A Song for ××

1 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/04/26(月) 19:51

藤本さんメインでアンリアル。
昔に書いたものの焼き直しなんで、
ちょっと設定とか風俗の描写とかアレなとこありますけど、
まあ、生温かい目で見てやってください。
かなり不定期更新になりそうなのでsage進行でやっていきたいと思います。

よろしくお願いします。

2 名前：１．　Ｈａｎａ 投稿日：2004/04/26(月) 19:51

　午前８時１１分。
東京の朝は、街全体に靄がかかり、氷の内側から覗いたようなグレー。
春の終わりなのに寒そうなその景色を、ファミレスのウインドウから、オレンジ色のソファーに横たわったまま見上げていると、ウエイトレスがコーヒーポットを片手に起こしにきた。
「お客様、恐れ入りますが‥‥」
　無言でジロッと見る。さっきから起きてるっつーの。
あたしに睨まれたウエイトレスは一瞬、ぎょっとなり、その次に「失礼しました」と、いまいましそうに去っていく。やれやれ。
いつごろからだっけ、人を睨みつけるのが得意になったのは。

3 名前：１．　Ｈａｎａ 投稿日：2004/04/26(月) 19:52

　あたしはのろのろと起き上がり、ソファーに座りなおした。
それとなく見渡すと、店の中にはあたしの他にも、
雑誌で顔を隠したサラリーマンや、子連れのおばさんや、
仕事帰りのホストやスカウト、仲間からあぶれたらしい連中、
貧乏旅行者、そして家出中のヤツらがソファーで眠っている。

そのなかであたし一人だけがウエイトレスに起こされたのは、
やっぱりガキだからって、なめられてるみたい。
あたしは同い年の他の連中と比べて、けして背が高いとは言えないし、
ヨボヨボの猫みたいに痩せぽちで、時々すごく子どもっぽく見えてしまうってことは、自分でもわかってる。

4 名前：１．　Ｈａｎａ 投稿日：2004/04/26(月) 19:53

――お姉ちゃん、今ごろどうしてるだろう。

　突然、そんなことを思った。

オロオロして、困ってるだろうな。いや、それより怒ってるのかも。
なにしろ、なけなしのバイト代一月分、全部持ち出してきたんだから。
たぶん、警察には連絡してるだろう。学校にも。
クラスメイトに電話をかけたりしているかもしれない。
だけど、東京にまで追いかけにきたりはしないはず。そういうヤツだ。

5 名前：１．　Ｈａｎａ 投稿日：2004/04/26(月) 19:55

　家出をしたのはこれが初めてじゃなかった。四回目だ。

最初は中一のとき、お姉ちゃんとケンカして、気がついたら家を飛び出してて、
駅の辺りにいたら、家出後わずか二時間（！）という短さでお姉ちゃんに捕まった。
二回目と三回目は、中二になってから、中三になるまであとちょっとって頃。
どっちのときも、新幹線で東京まで逃げてきて、池袋にいたときだった。

てきとーに寝るところを探そうと思ってキョロキョロしてたら、おっさんに声をかけられた。
「君、いくつ？」って。警察だった。

6 名前：１．　Ｈａｎａ 投稿日：2004/04/26(月) 19:56

「頼むから、これ以上困らせないで」
　三回目の家出のときに、警察に迎えにきたお姉ちゃんはそう言った。

美貴が、いろいろと不満に思ってるのはわかるよ、無理もないと思ってる。
だけど、今の生活を続けていくのだって精一杯なの。
我慢ばっかりさせてて、本当にごめんね。でも、わかってほしい。
お願い。もう少しだけ我慢して。お姉ちゃん、もうすぐで就職するから。
そうしたらもっと給料も入るし、美貴にも自由にさせてあげられるから。
もう二度と、家出なんかして困らせないで。もうちょっとだから。

7 名前：１．　Ｈａｎａ 投稿日：2004/04/26(月) 19:56

――バイバイ、お姉ちゃん。よかったネ。
　バイト代全部なくなっちゃって、今月一杯は困るだろうけど、ガマンしてよ。
来月からはずっと楽になるからさ。
もう学校だって除籍だろうし。授業料だって払わなくて済むんだ。

8 名前：つみ 投稿日：2004/04/26(月) 20:46

なんかおもしろそう・・・

タイトルはやはりあの曲っすかね〜？
一番好きな曲です！
楽しみにしてます！

9 名前：イーグルボーイ 投稿日：2004/05/10(月) 17:51

出だしからおもしろいです！！ガンバ！

10 名前：仕事中 投稿日：2004/05/12(水) 19:29

面白そうな予感。でも、タイトルの曲ってあれですよね？

11 名前：名無し読者 投稿日：2004/05/23(日) 13:46

一応待ってるつもりなんですけど、いつ頃更新予定なんですか？
頑張ってくださいね！！

12 名前：名無し読者 投稿日：2004/06/16(水) 19:16

あのぉ、大変失礼だとは承知しているのですが、更新してもらえるんですよね？
藤本さんメインで期待しているんですが、待ってて大丈夫ですか？

13 名前：１．　Ｈａｎａ 投稿日：2004/06/16(水) 21:34

　親は二人とも、あたしが高校に上がる前に死んでしまっていた。


　まだ１０歳にもなってなかったと思うけど、その日のことはよく覚えてる。

　その夜は真夏だったのに涼しくて、いつも全開にしていた窓を、ほんの少しだけに狭めていた。
母親とあたしたち姉妹は、食卓で父親が帰ってくるのをそわそわしながら待っている。
帰りが遅くなることが多くなっていた父さんは、その日も夕飯に遅刻してきた。
それでようやく食事が始まる。食べながらそれぞれ今日の出来事の報告。
主にしゃべるのは中学生のお姉ちゃんとお母さん。あたしはただ、がっついてるだけ。
父さんはそれをにこにこしながら聞いている。ふつうの家族のふつうに幸せな夜。
　食べ終わった父さんは、ちょっと眠い、と言ってその場に横になった。
古くて狭い団地住まいだったから、居間ぐらいしかくつろげる場所がなかった。
あたしたちはいつものことだと思って、見てもいないテレビを眺めていた。
父さんはときどき鼾をかいていたと思う。そしてそれきり、二度と起きなかった。

　有り得ないと思っていた父親の突然死。母親は、父さんの死因は過労だとして会社相手に裁判を起こした。
費用や弁護士への報酬は、父さんの生命保険やパート代、借金をして捻出した。
いつも家族みんなが揃うまではじまらなかった夕飯は、用意されていたお弁当やお惣菜を、お姉ちゃんとあたしだけで食べることになった。
　裁判は何年もかかった上に、圧倒的に会社が優勢だったらしい。
結局、母さんも、あたしが中学にあがる前に、枯草の茎がぽきりと折れるように死んだ。

14 名前：１．　Ｈａｎａ 投稿日：2004/06/16(水) 21:36

　家出したのは、それが寂しかったからなんて理由じゃない。

　母親もいなくなりあたしたち姉妹は孤児になったけど、不運にもお姉ちゃんは１８を過ぎていた。
児童施設の対象年齢じゃない。もちろん、保護者と見なしていい年齢でもある。
母さんのお葬式のときに、集まったおじさんやおばさんは皆「いつでも力になってあげるからね」って言っていたけれど、
厄介ごとを背負い込むのは勘弁って顔に書いてあった。
お姉ちゃんは、義務教育の真っ最中のあたしを抱えて生きていく羽目になった。
優等生だったお姉ちゃんは目標だった私大の音楽科を諦めて、奨学金のきく国公立に進んだ。
お姉ちゃんはどんどん痩せて、追い詰められた顔つきになっていった。
それでもお姉ちゃんは絶対に投げ出そうとしなかった。あたしを見ると笑いかけていた。

だけどあたしにはそのほうがきつかった。
何か大きくて重たいものに、少しずつ少しずつ押しつぶされていくお姉ちゃんを
毎日見て過ごさなくちゃならないなんて、耐えられなかった。

　だからあたしは家を捨てることにした。

２回目の家出で東京行きの新幹線に乗ったとき、すごくほっとして、
家にいたときより、息を吸うのが楽になったことを覚えている。

15 名前：１．　Ｈａｎａ 投稿日：2004/06/16(水) 21:40

　新宿にきた理由は簡単、「人がいっぱいいるから」。

　渋谷でもよかったけど、あそこはガキ同士にも色々ルールがあって面倒だったし、
そのくせ、子どもが一人で生き延びていける場所なんてほんのすこししか無かったたから。
あそこはあいつの場所だから座っちゃいけないだなんて、野良犬や何かじゃあるまいし、馬鹿げてる。

新宿はゴチャゴチャしてて、ヤクザも多そうだけど、
浮浪者とか怪しげな外国人とか、あたしみたいにフラフラしてる連中もたくさんいる。
人目につきやすい場所はそれだけ警察にも見つかりやすいってことは、過去三回の家出でもう十分わかった。

16 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/06/16(水) 21:52

しまった。貼ったあとで修正ミスに気づいた。
皆さん　>>13の最後の一行
×「結局、母さんも、あたしが中学にあがる前に、」
○「結局、母さんも、あたしが中学生のときに、」
に脳内変換しておいてください。

>8
ありがとうございます。
自分も好きな曲です。ていうか最近の曲知らないだけなんだけど。
>9
ありがとうございます。ガンバ自分！！
>10
予感がしますか。ありがとうございます。
たぶんそのあれです。もう古い曲なんでちょっと恥ずかしい気もしますが、
今更カッコつけてもしょうがねえよなってことでそのまま使ってます。
>11
ありがとうございます。お待たせしました。
「Ｔ・Ｅ・Ｎ」くらいの更新頻度を目指しています。とか言ってみる。
（いや、さすがにそれは嘘だけど。）すいません。
>12
期待してもらってすいません。ありがとうございます。
大丈夫なんですかね。どうでしょう。
「君は自由だ、選びたまえ」という言葉を用いて逃げさせていただきます。

17 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/07/04(日) 14:45

いいよーいいよー
次も期待してるよー

18 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/12/25(土) 12:07

短い中にもなんか引き込まれる。っつーわけで

ほ。