届かない虹
- 1 名前:遥 投稿日:2004/03/30(火) 12:46
- 初めまして。遥という者です。
あまり人様にお見せするようなものを書いたことがないので読みづらく
なるかもしれませんが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
アンリアルで、田中れいなが主人公です。
よろしくお願いします。
- 2 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 13:36
- 「ただいま」
誰もいない家のドアを開けて、あたしは呟いた。
時計の針はもう夜の十時をさしているのに家の中は真っ暗だ。
親は二人とも仕事で夜遅くに帰ってくる。
あたしはいつも一人だった。
テーブルの上に手紙が置いてあるのが見えた。
お母さんからだ。
- 3 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 13:46
- 『れいなへ
お母さんとお父さんは今日も仕事で家に帰れません。
夕食は冷蔵庫にカレーが入っているから、温めて食べてください』
用件だけの手紙をぐしゃぐしゃにして、あたしはゴミ箱にそれを捨てた。
電気とテレビをつけて、冷蔵庫の中を見る。
お母さんの用意したカレーが入っている。
あたしはそれを台所のゴミ箱に全部流した。
お母さんが作ったものなんて、しばらく口にしたことなんてないような気がする。
こんな風に用意してくれるけど、あたしが一人ぼっちなのには変わりないし、
たまに顔をあわせても『勉強がんばってる?』とか『ちゃんと食べなさいよ』とか。
そんな言葉いらない。
あたしを一人ぼっちにしておいてエラそうにするお父さんもお母さんも
嫌いだ。
そのまま何も口にしないまま部屋へ向かった。
- 4 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 13:54
- 部屋へ戻っても何もする気が起きなかった。
学校の宿題があったような気がしたけど、勉強机にむかうことはなかった。
ふっと机に目をやる。
小学校に入る前にお父さんが買ってきてくれたものだ。
そのときは嬉しくて嬉しくて、一日中机にむかっていることもめずらしくはなかった。
お父さんとお母さんはそんなあたしを見てクスクス笑ったりして。
そんな時間があたしはとても好きだった。
でも今は。
お父さんとお母さんはケンカばっかり。
あたしは小学校のころ、そんな場面を見ると泣き叫んだりした。
- 5 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 14:09
- あたしが中学に入るころには、口も利かなくなった。
どうしてこんな風になったのか。
いつからこんな風になったのか。
そんなのあたしにとっては、もうどうでもいいことになっていた。
「…ん。メール」
ケータイを見た。
同じクラスの道重さゆみからメールがきている。
どうせまた年上の彼氏のグチとか、『私ってやっぱ可愛いよね』だのナルっぽい内容
だろう。
渋々メールを見る。
予想通り、『今鏡見たんだけど、やっぱ私って可愛いね』という内容だった。
こんな内容でどう返事を返せというのか。
さゆは決してバカではないはずだけど、こういう面では腹が立つほどの大バカ
だと思う。
「バカさゆ」
呟いてみた。
きっと本人がいたらほっぺを膨らませておこるところだろう。
そんなさゆを想像したら、ちょっと笑えてきた。
何だかんだ言いながらも、あたしはさゆが友達でよかった。
親がかまってくれなくても一人ぼっちでもあたしがやっていけるのは
さゆとか周りの友達がいるからだと思う。
- 6 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 14:19
-
急に睡魔が襲ってきた。
さゆとのメールはまだ続いている。
ごめん、さゆ。
あたしは心の中でさゆに謝ると、ケータイを握ったまま眠りについた。
眠りに落ちる直前にお母さんが部屋に入ってきた気がした。
何かを呟いたみたいだけど、あたしの耳には届かなかった。
ベッドの上に投げ出されたあたしの体に何かが掛けられた感触がした。
お母さんがまた何か呟く。
「おやすみ、れいな」
今度ははっきりと聞こえた。
あたしはその言葉を頭の中で繰り返しながら、安心したような気持ちになって
眠りについた。
- 7 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 20:55
- * * * *
「れいなおはよー」
「おはよう、れいなちゃん」
「あー。おはよ」
テキト−に挨拶を返しながら教室に入った。
さゆが手を振っている。
「れいなおそーい」
「昨日のさゆのメールで夜更かししたから寝坊したの」
「うっそだぁ。途中でメール返してこなくなったくせにー」
イヤミったらしくニコニコしながらさゆに言われる。
図星をつかれたからか、妙に腹が立った。
さゆは顔に似合わずイヤミで案外こういうことを根に持つタイプなのだ。
そのくせナルシストで世界中で自分より可愛い子はいない、なんてコトをよく口にしている。
- 8 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 21:02
- お医者さんの名家の本筋にあたる家系らしくて、確かに黙っていれば気品も感じられるし美人だし
お嬢様だ。
まぁそれは黙っていればの話だけど。
さゆの家も何かと事情があってあんまり親は家にいないらしい。
小さい頃から親に遊んでもらった記憶が無いさゆ。
突然の両親の不仲が原因で親の愛が感じられなくなったあたし。
よく考えたらさゆとあたしは似ているのかもしれない。
そんなことを考えていたらふっと現実に引き戻された。
- 9 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 21:13
- 「さっきれいなが来る前に高橋さんが来たの」
「どこに?」
「ココに」
教室だよー、なんて笑いながらさゆはケータイを取り出した。
校則で禁止されてるのに。
さゆはお嬢様らしからぬお嬢様だと思う。
あたしが半ば呆れていると、さゆは物凄いいきおいでメールを
打ち始めた。
あたしは高橋さんのことが気になった。
高校生の高橋さんが中学校なんかにいるはずがない。
しかも彼女は都内の高校に通っているから、こんな時間にこんな場所に
いるわけがないのだ。
「ねぇ、何で高橋さんがこんなトコに来たわけ?」
「知らなーい。さゆ今ダーリンとメール中だから邪魔しないでぇ」
「はぁ?あんたねぇ…」
「あっ。お返事きたぁ!」
- 10 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 21:22
- 本当にこいつは……。
いっぺん絞めなきゃダメかもね。
それにさゆに聞くより高橋さんに直接聞く方がよっぽど速い、うん。
「さゆ、先生来たよ」
「ふーん……」
「ケータイ取られるよ」
「そんなわけないでしょー」
余裕な態度のさゆに担任の保田先生が近づいてくる。
さゆは気づいてない。
「道重さん。誰とメールしてるの?」
「んー?えっとね、さゆのダーリン」
「へーぇ、そう…」
先生の声色が変わって、さゆもようやくしまったっていう
表情に変わる。
保田先生はピンク色のケータイをさゆの手から引き離した。
- 11 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 21:30
- 「没収」
悪魔のような微笑を浮かべて先生はさゆのケータイをポケットに
しまった。
さゆは涙目でそれを見つめる。
「せっ、先生!返してくださいよぉー!」
「校則違反は見逃せないでしょう」
「そ…そんなぁ」
間抜け面のさゆを尻目に先生はさっさとホームルームを
始めた。
「さゆのケータイ……」
今にも泣きそうな顔をしながらさゆは教卓の上の自分のケータイを
見つめている。
あたしの隣の席の新垣さんはさゆの間抜け面を見て少しばかり笑って
いるようだ。
- 12 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/30(火) 21:39
- でもあたしは新垣さんの眉毛の方がおもしろいと思う。
3年間新垣さんとは同じクラスで、入学したばっかりの頃は新垣さんの
顔を見る度に笑いが止まらなかった。
今でもたまに眉毛がぴくぴく動いてるのを見ると思わず笑えてくる。
「ん?何、れいなちゃん」
「あっ…なんでもない」
新垣さんは「そっか」と言ってまたさゆと保田先生を交互に
見ている。
あたしは保田先生を見た。
「えーと、みんな道重みたいに堂々と校則違反しないようにー。もう3年生なんだから。
それと男女交際もほどほどにー」
先生がそう言うと男子から「うらやましいんですかー」なんて声があがった。
あたしは少し笑った。
- 13 名前:遥 投稿日:2004/03/30(火) 21:44
- 今日はここまでです。中途半端なトコで止めてすいません。
仕事の都合で休みが長くなったので、休み終わりまでは更新をマメにする
つもりです。
- 14 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/31(水) 11:05
- 「あんたらみたいなガキの付き合いなんか羨ましくもなんともないわよ!」
そう言いながらも顔を真っ赤にして図星をつかれたような表情をしている。
そして先生はそのままの口調で「ホームルーム終わり!」と言って教室から
出て行った。
さゆはまだうなだれている。
「れーなー…さゆのケータイ」
何かをねだるような甘ったるい声でさゆは言う。
「取ってこないよ。めんどくさい」
「お願い、れーなー」
「イヤです。そんなことして内申下がったらあたし高校危ないじゃん」
「ケチ」
「あっそ」
何とでも言え。
そう思った。
もういいよ…、と言って拗ねるさゆから離れて一限目の用意を始めた。
- 15 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/31(水) 11:15
- * * * *
今日の授業はいつもより長くて鬱陶しく感じた。
宿題を忘れて怒られたり、居眠りをしたりしても時間が流れるのが
いつもよりも遅く感じた。
やっと放課後になったと思った時には、もう頭の中から高橋さんの
ことはすっきり忘れ去られていた。
「今度の日曜ね、うちにお母さんが赤ちゃんを産むんだ」
帰り道。
突然さゆがそう言った。
「はあ?何で?」
気が抜けた声を出す。
そういえばさゆはいつも突拍子のないことを言ってあたしを驚かせてくれる。
「お父さんとの子じゃないの。お母さんは他に好きな人がいて、その人の子なの。
日曜日が予定日なんだって」
ニコニコしながらさゆは言った。
どうしてこんなことをこんなに嬉しそうに言えるのか。
あたしはわからなかった。
- 16 名前:1 ひとり 投稿日:2004/03/31(水) 11:31
- 「それって…さゆのお母さんはもうお父さんのことを好きじゃないってこと?」
恐る恐る聞き返すとさゆはきょとんとした顔であたしを見る。
そしてしばらく考え込んで、やっと口を開いた。
「わかんない。お母さんの気持ちなんかわかんない。でも電話ではお父さんの子じゃない
って言ってたよ」
それからニコって笑って。
「別にさゆはそんなのどっちでもいいの。さゆはさゆだもん」
そう言った。
すごいなって。
さゆはすごいって思った。
どうしたらそんな風に割り切れるのか。
同い年で、普段はあたしの方が大人っぽいのに、こんなにも簡単に
自分の親のことを割り切れるんだろう。
あたしはあたし、親は親。
所詮あたしは一人だ。
そう思っているのに、どこかであたしは親に依存している。
さゆの自分よりどこか大人びた横顔を見て、あたしはアスファルトの石ころを
蹴り飛ばした。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/31(水) 15:28
- なんかよさげな雰囲気ですね。
期待しています。
- 18 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/03/31(水) 20:24
-
「田中ちゃん、やっと見つけた」
突然あたしとさゆの前に立ちふさがった一人の女の子。
この人こそ、あたし達の2つ先輩の高橋愛さんだ。
突然のことで何がなんだかわからないあたしに向かって高橋さんはいきなり手を差し出してきた。
何だろう、と思ってさゆを見ると、さゆは小声で「握手じゃない?」と言った。
さゆの言葉を聞いてゆっくり手を差し伸べる。
差し出された手を握って、ぎこちなく握手をした。
「握手なんかしたいんじゃないんだけどぉ」
独特の訛りのある口調で言われて、あたしはぱっと手を離した。
さゆはあたしと高橋さんのぎこちないやり取りを無言で見つめる。
「あの…何なんですか?」
「お金、払ってほしいんよ」
「は?意味がわかんないんですけど。あたし高橋さんにお金払わなきゃいけない
ようなことしましたっけ?」
「うん、した」
- 19 名前:アシモ 投稿日:2004/03/31(水) 21:02
- これからの展開が楽しみ!
- 20 名前:遥 投稿日:2004/04/01(木) 22:28
- 昨日は中途半端なとこで終わってすみません。
更新は明日改めて行います。
>>17 名無し飼育さん様
ありがとうございます。
初めて人様にお見せするのでそう言ってもらえると嬉しいです。
>>19 アシモ様
ありがとうございます。
こんな作品にそんなお言葉…嬉しいです。
これからの展開はちょっと意外な方向に行くかも……。
登場人物もだんだん増えていきます。
初めてのレス、ありがとうございます。
これからもどんな簡単な感想でもかまいませんので皆さん書いてくれれば嬉しいです。
もちろん、ダメ出しやアドバイスなどもお待ちしています。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/01(木) 23:12
- 好きな内容です。
更新頑張ってください!
- 22 名前:遥 投稿日:2004/04/02(金) 10:57
- >>21 名無し飼育さん様
好きな内容ですか。
そう言っていただけると嬉しいですね。
仕事の休みが終わるまでは更新はマメにするつもりです。
それでは、更新します。
- 23 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 11:15
- 軽く睨みながら高橋さんは言う。
「まさか忘れたん?」
「あ、えーと、あの…はい」
「あのねぇ…」
まるで呆れたようにため息をついた。
そして高橋さんはあたしに一歩近づく。
「田中ちゃん、先週お金貸してくださいって言ったっきり返しにこない
やろぉー。三万円、きっちり返してよ」
そういやそうだった。
あたし、高橋さんの家に行って高橋さんのお母さんと高橋さんにお金貸して
下さいって頼んだんだった。
お金、返さないと……。
「あの…今お金ないんで、家まで一緒に来てくださいよ」
「うん、ええよ。どうせ田中ちゃんの家の前通るし」
高橋さんはそう言うと自転車のかごにあたしとさゆの鞄をのせてくれた。
- 24 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 11:29
- あたしの家までの道のりを、高橋さんは自転車をついてあたし達に歩幅をあわせてくれる
ようだった。
もうすぐあたしの家につく、というところで突然さゆが決定的な疑問をふっかけてきた。
「れいなどうしてお金なんて借りたの?」
そういえば、あたしは多分一番仲がいいだろうさゆにもこの話をしていなかった。
あたしは意を決して話し出した。
「…実はうち、借金抱えてて。こないださ、なんか借金取りみたいな奴らが来て…
それで親いなかったし、手持ちのお金もなかったから、知り合いの家で一番近所の
高橋さんのトコにお金借りに行ったんだ」
「借金とれいなが何の関係があるの?別にれいなが払わなきゃならないモノじゃ
ないでしょ?」
いつもはおっとりとしたさゆがあたしに食って掛かる。
さっきの大人びた表情とも違う、見たこともない表情だった。
「それはそうだけど…」
あたしが言葉に詰まっていると、高橋さんが助け舟を出してくれた。
- 25 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 11:51
- 「重さん、田中ちゃんにもいろいろ事情があんのよ。それはわかってあげな。
田中ちゃんには田中ちゃんの考えがあったんよ」
「れいな、そうなの?」
俯いていて顔がよく見えない。
さゆは小さい声で言った。
あたしは軽く頷く。
「うん…まぁ、そんなトコ。でも高橋さんが言うみたいなカッコいいコトでも
ないから。お金渡さなきゃって思っただけで。殺されちゃったらやだし」
やや苦笑気味で言った。
これはあたしの本心じゃなかった。
殺されちゃったらやだ、って言うのはホントだけど、どうしてあたしが払わなきゃならないのか、
とも思った。
理不尽だ。
どうしてあたしがこんな苦労をしなくちゃいけない?
どうしてあたしが親のためなんかに。
そう思いながら黙って歩いた。
あたしの家にたどり着いた。
- 26 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 12:05
- * * * *
「どうぞ。散らかってるけど」
あたしは二人にスリッパを出して、自分も愛用のスリッパを履いた。
するとさゆが玄関で何かを見つけた。
「れいな、コレ…」
さゆの視線をたどる。
お母さんの靴だった。
あたしはリビングへと走った。
さゆと高橋さんも後をついてくる。
「お母さん!!」
乱暴にドアを開けて、あたしは叫んだ。
お母さんはゆっくり振り返った。
目じりにしわをよせてあたしを見る。
「れいなじゃない。どうしたのよ」
「お母さんこそ、どうしたの?」
あたしは挑戦的な目つきで睨んだ。
お母さんはイライラしたような口調で言う。
「何よあんた。親に向かってそんな目つき。誰のためにこんなに必死で働いてると
思ってるの?あんたもお父さんも、少しは感謝しなさいよ。お父さんの安月給だけ
じゃ借金も返せないし食べていけないのよ」
いつものお母さんじゃない。
お酒を飲んでいるのかとも思ったけど、どうやら違うみたいだ。
- 27 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 12:11
- あたしは少し悲しくなった。
こんな風にお母さんが言うなんて初めてだったから。
少しでも愛されてると思ってたのに。
あたしはお母さんにとって、お荷物なんだろうか。
「…お母さんとお父さんがいない間、借金取りが来た」
「そう」
「あたし、怖かった。払わなきゃ何かされるんじゃないかって。だからあたし、
高橋さんの家までお金借りに行ったんだよ」
「払っといてくれたのね。ありがとう」
「何でそんな言葉しか言えないの!?」
あたしは出来る限り声を張り上げた。
涙が出そうだったけど、意地でも泣いてやるか、と思ってこらえた。
- 28 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 12:27
- あたしはその場にへたり込んだ。
全身の力が抜けて、流さないと決めた涙も一気にあふれてきた。
目の前がかすんでいく。
さゆと高橋さんが駆け寄ってきてくれのはわかった。
さゆの手が背中にまわった。
背中を撫でられてるんだな、と思った。
「あら、愛ちゃんじゃない。れいながお金借りたそうね。ありがとう。いくら?」
「いえ、結構です。返してもらうほどの額じゃないんで。それより、れいなちゃんに
悪いことしたとか思わないんですか?」
「悪い?別に思わないけど。あたしはこの子のために毎日毎日働いてるのよ。こっちが
感謝してほしいくらいよ」
お母さんの声が、言葉があたしに突き刺さる。
この人はいつの間にこんなに冷たくなってしまったんだろうか。
あたしの知らない間に、お母さんが知らない人になってしまったみたいだった。
涙が止まらない。
- 29 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 12:50
- お母さんがリビングから出て行くのが見えた。
もう頭ぐちゃぐちゃでワケがわかんない。
もう自分が何をしたいのかわかんない。
背中からすっと手が離れて、さゆが出て行くのが見えた。
「あっ、ちょっと重さん!」
高橋さんの素っ頓狂な声が聞こえた。
抜け殻のようなあたしを置いて、高橋さんはさゆを追いかけていく。
玄関の方から、さゆとお母さんの会話が聞こえてきた。
「あの…れいなのこと愛してますか?」
「当たり前じゃない。大事な娘よ」
「ならどうして、一人で頑張ってるれいなに優しい言葉をかけてあげられないんですか?」
「そんなことしたって、仕方ないじゃない」
「自分の子供でしょ。どうしてそんな風に言うの?」
「…話にならないわ。れいなに今度はいつ帰れるかわからないって伝えておいて」
お母さんの靴音と玄関のドアを開ける音。
そしてさゆが叫んだ。
「あんたにれいなの親の資格なんてないっ!!」
お母さんの足音が止まった。
さゆの荒い息遣いが聞こえてくる。
- 30 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 13:06
- 「親に資格がいるのかしら」
その言葉のすぐ後に、ドアが閉まる音がした。
さゆをなだめる高橋さんの声が聞こえる。
あたしはさゆの大声をはじめて聞いた気がした。
涙はいつの間にか止まっていた。
* * * *
「ん……もう、大丈夫、です」
真っ赤な目をごしごしこすって、出来るだけの笑顔を見せる。
昨日のお母さんの言葉。
「おやすみ」ってたったそれだけだったのに嬉しかった。安心できた。
それなのに今日のお母さんのあたしを見る目は本当に鬱陶しそうな目で、
声色はまるで大嫌いな人に話しているようだった。
うちの家族はもうダメだな。
お父さんにはもう二ヶ月くらい会ってないし、お母さんは別人みたいだし。
あたしは壊れそうだ。
こんなのを、まだ家族と言えるだろうか。
- 31 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 13:22
- さゆはあたしを気遣ってか、部屋で休んだほうがいいと言った。
高橋さんは夕食の準備をしなくちゃいけないからと言って帰って行った。
「さゆもそろそろ帰った方がいいんじゃない?」
「いいの。れいな一人じゃ寂しいでしょ」
「……そうかも」
さすがに否定は出来ない。
今一人にされたらちょっと辛いと思う。
時計を見たらもう午後六時をまわっていた。
お腹すいた。
そう言えば昨日から学校の購買のパンしか食べてないことに気がついた。
「ねぇさゆ、お腹すかない?」
「あ。ちょっとすいた」
- 32 名前:2 いらない愛情 投稿日:2004/04/02(金) 13:39
- 「じゃあさ、何か食べにいかない?」
「いいけど…れいな大丈夫?」
「当然。泣いたらすっきりした。それにさゆがガツンって言ってくれたから、もっと
すっきりした」
あたしがそう言うとさゆはニコッと笑った。
「じゃあ食べにいこっか。今日はれいなのおごりね」
「えー。なんでよー」
ニコニコ笑うさゆを見て思った。
やっぱりさゆには笑顔が一番だ。
早くさゆみたいになりたい。
さゆと笑いあっていたら、気持ちの穴が少し塞がった気がした。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/02(金) 17:12
- 面白い。頑張って
- 34 名前:遥 投稿日:2004/04/03(土) 12:42
- >>33 名無し飼育さん様
ありがとうございます。
面白いですか。そう言ってもらえると本当に嬉しいです。
頑張りますんで、どうか最後までお付き合いください。
って言っても、まだまだ終わりませんけど(笑)
それではこれから更新します。
登場人物増えます。
- 35 名前:3 荒んだ心 投稿日:2004/04/03(土) 12:45
- 「れいな、どこ行くの?」
「ファミレスとか。安いトコ行っていっぱい食べよ」
お嬢様のさゆには物足りないかもしれないけど。
あたしがおごるんだから高い店には絶対入れない。
それにこんな時間に中学生入れてくれる店なんてあそこしかない。
あたしはさゆの手を引いてそのお目当ての店へと走った。
息切れしながら走ってやとたどり着いたのは何の変哲もないただのファミレス。
さゆの手を引いて店の中へ。
「いらっしゃいませー。…って、なーんだ。田中と重さんかよ」
あたしたちを出迎えてくれた店員さんは、矢口真里さんだった。
矢口さんとは顔見知り程度の付き合いだけど、会うたびに挨拶してくれたり話しかけに
きてくれたり。
口は悪いけど、案外優しい人だ。
「あたしらが客じゃなんか不満ですか、矢口さん」
「べっつにー。ってか中学生がこんな夜に遊び歩いてていいわけ?」
「いいんです。あたしら遊び歩いてるわけじゃないし。この店なら安全でしょ」
そう言ってにっこり笑う。
矢口さんは諦めたようにため息をつくと、
「こちらへどーぞー……」
とテーブルへ案内してくれた。
- 36 名前:3 荒んだ心 投稿日:2004/04/03(土) 13:05
- 「やっぱりさゆが可愛いからさすがの矢口さんも勝てなかったんだね」
「いや、違うから。誤解しないで」
素早い突っ込みを入れて、矢口さんはあたしとさゆにメニューを渡した。
「ご注文決まれば、呼んでくださーい」
いかにもやる気がなさそうにそう言うと矢口さんは他の客の応対を始めた。
あたしはメニューを真剣に見つめる。
「今日はあたしのおごり。何でも食べな」
「ホント?じゃーあー…イチゴパフェとチョコレートパフェとチーズケーキと…」
「ち、ちょっと待った!」
さゆの言葉をさえぎる。
この子はデザート類しか食べないんだろうか。
っていうか、そんなに甘いもの食べたら気持ち悪くなるよ。
「あのさ、さゆ…そんなんばっかでいいの?」
「だって好きなんだもんっ。おごってくれるんでしょ」
「そうだけど」
「店員さーんっ、注文お願いしまーす」
「あ!ちょっと……!」
あたしまだ決まってないっつーの!
勝手に店員とか呼ぶなよコイツ。
「ご注文はお決まりでしょうかぁ?」
- 37 名前:3 荒んだ心 投稿日:2004/04/03(土) 13:32
- 聞き覚えのある間の抜けた声。
ふっと顔をあげるとウェイトレス姿の小川麻琴さんがいた。
高橋さんと同学年で、水泳部として中学時代はうちの学校で活躍していた。
前に来たときは小川さんはバイトしてなかったのに……。
「小川さんバイト始めたんですかぁ?」
「うん、矢口さんに誘われちゃって」
「あのー、注文聞いてもらえません?」
今にも何か話し出しそうな小川さんを止めて、あたしはメニューを見た。
小川さんは思い出したように「注文ね」と呟くとメモの用意をする。
「えっと、さゆがチョコレートパフェとイチゴパフェとチーズケーキ。で、あたしはステーキ。
オリジナルソースで。それとレモンスカッシュ1つ」
「えーっと、ご注文繰り返しまーす。チョ…っコレートパフェとイチゴパフェが1つづつ…」
「あの、かむんだったら繰り返さなくても……お腹減ってるんで」
苦笑いしながらそう言うと、あたしは小川さんにメニューを手渡した。
「繰り返さなくてもいいんで、できるだけ早くお願いします。一応中学生なもんで」
「あ。そっか。じゃあそうするね」
小川さんは厨房の中に入って行った。
持ち前のおっきい声で注文を伝えているのが聞こえた。
あたしはまた苦笑いをすると水を少し飲んだ。
するとさゆが何かを思い出したように「あっ!」と大きい声を出した。
あたしはびっくりして水を噴き出しそうになった。
「な、何!?」
「さゆのケータイ…すっかり忘れてたぁ」
「あー…そういやとられたんだったね」
「どうしよう……」
「何?彼氏と連絡とれないって?」
- 38 名前:3 荒んだ心 投稿日:2004/04/03(土) 13:50
- さゆは首を横に振った。
じゃあ他に何があるのだろうか。
他の友達と連絡がとれない?
…いや、さゆにとってそれはないだろう。
本当に喋りたかったら、家まで訪れる子だ、この子は。
「じゃあ、何?」
「…お母さんとお父さん」
「はあ?」
「お父さんともお母さんとも連絡とれないよぉ…」
あまりにも意外なことを言い出したさゆを目の前にして、あたしは言葉が出な
かった。
そうだ、この子は。
親に会いたくても会えないんだ。
あの豪邸に年の離れたお兄ちゃんと二人で暮らしているようなもので。
寂しいんだ。
あたしはさゆは大人だと思ってたけど、やっぱり会えなきゃ寂しいし会いたいって
思ってるんだ。
- 39 名前:3 荒んだ心 投稿日:2004/04/03(土) 14:02
- 何だ、あたしと同じじゃん。
二人ともまだ子供だもんね。
「…ねぇ、ケータイなくても家の電話あるんじゃないの?」
「あるけど使わないの。電話線切ってるの」
「はぁ?何でよ?」
「さあ、知らない」
さゆの家もいろいろあるんだな。
そう言ってあたしはまた水を一口。
「明日取りに行こう。一緒に」
「…ホント?」
「うん。約束」
そう言うとやっとさゆに笑顔が戻った。
あたしも自然と笑顔になった。
* * * *
あたしとさゆが食べ終わるころにはもう八時をまわっていた。
あたしはいいけど、さゆはそろそろ帰さないと。
ケータイもないからあの心配性なお兄ちゃんに連絡できないし。
あたしのケータイも家に置いてきちゃった。
「ねぇ、ここってタバコ吸ってもいいんですか?」
あたしたちの席のちょうど後ろで、そんな声が響いた。
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/03(土) 14:12
- 面白いです。続き楽しみ
- 41 名前:3 荒んだ心 投稿日:2004/04/03(土) 14:15
- ぱっと後ろを振り返ると、近所のお嬢様学校の制服を着た女の子が一人で座っていた。
さっきの言葉はこの人が言ったんだろう。
リボンの色を見ると高等部のものだった。
年なんてあたしと変わらなさそうだし、高校1年くらいだろうか。
「喫煙席って書いてるんだから、いいんですよね」
長めの黒い髪、猫のような目、お嬢様っぽい雰囲気が漂う。
こんな子がタバコを吸うなんて思えない。
世の中わからないことだらけだ。
「あのお客様、失礼ですが年齢は?学生さんですよね?」
矢口さんが困ったように言う。
やけに低姿勢な矢口さんをあたしは初めて見た気がする。
「高校1年。なんか問題でも?」
「大有りです。未成年の喫煙はいくら私でも見逃せません」
「じゃあ、吸っちゃいけないんだ」
「親に教わりませんか?そういう常識」
女の子の目つきが変わった。
怖い。
あたしも目つきが怖いってよく言われるけど、多分それ以上だ。
関わりたくない。
本気でそう思った。
- 42 名前:3 荒んだ心 投稿日:2004/04/03(土) 21:12
- 「さゆ、出よっか……」
「うん…そだね」
あたしとさゆは静かに席を立つと、小川さんにお勘定をしてもらった。
その時、小川さんが言った。
「あの子、亀井絵里ちゃんって言うんだけど…あたしらと同じ学年であのお嬢様
学校行った紺野あさ美ちゃんっていたじゃん?」
「ああ、あの秀才さんですか?確か生徒会とかやってた」
「うん。そんでね、あさ美ちゃんの後輩らしいんだ、あの子。東京から引っ越し
てきたらしいんだけど。友達もいなくて、唯一学校であの子と喋るのあさ美ちゃん
だけなんだって」
小川さんは、その…亀井さんに聞こえないように静かに喋る。
亀井さんはあきらめたのか注文もせずにケータイをいじっているようだった。
小川さんは続ける。
「悪い子じゃないらしいんだけど。いろいろと…家庭の事情が、ね」
バツが悪そうに小川さんは言った。
あたしとさゆはそのまま何も言わずに店を出た。
軽く矢口さんに会釈をすると、満面の笑みが返ってきた。
やっぱり矢口さんはいい人だ。
- 43 名前:3 荒んだ心 投稿日:2004/04/03(土) 21:40
- 亀井さんとも目があった。
寂しそうな顔をしていたのは気のせいだろうか。
あたしはさゆに手を引かれ、後ろ髪をひかれる思いで店を後にした。
* * * *
店を出てしばらく、あたしとさゆはさゆのお兄ちゃんの迎えを待っていた。
というのも、さゆが公衆電話で家に連絡するとお兄ちゃんが迎えに来ると言ったのだ。
一人じゃ心配だから、あたしも乗せて帰ってくれるらしい。
「ねぇさゆ……」
「なぁに?」
「さっきの亀井さんさ…うちらと一緒だよね」
「あー…家庭の事情ってやつ?」
「そう。何かほんとに悪い子とは思えないし」
「んー……まぁいろいろあるんじゃない?」
さゆはそう言って石ころを蹴飛ばす。
その石ころは遠くまで飛んで、何かにぶつかった音がした。
「目、赤いね」
聞き覚えのある声。
それは確かに『亀井絵里』の声だった。
恐る恐る後ろを振り返ると、やっぱり何か怒ってるような仏頂面で彼女が
立っていた。
「泣いたの?」
それはあたしに向けられた言葉のようだった。
どうしたらいいかわからずきょろきょろしているあたしに、亀井さんは少し
笑いながら続ける。
「いいね、素直に泣ける子は。絵里なんか、しばらく泣いた記憶なんか
無いよ」
見た目よりも子供っぽい口調や言葉に、少しギャップを感じた。
あの時の鋭い目つきを思い出す。
同一人物じゃないようだ。
- 44 名前:遥 投稿日:2004/04/03(土) 21:41
- 今日はここまでです。
中途半端ですいません。
感想お待ちしています。
- 45 名前:遥 投稿日:2004/04/04(日) 13:08
- >>40 名無し飼育さん様
ありがとうございます。
何か亀井さんのイメージ悪くなってますけど、根はいい子なので(笑)
続き楽しみですか。
そう言っていただけるとうれしいです。
それでは更新します。
- 46 名前:3 荒んだ心 投稿日:2004/04/04(日) 13:37
- 「あの…何なんですか?」
「何が?」
「いきなり、そんなこと…」
「ああ」
亀井さんはハッキリわかるように笑った。
笑うと可愛い。
「二人なら、絵里のことわかってくれるかなーって」
ワケのわからないことを言い出す亀井さんに、あたしは少し戸惑った。
すると今まで黙っていたさゆが口を開いた。
「何かあったの?あなたも、悲しそう」
辛そうな表情を浮かべて、ほえほえ笑う亀井さんに言った。
一瞬さっきの鋭い目がよみがえった。
あたしは身震いした。
「…やっぱり、絵里のこと、わかってくれる子達だ」
「わかるかどうかはわかんないけど…」
あたしはそこで言葉を詰まらせた。
さゆはさっきの辛そうな表情とは打って変わってにっこり笑った。
「わかるかどうかわかんないけど、お話聞いてあげるくらいは出来るよ」
あたしたちは車のライトに照らされた。
さゆのお兄さんだ。
亀井さんの光に照らされた顔を見ると、嬉しそうに、満足そうに微笑んでいた。
その顔は、少し昔のお母さんに似ていた気がした。
- 47 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 13:55
- * * * *
「へぇ〜。絵里ちゃんは聖華女子に通ってるんだ」
「はい。高校に入るときに編入してきたんです」
愛想よくニコニコ笑いながら答える亀井さん。
さゆのお兄さんは「へぇ〜」なんて言って感心しているようだった。
お兄さんの隣の助手席にさゆ、後ろの席にあたしと亀井さん。
あたし的に、すごく居辛い席だ。
元はというと、さゆのお兄さんがあたしとさゆを迎えに来たついでに、亀井さんまで乗せて帰ると
言い出したため、こんなことになってしまったのだ。
「れいなちゃんも絵里ちゃんも、よかったらうちに泊まっていかない?もう遅いし」
「えっ?いいんですか?」
嬉しそうに言う亀井さん。
その隣であたしはぶんぶん首を横に振った。
「だ、だって迷惑じゃないですか!」
「ぜんっぜん。ね、さゆみ」
「お兄ちゃんがいいっていうならさゆはいいよー」
ニコニコ笑う道重兄妹と亀井さん。
そんな人たちに囲まれ、あたしは断れるわけもなかった。
「…はい。そうさせてもらいます」
- 48 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 14:06
- あたしは困ったような表情を浮かべながらそう言った。
隣で亀井さんは満足そうに笑った。
* * * *
「じゃあ、さゆみの部屋で三人寝れると思うから」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
「何かあったら言ってね」
そう言ってお兄さんは部屋を後にした。
「さゆの部屋って、いつ見ても広いー」
あたしはそう言って部屋中をきょろきょろ見回した。
十畳はありそうだ。
あたしの部屋なんて四畳くらいしかないのに…。
やっぱりお嬢様は違うな。
「道重さゆみちゃんと、田中…れいなちゃん、だっけ?」
少し前とは違い遠慮がちに口を開く亀井さん。
あたしたちは頷いた。
「さゆはれいなのこと、『れいな』って呼んでるの」
「あたしは、さゆって呼んでる」
「ねぇ…絵里も、そう呼んでいい?」
- 49 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 14:13
- 顔を見合わせる。
断る理由はどこにもなかった。
あたしたちはそろって頷いた。
「じゃあ、私のことは絵里って呼んで。敬語も使わなくていいからね」
また頷いた。
さゆは自分のベッドに腰をおろした。
しばしの沈黙の間、あたしは絵里の視線を追った。
勉強机の上の、写真立てを見つめている。
「あれ、さゆのお父さんとお母さん?」
「そうだよ。多分さゆが八歳くらいのときかな」
「お兄さん若いね」
ふざけてあたしはそう言うと、絵里が声に出して笑った。
さゆも笑っている。
「そーだねー。確かあの時、お兄ちゃんが中二だったかなぁ」
「そりゃ若いはずだよ」
「あははっ」
- 50 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 22:19
- 絵里が笑うのをあたしは黙って見ていた。
制服の胸ポケットには高そうな銀色のライターと、うちのお父さんと同じ種類のタバコが入っていた。
はじめの印象とは違い、優しい微笑みを浮かべる絵里には、やっぱりタバコなんて似合わない。
「で、絵里は何を話したいの?」
あたしは出来るだけそのタバコを見ないようにして尋ねた。
絵里の表情がガラッと変わって、真剣な表情になる。
「…うちね、絵里が高校に入るときに東京から越してきたんだ」
「うん」
「でね、絵里って人見知りするし、あんまり社交的な方じゃないし、明るいっていうよりは暗いって
思われる方だし、大人しいってよく言われるし……」
絵里の自己分析は留まることを知らない。
あたしの隣ではさゆが唖然としている。
さゆの気持ちもわからなくはない。
よくもまぁ、ここまで自分の嫌いなところを言えるもんだ。
「あのさ絵里、それはもうそんくらいで…」
「あっ、そだね。で、絵里のお父さんは画家で、お母さんはパートで働いてるんだ」
「うん」
「お父さん画家なんだぁ。すごいね」
さゆが歓喜の声を上げる。
あたしは話が進まないからと言ってさゆを睨みつけた。
そして絵里に話の続きを促す。
- 51 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 22:35
- 「でも二人とも、絵里のことなんかどうでもいいみたい。絵里が家にいてもいなくても関係なしに
言いたい放題」
いやになっちゃう、なんて言って笑う絵里。
ここまではただの愚痴だ。
これで終わるのかと思ったら、絵里の表情がだんだん曇り始めた。
猫のような目が、泣きそうに歪んでくる。
「お母さんは外に男作ってる。お父さんはそれを知ってるくせに怒りもしないで自分の部屋に
こもりっきり。たまに出てきたと思ったら、情けない顔しておどおどしてあたしとかお母さん
のご機嫌取り。本当は絵里のこともお母さんのことももう愛してないのに、無理して機嫌取って
まで一緒にいるの。バカみたいでしょ?」
どこか遠くを見つめているような瞳で、あたしとさゆを見つめて言った。
悲しそうに歪んだ目は、あたしの心をざわつかせた。
「…バカだね、絵里のお父さん」
「でしょ。イヤなら一緒にいなけりゃいい。お母さんも絵里も、愛してくれないなら一緒にいたって
意味ないよ。お父さんの愛するモノは、自分の描いた絵とその中の世界だけなんだよ」
- 52 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 22:55
- 一気にそこまで言うと、嘲るように笑った。
あたしは胸がいっぱいになった。
「お母さんもお母さんだよ。お母さんは誰かに愛してもらわないと生きていけない人なの。
だからそれがわかったときね、最初はお父さんの代わりに絵里が精一杯愛してあげなきゃ…
って思ってたの。でも…ある日学校から帰ったらね、開いてるはずない家の鍵が開いてて、
お母さんが帰ってきてるのかなって思って、お母さんとお父さんの寝室のドアを開けたら……」
絵里はこれ以上ないほどの辛そうな表情を浮かべて、俯いた。
さゆはベッドから降りてきて、昼間あたしにやったのと同じように絵里の背中をさすった。
さゆの方が背が高いからだろうか。
1つ年上の絵里よりもお姉さんに見えた。
「お母さんが…知らない男の人と、シてた……。あたしまだその時中二で、どうしたらいいか
わかんなくて、お母さんがそんな事してるの悲しくて…しばらく、部屋で泣いてた」
そう言った絵里の顔に、もうさっきの辛そうな表情は感じられなかった。
無表情。
まさにその言葉が今の絵里にはぴったりだった。
話してしまえばどうでもいいことなんだろうか。
辛そうな表情じゃなくって、まったくの無表情。
ってことは、やっぱりそれはもうどうでもいいことなんだろう。
- 53 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 23:07
- 「それからはもう、親と喋ることなんて数えるほどしかなかった。
泣いたのもそれで最後。家にいるときも学校にいるときも、まるで感情がない
人形みたいだった」
「人形……」
「うん。そのときは友達もいたし、まぁ…好きな人もいたんだけど。だけどね、もう全部どうでもよくなっちゃったの。
だからだんだん友達もいなくなって、好きな人にも話しかけられなくなった。絵里は完全に一人になったんだよ」
そう言って絵里は胸ポケットのタバコに手を伸ばした。
さゆは気づいていない。
あたしは無意識のうちに絵里の手からタバコとライターを奪った。
「ちょっ…何すんの?」
「絵里には似合わない。タバコも、多分…お酒も飲んでんでしょ」
「そうだよ。それしか自分を慰めるものがないんだもん」
「それならあたしたちが絵里を慰める!」
静かな部屋に、あたしの大声が響いた。
- 54 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 23:19
- 「れいな…」
さゆが心配そうにあたしを見た。
絵里は驚いたように目をぱちくりさせている。
あたしは荒い息を整えながら言う。
「そんなもんに頼らなくたって、あたしとさゆが絵里の力になる。悩みがあればなんでも聞いて
あげるし、腹立つことあったら何でも愚痴ってほしい」
「…………」
「あたしらじゃ足りない?少しでもいいから、絵里の力になりたいよ」
あたしたちが力になるから。
こんなカッコいいこと言っちゃったよ、あたし。
でも嘘じゃない。
これはあたしの本心だから。
多分きっと、さゆも同じ気持ちのはずだ。
「…いいの?」
絵里は顔を上げた。
さゆはあたしの顔を見て、ニコッと笑った。
あたしもそれに答えるように笑う。
- 55 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 23:34
- 「当たり前じゃん」
「夜中までかかっちゃうよ?」
「ずっと起きてるよ」
「泣いちゃうかもしんないよ?」
「大丈夫。ティッシュあるから」
「足りなくなったら?」
「さゆがお兄ちゃんに買ってきてもらうもん」
最後のさゆの言葉に少し笑った。
絵里もやっと笑った。
「…お願いします」
「お願いされます」
「じゃあ、絵里がさゆたちの悩みとか聞いてよ」
「うん。聞いたげるよ」
にひひって笑った。
三人で顔を見合わせて笑う。
その後、三人でお風呂に入った。
さゆのパジャマをかりて、無理矢理ベッドに三人で川の字になって寝転がった。
絵里の話をいっぱい聞いたし、さゆの愚痴もいっぱい聞いた。
あたしは絵里に放課後のお母さんとのことを話した。
さゆが大声で言ってくれたこと、あたしがこらえきれず泣いてしまったこと。
他にもいろいろ話した。
- 56 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 23:44
- 「…あれ?さゆ、寝た?」
「みたいだね。可愛い、さゆの寝顔」
お母さんみたいにさゆの前髪に触れながら絵里が言った。
確かに可愛いな。
半端に口開けて、まるでちっちゃい子みたい。
「確かに可愛い。でもあんま、本人の前で言わない方がいいよ。調子に乗るから」
「大丈夫。さゆは絵里の次に可愛いってことだから。あ、れいなも可愛いよ」
ナルシストが二人になった…。
気苦労が絶えない。
「あー…どうも」
「ねぇれいな」
「ハイハイ?」
「絵里ね…れいなとさゆに会えて、よかったよ」
「ん…れいなも」
無意識のうちに自分のことを『れいな』と呼んでいた。
そういえば昔は自分のこと名前で呼んでたんだ。
いつからだったっけ?『あたし』って言い始めたの…。
まだお母さんもお父さんも仲良かった頃、誕生日にお母さんに言われたんだ。
「一つお姉さんになるんだから、自分のこと『私』って言おっか」
- 57 名前:4 れいなとさゆみと絵里。 投稿日:2004/04/04(日) 23:51
-
そう言われたけどいきなりは無理で。
何か恥ずかしくて、『私』じゃなくて『あたし』にした。
『私』って呼ぶのはもう少しお姉さんになってから…って。
なのにあたしは先に進めていない。
「れいな……」
「んー…何?」
「寝ようか」
「そだね……」
さゆと絵里とあたし。
きちきちのベッドの上に三人で無理やりに川の字になって。
狭かったけど、一人じゃないって思えて安心した。
あたしはどこかあったかい気持ちで目を閉じた。
こんな気持ちで眠れたのは、久しぶりだった。
- 58 名前:遥 投稿日:2004/04/04(日) 23:52
- とりあえず今日はここまでです。
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/04(日) 23:57
- 物語に引き込まれました。
すごくいいです。
がんばってください。
- 60 名前:遥 投稿日:2004/04/05(月) 10:54
- >>59 名無し飼育さん様
ありがとうございます。
物語に引き込まれただなんてそんな……。
こんな話でそう言っていただけると嬉しいです。
これからのストーリーは、少し意外…というか、ショックを受けるかも…。
読み続けていただければ幸いです。
それでは更新です。
- 61 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/05(月) 11:05
- 皆さん複雑なかてーじじょーを抱えてらっしゃる・・・。
あ、どうもこちらでは初めましてデス。
自スレにレスもらったので探し当てましたw
これからの展開が楽しみです。
ついて行くんで頑張って下さいww
- 62 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 11:10
- * * * *
絵里と一緒にさゆの家に泊まった日から二週間。
あれからあたしとさゆは職員室に忍び込んでケータイを取りに行ったり。
なかなか会えない絵里とはメールをしたり、夜に矢口さんが勤めるこないだの
ファミレスに行ったりして、毎日を過ごしていた。
そして、今日は日曜日。
昨日絵里とさゆと夜中までファミレスで喋ったりして、遅くなったから矢口さんに
それぞれの家まで送ってもらったんだ。
帰っても家には誰も居なかった。
あれからお父さんはもちろん、お母さんとも会ってないし、連絡もない。
寂しいだなんて思わなくなっていた。
そんな感情は麻痺してしまったのかもしれない。
眠い目をこらして冷蔵庫からふたの開いていたポカリを取り出して、テレビをつけた。
ポカリを一口飲んで、ソファに座り込む。
朝の情報番組のキャスターがニコニコしながら話をしている。
その隣に、信じられない顔が見えた。
- 63 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 11:29
- 「お父さん……?」
眼鏡をかけた、少し白髪混じりの男の人。
見間違えるまずがない。
確かにお父さんだった。
「どう思いますか、田中さん?」
キャスターが話をふると、お父さんは眼鏡の奥の瞳を意地悪く光らせた。
このイヤミな瞳は忘れない。
少し前までは、いつもあたしを監視している目だった。
「そうですね、やはりまだ中学生や高校生のような子供が夜中に遊び歩くべきじゃないですね。
そういった行動が少年犯罪などに繋がっていくのではないでしょうか」
えらっそうに。
テレビの中のお父さんを睨みつけた。
コメンテーターなんて、そんなに大事な仕事なのだろうか。
あたしには理解できない。
「田中さんには中学生の娘さんがいらっしゃるそうで」
「はい。今中三です」
「受験生ですねぇ。ご自分の娘さんは遊び歩いたりすることはないと?」
「ええ、まぁ。私自身、あまり縛りつけるようなことは好きじゃないのである程度は自由にさせてますね。
まぁいいコトと悪いことの区別はちゃんとつく子なので、心配はいりません」
- 64 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 11:38
- 「そうですか。実際最近はそういう区別のつく子が少なくなってきているので、田中さんの娘さんの
ような子が増えるといいですね」
「そうですね」
テレビの中で自分のことが話題にでることはあんまり気分のいいことではない。
あたしはテレビの電源を切った。
「何だよ、あいつ…えらっそうに」
ポカリを口に含む。
甘い味が口の中を広がって、少し心が落ち着いた。
すると、そばに置いてあったケータイが突然鳴り出した。
電話だ。
画面にはさゆの名前が表示されてある。
だるかったけど、渋々電話にでた。
「もしもしー…」
「もしもし、れいなちゃんか!?」
「えっと…さゆのお兄さん?どうしたんですか?」
戸惑いながら尋ねると、お兄さんはとんでもないことを言い出したのだ。
- 65 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 11:46
- 「さゆみが帰って来ないんだ!昨日れいなちゃんたちと遊びに行ったっきり…
そっちに行ってない!?」
必死なお兄さんを尻目に、あたしは状況が理解できていなかった。
さゆがいなくなったなんて…。
矢口さんがちゃんと送っていったハズなのに。
「さゆが…いなくなったんですか?」
「ああ。絵里ちゃんにも電話したんだけど、知らないみたいで…。これ、さゆみのケータイからで、
他の友達にも聞いたんだけど、みんな知らないって……。れいなちゃん、もし心当たりあったら聞いて
みてくれないか!?オレは警察に届けてくるから!」
そういえば。
さゆは昨日ケータイを持っていなかった。
電池切れたから充電してる、なんて言って。
何でこんなときに持ってないんだよ、あのバカ!
- 66 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 11:56
- 「わかりました。絵里と一緒に心当たりあるとこ片っ端からあたるんで、お兄さんも何かあったら連絡とれるようにさゆの
ケータイ持っといて下さい!」
「ありがとう!じゃあ何かあったら連絡する」
そう言って電話は切れた。
あたしは急いで部屋に戻って、私服に着替えた。
動きやすいように、パンツスタイル。
財布とケータイ片手に、家を飛び出した。
走りながら絵里に電話をする。
「絵里!今どこ!?」
「家だよ。さゆのこと、探しに行こうよ!」
「あたしもそう思って…。今から絵里んチ迎えに行く!」
「…わかった。すぐ来て。待ってるから」
まだ一度しか行ったことのない、絵里の家に向かう。
途中、道端に置いていたママチャリを見つけてそれに乗った。
誰のかわかんないけどすいません。
心の中で謝りながらあたしはチャリのスピードを上げた。
- 67 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 12:07
- ぐんぐんスピードを上げていく。
絵里の家が見え始めた。
「あともうちょっと!」
自分を励ますように叫んだ。
もう足が痛くて、絡まりそうだ。
それでも必死にペダルをこいだ。
やっと絵里の家にたどり着いた。
さゆの家に負けず劣らずの豪邸。
あたしはチャリを止めると、声を張り上げた。
「絵里!!」
静かな住宅街に、あたしの声だけが高く響いた。
ジーンズ姿の絵里が玄関から出てきた。
その後ろにはお父さんらしき人が見えた。
いかにも芸術家っぽい雰囲気が漂う男の人だった。
「れいな!行こ!!」
絵里がこっちに向けて走り出す。
お父さんは絵里に向かって何か言っているようだったけど、あたしの耳には届かなかった。
- 68 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 12:48
- 「乗って!」
「いい、絵里がこぐかられいなは後ろ乗って」
汗だくで疲れきったあたしを見てそう思ったのだろうか。
絵里はあたしをどかせて前へ乗った。
仕方なく、あたしは後ろの荷台へ乗る。
絵里はいきおいよくペダルをこぎだす。
頬にあたる風が気持ちいい。
さっきまでの疲れがうそのようだ。
「れいな、矢口さんに電話!」
「あ、うん」
絵里は矢口さんに聞くのが一番だと思ったのだろう。
あたしは矢口さんのケータイに電話をする。
「もしもしぃ?」
「もしもし矢口さん?」
「田中じゃん、どーした?」
「今どこにいます?矢口さん」
「友達と一緒に家にいるけど…」
「ちょっと出れますか?さゆが…いなくなったんです」
あたしがそう言うと、矢口さんは「はぁ!?」って素っ頓狂な声を出した。
あまりにその声が大きくて、あたしは一旦電話を耳から離した。
- 69 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 12:56
- 「えっ?いなくなった!?」
「ハイ。詳しいことは後で話しますから、とりあえず出てきてもらえませんか?」
「あっ、わかった。オイラの友達にも協力してもらお!連れてくから」
「ありがとうございます。じゃあ、あのファミレスで待ってます」
電話を切ると、絵里は少しスピードを落としていた。
照りつける太陽。
風があるからあんまりそうは思わないけど、今日は十月にしてはすごく暑い。
風が止んだらしんどいだろうな。
「矢口さん、何て?」
「来てくれるって。友達も一緒らしいよ」
「じゃあ、あのファミレス?」
「うん」
しばらく沈黙が続いた。
でもそれが今のあたしにはとても心地よかった。
- 70 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 13:37
-
「あ、そうだ。絵里」
「んー?」
「さっき家で…お父さんみたいな人いたじゃん」
「うん…」
「何て言われてたの?」
「んーと、離婚するんだってさ。お父さんとお母さん」
「……そっか」
平然という絵里に、あたしはそんな返事しか返せなかった。
離婚した方が楽なんだって、絵里は心のどこかで感じてたんだ。
だからこんなにすっきりした表情を浮かべてられるんだ。
「何か離婚のこと聞いたときさぁ、やけにすっきりした。多分これでよかったんだよ。
話し合ってるときね、久しぶりに家族揃って話した気がしたの。お母さんもお父さんも、
自分の言いたいこと話し合って、結果的に『離婚』ってことになったけど、何かやっと
最後に家族って感じがしたの」
- 71 名前:5 いなくなった友達 投稿日:2004/04/05(月) 13:56
- 嬉しかったぁ。
絵里はそう言った。
その言葉があたしの耳に残って離れなかった。
* * * *
「いらっしゃいませー」
二人で店に入ると、知らない店員さんが出てきた。
矢口さんと待ち合わせをしていると言うと、席まで案内してくれた。
「田中、亀井、座りなよ」
矢口さんとそのお友達がいる席に、あたしと絵里は座った。
「えっと、こちら田中れいなちゃんと亀井絵里ちゃん。で、こっちがオイラの友達の
安倍なつみちゃんと飯田圭織ちゃん」
安倍さんと飯田さんは軽く会釈してくれた。
あたしも少し頭を下げる。
「…で、重さんいなくなったって?」
「ハイ。それが昨日から帰ってこないって…」
「オイラ、ちゃんと送ってったよ。でも重さん、ここでいいっつって、家の少し手前くらい
で別れたんだ」
矢口さんはそう言って、アイスコーヒーを一口飲んだ。
状況の説明は絵里がしてくれているようだった。
矢口さんと安倍さんと飯田さんは真剣に聞き入っている。
あたしはふっと外を見た。
外には、あたしのよく知っている人物が誰か知らない人と歩いていた。
茶色い髪が綺麗なその人は、キレるとちょっと怖くてティッシュが無かったら生きていけない人で。
昔、あたしのお姉ちゃんだった人だった。
- 72 名前:遥 投稿日:2004/04/05(月) 14:08
- >>61 名も無き読者様
読んでくれましたか!レスありがとうございます!
尊敬する方から感想をいただけるとは、嬉しい限りですw
皆さん複雑ですよぉ。特にれいなはまだ謎があったりww
ついてきてくれますか?こんな駄作に楽しみと言ってくれる人が少しでも
いる限り私は頑張りますよ!
それではまた感想いただければ嬉しいです。
そちらのスレにも遊びに行きますw
それでは今日はここまでです。
- 73 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/05(月) 14:41
- 更新お疲れ様です。
な、なんか所々大変なコトになってますが・・・。(汗
最後のはあの人ですよね?
ラスト一文が気になりますが、
次回を待ちます。
- 74 名前:ゴロ 投稿日:2004/04/05(月) 19:03
- 6期が出てくる小説は大好きで、遥さんの小説は特に大好きです!
毎回更新楽しみにしています!これからも執筆がんばってください!
- 75 名前:ゴロ 投稿日:2004/04/05(月) 19:05
- あっ!名乗るのを忘れていました!ゴロと申します!
初レスです・・・。すいませんでした!
- 76 名前:6 追いかける、その先。 投稿日:2004/04/06(火) 14:24
- あたしはその人から目が離せなかった。
昔の彼女の笑顔が去来する。
大事な話の最中だとわかっている。
他の誰でもない、さゆの問題だ。
でもあたしはいてもたってもいられなくなった。
「ごめんなさい…ちょっと」
一言そう言うと、あたしは席を立って外へ向かった。
矢口さんたちは驚いたようだったけど、止めなかった。
「みきねぇ!!」
あたしは彼女―――藤本美貴の名前を呼んだ。
久しぶりに口にする彼女の名。
何年ぶりだろうか。
「…れいな?」
いぶかしげな瞳。
昔よりも大人っぽくなってて、知らない人みたいだったけど、忘れない。
この人はあたしのお姉ちゃんだから。
- 77 名前:6 追いかける、その先。 投稿日:2004/04/06(火) 14:37
- 「そうだよ!あたし、れいな!」
今にも抱きつきそうないきおいであたしはみきねぇの元へ走った。
みきねぇは戸惑いながらも受け止めてくれる。
「え?ホントにれいな?」
「そう。れいな。みきねぇ、大人っぽくなったね!」
「れいなも。お姉さんになったから、わかんなかった」
にこって笑うみきねぇ。
久しぶりに見る笑顔に、あたしは嬉しくて抱きついた。
「でも身長はあんま伸びてない、みきねぇ」
「うっさいなー。そういうれいなもチビじゃん」
みきねぇはそう言うと、隣にいる女の子に言った。
「こいつ、あたしの妹の田中れいな。事情があってさ、美貴は今の藤本家に養子に入ったんだ」
そう。
経済的な事情でみきねぇは藤本さんって人の家に養子に入った。
そのときあたしはまだ小さくて、どうしてみきねぇと離れなければならないのかわからなくて、
ただ泣き叫んでた。
今思うとそれは、うちの借金のせいだった。
お父さんはコメンテーターっていう何だかよくわかんない仕事で、それなりに儲けていた時期もあった。
でも突然仕事がなくなってきて、最近はあまりテレビに出ているところすら見かけない。
それに輪をかけたようにお母さんの金遣いの荒さは最悪。
- 78 名前:6 追いかける、その先。 投稿日:2004/04/06(火) 14:45
- 世間的にはそれなりに立派な家庭に見えても、そんなんでうちの家はやっていけるはずがなかった。
それで、少しでも食いぶちを減らそうと小学生のみきねぇを養子にやった。
よく考えれば最低の両親だった。
あたしのこともみきねぇのことも、愛しているはずがなかったんだ。
「この子、美貴の友達の松浦亜弥ちゃん」
「初めまして、れいなちゃん」
みきねぇの友達だっていう松浦さんはすごく可愛い人だった。
その気になればアイドルにもなれるだろう。
あたしは無理を承知で、二人にこう言った。
「あのさ…今、昨日から行方不明の友達を探してるんだ。みきねぇと松浦さんも、もしよかったら
一緒に探してくれませんか?」
二人は行方不明という言葉を聞いてすごく驚いたようだった。
- 79 名前:6 追いかける、その先。 投稿日:2004/04/06(火) 14:53
- 「行方不明って…やばくない?」
「警察には届けたの?」
松浦さんの言葉にあたしは頷いた。
「その子のお兄ちゃんが警察には連絡しました」
「お兄ちゃんって…親は何してんの?」
「知らない。親はほとんど家に帰らないらしいですし、電話も繋がらないみたいです」
「ったく、自分の子供の一大事に親は何やってんだ!!」
みきねぇは苛立ったように髪をかきむしった。
そしてこう言った。
「わかった。手伝うよ。ってか手伝わせて。ねぇ亜弥ちゃん」
「うん。目の前でこんなことが起こってるのに見逃せないもんね」
そしてあたしはみきねぇと松浦さんを連れて、もう一度ファミレスへ入った。
- 80 名前:6 追いかける、その先。 投稿日:2004/04/06(火) 15:03
- * * * *
「…というわけで、この二人にも手伝ってもらいたいんです」
一通り紹介を終えてあたしは言った。
というか、最初から紹介などしなくてもよかったのだ。
みきねぇと松浦さんは矢口さんの高校の後輩で、みきねぇと飯田さんはバイトの先輩後輩、
松浦さんと安倍さんは住んでるアパートが同じらしい。
「絵里も、人数は多いほうがいいと思います」
絵里は控えめにそう言った。
すると矢口さんも快く承諾してくれた。
「じゃあ一応警察には届けたんだから、あとはうちらで何とかするしかないね」
ドラマみたいなせ台詞を飯田さんは言った。
安倍さんはそれに頷く。
「そのさゆみちゃんの行きそうなとこって、見当つく?」
「さぁ……彼氏の家とか、ですかね」
安倍さんの問いにあたしは歯切れの悪い返事を返した。
考えてみれば、あたしも絵里も、友達なのにさゆのことをあまり知らない。
そう考えると悲しい。
- 81 名前:6 追いかける、その先。 投稿日:2004/04/06(火) 15:16
- 「その彼氏の家はどこにあるの?」
「確かー…東京の人だったと思います」
「東京!?電車でも時間かかるよぉ」
うなだれる安倍さん。
さゆ捜索は何の情報もなく0からのスタートになるのだろうか。
あたしは必死にさゆの行きそうな場所を考える。
すると隣で絵里がとんでもないことを言った。
「あのー、これは単なる予想ですけど…もしかしてさゆ、自分でどこかに行ったんじゃなくて誰かに連れて行かれたんじゃ
ないですか?」
「…どういうこと?」
「だって自分でどこかに行くんなら、さゆは一旦家に帰るはずです。さゆは昨日ケータイを持ってなかった。お嬢様で、しかも
ちょっとケータイ依存症のさゆなら、長く外出するときケータイを持っていかなかったりお兄さんに何も言わずに出て
行ったりすることはまずありえないと思います」
絵里は一気にまくし立てた。
短時間で考えたにしろ、絵里の話は筋が通っていた。
「…確かに、亀井ちゃんの言うとおりかも」
しばらくして口を開いたのは松浦さんだった。
- 82 名前:6 追いかける、その先。 投稿日:2004/04/06(火) 15:31
- 「だって二人の話よると、道重ちゃんはケータイ依存症…とまではいかないけど、ちょっとそれ
っぽいふしがあるワケでしょ。そしたらそう考えるのが確かに自然だと思うなぁ」
絵里も松浦さんも相当頭が切れる。
あたしは頭の中がぐちゃぐちゃで、普段ならわかることも考えられなくなってる。
静寂の中、あたしのケータイが鳴った。
さゆの名前が表示されているってことは、お兄さんからの着信だ。
「…もしもし?」
「れいなちゃん?あのさ、昨日遊んだ時、さゆみペンダントしてた?」
「え?ちょっと待ってください……」
あたしの記憶ではさゆはシルバーのペンダントをしていた。
たまにしか会えない彼氏さんと、おそろいで選んだモノらしい。
確認のため、絵里にも声をかける。
「昨日さゆ、ペンダントしてたよね?ほら、絵里がいいなぁ〜って言ったヤツ」
「そういや、してたねぇ」
思い出したような声を上げた絵里の隣で、あたしは電話口のお兄さんに話しかけた。
「お兄さん、さゆペンダントしてました。シルバーのヤツ」
「ホントか!?…ちくしょう!」
「どうしたんですか?」
するとお兄さんは小さい声でこう言った。
- 83 名前:6 追いかける、その先。 投稿日:2004/04/06(火) 15:52
- 「一旦家に戻ろうと思って、歩いてたら…見たことのあるペンダントが道に落ちてたんだ。
さゆみのだ。とすると、さゆみは誰かに無理矢理連れて行かれたっていう考えが一番自然だ…。
警察にも届けた。すぐ捜査してくれるって言ったけど、これじゃどうにも……」
お兄さんは弱気になってる。
あたしは受話器の向こうのお兄さんに声を張り上げた。
「諦めちゃダメです!あたしらも一生懸命探しますから、お兄さんも諦めないで!また何かあったら
連絡ください。あたしらも出来る限り頑張りますから!」
そう言って一方的に電話を切った。
このまま話してるとお兄さんは弱音ばかり吐きそうな気がした。
今はそんなものを聞いてる暇はない。
何よりもさゆを最優先に考えなきゃ、さゆは帰ってこない気がした。
「お兄さん、何て?」
絵里はあたしの様子を見て、心配そうに言った。
怒ってるように見えたんだろうか。
矢口さんやみきねぇも心配そうだ。
「…さゆが昨日つけてたペンダントが、家までの帰り道でみつかったそうです。お兄さんも、誰かに連れ去れたんだ
ろう…って」
- 84 名前:6 追いかける、その先。 投稿日:2004/04/06(火) 16:06
- すると今まで黙っていた矢口さんが口を開いた。
「行き先が見当つかない限り、その可能性にかけるしかないね…」
矢口さんの言うことはもっともだった。
とにかくここでこうしている時間も無駄なんだ。
すると突然絵里が立ち上がった。
「ここでこうしている時間は無意味に等しいと思います。
手がかりがなくても探しに行かないと、さゆは本当に帰ってきません」
はっきりした口調で言う絵里に、あたしも同意して立ち上がる。
みきねぇや松浦さんも、同意見のようで、立ち上がる。
「行きましょうよ、矢口さーん。うちの可愛い妹もその気みたいだし、亀井ちゃんの
言うことももっともだし、道重ちゃんだって助けを待ってますって」
みきねぇのこの言葉で、少し空気がほぐれた。
飯田さん、安倍さん、矢口さんもしょうがないと言った様子で、店を出たあたしたちの
後を追ってきた。
- 85 名前:遥 投稿日:2004/04/06(火) 16:21
- >>73 名も無き読者様
レスありがとうございますw
ホントにところどころ大変なことになってますけども。
最後のあの人ですけど、予想はあたりましたでしょうか?
まぁはずれることはないと思いますがww
次回からはさゆの行方がわかってくると思いますけども…。
ちょっとショックな内容かなぁ…。
そうならないように努力しますw
>>74 ゴロ様
初めましてww
毎回楽しみにしてくださってるんですか?嬉しいですねぇ。
数ある6期小説の中でも私のが特に好きだなんて……。
ちょっと褒めすぎですってw照れますよ〜。
これからもお付き合いいただければ幸いです。
- 86 名前:ゴロ 投稿日:2004/04/06(火) 16:48
- 付いていきますともーー!
急展開でドキドキしています
更新が多いので、うれしいかぎりです!がんばってください!
- 87 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/06(火) 17:13
- ショックってなんスか!?ショックって〜!?
あ、取り乱しました。(汗
更新お疲れ様です。
しかしまさか今流行りの・・・。(大汗
うぅ〜、怖いけど次回待ちます。
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/06(火) 19:05
- ○○ねぇキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!(ネタバレたくないんで…)
そして○○ねぇの彼女キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!(このCPの大ファンなんで…つい…)
ドキドキしすぎてやばいです。
続き待ってます。
- 89 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/07(水) 23:10
- * * * *
「どこを探したらいいのかなぁ?」
「とりあえず…どこでもいいから探そ。矢口さんやみきねぇたちも探してくれてるん
だから、うちらもボーっとしてらんないでしょ」
不安そうな絵里にあたしは言った。
飯田さんの案で、とりあえずあたしと絵里、みきねぇと松浦さん、矢口さんと飯田さんと
安倍さんに別れて捜索をすることになったのだ。
「れいな、ケータイ」
「あ、うん」
電話に出る。
みきねぇからだった。
「れいな?今美貴たち駅前にいるんだけど〜」
「何?何かあった?」
「何かあったっていうか…怒んないで聞いてほしいんだけどね」
「怒んないよ。早く言って」
そうは言ったものの、次の言葉を聞いてあたしは怒らずはいられなくなった。
- 90 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/07(水) 23:18
- 「うん、実はさっきね、黒い車を見たんだけど〜…運転してたのは若い
ちょっとキモいお兄さんで…後ろに乗ってたのって、道重ちゃんだった
ような…」
「はぁ!?何、見逃したの?」
「え?ああ…でも美貴たち写メでちょっと見ただけだし、違うかも…」
あははぁ、なんて困ったように笑った。
言い訳だ。
みきねぇが見たのは間違いなくさゆだろう。
あたしは何故かそう直感した。
「…わかった。みきねぇたち責めてもしょうがないし。とりあえずその車
どこ行ったの?」
「確か駅前通りから国道に出てって…どっち行ったっけ亜弥ちゃん?」
- 91 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/07(水) 23:27
- 奥からわかんなぁい、という声が聞こえた。
またみきねぇは困ったように笑う。
「わかんないや。とりあえず駅前周辺探すから。飯田さんたちにも連絡しとくね」
「あ、ちょっ!!」
切れた。
一方的に切りやがった、みきねぇ。
返事に困ったらとりあえずうまくやりすごそうってとこ、本当に変わってない。
あたしはとりあえずケータイをポケットに入れた。
「絵里、駅前周辺探すよ」
「藤本さんがそう言ったの?」
「黒い車を見たんだって。その中にさゆっぽい女の子が乗ってたって」
「え!?じゃあ早く行こうよ!」
あたしの腕を引っ張って、絵里は走り出す。
このときの絵里の表情に、あたしは何故かドキッとした。
やっぱり年上だけあっていざとなったらしっかりしてる。
あたしなんかよりも、きっとずっと。
「れいな、もっと速く走ってよ」
「うっさいなぁ。どうせ運動神経悪いですよーだ」
あたしがそう言うと、絵里はニコッと笑った。
また心臓がドキッとした。
- 92 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/07(水) 23:36
- 「別にそんなこと言ってないでしょー?」
絵里の声が、耳に響く。
あたしの手首から伝わる絵里の体温。
耳に響く声。
今までいっぱい見てきたはずの笑顔。
このときから、あたしは絵里に特別な気持ちを抱いていたのかもしれない。
「ほーら、はやく!」
「わかってるよ!」
あたしを先導する絵里の声を聞きながら、そんな不安定な想いを抱いて
とにかくさゆのためにあたしは走った。
* * * *
「とりあえず、この辺探してみよ」
あちこち見回しながらあたしは言った。
絵里は聞いてるのか聞いていないのか、ひたすら何かを呟いている。
「絵里?大丈夫?」
「あ?あー、うん。大丈夫。黒い車っていっぱいあるなぁって思って」
「ああ、確かに」
- 93 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/07(水) 23:46
- これにはあたしも笑うしかない。
どこを見ても嫌がらせのように似たような車ばかり。
黒い車という条件だけで探すには、少し無理がある。
「いいの、探すの。さゆが待ってるんだから」
自分に言い聞かせるようにあたしは言った。
絵里の手をぎゅっと握って、駅の周辺の黒い車を片っ端から探す。
きょろきょろと車の中を見てまわるあたしたちは、少し変態じみて
いるだろうか。
背中に感じる道行く人たちの視線が痛い。
あたしたちにも事情があるんだって大声で叫びたいところだが、何とか
こらえて順番に黒い車だけを見てまわる。
すると、あたしたち二人に向けられているだろう声が聞こえた。
「何やあの子ら?車上荒らしか?」
「まだ若いのに…物騒な世の中なのれす」
聞き覚えのある関西弁と、特徴のある舌足らずな口調。
振り返るとそこに立っていたのは、小川さんや高橋さんと同学年の
うちの学校の卒業生で問題児コンビで有名だった、加護亜依さんと
辻希美さんだった。
絵里はきょとんとしているが、あたしはここで二人に会えてとても
ラッキーだと思った。
- 94 名前:遥 投稿日:2004/04/08(木) 00:00
- >>86 ゴロ様
ついてきてくれますか!ありがとうございます!
確かにかなり急展開…しかも無理矢理だぁ。
あー…本当に文才がほしいです。
更新多いですか。ありがとうございます。
でも仕事が始まるとねぇ……。
>>87 名も無き読者様
大丈夫ですか!?
ショックっていうか……やっぱりショックですかねぇ。
今流行ですか?
さゆも流行に乗っちゃうんでしょうか……。
次からもっと急展開な予定です。
>>88 名無し飼育さん様
はい、きました!!
私もこのCP大好きなんです!!
つい…出しちゃいましたww
ドキドキしますかぁ。
この二人ももっと絡ませたいんですが、今はさゆで手一杯で…。
でもちょこちょこラブネタは出したいですねぇw
今日の更新はここまでです。
少ないです…すいません。
続きは明日更新します。
- 95 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/08(木) 16:20
- 更新お疲れサマです。
お、出た。
にしてもまたそんな殺生な発言を・・・。(汗
次回急展開とのコトで、期待してまつ。
- 96 名前:ゴロ 投稿日:2004/04/08(木) 21:53
- お・・・何気に田亀が・・・・・・
田亀大好きです!!!
これからもどんどんだしちゃってください!!!!!!
- 97 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 22:29
- 「辻さん加護さん!覚えてます?田中れいなです!!」
「あ〜。よくうちらの学年の女子とか2年生にいじめられとった子や!」
「覚えてるのれす。愛ちゃんの家の近所の子れすよね」
「はい!!そうです!」
どうやら二人とも覚えててくれていたようだった。
先輩にいじめられていたっていうのは、生意気な態度が気に入らないだとか
当時茶髪だったから髪の色が気に入らないだとかのくだらないこと。
あたしはまだ入学したばっかの1年生で、『自分は何もしていないのにこんな
いちゃもんつけられるなんて…中学ってコワいとこだな』くらいにしか思ってなかった。
それが逆に向こうは気に入らなかったんだろう。
あたしは学校でバケツいっぱいの水をぶっ掛けられて、その上気に入っていた自慢の茶色い
髪まで無理矢理黒くされたのだ。
とにかく水を掛けられて寒くて動けなくて、椅子に縛り付けられていたもんだから
抵抗することが出来なかった。
そのとき、まだ当時は話したことも無かったさゆがあたしを助けてくれた。
- 98 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 22:37
- 別にあたしを縛っていた奴らをぶっとばしたわけでもなかった。
たださゆがにっこり笑って「センセー」と叫ぶと、先輩たちはあたしを
置いて逃げていったのだ。
でもその時はもう遅かった。
あたしの髪は見事な黒色に染まってしまっていて。
家で必死に落とそうとしたけど絵の具じゃあるまいし落ちなかった。
まぁそんなこんなで、あたしは校内でも結構有名な存在だった。
もともと高橋さんとは面識はあったし、その友達である先輩たちと
仲良くなるのにはそう時間は要らなかった。
そしてその事件以来、特定の友達をあまり作らなかったあたしの世界が
一気に広がっていったんだ。
「…で、田中ちゃんは何してんの?車上荒らし?」
「違います。実は…友達を探してるんです」
「迷子なんれすか?」
- 99 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 22:46
- いやいや。
いくらさゆが天然でも自分の住んでる町で迷子にはなりません。
そう言おうとしたら加護さんの鋭い突っ込みが。
「のの、ボケたこと言わんでもエエ」
「あい」
まるで小さい漫才コンビだ。
そう思ったあたしの隣ではまだ状況を飲み込めていない絵里が目を
白黒させている。
「あー、絵里、こちら小川さんたちのお友達であたしの先輩の、
加護亜依さんと辻希美さん」
「よろしくな。絵里ちゃんっていうん?」
「はい。亀井絵里です」
「あいぼんあいぼん、この子あさ美ちゃんの後輩の子れす」
「あー。そういや言うてたなぁ」
あたしが止めないと無駄なおしゃべりが始まりそうだ。
早く本題を切り出さないと。
「あの!」
「な、何やいきなり!?」
「頼みがあるんです!」
- 100 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 22:54
- 土下座でもしそうないきおいであたしは言った。
絵里もとなりで小さく頭を下げる。
「一緒にさゆを探してください!」
「お願いします!」
「ちょ、ちょっ!こんなとこで頭下げんといてぇなぁ」
「お願いします!!」
周囲の人の視線が痛い。
加護さんも辻さんもちょっとパニック状態だ。
無理を承知であたしは必死に頭を下げた。
そういえば今まで生きてきた中で、こんなに必死に頭を下げたのは初めてだと思う。
「あいぼん…」
「しゃあないなぁ」
そして返ってきたのは、加護さんの意外な一言だった。
- 101 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 23:14
- 「わかった。そこまで言うんやったら、手伝ったるわ。なぁのの?」
「当たり前なのれす。正義の味方に二言はないれす」
「そういうこっちゃ、田中ちゃん、亀井ちゃん」
あたしはゆっくり顔を上げた。
絵里も同時に顔を上げて、あたしに向かって微笑んだ。
やめてよ絵里…
何かわかんないけど、ドキドキするじゃんか。
やったねれいな、なんて言って笑う絵里にあたしはぎこちない笑顔を返した。
果たしてちゃんと笑えていたんだろうか。
絵里はさして気にしない様子だった。
「んで、いなくなった友達ゆうんは?」
「あっ。この子です。名前は道重さゆみです」
あたしはケータイを取り出し、この間絵里とさゆとあたしの3人で
撮った写メを見せた。
「何や、可愛い子やん」
「お人形さんみたいれすね」
「あんまり褒めないで下さいね。本人に言うと調子のりますから」
「さゆはナルシストなんです」
いや、絵里が言えることでもないと思うけど。
いつもいつもさゆとどっちが可愛い?なんてよく聞きにくるくせに。
「田中ちゃんたちはあっちを探すのれす」
「うちらはこっちを探すから。何かあったら連絡するわ」
「ハイ、お願いします」
二人が走り去っていくのを見る。
絵里はまたあたしの手を取った。
「ほら、絵里たちも行くよ。れいな足遅いんだから急がないと」
「う…うっさい!言われなくても行くよ!」
終始、絵里のペース。
しかしあたしはそんなに嫌じゃなかった。
おっかしいなー……昔は自分が引っ張っていかなきゃ気がすまない
性格だったのに。
あたしも世界が広がっていくにつれて、だんだん丸くなったんだろうか。
大人になったんだろうか。
「れいな遅い!!」
「は、ハイっ!」
- 102 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 23:23
- ボーっとしながら走っていたら速度がだいぶ落ちていたみたいで、絵里の怒号が
響いた。
そうだ。今はさゆのことだけを考えなきゃ。
他のことなんてどうでもいい。
さゆのことだけ。
足の速い絵里に遅れないように必死に走っていると、あたしたちのすぐ
横を黒い車が通った。
その後ろの席には確かにさゆが乗っていた。
「絵里ィ!!」
「なに?」
「今の…今の車だ!!」
「何が?」
「ああもうっ!」
いつもならこんなに怒んなかったかもしれない。
でも何故か今のは特別腹が立った。
「だからぁ!今の車にさゆが乗ってた!!」
「は!?そんなことは早く言ってよぉ!」
「絵里が聞かなかっただけじゃん!」
そんな口論をしながらも必死にその車を追いかける。
絵里はどんどんスピードを上げていくけど、あたしはだんだんスピードが
落ちてくる。
- 103 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 23:29
- くやしい。
くやしいけど、とてもあたしの足じゃ追いつけない。
「絵里、先行って…」
「え?れいな?」
スピードを落とすあたしを振り返り、絵里は言った。
その間に車との距離は広がっていく。
「あたしを置いて先に行って。絵里の足なら大丈夫。あんな車なんか
すぐに追いつけるから」
「ちょっとれいな!」
絵里もあたしに合わせてスピードを落としてきた。
あたしは残っている体力で声を張り上げた。
「絵里は先行ってってば!あたしはその間に矢口さんやみきねぇや加護さんに
連絡しとくから。大丈夫。何かあったら電話してよ」
- 104 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 23:34
- 有無を言わせぬ口調で言った。
絵里はまだ車とあたしを交互に見つめる。
「れいな、すぐ追いついてよね」
「わかってる」
「絵里がどこ行っても見つけてよね」
「わかってる。絵里ってば大げさ」
そう言って笑った。
絵里もふわっと笑って、走り出した。
「任せて!絵里ならあんな車くらい楽勝で追いつけるから!」
「おう、任せた!」
あたしがそう叫んだときにはもう絵里の姿は遠くに見えていた。
- 105 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 23:42
- * * * *
「もしもし矢口さん?車見つけました。さゆも乗ってました」
「マジ!?で、その車は?」
「絵里が走って追っかけてくれてます。あいつ足めっちゃ速いんで、多分
余裕で追いつけますよ。念のため矢口さんたちも川原の近くぐらいまで行って
下さい」
「おう。わかった」
「・・・あの、矢口さん」
「ん?」
もう走り出しているのだろうか。
荒い息遣いと足音が聞こえる。
「女が女を好きになるって、おかしいでしょうか?」
勇気を振り絞って、そう言った。
矢口さんは笑った。
「何言ってんの?おかしいわけないじゃん。そんなのさ、偶然の産物って
もんなんだよ」
「…ですかね」
「当たり前。矢口さんを信じな。じゃ、また後で」
そう言って矢口さんは電話を切った。
偶然の産物か。
- 106 名前:7 隠された気持ち、彼女の行方は… 投稿日:2004/04/08(木) 23:58
- 矢口さんらしい。
そう思って、あたしは笑った。
公園の時計の針はもう夕方の5時をさしている。
遠くに見える夕日は、海の方へと沈んでいった。
* * * *
みきねぇにも加護さんにも電話して、とにかくあたしは走った。
自分なりに精一杯。
絵里に言われた通り足は遅いし、体力もあんまりないけど。
それでも走った。
さゆのために。
みんなのために。
そして……自分のために。
息が上がってきたけど、かまわずにとにかく走った。
絵里の姿はまだ見えない。
さゆの乗せられた車も見えない。
矢口さんたちやみきねぇたち、加護さん辻さんの姿も見えない。
それでも走らなきゃ。
そう思って走っていたら、右足に鋭い痛みを感じた。
あたしはその場に倒れこんだ。
「はぁ…はぁ…いったー…」
筋肉がびくびくしてる。
触ってもいないのにものすごい痛みが走る。
「ちょっとれいな、大丈夫!」
「れいなちゃん!」
倒れたあたしの視界に映ったのは、みきねぇと松浦さんの姿だった。
みきねぇに抱えられたあたしにはもう走れる体力など残されていなかった。
みきねぇにおんぶをされた。
背中から伝わる心音が、子守唄みたいに聞こえた気がした。
- 107 名前:遥 投稿日:2004/04/09(金) 00:10
- >>95 名も無き読者様
殺生ですかぁ(汗。
てゆーか急展開っていっても、仕事してきてしんどくて中途半端な
更新しか出来ませんで……。
とりあえず、明日こそはちゃんと急展開なハズです!
>>96 ゴロ様
田亀好きですか?嬉しいなぁw
私も好きなんです。
次回かその次くらいからもっとハードな話になります。
それでも田亀はどんどん出てきます!
今日はここまでです。
何かまた中途半端ですね…。
続きはまた明日。
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/09(金) 21:52
- 更新早くてすごいですね!
田亀大好き人間なので嬉しい展開です。
どうやらもっとハードになるそうで…
これからも楽しみにしてます!
- 109 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/10(土) 11:19
- 更新お疲れサマです。
おぉ、動き出しましたね〜。
次回こそ急展開とのことで、楽しみですw
- 110 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 13:31
- みきねぇの声が聞こえた。
松浦さんの声も聞こえた。
頬にあたる風が冷たくなっていた。
夕日も沈んで、すっかり辺りは暗くなって。
夜になったんだな、とうっすら感じた。
あたしが倒れてどのくらいたったんだろう。
絵里は今どこにいるんだろう。
そして。
さゆはもう、見つかったんだろうか。
「れいな!大丈夫?」
「みきねぇ……ここどこ?」
「あのさ、れいな…」
言いにくそうにみきねぇは言った。
松浦さんの声が、後ろから聞こえる。
「道重ちゃん、見つかったよ」
少し辛そうな声。
あたしの心は不安になった。
- 111 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 13:41
- 「本当…ですか?」
「うん。矢口さんたちと辻ちゃん加護ちゃんたちから連絡があった」
「そっか…」
「亀井ちゃんにも連絡しといたから。亀井ちゃん、れいなのこと心配してたよ」
みきねぇはそう言った。
絵里にも悪いことしたなぁ……。
あんな調子いいこと言っといて、結局みきねぇにおんぶされてる自分がいる。
情けない。
くやしい。
さゆを助けるのは自分だと思ってたのに。
絵里にもすぐに追いつけると思ったのに。
「道重ちゃんを見つけたのは、紺野あさ美ちゃんと高橋愛ちゃんと小川麻琴
ちゃんらしいよ。たまたま通りかかった川原に道重ちゃんがいたって」
「高橋さんたちが…」
びっくりしたんだろうなぁ。
さゆが一人で川原にいたなんて。
今にも高橋さんの驚いた顔が目に浮かぶ。
「みきねぇ、もう大丈夫。歩ける」
「ダメ」
「何で?」
「だって美貴はれいなのお姉ちゃんだもん」
「ハッ、何それ?」
- 112 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 13:52
- あたしは少しバカにしたように笑った。
「関係あんの?」
「ある。かなり。お姉ちゃんは妹を守るっていう義務があるんです」
「はぁ?」
後ろで松浦さんの笑い声がした。
みきねぇも声を上げて笑う。
「みきたんはれいなちゃんのお姉ちゃんだもんね」
「亜弥ちゃんわかってんじゃん」
「付き合い長いからね」
松浦さんの言葉が少しひっかかった。
付き合い長いってことは、松浦さんはあたしの知らないみきねぇを知ってるんだ。
公園で遊んでたときに近所の悪ガキとケンカしたみきねぇとか。
家の階段で思いっきりこけて泣いたみきねぇとか。
お母さんとケンカしてすねちゃったみきねぇとか。
お父さんに肩車されて笑ってたみきねぇとか。
あたしの面倒を必死に見てくれたみきねぇとか。
そんなあたしが知ってるみきねぇとは、違うみきねぇを知ってるんだ。
みきねぇはあたしのお姉ちゃんなのに。
ちょっと羨ましい。
- 113 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 14:00
- 「…お姉ちゃん」
ぽつりと呟く。
みきねぇは小さく笑った。
「何だい妹よ」
「あたし、絵里が好きかもしれないです」
「恋のお悩みですか。大きくなったね、れいな」
みきねぇは気持ち悪がらないの?
松浦さんも何も言わずにニコニコしてるし。
どうして二人とも気持ち悪がらないの?
「…絵里のことが好きかもしれないれいなは、おかしいですか?」
「全然」
「何で?」
「じゃあれいなはさ」
みきねぇは立ち止まった。
あたしを背中からおろして、あたしの目をまっすぐ見据える。
「どうして、おかしいって思うの?」
それだけ言うと、あたしの手をしっかり繋いで歩き出す。
あたしは答えられなかった。
理由はいくらでもあるのに。
- 114 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 14:12
-
偶然の産物。
確かにそうかもしれない。
あたしはみきねぇと松浦さんに見つからないように、微かに笑った。
* * * *
「お、矢口さんたちだ」
みきねぇはそう言うと、あたしの手を離して走り出した。
すると松浦さんはあたしの隣に来て、一言だけこう言った。
「れいなちゃんさ…道重ちゃん見ても、ショック受けないでね。取り乱したりしないでね」
「ハイ?」
松浦さんは何も言わず、みきねぇの後を追った。
その言葉の意味がわからないまま、あたしはさゆの元へ歩み寄った。
隣には絵里がいた。
絵里は何も言わなかった。
「…さゆ?」
呼びかけても返事はなかった。
聞いていないだけかと思った。
見た目だけじゃ、どこがおかしいのかわからなかった。
でもさゆの目は人形みたいで、感情と思われるモノは感じられなかった。
顔色は青白い。
顔は同じでも、いつものさゆじゃなかった。
- 115 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 14:21
- 「絵里…さゆ、どうしちゃったの?」
「れいな…」
「ねぇ、何でさゆ、喋んないの!?」
「れいな!」
絵里はあたしをなだめようと大声を出した。
彼女の目には涙がたまってあった。
さゆはやっと我にかえったのか、あたしと絵里を心配そうに見ていた。
そんなさゆが、視界の端に映った。
でも彼女は何も喋らない。
ただ心配そうに、青白い顔であたしたちを見ているだけ。
「重さん、あーしらが見つけた時から何も喋らんのよ」
高橋さんがうつむきがちに、重い口を開いた。
いつも元気な辻さん加護さんも黙りこくっている。
「田中…道重は多分、黒い車の男に無理矢理連れて行かれて、それで……」
矢口さんが次に何を言うかはもう見当がついた。
とにかくあたしはその言葉を聞きたくなかった。
- 116 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 14:28
- 「それで重さん、そいつに…」
「もういいです!そんなの聞きたくない!!」
そう叫ぶと、矢口さんは無言で俯いた。
飯田さんがあたしの肩をポンポンと叩いた。
その場に沈黙が続いた。
「さゆみ!」
さゆのお兄さんの声が聞こえた。
安倍さんが言った。
「亀ちゃんが連絡してくれたんだよ」
お兄さんはさゆに近づく。
さゆはただただお兄さんの顔を見つめている。
彼女は何も喋らない。
あたしはやっと確信した。
さゆは喋らないんじゃなくて、喋れなくなったんだ。
そう考えた瞬間、体全体の力が抜けた。
この間さゆがうちのお母さんに言った力強い一言が、脳裏にフラッシュバックした。
- 117 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 14:36
- 「さゆみ、さゆみ…お兄ちゃんだぞ」
「お兄さん、重さんは……」
紺野さんは、呆然としたお兄さんに事情を説明した。
お兄さんは何も言わなかった。
あたしのように取り乱したりすることもなく、ただ黙っていた。
心のどこかでこうなることを予想していたんだろうか。
「そうか…」
「とりあえず、病院行きましょうよ」
「ああ。うちの親がい病院へ運ぼう。皆さんは一旦、家に帰った方が…
もう、暗いし」
お兄さんはさゆを担ぎ、静かに言った。
車の助手席にさゆを乗せ小さく一礼をすると、病院の名前を行って車を走らせた。
あたしは呆然と、川原のほうを見た。
水面に映る月はまるで、あたしたちを嘲笑しているようだった。
- 118 名前:遥 投稿日:2004/04/11(日) 14:40
- お兄さんの台詞で、
「うちの親がい病院………」
となってますが、正しくは
「うちの親がいる病院」です。
すいません。
続きは夕方か夜に更新します。
レス返しも、その時に。
- 119 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 22:37
- * * * *
「れいな、帰ろ?」
絵里に言われて無言で頷いた。
高橋さんたちや辻さん加護さん、それに矢口さんはそのまま病院に向かったようだった。
あたしも行きたかったけど、ダメだとみきねぇに言われてしまった。
今のあたしじゃ、さゆの前で平静を保っていられないと判断したのだろう。
確かにそれは正解だった。
「もう八時じゃん…」
「みきたんはれいなちゃん送ってってよ。あたしは亀井ちゃん送ってく」
「あ、いえ」
絵里はへらっと笑って松浦さんに言った。
- 120 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 22:45
- 「絵里は病院に行きます。もう高校生ですし、大丈夫ですよ」
「そう?じゃあ…あたしも行こっかな」
松浦さんは言った。
みきねぇは「行ってきなよ」と返事を返し、小さく笑った。
「美貴も後で行く」
「ん、わかった」
じゃあ行こっかぁ。
そう言ってあたしたちに背を向けて歩き出す二人を見送った。
「帰ろうか」
「うん」
小さく頷いて、あたしはみきねぇの手を握った。
昔―――あたしたちが姉妹だったころ、何度も繰り返されていたこのやり取り。
そう言えば、公園に遊びに行ってもなかなか帰らないのは、みきねぇの方だった。
いつもあたしが泣きそうな顔をして、「もう帰ろうよぉ…」って言ってた。
- 121 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 22:50
- その頃のあたしは泣き虫だったなぁ。
いつも一人じゃ何も出来なくて、みきねぇがそばにいてくれないといじめられてしまうような子供だった。
何となく懐かしいやり取りに、自然と笑みがこぼれた。
家までの道をみきねぇと歩く。
こんなことはもう無いんだろう、そう思った。
それでも不思議と、あたしは悲しくはなかった。
* * * *
「久しぶりだぁ、この家」
変わってないなー、なんて。
変わらないのはみきねぇも同じだよ、と言いたくなったけどやめておいた。
- 122 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 22:56
- 「じゃあね、れいな」
「え?入んないの?」
せっかくここまで来たのに。
ここは、みきねぇの家なんだよ。
「だってねぇ、何か…入りづらいし」
困ったように笑うみきねぇ。
何だかちょっとムカついて、あたしは無理矢理みきねぇの手をとった。
「え!ちょお、れいな!?」
「ここはみきねぇの家なの!入りづらいもクソもない!」
思いっきり抵抗するみきねぇ。
かまわずにあたしは、いきおいよく家のドアを開けた。
「ただいまぁ!」
大声で叫んだ。
多分誰もいなけど。
- 123 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 23:02
- いいんだ、別に。
誰かに聞いてほしくて言ったんじゃないから。
「おかえり」
それでも返事は返ってきた。
あたしは拍子抜けして、みきねぇの手をぱっと離した。
「今、おかえりって聞こえた気がしたんだけど……」
「ああ、聞こえたねぇ」
平然とみきねぇは言う。
あたしはほとんど放心状態だった。
「おかえりって言ってるでしょ。玄関先で何やってるの」
笑い声に混じって、そんな声が聞こえた。
お母さんだ。
そして笑っているのはお父さん。
- 124 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 23:11
- 「れいな、行きなよ」
あたしを察してか、みきねぇは言った。
振り向くと、申し訳なさそうな顔で笑うみきねぇがいた。
「やっぱさ、美貴は行けないよ。もう何年も会ってないし、それに…」
そこでみきねぇは言葉を詰まらせた。
あたしが黙って首をかしげると、また笑った。
その笑顔が、絵里よりもお母さんに似ていた。
恥ずかしそうにあ頭をかく癖は、お父さんそっくり。
「今の美貴の家族はさ、藤本家の、みんな。だから会えないよ」
それを聞くと、何だか少し安心した。
みきねぇは新しい家族の人たちと幸せに暮らしてるんだなってわかったから。
- 125 名前:8 さゆ。 投稿日:2004/04/11(日) 23:20
- あたしの勝手でそれを壊しちゃいけない。
みきねぇの幸せを壊す権利はあたしには無い。
「…みきねぇは、あたしのお姉ちゃんだよね、ずっと」
「うん。そんなの当たり前だってば」
「それなら…うん。それならいいや」
精一杯の笑顔を見せたら、みきねぇも笑ってくれた。
お母さんとお父さんの笑い声が静かな家中に響いた。
「美貴、病院行っとくから。後で来れたらおいで」
またね、って手を振って。
みきねぇは家を出た。
あの日家を出たときより、やっぱり今の方が少し大人になっていた。
ただ変わらないことは。
彼女はずっとこれからも、田中れいなのお姉ちゃんだということ。
- 126 名前:遥 投稿日:2004/04/11(日) 23:33
- >>108 名無し飼育さん様
更新早くてすごいですか。
何か、なるべく毎日更新しようと思ってるんで嬉しいですねw
田亀好きさん多いですね、私もそうですが。
だんだんハードっていうか…ショックな内容になる予定です。
ただ、ショックなままでは終わらせませんので!
>>109 名も無き読者様
やっと動きだしました。
いやぁ、これからが大変ですww
次こそって言っといて…全然急展開じゃない(汗。
またさゆの身に何か起こります。
あっと、これ以上言ったらネタバレだぁ。
というわけで、今日はここまで。
仕事再開しましたが、夕方には帰ってこれるので出来るだけ更新します。
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/12(月) 20:48
- うぅ〜(涙)
し、重さん…(T-T)
姉妹の絆、最高です。
続き楽しみしてます。
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 01:13
- 重さん・・更新まってます、!
- 129 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/13(火) 11:47
- 更新お疲れサマです。
あぁ・・・、重さん。。。
心配だぁ(涙
この姉妹も切ないけどイイ感じですねぇ。。。
続きも楽しみにしてます。
- 130 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/18(日) 20:01
- * * * *
みきねぇが家を出て、あたしは廊下に立ちつくしていた。
お母さんの呼ぶ声が聞こえて、お父さんの笑い声が聞こえて。
何だか夢の中にいるようだ。
こんなことはもう、無いと思っていたから。
「れいな、おいで」
部屋から優しい声がした。
あたしのことを呼んでくれている。
いまさら、どうしようと言うのだろう。
そんな疑問を抱たまま、あたしはふらふら部屋へ入った。
ソファにお父さんとお母さんが座っていた。
二人とも幸せそうに笑いながら、あたしを見ている。
- 131 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/18(日) 20:08
- 「何突っ立ってるの」
何も言えないでいるあたしにお母さんが言った。
その隣で、お父さんがコーヒーを口に運んだ。
ふらふらふらふら。
状況が飲み込めないあたしは、おぼつかない足取りでお母さんの隣へ座った。
昔買ったマグカップに、あったかいココアをいれてもらった。
「れいな、久しぶりだな」
ニコッと笑ったお父さん。
テレビで見たときよりも少し老けて見える。
これが本当のお父さんの姿なんだ、って一人で勝手にそう思った。
「二人とも…何で?」
絞ったような細い声で言った。
あったかいココアを口に運ぶ。
口の中に甘い味が広がって、何だかすごく安心する。
- 132 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/18(日) 20:17
- 「ごめんね、れいな」
お母さんはあたしを抱きしめた。
肩は震えていて、とても小さく見える。
とても強く抱きしめられているからか、身動きがとれない。
「何が?」
「この間、ひどいこと言っちゃったね。あの女の子に言われてから、ずっと
考えてたの。あたしは母親失格だね」
「………」
何も言えなかった。
あたしもそう思ってたから。
お父さんもお母さんも嫌いだって、毎日そう思ってて。
もううちは家族なんかじゃないって思ってた。
「でもねれいな、本当にお母さんはれいなを愛してるの。お父さんも同じよ」
「…うん」
- 133 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/18(日) 20:26
- お母さんの肩越しにお父さんの顔が見えた。
情けなさそうに笑って、俯いた。
あたしはそれを見てから、ずっと言いたかったことを口にした。
「愛してるなら、どうしてそばにいてくれなかったの」
震える声でそう言うと、お母さんの抱きしめてる腕を振り払った。
久しぶりに近くで見たお母さんの顔はしわが増えてて、お父さんと同じように
歳をとっていた。
「お金なんてどうでもよかった。借金があっても全然かまわない。でも…」
言葉に詰まるあたしの手をお母さんは優しく包み込んだ。
あったかくて、みきねぇの手よりも少し小さく感じた。
「でも、何だ?れいな」
お父さんの声が優しく耳に響いた。
手の温もりや、優しい言葉だけで、どうしてこんなに人の心をあったかく
優しくすることが出来るのだろう。
- 134 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/18(日) 20:36
- 今まで誰に何を言われても、どんなに優しい言葉をかけられても。
あたしの心はここまであったかくなることはなかった。
それは例えさゆや絵里でも同じだった。
目が熱い。
涙が出そうになったけど、何とかこらえた。
「でも…あたしは、お父さんとお母さんがいてくれればよかったぁ…っ。
みきねぇがいなくなって、二人が仲悪くなって、あたしはこの家で一人に
なった…それでも我慢したよ…」
途切れ途切れだけど。
なかなか上手く伝えられないけど。
それでも伝えたい。
今まで言いたかったけど言えなかったこと。
今、伝えたい。
「だってあたし…二人のこと、ほんとは大好きなんだもん…」
言った。
言ってしまった。
今まで上手く言葉にならなくて、言いたかったのに伝えられなかったコト。
一番伝えたかった言葉はこんなにも短いものだけど、でもこんなにも
あったかい、幸せの言葉だった。
- 135 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/18(日) 20:46
- 二人は泣いてるみたいだった。
あたしも涙が溢れて、それは止まってくれることはなかった。
しばらく、部屋の中はあたしとお父さんとお母さんの嗚咽でいっぱいだった。
その沈黙を破ったのは、お父さんだった。
「今日な、お父さん仕事辞めてきたんだ」
意外な言葉だった。
仕事一筋だったお父さんがその仕事を辞めただなんて。
理由が見つからない。
「お父さん、れいなとお母さんと、もう一度幸せになりたいんだ。美貴を
大人の勝手な都合で手放して、もうそのときからお父さんの子供に対する
気持ちがいい加減なものになっていった。でもな、お父さんもれいなと
お母さんのことが本当に好きなんだ」
あのいじわるな目つきを思い出す。
今のお父さんにはそんな感じは全然しなかった。
むしろ、あたしがまだ小さかったときの目と全く同じような感じ。
よくわからないけど、とにかくそんな感じ。
- 136 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/18(日) 20:54
- 「だから今日お母さんに連絡して、この家に戻ってきたんだ。れいなとちゃんと
話をして、もう一度家族みんなで幸せになろう」
幸せになろう。
そんなこと言われたらまた、涙が止まらないよ。
どうしよう。
もう無理だと思ってたのに。
あたしにはまだ、幸せになれる道が用意されてるんだ。
「幸せに、なれるかなぁ」
「なれるよ絶対。お母さん、もう絶対にれいなとお父さんの手を離したり
しないから」
「お父さんも、れいなとお母さんを大事にするよ」
二人の泣き笑いのような顔が妙に眩しくて。
あたしは溢れる涙をぬぐいもせずに、ぐちゃぐちゃの顔で笑った。
これが二人への、あたしなりの答え。
- 137 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/18(日) 21:08
- * * * *
みきねぇが出て、結構な時間がたっていた。
あたしは冷めてしまったココアのかわりに、冷たいお茶を飲んだ。
泣きすぎてのどが熱かったから、冷たいものがちょうどよかった。
「れいな、どこ行くの?」
コートを着て玄関先でスニーカーを履いているあたしを見て、お母さんは不思議そうに
言った。
まだ少し目が赤い。
きっとあたしはもっと赤いだろう。
まるで、ウサギみたいに。
「友達が病院にいるから、行ってくる」
「今から?もう遅いじゃない」
「いいの。行かなきゃダメなの」
「それならお父さんが送っていくよ」
車の鍵を持って得意そうに笑うお父さん。
お母さんはしょうがないという顔をして言った。
「何かあったら電話しなさいね。必ずよ」
こういうときのお母さんはすごくしっかり者だ。
あたしは見られないように笑った。
- 138 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/18(日) 21:14
- 「じゃあ、行こうか」
お父さんは車に乗り込んだ。
あたしも助手席に乗り込む。
久しぶりのお父さんの車。
これからまた、家族で乗れたらいいな、って思った。
さゆのいる病院まであと少し。
何か、ドキドキする。
大丈夫かな。
あたしはちゃんと、真っ直ぐにさゆを見ることが出来るだろうか。
- 139 名前:遥 投稿日:2004/04/18(日) 21:28
- >>127 名無し飼育さん様
重さんがねぇ…どんどん不幸になるかも…。
ただ重さんはすごく重要な人なんで、そのままでは終わりません。
姉妹の絆はすごいです。最強です。
私、最近みきれなにハマっちゃってww
出来ればもうしばらく書いてたかったです。
>>128 名無し飼育さん様
何か結構間があいてしまいました。
久々の更新です(汗。
重さんは次くらいで出てきます。
>>129 名も無き読者様
重さん、ちょっと可哀そすぎましたかねぇ。。。
やりすぎだったかな(汗。
でもこのくらいでは終わりません。
重さんはとにかく重要なんです!
姉妹は切ないです…みきねぇさんの姉貴っぷりが特に。
続きも頑張りますよw
- 140 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/19(月) 16:47
- 更新乙です。
とりあえず良かったデスね。
良かったんだけど・・・、重さん。。。(涙
重要な役というコトですが、
どう重要なのかが気になります。
続きも期待w
- 141 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/29(木) 23:01
- * * * *
「あとで電話するから」
一言そう言うと、あたしは病院の中に入っていった。
大きい病院。
どうやらここの院長はさゆのお父さんのようだ。
「あの、今日入った道重さゆみさんの病室は…」
「少々お待ちください」
若い受付けの女の人はパソコンをいじくり始める。
辺りを見回すと、夜の病院って感じがした。
暗くて重い雰囲気が漂う、まるで一種の監獄のようだ。
いや。
入院している人たちにとっては、ここは本当に監獄当然なんだろう。
「道重さんは、305号室です」
「あ。どうもありがとうございます」
- 142 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/29(木) 23:09
- 軽く一礼。
薄気味悪いロビーを駆け抜けて、あたしはエレベーターへと走った。
暗い廊下を駆け抜けて。
いきおいよくエレベーターへ入る。
狭いエレベーターの中で一人、あたしはさゆのコトを考えていた。
「ちゃんと出来るかな…」
取り乱さないでいられるか。
いつものように冷静でいれるか。
もしかしたらまた気が動転して、万が一でもさゆを傷つけてしまうかも
しれない。
それだけは絶対にできない。
こういうときこそ、あたしが冷静でいなきゃ。
さゆを少しでも安心させないといけないんだ。
エレベーターを降りて、真っ直ぐ病室に向かう。
病室の前には絵里やみきねぇたちがいた。
- 143 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/29(木) 23:16
- 「れいな、来たんだ」
みきねぇがそう言ってあたしの方に歩み寄った。
絵里が何か言いたそうだったけど、みきねぇが前に来てよくわからなかった。
「何だったの、お母さんたち」
「…うん。あとで話す。それより、さゆは?」
「あー…何か重さんのお父さんとお母さんが中にいるから」
病室には入れないのか。
何となくほっとして、ため息をついた。
その時、病室から大きな怒号が響いた。
「本当にこの子は、私の迷惑になることしかしないんだから!」
女の人の声。
さゆのお母さんだろうか。
きんきん響く、ヒステリックな金切り声。
- 144 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/29(木) 23:25
- 思わず耳を塞ぎたくなった。
絵里の顔が、悲しそうに歪んでいる。
この子とは、さゆのコトなんだろうか。
そうだとしたら、いつさゆが迷惑などかけたりしたんだろう。
「みきたん…」
「どしたの亜弥ちゃん?」
松浦さんも辛そうだった。
みきねぇの服の袖を強く握って、ただ俯いている。
「もう…ココにいるの辛いよ……」
「…そだね」
ちらっとみきねぇはあたしと絵里を見た。
そして、まださゆへのモノと思われる罵声の続く病室に目をやる。
「あのされいな…美貴も、ここにいんのしんどいよ…。何か、色々なことが
頭ん中ぐるぐるする…」
「ん…。大丈夫、みきねぇと松浦さんは帰った方がいいよ」
「ごめんね」
- 145 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/29(木) 23:33
- 申し訳なさそうにそう言って、松浦さんをつれてエレベーター方へ
向かった。
絵里と二人、取り残された廊下は何だか余計に暗く感じて。
何だか余計にあたしと絵里の存在が浮き彫りになった気がする。
「れいな…」
「なに?」
「絵里ね、考えたんだけど…」
「何を?」
微妙な距離。
絵里は足元に目線を落として、また話し始める。
「一番辛い思いしてたのって、きっとさゆだったんだよ」
「…うん」
「多分ね、頑張りすぎちゃったんだよ。さゆは」
「頑張りすぎた…って?」
「んー…よくわかんないけど」
- 146 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/29(木) 23:41
- ふっと笑う絵里。
足元を見つめて、少し大人っぽい仕草。
「きっとさ、あたしらも頑張らなきゃってコトじゃないの?」
頭に思いついた一言が、言葉となってそのまま口から出てきた。
あたしの言葉に絵里が顔を上げて、また笑う。
「そっかなぁ」
「そうだよ」
「絵里たちも頑張るの?」
「うん。よくわかんないけど」
何それ、って言いながらも絵里は微笑んでいる。
自然にあたしの顔にも笑みが広がってきた。
「れいなも絵里も、ちゃあんと頑張ってるよ」
柔らかい声。
決して大きい声ではないのに、広い廊下にそれは響いた。
- 147 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/29(木) 23:48
- 「…はっ。何それ」
「さあ?何だろ」
首を小さく傾げて、あははって笑った。
さっきからあたしと絵里の口をついてでる言葉はワケわかんないことだらけ。
それでも何だか二人は繋がっている気がして。
絵里に少し近づいた気がしたんだ。
* * * *
さゆの両親は、結局冷たい言葉だけを残してその場を去っていった。
あれが家族のいう言葉だろうか。
この間まではうちも同じような状況だったのに、今ではそれが嘘のようで。
家族というものを信じられるようになったあたしは、明らかに何かが変わっていた。
「藤本さんたちは?」
「帰りました」
「そうか」
お兄さんは軽く相槌を打つと、また少し表情を曇らせた。
- 148 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/29(木) 23:55
- さゆはベッドの上で、焦点が合わない人形のようにひたすらどこかを
見つめていた。
さっきのさゆのお母さんの言葉は、さゆにも届いている。
耳は聞こえているのに話せないというのは、本人ももどかしいだろうが
他人もイライラするのだろうか。
「お兄さん、さゆはどうしちゃったんですか?」
絵里がそう言うと、お兄さんはいっそう表情を曇らせた。
言ってしまった直後、絵里の顔もしまったという表情になる。
「…精神的ショックっていうのかな、そういうので言葉を発せなくなって
しまったらしいんだ」
「精神的、ショック…」
「こっちの言うことも聞こえてるし、思考もちゃんとしてるんだけど、
自分の言いたいことを口ではちゃんと言えないっていうの?いつ話せる
ようになるかもわからないし、もしかしたらずっとこのままかもしれない」
- 149 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/30(金) 00:03
- 「そんな…」
絶望的だ。
ずっとこのままかもしれないなんて。
本当にそうなってしまったら、あたしはさゆを連れてったヤツを絶対に
許さない。
そいつを殺しても、きっとまだまだ許せない。
「会話するときは、さゆみの話したいことを紙に書いてもらえばいい。
そうすれば、何とか会話は成立するよ」
「はい。あの…お兄さん、休んだ方がいいですよ?顔色、すっごい悪いです」
確かにお兄さんの顔は真っ青だった。
よほど疲れたんだろう。
「あたしら、今日はココに泊まります。さゆのことちゃんと見ておきますから、
お兄さんは休んでください」
「…そうさせてもらうよ」
- 150 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/30(金) 00:11
- そう言って椅子から立ち上がったお兄さんは、何だかとてもこの世の
ものとは思えないほど存在感が薄く感じた。
ほっておくと、そのまま消えてしまいそうだった。
「少し、風にあたってくるね」
その言葉を残し、お兄さんは病室を出た。
さゆと絵里とあたしだけになってしまった病室で、あたしは一人
考えていた。
言葉を発することが出来なくなったさゆ。
家族に何も言えないさゆのお父さん。
金切り声で娘や家族を罵倒するさゆのお母さん。
今にも消えてしまいそうなお兄さん。
もうさゆの家族は壊れてしまっているのではないか。
いや、これから壊れていくんだろうか。
あたしにそれを止めることが出来るだろうか。
- 151 名前:9 家族。 投稿日:2004/04/30(金) 00:14
- * * * *
そして。
この時あたしはまだ知らなかった。
お兄さんが、屋上から飛び降りたことを。
もう、死んでしまっていたことを。
この時あたしはまだ気づいていなかった。
何もかもが、音も無く崩れ去っていったことを。
まるで、砂時計のように。
何もかも。
- 152 名前:遥 投稿日:2004/04/30(金) 00:21
- >>140 名も無き読者様
一応れいなはよかったんですけど、重さん…。
とにかく痛く暗く、なるかも…(予定。
どう重要かというのは、まぁ見ていてくださいww
重さんはこれだけでは終わりませんので。
覚悟しといてください(爆。
今日はここまでです。
次の更新は出来るだけ早くしたいです(願望。
- 153 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/30(金) 09:10
- 更新お疲れ様です。
痛い、痛いよ遥さん。。。
まぁ自分も人のコト言えなくなってきてますが、、、
願わくば、重さんに幸あらんことを・・・。
次回もマターリ待ってます。
- 154 名前:ゴロ 投稿日:2004/04/30(金) 22:04
- お疲れ様です
・・・・・重さん・・・・
楽しみに待ってます
- 155 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 19:10
- * * * *
あたしが病院に駆けつけてからどれくらいたっただろう。
さゆは疲れて眠ってしまったようで、絵里もあたしと交代で眠りについていた。
お兄さんはまだ戻らない。
少し心配になったが、見に行く気にはとてもなれなかった。
「お兄さん、いくらなんでも遅すぎ…」
時計を見ると、もう夜中の3時だ。
お兄さんが出て行ってから何時間も経過している。
悪い予感がしてあたしはパイプ椅子から立ち上がった。
静かに部屋を出て、ナースステーションの前を通り過ぎようとする。
- 156 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 19:16
- しかしその時、ナースステーションから大声が聞こえた。
「病院の外に死体が落ちてる!?」
ドキッとした。
悪い予感が当たっていないことを願って、あたしはエレベーターに
駆け込んだ。
1階でおりて、そのまま走って出口に向かう。
そんなあたしの横を看護婦さんや医者たちが慌てた様子で通り過ぎていく。
玄関の自動ドアを抜けて、外へ出ると人だかりがあった。
悲鳴などが聞こえる。
あそこだ。
あたしは人をかきわけて、その人だかりの中心に行った。
- 157 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 19:22
- 「うわ…」
息を飲む。
あたしは初めて死体というのを目の当たりにした。
目を見開く。
だってそれは、まさしくお兄さんだったから。
傷だらけ血だらけではっきりわからないけど、間違いない。
何よりその服装が、数時間前のお兄さんと同じだったから。
「何で……」
独り言のように呟いた。
周りの人は警察に連絡したり、遺体の処理に忙しそうだった。
あたしはその人たちに連れられて、病院の中に戻った。
病室に戻ると絵里とさゆはまだ眠っていた。
- 158 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 19:26
- そんな二人の寝顔を見ると、何だかとても悲しくなってきて。
あたしは耐えられなくなって、小さいパイプ椅子の上で膝を抱えて
ぎゅっと目を瞑った。
次に目を開けたとき、外は完全に朝になっていた。
「…れいな、起きた?」
絵里の声が聞こえる。
病室に差し込む光が、やけに眩しく感じた。
「ん、起きた…」
目をごしごしこすって。
ベッドの上を見ると、さゆはいなかった。
- 159 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 19:33
- 「絵里、さゆは?」
「お散歩。車椅子に乗って、看護婦さんと。絵里もついていこうかと
思ったんだけど、れいなまだ寝てるし」
「行けばよかったのに」
寝起きの少ししゃがれた声で絵里に言う。
絵里は紙コップにミネラルウォーターを入れてあたしに手渡した。
それからふっと自嘲気味に笑った。
「そういうワケにもいかないでしょ。それに、お兄さんのこととかも
あるし…れいな、見たんでしょ?」
何を、と聞かなくてもすぐにわかった。
またあの時の光景が脳裏に蘇ってきて、何故か少し気持ち悪くなった。
「見た…やばかった」
「…別にどうだったかなんて言わなくていいよ」
「ゴメン」
- 160 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 19:39
- それからしばらく沈黙が続いた。
絵里と二人でいて、こんなに居心地悪くなったのは初めてかもしれない。
とにかく、この沈黙は何故か痛かった。
「…何か喋ってよ」
そう口を開いたのは絵里だった。
こんな声で喋る絵里をあたしは初めて見た。
「…だって、喋ることない。頭ン中ぐちゃぐちゃで」
「絵里もそうだもん。でも何か喋ってないと、おかしくなりそう」
「…あたしも」
それでも話題は見つからなかった。
沈黙が痛い。
痛い痛い痛い。
ちくちくして、すごく痛い。
- 161 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 19:46
- この空間にいるのが耐えられなくて、あたしは黙って椅子から立った。
そんなあたしを一瞥しただけで、絵里は何も言わなかった。
病室を出ようとしたとき、堰をきったように絵里が口を開いた。
「絵里を一人にするの?」
「…そんなつもりじゃないよ。ちょっと親に電話してくるだけ」
「本当に?本当にそれだけ?」
それには答えなかった。
とにかく今は、絵里から離れたかったんだ。
「ちゃんと戻ってきて。お願い」
「…わかってるよ」
- 162 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 19:53
- 面倒くさそうに返事を返して。
あたしは病室をあとにした。
突き刺すような絵里の視線が、さっきの沈黙より痛くて。
そして、とても苦しかった。
* * * *
「…うん…うん、ごめんね」
『それで、今日は学校どうするの?大変そうだから、休んでもいいのよ』
心配そうなお母さんの声。
あたしは少し笑いながら返事を返す。
「そんな…休めないでしょ?もうすぐ受験だし、勉強しとかないと」
『…そう?ならいいけど…』
「午後の授業だけ受けにいくから、あとで着替えに行くね。じゃあ、あとで」
電話を切って、ケータイをポケットに入れる。
何となく気が重くて、部屋へは戻りたくなかった。
- 163 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 19:58
- でも行くところがない。
諦めたようにため息をついて、仕方なくあたしは病室へ戻ることにした。
その途中、車椅子に乗ったさゆとそれを押している看護婦さんに遭遇した。
さゆはあたしの方を見てニコッと笑って、看護婦さんにあたしの方へ行く
ように促したようだった。
「さゆ…」
「田中さん…かな?それとも亀井さん?」
「あ。田中、です」
看護婦さんの問いかけに気が抜けたような返事をして、さゆに目を
落とした。
お兄さんがあんなことになったのを知っているはずなのに。
さゆは信じられないくらい笑顔だった。
- 164 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 20:03
- 「あの…あたしが押して病室まで行くんで、あとは大丈夫です」
「そう?なら、お願いするね」
ニコッと微笑み、看護婦さんは軽く会釈してナースステーションの
方へ戻っていった。
さゆと二人、病室への道を歩く。
そういえば車椅子ついたのって、はじめてかも。
「ねー、さゆ」
そう呼びかけると、さゆは少しあたしを振り返って首をかしげた。
なぁに、と言ってくれないのが寂しい。
とても寂しい。
「お兄さんがあんなことになって…何で笑ってられんの?」
一番聞いてみたかったことを口にした。
- 165 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 20:07
- でもそれは、一番口にしてはいけないことだったのかもしれない。
さゆは何も言ってくれない。
喋れないとわかっているのに、とても寂しくて悲しくて。
押しつぶされそうな気持ちになった。
「答えたくないなら、いいんだけど……」
すると、さゆは大きく首を横に振った。
こっちを振り向いて、口の動きだけで何かを伝えようとする。
さゆの綺麗な唇が、確かにこう動いた。
『あ・と・で・は・な・す』
- 166 名前:10 壊れ始めたあたしたち。 投稿日:2004/05/05(水) 20:14
- 「…そっか」
あたしは何だか複雑な気持ちになりながら、車椅子を押した。
病室が見える。
あそこには、絵里がいるんだ。
絵里が好きかも、と思った自分。
でも今は、出来ればあんまり会いたくない。
何なんだ、あたしは。
絵里が好きなのか?さゆへの好きとは違う意味で。
それともあたしは。
あたしは、絵里が、こわい?
今だけは、確かにあたしは絵里と会うのがこわかった。
絵里といると、絵里の顔を見ると自分がなくなりそうで。
必死に保っている自分が崩れそうでこわかった。
自分が自分じゃなくなりそうな感覚に陥るんだ。
どうしよう。行きたくない。
あの部屋には、あの中には。
『あたし』を壊す、こわい絵里がいる。
- 167 名前:遥 投稿日:2004/05/05(水) 20:23
- >>153 名も無き読者様
痛いです。かなり痛く仕上がっちゃいました(爆。
自分も痛い感じの好きなんでww
重さんに幸……頑張ります。
ってか、そちらも大変なことに……(汗。
どうかマターリ待っててください(願。
>>154 ゴロ様
重さん、やばいです(爆。
何か自分で書いててかわいそうになってきた…。
話が進むにつれて重さんが大変なことに…。
自分も重さんには幸せになってほしいんで、何とか頑張らにゃ。
頑張りますんで、まぁお楽しみにww
今日はここまでデス。
次の更新は…なるべく早くしたいです。
- 168 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/06(木) 16:55
- イタタタタタタ!!(ソウイウイタミジャネェダロ
・・・ごめんなさい、取り乱しました。。。
改めて更新お疲れ様です。
重さん・・・何かコワイんですが大丈夫でしょうか?
気になりますがマターリ待ってますw
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/06(木) 22:03
- むう、れなえりの間にも微妙な空気が漂って来ましたね…
でもなんかとっても目が離せません。
重さんもこの二人もこれからどうなるのか…
楽しみに待っています。
- 170 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/18(火) 23:31
- 病室の前で、あたしはドアを開けれずに立ちすくんでいた。
車椅子に乗ったさゆが不思議そうに振り返ってこちらを見ている。
それでもあたしはドアを開けれなかった。
仕方なくドアに手をかけたとき、絵里の姿がドア越しに見えた。
落ち着かない様子で、ひたすら部屋を歩き回っている。
「…れいな?」
中から絵里の声が聞こえて、あたしは少し怯んだ。
出来れば部屋に入りたくはない。
出来ればここから立ち去ってしまいたい。
でもそれは……出来ない。
- 171 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/18(火) 23:37
- 意を決してドアを開けた。
今まで無音の廊下にいたせいか、少し耳障りに感じるテレビの音。
眩しいくらいに差し込む陽の光。
そして、今はあたしの嫌悪の対象にしかならない絵里の姿。
「れいな遅い」
「…しょうがないじゃん。親も心配してたし」
「絵里は一人で寂しかったんだもん」
「知らないよ、そんなの」
部屋に響いたあたしの声は、とても冷たい響きをしていた。
自分にこんな声が出せるなんて思いもしなかった。
少しショックだった。
- 172 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/18(火) 23:43
- 「…ごめん」
「や、あの…あたしが悪かった、今のは」
あまりの絵里の落ち込みようにとっさに頭を下げて謝った。
不思議そうな表情のさゆと一瞬目があったけど、何となくバツが
悪くてすぐにそらした。
「今ね、さゆを連れてった人が捕まったってニュースがあちこちの
チャンネルでやってる」
「捕まったんだ…」
「あ、ほら。この人」
ちょうどテレビのニュースに出てきた犯人の顔写真。
名前は、そこら辺に溢れかえってそうなありきたりな名前。
年齢は28歳。
少し太った感じの、いかにもオタクっぽい風貌の男。
- 173 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/18(火) 23:49
- こんなヤツが、さゆを。
そう思うと体の中に怒りが充満しているのがわかる。
「…テレビ、消そっか」
そう言って絵里は困った笑顔を浮かべながら電源を切った。
そしてさゆに向かって優しい微笑みを浮かべる。
「さゆ、大丈夫?」
絵里のその問いかけにさゆは笑顔で頷いた。
あたしは視界の端っこでそれを見ながら、さゆのその笑顔の意味を
考える。
普通、こんな状況で自分のお兄さんが自殺したら、あたしなら体は
おろか心もボロボロになってしまうであろう。
なのにさゆはそんな様子は微塵も見せずに、笑顔であたしたちの
問いかけに答えている。
- 174 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/18(火) 23:57
- さゆは平気なのだろうか。
それとも、もうさゆはそんなことを感じられないほど壊れてしまって
いるのであろうか。
「はあ…」
二人に聞こえるほどの大きいため息をつく。
どっちにしろ、あたしには今のさゆには何かが足りないと思う。
何かが足りない。
人間的な思い、感情なんかが少し欠けている気がしたんだ。
* * * *
「さゆ、この紙に書いて。あたしらにさゆの話聞かせて」
紙とエンピツ。
今はもういない、お兄さんがさゆとの会話の仕方を教えてくれた。
さゆは頷いてその二つを取ると、あたしと絵里に話をするように
促した。
「じゃあ聞くけど」
コクン。
「さゆは、お兄さんが、その…死んじゃったのは悲しい?それとも
結構平気?」
- 175 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/19(水) 00:05
- しばらくきょとんとしていたさゆだったが、やがて何と書くのか
決まったのかエンピツを走らせた。
書けたよと言った様子であたしにその紙を渡してきた。
ありがと、と言うとあたしは絵里と二人でその紙を見た。
それには意外なことが書かれていた。
『お兄ちゃんのことはすっごく悲しい。
でも、悲しいけどそれはその瞬間だけのもの。
お兄ちゃんがいないのは仕方ない。それがさゆのせいだって
言うのも、仕方ないと思うの』
ああ、と隣で絵里が呟いた。
きっとあたしも絵里も同じ気持ちだろう。
悲しさはその瞬間だけのもの。
ずっと引きずっていたって仕方ないもの。
そう言うさゆがエラいと思ったけど、少し寂しくて悲しかった。
- 176 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/19(水) 00:10
- 少しなんてもんじゃない。
とても悲しかった。
「…じゃあもう一ついい?」
コクン。
さゆの小さい首の動きを合図に、今度は絵里が質問する。
「さゆはお母さんのこと、好き?それともお父さんの方が好き?」
「…絵里、何聞いてんの」
「いいじゃん別に」
「ダメなんて言ってないけど」
そう言うと軽く睨まれた。
別にどうでもいいけど。
それよりさゆは何て答えるんだろう。
そっちの方が問題だ。
- 177 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/19(水) 00:17
- 困ったように眉をしかめながら、それでもゆっくりペンを走らせる。
あたしはさゆの返事を待った。
渡された紙。
これだけが今、さゆの気持ちを知っていると思うと悔しい。
何もかもが今までとは確実に違う。
違ってきている。
『どっちも嫌い。よく言えば、どっちも好き。
お母さんもお父さんも、さゆのこと嫌いみたいなの。
だからさゆも、二人のことが嫌い。
本当はね、好きなんだけど』
『でもね、二人はたまにすっごく優しいんだよ。
その時がさゆは世界で一番幸せなの。
あ。お母さんの赤ちゃん、予定より早く生まれたんだって。
確か昨日の夜中。さゆの病室から戻ってすぐに陣痛がきたって』
見上げたさゆの顔は、何故か嬉しそうで。
あたしは耐え切れなくて、その体に抱きついた。
- 178 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/19(水) 00:24
- お母さんにあんな風に罵られて。
それでもさゆは、心のどこかで親に愛されていることを信じている
んじゃないだろうか。
いや、現実にきっとさゆの両親もさゆのことを愛してるはずだ。
「れいな…」
絵里の声が聞こえる。
絵里の手があたしの頭を撫でたけど、あたしは顔を上げなかった。
『お母さんもここに入院してるの。赤ちゃんと一緒にね。
さゆはその赤ちゃんを大切にしてあげたいの。だってお父さんは
違うけどさゆの妹になるんだもん』
また渡された紙にはそう書いていた。
だから、さゆは笑っていられたんだろうか。
お兄さんが亡くなった昨日の夜、新しい命が生まれた。
それは何かの終わりで、そしてまた、何かの始まりなのだろうか。
- 179 名前:11 さゆみの心 投稿日:2004/05/19(水) 00:26
- やっと顔を上げて見たさゆと絵里の顔。
大切な友達。親友。
この二人がいるなら、あたしはまだそれを信じてみたい。
何かが終わったらきっと何かが始まるって。
そう思ったら何かがふっきれたけど、あたしの中での絵里への気持ちの
整理はついていないままだった。
- 180 名前:遥 投稿日:2004/05/19(水) 00:35
- >>168 名も無き読者様
イタタタタタ。。。
大丈夫ですか?何か自分も痛いです。
はい、痛いです。鼻からスイカ出るより痛いです(謎。
ちょっと重さんがですね、いい感じに壊れだしまして。
書いてて自分がすごい痛いんです……。
えっと、マターリ待っててくださいね?マジで。
>>169 名無し飼育さん様
れなえりの間に不穏な空気…さて、田中さんはそれを乗り越えられるか(爆。
この二人はいずれあーなってこーなります。
…すいません、全然わかりませんね。
重さんは幸せになれるか不幸になっちゃうかのせとぎわにいるワケで。
応援してやってください、重さんの幸せをww
今日はここまで。
久しぶりの更新なのに、めっちゃ少なくてすいません。
- 181 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/19(水) 13:02
- 更新乙彼デス。
ホント口から硫酸吐くより痛いデス(謎過
彼女たちに幸あらんことを。。。
とか聖人ぶったコトをぼやきつつ次回もマターリ待ってます。
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/21(金) 22:06
- あーなってこーなるとは…!?w
もうこの3人の未来が想像つかなくてもどかしいですわ!
これからも応援してます。いつも素晴らしい物語をごちそうさまです。
- 183 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 22:31
- 昼になった。
あたしは学校へ行かなければならない、そう絵里に告げていったん家へと足を
運んだ。
走ってやっとたどり着いた家の前には、制服姿の高橋さんが立っていた。
「高橋さん、どうしたんですか?」
「あ。えっと…何て言うか…サボり、かな」
似合わないことを言うな、と思った。
あたしが物心ついたときから高橋さんは優しい近所のお姉ちゃんで。
みきねぇがいなくなったあとも、そばで笑っていてくれたもう一人のお姉ちゃん
だった高橋さん。
だからその彼女の口からそんな言葉が出てくると思わなかった。
「似合わんことするなって、思う?」
「はあ…まあ、正直そうですね」
- 184 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 22:39
- 思ったことが、ぱっと口から出た。
気分を悪くしたかと思ったけど、その様子はない。
むしろ、微笑んでいた。
「やっぱ思うか」
「自分でも思ってるんじゃないっすか」
「まあ。あーし、真面目やからね」
「…確かに」
いつものように笑う高橋さんだけど、何かが違う気がする。
やっぱり、さゆのことがあって、みんながおかしくなっていた。
もちろん、あたしも例外ではない。
「気にしてるんですね」
「ん?なん?」
「さゆのことです」
- 185 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 22:45
- 表情が変わった。
図星なんだ。
自分の表情も、心なしか曇っていくのがわかった。
「…まあ、それもあるんかもしれんね」
「あの…でも、別に高橋さんが負い目を感じるようなことじゃない
んですよ、ほんとに」
「わかってはいるんやけどね。頭ではわかってても、中々ね…」
高橋さんの気持ちはよくわかる。
きっとさゆの状況を見た人たちみんなが同じ気持ちなんだろうと
思う。
あたしたちだけの問題だと思っていた。
でも知らない間に、悪気なんかなくても、あたしはきっとみんなを
巻き込んでしまっていた。
- 186 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 22:49
- あたしだって気づいてなかったわけじゃない。
迷惑になるって気づいてたのに。
あたしは必死になりすぎていた。
「何か、巻き込んじゃってすいません」
「ううん。そんなことない、みんなやりたくてやっとったことなん
やから」
「…でも、おかしいんですよ」
低く、おしつぶしたような声。
あたしは自分の発した声の恐ろしさに、瞬間身を震わせた。
- 187 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 22:56
- 「みんなおかしいですよ。絵里も高橋さんもあたしも、きっと他の人
もみんな!さゆだって!」
「やめな、田中ちゃん」
「あたしの所為なんじゃないかって、全部!ぜんぶ!!」
ハアハア、と肩を上下させる。
溜め込んでいたものが一気に溢れてきて、とめられなくなった。
真っ昼間、しかも家の前だというのに。
構わずあたしは声を張り上げた。
「負い目感じとんのは、あーしと違って、田中ちゃんの方やろ」
「……ハッ。そんなのわかるんですか?」
「わかるよ。あーし、そういうのに敏感っちゅうか…何やろね、
特に田中ちゃんはわかりやすいんよ」
- 188 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 23:02
- よくわからない理屈を並べ立てる高橋さんを前に、あたしは何も
言うことが出来ない。
ただ黙っていることしか、出来ない。
「あの、あたし、学校行くんで。着替えてきます」
「ん?あー。ごめんごめん。何か引きとめたみたいで」
「や。いいっすよ、別に」
高橋さんの顔も見ずに、あたしは家のドアの前に立った。
その時また、高橋さんに呼ばれた。
「田中ちゃん」
「何ですか?」
「あんね、きれーな絵があるんよ。すっごいきれーな、虹の絵」
「…ふぅん」
「それ見たら、ちょっとは落ち着くと思うで」
- 189 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 23:07
- 絵を見て落ち着くのか。
そんなの、よっぽどのんびりした人しかないだろう。
少なくとも今のあたしには絵を見てなごむ余裕なんてこれっぽっち
もないんだ。
「いいですね。見てみたいかも」
「案外身近な子が、それを持ってるかもな」
「は?」
「や。こっちの話。じゃ、まあ学校頑張れ」
それだけ言うと、彼女は自宅とは反対方向に歩いていった。
ぼんやりと視界に映る高橋さんを見て、今日は自転車じゃないんだな…
なんて思った。
- 190 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 23:12
- * * * *
学校に辿りついたのは5限目の途中だった。
数学の授業だ。
いつもは大嫌いな数学も、気晴らしだと思えば何てことはなかった。
ただ、さゆの席が空席になっているのが苦しかった。
もうあそこに座っているさゆは見れないのか?
もうあそこで微笑んでいるさゆは見れないのか?
もうあそこで机に突っ伏して眠っているさゆは見れないのか?
それを考えるととても苦しい。
- 191 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 23:18
- あたしは、考えすぎなんだろうか。
もっと楽に考えれば楽な方向に流れていくんだろうか。
そんなことはないはずだ。
世の中そんなに甘くはないんだ。
「はあ」
何だか無性に、高橋さんが言った虹の絵が見たくなった。
* * * *
さゆが入院してから、もう二ヶ月経った。
あたしは寒さに身を震わせながら、病院へ向かった。
「こんにちはー」
「あ。どーも」
病院に入ると、すっかり顔見知りになった看護婦さんたちに挨拶された。
それに適当に返事をしながら病室へ向かう。
- 192 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 23:23
- 病室は入院したときから変わっていない。
もう慣れた道すじをたどって、あたしは歩いた。
「ふぅ」
少しため息をついて、病室のドアを開ける。
いつものようにベッドの上のさゆと、その隣に絵里が見えた。
絵里は何か持っているようだ。
大きい…絵画、みたい。
「あ。れいな、見て見て」
「ん?何?」
ほら、と見せられたその大きなもの。
やっぱり絵だった。
- 193 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 23:26
- 綺麗な虹の絵。
それはいつか高橋さんが言ったものだった。
「それ、どうしたの?」
「んふふぅ。これね、お父さんが描いた絵なの」
「絵里のお父さんが描いたんだ…」
絵里は今、お父さんとアパートで二人暮らし。
お母さんは離婚して、他の男と暮らしてるらしい。
「きれーでしょ。さゆにあげる為に持ってきたの」
「うん…きれー」
高橋さんが言っていたのはこういうことだったんだ。
身近な人とは、絵里のことだったんだ。
- 194 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 23:31
- あたしはずっと絵里への気持ちに悩んでいた。
正直、今でも悩んでいる。
でもいつまでも悩んでいたって前には進めないから。
それに気づいたあたしは考えに考え抜いて、絵里のことを普通の
友達と意識するようにした。
意外と簡単だった。
忙しい毎日の中で、あたしの心は驚くほど早く変わっていった。
まだ完璧にとは言いづらいけど。
「絵、飾る?」
「そうだね。さゆ、どこがいい?」
そう尋ねると、人差し指を口元に当ててさゆは考え始める。
しばらくして決まったのか、壁の上の方を指さした。
- 195 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 23:37
- 「あそこ?」
こくっと頷くとさゆは笑った。
あたしだと背が足りないから、幾分あたしより背が高い絵里が壁に
その絵をかける。
綺麗な絵が、何もない部屋に何故かよく映えた。
絵の中の虹はものすごく高いところにあって、手をのばしても
きっと届きはしない。
そんな気がした。
「あれ、何ていう絵?」
「届かない虹。そのまんまでしょ?お父さんってばセンス悪いから」
「や、そんなことないんじゃん?ねぇさゆ」
くつくつと笑いながらさゆは頷いた。
こんな時間はとても心地よかった。
ふとテーブルに視線を落とすと、みんなからのお見舞いの品が
置いてある。
- 196 名前:12 届かない虹 投稿日:2004/05/26(水) 23:44
- みきねぇと松浦さんは綺麗な花。
辻さん加護さんはでっかい鏡。
紺野さんからは干し芋。小川さんはかぼちゃパイ。
高橋さんはさゆの好きなアイドルのCD。
安倍さんと飯田さんは可愛いパジャマ。
そして矢口さんはマンガとか雑誌類。
みんなが来てくれる。
たまにだけど、顔を出してくれる。
「この絵、本当にきれー…」
そうだ。
今度みんなが来たら、この絵を見せてあげよう。
きっと喜ぶはず。
この綺麗で、手をのばしても届かない虹を描いた絵を見れば。
- 197 名前:遥 投稿日:2004/05/26(水) 23:53
- >>181 名も無き読者様
そうですか、そんなに痛かったとは…。
ってか、スイカは鼻から出ねーわなww
みんなが幸せになればいいんですけど…とりあえず、この物語は
終わりに近づいてるんです。
こんな作品ですが、暖かく見守りください。。。
みんなの幸せも願いつつw
>>182 名無し飼育さん様
もどかしいですか?
そりゃ嬉しい(ヲイ
自分もどうなるかわからないんで、ぜひともみんなには幸せになってほしい
んですよねー…。
でも、そううまくはいかないのが現実ってモンでww
今日は一応ここまで。
あと少しで終わると思います。
最後までお付き合いください。。。
- 198 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/27(木) 12:48
- 更新お疲れ様です。
終わりに近づ・・・ホントに?
むぅ、寂しいけど続きは楽しみ。。。
みんなの幸せ願いつつ見守ることにしますw
- 199 名前:遥 投稿日:2004/06/05(土) 19:50
- えっと、突然ですが。
最近更新が遅れているのは言うまでもありませんが。
自分の勝手な事情により、書けなくなってしまうかもしれません。
申し訳ありません。
事情っていうのは、仕事のことや自分の周りの大事な人のこと
など色々重なって起きてしまいまして。
書きたい、という気持ちは正直あります。
でもこんないい加減な状況で読者さま方を待たせておくわけにも
いきません。
それでもやっぱり今のままの状況で続けていくわけにもいかないし、
申し訳ないですが、放棄という形をとらせていただきます。
読んでいてくれたみなさま、レスをくれた方々。
本当に申し訳ありません。
多分、このスレに自分が書き込むのはこれが最後になると思います。
最後になりましたが、本当にありがとうございました。
そして申し訳ございません。
物語の結末などはみなさんの想像におまかせします。
それでは。。。
- 200 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/06(日) 12:56
- そうですか。。。
残念ですが、我儘を言うわけにも行きませんね。
状況が好転してまた書ける状態になってくれれば一番嬉しいです。
別の作品でもいいのでまた作者さんの文章が読めたら、、、
そう思いますのでいつでも帰って来てください、待ってます。
それまでとりあえずお疲れ様。
そしてありがとうございました。
- 201 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/06(日) 15:52
- ああ〜そうですか。
本当に残念です。
今までお疲れ様でした。
そして、本当にありがとうございます。
- 202 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/07(月) 20:47
- いつもハラハラさせられながら読んでいました。
放棄は残念ですが、これまでステキな作品をありがとうございます。
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