Can't forget your love −You&Me-
- 1 名前:作者 投稿日:2004/04/12(月) 22:52
- 彼女を思うとき、その思いには常に別離の予感が隣に寄り添っている。
- 2 名前:-T- 投稿日:2004/04/12(月) 22:53
-
T
梨華が死んで一年の歳月が流れた。
私はあの頃と変わらず十代で、梨華も変わらず十代だ。
梨華はどこか遠く別の惑星にいるのだろう。
そこで、きっと、私の事を考えている。
そう思いたい。願っている。
梨華と出逢ったのは、中学の三年目。
私達が通っていた学校はエレベーター制なので、受験という単語とはあまり関係無くピリピリした緊迫感も漂っていなかった。
三年目で初めて同じクラスになった梨華。
見た瞬間に変な気持ちが腹底から湧き上がってきた。
熱いそれは私を溶かす様に。
「初めまして。よろしくね。」
あの時の笑顔を、私は今でも覚えている。
- 3 名前:-T- 投稿日:2004/04/12(月) 22:55
-
梨華はごく普通の生徒だった。
運動はそこそこ――所属はテニス部だったし――頭は可も無く不可もなく。
私も梨華の事を言える様な頭脳の持ち主ではなかったけれど、運動では少し上を行っていた筈だ。
梨華は、驚く程の可愛さと華奢さを除けば、本当に本当に普通の子だった。
そして、私は梨華が大好きだった。
だんだんと休みの日など、会う機会が多くなって行った私達だったけれど、進展は物凄く遅かった。
梨華には何でも話せると言っていたけれど、実際そんなに上手く行っていなかった。
会話が続かなくなったり、意見が食い違ってしまったり、最初はどこかよそよそしかった。
けれどそれもその内、気持ちいい程に分解され始め、私と梨華はどんどんと近付いて行った。
梨華と居ると、一分一秒が夢のように感じるのだ。
云わば魔法だ。
梨華の魔法にかかると、私はしばらく抜け出せずにそのまま空に浮き流れていく。
- 4 名前:-T- 投稿日:2004/04/12(月) 22:56
- だいたい気付くと梨華はこっちをジッと見ている。
6センチほどの身長差。
梨華はいつも私を見上げていた。
そして、甘い甘い声で、私に決まった言葉を投げかける。
「ひとみちゃん?」
「どうかしたの?」
梨華の言葉はどれも優しかった。
説明出来る能力を持って生まれてこれたらよかったけど、残念ながらそうはいかない。
- 5 名前:作者 投稿日:2004/04/12(月) 22:59
- 初めまして、ではない方もいるかと。
名前は最後に晒す予定ですw
取り敢えず今日はここまで。
えっと、元ネタあり。石吉です。
暗め?かもしれないんで、甘いの期待している方、ごめんなさい。
しばらくお世話になります、よろしくお願いします。
- 6 名前:プリン 投稿日:2004/04/13(火) 18:29
- 更新お疲れ様です♪
はじめましてm(_ _)m
いしよしキタ━(゚∀゚)━!!
暗め・・ですか?w
暗めでも、甘めでもなんでも、とにかくいしよしが大好きなんで♪
続きの更新待ってますっ!!!
頑張ってくださぁ〜い♪
- 7 名前:作者 投稿日:2004/04/13(火) 22:12
-
U
私の記憶力は、幼い頃――小学生時代あたり――と比べると著しく低下していた。
おそらく梨華の死から、急激に下がったと思われる。
梨華を失って日にちが浅い頃、現実を認めたがらずにリアリティの無い生活を送っていたからだろう。
「忘れちゃいけない」物も、平気で忘れるようになってしまった。
いい事も悪い事も何も感じられなくなっていたから。
梨華と過ごしていて私は全てが変わって行った。
だから、梨華を失って、また全てが変わって行った。
私の人生は梨華が柱だったから、その柱を失い、今グラグラしている。
そろそろ崩れる時かもしれない。
今も、特に現実味の無い日常を送り続けている。
同じ事の繰り返し。梨華とのメールや電話は途絶えたので、携帯を見る事も無くなった。
たまに今でも着信メロディは鳴るけれど、私は光る携帯を見るだけで手に取ろうとはしなかった。
最後に触れたのは、梨華だからだ。
充電器にずっと置いてある。私が開く事はきっと無いだろう。
- 8 名前:作者 投稿日:2004/04/13(火) 22:12
-
梨華に気持ちを打ち明けるまでに、時間は相当かかった。
けれど、二人で居た時間に比べればわずかなものだ。
梨華を愛する事に、自分で不信感や嫌悪感は抱かなかった。
これも運命だと思っていた。
私は自然に梨華を愛し、梨華も自然に誰かを愛すんだ。
人間は愛する事の出来る生物だから、私も梨華も人間を愛す。
そして、大切な梨華を失った時、脆い私は崩れ落ちた。
休みの日は外へ行かず、家の中で映画を見たりしていた。
梨華の家に行くと大抵昼ごはんは梨華の手作りだった。
私はそれが結構楽しみで、わざと自分の家は都合が悪いと断ったりしていた。
梨華の家には、梨華の温かさが広がっていた。
初めて入った時、私の躰は何かを感じ取り、また吸収していた。
その時は気づかなかったけれど今思えばそれが一番最初に人の暖かさに触れた記念の瞬間だった。
梨華と同じ時を同じ空間で過ごしていたのが、今では夢のように思える。
- 9 名前:-U- 投稿日:2004/04/13(火) 22:13
-
梨華の家で梨華の隣で梨華の作ったパスタを食べるのは、私にとって一番幸せなときだった。
至福とでも言えばいいだろうか。
私は梨華の気持ちを打ち明けようとは思わなかったし、梨華ともっと仲良くなりたいとも思っていなかった。
ただ、このままゆっくり、ずっと一緒にいれたらいいなぁとだけ、考えていた。
しかしそれを壊すアイツは、たまに私達の所にやって来る。
「ラッキー。」
甘い甘い大好きな声は、そう呼んだ。
とがった耳にくるりと丸まった尻尾。確か、茶色の毛をしていた。
梨華は、酷く可愛がっていた。
小さい頃から飼っていたらしいが、初対面の時まで話しを聞いた事は無かった。
梨華の膝の上で飛び回ったり、寝転がったりする奴を見て、私の心は少し燃えてしまった。
無言で見つめていると、奴は部屋から出て行った。
多分、私の事が恐かったんだろう。
「ひとみちゃん?」
甘い甘い大好きな声は、私を呼ぶ。
「どうかしたの?」
いつも通りの問いかけだ。
- 10 名前:-U- 投稿日:2004/04/13(火) 22:14
-
「…ひょっとして、犬嫌いだった?」
心配そうな梨華の瞳はいつだって私の胸を苦しめる。
いくら、梨華とそういう関係にならなくていいと思っていても、この瞬間だけはどうしようもなかった。
「ごめんなさい…。」
たまらなく嫌な痛みは、なかなか取れてくれない。
だけど、私は我慢して一言やっと口から出す。
「…可愛いね、ラッキー。」
私がサバサバしてる性格なのを、梨華は充分に知っていた。
だから一言でたくさんの私の気持ちや感情を理解してくれる。
梨華はパッと笑顔になって、私の手を取るんだ。
「ラッキーね、きっとひとみちゃんの事気に入ってたよ!!」
「でも、出て行っちゃったよ?」
「ううん。それは、恥ずかしいからだよ。」
- 11 名前:-U- 投稿日:2004/04/13(火) 22:14
-
梨華の向日葵みたいな笑顔は、私を元気にさせてくれた。
だけど、今思い出すと、少し悲しくなってしまう。
- 12 名前:作者 投稿日:2004/04/13(火) 22:26
- とりあえず今日はここまで。
どんどん暗くなっていきm(ry
>プリンさん
初めまして、ありがとーございます。
>とにかくいしよしが大好きなんで♪
嬉しい言葉です。こっちも燃え(萌え?)ます!
頑張って更新していくんで、見捨てないでやって下さいね。
- 13 名前:プリン 投稿日:2004/04/14(水) 19:44
- 更新お疲れ様です♪
どんどん暗くですかぁ・・・
でもまぁ、いしよしならw(ぉ
次回もガンバです!
待ってますから♪
見捨てませんYO!w
- 14 名前:-V- 投稿日:2004/04/14(水) 22:55
-
V
天気のいい日曜。バイトも休みなので掃除をしようと起き上がった。
が、スグにまた布団に戻った。
どうしても起きれない。今日も掃除なんか出来ないだろうと思った。
昼頃に起きて、食パンでフレンチトーストを作って食べた。
洗濯ぐらいはしようと思って着替える。
実行に移るまで一時間。
相変わらず、梨華の事を想うと時が経つのは早い。
そうだね。
だって、もう一年も経っているんだからね。
梨華はまた今日も同じ事を繰り返しているんだろうか。
私の知らない星で、まだ名前も付いていない星で、私の事を待ってるんだろうか。
[あの桜並木が私の大好きな色に染まったら、きっとひとみちゃんに会いに来るから…]
窓から入った青い風が長くなった髪を靡かせた。
「梨華?」
返事は返って来なかった。
- 15 名前:-V- 投稿日:2004/04/14(水) 22:55
-
そうして、こうして、今日も終わる。
一日は早い。
私の人生の中の一日は早い。
梨華との充実した日々は、こんなに早くなかった気がする。
何故だろう?
梨華が、私の事を避ける様になったのは高校一年の夏辺りからだった。
別の部活でも、相手を待ってまで一緒に帰っていたのに、突然嫌がりだしたのだ。
あの頃の私は鈍感だったのか覚えてないけど、大して気にしていなかった気がする。
気持ちの変化は誰にでもある事だし、友達関係でよくある事だと想っていたからだ。
梨華は夏に髪を染めた。
私が好きだといっていた黒い髪を染めて、私の前に現れた。
梨華の目はいつもと違く、しかし、私に対しての態度は同じだった。
私は単純だから、その梨華をそのまま受け止めた。
どの梨華も梨華だったから。
ありのままの梨華だったから。
私達の距離は出逢った頃に比べては離れていった。
学校で顔を合わせても話す事は無かったし、梨華が避けるので私も別にといった感じで、一緒に帰る事も無くなった。
矛盾だ。
今考えると、これは矛盾している事になる。
何故?私は梨華が好きだった筈。
愛しい相手が傍からいなくなっても、なんとも想わなかったんだろうか。
嫌われてるとか、何か悪い事でもしたのかなとか、不安になったりしなかったんだろうか。
- 16 名前:-V- 投稿日:2004/04/14(水) 22:57
-
けれど、私達はすぐに離れた分また近付く事になる。
私が体育館を出た時には、辛うじて遥か遠い西の空が紅く染まっている状態だった。
辺りは暗く頼りになる灯りはあまり無い。
学校の裏道は鬱葱と生い茂った笹があまりに不気味で、思わず後ずさりした。
けれど、他に帰る道が無いので、仕方がなく前に足を踏み出した。
やっぱり、同級生に待っていてもらえば良かった、と顧問を少しだけ恨んでいた時だった。
前方、約3mぐらいだろうか。
ゆっくり歩いていたその生徒は、ゆっくり振り返った。
「梨華?」
暗くて顔もよく確認できていなかったのに、私はすぐにそう言った。
何を根拠にしたわけでもない。
ただ、梨華だったらいいのにという思いから発言しただけだった。
「…久し振りだね。一緒に帰るの。」
梨華はわざわざ私の隣にまで来て、歩き始めた。
私は少し自分の心音を気にしながらも、こうして一緒に帰っている状況を喜んでいた。
大歓迎だ。
- 17 名前:-V- 投稿日:2004/04/14(水) 22:58
-
しばらく他愛も無い話をして、時間を保っていた。
会話が途切れるのを恐れてはいなかった。けれど、梨華に退屈になって欲しくなかった。
私と居る時は楽しんで欲しかった。
私だけが楽しんでいるのは、あまりにも不公平だから。
同じ時間を共用していても、梨華と私の間にはまた別の空間があった。
梨華はどこか不思議な空気を漂わせていて、私もそれを受けていた。
いつの間にか沈黙が訪れていた。
それ程私は嫌いじゃないけれど、空気がまずくなるのは嫌なので話しを振った。
「最近…あんまり話したりしてないよね。」
梨華は一瞬驚いた表情になったまま固まった。
私は気付かなかった振りをして、そのまま少し前を歩いた。
梨華の中の化学物質が暴れ始めたのか知らないけれど、梨華は突然私の腕を握った。
軽い痛みに梨華の方を振り返ると今まで見た事の無い瞳で私を見上げていた。
私も視線を外せなくなり、そのまま見詰め合う形になった。
私の躰にはその間、ずっと電撃が流れ続けていた。
梨華の黒く清んだ瞳から、幾つものメッセージが送り込まれてきたのである。
多すぎて受信出来なくなるぐらいに。
梨華の想いは溢れ返っていた。
私も精一杯、それを受け止めようとした。
- 18 名前:-V- 投稿日:2004/04/14(水) 22:59
-
今でもたった一つ、覚えてる。
『私を見て』
- 19 名前:作者 投稿日:2004/04/14(水) 23:03
-
更新しました。
>プリンさん
いしよしならいいんですか。大歓迎ですw
どこまで落ちるか分かりませんが、どうぞ見守って下さい。
- 20 名前:プリン 投稿日:2004/04/15(木) 19:45
- 更新お疲れ様です♪
(・∀・)イイ!
雰囲気といい、なんかいい感じw
これから落ちていくんだと思いますが、応援させてくださいっ!
頑張ってくださいね!
- 21 名前:-W- 投稿日:2004/04/16(金) 07:15
-
W
私のせいで、梨華は死んだのだろうか。
誰かに違うと言って欲しいわけじゃない。
ただ、ただ、本当の真実の答えを教えて欲しいだけなんだ。
梨華が死んだのは誰のせい?
私のせい?
一番傍に居たのに、一番ずっと居たのに、何にも気付けなかった私がいけないの?
彼女から命を奪ったのは私?
梨華が死んだのには、もっと別の理由があるの?
どうすれば梨華は戻ってくる?
あの惑星から梨華を取り返す為に、私は何をすればいいの?
梨華に言われた事は守ってる筈なのに。
けたたましく電話の音がする。
遠くに置いてきた筈の現実に引き戻される。
一体何が起きているんだ?
私は夢を見ていたんだっけ?
それとも……。
- 22 名前:-W- 投稿日:2004/04/16(金) 07:19
-
「はい…。」
「よっすぃ!?よっすぃだよねぇ!」
明るい声は私の昔のあだ名を連呼する。
誰だ……?
バイト先の人はこの名前では呼ばないし、私に電話をかけてくる程仲の良い人はいない筈。
「誰ですか?」
「相変わらずヒドいねぇ。ま、慣れてるけどさー!!」
「…いや、本当に…。」
「んあ?忘れちゃったわけー?」
頭の奥を何かが突き刺す。
聞いた事のあるニュアンス…この喋り方のクセ。
誰だ?誰だ?
「もー、ほんっとにヒドーイー。」
語尾を伸ばす喋り方。
- 23 名前:-W- 投稿日:2004/04/16(金) 07:20
-
「ごっちん!?」
「あ、思い出したー?やった〜。」
私はその後、ごっちんと出会って初めての会話からごっちんの泣き顔まで全てを思い出して行った。
記憶はあやふやだけど、きっと。
ごっちんの用件は大事な事らしかった。
けれど、その用件には関わらず他愛も無い話を一方的にしまくって、
「今度の金曜、私達の出会った所で」
そう言って電話を切った。
ごっちんの番号は知らなかったし、彼女がどうやって私の番号を突き止めたのかも知らなかった。
もう連絡を取る術は無かったので私は諦めて金曜を待つ事にした。
しかし一つ疑問が残った。
「ごっちんと会った所ってどこだっけ…。」
ごっちんについての全てを思い出した筈だったのに、肝心な所だけ空白のままだった。
私はその晩、私達の真っ白な四年間を蒼く塗りつぶす様に、記憶を一つずつ取り戻して行った。
金曜まで時間はたっぷりある。
序々にゆっくりと思い出して行けばいい。
ごっちんの事も、梨華の事も。
- 24 名前:作者。 投稿日:2004/04/16(金) 07:22
- 短いですが更新しましたー。すいません。
四周年おめ!!
>>プリンさん
雰囲気は大切にしたかった一つなので…。
そういわれるとすごく嬉しいです。
- 25 名前:プリン 投稿日:2004/04/17(土) 15:01
- 更新お疲れ様です♪
いえいえ。短くても素晴らしいと思いますよw
思い出せるといいなぁ・・・よっちゃん。
次回の更新も頑張ってくださいっ!!
待ってますよぉー!!
- 26 名前:-X- 投稿日:2004/04/17(土) 23:41
-
X
私達の距離が一段と近付くと同時に、冬の寒さも一段と深まった。
何かとスキンシップが多い年頃で寒さを理由に友達と手を繋いだり、抱き合ったりしたけれど、梨華とはそんな事一度も無かった。
クラスは違かったし、部活も別々だったからだ。
触れ合う機会といえば廊下ですれ違う事か、数学の選択で同じクラスだった事ぐらい。
梨華は私の隣の隣に座った。
私はチラチラと梨華を見たり、梨華が指されれば発表する声を耳を澄まして聴いていた。
梨華の声はあまり空気を通らない。
それでも優しい声だった。
たまに目が合ってもどちらからか逸らしてしまっていた。
更に、梨華は私と目が合った後、決まって不機嫌そうな顔になるのだ。
私はそれだけが気がかりである日メールで梨華に聞いた。
[何か、怒ってる?ウチ悪い事したっけ?してたら…ゴメン。
何かさ、梨華、ウチと目合った後楽しそうじゃなくなるから。]
梨華の返事は2日後。
- 27 名前:-X- 投稿日:2004/04/17(土) 23:42
-
[返事遅くなっちゃってゴメンね。あとね、全然怒ってないから。
ひとみちゃんと目が合うと楽しそうじゃなくなるの??そう見えるのかぁ…。
でもね、全然そんなことないよ]
多分、今もパソコンの中に眠っている筈。
あの四角い箱の中に何百件もの梨華のメッセージが。
私へのメッセージが今も開かれるのを待っている。
もう決して見る事の無い。そうとも知らずに。
- 28 名前:-X- 投稿日:2004/04/17(土) 23:42
-
私は、梨華が死んでから小説を書く様になった。
名ばかりで中身はただの日記だ。
梨華との出来事を、梨華との日々を、梨華を忘れない為に。
忘れたくなんかない。だけど、私の躰は何かに蝕まれていく。
梨華を奪われた今はそこら中に穴が開いて、スカスカで、無色で。
何も出来ない躰になった。
- 29 名前:-X- 投稿日:2004/04/17(土) 23:43
-
ごっちんの事についても思い出さなければ。
ごっちん。確か…下の名前は真希。
苗字は想い出せないけれど、ごっちんなんだからきっと、後藤とかだろう。
後藤真希…どうもしっくり来ない。
今の私にしっくりも何も無いか。
名前より何より、出会った場所を思い出さなくちゃいけない。
そうしないと未来の扉は開かない。
大事な事って何だろう?梨華に…関係しているんだろうか。
ごっちんは、梨華が死んだのを知っているんだろうか。
確か高二の時東京へ引っ越した筈だ。
違う違う。
出会った場所を思い出すんだ。
確か…確か…ごっちんとは入学式の日にぶつかりあって…。
- 30 名前:-X- 投稿日:2004/04/17(土) 23:43
-
「ごめんなさい!!」
顔があまり見えなかった。
桜の花弁で。
僅か、五分程度。
ごっちんと出会ったのは正門前の桜並木通り。
多分……梨華と出逢ったのも。
私の記憶力じゃ、ここまで思い出したので精一杯だった。
たったこれっぽっちの記憶でも金曜日は何とかなると思った。
- 31 名前:-X- 投稿日:2004/04/17(土) 23:43
-
梨華はとても真面目で努力家だった。
授業中は、常にシャーペンを動かして、教師の言った事をメモに取っていた。
梨華がノートと教師と黒板と教科書から視線を逸らした事は余無かった。
一度、あれ程真面目にノートを取っていた梨華が、何やらコソコソ手を動かしながら、辺りを窺っている。
私は面白がって梨華の様子をそのまま観察していた。
勿論ノートなんて取るわけない。
今日のタイトルだけが、デカデカと青いペンで書かれているだけだった。
私は授業中、一番後ろの席ということもあって、クラスを見回すのが好きだった。
熱心な人(例:梨華)、寝てる人(例:ごっちん)、眠そうな人(例:私)。
授業中程ユーモラスな場面は私生活で無かった。
学校生活での一番のポイントである。
空見たり、教室見回して、誰々のロッカー汚いなとか。
たまには真面目に授業聞いてノート取ったり、たまに真面目に梨華を観察したり。
今思えば…変態っぽいな、私。
そうとう梨華の事好きだったんだ。
- 32 名前:作者。 投稿日:2004/04/17(土) 23:45
- 遅い…更新しました。
無駄に長くてすいません。
>プリンさん
嬉しいお言葉ありがとうございます。
とても励みになりますー。これからも頑張りますね。
- 33 名前:プリン 投稿日:2004/04/18(日) 12:32
- 更新お疲れ様ですm(_ _)m
励みになるなんて(/▽\*)
こっちの方が嬉しい限りですw
なんか2人の関係がいいかんじw(何
よっちゃんは本気で好きだったんだなぁ。可愛いのぉ(誰
次回の更新も頑張ってくださいね。
応援していまするw
- 34 名前:-Y- 投稿日:2004/04/18(日) 22:58
-
Y
梨華はピアノがすごく上手かった。
だからといって音楽の授業、歌のテストや筆記試験を見ても、成績がいいわけではなかった。
でも、梨華の音楽的才能は抜群だった。
歌は…上手いとはいえなかったけれど。
白と黒の鍵盤を行き来する梨華の指は、まるで別の生き物の様で。
私は初めて見た時、衝撃を覚えた。
一番初めに聴かせてもらったのは悲愴ソナタ。
次がパッヘルベルのカノン。
その後はよく覚えていない。
一番最後に聴いたのも、確か悲愴ソナタだった。
クラシック好きの梨華の影響で、私も中学に入った頃に比べ、まあ有名な曲と作曲家は分かる様になった。
梨華はシンフォニーや第九が好きで初心者の私にも分かりやすい曲ばかり弾いてくれた。
もっとも、オーケストラの中のピアノ一つだから、本物の迫力には欠けるけど。
音楽については良くわかんなかったけど、それでも私は梨華のピアノが好きで、昼休みには良く音楽室へ行っていた。
突然悲愴ソナタが頭の中で鳴り響き始めて止まらなかったりする。
授業中はよく悩まされた。(勿論真面目に授業なんて受けちゃぁいないけど)
まぁ、それ程私は、梨華の弾くピアノが好きで、梨華の弾いてる姿が好きで、梨華が好きだって事。
(結果的に梨華が好き)
- 35 名前:-Y- 投稿日:2004/04/18(日) 22:59
-
私も少しぐらいなら弾けたけれど、梨華と比べられる程じゃなかった。
弾ける曲も少なかったし、何より私は部活のおかげで突き指の毎日だったから。
けれど、包帯や湿布だらけの指を見て、梨華はいつも私の指を誉めてくれた。
「ひとみちゃんの指、細くて白くて綺麗。」
「手の平、大きくていいなぁ…。」
梨華の手は確かに小さかった。
指は私なんかより何倍も細かったし、本人も気にしていた通り地黒だ。
私と手を合わせると、まず横の幅が違かった。
梨華が私の手を好きだと言ってくれるように、私も梨華の手が好きだった。
小さくて子供の手みたいだけど、すごく温かった。
人の温もりが梨華からは伝わってきた。
忘れかけていた温かさが。
- 36 名前:-Y- 投稿日:2004/04/18(日) 22:59
-
今だってその音を聴けばすぐ分かる。
いつも同じところでつっかえる。
黒鍵を弾く時、手が平らになるクセ。
全部覚えてる。
梨華の弾いてる姿も、弾いてる時の目も、綺麗に行き来する小さな手も。
こんなに鮮明にくっきりと思い浮かぶのに。
梨華を失ってから一年も流れたなんて、やっぱり信じられなかった。
信じたくないんじゃない。信じられないんだ。
どうして、梨華を失ったのか。
あの時私に何が出来たのか。
私はどこで間違えたんだろう?
今も分からない。答えは、ここに無い。
- 37 名前:-Y- 投稿日:2004/04/18(日) 22:59
-
梨華に対する全てのあらゆる物が、失った瞬間に変わってしまった。
私は梨華と出逢ってあれ程変わってしまった。
臆病で弱虫で優柔不断で、本当は近付きたいとしたって、全然素直になれなくて。
梨華は私と正反対。
立ち向かえる勇気、強さ、判断力。全てを持っていた。
でも梨華は泣き虫だったし、私を頼りにしていたのは知っている。
梨華が生きている時は気付いていない振りをしていただけだ。
それで、そんな素っ気無い態度だけで、梨華の涙が止まると思ったんだろうか。
逆に傷付くだけなのに。
それを知るのは、梨華がいなくなってからだったから。
その頃の私は幼かった。
何も知らず、生きていた。
梨華が傍に居ない生活なんて、考えてみた事もなかったから。
- 38 名前:作者。 投稿日:2004/04/18(日) 23:02
-
更新しましたー。
>プリンさん
よったんの気持ち、伝わっていて嬉しいです。
悪魔で一応、恋愛小説なので。w
- 39 名前:プリン 投稿日:2004/04/19(月) 16:16
- 更新お疲れ様です!
よっちゃんの気持ちめっちゃ伝わってますってw
しかも自分も臆病で弱虫で優柔不断なんですよね。
同じでちょっと感動(泣(謎
続きの更新も待ってます!
頑張ってくださいね♪
- 40 名前:-Z- 投稿日:2004/04/19(月) 23:25
-
Z
高二の秋、私達の距離はまた遠ざかっていく。
クラスがまた同じになれなかった。
それでも梨華と私は今までのペースを崩さず、手紙やメールを交換していた。
しかし、その頃から私は気付き始めてしまった。
梨華が別のクラスの、私と知らない人と楽しそうに話しているのを見ると、
何とも取れない気持ちになった。
その気持ちは波の様に私を飲み込んだ。
やがてその痛みは苛立ちに変わっていく。
その矛先は梨華だった。
今思えば何故そうなったのか、自分でも分からない。
いつのまにか私は梨華に素直になれなくなっていた。
私は、私の知っている吉澤ひとみでは無くなった。
梨華もうっすら、それに気付き始めた。
- 41 名前:-Z- 投稿日:2004/04/19(月) 23:25
-
私達は何処かよそよそしい雰囲気になってしまった。
梨華の事を考えると気持ちが憂鬱になるようになった。
こんな複雑な気分を、私はまだ何て言うのかは知らなかったけれど、これを他人に教えてはいけないと本能で理解していた。
勿論梨華にもだ。
この気持ちは、私の胸の中に一生閉じ込めておくのだ、と。
でも、どうしても離れられなくて、たまに近付いた。
それでも離れなくちゃと想い、また遠ざかった。
梨華はきっと不思議に思っただろう。
私の態度は、急変する。
言葉には出してなかったけれど、梨華の表情を見るとすぐ分かった。
『怒ってるの?』
不可解な表情で私を見上げる梨華の瞳は悲しく黒く清んでいた。
その瞳で見つめられると全てを読まれそうな気がしていた。
私は、視線を逸らした。
すると、梨華もすぐに俯いてしまう。
『ごめんなさい』
- 42 名前:-Z- 投稿日:2004/04/19(月) 23:25
-
すぐに謝るのは梨華のクセだったけれど、
この沈黙の中での梨華の無言のメッセージは私の胸を強く打った。
クラスメイトや友達の前では、ごく普通に振舞っていた。
空気が悪くなるのは私も梨華も嫌いだったから。
廊下ですれ違って、友達同士が話し始めたりすると、
私達も仕方無く二人になった。
何も話す話題が無くて良く困った。
それでも仲は良さそうにしていた。
それも、梨華との無言の打ち合わせだ。
梨華は私の無言の意見に賛成も否定もしなかった。
- 43 名前:-Z- 投稿日:2004/04/19(月) 23:26
-
私達はお互い同士が、相手の心を見ようと必死なのを知っていた。
だから余計見えなくなってしまった。
梨華が私の事を理解しようとしているのを、私は必死に拒否したのだ。
胸の奥に閉じ込めた気持ちを、見破られるのが恐かった。
私はあの頃から弱虫で臆病で優柔不断で、梨華が居ないと生きていけなかった筈なのに。
梨華を必要としていたのに。
もっと素直になればよかったなんて、今思ったって遅いんだ。
梨華が生きているうちに、私の前で息をしているうちに、たくさん言いたい事があったのに。
何を責めたって梨華は帰ってこない。
分かってる。分かってるけど……それじゃあ、この気持ちはどうしたらいい?
激しい後悔の渦と、梨華への溢れる愛は。
- 44 名前:-Z- 投稿日:2004/04/19(月) 23:27
-
私が何をしたんだ。
梨華を、返して欲しい。
これだから神様なんか信じられない。
梨華の命を奪ったのは誰?
私?
[好き]
梨華の声。
梨華の笑った顔。
手の温もり。
髪の匂い。
- 45 名前:-Z- 投稿日:2004/04/19(月) 23:27
-
[好きだよ]
あんな優しい声、忘れられるわけ無い。
[ひとみちゃん]
頭の中でリピートし続ける。
お願いだから、やめて欲しい。
涙が止まらなくなるから。
- 46 名前:作者。 投稿日:2004/04/19(月) 23:34
- 更新ですー。
すでにかなり思い詰めてますが_| ̄|○
> プリンさん
自分の姿もすごく重なってしまいます。。。特に優柔不断。
それなりに頑張ってる生きてるよったんを書こうと思います…。(謎
オイラ達も頑張りましょー(一緒にすんな)
- 47 名前:プリン 投稿日:2004/04/20(火) 18:52
- 更新お疲れ様です!!
大丈夫ですって!
応援してますよ!遅れてもいいんで頑張ってくださいYO!
そうなんですか!優柔不断ですかぁ。
よっちゃん・゚・(ノД`)・゚・。(何
頑張れぇー!!!!!!!!!
前も言ったんですが雰囲気がすごく(・∀・)イイ!
ですねwプリンも頑張りますよぉー。
作者。様も頑張ってくださいっ!
励みになってるのかなぁ・・・
- 48 名前:-[- 投稿日:2004/04/21(水) 23:18
-
[
今でも、梨華の事を考えると胸が痛くなる。
笑顔なんか思い出しちゃった日には、そりゃあ、もう。
踏ん張って涙堪えるだけで精一杯で。
安らいだ頃にはすごく頭が痛くなる。
でも、もうこんな不具合も慣れてしまった。
梨華の事を思い出して、涙が出そうになって、気持ちが不快になるわけじゃないから。
涙を我慢しなきゃいけない理由なんて無かったけど、流してしまったら、梨華の事まで遠く流してしまいそうだった。
一人の、大切な人の温もりを失った事、私の躰はきちんと分かってる。
気持ちよくて泣きたくなるぐらいの快晴。
その日の、夕暮れとか。
私の中の化学物質は、忙しく暴れまわっている。
おかげで頭痛くなるぐらい泣かされる。
あの日の事を思い出すから。
- 49 名前:-[- 投稿日:2004/04/21(水) 23:19
-
秋空の下。
って言っても、もう落ち葉は舞っていなかったので、冬だったかもしれない。
寒さで張り詰めた空気の中、私は決断した。
梨華に想いを打ち明けよう、と。
何でそう思ったのかは覚えてない。
けれど、今日だ。と感じた。
私は周りに流されるタイプだったので、多分何かあったんだろう。
梨華に想いを打ち明けようという程の出来事が。
多分…。
梨華との帰り道、正門を出て、桜並木。
いつもの風景。ただ、一つ違った。
梨華はずっと俯いて、一度も私の方を見なかった。
楽しそうに笑ったりもしたけれど、一切前を向かなかった。
その時から、梨華には闇から手が伸びていたのかもしれないけれど、
一番長く一緒にいて、一番傍にいた私でも気付けなかった。
梨華との第一の別離。
切り出したのは私。
- 50 名前:-[- 投稿日:2004/04/21(水) 23:19
-
私は勝手に、好き勝手に、ひどい言葉を並べに並べて、梨華に押し付けた。
もう話しかけないで欲しいとか、メールもしないで欲しいとか。
もっとひどい事も言ったかもしれないけれど、思い出したくない様なので思い出せない。
最後に絶交しよう、って言ったのだけ覚えてる。
すごくよく覚えている。
梨華は傷付いた顔をしていた。
泣いていた。
梨華の泣き顔は、それまでに何回か見た事があったけれど、こんなに泣いている梨華を見たのは初めてだった。
私は驚いた。
なんで梨華はこんなに泣いているんだろう。
そして、また驚いた。
梨華をこんなに泣かしているのは自分だ。
いつもみたいに、「泣き虫」って言って、慰めてあげれなかった。
梨華はまた俯いてしまった。
伸ばしかけた右腕を、空いた左手で引っ込めた。
これで良かったんだって言い聞かせた。
何度も何度も、これで全て上手くいくって。
梨華を諦められれば、あの痛い思いをしなくて済むんだ。
あの頃の私はそう考えていたから。
- 51 名前:-[- 投稿日:2004/04/21(水) 23:20
-
PLLLLL PLLLLL
「はい?」
「あ、よっすぃ?ちゃんと約束覚えてるー?」
「分かってるって。明日でしょ?」
「うん。でさ、時間、三時ぐらいでいーいー?」
「分かった。それでさ…聴きたい事があるんだけど。」
「ん。なにー?」
それって、梨華に関係あるの?
「もしもーし?なんなのさー。」
「ん…何でもないや。ごめん。」
「あ、そう。そんじゃ、遅れてくんなよー!」
「分かったー。」
- 52 名前:-[- 投稿日:2004/04/21(水) 23:22
-
無機質な音。
頭の中が、ボンヤリと霞んでいく。
気が付くと外は暗く、私はフローリングの冷たい床に寝転んでいた。
どうしてしまったんだろう?
また、発作だろうか。
ああ。頭がズキズキする。
それって、梨華に関係あるの?
何で聞けなかったんだろう。
聞いて、関係ないと言われたら、会わないつもりだったんだろうか。
そんなの自分勝手すぎる。
あったとしたって、どうなるっていうんだ。
何をしたって梨華は帰ってこないと分かってるのに。
期待なんて持っちゃいけない。
梨華のいる未来なんて創造しちゃいけない。
私には未来なんて無いのだから。
- 53 名前:-\- 投稿日:2004/04/21(水) 23:23
-
\
翌朝。
珍しく、気持ちよく起きた。
梨華の夢を見なかったせいらしい。
代わりにごっちんが出てきて、なんか聞いた事もない食べ物の名前連呼してたけれど、そこは気持ちのいい快晴に免じて許す。
いつも通り朝食を食べる。
昨日干していた洗濯を取り込むと、もうする事が無くなってしまった。
今日はバイトを休ませてもらった。
けれど、休んだ理由のごっちんとの約束まであと五時間弱ある。
通信制の学校のレポートをすると、本当にする事がなくなってしまった。
そして、小説を書こうと、いつも通り思考回路のスイッチが押され路線が外され、梨華の事しか考えられなくなる。
筈だった。
「あ……。」
けれど、今日の私はそうはいかない。
直前に視界に入った時計は、二時四十八分を指していた。
- 54 名前:-\- 投稿日:2004/04/21(水) 23:23
-
急いでスクーターを飛ばして(事故りそうになりながら)来たのに、ごっちんはまだ居なかった。
Gショックのデジタル腕時計を見ると、三時七分。
並木道は何も変わらず、桜を咲かす準備をしている。
今年の入学生も私達と同じように、あの桜吹雪の中初登校するのだろうか。
私の初登校はそれ程いい思い出ではない。
確か少女漫画の第一回みたいに遅刻して、ここで人とぶつかって仲良くなるなんていう在り来たりな展開。
(私が出会ったのは、カッコいい先輩じゃなくてごっちんなわけだけど)
ごっちんとは、それから隣同士のクラスである事が発覚して途中まで一緒に行ったっけ。
新校舎は迷路みたいに難しくて、結局教室にたどり着いたのは一時限が終わった後だった気がする。
- 55 名前:-\- 投稿日:2004/04/21(水) 23:23
-
初日から遅刻なんて、と焦っていた私と裏腹にごっちんは、
「もう授業なんてかんけーない」
的な言葉を並べ
「ごとー屋上行って寝るー」
的な感じだった。
私は慌てて止めて教室まで引っ張って行った。
ああ、段々と明らかになるごっちんの性格。
そういえば……あの娘は酷く遅刻してくる、激しくマイペースな人種だった。
- 56 名前:-\- 投稿日:2004/04/21(水) 23:24
-
三時半になった。
もう半ば諦めていた。ごっちんは、来る気配すら漂わせてくれない。
あっちから決めておいて、一体何だっていうんだ。
怒りの気持ちなんて全然無かった。
どっちかっていうと、呆れてるのかなぁ。
なんか、ごっちんには、少し感謝してる。
- 57 名前:-\- 投稿日:2004/04/21(水) 23:24
-
もう二度と訪れる事の無い此処まで引っ張ってきてくれて、ありがとう。
梨華との思い出がいっぱいいっぱい詰った此処に、もう二度と来れないと思っていたから。
この櫻も、もう二度と見れないと思っていた。
あの日真っ赤に、紅く染まった櫻。
やっぱり、梨華の躰は此処に埋まってるのかな?
- 58 名前:-\- 投稿日:2004/04/21(水) 23:24
-
なんて、また思考回路のスイッチが押され路線が外され、梨華の事しか考えられなくなる。
筈だった。(今日二回目)
一日にこんなに私の記憶の梨華と出逢うのを引き裂かれたのは、今までであっただろうか。
酷すぎる。
しかし、そんな害されたわけでもなかった。
私と梨華を引き裂いたのは、『悲愴ソナタ』だった。
- 59 名前:-\- 投稿日:2004/04/21(水) 23:25
-
四階の音楽室から聴こえて来たのは、『悲愴ソナタ』だった。
聴いていておかしな事にすぐ気が付いた。
このクセは、梨華と全く一緒だ。
手が小さい故、失敗するオクターブ。
黒鍵に行く時に少し滑る。
まさかと思いながら、絶対違うと思いながら、私の足は駆け出していた。
昇降口から入って、階段を登り続ける。
途中何度も夕陽に照らされながら、私はたどり着いた。
疑いは興奮へと変化し続ける。
まさかと思っていた。絶対違うと思っていた。
けれど、今じゃ。
「うそだろ…。」
ゆっくり、ゆっくりと歩みを進める。
- 60 名前:-\- 投稿日:2004/04/21(水) 23:25
-
悲愴ソナタは、No.5と書かれた扉の向こうから聴こえてきた。
そこは何に使う為に造られた部屋か、私は知らない。
ただきちんとグランドピアノから何から楽器は揃っていた。
うそだろ、の気持ちが高まる。
私と梨華が来ていたのは、このNo.5の部屋しかないのだ。
梨華が弾いていたピアノはこのNo.5の部屋のピアノだけなのだ。
もし、この向こうに居るのが梨華じゃなくても、何も変わらない。
安心して扉を開けよう。
もし、この向こうに居るのが梨華じゃなくても、何も変わらない。
私は生きていて、梨華はいないんだ。
ただ、それだけの話。
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
前に進む事が出来るのは、私だけなんだ。
私は重い防音性の鉄の扉をゆっくり押した。
オレンジ色の光が、瞬く間に私を包んでいく。
- 61 名前:作者。 投稿日:2004/04/21(水) 23:30
-
調子に乗りすぎた_| ̄|○
昨日更新出来なかったので、二日分更新しましたー。
> プリンさん
頑張って生きてきたよっちゃんに、何か起こるらしいですね。(おいっ
雰囲気誉められるのは、本当に嬉しいです。ありがとうございます。
あい。お互い頑張りましょう。
バリバリ励みになってますwてかプリンさん無しでは生きてゆけないby作者。工房。(。が2つ!?)
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/22(木) 23:04
- 今日初めて読みましたー。
こういう暗めな話好きなんで、これからも楽しみにしてます。
頑張ってください〜
- 63 名前:キトキト 投稿日:2004/04/23(金) 20:28
- 初めまして!!
ここまで一気に読ませて頂きました。
ふら〜って引き込まれる感じのお話ですね。
続きが楽しみです!頑張ってください!!
- 64 名前:-\- 投稿日:2004/04/24(土) 00:03
-
彼女は、梨華だ。
紛れも無く、私の目の前で息をしている。
顔の輪郭も、足や腕の細さも、髪の色や長さも。
だけど、私は彼女を「梨華」と呼べなかった。
- 65 名前:-\- 投稿日:2004/04/24(土) 00:05
-
信じられなかったわけじゃない。
何か、ふとした瞬間に、梨華が消えてしまいそうな気がしたから。
ほんの刹那に空気の乱れのような物が生じ、梨華を元の惑星へ返してしまいそうだった。
そう、梨華は蜃気楼だった。
私の目の前に立っている梨華は、今消えようとしているのかもしれない。
だったら、単純に諦められた。
けれど人生そう上手くいった試しが、一度も無かった。
「ひとみちゃん。」
梨華は確かにそう言った。
私も確かに耳で聴き取った。私の耳が悪くなった覚えは無い。
それに、今の声は明らかに梨華だった。
私はゆっくり、一歩ずつ、梨華に近付いていった。
その間、梨華が消える事は無かった。
二人の間はどんどん狭まっていき、私はあと数センチのところで歩みを止めた。
近くで見ると、もう梨華以外に信じられなかった。
清んだ黒い瞳は生きている人間としか思えない。
梨華の腹は規則正しく動いている。
梨華は、今、私の目の前で生きている。
- 66 名前:-\- 投稿日:2004/04/24(土) 00:05
-
「ひとみちゃん…。」
梨華がもう一度そう言って、涙を流した。
そして、私の胸に顔を埋めてそのまま泣き出してしまった。
私は腕を廻すのをじっと堪えていた。
よくあるドラマのように、抱き締めて自分の腕の中に入れた瞬間、
梨華が消えそうな気がしたからだ。
けれど、梨華は息を荒くしながら、更に私に抱き付いてくる。
着ていたパーカーはきっと皺だらけになってると思う。
何を確信したわけでもなかったけれど、私は梨華の背中に腕を置いた。
梨華は消えなかった。
私の腕の中で、息を吸って、吐いて、涙を流している。
私は、何かがプツンと切れた拍子に、腕にありったけの力を込めた。
強く強く、けれど折れないように、梨華を抱き締めた。
- 67 名前:-\- 投稿日:2004/04/24(土) 00:06
-
「梨華…。」
私がそう言うと、梨華は何度も小さく頷いた。
梨華の躰から、直に温もりが伝わってくる。
肩に顔を埋めて深呼吸すると、梨華の匂いがした。
トクトクと生きている音がする。
ここに、私の腕の中に、梨華がいる。
やっとそう分かった時、涙が溢れた。
壊れたように泣き続けている梨華をそっと抱き締めながら、私も何度も涙を垂らした。
- 68 名前:-\- 投稿日:2004/04/24(土) 00:07
-
この先の事、考えている余裕なんてなかった。
ただ、梨華がいてくれるのが嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
ただ、それだけで精一杯で。
私は二年前とちっとも成長してなかった。
梨華がいなくなったあの頃から、そして、また梨華と出逢えた今まで。
嬉しい。
梨華が、いる。
なんて、素晴らしいんだろう。
- 69 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:08
-
]T
ごっちんの事を思い出したのは、家から帰ってすぐの事だ。
電話しようとしたけれど、番号が分からない。
とりあえずあっちからの連絡を待つ事にした。
今はもう六時半だし、あのごっちんがあたしをずっと待ってるとは思えない。
一度取った受話器を置いた瞬間、電話が鳴った。
少し驚きつつ受話器を再び取ると聴き慣れた声がした。
「あの…吉澤さんですか?」
「そうだけど…。」
「あ、明日人足りなくて、十二時から…お願いしたいんですけど、大丈夫ですか?」
「ああ、はい。」
「そ、それじゃぁ、よろしくお願いします。」
電話はプツッと音を立て無機質な音色に変わった。
…聴き慣れた声だったけれど、一体誰だろう?
バイト先の人、誰一人として名前を知らない。
多分…あの髪がちょっと短い女の子だと思うんだけど。
- 70 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:09
-
「……梨華!?」
ふと、存在が消えたのでつい大声で呼んでしまった。
「は、はい!」
玄関先の方から声をしたので慌てて向かう。
梨華は靴を履いたまま、どうしたらいいのか分からなそうに俯いていた。
やっぱり、足あるなぁ…。
梨華が幽霊じゃないとは言い切れないけれど、幽霊だとも言い切れない。
半端な感じ。死んでるけど生きてる。
根拠なんて無いけれど、きっと今の梨華は空気のように繊細なんだろうと思った。
「上がってきなよ。」
「…いいんですか?」
「うん。」
- 71 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:09
-
梨華は履いていたブーツを脱ぎ、そっと玄関に上がってブーツを並べた。
その一つ一つの仕草、動きが、人間以外の生き物の、何とも取れなかった。
感心した目で見ていると梨華が振り向き一歩だけ前に進んだ。
「あの…。」
「ん?」
「…聞きたい事が、あるんです。」
こっちの方がたくさんあるんだけど―――。
「うん、何?」
「…ひとみ、ちゃん?」
不意に胸が苦しくなる。
もう二度と聴くはずの出来なかった、梨華の声。
今、私の名前を呼んでいる。
- 72 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:10
-
「…なに?」
「私は…どうしたん、ですか?」
「え?」
私の返事に、梨華はビクッと身を固くし、そのまま俯いてしまった。
なにか悪い事を、したんだろうか。
そうだ。梨華は空気のように繊細なんだと感じたばかりなのに。
ふとした気の緩みが、梨華への傷に変わるのだろうか。
「どうしたって…どういうこと?」
「あの、よく分からないんです。気付いたらあそこでピアノ弾いてて…あなたに梨華って呼ばれたら、『ひとみちゃん』って言葉が出てきて…。」
梨華の表情は本当に泣きそうだったし、今の彼女が演技して私を驚かせる意味も無い。
だって梨華は死んだのだから。
記憶を…失くしたんだ。
私は、今起きてる現状とは反対に冷静に考えを張り巡らせていた。
- 73 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:10
-
この娘は梨華じゃないんだろうか?
ただ、梨華によく似た普通の女の子で、今まで普通に生活していて、今でも普通に生活している筈だったんだろうか?
つまり、この娘はただ記憶を失くしただけで、梨華でもなんでもない。
でも、そしたらなぜ私の名前を知っているんだろう?
梨華と自分の名前を呼ばれ、呼ばれた相手の名前を自分で呼び、そのまま家まで付いてくるだろうか。
「記憶がないの?」
「ごめんなさい、分からないんです。」
「…なにも思い出せない?」
「分からない…けど、思い出そうとすると、頭が…。」
ピンと空気が張り詰めた。
ザワザワと何かが向かってくる音、無機質な音、高音の悲鳴。
絶えられなくなって梨華にそれを止めさせた。
「大丈夫、いいよ。ゆっくりやれば。」
「……私…ここにいてもいいんですか?」
- 74 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:11
-
梨華――だと思われる――は、不安そうな表情で私に聴いた。
その顔は、いつも私を心配してくれていた梨華と全く同じだった。
やっぱり、この娘が梨華以外だと思えない。
「うん。私が連れてきたんだかんね。」
「…ありがとうございます。」
言葉の裏にあるものはなんだろう?
私達を阻む壁を、今すぐに倒してしまいたい。
梨華は、私を拒むだろうか?
「あのさ…さっき、抱き締めちゃったじゃん?」
「…はい。」
梨華は頬を紅くして俯いた。
私の知っている[石川梨華]と変わりない。
- 75 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:11
-
「嫌だった?」
「…いえ……あの、その…すごく安心しました。」
「え?」
「ご、ごめんなさい!!おかしいですよね…私…初めて会った筈なのに。」
初めて会った筈なのに。
梨華が死ぬと同時に、私達二人の関係は消去されてしまったのかもしれない。
それとも、梨華があっちの惑星に持って行ってしまったんだろうか?
今それを返しに、梨華はまた私のいる世界に帰って来たのかもしれない。
軽い衝撃を受けても怯まず、なぜか私はその話を続けた。
「じゃあさ、もう一回抱き締めていい?」
「え!?……はい。」
そっと腕の中に入れると、梨華は苦しそうな表情をした。
- 76 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:11
-
「梨華…?」
「………。」
「ゴメン、嫌ならいいんだよ、言ってくれれば。」
「違うんです!!…嫌なんじゃないんです。」
梨華はゆっくり、私の背に腕を廻した。
華奢な腕。小さな手。
一つ一つから梨華を感じ取れる。
なんて、温かいんだろう。
「…無理しなくていいよ?」
「……いいんです…本当に安心するんです。」
「でも…。」
「本当に、嫌なんじゃないんです。ただ、あなたに梨華って呼ばれると、嬉しいのに…胸が痛くなって……。」
- 77 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:12
-
真っ直ぐ私を見てくれる瞳も、私の知っている[石川梨華]だった。
一年前に死んだ筈の石川梨華だった。
ひたむきに一生懸命、私の事を考えている。
梨華の瞳はそう言っていた。
私達が交わしていた、無言のメッセージ。
愛おしさが溢れてつい腕に力がこもった。
「ほんとに…嬉しいのに、安心するのに…。」
なんて事だろう。
私と、同じ気持ちだった。
梨華に名前を呼ばれた時の苦しみ。
梨華に名前を呼ばれた時の嬉しさ。
安心するのに、涙が出そうになるのはなぜだろう?
今も二年前も変わらない。
この娘への、梨華への感情は全く変わっていない。
- 78 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:12
-
真っ直ぐ私を見てくれる瞳も、私の知っている[石川梨華]だった。
一年前に死んだ筈の石川梨華だった。
ひたむきに一生懸命、私の事を考えている。
梨華の瞳はそう言っていた。
私達が交わしていた、無言のメッセージ。
愛おしさが溢れてつい腕に力がこもった。
「ほんとに…嬉しいのに、安心するのに…。」
なんて事だろう。
私と、同じ気持ちだった。
梨華に名前を呼ばれた時の苦しみ。
梨華に名前を呼ばれた時の嬉しさ。
安心するのに、涙が出そうになるのはなぜだろう?
今も二年前も変わらない。
この娘への、梨華への感情は全く変わっていない。
- 79 名前:-\T- 投稿日:2004/04/24(土) 00:12
-
「…泣いても、いいですか?」
「……うん。」
二人で同じ気持ちになれば、苦しみも嬉しさも倍になるんだよ。
純粋で無垢な梨華は、私の腕の中で静かに泣いた。
無視出来ない感情が私の中で溢れていた。
化学物質は静かに動き出していた。
彼女の痛みは私の痛みだと、ようやく気が付いた。
梨華という大切な存在を一度失った事で私達の心は初めて一つになれたんだ。
- 80 名前:作者。 投稿日:2004/04/24(土) 00:21
- 長々と更新しましたー。
これからはこんな1話がこんぐらいの長さになるかと…(長ッ
>名無飼育さん
暗め、自分も大好きです。
ありがとーございます!!これからも頑張りますよぉー。
見捨てないでやって下さいw
>キトキトさん
一気にだなんて、嬉しすぎて踊りたくなります。(壊
引き込まれましたか?ありがとーございます!
(何か憑いてんのかな…このスレ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル)
- 81 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/04/24(土) 06:20
- 意外な展開ですね
- 82 名前:プリン 投稿日:2004/04/24(土) 11:49
- 更新お疲れ様です!!
この先どうなるのかなぁwドキドキw
もっと暗くなるのかなぁwワクワクw
次回の更新も待ってますね。
体調に気をつけて頑張ってくださいっ!
- 83 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 22:59
-
]U
梨華は一度死んだという事は、黙っておく事にした。
不信感を抱かれ始めたら、その時に説明すればいいと思った。
今はとにかく、一度戻ってきた梨華を手放すわけにはいかない。
片時も離れず梨華の傍にいたい。
「…えっと、どうしよっか。」
沈黙を破った私は、その先の言葉を捜していた。
梨華は何も言わず私の言葉を待っているようだった。
取り敢えず離れようと、腕をやんわり解くとすごく身体が熱くなった。
恥ずかしさが込み上げて顔面が燃えるように真っ赤になった。
「ご飯でも食べよっか!!」
顔を背けて恥ずかしさを捨てるように、わざと大きな声で言った。
梨華は、噴出したように笑った。
少し驚いて振り返ると、梨華は微笑んだまま、
「そんなに大きな声出さなくても…聴こえますから。」
「あ、ゴメン。」
しばらく梨華の笑いは止まらず、私もつられて笑った。
- 84 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 22:59
-
すごく不思議だった。
死んでしまった筈の梨華と、こうして笑い合っている。
失った筈の梨華をまた手に入れる事が出来た。
もう、出逢える事の無かった瞬間と、私はこうして向き合っている。
奇蹟と言わずになんていえばいいんだろう。
私は知らない。
夜になると、私達の間に距離はなくなっていた。
梨華は少しずつ記憶を取り戻していたように見えた。
私の問いに、しばらく考えると答えられるようになっていた。
自分が記憶を失くしているという事を、然して気にしていないようだった。
しかし、ふとした瞬間にすごく寂しそうな表情になった。
その度私の心の中の不安はえぐられたような痛みを訴えていた。
- 85 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:00
-
シャワーの水滴が床に叩きつけられる音がする。
どうも、未だ夢心地だ。
すごくいい夢を見ているとしか、考えられない。
起きたらまた、梨華がいない光の無い生活に戻ってしまうだけ。
だけど、梨華は今確かに存在している。
夢であり現実であり、梨華は私の傍にいるのだ。
それだけは分かってる。
「あ……。」
梨華が風呂に入っている間に私は一つある事に気付いてしまった。
どうしようか考えていると、梨華が上がってきてしまった。
「ひとみちゃん?」
「あ、お湯冷めてなかった?」
「うん、大丈夫。ねえ、髪ちゃんと乾かさないと、風邪ひいちゃうよ?」
- 86 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:00
-
私に一言を言う隙も与えずに、梨華は首にかかっていたタオルを取った。
そのままの体制で梨華は私の髪を拭き始めた。
「あのさ、梨華?」
「ん?」
「…いいや、なんでもない。」
「うん。」
そのままゆったりした時間が流れて、眠りそうになった。
こんなに安心したのはこの二年間全然無かった。
梨華が、いなかったから。
- 87 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:01
-
「ねえ、ひとみちゃん。」
「ん?」
「私って何歳なの?」
「18歳。私と同じ、18歳。」
同じ…18歳。
しかし、梨華は17歳で一度その人生の幕をを下ろしている。
18というのは来るはずのない未来だった。
「18歳かぁー…。それで、どこで出会ったの?」
「中学三年生の時にね。初めて同じクラスになったんだ。」
「三年目で?…すごいね。それで?」
「私達の学校はエスカレーター制だったから、梨華とはそのまま一緒に上級した。」
- 88 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:01
-
「同じクラスになったの?」
「ううん。なれなかったよ。おまけに、また別の部活。」
「そっかぁ…はい、終わったよ。」
「あ、ありがと。あの、さ…。」
「なあに?」
梨華はニコニコしながら、私に尋ねる。
「……なんでもない。」
やっぱり、言えない。
- 89 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:02
-
並んで狭いベットに入ると、すぐに体温が上昇した。
梨華は自然と首の少し下辺りに頭をのせた。
程よい重み。少しくすぐったい。
少し驚いた。
前の梨華と全く同じ行動をしだすから。
「ひとみちゃん?」
「…そこさ、ベストポジション。」
「え?」
「心地いいんだ。」
「…私もだよ。無意識のうちになっちゃった。」
梨華が笑うと、吐息で首がくすぐったかった。
- 90 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:04
-
「ねえ、さっきの続き聴かせて?」
「続き?」
「続き。」
聴かせて、ともう一度顎の下の辺りで声がした。
その声が私の何かを手繰り寄せる。
躰の底に響き、一気に溢れ返ると、なんだか切なくなった。泣きたくなった。
私はありとあらゆるものを飲み込んで、一言「いいよ」と言った。
「続きを話そう。」
- 91 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:04
-
- 92 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:05
-
******
- 93 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:06
-
梨華と私は、高校に入っても三年の延長線でそれなりに仲良くはしていた。
それでもクラスも部活も別で、中三の頃よりは接する機会は減っていたけどね。
廊下ですれ違っても手を振ったりはしていたし、まあ普通の仲のいい友達だったんだ。
けれど、梨華は夏辺りから、私の事を避けるようになった。
その頃の私は酷く鈍感で周りの人を気に止める事がちっとも出来る人間じゃなかったんだ。
だから避けられているのさえ、しばらく気付かなかった。
そんな私でも序々に分かるようになった。
梨華と私の空気が、美味しくはなくなっていってる。それだけ。
一緒に帰る事も無くなり、廊下ですれ違っても何も言わなくなった。
梨華に避けられていたので、私も梨華を避けるようになった。
そして、私達は一言も喋らなくなってしまった。
- 94 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:07
-
「それ…本当?」
「嘘言ってどうするんだよ。」
「驚かす。」
「…そんなことしても、面白くないでしょ?」
「でも、あまり信じられない。」
「なんで?」
「…そんな事、私出来るはずがないよ。」
少し切なそうな顔をしてしまったので、何も言わずに先を進めた。
- 95 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:07
-
しかし、その二週間後ぐらいかな?
梨華と私は一緒に帰る事になる。勿論、約束なんかしていない。
私が部活を終え体育館を出ると、辛うじて遥か遠い西の空が紅く染まっている上体だった。
私達の学校は割と暗い所にあっておまけに電灯も無い、コンビニも無いで結構危ないとこだったんだ。
いつも裏道から帰ってたんだけど、その裏道すっごい恐いんだ。
笹が放置されてるんだけどすごい量なんだよね。生い茂ってて。
一人で帰るのは初めてだったから、すごいビクビクしてた。
でも、すぐ気付いたんだ。前方3mぐらいに、一人の生徒が歩いていた。
そして私が何を言う前にゆっくり振り返ったんだ。
- 96 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:08
-
「それ、私?」
「正解。」
- 97 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:08
-
梨華?
私はそう言った。暗くて顔もよく確認できていなかったのにも関わらず。
何を根拠にしたわけじゃない。
ただ、梨華だったらいいのにって思ったんだ。
久し振りだね。一緒に帰るの。
梨華はそう言った。そして、わざわざ私の隣に逆戻りしてきてから、並んで歩き始めた。
しばらく他愛もない話をしていたけれど、しばらくすると沈黙が訪れた。
梨華は退屈そうな顔をしていた。
私は横目で確認して、どうしようか、と焦っていた。
- 98 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:09
-
「それも、本当?」
「だから、嘘ついたってしょうがないでしょ?」
「それ勘違いだよ。絶対。」
「なんで?」
「なんでも。絶対…勘違いだもん。」
良く分からないけれど、先を進めよう。
- 99 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:09
-
最近…あんまり話したりしてないよね。
私はそう言ったんだ。すると梨華は驚いた表情になった。
私は気付かなかった振りをして、そのまま少し前を歩いた。
梨華は私の腕を握った。軽い痛みと衝撃に、梨華の方を振り返る。
今まで見た事の無い瞳で私を見上げていた。
私は、視線を外せなかった。そのまま、見詰め合う形になった。
梨華は私にたくさんのメッセージを送ってきた。
多すぎて、受信できなくなるぐらいに。
私は精一杯受け止めようとしていた。
- 100 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:09
-
「なんか…恥ずかしい。」
「え?」
「私、すごく自分勝手な気がする…。でも、きっとその時、私いっぱいいっぱいだったんだと思う。」
「そう…かもね。」
- 101 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:09
-
梨華は、ハッとしたように腕を放して、顔を背けた。
長いようで短い時間だった。
私は少し驚いたけれど、何もなかったようにまた歩き始めた。
梨華も少し遅れて歩き始めた。
手を差し伸べると、梨華は何も言わず取ってくれた。
私達は初めて手を繋いだんだ。
- 102 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:10
-
「それから、ずっと梨華は俯いてた。」
「私…ひとみちゃんの事大好きだったんだ。」
思ってもみない言葉に、驚いてしまった。
梨華は三年弱でその言葉を発した。
けれど、生まれ変わった梨華は出逢ったその日に、同じ言葉を口に出した。
ここまで変われるものだろうか。
- 103 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:11
-
「分かるよ…話し聴いただけで。」
「え?」
「だって、今…また好きになってるから。」
梨華の方を見ると、顔を真っ赤にしながらも私の目を真っ直ぐ見ていた。
素直な言葉と気持ちにすごく胸が痛くなる。
私は、また手放す事になるんだろうか?
地上にたどり着く前の雪のような、純粋で無垢なこの娘を。
「抱き締められた時に、分かっちゃったの。私、ひとみちゃんの事が好きだって。」
「…………。」
「ちょっと疑ってたけど、やっぱりそうだって確信した。すごく、優しくて…好きにならなかったらおかしいと思った。」
「梨華…。」
- 104 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:11
-
頭に手を置くと、梨華はくすぐったそうに笑った。
触れようと思えば触れられる。交わそうと思えば言葉だって。
こんなに幸せなのに、なんで切なくなるんだろう。
私は知らない。
やがて、梨華は少しずつ嗚咽を漏らすようになった。
外の明かりだけを頼りに、梨華の涙を拭った。
「梨華…?」
「ごめんね…。」
「いいよ。私の知ってる梨華は、出逢った時から泣き虫だったから。」
- 105 名前:-]U- 投稿日:2004/04/24(土) 23:12
-
少しだけ、嘘。
いつの間にか梨華は、私より強くなっていた。
私の方が弱くて、よく泣いていた。
声が聴こえなくなったと思うと、もう梨華は眠っていた。
安心感が訪れると、やがて私にも睡魔が襲ってきた。
眠りに落ちる直前まで、ただ、ひたすら、明日になっても梨華がいるようにと祈り続けた。
- 106 名前:作者。 投稿日:2004/04/24(土) 23:25
- 更新です。
つか、前回の更新で二度連続カキコ+頭が抜けてますね…_| ̄|○シニテェ
気付くの遅くてすいません。
完全版はサイトにでも載せるつもりなんで、そこで改めて…デキルノカナ(´・ω・`)
> 名無し募集中。。。さん
その一言待ってました━━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━━!!
泣きたくなる程嬉しいお言葉、ありがとうございます!!
これからも面白い方向に行かせようと頑張ってるので、どうか楽しんでやって下さい。
> プリンさん
この先どんどんおかしくなります。(ぇ
もっと暗くなりますよっ。でも、ほんわかな所はほんわかヽ(´ー`ヽ)ヽ(´ー`)ノマターリのつもりでつ。
ありがとうございますー。この頃は気温が毎日激しく変わるので、プリンさんもお気をつけて。
- 107 名前:プリン 投稿日:2004/04/25(日) 20:20
- 更新お疲れ様ですっ!!!
(・∀・)イイ!すごく(・∀・)イイ!
でもこの後がどうなるかですよね・・・・w
いい雰囲気の二人がどうなるのか。
すごく気になるぅヽ( ´▽`)ノ
サイトに載せるんですかw
メール欄にも入れましたが、いつもサイトではお世話になっててm(_ _)m
これからも頑張ってくださいねっ!応援してますっ!
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/26(月) 16:03
- なんだかちょっとファンタジックな感じもしますね。
ハマりました。お気に入り登録です(w
作者。さんのサイトぜひ見てみたいんですけど、どうでしょうか?
よろしかったら送って頂くとすごく嬉しいです。
- 109 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:53
-
]V
朝、私の視界から拓けた世界は、いつもより輝いていた。
光を浴びて伸びをすると、隣にいた梨華が動いた。
梨華は太陽の光に少しずつ目覚めていく。
「おはよ。」
寝ぼけ眼で私を確認すると、梨華は嬉しそうに微笑んだ。
今日一回目の梨華の笑顔。
「おはよう。」
- 110 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:54
-
朝食は適当に梨華に頼んでしまったけれど、大丈夫だろうか?
記憶は無いのになぜかこの世界には普通に慣れている。
疑問もあまり抱かないし、生き方を知っているようだ。
やっぱり、気になるなぁ…。
「梨華?」
「あ、はい!」
「大丈夫?」
「うん。」
私の心配をよそに、淡々と手際よくこなしていく梨華。
それでも心配はなかなか消えずにいた。
まだ頭のどこかで、梨華を人間と認められていない自分がいるんだ。
- 111 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:54
-
「大丈夫だってば。」
「…でもさ…。」
「大丈夫。ちゃんと美味しく作るから、早く着替えておいで?」
「…うん。」
渋々寝室に戻った。
バイトさえ入っていなければ、こんな早くに起きず一日中梨華と居れたっていうのに。
何でオーケイしちゃったんだろう。
人足りないって言ってたし、私以外にもいた筈なんだけど…。
どうせ断れないクセに、無い未来を考えても仕方がない。
- 112 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:55
-
「はぁ……。」
「どうしたの?溜息ついちゃって。」
「え?いや、なんでも…。」
いきなり、梨華がひょっこり顔を出したので少し寿命が縮んだ。
「ご飯出来たよ。」
そう一言言うと、またリビングに戻って行った。
諦めた筈なのに梨華の笑顔を見た瞬間、また悔いが押し寄せてきた。
昨日の私を恨んだって仕方が無いじゃないか。
仕方が無いで済ませたいけれど、なかなかそうは行かない。
店長には去年も一昨日も昨日も会ってるけれど、梨華とは二年振りなんだ。
梨華を優先するのは、当たり前の事じゃないんだろうか。
- 113 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:56
-
「ねぇ、どう?」
「え?うん、美味しい。」
「良かった。ちょっと心配してた。」
「………。」
やっぱり、今日のバイトは断るべきだ。
私は自分で驚いていた。こんな決断を下すなんて。
断れるわけがないのに。断るという考えを出す事なんて。
どうせなら…サボってしまおうか。
電話すると少し断りにくそうだ。
だったら、いっその事サボった方が都合がいい。
言い訳なら明日なんとでも出来る。
案外人が足りてるかもしれない。
- 114 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:56
-
「ひとみちゃん?」
「ん?」
「どうかした?」
「へ?」
「さっきから、元気ないから…。ちゃんと食べないと、バイト中に倒れちゃうよ?」
「あ、それなんだけどさ…。」
「え?」
梨華のちょっと間抜けした表情を見て、言葉がつっかかる。
それでも私は少しぐらい強くなっているようで、梨華の目は見れなかったけれど、どうにか声を出した。
- 115 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:56
-
「今日、バイト行くのやめた。」
「え?なにか、あったの?」
梨華と一緒にいたいから。
「別に、なにもないけど。」
なんて口に出して伝える事なんて出来ない。
「具合悪いの?」
「いや。」
「ほんとうに?」
今にもテーブルの上に乗り出しそうな勢いで聞いてきたもんだから、
「ちょっと…。」
ついそう答えてしまった。
- 116 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:57
-
結局、今日一日は梨華と一緒にいれる事にはなった。
けれど私は病人扱いで、朝食を食べた後からずっと横になりっぱなし。
最初は退屈だと思ったけれど、午後辺りから本当に具合が悪くなってきた。
病は気からってこういう意味?
「ひとみちゃん?具合、どう?」
「あーうん…最高。」
「嘘言わないで。顔色悪いよ?」
ずっと横になってるせいだと思うんだけど……。
「大丈夫だって。」
「そう…何かあったら言ってね?」
梨華はまた寝室から出て行った。
さっきから、十五分毎ぐらいのペースでこっちに来てる気がする。
心配しすぎだ。
- 117 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:57
-
食器洗いやら洗濯やら掃除やら、色々家事をしているようだけど大丈夫だろうか?
というか物音がすごいけど…大丈夫だろうか?
慣れている筈では…?
立ち上がると、フラッと倒れそうになった。
ずっと横になってたせいだと言い聞かせてリビングまで歩いて行った。
「梨華?」
「あ、ひとみちゃん。今お粥作ったから持って行こうと思ってたの。」
エプロンに腕まくりで気合充分なのが窺える。
けれど、キッチンは無残に汚れていて洗っていた筈の食器も何だかすごい事になっている。
やっぱり梨華はこの世界の人間ではないだろうか。
- 118 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:57
-
そんなの、信じたくない。
梨華はこうして目の前で生きてるじゃないか。
けれど私は頭のどこか信じきれてない事を分かってる。
そんな自分が嫌いで、すごく悔しい。
梨華を信じてない?
途端、非常に梨華が愛しくなる。
けれど私に愛する権利なんてあるのだろうか?
信じられてないのに?
違う、信じられないんじゃない。
信じられないんじゃ……。
「どうかした?」
- 119 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:58
-
私が顔を寄せると、梨華は固く目を瞑った。
中途半端な拒否に困ってどうしようか考えていると、右腕を握られた。
ただ頭の中が気持ち悪くて、梨華が心配で。
切ない気持ちになるだけのキスなんてしない方がいいかもしれない。
私は、彼女を幸せに出来ない。
それどころか、傷つけてしまうだけかもしれない。
梨華がまた消えるという可能性を充分頭に置いておいた筈なのに。
もう手放したくないの一心で、梨華を傷つけようとしている。
私は彼女を幸せにしたい筈なのに。
「付いてる。」
梨華の唇の右斜め下辺りを親指で拭った。
- 120 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:58
-
「つまみ食い?」
「し、してないよっ!」
そっと右腕を外して踵を返し寝室に戻った。
ドアの前で立ち止まって梨華を見ると、固まって突っ立っていた。
「梨華?お腹減ったんだけどー。」
「ご、ごめん!今持って行くから!!」
もし、また消えてしまったらどうする?どうなる?
今度こそ私は完璧に崩れて、あっという間に地球から投げ出されるのだろう。
どうせなら梨華と一緒に消えてしまいたい。
- 121 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:58
-
ノックの音がして梨華がゆっくりと入ってきた。
「美味しくなかったら、ごめんね。」
「いいよ。お腹減ってたから、いっぱい食べたかったし。」
「食いしん坊。朝ごはんちゃんと食べたでしょー?」
「へへっ。いいじゃん。」
頬を突っつかれると筋肉がだらしなく緩んだ。
梨華が隣にいること。
そして、私を見ていること。
全てが嬉しい。
全てが嬉しいけれど、嬉しいのは私だけ?
- 122 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:59
-
「梨華、食べないの?」
「実を言うと…ちょっと先に食べちゃった。」
「そっちこそ食いしん坊じゃん。」
喘息に、突然襲われる。
変だ。今日は、朝からすごく体調が良かった筈なのに。
そういえば、最近しばらく陥ってなかったかもしれない。
「ひとみちゃん!?」
「…戸棚の2段目に…薬……入っ…てるから…。」
顔を俯かせ小走りで部屋から出て行く梨華の背中は、すごく小さかった。
- 123 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:59
-
守ってあげられるのだろうか。
この世界で、私は梨華を幸せにできるというの?
どんな大きな過ちを犯すか分からない。
いくつの小さな過ちを犯すか分からない。
自分だけが、梨華に幸せにしてもらっている。
人間的な態度で、人間じゃない彼女をどうする事が出来る?
気持ちを伝える事が大の苦手で、国語能力のない私に。
ただ、彼女の悲しみや胸の痛みは、私の苦しみにも繋がっている。
共に痛む心を持ち合わせている。
もっと楽しいとか嬉しいとか、教えてあげたい。
幸せにしたい。
けれど、私じゃ……。
一度、梨華を失った私じゃ……。
- 124 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:59
-
自ら梨華を手放した私じゃ――――――――――――
- 125 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 22:59
-
――――――――――――泣いてるの?
- 126 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 23:00
-
梨華の声が夢心地の中、聴こえた。
- 127 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 23:00
-
―――――――――――――なぜ、泣くの?
- 128 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 23:00
-
真っ白な世界に梨華は見当たらない。
- 129 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 23:01
-
―――――――――――――泣かないで。
- 130 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 23:01
-
でも声を聴けば分かるよ
そんなに悲しい顔しないで
私なんかの為にそんなに寂しい顔しないで
私なんかの為に傷付かないで
私なんかの為に、消えないで
- 131 名前:-]V- 投稿日:2004/04/26(月) 23:01
-
- 132 名前:作者。 投稿日:2004/04/26(月) 23:06
- 更新ですたい。
> プリンさん
実は薄々…まさかとは思っていたのですがΣ( ゜〜゜0)Σ(゜▽゜ )マジデ
こちらこそお世話になりっぱなしで(つД`)
もう少しで復帰できると思うので(亀吉大量更新しますので)
お楽しみにしてて下さい♪w
2人はごく普通にらぶらぶってますね、はい。(ぇ
> 名無飼育さん
ファンタジックですか!?新しい誉め言葉だ…ありがとうございます。
お気に入り登録ヽ(´ー`)ノバンザーイ
あ、えと、バカがやってる石吉(影の中心亀吉)サイトです。
送っておきますので、お暇な時にどーぞ。
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/28(水) 22:05
- サイトアドありがとうございます。
ちゃんと足跡残しましたよ(w
こちらのお話も楽しみにしていますので、
がんばって下さい〜。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/28(水) 22:06
- サイトアドありがとうございます。
ちゃんと足跡残しましたよ(w
こちらのお話も楽しみにしていますので、
がんばって下さい〜。
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/28(水) 22:10
- ↑すいません…。
PCの調子悪くて2レスしてしまいました…
- 136 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:04
-
]W
消えないでと願ったのに、梨華はどうやら行ってしまったらしい。
この別離を何度経験したって私の涙は枯れない。
それでも生き続けている限り、何もせずにいても一日は過ぎていく。
孤独感の中を浮遊していた。
白い世界は、私を染めてくれた。
梨華がいない人生なんて生きている意味がない。
なんて、本人の前じゃ言えないけれど。
私が必要とされていなくても、梨華がいればそれでいい。
梨華がいない人生なんて、全く甘くないザッハトルテとか、いつまでも変わらない信号と同じ。
意味が無いんだ。
生きている意味が無いって言うと梨華は怒るだろうけれど、私には国語の力が無いのでどうしようもできない。
- 137 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:07
-
ただ、生きる力があるのだから、梨華を幸せにする事は出来た筈だ。
それとも、やはり無力だったんだろうか?
一度手放したものは本当に掌には帰ってこないのだろうか?
そうだとしたら、私はあの日のあの時、梨華を哀しませたとしても、守るべきだったんだろう。
やっぱり泣き虫なのは変わってなくて、また泣くんだろう。
梨華がいない一人ぼっち。
梨華?って何回も訊きながら。何回も、何もない空に訊きながら。
- 138 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:07
-
「ひとみちゃん?…ほら、起きて?」
「……ん?」
「お薬飲んでから、また寝ていいから。」
何事もなかったように梨華は現れ、そっと水を手渡した。
錠剤を流し込むと鼻が詰っているのに気付く。
夢…?それが、一番いいのだけど。
私だけの中で思いとどまらせる事が出来る。
梨華には迷惑もなにもかけずにいられる。
傷付くのも哀しむのも私だけ。
「ありがと…。」
- 139 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:07
-
コップを手渡した瞬間、手が触れ合った。
梨華の手はヒヤリとして気持ちよかった。
「熱でてきたんじゃないの?大丈夫?」
ハッとしたように私の額に手を当てて、自らの温度と比べる梨華。
やっぱりと言った顔をしてから梨華は私を横にした。
器官が詰った感覚。
「病院、開いてないよね?どうしよう…。」
「いいよ。一日寝てれば治るから。梨華は好きな事してていいからさ。」
「本当に…?」
「うん。」
分かった、っと言ったので部屋から出て行くと思いきやそのまま床に座り込んでしまった。
- 140 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:08
-
「梨華?どうした?」
「ひとみちゃんに言われた通り、好きな事してるの。」
「え?」
「傍にいたいの。」
梨華の目は本気だった。言葉の強さも、声の大きさも。
生まれ変わった梨華はなんだか強い気がする。
やっぱり、死ぬ前の梨華とまた生まれた梨華は何か違うんだろうか?
「ひとみちゃんは私とずっと一緒にいたんだろうけど、私はまだ出逢って二日目なの。」
ずっと一緒に、いたんじゃない。
しかし梨華はそれを知らない。彼女は、まだ生まれて間もないのだ。
- 141 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:09
-
罪悪感は、大きく酷いものだった。
嘘をついている事に対してのものと、梨華の傷付いた表情に対して。
「今までの時間をね、たくさん取り戻したいの。取り戻せる限り。」
彼女はこれから、何をその小さな手で得ていくのだろう。
私と梨華の時間は、彼女との時間とは別の物だと、私は考えていた。
けれど違うのかもしれない。
梨華が梨華で在る限り、梨華との時間はそれ以外の何でもない。
「だから、だから…少しでも長く近くにいたいの。」
- 142 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:09
-
梨華は、知っているのだろうか。一度死んだという事実を。
そう思わせる表情をして梨華は私の手を握った。
思わず振り払いそうになった。
手から伝わってしまうのは体温だけじゃない。
「一秒でも長くひとみちゃんと繋がってたい。」
胸を抉られたような痛み。
きっと、梨華も今胸が痛い筈だ。
私達が共感出来るのは、喜びでも幸せでもない。
痛み、そして哀しみだけ。
寂しさや孤独感は一人が一人で背負うものでしかない。
「お願い。」
ひとみちゃんの時間を私に下さい。
- 143 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:10
-
梨華はそう言って顔を伏せた。
やっぱり、彼女は分かっているのかもしれない。
意識よりも深い躰のどこかで、梨華は分かっていたのかもしれない。
梨華を見ていられなくて、目を閉じた。
頬が冷たい。
手から伝わる体温と言葉はいつまでも私の中に。
- 144 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:11
-
電話の音で目が覚めた。
梨華はすっかり、深い眠りについているらしく、微動だにしない。
そっと布団を退けてベットから降りて冷たいフローリングの床に足を置いた。
電話は、バイト先の従業員からだった。
梨華よりも少し女の子の声で、私の脳は目覚めて行った。
「…吉澤さん?ですか?」
「ああ、はい。今日はすいません。」
「いえ…喉、大丈夫ですか?」
言われてから気付く。なんて酷い声なんだろう。
- 145 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:30
-
「はい。」
「風邪ですか?」
「少し、熱があって…。」
「気をつけて下さい。店長には、私が言っておきましたから。」
「ああ、ありがとうございます。」
「それじゃあ、明日は待ってます。お大事に。」
そう言うと、電話はすぐに切れた。
明日お礼を言わなければならない。…名前を聞けば良かった。
受話器を置くと、違和感。その名前は喪失感。
失う物さえも持っていなかった。だけど、今の私には梨華がいる。
喪失感を味わえるのに、喜びを少しだけ抱ける事に、幸せを感じていいんだろうか?
戻った部屋に梨華がいる。
ただ、それだけだけど、すごく嬉しくて大事な事。
幸せを感じていいんだろうか?
- 146 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:30
-
ドアを開けると、西に傾いた陽が部屋を染めていた。
橙色に輝くそこは私達の未来と希望に溢れてしまっている。
梨華はそっと目を開けて、私の姿を捉えた。
「誰か来たの?」
「ううん、電話。風邪さ、寝たらすっかり治っちゃったよ。」
腕を伸ばして元気という事をアピールしたつもりだったのに、梨華は別の意味で取ったらしい。
空いたスペースをフルに活用するように、私の腕の下に自分の細い腕を廻した。
一瞬で梨華の香りが胸の辺りから広がる。
少しドキドキしてる。でも、勇気を出して腕を廻してみた。
- 147 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:31
-
「でも、喉ガラガラじゃない。熱はない?頭、痛くない?」
額に触れると、梨華は少し拗ねた表情で
「熱下がってないよ?」
そう言った。
私の額に何を期待していたのかは分からない。
「でも、大丈夫。声は、喋ってれば治るから。頭も痛くないから。」
「そんな事言ってても治んないよ…お願いだから、ちゃんと寝て?」
- 148 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:31
-
器官が詰った感覚。
斜め下を向くと、自然と咳が出た。
喉が燃えているようにヒリヒリと痛い。
大人しくベットに横たわると、梨華はまた、いや、さっきよりも強く私の手を握った。
「ねえ、ひとみちゃん。」
「ん?」
「お話するの…辛い?」
「いや。」
本当は一言一言声に出す度、喉が熱く燃え爛れそうになっていた。
- 149 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:32
-
「もし、本当に辛くなかったら、昨日の続き話して?」
「昨日の続き?」
梨華は返事をせず、頷いた。
- 150 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:32
-
******
- 151 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:33
-
私達の距離はどんどん近付いて行った。
って言っても、ただ前まで避けていた同士が人並み程度に仲良くなっただけなんだけど。
クラスも部活も違かった私達が会うのは、一日に数回廊下ですれ違う事ぐらいしかなかった。
まあ、見に行けば見れたし、会おうと思えば呼べたけど、理由が無かったしね。
唯一、週一回あった選択の授業で、梨華と私は同じクラスだった。
「それって、私達が同じ所にしようって話し合ったの?」
ううん。私達標準クラスは、二クラスあったからね。
一緒になれたのは偶然なんだ。(私はコレを奇蹟と呼んでる)
席は、隣の隣。
会話を交わす事はなかった。教師が酷く厳しい人間だったからね。
いつも大体プリントを2,3枚やって終わり。
- 152 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:33
-
梨華は同じクラスの子といつも二人だったし、私も同じクラスの子と一緒にいたからね。
梨華は、すごく真面目な子だったんだ。
授業中はずっと教師の声に耳を傾けていた。
そして、右手はひたすら動きを止めずにノートを取っていた。
だから、私と正反対で、少し合わない部分があったのかもしれない。
「ひとみちゃんは…。」
「なに?」
「ひとみちゃんはそう言ってくれるけど、私真面目な人間だなんて思えない…。」
「なんで?梨華は真面目でいい子だったよ。」
本当に頭がよかったし、皆が嫌がる仕事も自ら進んで引き受けた。
そんな梨華を見習いたかったけど、私には到底無理だった。
授業にどうやったら集中できるのか分かんなかった。
- 153 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:34
-
「でも、私、今何も出来ないよ?お料理は辛うじて出来るって程度だし、お掃除だって埃舞っちゃって大変だったし…。」
梨華はほとんど泣き顔にしか見えない笑みを私に向けた。
「梨華が、器用だって言ってるんじゃないんだ。」
「……不器用な人は、嫌い?」
私は、真面目を魅力的だと取る人間だった。
その考え方は梨華と出逢ってから思った事なのだけれど。
そして何より、私は真面目な人間が好きだった。
真面目さは信頼に繋がるし、信頼から愛が生まれるといっても過言ではない。
- 154 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:35
-
だから、器用な人間よりも真面目な人間の方が好きで、一緒にいたいと思う人種だった。
器用な人間は、たまに自分や他人を傷つけてしまう。
不器用な人間は傷つけても、それを直す事が出来る。
器用さは自分を生かす事も殺す事も出来る。
不器用な人間は、他の人間に支えられながら生きていく。
人を必要とする人。それもまた、私が好きな人種だ。
そして、人を必要と出来る人。それは私が尊敬する人種だ。
- 155 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:35
-
「私、ひとみちゃんの為に何も出来てないの。」
「これからしてくれればいいから。」
「今すぐしたいの。今まで何も出来なかった分、気にして欲しくて避けて、傷つけちゃった分。」
傍にいてくれればそれでいいなんて、今の梨華には伝わらない。
「だから…だから……。」
私は、梨華の小さな頭を抱き寄せた。
もうこれ以上傷ついた声を聴きたくなかった。
- 156 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:36
-
梨華は何も言わずに私を見上げた。そして、そのまま、ゆっくりと目を閉じた。
まるでスローモーションの様に、梨華の涙が静かに零れ落ちた。
私が彼女の体温を感じているように、彼女も私の体温を感じていた。
それだけで安心するのに、何で私達はすぐに不安になるのだろう?
梨華が預けた躰から伝わってきたのは体温だけじゃなかった。
- 157 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:36
-
『だから…だから……』
『あなたの傍に……いさせてください…』
- 158 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:37
-
- 159 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:37
-
- 160 名前:-]W- 投稿日:2004/04/29(木) 23:49
- 更新です。遅くなってすいませぬ…。
> 名無飼育さん。
足跡ありがとうございます!!
って…PC調子悪くて、まだ掲示板開けないんですが。。。
名無飼育さんのPCもですか。お互い大事にしませんと。爆
- 161 名前:プリン 投稿日:2004/04/30(金) 09:01
- 更新おつ亀さまですっ!!!
すごく(・∀・)イイ!
いいよぉ〜いいよぉ〜w
石吉いいよぉ〜w
重吉も亀吉もいいですよね?w
最近キテルよぉ〜w
…書いた亀吉は公開ナッスィングですか?w
- 162 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:47
-
]X
私は結局そのまま眠りについてしまっていた様だ。
薬が効いているのか樽さはどこかに消え、残っていたのは眠気だけだった。
躰はあまり言う事を聞かないけれど、正午に比べれば、まだ使える方だ。
膝の上に乗っていた筈の、梨華の重みは消えていた。
外はほんのりと赤く染まっていた。
梨華が暗闇の中から、ふと姿を現した。
「具合は、どう?」
「うん。すっかりよくなったよ。」
「よかった。」
「おかげさまで。」
私が頭を下げると、梨華は笑みを漏らした。
- 163 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:47
-
「買い物に、行こうと思ったんだけど…この辺りの事がよく分かんなくて。」
「ああ……。」
梨華は方向音痴だった。
いや、それ以前に、梨華はここに住んでいたんじゃない。
分からなくて当然だ。この家の事も、周りの事も。
梨華はここに呼ばれて来たんじゃない。
自らの意志で、ここに来たんだ。
「じゃあ、一緒に行こう。」
「でも、大丈夫?熱まだ…。」
「もうとっくのとうに下がったよ。一日ベットの中にいるのもなんだしね。」
行こう、と私がパーカーを羽織ると、梨華は微笑んで頷いた。
- 164 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:48
-
あまり人に会うのはよくない。
梨華の存在をどう説明したらうまくいくのか、私には分からないからだ。
事実、梨華の事を知っている人はこの辺りにはほとんどいないといっていい。
梨華はここで生まれ育ったのではないからだ。
「ねえ。」
梨華が言った。
「なにがいい?」
「まかせるよ。」
「一番、困る。」
- 165 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:48
-
顔をしかめて真剣に選ぶ梨華を見て、私は新鮮な気持ちになっていた。
学生同士の私達だったらこんな事起こる筈が無い。
晩御飯を二人だけで食べるのも初めてだ。
梨華は、私を懐かしくさせ、そして新鮮な気持ちにさせた。
新しい梨華、ずっと見ていた梨華。
変わった梨華、初めて見る梨華。
私の頭の中は梨華でいっぱいだった。
そんな内に、買い物は終わりを迎え、気付くとレジに並んでいた。
「たくさん買ったね。」
「色々作りたくて。」
梨華はくすぐったそうに笑う。
- 166 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:49
-
「ひとみちゃんは、食いしん坊だし。」
「梨華が作るの、おいしいから。」
「本当の事言ってるの?」
「ああ、うん。」
帰り道の上り坂で、気付けば手を繋いでいた。
もう離れられなくなってしまったのかもしれない。
こんなに近くにいても、何か足りない。
繋がっていないと、落ち着けない。
私達は、泣き虫で恋に臆病者だから。
坂の頂点で梨華が立ち止まって振り返った。
- 167 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:50
-
「なに?」
「影が、赤く見えたの。」
私も振り返る。
「ほら、山に沈んでく。」
山並みはくっきりと見えていた。
こんな快晴の日は、太陽はここまで輝くものだろうか。
「太陽ってね、沈むときが一番綺麗なんだって。」
- 168 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:50
-
紅く染まった梨華の横顔に見惚れていた。
「…帰ろう。お腹空いちゃった。」
少し先を歩く梨華。
独り言のようなメッセージが、私に向かって投げられた。
『人間も死ぬ時が一番綺麗なのかな』
一日の長さを痛感した夕焼は何時までも鮮明に残っていた。
- 169 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:51
-
- 170 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:51
-
通信制の学校のレポートをしていると、いい匂いが漂ってきた。
少し、懐かしい匂い。
結局もう手に付かずなので、リビングに向かった。
梨華はすごく楽しそうに料理をしていた。
もうテーブルは鮮やかに光を放っていた。
この二年、コンビニ弁当ぐらいしか置かれた事のなかったこのテーブルが。
「あ、もう出来るから。待ってて。」
梨華はすっかり主婦気分の様だった。
エプロンも満更じゃない。
細い足。細い腰。狭い肩幅。
私と全く対照的。
そんな、正反対な梨華が好きだった。
- 171 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:52
-
「なあに?」
「…なんでも、ない。」
相当機嫌がいいらしく、それ以上は聞いてこなかった。
- 172 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:52
-
「「いただきます。」」
二人の食卓に、まだ慣れていない。
もし梨華が生きていたとしても、こうして二人で並んで食事を取る機会があっただろうか。
私は明日の事について考えていた。
流石にもうバイトは休めない。
けれど、梨華を置いて行っていいんだろうか。
彼女はまだ何も知らない。
生まれたまだ間もないのだ。
- 173 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:53
-
もし、留守中に誰か来たらどうしよう。
こんな時に限って、高校の知り合いや、家族が来たら?
電話せずにいきなり来る事は滅多に無いけれど。
心配だった。梨華が、心配だった。
目を離したら、もういなくなってしまうんじゃないかと。
空気の様に繊細で他の人には見えないかもしれない。
だけど、今梨華はここにいる。私は現実を充分受け止めているつもりだった。
「美味しく…ない?」
「ううん。何で、分かったんだろうなって。」
「え?」
「私の好物。」
- 174 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:53
-
生前の梨華は、私が卵を好きなのは知っていたけれど、オムライスが好きなのを知らなかった筈だ。
「ううん…分かんないよ。これかなって。直感。」
酷く冴えてる直感だ。
「美味しいよ。」
「ありがとう。」
- 175 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:54
-
並んでソファに座っていると、ふいに梨華が私の肩に頭を乗せた。
寝てしまったのかと思いきやそうではないらしい。
梨華は今までどおりブラウン管に写る人間に視線をやっていた。
少しだけ瞼が重そうだけれど。
「ねえ、梨華。」
「…なぁに?」
やっぱり、少し眠いらしい。
梨華の返事は遅く、声は少し聞き辛かった。
「一人で、大丈夫?」
「え?」
「一人でいられる?」
- 176 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:54
-
けれど私の一言に酷く驚いたらしく、慌てた素振りで顔をこちらに向けた。
そして私の目を確かめる様に見てから不安そうな顔をする。
泣き出しそうな瞳に見つめられると、私は何も言えなくなってしまう。
そのまま気まずい感じになってしまった。
けれど、私は少しずつ強くなっているらしく、喉に引っかかっていた言葉はふいに飛び出た。
「明日はバイト行かなきゃなんないから…。」
梨華は安心した様に、もう一度私に躰を寄せた。
頭の重みが心地良い。
- 177 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:55
-
「大丈夫だよ…何時までなの?」
「昼からだから、遅くなると思うよ。先に寝てていいからさ。」
「ううん。待ってる…。」
私はテレビを消して、CDデッキの電源を付けた。
再生ボタンを押す。程よくして、音楽が流れてくる。
『悲愴ソナタ』だった。
結局、今でも私はクラシックが好きだった。
梨華から抜け出せずにいた。
「梨華はね、よくこれをピアノで弾いてたんだ。」
「ひとみちゃんはそれを聴いてたの?」
「うん。毎日の様に聴いてた。梨華はすごく上手かったから。」
- 178 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:55
-
少しだけ、ウソ。
聴いているとあの日の思い出がいつも蘇えってくる。
夕陽に照らされた梨華の横顔。
二人きりの音楽室に、響くグランドピアノ。
思い出はいつも美しく私の脳裏に焼きついていた。
あの日あの時、誰よりも『悲愴ソナタ』を知っていた梨華は、今私の隣で初めてそれを耳にしている。
梨華が隣にいるのに、私は泣きそうになった。
- 179 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:56
-
梨華を失った時の辛い思いも、忘れた事など無かった。
けれど今梨華はここにいる。
梨華は、梨華として、また私の隣に戻ってきた。
こんなに幸せなのはいいんだろうか?
私は罰当たりで、幸せ者だ。
幸せすぎてズルいんじゃないだろうか。
「ひとみちゃん?」
梨華は泣いているのに気付くと、それ以上何も言わなくなった。
私との距離を最小限に縮めて『悲愴ソナタ』に聞惚れてた。
- 180 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:56
-
「ごめん、梨華。」
「なあに?」
「抱き締めていい?」
梨華は返事をせずに、自ら私の腰に腕を廻した。
胸の少し上辺りに頭を寄せて深呼吸をしている。
小さな背中に手を置くと、その温もりに涙が溢れてきた。
どうしたらいいのか分からない。
私はこんなにも幸せで、なのに泣いている。
梨華の温もりが優しすぎて。
私は、声を押し殺して、泣いた。
- 181 名前:-]X- 投稿日:2004/05/03(月) 23:57
-
「梨華の…隣、好き。」
「私もひとみちゃんの隣、好き。落ち着くの。」
梨華の笑顔に、私の胸はもっと締め付けられていった。
こうして二度も隣同士になれたのは、運命より奇蹟なんじゃないだろうか。
梨華とこうしていられる瞬間、私達は世界で一番幸せなカップルだと言えた。
- 182 名前:作者。 投稿日:2004/05/04(火) 00:03
- 更新しましたー遅くなってすいません。
GWは色んな所へピョォンΣ=(。 ゜Д゜)ノ飛びまくって疲れまくりです。
初めて野球観戦したんですけど…楽しいですね。応援の仕方とか、ライブと似てて爆
> プリンさん
おつ亀さま、だなんて(;´Д`)…ハァハァ
最近、いしよしという単語が離れていくのを感じr(ry
重吉!!シゲさんは、悪女キャラだという事が決まりましたのでご報告ですw
勿論公開しまくりですよ。大公開。晒します爆
この板でも四本立てとか書くつもりなんで、ご期待をばw
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/04(火) 00:13
- 2chブラウザを使うと、メル欄も一緒に見えてしまいます
もうちょっと気を遣ってくださるといいんですが。
いしよし好きな人なら確実に萎えますよ
作品とは別だというのはわかってるのですが
それが正直な気持ちで
- 184 名前:作者。 投稿日:2004/05/04(火) 00:27
- >>183さん
ご指摘ありがとうございました。
もうメル欄を使うのは止める事にします。
>作品とは別だというのはわかってるのですが
別の物では無いです。気にしないで下さい。
全て、私と私の書いた作品に繋がっています。
気分を害された方・不快な思いをされた方、お詫び申し上げます。
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/04(火) 00:59
- いしよし云々は個人的には気にはならないのですが、
2chブラウザを使ってると小説→メール欄→小説と見てしまうわけで、
結果、肝心の小説に集中できないのが勿体無いなと思って今回の更新分も読んでいました。
小説の内容が内容なだけに余計にそう感じるのかもしれません。
- 186 名前:名無し 投稿日:2004/05/04(火) 01:27
- 私はメール欄には笑わせてもらったりしたので、なくなるのは寂しいですね。
恐らく作者さんの亀吉をを連呼してるのを見ていしよし一筋な方が嫉妬したのでは
ないでしょうか?w私は亀吉も好きなので次回作も是非お供させてくださいw
- 187 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/04(火) 08:30
- 要らんこと書くなって
無意味に作者に擦り寄る読者は見てて滑稽だね
この小説読みながらメール欄で笑うということ自体雰囲気を壊してる証拠じゃないか
- 188 名前:プリン 投稿日:2004/05/04(火) 08:45
- 更新おつ亀様ですm(_ _)m
ちょいと感動w(何
ウルウルでしたかねw(ぇ
自分も作者様と一緒で、2chブラウザ使ってないので、一緒に見る事はなく、あんましよくは分からないのですが・・・。
でも自分も作者様と同じ感じなんでw(ヲイ
亀吉好きですねぇ。同じですw
でも面白かったですよ!何回頷いた事か(笑
自分は、作者様の小説が大好きですYO!
なんで、これからも応援させていただきますね。
サイトの方も待ってますっ!w
では。マイペースに頑張ってください。
- 189 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/04(火) 23:15
- >>186
いしよしの恋愛シリアス物を読んでる横で
亀吉亀吉連呼されて話に入っていけると思いますか?
レスにwなんて付けるような方にはおわかりにならないかと思いますけど。
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/04(火) 23:35
- 作者さんがやめると言ってるのですから静かにしましょうよ。
- 191 名前:傍観者 投稿日:2004/05/05(水) 20:37
- >別の物では無いです。気にしないで下さい。
全て、私と私の書いた作品に繋がっています。
と言われてしまうと、本編の行く末が見えてしまう様でしらけるな。
まぁ、いずれにしても本編と余りに違う雰囲気のメル欄は自滅につながるな。
- 192 名前:-]X- 投稿日:2004/05/05(水) 21:59
-
夜、横に並んでベットに入ると、梨華の小さな手が重なった。
「ひとみちゃん、手大きいね。」
「梨華が小さいんじゃない?」
「…ううん、大きい。」
梨華は上体を起こしたまま、私の左手をマジマジと見ている。
約年間バレーボールと貫いてきた両手の指は、ひどく曲がっていた。
やってる頃に比べたらまだ良くなったけれど、医者にはこれ以上治らないと言われた。
でも、すごく誇りに思ってる。
私が一番熱く続けられたのは、バレーしかなかったから。
「……痛そう…。」
- 193 名前:-]X- 投稿日:2004/05/05(水) 21:59
-
梨華は、それこそ痛そうな顔をして私の曲がった指を撫でた。
もう見慣れてしまったいたそれは、梨華にとっては酷い光景だったのかもしれない。
本当に梨華の手は小さい。
指は細く、手のひらの横幅さえ、私よい何センチも小さかった。
梨華が私の手を取り、自分の手と合わせた。
「ほら、こんなに大きい。」
梨華の指は、私の第二関節ぐらいまでしかなかった。
私はそっと指と指を間に挟んだ。
梨華は一瞬驚いた様だったけれど、すぐに肩の力を抜いた。
「ひとみちゃんの指、細くて長くて綺麗…。」
- 194 名前:-]X- 投稿日:2004/05/05(水) 22:00
-
そう、梨華はあの日と全く同じ事を言ったのだ。
まるで独り言を言う様に、ポツリと。
こういった何気ない仕草や言葉が、私の胸を熱くさせる。
握り合った手はゆっくりと下ろされた。
「…寝よう?」
「うん。」
電気を消して辺りが暗闇に堕ちる。
「ねえ、ひとみちゃん。」
「うん?」
「このまま寝ていい?それとも、辛いかな?」
- 195 名前:-]X- 投稿日:2004/05/05(水) 22:02
-
このままと梨華が指したのは、繋いだままの手の事だった。
「大丈夫だよ。おやすみ。」
「…おやすみなさい。」
体温は著しく上昇し、私は今までになく熟睡した。
明日、梨華と離れる事なんて忘れていた。
今はただ隣に居てくれればそれで幸せだった。
こんなに気持ちいい中で眠るのは初めてだった。
- 196 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/05(水) 22:02
-
]Y
次の日。
何事も無く、朝は訪れた。
雀と鳩が鳴いている。
灰色の雲の上から射す光に、うっすらと目を開けた。
今日も、始まってしまった。
私の人生の何百分の一日が。
梨華との、少ない人生の中の一日が。
梨華はとっくに起きていた。
私は顔を洗い、着替えてリビングへ向かった。
- 197 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/05(水) 22:05
-
「おはよう。」
梨華と共に朝を向かえ、
「おはよ。」
こんな言葉を投げあうなど、想像もしていなかった。
17歳で閉じた筈の梨華の日常は、こうして私の近くで続いている。
何事も無かった様に。
ひょっとしたら、梨華の人生は私の人生そのものなのかもしれない。
きっと、梨華を一度失ったいなければ、私達は今一緒にいないだろう。
私は自分のせいで梨華を失ったと責める事をやめていた。
「早く食べなきゃ、遅刻しちゃうよ。」
- 198 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/05(水) 22:06
-
梨華に言われハッとする。
時計を見ると、短い針は9を少し過ぎたところだった。
そこまで慌てる事はない。
「大丈夫。全然、間に合うから。」
今の私に、梨華と一緒にいる時間より守りたい物などなかった。
「急ぐと、事故に合うから…余裕持って行かないと。」
まるで自分の事を指している様に、梨華は言った。
そして私の記憶は自然と遡る。
それが何を意味しているのか、私は知っている。
- 199 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/05(水) 22:06
-
コンクリートは辺り一面染まった。
梨華といつか見た紅葉の様に。
霞んでいく意識の中で、私は梨華に言ったんだ。
世界でたった一つの言葉を。
その時の梨華の綺麗な顔は今でも鮮明に焼きついている。
痛い程、知っている。
それが何を意味しているのか、私は痛い程知っていた。
- 200 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/05(水) 22:06
-
「ひとみちゃん?ボーッとして…大丈夫?」
「うん。大丈夫。」
梨華には、いつ真実を打ち明けたらいいんだろう。
それを考えた途端、同じ空間に居づらくなった。
私は意味も無く早めに家を出る事にした。
一人になっても、きっと頭の回転速度は変わらないだろうけど。
「ゴメン、もう行く。」
「うん。いってらっしゃい。」
「遅かったら、先寝てていいから。」
「ううん、待ってる。気をつけてね。」
- 201 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/05(水) 22:07
-
梨華の言葉を胸に、私は家を出た。
ピンと張り詰めた様な冬の空気。
透き通った世界の中、私は歩き出す。
なんとか、勢いにのって家から出れた。
梨華は大丈夫だろうか?
倒れたりしていないだろうか?
今すぐにでも来た道を戻りたかった。
あの思いドアを開けて、梨華に「ただいま」と言いたい。
- 202 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/05(水) 22:07
-
もう、大丈夫。私はここにいるよ。
梨華の隣には私がいる。
だから、もう大丈夫。
だから、もう泣かないで。
勿論、泣きたいのは私の方だ。
- 203 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/05(水) 22:08
-
- 204 名前:作者。 投稿日:2004/05/05(水) 22:35
- 中途半端な更新ですいません…。
メル欄に何か書くのはやめます。何回も言う様ですが。
指摘してくださった皆様ありがとうございました。
- 205 名前:プリン 投稿日:2004/05/06(木) 17:27
- 更新乙亀様ですm(_ _)m
よっちゃんの手(*´Д`)ポワワですよね(ぇ
二人ゴト見て思ったんですが・・・w
しかも梨華ちゃんの話・・・w
あ、どうでもいいか。こんな話。
続きの更新待ってます!頑張ってください!
応援してまぁ〜っすw
- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/06(木) 18:14
- 更新お疲れ様です。
よっちぃ切ないなぁ。。
続き楽しみにしてます。
- 207 名前:名無し 投稿日:2004/05/07(金) 00:50
- >>189
ごめん喧嘩売ってんの?自分の意見を言っただけだ。
俺なりに荒れない様に気をつけて言葉を選んだつもりだよ。
見下された言い方される覚えはない。
空気読めなくて申し訳ないけど189の言い方に腹立ったから。
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/07(金) 17:00
- >>207
もういいだろ
あんたの>>186はどこから見ても「荒れない様に気をつけて言葉を選んだ」ようには見えんな。
堪え性のない瞬間湯沸かし器も結構だけど、邪魔者以外の何者でもないからとっとと
お引取り願いますかね
- 209 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:10
-
「おはよーございます。」
「お、おはようございます。」
私より、少し背の小さい少女が私に向かって頭を下げた。
その声で気付く。
昨日電話をしてくれたのは、この子かもしれない。
「風邪、大丈夫ですか?」
「ああ、はい。もうすっかりよくなりました。」
やっぱり、この子らしい。
「流行ってますから、気をつけて下さい。」
「どうもありがとう。」
- 210 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:10
-
私は奥へ進み、自分のロッカーを開けた。
今日もまた、何も変わらない。
バッグを投げ込み着替えると、早速外に出た。
やっと、私の日常が始まった気がした。
梨華は元気にしているだろうか。
- 211 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:11
-
- 212 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:11
-
「お疲れ様でした。」
最後の宅配を終え、私はロッカーに滑り込んだ。
急いで着替えを済ませバッグを背中に背負い、裏口をそっと開けた。
膨大な空にぽっかりと月が浮かんでいる。
こちらと見て笑っているようだ。
全身の筋肉痛には、もう慣れてしまった。
バレーで鍛えた体は少なからず役立っている。
シンと静かな空間を私は一人前へ進む。
私を待つ梨華の元へ。
もう、不安など消えていた。心配など消せていた。
早く梨華に会いたい一心だった。
- 213 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:11
-
11:38.
Gショックの腕時計は、そう表示していた。
もう寝てしまっているだろうか。
エレベーターに乗り込むと、期待は更に高まっていく。
ドアは、開いた。
玄関の電気は付いていて、そこから見えるリビングにも明りが燈っている。
安心して私は言った。
「ただいま。」
そこまで大きな声ではなかったのに、梨華はすぐにやってきた。
筋肉がだらしなく緩んでいく。
パンパンに張った筈の足は、みるみるほぐれていく。
- 214 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:12
-
一番だらしなくなっていたのは、心だった。
柑橘系の様な酸味が胸に広がる。
梨華は、私の大好きな笑顔で迎えてくれた。
「おかえり。」
「遅くなってごめん。」
「ううん。」
本当に幸せそうに笑ってくれる。
何で、この娘は。
ここまで、幸せそうにしてくれるんだろう。
私は彼女を幸せに出来ていない筈なのに。
- 215 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:12
-
「誰か来た?」
「ううん。電話もなかった。」
「待たせちゃってごめん。」
「私が、勝手に待ってただけだから…気にしないで?」
すまないと思う気持ちも、梨華の笑顔に溶けていった。
本当に、感謝してる。
言葉では言い表せない程に。
- 216 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:12
-
こうして幸せな日々を送る中で、私の想像力は造られていった。
そしていつからか後を追う影と喪失感の予感の存在を忘れられなくなった。
あの、膨大な喪失感を、また味わう事になるんだろうか。
今の私には、梨華がいる。
失う物さえなかったあの頃の私じゃない。
- 217 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:13
-
毎晩寝る前に、私は梨華に昔の話しをした。
梨華は音楽が大好きだった事、私達は何度も離れ何度も近付いた事。
「ねえ。」
そして、今日もまた。
私は何も言わずに頷いた。
梨華は楽しそうに私の手を握る。
もう、これはクセになっていた。
時間の経つ速度がゆっくりになり始める。
二人の時間。
- 218 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:13
-
*****
- 219 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:17
-
少し寒い日だった。
秋から冬へ変わる頃かな。
いつも通り、私達は正門を出て桜並木を歩いていた。
けれど、その日は少し違った。
「何が?」
「私も梨華も。」
梨華は俯いたまま顔を一切上げない。
私が面白い話をする。
梨華は笑う。けれど、やはり顔を上げなかった。
私も梨華もいつもと違った。
その時、私は直感で決めたんだ。
今だ。今、言おう。言ってしまおう、と。
- 220 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:17
-
「何を?」
「絶交。」
梨華は酷く驚いた表情をした。
握っている手の力はどんどんと増していく。
『その続きは嫌な事?』
そう聞きたげな目で。
- 221 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:17
-
「大丈夫。嫌な事じゃない。」
「ほんとう?」
「多分…。」
「絶対に?絶対に、嫌な事じゃない?」
「もしそうだとしたって、今私達は一緒にいるでしょ?」
私の一言に、梨華の表情は和らいだ。
- 222 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:18
-
私は好き勝手に酷い言葉を並べて、梨華にぶつけた。
「…どんな事?」
もう話しかけないで欲しいとか、メールもしたくないとか。
梨華はすでに泣きそうだった。
「大丈夫?」
「…うん。」
- 223 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:18
-
最後に、絶交しようって言った。
「それで、私は?」
すごくよく覚えてるよ。
梨華は傷付いた顔して、泣いていた。
私は梨華の泣き顔をそれまでに何回か見た事があったけれど、ここまで傷付いた顔をした梨華は初めて見た。
だから、私は驚いた。
ここまで梨華が泣くと思っていなかったから。
ハッとしてまた驚く。
梨華をこんなに泣かしているのは自分だって。
いつもみたいに、「泣き虫」って慰めてあげられなかった。
梨華はまた俯いた。
私は伸ばしかけていた右腕を、空いた左手で引っ込めた。
- 224 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:19
-
これで良かったんだって言い聞かせた。
何度も何度も、これで全て上手くいくって。
梨華を諦められれば、あの痛い思いをしなくて済むんだ。
あの頃の私はそう考えていたから。
そして、泣きじゃくる梨華を置いて、私は一人で歩き出した。
「終わり…?」
また、隣にいる梨華も泣いていた。
梨華はきっと分かっていた。
何故、この日、この時、私が梨華にそう言ったのか。
私達の間に何かいけない物があった事を、梨華はきっと勘付いていた筈だ。
世界中の全ての人から向けられる視線の中に、幾つかの不快を意味する物が混ざっている事を。
- 225 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:22
-
「続きを話さなきゃ、これは嫌な事になっちゃうよ?」
私はたくさんの涙を拭いながら、話しを続けた。
- 226 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:22
-
後ろから梨華の泣き声がいつまでも付いて来た。
でも、私は振り返らなかった。
言い聞かせてた。ずっと、ずっと。
そして私は、とうとう駅まで一人で来た。
驚いた。そこからは驚きの連続だ。
一人でここまで来れた。
私は、本当に梨華を吹っ切る事が出来たんだろうか。
少しだけ後悔していた。未練があった。
吹っ切れてしまった?こんなにも、簡単に?
あんなに大好きだった梨華から、こんなに簡単に離れる事が出来てしまったんだろうか。
少し冷静になって考えた。
けれど、私の考えは変わらずそのまま電車に乗ろうとした。
- 227 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:22
-
良かった。
思ったより、酷い思いをしなくてすんだ。
胸は心地良い風が吹いたように涼しかった。
本当にこれで良かったんだ。
梨華にとっても、私にとっても、このままの関係をエスカレートさせるわけにはいかなかった。
一番嫌だった、梨華が変な目で見られるという事も、120%なくなったのだ。
改札を抜け、階段を上り、プラットホームに出た所で、少しだけ変な予感がした。
- 228 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:23
-
さっきまでの心地良い風は、私から全てを奪い去ってしまった。
残ったのは膨大な喪失感。
私は、一体何をなくしたの?
躰も心も、此処にある。
嫌な気持ちを振り切る様に、私は電車に乗り込んだ。
窓から見える荒川を見て、心が揺らいでいるのに気付く。
夕陽に照らされた紅い川。
それは、私に追い討ちをかけていた。
いつも握っていた梨華の手は無い。
私が握っているのは、いつまでたってもバイブが止まらない携帯。
誰からの連絡かなんか、知ったこっちゃない。
頭の中が今更混乱してきた。
- 229 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:23
-
あの、梨華の酷く傷付いた顔。
私は、実は、すごく酷い事をしているんじゃないんだろうか。
本当にこれで、いいわけがない。
私はただ言い聞かせていただけ。
言い聞かされた言葉に素直に従い、結果自分と梨華を同時に苦しめてる。
- 230 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:23
-
素直に従うべきものは言葉じゃない。
気持ちなんだ。
何でもっと早く気付けなかったんだろう。
- 231 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/07(金) 23:24
-
- 232 名前:作者。 投稿日:2004/05/07(金) 23:38
- 更新しましたー。こんこん、おめー。
>>205 プリンさん
二人ゴト良かったですよねー。
CDでーたにも、何かあったらしいですが。。。まだ未読です。
>>206 名無飼育さん
ここのよしこは、健気さ最上級を目指しているのでw
もっと切なくなっちゃうと思います。意思とは裏腹に(ウソ
サイトですが、アドを教えて頂ければいつでも晒します(爆
- 233 名前:名無し 投稿日:2004/05/08(土) 01:11
- >>208
じゃお前もレスすんなよ。スルーできないやつも十分な邪魔者。
ってゆーか逆に煽ってんじゃん。だから俺みたいな馬鹿は尚更食いつくわけ。
- 234 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 08:54
- というわけでゴミは以降放置で
- 235 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 11:20
- 更新お疲れ様です。
いつもROMってばかりでしたが
ちょっと・・・、な感じだったのでレスしました。
あまり気になさらずに頑張ってくださいね。
これからも楽しみにしています。
- 236 名前:206 投稿日:2004/05/08(土) 12:15
- 健気なよっちゃんいいですね
いよいよ次回は梨華ちゃんに話しちゃうんですかねー?
楽しみに待ってます。
サイトのURLの方是非教えてください!!
- 237 名前:名無し 投稿日:2004/05/08(土) 15:05
- >>234
お前も何か言わないと気がすまないんだな。ゴミって・・
俺とたいして変わらない。お前もごみだな。んじゃバイバイ
- 238 名前:名無し 投稿日:2004/05/08(土) 15:08
- 作者さんスレ汚しすみませんでした。
- 239 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 23:31
- とりあえずここで争うのはやめたほうがいいと思いますよ。
作者さんにも、他の読者の皆さんにも迷惑ではないでしょうか。
作者さん、あまり気にせずに頑張って下さいね。
- 240 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/09(日) 00:01
-
「梨華?」
「大丈夫…大丈夫だから。」
止まっていたかと思っていた梨華の涙は、思ったより脆い様だ。
「大丈夫だから、続き話して。」
「辛い…?」
「だ、い…だいじょぶだってばぁ……。」
強がっているんだろうと思って小さな頭を胸に寄せると、案の定梨華はすぐに私の服の袖を強く握った。
幼い子供みたい。
昔は私がこんな風に泣いていたのに。
梨華は強くなった。
けれど、それ以上に私も強くなっているらしい。
- 241 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/09(日) 00:02
-
「明日、話そう…今日はもう寝ようか?」
「やだ……。」
梨華は顔をくっ付けて頭を横に振る。
「なんか、ひとみちゃんがどっか行っちゃいそうな気がするの…。」
「分かるよ。その気持ち。」
「たまらなく嫌なの。恐いの。」
だから、と梨華は言った。
「だから…早く話して?私達が一緒になって、ハッピーエンドで終わるまで。でないと、私……。」
「梨華が泣き止んだらいつでも話してあげるよ。時間はたくさんあるんだ。」
「今すぐ、泣き止むから…もう泣いたりしないから。」
- 242 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/09(日) 00:02
-
私は言われた通り、梨華が泣き止むのを待っていた。
止め処なく溢れてくる涙を幾つも拭った。
嗚咽で動きを止めない小さな背中を、ずっと撫でていた。
そして、梨華は泣き止んだ。
しかし話しの続きをする事は出来なかった。
私は電気を消した。
月明かりに照らされた梨華は、安心した顔で寝息を立てている。
目の縁は赤く染まり、その小さな手は何かを求めている。
隣にそっと潜り込むと、梨華は寄り添ってきた。
本当に寝ているんだろうか?
- 243 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/09(日) 00:02
-
「……梨華?」
「…………。」
どうやら、眠りは深いらしい。
疲れているんだろう。いきなりの、慣れない生活に。
全く知らない人の所で、初めて人間として暮らすのは、かなりの重労働らしい。
けれど、この娘は、素直に嘘をつかずに生きている。
私の為に笑い、息を吸って吐いて、生きてくれている。
一人では何も出来ない私の為に。
- 244 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/09(日) 00:02
-
どんどんと、現実を受け止めるのに不利な状況になってきていた。
梨華にそれを話すのを躊躇う事も多くなった。
こんなんで、果たして私は言えるのだろうか?
やっぱり強くなんかなっていない。
「…好き。」
眠った彼女しか幸せに出来ない私なんて。
- 245 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/09(日) 00:03
-
事実を話してしまえば、きっと少なからず今の時間が変わってしまうと私は分かっていた。
幾ら弱くたって、幾ら泣き虫だって、幾ら馬鹿だって、私は分かっていた。
嫌な程分かっていた。
泣きたい程分かっていた。
だけど、前に進む道は一つしか無かった。
- 246 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/09(日) 00:03
-
ああ、神様。
どうか、彼女を幸せにして下さい。
人間の私には出来ない最上級の幸せを、捧げてください。
- 247 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/09(日) 00:03
-
私は、彼女の笑顔を見ていたい。
- 248 名前:-]Y- 投稿日:2004/05/09(日) 00:03
-
- 249 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:04
-
]Z
次の日。
梨華は朝から元気がない。
具合が悪いのかと聞いても、「大丈夫」の一点張り。
折角の土曜日なのに、空は灰色に覆われている。
まるで梨華の心を表しているかのように。
「梨華?」
「…大丈夫だから。」
梨華は泣き顔にしか見えない笑顔ばかり、私に向けた。
「何かしたい事は?」
「大丈夫…。」
- 250 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:04
-
『だって、ひとみちゃん……』
梨華が消え入りそうな声で言った。
ひょっとしたら、言葉には出していないかもしれない。
梨華の表情を見て、勝手に私が創り出したのかもしれない。
私は立ち上がって、梨華の手を取った。
「行きたい所があるんだけど。」
「…え?」
「一緒に、行こう。」
- 251 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:04
-
梨華に望みを訊くだけじゃダメなんだ。
私が望めば、梨華はきっと付いて来てくれる。
そう信じてた。
証拠に、ほら。梨華はすぐに頷いた。
そして今日初めて、私に本当の笑顔を見せてくれた。
なんとなく、分かってきた気がする。
- 252 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:05
-
二人で出かけたのは近くの自然公園。
その広さは半端じゃなく、公園というよりも森と言った方が適当だろうか。
梨華は少しだけ楽しそうな顔をしていた。
それを見て心が和らぐ。
此処に来た目的は梨華を少しまで楽しませたいからだ。
「もっと奥に行こう。」
「何があるの?」
「それは、お楽しみ。」
この先には何もなかった。
ただ、鬱葱と同じ形した同じ色のメタセコイヤが並びに並んでいるだけ。
でもきっと梨華は喜んでくれると、私は思っていた。
なぜだかは知らない。ちょっと未来の私は何かが出来ると思っていた。
そんなの、滅多に当たる事はないんだけれど。
何もないと分かっても、梨華は楽しそうに私の隣を歩き続けた。
- 253 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:05
-
「雨の匂いがする。」
ふと、梨華が空を仰いだ。
天は灰色の雲が忙しく動いている。
きっと、降らす準備に忙しいんだろう。
「降りそうだね。」
私は梨華の手を引っ張った。
確か、この先には屋根つきのベンチがあった。
筈だった。
「ごめん、道間違えたみたい。」
私が慌てて引き返そうとすると、梨華はそれを制するように腕をギュッと握った。
「いいよ。ここにいよう?」
「でも、濡れちゃうよ?」
「大丈夫…。」
- 254 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:05
-
梨華は、もう一度空を仰いだ。
その綺麗な顔に、雫がポツリポツリと降り注ぐ。
私も顔を上げる。
樹が、どこまでも伸びている。
雨は本格的に降り出した。
樹の根元に座って、私達は寄り添っていた。
無いよりマシだと頭に乗せた、私のパーカーが水分で重くなっている。
梨華は未だに気にしているようだった。
「寒くない?」
「大丈夫。ほら?」
- 255 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:05
-
私は繋がっていた手をもっと強く握った。
右手は激しい熱を持っている。
「あったかいっしょ?」
「…うん。」
梨華は静かに頷いた。
私達の空間には、私達の時間が流れていた。
取り戻す事など無理だと考えていた梨華との時間。
その中で私は解放されていた。全てから。
触れたいと思えば触れられる。交わそうと思えば言葉だって。
こんなに幸せな事があるだろうか。
- 256 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:06
-
「ねえ、ひとみちゃん。」
何もしていなくたって、こうやって梨華から言葉を私に向けてくれる。
「昨日の続き、聞かせて。」
私が梨華の方に顔を向けても、梨華は俯いたままだった。
「なんにも言わないで…。」
- 257 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:06
-
- 258 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:06
-
私は今来た道を全速力で戻っていた。
きっと、計っていれば好タイムが出ていただろう。
梨華はもういないと分かりきっていたのに。
もっと早くって、何度も思った。
梨華が待っていると私は何度も思った。
私が謝る。
梨華は、笑顔で迎えてくれる。
そうして、私達はまた近付く、と。
ただ、想像の中での話し。
悪魔で有り得ない話。
- 259 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:06
-
私は桜並木の中を走り抜けた。
走りながら見る風景は、少しだけいつもと違った。
そして、有り得ない現実が目の前に広がっていた。
「私は?」
……いたんだ。
梨華は、そこにいた。
自分の足の爪先辺りを見たまま、呆然としていた。
- 260 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:07
-
梨華?
私が声をかけても、梨華は気付かなかった。
嗚咽が止まっていないのか、小さな背中はヒクヒクと動いていた。
梨華。
私はもう一度呼んだ。
さっきよりも、大きい声で。
それでも梨華はこちらを見ない。
「梨華!!!」
三度目の呼びかけに、梨華はやっと顔を上げた。
驚いた様に目を丸くさせて、
「ひとみちゃ…?」
消え入りそうな声でそう言った。
- 261 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:07
-
私は目の前に立って、頭を下げた。
傍から見ると、すごく恥ずかしい格好だったと思う。
「ごめん。ひどい事言って。」
「……気にしてないって言ったら、嘘になるかな。」
梨華は目頭を擦って、いつもの様に笑った。
その笑顔は痛かった。
私の中で一番痛かった。
その痛みをかき消すかの様に、私は梨華を力いっぱい抱き締めた。
- 262 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:07
-
「ごめん、ごめん。本当にごめん。」
「謝らないで…悪いのは、ひとみちゃんじゃないよ。」
じゃあ誰が悪いんだろう?
涙が邪魔で、口に出せなかった。
私はやっぱり、梨華から離れる事なんて出来ない。
この温もりを躰が覚えてしまっている。
たった、今も。
- 263 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:07
-
「…どこまでが、本当?」
「…え?」
「私の事が嫌いだった…もうメールなんてしたくない…私の事が、今も大っ嫌い。」
「全部、うそ。」
「だといいなって思ってる。けど、本当の事言って?」
「今言ってる事は、全部本当。さっきのは全部うそ…。」
私は最低な嘘つきだった。
自分に嘘をついて誤魔化して、梨華にまで嘘をついた。
そして自分も梨華も傷つけた。
- 264 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:08
-
「信じてくれないかもしんないけど…。」
「ううん。信じる…なんでも、信じちゃう。だって、大好きなひとみちゃんだもん。」
言葉と同時に、梨華の小さな手が私の大きな背中に添えられたのを知った。
耳元で囁く様に聴こえる梨華の声が、私の何かを引き立たせる。
思いは広がり溢れてしまっても、もう胸は痛くなかった。
「ありがとう。」
梨華はそう言った。
言うべきなのは自分なのに。
- 265 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:08
-
許してくれて、ありがとう。
傍にいてくれて、ありがとう。
こんな私を好きでいてくれて、ありがとう。
- 266 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:08
-
この時、梨華の傍が好きな事に初めて気付いた。
嘘をつき続けてきた私自信が、初めて心を開いた瞬間。
私達は初めて抱き締めあった。
この日の私は最高に弱くて、この日の梨華は最高に強かった。
梨華も私も泣いていた。
- 267 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:09
-
- 268 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:09
-
「どう?ハッピーエンドで終われたでしょ?」
「…うん……っ。」
「それで、何で泣いてるの?」
雨は、上がっていた。
梨華は私の腰に腕を廻して、頬を腹にふっつけた。
「嬉しい…ひとみちゃんが、傍にいて。」
「同じ気持ち。」
「うれしいよぉ……。」
- 269 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:09
-
梨華は、たくさん言葉を投げてくれたけれど、上手くキャッチする事が出来なかった。
だから、変わりに、濡れた髪をずっと撫でていた。
梨華の地肌は温かく、私の体温はすぐに平常値に戻った。
ジメジメとした土の上を歩いていても、私は心地良かった。
隣を歩く梨華は慣れないのかよろめいていた。
やっと、人がいる辺りに出ると、太陽も顔を出した。
位置からして、大体3時から4時ぐらいだろう。
「ねえ、ひとみちゃん。」
少し先を歩いていた梨華が、振り返った。
私は歩むのを止めず隣まで進んだ。
梨華はすごく楽しそうな顔で、私に微笑みながら言った。
- 270 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:09
-
「これ、デートだよね?」
- 271 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/09(日) 00:10
-
- 272 名前:作者。 投稿日:2004/05/09(日) 00:17
- 更新しました。ズバッと。
どうやらこの物語だけでは、1000はいかないみたいですw
>>235 名無飼育さん
レスありがとうございます。
大丈夫ですっ(何が)頑張りますっ。
ヘタレな文ですが、どうぞお楽しみにw
>>236 名無飼育さん
レスありがとうございます。
よっちゃんはもともと健気ですが、健気の形を間違えてるというか…w
そんなとこも愛しいですが( ´Д`)キモッ
サイトのURLの方、送っておきますね。退かないようにw
>>237 名無しさん
レスありがとうございます。
いしよしもかめよしも大好きです。愛してます( ´Д`)キモイッテバ
次回作もがんがりますので、是非お供して下さい…(´・ω・`)
>>239 名無飼育さん
レスありがとうございます。
励みになります。泣きたくなるぐらい嬉しいです。(つД`)
作者。は頑張りますよっ。
- 273 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/15(土) 22:44
-
そのまま、晩御飯の材料を買って家路についた。
そうして私達の『デート』は終了した。
「今日は、ゆっくりしよう。明日もバイト無いから。」
私の言葉に、梨華は嬉しそうに頷いた。
しかし、何も変わらなかった。
普段通りに夕食を食べ、普段通りに食器を二人で洗って。
そして、今に至る。
梨華は私の隣に座って、ジッとブラウン管を見ている。
食い入るようにして見ているのは、連ドラだった。
主人公の彼女が記憶を失くすという、在り来たりな話。
けれど、梨華の好奇心はもう止め処なく溢れていた。
梨華は私の肩に頬を乗せたまま、動かない。
結局、私もそのストーリーにのめり込んで行った。
- 274 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/15(土) 22:45
-
「ねえ、ひとみちゃん。」
「ん?」
「もし、私が……。」
その先の言葉は大体予測出来たけれど、私は梨華に先を続けさせた。
「うん。」
「私が、記憶を失くしたら……。」
勿論、予測通り。
「私が記憶を失くしたら、どうする?」
どうする?と聞かれるのは、一番応えにくい。
傍にいてくれる?といわれたら、頷くだけでいい。
好きでいてくれる?といわれたら、それも頷くだけでいい。
うん。
そう一言言えば、梨華はそれだけで安心してくれた筈だ。
- 275 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/15(土) 22:45
-
どうするんだろう…。
大切な人の記憶がなくなる。
私達の、全ての経緯と思い出も、してきた事も、全部全部無くなっちゃう。
どうやって、出逢ったのか。
どういう風に、彼女を愛していたのか。
どうして、彼女を一度失ったのか。
その時、また初めて気づいた。
梨華の記憶は私の記憶と、全く一緒だった。
ただ、梨華と私の躰は違うし、過ごしてきた環境も違う。
梨華は、一度死んでいる。
どれだけ一緒にいたって、二人の運命を共用する事は出来ないと知った。
- 276 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/15(土) 22:45
-
梨華は、一度死んでいる。
どれだけ一緒にいたって、二人の運命を共用する事は出来ないと知った。
梨華が不安そうに、私の手を握った。
私は問われている事を忘れていた。
「…ひとみちゃん。」
梨華が、私の名前を呼んだ。
何か言いたげだけれど、その先は続かない。
口は開いたり閉じたり。下唇をギリギリと噛んで、梨華は私から視線を逸らした。
「梨華。」
手を握り返しながら、梨華の名前を呼んだ。
「何も変わらないよ、きっと。」
「え…?」
「なんにも変わらない。私は梨華が好きで、梨華も私が好き。ね?なんも変わらないっしょ?」
- 277 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/15(土) 22:46
-
小さな背中に腕を廻した。
梨華は、私の心音を聴くように、耳を押し付けている。
「でも、私、記憶無いんだよ。ひとみちゃんの事…その……。」
「私の事知らなかったら、また覚えさせる。ずっと、誰より長く梨華の隣にいる。」
「もっと、可愛い人が現れても?」
「梨華より可愛い子はいないと思ってる。」
「もっと、優しい人が現れても?梨華より、ひとみちゃんの事が好きな人がいても?」
梨華は、初めて自分の事を「梨華」と呼んだ。
「分かんないよ…?梨華は、記憶がないんだから……。」
「梨華は、私の事世界で一番好きじゃないの?」
梨華はフルフルと、腕の中で首を振った。
そして、今度は額を腹の辺りにふっつけた。
- 278 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/15(土) 22:46
-
「意地悪な質問して、ごめんね。」
そして、また首をフルフル。
「私は、信じてるよ。こんなダメな人間だけど、梨華はまた、私の事好きになってくれるって。」
「本当に……?」
「何回生まれ変わっても、梨華を振り向かせる。絶対に。」
一度、こうして隣同士になれた私達だから。
奇蹟は自分で起こすものだ。幸福は自分で掴むものだ。
梨華は、私にとって人生の奇蹟であり、生きてる上での幸福である。
- 279 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/15(土) 22:46
-
「何もためらわずに、梨華は私の隣に来ればそれでいいから。」
「うん…。」
「ずっと、待ってるよ。」
梨華は納得した顔で、目を閉じた。
果たして、本当に納得させられたのだろうか?
- 280 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/15(土) 22:47
-
壊れてく理想と現実
ぶつかりあってはまた陽が昇る
薄れてく君の記憶も探さなければ傷も癒されていくだろう――――――――――――――。
- 281 名前:-]Z- 投稿日:2004/05/15(土) 22:47
-
- 282 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:48
-
][
次の日、私達はまた公園に出かけた。
昨日行った所とは違う、比べれば少し小さめな公園だ。
此処に来ると、苦い思い出が蘇える。
私が告白に失敗した、思い出深い景色。
そして、そんな私を慰める様にあの言葉を言った梨華。
事故現場の一番大きな樹の下に来ると、梨華は自然と歩みを止めた。
「…どうかした?」
「分からないけど、懐かしい気がするの。」
梨華はそっと菩提樹に触れた。
風が静かに梨華に忍び寄る。
青い葉は揺れ、光は、梨華の顔を往ったり来たり。
- 283 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:48
-
「何か、聴こえる気がする。」
梨華が動く気配も無かったので、私は根元に座り込んだ。
そのまま樹に凭れ掛かった。
辺りを見回しても、誰もいない。
遠くからするのは子供の声。
私はそっと目を瞑る。梨華の声さえ聴こえなくなる。
昼下がりの中では眼の様もなく。
ただ、燃える太陽が幾度となく私達を照らす。
- 284 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:48
-
*******
- 285 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:49
-
「ひとみちゃん。」
梨華は靡く髪を耳に掛けながら、私を呼んだ。
「好き。」
隣に座っている梨華。
私の肩に手をかけ、顔を寄せてきた。
これは、絶対的に夢である。
梨華がこんなに大胆なわけがない。
- 286 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:49
-
「…キスしても、いい?」
…やっぱり、微妙だ。
曖昧な訊き方。
そして、私を見つめたままの梨華の瞳が、妙に現実味を帯びていた。
「したら、嫌いになっちゃう?」
際どい。
しかし、これが夢だろうとなんだろうと、私が梨華にキスをしたいと思う事は、きっと本能だろう。
だったらどっちでもいいんじゃないだろうか。
- 287 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:49
-
「ひとみちゃん?」
こうして、梨華から望んでくる事なんて、きっとこの先も滅多に無いだろう。
私は、梨華の腰に腕を廻した。
グイと顔を近付け、その唇がやがて触れ合う。
しばらくして、梨華の華奢な腕が首に廻った。
ただでさえ遠かった子供の声が、更にもっと遠くに聞こえる。
- 288 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:50
-
*****
- 289 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:50
-
「ひとみちゃん、起きて。」
梨華と私のキスは、梨華によって遮られた。
寝起きは機嫌が良くない私だけど、梨華に起こされたのならもっぱら別だ。
例えその夢が…アレだとしても。
「ごめんなさい、疲れちゃった?」
「いや、大丈夫だよ。」
その、あれだ。
やっぱり夢だったんだ。
- 290 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:50
-
白昼夢
――――――――――現実の世界で満たされない事を空想の世界で満たそうとする場合に多い。――――――――――
辞典で見た一説を、私は何故か覚えていた。
私は、現実の世界で満たされていないらしい。
「本当に大丈夫?」
いきなり、梨華が顔を覗き込んできたので、思わず後ずさりした。
心を見透かされるのが恐くて、目を合わす事が出来ない。
いや、見透かされてダメな事でもあるんだろうか。
何だかこの場にいずらくなり、思わず勢いで立ち上がった。
「…………。」
- 291 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:50
-
けれど、梨華は私を見上げるばかりで立ち上がろうとしない。
何も言う事が出来ない私も、そのまま呆然と立ち尽くす。
そして梨華は私の腕を掴んだ。
「まだ、ここにいよ?」
「え?」
「…ここに、いたいの。お願い。」
私は黙って腰を降ろした。
けれど、梨華の腕は離れなかった。
私の腕を掴んだまま、梨華は私を見つめて、躰を近づける。
これは、寄り添うという表現の仕方で合っているのだろうか。
- 292 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:51
-
「ひとみちゃんに、話したい事がたくさんあるの。」
梨華は、静かにそれを始めた。
私達は今日、たった今から、別の世界に踏み出すのだろう。
二人の新たなる世界への扉。
それは、同時に梨華の言葉でもあった。
まるで儀式が始まる前の様に、辺りはシンとしていた。
子供の声も聴こえなくなった。
聴こえるのは、二人の生きてる音と、ただそれを覆う様に叫ぶ風の音。
「私…すごく、苦しいの。」
「…………。」
「どうしたらいいか分からない。きっと、誰にも分からない。」
- 293 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:51
-
梨華はまだ私を見つめていた。
「だけど、いいの。私は答えが欲しいんじゃないの…。最近、そう気付いた…ひとみちゃんの、隣にいて。」
何処か遠い所を見る様な黒い清んだ瞳。
やがて、梨華は視線を逸らした。
斜め右辺り、人工芝を見つめながら。
その瞳はどんどん雲っていく。
そして、梨華は空いていた左手で自分の胸を覆った。
「でも、何が欲しいのか分からなくて…分かりたくない気もして。ひとみちゃんに、迷惑かけたくなくて…でも、痛みはずっと取れてくれなくて…。」
- 294 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:51
-
私はただ、梨華の言葉を訊く事に専念する事にした。
今は、二人の新たなる世界への扉を、黙って開く事にした。
きっと、今の私じゃ、どんな言葉を発したって梨華の心には響かない。
「これで合っているかどうかは分かんない…ううん。それは、本当は私が決める事なんだろうけど…。」
梨華の黒い瞳は、またはっきりと私を映した。
しっかりと目の芯から私を見ている。
もう、逸らさずにはいられない。
こんなに真っ直ぐに、健気に、私の事を見守ってくれている梨華を、裏切る事なんて出来ない。
- 295 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:51
-
「私は……。」
「……。」
「…私は……私は…。」
じっと梨華の言葉を待ち続けている。
やがて光が差し込み始める。
もうすぐで、新世界が拓けるのだ。
「私は………。」
- 296 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:52
-
「ひとみちゃんに愛してもらいたい……。」
そして、重い扉は音を立て、ゆっくりと開いた。
梨華との人生の、セカンドステージが始まったんだ。
その時、私はそう感じていた。
梨華はきっと私に助けを求めている。
そう、感じていた。
この苦しい痛みから一刻も早く抜け出したい。
先の見えない闇から、ただ光を照らして欲しい。
きっと、きっと、私なら絶対に梨華を助けられるから。
梨華を助けたい、勿論そう思う。
だけど…私に出来るんだろうか?
- 297 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:52
-
傷付ける事しか出来ない私に、梨華は助けを求めている。
梨華を守りたいと思う気持ち。
けれど、絶対に後悔する。
腹の底から名前を呼んでも、あの時梨華を守れなかった。
梨華はそっと私の手を包んだ。
それはまるで何かの言葉の様に聴こえた。
そして私は気付く。
今、不安なのは梨華の方なんだ。
不安から救えるのは私だけ。梨華は救われるのを待っている。
だったら、するべき事はただ一つなんじゃないだろうか?
- 298 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:52
-
「梨華。」
そう名前を呼ぶと、すぐにこっちを向いた。
その今にも泣き出しそうな瞳は、真実の助けを求めていた。
私は、もう考えていられなかった。
そっと、梨華に顔を近づけた。
触れるか触れないかの所で、梨華が目を瞑った。
私達のキスは、色んな気持ちが混ざった上での、愛情表現だった。
唇を離すと、梨華はすぐに下を向いた。
これで合ってるんだろうか。答えは?
私の一方的な願望による、無為な行為ではなかったんだろうか。
「ひとみちゃん。」
「ん?」
- 299 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:53
-
梨華は私を抱き締めた。
華奢な腕で、でも、しっかりと。
「好き。」
梨華の言葉は宙を泳ぐ様に、数秒経ってから伝わった。
風の悪戯かもしれない。
私は、梨華を助けられたという満足感と、梨華の言葉に浸っていた。
「ねえ、梨華。」
「なあに?」
「おかわりしていいかな?」
- 300 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:53
-
私が悪戯っぽく言っても、梨華は意味が分からないみたいだった。
そして、言葉の意味を説明するかの様に、腕の中の梨華にまた顔を近づけた。
慌てて目を瞑るのが分かる。
少しだけ悔しそうな顔をして、梨華は顔を離した。
「ずるいよ…いきなり。」
「すいません。」
私がそう云えば、梨華は笑ってくれる。
ただそれだけ。
それだけの事が、私達の関係を保っていてくれる。
- 301 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:53
-
「もう一回、ちゃんとしてくれたら許してあげる。」
私達は強く抱き締め合った。
そして、もう一度キスをした。
やり場のない愛を、相手にぶつけあった。
梨華との恋は、難しい様で簡単だった。
きっと楽しいからだろう。
- 302 名前:-][- 投稿日:2004/05/15(土) 22:53
-
- 303 名前:作者。 投稿日:2004/05/15(土) 22:56
- 更新しましたー。300突破!?Σ( ゜〜゜0)Σ(゜▽゜ )
本当にありがとうございますー。
ストーリーの方も、折り返し地点を過ぎました。
ここまで来れたのも読者様のおかげです。
残りも突っ走るので、どうか最後までお付き合いお願いします。
- 304 名前:レオナ 投稿日:2004/05/16(日) 11:22
- 更新お疲れ様です。
はじめましてです。
300突破おめでとうございます。
次回も、楽しみにしてます。
- 305 名前:プリン 投稿日:2004/05/16(日) 19:02
- お久しぶりです♪
更新お疲れ様でしたぁ!!!
そしてそして、300突破おめっとぉ〜w
残りもガンバです!応援しますねw
では。待ってまぁ〜っす!
- 306 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:03
-
そのままゆっくり流れる時間の中で、私達は何もせずに過ごしていた。
そうして梨華は気付いた。
「ひとみちゃん!」
「ん?」
三度目の眠りにつこうか迷った所で、梨華が叫んだ。
「…もう、6時。」
「うそ。」
「ほんとう。」
- 307 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:03
-
何で気付かなかったんだろう。
確かに、陽は序々に落ちてきていた。
私は自分の鈍さと無神経さに呆れた。
少しぐらい、時間を心配したらどうなんだろうか。
「ゴメン、気付かなくて。」
「ううん…なんか、嬉しい。だって、時間を忘れて過ごしていられたって事じゃない?」
梨華は勝ち誇った笑みで、私の手を取った。
「帰ろう?」
- 308 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:03
-
きっと、梨華は少し強くなっている。
私も強くなっている。
けれど足りない。もっと、もっと欲しい。
もう絶対に梨華を手放さない様に。
二度と離れない様に。
私はもっと強くなる。
繋いだ左手に、そう誓った。
- 309 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:04
-
楽しかった連休は過ぎ去り、また明日からバイト三昧の日々が始まろうとしていた。
確かに肉体労働は辛いけれど、この仕事が楽しいから選んだわけだし、
「明日も、待ってるからね。寄り道しちゃだめだよ。」
こうして、家で梨華が待っていてくれる。
きっと私は幸せ者だ。
幸せすぎて気付かなかったけれども。
「ありがと。でも、本当に疲れたら寝てていいから。」
「大丈夫だってばぁ。」
「身体壊されたら心配だからさ…全部、押し付けちゃってゴメン。」
「違うの。私がしたいの。だからするの…お掃除もお洗濯も。」
- 310 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:04
-
きっと、私は不安だったんだ。
私のせいで梨華が倒れたりしたら、どうすればいいんだろうと。
その不安は梨華にまで伝染してしまったらしい。
「少しでも、ひとみちゃんが疲れないようにしたいの。」
「でも、そしたら梨華が疲れるでしょ?」
「ううん、全然。だって、私はこうしている事が好きだから。」
まるで顔面パンチの様な言葉を喰らわされて、私の心はズタボロだった。
どうして、ここまで優しいんだろう。
梨華は可愛さと素直さ、そして優しさを持ち合わせた、やっぱり奇跡的な女の子じゃないんだろうか。
ここまで性格が逆だと、自分に嫌気がさしてくる。
梨華と私は違う人間として生まれてきたのだ。
当たり前のはずなのに。
- 311 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:04
-
「ひとみちゃんの傍が好きなの。隣に…いたい。」
別の言葉で、何か伝えられたらいいのに。
「私もだよ。」
そう、それしか出て来ない。
「ありがとう。」
こんな言葉で、梨華は満足してくれる。
こんな私を好きになってくれる。
梨華はきっと…優しすぎるんだ。
- 312 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:05
-
「ひとみちゃん?どうしたの?顔色…悪いよ?」
「自己嫌悪しすぎかな…。」
私が苦笑しながらそう言うと、梨華は拗ねた様な表情をした。
その顔から梨華の気持ちが読み取れなくて、自己嫌悪は更に悪化した。
駄目だと一度考えてしまうと、もうそれ以上は良くならない。
最低最悪って奴。
「何でひとみちゃんが自己嫌悪するの?」
たまには、素直に話す事にした。
- 313 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:05
-
「…私で良かったのかな、って。梨華の隣にいるのは。」
「ひとみちゃんじゃなきゃ、私は傍にいないよ。」
「梨華がそう言ってくれても、私より梨華に合う人はたくさんいるかもしれない。」
話している内に、私の考えは良くなって行っていた。
嫌悪感は少しずつ後ずさり。
きっと、どうせ梨華のおかげだろうけど。
「私は運命だって思ってるもん…。」
「うん…だから、梨華の、隣にいていい?本当は私より良い人がいるけど、運命だと思って、私の傍にいてくれる?」
- 314 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:05
-
梨華の返事がイエスであれノーであれ、私がこの場から退く事は出来なかった。
嫌悪感は小さな影を残して消えた。
私は自信がついた事を教えようと、梨華の手を握った。
勿論梨華は握り返してくれた。
「そんな事訊く必要ないよ。分かってよ…。」
「ゴメン、わかんなくて。」
梨華は私の胸に顔を埋めた。
いつの間にか、こうして甘えられるのが嬉しく思える様になっていた。
きっと、梨華がこうしてくれる、そして私にまた自信がつくという法則を、梨華は本能で理解しているんだ。
「私は…ここにいたいから、いるんだから…。」
くぐもった声が聴こえた。
胸が痛い。
- 315 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:06
-
明日や明後日の事を考える余裕など、きっと無い。
私達はこうしている。現在進行形のこの時が一番大事なんだ。
明日も明後日も、きっと今日になる。
何時か遥遠い未来だって、私達は世界の何処かで2人寄り添い生きているんだ。
例え誰かが死んでも、誰かが生まれても。
世界中の悲しみや幸せを、躰のどこかで感じながら。
世界で一人だけの愛する彼女を想いながら。
- 316 名前:-][- 投稿日:2004/05/16(日) 23:06
-
- 317 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:06
-
]\
次の日、私は惜しみつつ家を出た。
きっと梨華はまだ眠っているだろう。
早く行けば、その分早く帰られる。
焦りは事故に繋がるので、最低注意しなければならないけれど。
マンションがどんどんと遠くなっていく。
そして、角を曲がった所で見えなくなってしまった。
果たして今日も今までどおり、梨華は家にいてくれるんだろうか。
いつだって喪失の予感は付きまとう。
まるで、心の端についた薄暗い影の様に。
- 318 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:07
-
「おはよーございます。」
それでも、私達は。
- 319 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:07
-
部屋の中は薄暗く、電気はついていなかった。
続いて、梨華がいない事に気付く。
きっと買い物にでも行っているのだろう。
やり場のない不安なんて、きっと影を巨大化する為だけの物だ。
ソファに腰掛けてぼんやりしていると、ふいに電話が鳴った。
「よっすぃー?元気ー?」
「ああ、ごっちん。」
「この間はさーごめんよぉー。」
ごっちんが謝っているという事は、やはりあの後も学校に姿を現さなかったんだろう。
- 320 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:08
-
「ちょっと急用が出来ましてー。」
「うん。もういいよ。で、何?」
「今度こそ会えないかなぁー?良かったらさーよっすぃんち行きたいんだけどぉ。」
「うち?」
断る理由が無かったし、私は嘘が下手だった。
けれど今は嘘をつくべき時である。
断らなければならない。
- 321 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:08
-
「うちは…ちょっと……。」
「えーなんでよー。」
ごっちんは妙にしつこかった。
結果、明後日の水曜日。
ごっちんが家に来る事になった。
晩御飯中にその事を伝えると、梨華は酷く驚いていた。
しかし、息も吐かぬ間に、拗ねた表情に切り替わっていた。
そして沈黙が開始された。
何か気に障る事を言っただろうか。
説明の仕方が変だったんだろうか。
どれだけ考えても、鈍い私には答えを予測する事さえ出来なかった。
- 322 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:08
-
「梨華?」
「お風呂、沸いてるから入って。」
梨華は、全く話す気が無いらしい。
私はすっかり参ってしまった。
どうしたらいいのか分からない。
私は人一倍優柔不断だし、梨華は人一倍頑固だった。
意外な性格。
優柔不断と頑固者。
いかにも、正反対。
「ねえ、梨華?」
「明日もバイトなんでしょ?早く寝なきゃ。」
「…話し訊いてよ。」
「眠いの…ごめんなさい。」
- 323 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:08
-
梨華は私に背を向けて、寝息を立て始めた。
その小さく動く背中を見ていると、声をかけるにもかけれなかった。
きっと、本当に疲れていると思う。
けれどこれでいいとも思えなかった。
…しかし、私にはする術も無い。
「おやすみ。」
そう一言囁いて、自分自身も夢の世界へ堕とす事ぐらいしか出来なかった。
きっと明日になれば、何かが変わっている筈だ。
きっと、良い方向へ進んでいる。輝く明日が待ってる筈だ。
私は、そう考えていた。
- 324 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:09
-
しかし、梨華は翌日、一言も話してくれなかった。
最悪な状況から最低な状況へ。
少しだけ安心した。
もう、これ以上下がり様が無いのだ。
……私はなんて弱いんだろう。
「よっ。久し振り〜。」
ごっちんは、時間ピッタリにやってきた。
梨華は買い物に出かけたのか居ない。
- 325 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:09
-
ごっちんは、時間ピッタリにやってきた。
梨華は買い物に出かけたのか居ない。
「変わってないね。よっすぃ。」
ごっちんの語尾を伸ばすクセは、電話の時だけらしい。
「でも、少し…。」
突然私の隣に並んで、横顔を並べるごっちん。
「また大きくなったっしょ?」
一番変わっていないのは、笑った時の目だった。
- 326 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:09
-
「誰か、一緒に住んでんの?」
私は少しだけドキッとした。
やがて発見されるだろうと思っていた、梨華の所有物が見つかったのだ。
「ああ…うん。」
何れ説明しなければならない時が来たら言う事にしている。
それ程どうでもいいんではなく、重要な事なのだ。
ごっちんの目がふいに変わる。
「梨華ちゃんを差し置いて…。」
- 327 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:09
-
その言葉は、私の心中を複雑にさせるのに充分過ぎた。
「少しだけ、残酷かもしれない。でも、今のよっすぃには充分。」
ごっちんは寂しそうに笑って、一通の手紙を差し出した。
宛先は私の実家の住所になっている。
そして、ゆっくり裏面を見た。
右下端に、小さい可愛らしい字で、『石川梨華』と書いてあった。
奇蹟はそうそう起きるものではない。
そう感じていたけれど、きっと、それさえも造り出す事が出来るんだろう。
幸せも不幸も奇蹟も偶然も。
全て神の手から、人類の手へ、そして私一人の人間の手へと委ねられて行くのだ。
私は、その時そう感じていた。
- 328 名前:-]\- 投稿日:2004/05/16(日) 23:10
-
- 329 名前:作者。 投稿日:2004/05/16(日) 23:12
- 更新しました。
>>304 レオナさん
初めまして。レスありがとうございますー。
コチラこそありがとうございます。笑
これからも、楽しく出来たらいいなと思ってます(いや無理だろ)
>>305 プリンさん
レスありがとうございます。
300突破もあなたのおかげですw
これからもこんな奴を見守って下さい。(嫌デス)
- 330 名前:プリン 投稿日:2004/05/17(月) 16:45
- 更新お疲れ様です♪
梨華ちゃん・゚・(ノД`)・゚・。
どうしたんだよぉ・・・。
|-`).。oO(これからもっと暗くなるのかなぁ・・・w
いえいえw自分のおかげだなんて(/▽\*)
見守りますよぉ!もちろん!w
ってか、見守らせてください(何
次回の更新もヽ(´ー`)ノマターリ待ってますw
- 331 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 22:59
-
# # # # # # # #
- 332 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:00
-
ひとみちゃん、元気ですか?
私はちっとも元気じゃない。
会えなくて、すごく寂しいです。
きっと、これを読んでいる貴方の隣には、私じゃない誰かがいるんでしょうね。
悔しいなぁ。
その、ひとみちゃんの隣にいる人へ。一言。
ばーかっ。
なんて、冗談。ごめんなさい。
でも、本当に悔しいなぁ。
私はきっといないんだろうな。忘れて、ませんか?
石川梨華を。
人生の中の約半分以上を、私は貴方と過ごしていました。
っていっても、たった4年だったけど、本当に楽しかった。
貴方の隣が大好きだった。
- 333 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:01
-
弱くて脆い私をいつも支えてくれて、ありがとう。
いつでもいつも心配して傍にいてくれたひとみちゃん。
ひとみちゃん。
大好きだよ。
だいだいだーいすき。
言葉じゃ、足りないよ。
数え切れない程の言葉を、貴方は私にくれました。
溢れる程の愛を、貴方は私にくれました。
なのに、私は貴方の隣からいなくなっちゃう。
怒るかな?
でも、仕方無いんです。
ひとみちゃんと出逢わせてくれた神様が、私はもうここにいさせないって言っているから。
信じてくれないかな?
それでも、仕方ないよね。
- 334 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:01
-
私がいなくなったら、泣いてくれるかな?
少しでいいから泣いて欲しいなぁ。
なんて、祈っちゃダメかしら?
好きな人に泣いて欲しいなんて願う人、きっと私以外にいないよね。
でもね、忘れて欲しくないの。
この先何人の人と付き合ったっていい。
だけど、忘れないで欲しいの。
私にとって一番の恐怖は、『死ぬ』とか『消える』とかじゃなくて、『忘れられる』なの。
- 335 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:03
-
ひとみちゃんの隣にいた四年間。
ひとみちゃんを愛しぬいた四年間。
お願いだから、消去しないで。
ワガママだけど、これだけはかなえて下さい。
たくさんお願い事したよね。
キスして。抱き締めて。傍にいて。愛して。触って。
ひとみちゃんは、全部ぜーんぶ叶えてくれた。
私は、幸せ者でした。
- 336 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:03
-
あの桜並木が私の大好きな色に染まったら、きっとひとみちゃんに会いに来るから。
私は一度そう言ったよね?
絶対に叶えます。
お願い事だけしてた私だけど、絶対に叶えます。
ひとみちゃんの隣に、来るよ。
恐がらないでね。
でも…どうしよう。
少し、気持ちが揺らいできちゃった。
邪魔かなぁ?ひとみちゃんの隣は、もう空いてないかなぁ?
未練なんて残さないつもりでいたけど、実際無理みたい。
- 337 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:04
-
あーあ…。
早く決めなきゃ。
もうすぐ、ひとみちゃんがお見舞いに来ちゃう。
今日は少し気分がいいから、散歩に連れてってもらおうっと。
天気もいいし!!
ひとみちゃんは、また学校を抜け出してきてくれるのかな?
さっきのお話の続き。
やっぱり、ひとみちゃんの隣に一度だけ戻らせて。
少しの間でいい。
…うん。夏が来る前に、私は花弁と一緒に散るよ。
ひとみちゃんとさよならするのは、何度目になるだろうね。
- 338 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:05
-
いつも、いつも、苦しいよ。
いつまで経っても慣れないよ。
ひとみちゃんと過ごした日々がね…
目を閉じると、瞼を閉じると、すぐに再生されるの。
モノクロなんかじゃないの。全然、色褪せてなんかないの。
私の、青春。私の人生。
全てがひとみちゃん中心だった……
ありがとう。
何回言っても足りないのは分かってる。
だけど、ね。言葉が出て来ないの。
ごめんなさい。
上手く、説明出来なくて。
- 339 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:05
-
私、いつも国語のテスト悪かったじゃない。
覚えてる?
もう、学校に行けないんだな。
もう、みんなに会えないんだなぁ。
もうすぐ、ひとみちゃんの隣を離れるね。
その時は、お願いだから笑顔でいてね。
私も頑張って笑顔でいるから。
ひとみちゃんが好きって言ってくれた、あの向日葵みたいな笑顔。
私もひとみちゃんの笑顔が大好きなの。
元気になれるの。太陽が降り注ぐみたいに。
ひとみちゃんの笑顔…太陽を浴びて、私の笑顔…向日葵も、どんどん元気に成長してくの。
- 340 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:07
-
だから、今は泣いていいかなぁ。
止めたいけど、止まらないの。ごめんなさい。
すごく胸が痛いや。
早く、ひとみちゃん来ないかなぁ。
キスしてもらえば治るのに。
涙止まらない。
ごめんね。ごめんなさい。
こんなに、大好き。
大好き大好き。
涙止まるまで、書いてていい?
大好き大好き大好き。
好きです。大好きです。
石川梨華は、吉澤ひとみが大好きです。
- 341 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:07
-
…ずっと、一緒にいたかったなぁ。
やっぱり、隣にいたかったなぁ。
もっと色んな所行きたかった。
もっと、キスしたかった。
好きって呆れるぐらい言いたかったのに。
やっぱりやだなぁ。
ひとみちゃんの隣にいたいよぉ。
最後までワガママ、ごめんね。
大好き…。
誰にも渡したくないなぁ。
私じゃ、幸せに出来ないのにね。
どうだった?私といて、ひとみちゃんは幸せだった?
- 342 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:08
-
私は、すごく幸せだった。
だから、ひとみちゃんが幸せだったら、もっと幸せだなぁ。
すごく嬉しいな。
あ、ひとみちゃんが来る。
りかぁ!って声がする。
早く涙止めないとね。
ひとみちゃん、心配しちゃうから。
「どうしたの?」って。
- 343 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:08
-
寂しいって言っていい?
ずっと隣にいたいって言っていい?
余計、ひとみちゃん困らせちゃうかな。
でも、いいよね。
きっとこれが最後だから。
涙拭いて。
手紙も、隠さなきゃ。
ひとみちゃん。
ひとみちゃんが来るよ。
貴方が来る。
- 344 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:09
-
まだ、少しだけ視界が霞んでるや。
それとも…あれ?
……やっぱり、変だなぁ。
だって、今日、いつもより何倍も寂しいんだもん。
…あれ?もう、見えなくなってきちゃった。
少し、眠いなぁ。
ひとみちゃん来るのに…。
頑張って起きてよおっ。
最近してもらってないから、おでこにキスしてもらうんだぁ。
へへっ。
こんな事書いて、怒られちゃうかな?
- 345 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:10
-
抱き締めて欲しいなぁ。
何でだろう…して欲しい事がたくさんある。
ひとみちゃーん!愛してる!!
大好き!!!!
涙、止まったよ。
これで、笑顔になれる。ひとみちゃんの大好きな笑顔になるよ。
声、少し掠れてるけど、言うね。
- 346 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:11
-
大好き、愛してる。
バイバイ。
梨華
- 347 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:12
-
# # # # # # # #
- 348 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:12
-
何も、口に出す事は出来なかった。
この世の事なんて、何も信じたくない。
そんな、絶望感。
しかし、これは梨華なんだ。
梨華のメッセージなんだ。
受け止める以外に、どうするっていうんだ。
私は手紙を抱き締めた。
薄っぺらい紙は、梨華の華奢な腰の様に軽かった。
ねえ、梨華。
今どこにいるの?
私はここいるから。
何をお願いしてもいいよ。何でもするよ。
だから、帰ってきて?
私の隣にいて?
ねえ、梨華?
- 349 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:13
-
- 350 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:14
-
]\
きっと、ごっちんは今も隣にいてくれているんだろう。
だけど私の躰は、気配さえ感じ取れなくなっていた。
梨華と同じように、視界が、霞んでいく。
それと同時に、絶望感も少しずつ薄れていく。
必死に、必死に梨華への愛が、梨華への愛の化学物質が、私の躰を支えている。
私は応えようと、なんとか立ち上がった。
きっと腫れているだろう瞼を持ち上げると、視界が光り輝きだす。
「よっすぃ。」
ごっちんの声に、心はすっかり安らいでいた。
「梨華ちゃんは、帰って来た?」
問いかけに答えられないまま、私は俯いた。
- 351 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:14
-
「きっと、帰ってくるよ。なんかそんな気がする。」
ごっちんの真っ直ぐな声に、顔を上げた。
遠くを見ている様な目。
だけど、その瞳はしっかりと現実を見上げている。
「あたしの勘、当たるよ?あははっ…。」
それでも、ごっちんの瞳は潤んでいた。
- 352 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:15
-
きっとこの世の中には、私の様なただ弱い人間と、ごっちんの様に弱いだけじゃない人間がいるんだろう。
弱いのに恋をしてしまう私の様な人間。
強いから恋をする、梨華の様な人間。
神様は、きっと意地悪だ。
きっと。
ごっちんは夕方になると帰って行った。
「また連絡するー。」と、言いながら。
語尾を伸ばすクセは、どうやら抑えていたらしい。
私は、梨華を探しに出かけた。
今日一度も見ていない。
ずっと、ずっと、梨華を探していた。
私の心の中からも、梨華は姿を消していた。
- 353 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:17
-
信じたくなかった。
―――やっぱり、ひとみちゃんの隣に一度だけ戻らせて。
別離を経験すればする程、
―――少しの間でいい。
私は強くなる予定だった。
- 354 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:17
-
―――…うん。夏が来る前に、私は花弁と一緒に散るよ。
そんなの神様の創造の中での話し。
―――ひとみちゃんとさよならするのは、何度目になるだろうね。
私の宿命は操られる事なく揺らいでいる。
- 355 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:18
-
「梨華!!!」
座り込んで俯いている梨華の姿。
あの日と、ダブった。
フラッシュバックを遠ざけながら、私は梨華に駆け寄った。
「ひとみ…ちゃん?」
梨華が不思議そうな顔で、私の事を見つめる。
―――どうして?
「ずっと、心配してたんだ。」
「…ごめんなさい。」
梨華の顔はどこか嬉しそうだった。
それが何故か。私は、知らない。
- 356 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:18
-
「帰ろう?」
私が手を差し伸べながらそう言うと、梨華は微笑んで頷いた。
「一日中、ここにいたの?」
「違うの。お買い物に行こうとしたんだけど…気付くと、ここにいて。」
「やっと話してくれた。」
「え?」
「梨華、ここ数日話してくれなかったじゃん。どうして?」
「………。」
「私が悪い事した?」
- 357 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:18
-
梨華は罰の悪そうな顔で、頭を左右に振った。
分かっていた答えだったけれど、すごく安心した。
「ごめんなさい…。」
「梨華が、悪いんじゃないよ。だから梨華が謝るべきじゃない。」
「…お家、帰ってからでいい?」
「うん。」
「今は…何も言わないで。こうしてて。」
- 358 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:19
-
梨華の小さな手が、私の手を弱弱しく握り返す。
その仄かな痛みに少しだけ切なくなった。
梨華はこんなにも小さかっただろうか。
あんなに、強かった筈の梨華が。
私は、何も言わずにそのまま歩き出した。
- 359 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:20
-
私はバイト先に電話をかけた。
店長は酷く困っていた様だった。
結局、1ヶ月経ったら復帰する事となった。
そう、私はバイトをやめた(正しく言えば長い休暇を貰ったのだ)。
勿論梨華の傍にいたいから以外に理由は無い。
そして、勿論梨華には言っていない。
言った所で、梨華の不安を煽るだけだからである。
- 360 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:20
-
「ひとみちゃん。」
「ん?」
「そこに座っていい?」
梨華が指差したのは、私の両膝の僅かなすき間だった。
「いいよ。」
思いもよらない言葉に少々驚きつつ、私は快く了解した。
梨華は楽しそうに「失礼します」と言って、指定席に座った。
すっかり身を委ねられ、私もいい気持ちになっていた。
- 361 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:26
-
「ねえ、ひとみちゃん?」
「ん?」
「話していい?」
「ああ、うん。」
梨華は少しだけ寂しそうに、少しだけ楽しそうに私に話し始めた。
「多分…分かんないんだけど、嫉妬してたんだと思うの。」
「嫉妬?」
思わず聞き返すと、梨華は恥ずかしそうに頷いた。
「私じゃない…誰かに、ひとみちゃんを奪われた気がして、寂しかった。」
- 362 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:30
-
梨華は自分の膝に手を置いて俯いた。
普段真っ直ぐな声が、震えている。
震動は私にまで伝わってきて、やがて連鎖が始まった。
普段、梨華から話しをたくさんしてくれる事が少なかったので、私はこの状況におかれている事だけでも、多大な喜びを感じていた。
「いつから、こんなにワガママになっちゃったんだろうね。梨華は。」
切ない笑顔に胸を締め付けられる。
この痛みとも、あと僅かだと、ほんの微かに頭の中で思い出していた。
「分かってても、止まらなかった…本当にゴメンなさい。」
「ううん。こっちこそ、ゴメン。」
「何でひとみちゃんが謝るの?悪いのは、私だけなのに。」
- 363 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:30
-
けれど躰は充分解っていた。
この、膝の辺りに感じられる温もりや、鼻をくすぐる梨華の匂いは、もう長くないと。
きっと、解っていた。
だから切なくなるのかもしれない。
人間が意味も無く、悲しくなったり、切なくなったりするのは、きっと無いんだろう。
「ひとみちゃんは悪くないよ…だから、謝らないでよ。」
梨華の愛を、感じていた。
けれどそれが決して多くないという事も、私は感じていた。
私達は一歩一歩進んでいく。
先に見える物は何もなく、分かっているのは……
2人の行く先は、別離だった――――――――――。
- 364 名前:-]\- 投稿日:2004/05/20(木) 23:31
-
- 365 名前:作者。 投稿日:2004/05/20(木) 23:35
-
更新しました。
>>330 プリンさん
毎回ありがとうございます!
石川さん戻ってきました。つか、イチャイチャしすぎですが。爆
お願いします。どうか、私の守護神に(ry
- 366 名前:プリン 投稿日:2004/05/21(金) 17:10
- 更新乙亀様です!!w
戻ったぁヽ( ´▽`)ノ
よかったよかったw
でも・・・最初は泣けた(泣
後半のイチャイチャはよかったですけどw(爆
守護神にならさせていたd(ry
腕・・・大丈夫ですか?(何
次回の更新も待ってますw
頑張ってくださぁーいっ!!!!
- 367 名前:吉作 投稿日:2004/05/22(土) 21:23
- どうも初めまして☆今日初めて読まさせていただきました!
かなり感動してます(OT〜T)
この作品をドラマ化していただきたいほどです♪
- 368 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:08
-
「ねえ、梨華。」
「なあに?」
「お願いだから…私の傍にいて。どこにも行かないって、約束して。」
「…うん。約束するよ。どこにも行かない。」
どうして、こう、彼女を苦しめる様な事しか出来ないのだろう。
私達の行く先は、本当に別離一つなんだろうか。
何か、きっと曲がり道がある筈だ。
- 369 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:08
-
私はそう考える事でしか、今の精神を安定させる事が出来なかった。
全て全て躰では感じ取れていた。
ただ、頭の中で、理解出来なかっただけの話し。
「だから、ひとみちゃんも、どこにも行かないで。」
きっと、唐突な別離だったなら、悲しみに暮れるだけで良かったのかもしれない。
自分の欲はここまで強かったんだろうか。
私は、梨華を失わない方法を、ずっと考えている。
もう、きっと無理だ。
梨華は何時しか私の元を離れ、惑星を離れ、あの星へと還ってしまう。
- 370 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:08
-
違う。
今の私なら、出来る筈だ。
梨華の隣にいる今の私になら、梨華を引き止める事は出来るかもしれない。
だって、そうじゃなきゃ、
そうじゃなきゃ、
梨華を失う事にしかならない。
そしたら、
そしたら、私は一体どうすればいいの?
- 371 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:08
-
力強く抱き締めると、梨華は何も言わずに私を抱き締めてくれた。
今体温と一緒に、私の想いがきっと流れて行っている。
止めなければならない筈の、たくさんの想い。
けれど、今の私には到底そんなの無理で、困難で。
もう、二度と手放したくなんか無い。
どうしてこんなにも、現実は悲惨で残酷なんだろう。
神様が創りあげた悲しみや幸せは、私の想像の域を超えていた。
だから、きっと、こんなにも。
- 372 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:09
-
雨は昨日から降り続けて、今日もどんよりと暗い空。
未だ、梨華にあの事は話していない。
この先も、梨華が求めない限り、話すつもりは無い。
話したところでどうにもならないのだ。
けれど、もし梨華がそれを求めるのだとしたら、きっと梨華にとってはプラスやらマイナスやらになるのだろう。
「ねえ、ひとみちゃん。」
「ん?」
「行きたい…所があるんだ。」
- 373 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:09
-
初めてそう言われ、私の心は有頂天だった。
梨華から出かけたがるなんて考えてもなかった事。
結局、梨華が行きたいという場所はいつもの公園だったわけだけど。
それが余計に嬉しいというか、実は私も誘おうか迷っていたから。
気持ちが一緒だったんだ、って。
「ここで…。」
あの一番大きな樹の目の前で、梨華は再び立ち止まった。
そっと表面に触れ、どこか遠い目をしている。
少しだけ不安になって、空いていた左手を握り締めた。
- 374 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:09
-
「ここで、ひとみちゃんとキスした…。」
梨華は弱弱しく手を握り返してくれた。
「私の、初めてのキス…。」
その、泣いている様な震える声に、思わず小さな躰を抱き寄せた。
梨華は私の服の袖を握り締める。
- 375 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:10
-
「すごく…さみしい。」
「梨華…。」
「お願い、離さないで。私を…離さないで……。」
梨華は、全て分かっているのではないか。
きっと梨華は、全て分かっているんだ。
そんな感じがしたんだ。
- 376 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:10
-
樹の表面に触れていた時の表情も、
真っ直ぐな様だけどすごく震えてる声も、
私に縋りつく様な小さな躰の体温も、
その、言葉も。
『ねえ、離れたくないよ…』
『貴方の傍から離れたくない…』
離さないと誓ったところで、私に何が出来る?
誓いなんて無意味な現実。
こんなに酷い目に合わせてきた神様が、救ってくれるとは考え難かった。
- 377 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:10
-
…ずっと、一緒にいたかったなぁ。
やっぱり、隣にいたかったなぁ。
―――梨華…
もっと色んな所行きたかった。
もっと、キスしたかった。
好きって呆れるぐらい言いたかったのに。
やっぱりやだなぁ。
―――離したくなんかない
ひとみちゃんの隣にいたいよぉ。
最後までワガママ、ごめんね。
大好き…。
- 378 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:11
-
もう、梨華を還したくなんかない。
苦しい思いをするのは、私だけで充分だ。
梨華はあそこに還るべき人間じゃない。
往くのは、私だ。
もし命を引き換えに、梨華を此処に止まらせる事が出来るのならば―――――――
神が等価交換さえ、してくれるなら。
私は何だって喜んで投げ出しただろう。
けれど、梨華の存在と等しい物など、この世に存在してなかった。
神は、私に希望を持つ事さえも許さない。
そしてどこまでも残酷で悲惨な物語を好むんだ。
私と梨華の別離に纏わるエピソードは、全て神の手で創りあげられる。
- 379 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:11
-
痛みや悲しみを伴わない教訓には意義がない。
人は何かの犠牲なしに何も得る事など出来ないのだから。
- 380 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:11
-
U]T
そうして、日々は同じ時を刻んでいった。
気付くと梨華が私の目の前に現れて、もう1ヶ月経っていた。
「今日、温かいね。」
「もう春だからね…。」
「…春……。」
もうすぐ、風にのって何かがやってくる。
温かな木漏れ日が私達を照らす中、木々がザワザワと私達を見下ろして話している。
- 381 名前:-U]- 投稿日:2004/05/23(日) 23:12
-
「春になれば、桜が咲く。」
「桜…。」
「梨華は桜が大好きだよ。桜色が好きだからね。」
その時、梨華の瞳から何かが零れた気がした。
「もう、私と梨華が出逢って1ヶ月も経ったんだよ。」
季節の境目に私達は立っているんだ。
私達は、もうこんなに長い時間を共用しているんだ。
- 382 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:12
-
俯いた梨華の顔を覗き込む。
でも、ひとみちゃん?
梨華はそう言った。
「でも、もっと一緒にいたいよ…この先も。」
やっぱり梨華は全て分かっているんじゃないんだろうか。
私は心を見透かされないように必死だった。
「うん。ずっと、一緒にいようよ。この先も。」
- 383 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:13
-
でも、その言葉は私にとっての真実だった。
梨華はうんっ、と感動の声を上げた。
やっぱり、そんな梨華を見ると、時折胸が苦しみだす。
「嬉しいなぁ…。」
夢を見る少女の様な瞳。
きっと、梨華の心はまだ年齢に追いついていない。
私より強く見えていた梨華。
それは、心の中で創り出した幻だったのだろうか。
- 384 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:13
-
そう、強く抱き締めたくなるけれど、すると幼い梨華は不安がる。
不安を煽らせる真似などしたくない。
だけど…だけど、梨華は私の腕から零れていってしまう。
「ひとみちゃん、お買い物行かなくちゃ。」
「……そうだね。」
やはり、いつか言うべきなのだろうか。
それとも、そのいつかが来る前に、梨華は居なくなってしまうんだろうか。
- 385 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:13
-
外に出ると、朧月が私達を見下ろしていた。
「雨の匂いがする。」
私がそう言うと、梨華は静かに頷いた。
その動作はまるで、言葉の様だった。
けれど、私はそれを受信したくなかったし、出来なかった。
「春が終わったら、雨が降る…。」
「うん。」
「嫌だなぁ…。」
- 386 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:13
-
梨華は何ともないといった感じだった。
「梅雨に入っちゃったら、ひとみちゃんと公園に行けなくなっちゃう。」
しかし、やっぱり何かを解っていた。
- 387 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:14
-
時が経てば経つ程、梨華との距離は近付き、梨華への愛は深まった。
けれど、その分喪失の予感も大きくなっていく。
そして別離が近付く事を、躰が知る。
私が巻き起こした自分の責任だ。
例えその時が来ても、私はきっと梨華を手放せない。
何をしたって無理な事は分かっていたつもりだった。
本来私がするべき事は、その現実を静かに受け止め、最後の最期まで梨華の傍にいる事だった。
「ひとみちゃんっ。」
「ん?」
- 388 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:14
-
梨華のいきなりの口付けにも慣れた。
ごく自然に、自然に。
私達の愛の形は、すごく普通で自然で。
だから、光が消えそうになっているのを忘れそうになって。
「不意打ち卑怯!」
「ぼーっとしてたのが悪いんでしょぉ?」
腕の中に止める事が出来れば、それだけで充分だった。
そんな私はどこかへ消え去り、いつも残るのはどうしようもない愛だ。
- 389 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:15
-
「好き…。」
「うん。」
「…また、公園行こうね。」
「…うん。」
- 390 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:16
-
もう大丈夫。
4年で幕を閉じた筈の私達の愛は、1年の空白を置き、こうして半年間も長く続いたのだ。
こんなに梨華の近くにいる。
誰よりも傍に、誰よりも長くいられた。
何も変わらず、変わらない気持ちのまま。
- 391 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:16
-
想いを決めた所で、最後の悪戯が待ち構えていた。
今年の梅雨は平年よりも3週間も遅くなるという。
天気予報を見て、梨華は楽しそうに私の腕を取った。
「これで、もっとたくさん公園行けるねっ。」
―――――これで、もっとたくさん一緒にいられる。
私にはそう聞こえて仕方無かった。
そうして、私達の時間には、3週間というリミットが付け加えられた。
その短い時間の中で、私は梨華に何をしてあげられるだろう。
- 392 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:16
-
「最近、同じ夢を見るの。」
毎晩、腕の中で唸る梨華を、私はジッと見つめていた。
そして、何も言わずにもっと強く抱き締めた。
それ以上の事をしてはいけないと思ってからだ。
「ひとみちゃんが、私から離れて行っちゃうの。」
「私が?」
「うん。寂しそうに笑って行っちゃうの。でも、私にバイバイって言わないの。」
梨華の寂しそうな笑顔には、微かに希望の光が宿っていた。
- 393 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:17
-
「だから、私待ってるの。ずっと信じて待ってるの。」
そうすれば、と梨華は言った。
「そうすれば、ひとみちゃんは絶対に帰ってきてくれるって思って。」
梨華は、私の肩に額を乗せた。
その微かな重みに胸が苦しくなる。
いつの間に彼女は、これ程薄くなってしまったのだろう。
いつ消えるか分からない蝋燭の灯火の様に。
- 394 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:17
-
「いなくなったりしないから。」
「……うん、解った。」
梨華は笑顔で頷いてくれたけれど、梨華の悪夢が打ち消される事は無かった。
残された日々は、ほんの少しだけ早く過ぎて行った。
私達は幾度もキスをした。
- 395 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:17
-
そして梨華は、また昔の話しを求める様になっていた。
私はそうして梨華に何かしら求められるのがすごく嬉しかったし、存在が認められた様な気もするので、梨華に話せる事だけ全て話した。
何もかもを話しつくして、創った話しも話しつくし、それでも梨華は求めた。
私が話すファンタジーの中になら、梨華はいつまでも存在する事が出来るからだ。
私はそう考えていた。梨華もそう考えていた。
- 396 名前:-U]T- 投稿日:2004/05/23(日) 23:17
-
- 397 名前:作者。 投稿日:2004/05/23(日) 23:21
- 更新しましたー。
>>366 プリンさん
ありがとうございます。
石川さんの手紙はかなり書き悩みました…_| ̄|○
日記読んで下さってるんですねwありがとうございます!!
流石、守護神様だ…爆
>>367 吉作さん
初めまして。レスありがとうございますー。
ド、ドラマ化だなんて!?Σ( ゜〜゜0)Σ(゜▽゜ )
いしよし1ファンとして萌えてしまいますが、こんなヘボ作品…。
- 398 名前:プリン 投稿日:2004/05/24(月) 19:28
- 更新お疲れ様です!
いえいえw日記は毎日チェックさせていただいてますよぉ〜。
守護神ですk(ry
梨華ちゃん・・・。
誰か嘘だよって言ってよ・・・信じられないよ。
事務所も発表の時期をもうちょっと考えてよ・・・。
2人居なくなったらどうなっちゃうのさ・・・。
・・・と自分は思いましたです。
よっちゃんはどう思ってるのかなぁ。
- 399 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/25(火) 01:26
- せつないですねぇ。
このお話の二人の切なさにため息出ちゃうし、
卒業にもため息出ちゃうし…。
作者。さんこれからも頑張って下さい〜。
- 400 名前:-]\T- 投稿日:2004/05/30(日) 23:50
-
「変なの。」
「ん?」
一週間と4日が過ぎたある日、梨華は真剣な顔で自分の躰を見回した。
その動作に私の不安も一気に加速する。
「朝起きると自分がすごく軽くて……。」
梨華の表情は不思議そうな物から、不安そうな物へと明らかに変わって行った。
「ひとみちゃんにたくさんお話してもらったのに、全然覚えてないの。」
実感せざるを得ない。
神は梨華の言葉を借りて、私の胸を突き刺した。
- 401 名前:-]\T- 投稿日:2004/05/30(日) 23:51
-
刻々と迫るその時。
だけど、私はまだ、まだ信じていなかった。
信じられないのではなく、信じようとしなかった。
どうやったら、私の腕の中から梨華がするりと抜けていくんだろうか。
是非教えて欲しいものだ。
そうしたら、もう絶対抜けない方法を考え出すから。
自信過剰の私には、梨華以外の言葉は何も効かなかった。
しかし、神は最後の最期まで意地悪く、梨華を遣い私を責めた。
そうして私は初めて気付く。
私は梨華の隣にはいてはいけないのだろうか。
私は梨華にとって相応しくないのだろうか。
消えてしまうのは、私の方なのだろうか。
梨華は、毎晩魘され続けた。
- 402 名前:-]\T- 投稿日:2004/05/30(日) 23:51
-
U]U
2週間丁度の日、私達は久し振りに遠出した。
隣町の公園までバスで30分。
梨華は、嬉しそうに「ありがとう」と繰り返した。
流れる風景は時間の様に早く、私達を飲み込んで行った。
大きな口を開けて待っている暗闇。
私は自ら飛び込もうとしていた。
辛い思いをするのは、私だけで充分だ。
「ここは、初めて来る所だよね。」
梨華は両手を広げて大きく息を吸った。
「うん、そうだよ。」
梨華の記憶は、日に日に薄れ始めていた。
霞んでいく梨華の存在。
消え失っていく私達の時間と日常。
- 403 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:52
-
「ひとみちゃん!」
梨華は私の腰に腕を廻して、顔を胸に押し付けた。
「なんだよぉ。」
そんな梨華の額を小突いた。
梨華は、えへへと照れくさそうに笑って、顔を俯けた。
「このまま、時間止まっちゃえばいいのになぁ。」
その言葉と寂しそうな笑顔に、目頭が熱くなる。
寂しい思いをさせない事も出来ない私。
こんなに、こんなに傍にいるのに。
- 404 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:52
-
「梨華。」と呼ぶと、すぐに顔を上げてくれた。
額をコツンとぶつけると梨華はすぐに笑ってくれた。
「私、変だね。ずっと、一緒にいられるのに…。」
少しの安心感。
このまま、梨華はこのまま、私から離れていければ一番いい。
何も知らず、ただ少ない私との思い出だけを胸に秘め、静かにでもいい、生きて欲しい。
突き放す事なんて出来るわけがないし、離れる事だって出来る筈が無い。
必要性があるのかと問われればその答えはイエスになる。
- 405 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:53
-
「そーだよ。何言ってんだよ。」
「…ごめんね…。」
「…………。」
ずっと一緒になんて希望。
「…ごめんね。」
初めから叶う筈無いのに。
「ううん。」
- 406 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:53
-
私は、腕の中の彼女に誓ったのだ。
どんな希望も叶えると。
どんな事でもしてみせると。
「私こそ、ごめん。」
やっぱりそんなの無理だった。
- 407 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:53
-
例え彼女にお願いされたとしても、無理な事が幾つかあった。
傍にいてと言われて、私はずっといられるだろうか。
きっといられない。正しく言えば、「いさせてもらえない。」
梨華に神様なんて信じて欲しくない。
願いをするのなら、この私だけにして欲しい。
なんて、どうせ叶えられないのに。
自意識過剰。
自分に自分で言ってみる。
- 408 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:53
-
限りない時間の中で愛せる量が決まっていたとしても、
きっと私達はまだ10分の1も愛せていない。
足りない、もっと欲しい。
足りない、もっと愛したい。
そうして、願わくば梨華は私と求めてくれた。
限りない時間の中で出来る事が決まっていたとしても、
愛の形が定められていたとしても。
どこかで間違えたかもしれない。
だけど、まだ答えは解らない。青い空の上。
- 409 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:54
-
- 410 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:54
-
その日の夜。
「ねえ、ひとみちゃん?」
「起きてるよ。」
「…どこにも行かないよね?」
「え…?」
「……なんでもない。」
梨華の態度が違うのは、充分解っていた。
「そっち、行っていい?」
- 411 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:54
-
梨華には、私の腕の中で眠っている記憶が無いのだ。
……それとも、私の全ての記憶が?
「いいよ、おいで。」
半分冗談で両手を広げると、梨華はそのまま抱き付いてきた。
鼓動がうるさい。その音の大きさに、更に躰が熱くなるのが解る。
梨華には解らない様に、少しだけ距離を置いた。
「ひとみ、ちゃん…。」
「なに?」
「私の事、好き?」
- 412 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:55
-
梨華の瞳は私を捉えていないように見えた。
それとも、私以外の何もかもを捕らえていないのか。
熱っぽく潤んでいる。
鼓動の高鳴りは速さまで増していく。
「…ねえ…。」
梨華の声は小さく掠れていた。
今にも消えうせそうな細い躰。
その存在に締め付けられていく。
華奢な腕から来る、精一杯の抱擁。
どうして、こんなにも私の事を好きでいてくれるんだろう?
- 413 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:55
-
「梨華は?」
「…好き、大好き。泣きたくなるぐらい…ひとみちゃんの事が好き…。」
「………。」
「ひとみちゃんは?…ねえ…言って…?」
梨華の息は、荒くなっている気がした。
心なしか躰も熱い。
「…ねえ……いっ…て…。」
「梨華?梨華?」
「…ひとみちゃん…。」
「梨華?」
- 414 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:55
-
気を失った様だったけれど、梨華は私の手を掴んで離そうとしなかった。
肩で呼吸する梨華を見ていられなくて、私は起き上がった。
「…待って。」
「梨華?大丈夫?今、薬持って来るから。」
「やだ…行かないで…。」
「…梨華…。」
「…やだ…行っちゃやだ…行っちゃ……。」
- 415 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:56
-
梨華が、苦しんでいる。
早く薬を。
梨華が、行かないでと言っている。
手が燃える様に熱い。
行かなくちゃ梨華を助けられない。
行っても、梨華を助けられないかもしれない。
梨華の最期が刻々と近付いてきているのかもしれない。
- 416 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:57
-
私は、梨華を抱きかかえてリビングのソファに寝かせた。
急いで解熱剤を探す。
暗闇に、梨華の喘ぎ声が響く。
手から伝わる水の冷たさと、足の指先から伝わるフローリングの冷たさ。
氷の様な私の手を、梨華は一瞬で溶かしていく。
「梨華?梨華…?」
「…とみちゃ…どこ…どこ…?」
「ここに、いるから。ほら、水飲んで。」
「…わかんない…。」
- 417 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:58
-
水と解熱剤を口に放り込んで、半場投げやりに梨華の口に流し込んだ。
こくこくと梨華の小さな喉が動く。
しばらくすると、肩の動きが序序に小さくなって行った。
正常に上下に活動する梨華の腹。
それを見て、安心感が陥る。
そして、次に膨大な脱力感に襲われた。
- 418 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:58
-
そのまま眠りに堕ちていたのか、私は冷たい床に寝そべっていた。
上半身だけがソファに置き去りにされている。
ふと、目を瞑ったまま綺麗に、死んだ様に眠る梨華が視界の外れに入る。
寝ぼけているのか、一瞬透けて見えた。
きっと月明かりの悪戯だ。
そして、思い出す。
幽霊に人間用の解熱剤など効くんだろうか?
梨華の顔色を窺ってみるが、決して悪そうではなかった。
また少しの安心感。
だけど膨大な不安は拭いきれない。
- 419 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:59
-
隣の寝室から布団を2枚持ってきて、梨華の上にかけた。
ただ今は祈る事しか出来なかった。
誰に?さあ、分からない。神様以外の誰かであるのは確かだ。
手を握ると、梨華は弱弱しく握り返した(気がした)。
ただそれが嬉しくて、人間の生命力に感激して。
(梨華は実際幽霊なんだけれども)
私は朝が来るのを待ち続けた。
その大きな太陽が、顔をひょっこり見せるのを待ち続けていた。
- 420 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:59
-
夜が、とてつもなく恐かった。
梨華を今にも連れて行かれそうで、今にも私達を引き離そうとしている様で。
私達を取り囲む影を闇のせいにしていた。
全てを闇のせいにしていた。
朝になれば、全ての邪悪な物が消えると信じていた。
だから…。
- 421 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/30(日) 23:59
-
「ひとみちゃん…?」
「眠ってるの?」
「ねえ、起きて…?」
躰が思う様に動かない。
夢心地の中、腕の中に梨華の感触。
細い腰。髪から漂う梨華の匂い。
ああ、全てがこんなにもいとおしい。
「ひとみちゃん。」
- 422 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/31(月) 00:00
-
声がだんだんとはっきりしてくる。
梨華は、生きているんだ。
腹は規則正しく動き、その体内に生きる要素を吸い込んでいく。
「…おはよう、大丈夫?」
おはようと言ってみたものの、外はまだ薄暗かった。
「ごめんなさい…何も、覚えて無い。」
「いいよ、梨華が謝る事じゃないよ?」
「でも…私……ひとみちゃんに、たくさん迷惑かけたみたい。」
- 423 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/31(月) 00:00
-
散らかった部屋を見渡し、梨華は静かに涙を流し始めた。
その頬を照らす様に、涙を見せ付けるかの様に陽は昇り始める。
眩しくて、何も見えない。
梨華の姿どころか、自分の躰さえも。
最後に残った天井も、白く霞んで見えなくなった。
- 424 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/31(月) 00:01
-
次の日も、その次の日も、私達は一歩も外に出ず、二人で肩を並べていた。
小鳥が囀り子供達が大きな声ではしゃぎ、そして夜はうるさいクラクションと共に更けていく。
どうやったって日々は止まらない。私達の日常は過ぎていく。
「ひとみちゃん。」
梨華は、私の事を呼ぶ事が多くなった。
手を握る事も多くなった。「好き」というのも多くなった。
私達は、何度も唇を重ねた。
- 425 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/31(月) 00:01
-
残り3日。昼下がり。
梨華を連れ出して、あの小さな公園に出かけた。
梨華はまた「ありがとう」と繰り返す。
最後の言葉の様に、ゆっくりと。
大地を踏みしめる様にゆっくり歩く。
小径で何度も立ち止まり、振り返る。
その度私は思うんだ。
- 426 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/31(月) 00:02
-
傍にいる、隣にいる私だけを見ていてほしいと。
いつの間にか梨華は樹の下にいた。
少し離れた所にいるその姿は、蜃気楼の様に朧気で、今にも消えそうだった。
「ひとみちゃん。」
いつもより、少し大きな声で梨華が私を呼ぶ。
少々驚いて傍に駆け寄る。
梨華は嬉しそうにうなずいて、そっと目を瞑った。
何度目になるだろう梨華の唇の感触は、やはり全く変わらなかった。
- 427 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/31(月) 00:02
-
「ここでキスされると、安心するの。」
梨華は音が出るくらい大きな音を立てて、私の腰に抱きついた。
「でも、やっぱり一番はひとみちゃんの腕の中。」
「私も梨華を抱き締めるのは大好きだよ。」
「…安心するから?」
「うん。胸が温かくなってくる。」
私がそう言うと、恥ずかしそうに笑って顔を俯けた。
- 428 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/31(月) 00:02
-
「…なんか、分かんないけどね。前、すごく不安だったの。」
梨華は小さな自分を笑った。
「でも、今は大丈夫。」
言葉の意味が分からなかった。
梨華は、そんな私の心を読んだ様に、「意味分かんないね」と苦笑した。
- 429 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/31(月) 00:03
-
「何があったって、私の心は消えないだろうなって。」
- 430 名前:-]\U- 投稿日:2004/05/31(月) 00:03
-
- 431 名前:作者。 投稿日:2004/05/31(月) 00:11
- 更新、遅くなってすいません。
先日まで林間学校に行ってました。
>>398 プリンさん
守護神様は毎日チェックされてらっしゃる…とφ(..)
そういわれると頑張って更新する甲斐がありますよっ。
例え石川さんに、( ^▽^)ポジポジ♪と言われても、
卒業を前向きに考えられる程自分は大人ではないようです。
(ああ、何て分かり難い例えなんだ…)
でも、一つ分かりきっている事は、2人が幸せなら私も幸せということです。
>>399 名無飼育さん
何か見事に卒業の『別離』と物語の『別離』とでマッチしちゃってますが…。
マッチさせたくなんかないのに(OT〜TO)リカチャァン…
それでも作者。は頑張りますよ。
梨華あらばIT'S ALL RIGHT!!!!!(つД`)リーダー…
- 432 名前:プリン 投稿日:2004/05/31(月) 16:45
- 更新お疲れ様です!
待ってましたぁヽ( ´▽`)ノ
もう名前が守護神になってる・・・(w
やっぱ雰囲気(・∀・)イイ!ですよぉ。好きです。
・゚・(ノД`)・゚・。
2人が幸せなら私も幸せなんて・・・。
自分も同じ意見ですっ!!
まぁ、頑張っていきましょう(謎
次回の更新も楽しみに待ってますね♪
では!
- 433 名前:-]\U- 投稿日:2004/06/02(水) 22:58
-
梨華の体調は悪くなる一方だったけれど、梨華は前より笑うようになっていった。
人間の薬はやっぱり効かないらしい。
体調が悪くなると同時に、記憶が薄れる速度は増して行った。
「ねえ、梨華。」
「なあに?」
「大事な話し…あるんだ。ずっと、言えなかった。」
「うん。」
いつもの好奇心の顔を除かせて、梨華は私の隣に座った。
- 434 名前:-]\U- 投稿日:2004/06/02(水) 22:58
-
「…梨華は記憶を忘れたって言ったよね?」
「うん…。」
「それで、私は梨華の記憶が戻る様に、たくさん話したよね?」
「うん。たくさん、ひとみちゃん、話してくれた。」
私は、次に何を言えばいいのか分からなくなった。
言葉が出ない。
この笑顔を曇らせる事になるんだろうか。
あと2日しかない。
このまま、真実を言わずに、梨華を還らせれば、この記憶も幻になって。
- 435 名前:-]\U- 投稿日:2004/06/02(水) 22:58
-
「……ごめん、何言ったらいいか、分かんなくなっちゃって。」
梨華は「ごめんなさい」と言って、私の手を握った。
小さな手は少しだけ震えていた。
「知ってる。分かってるよ。」
「え…?」
「私が一度、死んでる事。」
梨華は静かにそう言った。
- 436 名前:-]\U- 投稿日:2004/06/02(水) 22:59
-
「私は1年前に病気で死んだ、石川梨華。」
その笑顔は、今までのどれよりも『石川梨華』に近かった。
そして気付く。
心の中では何を言っていたって、私は死んだ梨華を追い続けていたんだ。
「なんで…。」
「…見ちゃったの。あれ。」
梨華は申し訳なさそうに俯いた。
私さえ存在を忘れていた「あれ」。
梨華との日々が始まってからは、開く事さえなくなった。
あの、大学ノートに綴られた小説。
梨華との日々、思い出、記憶。
- 437 名前:-]\U- 投稿日:2004/06/02(水) 23:00
-
「いつごろ?」
「結構…前。ひとみちゃん、何度も倒れてて、そのたびに気になってたの。薬箱の一番したにあった、あのノート。」
まさか、そんな前に気付いていたなんて。
「隠していてごめんなさい…。」
「ううん…こっちこそ、ずっと話さなくてゴメン。」
「それは、いいの。今話そうとしてくれたじゃない。」
- 438 名前:-]\U- 投稿日:2004/06/02(水) 23:00
-
だけど……。
「私は、あと2日、ひとみちゃんとこうしていられればそれでいいから。」
他に何も求めたりしないよ。
梨華は、笑ってそう言った。
- 439 名前:-]\U- 投稿日:2004/06/02(水) 23:00
-
- 440 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:01
-
U]V
残された時間は、予想していた通り、早く過ぎていった。
その晩、梨華は私の隣に入り込んできた。
ただの抱擁だけじゃ止まらなくなったわけじゃない。
梨華はこれ以上求めたりしないと言った。
私は梨華の寝間着を、布団の中で脱がせた。
彼女は躰を固くして私のされるがままになっていた。
- 441 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:01
-
「ひとみちゃん。」
「なに?」
「慣れてるの?」
「うーん…そうでもない。」
中途半端な答えに、梨華は困った顔をしていた。
- 442 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:02
-
「ねえ、ひとみちゃんも脱いで。」
「うん?」
「分かんないけど…すごく不安。」
「うん。これで、一緒だから。」
「あと一つ、聞いていい?」
梨華の眉は頼りなく八の字になっていた。
その顔が可愛くて、思わず頬が緩みそうになる。
- 443 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:02
-
「なに?」
「…ひとみちゃんは、初めて?」
「うん…そうだよ。」
「…よかったぁ。」
- 444 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:02
-
私の不器用な愛は、不器用な形で梨華へと伝わった。
私達は素裸のまま二人並んで、白い天井を見つめていた。
「ねえ。」と梨華が言った。
「やっぱり、辛い。」
「ん?」
「ひとみちゃんの傍にいたいよぉ……。」
涙を堪えているのか、声が震えていた。
大きく深呼吸をして、梨華は苦笑した。
- 445 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:02
-
「私、弱いなぁ。こんな事言ったって、ひとみちゃん困らせるだけなのにね。」
「ううん…言って?何でもいいから。梨華の想いを私に教えて?」
梨華はもう一度俯いた。
その時、涙が一滴、梨華の頬を伝った。
こうやって、梨華が泣いているのを見て、初めて実感する。
悲しみを堪えなければならない程の痛み。
その名は別離。そう、私達は2度目の一生の別離を経験するんだ。
- 446 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:03
-
「ひとみちゃんが話して…。」
「……。」
「ひとみちゃんの、声が聴きたいの…。」
「…私は……。」
梨華と同じ。
私、弱いなぁ。
涙は堪えても堪えても、波を打つように何度も私を襲う。
- 447 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:03
-
「もっと、梨華を幸せにしたかった。」
震えて頼りない声。
それでも、梨華は嬉しそうに、あの大好きな微笑みを見せてくれた。
腕にこめていた力が、やんわりと解けられる。
梨華は私の額にそっと口付けて、もう一粒涙を流した。
- 448 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:03
-
「ごめん…。」
濡れた瞳がこっちを見ている。
「ごめんね、梨華。」
「どうして……。」
梨華はもう一度、小さな小さな声で『どうして?』と言った。
「私は、すごく幸せだよ。今こうしている瞬間も、ひとみちゃんの隣にいられる…すごく、幸せだよ。」
梨華は自慢げな笑みを見せて「知ってた?」と私に言った。
- 449 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:03
-
「…ううん、初めて知った。」
「ひとみちゃんが心配する事は何も無いの。」
「………。」
「あなたとのデートは、素敵だった。私は大好きだよ。」
そして心地良い風が吹き、沈黙が程よく流れた。
梨華は優しい眼差しで静かに私を見ていた。
- 450 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:04
-
「ねえ。」
「なに?」
「私は、ひとみちゃんを幸せにできた?」
こんな幻の様な存在でも。
彼女が言った。
「当たり前じゃん…私だって、梨華がいてくれるだけで幸せなんだよ。」
知ってた?
私が訊くと、梨華は嬉しそうに頭を振った。
- 451 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:04
-
「梨華は、やっぱり強いよ。」
そう云う私の声は、どんどんと掠れていく。
「そんな事ないよ。」
梨華は私を優しく抱き締めてくれた。
この温かな抱擁と、もう逢えなくなるなんて―――――
- 452 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:04
-
「自信を持って?ひとみちゃんはすごく優しい人だから。」
「そんなこと、梨華しかいってくれないよ。」
「そんなことないの。ひとみちゃんは、素敵な人だよ。」
ふと歪んだ視界の中に入ったデジタル時計は、『01:36』そう光らせていた。
もう梨華との時間が無い。
たくさん溢れていく想いを拾い上げる時間は無い。
私はただ、ただ、腕の中の梨華を愛していた。
- 453 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:04
-
「梨華、もっと話して。」
「どうして…?」
「もっと声が聴きたい…なのに、もう時間がないよ。」
「ひとみちゃん、焦らないで。」
私達に時間がなくなるなんて事はないの。
だって、私達は永遠なんでしょう?
- 454 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:04
-
「…そう、だけど。」
「安心して。明日の朝も、私はこうして、あなたの腕の中にいるの。」
「………うん。」
「いつもと変わらないよ。『おはよう、起きて』ってひとみちゃんを起こすから。」
「うん。」
「ひとみちゃんは、なかなか起きてくれないよね。」
- 455 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:05
-
止まりかけていた涙が再び溢れ出した。
それは、梨華も同じだった。
本当にこの時が来てしまったんだ、と今実感していた。
まだ梨華の姿は霞んではいないのに。
「だから、私はキスをするの。ひとみちゃんの瞼にね、『起きろぉ!』って想いを込めて。」
『うん』と言ったつもりだったけれど、もう声は出なかった。
「そうすると、ひとみちゃんは眠そうな目を開くの。そして、『梨華、おはよ』って言ってくれる。」
- 456 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:05
-
私は梨華の言葉に何度も何度も頷いた。
それはきっと、ただの希望でしかなくて。
「ね?何も、変わらないでしょう?」
幼い子に言い聞かせるように、梨華は優しい声で囁いた。
「だから、安心して…眠って。夢の中でも会いたいから……。」
- 457 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:05
-
その声に目を閉じると、最後の涙が流れた。
梨華の匂いを吸い込むと、睡魔は大群の様に押し寄せてきた。
温かい梨華の腕の中。
最後まで、私はこうして梨華に守られている。
梨華の愛情を一心に注がれ、私は夢の中へ。
どうしたらいいこの気持ちの居場所は、最後まで見つけられなかった。
それでも、不安はもう無い。
- 458 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:05
-
「自信を持って」
梨華はそういってくれた。
「ひとみちゃんは、素敵な人だよ」
- 459 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:05
-
ありがとう。
ありがとう、梨華。
ずっと私を抱き締めていて。
そのまま、ずっと。
いつか私が梨華を守れる様になる日まで。
……おやすみ。
- 460 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:06
-
明日の朝が、こんなに待ち遠しくなるなんて。
ああ、早く梨華に会いたい。
腕の中で目覚め、早く私を起こして?
この悪夢の様な現実から、私も幻に変えて、連れ出して。
- 461 名前:-U\V- 投稿日:2004/06/02(水) 23:06
-
- 462 名前:作者。 投稿日:2004/06/02(水) 23:09
- 更新です。あと2,3回で終わると思います。
書いている自分も、少し寂しいです。
>>432 プリンさん
雰囲気誉められまくっちったよー!(興奮
あと数回なので、どうか見捨てないで下さい。爆
お互い頑張りましょう…。色々な意味で。
- 463 名前:プリン 投稿日:2004/06/03(木) 19:39
- 更新お疲れ様ですっ!
ドキドキ・・・w
続き激しく( w゚Д゚)wキボンヌ!!
梨華重はビビリました(謎
- 464 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:24
-
U]W
「おはよう、起きて。」
もう朝が来てしまったの?
「ひとみちゃん。起きて。」
本当だね。梨華の云う通りだ。
「起きろぉ!」
世界を視れば、梨華しか入らない。
「おはよう、ひとみちゃん。」
耳を澄ませば、声しか聴こえない。
「おはよ、梨華。」
そうして、今日が始まった。
- 465 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:25
-
朝食はいつもより、少しだけ静かだった。
梨華が口を開く。
「公園、行きたいなぁ…。」
「うん。朝ごはん食べ終わったら、行こう。」
「待って。その前に、洗濯物干さなきゃ。」
そう、楽しそうに振舞う梨華。
「今日は、天気がいいから。」
だけど、やっぱり、その頬は光って見えた。
- 466 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:25
-
何か特別な一日を感じさせる事なく、時は流れていく。
不思議で仕方が無い。
本当に、梨華はいなくなってしまうんだろうか?
私は、まだ、信じていなかったんだろうか。
- 467 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:25
-
- 468 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:25
-
公園につくと、梨華は一目散にあの樹へ走り出した。
一度振りかえって私に微笑んでから、また視線を樹へと移した。
「もうすぐ、ひとみちゃんの隣を離れるよ。」
誰に話しかけているのか分からない口調だった。
「そうだね。」
それでも、私は返事をした。
- 469 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:26
-
「……あなたと、離れたくないの。」
「うん…。」
私はそっと近付き、小さな彼女の頭を抱き寄せた。
「これが、夢だったらいいのにな。」
叶う筈もない夢を梨華は語った。
叶える事も出来ない、私。
- 470 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:26
-
そっと根元に座り込んで、私達は肩を寄せ合った。
ねえ、と梨華が言う。
- 471 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:26
-
「楽しかったよ。」
「うん。」
「素敵な、1ヶ月と3週間だった。」
「うん…。」
「ひとみちゃんに、恋をした。」
「私も梨華に恋した。」
「手を繋いで、キスもして…。」
「それから…。」
- 472 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:26
-
梨華は静かに微笑んだ。
少しだけ、恥ずかしそうだった。
私の心音を聴く様に、胸に耳を当てている。
風が梨華の髪を揺らす。
もう充分だよ、と彼女は言った。
- 473 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:27
-
「他になにも求めないって言ったのに、ひとみちゃんは私にたくさん色々してくれた。」
「…………。」
「ひとみちゃんに会えてよかった。」
膝の上にあった私の手に、梨華の小さな手が添えられる。
- 474 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:27
-
「変に思うかもしれないんだけど…。」
「なに?」
「私は、石川梨華に、ひとみちゃんの恋人に嫉妬してたの。」
梨華は罰の悪そうな顔をした。
- 475 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:27
-
「梨華は梨華だよ、私の恋人だよ。」
「…そうだけど、違うんだよ。」
知ってた?と聴かれても、私は頭を振る事も忘れていた。
呆然としていたわけじゃないけれど、ただ考えが現実に追いつかなかった。
なんて想像力のないダメな頭なんだ。
- 476 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:27
-
「ひとみちゃんにね、昔の話しをされる度、いいなぁって思ってた。」
「…あれは私と梨華の、私と君の話しだよ。」
「違うの。ひとみちゃんが見ている石川梨華は、私、石川梨華じゃないんだよ。」
梨華の声はか細くなっていく。
「1年前に死んだ石川梨華なの。1ヶ月と3週間前に生き返った石川梨華じゃないの。」
「そんなことないよ。」
「ううん…しょうがないの。私は、勝てない運命なの。」
- 477 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:27
-
想い出の中の梨華と、今私の隣にいる梨華を照らし合わせてみたけれど、違った所は何一つなかった。
「だから、頑張ったの。私なりに。今いる、1ヶ月と3週間前に生き返った石川梨華を、愛してもらおうと思って。」
「私は、今目の前にいる石川梨華が大好きだよ。」
恥ずかしそうに照れ笑いして、梨華は「ありがとう」と小さく言った。
- 478 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:28
-
時は、静かに過ぎていた。
早くもなく遅くもなく、ただ静かにその時を迎えようとしていた。
- 479 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:28
-
「どうしようもなく、ひとみちゃんの事が好きなの。」
「うん…。」
「離れたくなんかないの。」
「うん…。」
- 480 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:28
-
でも、やっぱりダメみたい。
- 481 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:28
-
梨華は小さな雫を流して、寂しそうに微笑んだ。
風が少しだけ強くなり、梨華の温もりと匂いを私に運ぶ。
- 482 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:29
-
「ひとみちゃん…いる?」
「ここにいるよ。」
「ひとみちゃんが話して…。声が、聴きたい。」
彼女の言葉にはっとして、私は身を強張らせた。
「梨華?梨華?」
「…変なの。目が、見えないの。」
- 483 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:29
-
自分の声も、梨華の声も震えている。
「涙のせいで歪んでるだけかな?」
「……梨華。」
「ひとみちゃん、いる?」
「いるよ…ここに、いる。」
- 484 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:29
-
梨華の、すぐ傍に。
- 485 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:29
-
「ひとみちゃん…見えないよ。」
「傍にいるから。ずっと、ずっと…。」
私は梨華の手を強く、ぎゅっと握った。
- 486 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:29
-
「あ……。」
「なに?」
「光が、見えるよ。」
「ほんとう?」
「ひとみちゃんの体温が、私に夢を見せてくれてる。」
- 487 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:30
-
梨華の言葉が胸を打つ。
私は、もっと強く掴んだ。
「どこにも、行っちゃやだよ…。」
「だめだよ…優しく、優しくして?」
- 488 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:30
-
梨華の言葉に、全身の力が抜けていく。
自分がこんなんでどうするんだ。
梨華をこの世界に引き止められるのは私だけなんだ。
優しく、優しく。
梨華の指先は震えていた。彼女は、膨大な恐怖と強い不安を感じていた。
それなのに、私に微笑んでいる。
最後ぐらい、梨華より強くあれ。
指先同士を絡ませた時、梨華の頬が光っているのに気が付いた。
- 489 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:31
-
「大丈夫。」
私が傍にいるから。
だから、泣かないで。
私の言葉に、梨華は微笑んで頷いた。
- 490 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:31
-
「ひとみちゃん。」
「なに?」
「ひとみちゃん…好きだよ。」
「うん。」
- 491 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/05(土) 23:31
-
梨華の瞳から大粒の涙が幾つも零れる。
その涙が止まるようにと、私は梨華の瞼に口付けた。
- 492 名前:作者。 投稿日:2004/06/05(土) 23:35
-
更新しました。
あと3回ぐらいで終わると思います。
>>463 プリンさん
際どい所で切ってすみません。汗
エコモニ。の石川さんを見ていると、言葉では表現出来ない思いになりますw
あ、良い意味で、ですよ。…(`▽´ )
- 493 名前:プリン 投稿日:2004/06/06(日) 14:40
- 更新お疲れ様です!
いやぁ…ドキドキw
綺麗な小説だにゃ(*´Д`)ポワワ
またまた続き激しく( w゚Д゚)wキボンヌ!!
言葉では表現出来ない思いですか…w
ミュに激しく行きたい今日この頃…
- 494 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:37
-
「いきたくないなぁ…。」
梨華は大きく息を吐いた。
「ここにいたい。」
「ごめん…ごめんね、梨華。」
「何でひとみちゃんが謝るの?」
- 495 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:37
-
だって、私は、君の願いを全然叶えてあげられない。
最後になるかもしれない、今だって。
涙で声が出なかった。
「ひとみちゃんが謝ることじゃないよ。ひとみちゃんが罪悪感を感じる必要は無いの。」
- 496 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:37
-
でも…だけどさ。
梨華は私にたくさんしてくれたのに、私は何も出来てない。
このまま、梨華の傍を離れる事なんて出来ないよ。
「何言ってるの…。ひとみちゃんは、私にたくさんしてくれたよ?」
- 497 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:37
-
何もしてあげれてないよ…。
「してくれたの!…悪いのは、私の方なんだよ?」
梨華は何も悪くない。
- 498 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:37
-
「私なんて、最悪だよ?こんなに愛してくれる人がいるのに、二度も傍を離れてしまうんだから。」
―――――だけど、そんな私をひとみちゃんは愛してくれてる。
- 499 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:38
-
うん。
もっと、梨華に色々してあげたかった。
「それじゃあ、お願いしていい?」
うん。
- 500 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:38
-
「『愛してる』って…ひとみちゃんに言って欲しい。」
うん。
分かった。
口に出した事は無かったけど、いつだって私の心にあった気持ちだよ。
- 501 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:38
-
「ほんとう?」
うん。
ずっと大事にとっておいたんだよ。
大切な、大切な言葉だから。
- 502 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:38
-
「…うん。」
一度しか言わないから、聴いてて。
「うん。」
- 503 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:39
-
愛してるよ、梨華。
- 504 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:39
-
だって君は、私のかけがえのない恋人なんだから。
世界で一人しかいないんだよ。
こんなに、こんなに愛してるよ。
- 505 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:39
-
梨華の気配が消えた。
- 506 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:39
-
「ありがとう。」
- 507 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:40
-
遥彼方から降り注ぐ様に聴こえる声。
- 508 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:40
-
「私も愛してる。あなたが、好き。」
- 509 名前:-U]W- 投稿日:2004/06/11(金) 21:41
-
それじゃあ、さきにいくね
ばいばい、ひとみちゃん
ばいばい
- 510 名前:作者。 投稿日:2004/06/11(金) 21:43
- ほんのちょっとだけ更新です。
>>493 プリンさん
ごめんなさい。とうとう、いなくなってしまいました…(つД`)
あと2,3回じゃ終わらないかも…爆
ミュの絡みぐわぁぁ。コンサもいきてぇぇ。
近頃、欲求不満のようです_| ̄|○
- 511 名前:吉作 投稿日:2004/06/12(土) 08:28
- 更新お疲れ様です!かなり切ないです。泣きそう…
- 512 名前:プリン 投稿日:2004/06/12(土) 19:50
- 更新お疲れ様です!
せ、切ない・゚・(ノД`)・゚・。
泣けてきますよぉ。
どうなるんだよぉ。気になるぅ。
ミュも紺も行きてぇよぉ。
だれかぁ〜(マテ
- 513 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:50
-
U]X
重い瞼を開き、握りしめていた左手をそっと開く。
残っていたのは、梨華の温もりと匂いと、桜色の霞だけだった。
- 514 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:50
-
ねえ、梨華?
はい。
…私の名前も呼んで?
- 515 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:50
-
ひとみ…ちゃん。
- 516 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:50
-
私の名前を呼ぶ梨華の声が心の中で響く。
温もりと匂いも風が消え去り、眩しい光に浮かぶ桜色の霞。
それでも、私は忘れられない。
私の名前を呼ぶ梨華の声。
梨華のたくさんの愛と、私への微かな願い。
彼女は最後まで素直な愛で私を支え続けていた。
- 517 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:51
-
喪失感は悲しみを与える為だけのものじゃない。
- 518 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:51
-
だけど、一人の夜はやっぱり寂しい。
テレビも見ずに、毎晩星も見えない夜空を見て、梨華の事を考えている。
- 519 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:54
-
# # # # # # # #
- 520 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:54
-
えっと、これを見る時にひとみちゃんの隣には私はいないと思います。
いたらすごく嬉しいなぁ。でも少し恥ずかしい。
この手紙がこのノートに挟まってるって事は、この小説を私が読んだと分かっちゃうよね?
でも、いいの。伝えたかったの。
だけど、伝えられなかった。
いつか、私が隣からいなくなって、ひとみちゃんが一人になった時。
もう一度この小説を書きながら、私の事を待っていてくれると願っています。
- 521 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:54
-
本当はあなたを一人になんかしたくない。
私はずっと、分かってた。ひとみちゃんはすごく繊細で優しい人。
だから、きっとその分傷付きやすいと思う。
ずっとあなたの傍にいて、あなたを守っていたかった。
- 522 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:55
-
ひとみちゃん。
あなたはすごく優しい人なの。
人より少し不器用なだけ。
そんなあなたを愛してくれる人は、きっと私以外にもたくさんいる。
あなたはすごく優しい人だから。
- 523 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:56
-
そんな優しさが大好き。
変わらないで、そのままでいてね。
- 524 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:56
-
あと、私が生き返った事なんだけど。
原因は、私も分からないの。ごめんね。
だけど…なんとなく、なんだけど、もう、こっちの世界でひとみちゃんと会う事は出来ない気がするの。
喪失の予感と似た感じでね。
- 525 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:56
-
生まれ変わればね、また出逢える気がする。
一度目の出会いも、そうして、私達はめぐり合ったんだから。
勿論、私は運命を感じてるし、信じてるから。
だけど…私はそれを望まない。
もう一度石川梨華のままで、ひとみちゃんと会いたい。
あなたに「梨華」って呼んで欲しいの。
- 526 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:57
-
そう、あなたの優しい声が好き。
何回も言ってるけどね、ひとみちゃんは優しいんだ。
きっと自分では気付いてないだろうけれど。
きっと、ひとみちゃんはもっと強くなっていく。
ううん。絶対に強くなれる。
そしたら、私を守ってね。
なんちゃって。
- 527 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:57
-
こうして2度目の別れを経験して、また強くなれるから。
だけど、いつまでも強さを求めないでね。
あなたは、それでも私を守ってくれていたから。
- 528 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:58
-
バイトを休んでまで私と過ごしてくれたり、
公園に行きたいと言えばすぐに連れて行ってくれたり。
一緒に桜、見に行きたかったな。
でも…もう満足です。私の願いを叶えてくれて、ありがとう。
- 529 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:58
-
もうすぐ、ひとみちゃんがバイトから帰ってきちゃう。
どうしよう!まだ、ご飯の準備出来てないのにー…。
今日も「ただいま」「おかえり」って、夫婦みたいにできるかな?
実はすごく楽しみなんだよ。毎日毎晩。
- 530 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:58
-
私がこっちにずっと生きている事が出来たら……。
- 531 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:58
-
ごめんね。怒るかな?
それでも、離れても、私を愛してくれますか?
きっと答えはイエスだよね。そう、信じてるよ。
- 532 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:59
-
私は待ってる。
ずっと、ずっと、あなたを待ってる。
求めるものはあなたの愛だけなの。
他に何も要らないの。
- 533 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:59
-
何があったって、私はいつもあなたの中にいる。
いつだってあなただけの事を考えてる。
- 534 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 21:59
-
どうしようもなく好きなの。
こんなに人を好きになるのは、最初で最後。
ひとみちゃんが最初で最後。
- 535 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:00
-
私の人生は恋によって成り立ち、あなたの愛によって支えられてきた。
きっと、これからもそれは変わらないよ。
例え私があなたの傍を離れなくてはいけない時が来ても。
私はあなたの事しか見えない。
私は、あなたの愛を忘れる事なんて、絶対に出来ないの。
いつだって想ってる。胸の中に、秘めた想い。
- 536 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:00
-
約束どおり、時間が来ました。
- 537 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:02
-
最後にお願い。お願いしすぎかな?
私の事を忘れないで。私の、愛を忘れないで。
片隅でもいい。置いてください。なーんて。
- 538 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:02
-
どうしようっ!?
ひとみちゃんの足音がする。
帰ってきちゃうよぉ!!
早く、これ隠さなきゃ!
- 539 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:02
-
私の一番大切な人が、一番愛する人が、私を呼んでる。
- 540 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:03
-
「ただいまー梨華ー?」って。
- 541 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:03
-
たった一人の、愛しい人。
- 542 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:03
-
おかえりなさい。
ずっと、待ってたよ。
- 543 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:03
-
# # # # # # # #
- 544 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:04
-
- 545 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:04
-
桜色の封筒。桜色の便箋。
桜色で綴られた文字。梨華の、言葉。
そして、桜色の花弁。
梨華の匂い。梨華の温もり。
そして、梨華の愛。
全て忘れる事など出来ない。
- 546 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:04
-
梨華。
ずっと、待っていてくれるかな?
今すぐにでも飛んで行きたいけれど。
もう少しだけ待っていてくれるかな?
- 547 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:05
-
君に出逢えた時の事を考えていれば、一年も二年も、清んだ川の流れのようにあっという間に過ぎていく。
- 548 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:05
-
だから、少しだけ待っていて。
こんな弱い私でも、強くなって、君を必ず迎えに行くよ。
希望を持って待っていて。
願い事もたくさん考えておいていいよ。
全て、叶えてみせるからね。
- 549 名前:-U]X- 投稿日:2004/06/16(水) 22:06
-
だから――――――――――――
- 550 名前:作者。 投稿日:2004/06/16(水) 22:09
- ちびちびと更新しました。
>>511 吉作さん
レスありがとうございます!
そう言ってもらえると嬉しいです…いや、喜んでいいのか?汗
>>512 プリンさん
レスありがとうございます!
こうなりました(何
ああ、プリンさんをコンサに拉致りたい(言葉間違えてマス)
- 551 名前:プリン 投稿日:2004/06/17(木) 18:29
- 更新お疲れさまですm(_ _)m
いやぁ〜……いいところ。
な、泣ける・゚・(ノД`)・゚・。
拉致ってください(マテ
- 552 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:10
-
U]Y
エピローグとしてこの物語を君に捧げよう。
読んでくれる事を信じている。
大切な君に、愛を込めて。
- 553 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:10
-
* * * * * * * * *
- 554 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:10
-
「大丈夫?」
「う、うん…。」
「じゃ、腰ちゃんと持っててね。」
「うん。」
少し嫌なエンジン音。でも、すぐに静かになる。
ビュンと音がして風が私達と逆方向に走っている。
- 555 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:10
-
「ひとみちゃーん!!」
「なにー!?」
「こわーい!!」
そう言う梨華の声は楽しそうだった。
背中越しの梨華の体温。
春の木漏れ日のような、仄かな温かさ。
やがて、あの白い建物が見えてきた。
梨華が躰を起こしたのが分かった。
- 556 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:11
-
「ついたよ。」
速度を緩め、私は地に足をつけた。
「さあ、行こう。」
エスコートするかのように、梨華の手を取った。
梨華の顔は喜びに満ち溢れている。
- 557 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:11
-
「ここが、私と梨華が出逢った場所。」
「私とひとみちゃんが出逢った場所…。」
梨華の手がするするとほどけていく。
空を仰ぎながら歩く姿は、なぜか幼かった。
次々に舞い落ちる花弁をただ眺めている。
「不思議な気持ちになる…。」
- 558 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:11
-
そう言った彼女自身が、不思議な雰囲気を漂わせていた。
少し驚いて聞き返す。
「え?」
「綺麗すぎて、なんか恐いね。」
「ああ…うん。そうだね。」
- 559 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:11
-
無数に聳え立つ木々。
いくら降っても、積もる事なく風に遊ばれ流されていく。
梨華が私の手を再び取った。
そして、いつもの微笑で「行こう」と走り出す。
遠くでは部活動に励む生徒の声がする。
梨華のいたテニスコート。私のいた体育館。
どこからも声がする。
だけど、なんとなく二人の世界。
- 560 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:11
-
「入っちゃって、怒られないかな?」
「大丈夫だよ。」
少し躊躇う梨華を引き連れて、私は5階へと向かった。
「何があるの?」
「秘密。」
「教えてよ。」
「だめー。」
- 561 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:12
-
「ばか」と言って先を駆け出す梨華。
幻に陥る。錯覚。夢だろうか。
ごく自然に、高校生に戻った気分。
もう感じる事の出来ない筈だった、あの甘い痛み。
- 562 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:12
-
「梨華!!」
なんだか分からない顔をした梨華に、私は目の前のドアを指差した。
No.5と書かれた扉。
- 563 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:12
-
そこは何に使う為に造られた部屋か、私は知らない。
ただきちんとグランドピアノから何から楽器は揃っていた。
私と梨華が来ていたのは、このNo.5の部屋しかないのだ。
梨華が弾いていたピアノはこのNo.5の部屋のピアノだけなのだ。
- 564 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:12
-
「目、瞑って。」
「何するの?」
「いいから。」
半ば強引に目隠しする。
ドアを静かに開け、梨華の手を引いて中に入る。
中心辺りまで来て梨華の手をそっと離した。
- 565 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:13
-
「ひとみちゃん?」
「まだだよ、まだ開けちゃダメ。」
「…うん。」
- 566 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:13
-
埃かぶっていたカーテンを開ける。
日差しに照らされ、舞い落ちていく無数の埃。
こっちを睨む作曲家達。
あのグランドピアノさえ、使われる事がなくなっていたようだ。
やはりここを出入りしていたのは、私達以外誰もいないらしい。
「3秒数えて目を開けて。」
「うん…。」
- 567 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:13
-
1………―――――――
2………―――――――
3………―――――――
- 568 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:13
-
- 569 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:13
-
「えっ?」
何の反応もない梨華に、つい間抜けな声を出してしまった。
「なによぉ…。」
「あんまり、すごくない?見た事ないよね?」
「…すごいよぉ…感動してるもん…。」
「え?梨華?」
- 570 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:13
-
ひょっとして、と顔を覗き込むと、
「見ないでよぉ!」
案の定梨華は泣いていた。
「何で泣くの?」
- 571 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:14
-
不安と驚きが入り混じる。
私はそっと梨華を抱き締めた。
「ごめんね。」
「謝んなくていいよ。」
「…さっきの桜と同じ。綺麗すぎて恐いの。」
- 572 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:14
-
綺麗なものも、いつか壊れてしまうでしょ?
きっとあの桜並木も、この音楽室からの風景も、いつか変わってしまう。
- 573 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:14
-
「でもね、ひとみちゃん。」
- 574 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:14
-
私達が刻んでいる心の中は、永遠に変わる事なんてないの。
こんなに綺麗で清んでいる想い出たち。
いくら経っても色褪せない。
- 575 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:15
-
「それって、すごいことでしょ?」
- 576 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/18(金) 22:15
-
涙で濡れた瞳は、すごく綺麗だった。
「うん。すごいことだね。」
そのまましばらく抱擁に浸りながら、二人で桜色に染まる町並みを見つめていた。
- 577 名前:作者。 投稿日:2004/06/18(金) 22:16
- 少しだけ更新。次回で完結です。
…といっても、更新分はあとほんの少しなんですが。
>>551 プリンさん
レスありがとうございますー。
拉致りますよ、ほんとに!
生紺の感動を味合わせてあげたい…(つД`)(偉そう)
- 578 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/18(金) 22:25
- 更新乙です。
両想いなのに別れはつらいですね。
でも二度目に出逢った石川の存在が、
吉澤の心の救済をしてくれているようで、
とてもよいお話だなと思いました。
見当違いナことを述べていたらすいません
- 579 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:43
-
「ねえ。」
「うん?」
「もう少し、いたいな。」
「分かった。」
- 580 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:43
-
彼女の隣に、いつまでもいたい。
このまま並んで歩いていたい。
このまま二人で見つめていたい。
風が舞い、花弁が舞い、私達の視界に現れては消える。
- 581 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:43
-
その朧気に見える幻の様な霞。
それは、梨華も一緒だった。
いつ消えるか分からない、風が舞えば消えてしまいそうな霞。
- 582 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:43
-
「ひとみちゃん。」
「うん?」
「どこにも行かないでよ。」
- 583 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:44
-
梨華の小さな手が私の服の袖を握る。
「行かないよ。」
私がそう言っても、梨華は俯いたまま。
- 584 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:44
-
「信じてよ。」
「…うん。」
そう言ったものの、ぽたぽたと雫は零れていく。
拭うことさえしてあげられない、私。
だって、私なんかの手が触れたら、刹那に梨華は消えそうだから。
- 585 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:44
-
「信じてって。」
「信じてるよぉ。」
やっと梨華は、少しだけ笑ってくれた。
桜の木の下で、私は梨華を優しく抱き締めた。
今までにない夢心地。
- 586 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:44
-
「もしも、不安になったら。」
「うん。」
- 587 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:44
-
桜の木の下で待っていて。
「うん。」
絶対に迎えにくるから。
信じて、待っていて。
- 588 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:44
-
幾らでも待ってるよ。
いつまでも、ひとみちゃんの事待ってるよ。
私は、信じてる。
絶対に迎えに来てくれるって。
- 589 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:45
-
ひとみちゃん。
ひとみちゃん、絶対に私を見つけてね。
私も絶対にひとみちゃんの元に戻るから。
あなたと二人で、またこうして桜が見たい。
それが私の望みなの。
今度出逢えた時も、あなたの隣にいさせてね。
- 590 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:45
-
勿論だよ。だって、私は梨華が隣にいなくちゃ、何も出来ないんだから。
- 591 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:45
-
「…もう大丈夫。ひとみちゃんの腕の中にいると安心出来るの。」
「私もだよ。梨華が腕の中にいると、すごく心地がいい。」
- 592 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:45
-
ありがとう、ひとみちゃん。
- 593 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:45
-
そう言って梨華は微笑んだ。
- 594 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:46
-
「帰ろうか。」
「うん。」
梨華と、手を繋いだ。
- 595 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:46
-
「ねえ、ひとみちゃん?」
「ん?」
「また、こうして2人で見れるよね。」
「うん。」
梨華は、もう一度微笑んだ。
- 596 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:46
-
桜吹雪の中、私達は肩を並べて歩いた。
- 597 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:47
-
繋いだ手を、二度と離さない。
- 598 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:47
-
* * * * * * * * *
- 599 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:49
-
Can't forget your love.-You&Me-
- 600 名前:-U]Y- 投稿日:2004/06/19(土) 14:49
-
-The End-
- 601 名前:作者。 投稿日:2004/06/19(土) 20:03
- 更新&完結です。
これについては、これっきり。番外編などは用意していません。
この作品についての詳細(元ネタとか参考になった曲)だとかは、
サイトの方に載せるつもりです。
まだ書けそうなので、次回からは中編の石吉、スタートです。
>>578 名無飼育さん。
レスありがとうございます。
無事、完結することが出来ました。
吉澤の心境の変化を読み取っていただけた様で嬉しいです。
…自分の方こそ見当違いな事言ってる気がorz
- 602 名前:レオナ 投稿日:2004/06/19(土) 21:18
- 完結お疲れ様です。
毎回楽しみに読んでおりました。
次回も、たのしみにしてるんでがんばってください。
- 603 名前:プリン 投稿日:2004/06/20(日) 19:33
- 更新&完結お疲れ様ですっ!!
終わり方がすげーカッケーですw
尊敬しちゃいますよぉ。自分には無理なんでw
次回の更新も待ってます!
ドキドキw
- 604 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:08
-
瞳を開くと、白い天井が見えた。
ゆっくり上半身を起こす。
どうやら私は、固い板の様な上で眠っていた様だ。
- 605 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:09
-
「おはよう。」
人間が椅子に座ってこちらを見ている。
彼女はゆっくり立ち上がり、私の方に近付いてきた。
「よく出来ている…。」
「できている?」
「君は、あたしが造ったんだ。」
- 606 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:09
-
彼女は微笑んだ。
よく辺りを見回すと、工具類が散らばっていた。
微笑んだ彼女の背景には、青い海が見えた。
「私は…?」
「君の名前はリカだ。」
「…リカ……。」
私の名前はリカ。
私の名前はリカ。
私はそう、記憶した。
- 607 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:10
-
「リカ。」
「はい。」
名前を呼ばれると、無意識に声が出た。
彼女の声と遠い波音が重なる。
「大切な話しがある。こっちにおいで。」
- 608 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:10
-
彼女の手が私の手に触れた。
この感触はなんだろう。ただ、触れただけじゃない。
心が安らいでいくようだった。
ああ、これが人間の持つ体温なんだろうか。
私には、体温は無いんだろうか。
「さあ、ここに座って。」
彼女は、自分の隣を指した。
小鳥の囀りが聴こえる。どうやら、今は朝らしい。
太陽の光が少しまぶしい。
それでも、彼女の笑顔はこんなにはっきりと見える。
- 609 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:11
-
「リカにはして欲しい事があるんだ。」
「はい。」
「あたしは、あと少しで死ぬ。」
「死ぬ?」
彼女の顔はすごく穏やかだった。
死ぬという意味を頭の中で検索した。
どうやら、死ぬというのは、呼吸や脈がとまり、命がなくなるという意味らしい。
命がなくなる?
- 610 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:11
-
「躰が、動かなくなるんだ。」
感覚が分からない。
なので、実感も湧かなかった。
私は少し困惑した。
死ぬ、という事が分からない。
分からないという気持ちは、私にとって恐怖心だった。
- 611 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:12
-
「それで、リカには死んだあたしを、あそこに埋めて欲しい。」
彼女が指差したのは、青い波が行ったり来たりする海。
その手前にある白い砂浜だった。
1本の大きな木が立っている。
桜という種類らしい。
名前と同じ桜色の花弁が舞っている。
- 612 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:12
-
「あの桜の木の根元に、あたしの恋人が埋まっているんだ。」
「その人も、死んだのですか?」
「そう。ずっとずっと前に、死んでしまった。」
- 613 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:12
-
淡々と語る彼女は表情を変えなかった。
私は、なぜか心が熱くなっていた。
だけど、落ち込んだように元気も無かった。
この気持ちは何だろう。
新しい、新種の気持ちだ。
「だから、その人の隣に、死んだあたしを埋めて欲しい。」
「分かりました。」
- 614 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/25(金) 22:13
-
そう言うと、新種の気持ちは溢れそうになった。
なんというか分からない。
脳の中を検索しても見つからない。
今度、きちんと調べてみよう。
- 615 名前:作者。 投稿日:2004/06/25(金) 22:16
- 新作スタートです。ぁゃゃ18歳おめでとー。
>>602 レオナさん
レスありがとうございます。
ご期待に応えられるかどうかは分かりませんが、それなりに頑張っています。w
新作も楽しんでください…って言っていいんだろうか。
>>603 プリンさん
完結できましたーありがとうございます。
尊敬だなんて!嫌だなぁ(誰
- 616 名前:naga 投稿日:2004/06/25(金) 23:07
- 新作来ましたね。
楽しみにしてたんで嬉しいです。
前作もすげえ良かったです。これからも追っかけます。
そんでは頑張ってください。
- 617 名前:プリン 投稿日:2004/06/26(土) 13:00
- 新作キタ━(゚∀゚)━!!w
更新お疲れ様です。
今回もまた面白そうだぁ。
次回の更新もマターリ待ってますです。
頑張ってください。ではぁ。
- 618 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:41
-
今日、水色の小鳥が一匹死んでいた。
それを片手で拾い上げると、あの人から伝わる様な温もりは無かった。
不思議に思った。だけど、すぐに答えが出た。
死ぬと、冷たくなるんだ。
また一つ、死という事について学んだ。
だけど、相変わらず実感は湧かなかった。
- 619 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:42
-
「リカ。」
「はい。」
「こっちに、おいで。」
彼女は、よくそう言って私を隣に座らせた。
いつもの通りに隣に座ると、肩に腕が廻ってきた。
「これを見てごらん。」
- 620 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:42
-
机の上に並べられていたのは、数枚の写真だった。
どの写真にも彼女は写っていた。
今とは違う、笑顔を見せていた。
「これは、どこですか?」
二枚目の写真の彼女は、たくさんの人達を一緒に写っていた。
後ろには白い建物と、彼女と同じ服を着た人がたくさん歩いている。
「通っていた学校だよ。今もまだ残っているかな…。」
- 621 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:42
-
最後の四枚目の写真には、彼女と女性が一人、二人しか写ってなかった。
彼女の隣で微笑んでいる女性は、私の顔と一緒だった。
背景は、あの海だった。
櫻の木の根元に二人は座り、肩を寄せ合い、微笑みあっている。
「それが、リカだ。」
「この人も…リカ?」
「あたしの、大切な人。」
彼女の声は震えていた。
彼女は恐れていた。何に怯えているのかは分からない。
けれど、彼女は恐れていた。
- 622 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:43
-
恐れている彼女を見て、私も少し怖くなった。
「いつの写真ですか?」
「ずっと前。何十年も前。」
それでも、写真に写っている彼女と今私の隣に座っている彼女は、変わらなかった。
二人の笑顔を見ていると、私はまた新しい感情を抱いた。
今までに感じた事の無い痛さだった。
- 623 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:43
-
彼女の震えはいつしか止まっていた。
しかし、私の恐怖は収まらない。
いつの間にか、私の恐怖は変化していた。
分からない、という事は困惑につながり、恐怖へ繋がっていた。
この人が死んでしまう、と思うと。
この笑顔が見られなくなる、と思うと。
痛みは激しくなっていった。
今日、死んだ水色の鳥を見た時よりも、
それを拾い上げて体温を感じる事が出来なかった事よりも、
何よりも辛かった。
痛かった。
- 624 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:44
-
「リカ。」
「はい。」
数日経っても、私はあの気持ちを何と言うのか知らずにいた。
だけど一つ分かった事がある。
私は、彼女の声が好きだという事に気付いた。
低く響く声。
私の名前を呼ぶ時の声が、一番好きだという事にも気付いた。
- 625 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:45
-
「死という事について、何か分かったかい?」
彼女は、よくそう私に聴く。
その度私はいいえと言う。
彼女は怒る事なく、ゆっくり頷く。
そしてその度思うのだ。
その穏やかな表情も好きだ、と。
午後、私は海辺へ行った。
今日は穴を掘る練習に来たためじゃない。
ただ、なんとなく来たかったから来ただけだ。
- 626 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:45
-
彼女に、怒られるだろうか。
そんな事、無いだろうと思った。
彼女が怒る姿を想像する事が出来ない。
いつも穴を掘っている場所ではなく、もっと櫻の木に近い所へ行ってみた。
静寂。
波音は、更に静かに揺れている。
音を造り出しているものは、一体何だろう。
私には造りだす能力という物は備わっていないらしい。
私は、本当にロボットなんだろうか。
- 627 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:46
-
そんな疑問を抱き始めた。
けれど、私の手首からはモーターの音が聴こえて来る。
やがてそれも波音に消されて、そんな事はどうでも良くなった。
………潮騒が遠くなる。
- 628 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:46
-
いつの間にか私は眠っていた。
櫻の木の根元に座り込み、隣には彼女がいた。
「ごめんなさい…。」
その横顔はいつもと変わらず穏やかだったけれど、私は謝った。
意識して言ったのではない。
言葉が、口から零れ出た。
- 629 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:47
-
「疲れてしまったのかな…?」
彼女の声が、いつもと違った。
私は少しだけ驚いて、顔を上げた。
「私が、働かせてばかりいるから…ごめんね。リカ。」
「…大丈夫です。私は、貴方の世話をするためにこうしているのに…休んでしまう私がいけないんです。」
少しの沈黙。
波の音が大きく聴こえて来る。
陽が沈んでいく。今日が終わってしまう。
また少し、彼女の死が近付いた。
- 630 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:47
-
不安が増していく。
何も言わない彼女。死んでしまう彼女。
私は、一体どうなるんだろう。
「ねえ、リカ。」
「はい。」
「…不安?」
「…はい。」
気付くと、私は温かい液体を流していた。
頬が濡れているのに気付く。
その温かさに、小さな感動を覚えた。
- 631 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:48
-
「段々と、人間らしくなってきた。」
彼女は笑った。少し、寂しそうに。
彼女は私を抱き締めた。吐息が髪にかかる。
彼女が私をこうして温かくしてくれる。
そのように、私も彼女を温かくしてあげられるんだ。
そう思うと嬉しくなった。
嬉しくて、また温かい液体が流れてきた。
彼女は何も言わずに、私をずっと抱き締めている。
その間も彼女の躰の内部から鳴る音は、少しずつ速度を落とし少しずつ元気が無くなって行った。
彼女自身は気付いていないようだった。
私は、その方がいいと思った。
- 632 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:49
-
いつも彼女は2階で寝ていた。
だけど、今日は1階で寝る事にしたらしい。
私がベットを貸すと言っても、彼女は首を横に振るだけだった。
私は本来、寝なくても平気らしい。
だけど彼女は寝なさいと言う。
なので私は睡眠をとる。
「おやすみ、リカ。」
「おやすみなさい。」
- 633 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:50
-
そう言って、彼女は瞳を閉じた。
私はどうせ眠れないので、彼女の寝顔を眺めていた。
いつも、寝る前に、知らない感情が溢れてくる。
いつか、彼女が死んでしまう。
そしたら私も死ぬんだろうか。
いつかは、私も死ぬはずだ。
海も、櫻の木も、小鳥の囀りも、潮騒も、全部全部見えなくなる。聴こえなくなる。
そう考えると、感情は溢れて、私は躰の中心部が痛くなる。
- 634 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:50
-
彼女が死んでしまったら…
彼女が死んでしまう…
彼女が……
生まれたばかりの時はこんな感情抱かなかった。
生まれてしばらくしても、私は自分の事しか考えなかった。
- 635 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/06/28(月) 21:51
-
だけど、今は、彼女のことばかり考えている。
自分の事なんでどうでもいい。
彼女がここにいてくれれば、私は寂しくない。
だけど、躰が痛くなる。
それでいいと思う。
私は、彼女の為に生まれてきた。
だから、彼女の事だけを考えていればいいと思う。
- 636 名前:作者。 投稿日:2004/06/28(月) 21:57
- 少しずつ更新です。意外と短いんで…。
>>616 nagaさん
レスありがとうございますー。
やりましたね?w
追っかけなくて大丈夫ですよ。失速してその内止まるんで。
>>617 プリンさん
レスありがとうございますー!
またーり諦めずに待っていてください(ヲイ
今回もよろしくお願いします(日本語大分変
- 637 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:45
-
次の日の朝。
「リカ。」
彼女は、いつもと何ら変わらない声で私を呼んだ。
「海へ行こうか。」
「はい。」
朝から二人で出かけるのは初めてだった。
今までは最短距離を歩いていたけれど、今日は彼女に付いて、ちゃんと造られた小道を歩いた。
エネルギーの無駄だと考えていた。
しかし、その考え方は変わった。
小道を歩くと、視界が広がり、世界が変わった。
ゆっくりと歩くのも良いと思った。
- 638 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:46
-
海につくと、彼女はすぐに桜の木の根元に座り込んだ。
あの写真と全く同じだった。
隣に、あの人さえ座れば、彼女は変わらずに幸せにいれたのだろうか。
それが、私では、ダメだと思った。
顔が一緒でも、体型が一緒でも、ダメだと思った。
どんなに彼女が似せてくれたって、私はあの人にはなれないと思った。
ならば、せめて幻でもと思い、彼女をそっと抱き締めた。
彼女はすぐに眠りに落ちた。
家に干してきた洗濯物が見える。
風が穏やかな、良い天気だった。
- 639 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:46
-
やがて私も眠りについた。
夢というものを初めて見た。
彼女が出て来た。
なので、一度現実だと思った。
だけど、私は人間だった。
モーターの音もしない。
素直に嬉しかった。
人間になれただけで、あの人に近づけた気がした。
彼女にとってのあの人の存在に、近づけた気がした。
彼女が私を抱き締めた。
- 640 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:47
-
すると、モーターの音がする。
何故だろう。やっぱり、私は変わらずロボットなんだろうか。
これじゃあ、現実と変わらないじゃないか。
だけど、違った。
モーターの音は私からするのではない…。
じゃあ、誰から……………?
- 641 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:47
-
「リカ。リカ、起きて。」
そこで夢は終わった。
私は眠りから覚めたのだ。
彼女が、心配そうな顔をしている。
私は何かしたのだろうか。
「どうしたんですか?」
「いや…なんでもないんだ。」
「………?」
彼女の考えている事が、初めて分からなかった。
「夢だと、思ったんだ…。」
彼女の考えている事が分からなくなればなるほど、
私はもっと彼女を知りたいと思った。
- 642 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:48
-
そう強く想い始めた頃、私はまた、痛い想いをした。
「…あと、約一週間程かな。」
それは、彼女の命の期限だと、私はすぐに断定した。
そうだ。
彼女は、死んでしまうんだ。
私はいつしか、その記憶を忘れようとしていたらしい。
なんてバカな考えだろうと思った。
忘れようとした所で、現実は変わってはくれない。
時は同じように日々を刻み、彼女の死へと近付いた。
- 643 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:49
-
「あそこの電気が消えそうだね。」
私が来た日、ピカピカと光っていた玄関の電球を見て彼女は困った顔をしていた。
彼女と電球を照らし合わせてみても、なんら実感は湧かなかった。
彼女の光は、死んでも失われない気がしたからだ。
何度も何度も穴を掘る練習をした。
この穴に彼女を埋葬するのかと考えると、涙が土に染みた。
- 644 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:49
-
彼女を知りたいと思う気持ちは、日々強くなっていった。
前に見せてもらった写真が、また見たくなった。
あの少女の笑顔が見たい。
その隣にいる彼女の笑顔が見たい。
いつしか私は、人間になりたいと想い始めていた。
- 645 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:51
-
「写真を見せてくれませんか?」
その日の夜、私は彼女にお願いした。
彼女は快く了解してくれた。
嬉しそうに写真を棚から出してきてくれた。
私は素直に疑問を抱いた。
「どうして、嬉しそうにするんですか?」
「リカが何かを望んでくれるのは、嬉しいことだから。」
彼女は、嬉しそうにそう言った。
「でも、本来、私はあなたをお世話する為に生まれてきたのですから、何も望んではいけないのでは…?」
私の言葉に彼女は少し寂しそうに笑った。
彼女はゆっくりと首を振りながら写真を差し出した。
- 646 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:51
-
前見た時と変わりない笑顔。
私も、こんな風に笑えているのだろうか。
彼女と同じ様に笑いたい。
「この人は、病原菌で死んだんだ。」
「病原菌…?」
「この人だけじゃない。みんな、病原菌のせいで死んだ。」
「でもあなたは生きている。」
- 647 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:51
-
笑いながら静かに首を振る彼女の心理が、私には読めなかった。
彼女は死を恐れてはいない。
だけど、何かに怯えている。
「検査をしたら、感染している事が分かった。それで君を作り出したんだ。」
本当に本当に、私はこの人に求められて生まれてきたのだ。
私が人間じゃなくても、私がロボットだとしても、
この人は私を求めてくれている。
私にはキチンとした存在理由がある。
- 648 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:52
-
「リカ。君には、最期まで隣にいてほしい。」
「分かりました…。」
たとえ、彼女がそう頼まなくても、私は自分から頼むつもりだった。
最期まで傍にいさせて下さい。
貴方の最期まで、私が私で在る理由を、失わせないで下さい。
そうして死は近付いていく。
- 649 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:53
-
彼女の躰は言う事を訊かなくなった。
たまに手足が痙攣し始めたり、思う様に目が見えなくなってきた。
彼女は苦笑しながら私を見つめた。
その瞳の色は熱を帯びていた。
瞳に映る私の顔は、酷く心配そうだった。
心配だ。当たり前だ。
彼女の躰がどんどん蝕まれていくのを、私は見ている事しか出来ない。
ロボットなのに助ける事も出来ない。
- 650 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:53
-
彼女を疲れさせないように、となるべく傍にいるのをやめた。
彼女が私を呼んだ時だけ、私は彼女の隣に走った。
それ以外の時は、家の中をブラブラしたり、海へ行ったりしていた。
- 651 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:53
-
洗濯物を干している時、海辺に彼女の姿が見えた。
波と戯れる彼女を見て少し胸が疼いた。
彼女と目が合った。こっちを見て笑っている。
その時、私は洗濯物を持ったまま固まっている自分の姿の情けなさに気付いた。
慌てて、白いタオルをパンパンと叩いても、照れ隠しにしかならなかった。
それでも彼女はしばらく笑っていた。
私の体温はどんどん上昇し、頬は赤く染まった。
これがなんという気持ちかは知らないけれど、胸の辺りは「くすぐったい」とよく似ていた。
- 652 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:54
-
彼女が笑うのをやめた。
私も、見てない振りをした。けれど実際、まだ姿を追いかけていた。
彼女はしばらくブラブラと歩いていた。
櫻の木の前で立ち止まると、そっとそれに触れた。
その切なそうな表情に、不安と心配で胸が痛んだ。
彼女は瞳を閉じて、そっと額を預けた。
あの、微笑みあっていた少女の声が聴こえるのだろうか。
あの少女の心は、きっと今でも彼女が持っている。
彼女の躰の中心部で、彼女を支えている筈だ。
- 653 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:55
-
私には充分それが分かった。
彼女はあの少女を支配している。あの少女も彼女を支配している。
だから、私が生まれてきた。
あの少女と全く同じ、私。
私は幻でしかないんだろうか。
生まれてこない方が良かったのかもしれない。
その想いはどんどん大きくなっていった。
止めなきゃいけない、と思いつつも、私は止める事が出来なかった。
想いは、溢れた。
- 654 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:55
-
彼女がこっちを見ている。
私は、一度視線を合わせても、すぐに逸らしてしまった。
視界の端で彼女が寂しそうに俯いた。
私は、先ほどからずっと真っ白な洗濯物を、もっと綺麗にしようとした。
けれどこれ以上綺麗にならなかった。
想いも、溢れてしまえばそれで終わりだ。
考えなければ良かったなんて思っても遅いんだ。
私は、彼女の死がやがてくるその日まで、この苦しい思いを持ち合わせて生きていかなければならない。
生まれてこなければ良かったのに。
- 655 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/11(日) 14:55
-
その想いは、彼女の恨みへと繋がる事になっていた。
彼女を恨みたくはない。
だけど、私はこの出来事はプラス思考に考えられる思考を持ち合わせていなかった。
また、そこで、私は彼女を恨んだ。
どうして、こんな想いをして生きなければいけないんだろう?
……前の私だったら「彼女の為」と言えたのに。
- 656 名前:作者。 投稿日:2004/07/11(日) 14:55
-
更新終わります。
- 657 名前:プリン 投稿日:2004/07/14(水) 16:15
- 更新お疲れ様です♪
お久しぶりでし。
なんだか不思議な雰囲気で(w
(・∀・)イイ!感じですw
よっちゃん…どうなっちゃうんだよぉ。
心配で心配で。
次回の更新も待ってます!
最近全然レスしてなくてごめんでし。
でも、ちゃんと見てるんで頑張ってくださいね!
では。また〜♪
- 658 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:32
-
庭で取れた野菜を調理していると、ふいに彼女の気配がした。
振り返ると彼女はビックリした様に「ゴメン」と謝った。
「どうかしましたか?」
私は、先ほどの出来事を思い出した。
そして彼女への恨みが、私を支配した。
苦しかった。痛かった。
また、彼女を恨んだ。
「いや、ただ…。」
彼女は照れくさそうに髪を掻いた。
その左手もまた、痙攣していた。
心配と不安と恨みが入り交ざる。
その色は、「愛しい」だった。
- 659 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:33
-
「ご飯は、いらないよ。たまにはゆっくり休んで。」
彼女の言葉は少しおかしかった。
言葉だけじゃない。動作や仕草も。
私は不安になった。
病原菌による仕業なのだろうか?
死が、もうすぐそこまで来てしまったのだろうか?
「あ、ゴメン。そういうんじゃなくて…。」
「え?」
「…少し、傍にいてくれない?」
- 660 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:33
-
私は少し安心した。
やっぱり、彼女は私を必要としてくれている。
けれど、恨みの気持ちも完全には消せずに、少々ぎこちない微笑みを返してしまったのだった。
彼女はいつも通りに長椅子に座った。
けれど、私を横に座らすのに一度自分が立ったりと、その仕草はおかしいものばかりだ。
時折、何かを考えているのか、遠い世界に行っている気がする。
そして、ジッと見つめていた私を視線が合うと、照れくさそうに俯くのだ。
私も私で、先ほど考えていた事で頭がいっぱいで、正直、彼女と面と向かった話すのは複雑だった。
「明日の昼には…。」
不自然に、彼女が言葉を発する。
膝に置かれた両手。激しく痙攣している。
困惑の色は見えないけれど、彼女は苦笑しながら握り拳を作った。
- 661 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:33
-
「今日の貴方は少しおかしいです。」
私は不安を隠せず、そう言った。
彼女は苦笑いと握り拳を作ったままだ。
「貴方の事が心配です…。」
本当に、私は無能だと思った。
心配ってなんなんだろう。
彼女は、死ぬと分かっているのに。
違う。そんな心配じゃない。
どう違うの?
答えは返って来ない。
分からない。
- 662 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:33
-
「ありがとう。迷惑かけて、ごめん。」
彼女は私の肩に腕を廻した。
その腕からは、少しずつ温もりが冷めている気がした。
「だけど、心配なんてしなくていい。私は、明日の正午には死ぬだろう。」
彼女の顔は、いつもと変わらず穏やかだった。
穏やかな笑顔の頬には、涙が光っていた。
「それでも、私は心配してしまいます。」
「いけない事じゃないんだ。それに、あたしはリカに心配されて、嬉しい。」
彼女は私を誉めてくれた。
頭を優しく撫でてくれた。
- 663 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:34
-
生まれたばかりの私なら、素直に喜べていた。
ああ、この人の役に立てたのだ。だから、この人は喜んでいるのだ。
そう思えた。
だから、私も嬉しかった。
なのに、今の私は。
今の私は、優しくされると悲しくなってしまうのだ。
何故だろう?
「リカ…?」
彼女に名前を呼ばれても、私は返事さえ出来なかった。
俯いた顔は、一生あげられないと思った。
それほど、私の上にある彼女の優しい声は、重かった。
私にとって、重かった。私にとっての、全てだった。
名前を呼ばれるのが好きだと、いつ分かったんだっけ?
- 664 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:34
-
「どうしたの?」
大丈夫です。心配しないで。
言葉が出ない。
分かっている、けど、言葉が出ない。
「リカ…震えてる。泣いている。」
彼女は独り言の様にそう呟いた。
「どうして震えているの?」
- 665 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:34
-
分からないと言葉が発せず、ただ、首を左右に振るばかりだった。
その間も私の瞳からは温かい液体が溢れ出た。
瞼を閉じて、また開くと、縁に溜まっていた涙が、また溢れ出す。
「どうして?君は死なない。何も、恐れる事は無い。」
彼女の言葉に、不快感を感じた。
それ、は、間違いだったからだ。
私は、恐れている。恐れる事がたくさんある。
失う物があり、なくしたくない物がある。
どうしたらいいかも分からない。
- 666 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:35
-
例えば、彼女がいなくなる。
私は彼女を失う。
そうすると、私は1人になる。
青い小鳥も、死んでいく。
私は、青い海と白い砂浜に一人になる。
なのに、彼女は櫻の木の下で、あの少女と一緒になれるのだ。
- 667 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:35
-
二人で寄り添い、眠るのだ。
私には寄り添う人がいない。
一緒に眠る人はいない。
独りぼっち。
そんなの、ずるい。
怖い。恐い。
彼女を失うのが恐い。
- 668 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:35
-
「…いなくならないでください…。」
やっと出た言葉。
私は卑怯だ。卑怯で、愚か者だ。
そう思った。
だけど、彼女だって卑怯だ。
すごくずるい。
私を作って、安らぎの時間を永遠に手に入れるのだ。
「傍にいてください…。」
だから、私は、彼女に何度もそう言った。
彼女の困った顔を見れば、少しは痛みも安らぐだろうと思ったからだ。
- 669 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/07/20(火) 17:35
-
だけど、私の思い通りにはいかなかった。
彼女は私の予想以上に酷く困った顔をしていた。
そして、正反対の優しい手で、私の髪を撫でていた。
私の痛みはどんどん激しさを増してった。
彼女を苦しませると、私も苦しむ。
そうなる事が分かった。
だけど、彼女が死んだところで、私は死ねないのだろう。
そう思った。
- 670 名前:作者。 投稿日:2004/07/20(火) 17:41
- ちょっと更新。次回で完結。
レスがきたので、あげました。
>>657 プリンさん
レスありがとうございます。
よっちゃんは、次回……読んでのお楽しみです。爆
プリンさんが謝る事じゃないですよー。
- 671 名前:プリン 投稿日:2004/07/21(水) 18:01
- 交信・・・じゃなくて更新お疲れ様ですw
ヒィィィィ!!(´Д`ノ)ノ
よっちゃんどうなっちゃうんだぁ〜!!
次回読んでのお楽しみですかw
じゃぁ、マターリ待とう。
かしまし、亀吉いいですよ・・・(w
石吉も・・・自分的には発見しちゃったんですが(謎
次回の更新待ってます!
頑張ってください♪
- 672 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:44
-
次の日の朝。
時間はゆっくりと流れている気がしていた。
だけど、普通に過ごしているうちに、あっという間に正午になった。
彼女は、苦しそうに息をしていた。
だけど、私の姿を見ると、嬉しそうに笑った。
「リカ。隣に、座って。」
彼女の言葉は、小さくて聴き取りにくかった。
それでも私は彼女に最後まで迷惑かけたくないと、彼女が思うままに行動した。
彼女はいとおしげな視線で、私の髪を見つめていた。
私はされるがままに、彼女の胸に耳を押し付けた。
トクントクンと音が聴こえる。
「ここで、このまま、死にたいんだ。」
- 673 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:44
-
一度俯いたら、もう二度と顔を上げられないと分かっていた。
私は、分かりました、と返事も出来ずにいた。
現実から目を背けたくて瞳を閉じようとしても、涙が零れるだけで何も変わらなかった。
「あたしが死ぬまで、ここにいて…。」
「…あなたが死んでも、ここに、あなたの傍にいます。」
何とか言い切った。
けれど、もう次の言葉は無いと思った。
今度声を出したら、それは嗚咽に変化しそうだったから。
「…リカ、話して。」
「………。」
私は首をふるふると横に振る。
- 674 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:44
-
「リカの心を知りたいんだ。」
彼女はそう言った。
彼女は、そう求めていた。
私は彼女の為に出来る全ての事をしようと決めていた。
だから、素直に私の心を話す事にした。
『…きこえますか?』
彼女は無言で頷く。
私は、心の中という名の空間で、彼女へ声を届けようとしていた。
『私は、あなたを憎んでいます。』
私の言葉に、彼女はゆっくり頷いた。
- 675 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:44
-
『この世界に私を創りあげたあなたを憎んでいます。
死という物とは無縁でいた筈の私を、埋葬させるために生んだあなたを憎んでいます。
埋葬する死体があなただということ。その事実をも憎んでいます。
私は、全てのものを憎んでいます。
………でも、憎みきれなかった。
それは、私が、憎んでいる物を、憎むと同時に愛しているからです。
- 676 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:45
-
あなたが生まなければ、私はこの世界を目に写すことは無かった。
青い海。白い砂浜。緑の庭。水色の小鳥。海に沈む夕陽。あなたの声。月明かりに照らされる青い波。青い風。
全て、みなくて済んだ。
あなたが生んでくれなければ、私はこの世界を目に写すことは出来なかった。
青い海。白い砂浜。緑の庭。水色の小鳥。海に沈む夕陽。あなたの声。月明かりに照らされる青い波。青い風。
全て、みられないでいた。
なかでも、私はあなたの事を一番憎んでいます。
…そして、一番愛しています。
- 677 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:45
-
なぜ、私はあなたを憎むんでしょうか?
答えは昨日、分かりました。
憎むというのは仮の言葉です。私の本来の気持ちは悲しみなのです。
あなたがいなくなる。
私を置いて、あなたがいなくなる。
あなたは私に、死んだあなたを埋葬するように言う。
怒らずにいられるでしょうか。
私とあなたの想いにはずれが生じているのです。
だから、あなたが安らかに眠れても、私の涙は止まりません。』
- 678 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:45
-
彼女は、ピクリとも動かなかった。
まだ生きている。
私は分かる。
『あなたが死ぬ理由。それは病原菌ではありません。私は、知っています。』
私の言葉に、彼女はふと顔をあげた。
その顔に表情は浮かんでいなかった。
- 679 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:45
-
『あなたは、何年間1人で生き続けてきたのですか?』
「…もう、かれこれ数百年経つだろう。」
彼女は海を眺めてそう言った。
- 680 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:46
-
『あなたも…私と同じように造られたのですね。
だから、私が小鳥に名前を付けてと言っても、あなたは付けてはくれなかった。
そうではない。付けられなかった。
あなたは、何かを生み出す能力というものは、備わっていなかったからです。』
全てを知っているような私を見て、彼女は最早何も言うまいといった感じだった。
- 681 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:46
-
『それを知った時、私はもう一度あなたを憎みました。
どうして、そう教えてくれなかったのだろう。
どうして、病原菌という嘘を出したのだろう。
生み出す能力が備わっていないあなた。
だとしたら、私にも心を備え付けなければ良かったのに、と。』
「…だましていて、ごめん。」
- 682 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:46
-
彼女はすまなそうに謝った。
「だけど、病原菌は嘘じゃない…。」
『………?』
「リカは、病原菌で死んだんだ。」
一瞬、私の事かと耳を疑った。
- 683 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:46
-
「リカは、この世界の全人種を喰い尽して行った脅威の病原菌の、第一感染者だった。」
- 684 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:48
-
彼女は顔色を変えずに言った。
だけど、涙を流している事はすぐに分かった。
私は心の中で知っていた。
リカという少女が彼女を創り出した。
彼女が、私を創り出した。
それと同じように、私もまた造り出してしまうのかもしれない。
そうして、創り出した「あなた」に、私と同じような想いをさせるかもしれない。
そう、分かっていた。
だから、彼女に何も言えなかった。
- 685 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:48
-
「ああ、残念だな。」
彼女の言葉で全てを悟った。
時間がきたのだ。
そう分かった時、私は急に胸が痛み始めたのを感じていた。
何か、言わなきゃならない言葉がある筈だ。
「もう少し、あと少しだけ、リカとこうしていたかった…。」
彼女は笑顔でそう言う。
ウィーンという機械音が、序序にスピードを落とし始めている。
- 686 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:48
-
「リカ。」
「…はい。」
「もしも、君が私と同じように…このように死ぬ時がきたら…。」
「………。」
「また、私の隣にいればいい。そうして、死んでいけばいい。」
「…死んだ後も、隣にいてはいけませんか?」
「……かまわないよ。」
- 687 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:48
-
モーターの音がだんだんと小さくなっていく。
待って…
まだ、行かないで…
もう少しだけ…止まって下さい…
私は、あなたに言わなければならない事があるのです…
言わなければならない事が…
私は、あなたを…
私は……
- 688 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:49
-
「私は……」
彼女はこちらを見た。
少し恥ずかしくなった私を見て、彼女はほんの少し微笑んだ。
私は大きく息を吸った。
言わなきゃならない事は何か。
分かっている。
- 689 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:49
-
私は…あなたに感謝しています。
この世界に生んでくれた事を感謝しています。
そして、造ってくれたのがあなただった、という事に喜びを感じています。
憎んでいたと言いました。嘘ではありません。
しかし、それは愛ゆえに、という事だったのです。
彼女が、微笑む。
私は、櫻の木の下にあなたを埋葬します。
あの人の隣に、あなたを埋葬します。
毎日、あなたに会いに行きます。
波音をあなたの声だと思うこともあるでしょう。
- 690 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:49
-
もしも、私があなたと同じように、
あの人と同じように、
新しい生命をこの世界に造りだしたら、
あなたとの日々と同じように時を過ごすでしょう。
そして、私が死ぬ時が来たら、
櫻の木の下に埋葬してもらうのです。
あなたの隣に埋葬してもらうのです。
- 691 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:49
-
花弁は、散るでしょう。
そして、青葉が茂るでしょう。
きっと、櫻の花弁は、とても綺麗な色になるでしょう。
- 692 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:49
-
彼女が、ゆっくりと頷いた気がした。
モーターの音が小さくなり、速度が緩み、
- 693 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:50
-
・・・・・・おやすみなさい
- 694 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:50
-
やがて、静かに止まった。
- 695 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:50
-
<了>
- 696 名前:海に咲く櫻 投稿日:2004/08/04(水) 14:51
-
- 697 名前:作者。 投稿日:2004/08/04(水) 14:54
- しばらく時を止めていてすみません。
色んな事でなんかボロボロだったんですけど、なんとか復活出来ました。
三人ゴトのおかげか?w
>>671 プリンさん
こんな終わり方で申し訳ない…。
かしましは聴けば聴く程深みが出るというか、
ただ単に耳から離れないというか…w
あっという間に8月ですねー。
そういや、今年はシャフールないのかぁ。。。
- 698 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/04(水) 23:42
- 完結お疲れ様でした。
二人が静かに寄り添う姿や
その周りの淡い場景が、すんなりと頭に浮かびました。
そして思わず涙してしまいました。
切ないお話、ありがとうございました。
- 699 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:41
-
傍にいてあげる。
- 700 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:42
-
「どうしよう…どうしよう、よっすぃ…。」
縋る泣き声。
求めているのは、果たしてあたしの腕なんだろうか?
華奢な腕は変わっていない。
その温もりだって、弱弱しさだって。
何も変わっていない筈だった。
ただ、一つだけ。
いや、もっとあるかもしれない。
だけど、ただ、たった一つ。
確信を持って言える事と言えば、
彼女の一番近くにいるのは、あたしじゃない。
- 701 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:42
-
「私…本当に、あの人の事…好きなのかなぁ…?」
その言葉はまるで私を試しているかの様で。
どこまでが限度なんだろう。
二人きりの夜。
一方的な躰を寄せ合い、小さな背中に腕を廻せば、
彼女はいとも簡単に私の物になってしまう。
「ねぇ、よっすぃ…私、分かんないよ…。」
今まで幾度となく、どんな意地悪をしてきたって、
彼女は腕を離してはくれなかった。
敢えて言えば、もう片方の腕で、しっかりとアイツの手を握りながら。
- 702 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:42
-
そうだ。
この子は、きっと我儘なんだ。
欲しい物を両手に抱えて、いつでも上目遣いであたしを試す。
テレビじゃ見せない様な厭らしい視線を向けて来る。
そうされる事を望んでいたのは、結構昔だ。
今じゃ、迷惑なだけだ。
「…私、やっぱり…よっすぃの事…。」
- 703 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:43
-
続きを聞きたくなくて口を塞いだ。
それが、ただ、唇同士だっただけの話しだ。
キスなんて軽い物は、あたし達の間では通用しなくて。
一度本気になれば、それは彼女の為に死ねる程愛しただろう。
冗談なんかじゃない。本気だ。
彼女に殺される事実を喜んで受け入れるあたしだって存在した筈だ。
だから、あたしは、彼女を拒んだ。
彼女を拒んで、態々アイツにくれてやったんだ。
なのに、泣かせやがって。
- 704 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:43
-
「…よっすぃ……。」
「誰にも、言っちゃダメだよ。」
あたしの言葉に彼女はこくんと頷いて、それっきり。
またあの瞳であたしを試す。
無意識なんでしょ?知ってるよ、そんなの。
一番、近くで見ていたんだから。
ずっとずっと、彼女だけ見ていたのに。
- 705 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:43
-
ねぇ、梨華ちゃん。
知ってた?
あたし達、両想いだった事あるんだよ。
知らなかったでしょ?
- 706 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:43
-
今だってそうかもしれないね。
あたしが好きっつったら、梨華ちゃんも好きって云うでしょ?
分かってるよ。
だけど、あたしは云わないよ。
だって、あたしには梨華ちゃんを幸せにする事が出来ないから。
- 707 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:44
-
どんなに想いが通い合ってても、ずっと一緒にはいられない。
あたし達は自ら望んでそういう世界に入ってきてしまった。
昔の自分を幾ら憎んだって、別の世界での彼女との出逢いを望んだって、
時間はゆっくりと過ぎて行く。
ねぇ、そうでしょ?
もう、何人がいなくなったんだろう。
「…私、一人だなんて…耐えられないよ。」
「自信持てって、マネージャーにも言われたんでしょ?」
- 708 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:44
-
その言葉が、彼女にも捧げられた。
然程驚きはしなかった。
なんとなく、勘付いていた事だ。
代わりに、あたしが辞められたらなぁ…なんて、
呟いた所で彼女は怒るだけだろうに。
- 709 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:44
-
「……私、考えて考えて…娘。も大好きで、あの人も大好きだけど、
もっと別に、失っちゃいけない物があるんじゃないかって…。」
気付くのが遅いんだよ…。
「…ずっと、ずっとね、私の事見ててくれる人がいたのに…。」
もう、ダメだよ。間に合わない。
「ねえよっすぃ、私、よっすぃの事…。」
- 710 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:45
-
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――−−−−−−−−−
- 711 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:45
-
もうこれ以上苦しめないでよ。
こんなに、こんなに、ずっと好きだったんだよ。
ずっと、ずっと、梨華ちゃんだけ見てた。
あたし、アイツの代わりに傍にいてあげるから。
いつだって、梨華ちゃんの事見ててあげるから。
呼んでくれれば、抱き締めてあげられるから。
- 712 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:45
-
だから、お願いだから、「好き」だなんて言わないで。
- 713 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:46
-
- 714 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:46
-
「…よっすぃ?」
- 715 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:46
-
触れられない君をただ想う事も、
幸せな君をただ願う事も許されず、
同じ空は明日を始めてしまう。
例え、君が此処にいなくても。
例え、あたしが息を止めても。
- 716 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:47
-
次の日。
隣にいる筈の彼女がブラウン管に映っている。
脱退、ソロ、来春。
色とりどりの踊る文字。
- 717 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:47
-
一番ずるいのはあたしだ。
どんなに誤魔化そうとしたって、この気持ちに嘘はつけない。
- 718 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:47
-
梨華ちゃん。
大好きだよ。
こんなに、ずっと大切にしてきた。
大好きだよ。
眠っている間だけでも、幸せに出来ているかな?
- 719 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:48
-
もう、一緒にいられないんだね。
誰の代わりにしてもいいよ。
寂しい時はいつだって、
あたしが傍にいてあげる。
- 720 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:48
-
傍ニイテアゲル。
- 721 名前:傍にいてあげる。 投稿日:2004/08/09(月) 23:48
-
傍にいてあげる。
- 722 名前:作者。 投稿日:2004/08/09(月) 23:52
- 海に咲く櫻の番外編、櫻色の想いが出来るまで、
時間稼ぎに数本短編を書こうかなと思ってます。
…ちょっと書きたかったのと違う。orz
>>698 名無飼育さん
ありがとうございます。
泣いていただけるなんて…。こっちも嬉し涙が(つД`)
こちらこそありがとうございました。
引き続き暗い話ばっかですが…お付き合い頂きたいと思います。
- 723 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:09
-
一緒にゴロゴロする事に焦りなんか感じてなかった。
ゆっくりゆっくり時間が過ぎていく。
二人だけしかいない感覚。
この、甘いひとときが大好き。
でもね、心なしか最近、私に対して冷たくない?
「ねえーよっちゃーん。」
「んー?」
生返事多くなったね。
「最近さぁ。」
「うん。」
「冷たくない?」
「なにがぁー?」
- 724 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:10
-
やりとりまでまったりしていて…バカみたい。
一番傍にいるから、もう手が届くところにいるから、
安心しちゃうし、これ以上何も要らないと思っちゃう。
そういう満足感に浸る事に、不安を覚え始めた最近。
ただ同じ部屋に二人でいるというだけでは、
足りないのかもしれないと焦り始めた最近。
「私に対して冷たくない?って。」
やっとこっち向いてくれた。
大きな瞳に映っているのは、私だけ。
何を思ったのかもう一回テレビの方に向き直る。
もう見るのやめてよ。
ハーフタイムぐらい、いいじゃない。
- 725 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:10
-
それともなに?
女子日本代表の中に、私より可愛い子でもいる?
「ねえってば。」
「そんなことねぇーよ。」
ブラウン管を見つめながら、時折様子を窺うようにチラリと視線を向けてくる。
心配してくれてるの?
それとも、怒ったと思ってる?
ねえ、私卒業しちゃうんだよ。
一緒にいられなくなっちゃうんだよ。
…私、一人になっちゃうんだよ。
- 726 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:10
-
強くなったって言ってくれたのは嬉しかったよ。
だって、あなたの為に強くなりたい、強くなろうって思ったんだもん。
だけど、本当は全然弱いし、もっとちゃんと捕まえてて欲しい。
私、全然変わってないもん。
弱いし、すぐ泣くし、不安だし、
相変わらずバカみたいによっすぃの事大好きだし。
強くなんかないもん。
すごく不安だもん。
一人になんかなりたくないもん。
ずっと、ずっと、よっすぃの傍にいたいもん。
- 727 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:11
-
「…バカよっちゃん。」
聴こえないだろうなと思いながら、ボソッと呟いた。
惨めさからくる恥ずかしさと、泣きそうなのを見透かされたくなくて、
足を抱えた腕に頭を伏せた。
「なに?石川さん、怒っちゃったの?」
ソファが少し沈んだ。
体育座りをした私の隣に、あぐらでもかいて座ってるんだろう。
その、石川さんってやめてよ。
他人みたいな…。
今は、冗談でも充分傷付くの。
- 728 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:11
-
返事をしないでいると、そっと肩同士が触れた。
だんだんと重みを増していくよっすぃの肩。
「…ねむいの?」
少し霞んだ視界で、よっすぃが私に凭れ掛かっているのが分かった。
瞳を閉じてだるそうにしている。
それでも、薄く目を開けてCM中のブラウン管に視線を寄せる。
何で、よりによって二人きりの時に眠くなるのよぅ。
今日だって雨さえ降ってなければ、出かけようと思ってたのに。
私の家に着いた途端からごろごろし始めてさぁ。
折角淹れた紅茶だって、飲まないまま冷めちゃうし。
話題作りに話した美勇伝の事だって、シカトするし。
なんなのよぉ…。
- 729 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:11
-
「んー…ちょっと。」
「ベットで寝ればいいじゃない。」
「怒ってんの?」
「…怒ってなんか…ないもん。」
バレない様に言ったつもりだったけど、語尾が少し震えた。
- 730 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:11
-
最近、忙しかったよね。
コンサートあって、のんとあいぼんがいなくなって、
フットサルの練習だって大変で、
よっすぃをいまいち支えられなくて不安がってた私を、ギュッと抱き締めてくれて。
こんなに好きなのに、何で上手く伝わらないんだろう。
- 731 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:12
-
「最近さぁ…眠れなくてさぁ。」
掠れた声で、静かに話し始めるよっすぃ。
いいの?後半始まるのに。
「寝たらあっという間に次の日来ちゃうから…そんな風にあっという間に、梨華ちゃんがいなくなる日がくんのかなぁって。」
キックオフ。
- 732 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:12
-
「そう考えたらさぁ、バカみたいに眠れなくなっちゃって…。」
試合中は、私が喋ったら怒るくせに。
「でも、梨華ちゃんの隣にいたら、バカみたいに眠くなって…。」
日本が負けたら「あそこで梨華ちゃんが話しかけたから」って言うくせに。
「…安心しちゃって…バカみたい…。」
- 733 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:12
-
耐えられなくなって、よっすぃにぎゅっと抱きついた。
愛しい愛しい温もり。
おっきな手が私を包み込んでくれる。
梨華ちゃん、って名前呼んでくれた時に、
もう我慢出来なくて泣きそうだった。
ほら、分かる?
私こんなに弱いんだよ。全然強くなんか、ないんだよ。
いつだって、よっすぃを必要としてるんだよ。
よっすぃの事を求めてるんだよ。
私だって、よっすぃがいなきゃだめなんだよ。
- 734 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:12
-
「…ごめんね。」
頭の上から優しい声が聴こえる。
よっすぃのその声聴くだけで、その優しい声聴くだけで、
私だって安心しちゃう。
バカみたいに、安心しちゃう。
「明日は、どっか連れてくから。」
首を横に振る私を無視して、よっすぃは更に腕に力を込める。
- 735 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:12
-
「寂しくさせたりしないから。」
「いいよぉ…よっちゃん、疲れてるんだから。」
「大丈夫。今日は、おかげで久し振りに眠れそうだし。」
すっごく嬉しかった。
不安も、焦りもどこかに飛んでいった。
しばらくして、よっすぃの力がふっと抜けた。
「だからさぁ…ずっと傍にいてくんない?」
- 736 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:13
-
返事の代わりに、目を閉じた。
言葉で言うよりも気持ちが素直に伝わる気がして。
唇が優しく触れ合う。
甘い甘い、長いキスだった。
どれだけ嬉しかったかなんて分かんない。
キスしてる間ずっと、目を瞑っててもよっすぃの顔が見えてた。
よっすぃの温もりが私の心に夢を見せてくれた。
夢中でぎゅっと首に抱きついた。
- 737 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:13
-
「苦しいじゃんかよぉ。」
「それだけ好きってことぉ。」
「なんだよぉ、それー。」
どっ、とソファに倒れこんだ。
久し振りに見た笑顔だった。
いつからか、しばらく失われてた笑顔だった。
ほっぺを擦りあったり、くすぐりあったり、
私が上よっすぃが下になって、ずっとごろごろしてた。
- 738 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:13
-
久しぶりにイチャイチャしたって感じ。
何回も何回もよっすぃが「梨華ちゃん」って呼んでくれた。
すごく嬉しかったのと同時に、
私は呼んでもらいたかったんだって改めて知った。
泣きそうな程嬉しかったから、
代わりに何回もキスしてあげた。
- 739 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:13
-
「くすぐってぇよぉー。」
ふふふって笑い合って、もう一回口付けた。
気付けば試合は終わり日本は2−1で敗れてしまっていたけど、
よっすぃは文句を言ったりしなかった。
- 740 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:14
-
その夜は、いつもより長く感じられた。
真っ暗闇の中でひたすらによっすぃの手を求めた。
月明かりに照らされた愛しい寝顔を見て、少しだけ泣いた。
寝言だったけど「好き」って言ってくれて、嬉しくて、また少し泣いちゃった。
そして、今はただ、よっすぃがぐっすりと眠れるよう祈るばかりだった。
起こさぬように、そっとずっと、愛を込めてよっすぃを抱き締めていた。
- 741 名前:バカみたい 投稿日:2004/08/25(水) 01:14
-
おわり。
- 742 名前:作者。 投稿日:2004/08/25(水) 01:15
-
間違えてageてしまった自分が一番バカみたいorz
- 743 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/25(水) 13:48
- 更新お疲れ様です!
最初のお話から短編まで一気に読みました。
素敵な話の数々、もっと早くこのスレの存在を知っていればと後悔。
やっぱり、いしよし(・∀・)イイ!!
これからも楽しみにしてます。
- 744 名前:プリン 投稿日:2004/08/25(水) 20:39
- 更新お疲れ様です♪
バカでもいいんだよぉ(*´Д`)ポワワ
甘いのとてもいいよぉ(*´Д`)ポワワ
ハワイに激しく行きたい今日この頃…はぁ…orz
いしよしは仲良くやってるかなぁー(w
次回の更新も待ってます。
- 745 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:38
-
そういえば、最近気まずいかな。
今日だって、まだ一言も話してないじゃんか。
話しかけようかな。
…無理に話しかける事無いか。話したい事が出来たら、自然にすればいい。
何を焦っているんだろう?
時間は、たっぷりあるのに。
それでも、話したくてたまらなくなっていた。
必死に頭の中で、言い訳を考えていた。
そんな自分に、笑いが込み上げてくる。
あたし、どうしちゃったんだろう。
- 746 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:39
-
「いしかわぁ?」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、そこには光が広がっていた。
「あのさ…前に貸したDVD、返してもらったっけ?」
「え、あ…まだ返してない…ごめん。」
「分かった。いや、誰が持ってたっけなぁ?って思ってて…。」
- 747 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:39
-
無理してる笑顔。
分かっちゃうよ。
これでも、4年もよっすぃの事好きなんだから。
「いつでもいいからー。」
手をひらひら振っていっちゃうよっすぃ。
いやだなぁ。
なんとなく、傍にいてほしいなぁ。
「え?」
そう強く思っていたら、よっすぃが振り返った。
え?あたし声、出しちゃってた?
- 748 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:40
-
「…?」
「な、なあに?」
声、上ずってる。
今更、何緊張してるんだろ。
「あの、手。」
「え…?」
あたしの手は、ガッチリよっすぃの服の袖を握っていた。
ボーッとしすぎだよね…いくら、なんでも。
袖握っちゃうくらい、強く思ってたのかな。
- 749 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:40
-
「どうかした?」
「…あのさぁ、今日、返しに行ってもいい?」
「…え?」
「DVD。」
よっすぃは静かに頷いた。
「でも今日、雨降るってよ?」
- 750 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:40
-
今にも泣き出しそうな空を横目に、そう、そっと呟いた。
あたしも静かに首を振った。
それでも行く。
行きたいの。
言葉で伝えられなかったけど、よっすぃは分かってくれていた。
あたしの目を見て静かにもう一度頷いた。
雨なんて、カンケーないもん。
- 751 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:41
-
よっすぃの部屋は、珍しい状況になっていた。
いつもはきっちりと整頓されている部屋。
「ごめん、最近部屋片付けてなくて…。」
よっすぃ本人も苦笑していた。
よっすぃって、あんまり引きずらない人だと思ってた。
実際そうだったし。
でも、それはあたしがあたし自身に勝手に植え込んだ空想だったのかもしれない。
今頃になって気付く事が、こんなにたくさんあるなんて。
もう、貴方の事は全て分かったと想っていたのに。
それも、あたしがあたし自身に勝手に植え込んだ空想だったの?
本当は貴方の事、何も知らないの?
- 752 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:41
-
「…梨華ちゃん?」
「あ、ごめん…ボーッとしちゃってて。」
「疲れてるんじゃん?無理しなくて良かったのに。」
「無理なんかしてないよ!!」
あたしの声に、よっすぃは少し驚いていた。
よっすぃは、いつものよっすぃみたく言ってくれた。
そういう風に見せてくれた。
そういう風な演技をした。
あたしにはそう見えた。
たとえ、よっすぃがそんな事してなかったとしても。
- 753 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:41
-
すごく寂しくなった。
やっぱり、あたし、貴方のこと何もしらないの?
「なんとなく一緒にいたかったから着いて来たの…。」
この人の前では強くあれ。そう決めていた。
この人を守れるのはあたしだけだ。そう言い聞かせていた。
弱い姿なら充分見せた。心配だって充分かけてしまった。
だから、あたしが強くなるんだ。あたしが貴方を守るんだ。
そう決めていたのに。
- 754 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:42
-
「迷惑だった?」
「知っててきいてんの?」
首を横に振る。
知ってたつもりだったよ、どんな事も。
だけど、あたしの知らない貴方は、まだまだいっぱい潜んでいた。
「梨華ちゃん。」
いつの間にか、俯いていた顔。
優しい声で呼ばれそっと上げる。
「迷惑なわけ、ないじゃん?」
- 755 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:42
-
やっと、いつもの2人に戻れた気がした。
よっすぃの腕があたしを包んでいく。
温かな抱擁。微かな痛み。
この切なさは、どこからくるの?
ずっと探してた。
抱き締められて、貴方の匂いが広がった瞬間、そう想ったの。
あたしはこれをずっと求めてた。探してた。
こんなに傍にいたのに、手が届かなかった。
触れる事なんて出来なかった。
だけど、今は、貴方が誰よりも傍にいてくれる。
- 756 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:43
-
ねえ、聴いて。
「あたしね…。」
「うん。」
よっすぃの事を、守ろうと想ったの。
「何それ。」
だから、よっすぃよりも強くなろうと想ったの。
だけど無理みたい。
だって、よっすぃ、どんどん強くなってくんだもん。
- 757 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:43
-
「そうかなぁ。」
お惚け顔のよっすぃを見たら、少し昔を思い出した。
そして、涙が溢れそうになった。
目頭が熱い。
言葉を出せば、嗚咽に変わりそうだった。
「あたしは変わってないよ。梨華ちゃんも、変わってない。」
久し振りに呼んでくれた、その名前。
我慢していた筈の涙が溢れ出す。
- 758 名前:Double 投稿日:2004/08/27(金) 02:43
-
この腕の中にいられる期間が、たとえ決まっていても…
この温もりを私だけの物に出来る。
そう考えれば、私は元気になれるの。
ねえ、よっすぃ。
今は…何も言わずに、私を見てて。
私だけを見てて。
傍にいなくても、心の中でも、私だけを見てて。
…お願い。
- 759 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:44
-
言葉が届いたかどうかは、定かではない。
だけど、よっすぃは私に優しく口付けてくれた。
「…目を瞑って。」
2度目のキスの前に、よっすぃは温かな声でそう言ってくれた。
ギュッと首にしがみついた。
目を瞑るのが…少し、少しだけ怖かったから。
目を開けたら、あなたがいないなんて事、考えてしまったから。
一度見えた幻想はなかなか消えない。
それでも、あなたの唇の温もりはいつまでたっても、ここにある。
- 760 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:44
-
だから、私は目を閉じた。
幻想を振り払うかのように、ギュッと目を瞑った。
ギュッとあなたの首にしがみついた。
瞳の縁にたまっていた涙が、ポツポツと零れ落ちた。
お互い躰を少し離すと、なんだかすごく恥ずかしくて。
見つめ合うことさえ出来なくて。
それが、昔の私達みたいで。
「…梨華ちゃん。」
呟くように、よっすぃが言った。
どうしたらいいか分からず、私は俯いていた顔を上げた。
「…泣かないで。」
そう言って、よっすぃは涙を拭ってくれた。
- 761 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:44
-
……本当なんだね。
よっすぃは、本当に変わってなかったんだ。
私は信じてなかったのかな…?
ごめんね。よっすぃ。
だけど、今ならきちんと言える。
私達は変わってない。
強くなっているかもしれない。けど、その分弱い面だって見せ合ってる。
- 762 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:45
-
私、今、すごく心地いい。
「…キス、久し振りだったから。」
私、今、すごく幸せだよ…きっと。
「嬉しくて…泣いちゃった。」
素直な気持ちを言えば、言葉で伝えられない部分も、あなたは分かってくれるから。
- 763 名前:Double 投稿日:2004/08/27(金) 02:45
-
…まだ頼ってるのかな。
そうじゃないよね。
私達、一緒に進んでいるの。
きっと…そうだよね。
たとえ、居場所が違っても……。
- 764 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:45
-
「雨…あがったね。」
「うん…。」
ぼんやりと霞がかかった雲。
その空の上には、1つの虹の影なのか、2つの虹が並んでいた。
その虹があまりにも綺麗だから…
「……大好き。」
そう、呟いた。
よっすぃは私の肩を強く抱いて、静かに頷いた。
- 765 名前:Double Rainbow 投稿日:2004/08/27(金) 02:46
-
***End***
- 766 名前:作者。 投稿日:2004/08/27(金) 02:50
- いしよしか、みきよしか、かめよしのエロが書きたい。
ていうかただ単にエロが書きたい。爆
>>743 名無し飼育さん
レスありがとうございますー。
大丈夫です。まだまだ図太い生命力で書き続けるのでw
嬉しいお言葉ありがとうございます。
>>744 プリンさん
レスありがとうございますー。
ハ、ハワイだなんて…やめてください。妄想が膨らみます爆
すみません、自分が一番バカでしたw
次回作はいしよしか、かめよしか、いしよしみきの予定。
- 767 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/27(金) 07:14
- ぜひ、いしよしで。
- 768 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/27(金) 08:49
- 出来たら、いしよしで。
- 769 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/27(金) 12:04
- いつも楽しませてもらってます。
ここのいしよしは雰囲気があっていいですね。
たまにはいしよしみきとかかめよしも読んでみたいなと思ってます。
- 770 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/28(土) 00:25
- こういう感じ好きです・・
次回もできれば・・というかぜひ
いしよし・でおねがいしたく・・
- 771 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:17
-
Can you keep a sicret?
片付け、そして次の準備に追われる各スタッフ。
自分の番を撮り終えて、一段落のメンバー達。
しかし、疲れているのかいつもの様な元気な声は響かない。
石川と矢口が、鏡台の前でなにやら話している。
そういえば、最近よく一緒にいるんじゃないか?
そう考えつつも、加護の親指は止まらない。
かなり真面目な表情だが、一体誰に送信しようとしているんだろうか。
加護が携帯を閉じ、小さな溜め息を吐いた。
しばらくしてから立ち上がると、隣の空き部屋に移動した。
メンバーは誰一人として気付いていない様だ。
- 772 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:18
-
空き部屋のドアを静かに閉めて、加護はもう一度溜め息を吐いた。
「あいぼん!皆揃ってるよ!!」
「ほんま?すまん…。」
暗闇から声を発したのは、加護の相方辻だった。
よく目を凝らすと周りに数人、辻と小さな円を描いていた。
亀井、道重、田中の三人の様だ。
「じゃぁ、早速本題に入るけど…さっきのメールは見たよね?」
辻の隣に座り込んだ加護の顔を見て、一同が縦に首を振る。
「それじゃぁ、うちが言った意見に何か意見ある人いる?」
今度は皆一斉に首を横に振った。
- 773 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:19
-
「明らかに、あの二人最近様子おかしいですよ。」
「小川さんのせいかと思ってたんですけど…。」
「私は、藤本さんのせいかと…。」
「ちょっと絵里、それどういうこと?」
「どういうことも何もそ・の・ま・ま!見て分かるでしょ?藤本さんが狙ってるのは…。」
「あーやだ!聞きたくない!」
「ちょっ、うち分からんけん、説明して?絵里。」
- 774 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:20
-
6期の三人は舞い上がっているのか、どうも落ち着かない様子だ。
そんな三人を見て顔を見合わせ小さな溜息を吐く辻と加護。
どうやら、少しだけ彼女達の方が大人のようだ。
思い立った秘密会議は、今日が初めてなわけではない。
ここ何日か空き時間が出来れば五人はこうして集まっている。
ただ、本題はなかなか進まないようだ。
「話しズレてるって。」
「これじゃぁ何時まで経っても卒業出来ないよ…。」
辻がポツリと零した言葉に、三人の動きは止まった。
- 775 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:20
-
「あの二人が仲直りしてくれないと…。」
「そうだ。ねえ、ケンカの原因分かる人いる?」
加護の言葉に思い立ったように辻が言う。
三人は首をふるふると横に振る。
残念そうに俯く辻。
「そうだよねー…。」
三人は一生懸命思い当たる節を探しているようだが、なかなかその顔は晴れない。
「ひょっとして…。」
亀井の突然の言葉に四人は身を乗り出す。
- 776 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:20
-
「なになに?」
「絵里、どうしたの?」
「ひょっとして…私が…。」
「なに?」
「私が…したから…。」
意味深な発言に四人は顔を見合す。
当の亀井は、なんだか恥ずかしそうである。
「何をしたの?」
今おそらく全員が想っている事を思い切って辻が聞いた。
恐る恐るゆっくりと亀井の口が開く。
- 777 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:20
-
「…そんなの言えませんよぉ…二人の秘密なんですから♪」
「「「「はあ?」」」」
一体亀井は何をしたんだ。
誰に何を…「誰に」の相手は、なんとなく全員勘付いていた。
少し刺激が強いのか、発言者が亀井だったせいか、
どうやら一番ショックを受けているのは田中の様である。
道重はどちらかと言えば、この雰囲気を楽しんでいる。
「まあ…亀井ちゃんの言う事は置いといて。」
「…あとで詳しく説明してよ?絵里。」
「やだぁ♪♪」
- 778 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:21
-
頭を抱える田中。かなり楽しんでいる道重。
解決策を考える加護。もうお腹の虫が我慢出来ない様子の辻。
ひょっとしたら、考えていても仕方ないんじゃないか。
幼い自分達には格好よく解決する必要なんてきっと無い。
ただ仲が良かった二人に戻ってもらいたい。
それだけが願いなのだから。
ふと、加護はそう想った。
異様な雰囲気だったので発言するのには少し勇気が要ったが、
一刻も早く解決したい加護は思い切って挙手した。
「あのさぁ…もうこの際、言っちゃわない?」
「え?」
「なにを、ですか?」
どっかに飛んでいる道重と辻は放っておき、
取りあえず反応してくれた亀井と田中に説明をすることにした。
- 779 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:21
-
「だからさ、普通にケンカしないで、って言わない?」
「…そうですね…。」
「えー二人仲直りさせちゃうんですかぁ?絵里狙ってたのになぁ。」
亀井の発言に再び田中が落ち込んでしまう。
これじゃあ、埒があかない。
「やっぱり、二人っきりで話してもらえばいいんじゃないですか?」
いきなり道重が口を開いたので、加護は少々驚いた。
「周りの皆さんにも協力してもらって、二人きりで話してもらうべきですよ。」
「…そうだね。」
「さゆの言う事、当たってると思う。」
「えぇー…。」
- 780 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:22
-
少々不満気味の亀井と、もう言葉を発する気力もない辻を引っ張り、
取りあえずメンバーに話して廻る事にした。
飯田と矢口は快く了解してくれた。
紺野・新垣・高橋はまだ撮りが終わっていないようだ。
問題は、小川と藤本だった。
どうやって説明したらいいだろう。
ただ、楽屋から出て行けと言ったって二人は勿論理由が気になって聞いてくるだろう。
もしも本当の事を言ったらどうなる?
二人の表情が脳裏を掠める。
ここは手っ取り早く、飯田と矢口に二人を連れ出してもらう事にした。
- 781 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:22
-
「ミキティー。トイレ付き合ってー。」
「連れションなんてガラじゃないですよ、矢口さん。」
…………。
「まこと、なんか飲みいかない?」
「えっ?あ、そうですね!ちょっと待ってください、吉澤さん呼んでくるんで。」
「いい!よっちゃんはいいから!!」
「えっ?ちょっ、飯田さん?」
「た、たまには二人ではなそーよ。ね?」
どうやら、なんとか作戦通りに行ったらしい。
加護は一息吐いた。
しかし、時間はあまりない。
早速四人を引き連れて楽屋のドアの前にスタンバイした。
飯田はきちんとドアを少し開けて行く約束を守ってくれていた。
- 782 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:23
-
「見えますか?」
「うん、バッチリ。」
「ちょっと、さゆ押さないで。」
「いいじゃん。減るもんじゃないし。」
「バレたら終わりだかんね?気をつけてよ?」
それぞれ位置について、ドアに耳をくっつける。
先端にいる加護以外は二人の姿が見えない。
まだ少しばかり辻は飛んでいるようだ。
- 783 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:23
-
[…みんなどこ行っちゃったんだろね…?]
[知らない]
「…石川さん、相当怒ってますね。」
「シッ!さゆ静かにして!」
「絵里の方がうるさい!!」
[なんで最近冷たいわけ?]
[別に…冷たくなんかないでしょ?]
- 784 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:23
-
同期の辻と加護はもう4年近く一緒にいるが、
六期の三人は冷たい態度の石川を初めて見るのか、
相当驚いているようだ。
[冷たいじゃん。あたし、なんかした?]
[なんかもなにも…]
[やっぱあたしのせいなんじゃん…ねえ、言ってよ?]
[別に…]
石川の冷たい態度に、どうやら吉澤のテンションも下がってきたようだ。
二人は視線も合わさず背中を向け合っている。
いつもの喧嘩と少し違うかも、と加護は頭のどこかで想っていた。
ふと吉澤が立ち上がる。
石川の方にそっと静かに歩み始める。
鏡の前にいる石川はそんな姿に気付いたのか、わざと俯く。
- 785 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:24
-
[ねえ、あたし何した?]
[…………]
吉澤は静かに言う。
何もせずに、ただジッと石川の背中を見つめて。
ただならぬ雰囲気に、見ている五人のテンションは上がりっぱなしだ。
時折ニヤつく道重。頬を膨らませて「怒ってます」サインの亀井。
田中はもう見てられないといった感じだ。
[梨華ちゃん。こっち向いてよ]
[いや…]
[梨華ちゃんってば…]
[構わないで!!]
- 786 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:24
-
吉澤が触れようとした肩が、勢い良く振り返る。
薄々感じていたものが確信へと変わってしまった。
石川は泣いていた。
それでも、ジッと吉澤の瞳を見つめていた。
その強い視線は、どれだけ二人が想い合っているのか一目で分かる程だった。
吉澤の大きな手が、再び石川の肩に触れようとする。
しかし、もう石川は拒んだりしなかった。
ただ俯いて涙を流している。
[梨華ちゃん…]
[…………]
[梨華ちゃん]
- 787 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:25
-
返事がなくても、例え顔を上げてくれなくても、
ただ静かに優しく名前を呼ぶ吉澤。
愛しい彼女への視線は、本当に優しそうだった。
温かい愛の燈った瞳の中。
映るのは大切な大切な彼女だけだ。
右手が石川の髪をゆっくりと撫でる。
壊れないようにそっと、そっと。
[…梨華ちゃん…]
3度目の呼びかけで、石川がようやく顔を上げた。
二人は吸い込まれるようにそっと唇を寄せ合った。
それは、まるで何か洋画のようで。
あまりにも自然にそうする二人。
石川の華奢な両腕がそっと吉澤の背中に廻っていく。
- 788 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:25
-
「…静かになった。」
「加護さん、二人何してるんですか?」
「見えますか?」
加護はこれ以上に無いほどの高鳴りを覚えていた。
今まで二人のキスを見た事がないと言ったら嘘になる。
でも、こんな二人を見たのは初めてだ。
そう言い切れる。
これが本当にあの二人なんだろうか?
梨華ちゃんのあんな表情…
よっちゃん、そんなに優しい顔するの?
- 789 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:25
-
「さゆ、もうちょっと低くなってよ。」
「私だって見たいんだからぁ。」
加護以外の四人も我慢出来ずにドアの隅からひょっこり顔を覗き込ませる。
辛うじて二人の背中が見えるだけだったが、
その体制からして二人が何をしているのかはすぐに分かった。
真っ赤に染まる田中の頬。
驚きを隠せない亀井の表情。
ニヤけが止まらない道重。
ようやく戻ってきた辻。
- 790 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:26
-
[よっすぃ…]
[ん?]
[私の事、好き?]
石川は止まらぬ涙を拭くのも忘れ、吉澤にしがみ付く。
[好きって…ゆって…]
[…好き、大好き]
こんなに甘い空気というのを、全員見たことがなかった。
こんなに弱い石川を見た事はない。
こんなに優しい吉澤を見た事はない。
本当に、これがあの二人なんだろうか?
恋とは、愛とは、ここまで人を変えてしまうのだろうか?
- 791 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:26
-
[…不安になったんでしょ]
吉澤の優しい声とその言葉、抱き締めてくれる大きな腕に、石川はコクリと頷く。
肩に胸を埋めたまま何度も何度も頷く。
石川には見えてないだろう吉澤の微笑みは、
今まで見たなかでも一番温かかった。
[バカな梨華ちゃん]
[…だって、だって…]
[好きなのは梨華ちゃんだけだって、いっつも言ってんじゃん]
ふと、二人が五人の視界から消えた。
次の瞬間、楽屋の左の方からガタンという音がした。
- 792 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:26
-
[信じてないの?]
[…ちがっ…んっ…]
「じゃあ、あたしの事嫌いなんだ?]
[やだっ…い、じわる…]
今、ここで、この状態で、
「音声だけでお楽しみ下さい」は、五人にとってかなり無理な話しだった。
少し覗けば見えてしまう。
いや、本当は見ちゃいけないんじゃないだろうか。
これは本来二人だけの時間のものなんだし、
現に私達はこうやって隠れて見ているのもヒドい事なんだし。
二人の声を聴いているだけでも相当な悪戯なのに。
- 793 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:27
-
[…じゃあ、ちゃんと言って…]
[…んぅっ…はぁっ…]
[言ってよ…]
[だ…だっ、て…よっすぃがぁっ…]
でも、やっぱり見たい。
いや見るのは絶対によくない。
二人を仲直りしようと決行した計画だ。
もう、二人は見事に仲直りしてくれてるじゃないか。
それは、もう、ヤりすぎなくらいに。
だから、私達の出番はここで終わりだ。
もうこの先は二人にまかせればいい事だ。
というよりも、二人が決めなければいけない範囲のはずだ。
でも、やっぱり見たい。
- 794 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:27
-
「ちょっ、さゆ、重いってば。」
「れいなうるさい!」
「あー…もー…あたし、我慢できない。」
「亀井ちゃん、シッ!」
「あいぼんそのポジションずるい!!」
だめだ。一刻も早く、この場から立ち去らねばいけない。
加護亜衣。動け。
みんなを連れて、走れ。
頭では分かっていても、加護だって好奇心旺盛の年頃だ。
見たいものは、見たい。
- 795 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:27
-
[…りかちゃ、んっ…]
[よっす…はんっ…んぅぅ]
うん、見ちゃいけない。絶対にいけない。
いや、見たいものは、見たい。
たとえそれが、いけないものだとしても。
少し、少しだけ身体の位置をずらせば。
何度も壁や椅子にぶつかる音。
その先を、少し、少しだけでいい。
- 796 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:28
-
「…もう見てらんない…。」
「私も、あの腕に……。」
「無理。だめ。だめ、無理。」
「ありえないありえないありえない…。」
すっかり興奮しきっている様子の四人。
ボソリと妖しい言葉を呟き続ける亀井は、現実を受け止めていないようである。
見てらんないと言いながらも目を一際大きくして覗き込もうとする田中。
道重はまた飛び始めたらしい。
辻の連呼する言葉は、なぜか自分の腹に向かってである。
確かに、見てらんないし、無理だし、だめだし、ありえないし。
加護も充分壊れ始めていた。
こんな事になるはずではなかったのに。
- 797 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:29
-
[…すきっ…だいすきぃ…]
[……りかちゃん…]
二人の湿った声、石川の嗚咽が聴こえてくる。
もう、抑えられない。
こんな感情我慢出来ない。
五人が同時に大きく覗き込もうと踏み込んだ瞬間。
- 798 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:29
-
「なにみてんのー?」
軽快なその声、五人は息を止めた。
カチコチに固まった人形のように、ぎこちない動きで振りかえる。
「ねえ、なにみてんの?面白い?美貴にもみせてよー。」
五人の異常な空気に気付かない藤本はドアノブを手に取る。
「だああああ!!!!」
「だめだめだめだめ!!!」
「ダメです!絶対にダメです!!」
慌てて駆け寄った辻、加護、道重の三人が藤本を押さえつける。
- 799 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:30
-
「ちょっ、なんだよー離せー!」
「ぜっっったいにダメです!」
「いくら藤本さんでも、そんな、無理です!!」
「はあ?」
何が起きているのか分からない藤本はただクエスチョンマークを浮かべるだけ。
加護はようやく気付いた。
その後ろでいつもより更に小さくなって謝っている矢口を。
そして、その後ろ遥彼方から、小川麻琴がこっちに向かってくることを。
その隣には新垣、紺野、高橋がいることを。
その更に後ろから申し訳ない顔で飯田がこっちを見ている事を。
- 800 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:30
-
どうする?どうすればいいんだ?
今中に入って二人に「みんな来ちゃったから」なんて言えない。
だからといって、集まってきてしまった人々に「今お取り込み中なので」なんて言えない。
どうする?どうすれば?
ああ、こんな事になってしまうなんて。
全部全部自分が悪い。
だけど、どうすればいいか分からない。
混乱が大きくなっていく中、楽屋のドアが全開になった。
「どうか…したんですか?」
恐る恐る、出てきた石川が訊ねる。
少々服が乱れている気がしたが、当の五人には痛いほど理由が分かっている。
- 801 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:30
-
「もぉーるさいっすよー、折角寝れたとこだったのにー。」
…よっちゃん、もう少しマシな嘘ついて。
寝れたってある意味危険な発言ですよ、吉澤さん…。
「だってさぁー…あいぼん達がなんか、楽屋をのぞい…。」
しまった。ヤバイ。バレる。
そう思った瞬間、藤本の言葉がピタリと切れた。
何が起こったのかと振り返ると、道重が少し背伸びをして藤本に口付けていた。
一同、唖然。そして、呆然。
一度に色んな事が起こりすぎている。
- 802 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:31
-
「それ以上は言わないで下さい。」
なぜか随分と上手いキスと道重の上目遣いにヤられたのか、
思わず藤本はコクコクと頷いた。
「…わ、わかりました。」
「さゆ、ぬけがけズルイ…。」
ボソリと呟いた言葉、しかし、誰一人として聞き落とさなかった。
亀井は小走りで吉澤の元へと向かった。
すぐ隣に立っている石川には目もくれず、その大きな身体に飛び込んだ。
- 803 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:31
-
「吉澤さん!」
「は、はい…。」
次の瞬間、あっという間に吉澤の唇は奪われた。
「絵里の事も…抱いてください。」
「は、はい?」
- 804 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:31
-
「ちょっと亀井。絵里の事も?も、ってなによ。他に誰が…。」
「藤本さん!あたし以外見ないで下さい!!」
「…絵里、あんたマジ?」
「た、たなか泣くな。」
「いいださん、のんお腹へったぁ。」
「…撮り、もう終わりなんですか?」
「こ、このあと後藤さんと約束がっ…。」
…これ、全部うちの責任なん?
そう考えただけでも眩暈がする。
だけど、少しばかり嬉しかった。
この温かくてめちゃくちゃで大好きなモーニング娘。
数知れず見てきた場面が、なんだか歪んで見えた。
- 805 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:32
-
「で?説明してもらおうか、加護。」
ただ最後に不満だったのは、
散々亀井からラブコールを受けた吉澤が、
事情聴取に選んだのが加護一人だった事と、
「このあと、Wの仕事あるんだけど…。」
「本当の事言うまでかえさないから。」
その事情聴取が約1時間前後と随分長かった事ぐらいだ。
でも、二人の………を見ていたなんて、加護は死んでも言えなかった。
- 806 名前:Can you keep a sicret? 投稿日:2004/08/30(月) 00:33
-
おしまい。
- 807 名前:作者@負け組み 投稿日:2004/08/30(月) 00:41
-
ぼんとのんがいる、ちょっと昔の話し。
いしよしにするつもりが耐えられずに亀吉を少々……orz
まさかこんなに反応してくれる方がいるなんて思ってなかったんで、
すごく嬉しいです。
いしよし→かめよし→いしよしみきの順番でかけたらいいなと思ってます。
>>767 名無飼育さん
ぜひなんていわれたら…(´〜`O)
>>768 名無飼育さん
出来たらなんていわれたら…(´〜`O)
>>769 名無し飼育さん
きっちりとかめよしとかも書くつもりです。つもり、ですが。
すいません、今回のなんて雰囲気もくそもn(ry
>>770 名無飼育さん
できればなんて(ry ぜひなんて(ry
お願いなんてされると(#´▽`)´〜`0)溶けそうです。(ぁゃιぃ
取り敢えず次回は(0^〜^)続きは今夜ね(^▽^*) ということで、
今回の話しのちょっとした続きをば。
ちょっとしたとか言いつつ今度こそ完璧なエロを目指しt(ry
ハワイネタかきてぇー。orz
- 808 名前:プリン 投稿日:2004/08/30(月) 20:06
- 更新お疲れ様です♪
いしよしもみきよしもかめよしもめっちゃ大好きなんで嬉しいだすw
甘い(?)のもすごくよかっただすw
エロも期待しt(ry
自分も負け組みでござるよ…orz
もうそろそろ帰ってくるのかなぁ?帰って来たのかなぁ?
- 809 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/30(月) 22:37
- 更新お疲れ様です。
・・出来れば、ぜひ・いしよしで!の願いをかなえて
くれてありがとうごじゃります。
脳内があいぼんとほぼ同じ、あれやこれやと妄そ・・じゃなくて、
想像でいっぱいでした・・。 あ〜いしよし・イイです。
更新楽しみにしてます。
- 810 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:22
-
Good Morning.
んー……。
まだ寝かせてよ…。
まだ全然寝てないってぇ…。
いてっ。何か、叩かれてる?
花畑が見えるよー…。
あたしももうダメかぁ…。
花畑でシゲさんが踊っとるよ。シゲさーん。
あたしも仲間に入れろー…。
- 811 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:23
-
「んぐっ…いってぇ!?」
痛みの本部。腹を見る。
見事に蹴り、一発。
いってぇな…誰の足だよ…。
っつか、ほっそいなぁ…。
足…躰…この後姿は…はて。
アレ?亀井?が、何でいんの?
ここ…あたしんちだよなぁ?
「いって…亀井、足、入った。」
「…………。」
- 812 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:23
-
まさか、寝てんの?
って、ここベッドだから寝てておかしくないけどさ。
「亀井?」
え?シカトですか??
あたし、昨日なんかしたっけ?
………なんもしてないよなぁ。
だって昨日は、帰ってきてすぐ寝ちゃったし…。
亀井を連れ込んだのは覚えてるんだけど。
ホラ、見ろ。亀井ちゃんと服着てんじゃんかよ。
って…あたしは何の心配をしてんだ。
- 813 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:23
-
「亀井さぁん?東京都の亀井絵理さぁん?」
「…なんですか。」
うわっ。
めちゃくちゃ不機嫌じゃん。
あからさまに、怒ってんの?とか聞かない方がいいよなぁ。
「ど、どしたの…?」
「今起きたんです…寝てたんです…。」
- 814 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:24
-
もうちょっと、バレない嘘ついてくれ、亀井よ。
嘘だって分かっちゃうとこっちも気まずいじゃんか…。
明らかに意識的にあたしの腹蹴っただろ…。
ここはひとまず、落ち着いて…。
「亀井?こっち、向いてよ。」
「………やです。」
拒否?シカトの次は拒否ですかぁー。
埼玉県の吉澤さん、東京都の亀井さんに拒否られましたぁー。
………。
「かーめーい。お願いだから、こっち向いて。」
- 815 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:24
-
亀井は静かに起き上がった。
そして、ゆっくりこっちを見た。
俯いていたけど、すぐに分かった。
「…んくっ…。」
亀井は静かに、静かに、嗚咽を漏らした。
泣いてる……。
うん、見りゃ分かるよ。
東京都の亀井さん、泣いてるよ。
- 816 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:25
-
!?!?!?!?!?
「えっ?ちょ、ちょっと、亀井!?」
「…っ…くっ……。」
「ななななんで泣いてんだよ!?」
昨日やっぱ、なんかしちゃったのか?
まさか…。まさか、あたしは…。
でも、確かにこんなオヤジ先輩にヤられたら、空しすぎて泣くよなぁ…。
って、ふざけてる場合じゃないんだけど。
昨日の記憶も曖昧なもので、泣いてる理由なんて分かるわけがない。
どんだけ昨日のあたしを恨んだって、どんだけ亀井の涙拭いたって、
絶対に思い出せない事であり。
そして亀井をここまで傷つけた出来事であり。
…ヤバイぐらい心当たりがない。ていうか記憶がない。
- 817 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:25
-
「…よしざぁさんのっ…ばかっ…ぁ。」
「は、はい、ばかです!!」
「……うぅ…ばかっぁ…ばかぁ…。」
うん…ばかだよ、ばかなんですよ。
だから、教えて下さい。
「何で泣いてんの…?」
- 818 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:25
-
無言。
多分、泣いてんのはあたしのせいだよなぁー…。
泣いている姿。
痛々しくて、でも愛しかった。
見てるだけじゃ、我慢出来なくなった。
そっと抱き締める。
少しの距離を置いて。
亀井の躰は震えていた。
「ばかっ…!」
「ご、ごめっ…。」
- 819 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:26
-
腕を解こうとしたら、反対に亀井が抱き付いてきた。
亀井の髪は、いい匂いがした。
いけない考えだろうと思いつつも、時間が止まればいいとかクサイ台詞が頭を過ぎる。
こんな時まで変態なあたしは、もうどーしよーもない。
「ばかって…ゆって、ごめんなさぃ…。」
「こ、こっちこそごめん。」
いきなり謝ってくるから、思わずこっちも謝ってしまう。
亀井はだんだん落ち着いてきた様だった。
少し身体を離して亀井がふぅ、と一息ついた。
- 820 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:26
-
「何で泣いてんのか、教えてくれる?」
亀井はコクリと小さく頷いた。
「昨日…吉澤さんが、うちくる?ってきーてくれて…すごぃ嬉しくて…。」
「うん。」
「すっごい…ドキドキしてて、でも、よしざぁさんすぐ寝ちゃって…。」
「…うん、ごめん。」
「色々考えてたのに…一人でバカみたぃって、惨めな気持ちになっちゃって…でも、よしざぁさん、疲れてるから、仕方無いって思って…。」
- 821 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:26
-
話しを聞いてて、すんごい悪い事したと思ってた。
昨日誘った時の亀井の笑顔、覚えてる。
解ってたのに。
彼女の気持ちは、解ってたはずなのに。
あー…ほんとにバカだ。
「しょぉがなぃ…しょぉがなぃって…言い聞かせてたら…。」
「うん?どした?」
「よっ…よしざぁさんが…シゲさん、シゲさんって…。」
「言ったの?あたしが?」
- 822 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:27
-
亀井はまた、小さく頷いた。
頷いたと同時にまた涙が溢れてきたらしく、嗚咽が聴こえ始めた。
そんな亀井が、また愛しかった。
愛しいとかいう権利あんのか?
こんなに、泣いてんのにさぁ…。
「ゴメン…ほんっとにゴメン…。」
「大丈夫ですぅ…。」
そう言ってくれるけど、あんまり大丈夫じゃないご様子。
幾ら涙を拭っても、亀井の涙は止まんない。
だけどあたしはこんな時かける言葉なんて知らないし。
女の子泣かせるなんて、なんでヒドイ奴だ。最低だ。
分かってるけど、気持ちはそのまま言葉になんなくて。
- 823 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:27
-
「ほんとに大丈夫かよ…?」
「大丈夫です!!絵理、さゆに負けるつもりありませんから!!」
「へ…?」
「だけど…一つ、お願いしていいですか?」
「え?あ、うん。」
「お願い聞いてもらえたら、絶対涙止められますから。」
「うん…いいけど、何?」
- 824 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:27
-
まさか、「さゆを殺してください」なんていわないよなぁ。
幾ら亀井でも、それは出来ない…。
いや、普通に言わないか。
「すきって、ゆってください。」
「……へ?」
「すきってゆってください…。」
ごほん、と咳払いして、改めて亀井を抱き締めた。
ギュッと、強く。
- 825 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:28
-
「すき。亀井の事、誰より好き。」
改めて言ったら、結構恥ずかしかった。
「涙止まった?」
「はいっ…。」
照れ隠しに、亀井はすごく小さな声で返事してくれた。
「じゃ、朝ごはんたべよっか。」
「はいっ!!」
- 826 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:28
-
目は腫れていなかったけれど、涙の跡はくっきり残っていた。
胸が痛かった。
それでも、亀井が笑ってくれたから、あたしも笑った。
「あ……忘れてた。」
クエスチョンマークを浮かべる亀井の頬を挟む。
「おはよ。」
一瞬何だか分かんなかったみたいだけど、すぐまた笑顔になった。
- 827 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:29
-
「おはよぉございます。」
「亀井…?」
あれ?言葉出ない。
てか、口塞がれてる。
っていうより、キスされてる!?
- 828 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:29
-
「おはよぉの、キスです。」
………。
「心、読んだでしょ?」
「読んでませんよぉ。」
亀井は勝ち誇った様に笑った。
……こいつ、大物になるぜ。
- 829 名前:Good Morning. 投稿日:2004/09/24(金) 21:29
-
おわり。
- 830 名前:作者。 投稿日:2004/09/24(金) 21:35
-
うわっ、前回から時間経ち過ぎですが汗
甘々なかめよしを書くのはとても楽しいです。w
>>808 プリンさん
ありがとーございます。
順番的に次はみきよしでしょうか、はい。w
来年行けたとしてもいしかぁさんがいなくて7期がいる、と。
それって勝ち組なのか?汗
7期とかってもういいーよっちゃん好きな子なら誰でもいー。爆
>>名無飼育さん
ありがとうございますー。
名無飼育さんも二人に洗脳されましたね?フフフ(怪
自分もいしよしに虜にされた仲間ですのでw
次は多分みきよし。でなければいしよし。(ォィ
- 831 名前:プリン 投稿日:2004/09/24(金) 21:48
- 更新お疲れ様です!
待ってました(w
かめよし最高でございますですw
みきよしも期待してますよ(w
- 832 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:52
-
どうしよう。
何て言えばいいんだろう。
今年も一緒にいようね?
絶対、変だよなぁ。
あたしらしくないし…
- 833 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:53
-
別れが近付いてるのは日に日に感じてる。
なんて、嘘さ。
全然実感湧かない。
- 834 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:53
-
いしかわが隣にいなくなったら、とか、
あの声があんまり聴けなくなるんだ、とか。
想像も出来ない。
気付いてみれば、あたしはいしかわと出逢ってから、
声も聴かなかった日なんて1日も無いんだ。
今思えば、あの頃の忙しさはきっと幸せな時間だったんだろうな。
幼いあたし達はそんな事も知らずに、
2人でいたり、いなかったり。
今年は何があったっけ。
色々ありすぎて、あんまり覚えてないや。
- 835 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:54
-
初めの方に、いしかわがすんごい真っ赤になりながら、
「今年も一緒にいようね。」
って言ってくれたのは覚えてる。
あまりに嬉しくて、キツく強く、いしかわが「痛いよ。」って言うぐらい抱き締めた。
そう言いながらも幸せそうに笑ってくれるいしかわが、
ただ、ひたすら愛しかった。
5月の初めぐらいに、唐突に「ありがとう」って泣かれた。
何があったか分かんなかったけど、
いつものただのネガティブからの涙じゃないって、充分分かってた。
だから、あたしは理由を聞かなかった。
頭のどっか隅っこでは分かっていたけど、
まだその頃は、現実を受け止めたくなかった。
- 836 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:55
-
その月の終わりぐらいに、マスコミに卒業の発表をした。
泣きたくなるぐらい弱い自分と、
泣いちゃダメだって言ってる自分が混ざってて、
よく分かんないグチャグチャな頭のままで、
ただ、ひたすらボールを蹴ってた。
しばらくして、また普通の日々が戻って来た。
色んな時にいしかわの卒業の事を思い出しても、
もうあたしは泣かなかった。
なぜか、って、まだ隣にいしかわが居てくれるから。
- 837 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:56
-
まだ平気かなって思ってた頃、少しだけ弱さが出た。
ヒドい時は、初めての痛みをよく感じてた。
胸の痛みが強い程、いしかわには絶対に頼らない、と誓っていた。
仕事の時、よく隣に居てくれるのは美貴ちゃんさんだった。
美貴ちゃんさんはサバサバしてて、一緒にいて疲れない人だった。
ごっちんとも、よく話した。
辻と加護も、たくさんメールをくれた。
まいちんとアヤカの前では、素直に笑ったり出来るあたしが居た。
いしかわが少し嫉妬とかしてくれると、嬉しくてたまんなかった。
だから、いっつもは意地悪したりするけど、素直に嬉しいって言った。
あたしが成長すると、いしかわも変わってった。
時の流れも、それと一緒だと思う。
気付かないうちに周りは変化してて、
気付いた頃には、もう2004年が終わってしまう。
- 838 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:56
-
「よっすぃ?」
すぐ近くでいしかわの声がして、少しビックリする。
「…大丈夫?」
あーあ。
こんな心配そうな顔させないって、誓ったのにな。
ハッとしてデジタル時計を見たら、もう0時を過ぎていた。
何かカッコ付けて言おうと思ってたのに。
間に合わなかったな。
別れの時も、こんな感じなのかな。あたし。
- 839 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:56
-
「よっすぃってば。」
大丈夫って言わなきゃ。
…ううん、言っていいの?
いしかわの前では素直になるって決めた。
絶対にいしかわに心配かけないって、頼らないって誓った。
あたしは、もう弱くない。
いしかわが、ここまであたしを強くしてくれた。
ここまであたしに、自信を持たせてくれた。
だから、大丈夫って言うんだ。
- 840 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:57
-
「…よっすぃ?」
「大丈夫…。」
「え?」
「…じゃない。全然、大丈夫なんかじゃない。」
意思とは裏腹に、口走ってた。
やっちった。
でも、心のどこかで安心してるあたしがいる。
いしかわは、さっきより心配そうな顔して、
あたしの頭を優しく抱き締めた。
「どうしちゃったの、よっすぃ。」
- 841 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:57
-
ほんとだよね。どうしちゃったんだろ。
大丈夫。すぐに戻るから。
大丈夫。泣いたりなんか、しないよ。
今ね、必死で思い浮かべてんだ。
笑顔でいしかわに「バイバイ」って言う、強いあたしを。
それから、今、何て言おうか考えてる。
「今年も一緒にいたい」なんて、言わないよ。大丈夫。
あたし、そんなキャラじゃないしね。
- 842 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:58
-
「…よっすぃ。」
いしかわは、笑った。
少し嬉しそうだった。
少し寂しそうだった。
だけど、幸せそうだった。
すごく愛しいと思った。
だから、守りたいって思った。
あたしが泣いたら、いしかわも泣くから。
いしかわは演技が下手だから、悲しませたら笑ってもらえないから。
だから、あたしは泣かない。絶対に。
自分でこの笑顔を守る。
そう、決めたんだ。
- 843 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:58
-
「ありがとね。」
また、言った。ありがとって。
「大好きだよ。よっすぃ。ずっと、ずっと……。」
ずっと、なんだよ。
何でそんなに泣きそうなの?
何で我慢して笑ってるの?
あたしは、泣かないのに。なんで泣くの?
いしかわが泣いたら、あたしだって泣いちゃうよ。
- 844 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:58
-
この震える華奢な腕で抱き締められてるあたし。
どれだけ弱いんだろう。
いしかわは、どれぐらい強がってるんだろう。
どれぐらい我慢してるんだろう。
あたしが、もっともっと想えば、笑ってくれる?
「いしかわ。」
「…はい。」
「愛してる。愛してっから。」
- 845 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:59
-
いしかわは、何も言わずにこくりと小さく頷いた。
全然変わってなかった。
あたしが初めて「愛してる」って言った時の反応と、
何にも変わってなかった。
ひょっとして、変わってないのかな。なんにも。
あたしは変わらずいしかわの事が好きだし。
「ねぇ、よっすぃ。」
「ん?」
「私もね、愛してる。」
- 846 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 16:59
-
初めてじゃない?私がよっすぃに言うのは。
そう付け足して、いしかわは微笑んだ。
少し恥ずかしそうだった。
そんな顔されたって、こっちの方がはずかしーんだよ。
「いっつも、言えなくてごめんね。」
「ありがと。」
はにかんで笑ういしかわが愛しくて、
頭をくしゃくしゃ撫でた。
細い髪に指を滑らせると、あたし達の関係は何にも変わってないって分かる。
いつから黒髪になったんだっけ。
初めて茶髪に染めたのはいつだっけ。
香水変えたんだっけ。
またピンクのペディキュアしてる。
あのプーさん、まだ部屋にいんの?
- 847 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:00
-
「ねぇ、よっすぃ。」
「ん?」
上目遣いのいしかわにドキドキしてるあたし。
全然成長してないなぁ。
でも、少し嬉しいかもしれない。
いしかわは何にも言わずに、あたしの頬に手を添えた。
温かい。小さい手のひら。細い指。
「どした?」
「あのね、すごく不思議なんだけど。」
- 848 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:00
-
笑ってるけど泣きそうな声。
隠すように、あたしの胸に顔を埋めた。
よしよし、って頭を撫でていたけど、
あたしの方が先に泣くと思った。
一生懸命我慢した。きっと、ヒドい顔してる。
だけど、いしかわから見えないからいいや。
「私ね、今、すごく幸せなの。」
- 849 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:02
-
あと数ヶ月しか一緒にいられないと分かっていても、
あたしは特別な事を何もしなかった。
しなかったんじゃなくて、出来なかった。
いつも通りに抱き合って、何度もキスして、
お互いの温もりを感じながら眠りにつく。
何か特別な事しようと考えてみても、
卒業の事を少しでも考えると頭が痛くなった。
あたしがどれだけ苦しんでも、時間は止まってくんなかった。
いしかわは、いつもブラウン管の中で笑っていた。
卒業っていうのは、
いしかわにとって嬉しいコト。
あたしにとって嫌なコト。
すごく、不安が大きくなる。
- 850 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:03
-
「なんでだか、分かる?」
「…わかんねぇよ。いしかわは、あたしといれなくなっても大丈夫って事?」
自分でも驚くぐらい震えた声だった。
悔しいんじゃなくて、悲しいんじゃなくて、寂しかった。
この温もりをずっとずっと、ずっと感じてきた。
この温もりを感じて眠りについていた。
この温もりで、あたしは夢を見れる。
ずっと、ずっと、感じられると思ってた。
- 851 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:03
-
なのに。
なのに、なのに、
- 852 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:04
-
「ちがうよ、ばか。」
「ばかだよ、どうせ。」
「よっすぃ、ちゃんと話し聞いて。」
「聞いてるって。」
「こっち見てよ。」
「やだよ。」
- 853 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:04
-
いしかわ、いつの間にそんなに大人になったの?
まだ誕生日来てないじゃん。
19歳同士のままじゃん。
どうして、あたしのコト置いてくの?
自分の幼さを憎んで、
それ故、いしかわに色々ぶつけたあたしを憎んで、
あたしなんか、大っ嫌いだ。
大切な人一人守れない弱いあたしなんて。
- 854 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:05
-
「よっすぃ。」
いくら、いしかわが好きって言ってくれたあたしだって。
「…ひとみちゃん。」
………。
そんな声で呼ぶなよ。
泣きそうになるじゃん。
- 855 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:05
-
「そんなコト言わないでよ。」
「………。」
「私だって、イヤだもん。離れたくないよ…。」
「…ほんとに?」
「本当の事言うとね、考えられないの。」
- 856 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:06
-
高ぶっていた感情が、冷めていく。
押し寄せた波にさらわれそうになりながら、
でも、必死に、いしかわはこの腕にしがみ付いてた。
絶対離さない。そう思ってた。
強く強く抱き締めたら、もう離れられないと思った。
あたしは、自分で自分を苦しめてるだけなのかもしれない。
「…生きていけない、って思ったよ。」
- 857 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:06
-
いしかわの瞳は、綺麗だった。
涙は目の縁に溜まっていて、今にもあふれ出しそうだった。
その涙を拭おうとするあたしの指が、震えてた。
月明かりで充分見える。そう、嫌な程。
「でも、こうして一緒にいるとね、分かる事が一つあるの。」
「…なに?教えて?」
「私は、こうしてよっすぃと一緒にいるだけで、すごく心が温かくなるの。すごく安心するの。」
- 858 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:06
-
一緒にいるだけで、幸せになれるの。
それって、すごい事じゃない?
- 859 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:07
-
そう言い、泣きながら笑ういしかわは、
この世界で一番綺麗だった。
だから少し眩しくて、思わず目を瞑った。
俯いたあたし。
零れる涙が、滲んでいく。
霞んだ世界の中でも、いしかわが手を握ってくれてる。
「もっと、自信を持って。よっすぃは素敵な人だよ。」
「…そうかなぁ。」
そうでもないよ。
あたし、弱いし。
- 860 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:07
-
「私はこの先何があったって、よっすぃ以外の人には恋しないから。」
久しぶりに誰かに頭を撫でられて、
溜まっていたように嗚咽で止まらなくなった。
いしかわの前で泣くのは久しぶりだ。
でもちっとも、前みたいに恥ずかしくなかった。
いしかわも一緒に泣いてくれるから。
- 861 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:08
-
「だから、安心して自信を持って。どれだけ離れたって、大丈夫。」
いしかわの言葉は、言い聞かせているようだった。
分かる?いしかわ。
安心したから、こうやって涙が出てくんの。
「寂しくなったら、目を瞑って。私の体温を思い出して。」
そう言われて、今こうやって握られている手の温かさを、
必死に身体に染み込ませた。
いしかわの温もりで感じる、独特の優しさと痛み。
きっと、こんなに胸が痛いのは初めてだ。
- 862 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:09
-
「泣いたらだめだよ。涙と一緒に、温もりが逃げちゃうから。」
分かった。
その一言さえ発せなくて、ただ、大きく頷いた。
自信を持とう。
寂しくなったら、目を瞑ろう。
今こうして刻み込まれていくいしかわの温もりを、絶対に忘れない。
もう、泣かない。
いしかわの前で以外、泣かないよ。
約束するよ。
- 863 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:09
-
「お願いが、あるんだけど。」
「なに?」
「…いつだって、あたしのコト想ってて。」
いしかわはまたコクリと頷いて、笑った。
「いつもよっすぃのコト想ってる。」
「あたしも。」
- 864 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:09
-
もう、これで大丈夫。
溢れる涙は、きっと最後だ。
これで、ようやく、
笑顔になれる。
いしかわに、好きだって言われた、
あの笑顔に。
今はまだ、こうやって2人で寄り添って笑っていられる。
- 865 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:10
-
「よっすぃ、大好きだよ。」
- 866 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:10
-
いしかわ、あたしも今、すげー幸せだよ。
- 867 名前:幸せ。 投稿日:2005/01/02(日) 17:11
-
――――――――――――――――――++++++++++
- 868 名前:作者。 投稿日:2005/01/02(日) 17:16
-
ずっとageてるのに気付かなかった…orz orz orz
本当に本当に、2人には幸せでいてほしい。
だけどやっぱり、離れているのに幸せだ、なんて考えられない。
…自分がただ幼いだけなんかなぁ。
>>831 プリンさん
今年は辛い年になると思いますが、お互い頑張りましょう。
早々ネガネガな自分ですがどうか今年もよろしくお願いします。
っていうか、助けてください…(つД`)
- 869 名前:プリン 投稿日:2005/01/03(月) 20:30
- 更新お疲れ様です。
うわーん。本気で泣いちゃったよぅ・゚・(ノД`)・゚・。
やっぱ、考えないようにしてるんだけど、考えちゃうんだよなあ。
かなり辛いですw
今年辛いですね。頑張りましょうw
っていうか、自分も助けてくださいよぅ(;ノ∀`)
- 870 名前:絶詠 投稿日:2005/01/10(月) 13:53
- 初めてレスします。
いしよし今まで読むことは少なかったんですが……。
作者さんの作品を読み、泣いてしまいました。
文体とか言葉がすごく素敵に感じられます。
では。これからも頑張って下さいm(__)m
- 871 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:49
-
年が明けてようやく落ち着いて来た。
と言っても、コンサートにテレビ収録、新曲のダンスレッスンなど、
相変わらず過密スケジュールが続いてる。
そんな中、ダンスレッスンの合間によっちゃんとミキティがこそこそと廊下に出て行ったのを見た。
少し気になったけど追いかけなかった。
それぐらい、今はよっちゃんが遠くに思えた。
収録の間も、二人はよくこそこそ話していた。仲良さそうに笑い合っていた。
麻琴に追いかけられるよっちゃん。
紺野にセクハラしてるよっちゃん。
ミキティに襲われてるよっちゃん。
亀井のウィンク光線浴びてるよっちゃん。
当たり前だったはずの風景。
だけどいつもと違う。
何かが心の隅に引っ掛かっている。
すごく気持ち悪い。
- 872 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:49
-
それでもよっちゃんと二人の収録になれば素直に笑える私がいる。
相変わらず心はモヤモヤ霞んでいるけれど。
ただ、それの答えを見つけちゃいけない気がしてた。
だから必死で忘れようとしてた。
それから、よっちゃんに心配かけちゃいけないって思った。
前から思ってた事だったけれど、今は前より何倍も強く想っていた。
だから、必死で隠していた。
- 873 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:50
-
気がつけば1月の半分が過ぎようとしていた。
二十歳になったら何したいどうしたいって何度も聞かれるようになっていた。
そうだ、もうすぐ私の誕生日だ。
今までの誕生日は…家族と過ごしたり、友達とパーティーしたり。
生きてれば誰にでも訪れる時間。
そのたった1日を何よりも幸せな時に変えてくれたのはよっちゃんだった。
プレゼントをもらうとか、ケーキを食べるとか、そんな当たり前の事が涙するほど嬉しい。
過去を振り返りながら未来を想う。
来年の今ごろは私はどうしているんだろう。
- 874 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:50
-
「いしかわぁ。」
何を考えてる時でも,隣りで見守ってくれていたよっちゃんの笑顔。今はどうしてこんなに遠い?
本当に誰よりも傍にいる?
「明日の午後空いてるっしょ?」
嫉妬とかそーゆーのとはまた違うと思う。
別の不安だ。
今までに感じた事のない不安が私を覆って行く。
よっちゃんの笑顔さえ届かない暗闇へ。
- 875 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:50
-
夢を見た。内容なんか覚えてない。
だけど、すごく寂しかった。
だから今、私は泣いているんだと思う。
流れた涙の跡。消して忘れるように顔を洗った。
よっちゃんとの約束まで、まだ時間は在る。
いつも楽しみだったこの時間。
どうしてこんなに胸がモヤモヤするんだろう。
いつもみたいに、服を選ぶ。
今日は可愛いって言ってくれるかな。
…やっぱり、センスおかしいって言われるかな。
どっちにしろ、すごく嬉しい。
- 876 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:51
-
淀んでいた空が明るくなり始めると、私の気持ちも少しばかり晴れてきた。
やっぱり、よっちゃんに会えるって思うといつでも嬉しい。
それは出逢ったばっかりの頃から変わらない想い。
そういえば、こうして過ごすのは何度目になるんだろう。
考えてから、イケナイと思った。
でも、もう遅かった。
…来年はこうして過ごせるのかな。
見え隠れする太陽を見つめる私の心も、雲を動かす強い風に揺られていた。
浮き、沈む、私の心。
- 877 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:51
-
「あのさぁ…。」
待ち合わせ場所から近くの喫茶店に入り、すぐによっすぃが申し訳なさそうに口を開けた。
「悪いんだけど…。」
沈んだ顔をしてポケットから小さな箱を取り出す。
今日貰うプレゼントの中で、一番小さな箱だった。
それでも、一番嬉しかった。
「何か考えても…何も思いつかなくて…こんなのしか…。」
俯いたまま喋るよっすぃは、久しぶりに見た少し弱いよっすぃだった。
そうだ、もうすぐに私の方が年上になるんだっけ。
私が年上の間はよっすぃが思う存分甘えてくれる。
だから、しばらく年上になるのもイヤじゃない。
寧ろいつも見れないよっすぃが見れる、大切な季節。
春になれば、また先に泣くのは私になる。
- 878 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:51
-
小さな箱の中には、ピアスとリングが入っていた。
ピンクのラインストーンで縁取られている。
いつの間に、ラインストーンが好きって聞いたんだろ。
この間は3点ピンクだなんてバカにしたクセに…。
どうして、こういうの分かっちゃうのかな?
おかげさまで、もう早々と泣きそう。
- 879 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:51
-
「そんなんしかあげられなくて…ごめん。」
「もう、毎年言うよね?そのセリフ。」
私の言葉にようやく笑顔になるよっすぃ。
「いつも言うじゃん。気持ちの問題だって。私は、すごく嬉しいよ。」
「そうだよね…気持ちの、問題だよね。」
…うん?
少し様子がおかしい、よっすぃ。
さっきまでの優しい笑顔は消え、いつものだらしないニヤニヤ顔。
…何考えてるの?
- 880 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:52
-
「っていうことで、気持ちを確認しあいましょー。」
「…えっ?」
「愛の証明ってとこかな?」
チャラリと音がして、私のアップルティの隣に何か置かれた。
最初それが何か、全く分からなかった。
手に取ってまじまじと見つめると、ようやく理解出来た。
「結論は?」
「…行く。」
まんまとやられた。
- 881 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:53
-
どうぞ、お姫様。
なんて王子気取りしちゃってるよっすぃ。
仕方なく私も、差し出された手を取ってみたり。
奥へ奥へと進むにつれ、東京の夜景が段々と見えてくる。
大きな窓に囲まれた部屋。
ふわりとした灯りがついてる。
…綺麗すぎて、霞んでいく夜景。
「ミキティに教えてもらったんだ。結構いいホテルっしょ?」
最初からこうするつもりだったの?
いつから考えてたの?
「…梨華ちゃん。」
夜景に見惚れていると、後ろからよっすぃが抱き締めてきた。
- 882 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:53
-
「おめでと。」
素っ気無い「おめでと。」
でも、照れてるのは充分分かった。
「日付変更と同時に言おうと思ったのになぁ。」
我慢出来なかったー。
そう言ってニヤリと笑うよっすぃ。
…まだ。まだ、同い年の表情。
しばらくすれば、一つ年上。
またもうしばらくすれば、同い年。
「ねぇ、よっすぃ…。」
「もう少し。」
私の言葉を遮るように、少し強めの口調でよっすぃが言う。
- 883 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:54
-
「もう少しだけ、こうさせて。」
「………。」
「梨華ちゃんが年上になるまでは、あたしの強いとこ見てもらわないと。」
そんなことサラリと言うよっすぃは、充分カッコ良かった。
ただでさえ私の胸を掴んで離さないのに。
静かな時間がゆっくりと流れる。
夜景を見ているうちに、よっすぃに抱き締められているうちに、
安心と不安が同時に私を襲ってきた。
笑い合うよっすぃとミキティが脳裏に浮かぶ。
どうして?どうして、今なんだろう。
よっすぃは、こうして私を抱き締めてるのに。
その答えを、見つけるつもりはなかった。
だけど。
- 884 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:54
-
「…梨華ちゃん?」
寂しかったの。…気付いたの。
今までは寂しくたって、嫉妬したって、
すぐよっすぃが気付いてくれて、安心させてくれたでしょ?
でも、もう私はよっすぃの傍を離れるから。
よっすぃが誰とイチャイチャしてるのかとか、全然分からなくなるから。
嫉妬なんてモノじゃないんだ。
こんなに膨大な不安は初めてだ。
1日を、2日を、1週間を1ヶ月を、
よっすぃを、メンバーを見ないで過ごすことになるの?
よっすぃが見えない毎日。
暗闇に包まれた私の日常。
- 885 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:54
-
「寂しい…。」
涙を堪えて出た言葉は、頼りなく震えてる。
「寂しいよ…よっすぃ。」
「梨華ちゃん…そんな顔しないでよ。」
困ったような顔して、私の頭を撫でるよっすぃ。
胸がきゅっと痛くなる。
よっすぃまで、泣きそうな顔してる。
- 886 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:55
-
「大丈夫だよ。」
何がどうだって、あれがこうだって、
よっすぃは私がなんにも言わなくても分かってくれる。
寂しいって言ったって、何で?なんて聞かない。
不安だって言ったって、どうして?なんて訊ねない。
それがよっすぃなんだから。
私の、自慢の恋人なんだから。
もうすぐ、年上になるのにね。
ごめんねって謝ったら、よっすぃもごめんって謝った。
- 887 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:55
-
「今日は、あたしは何にも求めないから。」
言葉の意味が分からなくて、少し不安で首を傾げる。
「梨華ちゃんがしたいコト全部言って。言いたいコト全部言って。」
よっすぃの声はどれくらい震えていたって、私を安心させてくれる。
たくさん強がるよっすぃだけど、今日は本当にカッコいいよ。
- 888 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:55
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ルームサービスで頼んだご飯を食べ終わった頃には、
もう日付が変わりそうになっていた。
よっすぃは私を抱き締めると、もう一度優しい声で囁く。
「誕生日おめでとう。梨華ちゃん。」
もう、不安は取り除かれていた。
よっすぃが何度も何度も、私の心を読んだように、
「来年もこうしていようね」って言ってくれたから。
私がキスしてって言わなくたって、抱き締めてって言わなくたって、
すぐに感じ取ってしまうよっすぃ。
それは飛び切り甘くて優しくて、溶けるような温もり。
- 889 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:56
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耐えていた涙が零れていく。
何で泣いてんの?って不安そうなよっすぃ。
「嬉しいんだよ…嬉しいから、泣いてるの。」
涙を拭いながら、精一杯笑ったつもり。
そんな私を見つめる大きな瞳。
唇がそっと近付いてくる。
涙を拭う仕草も、もう一度抱き寄せてくれる仕草も、
ぜんぶぜんぶ離したくないと思わせるの。
- 890 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:56
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「変な梨華ちゃん。」
止まらない涙を何度も拭いながら、
よっすぃはずっとずっと抱き締めてくれていた。
年上になった私はすぐに、よっすぃにキスをした。
…っていうよりも年上になった瞬間は、よっすぃと同じ唇で迎えていた。
すぐに温もりが睡魔に変わる。
そっと髪を撫でる優しい指先が、匂いが私の身体をくすぐる。
- 891 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:57
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◆ ◇ ◆ ◇ ◇
- 892 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:57
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「…あたしもうれしいんだ。」
2人でベッドでごろごろしていると、ふいによっすぃが口を開いた。
そのすぐ隣に寄り添う。
ごく自然に、よっすぃの手が私の髪を撫ではじめる。
「こうやって、今年も2人で一緒にいる。」
「…うん。」
「すんごい、うれしいよ。」
梨華ちゃん、愛してるよ。
なんて、半分照れながら、私を強く抱き締めるよっすぃ。
もう年下の悪戯っぽい笑顔になってた。
- 893 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:57
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少しの不安も
たくさんの愛も
泣きたくなるぐらいの想いも
ぜんぶあなたに届いてたらいいな
- 894 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:58
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「好きだよ、梨華ちゃん。」
よっすぃは、何度も何度も好きだと言ってくれた。
すごくすごく嬉しかった。
何度も何度も言われてから気付く。
私は好きってたくさん言って欲しかったんだ。
何度も何度もキスをした。離れては求め合う私達。
溶けるような意識の中で、強く抱き締められる身体。
幸せが押し寄せてはひいていく。
甘くて優しくて、でも切ないよっすぃの腕の中。
温もりに安心しきって夢の中へとすべっていく私。
遠くの方で聴こえた、大好きな音。
- 895 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:58
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大好きだよ、梨華ちゃん。
- 896 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:59
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Happy Birthday
My Dear Rika
- 897 名前:あなたの腕の中で。 投稿日:2005/01/19(水) 01:59
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- 898 名前:作者。 投稿日:2005/01/19(水) 02:04
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…ごめんなさい。眠らせて下さい。爆
>>869 プリンさん
ありがとうございますー。
そんな。泣いていただけるなんて。歓喜です。
…いや、喜ぶところじゃないよ(つД`)
でも嬉しいです。ありがとうございます。
お互い頑張って生きていきましょう。涙
>>870 絶詠さん
初めまして、レスありがとうございます。
いしよしあまり読まれないんですか?
それじゃぁ尚更嬉しいですっ。ありがとうございます。
…梨華ちゃん、おめでとう。
(#´▽`)´〜`0)いしよしは永遠たい。とか言っておく。
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