CALCIO CALCIO CALCIO!! 2
- 1 名前:ACM 投稿日:2004/03/20(土) 09:28
- 前スレです。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/snow/1076257817/l50
サッカー小説ですが、よろしければ見てやってください。
ついに2枚目のスレを立てることになりました。
これからもよろしくお願いします。
- 2 名前:みっくす 投稿日:2004/03/21(日) 02:32
- 2枚目突入おめでとうございます。
いよいよ日本人対決ですね。
次回も楽しみにしてます。
- 3 名前:名無しぃく 投稿日:2004/03/21(日) 03:15
- 新スレおめでとうございます。
ひーちゃんすごいよ、ひーちゃん。
すごいおもしろいんで2枚目も頑張ってください。
- 4 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:49
- 2>みっくす様
いつもいつもレスありがとうございます。
とうとう2枚目に行くことが出来ました。
これからもこのCALCIO×3をよろしくお願いします。
3>名無しぃく様
こちらもいつもいつもレスありがとうございます。
おもしろいと言って頂いて凄く嬉しいです。
2枚目も全力で頑張らさせて頂きます。
では今日の更新です。
第3話 パイオニアの背中
- 5 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:51
- ひとみたちエンポリが強豪インテルに引き分けた1月25日。
この日、日本ではツンクが2月7日、12日の親善試合、
そして18日のドイツワールドカップアジア1次予選対オマーン戦に向けて
28日から行われる宮崎合宿のメンバーを発表した。
GK 飯田圭織 コンサドーレ札幌
信田美帆 ヴィッセル神戸
前田有紀 京都パープルサンガ(サンフレッチェ広島から移籍)
亀井絵里 名古屋グランパスエイト
ミカ・トッド セレッソ大阪
DF 石黒 彩 東京ヴェルディ1969
中澤裕子 京都パープルサンガ
紺野あさ美 コンサドーレ札幌
大谷雅恵 ベガルタ仙台
小川麻琴 清水エスパルス
木村麻美 鹿島アントラーズ
里田まい 鹿島アントラーズ(サンフレッチェ広島から移籍)
斉藤 瞳 横浜Fマリノス
MF 辻 希美 ガンバ大阪
加護亜依 京都パープルサンガ
保田 圭 柏レイソル
平家みちよ 浦和レッズ
田中れいな 清水エスパルス
矢口真里 横浜Fマリノス
柴田あゆみ 名古屋グランパスエイト
石川梨華 横浜Fマリノス
戸田鈴音 鹿島アントラーズ
新垣里沙 ジュビロ磐田
FW 安倍なつみ コンサドーレ札幌
村田めぐみ ジェフユナイテッド市原
木村アヤカ ヴィッセル神戸
高橋 愛 ジュビロ磐田
道重さゆみ 柏レイソル
- 6 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:53
- この合宿に総勢28名の選手たちが選ばれた。
今シーズンはJリーグの開幕前にワールドカップ1次予選があるため、
代表の合宿で身体作りをしなければならないという特殊なシーズンだ。
ここでの体調によって大きくメンバーが変わるため、
選ばれる可能性のある選手をツンクは全て選出した。
親善試合の相手は7日がマレーシア、12日がイラクと、
日本と比べて実力の劣るアジアのチームであるが、
選手たちはこの試合でアピールしなければ18日のメンバーに名を連ねることが
出来ないと感じている。
それはこのメンバーに海外組が加わるからだ。
福田明日香、市井紗耶香、後藤真希、吉澤ひとみ。
この4人の椅子は用意されているとみな思っているだけに
(ひとみが代表に選出されないこと、松浦亜弥、藤本美貴の存在を知らない)、
18日のオマーン戦のベンチ登録メンバー18人のうち、
残り14席を28人が争うという図式が成り立つのだ。
それだけに選手たちはほとんどみな今シーズンの始動を早めている。
いつもより早目に身体を創らねば予選には間に合わないからだ。
- 7 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:53
- 「おらっ!!走れっ!!」
日本代表フィジカルコーチ、ハタケの声が響く。
初日、それから2日目はともにボールを使わない
走力トレーニングばかりのメニューを組んだ。
「これはきっついわ。」
中澤が腰に手を当て、顔を歪めながら言う。
「中澤さん、ファイトです。」
新垣が笑って中澤に声をかける。さすがはチームbPの運動量を誇る新垣里沙。
ハタケの厳しいトレーニングメニューを難なくこなしている。
「わかってるっちゅうに。お前らには負けへんで。」
そう言うやいなや、中澤は全力でダッシュをする。
ここらへんは負けず嫌いの血がさわぐ。
- 8 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:54
- 中澤たちが宮崎合宿で今シーズンを始動させたが、欧州では今がシーズン真っ盛りだ。
ひとみたちエンポリも残留に向けて激しい戦いを繰り広げる。
セリエA第19節 対コモ戦 カルロ・カステッリーニ(エンポリ)
前節でキャプテンのマユコが退場となったため、この試合は出場停止となった。
その代役としてひとみがキャプテンマークを巻き、同じ降格圏内のコモをホームに迎えた。
前節インテルと引き分けているだけあってチーム状態はいいエンポリ。
逆に前節ASローマに3−0で完敗したコモ。
両者の勢いの差は明らかだった。
ロッキの2ゴールで2−1でエンポリが勝利し、これで順位を1つ上げ17位に浮上した。
ひとみはゴール、アシストこそなかったものの、トレクァルティスタのポジションで攻撃を演出。
またキャプテンとしてチームを鼓舞し、勝利に貢献した。
- 9 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:55
- これでエンポリはひとみ加入後3勝1分と無敗を誇っているが、
日本ではそのニュースも霞んでしまった。
それはとうとうあの2人がベールを脱いだからだ。
スペインリーガエスパニョーラFCバルセロナの松浦亜弥。
ドイツブンデスリーガシャルケ04の藤本美貴。
この2人がトップに昇格し、揃って試合に出場した。
- 10 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:56
- まずは松浦亜弥。
リーガエスパニョーラ第20節 対アトレチコ・マドリー戦
アウェーで強豪のアトレチコと対戦したバルセロナ。
前半を終えて1−0とリードを許していた。
が、後半18分。
背番号13をつけた選手がついにピッチに立った。
松浦亜弥である。
1トップのアルゼンチン代表タマキル・ナミオラに代わってピッチに立った松浦は
投入から早速その力を見せ付ける。
ボランチのメグ・オキーナから出たスルーパスに素早く反応。
DFを振り切り、GKを充分に引きつけてラストパス。
これをトップ下に入っていたオランダ代表キョウコリック・コイズミートが押し込み
バルセロナが同点に追いつく。
さらにその6分後、コイズミートとポジションチェンジしてトップ下のポジションに入った松浦。
その松浦を起点にバルセロナが華麗なパスワークを見せる。
そして最後はコイズミートのポストプレーから松浦がDFラインを突破し、
値千金の勝ち越し弾を決めた。
- 11 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:57
- この活躍に日本はもちろん、スペインでも衝撃を与えた。
何故今までこれだけの選手が出てこなかったのか?
- 12 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:58
- 松浦亜弥は兵庫県生まれの17歳。
幼少のころから天才少女とうたわれ、
兵庫のサッカー関係者で松浦亜弥の名前を知らぬ者はいないほど
その実力はずば抜けていた。
しかし、この天才は突如として姿を消す。
中学を卒業したと同時に単身でスペインに渡ったのだ。
そのきっかけは中学3年の春に行われたFCバルセロナユースとの親善試合だ。
兵庫県選抜に選ばれた松浦は、ちょうど日本に遠征に来ていたFCバルセロナユースと
親善試合を行った。
この試合、2トップの一角として出場した松浦だったが、何も出来ずに終わってしまった。
得点を上げることはもちろん、シュートを撃つことすら出来なかった。
試合は当然バルセロナの勝利。スコアは7−0だった。
- 13 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:58
- この試合で世界のレベルの高さを知った松浦は、決心する。
日本を離れ、世界に飛び出すと。
入学予定だった高校サッカー界の名門、滝川第二に断りを入れ、
松浦は中学卒業と同時にスペイン、バルセロナに飛び立った。
いきなりスペインに飛び出した松浦だが、当然バルセロナや他のクラブから
オファーがあったわけではない。
兵庫県のサッカー関係者の知り合いがバルセロナにいたため、
その人の家に居候して各クラブの入団テストを受けにいく毎日が続いた。
しかしいい感触があっても結局は不合格という繰り返しだった。
- 14 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 10:59
- それは何故か?
彼女が日本人、つまりスペインでは外国人だったからである。
そしてこれがそのまま松浦がバルセロナに入団後、
リーガエスパニョーラに中々デビューできなかった理由になる。
- 15 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:01
- 確かに松浦の実力は申し分ない。
事実、入団テストを見たチーム関係者は松浦の実力を高く評価していた。
が、日本人ということは彼女を入団させれば外国人枠が1つ減ることになる。
外国人枠は1つも無駄には出来ない。
それをこのサッカー後進国といわれる日本の選手に使っていいものか?
もちろんユース契約ならば外国人枠は関係ないが、
いずれ昇格させるとなるとそれは同じ事だ。
今はどのクラブも財政難なだけあって松浦が成長するのを待つ余裕もない。
そういった理由から、松浦のスペインのクラブへの入団は敵わなかったのだ。
- 16 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:02
- この現実にショックを受けつつも、諦めきれずに働きながらスペインに残っていた松浦。
松浦がスペインに来て半年ほど経ったころ、働いていた店の店員が他の店との店員と
草サッカーの試合をするということで松浦もそれに駆り出された。
草サッカーレベルでは松浦は格が違いすぎる。
この試合で松浦はあっさりと7得点を奪った。
幸運とはどこに転がっているか分からない。
- 17 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:03
- この草サッカーの相手の1人がバルセロナのユースチームの監督と
知り合いだったのだ。
その選手は早速この試合のことを報告した。
“凄くサッカーの上手い日本人がいる”と。
数日後、松浦の元に知らせが届いた。
バルセロナのテストに受けに来いとの知らせが。
これには松浦も大喜びだった。
スペインに来てまず最初にバルセロナのテストを受けようとしたが、
日本人ということで門前払いをくっていたのだ。
そのバルセロナから直々にテストを受けに来いと言われたのだ。
嬉しくないはずがない。
- 18 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:03
- 「あら?あなた、確か一度会ったことあるわよね?」
バルセロナユース監督、ガレッジ・ゴリーエは松浦の顔を見るなりそう言った。
「はい!1年半ほど前、日本でお会いしました松浦亜弥です!
覚えていてくださって光栄です!」
松浦がペコリと頭を下げる。
覚えているも何もゴリーエはあの試合、松浦のプレーに目を奪われていたのだ。
確かにあの試合、松浦は何も出来なかったが確かなテクニックとスピード、
そして何よりプレーに華があった。
ゴリーエは本気で松浦をスペインに連れて帰りたいと思っていた。
が、これほどの選手を日本が手放すはずはない。
そう思いオファーをするのを諦めたのだ。
- 19 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:04
- 松浦の入団テストはユースチームに入っての紅白戦だった。
しかしスペインに渡って半年間、きちんとしたトレーニングを積んでいなかった松浦が
敵うわけがなかった。
ほとんど何も出来ず紅白戦を終えた松浦。
『・・・・・もうこれでダメだ。・・・・日本に帰ろう。』
松浦は諦めていた。
しかしゴリーエは現在の松浦ではなく、将来の松浦を見た。
「合格よ。あなた明日からここに来なさい。」
- 20 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:05
- こうしてバルセロナに入団した松浦。
ユースでゴリーエに鍛えられメキメキと実力をつけていった。
その成長振りは関係者の間で“次代のバルセロナのエース”と期待されるほどだ。
が、さすがに世界の名門バルセロナ。トップ昇格はそう簡単にはいかなかった。
選手層の厚さはもちろんのこと、何より外国人枠が松浦の昇格を拒んでいたのだ。
しかしこの2004年1月、外国人枠の1人であったアルゼンチン代表タマキル・ナミオラが
スペインのパスポートを取得。これで彼女はEU圏内の選手の扱いになり、外国人枠が1つ余った。
そこへ満を持して松浦がトップに昇格したのである。
そして今日の試合の結果がこの見事な活躍。
松浦はゴリーエに見事に恩を返した。
- 21 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:06
- 一方、シャルケ04の藤本美貴。
彼女は高校2年の途中でドイツへ渡った。
しかし彼女は松浦とは違い、親の都合でドイツに渡ることになったのだ。
ドイツに着いた彼女は夢であったプロのサッカー選手になるべく、地元クラブの入団テストを受けた。
その結果、そのクラブに入団する事が決まった。
そこはアマチュアの小さなクラブであったが、藤本はこのクラブで獅子奮迅の活躍をみせ、
出場した大会では並みいるプロのクラブのユースチームを蹴散らしまくったのだ。
幸運なことにこのころからドイツは全国各地の才能を見つけるべく、
国家レベルで情報網を張り巡らすようになった。
これはEURO2000でドイツが惨敗したことが原因である。
強いドイツを復活させるため、才能のある選手を見つける。
その情報網に藤本は上手く引っかかったのだ。
そして彼女を獲得したのがシャルケ04だった。
- 22 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:07
- シャルケ04のユースチームで実力をつけていった藤本。
このクラブでもすぐに中心となり、様々なユースの大会で好成績を収めた。
だが松浦と同じくこちらも外国人枠の関係でトップ昇格はならなかった。
が、2004年の冬の移籍でチームの外国人が移籍。
その結果、ようやく藤本がトップに昇格したのであった。
- 23 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:07
- そして迎えたブンデスリーガ第19節 対カイザースラウテルン戦
後半25分を終えた時点で2−1とリードされていたシャルケ04。
ここで藤本が投入された。
彼女のポジションは基本的には左サイドのMFだが、
左サイドであればDFもFWもこなせる選手である。
この時はFWとして起用された。
- 24 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:08
- 藤本が投入された瞬間、サポーターたちが雄たけびを上げた。
シャルケ04のホームタウンであるゲルゼンキルヒェンはルール炭鉱地帯の工業都市である。
ここで働く工場・炭鉱労働者の希望の星がこのシャルケ04というチームなのである。
当然サポーターたちはドイツでも1、2を争う程熱狂的である。
そんな熱い彼らの今一番のお気に入りの選手が何と日本人の藤本美貴なのである。
- 25 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:08
- この日本人はずばずばとはっきりと物を言い、それでいて実にさっぱりした憎めない性格であり、
ヴィジュアルも申し分ない。
さらに日本人がこのドイツという異国の地で1人頑張っている。
そんな所が熱いサポーターの胸をくすぐるのであろう。
ユースの選手ながらも『ミキティ』という愛称をつけ、熱い声援を送っていた。
そして何より、藤本のトップ昇格を一番喜んだのはこの熱いサポーターたちであったのだ。
- 26 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:09
- 藤本はこのサポーターたちの期待に見事に応えてみせた。
藤本投入後、チャンスは創るものの中々得点が奪えなかったシャルケ04。
このまま敗戦かと思われた後半ロスタイム。
藤本が左サイドから強引にペナルティエリア内に切れ込み倒された。
主審はこれをファウルと判断し、PKをとった。
歓喜に沸くホームスタジアム、アレナ・アウフシャルケ。
このPKをきっちりと決め、土壇場でシャルケ04が追いつき引き分けに持ち込んだ。
PKこそ他の選手に譲ったものの、これはほぼ藤本の得点だったとチームメートは口々に藤本を称えた。
この活躍にサポーターたちはさらに藤本に熱い声援を送るようになったのは言うまでもない。
- 27 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:10
- 松浦亜弥、藤本美貴。
この2人のデビューは日本にいる選手たちに大きな衝撃を与えた。
これでさらに日本代表のサバイバルマッチが激しくなったのである。
オマーン戦のベンチ登録メンバーは18人。
この2人が加わったことでその椅子が12席に減るかもしれないのだ。
28人で12席。かなり厳しい確率である。
翌日の練習にはさらに気合いを入れて臨む選手たちの姿があった。
- 28 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:11
- この週は日本のサッカーファンにとってたまらない週、スペシャルウィークとなった。
まずは2月7日に日本代表がドイツワールドカップに向けて一歩を踏み出す重要な試合がある。
そしてその翌日。
日本人が夢にまで見た対決がイタリアで行われるのである。
この週はどのスポーツニュースでもこの話題で持ちきりだった。
- 29 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:11
- 2月4日。
7日に行われるマレーシア戦、12日に行われるイラク戦のメンバーが発表された。
GK 1 飯田圭織 コンサドーレ札幌
12 前田有紀 京都パープルサンガ
23 ミカ・トッド セレッソ大阪
DF 2 石黒 彩 東京ヴェルディ1969
3 中澤裕子 京都パープルサンガ
15 小川麻琴 清水エスパルス
16 紺野あさ美 コンサドーレ札幌
22 斉藤 瞳 横浜Fマリノス
MF 4 辻 希美 ガンバ大阪
5 加護亜依 京都パープルサンガ
6 保田 圭 柏レイソル
7 平家みちよ 浦和レッズ
8 矢口真里 横浜Fマリノス
10 柴田あゆみ 名古屋グランパスエイト
14 石川梨華 横浜Fマリノス
18 田中れいな 清水エスパルス
20 藤本美貴 シャルケ04(ドイツ)
21 新垣里沙 ジュビロ磐田
FW 9 安倍なつみ コンサドーレ札幌
11 木村アヤカ ヴィッセル神戸
13 松浦亜弥 FCバルセロナ(スペイン)
17 高橋 愛 ジュビロ磐田
19 村田めぐみ ジェフユナイテッド市原
- 30 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:12
- この選出で松浦亜弥、藤本美貴が初選出となった。
しかし7日は各国でリーグ戦があるため参加せず、12日からの参戦となる。
この23名のメンバーに海外組を加え、その中からワールドカップ予選本番の18名を選ぶ事となる。
そして2月7日、カシマスタジアムにおいて日本対マレーシアの試合が行われた。
- 31 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:12
- 日本代表スターティングイレブン
GK 23 ミカ・トッド
DF 2 石黒 彩 村田 高橋
15 小川麻琴
16 紺野あさ美 田中
MF 6 保田 圭 石川 矢口
7 平家みちよ
8 矢口真里 保田 平家
14 石川梨華
18 田中れいな 石黒 紺野 小川
FW 17 高橋 愛
19 村田めぐみ ミカ
- 32 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:13
- 「うらっ!!!」
保田の激しいタックルが決まる。
この試合は親善試合。それに相手は1枚も2枚も格が違うマレーシア。
しかし誰も気を抜く者はいない。
みな眼を血走らせ、必死にボールを追いかけている。
この試合と12日のイラク戦。
この2試合しかアピールの場はないのだ。
試合は前半だけで日本が3点を奪った。
平家のコーナーキックから石黒がヘッドで合わせる。
田中のスルーパスに高橋が飛び出しゴールネットを揺らす。
さらに田中が落としたボールを保田が豪快に蹴りこんだ。
前半は田中、保田、平家、それから高橋の動きが際立っていた。
ディフェンス陣も及第点の動きだ。
が、両サイドハーフの石川梨華と矢口真里、それからFWの村田めぐみの動きが芳しくなかった。
それは彼女たちは今疲れがピークなためだ。
彼女らが所属する横浜Fマリノスとジェフユナイテッド市原は元日に天皇杯決勝を戦った。
(結果は3−2で横浜Fマリノスの優勝に終わった。)
それだけに他の選手よりもオフの期間が短く、昨シーズンの疲れが抜けきっていないようだ。
宮崎合宿では懸命にフィジカルコンディションを上げようとしていたが、それが逆に疲労となっていた。
- 33 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:17
- 後半になるとツンクは選手を大幅に入れかえた。
GK 12 前田有紀 安倍 高橋
DF 3 中澤裕子
21 新垣里沙 田中
22 斉藤 瞳 加護 アヤカ
MF 4 辻 希美
5 加護亜依 辻 平家
7 平家みちよ
11 木村アヤカ 斉藤 中澤 新垣
18 田中れいな
FW 9 安倍なつみ 前田
17 高橋 愛
- 34 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:19
- 後半に入っても日本はみな足を止めずにマレーシアゴールへと襲い掛かる。
両サイドの加護、アヤカが何度もサイドを突破し、チャンスを演出する。
そこへパスを出すのがレジスタ平家だ。
きっちりとマレーシアディフェンスの薄い所へパスを振り分ける。
そして前線では安倍が貫禄充分のプレーを見せ、きっちりとゴールネットを揺らす。
ディフェンス陣は中盤で辻が、最終ラインでは中澤が中心となって守るが、
GK前田が痛恨のミスを犯しマレーシアに1点を献上する事となった。
試合の結果は4−1。
得点者は石黒、高橋、保田、安倍。
この試合は18日のメンバー選出に大きく明暗が分かれる結果となった。
- 35 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:20
- この日本代表の試合が終わった翌日、2月8日。
ついにこの日がやってきた。
福田明日香VS吉澤ひとみ。
セリエAのみならず、海外での史上初の日本人対決が。
- 36 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:21
- この史上初の日本人対決は世界各国でも注目されていた。
ここ最近の日本人選手の活躍は目覚しいものがある。
イタリアで、スペインで、イングランドで、そしてドイツで活躍する日本人選手たち。
その先駆者となった福田明日香と、欧州の舞台に彗星の如く現れた吉澤ひとみ。
この2人の戦いにみな注目していた。
- 37 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:21
- が、当の本人たちはいたってクールだった。
「あまり気にならないですね。それよりもエンポリは勢いのあるチームです。
気を引き締めていきたいと思ってます。」
ユヴェントス、福田明日香。
「残留するには絶対にこの試合落とせません。個人の勝負など二の次です。」
エンポリ、吉澤ひとみ。
お互い余り意識していないといった発言であるが、周りはそうはいかない。
この試合に日本からかけつける記者は100人を超え、多くのサポーターたちも
この試合を観るためにイタリアへと訪れた。
もちろんチケットはすぐに完売。
テレビ局もこの試合を衛星生中継と、周りは加熱するばかりであった。
そしていよいよ試合当日を迎えた。
- 38 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:22
- セリエA第20節
ユヴェントスVSエンポリ デッレ・アルピ(トリノ)
「さ、みんな気合い入れていくよ!!」
「おうっ!!」
ロッカールームで円陣を組み、気合いを入れたエンポリイレブン。
ロッカールームを勢い良く飛び出し、所定の位置で整列する。
とそこへユヴェントスの選手たちがロッカールームから出てきた。
イタリア代表FWアレッサンドロ・デル・ハセキョン。
フランス代表MFナナコーヌ・マツシマ。
オランダ代表MFエドガー・マヤミッキ。
フランス代表DFアンパン・トダム。
イタリア代表GKジャンルイジ・フカキョン。
世界を代表する名選手たち。
そして最後に日本代表MF福田明日香。
- 39 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:23
- 両チームが整列し、入場を待つ。
福田とひとみは列の最後尾だった。
「・・・・・・よっすぃー、今日は勝たせてもらうから。」
「・・・・・・そうはいきませんよ。」
2人がニッと笑い合う。
その様子を見ていた列の先頭のハセキョンが後ろのマツシマに耳打ちする。
「何が“あまり気にならない”だよ。めちゃくちゃ気にしてるじゃん。」
「ホント。あんな熱くなってるアスカを見たのは初めて。」
「これなら今日の試合、もらったね。」
オランダ代表マヤミッキも話に加わってきた。
彼女たちはいつもこう思っている。
『フクダと同じチームで良かった』と。
そしてこうも思う。
『フクダが自分と同じ国籍だったならば次のワールドカップは優勝できる』と。
彼女の実力は自分たちが一番良く知っている。
だから、今日は何も出来ないよ、ヨシザワ。
- 40 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:24
- センターサークルにハセキョンとマツシマが立ち、キックオフの笛を待つ。
スタジアムは試合前からもうオーバーヒート寸前だ。
「頑張れひとみ、明日香!!」
「ファイトだべ、福ちゃん、よっすぃー!!」
日本でもテレビ中継されているため、
平家たち代表選手も泊まっているホテルのテレビで観戦していた。
ピィー!!!!
主審の笛が高らかに鳴った。
いよいよ史上初の日本人対決の戦いの火蓋が切って落とされた。
- 41 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:26
- キックオフの笛とともにハセキョンがボールをチョンとマツシマに出す。
その時、福田の眼が獲物を捕らえた。
「マツシマ!!!」
福田が叫ぶ。
マツシマはその声に従い、ボールを後ろに戻す。
このボールを福田の右足がとらえた。
全身の力を右足に乗せ、思いっきり振り抜いた。
ボールが勢いよくエンポリ陣内へと飛んでいく。
「あっ?!!!キーパー!!!!」
ひとみが叫ぶ。
GKのベーティが慌てて後ずさる。
ベーティはキックオフ直後、かなり前目のポジションをとっていたのだ。
それを福田は見逃さなかった。
ベーティは必死に戻り、前身の力を振り絞って跳ぶ。
- 42 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/23(火) 11:27
- が、届かなかった。
福田の右足から放たれたボールはエンポリゴールへと吸い込まれていった。
開始わずか6秒。
福田明日香、セリエAのゴール最短時間記録を更新。
- 43 名前:ACM 投稿日:2004/03/23(火) 11:38
- 本日はここまでにしたいと思います。
ここで皆様にお詫びしたいと思います。
前スレの第2話から今日の更新までにかけて余りにも誤字・脱字が
多く、また名前欄も題名にするのを忘れたりと最悪なことになっています。
本当に申し訳なく思います。
自分は確かにプロではないですが、こういった場に自分の作品を出している以上、
そして読んでくださっている方がいらっしゃる以上、最低限のミスはないように
努めるべきだと思います。
次回からはしっかりと見直してミスがないようにしたいと思いますので
どうかご容赦ください。
これからもこのCALCIO×3をよろしくお願いします。
- 44 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/23(火) 15:41
- 誤字脱字なんて気になりませんよ
それだけ作者さんが勢いに乗って書いている、と思ってます。
もちろん誤字脱字がないに越したことはないでしょうが、
これからも勢いのままに書いていただけたら、
読み手側としては嬉しいです。
ずっと応援してます!
- 45 名前:名無しぃく 投稿日:2004/03/24(水) 00:37
- 更新お疲れです。
誤字脱字は言われなくちゃ分からな(ry
気にしないで次の更新も頑張ってください。
最後に・・・
ミキティキタ――――――川VvV从――――――!!
- 46 名前:みっくす 投稿日:2004/03/24(水) 02:53
- 更新おつかれです。
同じく誤字脱字なんて気になりませんよ。
いよいよ日本人対決はじまりましたね。
明日香の気合が凄い。
日本代表のほうも激しい争いですね。
次回楽しみしてます。
- 47 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:48
- ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
デッレ・アルピが大きく揺れた。
ユヴェンティーノたちがこのいきなりのスーパープレーに大歓声を上げている。
「アスカ!!!!」
「さすがアスカだ!!!」
「やってくれるねアスカ!!!」
ユヴェントスの選手たちが一斉に福田に抱き付く。
福田も笑顔を見せている。
「うおー!!すごいわ福田さん!!」
加護が叫ぶ。
「さすが福田さんなのれす!」
辻も大きく目を見開いている。
彼女たちもみな福田の先制攻撃に度肝を抜かれていた。
- 48 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:49
- 「しまった・・・・・・・」
GKのベーティがうな垂れる。
王者ユヴェントス相手にこちらが立ち向かうには、先制点を取られないことだ。
そうすればインテルの時のようにカウンターのチャンスが生まれる。
今日の試合もそういったゲームプランを立てていたのだが、
それも開始6秒で全て消えてしまった。
「ドンマイドンマイ!!すぐに取り返しましょう!!!」
ひとみがパンパンと手を叩いてみなに声をかける。
取られてしまったものは仕方がない。
それよりもすぐ取り返すことを考えよう。
そして何より、すぐにこの試合を再開させたいのだ。
あの背中を追いかけるために。
- 49 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:51
- ひとみのゲキに応え、気持ちを切り替えてユヴェントスに挑むエンポリの選手たち。
前線から積極的にプレスを仕掛け、自分たちに流れを持ってこようとする。
が、それも王者ユヴェントスには通用しない。
「うわっ?!!」
中盤でボールを持ったひとみ。
しかし激しい当たりに倒された。
「アスカ!!」
フィジカルに優れるひとみをあっさりと倒してボールを奪ったのは
オランダ代表エドガー・マヤミッキ。
その激しい当たりと抜群のスピード、ジャンプ力で中盤を引き締めるボランチである。
守備=攻撃を表す選手だ。
そのマヤミッキから福田にボールが渡った。
- 50 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:52
- 福田はすかさず大きく左サイドに展開。
これを左サイドに開いていたハセキョンが受ける。
「オッケー!!!」
すかさずジャンピエレッティがチェックに行くが、
ハセキョンはマツシマとのワンツーでこれをかわし、さらに左サイドを深くえぐる。
しかしジャンピエレッティも必死にハセキョンに食らいつく。
そこへ右サイドバックのクピも当たりにくる。
「ここだ!!」
「あっ?!!」
ハセキョンはこの2人の間を一瞬のスピードで抜け出した。
余りの鋭さにあっさりと突破を許してしまうジャンピエレッティとクピ。
フリーになったハセキョン、中を良く見てファーサイドにクロス。
このクロスにユーヴェFWが飛び込み、頭で合わせた。
が、これはエンポリGKベーティが先ほどのミスを帳消しにするファインセーブ。
コーナーキックに逃れた。
- 51 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:53
- ユーヴェのコーナーキックのチャンス。
エンポリはひとみも自陣に戻り、ディフェンスに入る。
キッカーはハセキョン。その左手が上がった。
その瞬間ペナルティエリア内で激しく動き回るユーヴェの選手たち。
その中からマツシマがスッとニアに走りこんだ。
「マツシマだ!!」
ひとみがこの動きをとらえ、マツシマの後を追う。
ハセキョンのキックはこの2人へ。
しかしボールが高い。2人の頭の上を完全に超えそうだ。
マツシマは諦めたのか跳ぶ気配がない。
『クリアできる!!』
しかしひとみは自分なら届くと判断。このボールにタイミングを合わせて飛ぶ。
その跳躍力は凄まじく、このボールに届きそうだった。
- 52 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:55
- 「なっ?!!」
が、ハセキョンの蹴ったボールが急激に落ちた。
このボールはひとみより1テンポずらして跳んだマツシマの頭にピタリ。
これをバックヘッドで後ろに流す。
ボールはファーサイドに。エンポリディフェンスはこれに対応できない。
最後フリーで飛び込んできたのは福田明日香。
身体ごと投げ出すダイビングヘッドでゴールネットを揺らした。
前半22分、ユーヴェ、追加点。
- 53 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:56
- 「よしっ!!!」
福田が珍しく全身で喜びを表現する。
普段はゴールを決めてもクールに自陣に戻っていくのだが、
今日は1点目の時といい素直に感情を表に出している。
つまりそれだけこの試合に熱い思いがあるということなのだ。
- 54 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:57
- さらに福田は止まらない。
DFラインでボールを持ったトダムから左サイドに流れたボランチの福田にパスが出る。
その瞬間ユーヴェの左サイドバックが勢い良くあがる。
『よしっ、ここだ!!』
福田から左サイドバックへパスが出ると読んだひとみがカットに向かう。
が、福田はひとみの裏をかき、トダムからのパスをダイレクトのヒールキックで中央へ。
「うわっ?!」
完全に裏を取られたひとみにエンポリイレブン。みな右サイドに寄ってしまっていた。
このパスを受けたマヤミッキがぽっかり空いた真ん中をドリブルで駆け上がる。
「くっ!」
慌ててマユコがチェックに向かうがマヤミッキはすぐさま前線へパスを送る。
これをマツシマがダイレクトで左サイドへ。
そこには走りを止めずにサイドを駆け上がっていたユーヴェ左サイドバックがいた。
- 55 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:58
- ウオオオオオオオオ!!!!!
まさに流れるような連携にスタジアムが大きく沸く。
「来いっ!!」
ハセキョン、マツシマ、ユーヴェFWがゴール前に走り込む。
エンポリも懸命にゴール前に戻る。
サイドを深くえぐった左サイドバック、中にクロス。
このクロスはまたもエンポリの裏をかくマイナスのグラウンダーのクロスだった。
- 56 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 21:59
- 「オッケー!!」
このクロスにマヤミッキが走り込む。
しかしマユコも懸命に戻り、シュートコースを防ぐ。
が、マヤミッキはシュートを撃たず右に流した。
そこへ後ろから走り込んでいたのは福田。
福田はこのボールをダイレクトでシュート。
距離は27mほどあった。
しかし福田のシュートはまるで15mの距離から撃ったかのように
正確にコントロールされていた。
GKベーティの懸命のダイブも届かず、
ゴール右隅に鋭く突き刺さった。
前半29分。
福田明日香、ハットトリック達成。
- 57 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:00
- ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
歓喜に沸くユヴェンティーノたち。
一方、落胆の表情を浮かべるエンポレーゼたち。
王者ユヴェントス相手に3点のビハインド。
これはもう負けだ。
誰もがそう思っていた。
エンポリの選手たちもみなガックリと肩を落としている。
「まだ前半です!!まずは1点取り返しましょう!!」
ひとみがゲキを飛ばすが選手たちの反応は鈍い。
『・・・・やばい。このままじゃどうしようもない。』
こんな状態ではまた失点するのが見えている。
・・・・・・何とかしなければ。
- 58 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:01
- しかしひとみの思いとは裏腹にエンポリイレブンの動きが重い。
一方、ユーヴェの攻撃は以前に増して厚くなる。
右サイドを突破したマツシマから中にクロスが上がる。
これにユーヴェFWが飛び込むが何とかベーティがフィスティング。
続いてマヤミッキが遠目から強烈なミドルシュート。
これは惜しくもクロスバーを越えていった。
さらにハセキョンが左サイドから中に切れ込みシュートを狙うが、
これは中盤から下がってディフェンスに入っていたひとみが身体を張った。
ユーヴェの分厚い攻撃に、エンポリのイージーミスも重なって一方的な試合展開となった。
が、ひとみが最後の最後で身体を張り得点を許さない。
前半戦は何とかこのまま3−0で終了した。
- 59 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:03
- 「一体どうしたというんだあの動きの悪さは!!!
前半が終わっただけでもう勝負を捨てるつもりか?!!!」
ロッカールームでエンポリ監督キヨシィの怒号が響く。
が、選手たちの反応がやはり鈍い。
「とにかくっ!!まだ試合時間はたっぷりある!!!
まずは1点返すことに集中しろ!!!」
そうは言うものの、具体的な策は思いつかないキヨシィ。
ユーヴェは素晴らしいの一言だ。
GKフカキョン、DFトダムを中心に鉄壁の守りを見せる。
福田、マヤミッキを中心とする3ボランチは攻守にきっちりと絡む。
トレクァルティスタのマツシマは説明不要の世界最高の選手。
FWにはイタリアのファンタジスタハセキョンがいる。
個人の能力でも群を抜いているのに、それが組織としてきっちりとまとまっている。
まさに完璧に近いチームだ。
それだけにどう崩していけばいいのか見当がつかない。
- 60 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:04
- それはひとみも感じている。
トレクァルティスタとしてエンポリの攻撃を演出するが、ユーヴェディフェンスは全く隙がない。
各々が正しいポジショニング、そして見事なカバーリングと実に無駄のないディフェンスだ。
ユーヴェの攻撃も実に機能的で全員がきっちりと意思統一されている。
しかし、その全ては福田明日香から始まっていることもひとみは気付いていた。
ユーヴェのシステムは4−3−1−2。
この“3”、3ボランチの真ん中に福田明日香が位置するのだが、
ここはGKとFWのちょうど真ん中に当たる。
ここで福田が指示を出し、ユーヴェの攻守を指揮しているのだ。
ならば・・・・・・・・
- 61 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:05
- 「監督!!後半、あたしが福田のマークにつきます!!」
ひとみがキヨシィに進言した。
「な、何言い出すのヨシ?!ヨシがいないとこっちの攻撃が薄くなるでしょ?!」
ディ・カリーナが驚いてひとみを見る。
が、ひとみの表情は自信に満ちている。
「大丈夫。これでユーヴェの攻撃を抑えつつカウンターも狙えるようになるから。」
ひとみは完全にそう言い切った。
- 62 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:08
- 「・・・・・・ヒトミの狙いは分かるよ。ユーヴェは全てフクダを中心に回っている。
マツシマもハセキョンもボールをもらわないとその力を発揮できないし、
フクダ以外のボランチはゲームを創るタイプじゃないからね。
だからこそ中盤でフクダを抑えられればユーヴェの攻撃を早めに抑えられるし、
自陣ゴール前で跳ね返すよりも早くカウンターに移れる。」
マユコがひとみの狙いを的確に言ってみせた。
「そう、そうです!さすがマユさん!」
ひとみは笑顔で頷く。
が、マユコは首を横に振った。
「でもそれは正直無理ね。」
「えっ?」
「その狙いは確かに悪くないよ。それこそユーヴェに勝ついい作戦だと思う。
実際他のチームもこの作戦でユーヴェに立ち向かっているしね。
でもここまでユーヴェはダントツの首位。何故だか分かる?」
「それは・・・・・・・福田を抑えることが出来ない。」
「そう、その通り。フクダはボランチのポジション。そこのポジションのフクダを抑えるには
オフェンシブハーフの選手がマークに付くしかない。でもオフェンシブハーフの選手でフクダを
抑えられるようなディフェンス力を持った選手なんていないしね。
かといってディフェンシブな選手がマークにつけば、今度は攻撃に支障が出る。
だからこの作戦を成功させるには攻撃も守備も優れたオフェンシブハーフの選手が必要となってくるの。」
- 63 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:10
- 「マユコの言うとおりだ。」
キヨシィが後を引き継ぐ。
「フクダの攻撃力は素晴らしい。ユーヴェでなければ、マツシマやハセキョンがいなければ
きっとみなオフェンシブハーフでフクダを使うだろう。それぐらいのパスセンス、
シュート力、テクニックを持っている。彼女を抑えるには代表レベルのディフェンス力が
なければ正直無理だろう。だからヒトミ・・・・・あっ?!!!」
とその時キヨシィはある事に思い立った。
「ど、どうしたんですか監督?」
マユコが尋ねるがキヨシィは黙ったままだ。
一瞬考え込んだ後、ひとみにこう尋ねた。
「ヒトミ、君は今まで誰を抑えたことがある?」
その問いにひとみはニッと笑って答えた。
「レアル・マドリードの後藤真希。彼女じゃ不服ですか?」
- 64 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:10
- ハーフタイムを終え、両チームの選手がピッチに戻ってきた。
「よっすぃー。後半、期待していいよね?」
福田がひとみに話しかける。
「もちろんです。後半、覚悟して下さいね。」
ひとみも負けじと言い返す。
ピィーッ!!!!
主審の笛が鳴り、後半戦が開始された。
- 65 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:11
- エンポリは後半戦、システムを変えていた。
4−2−3−1から4−3−1−2へと。
つまりユーヴェと同じシステムに。
4バックは変わらず左からベッレーニ、ルッキーニ、クリバリ、クピ。
3ボランチにロディ(ブッシェと交代)、マユコ、ジャンピエレッティ。
トレクアルティスタは吉澤ひとみ。
FW2トップにロッキとディ・カリーナという布陣になった。
- 66 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:12
- ロッキからひとみへボールが出る。
ひとみはすぐにボランチのマユコに預ける。
「マユさん!!」
ディ・カリーナが右サイドに流れる。
そこへマユコからパスが出る。
「マヤ!!」
「オッケー!!」
福田の指示が飛ぶ前にマヤミッキがすぐにチェックに来た。
マヤミッキと対峙したディ・カリーナ。
『この人がオランダの闘犬か・・・・・・・抜いてやる。』
ドリブラーの血が騒いだ。
ジリジリと距離を詰める。
そして一度ボールをまたぐとすかさず爆発的なダッシュでマヤミッキを振り切る。
が、その瞬間斜め後ろから激しいタックルがディ・カリーナを襲った。
「うわっ!!」
もんどりうって倒れるディ・カリーナ。しかしファウルではない。
「甘いね。」
ボールを奪ったマヤミッキが言い放つ。
スピードならば絶対に負けないよ、おじょーちゃん。
- 67 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:13
- 「アスカ!!」
マヤミッキがすかさず福田に預ける。
ボールを持った福田、前を向く。
が、その瞬間激しい衝撃が。
「うわっ!!」
思わずよろける福田。
それでも何とか体勢を立て直すが、次のチャージで完全にバランスを崩してしまった。
「よ、よっすぃー?!!」
チャージに来たのはひとみだった。
- 68 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:14
- ひとみはバランスを崩した福田からボールを奪うと、すぐさま前線にスルーパス。
これにタイミングよく抜け出したエンポリFWロッキ。
ユーヴェDF陣はまさか福田がそこでボールを奪われるとは思っておらず、
陣形が乱れていた。
フリーで抜け出したロッキ、狙い済ましてシュート。
が、守るはこの人だ。
イタリアが誇るGK、ジャンルイジ・フカキョン。
素晴らしい反応でこのシュートを叩き落した。
- 69 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:15
- オオオオオオオオ!!!!
歓声を上げるユヴェンティーノ、溜息をつくエンポレーゼ。
今のは決定的なチャンスであった。
「ドンマイドンマイ!!次頼むよ!!」
ひとみがシュートを外し、頭を抱えるロッキに声をかける。
「ヒトミの言うとおり!!さあみんなどんどん行くよ!!」
マユコもゲキを飛ばす。
シュートは外れたものの、決定的なチャンスを創れたということでエンポリイレブンの士気があがる。
2トップに変えたのも良かった。
福田からボールを奪っても今までだと前線にはロッキしかいない。
それを2トップにしたことで2人ゴールを狙える位置にいるのだ。
- 70 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:16
- 「覚悟して下さいってこういう事か。」
福田が顔を歪める。
今のプレーは明らかに福田を狙っていた。
エンポリもこの作戦を取ってきたようだ。
「アスカ!!行けるか?!!」
「大丈夫!!ちゃんとパス出すから!!」
マツシマの声に手を上げて応える福田。
今まで同じ状況を何度も経験し、それを跳ね返してきた。
必ず前線にいいパスを送る。
- 71 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:16
- 「くっ!!」
福田が激しいチャージに顔をしかめる。
後半に入ってからずっとひとみが福田に密着マークしているのだ。
その密着マークがまたしつこかった。
『よっすぃーってこんなにディフェンス上手いの?!!』
さすがの福田もこのディフェンスに手を焼く。
身体能力では圧倒的にひとみの方が上だ。
しかしディフェンスはそれだけでは出来ない。
読み、駆け引きなど、様々な要因が絡むのがディフェンスだ。
それだけに経験というものが大きく関わってくるはずなのだが。
ひとみのタックルが福田に決まった。
そのこぼれ球をディ・カリーナが追いかけるが、マヤミッキが大きくクリアした。
- 72 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:17
- 『よ、よっすぃーってトップ下の選手じゃないの?
まるでセンターバックみたいじゃない!!』
福田の顔色が変わってきた。
福田は知らないのだ。ひとみが元DFであったのを。
しかもただのDFではない。
“日本が産んだ天才”後藤真希と“日本のエース”安倍なつみ。
この日本最強のFW2人を完全に抑え込んだDFなのだ。
福田を抑えるにはオフェンシブハーフの選手で、なおかつ代表レベルのディフェンス力が必要だと
エンポリ監督スギモティオ・キヨシィは言った。
それはつまり元DFで、“ファンタジスタ”の吉澤ひとみでなければ無理だという事なのだ。
- 73 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:19
- 『さ、さすが福田さんだ。付いていくので精一杯だ。』
一方ひとみも福田のテクニックに一杯一杯だった。
ボール捌きはもちろんの事、視野の広さ、小さい身体ながらも強いフィジカル、
そして身体の使い方とどれをとっても申し分ない。
さすがは元トップ下、そして元“ファンタジスタ”だ。
だからこそ守備的MFながらも抜群の攻撃力を誇り、
王者ユーヴェの心臓として君臨できるのだ。
ひとみが一瞬でも気を抜けば、間違いなくやられる。
- 74 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:19
- 福田がひとみのチェックをかわして前線にボールを送る。
これをマツシマがダイレクトで前線にスルーパス。
このパスにユーヴェFWが反応するが追いつけなかった。
ひとみのチェックがあったため、福田からマツシマへのパスが少しずれたのだ。
それが響き、最後ユーヴェFWに届かなかった。
今度はひとみが福田からボールを奪う。
そしてすかさず右サイドのディ・カリーナへ。
カリーナは右サイドを駆け上がり中にクロス。
このクロスをロッキが中にヘッドで落とす。
そこへひとみが飛び込むが福田の方が反応が速かった。
ひとみよりも先にコースに入り込みこれをクリアした。
- 75 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:19
- 「やるじゃんよっすぃー!!!」
「さすが福田さんですね!!!」
福田とひとみが激しく身体をぶつけ合う。
お互いユニフォームをつかみ合い、ボールにくらいつく。
時たま足を削りあったりもする。
しかし激しい競り合いであるにも関わらずお互い表情は活き活きとしていた。
世界最高峰の舞台で日本人対決。
嬉しくないはずはない。
- 76 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:20
- 日本人対決で注目を集めていたこのカード。
まさに日本人対決がこの試合の行方を占うことになった。
この展開にスタジアムに駆けつけた日本人はもちろん、
両チームのサポーターたちも大歓声を上げる。
もちろん日本でこの試合をテレビ観戦している人たちもそうだ。
「行けっ!!ひとみ!!」
「頑張れ福ちゃん!!」
代表合宿のホテルでも平家や安倍たちが声援を送っていた。
自分たちの仲間がこの世界最高峰の舞台で戦っている。
これで興奮しなくて何で興奮するのか?
- 77 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:21
- 後半も15分を過ぎたが福田VSひとみのバトルは止まらない。
「監督!!このままじゃ失点します!!守りを固めましょう!!」
ユヴェントスのコーチが監督のオダギリ・ジョリッピに叫ぶ。
ひとみが福田のマークについてからユーヴェの決定的なチャンスがなくなった。
逆にエンポリの方がチャンスを掴みつつある。
このままだと失点の可能性が高い。
今現時点で3点差ある。
だから後は守りを固めて逃げ切ればいいのでは?
そういうコーチの進言だった。
- 78 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:23
- 「・・・・・・コーチ。我々は王者ユーヴェだ。我々のボランチは、中心はアスカ・フクダだ。
そしてその相手が同じ日本人のヒトミ・ヨシザワだ。だから逃げる事など許されんよ。
徹底的に叩かねばならないのだ。」
が、オダギリ・ジョリッピは守りを固めようとはしなかった。
ここで守りを固めれば福田のプライドが傷つく。
ジョリッピも福田がどれだけこの試合に熱い思いを抱いていたか理解している。
だからこそ真正面からぶつけねばならない。
それが福田のため、そして将来のユーヴェのためでもあるのだ。
「トダム!!マヤミッキ!!アスカにボールを集めろ!!!マツシマ!!ハセキョン!!
アスカからのパス、絶対に決めろ!!!」
ジョリッピはテクニカルエリアに出て指示を送る。
その指示に士気が上がるユヴェントスの選手たち。
選手たちも真正面からぶつかりたいと思っていたのだ。
だからこそこの指示を出してくれたジョリッピに感謝した。
- 79 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:24
- またも福田VSひとみ。
ウオオオオオオオオオオ!!!!!
スタジアムが大きく沸く。
「あっ?!!」
福田がひとみを華麗にかわした。
一度ボールをまたぎ、そしてそのまたいだ方向に抜け出したのだ。
フリーで前を向いた福田。絶好のチャンスだ。
「来い!!アスカ!!」
その瞬間マツシマやハセキョンが前線で動く。
- 80 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:25
- が、パスを出す瞬間激しいタックルに潰された。
「なっ?!!」
一瞬何が起こったか分からない福田。誰に?
ひとみだった。
抜かれた後すぐに反転し、追いかけたのだ。
この時、ひとみはあの“トップギア”に入っていた。
ボールを奪ったひとみ。その目に白い道が映る。
「ここだ!!!」
すかさずひとみは“悪魔のパス”を送る。
このパスに抜け出したのはディ・カリーナ。
相変わらず厳しいパスだが何とか合わせた。
が、これをイタリア代表GKジャンルイジ・フカキョンが弾く。
しかしこのこぼれ球は最後詰めたロッキが押し込んだ。
後半23分、エンポリ、ついに1点返した。
- 81 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:25
- 喜びもそこそこにエンポリイレブンはボールをすぐさまセンターサークルに置く。
まだ2点差ある。時間がもったいない。
「さあすぐに逆転しましょう!!」
「おうっ!!!」
ひとみのゲキにみなが応える。
残りは20分以上ある。まだ行ける。
一方失点を喫したユーヴェだがすぐに気持ちを切り替える。
「ドンマイドンマイ!!!次すぐに取り返すよ!!」
「おうっ!!!」
キャプテンハセキョンの声に応える。
そうだ。取られたら取り返せ。
- 82 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:26
- ウオオオオオオオオオオ!!!!!
デッレ・アルピが大きく揺れる。
福田とひとみだけではない。
マツシマもハセキョンも、ディ・カリーナもマユコも。
両チーム全員が熱い戦いをこのピッチで繰り広げている。
そして時間がどんどん過ぎていった。
- 83 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:27
- 「足止めるな!!!」
福田のゲキが飛ぶ。
残りは8分ほど。点差は3−1のままだ。
しかし福田は気を緩めない。
ひとみならば充分に残り8分で逆転できる。
そう思っているからこそまだ点差を引き離そうと攻撃を仕掛ける。
一方、ひとみは。
『・・・・・・やばい。』
自分のスタミナに限界を感じていた。
ここまでずっと福田に張り付いていた。
福田が上がった時は自陣深くまで戻り、
こちらの攻撃の時には相手ゴール前まで詰めていった。
ここまで気力で持ちこたえてきたがそれももう限界に近い。
ならば・・・・・・・・
- 84 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:27
- マヤミッキのパスをマユコがカットした。
『ここだ!!!』
ひとみが最後の力を振り絞って前線に上がる。
もう自分は限界だ。ならばせめて最後の意地を見せる。
前線へ上がるひとみにマユコからパスが出た。
このパスを受けたひとみ、ディ・カリーナとのワンツーでトダムをかわし、
右足を振り抜いた。
魂を込めたシュートはフカキョンの手をかすめてゴールネットに突き刺さった。
後半38分。
エンポリ、ついに1点差。
- 85 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:28
- ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
デッレ・アルピが大きく揺れる。
歓喜に沸くエンポレーゼ。凍りつくユヴェンティーノ。
だが、ユーヴェの選手たちはみな理解していた。
今の攻撃でエンポリは終わったと。
ひとみの姿を見ればそれが分かった。
腰に手を当てて俯き、大きく肩で息をしている。
もう限界だろう。
- 86 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:31
- この後スタミナがついに切れたひとみは福田についていけなくなった。
あっさりとひとみをかわした福田、マツシマへパス。
マツシマはトラップの際、ちらっとひとみの姿を見る。
『さすが私の後継者ね。次、楽しみにしてるから。』
マツシマの右足からエンジェルパスが出された。
このパスに反応したのはハセキョン。
ハセキョン・ゾーンから見事にゴールネットに突き刺した。
ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
主審の笛が高らかに鳴った。
ユヴェントス4−2エンポリ
結果だけを見ればユヴェントスの圧勝だったが、
エンポリも一歩も引かない、熱い戦いだった。
- 87 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:32
- 試合終了の笛が鳴った瞬間、ひとみはハーッと大きく息を吐いた。
もう体力の限界だった。足もプルプル震えている。
「アスカ!!」
とその時、マツシマの声が響いた。
ひとみが声のした方を見ると、福田がマツシマに肩を借りて支えられていた。
顔色は真っ青で、自分で立てないぐらい疲弊しきっている。
- 88 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:35
- 「ふ、福田さん・・・・・?」
ひとみが福田の様子に驚愕の表情を浮かべる。
「いつものことなんだよ。」
「えっ?」
ひとみの横にハセキョンが来た。
「アスカは試合が終わると大抵倒れるんだ。走りすぎてね。」
「えっ?!」
思わず絶句するひとみ。
そういえば今日の試合、ひとみは確かに福田に張り付いてピッチを縦横無尽に駆け巡ったが、
それは逆に言えば福田も同じ距離を走ったことになる。
しかもひとみが福田に張り付いたのは後半からだ。
前半はトレクァルティスタの位置でボールを待っていたため、それほど運動量はなかった。
が、福田は前半からずっとピッチを駆け回っている。
走った距離は断然福田の方が長い。
- 89 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:36
- 「・・・・アスカは絶対に手を抜かないんだ。どんな試合でも全力で戦う。
自分の限界を超えてもチームのために走るんだ。
・・・・・だからあたしたちはみんなアスカを尊敬してる。」
このハセキョンの言葉にひとみは打ちのめされた。
自分はもうダメだと思って足を止めた。
が、福田は限界を超えてもチームのために走り続けた。
『・・・・・・何やってるんだあたしは・・・・・・・・・』
ひとみはそんな自分が心底腹立たしかった。
- 90 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:37
- 福田がマツシマに支えられてピッチを後にする。
小さいはずのその背中。
しかしひとみにはその背中が大きく見えた。
- 91 名前:第3話 パイオニアの背中 投稿日:2004/03/24(水) 22:39
- 福田明日香が欧州に道を切り開いて3年。
今では福田を含めて6人の日本人が海外で活躍している。
だが、いまだ誰も彼女の背中に追いついていない。
パイオニアであり、なおかつ今もトップを走る。
それが福田明日香だ。
『・・・・・・いつか必ずこの背中に追いついてみせる。』
偉大なるパイオニアの背中にそう誓うひとみであった。
第3話 パイオニアの背中 (終)
- 92 名前:ACM 投稿日:2004/03/24(水) 22:40
- 第3話 パイオニアの背中 終了いたしました。
初の日本人対決でした。
今現在海外に10人を超える選手がいてますけど、中々日本人対決って実現しない
ですよね。どっちかがベンチであったり、怪我だったりと。
みんなきっちりと試合に出て、日本人対決が頻繁に行われるようになって欲しいです。
- 93 名前:ACM 投稿日:2004/03/24(水) 22:41
- 44>名無し読者様
レスありがとうございます。そう言って頂けると僕も救われます。
サッカーというスポーツを題材にしている分、勢いが大事だと僕も思っているので
これからも勢いを大事にしつつ、丁寧に書いていきたいと思います。
こちらこそこれからもずっとよろしくお願いいたします。
45>名無しぃく様
レスありがとうございます。そうですか、言わなければ分から(ry
次回ももちろん頑張らせていただきます。
そしてお待たせいたしました。ミキティーです!!
ようやく登場させることが出来ました。これからどんどん活躍させますので
ご期待下さい。
46>みっくす様
レスありがとうございます。明日香の気合いのほどはいかがでしたでしょうか?
熱い魂を見せられたでしょうか?
日本代表の方もさらに激しい争いになってきます。代表入り、それからポジション
争い。彼女たちの熱い戦いにもご期待下さい。
- 94 名前:ACM 投稿日:2004/03/24(水) 22:43
- では次回の予告です。
第4話 ドイツへの第一歩
いよいよ2006ドイツワールドカップへ向けてアジア1次予選が始まる。
相手は近年、急速に力をつけてきている中東の国、オマーン。
果たして日本代表はドイツへ向けての第一歩を順調に踏み出せるのか?
そしてこの大事な試合のピッチに立つのは一体誰なのか?
2月18日。全てはこの日から始まる。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。
- 95 名前:みっくす 投稿日:2004/03/25(木) 02:45
- 更新おつかれさまです。
いやー、白熱した戦いでしたね。
実際にこういうシーンが見れる日はくるのでしょうかね。
次回からは代表編ですね。
楽しみにしてます。
- 96 名前:ACM 投稿日:2004/03/25(木) 15:26
- 95>みっくす様
レスありがとうございます。
そうですね、こういうシーンが頻繁に見られるようになって
ほしいです。それもチャンピオンズリーグとかの大きな舞台で。
そんな日を夢に見つつこの小説を書いてる次第でございます。
では本日の更新です。
第4話 ドイツへの第一歩
- 97 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:28
- 『福田明日香、貫禄のハットトリック!!!』
『史上初の日本人対決は福田に軍配!!!』
翌日のスポーツ紙はやはり日本人対決が一面を飾った。
結果は福田明日香が貫禄を見せたというところか。
しかしひとみ自身の動きは良く、採点でも7.0と高評価を得ていた。
もちろんハットトリックの福田がこの試合の最高点8.5をマークしていた。
そしてこの試合でエンポリのひとみ加入後の無敗記録は4でストップした。
- 98 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:29
- 次節へ向けての練習は火曜日から始まる。
「ヒトミ、身体は休めた?」
練習場に来たひとみにマユコが声をかける。
「はい、身体の方は大丈夫です。ただ・・・・・」
ひとみは少し落ち込んでいた。
前節、福田のユヴェントスとの対戦で最後自分は足を止めてしまった。
その結果福田を止める事が出来ずに止めを刺されたのである。
もしあの時もう少し気力を振り絞っていたらと思うと悔いが残る。
「ヒトミ、気にしちゃだめだよ。リーグ戦は長いんだから、
すぐに気持ちを切り替えないと。ユーヴェとのことはもう忘れて、
次のペルージャ戦に集中しよう。」
そんなひとみにマユコがフォローする。
「マユさんの言うとおりだよ。負けたのは悔しいけど次の戦いがすぐ目の前にあるからね。
次の試合に気持ちよく勝とうよ。」
ディ・カリーナもひとみの肩をポンと叩き、笑顔を見せる。
「・・・・・そうですね。残留に向けて次、頑張らないと。」
2人のフォローにひとみも気持ちを入れかえる。
次節は下位のペルージャ。
きっちり勝って勝点3を取りたい所だ。
- 99 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:30
- 「おお!!来たぞ!!!」
待ち構えていた報道陣がどよめき、そして一斉にカメラのフラッシュがたかれる。
2月10日、成田空港にスペインからの飛行機が降り立った。
その飛行機から颯爽と降りてきたのはFCバルセロナの松浦亜弥。
今回ツンクジャパンに初選出されたスペインリーガーだ。
2月8日のアスレチック・ビルバオ戦でも後半19分から途中出場し、
精力的な動きでチャンスを創った。それだけにこの後も期待がかかる。
「松浦さん!!今回の日本代表初選出についてどう思われますか?!!」
「1次予選のオマーン戦に選ばれる自信は?!!」
報道陣が矢継ぎ早に質問する中、松浦は歩きながらであるが、律儀に答えていた。
「選ばれて嬉しいです。日本のために頑張りたいと思います。」
「やるからにはやはり選ばれたいですし、自信ももちろんあります。」
笑顔で質問に答え、用意された車で空港を後にした。
- 100 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:31
- 松浦が日本に到着してから1時間後、今度はドイツから彼女が到着した。
シャルケ04藤本美貴。
藤本も2月8日、ヘルタ・ベルリン戦に出場。
こちらは左サイドバックとしてスタメンフル出場だったが、チームは4−2と敗れた。
藤本は1アシストを記録するものの、相手にPKを与えてしまうファウルを犯した。
そのため機嫌が悪いのであろうか、報道陣の質問にもノーコメントで車に乗り込み空港を後にした。
- 101 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:31
- 松浦が日本代表が練習しているグラウンドに着くと、
そこでは選手たちが紅白戦を行っていた。
「柴ちゃん!!」
安倍が柴田からのパスに抜け出しゴールネットを揺らした。
「ナイスシュートなっち!!」
「ナイスパス柴ちゃん!!」
チームメートから声が上がる。
安倍がみなから祝福を受け、自陣に戻る際にふとベンチに目をやると、
そこにはツンクと親しげに話している1人の少女がいた。
『・・・・・あれが松浦亜弥だべか・・・・・・・』
安倍の表情が険しくなった。
日本のエースは自分だ。絶対にそれは譲らない。
安倍の表情に気付いたのか、他の選手たちも松浦が到着した事を知った。
新たな仲間であると同時に新たなライバルの出現である。
それだけにみな、緊張感が張り詰める。
- 102 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:32
- 「ご苦労さん松浦。」
ツンクが松浦に手を差し出す。
「どうもツンクさん。」
松浦がその手をがっちりと握った。
「どうや疲れの方は?大丈夫か?」
「ええ、体調はいいです。時差ぼけも飛行機で調整してきましたから大丈夫ですよ。」
松浦が笑顔で答える。
ツンクは18日の試合、このスペインリーガーにかなりの期待を抱いている。
それは松浦の技術もあるが、それ以上にコンディションの面での期待が大きい。
日本の選手たちはシーズン開幕前のため、やはりコンディションは100%ではない。
それだけに松浦、藤本、それから福田や市井といった海外組の面々に期待をしているのだ。
- 103 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:34
- 松浦到着からきっちり1時間後、今度は藤本美貴が到着した。
「藤本、お疲れさん。」
「あ、どうもですツンクさん。」
2人はがっちりと握手した。
「どうや体調は?」
「ええ、全然大丈夫ですよ。すぐ試合に出て憂さを晴らしたい所です。」
藤本がニッと笑う。
こちらも松浦と同じく体調は万全なようだ。
それに彼女たちは今試合に飢えているのだ。
ようやくトップチームで試合に出場し、今、サッカーがおもしろくて仕方がないのだ。
「それは頼もしい言葉やな。期待してるで。」
ツンクは藤本の肩をポンと叩くとピッチに近寄り選手たちに指示を送る。
- 104 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:35
- 「おっす亜弥ちゃん、久しぶり。」
「はいな、美貴たん。」
藤本と松浦がハイタッチをかわす。
この2人は初対面ではない。
それぞれがユースに所属していた時、試合で何度か対戦したことがあったのだ。
お互い異国の地で日本人選手と会えるとは思ってもいなかったため、
試合が終わった後はどちらからとなく声をかけた。
その際の第一印象がお互い良く、それ以来2人は大事な友人として付き合っている。
お互いトップチームに昇格した時などは電話で喜びとおめでとうを伝え合った。
「やっと日本代表に選ばれたね。」
「うん。美貴たんも一緒で嬉しい。」
そして今回揃って日本代表初選出。
2人とも電話しあって喜んだのは言うまでもない。
- 105 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:36
- 「あの人が・・・・・・藤本美貴。」
「負けへんで・・・・・・・・・」
到着した藤本を見て、左サイドの石川と加護も気合いを入れる。
左サイドは最大の激戦区だ。
FKが魅力の石川梨華。
ドリブラー、加護亜依。
そしてGKミカも左利きのため、ここをこなす事が出来る。スピードはbPであろう。
そして今回の親善試合には選ばれていないが守備力bPの木村麻美。
これだけの人材がいる。
そして今回、ここに藤本美貴という左サイドのスペシャリストが加わった。
この中から誰が左サイドMFのポジションを掴み取るのか?
みな虎視眈々と狙っている。
- 106 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:37
- 紅白戦も終わり、松浦と藤本もみなと対面をすませた。
そして翌日から2人も参加し、イラク戦に向けての練習が再開された。
「・・・・上手いべ・・・・・・」
安倍が思わず呟く。
午前の練習はシュート練習を行っていた。
両サイドからクロスを上げ、それを押し込むという練習だが、
そこでいきなり松浦が魅せてくれた。
別に派手なプレーをするわけではない。
上がったクロスに合わせているだけなのだが、それが実にタッチが柔らかい。
どんなボールに対しても的確にとらえ、きっちりとコースに流し込んでいる。
このシュート練習にはGKがゴールに入っているのだが、松浦は全て決めてみせた。
あの飯田やミカでさえ、1つも止めることが出来なかった。
「いえ、フリーですから。」
松浦は謙遜したが、その技術は驚異的なものだ。
- 107 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:38
- それから藤本もその実力の片鱗を見せ付けた。
このシュート練習ではクロスを全てきっちりと中のFWに合わせてみせた。
素晴らしい左足の精度だ。
そして中でシュートする側にも回ったが、こちら側でもきっちりとボールをとらえている。
パスの出し手側としても、受け手側としても機能するタイプという事を見せ付けた。
そしてその後行われたミニゲームでも実力を発揮。
鋭いドリブルで左サイドを突破しチャンスメイクしたと思えば、
DFラインまで下がってきっちりと守備をする。
チャンスと見れば素晴らしいスピードで最前線まで駆け上がる。
先ほど左サイドは激戦区で、いい人材がいると述べた。
それぞれ特徴があるが、藤本はその全てを兼ね備えた選手なのだ。
石川のような精度が、加護のようなドリブルが、麻美のような守備力が、
ミカのようなスピードがある選手なのだ。
- 108 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:39
- この2人に刺激されたのか、他のFW陣や左サイドの面々が気合いを入れて練習に臨んでいる。
それが他の選手たちにも伝わり、いい緊張感で練習が行われた。
そして12日、イラク戦を迎えた。
ワールドカップ予選前の大事な試合。
この試合後、18日に行われるワールドカップ1次予選、対オマーン戦のメンバーが発表されるのである。
それだけに当落線上の選手たちにとってこの試合が最後のアピールのチャンスだ。
- 109 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:39
- 日本代表スターティングメンバー
GK 1 飯田圭織
DF 2 石黒 彩 安倍 高橋
3 中澤裕子
16 紺野あさ美 柴田
MF 6 保田 圭 石川 矢口
7 平家みちよ
8 矢口真里 保田 平家
10 柴田あゆみ
14 石川梨華 石黒 中澤 紺野
FW 9 安倍なつみ
17 高橋 愛 飯田
- 110 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:40
- 試合は予想外の展開となった。
日本はアジアの王者。
そう考える者が多く、イラクなど相手にならないとみな思っていた。
が、イラクの選手たちは試合が出来る喜びがあった。
純粋にサッカーが出来るという喜びが。
そういった喜びこそが最高のモチベーションとなる。
- 111 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:41
- イラクは前線から積極的にプレスを仕掛けてくる。
これに日本も受けて立つが、いまいちかみ合わない。
みな、気合いが空回りしている感じだ。
そのためか中盤から前線でのミスが目立ち、ボールがつながらない。
「みんな落ち着け!!自分のプレーをしっかりしろ!!」
ツンクがたまらずテクニカルエリアで叫ぶ。
今日中盤と前線のスタメン、柴田、石川、矢口、平家、保田、高橋、安倍。
彼女たちはこの試合スタメンであるものの、次の試合に選ばれるかどうかは正直分からない。
- 112 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:42
- ボランチにはあの福田明日香がいる。
左サイドには藤本美貴が。
右サイドにはアーセナルの市井紗耶香が。
トップ下には吉澤ひとみがいるのだ。
そして前線には松浦亜弥と、後藤真希。
極端な話、次の試合でスタメンが全員変わっている可能性もあるのだ。
それは日本のエース安倍なつみとて例外ではない。
そのため、この試合でアピールしなければと必死になっている。
それが足かせとなり、いつものプレーが出来ないでいた。
それに体調面での不安もある。
矢口、石川、それからここに来て安倍にも少し疲れが見えるようだ。
- 113 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:46
- 「みんな落ち着け!!ゆっくりボールまわせ!!」
DFラインから中澤が声をかけるが、みな完全にテンパッている。
前に前に前にと攻めあがる。
そのため中盤がぽっかりと空いている。
特に左サイドの石川梨華だ。
いつもは左サイドのやや低い位置からその得意の左足でチャンスメイクするのが、
今日は前に前にと上がっている。
もちろんその姿勢はいいのだが、バランスというものがある。
逆サイドでクラブでもコンビを組む矢口真里はそのスピードを活かしてどんどん前に出て行くタイプだ。
それだけにいつもは逆サイドの石川がやや下がり目にポジションをとり、バランスを取っていた。
それでも石川には“魔法の左足”があるため、下がった位置でも充分にチャンスメイクが出来ていたのだ。
もちろん石川が上がる時もあるが、その際には矢口がきっちりと下がっている。
サイドアタッカーはこういった風に同じサイドの選手だけでなく、
逆サイドの選手とのコンビネーションも重要なのだ。
だからこそツンクはよく矢口、石川の横浜Fマリノスコンビをスタメンで使う。
普段からコンビを組んでいるため、呼吸を合わせやすいからだ。
ところが今日はそれが全くかみ合っていなかった。
矢口が上がる場面でも石川はバランスを取らずに上がっていた。
- 114 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:47
- イラクはそこを突いた。
平家から右サイドを駆け上がる矢口にパスが出た。
矢口が右サイドを深くえぐり、中にクロス。
が、これはイラクDFに跳ね返されてしまった。
このボールを拾ったイラクMFが一気に右サイド、日本から見ると左サイドへ振る。
そこに走り込むイラク右MF。全くのフリーだ。
「あっ!!」
前線に上がっていた石川が慌てて戻る。
しかし上がりすぎていて全く追いつかない。
「オッケー!!」
石黒がすかさずフォローに入る。
しかしその分イラク2トップには中澤と紺野がマークにつくことになり、
3バックの利点である1人余るというディフェンスが出来ない。
この場面は何とか石黒が抑えきったが危ない場面であった。
- 115 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:48
- 前半はこのまま0−0で終わった。
日本は格下のイラク相手に攻撃の形がつかめないでいた。
この展開にほぼ満員に膨れ上がった国立競技場のサポーターたちから不満の声が溢れる。
そしてアップをするためにスタメンの選手と入れ替わってピッチに立つ控え選手たちに声援を送る。
「松浦!!!」
「藤本!!!」
みなこの海外からのニューフェイスに期待しているのだ。
その声が聞こえた石川は落ち込んだ。
石川の弱点はその精神面。
調子がいい時にはかなりの前向きな姿勢になるのだが、
一度落ち込むとどん底にまで落ちてしまうのだ。
- 116 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:49
- それに追い討ちをかけるかのようなツンクの采配だった。
後半頭から藤本と松浦を投入したのだ。
これは予定通りの投入であったが、
落ち込んでいる石川には大きなショックを与えた。
「さ、亜弥ちゃん、行くよ。」
「オッケー、美貴たん。」
ついに日本代表にデビューする瞬間がやってきた。
- 117 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:49
- 松浦は高橋と、藤本は石川と交代した。
「矢口さん、お互いバランスを取っていきましょう。」
「オッケー。」
藤本と矢口がお互いのポジショニングについて確認する。
前半、矢口もバランスが悪いことを感じていた。
だからこそ後半はしっかりと逆サイドを見てバランスを取らねばならない。
「安倍さん、あたしが動き回りますからポストお願いします。」
「え?大丈夫だべか?松浦、バルサでは1トップだべ?」
安倍が松浦に尋ねる。
バルセロナでは1トップを務める松浦。中央でポストプレーをこなすシーンをテレビで良く見ている。
「大丈夫ですよ。あたし、トップ下もウイングも出来る自信ありますし。
それに安倍さんの体調が余り良くないみたいですから、あたしが動き回ります。」
松浦はニッと笑った。
- 118 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:50
- ウオオオオオオオオオオ!!!!!
国立競技場が大きく揺れる。
お目当ての2人が登場したからだ。
このニューフェイスがどこまでやってくれるのか?
サポーターたちの期待にこの2人が早速応えてくれた。
開始わずか2分。
安倍のポストプレーから松浦が左サイドに大きく振る。
そのボールに藤本が追いつき、左サイドを駆け上がる。
そして中を良く見てニアサイドにクロス。
これに素晴らしいスピードで飛び込むのは松浦亜弥。
藤本のクロスも素晴らしかった。
ピッタリと松浦の頭に合い、ゴールネットを揺らした。
- 119 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:50
- 「ナイス亜弥ちゃん!!」
「美貴たんこそナイスパス!!」
ゴールを決めた松浦とクロスを送った藤本が抱き合う。
そこへ他の選手たちも一斉に抱き付く。
もちろんサポーターたちは歓喜に沸いている。
さすがは海外組、ものが違うとばかりに大歓声をこの2人に送っている。
- 120 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:51
- さらにこの2人は止まらない。
松浦が安倍の周りで積極的に動いてチャンスメイクをする。
右サイドでも左サイドでもどちらからでもチャンスを創る。
鋭い突破に左右両足から放たれる正確なクロス。
そして類まれなパスセンスとまさに非の打ち所がない。
藤本もそうだ。
後半開始直後は積極的に攻めあがったが、その後はきっちりと逆サイドの矢口とのバランスを取る。
守備でも激しい当たりでイラクの右サイドを完全にシャットアウトする。
「これは楽だわ。」
後ろで守る石黒は藤本の守備がいいせいか、かなり余裕の表情だ。
- 121 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:52
- さらに後半20分に疲れが見える安倍がアヤカと、
そしてこちらも疲れが見える矢口が小川と代わるとこの2人の役割も変化した。
アヤカはチャンスメイカータイプのFWだ。
右サイドを主にドリブル突破やクロスでチャンスメイクしていく。
という事で松浦が最前線に立ち、中央でポストに入る。
またそのポストプレーが正確なのだ。
きっちりと身体を使ってボールをキープし、左右両足から確実にボールが落とされる。
前線のポストがきっちり機能しているので日本の攻撃がリズム良くなっていった。
- 122 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:53
- そして藤本だ。
逆サイドが守備的な小川に変わった途端、積極的に左サイドを駆け上がる。
チャンスメイクだけでなく中に切れ込んでゴールも狙い始める。
そのテクニックにスピードを充分に活かして左サイドを完全に支配する。
後半34分に生まれた得点も彼女たちによるものだ。
左サイドを突破した藤本。急激に中に切れ込む。
そして松浦とのワンツーでDFラインを突破。
最後は難しい左足のアウトサイドキックでゴールの隅に流し込んだ。
さらに最後止めは松浦。
前線でボールをキープしたが、アヤカや柴田にはマークがついている。
ならばと自分が単独で持ち込む。
1人かわし、2人かわし、そして最後GKまでもかわしてゴールに突き刺した。
- 123 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:54
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!
主審の笛が3度高らかに鳴った。
3−0というスコアで日本が見事にイラクを下した。
まさにこのイラク戦は松浦・藤本劇場だった。
前半戦はほとんどチャンスらしいチャンスはなかった。
が、松浦と藤本が投入されてからは怒涛の攻めをみせ、一気に3得点。
サポーターたちも理解している。
流れを変えたのはこの2人だったと。
- 124 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:55
- この2人の活躍に表情が青ざめるのが安倍と石川だ。
安倍も石川も2人の総合力の高さに打ちのめされてしまった。
藤本はサイドプレイヤーとして申し分のない選手だ。
攻撃も守備も、そして得点感覚もスピードも兼ね備えている。
これならばどんな相手が来ても藤本で対応できるであろう。
そして左サイドならばFWもDFも行けるというユーティリティーな能力。
極端な話、“魔法の左足”しかない自分なんか相手にならないのでは?
そう思いさらにネガティブになる石川。
- 125 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:56
- 安倍もそうだ。
安倍がいた時は松浦はセカンドストライカーとして動き回り、チャンスメイクをしていた。
が、アヤカが投入されたらファーストストライカーとして最前線でポストプレーをこなし
日本の攻撃を潤滑にしていたのだ。
さらに松浦と安倍との決定的な違いは松浦は自分1人で点を取れるという事だ。
最後の得点、あれは安倍だときっと突破できなかっただろう。
安倍の得点感覚は日本bPであるが、それも周りのお膳立てがなければ何も出来ない。
今日のようにしっかりと守りを固められるとどうしようもない。
その点松浦は自分単独で突破できる。
なおかつ1点目のニアサイドに飛び込んでヘディングのように得点感覚も持っている。
安倍と石川は今、言いようのない大きな危機感に心を揺さぶられていた。
- 126 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/25(木) 15:57
- そして試合終了後、ツンクから18日のオマーン戦に臨む18人のメンバーが発表された。
この発表に会見場は大きくどよめいた。
- 127 名前:ACM 投稿日:2004/03/25(木) 15:59
- すみません、今日の更新はここまでにさせていただきます。
- 128 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 21:12
- 更新お疲れ様です。
藤本松浦きましたね〜。
藤本のいろんな意味でのキレキレプレー期待してますw
- 129 名前:みっくす 投稿日:2004/03/25(木) 22:28
- 更新お疲れさまです。
新戦力も代表デビューしいよいよですね。
でも、いいとこでおわちゃうなぁ。
メンバーはどうなったんだろう。
- 130 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:00
- <ドイツワールドカップアジア1次予選対オマーン戦日本代表メンバー>
GK 1 飯田圭織 コンサドーレ札幌 副キャプテン
12 ミカ・トッド セレッソ大阪
DF 2 石黒 彩 東京ヴェルディ1969
3 中澤裕子 京都パープルサンガ キャプテン
15 小川麻琴 清水エスパルス
16 紺野あさ美 コンサドーレ札幌
MF 4 辻 希美 ガンバ大阪
5 加護亜依 京都パープルサンガ
6 保田 圭 柏レイソル
7 平家みちよ 浦和レッズ
8 新垣里沙 ジュビロ磐田
10 柴田あゆみ 名古屋グランパスエイト
11 市井紗耶香 アーセナル(イングランド)
14 藤本美貴 シャルケ04(ドイツ)
18 福田明日香 ユヴェントス(イタリア)
FW 9 木村アヤカ ヴィッセル神戸
13 松浦亜弥 FCバルセロナ(スペイン)
17 高橋 愛 ジュビロ磐田
- 131 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:01
- 23人選ばれていたイラク戦。
その中からGK前田有紀、DF斉藤瞳、MF矢口真里、石川梨華、
田中れいな、FW村田めぐみ、そして安倍なつみが代表から漏れた。
それだけではなく、海外組もレアル・マドリードFW後藤真希、
エンポリMF吉澤ひとみも選ばれなかった。
果たしてこの選出のツンクの意図とは?
- 132 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:04
- ――――ツンク監督。正直何から聞けばいいのかこちらの方が戸惑ってしまうのですが。
「その気持ち、分かります。ですから私の方から1つずつ説明させていただきます。
まずは今回、23名の中から7名落としました。その理由について説明いたします。
この7人、決して実力が大きく劣っていたわけではありません。まずはそれを頭に入れておいて下さい。」
そう言ってツンクはマスコミを見回す。
「彼女たち7人を外した主な理由は体調面で不安があるからです。やはりシーズン開幕前ということでみな
体調面が100%ではありません。
その中でも天皇杯を決勝まで戦った横浜Fマリノスの3選手、つまり斉藤、矢口、石川と、同じくジェフ市原の村田。
この4選手の体調はかなり悪いです。ですから私はまずこの4人を外す事を決めました。
それから前田有紀ですが、彼女は今ちょっと精神的に不安定なようです。昨シーズン所属していたサンフレッチェがJ2に降格し、
そのため京都に移籍しました。愛着のあるチームを去らねばならない事、それから新天地に移籍することなど精神的に負担のかかる事が重なったため、
少々安定感に欠けました。ですから、ここで一度気持ちをリフレッシュして欲しいという事で今回はメンバーから外しました。
そして田中れいな。彼女は将来が最も期待されるプレイヤーでしょう。ただ現時点ではまだまだ劣る事は確かです。
今回は外しましたが、次回以降はきっとチャンスがあると思います。」
- 133 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:06
- ツンクはここまで話した後、水で口を潤した。
マスコミ連中もここまでは分かっている。
彼らから見ても今述べた6人は体調なども考えて妥当だろう。
が、残る1人こそがここに集まったマスコミたちの最大の関心事だ。
日本のエース、安倍なつみの落選。
「そして安倍なつみです。本当ならば彼女は選ぶつもりでしたが、
今日のイラク戦で彼女を選ばないことを決めました。」
ザワザワザワ・・・・・・
会見場がざわめく。
- 134 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:07
- ―――――それはどういった理由からでしょうか?
「まずは彼女の体調面です。ここに来て少々疲れが溜まっているようです。
ただ、18日の試合に出場できないかと言われればそうではありません。
充分に出場可能でしょう。その程度の疲れです。が、今日の試合、
松浦亜弥が予想以上に良く、彼女でいけると判断したため安倍には今のうちに
休養をとってもらうことに決めました。」
オオオオオオ・・・・・・
ツンクのこの発言に会見場がどよめく。
―――――ツンク監督、それは安倍よりも松浦を取ったという事でしょうか?
「いえ、そういう訳ではありません。あくまで体調面を考慮した結果です。」
- 135 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:10
- ―――――しかし松浦は名門バルセロナの選手です。ですから安倍よりも松浦を選んだのではありませんか?
この質問にツンクの顔色が変わった。
明らかにそれは怒りの表情だった。
「・・・・・・一言言わせて頂きますが、私は所属クラブの名前で代表選手を選んでいるわけではありません。
そこを勘違いしないで頂きたい。あくまで選手の実力と、その時の体調面を考えて選んでいます。
現に私は海外で活躍しているレアル・マドリードの後藤真希と、エンポリの吉澤ひとみを選んでいない。
それは彼女たちが1年以上リーグ戦を戦っているからです。後藤は昨シーズンのJリーグ1stステージ終了から、
吉澤は2ndステージ終了から欧州に行き、そして今まで休みなしでリーグ戦を戦っています。
この状態の彼女らを日本に呼ぶわけにはいきません。きっと潰れてしまいます。
ですから私は彼女たちを選ばなかったのです。逆に福田、市井はきっちりとオフをとって今シーズンに臨んでいます。
ですから体調面もいいため代表に選びました。そしてそのプレーの内容から代表に相応しいと判断し、選びました。
決して所属クラブの名前で選んでいるのではありません。」
- 136 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:11
- ツンクはそう言うとスッと椅子から立ち、会見場を足早に立ち去った。
よほど今の質問に腹が立ったのであろう。
「失礼致しました。しかし、ツンク監督の心情も察してください。
彼はこの日本代表を愛しています。そして代表選手たちを宝と思っています。
それをけなされれば怒るのも当然でしょう?」
ツンクの横に座っていた和田薫日本サッカー協会ジェネラル・セクレタリーが席を立ち、
マスコミに頭を下げた。
- 137 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:12
- もちろんマスコミはこれぐらいで怯むはずがない。
落選し、クラブに戻る7選手、特に安倍の声を聞こうと殺到した。
が、安倍を含め、みな毅然とした態度でこれに応えた。
「選ばれなかったのは残念ですが、これで終わったわけではありません。
きっちりと体調を整えて次、必ず選ばれるように努力します。」
横浜Fマリノス矢口真里。
「残念ですが、魂はみなに預けました。きっとやってくれると思います。
そして次、必ずプレーで日本の役に立ちたいと思います。」
コンサドーレ札幌安倍なつみ。
- 138 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:13
- 「あ、安倍さんが落ちてる・・・・・・それに梨華ちゃん、矢口さんたちも・・・・」
イタリアではひとみがPCにより代表のメンバーを知った。
安倍や石川たちが落ちていることに驚くひとみだが、自分はともかく、
後藤までも体調面が不安だとみるとあっさり落とすツンクである。
それだけに安倍たちが落ちたのもきっと体調面が悪かったからなんだとひとみは納得できた。
- 139 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:14
- 監督という職についている以上、必ず誰かを選び、誰かを落とさねばならない。
それはメンバー選出もそうだし、スターティングイレブンを決めるのでもそうだ。
これは仕方がないことだ。
しかし要は何故落ちたのか、選ばれないのかその理由が納得できればいいのだ。
納得できれば監督やチームを恨むこともないだろうし、次に向けて頑張ることが出来る。
しかしその理由が納得できないものだとしたら?
実力や体調面以外の何か目に見えないもの(所属クラブの名前?)だとしたら?
・・・・・これほど苦しく、辛く、そして悲しい事はないだろう。
ツンクは今回落ちた7人、それから宮崎合宿で落としたメンバーにきちんと説明した。
だからこそみな納得し、腐ることなく堂々とした態度でそれぞれのクラブに戻っていった。
次に選ばれることを目標にして。
- 140 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:15
- 代表発表から2日後の2月14日。
欧州では当然リーグ戦が行われる。
ひとみたちエンポリはホームにペルージャを迎えての一戦だ。
セリエA第21節 対ペルージャ戦 カルロ・カステッラーニ(エンポリ)
前節ユヴェントスに大敗したエンポリ。
しかしみな気持ちを切り替え、この試合に集中していた。
この試合はディ・カリーナが最も輝いた。
1ゴール2アシストの活躍。
ひとみもディ・カリーナのクロスに合わせて1得点を奪い、
守備陣も奮闘して3−0と快勝した。
- 141 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:15
- そしてこの日、イングランドではFA杯が行われていた。
アーセナル市井紗耶香はチェルシーとのロンドンダービーに先発フル出場。
元オランダ代表のハヅキ・リオナンプから見事なアシストを受け、ゴールネットを揺らした。
これが決勝点となり1−0でアーセナルが勝利した。
市井はこの試合が終わるとすぐに飛行機に飛び乗り、日本へと向かった。
翌15日。
ユヴェントスはアウェーでパルマと対戦。
パルマのエース、タナカアン・レナァに1点を奪われるものの、
マツシマのファンタジー2発で逆転。
2−1でユヴェントスが勝利し、がっちりと首位を守った。
福田もこの試合が終わるとすぐに日本へと向かった。
- 142 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:17
- スペインでも後藤のレアル・マドリードがアウェーでオサスナと対戦。
が、まさかの1−0で敗れた。
この試合、後藤の動きが明らかに鈍かった。
ツンクが睨んだとおり、近頃後藤に段々と疲れが出てきたようだ。
もし今回代表に選んだとしたら、きっとスペインに戻る時には疲労困憊だっただろう。
後藤を選ばなかったことはどうやらツンクのファインプレーになりそうだ。
市井が、福田が日本に戻ってきたということで、
いよいよワールドカップ予選が始まるのだとみな緊張感を感じていた。
絶対に負けられない試合とはこのことだ。
どんな形でもいい。
必ず予選突破を果たさねばならない。
- 143 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:18
- そして2月18日。
ついにこの日を迎えた。
ドイツワールドカップ1次予選対オマーン戦。
埼玉スタジアム。
「ええか。今日から全てが始まる。」
ロッカールームでツンクが静かに口を開く。
選手たちも緊張の面持ちでいる。
「ドイツまで長い道のりや。けど、一気に行こうとするな。
一歩ずつしっかりと踏み出していこうや。その一歩一歩の積み重ねが
きっと俺らをドイツに運んでくれる。ええな、今日、はじめの一歩を
しっかりと踏み出すで!!」
「はいっ!!!!」
そう、何事も一歩ずつ進んだらいい。
それを積み重ねていけばどこにだって行けるのだ。
- 144 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:19
- 「今日のスタメンや。」
今日、第一歩を最初に記すメンバーだ。
「GK飯田圭織。」
日本bPGK。守護神として最後方からチームを守る。
予選を突破し、ライバルサ・トエリとの決着を付け世界へと向かう。
「DF、左から石黒彩、中澤裕子、紺野あさ美。」
石黒の高さに強さ、紺野の速さと読み、中澤の経験と統率力。
日本が誇る鉄壁の3バック。
「MFボランチ、福田明日香、辻希美。」
偉大なるパイオニアと小さな弾丸が今日ボランチコンビを組む。
ツンクの狙いはミドルシュート。オマーンは守りを固めてくることが予想される。
そのためパワーの辻、精度の福田を起用した。
- 145 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:20
- 「MF左に藤本美貴、右に市井紗耶香。」
左サイドのスペシャリストのミキティと、
アーセナルで“フリーロール”として活躍する市井。
海外にその名を轟かせる両翼だ。
「トップ下、柴田あゆみ。」
日本のマエストロ。今日はタクトの振りがいのある選手が揃っている。
ここ埼玉スタジアムに詰め掛けた満員のサポーター、
そしてテレビで声援を送るサポーターたちにどんな演奏を聞かせてくれるのか。
「FW、高橋愛、松浦亜弥。」
日本のエースはこの試合いない。だからこそ彼女が頑張らねばならない。
日本の次代のエース、高橋愛。
そしてバルセロナの次代のエース、松浦亜弥。
この同い年の2人がドイツへの第一歩を踏み出すゴールを決める。
- 146 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:23
- サブに回ったミカ・トッド、小川麻琴、加護亜依、保田圭、平家みちよ、
新垣里沙、木村アヤカ。
彼女たちもスタメンではないものの、みな一丸となって戦う。
そして今回選ばれなかった選手たち。
安倍なつみ、石川梨華、矢口真里、田中れいな、亀井絵里、
道重さゆみ、斉藤瞳、村田めぐみ、前田有紀、木村麻美、大谷雅恵、
信田美帆、里田まい、戸田鈴音。
そして後藤真希、吉澤ひとみ。
彼女たちもみな1つになって戦っているのだ。
そしてここにいる選手たちはそんな彼女たちの思いを背負って戦わねばならない。
それが日本代表なのだ。
- 147 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:23
-
「がんばっていきまー・・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!!!!!」
- 148 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:24
- 日本代表スターティングメンバー
GK 1 飯田圭織
DF 2 石黒 彩 松浦 高橋
3 中澤裕子
16 紺野あさ美 柴田
MF 4 辻 希美 藤本 市井
10 柴田あゆみ
11 市井紗耶香 福田 辻
14 藤本美貴
18 福田明日香 石黒 中澤 紺野
FW 13 松浦亜弥
17 高橋 愛 飯田
- 149 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:25
- 「ニッポン!!!ニッポン!!!!」
サポーターが声を張り上げる。
時刻は午後7時15分を指した。いよいよ選手たちが入場してくる。
ウアアアアアアアアアアアア!!!!
両チームの選手たちが入場してきた瞬間、埼玉スタジアムが大きく沸いた。
日本の先頭にキャプテンマークをつけた中澤裕子。
日本をずっと支えてきたベテランだ。
このワールドカップにかける思いは誰よりも熱い。
両チームの国歌斉唱が行われる。
今まで様々な試合で国歌を聴いてきたが、
やはりこのワールドカップ予選で聴く国歌はまた違った感じがする。
誰が何と言おうと、世界最高の権威を持つワールドカップ。
それに向けての戦いが今始まろうとしていた。
- 150 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:26
- ピィーッ!!!!
主審の笛が高らかに鳴り、試合が開始された。
日本はいつも通りの3−5−2、対するオマーンは4−4−1−1のフォーメーション。
オマーンはFWとトップ下の選手以外を残してみな自陣に引いている。
日本を格上と見てまず守りを固める作戦だ。
これはアジアと戦う時はほとんどこうなるだろう。
韓国や中国といった以外の国はほぼ例外なく日本と対戦する時は守りを固めてくる。
こういった守りを固めた相手をいかに崩していくか。
それが日本の課題である。
- 151 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:27
- 「ぐっ!!!」
柴田が腰を抑えてピッチに倒れこむ。
主審はこのプレーにすぐさまイエローカードを出す。
試合が始まって7分、いきなりのイエローカードだ。
オマーンは日本をかなり研究してきた。
今日のスタメンを見て、パスの出しどころは柴田と判断。
柴田に密着マークをつけた。
またこの密着マークが荒っぽいのだ。
審判の見えないところで殴る、肘打ち、蹴る、つねるとやりたい放題。
今のも競り合う際に柴田の背中に膝蹴りをお見舞いしたのだ。
- 152 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:28
- 「大丈夫れすか柴田さん!!」
辻や福田が柴田のもとに駆け寄る。
「これぐらい、大丈夫。」
柴田は痛みを堪えながら立ち上がった。
「行けますか?」
福田の問いに頷く柴田。
「もちろん。全然大丈夫だし、どんどんパス出してね。」
ライバルは今、海外で活躍している。
正直、自分は置いていかれたような気がする。
だからこそ、今日、彼女がいないからこそ絶対にこの試合に勝ってみせる。
柴田の闘志が熱く燃え滾っている。
- 153 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:29
- この柴田の気迫が日本を奮い立たせる。
オマーンの激しい当たりにも怯むことなく前に突き進む。
柴田から右サイドを駆け上がる市井にパスが出た。
『うおっ、絶好のパス。』
市井は柴田のパスに驚く。
自分の走るスピードに合わせ、それから得意とする形に持ち込みやすい位置にパスが来た。
これほどのパスは欧州でもそうはお目にかかれない。
このパスを受けた市井、切れ味鋭いドリブルでオマーン左サイドバックをかわした。
「うおっ!!凄い!!」
ベンチにいる加護が思わず叫ぶ。
市井のドリブルをナマで見るのは昨年の夏の欧州遠征以来だ。
あれから半年とちょっと。
アーセナルという名門クラブで毎週強敵と戦っているだけあって、
あの時とは比べ物にならないほど切れ味が増していた。
- 154 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:30
- オマーン左サイドバックをかわした市井、中を見る。
中には高橋と松浦、それから柴田も前に詰めてきている。
だがオマーンも人数をかけて守っている。
クロスを上げても跳ね返されるのがオチだ。
「ち、ならば!!」
市井はクロスを上げず、鋭く中に切れ込んだ。
もちろんオマーンDFも市井に襲い掛かる。
市井は抜群のテクニックとボディコントロールでオマーンDFをかわす。
そして充分に引きつけてマイナスにパス。
そこには辻が猛スピードで走りこんでいた。
辻の右足が火を吹いた。
ペナルティエリアやや外からのミドル。
が、この強烈なシュートはクロスバーを叩いて真上に大きく跳ね上がった。
- 155 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:31
- ボールが真上に高く上がり落ちてこない。
2秒、3秒、4秒たってようやく落ちてきた。
このボールに松浦と高橋が飛び込むがGKの方が手を使える分高さは上だった。
がっちりと掴み、身体を覆いかぶせてボールを守る。
「しまったのれす・・・・・・・」
辻が顔をしかめる。
絶好のチャンスだった分、少々力んでしまったようだ。
「ドンマイドンマイ辻ちゃん!!ナイスシュート!!」
後ろから福田が声をかける。
ゴールこそ決まらなかったが、今のシュートはオマーンを
びびらせるには充分すぎる威力だった。
現にオマーンの選手たちの表情が青ざめている。
「さ、これで引いてばかりもいられないよ?」
福田がニッと笑う。
- 156 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:31
- しかしそれでもオマーンは引いたままだ。
ならばと辻、それから福田がミドルシュートを連発する。
辻のミドルは30mを至近距離からのシュートに変え、
福田のミドルは照準のついたライフルのようにきっちりと隅にコントロールされている。
この2人のミドルにオマーンの意識は中央へひきつけられる。
となると今度は柴田がマークを受けながらもきっちりと両サイドに振る。
それを両サイドの市井、藤本がサイドを突破しチャンスを創る。
となると今度は中が空く。
中−外−中といいリズムで攻める日本。
が、オマーンも必死に身体を張って守る。
前半は日本が圧倒的に攻め込むものの、得点は奪えず0−0で終了した。
- 157 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:34
- 「お疲れさんです柴田さん。」
前半が終わり、ロッカールームに戻った藤本がポンと柴田の背中を叩く。
「いっ!!!!」
思わずうめき声を上げる柴田。
「し、柴田さん大丈夫ですか?!」
「・・・大丈夫。」
柴田は力なく微笑む。
それを見た藤本、柴田のユニフォームの袖をまくる。
「?!!」
柴田の腕は赤と青で彩られていた。
そして背中も見るとそこも同じ様な感じだった。
打撲のアザに内出血。かなりひどい。
これには全員が絶句した。
確かにラフプレーは受けていたが、まさかここまでとは?
「柴田さん・・・・・・」
「大丈夫。それより後半、必ず点取ろう。」
柴田はニッと笑うとロッカールームの椅子に座り、
後半戦に備えて身体を休める。
確かに内心はイラついているが、ここで間違いを犯すことだけは
避けなければならない。
チームの勝利のため、柴田はグッと我慢する。
- 158 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:35
- この柴田の姿に藤本をはじめ、武闘派軍団の血が騒ぐ。
どうやらオマーンを含め、アジアの連中は日本人は大人しいと思っているようだ。
が、それは勘違いも甚だしい。
・・・・・・あんまり舐めてると痛い目合わすで?
- 159 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:36
- 後半戦が開始された。
両チームとも交代はなしで後半戦に臨む。
後半も前半と同じく日本が圧倒的に攻める。
が、オマーンも身体を張って守る。
そして相変わらず柴田に対してのラフプレーは続いた。
後半8分、その柴田がファウルを受け、ゴール正面22mの位置でFKをもらった。
ファウルをもらった柴田自らボールをセットする。
柴田のマークについている選手もこの時は壁に入っていた。
これを見た藤本、ニッと笑った。
「柴田さん、辻ちゃん!!」
藤本が2人を呼び寄せ、何か耳打ちした。
- 160 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:37
- ウオオオオオオオオオオオオ?!!!!!
スタジアムが大きくどよめく。
真っ青な表情になるオマーン選手。
それは辻希美が大きく助走を取ったからだ。
あの右足をこんな至近距離で?
壁に入ったオマーン選手がみな辻に釘付けとなった。
ピィー!!!
主審の笛が鳴り、辻がその場で足踏みをする。
その助走の仕方はあのレアル・マドリードの世界最凶の左足、
ジュディマリ・ユッキーを彷彿とさせる。
オマーンの選手から見てやや右側から助走を開始した。
と、その時、いきなりボールの左真横にいた藤本がこのボールを蹴った。
藤本の左足から放たれたこのシュートは吸い込まれるように壁に入ったある選手の顔面へ。
- 161 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:38
-
――――そう、柴田のマークについていたあの選手だ。
- 162 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:38
- 「ぎゃうっ!!!」
辻に集中していたため、さらに辻があえてやや右方向から助走したため、
ボールの左真横にいた藤本に気付かなかった。
見事に顔面にヒットし、勢い良くぶっ倒れる。
『よしっ!!!!よくやったミキティ!!!!』
武闘派軍団が心の中でガッツポーズ。
- 163 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:39
- やはり神様はいるのだろうか?
悪い事をすると必ず罰が降りかかる。
このこぼれ球が何とゴール前にいた松浦のもとに。
これを松浦は難なく押し込んだ。
後半8分。
日本、“見事”に先制点。
- 164 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:40
- 「美貴たん!!!」
ゴールを決めた松浦、藤本と肩を組んで一目散にベンチに向かう。
そこへピッチにいる選手たちが、控え選手たちがみな集まってくる。
その姿はあくまでゴールを、ゴールだけを喜んでいるようだ。
・・・・・・・・あくまで見た目は。
ベンチの近くに音声を拾うマイクがなくてよかったと後で思うツンクであった。
“グフフフフ”なんて笑い声、絶対に聞かせられません。
- 165 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:40
- 藤本のシュートをもろに顔面に受けたその選手はタンカで運ばれ交代した。
藤本はすみません、今のは事故です、というような殊勝な顔で彼女を見送っている。
それには武闘派軍団も思わず笑い転げそうになる。
殊勝な顔で見送り、彼女がピッチから消えた瞬間、
藤本は何もなかったような顔でスタスタと自分のポジションに戻っていった。
それにも笑いをこらえる武闘派軍団。
まさに藤本美貴ワンマンショー。
- 166 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:41
- 『サンキュ。』
『いえいえ。』
『やられましたれす。』
柴田と藤本、辻がウインクしあう。
FKの際に藤本が柴田と辻に耳打ちしたのは、
“これは辻ちゃんに蹴ってもらいましょう”だけだった。
柴田も辻も完全にそのつもりだったからこそ
オマーンの選手は辻に釘付けとなったのだ。
- 167 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:43
- もちろん柴田も辻もラフプレーは好きではない。
それに対しての報復するのも正直言って嫌いである。
しかし彼女らは知っている。藤本はただの武闘派ではないことを。
まだ知り合って期間は短いが、それでも仲間として、
共に戦う戦友として接していればそれもすぐに見えてくる。
藤本が報復したのはその選手だけ。いくらイラつこうが、
他の選手に対しては競り合いの際もスライディングに行く時もクリーンに接している。
やられたら何倍にもしてやり返すが、やられなければ、
クリーンに来るならばこちらもきっちりクリーンで対応する。
そしてやり返した後はその事などきれいさっぱり忘れてクリーンに接する。
それが藤本美貴なのだ。
そういったサバサバした性格こそがシャルケ04の熱いサポーターの
アイドルとして愛される要因なのであろう。
- 168 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:43
- 良くも悪くもこの選手の柴田への密着マークがあったからこそ
ここまで日本を抑えられていた。
が、その選手が退場し、なおかつ得点も奪われた。
これでオマーンは完全に追い詰められた。
このままでは敗れるオマーンは得点を奪うべく前がかりになってきた。
「ここ!!きっちり跳ね返すで!!!」
「おうっ!!」
「はいっ!!」
オマーンの攻撃に中澤率いる3バックが対応する。
この鉄壁の3バックに福田と辻のダブルボランチは強力だ。
これを突破したとしても最後尾には飯田がいる。
このディフェンスブロックはアジアで1、2を争うほど強固なものだ。
- 169 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:44
- 「オッケー任せろ!!!」
オマーンが苦し紛れに上げたクロスを飯田がジャンプ一番キャッチした。
「ミキティ!!!」
着地と同時にすぐさま左サイドの藤本にスローイング。
ライナー性の強いボールがピタリと藤本の足元に。
藤本はすかさず逆サイドを見る。
大きく展開してオマーンディフェンスを揺さぶるつもりだ。
が、市井がいない。
「ミキティ!!!」
市井の声が聞こえた。それは前方からだった。
何と市井が右サイドから左サイドに流れてきていた。
この動きに藤本はもちろん、味方も、
そしてオマーンディフェンスも大混乱をきたす。
何故右サイドの市井がここに?
- 170 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:45
- 「出たな“フリーロール”。」
ツンクがベンチでほくそ笑む。
市井紗耶香。
彼女は世界でもわずかしかいない“フリーロール”の使い手である。
- 171 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:47
- 昨年の8月、市井紗耶香はASモナコからアーセナルに移籍した。
この移籍はアーセナルのエースストライカー、
フランス代表ウエト・アーヤのラブコールが要因と言われているが、
もちろんそれだけではない。
アーセナルを率いる名将、ザイゼン・カラサワが市井を欲しがったのである。
このザイゼン・カラサワは選手の秘められた力を見抜くことで有名である。
例えば前述のウエト・アーヤ。
彼女は最初はウイングプレイヤーだった。
しかし彼女にはストライカーの素質があると見抜いたカラサワは
彼女をセンターフォワードとして起用した。
最初は誰もがこのコンバートに疑問の声を唱えたが、
今や世界でも1、2を争うストライカーにまで成長した。
さらに同じくアーセナルのフランス代表シノハラ・リョウコール。
彼女はアーセナルに移籍するまではフランスリーグで得点王になったほどのストライカーだった。
が、カラサワは彼女の本質はサイドアタッカーだと判断。
彼女も今や世界でも指折りのサイドアタッカーになった。
- 172 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:48
- このカラサワが市井を欲しがった。
市井のポジションは右サイドハーフ。
という事はシノハラとポジションが被る。
しかしカラサワは市井をシノハラのバックアッパーではなく、
アーセナルが更なる高みに行くために絶対不可欠な存在として
34億円もの大金をはたいて獲得したのだ。
これはきっと何かある。
誰もがそう考えていた。
- 173 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:48
- その予想通り市井はアーセナルではセンターハーフにコンバートされた。
プレミアリーグは大抵のチームがフラットな4−4−2システムをしく。
このシステムだとセンターハーフのポジションは攻守両面での仕事が期待される。
中盤で身体を張ってボールを奪い、そして攻撃の際には前線まで駆け上がるといった仕事が。
そのためこのポジションにはフィジカルはもちろんの事、戦術面でも優れていなければならない。
カラサワはこのポジションに市井を置いた。
が、それだけではなく、さらに高いレベルを要求した。
それが“フリーロール”である。
- 174 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:49
- “フリーロール”
これは訳すと『自由な役割』となる。
これは固定のポジションを与えるのではなく、その時その時の状況に応じて縦横に自由に動き回ることである。
中盤のリベロと言ったほうがいいかもしれない。
市井の場合普段は中盤センターにいるが、チャンスの時にはFWに、逆にピンチの時にはDFになる。
また右サイドへも左サイドへもどんどん流れていく。
これをこなすには当然飛び抜けた戦術眼が必要だ。
その時の状況を瞬時に判断し、正しいポジショニングをしなければならない。
下手すると逆に味方の足を引っ張る事となる。
さらにピッチの様々な場所へ走らねばならないため、豊富なスタミナ、
それからそこへすぐにたどり着くスピードも必要であるし、
FWとしての得点力、サイドアタッカーとしてのドリブル、司令塔としてのパスセンス、
そしてDFとしての守備能力とサッカー選手のありとあらゆる能力が必要になってくるのである。
- 175 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:52
- そのため、現在この“フリーロール”をこなせてると言える選手は
マンチェスター・ユナイテッドのルイビット・シバサキと、
レアル・マドリードのヒトミ・クローキ。
この2人だけと言われている。
しかしシバサキはテクニック、特にドリブルの面で。
クローキはスタミナといったフィジカル面と守備面で不安があるため
完璧に“フリーロール”をこなせているとは言えない。
「イチイはまだまだこの2人には及ばない。
が、このまま順調に成長していけば必ずこの“フリーロール”を完璧に
こなせるであろう。」
これはカラサワの言葉である。
アーセナル移籍当初はこのポジションに戸惑っていたが、
ここ最近では何かを掴みつつあった。
- 176 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:52
- 「ミキティ!!」
市井が左サイドへ流れてきた。
そこへ藤本はすかさずパスを出す。
「市井さん!!」
この隙に松浦と高橋が中に走り込んでいる。
オマーンディフェンスは左に完全に寄っている。
それを見た市井、ペナルティエリアやや手前からファーサイドにアーリークロス。
『げ、ちょっとでかいか?!』
このクロスは鋭いカーブがかかっているものの、大きく逆サイドへ。
それをファーサイドに開いた松浦が必死に追いかける。
「くっ!!」
松浦が懸命に飛びつき、ジャンピングボレーで中に折り返した。
左から右へ、そして右から左と大きく揺さぶられるオマーン。
これに最後中央にフリーで飛び込んだのは高橋愛。
ダイビングヘッドでゴールネットを揺らした。
- 177 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:53
- 「安倍さん!!やりました!!!」
高橋がここにいない日本のエースに奉げるゴールを決めた。
そこへみなが抱き付く。
「ナイスシュート高橋!!よく追いついた、松浦!!」
市井が同い年のコンビの頭を撫でる。
「市井さんこそ凄いですよ!!」
「さすがだね紗耶香!」
「やるじゃん紗耶香。」
松浦と柴田、福田が市井のあの動きに感嘆の声を漏らす。
と同時に次は自分だと闘志を燃やすのが彼女らの強みである。
- 178 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:53
- そして止めは今の市井のプレーに刺激された福田明日香から。
中盤でボールを奪うとすぐさまロングスルーパス。
40m程の距離があったがDFラインを抜け出した松浦の足元にピタリ。
これを松浦がGKを引きつけてラストパス。
最後は柴田あゆみが無人のゴールに流し込んだ。
後半29分で3−0、勝負はほぼ決まった。
ここでツンクは柴田に代えて加護、福田に代えて保田を投入した。
- 179 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:54
- 「ほう、ドリブルだけじゃなくなったか。」
市井がトップ下に入った加護を見て驚く。
昨年の夏の欧州遠征の時はまだドリブルに頼る部分が多かったが、
今日はトップ下でパスを振り分けている。
さらにチャンスと見れば積極的にドリブルを仕掛けている。
そのバランスが大分良くなっている。
福田に代わってピッチに入った保田も相変わらず見事なディフェンスだ。
「キリキリ行くわよ!!」
・・・・・オマーンの攻撃陣は何も出来ない。
- 180 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:55
- さらに7分後の後半36分には市井に代えてアヤカを投入。
市井に劣らないドリブルで右サイドを鋭く切り裂きチャンスメイクする。
が、オマーンも最後の粘りを見せ日本の得点を許さなかった。
もちろん日本もオマーンの攻撃を完璧に抑えきり、
このまま3−0でオマーンに快勝した。
- 181 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:55
- 日本3−0オマーン
【得点】
後8 松浦
後25 高橋(松浦)
後29 柴田(松浦)
ドイツに向けてこれ以上ない順調な第一歩を踏み出した。
- 182 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:56
- 「よしっ!!」
試合終了の笛が鳴った瞬間ピッチにいた選手はもちろん、ベンチにいた選手も、
それからツンクやマコト、ハタケといった首脳陣も一斉に歓喜の声を上げた。
ドイツへの第一歩であるこの試合。
初戦ということもあり、みな半端でないくらい緊張していたのだ。
その緊張感がようやく解けたのだ。
- 183 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:56
- 一方、インドで行われたインドVSシンガポール戦は1−0でホームのインドが勝利した。
これで日本はグループ3の中で首位に躍り出た。
1次予選は日本、オマーン、インド、シンガポールの4ヵ国の中から1位のチームのみが
最終予選に進めるのだ。
この1次予選は1年をかけて行われる。
そしてさらに最終予選もまた1年かけて行われる。
合計2年もの月日をかけてドイツへと向かう、長い道のりだ。
- 184 名前:第4話 ドイツへの第一歩 投稿日:2004/03/27(土) 02:57
- 先はまだまだ長い。
だが、千里の道も一歩から。
今日はその一歩を踏み出せたことを素直に祝おう。
2004年2月18日。
ドイツへの第一歩を順調に踏み出した日本代表であった。
第4話 ドイツへの第一歩 (終)
- 185 名前:ACM 投稿日:2004/03/27(土) 03:01
- 第4話 ドイツへの第一歩 終了いたしました。
現実の方でもいよいよ予選第2戦が始まります。
何かごたごたしているみたいですけど、きっちりと
快勝してほしいところです。
2年後、ドイツのピッチに立つ日本代表を見たいです。
- 186 名前:ACM 投稿日:2004/03/27(土) 03:16
- 128>名無し飼育さん様
レスありがとうございます。
今回の話は、藤本さんはいかがでしたでしょうか?
藤本さんの色んな意味でのキレキレのプレーにこれからもぜひ期待してください。
彼女ならこれからも期待に応えてくれそうですので。
129>みっくす様
レスありがとうございます。
すみません、何か中途半端というか、肝心な所でいつも切ってしまって。
凄く小心者なので、皆様が気になる所で切って興味をつなぎとめねばと
思ってしまうんです。ですので、どうかご容赦下さい。
- 187 名前:ACM 投稿日:2004/03/27(土) 03:30
- では次回の予告です。
第5話 後継者
現在、世界最高の選手である“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマ。
彼女にはその後を継ぐ後継者が2人いる。
ASローマ所属、イタリア代表ナカマチェスコ・ユッキエ。
そしてエンポリ所属、日本代表吉澤ひとみ。
ついにこの後継者2人が激突する。
この試合で“パーフェクトクイーン”の正統なる後継者がどちらなのかが
はっきりと決まる。
はたしてそれはひとみか?それともユッキエか?
次回もよろしくお願いいたします。
- 188 名前:名無しぃく 投稿日:2004/03/27(土) 04:51
- 知らない間にこんな大量に更新されてて・・・お疲れ様です。
く、黒い・・・武闘派軍団黒いよ・・・(・∀・)
ふじもっさんのスバラシイプレーに思わずニヤニヤ・・・w
吉澤さんの次の試合も楽しみです。
- 189 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/03/27(土) 09:20
- 初めてレスさせていただきます。
展開の早さにびっくりしました。
リアルの日本代表もこれだけのレベルがあればいいんですけど(笑)
柴吉の使い分けがツンクの実力の発揮どころかも
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/27(土) 09:54
- もっさんワロタ
カッケー
- 191 名前:みっくす 投稿日:2004/03/27(土) 21:19
- いつも大量更新おつかれさまです。
いやー、FKはみきてぃって感じがすごくでてましたね。
武闘派軍団敵に回すと怖そうです。
次回も楽しみにしてます。
- 192 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/28(日) 23:08
- 更新乙です。
それはそうとフットサル行ってきましたよ。
二試合目のチームに友達がいまして行かせていただきました〜
本物の藤本もいろんな意味でキレキレでした。吉澤予想以上にうまかったです。かっこよかったしw
どうでもいいんですけど最後に柴田inのときここの小説思い出して共存か〜とか考えてしまってましたw
Jは我らがレッズまさかの負けということでへこんどります。
A代表もいろいろありましたが31日がんばって欲しいです。
長々すいませんでした。つぎもがんばってください
- 193 名前:ACM 投稿日:2004/03/29(月) 22:02
- 188>名無しぃく様
レスありがとうございます。武闘派軍団、かなり黒いですよ。
その筆頭である藤本さんのプレー、気に入っていただけましたでしょうか?
残る武闘派軍団は誰なのかは、予想がついていますでしょうか?
またおいおい紹介していきます。次の彼女らの活躍に期待して下さい。
189>娘。よっすぃー好き様
初レス、ありがとうございます。
ホント、実際の日本代表もこれぐらい強ければ・・・・と思ってしまいます。
仰るとおり柴吉の使い分けがツンクの実力の発揮どころですね。
今は柴田ですけど、これからはどちらがピッチに立つのか?ご期待下さい。
190>名無飼育さん様
レスありがとうございます。
そうですか、笑っていただけましたか。それは本当に嬉しい限りです。
僕も書いてて藤本さんカッケーと思ってしまいました。
- 194 名前:ACM 投稿日:2004/03/29(月) 22:06
- 191>みっくす様
レスありがとうございます。
そうです、武闘派軍団、敵に回すと凄く恐いですよ。
みないろんな意味でキレキレの人たちですし、修羅場もいっぱい経験していますし。
舐めたら痛い目に合うこと間違いなしでございます。
192>名無し飼育さん様
レスありがとうございます。
そうですか、フットサルに行かれたんですか。それは羨ましい限りです。
僕も記事とかで見ましたけど吉澤さんのループシュートが惜しかったみたいですね。
背番号も10で、そして柴田さんとの共存。さらに藤本さんのブルドーザードリブル。
・・・・・・何故かにやけてしまいますね。
では本日の更新です。
第5話 後継者
- 195 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:09
- オマーンとの激闘を終えた翌2月19日。
激闘の興奮が冷めやらぬ中海外組の福田、市井、松浦、
藤本は週末のリーグ戦に備えて帰国していった。
国内組も所属クラブに戻り、3月13日のJリーグ開幕に備える。
次のワールドカップ予選は3月31日。
アウェーでシンガポールとの対戦だ。
ツンクはこの試合に参加するメンバーを3月19日に発表する予定だ。
その間Jリーグの試合は1試合だけだが、
そこでみな大いにアピールするつもりである。
今シーズンは代表には選ばないと言われているひとみも
ただ黙って見ているわけにはいかない。
毎試合毎試合をしっかり戦い、シーズン終了後にみなが納得して
選ばれるような活躍を見せなければならない。
- 196 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:10
- セリエA第22節 対ボローニャ戦 レナト・ダラアーラ(ボローニャ)
アウェーに乗り込んでボローニャと対戦したエンポリ。
エンポリはここ6試合で4勝1分1敗と抜群の成績を残しており、
今一番勢いに乗っているチームだ。
その勢いを持続したままこの試合に臨んだが、ボローニャの堅い守りに大苦戦。
得点が奪えず、前がかりになった所でカウンターをくらい1点先制された。
そしてこのまま試合終了かと思われた後半44分。
ジャンピエレッティが起死回生のミドルを叩き込み、1−1でこの試合を
引き分けに持ち込んだ。
この試合、ひとみは余りパッとしなかった。
どうやら後藤と同じく、ひとみにも少しずつ疲れが溜まっているようだった。
- 197 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:11
- ひとみに疲れが見えたことを考慮してか、翌日曜日、
そして月曜日と練習は連休になった。
もちろんこの2日間の休みで全てが回復するわけではないが、
それでもひとみにはありがたかった。
この2日間は何もせずただ身体をゆっくり休めた。
サッカーに限らず、どんな競技であってもただ練習だけをすればいいのではない。
こういったコンディション調整も大事な練習なのだ。
- 198 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:12
- 「ヨシッ!!」
ディ・カリーナが右サイドから中に切れ込み、DFラインの裏をとる。
ひとみはそれをちゃんと目でとらえており、絶妙のタイミングでスルーパスを出した。
が、これをマユコがスライディングでブロック。
ボールがこぼれる。
このこぼれ球にいち早く反応したひとみ、遠めからながら右足でゴールを狙う。
強烈なシュートがゴールネットに突き刺さった。
「ナイッシューヒトミ!!」
チームメートたちが声をかける。
練習場では次のローマ戦に向けてオフェンス組、
ディフェンス組に分かれてフォーメーション練習が行われていた。
「大分体調いいんじゃない?」
マユコがひとみに声をかける。
パスの後素早くこぼれ球に反応し、強烈なシュートを撃った。
この一連のプレーの身体のキレは素晴らしかった。
「はい、きっちり休んだおかげで大分身体が軽いです。」
ひとみもそう感じたのか笑顔だ。
次節はいよいよユッキエとの対戦だ。
どうやらいい状態で試合に臨めそうだ。
- 199 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:12
- そして迎えた週末。
セリエA第23節 対ASローマ戦 スタディオ・オリンピコ(ローマ)
この一戦はイタリア全土で注目されていた。
それはASローマ、ナカマチェスコ・ユッキエとエンポリ、吉澤ひとみ。
“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマの後継者2人の直接対決だからだ。
この対決に両選手とも気合いが入っているのはもちろんだが、
特にユッキエの気合いが凄まじかった。
鬼気迫ると言ってもいい。
- 200 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:13
- 昨年の夏の欧州遠征、あの時にひとみとユッキエは初めて会った。
その際にユッキエはひとみのファンタジーに衝撃を受けた事は確かだ。
が、まさかあのナナコーヌ・マツシマが後継者と認めるほどとは思わなかった。
冗談じゃない。
“パーフェクトクイーン”の後継者はあたし、ナカマチェスコ・ユッキエだ。
ヒトミ・ヨシザワ、あんたじゃない。
- 201 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:16
- ブーッ!!!!!
選手たちが入場した際、満員のスタディオ・オリンピコが
一斉に1人の選手にブーイングを浴びせる。
それはエンポリの10番、吉澤ひとみにだった。
彼らにとってユッキエは愛すべきアイドルだ。
ローマで生まれ、ローマで育った生粋のローマっ子。
そんな彼女が“パーフェクトクイーン”の後継者である事が彼らは誇らしいのだ。
しかしそれを阻む選手が現れた。
吉澤ひとみである。
・・・・・・俺たちのアイドルのジャマをする奴は許さない。
このブーイングにひとみも正直戸惑いを隠せない。
が、当の本人、ナカマチェスコ・ユッキエはこのブーイングに苛立っていた。
『・・・・・別にブーイングしなくても勝てるのに。』
本来ならば嬉しいはずのサポーターの行為。
が、ユッキエの心は彼らの行為が何故か許せなかった。
- 202 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:16
- ピィー!!!!
主審が笛を吹き、試合が開始された。
アウェーのエンポリはいつも通りの4−2−3−1でこの試合に臨む。
メンバーもいつもと同じ、ベストメンバーだ。
GKベーティ。
DF左からベッレーニ、ルッキーニ、クリバリ、クピ。
MFボランチマユコ、ジャンピエレッティ。
左にブッシェ、右にディ・カリーナ。
トレクァルティスタに吉澤ひとみ。
そしてFWロッキ。
対するASローマは3−4−1−2システム。
DFにはアルゼンチン代表“壁”ことオカモト・マヨエル。
MF、ボランチにイタリア代表キョウノ・コトミージ。
さらにブラジル代表、アイコソン。
右サイドにブラジル代表キャプテン、ユーミン。
トレクァルティスタにイタリア代表“プリンセス”ナカマチェスコ・ユッキエ。
FWにはアルゼンチン代表“地上の星”ナカジマル・ミユキトゥータ。
- 203 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:17
- 『む、このボランチ、中々いいディフェンスをする。』
ユッキエは自分のマークについているマユコのディフェンス力に驚く。
的確なポジショニング、さらに抜群の戦術眼でエンポリの中盤を引き締める。
さらには攻撃に回った際のパスセンスも素晴らしい。
ディフェンスの薄い所へきっちりとボールを配給している。
『パスも素晴らしい。・・・・・コトミージのパートナーにいい。』
ユッキエの目がキラーンと光る。
- 204 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:18
- ユッキエがこう思うのも無理はない。
イタリアは伝統的に守備の国だ。
カテナチオと呼ばれる堅いディフェンスや、
1−0が一番美しいという文化があるほどだ。
そのためGKやDFによい選手が育つ環境にある。
そしてさらにこの強力なディフェンス陣を突破するFWもいい選手が育つ。
が、その分、MFが人材不足だ。
それもクリエイティブな、テクニックに優れたMFが。
- 205 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:19
- それは現在のセリエAの強豪クラブの中盤を見れば分かる。
首位を走る王者ユヴェントス。
中盤を仕切るのはフランス代表ナナコーヌ・マツシマに日本代表福田明日香。
続いて2位のACミラン。
ブラジル代表ハマ・サーキ・アユウドにポルトガル代表ヒロスエ・リョウ・コスタ、
それからオランダ代表サトレンス・アイコルフ。
3位のインテルはゲームメイカーではないものの、アルゼンチン代表ウエハラ・タカコッティが
チャンスメイクをするし、センターハーフの選手はフランスの選手だ。
- 206 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:20
- このように上位チームになればなるほど中盤は他国の選手に頼っているのだ。
唯一ASローマのみがトレクァルティスタに
イタリア人のナカマチェスコ・ユッキエが君臨している。
もちろんASローマにはキョウノ・コトミージという優秀なイタリア人MFがいるが、
彼女は完全な潰し屋タイプのMFだ。
このように潰し屋タイプのMFはいるもののクリエイティブなタイプのMFが
絶対的に不足しているイタリア。
このMFの人材不足こそ最近イタリア代表が低迷している原因である。
- 207 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:21
- 昨年に行われたEURO2004の予選において、
イタリア代表は最後の最後までマンチェスター・ユナイテッドFWマツシタ・ユキス率いる
ウェールズ代表に苦しめられた。
それはトレクァルティスタのユッキエを負傷で欠いていたためだ。
彼女が抜けると中盤にはゲームを創れるMFが全くいなくなるのだ。
もともとユッキエもひとみと同じくゲームメイカーというよりフィニッシャーであるが、
それでも彼女にかなう中盤の選手はいなかった。
そのため予選リーグでは一時期3位にまで落ちたこともある。
最後はユッキエが復帰して3連勝して何とかグループ1位で予選突破を決めたが、
イタリアの課題が浮き彫りとなった予選であった。
- 208 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:22
- 次のEURO2004をイタリアが制するにはクリエイティブなMFの存在が不可欠なのだ。
それを一番ユッキエが感じている。
だからこそエンポリのボランチ、マユコのテクニックに釘付けとなった。
マユコからのパスを受けたディ・カリーナが右サイドを鋭く突破して中にクロス。
これにFWロッキとひとみが飛び込むがGKが飛び出してこれをキャッチした。
『む、この右サイドのMFも中々のテクニックにスピードだ。』
しばし戦いを忘れマユコとディ・カリーナのプレーに見とれるプリンセス。
と、そこへ口うるさいお目付け役からの叱り声が飛ぶ。
「こらー!!ユッキエ!!ボーっとしてんな!!」
ブラジル代表キャプテン、ユーミン。
「おーい、ちゃんとしろよー!!!」
アルゼンチン代表、ナカジマル・ミユキトゥータ。
さすがのプリンセスもこの2人だけには頭が上がらない。
「あーい、分かったよ!!ちゃんといいパス出すから前で待ってなさいよ!!」
- 209 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:23
- 「はいっ!!マユさん!!」
ひとみが中盤でボールを要求する。
そこへマユコからパスが送られるが、パスを受けた瞬間後ろから衝撃が。
イタリア代表ボランチ、キョウノ・コトミージだ。
が、ひとみはこの当たりに耐え、左サイドに展開する。
そしてそのまま前線へ。
左サイドでボールを受けたブッシェ、中にクロス。
これにひとみが飛び込む。
ローマはアルゼンチン代表DFオカモト・マヨエルがひとみと競り合う。
「なっ?!!」
が、ひとみの方が頭1つ高かった。
ブッシェのクロスを頭で合わせる。
しかしこのヘディングはGK真正面だった。
- 210 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:24
- オオオオオオオ・・・・・・
思わずスタディオ・オリンピコが今のひとみのプレーにどよめく。
あのコトミージの激しいチェックを受け止め、
なおかつあのマヨエルよりも高い跳躍力。
さすがはマツシマの後継者に選ばれるだけはあると、
思わず納得してしまうローマサポーターことロマニスタたち。
- 211 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:25
- 「ヒトミ、惜しい惜しい!!」
マユコがパンパンと手を叩く。
ひとみはその声に手を上げて応える。
『・・・・・今日、絶好調かも。』
今のプレーに手応えを感じるひとみであった。
左サイドのブッシェを止めたユーミン、
すぐさまブラジル代表の同僚アイコソンにボールを預ける。
アイコソンはこのボールを素早く前線へ。
これをミユキトゥータが落とし、ユッキエがミドルシュート。
が、惜しくもクロスバーを掠めていった。
「ちっ、外したか!」
ユッキエが舌打ちする。
だが今のシュートに手応えを感じる。
身体のキレは今日、最高だ。
どうやらユッキエもこの試合、絶好調のようだ。
- 212 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:26
- 前半25分過ぎまで一進一退の攻防が続く。
ボールキープ率ではさすがにローマが勝っているが、
エンポリもしっかりと食らいつき、自由にはさせない。
両チームともトレクァルティスタにエースを置いているだけあって、
互いにこの2人にしっかりとマークをつける。
ユッキエにはマユコとジャンピエレッティ。
ひとみにはコトミージとアイコソン。
図らずとも後継者争いに勝った方がそのままチームを
勝利に導くといった展開になった。
- 213 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:27
- 右サイドを駆け上がったディ・カリーナが中にクロス。
これにロッキが飛び込むがマヨエルがヘッドでクリアした。
「上がれ!!」
ヘッドでクリアした後、スッとDFラインを上げるマヨエル。
これにエンポリの攻撃陣もすぐに戻る。
このボールを受けたコトミージ、ユッキエにはマークがついているため前線のミユキトゥータに。
が、これをルッキーニがヘディングで跳ね返す。
弾かれたボールはハーフウェーライン付近まで戻ってきたひとみの元に。
これをひとみは胸でトラップし、
ボールが浮いたままで素早く身体をひねって右サイド奥深くへロングパス。
「あっ?!!」
ローマDFもまさかこんな速いタイミングでパスが出るとは思わなかった。
DFラインを上げていたものの、オフサイドトラップのタイミングを逃した。
「チャンス!!」
このパスに快足を飛ばして追いかけるのはディ・カリーナ。
エンポリ、一気にカウンターチャンス。
- 214 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:28
- 「カリーナ!!」
FWロッキがゴール前に走り込む。
慌ててDFラインを下げるローマ。
マヨエルだけが何とかロッキに追いつく。
「ロッキ!!」
後ろから声が聞こえた。
その声を聞いた瞬間、ロッキはニアサイドにグッと入り込む。
これにはマヨエルも付いていかざるを得ない。
ディ・カリーナ、中を見てクロス。
このクロスはニアに飛び込むロッキの頭の上を越え、ファーサイドに。
そこにフリーで走りこんでいるのはひとみ。
パスを出してからわずか6秒。
その間に約50mを走っていた。
ひとみはディ・カリーナのクロスをインサイドボレーで合わせた。
シュートは右ポストの内側を叩いてゴールに吸い込まれた。
前半29分。
アウェーのエンポリが先制点を上げる。
- 215 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:28
- 「よしっ!!!」
会心のゴールにひとみは思わず両手を真横に伸ばし、
飛行機ポーズで喜びを表現する。
これに少数のエンポレーゼが歓喜の声をあげ、
大多数のロマニスタが一斉にブーイングの声を上げる。
- 216 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:29
- 「・・・・・・やってくれるじゃん。」
ひとみの今のプレーにユッキエの表情が変わっていく。
まさに喜び一杯といった表情だ。
本人は絶対に認めないが、ユッキエはひとみをかなり気に入っている。
その証拠にひとみがイタリアに来てからは毎週ひとみのプレーをチェックしている。
本人はひとみを倒すためだと言い張るが、
VTRを見てひとみのプレーに一喜一憂するその姿はただの一ファンのようである。
- 217 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:31
- このわがままプリンセスのお目付け役、
ユーミンとミユキトゥータはひとみの存在を嬉しく思っている。
それはユッキエがひとみの登場により大きく成長したからだ。
今までのユッキエは才能だけで勝負していた。
練習も隙を見てはサボる、夜遊びも盛んで体調管理もほったらかし、
試合でも気分が乗らなければ足を止める、ラフプレーにはすぐきれると、
わがままし放題だった。
が、ひとみがマツシマの後継者に名乗りを上げてからは変わった。
毎日の練習にも真剣に取り組むし、夜も遊びに行く事もなく
きっちりとコンディション管理に努めるようになった。
また試合で決して諦める事もなくなり、
ラフプレーにもグッと我慢するようになったのだ。
今までは揶揄も含めての“イタリア(だけ)のプリンセス”だったが、
今や正真正銘の“プリンセス”に成長したのだ。
もちろん代表となると彼女の存在は厄介なものとなるが、
それでもクラブのチームメートとしてこの可愛いお姫さまが成長していくのは
嬉しいものだった。
- 218 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:31
- 「みんな、あたしにボール回せ!!」
ユッキエがみなにボールを要求する。
この言葉に当然といった表情で頷くローマの選手たち。
もちろん分かっておりますよ、姫。
目の前であんなプレーを見せられては我慢できないでしょうからね。
存分におやりになって下さい。
ASローマ。
このチームはナカマチェスコ・ユッキエという姫に仕える屈強の兵士軍団である。
- 219 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:32
- 「アイコ!!」
ユッキエが下がってボールをもらいに来る。
これについていくマユコとジャンピエレッティ。
ユッキエはアイコソンのパスを爪先でふわっと浮かせると、
すかさずヒールキックで前に出す。
「あっ?!!」
ボールがマユコとジャンピエレッティの頭を越える。
そしてユッキエは素早く2人の間をすり抜ける。
- 220 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:33
- ウオオオオオオオオオオオオオ?!!!!
ユッキエのプレーにスタディオ・オリンピコが揺れる。
フリーで前を向いたユッキエ、ドリブルで突き進む。
「ちっ!!」
すかさずセンターバックのルッキーニがチェックに来た。
ユッキエ、重心を左に移した瞬間、すぐさま右に移す。
これにルッキーニも右から左に重心を移し、何とかついていく。
が、ボールがユッキエの足元にない。
ボールはルッキーニの右足のわずか5cm横を転がっていた。
「ぐっ!!!」
このボールに全く反応できないルッキーニ。
ユッキエはルッキーニをかわすと左足を振り抜いた。
利き足とは逆だが、豪快なシュートがゴールネットを激しく揺さぶった。
前半34分。
ASローマ、同点に追いつく。
- 221 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:34
- 「どうだ!!!」
ユッキエが吠える。
そしてその視線はひとみをとらえている。
「すごい。・・・・・・でもあたしだって負けない。」
ユッキエのこのスーパープレーにひとみの闘志もさらに燃え滾る。
この後、前半は両チームとも無得点に終わった。
前半からユッキエ、ひとみともに全開のスーパープレーを見せている。
これにスタディオ・オリンピコも興奮状態だ。
が、後半戦。
さらにスーパーな2人、“スーペルユッキエ”と“スーペルひとみ”を
観衆は見ることになる。
- 222 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:35
- 後半戦になるとユッキエ、ひとみのエンジンがさらに上がった。
ひとみがマユコからのパスをコトミージを背負いながら受ける。
ひとみはコトミージを背負ったまま一度身体を右に振り、
そして素早く左から抜ける。
「うわっ?!!」
その余りに鋭い動きにコトミージがついていけない。
前を向いてすぐさまひとみは右足を振り抜いた。
強烈なミドルシュートがローマゴールに。
30mの距離が一瞬でゼロになった。
ローマGKが懸命にダイブするが全く届かない。
が、このシュートは激しくポストを叩いた。
「な、何?あの身体のキレとパワーは?」
ユッキエがひとみの身体能力に驚愕の表情を浮かべる。
- 223 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:36
- 続いてユッキエ。
マユコ、ジャンピエレッティのチェックを受けながらも左サイドにボールを展開する。
そして自分はゴール前に走り込む。
この左MFがサイドを駆け上がりクロス。
これにユッキエが飛び込む。
が、少し前に入りすぎた。角度がきつい。
「決める!!」
ユッキエはジャンプし、このクロスを股の間に通す。
スルー?
いや、違った。
このクロスをスルーすると見せかけて左足ヒールでゴールを狙う。
これを全て空中に浮いたままで行った。
GKベーティも、DF陣も誰も反応できない。
が、これも惜しくもポストを叩いた。
「す、すごい。何てすごいテクニック?」
ひとみもユッキエの恐るべきテクニックに驚く。
- 224 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:36
- ウオオオオオオオ?!!!
スタディオ・オリンピコが大きく揺れる。
何だこの2人は?
誰もがユッキエとひとみの競演に心を奪われていた。
長年ずっとユッキエを見続けているロマニスタたちも
こんな凄いユッキエを見た事はない。
そしてもちろんひとみもだ。
こんなに凄いプレイヤーだったのか?
- 225 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:37
- いつしかロマニスタたちもひとみに対してブーイングを飛ばさなくなった。
みなじっと2人のプレーを見続けている。
それは2人のプレーが余りに凄いので、見惚れているからである。
そして何より、2人の表情が活き活きしている。
まるで初めてサッカーボールを蹴ったあの日のように。
そんな表情でプレーしている2人の足を自分たちのブーイングが引っ張ってはならない。
そんな気持ちがロマニスタたちからブーイングを奪っていた。
- 226 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:37
- さらに2人のスーパープレーは続く。
ユッキエがジャンピエレッティ、マユコのチェックを受けながらもボールをキープする。
そして強引にフィジカルで2人の間をこじ開け、約30mの距離から右足を振りぬく。
「うおっ!!」
GKベーティが懸命に飛びつくが届かない。
が、このシュートはわずかにゴールの枠をとらえきれなかった。
しかしひとみに勝るとも劣らないフィジカルの強さを見せ付けた。
今のは明らかにひとみを意識したプレーだ。
フィジカルでも負けない、そんなユッキエの意志が伝わってくるプレーだ。
- 227 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:39
- こうこられてはひとみも黙っていられない。
ひとみのギアがトップギアに入った。
「カリーナ!!」
右サイドでボールを持ったディ・カリーナの後ろから
右サイドバックのクピが上がってきた。
ローマのシステムは3−4−1−2だ。
このシステムだとサイドに1人しかいないため、
サイドアタックに弱い。
エンポリは4−2−3−1のためサイドに2人いる。
だからこそサイドから崩す。
右サイドバックのクピがサイドを駆け上がり中にクロス。
このクロスに中央からひとみが飛び込む。
しかしやや距離がある。ヘディングで狙うには少々遠い。
そこでひとみはジャンプしてこれを胸でトラップ。
そして着地と同時にそのままダイレクトボレーで狙う。
が、ローマDFマヨエルがシュートコースに飛び込んできた。
「?!!」
これに気付いたひとみ、シュートを撃たず、右足でボールを反対側にふわっと浮かせる。
そしてこれを左足で叩いた。
これらの一連のプレーは全てボールが浮いたままだった。
あの将軍、ミシェル・プラティニを彷彿とさせるひとみのボレーシュート。
これが見事にローマゴールに突き刺さった。
後半11分、エンポリ勝ち越し弾。
- 228 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:39
- 「・・・・・・やってくれるじゃんか。」
ユッキエが不敵に笑う。
この瞬間、彼女もトップギアに入った。
身体も気持ちも最高潮だ。
今までで最高のナカマチェスコ・ユッキエ。
それが今、ここで発動する。
- 229 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:40
- 「アイコ!!」
アイコソンからのパスをミユキトゥータが前線で受ける。
が、クリバリもピッタリとマークしているためDFラインの裏に抜け出せない。
ゴールに背を向けたまま止まってしまった。
「ミユキ、来いっ!!」
その時ユッキエが中央に走り込んで来た。
ミユキトゥータはユッキエにパスを送る。
が、これをクリバリが読んでいた。
伸ばした足に当たり、コースが変わった。
ユッキエのやや前に出すつもりだったパスが、ユッキエのやや後ろに行った。
さらに走り込むスピードよりパスの方が遅くなり、タイミングも狂う。
- 230 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:41
- 「ちっ!」
完全に逆モーションのユッキエ。体勢も崩れる。
さらにエンポリDFのルッキーニがユッキエの背後から当たる。
しかし覚醒モードのユッキエはこれをもコントロール。
強靭な足腰で急停止し、目一杯右足を伸ばし、ボールを抑える。
しかもこのワンタッチでチェックに来たルッキーニの股間を抜いた。
トラップではなくドリブルだったのだ。
「うそっ?!!!」
ひとみは我が目を疑う。
あの体勢でボールをトラップするだけでなくルッキーニをもかわすとは?
DFラインを抜け出したユッキエ。
「くそっ!!」
慌ててゴールを飛び出すGKベーティ。
が、ユッキエはこの動きもしっかり見ていた。
ボールの下に爪先を入れ、ふわっと浮かせた。
ボールは飛び出したベーティの頭を越え、ゴールに吸い込まれた。
後半17分、ローマ、またも同点に追いつく。
- 231 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:41
- さらにユッキエは止まらない。
左サイドに開いたユッキエがボールを受ける。
すかさずクピ、ディ・カリーナ、ジャンピエレッティの3人がユッキエを取り囲む。
だがユッキエはこの3人をスルスルと華麗なドリブルでかわし、中央に切れ込む。
しかしかわした瞬間マユコが飛び込んできた。
「?!!」
これに気付いたユッキエ、咄嗟に両足のかかとを使ってくるっと回転し、
マユコのチェックをかわした。
“パーフェクトクイーン”マツシマの必殺技、マルセイユ・ルーレットだ。
- 232 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:43
- そして回転が終わった瞬間左足アウトサイドでDFラインの裏にスルーパス。
このパスにミユキトゥータが抜け出した。
これにはエンポリイレブンも凍りつく。
いつこのパスコースが見えたのか?
マルセイユ・ルーレットの回転中?
ミユキトゥータはシュートを撃てない角度ではなかったが、
あえてもう一度中に折り返した。
この折り返しに反応していたのはユッキエ。
パスを出した後素早くゴール前に詰めていた。
このミユキトゥータの折り返しを華麗に左足でジャンピングボレー。
エンポリゴールに突き刺した。
後半26分、ローマ逆転。
- 233 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:43
- ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
スタディオ・オリンピコが一斉に爆発した。
ロマニスタたちは今確信した。
ナカマチェスコ・ユッキエこそ真の後継者だと。
いや、もうすでにマツシマから王位を継承したのではないか?
そう思えるほどの見事なプレーの連続だった。
「ユッキエ!!!」
ローマの選手たちがこのプリンセスに抱き付く。
自分たちの姫はここまでスゴイのか。
ローマの選手誰もがこの姫の魅力に虜になる。
- 234 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:44
- 「・・・・・ユッキエ、カッケー。」
逆転されたが、ひとみは思わず呟く。
あのテクニックはもちろん、何よりもプレーの華だ。
一つ一つのプレーが光り輝いている。
『・・・・・この人に勝ちたい。』
新たに闘志が湧いてくるひとみ。
2度のリードを追いつかれ、逆転まで許したエンポリ。
本来ならばガックリと肩を落とすような展開だが、今日は違った。
みな士気は衰えていない。
それは何故か?
ひとみがいるからだ。
『今日のひとみなら何でも出来そうな気がする。』
マユコをはじめ、エンポリイレブン、そしてエンポレーゼもみなそう思っていた。
- 235 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:45
- 「マユさん!!」
ひとみがパスをもらうため、前線で激しく動き回る。
「くっ!!」
これに振り回されるコトミージにアイコソン。
この試合、ずっとひとみのマークについていた。
しかし時間が経つごとに段々と付いていけなくなってきた。
『な、何だこいつ?どんどん動きが速くなってきてる。』
『パワーもだ。それにこれだけ動いてるのに一向に動きが落ちないなんて?』
マユコからパスを受けたひとみ、コトミージとアイコソンをスピードでかわす。
そしてズバッと切り裂くようなスルーパスをDFラインの裏に送る。
何でこのコースが見えるのか?
そんなスルーパスだった。
これにエンポリFWロッキが飛び込むものの惜しくも届かなかった。
- 236 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:46
- ユッキエも当然まだまだ得点を狙う。
ジャンピエレッティの股間を通すパスをミユキトゥータに。
ミユキトゥータはこれを右サイドに。
これを受けたユーミン、中にアーリークロス。
このクロスに2列目から飛び込むユッキエ。
目一杯足を伸ばし、これを押し込む。
が、GKベーティがこれをビッグセーブ。
何とか守ったエンポリだったが、
ユッキエの素晴らしいテクニックにスピードに心底怯えさせられる。
- 237 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:47
- 時間はどんどん過ぎていく。
後半も40分を過ぎたがひとみは、そしてユッキエは止まらない。
確かに体力は限界に来てはいるが、それよりも精神が肉体を凌駕していた。
「カリーナ!!」
ひとみが右サイドへ流れていく。
「あっ!」
これを追いかけるコトミージだが、足がもつれて倒れてしまった。
まさか?!!
この光景に目を疑うローマの選手にロマニスタたち。
スタミナ自慢のコトミージが足をもつらせ、ついていけない?
- 238 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:48
- ボールをフリーで受けたひとみ、中に切れ込む。
慌ててローマDFがスライディングをしかけるがこれをひとみはかわす。
が、その前に“壁”が立ちはだかった。
アルゼンチン代表オカモト・マヨエルという“壁”が。
だが、今のひとみは止まらない。
重心を右に移した瞬間すぐさま左に移す。
その動きは余りにも鋭い。
が、マヨエルも同じ様に重心を移しこれに食らいつく。
しかしひとみはもう一度右に重心を移した。
「なっ?!!」
これにはさすがのマヨエルも身体がついていかず、重心を移すのが遅れた。
ひとみはこれを逃さずマヨエルの左から抜いた。
そしてなおかつボールはマヨエルの右足の横5cmを転がる。
「こいつ!!!」
ユッキエがたまらず叫ぶ。
自分がやったプレーと全く同じ、いや、自分よりも一回重心移動が多い。
- 239 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:49
- 抜け出したひとみ、右足を思い切り振りぬく。
と見せかけてふわっとしたループシュートを撃った。
このシュートに完全にタイミングを崩すローマGK。
ボールは優しくゴールネットに包まれた。
後半41分、エンポリ、同点に追いつく。
- 240 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:49
- 「しゃああああ!!!!」
ひとみが雄たけびを上げる。
「ヒトミ!!!」
「ヨシッ!!あんた最高だ!!」
そこへエンポリの選手たちが抱き付く。
ローマにプリンセスがいるならばこっちにはサルバトーレがいる。
エンポレーゼたちが自分たちのサルバトーレはどうだと言わんばかりに歓声を上げる。
このプレーにロマニスタたちも認識を改めざるを得ない。
悔しいが、確かにこのヒトミ・ヨシザワもマツシマの正統な後継者だと。
- 241 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:49
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!
主審の笛が3度高らかに鳴った。
ローマ3−3エンポリ
“パーフェクトクイーン”の後継者争いとして注目を集めたこの試合。
これは互いがハットトリックという結果で引き分けに終わった。
- 242 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:50
- この笛にホッと胸を撫で下ろす両チームイレブン。
両チームとも正直早く試合が終わってくれという気持ちで一杯だった。
それは何故か?
これ以上あんな怪物2人を相手に出来ないからだ。
- 243 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:50
- 「えっ?もう終わり?」
「まだやろうよ。」
その怪物2人は物足りないといった表情だ。
まだもっと凄いプレーを見せれるのに。
お互いそう思っているとふと眼が合った。
しばらく2人が見つめ合う。
- 244 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:51
- 観客も選手たちも2人が見つめ合っているのに気付いた。
何とも言えない雰囲気が辺りを支配する。
2人ともニッと笑った。
そして互いにユニフォームを脱ぎながら歩み寄る。
どちらかとなく差し出された右手。
お互いがっちりと握手をかわした。
「楽しかった。またやろう。」
「はい。次、楽しみにしてます。」
言葉をかわし、ユニフォームを交換する。
2人ともその表情は光り輝いていた。
スタディオ・オリンピコの大観衆がこの2人に熱い声援を送る。
- 245 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:52
- 「よっすぃー・・・・・・・」
この試合は日本にテレビ中継されていた。
当然彼女もこの試合を観ていた。
吉澤ひとみの永遠のライバル、柴田あゆみ。
彼女はこの試合を観ていて、悔しさで身体を震わせていた。
ライバルは世界に飛び出し、世界の名手たちからその力、
その存在を認められている。
そして何より。
自分がいないのに彼女は楽しそうだ。
- 246 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:53
- もう我慢できなかった。
柴田は決心した。
オリンピック終了後、絶対に世界に出る事を。
そして世界の舞台で必ずライバルを打ち倒してみせる。
- 247 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:54
- 後継者争いに沸いたローマVSエンポリ戦。
ユッキエ、ひとみともに後継者に相応しいプレーを見せた。
いや、この2人、もうすでにマツシマから王位を譲り受けるぐらいまで来ているのでは?
そう思ったロマニスタにエンポレーゼだったが、この日のナイトゲームでそれも吹き飛んだ。
ユヴェントスVSインテルミラノ デッレ・アルピ(トリノ)
両チームともただの一度もセリエBに落ちた事がないという名門同士の一戦。
この試合は3−0というスコアでユヴェントスが圧勝した。
得点は全てマツシマ。
ただ1人異次元のプレーを見せつけた。
それはユッキエ、ひとみに『王位継承などまだまだ早い』と言っているようだった。
さすがは“パーフェクトクイーン”だ。
- 248 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:55
- 「やっぱ凄い。」
「ホント。やんなっちゃうよ。」
ひとみとユッキエが肩を竦める。
ローマで試合が終わった後、ひとみはユッキエから食事をしようと誘われた。
えっと一瞬戸惑うひとみだったが、ユッキエは強引に話をまとめてしまった。
何とエンポリのチーム関係者の所に行き、
今日、ヒトミはローマに一泊することを了承させたのだ。
この辺りはさすがプリンセスといった所か。
そしてローマ市内にあるレストランで食事をしていると、この試合がテレビで流れていた。
いくらインテルがヤイコを怪我で欠いているとはいえ、強豪インテル相手にこの試合。
さすがは“パーフェクトクイーン”だ。
- 249 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:57
- 「それにアスカも相変わらずいい動きだし。」
「ですよね。ユッキエの言ってた事が分かりましたよ。
あたしもあの人と対戦するの嫌です。」
ひとみがユッキエの言葉に同意する。
この試合もインテルのセンターハーフをしつこいマークで完全に
抑えきっていた。
「アスカがいるっていうのは日本にとって大きいよ。
イタリアもアスカがいればなあ。」
と、そこまで言ってハッと思い出す。
「そうそう、ヒトミ。エンポリのボランチの8番と右サイドの9番って誰?」
ユッキエが尋ねる。
試合中、彼女たちのプレーには驚かされていた。
- 250 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 22:58
- 「8番がマユコさん。9番がディ・カリーナですよ。2人ともいい選手でしょ?」
「ああ。正直驚いた。まさかあんな選手がいたなんて。これはすぐにオガタットーニ監督に言わないと。
EURO2004に向けていいMFが見つかったって。」
ユッキエの表情が輝く。
待ち望んでいたクリエイティブなMFが見つかったのだ。
「あ、そういえばもうちょっとでEUROですね。もちろん優勝、狙ってるんでしょう?」
ひとみの問いに当然と言った表情で頷くユッキエ。
「もちろん。前回は決勝で負けたからね。だから次は絶対に勝つ。
ヒトミは?代表は?ワールドカップの予選がもう始まってるんでしょ?」
- 251 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:00
- 「はい。でも監督があたしは今シーズン終わるまで呼んでくれないんです。
だからあたしはまずはセリエAですね。そしてそれが終わったらオリンピックですね。
福田さんもいるし、市井さんも、それからごっちん、後藤真希もいるし。
それに松浦とか藤本さんもいるんで日本もいいトコ狙えそうです。」
このひとみの言葉にユッキエは反応した。
「それって、海外にいる日本人選手だよね?え、全員オリンピックに出るの?」
「ええ、多分。みんなオリンピック世代ですから。」
「え、そうなの?!!」
ユッキエは驚いた。
と、同時にその眼がキラーンと光った。
『あ、やばい。』
ひとみはそう感じた。
まだ会って少ししか経っていないが、この表情がよからぬ事を
考えているぐらいすぐに分かる。
- 252 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:02
- 「・・・・・決めた。あたしもオリンピックに出る。」
やはり出ました爆弾発言。
「えっ?ホントですか?でも、EUROがあるじゃないですか。」
「もちろんEUROも出るよ。で、オリンピックも出る。
ヨシザワやアスカ、それにイチイにゴトウも出るんでしょ?
そんな大会を逃す手はないでしょ?」
ユッキエがニッと笑った。
『・・・・・・ローマの関係者、泣くだろうなあ。』
エンポリの一員ではあるが、
ローマの関係者の心配をするひとみであった。
- 253 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:04
- 翌日の新聞はひとみとユッキエの対決のことが一面を飾った。
両者ともハットトリックと見事な活躍。
そしてそれに呼応するかのように“パーフェクトクイーン”マツシマもハットトリック。
さらにはマツシマと唯一肩を並べられる存在であるACミラン所属
“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウドもハットトリックと、
世界のファンタジスタがイタリアを席巻した。
- 254 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:05
- このひとみの活躍にASローマとACミラン、さらにはユヴェントスまでもが今シーズン終了後、
ひとみ獲得に動くことを明言した。
これでインテルを含めイタリア上位4チーム全てがひとみの獲得に意志を見せた。
「ヨシザワとユッキエ。この2人がコンビを組むのを見たくないか?」
ASローマ会長トシユキスコ・ニシダ。
「うちにはアユウド、ヒロスエと2人のファンタジスタがいる。
そしてここにヨシザワを加え、ファンタジスタ3人を2列目に並べる。
・・・・・どんなファンタジーが生まれるのだろうね。」
ACミラン会長シロイ・キョトウスコーニ。
「うちに来る事はきっとヨシザワにとってプラスになる。
なぜなら目標とする選手が側にいるからだ。」
ユヴェントス会長イシザカ・グランデ・コージンス。
三者三様の口説き文句が紙上を賑わせる。
- 255 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:06
- さらに翌日、新聞紙上を賑わしたのはユッキエのオリンピック参戦の記事だった。
「オリンピックには私のライバル、ヨシザワとフクダが出ます。
私は彼女らと戦いたい。ですからオリンピックに出ます。」
この発言に喜びを隠せないのがイタリアU−23代表、
通称“アッズリーニ”監督ウエダディオ・ジロティーレ。
毎年オリンピックとEUROは開催年が被るため、
オーバーエイジ枠を上手く使えなかった。
だが、A代表のエースが前向きならばこれほどありがたいことはない。
- 256 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:07
- 欧州の出場国は4ヵ国。
開催地のギリシャがその1つを占め、残り3つの椅子を
5月27日から行われるU−21ヨーロッパ選手権で決勝に進んだ2チームと、
3位決定戦に勝利したチームにオリンピック出場権が与えられる。
U−23の大会であるオリンピックの予選がU−21のヨーロッパ選手権というのも
おかしな話であるが。
とにかくこれをイタリア代表が突破すればユッキエはオリンピック本番に参戦する事になる。
- 257 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:08
- このユッキエの発言は意外に反響が大きかった。
それならば自分も出ると言った声が各国で相次いだのだ。
その中にはあの“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマの名も含まれていた。
さらにそれは欧州だけにとどまらなかった。
南米はもうすでに予選が終わり、ブラジルとアルゼンチンの出場が決まっている。
ブラジルはレアル・マドリードのヒカルド、さらにはACミランのアユウドも出ると言い出したのだ。
さらにブラジル代表キャプテン、ローマのユーミンもだ。
アルゼンチンもローマのミユキトゥータ、マヨエルが出場を検討している。
U−23の大会だったオリンピックが一躍タイトルを狙う真剣勝負の場になった。
- 258 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:13
- が、これではクラブとして戦力が整わない。
ローマなどは最悪ユッキエ、コトミージ、マヨエル、ミユキトゥータ、
さらにはアイコソンまでもがオリンピックに出場する可能性がある。
ユーヴェにしてもマツシマ、ハセキョン、そして福田と主力がごっそり
抜ける。
レアル・マドリードでも後藤、ヒカルド、さらにはユウーコもだ。
他にも代表選手を多く抱えているぶん、誰がオリンピックに出るか
分からない。
こんな状態ではシーズンは戦えないであろう。
- 259 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:13
- この事態を重く見た各国のサッカー協会は翌2004−2005シーズンの開幕を
例年より1ヶ月遅らせる決断をした。
EUROにオリンピックと大会が続けば選手たちは潰れてしまう。
そして何より戦力が整わない。
そのための措置だった。
- 260 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:16
- ユッキエの発言から始まったこの現象。
しかし、その火付けの大元は彼女だ。
吉澤ひとみ。
彼女の存在が欧州を、そして世界を揺り動かしていた。
・・・・・本人は全く気付いていないのだが。
- 261 名前:第5話 後継者 投稿日:2004/03/29(月) 23:16
-
第5話 後継者 (終)
- 262 名前:ACM 投稿日:2004/03/29(月) 23:17
- 第5話 後継者 終了いたしました。
“スーペルひとみ”いかがでしたでしょうか。
どうやら吉澤さんは相手が強ければ強いほど燃え上がるようです。
でも弱いと・・・・・・?
それから実際はヨーロッパの各国でオリンピックにオーバーエイジが出場するのは
難しいでしょうね。でも、小説なのでやっちゃいます。
- 263 名前:ACM 投稿日:2004/03/29(月) 23:18
- では次回の予告です。
第6話 マエストロ
ライバル吉澤ひとみの世界での活躍。
これに彼女が刺激されないわけがない。
そして世界よ。
日本のダイヤモンドはヒトミ・ヨシザワだけじゃない。
マエストロの華麗なタクトに世界が酔いしれる。
皆様からいつも温かいレスを頂き、感謝しております。
これからもよろしくお願いいたします。
- 264 名前:みっくす 投稿日:2004/03/29(月) 23:23
- いやー、今回全部リアルタイムで読んじまったです。
ドキドキ感がたまんないっすね。
とくに今回の試合はもう・・・
それにしても世界を動かすほどに成長したよっしー凄いですね。
次回は日本のライバルもだまってはいないということですね。
次回も楽しみにしてます。
- 265 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/03/29(月) 23:23
- リアルで読ませていただきました。ひとみとユッキエの対決。見ごたえがありました。
それにしても、ユッキエの発言から欧州のサッカー協会を動かしてしまうとは(w
- 266 名前:名無しぃく 投稿日:2004/03/30(火) 01:46
- 更新お疲れ様です。吉澤さんとユッキエの対決メラメラでした。
こうなるとオリンピックはワクワクですね。
この先柴田さんがどうなるか心配のような楽しみのような。イロイロです。
母鳥の心境です。(謎)次の更新もハラハラしながら待ってます。
- 267 名前:ACM 投稿日:2004/04/01(木) 20:14
- 264>みっくす様
レスありがとうございます。
リアルタイムで読んで頂いたみたいですね。ありがとうございます。
世界を動かすようになった吉澤さん。それには作者が一番驚いています。
しかし、彼女が黙っているはずがありません。日本のライバルが。
今回の活躍にご期待下さい。
265>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
こちらもリアルタイムで見て頂いてありがとうございます。
ユッキエさん、さすがプリンセスです。動かしてしまいました。
そうでもしないともっと突拍子なこと言っちゃうので。
266>名無しぃく様
レスありがとうございます。
オリンピックはタレントが揃ったおもしろい大会になりそうです。
母鳥の心境ですか、その気持ち作者も分かりますよ。
柴田さん、作者も凄く心配しております。
これからどうなるのか楽しみにしていて下さい。
では本日の更新です。
第6話 マエストロ
- 268 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:17
- セリエA第24節 対ピアチェンツァ戦 カルロ・カステッラーニ(エンポリ)
前節のユッキエとの激闘でさらに株を上げたひとみ。
この試合でも当然その活躍を期待されていた。
が、この試合は全くの肩透かし。
本当に前節と同じ人物?
そう思うぐらいひとみの動きは平凡だった。
どうやら前節の反動が出たようだ。
それも体調面ではなく、精神面で。
余りにも前節で熱くなった分、この試合に入り込めなかったのだ。
しかし試合はマユコとディ・カリーナの活躍で3−1でエンポリが快勝した。
これで順位は1つ上がり、16位になった。
「まあ、前節あれだけのモチベーションで戦ったんだから分からないこともないけど、
それじゃあダメだよヒトミ。」
「はい、すみません。」
試合後、マユコに怒られるひとみであった。
精神的にムラがあり、調子に波がある。
この辺りがひとみの弱点であり、これからの課題である。
- 269 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:20
- 一方、ユッキエもひとみと同じ様な感じだった。
が、この節はラツィオとのローマダービー。
その分まだモチベーションは保てていた。
が、やはり前節とまではいかなかった。
試合は1−1の引き分けだったが、ユッキエが前節の調子のままだったら、
“スーペルユッキエ”だったならば確実に勝てた一戦だった。
「あーあ、勝てたのになー。」
「そうそう。誰かさん、やる気ないんだから。」
「ぐっ・・・・・・」
ミユキトゥータとユーミンに嫌味を言われるユッキエであった。
確かに、ローマダービーでモチベーションが下がられてはたまらない。
が、ひとみもユッキエもこういったところがあるのは
まだまだ伸びる余地があるという事である。
- 270 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:20
- 続いて第25節 対ラツィオ戦 スタディオ・オリンピコ(ローマ)
つい2週間前ここでユッキエと激闘を繰り広げた。
それを思い出したのか、ひとみの動きがキレている。
さらに相手はチェコ代表アキコ・ヤダベド、
アルゼンチン代表シマーブクロ・ヒロコといった攻撃陣を擁する5位ラツィオ。
こういった強敵相手にひとみが燃えないわけがない。
アウェーながらもひとみの2アシストにより、2−1で勝利した。
- 271 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:22
- そして第26節 対ブレシア戦 カルロ・カステッラーニ(エンポリ)
ブレシアの10番はユッキエも、もちろんひとみも、
そしてあのマツシマも尊敬してやまない選手だ。
イタリアの至宝、ヤマグチ・トモコオ。
世界最高とか、イタリアbPとかそういった称号は彼女にはいらない。
彼女はただカルチョの世界にいてくれるだけでいい。
そんな存在なのだ。
が、この試合ヤマグチは怪我のために欠場。
試合はロッキのゴールでエンポリが1−0で勝利した。
この得点をアシストしたのがひとみ。
久しぶりに悪魔のパスが出た。
試合後、ヤマグチはこうコメントした。
「ヨシザワは素晴らしいファンタジスタだ。
彼女ならばどんなビッグクラブでもやっていけるだろう。」
- 272 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:23
- セリエA第27節 対レッジーナ戦 オレステ・グラニッロ(レッジョ・ディ・カラブリア)
下位に沈むレッジーナ、今一番勢いのあるエンポリ。
実力ももちろんだが、こういった勢いも大事である。
試合はディ・カリーナの2ゴールで2−1で勝利。
これでエンポリは破竹の4連勝。
順位もまた1つ上がり、15位になった。
あと1つ順位を上げれば降格圏内を脱出となる。
- 273 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:26
- セリエA第27節終了から3日後、各地で国際Aマッチが相次いで行われた。
欧州では親善試合が。
南米、アジアではドイツワールドカップ予選がそれぞれ行われた。
日本はアウェーでドイツワールドカップ1次予選第2戦、
対シンガポール戦を迎えた。
- 274 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:30
- <日本代表メンバー>
GK 1 飯田圭織 コンサドーレ札幌
12 ミカ・トッド セレッソ大阪
DF 2 石黒 彩 東京ヴェルディ1969
3 中澤裕子 京都パープルサンガ
15 小川麻琴 清水エスパルス
16 紺野あさ美 コンサドーレ札幌
MF 4 辻 希美 ガンバ大阪
5 加護亜依 京都パープルサンガ
6 保田 圭 柏レイソル
7 平家みちよ 浦和レッズ
8 新垣里沙 ジュビロ磐田
10 柴田あゆみ 名古屋グランパスエイト
14 藤本美貴 シャルケ04(ドイツ)
18 福田明日香 ユヴェントス(イタリア)
FW 9 道重さゆみ 柏レイソル
11 木村アヤカ ヴィッセル神戸
13 松浦亜弥 FCバルセロナ(スペイン)
17 高橋 愛 ジュビロ磐田
- 275 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:31
- ほとんど1ヶ月前のオマーン戦とメンバーが変わらなかった。
唯一市井がリーグ戦で足首を痛めたため、
今回は選ばれず、代わりに道重さゆみが選ばれた。
市井の怪我は試合には出場できるような軽いものであるが、
ツンクは移動のことを考えて市井を選ばなかった。
この辺りはツンクの信念が表れている。
- 276 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:40
- <日本代表スターティングイレブン>
GK 12 ミカ・トッド
DF 2 石黒 彩 道重 松浦
3 中澤裕子
16 紺野あさ美 柴田
MF 7 平家みちよ 藤本 アヤカ
10 柴田あゆみ
11 木村アヤカ 福田 平家
14 藤本美貴
18 福田明日香 石黒 中澤 紺野
FW 9 道重さゆみ
13 松浦亜弥 ミカ
- 277 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:41
- 試合は圧倒的に日本のペース。
個人の能力ではシンガポールを圧倒するだけあってそれも当然か。
その中でも背番号10、“マエストロ”柴田あゆみの動きが凄まじかった。
普段はパスを振り分け、味方に気持ちよくプレーしてもらうのだが、
この試合は自分が主役とばかりに積極的にゴールに向かう。
この試合、3得点2アシストの活躍。
6−0で見事にシンガポールに圧勝した。
ツンクの采配もズバリ当たった。
柴田の気迫を感じ取ったツンクは今日、ボランチに平家みちよを起用した。
平家の魅力はゲームメイク能力。
が、柴田と同時に出すと二人ともゲームメイク担当になってしまう。
つまり役目が被るのである。
しかし柴田がひとみの活躍に刺激されていることを見抜いたツンクは、
ボランチに平家を置くことで柴田に積極的に前に飛び出すことを許した。
その結果、柴田がハットトリック。
見事な采配だった。
- 278 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:44
- そしてイタリアもこの日、ポルトガルと親善試合を行った。
この試合でエンポリのMF、マユコ・ハカセとディ・カリーナが
イタリア代表デビューを飾った。
イタリア代表
GK 1 フカキョン
DF 3 ナカムラーニ 9 21
5 カンノバーロ
6 エスミ 10
MF 7 ハセキョン 7 11
8 マユコ
10 ユッキエ 17 8
11 ディ・カリーナ
17 コトミージ 3 6 5
FW 9 マヨザーギ
21 ヨネクラン 1
- 279 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:45
- イタリアの弱点、それは中盤だった。
ユッキエ依存症といっても過言ではなかった。
が、ここにエンポリの2選手が加わったことで全ては解決した。
ボランチにゲームを創れるマユコ。
右サイドにドリブル突破ができ、チャンスメイクが出来るディ・カリーナ。
この2人の加入により、中盤でユッキエ以外でもチャンスを創れるようになった。
そこでオガタットーニは決断した。
ハセキョンを左MFに置き、ACミランFWスズカゼ・マヨザーギをスタメンにする事を。
- 280 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:46
- 今までは中盤でユッキエ以外チャンスメイク出来なかったため、
前線はプリマプンタとセコンダプンタの組み合わせだった。
が、エンポリの2選手加入でチャンスメイクできる人間が増えた。
ならば前線はゴールに押し込む才能に長けた方がいい。
そこでハセキョンを左MFにコンバートしたのだ。
これで中盤はテクニックに優れたハセキョンが加わる事でさらにチャンスメイク出来るし、
前線も得点感覚に優れた、なおかつタイプの違う2人(ポストプレイヤーのヨネクラン、
スペースへ飛び出すマヨザーギ)が揃った。
そしてDFブロックは言うまでもなく世界でも最高の部類に入る。
まさにイタリア代表は攻守に渡って磐石になった。
- 281 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:46
- 試合はヒトミ・クローキ、ヒロスエ・リョウ・コスタ率いるポルトガル代表に
アウェーながら2−1で快勝。
ゴールはヨネクランとマヨザーギ。
アシストがハセキョンとディ・カリーナ。
守ってもクローキのPKによる1失点だけだった。
流れの中では全く崩されていない。
見事な試合であった。
- 282 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:49
- 「マユさん、カリーナ、ナイスゲーム。」
親善試合を終えて帰ってきた2人をひとみをはじめ、
エンポリの選手たち、それからエンポレーゼたちが温かく迎えた。
オガタットーニ監督もこの2人を高く評価しており、
次の試合にもぜひ呼びたいと試合後の会見で明言した。
自分たちのクラブ、こんな小さなクラブからアズーリに選ばれる。
これはエンポリの人々にとって最高に誇らしいことだ。
これも全て日本から来たサルバトーレのおかげだ。
彼女が来てくれたおかげでエンポリは蘇り、
マユコやディ・カリーナも注目されるようになったのだ。
みなこのサルバトーレに心の底から感謝していた。
・・・・・・本人は全く気付いていないのだが。
- 283 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:50
- 第28節 対キエーヴォ戦 カルロ・カステッラーニ(エンポリ)
ホームに10位のキエーヴォを迎えたこの一戦。
この試合はひとみが大爆発した。
あの23節のASローマ戦を思い出させるかのような“スーペルひとみ”。
ひとみの2ゴール2アシストでエンポリは4−0で快勝した。
マユコやディ・カリーナ、そして他のエンポリの選手たちもこれには首を傾げる。
キエーヴォには悪いが特に目立った選手もなく、
“スーペルひとみ”を引き出すような要因は見当たらないからだ。
しかしひとみにはこの試合にかける要因があった。
それは永遠のライバル柴田あゆみの活躍だ。
ワールドカップ予選、対シンガポール戦で見事なハットトリック。
こうこられてはこっちも負けてられない。
- 284 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:51
- 第29節 対ACミラン戦 スタディオ・サンシーロ(ミラノ)
赤と黒。伝統のユニフォーム。
イタリアの首相がオーナーというまさにイタリアを、
いや、世界を代表するチーム。
所属する選手たちもまさにワールドクラス。
GKに野性的な反応が魅力のブラジル代表、ウーア。
DF、センターバックはマキコサンドロ・エスミ、タマオ・ナカムラーニ。
世界最高のセンターバック2人だ。
MF、ボランチにオランダ代表サトレンス・アイコルフ。
オフェンシブハーフ、ポルトガル代表ヒロスエ・リョウ・コスタ。
ブラジル代表“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。
FW2トップ、“ミスオフサイド”スズカゼ・マヨザーギ。
“ウクライナの矢”イイジマー・ナオチェンコ。
- 285 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:53
- どこをどう取っても最高のメンバーが揃っている。
が、この試合は主力のほとんどを欠いていた。
それは3日前にチャンピオンズリーグ準々決勝、
対デポルティボ・ラ・コルーニャ戦を戦ったためだ。
韓国が産んだ天才、ミ・サキー、それからオランダ代表のストライカーキムラ・ヨシーノに
最後まで苦しめられたミラン。
何とか勝利をもぎ取ったものの、選手たちには激戦の疲労が色濃く溜まった。
また、この試合でアユウド、それからナオチェンコが足を痛めた。
そのためこの試合、GKウーア、DFエスミ、ボランチのアイコルフしか
スタメンに名を連ねることは出来なかった。
FWにはもう1人デンマーク代表のニシ・ダール・ナオミンというワールドクラスがいるのだが、
彼女も怪我で今シーズンは絶望だった。
そのためナオチェンコ、マヨザーギにかかる負担は大きかった。
その結果休ませる事が出来ずにこの試合、両者をともい欠いたのである。
- 286 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:55
- 試合はそれでも地力に勝るミランペース。
が、FWがチャンスをことごとく外し、得点を決める事が出来ない。
そうしているうちに後半30分、マユコの隙を突いたミドルシュートがウーアを破り、
エンポリがまさかの先制点。
これに慌ててマヨザーギ、ヒロスエを投入するが遅かった。
エンポリはひとみも最終ラインに入りミランの攻撃を跳ね返す。
結果、1−0でエンポリがまさかの大金星。
この勝利でエンポリはついに降格圏内を脱出した。
それどころか下位チーム、中位のチームが揃って敗れたため、
順位を一気に上げて11位にまでジャンプアップした。
- 287 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:55
- 第30節 対ウディネーゼ戦 カルロ・カステッラーニ(エンポリ)
前節ミランに勝利し、勢いに乗るエンポリだがこの日は違った。
ひとみが前日、急な発熱でダウンしたのだ。
このひとみ欠場は確かに痛いが、その分他の選手たちが頑張った。
もちろんエンポレーゼも懸命に声援を送った。
現在7位につけるウディネーゼ相手に一歩も引かない戦いを見せ、
1−1で引き分けた。
- 288 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:57
- ひとみの発熱の原因は様々な要因が絡み合ったものだ。
まずは体調面。
1年以上フルに試合に出場し続けてきた疲れがここに来て出たというのがある。
そして精神面。
日毎に高まるひとみへの期待、注目度。
普段の彼女ならば充分耐えれるものであるが、やはり体力が落ちていたというのもあり、
ここ最近は取材攻勢に少々うんざりしていたのは確かだ。
そういった体力的なことと、精神的なことが絡み合い、さらにそれらが一気に襲ってきたのだろう。
しかしひとみ本人は自分の体調管理の甘さを痛感していた。
自分が体調管理をしっかりしなかったばかりにチームに迷惑をかけた。
いたたまれない気持ちで一杯だった。
- 289 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:57
- 「よっさん、体調崩したみたいやな。やっぱ疲れが溜まっとるんやな。」
日本代表キャプテン中澤裕子が新聞の記事を見て呟く。
セリエA第30節の翌日、日本から代表選手28名が飛び立った。
この28名は宮崎合宿に呼ばれた28名である。
最初の目的地はギリシャ。
アテネオリンピックが開催される国である。
この遠征の狙いはギリシャの気候になれること、
そしてもちろん欧州の国々と親善試合をしてレベルアップすることである。
ここでは3試合を予定している。
まず初戦がU−23ギリシャ代表と。
続いてブダペストでハンガリー代表と。
そして最後にプラハでチェコ代表とそれぞれ試合をする。
が、それにしては人数が28名と多い。
これには理由がある。
- 290 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:58
- 欧州の各国がオリンピックの前にEUROがあるように、
アジアにもアジアカップがオリンピックの前にある。
ツンクの狙いはズバリ2冠だ。
どちらも真剣にタイトルを獲得するつもりである。
- 291 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 20:59
- しかしツンクジャパンの問題点として選手たちの年齢が若いことが上げられる。
つまりA代表の面々がほとんどオリンピック世代であるということだ。
これは今までプラスに作用していた。
U−23世代の試合ではこちらがA代表の分主導権を握れていたし、
U−23代表の試合はそのままA代表の強化試合となった。
だからこそツンクジャパンは試合数、合宿数が多い分連携面がスムーズなのである。
A代表もU−23代表も同じシステム、戦術であるし、ほとんど同じメンバーだからだ。
が、今回はそれが逆にあだとなる。
アジアカップに23名、そしてオリンピックに23名を選ばねばならないのだが、
ツンクが見た限りでは46名も代表に相応しい選手がいないのだ。
これはつまり別々のチームで2つの大会に挑めないのだ。
しかもアジアカップを仮に決勝まで行ったとすると、決勝は8月7日。
アテネオリンピックの開始は8月11日。
その間わずかに4日。
これでは選手は潰れてしまう。
- 292 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:01
- ツンクもこの状況に頭を痛めており、ならば他の選手たちを代表に呼ぶか、
道重、亀井たちU−17世代から何人か引き上げることも考えた。
が、まだまだオリンピックやアジアカップで戦えるレベルではないため、
それも諦めざるを得なかった。
そこでツンクは決断した。
今回ギリシャに行く28名、それから海外で活躍する6名を加えた34名で
アジアカップとオリンピック両方を乗り切ることを。
これは危険な賭けだ。
下手すると2つともタイトルを逃す結果となる。
しかし今から新しい戦力を選んだとしても時間がないし、
第一数合わせで代表を選ぶなんてことは絶対にあってはならない。
それが代表チームの誇りなのだ。
このツンクの決断にマコトもハタケも、そしてこの4月より日本代表コーチに加わった
元コンサドーレ札幌監督タイセーも賛同した。
- 293 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:01
- となると大事なのは誰をどちらの大会に参加させるか、
そして誰を両方に連れて行くかである。
そしてオーバーエイジ枠もある。
それを見極めるために今回、
28名の選手をこのギリシャ遠征に連れて行ったのである。
- 294 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:02
- <日本代表スターティングメンバー>
GK 亀井絵里
DF 斉藤 瞳 道重 高橋
里田まい
大谷雅恵 田中
MF 辻 希美 麻美 矢口
新垣里沙
木村麻美 新垣 辻
矢口真里
田中れいな 斉藤 里田 大谷
FW 道重さゆみ
高橋 愛 亀井
- 295 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:03
- まず初戦はU−23ギリシャ代表との試合だ。
相手がU−23であるため、こちらもU−23で試合に臨む。
ギリシャはここ最近メキメキと力をつけている国だ。
EURO2004でもスペインを抑えて、グループ1位で本戦出場を決めたほどである。
チャンピオンズリーグでも3つのクラブを送り出しているギリシャは現在、
欧州で一番ホットな国である。
が、ホットという意味では日本も負けてはいない。
福田明日香、市井紗耶香、後藤真希、松浦亜弥、藤本美貴、そして吉澤ひとみ。
彼女らの欧州での活躍で一気に日本人選手の価値が高まった。
それだけにこの試合、スタンドには欧州各国のクラブのスカウトたちが多数陣取っていた。
今後ブレイクするであろう日本人を見極めるために。
- 296 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:04
- 試合は序盤からギリシャのペース。
日本も積極的に行くが、ホームのギリシャがゲームを支配する。
前半34分に得点を許すと、さらに前半42分にも2点目を献上し、
2−0で前半を終えた。
後半に入ってもギリシャペースは変わらず。
日本の選手たちも頑張ってはいるが流れをこちらに寄せることが出来ない。
そして後半11分、決定的な3点目を許してしまった。
ここでツンクは田中に代えて柴田を投入。
さらには道重に代えて安倍も投入した。
これで一気に流れが変わった。
- 297 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:05
- トップ下に入った柴田、華麗なタクトで乱れていたリズムを整える。
落ち着いて落ち着いて。まずは自分たちのリズムを取り戻そうよ。
柴田がパスでみなにそう囁く。
この柴田のパスに日本は落ち着きを取り戻し、それぞれの個性が出始める。
右サイドでは矢口がそのスピードを活かし始め、
左サイドでは麻美のクロスがチャンスを演出する。
ボランチの辻も積極的に上がり、ゴールを狙っていく。
前線では安倍、高橋のエース2人が何度もギリシャゴールに襲い掛かる。
日本は勢いに乗ってきた。
- 298 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:06
- 後半21分に矢口のクロスに安倍が合わせ1点返すと、
さらに日本は勢いを増した。
後半27分には柴田のスルーパスに抜け出した高橋が
ゴールネットを揺らしこれで1点差に。
後半38分には32分に麻美に代わって入った加護が
ドリブル突破で得たFKを柴田が自ら沈め同点に追いついた。
その後は得点は奪えなかったものの、前半戦の劣勢を跳ね返しての
引き分けにツンクも満足していた。
- 299 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:06
- この試合を見に来ていた欧州のスカウトたちは、
後半途中から出てきたレフティに釘付けとなった。
誰だ?あのトップ下の選手は?
日本はヒトミ・ヨシザワがあのポジションではないのか?
スカウトたちは驚きの表情を浮かべつつ、
すぐさまこの選手のことを上に報告していた。
- 300 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:07
- 続いて4月25日、ブダペストでハンガリー代表との試合。
この試合はA代表としての試合だ。
ということでつんくは主に24歳以上の選手たち中心でこの試合に臨む。
<日本代表スターティングイレブン>
GK 前田有紀
DF 石黒 彩 村田 アヤカ
中澤裕子
小川麻琴 柴田
MF 保田 圭 石川 矢口
平家みちよ
石川梨華 保田 平家
矢口真里
柴田あゆみ 石黒 中澤 小川
FW 村田めぐみ
木村アヤカ 前田
- 301 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:08
- ハンガリーといえば1950年代「マジックマジャール」といわれ、
圧倒的な強さを誇った国である。
が、それ以降は衰退の道をたどり、今や欧州の中堅国といった感じである。
しかしドイツブンデスリーガ、ヘルタ・ベルリン所属GKキラリーを中心とした守備は強固であるし、
中盤にもいい人材が揃っている。
が、この日は欧州各国でリーグ戦があるため、
前述のキラリーのような目立った選手は招集されなかった。
- 302 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:08
- 試合は序盤から日本のペース。
トップ下の柴田、ボランチの平家から様々なパスがピッチを駆け巡る。
前半14分、柴田からのスルーパスに抜け出した村田がゴールを決める。
さらには前半33分、村田が今日2点目のゴール。
これも柴田からのスルーパスに抜け出してのものだった。
「やっぱ村田ちゃん裏に抜け出すの速いべ。」
安倍が村田の裏への飛び出しに感嘆の声を漏らす。
「そうですね。それに柴田さんとの相性もいいみたいですね。」
道重も安倍と同様、感嘆の声が漏れる。
道重も安倍ももちろん得点感覚に優れているため裏への抜け出しも得意としているが、
やはり村田には敵わない。
いつもDFラインにくっついてギリギリの勝負をするため、
村田はJリーグで一番オフサイドを食らっている。
が、5回オフサイドでも1回抜け出れば確実にゴールを奪う。
その1回に己の全てを賭ける。
それが“ミスオフサイド”村田めぐみだ。
- 303 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:09
- そして道重の言うとおり村田と柴田の相性は抜群だ。
ただでさえ柴田は相手の特徴に合わせたパスを送れるのに、
村田とはフィーリングが合っていた。
「村田と柴田か・・・・・・・ええやんけ。」
ツンクもこの2人の息の合ったプレーに満足気だ。
後半に入るとハンガリーも劣勢を挽回すべく積極的に攻撃を仕掛けてくる。
が、後半から平家に代わって投入された戸田が保田とともに中盤で激しいディフェンスを展開し、
ハンガリー自慢の中盤を抑えこむ。
彼女らがボールを奪った後はマエストロの出番だ。
左足というタクトが華麗に振られる。
- 304 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:10
- 柴田から左サイドの石川に。
石川はこれを受けると一気にゴール前に。
ボールは鋭いカーブがかかり、ゴール前に走り込むアヤカにピタリ。
アヤカはただ頭に当てるだけでよかった。
後半25分、日本3点目。
「よしっ!」
石川がグッと拳を握り締める。
一時精神面から調子を崩していたが、ここ最近は復調気配にある。
“魔法の左足”健在をアピールした。
このお膳立てをしたのも柴田であることを付け加えねばなるまい。
試合はこのまま終了した。
日本3−0ハンガリー
まさに快勝だった。
「・・・・・これは出来すぎやわ。」
ツンクもこの結果に目を丸くする。
選手たちの予想以上の成長振りにツンク自身が戸惑っていた。
- 305 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:11
- さらにこの試合にも欧州各国のクラブのスカウトたちが来ていた。
みな一様に日本の強さに驚いていた。
と同時にトップ下の選手のゲームメイクにも。
「アユミ・シバタ?初めて聞く名前だ。」
「日本にはまだこんな選手がいたのか?」
スカウト連中や欧州のジャーナリストたちはみな日本の記者たちに尋ねる。
彼女は何者だ?と。
「彼女は吉澤ひとみがライバルと認める選手ですよ。
そしてあの“ピクシー”リーエ・ミヤザワビッチに
自分の後継者と言わしめた選手ですよ。」
この日本人記者の言葉に心底驚くスカウトにジャーナリストたち。
ひとみがライバルといったのもそうだが、
何よりあの“ピクシー”に自分の後継者と言わしめた?
- 306 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:11
- 『日本にいた“ピクシー”の後継者!!』
翌日、各国の新聞にこの日本のマエストロの記事が載った。
ひとみが欧州にその名を轟かせてから3ヶ月。
ついにライバルも世界にデビューした。
「・・・・・さすが柴田さん。」
ひとみの眼が鋭くなる。
ハンガリー戦が行われた日、ひとみたちエンポリはアウェーでモデナと対戦した。
病み上がりのひとみはベンチスタート。
後半28分、1−1の状況で途中出場したが流れを変える事は出来ずこのまま1−1で引き分けた。
自分の責任を感じている時に飛び込んできたライバルの活躍。
これにひとみは落ち込むどころかさらに闘志を滾らせる。
そして再確認する。
やはり自分のライバルは柴田あゆみだと。
- 307 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:12
- 「んあー!みんな久しぶり!!」
久しぶりに聞くこの声にみな笑顔で出迎える。
「後藤さん!!」
「久しぶりごっつあん!!」
レアル・マドリードFW“日本が産んだ天才”後藤真希。
ハンガリー戦の翌日、チェコ代表との試合を2日後に控えた日本代表に彼女が合流した。
- 308 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:13
- ツンクはひとみと同じく体調面を考えて後藤を代表に選んでこなかった。
が、今回は欧州での試合ということ、そして後藤も体調面が大分落ち着いてきたのもあって
ついに彼女を代表に招集したのだ。
ひとみも体調面さえ折り合いがつけば招集する予定だったが、
病み上がりのため今回も見送った。
「柴ちゃん、新聞で見たよ。凄い活躍じゃん。」
後藤がニッと笑う。
「何言ってるのごっちん。ごっちんこそ凄いじゃん。」
柴田もニッと笑う。
柴田の言うとおり今シーズン、後藤の活躍はとんでもなかった。
レアルというビッグクラブで入団1年目でありながら、ブラジル代表“フェノーメノ(怪物)”ヒカルドや、
“スペインの至宝”ユウーコ・タケウッチャン、ポルトガル代表ヒトミ・クローキを差し置いて今やチームの
エースとして活躍している。
- 309 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:15
- 後藤に加え、福田、市井、松浦、藤本もこの欧州遠征最終戦、
チェコ代表戦に招集されていた。
ひとみを除く全ての海外組が集結し、チェコ戦に挑む。
チェコ代表。
はっきり言っていまや欧州でも最上位にランクされる強豪国だ。
EURO2004予選においても7勝1分と無敗の成績で本戦出場を決めた。
このグループにはあのタレント軍団、オランダが含まれていたにも関わらず圧倒的な成績だった。
現在EURO予選、それから2003年に行われた親善試合を合わせて12試合で36得点、
そしてなおかつ10勝2分と無敗なのだ。
この10勝の中には先ほど述べたオランダ、それからあのマツシマ率いる王者フランスも含まれている。
まさに欧州においても最強を名乗れる国だ。
- 310 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:16
- このチェコ代表の中心はイタリアセリエA、ラツィオ所属MFアキコ・ヤダベドだ。
確かなテクニックに左右両足から放たれる弾丸シュート。
90分フルに走り回れるスタミナに類まれな闘争心と、良い所を上げればきりが無く、
欠点を探すのが無理なほどのプレイヤーだ。
調子も波が無く、どんな試合でも確実に仕事をこなしてくれる。
彼女を欲しがらないクラブなどありえないであろう。
そしてドイツブンデスリーガ、ボルシア・ドルトムント所属MF、ミズノ・ミキツキー。
恐るべきテクニック、そしてスピード。さらにはファンタジー溢れるパス。
そして90分フルに走りきれるスタミナとこちらも非の打ち所のない選手だ。
チェコ代表ではディフェンシブハーフを任されるように、守備力もかなりのものだ。
やや調子に波があるのが欠点といえば欠点だが、その実力は今現在、
ドイツサッカー界でバイエルン・ミュンヘンの司令塔イケワキ・チイヅルーと並ぶ
最も恐ろしい司令塔の1人であろう。
- 311 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:17
- そして前線にはこちらもボルシア・ドルトムント所属FW、トミ・ナガーがいる。
彼女の売りは何と言ってもその長身から繰り出されるヘディングだ。
制空権で彼女に勝てる者はほとんどいないであろう。
が、彼女はそれだけではない。足元のテクニックも抜群で、
その長身からは似合わぬような鋭い動きを見せる。
現在ブンデスリーガ得点王レースをブッチギリで走っている。
ディフェンシブハーフにミキツキー、オフェンシブハーフにヤダベド、
FWにトミ・ナガーと並ぶこの縦のラインはまさに欧州でも最強の部類に入るであろう。
- 312 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:18
- 「さ、今日の相手は今までとは一味も二味も違うで。
ある意味今まで戦った国の中で一番強いチームかもしらん。
去年の夏のイタリア、フランスよりもな。」
ツンクの声がロッカールームに響く。
その声に頷く選手たち。
みなツンクが何故こう言ったのか分かっている。
昨年の夏の欧州遠征では、欧州各国はシーズン前という事もあり、
イタリアもフランスもコンディションが万全ではなかったのだ。
が、今は4月の終わり。
シーズンも佳境に入った時期であり、なおかつ1ヶ月ちょっと先の
6月12日からEURO本戦が始まるのだ。
チェコとしてはこの時期の親善試合はEURO本戦に向けての数少ない
強化試合なのである。
それだけに招集できる選手はみな招集している。
「けどこっちもあの時からは比べもんにならんぐらい成長してる。
それを証明して来い!!」
「はいっ!!」
みな気合いは充分なようだ。
- 313 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:18
- <日本代表スターティングメンバー>
GK 飯田圭織
DF 石黒 彩 松浦 後藤
中澤裕子
紺野あさ美 柴田
MF 保田 圭 藤本 市井
福田明日香
藤本美貴 保田 福田
市井紗耶香
柴田あゆみ 石黒 中澤 紺野
FW 松浦亜弥
後藤真希 飯田
- 314 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:19
- 両チームの選手たちがピッチに登場した。
チェコの名門クラブ、スパルタ・プラハのホームスタジアム、
レトナスタジアムは満員だった。
その満員の観衆が一斉に歓声を上げる。
みな自国の仕上がり具合と、最近力をつけてきている日本との
戦いを楽しみにしているのだ。
そしてもちろん欧州各国のクラブのスカウトもこの試合を観戦に訪れている。
- 315 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:20
- 日本代表の選手たちがチェコ代表の選手たちと握手を交わしていく。
「今日は負けないよ、フクダ。」
「もちろんこっちも負ける気ないよ。」
セリエAで激闘を繰り広げたこともあるヤダベドと福田が言葉をかわす。
「ミキティ、今日はあんたを倒すから。」
「受けて立つよ。」
ブンデスリーガのミキツキーと藤本が火花を散らす。
藤本の所属するシャルケ04とミキツキーのドルトムントは最大のライバルである。
この2チームの戦いはルールダービーと言われ、
ブンデスリーガで1、2を争う熱狂的なサポーター同士が激しくぶつかり合う戦いである。
しかもこの両チームのサポーターたちが自分のチームのアイドルとして熱い声援を送るのがこの2人。
それだけに自然とこの2人の間も熱くなる。
そのダービーは、今シーズンは2試合とも引き分け。
第2戦目は後半27分まで2−0でドルトムントがリードしていたが、
ここから投入された藤本が怒涛の2ゴールを決め同点に追いつかれたのだ。
ミキツキーにすればこの試合できっちり借りを返さねばなるまい。
それだけに気合い充分だ。
- 316 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:20
- 選手たちが握手をかわしていく。
そして一番最後、柴田がチェコの選手たちと握手をかわしていく。
『・・・・・あれ?何だろ?』
柴田は違和感を感じていた。
何となくであるが、チェコの選手たちが自分を見る目が他の日本の選手たちと違う。
『・・・・こいつがシバタか・・・・・』
ヤダベドが柴田をまじまじと見つめる。
- 317 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:21
- 欧州に彗星の如く現れた吉澤ひとみ。
マツシマの後継者と認められ、なおかつプリンセスユッキエと互角以上の戦いを見せた。
そのひとみがユッキエよりも彼女をライバルとし、
そしてなおかつ今でも世界のサッカープレイヤーから尊敬と畏怖の眼で見られる
セルビア・モンテネグロ(旧ユーゴスラビア)の英雄、
“ピクシー”ことリーエ・ミヤザワビッチが後継者と認めたのだ。
彼女は自国の若手に自分の後を継ぐものがいないと嘆いていたのは有名な話だ。
それがこの日本人を後継者と認めた。
いずれ彼女も間違いなく世界に出てくる。
ならば、今ここで叩いておかねば。
チェコ代表の猛者たちの眼が一気に鋭くなった。
- 318 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:22
- ピィー!!!
主審の笛が鳴り、ホームのチェコのボールで試合が開始された。
その瞬間一気にボールを奪いに行く松浦と後藤。
「うおー!!速いよごっつあんに松浦!!」
ベンチで矢口が思わず声を上げる。
スペインリーガー2トップが前線から積極的にプレスを仕掛ける。
このプレスにヤダベドも堪らず後ろに戻す。
「後藤さん、そっち!!」
「分かってる!!」
松浦がボールを持ったミキツキーにプレスをかける。
が、片側だけわざとパスコースを開けている。
もちろん後藤はそこを狙っている。
「ちっ!!」
松浦と後藤の見事なディフェンスにミキツキーも堪らず
最終ラインにまでボールを戻した。
- 319 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:23
- ブー!!!!
これにはチェコのサポーターたちからブーイングが飛ぶ。
ミキツキーからボールを受けたチェコDFは、一気に最前線に送る。
「あやっぺ!!」
「オッケー!!」
最前線に張るトミ・ナガーに石黒がピッタリとマンマークにつく。
今日の試合、3バックはラインを創らない。
石黒をトミ・ナガーにピッタリつかせ、
セカンドボールを中澤と紺野が対処する形を取る。
オフサイドトラップよりもカバーリングに重点を置くディフェンスだ。
- 320 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:23
- 石黒、トミ・ナガーの2人が競り合う。
が、やはりトミ・ナガーの高さが上だ。
ヘッドでDFラインの裏にそらす。
そこへ2列目からヤダベドが素晴らしいスピードで飛び込んでくるが、
このボールを予測していた紺野がスライディングでクリアした。
- 321 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:24
- チェコのシステムは4−2−3−1。
長身のトミ・ナガーを1トップに、その下に運動量が豊富なヤダベドを置き、
さらにボランチからミキツキーが最前線に飛び込むというスタイルである。
もちろん両サイドに2人ずつ選手がおり、
FWがトミ・ナガーのためサイド攻撃の破壊力も素晴らしい。
1試合平均3点を誇るのも頷けるところだ。
それだけにこの試合、日本はディフェンスがより重要になってくる。
- 322 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:25
- 「任せろ!!」
左サイドを駆け上がったチェコMFに市井のスライディングが決まった。
そのこぼれ球をチェコ左サイドバックが拾う。
しかしそこには福田がきっちり詰めており、あっさりとボールを奪った。
「真希ちゃん!!」
福田はすかさずロングパス。
このパスをチェコ左サイドバックが上がった裏に走りこんだ後藤が受けた。
そして中へと切れ込む。
- 323 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:25
- 慌ててチェコセンターバックがチェックに来る。
後藤は左足アウトサイドでボールを弾き、
チェコセンターバックを左からかわそうとする。
が、その瞬間後藤の左足首が信じられないスピードで逆側に切り返された。
一度左足アウトサイドで弾かれたボールは、刹那のうちに左足インフロントで逆方向に弾かれ、
その方向を変えたのだ。
「なっ?!!」
これに完全に逆を取られるチェコセンターバック。
後藤はチェコセンターバックを右からかわし、中にクロスを上げた。
このボールにマークを振り切って飛び込む松浦。
右足インサイドでこれを合わせるものの、ポストを叩き得点ならず。
- 324 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:26
- なんやねんあれは?!!!」
ベンチで加護が思わず叫ぶ。
今の後藤のドリブルにトリハダが立った。
元々後藤は切り返しを得意としていたが、
今見せた切り返しは今までのとは全くレベルが違った。
あんなプレー、他に誰が出来るだろうか?
加護の背中に冷たい汗が流れる。
「・・・・・やってくれるな、後藤。」
市井も加護と同様、驚きを隠せない。
“日本が産んだ天才”はスペインの地で更なる進化を遂げていた。
- 325 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:26
- 前半も30分が過ぎた。
ペースはホームのチェコが握っているものの、日本も鋭いカウンターで応戦する。
チャンスは多く創るものの、決定的な場面は皆無のチェコ代表。
チャンスは少ないものの、その一つ一つが得点に結びつきそうな日本代表。
全体的に見ると両者はほぼ互角と言える。
これは両国の実績を考えると日本の大健闘と言っていいだろう。
- 326 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:27
- 「よしよしよし。ええぞ。」
ツンクがこの展開にほくそ笑む。
ここまでの展開はツンクが思い描いていたシナリオ通りだった。
それはスタメンの選択から全てバッチリはまっていた。
今日の試合のスタメンは海外組が全員出ている。
これだけを見ると海外組を、格を優先したのかと思いがちだが、実は違った。
今日のツンクのゲームプランは守ってカウンター。
これを実行するのに最適なメンバーを選んだ結果、
このようなスタメンになったのだ。
- 327 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:28
- GKは高さのある飯田を選んだ。
DFは高さの石黒、そしてスピードの紺野、カバーリングの中澤だ。
この4人でトミ・ナガーの高さを抑え、2列目からの飛び出しを防ぐ。
MFボランチには保田と福田。
彼女たちは数多いボランチの中で1、2を争う守備力を持っている。
なおかつロングパスにも定評がある2人だ。
そして左サイドの藤本。
彼女はサイドバックを務められるほどの守備力があり、
なおかつスピードも攻撃力もある。
チャンスの際には最前線に上がっていけるし、最終ラインにも戻れる。
右サイドの市井はフィジカルが強いプレミアでセンターハーフを務める選手だ。
守備力はもちろん、攻撃力、そしてフリーロールをこなせる戦術眼。
攻守両面で状況に応じて的確なポジショニングしてくれるだろう。
ここまでは守備力を重視して選んだ。
そしてチャンスがあれば攻撃にも参加できるメンバーだ。
- 328 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:29
- そして前線の2人、松浦と後藤。
カウンターの際に必要なのはスピードと個人で突破できるテクニックだ。
この点でこの2人に敵うFWはいない。
なおかつこの2人には高い守備意識も兼ね備えている。
そして最後に全てを指揮する柴田。
彼女ならば状況に応じたパスを送ってくれる。
- 329 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:30
- 今日スタメンに選ばれたこの11人。
それぞれがみなその力を如何なく発揮し、
ここまでチェコ代表に互角の勝負を繰り広げている。
この展開に焦りを隠せないのが他の日本代表の選手たちだ。
誰が見てもこの11人の総合力は高い。
攻撃力も守備力も全てが抜きん出ている。
格下相手には攻撃的に、格上相手には守備的でカウンター。
この11人ならば、どんな試合展開でも対応できそうだ。
そしてこの11人の中心、全てを司るのが彼女だ。
柴田あゆみ。
彼女のタクトがこれ以上ないほど華麗に振るわれる。
このパスに後藤や松浦、市井に藤本たちが気持ちよくプレーする。
- 330 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:31
- 「松浦!!」
中盤で保田がボールを奪うとすかさず前線の松浦へ。
松浦はチェコDFを背負いながらもこのボールをキープ。
「亜弥ちゃん!!」
そこへ柴田が中央から上がってきた。
松浦は柴田へ落とし、自分は反転してDFラインの裏を狙う。
柴田はその松浦へパス。
と思いきや、身体は松浦の方を向いているが、ボールは逆サイドに出した。
このパスに反応して抜け出したのが後藤。
チェコDFは柴田のノールックパスに一瞬反応が遅れた。
抜け出した後藤はDFが詰めてくる前に冷静にゴール隅へ、
GKが届かない絶妙のコースに流し込んだ。
前半43分、日本先制点。
- 331 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:32
- 「よしっ!!」
後藤がグッと拳を握り締める。
「ごっちん!!」
「後藤さん!!」
そこへ柴田と松浦が抱き付く。
市井や藤本も駆け寄ってくる。
あの強豪チェコ代表相手に見事な先制点。
日本の実力を世界に見せ付けた瞬間だった。
前半はこのまま終了した。
- 332 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:32
- ロッカールームに戻ったスタメン組。
前半の動きなどをみなで確認し合う。
「亜弥ちゃんとごっちん、もっとポジションチェンジ頻繁にしてチェコDFのマークを引き離そう。
大分チェコもカウンター意識してるから、後半は遅攻が多くなると思うしね。」
「オッケー柴ちゃん。松、後半はそれ意識していこう。」
「はい、オッケーです。」
後藤と松浦が柴田の指示に頷く。
- 333 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:33
- 「紗耶香にミキティ、サイドだけど1人で行ける?」
「大丈夫。任せとけって。」
「あたしも大丈夫です。」
市井と藤本が自信満々で答える。
と言いつつもやはり1人では正直キツイのだが。
その答えを聞いた柴田がニッと笑う。
「なら攻撃も頼むね。パス出すから。走るのサボっちゃダメだからね。」
「げっ、マジで?」
「柴田さん、あんたオニだよ!」
「・・・・・・明日香に保田さん、こんな事言ってますけど。」
市井と藤本がブーブー言うので柴田は福田と保田にふる。
「何言ってんの紗耶香にミキティ。あたしたちがきっちりカバーしてるんだから
攻撃でも役に立ちなさい。」
保田がビシッと言う。
「そうそう。だからといって守備をサボったら・・・・・殺すよ?」
福田がニッと笑う。
その笑みに周りが一瞬で凍りつく。
「わ、わかりましたー!」
「も、もちろんでございますっ!」
市井と藤本がブンブン首を縦に振る。
さすがは福田明日香。
日本が誇る武闘派軍団のドンに相応しい迫力だ。
- 334 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:34
- 「どうですか中澤さん、チェコの攻撃陣は?」
「ああ、さすがはチェコっちゅう感じやわ。一人一人のスキルもあるし、
チームとしてきっちり組織されとる。」
柴田の問いに中澤が答える。
「ホントホント。特にトミ・ナガーの高さ、あれ反則だよ。」
石黒が肩をすくめる。
「ヤダベドもです。あのスピードにテクニック、まさに完璧な選手です。」
紺野だ。
ここまで何とかしのぎきってはいるが、やはりチェコの攻撃陣の破壊力は恐ろしい。
「お互い声掛け合ってカバーしないとね。カオも後ろから指示だすから。」
飯田だ。最高方にいるのでピッチの全てが見える。
それだけに飯田の的確な指示が必要となってくる。
そしてハイボールには当然飯田が要だ。
「お願いしますね。後半、何とかもう1点取りますから。」
「ああ。任せたで柴田。」
前半戦を戦った11人。
この中心にいるのは間違いなく柴田あゆみだった。
- 335 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:35
- この光景に目を細めるツンクにマコト、タイセー、ハタケ。
みな気付いた事をどんどん言い合い、確認し合っている。
上から強制的に言われるのではなく、みなが自主的に言い合っている。
この状況で、もはやツンクたちが言う事は何もない。
言えるのは後半戦、その調子で頑張れ。
それだけだ。
- 336 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:35
- 後半戦が開始された。
柴田の読み通りチェコは1点リードされているが、
日本のカウンターを意識してかDF陣がそれほど上がらなくなった。
ただ、それでも前線の破壊力は抜群だ。
一瞬でも気を抜けばすぐにひっくり返される。
「みんな!!気合入れていくよ!!」
「おうっ!!」
柴田のゲキにみなが応えた。
- 337 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:36
- ボランチのミキツキーから前線のトミ・ナガーへ。
チェコ代表はやはりこの戦い方だ。
特にDFの、サイドバックの押し上げが無くなったため頼れるのはトミ・ナガーの頭だ。
トミ・ナガーが石黒と競り合いながらボールをヤダベドに落とす。
が、ヤダベドにわたる瞬間福田が横からこのボールをかっさらった。
- 338 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:37
- ボールを奪った福田、すぐに柴田に預ける。
柴田はチェコボランチのチェックを受けながらも左サイドの藤本にパスを出す。
このパスを受けた藤本、ドリブルで左サイドを駆け上がる。
とそこへミキツキーがチェックに来た。
「行かせないよミキティ!!抜けるんだったら抜いてみな!!」
ミキツキーが藤本を挑発する。
普段の藤本ならばこの挑発に乗るだろうが、今日の藤本は違う。
柴田あゆみというマエストロの指揮下にいる
左サイドの演奏者、藤本美貴だ。
- 339 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:37
- 「ミキティ!!」
この声に藤本は反応し、ボールを預けて自分は前に走る。
その瞬間マエストロから完璧なリターンが来た。
「ちっ!!」
すぐにチェコ右サイドバックが詰めるが藤本はまたも横にパス。
これを今度は松浦がリターンを返す。
藤本−柴田−藤本−松浦−藤本と、
連続ワンツーで左サイドを完全に切り裂いた。
- 340 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:38
- そして藤本は松浦からのリターンをダイレクトで中に速く、
低いクロスを放り込んだ。
が、これはチェコセンターバックの正面。
余裕を持ってクリア・・・・・の瞬間、
そのチェコセンターバックの真後ろから1人の選手が素晴らしいスピードで飛び込んできた。
後藤真希だ。
後藤はチェコセンターバックの鼻先でこのクロスを合わせる。
ボールはGKの足元を破り、ゴールに飛び込んでいった。
後半12分、後藤今日2点目のゴールで2−0とチェコを突き放す。
- 341 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:39
- オオオオオオオオオ・・・・・・・・・・・
この展開に満員のレトナスタジアムが戸惑いながらどよめく。
欧州でも屈指の実力国、チェコがアジアの日本に2点のリード。
展開としては不甲斐ないが、それ以上に日本の動きが素晴らしい。
個人個人は欧州でも力を発揮しているが、
それ以上にチームとして一つになっている。
福田や後藤、市井、それから藤本に松浦。
実力はあるが、個性の固まりのような連中が、
アクの強い連中が1人の指揮者に気持ちよく動かされている。
- 342 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:40
- 考えてみればオーケストラというのはバイオリンやチェロ、
ヴィオラ、トランペット、フルート、ティンパニなどといった、
弾いたり、吹いたり、叩いたりという全く個性の違う楽器が一つになり、
人を感動させる“音”を生み出すのである。
この個性の違う楽器を一つにまとめ、そしてなおかつその個性を充分に活かした
“音”を引き出すのは誰か?
それは間違いなくマエストロだ。
- 343 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:41
- この後、チェコもホームで敗戦など許されないため形振り構わず攻めてきた。
そこにホームの利である主審の判定も重なった。
紺野のボールを狙ったタックルがファウルと判断されPKに。
これをヤダベドが落ち着いて決め1点差に。
さらにこれも中澤の正当なチャージがファウルとなりFKに。
これをミキツキーが会心のFKを決め何とか同点に追いついた。
- 344 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:41
- 日本2−2チェコ
結局は引き分けに終わった。
が、後半戦の内容はこちらが完全に押していた。
チェコは主審の笛に完全に助けられた形だ。
もちろん主審の判定もサッカーのため、
それが無ければ勝っていたなどと思ってはいけない。
これを教訓とし、今後、アウェーの戦いでは主審のホームよりの
笛を頭に入れつつ戦わねばならない。
しかしそれでもあの欧州の強豪チェコ代表に互角以上の戦いが出来た事は
選手たちに大きな自信となった。
- 345 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:44
- 「アユミ・シバタか・・・・・・」
試合終了後、ヤダベドが呟く。
この試合、柴田の指揮は素晴らしかった。
それは敵ながら惚れ惚れするもので、
彼女自身もそのパスを受けてみたいと思わされた。
が、一方でもう1人の人物を思い出す。
吉澤ひとみだ。
セリエAで対戦した際、ひとみのプレーにも驚嘆させられた。
味方であったらこれほど頼もしく感じる選手はいないだろう。
『・・・・・もったいない。これだけの選手が2人同時に現れるなんて。』
ヤダベドもツンクと同じ考えが頭をよぎった。
この2人は決して共存は出来ない。
どちらかしかピッチに立てず、そして片方は消えていくと。
- 346 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:44
- 「マコト、タイセー、ハタケ。」
ツンクがこの3人の顔を見る。
3人ともツンクが何を言いたいのか分かり、頷く。
「ええで。俺らはお前の考えについていく。」
マコトの言葉にツンクは決心した。
ツンクはこの試合でツンクジャパンの完成形を見た。
今日スタメンで出た11人。
この11人がベストメンバーだと。
それはつまりツンクジャパン最大のテーマに決着がついた事になる。
- 347 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:46
-
―――柴田あゆみと吉澤ひとみ―――
- 348 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:46
-
―――“天使”と“悪魔”どちらを選ぶのか―――
- 349 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:48
- 翌日、欧州各国でもこのチェコVS日本の試合が伝えられた。
どの新聞もテレビも、みなこう伝えていた。
あの“ピクシー”リーエ・ミヤザワビッチの後継者、
アユミ・シバタに率いられた日本代表がチェコ代表に引き分けた・・・と。
- 350 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:48
-
それがツンクの答えだった。
- 351 名前:第6話 マエストロ 投稿日:2004/04/01(木) 21:49
-
第6話 マエストロ (終)
- 352 名前:ACM 投稿日:2004/04/01(木) 21:53
- 第6話 マエストロ 終了いたしました。
今回は序盤はダイジェストのような感じで進めていきました。
そうしないと中々次に進めませんので。
それから遅くなりましたが、前スレの691、名無飼育さん様。
今もこの話を見て頂いているでしょうか?
もしかしたらいつもレスを頂いている方かもしれませんが、
第5話であのドリブル、使わせて頂きました。
しかも2回も。
ありがとうございました。
- 353 名前:ACM 投稿日:2004/04/01(木) 22:10
- では次回の予告です。
第7話 2003−2004シーズン終了
激動の2003−2004シーズンが終わった。
果たしてひとみのエンポリはセリエAに残留できたのであろうか?
さらに他の海外組の成績は?
そしてこの日から2004−2005シーズンが幕を開ける。
移籍市場という、ピッチ以外での熱い戦いによって。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。
- 354 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 22:28
- 更新乙です。リアルタイムで見ちゃいました〜
柴田大活躍ですね。私個人的には“天使”柴田推しなんですが
柴田が活躍すればするほど思うのですが、天使は予想外、想像以上のものが
現れたとき、その翼を剥ぎ取られたとき苦しみもがく姿を想像してしまいます。
その翼を壊すのが味方の悪魔なのか、これから現れる敵なのか・・・
まぁこのチームメンバーなら大丈夫でしょうけどw
メンバーも固まったようですね。現実は全くうまくいっていませんがw
こっちの方には順調にがんばってほしいです。
- 355 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/01(木) 23:25
- 更新お疲れ様です。
昨日の鬱憤をはらしてくれるような対シンガポール戦。
肩すかしを食らった、対ACミラン戦。
それにしてもシンガポール戦からチェコ戦にかけて、柴田のキレは素晴らしいですね。
アジアカップ決勝からオリンピックの第1戦まで、間隔が3日しかないので、どちらにどちらを使うんでしょうね。
後、ハロプロメンバーで唯一出演していない、カン娘のあの人はいつ出てくるでしょうか?
- 356 名前:ななししぃく 投稿日:2004/04/01(木) 23:54
- 前スレの691です。
更新お疲れ様です。毎回楽しませてもらってます。
採用されてとてもうれしいです。
ところで、あの言葉は誰のだと思いますか?
正解はドリブラーかと思いきや、日本代表中田英寿選手の発言です。
物語の中でも司令塔が使ったのは偶然でしょうか?
- 357 名前:みっくす 投稿日:2004/04/02(金) 06:17
- 更新おつかれさまです。
メンバーも決まった様ですね。
はたしてこの結果によっしーはどう動くのですかね。
- 358 名前:名無しぃく 投稿日:2004/04/03(土) 00:39
- 更新お疲れ様です。柴田さんすごいですな。
共存と言えば現実のミランの
ルイ○スタとカ○なんかもそうなんですかね?
この前のシンガポール戦でセ○ジオさんが「Top下に2人いらない」
と言ったのを聞いてまさか日本も・・・なんて考えてしまいますた。
次回も頑張ってください。楽しみにしてます。
今日はマリノスの初勝利(願望)をこの目で見に行きます・・・。タノム
- 359 名前:ACM 投稿日:2004/04/03(土) 20:30
- 354>名無し飼育さん様
レスありがとうございます。リアルタイムで読んで頂いてとても嬉しいです。
でも前回の更新、2時間ほどかかっているんですよね。貴重な時間を潰して
しまって申し訳ありません。
天使、それは美しいけどどこかはかない感じですよね。
果たしてその天使は今後どうなるのか、これからにご期待下さい。
355>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
シンガポール戦は気持ちが入りました。せめて小説だけでも快勝をと。
アジアカップとオリンピック、誰がどっちに選ばれるのか作者も頭を悩ませてます。
それからあの娘ですが、登場はもう少し後になります。
ちゃんと出番は考えておりますので、楽しみにお待ち下さい。
- 360 名前:ACM 投稿日:2004/04/03(土) 20:50
- 356>ななししぃく様
レスありがとうございます。
ずっと見て頂いてたみたいで凄く嬉しいです。
あの言葉、中田のだったんですか?全く知りませんでした。
ユッキエとひとみが使ったのは全くの偶然です。他にも候補いたんですよ。
藤本とかヤダベドとか。偶然ってホント恐ろしいです。
357>みっくす様
レスありがとうございます。
ツンクの中でメンバーもどうやら固まったようです。
が、人間の決める事など悪魔はあっさりとひっくり返してしまいます。
きっと吉澤さんも反撃してくれるでしょう。
何てったって負けず嫌いですから。
358>名無しぃく様
レスありがとうございます。柴田さん、キレキレでした。
ミランの2人はどうでしょうかね?タイプ的には違うので共存は可能かも。
ルイ○スタは完全にパスの出し手ですが、カ○はパスの受け手でもいけますからね。
日本代表の方は2人とも出し手側ですから、役目が被っちゃいますよね。
そしてマリノス、やりましたね。おめでとうございます。
では本日の更新です。
第7話 2003−2004シーズン終了
- 361 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 20:51
- 「よしっ!!」
試合終了の笛を聞いた瞬間、ひとみは右腕を天高く突き上げた。
セリエA第34節対パルマ戦を2−1で勝利し、
エンポリは見事にセリエAに残留した。
ひとみ加入後のエンポリの成績は11勝6分2敗。
ウインターブレイクを最下位で終えたチームが
最終的には7位でフィニッシュするという素晴らしい成績を残した。
- 362 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 20:52
- ひとみ自身の成績は18試合に出場し、11ゴール、7アシストと
まさにサルバトーレに相応しい活躍を見せた。
特筆すべきはゴール数だ。
イタリアはあくまで結果にこだわる。
いくら技術があろうが得点が取れない選手はいらないのである。
ひとみのこのゴール数はFWの選手にも全く劣らないものだ。
この結果がさらにひとみの評価を高めていた。
- 363 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 20:53
- 2003−2004シーズンがこの日終わった。
が、それはすなわち2004−2005シーズンが
幕を開けたという事なのである。
移籍市場という熱い戦いが。
ちなみに移籍期間は年に2回。
7月1日から8月31日と、翌年の1月1日から1月31日の間である。
シーズン開始前と年始に行われるのだ。
が、交渉自体はそれ以前から行われており、
ここでの戦いを制することが次に迎えるシーズンの情勢を
大きく決めると言っても過言ではない。
- 364 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 20:53
- 2004−2005シーズンの欧州各国クラブのファーストラウンド。
それは吉澤ひとみ争奪戦だ。
昨シーズンからインテル、ACミラン、ユヴェントス、ASローマという
イタリアのビッグクラブが獲得に名乗りを上げており、
さらにはスペインからはセルタ・デ・ビーゴとアトレチコ・マドリーが。
イングランドからは新オーナー誕生で資金が豊富なチェルシーが手を上げた。
そしてドイツでもボルシア・ドルトムントがひとみ獲得に名乗りを上げた。
さらには水面下で複数のクラブが動いているという情報もあり、
この日本のファンタジスタの動向は今一番注目されていた。
- 365 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 20:54
- 「ヨシ、どうするの?移籍するの?」
「んー、正直わかんない。どっちがいいのか。」
エンポリのクラブハウス。
ここでひとみとディ・カリーナ、
それからマユコがティールームで談笑していた。
この3人はこの移籍市場で注目を浴びている3人だ。
- 366 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 20:54
- 「わかんないってどういうこと?」
マユコがひとみに尋ねる。
「・・・・あたし、まだセリエAに来て半年しか経っていないんです。
それなのにいきなりビッグクラブに行ってもやっていけるかどうか・・・・・。
もう1シーズンエンポリで過ごして、それから移籍でもいいかなって。」
「なるほどね。・・・でも“約束”を早く果たしたいんでしょ?」
ディ・カリーナの言葉に深く頷くひとみ。
そう、親友との“約束”。
チャンピオンズリーグ決勝で戦うという大事な“約束”。
これを果たすためにはエンポリでは無理である。
そう考えると一刻も早くビッグクラブに移籍する必要があるのだが、
やはり半年かそこらセリエAで活躍したからといってすぐに
ビッグクラブで活躍できるとは限らない。
そこが悩みどころだ。
- 367 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 20:55
- 「カリーナはどうするの?」
ひとみがディ・カリーナに尋ねる。
「あたしは移籍するよ。もう決めた。」
ディ・カリーナは力強く言い切った。
「え、そうなの?で、どこに?」
「ASローマ。」
「えっ?!!」
ディ・カリーナの言ったクラブ名に驚くひとみとマユコ。
「ASローマ?でも右サイドには・・・・」
「うん、ユーミンがいるね。多分あたしはバックアッパーだと思う。
けど、あたし、ずっとローマのファンだったんだ。
だからここで絶対にレギュラーを取ってみせる。」
「そうだね。ずっとローマのファンだったもんね。
まあカリーナはFWでもいけるし、きっと試合に出れるだろうしね。
頑張りなさい。」
マユコが柔らかい笑顔を見せる。
- 368 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 20:59
- 「マユさんはどうするんですか?」
ディ・カリーナが尋ねる。
マユコも移籍市場を賑わせている1人だ。
絶好調だったエンポリを攻守に渡って支え、そしてアズーリにもデビューした。
さらにはオガタットーニ監督、ユッキエから絶賛されたのだ。
これで注目されないわけがない。
「あたしは移籍しないよ。ずっとエンポリに残るつもり。」
が、マユコに移籍の意志はなかった。
選手生命もそんなに残っているわけではない。
だからこそこの愛すべきクラブで現役を終えたいという気持ちが強い。
「あなたたちはまだ若いんだからどんどん前に進めばいいと思う。
それが例え失敗しても、絶対に無駄にはならないから。
ヒトミ、あなたも迷うなら前に進みなさい。
そうすればきっと道は開けるから。」
「マユさん・・・・・はい。」
マユコの言葉はひとみの背中を優しく押した。
ひとみは決心した。
やれるだけやってみようと。
- 369 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:00
- 「で、ヒトミ。君に希望はあるか?どこのチームとか、どこの国とか?」
代理人、ロベルト関口がひとみに尋ねる。
マユコとディ・カリーナに背中を後押しされ、
ひとみは移籍に対して前向きになった。
となると今度は各クラブとの交渉になる。
この交渉で要となるのが代理人だ。
交渉のプロとして選手に少しでも有利な条件を引き出し、話をまとめる。
それが代理人だ。
- 370 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:00
- ロベルト関口はこの世界でトップの代理人だ。
それは彼が担当する選手を見れば一目瞭然だ。
ナナコーヌ・マツシマ、ヒカルド、ナカマチェスコ・ユッキエ。
世界に名だたる選手ばかりである。
そのトップの代理人が何故ひとみに?
もちろん、彼女の鶴の一声である。
イタリアが誇る、欧州をも動かすわがままプリンセスの。
- 371 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:01
- あれ以来(ユッキエとの対戦)、プライベートでも何かと付き合いが
あったひとみとユッキエ。
シーズンが終了し、ローマで2人が会っている際に
ひとみが移籍を考えているとユッキエに言った途端、
「ちょっと待ってて。」
とユッキエはどこかに電話をかけた。
誰に電話してるんだろ?
ひとみがそう思っているとほいっと電話を渡された。
「代理人見つけといたから。後はその代理人と決めなよ。」
- 372 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:02
- 名前を聞けばあのロベルト関口ではないか。
欧州で活躍する選手ならば誰もが彼に代理人についてもらう事を夢見る。
それほどの代理人だ。
そんな彼がひとみの代理人に付いてくれるだけでなく、
これからの事を話し合うため、わざわざエンポリにまで来てくれるとの事だった。
そして今、その話し合いが行われていたのだ。
さすがはプリンセス。
彼女にかかれば関口もこの通りだった。
- 373 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:03
- 「えーっと、特にここっていうのは決めてはいないんですけど、
あたしとしてはスペインはちょっと遠慮させてもらいたいです。」
ひとみの言葉に意外といった表情を浮かべる関口。
「それは一体どうしてだね?日本ではリーガエスパニョーラが
大人気なんじゃないのか?」
関口の言うとおりリーガエスパニョーラはあの銀河系選抜
レアル・マドリードを筆頭とする攻撃に重きを置く姿勢のため
日本でかなりの人気を誇っている。
- 374 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:03
- 「あの、その、ホントたわいもない理由かもしれないんですけど。
あたしの夢はチャンピオンズリーグの決勝でごっちん、
レアル・マドリードの後藤真希と対戦することなんです。
ですから、スペインリーグだと普段から対戦できちゃうんで・・・・」
ひとみの言葉に眼を丸くする関口。
予想外の返答が来たからだ。
「あ、あの、やっぱダメですか?こんな理由じゃ・・・」
ひとみは言った後でしまったと思った。
こんな個人的な理由で納得してくれるはずがない。
- 375 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:04
- 「わはははははは!!!!」
が、関口は豪快に笑った。
「いい!!いいよそれ!!ヒトミ、それはいい夢だ。
ぜひ追いかけるべきだし、国やクラブを選ぶのに相応しい理由だ。
そうか、チャンピオンズリーグ決勝で日本人対決か・・・・・
昨シーズンは日本人対決が実現しなかったから、
今シーズンこそは実現して欲しいね。」
- 376 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:05
- 関口の言うとおり、2003−2004シーズンにおいて
チャンピオンズリーグで日本人対決は幻に終わった。
グループリーグを突破し、決勝トーナメントに進んだ
16チームは以下の通り。
ユヴェントス(イタリア)
バーゼル(フランス)
マンチェスターユナイテッド(イングランド)
ボルシア・ドルトムント(ドイツ)
バレンシア(スペイン)
アーセナル(イングランド)
アヤックス(オランダ)
ASローマ(イタリア)
バルセロナ(スペイン)
インテル(イタリア)
ニューカッスル(イングランド)
レバークーゼン(ドイツ)
ACミラン(イタリア)
レアル・マドリード(スペイン)
ラ・コルーニャ(スペイン)
ロコモティフ・モスクワ(ロシア)
まさに世界を代表するビッグクラブが16強に残った。
- 377 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:13
- 決勝トーナメント1回戦は以下の組み合わせとなった。
ユヴェントスVSマンチェスター・ユナイテッド
インテルVSバルセロナ
ドルトムントVSアーセナル
バレンシアVSレバークーゼン
R・モスクワVSACミラン
ニューカッスルVSレアル・マドリード
アヤックスVSバーゼル
ASローマVSラ・コルーニャ
- 378 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:15
- 各チームともホーム・アウェーで試合を行い
その結果、以下の8チームが準々決勝にコマを進めた。
マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)
インテル(イタリア)
アーセナル(イングランド)
バレンシア(スペイン)
ACミラン(イタリア)
レアル・マドリード(スペイン)
アヤックス(オランダ)
ラ・コルーニャ(スペイン)
- 379 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:16
- 決勝トーナメント1回戦まで日本人選手は4人残っていた。
が、この1回戦でイタリアの王者ユヴェントスが敗れ、福田明日香は姿を消した。
相手がいくらマンチェスター・ユナイテッドとはいえ、ホーム・アウェーともに
無得点(2−0、1−0)で敗れるという王者らしからぬ戦いであった。
この試合、ユーヴェの弱点が露呈された。
それはストライカーの不在である。
ユーヴェはGKにフカキョン、DFにトダム、MFボランチに福田とマヤミッキ、
トレクァルティスタにマツシマ、セコンダプンタにハセキョンとワールドクラスが
揃っているが、唯一ゴールに押し込むプリマプンタが欠けていた。
自国でのリーグ戦ならばそれでもマツシマ、ハセキョンによって勝てるが、
チャンピオンズリーグという欧州のビッグクラブが集う戦いではそうもいかない。
- 380 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:17
- 一方、マンチェスター・ユナイテッドはオランダ代表マツ・ユキ・ヤスコローイ
というストライカーの理想型と言われるFWがおり、
セカンドストライカーにはイングランド代表のタバタ・ナズナールズ。
MFには世界最高の左ウイング、ウェールズ代表マツシタ・ユキス。
小さな魔法使い、アルゼンチン代表マイ・セバスチャン・クラキ。
闘将、もしくは極道の妻、アイルランド代表シマ・キーン。
貴公子、イングランド代表ルイビット・シバサキ。
DFにイングランド代表マオ・ダイチナンドと、
こちらはまさに完璧な陣容。
特に最前線での差が、そのままユーヴェとマンチェスターの差になった。
マンチェスターの得点は全てヤスコローイ。
ユーヴェはチャンスを数多く創るものの無得点。
結果が全てを物語っていた。
- 381 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:17
- さらに松浦亜弥のバルセロナもインテルのカテナチオを崩せず2試合とも引き分け。
が、アウェーゴールルールによりインテルが勝ち抜けた。
松浦はベンチ入りするものの、出場機会には恵まれなかった。
来シーズンこそ必ず出ると、意気込んでいた姿が印象的だった。
市井のアーセナル、後藤のレアルは順調に勝ち抜き、準々決勝にコマを進めた。
- 382 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:18
- そして抽選の結果、準々決勝は以下の通りになった。
ACミランVSラ・コルーニャ
R・マドリードVSマンチェスター・ユナイテッド
アーセナルVSバレンシア
インテルVSアヤックス
- 383 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:19
- 準々決勝の注目はやはりレアルVSマンチェスターだろう。
どちらも世界のトップクラスばかりを集めた陣容。
チャンピオンズリーグでなければ実現しない夢の対決。
まず先手はホームのレアル。
後藤、ヒカルド、そしてユウーコがそれぞれ1ゴール奪い、
3−1でマンチェスターに快勝した。
が、第2戦のアウェーではレアルの守備陣が崩壊。
ヤスコローイに2得点、ナズナールズに1得点、
さらにはクラキにも1点決められ4失点。
レアルもアルゼンチン代表シマタニッソが1点返すがこれで精一杯。
合計スコア5−4でマンチェスター・ユナイテッドが準決勝にコマを進めた。
“日本が産んだ天才”後藤真希の初のチャンピオンズリーグは準々決勝で幕を閉じた。
その他ではACミラン、アーセナル、そしてインテルが準決勝に進出した。
- 384 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:20
- そして準決勝の組み合わせが決まった。
ACミランVSインテル
アーセナルVSマンチェスター・ユナイテッド
残ったのはイタリア勢とイングランド勢。
しかも準決勝では互いの国同士の戦い。
つまり、この試合の勝者がその国の代表として決勝を戦うのである。
しかも相手が永遠のライバル同士。
これほど熱いチャンピオンズリーグ準決勝はない。
そして日本人は市井紗耶香、ただ1人になった。
それだけに市井のアーセナルに日本人の全期待がかかった。
- 385 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:22
- まずはミラノダービー。
4月20日に行われたミランホームの試合は、
お互い様子を見るといった感じで0−0のスコアレスドローに終わった。
そして迎えた5月5日、インテルホームの試合。
しかしこの時、ミランとインテルでは情勢が全く違っていた。
5月2日、セリエA第32節が行われた。
この時点でミランは首位ユヴェントスと勝点2差の2位。
一方インテルはミランから8、首位のユーヴェからは10も勝点を離された3位だった。
当然ミランはスクデットを目指せるため5月2日の試合にも全力で当たらねばならない。
が、インテルはもう優勝の可能性がほぼ無いため、チャンピオンズリーグ一本に絞ることが出来た。
よって第32節、対パルマ戦ではヤイコ、ヨネクラン、タカコッティを温存。
カンノバーロやシゲルッツィも後半開始早々交代させることで、
このチャンピオンズリーグ準決勝第2戦に万全の状態で臨むことが出来た。
- 386 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:23
- 一方ミランはブレシアとの対戦。
本来ならば下位チーム相手だとこちらもメンバーを落とす事が出来るのだが、
ブレシアにはあの選手がいた。
イタリアの至宝、ヤマグチ・トモコオが。
彼女相手にいくらミランとはいえメンバーを落とす事など出来ない。
ミランはベストメンバーでこの試合に臨む。
が、試合はヤマグチのファンタジーとブレシアディフェンスの粘りの前に1−0で敗れた。
これでユーヴェとの勝点が5開き、スクデットはほぼ絶望。
なおかつこの3日後のチャンピオンズリーグ第2戦でもブレシア戦での疲労がたたり、
ヤイコとヨネクランに止めを刺されてしまった。
まずイタリア対決はインテルが制し、決勝に臨むことが決まった。
- 387 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:23
- 続いてプレミア対決。
こちらはシーズンの勢いがそのまま結果となって現れた。
シーズン序盤はアーセナルがぶっちぎりだった。
無敗記録を順調に伸ばし、破竹の勢いでトップを走っていた。
一方、マンチェスターは序盤の3戦を1分2敗とスタートダッシュに失敗。
いきなりアーセナルに大きく引き離される展開となった。
が、シーズンも後半戦を迎えると状況は一変。
どのチームもアーセナルに対して包囲網をしき、
なおかつ選手たちのコンディションも落ちてきた。
そして無敗記録が23で途切れると、その後糸が切れたかのように5連敗。
名将ザイゼン・カラサワでもどうする事も出来なかった。
これとは逆にどんどん調子を上げていったのがマンチェスター。
こちらは名将サトミックス・ファーガソンがチームを上手く立て直した。
- 388 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:29
- その状態で迎えたチャンピオンズリーグ準決勝。
結果はやはり勢いがあったマンチェスターが勝利した。
ホーム、アウェーともに2−1でマンチェスターが制した。
市井紗耶香は1人奮戦し、アーセナルの全得点を彼女が上げるものの、
頂点には後一歩届かなかった。
しかし最後の最後まで諦めずに戦うその姿に、日本人はもちろんのこと、
欧州各国の人々が感動させられた。
まさに全ての日本人が誇りに出来るプレーだった。
- 389 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:31
- そして5月26日、決勝戦。
インテルVSマンチェスター・ユナイテッド。
藤本美貴が所属するシャルケ04のホームスタジアム、
アレナ・アウフシャルケで行われたこの1戦。
GKイタリア代表ミズノ、DFイタリア代表ミホ・カンノバーロ、
ムロイ・シゲルッツィを中心に守り、
後はヨネクランとヤイコに全てを任せるというインテル。
DFイングランド代表マオ・ダイチナンド、
MFアイルランド代表シマ・キーンがマツシマが守り、
アルゼンチン代表マイ・セバスチャン・クラキ、
ウェールズ代表マツシタ・ユキス、イングランド代表ルイビット・シバサキ、
FWイングランド代表タバタ・ナズナールス、オランダ代表マツ・ユキ・ヤスコローイ
のマンチェスター・ユナイテッド。
- 390 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:32
- 圧倒的なマンチェスターの前線の圧力を
インテルディフェンス陣は必死に跳ね返す。
が、彼女の黄金の右足がついにインテルディフェンスを屈服させた。
世界の貴公子、ルイビット・シバサキ。
世界一といわれるそのFKがインテルゴールを奪った。
このゴールにインテルは攻めなければならなかったが、
やはり中盤でタメを創れる、必殺のパスを出せる選手がいないことが
最後まで響いた。
結局最後にヤスコローイにもゴールをこじ開けられ、
2−0でインテルは敗れた。
- 391 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:33
- この結果、マンチェスター・ユナイテッドは国内リーグ、FAカップ、
そしてチャンピオンズリーグと3冠を達成。
まさに2003−2004シーズンはマンチェスター・ユナイテッドの
シーズンとなった。
“赤い悪魔”が欧州を征服したシーズンであった。
- 392 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:33
- ちなみに2003−2004シーズンの各国のリーグ戦の上位は以下の通り。
<イタリアセリエA> <スペインリーガエスパニョーラ>
優勝:ユヴェントス 優勝:レアル・マドリード
2位:ACミラン 2位:バルセロナ
3位:インテル 3位:デポルティボ・ラ・コルーニャ
4位:ASローマ 4位:バレンシア
5位:ラツィオ 5位:レアル・ベティス
7位:エンポリ
<イングランドプレミアリーグ> <ドイツブンデスリーガ>
優勝:マンチェスター・ユナイテッド 優勝:バイエルン・ミュンヘン
2位:アーセナル 2位:ボルシア・ドルトムント
3位:チェルシー 3位:シュツットガルト
4位:リヴァプール 4位:ハンブルガーSV
5位:ニューカッスル 5位:シャルケ04
【得点王】
セリエA 25得点 ヨネクラン・リョウコ(インテル)
リーガエスパニョーラ 29得点 キムラ・ヨシーノ(ラ・コルーニャ)
プレミアリーグ 25得点 マツ・ユキ・ヤスコローイ(マンチェスターU)
ブンデスリーガ 28得点 トミ・ナガー(ボルシア・ドルトムント)
- 393 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:34
- <海外日本人選手の成績>
エンポリ 吉澤ひとみ 18試合 11得点 7アシスト
ユヴェントス 福田明日香 33試合 11得点 5アシスト
レアル・マドリード 後藤真希 34試合 19得点 11アシスト
バルセロナ 松浦亜弥 14試合 6得点 2アシスト
アーセナル 市井紗耶香 35試合 8得点 6アシスト
シャルケ04 藤本美貴 14試合 4得点 4アシスト
このうち4人がチャンピオンズリーグに出場。
市井にいたっては準決勝までコマを進めた。
さらにはユヴェントスの福田とレアル・マドリードの後藤がリーグ優勝。
ひとみ、松浦、藤本も欧州デビューを飾るなど、
2003−2004シーズンは日本人選手が大きく飛躍したシーズンだった。
- 394 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:35
- 「じゃあヒトミ。移籍するならばチャンピオンズリーグに
出場出来るチームだな。」
関口の問いに深く頷くひとみ。
後藤と戦うためには当然そうなる。
「となるとオファーが来たチームはほとんど大丈夫だな。
まあいくつかはチャンピオンズリーグ予備3回戦からの出場に
なるチームもあるが、それは特に問題はないだろう?」
「はい、それはもちろんです。」
「よし。じゃあこれから具体的な話に入ろうか。」
関口の言葉に姿勢を正すひとみ。
これで自分の将来が決まるのである。
それだけに真剣だ。
- 395 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:36
- 「移籍というものは正直言って難しい。
移籍をしたことによって潰れてしまった選手は山ほどいる。
しかし一方で移籍によって大きく飛躍した選手、復活した選手もいる。
だからこそチーム選びは重要だ。ここまでは当然分かるね?」
「はい、もちろんです。」
当然である。
分かっているからこそ移籍するかどうか迷っていたのだから。
- 396 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:37
- 「よし。で、次は国だ。どこの国のリーグに行くかだ。
これはチームを選ぶ事と同じぐらい、いや、もっと大事なんだ。
各国のリーグにはそれぞれ特徴がある。
簡単に言うとセリエAだったらやはりフィジカル。
リーガエスパニョーラならばテクニック。
プレミアだったら強さと速さというふうにね。
だからこそ自分に合うであろう国を選ぶ事が大事なんだ。
たまに自分の弱点を補うためにあえて苦手なリーグに行くという選手もいるが、
それは僕はお薦めしないな。」
「え、どうしてですか?」
「それは最初からハンデを背負っているからだよ。
例えばフィジカルの弱い選手がセリエAに来たとする。
当然最初は通用しないよね。
けどその選手にしたら今は通用しなくてもいずれ弱点を克服して
活躍してみせるって思うだろうけど、クラブ側からすれば
こんな選手を使う余裕なんてないよ。
だって弱点を克服している期間、その選手がクラブの弱点になるんだから。
競り合いに勝てないんだったらそこがクラブにとって穴になるからね。
で、結局いくらテクニックが凄かろうが試合に使われなくなり、
試合感も落とす、成長期を逃す、最後には自分の国に帰る、このパターンだ。」
- 397 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:38
- 「・・・・なるほど。となるとあたしは・・・・・・」
ひとみは関口の言葉に納得し、考え込む。
どこが自分に合っているのか。
「ヒトミならばイタリアはもちろん、イングランド、ドイツでも充分
やっていけると思うよ。君のフィジカルの強さ、スピードはかなりの
ものだからね。そういった面では欧州のどこの国に行っても大丈夫だろう。
で次は自分のポジション、つまりその国で流行っているシステムも考えなければ
ならない。」
「え、ポジションとシステムですか?」
「ああ。僕が見たところ、君に一番合っているポジションは
やはりトレクァルティスタだと思う。
もちろん元DFだからDFも出来るし、
そのフィジカルと得点能力を活かしてプリマプンタ、
セコンダプンタもいけるだろう。
しかし君の一番の武器は“ファンタジスタ”だ。
それを活かすためにはやはりトレクァルティスタが一番だ。
セコンダプンタでも悪くはないが、君の元DFという経歴を活かすならば
やはり中盤の方がいいだろう。守備でも貢献できるからね。」
「なるほど、という事はあたしをトレクァルティスタで使ってくれる
チーム、つまりトレクァルティスタを採用しているチームとリーグを
選ぶことが大事なんですね。」
「そうだ。その通り。まあそれが全てではないけどね。」
- 398 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:40
- それからしばらく関口とひとみの話合いは続いた。
そしてそれが一段落し、今日の話し合いは終わった。
「移籍って難しいですね。」
ひとみが呟く。
今日一日で1年分ぐらい頭を悩ませた感じだ。
「そうだね、難しいね。でもヒトミは恵まれてるよ。
今回の移籍、君に全て決定権があるのだろう?」
「あ、はい。そうなんです。モトオ会長があたしの行きたい
チームに移籍していいって言って下さったんです。」
ひとみの言うとおり今回の移籍は全てひとみに決定権があった。
クラブの事を考えればやはり一番ひとみを高く買ってくれる所に売りたいところだ。
が、エンポリ会長オオツィボ・モトオがセリエA残留を果たしてくれたサルバトーレに対して
最大限の敬意を払ったのだ。
「こんなのって普通ないよ。大抵は希望とか特性とか関係なしに移籍が決まるからね。
だからこそ今回、しっかりとクラブを決めよう。」
「はい、そうですね。関口さん今日はどうもありがとうございました。
これからもまたよろしくお願いします。」
ひとみは深々と頭を下げた。
- 399 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:41
- それからひとみと関口は何度か話し合い、
そしてひとみ獲得に名を上げたクラブを訪れ、
移籍に対しての交渉に当たった。
まずはイタリアの4つのクラブ。
トリノでユヴェントス、ローマでASローマ、
そしてミラノでACミランとインテル。
続いてイングランドでチェルシー。
そしてドイツでボルシア・ドルトムントと。
スペインのクラブにはチャンピオンズリーグ出場が
条件という事で断りを入れた。
- 400 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:43
- どのクラブも魅力的だ。
ユヴェントスには目標とすべきマツシマ、偉大なるパイオニアの福田明日香、
さらにはハセキョンもいる。
2003−2004シーズンは4−3−1−2システムだったが、
ひとみが入ればダブルボランチ、ダブルオフェンシブハーフの
4−4−2システムに変えるとユーヴェ幹部は明言した。
これが実現すれば中盤はひとみ、マツシマ、福田、マヤミッキという
恐るべき陣容になる。
- 401 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:43
- ローマには何といってもマツシマの後継者に名を連ねるユッキエがいる。
ひとみが加わればユッキエとひとみのダブルトレクァルティスタという
誰もが羨むようなコンビが生まれる。
“スーペルユッキエ”“スーペルひとみ”という最強コンビが。
そして周りは忠義に厚い屈強の兵士軍団。
姫とそのダチにきっちり尽くしてくれるだろう。
- 402 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:44
- ACミランはアユウド、ヒロスエというファンタジスタが2人いるが、
そこにひとみを加え、3人のファンタジスタを2列目に並べるつもりだ。
しかもアユウド、ヒロスエともにサイドハーフもこなせるため、
中央にひとみを置くと言っている。
そして前線にはマヨザーギとナオチェンコというパスの送りがいがあるFWがいる。
ここならばひとみのファンタジーを十二分に活かせるだろう。
- 403 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:45
- インテルは前線にヨネクランとヤイコがいるが、
今まで彼女らを活かせるMFがいなかった。
その結果、チャンピオンズリーグは準優勝に終わったのだ。
それだけに必殺のパスを出せるひとみをどうしても欲しがった。
ヨネクラン、ヤイコ、そしてヨシザワの“3Y”。
これが来シーズンインテルが頂点に立つ切り札だ。
が、心配の種は監督のオシオル・マーナブ。
彼の採用するシステムはフラットな4−4−2。
これだとひとみのポジションがない。
それはイブ・マサッティ会長が説得すると言っているが果たして?
- 404 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:47
- チェルシーは新オーナー、テツヤ・コムロビッチが就任しチーム大改革に乗り出した。
とにかく豊富な資金を使って一流選手を揃えようとした。
マンチェスター・ユナイテッドのマイ・セバスチャン・クラキ。
レアル・マドリードのフランス代表マナーミ・コニシシ。
ウェストハム、イングランド代表リョウ・コール。
ブラックバーン、アイルランド代表サカイン・ミキ。
パルマからルーマニア代表タナカアン・レナァ。
そしてエンポリ、日本代表吉澤ひとみ。
これだけの選手にオファーを出している。
それだけに新加入選手にとってやりやすい雰囲気であろうし、
どんなサッカーが出来るのか興味もある。
- 405 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:48
- そしてボルシア・ドルトムント。
ここにはチェコ代表コンビFWトミ・ナガー、トップ下にミキツキーがいるが、
ひとみが加入すればひとみがトップ下、ミキツキーはチェコ代表と同様、
ディフェンシブハーフに下がる。
となるとFWにトミ・ナガー、トップ下にひとみというストロングヘッダー2人が揃う。
さらに彼女たちを活かすサイドの選手も充実している。
中々いい感じだ。
一番エンポリにプレースタイルが近いので、ひとみとしてもやりやすいだろう。
- 406 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:49
- 全てのクラブと話し合いを進めてきたが結論は出なかった。
どのクラブも歴史があり、なおかつ今現在も勢いがある。
さらには一緒にプレーをしてみたいと思う選手もいる。
話を聞けば聞くほど迷ってしまうひとみ。
が、そんなひとみに決断をさせたのはやはり彼女だった。
永遠のライバル、柴田あゆみ。
- 407 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:50
- 『柴田あゆみ、イタリアセリエAペルージャに移籍!!!』
6月1日。
この記事が欧州各紙の紙面に踊った。
- 408 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:50
- 「えっ?!!柴田さんイタリアに?!!」
この記事に驚くひとみ。
まだ6月に入ったばかりのため正式発表はではないが、
どうやら互いに同意しているとのこと。
裏事情に詳しい関口に尋ねるとこれはほぼ間違いないとの事だった。
- 409 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:51
- 『そっか、柴田さんイタリアに来るんだ・・・・・・・』
自分のライバルがイタリアに来る。
そう考えただけで何かこう熱いものがこみ上げてくる。
あ、なんだ、そうか。
- 410 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:52
- ひとみは気付いた。
確かに関口の言うとおりクラブを選ぶことは大事だ。
自分に合うところを選ぶことも大事だ。
が、それ以上に大事な事があったのだ。
それは自分の気持ちだ。
自分はこの欧州の舞台で一体何がしたいのか?
- 411 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:53
- あたしは、毎週熱い戦いがしたい。
心の底から燃えるような戦いを。
- 412 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:54
- そう考えればおのずと選ぶクラブは決まってくる。
何故わざわざ自分からライバルたちとの対戦を無くす必要がある?
ひとみは決めた。
6月3日。
イタリアのみならず欧州、それからもちろん日本でもこの記事が踊った。
- 413 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:55
-
『吉澤ひとみ、イタリアセリエAインテルミラノに移籍!!!』
- 414 名前:第7話 2003−2004シーズン終了 投稿日:2004/04/03(土) 21:56
-
第7話 2003−2004シーズン終了 (終)
- 415 名前:ACM 投稿日:2004/04/03(土) 22:01
- 第7話 2003−2004シーズン終了 終了いたしました。
今回はちょっとした裏舞台です。ですので試合シーンはありませんでした。
今までひとみと日本代表をメインに話を進めてきました。
が、その裏ではチャンピオンズリーグ、それから他の国のリーグも
当然行われていたわけです。
もちろん福田、市井、後藤、松浦、藤本も毎週リーグ戦を戦っていました。
それをちょっとだけでも(成績だけですが)紹介したかったのでこういう形に
なりました。
- 416 名前:ACM 投稿日:2004/04/03(土) 22:12
- では次回の予告です。
第8話 アジアカップ
いよいよアジアカップが開幕した。
この大会に参加する日本代表の選手は誰なのか?
オリンピック代表には一体誰が選ばれたのか?
全ては日本代表監督ツンクの決断次第だ。
はたして彼が選んだのは?
次回もよろしくお願いいたします。
- 417 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/03(土) 22:19
- 更新お疲れ様です。リアルで読ませていただきました。
2003−2004シーズンのチャンピオンリーグでの日本人対決は、実現しませんでしたか。
それにしてもまたもやユッキエが動いていたとは(w
そのおかげで移籍先も決まったみたいでよかったですね。
4強+ペルージャの戦いが楽しみです。
あっ、その前にオーナーが監督を口説けるかどうかですね(w
次回の更新を楽しみにしてます。
- 418 名前:みっくす 投稿日:2004/04/04(日) 00:13
- 更新おつかれさまです。
またライバル対決がひとつ増えるようですね。
その前にオーナーが監督を口説けるかどうかですね。
あと、代表にはよっしーは選ばれるのでしょうか?
次回の更新楽しみにしてます。
- 419 名前:名無しぃく 投稿日:2004/04/06(火) 00:39
- 更新お疲れ様です。
CL日本人対決はなかったのはちょい残念ですが大健闘ですね。
柴田さんのれからの動向が気になりますです。
現実の誰かさんのようにならない事を祈りつつ・・・。
次回も楽しみにしとります。
おかげ様でマリノス勝ちました。横浜FCも今だ負け無し・・・。(東京人ですw
- 420 名前:ACM 投稿日:2004/04/10(土) 01:00
- 417>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
ユッキエさん、今回も大活躍でした。今や困った時のユッキエさんです。
これで2004−2005シーズンのセリエAがさらに盛り上がると
思います。その話はまだまだ先ですが、どうぞご期待下さい。
418>みっくす様
レスありがとうございます。
ライバル対決が増える事は吉澤さんにとってありがたいことでしょう。
特に相手があの柴田さんですから。
しかしその前にアジアカップとオリンピックです。果たして吉澤さんは
どうなるか?今回の話にご期待下さい。
419>名無しぃく様
レスありがとうございます。
柴田さんのこれからですが、作者自身も気になる所です。
まさしく現実のあの人のようにならないで欲しいです。
フィジカルのセリエAに行く事が果たして吉と出るか凶と出るか?
柴田さんの未来にご期待下さい。
- 421 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:01
- 柴田あゆみがイタリアセリエAペルージャに。
吉澤ひとみが同じセリエAのインテルミラノへの移籍が決まった。
日本のトップ下を争うライバル2人がイタリアで競演する。
日本人にとってたまらない状況となった。
さらに他の海外組も健在であり、
みな早くも2004−2005シーズン開幕を楽しみにしていた。
- 422 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:02
- が、その前に欧州ではEURO2004が、アジアではアジアカップが行われ、
そして8月11日、ギリシャのアテネにおいてオリンピックが行われる。
そのアテネオリンピックに出場する16ヵ国が全て決まった。
欧州枠(4) ギリシャ 南米枠(2) ブラジル
フランス アルゼンチン
ドイツ 北中米枠(2) メキシコ
イタリア アメリカ
アジア枠(3)日本 アフリカ枠(4) カメルーン
韓国 モロッコ
サウジアラビア ナイジェリア
セネガル
オセアニア枠(1)
オーストラリア
各大陸ともほぼ順当通りと言っていいだろう。
強豪国が順調に予選を突破し、オリンピック本番に名乗りを上げた。
本番までいよいよ2ヶ月を切った。
- 423 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:02
- 5月30日のアイスランド戦、6月1日のイングランド戦と
2試合の親善試合を終えたツンクジャパン。
アイスランドには2−1で勝利するものの、
イングランドにはさすがに敵わず、2−1で敗れた。
が、最後の最後まで日本も攻めており、
EURO本番前のイングランド相手に大善戦と言っていい内容だった。
- 424 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:03
- そして6月9日。
ドイツワールドカップアジア1次予選第3戦、対インド戦を迎えた。
この試合、ツンクは国内組だけで臨んだ。
これは日本で行われる事、海外組はシーズンを終えたばかりである事、
そして国内組はシーズン途中で体調も万全という事を考慮した結果だ。
海外組には今のうちゆっくりと身体を休めてもらい、
今がシーズン真っ盛りの国内組に頑張ってもらう。
ワールドカップ予選というのは国と国との戦いだ。
この戦いは何人かの特定の選手たちだけで戦うのではない。
日本人選手全員で戦わねばならないのだ。
もちろんこの試合、活躍したのは彼女だ。
背番号10、マエストロ柴田あゆみ。
ゴールこそなかったものの、村田の2ゴール、アヤカの1ゴールをアシスト。
4−0(残る1点は石川のFK)でインドに快勝した。
- 425 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:04
- 「ようしっ!!」
ツンクがグッと拳を握り締める。
1次予選6戦のうち、3戦を終えた。
ここまでもちろん3連勝。
このままの勢いで進めば、恐らく1次予選突破は間違いないであろう。
次の日本代表の試合はちょうど1ヶ月後のキリンカップだ。
7月9日にスロバキア代表、13日にセルビア・モンテネグロ代表と試合を行う。
そして17日、アジアカップが開幕する。
という事は7月9日に選ばれるメンバーがアジアカップ組という事になる。
果たして誰がアジアカップで、誰がオリンピックに出場するのか?
- 426 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:04
- 「もうほとんど構想は出来ています。
ただ、数人の入れかえはあるかもしれませんが。」
インド戦終了後、ツンクはこう語った。
どうやらメンバーについてはほとんど決断しているようだ。
しかしそれも日本代表フィジカルコーチ、
ハタケの報告によって全てご破算となった。
- 427 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:05
- 「ツンク、悪い知らせや。吉澤のやつ、アジアカップ完全にアウトや。」
「何やて?!!」
ハタケの知らせに絶句するツンク。
ハタケは6月9日のインド戦後、欧州に飛んだ。
それは各チームのメディカルスタッフに話を聞いて選手たちの体調を把握し、
今後のアジアカップやオリンピックにいけるかどうか確認するためだ。
ちょうどこのころ、ひとみがインテル移籍に際してメディカルチェックを受けていた。
が、その結果は驚くべきものであった。
ひとみの身体はボロボロだったのだ。
身体のいたる所に慢性的な疲労が色濃く残っていたのだ。
- 428 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:06
- この結果に、診断したドクターは驚きの表情を隠せなかった。
「よく今までこの状態で戦ってこれたものだ。
もし、あと試合が数試合あったならば取り返しがつかなかったかもしれん。」
セリエAが終わったのは5月の中旬。
それから約1ヵ月ほど経っている。
つまり1ヶ月近くオフだったということだ。
それにも関わらずこの結果。
いかにひとみの身体が限界に来ていたかという事だった。
ひとみはまるまる1ヶ月間ドクターストップ。
これだとアジアカップはもちろん、
下手するとオリンピックも間に合わないかもしれない。
「これは・・・・・最初から考えなおさなアカン。」
ツンクはすぐにマコト、タイセーを呼び、
ハタケの報告を元にもう一度話し合った。
- 429 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:06
- そして6月26日。
Jリーグ第15節が終了するこの日。
ツンクからアジアカップ日本代表と、
アテネオリンピック日本U−23代表が発表された。
- 430 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:07
- <アジアカップ日本代表>
GK 1 ミカ・トッド セレッソ大阪
12 信田美帆 ヴィッセル神戸
23 前田有紀 京都パープルサンガ
DF 2 石黒 彩 東京ヴェルディ1969
3 中澤裕子 京都パープルサンガ
13 大谷雅恵 ベガルタ仙台
15 小川麻琴 清水エスパルス
16 木村麻美 鹿島アントラーズ
20 里田まい 鹿島アントラーズ
22 斉藤 瞳 横浜Fマリノス
MF 4 辻 希美 ガンバ大阪
5 加護亜依 京都パープルサンガ
6 田中れいな 清水エスパルス
7 平家みちよ 浦和レッズ
8 矢口真里 横浜Fマリノス
10 柴田あゆみ 名古屋グランパスエイト
14 石川梨華 横浜Fマリノス
18 戸田鈴音 鹿島アントラーズ
21 新垣里沙 ジュビロ磐田
FW 9 安倍なつみ コンサドーレ札幌
11 木村アヤカ ヴィッセル神戸
17 高橋 愛 ジュビロ磐田
19 村田めぐみ ジェフユナイテッド市原
- 431 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:09
- <アテネオリンピックU−23日本代表>
GK 1 飯田圭織 コンサドーレ札幌
22 亀井絵里 名古屋グランパスエイト
DF 2 石黒 彩 (OA) 東京ヴェルディ1969
3 中澤裕子 (OA) 京都パープルサンガ
15 小川麻琴 清水エスパルス
16 紺野あさ美 コンサドーレ札幌
MF 4 辻 希美 ガンバ大阪
5 加護亜依 京都パープルサンガ
6 保田 圭 (OA) 柏レイソル
7 田中れいな 清水エスパルス
8 矢口真里 横浜Fマリノス
10 吉澤ひとみ エンポリ(イタリア)
11 市井紗耶香 アーセナル(イングランド)
12 柴田あゆみ 名古屋グランパスエイト
14 石川梨華 横浜Fマリノス
18 福田明日香 ユヴェントス(イタリア)
20 藤本美貴 シャルケ04(ドイツ)
21 新垣里沙 ジュビロ磐田
FW 9 安倍なつみ コンサドーレ札幌
13 松浦亜弥 バルセロナ(スペイン)
17 高橋 愛 ジュビロ磐田
19 道重さゆみ 柏レイソル
23 後藤真希 レアル・マドリード(スペイン)
※OAはオーバーエイジの略
吉澤ひとみと柴田あゆみは移籍先は決まっているものの、
正式には7月1日からのため、前所属チームで表記。
- 432 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:10
- この2つの代表チームはツンク、マコト、タイセー、ハタケが懸命に考えた結果だ。
ツンクの狙いは正直、アジアカップよりもオリンピックだ。
口には決して出さないが、それはメンバー選出からも理解できる。
つまりあのチェコ代表戦のメンバーを、
ツンクが完成形と称したあのメンバーをオリンピックに選んだのだ。
その結果が、このメンバーだった。
アジアカップはすでに2度制覇している。
が、オリンピックはまだない。
だからこそ全力でメダルを獲りに行かねばならない。
- 433 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:10
- このメンバーを見ていくと、アジアカップ専念組、オリンピック専念組、
そして両方に出る組、この3つの組に分けられる。
ツンクの考えでは専念組がその大会でのレギュラーだ。
両方に名を連ねている選手は、主に途中交代で使う予定である。
もちろん時と場合によってスタメンで起用するが。
- 434 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:11
- が、この中で頭を悩ませたのが中澤、石黒。
この2人は24歳以上のため、当然アジアカップ組に選んだ。
しかしだからといってオリンピックに選ばない訳にはいかなかった。
こう言うと何だが、日本はDF陣が前線に比べるとやや弱い。
それは海外のクラブが注目しているのが、
安倍、加護といった前線の選手のみという事からもわかる。
さらにDFにとって必要なのは経験。
国際舞台においてこの経験は非常に重要になってくる。
だからこそ中澤、石黒の力が両方の大会で必要なのだ。
しかし比重はオリンピックに置くため、
アジアカップでは若手DF陣にレギュラーを張らせ、
ここぞという時しか中澤、石黒は使わないつもりだ。
- 435 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:12
- しかしこんな甘い計算が通るはずがないことをツンクは重々承知している。
恐らくアジアカップで中澤、石黒は使わざるを得ないだろう。
だからこそ飯田と紺野をオリンピック1本に専念させたのだ。
さらには保田圭を24歳以上であるにも関わらずオリンピックに専念させた。
彼女はボランチはもちろんセンターバックもこなせる。
これで石黒、中澤のカバーは出来るはずだ。
- 436 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:13
- ある意味偏った選出。
オリンピック組に期待し、アジアカップ組は残りもの。
そんな感じだ。
これは選手たちは悔しいに違いなかった。
しかし、アジアカップ組はその分絶対にツンクの鼻を明かしてやると
みな張り切っていた。
もちろんオリンピック組もこれで無様な試合は見せられない。
両方に出る組は両者の板ばさみになりつつも、
自分たちはどちらもレギュラーではない半端者という事に憤りを感じ、
絶対にレギュラーを取ると息巻いている。
なんとも言えぬピンと張り詰めた緊迫感が生まれる。
今回の選出、その最大の目的はこの気持ちを持たせる事だった。
この強い気持ちが自分の実力を120%出させてくれるのだ。
そうでなければこの厳しい日程、強者たちとの戦いを乗り切れない。
いくらチームワークが必要とはいえ、ただの仲良しクラブでは戦いなど出来ない。
必要なのは共通の目的と、激しい競争なのだ。
- 437 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:14
- しかし、唯一の誤算はひとみの体調不良。
ツンクは本来ならばアジアカップ10番をひとみに。
オリンピック10番に柴田を持ってくる予定だった。
そしてこの2人のサブとして田中れいなを考えていた。
そして当然この2人は両方の大会に出さず、
1つの大会に専念させるつもりだったのだ。
こうする事でアジアカップは“悪魔”のチーム、
オリンピックは“天使”のチームとして試合に挑むつもりだった。
- 438 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:15
- 特にひとみに関してはずっと代表には選ばず、セリエAに専念させていた。
だからこそ他の海外組よりもダメージが少ないだろうと考え、
海外組で唯一アジアカップに出場させるつもりだったのだ。
が、それも全て崩れてしまった。
アジアカップには間に合わない。
しかしその後の報告によると、
何とかオリンピックには間に合いそうだとの事。
ならば柴田とひとみを入れかえるか?
そうマコトやタイセーは進言した。
これならば何も問題はないように思える。
2人の実力に遜色はない。
どちらも日本代表を“自分のチーム”にして戦ってくれる。
が、ツンクは首を縦に振らなかった。
ツンクはどうしてもあのチェコ戦が忘れられなかったのだ。
どうしても柴田をオリンピックに、海外組と組ませたかった。
- 439 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:16
- かといってアジアカップを田中れいな1人に任せるわけにはいかなかった。
将来は確かに日本を背負って立てる逸材だが、
まだ全てを任せるわけにはいかない。
どうする?
悩んだ末にツンクは決めた。
“天使”に全てを任せることに。
アジアカップも、オリンピックも柴田に任せる。
確かにこれはキツイが、今の柴田ならばやってくれる。
そう確信するツンク。
しかしその一方で万が一の時の保険に、
ひとみをオリンピック代表に選んだ。
- 440 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:18
- しかしあくまでひとみは保険だ。
オリンピックに関してはトップ下で3番手の評価。
柴田がいければ柴田で。柴田が無理な時は田中に任せるつもりだ。
ひとみが出る時、それは柴田と田中2人ともアウトの時のみで、
それは最後の手段だ。
そのため恐らくひとみにオリンピックの出番はないであろう。
それを申し訳なく思うツンク。
だからこそせめてもの気持ちとして背番号10を柴田ではなく、
ひとみに与えたのだった。
が、これは大きな心配の種を蒔く事になった。
オリンピック代表にひとみを加えたことで、
GKを2人しか選ぶことが出来なかったのだ。
果たしてこれがどうでるか?
- 441 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:19
- 6月28日、アジアカップに向けての日本代表合宿が始まった。
みな明らかに気合いが入っている。
特にU−23世代の選手たちだ。
彼女らはオリンピック世代でありながら、オリンピックに出場出来なかった。
その無念さは測り知れないだろう。
しかしその分といっては何だが、自分たちの力を見せられる舞台が用意された。
アジアカップだ。
ここでアジアを制し、自分たちの力を見せ付けてやる。
絶対にオリンピック組には負けない。
彼女らがこう思うのもツンクの計算どおりだった。
この気合いで臨んだキリンカップ。
スロバキア戦を3−0、セルビア・モンテネグロ戦2−0で見事に快勝した。
- 442 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:20
- 「やってくれるね。」
アーセナル所属、市井紗耶香。
「ホント。さすが。」
ユヴェントス所属、福田明日香。
「みんな気合い入ってましたね。」
シャルケ04所属、藤本美貴。
「これならアジアカップ、優勝狙えそうですね。」
バルセロナ所属、松浦亜弥
「そうだね。ごとーたちも負けてらんない。」
レアル・マドリード所属、後藤真希。
日本が誇る海外組。
彼女たちはキリンカップ第2戦、セルビア・モンテネグロ戦が行われた
7月13日、日本に帰国した。
ここで2週間の合宿をし、それからギリシャへと向かうのだ。
そんな彼女たちの前でアジアカップ組が素晴らしいパフォーマンスを見せた。
こうこられるとこっちも負けてられない。
- 443 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:20
- ちなみにひとみだけ帰国しなかった。
オリンピックに間に合わせるため、
今はインテルのクラブハウスで必死に身体を創っている。
ツンクが柴田を選んだ事は分かっている。
しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。
必ず出番は来る。
そう信じてひとみは身体を創る。
- 444 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:21
- 「ほなタイセー。後は頼んだで。」
「ああ、任されよう。」
キリンカップ終了から2日後、アジアカップ組が中国へと向かった。
オリンピック組は後10日ほど国内で合宿を行い、それからギリシャへと向かう。
その間タイセーがこのオリンピック組を見ることになる。
「・・・・・・頑張れ、みんな。」
後藤たちオリンピック組が中国に飛び立つ仲間たちにエールを送る。
- 445 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:21
- アジアカップ2004中国
グループA
中国、カタール、インドネシア、バーレーン
グループB
韓国、クウェート、UAE、ヨルダン
グループC
サウジアラビア、イラク、ウズベキスタン、トルクメニスタン
グループD
日本、イラン、タイ、オマーン
- 446 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:22
- アジアカップはまずは4つのグループに分かれて予選リーグを行う。
ここで2位に入れば準々決勝に進むことが出来る。
日本はグループD。
ここにはイラン、タイ、オマーンと一癖も二癖もあるチームが揃った。
だが決戦の舞台は中国。
オリンピック最終予選の時に味わった、苦しめられた中東の気候ではない。
だからこそ落ち着いて力を出し切れば、予選突破は充分計算できる。
そして何より、選手たちは気合い充分だ。
- 447 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:22
- 7月17日、アジアカップが開幕した。
オープニングゲームは地元中国代表VSバーレーン代表。
誰もが地元中国の圧勝を予想していた。
が、いきなり大番狂わせが起こった。
- 448 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:23
- 中国0−1バーレーン
「まさか・・・・・」
この結果に呆然とする名将オク・ダタミオビッチ。
「くっ・・・・・・・」
顔を歪めるアジアbPGKサ・トエリ。
圧倒的に中国が押していた。
しかしバーレーンは全員で身体を張って守りきった。
中国は地元である事が逆にプレッシャーになっていた。
引き分けではよしとせず、攻めざるを得なかった。
その結果、試合終了間際にまさかの失点。
FKのこぼれ球を中国DFメ・グミーがまさかのクリアミス。
これがオウンゴールとなり、決勝点になった。
- 449 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:24
- 波乱の結果で始まったアジアカップ。
しかし波乱はこれだけではなかった。
続く18日には何と、中東の雄サウジアラビアがトルクメニスタンに1−0で敗れた。
さらに翌19日、韓国VSヨルダン。
この試合、韓国は勝つには勝ったものの1−0と辛勝だった。
この結果は韓国や中国、サウジアラビアといった強豪国以外のアジア各国のレベルが
上がっていることを裏付けるものとなった。
- 450 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:25
- そして7月20日、日本の出番だ。
対戦相手はドイツワールドカップアジア1次予選の初戦を戦ったオマーン代表だ。
「ええか、17日の中国、そして18日のサウジ。それから昨日の韓国の試合。
みんな分かってるな?ちょっとでも油断したらこうなるんや。オマーンには一度勝ってる。
けど絶対に気を抜くな。ええな?」
「はいっ!!!」
選手たちが気迫を込めて返事する。
もちろん彼女たちは分かっている。
油断などして勝てる相手などいないことを。
しかしそれ以上に油断などしている暇はないのが真実だ。
彼女たちの敵はオマーン代表だ。
が、それとは別にもう1つ敵がいる。
それは仲間である日本オリンピック代表だ。
絶対に彼女たちに笑われるような試合をしてはならない。
- 451 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:27
- 「さ、この試合、絶対に勝つで!!!」
「おうっ!!」
中澤がベンチスタートのため、平家がキャプテンマークを左腕に巻く。
全員を呼び寄せ、円陣を組む。
オリンピック組に対抗意識はあるが、そればかりに囚われてもいけない。
まずはこの試合に勝つことだ。
「頑張っていきまー・・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!!」
- 452 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:28
- <日本代表スターティングメンバー>
GK 1 ミカ・トッド
DF 13 大谷雅恵 村田 アヤカ
20 里田まい
22 斉藤 瞳 柴田
MF 7 平家みちよ 麻美 矢口
8 矢口真里
10 柴田あゆみ 鈴音 平家
16 木村麻美
18 戸田鈴音 斉藤 里田 大谷
FW 11 木村アヤカ
19 村田めぐみ ミカ
- 453 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:29
- 「柴田、みっちゃん、気を付けや。
あいつら、またやってくるかもしれへんで。」
「はい。でも大丈夫です。」
「そうや。ま、来たらうちがボコボコにいわしたるし。」
中澤の言葉に大丈夫と笑顔を見せる柴田と平家。
前回オマーンとワールドカップ1次予選で対戦した際、
柴田に対してハードマークを仕掛けられたのだ。
その選手は今日もスタメンだ。
あの時は武闘派軍団の核弾頭、藤本美貴の一撃で黙らせたが、
今日は彼女はいない。
それだけに今日の試合、注意しなければならない。
- 454 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:30
- オマーンは前回と同様、4−4−1−1でこの試合に臨む。
メンバーも全く一緒だ。恐らく前回と同様の戦い方であろう。
つまり、ラフプレーをこれでもかと仕掛けてくる戦い方だ。
だが試合が開始され20分が経ったが、オマーンにそれらしい動きは全く無かった。
確かに柴田や平家がボールを持つと激しく当たってくるのだが、
それは全て正当なチャージ。
足の裏を向けるとか、審判の見えないところで殴る蹴るなどは全く無かった。
「どうしたんだろ?」
柴田も思わず首を傾げる。
「ま、いっか。」
相手が来ないのならそれに越した事はない。
柴田は激しいマークを受けつつも右サイドにボールを出した。
- 455 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:31
- このパスを矢口が受ける。
が、オマーンもすぐさまチェックに来る。
これには矢口もスピードに乗れず立ち止まってしまった。
「矢口!!」
とその時、矢口の後ろから平家が大外を回るように上がってきた。
矢口を追い越し、右サイドのライン際を駆け上がる。
矢口はすかさず平家に送る。
「平家さん!!」
ゴール前に村田、アヤカ、それから柴田も上がる。
平家からクロスが中に送られる。
このクロスはファーサイドに飛び込んだ村田に。
そこへオマーンDFも身体を張る。
このオマーンDFは審判の死角から村田のユニフォームを掴む。
が、村田は強引に飛び、このクロスをヘッドで合わせた。
「くっ!!」
枠をとらえたヘディングシュートだったが、これはオマーンGKがファインセーブ。
「ドンマイドンマイ村田さん!!」
「ナイスヘッド!!」
惜しくも得点にならなかったものの、村田のシュートに選手たちが沸く。
さすがは昨シーズンJリーグ得点王。
一時調子を落としていたものの、ここに来て完全復活だ。
- 456 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:31
- 続いてオマーンも負けじと攻める。
左サイドを駆け上がったMFから中にクロスが上がる。
このクロスにオマーンFWと大谷が競り合う。
ボールがこぼれる。
そこへオマーンのオフェンシブハーフが詰めてきた。
「オッケー!!」
が、斉藤が素早く反応し、これをスライディングでクリアした。
「ナイス斉藤さん!!」
「オッケー!!しっかり守るよ!!」
里田の声に応える斉藤。
このDFラインの3人はオリンピック世代でありながら
オリンピック代表に選ばれなかった。
それだけにこのアジアカップに賭ける思いは半端ではない。
- 457 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:32
- 「うらっ!!」
鈴音の激しいタックルが決まった。
もんどりうって倒れるオマーンMFだが、ファウルではない。
ボールを奪った鈴音、すぐさまレジスタ平家へ。
平家がすぐさまピッチを上空から俯瞰する。
どこだ?隙は?
「麻美!!!」
平家はすかさず左サイドへ大きなロングパス。
このパスに麻美が反応していた。
左サイドを素晴らしいスピードで駆け上がっている。
このパスを受けた麻美、さらに左サイドを深くえぐる。
すぐにオマーン右サイドバックがチェックに来るが、
麻美は華麗なステップでかわした。
- 458 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:32
- 「うおっ?!!」
「凄い!!」
麻美の華麗なステップワークに思わずベンチから加護と石川が叫ぶ。
人材豊富な左サイドにおいて麻美は4番手の評価。
守備力とスタミナには期待できるが、
攻撃力といった面で物足りないというのが世間の評価であった。
が、そんな評価を嘲笑うかのような鮮やかなドリブルだった。
麻美はそのまま左サイドを突破し、中に鋭いクロス。
このクロスにファーサイドからアヤカが飛び込む。
そして右足であわせた。
このボレーシュートはGKのニアサイドを破り、
ゴールネットに突き刺さった。
前半28分。
日本、木村アヤカのダイレクトボレーにより先制点。
- 459 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:33
- 「ようしっ!!」
ツンクがグッと拳を握り、ガッツポーズ。
そこへゴールを決めたアヤカが駆け寄り、ツンクとハイタッチをかわす。
「ええぞアヤカ。けどこの1点で満足するな。
1点ならワンチャンスで返される。すぐに2点目を取れ。」
「はいっ!」
ツンクの言葉に頷くアヤカ。
アヤカにしてもオリンピック世代でありながら選ばれなかった。
悔しくないと言えば嘘になるし、ツンクに対して腹立たしい気持ちも正直ある。
しかしそれも全ては自分の力の無さだ。
自分に力があれば文句なしに選ばれたのだから。
他人のせいにして逃げるのは簡単だ。
しかしそれを自分が劣っていたからと認めてこそ次へとつながるのである。
アヤカを含め、アジアカップ組はみなそういう気持ちで戦っていた。
- 460 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:34
- 「さすがアヤカ。」
保田が感嘆の声を漏らす。
当然オリンピック組も宿舎のテレビでアジアカップを観戦中だ。
「でも、オマーンの連中、前みたいにガツガツしかけてこないな。」
市井がふと呟く。
「美貴たんの一撃にびびってるんじゃない?」
「えー?そんなことないでしょ?」
松浦の言葉に苦笑いを浮かべる藤本。
あの試合後、様々な人たちから“良くやった”というお言葉を頂いていた。
「あれはごとーも見たよ。ナイスFK、ミキティ。」
後藤もニッと笑う。
「あたしもあれはナイスって叫んじゃったよ。」
「完璧です。」
飯田に紺野だ。彼女たちも当然武闘派軍団。
「いやいや、あれはあくまで“事故”だよ。」
本人はいけしゃあしゃあと事故を強調する。
- 461 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:37
- 「ふふっ。」
とその時、武闘派軍団のドンが小さく笑った。
「どうしたんですか明日香さん?」
「思い出し笑いですかぁ?」
道重と亀井が尋ねる。
この2人は福田になついていた。
クールで近寄り難い雰囲気を醸し出す福田明日香に
最初から何のためらいもなく話しかけられるのは
このニュージェネレーション世代ぐらいのものだ。
亀井と道重は福田に対して憧れを持っており、ただ純粋に福田を慕った。
福田も一見クールだが、実は後輩の面倒見がいい。
もちろん自分から進んで面倒を見ようとはしないが。
「まあちょっとね。」
- 462 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:38
- 2月18日、ドイツワールドカップアジア1次予選初戦、対オマーン戦。
試合終了と同時に福田は医務室へと向かった。
そこには彼女がいた。
柴田に密着マークし、藤本に強烈な一撃を食らったあのオマーンの選手が。
「大丈夫?英語通じる?」
福田の言葉にカクカクと頷くオマーン選手。
いきなり医務室に現れた福田明日香に驚き、声が出ない。
彼女らにしても福田明日香は憧れの存在である。
アジアを代表する選手として、欧州の舞台で活躍する福田。
国は違えど同じアジア人として福田の存在は誇らしいものであった。
「今日はナイスゲーム。」
「あ、ど、どうも・・・・」
福田が差し出した手をオマーン選手は握る。
「別にあたしはああいうのにとやかくは言わない。
やっぱ勝ちたいしね。」
福田の言葉にビクッと身体が震える。
「でも、ちゃんと“やる相手”を見よーね。」
福田がニコッと笑った。
その笑みは心底恐ろしかった。
カタカタ震えるその選手の肩をポンと叩いて福田明日香は医務室を後にした。
- 463 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:38
- その選手は悟った。
今のは警告だ。
次同じことしたら果たしてどうなるか?
そのオマーンの選手は心底恐ろしくて震えていた。
それが他の選手にも伝わっているのであろう。
オマーン選手たちは激しいチャージは仕掛けるものの、
明らかに福田の言葉を意識した戦い方だ。
さすがは武闘派軍団のドン、福田明日香。
きっちりと落とし前はつけていた。
- 464 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:39
- 福田のアシスト?により日本は試合を支配する。
柴田から右サイドに開いたアヤカに。
アヤカはこれを受けるとオマーン左サイドバックをかわして中にクロス。
このボールに村田が飛び込むがオマーンDFも必死にヘッドでクリア。
コーナーキックに逃れた。
左サイドからのコーナーキック。
キッカーはこの人、平家みちよ。
ボールをセットし、軽く助走の距離を取る。
このチャンスに大谷、里田が上がってきた。
「行くで!!」
平家の左手がスッと上がった。
その瞬間日本の選手たちはペナルティエリア内で激しく動き回る。
- 465 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:39
- シュパッ!!
まるで何かを切り裂くように平家の右足が鋭く一閃した。
速く、高いボールがファーサイドへ。
「高いっ!!」
オマーンGKはこのボールはミスキックだと判断した。
この速さと高さではファーサイドでは済まず、
逆サイドにまで流れていくはずだ。
そう確信した。
- 466 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:40
- 「なっ?!!」
が、このボールは急激にブレーキがかかり、落下した。
そしてなおかつゴールに向かって鋭く曲がってくる。
「うわっ?!!」
オマーンGKが慌てて手を伸ばすが届かない。
右ポストとクロスバーのちょうど間、
ボール一個分のスペースにボールが飛び込んでいった。
前半37分。
平家みちよがコーナーキックを直接沈め、日本がさらに突き放した。
- 467 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:40
- ウオオオオオオオオオ?!!!!
今回の試合のスタジアムとなった重慶オリンピックセンターが大きく揺れた。
今の平家のコーナーキックは恐ろしいほどの曲がり具合だった。
みな信じられないといった表情だ。
「さすが・・・・・」
“魔法の左足”石川梨華も今の平家の右足には完全に脱帽だった。
前半はこのまま2−0で終了した。
- 468 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:41
- 後半に入っても日本は手を緩めない。
予選リーグは勝点はもちろん、得失点差も重要になってくるため、
得点はいくらでもあった方がいい。
そして何より、彼女たちがこれで満足するはずがなかった。
怒涛の攻撃を見せる。
鈴音がオマーンMFを止めてこぼれたボールを拾った平家、すかさず柴田に。
柴田はこれをダイレクトで右サイドの矢口へ。
そこへオマーン左サイドバックが詰めてきた。
「やぐっちゃん!!」
「アヤカちゃん!!」
これを矢口はアヤカとのワンツーでかわす。
フリーで右サイドを突破した。
「来いっ!!」
村田がゴール前に飛び込んでくる。が、ゴール前には村田1人。
このままでは跳ね返されるのが目に見えてる。
「矢口さん!!」
と、後ろから遅れて柴田が上がってきた。
すかさず矢口はグラウンダーで柴田にパス。
- 469 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:41
- 「くっ!!」
慌ててオマーンセンターバックが柴田に飛び込んでくる。
が、柴田はこれを察知しておりボールをスルーした。
そこへ走り込んでいたのはボランチ平家。
左足で強烈なシュート。
が、これは平家には珍しく大ホームランだった。
「あらま?!!やってもた!!」
べっと舌を出し、表情を歪める平家。
「ドンマイドンマイ!!」
矢口がグッと親指を上げる。
シュートは外したものの、さすがは平家。
パスを出した後もきっちり詰めている。
そして平家が上がったスペースは鈴音が目を光らせている。
このボランチコンビは中々機能しているようだ。
- 470 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:42
- オマーンもまだ2点差のため、勝負を決して諦めない。
日本のシステム、3−5−2の弱点であるサイドをこれでもかと突いてくる。
「麻美!!鈴音!!そこで止めて!!」
DFラインの中央に入った里田が指示を出す。
その指示に従い、麻美と鈴音がプレッシャーをかける。
「くそっ!!」
オマーン右MFは苦し紛れにクロスを上げた。
このクロスは精度を欠き、きっちりと里田が跳ね返した。
「オッケー!!ナイス!!」
里田の声に麻美と鈴音が応える。
里田、麻美、鈴音の見事なディフェンスだった。
- 471 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:43
- 今度はオマーンの左サイドから攻め込まれる。
オマーン左MFと左サイドバックが連携して攻め上がる。
矢口がチェックに行くが、その前にクロスを上げられてしまった。
このクロスにオマーンFWと里田、大谷が競り合う。
ボールがこぼれる。
このこぼれ球に素早く反応したのがオマーンのトップ下の選手。
至近距離から強烈な、しかも低く抑えたシュートを放つ。
- 472 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:43
- 「?!!」
が、そのシュートを撃ったオマーンMFは我が目を疑った。
日本のGKがこのシュートを止めたからだ。
しかもガッチリと両手でキャッチしたのだ。
「うそっ?!!!」
思わずテレビに向かって叫ぶ飯田。
あの至近距離のシュートを止めるだけでなくキャッチした?
「信じられない・・・・・」
同じく亀井も驚愕の表情を浮かべる。
さすがはミカ・トッド。
反射神経と瞬発力ならば完全に日本bPだ。
- 473 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:47
- ボールをキャッチしたミカ、すかさず前線へロングキック。
これに反応しているのはアヤカだ。
オマーン左サイドバックが上がって出来たスペースへ走り込んでいる。
日本のカウンターだが、これは余りにも速すぎる。
まるでアヤカはミカが止めること、さらにはこのスペースへ出すことが
分かっていたかのような動き出しの速さだ。
アヤカとミカ。
この2人はアヤカがハワイにいたときに出会った。
その時からいつかはプロで一緒にプレーしたいねとお互い言っていた。
それがまさかミカが日本に帰化して、日本代表で実現するとは。
『こんなに嬉しい事はないね。』
アヤカは素直にそう思った。
今のカウンターはハワイで同じアマチュアチームにいたときに
よくやっていたプレーだ。
ミカが止めてアヤカが決める。
ずっとこのプレーで勝ってきた。
だから相手の考えてることなどすぐに分かる。
ボールを受けたアヤカはそのままドリブルで突き進む。
そしてオマーンセンターバックを鋭いステップでかわすと強烈なシュートを
ゴールネットに突き刺した。
後半29分。
ミカ−アヤカのホットラインによる電光石火のカウンターで日本、
3−0とリードを広げた。
- 474 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:48
- 3点差をつけられたオマーンだが、まだ試合を諦めない。
予選リーグは2位までに入れば突破できる。
だからこそ1点でも返して次戦につなげたい。
オマーンは形振り構わず攻撃を仕掛ける。
一瞬の隙を突いたオマーンMFのミドルシュート。
しかしミカがこれをフィスティングで止めた。
ボールがこぼれるが、これをオマーンがまたも拾った。
「しっかり!!ここ守るよ!!」
里田が声を張り上げる。
日本は村田を最前線に残し、他は自陣に戻っている。
オマーンはDF2人を残し、他は攻めあがっている。
この攻撃で必ず1点取る気だ。
オマーンの右MFがクロスを上げる。
このクロスにオマーンイレブンと日本イレブンが殺到する。
- 475 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:48
- 「うらっ!!」
このボールをとらえたのは斉藤だった。
懸命に身体を張り、ヘッドで跳ね返す。
このこぼれ球を拾ったのは柴田。
「あゆみ!!」
『分かってるよめぐみ!!』
すかさず柴田が最前線へロングパス。
このパスに最高のタイミングで飛び出す村田。
残っていたオマーンDFを振り切る絶妙なタイミングでの
裏への抜け出しだった。
- 476 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:49
- 「めぐみ!!!」
「?!!」
が、オマーンGKも捨て身でゴールを飛び出し、突っ込んできた。
村田は柴田の声で気付き、咄嗟に柴田のパスをスルーしてかわした。
ウオオオオオオオオオオ?!!!!
今のスルーでGKをかわした村田のドリブルに重慶オリンピックセンターが大きく揺れる。
まさかスルーでかわすとは?
が、スルーしてかわしたはいいものの、ボールが左サイドの奥深くへ流れていく。
「くっ!!」
村田が必死に追いかけるが、その間にオマーンDF1人が村田に、
もう1人がゴールのカバーに入った。
日本のカウンターをつぶすオマーンGKの勇気ある飛び出しだった。
- 477 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:50
- 「くそっ!」
ボールに追いついた村田がゴールを見る。
そこにはカバーに入ったDFと、必死に戻るGKの姿が。
カウンター失敗。
そう思った瞬間、村田の眼に1人の選手が見えた。
「?!!」
すかさず村田はゴール前にクロスを上げた。
このクロスにオマーンDFとGKが飛ぶ。
が、その目の前に青いユニフォームが飛び込んできた。
「うわっ?!!」
オマーンDFとGKを蹴散らす、打点の高いヘディングシュート。
「よおっしゃああ!!!!」
ゴールに突き刺さった瞬間雄たけびを上げる背番号13。
後半36分。
大谷雅恵のヘディングにより日本、とどめの4点目。
- 478 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:51
- 「ナイッシューマサオ!!」
「良く走ってた!!!」
ゴールを決めた大谷にみなが抱き付く。
「マサオ!!」
「おうっ!!」
このゴールを奪うきっかけを作った村田と柴田、
そして斉藤とハイタッチをかわす大谷。
この4人で見事に得点を奪った。
- 479 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:52
- 「ツンク、このチームもほんまええなあ。」
「ああ。」
マコトの言葉に頷くツンク。
確かにベストメンバーはアテネに連れて行くが、今戦っているメンバーも実にいい。
GKには反射神経ならば飯田よりも上のミカ。
DF3人は全員が対人に強い。
斉藤はDFとしての総合力が高さが魅力。
大谷は高さ、それに元FWだけにFWの心理が読める。
里田はDF能力はもちろん、攻撃力も高く、指示も実に的確だ。
ボランチには平家と鈴音。
平家はその卓越したテクニックにゲームメイクで日本の攻撃を演出する。
守備力には難があるが、その分は鈴音が激しいディフェンスでカバーする。
左サイドの麻美は鹿島で左サイドバックを務めるだけあって、
上下運動を何度も行えるスタミナ、そして粘り強いディフェンスに
鋭いクロスでチャンスを創る。
右サイドの矢口はそのスピードに負けん気、明るさがチームを盛り立てる。
FWの村田はその鋭い飛び出し、さらには高さもある。最近はそこに力強さも加わった。
アヤカはドリブル突破からのチャンスメークに、自分でも得点を奪えるシュート力をも併せ持つ。
- 480 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:52
- どこへ出しても恥ずかしくない、日本代表だと誇りを持って言えるメンバーだ。
そしてこの個性豊かな選手たちを気持ちよくプレーさせるマエストロ柴田あゆみ。
彼女のタクトがここでも華麗に振られる。
- 481 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:53
- 『・・・・・・アジアカップ組も完全に柴田のチームになったな。』
この試合でさらに柴田への依存度が増した。
それだけに大事に使わねば。
大谷の得点後、ツンクは田中を投入して柴田を次戦に備えさせた。
ピィ、ピィ、ピィー!!!!
主審の笛が3度高らかに鳴り、試合が終了した。
4−0、まさに完勝だった。
- 482 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:54
- 「よしっ!!」
まずは初戦を快勝し、アジアカップ制覇に向けて順調なスタートを切った。
この結果にツンクも満足だ。
ピッチに立っている選手たちもみな白い歯がこぼれる。
この試合はまさに完璧に近い内容。
オリンピック組や世間に対して自分たちの力を存分にアピールできた。
オリンピックは譲ってやる。
けど、次は、ワールドカップは絶対に譲らない。
そんな声が聞こえてくるような1戦だった。
- 483 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:55
- この結果に複雑な表情を浮かべるのは中澤、石黒、矢口、柴田を除く
オリンピック、アジアカップの両方に出る組だ。
このままではどちらのチームにおいても自分の居場所がない。
自分たちが今、一番中途半端なのだ。
「・・・・・絶対に負けないべ。」
今や完全に地に落ちた、終わったと噂される日本のエースが闘志を燃やす。
もちろんテレビを見ているオリンピック組も同様だ。
絶対に負けたくない。
- 484 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:55
-
様々な熱い思いが渦巻く中、アジアカップ初戦が終了した。
- 485 名前:第8話 アジアカップ 投稿日:2004/04/10(土) 01:56
-
第8話 アジアカップ (終)
- 486 名前:ACM 投稿日:2004/04/10(土) 01:59
- 第8話 アジアカップ 終了いたしました。
前回の更新から1週間も間隔があいてしまい、本当にすみません。
近頃忙しくなってきたため、中々時間が取れません。
更新の速さと量だけがとりえなのに・・・・・・・
次回更新も少々遅れると思いますが、どうかご容赦ください。
これからもぜひぜひ、このCALCIO×3をよろしくお願いします。
- 487 名前:ACM 投稿日:2004/04/10(土) 02:00
- 次回の予告です。
第9話 アジアの突風
アジアbPを決めるアジアカップ。初戦を終えたがまだまだ激闘は続く。
予選リーグの残り2戦はタイとイラン。どちらも一筋縄ならぬ相手だ。
この試合、“アジアの突風”と呼ばれる選手が日本代表の前に大きく立ちはだかる。
果たしてこの強敵相手に日本はどう立ち向かっていくのか?
次回もどうぞよろしくお願いいたします。
- 488 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/10(土) 02:16
- 更新お疲れ様でした。
よっすいーが大変なことになりましたね。ここで大幅に誤算がでてくるとはおもいませんでした。
試合の方はカン娘、コ娘、メロンと大活躍でしたね。(もちろんみっちゃんも)裏では明日香がしっかり動いていたし(笑)
予選リーグの他のグループは波乱含みですがD組だけは順当のようですね。
次回の更新楽しみにしてます。
- 489 名前:みっくす 投稿日:2004/04/10(土) 02:27
- まず、さすがドンって感じで。
ほんとに様々な熱い思いが渦巻まいていますね。
実際でもこんなに層の厚くなる日は来るのでしょうかね。
あと、日本は天使のチームになりつつありますね。
果して悪魔の出番はあるのかなぁ。
- 490 名前:名無しぃく 投稿日:2004/04/10(土) 06:50
- 更新お疲れです。
福ちゃんヤヴァイですね。相手に回したくない系です。
吉澤さんも色々大変そうですね。ヒーチャンガンバレ
日本のエースもガンガレ〜。では次の更新頑張ってくらさい。
- 491 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/11(日) 23:57
- 初めから一気に読ませていただきました。非常にテンポが良いので
サクサク読めました。これからの展開も楽しみです。
個人的には『魔法の左足』を持つ御方の活躍に期待しています。
出来れば主人公同様、海外に行ってほしいですね。(フィジカルが弱いから
イタリアよりスペイン向きですかね?それですと直接対決はCLのみ・・・)
これからも頑張ってください!
- 492 名前:ACM 投稿日:2004/04/16(金) 12:43
- 488>娘。よっすいー好き様
いつもいつもレスありがとうございます。とても励みになります。
前の試合は他のグループの方に活躍してもらいました。
もちろんみっちゃんもですけど。
予選グループはまだ初戦が終わった所です。まだまだ色々とありますよ。
489>みっくす様
こちらもいつもいつもレスありがとございます。
実際でもこんな層が厚くなる日を夢に見つつ書いている次第であります。
そして仰るとおり天使のチームになりつつある日本代表です。
しかしそれでは主人公の立場が・・・・
490>名無しぃく様
こちらもですね。いつもいつもありがとうございます。
福ちゃん、かなりヤヴァイっす。僕自身も恐いっす。
何か勝手に動いちゃうんですよ。
今や困った時の福ちゃん、困った時のユッキエさんです。
491>名無し読者様
最初から一気に読んでいただいて嬉しいです。ありがとうございます。
もちろん“魔法の左足”には活躍してもらいますよ。
日本で埋もれさすにはもったいないです。
どこへ行くのかは言えませんが、楽しみにしていてください。
では本日の更新です。
- 493 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:44
- アジアカップ初戦を4−0で快勝した日本代表。
続く第2戦の相手はタイ代表。
オリンピック予選で対戦したFWアヤヒ・ラヤマー、
スーパーエースMFユウコッコ・ミズーノを中心に、
守って鋭いカウンターを仕掛けるというスタイルはA代表になっても変わらない。
- 494 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:46
- この試合、ツンクが出場させたメンバーは以下の通り。
GK 23 前田有紀
DF 13 大谷雅恵 安倍 高橋
20 里田まい
22 斉藤 瞳 柴田
MF 4 辻 希美 石川 矢口
8 矢口真里
10 柴田あゆみ 新垣 辻
14 石川梨華
21 新垣里沙 斉藤 里田 大谷
FW 9 安倍なつみ
17 高橋 愛 前田
- 495 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:47
- オマーン戦とは大幅にメンバーを入れ替えてこの試合に臨んだ。
アジアカップはほとんど中3日で試合が行われる。
それだけに同じ選手がずっと出続けるわけにはいかない。
交代できる時はきちんと交代させるべきであろう。
この辺りはベンチワークも勝敗に大きく関わってくるポイントだ。
- 496 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:47
- 試合は序盤から日本のペース。
日本の選手たちそれぞれが柴田のタクトに気分良く攻撃を仕掛けていく。
が、後半16分まで0−0だった。
「安倍・・・・・・・・・」
ツンクが呆然とした表情で呟く。
チャンスは数多く創るものの、最後がどうしても決まらない。
それは全て安倍だった。
撃てども撃てども全くと言っていいほどゴールが決まらない。
調子自体は決して悪くはない。
前線できっちりボールをキープできるし、
危険なスペースへ絶妙なタイミングで飛び出しもしている。
が、最後シュートの段階になると全てが終わってしまっていた。
まるで何かに取り付かれたようにシュートを外しまくっていた。
- 497 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:48
- 「くっ・・・・・・」
シュートを外し、ガックリとうな垂れる安倍。
みな知っていた。
彼女はあの日、4月21日に行われたU−23ギリシャ代表戦以来、
代表はもちろん、Jリーグでも得点が無い事を。
完全なスランプだ。
だからこそ今や完全に地に落ちた、終わったと噂されているのだ。
こんな状態の安倍を何故選ぶのだ?
世間はみなツンクの選出を批判した。
しかしツンクは安倍が大舞台に強い事を知っている。
その爆発力を期待して選んだのだ。
「・・・・・あかん、しゃーない。村田、行くで。」
「はいっ!」
アップをしていた村田に声をかける。
贅沢を言うならばこの試合、村田は休ませたかった。
しかしこの安倍の出来では仕方がない。
後半17分、村田が投入された。
- 498 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:49
- 「・・・・・・バカなっち。」
この瞬間、宿舎でテレビを観ていた福田がスッと椅子から立ち上がり、
自分の部屋に戻っていった。
その表情に温度というものは全く無かった。
ただ眼光だけが鋭く光っていた。
「・・・・・明日香の奴、キレてるな。」
市井の言葉に頷くオリンピック組。
今日の福田は史上最高に不機嫌だった。
いや、試合が始まるまでは最高に機嫌が良かった。
それはスタメンに安倍がいたからだ。
やはり安倍のことが一番気になる福田。
スランプであるのは知っているが、この試合は予選グループの中で一番力が落ちるタイ。
それだけにここでゴールを決めて復活の狼煙を上げて欲しかった。
それなのにこの体たらく。
「・・・・・バカなっち。」
福田はもう一度そう口にした。
- 499 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:51
- 試合の方は交代出場した村田がやってくれた。
後半42分に守りを固めたタイディフェンスの
わずかな隙を突いてゴールを奪った。
まさに値千金のゴール。
試合は何とか1−0で勝利を収めた。
勝つには勝ったが、ツンクとしては計算外の試合だった。
まずは1−0という最小得点差で勝利したこと。
これは次の対戦相手、イラン代表に遅れをとったことになる。
イランは初戦をタイ代表に3−0。
そして2戦目のオマーン代表をこれまた3−0で破り、
2連勝で得失点差+6だ。
一方日本は初戦のオマーン戦を4−0。
しかしタイ戦が1−0だったことで得失点差が+5。
そのため現在グループリーグで2位に落ちてしまった。
タイとオマーンが2連敗を喫した事でグループリーグ突破は確定したが、
決勝トーナメントの事を考えるとやはり1位で突破したいところだ。
このまま2位で突破すると、
決勝トーナメント準々決勝は宿敵、韓国代表と当たる。
1位突破であれば恐らくUAEであろう。
それだけに絶対に次の試合、勝たねばならない。
- 500 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:52
- そして次に村田と柴田を温存できなかった。
村田は後半途中からということでまだマシだが、
柴田はこの試合はフル出場した。
本来ならば早めに得点を奪って休ませたかったのだが、
その1点が試合終了間際まで奪えなかったのでは仕方が無い。
この点が一番ツンクにとって計算外だった。
これが後々に響かなければいいのだが。
そして7月28日。
グループリーグ最終戦、対イラン戦を迎えた。
- 501 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:53
- イラン代表はここまで圧倒的な力で2連勝した。
FW2トップはミツ・ヤーとヨシ・イー。
中盤は双子のセンターハーフコンビ、マナミ・クラとカナミ・クラ。
この4人はオリンピック代表でもお馴染みのメンバーだ。
そこへA代表の猛者が加わった。
センターバックにはベルギー、ゲンクで活躍するシロ・オセロと
同じくベルギー、ムスクロンのクロ・オセロ。
右サイドバックにスコットランド、ヒバーニアンのアブ・ホクヨー。
左サイドバックにポルトガル、アルベルカのイト・ホクヨー。
左サイドハーフにはベルギー、ベベレンのトモ・チカー。
そして右サイドハーフには“アジアの突風”と呼ばれ、
欧州でも高い評価を受けるドイツブンデスリーガ、ハンブルガーSV所属MF、
マチャミビキア。
ほとんどが海外のリーグで活躍する選手たち。
このタレント揃いのイラン代表を今大会の優勝候補に推す声も決して少なくない。
- 502 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:54
- 「今日の試合は絶対に負けられへん。それは2位通過やと韓国と当たるからとちゃうで。
ここで負けるっちゅうことは、俺らがこのアジアカップで優勝する資格はないっちゅうことや。
ええか、絶対に勝て!!!」
「はいっ!!!」
ツンクのゲキに応える選手たち。
当然だ。
いくら決勝トーナメント出場が決まっていようと、
負けていい試合なんて存在しない。
いや、負けが許されても選手たちの心がそれを許さない。
特にみな日本の首を狙っている。
そんな相手にそう簡単に首を取られてたまるか。
- 503 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:55
- 「GK、ミカ。」
ツンクがスタメンを発表する。
GKにはミカを起用。抜群の反射神経に期待する。
「DF、石黒、中澤、小川。」
ここでツンクは今大会初出場の3人を起用した。
彼女たちはここまで2試合、
ベンチに座って斉藤、里田、大谷のDFラインのすばらしい働きを見ていた。
それだけに自分たちも絶対に負けてられない。
「MF、ボランチ鈴音、平家。」
守備力に長けた鈴音、攻撃力が魅力の平家。
実にバランスのいいコンビだ。
「左サイド、麻美。」
左サイドは麻美だ。イラン代表はサイドアタックが武器だ。
それだけに守備力に定評のある麻美を起用した。
「右サイド、アヤカ。」
右サイドもアヤカを持ってきた。
彼女は右サイドならばDFもこなせる守備力を持つ。
「トップ下柴田。」
ここまで3戦連続でスタメン出場。
やはり天使のチームだけに彼女が出場しなければ始まらない。
「FW、村田と高橋。」
2トップは村田と高橋。
グループリーグ1位突破を決めるゴールを期待する。
- 504 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:55
- <日本代表スターティングメンバー>
GK 1 ミカ・トッド
DF 2 石黒 彩 村田 高橋
3 中澤裕子
15 小川麻琴 柴田
MF 7 平家みちよ 麻美 アヤカ
10 柴田あゆみ
11 木村アヤカ 鈴音 平家
16 木村麻美
18 戸田鈴音 石黒 中澤 小川
FW 17 高橋 愛
19 村田めぐみ ミカ
- 505 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:57
- 選手たちが入場し、キックオフの笛を待つ。
この試合が、予選グループ最後の試合だ。
同時刻にタイVSオマーンの試合も行われるが、あちらは完全に消化試合。
それだけにみなこの試合に注目している。
ちなみに今現在決定している決勝トーナメントの対戦は以下の通り。
バーレーン(A1位)VSイラク(C2位)
韓国(B1位)VSグループD2位
ウズベキスタン(C1位)VS中国(A2位)
UAE(B2位)VSグループD1位
- 506 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:57
- グループAは中国がまさかの2位通過。首位はバーレーンだった。
グループBは韓国が順当に1位通過。2位もUAEと結局は前評判どおりに落ち着いた。
グループCは大波乱。サウジアラビアが予選落ちし、
ウズベキスタンが1位、イラクが2位に滑り込んだ。
そして今日、日本対イラン戦の結果で全ての対戦相手が決まる。
つまり、日本の初戦が韓国か、UAEかが。
- 507 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:58
- ピィー!!!
主審の笛が高らかに鳴り、試合が開始された。
試合は序盤から激しい戦いになった。
イラン代表はセンターハーフの双子コンビ、
マナミ・クラとカナミ・クラが上手くゲームメイクし、
日本の弱点であるサイドからの攻撃を仕掛けてくる。
前回の対戦ではオリンピック予選で、
U−23の試合だったため主導権は日本に握られた。
が、今回はそうはいかない。
海外の厳しい試合を経験している猛者たちが味方にいるのだ。
- 508 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 12:59
- 「マチャミさん!!」
マナミから右サイドのマチャミビキアにパスが通る。
「麻美!!止めるよ!!」
「おうっ!!」
すかさず鈴音と麻美がチェックに向かう。
マチャミビキアを2人がかりで囲む。
が、マチャミビキアは一度ボールをまたぐと次の瞬間トップスピードに入り、
麻美と鈴音を振り切った。
「ちっ!!」
すぐさま石黒がチェックに向かうがマチャミビキアはすかさずクロス。
このクロスにミツ・ヤーが飛び込みヘッドで合わせる。
が、中澤も身体を寄せていたためミツ・ヤーはジャストミート出来なかった。
力の無いボールがミカの胸に収まった。
- 509 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:00
- 「ドンマイや!!次決めてくれたらええから!!」
マチャミビキアが手を上げる。
さすがは2002−2003ドイツブンデスリーガ
アシストランキング1位を取り、
“アジアの突風”と恐れられるだけの事はある。
鋭い突破に正確なクロスは見事であった。
「麻美!!鈴音!!頼むぞ!!石黒、中澤!!カバーリング忘れるな!!」
ツンクがベンチを飛び出し、テクニカルエリアで指示を送る。
イランはやはりマチャミビキアがキープレイヤーだ。
絶対に彼女を自由にさせてはならない。
- 510 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:01
- さらにイランは今度は左サイドから攻めてきた。
トモ・チカーがボールをキープする。
そこにアヤカが当たるが、トモ・チカーの後ろから
サイドバックのイト・ホクヨーがタイミングよく上がってきた。
トモ・チカーはアヤカの裏に走り込むイト・ホクヨーにスルーパス。
イトは左サイドを鋭く突破し、中にクロスボールを送る。
このクロスはファーサイドに。
競り合うのは石黒とミツ・ヤー。
ボールがこぼれる。
そのこぼれ球にヨシ・イーが鋭く詰めるがGKミカの飛び出しが速かった。
ガッチリとこのボールを掴んだ。
試合序盤はイランが得意のサイドアタックからチャンスを創る。
- 511 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:02
- だが日本も負けてはいない。
「うらっ!!!」
中澤の狙いすましたタックルがヨシ・イーに決まった。
そのこぼれ球を平家が拾う。
平家はすぐさまトップ下、柴田に。
もちろんイランも柴田を警戒している。
マナミとカナミが素早くチェックに来る。
が、柴田もこれに気付いており、すぐさま平家に返し、
自分は前に走る。
そこへふわりと浮かせたパスが平家から来る。
フリーで柴田が前を向いた。
「あゆみ!!」
「柴田さん!!」
その瞬間2トップが動き出した。
村田は一度外に膨らみ、急激に中に切れ込む。
高橋は逆で、中から外へと開く。
パスコースは2つ。そして自分でもミドルを撃てる。
はたして柴田の選択は?
- 512 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:03
- 「めぐみ!!」
柴田が選んだのは村田へのパス。
村田の走るスピード、タイミングを全て熟知した最高のパスだ。
このパスに合わせ、DFラインを抜け出す村田。
が、その瞬間柴田のパスは大きく弾かれた。
ボールはタッチラインを割っていった。
「なっ?!!」
信じられないといった表情の柴田。
今のスルーパスは完璧なコースに出したはずだ。
それがスライディングでブロックされるとは?
「甘いで。」
スライディングでブロックしたクロがニヤッと笑う。
「ホンマホンマ。甘いで。」
その横でシロがカカカと笑う。
さすがはイランが誇る鉄壁のセンターバック、クロ・オセロとシロ・オセロだ。
今の柴田のスルーパスは出したのではなく、出さされたものだった。
- 513 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:04
- 日本の2トップは絶妙の動きをした。
高橋が一度中に切れ込み、外に開く事でシロ・オセロを外に向けさせた。
そして空いたスペースに村田が上手く飛び込んだのだが、これを逆手に取ったのだ。
イランはきっちりと日本を研究している。
村田が飛び出しが得意な事と、柴田は味方を活かすのがうまい。
つまりパスを多用することをきっちりと分かっていた。
「今日の試合、あんたらには仕事させへんからな。」
「必ずうちらが潰したる。」
シロとクロが日本の攻撃陣に不敵に言い放った。
もちろん日本の選手たちは言葉は分からないのだが、
ある程度はニュアンスで分かる。
「絶対に点取ってやる。」
「負けません。」
「絶対に倒してみせる。」
ミスオフサイド、次代のエース、そしてマエストロが真っ向から立ち向かう。
- 514 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:05
- 前半も25分が過ぎた。
ここまで両チームとも得点はない。
0−0のまま緊迫したゲーム展開が続いている。
ここまで圧倒的にイランが押していた。
サイドハーフとサイドバックが上手く連係し、
日本の両サイドをこれでもかと突いてくる。
「麻美!!頼むで!!」
「アヤカ!!そこや!!」
後ろから中澤の指示が飛び交う。
イランのサイドアタックに麻美、アヤカの両木村は何度も何度も振り回される。
特に左サイドの麻美だ。
対面が“アジアの突風”マチャミビキア。
この選手は今までのアジアの選手とは全くレベルが違った。
- 515 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:05
- 「おじょうちゃん、抜くでー。」
マチャミビキアがジリジリと距離を詰める。
麻美は腰を落として突破に備える。
と、その時後ろから右サイドバックのアブ・ホクヨーが凄い勢いで上がってきた。
この動きに一瞬だけ麻美の視線がひきつけられた。
すぐに視線をマチャミビキアに戻した時にはすでに彼女は自分の真横に来ていた。
「あっ?!!」
慌てて麻美は反転し、マチャミビキアを追いかける。
しかしマチャミビキアは速い。
追いかける麻美を振り切り1人で突っ込んでくる。
- 516 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:07
- 「ちっ!!」
石黒がマチャミビキアを止めるべく前に立ちはだかる。
が、マチャミビキアは石黒をひきつけておいて右足アウトサイドで外に振る。
そこにはオーバーラップを仕掛けていたアブ・ホクヨー。
フリーでこれを受け、中にクロス。
このクロスに飛び込むのはミツ・ヤー。
マークについている中澤に競り勝ち、頭で合わせた。
が、これをミカが素晴らしい反応で弾く。
このこぼれ球にヨシ・イーが詰めるが小川が必死に競り合い、
寸前でクリアした。
「ナイス麻琴!!」
小川の粘り勝ちだった。
日本、何とか失点は免れた。
- 517 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:07
- ここまで防戦一方の日本。
守備はもちろんのこと、攻撃でも完全に抑えられていた。
「くそっ・・・・・・・」
柴田がボールを持つが、パスコースがない。
2トップの村田と高橋にはオセロ2人がきっちりとマークに付いている。
左サイドの麻美はマチャミビキアに縛り付けられている。
右サイドのアヤカもトモ・チカーとイト・ホクヨーに手を焼いている。
そして自分には双子コンビが付く。
攻め手がない。
- 518 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:08
- こんな時はワンツーを多用してマークを外すのだが、
前線の村田、高橋はポストプレーが得意なタイプではない。
『安倍さんがいてくれたら・・・・・・』
柴田はベンチでくすぶっている日本のエースに視線を送る。
彼女ならばきっちりとポストに入って相手のマークを外してくれるだろう。
しかし今の安倍ははっきり言って使い物にならない。
前の試合、タイ戦での動きは最悪だった。
まず覇気がないのだ。
プレーが全て消極的。大事に大事に行こうとするばかりで思い切ったプレーが出来ない。
その結果、決まるものも決まらなくなり、さらにプレーが消極的になるという悪循環。
- 519 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:09
- 安倍がこうなったのもあの欧州遠征チェコ戦からだ。
この試合で松浦亜弥が素晴らしい動きを見せた。
それを見た安倍は自分が持っていた絶対的な自信が大きくぐらついた。
絶対に松浦に負けない。
そんな気持ちでJリーグに戻っていったが、今度はそれが空回りした。
普段ならば絶対にやらないような難しいプレーを見せるようになったのだ。
松浦に出来ることは自分にも出来る。
それを証明したいがために。
そのせいでリズムを大きく崩してしまった。
今まで点を取れた相手からも全く点が取れない。
この結果に安倍は焦り、今度は丁寧に行こうとする。
が、一度狂ったリズムはすぐに元には戻らない。
それがタイ戦にも結果として現れた。
- 520 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:10
- 『安倍さん・・・・・・』
視線の先の安倍は、どこか小さかった。
もちろん身体は元から小さいのだが、普段の彼女はもっと大きかった。
「あゆみ!!」
村田の声にハッとなる。
一瞬の隙をついてマナミが突っ込んできた。
これを柴田は何とかかわす。
が、その瞬間カナミが飛び込んできてボールを奪った。
- 521 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:10
- 「しまった!!」
高い位置で柴田がボールを奪われてしまった。
これには日本もディフェンス陣が整っていない。
すぐさまカナミは右サイドのマチャミビキアへ。
マチャミビキアはこのボールを胸でトラップすると、
グングン加速し、右サイドを爆走する。
そして中を見てクロス。
が、その瞬間麻美が懸命に戻り、スライディング。
しかしマチャミビキアはこれに気付いており、切り返して麻美をかわす。
ゴール前にはミツ・ヤーとヨシ・イーが走り込んでいる。
が、マチャミビキアはFW2人には上げず、マイナスにグラウンダーで送る。
そこに最後詰めてきたのはマナミ・クラ。
右足で豪快なミドルシュート。
このシュートにミカが反応し、右手で触るが止め切れなかった。
前半41分。
イラン代表が先制点を上げた。
- 522 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:12
- 「しまった・・・・・・」
柴田がガックリとうな垂れる。
今のは完全に自分のミスだ。
勝たねばならない試合で相手に先制点を許してはならない。
他の選手たちもこの失点により気落ちした。
逆にイランは先制点を上げた事で勢いに乗った。
両サイドからさらにどんどん攻めてくる。
が、中澤や石黒、平家といった経験のあるベテランの奮闘もあり、
前半は何とかこのまま切り抜けた。
- 523 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:13
- 「くそっ!!」
ハーフタイムになり、ロッカールームに帰ってくるなり
麻美が顔を真っ赤にしてはき捨てた。
ここまで完全にマチャミビキアに翻弄されている。
日本の左サイドは完全にザル状態だ。
しかし他ならぬ麻美でこうなのだ。
守備力に長けている麻美でこれなのだから、
石川や加護だともっとやられていただろう。
- 524 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:13
- 「もっとマチャミビキアにあたろう!!」
「双子コンビもだよ!!」
「サイドバックのホクヨー2人もだよ!!」
「トモ・チカーだってやばいよ!!」
各々が三々五々に言い合う。
自分の思っていることを言い合うだけで、他の選手の声など聞いていない。
みな少々熱くなりすぎている。
危険な兆候だ。
- 525 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:14
- もちろんツンクがこの兆候を見逃すはずが無い。
「みんな、まだ前半が終わっただけや。時間はたっぷりあるで。」
ツンクがみなを落ち着かせるため、パンパンと手を叩いてこちらに集中させる。
そのツンクの落ち着いた雰囲気に選手たちも我を取り戻す。
それを確認したツンクはみなに指示を与える。
「後半戦やけど、各自がそれぞれ自分の仕事をきっちりする事や。何をすればいいかは自分らで分かるやろ?」
ツンクの言葉に頷く選手たち。
そう、難しい事はいらない。
それぞれが自分の役割をこなせばきっと流れはこちらに来る。
「よっしゃ、そんなら後半戦はこっちの力を見せたれ。ええな?」
「はいっ!!!」
- 526 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:15
- 「あゆみ、どんどんパス出してくれていいから。
ちゃんとポストもするし。」
村田が柴田に声をかける。
「大丈夫?めぐみ、はっきり言ってポスト苦手でしょ?」
「まあ、はっきり言うなら苦手。でも、そうも言ってられないでしょ。
あたしの方が愛ちゃんよりタッパもあるしね。だから愛ちゃん、頼んだよ。」
「はいっ!!」
高橋が気合いを入れる。
村田が潰れ役をやってくれる。
自分は必ずそれを生かしてみせる。
- 527 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:16
- 後半戦が開始された。
1点を奪ったイランだが、積極的に攻めてくる。
こちらも決勝トーナメント出場は決まっているのだが、
やはり韓国と初戦に当たるのだけは避けたい。
ここは3戦全勝でUAEと当たりたいところだ。
それだけに2点目を取って日本に止めを刺したいところだ。
「オッケー!!」
マチャミビキアの前に立ちはだかる麻美。
今度は視線を外すような事はしない。じっと集中している。
こうこられるとマチャミビキアでも抜くのは難しい。
とそこへ横から鈴音がチェックに来た。
2人がかりでマチャミビキアに当たる。
『くっ、何やねんこいつら!!』
マチャミビキアは何とかボールをキープするが前に進めない。
- 528 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:16
- 「マチャミさん!!」
と、そこへ後ろからアブ・ホクヨーが上がってきた。
その声に反応したマチャミビキアは麻美と鈴音のわずかな間を抜いてパス。
「ナイスパス!!あっ?!!」
このパスを受けたアブ・ホクヨーだが、激しいスライディングに吹っ飛ばされた。
日本最高のストッパー、石黒彩だ。
「ナイスあやっぺ!!」
中澤から声が飛ぶ。
- 529 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:17
- 「石黒さん!!!」
柴田がイラン右サイドバック、
アブ・ホクヨーが上がって出来たスペースへ走る。
柴田をフリーにしてはまずい。
慌ててチェックに行く双子。
が、柴田は囮だった。
「あやっぺ!!」
双子が右サイドに流れた分、中央がフリーだ。
そこをボランチの平家が上がる。
石黒からパスを受けた平家、ドリブルで突き進む。
- 530 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:18
- その瞬間2トップが前線で動く。
高橋が右サイドから左サイドへ、
村田が右から左へと2トップが交差する。
「マーク!!」
「分かってる!!」
これにイランDFシロとクロがマークを受け渡す。
『こいつらは2人とも裏への飛び出しが得意なFWや。』
『だから裏へ飛び出す瞬間さえ抑えてたら何も恐い事あらへん。』
オセロの2人は平家のパスのタイミングを警戒する。
と、その瞬間右に流れた村田がピタッと止まり、
平家の方に近付いてきた。
「なっ?!」
これに慌ててシロが付いてくる。
平家は村田に預け、前に走る。
村田はシロを背負いながら懸命にポストプレー。左に流す。
そこにはパスを出した平家が走り込んでいる。
全くのフリーだ。
「くっ!!」
慌ててクロが平家のシュートコースに飛び込む。
が平家はシュートを撃たず、
右足アウトサイドで村田が下がって出来たスペースへスルーパス。
そこへ走り込むのは高橋愛。
クロが自分から眼を離した隙に裏へ飛び出していた。
- 531 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:18
- 抜け出した高橋、これを思い切り右足で叩いた。
コースは広いファーサイドではなく、あえて狭いニアサイドを狙った。
GKは完全に逆を突かれた。
ゴォン!!!
「あっ?!!」
が、このシュートはポストに嫌われてしまった。
跳ね返ったボールはイト・ホクヨーが大きくゴールラインに蹴りだした。
- 532 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:19
- 「がああああっ!!!」
ベンチの選手たちが思わず頭を抱える。
完璧な攻撃だった。
麻美、鈴音、石黒のディフェンスから柴田の囮となる動き、
村田のポストプレーに平家のスルーパス、そして高橋の動き出し。
全てが1つの線につながった攻撃だった。
しかしそれでも得点は奪えなかった。
・・・・・・・・・・やばい。
何とも言えない重い雰囲気が日本を支配する。
逆にイランはあれが決まらなかったことで
今日は流れがこっちに来ていることを確信する。
- 533 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:19
- 日本の右からのコーナーキック。
本来ならばチャンスなのだが、今の日本にはそうは感じられない。
どんよりと曇りきった雰囲気だ。
こんな時こそ曇り空を吹き飛ばしてくれる太陽が必要なのだ。
どんな状況でも決して負けない、ここぞで頼れるエースが。
「行くで!!」
平家の右足が振りぬかれた。
ボールはGKから遠ざかっていく。
このボールに石黒が飛び込むがクロが必死にクリアした。
こぼれ球はペナルティエリアの外でカウンターに備えていたマチャミビキアのもとへ。
- 534 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:20
- 「よっしゃ!!もらった!!」
マチャミビキアが右サイドを駆け上がる。
「行かせません!!」
その前に立ちはだかるのは麻美。
が、マチャミビキア、フォローに来たカナミとワンツーで麻美をかわす。
フリーで右サイドを駆け上がるマチャミビキア。
「鈴音!!小川!!頼んだで!!」
後ろは鈴音と小川に任せ、日本最高のDFがマチャミビキアに当たる。
『隙があらへん!!』
さすがのマチャミビキアも中澤裕子は抜けない。
ドリブル突破を諦めたマチャミビキアは中にパスを送る。
このパスを鈴音を背負いながら受けるミツ・ヤー。
一拍溜めて左に流す。
そこへ走り込むのはヨシ・イー。
だが小川もきっちり付いている。
- 535 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:21
- 「あっ?!!」
しかしこのパスをヨシ・イーはスルー。
その裏から走り込んで来たのはカナミ・クラ。
「もらった!!」
カナミがシュート体勢に入る。
が、その時快足を飛ばしてアヤカが戻ってきた。
シュートを撃つ瞬間アヤカのスライディングによりコースが甘くなった。
甘くなった分ミカが届いた。
フィスティングでこれを弾く。
が、このこぼれ球がミツ・ヤーの前に。
「もらった!!」
鋭く反応して思い切り右足を振り抜いた。
- 536 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:21
- 「ぎゃっ!!!!」
ピッチに響く悲鳴。
ボールは大きく弾かれ、ゴールラインを割っていった。
- 537 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:22
- 「ミ、ミカッ!!!!!」
アヤカが叫ぶ。
ピピピピピ!!!!
主審がすかさず試合を止める。
「ミカ!!!」
アヤカが倒れているミカを起こそうとする。
「触るなアヤカ!!!」
ハタケがベンチから飛び出し、叫ぶ。
きっと脳震盪を起こしている。
下手に動かすと危ない。
得点を許せば負けだ。
いや、それだけではない。
GKたるもの、ゴールを奪われるのが何よりも屈辱なのだ。
その思いからミカはあの至近距離のシュートに勇気を出して
身体全体を投げ出した。
それがもろに顔面に直撃したのだ。
しかしその結果、ゴールを死守したのだ。
- 538 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:23
- 「ミカ!!おいミカ!!聞こえるか?!!」
ハタケが呼びかける。
「ミカ!!」
アヤカも呼びかける。
それが何度か続いた後、ミカの眼がうっすらと開いた。
「ミカッ!!」
「あ・・・・アヤカ・・・・・ボ、ボールは・・・・・・?」
「大丈夫!!守ったよ!!」
「そう。・・・・・・良かった。さ、次は点を取ろう。」
そう言ってミカは立ち上がろうとするが、
途中でバランスを崩してピッチに座り込んでしまった。
どうやら足に来ているようだ。
「これはアカン。」
ハタケはベンチに向かって両手でバツを見せた。
- 539 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:24
- 「ダメか?!!」
ツンクは顔を歪める。
ここでミカがダメなのは痛い。
ミカの実力は飯田に匹敵するものだ。
それが抜けるのはただひたすらに痛い。
「ツンク、GKは?」
マコトだ。
ツンクは一瞬考える。
そして決断する。
「信田!!頼むで!!」
「はい。」
呼ばれたのはベテランGK、信田美帆だった。
- 540 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:25
- 「何で信田?」
「ここは前田だろ?」
「っていうか何で信田が代表に選ばれるんだ?」
これらはテレビで声援を送っているサポーターたちの偽らざる言葉である。
素人目だと、何故信田が代表に選ばれているのか分からないのだ。
確かに反射神経、ジャンプ力などは飯田やミカ、亀井に前田より圧倒的に劣っている。
だが、信田が彼女たちよりも優れている点がある。
それがあるからこそツンクは信田を代表に選び、
なおかつこの場面で起用したのだ。
「後は任せとけ。」
「・・・・・・お願いします。」
タンカに乗せられて戻ってくるミカにそう声をかけ、
信田はピッチに飛び出していった。
当然ミカは交代などしたくはなかった。
が、どうしても足に力が入らない。
自分に対する不甲斐なさ、悔しさでミカの眼からは涙が溢れた。
- 541 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:26
- イランの右からのコーナーキックだ。
キッカーはカナミ・クラ。
「マーク離すなよー。集中集中。」
信田が指示送る。
その声は大声を出しているのではないにも関わらず実に良く通る声だった。
ヒステリックに声を張り上げない。
そしてピンチであるにも関わらず落ち着いた態度。
その声、態度に日本の選手たちは落ち着きを取り戻し、
集中力が増していく。
- 542 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:27
- カナミの右足が振りぬかれた。
その瞬間ニアサイドに走り込むのはマナミ・クラ。
が、このボールはマナミを越えてファーサイドへ流れていく。
そしてググッとブレーキがかかり、ゴールに向かって曲がっていく。
『よし、狙い通り!!!』
カナミはマナミを囮にして直接ゴールを狙ったのだ。
双子の見事なコンビプレー。
が、信田はこれを読んでいた。
素早くファーサイドに回り込み、このボールをキャッチした。
「「えっ?うそっ?!!」」
思わず同時に叫ぶ双子。
完璧なセットプレーだったのに?
- 543 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:28
- すかさず信田はスローイングで右サイドのアヤカに。
アヤカはこれを受けるとドリブルで突き進む。
センターハーフの双子が上がっている今がチャンスだ。
「イト!!止めろ!!」
マチャミビキアが叫ぶ。
が、スピードに乗ったアヤカはそう簡単には止められない。
キュキュッと音がしそうなほどのキレのあるドリブルで
イト・ホクヨーをあっさりとかわした。
そして右サイドを深くえぐって中に鋭いクロス。
これに村田が飛び込み、ヘッドで合わせた。
が、これをイランGKは手に当てた。
勢いが無くなったボールは右ポスト付近に。
「うおおおおお!!!」
そこにもう一度頭から飛び込む村田。
イランGKも懸命に右手を伸ばす。
- 544 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:28
- 一歩村田が速かった。
村田の執念のダイビングヘッドがイランゴールを揺らした。
「ぐあっ!!!!」
が、次の瞬間村田の叫び声がピッチに木霊した。
左肩を抑えてのた打ち回る村田。
「めぐみ!!!」
「村田さん!!!」
柴田に高橋が駆け寄る。
もちろんハタケもベンチから飛び出す。
今のプレーは、少しでも躊躇したら決まらなかった。
しかしその代償として村田は左肩をポストに激しく打ち付けたのだ。
- 545 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:29
- すぐさまピッチの外に出され、治療を受ける村田。
イランは引き分けでもかまわないが、
今日本が1人少ないためすぐに試合を再開させる。
「麻美!!!サイドバックに下がれ!!!
平家、鈴音、アヤカ3枚!!!」
ツンクがすぐに指示を送る。
麻美をサイドバックに下げ、4バックに。
中盤はボランチを3枚にして守りを重視した。
「・・・・・・この試合は何やねん。呪われてるんか・・・・・・?」
指示を出した後、そう呟くツンク。
ミカに続いて村田まで。
勝利の女神は日本を見放したのであろうか?
- 546 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:36
- 「あかん、これは無理や・・・・・・」
村田の左肩を見たハタケはそう判断した。
恐らく脱臼している。
「大丈夫です!!出ます!!テーピングでガチガチに固めてください!!」
しかし村田は断固出場を直訴する。
「いや、これは無理や。」
ハタケはベンチにいるツンクに両手でバツを見せようとした。
が、村田はそうはさせじとハタケの手を握る。
「いい加減にしろ!!もしこの試合負けても決勝トーナメントには行けるんや!!
それにアジアカップだけやない!!他にも試合はあるんや!!」
ハタケが村田に怒鳴る。
フィジカルコーチかつドクターとしてこんな状況で出場させる事など出来ない。
ハタケの剣幕に日本ベンチも思わず息を飲む。
「次なんてないんですあたしには!!!今しかないんです!!
日本が勝つのだって今しかないんです!!!」
しかし村田は怯まず、真直ぐハタケの目を見る。
彼女はずっと日陰を歩いていた。
実力があるにも関わらずいつも安倍や後藤の陰に隠れていた。
しかし彼女は腐らず練習に明け暮れた。
その結果が昨シーズンJリーグ得点王に、アジアカップ不動のスタメン。
今も貴重な同点ゴールを叩き込んだ。
自分のため、そして日本のためにこの試合、絶対に勝ちたい。
そんな気持ちで一杯だった。
- 547 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:37
- 『・・・・・何やってるんだべ、なっちは・・・・・・・』
アップをしていた安倍は村田がハタケに言う姿を見て、
いかに自分が甘えていたか思い知らされた。
いや、村田だけではない。ミカだってそうだ。
斉藤や里田、それ以外のみなも必死に戦っている。
オリンピックに選ばれなかった悔しい思いはある。
しかしそれを表に出さず、日本の勝利のためにこのアジアカップを懸命に戦っている。
- 548 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:37
- それに比べて自分はどうだ?
松浦のことばかり気にしてチームのことなど何も考えていない。
いい所を見せつけようとし、それが失敗して落ち込む。
何て独りよがりなんだろう?
何が日本のエースだ。
『・・・・・やるべ。』
「あ、安倍さん?」
加護が叫ぶ。
安倍は何を思ったか、一目散にスタジアムの中に入っていった。
- 549 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:38
- 「鈴音、右からも来てるよ。」
「裕ちゃん、そこでカバー。」
「小川、裏から来てるから。」
信田から様々な指示が飛び交う。
その指示に従い日本DF陣はイランの攻撃を抑えこむ。
『な、何やこいつらの守備は?全く隙があらへん。』
マチャミビキアが思わず息を飲む。
1人少ないはずの日本。
しかし全く隙のない守備組織。
これは全て彼女の指示のおかげだ。
ベテランGK、信田美帆。
- 550 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:38
- 「理想は一度もボールに触らず、DF陣を動かして無失点に抑えることです。」
これは信田が言った言葉だ。
GKというのは派手なセーブばかり取りざたされる。
跳躍力に優れたGK、反射神経のすぐれたGKというのがいいGKだとみな思っている。
しかしそれは大きな間違いである。
もちろん跳躍力も、反射神経も必要だ。
だが、それ以上にGKに必要なものがある。
それは経験だ。
- 551 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:39
- 経験があるからこそ相手の攻撃が読め、未然に防ぐ事が出来るのだ。
先ほどのコーナーキックも、カナミの目が一瞬ファーサイドを確認したのを信田は見逃さなかった。
そして今出している指示も、今までの経験と照らし合わせてこの時にはこう、
その時にはそうと予測・判断して指示を送っているのだ。
もちろん飯田やミカ、前田や亀井も後ろから的確な指示を送る。
しかし、みなまだ若く、圧倒的に経験が足りないため予測できるパターンが
信田より少ないのだ。
- 552 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:40
- そして1点負けてて、なおかつミカまで負傷退場となったあの場面。
普通ならばどんな選手でも力みすぎるか、萎縮してしまうはずだ。
この場面で任せられるのは今まで多くの修羅場をくぐってきた信田しかいなかった。
GKとは経験がものを言うポジション。
経験が身体の衰えをカバーしてくれる。
だからこそ世界には30代後半でも第一線で活躍できるGKが多いのだ。
- 553 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:40
- マナミからのパスを受けたヨシ・イーがシュートを放つ。
中澤がチェックに行くが間に合わない。
ギリギリのコースに強烈なシュートが飛んでいく。
「よしっ!!決まった!!」
そう確信するヨシ・イー。
しかしこのシュートを信田は真正面でがっちりとキャッチした。
「そんな?!!」
ヨシ・イーは信じられなかった。
あのコースに飛んだのに真正面でキャッチされるなんて?
- 554 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:41
- 『さすが裕ちゃん。』
信田は分かっていた。
シュートは止められなかったものの、
中澤は片方のコースだけは完全に切っていた。
だからこそ信田は反対のコースにヤマを張ることが出来たのだ。
ヨシ・イーはあのコースに撃ったのではなく、撃たされたのだ。
もちろん中澤のこのディフェンスに気付いた信田が素晴らしいのだが。
「よしっ、これでDF陣は落ち着いた。」
ツンクが信田のプレーを見て頷く。
後は攻撃陣だ。
村田は?
- 555 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:42
- 村田はテーピングをハタケにしてもらい、
ピッチに戻ろうとしていた。
ハタケが村田の熱意に折れた。
主審はそれを見てピッチに入るように指示した。
「あゆみ!!どんどん出して!!」
村田が痛々しい姿で叫ぶ。
試合は残り15分。
倒れるまで走りきる。
- 556 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:42
- 「ぐっ!!!」
村田が左肩を抑えてピッチに倒れこむ。
しかしファウルではない。
「怪我人は大人しくしとれよ!」
村田の左肩を狙ってショルダーチャージを仕掛けたクロ・オセロ。
これには日本のサポーターからブーイングが飛ぶ。
だが、いくら怪我をしていようがピッチに出ている以上何の言い訳にもならない。
弱点があればそこを突く。
勝負の鉄則だ。
- 557 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:43
- 「・・・・・やっぱあかん。おい、安倍!!!」
しばらく村田の熱意に任せたが、
やはり無理だと判断したツンクは安倍を呼んだ。
が、安倍がいない。
「おいっ、安倍は?!!」
「あ、安倍さんなら中に入っていきましたけど・・・・・」
「はあ?!!」
加護の言葉に表情を歪めるツンク。
と、ちょうどその時安倍が戻ってきた。
「あ、安倍さん?」
加護が安倍の姿を見て目を丸くする。
- 558 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:44
- 「行きます。」
安倍はそう言うとすぐにアップスーツを脱いでレガースをソックスに入れる。
その眼光は鋭い。
絶えず笑みを浮かべている普段とは全く違う表情。
そして下ろしていた髪を全て上げ、オールバックにしている。
それが今までの安倍とは違った、凛とした雰囲気を醸し出している。
もちろんそれは髪型のせいだけではない。
内面からほとばしる何かがそう感じさせていた。」
「・・・・・安倍、頼むで。」
「はい。」
ツンクも安倍の変化に期待を寄せる。
- 559 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:45
- ボールがタッチラインを割った。
オオオオオオオオオ?!!!
ここ中国まで応援に駆けつけた日本のサポーターたちがどよめく。
タッチライン際に立った背番号9。
その雰囲気がいつもと違うからだ。
交代を指示された村田が戻ってくる。
もっと出たかった。けど、仕方が無い。
後は仲間たちに任せよう。
「なっち、頼むね。」
「うん。任せといて。」
村田と右手でタッチをかわし、
安倍はピッチに飛び出していった。
「みんな!!!絶対この試合勝つべ!!!!」
ピッチに入るなり安倍が吠えた。
- 560 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:46
- 試合が再開された。
イランがDFラインでボールをキープする。
イランにとっては引き分けでグループ1位が確定する。
それだけに残り時間を考えて、もう無理をする必要はない。
イトからシロへ。
シロからクロへとボールをゆっくりと回す。
とそこへ安倍が積極的にチェイシングに行く。
「うおっ?!!」
安倍の鋭い動きにクロは慌てて前に蹴りだす。
これは鈴音が余裕でカットした。
- 561 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:46
- 「鈴音!!!」
左サイドの麻美がボールを要求する。
鈴音からボールを受けると麻美は左サイドを駆け上がる。
とそこへマチャミビキアが立ちはだかる。
麻美はフォローに来た柴田に預け、自分は前に走る。
「甘いで!!」
しかしマチャミビキアはこれを読んでおり、すぐに反転して麻美と並走する。
ところがボールが麻美に返ってこない。
「甘いのはそっち。」
柴田はリターンを麻美に返さず、前線の安倍に出していた。
安倍はクロ・オセロを背負いつつも体を張って柴田に落とす。
柴田はこれをダイレクトでDFラインの裏にスルーパス。
これにタイミングよく抜け出した高橋が思い切ってシュートを放つ。
が、これはGKがファインセーブ。
- 562 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:47
- 「ここだっ!!!」
安倍がゴール前に走り込む。
GKが弾いたボールが安倍の目の前に。
さすがはストライカーだ。
ゴールの匂いを感じ取っていた。
やられた!!!
イランの誰もがそう思った。
が、勝利の女神は日本に微笑んでくれなかった。
- 563 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:48
- 「?!!」
バウンドしたボールをインサイドキックで合わせる。
が、インパクトの瞬間、ボールがピッチがえぐれた所に落ち、
大きくイレギュラーしたのだ。
ボールは大きく浮いてしまい、クロスバーを越えていった。
「バ、バカ!!!何やってんだ安倍は!!!!」
「もうこいつなんていらねえよ!!!!」
テレビを見ているサポーターたちはもちろん、
スタジアムに来ているサポーターたちも今のプレーに頭を抱え、
ブーイングを送る。
- 564 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:48
- が、安倍はちっと舌打ちするだけですぐにポジションに戻る。
確かにイレギュラーでシュートは外してしまった。
だが、こぼれ球に真っ先に反応できたのは自分だ。
得点感覚は、ゴールへの嗅覚はまださび付いていない。
必ずもう一回チャンスが来る。
その一回に全てを賭けるため、獣は今、静かに牙を研ぐ。
- 565 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:49
- 「加護!!行くで!!」
「はいっ!!」
ツンクが加護を呼ぶ。
イランは守りを固めてきた。
となるとここは個人技で状況を打破していく。
交代するのは麻美だった。
「麻美、ナイス!!」
「麻美、良かったよ!!」
みなから声が飛ぶ。
ここまでマチャミビキアに食らいつき、
なおかつ攻撃でも多大な貢献をした。
誰が4番手?
その存在をきっちりと見せ付けた。
- 566 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:50
- 加護が投入されたことで、ツンクはシステムを3−5−2に戻した。
両翼にドリブラーのアヤカ、加護を揃えて点を奪いに行く。
その分ディフェンスは薄くなるが中澤率いる3バックと信田のコーチング、
鈴音のハードマークでこれをカバーだ。
投入早々加護が左サイドをドリブルで突破する。
マチャミビキア、アブ・ホクヨーを一瞬でかわす。
そして中に速く低いクロス。
このクロスに安倍が飛び込むがあと数センチ届かなかった。
「足遅いんだよ!!!」
「村田なら触ってた!!!」
今のプレーにも日本サポーターからブーイングが飛ぶ。
- 567 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:50
- 「安倍さん、すみません!!」
加護が安倍に声をかける。
今のクロスは正直自分のミスだ。
安倍はスッと手を挙げ、加護の声に応える。
今のも届かなかったが、動き出しは悪くない。
手応えは感じている。
後はそれを決めるだけだ。
加護が入り、日本の攻撃も力強くなった。
が、イランも必死に守る。
時間はどんどん過ぎていく。
そして残りはロスタイム3分となった。
- 568 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:51
- 柴田が中盤でボールを持つ。
が、イランも守りを固めているためパスコースがない。
「柴田さん!!」
加護がボールを要求する。
こんな場面を打ち砕くために自分が使われたのだ。
ここで行かなければいつ行くのだ?
「頼むよ加護ちゃん!!」
柴田も加護のドリブルに全てを託す。
左サイドでボールをもらった加護。
その前にマチャミビキアとイト・ホクヨーが立ちはだかる。
『さっきは完璧に抜かれた。けど次は抜かせへん。』
マチャミビキアが腰を落として構える。
欧州で手ごわいドリブラーと何度も対峙して来た。
絶対に抜かせない。
- 569 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:52
- だが加護も目標は世界だ。
ここで立ち止まるわけにはいかない。
加護はわざとマチャミビキアの間合いにボールを出す。
「もらった!!」
すかさず足を伸ばすマチャミビキア。
が、加護はその瞬間を逃さずスッとマチャミビキアの股間にボールを通す。
「よしっ!!」
その瞬間DFラインの裏に飛び出す安倍。
加護もそれを目でとらえておりラストパスを送る。
「ぎゃうっ!!!」
が、その瞬間後ろからのタックルになぎ倒された。
「行かせるかこのボケッ!!!」
マチャミビキアだった。
屈辱の股抜きをされては黙ってはいられない。
- 570 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:52
- しかし当然ファウル。
マチャミビキアにはイエローカードが出された。
しかしこれもある意味計算通り。
あのままパスを出されていたらほぼ確実に失点していたし、
このファウルで少し時間を使うことも出来る。
さすがは欧州で活躍するマチャミビキア。
こういった時間の使い方も長けている。
だが、日本も絶好のチャンスだ。
距離は約22m。
右足のキッカーは絶好の位置だ。
となるとこのFKは彼女の出番だ。
日本が誇るレジスタ、平家みちよ。
- 571 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:53
- 平家がボールをセットする。
主審が時計を見る。
恐らくこの1プレーで終わりだろう。
イランは当然全員戻って守る。
日本もGKの信田を残して全員イラン陣内に入っている。
「頼む平家!!!」
「決めてくれ!!!」
みなが平家の右足に祈りを込める。
由緒正しき平氏一族に代々伝わるその名刀に。
ピィーッ!!!
主審の笛が鳴った。
平家が助走を開始し、左足を大きく踏み込んだ。
- 572 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:54
- シュパッ!!!!
平家の右足の名刀が振りぬかれた。
ボールは7枚の壁の頭を越え、鋭く曲がってゴール左隅に。
『よしっ!!決まった!!』
蹴った瞬間そう確信した平家。
が、またも勝利の女神は微笑まなかった。
- 573 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:55
- カンッ!!
響く金属音。
その瞬間頭を抱える日本陣営。
喜び、手を上げるイラン陣営。
- 574 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:55
-
が、次の瞬間、それは逆になった。
- 575 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:55
-
しなやかに飛ぶ青いユニフォーム。
その背中の番号はエースストライカーの証明である9番。
- 576 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:56
- 女性は美に対して強い意識を持っている。
もしかすると日本代表には綺麗どころがおおいため、
勝利の女神は嫉妬していたのかもしれない。
だからあんなに意地悪をしていたのであろう。
- 577 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:57
-
しかしどうやらその女神は、髪を上げ、凛とした雰囲気になった彼女に惚れたようだ。
- 578 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:57
- 後半ロスタイム。
復活したエース、安倍なつみのダイビングヘッドが決まり、
日本はグループリーグを首位で突破した。
- 579 名前:第9話 アジアの突風 投稿日:2004/04/16(金) 13:58
-
第9話 アジアの突風 (終)
- 580 名前:ACM 投稿日:2004/04/16(金) 14:04
- 第9話 アジアの突風 終了いたしました。
今回、とうとう一回も主人公が出てきませんでした。
もしかすると次回もその可能性が・・・・・・・
そしてその次も・・・・・・・?
この展開に拗ねたりしないか心配です。
- 581 名前:ACM 投稿日:2004/04/16(金) 14:13
- では次回の予告です。
第10話 四面楚歌
予選リーグを突破した日本代表。ここからは全て一発勝負のトーナメント戦だ。
グループリーグとは比べ物にならない熱い戦いが日本代表を待ち受けている。
この日本代表の前にたちはだかるのはやはりここだ。
開催国、中国。
周りは全て敵。そんな状況の中、日本代表はどう立ち向かって行くのか?
- 582 名前:ACM 投稿日:2004/04/16(金) 14:14
- 次回もどうぞよろしくお願いします。
- 583 名前:ACM 投稿日:2004/04/16(金) 14:15
- ふと思いましたが、予告って完全にネタバレですよね。
という事でスレ隠しなるものをしてみようと思います。
今頃気付くなんて遅いですよね。
- 584 名前:ACM 投稿日:2004/04/16(金) 14:17
- 次回更新はおそらく1週間後ぐらいだと思います。
これからもCALCIO×3をよろしくお願いいたします。
- 585 名前:名無しぃく 投稿日:2004/04/16(金) 18:47
- 超大量更新お疲れ様です!
すんごい見ごたえのある試合内容でした。
前から思ってたんですけど選手たちのネーミングもすごくイイです。
今回の名前もユニークな感じでべりーないすですw
次回も楽しみに待っております。
- 586 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/16(金) 21:28
- 更新お疲れ様です。主人公が出てこなくて少し寂しい思いをしましたが・・・
けが人続出で大変な試合になりましたね。
なっちの復活が何よりかな(笑)
次回の更新楽しみにしてます。
- 587 名前:みっくす 投稿日:2004/04/16(金) 23:09
- 更新おつかれさまです。
いやー、すごい試合でしたね。
日本のエースも輝きを取り戻し、いい感じになってきましたね。
次回の更新楽しみにしてます。
- 588 名前:ACM 投稿日:2004/04/20(火) 02:10
- 585>名無しぃく様
ネーミングを褒めていただき、ありがとうございます。
サッカーを題材にしている以上、やはりハロプロメンバーだけでは
話が進められないので、他の選手にも色々と考えて名前とかつけております。
それを気に入って頂けたようで凄く嬉しいです。
586>娘。よっすいー好き様
まさしくお名前の通りですね。主人公が出なくてホントすみません。
サッカーは激しいスポーツですから怪我は付き物です。
むしろ今までみな順調に来すぎていたのでは?という感じです。
ただ、やっぱり小説とはいえ、娘さんたちを怪我させるのは嫌ですね。
587>みっくす様
まず前回の返レスの際に脱字があったことをお詫びいたします。
“ありがとうございます”が、“ありがとございます”になっておりました。
本当に失礼致しました。いつもレスを頂いているのにホント申し訳ありません。
これで見限る事無くこれからも応援していただくと凄く嬉しいです。
これからもよろしくお願いいたします。
えー、次の更新は1週間後と言っておりましたが、意外に早く書けたので
本日、更新させていただきます。
- 589 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:11
- 日本は苦しみながらもイラン代表を倒し、グループ1位で予選を突破した。
が、このイラン戦でFWの村田めぐみが負傷。
詳しい検査の結果、やはり左肩は脱臼していた。
これでアジアカップは絶望となった。
だが村田自身はこの結果にそれほどショックは受けていなかった。
- 590 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:12
- あの場面、飛び込まねば点は取れなかった。
ストライカーとしてあそこで逃げるわけにはいかなかった。
あそこで飛び込めたという事は自分がストライカーであった証拠だ。
それにチームのために役立てたのだ。
残る試合はベンチから声援を送り、日本の勝利を祈る。
さらにGKのミカもボールをもろに顔面に受け、脳震盪を起こした。
詳しい検査の結果、異常は特に無かった。
が、頭を打っているだけにツンクは大事をとって次の試合は休ませるつもりだ。
- 591 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:12
- イラン戦から3日後の7月31日。
決勝トーナメント1回戦(準々決勝)対UAE戦が行われた。
この試合は前の試合から中2日ということでメンバーを大幅に入れ替えた。
<日本代表スターティングメンバー>
GK 12 前田有紀
DF 13 大谷雅恵 安倍 加護
20 里田まい
22 斉藤 瞳 柴田
MF 4 辻 希美 石川 矢口
8 矢口真里
10 柴田あゆみ 新垣 辻
14 石川梨華
21 新垣里沙 斉藤 里田 大谷
FW 5 加護亜依
9 安倍なつみ 前田
- 592 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:13
- ツンクも上手くメンバーを代えて適度に休ませてはいるが、
どうしても1人だけ休ませることが出来なかった。
柴田あゆみである。
やはり彼女だけは代えるわけにはいかなかった。
もちろん田中れいなというU−17世代の逸材はいるが、
スタメンで使うには恐さが残るぐらい今の柴田の存在は際立っていた。
- 593 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:13
- 準々決勝の相手はUAE代表。
こちらも中東勢らしく、堅い守りからのカウンターが得意なチームだ。
身体能力も申し分ない。
しかし日本は前の試合で怪我をし、
今大会絶望となった村田のためにもと燃えていた。
特に柴田、斉藤、大谷だ。
プライベートでも村田と仲の良いこの3人がやってくれた。
石川のコーナーキックから大谷がヘッドで決めた。
斉藤は身体を張ってUAEのカウンターを食い止める。
そしてもちろん柴田は見事なゲームメイクをみせ、
復活した安倍の2試合連続のゴールをアシスト。
2−0で日本がUAEに快勝し、準決勝にコマを進めた。
- 594 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:14
- 準々決勝の試合結果は以下の通り。
バーレーン2−0イラク
韓国2−1イラン
ウズベキスタン0−2中国
日本2−0UAE
- 595 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:15
- この結果準決勝の対戦カードは以下の通りになった。
バーレーンVS韓国
中国VS日本
- 596 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:16
- 中国代表。
ツンクが日本代表監督に就任して以来、
オリンピック予選も含めるとこれで通算4度目の対決となる。
最初の戦いはオリンピック予選UAEラウンド。
結果は0−0の引き分け。
飯田とサ・トエリの初の競演。
この試合で両者はお互いを認め合い、
アジアbPGKを争う良きライバルとなった。
次はオリンピック予選日本ラウンド。
3−2で日本が勝利した。
サ・トエリは3失点したものの、どの得点もある意味仕方がないもの。
石川の“魔法の左足”に柴田のラルクアンシエル、そしてひとみのキラーパス。
一方中国の得点は全て飯田のミスによるものだった。
そして東アジア選手権大会。
この試合は飯田、サ・トエリとも招集されなかった。
そしてお互い海外組を欠いたこの試合。
結果は村田の2ゴールにミカが無失点におさえ、
2−0で日本が勝利した。
- 597 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:16
- ここまで日本の2勝1分。
中国代表にはいまだ負けなしの日本。
しかし今日の試合は今までとは全く違う。
それは何故か?
中国のホームだからだ。
オリンピック出場を逃した中国。
そのためアジアカップ制覇は絶対に成し遂げねばならない。
- 598 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:17
- 試合会場は済南・山東体育場。
スタジアムは見渡す限りの赤一色だった。
「ええか、この試合、まずは雰囲気にのまれるな。
自分たちのプレーだけに集中しろ。」
ツンクがまず一番に選手に伝えたことはやはりこれであった。
初戦こそ中国はホームの声援が逆効果になったものの、
その後は大声援をバックに危なげなく勝利を収めている。
やはりサポーターたちの後押しは大きな力となる。
- 599 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:18
- 正直に言えばここで中国と当たるのは大誤算だった。
恐らく中国はグループリーグ1位で突破してくると思っていた。
そうなっていれば準決勝で中国と韓国が激突していたのだ。
日本としては厄介な相手のどちらかが確実に1つ消えてくれる。
その予定だった。
が、中国がまさかのグループ2位。
準決勝で中国と当たる展開になってしまったのだ。
恐らくこの後韓国が決勝に上がってくるだろう。
つまりこの2強を倒さねばアジア制覇は無いという事だ。
だがそれを嘆いていても仕方がない。
逆にこの両国を倒してアジア制覇となれば、
それは最高の価値があるアジア制覇となる。
- 600 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:19
- 「スタメンを発表する。GKミカ。」
『飯田との対決を楽しみにしていたのに残念だ。』
前日、テレビのインタビューにサ・トエリはこう答えていた。
それを見たミカは不敵に笑った。
『明日は私との競演をきっと楽しめるよ?』
「DF。石黒、中澤、大谷。」
中国はみな身長が高い。
それだけに3バックは高さをそろえた。
「ボランチ。平家、辻。」
中盤の指揮官平家みちよに、今日はパワーに優れた辻をスタメンに起用した。
「左サイド、石川。」
魅惑のレフティー。
オリンピック予選同様、“魔法の左足”に期待を込める。
「右サイド、アヤカ。」
こちらはDFもこなせるアヤカ。
もちろんドリブルにも期待だ。
「トップ下、柴田。」
ここまで全試合スタメンは彼女のみ。
今や完全に日本代表は柴田あゆみのチームになった。
「FW、安倍、高橋。」
復活したエースに次代のエース。
両エースがサ・トエリとメ・グミー率いる“万里の長城”を打ち破る。
- 601 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:20
- <日本代表スターティングメンバー>
GK 1 ミカ・トッド
DF 2 石黒 彩 安倍 高橋
3 中澤裕子
13 大谷雅恵 柴田
MF 4 辻 希美 石川 アヤカ
7 平家みちよ
10 柴田あゆみ 辻 平家
11 木村アヤカ
14 石川梨華 石黒 中澤 大谷
FW 9 安倍なつみ
17 高橋 愛 ミカ
- 602 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:21
- 一方中国代表。
名将オク・ダタミオビッチ監督はこの大会に全てを賭けていた。
ここまで日本に一度も勝てていない。
が、この試合だけは絶対に勝たねばならない。
アジアカップ制覇が中国の、開催国の使命なのだ。
選手たちも当然気合いが入っている。
- 603 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:22
- 中国は当然ベストメンバーでこの試合に臨む。
GKはアジアbPGK、サ・トエリ。
所属するプレミアリーグ、ミドルスブラでも大活躍だ。
その実力は今やプレミアでも5本の指に入るとまで評価されている。
DF、センターバックに当たりが強いプレミアリーグマンチェスター・シティ所属コ・イッケー。
そしてオリンピック世代のリーダー、メ・グミー。オランダ、ユトレヒト所属。
屈強のセンターバック2人がそびえ立つ。
右サイドバックにはフィジカルに優れたク・マダー。中国、上海国際所属。
左サイドバックにこちらもフィジカルに優れたネ・モトー。中国、北京現代所属。
この4人で形成されるDFラインが本物の“万里の長城”だ。
MFセンターハーフにボール奪取能力が魅力の中国大連実徳、サ・リナー。
さらには同じ大連実徳所属、ゲームメイク能力に長けたハ・シノー。
右サイドには相手をその気にさせて見事にかわすというスーパーテクニシャン。
“ブリッコドリブラー”サ・タマオ。フランス、ナント所属。
左サイドは昨シーズン大ブレイクした身体能力に優れたサイドアタッカー、
ワ・カー。スペイン、サラゴサ所属。
FWに長身からのヘディングが魅力。スペインエスパニョル所属、カ・ケテミホ。
そして彼女だ。中国の大エースと言っていいだろう。
昨シーズンドイツブンデスリーガ得点ランキング第4位。
ドイツ、ヘルタ・ベルリン所属、オ・トハー。
- 604 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:23
- 今大会の中国は今までとは違う。
まさに最強のメンバーが揃った。
「絶対に日本に勝つ。」
中国の選手たちはみなそう確信している。
<中国代表スターティングメンバー>
GK 1 サ・トエリ
DF 2 コ・イッケー 9 10
3 ク・マダー
5 メ・グミー 11 8
13 ネ・モトー 7 4
MF 4 サ・リナー
7 ハ・シノー 13 3
8 サ・タマオ 2 5
11 ワ・カー
FW 9 カ・ケテミホ 1
10 オ・トハー
- 605 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:24
- 午後6時4分、ついに試合が開始された。
中国ボールから始まったこの試合。
序盤から赤のユニフォーム、中国が大声援をバックに攻めてくる。
センターハーフのハ・シノーから右サイドを走るサ・タマオに。
「行けー!!タマオー!!!」
この中国のサイドアタッカーはその容姿からサポーターたちに絶大な人気がある。
が、彼女と対戦した選手は口々にこう言う。
「あいつはネコ被ってる。」
- 606 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:24
- サ・タマオの対面は石川梨華。
腰を落としてドリブル突破に備える。
同じ左サイドを争う木村麻美が今大会ブレイクした。
それだけに負けていられない。
気合いの入った表情でディフェンスをする。
「いやーん、こわいかおー。」
タマオが石川の表情に声を上げる。
「えっ?」
一瞬きょとんとなる石川。
その瞬間を逃さずサ・タマオは一気にスピードを上げ、
石川を抜いた。
- 607 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:25
- 右サイドを抜け出したサ・タマオ。
ゴール前には長身のカ・ケテミホ、
それから中国の大エース、オ・トハーが詰めている。
日本のDF陣は石黒がサ・タマオに。
大谷がカ・ケテミホにつき、中澤がオ・トハーを見ている。
「うらっ!!」
石黒が鋭い出足でクロスを上げられる前にサ・タマオからボールを奪った。
「いたーい!!」
甘い声を出して倒れるサ・タマオ。
ピピピピピッ!!!
主審が笛を吹き、石黒のファウルを取る。
「うそっ?!!今ので?!!」
石黒が信じられないといった表情で主審を見る。
何で今のでファウルなんだ?
- 608 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:25
- ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!
満員の山東体育場が一斉にブーイングを飛ばす。
これにはさすがの石黒も一瞬怯む。
が、その瞬間サ・タマオがニヤリと笑ったのを石黒と中澤、
そして平家は見逃さなかった。
「こ、こいつ・・・・・・・」
石黒がキッとサ・タマオを睨む。
するとサ・タマオは怯えた表情で顔を伏せる。
これにまたもスタジアムが石黒にブーイングを送る。
俺らのアイドルに何するんじゃあ?!!と。
- 609 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:26
- サ・タマオのネコ被りによって得たFKのチャンス。
キッカーはそのサ・タマオ。
ゴール前にはカ・ケテミホとセンターバックの2人、
メ・グミーとコ・イッケーが入っている。
日本はDFの3人はもちろん、
ポジショニングが良く、ヘッドが強い安倍も自陣に戻っている。
ピィッ!!
主審の笛とともにサ・タマオが中にボールを送った。
このボールに飛び込む日本、中国イレブン。
が、このボールを抑えたのは一番身長が低い彼女だった。
ミカ・トッド。
抜群のジャンプ力でこのボールをキャッチした。
- 610 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:26
- 「・・・・・・凄いジャンプ力だ。」
100mほど先から今のプレーを見ていたサ・トエリ。
ミカのジャンプ力に思わず目を丸くする。
「・・・・これは今日、楽しめそうだ。」
飯田が今大会選ばれていない事を知った時はかなり落胆した。
しかし、彼女も今のプレーで分かった。
かなりのGKだと。
「すぐに戻って守りを整えろ!!!!」
サ・トエリが指示を飛ばす。
今日はあなたとの勝負だね、ミカ・トッド。
- 611 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:27
- ミカがスローイングで右サイドのアヤカに送る。
アヤカはこれを受け、前へとドリブルで突き進む。
そこへワ・カーがチェックに来た。
昨シーズンサラゴサで大ブレークした彼女。
特にスペイン国王杯決勝で見せたロングシュートは素晴らしいの一言。
後藤真希のレアル・マドリードを破り、優勝を決める値千金の一撃だった。
アヤカはスペインリーグに興味を持っており、いつか行きたいと思っている。
それだけにこのワ・カーと勝負をしてみたい。
- 612 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:27
- しかしここは自陣だ。こんな所で勝負をしても無意味だ。
アヤカはフォローに来た辻に預ける。
辻はすかさずトップ下の柴田に。
ブゥゥゥゥゥゥゥ!!!!
柴田がボールを持った瞬間、
スタジアムから一斉にブーイングが降り注がれる。
中国サポーターたちはみな知っている。
この柴田あゆみが日本代表の中心であることを。
だからこそ彼女を自分たちの声で止めてみせる。
- 613 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:28
- 「くっ!!」
四方から一斉にブーイングの声が柴田を襲う。
それは地鳴りのように響き、鋭いナイフのように突き刺さってくる。
「柴ちゃん!!」
安倍がスッとDFラインの裏へと走る。
そこへすかさず柴田からスルーパスが出る。
しかしこのパスはオフサイド。
DFリーダーのコ・イッケーが見事にラインを指揮し、
安倍をオフサイドにはめた。
ワアアアアアアアアア!!!!!
その瞬間大歓声に包まれるスタジアム。
そしてパスを出した柴田と、
オフサイドに引っかかった安倍にブーイング。
「にゃろう・・・・・」
これには普段冷静な柴田もカチンときた。
見てろ、絶対にスルーパスを通して黙らせてやる。
- 614 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:29
- 「・・・・・まずいな。」
この柴田の様子に平家の表情が歪む。
マエストロに求められるのは冷静さだ。
演奏者がついつい流れを速くしてしまうのを
上手くコントロールするのが指揮者だ。
その上で自らもリズムに乗り、
演奏者と一体になって観客を楽しませなければならない。
ところが今の柴田は自分から率先してリズムを速くしてしまっている。
これでは最高の演奏を聴かせられない。
- 615 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:30
- この平家の予感は当たってしまった。
日本は微妙に歯車が狂いだしてきた。
普段は柴田のパスにリズム良く動かされる日本代表だが、
今は逆に柴田のパスにリズムを狂わされている。
「くっ!!」
石川が柴田のパスに反応するが追いつかない。
普段の柴田ならば考えられないようなパスミスだ。
「ゴメン、梨華ちゃん!!」
柴田が手を上げる。
ブゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!
当然スタジアムはブーイングの嵐。
「もうっ、うっさいな!!」
堪らず柴田が声を荒げる。
周りは全て敵。
そこから聞こえてくるブーイングという歌。
まさに古代中国の故事成語、“四面楚歌”だ。
- 616 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:30
- 「ふふふ、かなり苛立ってるようだ。」
そんな柴田の様子を見てニヤッと笑う名将、オク・ダタミオビッチ。
柴田がリズムを崩してくれるのは中国にとってありがたい。
今の日本はマエストロに率いられているチーム。
マエストロのタクトにみな忠実に動いている。
という事はそのマエストロさえ抑えれば他の選手は何も出来なくなる。
「ふっふっふ。ツンクよ、君たちにとってシバタは最大の武器かもしれんが、
私たちにとってシバタはある意味最大のウイークポイントなのだよ。」
オク・ダタミオビッチが不敵に笑った。
- 617 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:31
- 「愛ちゃん!!」
石川からボールを受けた柴田、
すぐさまDFラインの裏にスルーパス。
が、これはメ・グミーがカットした。
ワアアアアア!!!!
すかさずスタジアムが沸く。
まさに柴田を徹底的に狙っている。
- 618 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:31
- ボールを奪ったメ・グミー、一気に最前線へロングパス。
これを競り合うのは大谷とカ・ケテミホ。
日本で3本の指に入るであろうストロングヘッダー大谷。
しかしカ・ケテミホの高さが勝った。
大谷に競り勝ち、ボールを落とす。
このボールに鋭く反応したのが中国の大エースオ・トハー。
中澤、石黒のマークを振り切り、強烈なシュート。
- 619 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:32
- 低く抑えた強烈なシュートが日本ゴールを襲う。
が、これを何とミカが止めた。
ミカの右の足元を襲う強烈なシュート。
このシュートに素早く反応し、足で弾くのではなく右手一本でこれを止めた。
しかも弾くことなくキャッチングで。
「まさか?!!」
これにはオ・トハーも、そしてもちろんサ・トエリも驚きを隠せない。
今のはミカ以外は止められなかったであろう。
- 620 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:33
- サ・トエリも、それから飯田もミカに負けないぐらいの反射神経があるが、
その分ミカより身体が大きいため、低いボールに対してはどうしても到達時間が遅くなる。
もちろん逆にハイボールは飯田やサ・トエリに比べてミカは身長が低い分到達時間は遅くなる。
しかしそれを克服するためにミカは身体を鍛え上げた。
その結果があのジャンプ力にこの握力なのだ。
それを見せ付けたビッグセーブであった。
前半はこのまま両チームとも無得点で終了した。
- 621 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:33
- 「柴田、落ち着いていこう。あんなブーイングなんか気にすんな。」
平家が柴田の肩をポンと叩く。
柴田はその言葉に微笑むと、ロッカールームの椅子に深く座り込み大きく息を吐いた。
はっきり言ってかなり疲れている。
普段の彼女ならばあれだけのブーイングを受けようがここまでリズムを崩す事はない。
だが、ここまで全試合にスタメン出場し、オマーン戦以外フル出場だ。
大分身体がキツイ。
その分気力で持たせているのだが、だからこそブーイングが気に障るのである。
『・・・・・すまん、柴田。』
そんな柴田を見てツンクが心の中で詫びる。
- 622 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:34
- ツンクが後半戦の指示を伝える。
そして時間が来た。
「よっしゃ、残り45分。きっちり行くで!!」
「おうっ!!」
中澤の声に応える日本イレブン。
残り45分。死ぬ気で戦う。
「がんばっていきまー・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!」
- 623 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:34
- 後半戦が開始された。
日本も中国も前半戦と同じメンバーで試合に臨む。
まず後半戦最初にチャンスを掴んだのは日本。
中盤でハ・シノーからボールを奪った辻がすぐに平家に預ける。
と、辻はそのままスルスルと最前線に上がっていく。
その間にボールは平家から高橋、高橋から安倍と渡り、
最後上がってきた辻に落とす。
辻はこれを右足でミドル。
うなりを上げるシュートが中国ゴールを襲うが、
これをサ・トエリがファインセーブ。
「外したれすか。さ、みんな、どんどん行くのれす!!!」
辻がパンパンと手を叩いて周りを鼓舞する。
前半戦の嫌なムードを払拭する辻の素晴らしいシュートだった。
- 624 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:35
- この辻のシュートで勢いを取り戻した日本。
守備面においては局地局地できっちりと中国の攻撃を跳ね返す。
右サイドを上がるサ・タマオに石黒が突っ込んでいく。
その形相は鬼のようで、足を削ってやると言わんばかりだ。
さっきはよくもやってくれたな。
きっちり落とし前はつけてやる。
それを見たサ・タマオ、石黒が足を出した瞬間ダイビングし、
ピッチに倒れこんだ。
「いたーい!!!」
サ・タマオが右足を押さえてのた打ち回る。
主審が笛をけたたましく吹いて駆け寄る。
- 625 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:36
- 『これでイエローね。上手くいけばレッドかも。
さ、みんなブーイングして。』
サ・タマオが心の中でほくそ笑む。
が、予想に反してスタジアムからブーイングが出ない。
あれ?
不思議がって顔を上げるサ・タマオ。
と、その眼前に黄色いカードが。
「君のシュミレーション。」
主審が冷たく言い放つ。
「えー?!!何でー?!!」
サ・タマオが泣きそうな顔で言うが、全く効果なし。
- 626 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:36
- 先ほどのタックルは完全に石黒のフェイク。
足を出すと見せかけてすぐに引っ込めたのだ。
これは傍目からでも完全に分かるほどだったが、
倒れることばかり考えていたサ・タマオには見えなかった。
まさに完璧なシュミレーション。
「お、おい何だ今の?」
「露骨すぎるよな。」
「もしかして今までずっとあんなのやってたのか?」
スタジアムからちらほらと聞こえてくる声にサ・タマオは真っ赤になる。
スーパーテクニシャンも本性がばれてはもう終わりだ。
- 627 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:37
- 「ナイスあやっぺ。」
中澤の声に石黒は頷く。
「当然。」
やっぱやられたらやり返さないとね。
調子に乗ってる奴はきっちりお灸を据えないと。
さすが武闘派軍団教育係だ。
- 628 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:37
- これで自信をなくしたサ・タマオ。
プレーにもキレが無くなった。
これで中国の右サイドは機能しなくなった。
もちろん右サイドにはサイドバックのク・マダーがいるが、
彼女1人だけでは石黒、辻、石川のいる日本の左サイドは攻めきれない。
「よしっ!石川!!どんどん攻めろ!!」
後ろから石黒が指示を出す。
そろそろ“魔法の左足”にも活躍してもらわねば。
- 629 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:38
- 後半も25分を過ぎた。
が、両チームとも得点は決まらない。
右サイドを駆け上がったアヤカからゴール前にクロスが上がる。
このクロスに安倍が飛び込むが“万里の長城”に跳ね返される。
「高さじゃ分が悪いか・・・・」
クロスを上げたアヤカが顔をしかめる。
やはり中国の高さは半端ではない。
となると細かいショートパスで崩していくか、
あとは個人技で突破していくかなのだが、
今の柴田の状態では恐らくショートパスでつなぐのは無理だろう。
後半も20分を過ぎたころから段々と柴田の運動量が落ちてきた。
連戦の疲れと、度重なるブーイングに体力、気力共に消耗させられている。
これでは前線で動き回ってパスをつなぐのは無理だ。
- 630 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:39
- ならば個人技で突破?
しかし今までの中国代表の“万里の長城”ならばそれも可能だが、
今回の“万里の長城”は本物だ。
高さだけでなく速さも備えている。
特にセンターバックのコ・イッケーだ。
プレミアリーグのマンチェスター・シティでも不動のセンターバックの彼女は、
まさに世界レベルのDFだ。
彼女が最終ラインで目を光らせ、
的確な指示を送っているため個人技での突破も難しい。
- 631 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:39
- 時間はどんどんと過ぎていく。
「おいツンク、柴田の奴足が止まってるで。」
マコトがツンクに進言するが、ツンクは動かない。
もちろんツンクも分かっている。
柴田はもう限界に近い事を。
だがその一方でツンクは信じている。
柴田の底力を。
- 632 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:41
- しかしそんなツンクの思いとは裏腹に
柴田はどんどんプレーの精度を落としていく。
平家に落ち着けと言われたものの、
やはりピッチに立ってブーイングを受けるとついついカッとなる。
それが確実に気力・体力を奪っていく。
それがピークにきたのであろう。
“もう限界です、代えてください”
一瞬そんな表情で柴田はベンチを見た。
目に力がない。
これにツンクは切れた。
すかさずテクニカルエリアに飛び出す。
「何やってるんや柴田!!!お前の力はそんなもんとちゃうやろ?!!
そんなこっちゃあいつには勝たれへんぞ!!!」
この言葉にビクッと身体を振るわせる柴田。
ツンクの言う“あいつ”。
それはもちろん永遠のライバルのことだ。
- 633 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:42
- ライバルの顔を思い出した瞬間、柴田の目に光が戻った。
絶対に彼女には負けたくない。
- 634 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:42
- 「平家さん!!!」
柴田が叫び、ボールを要求する。
柴田は平家からのパスをハ・シノーとサ・リナーを背負いながらトラップする。
「柴ちゃん!!」
その瞬間石川が左サイドを駆け上がる。
「梨華ちゃん、そのまま走って!!!」
柴田がすかさず石川に出す。
が、その瞬間、パスを出さず逆サイドへターンした。
- 635 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:43
- 「あっ?!!」
石川へのパスを送ると思い込んでいたハ・シノーとサ・リナーは完全に逆を取られた。
柴田がフリーで前を向いた。
ブゥゥゥゥゥゥ!!!!!
中国サポーターがすかさずブーイングをするが、
今までのそれとは明らかに様子が違う。
今回のは完全にヤバイという雰囲気だ。
何とかして止めねば失点する。
そんな思いから出る必死のブーイングだった。
- 636 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:43
- 「柴ちゃん!!」
「柴田さん!!」
安倍と高橋がタイミングを計る。
「マーク離すな!!」
サ・トエリが声を上げる。
安倍にはメ・グミー、高橋には左サイドバックのネ・モトー、
そして柴田にはコ・イッケーが当たる。
- 637 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:44
- 柴田の目が安倍の動きをとらえた。
安倍は一瞬メ・グミーの視界から消えた。
そしてここというポジションに、
一流のストライカーしか見えないポジションに走りこんだ。
「ヤバイッ!!」
柴田の目線に気付いたコ・イッケー、身体を投げ出しパスコースを防ぐ。
このあたりはさすが世界レベルのDFだ。
が、柴田はこれをも見ていた。
パスを出すとみせかけてさらにドリブル。
完全にコ・イッケーを抜いた。
次の瞬間、柴田の左足が一閃した。
- 638 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:45
-
済南の夜空に大きな虹がかかった。
- 639 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:45
-
柴田必殺のループシュート、“ラルクアンシエル”だ。
- 640 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:45
- 「なっ?!!」
サ・トエリは懸命にストップし、すぐにゴールに向かって背走する。
そしてタイミングを合わせて背面とび。
チッ!!
指先に微かに触れた。
が、ボールはゴールマウスへと向かう。
- 641 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:46
- カンッ!!
クロスバーに当たってゴールラインに落ちた。
慌ててサ・トエリがこのボールに飛びつき、抑える。
「入った!!!」
「いや、入ってない!!!」
日本の選手たち、中国の選手たちがそれぞれアピールする。
線審は首を横に振った。
ゴールラインは割っていないという判断だった。
- 642 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:47
- 「くそっ!!!!」
柴田が天を仰ぐ。
完璧だった。
コ・イッケーをかわして絶妙のループシュート。
しかし決まらなかった。
さすがはサ・トエリだ。
まさかあの一瞬に自分のポジションまで見ていたとは・・・・・・
一方、サ・トエリもゴクッと息を飲む。
コ・イッケーをかわしただけでなく、
自分のポジションを見て瞬時にループシュートに切り替えた。
しかも今のシュート、“実は”完全にゴールラインを割っていた。
つまり決まっていたのだ。
が、線審はノーゴールと判定してくれた。
完全にラッキーだった。
さすがは日本の10番、柴田あゆみだ。
そのプレーは今や世界レベルだ。
- 643 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:48
- 今のプレーに凍りつく中国サポーター。
やはり日本は彼女だ。
柴田あゆみ。
彼女を潰さない限り中国の勝利はない。
俺たちが止めるぞ。
サポーターたちはさらに声を荒げる。
- 644 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:48
- 「来いっ!!」
最前線でカ・ケテミホがパスを要求する。
そこへ中盤のゲームメーカー、ハ・タノーからパスが出る。
カ・ケテミホはそのフィジカルを存分に使って石黒を抑え、ポストプレー。
このパスに反応するのがスピード溢れるオ・トハー。
上手くDFラインの裏に抜け出すが、ミカが鋭く飛び出してこれを抑えた。
「ちっ!!」
オ・トハーが顔をしかめる。
が、中国のリズムに乗ったいい攻撃だ。
ここまで中国は2トップの動きが素晴らしかった。
お互いが長所を活かしあう動きをしている。
高さのカ・ケテミホ、スピードのオ・トハー。
実に相性のいい2トップだ。
「大谷、あやっぺ!!ここしっかり守るで!!」
「おうっ!!」
「オッケー!!」
中澤が声を張り上げる。
残り10分ちょっと。
ここで失点するのだけは絶対に避けねばならない。
- 645 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:49
- 「いたっ!!」
「うわっ!!」
ピッチに声が響く。
中盤でのボール争いで辻とサ・リナーが空中で激しく激突し、
お互いピッチに倒れこんだ。
「いたたたたた・・・・・・」
辻が腰を抑えながら立ち上がる。
が、サ・リナーは起き上がれない。
腰を抑えたままピッチに倒れている。
主審はすかさず試合を中断する。
- 646 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:49
- 「柴田、中盤はうちらに任せろ。
あんたはフィニッシュだけ考えて前線に張り。」
この中断を利用して水分を補給する日本代表。
その際に平家が柴田にこう伝えた。
「え、でも中盤できっちり当たらないと・・・・・」
柴田が戸惑いの表情を見せる。
中国の中盤もテクニック溢れるハ・シノー、ディフェンス能力に優れたサ・リナーに
サイドにはテクニシャンのサ・タマオとワ・カーがいる。
ここまで日本は中盤をきっちりと抑えているからこそ、
無失点でいられるのだ。
それが自分が前線に上がってしまうとバランスが崩れる恐れがある。
- 647 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:50
- 「大丈夫れすよ。ののたちがきっちりと守ります。」
「そうそう。あゆみ、任せなさい。」
「そうだよ柴ちゃん。その代わり前、頼むよ。」
しかし辻にアヤカ、そして石川も平家の言葉に同意する。
中盤はあたしたちに任せて。
その代わり、ゴールをお願いね。
「・・・・オッケー。絶対に点、取るから。ね、安倍さん、愛ちゃん。」
「もちろんだべ。」
「もちろんです。」
エース2人が当然とばかりに頷く。
残りはあとわずか。
必ず勝利につなげる1点を取ってみせる。
- 648 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:54
- 勝利への1点を狙う日本。
それはもちろん中国も同じだ。
地元開催のアジアカップ。
絶対に優勝しなければならない。
大声援をバックに必死の攻撃を見せる。
ハ・シノーから左サイドのワ・カーにボールが渡った。
すかさずアヤカがチェックに行く。
ここまでワ・カーに全くいいところが無かった。
全てこの木村アヤカに抑え込まれている。
アヤカといえばそのテクニック、ドリブルに眼が行き勝ちだが、
ディフェンス力も大したものである。
それを活かして右サイドならばFW、MF、DF、全てをこなせる。
そこから付けられた愛称は“オールライト”だ。
その意味は“右は全て””大丈夫”。
- 649 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:54
- が、ワ・カーもスペインリーグで注目を浴びている選手だ。
何度も何度もやられっ放しでいるわけにはいかない。
「あっ?!!」
鮮やかなボールコントロールでアヤカをかわした。
そしてすかさず中にクロス。
このクロスに大谷とカ・ケテミホが競り合う。
「うおおお!!!」
この競り合いは大谷が執念で勝った。
こぼれたボールはミカが飛び出してキャッチ。
「ナイスマサオ!!」
柴田の声に右手を上げて応える大谷。
絶対に守りきってみせる。
そんな気迫が込められた大谷のディフェンスだった。
- 650 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:55
- 日本も負けてはいない。
辻が奪ったボールを平家が受ける。
ゲームメイクは自分の仕事。
必ずフィニッシュにつながるお膳立てをしてみせる。
しかし平家にまとわりつくのがサ・リナー。
密着マークで平家の手を煩わせる。
「ちっ、しつこい!!けどな!!」
「あっ?!!」
平家はスッとボールをサ・リナーの股間に通す。
こっちは普段の練習で凄いDFたちと毎日やりあってるんや。
あんた如き相手とちゃう。
- 651 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:55
- フリーで平家が前を向いた。
その瞬間安倍、高橋、柴田の3トップが前線へ走る。
しかし3人にはきっちりとマークが付いている。
「平家さん!!」
左サイドを石川が上がってきた。
当然平家もそれに気付いている。
平家は石川に預け、自分もゴール前に詰めて数的有利を創る。
- 652 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:55
- ボールを受けた石川、中を見る。
その瞬間ゴール前で安倍たちが動き回る。
「ここだっ!!」
石川の“魔法の左足”が発動した。
ボールは鋭く弧を描く。
安倍はファーサイドへ。
高橋と平家はニアサイドに。
この動きに中国DF陣は釣られて、ど真ん中がフリーになった。
そこへ最後飛び込んだのは柴田あゆみ。
フリーでこれを頭で合わせた。
- 653 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:56
- よしっ!!決まった!!
誰もがそう確信した。
しかし、中国にはこの人がいた。
アジアbPGK、サ・トエリが。
- 654 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:56
- ボールは大きく弾かれ、ゴールラインを割っていった。
「うおおおおおおおおおお!!!」
サ・トエリが吠える。
まさにスーパーセーブ。
中国に、いや、サッカー界にサ・トエリあり。
それを見せ付けるスーパーセーブ。
- 655 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:56
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!
主審の笛が3度高らかに鳴った。
スコアは0−0。
アジアカップ準決勝は両チーム無得点のまま
ゴールデンゴール方式の延長戦に突入した。
- 656 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:57
- 「延長戦か・・・・・・・・」
ツンクが呟く。
ここで一度仕切りなおしだ。
何しろ1点取られたらそこで終わりなのだ。
ミスは絶対に許されない。
「ツンク、頭から加護でどないや?」
マコトがツンクに進言する。
「ああ、石川に代えて加護やな。」
その言葉にツンクは頷く。
だが、マコトは首を横に振った。
「いや、石川は残してた方がええやろ。まだ動けるし、サ・タマオも抑えてる。
それにあいつには一撃必殺の“魔法の左足”がある。
一発勝負の延長戦、あいつの飛び道具は必要やで。」
マコトの言葉に考え込むツンク。
「・・・・・マコトの言うとおりやな。加護をFWで投入や。
ドリブルで切れ込んでファウルをもらい、後は石川やな。」
- 657 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:58
- 戦っているのは選手だけではない。
監督やコーチ陣も必死に戦っているのだ。
もちろんハタケも選手たちのマッサージに入念がない。
少しでも疲れを取って、延長戦を戦ってもらう。
時間が来た。
「よしっ、みんな。」
中澤が全員を集め、円陣を組む。
「ここまで来たら気持ちや。絶対に負けんな。」
中澤の言葉にみな頷く。
「がんばっていきまー・・・・・・」
「しょいっ!!!!」
- 658 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:58
- 「ちっ、加護を出してきたか・・・・・・・」
延長戦が始まり、ピッチに目をやると背番号5の姿があった。
これに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるオク・ダタミオビッチ。
彼女はまさにジョーカーだ。
あのドリブル技術はまさに世界レベル。
さらに延長戦という事で選手たちの体力も落ちている。
そんなところへあの悪魔のドリブラーをぶつけられると痛い。
止めるにはファウルしかないだろう。
となると今度は石川と平家が控えている。
中国にとってまずい展開になる。
- 659 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:59
- 「コ・イッケー、5に貼り付け!!!ボールに触らせるな!!!
メ・グミー、ネ・モトー、ク・マダー!!!3バック!!」
オク・ダタミオビッチがコ・イッケーに加護の密着マークに付くように指示する。
加護にボールが渡れば危険だ。
だからこそ彼女にボールを触らせない。
コ・イッケーはDFラインから離れ、ただひたすらに加護に付いていく。
自陣であろうと日本陣内であろうとピッタリと付いている。
これでコ・イッケーが抜けるので後は残りの3人で3バックにする。
もうサイドバックの上がりはなしだ。
この3人できっちり守る。
中国もベンチワークで負けていない。
- 660 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 02:59
- 「ちっ、加護を封じ込められたか・・・・・・」
ボールを持った平家が呟く。
こちらのジョーカー、加護はコ・イッケーに完璧にマークされている。
これではパスを出す事は出来ない。
「けど、そっちもコ・イッケーが消えてるんやで?」
それに日本のドリブラーは加護だけではない。
平家はすぐに右サイドのアヤカにボールを出した。
- 661 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:00
- 「OK!!」
アヤカはボールを受けるとドリブルで突き進む。
その前に立ちはだかるのはワ・カー。
『やっと勝負の時が来た。』
今こそドリブル勝負の時。
アヤカがワ・カーに突っ込んでいく。
ウオオオオオオオオオ?!!!
スタジアムが大きく沸いた。
アヤカはクックッと身体を振ってワ・カーのバランスを崩すと、
ボールを両足で挟み、踵で浮かせた。
ヒールリフトだ。
これは見事にワ・カーの頭を越えていった。
そしてアヤカはワ・カーの右から抜け出る。
完璧にかわした。
「YES!!!」
会心のドリブルに思わずアヤカも叫ぶ。
- 662 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:00
- アヤカがペナルティエリア近くまで来た。
慌ててネ・モトーがチェックに行くが思い切って飛び込めない。
ここで倒せばFK。しかしかといって突破も許せない。
「そこだっ!!」
迷いの見えるネ・モトーを嘲笑うかのようにアヤカからスルーパスが出た。
このスルーパスに反応したのはもちろんこの人、安倍なつみ。
ク・マダーを振り切り、このボールをダイレクトで合わせる。
が、アジア1GKがこれをも止める。
抜群の飛び出しでシュートコースを塞いでいた。
だが、ボールは勢いを失いつつもゴールに向かって転がっていく。
「くっ!!」
そのボールを押し込もうと詰める安倍。
止めに行くサ・トエリ。
だが、この2人よりも早く触ったのはメ・グミー。
大きくタッチラインに蹴りだした。
中国も気迫がこもったディフェンスだ。
- 663 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:01
- ここで延長前半が終了した。
ハーフタイムは無く、陣地を交代するだけだ。
サ・トエリとミカがすれ違う。
『凄いGKだ。でも、絶対に負けない。』
『飯田以外にこんなGKが日本にいたとは。でも、あたしがアジアbPだ。』
お互いの意地と意地とがぶつかり合う。
- 664 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:01
- 延長後半が開始された。
「出して!!」
右サイドでサ・タマオがボールを要求する。
得意のスーパーテクニックを見破られてからは全くプレーに精彩を欠いていた。
が、今はそんなことを言っている場合ではない。
中国の勝利のためには形振りなど構っていられない。
- 665 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:01
- 「あっ?!!」
石川が抜かれた。
ボールが足に吸い付いているかのような見事なドリブルだった。
ウオオオオオオオオオオオ!!!!!
スタジアムが大きく揺れる。
行け!!俺らのアイドル!!
サポーターたちも必死になって走るサ・タマオに声援を送る。
「あやっぺ!!」
「分かってる!!!」
石黒がサ・タマオにチェックに行く。
石黒も分かっている。
さっきまでとは違う。気を引き締めねば。
- 666 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:02
- 腰を落とし、構える石黒。
ここでは変に足を出すとまずい。
一発でかわされるのだけは注意しなければならない。
時間をかけさせればゴール前の守りが堅くなる。
基本に忠実な石黒のディフェンス。
とそこへ先ほど抜かれた石川も戻ってきた。
「くっ!!」
石川のチェックをかわすサ・タマオ。
そこへ石黒が狙い済ましたタックル。
もんどりうって倒れるサ・タマオ。
見事な石川と石黒のディフェンスだった。
- 667 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:02
- ピピピピピピピ!!!!
が、主審は石黒のタックルにファウルをとった。
中国、絶好の位置でのFK。
右サイド、ペナルティエリアの真横からのFK。
キッカーはサ・タマオ。
このセットプレーは大事だ。
中国はメ・グミーが上がってくる。
もちろんゴール前にはカ・ケテミホ、オ・トハーがいる。
日本も安倍が戻り、ゴール前を固める。
- 668 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:03
- ピィー!!!
主審の笛が鳴った。
その瞬間ペナルティエリア内で動き回る両国イレブン。
が、サ・タマオはゴール前に上げず、
ペナルティエリアやや外にグラウンダーでマイナスに出した。
そこへ走り込んで来たのは加護のマークから離れたコ・イッケー。
全くのフリーだ。
行けっ!!!!
全ての中国サポーターの願いがコ・イッケーの右足に込められる。
強烈なミドルがゴール右上隅に。
まさに完璧なコースだ。
- 669 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:03
- が、そんな中国陣営の思いを彼女が打ち砕いた。
日本に帰化申請し、一躍日本の秘密兵器になったミカ・トッド。
最高の跳躍でこのシュートを叩き落とした。
「YES!!YESYESYES!!!!」
ミカが吠えた。
両チームともチャンスは創るものの、両GKのビッグセーブにより得点が奪えない。
そして・・・・・・・
- 670 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:04
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
主審の笛が3度高らかに鳴った。
延長戦でも決着がつかず、とうとう試合はPK戦へと突入した。
この試合、サ・トエリとミカ・トッドのスーパーセーブが何度もチームを救った。
PK戦。
この2人の決着をつけるのに一番相応しい舞台かもしれない。
- 671 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:04
- 「みんな、絶対に勝つで。」
中澤が円陣を組み、声をかける。
この円陣にはツンクたちも加わっている。
みなで気持ちを1つにし、戦う。
「がんばっていきまー・・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!」
コイントスにより先攻は日本。
1番手は名刀を右足に宿す平家みちよ。
ボールをセットし、助走をとる。
GKサ・トエリ。
両手を広げ、身体を大きく見せる。
ブゥゥゥゥゥゥ!!!!!
当然スタジアムはブーイングの嵐。
四面楚歌な状態なのはずっと変わらない。
- 672 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:05
- ピィ!!!!
主審の笛が鳴った。
と同時に平家は助走を開始し、右足を振り抜いた。
シュパッ!!!
キレ味鋭いシュートがゴール右隅に。
サ・トエリのダイブも届かなかった。
ボールは右隅ギリギリに突き刺さった。
「ようしっ!!!」
平家がガッツポーズ。
こっちは一度滅んで復活したんや。
滅んだままの楚の国の歌なんか何も気にならへん。
平氏一族の思いが勝った。
日本1−0中国
- 673 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:05
- 続いて中国は1番手にカ・ケテミホ。
ボールを慎重にセットする。
『・・・・・・大分緊張してますね。』
ミカはカ・ケテミホの様子からそう洞察した。
後ろには大声援を送る中国サポーター。
それが逆にプレッシャーになっている。
こういった場合、大事に蹴るはずだ。
コースよりもまずは枠を外さない事。
だからきっとコースは甘くなる。
ミカはギリギリまで動かない。
どちらか見極めてからでも届くはずだ。
「右っ!!」
懸命に伸ばした右手に当たった。
「YES!!!」
思わず右手を天に突き出した。
日本1−0中国
- 674 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:06
- 日本の2番手は石川梨華。
“魔法の左足”だ。
『彼女の左足なら絶対にコースギリギリに来る。
だから一か八か思い切って飛ぶしかない。』
サ・トエリはそう判断した。
ピィ!!
主審の笛と同時に“魔法の左足”が発動した。
コースは右隅ギリギリ。
しかしサ・トエリもコースはドンピシャ。
だが、石川の魔法がサ・トエリをねじ伏せた。
「よしっ!!」
グッと拳を握る石川。
日本2−0中国
- 675 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:06
- 中国2番手はサ・タマオ。
落ち着いて左隅に沈めた。
ミカは完全に裏を取られてしまった。
このあたりはスーパーテクニシャンの面目躍如だ。
これで両国とも2人ずつ終えた。
日本2−1中国。
- 676 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:07
- 日本の3番手は加護亜依。
「なっ?!!!」
加護が思わず叫ぶ。
加護の放ったシュートはサ・トエリの裏をかくふわっとしたシュート。
しかもど真ん中に撃った。
サ・トエリは完全に左に重心が傾いていたが、
左手を地面に付き、逆立ちのような形でこのシュートを足で防いだ。
「よしっ!!!!」
サ・トエリが右手を突き上げる。
さすがはアジアbPGKだ。
中国3番手はコ・イッケー。
小細工なしの豪快なシュート。
これがゴール左隅に突き刺さる。
ミカの懸命のダイブも届かなかった。
これで中国が同点に追いついた。
日本2−2中国
- 677 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:08
- 「頼みます安倍さん!!!」
日本選手たちはみな肩を組んで祈っている。
その祈りに後押しされて出てきたのは日本のエース安倍なつみ。
ゆっくりとボールをセットする。
守るサ・トエリ、必死の形相だ。
だが、ここぞという大舞台で強いのがエースだ。
みなの期待に応えてくれるのがエースなのだ。
「でやっ!!!」
安倍の気合いのこもったシュートがサ・トエリを打ち破った。
「ナイッシュー、なっち!!」
「当然だべさ!!」
みなのもとに誇らしげに帰って来る安倍。
さすがエースだ。
日本3−2中国
- 678 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:08
- 中国4番手はワ・カー。
ここで決めねばもう後がない。
それだけにプレッシャーも増大する。
そのプレッシャーにワ・カーは耐え切れなかった。
撃った瞬間それと分かる大ホームラン。
がっくりと崩れ落ちるワ・カー。
日本3−2中国
- 679 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:09
- 「よしっ!!!」
日本陣営が歓喜の声を上げる。
次決めれば日本の勝利だ。
そして最後を託すのは彼女しかいない。
「頼むよ柴ちゃん!!」
「あゆみ!!」
日本の10番、柴田あゆみ。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!
スタジアムが一斉にブーイングを降り注ぐ。
この試合、散々苛立たされてきた。
が、今はこれが心地よい。
それだけ中国が追い詰められている証拠だ。
- 680 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:10
- 柴田がボールをセットする。
大丈夫、落ち着いている。決められる。
一つ一つの動作に確信を持つ。
サ・トエリは両手を大きく広げる。
が、その表情はやはり硬い。
いくらサ・トエリが凄いGKだとしても、
やはりPKはキッカーが有利なのだ。
ピィ!!!
運命の笛が鳴り響いた。
- 681 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:10
- 柴田は助走を開始し、左足を振り抜いた。
ボールは右隅に。サ・トエリは左へ飛んだ。
「よしっ!!!」
柴田がグッと拳を握り締める。
勝った!!!!
- 682 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:11
- ガンッ!!!
が、ピッチに響く金属音。
跳ね返ったボールは柴田の足元に戻ってきた。
まさかのPK失敗。
「な・・・・・・なんで・・・・・・?」
柴田は信じられなかった。
完璧にとらえたはずだ。
- 683 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:12
- と、その時、柴田は自分の右足が震えているのに気が付いた。
ここまで全試合出場。
さらにこの試合延長戦をも戦い抜いた。
今まで気持ちで抑えてきたが、その疲れは確実に身体に来ていたのだ。
それがインパクトの瞬間、一気に軸足の右足に来た。
「な、なんでこんな時に・・・・・・?」
柴田は両手で顔を覆った。
柴田のまさかのPK失敗に日本陣営は動揺を隠しきれない。
これで勝ったと思っただけに余計にだ。
この動揺を逃さず中国5番手オ・トハーがキッチリ決めて同点に追いついた。
日本3−3中国
これで次からは一発勝負のサドンデスに。
- 684 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:12
- 日本6番手は大谷雅恵。
『・・・・・あゆみ。絶対に決めて見せるから。』
PKを外し、目を真っ赤にしている柴田のためにも絶対に外せない。
「うりゃっ!!」
大谷の右足が振りぬかれた。
ボールは左隅ギリギリに。
サ・トエリもこのコースに反応している。
が、大谷の執念が勝った。
「あゆみ!!やったよ!!」
大谷が柴田にグッと拳を突き出す。
「・・・・・・ありがとうマサオ。」
柴田が目を真っ赤にして頷く。
日本4−3中国
- 685 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:13
- 中国6番手はハ・シノー。
これを決めねば終わりだが、落ち着いていた。
ミカの動きを良く見て逆サイドに蹴りこんだ。
日本4−4中国
その後日本はアヤカ、石黒、辻が決める。
中国も負けじとサ・リナー、ネ・モトー、ク・マダーが決める。
- 686 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:13
- そして10番手。
日本はキャプテン中澤裕子。
「頼むで姐さん。」
平家たちが祈りを込める。
しかし中澤ならば大丈夫だとみな思っている。
一体どれだけの修羅場をくぐってきたと思っている?
こんな場面など何度も経験している。
それは中澤自身もそう感じている。
大丈夫。いける。
- 687 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 03:14
- ピィッ!!
主審の笛が鳴り、中澤が助走を開始した。
「右やっ!!」
中澤は落ち着いてコースを狙う。
見事狙い通りゴールの隅に。
が、守るはアジアbPGKサ・トエリ。
これに超人的な反応を見せた。
一世一代のビッグセーブ。
「うおおおおお!!!!!!」
サ・トエリが雄たけびを上げた。
「ま、まさか・・・・・・・」
中澤はガックリと崩れ落ちる。
日本、これで後がなくなった。
- 688 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 09:31
- 中国10番手はメ・グミー。
これでとうとう日本に勝てる。
そんな気持ちで一杯だった。
ボールを慎重にセットする。
スタジアム一杯の赤が勝利の声援を送る。
数少ない青の日本サポーターたちが小さな身体の守護神に祈る。
- 689 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 09:32
- ピィッ!!!
運命の笛が鳴った。
メ・グミーは軽い助走から思い切り右足を振りぬいた。
コースは右上隅。
「勝った!!!」
中国の誰もがそう確信した。
が、そんな中国の思いを彼女が全て打ち砕いた。
ミカ・トッド。
日本の秘密兵器。
日本7−7中国
ウオオオオオオオオオオオ!!!!!
スタジアムが一気に爆発する。
まさに神がかったセービング。
日本、がけっぷちでまたも蘇った。
- 690 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 09:33
- そしてとうとう最後のキッカーを迎えた。
日本、11番手、ミカ・トッド。
ミカがペナルティスポットへ、サ・トエリがゴールマウスに向かう。
ここまでお互い最高のセービングを見せてきた。
でもそろそろ終わりにしようよ。
ピィッ!!!
主審の笛が鳴ると同時にミカが助走を開始し、左足を振り抜いた。
- 691 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 09:33
- 「なっ?!!」
サ・トエリがいた位置をボールが通り過ぎる。
コースはど真ん中。
この状況でここに撃つとは?
誰もがミカの度胸に驚きを隠せない。
日本8−7中国
- 692 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 09:34
- そして中国もラストキッカーを迎えた。
サ・トエリだ。
サ・トエリがゴールマウスからペナルティスポットに、
ミカがペナルティスポットからゴールマウスに向かう。
「決める。」
「止めます。」
お互い短い言葉をかわす。
もちろん言葉は分からないが、身体がそう言っていた。
- 693 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 09:34
- ミカが両手を大きく広げる。
アメリカ国籍から日本国籍に変更する際に、多くの人から反対された。
日本人は閉鎖的だからきっと受け入れてもらえない、と。
しかし、今、全ての日本人が彼女に祈っている。
日本代表を勝たせてくれ、と。
日本人としてこんなに嬉しい事はない。
- 694 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 09:36
- ピィッ!!!!
主審の笛が高らかに鳴る。
- 695 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 09:36
- それから4秒後。
ミカ・トッドは全ての日本人に受け入れられた。
日本0−0中国
(PK8−7)
- 696 名前:第10話 四面楚歌 投稿日:2004/04/20(火) 09:37
-
第10話 四面楚歌 (終)
- 697 名前:ACM 投稿日:2004/04/20(火) 09:41
- 第10話 四面楚歌 終了いたしました。
えー、687と688の間が6時間も開いているのは、
いきなり書き込めなくなったからです。何で書き込めなかったんだろ?
朝起きて書き込めなかったらどうしようと思いましたが、書き込めてよかったです。
- 698 名前:ACM 投稿日:2004/04/20(火) 09:48
- では次回の予告です。
第11話 アジアの虎
ついにアジアカップも決勝戦を迎えた。
相手はやはりここだった。
日本の永遠のライバル、“アジアの虎”韓国。
一度東アジア選手権で完敗を喫した。
だが、今度はそうはいかない。
果たしてその結果は?
日本のマエストロの渾身のフィナーレ、特とご覧あれ。
次回もよろしくお願いいたします。
- 699 名前:ACM 投稿日:2004/04/20(火) 09:50
- えーここでスレ隠しです。
しかし、ただ隠すだけだともったいないのでここでちょこっと
CALCIO×3の設定などを書きたいと思います。
- 700 名前:ACM 投稿日:2004/04/20(火) 09:54
- ハロプロ以外の選手の名前
1、女性の方。
2、欧州の選手は「女優」から。
3、南米の選手は「歌手」から。
4、アジアの選手は「タレント」から。
5、アフリカの選手は「アナウンサー」から。
以上それぞれからモデルにさせていただいてます。
ただ、例外としてアジアの韓国と中国は別です。女優の方も含まれてます。
- 701 名前:ACM 投稿日:2004/04/20(火) 09:58
- 各国、各クラブの監督や会長の名前。
全て男性です。ミラン会長だけは別ですが。
全て名前の音ですね。それだけで決めてます。
ただ会長に関しては格みたいなものも気にしてます。
・・・・・・あんまり書いた意味無かったですね。また次回もよろしくお願いします。
- 702 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/20(火) 10:16
- 更新お疲れ様です。
今朝読ませてもらって何か中途半端に止まってるなと思っていたのですが、そういう理由だったんですね(笑)
珍しく柴田さんのペースが乱れて、一時はどうなるかと思ったのですが、ミカ様様でしたね。飯田さんがいなくても、
このひとがいるという印象を与えてくれました。
アジアbPGKにまた一人名乗りでましたね。
次回の更新楽しみにしてます。
- 703 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/20(火) 12:06
- 更新お疲れ様です!
相変わらず良いペースで物語が進んでますね〜
よっすぃ好きとしては、
ここまで柴田のチームになってしまうと、
よっすぃが復活しても、もはやよっすぃも他プレーヤーも適応するのが難しいのでは?
なんて不安も・・・
ただせさえ、プレイの質が「悪魔のパス」で
受け手側にも「資格」を要求するスタイルですもんね。
そんな心配をしつつも楽しく読ませていただいてます。
これからも頑張ってください!
- 704 名前:みっくす 投稿日:2004/04/20(火) 14:28
- 更新おつかれさまです。
めったにお目にかかれない凄い試合になりましたね。
この試合で日本は柴田しだいで良くもなり、悪くもなると
いうことが実証されてしまったかんじで。
オリンピックは果して大丈夫なのでしょうかねぇ。
よっしーの早い復活をきたいしつつ
次回をたのしみにしています。
- 705 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/20(火) 23:50
- カ・ケテミホ・・・ネーミング笑いました。
ハロプロ以外の選手の名前の話が出たので、質問させて下さい。
浦和レッズのキャンディ・ヨシコーは誰がモデルなんですか?
- 706 名前:名無しぃく 投稿日:2004/04/21(水) 00:57
- 更新の疲れ様どえす。
キーパー対決は震えさせてもらいました。
武闘派軍団にもある意味震えさせてもらいました。
サ・タマオには笑わせてもらいました。ウシシ
PKはあれですね。失敗しても誰も攻めれないですよね。
技術うんぬんじゃなく運ですよね。うん。
次回も頑張ってください。
- 707 名前:ACM 投稿日:2004/04/23(金) 12:34
- 702>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。そうなんです、途中で書き込めなくなったので
中途半端な位置で終わってしまってました。かなり焦りましたよ。
柴田さんはかなり疲れがたまってるようですね。人間、疲れが溜まると些細
な事でもイライラしてしまいますもんね。
メール欄、読みましたよ。今回の話にご期待下さい。
703>名無し読者様
レスありがとうございます。確かに吉澤さんのプレースタイルは特殊ですね。
受け手に「資格」を要求するとんでもないスタイルですから。
しかし、それは柴田さんも同様なんです。実は柴田さんも色々と注文が付く
選手なんです。それは何故か?またいずれお話したいと思います。
704>みっくす様
レスありがとうございます。
そうですね。今、日本代表は完全にマエストロのタクトの指揮下に置かれてます。
それだけに疲労が心配です。オリンピックでタクトを振るえるかどうかですね。
そしてよっすぃーです。逆境に強い彼女です。きっと復活してくれるでしょう。
- 708 名前:ACM 投稿日:2004/04/23(金) 12:36
- 705>名無飼育さん様
カ・ケテミホ、笑っていただけましたか。凄く嬉しいです。ありがとうございます。
中国FW誰にしようかなと考えてた時、テレビでこのCMが流れてのでこれにしました。
キャンディ・ヨシコーですが、モデルは元キャ○ディーズの田中好子さんです。
元歌手ですけど、今は女優さんのイメージですので欧州の選手として登場していただき
ました。
706>名無しぃく様
レスありがとうございます。
武闘派軍団、大活躍です。サ・タマオも大活躍です。
PKは確かに運ですね。ど真ん中に蹴っても決まる事もあれば、
コースギリギリでもGKに止められる事もありますしね。
僕だったら蹴りたくないです。
皆様、本当にレスありがとうございます。
凄く意欲がわいてきます。これからもよろしくお願いいたします。
- 709 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:38
- 2004年8月7日。
ついにこの日がやってきた。
アジアカップ決勝戦。
- 710 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:38
- ここまで5試合を戦い抜いた日本代表。
連戦の疲れは確実に選手たちの身体に来ている。
しかし、この試合で最後だ。
もちろん後にオリンピックを控えてはいるが、それはこの際関係ない。
目の前のタイトルがかかった試合を全力で勝ち抜くだけだ。
午前中にミニゲームなどで軽く汗を流した後、
午後5時ごろまで自由時間をツンクは設けた。
ある者は休養をとり、ある者はホテルの遊戯室で戯れ、
そしてある者はビデオやDVDを楽しむなど、
各自好きなことをして時間を潰し、リラックスに努めていた
- 711 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:39
- その中で1人黙々とホテルの中庭で汗を流しているのは田中れいな。
ここまで出場はわずかに1試合。
それも予選リーグ1戦目、オマーン戦の10分間だけであった。
もちろん日本代表が柴田のチームである事は分かっている。
自分はその控えである事も。
だが、今の自分はその控えにすらなれていない。
2戦目のタイ戦、3戦目のイラン戦はともかく、
決勝トーナメント1回戦のUAE戦は、
本来ならば自分が出て柴田を休ませなければならなかった。
が、ツンクは柴田にスタメンフル出場を課した。
それはつまり、自分では不安が大きすぎるという事なのだ。
これに田中は大きなショックを受けた。
しかし、それはツンクのせいではない。
力のない自分が悪いのだ。
その思いが田中を動かしていた。
- 712 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:40
- イメージを抱きながら田中がドリブルで並べたコーンの間をすり抜けていく。
もうこれで15本目だ。
「ほいっ、お疲れ。」
ゴールした瞬間、ペットボトルがふわっと飛んできた。
「おっとと。」
それを受け止めた田中。
ペットボトルを投げた人物の顔を見る。
「柴田さん。」
そこにはマエストロがニッと笑って立っていた。
「ちょっと休んだら?」
そう言って柴田は中庭にあるベンチに腰掛け、
自分の横をポンポンと叩く。
こっちに座りなよという事だ。
- 713 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:41
- 田中は頷くと柴田の横に座り、
頂きますと言ってミネラルウォーターをグイッと飲んだ。
「ふうっ。」
ホッと一息つく。
熱くなった身体に冷たい水が染み渡る。
今日は8月7日。
夏真っ盛りだ。
「・・・・・・・・・・」
ベンチに座ってから3分ほど過ぎたであろうか?
柴田はリラックスした感じで中庭を眺めている。
田中は持っていたタオルで汗を拭き、ボールと戯れている。
しかし2人の間に会話はない。
お互い一言も発しぬまま、時間だけが過ぎていく。
- 714 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:41
- 「・・・・・・柴田さん、1つ聞いていいですか?」
しばらくして田中が口を開いた。
「どうぞ。」
柴田が優しく微笑む。
「・・・・柴田さんにとって吉澤さんってどんな存在ですか?」
「いないと困る大事な人。」
「えっ?」
即答だった。
しかも田中の予想とは違った答えだった。
田中はライバルとか、敵とかそう言った答えを予想していたのだ。
- 715 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:42
- そんな田中の驚いている様子を見て柴田はフフッと笑った。
「予想と違う答えで驚いた?でも本当だよ。
よっすぃーは大事な人。よっすぃーがいないとあたしが一番困るの。」
「それはライバルだからですか?」
「もちろんそれもあるよ。絶対に負けたくない相手だからね。
いないと張り合いがなくなっちゃうし。でもね、それ以上にあたしは
吉澤ひとみの大ファンなんだ。」
「えっ?ファン、ですか?」
柴田の言葉に田中は驚きを隠せない。
「うん。吉澤ひとみ親衛隊隊長ってとこかな?」
- 716 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:42
- 「・・・・・ホントですか?」
田中が疑いの眼差しで柴田を見る。
永遠のライバルと言われる相手のファン?
「ホントだよ。田中もそうじゃないの?
よっすぃー見て、かっこいいとか思わない?」
「それはもちろん思いますよ。」
『そしてあなたもですよ、柴田さん。』
心の中でそう思う田中。
が、本人がいるので言わないが。
「でしょ?だからいないと困るんだ。」
柴田は目を輝かせている。
その様子は確かに好きなアイドルを追っかける女の子だ。
- 717 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:43
- が、すぐに元の柴田に戻った。
「もちろんよっすぃーは同じポジションを争うライバルだよ。
絶対に負けたくない相手だしね。でもね、相手がよっすぃーだから。
吉澤ひとみだからあたしは“真直ぐ”頑張ることが出来る。」
「真直ぐ?」
「うん。本当に好きな相手だから、
認めた相手だから真正面から正々堂々と、
何の迷いも曇りもなくぶつかる事が出来るんだ。
これは誓って言うけど、あたしがベンチでよっすぃーがピッチにいた時、
ただの一度もよっすぃーの怪我とか、不調を願ったことは無いの。
“頑張れ”って素直に思えてる。」
「ホントですか・・・・?」
「うん。」
柴田は言い切った。その目に何の曇りもない。
自分は、と田中は考える。
確かに自分の力の無さが原因で試合に出れないのだが、
やはり心のどこかで自分が試合に出る展開にならないか祈っていた。
しかも自分が出て日本を救うような展開を。
それはつまり、日本が負けていて、柴田が不調か、怪我をした展開だ。
- 718 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:44
- でもそれはサッカー選手として、いや、人間として当然ではないか?
そういったいわゆる“負の気持ち”も大きなモチベーションになるはずだ。
そういった事を柴田に言うと、柴田は深く頷いた。
「うん、そうだと思う。あたしも前まではそう思ってた。
でもね、よっすぃーだけは、吉澤ひとみだけにはそう思いたくないんだ。
戦うなら、争うならお互い最高の状態でぶつかりたいの。
あたしとよっすぃーの間に“負の気持ち”があったらダメなの。
それはあたしとよっすぃーの間に不純物が混ざるってことだからね。
そんなのは嫌なんだ。」
この柴田の言葉を聞いて田中は正直、感動した。
恐らく、ひとみに聞いても同じ様な答えが返ってくるであろう。
果たして自分にこう思える存在がいるだろうか?
- 719 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:44
- 吉澤ひとみと柴田あゆみ。
確かにこの2人が同時期に現れたのは不幸な事かもしれない。
しかし、この2人にとっては最高に幸せな事なのかもしれなかった。
- 720 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:45
- 「じゃ、あたしはそろそろハタケさんに呼ばれてる時間なんで行くね。」
そう言って柴田はベンチを立ち、ホテルに入っていった。
これから最後のメディカルチェックを行うのだ。
「・・・・・・・いつか必ずあたしも柴田さんと吉澤さんの世界に入って見せます。」
田中は柴田の背中を見ながらそう呟いた。
柴田あゆみと吉澤ひとみ。
そして田中れいな。
この3人は良きライバルだ。
そう言われるように。
- 721 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:45
- 午後6時に会場入りした日本代表。
早速今日の試合のスターティングメンバーが告げられる。
「GK、ミカ・トッド。」
日本の秘密兵器。
小柄ながらも抜群の瞬発力にパワー。
今やアジアはおろか世界でも注目を集める存在になりつつある。
「DF、左に石黒彩。」
正統派ストッパー。
高さ、強さは間違いなく日本bP。
気持ちの面でも決して負ける事はない。
「中央、中澤裕子。」
日本サッカー界のキャプテン。
ディフェンス力、統率力、存在感。
間違いなく日本最高のDFだ。
「右、斉藤瞳。」
セクシーDF。
その恵まれたフィジカルで相手を抑えこむ。
ラインコントロールにも長け、バランスの取れたDF。
- 722 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:46
- 「左ボランチ、辻希美。」
小さな弾丸。
小柄ながらも屈強なフィジカル。
そして雰囲気を一瞬で変える天性の力を持つ。
「右ボランチ、平家みちよ。」
日本が誇るレジスタ。
日本で1、2を争うテクニックにゲームメイキング。
誇り高き平氏の末裔。
「左サイド、石川梨華。」
魔法の左足。
まさに無敵の左足。
この左足に不可能という文字は無い。
「右サイド、木村アヤカ。」
オールライト。
テクニック、フィジカル、スピードと三拍子揃う。
日本が誇るドリブラーでもある。
「トップ下、柴田あゆみ。」
マエストロ。
左足というタクトから日本の演奏は始まる。
“創造と再生の天使”。
「FW、右に高橋愛。」
次代のエース。
確かなテクニック、スピード、そしてクレバーなプレー。
まさに次代を担うエースだ。
「FW、左に安倍なつみ。」
日本のエース。
この人に説明はいらない。
エース。それだけで充分だ。
- 723 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:46
- 「ええか、これでアジアカップも最後や。」
スタメンを発表し終えた後、ツンクがみなを見回して言った。
「ここまでよう戦った。世間では色々と変なこと言われてるけど、
俺はこのチーム、最高やったと思ってる。このチームの、この代表の監督で
俺は本当に嬉しかった。
今日、この最高のチームに相応しい最高の試合をやろう。」
「はいっ!!!」
- 724 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:47
- その後、ピッチに出てアップを行った日本代表。
決勝戦の会場は北京工人体育場。
約62000人収容できる大きなスタジアムだ。
周りはやはり韓国のサポーターが多いが、日本も負けてはいない。
はるばる海を越えてここまで応援に駆けつけてくれたのだ。
もちろん現地にこれなかった人たちもみな、テレビで声援を送っている。
代表に選ばれなかった選手も、そしてアテネにいるオリンピック組もみなだ。
みなの心を1つにして、この試合に臨む。
- 725 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:47
- アップを終え、ロッカールームに戻ってきた日本代表。
ツンクは何も言わない。
前日のミーティングで全て対策は練ってある。
後はこの試合に全力を尽くすのみだ。
そしてあの悪夢の東アジア選手権の借りを返す。
- 726 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:48
- 「さ、円陣組むで。」
真っ赤なキャプテンマークを左腕に通した中澤。
いつもの通りみなを集める。
スタメンの選手も控えの選手も、そしてツンクたちも加わり1つの輪を作る。
もちろんこの輪の中には日本人全ての気持ちが加わっている。
絶対に勝つ。
「がんばっていきまー・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!!」
- 727 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:48
- ウワアアアアアアアアアア!!!!!
スタジアムが大きく揺れた。
午後8時、日本はキャプテン中澤を先頭に入場した。
アジアカップ決勝戦。
対戦相手はもちろん、日本の永遠のライバル韓国。
- 728 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:49
-
韓国のシステムは4−5−1。
GKはオランダエールディビジ、へーレンフェーン所属エ・ミリー。
DF、左サイドバックはフィジカルに優れたアン・ヒロコー。
右サイドバックにはスピードがあり攻撃力が持ち味のウ・エハラー。
センターバックはポルトガルカンペオナート、ナシオナル所属モ・エー。
そしてイングランドプレミアリーグ、リーズ・ユナイテッド所属。
韓国代表キャプテン、“アジアの壁”ワ・ダキコ。
中盤、ダブルボランチを組むのはフ・ジサキーとヤ・マカワー。
この2人はユース時代から不動のボランチコンビだ。
左サイドにはフ・キイシー、右サイドにはハ・タノーの俊足コンビ。
- 729 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:50
- そしてトップ下には彼女が君臨する。
スペインリーガエスパニョーラ、ラ・コルーニャ所属、“韓国が産んだ天才”ミ・サキー。
1トップにはドイツブンデスリーガ、シュツットガルト所属、昨シーズン得点ランキング第2位。
“韓国のエース”ユ・ウカ。
韓国もこの後アテネオリンピックが控えているが、
現時点で最強と思えるメンバーを揃えて来た。
やはりアジアにおいて遅れをとる事は、“アジアの虎”にとって許されないのである。
- 730 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:51
- <日本代表スターティングイレブン>
GK 1 ミカ・トッド
DF 2 石黒 彩 安倍 高橋
3 中澤裕子
22 斉藤 瞳 柴田
MF 4 辻 希美 石川 アヤカ
7 平家みちよ
10 柴田あゆみ 辻 平家
11 木村アヤカ
14 石川梨華 石黒 中澤 斉藤
FW 9 安倍なつみ
17 高橋 愛 ミカ
- 731 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:52
- <韓国代表スターティングイレブン>
GK 1 エ・ミリー
DF 2 ワ・ダキコ 9
3 モ・エー
17 ウ・エハラー 10
21 アン・ヒロコー 11 7
MF 4 ヤ・マカワー
5 フ・ジサキー 4 5
7 ハ・タノー 21 17
10 ミ・サキー 3 2
11 フ・キイシー
FW 9 ユ・ウカ 1
- 732 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:52
- 両国の国歌を斉唱した後、選手たちが握手を交わす。
柴田は最後にミ・サキーと握手を交わす。
あの屈辱は忘れていない。
絶対にこの試合で借りを返してみせる。
柴田の闘志が燃え上がる。
選手たちがピッチに散らばった。
主審が線審に合図を送り、時計を確認する。
- 733 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:52
- ピィー!!!!!
2004年8月7日午後8時6分。
運命の笛が鳴り、試合が開始された。
- 734 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:54
- まず最初のチャンスは韓国。
右サイドでハ・タノーがボールをキープしている間に
オーバーラップしたウ・エハラー。
パスを受け中にクロスを上げた。
そのボールにユ・ウカが頭で合わせるものの
中澤が体を寄せていたためジャストミートせずミカの胸に収まった。
この攻撃が示すとおり韓国はサイドアタック重視の攻撃だ。
日本のシステムは3−5−2のため、特にサイドアタックに弱い。
その弱点を韓国は徹底的に突く。
「石川!!アヤカ!!頼むで!!辻、みっちゃん!!カバーリングな!!」
後ろから中澤が声をかける。
まずはディフェンスだ。きっちり守って攻撃へとつなげていく。
- 735 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:55
- この中澤たちDF陣の踏ん張りに彼女が応えないわけがない。
中盤で柴田がヤ・マカワーからボールを奪う。
そしてそのまま駆け上がりペナルティエリア外から強烈なミドルシュート。
GKエ・ミリーがダイブするが全く届かない。
しかしボールはポストをかすめていった。
「ちっ!!」
思わず表情を歪める柴田。
だが先制攻撃としては十二分だった。
「柴田さん、ドンマイです!!」
ベンチから田中が声を出す。
柴田はその声に軽く手を上げて応えた。
- 736 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:55
- 「こっち!!出して!!」
中央でミ・サキーがボールを要求する。
左サイドでボールをキープしていたフ・キイシーがすぐさま中に送る。
「辻!!当たれ!!」
「あい!!」
中澤がすぐさま辻をチェックに行かせる。
辻がそのフィジカルを使ってミ・サキーにショルダーチャージ。
しかしミ・サキーはビクともしない。
逆に辻の方が弾き飛ばされた。
- 737 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:56
- 「辻?!!」
石黒が思わず叫ぶ。
チームbPのパワーを持つ辻が弾き飛ばされたのだ。
ミ・サキーはそのままペナルティエリアやや外から左足を振り抜いた。
中澤、斉藤が素早くチェックに向かっていたがその2人の間をボールが抜けていく。
「くっ!!」
ミカが懸命にダイブし、何とか指先に当てた。
ボールはゴールラインを割った。
『あ、危なかった。まさかあの隙間を通すなんて・・・・』
ミカは今のミ・サキーのシュートに心底怯えさせられた。
さすがは韓国の産んだ天才ミ・サキー。
長身でありながらテクニックに優れ、フィジカルももちろん強い。
スペインの強豪クラブ、ラコルーニャで10番を背負う選手。
あの東アジア選手権の時のように日本に襲い掛かる。
- 738 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:56
- 韓国の左サイドからのコーナーキック。キッカーはヤ・マカワー。
このチャンスにセンターバックのワ・ダキコが上がってきた。
「姐さん、ここは行かせませんよ。」
中澤がワ・ダキコに付く。
「中澤、今日はうちらがもらうからな。」
お互いキャプテンとして何度も日韓戦を戦ってきた。
2人とも残りのサッカー人生は確実に短くなってきている。
それだけになおさら負けられない。
- 739 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:57
- ヤ・マカワーのコーナーキック。鋭くカーブがかかる。
ニアにワ・ダキコが飛び込む。中澤も必死に食らい付く。
が、ワ・ダキコは囮だった。
中央にミ・サキーが跳ぶ。
しかし石黒もこれを読んでおり、体を寄せて競り合う。
ボールがこぼれる。
混戦の中クリアしたのは斉藤。
ボールがこぼれる位置を読んでいた。
ボールは大きくタッチラインを割った。
「みんなしっかり守るよ!!!」
斉藤が手を叩いて周りを鼓舞する。
アジアカップ組はこの試合が最後なのだ。
持てる力を全て出し切る。
- 740 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:57
- 前半も15分を過ぎるが、
日本はあの柴田のミドル一発のみに抑えられていた。
韓国は日本を研究していた。
中盤のキーマン、平家と柴田はフィジカルコンタクトに弱いことを把握していた。
この2人には徹底的にマークに付く。
4−5−1のシステムの数字が示すとおり、
中盤も最終ラインもサイドも充分人数が揃っている。
その分前線は1人だが、ここを務めるのは彼女だ。
韓国のエース、ユ・ウカ。
ユ・ウカのフィジカル、スピード、テクニックが1人でも充分に機能している。
- 741 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:58
- 右サイドを突破しようと試みるアヤカ。
しかしハ・タノーとウ・エハラーに囲まれ潰されてしまった。
ボールはタッチラインを割る。
「寄せが速いね・・・・・・」
アヤカが首を横に振る。
韓国は攻撃だけでなくディフェンス面でもきっちりと組織されている。
これを突破するのは一苦労だ。
「けど、こっちの方がやりがいがあるね。」
アヤカのドリブラーとしての血が騒ぐ。
- 742 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:58
- 「辻!!そっち頼む!!斉藤!!サイドから来てるで!!」
中澤の指示が何度も飛び交う。
韓国の伝統的なフィジカルと組織が融合された鋭い攻撃。
1トップのユ・ウカがボールをキープしている間に
2列目のミ・サキー、フ・キイシー、ハ・タノー。
あるいは3列目のフ・ジサキー、ヤ・マカワーがどんどん前線に飛び出してくる。
また、サイドでもサイドハーフとサイドバックが上手く連係して攻撃を仕掛けてくる。
なおかつボールを奪われた際にはすぐに守備に戻る。
韓国は8人で攻撃でき、10人で守れるチームなのだ。
- 743 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 12:59
- ヤ・マカワーから左サイドのオープンスペースにパスが出た。
そこに走り込むのは1トップのユ・ウカ。
斉藤が付いていく。
斉藤とユ・ウカの1対1。
しかしユ・ウカは無理せずフォローに来たフ・キイシーにボールを預ける。
フ・キイシーはすぐさま中にクロス。
中央には2列目から飛び出したミ・サキーが走り込んでいる。
中澤と石黒が体を寄せる。この長身MFをフリーには出来ない。
- 744 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:00
- しかしボールはミ・サキーの上を越えファーサイドに。
ミ・サキーは完璧な囮。
そこには右サイドから中に切れ込んでいたハ・タノーがいた。
クロスにタイミングを合わせ、ダイレクトでシュートを放つ。
しかしミカが信じられない反応を見せ、これを止めた。
こぼれたボールはすぐに起き上がったミカが抑えた。
ウオオオオオオオオオオ!!!!
スタジアムが今のミカのビッグセーブに揺れる。
サ・トエリとの対決で見せた実力はまぐれでないことを証明した。
- 745 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:01
- 「はい!こっち!!」
柴田がボールを要求する。しかし出しあぐねる平家。
それは柴田の後ろでヤ・マカワーとフ・ジサキーが狙っているからだ。
ここでボールを取られればカウンターをくらう。
「平家さん!!いいです!」
柴田が構わずパスを要求する。
その勢いに思わず平家もパスを出した。
「今だ!!」
その瞬間ヤ・マカワーとフ・ジサキーが挟み込むように柴田に当たる。
が、柴田は平家からのパスをスルーした。
「えっ?!!」
スルーされたボールはヤ・マカワーとフ・ジサキーの間をすり抜けていく。
と同時に柴田も2人の間をすり抜ける。
- 746 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:01
- ウオオオオオオオオオ!!!!!
スタジアムが柴田の素晴らしいプレーに揺れる。
「来る!!」
柴田がフリーで前を向いた。
その瞬間に安倍がDFラインの裏に抜け出す。
柴田もそれを逃さずスルーパスを送る。
オフサイドは無い。
「もらったべ!!」
安倍がシュート体勢に入る。
が韓国もキャプテンワ・ダキコが必死に戻り身体を投げ出す。
それに気付いた安倍、左足で一度切り返し、
ワ・ダキコのブロックをやり過ごして右足でシュート。
しかしこのシュートは飛び出したGKエ・ミリーが顔面でブロック。
ボールは大きくゴールラインを越えていった。
- 747 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:02
- 「あー!!しまった・・・・。」
頭を抱える安倍。
ワ・ダキコのブロックをかわしている間に
GKエ・ミリーに距離を詰められていたのだ。
ワ・ダキコのブロックさえ無ければ絶対にゴールネットを揺らせてたはずだ。
さすがは韓国のドンだ。
しかしワ・ダキコのブロックに気付き、かわした安倍もまた凄かった。
「ドンマイです安倍さん!!次頼みます!!」
柴田の声に安倍が手を上げた。
「もっと強く当たれ!!柴田をフリーにするな!!」
韓国のドン、“アジアの壁”ワ・ダキコが声を張り上げる。
テクニックでは日本の中盤の方が上だ。
だからこそ激しく当たらねばならない。
- 748 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:03
- 「うわっ!!」
「ぐっ!!」
柴田が何度もピッチに叩きつけられる。
韓国伝統の強い当たりがマエストロを襲う。
柴田も頑張って踏ん張るが、やはり韓国の当たりは強い。
ならば・・・・・・・・
「平家さん!アヤカさん!梨華ちゃん!辻ちゃん!!」
マエストロのタクトのリズムが変化した。
アンダンテから一気にプレストへ。
「ほどよくゆっくり」から「きわめて速く」へと。
- 749 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:03
- この指揮に従い、日本は中盤でパスをワンタッチ、ツータッチで回していく。
しかもそのパスのスピードが速い。
その速い球離れに韓国の中盤も振り回されだした。
いくら韓国選手のフィジカルが優れていようが、
人間誰もボールより速くは動けない。
「柴田!!」
辻からのパスを平家がダイレクトで柴田に。
それを柴田はダイレクトで左サイドの石川へ。
ペナルティエリアとハーフラインの丁度間にいた石川、
そのボールをさらにダイレクトでゴール前へ。
- 750 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:04
- 「何やて?!!」
ワ・ダキコ、モ・エーの韓国センターバックが虚を突かれる。
まさかあんな所からクロスを送るとは?
しかもそのクロスが正確だった。
ボールは鋭く弧を描き、ゴール前に飛び込んだ高橋にピタリ。
高橋はそのボールをダイレクトで左足ボレー。
このシュートはGKエ・ミリーのニアサイドを破り、ゴールネットに突き刺さった。
前半27分。
次代のエース高橋愛が貴重な先制点をたたき出した。
- 751 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:04
- 「高橋!!!」
「愛ちゃん!!」
日本イレブンがゴールを決めた高橋に飛びつく。
貴重な貴重な先制点。
この得点に日本陣営は大きく沸きあがった。
だが、この得点が韓国の、アジアの虎の尾を踏んでしまった。
- 752 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:05
- 「くっ!!」
柴田が表情を歪める。
先ほどと変わらず中盤を速いパスワークで支配する日本。
だが韓国もすぐに順応し、これに食らいつく。
きっちりとパスコースを読んですぐに当たってくる。
まさかこのリズムにすぐに慣れるなんて。
柴田も驚きを隠せない。
さすがは“アジアの虎”だ。
- 753 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:05
- 「しまった!!」
中盤で平家がボールを奪われた。
奪ったのは“韓国が産んだ天才”ミ・サキー。
テクニックに優れた平家ですらかわせない抜群のスピードにフィジカルだ。
「ミ・サキー!!!」
“韓国のエース”ユ・ウカがスッと右に流れる。
そこへミ・サキーはパスを出し、自分は前に走る。
ユ・ウカ、石黒を背負いながらも見事なポストプレー。
走りこんでくるミ・サキーに見事なパスを送る。
- 754 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:06
- 「もらった!!」
ミ・サキーがこれをダイレクトで狙う。
「撃たせない!!」
そこへ斉藤がスライディングでブロックに行く。
ミ・サキーはシュートを撃たず、飛び込んだ斉藤をかわした。
「そこや!!」
その瞬間中澤が飛び込んできた。
中澤はこう来る事を読んでいたのだ。
だが、韓国が産んだ天才はこの上をいった。
「?!!」
飛び込んだ中澤の股間をボールが抜けていく。
「くっ!!」
すかさずミカが飛び出すが、
ミ・サキーはあっさりとかわして無人のゴールに流し込んだ。
前半36分。
韓国、あっさりと同点に追いつく。
- 755 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:06
- ウワアアアアアアアアアアア!!!!!
スタジアムの赤が爆発した。
青も思わず目を丸くし、溜息をつく。
それほど素晴らしいプレーだった。
赤の大歓声に手を上げて応えるミ・サキー。
まさに天才と呼ぶに相応しい3人抜きだ。
- 756 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:07
- 「すまん、うちのミスや。」
中盤でボールを奪われた平家だ。
一瞬の遅れだった。
一瞬判断が遅れた結果、ミ・サキーに付け入る隙を与えてしまった。
「いや、うちもや。あんな完璧にかわされてもた。」
「あたしもです。あんな簡単に飛び込んでしまって。」
中澤と斉藤だ。
せっかく攻撃陣が1点を取ってくれたにも関わらず、
あっさりと得点を献上してしまった。
DFとしてこれは悔しい。
みなの雰囲気が重くなる。
- 757 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:07
- 「ドンマイ。もう忘れましょう。まだ同点ですから。」
「そうれすよ。今からが試合開始なのれす!」
しかしこの雰囲気を変えたのはマエストロと小さな弾丸。
前者はその存在感。
後者は天性の力で重い雰囲気を吹き飛ばす。
「そうやな。過ぎた事を気にしてもしゃーない。
次は絶対に止めるから。」
中澤の言葉に頷くDF陣。
絶対に次のゴールは割らせない。
- 758 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:08
- この後は中澤たちDF陣が踏ん張り得点を許さない。
一方、韓国もワ・ダキコを中心に堅い守りを見せ、
日本の攻撃を全て食い止める。
そして1−1で前半戦が終了した。
- 759 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:08
- 「前半は同点に追いつかれたけど、ええ感じやった。その調子で後半も戦うんや。
ええか、絶対に気持ちで負けんなよ。ここまで来たら、
勝ちたいという気持ちの強い方が勝つんや。」
「はい!!!」
ハーフタイムのロッカールームでつんくが声をかける。
みな頑張っている。誰もが全力で戦っている。
この調子で後半も戦い、勝利を、栄光を手に入れよう。
「よっしゃ、後45分、全力で勝利をもぎ取って来い!!!」
「はい!!!」
- 760 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:09
- 後半開始早々、右サイドのスペシャリスト、
”オールライト”の先制攻撃。
「あゆみ!!」
右サイドをアヤカが駆け上がる。
「アン!!」
ワ・ダキコがアン・ヒロコーに指示を出す。
が、アヤカは急激に中に切れ込んだ。
その動きに釣られるアン・ヒロコー。
アヤカが中に切れ込んだ瞬間、外に張り出すのは高橋。
アヤカとの絶妙のポジションチェンジ。
この辺りはお互いの特徴を知り尽くしている仲だ。
そこに柴田から測ったようにパスが来る。
高橋、フリーで中にクロスを上げた。
クロスはファーサイドに。
ファーサイドに走りこんだ安倍が中に折り返す。
これに最後は中央でアヤカが頭で合わせる。
完璧な日本の攻撃だったが、韓国GKエ・ミリーがファインセーブ。
日本惜しくも得点ならず。
- 761 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:10
- だがこの先制攻撃に日本が勢いに乗った。
今度は左サイド、“魔法の左足”だ。
石川が左サイドの浅いところでボールを持つ。
一瞬中を確認して左足を振り抜く。
「あっ?!!キーパー!!!」
ワ・ダキコが叫ぶ。
石川のクロスはアウトサイドにかけられ、ゴールに向かって曲がっていく。
クロスでは無く、シュートだった。
決まるかと思われたが、これをもGKエ・ミリーがファインセーブ。
これでエ・ミリーは連続で韓国の危機を救った。
サ・トエリや飯田、ミカの陰に隠れているが、
彼女もアジアbPGKを狙える実力だ。
- 762 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:10
- このエ・ミリーのスーパーセーブに韓国も勢いを盛り返す。
辻と平家のチェックを受け、バランスを大きく崩しながらもミ・サキーが
ユ・ウカにスルーパスを出す。
抜群のボディーコントロールだ。
このパスに鋭く反応したユ・ウカ。
斉藤を振り切り、右足でゴールを狙うものの、
中澤の決死のスライディングにブロックされた。
- 763 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:11
- さらに右サイドを駆け上がったハ・タノーに
フ・ジサキーから絶妙のパスが通る。
石川のチェックをかいくぐり、中にクロス。
これにミ・サキーが飛び込むが石黒がこれをクリアした。
サイドからもいい形になっている韓国だ。
- 764 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:11
- 後半も15分を過ぎた。
日本、韓国ともに持ち味を出し、積極的に攻撃を仕掛けている。
だが、お互いDF陣が奮闘し、得点を許さない。
現在1−1の同点。
もちろんお互い得点が欲しいこの状況。
次の得点が恐らく勝負を決める1点になるであろう。
- 765 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:11
- 「なっち!!」
平家が中盤からシュートと思えるような低いライナー性のパスを安倍に送る。
安倍はこのパスをワ・ダキコを背負いながらトラップ。
そして左サイドを上がってきた石川に落とす。
ボールを受けた石川、中を見る。
中には高橋のみだ。
ならばと石川、クロスを上げるふりをして中に切れ込んだ。
石川はクロスのみと決め付けていた韓国にとって大きなフェイントだった。
このフェイントに韓国右サイドバックウ・エハラーはあっさりと引っかかる。
カバーに入ったモ・エーも石川はかわした。
たまらずGKエ・ミリーが飛び出す。
- 766 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:12
- 「ここだっ!!」
その瞬間を逃さず石川は中にラストパス。
このパスに反応しているのは安倍なつみ。
スライディングで押し込む。
が、ゴールは彼女が許さない。
韓国のドン、ワ・ダキコが安倍よりも早くこのボールに追いつき、クリアした。
「あー!!」
思わず天を仰ぐ石川。
完璧にサイドを切り崩した。
あの位置ならば自分でシュートを撃っても良かった。
それだけに悔しさが残る。
- 767 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:13
- 「梨華ちゃん・・・・いつの間にあんなドリブルを・・・・」
ベンチ裏でアップをしていた加護が思わず呟く。
石川の左足は確かに世界レベルであったが、しかしただそれだけであった。
左足以外は使い物にならないというのが世間の評価。
しかし加護の成長、今大会大ブレイクの麻美。
そして藤本という新たなライバルが登場したことで石川の気持ちにも火がついた。
“魔法の左足”だけに頼らず、他のプレーでも必ず勝ってみせる。
「・・・梨華ちゃん、うちも負けへんで!!」
「・・・・・あたしだって。」
加護、それから麻美も新たに闘志を燃やす。
- 768 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:13
- さらに日本は攻撃の手を緩めない。
アヤカが柴田とのワンツーで右サイドを抜け出し、中にクロス。
これはワ・ダキコがヘッドでクリアするが、そのこぼれ球を辻がロングで狙う。
これはクロスバーを越えていったが日本は積極的に韓国ゴールを狙う。
今、日本に流れが傾きつつある。
だからこそ今、点を取らねばならない。
- 769 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:14
- だが、韓国も不屈の闘志でこの流れ自分たちに引き戻す。
左サイドを抜け出したフ・キイシーが中にクロス。
1トップのユ・ウカがニアに流れてスペースを創り、
そこに2列目からミ・サキーが飛び込む。
打点の高いヘディングシュートはミカの手を掠め、クロスバーを叩いた。
スペインリーガエスパニョーラの強豪、デポルティボ・ラ・コルーニャのエース。
この“韓国が産んだ天才”ミ・サキーは、
レアル・マドリード所属“日本が産んだ天才”後藤真希とよく比較される。
ミ・サキー自身も後藤のことをライバル視しているが、
昨シーズンの直接対決は0−0、2−0でレアルの1勝1分。
この2ゴールは後藤が上げたものだ。
そしてレアルに優勝を持っていかれ、ラ・コルーニャは3位に終わった。
- 770 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:15
- しかもそれだけではない。
このアジアカップが始まってしばらくして
昨シーズンのリーガエスパニョーラの表彰が行われたが、
何と後藤真希がユウーコ、ヒカルド、クローキを差し置いてシーズンMVPに輝いたのだ。
これは日本サッカー界にとって歴史に残る快挙である。
もし仮に、オリンピックで優勝し、2004−2005シーズンの前半戦を好調で終えたならば、
あの“バロンドール”に初めて輝くアジア人になるかもしれない。
今、“日本が産んだ天才”はここまで登りつめていた。
それだけにミ・サキーは今シーズンに強い思いを抱いている。
だからこそこの日本戦には後藤が出てないとはいえ、
いや、出ていないからこそ勝たねばならない。
- 771 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:15
- 中盤では激しい争いが繰り広げられる。
テクニックの日本、フィジカルの韓国。
お互いの持ち味で中盤を支配下に置こうとする。
「あゆみ!!」
アヤカが右サイドで柴田からパスを受ける。
アヤカにはアン・ヒロコーとフ・キイシーが2人がかりでマークについている。
『今、ここで抜くのがドリブラー!!』
思わず見とれてしまうような鮮やかなテクニック。
2人をかわしてタテに抜け出た。
- 772 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:16
- 「チャンスだ!!」
完全に右サイドを突破したアヤカ。
すかさず高橋、安倍がゴール前に走り込む。
韓国もモ・エーがアヤカに向かい、ワ・ダキコが高橋、
ウ・エハラーが安倍に付く。
「アヤカさん!!」
アヤカにパスを出した柴田が上がってきた。
アヤカはすかさずマイナスのグラウンダーのパスを送る。
「もらった!!」
柴田がそのパスをダイレクトで狙う。
が、韓国のボランチ、フ・ジサキーも懸命に滑り込む。
- 773 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:16
- 「柴田!!」
その声に柴田はシュートからパスに切り替えた。
左足アウトサイドで、左サイドにフワッしたパスが送られる。
韓国ディフェンスはアヤカの突破と、
高橋、安倍がニアサイドに走りこんだのに釣られていた。
左サイドがまったくのフリー。
そこへ飛び込むのは日本のキャプテン中澤裕子。
「おらあああ!!」
中澤渾身のダイビングヘッド。
韓国GKエ・ミリーの脇の下を抜け、ゴールネットを揺らした。
後半32分。
日本、とうとう勝ちこした。
- 774 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:17
- 「よおおおしゃあああ!!!!!」
歓喜の雄たけびを上げる中澤に次々と日本の選手が抱き付く。
ベンチでもみなが抱き合って喜びを爆発させていた。
この時間帯での1点は果てしなく大きい。
これで日本はアジア制覇へ王手をかけた。
「まだだ!!まだ時間はある!!」
ワ・ダキコが意気消沈するイレブンにゲキを飛ばす。
我々は日本にだけは負けてはならない。
その気持ちが韓国を突き動かす。
アジアの虎は未だ死なず。
- 775 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:17
- 「あやっぺ!!ミ・サキーのマーク絶対に離すな!!
ユ・ウカは斉藤!!頼むで!!!」
中澤が最終ラインを確認する。長身のミ・サキーには石黒、
ユ・ウカには斉藤が付き、そして中央で自分が全てのカバーに走る。
「韓国はまだ死んでへん!!絶対に気を許すな!!!
中盤からのチェックとフォローを絶対にサボんなよ!!
声出してのコーチングもや!!!」
平家が中盤の面々に指示を出す。
残り15分、韓国は死に物狂いで攻めてくるだろう。
それを正面から受け止め、粉砕する。
それが日本が勝つ方法だ。
- 776 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:18
- 「あやっぺ、斉藤、両方から当たれ!!!」
中澤が指示を出す。
右から石黒、左から斉藤がミ・サキーに激しく当たる。
が、ミ・サキーはそれでも倒れず突っ込んでくる。
「ちっ!!」
中澤が正面から鋭いタックルでミ・サキーの足元のボールを弾く。
ボールはタッチラインを割っていった。
「ち、くそっ!!」
悔しさに端正な顔を歪ませるミ・サキー。
ホッと息をつく中澤。
やはりミ・サキーは恐ろしい。
今だって石黒と斉藤を引きずりながらゴールに飛び込んでいきそうだった。
- 777 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:19
- そしてユ・ウカだ。
中澤のDFとしての本能が警告する。
このFWはヤバイ。
ここまで目立った仕事をしていないユ・ウカ。
ここまでで点数をつけるなら0点かもしれない。
だが、FWは、ストライカーは一瞬で100点になることが出来る。
ゴール。
このために生まれてきたのがストライカーだ。
- 778 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:19
- 左サイドをフ・キイシーが深くえぐる。
アヤカが必死に体を寄せる。
しかしフ・キイシー、バランスを崩しながらもセンタリング。
石黒とミ・サキー、空中戦。
ボールがこぼれる。
このこぼれ球にいち早く反応したのはユ・ウカ。
斉藤を振り切り、右足のボレー・・・・
の瞬間ボールは大きくクリアされた。
クリアされたボールは大きくタッチラインを割った。
「ナイスです中澤さん!!」
「オッケーや!!」
中澤がパンパンと手を叩き周りを鼓舞する。
今、中澤はユ・ウカに全神経を集中させている。
- 779 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:20
- 今度は右サイドをハ・タノーが上がる。
しかしそこには石川がいる。今度は抜かせない。
抜きにかかるハ・タノー。しかし不用意に飛び込まない石川。
ハ・タノーのフェイントにもつられない。
そこへ柴田がチェックに来た。
一瞬ハ・タノーの足からボールが離れる。
「もらった!!」
その隙を逃さず石川がハ・タノーからボールを奪った。
「梨華ちゃん!!」
すぐさま柴田が前に走り出す。
石川、魔法の左足ですかさずチェックに来たハ・タノーの股間を通す
絶妙なパス。
- 780 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:21
- 「戻れっ!!!」
ワ・ダキコが指示を出す。
左サイドのライン際を駆け上がる柴田。
右サイドバックのウ・エハラーを華麗にかわし、
さらに左サイドを深くえぐる。
そして中に低く、速いクロス。
中には安倍と高橋が走り込んでいる。
韓国もワ・ダキコ、モ・エーが懸命に並走する。
4人同時に頭からボールに飛び込んだ。
ボールに触れたのはワ・ダキコだった。
難しい戻りながらのディフェンスであるにも関わらず、
完璧なヘディングでボールをクリアした。
さすがは韓国を率いる“アジアの壁”だ。
- 781 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:22
- 残り時間は3分を切った。
しかしまだ韓国は諦めない。
中央でミ・サキーが平家、辻、石黒に囲まれながらもボールをキープ。
「ここだ!!」
ミ・サキー、3人の僅かな隙間を通した。
そのパスにボランチのヤ・マカワーが上がる。
「やばい!!」
中澤が思わずDFラインを飛び出してスライディング。
だがヤ・マカワーは中澤が飛び出したスペースにスルーパスを出す。
「しまった!!」
やられた。
完璧なスルーパスだ。
ユ・ウカの存在を一瞬でも忘れた自分の負けだ。
- 782 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:22
- ピピピピッ!!!
しかし主審の笛が鳴った。
何の笛だ?
そう思った中澤、線審の旗が上がっているのが見えた。
「よしっ!!!!」
会心のオフサイドトラップ。
セクシーDF、斉藤瞳。
アジアカップ組の意地をここで見せつけた。
- 783 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:23
- 「ようやった斉藤!!助かった!!」
中澤が斉藤に抱き付く。
「最高だよ瞳!!」
「ナイス瞳!!!」
ピッチにいる柴田、そしてベンチの村田や、
アップをしている大谷からも声が飛ぶ。
まさに日本を救うオフサイドトラップだった。
- 784 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:23
- 「みんなもう一回集中ね!!落ち着いていくよ!!!」
マエストロが最後、フィナーレに向けてリズムを整える。
ここまで完璧に近い演奏を観客たちに聴かせている。
後はフィナーレを飾るだけだ。
焦らずゆっくりと、最高のフィナーレをお見せしよう。
- 785 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:24
- だが韓国も最後の抵抗だ。
中央からミ・サキーが単独突破で突っ込んでくる。
「くっ!!!」
この突破に真正面から当たる辻。
「うわっ?!!」
この当たりは辻が勝った。
もんどりうって倒れるミ・サキー。
ピピピピピピッ!!!
しかし主審はこれを辻のファウルととった。
「そ、そんな・・・・・・」
辻が思わず絶句する。
ゴール正面、約22m。
最高の位置だ。
「ドンマイ辻。よくそこで止めてくれた。」
石黒が声をかける。
もしあそこで止めなければあの左足がうなっていただろう。
- 786 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:24
- 「梨華ちゃん!もっと左です!!そうそこ!!」
ミカが壁の位置を指示する。
壁の枚数は7枚。
日本は安倍も高橋も戻ってきている。
韓国もボランチのヤ・マカワーとGKエ・ミリーを残して全員が上がる。
キッカーはもちろんミ・サキー。
その左足に全てを込める。
ピィー!!
主審の笛が鳴った。
と同時にミ・サキーが助走に入る。
渾身の力を込めて左足を振り抜いた。
ボールは壁を越え、鋭く曲がって落ちる。
コースは右上隅ギリギリ。
- 787 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:25
- 『入った!!』
ミ・サキーはそう確信した。
「?!!!」
ボールがゴールに吸い込まれる瞬間、
しなやかに跳ぶ影がミ・サキーの眼に映った。
ボールが大きく弾かれ、GKの咆哮がスタジアムに木霊した。
日本の秘密兵器ミカ・トッド、ここにあり。
- 788 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:26
- ここでロスタイムに突入した。
ロスタイムは2分。
「マーク確認!!もう一回集中しなおせ!!!!」
電光掲示板の時計の数字が消えた瞬間、
中澤はキャプテンマークを巻いた左手を振り上げ叫ぶ。
一番恐い時間がやってきた。
ここで失点を許せば、今までの全てが崩れ去る。
そしてこの時間帯は日本にとって絶対に忘れられない時間帯だ。
ドーハの悲劇。
これを繰り返してはならない。
- 789 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:26
- 韓国は当然もう攻めるしかない。
日本は安倍や高橋もディフェンスに入る。
ツンクは交代枠を使わない。
今のメンバーが醸し出すリズムを変えたくないからだ。
アップをしていた控えの選手たちもアップを止め、
ピッチで戦う選手たちに必死に声を送る。
- 790 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:27
- ロスタイムも2分近く過ぎた。
あと1プレーで終わりだろう。
ミ・サキーが最後の突破を試みる。
しかし石黒の厚く、高い壁を超える事が出来ない。
「出せ!!!!」
ワ・ダキコが気力を振り絞って上がる。
絶対に日本には負けられない。
そこへミ・サキーがパス。
すぐさまチェックに向かう辻、平家。
しかしかまわずワ・ダキコがシュートを放つ。
このシュートは辻の太ももに当たった。
- 791 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:28
- ボールが宙に浮く。
その瞬間韓国の背番号9が跳んだ。
今まで幾多のストライカーを生み出してきた韓国。
その正当なる系譜を受け継ぐもの。
空中で体をひねり、右足でボールを捉えた。
あまりに美しいオーバーヘッドキックに
マークに付いていた斉藤は一歩も動けなかった。
- 792 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:29
- パサッ。
ネットが静かに揺れた。
一瞬静まり返るスタジアム。
しかし次の瞬間。
ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!
スタジアムが今までで一番大きく揺れた。
- 793 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:29
- 「ユ・ウカ!!!!!」
韓国の全選手が背番号9に飛びつく。
ロスタイム、奇跡の同点ゴール。
韓国陣営はみな喜びを爆発させている。
一方、日本はロスタイムの失点。
まさにあの時と同じだ。
悲劇はまたも繰り返されるのか?
誰もがそう思った。
- 794 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:29
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
ここで主審の笛が鳴った。
アジアカップ決勝戦、日本VS韓国。
この決着はゴールデンゴール方式の延長戦に委ねられた。
- 795 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:30
- 斉藤が悔しさで目を真っ赤にする。
最後、自分のせいで同点に追いつかれたのだ。
「瞳、ドンマイ。まだ負けたわけじゃないから。」
柴田が声をかける。
「柴田の言うとおりや。まだ負けたわけや無い。
最後まで全力で戦い抜け!!」
ツンクがゲキを飛ばす。
その言葉に強く頷いた斉藤。
もう一度気合いを入れなおす。
「よしっ、みんな。」
中澤が皆を呼び寄せ、円陣を組む。
「延長戦、絶対勝つで!!がんばっていきまー・・・・・・・」
「しょい!!!!」
- 796 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:32
- 延長戦が開始された。
日本はアヤカに変えて矢口、石川に変えて加護を投入した。
2人ともずっと1人でサイドの攻守を支えてきたのだ。
その疲労度は尋常ではなかった。
「アヤカちゃん、後はオイラが頑張るよ。」
「梨華ちゃんの分もうちがやったる。」
ずっと頑張った2人のためにも絶対に勝ってみせる。
- 797 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:32
- 最初にチャンスを掴んだのは日本。
左サイドを加護が軽やかに突破していく。
疲れのあるウ・エハラーに加護のドリブルは止められなかった。
そして中にセンタリング。
安倍が飛び込むもののGKエ・ミリーが飛び出し、キャッチした。
ドリブルの魔術師。
次はどんなドリブルという魔術を見せるか?
- 798 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:32
- 今度は右サイドを矢口がそのスピードで突破する。
ここまで余り活躍の場が与えられなかった。
がそれでも矢口は腐らず、ずっと出番を待っていた。
今日で6試合目。
両チームとも疲れている。
だからこそ今、自分のスピードが必要なのだ。
フ・キイシー、アン・ヒロコーをスピードで置き去りにした矢口、
中に切れ込んで左足で撃つ。
これは惜しくもGKエ・ミリーがセーブした。
スピードスター。
誰も知らないスピードをもっと見せてくれ。
- 799 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:33
- 対する韓国も負けてはいない。
矢口が攻めあがって出来たスペースを的確に突く。
左から上がったフ・キイシー、中央のユ・ウカにスルーパス。
しかし線審がフラッグを勢いよく上げた。
パスが出た瞬間にスッとDFラインが上がった。
この試合、ラインコントロールは彼女だった。
守備陣を指揮、一糸乱れぬラインコントロールを披露した斉藤。
セクシーDF。
その恵まれたフィジカル、さらに素晴らしいラインコントロールにみな虜になる。
- 800 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:33
- 中盤に下がってボールを受け、中央を強引に突破していく高橋。
ヤ・マカワー、フ・ジサキーのボランチコンビをあっさりとかわす。
そして左足で強烈なシュートを放つ。
が、惜しくもポストの左を抜けていった。
次代のエース。
狙っている、勝利のゴールを。
- 801 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:34
- ここで延長前半終了の笛が鳴った。
いよいよ残り15分だ。
- 802 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:34
- ユ・ウカがトップの位置から下がってボールをもらう。
すぐさま入れ替わるようにミ・サキーが前線へ。
「裕ちゃん!!」
「オッケー!!」
石黒と中澤が素早くマークを受け渡す。
そしてユ・ウカから出されたスルーパスを中澤が抜群の読みで止めた。
日本サッカー界のキャプテン。
ここまで若い日本代表を引っ張ってきた。
- 803 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:35
- 右サイドをハ・タノーが上がる。
そこに立ちはだかるのは石黒彩。
鋭い眼光で相手をびびらせ、
その隙を逃さず鋭いタックルでハ・タノーからボールを奪った。
正統派ストッパー。
1対1には絶対の強さを持つ。
- 804 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:35
- ミ・サキー、意表を突くミドルシュート。
ミカが懸命に跳び、これを弾いた。
そのこぼれ球をユ・ウカが詰める。
が、ミカが間一髪クリアした。
日本の秘密兵器。
その抜群の瞬発力でゴールを許さない。
- 805 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:36
- 中盤で平家がボールを持った。
ミ・サキーのチェックを鮮やかなテクニックでかわし、
右足に宿した名刀で切れ味鋭いパスを送る。
日本が誇るレジスタ。
まさに最高のゲームメイカー。
- 806 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 13:37
- 「ナイスパスれす!!!」
このパスを受けたのは辻。
絶妙な前線への上がり。
辻の強烈なロングシュートは激しくクロスバーを叩いた。
小さな弾丸。
底知れぬパワーと、底知れぬ明るさを持つ。
- 807 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:07
- 誰もPK戦は考えない。
少なくともピッチに立っている選手たちは。
必ず時間内に決めて勝つ。
それだけだ。
「矢口!!」
右サイドで攻めあぐねている矢口の頭に声が響く。
「ゆ、裕ちゃん?!!」
右サイドを中澤が矢口を追い越して行く。
その動きに韓国左サイドバック、アン・ヒロコーが一瞬釣られた。
- 808 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:08
- 「今だ!!」
矢口は一瞬のスピードで中に切れ込む。
モ・エーがすぐさまスライディング。
しかし矢口はギリギリまでひきつけて高橋にパス。
高橋、このパスをダイレクトで左サイドに。
ワ・ダキコの裏に上手く走り込むのは柴田だった。
マエストロ。
そして“創造と再生の天使”。
最高のフィナーレへラストタクト。
- 809 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:08
- GKエ・ミリーが飛び出してくる。
柴田、構わず思いっきり左足を振り抜いた。
しかしボールはゴールに行っていない。
ミスキック?
いや、それはパスだった。
- 810 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:09
- 秘密兵器、ミカ・トッド。
正統派ストッパー、石黒彩。
日本サッカー界のキャプテン、中澤裕子。
セクシーDF、斉藤瞳。
小さな弾丸、辻希美。
日本が誇るレジスタ、平家みちよ。
ドリブルの魔術師、加護亜依。
スピードスター、矢口真里。
マエストロ、“創造と再生の天使”柴田あゆみ。
次代のエース、高橋愛。
- 811 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:09
- ベテランGK、信田美帆。
コブシの利くGK、前田有紀。
脅威の身体能力、里田まい。
フラワーカンパニー、木村麻美。
ストロングヘッダー、大谷雅恵
オスティナート、小川麻琴。
ダイナモ、新垣里沙。
ハードマーカー、戸田鈴音。
魔法の左足、石川梨華。
トリックスター、田中れいな。
オールライト、木村アヤカ。
ミスオフサイド、村田めぐみ。
- 812 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:10
- 日本代表監督、ツンク。
日本代表ヘッドコーチ、マコト。
日本代表フィジカルコーチ、ハタケ。
- 813 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:11
- 日本代表コーチ、タイセー。
日本の守護神、飯田圭織。
PKストッパー、亀井絵里。
パーフェクトDF、紺野あさ美。
頼れる姉貴分、保田圭。
偉大なるパイオニア、福田明日香。
ミキティ、藤本美貴。
フリーロール、市井紗耶香。
大型ストライカー、道重さゆみ。
日本のプリンセス、松浦亜弥。
日本が産んだ天才、後藤真希。
ファンタジスタ、“創造と破壊の悪魔”吉澤ひとみ。
- 814 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:12
- アジアカップで戦い抜いた選手にスタッフたち。
そして日本で、現地で応援している全てのサポーターたち。
アテネから声援を送るオリンピック組たち。
一人一人の思いを、意志を、願いを、希望を、全てを背負い、彼女は跳んだ。
- 815 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:12
-
―――日本のエース、安倍なつみ―――
- 816 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:13
- 延長後半7分23秒。
安倍なつみのゴールデンゴールが日本にアジアbPの座をもたらした。
- 817 名前:第11話 アジアの虎 投稿日:2004/04/23(金) 14:13
-
第11話 アジアの虎 (終)
- 818 名前:ACM 投稿日:2004/04/23(金) 14:15
- 第11話 アジアの虎 終了いたしました。
長かったアジアカップ編もとうとう終わりました。
ほとんど主人公が出ない状況でした。
が、やっと次から出せそうです。
次はいよいよオリンピック編に突入します。
- 819 名前:ACM 投稿日:2004/04/23(金) 14:23
- では次回の予告です。
第12話 復活の悪魔
アジアカップの激闘を終えた日本代表。
次はいよいよアテネオリンピックだ。
アジアカップ組の活躍にオリンピック組も大いに刺激された。
みな、気合いは充分だ。そしてついにこの時が来た。
“創造と破壊の悪魔”地獄の底より蘇る。
次回もよろしくお願いいたします。
- 820 名前:ACM 投稿日:2004/04/23(金) 14:25
- えー、スレ隠しです。
今回は後藤さんの背番号についてです。
FC東京、レアル・マドリードでは『51』を、
日本代表では『23』を付けています。
その理由をここで紹介しましょう。
- 821 名前:ACM 投稿日:2004/04/23(金) 14:27
- まず『51』
これは名前からです。
“ごとう”
510ですね。さすがに510は付けられないのと、
“ご”とうと“い”ちい、5と1ですね。
で、『51』を付けているわけです。
- 822 名前:ACM 投稿日:2004/04/23(金) 14:38
- で、日本代表でつける『23』
これはまず代表は23人、もしくは18人なので51は付けれない。
そこで『23』が出てくるわけですが、
まず2と3を足すと5です。“ご”とうの5ですね。
で、さらにこの5と十の位の2をかけると10になります。
ご“とう”の10ですね。いちいの“いち”、“1”0も含まれてます。
さらに一の位の3をかけると15。
“いち”い、“ご”とうで15ですね。
そしてもういっちょ、5と23をかけると
115になりますね。
これは“いち”“い”、“ご”とうで115ですね。
以上のような理由から『23』をつけております。
完全なこじつけです。ホントすみません。
しかも今気付きましたけど、821で“い”ちいってしてますね。
ホントは“いち”いなのに。こじつけの上にそれを間違うとはなんてこった。
こんなアホアホな作者ですけど、これからもよろしくお願いします。
- 823 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/23(金) 20:10
- 更新お疲れ様です。ようやくアジアカップが完結しましたね。お疲れ様でした。
最後はやっぱり復活したエースの足でしたね。これでまず一冠。二冠に向けていい滑り出しになりました。
次はオリンピック。頑張って欲しいものです。
リアルの方も女子は明日運命の北朝鮮戦です。頑張れニッポン
メール欄はちょっと気になったことを書いてみました。
次回の更新を楽しみにしております。
- 824 名前:みっくす 投稿日:2004/04/23(金) 20:32
- 更新おつかれさまです。
やっぱり最期は決める人がきめましたね。
次はいよいよ、よっしーの発言から
各国トップ級が参戦することになったオリンピック。
掛け持ち組の疲労も心配ですが、悪魔がいよいよ復活?
次回も楽しみにしてます。
- 825 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:02
- 823>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
やっぱエースですから、ここぞで決めてくれます。
メール欄読ませて頂きました。
確かにそうですね。でも、それはあくまで付加価値みたいなもので、
欧州の選手の目標はやはりチャンピオンズリーグを制覇することのようです。
南米の選手は欧州のクラブのスカウトにアピールするため、トヨタカップを
重視してるようですけど。
824>みっくす様
レスありがとうございます。
いよいよアテネオリンピックが始まります。
今回の火付け人、吉澤さんはもちろん世界各国のトップクラスが
出場します。もちろんニューフェイスも登場しますのでご期待下さい。
では2日連続の更新と行きます。
- 826 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:04
- 「ほなここでお別れやな。・・・・・ありがとうな、平家、アヤカ、ミカ、
信田、前田、里田、斉藤、大谷、村田、麻美、鈴音。」
ツンクがそれぞれと握手を交わす。
アジアカップ制覇の翌日、ツンクたちはすぐさまアテネへと飛ぶ。
2日後、アテネオリンピックが開催されるためである。
今回のアジアカップは見事に優勝を果たした。
アテネオリンピックには先にアテネに行った先発隊11名と、
このアジアカップから12名が加わった計23名で臨む。
- 827 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:04
- 「じゃあ行ってくるわ。」
アテネ行きの飛行機の方が日本行きより少し早かった。
ツンクたちが搭乗口に向かう。
「みんな!!がんばれよ!!!」
「絶対に勝って来いよ!!!」
村田や斉藤たちがエールを送る。
だが、オリンピック世代は内心複雑だった。
正直に言うならばオリンピックに出たかった。
でもいつまでも立ち止まっていられない。
今日、この日から新たな戦いが始まるのである。
「さあ、みんな帰るで。うちらはアジアカップを制したんや。
胸張って帰ろうや。」
平家が笑顔で言う。
そうだ、何も恥じる事は無い。
私たちはタイトルを勝ち取ったのだ。
アジアbPというタイトルを。
- 828 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:05
- もちろん日本サポーターたちもそれは分かっていた。
この後、日本に帰国した平家たちを400人を超えるサポーターたちが
成田空港で出迎えた。
巻き上がるニッポンコール。
彼女たちを称える声があちこちから飛び交った。
- 829 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:05
- 飛行機の機内は静かだった。
アジアカップを制し、意気盛んなはずの日本代表。
だが、今機内で言葉を発する者はいない。
それはみな彼女のことを気遣ったためだ。
マエストロ、柴田あゆみ。
柴田は飛行機に搭乗するやいなやシートに深く身体を沈め、眠りに入った。
アジアカップ6試合のうち、5試合がスタメンフル出場。
さらに準決勝、決勝と延長戦を戦い抜いた。
今、疲れはピークに達していたのだ。
- 830 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:06
- 約6時間のフライトを終え、アテネに到着したツンクたち。
早速チャーターしたバスで宿舎に向かった。
それから1時間後、今度は手配していた練習場へと向かう。
そこで長時間シートに座って凝り固まった身体をほぐすのと、
先発隊が地元アテネの強豪、オリンピアコスのユースと
練習試合を行うのでそれを見るためだ。
- 831 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:06
- ドクンッ
柴田の胸が高鳴る。
とうとう彼女に会える。
- 832 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:06
- 「お。丁度良いタイミングやな。」
ツンクたちが練習場についた時、
先発隊がアップを終えてピッチに散らばったところだった。
「タイセー、ご苦労さん。」
「お、ツンクにみんな。アジアカップ、やったな。」
タイセーとツンクが握手を交わす。
「どうや、あいつらの調子は?」
マコトがタイセーに尋ねる。
「まあそれは見てのお楽しみや。」
タイセーが自信満々で答える。
- 833 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:07
- 「ねえ柴ちゃん。あれ、ひとみちゃん、だよね?」
石川がピッチに立っているひとみを指差した。
「う、うん、よっすぃー・・・・・だね。」
柴田も自信なさ気に頷く。
およそ8ヶ月ぶりに見たひとみの身体は以前より一回り大きくなったように感じる。
他の海外組とはワールドカップ予選や親善試合で一緒にピッチに立った。
が、唯一ひとみだけは見ていない。
『この8ヶ月の成果、見せてもらうよ。』
永遠のライバルに柴田がジッと視線を送る。
- 834 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:08
- 「あ、見て見て。みんな来たよ。」
後藤が最初に気付いた。
ベンチの側にツンクたちがいる。
「あ、ホントだな。・・・・よーし、いっちょ凄いトコ見せたるか。」
市井がニヤッと笑う。
「相変わらずだね紗耶香は。」
呆れた様に福田が言う。
しかしこうも付け加える。
「でも、もちろんそのつもりだけど。」
「やっぱ紗耶香も明日香も同じだね。」
保田が肩をすくめる。
「そう言う保田さんこそね。」
松浦の言葉にみな笑う。
「さあ、いっちょやりますか。」
ひとみの言葉にみな頷いた。
- 835 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:08
- 30分ハーフの練習試合。
日本はDFが足りないため、オリンピアコスユースからDFを借りていた。
GKは飯田。
DFは中央に紺野。その周りをユースの選手が入る。
MFボランチに保田と福田、右に市井、左に藤本、トップ下にひとみ。
FW、下がり目の右に後藤、前目、左に松浦という布陣。
- 836 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:09
- 試合が開始された。
まずはオリンピアコスのキックオフ。
FWからMFへ、そしてDFへとボールを回す。
が、日本はすぐさま松浦、後藤のリーガエスパニョーラコンビがチェックに走る。
「速い!!」
高橋が叫ぶ。
チェコ戦と同様、前から積極的にプレスをかける2トップ。
これにはオリンピアコスDFは前線に大きく蹴りだすしかなかった。
「圭ちゃん!!」
福田が指示を出す。
保田とオリンピアコスのMFが競り合う。
保田のほうが頭2つ分高かった。
- 837 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:09
- 保田がクリアしたボールを拾った福田、すぐさま左サイドに振る。
そこに待つのは藤本。
ボールを受けると一発でチェックに来た相手をかわしタテに抜け出た。
そして相手をひきつけて逆サイドへ大きくサイドチェンジ。
このボールを市井、ダイレクトで中に落とす。
「凄い精度!!」
「あのスピードのボールをダイレクトで?!」
石川と矢口が驚嘆の声を上げる。
そして中でボールを受けたのはひとみ。
- 838 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:10
- 『さあよっすぃー、どう・・・・』
柴田がそう思った瞬間にはひとみはすでにスルーパスを出していた。
このボールに反応するのは後藤。
DFラインを抜け出し右足で中にクロス。
このボールを松浦がGKの鼻先で合わせた。
日本、いきなりの先制点。
- 839 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:10
- 「すげえ!!」
「なんだあれ?!!!」
「みんな桁外れじゃんか!!」
今の流れるようなプレーに驚きを隠せない柴田たち。
一人一人のプレーが際立っている。
- 840 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:11
- 「ごっちん!!!!」
が、その声をひとみがかき消した。
「あ、あれ?よっすぃー何か怒ってるよ?」
矢口が不思議そうに声をあげる。
「な、何か悪いプレーありましたっけ?」
高橋も訳が分からないといった顔だ。
「あ、でも後藤さんも謝ってるのれす。」
辻の指摘どおり後藤がゴメンと謝っていた。
ひとみもいつもの雰囲気に戻り、後藤とタッチをかわした。
- 841 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:11
- 「今のは後藤のミスや。」
タイセーが説明する。
「吉澤は後藤にシュートを撃たせるタイミングで出したんや。
けど後藤が一瞬裏に抜けるのが遅れたんや。
だから角度が無くなってクロスしか上げられへんかったんや。
まあこのレベルの相手ならクロスも上げられて松浦もシュートを決められたけど、
世界の一流相手やったら確実に潰されてる。だから吉澤が怒ったんや。」
タイセーの説明にみな言葉を失う。
あれで通用しない・・・・・?
- 842 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:12
- さらに日本は攻める。
藤本が左サイドを突破し、浅いところから低いアーリークロスを送った。
そのボールをニアに走りこんだ松浦が左足ダイレクトヒールで軌道を変える。
ボールはペナルティエリア正面に。
そこに走り込むのはひとみ。
が、相手DFもシュートを防ぐために身体を張る。
これに気付いたひとみ、ボールをスルー。
最後詰めたのは福田。
目の覚めるようなミドルシュートがゴールネットを揺さぶる。
- 843 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:12
- お次は後藤。
ひとみからのスルーパスに今回は完璧なタイミングで抜け出し、
飛び出してくるGKの脇の下を冷静に抜いた。
前半ラストを締めくくったのは市井。
福田―市井―ひとみ―後藤とダイレクトでつなぎ、
最後はゴール前に飛び出した市井が後藤からのパスを右足で叩き込んだ。
- 844 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:13
- アジアカップ組は声を発することが出来ない。
それほどひとみたちの動きが桁違いだった。
「おーっすみんな!!久しぶり!!!」
前半が終わって戻ってくるなりひとみは笑顔で挨拶をした。
何しろ約8ヶ月ぶりの再会だ。
この日をひとみはずっと楽しみにしていたのだ。
- 845 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:14
- 「あ、あれ?みんなどうしたの・・・?」
が、誰もひとみに返事をしてくれない。
「だ、だってひとみちゃん、凄いんだもの・・・・。」
石川がようやく返事した。
みな驚愕の眼でひとみを見ている。
「ええっ?!!そんな・・・・!!」
ショックを受けるひとみ。
心なしか眼が潤んでる。
「いやー、あたしもね、うん、わかってるんだけどな。
でもやっぱそんなに凄い?」
「うん。」
石川が即答したことでさらにショックを受けるひとみ。
「え、何でショックを受けてるのひとみちゃん?」
石川は訳がわからないといった感じだ。
「あ、わかった。吉澤、石川はあんたの体のこと言ってるんじゃ無いわよ。
あんたのプレーのこと言ってるの。」
保田の声にエッと反応するひとみ。
「え?梨華ちゃん、あたしが太ったって言いたいんじゃなかったの?」
「はあー?」
よっすぃーってこんなんだったっけ?
誰もが首を傾げた。
- 846 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:17
- 「ははははは、相変わらずだねよしこは。
それにねよしこ、よしこは太ってないよ。
筋肉が付いただけだから。」
後藤が笑う。
「えー?そうかなあ?」
ニヤリと笑って首を傾げる市井。
「もう!!市井さん!!」
ひとみは市井に突っ込みながらも汗をかいたため、
ゲームシャツを脱いだ。
中にはスポーツ用のランニングを着ているが、
そこから見える身体を見てみな息を飲む。
まさしく鋼のよろいといった感じで筋肉が付いていた。
無駄なものは一切無い。
「いやん、みんなそんなに見つめちゃよしこ照れちゃう。」
みんなの視線に気付いたひとみがおどける。
「・・・・・何や、よっさん変わったな・・・・」
中澤の言葉が全てを代弁していた。
- 847 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:17
- このひとみの筋肉に鋭い視線を向けていたのは日本代表フィジカルコーチ、ハタケ。
この前、イタリア・ミラノでひとみのメディカルチェックを見たときは、
筋肉は完全に疲弊しきっていた状態だった。
だが、今目の前にいるひとみの筋肉は生命力に満ち溢れている。
『こ、これはもしかして・・・・・・・?』
思いつく事は1つしかなかった。
- 848 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:18
- 後半が開始されても相変わらずボールは日本が持つ。
後半3分には藤本が左サイドから切れ込み、逆サイドのネットを揺さぶる。
7分には松浦が保田からのスルーパスに抜け出し、ゴールネットを揺らす。
後半も10分が過ぎる。
ここまでGK飯田の仕事はほとんど無かった。
なにしろずっと前線でボールをキープできているからだ。
「げっ?」
と思っていたら最終ラインでミスが起こった。
オリンピアコスFWが向かってくる。
「紺野!!」
すぐさまダッシュで戻った紺野が身体を寄せた。
バランスを崩すオリンピアコスFW。
「速いっ!!」
思わず声を上げる中澤。
「今だ!!」
その瞬間爆発的なダッシュでゴールから飛び出した飯田。
ペナルティエリアから飛び出し、相手からボールをかっさらった。
- 849 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:19
- 「今までのカオリからは考えられないような飛び出しだね。」
石黒が飯田のプレーに驚く。
今までの飯田はどちらかと言うとゴール前に張り付いて守るタイプ。
その対極にいるのがミカ・トッドだ。
が、今見せたプレーはミカを彷彿とさせる積極的な飛び出しだった。
アジアカップでサ・トエリを下したミカ・トッド。
絶対に彼女には負けない。
日本の守護神は更なる高みを目指す。
- 850 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:19
- この後、道重と亀井も交代で入り、
道重は見事なポストプレーでひとみの得点をアシストした。
亀井も時折飛んでくるシュートをきっちりと弾く事無くキャッチする。
「さゆ・・・・・・絵里・・・・・・・」
田中が2人のプレーに熱い視線を送る。
2人ともほんのちょっと会わないうちに上手くなってる。
- 851 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:20
- いいプレーを見せた2人に福田が声をかける。
その声に道重と亀井は笑顔を見せる。
「・・・・・・ちょっとジェラシー。」
そう呟き、ぷうっと膨れる田中。
『でもいいもん。あたしには柴田さんがいるもん。』
そう思い柴田の表情をうかがう。
柴田はニッと笑っていた。
嬉しくて仕方がないといった感じだ。
『柴田さん、吉澤さんが凄くて嬉しいんだ。』
その表情を見ると、なんだか自分まで嬉しくなってくる。
- 852 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:20
- その時ツンクがタイセーに尋ねた。
「タイセー、これはどういう事やねん?
吉澤、オリンピックも危ういんとちゃうかったんか?
それやのに何やあの身体は?動きも鋭いやないけ。」
このツンクの質問はみなの質問でもあった。
「・・・・・・・超回復やな。」
この質問に答えたのはハタケだった。
「さすがハタケやな。ご名答。」
タイセーが頷く。
- 853 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:21
- 「超回復?・・・・・・そうか、運が良かったんやな・・・・・」
ツンクが安堵の表情を浮かべる。
だが選手たちは意味が分からない。
超回復?運が良かった?
「ハタケさん、超回復って何ですか?」
矢口が尋ねる。
「ああ。超回復っていうのは、まあいわゆる筋力トレーニングと原理は一緒なんや。
お前ら、何で筋トレすると筋肉が付くか知ってるか?」
- 854 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:21
- 「それは筋肉の繊維を傷つけるからですよね。傷つけて、それを修復する時に
元あった筋肉よりも太く、強い筋肉が出来るってことですよね。」
石黒が答えた。
フィジカルに優れる石黒だ。
この辺りの原理も当然知っており、それを自分に活かしている。
「そうや。人間の再生力、生命力を利用してるわけやな。
で、超回復っていうのはそれを最大限に利用したものなんや。
例えば身体のピークをこのアテネに持っていきたいとする。
それやったらだいたい本番1ヶ月前ぐらいまで、
一週間やそこらで回復せんぐらいの厳しいトレーニングをするんや。
身体を苛めに苛め抜くんや。
で、1ヶ月前になったら今度は身体を休める。
すると身体は回復していくわな。で、元々の身体よりもずっと強くなる。
苛めに苛め抜いた分、かなり強くなるんやわ。これが超回復や。」
- 855 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:22
- 「なるほど。でもハタケさん、それってうちらにはしてへんですよね?」
中澤が尋ねる。
そんな素晴らしいトレーニングを何故自分たちにはやってくれてないのか?
「まあな。これをやるには最低でも2ヶ月以上必要やしな。
お前らはJリーグがあったしそんな時間は無かった。
それ以上にこれは難しいんや。
何せ個人の回復力や限界力を完璧に把握しな出来ひんからな。
回復しきらん時期までトレーニングをしてもあかんし、
限界を超えて苛めても故障するだけや。その見極めがホンマに難しいんやわ。」
なるほどとみな頷く。
個人差もあるし、人間の身体を完璧に理解することなど不可能だからだ。
- 856 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:23
- 「だからツンクの言うとおり、吉澤は運が良かったんや。
吉澤の身体はセリエAでほんまボロボロになってた。
全身くまなく筋肉疲労が凄かった。
けどな、それが実はちょうど良かったんやわ。
超回復に最適な負荷やったんや。
で、インテルのドクターは回復のために1ヶ月まるまる運動を禁止した。
これもちょうど、超回復に最適な休養期間やったんや。
で1ヵ月後、吉澤の身体は超回復によって以前よりもはるかに強い身体になったんや。」
ハタケの説明に頷く中澤たち。
あのひとみの身体はまさにそうとしか言いようがないぐらい
強くなっていた。
- 857 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:24
- 「俺が運がええって言うたのはそれだけやないで。」
ツンクが言葉をつなぐ。
「超回復が終わったのは恐らく俺らがアジアカップに行ったころやろ。
それからまるまる1ヶ月あった。確かに超回復により身体は強くなったかも
しらんけど、あいつは1ヶ月まるまる休んだ分ボールの感覚とか試合勘とかも
忘れてたはずなんや。けど、それを取り戻す時間まであった。
だから運がええって言うたんや。」
- 858 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:24
- そうツンクが言った瞬間、
“悪魔”の弾丸ミドルがゴールネットに突き刺さった。
その余りの速さと威力にみな言葉を失う。
もちろんプレーも素晴らしいが、それ以上に存在感だ。
ひとみがみなと合流してまだ1ヶ月もたっていないはずだ。
それなのに今やひとみは完全にこのチームの王として君臨していた。
- 859 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:25
- 一度悪魔は地獄の底にまで落ちた。
だが、悪魔は死ななかった。
さらに強い悪魔となって這い上がってきたのだ。
いいね、やはりこうでなくっちゃ。
復活の悪魔を見て天使はニヤリと口元を歪める。
- 860 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:25
- 試合は8−0で日本が圧勝した。
相手がユースチームのため、誇れるほどのものでもないが、
一人一人の動きはやはり際立っていた。
その後アジアカップ組もピッチで身体をほぐし、
先発隊とともにベースキャンプ地へと戻っていった。
- 861 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:26
- 「あっ!」
「あっ!」
現在自由時間。
各自それぞれ好きなことをしてリラックスしていた。
そんな中、宿舎の廊下で2人はばったりと会った。
吉澤ひとみと、柴田あゆみだ。
- 862 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:26
- 「へへっ」
「ふふっ」
お互い微笑みあう。
どうやら考えてた事は一緒のようだ。
「あたしの部屋にする?梨華ちゃん、保田さんとこに行ったし。」
「あ、そうなんですか?じゃ、お邪魔しますよ。」
そう言って2人は柴田と石川の部屋へと入った。
2人とも久しぶりに会うライバルと話がしたいと思っていたのだった。
- 863 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:27
- 「久しぶりだねよっすぃー。昨シーズン、大活躍だったね。
エンポリの残留に、インテル移籍おめでとう。」
「ありがとうございます。柴田さんこそペルージャ移籍、おめでとうございます。」
「うん、ありがとう。これで次のシーズン、戦えるね。」
柴田が笑顔を見せる。
ひとみも満面の笑みを浮かべる。
「で、どうだった?セリエAは?」
「やっぱ凄かったですよ。ユッキエとか・・・・・・・」
その後2人は積もる話をたくさん話した。
ひとみはセリエAでの出来事を。
柴田はJリーグや日本代表での事を。
それだけにとどまらず、お互いのサッカー観や人生観にも話は及んだ。
- 864 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:27
- 8ヶ月会っていなかった。
それでもお互いその存在を忘れた事など無かった。
8ヶ月の空白を埋めるべく2人は話をする。
お互いの見たこと、感じたこと、経験したこと全てを伝え合う。
それがお互いの力になっていく。
- 865 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:28
-
アテネオリンピック開幕まであと2日の夜の事だった。
- 866 名前:第12話 復活の悪魔 投稿日:2004/04/24(土) 13:29
-
第12話 復活の悪魔 (終)
- 867 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:32
- 【緊急企画】
モムススポーツ特別企画 (ACM責任編集)
アテネオリンピック出場選手紹介
- 868 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:34
- 1 飯田圭織
ポジション:GK
現所属クラブ:コンサドーレ札幌(日本)
その恵まれた身体と鋭い反応でゴールを守る“日本の守護神”。
ハイボールに強く、1対1にも抜群の強さを誇る。
今大会は中澤に代わりキャプテンを務めるように、リーダーシップにも優れる。
彼女の目標は世界bPGK。このオリンピックを足がかりに世界へ羽ばたく。
- 869 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:34
- 2 石黒 彩
ポジション:DF
現所属クラブ:東京ヴェルディ1969(日本)
日本が誇る“正統派ストッパー”。高さと強さに優れたDFであり、
また鋭い眼光で相手を震え上がらせる。
もちろんその高さを活かしてセットプレーで彼女のヘディングは大きな武器となる。
本来ならば若手に入る年齢だが、若い世代が多いためベテランとしてチームをまとめる。
- 870 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:35
- 3 中澤裕子
ポジション:DF
現所属クラブ:京都パープルサンガ(日本)
彼女なくしては日本代表は語れない。それほどの存在感を示す。
強烈なキャプテンシーに、闘志。まさしく“日本サッカー界のキャプテン”である。
今大会は飯田にキャプテンを譲ったものの、陰から日本代表を支える。
もちろんDFとしての能力は申し分なく、他の追随を許さない。
- 871 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:37
- 4 辻 希美
ポジション:MF
現所属クラブ:ガンバ大阪(日本)
日本が誇るダイナミックボランチ。その小さな身体のどこにそんなパワーが?
と思えるほど躍動感溢れる選手である。機を見ての攻撃参加が彼女の武器であり、
前線に飛び出すその姿はまさしく“小さな弾丸”だ。その屈強なフィジカル、
天性の雰囲気で攻守に渡り活躍する。課題であった精神面も成長の後を見せており
今大会でのブレイクが期待される。
- 872 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:38
- 5 加護亜依
ポジション:MF、FW
現所属クラブ:京都パープルサンガ(日本)
日本最高のドリブラーといっても過言ではないだろう。
まさしく“ドリブルの魔術師”だ。ツンクジャパンではそのドリブルの切れ味から、
後半に登場するスーパーサブ、凍りついた局面を打開する“クラック”として使われるが、
本人はもちろん満足していない。仲の良いパートナー、辻希美とともに今大会で大きく飛躍を狙う。
- 873 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:38
- 6 保田 圭
ポジション:MF、DF
現所属クラブ:柏レイソル(日本)
彼女の魅力は何と言ってもその精神面。何時いかなる時も冷静沈着。
しかし闘志は人一倍強い。その精神面はチームに必要な存在であり、
多くの選手が彼女を頼りにしている。まさに“頼れる姉貴分”だ。
もちろん実力も申し分なく、粘り強いディフェンス、正確なロングフィードに
確かな戦術眼と、ボランチに必要な能力を全て併せ持つ。
- 874 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:40
- 7 田中れいな
ポジション:MF
現所属クラブ:清水エスパルス(日本)
現ユース世代の天才司令塔。その意外性溢れるプレーはまさに“トリックスター”。
テクニック、スピードに非凡なものがあるが、まだまだ発展途上である事は否めない。
しかし将来は日本を背負って立つ逸材である事は間違いない。
吉澤、柴田の後を継ぐのは間違いなく彼女である。
- 875 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:41
- 8 矢口真里
ポジション:MF
現所属クラブ:横浜Fマリノス(日本)
145cmにも満たない身体は多くの不利を被る。しかし彼女には誰にも負けない武器がある。
それはスピードだ。日本はおろか、世界でも有数の“スピードスター”である。
その自慢のスピードで右サイドを鋭く切り裂きチャンスを演出する。
また、天性の明るさと気遣いを持っており、チームのいいムードメーカーである。
- 876 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:42
- 9 安倍なつみ
ポジション:FW
現所属クラブ:コンサドーレ札幌(日本)
説明不要の“日本のエース”。傑出した得点力、大舞台での勝負強さ。
そのどれもが“日本のエース”の名に相応しい。
しかし一番の魅力はその雰囲気だ。
彼女には他の者を惹きつけてやまない何かがある。
安倍ならば何かやってくれる、そう期待を抱かす事こそ彼女が
“日本のエース”である証拠である。
- 877 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:43
- 10 吉澤ひとみ
ポジション:MF
現所属クラブ:インテルミラノ(イタリア)
日本の、いや、今や世界の“ファンタジスタ”である。
もともとはDFだったが攻撃的MFにコンバートしてから才能が開花。
今世界で最も注目を集める選手に。
その類まれなフィジカル、イマジネーションはあの“パーフェクトクイーン”
ナナコーヌ・マツシマに自分の後継者と言わしめ、
“プリンセス”ナカマチェスコ・ユッキエがライバルと認めたほどである。
- 878 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:44
- 11 市井紗耶香
ポジション:MF
現所属クラブ:アーセナル(イングランド)
イングランドプレミアリーグの強豪、アーセナルの中心プレイヤー。
テクニック、スピード、戦術眼、どれもがワールドクラス。
また世界に数人しかこなす事が出来ない“フリーロール”をもこなす選手である。
あの名将ザイゼン・カラサワが惚れこんだ逸材、それが市井紗耶香である。
- 879 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:44
- 12 柴田あゆみ
ポジション:MF
現所属クラブ:ペルージャ(イタリア)
吉澤が剛のトップ下ならば柴田は柔のトップ下である。
フィジカル面に少し課題があるが、彼女のテクニック、ゲームメイキング、
左足から放たれる精度の高いキックは短所を補って余りある。
味方の選手の長所を活かし、全体を調和して上手くオーケストラを奏でさせる
その姿はまさしく“マエストロ”だ。
- 880 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:45
- 13 松浦亜弥
ポジション:FW
現所属クラブ:FCバルセロナ(スペイン)
世界の名門FCバルセロナで、日本人でありながら
次代のエースと期待されるのが松浦亜弥である。
テクニック、スピード、フィジカルに優れ、右足も左足も全く同じ様に
蹴る事が出来るという能力を持つ。得点力だけでなくチャンスメイクの能力にも優れ、
総合力の高いFWである。愛称は“日本のプリンセス”。
- 881 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:48
- 14 石川梨華
ポジション:MF
現所属クラブ:横浜Fマリノス(日本)
彼女の左足は“魔法の左足”。どんな距離でも、どんなコースであっても必ず狙った所へ届く。
セットプレー、特にゴール正面25m以内でのFKは彼女にとってはPKに等しいほどだ。
それほど左足の精度は高い。最近では左足以外も大きな発展を見せ、
成長著しいプレイヤーである。
- 882 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:49
- 15 小川麻琴
ポジション:DF
現所属クラブ:清水エスパルス(日本)
クラブでは4バックの右サイドを務めるが、持ち前の粘り強いディフェンス、
精度の高いクロス、運動量には定評があり、ツンクもそれに期待を込めて
3バックシステムである日本代表に選出している。
特筆すべきはその“オスティナート”(イタリア語で“粘り強さ”)。
抜かれてもこれでもかと食らいつく。まだまだ課題はあるが将来が楽しみな逸材である。
- 883 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:50
- 16 紺野あさ美
ポジション:DF
現所属クラブ:コンサドーレ札幌(日本)
日本最高のDF中澤裕子の後継者。ミリ単位のラインコントロール、
類まれな戦術眼、100mを10秒台で走る俊足、そして危険察知能力と
まさしくDFに必要な能力を全て持つ選手であり、今後世界に羽ばたくであろう逸材だ。
リベロとしての攻撃力もあり、“パーフェクトDF”としての道を歩み始める。
- 884 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:50
- 17 高橋 愛
ポジション:FW、MF
現所属クラブ:ジュビロ磐田(日本)
日本の“次代のエース”。それが高橋愛だ。
テクニック、スピードはもちろん状況判断に優れ、クレバーなプレーを見せる。
FWでもMFでもこなし、チャンスメイクも得点力も兼ね備え、
ディフェンスも怠らない。しかし何より彼女には安倍なつみに通じるような華がある。
その華をどこまで咲かせるか注目したい選手だ。
- 885 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:51
- 18 福田明日香
ポジション:MF
現所属クラブ:ユヴェントス(イタリア)
日本が世界に誇るワールドクラスであり、“偉大なるパイオニア”である。
イタリアのみならず世界の名門ユヴェントスでチームの中心として活躍し、
日本人の価値を変えた選手である。
テクニック、フィジカル、戦術眼全てに優れており、精神力も強い。
まさに日本が世界に誇れる存在だ。
- 886 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:52
- 19 道重さゆみ
ポジション:FW
現所属クラブ:柏レイソル(日本)
日本待望の“大型ストライカー”、それが道重さゆみだ。
類まれなフィジカル、そして鋭い得点感覚と世界に通じるストライカーの素質は
十二分にある。もちろんまだまだ実力、経験とも足りない。しかし将来、
きっと我々を更なる高みへ連れて行ってくれるストライカーになるであろう。
- 887 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:54
- 20 藤本美貴
ポジション:MF、FW、DF
現所属クラブ:シャルケ04(ドイツ)
左サイドのスペシャリストである。
左サイドならばMF、FW、DFとどこでもこなす事が出来る。
テクニック、スピード、フィジカルと揃い、なおかつ熱い性格をも併せ持つ。
それに惚れこんだドイツの熱いサポーターから“ミキティ”と絶大な声援を受ける。
- 888 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:56
- 21 新垣里沙
ポジション:MF、DF
現所属クラブ:ジュビロ磐田(日本)
中盤のみならずピッチ上全てをかけまわる“ダイナモ”それが新垣里沙である。
チームが苦しいときこそ彼女の献身的なプレーが必要になってくる。
守備的な選手と見られがちだが、攻撃力も兼ね備えており好不調の波も少なく、
他のポジションもこなせるため計算が出来るプレイヤーである。
- 889 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:57
- 22 亀井絵里
ポジション:GK
現所属クラブ:名古屋グランパスエイト(日本)
現在ユース代表の守護神だが、その将来性をかわれてオリンピック代表に抜擢された。
グランパスでもこの年齢でレギュラーを取っている。鋭い反応にジャンプ力、
そしてPKにめっぽう強い“PKストッパー”と誰もが将来に期待を込める。
が如何せん経験が足りない。今大会では出番はないかもしれないがこの経験を次につなげて
大きく成長して欲しい選手である。
- 890 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:58
- 23 後藤真希
ポジション:FW
現所属クラブ:レアル・マドリード(スペイン)
“日本が産んだ天才”それが後藤真希だ。昨シーズン海外初挑戦でいきなり
リーガエスパニョーラMVPを獲得。今一番バロンドールに近い日本人選手である。
優れたスピード、テクニック、フィジカルから繰り出される彼女のプレーは
全てが才能に満ち溢れている。その存在は日本の宝と言っていいだろう。
- 891 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 13:59
- まさしく最強のメンバーが揃った日本代表。
あの日本栄光のメキシコオリンピック銅メダル。
これを越える事はこのメンバーならば充分可能だ。
日本代表の健闘を祈りたい。
【モムススポーツ:ACM】
- 892 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 14:13
- 第12話 復活の悪魔 終了いたしました。
第12話は本来ならばアテネオリンピック初戦の内容も
含まれていましたが、残りの容量が不安だったので一度ここ
で区切りました。
で、残りを確認した所いけそうだったので、初戦を急遽第13話
として残りに書きたいと思います。
そしてその後3枚目のスレに行きたいと思います。
2月9日より書き始めましたが、もうスレ2枚目も終えようと
しています。これも皆様が温かく見守ってくださったおかげです。
本当にありがとうございます。
これからもこんな話ですが、見ていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
- 893 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 14:21
- では次回の予告です。
第13話 選択
アテネオリンピックもいよいよ開幕した。
日本代表の初戦の相手はアフリカのモロッコ。
この試合でツンクは選択せざるを得なくなる。
“天使”か“悪魔”、どちらを選ぶのか。
次回もよろしくお願いいたします。
- 894 名前:ACM 投稿日:2004/04/24(土) 14:26
- 今回は特にネタバレもないのでスレ隠しはやめておきます。
では、また近いうちに更新します。
- 895 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/24(土) 21:44
- 更新お疲れ様です。
よっすいー、いい体つきになったようですね。天使の疲れも気になりますが、ツンクはどちらを初戦に使うのでしょうか。
次回の更新楽しみにしております。
- 896 名前:みっくす 投稿日:2004/04/24(土) 22:09
- 更新おつかれさまです。
悪魔が完全復活ですね。
天使がいないうちにチームを悪魔のチームに変えてしまいましたね。
はたして、“天使”か“悪魔”、どっちが操ることになるんですかね。
次回楽しみにしてます。
- 897 名前:名無しぃく 投稿日:2004/04/25(日) 02:13
- 更新お疲れ様どす。
よっちゃんさんマッチョですか。パワフルよっちゃんさん・・・。
天使と悪魔、どっちをどう使うかめっさ楽しみにしております。
あと北海道の真ん中ら辺の人にも期待。
次回も頑張ってください。
- 898 名前:ACM 投稿日:2004/04/25(日) 02:36
- 895>娘。よっすいー好き様
いつもレスありがとうございます。
そうです、吉澤さんスゴイ身体になったようです。
ツンク監督は迷っているようです。作者自身が迷ってるんで当然ですよね。
メール欄読みました。やったぜ日本女子代表!!
896>みっくす様
いつもいつもありがとうございます。
悪魔、完全復活でございます。それどころか以前よりもパワーアップ
しております。果たして天使と悪魔、どっちが操るんでしょうね?
作者もホント、迷ってます。両方とも凄く好きなんで。
897>名無しぃく様
こちらもいつもありがとうございます。
そうどす、マッチョどす。“マッチョ吉澤”。
・・・・・・・何かプロレスのリングネームみたいですね。
もちろん北海道の真ん中らへんの人も活躍しますよ。
て、その人って85年生まれの滝川市出身の方ですよね?
どうやら絶好調のようなので更新したいと思います。
- 899 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:38
- アテネオリンピック予選グループ
<グループA>
ギリシャ、カメルーン、メキシコ、韓国
<グループB>
イタリア、ナイジェリア、アメリカ、オーストラリア
<グループC>
ドイツ、モロッコ、ブラジル、日本
<グループD>
フランス、セネガル、アルゼンチン、サウジアラビア
今回のオリンピックの出場国は豪華なものとなった。
ヨーロッパから4、アフリカから4、北中米から2、南米から2、
アジアが3、オセアニアから1という割り当てだが、
どこもその地域を代表する国が出場を決めていた。
そしてグループ分けの結果がご覧の通りだ。
- 900 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:39
- 注目はグループCとグループD。
グループCにはドイツとブラジルが、
グループDにはフランスとアルゼンチンがそれぞれ入った。
ゲルマン魂VS王国
王者VS最強
このカードだけでも充分楽しみであるが、
今回は多くの超一流選手がオーバーエイジとして参加していた。
今まででは考えられないようなメンバーが揃ったオリンピック。
その中で日本代表はどこまで進めるのか。
- 901 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:39
- 8月10日、アテネオリンピックが開幕した。
初日のこの日は4試合が行われる。
<グループA>
ギリシャVSメキシコ
韓国VSカメルーン
<グループC>
日本VSモロッコ
ブラジルVSドイツ
- 902 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:40
- 初日からいきなりのビッグゲーム。
―――ブラジルVSドイツ―――
王国ブラジルは2002年ワールドカップに続く栄冠を手中にしたい。
対するドイツは2002年ワールドカップの雪辱を果たしたい。
お互いの意地がぶつかるこの戦いに全世界が注目する。
そして日本は初戦の相手はモロッコ。
確かにアフリカの強豪だが、この出場国の中では一枚見劣りする。
確実に勝点3を取って次のドイツ、ブラジル戦につなげたいところだ。
- 903 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:40
- が、ツンクは迷っていた。
初戦のモロッコ戦、スタメンはほとんど決まっている。
だが、唯一決まっていないポジションがあった。
3−5−2の生命線、トップ下だ。
候補は当然3人いる。
- 904 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:41
- まずは“マエストロ”柴田あゆみ。
ツンクが日本代表の中心にと考えている人物。
普通だったら考えるまでも無く柴田をスタメン起用するのだが、
思いのほかアジアカップの激闘がこたえていた。
疲労が溜まり、明らかに練習でも動きが悪い。
この状態で出すのは監督として絶対に出来ないほどの状態だった。
- 905 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:41
- 次に候補に挙がるのは“トリックスター”田中れいな。
こちらは疲れもなく、動きも鋭い。
一時試合に出れず、やや気持ちが後ろ向きになっていたが、
ここ最近は前向きに練習をこなしている。
- 906 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:42
- そして3番手は“ファンタジスタ”吉澤ひとみ。
彼女は保険と考えていた。
最悪の時のための保険。
果たしてそれは今使うべきなのか?
- 907 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:42
- 本来ならばここは2番手と位置づけていた田中れいなを起用するつもりだった。
だが、ツンクの頭に2日前の光景が焼き付いて離れない。
オリンピアコスユースとの練習試合だ。
あの試合で見せたひとみの存在感。
そしてひとみに引っ張られている他の選手たち。
そのチームには力強さがあった。
ツンクは次にあの試合を思い出してみる。
4月28日に行われたチェコ代表との親善試合だ。
あの試合はツンクが代表監督に就任した中で、ベストゲーム。
柴田のタクトにみなが気持ちよく動いていた。
ひとみと柴田以外ほぼ同じメンバーだったこの2試合。
果たして、ツンクはどちらを選ぶのか?
- 908 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:43
- 午後7時、選手たちが入場した。
2列の帯、赤と青。
青の列、日本代表。
先頭をゆく1番、飯田圭織の左腕には真っ赤なキャプテンマーク。
続く後藤真希、保田圭、市井紗耶香、小川麻琴、福田明日香、新垣里沙、
紺野あさ美、藤本美貴、松浦亜弥。
そして列の最後尾にいたのは背番号10、吉澤ひとみだった。
- 909 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:44
- スタジアムから日本代表に声援が飛ぶ。
この大会、日本の評価は高かった。
スペインリーガエスパニョーラ、レアル・マドリード所属、昨シーズンMVPの後藤真希。
セリエA王者ユヴェントスの中心選手、福田明日香。
イングランドプレミアリーグ、アーセナル所属の市井紗耶香といったワールドクラスに加え、
スペインの名門バルセロナの松浦亜弥、ドイツの古豪シャルケ04所属の藤本美貴。
そして昨シーズン、彗星のごとく現れ、今シーズンよりインテルミラノに
移籍を果たした吉澤ひとみ。
タレントの多さにこの大会の優勝候補にあげる声も少なくない。
そして第2、第3の福田、市井、後藤を探すべく、
欧州各クラブのスカウトが熱い視線を送る。
- 910 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:45
- 「円陣組むよー。」
飯田がみなを呼び寄せる。
「さあ、今日からオリンピックだね。目標はもちろん金メダル。
でもまずはこの試合。一試合一試合全力で行くよ。」
飯田の言葉にみな力強く頷く。
そう、まずはこの試合に勝つことだ。
「では、がんばっていきまー・・・・・・」
「しょい!!!!!」
- 911 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:45
- <日本代表スターティングイレブン>
GK 1 飯田圭織
DF 6 保田 圭 松浦 後藤
15 小川麻琴
16 紺野あさ美 吉澤
MF 10 吉澤ひとみ 藤本 市井
11 市井紗耶香
18 福田明日香 新垣 福田
20 藤本美貴
21 新垣里沙 保田 紺野 小川
FW 13 松浦亜弥
23 後藤真希 飯田
- 912 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:46
- モロッコはアフリカ予選を4位で突破したチーム。
システムは4−4−2というオーソドックスなもの。
飛び抜けた選手はいないが、その分組織で勝負するチームだ。
しかしその組織力も日本代表には敵わない。
- 913 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:46
- 前半早々から日本がモロッコ陣内でボールをキープする。
「いちーちゃん!!」
後藤が右サイドで市井からパスを受ける。
レアルでは左サイドに張るが、日本代表では右サイドに張ることが多い。
日本代表ではチャンスメイクよりもゴールを奪うことに重点を置いているためだ。
だがもちろん右足の精度もかなりいいため、右サイドでもチャンスメイクできる。
- 914 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:46
- パスを受けた後藤、モロッコDFを1人かわして中にクロス。
そのボールに松浦が飛び込むもののモロッコDFがこれをクリアする。
しかしそのルーズボールを拾ったのは福田。
ゴール前を見るが、ごちゃごちゃしているため攻めにくい。
「一回落ち着けるよ!!」
福田がひとまずボールをキープし、落ち着ける。
「さすが福ちゃん、落ち着いてるべ。」
ベンチから戦況を見ていた安倍が呟く。
さすがは王者ユヴェントスの心臓だ。
- 915 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:47
- ボールを持った福田がゆっくり上がる。
そこへモロッコMFがチェックに来る。
福田は左サイドに開く藤本にパス。
すぐさまリターンをもらいトップ下で待つひとみにパス。
そしてそのまま前線へ上がる。
ひとみはDFを背負いながらもボールを受けると上がってくる福田に落とす。
福田、このボールをダイレクトで右サイドに開く市井へ。
すぐさまモロッコDFもチェックに来る。
- 916 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:47
- 「市井さん!!」
とその時市井の背後からDFの小川が積極的にオーバーラップ。
『お、いい上がりだ小川!!』
市井はすかさず小川に出す。
小川はそのまま中にクロス。
しかしモロッコも中に充分DFを揃えている。
このクロスを弾いた。
- 917 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:48
- 弾かれたボールはモロッコに。
カウンターアタックのはずだった。
「こっちOK!!」
左サイドの藤本が中に絞ってボランチの位置に。
「こっちも大丈夫!!明日香、頼む!!」
「OK!!」
福田が小川が上がった最終ラインに入り、カバーする。
市井も全速力で戻ったため、モロッコのカウンターは機能しない。
「藤本さん、凄い。福田さんも市井さんもちゃんとカバーリングに入ってる。」
ベンチで加護が感嘆の声を上げる。
他の選手たちも同様だ。
「そら、あいつらは世界の才能が集まるヨーロッパでプレーしとるんやで。
そんな所では少しのミスも許されへんし、当たり前の事を当たり前にやらな
絶対勝たれへん。カバーリング、フォロー、コーチング。
サッカーの基本中の基本やがな。」
タイセーが当然のように言う。
- 918 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:49
- 中盤で福田がボールを奪った。
プリンセス、ナカマチェスコ・ユッキエをも
震え上がらせる福田のディフェンス力だ。
福田、すぐさま右サイドへ大きなパス。
このボールを市井が受けた。
そのままスピードに乗って右サイドを攻めあがる。
キレのあるドリブルで1人、2人かわして中にクロス。
ボールはファーサイドに。
そこには松浦がトップスピードでモロッコDFを振りきり走り込む。
そのスピードのまま左足ボレー。
これが見事にゴールネットに突き刺さった。
日本、松浦のランニングボレーにより先制点。
- 919 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:50
- 「ナイスまつ!!」
後藤が松浦に抱き付く。
「さすがあやや!!左足、完璧だね!!」
ひとみも松浦に抱き付く。
プロの選手の中には右でも左でも両方の足を使える選手は数多く存在するが、
それでもどちらかの足が利き足であり、
逆の足は多少は精度、威力が落ちるものである。
しかし松浦に右利き、左利きという言葉は存在しない。
左右どちらの足でも完璧に蹴れるのである。
本人曰く、右足は“セクシー”で、左足は“キュート”なんだそうだが。
とにかくこのメリットは計り知れないものである。
点を取る為にはどんな体勢からでもシュートを狙わねばならない。
松浦ならば左であろうが右であろうが関係ない。
それは大きなメリットである。
- 920 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:51
- 「さすがあややだべ・・・・・・」
安倍が今の松浦のプレーに驚嘆する。
あのスピードにテクニック。
自分には無い。
が、もう2度と自分を見失ったりはしない。
『なっちはなっちのプレーを見せるだけだべ。』
- 921 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:52
- 「そっち行ったわよ!!」
「10番OK!!」
「市井さん!!裏気をつけて!!!」
保田が、福田が、ひとみが声を張り上げる。
日本はとにかく声を出していた。
各々がコーチングを怠らない。
「明日香!!追い込むよ!!」
市井と福田が囲み、プレッシャーをかける。
堪らずバックパスを出すモロッコだがこれをひとみが読み、パスカット。
「行くよ!!!」
ひとみが前を向き、ドリブルで前線に上がる。
松浦、後藤も上がっていく。
- 922 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:53
- 『行くよごっちん!!』
『よしこ!!!』
後藤が一瞬外に膨らみ、そして急激に中に切れ込んだ。
この動きでDFのマークが外れる。
『ごっちん、これに合わせてみろ!!』
その瞬間にひとみからスルーパスが出た。
味方にも厳しい悪魔のパスだ。
『絶対合わせて見せるよ!!』
後藤はこのパスに鋭く反応。
飛び出してくるGKの届かない位置にきっちりと流し込んだ。
日本、後藤−ひとみのホットラインから追加点をあげた。
「ナイスごっちん!!良く合わせた!!」
「当然!!よしこにゃー負けないから!!」
ひとみと後藤がニッと笑って抱き合う。
その周りに輪が出来る。
- 923 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:53
- 「違うよ!!今は中だろ?!!」
「いや、逆に外ですよ!!外に開けば福田さんが飛び出せた!!」
ピッチ上で市井とひとみが激しく口論する。
紺野からパスを受けたひとみが素早く右サイドに展開したが、
市井は中に切れ込んでスルーパスをもらおうとしたため、
ボールはタッチラインを割った。
その事について2人は意見を言い合う。
「よっすぃーって紗耶香にあんなきつく言えたっけ?」
「ひとみちゃん、何か変わった。」
ベンチで矢口と石川がひとみの変貌ぶりに戸惑っていた。
この2人だけでは無い。
みながひとみの変貌振りに驚いていた。
- 924 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:54
- 新垣の激しい当たりでモロッコMFがピッチに倒れた。
かなり痛んでいるため、試合が中断する。
「吉澤!!さっきのだけど!!」
この間にひとみと市井が先ほどのプレーのことを確認する。
ひとみは先輩である市井にも臆することなく堂々と自分の意見を言う。
もちろん、先輩として敬意を表した上でだが。
そしてお互い納得しあって自分のポジションに戻っていった。
- 925 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:54
- 「ごっちん右開いて!!」
「あやや、そこでポスト!!」
「ミキティ、裏!!」
ひとみから指示が飛び交う。
『よっすぃー、何か今までと雰囲気が違う・・・・・』
柴田は指示を出すひとみを見てそう感じていた。
欧州で半年戦って自信を得たのであろうが、
その態度に嫌味とか、思い上がりといったものは感じられない。
そうする事がさも当然のように振る舞い、そして他のメンバーも
それを当然のように受け入れている。
自分は指示を送り、それを受け入れて“もらって”いた。
が、ひとみは指示を送り、そしてそれを受け入れ“させて”いる。
同じ“中心”でも2人のタイプは全く別だった。
- 926 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:55
- 「マコ!!もっとライン上げて!!」
DFリーダーの紺野が指示を出す。
その声に戸惑いながらもラインを上げる小川。
日本は最終ラインからFWまでが約30mの距離しか離れていない。
そのため最終ラインとGK飯田の間には広くスペースが空いていた。
「カオリ!!」
その空いたスペースにモロッコがスルーパスを通す。
が、飯田が鋭い飛び出しでこのボールを全て処理する。
この広大な守備範囲は日本の中盤の組織力をさらに高める。
- 927 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:55
- 「ミキティ!!」
左サイドでボールを持った藤本の背後から保田が上がっていく。
モロッコDFが保田に気を取られる。
「今だ!!」
その瞬間ひとみが中央を上がる。
その動きに気付いた松浦がニアへ走り込みマークを自分に引き付け、
ゴール前中央にスペースを創り出す。
そこへ藤本からクロスが上がる。
「もらった!!」
ゴール前中央、フリー。
悪魔が天高く飛んだ。
「うわっ・・・・・・」
余りの高さと滞空時間の長さにモロッコGKは思わず見とれてしまった。
そして次の瞬間、打点の高いヘディングシュートがモロッコゴールを揺さぶった。
「しゃあっ!!」
ゴールを決めたひとみが飛行機ポーズで日本ベンチに向かい、
飛び出してきた加護や辻たちと抱き付く。
そこへ後藤や市井たちも加わる。
日本、前半を3−0の大差で終了した。
- 928 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:57
- 後半も相変わらずボールを支配する日本。
左サイドから藤本が中に切れ込む。
「亜弥ちゃん!!」
「美貴たん!!」
松浦とのワンツーで抜け出した藤本が中にクロス。
そのボールに後藤が頭で合わせるがクロスバーを越えた。
「ごめん、ミキティ!!」
後藤が手を上げる。
「こっちこそゴメン!!」
藤本も手を上げる。
『今のはあたしのミスだ。このクロスの精度じゃ梨華ちゃんの方が上だ。』
ドリブルなら加護。クロスの精度なら石川。守備力なら木村麻美。
藤本はその全てを兼ね備えているが突出しているわけでは無い。
左サイドのスタメン争いは激戦だ。
- 929 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:57
- 「ちっ!!!」
市井が滑り込むがボールには追いつかなかった。
ボールはゴールラインを割った。
「紗耶香ごめん!!」
パスを出した福田が声をかける。
『今のパス、矢口なら追いついていたな。』
『今のパス、平家さんならピタリと合わせてたはずだ。』
市井も福田も自分のポジションが安泰とは思っていない。
そう思った瞬間にポジションはなくなることをこの2人はよく知っている。
- 930 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:58
- 「上がれ!!」
紺野の号令のもと、DFラインがスッと上がった。
線審の旗が勢いよく上がった。
「いいぞ紺野!!」
飯田が声をかける。
それ程見事なラインコントロールだった。
「マコ、保田さんナイス!!」
紺野が小川と保田に声をかける。
2人ともグッと親指を立てる。
- 931 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:58
- 普段は中澤、石黒といった経験豊かな選手と最終ラインを組んでいた紺野。
本人は意識していなくてもどこかこの2人に頼っていた。
それが今回、オリンピックという大舞台でDFラインの中心を任された。
それによりいつまでも頼ってはいられないといった気持ちが、
紺野を突き動かしていた。
「やるやんけ紺野。」
ベンチにどっかと座る中澤が眼を細める。
しかしその眼の奥は鋭い光を放っている。
「ふふふ、裕ちゃん、燃えてくるね。」
石黒も顔は笑っているが全身からはオーラが漂っている。
そうやすやすとポジションは渡さない。
- 932 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:59
- 後半も10分を過ぎた。
日本はボールをキープしているがモロッコも
人数をかけて守っているため中々崩せない。
「保田さん!!」
ひとみが中盤でボールを受ける。
モロッコはゴール前に人数をかけているため中盤のプレスは緩い。
余裕で前を向くひとみ。
『ここはミドルで崩す!!』
ひとみは約30mの距離から右足を振り抜いた。
ドライブがかかった強烈なシュートがモロッコゴールを襲うが
これはクロスバーを激しく叩いた。
こぼれ球はモロッコDFがクリアした。
- 933 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:59
- 「なるほどね、そう行くか。」
福田はひとみの意図を理解した。
「紗耶香!!圭ちゃん!!ミキティ!!」
「オッケー!!分かってるよ!!後藤、松浦!!!」
福田の声に市井が2トップに指示する。
- 934 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 02:59
- その後は日本のミドルシュートの連続だった。
2トップは前線で動き回りシュートコースを創る。
またポストプレーでボールを落とす。
サイドハーフも相手を引き付けて中にスペースを創る。
それをひとみ、福田が積極的にミドルを狙う。
ひとみのミドルは30mの距離を一瞬にしてゼロにし、
福田のミドルは15mの距離から放つかのようにゴール隅へと
コントロールされている。
モロッコはこのシュートを防ぐだけで精一杯だ。
- 935 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:00
- 「あ、だんだんとモロッコDF陣が前へ前へと出てきた。」
高橋の言葉が全てを物語っていた。
ひとみと福田のミドルがモロッコゴールを襲うたびに、
モロッコの選手に恐怖心を植え付けていく。
『このまま撃たして守りきれるのか?』
その恐怖心が知らず知らずに足を前へ前へと運ばせる。
フリーで撃たしてはダメだ、と。
- 936 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:01
- 「よっちゃん!!」
左サイドでマークを引きつけた藤本から中で待つひとみにパスが渡る。
その瞬間にモロッコDFが前へとチェックに来る。
スペースが空いた。
『チャンス!!あっ?!!』
スペースに走りこもうとした松浦がモロッコDFに足を引っ掛けられた。
しかし主審はこれを見逃していた。
『くっ!これじゃパスが・・・?!!』
その時、後ろから誰かが走り込む気配を感じた。
ひとみはその気配に沿ってパスを出す。
その瞬間にひとみの後ろから飛び出す1つの影。
ど真ん中に会いたスペースを切り裂くように上がり、
GKとの1対1を冷静に決めた。
- 937 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:01
- 「完璧です!!!!」
そう叫びベンチに向かって拳を突き出す日本のリベロ、紺野あさ美。
「・・・上等や。その勝負受けて立つで。」
このプレーが日本サッカー界のキャプテンの闘争本能を刺激させる。
- 938 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:02
- 後半も30分を過ぎたが日本は、特に前線は攻撃の手を緩めない。
4−0で勝っているというスコアでありながら、
逆にこちらが負けているような感じでモロッコゴールに襲い掛かる。
「吉澤!!こっちだ!!」
市井が右サイドを駆け上がる。
すぐさまモロッコDFもマークに付く。
が、市井はお構いなしにボールを要求する。
「頼みます市井さん!!」
ひとみからパスを受けると市井はモロッコの左サイドMF、DFの間を
キュキュッと抜けた。
慌ててチェックに向かうモロッコのセンターバック。
しかし今の市井には関係ない。
右足でクロスを上げると見せかけて鋭く切り返す。
この切り返し一発でモロッコDFはしりもちをついた。
そして市井はそのまま中に切れ込み、GKの手前で中に折り返す。
それを松浦が難なく押し込んだ。
日本は初戦を5−0という圧倒的なスコアで勝利を収めた。
- 939 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:02
- 日本5−0モロッコ
【得点】
前13 松浦亜弥 (市井紗耶香)
前29 後藤真希 (吉澤ひとみ)
前33 吉澤ひとみ(藤本美貴)
後22 紺野あさ美(吉澤ひとみ)
後38 松浦亜弥 (市井紗耶香)
- 940 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:03
- ツンクはこの大事な初戦、“悪魔”をスタメンに選んだ。
だがこれはひとみを選んだのではなかった。
『・・・・吉澤は日本代表に復帰して日が浅い。
だからこそまたもう一度柴田のチームにする事は可能なはずや。
吉澤は柴田が復帰できるまでの限定や。』
ツンクはそう考え、初戦、もしくは2戦目限定でひとみを起用した。
そしてそれはこの試合に関してはものの見事に当たった。
- 941 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:03
- だが、ツンクもこのオリンピックという大舞台でテンパッていたのであろうか?
彼は一番大事な事を忘れてしまっていたのだ。
- 942 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:05
-
―――吉澤ひとみと柴田あゆみ―――
- 943 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:05
-
彼女たちはどちらか片方の輝きを吸い取り、それを自分の輝きにしてしまう事を
- 944 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:06
-
2人が同時期に輝く。それは決してありえない事をツンクは忘れていた。
- 945 名前:第13話 選択 投稿日:2004/04/25(日) 03:07
-
第13話 選択 (終)
- 946 名前:ACM 投稿日:2004/04/25(日) 03:10
- 第13話 選択 終了いたしました。
何とか容量内で収まりました。
という事で次回第14話から新スレに行きたいと思います。
立てましたらこちらでお知らせしたいと思います。
- 947 名前:ACM 投稿日:2004/04/25(日) 03:17
- では次回の予告です。
第14話 ゲルマン魂
アテネオリンピック予選グループ第2戦の相手はドイツ。
ワールドカップを3度制覇した世界のトップだ。
そしてこの国には世界bPGKがいる。
この強敵相手に日本はどう立ち向かって行くのか?
次のスレでもどうぞよろしくお願いいたします。
あ、それとこの予告もネタバレにはならないのでスレ隠しはいたしません。
ではまた近いうちに更新します。
- 948 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/25(日) 07:36
- 更新お疲れ様でした。
いよいよオリンピックが始まりましたね。日本は競合そろいのグループに入ったみたいで、初戦は苦戦も無く順当に勝ちましたね。
いよいよドイツ戦、飯田さんの相手の世界bPGK(リアルの男子で言えば○ーン)が誰か気になりますが、ゴールをこじ開けてほしいと思います。
ツンクもテンパってで何か忘れているみたいですが、いい采配を期待してます。
次回の更新楽しみにしております。
- 949 名前:みっくす 投稿日:2004/04/25(日) 07:50
- 更新おつかれさまです。
いよいよはじまりましたね。
そうなんですよね、天使と悪魔それは共存できない存在。
次回も楽しみにしてます。
- 950 名前:名無しぃく 投稿日:2004/04/26(月) 18:21
- 更新お疲れ様です。
そうですね、滝川市出身の方です。ナイスです。
共存・・・忘れてt(ry どうなるんですかね。
第2戦も楽しみにしてます。
- 951 名前:ACM 投稿日:2004/04/27(火) 01:36
- 948>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
世界bPGKの壁は厚いですが、日本代表には頑張っていただきます。
それからツンク、やってしまいました。
果たしてこれがどう影響するのか?作者もいまだ考え中でございます。
949>みっくす様
レスありがとうございます。
そうです、2人は共存できないんですよね。
作者は2人とも好きなんで共存して欲しいんですけど、
そういう訳にはいかないようです。設定ミスの予感が・・・・・?
950>名無しぃく様
レスありがとうございます。
滝川市出身で合ってましたか。それは良かったです。
共存、作者自身も忘れてt(ry
もちろん覚えております。それがメインですから。
おかげさまで新スレを立てることが出来ました。
風板に立てましたので、これからもよろしくお願いします。
新スレ
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wind/1082996705/l50
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