど、それもまぁお約束。

 幸せな時間はあっという間に過ぎる。
340 名前:当たり前の幸せ 投稿日:2004/06/19(土) 23:24
ーーーーーーーーーーー

「コンサート、どう?」

 宴もたけなわ。
 だいぶお酒がまわってきた。
 ま、一応全員成人してるわけだしねぇ。
 飲んでる量には凄く差があるけど・・・・・・・。

 圭織の一言に。
 三人の顔が緩む。

「なまら楽しいっ」

 断言してくれる人に。

「久しぶりだけど楽しいよ」

 控えめな表現だけど、顔は最高に楽しいって言ってる人に。

「最高やで」

 にかっと。
 いい笑顔。

 オイラと圭織はうんうん、と頷きあって。

「「なっち、ファーストソロコンサートおめでと〜っ!!」」

 こっそり。
 隠してたプレゼントを手渡す。

「え?矢口、私そんなの聞いてないわよ」

「二人でなんてずるいやん」

 嬉しそうななっちの笑顔を堪能する暇もなく騒ぎ出す二人・・・・・・・。
341 名前:当たり前の幸せ 投稿日:2004/06/19(土) 23:24
「これはモーニング娘。代表して圭織と矢口が持ってきたんだもんね?」

「そうだよ。OGはOGで何か考えればい〜じゃん」

 見立てはオイラと圭織で。
 でもメンバーのみんなも気持ちよくカンパしてくれて。
 色紙とか書く?とか。
 大騒ぎだった。

「な〜んか疎外感〜。感じ悪〜い」

「OGって・・・・・・・」

 何かちゃうくないか?

 二者二様。
 悩んでる様は。
 ・・・・・・・・・・・・まとまりなさそうだよねぇ、うちらのグループから巣立ってったメンバーって。
 思わずしみじみそう考えちゃうとこだよ。

「ねぇ、開けてみてもい〜かい?」

 にこにこ。
 騒いでる二人を気にもとめず。
 なっちスマイル炸裂。

「「いいよ〜〜」」

 思わず。
 こっちまでにこにこしそうな。
 そんな笑顔。

「「・・・・・・・・・何か感じ悪い・・・・・・・・・・」」

 妙なとこでハモってるOG二人は置いといて。

 なっちは包装を丁寧にあける。

「可愛い〜〜っ!!」

 広げた途端にあがる歓声に。
 オイラと圭織は眼、見合わせてほっと一息。

 プレゼントをあげるときって凄くドキドキする。
 気持ちが大事だってわかっていても、ね。
342 名前:当たり前の幸せ 投稿日:2004/06/19(土) 23:24
「うわ〜、ってこれ裏に・・・・・・・・」

「本当はね、今のメンバーの名前入れたかったんだけど・・・・・・・」

「入らなかったの。だから、さ」

 なっちの手にのっているのは。
 銀色のチェーン。
 ペンダント。
 裏には『From M.M 2004』

「使えないかもしんないけどさぁ、使ってよ、コンサートで」

「娘。みんなで応援してるからさ」

 ずっと。
 娘。を引っ張ってきてくれたなっちへの。
 どんなしんどいことがあっても。
 笑顔で。
 表で裏で娘。を支えてきてくれたなっちへの。
 精一杯の感謝の気持ち。
 そして。
 一人じゃないよ、と。
 忘れないで、私たちのことを、と。
 精一杯のメッセージ。

「・・・・・・・・うん、ありがと。絶対大事にする。ありがとね」

 ちょっとだけ。
 ほんのちょっとだけ、涙眼のなっち。

 くしゃり。

 不意に。
 触れてきた温もり。

 やるやん?

 眼での合図。

 あったりまえだろ?

 自慢げに返して。
 そっか。
 気付く。
 いつの間にか裕ちゃんの傍にいてる自分。
 当たり前のように受け入れてくれてる人に。
 最高の笑顔を。

ーーーーーーーーーーーーー
343 名前:当たり前の幸せ 投稿日:2004/06/19(土) 23:25
 カウントダウン。

 みんなで、した。

 誕生日おめでと〜っ!!!!

 揃った声に。

 あんまこの歳になると誕生日なんて嬉しくない・・・・・・複雑や、と。

 本当に複雑そうな表情を見せていた人。

「矢口」

 こそこそと。
 そのままなっちの部屋。
 お泊り、決定ってか。
 もち、そのつもりだったんだけど。

「・・・・・・・明日、早いん?」

 妙に生真面目な質問ってか。

「関係ないよ」

 そう言ってやる。

 オイラと裕ちゃんだけ、リビングで。
 当たり前のように。
 オイラは裕子の腕の中。

「誕生日ってそんなに嬉しくないもん?」

 一応。
 隣りの部屋にいるなっちたちに配慮。
 オイラの声は小さくて。

「・・・・・・・・・そういうわけでもないけど」

 囁くように、耳元で。
 そう答える声は少し、くすぐったい。

「生まれてきてくれてありがとうって。オイラと出会わせてくれてありがとう。今日はそういう日だよ?」

「わかってる」

 強くなる、裕子の腕の力。

「・・・・・・・・・でもいつかアンタが誕生日を複雑に思うときになったら、アタシ、笑ったるわ」

 そのまま。
 聞こえてきたちょびっと福雑そうな声に。
 思わず声をあげて笑ってしまう。

「・・・・・・・・・・こら」

 だ〜か〜ら〜。
 思わず抗議の声。
 わざわざ耳、噛むことないだろ?
344 名前:当たり前の幸せ 投稿日:2004/06/19(土) 23:25
 睨んでも、暗がり。
 見えてないんだろう。
 ・・・・・・・・・・睨んでるのわかっても、やりそうだけどさ。

「おばあちゃんになっても傍にいてくれるんだろ?」

 傍にいるから。
 疑問形をとった確認。
 っていうか。
 います。
 絶対。
 ・・・・・・・・・・好きだから。

「・・・・・・そやったね」

 たまには。
 好きだ、とか。
 愛してる、とか。
 そんな言葉に頼らなくてもいいよね?

 今。
 こうやって腕の中にいてる。
 それだけで充分?
 充分だろ?

 これじゃ、脅迫だけどさ。

 もう一度。
 クスクス笑うのを。
 裕子の肩で耐えてたら。

「・・・・・・・・今日は、嬉しかったけど」

 真っ直ぐな、視線。

 −−−−−−−−来年の矢口の誕生日は二人っきりで祝いたいーーーーーーー。

 そうだね。
 オイラも思ってた。

「嬉しかったし、ありがとうって思ったけど」

 慌てたようにフォローする貴女が愛しいよ。

 特別な日だから。
 貴女といたい。
 傍に、いたい。

 誰もいらないよ。

                                【END】
345 名前:つかさ 投稿日:2004/06/19(土) 23:27
誕生日おめでとうございます、姐さん。
それだけで。
え〜と。
向こうが終わってないのにすいません。勢いだけであげました(苦笑)
346 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/20(日) 17:44
姐さんおめでとう!!
勢いのおかげで・・・なつかしいモーニングが感じられました〜。
もうソロ期間のほうが長いのが不思議な感覚です。w
いつかOGモーニングのコンサートが一回見たいー。W
347 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/22(火) 23:39
温かい感じと懐かしい感じがして、なんかイイです。
やっぱり複雑なのかな?と思いつつ
裕ちゃんハッピバスデー。
348 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:10
〜〜〜1〜〜〜

 あの時。

「姉ちゃんっ!!」

 燃え上がる火に。
 飛び込もうとした、その時。
 聞こえてきた声に、ヤグチとナカザワ。
 二人の動きは止まった。

「「・・・・・・・・ツジ、カゴっ!?」」

 自然。
 揃う二人の声。

 そして。

「助けにきたで〜」

 この場に不釣合いな無邪気な笑顔に。

 ナカザワは怒ったものか、ありがたく思うべきか。
 一瞬迷い。

「・・・・・・・・ツジ、四人も抱えて飛べるんか?」

「「・・・・・・・・・・・・」」

「・・・・・・・・・・お前らアホやろ」

「アホ言うなやっ。だいたい姉ちゃんがドジ踏むのがアカンのやろ?ウチら必死で探してんでっ!」

 緊張感を全く無視した二人のやりとり。

「何言うてんねんっ!絶対空飛ぶなっつったやろ〜がっ!こんなとこ見つかったらどうなるかわかっとんかっ?!」

 ナカザワの怒鳴り声にカゴの顔が歪んだ。

「姉ちゃんらが心配かけるのが悪いんやんかっ!!」

 不意に。
 ナカザワは黙り込む。

 パチパチ、というような可愛いはぜる音じゃなく。
 ゴオー。
 火が燃え盛る、回廊。

「・・・・・・・・ごめんな。でも、アンタら、逃げ」

「助けに来た、言うたやん。一緒に・・・・・・・」

「気持ちだけ受け取っとく。時間、ないねん。もうすぐここ崩れるから」

 ナカザワはチラリ、と。
 脇にいるヤグチに眼をやる。
 ぎゅっと繋がれた手。

 ヤグチだけでも。

 そんなこと、言わせない。
 繋がれた手の力は。
 先ほどより、強い。
349 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:10
「・・・・・・・・ナカザワさん」

 ツジが。
 何とも言えない表情でナカザワを見つめる。

「一つだけ、頼みある。・・・・・・・これ、ナッチに・・・・・・・ツジ、覚えてるやろ?会わんでもええ。
届けて欲しいんや」

 ナカザワは手早く自分の首から。
 ヤグチからのプレゼント。
 ペンダントを外す。

 ツジとカゴ。
 顔を見合わせる。

「・・・・・・・・・はよせぇっ!!」

 強い言葉。
 有無を言わさないその態度。

「・・・・・・・・大丈夫だよ。また会いに行くから。いろいろありがとね」

 ヤグチが。
 同じ目線。
 二人に笑いかけた。

「・・・・・・・・・崩れるでっ!!」

 ナカザワの叫び。

 その瞬間。

 ツジが動いた。

「つかまってるのですっ!!!」

 浮遊感。
 ツジはヤグチを抱きかかえ。
 カゴはナカザワを。
 とっさに掴んだ相手の服。
350 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:11
 ただ。
 その飛行は。
 高度をたもったものではなく、本当に。
 ただ、浮いた。
 崩れ落ちる壁から四人を何とか守った。
 それだけのもの。

「・・・・・・・・・アカン、ツジ、手、離せっ!!」

「いやなのですっ!!」

 ツジの声に。

「姉ちゃんがでかいのが悪いっ!!」

「でかいってアタシが標準サイズやろうがっ!!アンタらがちっこすぎるんやっ!」

 カゴとナカザワのやり取りと。

「うわっ!!」

 もともと無茶な飛行。
 ナカザワの身体がまず、揺らいで。

「・・・・・・・姉ちゃんっ!!」

 ナカザワの身体。
 カゴの手が、空を切る。

「・・・・・・・・っ!!」

 一瞬だった。
 落ちるナカザワの身体。
 ヤグチがツジの身体から手を離した。

「二人ともちゃんと逃げるんだよっ!!」

 その声が最後。

 二、三メートルの高さ。
 ナカザワとヤグチは落ちる。

 すぐに追いかけようとしたツジ。
 そこに。

「あれは何だっ?!」

 ツジとカゴを見上げて騒ぎはじめた兵士の姿。

「・・・・・・・・・・っ!!」

 見つかる前に。
 ツジはカゴを抱え。
 高度を上げる。

 胸に。
 ナカザワから託された、ペンダント、それを揺らしながら。
351 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:11
ーーーーーーーーーーーーーーー

「ヤグチ?ヤグチ?」

 呼ぶ声が、する。
 心配そうな、声。
 頬がぴたぴたと叩かれる、感触。

「どっか痛いんか?怪我したか?・・・・・・・・こら、ヤグチ、眼ぇあけっ!!」

 焦った声。
 暖かい腕に。

「・・・・・・・・・・後五分、寝かせて・・・・・・・・」

 ヤグチはぎゅっとしがみつく。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 おや?
 耳元で聞こえていた声が聞こえなくなったと思ったら。
 おでこに鋭い痛み。

「・・・・・・・そ〜ゆ〜オチ、やめぇ」

 眼をあけると。
 凄く。
 機嫌の悪そうなナカザワの顔があった。

「?」

 ヤグチは身体を起こす。

「・・・・・・・っ」

「・・・・・・・・やっぱどっか痛むんか?」

 途端に。
 表情を変えるナカザワ。
 ヤグチは首を横に振った。

「大丈夫・・・・・・・・多分」

「多分ってなぁ・・・・・・・」

 何か言いたげなナカザワをほっておいて。
 ヤグチは身体を動かしてみる。
 手。
 ちょっと痺れてるような感じ。
 足。
 うん、これは擦り傷、かな?

 一通り動かしおわって。
352 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:12
「うん、大丈夫」

「ならいいねんけど」

 ほっとしたような。
 微妙に心配そうな顔で。
 ナカザワはヤグチの顔を覗き込んでくる。

「ってか、ユウコに言われたくないぞ?」

「アタシは大丈夫や・・・・・ってかアンタが庇ってくれたんやろうが」

 ため息まじりの声。

 ふわり、と。

 ヤグチは首をかしげて。

「・・・・・・・・・・ここ、どこ?」

「・・・・・・・・・王宮の地下やと思うけど」

 ナカザワの眼がすっと細められて。

 厳しい横顔。

「ホンマ・・・・・・アタシの下敷きになってるアンタ見たときは、生きた心地せんかったわ」

 苦笑いを浮かべながら。
 ナカザワがもう一度。
 ヤグチの身体を抱きしめる。

「・・・・・・・・そだっけ?」

 ふわり、とナカザワの身体が浮いた時。
 ヤグチだけでも、と思って離した手。
 落ちる、と眼を瞑って。
 次の瞬間、ナカザワを襲ったのは痛み、ではなく。
 柔らかさ、だった。

「飛び込んでくるなんて思わんかったわ・・・・・・・・無茶すんな」

 ぐりぐりと。
 ヤグチの頭をナカザワは撫でる。

「とりあえず・・・・・・・出口、探すか」
353 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:12
 ゆっくりと。
 ナカザワは立ち上がる。
 目の前には崩れ落ちた壁の残骸。
 反対側に伸びる、地下通路。

 ホンマ。
 ここどこやろうな?

 ナカザワは首を傾げた。

 抜け道用に作られた地下通路とはまた趣が違う。

「・・・・・・・・・ユウコ」

 暗がり。
 不安そうに。
 ヤグチがナカザワの服の裾を掴む。

「・・・・・・・・何とかなる、大丈夫や」

 あらゆる所でで弾薬を使っての爆破が行われたのだろう。
 天井が、壁が崩れ落ちている。
 しかし。
 結果として、ナカザワが普段抜け道として利用していた地下通路にその道は通じていた。

 落ちた地下通路。
 誰が何のために作ったのか。
 不可思議さはあるものの。
 いざという時の為に作られた抜け道で、食料と灯りと多少の金。
 非常用に蓄えられているそれをナカザワは見て、ほっと息をつく。

「これでしばらくは何とかなるやろ・・・・・・・」

 崩れ落ちている抜け道を脱出するのに二人はそれから数日を要した。

ーーーーーーーーーーーーー
354 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:12
「ねぇ、ユウコ」

 テクテクと歩く道のり。
 ヤグチの声は怒り気味?
 ナカザワは深々とため息をついた。

「・・・・・・・・・・怒っとる?」

「呆れてるけど、怒ってないよ。でも、さ。そろそろ休憩しない?」

 奥深く続く森の中。
 完全に。
 二人は迷子になっていた。

 王宮炎上から。
 もう数ヶ月、たった。
 奇跡的に。
 怪我もなく、抜け道の地下道にたどり着けた二人だったが。
 何度か大きな爆発音が頭上で鳴り響き。
 地下道は所々崩れ落ち。
 延々歩き続けること、二日間。

 たどり着いた先は、どこかもわからない、森の外れ。
 町が近くにあったおかげで情報収集もでき、ナカザワは剣の腕をいかして金を稼ぎ。
 後は王都に戻るだけ、だったのだが。

「ユウコが方向音痴だなんてオイラ、知らなかったよ」

「・・・・・・・・誰しも苦手なもん、あるやろうが」

 手際よく、火を起こしたのはナカザワ。
 担いでいたリュックから、鍋を取り出して。
 携帯用の食料。
 料理を始めるヤグチの手つきは手慣れたものだ。
355 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:13
「限度があるじゃん?」

「・・・・・・・・えぇやん」

 ぷいと。
 拗ねたように背けられた顔。
 ヤグチは笑いを堪える。

 まぁしかし。
 地図を片手にナカザワの道案内。
 行程は・・・・・・・遅々として進まなかった。

『・・・・・・・・オイラが地図見る』

 ヤグチがそういうまでの一ヶ月。
 ふと気付けば。
 王都からはるか離れた土地まで来ていた。

『何でこんなとこにいるんだよっ!!!』

 ヤグチが叫んだ時も。
 ナカザワは拗ねたような。
 こんな表情を見せた。

「ほら、拗ねないの。・・・・・・・ん〜、野菜少ないかな?何か採ってきてくれる?」

「ん・・・・・・何作ってんの?」

「今日はねぇ、前買った乾燥肉がそろそろ痛んじゃいそうだから、シチューだよ。ユウコ、好きだろ?」

「うん」

 素直に。
 話題が変わったことにほっとしている感も否めないが。
 ナカザワは立ち上がる。

 山の中での食料探し。
 野宿の経験などないヤグチに対し。
 ナカザワはさすがに経験の差。
 あっさりと山芋や山菜、フルーツなど。
 手慣れた様子で調達してくる。
356 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:13
 近衛隊勤務だったはずだけどなぁ?

 いつの間にそんなこと、できるようになっていたのか。

「・・・・・・・・ほら」

 三十分もせず。
 ナカザワは適当な野菜と簡単なフルーツを手に、戻ってきた。

「ありがと」

 ぐつぐつと煮立つ鍋を前に。
 ナカザワは行儀悪くあぐら。

「もうちょっとしたらできるからね」

 コクコクと。
 ナカザワは頷いて。

「でもヤグチ、料理上手くなったよなぁ」

 感心したように呟く。

「誰かさんのおかげでね」

「・・・・・・・えぇやん」

 もう一度。
 拗ねたような表情になるナカザワ。

 食料調達はナカザワが。
 料理はヤグチ。
 二人の生活はうまくまわっている。

「だからも〜、拗ねないでよ」

 ヤグチは笑う。
 屈託のない笑顔。
 ぽりぽりと。
 ナカザワは頬を掻く。

 こんな風に。
 二人っきり。
 始めはちょっとした違和感。
 そして。
 当たり前のように。
 ヤグチが横で笑ってくれるそんな風景に。
 馴染んでる自分が。
357 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:14
「ほら、できたよ」

 食欲を刺激するいい匂いと。
 湯気の立つお皿。

 自然、ナカザワの顔がほころんだ。

「どう?どう?」

 最初は食べれたものじゃなかった代物。

 何度も駄目だしをして。

「うん、美味いで」

 今では恒例行事。

「でしょ〜。今日のはちょっと自信あったんだ」

 ヤグチは本当に嬉しそうで。
 ナカザワは眼を細めた。

「王都まで後どれくらいなん?」

「・・・・・・・・う〜ん、この森抜けたら着くはずなんだけどなぁ」

 森の途中。
 突然、コンパスがぐるぐると回り始め。
 今いる場所さえわからなくなったのは数日前。

「ごめんね」

 急に。
 しょんぼりしてしまったヤグチの頭をナカザワは撫でた。

「アンタのせいちゃうやん」

「・・・・・・・ユウコが方向音痴だからねぇ」

「・・・・・・・アタシのせいかっ」

 空になったお皿。
 側を流れる渓流につけて。
 ナカザワはヤグチを抱きしめた。

「ヤグチ・・・・・・王都戻ってどうするつもりや?」

 戻る前に。
 訊いておかなければならない、こと。

 自然。
 ナカザワの表情は真面目なものになる。

「・・・・・・・・・・・」

 先ほどまでの元気さは影をひそめ。
 不意にヤグチは黙り込む。

「・・・・・・・・弔い合戦、するつもりか?」

 ナカザワが抱きしめているヤグチの身体が強張る。

 王の死を。
 聞いた。
 そして。
 アベの国の統治が成功した、と。
358 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/05(月) 23:14
「・・・・・・・・しないよ」

 腕の中。
 ヤグチは首を横に振る。

「オイラさ・・・・・・・決めたんだ」

 ナカザワとともに生きることを。
 全てを捨てて構わない。
 それだけの想い。
 初めて知った、気持ち。

「父上もさ・・・・・・戦争なんて望まないよ」

『生きろ』

 そう言った最後の父親の姿。
 ヤグチはそっと眼を閉じた。

「それにさぁ、王女とか、国王になったら裕子、拗ねるじゃん」

「・・・・・・・・・おい」

 クスクスと。
 全部を受け止めようとしてくれる暖かい腕。
 ヤグチはそっと頭をこすりつけた。

「オイラ、もう何もいらない。だからそれでいいんだよ」

 憎しみを憎しみで返すのではなく。
 憎しみを信頼に変えて。

 だから。

「ナッチ、元気かな?」

「元気やと思うで」

「・・・・・・・・・・」

 言葉に出せない。
 あの時。
 あの場所にいた。
 大切な人たちは。
 無事なのか。

「・・・・・・・・・・・アタシらは生命のバトン、渡されたんや」

 まるで自分自身に言い聞かせるように。
 ナカザワは呟いて。
 ぎゅっと。
 ヤグチの身体を抱きしめた。
359 名前:つかさ 投稿日:2004/07/05(月) 23:25
>>332 名無し読者さん
>もうね、正直メチャメチャ楽しませてもらいました
こちらこそそう言っていただきめっちゃ嬉しいです^^

>>333 名無し読者さん
>やぐちゅーは永遠に不滅です。
勿論。久々にまともに書いたけどやっぱ楽しいですしね。

>>334 名無し読者さん
>あの状況だしやっぱり皆……なんて思ったり。
全員が全員助かるってことはないでしょうね・・・やっぱり(苦笑)

>>335 名も無き読者さん
>特に最後の青い空・・・、
>物悲しくも清々しい印象で感動の一言に尽きます。
ありがとうございます。
最後のあのシーンだけは絶対外せない、と決めていたので。

>>346 名無し読者 さん
>いつかOGモーニングのコンサートが一回見たいー。W
どこでやろうとも絶対駆けつけます、自分もw

>>347 名無し読者さん
>やっぱり複雑なのかな?と思いつつ
・・・・どうなんでしょう・・・・ただ自分の周りの女友達はやっぱ複雑みたいっすけどw

え〜と番外編です。
本編最中では書ききれなかった三人の絡みがどうしてもどうしてもどうしても
書きたくて(笑)
本編は本編で綺麗にまとまったからなぁ、とは思いつつ。
三人主役で番外編。
登場人物はもちろんあの三人。
楽しんでいただければ幸いです。
360 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/06(火) 15:17
更新お疲れサマです。
いやー姐さんの誕生日記念に気付けてなかった。。。
でも番外編、2人のコトが気になっていたのですごく楽しみです。
続きも期待してます。
361 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/08(木) 22:29
番外編始まってたー!
二人とも生きていてくれてヨカッタヨカッタ…。
362 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/09(金) 03:04
うん。やっぱりダメだったのかなと、チラッと思ってたりしました。
363 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/09(金) 04:13
まさか番外編が始まっているとは(w
主役三人大好きだ(w
楽しませていただきます。
364 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/12(月) 23:30
〜〜〜2〜〜〜

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 ヤグチが眼をあけると。
 そこは。

「・・・・・・・・・・ユウコ」

 自分を抱きしめるように眠っているナカザワ。
 ヤグチの囁くような声は。
 しん、とした空気を切り裂く。

「・・・・・・・・・・・?」

 違和感。
 ヤグチは身体を起こす。

 固い床。

 ひんやりとした空気。

 ・・・・・・・・・・・ここ、どこだ?

 森の木のざわめき。
 生き物の息づく気配を。
 全く感じさせず。
 闇が、ある。

『声、出すな』

 寝ていると思っていたナカザワの手が。
 ゆっくりとヤグチの手に触れて。
 文字を描く。

『ここ、声、響く』

 簡単に述べられた理由。

『ここ、どこ?』

『わからん』

 おい。
 あっさりとした答えに。
 ヤグチはナカザワを軽く睨むが。
 暗がりの中、どこまでナカザワがそれを理解しているのか。

『霧にまかれたんや・・・・・・変な霧やった。霧がなくなったらここにいた』

 霧?

 コンパスが利かなくなって迷ってしまって数日間。
 夜になると、霧が出ていた。
 ナカザワが妙にそれを嫌がっていたのがヤグチにとっては印象的で。
 ただ、好き嫌いが多いナカザワのこと。
 いつものことだと流していたのだが。

 ヤグチは首を傾げて考え込む。
365 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/12(月) 23:30
 その脇で。
 ナカザワは一つ、大きく息を吐き。

 とりあえず一緒に運ばれてきた荷物。
 ランプを取り出す。

 ナカザワは。
 この数日夜になると出ていた霧に。
 何かしらの意志を感じていた。
 攻撃性、悪意、それはマイナスのものではなかった。
 しかし。
 明確に。
 どこかへ連れ込もうとするその意志。

『姐さん、森は怖いもんでっせ』

 森への畏怖。
 辺境警備隊に所属する人間。
 そして森に携わる人間は例外なくそれを持っていた。

『無闇に人間が踏み入っていいとこではないんです』

 呑みながら。
 ヘイケは饒舌だった。
 ナカザワ自身。
 戦闘で、何度も森に逃げ込み。
 森を利用し。
 そんな戦い方を身につけたからこそ。
 森に対する畏怖。
 自然に対する畏怖。

『森には意志があるねんなぁ』

『姐さんもわかります?』

『あぁ』

 不思議な空間、だと思った。

 人を癒す力。
 守る力。
 時には脅威となりつつ。

 そういえば。
 ふとナカザワは気付く。
 傍らにいるヤグチも。
 当然のように森を、そして自然を畏怖する気持ちを持っている。

 何故なのか。

 一瞬心をよぎった不思議な感覚。

 だが。
 それを聞く前に。

 ナカザワは耳を澄ませる。

 声が、聞こえる。

 かすかなもの、だが。

 ランプに明かりを灯して。
 ナカザワは無言でヤグチを見る。
 一瞬のアイコンタクト。

 手早く荷物をまとめ立ち上がるナカザワと。
 それに続くヤグチ。
366 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/12(月) 23:31
 ここがどこなのか。
 謎を解く為の鍵。
 迷路のような地下道を。
 二人は進みはじめた。

ーーーーーーーーーーーーー

 しばらく歩くと。
 何となく。
 聞き覚えのある声・・・・・・・。

 ナカザワとヤグチは顔を見合わせた。

「何だべ、ここ?こんなとこあるなんて知らなかったよ」

 石畳と。
 ぼんやりと浮かび上がる壁も天井も。
 石を組み合わせたしっかりとしたつくりになっている。
 王宮のものとはまた違う、風情。

 静かな地下通路で響く声。
 不気味さもありつつ。
 二人は足を速める。

「・・・・・・・・・・ナッチっ!!」

 まず声をあげて。
 駆け出したのはヤグチだった。

 ゆっくりと。
 ナカザワはアベの姿を確認した瞬間。
 足を止める。

「え?ヤグチ?」

「ナッチっ!!」

 嬉しそうに。
 アベに抱きつくヤグチ。

「オイラずっと会いたかったんだ」

「え、え、え?ホントにヤグチかいっ?!」

「そ〜だよ〜。うわ、こんなことってあるんだぁ。マジびっくりしたっ!!」

 石造りの地下通路に響き渡る声・・・・・・・。

 ナカザワは。
 軽く頭を押さえた。

ーーーーーーーーーーーー
367 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/12(月) 23:31
「お城の探検してたらさぁ、何か変な入り口あって」

 ・・・・・・・・・アンタ、国の統治はええんかい。

 感動の再会。
 と言えば聞こえはいいが。

 要するに。
 攻めた国と攻め込まれた国の王女たち。
 そんなに和やかでいいのか?

 ナカザワは心の中でため息をつく。

「ここってさぁ・・・・・・何だろねぇ?」

 アベがきょろきょろと辺りを見回す。

「・・・・・・・・どっちにしろナッチが来た道たどれば外に出れるってことやんな」

 相手国の王宮に飛び込むことになるのか・・・・・・。
 ヤグチの顔、どこまで知られてるんかな?

 ナカザワは難しい顔をしながら。
 ゆっくり自分の剣を撫でる。

 あんまりあくどいことはしたくないけどなぁ・・・・・・。

 いざとなればアベを人質に・・・・・・・。

『戦争なんて望まない』

 ヤグチはそうは言ったけれど。
 それだけでは済まない、話もある。
 王位の資格を持つ人間が自国に戻る、ということは。
 そういうことだ。

「オイラね、ここどこかわかるような気、するよ」

 とりあえず。
 ランプをかざすと。
 先ほどまでは見えてなかったものが見えてくる。
 ここの地下通路は・・・・・・人工的な匂いが、した。
 勿論。
 ナカザワたちが抜けた地下通路の逃げ道とはまったく異なる。
 別文化をもった別の時代の遺産。
 石造りの床は非常に滑らかで。
 天井、壁。
 どれをとってみても高度な技術を要するのがわかる。

「歴史の授業で習った・・・・・・ナッチは習わなかった?」

 ヤグチの声にナカザワは眼を細め。
 アベは首を傾げた。
 しかし数瞬考え込み。
 眼を輝かせる。
368 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/12(月) 23:32
「高度な文明を持ちすぎたが故に滅びた地下帝国・・・・・・いつか復活の時を信じ眠りつづけている」

「話、聞いた時はおとぎ話だって思ってたけど」

「ナッチもそう思ってたさ・・・・・・・・・」

 興味深げに二人はもう一度地下通路を見渡す。

 ナカザワの眉間の皺が深くなった。

「アタシ、そんな話聞いたことないで?」

「王室に伝わる言い伝えだって。・・・・・オイラたちの文明より遥かに進んだ技術を持つ国・・・・・
そんな存在を王室が認めれるはず、ないだろ?」

「ナッチもそう聞いた。息抜きの余談だ、あるはずがないって言われた」

 軽く。
 ナカザワはため息をついた。
 ここがどこなのか。
 その、地下帝国なのか。
 そうじゃないのか。
 判断する材料は・・・・・・・ないに等しい。
 そして。
 一番重要なのは。

「こっから抜けることやな・・・・・・・ナッチ、王宮まで案内してくれるか?」

「「・・・・・・・・・・・・」」

 ヤグチとアベ。
 ふと。
 顔を見合わせて。
 二コリと微笑むその姿。

 ?

 ナカザワは非常に嫌な予感を覚える。

「ユウちゃん、もうちょっとここ、探検してみない?」

「もう仕事忙しすぎて、ナッチ、息抜きしたいなぁってずっと思ってたんだ」

 眼を輝かせているヤグチとアベ・・・・・・・・・・。
369 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/07/12(月) 23:32
「・・・・・・・・・・アンタらなぁ・・・・・・・・・・」

「宝探し、したいっしょ?ね?」

「地下帝国、最後の王女が眠る場所に全ての財をともに眠らす、って」

「ナッチもそれ、聞いたさぁ」

「アタシそんなん別にいらん・・・・・・」

 ワクワクと。
 好奇心一杯の瞳に見つめられながらナカザワが発した言葉。
 簡単に途中で遮られる。

「「欲しいっ!!」」

 息ぴったりの二人の姿。

「・・・・・・・ナッチ、そんなんいっぱいもっとるやろ?ヤグチだってアタシ、買ったる・・・・・」

「「女心を理解してないっ!!」」

 ・・・・・・・・・・女心って何やねん・・・・・・・・・・。

 絶句するナカザワに。

「探す過程が楽しいんっしょ?何があるんだろぉって」

 そんなもんなんか?

「そうだよ。それにオイラ、買ってもらってばっかりとか嬉しくないし。オイラもユウちゃんに
何かあげたいっ!!」

 ・・・・・・・・・・・・そんなわけわからんもんいらん。

「それにね、ナッチ・・・・・・・・戻り方わかんないよ?」

 はい?

「迷子になっちゃってさぁ・・・・・さすがにまずいと思ってたらユウちゃんたちに会ったのさ。
凄いびっくりしたけどほっとしたんだ」

 そっか、良かったねぇ。
 と。
 目の前に広がるヤグチとアベの心温まるやりとり・・・・・・・だったりするが。

 宝捜しより出口探した方がええんちゃうんか?

 結局。
 二人の勢いに。
 ナカザワは心の中のセリフを一言も口に出すことはできず。

 大きくため息をついた。
370 名前:つかさ 投稿日:2004/07/12(月) 23:43
>>360 名も無き読者さん
>でも番外編、2人のコトが気になっていたのですごく楽しみです。
どう落ち着くか・・・・何かプロットと違う方向に動きそうでちょっと怖いんですが(苦笑)

>>361 名無し読者さん
>二人とも生きていてくれてヨカッタヨカッタ…。
本編ラストを書いてるときにこのネタ(番外編)を思いつき。

>>362 名無飼育さん
>うん。やっぱりダメだったのかなと、チラッと思ってたりしました。
どうしてもダメにはできませんでした(笑)

>>363 名無し読者さん
>まさか番外編が始まっているとは(w
いや、もう・・・番外編、というかおまけ、というか・・・・。
結構ギャグっぽく走っていくつもりなんですけどね。
予定は未定(苦笑)

ということで今日の更新ここまで。
後、書き忘れてましたがだいたい週一ペースで考えてます。
そんなに長くはならない気はします。
371 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/14(水) 17:12
更新お疲れサマです。
>ギャグっぽく・・・。
そいつぁー楽しみデスw
続きも期待してます。
372 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/15(木) 00:44
地価帝国の宝……なんだろ(ワクワク
373 名前:つかさ 投稿日:2004/07/24(土) 02:41
すいません、忙しさのあまり書く時間の確保ができません(汗)
七月末、八月頭くらいまでちょっと更新ストップします。
申し訳ありません(ぺこり)
374 名前:名無し 投稿日:2004/08/08(日) 02:22
のんびり待ってまーす。
375 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/17(火) 00:07
〜〜〜3〜〜〜

「「宝捜し〜〜♪」」

 何がそんなに楽しいのだろうか。
 奇妙な歌を歌いながら。
 先頭にたってずんずん進む二人。
 ちらり。
 そんな二人を気にしながら。
 ナカザワは曲がり角に来るたびに壁に印をいれる。

「「ユウちゃん、遅いよ〜〜」」

 はいはい。
 ちらっと壁の印を確認して。
 ナカザワは二人の後に続く。

 所々に流れる地下水路。
 意図的かそうでないかは明らかではないが。
 壁に埋め込まれている明かり用のランプ。
 中の油の量をチェックしながら。

 水と燃料の心配はしなくて良さそうやな。

 少し、ほっとしながら。
 ナカザワは前を行く二人に声をかけた。

「・・・・・・・そろそろ休憩せぇへん?」

「「え〜〜〜」」

 不満気な二人だが。
 この地下通路は。
 やけにでかい。

 何か嫌な予感するな・・・・・・・・。

 と思いつつ。
 ナカザワはいつものペースを崩さない。

「ずっと歩きっぱなしやったからユウちゃん疲れてもうたわ」

「・・・・・・・もう、しょうがないなぁ」

 まず座り込んだのはヤグチで。

「でも、だいぶ歩いたね。もうちょっとかなぁ?」

 アベもそれに続く。

「まだかかりそうやけどな」

 ナカザワは手に持っていたランプを下に置き。
 そのまま壁に埋め込まれているランプ。
 数台に火を入れると。
 一気に通路は明るさを増した。

「うわ、何か凄い」

 ヤグチが物珍しそうにそれを見つめ。
 アベがうんうん、と頷く。
376 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/17(火) 00:09
「ほら、水。と・・・・・・・さすがに火、起こされへんからあんま大した食べものはないけど」

 ごそごそと。
 ナカザワは荷物をあさる。

「ユウちゃん、ほら、これ見るべさ」

 アベが意味ありげに笑っている。
 そして。
 そのままアベの荷物。
 中に入っていたのは。

「あ、食べものじゃんっ」

「ちゃんと用意してきたのさ」

 えっへん、と胸を張るアベ。
 意外なアベの用意周到さで。
 昼ご飯になるのか晩御飯になるのかは、想像していたより豪華なものとなった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最大限落とされた火の明かり。
 三人はそれぞれ。
 眠りについていた。

 ジジジジジと。

 ランプが独特の燃える音を立てている。

 シン、と静まり返った空間。

「・・・・・・・ナッチ、起きてる?」

 破ったのは、ヤグチだった。
 暗闇の中。
 アベの表情も、ヤグチの表情も、見えない。

「起きてる」

 打てば響く。
 アベも寝付けなかったのだろう。

「・・・・・・・・・父上、死んだんだよね・・・・・・・・・?」

 ヤグチの問いかけにしばらく。
 アベは何も答えなかった。

「ナッチを恨んでいるかい?」
377 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/17(火) 00:09
 静かなその声は。
 再会してからの何のてらいもなかった二人の雰囲気が。
 やはり。
 少しは無理をしていたのだろう、と。

 自国を滅ぼされた王女と。
 滅ぼした国の王女。

 同じ人間を愛した二人の葛藤。

 そんなものを全部表現したものだった。

「・・・・・・・・違うよ、ナッチ。そうじゃない」

 答えるヤグチの声もまた。
 迷いを含みつつ。
 何かを乗り越えた。
 そして何かを乗り越えようとしている強さを持っていた。

「オイラのしてることは・・・・・・・・オイラの国の人たちにとったら裏切りになるのかもしれない」

 そのまま。
 ヤグチは一呼吸置いて。

「ナッチを恨むことでオイラは救われるかもしれない。でも、それは間違ってるんだ」

 一語一語区切るように。
 ヤグチは言葉をつむぐ。
 かすかに明かりが照らす暗がりの中。
 ヤグチはアベに向かって手を伸ばした。
 触れ合う、腕。

 ヤグチは眼を閉じる。

『・・・・・・・・弔い合戦、するつもりか?』

 森の中。
 ナカザワは。
 ヤグチがどう答えても構わない。
 そんな雰囲気を漂わせていた。

『ナカザワが戻ってくれば。好きなようにすればいい』

『マリを頼んだぞ・・・・・・・必ず、幸せにしろ』

 別れ際の父親の姿。
 厳しかった。
 そして。
 それ以上に愛を、もらった。

 ヤグチはぎゅっと唇を噛み締めた。

「ナッチの手、暖かいよ。オイラのだって暖かい。・・・・・・・・みんな一緒なんだ」

 悩み、傷つき。
 そして、過ちをおかす。
 自分の信じる道を。
 歩くためには。
 誰かを傷つけなければいけないときも、ある。
378 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/17(火) 00:09
「戦いを望まないのが一緒なら、もう、やめようよ。父上もみんなもそれを望んでる。
・・・・・・・・オイラはそう信じてる」

 ぎゅっと。
 アベとヤグチはどちからともなく。
 抱き合った。

「・・・・・・・・友達、でいいんだよね?」

 アベの震える声。

「うん。オイラこそごめん。ユウコのこと」

「・・・・・・・・・それはユウちゃんとナッチの問題っしょ。・・・・・・・ナッチは大丈夫だよ」

 良かったね。
 おめでとう。

 まだ、祝福の言葉は言えそうにない。

 それでも。

「「これからもよろしく」」

 それが二人の答え。

 少し、ぎこちなさは残るかもしれないけれど。
 大丈夫。
 そっとヤグチとアベ。
 二人微笑んで。
 そのまま眠りについた・・・・・・・・・。 

 ゆっくりと。
 あたりを静寂が包む。
 眠ってしまった二人の脇で。
 ナカザワの身体が動く。

 身体を起こして。
 暗がりの中。
 ヤグチとアベの様子を窺う。
 ぎゅっと抱き合って。
 眠りについている様を見て。
 唇に浮かぶのは何だか泣き笑いの表情で。

 ナカザワはぎゅっと拳を握り締め。

 俯いた顔。
 おでこに当てる。

 戦争は殺し合いで。
 殺される方が悪い。
 生き残った者が正義になる。

 そう言われ。
 生きてきた。

 殺される前に殺せ。

 軍隊の鉄則。

 あの時。
 きらめく、刃。
 隠し扉から脱出する直前。
 ナカザワは、見た。

 崩れ落ちた何人かの。
 仲間の兵士たち。
379 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/17(火) 00:09
『指揮官だけ生き残っててどうしろっちゅ〜ねん』

 いつかのヘイケのセリフが思い起こされる。

 家族よりも長く。
 一緒の時間を共有した戦友たち。
 きっと。
 ヤグチやアベにはわからない。
 上に立つ人間にはきっとわからない。

 何のために彼らは。
 彼女たちは命を落としていったのか。

『戦いを望まないのが一緒なら、もう、やめようよ。父上もみんなもそれを望んでる。
・・・・・・・・オイラはそう信じてる』

 ヤグチ。

 声は出さず。
 ナカザワの口がそう動いた。
 じっと。
 何かに耐えるように。
 暗がりの中。
 ナカザワは一人、動かなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 数日間。
 進みつづけた三人は。
 大きな水音に顔を見合わせた。

「うわ〜、何だこれ」

 大きな滝壷が目の前にあった。
 アベが感嘆の声をあげて。
 マジマジとそれを見つめる。

「ナッチ、こ〜ゆ〜の見るの初めてなん?」

 アベは黙ってこくり、と頷いて。

 ニヤリ。
 ナカザワとヤグチはアベの後ろで顔を見合わせる。

「んじゃ、一番に水浴びの権利をあげようっ♪」

 いたずらっぽい笑み。
 ヤグチはアベの背中を押す。

「え?ちょ、何する・・・・・・・っ!!」
380 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/17(火) 00:10
 バシャン。
 派手な水しぶきがあがる。

「・・・・・・・ヤグチ〜っ!!!」

「特別サービスだよっ!!」

「それ、違うっしょ〜っ!!」

 アベに手をひかれ。
 矢口もまた水の中へ。

「ユウちゃんもおいでよ」

 手招きするアベに。
 ナカザワはするり、と上着を脱いだ。

「え、ちょ、何するのさ?」

 焦ったアベの声に。

「服、濡れるの嫌やもん」

 ナカザワはひょうひょうとしたもので。

「ユウコ、大胆すぎだぞ〜」

 びしょ濡れになって笑いながら。
 今更ながらに。 
 ヤグチもするり、と服を脱ぐ。

「も〜、ヤグチまでっ!!」

「だってこ〜ゆ〜とこ、お風呂とかないよ?ナッチも脱ぎなよ」

「え、だって、誰か来るかも・・・・・・・」

「誰か来るんやったらどこが出口か教えてもらうわ」

 ・・・・・・・・・確かに。

 ナカザワは滝の下で。
 水に打たれ気持ち良さそうにしている。

 あ〜もう。

 アベはクスリ、と笑みを漏らして。

「ユウちゃん、一番良い場所取ってずるいさっ!!」

「あ、それオイラも思ってたっ!!」

「・・・・・・・・何でそ〜なんねんっ!!!」

 びしょ濡れのアベとヤグチ。
 二人に飛びつかれ、よろめくナカザワ。
 ケラケラとこだます三人の笑い声は絶えることはなく。

「ついでに洗濯しとくかい?」
381 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/17(火) 00:10
「あ、それい〜ね〜」

「・・・・・・・・一応この水アタシら飲んでんねんで?」

「「着の身着のままの方がやだっ!!」」

 結局は二対一。
 ナカザワに勝ち目があるはずもなく。

 二人がきゃっきゃと洗濯してるのを横目に。
 ナカザワは一人食事の支度を始めるのだった。

ーーーーーーーーーーー

 その楽しさの余韻冷める間もなく。
 食事が終わり。
 ヤグチは大きな欠伸を噛み殺した。

「・・・・・・・・何や、眠いんか?」

 目ざとくそれに気付いたのはナカザワで。

「ん〜〜。ちょっと」

「んじゃ早いけど今日はもう休むか?」

「・・・・・・・ん」

 眼をこするヤグチの表情は幼いもので。
 知らずナカザワは笑みを漏らす。

「ほら、こっち来ぃや」

 ぐい、と。
 ヤグチの肩をナカザワは抱き寄せる。

 ・・・・・・・・・そして。

 少し寂しげな視線。

「・・・・・・・ヤグチばっかずるい・・・・・・・」

 出てきた言葉は寂しさとはかけはなれたものではあったが。

「ずるいってアンタ・・・・・・・」

「ダメ、ユウちゃんはオイラのっ」

 さすがに。
 ヤグチの取った行動は早かった。
 むぅ、と頬をふくらませてアベに威嚇行動。
382 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/17(火) 00:11
 ・・・・・・・・怖さとはかけ離れたものではあったが。

「前はナッチのだったもんっ」

「でも今はオイラのっ」

「ちょっとくらい貸してくれたっていいっしょ、ヤグチのけちんぼっ」

 むぅ、と。
 頬を膨らませることお互い数分間。
 当の本人のナカザワの意思は・・・・・・・。
 どうやら聞く気はまったくないらしい。

「・・・・・・・・・あのなぁ・・・・・・・・・」

「オイラけちんぼじゃないやいっ。ナッチのわがままじゃんっ」

「ナッチわがままじゃないもん。二人のキューピットしたんだからそれくらい聞いてくれたって
いいっしょっ。ヤグチの欲張りっ」

「オイラ欲張りじゃないもんっ、だいたい・・・・・・」

 延々と続く二人の口喧嘩。
 それなりに可愛いと言えなくもないやりとり。
 いつの間にかヤグチはナカザワの肩から身体を離し。
 アベとの距離を詰めている。
 仲、ええなぁ。
 実に場違いな感想を心の中で呟いて。
 ナカザワは欠伸を噛み殺した。

「・・・・・・・・・・・・寝てええか?」

 途端に飛んでくる二人のきつい眼差し。

「・・・・・・・・・・・え?」

「オイラ、右ね」

「じゃ、ナッチ左」

 ・・・・・・・・・・え?

 最後の疑問は口に出されることなく。

「「おやすみ〜〜〜」」

 見事な連携プレー。
 ナカザワに口を挟むことも許さず。
 ナカザワの膝を枕に。
 あっという間に幸せそうな寝息を立て始めた二人。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 無言のまま。
 ナカザワはがっくりと肩を落とした。
383 名前:つかさ 投稿日:2004/08/17(火) 00:20
お待たせしました(汗)
ってことでageます。

>>371 名も無き読者さん
>続きも期待してます。
ほんとど〜なるかわかんないんですが(苦笑)
のんびり頑張ります。

>>372 :名無飼育さん
>地価帝国の宝……なんだろ(ワクワク
やっぱり・・・・黄金のナメコ?(ネタ古っ w)

>>374 名無し
>のんびり待ってまーす。
お待たせしました(ぺこり)

バタバタ忙しかったんですがやっと落ち着きました。
何とか話も動いてくれそうな気配で一安心。
続きはそんなにお待たせしないかと思います。
今日の更新はここまで。
384 名前:blue 投稿日:2004/08/18(水) 14:22
この小説を読んでおっぱいが好きになりました。

これからも楽しみにしてますのでがんばってください。
385 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/18(水) 17:41
姐さん…矢口となっちに振り回されてるなw
tsunagi最高です。
386 名前:名も無き読者 投稿日:2004/08/18(水) 19:20
更新お疲れ様デス。
三人の雰囲気がちゃいこーですw
胸に秘めるモノもあるみたいで、読んでて飽きません。
次も楽しみにしてます。
387 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/21(土) 01:07
〜〜〜4〜〜〜

 地下迷宮に迷い込んで一週間。

 疲れた〜だの。
 もう飽きた、だの。

 いい加減そう言いだすかと思っていたヤグチとアベは。
 ナカザワの予想に反して。
 そのいずれの言葉も出す気配はない。

「え、雪って何?」

「ヤグチ、雪知らないのかい?空から降ってくるのさぁ。白くてね綺麗なんだぁ」

 文化の違い、風土の違い。
 アベの話は充分にヤグチの興味を引くもので。

「でもガラス細工、ナッチ、そっちで初めて見た。凄いねぇ」

「そうでしょ?何かもう芸術、だよね」

 アベが眼を輝かせて。
 ヤグチが相槌を打って。

 ナカザワは行程が進むにつれ。
 無言でいることが多くなっていた。
 訝しげに石の壁をトントン、と叩くその仕草。
 そして決まって首を傾げる。
 その繰り返し。

「ユウちゃん?」

「・・・・・・・・・・なぁ、一個聞きたいねんけど」

 改まったその口調に、ヤグチとアベの足が止まる。

「高度な文明を持ちすぎたが故に滅びた地下帝国・・・・・・・っつってたよな?」

 確認する響き。

「もうちょっと詳しく教えてくれへん?」

 ヤグチとアベは顔を見合わせた。

「オイラ歴史の授業あんまり真面目に聞いてなかった・・・・・・」

 てへ、と。
 笑って誤魔化そうとするヤグチに。
 ナカザワはコツン、と軽く拳骨を落として。
 これは期待薄、かなぁ、とアベに視線を向ける。

「・・・・・・・・・人が人の心を読み、それを惑わすための幻術・・・・・・・滅ぶべくして滅んだ国だって」

 ほう?
 感心したような視線に。
 アベは少しだけ照れたように笑う。
388 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/21(土) 01:09
「ナッチ、そ〜ゆ〜おとぎ話みたいなの好きだったからさ」

 そして続ける。

「その国の争いに血は流れなくて。想いの強さで相手と戦うって」

 ・・・・・・・・・・・ふむ。
 ナカザワは首を傾げたまま。
 しばらく黙り込む。

「何で滅んだのかその詳しい理由は?」

「・・・・・・・・さぁ?神の雷がくだったとか、そ〜ゆ〜理由だったような・・・・・・・」

 今度は。
 アベが困ったように首を傾げる。
 ナカザワはそれを見て軽く肩をすくめた。

 ま、そんな簡単に手がかりなんかあったら困ったもんやけどな。

「今日はこれくらいで休憩するか」

「「もう?」」

 声とともに飛んでくる不思議そうな視線。
 そりゃそうだ。
 歩き始めてまだ二時間、かそれくらい。
 休憩する理由がわからない、といった表情に。
 ナカザワは苦笑いを漏らした。

 気付かないならそれに越したことはないのだが。

「・・・・・・・・アタシら今、ぐるぐる同じとこ回ってるだけ、やねん」

 こんこん、と。
 ナカザワは軽く壁の石を叩く。

「この中が目的地ってことかい?」

「そう。でも入り方がわからん」

「駄目じゃん」

「簡単に言うなや」

 だいたい一周するのに一時間。
 二回、回ってみた。
 それでも。
 入り口の「い」の字もわからない、とくれば。

「とりあえず休憩や」

 どか。
 ナカザワは座り込み。
 目の前の壁を睨みつけた。

「「・・・・・・・・・・・・」」
389 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/21(土) 01:10
 ヤグチとアベ。
 何となく顔を見合わせる。

「入れないならさぁ、もう引き返す?」

「うん、充分堪能したし」

「アンタらなぁ・・・・・・そもそも何でこ〜なったかわかっとるか・・・・・・?」

 ん?

 きょとん、とする二人に向かって。

「出口がわからんのやろうが・・・・・・・」

 ナカザワは苦笑いとともに肩を落とし。
 それから。
 何気なく付け足した。

「それとアンタら、こうもりって好きか?」

「「・・・・・・・・・・・」」

 沈黙が肯定の印、とは。
 とても言えない沈黙。

「「こうもりなんて嫌だ〜っ!!」」

 揃う声。

「アタシも嫌や」

 ナカザワの返答も明瞭なもので。

「「ならそんなこと言うなよ〜っ!!」」

 再びハモル声。

「・・・・・・・・もうすぐそれしか食べるものがないから言ったんやけどな・・・・・・・」

 食料の残りは後二日分、くらい。
 水の心配はないから切り詰めて後、五日もてばいい方だろう。
 ナカザワの判断は冷静で。

「ここに何かがあるんやったら、外に通じる道もあると思ったんやけど」

 もう一度ナカザワはコンコン、と石の壁を叩いた。
 開けゴマ、なんつぅベタな呪文で開いたらおもろいなぁ、などと。
 緊張感のかけらもない発想ではあったが。
390 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/21(土) 01:10
ーーーーーーーーーー

 その日の晩。
 といって良いかもわからないが。
 日が差し込むはずもない地下通路。
 ナカザワは中々寝付けずに、いた。

「・・・・・・・・ユウコ。怖い?」

 ふと。
 気付けば。
 もうすっかり寝入ったと思っていたはずのヤグチが。
 横向き。
 ナカザワに視線を合わせていた。

 暗いの、嫌だっ!!!

 駄々をこねたのはヤグチだったか、アベだったか。
 通路を小さなランプのあかりが照らし出している。

 起きてたん?
 寝れへんのか?

 不意をつかれたのか。
 そんな言葉のどれも用意できず。
 ナカザワは思わず黙り込む。

「・・・・・・・・・手、震えてるよ?」

 そっと。
 ナカザワの小さな手を。
 ヤグチの手が包み込んだ。

 ふぅ〜〜〜〜。

 小さなナカザワのため息。

「・・・・・・・え?ちょ・・・・・・・」

 いきなり。
 ナカザワがヤグチを抱きしめた。
 少しだけ。
 抵抗するように伸ばされたヤグチの腕は。
 身体全体。
 震えを感じて。
 そのままナカザワの背に回された。

「・・・・・・・・・・ユウコ?」

「・・・・・・・・ヤグチは何も感じへん?」

「・・・・・・・・何を?」

「・・・・・・・・・・・・」

 ナカザワは少し言葉をためらい。
 きつくヤグチの身体を抱きしめた。
391 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/21(土) 01:10
「・・・・・・・・感じへんのやったらええ」

 少しずつ。
 ナカザワの身体の震えが収まってくる。
 しかし。
 その余韻に浸る間もなく。
 おでこに鋭い痛みと。

「バカ」

 きつい鋭い視線。

「言ってくれなきゃわかんない」

 真っ直ぐな瞳。

「・・・・・・・・・血の違いをな。ちょっと考えてた」

「・・・・・・・・・は?」

 途中経過をすっ飛ばしたナカザワの返答。

「皺、寄っとるで」

「誰のせいだよ」

 むぅ、と。
 拗ねるヤグチの額に。
 ナカザワはこつん、と。
 自分の額をあてた。

「何で・・・・・・・アタシがこの地下迷宮に入るの反対せぇへんかったと思う?」

 本当は。
 迷った森の中から感じていた。
 嫌な感じ。
 誰かに、呼ばれているような気がして。

「・・・・・・・こんなとこがあるなんてアタシ、今まで聞いたことない」

 ヤグチが何か言いかけようとするのをナカザワは遮る。

「イレギュラーはあったやろう・・・・・・でもな。こんなとこがあって。アタシらみたいに迷いこむ
人間がいるんやったら。噂くらいには出るはずや」

 そしてナカザワは。
 そんな噂に一番敏感な場所に、いた。
 各国の情勢。
 どんな噂でも。
 一抹の真理は隠している。
 そんな信念のもとに動いてきた。

「おかしいんや・・・・・・アタシとヤグチが迷い込んで。ナッチがそこにたまたまいた?」

 ナカザワは鼻で笑う。
 都合よすぎな設定。
392 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/21(土) 01:11
 森への畏怖。
 隠すことができない恐怖。
 それがあったから。
 ナカザワは森を利用して生き延びる術を覚えた。
 一線を画して。
 森はナカザワを拒否、していた。
 本当に危険なところ。
 ヤバイ匂いがするところ。
 ナカザワには何となく、それがわかった。

「肌がな・・・・・・・・・ぴりぴりするんや」

 理由なしでは決して。
 自分一人では踏む込まなかったであろう領域。
 今、ナカザワはそこにいる。

 ここに来るまで。
 どんどんと強くなったそれ。
 理由なんかない。
 感じる。
 ただそれだけで理由としては充分すぎるほど充分で。

「・・・・・・・・・・アンタら、迷わんかったやろ。ここで」

「・・・・・・・・・・え?」

 一応。
 迷路にはなってたのだ。
 複雑すぎる造り。

 立場上。
 簡単な迷路のゴールのありかならナカザワにだってわかる。
 だからこそ。
 いつでも戻れるように壁に印をつけてきた。
 それなのに。
 そう、それなのに。
 前を行く二人の足取りに迷いはなかった。

「・・・・・・・・・・・・誰かが呼んでるんや。アタシやなくて、アンタらを」

 ナカザワを呼んだのではない。
 この手の震えが。
 怯えが。
 恐怖が。
 畏怖が。

「ごめん。守ってやれるつもりでついてきたけど、自信ない」

 自分がいない状況で。
 ヤグチが。
 そしてアベがここに連れ込まれる未来が確信できたから、ついてきた。
 それでも。
 震えが止まらないナカザワの身体。
 守ってやれない。
 足手まといになるかもしれない。
 ついてきたことは間違いだったのか。
 堂堂巡りの自問。
 それでも答えは。
 自分自身の奮える手。
 身体。
 それが証明しているような気がしたーーーーーーーーー。

 懺悔のように。
 ナカザワの口から零れ落ちるのは、独白。
393 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/08/21(土) 01:11
 森にたいしての畏怖、そして。
 それを超える何かを持っているものたちを。
 王族と呼ぶのであれば。
 流れる血が違いすぎる、と。
 もうそれしかナカザワに言える言葉はなくて。

「・・・・・・・・・誰が」

 え?

 伏せていた眼をナカザワは開ける。

「誰が守って欲しい、なんて言ったよ?」

 不機嫌そうな眼差し。

「オイラとナッチがユウコ、ここに連れてきたんだよ」

 真っ直ぐな、声と。
 断定的な口調。

「他の誰が呼ばなくても、オイラはユウコを呼ぶよ。ユウコを必要としてる」

 力を感じる。

「だから、怖がらなくていい。オイラはここにいる。いつだってユウコを呼ぶ。
・・・・・・・・信じてる、から」

 光、だと思う。

「オイラがユウコを守る。剣じゃ敵わないかもしれないけど、オイラがユウコを守る」

 そして、誓い。
 真摯な言葉。

「だから安心していい。オイラは・・・・・・裏切らない。ユウコの為だったら何でもする」

 言葉の奔流の強さ。
 ナカザワは一瞬、それに酔いしれた。

「・・・・・・・・・・・ヤグチ」

「アホ」

 腕の中の温もり。
 それが真実なら。
 きっと。
 何も怖くない。
 そんな風に思える。

 だから・・・・・・・・・・。

「ナッチだってそう思ってるんだからね?」

 不意にかけられた言葉。

「ヤグチ、抜け駆け」

「いいじゃん」

「良くないもん」

 拗ねたようなアベと。
 してやったりのヤグチのやり取りに。
 知らずナカザワの顔には笑みが戻っていた。

「ナッチもユウちゃんのこと、守るからさ。だから大丈夫だかんね」

 言葉に出して。
 弱さを弱さと認めること。
 簡単なこと。
 きっと。
 受け止めてくれる人はいるから。
394 名前:つかさ 投稿日:2004/08/21(土) 01:18
>>385 名無飼育さん
>tsunagi最高です。
もう三人だけでのショットは珍しいですけどね。
自分の中でハロモニで一回あったtsunagiのHPNは永久保存版です(w

>>386 名も無き読者さん
>胸に秘めるモノもあるみたいで、読んでて飽きません。
次回あたりで明らかになるはず。
衝撃の展開・・・・になるかも、です。

っつ〜ことで今日の更新はここまで。
395 名前:名も無き読者 投稿日:2004/08/26(木) 22:31
あれ、読んだのにレスし忘れてた。。。
更新お疲れサマです。
力強いお言葉、いい感じです。
次回、衝撃の展開とのコトで、ドキワクしながら待ってますw
396 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:18
〜〜〜5〜〜〜

 ナカザワのことを守る、と言い切った二人。

 ・・・・・・・・・張り切っとるなぁ。

 などと。
 実に他人事のナカザワのことはほっといて。
 一生懸命に石の壁を食い入るように見つめて歩いてもう三周目、くらいか。

「「こうもりなんて絶対食べたくないっ!!」」

 なんて。
 ビブラートで聞こえてくるのは気のせいではないような気はしつつ。

「守るから」

 そんな言葉。
 いつから言えるようになったのかなぁ、と。
 思わず。
 眼が細まるくらい何だか。
 こそばゆい感覚。

「あんたらそんなに張り切らんでも・・・・・・・・」

 どうせ向こうの方からご招待されるって。

 という言葉は。
 ナカザワの口から消える。
 不意に。
 壁が、開いた。

「え?」

「ユウコっ!!」

 反応したのはヤグチの方が早かった。
 駆け寄ってくる姿を見ながら。

「・・・・・・・・・・っ!!」

 ナカザワは舌打ちをする。
 吸い込まれる。
 強い、力。
 とりあえず。
 脇にさげている剣を確認。
397 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:19
「アンタらは来んなやっ!!」

 どこまで通じるものなのか。
 はなはだしく疑問に思いながら。
 ナカザワは中に飛び込もうとし・・・・・・・。

「「ちょっと待ったぁ〜〜っ!!」」

 何?

 と思う暇もなく。
 ヤグチ。
 そしてそれに続いてアベが。
 穴の空いた空間に飛び込む。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 どこの世界に。
 こんなに堂々と罠です、と宣言しているような穴に飛び込む奴がいるのか。
 一瞬、確実に。 
 力の抜けたナカザワ。
 容赦なく穴に吸い込まれた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 どういう構造になっているのか。 
 滑り台のような通路。
 一番最後に滑り降りる・・・・・・落ちる、といった方が正しいか。
 とりあえずナカザワは先行した二人を踏み潰さないように着地に成功する。

「な〜んかユウちゃんだけせこいっ」

「かっこい〜とことりすぎじゃないかい?」

 ・・・・・・・・・着地に失敗したんやね。

 転がったままむくれている二人。

「っちゅうかアンタら、何考えてんねん・・・・・・・・」

 何も考えずに飛び込んだにしては不用意すぎる行動に。
 ナカザワは苦笑い。

「ユウコが落ちそうになったからだろ〜?」

 それ、ちゃうやん。
 吸い込まれそうになってたんやん。

「だいたい先に落ちてナッチのこと受け止めてくれたっていいんでないかい?」

 ・・・・・・・・無茶言うなや。

 ナカザワの心の中の突っ込みはいちいちもっともだが。
 言葉に出さないのが偉いところ、というか、諦めの境地、というか。
398 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:19
 小さく嘆息して。
 ナカザワは辺りを見渡した。

『・・・・・・・・・・・貴女独りを呼んだつもりだったのですが』

 思考に飛び込んできたのは。
 思念。
 声では、ない。

「しゃ〜ないやろうが。ついてきてもうたもんは」

『自らが呼ばれてないにも関らず他人の領域に踏み込むのは不敬です』

「・・・・・・・・・それがアンタがアタシをここに呼んだ理由か?」

 ナカザワは。
 眼を閉じて。
 膝を落とした。

 動くなよ。
 ヤグチとアベにそんな合図を残して。

 そして。
 気配を探る。

『無理です。貴女は私に勝つことはできません』

「ま、それでしょうがないですねって引き下がるわけにもいかんねんな、こっちとしても」

 小さなため息が。
 ダイレクトに頭の中に響く。

「・・・・・・・・アタシら、そのまま外に帰してもらうわけにはいかんのか?」

『貴女を、帰すわけにはいきません』

 単純明快な、答え。

 ナカザワはしばらく考える。

「アタシ独りなら・・・・・・・・」

「「駄目っ!!」」

 一応。
 外交手段、ってのはあるねんけど。
 ナカザワは相手と同じように小さなため息をつく。

「ユウちゃん独り残すわけにはいかないさっ」

「オイラたちがユウコ、ここに連れてきたんだ」

 ヤグチとアベは。
 ナカザワには何も見えない空間を睨みつけていた。

「・・・・・・・・・何か見えるん?」

 空中に浮いた、存在。
 ナカザワはどうやらそれが見えないらしい。
 しかし。
 その女性の姿はかげろうのようで。
 実体というわけではないようだが。

「・・・・・・・・何やねん、それ」
399 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:20
 ナカザワは不満気に立ち上がる。
 そしてヤグチたちが見る方向を見るが。
 高い天井が見えるだけで。

「オイラたちをこのまま帰してくれるための条件は?」

 ヤグチの声とともに。
 小さなため息がナカザワの頭の中に響く。

『この人間は貴女たちにそこまで想われるほどの存在なのですか?』

 答えを期待しない問いかけと。

『貴女たちはこの人間の本質を見てもそれでも尚、そのように思えるのですか?』

 試してみましょう。

 その声が聞こえた瞬間。
 ナカザワの周りから。
 色が。
 音が、消えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「姐さん」

 おいこら待て。

 身、一つ。
 腰に携えた剣。
 ナカザワはそれを握りしめるが。
 眼の前に現れたのは。

「・・・・・・・・・ミッちゃん・・・・・・・・・・」

「痛いです」

 斬られて。
 血みどろの体。

「敵、討ってください」

 凍りついたように。
 ナカザワの身体は動かない。

「ナカザワ隊長」

 聞きなれた、声。

「・・・・・・・・ユウちゃん、痛いよ、苦しいよ」

 イチイの声。

「どうしてイチーたちがこんなに苦しまなきゃいけないの?」

「あたしらは国のために戦っただけやのに」

「アタシたちは結局、駒にしか過ぎなかったって言うの?」

 ヤスダと。
 そしてかつての戦友たち。
 繰り返される、呪詛。
 想い。

 初めて人を斬った夜。
 初めての戦のとき。
 ナカザワとヘイケは。
 ともに戦場を駆け抜けた。
400 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:21
 ヘイケの呼びかけにナカザワは何も言えず。
 お互い。
 血塗られた身体に。
 呆然と立ち尽くした。
 そんな、夜もあった。

「・・・・・・・もうやめぃ」

「姐さん」

 一番聞きたくて、聞きたくなかった声。

 哀しげな、瞳をしたヘイケが。
 目の前。
 その時と同じように立ち尽くしている。

「誰のせいでもない。アタシらが選んだ道やろうが」

 言い聞かせるように呟いたナカザワのセリフは。
 誰に向けたものであるのか。
 再びナカザワは視線を落とした。

「・・・・・・・・人の犠牲の上に成り立って、奇麗事言うのが王室ですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「あたしらはそのために誰かを傷つけて、泣かせてきたんですか?」

「血を、血でもってあがなうのはあかんのやっ!!」

 思い出す。
 軍隊での研修期間。

『人を斬れない、など甘っちょろいことを言っている奴は今すぐここで死んでいい』

 人を人とも思わない。
 冷たい眼をした上官。

 想像を絶する期間、だった。

「・・・・・・・だからみんな姐さんが好きでした。死ぬな、生きろと」

 ヘイケの眼が。
 暗い光を灯す。

「そう言ってくれはったのはアナタやったのにっ!!」

 鋭い刃がナカザワを襲う。
 間一髪、ナカザワはそれを避ける。

「あたしらを裏切るんですか?」

 憎悪、ではなく。
 純粋な悲しみ。
 それだけがナカザワを襲う。

「アホかっ!!!」

 ナカザワの怒鳴り声。
 そして。
 カシャ−ン。
 鳴り響く、剣の音。

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

『この世界には知らんでいいことも一杯ある。でも、知っとかなあかんことも多い』

『一国を背負うってことは、知らんかった、じゃ済まされへんのや』

『自分の見える範囲のものしか信じれん、聞きたい言葉しか聞こえない奴に一国を背負う資格はない』

 走馬灯のように。
 ナカザワの脳裏。
 昔、ヤグチに伝えた言葉を思い出す。
401 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:22
「・・・・・・・・・アンタが言ってるのはただの感傷やっ!!!」

 噛みあった剣が。
 一瞬にして、離れる。

 そして。
 ヘイケは笑った。

「それが姐さんの答え、ですよね?」

 ・・・・・・・・・・・え?

 ゆっくりと。
 あたりを見回すと。
 しょうがないなぁ、といった風に。
 ナカザワとヘイケを見守っている視線。

「ぐだぐだ悩まんといてください。今のこの状況を作り出したのは姐さんですよ?」

 ・・・・・・・・・・・・え?

 一瞬の間。
 ヘイケがナカザワの懐に飛び込んだ。

「信じてますから」

 それが最後の言葉。
 肩に焼け付くような痛み。
 そして。
 ナカザワは目覚めた。

ーーーーーーーーーーーーーー

 目覚める、と言って良いのか。
 状況は変わっていない。
 いない・・・・・・わけではなく。
 肩の痛み。

「ユウコっ!!」

 駆け寄るヤグチとアベ。
 その足元に。
 ナカザワは崩れ落ちる。

 ちったぁ手加減しろや・・・・・・・。

 ぽつり、と。
 恨み言が出てもしょうがない状況。
 ナカザワの肩からはドクドクと血が溢れ出ている。

「・・・・・・・・驚きましたね」

「・・・・・・・・・・何がや?」
402 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:22
「大した精神力をお持ちだ」

 ゆっくりと。
 ナカザワは面をあげる。
 眼にうつったのは。
 さきほどからヤグチとアベが見ていただろう、影。

 頭の中に響いてくる声はもう、ない。

「貴女が見たものは貴女が作り出した幻影。それほどまでに何を気に病んでおられたのやら」

「・・・・・・・・・もう、御託はたくさんや」

 ゆっくりとナカザワは立ち上がった。

「先ほども言ったはずです。貴女は私に勝つことはできない、と」

 ゆらり、と。
 ナカザワの身体の周りに立ち上るオーラ。
 ヤグチは一瞬足を止めて。

「ナッチ・・・・・・近づいちゃ駄目だ」

 今にも駆け寄りそうなアベを制した。

「何でさ?!あの傷で動き回ったりしたらどうなるか・・・・・・っ」

 そんな二人の様子。
 まったく意にも解していない様子で。
 ナカザワは独り。
 影と対峙する。

「今ならアタシはアンタに勝てる」

『高度な文明を持ちすぎたが故に滅びた地下帝国・・・・・・いつか復活の時を信じ眠りつづけている。
 ・・・・・・・・・人が人の心を読み、それを惑わすための幻術・・・・・・・滅ぶべくして滅んだ国』

 アベが言っていた。

『その国の争いに血は流れなくて。想いの強さで相手と戦うって』

 ナカザワは剣の柄を。
 指が白くなるほど握りしめた。

「これほど怒ったことはないっつ〜ほど怒ってるねん」

 それにも関らず。
 静かな口調。
 ナカザワは一歩踏み出す。
403 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:23
「いい加減、出て来いやっ!!!」

 一閃する刃のきらめき。
 風が。
 力となり、空中に浮かんでいた影もろとも。
 一瞬にして石畳の床を、空気をも切り裂く。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 驚愕の、沈黙。

「何処にそんな力を・・・・・・・・・」

「ごちゃごちゃうるさいねん。こんな辛気臭いとこに独りでいるからそ〜ゆ〜姑息な手段、
使うんやろうがっ!!」

 もう一度。
 今度は小さな爆発。

 大広間。
 その爆発だけでは崩れ落ちたりはしなさそうだったが。
 ヤグチとアベは呆然とナカザワの背中を見つめた。

「人の弱味につけこんで、言うにことかいて幻影やと?ふざけてんちゃうわっ!!」

「自分の弱さの責任転嫁は・・・・・・・」

「悪かったな、人間できてなくてっ!!」

 もう一度、影。
 剣がふるわれる。

「ちょ、ヤグチ・・・・・・・止めないと、やばいよ」

 ナカザワの肩の出血は、止まっていない。
 そして怒りの爆発。
 ナカザワの背中。
 変化はないように、見えるが。
 微かな、揺らぎ。

「「・・・・・・・・・・・っ!?」」

 倒れるかに見えたナカザワは。
 足を踏ん張る。

「・・・・・・・人が必死に飲み込んでる気持ち、引きずり出した報いは受けてもらうで。
そ〜ゆ〜風に人の心で遊んでるからしっぺ返しくらうんや。どんな高度な文明持ってたか
知らんけどな。滅んで当たり前や」

 ざわ。
 風が。
 怒りに震えた。

「・・・・・・・・・・・・・・その言葉、そっくりそのまま返させてもらう。貴様の言葉の報い、受けてみる
がいいっ!!」

 光の球。

 影が浮かんでいるところではない。
 天井近くから。
 ナカザワ向かって発射される。
404 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:23
「「駄目っ!!」」

 一本の剣。
 それだけで受け止めるには光球は。
 強く、そして憎悪に満ちていた。

 ナカザワの身体が跳ね飛ばされる・・・・・・・その瞬間。

 ナカザワの身体を覆ったのは。
 光。
 暖かく。
 慈愛に満ちた、それは。
 ナカザワの身体を包み。
 光球を。
 無効化させた。

「・・・・・・・・・・・・・・え?」

 かろうじて声を出したのはナカザワ。

 一瞬のその光は。
 ナカザワの身体の傷。
 それすらも癒していた。

「・・・・・・・・・・何が・・・・・・・・・・?」

 張り詰めていた緊張感が、とける。

「ユウちゃんっ!!」

 崩れ落ちるナカザワを受け止めたのは。
 アベだった。

「オイラたちはここから帰して欲しいだけなんだ。・・・・・・・・三人一緒に」

 ナカザワの耳に飛び込んで来るのは。
 哀しげな、ヤグチの声。

「戦って欲しいわけじゃない。わかってもらえるよね?」

 沈黙。

「ユウコがさっき、幻覚に悩まされたとき。オイラ、アナタの過去、見えたよ」

 ナカザワを腕に抱えたまま。
 アベがヤグチを見つめる。

「だから、黙ってようと思った。ユウコが怒るのも当然だし。けどさ」

 一瞬の間。
 そして。

「ユウコ、傷つけようとするならオイラにも考えがあるんだ」

 アベが。
 ヤグチから視線を外し。

 そして二人の視線の先には。

 実体化している。

 伝説の王女がいた。

ーーーーーーーーーーーーーーー
405 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:23
 何もない空間。

「・・・・・・・・・ナッチ?」

「ヤグチ?」

 気付けは二人。
 そばにいた。

「「ユウちゃんは?」」

 声が揃って。
 二人して苦笑い。

 そして。
 その声とともに。
 二人がいる空間が開く。
 そこにはナカザワがいて。
 見える、聞こえる声。
 ナカザワの苦悩。

 踏み入れることが出来ない、領域だった。

 ヘイケたちが放つ言葉は。
 ナカザワ自身の言葉でもあった。

 仇を討ちたい。

 何のために自分たちは戦ってきたのか。
 死ぬため、だと。
 その為の軍隊だと。
 自分たちは兵士だと。
 主君を守ることが至上命題だ、と。
 それでも。
 生きたい。
 哀しくなるまでの。
 矛盾を抱えた気持ちに。

 家族を捨て。
 故郷を捨て。
 軍隊に入った兵士たち。
 そこで共に戦った時間は。
 その時間を共有した者にしかわかることを許されない、想い。

 眼をそらしそうになりながら。
 受け止めることしかできなかった、二人。

 そして。
 また、空間が開く。
406 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:24
 そこは。
 伝説となった地下迷宮。
 過去の栄華を極めた王国の歴史、だった。

 何百年もの間。
 この地下迷宮で閉じ込められたままだった王女。
 その王女にも好きな相手がいた。
 愛していた相手は、死んだ。
 たった一人、残されて。
 水面を漂うように。
 王女は独り。
 この大広間。
 漂っていた。

 何人か、迷い込んで来た人間は。
 すべて自らの弱さによって自らを死に追いやった。
 期待と失望。
 数え切れないくらいそれを繰り返し。

 王女は孤独の中。
 永遠にも近い時間。
 独りで過ごしてきた。

「ずっと独りだったんだよね?」

 アベが口を開く。
 その囁きは。
 優しかった。

 もう、意識を失っているのか。
 ナカザワの身体はぴくりとも動かない。

「オイラはもう王女じゃない・・・・・・・・だからアナタの望みをかなえてあげれるよ」

 静かな、ヤグチの声。

「ナッチもできる・・・・・・ユウちゃんのためなら」

 そして。
 重なる声。

「「だから呼んだんだよね?あたしたちを」」

 静かに。
 重なる視線。
 そして。
 首が縦に振られたのを見て。

 ヤグチとアベ。

 二人の視線が優しくなる。

「ユウちゃんをこんな目に合わせたのはちょっとひどいとは思うんだけど」

「さすがに温厚なオイラもぶちっときそうだったりするんだけど」

 ヤグチ、どこが温厚?

 ちょっとだけ?ひどいって思うの。

 視線のやりとりに。
 伝説の王女は。
 クスリ、と笑みを漏らした。
407 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/03(金) 01:24
「心の傷は申し訳なく思っています・・・・・・・・体に関しては今は急激に力、を使ったので疲れて
寝てるだけ、だと」

 少しの沈黙。

「怪我は、してないんだよね?」

 ヤグチの真っ直ぐな視線に。

「はい・・・・・・・貴女がたが治しました。それほどの想い・・・・・・・・久々に感じたように思います」

「・・・・・・・・・・凄く良くないけど。ユウちゃんには悪いけど、ここに踏み込んだのは
ナッチたちの責任だから・・・・・・・・」

 歯切れの悪い、アベの言葉。

 興味本位で踏み込んだここで。
 ナカザワだけが傷つけられたことに対して。
 ヤグチも目を伏せた。

「帰して、もらえるっしょ?」

「・・・・・・・・・・はい。三人一緒に」

 ゆっくりと。
 ヤグチが頷いて。

 後は。
 もう言葉はなかった。

 ヤグチとアベが。
 想いを込める。
 永遠にも思えるほど。
 長かった時間にピリオドを打つために。

 王国の復活をかけて眠りについた王女。
 その王女の眠りは・・・・・・永すぎた。
 民もおらず。
 持つべき実体すらも、危うくなるほど。
 それだけの時間が過ぎ。
 王女のただ一つの願いは。

 一点に向かい。
 光の球が放たれる。

 安らかな眠りを。

 そして。
 今、それが果たされた。
408 名前:つかさ 投稿日:2004/09/03(金) 01:29
>>395 名も無き読者さん
>次回、衝撃の展開とのコトで、ドキワクしながら待ってますw
なったのかどうか(苦笑)<衝撃の展開

まったり進んでいきます。
ってか。
この章がこんなに長くなるとはおもってませんでした。
今日の更新はここまで。
409 名前:名も無き読者 投稿日:2004/09/03(金) 22:05
更新お疲れ様です。
大丈夫、なってますw
思いの強さ、イイですね。
何だか胸の奥に届く文章、素敵です。
続きも楽しみにしてます。
410 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:28
〜〜〜6〜〜〜

 久しぶりに聞く、せせらぎの音。
 そして鳥の声。
 木々のざわめき。

 地下では聞くことができなかった音。

「ユウちゃん、まだ起きないのかい?」

 地下からの脱出はあっけないほど、簡単だった。
 地下帝国の全ての力が凝縮されたパワーの源。
 想い、の力。
 全てをそこに叩きつけると。
 一瞬で全てが、終わった。

 そして。
 気付けば昔の辺境警備隊の駐屯地。
 そこに、いた。

「・・・・・・・・・いつ起きるんだろうねぇ」

『体に関しては今は急激に力、を使ったので疲れて 寝てるだけ、だと』

 王女の言葉を信用したものの。
 そして、外傷はないながら。
 脱出から三日目。
 ナカザワは起きる気配を見せない。

 木の葉をクッション代わりに。
 ナカザワの寝顔は穏やか、というか。

「皺、寄ってる」

 ヤグチはちょんちょん、と。
 ナカザワの額をつつく。

「・・・・・・・・・・・・・」

 無反応。
 寝息が途切れることは、ない。

 ヤグチとアベ。
 それを見て困ったように顔を見合わせた。

 食料の調達や見張り。
 便利と言えば便利なそこ。
 要所に作られているだけあって。
 どこに行くにも便利は便利なのだが。

「もうそろそろナッチ、戻らないとやばい、よねぇ?」

「う〜ん・・・・・・・いくら何でも・・・・・・限界はあるべさ」
411 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:28
 何だかんだで。
 アベが姿を消してもう、一週間は超えている。
 降り注ぐ太陽の下。
 対照的に二人は浮かない表情。

「ナッチだけ戻るって・・・・・・わけには・・・・・」

「嫌だよ、そんなの」

 三日間、何度も繰り返したやりとり。

 こんな状況で二人をほっていけない、ということ。
 そして。
 アベ自身。
 王宮に戻ればしばらく外に出させてもらえないことぐらい百も承知していた。

「でもだからってさぁ」

 このままの状況を続けているわけにも、いかない。
 ヤグチが意を決して口を開く。

「カオリ、呼ぼうよ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 少しだけ。
 アベの表情が曇る。
 ナカザワが動けない今。
 選択肢は限られていた、というか。
 選択肢は、一つだけ。

 ナカザワとヤグチが安全にかくまってもらえる場所、など。

 そうそうあるはずが、ない。

「・・・・・・・・・うん、そうだね」

 小さな、声。

 アベにそんな表情をさせたくなかったからギリギリまで。
 ナカザワの目覚めを待ったのだけれど。

 ヤグチはため息をついた。

「カオリのとこ、遊びに来たらいつでも会えるよ。だからさ」

「・・・・・・・・うん、わかってるから」

 潤んだ瞳。
 寂しげに落とされた、肩。
 ヤグチはう〜ん、と考え込み。

「・・・・・・・晩まで待とうか」
412 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:28
 立ち上がりかけた腰を落とす。

 結局。
 その言葉が全ての運命を変えた。
 ただ。
 その決断をヤグチが後悔したかはまた別問題、ということで・・・・・・・・。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・・・・・・・・・・ん?」

 ナカザワが目覚めた時。
 ナカザワの身体は柔らかいものに包まれていた。
 妙な、違和感。

 野宿では考えられない。

 まるで。

 感覚を裏切ることなく。
 目を開けると、天蓋つきのベッドに自分が寝かされていることに気付く。

「・・・・・・・・・・ここ」

 何処や?

 そのセリフをいう暇もなく。

「・・・・・・・・・やっとお目覚めですか」

 聞いたことのある、声。

「・・・・・・・・ゴトウ、やったっけ?」

「・・・・・・・・・・・おはようございます」

 馬鹿かつくくらいの丁寧な言葉。
 に反してゴトウの顔は仏頂面。

「・・・・・・・・・・おはよう・・・・・・・ってか」

 アタシら、そんな風に挨拶し合う仲やったか?

 以前。
 一度だけ、会ったその時。
 剣を向け合った記憶は新しい。

「だって起きたら失礼のないように挨拶しろって」

 むすっとした表情に。
 誰が何を言ったのか、何となくわかった気がして。
 ナカザワはこめかみを押さえる。

「ヤグチは何処や?」

 とりあえず。
 何がどうなってるのか、それよりも。
 口をついて出てきた言葉。

「ヤグっつぁんならナッチと一緒だよ」

 いまいち。
 その意図がつかめず。
 ナカザワは首を傾げるが。

 何も変なことしてないやろうな?

 その視線は鋭い。
413 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:29
「・・・・・・・・・ナッチの侍女として見習い勉強中」

 ナカザワが、次の言葉を発するまで。
 たっぷり十秒はかかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 切れる、緊張の糸。

「ゴトーはユウちゃんの傍についてあげてって。起きた時一人だったら寂しいだろうからって。
国王命令でゴトーはこの三日間、ずっとここで待ってたんだけどっ!!」

 拗ねた子どものような表情。
 そしてナカザワは気付く。

 ・・・・・・・・・まだ、ごっつ若いやん。

 イチイやヤスダ。
 それよりも幼い表情。

「ついでに言うなら森の中でナッチ見つけて。ヤグっつぁんも見つけて。んでもって運べって
言われたから苦労して担いでここまで連れてきたのもゴトーなんだけどっ!!」

『落としたら許さないかんね?』

 妙な迫力を持ったアベの言葉と。
 傍らにいた、元、隣国王女のきつい眼差し。

 ゴトウにとっては踏んだり蹴ったりの二週間だった。

 『しばらく探検の旅に出てきます。すぐ帰るから心配しないように』

 な〜んて置手紙。
 心配するよりも先に。
 忙しかったのはわかっていたけれど。
 身勝手な振る舞いに怒り、がきて。

 ほっておけば戻ってくる、とか思ってると。

 待てど暮らせど帰ってこない、王女。

 何かあったのでは、と。
 隣国まで寝ずに馬を飛ばして。

『カオリのとこには来てないよ?』

 それを聞いたときの驚きと不安。

 そして。
 戻ってくる時に。
 見つけた。

 眠ったまま起きようとしないナカザワに。
 剣を向けたのがまずかったのだろうか。
 剣を向けたまま。

『一発どつけば起きるよ』

 そう言ったゴトウに容赦なくアベからげんこつが飛んだのは言うまでもなく。
414 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:29
 元隣国王女。

『牢屋に入れとけばいいじゃんっ!!』

 一生懸命アベを説得してると。
 向うずねを蹴っ飛ばされた。

『オイラ牢屋になんか入らない』

 腕を組んで仁王立ち。
 負けん気の強そうな瞳。
 更に付け加えてアベが再びゴトウにげんこつ一つ。

『ナッチの友達だよ?失礼なことしたらしばらく口きかないからねっ!!』

 何でこうなるんだ。

 ゴトウの嘆きはもっともで。

「・・・・・・・・・・事情はだいたいわかった。んでアタシ、お腹すいた。何か持ってきてくれへん?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

「アタシに失礼なことしたらしばらく口利いてもらわれへんのやろ?」

 おもしろがってる眼差し。

「む〜〜〜」

 不承不承。
 立ち上がろうとしたゴトウの頭。
 ぽん、と。
 ナカザワの手が置かれた。

「ご苦労さん。んでもってありがとな」

 苦笑にも似た。
 それでもそれは、笑顔。

 ゴトウはきょとん、として。

「・・・・・・・・・名前、何て呼べばいい?」

「ん?ユウちゃんでええけど?」

「ん、わかった」

 何故そんなことを聞いたのか。
 ゴトウ自身部屋の外に出てもわからなかった。

 だいたい。
 前、ナカザワに首筋、叩き込まれた手刀。
 本気で痛かった。

 別に。
 名前を呼ぶつもりなどなかったから。
 だから、名前なんてどうでも良かったのだけれど。
415 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:29
「ん〜〜」

 ゴトウは首を振った。
 難しいことを考えるのは嫌いで。

「ご飯、とってこよ」

 ついでに自分もご飯、食べちゃおう。

 足取り軽やかに。
 廊下を歩くゴトウはこれから先に起こることなど予想もできなかった。
 勿論。
 それは部屋の中。
 ベッドにいてるナカザワにとっても同じことだったが。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 ご飯を食べてシャワーを浴びて。

「なぁ。とりあえず服、何かないん?」

「・・・・・・・・・・あ〜」

「アタシ着てた服は?」

「・・・・・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・何処あるかわからんのやったら何でもええから外歩ける服、持ってきてや」

 確かに。
 ナカザワは何でもええから、とは言った。
 言ったが。

 ゴトウが差し出して来た服を見てナカザワは小さくため息をつく。

「も〜ちょっとマシなんなかったん?」

「・・・・・・・・侍女の制服の方が良かった?」

「ちゃうやろ」

 何でそ〜なんねん。

 とは心の呟き。
 そして。
 ナカザワはゴトウが持ってきた服を身につける。

「・・・・・・・・何でまた軍服なんて持ってくるかねぇ」

 零れるのは愚痴ばかり、で。

 ただ。
 王宮内を闊歩してても。
 一番怪しまれない・・・・・・・別に怪しい行動をするつもりもないのだが・・・・・・・服であることは
確かだった。

「んで、何でゴッちんがついてくるん?」

「・・・・・・・・自分の立場、わかってる?」

「・・・・・・・・・ナッチの客賓ってことになっとるんやろ?どうせ」

 ゴトウは黙り込む。
 ナカザワの指摘は当たり、で。

「それにここには何回も来てるからそんなにカリカリせんでもええって」

 ・・・・・・・・・・・・。

 しばらく。
 ゴトウは黙り込み。

「・・・・・・・・はい?」

「一回アタシ、ここ忍び込んだことあるの忘れたわけじゃないやろうな?」
416 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:30
 確かに。
 そんなこともあったが。

 しかし。
 いったいどうやって。

「武器庫とか食料庫、いろいろ知ってるで。・・・・・・もしかしたらアンタより詳しいかもな」

 ニヤリ、と。
 不敵に笑うナカザワは抜け道なども網羅してるのだろう。
 足取りに迷いはなく。
 一通り。
 王宮内を一巡して。
 人気のない回廊でやっとナカザワは足を止める。

「・・・・・・・・相変わらずずさんな警備しとんなぁ」

 責めるでもなく、呆れるでもなく。
 ナカザワからの指摘に。
 ゴトウはぐっと唇を噛み締めた。

「・・・・・・・・・・教えて、もらえないかな」

「ん?」

 むっとしたような。
 少しだけ、困ったゴトウの表情。

「どこがどうダメな警備なのか」

 ふむ。

 おもしろそうにナカザワはゴトウを眺める。

「・・・・・・・・・・お願いします」

 ちょっとだけ悔しそうに。
 でも。
 ずさんな警備、と言われてもしょうがないこの国の状況は。
 ゴトウも理解していた。

 この前の王弟派を打ち倒して。
 一新した、人事。
 一新するしかなかったのは事実だけれど。
 若返った、といえば聞こえはいいが。
 圧倒的な経験不足。

 機密事項が機密事項になっていない、現実。

 質よりも量、を重視した前王の意向で。

 兵士の数的には面目を保っている、というか。
 それがなければそのまま。
 治安を維持できるか、わからない。

「・・・・・・・・・ったく」

 ナカザワは髪の毛をかきあげた。

 歳相応。
 それ以上に見せている雰囲気はかけらもなくて。
 俯いた表情は、幼い。

 泣いてる子どもには弱いねんな・・・・・・・・・。

 一つ大きく息を吐いて。

「王宮の見取り図、持ってきてや」

 くしゃっと。
 ナカザワはゴトウの頭を撫でた。
417 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:30
ーーーーーーーーーーーーーー

 ヤグチとアベは。
 非常に怒っていた。

『ユウちゃんが起きたらすぐに連絡すること』

 厳命、だったのに。

「ナツミ様、あのお客様、新しい仕官の方だったのですね」

 会議を終えて。
 もう時刻は夕方も遅く、だった。

「え?」

 きょとんとするアベに向かって。
 侍女はクスクスと笑った。

「ゴトウ隊長が王宮を案内されてましたよ?」

「何、それっ?!」

 それを聞いた瞬間。
 侍女らしくなく。
 ヤグチが一気にダッシュしよう・・・・・・として。

「何ですか、国王の前でっ!!」

 他の侍女に取り押さえられていた。

「・・・・・・・・・・・・・いつ頃?」

「昼過ぎ頃、でしたけど?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 くるり、とアベはきびすを返す。

「・・・・・ちょ、ナッチ、オイラは・・・・・・」

「何ですか、その言葉遣いはっ!!」

 ・・・・・・・・・・・。

 アベは少しこめかみを押さえて。

「ヤグチ、一緒においで」

 さすがに。
 他の侍女の冷たい視線。
 ヤグチは賢明にも頷いただけで。
 慌ててアベの後を追う。

 そして。
 記録的な速さ。
 客室のドアを勢い良くアベは叩く。

「「ゴッつぁんっ!!!」」

 返事を待つまでもなく。
 部屋に飛び込む二人が見たものは。
418 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:30
「だ〜か〜ら、それやったらアカンやろ?」

「なんでさぁ、ここが肝心なんでしょ?」

「そんな当たり前の警備しててどうすんねん。要所になるのはここやろうがっ!!」

「当たり前の警備のどこが悪いのさっ!!」

「ど〜ゆ〜状況でも対処できるような兵配置をちったぁ考えんかい、何のためにその頭はついとん
ねんっ!」

 喧々轟々。

 丸机の前で二人がやりあっていた。

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

 思わず。
 呆然とする二人。

「あ、悪いけどドア閉めといて。今大事なとこやねん」

 振り向きもせず。
 ナカザワは指示を出して。

「んじゃ、こっからこうきた場合はどうなるのさ?」

「ここの抜け道は絶対に潰してやな。んで今まで密偵とか入ってきたん絶対ここのルートやねん
から、デモストレーション代わりにやな、ここで10人くらい一気に潰して・・・・・・・・」

 ・・・・・・・・・・・・五分ほど。
 そのやりとりを見ていて。

 ヤグチはため息をついた。

「ナッチ、ご飯、食べに行こっか?」

「・・・・・・・・・・・え、でも」

「こ〜なったらユウコ、てこでも動かないよ。・・・・・・・ゴッつぁんも動きそうにないし」

 諦めきった。
 呆れきった顔でヤグチはちらっとナカザワとゴトウに視線をやる。

 そんな視線などものともせず。
 二人のやりとりは続いている。

 自然。
 アベの口からもため息が零れる。

「・・・・・・・ユウちゃんってさ、そういう警備の配置とか得意なのかい?」

 廊下をテクテクと歩きながら二人のやりとり。

「得意っていうか、それ商売じゃん。うちの近衛隊、だいたい十四、五から訓練始めてたからさ。
シュミレーションとか良くやってたよ。今みたいに」

 ヤグチは苦笑いを漏らす。
419 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:31
『早くヤグチ、守れるように強くなりたいんや』

 言葉だけは勇ましかったけれど。
 その時。
 ナカザワの手は、震えていた。

 西日がさしこむ王宮の隅。
 ナカザワは一人、たたずんでいた。

『・・・・・・・・・ユウコ』

『ここで脱落するわけにはいかんのや。・・・・・・・死ぬわけにも』

 苦しげ、で。

 儚げ、だった。

『・・・・・・・・・アタシはアンタを守る。アタシの生命をかけて』

 ナカザワの真摯な言葉に。
 幼かったヤグチはただ、頷くことしかできなかった。
 その言葉が、どれほどの重さを持つのかもわからずに。

 それからすぐに。
 ナカザワは昇進街道を駆け抜けた。
 ヤグチが十五になるかならないかの時。
 その当時の近衛隊隊長の側近としてヤグチの身の回りの護衛を完全に任されるまでに成長していた。

『これでだいぶ融通きくようになったわ』

 笑顔に隠されたそれまでの苦労。
 ナカザワは決してそれを語ろうとはしなかった。

 ヤグチの傍にいるために。
 捨てたものは山ほどあるはずなのに。
 ナカザワはヤグチの傍でそれをカケラも出さずに。

 笑っていた。

「・・・・・・・・・・ヤグチ」

 慮るアベの声に、ヤグチはへへ、と笑った。

「でもさぁ、結構あれは好きでやってるとこもあるとオイラは思うんだけどね」

 いい加減なようにみえて。
 ナカザワの采配は状況を的確に分析した細かいもので。

「意外と人望もあったしさぁ」

 ふむ、とアベは頷く。

「意外とってのは失礼じゃないかい?」

 ただ、突っ込むことも忘れずに。

「まぁ、ねぇ」

 そのまま。
 ヤグチは黙り込み。
 アベも。
 何か考え込むように黙りこんだ。

「オイラ、これからどうするかとかはユウコ次第だからさ」

 ゆっくりとアベはヤグチを見つめた。

「・・・・・・・・ユウコが決めることだから」

 しっかりとした視線に見つめられ。
 アベはこくり、と。
 頷いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー
420 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:32
ーーーーーーーーーーーーーーーー

 ご飯を終え。
 ヤグチとアベがもう一度部屋を覗くと。
 先ほどのうるささが消え。
 ナカザワは地図上に何かを書き込み。
 ゴトウは何かをメモしてる様子。

「まだやってたの?」

 いい加減にしろ、と。
 ヤグチがナカザワの頭をぽかり、と軽く殴る。

「・・・・・・・・・痛いやん」

 先ほどと違い。
 顔をあげて文句を言ってきたナカザワは。
 ふと。
 ヤグチの顔をマジマジと見つめる。

「・・・・・・・・・・・・あ、そうか」

「・・・・・・・・・・そうかじゃないよ、アホ」

 ヤグチは深々とため息をつく。

 そして一方では。

「あ・・・・・・・ナッチ。・・・・・・・・・・う?」

 ゴトウがきょとん、とアベの顔を見つめ。

「あ、報告っ!!」

「遅いよ・・・・・・・・バカ」

 こつん、と。
 アベがゴトウの頭にげんこつ。

「・・・・・・・・・・んで、話はまとまったのかい?」

「うん、ユウちゃんってば凄いんだよっ!!」

「兵士の数はごろごろいんねんからもっと頭使え」

「え、ゴトー、いっぱい考えたもん」

「穴だらけやっちゅ〜ねん」

 遅い晩御飯をつつきながら。
 ナカザワとゴトウは口喧嘩。
421 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:32
 ・・・・・・・・・・・・・おいおい。

 思わず苦笑いを漏らすヤグチとアベ。

「仲良くなってくれたのは嬉しいんだけどいい加減、話、させてくんない?」

 ふと。
 アベが真面目な口調になる。

 ふむ。

 ナカザワは腕を組む。
 何を言われるかだいたい想像はついて。
 口を開こうとする、その前に。

「ナッチの下で働いてもらうから」

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 何を言われるか想像はついていたものの。
 その言い方に。
 ナカザワは思わず頭を抱える。

「かくまってもらったことに関しては感謝してる。でもアタシは・・・・・・・・」

「ユウちゃんに選択権はないべさ」

「・・・・・・・・・何言って」

 真っ直ぐにナカザワを見つめるアベの視線。
 思わず気後れしてしまいそうになるが。

「そんな無茶苦茶なこと、できるはずないやろ?だいたいアタシらの正体ばれたらまずいやん」

「そうでもないよ。ね、ヤグチ」

 いきなり話を振られ。
 ここでこっちに話、ふるかぁ?
 ヤグチは肩を落として。
 まぁそれでも。

「ばれるばれないかって問題なら意外とばれないもんだよ。オイラたちだってナッチが
こっち来てた時全然気付かなかったじゃん」
422 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:32
 確かに。
 敵国の王女の顔なんてナカザワ自身も拝んだことはなかったし。
 それはまたこの国においても然り、だろう。

「ユウちゃんだってさ、ほらゴッつぁんとかは顔しってるけど他の人、全然気付かなかったろ?」

「・・・・・・・・まぁ、なぁ」

 そう言われてみれば。
 自国よりもよっぽど安全は安全な場所、かもしれない。
 まぁ。
 過去自分と剣を交えた連中がごろごろいるような場所は。
 やっぱりナカザワにとって居心地のいい場所、とは思えなかったりするのだが。

 ナカザワは肩をすくめる。

「案外似てるなぁ、で済んじゃうもんだべ」

 そう言う問題ではないような気はするが。

「・・・・・・・・ゴッちんはどうだい?」

 そして、今度はゴトウに話が振られ。

「・・・・・・・・・・う?」

「ユウちゃんと一緒に仕事、やってみたくないかい?」

「・・・・・・・・・・・・・そりゃ」

 そのままゴトウは口ごもる。
 過去のいきさつを考えると。
 即答はできない、が。

「信用できる人材が欲しいってのはゴッちんも言ってたよね?」

「・・・・・・・・う〜〜」

 今日の昼から。
 突き詰めて警備の話。
 凄くためになるものだった。
 はっきり言って。
 これからの王宮の警備、ゴトウ一人では手にあまるものはあるかもしれなくて。

 そして。
 ゴトウの判断基準はただ一つ。

「・・・・・・・ナッチ、危険な目に合わせたくないから。もうしばらくいて、ゴトーのこと、
助けてくれると嬉しい」

 アベはにっこりと微笑んだ。

 はたから見てると魅力的な微笑み。

「・・・・・・・・・・・・あのな、ナッチ」

「ユウちゃんに選択権はないってナッチ、さっき言ったよね?」

「・・・・・・・・・・・・おい」
423 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:33
 何やねん、その言い方?

 ナカザワのきつい視線をアベは受け止めて。

「ナッチの初めてを奪った責任。取ってもらうべ」

 ・・・・・・・・・・・・待て。

 さすがに。
 ナカザワは絶句する。

「・・・・・・身体はヤグチのものかもしんないけど。今、ナッチ困ってるんだ」

 助けてくれてもバチはあたんねっしょ?

 魅惑的な笑みに。
 ナカザワは頭をがしがしとかく。
 今更そんなことを・・・・・・・と言うのが正直な本音だったりするが。

「・・・・・・・そんなのゴトー、聞いてないっ!!」

「待ってよっ!!ゆうこはオイラのもんだよっ?!」

 二者二様。
 騒ぎ出した二人。

「それはわかってるけど、責任問題だべ?」

 とりあえずアベはヤグチに返答。

「そりゃそうだけどさぁ・・・・・・・オイラだってユウコ初めてだったんだよ?」

「だから、身体はヤグチにあげる」

 う。

 黙って首を傾げ始めたヤグチはどうやら。
 そのままアベに言いくるめられそうな雰囲気で。

 それを黙って見ているはずもないもう一人。

「ちょ・・・・・・・・ナッチっ!!」

 期待を込めて。
 ナカザワはもう一人。
 ゴトウに視線を向ける。

「前ね、ナッチとユウちゃん恋人同士だったんだ。ナッチが向こうの国に行ってるとき」

 少しだけ、哀しげな、寂しげな口調。
 ゴトウは黙り込み。
 あぁ。
 ナカザワは天井を仰ぐ。

「ユウちゃんがヤグチ選んだから・・・・・・・それはしょうがないんだけど」

 アベは視線を落とす。

「でも、だけどさ。やっぱりちょびっと寂しいなぁ、なんて」

 ・・・・・・・・・・・・・。

 ゴトウがナカザワを睨みつけた。
 鋭い。
 殺意すらこもっている、かもしれない。

「・・・・・・・・・わかった。働く。是非働かせてください」
424 名前:永久(とわ)の祈り 番外編 投稿日:2004/09/24(金) 23:33
 完全降伏。
 白旗をあげたナカザワに。
 アベは笑う。

「そういえばユウちゃん、アヤっぺ、知ってるよね?」

 そのままいたずらっぽい笑みで。
 爆弾発言。

「・・・・・・・・・・・・え?」

「今ね、侍女長でヤグチの教育係なんだけど。・・・・・・・・色々、あったみたいだね」

 ぴく。
 ヤグチが反応する。

「・・・・・・・・・・ナッチ、それ、ど〜ゆ〜意味?」

「ちょ、ナッチ、待ってぇや」

 情けないナカザワの声。

「こっちの国の情報収集するのはいいけどさ、色仕掛けってナッチはどうかと思うよ?」

 ・・・・・・・すっかり忘れてた。

 ナカザワは頭を抱える。
 そういえば、そんなこともあった。
 こんなことになるのであればもうちょっと考えて行動したのに。
 ってか侍女長?
 ベッドの中で。
 ・・・・・・・・・・そんなことも言ってたような気が、する・・・・・・・・・・・が。

「・・・・・・・・・ユウコっ!!!」

 部屋に響き渡るヤグチの怒声。

「んじゃ、ナッチはそろそろ失礼するね。後は二人でごゆっくり」

 我関せず。
 するり、と部屋を抜け出すアベに慌てて付き添うゴトウ。

「あっちこっちに手、出してるんじゃねぇよっ!!!」

 余計なこと言いやがって。

 恨めしげにそれを見送るナカザワに。
 容赦のなく降り注ぐヤグチの怒り。

「うわ、ごめん、ごめんって」

 必死に謝るナカザワ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・一週間ぶりに目覚めたナカザワと。
 それを心待ちにしていたヤグチだが。
 甘い雰囲気にひたるまで、もう少し時間がかかりそうだ。

                                【END】
425 名前:つかさ 投稿日:2004/09/24(金) 23:49
・・・・・本当にお待たせしてすいませんでした(ぺこり)

>>409 名も無き読者さん
>何だか胸の奥に届く文章、素敵です。
そう言ってもらえて嬉しいです。
何故だか難産になってしまったこの話。最後まで書ききることができたのは
レス頂きつづけたおかげだと思ってます。本当にありがとうございました。

とにかく長かった最終話。
忙しかったのもあったんですが過去例をみないほど書いては「これじゃダメだ」と
書き直し、書き直し・・・・(苦笑)

まだ番外編が続くかは未定です。
っつ〜かネタ、全然思い浮かばないんで(待て)

とにかく最後まで読んでいただいた方、レスくださった方、多謝、です。
やぐちゅーは永遠に不滅です。
426 名前:名無し読者 投稿日:2004/09/25(土) 03:13
お疲れさまです。番外編一気に読ませてもらいました。
やぐなちゅー最高です。なにげに後藤さんと中澤さんの絡みもツボです。
番外編ぜひ続けて下さい。
あやっぺも交えて(w
427 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/25(土) 18:56
いやー、面白いです。
また新たな展開が始まる予感。
是非番外編続けて下さい!
428 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/26(日) 23:10
番外編もすごくいいス
できたら続きがあるといいなと思ってしまいました。
429 名前:名も無き読者 投稿日:2004/09/28(火) 23:28
とりあえず、と言わせて頂きましょうか、お疲れ様です。
イイですなぁ、やぐちゅー♪
でもなかざーさん、アンタって人は・・・。w
いくらでも待ちますからできれば続編希望、です。
それではまぁ一先ず、素敵な作品をありがとうございました。(平伏
430 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/29(水) 23:07
〜〜〜1〜〜〜

 視線を、感じる。
 イシグロは街中。
 後ろを振り返る。
 ・・・・・・・・・誰も、自分を見ている人間など、いないように見える雑踏、人ごみ。

「姉ちゃん、この魚、どうだい?新鮮だよ〜」

 足を止めた瞬間に。
 声をかけてくる露店の声。

「お、その足の止め方はこっちだね?野菜、安くしとくぜ?」

 ちらり、とそれを一瞥して。
 イシグロは人の流れの邪魔をしないように、移動して。
 もう一度周囲を窺う。

「・・・・・・・・・・・・・」

 気のせい、と片付けるには。
 ここ一週間くらい続いているその視線。
 刺客とかそ〜ゆ〜のとはまた違う。
 自分を観察する、たったそれだけの視線。
 けれども。
 普通の人じゃない、な。
 イシグロは小さくため息をついた。

 王宮侍女長。
 立場上、護身術程度なら・・・・・・おもしろくてつい熱中してしまい・・・・・・・男三人くらいだったら
簡単に投げ飛ばせるくらいまでは上達した。
『衛兵にならないか?』
 指導役の教官に真剣に勧誘までされて。
 断るのは大変だった。

「・・・・・・・・いい加減、出てきてくんないかなぁ」

 決して自分の力を過信しているわけではないが。 
 一週間、その相手をおびき出そうとしてみて。
 気配は感じるものの。
 どんな相手なのか、一向に尻尾を掴ませないその手腕。

「プロだよねぇ、やっぱり」

 いい加減、この状況に焦りを感じている、のもまた事実で。

 もう一度。
 考え込み始めたイシグロの前。 
 足を止める一つの影。

「・・・・・・・・・・・・・・・あの、ちょっと聞きたいんやけど」

 ん?

 イシグロは顔をあげる。
431 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/29(水) 23:08
「六角邸って宿、わからんくて」

 イシグロより頭一つ分、低い位置。
 ちょっと困ったような、情けない表情。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな宿、この町にはないよ」

 考えるまでもなく。
 イシグロの口を突いて出た言葉。
 似た名前すら、聞いたことがない。

「・・・・・・・・・あ、そうなんや」

 ぽりぽりと相手は頬をかく。

 ・・・・・・・・・・・。

 じっとイシグロはその相手を見つめる。
 鋭い、視線。

「アタシ、ナカザワユウコって言うんやけど」

「あたしのこと付回してたの、アンタだね?」

 確証はなかったけれど、断定してみる。

 ところが。
 相手はまったくのポーカーフェイス。
 きょとん、とした表情まで作ってくれる。

「ふ〜ん・・・・・・・・」

 本当のプロならこんなとこで尻尾だすはずないか。

 相変わらずの疑惑の眼差し。
 ナカザワは居心地悪そうに身じろぎ、する。

「アンタのこと、付回してたのはアタシちゃうけど。気付いてるんなら話、早いわ」

 それは、一瞬。

「・・・・・・え?ちょっ?!」

 力が弱いわけでもない。
 どちらかと言えば強い方に位置する方だと思っていたイシグロの手を。
 ナカザワは簡単に引いて。
 走り出す。

「後ろ、援護するから。前は知らん。好きにしぃ」

 コイツは何を言ってるのだ?

 一瞬の迷い。

 しかし。
 いきなり横からぬっと突き出てくる、腕。
 握られた腕に嫌悪感が走る。
432 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/29(水) 23:08
「・・・・・・きゃっ」

 ドカ。

 後ろから足が飛ぶ。
 的確に急所。

「捕まりたくないんやったら早く逃げぇっ!!」

 怒鳴り声。

 日中の街中。
 それにも関らず。
 抜き身の剣を手にした人間、十数名ほど?
 前から、後ろから迫ってくる。

 上がる、悲鳴。

「・・・・・・・・ったく!!」

 思わず。
 呆然と立ち尽くしたイシグロの手をひくのは。

「怪我したくないんやったら退けっ!!」

 逃げ惑う人の波をかいくぐる。

 混乱を避けるのではなく。
 人の波が多い方を選んでそちらに向かう、その表情。
 先ほどの情けない表情から一転した。
 怖いくらい綺麗な。
 真剣な顔。

 状況も忘れて。
 イシグロは思わず見惚れていた。

ーーーーーーーーーーーーー

 騒ぎの中。
 いつの間にか姿を消した襲い掛かってきた人間たち。
 ナカザワはそれを追おうとはせず。
 騒ぎが起こった通りから二本ほど外れた道の宿に飛び込む。

「おっちゃん、ちょっと上、借りるでぇ。後、飲みもん適当に二つよろしく」

 それとともに飛ぶコイン。

「・・・・・・・・何かあったのか?」

「別に何もない。何か起きそうやったら言いにきて」

 そして。
 もう一枚、銀色のコインが飛ぶ。
433 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/29(水) 23:09
「・・・・・・・・しょ〜がないな」

 見事に二つともキャッチして。
 苦笑いする宿主。

 そして、そのまま部屋の中に直行して。
 ナカザワが開口一番に言ったセリフ。

「アンタ、アホやろ?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

「変な自信、あるんかどうかしらんけどな。誰かに付けられてるのわかっててあんなとこ一人で
のこのこでてくか?」

 ナカザワの言葉は辛らつ、だった。

「所詮アンタ、素人やろうが。それにな、女やろ?数でこられたら負けるんわかってるやろうが。
だいたいなぁ、自信あるんやったらあれくらいの立ち回りで動けんくなるなや、情けない」

 パッシ〜ン。

 勢い良く。
 イシグロの手のひらがナカザワの頬にヒットした。

「助けてくれたのはありがたいって思うけどね、言うに事欠いて情けない、とは何よ?
あたしのこと素人だって言うんだからアンタはプロだって言いたいわけ?あたしのビンタも
避けられないような癖にちゃんちゃらおかしいこと言ってんじゃないわよっ!!」

 イシグロの威勢のいい啖呵に。
 ナカザワは一瞬黙り込み。
 そのままムッとしたようにイシグロを睨みつけた。

「・・・・・・・・女に手、あげんの好きやないからしゃ〜ないやろうが」

「・・・・・・・・あのねぇ」

 更に口を開こうとしたイシグロだが。
 それを遮るように、部屋のドアがノックされた。

「ナカザワ、それじゃ女は口説けないぞ?」

 店主がニヤニヤと笑いながら入ってきた。

「・・・・・・別に口説いてないっちゅ〜ねん」

「いいタイミングだったろ?」

「・・・・・・・・それは感謝するけどな」

 テーブルの上。
 グラスを二個置いて。
 宿主はさきほど受け取った銀貨を一枚取り出す。

「表の騒ぎ、収まったみたいだぞ。・・・・・・ってことで迷惑料は受け取れないな。次の機会にしてくれ」

 ナカザワは肩をすくめる。
434 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/29(水) 23:09
「いらんっちゅ〜なら返してもらうけどな」

「いらないことはないが、お前に貸しを作ると倍返しで請求されそうだからな」

「ばれたか」

 ナカザワは人の悪い笑みを浮かべて。

「ま、今回は情報量込みってことで受け取っといてや」

「情報っつっても・・・・・・仕事にならなかったのじゃないのか?」

「ま、そやけどな・・・・・・・ま、こればっかはしゃ〜ないやろ」

「性分か」

「好きに考えといて」

 そのままナカザワは立ち上がりついで。
 グラスの液体を一気に流し込んだ。

「・・・・・・・タイムリミットや。そこのアンタ、もう二度と変な気、起こしたらあかんで。見たところ
どっかのお嬢さんやろ?おとなしく護衛に囲まれとき。次、アタシがちょうどタイミング良く
助けたる、なんてできへんやろうし」

 扉の前まで迷いない足取り。
 そこでいったんナカザワは足を止めた。

「ま、助けてくれたお礼もそこそこの相手にビンタくらわすねんから大丈夫やとは思うけど」

 ニヤリ、とイシグロにナカザワは笑って。

「マッチとポンプ、どっちが先かっつ〜話もあることやし、あんま助けてくれたからってすぐに
相手は信用せんほうがええで。んじゃな」

 そのまま。
 あっという間にナカザワの姿は消え。

 後に残されたのはイシグロと宿主。

「・・・・・・・・・今の、ど〜ゆ〜意味・・・・・・・」

 クスリ、と宿主は笑みを漏らした。
435 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/29(水) 23:10
「襲う一味と助ける側がグルになってないって保証はどこにもありませんからね」

 イシグロに飲み物を勧めて。

「何があったかわからないですけど、アイツに助けてもらうってのは運がいいですよ」

 訝しげなイシグロの視線を受け。
 宿主は快活に笑った。

「アイツなら助けてもらって家まで送ってもらったとしても。家の門構え見た瞬間、気を変えて誘拐、
なんてことはしないですからね。・・・・・・イシグロのお嬢さん」

「・・・・・・やっぱりばれてた?」

「父上にはお世話になってますから。迷惑がかかっても迷惑料なんて取る気はなかったんですが。
アイツ、貴女が誰か全然知らなかったみたいですね」

「・・・・・・・悪いことしちゃったな」

 ポツリ、とイシグロは呟く。

「アイツの趣味みたいなもんですよ。世慣れしてるように見えて妙に正義感が強い」

 多分、何でも屋、みたいなんやってるんじゃないですか?
 この辺で絡まれてる人間いたらついつい助けてるみたいで。
 そ〜ゆ〜のでアッシとも顔見知りなんですけどね。
 でも次にいつ顔出すか、わかんないですよ。
 雇い主が結構人づかい荒いみたいでねぇ。
 話、聞いてると隣りの国でメインで仕事してるみたいですけど。
 神出鬼没?
 でも今日のは戻ってから怒られると思いますよ。
 最近、結構顔出して何か調査してたみたいなんで。

 宿主の口は滑らかだ。

「・・・・・・何、調査してたかわかんない?」

 少しでも手助けができれば。
 イシグロは身体を乗り出した。

「さぁ・・・・・・・?秘密が商売みたいなもんでしょうからねぇ。こっちもつなぎつけてくれ、とか。
顔見かけたら教えてくれって人間の似顔絵なら何枚かもらいましたけど・・・・・・イシグロのお嬢さん
に見せるわけにはいかないですしね」

 宿主はにっこりと笑う。
 しかしその眼は笑っていない。
 一線を画した、毅然とした態度。
436 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/29(水) 23:11
「あんまりこんなとこには顔、出さない方がいいですよ。・・・・・・・ナカザワみたいな奴の方が
珍しいんですから」

 イシグロがグラスの中身を飲み終わったのを確認して。
 宿主は立ち上がった。

「送らせましょう。家の方がいいですか?それとも王宮?」

「・・・・・・・・王宮のほうで」

「・・・・・・最近、家の方に帰られてないみたいですが、お仕事、忙しいんですか?」

 ふっと。
 イシグロの表情が険しくなる。

「申し訳ありません。僭越でした」

 いい、と。
 手を振りながら。

 やはりイシグロの表情は少し晴れなくて。

 気になるのは。
 イシグロが仕える第一王女のアベナツミ、のこと。
 最近、きな臭い動きが見える。
 太陽のような笑顔は見るものを安心させて。
 この人なら、仕えたい、と思ったから。
 貴族の長女。
 安穏な生活を投げ打ってイシグロは王宮にあがった。

 何を血迷ってそんなことを。

 周囲の雑音には耳をかさず。

「・・・・・・・・・・あ〜ゆ〜人が側にいてくれたらなぁ」

 強く、なりたい。
 そして守らなければならない、存在。
 その存在を大事に思えば思うほど、自分の無力さを思い知らされていく。

『所詮アンタ、素人やろうが』

 事実を突きつけられたから、カッとなった。
 今ならわかる、けど。

「・・・・・・・・・・・会って謝りたい、なぁ」

「何かおっしゃいました?」

 夕暮れを少し過ぎた時間。
 宿の下男、だろうか。
 ランプを持ち、イシグロを振り返る。

「何でもない」

 宿から出て見上げた一番星。
 イシグロはそっと願いをかけた。

 −−−−−−−−もう一度、逢えますようにーーーーーーーー。

ーーーーーーーーーーー
437 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/29(水) 23:11
 一方。
 ナカザワはというと。
 そんなことなどすっかり忘れていた。

 その日の夕方。
 何とか王宮にはたどり着いたのだが。
 昼には帰る。
 そう言ってた予定は大幅に狂い。

「ユウちゃんっ!!何やってたのさっ!!」

「・・・・・・・・・いろいろイレギュラーがあったんや・・・・・・・・」

 大した成果・・・・・というか。
 成果になりそうなネタは掴んだのだけれど。

「ど〜せまた、可愛い女の子でもナンパしてたんでしょ?」

 イチイのきつい眼差しの前に。
 へこへこと頭をさげていた。

「・・・・・・・・・・・も〜、イチー、てんてこまいだったのにさ」

「手伝うやん」

「これ、ユウちゃんの仕事なんだけど?」

 冷ややかな眼差し。

「・・・・・・・・・ごめん」

「いいよ、とりあえず寝てきなよ。どうせ寝てないんでしょ?イチー、やっとくからさ」

 イチイはため息をついて。
 書類の束は見ないように。
 ナカザワを見つめる。

「晩は宮廷パーティーの警備、らしいし。ヤグチ、ユウちゃんいなかったらがっかりするだろうし」

「・・・・・・・・・・すまんな」

「こっちこそ。ダンスパーティーの方からの警備でいいから。二時間くらいは寝れると思うよ」

 ナカザワは大きく伸びをする。

「・・・・・・・・・わかった。終わってなかったら後でアタシ、やるから」

 しんどいなら置いといて。
 言葉の影に隠された、気遣い。
438 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/29(水) 23:12
「いいよ、ど〜せ決裁がど〜っていう書類だけでしょ。一人で無理だったらイシカワか
ヨシザワ呼びつけるし」

「・・・・・・・・・あの二人って今日、非番やなかったか?」

「・・・・・・・・・わざわざ非番の日に隣国に調査に入る誰かさんに言われたくないけど」

 少しだけ。
 非難、の眼差し。
 ナカザワは肩をすくめる。

「・・・・・・・・・誰が行っても変わらんやろうが」

「物好きだよね。・・・・・・・・それとも」

 他に何か、理由でも?

 イチイの眼が鋭く光る。

「・・・・・・・まだ、確認段階や。その時が来たらサヤカにも動いてもらうから」

 別に、独断専行。
 一人で危険な真似してるわけやない。

 ナカザワは困ったように笑って。

「んじゃ、後で警備でな」

 足元を確認するような足取り。

「・・・・・・・・・もう歳なんだから、あんまり無茶しないでよ」

 アホかい。

 そう返って来るかと思ったのだが。
 ナカザワが返してきたのは苦笑。

「なるべく善処するわ」

 軽く手を振って。
 部屋を出て行くナカザワ。

「・・・・・・・・・・・ふむ」

 目の前の書類。

「ヨシザワとイシカワ、呼び出すか」

 二人の不満はど〜でもいい、とばかり。
 イチイは立ち上がる。
 どうせ明日から実践演習。
 しばらくナカザワが落ち着いて休める日は、ない。

「もうちょっと自分の体力考えて行動してくれないと、イチーが困るんだよねぇ」

 三人でやれば、パーティー警備までには終わるだろう。

 とりあえず、束の間でも。
 ゆっくりと休んで欲しいなぁ、というのは。
 イチイなりの思いやり、なのだ。
439 名前:おまけ 投稿日:2004/09/29(水) 23:13
ーーーーーーーーーーーーー

「ユウちゃん」

 中庭の回廊。
 パーティー会場から抜け出して。
 というか。
 さすがに寝ずに、ほとんど飲まず喰わずが一昼夜。

 倒れるなら、人目につかんとこがええよなぁ、とは。
 前向きなのか後ろ向きなのかさっぱりわからない、ナカザワの思考回路。

 呼び止めた声に。
 かなり驚きながら。
 ナカザワは振り返る。

「・・・・・・・・・・マリ、様」

 周りを配慮したその呼び方。
 ヤグチがちょっと困ったように。
 たたずんでいた。

「どうかされたのですか?」

 一気に眠気が覚める。
 我ながら現金だな、と苦笑いしながら。

 ナカザワはヤグチを見つめる。

「ん・・・・・・・調子悪そうだったから心配で」

「・・・・・・・・・ご心配、いたみいります」

 儀礼的な言葉に少しだけ。
 ほんの少しだけ、不満そうなヤグチ。

「・・・・・・・・・外に出てたみたいだったからさ、今日は戻ってこないのかと思った」

「今日のパーティーは是非私に警備を、という指名があったのは聞いてましたから」

 一瞬。
 ヤグチの視線がきつくなる。

「だから無理したの?」

 ・・・・・・・・・・・・・。

 一瞬、言葉に詰まるナカザワを。
 ヤグチは見逃さなかった。

「・・・・・・・・無理してもらっても全然嬉しくない、から」

「・・・・・・・・・申し訳ありません」

 気まずい沈黙が、落ちる。

 その耳に。
 飛び込んできたのは、軽快なワルツ。
440 名前:おまけ 投稿日:2004/09/29(水) 23:13
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 見交わす、視線。

「ヤグチ」

 囁くような。
 きっとヤグチにしか届かない、声。
 差し出された手。

「・・・・・・・・・アホ」

 それでも。
 その手を取るのは、当たり前。

「ラストダンスを踊ろうっての、何かあったやんな?」

 クスリ、と。
 綺麗な笑顔を見せられれば。
 もう、しょうがない。

「誕生日、おめでと」

 零れ出す、素直な気持ちに。
 嘘は付けなくて。

「・・・・・・・・・え?」

 不思議そうな、表情。

「無理させて、ごめん。でもどうしても今日、渡したかったから」

 あぁ。

 ナカザワの表情が、腑に落ちた、といった風に。
 柔らかく変わるのをヤグチは見た。

「・・・・・・・・・別に構わんのに」

 一曲。
 綺麗に踊り終えて。
 照れくさそうな、笑み。

「気持ち、だろ?」

「まあな。どんなんでも嬉しいのは嬉しいかな」

「・・・・・・・・どんなんでもってのは余計だろ?」

 スカートのポケットに忍ばせていた銀色のペンダント。
 おずおずとヤグチはそれを差し出す。

「しばらくまた王宮警備から外れるんだよね?」

「・・・・・・・・・あぁ」

 ペンダントの留め金。
 外すと、写真の変わりに入っていたのは四葉のクローバー。

「死んだら許さないからな」

「縁起でもないこと、言うなや。大丈夫、アタシが戻るのはヤグチの傍やって決めてるから」

 一生懸命に。
 四葉のクローバーを探すヤグチの姿を思い浮かべ。
 自然、ナカザワの顔がほころぶ。
441 名前:おまけ 投稿日:2004/09/29(水) 23:14
「めっちゃ嬉しいわ。大事にする。ありがとな」

 そんな言葉でしか表現できないのが、少しだけ、もどかしい。

「うん」

 見上げてきた視線にナカザワは眼を細めた。

 そして。
 人の気配。

「・・・・・・・・そろそろお戻りにならないと。ここは冷えます」

 そっと。
 羽織っていたマントを脱いで。
 ナカザワはヤグチの肩にそれをかける。

「・・・・・・・・・ありがと」

 頷くことで応えて。
 ナカザワはちらっと周囲に視線を走らせる。
 視界の端。
 イチイの姿が見え。

『ごめん、邪魔して』

 手旗信号。

『自室に戻ったってことにしといた。後は誤魔化しとくから』

『了解』

 簡単な、合図。

「部屋まで送らせて頂きます」

「わかった」

 イチイとのやりとり。
 声は出していないが、ナカザワのセリフで察したのか。
 ヤグチはコクリ、と何を聞くわけでもなく頷く。

「しばらくは顔、出せないと思いますが、マリ様も身体には気をつけてください」

「・・・・・・・・・ナカザワ隊長も」

 ゆっくりとした足取り。
 ヤグチの自室までたどり着き。
 ヤグチは肩にかかっていたマントをナカザワに差し出す。

 少しだけ。
 寂しげな視線。

「・・・・・・・・それでは。ゆっくりとお休みください。失礼します」

 ナカザワは一瞬言葉に詰まった。
 それでも。
 綺麗な敬礼。

 後ろは振り向かず。
 ナカザワは歩く。
 手に握りしめた、さっきまでヤグチの肩にかかっていたマントが。
 妙に胸の中。
 切なさを呼び起こした。
442 名前:つかさ 投稿日:2004/09/29(水) 23:30
レス嬉しかったんで番外編が一本・・・過去編ですが(汗)

>>426 名無し読者さん
>あやっぺも交えて(w
その冗談のような一文で一気に番外編のネタを思いつきました(笑)
彩裕、いつかは書いてみたかんたんですよねぇ(超簡単な理由)

>>427 名無飼育さん
>また新たな展開が始まる予感。
自分にとって予感は・・・あるのか?ってな感じですが(待て)
本編で書ききれなかった部分を番外編であげていければ、と思ってます。

>>428 名無飼育さん
>できたら続きがあるといいなと思ってしまいました。
続きではないんですが。楽しんでいただけるよう全力を尽くします。

>>429 名も無き読者さん
>イイですなぁ、やぐちゅー♪
その一言で彩裕な話にあのちっこい人が乱入を・・・嘘です、作者の趣味です(自爆)
>でもなかざーさん、アンタって人は・・・。w
ねぇ・・・・あんまりにも姐さんが鬼畜なんで、鬼畜度をあげるためにも
番外編を、と(待て)

まぁ。続編ではないですが、番外編パート2です。
一気に最後あたりまでストック作れたので久々に連日更新いきたいです。
楽しんでいただければ幸いです。
443 名前:426 投稿日:2004/09/30(木) 04:57
いやいや本気度数95%だったんえすけど彩裕w
こんなに早く番外編2読ませていただけるとは感激です。
早起きは三文のとくというけれど本当ですね〜。
今日から出張でいやいや早起きしたんですけどw
続き楽しみにしてます。
444 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/30(木) 18:58
更新お疲れ様です。
心持ち若い姐さんの鬼畜ぶりwを楽しみにしています。
445 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/30(木) 23:15
〜〜〜2〜〜〜

 一瞬。
 眼を疑った。
 乱闘騒ぎから一ヶ月。
 イシグロは何度かナカザワと会った下町に顔を出してはいたが。

『最近は全然見ないよ・・・・・・・いい加減諦めたらどうだ?』

 宿主が苦笑い、していた。

 探している時は見つからなくて。
 ほとんど諦めていた時にいきなり遭遇、なんて。
 信じていなかったが。
 イシグロは足を速める。

 下町とは趣が異なる、高級感溢れる町並み。
 昼食時を過ぎて、閑散としているオープンカフェ。
 そこに、ナカザワはいた。
 何の違和感もなく、町の風景に溶け込んでいる。

「・・・・・・・・・・・ここ、いい?」

「他にも席、いっぱい開いてるやろうが・・・・・・・」

 言いかけて。
 ナカザワは驚いたように眼を開く。

「・・・・・・・・アンタか」

「ご挨拶ね」

 ナカザワの前には。
 ほとんど手付かずのコーヒーが一つ。
 もう、湯気すら出ていない。

「・・・・・・・・・・仕事中?」

「いや。一段落。これから帰る」

 そう言いながらも。
 ナカザワは動こうとしない。

「・・・・・・・・仕事、失敗したの?」

「や。そ〜ゆ〜わけでもないねんけどな」

 ゆっくりと視線が上がる。
 疲れたような笑み。

「・・・・・・・・・・・・・何かあった?」

 ゆっくりと。
 ナカザワは首を横に振る。

「っつ〜かアンタ、王宮の人間やったんや。こんなとこで油売っててええんか?」
446 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/30(木) 23:16
「あたしもお使いの仕事、終わったばっかりでね。ちょっとくらいの油なら許されるの」

「・・・・・・・・強引やな」

 それは。
 イシグロの理屈に対して言ったのか。
 もしくはナカザワの前の席に座り込み。
 やってきたウェイとレスに注文した行為のことを指すのか。
 ナカザワは再び黙りこむ。

「ユウちゃんも食べる?」

 運ばれてきたサンドウィッチ。

「・・・・・・・・何でユウちゃんやねん」

「名前、ナカザワユウコだったよね?」

「・・・・・・・・・・そやけど」

「なら間違えてないじゃん。あたしイシグロアヤ。アヤっぺって呼んでよ」

 人好きのする、と言われる笑顔を向けてみても。
 ナカザワはやっぱり、無反応。

「アタシ、言わんかったっけ?」

「助けてくれたからってすぐに相手は信用せんほうがええで、でしょ?」

「わかってるんやったら」

「まぁいいじゃん。この前のお礼ってことで。ここ、奢らせてもらうよ」

 豪快にサンドウィッチをぱくつくイシグロに。
 ナカザワは少し呆れた視線。

「・・・・・・・・ねぇ、ユウちゃんって何処に住んでるの?」

 沈黙に耐え切れないわけでもないが。
 詮索する気もなかったが。
 また、この人、捜し歩くのは嫌だなぁ、というか。
 めんどくさい。

 率直なイシグロの質問。

「・・・・・・・遠く」

「真面目に答える気、ないでしょ?」

「そ〜ゆ〜わけでもないんやけど」

 そのまま。
 ナカザワは視線を遠くに飛ばす。

「んじゃ、今から何処に帰るの?」

「・・・・・・・・・・雇い主のとこ」

 薄い、笑み。

「帰らなあかんねんけど・・・・・・・」

 しんどいなぁ。

 言葉に出さずに終わったその一言。
 切なげな眼差し。
 イシグロはじっとその表情を見つめた。
447 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/30(木) 23:16
「恋人なの?」

「ちゃう」

 即答かよ。

 こっそり心の中で呟いて。
 イシグロは真面目な表情になる。

「でも、好きなんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 苦しげな、視線。

「・・・・・・・・アイツがいるから、アタシはここにいる。アイツにとってプラスになるんやったら
アタシは悪魔にでも魂、売る。それだけの話や」

 好きだ、とか。
 愛してる、とも言えない相手なわけね。

 やっぱり。
 それも口に出せない。

 あまりにもナカザワが辛そうで。

 観察しながら。
 あっという間にイシグロは目の前。
 サンドウィッチを食べきった。

「んじゃ、行こっか」

 ん?

 きょとん、とした視線。

 ほっておけるわけがない。
 こんな風に。
 誰かのことを想っている貴女を。

 それを何と呼べばいいのか。

 同情、なのかもしれないけれど。
 それもやはり。
 愛ゆえ、なのだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
448 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/30(木) 23:17
「・・・・・・・・・・・・・なぁ」

「ん〜〜?」

 気だるい、時間。
 イシグロはベッドの上。
 ナカザワに腕枕しながら。
 その細い身体を抱きしめた。

「アンタ、良かったんか?こんなん・・・・・・・」

「今更、何言ってんのさ?ユウちゃん、可愛かったよ」

「・・・・・・・・・なっ」

 一瞬で。
 ナカザワの表情が赤くなる。

「へへ」

 そ〜ゆ〜のも可愛い。

 そっと。
 イシグロはナカザワの唇を奪う。

「・・・・・・・・・もう一ラウンド、いっとく?」

「ええ加減にせぇ」

 ぽかり。
 頭をはたかれて。
 渋々イシグロはナカザワの身体から手を離し。

「んじゃさ、一個だけお願い」

「・・・・・・・・なん?」

 イシグロはブラウンの瞳を覗き込む。
 優しさと寂しさが同居したような。

「名前、呼んでよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「それだけで、いいから」

「・・・・・・アタシ、アンタのこと利用するで?」

 構わない。

 視線の強さ。
 イシグロの想いを伝える。

「・・・・・・・・アホやなぁ」
449 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/30(木) 23:17
 しみじみとした声音。
 イシグロはクスリ、と笑った。

「好きになったって言ったら、信じてくれる?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 何とも言えない表情。
 ナカザワはイシグロを見つめた。

「・・・・・・・・何でそんな顔、すんの?」

 そんな顔、させたいわけじゃないのに。

 イシグロの腕が。
 ナカザワをがっちりと捕まえる。

 強く抱きしめられて。
 その腕の中。
 ナカザワは眼を閉じた。

「・・・・・・・全部、アタシが悪いんやな・・・・・・いつかアンタのこと、泣かせてまうかもしれんけど」

 そっと。
 ナカザワはイシグロの背中に手を回す。

「信じるわ。ありがとな、アヤっぺ」

 名前を呼ばれた瞬間。
 涙があふれそうになった。

「何か今、ちょー幸せかも」

「・・・・・・・・お手軽な奴やな」

「それだけユウちゃんのこと、好きみたい」

「はいはい」

「も〜、信じてないっしょ?」

 がば。
 身体を起こすと。
 照れくさそうに笑うナカザワの顔。

 ・・・・・・・・・・・・やられた。

 イシグロは。
 そのままナカザワの横。
 ごろん、と横たわる。

「・・・・・・・・・さて」

 ナカザワが起き上がる。
450 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/30(木) 23:17
「・・・・・・・・・・帰るの?」

「うん」

 強い。
 しっかりとした視線。

 ・・・・・・・・・・傍にいてよ。

 そのセリフは喉の奥で止まる。

「・・・・・・・・そんな顔しな。また、会いに・・・・・・・って何処いきゃいいん?」

 ふむ。

 イシグロは首を傾げる。
 家・・・・・・というわけにもいかない。
 いつ帰るかわからない、というのもあるし。
 厳重な警備もあるし。
 何より。
 どこの馬の骨ともわからない人間をはいそうですか、と入れるようなとこではない。

「・・・・・・・・・王宮に来てよ」

 ナカザワの顔が微妙に浮かないものに変化する。

「アタシの部屋、地図、書くから」

「そ〜ゆ〜問題ちゃうやろ」

「抜け道も教える」

「あんなぁ」

「・・・・・・・・だって。これっきりにしたくない。逢いたいんだもん」

 服を身につける動作。
 いったんそれを中断して。
 ナカザワはベッドのイシグロに近づく。

「どうせユウちゃん、居場所教えてくれないんでしょ?連絡先とかも」

 ナカザワは困ったように髪の毛をかきあげた。

「結構、アタシ、居場所、転々としてるから・・・・・・・・」

「だから、それはいいから。会いにきてよ」

 ぎゅっと。
 イシグロはナカザワの身体にしがみついた。
451 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/09/30(木) 23:18
 王宮の抜け道、なんて。
 教えたのがばれたら。
 どうなるか、なんて。
 家自体に迷惑がかかるかもしれないのもわかっている。

 信じる根拠は。
 自分の五感。
 それだけしか、ない。

「『雇い主』さんの傍にいるのがつらくなったら、おいで?アヤっぺが癒してあげるから」

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 少しの間、ナカザワは考え込み。
 そして、しゃ〜ないな、と言った風に肩をすくめた。

「今日みたいに情けないのはもう見せんわ。・・・・・・・・アヤっぺに会いに行く、から」

「・・・・・・・今更かっこつけられても・・・・・・・」

「何か言うたか?」

 ギロリ、と。
 睨み付けられても怖くない。

「・・・・・・・・待ってるから」

「わかってるってかアヤっぺも準備しぃや。送ってくわ」

「・・・・・・・・・・ん〜」

「お使い途中、やろが?」

「キスしてくれたら、起きる」

 そっと。
 触れるだけの、キス。

 胸の奥に産まれた暖かい気持ち。
 今は、『雇い主』に全然負けていても。
 いつか。
 ちゃんと自分を見つめてくれればいいなぁ、なんて。
 ふわり、と。
 イシグロは笑った。
452 名前:(おまけ) 投稿日:2004/09/30(木) 23:19
ーーーーーーーーーーーーーーーー

 深夜の見回り。
 コツコツ、と。
 ナカザワは足音を響かせていた。
 探る、気配。
 不穏な空気の揺れは・・・・・・・感じる。

 ナカザワは眼を細めた。

 足音を消す。
 壁づたい。
 中庭を一望できる場所。
 ゆっくりと下を見下ろすと。

「・・・・・・・・・・・・?」

 見間違う、はずもない姿が。
 池のほとりにたたずんでいる。

「・・・・・・・・・・ヤグチ」

 そこからのナカザワの行動はさすが、というべきもので。
 やはり足音は消したまま。
 一気に中庭に近づく。
 勿論。
 他に人の気配がないかも確認しながら。

「あ、ユウコ」

 完全に殺したはずの気配。
 しかし、ヤグチはナカザワに気付いて。
 手を振ってきたり、なんて。

「こんな時間に何やってんねん?アホ」

「・・・・・・・・・だってさぁ」

 とりあえず。
 ヤグチの身体をマントで包み込む。
 そのまま、木陰に移動。

「今日ね、流星群が見えるらしいんだ」

 オイラの部屋、奥まってるから空、あんまり見えなくて。

 屈託のないヤグチの言葉を聞いて。
 ナカザワはがっくりと肩を落とす。

「だからってなぁ」

「誰かに言ったら反対されちゃうからさ」

 王宮が寝静まってから抜け出してきたのだろう。
 ヤグチの格好はシャツに短パンといういたってシンプルなもの。
453 名前:(おまけ) 投稿日:2004/09/30(木) 23:20
「風邪ひくやろうが」

 もう一度マントでヤグチの身体を包みなおす。

「・・・・・・・・・・ユウちゃんも一緒に見る?」

 どうやら。
 ヤグチの中では。
 見つかったから部屋に戻る、という選択肢はないみたいで。
 ナカザワはしょうがないなぁ、と。
 笑みを漏らす。

「今日だけやぞ?」

「うん」

 さすがに。
 さきほどまでヤグチがたたずんでいた場所はあまりにも回廊から丸見えすぎて。

「うわ、こんなとこあったんだ」

「とっておきの場所、や」

 まわりは木々で囲まれ。
 他のとこからは見えない。
 小さな広場。

「ユウコ、良くここ来るの?」

「たまにな・・・・・息抜き」

「昼寝でもしてんじゃねぇの?」

 ナカザワのバツの悪そうな顔を見て。
 ヤグチはケラケラと笑う。

「内緒やからな」

 きゅっと。
 ヤグチの手が握り締められる。
 そっと。
 見上げた先。
 空を仰ぐナカザワの横顔。

「・・・・・・・・・・・元気になったみたいで良かった」

「ん?」

 小さすぎる声。
 ナカザワは聞こえなかったのか、不思議そうな顔でヤグチを見下ろす。

「ん〜凄い綺麗だなぁって思って」

 誤魔化すように。
 ヤグチはナカザワの手を握り返して空を見上げる。
454 名前:(おまけ) 投稿日:2004/09/30(木) 23:21
「そやな。今日は何か・・・・・・いつもより綺麗に見えるわ」

 瞬く星の数。
 満天の星空。

「・・・・・・・・・あれがな、ミルキーウェイっつってな」

 牛乳を流したような白い、河。

「星がいっぱい集ってできてんねん。別名、天の川、ともいう」

「・・・・・・・オイラだって天の川くらい知ってるよ」

「んじゃあれは?北斗七星や・・・・・・おおぐま座の尻尾の部分やねんで」

「・・・・・・・・詳しいんだ」

「あ〜、場所確認すんのに森の中とかで便利やから」

 あ〜だこうだ、と。
 ナカザワは星の解説をしてくれた。
 机の上で見る、星の写真とは全く違う。

 そうこうしている間に。

「・・・・・・・・あ、流れた」

 一つ。
 流れ星。

 ふと。
 ナカザワが黙りこんだ。
 そのまま、空を見つめる視線。

「・・・・・・・・・流れ星に三回願い事言えたらさ、願い、叶うって言うじゃん」

「そやね」

「もし叶うなら、ユウコは何をお祈りする?」

 しばらくの、沈黙。

「・・・・・・・・ヤグチは?」

「・・・・・・・・・ユウコが無事でいるようにって」
455 名前:(おまけ) 投稿日:2004/09/30(木) 23:21
 今日。
 逢えたのは、偶然。
 でも。
 前、逢った時。
 凄く疲れた顔をしていたのが気になった。

「ユウちゃんには元気でいて欲しいなぁって。それお祈りしにきたんだ、オイラ」

 にゃはっと笑って。
 ヤグチは照れたように。
 ナカザワの腕をぱしっと叩く。

「何すんねん・・・・・・・痛いやん」

「・・・・・・ユウコは何お祈りするんだよぉ?」

「ん〜・・・・・・?」

 ナカザワは髪の毛をかきあげる。

「んじゃアタシもヤグチの無事と健康を祈るわ」

「・・・・・・・・・真似すんなよ」

 ははは。

 ナカザワの目元が。
 困ったように下がる。

「アタシ、欲張りやから」

 返事になってるのかなってないのか。
 そう言って。
 もう一度空を見上げたナカザワは妙に真剣で。

「何か、欲しいモノあるの?」

「・・・・・・・いっぱいありすぎて一つにまとめきれんわ」

「さいて〜」

 腕をパシパシ叩くと。

「ヤグチ、痛い、痛いって」

 ナカザワは笑った。

 そして二人。
 しばらく星空を。
 流れ行く星々を。
 並んで見上げていた。
456 名前:つかさ 投稿日:2004/09/30(木) 23:39
>>426さん
>いやいや本気度数95%だったんえすけど彩裕w
なら良かったです。今までも元カノが彩っぺという設定はあったんですが中々
深く掘り下げて書く勇気がなかったもんで・・・思いっきりスラスラ書けてる
のが楽しいですね。
>今日から出張でいやいや早起きしたんですけどw
お疲れ様です。
自分は今日面接でした。ま、ど〜なるかわかんないですけど(苦笑)

>>444 名無飼育さん
>心持ち若い姐さんの鬼畜ぶりwを楽しみにしています。
・・・・若さ故の鬼畜なのか・・・・違う気はしつつ(笑)
本編とリンクさせる部分はありますが、もう少し心持ち若い姐さんを堪能してください(笑)

連日更新と書いたんですが、ワンシーン増やしたいので明日の更新は微妙。
頭の中で誰かさんが姐さんとデートしたいと駄々こねてくれまして(苦笑)
今日の更新はここまで。
457 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/01(金) 16:31
彩裕〜!!
もう…最高です。
458 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:16
〜〜〜3〜〜〜

「・・・・・・・・何かそれ、さりげにノロケてる?」

「ん〜や」

 うつ伏せになったナカザワの返答はくぐもったもの。

「とてもそうは聞こえないんだけど?」

 ドスン。
 敢えて。
 ベッドのスプリングを軋ませるように腰をおろす。

 久々に顔を出したと思ったら。
 イシグロはため息をつく。
 月に何回かの逢瀬。
 ・・・・・・・・たまに、一ヶ月くらいまったく姿を現さないこともあったり。
 それはそれでしょうがないか、と言えるくらい。
 たまに姿を現したときのナカザワは責めるのをためらうくらい。
 痛々しいくらい疲れた表情を見せる。

「・・・・・・・・・拗ねとんの?」

「べっつに〜」

 余裕な笑顔が悔しくて。
 噛み付くようにキスをすると。

「やっぱ拗ねてるんやん」

 そんな声が聞こえたような、聞こえなかったような。

 イシグロは。
 ぎゅっとナカザワを抱きしめる。

 今回は、まだましな方。
 前は、一言もしゃべらず。
 そのまま二時間ほどイシグロのベッドで爆睡かまして。
 挨拶もそこそこにまた出て行った。

「・・・・・・・・・・・なん?」

「そんな雰囲気でも『雇い主』さんには手、出さないんだ?」
459 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:17
「・・・・・・・・・・・・」

 ふと。
 ナカザワは視線を遠くに飛ばす。

「・・・・・・・・・聞くよ?」

 そっと。
 ナカザワの瞼を閉じさせて。
 イシグロは、その耳元で囁く。

「あたし、そ〜ゆ〜の聞いたらもっと燃えちゃうからさ」

 だから、気にしないで。

「なら、何で眼、閉じさせるねん」

「・・・・・・その方がユウちゃん、話しやすいっしょ?」

 ナカザワが大事に想っている存在の話を。
 眼、見合わせたまま聞けるほど大人でもないけれど。
 そうじゃなかったら。
 パンクしそうになるくらい、自分の中に溜め込んでしまう気持ち。
 零すのを聞くくらいなら、大人でいれるから。

「・・・・・・・・・手、出したりアタシの気持ち伝えたら終わってまうから」

「何それ?首になるってこと?」

 ちょっとそれ、ひど〜くない?

 ナカザワが動くのはその人の為。
 無茶してるのは何となくわかる。
 それほどまでに尽くしてもらっておいて。

「しょうがないんや・・・・・・・傍にいるためには」

 ぽつり、と。
 それだけ言って。
 ナカザワは話は終わり、とばかり。

「シャワー浴びてくる」

 その後姿に。
 声をかけることはできなかった。

 イシグロはベッドの上。
 一つため息をつく。
460 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:17
 何度か話の中に出てくる『雇い主』さん。
 恋敵・・・・・・・のはずなんだけど。
 ナカザワの想い、が絶大すぎて。
 こっちを見て欲しい、と願う気持ちすら。
 かすむように思えてしまう。

 しばらくしてシャワーから出てきたナカザワに。

「ねぇ、デートしようよ」

 イシグロの声が飛んだ。

 はぁ?

 呆れたような視線。
 どう断ろうか、迷ってるような顔。

 それが見たくなくて。

 早口にイシグロは続ける。

「忙しいのわかってるし。無理して欲しくないとも思ってるけど」

 でも。
 証が欲しい。

 少しでも。
 好きだと思ってくれているのなら。

 ・・・・・・・・・・何故か、不安な心。

 ナカザワがまるで。
 ここからいなくなるような。

「・・・・・・・・・・・・わかった」

 そっと。
 ナカザワの手がイシグロの頭を撫でる。

 優しい感触。

 優しすぎるのが罪だと。
 貴女を見て、思った。
 子どもみたいな我侭なのに。
 笑って付き合ってくれるのは。
 その気持ちは、何?
 身体を重ねれば重ねるほど。
 不安が大きくなっていく。

 貴女を手に入れるためなら。
 どんなことでもする。
 貴女なしで生きていけないんじゃないか・・・・・・・・・。

 それは、危険な考えだから。
 イシグロはナカザワを更に強く抱きしめた。
461 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:18
ーーーーーーーーーーーーーーーー

『ごめん、半日しか無理や』

 あれからしばらく。
 そんな風にナカザワが言ってきて。
 それでも、嬉しかった。

「ねぇ、ここの店、見てみたい」

「・・・・・・・アンタ何軒回る気や?」

 昼までしか無理、というナカザワの意向により。
 朝一番。
 露店めぐりからはじめて。

「・・・・・・・・・ん〜?忘れた。あ、これユウちゃん、似合いそうじゃない?」

 イシグロが指差したのはシンプルなピアス。

「ん〜〜?」

「ユウちゃん、空けてたよね?」

 記憶にある限り。
 ナカザワのつけてるピアスはいつも同じで。

「・・・・・・・・あ〜このピアスか」

 ナカザワは少しだけ、困った表情を見せる。

「これは外されへんねん・・・・・ごめん」

「・・・・・・・・・・『雇い主』さんにもらったの?」

 微妙な間に気付いたのか。
 ナカザワはイシグロの額をでこぴん。

「アタシの守り石みたいなもん。産まれたときにお母さんからもらったから・・・・・・ま、伝承やね」

 そのまま。
 隣りのブレスレットを指差して。

「あ〜ゆ〜のアヤっぺ好きやろ?」

「え?何でわかったの?」

 無骨な。
 男物、とも言えなくもないようなデザイン。

「普段のアンタのアクセサリー見てたらわかるわ」

 ナカザワは笑う。

「すいません、これ下さい」

 イシグロにいるか、とも聞かず。
 ナカザワは店の中に入っていく。
462 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:18
「え?ユウちゃん」

 悪いよ。

 銀細工のそれは。
 中々に値が張るもので・・・・・・・イシグロですら、衝動買いは控えようかな、というレベルのもの
にも関らず。

「だってアタシ、給料もらっても使う暇、ないねんもん」

 悪びれない表情に。

 おいおい。

 喜ぶべきなのか、どうなのか。
 イシグロは微妙な笑顔を浮かべた。

 朝ご飯、兼、昼ご飯ということで。
 早めに入ったカフェテリアは。
 同じようなことを考えている人ばかりなのか、結構な混み具合。

「・・・・・・・・人酔いしそうや」

「ご飯食べない言い訳じゃないよね?まさかとは思うけど」

「・・・・・・・・・・・・」

 イシグロはため息をついた。

「子どもじゃないんだからさぁ、体調管理はしっかりしてよ」

「・・・・・・・・してるって」

「ここ、結構美味しいんだよ?騙されたと思って食べてみなよ。ね?」

 顔を覗き込むと。
 バツの悪そうな表情で。
 ナカザワはコクリ、と頷いて。

 あれ、あかん。
 これ、食べられへん。

 我がまま放題。
 何とかナカザワが気にいってくれたものを注文して。

「・・・・・・・ね、ユウちゃん。お持ち帰りにしてもらおっか?」

「何で?」

「人、多いしさぁ。い〜じゃん、イチャイチャできるとこで食べよう」

 ・・・・・・・・・イチャイチャできるとこって何やねん。

 ナカザワのツッコミをイシグロはスルー。

「すいませ〜ん」

 カウンターの奥に声を響かせた。
463 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:18
ーーーーーーーーーーーーーーー

「あ〜・・・・・ここか」

 イシグロがナカザワを連れてきたのは。
 王都の中でも比較的大きな公園。

「来たことある?」

「いや・・・・・・・・横は何回か通ったことあるけど」

 緑綺麗な芝生の上。
 ナカザワはごろん、と横になる。

 子ども連れの親子の姿が何組か見えるだけで。

「・・・・・・・・えぇとこやな」

 眼を細めて。
 ナカザワはそれを見つめる。

「うん。結構お気に入り、なんだぁ」

 買った食べ物の袋を開けて。

「こ〜ゆ〜所で食べると三割増でおいしいって言うじゃん」

 イシグロはニカっと。
 いい笑顔を見せる。

 マジマジとイシグロの顔を見て。
 一瞬、黙り込むナカザワ。

「あ、もしかして、今、あたしの笑顔にドキッなんてしちゃった?」

「・・・・・・・・・アホか」

 ぽかり。
 軽くイシグロをこづいて。
 ナカザワは照れ隠しか、注文した品。

「いただきます」

 一応、手を合わせ。
 一気にかぶりついた。

 美味しい、と評判の店だけあるのか。
 味付けがナカザワの好みにあったのか。

「うん、美味い」

「・・・・・・・あたしの、とらないでよ」

「いいやん。アタシ、普段から栄養不足やねんから」

「それ、自慢じゃないよね・・・・・・?」

「ん〜?同情ひいてんの」

「・・・・・・・ばっかじゃないの」

 呆れた視線。
 でも、やっぱり。
 勢いよく平らげるナカザワの姿に。
464 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:18
 ・・・・・・・・・何か、珍しいよねぇ。

 本気で感心しているイシグロが、いた。

「ねぇ、ユウちゃん」

 二人では少し多いかな、という量。
 全部食べきって。
 満足そうにもう一度芝生に寝転ぶナカザワの髪の毛をいじくりながら。
 イシグロは。
 ずっと聞いてみたかったことを、口にした。

「ユウちゃんってさぁ・・・・・・仕事、何やってんの?」

「・・・・・・・・・・あぁ?」

 見上げてくるブラウンの瞳。

「・・・・・・・・・・あたし、何かまずいこと、しちゃってる?」

 ナカザワは。
 口を開こうとしない。

「ユウちゃんの仕えてる人ってさ、こっちの国の人じゃないよね?」

 それは、確信。
 あまりにも不定期に現れるナカザワは。
 多分、ホームグラウンドは別のところにあるのだろう、と思わせるに充分で。

 イシグロは。
 さっき買ってもらったブレスレットを。
 太陽にかざす。
 銀色に綺麗な色を放つのに、眼を細めて。

「・・・・・・・・・答えてよ」

 その声は、重い。

「・・・・・・・・・・そうやっつったらどうすんねん?」

「聞いてるのはあたしだよ?」

「・・・・・・・・答えられへん」

 背けられる視線、に。
 イシグロはため息をつく。

「・・・・・・・騙すならさ、もうちょっと巧く騙してやろう、とか思わないわけ?」

「・・・・・・・あんまり思えへんなぁ」
465 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:19
 おいおいおい。

 今まで。
 よくもまぁ。
 こんな性格で生き抜いてきたもんだ、と。

「アタシを殺すか?・・・・・・・・・まぁはいそうですかって殺されてやる気はないけどな」

 頭を撫でるイシグロの手が止まったのを機会に。
 ゆっくりナカザワは身体を起こす。

「どうする?」

 何気ない、問いかけ。
 おもしろがってる、眼の光。

「・・・・・・・あたしがユウちゃん、殺せるわけないじゃん。所詮あたしは素人だし」

 初めて会ったとき、ナカザワに言われたセリフを。
 イシグロが拗ねたように言うと。
 ナカザワはクスリ、と笑みを漏らす。

 場にふさわしくない、もの。

「覚えとったんか」

「・・・・・・・・忘れるはず、ないじゃん」

 全部覚えてる、とまでは言い切れないけれど。
 ナカザワと出会ってから今まで一緒に過ごした時間。
 イシグロにとっては全部、全部、大事なもので。

「いつか」

 ナカザワの声は静かだった。

「アタシの大事なアイツが。他の誰かのもんになったら、アタシ、アンタにやったら殺されて
やってもええよ」

 風が、吹き抜ける。
 微妙な距離をとった二人の間。

「・・・・・・・や、違うな」

 イシグロが何とも言えない表情を浮かべているのに気付いているのかいないのか。
 ナカザワは。
 穏やかな表情を見せて。

「アタシのこと、殺して欲しい」

「・・・・・・・・・・何で」

「アタシ、それに耐えれるほど強くないもん」

 ナカザワは手元。
 草をちぎって。
 風に乗せる。
466 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:19
「もう、遠くない将来。・・・・・・・アイツはアタシじゃなく、他の誰かを選ばなあかんくなる。
アタシはそれを傍で見てたくない」

 ナカザワの脳裏に浮かぶのは。
 太陽みたいな笑顔。

『ユウちゃん』

 伸ばされた、手。

 肌身はなさず首からぶらさげているペンダント。
 写真を、入れた。
 
 花開くように、少女から。
 大人の女への変化を遂げようとしている彼女は。
 近いうち、有力な貴族と婚姻を結ぶだろう。

 考える、だけで。
 想像するだけで。

 胸が、ちぎれるように痛む。

「何であたしがユウちゃんの勝手な自己満足のために、ユウちゃんを殺さなきゃいけないわけ?」

「・・・・・・・・・・そやんなぁ」

 イシグロがナカザワを睨む。
 鋭い視線に。
 ナカザワは肩をすくめた。

「なかなかおらんねんなぁ、殺してやるって言ってくれる奴」

「いるわけないでしょっ?!」

 何処の世界に。
 憎からず想っている相手を殺せる人間がいるというのだろうか。
 ついでに言うなら。
 好意を持たれているとわかっている相手に、堂々と。
 別の人間を想ってます、なんてことを。
 至極普通に言ってくれる、その神経も・・・・・・わからない。

「まぁ、も〜ちょっと時間はあるからな。アタシ、まだ死ぬわけにはいかんねんけど」

 食べものの残骸。
 ゴミを拾い上げ。
 ナカザワはよっこらしょ、と立ち上がる。

「・・・・・・・アタシの仕事のことは教えれん。アタシが何者かってことも。何処で仕事してようが、
何してようがアヤっぺには関係ない」

 ・・・・・・・・・・・。

 ぐっと。
 イシグロは唇を噛み締めた。

「それが不満なんやったらもう、アヤっぺのとこには行かん」
467 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:20
 潔い、というか。
 執着しない、というか。

「・・・・・・・・・・・あたしのこと、ちょっとでも好きって思ってくれてる?」

 ん?

 ナカザワの眼を見ずに。

「もし、ちょっとでも好きだって想ってくれてるなら、それでいいから・・・・・・また、来て」

「・・・・・・・・・アヤ」

「今日は、楽しかった。ブレスレット、ありがと。大切にする」

 返事は、聞きたくない。

 それがわかったのか。
 ナカザワは何も言わず。

「わかった。・・・・・・・アタシも今日は楽しかったわ。ありがとな」

 下を向くイシグロの頭をぽんぽん、と叩くように撫でて。
 そのまま去っていく気配。

 買ってもらったブレスレットを腕にはめると。
 冷たい、感触。
 何故だか、泣きたくなった。

ーーーーーーーーーーーーーー

 あれから、数日。
 驚くほどあっさりと・・・・・・・ナカザワは、イシグロの部屋に、きていた。

『ちょっとはさぁ、迷う、とかなかったわけ?』

『好きか嫌いかって聞かれれば、アタシ、アヤのこと好きやもん』

 オンリーワンにはならんけど。

 そんなことをしれっと言ってくれた相手に。
 イシグロはため息をつくしかなく。

「普通、来るかなあ?」

「来て欲しくなかったん?」

 ベッドの上。
 珍しくナカザワが上になって。
 ついばむようなキス。

「え〜どうせなら『雇い主』さんの方よりアタシが良かったって言って欲しいわけよ、やっぱり」

 ・・・・・・・・ゲイン。

 いいムードにも関らず。
 ナカザワはイシグロの頭に拳を一つくれてやる。

「・・・・・・・ユウちゃ〜ん」
468 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:20
「自業自得や」

 あっさりと。
 イシグロの上からどくナカザワ。

「え、ちょ、待ってよ。そりゃないんじゃない?」

「少しは反省しぃ」

「え、してるって。無茶苦茶、したから」

「・・・・・・・・・適当に言うなや・・・・・・・」

 ため息をつくナカザワを。
 イシグロの腕が抱き寄せる。

「いいじゃん。あたし、ユウちゃんのこと、諦めるつもりないから」

 だから。
 『雇い主』さんが誰かのものになるまで待ってるから、なんて。

 大真面目で言えちゃうのだ。

「・・・・・・・性格悪いで」

「え、だって『雇い主』さんが誰かのものになったらユウちゃん、フリーなんでしょ?」

 ・・・・・・・・・そういう意味で言ったわけやないんやけど。

 ナカザワの呟きなど聞く耳を持たないらしいイシグロは。
 実に楽しそうに言う。

「どうせ死ぬんだったらさ、その前にあたしのこと見てくれてもいいじゃん」

 ナカザワはため息一つ。

「・・・・・・・・・物好きな奴やねぇ」
469 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/01(金) 23:21
 ナカザワがイシグロの首筋をペロリ、と舐める。
 そのまま行為、再開かと思いきや。

「え〜だって今、ユウちゃんあたしだけでしょ?」

「・・・・・・・・・?」

 イシグロの上。
 不思議そうなナカザワ。

「目立つとこに痕、つけてもさ、怒んないし。・・・・・・・気付いてなさそうだしさ。だから
『雇い主』さんともそういうことやってないんだってわかったし・・・・・・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・アンタ・・・・・・・・」

 ボカッ。

 今度は。
 容赦なくナカザワの鉄拳がイシグロに飛ぶ。

「い、痛い・・・・・・今の本気で痛いんですけど」

 涙眼になりながら。

 いいじゃん、可愛い独占欲じゃん。

 そうのたまうイシグロに。
 ナカザワはむっとした視線を向けて。
 はっと気付く。

「目立つとこってアンタ、まさか今日も・・・・・・・・」

「ちょ、ユウちゃ〜〜ん・・・・・・・・」

 洗面所にすっ飛んでいくナカザワを横目で見ながら。
 イシグロは。

 あ〜こりゃもう、続き無理だなぁ。

 なんて。
 妙に冷静に思ったりなんかするわけで。

「アヤ〜〜っ!!!」

 滅多に聞けないナカザワの焦りまくった声と、怒声。
 それにすら愛おしさを感じて。
 ベッドの中。
 イシグロは微笑んだ。
470 名前:つかさ 投稿日:2004/10/01(金) 23:30
>>457 名無飼育さん
>彩裕〜!!
>もう…最高です。
需要はあったみたいで何より、と一安心。
不思議なほどにあやっぺが暴走・・・暴走は中澤さんと矢口さんの専売特許
だったはずなんですが(w

だから書くの、止めれないんだよなぁ、と。
しみじみと思いながら今日の更新はここまで。

明日の更新はない・・・・かも。ちょっと予定がはっきりしないんですが(苦笑)
471 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 02:45
おぉ〜おぉ〜おぉ〜!!!
彩裕最高!!!!!
もうね、このままずーっと続いて欲しいくらいだね!うん。
472 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 09:47
やばいっす。彩裕すごくスキです
そしてすいません石黒さんに惚れました
473 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/03(日) 00:00
おいらもアヤっペに惚れました・・・
最高っす!!
474 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:08
〜〜〜4〜〜〜

 一ヶ月と少し。
 ナカザワが姿を見せない。

 王宮の自室。
 イシグロは頭を抱えていた。

「こ〜ゆ〜時にこそ、助けにきてくれてもいいじゃん」

 つい。
 口を突いて出てきてしまうのは、愚痴。
 何だかんだと言いながら。
 こういうことには滅法強い気がする、年上の彼女。

「何だかな〜」

 ベッドに倒れこむ。
 見慣れた、天井。

「ナッチ・・・・・・ナツミ様」

 今、どこでどうしているのか。

 唇を噛む。

 イシグロの仕える第一王女、アベナツミが行方不明になった。
 その第一報は、一ヶ月前。
 王宮をひそかに駆け巡った。

 陰謀に巻き込まれたのか、もしくは。

 内密に調査を行う、というために作られた調査機関は名だけのもの。
 まるで。
 アベの存在自体を無かったことにしたいかのような王室の動きに。
 イシグロは不信感を募らせていた。

 自宅待機、という命を下されたにも関らず。
 イシグロが王宮に残る道を選んだのは。
 それが主な理由で。
 時間が経てば経つほど救出の可能性は低くなるというのに、動かない王室。
 増してや、第一王子であるアベの弟がクローズアップされる段階において。
 もはやイシグロの我慢は限界だった。

 貴族の親の名を使い。 
 独自で調査を始めて二週間。
 遅々として報告はあがってこない。
 そして。
 王宮での冷たい視線。

 アベの失踪は、しくまれたものだ。

 そう思っても。
 証拠はなく。

 大きなため息をつく。

 と。
 その時。

 部屋をノックする、音が夜の静寂を破った。

「・・・・・・・・・・どうかしたか?」

 部屋に滑り込むように入ってきたナカザワの第一声。

「・・・・・・・・疲れてんか?」

 頭を撫でられる。

 よっぽどひどい顔をしてたみたいだ。
 イシグロはふぅ、と。
 一つ大きく息を吐いた。

「仕えるべき人がいなくなっちゃった」

 しばらくの、沈黙。

「・・・・・・・・守れなかった」
475 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:08
 独白のように呟かれたその言葉に。
 ナカザワは思案顔。

「いつからや?」

「一ヶ月、前」

 ナカザワはその言葉にも。
 あまり驚いた表情を見せず。

 ふ〜ん、と。

 肩をすくめて。

 部屋の外の様子を窓から窺う。

 その間。
 イシグロはこの一ヶ月のことを話し続けていた。
 話してどうなるものでもない、と。
 そう思いながら。

「・・・・・・・・・・まだ死んだって決まったわけやないやろ?」

 話が一段落、して。
 ナカザワが口を挟んでくる。

「もう一ヶ月だよ?」

 この二週間。
 バックの父親の権力、金を湯水のように使って。
 手がかりを捜し続けた。

 生きているのなら。

 何か、情報くらい出てきても。

「誰が企んだ、とかわからんのか?」

 イシグロは黙る。

「ってか・・・・・・王女おらんくなった割りには国、動揺してないみたいやな・・・・・・」

 ふと呟かれた言葉。
 イシグロはナカザワを見つめた。

「普通、国をあげて捜索、とかなりそうやのにな」

「・・・・・・・・王弟派の仕業だからよ」

 イシグロはゆっくりと口を開く。

「・・・・・・・・・・・もめとんか?」

「ちょっとね・・・・・・・でもまさかこんな強硬手段に出るとは思ってなかった」

「ふん」

 ナカザワは軽く鼻で笑うと。
 立ち上がり、もう一度、部屋の窓から外を眺めた。

「・・・・・・・・・生きてるのは生きてんちゃうかな」
476 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:09
「・・・・・・・・・・何でそう思う?」

 間髪いれずにイシグロが尋ねる。
 何か救いを求めるような声音。

「王族の暗殺は・・・・・・・割に合わん」

 ん?

 良くわからない、といった表情になるイシグロ。

「街に王女行方不明、の噂が流れてない。だいたい第一後継者が不審な死に方してみぃ・・・・・
国民は疑心暗鬼になる。次の王位継承者にたいしてな」

 ナカザワの口調は滑らかで。

「アタシならそんな危ない橋はわたらん。そやな・・・・・・例えば園遊会とかで事故に遭う、とかな。
許容範囲はその程度やな」

「・・・・・・・・んじゃ誘拐されて殺されてるってことはない?」

「アタシやったら薬漬けとかにしてそれでも、生かしとく。・・・・・・殺して死体がどっかで
見つかる方が後の処理が面倒や」

 ナカザワの眼が。
 一瞬。
 ほんの一瞬、冷酷さを湛える。

 イシグロは、拳をぎゅっと握り締めた。

「ユウちゃん・・・・・・・・・アナタ・・・・・・・・・」

 人を殺すことを何とも思ってないんじゃないか。

 さすがにその言葉を出すのはためらわれた。
 ゆっくりと。
 ナカザワの視線がイシグロを捕らえる。

「・・・・・・・・・・アタシが怖いか?」

「そんなんじゃない」

 怖いくらい。
 真剣で綺麗な顔。
 そこに浮かぶ笑みは。
 苦笑、と呼ぶべきものなのだろう。

「・・・・・・・・・・理由なしで人を殺したことはないで・・・・・・・・こっちから先に手、出したこともな」

 言い訳やな。

 ひょい、と肩をすくめ。
 ナカザワは立ち上がった。

「・・・・・・・・・ちょ、待ってよ」

「悪かったな、変な話して。帰るわ」

「変な話、先にしたのアタシじゃんっ!」
477 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:19
「そんなことを言ってるんやない」

 ナカザワの腕が、伸びる。
 強張る、身体。
 最終的な着地点は、イシグロの頬で。

 ナカザワは情けなさそうな表情を浮かべる。

「・・・・・・・身体、怖がってるやん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「アタシ、今までいろんな最低なこと、してきた」

 ナカザワは真っ直ぐにイシグロを見つめていた。

「雇い主に害をなす相手、暗殺したこともある。・・・・・・・・全部、アタシがしたことや」

 その口調はいつもの話し方と全く変わらない。

 ぐっ。
 イシグロは唇を噛み締めた。

「潮時や。もう、ここには来ない」

「・・・・・・・何で・・・・・・・っ!!」

「アンタの話は・・・・・・アタシに言っていいことやないやろ?」

 静かな口調。

「前、アンタ、言うたよな?アタシが隣りの国の人間やないかって・・・・・・その通りや」

 はっと。
 イシグロが息を飲む。

「アンタが今、話したこと。アタシは利用する。利用せざるを得ない情報やからや・・・・・・。
何でアタシがもうここに来ないっつったか。わかるやろ?」

 ・・・・・・・・・・・。

 イシグロの表情が硬くなるのを。
 ナカザワは黙ってみていた。
 使い慣れたポーカーフェイス。

「ちゃんと幸せになり。アンタのこと、想ってくれる人間と」

 ゆっくりと。
 イシグロの腕が伸びて。
 そして。
 止まる。

 ナカザワは満足そうに頷いた。

「・・・・・・・・後な、絶対王女、生きてるはずやで。捜し方がまずいんや」

「・・・・・・・・・・?」

「王弟派が絡んでるってことは資金、潤沢やねんから。近場ばっか見てたらあかん。意外と隣りの
国にもぐりこんでるとか、な。有り得ん話やない」

「・・・・・・・・ユウちゃん」

「その人を守りたいって思ったから、アンタはここにいてるんやろうが。生きてるにしろ・・・・・
もしかしたらもうあかんくても。最後まで責任持って見届け」

 その言葉が最後、だった。
478 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:20
 一人になった部屋。
 イシグロはベッドに。
 うずくまるように顔をつける。

『アヤっぺ』

 そう呼ばれるだけで、良かった。

 胸が、痛い。
 喪失感。

「・・・・・・・好きだよぉ」

 ナカザワは。
 最後までその言葉をイシグロに向けることはなかった。
 最初から最後まで。 
 ナカザワが見ていたのは。
 違う場所。

 それでも。

 傍に、いて欲しかった。

 立場や、状況。
 そんなものを超えて。
 自分だけを見ていて欲しい。
 想いがふくらみすぎて、しまった。
 心、奪われることを止めることはできなかった。

『ちゃんと幸せに、なり』

 悔恨があるとすれば。
 あんな風に言える人間が。
 好き好んで人を殺めていたはずが、ないのに。

 一瞬でも。
 ナカザワを怖い、と思った自分。

 ・・・・・・・・・・・・ナカザワがくれたヒント。

 考えなければ、という気持ちとは裏腹に。
 溢れ出てくる気持ち。
 涙が止まらない。

 ナカザワにとっても。
 イシグロにとっても。
 切ない、夜、だった。
479 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:21
ーーーーーーーーーーーーーーー

 辺境警備隊。
 朝方。

「ヘイケ隊長、ナカザワ隊長が・・・・・・・・」

 見張りの兵士がヘイケのテントにやってくる。
 のと同じくらい。
 何の前触れも無く。

「おはよ〜さん」

 ひょい。
 ナカザワがヘイケのテント。
 覗きこんでいた。

「・・・・・・・・・・・・・あの〜」

「いいやん、ちょっとくらい付き合え」

「朝、なんですけど?」

「爽やかな朝やなぁ」

 わざとらしいくらいのその態度。
 ヘイケは一つ、ため息をついた。

「・・・・・・・・いいんですか?」

 見張りの兵士が行ってしまって。
 ナカザワは強めの酒を手にしている。

「たまには、飲みたい気分や」

 苦笑いとともに、一気にグラスを空にして。

「ちょっとくらいは相談相手になってや」

 少しだけ弱気な表情。

「サヤカ、いるじゃないですか」

 気心しれた相手だから言える。

「ええやん、何か最近冷たいなぁ」

「冷たいのは姐さんの方でしょ?隣国の方にはちょこちょこ行ってるみたいやのに、こっちには
からっきし顔出してくれはれへんし」

 一瞬。
 ナカザワの眼が鋭さを増す。
480 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:21
「・・・・・・・・・・・」

 ひょい。
 自分用のグラスを取り出し。
 ヘイケはナカザワの前にグラスを出す。

「・・・・・・・・・・・・何かありました?」

 アタシはいい。

 そんな風に手を振って。

 笑顔を見せようとする、相手。

「無理せんでもいいですよ?」

 ん。

 コクリ、と頷いて。
 ヘイケのベッド。
 横たわる・・・・・・・・。

「あっちの国の王女が行方不明らしいわ」

 吐き捨てるような言葉。

「もめてるらしいなぁ」

 それだけ言って。
 ナカザワは手のひらで自分の顔を覆う。
 読めない表情。
 それでも。
 ナカザワが何も言わないのならば。
 それはそれでしょうがない、と思う。

「・・・・・・・・・・一時間だけ休ませて。んでもってこの辺の地図、用意しといてや」

「一時間って・・・・・・」

「昼から会議あるねん。出席せなまずい」

 いつ寝てるんやろ、この人。

 微妙にその答えを聞くのが怖い気がしつつ。
 ヘイケは言われたものを用意するために立ち上がった。

 そのままきっかり一時間。
 テントに向かったヘイケを迎えたのは比較的しっかりした顔つきのナカザワだった。

「前から科学者の行方不明、とか子どもの誘拐ってのが続いてたよな」

 用件から会話を切り出すナカザワ。
 ぐだぐだ何も言わず、ヘイケは頷く。

「さっき言ってた向こうの国のごたごたが関係してると?」

「ないっちゅ〜方がおかしいやろ」

 トントン。
 苛立たしげにナカザワの指が机を叩く。

「どっかの馬鹿が何か企んでそうや・・・・・・・・ここ、突破されたってことはないよな?」

「報告は聞いてないですね」

「辺境警備隊の守備ラインってどこまでや?」

 ヘイケはペンを持つ。
 書き記されたラインをナカザワは難しい顔で覗き込む。

「・・・・・・・・・ここまでちょっと調査、してもらえんか?」

「・・・・・・・・・・時間、かかりますよ?」

「守備ラインを拡大しろとは言ってない。使われてない廃屋・・・・・・何でもええ。何か妙な動き
ありそうなとこを調べて欲しいんや」
481 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:21
「・・・・・・・二、三ヶ月ってとこですかね」

「遅い。一ヶ月。内偵期間入れても二ヶ月以内や」

「・・・・・・・・・無茶ですよ」

「こっちにはサヤカ、頻繁に来させる。・・・・・・・・何かな、嫌な予感、するんや」

 ナカザワは髪の毛をかきあげる。

「隣国に入りすぎてたかもしれん。アタシ、しばらく王都で様子みるわ。・・・・・・調べたいことも
あるし」

「・・・・・・・・善処、します」

「何か変な動きあったらすぐに知らせて。反撃はOKやけどこっちからの攻撃は認めない、と。
それだけは全部隊徹底させといて」

「・・・・・・・・・はい」

 頷くと。
 大きくナカザワは伸びをした。

「っつ〜かめんどくさいなぁ、会議なんてぶっちしたい気分や」

「・・・・・・・・・姐さん」

「わかってるけどな。そういや、別れてきた」

 ん?

 ヘイケは首をかしげ。
 あぁ。
 合点がいったのか、頷く。

「向こうの国の方でしたよね?」

「ん〜」

「結構長かったんやないですか?」

「・・・・・・・・一年、くらいか?」

「珍しい、ですよね」

 情報を引き出すだけ引き出して。
 後はあっさりと「さようなら」。
 それがいつものナカザワの常套手段だっただけに。

「情、移ったんやないですか?」

「それができれば楽やってんけどなぁ」

 半分冗談。
 そしてもう半分は。
 けして冗談ではないことを。
 ヘイケは知っている。
482 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:22
 遠くを見ているようなナカザワの視線が。

 誰を想っているのか。

「ま、そればっかはしゃ〜ないですからね」

 誰を心の支えに生きるのか。

 それは、選べるものではない、から。

「・・・・・・・簡単に言ってくれるなぁ」

 ぽかり。
 殴ろうとして伸びてきた手を簡単に交わして。

「ま、これでも飲んでもう一頑張りしてきてください」

 コトン。

 カップをナカザワの前に置く。

「甘いのは好きやないの知ってますけど。どうせあんまり食べてないんでしょ?」

「・・・・・・・・・・・・ったく」

 ナカザワはそのグラスに手を伸ばす。
 山の非常食、というか携帯用食料。
 水分補給と栄養補給を兼ねてるそれは、普段なら飲めた代物ではないのだが。

「・・・・・・・・・ま、もう一頑張りも二頑張りもしてくるわ」

 軽く手をあげる。

「こっちも近々そっちに顔出しますわ。・・・・・・・国王にこっちの報告もしなきゃならないんで」

「ミッちゃん来るんか?」

「もしくはケイちゃん予定してますけど。最近、小競り合いが多くて、あんまり留守には
したくないんですよねぇ」
483 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 00:23
 お互い。
 多忙なのに変わりはないみたいで。
 
「・・・・・・ゆっくり酒、飲めるのいつになるんやろうねぇ」

「そう思うんやったらめんどくさい仕事、押し付けないでくださいよ」

「そうも言っとれんやろ?」

 二人でテントを出ると。

「あれ?ユウちゃん・・・・・・じゃないや、ナカザワ隊長」

「別に構わんで。アタシ、今、非番やし」

「・・・・・・・・んで何でこんなとこいてるのさ?」

 大きな眼。
 先ほどの噂の主、ヤスダが不思議そうな顔でナカザワを見る。

「昨日は来てなかったよね?」

「・・・・・・寝こみ襲われたんや」

「ミッちゃんあんまり驚いてくれへんかったから襲いがい、なかったわ」

「姐さん以外に襲われたんやったら驚きますけどね」

「何やねん、それ」

「誉めてるんですけど?」

「どこが誉めてるねんっ!!」

 キレのいい蹴りがヘイケに飛んで。
 ヤスダは二人の漫才に呆れ顔。

「ちょっとはまともに事情、話してあげようって気にならないわけ?私、これでも副隊長
なんだけど?」

「二大巨頭会議や。トップシークレットってことで」

 繋がれている馬。
 飼い葉と水がちゃんと減っていることを確認して。
 ナカザワは二人を振り返る。

「んじゃ、そ〜ゆ〜ことで。ドジ踏むなや」

 そのまま返事も聞かずひらり、と馬に飛び乗る。

 疾駆するその姿を見送り。

「・・・・・・・・・ちょっと体制、変更や」

 ヘイケの一言に。
 ヤスダは大きなため息で答えた。
484 名前:おまけ 投稿日:2004/10/05(火) 00:23
ーーーーーーーーーーーーー

 午後一番の会議を終えて。
 ヤグチがナカザワの姿を捜していた。
 会議が終わった瞬間、あっという間に姿を消して。

「サヤカ」

 頼りになるはずの近衛隊副隊長。

「どうかされましたか?」

「・・・・・・・ナカザワ隊長は何処へ?」

 微妙にイチイはヤグチから視線を外した。

「用事があるとかで・・・・・・今、何処におられるか、存じません」

 ヤグチはちら、と。
 周りの貴族。
 近衛兵に視線を向け。

 ま、しょうがないか。

 心の中の呟き。

「わかりました。ごめんなさい、お時間取らせて」

「いえ。それでは失礼致します」

 ぺこり。
 一礼してイチイは足早に去っていく。
 すぐにその周りを取り囲む近衛兵たち。
 そのまま。
 何言かイチイは指示を出し。
 一斉に散っていく近衛兵を見て。

 どうやらナカザワの不在は確からしい。

 ヤグチは首を傾げた。

 会議、ということで。
 昼からの授業は全て空いている。

「・・・・・・・暇じゃん」

 窓から外を覗くと。
 風がさざめく。
 綺麗な緑。

 ふむ。

 ヤグチの足はある場所へと向かった。

 そして。
 中庭の小さな広場。
 先客が、いた。
 マントを布団代わりに。
 頭からすっぽり被って。
 草の上で気持ち良さそうに。

「・・・・・・・・・・・・・・寝てる、よねぇ」

 聞こえるはずがない小さな声の呟きだったはずが。

 いきなり、マントが宙を舞った。

 そのまま。

「・・・・・・・うわ、ヤグチ・・・・・・やない、え〜とマリ様・・・・・・・・」

 剣がヤグチの首元に突きつけられていた。
 慌ててそれを引っ込めるのは・・・・・・ナカザワ。

「・・・・・・・ごめん、やない。え〜と申し訳ありません」

 まったく反応できなかったヤグチは。
 少しだけ不機嫌そうな表情になり。
 しどろもどろのナカザワを見て。
485 名前:おまけ 投稿日:2004/10/05(火) 00:24
 しょうがないなぁ。

 呆れた表情に変わる。

「サボり?」

「・・・・・・・・・うん」

 くはぁ、と。
 ナカザワは大あくび。
 本当に眠そうな、もの。

「昼からどっか連れてったっても良かってんけどな。もう、マジ限界で」

「・・・・・・・・自分の部屋で寝ればいいじゃん」

「あそこいたら来客ばっかりで寝られへん」

 がしがしとナカザワは髪の毛をかきあげて。
 敬語が使えてない、ことに。
 困ったように眉をひそめる。

「・・・・・・・・寝てないんだ?」

「・・・・・・・・ちょっといろいろあってな」

 何も言う気はなさそうなナカザワ。
 特に邪魔するつもりもない、けれど。

「オイラ傍にいてたら、駄目?」

「・・・・・・・・・駄目やないけど・・・・・・・・アタシ、寝るで?」

「うん。オイラ、日光浴したいから」

 結局。
 枕もなにもないのが寝づらそうで。
 ヤグチの膝枕。
 緊張、もなにもなく。
 ナカザワはすぐに眠りの世界へ旅立った。

 疲れてるんだ。

 心配そうに。
 ナカザワの前髪をそっと撫でるヤグチがいたことに。
 ナカザワは気付かない。
486 名前:つかさ 投稿日:2004/10/05(火) 00:31
>>471 名無飼育さん
>もうね、このままずーっと続いて欲しいくらいだね!うん。
すいません、とりあえずこの辺で本編とリンクさせます(汗)

>>472 名無飼育さん
>そしてすいません石黒さんに惚れました
惚れていただいて何よりです。結構自分も好きな人なんで・・・・目指すは
大人の雰囲気、です(笑)

>>473 名無飼育さん
>おいらもアヤっペに惚れました・・・
ある意味姐さんよりよっぽど男前です(笑)

昨日なっちのコンサート行ってきました。
一押しが変わるかもってなくらい楽しかったです。
今日の更新はここまで。
487 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/05(火) 09:24
更新お疲れ様です。
今回は久々に懐かしい方々が・゚・(つД`)・゚・

488 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 23:09
〜〜〜5〜〜〜

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 手にした数枚の報告書。
 王宮ではなく、家の自室。
 イシグロはそれを睨みつけていた。

「・・・・・・・・・・・・ユウ、ちゃん」

 零れるのは。
 三ヶ月ほど前。
 別れたきりの、人。

 もう二度と会うことはない、と思っていたのに。
 思いもかけない、再会。
 ・・・・・・・・・・書面上、だが。

『隣国王宮警備隊 近衛隊隊長 ナカザワユウコ』

 二枚ほどに渡る詳細な記述。
 そこには。
 ナカザワがアベナツミを助けたこと、アベを逃がすために降格されたこと、現在は近衛隊の
隊長の任務を解かれ、辺境警備隊に勤務している、そう言った記述で埋められていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 同姓同名の別人、とは考えられなかった。

「・・・・・・・・・・何で」

 机の上。
 イシグロは肘をつき。
 額に両手をあてた。

『・・・・・・・・・手、出したりアタシの気持ち伝えたら終わってまうから』

『しょうがないんや・・・・・・・傍にいるためには』

 やっと、わかった。

『・・・・・・・全部、アタシが悪いんやな・・・・・・いつかアンタのこと、泣かせてまうかもしれんけど』

 雇い主さん=王女、だったから。
 ナカザワはあそこまで頑なに。
 想いを一人で背負おうとしていたのだろう。

「・・・・・・・・・・・何で」

 手が、震える。
 ぽたり、ぽたり、と頬を伝う雫。

 あの時。
 泣けるだけ泣き尽くした。
 そう思って。
 イシグロは行動を起こした。
 王女を。
 仕える相手を理不尽に奪われた憤り。

『生きてる』

 それだけを信じて。

 もう一度徹底的に捜索、させた。

 そして。
 隣国から脱出してきたアベと再会した。

『ナッチが国を統治する』

 数ヶ月前の幼さからは考えられないほど大人びた表情をするようになっていた。
489 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 23:09
 何がそうさせたのか。
 アベの口から漏れたナカザワユウコ、という名前。
 助けてもらった、と。
 アベはそう言った。
 信じれなくて。
 再度、調査した。

「・・・・・・・・・・・・・・・反則じゃん」

 何故、ナカザワがアベを助けたのか。
 書類には載っていない。

『・・・・・・・・・女に手、上げるの嫌いやねん』

 初めて出逢った時のセリフ。
 それが真実なら。
 『雇い主』を裏切る行為を・・・・・・・・ナカザワが取るとも思えないが。
 ただ。
 降格。
 近衛隊の隊長の任務を解かれ、辺境警備隊に勤務している事実。

 苦しさが、胸をよぎる。

「・・・・・・・・・逢いたいよ」

 自分を裏切っていた。
 そんな想いよりも。

「何で・・・・・・・・・・」

 途切れることなく、零れつづける、涙。

 全部、封印したはずだった想い。
 振り向いてくれないなら。
 手に入れることができないなら。
 手放してしまいたくなるほどの、想い、だったから。

 忘れること、なんて。
 捨ててしまうこと、なんて。
 できるはずがない。

ーーーーーーーーーーーー

 トントン。
 一拍の間をおいて、トン。
 深夜。
 部屋をノックする音に、イシグロは眼を開けた。

 ・・・・・・・・・・え?

 空耳か、と思って。
 ベッドの中。
 耳を澄ます。

 もう一度。

 トントン。
 一拍の間をおいて、トン。

「・・・・・・・・・・・っ?!」

 誰か、なんて。
 鍵を開ける手が、震えた。

「・・・・・・・・・・・久しぶり」

 ドアが開いた瞬間。
 素早く滑り込んできた人物、なんて。

「・・・・・・・・・・・ユウ、ちゃん・・・・・・・・・・・」
490 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 23:09
 声までも、震える。

「・・・・・・・・・元気そやな。部屋、変わってなくて良かったわ」

 照れくさそうな笑みは。
 別れたときから何も。
 変わって、ない。

「・・・・・・・・・・・・っ!!」

 イシグロは。
 ナカザワを抱きしめていた。
 頭一つ分、低い位置。
 変わらない、匂い。

「・・・・・・・・・・アヤっぺ・・・・・・・・・・」

 首筋に冷たい雫を感じて。
 ナカザワは眼を閉じた。
 ただ。
 その手がイシグロの背中にまわることは、ない。

「聞いて欲しい話、あるんや」

 ゆっくりと。
 イシグロがナカザワの首筋から顔を上げる。

 そのまま。
 机に向かい。
 その引き出しから。
『隣国王宮警備隊 近衛隊隊長 ナカザワユウコ』
 その書類を、ナカザワに突きつけた。

「知ってたんか」

 ほのかな月明かり。
 ナカザワの表情は、変わらない。

「・・・・・・・・・何で、ナッチを・・・・・・ナツミ様を助けたの?」

 ナカザワは言葉を探すように黙る。

 一拍の、間。

「アタシの大事な人がそれを望んでたからや」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・。

 イシグロの眼が、大きく見開かれる。

「その子のことを、好きやから。愛してるから、そうした」

 パッシ〜〜〜ンっ!!!

 イシグロの手に握られていた書類が、ナカザワの頬を打ち宙を舞った。

「・・・・・・・・何よ、それっ!!!」

 胸倉を掴みあげていた。
 全く抵抗しようとしないナカザワ。

「その子が・・・・・・・ナッチのことを友達やって言った。だからアタシは」

「馬鹿にしないでよっ!!!」

 ドン、と。
 突き飛ばすと、ナカザワの身体はよろめく。

「その子と幸せになるって報告にでも来たってわけ?・・・・・・・ふざけてんじゃないわよっ!!」

 肺活量いっぱいいっぱい。
 本気で怒鳴りつけていた。
491 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 23:10
「・・・・・・・・・・・違う」

 真っ直ぐな、本気な眼が。
 イシグロを貫く。

「ナッチと共同戦線貼りたいんや・・・・・・・・ナッチの部屋、教えてもらわれへんか?」

 かっと。
 頭が白くなった。

 バキっ。

 3発目までは覚えてる。
 無抵抗のナカザワを。
 イシグロは殴りつけていた。
 ふと気付くと。
 ナカザワは床に倒れている。

「頼めた義理やないってわかってる。・・・・・・でも、ナッチがこっち戻ってきたってことは
そういうことやろうが?ナッチは王弟派と戦うつもりなんやろ?」

「・・・・・・・・頼めた義理じゃないってことはわかってるんだ?」

 床に倒れたままのナカザワに圧し掛かり。
 首を締めることはたやすいことだった。

「・・・・・・・・・・結果的にアンタの主を助けたのはアタシや・・・・・・・・その礼がこれか?」

 ぎっ。

 鋭い視線が、床に転がったナカザワを射抜く。

「ずるい言い方かも知れん・・・・・・けど」

 そこまで言って。
 不意にナカザワは起き上がった。
 ダメージを感じさせないほど敏捷な動き。
 窓に近寄り。
 カーテンをめくる。

 小さな舌打ち。

「・・・・・・・・・あかん、ばれた」

 え?

「兵士が動いてる」

 そう言われてみれば。
 耳を澄ますと。
 聞こえてくる、ざわめき。

「・・・・・・・・・・・・・これが最後や。利害関係は一致してる、と思わんか?アタシのことが憎いのは
わかる。だから、ナッチのために教えて欲しい。ナッチに悪いようにはせん。それだけは
約束するから」

 ・・・・・・・・・・・・。

 無言のまま。
 ナカザワを睨みつけるイシグロを見て。
 ナカザワは軽くため息をついた。

「・・・・・・・・・わかった」

 そのまま。
 扉に向かおうとするナカザワ。

 ・・・・・・・・ガンッ。

 嫌な、鈍い音。

「右隣、だよ。ナッチの部屋は」

 扉にナカザワを押し付けて。
 イシグロは囁いた。
492 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 23:10
「でも。もう一回でもあたしの前に顔、出したら」

 一つ、呼吸。

「あたしは貴女を殺す」

 そのまま一気に飛び下がる、イシグロ。

「・・・・・・・・・本気だから」

 軽くナカザワは頷いた。

 ・・・・・・・・・・・・ありがとう。

 届くか届かないかの呟きに。
 イシグロは。
 眼を閉じて。
 去ってゆくその背中を、けして見ようとはしなかった。

ーーーーーーーーーーーー

「派手にやられましたね」

 消毒薬の匂い。
 顔につけられて。
 ナカザワは顔をしかめる。

「痴話喧嘩、ですか?」

 おもしろそうに顔を覗き込んでくるのは。
 日頃苛められてる仕返しか。
 ヘイケは実に楽しそうだ。

「・・・・・・・・・そんなんちゃう」

「痴話喧嘩で拳飛ぶって話はあんまり聞いたことないですけど」

「・・・・・・・・うっさいわ」

「ヤグッちゃん来るまでに、治るといいですねぇ」

 ベッドの上。
 ナカザワはくるり、と。
 ヘイケから顔を背ける・・・・・・要するに寝返りを打った。

 だいたい。
 昨日ヤグチが来てないのを知ってて。
 痴話喧嘩も何も、あったもんじゃない。
493 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 23:11
「・・・・・・・アンタ、性格悪いで」

「鍛えられてますから。・・・・・・誰かさんのお陰で」

 嫌味の一つでも飛ばしたいところだが。
 いかんせん。

 アヤ・・・・・・・マジ殴りしやがったな・・・・・・・・。

 それをさせたのは一体誰なんだ、と。
 イシグロが聞いたら再び鉄拳が飛ぶこと間違いなし、のことを考えながら。
 ナカザワは身体を丸める。

「・・・・・・・・・ほっとけ」

 何か。
 言われるかと思ったが。
 ヘイケはぽんぽん、と。
 ナカザワの肩を叩いて。
 そのままテントを出て行った。

 ナカザワは眼を閉じる。

『ごめん』

 そのセリフを口にしなかった自分を。
 少しは偉い、と思う。

 そして。
 誤魔化しや嘘ではなく。
 真実を伝えられたこと。

『・・・・・・・・・何で、ナッチを・・・・・・ナツミ様を助けたの?』

 ずっと。
 イシグロがナカザワのことを待ってた、ということを。
 否が応でも突きつけられた。

 震えていた、手と声、身体。

 好きやった。

 伝えなかった、ナカザワの偽らざる本心。
 好きじゃなかったら。
 あんな風に長く続けようとも思わなかっただろうし。
 もっと効率良く。
 こんな風にボコボコにされる道なんて、選ばなかった。

 本気の気持ちに。
 できるだけ。
 今の自分にできるだけの本気で応えたかった。
 それがこの結果。

 だから。

「・・・・・・・・ごめんな」

 贖罪の言葉がナカザワの口から零れ落ち。
 静かにナカザワは眠りの世界に引き込まれていった。

ーーーーーーーーーーーーーー
494 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 23:13
「・・・・・・・・・ったく、ど〜してくれよう・・・・・・・・・・」

 家の自室。
 王宮のそれより。
 何倍も大きな部屋で。
 イシグロは拳をぶるぶると震わせていた。

「ほんっきで次あったら殺すくらいじゃ済まさない」

 眼に浮かぶのは。
 紛れもなく、殺意。

 ナカザワがイシグロの部屋から姿を消すと同時くらいに現れた衛兵たち。
 イシグロの部屋から起こった大声と。
 乱闘の物音に駆けつけてきた、と。
 職務に忠実なのはいいことなのだが。

 イシグロとしては。

『気のせいだ』

 との言い分を信じて欲しかった。

 ま、結局。 
 部屋の中の荒れた模様。
 暗い中では気付かなかったが、殴られたナカザワの血痕。
 ・・・・・・・・・何もなかった、気のせいだ、で衛兵が納得してくれるはずもなく。

 アヤ様が暴漢に襲われたーーーーーーーなどと。

 ご丁寧に家の方に連絡してくれて。
 強制連行。
 イシグロは王宮から家に連れ戻されていた。

「・・・・・・・・だから、別に何もなかったんだって」

 勤めて冷静に。
 イシグロは両親を説得する。
 難しい顔をして。
 イシグロの前のソファーに腰をおろしている父親。
 どこかおろおろした表情でそれを見ている母親。

「・・・・・・・・お前の言い分はわかった」

 重々しく。
 父親が頷く。

 ほっと。
 イシグロが安心した表情を見せたのも束の間。

「今週末、見合いをセッティングしておく。・・・・・・・・・逃げるんじゃないぞ」

 ・・・・・・・・・・・この、馬鹿オヤジ。

 ぐっと。
 イシグロは机の下。
 拳を握り締めた。
495 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 23:13
「最近のお前の生活ぶりを聞いた。・・・・・・・・・好きな奴がいるのか?」

 まさか、そんなことを言われるとは思わなくて。
 イシグロは、動揺した表情を隠せなかった。

「どこの馬の骨かわからんがな。きっちり別れておけ」

「・・・・・・・・・何を勝手な・・・・・・・」

「勝手なことをしてるのはどっちだっ!!」

 父親の怒声。

「今の状況をわかってないとは言わせないぞ?お前がナツミ様に肩入れしてるのはどこの貴族でも
知っていることだ・・・・・・・そして今の王宮の状態もな」

 唇を噛んだまま。
 イシグロは何も言えない。

「有力な貴族の御曹司がお前を是非に、とおっしゃってくれているんだ。お前がナツミ様の味方に
つくのであれば、全面的にバックアップする、と」

「・・・・・・・・あたしは・・・・・・・っ!!」

「断る、というのならば、お前が付き合ってるという相手を今すぐここに連れて来い。ここに
顔を出せる度胸が少しでもあるのであれば認めてやる」

 ・・・・・・・・・・・・・。

 イシグロは俯いた。
 ・・・・・・ナカザワをここに連れてこれるはずが、ない。
 そして。
 そもそも最初から。
 ナカザワと付き合っているわけではなかった。

「・・・・・・・・・お前にそんな表情をさせる相手がお前を幸せにできると私は思わない」

 静かな、父親の声。

「断るには惜しい、いい縁談だ。その御曹司はお前のことを本気で想ってくれている」

「・・・・・・・・・・あたしが」

 下を向いていた視線が。
 上を向く。
 イシグロは。
 真っ向から父親の眼を睨みつけた。
496 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/05(火) 23:14
「あたしが好きになった人は、どこかの馬の骨なんかじゃない」

「・・・・・・・・・・アヤ・・・・・・・・」

「あたしが勝手に好きになったの。だから、知りもしないのに、そんなこと言わないでよ」

 いつの間にか。
 溢れ出していた涙。
 それを見て、父親も母親も驚いた表情を見せる。

 たかぶった気持ちを。
 必死にイシグロは押し殺す。

「・・・・・・・・・・・もう、一生、逢うこともないから。見合い、受けます」

 やっとのことで。
 その言葉を口から押し出す。
 そのまま。
 部屋を飛び出したイシグロを。
 複雑な表情で父親と母親は見送った。

「・・・・・・・・やはり、王宮などに仕えさせるのではなかったな」

 仏頂面の父親。
 子どもが可愛くない、わけもなく。
 妙な噂を聞いたから。
 その牽制、の意味も込めた見合い話、だったのだが。

「親が知らぬまに成長するものですよ」

 母親の声。

「しかし・・・・・・・どうしたもんかな」

 滅多にない、娘の涙。

「・・・・・・・・見合いさせましょう」

 ふむ?

 不思議そうな父親に。

「辛い恋を忘れるには新しい出会いが必要です」

 断言する母親は。
 限りない慈愛を込めて娘が飛び出していった扉を見つめていた。
497 名前:つかさ 投稿日:2004/10/05(火) 23:24
>>487 名無飼育さん
>今回は久々に懐かしい方々が・゚・(つД`)・゚・
楽しいんですけどねぇ・・・・懐かしい方々を書いてると。
・・・・しかし。
続編を思いつかない、思いつけない最大の要因はこの人たちだったりします(苦笑)

まぁあともうちょっと。
・・・・なんですが。
バタバタしててストックが底を尽きました。
何とかできると思ってたんですが・・・結構唐突に転職が決まりまして。
ちょっと更新ペース遅くなるかも・・・申し訳ありません(汗)
今日の更新はここまで。
498 名前:まんちょび ◆Z7BFbOnI 投稿日:2004/10/06(水) 01:31
乙です
ほんと懐かしい
499 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/06(水) 17:35
あやっぺ〜…。
姐さん、なんて罪作りなお人なんだw
500 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 23:15
( ´D`)<500れす。もっとがんばって
501 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:40
〜〜〜6〜〜〜

 地下迷宮から抜け出して。
 一週間、ちょっと。
 何とかヤグチと仲直りして。
 それでも、時々疑惑に満ちた視線が飛んでくるのは自業自得、と諦める術も身につけた。
 そして。

『あ〜・・・・・・・・イシグロ侍女長、何処いてるかわかる?』

『・・・・・・?多分自室においでになると思いますよ』

 ナカザワは。
 イシグロの部屋の前。
 小一時間ほどたたずんでいた。

 扉のドアを開ける勇気が・・・・・・今ひとつ。
 いや・・・・・・今三つくらい。
 沸いてこない。

 こんだけ待って出てけえへんっちゅ〜ことはここにはおらんのちゃうかな?

 いや・・・・・・・でも、ここで帰ったら・・・・・・・。

 アタシのせいでヤグチが苛められたら嫌や。

 などと。
 頭の中はぐだぐだと。
 しょ〜もないことを考えつづけ。

「・・・・・・・・・・はぁ〜〜〜」

 うなだれるナカザワの後ろ。
 コツコツコツ。
 足音が、止まった。

「・・・・・・・・・・あのさ」

 うん?

 何気なく振り返ったナカザワは。
 凍りつく。

「あたしの部屋に何か用?」

 妙に笑顔。
 しかし。
 眼は、決して笑っていない・・・・・・・・。

「・・・・・・・・いや、部屋に用事なんやなくて・・・・・・・・・」

「そんなことわかってるわよ」

 不機嫌そうに。
 イシグロは鍵を取り出し。
 部屋のドアを開ける。

「入ったら?何か話あって来たんでしょ?」
502 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:40
 とりあえず。
 うながされるまま、部屋に足を踏み入れ。
 ナカザワは立ち止まる。

 ・・・・・・・・・・・・あかん。胃、痛くなってきた。

『もう一回でもあたしの前に顔、出したら。あたしは貴女を殺す』

 本気の言葉だ、と。
 百も承知の上で。
 何故かアベの下で働くことになってしまった・・・・・・・・・。

 すっかりあれを忘れてました、とは。

 さすがのナカザワも言えず。

「それで、何の用?」

 怒ってるような。
 冷たい視線。

 ・・・・・・・・・・・やっぱ怒っとるよなぁ・・・・・・・・。

 ナカザワは。
 覚悟を決めて。
 腰から長剣を抜いてイシグロに差し出す。

「・・・・・・・・・・・何の真似よ?」

「・・・・・・・・・・殺されてやるわけにはいかんねんけど」

 ヤグチと約束したから。

 それはまぁ。
 敢えて言わず。

「一太刀くらいやったら・・・・・・・我慢しよかなぁって」

「・・・・・・・・・・・」

 イシグロは頭を抱える。

 この人の思考回路はどうなっているのだろう。

 大きなため息に。
 ナカザワは首を傾げる。

「・・・・・・・・・・一太刀で殺される、とか思わないわけ?」

「ん〜〜?」

 きょとん、とした表情を見せるナカザワ。

「・・・・・・・・・・・っ!!」

 ナカザワの手から。
 剣を奪い。
 イシグロが剣を振り上げたのは、一瞬の出来事で。

 そして。

 ナカザワの身体が反応したのも、一瞬だった。
503 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:41
 イシグロの懐に飛び込み。
 手をねじりあげて、背後に回る。
 そのまま膝に一撃。
 耐えかねたように剣を離して崩れ落ちるイシグロをそのまま押さえ込み・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・あれ?」

「・・・・・・・・・・・・・」

 首を曲げて。
 イシグロはナカザワを睨みつける。

「・・・・・・・あ〜・・・・・・・・ごめん・・・・・・・」

 慌てて。
 ナカザワはイシグロの身体を引き起こす。

「こ〜なるとは思ってたけどさ」

 とりあえず。
 椅子を勧めて。
 イシグロはお茶を煎れに立ち上がった。

「・・・・・・・・アヤっぺ。怒っとる?」

「別に」

 ナカザワに背中を向けているイシグロが。
 どんな表情をしているのか、読めず。
 ナカザワは困った顔でその背中を見つめる。

「本当に、怒ってないよ」

 零さないように。
 注意してテーブルの上にグラスを置いて。
 イシグロは苦笑いを浮かべる。

「・・・・・・・あの時、さ」

 どの時を指すのか。
 ナカザワの不思議そうな表情には気付かないふりで、イシグロは続ける。

「殴られっぱなしだったのはあたしに少しは悪いことしたなぁって思ってたんだなってわかった
から。もう、いい」

「・・・・・・・・・・・アヤ」

「だいたいねぇ。兵士が剣向けられて無防備で突っ立ってられたら、あたし、そっちの方に
別の意味で感心するわよ?」

 よくもまぁ、今まで生きてこれたもんだ、と。

 もしくは。
 どれだけ相手のことを信用しているかの、裏返しで。

「・・・・・・・・ヤグチマリ。こんな形で会うとは思ってなかったわ・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

 ナカザワの視線が。
 真剣みを帯びる。

「やめてよ」
504 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:41
 イシグロは本気で嫌そうに。
 首を振った。

「喧嘩したいわけじゃないわよ」

 ナカザワの本気くらい。
 誰絡みでそうなるのかも。
 良くわかっている、つもりで。

「・・・・・・・あたしね、結婚したんだ」

「・・・・・・・・・・・・・」

 ナカザワの視線が。
 少しだけ、揺れる。

「・・・・・・・・・何も言ってくれないの?」

「や。そ〜ゆ〜わけでもないけど・・・・・・・おめでと、でいいんか?」

 ゆっくりと。
 イシグロはナカザワの傍に立つ。
 手を、伸ばす。
 ナカザワは、逃げなかった。

「・・・・・・・・・・・・アヤ」

 引き寄せられて、そのまま、腕の中。

「・・・・・・もうね、こんなこと出来ないって思ってた」

「アタシは・・・・・・・・・」

「ユウちゃんが、あたしのこと裏切ってたんならあたしもユウちゃんのこと裏切った。
それでフィフティフィフティじゃ、駄目?」

「・・・・・・・・・アンタはアタシを裏切ったわけやないやん」

 ナカザワの手が。
 イシグロの背中に回ることは、ない。

「・・・・・・・・・・・・・・・裏切ったよ。だってあたし、ずっと」

「あかん」

 とん。
 イシグロの胸を突く、腕。
 ナカザワはするり、と。
 イシグロの腕から抜け出した。

「それ以上言ったら・・・・・・・・」

「あたしはずっとユウちゃんが好きだった」

 イシグロの視線が。
 ナカザワの視線を捕らえる。
 離さない。

 息苦しくなるほどに、静まり返った空間。
505 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:42
「・・・・・・・・・・・あたしのこと、利用してよ。お互い遊びだって割り切ったら」

「あかん」

 ナカザワは首を横に振る。

「アタシはアイツが大事やねん・・・・・・・・世界中の誰よりも」

 もう。
 出逢った頃のように、苦しくないんだね。

 ナカザワは真っ直ぐに、イシグロに向き合っていた。

「だから」

 そのとき。
 部屋のドアがノックされた。

 控えめな、音。

「・・・・・・・・・・・・はい」

 そのまま。
 カチャリ、と開くドアの向こう。

「あ〜アヤっぺ、ユウちゃんこっち来てない?」

 顔を覗かせたのは。

「「・・・・・・・・・・ヤグチ」」

 ナカザワとイシグロの声が重なる。

 少しだけ。
 ナカザワの姿を見て。
 驚いたような、そしてそれが当然のような表情。
 ヤグチはドアを開けたまま、しばらくそこで考え込む。

「・・・・・・・・・ちょっと話、してただけだよ。ユウちゃんに用?」

「用ってほどでもないんだけど・・・・・・・姿見えなかったから。そしたらアヤっぺの部屋じゃないか
って言われて」

 イシグロからの問いかけに答えて。
 不安そうな眼差しがナカザワに飛ぶ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ナカザワは髪の毛をかきあげた。

「ずっと騙しててごめん。それだけ言いたかったんや」

 ナカザワはイシグロを一瞥して。
 ヤグチの横を素通り。
 部屋の外に出て行った。

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 無言でそれを見送るヤグチとイシグロ。

 パタン。

 ドアが閉まる。
506 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:42
ーーーーーーーーーーーーーーーー

 残された、二人。

「ヤグチは行かないの?」

 少しだけ。
 疲れたようなイシグロの声。
 ヤグチは部屋の入り口にたたずんだままだった。

「・・・・・・・・・・・オイラに何か話したいこと、あるんじゃないかと思って」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 ふむ。

 イシグロは黙ってヤグチを見つめた。

 アベが。
 ヤグチを連れてきたときは驚いた。

『ナッチの侍女・・・・・として働いてもらうつもりなんだけど・・・・・・アヤっぺ、いいかな?』

 ナカザワが王宮に運ばれた時から気付いていた、ヤグチの身元。
 ナカザワを。
 心配そうに覗き込むその位置に。

「・・・・・・・・あたしが今、言えるのは愚痴だけだからさ」

 場慣れしてる、というかなんというか。
 ヤグチの適応能力はイシグロの予想以上、だった。
 勿論。
 慣れない仕事。
 怒られるのも人一倍だが。
 それを補う余りあるパワー。

『アヤっぺ〜』

 仕事の時はさすがにそう呼ばないものの。
 ナカザワが目覚めるまで。
 ヤグチは時々何故か。
 教育係として一番一緒にいる時間が長いイシグロの所に遊びにきた。

 寂しそうな表情を隠さずに。
 窓の外を眺める姿。
 全く似ても似つかないけれど。

 ナカザワとだぶった、その雰囲気。

 あぁ、と。

 諦めにも似た気持ち。

 ナカザワは手に入れたのだ、と。

 納得する理性と相反する感情。

「・・・・・・・・・・・今は、ヤグチに何も話す事はない・・・・・・・・・・ごめんね」

 大人の仮面を被って。
『お姉ちゃんみたい』
 そう言って笑ってくれた相手。
 傷つけるには忍びないから。
507 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:43
「・・・・・・・・・・・全部あのアホが悪いからさぁ」

 一発くらいだったらどついていいよ?

 眉をしかめているヤグチ。
 思わずイシグロは笑みを漏らす。

「だいぶ前にぼこぼこにしたから・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・もう一回くらいやっといたらちょっとは懲りるかもしんない」

 もうきっと。
 充分くらい懲りてるだろう、とは思いつつ。
 まぁ、それは。
 ヤグチに伝えることでもないだろう、と。

「・・・・・・・・・・・・でもさ」

 不意に。
 真っ直ぐな視線をヤグチがイシグロに向ける。

「アホな子ほど可愛いって言うじゃん?」

 渡さないよ。

 強い視線の裏に。
 隠された想い。

「・・・・・・・・・・・・・・素直じゃないねぇ」

 思わず。
 声を出して笑ったイシグロに。
 ヤグチは不満そうな表情。

「ユウちゃんがさ、誰を一番に想ってるか、なんて。わかってるんでしょ?」

「・・・・・・・・・髪型くずれるじゃんよ〜っ!」

 わしゃわしゃ。
 頭を撫でると。
 ヤグチは不満顔をさらに強調させて。

「・・・・・・・ユウちゃん、待ってるだろうからさ。行きなよ」

 きっと。
 部屋の外。
 入ることも去ることもできず。

 腕を組んで、イライラとした表情。

 思い浮かべて、イシグロは頬を綻ばせる。
 ヤグチが。
 先ほどから、ドアをちらちらっと気にしてたのは知っていた。

「アヤっぺに苛められた、なんて言わないでよぉ?」

「・・・・・・・・・言うわけないじゃんっ!!」

 抗議の声と。
 ぼすっと飛び込んできた、腕の中。

「・・・・・・・オイラ、アヤっぺ、大好きだもん」
508 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:43
 にっこり笑う笑顔には。
 きっと誰もが太刀打ちできないなぁ、と思うもので。

「問題発言。言いつけてやろっと」

 人の悪い笑みを浮かべたイシグロに。

「・・・・・・・アヤっぺが苛めるっ!」

 ひとしきり騒いで。
 ヤグチが出ていった扉。

 ふむ、と。

 視線を外し、イシグロはヤグチが、ナカザワが。
 よく立った窓際から。
 空を見た。

「・・・・・・・・明日は雨かなぁ」

 曇天。
 雲いっぱいの空は。
 何だかイシグロの胸を。
 やはり、切なくさせた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・・・・・・・・・・」

 予想通り、というか。
 廊下に出た瞬間。
 ヤグチを迎えたのは。
 少しだけ心配そうなナカザワの眼差し。

「・・・・・・・・・・・・・」

 何も言わず。
 ヤグチは廊下を歩き出す。

 ナカザワも。
 何も言わない。

 ヤグチの部屋の前まで来て。
 やっとヤグチはナカザワを振り返る。

「・・・・・・・・・・言い訳、しないの?」

「言い訳やって思う奴に何言っても無駄やろ?」

 静かなナカザワの眼差し。
 ヤグチはぐっと黙りこんだ。

「アヤのことは・・・・・・・・・・ヤグチとそういう風になる前の話やし。やり方は間違ってたかもしれん
・・・・・・それは反省してるけど。こんな風になってしまったのも謝るけど」
509 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:44
「・・・・・・・・・・・ユウちゃん」

 続きを遮るようにヤグチが口を挟む。

 しかし、ナカザワは言葉を止めない。

「アタシにはアタシのやり方がある。アタシなりのケジメの付け方も」

 一つ。
 ナカザワは大きく息を吐いた。

「しばらく会わん。部屋にもいかん」

 眼は真剣に。
 ヤグチを見据えていた。

「・・・・・・・・・・いつまで?」

「・・・・・・・・・・さぁ?」

 ナカザワは肩をすくめた。

「・・・・・・・アタシもよくわからんけど。このままやったらまずいやろ」

 何がどうまずいのか。

 ナカザワ自身もよくわからなかったり、する。
 けれど。

「浮気すんなや」

「・・・・・・・・絶対ユウコにだけはそれ、言われたくないね」

「・・・・・・・・・愛してる、から」

 さらっと。
 そんな風に、こんな時に。
 そんなこと言わないで欲しい。

 ぐっと。
 ヤグチはナカザワを睨んだ。

「愛してるって言うの、アンタにだけやから」

 一瞬だけ。
 ヤグチの唇に。
 ナカザワの唇が触れた。

「・・・・・・・・・んじゃ、な」

 何事もなかったかのように。
 ヤグチに背を向けるナカザワ。

 その背中に。
 言いたいことは山ほどあって。

 いつだって。
 こんな風に。
 ヤグチはナカザワの背中ばかり追っていたような気がする。
 まぁ。
 ナカザワがヤグチを追いかけるとき。
 それはヤグチの危険を意味するもので。

『・・・・・・・ごめん、大丈夫やったか?』
510 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/10/11(月) 23:44
 警備の不手際を謝っていたのか。
 自分自身の不甲斐なさを謝っていたのか。
 何かが起きたとき。
 必ずナカザワは申し訳なさそうな。
 情けない表情を見せた。

「・・・・・・・・・・・・あ〜もう」

 遠ざかるナカザワの背中。

「一ヶ月しか待たないかんなっ!!」

 肺活量一杯。
 ヤグチは叫んだ。

 少しだけ驚いた表情で。
 ナカザワはヤグチを振り返る。

 でも。
 あの頃とは違う。

 あの頃、ヤグチは待つことしかできなかった。

 去り行く背中に。
 祈ることしか、できなかった。

 ナカザワがどうケジメをつけるのか、なんて関係なく。

 今は。

「一ヶ月たってもウダウダしてたらオイラ、好きにさせてもらうからっ!!」

 一瞬で。
 不安そうな表情になったナカザワを見て。
 ヤグチは笑う。

 待つだけじゃなく。
 祈るだけじゃなく。
 欲しいものは欲しい、と。
 そう胸を張って言えるようになった。
 行動できるようになった。

「王女なんてやっぱオイラのガラじゃなかったよなぁ」

 自室に入り。
 カーテンを閉めようとして。
 ヤグチは空を見上げる。
 空は曇っていたけれど。
 その先に瞬く。
 星が見えるような気がした。
511 名前:つかさ 投稿日:2004/10/11(月) 23:58
>>498 まんちょびさん
>ほんと懐かしい
いろんな意味で・・・懐かしいです(しみじみ)

>>499 名無飼育さん
>あやっぺ〜…。
大丈夫です。うちの石黒さんはこんなことでへこたれるお人じゃないです(笑)

>>500 名無し飼育さん
頑張ります(ぺこり)

ってことで今日の更新終わりです。
書く時間が取れないってことで・・・・次回更新は未定。
構成はできてるんで一週間くらいで何とか・・・頑張ります。
512 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/12(火) 17:40
更新お疲れ様です。
微妙な関係・・・見てるこっちは面白いけどもね(w
これからどうなっていくのか超期待!!
やはり彩裕いいねぇ〜
513 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/12(火) 18:03
作者さんの描く登場人物が大好きです。
これからも楽しみにしています!
514 名前:禁断症状勃発中の読者 投稿日:2004/11/07(日) 15:26
先が気になって気になって・・・。
そろそろお願いいたします。
515 名前:つかさ 投稿日:2004/11/07(日) 23:51
すいません・・・。

新しく始めた仕事に忙殺されてまして。
もうちょっと待ってください。
本気で申し訳ないです(ぺこり)
516 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:09
〜〜〜6〜〜〜

 そして一ヶ月。
 見張り台の上。
 ぼんやりとナカザワがたたずんでいた。

「・・・・・・・・・・・・・」

 視線の先には。

 アベとイシグロと・・・・・・・・・ヤグチ。

「・・・・・・・・・・・・」

 ナカザワは髪の毛をかきあげる。
 日の光を浴びて。
 楽しそうに談笑している三人。

「・・・・・・・・・・・」

『しばらく会わん。部屋にもいかん』

 あんなこと、言うんじゃなかった。
 この一ヶ月。
 ナカザワは徹底的に三人を避けつづけた。
 まぁ。
 仕事に忙殺されていた、とも言えるが。

「・・・・・・・・・・・あ〜あ」

 ゆっくりと。
 視線を三人から外す。

『あたしはずっとユウちゃんが好きだった』

 痛いほどに真剣なイシグロの眼差し。
 ヤグチへの想い。
 アベへの気持ち。
 それとはまた違う。

 ナカザワは。
 イシグロに感謝、していた。

 自暴自棄になりかけたとき。
 ナカザワが思い出していたのはイシグロの顔、だった。
 騙している、という罪悪感より。
 イシグロの腕の中は心地良すぎて。

 想い人がいるというナカザワの丸ごとすべてを。
 黙って受け止めて。
『そのままでいいんだよ』
 抱きしめてくれた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 逢いたいなぁ。
 話がしたい。
 抱きしめたい。

 条件反射のように身体が反応するのは。

 きっとずっといつまでも。

 たった一人、それだけは変わらないのだけれども。

「・・・・・・・・・こんなとこにいた」

 不意に背後から聞こえてきた声。
 ナカザワは振り返った。

「・・・・・・・・今日非番やなかったっけ?」

「ユウちゃんもね」

 ナカザワは肩をすくめることでそれに答える。

 ゴトウは黙ってそれを見つめる。
 意味深な視線。
517 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:09
 何となく居心地の悪さを感じて。
 ナカザワは視線を地上に向ける。
 楽しそうに笑い転げる三人に自然、眼がいき。
 知らず、小さなため息がこぼれて。

「・・・・・・・・・・ゴトウもあっち行けばいいやん」

 小さな言葉。

「や、今のなし」

 零れてしまったセリフ。
 一番驚いていたのはナカザワ自身、だったりして。

「・・・・・・・・・・・・」

 バツの悪そうな表情でゴトウの様子を窺うナカザワに。
 ゴトウの表情は変わらない。

「ゴトーもそうしたいのはやまやまなんだけど」

 ナカザワの傍らに立つその横顔は、妙に真面目で。

「あの三人に怒られるんだよね」

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

「ユウちゃんにばっか仕事押し付けてるんじゃないって」

 そのままむぅっと頬をふくらませてナカザワを睨むゴトウ。

「・・・・・・・・・・別にそんなんちゃうやん」

 この一ヶ月。
 兵士の訓練、警備の配置、兵のグループ分け。
 ナカザワと遜色のないほどゴトウの勤務も過酷さを極めていたのは事実だ。

「誰かさんが王宮の警備にもつかずにあちこち飛び回ってるから」

 とばっちり来るの、ゴトーなんだよ?

「ん〜」

 困ったような、情けない表情。
 ナカザワはため息をついて。
 落ち着かなさげに、視線をさまよわせる。

「会いたいって思ってるんでしょ?」

 誰に、とは敢えて言わないゴトウ。
 ナカザワも誰に、とは聞き返そうとはせず。

「まぁなぁ」

 ぽつり、と呟いて。
 俯いた。

「・・・・・・・・・でもアタシは自業自得やし」

「他の人はそうじゃないじゃん?」

 ・・・・・・・・・・・・。
518 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:10
 ナカザワは無言で。
 何だかしょげたような表情。

 仕事中にはお目にかかれないその情けない表情に。
 ゴトウは思わず笑う。

「・・・・・・・・・・おもろがってるやろ?」

「そんなことはないけどさ〜」

 新鮮だよね、そ〜ゆ〜表情。

「大人からかうんちゃうわ」

「大人なら大人の行動とってよ」

 どこまでいっても。
 ナカザワに分はない会話。
 ナカザワはひょい、と肩をすくめた。

「部屋戻るわ」

「・・・・・・・・どこも行かないの?」

「そ〜ゆ〜気分ちゃうし」

 去り際。
 ナカザワはもう一度地上に視線を向ける。
 自覚はないのかもしれないが。
 一際大きな声をあげて笑っている姿を確認して。
 少しだけ、柔らかくなる目元。

「・・・・・・・・・・・何だかなぁ」

 一人残されたゴトウは。
 地上の三人。
 まざりたいなぁ、という気持ちがないわけでもないが。

 どうしたものか、と。

 首を傾げた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・・・・・・・う?」

 昼過ぎ。
 部屋に戻ってベッドに転がったナカザワだったが。
 どうやらそのまま眠り込んでしまったらしい。

 小さく部屋をノックする音で、眼が覚める。

「・・・・・・・・・・・・・・?」

 ちらり、と窓の外を見れば。
 もう、太陽は影も形も見えず。
 時刻はかなり遅い、と推測できるもので。

 ・・・・・・・・・・・夕飯、食べ損ねたな・・・・・・・・・。
519 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:10
 寝起きの気だるい頭で考える。

 そして。
 もう一度。
 部屋の扉をノックする、音。

「・・・・・・・・・ユウコ?いるんでしょ?」

 そのまま聞こえてきた声に。
 ナカザワは動きを止める。

「・・・・・・・・・開けてくれるまで待ってるから」

 ・・・・・・・・・・・・・。

 一瞬のためらい。

「・・・・・・・・アタシがおらんかったらど〜するつもりやねん?」

「いるじゃん」

 打てば響く。
 そんな感じで。
 ドア一枚隔てた、距離。

 お互いに。
 一拍の間。

「一ヶ月経ったら、好きにさせてもらうって言ったじゃん?」

 口火を切ったのはヤグチで。
 静かな口調からは怒りは感じられない。

「一ヶ月たっても何年たってもさぁ。オイラはユウコを追っかけるから」

「・・・・・・・・ヤグチ」

「ずっとさ、ユウコはオイラのこと見ててくれた。だからってわけじゃないよ。でもユウコがオイラを
必要としてるようにオイラもユウコを必要としてる。それじゃ駄目?」

 ゆっくりと。
 ヤグチの目の前の扉が開いた。

 情けなさそうな表情をしたナカザワに。
 ヤグチは自信たっぷりに言い切る。

「例え何があってもユウコ、オイラのこと好きだろ?」

 ナカザワの手が、ヤグチに伸びる。
 少しだけ冷たい感触がヤグチの頬を撫でる。

「離れろって言われても離れてやんない。オイラは・・・・・・決めたんだ。ユウコと生きるって」

 そっと。
 ナカザワがヤグチを抱きしめた。
 暖かい温もりに。
 お互いがため息をつく。
520 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:11
「アタシはアンタが好きや・・・・・・例え何があっても」

 −−−−−−−愛してるーーーーーー。

 二人の呟きが重なる。

 ゴトウがその日ヤグチの元を訪れた、と。
 ナカザワが知るのは何ヶ月か経ってからだったが。

『ユウちゃんと話してあげてよ』

 ちょうどナカザワがヤグチに『しばらく会わん。部屋にもいかん』。
 そう告げて一ヶ月たったその日で。
 あまりのタイミングの良さ。

『大丈夫だよ』

 そうヤグチがゴトウに告げると。
 ほっとしたような表情。

『こ〜ゆ〜の、ゴトーの柄じゃないんだよねぇ』

 ふにゃっとした笑顔に。
 ヤグチは何だか励まされた気がして。

 ナカザワがいなくなったらどうしよう。

 その気持ちの先にあったのは。
 簡単な、ことで。

 追いかければいい。

 追いつかなくても。
 追い越せなくても。
 その背中が。
 その存在自体が、自分の安らぎ。
 居場所。

 誰にも渡さない。
 渡せるはずが、ない。

 ずっと。
 ナカザワの傍にいるのは自分だと。
 自分の傍にいるのはナカザワだ、と。
 物心ついたときから、そう決めていた。

 だから。

「絶対誰にも渡さない」

「・・・・・・・当たり前や・・・・・・・アタシもアンタ、誰にも渡さん」

 抱きしめあう、腕の力。
 それが二人の答え。
521 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:11
ーーーーーーーーーーーーーー

「・・・・・・・・・・珍しい」

 イシグロの部屋の前。
 立ち尽くす相手の顔を見て。
 イシグロは苦笑いを漏らす。

「・・・・・・・・そ〜ゆ〜言い方せんでもええやん」

「どこまで逃げ回る気なのかなって思ってたんだけど」

「・・・・・・・・相変わらず性格悪いで、アンタ」

「悪役なら悪役らしくしなきゃ駄目じゃん?」

「誰もそんなん決めてないやろうが」

「あたしの気分的には悪役なんだけど?」

「・・・・・・・・アンタの気分で物事決め付けんなや」

 ま、それもそうか。

 イシグロは軽く肩をすくめる。

「中に入れてあげる気分じゃないけど入ったら?」

「・・・・・・・・何やねんそれ」

 ふっと。
 イシグロの言い方に、ナカザワが笑顔を見せる。

「ど〜せあたし、振られるんでしょ?」

 久しぶりに見る笑顔。
 表情。
 やっぱり好きだなぁ、とは。
 心の中にしまいながら。

 イシグロはやはり。
 肩をすくめてみせる。

「・・・・・・・・・最初からわかってたんやろ?」

「わかってたけどさぁ。負け覚悟で勝負挑みたいときってあるっしょ」

「・・・・・・・・わかるような気はするけど」

「・・・・・・・・ナッチにも会って来たんだ?」

「最近会ってなかったから・・・・・・まぁ、挨拶には」

 ゆっくりと。
 イシグロはナカザワと視線を合わせる。
 迷い無く。
 真っ直ぐにイシグロの眼を見返してくるその視線は穏やかで。
522 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:12
 知らず、イシグロはため息を漏らした。

「ナッチの方が潔いってことだよねぇ・・・・・・やっぱり」

「・・・・・・・・・?」

 きょとん、と。
 ナカザワは不思議そうな表情を浮かべるが。
 特にその真意を問いただすようなことはしてこず。

「何か、こ〜ゆ〜時間にアヤっぺに会うのって変な感じやな」

 唐突に話題を変える。

「あ〜・・・・・・そういえばそうかも」

 以前。
 イシグロとナカザワが会うのは決まって夜、で。

「ずっとアタシは足りんくて。誰かにそれを埋めてもらおうと思ってて」

 こんな風に。
 話す日がくるなんて思いもしなかった。

「だから、ずるい付き合い方したし、アヤにずるい言い方されてどう答えていいかわからんくて。
ホンマに悪かった。ごめんなさい」

 イシグロに頭を下げるナカザワは。
 頭を上げようとしない。

「アヤと一緒にいてたアタシはアタシやけどアタシやない。一番アタシがアタシらしくいれんのは
ヤグチの傍やから。だからアヤの気持ちにには応えれん」

 ・・・・・・・・・そんなことは。

 ナカザワが言うまでもなく、イシグロにはわかっていたことだった。

 限られた時間の中で。
 イシグロは精一杯ナカザワを見つめてきたけれど。
 イシグロに対して、どれだけ気を許したふりをしても。
 どこか一線を画していたナカザワに気付いていたから。

「・・・・・・・・アヤっぺとこれ以上ずるい付き合い方したくないから。だから、ごめん」

 頭を下げつづけるナカザワは。
 いったい何を見てるのだろう。

「許さないって言ったら、どうするの?」

「・・・・・・・ん?」

 やっと。
 ナカザワが頭をあげる。
 少し困ったような表情で。
 イシグロを見上げてくる。

「・・・・・・・・・わからんけど」
523 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:12
 少しだけ、口ごもるナカザワ。

『アヤっぺはさ、ユウちゃんのこと、許せない?』

 この一ヶ月の間。
 ふと、アベがイシグロに問い掛けた質問。

 何も言えずにいたイシグロに。
 アベは遠くを見ながら。

『ナッチはねぇ・・・・・・しょうがないって思うよ』

 その声は、穏やかで。

『あの時、ユウちゃんがナッチじゃなくて他の人を選んでたら選んでたでナッチ、その方が
許せない気がするし』

 特に。
 イシグロの返答をも求めずに。

『一瞬でもユウちゃんと向き合えて良かったって。ナッチ、今はそう思えるよ』

 アベの潔さ。
 強さを。
 イシグロは再確認した。

 そして。

 あの時。
 アベがイシグロに無理強いはしなかった答えを。
 今。
 イシグロが自分自身と向き合うべき瞬間。

「・・・・・・・まぁユウちゃんがど〜しようもないってことくらい最初からわかってたことだしねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 一瞬。
 むっとしたような光。
 イシグロはナカザワの眼の中に認めて。
 クスリ、と笑みを漏らす。

「褒めてるんじゃん」

「どう聞いても無理あるやろ?」

「無理が通れば道理が引っ込むってね」

 イシグロはナカザワから視線を外した。
524 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:12
「・・・・・・・・もうちょっとジタバタしたかったんだけどなぁ」

 ため息まじりの独白。
 一瞬。
 ナカザワが困ったように眉をひそめた。

「あたし、今、妊娠してるの」

 ・・・・・・・・・・・・はい?

 あまりと言えばあまりのセリフ。
 ナカザワがきょとん、とした表情に変わる。

「ナッチを裏切ったらただじゃ済まさないからね?」

 ・・・・・・・・・・。

「もう戦争とか、陰謀とかそ〜ゆ〜のあたし、二度とごめんだし」

 生まれてくる子どもに。
 そんな辛い気持ちを味わってほしくない。

「・・・・・・・・・・なぁ、アヤ・・・・・・・・」

 ひっじょうに。
 微妙な表情。
 ナカザワが腕を組む。

「あたし、旦那が悪い人だ、なんて一言も言ってないよね?」

「・・・・・・・・・・・・おい」

 唸るような声。

「女はね、ずるいんだよ?」

 憮然とした表情のナカザワに。
 にっこりと。
 イシグロは笑いかける。

「・・・・・・・・・アンタ、本気でいい性格してるわ・・・・・・・・」

「褒め言葉としてもらっとく」

 深いため息。

「何かアタシ、アホみたいやん」

「今頃気付いたの?」

「・・・・・・・・・・あぁ、そやったな・・・・・・・ってちゃうやろ〜がっ!!」

 キレ気味のナカザワのテンション。

「いいじゃん、障害があったほうが愛は燃えるんだよ?」

「適当な屁理屈こねとるんちゃうわ」

 ガシガシと。
 ナカザワは髪の毛をかきあげた。
525 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:13
「・・・・・・・・・ねぇ」

 そのまま。
 立ち去ろうとするナカザワの背中。
 言葉が。
 勝手に零れ落ちた。

「あたしのこと、ちょっとは好きだった?」

「・・・・・・・好きでもない奴とエッチするほどアタシ、もてへん人間に見えるか?」

 ほんの少しだけ。
 ナカザワがニヤリ、と笑ったように見えた。

「そこまでボランティア精神豊富ちゃうっちゅ〜ねん」

「・・・・・・・でもメンクイだよね」

「・・・・・・・・自分で言うかぁ?」

 そう言われてみれば。
 イシグロは苦笑を漏らす。

「過去は変えられへんし・・・・・・・別にそれを否定する気はないし。まぁそれも含めてアタシっちゅ〜ことで」

 不意に。
 ナカザワが右手をイシグロに差し出す。

「これからもよろしくってことでええんやんな?」

「・・・・・・・・・・・ま、そ〜ゆ〜ことにしといてあげる」

「・・・・・・・・偉そうやな・・・・・・・」

 握りしめたその手は、相変わらず。
 少しだけ冷たくて。

「・・・・・・そ〜いや産休とか取るん?」

「ん〜どうだろ?家にいるよりこっちの方が楽しいしねぇ」

「・・・・・・・・一回アンタの旦那に会ってみたいわ・・・・・・・・」

「いいじゃん、子ども生まれたらナッチもヤグチも子守りするってはりきってたし」

「・・・・・・・・・・・そんなんでいいんかい・・・・・・・・・・」

「おもしろそうじゃん?」

 そのまま。
 繋がれた手は、ほどかれる。
 何事もなかったかのように。
 二人の空気、距離は変わらない。

 初めて人を愛することを覚えて。
 その愛は叶わなかった。
 けれど。
 今、確かに。
 形を変えて、存在している気持ち。

「大好きだったよ」

 だから、終わらせよう。
526 名前:永久(とわ)の祈り 番外編2 投稿日:2004/11/11(木) 23:13
 そして。
 また、始めよう。

 ゼロからのスタートじゃないかもしれない。
 ゼロから始めるには、貴女のことを知りすぎた、かもしれない。

 それでも。

「過去形かい」

 楽しげに笑うナカザワの表情に憂いはない。

「・・・・・・・・・我がままだねぇ」

「どっちがやねん」

「ん〜・・・・・お互い様?」

「・・・・・・・言えてるな」

「言えてるんだ?」

「アタシかてちょっとは成長してるわ」

「ちょっとだけ?」

「・・・・・・・・・・うっさいな・・・・・・・・・・」

 やれやれ。
 ひょい、と肩を動かして。
 今度こそ。
 ナカザワはイシグロに背を向ける。

 真っ直ぐに伸びた影。

「またね」

「・・・・・・・・おう」

 ひらり、と手が振られ。
 ナカザワは振り返りもせずに。
 遠ざかって行く。

 形を変えて。
 また、始めよう。

 その気持ちがある限り。
 きっと絆は、切れない。

 そう思うから。

                                   【END】
527 名前:つかさ 投稿日:2004/11/11(木) 23:31
>>512 名無飼育さん
>やはり彩裕いいねぇ〜
・・・妙に自分も彩裕にはまってまいました(笑)
二人のシーンは大好きです(自画自賛 w)

>>513 名無飼育さん
>作者さんの描く登場人物が大好きです。
ありがとうございます。
すごい嬉しいです^^

>>514 禁断症状勃発中の読者さん
>先が気になって気になって・・・。
本当にお待たせして申し訳ありませんでした(ぺこり)

ということで一段落、です。
続編のネタは考えてはいるのですが、今は書く時間が取れません。
仕事変えたら妙に拘束時間が長く。家に寝に帰るだけの生活が続いてまして(苦笑)

とりあえずいったんまた読者に戻ります。

読んでくれた人、レスくれた人、多謝です。
ありがとうございました。
528 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/11(木) 23:38
お忙しい中、完結お疲れ様です。

いやー、裕ちゃんはもちろん、アヤッペもなっちも矢口もごっちんもかっこいい・・・。
読んでいて清清しい気分になりました。

もし、いつか時間ができましたら是非続編を!
いつまでも待っていますので。

素晴らしい作品ありがとうございました。
529 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 03:12
さっき初めて知って、一気に今読みました。
完成された世界観、息をのむような戦闘シーン、それぞれの想い、キャラ、すべてが良かったです。
ありがとうございました。
530 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 12:26
更新&完結お疲れ様です。
あぁ〜彩裕が終わっちゃったのは寂しい。・゚・(つД`)・゚・。
でもって今度彩裕のお話だけ書いてくれると嬉しいですけどww
なんてねww

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