よっすぃー聖誕祭
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 15:22
- いよいよ明日に迫った吉澤ひとみ嬢の誕生日を祝うスレです。
こんな作者さんは是非ご寄稿下さい。
・よっちいが好き過ぎて夜も眠れない作者さん
・自スレがなかなか進まない作者さん
・自スレを放置しすぎて勘の鈍っている作者さん
・とにかく自分の作品を発表したい露出癖のある作者さん
ということでみなさんよろしくお願いします。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 15:24
- 「ショートコント」
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 15:24
- (●´ー`)「よっちゃん誕生日おめでとー!!」
(0^〜^)「ありがとうございます」
(●´ー`)「いくつになったんだっけ、よっちゃん」
(0^〜^)「もう19っすよ」
(●´ー`)「19かあ。なっちにもそんな頃があったねえ…」
(0^〜^)「ああ。ぶくぶく太ってプレステやってセンター降ろされた頃ですよね」
(●´ー`)「…」
(●´ー`)(0^〜^)「ナチットヨシット」
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/11(日) 15:25
- (●´ー`)「ねえ、これってパペットマペットのパクリっしょ?」
(0^〜^)「作者もネタがないんじゃないすか」
(●´ー`)「なっちがウシくんでよっちゃんがカエルくんって感じかな」
(0^〜^)「ゲロゲーロ」
(●´ー`)「別に鳴きマネしなくてもいいべさ…どっちかって言うとよっちゃんがウシくんってイメージじゃないかい?」
(0^〜^)「いや、安倍さんってステーキってイメージじゃないですか」
(●´ー`)「何だべ急に。もしかして素敵とステーキをかけてるのかい? カオリの影響受け過ぎっしょ」
(0^〜^)「おいしく食べてねお塩さん」
(●´ー`)「…」
(●´ー`)(0^〜^)「ナチットヨシット」
おわり
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/12(月) 02:31
- なちよしキタ━━━━(●´ー`)0^〜^)━━━━!
なちよしキタ━━━ヽ(ー`●)人(0^〜^0)人(●´ー)人(〜^0)人(●´ー`●)人(0^〜)ノ━━━ !!!
なちよしキタ*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(●´ー`)0^〜^)゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*!!!!!
なちよしキタキタ━━━━(´ー`●≡(´ー`●≡0^〜^)≡0^〜^)━━━━!!!!!
- 6 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:51
- 立ち並ぶビルとビルの隙間を、平板な青が塗り潰している。
それはまるで画像処理ソフトを使って色を置き換えたみたいに見えて、妙に現実味がない。
雲は欠片ひとつ無く、遠近感の消失した空の青は、ひょいと摘んでシールのように
ピリピリと剥がし取れそうだった。本当に出来るわけがないとは判っているのでしない。
途中に買ったベーグルサンドの入っている紙袋が乾いた軽い音を立てている。揺らさない
ように気をつけているものの、それは否応無く存在感を誇示していて、ベーグルサンドが
「ここにいるぜぇ!」と自分をアピールするたびに、隣の彼女の意識はその一点へ集中した。
吉澤は微かな吐息を洩らす。普段の呼吸よりも少しだけ意識的な吐息だった。
「のの、ちょっと休もっか」
手前に見えてきた公園を指し示して言う。辻はシシシッとアニメのキャラクターみたいな
笑声を落としてから頷いた。
公園にはそれほど人気はなく、駐輪場で少年が数人、スケートボードをしている様子が
見えるくらいだ。
みんな半袖のシャツにハーフパンツという軽装で、春先にしては薄手すぎるようにも
思えるが、今日はその格好も仕方ないと思えるくらいに気温が高い。自宅を出る前、
付けっぱなしになっていたテレビの中で、アナウンサーが夏日になると言っていた。
夏日という言葉の定義を吉澤は知らないが、「夏」と付くくらいだから暑い日のことを
言うんだろう。確かに今日は暑い。
- 7 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:51
- 吉澤も羽織っているパーカの袖を捲り上げている。変な風に日焼けしてしまったら困るが、
それ以上に暑かったのでそうした。
日差しは強いが灼けつくほどでもない。剥き出しの腕を緩やかな風がそろそろと撫でて、
同時にベーグルサンドが自己主張している。
ベンチに腰掛け、紙袋を膝へ乗せて口を開く。ぽう、とベーグルの香りが鼻先を掠める。
レタスとベーコンが挟まったベーグルを辻に渡し、自分はエッグサラダサンドに
かぶりついた。
「曲、聴いてみたよ」
「んー?」
大口を開けてベーグルに食らいつこうとしていた辻の動きが一瞬止まる。
目線だけ吉澤に移して、そのまま止まっていた動きを再開させた辻の双眸はきょとんと
している。
「ろーよ」
口の中にあるベーグルが邪魔をしているんだろう、くぐもった問いが辻の口から発せられ、
吉澤はそれに口元だけで笑った。
「かっけーかったよ。オリジナルってちゃんと聴いた事ないけど、なんかお前らに合ってる
感じした」
- 8 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:51
- スタッフが親切で渡してくれたMDには、耳馴染んだ二人の声で歌われた、馴染みのない
歌が入っていた。
ずっと自分達の歌を作っているプロデューサーの手によるものではない歌は、それだけで
既に目新しくて、そういう曲を二人が歌っているというのはなんだか妙な感じがした。
カバーではあるが、それは既に彼女たちの曲で、カラオケとかで聴くものとは違っていて、
吉澤の感想としては、どこをどうこねくり回しても「かっけー」としか言えなかった。
しかしその「かっけー」の中には色々なものが混じっていて、何々だからかっけーとか
そういう風には言えなかった。
「うん。かっけーかった」
色々なものを集約して、吉澤はもう一度呟く。
ベーグルを飲み下した辻が不敵な笑みを見せた。
「当たり前じゃん。あいぼんが一緒なんだから、もう最強だよ。あやや超えちゃうかんね」
「ははっ、すごいじゃん、ダブルユー最強か」
最強という、どことなく子供じみた言い方がおかしくて、吉澤はベーグルを持った手を
膝に置いて笑った。
子供じみてはいるが、あながち間違ってもいないかもしれない。
「ふたり一緒ならなんでも出来る」と、大人がはびこる世界に対して宣戦布告した彼女達は、
きっとそのままの強さで突き進んでいくだろう。
大人に正々堂々と宣戦布告する子供の強さは手に負えない。
だったらそれは……本当に、最強としか言いようがなかった。
- 9 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:52
- 「四年かあ。早かったなー」
「うん。よっちゃんもう19歳だもんね」
「なあ? ののだってもうすぐ17歳になるんだよ? 初めて会った時なんか12だったのに」
もうすぐ。言葉にしてみてそれが存外重いものだと気付いた。
彼女が17歳になって少し経てば、彼女は加護と一緒に自分たちがいる世界を飛び出す。
うっかり表に出してしまったそんな思いが伝達したのか、辻の視線が僅かに虚ろった。
「……あいぼんが一緒でも、恐くないってわけでもない」
「ん?」
「辻、もうすぐ17歳だもん。いつまでも『辻ちゃん、加護ちゃん』でやってける
わけないって知ってっしさ。だから、歌とかダンスとか、もっとちゃんと出来るように
なんなきゃいけないって、思う」
二人とも、ベーグルを食べる手が止まっていた。
彼女の、彼女たちのそういう思いを、吉澤は知っていた。
子供でいることを望まれ、子供でいることを選択し、子供として存在していた彼女たちの、
時折具象化する一切れの大人を、吉澤は知っていた。
「あたしはさあ」
吉澤の顔に、木々の隙間から洩れる日差しがまだらに影を落としていた。
- 10 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:52
- 「入った時からののとホテルの部屋とか一緒で、あいぼんもよく遊びに来てて、結構一緒に
いること多かったじゃん」
「うん」
「だからってわけじゃないんだけど。同期だからってのも違うんだけど。
……あたしはなんか、すごい、ののたちの事見てんだと思うんだよ」
考えながら喋る癖が出てきて、そのおかげで何を言いたいのか判らなくなってきていたが、
吉澤は構わず浮かんだ言葉をどんどん口にしていく。
「ののとあいぼんが一生懸命やってんのとか、みんなと仲良くしてんのとか、あたしは
ずっと見てきてて、なんかそういうの……かっけーと、思ってる」
語彙の少なさは自分でも判っていた。加入当初は先輩たちから「頭がいい」と評されていた
のに、四年という歳月は人の頭を鈍くするのか。
自分の勉強不足を棚に上げ、吉澤は心の中でそっと嘆く。
「だ、だからさ。ののとあいぼんなら絶対大丈夫だよ。歌もかっけーかったし。
ハモったりしてんじゃん、あれ超かっけーよ」
言ってから、ハモってることがかっけーってどうなのよ、と我ながら思った。
それでも辻は得意げに笑っていた。彼女の顔にもまだらな影が落ちている。
新しい世界に対して宣戦布告をした彼女たちは、本当はまだまだ未成熟で、十人からの
メンバーに守られている今の世界から抜け出すのは、ちょっと早いのかもしれなかった。
先ほどの辻が洩らした「恐い」という単語に込められた意味がそういう事なのか、吉澤には
判らなかったが、なんとなくそう思った。
- 11 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:53
- 生ぬるい、柔らかい世界の外に出て、彼女たちはこれからお互いだけを支えにして
進んでいかなければならない。
辻は加護を守り、加護は辻を守って。
そして、生ぬるい、柔らかい世界に留まる吉澤は、それを見守っていく。
「あたしはずっと、お前らの事、見てっから」
「うん」
ずっと一緒にいたかった、なんていうどこかの歌のフレーズみたいな言葉は言わなかった。
そんな我侭を言うには、19歳は年をとりすぎていた。
吉澤が手にしていたベーグルサンドを辻に差し出す。「ん?」きょとんとする辻が鼻先に
かざされたそれを不思議なものでも見る目で見つめる。
「餞別」
「食べかけかよっ」
ツッコミをいれつつ、それでも日差しに晒されて放たれるいい匂いに誘惑されたのか、
辻はそれを受け取った。
エッグサラダサンドが辻の口に噛り付かれて、もぐもぐと自己主張をする。
口いっぱいに頬張ったベーグルを咀嚼しながら、辻はもう片方の手を吉澤の前に突きつけた。
- 12 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:53
- 「んっ」
「え?」
「らんろういぷえれんと」
半分に減っているベーコンレタスサンドを眼前に突きつけられ、吉澤は思わずポカンと
口を開けた。矢口か藤本が見ていたら「まこっちゃんが乗り移ってる」とでも言ってきそうな、
間の抜けた顔だった。
ざわ、と木々が風に揺れて鳴くのと時を同じくして、さっきの辻の台詞が
「誕生日プレゼント」なのだと思い至った。
「そっちも食べかけかよっ。しかもこれ、金出したのあたしじゃんっ」
「いいらん。おあいこ」
一口が大きすぎたのか、辻はまだベーグルを飲み込めない。
先に言ったとおり、ベーグルを買ったのは吉澤なので正確にはおあいこじゃないが、
それをまた言い募るのも馬鹿馬鹿しかった。
苦笑みたいに溜息をついて、吉澤がベーグルを受け取る。
「てゆーかマジでこれがプレゼントとかないよね? ホントはちゃんと準備してんだろ?」
「んー、どうだろー」
「おいっ」
今日はまだ他のメンバーとは会っていない。家族以外で最初にもらうプレゼントがこれと
いうのはかなり情けない気持ちになる。
まさか本当に無いわけがないとは思いつつ、吉澤はちょっと不安になった。
「いやマジで。あるんだろ? あるよね? あるって言ってよ」
「どうだろー」
にひひ。辻は悪戯な笑みを浮かべながらベーグルをぱくつく。これは根気がいりそうだ。
吉澤は手にしたベーグルを勢いよく食べだす。腹が減ってはなんとやらの心境だった。
- 13 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:54
- 半分のベーグルを食べ終えて、軽く手を払ってパン屑を落とす。目ざとい鳩が足元に
寄り集まって地面をつつき出した。
ほぼ同時に辻も食べきった。「よっちゃん、喉渇いた」「あぁ?」眉を上げながらも素直に
立ち上がって缶ジュースを買い求めに向かう。
硬貨を投入口に入れながら、やっぱりちょっと寂しいのかもしれないと思った。
「ほら」
紅茶のミニボトルを差し出す。「おっ」それが大好きだと公言してはばからない仲間がCMを
しているものだと気付いて、辻が嬉しそうに笑った。
吉澤の予想通り、辻はドゥドゥッディドゥ、とCMの物真似を始めて、それがあまりに
適当な歌い方なので思わず笑いがこぼれた。
耳馴染んだ声と、耳馴染んだメロディ。
それが引き起こす安堵と寂寥は、矛盾しているようだがどっちも本当だった。
辻はひとしきり物真似をして満足したのか、ボトルのキャップを開けて口を付けた。
一口だけ飲んでキャップを閉めなおし、脇に置く。それから背負っていたバッグを
下ろすと、その中をごそごそ漁り始めた。
「のの、何してんの?」
「ん? 午後ティーのお礼」
「は?」
辻が目当てのものを見つけて腕を引き抜く。
その手には綺麗にラッピングされた小さな箱が載せられていて、吉澤の方へ差し出しつつ
辻はニカッと笑った。
「よっちゃんにあげる」
「あ、ありがと……?」
視線で問い、辻が頷いてからラッピングを解いた。
中からは青い石がトップについたピアスが出てきて、吉澤は驚いたように目を見開いた。
- 14 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:54
- 半ば無意識に、辻の耳元へ視線を移す。全く同じ物が、彼女の耳を飾っていた。
「あいぼんと、梨華ちゃんにもあげんの。四人でお揃い」
「あ……」
それはだから、そういう事なんだろう。
「……そっか。ありがと、のの」
それは彼女がいつも見せる子供に紛れる、本当の子供だった。
吉澤が自分のピアスを外し、もらったばかりのそれを填める。
「似合う?」「ビミョー」生意気を言う辻に苦笑しながらも、吉澤は特に怒ったりは
しなかった。
それ以上に嬉しくて、怒る暇なんてなかった。
最後の日は、これを付けてステージに出ようかなあ。ふとそう思ってから、何の感慨も
なく「最後の日」について考えられるようになっていた事に驚いた。
まいったな、と苦笑を洩らす。彼女が自分より先に世界を飛び出すのは仕方のない事かも
しれない。
「で、プレゼントは?」
ちょっと悔しくてそんな意地悪を言ってみた。
辻はうん?と首をかしげている。
「これは午後ティーのお礼だろ? ホントのプレゼント、まだもらってないよ」
「……えー?」
困ったような顔になった辻が唇を尖らせる。
いつも悪戯をする側だから、からかわれてどうしていいか判らないみたいだったが、
吉澤はニヤニヤと笑いながら辻の出方を窺った。
- 15 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:54
- 別に、さっきのが彼女の照れ隠しだということに気付いていないわけでもない。
なんとなく「ヤラレた」感じがあって、それに対する子供っぽい仕返しだ。
「えー、んーと……」
辻は困っている。笑い出したいのを堪えながら吉澤は引っ張る。
「んー……よっちゃん、ちょっと」
「ん?」
何か思いついたのか、ちょいちょいと手招いてくる辻に、吉澤が身を屈めて顔を近づける。
何が来るかな、と頭の中でメロディックに呟きつつ待っていると、
ガシッと首根っこを捕まえられ、右頬にむちゅうぅぅっとキスをされた。
「うおぉ!?」予想外だったので吉澤は素直に驚く。
それはなんとも色気のないキスだった。
つまり、家族にするみたいな。
「お誕生日おめでとー。いえー」
離れてから、辻が無邪気に笑って言う。吉澤は呆気に取られてしまって、「どーも」とか
間抜けた返事しか出来なかった。
「……久し振りにされたなあ」
「だってよっちゃん、反応なくてつまんないんだもん」
他のメンバーがきゃーきゃー騒ぐ中で、吉澤だけはいつも鼻で笑ってかわしていたから、
いつしか辻も加護も悪戯を仕掛けてこなくなっていた。
こういう悪戯は本当に久し振りで、しかも家族にするみたいなキスだったから。
照れた。
- 16 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:55
- 「てゆーかキタナっ。唾べったりついてるしっ」
「なんだよー。プレミアもんだぞっ」
「なんのプレミアだよ」
ハンカチで頬を乱暴に拭う。顔が赤くなっていたら嫌だなと思った。
19歳が16歳にしてやられたなんて、そんなの悲しすぎる。
まあ、誕生日プレゼントとしては悪くないかもしれないので、一応もらっておく。
集合時間が迫っていたので二人とも公園を後にした。揃いのピアスが日光を反射して
煌いている。昼を過ぎ、日差しはますます強くなっていた。真っ青な空は現実味がない。
真っ青な空よりも、耳を飾るピアスの方が現実味を帯びていた。
「ののー」
「なに?」
「…………ありがとね」
「いーってことよ」
気前のいい若旦那を演じているような声で答え、辻が笑う。
吉澤は辻の冗談に苦笑するふりをして、軽く、湿らないように注意して笑い声を上げた。
本当に言いたかったのは、お礼じゃなかった。
「ありがとうなー」
「なんだよ、よっちゃんキモイ」
「キモイって言うな」
吉澤は前を向いたまま、辻の手を取ってちょっとだけ強く握った。
16歳の彼女に「卒業おめでとう」と言えるほど、19歳は大人じゃないみたいだった。
今日、ひとつ広がった年の差が縮まる頃には、言えるようになっていたらいい。
そう願った。
- 17 名前:ありがとう。 投稿日:2004/04/12(月) 20:55
-
了
- 18 名前:オプティミスト 投稿日:2004/04/12(月) 22:41
-
開けっ放しにしていた窓から、一匹のカブト虫が入ってきた。
こんな春の好日に、なぜにカブト虫、と、キツネにつままれたように吉澤は目を見開く。
昆虫の中でもとりわけ凛々しいその光沢を放つ肌の脇からは、強靭な鍵爪が六本見えていた。
「カッケー」呆然とした口調で、何となくそう呟いた。
質のいいカーペットの上をちょぼちょぼ歩いているカブト虫を、白昼夢でも見るように
吉澤はぼうっと見ていた。
やがてカブト虫はブーンと羽を広げて、やってきた窓から出て行った。
おかしなことも、あるもんだ。
吉澤は鼻をすん、と鳴らしてもう一度ベットに横になり、読みかけの雑誌を読む。
しかし、さっきのカブト虫の姿が頭から離れない。
そもそもカブト虫が獲れる時期というものは、夏だ。
それなのに、こんなホテルの一室に(それも春に!)どうして紛れ込んで来るのだろうか。
チラリと視線を窓の方にやってみると、レースのカーテンがぱたぱたと揺れて、
差し込んできた日差しが床に日溜りを作っているくらいで、変わったところは無い。
- 19 名前:オプティミスト 投稿日:2004/04/12(月) 22:41
-
次第にカブト虫が念頭から離れて、雑誌に読み耽る。
するとどこからか、ベト、という音が聞こえた。
何だろうと体を起こして、部屋を見回してみると床に一匹のカエルが座っていた。
ヌメヌメとしている皮膚には、今さっきまで水の中にいたかのような生々しさが表れている。
人並みに、きゃあ、と吉澤は嬌声を上げてみた。特に意味はない。カエルはゲコっと鳴いた。
吉澤はぷくっと頬を膨らませて頬を一張りする。紛れもなく現実だ。
「この野郎」怒ったわけではないが、何となくそう言ってみる。
誰かの悪戯かと思ったが、ここは高層で、窓の外は空だった。
部屋にカエルなんかがいても困るので、吉澤は窓から放り投げようと立ち上がった。
するとそのタイミングを計っていたかのように、カエルはピョンと跳ねて、
窓の外に逃げていった。軽く一メートルはある高さを、五センチくらいのカエルは悠々と跳んだ。
吉澤は窓枠に手をついて下を見てみる。
眼下には青いスポーツカーが駐車されているだけだった。
頭をバリバリ掻いて、窓を閉めた。部屋はシン、と静まった。
そして吉澤はまたベッドに横になって、雑誌の続きを読んだ。
あまり興味の無い、藤本から借りたファッション雑誌だったのだが、
載っている女はみんな化粧が濃くて気持ちが悪い。
しかし、アイドルがファッションに興味がないというのもどうかと思った。
だからこうやって、横文字のブランドの名前を覚えていたんだけれど、楽しくない。
さっきまでは風が窓から入ってきて、心地いい音がぱたぱたと聞こえていたのだが、
今は閉じてしまって部屋は森閑としている。ぺラっとページの捲る音が響いた。
- 20 名前:オプティミスト 投稿日:2004/04/12(月) 22:42
-
「つまんねえな」と誰に言うとでもなく言ってみる。
チェックアウトの時間まではあと、30分近くあった。
そもそも吉澤がこんな少しばかり高いホテルの一室を借りたのに、特別な理由は無い。
一日のオフを気晴らしで豪遊してみたかったのだが、存外、人目のつかない場所で
遊ぶのはてこずった。だからなんとなく、高いホテルを借りてみた。
部屋にはサウナがついていた。
吉澤はバサ、と雑誌を床に放り投げた。それから真っ白い天井をただ見上げる。
「腹減ったなぁ」と、別に空腹でもないのに言ってみる。なんだ、暇なんだ、と吉澤は思った。
結局、携帯電話に腕が伸びたわけだが、それを使ってしまったらこのオフは
いつも通りのオフになってしまう。この日だけは誰とも連絡を取らないで、一人で
豪遊してやろうと、吉澤は企んでいたのだった。
もし、モーニング娘。を辞めたらどうなるのだろうか。
そんなことを天井を見上げながら考えた。わからない。辞めるわけないからだ。
それから解散した時のことを考えた。自分は、普通の女の子に戻るのだろうか、
それとも芸能界に固執するんだろうか、考えてみたけれど、わからない。
何となく吉澤は起き上がって、窓を目一杯開けた。そして床に放り投げた雑誌を
もう一度、読み始めた。すると、ピーピーと、甲高い鳴き声を発しながら、
一羽のスズメが部屋に入ってきた。「次はゴジラか?」
吉澤はくすっと笑って、時間を見た。チェックアウトの時間だった。
どうにでもなる、と思った。
- 21 名前:オプティミスト 投稿日:2004/04/12(月) 22:43
- おわり。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/12(月) 22:43
- ノノハヽ
((^〜^0/^)
/⌒ ノ
γ (,_,丿ソ′
i,_,ノ
オメヨッチィ オメヨッチィ
ノノハヽ ノノハヽ ノノハヽ ノノハヽ
(^(0^〜^))0^〜^)(ヽ0 )')((^〜^0/')
ヽ /ヽ ノ ヽ ノ ノ ノ
ノ r ヽ / | / | ( -、 ヽ
(_,ハ_,),_,/´i,_,ノ (,_,/´i,_,ノ し' ヽ,_,)
- 23 名前:お誕生日プレゼント 投稿日:2004/04/12(月) 22:44
- 今日は、フットサルの公式戦の日であり、そしてよっすぃ〜の誕生日でもあった。フットサルのメンバーにくわえ、ハロープロジェクトのメンバー全員が、試合の行われる小学校の体育館に集まっていた。
大切な試合だったので、よっすぃ〜へのプレゼントは後から渡すことになっていた。ところが、試合で惨敗してしまい、がっくりと肩を落とすキャプテンに、どう声をかけたらいいかわからなくなってしまった。それは私だけでなく、みんながそうだった。
体育館を出て、誰かがあることに気づいた。よっすぃ〜の姿が見えなくなってしまったのだ。
「どこ行ったんだろ?」
「矢口さん、探してきますよ」
ミキティは、私が声をかける間もなく、小学校の校舎の中に消えてしまった。ミキティは、おそらくよっすぃ〜が屋上でたそがれていると考えたのだろう。私もあとを追いかけた。
- 24 名前:お誕生日プレゼント 投稿日:2004/04/12(月) 22:45
- ミキティの足は速い。私の短い足では、追いつくどころか離されてしまった。階段を駆けあがっている途中で、妙な悲鳴が聞こえてきた。驚いた私は足の回転を速めた。
屋上に通じるドアを開くと、倒れているミキティを見つけた。急いでミキティを介抱した。ミキティは目を開けたが、焦点が定まらず、頬が上気していた。
「ミキティ、何があった!? よっすぃ〜は?」
「よっすぃ〜が、よっすぃ〜が……」
ミキティはそれだけ言うと失神した。私は屋上の柵から下をのぞいてみた。飛び降りたというわけでもないらしい。奥を見ると、私が入ってきたドアとは別の出口があった。あそこからよっすぃ〜は逃げ出したんだろうか。
- 25 名前:お誕生日プレゼント 投稿日:2004/04/12(月) 22:46
- 「矢口さん、たいへんです!」
振り向くと、石川たちが息を切らして走ってきた。
「どうした、石川?」
「よっすぃ〜が暴れて……」
「みんなを次々と襲って……」
石川や加護たちの話をまとめると、よっすぃ〜は、今日は自分の誕生日であることに気づいたが、誰もそのことを祝ってくれないことで逆上したという。ふだんのよっすぃ〜ならありえない話だが、フットサルでの敗戦で精神をやられてしまっていたようだった。
「矢口さん、どうします……」
ここでまた悲鳴が聞こえてきた。また誰かがよっすぃ〜の餌食になったらしい。
- 26 名前:お誕生日プレゼント 投稿日:2004/04/12(月) 22:46
- 「えーと……逃げる! 早く学校から逃げ出そう!」
「でも、よっすぃ〜は……」
「しばらくしたら正気を取り戻すよ、きっと。それまで安全なところで待つんだ」
私たちは階段を下りて行った。廊下を走り、ドアをくぐ抜ける。あちらこちらから、メロンやキッズの悲鳴、泣き叫ぶ声が聞こえてきた。廊下でぐったりしている彼女たちの姿もあったが、私たちは涙を飲んで見捨てて逃げた。
今は自分の身を守るのでせいいっぱいだ。よっすぃ〜に力でかなうのは、ごっつぁんか辻ぐらいだが、それは普段のよっすぃ〜が相手の場合。今のよっすぃ〜は血に飢えた獣だった。死人が出ていないらしいことだけが幸運だった。
先頭を走っていたのだが、後ろについてきていたのは石川だけだった。
- 27 名前:お誕生日プレゼント 投稿日:2004/04/12(月) 22:46
- 「辻と加護はどうした?」
「え? さっきまでいっしょにいたのに……」
きゃーという、二人のハモリがどこからか聞こえてきた。捕まってしまい、よっすぃ〜の餌食になったに違いない。私たちは目を合わせると、心の中で二人に謝りながら、校門をめざした。
どのくらい走ったのだろうか。いつのまにか、私の後ろから石川の足音が聞こえなくなってきた。あーんとかきゃーんとか叫んでいたかもしれない。振り向いてあたりを見回す余裕もなかった。
外の光が飛び込んできた。この玄関を抜ければ、校門までもうすぐだ。下駄箱の陰から、カオリの顔がのぞいていた。
- 28 名前:お誕生日プレゼント 投稿日:2004/04/12(月) 22:47
- 「カオリ、大丈夫だったの?」
カオリはニターっと微笑むと、唇のわきから唾液を垂らし、その場に崩れ落ちた。その後ろにはよっすぃ〜の金髪が光っていた。
「よ、よっすぃ〜……」
「矢口さん、どうしたんです? ずいぶんと探したんですよ?」
「待て、落ち着け、話せばわかる……」
- 29 名前:お誕生日プレゼント 投稿日:2004/04/12(月) 22:47
- 彼女に背を向けた瞬間、私は足首をつかまれ、さかさまになった。フットサルの選手ではない私は、ジャージではなくミニスカートをはいていた。なので、よっすぃ〜はあっさりと私の下着をはぎとり、投げ捨てた。
「矢口さん。お誕生日プレゼント、ありがとうございます……」
よっすぃ〜の指が私の中をかき回し、頭の中がまっ白になった。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/12(月) 22:47
- (0´〜`)ハニーパーイ♪
(つ ) つ
<< >>
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/12(月) 22:47
- ノハヽヽ
(O´〜`)ワンバンコ ワンバンコ…
( つ^ヽ
∪∪~
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/12(月) 22:48
- ノノハヽ
(0´〜`)
(⌒) つつ
(_ノ
ノノハヽ
(´〜`0)
(( ⊂⊂ _)
(__ノ ̄ 彡
よっちぃおめ
- 33 名前:湯気と玉子 投稿日:2004/04/12(月) 23:36
- 「だいたいさー」
矢口さんが大根を箸で割りながら言う。
「あん時おいらより先にごっちんが卒業した時点で何か間違ってんだよ」
一口大とはとても思えないような大根を頬張った矢口さんは、あち、あぶあぶ、なんて言ってビールを手に取る。
そうですねともそうですかとも言えずあたしは、黙ってこんにゃくをつついていた。
「だからねーあの2人が卒業するっつってちょっと微妙なカンジのよっすぃーのキモチもわからないでもないよ?おいらは」
どん、と空になったジョッキをテーブルに置いて、ふう、とため息をつく矢口さん。
相変わらずあたしが黙ってるのなんてどうでも良いらしい矢口さんは、おじさーん、生中もう1杯、と叫んだ。
あいよー、なんてすぐにジョッキを持ってくる気のイイおじさんは、矢口さんのコトを気に入っている。
「早くよっすぃーもハタチんなってさ、やぐっちゃんの相手したげなよ」
あたしがこの店に来てウーロン茶を注文するたびにおじさんはそう言う。
ええまあ、なんていっつもテキトーな返事をしているあたしにおじさんは決まって、んじゃいつものコレ、と崩れて売り物にならなくなった玉子をくれる。
「こういうのはちゃんと感謝のキモチを持ってお礼言って、いただきまーす、ってぱくぱく食べたほうが嬉しいと思うよ?おじさん的には」
いつもじゃ悪いです、と遠慮をするあたしに向かって、おじさんでもなきゃおばさんでもない矢口さんはそう言った。
「代わりにさ、よっすぃーの愛をあげなよ、愛を」
「愛ですかー?何それ」
- 34 名前:湯気と玉子 投稿日:2004/04/12(月) 23:36
- にやり、と笑って矢口さんは言った。
「おじさんはさ、たぶんよっすぃーみたいな若いコがこの店に来ておでんつついて、元気に笑ってたりしみじみしてるだけで嬉しいと思うよ?たぶん」
矢口さんも若いじゃないですか、というツッコミは飲み込んだ。
「そんなもんですかねえ」
「そんなもんだよー?」
ハナシが聴こえていたらしいおじさんが遠くから叫んで、あたしに手を振った。
「ほら振り返しなよーよっすぃーも」
言いながら矢口さんがにこにこ笑っておじさんに手を振る。
営業用スマイルとは違う、本当の矢口さんだ。
パグみたい。
おらおら、と矢口さんに腕を掴まれたのであたしもおじさんに手を振る。
大将良かったねえ、と常連のサラリーマンにからかわれたおじさんは、ホントここで20年おでん屋やってた甲斐があったってもんだよ、と泣きマネをした。
- 35 名前:湯気と玉子 投稿日:2004/04/12(月) 23:36
- 「よっすぃーさ、何でもそうだべ?」
何のハナシだかわからなくてあたしは矢口さんの顔をまじまじと見る。
「遠慮とかさー、しすぎなのよっすぃーは」
牛すじを串からばらしながら、まったくもう、と矢口さんがつぶやいた。
「そんなコトないですよー。あたし、遠慮してるように見えます?今更」
ウーロン茶を、ぐいっと飲んだ。
見える見える、とイヤそうな顔をして矢口さんが言う。
「辻加護とかはともかくさ、その下が入って来たあたりからよっすぃーね、全然ウチらに甘えてない。もうホントつまんない」
そうかな。
そんなつもりはないのだけれど。
あたしがそう言うと矢口さんは、つまんないつまんない、ともう一度言った。
「まーよっすぃーもさ、コドモじゃないからね、イイんだけどさ、でもさ、おいら達がいる間くらいもっとさー頼ったり甘えたりしなよ、ね」
「んー、えーと、はい」
「そんなしけた顔すんなよなー、というワケでよっすぃー、オトナ一歩手前の19歳、おめでとう」
- 36 名前:湯気と玉子 投稿日:2004/04/12(月) 23:36
- ちん、と矢口さんがジョッキをあたしのグラスにぶつけた。
「おお?何なに?誕生日?何だーそういうのはちゃんと言ってよー」
嬉しそうに言うおじさんが玉子をおたまですくっているのが見えた。
しかも何個も。
あーもうおいら酔っ払っちゃったよー、何だー?何か今日まわんの早いよー、と矢口さんがぼやいて座敷に横になった。
目の前に積まれた玉子と矢口さんを見比べる。
夜はまだ長い。
玉子とこのヒトの面倒はじっくり見ようじゃないの、19歳の吉澤ひとみ。
やっぱりおいしー、と玉子を頬張ってあたしはおじさんに叫んだ。
湯気の向こうでおじさんがにこにこ笑っていた。
- 37 名前:湯気と玉子 投稿日:2004/04/12(月) 23:37
-
おしまい。
- 38 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:02
- 朝起きたら雨だった。外を見た途端、心が沈んだ。
「あー、ついてないね」
ソファで寝ていた仲間がおもむろに体を起こす。
「最悪じゃん。本当にこんな日にいくの?」
寝巻きが乱れて肩が露になっている。そんな様子も気にせず、藤本美貴は窓を見つめる女に抱きついた。
「今日はもうやめてさー、別の日にしない?」
「いや…今日、いく。すぐ、出発する」
「…そっか」
露骨に嫌な顔を見せ、藤本は体を離した。
女は何の表情も変えないまま、顔をつけていた窓を背中にまわした。そのまま無言で服を脱ぎ、鞄から深緑の戦闘用の服を出す。凄い速さでそれを身につけ、バッグに必要なものがあることを確認すると、同じ深緑色の帽子を被った。そのまま部屋の出口へ向かう。
「待って」
女の着替える様子を一部始終見ていた藤本が声をかける。藤本はソファから立ち上がり、女の前まで立ちはだかると、徐に顎を引き寄せた。
絶え間ない雨音が、二人の静寂を包む。
女の唇から顔を離した藤本は満足そうに笑みを称える。
「これ。私からその子にプレゼント、って」
そう言って鞄から出した黒いブツを女に渡した。
女は身長差のある藤本を見上げる。だがそのまま無言で、横を通り抜けた。
「またどっかで会おうね、なっち」
藤本の笑みに振り返らないまま、安倍なつみはドアを閉めた。
- 39 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:03
- 正午を過ぎても、雨は一向に止む気配はなかった。遥か遠い西の空にはかすかに光が見える。夜には止んでくれるだろうか。せめて今日は、あの子に青空をみせてあげたかった。
安倍は真夜中歩いてるのと大差ない、薄暗い森の中を走っていた。傘などさしていないため既にずぶ濡れだ。それでも彼女は走った。幸い、雨のおかげで足音の心配をする必要はない。雨は昨日、安倍が寝ている間に降り始めたのだろう。だとしたら昨日彼女を見失った地点から、そう遠くへはいってないはずだ。彼女達は、空から降ってくるこの水の塊を、あまり好まない。
その時、視界が開けた。森の木々は切り落とされたのか、人工的につくられた小道に行き当たった。
安倍は辺りを見回した。濡れた土の上で雨に打たれて踊る枝を掻き分け、れいのものが落ちてるか探す。
「あ」
――あった。
皮膚だ。彼女の皮膚の欠片だ。安倍はそれをつまみ上げ懐中電灯で照らす。
――まだそう遠くへはいっていない。
この皮膚は先ほど食いちぎられたものだと分かった。彼女が必死で自分を自分であるようにと頑張っている欠片。そして潜在的にであろう、自分に彼女の居場所を誘導してくれる大切な欠片。
安倍はそれをいつもの袋にいれてその小道の上を走った。
- 40 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:04
-
藤本は、こんな自分に心底呆れているだろう。ただのボランティアでここまで一人の感染者にこだわる自分の精神を疑っているだろう。その証拠に、藤本はアレをくれた。ここまできたら、もう殺した方がいいんじゃない――藤本が唇を重ねてきた時、安倍にはそう聞こえた。案の定、感染者を殺せという意味で黒い銃を安倍に渡したのだ。この雨の中なら誰が殺したかなんて分からない。殺るなら、今日がチャンスだよ――彼女はそうも言いたかったのだろう。
だが藤本が疑問に思うのも当たり前だ。安倍は藤本に何も話していない。この、今追ってる感染者と自分の関係を、彼女は何も知らない。だから、安倍が何故こんなにも「今日」にこだわったか彼女は知る由もないだろう。そう、まさか、この4月12日が特別な日だなんて、彼女は思っても見なかっただろう。
- 41 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:06
-
ぐるる…。
唸り声がした。彼女の声だ。どこからしたのだろう。雨のせいで分かりにくい。必死で辺りを見回す。
ばんっ。
続いて、木に何かをぶつけるような音がした。右だ。彼女は、右にいる。
安倍は小道からそれて再び森の中に入った。森の中の方が、雨粒に当たらない。木々が遮ってくれている。安倍はその中を走った。
その時、異様な気配と共に彼女は姿を現した。何度見ても慣れるものではない。張り裂けんばかりに大きく見開かれた眼。閉まる事を忘れ唾液が垂れ下がっている口。その口から漂わせられる口臭。何度も爪で引っかかれた跡がある顔。傷だらけの服。何度見ても、それは異様だった。
だが安倍は、静かに、ゆっくりと、いつものように語り掛けた。
「よっすぃー…」
感染者の名前は吉澤ひとみ。彼女は人間が作り出した悪魔のウィルスの感染者の一人だった。
- 42 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:07
- ◇
吉澤と安倍は都会から離れた田舎で二人で暮らしていた。二人は恋人同士だった。親や世間から敬遠され、駆け落ちしたのだ。
ある日の事。安倍が久しぶりに都会へ出向いた時の事だった。少し離れただけで街の様子はすっかり変わり、珍しい店やものが増えていた。安倍はいろんな物に興味を惹かれ、少しの距離の中何度も立ち止まった。いつの間にか、両手には大量の買い物袋が下げられていた。
沢山の土産を持って帰った安倍はそれらを吉澤に見せて都会の土産話を饒舌に話しあげた。吉澤は何故一人で都会に行ったのかちゃんとした理由を聞いていなかったので、安倍の話を快くは聞いていなかった。が、安倍が一人で行ったのには理由があった。それはあと数日に控えた吉澤の誕生日プレゼントを探しに出かけていたのだ。
誕生日当日。安倍は吉澤に隠していたそのプレゼントを、部屋の奥から出してきた。発売されたばかりという、今一番注目されている新製品の香水だった。
◇
- 43 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:08
- …ハァ…ハァ…。
吉澤は既に安倍を見ても、何の反応も示さなくなっていた。あれから一年。彼女はずっと苦しんできた。感染者達は皆ワクチンを作る研究のため研究室へ連れて行かれる。その中でどんな実験が施されているかは誰も知らない。勿論、人間としての扱いは受けていないだろう。いや、多分それ以下の扱いを受け、生存すら分からなくなるのだろう。そう考えた安倍は、放浪している感染者達を探し出し捕獲するというボランティアに参加して、ずっと吉澤を逃がしてきた。一年間、吉澤が捕まらないよう、うまく隠しながら、彼女の後を追い続け、そして逃がし続けてきた。
ウィルスの名前は『フェロシティ』。日本語に直すと『凶暴性』だ。人間がテロのためにつくった、人と人を争わせる悪魔のウィルス。人を野獣化させてしまう、史上最悪のウィルスだ。それが、去年の4月に、日本にもばらまかれた。
感染して暫くは何の症状も出ない。だが徐々に、それは姿を表していく。一週間、二週間、三週間…。時間が経つごとに、吉澤には異常が見られだした。短気になり、目が段々大きくなり、野菜類には一切手をつけなくなり、完全な肉食となった。しまいには、一度も手をあげた事のなかった吉澤が、安倍に手をかけだした。
安倍がニュースでこのウィルスについて知った時には、もう手遅れだった。原因はあの香水。皮膚にふりかけたらそこから体内へ侵入するようになっている。幸い、安倍は吉澤の香水を使わなかったからか、感染しなかった。
- 44 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:09
- 凶暴性になると、人を襲うように出来ている。人の肉を食いちぎるのが、感染者にとって最大の喜びなんだという。
安倍も何度か襲われかけた。だがその度に、吉澤自身が自分の肉を食いちぎって、自制していた。信じられなかった。外見は完全に理性を失ってるように見えたが、吉澤の意識はまだ消えてはいなかったのだ。その時から安倍は決意した。駆け落ちした時に誓い合った通り、「彼女と一生一緒に生きる」と。
だが、感染者達が次々と死んでいってるというニュースがここ最近報道されるようになった。藤本から聞いた裏情報によると、感染者達の寿命は約一年らしい。肉体がウィルスついていけなくなるという。
それを聞いて安倍は決心した。
「生まれた時は違っても、死ぬ時は一緒」
そう約束しあった彼女との誓い。それを守る事にした。
- 45 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:11
- ◆
「よっすぃー、今日ね、よっすぃーの誕生日なんだよ。なっちがあの香水をあげてから、もう一年経つんだよ…」
安倍は帽子をとった。吉澤はハァハァと肩で息を鳴らしている。ちゃんと声が届いているのかも分からない。だが安倍は続ける。
「ほら、今日はね、何のご飯も持ってこなかったの。今日はよっすぃーの誕生日だから、特別に、ご馳走をあげようと思って。何も持ってこなかったの」
そう言って、安倍は鞄を落とした。中から、藤本から貰った黒い銃が飛び出して足に当たった。安倍は一瞥してから、「ごめんね、美貴ちゃん…」そう心で呟いて、その銃を後ろに蹴り飛ばした。
顔を吉澤に戻し、安倍は天使のような微笑を浮かべた。
「よっすぃー、愛してるよ。なっち、ずっとあなたを愛してるよ」
そう言って、大きく一歩近づいた。吉澤は肩を上下させながら、見開いた目をずっと地面に向けている。
「誕生日おめでとう、よっすぃー。ずっと、一緒にいようね」
そう言って、安倍は開いたままの吉澤の唇にキスをし、抱きついた。
次の瞬間、吉澤の歯が、安倍の首筋に食い込んだ。
- 46 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:11
- ◆
次の日、安倍の事が気になっていた藤本は、昨日安倍が入っていった森の中へ足を踏み入れていた。どのセンターに問い合わせても、昨晩安倍の姿を見た者はいないという。一日連絡がつかないだけだし、どこかに一人で宿をとっているかもしれない。だが藤本は妙な胸騒ぎを感じていた。昨日の別れ際の安倍の態度が、気になっていた。
安倍とは、正式に恋人同士と言えるほどの仲ではないが、それでも藤本は彼女の事が好きだった。彼女も自分を受け入れてくれてるという自信もあった。だからこそ、このもやもやを何とかしたかった。
昨日と打って変わって空は晴れていた。だが森の中の土はまだ湿気を含んでいて歩きにくい。木漏れ日に揺られながら、鳥達が囀っている。
日が傾き、もう諦めて帰ろうかという頃。頭上でカラスが大きく鳴いた。
「なんだよ、カラスが鳴いたら帰りなってこと?」
胸騒ぎは私の思い過ごしだったかな――そう思い、踵を返そうとした時。カラスが飛んだ。飛び続けて、ある所で止まった。そしてそこで、また鳴いた。
- 47 名前:フェロシティ 投稿日:2004/04/13(火) 02:13
- 藤本は何となくその後を追った。数匹のカラスが枝に止まっていた。その下に、二つの死体があった。
不思議な光景だった。
藤本はそのままそこに立ちすくんだ。瞬きする事さえ忘れた。
それは紛れもなく安倍の姿だった。左肩から首筋にかけて噛み砕かれた後が残っていた。動脈に達したのだろう。大量の血が吹き出て、固まっていた。だが不思議な事に、他はどこも汚されていなかった。
そしてその安倍の下敷きになる形で、安倍が追ってたと思われる感染者が転がっていた。目は大きく見開かれて空を見上げたまま。口も開いたまま。
感染者は、藤本が渡した銃を右手に持ち、こめかみにあて、その姿で死んでいた。
FIN
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 21:22
- ノノハヽ
(0´〜`)<モット
(⌒) つつ
(_ノ
ノノハヽ
(´〜`0)<イワエヨ
(( ⊂⊂ _)
(__ノ ̄ 彡
- 49 名前:狂気の75cm 投稿日:2004/04/13(火) 21:24
- 4月12日、この日は吉澤ひとみの誕生日だったのだが、それには関係なく彼女たちは新幹線に乗っていた。オリンピックを目指すサッカー日本女子代表を激励するために、静岡に向かったのだ。
コメント入りのサッカーボールを吉澤がキャプテンの澤に渡すと、カメラのフラッシュがいっせいに光った。代表の選手たちと握手を交わし、彼女は練習の様子を見学した。
「やっぱ凄いね」
「ボールの音がぜんぜん違うもん」
- 50 名前:狂気の75cm 投稿日:2004/04/13(火) 21:25
- 吉澤たちはいても立ってもいられなくなった。じゃまにならないよう、グラウンドのすみっこでボールを蹴り始めた。吉澤は後藤と、石川は柴田とパス交換をくりかえした。
その様子を見ていた、澤や大部が声をかけてきた。
「インステップで蹴るときはね……」
即席のサッカー教室が始まった。体の入れ方、腕の使い方、トラップの仕方など、有意義な時間を過ごすことができた。
- 51 名前:狂気の75cm 投稿日:2004/04/13(火) 21:25
- 「あれ、ミキティは?」
藤本が手を振って、芝生の上を走ってきた。
「何やってたの? 代表のみなさんに教えてもらってたのに」
「あたしも代表の人に習ってたの」
「そうなんだ」
- 52 名前:狂気の75cm 投稿日:2004/04/13(火) 21:26
- さて、吉澤たちのフットサルの試合当日。先発メンバーは吉澤、石川、藤本、後藤、辻だった。吉澤を中心にガッタスは攻撃を繰り返した。女子代表に教わったことが効を奏し、相手ゴールに迫るのだがなかなか押し込めない。
やがて石川の弱いパスを相手チームがカットし、ぽーんと前に蹴り出した。カウンターだった。前がかりになっていたのでガッタスの守備陣は薄かった。
「やばい!」
- 53 名前:狂気の75cm 投稿日:2004/04/13(火) 21:27
- ボールは、ガッタスゴール左側に向かっていった。そこに待ち構えていた相手チームのピヴォに渡るかと思われたが、ボールはころころとラインを割った。相手のピヴォはお腹をおさえてうずくまっていた。
藤本がボールを拾い、さっさと中に入れた。半ばぼう然としている相手チームを尻目に、吉澤が豪快なゴールを決めた。
その後、点を取り合う展開となったが、相手ピヴォは終始精彩を欠き、ガッタスの勝利となった。
- 54 名前:狂気の75cm 投稿日:2004/04/13(火) 21:28
- 「代表のみなさんに教わってほんとよかったね」
「うん、教わったことが役に立ったよ……」
吉澤たちが無邪気に喜んでいる中、不敵に微笑む藤本と、観客席の物陰からじっと見ていたジュビロ磐田の23番の姿に気がついた者はいなかった。
- 55 名前:狂気の75cm 投稿日:2004/04/13(火) 21:28
- ※ジュビロ磐田の23番……F西崇史、ミッドフィールダー、日本代表。守備的なポジションながら攻撃にも積極的に参加、J通産38得点。審判の目に見えないところでのラフプレー(肘打ちなど)が得意。
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 21:29
- 川VvV从<それで75cmというのは何?
( 0^〜^)<ミキティの胸囲
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 21:29
- 川VvV从<……
( 0^〜^)<……
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 21:29
- ノノノ从ヽ
川VoV) ノハヽヽ
( つ⊂⌒(;´〜`)
ヽ_)ノ  ̄ ヽ_)ノ ピョロロルルル〜♪
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:30
-
ありふれたこと
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:30
- 四月でわたしは19歳。なんとか高校も卒業し、春からの楽しい女子大生
ライフをたっぷりと満喫するのだ。
……となるはずが、桜の季節になると、わたしはなぜか小学校の教室に
座っていた。
机は小学生サイズなのでとても窮屈だ。周りは子供ばかりで(当たり前だ)、
とても騒々しい。よくまあ、あんなに大声出したり駆け回ったりして疲れ
ないもんだ。
周りは誰もわたしの存在に違和感を感じていないみたいだ。アタマは金髪
だし、身長も160センチ以上、同年代の女性と比べたってかなり立派な
体格をしているのだけど。きゃーきゃー騒ぎながら、ときどきわたしに
ちょっかいを出してくるガキもいる。わたしは邪魔くさいので適当に相手
をしてやってるんだけど、どうもやりにくい。
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:30
- チャイムが鳴った。担任教師は小柄で童顔の女性で、生徒たちは、彼女が
入ってきてもまったく騒ぐのをやめるつもりはないみたいだった。
「はーい、みんな席についてー」
彼女の細い声はあっというまに喧噪にかき消されて、誰も反応する様子は
なかった。二度、三度繰り返しても全く同じで、なんだか泣き出しそうな
表情になってきた。
見かねたわたしは、両手で机を叩いて立ち上がった。小学校の机は、中が
空洞なのでよく鳴るのだ。生徒たちは一瞬なにごとかと動きを止めて、教室
はエアポケットが生まれたみたいにシーンとなった。
「うるさい」
ちょっとコワモテに言ってみる。生徒たちは、しぶしぶ各々の席に戻って
いった。まったく、学級崩壊とは恐ろしい。
「あ、ありがとう」
担任は相変わらず弱々しい口調で、席に着いたわたしにアタマを下げた。
それだからナメられるんだって……。
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:31
- 「あのー、それで、せんせい」
わたしは全員が席に着くのを見計らって手を挙げた。
「なに?」
おどおどとした様子。わたしはなるべくフレンドリーな調子で、
「机と椅子ちっちゃいんですけど、変えてもらえませんか」
彼女はわたしと周りの生徒を見比べると、困ったように肩を竦めた。
「うーんと……、でもね、机の大きさって学年ごとに決まってるから……」
「いや、マジできっついんですよ」
「ごめんね……」
なんかこれ以上粘ると本当に泣きそうな表情になったので、我慢すること
にした。わたしは周りのガキとは違って、19歳の大人なのだ。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:31
-
◇
担任は安倍なつみという名前で、大学を出て赴任したばかりの新米教師だった。
けれど、彼女が生徒たちからナメられてるのは、新米っていうだけじゃない
ような気がした。言っちゃ悪いけど、なんか子供っぽいし、威厳みたいな
ものも感じられない。北海道出身らしく、訛りも丸出しだったりして。どっち
かと言えば、男子校なんかに赴任したらすごく人気が出そうなタイプだと
思う。保健の先生とかね。
小学校生活は、思っていたよりも楽しかった。なにより、ここではわたしは
超の付く優等生だ。いくらアフォだからっていっても、さすがに小5の教科
くらいはすらすらと解ける。まあ中には進学塾なんかに通って、ありえない
くらい複雑な問題集を休み時間に解いてるようなガリ勉もいたけど、ここの
授業ではそんなの関係ない。
体育なんかは言わずもがな。やりすぎないようにセーブするのが、逆に
大変だったくらいだ。あっという間に、わたしは男子たちからも女子たち
からも、人気者になった。初日にあんなことしたからいじめのターゲット
にでもなるかと思ってたんだけど、まあ、ちょろいもんだ。
- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:31
-
◇
みんな本当にわたしのことに気付いていないのだろうか? 素朴な疑問。
わたしは一度、こっそり教卓の上の名簿をのぞき見したことがある。吉澤
ひとみ。11歳。とんでもない誤認だ。しかし、公立の学校の名簿にそう
書いてあるってことは、わたしは公式にその年齢なんだろう。だとしたら、
個人の力じゃどうしようもない。19歳にもなれば、多少は社会のしくみも
分かるようになる。
それでも、安倍先生はやっぱり大人の女性だから、なんとなくはわたしの
ことに気付いているみたいだった。初日のことがあったからかもしれない
けど、授業中でも休み時間でも、わたしのことが気になるみたいでちらちら
と視線が感じられることがあった。そんなとき、わたしはイタズラ心を
起こして急に手を挙げたり発言したりしてみる。そうすると、安倍先生
は面白いようにどぎまぎと反応して、顔を赤らめる。
- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:31
- 安倍先生は相変わらずおどおどとして、生徒たちからナメられていた。さすが
にそれでも、TVでやってるみたいな学級崩壊ってほどじゃなくて、ある
意味では愛されていると言ってもよかった。
なので、わたしも初日でやったみたいに出しゃばることはしなかった。なんに
しても、教師ってのはそうやって成長していくもんなんだろう。
窮屈な机に頬杖をつきながら、授業が終わった途端にスカートをめくられ
たりカンチョーされたり(セクハラばっか)してる安倍先生を見ながら、
わたしは心の中でエールを送っていた。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:32
-
◇
どうもわたしの隣に座ってる女の子がしょっちゅうちょっかいを出してくる。
村上愛(めぐみと読むらしい)というその子は、なぜかわたしのことが
気に食わないみたいだ。
「だって先生、よっすぃのこと贔屓してるもん」
中学のときも、高校のときもよっすぃだった。小学校に入ってもやっぱり
変わらない。って、そんなことはどうでも。
「贔屓してないよ」
「してるよ」
「んなことしてもらわなくたって、わたし優等生だし」
余裕の表情で言ってみる。村上ちゃんは大きな目でわたしを睨んだ。
なにをそんなにむくれてるのか分からない。
「あ、分かった。安倍先生がよく名前間違えるから、嫌われてるって思って
るんじゃないの?」
これは事実。なんど訂正しても、めぐみ、というのを、あい、と言い間違えて、
そのたびに冷や汗をかきながら名簿を見て謝っていた。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:32
- 「そんな子供みたいな考えしないもん」
「子供のクセに」
「よっすぃの方が子供じゃん」
わたしは大人だ。なんていったって19歳なんだから……とはさすがに言わ
なかった。
金髪を弄りながら、わたしは首を捻ると、
「子供かなあ。どのへんが?」
「だって、よっすぃ、安倍先生の気持ちに気付いてあげらんないじゃん」
「気持ち?」
「先生、よっすぃのこと好きなんだよ。分かるもん、見てれば」
なるほど、そういうことか。
それなら話は早い。わたしは大人だから、こういうときにどう振る舞えば
いいかってことも、よく分かっている。
わたしは昼休みになるのを待って、安倍先生にメールした。5分くらい
してから、メールが返ってきた。
そんなわけで、放課後にわたしと先生は落ち合った。食事に行って、お酒を
飲んで、……気付いたら朝になっていた。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:32
-
◇
それからちょっとして、安倍先生は急に転任になった。
唐突な話だったので、生徒たちはみな戸惑いを隠せないみたいだった。
もっとも、わたしは大人なので、大体の事情は分かったんだけど。
もし安倍先生が男だったら、もっとニュースになったかもしれないし、逆に
わたしが男子だったら、ドラマのネタにでもなったかもしれない。
本当は大人同士の関係だったわけだけど、そもそもの発端が、わたしに
関する誤認から始まっていたんだから、文句を言ってもしょうがない。
こういうことは多分、ありふれたことなんだろう。
「先生いなくなっちゃったね」
村上ちゃんが話しかけてきた。
「そうだね」
わたしはクールに返した。
「よっすぃ、今日、いっしょに帰らない?」
振り返ると、なんだかいままで見せたことないような表情で、わたしの
ことをを見ていた。
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:32
-
やれやれ。この教室で大人なのはわたしだけだと思ってたけど、どうも
違ったみたいだ。
てことは、話が漏れたのも……。いやいや。
いずれにしても、ありふれたことだ。
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/13(火) 23:33
-
END
- 71 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:01
- ボールが空高く舞い上がった。わたしは相手ディフェンダーを右腕を使ってブロックし、自分のスペースを作った。
トラップする前に、相手にヘディングでクリアされてしまうかもしれない。そう判断したわたしは、右足を上げながら思い切りジャンプした。
天地が逆さまになった。わたしの放ったバイシクルシュートは、ゴールキーパーの出した手をはじき飛ばした。
- 72 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:01
- ピピーと審判の笛が鳴り、さらに今度はもっと長く響いた。
「試合終了!」
わっとみんながわたしに飛びついてきた。そう、夢にまで見たわたしたちのチームの初勝利を手にしたのだ。
えっ、夢……?
- 73 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:02
- ピピーとけたたましく鳴り響く目覚まし時計を叩いた。
「夢、か……」
頭をかきむしりながら、もう一度時計の針を見た。十時を回っているのを見て、わたしはベッドから飛び出した。
「やっべー、遅刻するー」
わたしはカゴの中のベーグルを口にくわえ、荷物を抱えて家を出た。
今日は、大事なフットサルの試合がある日だった。
- 74 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:02
- わたしたちのチーム、その名も「ガッタス・ブリジャンチスH.P.」は、練習試合も含めて連戦連敗をくりかえしていた。業を煮やしたJFAとUFAは、このままでは女子サッカーの普及にまったく役に立たんと、わたしたちでも勝てそうなチームを探してきたのだった。
タクシーの中で、わたしはユニフォームに着替えた。運転手の目など気にしていられない。それどころか、運転手にもっとスピードを出すよう脅したりすかしたりした。
どんなことがあっても、仕事に遅刻してはならないし、約束を違えてはならない。それがわたしたちのポリシーだった。親が死んでも、自分が病気になってもだ。
- 75 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:02
- 会場の体育館に飛び込んだ。もうみんな準備万端整っていた。わたしは慌ててミキティと準備運動をした。
「今日の相手のこと。よっちゃんさん聞いた?」
「いや、今来たばっかりだから」
「キッズだってさ」
「……へえ」
- 76 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:03
- いくらなんでも、という相手だとはわたしたちには思えなかった。この間は清水市の女子小学生にボロ負けしていた。
みんなの心中は複雑だっただろう。しかし、キッズたちはこの場で、わたしたちと試合をするのだ。四の五の言っている場合ではない。わたしは一種の感動を覚えていた。
- 77 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:03
- 試合の行方は二転三転した。先制したのはわたしたちだった。ミキティの相手を吹き飛ばしながらのドリブルは、審判をして唖然とさせ、笛を吹くのを忘れてしまうほどだった。
しかしキッズたちも負けていなかった。まるで重力のくびきから解き放たれたかのようにコートを飛び回り、わたしたちを撹乱させた。特に彼女たちのヘディングや胸トラップは、北澤監督に驚嘆の息を漏らさせた。
点の取り合いとなった試合は同点のまま、後半もまもなく終了するという時だった。コーナーキックから互いにもつれあい、ボールがポーンと空中に浮いた。
- 78 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:03
- セットプレーということで、ゴール前にあがっていたわたしの真上にそれがあった。わたしは迷うことなく右足をあげてジャンプした。
ボールはわたしの足にジャストミート!……しなかった。ボールはわたしの足をかすめ、不規則な回転をしながら梨華ちゃんの頭にぶつかった。
着地に失敗して床に顔から落ちた。顔だけ上げて見ると、頭をおさえてうずくまる梨華ちゃんと、ゴールの片隅に転がっているボールが目に入ってきた。
- 79 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:04
- ここで笛がなった。
「試合終了! 7対6でガッタス・ブリジャンチスH.P.の勝利!」
わーっと、みんなが駆けよってきた。かっこよく決めることはできなかったけど、待ち望んでいた勝利をようやく手につかんだのだ。
- 80 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:04
- 一礼し、わたしたちは歓声で出迎えてくれた客席に手を振った。そしてキッズチームのほうに行き、みんなとそれぞれ握手を交わしたその時。
にこやかに微笑みながら、彼女たちはその姿をだんだん薄くしていき、やがて消えてしまった。
「……よく来てくれたよ、みんな」
一昨日、キッズが開いた小さなコンサート会場は爆音とともに炎に包まれた。事故なのか、テロなのか、情報は錯綜していてよくわからない。しかし、彼女たちは死んで幽霊になってもここにやってきて、約束どおりフットサルの試合をしたのだった。
- 81 名前:輝ける猫たち 投稿日:2004/04/14(水) 21:04
- 監督が声をかけてきた。
「みんなよくがんばった。だけど、辻ちゃん、よっすぃ〜。足が使えなくてヘディングしかしてこないチームに6失点はひどいぞ。もっと守備がんばらないと」
てへへ、とわたしたちは苦笑いするよりほかなかった。
- 82 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/14(水) 21:05
- Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒◎
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/14(水) 21:05
- ⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒◎
- 84 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/14(水) 21:06
- ノノノハヽ
(;0´〜`) <ベーグルどこー
( O┬O
≡◎-ヽJ┴◎
- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/14(水) 23:21
-
( ´ Д `)ノ◎
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/15(木) 20:52
- (0^〜^)ノ◎
- 87 名前:NO BLOOD FOR OiL 投稿日:2004/04/17(土) 18:08
- 「モーニング娘。ってグループを作ってさ、それで人数が減ったり増えたりすんの!」
あたかも今思いついたという口調だった。吉澤ひとみは、得意気に続ける。
「そうすればみんな、これからどうなるんだろうってハラハラしてさ、人気が出ると思う
んだけど、どうかな?」
その声は楽屋内にシラーッと響き、いつものことだ、とそれぞれの行動に何の影響も与え
なかった。派閥、と言えば聞こえが悪いが、年齢差はある。メンバーは仲のよい者同士で
お菓子を分け合ったり、ふざけ合ったり、本を読んでいたり、宝塚の写真集を広げていた
りする。もっとも、後者の二つは一人で行っているのだが。
- 88 名前:NO BLOOD FOR OiL 投稿日:2004/04/17(土) 18:10
- 拳を固めたまま遠くを見つめている吉澤に救いの手が差し伸べられたのは、少し間を置か
れてからだった。関わらないようにしようかと迷った挙句、生まれ持った性に逆らい切れ
なかった彼女、藤本美貴はため息を吐き出してから言った。
「もうそれあるじゃん。っていうか、ウチらがそれでしょ?」
石像に命が宿るように目に輝きが戻り、手のひらを握り締められた藤本は早くも後悔の念
を抱き始めていたが、勢いを取り戻した吉澤の言葉は止まらない。
「じゃあ、さらにそれをおとめ組とさくら組に分けてさ」
「それもある」
「コンサートも二つに分けちゃったりして」
「やってる、やってる」
「それからさぁ……」
現実はここまでだ。藤本は初めてこの会話に関心を覚えた。本能の赴くままに参加してし
まったが、この先を吉澤がどう考えているかに、ちょっとした興味が疼く。
「……それから、いろんな、とんでもないことしちゃったりしてさぁ」
「何もないのかよ!」
- 89 名前:NO BLOOD FOR OiL 投稿日:2004/04/17(土) 18:11
- もしかしたら逆切れと呼ばれるかも知れない感情に身を任せながら、藤本は心の内で自分
を責めた。このくらいのこと、予測しておかないと。よっすぃーの話に期待感を持つなん
て、あたしはどうかしてる。自分が心の中で相当失礼なことを言っているとは自覚もなく、
藤本は首を左右に大きく振る。
理性を取り戻した彼女が顔を上げると、吉澤は小刻みにプルプルと震えていた。それはど
こか悲し気で、小さい頃の出来事を藤本の脳裏によみがえらせた。
- 90 名前:NO BLOOD FOR OiL 投稿日:2004/04/17(土) 18:13
- 友達の家で飼ってた柴犬が、五匹の仔犬を産んだ時のことだ。藤本はその内の一匹にとて
も心惹かれた。今にして思えば、初めて芽生えた母性本能のようなものだっただろう。た
だ説明のできないその感情に戸惑いながら藤本は、見えない力にうながされるままに行動
を起こした。つまり、友達が階下に降りている隙に、着ていたトレーナーのお腹部分にそ
の仔犬をつめ込み、ちょっとタバコ買いに行ってくる、そんな置き手紙を残して友達の家
を後にしたのだった。
後にティと名づけられ、数年前に藤本の家で大往生したその犬も、最初はトレーナーの中
で可愛そうなくらい震えていた。藤本の家に着いても、まるで拉致されたかのようにプル
プルと所在なげに震え、クゥーンと物悲しい声を出していた。こうするしかなかったんだ、
と当時の藤本は自分に言い聞かせた。犬を買うほどのお金は美貴の家にはない。みんな、
みんなこの生活が悪いんだ!
それからも藤本はティをとてもよく可愛がり、ニックネームが必要になった時には、今は
亡き愛犬に思いを馳せ、ミキティにしてくれと頼んだのだった。それからというもの、藤
本の名前の一部にはしっかりと愛犬がくっついている―――。
- 91 名前:NO BLOOD FOR OiL 投稿日:2004/04/17(土) 18:15
- 問題は確かに存在した。吉澤がもらわれてきた時のティと重なる震えを起こしているのは
分かった。しかし、どうしてだろう?何故吉澤はあんなに悲しそうにしているのだろう?
その原因が藤本には想像もつかない。
「……だとぉ」
「えっ?」
吉澤が何かをつぶやいていることに気づいた藤本は、耳をそばだてる。そんな必要はなか
った。吉澤は藤本を正面に見据え、涙目で叫んだ。
「何もないだとぉ!」
ああ、と藤本は思った。何も考えずにしゃべってるって知られたことがそんなにショック
だったのか。この人、そんなにプライドの高い人だったんだ……。
「じゃあ、言ってやる。言ってやるぞ、この野郎!」
「そんな洋画の日本語字幕みたいな怒り方しなくても」
「自衛隊のポスターやらな、環境問題をテーマにしたミュージカルは布石だ、畜生!」
「いや、だから、あんまり日常会話で畜生とか出てこないし」
「国や世界のことをこれだけ考えてますよっていうのを示しておいてだな、世間に対する
発言力を増しておいて、本音をぶつけるんだ!なぁ、ガキさん」
- 92 名前:NO BLOOD FOR OiL 投稿日:2004/04/17(土) 18:17
- 呼びかけは楽屋の反対側へと飛んでいき、その目に見えない衝撃にぶつかったようにガキ
さんこと新垣理沙は、紺野あさ美のため込んでいるお菓子を金に物を言わせて買収しよう
とする手を止めた。食欲と物欲に揺れる紺野を楽しんでいたのだ。
「はぁ、そうっすかねぇ?」
曖昧に答えた新垣の言葉を、吉澤は驚くほど自分に都合よく解釈した。
「ほら、ガキさんがああ言ってるんだ、間違いない!」
「あのー」新垣の声は疑問に満ちていた。「どうしてわたしなんですか?」
はっはっは、と吉澤は越後屋のような笑い方で、肩を揺らしながら新垣に近寄った。その
声とわるだくみ顔を見上げた紺野は、ヒッ、と小さな悲鳴を上げ、新垣から後ずさった。
直接ターゲットに定められた新垣はといえば、立派な眉毛を八の字に歪めて手を紺野に向
かって伸ばす。一人にしないで、という様子が容易に見て取れたが、そのクモの糸を引き
裂くように新垣の肩に手が回された。
「HEY HEY HEYのスペシャル、なかなか良かったよ」
「あ、ああ、本当っすか。ほとんど何もしゃべらなかったですけど……」
吉澤の声は、もはや高笑いと呼んでもいいものになった。ポカーンとしている相手を尻目
にしばらくそれは続き、やがて波がひくようにおさまると、新垣の広い額をピシャリと叩
く。なんですかぁ、とオデコに手を当て、恨めし気に見上げる新垣に吉澤は言った。
「しゃべらないだけに重みがあったよ、物言わぬあのTシャ」
「そんなことより」
割って入った藤本に、吉澤は言い足りなそうに唇をとがらせる。
「これからの計画っていうのは、具体的になんなの?」
- 93 名前:NO BLOOD FOR OiL 投稿日:2004/04/17(土) 18:19
- チャンス。新垣がそう考えたかどうかは定かではない。ただ、吉澤の注意が自分から反れ
たのを察知した彼女は紺野の元へと走りより、二人して楽屋から風のように消えたのだっ
た。それを目撃したメンバーが後に、かなり必死の形相だったと証言するのだが、それは
今は関係ない。
吉澤は大きく息を吐くと、立場が上のものが無知な新人に物を説明する面倒を抱え込んだ、
そんな仕草で肩をすくめる。
「つまりは、モーニング娘。の本音をぶつけていく時が近づいてきてるってことだ、ファ
ッキン・ジャップ!」
ツッコみたい事柄も、殴り飛ばしたい感情も膨らんできている中、とりあえず藤本は疑問
から片付けることにした。興味というよりは、意地に近くなってきている。
「でも、まだなんでしょ?ガキさんがもう行動を起こしてたんじゃ、時間軸があわないじ
ゃん」
吉澤はチッチと口を鳴らしながら人差し指を揺らす。この人絶対、最近なんかの映画観た。
藤本はそう確信したが、黙っておくことにした。
「いきなりそんなこと言い出しても説得力ないだろ、ハニー?そんな時にあの映像を見せ
れば、“ああ、モーニング娘。は前から真剣に考えていたんだ”となるわけさ、ビッチ」
「いや、恋人なのか罵倒しているのか、設定はっきりしてよ」
そこまで言い切ったところで吉澤のプライドは保たれたらしく、今度は、人間ってもしか
したら猿から進化したのかも、と新たな発見を口にした。今度は関わらない。そう決めた
藤本の右腕はすでにウズウズとうごめいている。
- 94 名前:NO BLOOD FOR OiL 投稿日:2004/04/17(土) 18:21
- しかし、藤本は知らなかった。ポップ・ジャムの収録の前に顔を見せようとした金髪出っ
歯の関西人が楽屋の外にいたことを。その男が吉澤のアイデアを悪くないと考えたことを。
ちょうど近い吉澤の誕生日プレゼントとして作ったグループとした時の話題性を計算して
いたことを。そして世の中にはツッコむべき事柄でも、時としてそんな物が実現してしま
うことがあることを、藤本はまだ知らなかった。
- 95 名前:NO BLOOD FOR OiL 投稿日:2004/04/17(土) 18:22
-
おしまい
- 96 名前:フタリノジカン 投稿日:2004/04/18(日) 03:37
- 日はもう沈もうとしていて。
薄暗い楽屋。
ドアを開けて、部屋の隅、畳の上に座る彼女に話しかけた。
「…みんなは?」
「んー、取材とか撮影とか打ち合わせとか。」
「そうですか。」
- 97 名前:フタリノジカン 投稿日:2004/04/18(日) 03:40
- 入ってすぐの場所、彼女が座っているのとちょうど反対側に椅子を持ってきて座る。
なにをするでもなく、宙を眺めて、壁にもたれて。
時が過ぎる。
彼女がめくる本のページの音だけが部屋の中に、意外に大きく響いていた。
――ぱたん。
文庫本を閉じた音に、視線を彼女に向ける。
けれどその視線が彼女の視線と交わることはなくて。
彼女もまた、宙を見つめながら口を開いた。
- 98 名前:フタリノジカン 投稿日:2004/04/18(日) 03:42
- 「…よしこ。」
「はい?」
「カヲさ、今すっごくゴーカンされたいんだけど。」
「そうですか。」
「……」
「……」
「…冗談だよ。」
「知ってます。」
表情を変えるわけでもなく。
彼女は隣に置いていた鞄から煙草を取り出し、火をつけた。
- 99 名前:フタリノジカン 投稿日:2004/04/18(日) 03:45
- しゅぼっ。
薄暗い部屋が一瞬、小さな光に照らされて――また暗くなる。
「…カヲさん、煙草やめたほうがいいですよ。」
「ん。これ吸い終わったら禁煙する。」
適当な言葉を呟いて、口に含む。
- 100 名前:フタリノジカン 投稿日:2004/04/18(日) 03:47
-
ふうっ。
吐き出された白い煙が天井にうるうるととぐろを巻いた。
- 101 名前:フタリノジカン 投稿日:2004/04/18(日) 03:48
- ―――了。
- 102 名前:プレゼント 投稿日:2004/04/19(月) 00:41
- 「よっすぃーの誕生日か…」
カレンダーに付けられた赤い丸印。
そもそも、この業界は日にちとか季節感というものが全く無いのね。
春の番組を録ってるのはまだ冬のうちだし、誕生日企画があったとしても、それは数週間前に収録するんだから。
おまけに、カレンダーをめくるのずっと忘れててさ、3月のままだったからさ…
それで、気がついたときにはもう4月12日。
圭織ピンチ。最大のピンチ。
折角よっすぃーが家に来るっていうのにさ。
何も用意してないなんて…
私は頭の中で二つのシチュエーションを想定してみた。
- 103 名前:プレゼント 投稿日:2004/04/19(月) 00:41
- その1。
「ごめんね、よっすぃー、今日が誕生日だってこと忘れててさ…プレゼント用意してないんだよね」
これは駄目だ。
誕生日を忘れるなんて言語道断。
年間何組のカップルがこのケースに陥って別れてるだろう…
その2。
「お誕生日おめでとう。ごめんね、時間無くてプレゼント買えなかったの」
これも駄目。
誕生日を覚えているのに、プレゼントを忘れてるなんてありえない。
プレゼントをあげるほどの間柄じゃないと思われるかもしれない…
シミュレーション終了。
そんなことをしているうちに、もう仕事に行く時間。
こういう日に限って、朝から夜までみっちり詰まっていたりするんだよね…
- 104 名前:プレゼント 投稿日:2004/04/19(月) 00:42
- 他のメンバーはちゃっかりプレゼントとか用意していたりする。
でも、私は何も無い。
カバンの中はからっぽ。
夜に私の家に来ることになってるから、よっすぃーも何も言ってこない。
私は収録中も頭をフル回転させ、何かいい方法を探していた。
だけど、私の収録が終わるのは23時。
すでにほとんどの店は閉まっている。
とその時、私の頭に昔、ある番組でやったある企画が浮かび上がった。
- 105 名前:プレゼント 投稿日:2004/04/19(月) 00:43
- その夜…私を待っていたよっすぃーと一緒に家に帰る。
部屋のドアを閉めて、私は言ったんだ。
あのね、あたし、プレゼント買いに、街に行ったんだけど、あなたがほしいもの、ないかなぁと思って探したんだけど、見つからなくって……
でね、一つ、あったんだ。あなたがいちばんほしいもの……
それはね―――あ・た・し
- 106 名前:プレゼント 投稿日:2004/04/19(月) 00:43
- おしまい
- 107 名前:ハッピバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 14:56
-
「ごっちん、どこ行くの?」
「買い物。もう醤油がなくなってたから」
「あたしも一緒に行こうか?」
「いいよいいよ。すぐ帰ってこれるから。じゃあ行ってくるね〜」
- 108 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 14:57
-
ハッピーバースデイ
- 109 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:00
-
(……また無駄遣いしちゃった )
あたしは醤油の他に卵やベーグルも買って、家に帰ろうとしていた
振り返る途中で、見た事のない小さめの店が目に映る
(新しく出来たのかな?)
そんな事を思いながら、その店に向かった
茶色の木の壁に、赤い屋根
ぬいぐるみや置き物とかが店の入口から見える
(雑貨屋さんかぁ〜)
あたしは少し考えた後、その店に入った
お客はいない
けどパッっと見て、たまたまお客がいないだけだと分かる
それ位に人が寄ってきそうな店だった
あたしもそうだしね
そんな事を思いながら店の奥に入っていって、一つだけ置いてあるオルゴールを手に取った
少しネジを回して、どんな曲か聴いてみる
(……うん。結構いい曲)
足は自然にカウンターの方に向かっていた
「いらっしゃいませ」
「これ下さい」
「えっと、780円です」
あたしはお姉さんに1000円札を渡してから、辺りをもう一度見回した
「カレシへのプレゼント?」
「え…?」
「このオルゴール、自分の恋人に贈ると二人に幸せが訪れるっていう噂で人気があるんだべさ」
「へぇー」
カレシじゃないんだけど……
……まあいっか
「はい、ガンバってね」
お姉さんはそう言いながら、おつりと赤と青のチェック模様の紙で包んだ箱を渡した
それを曖昧な顔で受け取る
あたしは店のドアを開けて、外に出た
- 110 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:02
-
(……よしこ喜んでくれるかなぁ)
そんな事を思いながら家に帰る
その途中の上り坂の所で、小猫があたしに寄ってきた
少し屈んで、猫の頭を撫でる
すると小猫はそっぽを向いて、道路に飛び出した
(なんだったんだろう…?)
そう思ってると、クラクションがあたしの耳に入った
反射的に横を見ると、さっきの小猫が車の前にいた
考える暇もなく
あたしはその小猫を助けようと
道路に飛び込んだ
そして、小猫を抱きかかえた
- 111 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:03
-
地面に落ちたスーパーの袋から 割れた卵が道路を汚していた
オルゴールが入った箱は何メートルか先に落ちて 音楽が流れ出していた
(……ふぅ)
助かったのかな
あたしは上半身を起こして、辺りを見回した
たくさんの人が集まってきてる
ふと横を見ると、小猫がニャーニャーと鳴いていた
良かったね、無事で
けど……?
車にぶつかったんじゃなかったっけ、あたし
自分の手を見て、握ってみる
なんともないよね……
前を向くと、よしこが泣きそうな顔で立っていた
「……どうしたの?」
よしこは何も言わずに、あたしに近寄ってきた
(え…あ……ちょ…ちょっと、よしこ!)
その時、体に不思議な感触が伝わった
前を見るとよしこはいなくなってた
- 112 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:05
-
……?
振り返ると、よしこが誰かを抱きかかえて泣いていた
…………あたし?
「ごっちん!……目を覚ましてよ!!」
よしこはあたしを抱きかかえて泣いていた
「よしこ…あたしはここにいるよ」
「……バカ…どうして………どうして……」
……聞いてないのかな?
あたしは手を出して、よしこの肩に……え?
よしこの肩をすり抜ける感触
何度やっても、よしこに触れる事が出来ない
………
あたしの頭の中を、一つの文字が横切る
認めたくなても認めるしかない
……死んじゃったのか……
- 113 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:08
-
◇
あの事故が起きてから三日経った
よしこはずっと、部屋に閉じこもったまま
ケータイが鳴ってもずっと無反応
あたしはずっとよしこの部屋にある椅子に座っていた
今出来る事は、よしこを見ているしかないから
よしこが泣くたびに、あたしは何度も何度もよしこに触れようとした
頬から流れ落ちる涙を、そっと拭いてあげたかった
でも、出来ない
見守る事しか出来ない
今日もそんな時の中を過ごしていた
よしこはまだベットに寝転んでいる
ろくにご飯も食べずに、ただ無駄に時を過ごしていた
(よしこ……)
その時、部屋の外から音楽が聞こえてきた
どこかで聴いた事ある
よしこは立ち上がって、ふらふらとした足取りで玄関に向かった
- 114 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:10
-
「ひさしぶり…」
「ひさしぶり……梨華ちゃん。…それ、何?」
「ちょっと……ね」
「……」
「箱がぐちゃぐちゃになってたから、私もう開けちゃったんだけど…」
梨華ちゃんは目に涙を浮かべて、それをよしこに渡した
「…何、これ」
「ごっちんからのプレゼントだって」
「ごっちんの……」
「事故が起きた現場の近くにあったの。
近くにあった店で、17,8くらいの女の子が恋人へのプレゼントだって買ったらしいの……」
「……」
「……」
「……あたし、行ってくる」
「え?行くってどこに……うん、分かった。いってらっしゃい」
よしこは洗面所に行って顔を洗うと、手にオルゴールを持って、外に駆け出した
あたしも…行こう
「ごっちん……」
え?
振り返ると、梨華ちゃんが手で顔を隠すようにして泣いていた
(………)
「梨華ちゃん、ありがとう」
聞こえないのは分かっていても、あたしはそう言った
そしてよしこの後を追って、飛び立った
- 115 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:14
-
「……ごっちん」
よしこが着いた場所は、あたしの体が置いてある病室だった
心臓の音は微弱だけど、まだ動いているらしい
けど、日に日に弱くなってきている
先生はもう手は尽くした……だって
たぶん心臓が停止する時に、あたしもここにいれなくなると思う
それまでずっと、よしこの傍に居よう
あたしはずっとそう思っていた
「ごっちん……聞こえてるんでしょ」
よしこはオルゴールのネジを回して、あたしの耳の近くに置いた
そして流れ出す音楽
「ほら、ごっちんがあたしに買ってくれたオルゴール……
あたし、大切に持ってるから……ずっと…ずっと…ずっと……」
「よしこ……」
「…ねえ……もういいよ……あたしを驚かそうとしなくても……
…嘘なんでしょ………ねえ……なんとか言ってよ……」
言うたびに、よしこの目から涙が溢れてくる
「……早く起きろよ……ねえ……目ぇ開けろよ………
…お願いだから……もうワガママ言ったりしないから……ねえ……
………ごっちん……もう十分あたしを騙したでしょ?……そろそろ嘘だって言ってよ……
ねえ…ねえ……ねえ…………ねえ!!!」
よしこは布団に顔を押し当てて、泣いた
あたしはただ見守る事しか出来ない
よしこがこんなにも悲しんでいるのに……
- 116 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:20
-
「早く目覚ましてよ!!嘘だって言ってよ!!」
「よしこ……泣かないで」
「なんか言ってくれよ!!!」
「もうやめてよ…手後れだよ……辛くなるだけだから……」
「お願いだから………ごっちんの笑った顔……もう一度あたしに見せてよ……ごっちん……」
「もう泣かないで!!!」
あたしは無意識に声を出していた
「ごっちん……ごっちんなの?」
「え?」
「…………空耳か。やっべぇ…ついに幻聴まで聞こえるようになっちゃったか……」
……もしかしたら……
あたしはふと、あたしの体を触ってみた
……あたしの体は触れる
少し力を込めると、手は体を通り抜けた
あたしは少し飛んで、あたしの体と同じ格好をそれの上でする
そしてその格好のまま、体を通り抜けるように下に下がった
途中でひっかかった
これ以上下に降りる事が出来なくなった
途端にあたしの体を襲う痛み
そして重力
『後藤はまだ、死ぬべきじゃないよ』
- 117 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:23
-
目を開けると、病室の天井が映った
視線を下に移動させると、よしこの横顔が目に映った
(ずっとあたしは傍にいる)
「よしこ……」
(これからもずっと、よしこの傍に)
口につけられている救命道具みたいなのが邪魔で上手く喋れない
けど、声はよしこに伝わった
おそるおそる顔を上げてこっちを向く
(心配してくれてありがとう)
「……よしこ」
「……ごっちん……ごっちん!!!」
(もう大丈夫だから)
よしこは流れている涙を拭おうとせずに、あたしに抱きついてきた
(だからもう、泣かないで)
「ごっちんのバカ!…驚かすんならもっと早く目覚ましてよ……」
「…よしこ……」
(よしこに涙はちょっと似合わないよ)
あたしはよしこの目を見て、微笑んだ
(やっぱりよしこは、笑った顔が一番良く似合うから)
- 118 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:23
-
さっき悲しませた分
あたしはよしこに微笑みをあげるよ
そしてこのオルゴールを
ハッピーバースデイ、よしこ。
- 119 名前:ハッピーバースデイ 投稿日:2004/04/29(木) 15:25
- ヲワリ
- 120 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/03(月) 05:29
- 『ステア・シェイク』
- 121 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:29
- 程よく年季を重ね黒ずんできた木材で組まれ、ブルーを基調とした落ち着いた照明で彩られた店に響く場違いなカウベル。
決まっている。
この時間に鳴らすのは「アドニス」しかいない。
「アドニス」は無言で、わずかに踵を鳴らしながら右端の席に着く。
後ろで髪をひとつに縛り、ロゼレッドかディープパープルのスーツに身を包んでいる。
そして一言めはこれだ。
「ミストレス、アドニスを」
- 122 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:29
- 〇
Fog is fog.
Although are followed and being followed, true character cannot be perceived, and taking in its hand does not often become, either.
It is [ not losing be attracted and self in the cool comfort which gets twisted, and ] a report.
Fog is a counter bar.
All are sweet dazzle which alcohol brings about.
If you please, it is advised are not addicted to the sea of a cocktail.
- 123 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:30
- ────
まず確認したのは海の底のような青黒い光。
次に湿気た木の香りが纏わりつき、最後にきらめきを放っているなにかを認めた。
小さな透明の輝きは整然と並んでいるが、同時に霞んでもおり、瞬間、梨華は自分は泣いているのかと思ったが、
目をこすってみてもその形跡は感じられなかった。
雨夜の街燈を思わせるその風景がやがて明瞭な姿を伴って立ち上がってくる。
きらめきは鈍い球形から鋭い放射状に変わり、根源の物体は正体を現す。
それは、逆さに吊るされたカクテルグラスだった。
遅れて周りの風景も鮮明になってくる。
青黒い光は上空から降り注ぐ照明、湿気た木の香りは建物自体から漂っている。
梨華自身は革張りのスツールに腰を下ろし、腹を中心に谷折りとなってカウンターに突っ伏していた。
コーティングが成されたばかりなのだろうか、カウンターの表面は緩やかにねっとりとしている。
- 124 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:30
- 「なに……?」
うつ伏せになっていた上半身を起こして、梨華は辺りを見回した。
壁一帯は黒や焦げ茶といった色に染まり、圧迫感や暗さを感じさせる。
カウンター上と入り口付近にしか設置されていない照明──それもダークブルーだ──がそれらを助長させ、
不気味さを演出していた。
カウンター奥にあるうずたかく積まれたマッチ箱が奇妙なアクセントを与えている。
「どこ……?」
どうやらバーであるらしい。
その程度の見当は梨華にもついたが、しかしここがどこのバーなのか、
またなぜ自分がこのバーにいるのかといったことはとんとわからない。
目覚める前の記憶があやふやなのだった。
バーの内装に見覚えがあるような気はするが、思い出すことはできない。
「なに……?」
もう一度呟き、ふらふらと立ち上がろうとした。
特になにをしようとしたでもなく、ほぼ無意識のうちの行動である。
ところがスツールを回し入り口のほうへと向け足を地面につけたところで、梨華を奇妙な感覚が襲った。
足の裏へと直に冷たい床が触れたのである。
どうやら靴を履いていないらしかった。
- 125 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:30
- 「どうして……?」
梨華は足を引っ込め、宙に投げ出したまま再び思案に耽った。
靴を履いていないとはどう考えても不自然だ。
まさか裸足で道を歩いてきたとも考えにくい。
酔っ払って記憶をなくしたのかもしれないけれど、それならば家にいるはずではないか。
靴を履くのも忘れるほど酔っ払って、その上ひとりでバーをはしごするとは到底考えられない。
困惑している梨華に追い討ちをかけるように、カウンター奥に隠れるようにしてあった扉が軋んだ。
とっさに梨華が身体を硬くすると、そこから顔が覗いた。
ブルーバイオレットのスーツに身を包んだ、ひと目中性的な顔が梨華の姿を捉える。
「来たのか……」
声は低いもののはっきりとした女声だった。
女は整った顔を顰めると、カウンターへと歩み出てきた。
「来たんだね……」
そして再び繰り返すと、カウンターを通り過ぎて、梨華の隣のスツールに腰を下ろした。
- 126 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:31
- 「誰ですか?」
いきなり現れて寄って来た見知らぬ女に対して、梨華は当然の反応をしてみせる。
しかし親しげな口調から察するに、もしかしたら顔見知りなのかもしれない。
先ほどからどうにもおかしな様子なので忘れているだけなのかもしれない。
案の定、女は訝しげな表情で梨華の顔を覗きこんできた。
「私のこと、覚えてない?」
覚えてない、と素直に応えるのは気がひける。
不躾かと思いながらもしばし女の顔を見つめてみたが、やはり梨華の記憶の中に該当する人間は存在しなかった。
ただし、何かが引っかかる。
梨華がこの女の顔を見たことがないのは確実だったが、しかしまったく知らない感じもしないのだった。
知っているのに知らないという不思議な感覚。
梨華はどうにも説明のつかない感情を何とか言葉にした。
「ふん、なるほどねぇ……」
それが得心がいったのか、女は二三度頷いて見せた。
「そうかもしれないな。
確かにそうかもしれない。
まぁ来てしまったものは仕様がない、バーなんだから一杯いかが?」
- 127 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:31
- そういうと女はカウンターに入り、逆さ吊りにされたカクテルグラスからひとつを選び出した。
入り口が広く、中が細く、終いがまた広くなっている、くびれたグラスだった。
「私の記憶が正しければ、あなたはホワイトレディを好んでいたと思うんだけど」
女のいうとおりだった。
梨華はバーに入れば必ずホワイトレディを頼んだ。
それを知っているということは、やはり知らぬ仲ではない。
確信すると、幾分未知の女に対する不審や疑念が和らぎ、梨華は坐りなおしてホワイトレディをオーダーした。
了解、と女は笑顔で注文を受け、手際よくシェイカーにドライ・ジン、コアントロー、レモンジュース、氷を投入していく。
シェイカーさばきも堂に入ったもので、快い音が店内を支配する。
不思議なもので、梨華はこの音を聞くと視界が開けるような感覚にとらわれるのだ。
うっとりと目を閉じる。
世界は白い。
ホワイトレディのような柔らかな白に満ちている。
- 128 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:31
- 「おまたせ」
女の声に梨華が目を開くと、絹の色をしたホワイトレディが気品に満ちた立ち姿で待っていた。
理想的なプロポーションの貴婦人は程よく冷えている。
口に含むと、ジンとレモンジュースの鋭い酸味が舌を突いた。
「おいしい」
「どうも」
梨華の賛辞に笑顔を返した女は今度はミキシンググラスとストレーナーを取り出した。
「私も一杯もらうね」
そういいおいて、今度はミキシンググラスにドライ・シェリー、スイート・ベルモット、オレンジ・ビターズ、氷を入れ、ステアをする。
たちまち黄金色の液体が姿を現した。
「なにを作ってるんです?」
梨華が身を乗り出して訊く。
酒の力だろうか、すっかり警戒を解き砕けた調子である。
「これ?アドニス」
- 129 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:32
- 女は何気なく答える。
しかし女の言葉を聞いた時、梨華の頭の片隅でなにかが反応した。
その正体を掴みかね、オウムのように言葉を反芻する。
「アドニス?」
「アドニス」
瞬いている。
アドニス、という言葉に反応して、なにかが明滅を繰り返している。
アドニス、アドニス、アドニス……。
口の中で呟いてみても、あと一押しが足りない。
苛立ち、髪をかきむしった梨華を見て、女が怪訝そうに訊ねた。
「どうしたの?」
無言で首を振る。
釣り上げられそうなのだ。
記憶の海の底に沈んでいる大切な何かを引き上げられそうなのだ。
「なにか……」
なにかが来る。
梨華は頭を抱えた。
しかし、すっかり様子の変わってしまった梨華を、女は冷ややかな目で見つめた。
- 130 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:32
- 〇
『フォグ』のミストレスの腕は確かだ。
ポピュラーなレシピでは飽き足らないのか、差し出されるカクテルは普通の店で出されるものとは一風変わっている。
梨華がよく注文するホワイトレディは普通に比べ酸味が強く、
お粗末な舌で判断する限りレモンジュースの割合を増やしているのではないかと推測されるのだが、
そのアレンジが妙に梨華の波長とあい、
『フォグ』のホワイトレディを飲んでしまって以降、普通の店に出向くことはほとんどなくなってしまった。
耳にしたところによるとレパートリーは三百を超えるらしいが、
梨華は三種類のカクテルしか頼まないし、「アドニス」に至っては親の仇のようにアドニスばかり頼むのだから、
ミストレスも腕の振るいようがない。
静かに笑って、「アドニス」のアドニスを作り始める。
「私にはトランタンを」
梨華が注文を被せた。
デザートカクテルはトランタンに限る。
アマレットと生クリームの多いレシピで作るトランタンはなおのこと格別だ。
- 131 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:32
- 〇
大魚を逃した。
アドニス、知っていながら知らない女、カウンターバー。
欠片がひとつに纏まらない。
苛立ちを抑え、梨華は頭を振りながらゆっくりと視線を上げていく。
女はカウンターに立ったまま、作ったアドニスを美味そうに飲んでいた。
ミキシンググラスにはまだ残っている。
「復帰したみたいだね」
梨華のほうを見た女はそれほど心配そうな表情を見せずにいった。
まるでことの起こりを予測していたかのような振る舞いだったが、
梨華は追求することなく、干してしまったホワイトレディのグラスを退け、女にいった。
「もう一杯、作って欲しいんだけど」
「アドニスでいいの?」
梨華は無言で首を振る。
「甘いカクテルが欲しいの」
大魚は逃したが、小魚ならば釣り上げていた。
- 132 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:33
- 女はわざとらしく困ったような顔をしてみせる。
「甘いカクテルなんていっぱいあるけどね」
陳列物を示すように手を振って見せた。
「どれにいたしましょう?」
「どれでもいいわ」
投げやりな調子で梨華がいうと、女は初めて本当に迷っているような表情を作った。
なんでもいい、と口の形を作り、酒の吟味を始める。
やがてクレーム・ド・カカオを選び、栓を抜こうとすると、梨華がストップをかけた。
「それ……使わない」
女が目を見開き、梨華も目を見開いた。
今、自分が言葉を発したのだろうか。
梨華にはまったくそんな意識はなかったが、女はいわれたとおりに酒をしまった。
そして今度はわずかの迷いもなくブランデーを取り出すと、カウンターに静かに置き、梨華に語りかけた。
「やっぱりこういう店では、お喋りが重要だよね」
- 133 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:33
- 「私ね、好きなひとがいたんだよ」
梨華などいないものとでも思っているのか、ブランデーに話しかけるようにして女は語りだした。
「そのひと、年上でさ。
カッコいいひとなんだよね。
細かいことにこだわらないさばさばしたひとで、そういうところが好きだったんだね」
突然の身の上話に少し混乱したものの、梨華は口を挟むことなく耳を傾けた。
話を聞け、と身体のどこかが叫んでいるような気がしたのだ。
女は先ほどまでと打って変わってゆったりとした手つきでブランデーの栓を抜いた。
特有の香りが溢れ出す。
「あ、間違えた」
栓を抜いたと思った束の間、女は再び栓をしてしまった。
「こっちが先だよ」
ひとり呟いて、今度は卵を取り出した。
- 134 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:33
- 「そのひとさ、バーテンだったの」
女は卵を割り、それを器用に卵黄と卵白に分けた。
そして卵白をさらに半分に分ける。
「またシェイクがかっこよくてね。
髪が小刻みに揺れるのがさ、すごく色っぽいんだよ」
二つに分けた卵白の片方をシェイカーに入れ、その上からブランデーを注いだ。
「ドラマみたいにさ、通いつめた。
毎日行ったんじゃないかな。
とにかく逢いたくて逢いたくて仕方がなかったんだね」
そこにアマレット、さらに生クリームを加える。
「流石に毎日通いつめてれば顔くらいは覚えてもらえるよね。
名前も覚えてもらいたかったんだけど、まさかきっかけもなしに名乗るわけには行かないからそれは諦めた。
その代わりっていうのはおかしいけど、顔だけじゃ他の常連客と大して変わらない印象に留まっちゃうじゃない?
だから、絶対私だってわかってもらえるように、個性を出していったんだよね」
シェイカーに蓋をして、胸で構える。
「私、アドニスが大好きでね。
だから、ひたすらアドニスだけを頼み続けた」
- 135 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:34
- 〇
梨華と「アドニス」は飲むペースが似通っていた。
「アドニス」が三杯目のアドニスを飲み終えるころに、梨華はトランタンに差し掛かり、
梨華が二杯目のトランタンを干し店を出るころに、「アドニス」は六杯目のオーダーを通す。
ここには若干の作為が含まれていた。
つまり、元来はペースの速い梨華が、「アドニス」の様子を窺いながら、
極めて淑やかに、嗜みといった感じで杯を進めていったからである。
いってしまえば梨華の自己満足に過ぎない。
しかし、自己満足ほど心地のよいものはない。
梨華にとって、「アドニス」と過ごす高々一時間弱は、なにものにも代えがたい時間なのだ。
「ごちそう様」
しかし、その時間も終わる。
梨華は立ち上がった。
ミストレスが微笑む。
「おおきに」
柔らかな関西のイントネーションが耳に残る。
- 136 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:34
- 〇
「……少し、静かにして欲しいかな」
梨華の口調に力はなかったが、女は忙しなく回り続けていた舌を止めた。
シェイクの水音、グラスとシェイカーが触れ合う音、カクテルが注がれる音が順番に寄せては返し、
無言のうちに、梨華の前にカクテルが差し出された。
チョコレートパウダースタイルのグラスに注がれたトランタン。
〆のカクテルである。
梨華はゆっくりとグラスを掲げ、口に含んだ。
アマレットと生クリームの多い『フォグ』特性のトランタンは粘性が強く、どろりと喉を過ぎていく。
チョコレートの甘みが舌を包む。
「直伝?」
「まぁね、押しかけ弟子みたいなもんかな。
時間は永遠にあるんだし」
時間は永遠にあるのだろうか。
梨華は興味をそそられたが、それを知るにはまだ早い。
- 137 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:34
- 「ひとつ、訊いていい?」
「なに?」
「あなたは、ミストレスのことをどれくらい知ってたの?」
梨華は何一つ知らない。
外見、イントネーションなど知っているもののうちに入らない。
女が、「アドニス」がどの程度ミストレスについて知っていたのか興味があった。
「たぶん、あなたとほとんど変わらないね。
ひとつだけ、私以外の誰もが知らないことといったら、あのひとの死に顔かな」
梨華は知らない。
ミストレスの死に顔を知らない。
安らかだったのか、見るに耐えない無残なものだったのか、それすら知らない。
「まぁ、今からゆっくりと知っていくよ」
「アドニス」は快活に笑う。
これから「アドニス」はミストレスを知り、ミストレスは「アドニス」を深く知っていくのだろう。
- 138 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:35
- 「ごめん、もうひとつ訊いていいかしら」
「アドニス」は苦笑で返事を寄越した。
構わず梨華は問う。
「あなた、自分のこと嫌な人間だと思わない?」
予期していた質問だったのか、「アドニス」は薄ら笑いを浮かべたまま即座に答えた。
「二つばかり罪深いことをした、悪いと思ってるよ。
でも、その程度では自分を嫌いにはならないね」
梨華にとっても、「アドニス」の答えは予想の範疇だった。
頷いて、残りのトランタンを干す。
干したグラスを静かにカウンターに置くと、退けておいたホワイトレディのグラスが目に入った。
くびれたグラス。
グラスは熱に穿たれたようにぐにゃりと形を変えていく。
色を持ち、形を成していく様を、梨華は無言で見守った。
目を背けることはない、あれは、美しかった。
グラスはもはやグラスではなく、ひとつの生命体──人間に生まれ変わろうとしている。
しかし、それはもはや元・生命体と呼ぶべきものだった。
人間は造作まで精密に再現される。
それは紛れもなく「アドニス」のそれだった。
穏やかな表情を支える首には麻の縄。
括れたグラスは縊れた「アドニス」へと変容し、やがて溶けて消え去った。
- 139 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:35
- 「あなたの死に顔は、私だけのものね」
グラスの動向を静かに見守った梨華は、立ち上がるといった。
素足に床の冷たさが気持ちよかった。
「アドニス」は意味深な笑みを浮かべている。
梨華はそこに、ミストレスを表情を見ていた。
ミストレスの穏やかな笑顔。
「アドニス」の不敵な笑顔。
どちらにも、当分敵いそうにない。
「それじゃ、ごちそう様」
梨華は「アドニス」にくるりと背を向けると、青黒い照明の落ちている入り口へと向かった。
背中に「おおきに」の声が聞こえた。
扉を開く。
世界は白い。
ホワイトレディのような柔らかな白に満ちている。
- 140 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:35
- 〇
白が棘を持つ。
角ばった白が広がり、やがて啜り泣く声が聞こえ、梨華の意識はゆっくりと産声を上げた。
瞼を開こうとする。
しかし光が強く、また身体の節々が痛いせいで目に力が入らず、ほとんど開くことはできなかった。
「くあっ……」
思わず声が漏れる。
その梨華の呻きに反応したかのように、啜り泣きが明確な声の形を持って立ち上がってきた。
「梨華、梨華、目が覚めたの?」
ああ、そうか。
梨華は現状を把握しようとする。
ここは病院か。
「アドニス」の縊死体を見て、パニックに陥ってから、わけもわからず街を疾走したんだっけ。
あまり覚えていないけれど、なにかの建物に入った気がする。
そうだ、そこで靴を脱いだ。
飛び降りようとしたんだ。
もう生きていても仕方がない、とか思った気がする。
でも、こうして病院にいるってことは、飛び降りが失敗したのかな。
そんなことを思う梨華に、言葉は容赦なく浴びせられる。
「梨華、梨華、起きろ梨華」
- 141 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:36
- 〇
まず確認したのは海の底のような青黒い光。
次に湿気た木の香りが纏わりつき、最後にきらめきを放っているなにかを認めた。
小さな透明の輝きは整然と並んでいるが、同時に霞んでもおり、瞬間、梨華は自分は泣いているのかと思ったが、
目をこすってみてもその形跡は感じられなかった。
雨夜の街燈を思わせるその風景がやがて明瞭な姿を伴って立ち上がってくる。
きらめきは鈍い球形から鋭い放射状に変わり、根源の物体は正体を現す。
それは、逆さに吊るされたカクテルグラスだった。
遅れて周りの風景も鮮明になってくる。
青黒い光は上空から降り注ぐ照明、湿気た木の香りは建物自体から漂っている。
梨華自身は革張りのスツールに腰を下ろし、腹を中心に谷折りとなってカウンターに突っ伏していた。
コーティングが成されたばかりなのだろうか、カウンターの表面は緩やかにねっとりとしている。
しかしすぐに、その因が梨華自身の汗にあると気がついた。
- 142 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:36
- 「やっと起きたか」
上から声が降ってくる。
声の方向に目をやると、見知った友人の顔があった。
ほんのりと赤ら顔になっている。
「あれ?どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、もう帰るぞ」
肩を叩かれる。
なにがなんだかよくわからないまま辺りを見回してみると、そこは確かにバーだった。
友人に連れてこられた初めてのバーだ。
「ペース速かったかね?
私が少し席外してる間に寝ちゃってるんだもん、驚いたよ」
友人は呆れたという風に首を振っている。
梨華は身体を起こして店内を見回してみた。
スツールが十ばかりのカウンターバー。
バーテンは奥にいるのか姿が見えず、客はカウンターの右端に女がひとりいるだけだった。
「バーテンさんは今奥にいる。
あんたが調べて欲しいなんていうから調べてもらってるのよ」
友人は今度をため息をついて見せたが、徹頭徹尾何のことだかわからない梨華は肩を竦めるよりない。
- 143 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:36
- 「お客様、お待たせしました」
そこへタイミングよくバーテンが戻ってきた。
女──ミストレスだった。
「こちらが日本語訳になりますね。
なんというのでしょうか、文法ですか、そういったものが正しいのかどうかは私には判断しかねるのですが、
父がこのメモを元にこの文章を綴ったのは間違いありません」
そうして一枚のメモ用紙を手渡された。
相変わらず何もわからない梨華は友人に倣って頭を下げ、勘定を済ませる。
友人に手をひかれ覚束ない足取りで階段を上り出入り口の扉に手をかけ力をこめて押すと、
涼しい夜風が頬を舐めて吹きぬけていく。
友人にせっつかれ、梨華は外に出た。
閉まり行く扉から、
「ミストレス、アドニスを」
といった声が聞こえた気がした。
- 144 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:37
- 「ねぇ、調べて欲しいって何のこと?」
タクシーを拾える場所までいこうと、ふたりは連れ立って歩いている。
梨華は足取りのしっかりした友人に訊ねた。
「まったく記憶がないんだけど」
「珍しいよね、あんたがそこまで酔うなんて」
そういいながら、友人はポケットを弄って引き抜いたなにかを梨華に握らせた。
手を開いてみると、マッチである。
『フォグ』とカタカナで大きく印字されている。
「カウンターに積んであったマッチ。
その裏に英文が印刷されてるでしょ?
それ見た途端、和訳してくれ、日本語にしてくれって駄々こね始めて……。
初めて来るバーだったからかな、ちょっと普段と違ったね」
梨華はまったく英語が得意でない。
なにがなにやらわからなかったが、確かにどこか求心力を感じさせる文面である予感がした。
梨華は先ほどミストレスから受け取ったメモ用紙を開いてみた。
そこには折り目正しい字でこう書かれていた。
- 145 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:37
- ────
フォグは霧。
追えども追えども正体は見抜けず、手に取ることもままならない。
絡みつくひやりとした心地よさに惹かれ、我を失うことのないようご注進。
フォグはカウンターバー。
全ては酒がもたらす甘美な幻惑。
どうか、カクテルの海に溺れないようご注意。
- 146 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:37
- エキサイト翻訳は
- 147 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:38
- 勘弁してください
- 148 名前:ステア・シェイク 投稿日:2004/05/03(月) 05:39
- 参考文献:
「カクテルベストセレクション250」若松誠志監修・日本文芸社
- 149 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:30
-
何となく、楽屋の様子を眺めてみる。
いつも三人でじゃれ合っている田中、道重、亀井の三人。
山盛りのお菓子を目の前にし嬉々としている、コンコンとガキさん。
Wの振り付けだろうか、鏡の前で踊ってる辻加護。一人で本を読んでる高橋。
矢口さんと梨華ちゃんは雑誌を見ながらあれやこれや話してる。飯田さんは・・・交信していた。
- 150 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:31
-
モーニング娘。は、多過ぎる。
- 151 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:31
-
「よーしざーわさぁん」
あたしの首根っこに、絡みつく腕。この重量感、振り向かなくたってわかる。
「何だよ小川ー」
そう言いつつ、よっすぃースマイルをお見舞い。小川はいつものでへへっとした笑いを浮かべ、
「ねえ吉澤さあん、一緒に遊ぼうよー」
なんて言い出した。
「だめー」
「えー何でですかあ」
「家に帰ってから描く絵の、構想を練ってるから」
適当な言い訳をしつつ、小川をコンコンたちのほうへ追いやる。はじめ不服そうな顔をしていた小川だけど、お菓子の山に目が眩んだのか、すぐに輪の中に溶けていった。
- 152 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:32
-
そんなあたしに、第二の訪問者。
いきなり頭を齧られる。こんなことするやつ、一人しかいない。
「ミキティーさ、頭に歯型がつくっての。頭が濡れると力出なくなっちゃうから」
「いや頭に歯型なんかつかないし。て言うか何でアンパンマン?」
そんな彼女独特の突っ込みとともに吐き出される息も、心地がいいような、良くないような。
「最近よっちゃんさんさあ、大人しいよねえ。前は辻ちゃん加護ちゃんなんかと一緒に騒いでたのに」
「適度な距離と、適度な関係」
なにそれ、と鼻であしらわれてしまったけれど。
- 153 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:32
-
ひとつ、溜息をつく。
いつからこんなんなっちゃったんだろう。
仲間と適度な距離をとり始めた、と言えば聞こえはいいけど、要するに面倒臭くなっただけ。
娘。のメンバーが増えていったことと関係あるのかもしれないし、ないのかもしれない。
もともとあたしの中にあったものが、露わになっているのかもしれない。
とにかく、小手先で何かをやることが増えた。
小手先で仕事して、小手先で仲間と接して。
まるで電子レンジで解凍しそこねたコロッケみたいに、外側だけ熱くて、中身は冷めたまま。
あたしにはわかっていた。自分がどうあがこうが、その状態からは決して抜け出せない事を。
- 154 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:34
-
仕事が終わり、自分だけの空間に帰る。
机のダッシュボードから、スケッチブックと12色鉛筆を取り出した。
あたしが絵を描くようになったのも、そんなストレスを解消したかったからなのかもしれない。
最初は飯田さんの真似事でもしてやろうか、なんて軽い気持ちからだった。でもこれが意外にあたしの性に合っていて、今では仕事から帰った後の日課みたいなものになっていた。あいぼんには「よっちゃんの絵わけわかんない」と言われ、奇を衒ってデザインした太陽を小川にまで「イソギンチャクですかそれ」とからかわれる始末。でもあたし自身は、自分の絵を気に入っていた。
それでもまあいつも順調に絵描き作業が進むわけでもなく、
「うああああ、ちょっと休憩だあー!!」
とブレイクをいれたりもする。
適度な休憩と、適度な余裕、みたいな。
- 155 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:35
-
椅子の背もたれに体を預けながら、咥えていた煙草に火をつけた。
少しの間だけ燻っていた煙草の先が、蛍のしっぽみたいにゆっくりと灯ってゆく。煙草を吸う習慣がついたのも、あたしが全ての事に熱意を失ったのと同じくらいの時期だったと思う。
斜め向こうの壁に向かって、紫煙を吹きかける。頼りなさげに四散する煙に、あたしは自らの行く末を重ねてみた。
多分今のモーニング娘。は腐りかけた果実だ。
あとは枝から地面に堕ちるのを待つだけ。
そして容れ物同様に、きっとあたしも腐りかけてる。
そのことはきっと、絵を描いてることでなんかじゃ止められない現実。
ふと、デスクマットに挟まった、メンバーの集合写真に目がいく。
気付いたら、写真を引っ張り出していた。
- 156 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:35
-
最近のコンサートの時だったと思う。
青と、ピンクの衣装に身を包んだあたしたち。
カメラのファインダーに向かって微笑みかける14の笑顔を見ているうちに、何となく手が動いていた。
メンバーの一人の顔に、赤を近づける。笑顔は歪み変色する。接触した部分から嫌な臭いの煙が上がった。やがてその部分は融けた水飴のようにぽっかりと小さな穴を開けた。
何かの、疵みたいだった。
それが、あたしの背筋をひどく刺激した。
疼きは、さらなる穴を作る事を強要する。
一つ、二つ、三つ。
穴は増え、人は減っていく。
嫌な臭いは部屋中を満たし、視界までもが濁って見えた。
合わせて十三の穴を開け、それから写真を机に放り出した。
十三の穴に囲まれた、あたしの笑顔。
そう、モーニング娘。は、増え過ぎたんだ。
- 157 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:36
-
仕上げに短くなった煙草を、あたしの顔に押し付ける。所々折れ曲がりながらも垂直に立つそれは、まるで墓標のように見えた。
蜂の巣になった写真の光景は、まったくと言っていいほど違和感がなかった。
・・・喉が、渇いたな。
徐に、椅子を離れる。
眩暈がしたのは、蔓延している紫煙の所為。
あたしは大きな背伸びをし、それから部屋を出る。
何かいい絵が、描けそうな気がした。
- 158 名前:憂鬱な影絵たち 投稿日:2004/05/07(金) 13:36
-
fin
- 159 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/05/14(金) 16:39
-
どん・じょばんに
- 160 名前:どん・じょばんに 投稿日:2004/05/14(金) 16:40
- (0^〜^)<ちなみに元バルサの使えないFWではな〜い
- 161 名前:どん・じょばんに 投稿日:2004/05/14(金) 16:41
- どん・じょばんに 全一幕
(楽屋裏。吉澤と藤本。人目につかないようひそひそ声で。見張りの桃子がキョロキョロと辺りを見回す)
吉澤「ねえ、見たんでしょ?わたしは清算したよ。だからさ――」
藤本「でも、あやちゃんとは……もう少し考えさせて――」
吉澤「『石川とは何でもない』ってテレビで言ったんだよ?宣言したんだよ?もっとも、いしよしなんて最初からマニアの妄想だから何にもなかったけどさ!こっちは誠意を見せたんだよ?みきてぃもはっきりしてよ!」
藤本「そんな急に言われても心の準備が……」
(泣きそうな表情でうつむく藤本。かさにかかって責めたてる吉澤。)
吉澤「大体『あたしが本当に好きなら証拠を見せてよ!』って言い出したのはみきてぃの方じゃない?今になってそんなのずるいよ!契約不履行だよ!」
藤本「契約だなんて、そんな……」
ガタンッ!
(突然の物音にハッ、と身構える二人。桃子は脅えて吉澤の背中に隠れる)
吉澤「(桃子に振り向いて)こ、こらっ!見張りがまっ先に逃げ出してどうする?!」
桃子「そんなこと言ったって、こわいんだもん!」
藤本「(何でこいつが?という目つきで桃子をにらみながら)また、よっすぃのバイト?」
吉澤「キッズの給料だけじゃ嗣永家の借金は返せないから」
(後藤、現れる)
後藤「(目を細めて)あれえ?へーえ、ふーん…」
吉澤「(慌てて手を振って)あ、これはちょっと次のステージの練習で…ほら、MCの打ちあわせ?いやあ、わたしたちって練習熱心だし」
藤本「(こちらも目を細めて)あれえ?へーえ、ふーん…」
吉澤「(慌てて手を振って)あ、これは違うんだよ、別に弁解してるわけじゃなくて…(桃子に振り向き)あっ、そうだおまえ!何とか言えよ、ご主人様の窮地だぞ!」
桃子「(目を細めて)いいんですか?言っちゃって?」
吉澤「(ギクッ、とのけぞって)な、何を言うつもりだよ?」
桃子「(細い目をさらに細めて)何って?すべてですよ(ニヤリと笑みを浮かべ後藤に)後藤さん、実はですね――」
- 162 名前:どん・じょばんに 投稿日:2004/05/14(金) 16:42
- (吉澤、慌てて桃子の口を塞ごうとするが、桃子するりとかわし後藤の背中に隠れる)
桃子「(吉澤に向かって舌を出し)べーェだっ!」
後藤「(無表情で)CDデータ見てやっと改心したのかと思ったら、これ?(藤本を顎で指し)」
藤本「(ムッとして)これって何?あたし?」
(険悪な雰囲気にオロオロする吉澤。無駄に対抗心を燃やす藤本。)
後藤「(無関心を装いつつ)あややに相手してもらえないからって他人のモノに手を出すなんてさすがにお郷が知れるわね」
藤本「(『お郷』を指摘されてブチ切れ)貧乏で悪かったわね!そうよ!あたしは欲しいものはどんなことしたってぶん獲るのよ!(桃子に目くばせして)ほら、あんたも何か言いなさい!」
(舞台暗転。桃子にスポットライト当たり独白)
桃子(ハロプロのパワーバランス的には後藤さんにつくのがいいのかしら…いや、意外と藤本さんかも…んん!ソロでさっぱりの後藤さんとソロに見切りをつけられた藤本さんじゃ判断が難しい…いっそ吉澤さんに?っていうか目下の収入源は吉澤さん…迷う必要もなかったわ)
(ふたたび照明オン。)
藤本「(美貴帝モードで)何ぶつぶつ言ってんのよ?あんた貧乏言われて悔しくないの?」
後藤「(相変わらず無関心を装って)ふーん…あんたも貧乏なんだ?けなげだねえ」
桃子「(お約束で)同情するなら金をくれ!」
(微妙に対立する三者の注意が自分に払われていないのをいいことに逃げ出そうとする吉澤。わざとらしく抜き足差し足で下手に捌けようとしたところで桃子に気付かれる。)
桃子「(後藤の背後から進みでて吉澤の退路を塞ぎ)あっ!吉澤さん、逃げたってダメですよ!お金払ってください!お金!」
吉澤「(三者にそれそれ愛想を振りまきつつ)あ、お金?払う払う、今度ね。今、手持ちがないし――それにしても、みきてぃが貧乏だなんて冗談きっついよねえ?ごまっとうの印税だってガッポガッポでうらやましい限り!あ、ごっちんもだよね凄いなあ、わたしなんかプッチがこけてすっかり干上がっちゃって(桃子に向かい)そういうわけだからさ、バイト代ローンでいい?出世払いってことでさ、だめ?」
(桃子、無言で首を横に振る)
- 163 名前:どん・じょばんに 投稿日:2004/05/14(金) 16:43
- 吉澤「(小声で)ちっ、最近のガキはかわいげってもんが……。同じガキでもガキさんなんかわたしにおごってくれたっていうのに――」
藤本「あんたがたかっただけでしょ(呆れて肩をすくめる)」
後藤「(何事もなかったかのように無関心な様子を装いつつ)で、ようやく梨華ちゃんと切れたと思ったら、今度はそこの貧乏人ってわけ?あんたも変わらないっていうか……(やはり呆れたように肩をすくめて)相変わらずお盛んねえ……(急に思い出したように)あ、そうだ!ちょっと、あんた、そう、そこの貧困仲間のあんたよ!」
(わざとらしくシラを切り続ける桃子に吉澤が蹴りを入れる)
吉澤「お前だよ!」
桃子「イテッ!(吉澤を恨めしそうに振り返りながら)もーぉ、乱暴なんだから…(しぶしぶ後藤に向かい投げ槍に)何ですか?あん?」
後藤「あんた、よっすぃの付きびとなんでしょ?」
桃子「(不服そうに)『従者』と言ってほしいですね」
後藤「(苦笑いを浮かべ)ハイハイ、その従者さんなら最近の吉澤さんのよからぬ行状はすべて把握してるよねー?」
桃子「(無い胸を張り上げて誇らしげに)そりゃあもう、テンモーカイカイ、疎にして漏らさずってやつで」
吉澤「(なぜか股間を押さえながら)ギクッ…」
田中「(舞台袖から友情出演)れいなはボーボーたい!」
後藤「(吉澤・田中を無視して)それで…梨華ちゃんとは本当のところどうなったわけ?」
吉澤「(桃子をひじでつつきながら小声で)おい…言うなよ。バイト代…わかってんだろうな?」
桃子「(吉澤に向かって舌を出し)ベーェだっ!(後藤に向かい)言ってもよろしいですが…それなりに(薄笑いを浮かべ)蛇の道はヘビと言いますし、ねえ?」
後藤「(再び苦笑い)いいよ。バイト代のことなら、よっすぃの倍出すから」
桃子「(満面の笑み。揉み手で)さすが後藤さん!どっかのしみったれたケチとは器が違いますね!」
吉澤「ああ?!お前!裏切るのかよ?!」
桃子「これが競争経済の市場原理ってもんですよ」
後藤「(さすがにうんざりして)で?よっすぃはマジで梨華ちゃんとは終わったわけ?」
- 164 名前:どん・じょばんに 投稿日:2004/05/14(金) 16:43
-
(ドスン、ドスン、と地響きを立てながら上手から小川登場)
小川「(慌てた様子で)てえへんだ!てえへんだ!てえへんだ!(吉澤を見つけて駈けより)あ、吉澤さん、大変ですよ!後藤さんがこちらに――」
吉澤「(後藤を指し示し渋い顔で)ごっちんならそこにいるよ」
小川「(目を見開いて)ええーっ!もう来ちゃったんですか?それは失礼(ペコリとお辞儀)」
吉澤「(ぶっきらぼうに)だから何なんだよ?」
後藤「(小声で桃子に)なんかまたややこしいのが来たよ」
桃子「(投げ槍に)ダメですよ、目ぇ合わしちゃ」
小川「(あたふたと駈けまわりながら)大変ですよ!私たちの仲がバレちゃったんですよ!」
吉澤「(怪訝そうに)別にバレて困るような仲じゃないだろ?」
小川「(手をパタパタと上下に振りながら)何言ってんですか?嫉妬に駆られた後藤さんに殺されるのは私なんですよ!」
吉澤「(鼻糞をほじくりながら)へーえ、そりゃ大変だ」
小川「(目だけでなく鼻の穴も広げて)ちょっと吉澤さん!私たちのラブラブな仲がバレてしまった以上、これはもう隠しておくわけにはいきませんよ!」
吉澤「(うんざりした様子で)だからお前とは最初から何にもないってば」
小川「(吉澤に掴みかからんばすりの勢いで)ムキーッ!遊びだったっていうの?」
吉澤「(蔑んだ目つきで)お前なんか最初から相手にするわけないだろ?」
後藤「(さすがに見かねて)ちょっと、よっすぃ、それはあんまりなんじゃないの?」
桃子「(便乗して)そうですよ。まったく、いくら小川さんが○○で▽▽だからって(あえて自主規制)」
吉澤「(やや気色ばんで)なんだよ、わたし一人で悪者かよ?あん?」
藤本「(凶悪な目つきで)小川、長い!」
(泣き崩れる小川。入れ替わるようにドタドタと大きな音を立てながら上手から石川登場。石川に蹴り飛ばされて小川下手に退場)
- 165 名前:どん・じょばんに 投稿日:2004/05/14(金) 16:44
- 石川「(泣きはらした目をハンカチでぬぐいながら)よっすぃ!ああ、わたしのよっすぃ!」
吉澤「(頭を抱えて)なんだっての、いったい?わたしが何したよ?」
後藤「(不適な笑みを浮かべ)梨華ちゃん、よっすぃとはもう終わったんだよ、素直に認めなよ」
石川「(キッ、と後藤をにらんで)何よ!ごっちんに何がわかるのよ!」
後藤「(片頬をあげてニヤリと笑い)『石川』って呼ばれてたじゃん?テレビでも雑誌でも。終わったってことでしょ?」
石川「(眉をつり上げて)そんなことないもん!」
藤本「(腕を組んで斜めに見下ろし)石川うざっ!」
吉澤「(逃げ場を求めて辺りを見回し徐々に後ずさりながら)いや、梨華ちゃん、あれは演出ってやつでさ…アハハ、わたしが『石川』なんて呼び捨てにするわけないじゃん…ハハ、もう冗談キツいんだから」
石川「(パッ、と目を輝かせて)じゃあ、よっすぃ、まだ私のこと?」
吉澤「(しきりに隙をうかがいながら)も、もちろんだよ…」
石川「(無邪気に)嬉しいっ!」
(石川、吉澤に抱きつこうとするがあっさりかわされる)
後藤「(ややムッとして)何よ、梨華ちゃんとは終わったんじゃなかったの?」
桃子「(退屈そうにあくびをしながら)あのー?私の立場は?」
後藤「(振り向きもせず)クビ」
桃子「(引きつった笑みを浮かべ)ええっと…それでバイト代の方は……?」
後藤「そんなもん、払うわけないでしょ!」
桃子「ええーっ?ひどいですぅ……(と言いながら吉澤にすりより上手を指差し大声で)あっ!」
全員「(上手に振り向き)えっ?」
桃子「(吉澤の腕をつかみ下手へ誘導し)こっちです」
(吉澤、後藤たちの様子をうかがいながら下手に捌ける。後藤、石川、藤本、追いかけるも間に合わず。)
舞台反転
- 166 名前:どん・じょばんに 投稿日:2004/05/14(金) 16:44
- (上手から桃子に手を引かれて吉澤あらわる。)
吉澤「(追っ手を気にかけつつ)どういう風の吹きまわしだい?」
桃子「(悪びれずに)バイト代、いただいてませんからね」
吉澤「(追いかけてくる気配のないことにホッと胸を撫でおろしながら)現金だなあ、お前は」
桃子「飼い犬は主人に似るといいますから」
吉澤「(ひらめいた、と言うように手を打って)おう!それじゃあ――(ニヤニヤしながら)お前も好きモノってことだな?」
桃子「(ポッと顔を赤らめてうつむき)え?そ、そんな……」
吉澤「(桃子の肩を抱きながら)じゃ、今日の夜は……(桃子の顔を覗き込みながら)いいね? 」
桃子「(少しすねた様子で)そんなうまいこと言って、飽きたら捨てるくせに…」
吉澤「(男オーラ全開で)ふっ…先のことは保証できないね。ただひとつ、わかってることと言えば(パッと腕を広げ)今夜はお前だけということさ」
桃子「(真っ赤になって手で顔を覆い)キャーっ!!(さらに足をジタバタ)」
(舞台暗転。吉澤にスポット当たり独白。)
吉澤(梨華ちゃんもごっちんもしばらく難しいしなあ…みきてぃはなんか落ちそうで落ちないし、麻琴は……論外だし。誕生日に一人寝なんて寂しすぎるもんな……)
(照明復活。)
桃子「(天使のように無垢な微笑みを浮かべ)よーしざーわさん!」
吉澤「(我に帰り)ん?」
桃子「(天使のようなささやき声で)今夜の分は追加料金でお願いしますね」
吉澤「んなっ?!」
桃子「(天使のようにつぶらな瞳で吉澤を見つめ)小学生の世間の相場知ってます?(両手両指を広げ)※ゲーマン、ダブルでお願いしますよ」(※5万円のこと、ダブルで10万円)
吉澤「高い!せめてシングルで!」
藤本「(袖から顔を出して)値切るのかよ!」
- 167 名前:どん・じょばんに 投稿日:2004/05/14(金) 16:44
- 桃子「(天使のような愛らしいしぐさで髪をかき上げ)じゃあ、延長なしでシングルに」
吉澤「もう一声!お前なしでは生きていられないんだ!」
桃子「(天使のように狡猾そうな表情で)これ以上、まかりませんよ。ていうか、それをいうなら――」
藤本「(またもや舞台袖から顔を出し)あなたなしでは、だろ!」
(吉澤と桃子、一瞬、顔を見合わせるが気をとりなおし)
吉澤「(哀れみを乞うように)そんな殺生な…」
桃子「(天使のように勝ち誇った笑顔で)殺生もせっちゃんもありません」
吉澤「(お約束で)せつこなあ…ジャガイモ嫌いやねん……」
(藤本が袖から顔を出して持ちネタをやりたそうに爪を噛む。)
吉澤「(藤本に気付き、ハッとして)っていうか、お前、もう小学生じゃないだろ?!(今頃気付いて)JAROに訴えるぞ!」
桃子「(天使のようにしらじらしく)世間がそう思ってるならいいんです」
吉澤「っくしょー!足もと見やがってよぉ」
桃子「(天使のように両腕を構えて挑発し)ファイティングポーズはダテじゃないんですよ!」
吉澤「ちくしょーっ!初登場25位のくせに!次のやつだってどうせ売れねーよ!」
桃子「うっさい!氏ね!(と叫びつついつのまにかはめたファイポグラブでロケットパンチ)ピリリと逝ってしまえっ!」
吉澤「(頬に一撃を食らい)ぴろりろり〜ん!(と歌いながら舞台下手に刷ける)」
桃子「(吉澤を見送って視線を客席に戻し天使の微笑みで)ピロリ菌の予防は夏わかめでね!(すたこらさっさと下手に刷ける)」
(ステージ暗転。舞台に幕。)
どん・じょばんに 全場終了
- 168 名前:どん・じょばんに 投稿日:2004/05/14(金) 16:45
- (0`〜´) <イカ臭いんだYO!
- 169 名前:打算的な彼女 投稿日:2004/12/22(水) 19:24
-
身体の節々が痛くなるよりも、今はとても精神的に参っている。
とっても大事なものとか、宝物とかに例えたら悪いんだけど。
やっぱそれしか言い様がないわけで。
大切って思う事がいちばん、彼女にとってもあたしにとっても。
良いような気が、してきたんだ。
- 170 名前:打算的な彼女 投稿日:2004/12/22(水) 19:26
- 自分から終わりを申し出たにも関わらず。
あたしはプライドが傾く事を許して、なんとか頭を下げたいような気持ちになった。
ひとりきりの空間で、ひとりきりの彼女を見ているだけ。
溜め息なんかついたって、どうしたの?って心配そうな顔で駆けてくる彼女は遠いし。
泣いたりしたって、慰めてくれる彼女の笑顔も見ているだけ。
無力なあたしって、何なんだ。
- 171 名前:打算的な彼女 投稿日:2004/12/22(水) 19:29
- あたしが悪いわけじゃなかった。
っていうか、そんなこと今はどうだっていい。
何でだか、話す機会はあるのに会話がなくて。
ああ、もういいやって、あたしの投げやりな性格が丸出しになったその時。
彼女はあたしの目の前を避けるようになった。
まあ、あたしが避けてるって言ってもおかしくない。
もう喋る事も、あんまりなくなっちゃった。
たった1週間しかたってないけど、なんだか近くて遠い距離。
そんな彼女にも、あたしにも、うんざりしてくる。
だってこれは、あたしらの関係が終るって事かも、しれないわけ。
あたしってばさっきからとんとん話してるけど、結構深刻。
なんせあたしは
彼女の事が、美貴の事が好きだから。
- 172 名前:打算的な彼女 投稿日:2004/12/22(水) 19:31
-
おはよう、とか、ばいばいとか。
喉までくるんだけど、おぇっと吐き出せない。
バカみてぇ。あたし。
ばいばいの代わりに、ほんとうにさよならすれば。
ラクチンだし、後味も悪くないかも。
でもそれはできなかった。
好きで好きで、たまんないから。
こんなに必死な恋愛とか、本当は趣味じゃないけど。
相手によるじゃん?恋愛って。
だからあたしの相手は、美貴しかいない。美貴だけ、なんだよ。
- 173 名前:打算的な彼女 投稿日:2004/12/22(水) 19:34
-
電話で謝っちゃえ。
何度も何度も考えて、そんな簡単な答えが出た。
そしていまあたしは、携帯を握りしめて耳にあてる。
きっと出てはくれるだろうけど、彼女は頷くだけだろう。
そんな美貴の性格は、あたしが熟知している筈だから。
「……出ろー」
出てくれ。お願いだから。声が聞きたいんだ。
本当に奇跡とかいうもんがあるなら、神様手をかしてくれ。
易々受け取れるものじゃないと知っていても、あたしは諦めなかった。
ずっと、ずっと意地張ってて悪かった。
あたしが、ぜんぶ悪かった。
心から願えば届くんだよ。うん、そうなんだよ。
勝手な迷信でもいい。美貴と、笑いあって、喋りたい。
- 174 名前:打算的な彼女 投稿日:2004/12/22(水) 19:38
- プッ
『もしもし?』
「美貴」
突然聞こえて来た、懐かしいとも言える美貴の声。
思わずあたしは、名前を呼んだ。
久しぶりに口にした響きが、とてもなめらかだった気がした。
きっと電話口でキョドってる。そんで、なんで?って顔してるんだろう。
『…どしたの』
「話したいなと」
顔は真っ赤で、しどろもどろしてる。
何でも分かっちゃうのが、すごく不思議なんだけど。
笑いを抑えて、美貴との会話を続けようとする。
でも、途切れそうだ。
こんな時間を稼いでる暇は、きっとない。
- 175 名前:打算的な彼女 投稿日:2004/12/22(水) 19:41
-
「逢いたい。今すぐ」
肝心の言葉が、やっと出た。
普段はチャラけてるあたしが、こんな真面目な事を言うのは初めてかもしれない。
だから彼女は、素直に受け取ってくれるものだと勝手に想像してるけれど。
あたしの女なんだ。ちゃんと聞いててくれてる。
ちゃんと、想っててくれてる。
自身過剰。別にそう思われたっていい。
何秒か経って、かすれた声が少し聞こえた。
『…なんで、急に?』
「今じゃなきゃ。間に合わない」
『意味わかんないよ、よっちゃ…』
「今すぐじゃなきゃ」
終ると思う。
あたしが想う美貴も、美貴が想うあたしの事も。
全部思いでとして、なくなってしまう。
今すぐじゃなきゃ、とても時間は足りない気がした。
- 176 名前:打算的な彼女 投稿日:2004/12/22(水) 19:46
-
「分かってるでしょ?今電話切ったら、あたしら終るんだよ」
どっちがきっかけとか。どっちが悪いとか。
そんな問題じゃなかった。
ただ、なんとなく壁ができて、それが広がって。
ぶっ壊す事だけ考えて、美貴の事なんかちっとも。
考えてなかったんだ。
「だから。逢いに行くよ。まだ遅くないんだから」
『…じゃなかったの…』
「え?」
『嫌いになったのかと思った』
ガンと諦めるように、美貴のやたら大きい声が電話から聞こえる。
普段は言わない言葉を、諦めたかのようにするりと口にした。
今まで背負ってた全部の荷物を、ドサッと投げるように。
- 177 名前:打算的な彼女 投稿日:2004/12/22(水) 19:49
-
「有り得ないって」
あたしはそれだけを残して、電話を切った。
なんでだか笑いが込み上げて、一人で失笑してばかり。
なんで、なんでだろう。
壁がブッ壊れて、美貴のこともあたしの事も、全部納得できたから。
考えてみたけどそれしか答えはなかった。
嬉しくて、楽しくて。
彼女の声を耳にしただけで、胸が踊った。
負けず嫌いの彼女を負かしたような気分であたしはいっぱいだった。
なにもかも勝負事に対しては、とっても敏感だし。
だからすごく、気分がよかったんだ。
今逢いに行ったら、とびきりの笑顔を見せて。
いつものように、抱きしめて。
そんなことを想像して、電話をポケットにしまった。
おしまい。
- 178 名前:作者 投稿日:2004/12/22(水) 19:49
- おわりです。
- 179 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/24(金) 00:28
- よいです
- 180 名前:名無しおたおめ 投稿日:2005/04/12(火) 00:08
-
『二十歳になって最初にもらったプレゼント。』
- 181 名前:_ 投稿日:2005/04/12(火) 00:08
-
時計が午前0時を回ると、とたんにメールの着信音が間を置かず鳴り響く。
あたしは内容を見ずに、マナーモードに切り替えた。
はたちはたちはたちはたち…………………、
もう勝手にしてくれって気分。
堂々とお酒が飲めるとか、成人したから一人暮らししようとか、
そんなうれしい事まったくないし。
お酒なんてまずいだけだし、家族とすごすのも好きだからこのままがいい。
あたしはあたしのまま。昨日も今日もなんも変わんないってのに。
なのになんで殊更この歳になる時だけあーだこーだ…
いろいろ押し付けられてすごく窮屈だ。
- 182 名前:_ 投稿日:2005/04/12(火) 00:09
-
昨日まで桜も満開で、暖かかったのに、
春らしく晴天は続かず今日はしとしと花散らしの雨。
しかも夜になってからは寒いくらい気温も下がっていた。
一時間もすると携帯の着信も静かになった。
なんとなく、寝そべっていたベットから起き上がり、窓辺のカーテンを開けてみた。
点々と雫が窓ガラスにはりついていたけど雨はもう上がっていた。
- 183 名前:_ 投稿日:2005/04/12(火) 00:10
-
ジー、ジー、……、ジー、ジー、……、ジー、ジー、……、
なんだよ、今頃…、止まない振動に思わず液晶も確認しないでボタンを押した。
♪ピッ
『ねぇ、いま超キゲン悪いでしょ?』
『んだよ、いきなり』
『やっぱ予想どおり、その声』
『うっせ、くそ出んじゃなかった』
『ふふ、もう遅いもんね』
『てかもっとほかに言う事あんじゃないの?』
『ん?なんだっけ?』
『てかわざと? それ』
『ぅん? ………、あそっか、でもなんか全然それ言ってほしそうじゃないし、
もしかしてみんなのメールも見てないっしょ?』
『んなことねーよ、ちゃんと返したもん』
『ウソ、美貴に来てないよ』
『え?メールくれたの?……ゴメン、まだ見てない……』
『やっぱそーなんだ』
『へ??? あ!ひっかけた?! ひでー!』
『ふ〜んだ、美貴の勝ちだもんね』
『キーっ、すげームカつく』
『ざんねんでしたぁ〜』
『くっそー!もう切る!』
『いいよ〜、んじゃおやすみ、よっちゃん』
『何が“おやすみ”だよ、むかついて眠れなかったら責任とれよ』
『うん、いいよ、美貴もうちょっと起きてるから』
『ぜってーだな』
『ぜってーだよ』
♪ピッ
なんだこれ、なんかいつもとぜんぜん変わんないじゃん。
携帯をパタっと閉じて再び窓に向き合った。
ガラスに写ったあたしの顔が妙にニヤケて見えて、それがなんかおかしくて、
つい小さく笑ってしまった。
- 184 名前:_ 投稿日:2005/04/12(火) 00:11
-
一陣の強い南風がぴゅ〜と吹いてどこからかピンクの花びらをひらひらと、
夜空の彼方に運んでゆくのが見えた。
窓辺から離れて届いてたメールをチェックする。
色とりどりのおめでとうの言葉。ほんのりココロがあったかくなる。
やっと素直に受け止められた。
そしてやっぱり届いていた、しかも十二時きっかりにメールくれたその人に、
あたしは最初に返事をかえした。
“ゴラァ!!まだ寝んなよ!!”
“寝ないよ!”
- 185 名前:_ 投稿日:2005/04/12(火) 00:12
-
- Fin -
- 186 名前:_ 投稿日:2005/04/12(火) 00:14
-
う〜ん……、ひっそりうpしようと思ったのに
しくじってアゲてしまった…… orz
ともかく、吉澤さん、おたおめです〜
- 187 名前:_ 投稿日:2005/04/12(火) 00:15
-
- 188 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/12(火) 21:07
- よかったですよ。
- 189 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/12(火) 22:08
- 『バースデープレゼント』
「お誕生日、おめでと」
しかし、ひとみは横を向いたままだった。
「さっきから、よっすぃ〜は何すねてるの?」
「それがですね……」
時間は、昨日止まった。ひとみはそう言い張った。
「だから、今日は昨日なので、よっすぃ〜はまだ十九歳なんだそうで」
「うん、まあ理屈は合ってるのかな」
それでも食い下がって、無理にでもプレゼントを渡そうとした。
ひとみも、意地になって受け取ろうとしない。
「どうして私によっすぃ〜の誕生日を祝わせてくれないの」
「もう時間は止まったんだ」
ひとみは横を向いてつぶやいた。
「時間が流れなくなったから、来月はもう二度と来ないんだ……」
梨華は、少しだけ嬉しくなって、ひとみの桜色の頬に軽くキスをした。
おわり
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 01:01
- どっちのやつもよかった。12日過ぎても言わせてくれ。
よっちゃんオタオメ。
- 191 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 01:39
- 「誕生日って言っても」
突然彼女が話し出すのを、雨の降りつづける灰色の
景色をみながらなんとなく聞いていた。
あたりまえのように、自分の隣にいる彼女。
誕生日がきた。
それは、彼女との残り時間の少なさを私に実感させるだけだったから。
「本人がそんなにふつーだと、こっちも盛り上がりづらいんだけど」
すこしすねたように誕生日一式セットを私の部屋に持ち込んで、
無言のまま、30分。
しびれをきらしてようやく彼女が言った言葉で、
自分がまた、じぶんだけの世界にこもっていたことに気がつく。
- 192 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 01:43
- 「ん〜・・・なんか娘。のなかにいるとさ、二十歳って若くねぇし」
「なにそれ、いやみ?」
「・・・・・・半分、半分」
ごろんとコタツのなかで転がって、
もぞもぞと彼女のひざの方にすりよって。
こんな甘え方するのも久しぶりだけど、
甘える自分でもいいって、最近思い始めた。
「よっすぃ〜?」
「ん・・・」
「どっか、行く?」
「・・・・いかない」
ケーキ、冷蔵庫に入れといて、あとで食べよう?
笑顔でこのけだるさに付き合ってくれる、
そんなメンバーが、またひとり、減る。
- 193 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 01:46
- ずっと、卒業に対して構えてた、けど。
そんなこと気にしてる場合じゃなくなってきた。
時間は限られている。
意地を張っている場合じゃない。
あと、一ヶ月しかないのに。
そう思って、突然失った時間を取り戻そうと、
あわてて接点を取り戻そうとする私に、
思いもかけないくらいの笑顔で答えてくれた彼女は、
やっぱり、大事な大事な同期だった。
誕生日を祝ってくれるといってくれた友人達よりも、
家族よりも、
どうしても梨華ちゃんとすごしたくて、
全部断って、一緒にいて、と伝えてみたりしたんだ。
- 194 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 01:49
- 本当は、遊園地とか行きたかった。
初めてロケとかしたところとか、
何でもいいから、思い出の場所めぐりとか。
そんな感傷的なことを、少し思っていた。
それなのに、いざ梨華ちゃんが部屋に入ってきたら、
そんなのもったいないって思い始めて。
そう、もったいない。
二人の思い出を増やす、これが最後かもしれないのに、
おもいでめぐりなんて。
- 195 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 01:52
- 「ねぇ、眠くなっちゃったよ?」
「う〜ん・・・・。じゃぁ、昼寝しよーぜー」
「えー!!誕生日なのに?」
「・・・誕生日だから、だよ」
けして多くを話すわけじゃない、私と、
いつもしつこいくらいに話を続ける彼女の会話のテンポは
周りでみているよりも多分、本人達が一番気持ちがいいはず。
うぬぼれとかじゃなくて。
話をしていると、梨華ちゃんはいつも笑顔で。
ふてくされた顔をしているけど、
私の心の中は、その瞬間にほっこりと暖かくなる。
誰にも言ったことはないけど。
- 196 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 01:58
- 「だからさ、誕生日プレゼント。
今日、ありがとね、きてくれて」
きちんと言ったことなかったから、
今までのありがとうをたくさん込めて。
卒業の時なんかに感傷的になっていったら、
言葉の意味が半分になってだめだからさ。
梨華ちゃんならわかってくれるはずだと、信じてる。
「・・・ありがとね」
顔を隠して呟いた一言を、
梨華ちゃんは、これ以上ないくらいの笑顔で
受け止めてくれた。
外は、雨。
けれど、
かけがえのない思い出の一日。
- 197 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 01:59
- 更新終了です。
おくれたけど、よっすぃ、誕生日おめ!!
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