真夜中に春を散らして
- 1 名前:_ 投稿日:2004/03/17(水) 20:36
- 始めまして。
高紺の中編を書きたいと思います。更新は気まぐれ。
では、どうぞ宜しくお願いします。
- 2 名前:_ 投稿日:2004/03/17(水) 20:41
- 真夜中の誰もいない駅のホームで春はまだだと言うのにもったいないほど花びらを散らしている桜の木に手を伸ばしたキミ
銀色の柵が邪魔でそれを乗り越えるように手を必死に伸ばして
――― ずっと覚えてるよ。
キミが忘れたって覚えてるよ。
忘れたら思い出を新しく作ればいいだけだよ。
だから。
そんな悲しい顔はしないで。
- 3 名前:_ 投稿日:2004/03/17(水) 20:51
- 第1話 キミの歯車いつ回る?
ぼーっと窓枠に肘をついて外を眺める。
ちらほら校庭を走る人影が目に入って、そして消えていく。
いつの間にか空っぽになった教室はがらんとしていてわざと音を立ててため息をついた。
チクタク働き者の細っこい秒針が妙にうるさくて、開けっ放しの窓から半分身を乗り出すようにして深呼吸。
窓辺の机の上には白いプリントが山のように積まれていて、その周りには青色のホッチキスとその芯が無様に広げられている。
ほんの30分ほど前に丸められた地図やら中身いっぱいの段ボール箱に半分顔を隠されるようにして登場した担任に頼まれたオシゴト
最初の方は真面目にやっていたものの途中から誰もいない虚しさに疲れて、空を見て現実逃避をしていた。
- 4 名前:_ 投稿日:2004/03/17(水) 20:58
- 「あれ?」
がらっと勢いよく開けられたドアと共に姿を現したあさ美。
「あーあさ美やん。どうしたん?」
何でもないように振舞ったのに、少し声が震えたのが自分にも分かって苦笑した。
あさ美は何も気にしてないようで私と机の上のプリントの山とを交互に見て小さく頷く。
「んー?図書委員の仕事してたの。皆サボってたから時間かかっちゃって」
笑って、腕に抱えていた茶色い表紙の本を私に見せて、教卓の上にその本と重たそうな鞄を置くと少し目を細める。
その白い顔にオレンジ色の光が当たっている。
まるでオレンジ色のフィルターを通したようでほんの少し見とれてしまう。
「―――手伝うよ」
何でもないように、さらっとその口からこぼれた言葉にハッとしてあさ美を見る。
- 5 名前:_ 投稿日:2004/03/17(水) 21:06
- 「え?」
ずっと言葉を出してなかったせいか掠れた声が出る。
「え?って。中澤先生に頼まれたんでしょ?これ」
何を言っているんだ、という表情でプリントの山を指差すあさ美。
「――あーまぁ、そうやけど」
ガタガタと音を立てて近くの椅子と机をその机の近くに寄せ始めるキミ
その椅子に座って何も言わずプリントを手に取るキミに触発されて椅子に座って同じようにプリントを手に取る。
- 6 名前:_ 投稿日:2004/03/17(水) 21:16
- 桜がもうすぐ咲く、とか
春が近い、とか
昨日夢を見た、とか
麻琴が昨日犬に追いかけられて半泣きで走り回っていた、とか
里沙からのメールはいつも長い、とか
何でもないことを何でもないように話して
何でもないように黙々とプリントをホッチキスで止める手を動かして
私は変な気持ちで一杯の心を抱えて何でもないように相槌を打って
「あー終ったねぇ」
ぽんっと最後のプリントを机の上に投げるように置いてあさ美が大きく背伸びする。
「あさ美ホンマありがとうな。マジでありがと」
神頼みをする時みたいに手を合わせて頭を下げる。
「え?何言ってるの?何もしてないじゃん」
笑ってそう言って、困ったように八の字に眉を下げて「頭上げてよー」と苦笑するキミに涙を隠した。
帰り道ずっと謝る私に少し怒ったように「何もしてないって」と繰り返す彼女は困った顔じゃなくていつもと同じ優しい笑顔で笑っていた。
サヨウナラが嫌いと話して笑ったキミは
少し悲しそうにサヨウナラと言って
振り返りもせず私からすこしづつ遠ざかっていった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/17(水) 23:39
-
どんな展開になるんでしょうか。
続きを期待してます。
- 8 名前:_ 投稿日:2004/03/19(金) 20:18
- 第2話 サヨウナラとコンニチハの間
ひゅっと風が通り過ぎていく。
温かいか寒いかよく分からない生ぬるい風だ。
それを身体に受けてあぁ。と呟く。
「もう春が来たんだ。」
- 9 名前:_ 投稿日:2004/03/19(金) 20:24
- 暮らし始めて2年ほどの見慣れたマンションに足を踏み入れる。
最初は自分の家だと言うのに変な緊張をしていたのだが、やっと最近慣れてきたように思う。
重いガラスの扉を片方押し開けて、丁度開いたばかりのエレベーターに急いで乗り込む。
もう目を閉じても押し間違いしない数字のボタンを押して、ゆっくりと目を閉じた。
ふわり、と身体にかかる浮遊感。
いつか小さい頃行った遊園地でこんな浮遊感を感じた乗り物があったなーと思い、笑みを浮かべる。
確かもうあの遊園地は潰れてしまった、と新聞か何かで読んだ気がした。
肩に提げていた鞄の紐がずれて、腕の関節の所に当たる。
それを直しもしないでただ浮遊感に身体を任せる。
ふと思った。
あの夏の夜を。
ふと思い出した。
あの時会った少女を。
- 10 名前:_ 投稿日:2004/03/19(金) 20:32
- チン、と乾いた金属音が無感情に響いて、閉じていた瞼を開く。
エレベーターから出て、歩くコンクリートは灰色でため息を誘う。
それを喉の中で殺してもう青黒く染まった空を見て、角を曲がる。
コン
何かに当たる。
「――― 何?邪魔・・・」
目を凝らして足に当たるものを見る。
「――― 麻琴?、もしかして」
ゆっくりとその人らしい名前を呟くと、その人は勢いよく立ち上がる。
「そうだよっ!何、邪魔ってひどいよ!愛ちゃん!」
勢いよくまくし立てる言葉を右から左に流しながら、分かったと頷く。
目のまん前にいる麻琴を押しのけて部屋の鍵を鍵穴に入れる。
「うるさいよ、少しぐらい黙って」
ガチャガチャ上手く回らない鍵を回しながら、少し声を荒げて言う。
何だかむかつく。
そんな感情が腹の中で大きく黒いものを広げていっていた。
- 11 名前:_ 投稿日:2004/03/23(火) 19:58
- 目の前に麻琴が座ったのを確認して大きくため息をつく。
そう言えば今日はため息をついてばっかりだな、と少し笑う。
「何笑ってるの?一人で」
机の上に出した煎餅をバリバリ食べながら麻琴が言う。
オマエのせいだよ、と心の中で突っ込んで通学鞄の中を探る。
- 12 名前:_ 投稿日:2004/03/23(火) 20:07
- 見つけた手の平サイズの小さな箱を手の中に隠して鞄から取り出す。
少し揺らす度に中の物がカラカラ鳴って小さなリズムを生み出すみたいで愉快。
「煙草、いい?」
手で隠していた箱を麻琴の前にちらつかせて言う。
正直麻琴の前で煙草を吸うのは嫌だったけど、今はそんなのを言ってる場合じゃない。
カラカラ
ほんの数本残ったマルボロが揺れて箱に当たり乾いた音
眉をしかめる目の前の人
ため息ついて次に見た顔はいつもの優しい顔
「いーよ。ってか、吸ってたの?んなの」
箱を指差して眉をハの字にして麻琴が言う。
その顔と手に持った食べさしのせんべいが妙でおかしくて笑っちゃいそう。
「ん。ちょっと前からだけど」
箱を器用に片手だけで開けて照れ隠しに笑う。
- 13 名前:_ 投稿日:2004/03/23(火) 20:13
- 私にマルボロを教えた人
今でも簡単に思い出せる。
いつも優しくて、いつも笑ってて、いつも風の吹くままで
あの人もマルボロを吸う時は
一度顔をしかめて片手で器用に箱を開けるの
私だけが知ってるあの人
「吸いすぎないようにしてよ。バレたら色々ヤバそうじゃん?」
食べさしのせんべいをまた食べ初めて、気の弱そうな笑顔で笑う麻琴
「分かってるよ。部屋じゃ匂いつくから屋上で吸ってくるわ」
そう言って早足に部屋を出る。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/04(日) 20:05
- おもしろそう!
続き期待してます〜!
- 15 名前:_ 投稿日:2004/04/07(水) 20:37
- 別に匂いなんてついたってどうでもいいし
今ならファブリーズやら覚えにくい消臭剤とかあるし
でかい黄色や緑の色鮮やかな消臭剤もあるし
ただ。
一人になりたかっただけ。
- 16 名前:_ 投稿日:2004/04/07(水) 20:49
- カンカン、と音を鳴らして階段をリズムよく駆け上がる。
息は上がらない。
もう慣れたからかな?なんてボソッと口の中で呟いて口の両端を上げて笑う。
ポケットの中の煙草がコツコツ箱に当たって音を立てる。
階段で私が立てる音と煙草が箱で立てる音が混ざっていく。
やっと見えた踊り場の前で軽くジャンプ。
両足で着地した灰色のコンクリートの小さな踊り場で軽く深呼吸。
ポケットに片手を突っ込んでイラ立った時みたいに早く箱を指先で叩く。
特に意味なんてないけど。
今日は変な気分ばっかりだ。
やっぱり先生の手伝いをしたから?
あさ美と珍しく会話したから?
答えなんて知らないし、答えがあるなんて分からない。
ドアノブまでもが重たい屋上。
ゆっくり音を立てないように回して、少しだけ開いた隙間から外の覗いた。
相変わらず殺風景な風景は何故か心を落ち着かせて、ため息が自然に流れた。
- 17 名前:_ 投稿日:2004/04/07(水) 20:59
- 少しずつ開いていく隙間に身体をすべり込ませて、強引に外に出る。
もうすぐ春だと言うのに少し寒くて、冬の残りを探した。
茶色く所々錆びた手すりに手をかけて
このままこの手すりを飛び越えたらどうだろう、と笑った。
そんなことする勇気も無いのに考えるだけは好きだった。
こうやって想像することは空想、と言ってそれに染まった私は空想狂だと思う。
一度浮かべた笑みを消して、もう一度笑みを浮かべた。
すーっと通り過ぎていく風がほんの少し羨ましくなった。
ここから動けない私と違って自由だから、と後から付けた理由を早口で呟いた。
「―――やっぱり、ここだった」
後ろから消えそうな、でも力強い声がかけられる。
振り向いて顔を確かめないでも分かる。
この子の声だけは初めてあった時から間違えたことが無かった。それだけ。
「何?あさ美」
振り向かずにポケットの中の煙草の箱を掴んで引きずり出す。
パコッと上蓋を開けて中身を確認する。
- 18 名前:_ 投稿日:2004/04/07(水) 21:07
- ここまで来て中身がなかった、なんてバカバカしい。
そう笑って、箱から一本取り出す。
もう中身がないなぁ。なんて呟いて買い置きがあったっけ、と探る。
部屋に帰ったら探しておこう、と心に書き留めて煙草を口に咥える。
ライターはいつも右ポケットに入れてある。安物だけどそれだからか手に慣れやすい。
口に咥えたまま何かふと思い出した曲を口ずさむ。
そうしながら右ポケットを探して、お目当てのモノをポケットから出す。
「――― 止めなよ」
いつの間にかあさ美が隣にいた。
すっ、と伸ばされた手にはさっきまで私が咥えていた煙草が握られていた。
「何すんの」
疑問系でもない。でも、その形は疑問系だ、と意味の分からないことを笑った。
表面上は笑っているけど、心はそれほど穏やかじゃない。
あさ美の手に握られているまだ新品の煙草に手を伸ばす。
- 19 名前:_ 投稿日:2004/04/07(水) 21:14
- でも、その手はあさ美の反対の手で包まれる。
あぁ。人の手なんて何時振りに触れただろう。
にこっと微笑まれて、心で呟く。
手は握られたまま。煙草も取り上げられたまま。
私の右手にはライターが火をつける体勢で止まったまま。
「―――命、短くしちゃダメだよ。まだ生きられるんだから」
ぽんぽんって頭を撫でられて、抱きしめられる。
頬の横にある取り上げられた煙草から匂いが漂った。
「ごめん。何か、イライラしてて」
よく分からない。
あさ美がここにいる理由も。
煙草を取り上げられた理由も。
そして、今私が謝って弁解している理由も。
- 20 名前:_ 投稿日:2004/04/10(土) 20:56
- 第3話 知らない気持ちたった1つ
「いいよ。気にしないで」
にこっとあさ美が微笑む。
ぽんぽん、と背中を2,3回軽く叩かれて体を離される。
「それに、何かえらそうなこと言っちゃったし。私こそごめんね」
下を向いて伏せられた瞳が私を見つめる。
ただ、それだけなのに。
心を鷲掴みされたように苦しい。呼吸困難になったみたいに。
少し寂しそうな表情が
はじめて見たようなその表情に心が躍り、そして苦しい。
「そう言えば、これマルボロだよね?吉澤さんもよく吸ってたよね」
思いだしたように握られた拳を開いてそこに表れたマルボロを見つめるあさ美。
今日はよく喋るあさ美に何も言えず私はただ立っている事しか出来なかった。
「屋上とかで吸ってて・・・・石川さんに怒られてたね」
一つ一つを思い出すように囁いて、それをじっくり噛み砕くように目を細める。
それがやけに不自然で心に何か小さなわだかまりが現れた。
それはさっき生まれた意味の分からない思いと被って私は見えないフリをした。
- 21 名前:_ 投稿日:2004/04/17(土) 16:07
- 「もう」
何を言いたいのか自分でもわからなかった。
ただ、気が付いたら口から言葉を吐き出していただけ。
「帰ろう」
何かを止めたかったんだ。
あさ美が淋しそうに笑うのを、何かを噛み砕くのを。
離れていたあさ美の手を取って、歩き出す。
ペースは速め。意味なんか特にないし、理由も持たない。
ただ、そうしたかっただけ。
「愛ちゃん」
何度呼ばれても振り返りはしなかった。
屋上の扉を開けて、暗闇に足を踏み入れる。
心が苦しかった、泣きそうだった、悲しかった。
「愛ちゃん」
また呼ばれて、立ち止まられる。
それに釣られるようにして私も立ち止まって振り返る。
- 22 名前:_ 投稿日:2004/04/17(土) 16:10
- 「もう、いいよ」
掴まれた手と反対の手で私の手を離そうとする。
私はそれを小さい子供がするように頭を振って嫌がる。
それでも、何か言葉を発して私から離れようとするあさ美の手に力を入れる。
そのまま腕を引っ張って抱きしめた。
まるで漫画の中のようだ、と笑った。あさ美は漫画の中のように簡単に腕の中に収まった。
- 23 名前:エイド 投稿日:2004/04/18(日) 20:11
- 今日発見して、読ませていただきました。
こういうキャラの高橋さんをまってました(笑)
- 24 名前:_ 投稿日:2004/04/19(月) 20:29
- 一気にレス返しをしたいと思います。
>>7 名無飼育さん
ありがとうございます。これからも長い目で時たま見てやっていただければ幸いです。
>>14 名無飼育さん
ありがとうございます。まったり更新ですが、よろしくお願いします。
>>23 エイドさん
ありがとうございます。少し現実とは違いますが目を瞑っていただければ、と思います。
- 25 名前:_ 投稿日:2004/04/19(月) 20:36
- 何も言わなかったし、何も考えなかった。
部屋でクッションを腕に抱え込んで立ってるような感覚だと、それだけ思った。
私が何も言わないからかあさ美も何も言わなかった。
触れ合った体の一部が熱くて、そして心地良かった。
目を瞑ればこのまま永い眠りにつけそうだった。
「愛ちゃん」
耳元で囁かれる言葉はこしょばくて、少し笑みを浮かべた。
こんな動作にこしょばさ以外を感じるほど大人じゃないし、経験も豊富ではないのだ。
「――何?」
ゆっくりと言葉を吐き出す。
さっきまで嫌なほどうるさかった心臓の音は比べ物にならないほど落ち着いて、どこか心地いい。
「明日。放課後に学校の屋上に来てくれる?」
それは、疑問形の問いなのに、肯定されたような言葉で
いつもは嫌に思うのに変な感じでそれほど気にならない。
- 26 名前:_ 投稿日:2004/04/19(月) 20:39
- 「いいよ」
吐き出した言葉は自分のものとは思えないほど優しかった。
「ありがと」
ほぼ同じ背丈だからか頬にあさ美の横髪が当たる。
頬に甘えるようにくっけられるあさ美の頬
体を包み込むようなあさ美の匂い
腰に回された優しい手の平
―――あぁ。
- 27 名前:_ 投稿日:2004/04/19(月) 20:41
- この時、胸の中のわだかまりの正体がやっと分かった。
いや、元々分かっていたのに分からないフリをしたり目を瞑っていたのかもしれない。
そう。
これが、恋。
何度も友達とか先輩から聞いた恋愛話。
どこか違ったような一つ一つの話はここで大きな一つとなった。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/20(火) 02:57
- 表現が綺麗ですね。
続き待っています
- 29 名前:_ 投稿日:2004/04/20(火) 21:03
- >>28 名無飼育さんさま
ありがとうございます。変なペースでの更新ですが、宜しくお願いします。
では、更新。
- 30 名前:_ 投稿日:2004/04/20(火) 21:11
- 第4話 さようなら、の予告。
朝起きて窓の外を眺めたら、変な黒い雲が空に浮かんでて沈んだ気持ちになった。
真っ白な天井の中で一点をじっと見つめて何も考えずにいたら自然と涙が出た。
クリーム色の斑点のような染みを何個か見つけて数え始めるけど、どれくらい数えたかすぐに分からなくなる。
「―――もー朝か・・・」
ポツンと呟いて上半身に反動をつけて起き上がる。
今日はやけにしんどいなぁ、とため息を漏らす。
ふと目に入ったテーブルには昨日麻琴が食べ散らかした煎餅の皿がほったらかし。
食べたんなら片付けて帰れよ、と心の中で突っ込んでまたベッドに逆戻り。
- 31 名前:_ 投稿日:2004/04/22(木) 20:59
- 何をする訳でもゴロゴロと寝転がる。
あー学校に遅れるな。
あー今日の一時間目は何だったっけ?
あー保田先生の授業は出とかないと後で呼び出し食らうし
あー体育とかあったような。
あー・・・・もう、だるいなぁ。
うごうごと布団の中で動き回って、眠るのに丁度いい場所を探す。
やっと探し当てた場所で少し微笑んで手を伸ばして携帯を探す。
手に当たった冷たい金属の形に手をなじませてから目覚しセット
3時間目ぐらいかな?と適当に時間を決めて目を瞑る。
- 32 名前:_ 投稿日:2004/04/22(木) 21:03
- ゆっくりとゆっくりと
落ちていくような感覚に酔いしれて
心の中にある黒い塊が私を飲み込んでいく
それは、とても優しくて
泣きそうになるくらい、心地いい
差し伸べられる手を握って
夢をノイズを物語を
流れ始めるそれを耳にしておやすみなさい
- 33 名前:_ 投稿日:2004/04/22(木) 21:10
- 耳を劈くような大音量の目覚し音
音量のレベルは真ん中ぐらいにしたはずだ、とまだ抜けられないまどろみの中で考えながら手を伸ばす。
―――が、手になじんだ金属の塊は見つからない。
おかしいなぁ、と口の中で呟いてまだ上手く開かない瞼を擦りながら布団から顔を出す。
温度差が少し開いている為か少しずつ晴れていく霧
「おはよう、愛ちゃん」
まだ自分は夢を見ているのだと勘違いしそうになった。
布団にもう一度潜り込もうとする私の手を引っ張って布団を無理やり剥がすあさ美。
まるで漫画の中やアニメの中の主人公のお母さんじゃないか、と思って笑う。
所々跳ねている髪を手ぐしで整えて、あさ美を見る。
着こなした制服姿に薄茶色の髪の毛。
手にはカバーの施された文庫本が握られていて、あさ美の周りには私のモノだと思われる本の山。
- 34 名前:_ 投稿日:2004/04/22(木) 21:15
- 「―――何しとん?」
寝起きだからか妙に声が低くてかすれている。
あーあーと何度か声を出して、喉に手をやってマッサージ
体質だからか朝や寝起きはこうしないと上手く声が出ない。めちゃくちゃ不便だ。
「んー?本、読んでる」
手の文庫本をひらひらと揺らしてにっこり微笑まれると突っ込みがしにくくなる。
何故か気分が悪い。このまま休んでしまおうか。
ふと浮かんだ考えを追い払うように、少し目を瞑って髪に手をやる。
- 35 名前:_ 投稿日:2004/04/24(土) 21:31
- 昨日から色々なことがありすぎで参ってしまう。
それに煙草を止められてイライラが溜まっているのだ。まるで性欲に溺れている人みたいに。
髪を触っていた手を離して、ベッドの枕の辺りを探る。
いつも、そう大抵はここら辺に予備の煙草を2,3箱置いているのだけど今日に限って見つからない。
どこにやったっけ、焦りを見せないように顔はそのままで
コツン、手の先に何かが当たる。
ゆっくりと首を回転させて目に入るのは透明な蛍光色の安っぽいライター
チッと小さくあさ美に聞こえないように舌打ちをして手の平の中にそれを隠す。
プラッチックのそれはひんやりと手の平を数秒冷やして、私の体温に飲み込まれる。
「何であさ美がここにいるん?」
ザワザワと波打つ心を気付かれないように最新の注意を払って言葉を紡ぐ。
私の注意のかいがあってか上手く言葉はいつものように滑り出て、ほっと1つ安心する。
手の中のライターが生ぬるい。
ぐー、ぱー、ぐー、ぱー、手の平を何度も開いては握り締める繰り返し。
その度に落ちそうになるライターの危機感にほんの少しのリアルを感じて笑った。
- 36 名前:_ 投稿日:2004/04/24(土) 21:46
- リアルのない世の中は
待ってなくても、嫌でも明日は簡単に訪れて
夜と昼と朝という顔に私たちは取り残されないように仮面をつけて
いつかは自分が分からなくなる
そして、それはただ単に溢れすぎたノイズのように
何も気にしなくなって、マリオネットや滑稽な操り人形のように変わって
それすらも分からない人の山に飲み込まれて、吐き出される繰り返し。
「放課後まで待てなくて」
それは、
恋人達が交わす甘い甘過ぎる囁きに似ていて
頭の端がクラッと酔いしれる
いつか父親の酒を誰もいない昼間にがらんとした淋しい空間で
まずい、と顔をしかめて胸の奥がじゅわっと炭酸が広がる感覚に好奇心を感じていた
美味しくもないソレに胸焼け
静かな空間が現実か夢か分からない朦朧とした記憶
それらの感覚ととても似ていて、変な感じに陥る。
- 37 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/08(土) 18:30
- 続き、楽しみにしてます。
高紺好きです。
がんばってください!!
- 38 名前:_ 投稿日:2004/05/09(日) 18:30
- >37 紺ちゃんファンさん
どうもありがとうございます。
更新適当ですが、よろしければまた見てやってください。
- 39 名前:_ 投稿日:2004/05/09(日) 18:44
- 「へぇ」
そっと、呟くように言葉を吐き出してごろんと寝返りを打つ。
徐々に寝ていて高くなってた体温が下がっていって布団が恋しくなる。
ベッドに肘をついて本を読み続けるあさ美は私のことも知らずに布団の上に乗っている。
いつまでも、何も変わりないあさ美を見続けるのはどこか飽きてきてムックリと起き上がる。
腹筋を生かして起き上がるのは普段運動してなかった私には少しキツくて、顔を少ししかめた。
- 40 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/12(水) 21:54
- 作者様、更新ありがとうございます。
これからの高橋さんと紺野さんの展開、気になります。
いつでもいいので、気長にがんばってくださいね!!
- 41 名前:_ 投稿日:2004/05/14(金) 21:09
- 「何か重要なことなん?」
寝転がってばかりだったからか乱れた髪形を手串で直して口を開く。
あさ美が家に来ることなんて滅多になかったし、少し前から行動が気になってた。
上手くは言えないけど、あさ美なのにあさ美じゃないって感じで違和感が溢れてる。
「えー?」
何かを誤魔化すようにぺらぺらと文庫本のページを捲って上ずった声を出すあさ美
その手から少し力を入れて文庫本を取って、せかすようにその手を握った。
「どうしたん?あたしでよかったら聞くから」
その黒目がちな瞳を見つめて、ゆっくりと言葉を吐き出す。
あたしであってあたしじゃないような声に心の中で苦笑いを浮かべて乾いた笑いを立てた。
手の中の文庫本が妙に重い。
薄っぺらいそれはカバーのせいなのか手に馴染んで、何か一体化したみたい。
あさ美は、全てを拒否するかのようにその瞳を伏せた。
そして、口の端だけを上げるように微笑んだ姿が妙に大人びて眩暈を感じる。
でも瞳は笑ってなくて、大人びた少し物悲しい笑顔は一瞬にして瞳に焼きついて離れない。
- 42 名前:_ 投稿日:2004/05/14(金) 21:21
- 「――― あ・・・」
言葉を失ったあたしは上手く言葉を形に出来ない。
胸の中に溢れる想いは、いつだって渦を巻いて胸の何処かに穴を開けてどっかへいっちゃうんだ。
その後、その穴からは冷たい風が吹いてばっかりであたしは膝を抱えて小さく丸まる。
「―――あのさ」
呟かれた言葉は聞き取るのも困難なぐらい小さくて
でも、あたしはその言葉を一言も聞き逃さないように耳を傾けた。
声はあたしだけに向けられた物だった。
「あたし、病気なんだって。もう治らないの」
- 43 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/15(土) 16:13
- んん!?意外だなぁ!?結果が見えてこない・・・。
紺ちゃん病気!?どーゆーことだ!!?(取り乱してすいません・・・。)
更新が待ちどうしいですねぇ。
お気に入りに登録してあるのであせらずに頑張ってください!!
- 44 名前:_ 投稿日:2004/05/15(土) 21:12
- >>43 紺ちゃんファンさん
連日のカキコどうもありがとう。
更新不定期ですが、温かく見守ってやって頂ければ幸いです。
変な展開になることでしょう。
では、これからもよろしくお願いします。
- 45 名前:_ 投稿日:2004/05/15(土) 21:29
- 何かの聞き間違いだろう、と漫画やドラマの中みたいに思った。
それはただの上辺の言葉だと思っていたのに、私は現実でそれを思った。
「ははっ・・・何それ?ホント?」
胸が、苦しい。
「―――残念だけど、ホントなんだ」
あさ美は目を伏せて軽く微笑む。
少し俯いた顔からは上手く表情が読み取れない。
ああ、お願いだから。
あさ美は悲しそうな笑顔を浮かべる。ハッキリと彼女の瞳に映るあたし。
泣きそうな顔をしているのはどっちだ?あさ美はまだ笑っている。
そんな、顔はしないで。
胸が、苦しい。
息が、出来ない。
- 46 名前:_ 投稿日:2004/05/15(土) 21:29
- 「だから、あたしサヨナラしに来たんだ」
あさ美は泣かない。だから、あたしも泣かない。そんな理由訳分かんないよ。
薄茶色の髪が揺れる。ふと、デジャヴを覚える。夢の中のキミとあたし。
「何か、言ってよ。何か寂しいじゃん」
白い、手が伸びる。
あたしの左肩に暖かい体温が触れる。
じわっと同心円状に広がっていく熱すぎるほどの熱。
それは。
あたしの熱か、あさ美の熱か、それとも2人の熱かなんて分からないよね?
目の前のあさ美の顔がぼやける。
ホントに泣きたいのは私じゃないはずなのに。
「サヨナラ、なんて、しないでよ」
途切れた言葉、上手く伝わらないかも、と不安になった。
声が震えた、頭が上手く働かない。
保田先生の英語の授業はとっくに始まっている、体中が熱い。
- 47 名前:_ 投稿日:2004/05/15(土) 21:40
- 「―――無理なんだよ」
呟くように、言い聞かせるように放たれた言葉が胸に刺さる。
我侭なのはあたしで、自分勝手なのはあたしとキミで、我侭なのはキミだ。
何も言わないで急にサヨナラなんて、納得が行かない。
言う時間が無かったらメールでも電話でも出来ただろうに、
言う機会が無かったら呼び出せばよかっただろうに、
どうしてキミはそんなに何でも自分で決めてしまうの?
どうしてあたしはこんなに我侭なちっぽけな子供なの?
「大切な思い出を忘れちゃうのは悲しいから。だから、少しでも早いうちに諦めるの。忘れちゃってもしょうがないんだって」
「それがどれだけ苦しくても、その苦しみもいつかは忘れちゃうんだから。その方が私には楽でいいかもしれないって」
- 48 名前:_ 投稿日:2004/05/15(土) 21:55
- 「私、忘れちゃうんだって。何もかも。今は症状とか出てないけど、どうでもいいことから記憶から抜けていくの」
全てが嘘、だと言ってくれたら、いいのに。
私の心はその気持ちで一杯だった。
あさ美の言葉が胸にどんどん積もっていって
「――いつから知ってたん・・?その病気のこと」
キミはいつだって私の傍にいたのに、どうして気付かなかったんだろう。
違和感なんて感じてた筈なのに、どうしてそれを疑わなかった?
「2ヶ月ぐらい前かな?風邪引いて病院行った時にね、分かったの」
あさ美は相変わらず笑っている。
その大きな瞳には涙が溢れるほど溜まっていて、流れない方がおかしかった。
瞳は悲しみの色をあたしに訴えていて、口角は上がったまま。
- 49 名前:_ 投稿日:2004/05/15(土) 21:56
- ずっと、微笑んでるなんて、止めてよ。
悲しみぐらい流し出してくれたって受け止めてあげるよ。
それくらい、我侭な子供のあたしだって出来るよ。
「治らないの?」
「もうね、手遅れだったの。症状が出ないから、分からなかったんだろうって」
「愛ちゃんだって、分かってくれるよ」
そう言って俯くあたしの頭を優しく撫ぜ続けたあさ美の手の感触や体温。
あたしは声を押し殺して泣いた。あさ美は溜めた涙を流した。
どうやって、キミは全てを忘れていくんだろう?
- 50 名前:_ 投稿日:2004/05/15(土) 22:06
- 憶えてるのって悲しいんだって。
相手が忘れてるのに、こっちだけ憶えてて。
だけど、忘れるのも悲しい。
一人だけ忘れちゃうのって孤独だから。
だから、憶えてるのも忘れてるのも悲しい。
あの日、あの時、あの場所で
私にこの言葉を言った、笑顔の眩しい先輩は消えた。
2日後に届いた小包には先輩の使いさしのマルボロの箱。
箱にはマジックの先輩の文字、『サヨウナラ』
- 51 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/16(日) 00:52
- 作者様、更新ありがとうございます。
連日の更新・・・確かに・・・。
でも、それだけ楽しみだってことですよ?
続きもかなり気になります。
- 52 名前:_ 投稿日:2004/05/18(火) 14:48
- >>51 紺ちゃんファンさん
まったりマイペース更新ですが、よろしくお願いします。
楽しみだ、と言って頂いて嬉しいです。
では、今後ともどうぞ。
- 53 名前:_ 投稿日:2004/05/18(火) 14:59
- また、朝がきて面倒臭くなる。
昨日の夜中にかかってきた電話は担任からの物で休む時は連絡ぐらいせぇと関西弁の混じった声。
いつもより早めにセットした目覚し時計。それが鳴る前に止めて少し嬉しくなる。
何となく気がだるい。
気分が悪いとか、そんなんじゃない、もっと複雑で単純でよく分かんない感じ。
言ってしまえば簡単なのだ。だけど頭で考えると難しくてこんがらがりそう。
白いカッターシャツに手を入れて、パンを齧る。
朝食は食べない派なのだけど、あさ美が学校でパンを食べてるあたしを見る度朝食の大切さを語りだすからいつの間にか食べるようになっただけ。
先週から合服になった制服にダサいと不満をぶつぶつ呟きながらベストに手を入れる。
どうせベストを着るぐらいなら上着を着てベストを脱いだ方がいい、と思うのはそこらへんの女子もそうだろう。
軽く大して何も入ってない鞄を肩に提げて、走り出す。
教科書は全部机の中とロッカーの中に。最近はそれが普通だし、いちいち辞書とか持って帰ってたら体が持たない。
それほど運動は得意じゃない方に分類される方だ。腹筋は得意だけど。
- 54 名前:_ 投稿日:2004/05/18(火) 15:02
- そう言えば、昨日の晩の夜の電話で頼み事の大変さの愚痴を言えばよかった、と後悔する。
あれは一人では絶対終らなかった、と言えば誰に頼んだんや?と言われそうだ。
走りながら笑う。今日は気分が悪くてでも、いい感じ。どっちと言えない感じ。
まぁ、言えば普通なのだ。よくも無く、悪くも無く。それでいい。
- 55 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/18(火) 19:36
- 更新どうもです。
作者様、ゆっくりマッタリがんばってください。
本当に楽しみにしてます(しつこいか・・・)。
更新されてる度にカキコしますんで、迷惑にならないようにこちらもがんばります。
- 56 名前:_ 投稿日:2004/05/21(金) 20:02
- >>55 紺ちゃんファンさん
毎回どうもありがとうございます。
楽しみ、と言う言葉を励みに頑張ります。
では、ごゆっくりとどうぞ。
- 57 名前:_ 投稿日:2004/05/21(金) 20:33
- まだ開いてない校門を飛び越えて、校庭を走る。
誰もいない真茶色の土の上を走るのはどこか現実味を増して笑顔が深くなる。
1Fのトイレの窓。
何個も並べられた鉢植えの下。よくある漫画の中のお話。
見つけた単体の飾り気の無い鍵を手にして、窓を開ける。
少しだけ、あの頃を思い出した。
あの人、後ろ姿、微笑み方、今でも思い出せる。
静か過ぎる校内をわざと音を立てて走る。
カチャカチャ鞄の金属が触れて音が出て、また触れる。
緑色の廊下は何年経ったって好きになれない。雨の日は嫌な音ばっかりするから。
古びた窓は結構好き。何度か揺するだけで鍵が外れて開けれるから。
- 58 名前:_ 投稿日:2004/05/21(金) 20:41
- 「よっ」
声を出して、階段を上る。
踊り場でくるっと1ターン
どんどん登って最後の目的地は誰もいない空に一番近い場所。
古びた南京錠はほとんど意味が無くて
周りには鍵で付けられた細かい傷が無数の山
そこら辺に落ちている針金でカチャカチャ適当に回して歯切れの悪い金属音。
意味もなく重たいドアを体重を預けるようにして開けて一呼吸。
急に走ったりしたからか動機が激しい。
どくどく、脈打つ心臓の鼓動に雨の振る前の雨の独特の匂い。
立っているのもしんどい私の目にあの時描いたらくがきが目に映った気がした。
一生懸命背伸びして、
手をいっぱいいっぱい伸ばして
手の先にはひょろ長いくねくねした木の枝
キミが描いたらくがきの意味と文字が分かった気がした。
照れたように笑うキミ
何を書いたか尋ねた時の膨らました頬
だけど、口角と目はひどく優しくて、おまけに口調も優しかった。
- 59 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/21(金) 21:26
- んん!?ますます続きが気になる・・・。
作者さま、役に立つことはできませんけど、作者さまの励みになる
ようにがんばってカキコします。
続きへの期待大でっす!!
- 60 名前:_ 投稿日:2004/05/22(土) 20:36
- >>59 紺ちゃんファン様
毎回のカキコありがとうございます。すごく励みになってます。
話、動かないですね・・・・すみません。
まぁまったりと頑張りますのでどうぞ宜しく。
- 61 名前:_ 投稿日:2004/05/22(土) 20:43
- 第5話 空のらくがき、刻んだ木の葉っぱ
「なーんだ」
呼吸が整ってから、口を開く。
呆れた口調で本当は言う言葉なのに、それはその意味とはかけ離れていた。
そもそもその意味で私が言ったわけじゃないし、あさ美もその意味で受け取った訳ではない。
何となく、そう思った。
聞いた訳でもないし、考えてること見たり出来ないから、空想。それだけ。
「一番乗り、やと思ったのに」
すねたように口を尖らして笑ってみる。
熱を持った体の熱が上手く逃げない。風が強いからすぐに冷えるはずなのに。
湿気のせいだろうか?そう思って、髪の毛に手ぐしを入れる。
湿気で髪がくるくるなるのは嫌いなのだ、今のところは大丈夫、一人で言って笑う。
- 62 名前:_ 投稿日:2004/05/22(土) 20:49
- 「残念だね」
あさ美が笑う。緑色のよくあるフェンスにもたれ掛っている。
よくある高校生のイメージだ、と心で呟いた。そんなこと言ったら笑われると知ってるから。
あれはまだ麻琴の髪色がオレンジだった頃だから
「いーよ、別に。気にしてない」
私らしくない言い方で、妙に変なトコで区切って笑う。
こう言う言い方が似合う人は何故か尊敬する。何故かなんだから意味はない。
「ねーえ」
妙に間延びした声。
「なんよ?」
「好きだよ、愛ちゃんのこと。ずっと好きだった」
- 63 名前:_ 投稿日:2004/05/22(土) 20:54
- 恋なんて一人じゃ出来ないんだ。
片想いなんて辛いだけで、何のメリットがあるって言う?
恋なんて2人じゃないと辛いだけの気持ちの一方通行。
キミの矢印はいつだってあたしの方向いてて
あたしの矢印もともと形も無かった
キミの気持ちの一方通行
どれくらい続いてたんだろうね?
キミの片想いの辛さ
どれくらいだったのか、知りたいよ
どれくらい、苦しくて、痛くて
どれくらい、泣きたくて、その腕引っ張りたくて
どれくらい、その頬触りたかった?
乾いたあたしの心に響かせてよ
何したって満足じゃない心満足させてよ
こんなにも乾いた色の無い
灰色の世界の中じゃ
綺麗なはずの青空も、大草原も、満月も
本当の色で見えやしない
- 64 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/23(日) 12:13
- おお!!あさ美ちゃん・・・!!!これは告白とゆうものですか!?
と、その前に、またカキコしてしまった・・・。
励みになればいいんですが・・。迷惑なら遠慮せず言ってください・・・。
言えるわけないか・・、すいません。
とにかく、私はいつまでも応援してるので、がんばってください。
期待大です!(いつもこのセリフで終わるなあ・・・)
- 65 名前:_ 投稿日:2004/05/30(日) 21:10
- >>64 紺ちゃんファンさん
告白、というものですね、一般的に。
カキコ嬉しいですよ、迷惑なぞ言わないで下さい。そんなこと思ってませんし。
では、これからもどうぞよろしくお願いします。
- 66 名前:_ 投稿日:2004/05/30(日) 21:20
- 第6話 突然なんて。
あさ美の席が空っぽになった。
1日が経って、2日目が経つ。
あさ美の席は空っぽなまま。
灰色の机の中にしまわれたプリントが風に揺れる。
――何かが寂しい。
「あさ美ちゃん、風邪かなぁ?」
麻琴が間延びした何処か緊張感が抜けたような声で喋る。
お昼休みに忍び込んだ、誰もいない屋上。
風が髪を揺らして、ひゅっと音が鳴る。
あたしの心の中にも、大きな穴が空いて、強い強い風が吹き抜けている。
それは冷たいほどで心の中かき回されて、後片付けもなく去っていく。
「皆勤賞、取れなくなっちゃったよね〜あんなに頑張ってたのに」
小さなお弁当箱を片手に持って、フォークを口に咥えながら里沙が呟く。
さっき里沙の口の中に消えたのは私のおかずのコロッケで
私はパクられた代わりに里沙の弁当箱の中から1つ取り出す。
- 67 名前:_ 投稿日:2004/05/30(日) 21:22
- 「熱がある日も顔赤くして来てたよね〜」
「あ、そんなのあったねぇ」
「あとさぁ・・・・」
私は聞こえてくる声を聞こえないフリして
一人お弁当箱の中ばっかり見つめて、空いたスペース気にしないようにした
- 68 名前:_ 投稿日:2004/05/30(日) 21:31
- あの答え、答えないであたし誤魔化した。
好きだよ、とかそんなの何にでも使える少し怖い言葉で
あたしはその意味知ってて、無理矢理使った。
『好きだよ』とか
簡単に言えた、この口を
あたしはあの後何度もつねって、赤くなるほど
何かハッキリしない胸ん中
後片付けしないとね、風が荒らした後
そうやって手をつけようとするけれど、何かむずがゆい
もうさ、答えなんて出てるよ
でも、あたし見えないフリした
でも、あたし分からないフリした
でも、あたし答え出てないフリした
悔しいとか悲しいとか寂しいとかそんなんじゃあ、ない
もっと複雑で単純で簡単で困難で
簡単だからこそ分からない問題とか、そんな感じ。
- 69 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/31(月) 20:48
- 作者さま、更新どうもです。
私なんぞのカキコを嬉しいなどと言ってもらえて、私こそ嬉しいです。
こんな文しか書けませんが今後ともよろしくお願いします。
では・・・期待してます!!
- 70 名前:_ 投稿日:2004/06/11(金) 20:59
- >>69 紺ちゃんファンさん
そう言って貰えると嬉しいです。
今後とも仲良くしていただければ幸いです。
では、今日の更新です。
- 71 名前:_ 投稿日:2004/06/11(金) 21:07
- 「―――高橋さんっ!!!」
小さく叫ぶような声が聞こえて、閉じていた瞼を開く。
それは聞きなれない声で、瞼を閉じた状態だと誰か分からない。
きっとこの世界の中で分かるのは彼女の声だけだろう、と笑った。
ほら、こんなにも胸の中占領されてしまって。
「高橋さんっ!!!」
肩を強く掴まれて、揺すぶられる。
私の両端からは、少し動揺した雰囲気が溢れ出す。
「―――れいなっ」
そんな声がして、次はもっと強い力が体を駆け巡る。
あまりにも痛くて、開きかけた瞼をもう一度閉じた。
それは、心の中のブラインドをも閉じるように、とそんな感じに。
「田中、ちゃんに、亀井、ちゃん?」
肩から強いほどの力が逃げていった後に、目を開いて、口から言葉が漏れる。
目の前には荒い息をして頬が少し赤くなった妹のような存在の子。
そして、その子を後ろから抱きかかえるようにして尻餅をついた状態の亀井ちゃん。
「ま、まぁ、みんな落ち着こう?」
田中ちゃんの状態から何かあった、と察した里沙が口を開く。
- 72 名前:_ 投稿日:2004/06/11(金) 21:11
- あたしは、後ろに手をついて、空を少し見上げた。
雲ひとつない空は少し淡白で嫌気が差して、田中ちゃんを見た。
「まずは何があったか・・・亀井ちゃん説明できる?」
里沙が探偵みたいに腕組をして、亀井ちゃんに話を振る。
田中ちゃんに話を振らないのは、里沙なりの配慮なのだろう。
この状況で話をしろと言っても、田中ちゃんは上手く話は出来ないだろう。
その証拠として亀井ちゃんに後ろから抱きしめられながら私を睨み続けている。
「あ、はい・・・」
- 73 名前:_ 投稿日:2004/06/11(金) 21:17
- 「たまたま、さっき中澤先生に会って・・・紺野さんが何日か休んでるから、って理由知らないか?って言われて後藤さんに電話かけたんですよ。そしたら、そっちには行かさない。って言われて・・・」
「で、田中ちゃんがキレたの?」
「はい。後藤さんが何か勘違いしてるみたいで、高橋が、とか言って」
「れいな、紺野さんに憧れてたんですよ。勉強も出来るしスポーツも出来るし友達関係もいいし」
- 74 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/11(金) 21:36
- おっ・・・夕飯食べてる間に更新が・・・。
田中ちゃん!?紺野さんに憧れてる!?んん!?意外だ・・・。
里沙ちゃんの探偵・・・似合う(笑)
引き続き、更新頑張ってください!待ってます!
- 75 名前:_ 投稿日:2004/06/13(日) 20:02
- >>74 紺ちゃんファンさん。
意外な展開はお得意なパターンで。
まぁまぁ、これからもドウゾよろしくお願いします。
まったり更新ですが(汗。
- 76 名前:_ 投稿日:2004/06/13(日) 20:11
- 「れいなは、何も知らんとですけど、何かムカツイたとです」
途切れ途切れに、まるで息を吐き出すかのように田中ちゃんが喋る。
さっきまで大きく肩で息をしていたのに、落ち着いたのか今ははたから見れば普通。
「ちょ、ちょっといいかなぁ?」
棘とげしたムードを壊すかのような、のんびりとした声。
「何?まこっちゃん?」
驚いたような里沙と亀井ちゃん達に代わって私が答える。
思ったより声は普通で、心の中も冷静だった。
答えは、いつの間にか、出ていて、
あたしがただ、見えないフリして
手で目隠ししてただけなんだね。
「後藤さん、って何であさ美ちゃんの事に関わってきてんの?そんなに仲良くなかったし・・・」
おどおどしながら喋る麻琴は目で助けて、とあたしに訴えてくる。
そんな視線を無視するように目を閉じた。
これから、あたしがするべき事は決まっていて
これから、起こる事を思いつくまま想像した。
- 77 名前:_ 投稿日:2004/06/13(日) 20:17
- 「後藤さんとあさ美ちゃんは義理の兄弟なんだよ。2年前に親同士が結婚して。今は一緒に北海道のあさ美ちゃんの家に住んでる」
ため息を吐き出すように里沙が一から説明する。
その間、亀井ちゃんと田中ちゃんは目線を伏せて、空は青かった。
「―――あさ美は病気なんだ」
静まった空間にあたしの声だけが響く。
昼休みのうるさい叫び声も楽しそうなお喋りの声も消えて。
「多分、あさ美は向こうに帰ったんだと思う。それからこっちには帰ってくる気もないハズ」
「―――っ!何でぇ!!!?」
田中ちゃんがまた暴れ出す。
亀井ちゃんは目を閉じて、田中ちゃんを抑えて、里沙と麻琴は棒立ちで立ったまま。
- 78 名前:_ 投稿日:2004/06/13(日) 20:24
- 「後藤さんは、ああ言う別れ方をした方が、変な同情とかしないからいいと思ったんだろうね」
「事情を説明したって、諦められないことだって沢山あることを知ってる人だから」
辺に冷静な心の中で笑った。
まるで、別人見たいじゃないか。
前まではこの場所で手足動かしてあがく事しか出来なかった子供が。
「悪いけど、あたしもこれからすることがあるから帰るわ」
空っぽに近い弁当箱とまだ封の切られていない紙パックのジュースを手に持って立ち上がる。
時間は、無い。
手段は、少く。
だけど。
願いは、いつだって多く。
出来ない事だって、出来る気がしてた。今だけ。
10分後じゃダメなんだ、3分前じゃダメなんだ、明日じゃダメなんだ。
今日じゃないといけない。
あたしは、その場所から足を踏み出して。
捕まえたばかりのまだ甘い想い心に秘めて。
あなたを捕まえに、この手差し伸べに。
- 79 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/13(日) 20:36
- おっ!!更新ほやほやだ!!
う〜ん・・・気になる・・・。
ど〜なるんだろう??予想ができん・・・!!
ま〜、こんな私はほっといて次の更新へ向けて頑張ってください。
- 80 名前:_ 投稿日:2004/06/19(土) 17:10
- >>79 紺ちゃんファンさん
更新の度、レスありがとうございます。
では、これからもよろしくお願いします。
- 81 名前:_ 投稿日:2004/06/19(土) 17:22
- 第7話 本当の心。
後ろから聞こえる大きな叫びとか、名前を呼ぶ声は、全て無視。
屋上の重すぎるドアを後ろ手で閉めて、スカートのポケットから携帯を取り出す。
メモリに入った、あさ美のメルアドと電話番号。
何度も小さく呟いて、頭に叩き込む。もう2度と忘れないように。
あさ美が、したように、色んな事を忘れていかないように。
急ぎ足で、教室の自分の机にたどり着く。
机の横にかかった薄っぺらい鞄にお弁当箱を詰め込んで靴箱へ。
『気分でも悪いの?』とか『どうしたの?』と心配するクラスメイトの言葉に
曖昧な微笑みでやり過ごして、走る。
こんな、ありふれた。
キミの居ない、リアルじゃない。
明日のしっぽも昼間から見えてる、世界の一部なんて。
―――あたしには、もういらない。
明日は望まなくてもやって来る。
そんなの大きなお世話で、いらないおせっかい。
不安な未来があるからこそ、リアルさはそこらじゅうに溢れて
手で掴もうと、手を伸ばす、幼い子供達が居る。
- 82 名前:_ 投稿日:2004/06/19(土) 17:27
- 何も心配のいらない、この世界は
あたしには、何時からか灰色っぽい色褪せてしまった色でしか映らなくて
絵の具のチューブから出したばかりの色に憧れた。
何も混ざっていない、空気すら化合していない、その色に。
校門を出たところで、携帯からしばらく連絡も取っていなかった人に電話をかける。
初めて話す人に電話をかけてるみたいで、ドクドクする感じに思わず微笑んだ。
―――世界が変わる、前兆を。
キミがあたしの目の前に落としていった。
これから、大切なモノを落としていかないように、と
あたしが、キミに言ってあげなくちゃ
その破れてしまったポケットの底を指差して
落としていったモノを手の平にのっけて、差し出して
『もう無くすなよ』って
- 83 名前:_ 投稿日:2004/06/19(土) 17:32
- 何回かコールが続く。
それを数えるほど、あたしは暇じゃないし、未来が安定している訳でもない。
『――どないしたんや?愛か?』
聞きなれない関西弁。
それを聞いた瞬間、顔さえ思い出すのもおぼろげだった頭に浮かぶ。
金髪の、青い目をした、どこかキツそうな、だけど優しい微笑みを。
『お久しぶりです。中澤さん。今日はちょっとお願いがあって・・・』
『急に電話かけてきて、すぐそれかいな。あんたはいっつもそうやなぁ』
猫のように目を細めた姿が瞳に映ったように感じる。
頭の中の映像は鮮やか過ぎて、あたしは目を細めた。
『―――で、何やの?あたしが出来ることやったら何でも言ってみぃ』
- 84 名前:_ 投稿日:2004/06/19(土) 17:38
- ぷつっ。切れた電話。
もう、用無しの携帯をポケットに荒く突っ込んで、足を速める。
何度送っても、返事の無いメール。
何度かけても、留守電の携帯電話。
あたしは、それを飽きずに何度も内容の違うメールを送る。
それは過去を振り返ったものや、今日あったこととか。
あたしの中の空想の出来事とか。
ただ、思いつくままに、思いつくだけのことを。
途切れることなど無いように、あたしとあなたを繋ぐのはそれだけのように。
何度も、思い出す。
ふっくらした、頬を膨らましてすねたような表情を作る時とか
時には大人っぽ過ぎるくらいに憂いだ表情をしたりとか
メールは読みにくいほど、文は繋がってなくて
あたしは、あなたと過去の思い出を振り返る。
―――あなたが忘れたって、あたしが思い出させてあげれるように。
- 85 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/19(土) 20:58
- 作者さま、更新どうもです(毎度)
80>
つづきがとっても楽しみなので、どうしても更新の度にカキコしてしまうんです。
愛ちゃん、がんばってください(涙)
- 86 名前:_ 投稿日:2004/06/20(日) 15:06
- >>85 紺ちゃんファンさん
続きが楽しみ、と言っていただけて嬉しい限りです。
これからも、どうぞ宜しくお願いします。
- 87 名前:_ 投稿日:2004/06/20(日) 15:06
- 「ただいま」を言っても何の返事も無い家に帰って、早速押し入れを漁る。
引越しの時に使ったハズの大きめのリュックサックを奥の暗い所から引っ張り出してその辺りにあるものをぎゅうぎゅう押し込んでいく。
お気に入りの服だとか、緑色の歯ブラシ、甘いイチゴ味の歯磨き粉に読みかけの学校の図書室の本。
半分くらいそれらが埋まった後に、壁に押しピンで止めていた写真を何枚か手にとって本の間に挟む。
最後に財布と銀行の通帳とかそんなのを入れて、ぽんぽんと何回か叩く。
不思議と、これから先のことに不安感は無かった。
その代りにあるのは何か大仕事をした後のような満足感と心満たされる充実感。
天井を仰いで笑う。
白い壁紙の所々に黄色い染みが出来たのを1つ、1つ数える。
- 88 名前:_ 投稿日:2004/06/20(日) 15:11
- 今まで行った事の無い場所へ、あたしは飛び立つ。
あなたの良く知っている場所へ、あたしは迎えに行く。
帰っておいで、なんて恥かしくて言えないけれど
ただ、一目見て、この気持ち伝えて、それだけでいいと思った。
何処かの古臭い映画みたいだけど、あたしはそう願った。
キミと今まで過ごした時間が
あたしのこれから過ごす時間の中でも、
あたしの今まで過ごした時間の中でも。
どんな時でも、光り輝いて色褪せていませんように。
どんな宝石よりも
どんな光り輝く太陽の光よりも
どれだけ輝き続けるガラスの破片よりも
キミと過ごした時間が一番目に優しく淡いでもどこか強い光で輝いていますように
「サヨウナラ」
今までのあたし。
弱虫で逃げてばっかりだった日。
- 89 名前:_ 投稿日:2004/06/20(日) 15:20
-
第8話 飛び立つ小鳥と空に書いた落書き。
量の割には軽いリュックを背負ってあたしは家からそれ程遠くない所に立っている高級マンションみたいなマンションの前に立つ。
あの人に会って、何を言おう?
ワクワクドキドキする感情が心を満たしていく。
あの人は困った笑顔を浮かべているんだろうか?
「何や、遅かったな」
ポン、と頭を不意に軽く叩かれて、声の主を見つける。
あの頃と同じ金髪と青い目。でも少し違う優しい色の混じった声。
「そんなに遅くないですよ、中澤さん」
「何や他人行儀やなぁ〜。昔はあんなに裕ちゃん言うてたのにぃ」
ぐりぐり、頭を撫でられて、あたしと中澤さんは一緒に笑う。
「あれ、用意したで。急やったからあんまりいい席ちゃうけど・・・」
言いにくそうに取り出された薄っぺらい紙袋に入っているチケット。
「別にいいですよ。行けたらいいんで」
「分かったわ。じゃあ元気でな。無理せんときよ。それだけや」
そう言って、あたしの背中を押して。
- 90 名前:_ 投稿日:2004/06/20(日) 15:23
- 「ありがとう」も「さようなら」も言わなかった。
振り返らなかったし、呼んでくれていたタクシーに乗って笑った。
お礼とかお別れとか、そう言うのはもう一度会った時でいい、とあの人は何度もあたしにそう教えた。
何時から仲良くなったのか分からない中澤さんは、いつだって優しくて。
「運転手さん、空港までお願いします」
何かをかみ締めるように言った。
ほら、こうやって1歩。1歩。
キミに近づいてるよ。
- 91 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/20(日) 18:39
- 86>
こちらこそ宜しくおねがいしますm(__)m
がんばってください!
会えるといいですね。
- 92 名前:_ 投稿日:2004/07/06(火) 14:06
- 始めて踏み込んだ新しい土地は変な感じがして、立ち止まって何度か地面を踏んだ。
見慣れた灰色のビルばかり並んだ所とは違って緑が溢れてる。
いつしか慣れてしまった不安定な風はホンモノじゃない、と感じた。
足を踏み出す。
それほど多くはない人込みに紛れるように、向かっていく―――
「――家の住所も場所も知らないのにどうやって行く気?」
ぐっと服の襟首を掴まれて、飲み込まれようとしていた人込みから離れていく。
何度も聞いた事がある、優しいでも何処か冷たい声。
首に感じる、あさ美とは違う細く強い腕。
人もまばらな所で、少し宙に浮いていた足が着地する。
首に回されていた腕と襟首を掴んでいた手は離れて、それが合図のように振り返る。
「―――後藤、さん」
知っている頃と違う所はたくさんあるけれど、それはあさ美の義理姉さん。
あさ美と姉妹になった頃、何度も話したあの姿。
- 93 名前:_ 投稿日:2004/07/06(火) 14:12
- 「あさ美がうるさいから迎えに来ただけだし」
ふいっとあさっての方向を向いて、でも赤くなった頬は隠れない。
めんどくさそうにジーンズのポケットに手を突っ込んだり、
髪の毛を乱暴に掻いたり。
「分かってますよ」
笑顔が零れない様に気をつけて言葉を返す。
何処か怖そうなだけど本当は優しい御姉さんに頼むあさ美の姿が目に浮かんで消えない。
「ついておいで、迷子にならないでよ?」
これ以上面倒な事を起こすな、みたいな顔で言われて
あたしはその背中を見つめて歩き出す。
ここは、あさ美がいた場所で。
ここは、あさ美がいる場所で。
あたしの知らないキミがきっと溢れてる。
- 94 名前:_ 投稿日:2004/07/06(火) 14:16
- 着いた一軒の家の前。
その前でキョロキョロとしている一人の少女。
「―――あ!」
あたしと目が合ったのと同時。
その少女は走り出す。何度も見た綺麗なフォームで。
まるで全てがスロー再生。
持っていたリュックを道に投げ付ける様にして、その背中を目指す。
こんなにも。
この世界が鮮やかな色で溢れているなんて知らなかった。
こんなにも。
キミの背中が小さいなんて知らなかった。
- 95 名前:_ 投稿日:2004/07/06(火) 14:22
-
伸ばした右手。
丁度、あさ美の腕が振られるのを見計らって足を大きく踏み出す。
限界まで伸ばした右手。
もう少しで捕まりそうな、その手。
―――指先に、触れた体温をいつだって忘れない。
「―――っ、捕まえ、た・・・」
まだ前に進もうとするあさ美を捕まえた腕を引っ張って停止させようとするけれど、止まらない。
捕まえた腕から手を離して体へ腕を回して全体重で抱き寄せる。
くてっ、と前に屈んで荒く呼吸する背中。
白いコンクリートの壁に背中を凭れさせて、深呼吸を何回か。
「―――なんで、勝手に、いなくなる、んよ?」
全速力で走り過ぎたせいか、働きすぎる心臓。
うるさすぎる心臓の音を聞きながら、掠れた声を出した。
「まだ、何も、返事して、ないのに」
- 96 名前:_ 投稿日:2004/07/06(火) 14:25
- こんなにも、キミが好きな事。
こんなにも、キミが愛しい事。
好き、の言葉だけじゃありふれた事で何かタリナイ。
愛してる、じゃ慣れない言葉で不安定。
こんなにも、この心の中溢れてる感情
どうして簡単に言葉にして伝えられないんだろう。
いつだって、高い壁みたいな何かが邪魔をして
上手く言葉に出来ない。伝えられない。
- 97 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/06(火) 21:29
- ぉおっ・・・!!ついに出会いが・・・!
良かったですねぇ、密かにさっき更新の後藤さんに萌えてたり(笑)
愛ちゃん!!勇気を出して!!・・・なんて思ってみたり・・・。
これからもがんばってくださいな!
- 98 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/09(金) 05:53
- 更新お疲れ様です。
毎回楽しみにしています。
これからも頑張って下さい!
- 99 名前:_ 投稿日:2004/07/10(土) 20:10
- 「――忘れて欲しかったの」
俯いてた顔をあげて振り返るあさ美の瞳と視線が絡む。
その瞳には深い深い色が宿って一層深い色になっていく。
「あたし、いつか忘れちゃうの。どんな大切な大事な事も。
だからね。あたしが忘れる前に忘れて欲しかったの」
支えていた腕から柔らかい重みが消える。
くるっと1回転して私を見るあさ美は、何処か今にも泣きそうで。
そう、映画の中でよくあるシーン。
一人の女の子が大きな瞳に溢れそうなぐらいの涙を溜めて。
今にも泣き出しそうな顔なのに意地を張って噛み締めた唇。
大きな大きな雫が瞬きでその白い頬をゆっくりと流れて。
その雫は光の反射のせいかとてもとても綺麗で。
- 100 名前:_ 投稿日:2004/07/10(土) 20:19
- 「忘れられるのは悲しいし。だけど一人覚えてるのも悲しいから」
「―――忘れて欲しかったの・・・」
掠れた声は私には『忘れて欲しくない』と訴えてるみたいで
私は彼女を抱きしめている手に力を入れた。
「私は忘れないよ。あさ美が忘れてって言ったって忘れない。
何をしたって忘れない。忘れたくない」
ピクリ、あさ美の体が動く。
でも、じっと私を見た視線は動く事が無いままで
ただその噛み締められた唇が心を揺らした。
「―――もし、あさ美が忘れたら。私が教えてあげる。
何回忘れても教え続ける。だから関係ない」
- 101 名前:_ 投稿日:2004/07/10(土) 20:26
- 素直に言えばいいのにね。
そんな意地を張って。かわいそう。
ほら、唇がこんなに赤くなって。
瞬きすればいいのに、我慢して。
涙もう頬に流れちゃって意味無いのに。
そんな意地張らなくても、君の事ちゃんと知ってるから。
「泣けば?今ならタダで胸貸したるけど?」
わざとらしく笑顔作って、両手を大きく広げる。
君は上手く笑えない子みたいに不器用に口の両端上げて笑おうとする。
でも、諦めたみたいに目を伏せて。
綺麗な綺麗な大粒の涙を頬に流して一歩、一歩私に近づく。
そんな君を伸ばした手で引っ張って抱きしめる。
香る甘いシャンプーの匂いだとか、柔らかい感触とか。
胸ですすり上げる声だとか、感じる涙の生ぬるさだとか。
全てが、愛しいと思った。
ずっと、ずっと愛していると願って叫んだ。
君を手放すなんて、
この世界を破壊させるよりも
重要なで嫌な事なんだから。
- 102 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/11(日) 20:41
- なんだか切ないなぁ・・・。この話は。
でも好きですね。これ。
作者さまの文章力GOOD!!
- 103 名前:シーナ 投稿日:2004/07/20(火) 20:48
- めちゃめちゃ面白いです!!!
全部一気に読んじゃいました!
作者様スゴイ!!(^^
これからも頑張って下さい〜!
- 104 名前:_ 投稿日:2004/07/20(火) 22:19
- いくら時間がたっただろう。
ずっと、時間が経たなければいい、と思う。
時間なんて消えてしまえばいい、と願う。
「―――帰っておいで」
声をしばらくの間出してなかったせいか、声が掠れる。
胸が、破裂しそうなくらい苦しい。
「で、家おいで。一緒に住もう?夢やったんよ」
小さい小さい頃からの夢。
大好きな大好きな人と、一緒にいれればいいと。それだけ。
- 105 名前:_ 投稿日:2004/07/20(火) 22:19
- よくバカにされた。
子供らしくないわね、って大人から言われて。
上辺ばっかり見られて。
あたしは、そんなの気にしなかった。
夢は人それぞれが持つもので。
貴方達には関係なんて無い。
「―――いぃの?」
掠れた声。
それはずっとずっと愛しいと思うもので。
空に伸びた白い白い手先。
雲なんて一つもない空。
ゆっくりと空に描かれる言葉
それは上手く読み取れなくて。
「―――何書いたん?」
きゅっと胸元のシャツを掴んで笑う君に呟く。
「内緒」
くすっと笑う仕草。
抱きしめた腕に力を入れた。
そう、ぎゅっと。
君がもう2度とあたしから離れないように。
- 106 名前:_ 投稿日:2004/07/20(火) 22:24
- 手を伸ばして、やっと捕まえた君を
あたしは、君の隠した本音を見透かして
もう一度手放す想いをするほど、大人じゃなくて
でも、どこかで
ずっと永遠に一緒にいられない事を知っているほど、子供じゃなくて
―――永遠なんて存在しないんだよ
いつか別れる事があるからこそ新しい出会いがあって
いつか別れるからこそ、一緒にいる時間を幸せと感じて
あたし達は大人すぎず、子供すぎず
だからこそ時々見失う、大切なモノたちを
だけど、また見つけようと、夢を見るんだ。
それを一度きりで諦めれるほど大人じゃないから。
- 107 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/27(火) 21:55
- なんだかとっても大人っぽい作品だ・・・。
周りとは少しちがいますね。
次回更新待ってます。
- 108 名前:_ 投稿日:2004/08/06(金) 20:57
- あさ美に連れられて一軒の家に上がりこむ。
玄関で壁にもたれて待っていた後藤さんは柔らかな笑顔で
ただ「おかえり」と言って綺麗なターンで後ろ向いて何処かの部屋に消えた。
「―――これからどうする?」
あさ美の部屋のベッドにごろんと寝転がって、ぽつりと呟く。
ふわふわした感触の布団に眠気を覚えながら白い天井を見つめる。
「そんなに急ぐ事無いよ。しばらくゆっくりしていけば?」
今にも笑い出しそうに目を細めて、優しい口調であさ美が言う。
そっと視界に現れた白い手はあたしの眉間に下りてきていつの間にか出来ていた皺を伸ばすように撫でられる。
- 109 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/09(月) 13:50
- うぅ・・・少ししか間あいてないから控えてたのに・・・
カキコしてしまった・・・。
もっと見てみたいですね。ここの作品は。
失礼しました。更新待っております。
- 110 名前:_ 投稿日:2004/08/13(金) 14:21
- 「・・・そうだね」
その白い手を捕まえて、あたしは目を瞑る。
心の中にいつの間にか芽生えていた焦りを無視するように。
だって、その芽を摘んでゴミ箱に捨ててしまう事は出来ないと何故か知っていたから。
もう、離れないで。
口には出さないあたしの我侭。
もう、いなくならないで。
口に出してしまえば、目に鮮やかに映る君の困った表情。
「夕飯は後藤さんが作ってくれるの」
目を開けなくたって分かる、君は優しい微笑みで笑っている。
そっとあたしが捕まえた手の反対の手で髪を撫でられる。
「―――まだ、後藤さんって言ってる」
あたしは目を開けずに口から言葉を漏らす。
- 111 名前:_ 投稿日:2004/08/13(金) 14:22
- あなた達が姉妹になった頃。
あたしは家の近くの寂れた公園で君と何度も話をした。
それは時に悩みだったり笑い話だったりしたけれど
最後に君が言う言葉はいつも変わりが無かった。
「お姉ちゃん、って言えないの。後藤さんはね、無理して言わなくてもいいよ、って言ってくれるんだけど」
「何か悪い気がして。でも言えない」
あたしは何も言わなかったと思う。もう記憶が曖昧。
「まだ言えないの」
上から振りかかってくる声は少し寂しそう。
「無理しなくていいじゃん。いつか言えるよ」
あたしはその頬に手を伸ばして笑って言う。
- 112 名前:_ 投稿日:2004/08/13(金) 14:32
- 「―――旅行、したいなぁ」
あさ美は何かを思い出したように呟く。
あたしは笑う。声も上げずに喉を震わして。
「じゃ、しよっか」
まだまだ思い出が少なすぎるんだ、あたし達は。
君が忘れてしまうにしても、覚えている物が少なすぎる。
作らなければいけない、忘れても思い出せるような思い出を。
あたしは焦っている、本当に。
らしくないなぁ、と笑う。だけど、心は焦ってしまう。止める事なんて出来ない。
「電車で連れて行かれるまま旅行するとか」
瞑っていた瞼を開いて、あさ美を見る。
嬉しそうに細められた瞳。
「自転車で日本1周とか?」
あたしはあさ美の手を離さない。
逃げ場所なんて無いって分かってるのに。
逃げる気なんて彼女は無いって分かってるのに。
- 113 名前:_ 投稿日:2004/08/13(金) 14:35
- ―――離れないで。
まだ、その言葉を言うには早すぎる。似合わない。
「それはしんどいよ。さすがに」
あたし達は暗闇の中で見えやしない先を目を一杯開けて手を限界まで伸ばして捜してる。
足は怖くてあまり進まないのに、上半身だけ前のめりですごく滑稽。
だけど、あたし達はそんなの気になんてしない。
暗いから誰にも分からないから。
「じゃあ、何がいい?」
「電車とか面白そうだよね」
「じゃあ、電車で」
「うん。夜中に発車する電車とか無いかなぁ?」
- 114 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/26(木) 12:59
- もう二人はラブラブですな。
だからこそ愛ちゃんは辛いですね。
作者さま、がんばってください。
- 115 名前:ほしお 投稿日:2004/09/12(日) 13:08
- とても面白い作品ですw
がんばってくださいな!
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/12(金) 01:21
- お待ちしております
- 117 名前:_ 投稿日:2004/11/13(土) 20:05
- >>114 紺ちゃんファンさん
ありがとうございます。
これからの切なさなどが伝わるよう頑張ります。
>>115 ほしおさん
ありがとうございます。
そう言って頂けて幸いです。これからも、宜しくお願いします。
>>116 名無飼育さん
お待たせしてすいません。これからも宜しくお願いします。
- 118 名前:_ 投稿日:2004/11/13(土) 20:18
-
第9話 本当のお話。
あさ美がベッドに滑り込んでくる。
空いたスペースを少しでも広げようとあたしは体を動かしてスペースを作る。
「夜中じゃなくても夕方ぐらいから乗って。色んな所を旅したら?」
白いクリーム色っぽい天井を睨みながらあたしは呟く。
どうかしてる。と思っていた。
小学生か中学生が一度は思うような事を現実に実現しようとしているのだから。
そんなバカみたいな事いつもなら鼻で笑って軽く流してたのに。
「―――桜が咲いてる所に行って見たいなぁ」
「今の季節は咲いてないでしょ」
「狂い咲き、とか言うじゃない?」
あさ美はニコニコして笑っている。垂れ落ちそうな白い頬っぺたが愛しい。
細められても大きい瞳が愛しい。瞳の中の優しい色が愛しい。
か細い可愛らしい声が愛しい。細い手が愛しい。
瞳を伏せて笑う姿が愛しい。
言ってしまえば、尽きないほど。
どうして彼女なんだろう。と思ったけれどその考えは消えさせた。
- 119 名前:_ 投稿日:2004/11/13(土) 20:19
- こんなにも愛しいキミが。
今まで覚えてた記憶を無くすなんてあり得ないと思ってた。
もう、時間は止まらない。
立ち止まったら置いてかれる。
疲れても歩き続けなきゃいけない。
- 120 名前:七誌さん(旧・紺ちゃんファン) 投稿日:2004/12/02(木) 22:45
- えと・・・ある理由で名前変えましたってか統一しました。
久しぶりの更新うれしいです。
愛ちゃんは辛いですね。
ここはとっても好きです。作者さま、がんばってください。
- 121 名前:_ 投稿日:2004/12/04(土) 19:33
- >>120 七誌さん様。
更新、遅くてすいません。
どうぞ、これからも暖かい目で見守って頂けると幸いです。
- 122 名前:_ 投稿日:2004/12/04(土) 19:41
- 「もう、寝ようよ」
楽しそうに、まるで小さな子供が新しいオモチャを手にして喜ぶように
一瞬見ただけでも心に響く笑顔。
「飛行機、疲れちゃったし」
「初めて、だったんじゃない?」
少し、心配そうに。その整った眉を寄せて。
あぁ。君の手は安心する。
あぁ。君の体温はやわらかい。
考えていた事が、頭の中で増殖しだして。
誰も、頭の持ち主である私も許していないのに、身勝手に。
襲ってくる恐怖に見えない身を縮こめた。
そんな事、望んでない。
「――明日にでも、出発しよう・・・か?」
無理矢理疑問系を付けて。
そう、私が望むものは、君との愛しい時間。
それを壊す恐怖など、考えたくも無い。
―――いつかは、来るのだから。
その時だけでいいだろう?
今から不安に押しつぶされるなんて、あたしが死んだほうがよっぽどマシだ。
- 123 名前:_ 投稿日:2004/12/04(土) 20:00
- 「どうしたの、急に」
くすくすっ、女の子らしい彼女の笑い声が聞こえる。
不意に繋がった手に力が入る。
ただ、それだけ。
「さっき、気が変わったんや。時間が長い方が楽しみが増えると思うし」
どうして、自分はこんなに嘘が上手なんだろう。
英語の時間。猫のような目の先生に教科書を忘れた時の言い訳はすぐには出てこない、と言うのに。
遅刻をした時。校門で金髪の鬼に見つかった時も言い訳なんて思いつかないのに。
「―――そうだね」
少し、考えて君は、さっきまでのとは違う笑顔を浮かべた。
何だろう。
よくは分からないけれど。見ていて。
少し、切ない。
「おーい!ご飯だよ〜!」
階段下から聞こえる、後藤さんの声。
「今行く〜!」
張り上げるような、あさ美の声。続いて、お腹が主張する音。
「「ははははっ」」
二人、顔を見合わせて。全てを振り払うように笑った。
「さ、ご飯食べに行こっか?」
- 124 名前:七誌さん 投稿日:2004/12/04(土) 21:27
- 更新乙です。
これからどうなるんでしょうか・・・?
二人にはいい感じにもっとなってほしいです。
- 125 名前:_ 投稿日:2004/12/18(土) 21:08
- >>124 七誌さん様
いい方向に・・・なればいいですね。
これからも、宜しくお願いしますです。
- 126 名前:_ 投稿日:2004/12/18(土) 21:23
- 朝は早く巡って来た。
朝が来なければいい、とは思ってなかったけれど
時間が経つのが遅ければいい、とは思った
1日が1年のように長ければいい、とも思ってた。
不思議に、目が覚めて。
寝起きのうっすらとした白い霧も頭の中では今日は存在してなかった。
寝ていたそのままの体勢で、寝返りを打つことも起き上がる事もしないで
隣のぬくもりを探した。
不安になるのは、あたしだけでいい、と
君の表情や君の仕草、君の言葉で、揺れているあたしは思う
どうして、人が神に祈るのかは分からないけれど
どうか、この隣の体温がなくならないように、とそれだけがあたしの夢だった。
隣に手を伸ばす。
――― ない。
ガバッと起き上がって、辺りを見渡す。
昨日と変わりはしないその部屋の中で、微かに光を差し込ませるカーテン
きっと君が気を使って閉めたんだろう、と頭の中で疑問を解いて携帯に手を伸ばす
時刻はちょうど朝。遅くも無い早くも無い目覚めだ、と声を出さずに笑う。
乱暴に脱ぎ捨てられた服に手を伸ばして白いシーツから離れる。
- 127 名前:_ 投稿日:2004/12/18(土) 21:42
- 混ざって落ちている服に苦笑を漏らす。
綺麗好きな君にしては、珍しいね、と言ってみようか。何て考えて
それを辞める。そんな冗談、言う気にも何となくなれない。
カーテンを開けて、その後姿を見つける。
音を立てないように窓をスライドさせて最小限のスペースで体を滑り込ませる
「――― 何、してんの?」
その肩に手を置いて、口を開く。
発した言葉を言い終えて、寝起きで声を一声も発して無かったから声が低いなと気付く。
「――― あぁ、愛ちゃん」
こちら側に顔を向けてふわっと降り落ちる雪のように笑顔を浮かべて
「早くに目が覚めたからね、外見てたの」
愛ちゃんを起こさずにベッドから出るの、疲れたよ〜なんて笑って
「――― ずっと一緒にいるよ」
すんなりと口から滑りでた言葉に、君は驚いて、私は顔を逸らす。
だって、寂しそうだったからさ。横顔が。だ何て言っても言い訳にしかならなそうだから
あたしは言うのを辞めて、心の中でその言葉を消去した。
- 128 名前:_ 投稿日:2004/12/18(土) 22:04
- え?え?なんて急な事に戸惑ってる君に苦笑を漏らして
ブォーと黒い煙を吐き出しながら進んでいく地球に優しくないトラックを見つめた
「風邪、引くよ」
肩に置いた手に力を入れて、それからその手を腰へと滑らせて室内へと導く。
手を掴んで離さない、子供に憧れてた。
そんなに素直になれるならなりたい、と大人な目で見つめてた。
不完全な頭で、だけど繋がってる部分は完全で
掴んで離さない、その手にあたしは焦がれたのだ。
「あたしね、欲張りだから」
「きっと愛ちゃんの手も掴んで離さないよ」
あの時、デパートで小さな子供を食い入るように見つめていたあたしを
君は笑って、子供だね、と私の手を引いて食料品のコーナーへ引っ張って行ったのだ
「しょうがないなぁ」
背負ってきたリュックから、タバコを取り出して
あたしは君のいないベランダで白い煙を立ち上らせ吐き出す。
- 129 名前:七誌さん 投稿日:2004/12/24(金) 14:27
- 更新乙ナリ。
愛ちゃん・・・切ないですね・・・。
一体この先・・・。
- 130 名前:_ 投稿日:2005/01/05(水) 22:07
- ガサゴソ・・・
押入れから引っ張り出したダンボールの中に半分顔を突っ込む形で
これからの生活に必要そうなモノを次々引っ張りだしていく。
「あさ美ー、これいる〜?」
ねずみ色のカーペットに山積みにされたモノを指差して、一息つく。
「んー?」
生返事なのも、もう何回目で。
もう止めて欲しいと心の中で呟いて、ため息を胸の奥からゆっくり吐き出す。
「―――何、しとん?」
よいしょっと膝に手を付いて、立ち上がる。
壁の一面に向かって、こちらに背を向けてる君はどんな顔をしてるんだろう?
ゆっくりと近づいて、少し高い肩ごしにその壁を見つめる。
そこにあったのは、写真が溢れるほど貼り付けられたコルクボード。
「写真?」
1つずつ肩越しに眺めていく。
いつの間に撮ったんだろうと思う写真や、ピースで顔を隠した写真・・・
- 131 名前:_ 投稿日:2005/01/05(水) 22:17
- 「あ、愛ちゃん・・・」
ようやく気付いてくれたのか、写真から目を離してくれるあさ美。
「何?どしたん?」
コルクボードに手を伸ばして、それを壁から剥ぎ取る。
あさ美の肌から香る甘い匂いが胸を付いて何だか悲しくなった。
「この人・・・」
言いにくそうに、目線を逸らして。
あぁこの子はこんな顔も出来るのか、って何だか不思議で。
あたしはどこかで感じていた。
直感的に、脳に転がってきた思いは、君どころかあたしも恐れていた恐怖。
分かっていた、なんて可笑しいけれど
知らなくてイイ事も知ってしまって、大人になったんだと変な事を感じたんだ。
「あぁ、亜弥ちゃん。あさ美は会った事無いやろ?藤本さんの彼女で、あたしの幼馴染」
早口に口から滑り出た言葉は半分嘘で半分本当。
どうしたら君を傷つけないか、そればかり考えて
上手く働かないバカな頭を一生懸命回転させて、見え透いた嘘。
- 132 名前:_ 投稿日:2005/01/05(水) 22:17
- 訪れてしまったんだね。
止まってた歯車は軋んだ音を立てて回り始めて
油を挿すタイミングはもう決められていて
忘れていく恐怖が、君を飲み込み始めた。
- 133 名前:七誌さん 投稿日:2005/01/06(木) 11:55
- 忘れていく恐怖・・・
なんか最後のこの一行が忘れれません・・・。
そうか・・・ついに訪れたんだね・・・。
- 134 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/13(日) 23:56
- 一気に読まさせて頂きました、かなり泣ける話じゃないですか 涙 しかもすでカウントダウンが・・・ 大泣 更新待ってます。
- 135 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 20:15
- いつまでも待ってますよー。
- 136 名前:_ 投稿日:2005/03/06(日) 20:08
- 更新遅くなってしまい、申し訳ありませんm(_ _)m
皆さんの温かい言葉に押され、最後まで頑張りたいと思います。
では、更新。
- 137 名前:_ 投稿日:2005/03/06(日) 20:37
- 第10話 私たちは旅立つ。
「もういいやろ」
ふう、とため息と一緒に言葉を吐き出した。
リュックにパンパンに詰められた荷物。それに手を置いて、あさ美を見る。
いらないでしょ、と言った物は結局、リュックに詰められて。
「もう、戻らないんだから」と言う言葉に胸を痛めた。
君が望むなら、どこにでも、何をしてでも、望む場所へ連れて行くのに。
「ごめんね、何か付き合わせちゃったみたいで」
あさ美が吐き出したため息は何色をしているのだろう、とふと思う。
空に舞い上る煙のように白く綺麗なのだろう。
あたしはどんなに頑張ったって、それに似合う青空や灰色の煙突にはなれない。
「別に。あたしが勝手に手伝っただけやし」
手持ち無沙汰になった両手、ポケットにこすり付けるように手を当てて。
- 138 名前:_ 投稿日:2005/03/06(日) 20:37
- コツン、と手に当たったのは、あの、四角い箱。
思わず苦笑いを浮かべ、自分が求めている事を知る。あの苦い煙。
肺が喉が脳が、きっと求めている。いや、求めているのは幻想なのかもしれない。
吸ってた人、先輩、屋上、立ち上る煙。
頭の中で今もなおリアルに思い出せる情景、写真に収められたみたいに綺麗な。
するり、ポケットに右手を捻じ込ませる。思い出す、症状。思い出。
ふわり、とまるで雲に乗せられたかのように頭の半分は幻想で覆い尽くされ
喉が、渇く。欲している、空想。幻想。届かない手の平。
- 139 名前:_ 投稿日:2005/03/06(日) 20:38
- 何時か麻琴に聞かれた事があった。どうして吸うの?って。
理由なんて無かったら吸わないでしょ、ってお節介な言葉の羅列。
こんなイラナイ言葉ばっかり簡単に思い出せる、そんな箪笥の一部を
忘れられたらいいのに、と笑う。今、目の前で、君が、忘れている。
理由なんて簡単。
あたしは、影を追いかけていた。
屋上、立ち上る煙、怒る石川さん、笑う吉澤さん。
一度顔を顰めて片手で器用に箱を開ける癖、夏の夜、虫の声、白いタンクトップ。
『うちら駆け落ちすんの』不器用な言葉、笑ってた表情、綺麗な肌。
電車の駆けて行くノイズ、公園で一人、屋上、1つのマルボロ。
踊る黒い文字、落ちた青い雫。
ただ、それだけ。
- 140 名前:_ 投稿日:2005/03/06(日) 20:45
- 「――― あ・・・」
声が掠れる。心臓のポンプは必要も無いのに速く、速く運動したがる。
誤魔化すように笑ったって、視線が絡まる、深い夜色の瞳。
お願い、もう一度だけ。お願い。願うのは、どこに?
神様?キリスト様?太陽?死んだおじいちゃん?君?
「銀行でお金下ろしてくる」
喉が渇いたから、家に忘れ物、新しいリュック、買い物、ジュース。
頭や胸をぐるぐる回っていた言葉は採用されず、口から出たのは妙に現実味を帯びた言葉。
指で確認する箱。こんなにも、求めたのは最初で最後。
――― もう、これで影を追うのは終わりにしよう。
- 141 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/07(月) 01:12
- 更新お疲れさまです。
いよいよ旅立ちですね。 これからどんな事が起きていくのか、かなり気になるとこですね。 次回更新待ってます。
- 142 名前:七誌さん 投稿日:2005/03/07(月) 13:51
- 更新乙です
ついに旅立ちのときなんですね。
これから二人はどうするのか・・・気になるところです。
- 143 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/21(月) 20:42
- いつまでも待ってますよー。
- 144 名前:_ 投稿日:2005/03/24(木) 21:23
- お待ち下さった皆様、ありがとうございます。
最終回まで一気更新したいと思い、今書いている所です。
もうしばらく、お待ち下さいませ…
では、お知らせのみで失礼しました。
- 145 名前:?????? 投稿日:2005/07/20(水) 15:09
- 待ってます……。
- 146 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/28(木) 14:09
- 145サン<ageると期待する方が多いので(自分も入りますが)なるべくsageでお願いします。
- 147 名前:_ 投稿日:2005/08/15(月) 13:32
- 何度も申し訳ありません。
書いている途中で、原稿が消えてしまったりというハプニング続きで
もうしばらく完成にはかかりそうです。
夏休みが終わるまでには、この話を終わらせるつもりなのでもう少し
お待ち頂けると幸いです。
- 148 名前:七誌さん 投稿日:2005/08/15(月) 23:50
- いつまでも待ち続けます。
- 149 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/18(木) 13:30
- いくらでも待ち続けるのでマッタリと頑張ってください。
- 150 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:39
- きっかけは真似事だった。
大好きな先輩、少し背伸びしたタバコ、憧れの気持ち、軽ヤン。
十分なほどのあたしを取り込む要素。
それらがあたしから手を離すまで、あたしはそれから逃れないつもりだった。そうしたかった。
一気に吸い込む煙。
少し呼吸が速い。ドクン、ドクン脈打つ心臓。
灰色の壁にずりずりと力なく凭れ掛かり、崩れ落ちる。
肩の位置よりも頭を低く、ザラザラしたコンクリートを睨みつけた。
ゆらゆらと立ち昇る白い細い煙に見えない涙を隠して、心の中で叫ぶサヨウナラ。
もう、きっとあの場所には戻らない。戻れない。
手の中に収まっていた小さな白い箱を握り潰す。中身はまだまだ沢山あった。
小さく息を吐き出すと同時に、近くのゴミ箱に、ゆっくりとゆっくりと。
存在しないはずの白い煙が、最後とばかりにこの瞳にくっきりと映った。
- 151 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:40
-
「――― サヨウナラ。吉澤さん…」
- 152 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:40
- 最終話
何も見えない行く先に宛も何も無かった。
遠くにいる親戚の名前なんて教えて貰った事もないし、それに他人なんてほんの一欠片も必要ない。
「適当でいっか」
「そうだよ、適当で」
そう言って笑いながら、一番高い切符を買う。
銀色の箱からポトリ、と吐き出されたオレンジ色の薄っぺらい紙は何だかいつもよりも重たく感じて、強引に小さなポケットの奥へと押し込んだ。
乗り込んだ電車はたまたまホームに流れ込んできた電車で、行き先も決めずにただ笑いあった。
気のせいかもしれないけれど、この時、何処へでも、遠く遠く行ける気がしたんだ。
先に待ち潜んでいるたった一つの事に心の奥底で震えならが、自分自身にナイフの切っ先を押し付ける。
それしか、私達に道は無かった。見えなかったから。
時々、変に考えては揺れる電車の窓の外を見つめていた。
もうすぐ手放さなければならないと言うのに、ひとつひとつ記憶に新しいモノを色づけるのは
あさ美にとって残酷でしかないのだろうか。
溢れては消えていく言葉に心をその度に動かされ、思い出をなぞった。
- 153 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:41
- 電車に乗り込んで2日目。
お気に入りの着信音を鳴らした電話は、あたしの心をいとも簡単に揺さぶり、容赦なく締め付けて行った。
「あ、ごとーだけど。ごめんね、朝早くに」
少し慌てた様子で、だけどゆっくりと心持を構えようとするその声は何だかおかしくて
それと共に嫌な予感が、ひゅうと風のように姿をちらりと見せた。
目の前で舟をこぐあさ美の膝に薄い上着を載せて、申し訳程度に置かれた電話ボックスの近くに座り込んだ。
「何の用ですか?」
口から零れた言葉は、少なからず棘を持っていて、それを誤魔化す為に無意識に唇を数回舌でなぞる。
数十分続いた話はあさ美の体調や記憶を心配するものから、単刀直入に始まった。
どれもこれも、まるで淡々と紡ぎ続けられる言葉は心に容易く牙を向け、傷を幾度も刻み付ける。
時間が経つごとに話の内容は核心に触れるように深いものになり、知らずの内に増え続ける眉間の皺。
- 154 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:42
-
アルバムの写真が全て破り捨てられていたこと。
部屋が荒らされていたこと。
記憶を忘れにくくさせるための薬が全部ゴミ箱に入れられてあったこと。
後藤さんが朝早くから電話してきた話の核はそれだった。
悲しさや憎しみ怒りが滲んだ、ゴメンだけど頼んだよ、は想像以上に重くて、今にも手放してしまいたくなった。
傷が疼く。胸が高鳴る。
それは、あたしを選んでくれた嬉しさとあさ美が自分を捨てた悲しみ。
右の瞳の目尻から、零れ落ちた熱い雫が2つの気持ちの差の形として流れ落ちる。
失うモノが大きすぎて、あたしは何も見ようとしてなかった。
見えないフリを繰り返し、傷ついた自分だけに優しさを。
――― 君は、ちゃんと見据えていたんだね。終わりの来る世界とその後の世界を。
- 155 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:42
- 2人の時間を数えるのを止めた日から何日、何時間が経つのだろう。
時間の感覚が無くなり、日にちの感覚もなくなり、傍にいる君の存在感だけを感じている毎日。
陽は何時の間にか姿を消し、昼間見えない星が姿を見せ始めた暗闇の支配空間。
「――― そろそろ駅に着くみたいやし、降りてみる?」
「うん」
胸が苦しかった、今にも涙が出そうだった。
何となく、それとなく、脳に染みてきた予想をはるかに越える確定されていない未来。
目線が絡むとふわり、と滲む目の前の笑顔に、ポケットの上から硬い金属の塊をラインに沿うようになぞった。
敵は誰一人もいない。
何を恐れると言うのだ。
味方は誰一人もいない。
何を恐れると言うのだ。
- 156 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:43
-
――― もう、すぐ、そこに。
想い描いた幸せがある。
携帯には君のメモリーしか存在しない。メールだって、何一つも残っていない。履歴も着信も、何もかも。
存在するのは、君だけで十分で。
君の携帯にも、あたしのメモリーしか存在しない。
夜が更け朝が訪れ、不思議そうな顔で君が削除していく過去の友達のメモリー。
だから、あたしも真似てトイレへ行った隙に、眠りの間に、君の消した友人の名前を一つずつこの手で消した。
そして、最後に残ったメモリーも。
- 157 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:43
- 歯痒いイントネーションのアナウンスを流し聞き、白く儚いその手を握った。
病気でも何でもない私も、いつか君が流した涙のその訳も忘れてしまうんだよ。
ねぇ、何て悲しい。
人は過去の記憶を忘れる代償に、今を生きて行く。
何て不器用なんだろう。
「…あれ?愛ちゃん。木がある…」
「え?」
駅のホームの階段を上る前。あさ美が指差した方向には聳え立つ桜。
何段階にもなった暗闇に浮かび上がる淡いピンク。
暗闇と言う光を見ている。何種類もの黒が紺が集まって、その色が見えている。
季節に似合わないそれは、驚くほどの存在感を醸し出し、そして儚い想いを胸に込み上げさせる。
狂い咲きした桜。狂った歯車。狂いそうなこの想い。
「愛ちゃん、何ていうの?これ、すごく…」
「うん」
「――― 綺麗。」
空の色が、あたし達を包み込む。
風が無くなり、星が高くなり、黒が深くなり、たった2人っきり。
- 158 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:44
- 「桜って言うんやよ。桜は昔から、根元に埋まった死体の血を吸って、花を咲かすから綺麗な色を付けるって言われてるんや」
「…じゃあ。あたしの血を吸ったら、もっと綺麗に咲くかな?」
「――― どうかな」
涙が溢れ出す、その一歩手前。
胸が、苦しくて苦しくて、頭がぼぅっ、として、瞳が燃えそうなほど熱くて。
声が震えないように、いっぱいいっぱいに気を使い、深呼吸を必要以上に。
銀色の柵が邪魔でそれを乗り越えるように手を必死に伸ばす、あさ美。
「危ないよ」
「大丈夫だよ。愛ちゃん心配しすぎ」
くすくすと笑われ、その背中に伸ばしていた手は行く先を失いだらり、と重力に素直に従った。
ポケットに手を伸ばす。
ひんやりとした刃先に指を滑らす。
ゆらり、と月の淡い光を受けて光る、その鋭い刃。
- 159 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:44
-
刺激なんていらない、欲しいのは君だけ。君と過ごしていく未来の保障だけ。
大人が創り出した都合の良いリアルにどれだけの夢と希望を失っただろう。
恨むべきこの世界に、ほんの少しの救いがあるとしたら、君と出会えた事だけ。
「――― あ…」
目を見開いて、振り返った君は、視線が絡むとまた微笑んだ。
潤んだ瞳、夕焼け色に染まる頬、そしてため息とも粗い呼吸ともつかない微かに聞こえる小さな声。
手から力が抜け、ゆっくりと地面に近づくあたしを、あさ美は首に手を回しぎゅっと力の限り抱きしめた。
衣服を通して伝わる熱の他に、君の体温はじわじわと流れ込んでくる。
ふわり、とあさ美の柔らかな匂いと共に錆びた鉄のような匂いが鼻を付いて、胸の奥が熱くなる。
- 160 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:45
-
抱きしめられている、その背中から抜いたソレを、もうほとんど力の弱いその手に握らせる。
「刺して」
喉を滑った言葉は妙に切羽詰っていて、だけど不安なんて感じない声だった。
「――― あさ美。一生のお願い、刺して」
頬を熱い雫が流れていく。
半分ぼやけた世界には、君だけしか写らない。
堪え切れない痛みと共に襲う、体の熱さ。感じる君の体温。さっきよりも濃いくなった血の匂い。
あさ美は、ずっときっと死なない。死なない。死なない。
人が"本当の"死を迎える時、それは誰の記憶からも消えてなくなった時。
いつまでも、あたしの心からあさ美は消えないし、消さない。
…それが例え、子供の悪足掻きだとしても。
――― ねぇ、あさ美。君だけを、愛してる。
次の瞬間、一瞬で全て風に盗まれたかのように静けさが空気を包んだ。
end.
- 161 名前:_ 投稿日:2005/09/18(日) 20:49
- _とHNを隠して連載させて頂いていましたが、ヒトシズクと申します。
連載開始から約18ヶ月。
途中更新が途切れたり、ボツにしようかと思った事もありました。
ですが、ここまで続けられたのは長い間待ち続けて下さった皆様のお陰です。
本当にありがとうございました。
ヒトシズク。
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/19(月) 01:28
- お疲れ様です。
最初からずっと拝見させていただきました。
透明で綺麗な世界観、どなたかと思っていたら作者さんだったんですね。
もう一度最初から読み直してきます。
完結ありがとうございました。
- 163 名前:七誌さん 投稿日:2005/09/19(月) 15:12
- 完結お疲れ様でした。
とてもいい話だったと、今改めて思いました。
作者さま、素敵な時間をありがとうございました。
そして、改めて・・・お疲れ様でした!
- 164 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/23(金) 17:44
- 完結お疲れ様でした。
この作品は、自分にとってもとても重く辛い作品でした。
最後どうなっていくのかを先読んでみようと試みていたものの、あまりにも考え付くことが出来ませんでした。
ですが、それと同時になんだかすっきりしております。
また、作者様の作品がお目に掛かれることを心からお待ちしております。
本当にお疲れ様でした。
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:34
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
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