バイポーラ

1 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:18
後藤主役で、アンリアルです。
ものごっつ〜マターリ更新ですので、覚悟の上読んでください
2 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:19


山のあなたの空遠く、
 「幸」住むと人のいふ。

 ああ、われひとと尋めゆきて、
  涙さしぐみ、かへりきぬ。

 山のあなたになほ遠く、
  「幸」住むと人のいふ。


―カール=ブッセ/上田敏訳 「山のあなた」より―


3 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:20


〜  バイポーラ  〜


4 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:20

1945年8月15日 正午
――― 玉砕放送

その放送を聞いた子供たちは歳を重ね、ある者は富と名声を手に入れようとし、
またある者は、小さな幸せを手に入れようと、もがきながらも懸命に生きた。
でも、その殆どの人が自分の幸せに気づくことなく、この世を去っていってしまった。


放送を聞いたとき、日本中に落胆と悲しみが広がったのは間違いなかった。
しかし、そのとき既に多くの者が、次の時代を見つめて動き始めていた。
それが、この国民の強さであり、それを成し遂げるだけのパワーが人々から溢れ出していた。

でも、そんなことは、ずっと昔の話だ。

5 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:20


第一章 〜西で〜


6 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:21

耳を劈くような音楽と暗闇の中、タバコの煙が光を得て白く輝いている。
人々は酒と音楽に踊らされながら、トランス状態に陥っていた。
肩をぶつけ、足を踏まれながらも、よだれを垂らしそうなほどウットリとした表情を浮かべていた。
この匂いは何なんだろう?
鼻じゃなくって…第六の感覚で感じる匂いだ。
脊髄から放つ人間の野生の匂いなのかもしれない。
7 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:22

あたしは人ごみの中に紛れ込みながら、ターゲットに歩み寄っていった。
懐からグロッグ26を取り出し、スライドを後ろに引いて弾を装てんさせると、
部屋の片隅のターゲットを確認した。

ターゲットはVIP席にいた。
いると言ったほうがいいのかな?・・・そこにいることは初めから知っていた。
あいつはこの店の一番奥にあるVIP席で、毎日札束をばら撒いているのを聞いていたし、
今日もここに来ているということは確認済みだ。
案の定、ターゲットはソファーのほぼ中央に寝そべるように座り、
両脇に化粧の濃いイカレた女を抱え込んでいた。
背はそんなに高くない方。せいぜい160センチといったところだ。
体毛の多い、見るからに琉球の者とわかる顔立ちだ。
あれは混血ではなさそうだ。

混血ならよかったのに…

アメリカ人が嫌いなわけじゃないけど、アメリカ人が琉球の連中と仲が良いのが気に入らなかった。
だから、混血をやるときは、少しだけ優越感に浸れる。
8 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:23

音楽が変わり、激しいビートを響かせ始めると、どこからともなく歓声が上がり、
フロアーにまた人が溢れ始めた。
あたしはその人の流れに逆らって、ターゲットと人の壁一枚を挟んで対面していた。
もっとも、向こうはあたしなんか見ちゃいない。やつにとってこの国の人間は虫けら以下なんだ。
9 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:23

距離は5メートルといったところ。
この距離でのあたしの命中率は93%。弾奏に潜む弾は11発を数える。
しくじる可能性は0に等しいと確信していた。
目を閉じて神経を集中させると、うるさい音楽があたしの中で消えていく。
あたしの世界が静寂に包まれると、あたしはまたゆっくりと目を開けた。
グロッグを人の間から突き出し、トリガーを絞る。

1発、2発…

取り巻きどもが事態を把握する頃には、あたしは背を向けて人ごみに紛れていた。
後ろで悲鳴が聞こえる。
この音楽に負けないほどの力を持って、その異変の波が徐々に広がっていった。
10 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:23

店を出ると冷蔵庫にでも入ったような寒さがあたしを包み込む。
まだ、外の世界は平穏な週末の中にいた。それをあたしの横を血相変えて飛び出ていく人たちが、
少しずつ塗り替えていく。
誰もが我先に逃げ出していく姿は滑稽だ。友人を踏み越え、恋人を突き飛ばしながら、
この場所から遠ざかろうとしていた。この惨劇がどこか自分とは違う世界での出来事にしてしまおうと、
少しでも遠くへ逃げていこうとするんだ。
遠くに逃げれば逃げるほど事件は遠ざかり、自分との関係も薄まっていくと感じるんだろう。
そのくせニュースでこの事件が扱われると、「俺この現場にいたんたぜ」と周りに自慢を始めるんだ。

ふざけた野郎ども

それでも、あたしなんかよりマシかな…
11 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:24

「後藤!」
不意にあたしの名前が呼ばれる。声の元をたどると、車の助手席に身をほとんど乗り出した矢口さんが見えた。
見事なまでに族車仕様になった真っ赤なスカGのドアを開けて乗り込むと、
ドアを閉める間もなく街中へと加速していった。

「どうだった?」
「うん、まあね」

赤信号につかまると、速度を落としエンジンを空ぶかししながら派手な音楽を鳴らし続ける。
前から見ると、無人の車が暴走して来たのではないかというほど、矢口さんの背は低かった。
周りのものは、運転手が見当たらない派手な族車にすぐに道を譲っていく。
触らぬ神に祟りなし。無理な追越をしただけで、銃で撃ち抜かれる世の中だ。
当たり前といえば当たり前の光景を、次々と生み出しては進んでいった。
12 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:24

この時代に何事もなく生きていくには、兎に角自分に降りかかる…
降りかかりそうな火の粉を避けていくことだ。

でも、それができない連中もいる。
できない連中は、火の粉を撒き散らす側に回るか、死んで行くのを待つだけの人生を生きていくかだ。

あたしは何処にいるのだろう?
あえて言えば、他人が点ける火を代わりに撒き散らしているとでも言えばいいのだろうか?
13 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/23(火) 00:25

「このまま集会に参加するけど、どうする?」
矢口さんがあたしに同意を求めてきた。
仕事をした日はクールダウンが必要だ。珍走団と戯れるのもいいだろう。
疲れて自然に眠りこけるまで、付き合ってあげる。
あたしが頷くと、矢口さんがアクセルを踏み込んだ。
首都高は湾岸から横浜へと向かっていた。

窓の向こうには、黒い海が広がっている。
黒い海の向こうには、北の国があるはずだ。
そこにも人々が住んでいる…らしい。
そこに誰がいようと、あたしには関係ない。
あたしはただ、自分の足元を照らす明かりがほしいだけなんだ。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/24(水) 20:35
お。かっけー小説発見。期待ochi
15 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/25(木) 20:30
玉砕放送 ←これは意図があっての表記?
誤字なら訂正しておかないと、馬鹿扱いされかねないよ
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 21:09
>>15 訂正
現代社会では玉音放送で知られている敗戦宣言の事と思いますが、
玉砕放送と呼ぶオリジナルエピソード等、作者さんの意図があった場合
その旨を示唆する表記を本編とは関係無く、置いた方が良いかもしれません
という提案です

てゆーかホントに、気を悪くさせる書き方で申し訳無い
17 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/25(木) 21:30
ご指摘ありがとうございます。意図とかありません。単なるミスです。
玉音ということにしておいてください。
もともと1年ほど前に書いた文をコピペした文なんですが、
ご指摘されるまで、気づきませんでした。

あはははははは・・・・_| ̄| ... ○  立ち直れない・・・ 
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/25(木) 23:53
>>17
打ち間違えだと思ってスルーしてました
そんな些細なミスが気にならないほど作りこんだ設定と先の読めない展開にすっかり引き込まれています
こちらの方も楽しみにしてますので頑張ってくださいね
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/26(金) 00:07
>>17
作者さんでしたら、とりあえず首を戻して聞いてください

飼育の雑談板でこのスレを知り、読ませて頂きました。
そのスレに>>15のレスをしたのは確かに俺ですが、
そこで初めて狩、及び狩狩を知り、安倍編を読ませて頂きました。

東西ドイツは敗戦により、戦勝国に分割統治されましたが、
南北朝鮮は事実上の『引き分け』という歴史を辿り、現在に至りますよね
作品中の日本は後者の、戦争に負けていなかったらあったかもしれない闇社会のように思いました。
分断され、管理され、原理主義的教育の下、自由と思想を剥奪され、
失政とも取れる大飢饉に直面した少女達の亡命という闘争

胸踊る舞台です めちゃくちゃ面白そうです
安倍編のもつ、ドキュメンタリーと言うよりサスペンスのような一触即発の緊張感。たまりませんw

だから、『後に玉砕放送と呼ばれる事になる国民総決起の自爆攻撃を行った日本は、国土の半分を死守した。
って教科書に載ってた』くらいのノリをイメージしていましたし、させるに充分な程、魅力溢れる世界観です。
単純なミスなら、問題はもっと単純で、気にする必要は無いと思います。
自分のこのレスにある南北朝鮮の記述も調べたものではなく、
なんとなくそう憶えてる程度の曖昧で適当な『例え』に過ぎません。
俺は、作者さんが描いた物語の続きを読みたい。
だから、春厨みたいな俺のレスなんかシカトして

立ち直ってくださいね
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/26(金) 00:16
国民総決起令による自爆攻撃

ノノ*^ー^)<ほら、いきなり誤字脱字ですよ?
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:09
>>20
お心使いありがとうございます。
もう落ち込んではいないのですが、一文も書けません。

ということで、ストック放出です。
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:10

「ごぉー ごぉー 」

街の中はいつも音にあふれている。
車の音 笑い声 怒鳴り声 呼び込みの声 無神経に流れる音楽
そんな音の集合体が、結局のところ"ごぉー"という音としてあたしに届く。

23 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:11

「ごぉー ごぉー ごぉー 」
無意味に声を出す。
「なに、やってんだよ、おまえはー」
矢口さんが上半身裸のまま、ベランダに出てきた。
頭にタオルをかぶり、左手で濡れた髪をワシワシと拭いている。

「別に」
「ゴォーとか言ってたじゃん」
「そうだっけ?」
「何言ってんだか」
「やぐっさん、寒くないですか?」
「そりゃ寒いけどね〜」

桜の季節を終えたとは言え、夜中に裸で外に出るには早すぎる。
時折麓から吹く風が矢口さんの肌を鳥肌に変えていた。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:12

「ねえ、あれ持ってる?」
「んあ?」
「はっぱだよ」
「うん、あるよ」

右のポケットに手を突っ込むと、細く巻いたマリファナを取り出した。
今日、現場でくすねたものだ。

「んん」
「さんきゅー」

矢口さんはマリファナを咥えるとライターを点ける真似をした。
あたしがライターを取り出して火を点けると、その火が風で消えないようにふたり手で覆いながらマリファナに火を点けた。

矢口さんの顔が目の前にある。矢口さんがライターの火に目線が行っていることを良いことに、
間近で矢口さんの顔をじっくりと眺める。
大きな瞳に綺麗な黒目、産毛まではっきり見える。
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:12

「はぁ〜効く〜!ごっつぁんも吸う?」
「うん〜ん、いらない」
「そう」

矢口さんは肺にいっぱい煙をためると、そのまま息を止めた。

「ん〜ん〜んんん〜」

息を止めたまま手をバタバタさせている。その度におっぱいが上下に揺れている。
顔を真っ赤にしてジタバタしている矢口さんは、中澤さんが言うまでもなく小動物みたいで
抱きしめたくなるほどかわいかった。
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:13

「ぷっふぁ〜あ!あ〜あはははは〜良いわ〜!いい!あはははは。 はい、後藤」
「えっ?あたし吸わないし」
「なんだよ〜吸わないのかよ〜」

そういうと、また肺一杯に煙をためては息を止めて…を繰り返していた。
「この方法が一番効くんだ」っていっていたけど、一番体に悪くもあるんだ。
紙一重でバッドトリップに落ちてしまう危険だってあるのに。

「ねえ、その吸い方やめなよ。危険だよ」
「いいのいいの、ちゃんと気をつけているから」
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:13

吸い終わるころには、焦点がかなりやばい状態だった。
「はい、これとっといてね」
もみ消したマリファナをあたしに渡すと、手すりから上半身を思いっきり突き出した。

「ちょっともう〜、あぶないから」
「だへへへ」

あたしは矢口さんの体が落ちないように慌てて抱きしめた。
シャンプーのいい匂いがする。あたしには使わせてくれない高級なシャンプーの匂いだ。
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:13

「ゴォー」
「へっ?」
「ゴォー」

さっきあたしがしていたような口調で、街に向かって叫び始めた。

「あはっ」
「ゴォー」
「ごぉー」
「ゴオォォー!」矢口さんが一段と声を張り上げる。
「ごおおおぉぉぉ〜!」あたしも負けちゃいられない。

29 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:14

「バッカヤロー!」
矢口さんの声が、矢口さんの背中からあたしの体を振動させている。
「ばかやろー」

誰に向かって叫んでいるんだろう?
この街の人?
この国の人?
それとも自分自身に?

「バッカヤロー!……さむっ!」
「もう、当たり前だよ」

あたしが抱きしめて暖めてあげようと腕に力を入れたとたん、
彼女はあたしの腕をするりと抜け出してしまった。
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:15

「あっ」

虚しく自分の腕を抱きしめたまま振り返った。

「どう?エロい?」

矢口さんは両手を挙げた格好で、体を窓ガラスに押し付けていた。
ふくよかな乳房までもガラスに押し付けられ、まん丸な円を描いている。
その真ん中で小さな乳首の先が、少し横を向いていた。

「あ〜エロい。エロいから早く服着てきなよ」

あたしのエロいという言葉に、小さくガッツポーズを取ると矢口さんは部屋の中に消えていった。

31 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 22:15

部屋を向いたまま、手摺に両膝を乗せて仰け反って上空を眺める。
雲ひとつ無いのに、星一つ見えやしない。夜空には、半分欠けた月が寂しそうに浮かんでいた。

日本列島を月から眺めると、同じように半分欠けているって中澤さんが言っていた。
でも、明るい部分にも影はあるんだ。
あたしはそんなクレーターの中で、同じように暗い空を眺めるしかなかった。
32 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/23(金) 13:29
後藤のキャラがなんだかツボだ
33 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/01(火) 20:28
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/11(金) 21:11
げっつ
35 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:2004/07/12(月) 20:56
hozem
36 名前:名無しさん 投稿日:2004/07/16(金) 19:55
なんで放置スレがあがっとるんじゃー
他の優良スレの迷惑じゃー
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 23:13
こちらも使わないなら使わして頂いてもいいのかな?
38 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/03(火) 03:42
CMOSプロセス

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