CALCIO CALCIO CALCIO!! 3
- 1 名前:ACM 投稿日:2004/04/27(火) 01:25
- 雪板で書いておりましたACMと申します。
今度はこちらで書かせていただきます。よろしくお願いします。
吉澤さん主役のサッカー小説ですが、よろしければ読んでやってください。
CALCIO CALCIO CALCIO!!
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/snow/1076257817/l50
CALCIO CALCIO CALCIO!! 2
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/snow/1079742486/l50
- 2 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:38
- 『日本好発進!!』
『レベルが違う海外組!!』
『一躍優勝候補に!!』
日本の活躍に日本のメディアはもちろん、
地元ギリシャのメディアも大々的に取り上げた。
それほど見事な試合だった。
だがしかし日本が一面を飾る事は無かった。
一面を飾ったのはもちろん
ブラジルVSドイツ
- 3 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:39
- 大会屈指の好カードとなったこの試合。
さらに両チームともこのオリンピックにかける思いは強く、
オーバーエイジを3人、しかもA代表のエースクラスを送り込んでいた。
お互いの意地と誇りがぶつかり合う。
- 4 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:39
- ブラジルのフォーメーションは伝統的な4−2−2−2(4−4−2)。
右サイドバックに今シーズンよりASローマからACミランに移籍した、
現ブラジルA代表キャプテンユーミン。
左サイドバックにレアル・マドリード所属、
“世界最高の左サイドバック”ジュディマリ・ユッキー。
オフェンシブハーフにイタリアセリエA、ACミラン所属
“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。
この3人がオーバーエイジ枠で出場していた。
- 5 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:42
- そして前線には弱冠21歳ながら世界最高のストライカー、
スペインリーガエスパニョーラ、レアル・マドリード所属
“フェノーメノ”ヒカルド。
そのヒカルドと2トップを組むのはフランスリーグ1、
パリ・サンジェルマン所属の天才、コヤナギーニョ。
この2トップはそのままブラジルA代表の2トップでもある。
まさしく王国ブラジルの名に相応しい陣容だ。
- 6 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:44
- 対するドイツも伝統的な3−5−2。
オーバーエイジ枠にはドイツの名門、
バイエルン・ミュンヘンの3人を使ってきた。
GKに“世界bPGK”ヨシナ・ガーン。
MFのボランチに“小皇帝”ナキャタニ・ミキック。
そしてFWに長身FW、アマミステン・ユウキー。
まさにワールドクラスの3人だ。
- 7 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:49
- そしてオーバーエイジ枠の3人以外にもワールドクラスは存在する。
それが彼女だ。
バイエルン・ミュンヘンの期待のエース、イケワキ・チイヅルー。
彼女がトップ下のポジションに入り、ドイツの全てを指揮する。
以上の4人がドイツ代表の中心選手だ。
が、その他のメンバーは正直ブラジルと比べると劣る。
しかしドイツにはゲルマン魂がある。
2002日韓ワールドカップの借りを返す事。
それがドイツ代表に課せられた使命だ。
- 8 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:50
- 試合はやはりタレントに勝るブラジルが押す展開となるが、ドイツも得点を許さない。
特に燃えているのがGKのヨシナ・ガーン。
あの日韓ワールドカップ決勝戦。
アユウドのシュートをファンブルしたところをヒカルドに押し込まれ、涙を飲んだ。
普段は人格者として周りから尊敬を集める彼女も批判の表に立たされた。
彼女は何も言い訳をしなかった。
そして1つだけ言った。
今後のプレーで全てを払拭するだけだ、と。
そして今日、その機会がやってきた。
この試合に勝ち、そしてオリンピックで優勝する。
それが彼女のリベンジだ。
- 9 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:50
- 雨あられのようにシュートを放ち続けるブラジル。
両サイドからはユーミンにジュディマリ・ユッキーが再三オーバーラップし、
アユウドの左足がパスに、シュートに、ドリブルにとうなる。
コヤナギーニョもその抜群のテクニックを活かしてドイツゴールに襲い掛かる。
そしてヒカルドも怪物の名に相応しいプレーを見せ付ける。
しかし得点が奪えない。
ヨシナ・ガーンを中心にブラジルの攻撃を必死に跳ね返す。
- 10 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:52
- 対するドイツもただ守るだけではない。
前へ前へ来るブラジルの喉元に鋭くカウンターアタックで切りつける。
その攻撃の中心が、ボランチでありながら昨シーズンブンデスリーガ
得点ランキング3位につけたナキャタニ・ミキック。
テクニック、スピードはもちろんの事、その恵まれた身体を活かして前線に飛び込む。
ドイツ最高のプレイヤー“小皇帝”の名は伊達ではない。
そのミキックの得点をお膳立てするのは、
ドイツ期待の若手、イケワキ・チイヅルー。
怪我に泣かされ続けてきた彼女だが、昨シーズン見事に復活。
その類まれなセンスで攻撃を司る。
そして前線のターゲットがアマミステン・ユウキーである。
その長身からのポストプレーはもちろん、スピード、テクニックも非凡なものがある。
この3人が幾度となくブラジルゴールに襲い掛かる。
- 11 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:53
- お互いの持ち味を出し合うこの試合。
勝利したのは雪辱に燃えるドイツだった。
攻撃陣はミキックが1点、ユウキーが2点をあげ、
守備陣はヨシナ・ガーンを中心に最後までブラジルの攻撃を守り抜き、
3−0という考えられないスコアでドイツが勝利した。
日韓ワールドカップの雪辱をここできっちりと果たした。
- 12 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:55
- 初日の試合の結果は以下の通り。
<グループA>
ギリシャ1−0メキシコ
カメルーン2−0韓国
<グループC>
日本5−0モロッコ
ブラジル0−3ドイツ
- 13 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:55
- 2日目の試合は以下の通りだ。
<グループB>
イタリアVSアメリカ
ナイジェリアVSオーストラリア
<グループD>
フランスVSアルゼンチン
セネガルVSサウジアラビア
- 14 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:56
- 2日目もビッグゲーム。
―――フランスVSアルゼンチン―――
2002日韓ワールドカップではまさかの予選落ちのフランス、アルゼンチン。
それだけこのオリンピックで復活を成し遂げたいところだ。
- 15 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 01:57
- フランスはこのオリンピックにあの選手をオーバーエイジ枠で出場させた。
イタリアセリエAユヴェントス所属、
“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマを。
ボランチにはイングランドプレミアリーグ、
アーセナル所属タカコリック・トキーワ。
センターバックに同じくプレミアリーグチェルシー所属、
フランスA代表キャプテンフジワラ・ノリカー。
このワールドクラス3人をオーバーエイジ枠で出場させていた。
そして前線にはアーセナルのスピードストライカー、ウエト・アーヤ。
4−5−1のシステムを敷くフランス。
その軸となるセンターラインにきっちりとA代表の主力を配置した。
- 16 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:10
- 対するアルゼンチンも本気だ。
アルゼンチン伝統の3−4−3のシステム。
FWにセリエA、ASローマの“地上の星”ナカジマル・ミユキトゥータ。
DFに同じくASローマの“壁”オカモト・マヨエル。
リーガエスパニョーラバレンシア所属のタケウチ・マリャラ。
この3人がオーバーエイジ枠による出場。
- 17 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:19
- トップ下には今シーズンよりイングランドプレミアリーグ、
チェルシーに移籍したマイ・セバスチャン・クラキ。
そして3−4−3のシステムの生命線、両サイドにはこの4人が揃う。
右サイドハーフ、セリエAインテルミラノ所属ウエハラ・タカコッティ。
右ウイング、アルゼンチンリーグ、リーベル・プレート所属イマイル・エリコガ。
左サイドハーフ、リーガエスパニョーラ、FCバルセロナ所属、アフロ・ヒトエ。
左ウイング、セリエAラツィオ所属、シマーブクロ・ヒロコ。
- 18 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:21
- この4人はそれぞれ特長を持っている。
ヒロコはシュート(SHOOT)
タカコッティはパス(PASS)
ヒトエは運動量(ENERGY)
エリコガはドリブル(DRIBBLE)
それぞれの特長の頭文字S、P、E、Dと、4人とも速さを持つ事から、
この4人をアルゼンチン国民は“スピード”と呼んでいた。
ほとんどがA代表でも主力の選手たち。
文句なしの優勝候補bPだ。
- 19 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:22
- フランスは前半27分、マツシマからのスルーパスにアーヤが抜け出しゴールに流し込む。
アルゼンチンも前半39分にマイ・セバスチャン・クラキのミドルで同点に追い付く。
そしてさらに後半22分には左サイドを突破したエリコのクロスに
ミユキトゥータが頭で合わせアルゼンチンが逆転した。
これで決まりと思われたが、後半42分、
一瞬の隙をついたマツシマが豪快なミドル。
これが見事に決まり、フランスが土壇場で追い付いた。
試合は2−2の引き分けに終わった。
しかしこの試合を観た人々はみな満足したと口を揃える。
90分間フルに緊張感あふれるゲームであった。
- 20 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:23
- 本日の試合の結果は以下の通りだ。
<グループB>
イタリア2−0アメリカ
ナイジェリア2−2オーストラリア
<グループD>
フランス2−2アルゼンチン
セネガル4−0サウジアラビア
- 21 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:24
- ひとみと福田のライバル、
“プリンセス”ナカマチェスコ・ユッキエ率いる
イタリアも初戦を見事に快勝した。
今大会にはASローマのユッキエとACミランのマキコサンドロ・エスミ、
そしてスズカゼ・マヨザーギがオーバーエイジ枠で出場している。
『待ってろ、ヒトミ、アスカ。決勝トーナメントで勝負だ。』
この大舞台でひとみたちを倒し、イタリアが優勝する。
それがプリンセスの描くシナリオだ。
- 22 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:25
- 各グループとも最初の1試合を終えた。
強豪と呼ばれる国はほとんどが前評判どおりの力を見せていた。
そして一番の激戦区となったのがグループCだ。
初戦を5−0で快勝した日本。
しかし2戦目はブラジル相手に3−0で勝利を収めたドイツ。
そして3戦目には手負いとなったブラジル。
現在グループC1位だが、残り2試合で3位に落ちる可能性は十二分にある。
- 23 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:26
- ドイツ戦を2日後に控えた日本代表は最終調整に入っていた。
「柴ちゃん!!」
安倍がスッと最終ラインから抜け出す。
そこへ柴田からパスが出る。
安倍の右足がゴールネットを揺さぶった。
「ナイッシュー!!」
周りから声が飛ぶ。
アジアカップ組も充分に休養を取ったことで動きにキレが戻ってきた。
「もう少しやな・・・・・・・」
ツンクが柴田の動きを見て呟く。
後もう少しで柴田のコンディションが戻る。
そうなれば自分の理想の日本代表で挑める。
- 24 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:27
- 「ミキティ、どうなのドイツって?」
練習が終わり、選手たちで自主的にミーティングを開く。
矢口が藤本に尋ねた。
「そうですね。みんな当たり強いですよ。
それに絶対に諦めないです。この精神力が一番の武器ですね。」
ドイツの古豪シャルケ04に所属し、
昨シーズン14試合に出場した藤本。
ドイツサッカーの奥深さを肌で感じた選手だ。
「注意しなあかん選手はやっぱガーンか?」
中澤が尋ねる。
「もちろんそうですね。それと“小皇帝”ナキャタニ・ミキック、
アマミステン・ユウキーももちろんワールドクラスです。
でもこのチームのエースは間違いなくイケワキ・チイヅルーです。
彼女はホントすごいですよ。
まだメジャーな舞台には出てきて無いですけどまさしく天才ですよ。」
藤本の言葉にみな息を飲む。
イケワキ・チイヅルー。
ドイツの救世主。
- 25 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:29
- 予選リーグも2試合目に突入した。
<グループA>
ギリシャVS韓国
メキシコVSカメルーン
<グループC>
日本VSドイツ
ブラジルVSモロッコ
- 26 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:30
- ロッカールームでツンクがスタメンを発表する。
「GK飯田。」
飯田は今日、恐いぐらいに気合いが入っていた。
相手があの世界bPGK、ヨシナ・ガーンなのだ。
これで燃えないわけがない。
「DF、左に石黒、中央に紺野、右に中澤。」
DFラインの3人はベストな3人だ。
だが、この試合、中央は中澤でなく紺野にツンクは任せた。
「しっかり頼むで。」
中澤が紺野の肩を叩く。
「MF、ボランチ保田、福田。」
この2人は本物のボランチだ。
守備力も攻撃力も兼ね備えている。
彼女たち2人でイケワキを抑えこむ。
- 27 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:30
- 「左に藤本。右に市井。」
両翼は世界で戦う2人。
特に藤本は自分が戦っている国の代表。
それだけに絶対に負けられない。
「トップ下吉澤。」
ツンクはこの試合もスタメンはひとみに任せた。
柴田が本調子に戻るまでもう少し。
それまで悪魔に任せる。
「2トップ、後藤、松浦。」
FWは後藤と松浦。
リーガエスパニョーラコンビ。
世界bPGKから得点を必ず奪う。
- 28 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:31
- <日本代表スターティングイレブン>
GK 1 飯田圭織
DF 2 石黒 彩 松浦 後藤
3 中澤裕子
16 紺野あさ美 吉澤
MF 6 保田 圭 藤本 市井
10 吉澤ひとみ
11 市井紗耶香 保田 福田
18 福田明日香
20 藤本美貴 石黒 紺野 中澤
FW 13 松浦亜弥
23 後藤真希 飯田
- 29 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:32
- 「ミキ、久しぶりだね。」
入場行進のため並んでいると不意に声をかけられた。
「お久しぶりですチーさん。」
藤本が笑顔で答える。
ドイツ若手期待の星、イケワキ・チイヅルー。
彼女は藤本に一目置いていた。
「今日はゴールを許しませんよ。」
そう声をかけるのが世界bPGK、ヨシナ・ガーン。
昨シーズン圧倒的な強さを見せ優勝したバイエルン・ミュンヘン。
そのバイエルンがホームゲームで唯一敗北したのが
藤本が所属するシャルケ04との一戦だった。
この試合で藤本はガーンの連続無失点記録を810分で止め、
バイエルンのホーム無敗記録を38で止めるゴールを決めた。
試合後は藤本を称える声がバイエルン・ミュンヘンの選手たちから上がった。
それほど素晴らしい藤本のプレーだった。
今日はそれ以来の対戦となる。
もちろんガーンやイケワキはシーズンの借りを返すべく
この試合に全力で挑んで来る。
藤本にしてもあの試合の活躍がまぐれでは無いことを
この試合で証明するつもりだ。
- 30 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:33
- 午後7時6分、試合が開始された。
ドイツの司令塔、イケワキ・チイヅルーがボールをキープする。
このイケワキ、顔はかなり幼く観る者を本当に大丈夫か?と心配させるが、
そのプレーのキレは恐ろしいの一言だ。
ボールを持ったイケワキが日本のボランチコンビに突っ込む。
「圭ちゃん!!」
すぐさま福田と保田がチェックに向かうが、
イケワキは鋭いドリブルでこの2人の間を突破した。
そしてすぐさま右足アウトサイドで前線に走り込むユウキーに浮き球のパス。
- 31 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:34
- ユウキー、このボールを石黒と競り合いながらも確実に頭でとらえる。
「くうっ!!」
GK飯田が懸命に反応し、これに触った。
ボールはゴールラインを割った。
ドイツ早くもコーナーキックのチャンス。
「信じられないべ。圭ちゃんと福ちゃんがあんな簡単に抜かれるなんて。」
ベンチで安倍が呟く。
練習で保田と福田のディフェンス力は知っているだけに信じられなかった。
「それにユウキーもですよ。石黒さんに競り勝つなんて。」
道重さゆみだ。
彼女も練習で石黒の高さは嫌というほど知っている。
まずはドイツのワールドクラスからの先制ジャブ。
- 32 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:34
- ドイツの左サイドからのコーナーキック。
キッカーはイケワキ。
ゴール前ではドイツの誇るツインタワー、
ユウキーとミキックが待っている。
「マーク!!絶対に離しちゃ駄目だよ!!」
飯田が指示を出す。
ユウキーには石黒が、ミキックにはひとみがつく。
イケワキの右足が振り抜かれた。
- 33 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:36
- 「任せて!!」
飯田が飛び出す。
そしてキャッチ・・・のはずだった。
「うわっ?!!」
飯田が掴む瞬間に鋭くボールが曲がった。
そしてボールはゴールに吸い込まれていく。
長身のユウキーとミキックを囮に使ったイケワキのコーナーキック。
「おらああっ!!」
しかしゴールの中にいた中澤がこれをヘッドでクリアした。
そのボールを保田がさらに大きくクリアし、
タッチラインに逃れた。
「あーあ、入ったと思ったのになー。」
コーナーフラッグではイケワキが微笑んでいる。
「な、何あの曲がり方?」
対照的に飯田の顔は青ざめている。
試合開始から数分。
日本は真のワールドクラスの実力を見せ付けられた。
- 34 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:38
- 『絶対に負けない!!』
ドイツのプレーに闘志をかき立てるのは藤本美貴。
普段同じリーグで戦うだけに気合いが入る。
左サイドを藤本があがる。
その前に立ちはだかるのが“小皇帝”ナキャタニ・ミキック。
「ミキ!!ここは行かせないよ。」
「抜きます!!」
藤本はかまわずミキックに突っ込む。
上半身を左右に激しく振り、ミキックのバランスを崩す。
しかしミキックも腰を落とし、ジッと構える。
「くっ、ならば!!」
「右?!!」
鋭いスピードで右からかわそうとした藤本。
それを読んだミキック。
しかしこれは藤本のフェイク。
右足でボールをまたぎ、素早く左から抜けた。
- 35 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:40
- 「ナイス美貴たん!!」
ゴール前に松浦と後藤、ひとみが走り込む。
そこへ藤本からクロス。
速く低いクロスがニアサイドに。
このクロスをニアサイドに走りこんだ松浦が左足で合わせた。
『決まった!!』
インパクトの瞬間、松浦はゴールを確信した。
しかしそう簡単にこのGKからはゴールを奪えない。
“世界bPGK”ヨシナ・ガーン。
素早くニアサイドに反応し、身体全体を投げ出す。
松浦のシュートはガーンの右手に当たり、ゴールラインを割った。
世界bPGK、まずは決定的チャンスを1本止めた。
- 36 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:41
- 「あれを止めるなんて・・・・。」
松浦が肩を落とす。
今のシュートはほぼ完璧だった。
ニアサイドに走り込む動き、シュートのコースにスピード。
どれも申し分なかった。
それが止められた。
さすがガーンだ。
「ドンマイドンマイ!!つぎ頼むよ亜弥ちゃん!!」
左サイドで藤本が笑顔で手を叩く。
「美貴たん・・・・OK、次は必ず決めるから。」
松浦は闘志を燃やす。
ストライカーは相手が強ければ強いほどゴールを奪いたくなる。
だから絶対に決めてみせる。
- 37 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:43
- 序盤はドイツの先制攻撃に戸惑っていた日本だったが、
次第に落ち着きを取り戻し、冷静にドイツの攻撃に対処していく。
日本の武器は中盤である。
ひとみ、市井、福田、藤本といった世界で活躍している
メンバーで構成されており、保田もその力は海外組に何ら劣る事は無い。
対するドイツはイケワキ、ミキックがいるが如何せん他の選手の力が劣る。
自ずと中盤は日本が支配していく。
- 38 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:45
- だが中盤をいくら日本が支配しようと、
ドイツの最後の砦には彼女がいる。
ヨシナ・ガーンが。
ひとみのパスから右サイドを抜け出した市井が中にクロス。
これに後藤、松浦が飛び込むがガーンが飛び出してこれを弾く。
そのルーズボールを福田がミドルで狙うがこれをもガーンは止める。
しかも弾くことなくきっちりとキャッチした。
- 39 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:47
- 「ユウキー!!」
ガーンはすぐさま前線へロングパス。
そのボールをユウキーが落とす。
そこに走りこんでいるのは“小皇帝”ミキック。
ドイツの素早いカウンターだ。
しかし日本DF陣も負けてはいない。
これを紺野が読んでいた。
きっちりマークについており、スライディングでこれをクリアした。
「ナイス紺野!!」
飯田の声に紺野は軽く手を上げた。
こっちだって得点を許す気はさらさらない。
- 40 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:49
- 前半も30分を過ぎたが依然0−0が続く。
ガーンの堅守を中心に強い当たりで日本の中盤からの華麗な攻撃を防ぐドイツ。
紺野を中心に組織的な守備でドイツのパワープレーを防ぐ日本。
どちらもタイプは違うが、実に素晴らしいディフェンスだ。
「ごっちん!!」
ひとみのスルーパスに後藤がDFラインを抜け出した。
オフサイドは無い。
ガーンが飛び出す。
『ここだ!!』
後藤は冷静に飛び出したガーンの脇の下を狙った。
しかしガーンはこれにも反応し、肘でこれを弾いた。
『あれ止めるの?!!』
さすがの後藤も驚きを隠せない。
しかしこのこぼれ球は市井のもとに。
市井はこれをダイレクトでガーンの頭を超す意表を突いたループシュート。
が、素早く反応して戻ったガーン、これをゴールギリギリで掻き出した。
「ちっ!!」
思わず顔をしかめる市井。
まさかあれも止められるとは?
ウオオオオオオオオオオ!!!
スタジアムは今のワールドクラスのプレーに大きく揺れた。
- 41 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:50
- 中盤では分が悪いと見たドイツ、
中盤を省略し前線のユウキーめがけて早めにクロスを放り込むようになった。
「石黒さん!!」
このクロスにユウキーと石黒が何度も競り合う。
最初は負けていたが、石黒も懸命に跳び、
互角に競り合うようになった。
勝負はセカンドボールをどちらが拾うかだ。
- 42 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:51
- 右サイドにイケワキが流れてボールを受けた。
すぐさま藤本が付く。
「ミキ、抜くからね。」
「抜かせません。」
イケワキ、体を右に鋭く振った。
「くっ!!」
藤本も必死に食らい付く。
がこれはフェイク。
イケワキ、すぐさま左に切り返す。
何とか藤本もこれに食らい付く。
しかしイケワキはもう一度右に切り返した。
「うわっ?!!」
さすがにこれには付いていけなかった。
恐るべき身体のキレだ。
- 43 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:52
- イケワキ、藤本をかわして中にクロス。
その瞬間にニアに走り込むユウキー。
石黒もマークに付く。
が、これは囮だった。
中央に空いたスペースにミキックが飛び込んでくる。
紺野も体を寄せるが如何せん高さはミキックが上だ。
やられた!!
誰もがそう思った。
しかしミキックがボールを捉える瞬間に神の手がボールを包み込んだ。
「ナイスカオリ!!!」
日本の守護神飯田圭織。
その視線は100m先にいる世界bPGKに注がれる。
- 44 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:53
- 前半は両チームとも無得点のまま終了した。
「ちっ、何だよ今日のガーン。絶好調じゃねーか。」
市井がはき捨てるように言った。
前半日本は何度もいい形でシュートを放ったが、スコアは動かなかった。
それも全てガーンが立ちはだかったからだ。
今大会のガーンはまさに神がかったようなセービングを見せていた。
あのブラジルでさえゴールネットを一度も揺らす事が出来なかったのだ。
そしてそれに焦って無闇に攻撃を繰り返し、カウンター3発で沈んだ。
- 45 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:54
- 「美貴たん、美貴たんはどうやってゴール決めたの?」
藤本は昨シーズン、リーグ戦でガーンからゴールを奪い、
無失点記録とホーム無敗記録を止めた。
それだけにみなが藤本の答えに期待を持つ。
「サイドを突破して、中にクロスを上げるふりしてニアサイドを破ったんだよ。
でも、それも2度と通用しないと思うよ。ガーンは同じミスは絶対にしないから。」
藤本の答えにみな肩を落とす。
- 46 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:55
- 「大丈夫ですよ。必ずゴールは奪えます。」
この言葉にみな一斉に彼女を見た。
ひとみだった。
その顔は自信に満ち溢れている。
「お、吉澤。その顔は何か秘策ありか?」
市井の問いにひとみはニコッと笑った。
「必ずこの試合、“ゴールへの道”を見つけますよ。」
「なるほど、そりゃ完璧な策だな。」
市井を始め、みなその言葉に納得した。
見えないものが見える“ファンタジスタ”。
必ずゴールへと導いてくれるはずだ。
- 47 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:56
- 後半が始まっても流れは前半と同じだった。
日本が多くチャンスを創り、
ドイツがイングランドのようなキックアンドラッシュを繰り広げる。
しかし後半に入ってドイツはイケワキ、ミキックが余り動かない。
明らかにペースを抑えており、無闇に勝負を突っかけない。
その様子に藤本、福田といったこの2人の実力をよく知る者は
一抹の不安を抱いていた。
きっとどこかでペースアップするはずだ、と。
- 48 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 02:58
- 「よっすぃー、いつの間に・・・・・・」
柴田がひとみの動きに目を奪われる。
ひとみのパスから日本がいい攻撃を仕掛けていく。
得点力は元々あった。
だが、ひとみに足りないものと言えばゲームメイキング。
フィニッシュに至るパスは出せても、ゲームを創るパスは
出せなかった。
それがここ最近ではゲームメイクにも格段の進歩を遂げていた。
- 49 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:01
- さらにはその存在感だ。
トップ下というポジション、
一番プレッシャーを受けるポジションで威風堂々と
日本の攻撃を指示するその姿はまさに王の証だった。
このひとみの姿に柴田の心が揺れた。
もしかしてもう、手の届かない所に行ってしまったのでは?
この瞬間、ひとみと柴田の間に極わずかな不純物が混ざった。
- 50 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:02
- 日本はひとみを中心にドイツゴールへと襲い掛かる。
しかし最後の最後でゴールを奪えない。
世界bPGK、ヨシナ・ガーンが日本の前に立ちはだかる。
次第に前がかりになっていく日本。
その間ずっとドイツは、イケワキとミキックは牙を研いでいた。
- 51 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:03
- そしてその瞬間が来た。
前線で松浦にくさびのパスが入る。
「きゃっ!!」
しかしその瞬間ドイツDFの強烈なチャージに
松浦は右足首を押さえて倒れた。
一瞬日本の動きが止まる。
しかしホイッスルは鳴らない。
「チャンスだ!!」
こぼれ球を拾ったミキック、すぐさまイケワキにパス。
イケワキはそのパスを受けると爆発的なダッシュで前線に上がる。
いきなりの速い展開に日本のディフェンスは組織だっていない。
- 52 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:04
- 「来た!!ミキティ!!」
警戒をしていた藤本と福田がイケワキに当たる。
ここで止めなければやばい。
が、イケワキはこの2人をスピードで振り切り、さらに前へ進む。
さらにはディフェンス力では日本で1,2を争う保田をも一発でかわした。
目の前のDFは紺野と中澤。
石黒はユウキーの右サイドに流れる動きに釣り出されている。
- 53 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:05
- 「紺野!!絶対止めるで!!!」
「はいっ!!!」
中澤と紺野がイケワキに当たる。
が、イケワキ、2人をひきつけて左にボールを流した。
そこに絶妙なタイミングで走り込むのはミキックだった。
「撃たせない!!!」
だが市井がここまで戻った。
さすがはフリーロール。
抜群の戦術眼で試合の流れを読んでいた。
- 54 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:06
- が、ミキックの方が反応が速かった。
市井よりも早く試合展開を読み、そして絶妙のポジショニング。
市井が懸命に滑り込むも届かない。
ミキック、思い切り右足を振り抜いた。
強烈なシュートがGK飯田の手をかすめてゴールネットに突き刺さった。
後半18分。
ドイツ、大きな大きな先制点を上げた。
- 55 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:08
- 「やられたっ!!!」
ベンチでツンクが忌々しげにはき捨てる。
一瞬の隙を突かれた形になった。
松浦に対するチャージで足が止まったところをズバッと切り裂かれた。
しかしそれを差し引いてもイケワキのドリブル、
ミキックの絶妙なタイミングのオーバーラップからのシュートは素晴らしかった。
イケワキは藤本、福田、保田と一瞬でかわし、中澤、紺野を十分にひきつけてパス。
それを市井よりも早くポジショニングし、強烈なシュートをあのコースに撃ったミキック。
まさしくワールドクラスのプレーだった。
- 56 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:09
- 「どうだイチイ。フリーロールが出来るのはあなただけでは無い。」
ゴールを決めたミキックがすれ違いざまに市井に言った。
その言葉に市井はハッとなる。
現代サッカーに生まれたリベロというポジション。
フリーロールはいわばこの発展系だ。
このリベロというポジションを創設したのはこのドイツ。
あの“皇帝”だ。
そしてその後継者、“小皇帝”ナキャタニ・ミキック。
こう考えればミキックがフリーロールを市井よりも上手くこなせるはずである。
『ちっくしょー、見てろよ、絶対あんたを超えてみせるからな。』
フリーロールを極めるのはあたし、市井紗耶香だ。
あんたには絶対に負けない。
- 57 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:10
- 「亜弥ちゃん!!」
藤本が叫んだ。
チャージを受けた松浦が足首を押さえてうずくまっている。
みなが駆け寄る。
「大丈夫か?!!」
ハタケがスプレーをかけながら尋ねる。
が、松浦は脂汗を流したままで答えることが出来ない。
嫌な角度で右足首に入ったようだ。
- 58 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:12
- 「これはあかん。」
ハタケはベンチで心配そうに見ているツンクに向かって
両手で大きなバツをつくった。
「あかんか・・・・・・安倍!!行くで!!」
すぐさまツンクは安倍に出番を命じた。
ウインドブレーカーを脱ぎ、ソックスにレガースを入れる。
そしてベンチに置いてある整髪料で髪の毛を上げた。
安倍がこの髪型になるのはあのアジアカップ予選リーグ、
対イラン戦以来のことだ。
- 59 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:13
- 「安倍、お前のやる事はただひとつや。点を取って来い!!」
つんくのゲキに無言で頷く安倍。
安倍の視線はずっと1人の選手を捉えている。
松浦の足を削った選手だ。
このプレーだけではない。
試合が始まってからずっと審判の見えないところで
彼女は松浦に対して削っていた。
彼女の汚いプレーはチームメートのイケワキ、ナカタニも正直嫌っているほどである。
もちろん安倍も、これぐらいの事は国際試合ではあたり前と頭では分かっているが
感情までは抑えられない。
- 60 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:13
-
ドイツ代表は日本のエースの怒りに触れたようだ。
- 61 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:14
- 松浦がタンカに乗せられて戻ってきた。
安倍が松浦に視線を送る。
『後は任せるべ。かならずカタキ取るべ。』
『・・・お願いします。』
IN9、OUT13。
後半19分、ついに日本のエース登場。
- 62 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:15
- 「なっち。」
福田が安倍に声をかける。
「絶対にこの試合勝つべ。なっちが必ずゴール決めてみせるべ。」
そう言う安倍の眼光は鋭い。
「わかった。頼むよなっち。」
福田はそう言うと自分のポジションに戻った。
安倍はパンパンと自分の頬を叩いて気合いを入れる。
『さあドイツ!!覚悟するべさ!!』
- 63 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:16
- 安倍投入後、日本の攻撃は激しさを増した。
安倍が中央で身体を張ることによってその周りを後藤、
ひとみが自由に動き回る。
松浦はパスもドリブルもシュートも高いレベルがあり、
中盤のパス回しにも積極的に参加するし、サイドに流れてチャンスメイクもする。
対照的に安倍はポストプレーとストライカーとしての仕事をするために中央で構える。
同じFWでも全くタイプが違う2人。
松浦はどちらかと言えばセカンドストライカータイプであろう。
逆に安倍は典型的なセンターフォワード。
ただ、ゴール前で仕事をこなすのみ。
安倍のポストプレーからひとみがミドル。
これは惜しくもクロスバーを叩いた。
- 64 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:17
- 後半も35分が過ぎたが、依然得点は1−0のまま。
ドイツは人数をかけて守りを固めている。
しかしユウキーとイケワキ、ナカタニがいつでもカウンターを狙っているため、
中澤や紺野、石黒が自陣に縛り付けられる。
特にユウキーについている石黒のヘディングは大きな武器であったが、
ユウキーが前線に張り付いているため上がることが出来ない。
時間はもう残りわずかだ。
- 65 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:18
- 「よっすぃー!!」
安倍がそのDFを背負いながらパスを要求する。
ひとみからパスが出た瞬間背中に強い衝撃が。
DFの肘が安倍の背中に。
『こんなもん利かないべ!!』
しかし安倍はそれをもろともせず体を入れかえると右足で強烈なシュートを放った。
ゴール右隅に飛んだシュートは惜しくもガーンの好セーブにあい得点ならず。
- 66 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:20
- 「ちっ。」
安倍は軽く舌打ちするとすぐさま戻って行った。
このDFの存在などなかったかのように。
『こいつ、必ず潰してやる。』
このDFが後ろから牙を研ぐ。
- 67 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:22
- 「安倍さん、あたしにもパス回してください。」
藤本が安倍に近付いて言った。
亜弥ちゃんはあたしにとって大事な人。
それをあんな目に合わせやがって。
これが日本代表の試合でなければ、オリンピックでなければ
確実に真空飛び膝蹴りを食らわしているところだ。
藤本の怒りはいまや沸点ギリギリに。
- 68 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:25
- 「わかってるべミキティ。
きっちりお返しして、なおかつ勝つべ。」
「もちろんです!!」
安倍と藤本がギロリとドイツDFを睨む。
「あたり前。」
後ろからボソッと聞こえるその声は武闘派軍団のドン。
ドンから総攻撃の命令が出た。
うちらを舐めた奴はー、死、あるのみ。
- 69 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:31
- 「行け!!ミキティ!!」
福田から左サイドの藤本に見事なパスが出た。
ありがとうございます、ドン。
そのパス、ありがたく頂きます。
よし、行け。
パスに込められた思い。
- 70 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:32
- 「うらああ!!!」
藤本がそのドイツDFに突っ込んでいく。
ドイツDFは腰を落とし、突破に備える。
どっちだ。右?左?
真正面だった。
- 71 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:33
- 「うわっ?!!」
ドイツDFが吹っ飛んだ。
藤本美貴、怒りのブルドーザードリブル。
ピピピピピピ!!!!
主審がけたたましく笛を鳴らす。
今のプレーは藤本のファウルを取った。
- 72 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:35
- 「ちっ、ミスった。」
藤本が顔をしかめる。
本当は右から抜こうとしたのだが、
ついつい正面から突っ込んでしまった。
「ドンマイ。ナイスドリブル。」
ドンはスッと手を上げた。
お咎めなし。
- 73 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:37
- だがドイツも熱きゲルマン魂を持つ国だ。
日本の気迫にも真正面からぶつかってくる。
特にワールドクラスの4人は毎週身が切られるような
戦いを繰り広げているのだ。
その精神力は半端なものではない。
- 74 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:37
- 「しまった!!」
中盤で保田がボールをイケワキに奪われた。
ドイツ絶好のカウンターチャンス。
「くっ!!」
紺野がすぐさまイケワキのチェックに向かう。
「ユウキー!!」
イケワキの右足から美しいスルーパスが放たれた。
紺野のすぐ横を抜け、紺野が上がって出来たスペースに
走り込むユウキーにボールが渡った。
『しまった、やられた!!』
紺野は観念した。
- 75 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:38
- ピィーッ!!!!!
ラインズマンの旗が勢いよく上げられた。
「えっ?!!」
紺野は驚いて左右を見る。
「うちらもこれぐらいはやらなな。」
「そうそう、若いやつに任せっきりもね。」
「中澤さん!!石黒さん!!」
そこには頼れるお姉さま方がいた。
- 76 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:38
- 「中澤さん!!」
前線でひとみが叫ぶ。
ドイツは絶好のカウンターが失敗し、一瞬気落ちした。
だから今がチャンス。
中澤がすかさずひとみにロングパス。
ひとみは後ろからプレッシャーを受けながらもヘッドで
左サイドに流す。
- 77 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:39
- そこに走り込むのは藤本。
しかしドイツも2人、藤本を止めるべく当たりに来る。
『今度こそ亜弥ちゃんのカタキはとる!!』
藤本はかまわず2人に突っ込む。
小刻みなステップから一瞬のスピードで2人の間を突き抜けた。
しかし抜けた瞬間ミキックが襲い掛かる。
さすがはフリーロールの使い手ナキャタニ・ミキック。
展開を読み、すぐさま戻ってきていた。
- 78 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:40
- 「抜く!!」
しかし今の藤本は止められない。
ミキックをも鋭いフェイントでかわした。
ウオオオオオオ!!!
スタジアムが藤本のドリブルに大きく沸く。
藤本、中に左サイドをえぐってクロス。
ボールはニアサイドに。
そこに走り込むのは日本のエース安倍なつみ。
しかしドイツも必死に食らい付く。
DFの肘が安倍の頬をえぐる。
GKガーンも激突覚悟で飛び出す。
- 79 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:40
- 『負けないべ!!!』
「!!!」
安倍の気迫のこもった眼にDFは一瞬たじろいだ。
そして安倍が飛んだ。
DFの肘、そしてガーンの飛び出しにも負けずにゴールに向かって飛んだ。
そして安倍はそのままゴールに飛び込んでいった。
- 80 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:41
- 「あたたたた・・・・・・・ボ、ボールは?」
安倍があたりを見回すとすぐ側にボールが転がっていた。
慌てて主審を見る。
主審はセンターサークルを指した。
「いよっしゃあー!!!!!」
安倍が右腕を突き上げる。
「安倍さん!!!」
「なっち!!!」
「なっつあん!!!」
ひとみが、市井が、後藤がドイツゴールの中にいる安倍に抱き付く。
- 81 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:42
- ウワアアアアアアアア!!!!!!
スタジアムも大きく揺れている。
あのガーンからとうとう得点を取ったのだ。
後半41分。
日本とうとう同点に追いつく。
- 82 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:43
- 「安倍さん!!!」
「ミキティ!!!」
安倍がゴールから出て藤本に抱きついた。
「ミキティ!!ナイスドリブルにクロス!!!」
「安倍さんこそナイスシュートです!!!」
ベンチでも狂喜乱舞だ。
「よっしゃ!!よくやったで安倍!!!!」
「藤本!!!ようやった!!!」
ツンクとマコトが声を張り上げる。
「中澤も石黒もよう守った!!」
タイセーも興奮してまくしたてる。
「松浦!!見たか?!!藤本が、安倍がやってくれたで!!」
ハタケが足首を氷で冷やしつつもベンチに座ってみなを応援していた松浦に声をかける。
「はい!!安倍さん、美貴たん・・・・。」
松浦の視線の先には松浦に向かって拳を突き出す安倍と藤本がいた。
- 83 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:44
- 「うぐっ・・・・・」
うめき声が聞こえる。
その声のしたほうを見ると、ドイツDFが倒れていた。
どうやら肘を出したまま飛びついたせいで、
着地に失敗し、自分の肘で胸を強打したようだ。
このDFはそのまま交代した。
- 84 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:47
- 「あれま?」
「あーあ、何やってんだか。」
「ちっ、逃げたか・・・・・・」
思わず拍子抜けの武闘派軍団。
同点にも追いつき、これからだというのに。
「さあこのまま逆転するよ!!」
ひとみが声を張り上げる。
時間はまだある。
勝てるチャンスはまだ充分にある。
- 85 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:48
- ドイツのキックオフで試合が再開された。
試合終了間際での失点に士気が下がるドイツ。
まさか同点に追いつかれるとは・・・・・・・
「しっかりしろ!!!絶対に気迫で負けるな!!!」
“小皇帝”ナキャタニ・ミキックが声を張り上げる。
我らドイツは絶対に諦めない。
ゲルマン魂があるかぎり。
- 86 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:49
- 残り時間はロスタイムも入れて約5分。
「後藤!!」
「いちーちゃん!!」
右サイドを市井が後藤とのコンビネーションで突破した。
そして中に鋭いクロス。
これを安倍が頭で合わせるもののボールはクロスバーを越えていった。
ドイツDFも安倍をフリーにさせてはならないと必死で体を寄せている。
- 87 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:50
- イケワキが中央を駆け上がる。
ひとみのチェックをかわしさらに突き進む。
「圭ちゃん!!」
「明日香!!」
イケワキのドリブルを福田と保田が体を張って止める。
しかしそのこぼれ球をミキックが拾い、
前線へハイボールを送る。
ペナルティエリア内、ユウキーが石黒と競り合いながらもヘッドでコースを変える。
絶妙のコースにボールが行く。
- 88 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:51
- だが、これを彼女が防いだ。
日本の守護神が。
「なっ?!!」
100m先からこのセービングを見ていたガーンが思わず叫んだ。
今のコースを弾くとは・・・・・・?
日本に飯田圭織あり。
それを世界に知らしめた瞬間だった。
- 89 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:52
- 福田が意表を突くミドル。
これはドイツDFに当たる。
そのこぼれ球を拾った後藤、
小さなモーションから左足を振り抜いた。
抑えの利いた強烈なシュートがドイツゴールを襲うが
GKガーンがこれをフィスティング。
そのこぼれ球に安倍が鋭く反応するがガーンが身を挺して抑えた。
失点したとはいえ、やはり世界bPGKであることは間違いない。
- 90 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:54
- イケワキも負けじとミドルレンジからシュートを放つ。
上手くカーブをかけ、GKの手をかすめるイメージで放ったシュート。
だがこれをも飯田は止める。
指先を目一杯伸ばし、これを弾いた。
ウオオオオオオオオオオ?!!!!
スタジアムがどよめく。
ガーンに劣らない見事なセービングだ。
「しっかり!!ここ集中!!」
飯田の声が飛ぶ。
- 91 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:58
- そしてロスタイムも残り2分となった。
センターサークル付近でひとみがボールを持った。
すぐさまイケワキがチェックに来るがひとみは福田にボールを預け前へ。
すぐさま福田からリターンが来る。
そのボールをダイレクトで藤本へ。
このパスでチェックに来ていたミキックをかわす。
そして藤本からリターンをもらう。
日本お得意の中盤での速いパス回しだ。
前が空いた。
- 92 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:59
- 『今か?!!いや、違う!!まだだ!!』
「よっすぃー?!!」
安倍も後藤もこのタイミングでスルーパスが来ると思っていたが
ひとみはまだ出さない。
2人はオフサイドポジションに飛び出ている。
ドイツの最終ラインはひとみに当たりつつもラインを上げた。
- 93 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 03:59
-
その瞬間、道が見えた。
- 94 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:00
- 『今だ!!!』
ひとみは右足アウトサイドでパスを後藤に送った。
当然オフサイド、のはずだった。
「後藤!!!」
その声に後藤は咄嗟に反応。
ボールに関係ないという態度で見送った。
後藤の裏から飛び出したのは“フリーロール”市井紗耶香。
「くっ!!」
GKガーンが鋭い出足で飛び出してくる。
市井はガーンを引きつけてから中に折り返した。
最後詰めたのはパスを出したひとみ。
右足インサイドで無人のゴールに難なく押し込んだ。
後半ロスタイム。
日本、逆転弾。
- 95 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:02
- 「よっしゃー!!!」
両拳をギュッと握るひとみ。
そこへ日本選手が覆いかぶさる。
「よくやった吉澤!!!」
「市井さんこそナイスです!!!」
ひとみと市井がお互いを称える。
あそこへ出したひとみに、
あそこへ走り、なおかつひとみの悪魔のパスをきっちり
コントロールした市井。
どちらも素晴らしかった。
「凄いよよしこ、いちーちゃん!!!」
後藤が2人に飛び乗る。
ドイツゴール前に歓喜の輪が出来る。
ドイツの選手たちは主審に抗議している。
あれはオフサイドじゃないのか?!!と。
しかし判定は覆らない。
- 96 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:02
- 「まだだ!!まだ時間は残っている!!!」
ミキックがボールを拾い、センターサークルに走る。
ドイツは、“小皇帝”はまだ諦めていない。
あたしたちは世界一諦めが悪いんだ。
- 97 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:04
- 「辻!!小川!!行くで!!!」
ここで日本は後藤に代えて辻、市井に代えて小川を投入した。
時間稼ぎと守備固めのためだ。
市井も後藤も運動量が多く、限界に近かった。
この交代で安倍だけが前線に残り、後は全員で守る。
サイドハーフの藤本と小川がDFラインに吸収され、5バックになる。
MFはボランチが3枚、前に1枚。
そして前線に1人だけ残すというフォーメーションに。
DFは左から藤本、石黒、紺野、中澤、新垣。
ボランチに福田、保田、辻。
前目にひとみ、前線に安倍という布陣。
完璧な守備的布陣だ。
- 98 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:05
- 「ご苦労さん後藤、市井。」
ベンチでツンクが労う。
「お疲れさまです市井さん、後藤さん。」
「松浦、やったぜ。」
「まっつー、やったよ。」
市井と後藤が松浦にウインクした。
- 99 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:06
- キックオフと同時にイケワキがまたも中央を攻めあがる。
しかし日本の守りも堅い。
前線から安倍が積極的にプレッシャーをかけ、
ひとみも元DFのディフェンス力を活かして前目から激しくチェックに向かう。
この2人が突破されても後ろにはボランチ、さらに5人のDFが控えている。
これではシュートにすらもっていけないはずであった。
- 100 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:07
- 「くっ!!!」
福田、保田、ひとみに囲まれたイケワキ。
囲まれながらも何とかフォローに来たミキックにボールを預けた。
その瞬間ミキックに辻が激しく当たる。
一瞬ぐらつくミキックだが何とか踏ん張り、辻を振り切った。
そしてそのまま左サイドから上がる。
「小川!!止めるで!!」
「はいっ!!」
中澤と小川がすぐさまチェックに向かう。
しかしここは“小皇帝”の意地が勝った。
中澤と小川、2人の間を強引に突破した。
そして中にクロス。
このボールに飛びつくのはユウキーと石黒。
この試合何度も競り合ってきた。
最後の競り合いだ。
- 101 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:32
- この競り合いは互角だった。
ボールがこぼれる。
このボールにいち早く反応したのはドイツ期待のエース、
イケワキ・チイヅルー。
蝶のように華麗に舞った。
強烈なジャンピングボレーに誰もがゴールを確信した。
- 102 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:33
- カンッ!!!!
しかし無情にもシュートはゴールポストを叩いた。
そのこぼれ球をドイツMFが再度狙うが、
これは紺野が体を張ってブロック。
コーナーキックに逃れた。
「くっ・・・・・・。」
イケワキが肩を落とす。
さすがに今ので力尽きたか?
しかしまだだった。
ドイツはまだ死んでいなかった。
- 103 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:35
- 左サイドからのコーナーキック。
時間がないためドイツは左コーナー付近にいたミキックがキッカーを務める。
日本はひとみも安倍も全員がゴール前に戻っている。
ミキックが軽く助走を取り、右足を振り抜く。
その瞬間、ゴール前に走り込む1人の選手が見えた。
『?!頼むよ!!!』
ミキックは咄嗟にその選手に合わせた。
- 104 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:35
- ミキックの蹴ったボールはユウキーの頭を超えてファーサイドへ。
そこに走り込む黒い影。
“世界bPGK”ヨシナ・ガーンだった。
予想だにしなかった選手に戸惑う日本。
- 105 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:36
- 「もらった!!」
タイミングを合わせ、跳躍するガーン。
日本DF陣は誰もガーンに競り合えない。
が、頭に当てる瞬間、大きな両手がガーンの視界に映った。
ドイツの最後の攻撃は日本の守護神の手、神の手によって摘み取られた。
- 106 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:37
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
ここで3度高らかにホイッスルが鳴った。
日本、苦しみながらも強豪ドイツに逆転勝利。
「いよっしゃー!!!!」
ベンチから思わず飛び出す日本選手たち。
松浦も後藤に肩を借りてピッチに駆け出していく。
この試合に勝利した事で日本はグループCで頭1つ抜け出した。
- 107 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:37
- 「イイダ!!」
勝利に沸く日本イレブンのもとに世界bPGKが歩み寄ってきた。
「・・・・・・・・・・・・・」
「わわわ、ちょ、ちょっと待ってください、ミキティ!!お願い!!」
いきなりドイツ語で話しかけられたので戸惑う飯田。
藤本を呼び、通訳してもらう。
- 108 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:38
- 「最後のコーナーキック、あれは読んでいたのですか?」
「・・・・・・はい。もしあの場面、あたしがそっちのGKだったら
ゴールを狙いに行ってました。ですから絶対ガーンさんも狙ってくると。」
「・・・・・・・そうですか、なるほど。
・・・・・あなたはヨーロッパに来る気は無いのですか?」
「えっ?」
いきなりのガーンの言葉に驚く飯田。
「あなたのように才能のあるGKこそ、GKの本場、
ヨーロッパでプレーすべきです。・・・・・・また戦えることを楽しみにしています。」
そう言ってガーンは自分のユニフォームを脱ぎ、飯田に手渡した。
飯田も慌ててユニフォームを脱ぎ、ガーンに手渡した。
- 109 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:39
- 「それから9番、確かアベでしたわね。
あなたもヨーロッパに来る気は無いのですか?」
「えっ?なっちが?」
安倍はいきなり自分に話が振られたので驚きのあまり声が裏返ってしまった。
「あなたもヨーロッパで充分やっていけるでしょう。
今度戦う時は1点もいれさせませんよ。」
そう言った後、ガーンは藤本に一言二言話すとロッカールームに引き上げていった。
- 110 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:39
- 「ナイスゲーム。」
そう言って市井とミキックが握手をかわす。
どちらが先にフリーロールをものにするか。
2人の戦いはまだまだこれからである。
「今日はやられたけど、次は負けないから。」
「私も今日はけっこう抜かれたしね。次は抜かせないよ。」
イケワキと福田が次の戦いに向けて火花を散らす。
チャンピオンズリーグでも恐らくイケワキのバイエルン・ミュンヘンと
福田のユヴェントスは激突するであろう。
この2人はポジション的にも必ず激突する。
- 111 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:40
- 「あたしがこんなに競り合いで勝てなかったのは初めてだよ。」
「こっちはいっぱいいっぱいでしたよ。」
ユウキーと石黒が(通訳藤本)お互いの健闘を称えあう。
- 112 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:46
- それぞれ言葉をかわした後、ドイツの選手たちはロッカールームに
引き上げて行った。
「チイ、分かってるね?」
「もちろん。」
ミキックの言葉に頷くイケワキ。
ユウキーも、ガーンももちろん分かっている。
イケワキの目標は世界bPプレイヤー。
彼女ならば可能性はあるとドイツ全国民は期待している。
が、その最大の障壁になるであろうプレイヤーが日本にいる。
- 113 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:49
- 「ヒトミ・ヨシザワ。あいつは絶対に倒さなきゃならない。」
イケワキの眼が鋭くなった。
今日ドイツは、ゲルマン魂は負けた。
でも、次は絶対に負けない。
覚悟しておけ、日本、大和魂。
- 114 名前:第14話 ゲルマン魂 投稿日:2004/04/27(火) 04:49
-
第14話 ゲルマン魂 (終)
- 115 名前:第14話 ゲルマン 投稿日:2004/04/27(火) 04:51
- 第14話 ゲルマン魂 終了いたしました。
今回はちょっと長かったです。
ホントはもっと短かったんですけど、武闘派軍団が
勝手に動いたせいでこんなに長くなってしまいました。
- 116 名前:ACM 投稿日:2004/04/27(火) 04:52
- うお、間違えて『書き込む』を押してしまいました。
ゲルマンって何やねん!!!
相変わらずアホアホです。
すみません。
- 117 名前:ACM 投稿日:2004/04/27(火) 04:55
- では次回の予告です。
第15話 悪魔の爪
オリンピック予選リーグもいよいよ最終戦。
日本の相手は王国ブラジル。
ここには最上級の悪魔がいた。
悪魔の鋭い爪が彼女の羽をもぎ取っていく。
次回もよろしくお願いいたします。
- 118 名前:ACM 投稿日:2004/04/27(火) 04:57
- スレ隠しです。
- 119 名前:ACM 投稿日:2004/04/27(火) 04:57
- もう1つ。
- 120 名前:ACM 投稿日:2004/04/27(火) 05:00
- あ、それと1つ言い忘れてましたが、
前スレで選手の名前を決める基準を書いてましたけど、
(欧州=女優とかのやつです。)ふと見るとオセアニアや
北米、中米が抜けてますよね。
オセアニアはアジアと同様。
北中米は南米と同様にします。
では、近いうちに次回の更新をします。
これからもよろしくお願いいたします。
- 121 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/27(火) 05:50
- 新スレおめでとうございます!
相変わらず小気味良いテンポで物語が進み、
こっちも勢い良く読んでしまいます。
これからも期待しています。
- 122 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/27(火) 06:18
- 4日連続の更新お疲れ様です。
武闘派集団もユッキエさんと負けないくらい(ra
やはり世界1GKはすごかったです。
日本のイレブンはその上をいっていましたが(笑)
次はあの人との対戦ですね。天使と悪魔どっちが相手をするのでしょうか。
最後に新スレおめでとうございます。
次回の更新楽しみにしております。
- 123 名前:みっくす 投稿日:2004/04/27(火) 22:25
- 連日の更新おつかれさまです。
今回もいつもながら試合に引き込まれてしまいました。
やっぱり武闘派軍団は敵には回さない方がいいかも・・・
それにしてもあの1行が気になるなぁ。
- 124 名前:ヤグヤグ 投稿日:2004/04/27(火) 23:38
- 大量更新、しかも連日・・・凄いです(もちろん内容も)
俺の中では、あの某娘サッカー小説を超えました
これからも楽しませて下さい
頑張って
- 125 名前:名無しぃく 投稿日:2004/04/29(木) 07:05
- 新スレおめでとうございます。
すんごい楽しませてもらいました。もっさん通訳お疲れ様です。
やっぱ武闘派軍団最高ですね。是非ドンにバロンドールを・・・w
次回も楽しみにしてます。
- 126 名前:名無し作者 投稿日:2004/04/29(木) 11:06
- 読ませていただきました!&遊びに来てしまいました!
サッカー小説を読むのは、初めてだったのですが、かなり試合に引き込まれました!
しかも、かなりの大量更新!尊敬の念を抱くばかりです。
キャラをよく掴まれているなぁと思います。
かなりおもしろいですね!これからも頑張ってください!
- 127 名前:ACM 投稿日:2004/04/30(金) 13:17
- 121>名無し読者様
ありがとうございます!!おかげさまで新スレを立てることが出来ました。
自分ではいつもつらつらと長文を書いてるなあと思っているだけに、
テンポがいいと言ってくださるのはとても嬉しいです。
期待に少しでも応えられるよう頑張りますので、
これからもよろしくお願いいたします。
122>娘。よっすいー好き様
いつもありがとうございます!!自分でもこの4日間は頭も冴え、
指も進んだと思ってます。でも最近その反動が来てますが。
いよいよ今回、ブラジルとの対戦です。
天使と悪魔、どちらがぶつかってもきっとそこにはドラマがあるはずです。
ご期待下さい。
123>みっくす様
ありがとうございます!!
『試合に引き込まれてしまう』最高の言葉でございます。
作者の語彙が少ないので、吉澤さんたちのプレーを上手く表現できないのですが、
これからも何とかみっくす様の想像力で補って頂きたく思います。
そして最後の1行ですね。これは予告の最後の1行でしょうか?
今回の第15話にご期待下さい。
- 128 名前:ACM 投稿日:2004/04/30(金) 13:41
- 124>ヤグヤグ様
レスありがとうございます!!
大量更新だけが誇れる所なんです。内容はてんでお粗末で申し訳ないです。
そして、あの某娘サッカー小説を超えたと。・・・・・・何とも恐縮です。
でもやはりあの作品は最高峰だと思っています。作者など比べ物になりません。
しかし、ヤグヤグ様がそう感じられたことは素直に嬉しく思います。
ありがとうございます。これからも頑張りますのでよろしくお願いいたします。
125>名無しぃく様
ありがとうございます!!新スレを立てることが出来ました!!
藤本さん、色々と大活躍です。才色“拳”備ってとこですね。
武闘派軍団、最高です。ふと思いついたこの軍団、まさかここまで活躍
するとは作者も思いもしませんでした。この軍団を率いるドンの功績は
大きいです。作者自身本当に感謝してますので、何か賞を上げたいです。
126>名無し作者様
ありがとうございます!!遊びに来ていただいてホント嬉しいです!!
厚かましくも名無し作者様のスレにお邪魔した上に、
自分の話を読んでいただいてまことに恐縮です。ありがとうございます。
尊敬なんてとんでもないです。量だけがほんと、とりえなので。
また時間があればこのスレを覗いてやってください。
今回、6人もの方々から温かいレスを頂きました。
本当に感謝しております。
これからもぜひよろしくお願いいたします。
- 129 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:42
- アテネオリンピックも各グループ2試合を終えた。
<グループA>
ギリシャ1−2韓国
メキシコ1−1カメルーン
<グループB>
イタリア3−1オーストラリア
ナイジェリア3−1アメリカ
<グループC>
日本2−1ドイツ
ブラジル7−0モロッコ
<グループD>
アルゼンチン2−1セネガル
フランス4−0サウジアラビア
- 130 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:46
- 【グループA】
グループAは混戦。
トップはカメルーンで、1勝1分。
続いて1勝1敗でギリシャと韓国がならび、メキシコが1分1敗だ。
数字上ではまだどの国もチャンスはある。
【グループB】
グループBは前評判通りイタリアが2連勝で予選突破。
残る1つの椅子をオーストラリアとナイジェリアが争う。
アメリカはノーチャンス。
【グループC】
グループCは激戦区。
日本が2連勝で頭1つ抜け出ているが、ドイツもブラジルもチャンスがある。
逆に日本もブラジル戦で大敗すれば予選落ちの可能性がある。
モロッコは予選落ち決定。
【グループD】
アルゼンチンとフランスが1勝1分で並ぶ。
それを1勝1敗のセネガルが追う展開。
サウジアラビアは予選落ち決定。
- 131 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:47
- 続いて予選リーグ第3戦。
この試合で決勝トーナメント出場国全てが決まる。
<グループA>
ギリシャVSカメルーン
韓国VSメキシコ
<グループB>
イタリアVSナイジェリア
アメリカVSオーストラリア
<グループC>
日本VSブラジル
ドイツVSモロッコ
<グループD>
フランスVSセネガル
アルゼンチンVSサウジアラビア
- 132 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:47
- 「次はいよいよブラジルや。
ここまで2連勝してるから言うて気を抜いたらあかん。
この試合一発で3位に落ちる可能性があるからな。」
宿舎でのミーティング。
ツンクの言葉にみな頷く。
ここまで日本は2連勝で勝点6。
ドイツ、ブラジル共に1勝1敗で勝点3だが、
ドイツの相手はモロッコ。
これはほぼ間違いなくドイツの勝利であろう。
そして仮に日本がブラジルに負けるとなると3チームが勝点6で並ぶ事になる。
日本は引き分けでいいとはいえ、相手はブラジル。
そうそう狙って引き分けに持ち込めるわけではない。
- 133 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:48
- 「後藤、ジュディマリ・ユッキーとヒカルドの特徴とか弱点とか何かないか?」
マコトが後藤に尋ねる。
ジュディマリ・ユッキーとヒカルドは後藤と同じレアル・マドリード所属。
毎日一緒に練習しているだけあて、癖は全て知っている。
「そうですね。ジュディマリ・ユッキーは間違いなく世界最高の左サイドバックです。
体は小さいんですけどあの左足のパワーは凄まじいです。
スタミナも豊富で90分フルに走り回ります。スピードも恐ろしいくらいあります。
でも上がったきり帰ってこないことがよくあるのでジュディマリ・ユッキーの裏が
狙い目ですね。」
「何や、辻みたいなやっちゃな。」
「何れすかそれ?!!」
中澤の突っ込みに辻が反応する。
周りには笑いがこぼれる。
- 134 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:50
- 「で、ヒカルドですけど。」
後藤はここで一旦言葉を切る。
その表情は険しい。
後藤の表情に場が一瞬で静まり返る。
「彼女はホント完璧なプレイヤーです。
テクニック、スピード、フィジカル全てが怪物です。
ですから絶対フリーで前を向かせたら駄目です。絶対に。」
後藤が強い口調で言った。
みな後藤の言葉に息を飲む。
あの後藤にここまで言わせるプレイヤー、ヒカルド。
- 135 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:51
- 「後藤さんの言うとおりです。ヒカルドは絶対に前を向かせたら駄目です。
バルセロナでもユウコ・アサーノとアツコ・アサーノ、
2人が90分ずっとヒカルドにはりついてやっと1点に抑えられたんですから。」
松浦が補足する。
ちなみにユウコ・アサーノ、アツコ・アサーノとはオランダが産んだ
サッカー界最高の双子プレイヤーである。
もちろんオランダ代表でも不動のレギュラー。
そのワールドクラス2人を相手にしても点を取るストライカー。
紺野、中澤たちDF陣に緊張感がみなぎる。
- 136 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:51
- 「なるほどな、ヒカルドは徹底マーク。
でジュディマリ・ユッキーはオーバーラップした後の裏を突く、やな。
で次はアユウドとユーミンやな。
これは福田や吉澤がよく知ってるんとちゃうか?」
マコトが今度はひとみと福田に振る。
「はい。ユーミンはバランスのとれた選手です。
スピードもスタミナもテクニックも兼ね備えていますし、
クロスボールも正確です。もちろんディフェンス力も半端じゃないですよ。」
福田がこう答えた。
- 137 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:52
- 「福田さんの言うとおりですね。
さすがはブラジルのキャプテンといったところです。
で、アユウドですけど、ねえ福田さん。」
ひとみが福田の言葉を補足し、そして促す。
「うん。・・・・・・アユウド、彼女こそ上手くて強くて速い選手ですね。
どんなポジションの選手でも彼女こそお手本になりますよ。
彼女には欠点がないんですよ。
運動量もあるし、ディフェンスにも積極的に参加するし、
ブラジル人特有のマリーシアもあります。
あのマツシマに正面切って戦って勝てるのはアユウドだけです。」
福田の説明にみな言葉を失う。
あの福田がここまで褒めちぎる選手。
“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。
- 138 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:55
- シンと静まり返るミーティングルーム。
が、福田はニッと笑う。
「でもだからといって絶対に勝てないわけじゃないよ。
ねえみんな、昨シーズンセリエAで優勝したのはどこ?」
福田の言葉にみな顔を上げる。
「そう、私のユヴェントス。アユウドのいるACミラン、
ユーミンのいるASローマを倒して優勝したしね。」
「そうですよ。うちのエンポリだってミランに勝ったし、
ローマにも引き分けてます。」
ひとみが福田の言葉に乗る。
「そうだ。市井のアーセナルだってチャンピオンズリーグでレアルよりも
上位に入ったんだし。」
「あ、ひどいよいちーちゃん!!」
市井の言葉に後藤がプウと膨れる。
そうだ、ブラジルだからといってアユウドやヒカルドだからといって
必要以上に恐れることはない。
こっちにだって怪物クラスはいるんだ。
「その通りや。何よりお前らはブラジルに勝ったドイツに勝ってるんやで。
自信もって戦うんや。ええな。」
「はいっ!!」
ツンクのゲキにみな答えた。
- 139 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:56
- そして運命のブラジル戦を迎えた。
「スタメンを発表する。」
ツンクの声が響く。
「GK飯田。」
ガーンはブラジルをシャットアウトした。
飯田もそれに続くことが出来るか?
「DF石黒、紺野、中澤。」
いつもの3バック。
世界最強クラスの攻撃陣相手にどこまでやれるか。
「MFボランチ保田、福田。」
福田、保田はもちろんスタメンから外せない。
ブラジルの攻撃を必ず食い止める。
- 140 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:57
- 「左に藤本、右に市井。」
左サイドはスペシャリストミキティ。
そして右サイドはフリーロール市井紗耶香。
ブラジルの怪物サイドバックを抑えこめるか?
「トップ下柴田。」
3戦目にしてようやく試合に出場できるぐらいまでは回復した。
ようやくツンクの理想とする日本代表でオリンピックに挑める。
「2トップ、後藤、安倍。」
前試合で怪我をした松浦はこの試合は欠場。
だが、日本のエースは松浦と比べて何の遜色もない。
天才とエースの2トップがブラジルゴールへ襲い掛かる。
「さあ、相手が何処であろうと関係あらへん!!
自分らのサッカーをやってこい!!」
ツンクのゲキに送り出され、日本代表は王国ブラジルに挑む。
- 141 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:58
- 一方こちらはこの試合に勝たねば予選敗退が決まるブラジル。
恐いくらいに気合いが入っている
・・・・・・・と思いきや案外リラックスしたものだった。
「今日はゴトウと戦えるから楽しみ。」
ヒカルドが軽くストレッチをしながら言った。
後藤とは所属するレアル・マドリードで2トップを組んでいる。
怪物と天才の2トップはいまや世界でも最高峰だ。
「あたしはフクダだね。」
ユーミンだ。
セリエAでは福田のユヴェントスに1分1敗。
特に福田には自分の可愛いお姫さま(ユッキエ)がガチコンいわされた。
お目付け役としてはきっちりお礼をせねば。
「イチイとの対戦か・・・・・・・楽しみだ。」
無邪気に笑うのはジュディマリ・ユッキー。
いまや欧州でもフリーロールとしてその名を轟かせる市井紗耶香。
そんな彼女との勝負が待ちきれない感じだ。
- 142 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:58
- みな一様に和やかな、リラックスした雰囲気のブラジル。
だが、1人だけ明らかに不機嫌な選手がいた。
ブラジル10番、ハマ・サーキ・アユウドだ。
スタメン発表までは確かにみなと同じく機嫌が良かった。
だが、日本のスタメンが発表された瞬間、一気に機嫌が悪くなった。
何でこの試合に出てこない?ヨシザワ。
- 143 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:59
- <日本代表スターティングメンバー>
GK 1 飯田圭織
DF 2 石黒 彩 安倍 後藤
3 中澤裕子
16 紺野あさ美 柴田
MF 6 保田 圭 藤本 市井
11 市井紗耶香
12 柴田あゆみ 保田 福田
18 福田明日香
20 藤本美貴 石黒 紺野 中澤
FW 9 安倍なつみ
23 後藤真希 飯田
- 144 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 13:59
- 午後7時、ブラジルボールで試合が開始された。
中盤でアユウドにボールが渡った。
ブラジル栄光の背番号10を受け継ぐこの選手は、
まさに“神の領域”にまで達しようとしている選手であろう。
ヒカルドや成長著しいコヤナギーニョであろうと、
彼女から10番を奪う事は出来ない。
今まで脈々と受け継がれてきたブラジルのサッカー。
だが、近頃は現代サッカーの波に押され、ブラジルらしいテクニックが消えつつある。
しかし、彼女だけが今もなお、ブラジルらしさを受け継ぎ、
なおかつ世界でトップに立つ選手だ。
それが“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウドだ。
- 145 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:00
- アユウドの左足がうなる。
左サイドをオーバーラップしたジュディマリ・ユッキーにパスが通る。
快足を飛ばして日本の右サイドを駆け上がる。
「行かせないよ?!」
しかし市井が素早く戻っている。
市井とジュディマリ・ユッキーとの1対1だ。
- 146 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:00
- 「くっ!!」
ジュディマリ・ユッキーの足が止まる。
目の前に立ちはだかる市井のディフェンスが上手いからだ。
イングランドプレミアリーグでセンターハーフを務める市井。
日本にいたころよりもディフェンス力は格段にアップしている。
「ユッキー!!」
ヒカルドがフォローに来た。
ジュディマリ・ユッキー、ヒカルドとのワンツーで抜け出す。
市井を振り切り中にクロス。
だが市井も懸命に足を伸ばし、クロスのコースを限定する。
そのためクロスは精度を欠いた。
飛び出した飯田がこのクロスを楽々キャッチした。
- 147 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:03
- 続いて攻守が入れ替わり、攻め市井、守りジュディマリ・ユッキー。
市井がジュディマリ・ユッキーとの間合いを詰める。
市井がグッと中に切れ込む。
「来たっ!!」
ジュディマリ・ユッキーも食らいつく。
が、急激に市井はストップし、タテへ鋭く抜け出す。
市井の強靭な足腰と、身体のキレだからこそこれが出来る。
そして中にクロス。
「ちっ!!」
しかしジュディマリ・ユッキーも負けていない。
素早く反転し、そして懸命にスライディング。
ボールには触れなかったものの、先ほどの市井と同様、コースは限定できた。
そのためクロスはあっさりとブラジルDFが弾き出した。
- 148 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:03
- 「さすがジュディマリ・ユッキー。」
「さすがサヤカ・イチイ。」
2人とも相手の動きの鋭さに驚きを隠せない。
日本の右サイドとブラジルの左サイド。
ファーストラウンドは引き分けだった。
- 149 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:04
- 続いて左サイドで藤本がユーミンと対峙する。
世界でも屈指のサイドバック。
自分の力を測るには絶好の相手だ。
藤本が積極的に勝負を仕掛けた。
身体を左右に激しく振り、ユーミンの重心を崩す。
『今だ!!』
藤本は鋭いステップでユーミンをかわす。
しかし後ろからスッと足が伸びてきた。
「うわっ?!!」
たまらず倒れる藤本だが当然ファウルは無い。
ボールを奪ったユーミン、素早く前線へロングパス。
そのボールにコヤナギーニョが走りこむが石黒がヘディングでクリアした。
- 150 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:04
- 「大丈夫?」
スッとユーミンから藤本に手が差し伸べられる。
藤本はその手を借りて起き上がる。
完璧に止められ、なおかつ手を差し伸べられる。
屈辱だ。
『くっそー、次こそ抜いてやる。』
日本の左サイドとブラジルの右サイド。
こちらはブラジルが優勢。
- 151 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:04
- 『ふーん、このDF中々やるね。』
ヒカルドは自分のマークについている中澤の動きに感心していた。
ただ単に密着するだけでなく、時にはワザとスペースを空けて誘うプレーもする。
しかしここぞという時にはすっぽん並みのしつこいマークだ。
さらには主審の見えない位置ではユニフォームを掴んで自由にさせない。
スピードもフィジカルも戦術眼も、そして狡猾なプレーも申し分ない。
『これほどのDFなんてエスミ以来だな。』
ヒカルドがセリエAインテルミラノにいたころ、
同じくセリエAラツィオ(現在はACミランに所属)の
イタリア代表DF、マキコサンドロ・エスミと激しくやりあっていた。
この2人の対決は多くのファンを熱狂させたものだ。
アユウドからのパスに反応するヒカルドだが、
中澤がコースに入り、大きくクリアした。
日本のDF陣は気合いが入っている。
- 152 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:05
- ブラジルは圧倒的なテクニックで日本ゴールに襲い掛かる。
アユウドが福田のマークに合いながらも右サイドに開いたコヤナギーニョにパス。
これを受けたコヤナギーニョはマークについた石黒を
あっさりとかわし中にグラウンダーでクロス。
爆発的なダッシュでニアサイドに走り込むヒカルド。
懸命に食らいつく中澤に紺野。
ヒカルドはこれをスルー、空いたスペースに走り込むのはアユウド。
利き足でない右足でシュートを狙うが、
懸命に戻った福田がアユウドの前に素早くポジションを取りこれをクリアした。
このあたりはさすがユヴェントスの心臓といわれる福田である。
足を止めることなく、傍観者になることなくきっちりと守備に戻る。
- 153 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:06
- さらに攻めるブラジル。
コヤナギーニョが右サイドでボールを持つ。
マークにつく石黒は焦っていた。
『何こいつ、こんなに上手いなんて?!』
今まで多くの一流選手と対戦してきた石黒。
しかしこのコヤナギーニョという選手はその中でも
1、2を争う程のテクニックの持ち主だった。
「来た!!」
タテに抜け出るコヤナギーニョに必死に食らいつく石黒。
しかしそんな石黒をあざけ笑うかのように鋭く切り返して中に切れ込むコヤナギーニョ。
そして左足の強烈なシュート。
これは飯田がなんとか止めた。
「あの石黒さんがあんなにあっさりと振り切られるなんて・・・・。」
ベンチで石川が呟く。
1対1には抜群の強さを誇る正統派ストッパー、石黒彩を手玉にとる。
ブラジルが産んだ最新の天才、コヤナギーニョ・ユキショ。
- 154 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:07
- 左サイドをジュディマリ・ユッキーが駆け上がる。
市井も必死に食らいつく。
だがスピードに乗ったジュディマリ・ユッキー、市井を振り切る。
「何て速さなんだ?!!」
思わず叫ぶ市井。
一瞬の瞬発力では負けないが、50m走では完全に負ける。
ジュディマリ・ユッキー、中に弾丸のようなクロス。
このボールに飛び込むのはコヤナギーニョ。
しかし高さでは石黒の方が上だ。
この弾丸クロスを確実にヘッドでクリアした。
- 155 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:07
- 「さすがブラジル。」
柴田がふうっと息を吐く。
それぞれが抜群のテクニックを持っている。
だが、それだけだ。
個人のプレーは優れているが、まだまだ組織は完成されていない。
サッカーはチームプレー。
いくら個が強かろうが、組織には敵わない。
「・・・・・・あたしの力を見せてやる。」
柴田の目が鋭く光った。
マエストロの華麗なタクトをお見せしましょう。
- 156 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:08
- ジュディマリ・ユッキーが果敢にオーバーラップする。
そこへブラジルボランチがスルーパスを狙うが
これを福田が抜群の読みでカットした。
「柴田さん!!」
福田はすかさず柴田に送る。
中盤で柴田にボールが渡った。
「よしっ、来い!!」
右サイドを市井が駆け上がる。
ジュディマリ・ユッキーが上がり、右サイドがフリーだ。
- 157 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:08
- 「きゃっ!!」
しかしパスを送る瞬間激しい当たりに柴田は倒れこんだ。
ピピピピピ!!!!
主審が笛を鳴らす。
今のプレーにファウルを取った。
- 158 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:08
- 「ちっ!」
舌打ちするのはサッカー界の2強の1人、ハマ・サーキ・アユウド。
あれぐらいですっころぶとは思わなかった。
そんな表情で倒れている柴田を見下す。
その目は恐ろしいぐらいに冷めていた。
そしてその目は柴田を鋭く貫く。
その鋭い眼光に、柴田は動けなかった。
- 159 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:12
- 「大丈夫ですか?柴田さん。」
福田がピッチに座り込んだままの柴田に駆け寄る。
とその時アユウドが福田に言った。
「アスカ、こいつに言ってよ。早くヨシザワと交代しろって。」
「?!!」
福田の表情が強張る。
柴田は言葉は分からないが、“ヨシザワ”と言ったのは分かる。
「・・・・・あんま柴田さんを舐めてると痛い目にあうよ?」
福田が冷めた表情で言う。
が、アユウドはフッと笑うと日本ベンチを見た。
そしてひとみを指差し、チョイチョイと手招きする。
何でそんなトコにいるんだ?早く出て来いよ。
- 160 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:12
- 昨シーズン、エンポリに負けた屈辱は忘れていない。
そして何より、マツシマの後継者に、
世界bPプレイヤーの後継者に名乗りを上げたことが気に食わない。
サッカー界の2強はあたしとマツシマでいい。
そしていずれあたしがマツシマを倒し、世界bPになる。
だからあんたは邪魔なんだよ、ヨシザワ。
- 161 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:13
- ウオオオオオオオオオオオ?!!!
これにスタジアムが大きく揺れた。
「?!!」
柴田はこのアユウドの行動と、福田の表情で何を言われたか理解した。
怒りで柴田の身体が震える。
・・・・その視線、必ずあたしに向けさせてやる。
- 162 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:13
- 気合いを入れなおして試合に臨む柴田。
左足というタクトが日本の攻撃を演出する。
・・・・・・はずだった。
- 163 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:13
- 「し、柴田?」
ベンチでツンクが呆然となる。
柴田はピッチに這いつくばる。
その目は虚ろだ。
何も出来ない。
何もさせてもらえない。
「・・・・・・ふん、この程度?」
柴田を、天使を見下ろす悪魔。
悪魔にも様々な階級がある。
その最上位に位置するのが彼女。
Prince of Darknessこと帝王ハマ・サーキ・アユウド。
この帝王が全力で天使の羽を、翼をもぎ取っていく。
- 164 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:14
- 「よし、ええでアユ。」
ベンチで呟くのはブラジルを率いるテレ・キダターロ。
その絶妙なチーム創り、独創的な采配から作曲家“モーツァルト”
に例えられる名将である。
彼は日本をこれでもかと調べつくしていた。
ツンクが就任してから全ての試合をチェックし、
日本の弱点を探った。
その答えはアジアカップ準決勝にあった。
あの名将、オク・ダタミオビッチが見つけた日本の弱点。
しかし、それが通用するのはアジアカップの時のみ。
日本はオリンピックになって全く別のチームになってしまった。
そのチームに弱点らしい弱点は今の所見つかっていない。
どうする?この試合中に何とか突破口を見つけなければ・・・・・・・
- 165 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:16
- そう思いながらこの試合に臨もうとしていたテレ・キダターロだったが、
日本のスタメンを見てニヤリと笑った。
アジアカップのチームになっているではないか。
日本の最大の弱点、アユミ・シバタが出場している。
テレ・キダターロはニヤリと笑って日本ベンチを見る。
『ツンクよ。君がシバタに何を期待しているのかは知らんが、
彼女が出ている限り日本に勝利はない。』
「アユ!!その調子で行け!!」
キダターロの言葉に頷くアユウド。
アユミ・シバタ。
こいつさえ潰せば後は指揮者を、リズムを失った演奏者たち。
何も出来ないであろう。
柴田はマエストロとしてチームを上手く導いていく。
が、それは余りに影響が強すぎるのだ。
だからこそ彼女が止められれば、チームも止まる。
後藤や市井、福田といった怪物クラスまでその機能を停止してしまうのだ。
- 166 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:16
- 柴田が何度もアユウドに倒される。
アユウドはオフェンスの選手。
ディフェンス力はほとんどない。
本来ならば柴田を抑えられるはずもないのだが、
ディフェンス力よりもその圧倒的な威圧感で柴田を抑え込んでいた。
柴田を抑えにかかるアユウドの形相はまさに鬼。
鬼神の如き表情、気合いで柴田に当たる。
「くっ・・・・・」
柴田は得体の知れぬものに心を支配されていた。
そのため、ボールに絡むことが出来ない。
アユウドのマークが外れている時でさえボールを要求する事が出来ない。
そしてなるべくアユウドから離れようとする。
全てはこの感情がそうさせていた。
何?この感情は?
- 167 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:17
- 「柴田!!恐がるな!!!攻めろ!!!」
ツンクがテクニカルエリアで叫ぶ。
この言葉に柴田はハッとなる。
恐い・・・・・・・?あたし、アユウドが恐いの・・・・・・・?
そう思った瞬間、それは一気に柴田を襲った。
恐怖が柴田を支配する。
早くピッチから逃げ出したい。
こんな事を思ったのは初めてだった。
- 168 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:18
- この瞬間、柴田は天使ではなくなった。
恐怖により戦いから逃げた瞬間、彼女は天使の資格を失った。
彼女の背中にある羽、翼は、悪魔の爪によって完全にもぎ取られた。
- 169 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:18
- 柴田が天使でなくなった瞬間、全ては終わった。
柴田からボールを奪ったアユウドが一気に前線にロングパス。
これを受けたヒカルド、中澤と紺野を一瞬で振り切り左足でシュート。
飯田がこれを弾くものの、その跳ね返りを再びヒカルドが押し込んだ。
前半37分。
ブラジルが先制する。
- 170 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:19
- さらに前半終了間際の44分。
中盤に下がったコヤナギーニョにボールが渡った。
コヤナギーニョには保田がぴったりつく。
「コヤナギーニョ!!」
左サイドをジュディマリ・ユッキーが駆け上がる。
保田を背負いながらもコヤナギーニョは左サイドにパスを出す。
と見せかけて素早く右に切り返した。
- 171 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:20
- 「しまった!!!」
その鋭い動きに保田も一瞬バランスを崩す。
次の瞬間にはコヤナギーニョは爆発的なダッシュで保田を振り切っていた。
コヤナギーニョがフリーで前を向いた。
前にはヒカルドと柴田のマークを離れ、
前線に上がったアユウドが待っている。
コヤナギーニョは右足アウトサイドでアユウドにパス。
アユウド、これをスルーした。
アユウドの後ろから走り込むのは必死に戻る藤本を振り切ったユーミン。
これをダイレクトで中にクロス。
そのクロスに反応したのは“フェノーメノ”ヒカルド。
一瞬のスピードで中澤を振り切り、
カバーに入った紺野を体で押さえ込んで右足インサイドでこのクロスをとらえた。
飯田も懸命に手を伸ばすものの届かず。
前半44分。
ヒカルドが今日2点目のゴールを上げ、ブラジルが追加点。
そして前半が終了した。
- 172 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:20
- 前半が終了したのでひとみたち控え選手はピッチに入り、
身体を温める。
が、みなその表情は険しい。
いくらブラジル相手とはいえ、まさに成す術が無かった前半戦。
しかも柴田が完膚無きまで叩きのめされたこの状態は非常にまずい。
- 173 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:21
- 「ツンク、このままじゃ負ける。吉澤を出そう。」
タイセーがツンクに進言する。
明らかに柴田がブレーキになっている。
だからひとみを出そう。
が、ツンクは首を縦に振らない。
「このチームが最高なんや。このチームで間違いないはずなんや。」
繰り返しそう言うだけであった。
- 174 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:21
- 彼もこの展開が信じられないのだ。
自分が考えうる最高のメンバーを揃えた。
そして吉澤ひとみよりも柴田あゆみを選んだ。
それが完璧に叩き潰された。
ツンクの指導者としてのプライドが真っ二つに折れた瞬間だった。
- 175 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:21
- 選手交代なしで迎えた後半戦。
さらにブラジルは、アユウドは柴田に襲い掛かる。
前半のアユウドのパフォーマンスから(ひとみを挑発)、
ひとみを引きずり出すために柴田に激しく当たっているとみな思っていた。
- 176 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:22
- だが、彼女の目だけはごまかせなかった。
「アユ・・・・・」
ブラジル右サイドバック、ユーミンだ。
彼女の目から見ると、明らかにアユウドは焦っていた。
それはプレーに如実に現れている。
もちろんひとみを引きずり出すためでもあるが、
それにしては全てが飛ばしすぎだ。
このままではひとみが出たとしてもアユウドはきっと交代させられるであろう。
これではまさに本末転倒だ。
何がアユウドをここまで動かしているのか?
- 177 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:22
- アユウドが全身の力を振り絞って柴田に当たる。
柴田は逃げるばかりだった。
パスをもらってもすぐにバックパスを返す。
フィジカルコンタクトが必要な場面でもスッと身体を避ける。
もちろん頭では分かっている。
だが、身体が動いてくれない。
- 178 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:23
- 「何で?!何で?!!」
柴田の目からポロッと涙がこぼれる。
自分の心に身体に、全てに絶望を感じていく。
何てあたしは弱い存在なんだ・・・・・・・
- 179 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:24
- 柴田の足が止まった。
マエストロはピッチという舞台から、ステージから
指揮を投げ出し、消えた。
その瞬間、ブラジルの天才コヤナギーニョが石黒を振りきり、
なおかつ飯田までかわして無人のゴールに蹴り込んだ。
後半13分。
ブラジル、とどめとなる3点目。
- 180 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:24
- 日本ベンチは呆然となる。
あのチームが。
欧州でも最強を誇るチェコ相手に互角以上に持ち込めた“天使”のチームが
ズタズタに切り裂かれてしまった。
ハマ・サーキ・アユウドという最上級の悪魔の爪に。
- 181 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:25
- 「ツンク!!ドイツが2−0で勝っとる!!」
その時、マコトが声を上げた。
同時刻に行われているグループCのもう一方の試合、
モロッコVSドイツは現在2−0でドイツがリード。
このままの状態で互いの試合を終えると2勝1敗で日本、ドイツ、ブラジルが並ぶ。
となると次は得失点差により予選突破チームが決まる。
ブラジルは得点10の失点3。得失点差+7。
日本は得点7で失点4。よって得失点差+3。
ドイツは得点6で失点2。よって得失点差+4。
つまり、日本が予選落ちする結果になるのだ。
日本が予選を突破するには最低でも1点は取らねばならない。
一気に日本の状況は悪くなった。
- 182 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:26
- そんな中、さらにブラジルは攻める。
コヤナギーニョのパスを受けたユーミンが強烈な左足のシュート。
これは石黒がコースを消していたためクロスバーを直撃した。
さらにコヤナギーニョからのスルーパスに
抜け出したヒカルドが決定的なシュートを放つがこれは珍しくミス。
ふかしてしまいクロスバーを超えていった。
ここまでブラジルの攻撃は全てコヤナギーニョを経由して行われていた。
もちろん、アユウドが柴田にピッタリ付いているせいでもある。
しかし彼女のテクニック、パスセンスは明らかに群を抜いていた。
そして何よりもそのスピード。
走る速さではなく、プレーのスピードだ。
その速さはあの石黒や福田がついていくので精一杯だった。
- 183 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:27
- 「ツンク!!もうあかんで!!このままやったら確実に予選落ちや!!」
マコトが叫ぶ。
「いや、柴田が、きっと柴田がやってくれる。」
しかしツンクはまだそう言い張る。
ここで柴田を諦めること、それは自分の信念が崩れることだからだ。
これにはマコトがキレた。
「ツンク!!ええかげんにしろ!!!お前は柴田1人のために
ここにいる全員を見殺しにするつもりか?!!!」
マコトがツンクの胸倉を掴む。
普段は柔和な笑顔で、柔らかい雰囲気のマコト。
そのマコトが初めて見せる激高した姿。
「やめろ!!俺らが争っててどうすんねん!!」
ハタケとタイセーがマコトを引き離す。
日本ベンチもアユウドの悪魔の爪によって引き裂かれていた。
- 184 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:28
- その時、1人の選手がツンクの肩を叩いた。
「ツンクさん、行きます。」
ひとみだった。
ひとみはアップスーツを脱ぎ、出場の準備をする。
「ちょ、ちょっと待てよしざ・・・・・?」
ツンクは途中で言葉を飲み込んだ。
ひとみの表情に温度がなかったからだ。
いや、絶対零度という冷たくて熱い炎がひとみの眼に宿っていた。
これ以上柴田さんを、あの人を晒し者にするな。
その表情がそう語っていた。
このひとみの表情についにツンクも決断した。
- 185 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:29
- 後半28分。
とうとうその瞬間が来た。
第4審判が電光ボードを掲げる。
IN 10
OUT 12
- 186 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:30
- これを見た柴田は頭が真っ白になる。
交代?何も出来ぬまま?
プルプルと身体が震えるぐらいの屈辱感、そして悔しさ。
そして心の奥底にある、このピッチから逃げ出せる安堵感。
それに気付いた柴田。
もう止められなかった。
大粒の涙が目からあふれ出る。
- 187 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:30
- 何であたしは悔しいの?
何であたしはホッとしてるの?
何であたしはこんなに弱いの・・・・・・・?
- 188 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:31
- 柴田が目を真っ赤にしてタッチラインに立つひとみの元に戻ってくる。
ひとみの姿を見た瞬間、さらに柴田の心が痛む。
こんな情けない姿、あなたには見られたくなかった。
- 189 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:31
- ひとみも同じく心が痛む。
こんなあなたの姿、見たくはなかった。
ひとみと柴田は目を合わさぬまま、言葉も交わさぬまますれ違った。
- 190 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:32
- 「・・・・・・嫌だ、こんなの・・・・」
アップを止めてこの光景を見つめていた田中。
その目からも涙が零れ落ちる。
憧れの2人のこんな姿なんて見たくなかった。
- 191 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:32
- 「ふうっ。」
ひとみと柴田が交代した瞬間、アユウドは大きく息を吐いた。
その姿は今日の仕事は全て終わった。
そんな感じだった。
ひとみを引きずり出し、これからが本番だというのに?
その様子にユーミンはピンと来た。
『そうか。アユ、ホントに潰したかったのは、ホントに恐ろしかったのは
シバタの方だったんだね。だからあんな必死になってたんだ。』
- 192 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:33
- 悪魔にとって最大の敵。
それは間違いなく天使である。
悪魔同士の戦い、つまりひとみとの戦いならば純粋に実力勝負で
決着を付けられる。
だが、相手が天使の場合はそうはいかない。
純粋に実力勝負では決まらない。
天使の前では悪魔もその力を封じ込められるからだ。
もちろん、それも天使に実力があってこそだが。
- 193 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:34
- 柴田は今や世界に飛び出せるプレイヤーだ。
だが、まだその秘めたる力は完全に“覚醒”しきっていない。
逆に言えば完全に“覚醒”しきる前でこの実力。
アユウドは心底柴田の将来に恐れを抱いた。
だからこそ今日、まだ柴田が完全に“覚醒”しきる前に
2度と立ち上がれないほど叩き潰したかったのだ。
そしてそれはほぼ成功に終わった。
ベンチに放心状態で座り込む柴田を見て、
アユウドは確信した。
これであたしを脅かす者はいなくなった。
- 194 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:34
- とその時、ピッチに入ったひとみがアユウドの前に立ち、
ギッと睨みつけた。
2人の距離はほんの数cm。
「・・・・・・・・あんただけはあたしがぶっ潰す。」
ひとみが帝王に言い放つ。
その言葉を聞いたアユウド、フッと笑う。
「やってみな。」
ウオオオオオオオオオオオオオオ?!!!!
この光景にスタジアムは沸き返る。
- 195 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:35
-
天使VS悪魔に続き、悪魔VS悪魔が今、始まる。
- 196 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:35
- 「福田さん!!」
ひとみがボールを要求する。
柴田が下がったことでアユウドも元のポジションに戻った。
ということでひとみのマークに付くのはボランチの選手だ。
福田からのパスを受けたひとみ、ボランチ2人を背負ったままボールをキープ。
「ん?!!」
ひとみはブラジルボランチが自分のユニフォームを掴んでいるのに気付いた。
しかしこの角度から主審は見えない。
『なるほど、これがマリーシアってやつか。』
ポルトガル語で“ずる賢さ”、それがマリーシアだ。
サッカーではこういった狡猾さも勝負を決める要因となる。
- 197 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:36
- しかし今のひとみに生半可なマリーシアは通用しない。
今のひとみは“スーペルひとみ”。
しかも最上級の“スーペル”だ。
「うわっ?!!」
ブラジルボランチが叫ぶ。
ひとみがボランチ2人の間を強引に突破する。
ユニフォームを掴まれようが関係ない。
2人を引きずりつつ駆け上がる。
「やばい!!来るぞ!!」
アユウドが叫ぶが遅かった。
ひとみの右足から“悪魔のパス”が放たれた。
- 198 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:37
- 「くっ!!!」
このパスに反応するのは安倍なつみ。
自分のゴールへの嗅覚を最大限に活かし、
ひとみの“悪魔のパス”に反応する。
最高のタイミング、最高の位置へ飛び出した。
このひとみの“悪魔のパス”、安倍でなければ追いつかなかったであろう。
安倍が左足を懸命に伸ばし、ゴールへと叩き込んだ。
後半32分。
日本が1点返した。
- 199 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:37
- この得点により日本は得失点差が+4になり、ドイツと並んだ。
なおかつ総得点で勝っているため、
このままで終われば日本は2位で予選通過だ。
しかし、後半39分。
マコトの口から最悪の状況が伝えられた。
「ドイツ、イケワキが3点目を入れよった。」
ドイツのエース、イケワキ・チイヅルーがこの試合3点目のゴールを奪った。
これでドイツは得失点差+5。
このままでは日本は予選落ちだ。
予選突破には後もう1点必要になった。
- 200 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:38
- ツンクがテクニカルエリアで叫ぶ。
「みんな!!!もう1点取れ!!!」
この言葉にみな理解した。
もう1点取らねば予選落ちだという事を。
- 201 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:39
- 日本はひとみを中心に攻めるがブラジルも懸命に守る。
ここでテレ・キダターロが動いた。
「あたし?!」
交代を告げる電光ボードを見て彼女は驚いた。
そこにはOUT10と記されていた。
アユウド、途中交代。
憮然とした表情で引き上げてくるアユウド。
悪魔との対決を途中で切られただけに機嫌も悪くなる。
が、正直余力が無かったのも確かだ。
『ヨシザワとの対決はミラノダービーで出来るからな。』
これも交代を受け入れられる要因だ。
ひとみとは今日でなくてもセリエAで叩き潰すことが出来る。
同族の悪魔ならば、放っておいても害はない。
が、天使だけは別だ。
放っておくとまずいことになる。
今日、この試合で柴田を叩き潰せた事に満足し、
アユウドはピッチを後にした。
- 202 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:39
- その後キダターロはヒカルド、コヤナギーニョも下げ、守備的な選手を投入した。
このままの得点差で逃げ切るつもりだ。
このままならばブラジルは見事に1位で予選突破となる。
「くっ!!」
ひとみが最前線からプレスをかける。
ブラジルは最終ラインでのらりくらりとボール回しをしている。
さすがはブラジル。
DFであっても足元のテクニックは優れている。
そこらの国の中盤の選手よりも優れたテクニックの持ち主ばかりだ。
- 203 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:40
- 日本はひとみはもちろん、安倍も、後藤も必死に追いかける。
しかしボールがとれない。
ブラジルは巧みにボールを回す。
そして残りはロスタイム1分。
「くそっ!!!」
ひとみが全力で追いかける。
だがブラジルセンターバックも素早くジュディマリ・ユッキーにパスを回す。
が、ひとみのチェックが鋭かったせいか、パスが少しずれた。
そこへ後藤が飛び込む。
「くっ!!!」
これにはジュディマリ・ユッキーもパスを回せず、
大きく蹴り出すしかなかった。
- 204 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:41
- 「あやっぺ!!」
このボールを石黒とブラジルFWが競り合う。
この競り合いは石黒が勝利した。
こぼれたボールは保田が拾った。
「紗耶香!!」
保田はすかさずロングフィード。
素晴らしい精度のパスが右サイドに開いた市井へ。
だがジュディマリ・ユッキーもトラップの瞬間を狙っている。
「吉澤!!」
それに気付いた市井、保田のパスをトラップせず、
胸でダイレクトに中に弾く。
- 205 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:41
- これをひとみはまたもダイレクトでジュディマリ・ユッキーの裏へ。
そこにはパスを出した市井が走り込んでいる。
素晴らしいワンツーリターンだ。
「来い!!いちーちゃん!!!」
後藤がニアサイドに飛び込む。
市井はすかさず中に鋭いクロス。
- 206 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:42
- だがブラジルDFも必死に身体を寄せている。
「ごっちん!!」
この声に後藤は反応。
市井のクロスをダイレクトヒールで後ろに戻す。
そこにはひとみが走りこんでいた。
ひとみの熱い思いがこもった右足が振りぬかれた。
ひとみが放った悪魔の弾丸ミドルは勢い良くゴールネットに突き刺さった。
後半ロスタイム。
日本、1点差に追いつく。
- 207 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:43
- 「まだだ!!まだ追いつける!!!」
ゴールネットに包まれたボールをひとみが拾い、
センターサークルに走る。
ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
が、ここで試合終了の笛が鳴った。
ブラジル3−2日本
この結果に表情を歪める日本イレブン。
ドイツの結果如何では予選落ちだ。
- 208 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:43
- 「こっちも終わった!!ドイツ3−0で勝利や!!」
とここでマコトが叫んだ。
これでブラジル、日本、ドイツが全て2勝1敗で並んだ。
となると得失点差が予選突破の分かれ目となる。
ブラジル、得失点差+5。
日本、得失点差+5。
ドイツ、得失点差+5。
なんと、3チームとも得失点差でも並ぶ結果となった。
- 209 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:44
- という事は総得点で決まる。
ブラジル、得点10。
日本、得点9。
ドイツ、得点7。
「よっしゃ、予選突破や!!」
計算したマコトが叫ぶ。
日本、苦しみながらも何とか2位で予選を突破した。
- 210 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:44
- それが分かった瞬間だけ日本ベンチは沸いた。
だが、次の瞬間には一気に雰囲気が重くなった。
それはピッチにいる選手たちもそうだ。
ベンチが一瞬沸いたことで予選突破はなったのだとみな理解した。
しかし喜ぶ事はできなかった。
この試合でいい所はそれだけ。
それ以外は全くいい所が無かった。
- 211 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:44
- 「俺の、俺のせいや・・・・・・・」
ツンクが呟く。
全ては自分の責任だった。
この試合、ツンクは3つの間違いを犯した。
- 212 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:46
- まず1つ目。
この試合、柴田を先発させるべきではなかった。
試合に出れるとはいえ、まだまだ本調子ではなかった。
しかも相手はブラジル。
ここは体調のいいひとみをスタメンにすべきだった。
柴田を出すのならば、途中出場、なおかつ余裕のある展開のみ
にするべきだった。
- 213 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:46
- そして2つ目。
柴田に拘りすぎたこと。
前半終了時点で明らかに柴田ではダメだと気付いた。
だが、柴田を代えることは出来なかった。
監督というのは試合の流れを読み、
的確な選手交代をせねばならない。
だが、ツンクは柴田を過信しすぎた。
- 214 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:47
- そして最後3つ目。
一番大切なこと。
これに比べると先の2つは正直どうでもいい。
柴田とひとみは同時期に輝く事は出来ない。
この一番の大前提をツンクは忘れてしまっていた。
これが一番の間違いだった。
- 215 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:48
- 「俺は何てアホなことをしたんや。
ちゃんと天が教えてくれてたやないか。
何で俺は気付かんかった?」
今にして思えば、ひとみがアジアカップはアウトと診断された時点で
気付くべきだった。
これは天の声だったのだ。
柴田をアジアカップに、ひとみをオリンピックに選べ。
天がそう教えてくれていたではないか。
だが、自分の理想しか、夢しか見ていなかったツンクはその声にも気付かなかった。
- 216 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:49
- 放心状態になっている柴田を見てツンクは思う。
・・・・・俺は、取り返しのつかん事をしたのかもしれん。
日本の宝を、才能を俺は潰してしまった。
- 217 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:49
- 天使は羽をもぎ取られた。
天使のチームは完全に破壊された。
ツンクのプライドは、信念はズタズタに切り裂かれた。
さらにコーチ陣もぶつかり合った。
さらにはそれを食い止められなかったスタメンの選手たちは己の力の無さに憤った。
まさに日本は全てが崩壊した。
最上級の悪魔の爪によって。
- 218 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:50
-
第15話 悪魔の爪 (終)
- 219 名前:第15話 悪魔の爪 投稿日:2004/04/30(金) 14:50
- 第15話 悪魔の爪 終了いたしました。
一昨日、日本代表がチェコ代表に勝ちました。
この小説、自分の願望が色濃く出てますので、
しばしば日本が大勝します。しかしそれでもチェコ代表には
勝てないだろうと思い、2−2の引き分けにしていました。
現実が小説を超えてくれてホント嬉しいです。
- 220 名前:ACM 投稿日:2004/04/30(金) 14:52
- では、次回の予告です。
第16話 レーゾンデートル
何とか2位で予選突破を決めたものの、チームは空中分解していた。
しかし戦いは待ってはくれない。
決勝トーナメント準々決勝、相手はアフリカチャンピオン、カメルーン。
この強敵相手に日本はこの状態でどう立ち向かうのか?
この試合、控えと呼ばれる選手たちが証明する。
自分たちの“存在理由”を。
次回もよろしくお願いいたします。
- 221 名前:ACM 投稿日:2004/04/30(金) 14:53
- ではスレ隠しです。
今回は現在分かっている状態で(多少ネタバレあり)
オリンピック後に始まる2004−2005シーズンのチームを紹介します。
まずはイタリアセリエAから。
<ユヴェントス>
GK 1 ジャンルイジ・フカキョン (イタリア)
DF 4 アンパン・トダム (フランス)
MF 11 アキコ・ヤダベド (チェコ)ラツィオより新加入
18 福田明日香 (日本)
21 ナナコーヌ・マツシマ (フランス)
26 エドガー・マヤミッキ (オランダ)
FW 10 アレッサンドロ・デル・ハセキョン(イタリア)
会長 イシザカ・グランデ・コージンス
監督 オダギリ・ジョリッピ
- 222 名前:ACM 投稿日:2004/04/30(金) 14:53
- <ACミラン>
GK 12 ウーア (ブラジル)
DF 2 ユーミン (ブラジル)ローマより新加入
3 タマオ・ナカムラーニ (イタリア)
13 マキコサンドロ・エスミ (イタリア)
MF 10 ヒロスエ・リョウ・コスタ (ポルトガル)
11 ハマ・サーキ・アユウド (ブラジル)
20 サトレンス・アイコルフ (オランダ)
21 マユコ・ハカセ (イタリア)エンポリより新加入
FW 7 イイジマー・ナオチェンコ (ウクライナ)
9 スズカゼ・マヨザーギ (イタリア)
15 ニシ・ダール・ナオミン (デンマーク)
会長 シロイ・キョトウスコーニ
監督 ???
- 223 名前:ACM 投稿日:2004/04/30(金) 14:54
- <インテルミラノ>
GK 1 マキチェスコ・ミズノ (イタリア)
DF 2 チエン・アヤトバ (コロンビア)
17 ミホ・カンノバーロ (イタリア)
23 ムロイ・シゲルッツィ (イタリア)
MF 4 ウエハラ・タカコッティ (アルゼンチン)
10 吉澤ひとみ (日本)エンポリより新加入
FW 20 アルバロ・ヤイコ (ウルグアイ)
32 ヨネクラン・リョウコ (イタリア)
会長 イブ・マサッティ
監督 オシオル・マーナブ
- 224 名前:ACM 投稿日:2004/04/30(金) 14:55
- <ASローマ>
DF 19 オカモト・マヨエル (アルゼンチン)
MF 9 ディ・カリーナ (イタリア)エンポリより新加入
10 ナカマチェスコ・ユッキエ (イタリア)
11 アイコソン (ブラジル)
17 キョウノ・コトミージ (イタリア)
FW 20 ナカジマル・ミユキトゥータ (アルゼンチン)
会長 トシユキスコ・ニシダ
監督 ???
- 225 名前:ACM 投稿日:2004/04/30(金) 14:57
- <ASラツィオ>
MF 5 アサミ・イシカワビッチ (セルビア・モンテネグロ)
FW 7 シマーブクロ・ヒロコ (アルゼンチン)
<ブレシア>
FW 10 ヤマグチ・トモコオ (イタリア)
<ペルージャ>
MF 10 柴田あゆみ (日本)
以上、今現在分かっている人たちです。(何人かはここで初公開)
実はこのCALCIO×3、人の名前を考えるのが一番時間がかかってます。
やはり出すからにはしっかり名前を決めたいと思うのですが、
中々難しいです。
次回のスレ隠しはリーガエスパニョーラ編を予定してます。
では次回もよろしくお願いいたします。
- 226 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/04/30(金) 20:22
- 更新お疲れ様です。
アユウドの凄さにびっくりしました。あそこまで天使の羽を(ry
最後はやっぱり悪魔でしたね。
決勝トーナメント楽しみに待ってます。
- 227 名前:みっくす 投稿日:2004/04/30(金) 23:24
- 更新おつかれさまです。
こういうことだったんですね。
次戦はスタメン大幅入れ替え?
次回も楽しみにしてます。
- 228 名前:名無しぃく 投稿日:2004/05/01(土) 01:04
- ちょっこすおかしな事になりましたね。
モロッコは可哀想なくらい・・・ね。
リアル男子のチェコ戦はすごかったですね。
ロシツ○ーの若さにちょっとビックリ。(知らなかったのかよっ!)
次回も頑張ってください。
- 229 名前:ACM 投稿日:2004/05/07(金) 10:27
- 226>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
確かにアユウド、凄すぎです。作者自身が一番驚いています。
最後は悪魔が締めましたが、これからはどうなるかわかりません。
まだ天使と悪魔の決着は付いていませんので。
227>みっくす様
レスありがとうございます。
はい、こういうことだったんです。今日本代表は流れが悪いです。
それを断ち切るために何か動きがあるかもしれませんね。
今回の第16話を見てください。
228>名無しぃく様
レスありがとうございます。
かなりおかしい事になってます。あの人がちょっとテンパッてしまったので。
言われてみればモロッコ、確かに可哀想です。
5−0、7−0、3−0って・・・・・・・・
では、本日の更新と行きます。
- 230 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:29
- アテネオリンピック予選リーグ最終成績
<グループA>
1位カメルーン
2位ギリシャ
<グループB>
1位イタリア
2位ナイジェリア
<グループC>
1位ブラジル
2位日本
<グループD>
1位アルゼンチン
2位フランス
この8チームが見事に決勝トーナメントへ進む事となった。
- 231 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:30
- 準々決勝の対戦カードは以下の通り。
カメルーンVS日本
アルゼンチンVSナイジェリア
ブラジルVSギリシャ
イタリアVSフランス
- 232 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:30
- まさしく強豪が集ったこの戦い。
あのメキシコ五輪以上の成績はもちろん、
金メダルを狙う若き日本代表。
しかし今、日本の状態は最悪だった。
- 233 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:30
- 決勝トーナメントに向けて練習を開始した日本。
だが、昨日の試合に出場したメンバーは
ほとんど無言のまま淡々と軽いメニューで身体を調整する。
本来ならば決勝トーナメントに出場し、士気が上がるはずなのだが、
みなあのブラジル戦のショックが思いのほか大きかった。
柴田はもちろん、あの試合に出場したメンバーは一様に雰囲気が悪い。
彼女たちは柴田がアユウドによってどんどん傷つけられていくのを
ただ見ているだけだった。
何も助けてやれなかった。
その事をみな悔やんでいた。
- 234 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:31
- さらにはひとみがその事を言葉にしないものの、
あからさまに態度で不満の色を示したことで事態はさらにややこしくなった。
ひとみも柴田のことなので少々熱くなりすぎていたのだ。
それに気付いた時はもう遅かった。
このひとみの態度に切れた市井がひとみの胸倉を掴んだ。
ひとみも思わずカッとなり、市井の胸倉を掴み返す。
まさに一色触発。
ここはその場にいたマコトやタイセーが何とか2人を引き離し収めたものの、
後味の悪さだけが残った。
ひとみと市井、両方好きな後藤はオロオロとするし、
この原因を作ったとして柴田はさらに落ち込んだ。
そして市井もひとみも自分がしでかした行為に自己嫌悪に陥った。
こういった事からいかに柴田あゆみという存在が日本にとって大きかったかが分かる。
- 235 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:32
- それにしてもだ。
あの福田や市井までもが、
あの精神力の強いこの選手たちがここまで気落ちするものなのか?
・・・・アユウドの悪魔の爪には毒が塗ってあったのであろうか?
あの試合で受けた傷は日本代表を確実に蝕んでいた。
- 236 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:32
- 「ナイッシュー!!!いいね辻ちゃん!!」
「どうもれす矢口さん!!」
が、元気なのもいる。
矢口と辻だ。
控え選手たちはミニゲームで汗を流している。
2人はどうにかしてこの雰囲気を打破しようと、
努めて明るく振舞っている。
- 237 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:33
- 「おっ!!いいね田中ちゃん!!」
「さすがれすねあいぼん!!」
「お、どうしたどうした高橋。」
「まこっちゃん、それはナシなのれす。」
矢口と辻の声が練習場に響く。
いいプレーがあった時、悪いプレーがあった時は必ず声をかける。
いいプレーの時は満面の笑顔で。
悪いプレーの時はニッと笑って。
この2人に引っ張られるように他の選手たちから笑顔もこぼれる。
- 238 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:33
- 「矢口さん!!」
新垣からパスが来た。
絶好のパスだ。
「ナイスお豆ちゃん!!」
矢口がこれに合わせる。
見事にゴール。
「よしっ!!ってあれ?」
ゴールを決めてグッと拳を握り締める矢口。
しかし誰も祝福に来てくれない。
「ナイスパスれす里沙ちゃん。」
「今のはパスがよかったよ。」
「ナイスパスやでガキさん。」
辻が、高橋が、加護が新垣の周りに集まる。
「おーい、ゴール決めたのオイラなんだけど。」
「あんなの小学生でも決めれます。」
石川が冷たく言う。
「おーい、おーい、おーい・・・・・・・・」
矢口の声がむなしくこぼれていった。
- 239 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:33
- 「ほいっ!!」
変なかけ声のもと、石川の左足が振り抜かれた。
ボールは鋭くカーブがかかり、練習用の壁を越え、
ゴールネットに吸い込まれていった。
「ほえー、相変わらずすっげー左足だな。」
ゴールマウスに立っていた矢口が思わず言ってしまう。
こちら側から立って見ると、何とえげつない曲がり方であろうか。
その言葉にニッと笑う石川。
「何てったって“魔法の左足”ですから。」
- 240 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:35
- 通常の練習が終わった後、いつも石川はFKの練習を行う。
1本1本感触を確かめるように、丁寧に丁寧に左足を振りぬく。
今大会、まだ一度も出番はない。
世間でも完全に藤本の方が上だという評価だ。
しかし石川は腐らず毎日FKの練習を欠かさない。
いつか必ずこの左足が必要とされる時がくる。
そう信じて。
- 241 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:36
- 「あ、そうだ矢口さん。ちょっとこれ見てもらえます?」
「えっ?」
石川はボールをセットすると助走の距離をとった。
その時、矢口は違和感を感じた。
どこか普段の石川のFKとは違う。
「ほいっ!!」
石川の左足が振り抜かれた。
- 242 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:36
- 「?!!」
ズサッ!!!
ボールが勢い良くゴールに飛び込んでいった。
矢口は一歩も動けなかった。
「な、何だよ今の?!!」
「今のがBタイプです。もういっちょ行きますよ。」
もう一度石川はボールをセットし、助走をとって左足を振り抜いた。
ズサッ!!!
またもボールがゴールネットに突き刺さる。
もちろん矢口は一歩も動けない。
「今のがCタイプです。どうです矢口さん?」
「どうですって・・・・・・・」
矢口はゴクッと息を飲む。
・・・・お前の左足はホントに人間の足なのか?
- 243 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:37
- 「もう!!絵里のバカ!!」
「はい、さゆの負けー。」
反対側のゴールでは亀井と道重がPK勝負をしていた。
5本中、何本止められるかという勝負。
止められた分だけ食事を奢るというルール。
亀井は見事に3本ストップした。
これで3日間の食事権を確保。
「相変わらず亀井ちゃんは凄いのれす。」
この勝負を見ていた辻だ。
いくらPKが得意だからといって、こんなに止められるものなのか?
「どうしてコースがわかるんれすか?」
「えーっとですね。何となくなんですよ。何となくこっちに来るなあって。」
「そんなもんなのれすか?」
辻が驚く。
「はい。そんなものなんですよ。」
亀井はニッコリ笑う。
- 244 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:37
- この光景をずっと見ていたのはコーチのマコト。
控えの選手たちはみな元気一杯だ。
マコトは決心した。
- 245 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:38
- 決勝トーナメントが始まった。
日本の初戦の相手は『不屈のライオン』と謳われるカメルーン。
身体能力はもちろん優れている。
前回のオリンピックでは並みいる強豪を倒して見事に金メダルを獲得した。
今大会は2大会連続のメダルを狙う。
- 246 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:41
- カメルーン代表の主力はオーバーエイジ枠の3人。
前回見事に金メダルをとったメンバーだ。
イングランドプレミアリーグ、マンチェスター・ユナイテッド所属。
その試合の展開、攻守のバランスを読む力はしばしば競馬の騎手に例えられる。
MFタカシマ・アヤパンアヤパン。
スペインリーガエスパニョーラ、レアル・マジョルカ所属。
一説にはプロ野球のエースの球速なみの速さを持つと言われる
快足FWトモヨン・シバター。
そしてこのチームの大黒柱。
Jリーグ、東京ヴェルディ1969所属。
考えられないようなリズム感からシュートを放つ。
FWキョウコリック・ウチボマ。
世界でもその名を轟かす3人がオーバーエイジの枠に名を連ねた。
しかし、今回のカメルーン代表で見るべき選手はこの3人だけだった。
確かに将来はと思わせるような選手はいるが、まだ如何せん経験が足りない。
予選は1位突破ながらも、正直組み合わせに恵まれた感があり、
上位を狙うには厳しい陣容だ。
- 247 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:41
- 「ええっ?!!」
ギリシャにまで応援に来た日本のサポーターたちが一斉に驚きの声を上げる。
それはスタメン発表でだった。
スタジアムの電光掲示板に選手たちの名前が表示される。
GK 22 Eri Kamei
DF 4 Nozomi Tsuji
14 Rika Ishikawa
15 Makoto Ogawa
16 Asami Konno
MF 5 Ai Kago
7 Reina Tanaka
8 Mari Yaguchi
21 Risa Niigaki
FW 17 Ai Takahashi
19 Sayumi Michisige
- 248 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:42
- えーっと、俺ってローマ字も読めないのかな?
サポーターたちは誰もが一瞬、そう思った。
しかし横に書いてある背番号、これだけは見間違いようがない。
あ、分かった。
これは控えメンバーを先に表示しているんだ。
何だ思わせぶりな選手紹介だな。
そう思って本当のスタメン発表を待つが、
待てども待てども発表されない。
- 249 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:42
- そしてそのまま選手が入場した。
日本代表はいつもの青のユニフォーム。
カメルーン代表も緑のユニフォームだ。
ウオオオオオオ?!!!
日本のサポーターが揺れた。
先頭は左腕に真っ赤なキャプテンマークを付けた辻希美。
その後ろに加護亜依、紺野あさ美、高橋愛、新垣里沙、小川麻琴、
亀井絵里、道重さゆみ、田中れいな、石川梨華、矢口真里と続く。
あの電光掲示板は間違いじゃなかったのか?!!
この大事な一戦に控えメンバー?!!
何考えてるんだツンク?!!
サポーターたちから疑問に満ちた声が飛ぶ。
- 250 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:43
- 「・・・騒いでますね。」
「まあ仕方ないだろ。」
石川の言葉に余裕の表情で答える矢口。
騒ぎたい奴は騒いでおけ。
悪いけどこっちはそんな事を気にしている暇はないんだ。
この試合、絶対に勝たないといけないんでね。
勝利。
それがこのチームを、日本代表を蘇らせる特効薬となる。
あたしたちがこの日本代表を蘇らせてみせる。
- 251 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:43
- <日本代表>
道重 高橋
田中
加護 矢口
新垣
石川 小川
紺野 辻
亀井
- 252 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:44
- カメルーンのボールで試合が開始された。
カメルーンのシステムは4−4−2。
ボランチの位置にアヤパンが入ってパスを散らし、
2トップのシバターとウチボマを走らせるというスタイル。
2人は自由にポジションチェンジをしてゴールに向かう。
良くも悪くも2トップ次第というサッカーだ。
さっそくアヤパンから左サイドに開いたウチボマにパスが出た。
「まこっちゃん当たるよ!!」
すぐさま新垣と小川がウチボマに当たる。
今季より日本のJリーグに来たウチボマはその噂に違わぬ実力を見せ付けている。
新垣のジュビロ磐田も、小川の清水エスパルスもウチボマに粉砕された。
今日はその借りを返す。
- 253 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:44
- ウチボマがそのフィジカルと独特のリズム感で強引に突破を図る。
が、新垣も小川も必死に身体を寄せて食らいつく。
2人の粘りにスピードが落ちたウチボマだが、
それでも2人を振り切った。
「甘いのれす!!」
が、ここに辻がきっちりカバーに入っていた。
ウチボマの足元からボールが離れた瞬間、
辻の狙い済ましたタックルが決まった。
- 254 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:45
- 「ようしっ!!ナイスタックルだよのんちゃん!!」
ベンチで飯田が声を上げる。
「やるやんけ。ちゃんとセンターバックをこなしてる。」
中澤も辻のプレーに感心する。
辻はガンバでもチーム事情によって最終ラインに入る事もある。
が、それはあくまでオプションの1つであり、
基本はボランチの選手だ。
この大事な一戦で任せるには正直経験が不安はあるが、
高いモチベーションが経験不足をカバーする。
「紺野!!!頼むよ!!!」
石黒が声を張り上げる。
DFラインは経験が少ない。
だからこそ紺野にかかる期待は大きくなる。
紺野もそれを自覚している。
今もきっちりシバターを見つつもカバーリングに行けるように備えていた。
- 255 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:45
- 中盤で田中がボールを持った。
すぐさまカメルーンボランチがチェックに来る。
が、田中は難なく振り切り前を見る。
しかしそこに死角からのタックルがボールを弾いた。
「あっ?!!」
カメルーンの誇るボランチ、アヤパンだった。
決してフィジカルは強くないが、
そのスピードと読み、何よりクレバーなプレーが光る。
ボールを奪ったアヤパン、すぐさま前線にロングパス。
- 256 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:46
- ウオオオオオオオオ!!!
観客が歓声を上げる。
低く速い弾道のパスが40m先を走るシバターの足元にピタリと渡ったからだ。
右サイドに開いてこのパスを受けたシバター、中へと切れ込んでいく。
すぐさま石川がチェックに向かう。
それに連動して紺野、辻もポジションを修正する。
新垣も最終ラインに戻り、きっちりと穴を埋める。
- 257 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:46
- シバターVS石川梨華。
1フェイント。ガマンした。
2フェイント。これもガマンした。
3フェイント。まだだ。
4、今だ!!
腰を落とし、粘りに粘った石川が、シバターの華麗なフェイントにも釣られずに
ボールをタックルで弾いた。
「ナイス石川!!」
矢口からの声にグッと親指を立てる石川。
同い年のミキティーには負けてられない。
- 258 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:47
- 石川、紺野、辻、小川という急造DFライン。
しかも慣れない4バック。
だが前半の序盤を過ぎ、中盤を過ぎたあたりでもそれは一向に綻びを見せない。
紺野の的確なカバーリングが利いているのは確かであるが、それだけではない。
「辻さん!!そこで当たって!!」
「紺野さん裏気をつけて!!」
最後尾から指示を出す亀井絵里。
彼女の存在が大きかった。
- 259 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:47
- テレビで観戦していたアジアカップ予選リーグ、対イラン戦。
ミカが至近距離から顔面にボールを受けて退場し、
急遽出場したベテランGK信田美帆。
彼女のプレーに亀井は刺激された。
GKはただシュートを止めればいいと思っていたが、
撃たせる前に止めるという事を亀井は学んだ。
反射神経や身体能力では飯田やミカに負けるかもしれない。
だが、自分には絶対の自信を持つPKがある。
それに的確なコーチングが加われば飯田達を抜けるはず。
「紺野さん、右抑えて!!」
亀井の指示通りコースを限定させた紺野。
ウチボマが反対のコースを狙うが、
そこはきっちりと亀井が詰めており、これを見事にキャッチした。
- 260 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:48
- ここまで序盤戦はペースとしてはカメルーン。
ウチボマやシバター、アヤパンを中心に身体能力を活かした攻撃を仕掛けてくる。
が、それも前半も半ばを過ぎると次第に止まっていった。
日本の守備陣は組織がきっちりと出来ている。
カメルーンの選手が高い身体能力で攻めてきても数人がかりでマークに付く。
「里沙ちゃん、加護ちゃん!!」
「オッケー!!」
「オッケーや!!」
新垣と加護がすぐさま囲む。
そして新垣が鋭い出足でボールを奪った。
カウンターのチャンスだ。
- 261 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:48
- 「重さん!!」
新垣はすかさず最前線の道重にパスを送る。
道重はDFを背負いながらもこれを確実にトラップ。
2秒キープし、上がって来た田中にパスを落とす。
見事なポストプレーだ。
田中はこのパスをダイレクトで右サイドのオープンスペースへ。
そこへ走り込むのは高橋愛。
右サイドでボールを受け、中に切れ込んでいく。
得意のプレーだ。
だがカメルーンも突破させまいとアヤパンが戻り身体を張る。
この辺りはさすが競馬の騎手のようなバランス感覚、
タカシマ・アヤパンアヤパンだ。
- 262 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:49
- 「愛ちゃん!!」
しかし高橋の後ろからさらに小川が上がってきた。
素晴らしいスピードにタイミングだ。
高橋はアヤパンをひきつけ小川にパスを出した。
パスを受けた小川、すかさず中にクロスを送る。
それを阻止しようと飛び込むカメルーン左サイドバック。
だが小川のクロスは正確だ。
カメルーン左サイドバックが出した足を掠めるようにして
中に速いクロスが入った。
- 263 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:49
- 「ナイスボール!!!」
ゴール前に道重、田中が飛び込む。
その後ろには加護も上がってきている。
ボールは中央に走り込んだ道重のもとに。
「来た!!!」
道重はタイミングを測り飛んだ。
小川のクロスはスピード、コース、タイミング、カーブ、全てが完璧だった。
道重はDFと競り合いながらもこれを頭で合わせた。
『決まった!!!』
ヘッドに当てた瞬間、グッと拳を握るほどの会心のヘディングだった。
しかしこれはカメルーンGKが手に触り、クロスバーを叩いた。
「あっ?!!」
思わず叫ぶ道重。
あれを止めるなんて?!
- 264 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:50
- このこぼれ球を拾ったアヤパン、すぐさま前線にロングパス。
これを追いかけるのは右サイドから左サイドにポジションチェンジしていたシバター。
小川が上がって出来たスペースに素晴らしいスピードで走り込む。
が、後ろからそれを追いかける1つの流星。
「待て待て待て!!!」
日本が誇るスピードスター矢口真里。
- 265 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:50
- 「なっ?!!」
思わず絶句するシバター。
自分のスピードはあの元甲子園の怪物並みだぞ?
シバターはギアを上げる。
が、矢口もこれに食らいつく。
2つの流星が高速でライン際を流れていく。
- 266 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:51
- ウオオオオオオオオオオ?!!!!
スタジアムが大きく沸く。
何だあの速さは?!!!
一歩ごとに2人の距離が縮まっていく。
それはつまり矢口の方が速いということだ。
「なっ?!!」
ついに矢口がシバターを追い抜いた。
そしてボールに追いつき、これをDFの辻に返した。
- 267 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:51
- 「やぐっつぁん速すぎるよ!!!」
ベンチで後藤が叫ぶ。
「後藤さん。あの速さはシライシより上じゃないですか?」
「まっつーもそう思う?ごとーもそう思った。」
松浦の言葉に同意する後藤。
今現在世界最高のスピードスターと言われるスペインリーガエスパニョーラ、
レアル・ベティス(今季よりバレンシアに移籍)所属ミホチャン・シライシ。
1年前の欧州遠征で一度矢口はこのシライシと対戦している。
結果は矢口に軍配が上がった。
が、その時はシーズン開幕前でシライシのコンディションが整っていなかった。
その後、リーグ戦で後藤や松浦はベティスと対戦したが、
その時のシライシの速さは半端ではなかった。
だが、今の矢口のスピードはそれ以上だった。
- 268 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:52
- 「やってくれるやないけ矢口さん。」
左サイドの加護がニッと笑う。
右サイドは矢口だけでなく小川、そして高橋も大活躍だ。
「梨華ちゃん、うちらも負けてられへんで。」
「もちろん。」
石川もニヤッと笑う。
右サイドがスピードで勝負なら、左サイドは“飛び道具”で勝負だ。
「田中ちゃん!!こっちや!!」
加護が左サイドでボールを要求する。
田中は加護にパスを送る。
「当たれ!!」
アヤパンが叫ぶ。
その瞬間一斉にカメルーンの選手が3人で加護を囲む。
カメルーンもウチボマから情報を得ており、加護のことを知っていた。
世界に通じるドリブラーだと。
- 269 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:53
- ウオオオオオオ?!!!!
スタジアムが沸く。
3人がかりで一斉に襲い掛かるカメルーンだが、一向にボールが奪えない。
加護が巧みにボールをキープする。
左足、右足、かかと、足の裏と見事なボールコントロールだ。
スタンドから見ると大柄なカメルーン選手の中で1人ダンスを踊っているようだ。
- 270 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:54
- 加護が華麗に舞う。
そしてその眼が一瞬の隙をとらえた。
「ここや!!」
加護が身体を出来るだけ小さくしてカメルーン選手の間をすり抜けた。
「加護さん!!」
その瞬間道重がニアサイドに、高橋がファーサイドに流れる。
カメルーンDFもこの2人に引き付けられる。
中央がぽっかり空いている。
ここだ!!
そこへきっちりと飛び込むのは田中れいな。
FWを追い越すプレーはひとみ、柴田よりも優れている。
- 271 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:54
- 「よっしゃ、ナイスや田中ちゃん!!」
加護がそこへクロスを送ろうと左足を振りかぶる。
が、その瞬間後ろから激しいタックルが。
「うわっ!!!」
加護が足を払われ吹っ飛ぶ。
「うううー!!!!」
右足を押さえて呻く加護。
ピピピピピッ!!!
主審が笛を鳴らして駆け寄ってくる。
そしてすかさずタックルを仕掛けたアヤパンにイエローカード。
「ちょ、ちょっと待って!!今のボールに行ったって!!
足に当たってないよ!!」
アヤパンが必死にアピールするがもちろん通らず。
- 272 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:55
- 「あいぼん大丈夫?!!」
石川が加護に駆け寄る。
が、加護はペロッと舌を出す。
「どうや梨華ちゃん、うちの演技は?中々のモンやろ?」
「?!・・・・・なるほどね。オッケー。」
石川が頷く。
見事な加護のフェイクだった。
- 273 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:55
- ゴールまで約23m。
ちょうどペナルティエリアの角の辺り。
左足で狙うにはややきつい角度だ。
しかしプレースキックは譲れない。
背番号14、“魔法の左足”がボールをセットする。
ゴール前にはヘッドの強い道重、それから紺野も上がってきている。
「お、石川のやつあれをやる気だな。」
逆サイドにいる矢口はピンと来た。
『その位置からだと、タイプCかな?』
- 274 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:55
- 「マーク!!集中だ!!」
カメルーンもウチボマが戻り、マークに付く。
石川の左足は恐ろしいぐらい正確だ。
きっちりとマークについておかねば。
厳しい角度であるにも関わらず、壁も5人並ぶ。
ピィ!!!
主審の笛が鳴った。
ゴール前で道重と紺野、田中がファーサイドに流れる。
カメルーンDFもこれについていく。
「ほいっ!!」
その瞬間石川の左足が振り抜かれた。
- 275 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:56
- 「よしっ、ミスった!!!」
ウチボマが叫ぶ。
石川のFKは壁を越えたものの、GK真正面。
しかもこの勢い、角度だとクロスバーを越えていく。
が、突然このボールが変化した。
ボールがいきなり急降下したのだ。
「うわっ?!!」
カメルーンGKが慌てて手を伸ばす。
しかしこのボールの変化はそれだけでは終わらなかった。
- 276 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:57
- 「?!!」
ボールが落ちながら激しく揺れた。
左足を押し出すようにしてとらえたこのFK。
ボールには全く回転がかかっていなかった。
そのため空気抵抗をまともに受け、ボールが揺れて落ちたのだ。
野球で例えればナックルボール。
カメルーンGKは触る事が出来なかった。
前半31分。
石川梨華の“魔法の左足”により、日本代表が先制点を上げた。
- 277 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:58
- 「よしっ!!!!」
石川が思わず右拳を天に突き出す。
まさに会心のFK。
「梨華ちゃん!!」
「石川さん!!」
日本イレブンが一斉に石川に抱き付く。
「凄いですよ石川さん!!あんなFK、初めて見ました!!」
新垣が興奮して言う。
それに石川は得意になる。
「へへ。スゴイでしょ。みんな覚えておいてね。あれがチャーミー・・・」
「アゴンボールって言うんだ。」
と矢口が石川の言葉に被せて言った。
「ちょ、ちょっと矢口さん!!」
「へー、アゴンボールですか。まさに完璧なネーミングです。」
紺野がうんうんと頷く。
「ホントですね。まさに絶妙なネーミングですわ。
ボールが“アゴーン”って感じで揺れて落ちましたもんね。」
加護も腕を組んでうんうんと頷く。
「違うの!!あれはチャーミーボールなんです!!」
石川が叫ぶが、もはや手遅れだった。
矢口により石川のFKはアゴンボールと命名された。
- 278 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:58
- 「カッケー!!!」
「すごいよ梨華ちゃん!!!」
ベンチでもひとみや後藤が声を上げる。
『な、何なのあの左足は?』
思わずゴクッと息を飲むのは藤本美貴。
左サイドを争うライバルの強烈な一撃にただただ驚嘆するのみであった。
「よしっ!!よくやった石川!!」
マコトも思わずガッツポーズ。
それに気付いた石川がグッと拳を突き出す。
この試合はこのメンバーで行こう。
ツンクにそう進言したのはマコトだった。
- 279 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:59
- 「ツンク。次のカメルーン戦、このメンバーで行こうや。」
ブラジル戦を終えた翌日。
軽い調整を終え、宿舎に戻った日本代表。
全体でのミーティングの前にコーチ陣だけで話し合った。
その際にマコトは次のカメルーン戦、
亀井、紺野、辻、小川、石川、新垣、加護、矢口、田中、高橋、道重。
このメンバーで戦おうと言った。
「ちょ、ちょっと待てマコト。いくらなんでもこのメンバーはないやろ?」
これに真っ先に異論を唱えたのはツンク。
ツンク自身も次のカメルーン戦、自身も含めて流れが悪いため、
何人かメンバーを入れ替える必要があると思っていた。
だが、マコトが進言したメンバーは紺野以外総入れ替え。
これは余りにもやりすぎではないか?
- 280 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 10:59
- が、マコトはさも当然といった顔だ。
「何でや?こいつらのどこがあかんねん?
こいつらはお前が自信を持って選んだメンバーとちゃうんか?」
「いや、それはそうやけどや。でもいきなり総入れ替えは危険やろ。
連係面の不安もあるし、それに一発勝負の決勝トーナメントや。
余りにも危険すぎる。」
ツンクは総入れ替えを否定する。
「マコト、俺もそれは余りに危険やと思う。
確かにブラジル戦に出た奴らは雰囲気が悪いし、こう、運気も悪い流れや。
それを断ち切るために新しい選手を投入すべきやと思う。
けど、紺野以外総入れ替えは少々やりすぎとちゃうか?」
タイセーだ。
彼もマコトの意見に異を唱える。
- 281 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:00
- 「・・・・・・・・・」
沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのはハタケ。
「なあマコト。何で紺野以外総入れ替えをしようと思ったんや?」
その言葉にみなが注目する。
「・・・・・俺はサッカーっちゅうのは技術も当然やけど、それ以上に気持ちが
大きく左右するスポーツやと思う。で、その気持ちやけど、今一番強い気持ちを
持ってるのがこいつらやと思う。だから矢口たちをスタメンで出すべきやと言ったんや。
紺野は何や、変なトコでぽーっとしとるから、
他の奴らよりニブチンであんま影響ないみたいやからな。」
「マコトの言ってる事も分かる。確かに気持ちは大事で、今、その気持ちで順位を
付けるとしたらこの11人やろう。でもな、」
「なあツンク。こいつらと福田たち。そんなに差はあるのか?」
マコトがツンクの言葉に被せて言った。
- 282 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:01
- 「確かに福田はまさにワールドクラスや。あのユーヴェの中心選手でユッキエをも
恐れさす選手や。市井にしたって名門アーセナルのキープレイヤーや。
でもな、気持ちが落ちている市井たちと、モチベーションが最高の矢口たち。
これでも市井たちの方が上か?それほど差はあるのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
マコトの言葉に黙り込むツンクたち。
さらにマコトは続ける。
「俺は、あいつらにそれほど差はないと思ってる。
確かにお互い絶好調の状態やったら市井たちの方が上かもしらん。
でも、今の状態やったら絶対に矢口たちの方が上や。
このチームは日本代表や。代表は育成の場やない。
その時にベストやと思う11人で戦うのが代表チームや。
だから俺はあいつらを次の試合に出すべきやと思う。
ベストな11人をな。」
- 283 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:02
- 「・・・・・・・確かにお前の言うとおりかもしらんな。」
ツンクがニヤリと笑った。
その表情は何かを決意したような表情だった。
「お、おいツンク?!!本気か?!!」
タイセーが驚いた表情で叫ぶ。
「ああ、本気や。俺は今まで散々クラブの格とかでスタメンは選ばんとか
言っときながら実は一番拘ってたのかもしらん。
マコトの言うとおり、今の状態から判断するとこの11人が戦える11人や。
ブラジル戦のメンバーよりも、この11人の方が確実に戦える。
よし、このメンバーでカメルーン戦に挑むで。」
そう言うツンクの表情に迷いは無かった。
- 284 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:03
- そしてこの後行われた全体ミーティングで次の試合のスタメンが発表された。
「よしっ、絶対に勝つぞ!!」
闘志を滾らせる矢口たちスタメン組。
「・・・・・ちくしょー。絶対にスタメンを奪い返してやる。」
闘志が、モチベーションが蘇る市井たち。
どうやらアユウドの毒素はマコトの策によりゆっくりと抜け出してきた。
- 285 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:04
- 「このメンバーやとシステムは4−4−2やな。
オリンピック予選のイラン戦の時と同じやつで行こう。
あの時は左サイドバックに麻美やった。
・・・・・・・石川、行けるよな?」
「はいっ!!任せてください!!」
石川が頷く。
もちろん左サイドバックの経験はないが、普段の石川は
左サイドハーフでも下がり目にポジションをとっている。
それだけに左サイドバックも何とかこなせるはずだ。
「よっしゃ、頼むで。で、加護に矢口。」
「はいっ!!」
「お前らは攻めはもちろんやけど、1ボランチの新垣を助けなあかんぞ。
絶対に足を止めるなよ。」
「はいっ!!」
- 286 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:04
- 『よしっ。どうやら俺の策は成功したようや。』
マコトがこの光景を見てホッと胸を撫で下ろす。
スタメンを矢口たち控え組にすることにより、いい状態の選手をピッチに出すこと。
そしてこれに福田たち海外組が闘志を燃やし、弱い気持ちを追い出すこと。
マコトにはこういった狙いがあった。
が、一番の狙いはツンクを蘇らせることだった。
指揮官がいつまでも引きずっていては勝てる試合も勝てなくなる。
今、選手たちに指示を送るツンクの目は活き活きとしていた。
- 287 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:05
- 『後は、あいつだけやな・・・・・・』
マコトがその選手を見る。
唯一、この世の終わりのような雰囲気。
マエストロ柴田あゆみ。
彼女だけはどうしようもなかった。
サッカー選手としてのプライドは全て打ち砕かれてしまった。
そこにいるのは、生ける屍。
翼を失った飛べない天使だった。
- 288 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:05
- 石川の見事なFKが決まり、日本は1−0とリードした。
しかし、カメルーンも前回優勝国。
アフリカでトップに立つ国だ。
そう簡単に勝たせてくれるわけがない。
左サイドを突破した加護が中にクロスを送る。
このクロスに飛び込むのは道重。
しかしカメルーンDFもその身体能力を活かしてこれをクリアする。
このこぼれ球はアヤパンが拾う。
- 289 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:05
- 「ウッチー先輩!!」
アヤパンの右足から精度の高いパスが送られた。
このパスの先にはキョウコリック・ウチボマが待っている。
カメルーンの絶対的なエース。
紺野を背負いながらこのパスを胸でトラップ。
そして身体を左右に振って紺野を振り切ろうとする。
『・・・・・何かおかしい。タイミングがつかめない?』
紺野は違和感を感じていた。
何か変なのだ。
ウチボマのフェイント。
確かに身体の動きは鋭いのだが、タイミングが、リズムがちぐはぐだ。
それがかえって紺野にとってフェイントとなった。
- 290 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:06
- 「あっ?!!」
紺野のタイミングが狂った瞬間、ウチボマが鋭く突破した。
そして得意の左足を振りぬく。
が、これもタイミングがおかしい。
一拍余計に多い。
「えっ?!!」
今のタイミングでシュートが来ると思っていた亀井。
バランスを崩す。
そこへ一拍遅れてウチボマの弾丸シュートがきた。
「くっ!!」
懸命に手を伸ばすものの、ボールはゴールネットに突き刺さった。
前半42分。
カメルーン、ウチボマの見事な?リズム感によるシュートで同点に追いついた。
- 291 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:06
- 「・・・・あの人、絶対音痴だ。」
紺野が喜ぶウチボマの背中を見て呟いた。
前半は1−1で終了した。
- 292 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:07
- 「よしよし、ええで、前半は同点に追いつかれたけど上出来や。
全然負けてへんから、後半もその調子で行け。」
「はいっ!!」
ハーフタイム。
ロッカールームではツンクが矢口たちに後半の指示を出している。
みな表情が活き活きしている。
ピッチで戦える事を心底嬉しがっている顔だ。
一方、ピッチではひとみたち控え組が身体を温めていた。
こちらもみな意欲に満ち溢れた表情だ。
矢口たちが素晴らしいプレーを展開している。
それを見て燃えないようでは、日本代表に選ばれる資格などない。
- 293 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:07
- 後半戦が始まるため、矢口たちがピッチに戻ってきた。
それと入れ替わるようにひとみたちがベンチに戻っていく。
「矢口さん、頑張ってくださいね。」
「おう、任せとけよっすぃー!!」
ひとみと矢口がパンと手を叩いた。
「柴田さん。見ていてください。」
田中が柴田にすれ違いざまに言った。
あのブラジル戦以来、田中は柴田と一度も口を利けなかった。
一体何を言えばいいのか?
田中にはわからなかった。
だからこそ言葉でなくプレーで、柴田に、憧れの人にエールを送る。
- 294 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:08
- 『・・・・・・田中ちゃん・・・・・』
柴田は田中のその思いを嬉しく感じるが、
それ以上に胸が締め付けられた。
何て自分は情けないのか?
頭では分かっている。
すぐに気持ちを切り替えなければならないことを。
しかし、心がそれを許さない。
どうしてもアユウドの鋭い目が心を支配してしまうのだ。
ふと気がつくとひとみが自分を見ていた。
真直ぐ、曇りのない目で。
その目を柴田は受け止められなかった。
スッと視線をそらして1人ベンチの端に座る。
- 295 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:08
- その柴田の行動にひとみは胸が苦しくなる。
涙が零れそうになる。
そんなのやめてよ。
いつもの笑顔を見せてよ。
「・・・・・・吉澤。」
市井がポンとひとみの肩を叩く。
「市井さん・・・・・」
「大丈夫だ。柴田は絶対復活する。
それはお前が一番分かってるんだろ?
だから今は待とう。」
「・・・・・はい。」
ひとみは目を潤ませながら頷いた。
- 296 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:09
- 後半戦が開始された。
後半も高いモチベーションで戦う日本代表。
カメルーンも負けじと真正面からぶつかってくる。
「新垣さん!!」
田中が右サイドに流れる。
この田中の動きにピッタリとマークにつくのがアヤパン。
ここまで田中に目立った動きはない。
それはこのアヤパンがしっかりとマークに付いているからだ。
田中のマークに付きつつも他で綻びが出来ればそこをきっちりとマークする。
さすがは名門マンチェスター・ユナイテッドに所属し、
昨シーズンの3冠獲得に貢献した選手だ。
- 297 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:11
- しかし、後半の田中れいなは前半とは別人だ。
柴田を蘇らせるため、完全にこの試合に集中しきっている。
新垣から田中にパスが出た。
田中はアヤパンにマークに付かれながらもきっちりトラップ。
「前だ!!田中ちゃん!!」
その時、右サイドバックの小川がフリーで上がって来た。
絶妙のタイミングだ。
この辺りは清水エスパルスでチームメートなため、息が合っている。
「小川さん!!そのまま走って!!」
「出させない!!」
アヤパンが身体を張る。
が、田中は小川にパスを出さず、逆にターンした。
「なっ?!!
完全に逆を取られたアヤパン。
さすがは田中れいな。
トリックスターの面目躍如だ。
- 298 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:12
- アヤパンをかわした田中、フリーで駆け上がる。
「田中ちゃん!!」
その瞬間高橋が一度外に開いてDFの視界から消える。
そして次の瞬間最高のポジションに飛び込む。
「高橋さん!!」
そこへ田中からスルーパスが出る。
「あっ?!!」
「あっ?!!」
田中のパスが出た瞬間、ベンチでひとみと柴田が叫んだ。
- 299 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:12
- 田中が右足アウトサイドで放ったパスは、
最高のスピード、コース、タイミングで高橋の足元に。
しかも高橋の走るスピード、利き足、タイミングに完璧に合った。
最高の天使のパスだ。
これを高橋は難なく押し込んだ。
後半12分。
日本、勝ち越し点をあげた。
- 300 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:13
- 「よしっ!!!!」
高橋がガッツポーズ。
そこへみなが一斉に抱き付く。
「ナイスシュート高橋!!」
「愛ちゃん!!」
ベンチも歓喜に沸いている。
「・・・・やってくれるじゃん田中。」
ひとみがニヤリと笑う。
まさか天使のパスを柴田以外で拝めるなんて。
ひとみの腕に一面トリハダが立った。
「田中ちゃん・・・・・・」
柴田は逆に放心状態。
“自分だけのもの”と思っていた天使のパスが田中に出されたのだ。
最後の自分の寄り処までも失った。
田中からしてみれば自分の必死な姿を見せ、
柴田を奮い立たせようとしているのだが、
今の柴田には全てが逆効果であった。
- 301 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:18
- 「さあ、ここで気を抜いたらダメだから!!
絶対に抑えよう!!!」
キャプテンマークを巻いた辻希美が声を張り上げる。
普段の舌足らずな口調ではなく、はっきりとした物の言い方だ。
それが選手たちの気をさらに引き締める。
「あいつ、何かええ雰囲気やな。」
“日本サッカー界のキャプテン”中澤裕子が呟く。
辻の持っている雰囲気が実に頼もしいのだ。
自分は正直リーダーというタイプではなかった。
しかし周りに適任者がいなかったため、長くキャプテンを務めてきた。
その経験があってこそやっとみなを引っ張っていけた。
しかし辻にはもうすでにキャプテンとしての雰囲気が備わっている。
「これは楽しみやな。」
中澤は穏やかな顔で呟いた。
- 302 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:19
- 勝ち越し弾に沸き、辻のゲキに気を引き締めた日本。
しかしそれをも彼女が打ち破った。
10分後、歓喜に沸くカメルーン。
日本2−2カメルーン
ウチボマのゴールにより、カメルーンが同点に追いついた。
- 303 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:19
- ここまでモチベーションを高く保ち、
互角以上の戦いを見せてきた日本代表。
だが、彼女はやはり特別だった。
アフリカでも最高レベルの選手。
キョウコリック・ウチボマ。
- 304 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:20
- 「くそっ!!」
紺野と辻が吐き捨てる。
ここまで辻のパワー、紺野のスピードで押さえ込んできたが
ウチボマにはもう1つ武器があった。
それは高さだ。
加護と石川のサイド、左サイドにポジションチェンジし、
スピードでこの2人を振り切ったシバターが中にクロス。
このクロスを身長の低い辻とマッチアップしたウチボマが
高い打点のヘッドで亀井を破ったものだ。
ある意味クロスに合わせるという単純な攻撃。
しかしきちんと体格差、特長を頭に入れた攻撃。
だからこそ策や読みなど関係なく、個人の身体能力で決まる。
- 305 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:21
- 「ちっ、さすがウチボマや。」
ツンクが表情を歪める。
身体能力はもちろんだが、
最近ではうまく考えて攻撃をするようになっている。
実に厄介な存在だ。
「よし、石黒!!行くで!!」
「はいっ、準備できてます。」
ツンクはすかさず動いた。
辻を下げて石黒を投入する。
辻はキャプテンとしてチームをまとめている。
だが、やはり高さでは不利だ。
前のブラジル戦は柴田に固執したため取り返しがつかなくなった。
だからこそこの判断に迷いは無い。
- 306 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:24
- 「ののれすか・・・・・」
辻が交代の指示を聞いて表情を歪める。
しかし、これも仕方がない。
「矢口さん。」
辻は矢口にキャプテンマークを渡し、
タッチラインへと向かう。
「後は任せとけよ。」
矢口がその小さな背中に言葉をかける。
他の選手たちも同様だ。
辻のためにも絶対に負けられない。
「辻ちゃん、いいプレーだったよ。」
「石黒さん、後はお願いします。」
石黒とハイタッチを交わし、辻はベンチに戻っていった。
石黒はパンパンと自分の頬を叩いて気合いを入れ、
ピッチに飛び出していった。
- 307 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:26
- 「ようやったで辻。」
ツンクが手を差し出す。
「はい。」
辻がその手を握る。
確かに交代は悔しいが、これも勝つためだ。
辻はグッとこらえてベンチに戻る。
「のんちゃん、ナイスだったよ。」
「やるじゃん。」
「ナイスプレー、のの。」
そんな辻をベンチの仲間たちが出迎えた。
みな分かってる。
この試合はもちろん、ブラジル戦後、
矢口と辻が自分たちを引っ張って行ってくれてた事を。
この小さな身体に自分たちは救ってもらったのだ。
「みんなどうもなのれす。」
いつもの舌足らずな口調に戻る辻。
「のんちゃん。」
飯田がギュッと辻を抱きしめる。
キャプテンとして凛とした雰囲気の辻もいいが、
この辻もやっぱいい。
そう思う飯田であった。
- 308 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:26
- 「アヤ、ようやく出てきたね。」
「辻の分はきっちりお礼させてもらう。」
ウチボマにピッタリとマークにつく石黒。
東京ヴェルディで同僚の2人。
今シーズンは攻めのウチボマ、守りの石黒と、
攻守に軸が出来た事でJリーグでも久しぶりに優勝争いに絡んでいる。
だが、今日は敵同士。
絶対に負けられない。
「みんな、気合入れていくよ!!」
「おうっ!!」
辻からキャプテンマークを渡された矢口の声に、みなが応える。
残りは20分少々。
最後まで全力を出し切る。
- 309 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:27
- 「うらっ!!」
石黒とウチボマがヘッドで競り合う。
2人の競り合いは互角。
このこぼれ球は亀井が飛び出してキャッチした。
あのウチボマの独特なドリブルも普段の練習で慣れているのか、
きっちりと止めていた。
「よし、これでウチボマは抑えられる。」
ツンクが石黒のプレーに頷く。
高さ、強さでは他の追随を許さない。
それが“正統派ストッパー”石黒彩だ。
「後は1点とって勝つだけや。頼むで、田中。」
ツンクの視線は背番号7に向けられる。
- 310 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:28
- 日本はトップ下の田中にボールを集める。
今日の田中は、特に後半は切れに切れまくっていた。
そのトリッキーなプレーは誰も予想がつかなかった。
それは日本の選手でさえもだ。
まさに何が起こるか分からない。
逆に言えば田中に渡せば何か起こしてくれるという事だ。
「7だ!!7を止めろ!!」
アヤパンが叫ぶ。
カメルーンも分かっている。
この試合、背番号7レイナ・タナカがキープレイヤーだと。
- 311 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:29
- 「ぐっ!!」
田中がピッチに倒れこむ。
主審は当然ファウルをとる。
カメルーンは田中を潰しにかかった。
ボールを持たない時でもきっちりとマークに付く。
今日の田中は切れているが、カメルーンの身体能力はかなりのものだ。
中々振り切るには至らない。
「ちっ、カメルーンも打つ手が速い。」
ツンクが呟く。
だが、今日のツンクも切れている。
「福田!!準備はええか?!!」
「いつでもいけます。」
ここで“偉大なるパイオニア”福田明日香を投入。
新垣と交代し、中盤の底からゲームメイクをしてもらう。
- 312 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:29
- 「お疲れ、里沙ちゃん。」
「お願いします、福田さん。」
福田は新垣とタッチをかわし、ピッチに飛び出していった。
「ナイスプレーやったで。」
ツンクが新垣の肩を叩いた。
今日の試合、身体能力に優れたカメルーン相手に1ボランチ。
中盤の守備、攻撃のフォロー、最終ライン、サイドへのカバーリング。
体力の限界まで走りきった。
“ダイナモ”新垣里沙。
その存在感を見せ付けた。
- 313 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:30
- 「明日香さん。」
道重が福田に声をかける。
ついに頼れる先輩がピッチに登場したのだ。
「さゆちゃん、点とってよ。」
福田はこんな状況でも幸せそうにのほほんとしている
道重を見てニッと笑う。
実に頼もしいではないか。
- 314 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:31
- 「田中ちゃん!!」
福田は田中を呼び寄せる。
「パスはあたしが回すから田中ちゃんは相手を引きつけて。」
「いえ、あたしだってパス出せます。」
田中がはっきりと言った。
このまま引き下がるのは嫌だ。
必ず自分がパスを出してゴールを演出してみせる。
福田はその言葉にニヤッと笑う。
「オッケー、いいよその気持ち。でもね田中ちゃん。
“トリックスター”はボールを持たないとトリックを出せないのかな?」
福田はあえて挑発するような感じで言った。
「?!!・・・・・・・分かりました。パス、頼みますよ。」
福田の挑発にニヤッと笑って田中が乗った。
- 315 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:32
- 「福田さん!!」
田中が手を上げて右サイドに流れていく。
空いているスペースへ全速力で飛び込む田中。
この動きにカメルーンは右サイドに引き付けられる。
『オッケー、ナイスラン。』
それを逃さず福田は左サイドに開いた加護へ。
加護は手薄となった左サイドを駆け上がる。
チェックに来たカメルーンDFを華麗にかわし、
思い切ってミドルを狙う。
カメルーンGKが懸命にダイブするが届かない。
しかし加護のシュートは惜しくも枠を捕らえきれなかった。
- 316 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:32
- カメルーンも負けじと反撃を試みるが攻め手がない。
ウチボマは石黒がきっちりとついているし、シバターは左サイドに流れた時は矢口が、
右サイドに流れた時は紺野がきっちりと見ている。
もちろん石川や小川といったサイドバックもきっちりと見ている。
亀井も最後方から的確な指示を飛ばす。
さらにボランチには福田明日香。
この守備ブロックがカメルーンの攻撃を許さない。
「くそっ!!」
シバターが強引に突破を試みる。
スピードで自分が負けるはずがない。
あのミホチャン・シライシにも自分は互角なはずだ。
しかし彼女は知らなかった。
日本に矢口真里というスピードスターがいたのを。
「とりゃっ!!」
矢口が快足を飛ばして戻り、シバターにタックルをお見舞いした。
- 317 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:33
- 「矢口!!」
その瞬間福田がスッと上がる。
「頼んだ明日香!!」
矢口がボールを福田に預ける。
日本のカウンターチャンスだ。
「福田さん!!」
高橋が右から左へと流れていく。
その瞬間田中は空いた右サイドへ。
カメルーンは個人の能力は高いが、組織はまだ成熟していない。
だからポジションチェンジをすれば必ず隙が出来る。
「焦るな!!マークを受け渡せ!!」
アヤパンが的確な指示を送る。
その指示に従い、マークを受け渡すカメルーンDF。
- 318 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:33
- 「ならば!!」
これを見た田中、右サイドから中に切れ込んでいく。
いい位置に田中が飛び込んだ。
「ここだっ!!」
その瞬間福田が前方にグラウンダーでパスを出した。
このパスは右から中へ切れ込んだ田中へ。
カメルーンDF陣も必死に田中に当たる。
『福田さん、これがあたしの“トリック”です。』
が、田中は福田からのパスをスルーした。
- 319 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:34
- 「なっ?!!」
これにはパスを出した福田も驚かされた。
まさかあれをスルーとは?
ボールはDFラインの裏へと転がっていく。
そのボールに唯一反応できた選手がいた。
道重さゆみだ。
『やっぱりね。何となくだけどれいなならそうすると思った。』
田中とはユース代表でもコンビを組んでいる。
それだけに考えてる事は分かる。
懸命に飛び出すカメルーンGKを良く見てゴール隅へと流し込んだ。
後半39分。
日本、再度勝ち越し弾。
- 320 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:35
- 「やったあ!!」
道重がグッと両手を握り締める。
「さゆ!!」
「重さん!!」
そこへ日本イレブンが一斉に飛びついた。
「よっしゃー!!!ナイス重さん!!!」
ベンチでもみなが抱き合って道重のゴールを喜んでいる。
この試合スタメンだった選手も、控えであった選手もみなだ。
もちろんツンクやハタケ、タイセーたちも一緒に喜んでいる。
みなに一体感があった。
この光景にマコトは呟く。
「・・・・・ようやく日本は1つになれたのかもしらんな。」
ここにいる選手にコーチたち。
みなが心から、まず第一に日本の勝利を願う。
当たり前の事であり、一番難しい事だ。
- 321 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:35
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!
道重のゴールから6分後、主審の笛が高らかに鳴った。
「よしっ!!」
その瞬間ピッチに飛び出すひとみたち。
日本はこの後のカメルーンの猛攻をしのぎ切り、
3−2で勝利した。
- 322 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:36
- ピッチではまるで金メダルをとったかのような騒ぎようだった。
みな満面の笑みを浮かべている。
苦しかった。
この試合は本当に苦しかった。
もしこの試合負けていれば、恐らく日本代表は、
ツンクが今まで積み上げてきた日本代表は完全に崩壊していたであろう。
まさにこの試合がツンクジャパン最大のヤマ場であったと言っても過言ではない。
そんな大事な試合を、世間からは“控え”と、“いらない”と蔑まされていた連中が見事に乗り切った。
もちろん彼女たちだけでなく、全員が一丸となって勝ち取った勝利だった。
- 323 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:37
- 世間はこの試合までこう思っていた。
控え組なんかはいてもいなくても一緒だ。海外組さえいればいい、と。
だが、今日の試合を観て同じことが言えるだろうか?
- 324 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:37
- 彼女たちは日本代表だ。
日本を勝利に導く選手たちだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
- 325 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:37
-
それが彼女たちの存在理由だ。
- 326 名前:第16話 レーゾンデートル 投稿日:2004/05/07(金) 11:38
-
第16話 レーゾンデートル (終)
- 327 名前:ACM 投稿日:2004/05/07(金) 12:05
- 第16話 レーゾンデートル 終了いたしました。
今回の話は書くのがかなり苦しかったです。
ですから更新が1週間開いてしまいました。
次回はもう少し早く更新できればと思っています。
- 328 名前:ACM 投稿日:2004/05/07(金) 12:06
- では次回の予告です。
第17話 デッドオアアライブ
見事に準々決勝を突破した日本代表。
次の試合に勝てばあのメキシコ五輪の記録を抜く事になる。
そんな日本代表の前に立ちはだかるのは“最強”と呼ばれる国。
お互いの意地と意地がぶつかりあう激しいサバイバルマッチ。
果たして生き残るのはどちらか?
次回もよろしくお願いいたします。
- 329 名前:ACM 投稿日:2004/05/07(金) 12:07
- ではスレ隠しです。
2004−2005シーズン
リーガエスパニョーラ編です。
<レアル・マドリード>
GK 1 ナカネ・カスミージャス (スペイン)
DF 2 ミチェル・ヒナガタ (スペイン)
3 ジュディマリ・ユッキー (ブラジル)
4 イナモリッド・イズミ (スペイン)
6 リナン・ウチヤマ (スペイン)
MF 10 ヒトミ・クローキ (ポルトガル)
19 アマイロ・シマタニッソ (アルゼンチン)
23 ルイビット・シバサキ (イングランド)マンUより移籍
FW 7 ユウーコ・タケウッチャン(スペイン)
9 ヒカルド (ブラジル)
51 後藤真希 (日本)
監督 クワター・ケイスケ
- 330 名前:ACM 投稿日:2004/05/07(金) 12:09
- <バルセロナ>
DF 3 ユウコ・アサーノ (オランダ)
20 アフロ・ヒトエ (アルゼンチン)
MF 4 アツコ・アサーノ (オランダ)
6 メグ・オキーナ (スペイン)
10 コヤナギーニョ (ブラジル)パリ・サンジェルマンより移籍
FW 7 タマキル・ナミオラ (アルゼンチン)
9 キョウコリック・コイズミート(オランダ)
13 松浦亜弥 (日本)
監督 ???
- 331 名前:ACM 投稿日:2004/05/07(金) 12:09
- <ラ・コルーニャ>
MF 10 ミ・サキー (韓国)
<バレンシア>
DF 4 タケウチ・マリャラ (アルゼンチン)
MF 19 ミホチャン・シライシ (スペイン)
21 チヒロ・オニツカール (アルゼンチン)
<レアル・マジョルカ>
FW 9 トモヨン・シバター (カメルーン)
<ビジャレアル>
MF 8 スズキ・“アミーゴ”・リケルメ (アルゼンチン)
<レアル・サラゴサ>
MF 26 ワ・カー (韓国)
- 332 名前:ACM 投稿日:2004/05/07(金) 12:12
- スペインは余り人が分かりません。
もっと調べないと。
では次回のスレ隠しはプレミアリーグを取り上げます。
いつもこの話を読んでくださっている皆様。
本当にありがとうございます。
これからもこんな話ですけど、どうぞよろしくお願いいたします。
- 333 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/07(金) 17:11
- 更新お疲れ様です。
カメルーン戦はやはり総入れ替えでしたね。これでアユウドの毒も抜けたでしょうか。少し心配な天使がいますが・・・
後、前回のスレ隠しで「忘れ人」をメール欄に書きました。
次回、メキシコを越えてくれ。
- 334 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/07(金) 21:15
- げっ!みのがしてた。(爆)メール欄は間違いだった
- 335 名前:名無しぃく 投稿日:2004/05/08(土) 01:21
- 大量更新お疲れ様です。強いですね。
是非、現日本代表監督に見てもらいたい内容です。
メダルゲッチューしてくれるかな・・・。
頑張れ!ニッポン!(バレーっぽい?)次回も頑張ってください。
- 336 名前:みっくす 投稿日:2004/05/08(土) 04:26
- 更新お疲れ様です。
完全復活まであと1人ですね。
立ち直ってくれるのでしょうか?
- 337 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/08(土) 23:37
- 更新ありがとうございます
最初から保たれてるクオリティが凄い
次回更新も楽しみです
- 338 名前:ACM 投稿日:2004/05/11(火) 02:08
- 333、334>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
総入れ替えでした。でも、現実ではこんな恐ろしい事出来ないでしょうね。
しかも一発勝負のオリンピック決勝トーナメントで。
それでも勝ってしまうんです。小説ですから。
でも、現実の日本代表もチェコ戦、やってくれましたし。
335>名無しぃく様
レスありがとうございます。
今回の話は現実のチェコ戦がヒントになりました。
コンディションの悪い海外組と、いい国内組。
果たしてどちらがチームの力になるのか?
これを見事に証明してくれました。これからもこれを続けて欲しいですね。
336>みっくす様
レスありがとうございます。
そうですね、大体復活しましたけどあと1人残ってます。
彼女が復活してくれないと、作者も困ります。
でも、相当傷は深いようです。もしかするとこのオリンピックで復活は
難しいかもしれません。まだ分かりませんが。
337>名無飼育さん様
レスありがとうございます。
“更新ありがとうございます”なんて滅相もございません。
こちらこそ読んでいただいてありがとうございます、です。
それにクオリティーもそんな恐れ多いです。
こんな話ですが、これからもよろしくお願いいたします。
では本日の更新です。
- 339 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:10
- 日本は激闘の末、強豪カメルーンを撃破した。
これでついに準決勝にコマを進めた。
いよいよメキシコ以来のメダルが見えてきた。
そして他の準々決勝の試合も熱い試合だった。
まずはイタリアVSフランス。
この試合の注目はナカマチェスコ・ユッキエVSナナコーヌ・マツシマ。
つまりクイーンとプリンセスの王位継承争いである。
- 340 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:10
- これまで見たことが無いくらいの気合いでクイーンに向かっていくプリンセス。
しかし、クイーンの壁はまだ厚かった。
結果は3−2でフランスの勝利に終わった。
ユッキエが1ゴール1アシストであるのに対して、
マツシマはゴールこそ無いものの3アシスト。
しかし記録以上にマツシマの動きは桁違いであった。
「くそっ!!・・・・・・アスカ、ヒトミ、ごめん・・・・・」
悔しさに顔を歪ませるユッキエ。
日本と戦う事もこれで無くなった。
- 341 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:11
- 「まさかこの短期間で。」
試合終了の笛を聞いた瞬間、マツシマはホッと一息ついた。
今日は勝てたが、正直言って次も勝てるかはわからない。
つい2ヶ月ほど前のEURO2004。
2−0でユッキエを叩き潰したことがウソのようだった。
マツシマはこの時、ユッキエがもうすぐそこまで来ている事を確信した。
- 342 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:11
- アルゼンチンVSナイジェリアは3−1というスコアでアルゼンチンが勝利。
ブラジルVSギリシャもブラジルが格の違いを見せつけ、4−0で勝利した。
この結果により、準決勝の対戦カードは以下の通りになった。
フランスVSブラジル
日本VSアルゼンチン
- 343 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:12
- 準決勝、第一試合はブラジルVSフランス。
あのワールドカップフランス大会での悪夢の敗戦から6年。
ブラジルはフランスに対しては並々ならぬ熱い思いを持っていた。
「必ずフランスに勝って、オリンピックの金メダルを母国に持ち帰ってみせる。」
ブラジル代表キャプテン、ユーミン。
王国ブラジルだが、オリンピックの金メダルはまだない。
それだけに絶対に勝たねばならない。
「ワールドカップ、欧州選手権は獲った。
残るはオリンピックのタイトルだ。必ず獲ってみせる。」
フランス代表キャプテン、フジワラ・ノリカー。
1984年、オリンピックで金メダルをとった。
今年はそれから20年。
王者フランスがもう一度栄冠をつかみとる。
- 344 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:13
- チームとしてはもちろんのこと、この試合は個人レベルでも見逃せない戦いであった。
今現在、世界最高のサッカー選手として称されているのが、
フランスのナナコーヌ・マツシマ。
ブラジルのハマ・サーキ・アユウド。
この2人だ。
ついにこの2人の女王の雌雄を決する時が来た。
そしてストライカーではブラジルのフェノーメノ、ヒカルド。
フランスのスピードストライカー、ウエト・アーヤ。
この2人も世界最高のストライカーの称号を得んとしている。
全世界がこの4人の戦いに注目した。
もちろん、ユーミン、ジュディマリ・ユッキーの
ブラジルが誇る世界最高の両サイドバックと、
フランスが誇るセンターライン、タカコリック・トキーワ、
フジワラ・ノリカーも健在だ。
- 345 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:14
- タレントの数も能力もほぼ互角に思えたブラジルとフランスだが、
勝敗を決めたのは1人の天才だった。
ブラジルにはこの選手がいた。
―――コヤナギーニョ・ユキショ。
- 346 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:14
- 彼女の活躍でブラジルはフランスに雪辱を果たした。
ブラジル1−0フランス
コヤナギーニョの得点によりブラジル、決勝進出。
まずはブラジルがサバイバルマッチを生き残った。
- 347 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:14
- 続いて準決勝第2試合、日本VSアルゼンチン。
「必ず勝って、メキシコを超えて見せます。」
日本代表キャプテン、飯田圭織。
日本最大の金字塔、メキシコ五輪銅メダル。
でも、いい加減それを忘れよう。
もちろんいい意味で。
これからは2004アテネオリンピックが将来の五輪代表の目標となるように。
「日本は勢いのあるチームだが、必ず我々が勝つ。」
アルゼンチン代表キャプテン、タケウチ・マリャラ。
最強アルゼンチン。
だが、こちらもオリンピック金メダルはない。
前大会は惜しくも銀メダル。
しかもラスト1分でウチボマに勝ち越し弾を浴びて敗れるという
ショッキングな結果だった。
それだけに今大会は燃えている。
- 348 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:15
- 「スタメンを発表する。」
ロッカールーム。
ツンクの声が響く。
みな気合いを内に秘めている。
「GK飯田圭織。」
飯田が頷く。
今大会ナンバー1とも称されるアルゼンチンの攻撃陣。
それを押さえ込むのが自分の仕事だ。
「DF、左に石黒彩。」
日本最高のストッパー。
相手は申し分ない。
その高さと強さで日本のゴールを守る。
「中央、紺野あさ美。」
今やDFラインの中央は紺野以外考えられなくなった。
完璧なラインコントロールに身体能力、そして戦術眼。
最強アルゼンチン相手にどこまで通用するか?
「右、中澤裕子。」
日本サッカー界のキャプテン。
日本が低迷していた時期からずっと戦ってきた。
今日、この試合に勝って銅メダルをとった
偉大な先人たちを追い越してみせる。
- 349 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:15
- 「左ボランチ、新垣里沙。」
前の試合に続いて新垣をボランチに抜擢。
ディフェンス力ならば保田なのだが、
アルゼンチンは3−4−3のシステム。
サイド攻撃に重点を置くシステムのため、
ボランチはカバーリングに走り回らねばならない。
よってここはダイナモ新垣里沙の運動量に期待する。
「右ボランチ福田明日香。」
その実力はワールドクラス。
まさに王者ユヴェントスの心臓だ。
ユーヴェでは彼女が動くことで全てが順調に動く。
そこから心臓といわれている。
“発電機”新垣と“心臓”福田という豊富なスタミナを持った
2人のボランチコンビだ。
- 350 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:16
- 「左サイド、藤本美貴。」
前の試合では石川が見事な活躍を見せた。
それだけに絶対に負けられないと気合いが入っている。
左サイドのスペシャリスト。
左サイドは絶対に譲らない。
「右サイド、市井紗耶香。」
こちらも前の試合、矢口が活躍したのに刺激されている。
なおかつアルゼンチンにはあのDFがいる。
ドリブラーとしてきっちり叩き潰しておきたい。
アルゼンチンは両サイドに“スピード”がいる。
それだけに藤本と市井、2人の動きがこの試合の鍵となる。
- 351 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:20
- 「トップ下、吉澤ひとみ。」
日本が誇るファンタジスタ。
“小さな魔法使い”マイ・セバスチャン・クラキとの勝負だ。
この試合に勝って、決勝であいつをぶっ倒す。
あの帝王ハマ・サーキ・アユウドを。
「セカンドトップ、松浦亜弥。」
ドイツ戦での負傷から松浦が復帰した。
もともと大した怪我ではなかったが、
ツンクが大事をとって休ませていた。
2試合も休んだ分体調は万全だ。
一方、後藤は前日急に体調を崩してしまったため
この試合はベンチに控える。
「ファーストトップ、安倍なつみ。」
説明不要の日本のエースだ。
いよいよ戦いの舞台は大きくなってきた。
そんな時こそ彼女はより一層輝く。
- 352 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:21
- ツンクがこの試合に選んだメンバーはほとんどが海外組だった。
しかしこの選出は今までとは全く違う。
今まではまず海外組を、あのチェコ戦のメンバーを優先的に選んでいた。
が、今回は何の先入観も持たず、一度全てを白紙にして、
状態がいい選手、アルゼンチンに対応できる選手をスタメンに選んだ。
それがたまたまこのメンバーであっただけだ。
決して国内組を蔑ろにしているわけではない。
- 353 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:22
- 事実、ツンクは今日のゲームプランとして勝負どころで加護、
石川を投入するつもりでいる。
この2人の“飛び道具”を秘密兵器にと考えているからだ。
今、彼はここにいる23名、いや22名を全員頼りにしている。
『後はお前だけや。俺は信じてる。』
ある意味自分が潰してしまった。
だが、必ず復活してくれると信じている。
マエストロ柴田あゆみ。
その時までツンクはじっと待つ。
- 354 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:22
- <日本代表スターティングイレブン>
GK 1 飯田圭織
DF 2 石黒 彩 安倍 松浦
3 中澤裕子
16 紺野あさ美 吉澤
MF 10 吉澤ひとみ 藤本 市井
11 市井紗耶香
18 福田明日香 新垣 福田
20 藤本美貴
21 新垣里沙 石黒 紺野 中澤
FW 9 安倍なつみ
13 松浦亜弥 飯田
- 355 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:23
- <アルゼンチン代表>
DF 4 タケウチ・マリャラ 9
6 オカモト・マヨエル 7 10
MF 3 アフロ・ヒトエ 11
8 ウエハラ・タカコッティ 3 8
11 マイ・セバスチャン・クラキ MF
FW 7 シマーブクロ・ヒロコ
9 ナカジマル・ミユキトゥータ 6 4 DF
10 イマイル・エリコガ
GK
- 356 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:24
- ピィー!!!!
主審の笛が鳴り、準決勝第2試合が開始された。
アルゼンチンの両サイド、“スピード”の4人はスピードだけでなく
それぞれが特徴を持っている。
右ウイングを務めるリーベル・プレート所属のエリコガは
アルゼンチンの背番号10を背負う逸材。
そのテクニックはまさに10番に相応しく、ドリブルはほぼ無敵だ。
その後ろ、右サイドハーフのタカコッティはひとみと同じインテル所属。
彼女の特徴はパスセンス。右サイドからゲームを組み立てる。
それ以外にもオフェンス力はもちろん、ディフェンス力も兼ね備えており、
4人の中で一番バランスの取れた選手である。
左ウイングのヒロコは得点能力に優れている。
所属のラツィオではストライカーとして活躍している。
経営が苦しいラツィオ。
そんな中確実に点を取って勝利に貢献してくれる
この神速ストライカーはまさに神だ。
そして左ハーフのヒトエはディフェンス能力が一番高い。
松浦と同僚であり、バルセロナでは左サイドバックを務めている。
何度も上下運動をするその運動量には定評がある。
アルゼンチン伝統の3−4−3。
このシステムはこの4人にかかっている。
- 357 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:25
- アルゼンチンの司令塔、クラキから右サイドを走るエリコガにパスが渡った。
すぐさま石黒が対応に当たる。
中ではアルゼンチンの英雄、ナカジマル・ミユキトゥータが待ち構えている。
エリコガ、持ち前のテクニックで石黒を振り切ろうとする。
が、石黒もこれを読んでおり身体を上手く入れてボールを奪った。
- 358 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:26
- 「彩さん!!」
その瞬間藤本がボールを要求する。
そこへ石黒からパスが来るが、
スッと藤本の前に入り込んだタカコッティがこのボールを弾いた。
ボールはサイドラインを割った。
「しまった。」
チャンスボールを失い、顔を歪める藤本。
「ドンマイ!!次頼むね!!」
石黒が声をかける。
その横で忌々しげに石黒を睨むエリコガ。
まずは石黒VSエリコガの第一ラウンドは石黒に軍配が上がった。
- 359 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:26
- DFのマリャラから前線に大きなボールが出た。
それに向かって走るのはアルゼンチンの英雄、ナカジマル・ミユキトゥータ。
日本も紺野が食らいつく。
しかし高さではミユキトゥータの方が上だ。
紺野に楽に競り勝ち、左サイドへ落とした。
そこに左サイドからスピードに乗って走り込むのはヒロコ。
そのままダイレクトでシュートの瞬間、中澤が素早くこれをクリアした。
左サイドでもヒロコと中澤の熱い戦いが繰り広げられている。
- 360 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:27
- 「紗耶香!!」
クラキからボールを奪った福田が素早く右サイドに振る。
そのボールを受けた市井、大きく前にドリブルを開始した。
『抜けばビッグチャンス!!』
目の前には4人のスピードの中で一番ディフェンス力のあるヒトエと、
イタリアセリエA、ASローマでその鉄壁のディフェンス力から
“壁”と称されているオカモト・マヨエルだ。
市井が勝負してみたいDFとはマヨエルのことだ。
- 361 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:27
- 「うわっ!!」
しかし市井のトライはあっさりと潰されてしまった。
ヒトエをかわしたまではいいが、
マヨエルの鋭い出足までをかわす事は出来なかった。
もんどりうって倒れる市井。
ボールはサイドラインを越えた。
「あ、あいぼん?」
ベンチに座っている辻が、横にいる加護の異変に気付いた。
加護の足の筋肉がピクッ、ピクッと反応しているのだ。
「市井さんのドリブルをあんな簡単に止めるとは、さすがや・・・・・・」
そう呟く加護の顔は内面からこみ上げてくる熱い思いで一杯だった。
『必ずうちがぶち抜いたるからな・・・・』
- 362 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:28
- そんな加護と市井はスローインのボールを受け取る際に眼が合った。
『ふ、加護もいっぱしのドリブラーになったみたいだな。
けど、こいつはあたしのだ。あたしがぶち抜く。』
『・・・・・・・・お手並み拝見といきますわ。』
2人ともお互いの思考が読めたのか、ニヤリと笑った。
“やられたらやり返せ”
ドリブラーにとってはこの負けん気の強さこそ一番大事なのだ。
- 363 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:28
- 試合の方はアルゼンチンが優勢。
司令塔のクラキがパスを振り分け、
幾度となくスピードの4人がサイドから攻撃を仕掛けていく。
しかし日本も3バックを中心にサイドハーフの市井、藤本や
ボランチの福田、新垣が懸命に守る。
身体を寄せ、抜かれても必死に食らいついていく。
エリコガが石黒にマークされながらも強引に上げたクロスは、
GK飯田が思い切りよく飛び出してキャッチした。
「なっち!!」
すぐさま飯田が前線にロングキック。
これを前線で待つのはエースの安倍。
「うわっ!!」
しかしマークについていたマリャラが安倍に競り勝ち、
ヘッドで弾いた。
- 364 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:29
- 「さすがマリャラ。」
今のマリャラのプレーにベンチで後藤が呟く。
「そういえば後藤。」
保田がハッと思い出したように言う。
「うん、2試合とも完璧にやられた。」
昨シーズン、見事にリーガエスパニョーラを制した後藤のレアル・マドリードだが、
マリャラのバレンシアにはホームでもアウェーでも2−0と完璧に敗れてしまった。
後藤、ヒカルド、タケウッチャン、クローキといった世界に名だたるアタッカー陣でも、
マリャラ率いるバレンシアDF陣を崩せなかったのだ。
- 365 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:30
- 「でも、今日はチャンスだよ。3つも薄いトコがある。」
そう後藤が指差すのは、アルゼンチンのボランチと右DFとGK。
「なるほどね。バレンシアと違って穴があるってわけね。」
保田も納得している。
いくらマリャラが優れたDFとはいえ、
1人でレアルの攻撃を抑え込む事は不可能である。
バレンシアではマリャラの他にも優れたDFがおり、GKもスペイン代表だ。
この5人にボランチの連携も含めてレアルの攻撃をシャットアウトしたのだ。
しかしこのアルゼンチン五輪代表では3バック1ボランチ。
しかもまだ経験の浅いボランチにDF、GK。
付け入る隙はある。
「となるとこっちの左サイド、藤本さんの動きが鍵になるわけですね。」
この田中の言葉に反応したのは同じ左サイドの石川と加護。
2人とも熱い視線を藤本に送る。
- 366 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:31
- その左サイドの藤本。
エリコガとタカコッティの2人を抑えるのに一杯一杯だった。
『噂には聞いてたけどっ!!』
藤本がそう思わされる選手とは、
インテル所属、右サイドハーフのウエハラ・タカコッティ。
エリコガの方は石黒との連係で抑えられるが、
タカコッティに関してはほぼファウルでなければ止める事は出来なかった。
スピードはもちろんの事、パスセンスにディフェンス力とまさに
サイドプレイヤーとして申し分の無い選手だ。
- 367 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:31
- 世界各国のスターが集まり、
また選手の入れかえの激しい事で知られるインテル。
しかし五輪代表に選ばれるような年齢ながらここ3年不動のレギュラーとして
タカコッティは君臨している。
しかもキャプテンとしてチームを引っ張っている。
藤本もドイツブンデスリーガで活躍する選手で、
タカコッティの事は知っていたが、
対戦してみてこれほどスゴイ選手だとは思ってもみなかった。
- 368 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:32
- 「くっ!!」
柔らかなフェイントから一瞬のスピードで藤本を振り切ったタカコッティ。
すぐさまアーリークロスを送る。
鋭いカーブがかかったボールはピタリとミユキトゥータの頭に。
ミユキトゥータが紺野と競り合いながらもヘッドで狙う。
しかし紺野も高さでは敵わないものの、身体を寄せることで楽に打たせない。
ミユキトゥータのヘディングシュートはすっぽりと飯田の腕の中に収まった。
「良かった・・・・・」
ホッと胸を撫で下ろす藤本。
その横を涼しい顔で通り過ぎていくタカコッティ。
それが藤本のカンに触った。
『くそっ、見てろよ。絶対その涼しい顔を歪ませてみせるからな。』
あたしは武闘派軍団の核弾頭だ。
舐められたまますごすごと引き下がってたまるか。
- 369 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:33
- 前半も25分を過ぎたが、ここまでは完全にアルゼンチンのペース。
日本は常に後手後手に回っている。
「何とかしないと・・・・・・・・」
前線で待つ安倍もあまりにボールが回ってこないのでやきもきしていた。
ただ日本も決して負けてはいない。
ダブルボランチを組む福田と新垣の守備はきっちりと効いているし、
DF陣も紺野を中心に粘り強いディフェンスをしている。
幾度となく司令塔のクラキからボールを奪い前線にもつなげてはいる。
しかしサイド、日本から見て左サイドが火の車だった。
タカコッティがパスにドリブルにと左サイドを駆け巡る。
- 370 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:34
- 「抜かせない!!」
藤本が腰を落とし、タカコッティの突破に備える。
が、タカコッティはすぐに中に出し、クラキからリターンをもらい藤本を振り切る。
そして中に低く鋭いクロスを送る。
このボールは石黒が必死に足を伸ばしてクリアした。
このこぼれ球を拾ったのはヒトエ。
そのままエリア外から強烈なミドルシュート。
これは何とか飯田が弾いた。
- 371 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:34
- 「美貴たん、あたしも下がろうか?」
松浦が藤本に声をかける。
松浦からすれば自分が下がることで少しでも藤本の負担を
軽くしたいのだが、これが藤本のプライドを刺激する。
「・・・・亜弥ちゃん、左サイドは美貴のサイドだから。
必ずパス送るから前で待ってて。」
そう言うと藤本はスッとタカコッティのマークに付いた。
『・・・・・ごめん美貴たん、無神経だった。』
松浦は自分の言葉に後悔した。
藤本にとって左サイドとは聖域。
なんぴとたりとも侵すことは許さない。
相手はもちろん、味方にも。
- 372 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:35
- 「くっ!」
タカコッティが藤本のしつこいチェックにバランスを崩す。
プライドを傷つけられた藤本。
気迫が凄かった。
それを逃さないのは新垣里沙。
素早い出足でタカコッティからボールを奪った。
「吉澤さん!!」
すかさず新垣からひとみへパスが送られる。
が、すぐさまアルゼンチンのボランチがチェックに向かう。
- 373 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:36
- 「くっ!!」
しかしひとみは身体を張ってアルゼンチンボランチを止め、
トラップと同時に上手く身体を入れかえて前を向いた。
ウオオオオ!!!!
スタジアムがどよめく。
日本、絶好のチャンス。
- 374 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:36
- 「安倍さん、ひーちゃん!!」
右サイドにいた松浦が急激に左サイドに流れてきた。
松浦の考えを理解した安倍はすぐさま右へと流れていく。
松浦の狙いはズバリ、アルゼンチンの右DF。
「頼むよあやや!!」
ひとみも松浦の考えを理解していた。
すぐさま松浦にパスを出し、自分は安倍とともに右サイドの方へ流れていく。
その動きにマリャラとマヨエルが安倍とひとみへマークにつく。
- 375 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:37
- これこそ松浦の狙いであった。
安倍とひとみでマリャラとマヨエルをひきつけ、
松浦はアルゼンチン右DFと1対1に持ち込む。
バスケットボールでいうと、アイソレーションという戦術だ。
前線の3人の中で、一番テクニックがあるのは間違いなく松浦だ。
マリャラやマヨエルのフォローさえなければ、
このアルゼンチン右DFには間違いなく勝てる。
- 376 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:38
- 松浦は一度ボールをまたぎ、
相手DFのバランスを崩した後一瞬のスピードで左から抜けた。
そしてすぐさま逆サイドのネットを目がけて左足を振り抜いた。
「くっ!!!」
アルゼンチンGKが懸命に手を伸ばすが届かない。
しかしボールはコースから外れている。
「あっ?!!」
そう叫んだのは藤本。
松浦の斜め後ろを走っていた彼女の目に映ったのは、
シュートがゴールに向かって急激に曲がっていくシーンだった。
松浦はあれだけのスピードで抜け出し、
すぐさま左足でシュートを撃ったにも関わらず、
さらにアウトサイドでカーブをかけていたのだ。
松浦のシュートは、サイドネットを千切らんばかりに突き刺さった。
日本、カウンターにより先制点を上げた。
- 377 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:39
- 「よっしゃ!!!」
ベンチでツンクがグッと拳を握り締める。
加護も辻も、矢口も後藤もみなが抱き合っている。
当然ピッチでもゴールを決めた松浦にみなが抱き付く。
「ナイスシュートあやや!!!」
「さすがだべ!!!」
まずはひとみと安倍。
「やるじゃねーか松浦!!」
これは市井。
「ありがとうございます!」
みなの祝福に笑顔で答える松浦。
「亜弥ちゃん、ナイスシュート。」
しかしこの声で松浦の顔はもっと笑顔になる。
「美貴たん!!」
松浦がすかさず藤本に抱き付く。
「美貴たんこそナイスディフェンスだよ!!」
「いや、ガキさんのおかげだよ。」
「いえ、藤本さんのナイスディフェンスがあったからこそですよ。」
新垣がニッと笑う。
- 378 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:39
- まさかの失点にアルゼンチンベンチは騒然となった。
油断をしていたわけではないが、正直日本には勝てると踏んでいた。
それが押し込んでいながらあっさりとカウンターで先制された。
しかし慌てふためくベンチとは違いピッチに立っている選手たちには、
とりわけこの2人には動揺の色はない。
「ドンマイ。次だ次。」
キャプテンのマリャラが手を叩く。
「オッケー、すぐに取り返すよ。」
ミユキトゥータだ。
この2人は今までくぐってきた修羅場が違う。
その表情からは何の迷いも、負の感情も感じられない。
その表情にアルゼンチンイレブンも気持ちを立て直す。
「よし、前半中に追いつくぞ!!」
マリャラがゲキを飛ばした。
- 379 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:40
- 松浦のゴールの後も試合の展開は変わらない。
アルゼンチンがサイド攻撃を展開し、日本がそれを跳ね返す。
そして時折日本がカウンターで攻めるといった展開だ。
左サイドからヒロコがクロスを上げる。
しかしこれは中澤が懸命に足を出し、クリアした。
ボールはタッチラインを割りアルゼンチンのコーナーキックに。
このチャンスにアルゼンチンはDFのマリャラ、マヨエルが上がってきた。
代わりにボランチ、左サイドハーフのヒトエが下がる。
日本の方もひとみと安倍が下がりこれに対処する。
前線には松浦と市井が残り、カウンターに備える。
- 380 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:40
- アルゼンチンのキッカーはクラキ。
その右足から正確なキックが放たれた。
「ファー!!」
飯田が指示を出す。
クラキが蹴ったボールはファーサイドに。
飯田が飛び出せない位置だ。
そこに走り込むのはマリャラ。
マークにつくのは石黒。
- 381 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:41
- 「くっ!!」
この競り合いに勝ったのはマリャラ。
身長は低いが抜群のジャンプ力だ。
ボールを中に折り返す。
「ナイス!!」
このボールにいち速く反応したのがタカコッティ。
折り返されたボールを右足ダイレクトでボレーシュート。
「でやっ!!」
しかしこれを身体を投げ出して防いだのは藤本。
タカコッティのボレーは藤本が出した左足に当たり、
大きく跳ね返った。
藤本の気迫勝ちだ。
- 382 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:42
- 「ナイスミキティ!!」
このこぼれ球を自陣ペナルティエリアのやや外で拾ったのは市井。
すぐさま前を向く。
その瞬間センターサークルで待っていた松浦がアルゼンチンDFラインに並び、
抜け出すタイミングを測る。
「今だ!!」
松浦と市井の意思がリンクした。
絶妙のタイミングで松浦が裏へと飛び出す。
- 383 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:42
- 「?!!」
しかしこれを察知したヒトエが市井がパスを出す瞬間にスライディングをしかけた。
「甘いよ!!」
しかし市井もこれに気付いていた。
キックフェイントでヒトエをかわし、ドリブルで駆け上がる。
ウオオオオオオオ!!!
「すげー市井ちゃん!!」
「何やねんあのキレは?!!」
スタジアムの歓声とともにベンチで叫ぶのは後藤と加護。
加護のドリブルが滑らかな曲線を描くとすれば、
市井のドリブルは直線。
バスケットのカットインのような感じのドリブルだ。
ブルブルッ
市井のドリブルに、加護の両腕にトリハダがたった。
- 384 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:43
- 市井はそのまま右サイドを駆け上がる。
中の松浦にはDFがついている。
『ここはあたしが狙う!!』
市井は右から中央へと流れようとしたが、
その時、後ろから1人の選手が来ていることに気付いた。
『来たな、“壁”さん!!』
世界でも屈指のセンターバック、“壁”ことオカモト・マヨエル。
市井VSマヨエル、第2ラウンド。
- 385 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:44
- マヨエルが市井の左側から強烈なショルダーチャージを仕掛ける。
一瞬バランスを崩す市井。
しかしすぐに持ち直し、突き進んでいく。
だがマヨエルもファウル覚悟のディフェンスだ。
さらに身体をぶつけてくる。
『ちっ、なんてしつこいディフェンスだ!!』
しかし市井は倒れない。
それどころかマヨエルを引きずるように前へ前へ進んでいく。
この辺りはプレミアでセンターハーフとして1年間戦い抜いた成果だ。
『何て懐が深いの?!』
一方マヨエルは市井のフィジカルもそうだが、
何より自分と市井の足元にあるボールとの距離が遥かに遠く感じたのに驚いていた。
ボールを奪える雰囲気がない。
もちろん市井もこのマヨエルのディフェンス力に抜ける気がしない。
両者、互角の戦い。
- 386 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:44
- 「紗耶香!!」
その声に反応した市井はマヨエルのチャージを受けながらも
右足のヒールキックで中にパスを出した。
ペナルティエリアやや外でそのボールを受けたのは遅れて前線に上がって来た安倍。
「くっ!!」
松浦についていたDFがこれを見てすぐに安倍のチェックに向かう。
この瞬間松浦がフリーに。
- 387 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:45
- 「安倍さん!!」
松浦がボールを要求する。
その声にアルゼンチンGKはパスが松浦に出ると思い安倍から目を離してしまった。
「バカッ!!目を離すな!!」
そう叫んだのはミユキトゥータ。
ゴール前でストライカーから目を離すという事は死を意味する事である。
一流の、生粋のゴールハンターが狙うのはただ一つ、ゴールである。
彼女たちはいかなる状況でもまずはシュートを考える。
パスやドリブルはその次だ。
この隙を彼女が見逃すはずが無い。
安倍の右足が火を吹いた。
ペナルティエリアやや外から放たれたシュートは、
コースとしてはやや甘かったが不意を突かれたGKに止められるものではなかった。
前半39分。
日本追加点をあげる。
- 388 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:46
- 「よっしゃあっ!!!」
安倍がその顔に似合わない雄たけびを上げる。
「なっち!!!」
「紗耶香!!」
市井と安倍が抱き付く。
そこへひとみや藤本、福田たちも加わる。
「ナイスシュートだよなっち!!」
福田の声に満面の笑みを浮かべる安倍。
- 389 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:47
- その光景を暗い表情で遠巻きに見ているのは松浦。
それに気付いた安倍が松浦のもとに。
「亜弥ちゃんごめんね、パス出さないで。」
安倍は、松浦が自分がパスを出さなかった事に対して怒っていると思ったのだ。
「えっ?いえ、全然大丈夫ですよ。
それより安倍さん、ナイスシュートでした。」
松浦はにっこりと笑って安倍に抱きついた。
しかしその笑顔とは裏腹に松浦の心の中は暗かった。
- 390 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:49
- 『あれが・・・・あたしと安倍さんの差だ・・・・・』
あの場面、自分ならばパスを出していただろう。
セカンドストライカーならばそれでいい。
しかしファーストストライカーならばゴールを狙わねばならない。
ミユキトゥータやヒカルド、ヨネクラン、ナオチェンコたち
世界の一流ストライカーならばあそこで必ずシュートを撃ったはずだ。
『・・・・だからあたしは試合に出れないんだね。』
松浦はバルセロナで期待されながらも、
昨シーズンはほとんど途中出場しか出来ない理由が分かった。
“ゴールへの執念”
これがファーストストライカーとしては足りないのだ。
特に所属するバルセロナでは1トップシステムを採用しているため、
FWにはポストプレーもそうだがまず得点力を期待される。
それ以上にFWとしてゴールへの飽くなきまでの執念、
いわゆるゴールへのエゴイストにならなければ、
世界という大舞台では戦えないのである。
おもしろい事に普段の性格はどちらかといえば松浦の方が物怖じしない性格で、
ややエゴイストのような感じであるが、
こと試合になると安倍と松浦の性格は一転する。
安倍が今の様にゴールのみを考えるのに対し、
松浦はプレーが優等生になる。
この辺りが松浦にとっての課題である。
- 391 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:49
- 安倍の得点にさすがのアルゼンチンイレブンも信じられないといった表情を浮かべる。
前半中に追いつきたかったが、
あろう事かさらに突き放されたのだ。
「まだだ!!まだ前半だ!!時間はタップリあるんだから焦るな!!」
マリャラが気落ちするイレブンを叱咤激励する。
『何とか前半をこのまま終えないと・・・・・・・』
しかしこれがマリャラの偽らざる心境である。
2点差ならばまだ追いつける。
しかし3点差に広がってしまえば、ほぼノーチャンス。
アルゼンチンは前半をこのままのスコアで乗り切り、
後半に勝負をかけたい所だ。
- 392 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:50
- 日本ベンチではツンクがテクニカルエリアに乗り出し指示を送る。
「ええか!!ここでもう1点や!!前半中にもう1点必ず取れ!!」
ツンクの声に頷くひとみたち。
ひとみたちも充分わかっている。
とどめを刺すのは今だと。
- 393 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:50
- ピィー!!!
主審のホイッスルで試合が再開された。
ホイッスルと同時に安倍と松浦が前線からプレスをかける。
まるで日本が負けてるかのようなプレッシングだ。
そのプレスにクラキはたまらずボールを下げる。
クラキからボールを受けたボランチがすぐさま右サイドに展開した。
このボールを競り合うのは石黒とエリコガ。
これは難なく石黒が競り勝つ。
ルーズボールは福田の足元に。
- 394 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:51
- 「ミキティ!!」
福田はすぐさま左サイドの藤本にボールを出した。
すかさずチェックに行くタカコッティ。
しかし藤本は福田から出されたボールをワンタッチで中に返した。
そのボールはひとみのもとに。
慌ててチェックに行くアルゼンチンボランチ。
「スルーッ!!」
この声に咄嗟に反応したひとみは藤本から出たボールをスルーした。
「ナイスよっすぃー!!」
このボールを受けたのは藤本にパスを出した福田。
ひとみを挟んでの藤本との長い距離でのワンツーだ。
- 395 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:51
- 「行けー、明日香さん!!」
ベンチから亀井が声を張り上げる。
まったくのフリーで福田が駆け上がる。
前線には安倍と松浦が、右サイドからは市井が上がっている。
パスは安倍、松浦、市井の3方向、
もしくはドリブルで突き進むかミドルシュートで狙う。
福田には充分すぎるほどの選択肢だ。
- 396 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:52
- 『福ちゃん!!』
『なっち!!』
福田が選んだのは安倍へのスルーパス。
安倍の一瞬DFの視界から消える動き、
そして絶妙なタイミングの裏への抜け出し。
福田のノールックからの鮮やかな
左足アウトサイドでのスルーパス。
- 397 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:52
- 「あうっ?!!」
が出る瞬間、福田は後方からのタックルに潰されてしまった。
主審はすぐさまタックルを仕掛けたタカコッティにイエローカードを出した。
「おいおい!!今のはレッドだろ?!!」
市井が今の判定に納得いかず抗議する。
「福ちゃん!!」
安倍が右足を押さえてうずくまっている福田のもとに駆け寄る。
「大丈夫。それよりこのFK、チャンスだよ。」
福田は痛みをこらえながらもスッと立ち上がり、
手を差し伸べてきたタカコッティと軽く握手した。
- 398 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:53
- ゴール真正面、距離は約22m。
これ以上無い位置でのFKだ。
ボールをセットしたのは市井。
その側には藤本と福田がいる。
『明日香のやつ、キレてるな。』
市井は福田の目を見てこう感じていた。
あの絶好のチャンスで、ファウルとはいえ止められた。
横から来ているのに気付かなかった。
福田は自分の不甲斐なさにいらついていた。
だからこそ、このチャンスは自分で決める。
アルゼンチンの壁は6枚。
- 399 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:54
- ピィーッ!!
主審の笛と同時に市井がちょんと横にいる藤本に出す。
藤本はそのボールを止める。
FKの位置を少しずらし、そして福田が狙った。
アルゼンチンGKは完全にタイミングを外され、
なおかつ壁にジャマをされて誰が蹴ったのかさえわからなかった。
壁の横を鋭くボールが抜けていく。
そして鋭く曲がってゴールに伸びていく。
アルゼンチンGKはその軌道を見送るだけであった。
「よしっ!!」
福田がギュッと拳を握る。
しかしこれはゴールネットを揺さぶらなかった。
アルゼンチンDFオカモト・マヨエルが咄嗟の判断で安倍のマークから離れ、
ゴール前に戻ったのだ。
マヨエルが必死に伸ばした左足に当たり、ボールはゴールラインを割った。
- 400 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:54
- 「マヨエル!!」
ミユキトゥータがマヨエルと手を叩きあう。
アルゼンチンにとっては絶体絶命の場面だった。
「ちっ。」
福田が顔を歪ませる。
今のFKは完璧だった。
決まっていればアルゼンチンに止めをさせたであろう。
「明日香、ドンマイ。まだチャンスは続いてる。」
市井が福田の肩をポンと叩いてコーナーフラッグの方に向かう。
左コーナーに市井がボールをセットする。
日本はヘディングの強い石黒、そして中澤も上がってきた。
対するアルゼンチンはエリコガだけを前線に残し、
それ以外は全員ゴール前に集まる。
- 401 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:55
- 市井が蹴ったボールは鋭くカーブがかかり、ゴール前に。
このボールに合わせたのは中澤。
ヒトエを腕で押さえながらニアに鋭く走り込み、額で擦るようなヘディング。
中澤のヘディングはネットを激しく揺さぶった。
「よっしゃああああ!!!」
中澤がグッと拳を握り締める。
しかしその時主審のホイッスルが鳴った。
「えっ?!!」
主審は中澤のファウルを取ったのだ。
「何で今のでファウルなんですか?!!」
思わず松浦が抗議する。
しかし判定が覆るはずが無い。
日本はこれで決定的なチャンスを2回逃したことになる。
対照的にアルゼンチンは絶体絶命のピンチを2回切り抜けた事になる。
運命の女神はアルゼンチンの味方なのか?
前半はこのままのスコアで終了した。
- 402 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:56
- 「ふうっ。」
ひとみがタオルで汗を拭きながら一息つく。
前半、アルゼンチンに止めを刺すに至らなかった。
決めれる時に決めておかないと、サッカーでは取り返しがつかなくなる事が多々ある。
特にセリエAの下位チームであるエンポリで昨シーズン、
半分だけとはいえ過ごしたひとみにはその重みが痛いほど分かる。
「よしっ!!」
ひとみはパンパンと自分の頬を叩き、気合いを入れた。
後半、必ずもう1点とって勝負を決める。
- 403 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 02:56
- 後半戦が始まった。
両チームともメンバー、ポジションに変更は無い。
残り45分、決勝への生き残りをかけたサバイバルマッチが再開される。
「ミキティ!!」
ひとみが左サイドに藤本を走らせる。
ハーフタイムに気合いを入れ直したせいか、
後半戦のひとみは最初から動きが切れていた。
アルゼンチンのボランチを問題にしないほどである。
“スーペルひとみ”だ。
藤本が左サイドを突破して上げたクロスは惜しくもマリャラがヘッドでクリアした。
- 404 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:01
- 「よしこ、エンジン全開になってきたね。」
「よっすぃーは相手が強いと燃えるからなあ。」
後藤と矢口だ。
「そう言うのをムラがあるって言うんだろうね。」
保田が苦笑いを浮かべる。
みなその言葉に納得して頷いた。
- 405 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:03
- 後半も10分ほど過ぎた。
一刻も早く追いつきたいアルゼンチンだが、
日本のディフェンス陣を崩すには至らない。
石黒、紺野、中澤の3バック。
対人と高さに強い石黒。
カバーリング能力、スピードに優れる紺野。
DFに必要な能力を全て持つ中澤。
この3人のラインDFはあのイタリアのカテナチオを彷彿とさせる。
その前には新垣、福田というディフェンス力と運動量を持つボランチが。
サイドでも藤本、市井がしっかりと守っている。
さすがのアルゼンチンの攻撃陣でもこの壁は易々とは崩せない。
- 406 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:04
- 「・・・・・・・チヒロとナミオラがいたならば・・・・・・・」
アルゼンチン五輪代表監督、モトハル・サノルサが思わず呟く。
チヒロ・オニツカール。
スペインの名門、バレンシアのトレクァルティスタにして
アルゼンチン代表の絶対的な司令塔。
アルゼンチンの、いや世界の英雄、
ミソラ・ヒバリーナの後継者と言われている。
そしてタマキル・ナミオラ。
あのオランダ代表キョウコリック・コイズミートをトップ下にしりぞけ、
小さな身体ながらバルセロナの最前線を張るストライカー。
もちろん松浦亜弥も彼女の壁に阻まれている。
- 407 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:07
- サノルサは本来ならばオーバーエイジにマリャラ、チヒロ、
マヨエルの3人を選ぶ予定であった。
これが実現していればシステムは4−4−2とし、
DFは左からヒトエ、マヨエル、マリャラ、タカコッティの4バック。
MF、ボランチにクラキ。
彼女は後ろの方が活きる選手である。
ダブルオフェンシブハーフにエリコガとチヒロ。
そして2トップにナミオラとヒロコという恐るべき陣容になっていた。
- 408 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:07
- これが実現しなかったのはチヒロとナミオラの怪我である。
チヒロは昨シーズン終盤に痛めた右足の状態が芳しくなく、
ナミオラは腰に疲れがたまっていたのだ。
そのためサノルサは彼女たちを五輪代表に呼ばなかった。
「彼女たちはアルゼンチンの、いや世界の宝だ。
そんな宝をここで潰すわけにはいかない。」
オリンピック前の記者会見でチヒロとナミオラが選ばれていないことに
質問を受けた時のサノルサの言葉である。
この決断にブーイングは出なかった。
それどころかみな、サノルサの決断に賞賛の拍手を送った。
チヒロ・オニツカール。
タマキル・ナミオラ。
それほどの選手たちである。
- 409 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:08
- アルゼンチンは右サイドのタカコッティがボールをキープする。
藤本も食らいついてはいるが、総合的に見てまだタカコッティの方が1枚も2枚も上だ。
「タカコ!!」
ミユキトゥータが一度中盤に戻り、
その後反転しスッとDFラインの裏に飛び出た。
普段はゴール前でジッと動かないミユキトゥータだが、
この場面ではそうは言ってられない。
自分から動きチャンスを創ろうとする。
そこにタカコッティから寸分の狂いも無くパスが出る。
「上がって!!」
紺野がスッとラインを上げる。
傍目から見るとオフサイドだったが、
ラインズマンはオフサイドを取らなかった。
ミユキトゥータがフリーで抜け出した。
- 410 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:09
- 「えっ?!!」
慌てて戻る紺野や石黒。
「カオリ!!」
GK飯田が何の迷いも無く飛び出した。
この思い切りの良さが最近の飯田の売りだ。
一瞬でミユキトゥータとの距離を詰める。
しかしかまわずミユキトゥータはシュートを放つ。
ストライカーならばここで逃げるわけにはいかない。
「くうっ!!」
飯田がこのシュートを足に当てた。
しかしボールはそのままゴールへと向かっている。
- 411 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:10
- カンッ!!
甲高い音が聞こえた。
その音に喜ぶ日本に沈むアルゼンチン。
しかし次の瞬間、それは逆になった。
「ヒロコ!!!」
アルゼンチン左ウイングシマーブクロ・ヒロコが素早くゴール前に詰め、
こぼれ球を押し込んだ。
後半15分。
アルゼンチン、ついに1点返した。
- 412 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:10
- 「今の完全にオフサイドでしょう?!!」
紺野が主審に食って掛かる。
完璧なタイミングでラインを押し上げた。
間違いはない。
しかし主審は首を振るだけ。
ラインズマンも知らん顔だ。
しかしなおも食い下がる紺野。
「バカ、やめとけ紺野!!」
中澤が紺野を止めるが少し遅かった。
主審は胸から黄色いカードを取り出し、
紺野に向かって出した。
「あっ・・・・・・」
それを見て我に返る紺野。
そしてサアーッと顔が青ざめる。
- 413 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:11
- 「チャンスだ。」
ニヤリと笑うのはサノルサ。
これで狙いは決まった。
「クラキ!!」
サノルサの叫びに頷くクラキ。
クラキも分かっている。
狙いは中央突破。
- 414 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:13
- ヒロコのゴールの後、
アルゼンチンはドリブル突破を仕掛けてくるようになった。
狙いは3バックの中央、紺野あさ美。
イエローカードをもらった紺野は2枚目を恐れて積極的な守備が出来ない。
なおかつ主審に抗議してカードをもらったため心象が悪いことも後押しする。
残り時間は30分ほど残っている。
もし、ここで紺野が退場という事になれば、
アルゼンチンの攻撃を抑え込めるのか?
- 415 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:15
- 「ツンクどうする?!」
ベンチではマコトがあたふたしていた。
「ツンク、ここはこのままやろ。」
さすがに元コンサドーレ札幌の監督であったタイセーは落ち着いている。
的確に状況を見ている。
「ああ。ここで退場を恐れて紺野を下げたらそれこそ敵の思う壺や。
・・・・・・ここは紺野を信じてガマンや。」
ツンクはそう言ってベンチの前での直立不動を崩さない。
その目には強い意志の光が宿っている。
あの時は妄信していた。
が、今はきちんと状況を見極め、確信している。
- 416 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:15
- 「大丈夫です福田さん!!」
紺野が後ろを気にする福田をどやしつける。
中盤では福田と新垣のおかげで均衡を保っている。
これが少しでも崩れればすぐに流れは変わる。
紺野を気にするあまり中盤の守備が疎かになることだけは
絶対に避けなくてはならない。
「分かった!!頼むよ!!」
福田は頼もしい後輩を背中に感じつつクラキにタックルをお見舞いした。
- 417 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:16
- 右ウイングのエリコガとセンターフォワードのミユキトゥータが
ポジションを入れ替わった。
狙いはもちろん紺野あさ美だ。
そこへクラキからエリコガにパスが来る。
アルゼンチンで一番ドリブルが上手いエリコガが紺野に突っかかっていく。
「来たっ!!」
ゆっくりとしたドリブルから一度ボールをまたいで急激なスピードアップ。
エリコガは紺野の右から抜けようとする。
しかし紺野もこれを読んでおり素早くタックルに向かう。
「うおおお?!!」
エリコガが勢いよく倒れた。
- 418 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:16
- ピピピピッ!!!
主審がすかさず走ってくる。
そして胸のポケットに手をやった。
「?!!!」
『退場?!!』
日本のベンチやイレブン、
サポーターたちは一瞬目の前が真っ暗になる。
ただ1人を除いて。
- 419 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:17
- 「えーっ!!!」
叫んだのはエリコガだった。
主審は今のプレーをエリコガのシュミレーションと採ったのだ。
「・・・・・完璧です!」
グッと拳を握り締める紺野。
紺野は完全にエリコガの狙いを読んでいた。
必ずファウルをもらいに来ると。
だからあの場面、タックルに行くフリをしたのだ。
案の定エリコガは紺野が足を出していないのに派手にすっころんだ。
主審はそれを見逃してはいなかった。
これは一歩間違えれば絶体絶命のピンチであったが、
紺野は自分の読みを信じた。
- 420 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:18
- 「ナイス紺野!!!」
石黒が紺野の肩を叩く。
「ようやった!!」
そこに中澤も加わる。
「・・・・・絶対に守りきりましょう!!」
「おうっ!!」
日本が誇る3バック。
存在感は薄れる事はない。
「市井さん、ミキティ。ここはあたしたちも。」
「ああ。」
「オッケー。」
ひとみと市井、藤本が守備陣の奮闘に気持ちをたぎらせる。
「松浦。」
「はいっ!」
前線の2人もゴールを狙う。
次のゴールで試合はほぼ決まる。
日本が取れば逃げ切るだろうし、
アルゼンチンが取れば勢いでアルゼンチンが逆転するであろう。
――――ゴール――――――
それを目指してピッチに立つ22人が死力を尽くす。
- 421 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:19
- 「よっすぃー!!」
福田がひとみのフォローに来る。
この試合、福田の運動量は凄まじかった。
中盤でのディフェンスはもちろんの事、サイドのフォロー、
そして攻撃の際には前線まで顔を出す。
それは新垣も同じ事だ。
新垣の場合は特に左サイド、タカコッティのケアは素晴らしいの一言に尽きた。
藤本と新垣の連係で、試合当初はあれだけ許していたタカコッティの突破を
今はほとんど抑えている。
アジアカップにオリンピック。
大舞台を経験し、新垣のその実力は今、格段に上がってきている。
この2人のボランチの動きがあるからこそ、
アルゼンチン相手にここまで競った試合が出来ているのだ。
- 422 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:20
- 後半23分、ツンクが動く。
ここで“飛び道具”の投入だ。
「加護、石川、行くで。」
「はいっ!」
その声にジャージを脱ぐ加護と石川。
もう身体は温まっている。
そしてもちろん心もだ。
「石川は左サイドや。守備はタカコッティを新垣や石黒と一緒に抑えるんや。
攻撃はアーリークロスを中心に。攻撃に移ってもすぐに守備に帰れるようにしてくれ。」
「はいっ!!」
石川が頷く。
ずっと藤本を見ていた。
そのおかげである程度はタカコッティの動きが見えた。
必ず抑えてみせる。
- 423 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:20
- 「加護は前線や。・・・・・お前には何も指示はいらん。
好きなようにやってこい!」
「はいっ!!」
加護がニッと笑う。
“ドリブルの魔術師”ジョーカーには余計な指示はいらない。
指示は1つだけ。
“クラック”になれ。
凍りついた局面を打開する“クラック”に。
- 424 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:21
- ボールがタッチラインを割った所で第4審判が電光ボードを頭上に上げた。
まずは14イン、20アウト。
それに気付いた藤本がふうっと一息ついてピッチを後にする。
「ミキティ、ナイスプレー!!」
「美貴、サンキュ。」
仲間たちの声を背に受けながらタッチライン上に待つ石川の元へ。
「後頼むね。」
「任せて。」
2人はハイタッチをかわした。
これから先、2人は何度もこの左サイドのポジションを争うであろう。
- 425 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:21
- 続いて5イン、13アウト。
「亜弥ちゃんナイス。」
「あやや。」
松浦も仲間たちの声を聞きながら
タッチラインに立つ加護とハイタッチをかわした。
「頼むねあいぼん。」
「任せといてや。」
弾かれるように加護がピッチに飛び出していった。
「亜弥ちゃん、お疲れ。」
藤本が松浦の頭をくしゃっと撫でた。
「美貴たんもね。」
松浦もニコッと笑った。
- 426 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:22
- 「2人ともナイスプレーやった。」
ツンクが2人の肩をポンと叩き、ねぎらう。
「ええプレーやったで。」
マコトとハタケがドリンクを2人に渡した。
「ナイスプレー、まっつーにミキティ。」
後藤を始め、ベンチにいるメンバーが2人とタッチをかわす。
正直松浦も藤本も内心は悔しさで一杯だ。
途中交代されて喜ぶ選手などいない。
しかしそれは表に出してはならない。
内にグッと秘め、次に活かしていかなければならない。
ましてや今は大事なオリンピックの準決勝。
ただ、チームの勝利を願うのみだ。
- 427 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:23
- 「これは思った以上だったな。」
スタンドのVIP席にこの試合を見つめる1つの影。
その視線はベンチに下がった背番号20に注がれていた。
「ガーンの言った通りだな。
彼女ならば我がチームで充分やっていける。
左サイドは空けておこう。」
- 428 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:23
- 試合の方は交代で入った石川と加護が、
疲れの見える他の選手たちを引っ張っていく。
石川は左サイドでタカコッティを抑えるだけでなく
その魔法の左足で攻撃面でも貢献している。
「市井さん!!」
エリコガからボールを奪った石黒からすぐに石川にボールが渡り、
石川はすぐさま逆サイドの市井にロングパスを送る。
「ナイス石川!!」
パスはトップスピードで走る市井の足元にピタリと収まった。
『何であんなパスが出せるの?』
ベンチで藤本が感嘆する。
石川にとっては5mの距離も50mの距離も同じ様に感じるのではないか?
そう思わされるようなキックの精度だ。
- 429 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:24
- ボールを受けた市井、そのままの勢いでアルゼンチンゴールに向かう。
しかしそうはさせじと、ヒトエがチェックに来る。
『こいつもいいディフェンスするっ!』
今日何度か対戦して、ヒトエのディフェンス力には正直舌を巻く。
サイドのディフェンス力としては申し分ないであろう。
さすがアルゼンチン代表で、名門バルサのレギュラーだ。
- 430 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:25
- 「けど抜くっ!!」
市井は左足、右足とボールを連続してまたぐ。
いわゆるシザースだ。
しかし市井のシザースはそんじょそこらのシザースとはケタが違う。
大抵の選手のシザースは足だけで、上半身は突っ立ったままだ。
市井は足と一緒に上半身も激しく振る。
こうする事により一回一回のシザースがフェイクでなく
本当にその方向に抜いてくると思わされるのだ。
これは抜群の身体の切れがないと出来ないし、
強靭な足腰が無ければバランスを崩して倒れてしまう。
- 431 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:26
- 「うわっ!」
これにはさすがのヒトエもバランスを崩す。
それを逃さず市井は左からヒトエをかわした。
だが、すぐさまマヨエルが詰めていた。
「?!!」
咄嗟に市井は左足アウトサイドで横にはたき、
マヨエルをかわし前に出る。
それをダイレクトでリターンしたのはひとみ。
見事なワンツーだ。
ウオオオオオオオオオ!!!!!
そのあまりに速いワンツーにスタジアムが揺れる。
「チャンス!!」
安倍がグッとニアに走り込む。
ひとみはやや遅れてゴール中央へ。
市井の右足からクロスが送られた。
ふわっとしたボールがファーサイドに。
- 432 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:26
- 「ナイスや市井さん!!」
そこに走り込むのは加護。
走り込む勢いをそのまま左足に乗せた。
強烈なダイレクトボレーが決まると思われたが、
加護のシュートはゴールポストを激しく叩きゴールラインを割ってしまった。
「あーしまった!!!」
思わず頭を抱える加護。
日本、絶好のチャンスを外してしまった。
- 433 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:27
- 命拾いしたアルゼンチンは必死に日本ゴールに襲い掛かる。
「あっ!!」
タカコッティが石川と新垣、2人の間を鋭く突破した。
この辺りはさすがタカコッティ。
素晴らしいテクニックだ。
そして中に鋭いクロスを送る。
クロスはゴール前中央で待つミユキトゥータの元に。
ミユキトゥータは紺野を背負いながらも右サイドから走り込むエリコガに落とした。
- 434 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:29
- 「もらった!!」
一瞬のダッシュ力では石黒より上だ。
マークを振り切り、走ってきた勢いそのままに
ダイレクトでシュートを放つ。
『やられた!!』
誰もがそう思った。
しかし日本のゴール前には彼女がいる。
守護神、飯田圭織が。
この強烈なシュートを見事にフィスティング。
スーパービッグセーブだ。
- 435 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:31
- ウオオオオオオ!!!!!
飯田のこのプレーにスタジアムが大きく沸いた。
「吉澤さん!!!」
こぼれ球を拾った紺野、すぐさま前線にロングパス。
このボールをボランチを背負いながら受けたひとみ。
このアルゼンチンボランチはもはやひとみの敵ではない。
プレーを遅らせることですら満足に出来ていなかった。
「よっすぃー!!」
左サイドで加護が呼んでいる。
「頼むよあいぼん!!」
ひとみはすかさず加護にボールを落とし、
そのまま前線へと向かう。
加護にはアルゼンチンDFがチェックに向かう。
- 436 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:31
- 「誰や?!!」
加護がチャージした相手を睨む。
それを涼しい顔で受け止めるウエハラ・タカコッティ。
あのまま加護の突破を許していれば、間違いなく失点していたであろう。
全速力で駆け戻ったタカコッティのファインプレーだ。
「・・・・・・ナイスだよあいぼん。」
しかしこのファウルに石川がニッと笑った。
- 437 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 03:33
- 日本のFK。
キッカーはもちろん“魔法の左足”石川梨華だ。
しかしこの位置は左利きには蹴りにくい位置で距離もある。
だが、この位置から前のカメルーン戦、
奇跡のFK“アゴンボール”を沈めている。
『FKだけは絶対に譲れない。』
石川の強い意志から生み出された“アゴンボール”。
ドリブルを含めた攻撃力ならば加護。
ディフェンス力ならばオリンピックには選ばれていないが木村麻美。
サイドプレイヤーとしての総合力ならば藤本。
自分にあるのははこの左足だけだ。
でも、それだけは絶対に譲れない。
「来るぞ!!“アゴンボール”」
アルゼンチンの選手たちが石川の左足を警戒する。
あのカメルーン戦のFKは試合後、メディアに一斉に流れた。
その際に矢口が“アゴンボール”と名付けたことも知れ渡っていた。
このFKを見た選手たちはみな驚愕の表情を浮かべた。
まさに“魔法の左足”が産んだ奇跡のFK。
- 438 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:38
- 「来たっ?!!!」
アルゼンチンGKが身構える。
が、ボールは途中で鋭く曲がり、ゴールマウスから外れていく。
ミスキック?
いや、違った。
「ナイスや梨華ちゃん!!」
右サイド、ファーに流れていたのは加護。
みな“アゴンボール”に気を取られていて
加護の動きに気が付いていなかった。
“飛び道具”2人による渾身のトリックプレーだ。
- 439 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:38
- 加護はこのボールをヘッドで中に返した。
“アゴンボール”を警戒していた上に左から右、
そして左にと揺さぶられたアルゼンチン。
もうゴール前はバラバラだった。
これを逃さないのが彼女だ。
日本のエース、安倍なつみ。
ゴールの嗅覚でこのボールに反応し、ヘッドで叩きつけた。
まさに完璧な攻撃だった。
- 440 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:39
- しかしサッカーとはおもしろいもので、
完璧な攻撃でもゴールが決まらない事もある。
安倍の放ったヘディングシュートはアルゼンチンGKが、
半ばやけくそで伸ばした足に当たった。
「なっ?!!」
日本の誰もが驚いた。
「うそっ?!!」
アルゼンチンイレブンも同様だった。
何百分の一の奇跡と言っても過言ではないGKのビッグセーブ。
- 441 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:39
- 「マイ!!!」
弾かれたボールを拾ったクラキを呼ぶ声が。
クラキは前線に大きく蹴り出した。
このボールを受けたのはナカジマル・ミユキトゥータ。
すぐさま前を向いて走り出す。
正直、オリンピックには興味は無かった。
自分の目標はあくまでワールドカップ。
今回はナミオラ負傷によって世論に押し切られた形での参加だった。
しかしチームメイトの必死な姿に、若手の懸命な姿に心が動いた。
そして何より母国を愛する心。
“最強”アルゼンチンが負けてはならない。
その心がミユキトゥータを走らせる。
往年の力強さを秘めて。
- 442 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:40
- 「新垣!!」
「はいっ!!」
日本は残っていた新垣と中澤2人がかりでミユキトゥータを止めに行く。
だがミユキトゥータは2人の間を強引に、力で突破した。
「うわっ!!」
その力強い突破に中澤も新垣も倒され、後を追えない。
残るはGKの飯田、ただ1人。
- 443 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:41
- 「くっ!!」
飯田がペナルティエリアから飛び出した。
そして退場覚悟でミユキトゥータの足元に飛び込む。
が、ミユキトゥータはこれを華麗にかわした。
柔と剛を兼ね備えたストライカー、
それが“地上の星”ナカジマル・ミユキトゥータだ。
- 444 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:41
- その選手は一瞬の間に計算した。
自分が退場になったらこの後守りきれるのか?
それとも同点とされた後また突き放せるのか?
どちらの選択肢を選ぶか?
- 445 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:42
- ・・・・・・・・・自分はDFだ。自分の役目はゴールを守る事。
答えは出た。
「紺野!!!」
そう叫ぶ中澤の目の前で。
何とか追いついた紺野がペナルティエリア手前で、
無人のゴールに流し込もうとするミユキトゥータを後ろから引きずり倒した。
- 446 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:43
- ピピピピッ!!!!
主審がけたたましい笛とともに走ってくる。
紺野はカードを見るまでもなくピッチの外へと歩いていく。
「紺野・・・・・・」
「・・・・・・・中澤さん、後、お願いします。」
後半34分。
紺野あさ美、レッドカードにより退場。
- 447 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:44
- 「あさ美ちゃん・・・・・・・」
レッドカードをもらい、
ピッチを後にする紺野を見て思わず小川が呟く。
「・・・・・・・・・紺野、よくやった。」
ツンクが紺野の肩をポンと叩いた。
DFとして、最高の判断だった。
そしてすぐさまピッチにいる選手たちに指示を出す。
「石川が左サイドバック!!新垣が右サイドバックや!!
センターは石黒と中澤!!市井と福田でボランチ!!」
ツンクは3バックを諦め、4バックに移行した。
ボランチには福田と“フリーロール”市井紗耶香。
オフェンシブハーフにひとみと加護。
そして1トップに安倍だ。
4−2−2−1というシステムに。
「ええか!!ここで絶対点やったらあかん!!
紺野のプレーを無駄にすんなよ!!!」
ツンクがゲキを飛ばす。
このゲキに頷く選手たち。
紺野のためにも絶対に守りきってみせる。
残りは約10分。
- 448 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:44
- ゴール正面、距離は約19m。
絶好の位置でのフリーキックだ。
日本は壁を6枚。
残るはみなゴール前に引いている。
クラキがボールをセットした。
『・・・・・・・この距離なら決める。』
クラキはそう確信していた。
自分の右足ならば必ず狙ったところにいく。
それが“小さな魔法使い”と呼ばれる所以だ。
- 449 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:45
- 狙いは決まった。
ゴール右上隅。
クラキが右足を振り抜いた。
壁を超え、狙い通りゴール右上隅に。
「よし、入った!!!」
蹴った瞬間にそう確信するほどの会心のフリーキック。
しかしクラキはすぐにこの判断は間違っていた事に気付く。
- 450 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:46
- 彼女はあの世界bPGKヨシナ・ガーンがその実力を認めた選手だ。
飯田が跳んだ。
素晴らしい反応に跳躍力。
見事に右手でこれを弾き返した。
「よしっ!!!」
飯田がグッと拳を握り締める。
守ったよ、紺野!!
- 451 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:47
- ここで負けられないアルゼンチンはさらに総攻撃をしかけてくる。
左サイドをヒロコが突破し、中にクロス。
これは中澤がクリアする。
今度は右サイドのエリコガが中に切れ込んでシュート。
これはコースが甘く、飯田がガッチリとキャッチした。
さらに中央からはクラキの切れ味鋭いスルーパス。
しかしこれはボランチの福田がスライディングで弾く。
「ここや!!ここ集中や!!!」
中澤が手を叩いて周りを鼓舞する。
残りは5分少々。
絶対に守りきってみせる。
- 452 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:48
- ベンチでは紺野が目を真っ赤にしながらピッチを見つめていた。
あの場面では仕方が無かった。
しかしそれでも今、自分がここにいることが悔しく、情けなく思う。
紺野はジッとピッチを見つめている。
日本の勝利を祈っている。
- 453 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:48
- 「高橋!!」
「はいっ!!」
ツンクが高橋を呼んだ。
今日本はほとんどが引いて守っている。
そのため攻撃はカウンターになるのだが、
前線で構える安倍は自分で突破していくタイプではない。
それに前半から飛ばしていたせいか、大分疲れている。
そのためスピードと突破力のある高橋を投入する。
これで前線は高橋の1トップとなる。
正直1トップ向きのFWではないが、この状況ではベストなFWだ。
それに体力がある分、前線からのプレスもかけられる。
「チャンスがあったらゴールを狙っていけ。
それと前線からのチェックを厳しくな。」
「はいっ!!」
後半41分、次代のエース高橋愛を投入。
- 454 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:49
- 「頼むね高橋。」
「はいっ!!任せてください!!」
安倍と高橋がハイタッチをかわして交代した。
「ようやったで安倍。」
マコトが安倍にタオルを手渡した。
ここまで3試合で3ゴール。
まさに日本のエース。
「安倍さん。」
「紺ちゃん。」
安倍と紺野がお互いの手を合わせる。
後はベンチから日本の勝利を祈ろう。
- 455 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:51
- それは後藤たちも同じだ。
もうこれで交代枠は使いきった。
自分たちはもうこの試合、ピッチに立てないが
気持ちはピッチで一緒に戦う。
ベンチにいる選手たちはみな手をつないで日本の勝利を祈っている。
- 456 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:55
- 「高橋!!!」
中盤での激しい争いからこぼれたボールを、
ひとみがそのフィジカルを使ってキープする。
そして刹那の瞬間、高橋にスルーパスを出す。
『何でよっすぃーはあのスペースが見えてるの?』
柴田がひとみのプレーに眼が釘付けとなる。
最近のひとみはスペースを見つけるのが格段に速くなっていた。
何故そこに出す?とパスを出した瞬間は思うのだが、
出されたパスをたどると確かにそこにスペースがある。
ひとみもセリエA、そしてこのオリンピックを通じて
成長しているのだ。
- 457 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:55
- 『凄い。あたしがここに走るのが見えてた。』
高橋は左サイドのスペースに流れており、
アルゼンチンの右DFとの1対1に持ち込む。
一瞬中に切れ込むフリをして外に抜けた。
そして中を見る。
しかし日本は1人少なく、
また自陣にほとんどが引いてあるために前線に上がってくる人数が少ない。
『ならば・・・・・・』
高橋はクロスを上げず、サイドでボールをキープして時間を稼ぐ。
そこへタカコッティと右DFがチェックに来る。
しかし高橋はボールを渡さない。
上手く身体を入れてボールをキープしている。
そしてわざとタカコッティにボールを蹴らせ、
コーナーキックのチャンスを創った。
- 458 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:56
- 「高橋上手い!!」
矢口がベンチで叫ぶ。
こういった場合は得てして前へ前へと行ってしまうものだが、
高橋は冷静であった。
攻撃にもなるべく時間をかけ、
そして万一ボールを奪われても大丈夫なように敵陣深くのサイドでボールキープ。
その憎らしいまでの冷静さこそ高橋愛の武器である。
本人は驚いた表情、ビックリ顔をすることが多いのだが。
- 459 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:57
- ここで時間は90分をまわった。
残りはロスタイム2分。
コーナーキックのチャンスだが日本は前線にあまり上がらない。
キッカーは石川で、ペナルティエリアには高橋とひとみ、
そして加護のみだ。
他の選手たちはみな引いている。
アルゼンチンは逆に守りにGKとDFの3人、そしてボランチが入り、
残りはみな前線で待ち構える。
- 460 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 09:57
- 石川の左足が振り抜かれた。
ボールは鋭くニアサイドに。
「よしざーさん!!」
このボールに飛び込んだのは高橋。
ヘッドで後ろにそらした。
「ナイス高橋!!」
軌道が変わったボールにGKはタイミングを崩されている。
そのボールに合わせ、飛び込むのはひとみ。
GKよりも高く飛んだ。
「甘い!!」
しかしこれを読んでいたのはアルゼンチンの守備の要、
“壁”ことオカモト・マヨエル。
素早くひとみの前にポジションを取り、
このボールをヘッドでクリアした。
アルゼンチンDF陣の執念が勝った。
- 461 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:00
- クリアされたボールを拾ったのはアルゼンチンボランチ。
すかさず一発で日本ゴール前に送る。
そのボールに殺到する両チームイレブン。
日本は紺野のためにも絶対に失点は許されない。
アルゼンチンも死力を尽くしてこのボールに飛び込む。
激しい競り合いの中、ボールがふわっと浮いた。
「クリア!!!」
「押し込め!!!」
再度ボールに飛び込む両チーム。
ペナルティエリア内は大混戦だ。
- 462 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:01
- 「?!!」
その瞬間飯田の足元を一陣の風が通り抜けていった。
そして後ろでネットが揺れる音がした。
飯田は反応する事が出来なかった。
多くの選手がもつれ合って倒れている中で一人、
拳を天に突き出した選手。
アルゼンチンの英雄、“地上の星”ナカジマル・ミユキトゥータ。
後半ロスタイム。
アルゼンチン奇跡の同点ゴール。
- 463 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:03
- ウオオオオオオオオオオ!!!!!!
スタジアムが爆発した。
ミユキトゥータの起死回生の同点ゴールに
アルゼンチンサポーターが大きく沸く。
一方、日本サポーターは信じられないといった表情だ。
ロスタイムでの失点。
日本サッカー界、暗黒の歴史。
- 464 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:04
- その瞬間、ベンチで両手で顔を覆う紺野。
呆然とした表情の安倍。
信じられないといった表情を浮かべる他の選手たち。
まさかの失点に顔を歪ませるツンク。
唖然とするマコト、タイセー、ハタケといったコーチ陣。
この失点はある意味致命傷だった。
交代枠も使いきり、なおかつこちらは1人少ない。
日本は一気に劣勢に陥った。
- 465 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:05
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
失意の日本がキックオフした瞬間にホイッスルが鳴った。
2−2、同点で前後半を終了した。
決勝トーナメントは延長戦の場合、
シルバーゴール方式で行われる。
ロスタイムに追いついたアルゼンチンは意気揚々と。
追いつかれた日本は肩を落として引き上げてきた。
- 466 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:06
- 「ごめんみんな・・・・・・」
飯田が沈んだ声で言った。
あのシュート、決して止められない、反応出来ないシュートではなかった。
しかし飯田は足がすくんだように動けなかった。
シュートが来た瞬間、鋭い目で貫かれたような気がした。
あんな気迫は今まで感じた事がなかった。
あれが世界のトップの気迫だ。
- 467 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:07
- 「飯田、気にするな。もう一度集中しなおせ。」
タイセーが飯田の肩をポンと叩く。
とられたものは仕方がない。
すぐに気持ちを切り替えねば。
「みんなまだ終わったわけやない!!
延長戦、こっちにも必ずチャンスは来る!!
ええか、絶対に気持ちで負けんな!!!!」
「はいっ!!!」
ツンクのゲキに必死で声を張り上げる選手たち。
こうでもしなければ今の現実に押しつぶされそうになる。
交代枠は使い切り、なおかつ1人少ない。
そしてロスタイムに失点した。
あきらかにアルゼンチン有利な状況。
みな言葉には出さないが、そう感じているし、表情にも出ている。
- 468 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:08
- 「・・・・・・円陣組みましょう。」
不意に聞こえるその言葉。
そこには真っ赤な目をした紺野あさ美がいた。
この失点に誰よりも悔しい思いをしているのが彼女だ。
その紺野の言葉にみな頷き、円陣を組んだ。
「ツンクさんたちも組みましょう。」
中澤に促され、ツンクやマコトたちも円陣を組んだ。
状況は苦しいが、全員の力で乗り切ろう。
そしてこのサバイバルマッチ、絶対に生き残ろう。
- 469 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:09
-
「絶対勝つで!!!がんばっていきまー・・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!!!!!!」
- 470 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:10
-
生か死か。
生き残りをかけた延長戦が開始された。
- 471 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:10
- 延長戦が開始された。
アルゼンチンは交代枠が3つとも残っているが、
誰も交代はなかった。
今いる選手たちがベストメンバーであり、
日本はこのメンバー以外では勝てない相手だ。
「いいか!!絶対に気を抜くな!!!」
アルゼンチン五輪代表監督、サノルサが声を張り上げる。
彼は理解している。
アルゼンチンが有利な状況の今こそ全力で叩き潰さねばならない事を。
- 472 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:11
- 開始早々左サイドを突破したヒトエが中にクロスを送る。
このボールを競り合うのがミユキトゥータと中澤。
2人ともチームの主柱となるベテランだけに激しい火花が散る。
2人の競り合いは互角。
そのこぼれ球に素早く反応したエリコガが左足でシュートを放つ。
しかしこれは石黒がキッチリとコースを切っており、
飯田が難なくキャッチした。
試合終了間際に失点したDF陣だが、集中は途切れていない。
- 473 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:12
- 「紗耶香!!」
すぐさま飯田が市井にスローイング。
このボールを受けた市井が前を向く。
紺野が退場となった事で右サイドから中央にポジションを変えた市井。
守備にも攻撃にも身体を張り、
危険なポジションを誰よりも早く察知しなければならない。
それが“フリーロール”市井紗耶香の役目だ。
- 474 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:13
- チェックに来たクラキをかわし、ひとみにパスを出した。
市井からのパスを受けたひとみはアルゼンチンボランチをあっさりかわす。
「よしざーさん!!」
高橋がスッとDFラインの裏に抜け出た。
その動きにアルゼンチンのDF陣は一瞬気を取られる。
「ここだっ!!」
ひとみはこの隙を逃さず、
約34mほどの距離から思い切って右足を振り抜いた。
- 475 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:14
- 唸りを上げてボールがゴールマウスに飛んでいく。
が、余りにも勢いがありすぎたせいか、途中でグンとホップし、
ボールはクロスバーを越えていった。
『な、何だ、あのパワーは?』
アルゼンチンGKはそのシュートの威力に唖然としていた。
- 476 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:16
- 「よっすぃー!!」
中盤で福田がボールを奪い、すぐさまひとみへと預ける。
本来ならば福田もゲームを創れるが、今の状況では守備で精一杯だ。
守備は自分がやるから、攻撃は頼んだ。
思いをパスに込める。
福田からのパスを受けたひとみはすぐさま左サイドに振った。
「ナイスひとみちゃん!!」
そのパスを受けた石川がドリブルでライン際を駆け上がる。
日本、いい形だ。
しかしそこへ彼女が立ちはだかる。
「梨華ちゃん、気をつけて!!!」
藤本が叫ぶ。
ウエハラ・タカコッティ。
彼女が石川の前に立ちはだかった。
- 477 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:17
- 『この人、スゴイ!!』
石川は対峙してみてタカコッティの凄さを感じた。
腰を落として構えるタカコッティ。
隙が全くない。
『こ、こんな相手とミキティは戦ってたの?』
「くっ!」
やむなく石川はフォローに来たひとみに戻した。
しかしこのパスはアルゼンチンボランチに読まれていた。
- 478 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:17
- 「あっ!!」
攻めに転じようとした際にボールを奪われた日本。
DFラインも崩れている。
アルゼンチンボランチが大きく左サイドにボールを振った。
そのパスを受けたヒロコが左サイドをえぐっていく。
「新垣!!!」
すぐに新垣が追いかけるが走力では神速と言われるヒロコの方が上だ。
新垣を振り切り中にクロスを上げる。
そのクロスに飛び込むのはミユキトゥータ。
中澤も必死に身体を寄せる。
アルゼンチンのクロスはほとんどミユキトゥータへ。
それは彼女の得点感覚を信頼している証拠だ。
- 479 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:18
- これは何とか身体を前入れた中澤がヘッドでクリアした。
しかしそのこぼれ球をペナルティエリア外から
クラキが思い切ってミドルで狙った。
「くっ!!」
このミドルは飯田が鋭い反応を見せ、右手1本で弾いた。
「ナイスカオリ!!!!」
中澤が飯田の頭をくしゃっと撫でる。
もう絶対にゴールは許さない。
そんな気迫がひしひしと伝わってくる。
- 480 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:19
- 延長前半も10分を過ぎた。
ここまで一進一退の攻防だ。
が、日本は右サイドが大分突破されるようになってきた。
右前目のハーフは加護が務めているのだが如何せん守備力が低い。
幾度と無く突破され、アルゼンチンはチャンスを生み出していった。
またもヒロコが加護を振りきり左サイドを突破した。
がこれは市井が素早く距離をつめ、スライディングで止めた。
「すみません市井さん。」
「ドンマイ。守備はあたしたちに任せろ。
それより1点取っておいで。」
市井がグッと拳を出す。
正直自分は守備で手一杯だ。
だから攻撃は、ドリブルはお前に任せた。
- 481 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:21
- さらに今度は日本の左サイドを
エリコガがタカコッティとの連係プレーで突破した。
「くっ!!!」
しかしクロスが上がる前に何とか石黒がスライディングで潰した。
「うわっ!!!!」
と同時に響く絶叫。
「石黒?!!!」
「あやっぺ?!!」
石黒は左足を抑えてのた打ち回っている。
その横には青ざめた表情のイマイル・エリコガ。
タックルで潰された際にエリコガは石黒の左足に乗っかってしまったのだ。
そしてそのまま全体重が石黒の左足に乗った。
南米特有のマリーシア。
エリコガはこれが得意なのだが、今のはわざとではなかった。
- 482 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:22
- すぐさまハタケが駆けつけ、石黒をピッチの外に出して治療する。
紺野が退場し、交代枠も使いきった。
これで石黒まで抜けると残りは9人。
もう絶望だ。
「絶対に行きます。」
石黒は苦痛に顔を歪めながらもピッチに戻ろうとする。
ここで自分が戻らねば日本は負ける。
「待て。」
ハタケは石黒の左足の状態を確認する。
骨折はしていない。
恐らく筋を痛めたのでは?
ただ、靭帯を切ったとかという重いものではない。
- 483 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:25
- 「・・・・・石黒、行けるか?」
ハタケが石黒の意志を確認する。
「はいっ!!」
石黒は当然頷く。
「・・・・・頼むな。」
ハタケは急いで石黒の左足にテーピングをほどこす。
「・・・・・すまん石黒。この試合だけは頼む。」
ベンチからツンクが祈るような表情で見つめる。
石黒はテーピングでガチガチに固め、
ピッチに飛び出していった。
「絶対に勝つよ!!」
石黒が声を張り上げる。
武闘派軍団教育係。
教育のポリシーは言葉でなく態度だ。
余計な言葉はいらない。
あたしの行動を見て学べ。
- 484 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:26
- 市井から右サイドを走る加護にパスが出た。
パスを受けた加護、中央に切れ込んでいく。
その前に立ちはだかったのは“壁”ことオカモト・マヨエル。
『あんたは絶対に抜く!!!』
市井でも抜けなかったこの相手をぶち抜いて日本が勝つ。
それが加護の描くシナリオだ。
加護は独特のフェイントでマヨエルを抜きにかかる。
軟体動物を思わせるようなその動きにさすがのマヨエルも迂闊に飛び込めない。
「ここや!!!」
一瞬のスピードでマヨエルを抜きにかかる加護。
しかしこの瞬間をマヨエルは待っていた。
いくらつかみ所が無いフェイントでも、
抜きにかかる瞬間だけはとらえられる。
- 485 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:26
- 「うわ!!」
マヨエルのスライディングにもんどりうって倒れる加護。
マヨエルは奪ったボールをすぐさま前線に送る。
が、このボールは痛みをこらえ、石黒がヘッドでタッチラインにクリアした。
『ちくしょー、何やこいつのディフェンスは?!!』
加護はキッとマヨエルを睨む。
その加護の視線をスッと流すマヨエル。
『?!!・・・・・・・こんにゃろー、絶対抜いたるからな。』
加護の闘志が奮い立つ。
と、そこへ加護の耳にある声が届いた。
「加護ちゃん!!!」
ハッとその声のした方を見る。
ベンチから後藤が心配そうな顔で見ている。
『そうや、うちはまた忘れるところでしたわ。』
あの1年前の欧州遠征前の合宿。
そこで後藤のアドバイスにより壁を崩す事が出来たのだ。
- 486 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:27
- 延長前半も残るはロスタイムだけとなった。
「でやっ!!!」
クラキが福田を振り切り、ミユキトゥータにスルーパスを出す。
が、このパスは中澤が足を伸ばし弾いた。
そのこぼれ球はすぐに戻った福田が拾った。
「福田さん!!!」
「よっすぃー!!」
すぐさま福田はひとみにロングパス。
ひとみはこのボールをダイレクトで右サイドを走る加護に。
- 487 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:28
- ボールを受けた加護、右サイドを駆け上がる。
そこにチェックに行くのはマヨエル。
またも加護とマヨエルの1対1だ。
日本は1人少なく、苦しい。
だからこそみな加護のドリブルに期待する。
- 488 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:29
- 「市井さん!!」
が、加護が選んだのはパスだった。
フォローに上がってきた市井にボールを預け、加護は前へ。
そこに市井からリターンパスが来る。
「ちっ!!」
マヨエルがすぐさま追いかける。
「中行くで!!」
右サイド奥深くで加護が右足でクロスを送ろうとするが、
マヨエルが追いつき足を伸ばす。
- 489 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:30
- 「わかってるわ!!」
が、加護はこれを予測していたのか鋭く切り返す。
そして左足で中にクロス・・・・・・を上げなかった。
またも鋭く切り返したのだ。
「なっ?!!!」
思わず叫ぶマヨエル。
彼女はすぐに体勢を立て直し、スライディングをしかけていたのだ。
左、右と連続しての鋭い切り返しに、さすがのマヨエルも完全に振り切られた。
その切れ味は後藤真希を彷彿とさせた。
そして加護はそのままペナルティエリアの中に侵入する。
- 490 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:31
- 「ちっ!!!」
慌ててマリャラがチェックに向かうが、
もう時すでに遅かった。
加護はマリャラを引き付けて、
右足インサイドでニアサイドにグラウンダーを送る。
このボールに最後詰めたのは高橋愛。
彼女も大舞台で輝くという星を生まれながらにして持っている。
GKの鼻先でさわり、ゴールへと流し込んだ。
延長前半ロスタイム。
次代のエース高橋が試合を決定付けるゴール。
- 491 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:32
- 「加護ちゃん!!!」
ゴールを決めた高橋が加護に抱き付く。
「愛ちゃん!!!ナイスやで!!!!」
加護もギュッと高橋に抱き付く。
そこへひとみが、市井が福田が石川が飛び込む。
ベンチでもみなが雄たけびを上げている。
ピィ、ピィ、ピィー!!!!
そしてここで主審が試合終了のホイッスルを吹いた。
その笛とともに一斉にベンチからピッチになだれ込む日本代表。
日本、10人ながらも3−2でアルゼンチンを下し、
決勝進出を決めた。
それはつまり、メキシコを超えたということだった。
- 492 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:32
- 「勝った!!!」
「やったべさ!!!」
飯田と安倍が抱き合う。
その横では紺野が顔をくしゃくしゃにして泣き、
高橋と小川、新垣が紺野に抱きついている。
田中、道重、亀井もみなで抱き合って喜んでいる。
- 493 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:34
- 「紗耶香!!!」
「市井ちゃん!!!」
「やぐっつあん、後藤!!!」
矢口と後藤が市井に飛び掛る。
「ひとみちゃん!!!」
「梨華ちゃん!!」
ひとみと石川が。
「美貴たん!!」
「亜弥ちゃん!!」
松浦と藤本が。
「あいぼん!!!」
「のの!!!」
辻が加護に。
「あやっぺ、圭坊!!!」
「裕ちゃん!!!」
中澤と石黒、保田が抱き合う。
「ふうっ。」
その歓喜の輪には加わらず、腰に手をあてホッと一息つくのは福田明日香。
しかしその表情には嬉しさの色が見て取れる。
- 494 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:37
- 「勝った。・・・・・・よかった・・・・・・」
そしてベンチでようやく笑顔を見せた柴田あゆみ。
彼女の胸に熱いものがこみ上げる。
1人少なくなっても誰も諦めなかった。
みんな必死に戦っていた。
ドクンッ!!
柴田の鼓動が高まる。
それは覚醒への胎動であった。
- 495 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:38
- 「最後のドリブルには正直驚いた。」
アルゼンチン代表、オカモト・マヨエルが加護に握手を求めてきた。
加護は言葉は分からないが、ニーッと笑ってその手を握り返す。
「ナイスプレー。」
そう言ってミユキトゥータが手を差し出した。
その相手は紺野あさ美。
「えっ?あ、はいっ!」
紺野も恐る恐る手を握り返した。
- 496 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:41
- 「ヒトミ。リーグ戦でもその活躍期待してるよ。」
タカコッティがインテルのチームメートとなったひとみに
声をかける。
「タカコもね。」
そう言ってひとみとタカコッティは握手をかわす。
そしてタカコッティは藤本の前に歩み寄った。
「ナイスプレー。また、勝負しよう。」
「次は絶対に負けないから。」
藤本がニッと笑う。
2人は固く握手をかわした。
それ以外には松浦とヒトエがチームメート同士、
健闘を称えてがっちりと握手をしていた。
日本イレブンはみなはしゃいでいた。
ついにあのメキシコ五輪を超えたのだ。
いよいよ決勝に進出。
金メダルが見えてきた。
- 497 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:41
- 「ふーん、日本が勝ち残ったか。」
この試合をテレビで見ていたカナリア軍団。
もう一度叩き潰してあげるから。
怪物たちがニヤリと笑う。
- 498 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:42
- 金色のメダルをめぐるサバイバルマッチもとうとう
あと1試合を残すのみとなった。
この最後の戦いに臨むチーム。
王国ブラジル代表。
そして我らが日本代表。
- 499 名前:第17話 デッドオアアライブ 投稿日:2004/05/11(火) 10:42
-
第17話 デッドオアアライブ (終)
- 500 名前:ACM 投稿日:2004/05/11(火) 10:50
- 第17話 デッドオアアライブ 終了いたしました。
今回は長すぎました。
もっと簡潔にまとめなければ、と反省しております。
しかも途中、435と436の間に入るやつが抜けてました。
その内容は、
加護ちゃんはアルゼンチンDFをかわしたまではいいが、
後ろからタカコッティに潰された。というものです。
さらに437から438にかけて6時間飛んでるのは書き込めなく
なったからです。どうやら一度に書き込めるのは100レスまでの
ようですね。
今回のように量が多い場合こそミスがないように気をつけなければ
ならないのに、ミスばかりでホントすみません。
- 501 名前:ACM 投稿日:2004/05/11(火) 10:57
- では次回の予告です。
第18話 悪魔と天使と悪魔
とうとうアテネオリンピックも決勝戦を迎えた。
日本代表は並みいる強豪を倒してここまで進んだ。
決勝の相手は予選リーグで叩き潰されたブラジル。
再び日本代表の前に立ちはだかるカナリア軍団に最上級の悪魔。
果たしてひとみたち日本代表はこの最高の舞台でリベンジなるのか?
次回もよろしくお願いいたします。
- 502 名前:ACM 投稿日:2004/05/11(火) 10:58
- ではスレ隠しです。
今回はプレミアリーグ編です。
<マンチェスター・ユナイテッド>
DF 5 マオ・ダイチナンド (イングランド)
MF 11 マツシタ・ユキス (ウェールズ)
16 シマ・キーン (アイルランド)
18 タバタ・ナズナールズ (イングランド)
19 タカシマ・アヤパンアヤパン (カメルーン)
FW 10 マツ・ユキ・ヤスコローイ (オランダ)
監督 サトミックス・ファーガソン
- 503 名前:ACM 投稿日:2004/05/11(火) 10:59
- <アーセナル>
DF 23 ナオミ・“ザイゼン”・キャンベル(イングランド)
MF 4 タカコリック・トキーワ (フランス)
7 フカーツ・エリス (フランス)
9 シノハラ・リョウコール (フランス)
11 市井紗耶香 (日本)
FW 10 ハヅキ・リオナンプ (オランダ)
14 ウエト・アーヤ (フランス)
25 ヒローコ・オグー (ナイジェリア)
監督 ザイゼン・カラサワ
- 504 名前:ACM 投稿日:2004/05/11(火) 11:01
- <チェルシー>
GK 1 サ・トエリ (中国)ミドルスブラより移籍
DF 6 フジワラ・ノリカー (フランス)
MF 4 マナーミ・コニシシ (フランス)レアル・マドリードより移籍
10 リョウ・コール (イングランド)ウェストハムより移籍
11 サカイン・ミキ (アイルランド)ブラックバーンより移籍
20 マイ・セバスチャン・クラキ (アルゼンチン)マンUより移籍
FW 7 タナカアン・レナァ (ルーマニア)パルマより移籍
21 アムロン・ナミエポ (アルゼンチン)
会長 テツヤ・コムロビッチ
- 505 名前:ACM 投稿日:2004/05/11(火) 11:02
- <リヴァプール>
FW 10 マツタカ・コーウェン (イングランド)
<リーズ・ユナイテッド>
DF 8 ワ・ダキコ (韓国)
<マンチェスター・シティ>
DF 17 コ・イッケー (中国)
- 506 名前:ACM 投稿日:2004/05/11(火) 11:03
- 忘れ者。
スペインリーガエスパニョーラ
<エスパニョル>
FW 11 カ・ケテミホ (中国)
ごめんなさい。ヘアチェック忘れてました。
次回のスレ隠しはドイツブンデスリーガ編です。
次回もよろしくお願いいたします。
- 507 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/11(火) 12:21
- 更新お疲れ様です。
仕事中だというのに一気に読んでしまいました。(W
- 508 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/11(火) 12:37
- 更新お疲れ様です。
メキシコを越えましたね。良かった。良かった。(笑)
アルゼンチンの"スピード"の4人は素晴らしいとしか言いようがありません。しかし日本も負けていませんでしたね。
遂に決勝。悪魔VS悪魔or天使or天使?の対決期待してます。
完璧DFの代わりにも活躍期待してます。
ここはリアルの年齢に近いので、WCはアフリカ勢が強くなってきそうですね。
- 509 名前:みっくす 投稿日:2004/05/11(火) 14:18
- 更新おつかれさまです。
いよいよ天使が復活し覚醒?
カナリアの悪魔がもっとも恐れた天使が覚醒して登場ですかね。
あと、VIP席の1つの影の発言からすると、みきてぃは来期は移籍かな?
- 510 名前:名無しぃく 投稿日:2004/05/12(水) 01:13
- 更新お疲れ様です。
何か感動しました。みんなカッケーよー。
なにやらVIPが怪しげですな。次回は天使が見れるかな?
- 511 名前:ACM 投稿日:2004/05/14(金) 10:40
- 507>名無飼育さん様
レスありがとうございます。
お仕事中でも読んでいただけたなんて凄く嬉しいです。
でもお仕事の邪魔になりませんでしたでしょうか?
これからも上司様に見つからないようにこそーりお願いしますね。
508>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
正直に告白します。わたくし、天使?(田中)の存在を全く忘れてました。
それから年齢設定ですが、リアルどおりです。加護とか辻、道重、亀井、田中
なんてみんなあの年齢でこれですから、反則です。そこらへんはご容赦下さい。
509>みっくす様
レスありがとうございます。
天使は果たして覚醒して登場するのでしょうか?
ミキティはどうでしょうか?移籍は本人の意志もありますしね。
これからの動きにご期待ください。
510>名無しぃく様
レスありがとうございます。
みんなカッケーですか。そう言っていただけると凄く嬉しいです。
ミラン優勝しましたね。ACMとはACミランの略で、私、ミランの
大ファンなのであります。凄く嬉しかったです。
レスありがとうございます。とても励みになります。
では、本日の更新です。
- 512 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:42
- 日本は最強アルゼンチンを破り、ついに決勝戦に進出した。
ここまで強豪相手に互角以上の戦いを見せ、
見事に決勝進出した日本は各国から注目を浴びていた。
各国のクラブのスカウトにとっては多くの才能を見つけ、
みな満足していた。
- 513 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:45
- この中で一番の注目株はやはり日本のエース、安倍なつみであろう。
ここぞという時の勝負強さは群を抜いており、多くのクラブが彼女に注目していた。
すでに所属のコンサドーレ札幌には多数の正式なオファーが来ていた。
まずはイタリアセリエAからはキエーヴォ・ヴェローナとレッジーナ。
イングランドプレミアリーグからはエバートン。
ドイツブンデスリーガからはレバークーゼンからオファーが舞い込んでいた。
しかし安倍はJリーグセカンドステージ終了までコンサドーレに残留する事を
明言しているため、各クラブは冬の移籍市場で勝負をかける。
- 514 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:48
- 続いて変幻自在のドリブルでカメルーン戦、
アルゼンチン戦で存在感を見せ付けた加護亜依。
彼女にはオランダのアヤックスがオファーを出した。
3−4−3、もしくは4−3−3のシステムを基本とするアヤックス。
両サイドの高い位置にウイングをおくこのオランダを代表するクラブのサッカーは、
ドリブラーの加護に最も適していると言えるだろう。
しかし彼女の所属チーム京都パープルサンガは彼女を放出する事を否定しており、
移籍の実現はきわめて低い。
- 515 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:48
- その圧倒的なスピードで世界に衝撃を与えた矢口真里にはスペインの名門、
バレンシアが狙っているとの噂が流れている。
左サイドにスペイン代表ミホチャン・シライシ、
右に日本代表の矢口真里という世界最速の両サイドを目指すのでは?との噂だ。
しかしこれはあくまで噂であり、
現在正式オファーは横浜Fマリノスには来ていない。
- 516 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:50
- その他にも“魔法の左足”石川梨華や、
“正統派ストッパー”石黒彩、
“次代のエース”高橋愛にも海外クラブが狙っているという噂が流れた。
そしてこの噂で最大のものがこれだ。
これはドイツの地元紙が大々的に報道した。
『シャルケ04ミキ・フジモト、バイエルン・ミュンヘンに移籍!!』
- 517 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:50
- 記事によるとバイエルン・ミュンヘン会長ケージ・アオシマ・オダユージが
藤本のプレーを気に入ったということが根拠となっていた。
それはこのオリンピックに会長自ら視察に訪れるというほどだ。
オダユージ会長はこの噂を肯定も否定もしなかった。
ただ1つ、こう言った。
「オリンピック終了後、全てが明らかになるよ。」
- 518 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:51
- 藤本もこの件に関しては口を開かなかった。
「今はオリンピックです。話はそれが終わってからです。」
藤本の言うとおり今はオリンピックの途中だ。
移籍話はみな封印し、最後の戦いに全てを集中する。
- 519 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:52
- 決勝に進出した日本であったが、
さすがに激戦を勝ち抜いてきただけあって怪我や疲労、
さらに出場停止処分の選手も何人かいた。
アルゼンチン戦で退場となったDF紺野あさ美はもちろん出場停止。
石黒彩も左足の怪我により決勝戦は出場不可能。
日本は3バックのレギュラーのうち、2人を欠くことになる。
- 520 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:52
- さらにボランチとして攻守に渡りフル回転を続ける福田明日香。
トップ下で攻撃を司り、ここまで予選リーグのモロッコ戦、ドイツ戦、ブラジル戦、
そして決勝トーナメントのアルゼンチン戦とその抜群のフィジカル、
そしてファンタジスタとしての能力を見せ付けていた吉澤ひとみに疲労の色が濃く出ていた。
が、2人とも試合に出れないほどではない。
さらに柴田あゆみは予選リーグブラジル戦で受けたショックが原因で不調に陥っている。
- 521 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:53
- しかし朗報もあった。
後藤真希の復調である。
アルゼンチン戦前に体調を崩した後藤。
決勝戦にはスタメンは無理でも途中出場は可能な状態に持ってきた。
とにかく泣いても笑ってもあと一試合。
スタメンも控えも、出場停止のメンバーもコーチも一丸となって戦うのみである。
- 522 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:54
- 決勝戦の前日、フランスとアルゼンチンによる3位決定戦が行われた。
王者フランス対最強アルゼンチン。
このカードが決勝でなく3位決定戦であることに正直驚くばかりである。
予選では2−2の引き分けに終わった両チーム。
今回はメダルがかかっているだけにどちらも絶対に負けられない。
- 523 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:55
- 試合は2−1でアルゼンチンの勝利に終わった。
やはりA代表を多く揃えたアルゼンチンの方が地力が勝ったようだ。
フランスは4位に終わった。
しかしあくまでこれはオリンピック。
U−23だ。
フル代表ならば間違いなくこんな結果には終わらない。
それが王者フランスだ。
現に今年行われたEURO2004ではフランスは大会2連覇を成し遂げている。
2006年ドイツワールドカップでもダントツの優勝候補だ。
「正直負けたのは悔しい。だがフランスはこれで終わりではない。
この大会で経験を積んだ若い選手たちは将来必ずビッグなプレイヤーになる。
次のワールドカップでは今よりもっと成長した若手と、
私たち経験のある選手とがかみ合った真に強いフランスをお見せします。」
フランス代表キャプテン、フジワラ・ノリカーの言葉だ。
この言葉が負け惜しみに聞こえないところがフランスの力を表している。
- 524 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:55
-
そしていよいよ決勝戦を迎えた。
- 525 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:56
- 「まずはここまでよう頑張った。」
ツンクが穏やかな顔でみなの顔を見回す。
みんな表情は明るい。
並みいる強豪を倒して勝ち進んだ充実感と、
これから歴史に残る戦いをする高揚感で一杯だ。
「せっかくここまで来たんや。みなでええ思いするで!!」
「はいっ!!!」
その返事にツンクは満足気に頷いた。
「さ、マコト、ハタケ、タイセー。
何か一言ずつ言うたってくれや。」
そして他のコーチ陣に話を振った。
- 526 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:57
- 「お、じゃあ俺から言うわな。」
日本代表ヘッドコーチ、マコト。
常にツンクと選手たちの間に立ち、バランスをとってきた。
控えの選手が腐らないように色々と気を回してきた。
あのカメルーン戦をきっかけに日本代表は1つになった。
それは全てマコトのおかげである。
この男の存在があるからこそチームは一丸となれたのである。
このチームの優しい兄貴分だ。
「ここまでみんなよう頑張ったな。ここまでこれたのはここにいるみんなの力はもちろん、
日本で応援してくれてる人たち、そして残念ながらここにいない選手たちの力やと思う。
そんな人たちのためにも悔いのない試合をしよう。全力を出して、精一杯戦おう。」
「はいっ!!」
- 527 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:57
- 「ここまでみんなよう頑張った。正直体はきついと思うけど後のケアは俺に任せて、
精一杯、全力で頑張れ。絶対に勝とう!」
日本代表フィジカルコーチ、ハタケ。
彼の綿密なトレーニングメニューのおかげでここまでみな戦ってこれたのだ。
一人一人のコンディションを確実に把握し、メニューを考えてきた。
この労力はとうてい言葉では表せないものである。
- 528 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:58
- 「俺は今回のオリンピックからの参加やけど、このチームに関われてほんまに良かったわ。
正直何も出来てないけれども少しでもお前らの力になるように、勝てるように祈るわ。」
元コンサドーレ札幌監督、タイセー。
彼はこう言っているが、ツンクにとっては彼の存在は本当に頼もしかった。
元監督であるだけにツンクの気持ちが人一倍分かるのだ。
ツンクが辛い時、しんどい時に彼はスッとフォローに入った。
作戦や戦術面でも大いに彼の意見が役に立った。
日本が誇るコーチ陣。
- 529 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 10:59
- 「最後に俺からや。」
ツンクが口を開く。
「今大会、いろんな事があったと思う。いや、今大会だけとちゃう。
このチームを立ち上げた時から振り返るとホントに色んな事があった。
そこでみんな色んな経験をし、挫折を味わい、また喜んだりもした。
そんなチームもこの今日の試合で最後や。このチームは最高やった。
里田や斎藤、大谷とか、ここにはおらんメンバーも含めてな。
俺から言えるのはただ1つ。この最高のチームの最後を飾るに相応しい、
最高の試合をやろう。」
「はいっ!!!!」
日本代表監督ツンク。
マコトもハタケもタイセーも。
ひとみや後藤、石川たち選手も。
みなこの男だからこそ付いてきたのだ。
最高のスタッフに最高のメンバー。
最高のチームの最後の戦いが今始まる。
- 530 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:00
- 「それでは今日のスタメンを発表する。
ゴールキーパー、飯田圭織。」
この言葉を聞いた瞬間、飯田と亀井がお互いを見つめ、頷きあう。
GKは1人だけしか出場出来ない。
しかし気持ちは同じだ。
2人でゴールマウスを守る。
- 531 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:00
- 「左センターバック、保田圭。」
負傷した石黒の代役は保田だった。
そのディフェンス力に冷静さ、そして熱い闘志。
石黒の代役を務められるのは彼女しかいない。
このチームの頼れる姉貴分だ。
「センター、中澤裕子。」
日本サッカー界のキャプテン。
紺野が出場停止な今、3バックの中央は彼女以外いない。
中澤はこの試合に並々ならぬ闘志を抱いていた。
口には出さないがこの先あと何年現役でいられるかわからない。
下からも紺野や小川、新垣といった若い世代がどんどん力をつけていっている。
だが、まだまだ若い奴らに負けてはいられない。
「右センターバック小川麻琴。」
紺野の代役には“オスティナート”小川麻琴をもってきた。
小川と紺野は同い年。
だが、紺野は今やツンクジャパンにとって不動の選手。
一方、小川はスタメン奪取とまではいかない。
しかし小川も負けていられない。
その粘り強さはチーム1。
それにツンクは賭けた。
- 532 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:02
- 「左ボランチ、新垣里沙。」
これでカメルーン戦、アルゼンチン戦に続いて連続でのスタメンだ。
今一番の成長株かもしれない。
その自慢のスタミナでピッチを駆け巡る。
「右ボランチ、福田明日香。」
日本が誇るワールドクラス。
そのテクニックと常に全力を出し切るそのプレーは
全てのサッカープレイヤーのお手本となる存在である。
日本のサッカーに失望し、海を渡って4年。
とうとう日本のサッカーは彼女に追いついた。
- 533 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:02
- 「左サイドハーフ、石川梨華。」
左サイドは藤本、加護と人材が揃っている。
その中でツンクは彼女をスターターに選んだ。
その左足には魔法がかけられている。
その魔法で日本の勝利を呼び込む。
「右サイドハーフ、市井紗耶香。」
彼女も自分を高めるために海を渡った。
そして今や世界でも数人しかいない“フリーロール”の使い手となった。
この試合で世界有数から唯一無二へとさらに高みを目指す。
- 534 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:03
- 「トップ下、吉澤ひとみ。」
日本が誇る“ファンタジスタ”。
全ての人に夢を見させてくれる。
勝利へとつながる“道”を見つけてくれる。
それが“ファンタジスタ”。
- 535 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:03
- 「セカンドトップ、松浦亜弥。」
日本ナンバーワンの万能FW。
全てにおいて高いレベルを持ち、
日本の攻撃を引っ張っていく。
「ファーストトップ、安倍なつみ。」
説明不要、日本不動のエース。
彼女ならばきっとやってくれる。
なっちスマイルをこの世界最高峰の舞台で輝かせる。
- 536 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:04
- 「さあ後はキャプテン、任せるで。」
ツンクがキャプテン飯田の肩をポンと叩く。
「みんな円陣組むよ。」
飯田がみなを呼び寄せる。
全員が気持ちを昂らせ、肩を組む。
「この試合、とにかく最高の試合をしよう!!」
「おうっ!!!」
「がんばっていきまー・・・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!!!」
- 537 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:05
- 午後1時、黄色のブラジル、青色の日本が入場した。
ブラジルはキャプテンユーミンを先頭に威風堂々と入場する。
その後ろには“フェノーメノ”ヒカルド。
“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。
“世界最凶の左足”ジュディマリ・ユッキー。
そして今大会最高のブレイク。
“ブラジルの最新の天才”コヤナギーニョ。
- 538 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:05
- 王国ブラジルにとってオリンピックは特別だ。
今まで4度ワールドカップを制しているブラジルだが、
オリンピックだけはいまだ金メダルをとっていない。
しかし今回こそチャンスである。
王国ブラジルの威信をかけてこの試合負けるわけにはいかない。
対する日本。
先頭にはキャプテンマークを左腕に巻いた飯田圭織。
相手が王国であろうが関係ない。
最高の試合をして勝つのみだ。
- 539 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:05
- 国歌斉唱後、日本の選手たちがブラジルの選手たちと1人1人握手を交わし、
ペナントを交換していく。
日本は最後尾にひとみがいたが、
ブラジルもこの選手が列の最後尾だった。
“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。
「今日はあんたを潰してやるから。」
予選リーグでは“天敵”アユミ・シバタを潰した。
今日はヒトミ・ヨシザワ、あんたを潰してやる。
それであたしは心置きなくマツシマを倒す事が出来る。
- 540 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:06
- 「それはこっちのセリフ。今日、あんたを倒す。
そしてマツシマも倒してあたしが世界一の“ファンタジスタ”になる。」
目指すはただ、世界の頂点。
日本のファンタジスタから世界のファンタジスタへ。
そのためにはここであんたを倒す。
両国が誇るファンタジスタ、“悪魔”が試合前から激しく火花を散らす。
- 541 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:07
- <日本代表スターティングイレブン>
GK 1 飯田圭織
DF 3 中澤裕子 安倍 松浦
6 保田 圭
15 小川麻琴 吉澤
MF 10 吉澤ひとみ 石川 市井
11 市井紗耶香
14 石川梨華 新垣 福田
18 福田明日香
21 新垣里沙 保田 中澤 小川
FW 9 安倍なつみ
13 松浦亜弥 飯田
- 542 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:11
- ピィー!!!!
午後1時9分、試合開始のホイッスルが高らかと鳴った。
世界一を決める死闘が今、始まった。
- 543 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:11
- ブラジルボールで始まったこの試合、いきなりブラジルが先制攻撃をしかける。
センターサークルでヒカルドからボールを受けたコヤナギーニョ、
いきなり左サイドに大きな展開、ジュディマリ・ユッキーを走らせる。
しかしこれを冷静に対処した小川。
ヘッドでタッチラインにクリアした。
ボールボーイからすぐにボールを受け取ったジュディマリ・ユッキー、
大きく助走を取ってロングスローを日本ゴール前に上げた。
このボールに飛び込むのはヒカルド。
中澤も身体を寄せる。
これは中澤がヘッドでクリアした。
が、そのこぼれ球にいち早く反応したのがアユウド。
走り込んで来た勢いそのままに左足でとらえた。
低く速いシュートがゴール右隅を襲う。
これは何とか飯田が弾いた。
- 544 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:12
- ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
ブラジルのいきなりの攻撃にスタジアムが大きく揺れる。
「さすが、やってくれるね。」
ひとみが呟く。
しかし言葉とは裏腹に表情は嬉しそうだ。
最高の試合をするためには相手も最高のプレーをしてもらわねばならない。
ブラジル五輪代表、日本五輪代表の最後を飾るに相応しい相手だ。
「てやっ!!!」
コヤナギーニョのコーナーキックをひとみがジャンプ一番、
ヘッドでクリアした。
「さあこっちも負けてられないよ!!!」
ひとみの気合いは十二分だ。
- 545 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:13
- 10分が過ぎた。
両チームとも一進一退の攻防を繰り広げている。
予選リーグではやや穴であったブラジルのダブルボランチ、
センターバックも大会を通じて成長を遂げていた。
U−23とはいえ、セレソンに選ばれるぐらいだ。
これは当然のことである。
対する日本も成長の度合いでは負けてはいない。
ここまでの激戦が一人一人の血となり肉となっている。
「紗耶香!!!」
福田から右サイドを走る市井に鋭いパスが出た。
「ナイス明日香!!」
上手くブラジル左サイドバックジュディマリ・ユッキーが
上がった背後を突いた市井、ニアサイドに速いクロスを送る。
このボールに飛び込むのは松浦。
一瞬のスピードでブラジルDFを振り切り、頭で合わせた。
が、惜しくもゴールポストの脇を逸れていった。
- 546 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:13
- 「あー、もうっ!!」
思わず顔をしかめる松浦。
「オッケーオッケー!!ナイスだ松浦!!」
市井がパンパンと手を叩く。
その表情には笑みが浮かんでいる。
「・・・・・市井ちゃん、今日調子いいみたい。」
ベンチで後藤が市井の表情を見て呟いた。
後藤の推測通り、今日は市井の身体のキレは最高だった。
『見てろよブラジル。今日のあたしはちょっと違うよ?』
- 547 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:14
- ジュディマリ・ユッキーから右サイドに大きなサイドチェンジのパスが出た。
これを前線で受けたのがコヤナギーニョ。
今大会最高にブレイクした選手は間違いなく彼女であろう。
彼女の存在なくしてブラジルは決勝には勝ち進めなかった。
このコヤナギーニョだが、今大会後にはスペインの名門FCバルセロナに
移籍が決まっている。
昨シーズン宿敵レアル・マドリードに後塵を喫したバルサにとって、
今シーズンは必ず巻き返さなければならない。
そのためにこのブラジルの生んだ天才を獲得した。
- 548 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:15
- この移籍によって一番影響を受けるのが松浦亜弥だ。
松浦のポジションは4−2−3−1の1トップか、3の中央を務める。
だが、トップにはタマキル・ナミオラが。
トップ下にはコイズミートが控える。
松浦はどちらのポジションもこなせるが、この2人の控えという立場だ。
ここにコヤナギーニョが加わる。
彼女のベストポジションはトップ下。
バルセロナ監督はコヤナギーニョをトップ下に置き、
トップをナミオラかコイズミートに任せるつもりだ。
また、コヤナギーニョが出場できない時はコイズミートがトップ下を務める。
これはつまり、松浦は控えの控えになるということだ。
だからこそ松浦にとってこの試合でバルセロナフロントに
自分の力をアピールする必要がある。
- 549 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:17
- そのコヤナギーニョと保田の1対1。
じりじりと距離を詰めてくるコヤナギーニョ。
保田は腰を落とし、構える。
『・・・・・なんて懐が深いの?』
向かい合う保田とコヤナギーニョの実際の距離は
保田が足を伸ばせばすぐにボールに触れる距離だ。
が、保田にははるか遠くにあるように感じていた。
「来たっ!!」
左足で一度またいですぐさま爆発的なダッシュで右から抜け出る。
保田もこれに反応し身体をぶつける。
しかしコヤナギーニョはかまわず突き進む。
コヤナギーニョがクロスを送ろうと右足を振る。
『それはフェイクでしょっ!!』
保田の読み通りそれはフェイクであった。
鋭く切り返して左足でクロスを送るコヤナギーニョだが、
保田が必死に伸ばした足に当たり、ボールはゴールラインを割った。
- 550 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:18
- 「ナイスだよ圭ちゃん!!!」
左足の負傷のため、今日の試合に出場できない石黒がベンチで手を叩く。
予選リーグでは嫌というほどコヤナギーニョに翻弄された石黒。
しかし石黒もただ黙ってやられたわけではない。
何度も対戦しているうちにコヤナギーニョの癖を見抜いていたのだ。
『やっぱりね。あやっぺの言うとおりだった。』
保田がベンチにいる石黒に向かってウインクした。
コヤナギーニョは天才だ。
しかし天才故に自分の力を過信しすぎる所がある。
今のプレーでも右足で上げれない事はなかったが、
敢えて切り返して左足で上げようとした。
自分の技術を見せつけ、より派手に、華麗に見せるために。
しかし一方でコヤナギーニョの動きも際立っているのは確かだ。
今のプレーも読んでいるにも関わらずギリギリで止められたのだ。
『・・・・・・さすがにブラジルの天才。動きのキレはすごい。』
保田はパシッと頬を叩き、気合いを入れなおした。
- 551 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:19
- ブラジルの右コーナーキック。
コーナーフラッグにゆっくりと向かうのはアユウド。
このチャンスにブラジルは両センターバックも上がってきた。
日本の守備は組織がきっちり出来ている。
だからこそこういったセットプレーで崩す。
日本もそれを考慮してひとみと市井もゴール前に戻ってきた。
「よっさん、4!!紗耶香、5!!」
中澤がひとみと市井にブラジルの両センターバックに付くように指示を出す。
石黒がいない分、空中戦はこの2人の動きが重要となる。
中澤はヒカルド、保田はコヤナギーニョについている。
- 552 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:20
- スッとアユウドの手が上がった。
その瞬間ペナルティエリア内を激しく動き回るブラジルイレブン。
アユウドの黄金の左足が火を吹いた。
速いボールがファーサイドに。
GK飯田が飛び出せない位置だ。
「任せて!!!」
このボールに飛び込むブラジルのセンターバックとひとみ。
これは上手く身体を入れたひとみが競り勝ち、ペナルティエリアの外にクリアした。
が、このクリアしたボールに走り込むのは悪魔の左足を持つこの人。
ジュディマリ・ユッキー。
「もらったよ!!」
走り込んで来た勢いを全てその最凶の左足に乗せた。
- 553 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:21
- カンッ!!!!!!
ジュディマリ・ユッキーの放ったシュートはゴールポストに当たり、
ゴール前にいたヒカルドの膝に当たってゴールラインを割った。
「なっ?!!」
思わず絶句するジュディマリ・ユッキー。
目にも留まらぬとはまさにこのこと。
ほとんどの選手が反応できないほどの弾丸シュート。
しかしこのボールに反応し、僅かにコースを変えた飯田圭織。
「あのシュートに触れるなんて・・・・」
ヒカルドも思わず感嘆の呟きをもらす。
『危なかった・・・・』
ホッと胸を撫で下ろす飯田。
今のシュートは何とか触れたが、
次は止められるかどうか分からない。
悪魔の左足を持つジュディマリ・ユッキー。
まさに世界最“凶”だ。
- 554 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:22
- 日本の攻撃は主に右サイド。
市井がジュディマリ・ユッキーの上がった裏を突く。
逆に左サイドの石川はあまり上がらず、
保田とともにコヤナギーニョのマークについている。
またも福田から右サイドを走る市井にスルーパスが出た。
このボールを受けた市井、GKとDFの間に鋭いクロスを上げた。
「ナイス紗耶香!!」
そのボールに飛び込むのは安倍。
ファーサイドから急激にニアサイドに切れ込んでくる。
がブラジルDFも必死に身体を寄せる。
主審には見えないこの位置、安倍のユニフォームを掴む。
『負けないべ!!』
しかし安倍は体勢を崩しながらも左足アウトサイドでボールをとらえた。
- 555 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:24
- カンッ!!!
が、このシュートは惜しくもゴールポストに当たった。
そのこぼれ球はブラジルがタッチラインにクリアした。
『さすがブラジル。これがマリーシアだべか・・・・・』
安倍はマークについてきたブラジルDFの、
若いながらも巧妙なディフェンスに舌を巻く。
が、一方、ブラジルのDFは安倍のシュートテクニックに心底震えていた。
あれだけ体勢を崩しながら左足の、しかもアウトサイドで的確にクロスをとらえたのだ。
あれは恐らくヒカルドでも出来ないほどのプレーだった。
ブラジルDFの背中に冷たい汗が流れ出た。
日本、ブラジルともに未だ得点ならず。
- 556 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:24
- 前半も20分が過ぎるが、どちらも互角の攻防を続けている。
ブラジルがその類まれな個人技でチャンスを生み出せば、
日本はその組織力で盛り返す。
両チームの気迫のこもった戦いにスタジアムの熱気も最高潮だ。
「福田さん!!!」
ひとみが最前線に上がり、ディフェンスラインの裏を狙う。
そこに寸分の狂いも無く福田からグラウンダーでスルーパスが出た。
セリエAのホットライン。
オフサイドギリギリで抜け出したひとみ。
ブラジルGKも迷い無く飛び出した。
両者が激しく激突した。
- 557 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:26
- 「うわあっ!!!」
もんどりうって倒れるひとみとブラジルGK。
「吉澤さん!!!」
「よっちゃん!!」
松浦と安倍が駆け寄る。
「ぐっ・・・・」
右足首を押さえ、顔をしかめたままうずくまるひとみ。
主審はすぐにピッチから出るように指示した。
間髪いれずタンカが運ばれてくる。
ひとみはタンカに乗ってピッチの外に運ばれた。
「吉澤大丈夫か?!!」
「・・・・大丈夫っす。すぐ戻ります。」
すぐにハタケが駆けつけ、右足首を診る。
「田中!!」
ベンチではツンクが田中にアップの指示を出した。
田中はすぐさまベンチを飛び出し裏でアップを始める。
「大丈夫、打撲ってとこやわ。」
ハタケはそう言いながらコールドスプレーを吹き付ける。
そしてベンチのツンクに向かって両手で大きなマルをつくった。
「そうか、大丈夫か。」
ツンクはホッと胸を撫で下ろす。
ここでひとみが抜けると日本にとってあまりに痛すぎる。
取りあえずは最悪の状況は免れそうだ。
- 558 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:27
- その間に試合は再開されていた。
日本は松浦が一列下がりトップ下に。
ブラジルはここがチャンスとばかりに攻め込む。
ボランチからアユウドにボールが渡った。
すぐさま新垣がチェックに行く。
が、アユウド、新垣を鋭い突破でかわす。
すぐさま福田が距離を詰める。
が、アユウドの左足が見る者には美しいパスを、
日本にとっては残酷なパスを放つのを止める事は出来なかった。
- 559 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:29
- 福田の足元を抜け、中澤と小川の間を鋭く転がっていくサッカーボール。
そのパスを出した瞬間、アユウドの口元に笑みが浮かんだ。
彼女には見えたのだ。
この次の瞬間が。
一瞬のダッシュでDFラインの裏を取ったヒカルド。
彼女のスピードでなければアユウドの悪魔のパスは追いつけない。
悪魔のパスを見事にトラップしたヒカルド、
GK飯田の鋭い飛び出しをあざ笑うかのようにキックフェイントでかわし、
無人のゴールに流し込んだ。
前半22分。
ブラジル先制。
- 560 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:30
- 「・・・・すごい・・・・・」
思わず呟くひとみ。
ファンタジスタとして、今のアユウドのパスには敵味方関係なく感動させられた。
ブラジルの“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。
彼女の描いたファンタジーはブラジルを初の金メダルへと一歩近付けさせた。
今のパス、ひとみにも白い道が見えた。
それがひとみがファンタジスタである証拠なのだが、
もう1人このパスコースが見えた選手がいた。
『今のパス・・・・あたしにも見えた・・・・・?』
- 561 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:31
- 「ドンマイドンマイ!!まだまだ時間はたっぷりあるで!!
落ち着いてまずは1点返すで!!」
中澤が手を叩いてチームメートを鼓舞する。
そこへ治療を終えたひとみがピッチに戻ってきた。
「すみません。すぐに取り返しましょう。」
「吉澤の言うとおり。すぐに取り返すよ!!」
保田もゲキを飛ばす。
まだまだ時間はたっぷりある。
それに何てったって逆転勝利の方がカッコいい。
若き日本代表は新たに闘志を燃やす。
- 562 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:33
- ピィー!!!
主審の笛が鳴り、試合が再開された。
安倍から松浦、松浦からひとみにボールが渡る。
松浦からのボールを右足でトラップする。
気にするほどの痛みではない。
『よし、いける!!』
ひとみはすぐさま左サイドの石川にボールを預けた。
ボールを受けた石川、前をルックアップ。
安倍や松浦、逆サイドの市井にはしっかりとマークが。
「石川さん。」
新垣がフォローに来た。
石川は焦らず新垣にボールを渡す。
すぐさま新垣にアユウドが当たる。
が、新垣もすぐに福田に預ける。
中盤で素早いパス回し。
日本の武器だ。
- 563 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:34
- 「行くよ!!」
福田がボールを大きく前に押し出し、ドリブルを開始した。
「明日香!!」
市井が右サイドから中に切れ込んでいく。
ジュディマリ・ユッキーもそれに付いていったため、スペースが生まれる。
コヤナギーニョを石川と保田で見ているように、
ブラジルもこの市井紗耶香を2人がかりで抑えようとしていた。
ブラジル監督、テレ・キダターロが恐れているのはひとみと市井だ。
そしてベンチに控えている後藤。
この3人を心底恐れている。
それはこの3人には個人で勝負を決められる力があるからだ。
ひとみにはそのフィジカルと“ファンタジスタ”が。
市井と後藤には抜群のテクニックとスピードがある。
チームが上手く機能していなくても、彼女たちならば個人で勝負を決めてしまえる。
それが指揮官としては一番恐ろしい選手だ。
だからこそひとみと市井に厳しいマークをつける。
- 564 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:36
- しかしそれがアダとなる。
余りに市井を気にしすぎたせいでスペースが空いた。
もちろん福田がこれを見逃すはずはない。
福田がそのスペースにパスを出した。
そこに走り込むのは松浦亜弥。
日本bPの万能FW。
ゴールだけでなくチャンスメイクも高いレベルだ。
「来い、あやや!!」
「松浦!!」
ペナルティエリア内にはひとみと安倍が詰めている。
右サイドから松浦のクロス。
クロスはファーサイドの安倍に。
このボールに飛び込む安倍だがブラジルDFが身体を寄せ、これを弾き返した。
こぼれ球を拾ったのは遅れて左サイドを上がってきた石川。
- 565 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 11:39
- 「ひとみちゃん!!」
石川はすぐさまひとみにクロスを送る。
ギュンッと大きな弧を描き、クロスはひとみの頭に。
が、ブラジルDFも必死に身体を寄せているため、
そのままシュートにいくにはちょっと厳しい。
「吉澤!!」
その声にひとみは反応。
頭でボールを落とす。
そこへ走り込むのは市井紗耶香。
ショートバウンドしたボールを身体を傾け、
かぶせるようにしてダイレクトで、ペナルティエリアやや外、
中央から思いっきり右足を振り抜いた。
- 566 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:05
- が、強烈なシュートはGK真正面。
ブラジルGKがガッチリとキャッチした。
「あー!!しまった!!」
思わず顔をしかめる市井。
ショートバウンドに合わせることを意識しすぎたせいか、
コースを狙うまではいかなかった。
「んあー、惜しいね市井ちゃん!!」
ベンチで後藤も顔をしかめる。
が、今のシュート、難しいショートバウンドを上手く合わせ、
ボールをふかさず強烈なシュートを放った市井のテクニックはさすがといったところだ。
今のプレーに顔を青くするのはテレ・キダターロ。
ジュディマリ・ユッキーを振り切り、
なおかつ難しい体勢ながらあれほど見事なシュートを放ったのだ。
たまらずテクニカルエリアに飛び出し、指示を送る。
「イチイを絶対にフリーにするな!!」
- 567 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:06
- 自陣左サイドでボールを受けた石川、一気に前線にロングパス。
この長いボールはピタリと松浦の足元に。
石川を今日の試合、スタメンにしたのはこれが理由だ。
彼女の魔法の左足はどんな位置からでもチャンスを創り出す。
今のように自陣深くからでも一気に前線にボールを送れるのだ。
そしてセットプレーでは無敵の“魔法の左足”がある。
チャンスが限られてくる強豪相手では彼女の左足は絶対の武器になる。
ブラジルDFを背負ったままこれをトラップした松浦、
鋭く反転して左足でシュートを放つ。
上手くゴール隅へとコントロールされたシュート。
さすが両足で完璧に蹴れる松浦だ。
が、これはわずか数センチの差でゴールの枠を外れていった。
しかし、松浦の積極的なプレーだ。
『絶対に負けないから!!』
松浦の闘志も燃え滾っている。
- 568 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:07
- 「コヤナギーニョ!!」
ブラジル右サイドバックキャプテンのユーミンが
石川と保田に囲まれているコヤナギーニョの後ろから猛然とオーバーラップしてきた。
『ナイスユーミン!!』
ユーミンの上がりを利用してコヤナギーニョはパスを出さず中に切れ込もうとした。
が、このプレーを保田は読んでいた。
「なっ?!」
保田がスライディングでコヤナギーニョを止める。
「梨華ちゃん!!」
このこぼれ球を拾った石川をひとみが呼ぶ。
石川はすかさずユーミンの上がって出来たスペースにパスを出す。
そこにはトップ下の位置からひとみが流れていた。
慌ててブラジルのボランチもカバーに入る。
これを察知したひとみ、石川からのパスをダイレクトヒールで中に送る。
- 569 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:08
- 「ナイスよっすぃー!!」
そこに走りこんでいるのはボランチの福田。
日本、いい形だ。
前方には安倍と松浦、右サイドからは市井が中に切れ込もうとしている。
ブラジルはボランチとセンターバック2人、そしてジュディマリ・ユッキー。
福田は瞬時に判断する。
『なっちも松浦も、紗耶香にもきっちりマークが付いてる。ならば!!』
福田が選んだのはシュート。
約25mの距離からミドルで狙った。
このシュートは激しくポストを叩く。
- 570 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:08
- そのこぼれ球にいち早く反応したのは安倍。
右足を精一杯伸ばし、つま先でプッシュする。
GKの足元を抜け、ゴールネットに転がっていった。
「よしっ!!!」
安倍がそれを見届け、グッと拳を握り締める。
「なっち!!!」
「安倍さん!!!」
市井と松浦が安倍に駆け寄る。
しかし主審は手を上げている。
ゴールではなく、オフサイドだった。
「なっ?!!」
「今のは違いますよ!!!」
安倍が絶句し、松浦が両手を広げてアピールする。
しかし判定は覆らない。
日本、惜しくも同点ならず。
- 571 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:11
- 「・・・・・こいつ・・・」
コヤナギーニョが鋭い目で保田を睨む。
ここまで完全に保田に抑えられている。
それは天才にとって、ブラジルの次代のエースとして許し難いことである。
「コヤナギーニョ、いいかげんにしろ。」
その時、ブラジルの10番がコヤナギーニョの肩をギュッと握った。
「うっ」
余りの激痛に思わず膝をつく。
「何する・・・?!!!」
しかしそれ以上言葉は出なかった。
いや出せなかった。
「次勝手なプレーやったら、わかってるね。」
その言葉に顔面蒼白でコクコク頷く。
“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。
久しぶりに見た彼女の怒りの表情にコヤナギーニョは心底震えた。
『・・・・アユの奴、今日はマジだな。』
ユーミンがその様子を見て苦笑いを浮かべる。
彼女は強敵と認めた相手と対戦すると、鬼のような形相となる。
そんな時は決まってその試合はアユウドのベストバウトになる。
『それだけあのヒトミ・ヨシザワを叩き潰したいってとこか。』
ユーミンが日本の10番に視線を送る。
自分が面倒を見ていたお姫さま(ユッキエ)にアユウド。
この2人を熱くさせる存在。
ヒトミ・ヨシザワ。
- 572 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:12
- またもブラジルの攻撃。
アユウドから右サイドのコヤナギーニョにパスが出る。
すぐさま保田がチェックに行くが、コヤナギーニョはダイレクトでこれを落とす。
そのボールを走り込んで来たユーミンが中にアーリークロスを送る。
このクロスをヒカルドが小川と競り合いながらも頭で合わせたが、
シュートはクロスバーを越えていった。
「よしよし、それでいい。」
アユウドがパンパンと手を叩く。
その声を聞いてホッと胸を撫で下ろすコヤナギーニョ。
逆に顔をしかめるのは保田。
このようなシンプルなプレーをされるとあれだけのテクニックを持ち、
天才とうたわれるコヤナギーニョだ。
止めるのはかなり困難となる。
ブラジル、エースの威圧感がチームに浸透し、ひとつにまとまりつつあった。
- 573 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:12
- 前半30分ごろには勢いはブラジルの方に。
コヤナギーニョがシンプルなプレーをするようになり、
ボールがテンポよくまわるようになったのだ。
わずかな隙間であろうと軽やかにワンタッチ、ツータッチでまわしていくブラジル。
日本は松浦までもが中盤の守備に参加せざるを得ない。
しかしブラジルも得点をするに至らない。
それは日本の中盤とDFに類まれな統率者がいるからだ。
「紗耶香、そこで抑えて!!里沙ちゃん、カバー!!!
梨華ちゃん、11目離すな!!」
王者ユヴェントスの心臓、福田明日香。
「小川、当たれ!!圭坊、中絞れ!!」
日本サッカー界のキャプテン、中澤裕子。
この2人のコーチングがブラジルの攻撃を跳ね返していた。
- 574 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:13
- 2人の指示は的確であり、決してかぶることはない。
2方向から指示が出ているにも関わらず日本の組織は完璧であった。
しかしこの完璧な組織であっても打ち破られる時は打ち破られる。
―――――卓越した個人技によって――――――
- 575 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:13
- ブラジルの9番がいつの間にか中盤の底まで下がってきた。
それに気付いたのは松浦とベンチにいた後藤。
スペインリーガーの2人だ。
「駄目!!!速くチェック行って!!!!」
後藤が叫ぶ。
「くっ!!!」
松浦がすぐに追いかけるが間に合わなかった。
「アユウド!!」
ヒカルドはアユウドからパスを受け、
1歩、2歩、3歩・・・・・目でトップスピードに入った。
ひとみがすかさず飛び込むものの触れることが出来ない。
福田は何とか体を寄せたがそのスピードから生じるパワーに弾き飛ばされる。
小川の捨て身のタックルも届かない。
- 576 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:14
- 「何や?!!!」
中澤がコースに入り、身体で止めようとする。
が、ヒカルド、一度右足でボールをまたいで中澤のバランスを崩す。
そしてすぐに左から中澤を振り切る。
これらは全てトップスピードのまま。
一瞬たりともスピードが落ちない。
「来るっ?!!」
GK飯田がそう認識した時にはもうすでにシュートは放たれていた。
「くわっ!!」
飯田が懸命に手を伸ばすものの、
ボールは指先に少し触れただけでサイドネットに転がっていった。
前半39分。
ブラジル待望の追加点。
- 577 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:15
- ウワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
スタジアムがいまだかつて無いほどに揺れた。
その歓声を一斉に浴びるのはフェノーメノ(怪物)ヒカルド。
まさにフェノーメノと呼ぶに相応しいドリブルに日本イレブンは呆然となる。
「・・・・・・やっぱりヒカルドは復活してたんだ・・・・・」
後藤が放心状態で呟く。
ヒカルドがフェノーメノと呼ばれる所以は、今見せたドリブルだ。
一度トップスピードに入ってしまえばもう誰も止める事は出来ない。
このスピードにパワー、テクニック。
その全てがフェノーメノだった。
しかし3年前、ヒカルドの膝は悲鳴を上げた。
彼女の能力に身体が付いていかなかったのだ。
踏ん張った瞬間、ブチッと音を立てた右膝。
それ以降、怪我は回復してピッチに立ったが、
あの爆発的なドリブルが復活する事は無かった。
それが今、ここで復活を遂げた。
ブラジル念願のオリンピック金メダルのために。
- 578 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:16
- 前半戦が終了した。
得点は日本0−2ブラジル。
ロッカールームに戻る日本の選手たちの足取りは重い。
残り15分の時点からはほぼ一方的にブラジルに攻め込まれていた。
後半はこの状況を何とか打開しなくてはならない。
ここはツンクたちコーチ陣の見せ場だ。
「ツンク、後半アタマから行くよな?」
「もちろんや。」
タイセーの言葉に深く頷くツンク。
後半アタマから彼女を投入する。
勝利のために。
- 579 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:16
- 「亜弥ちゃん・・・・」
藤本が椅子に座り込んでいる松浦に声をかける。
「あ、美貴たん・・・・」
松浦は弱々しい笑顔を見せる。
十二分に気合いを入れて臨んだこの試合であったが、
ここまで松浦の動きはそれほど芳しくなかった。
ブラジルDFの密着マーク、特にマリーシアに手を焼いている。
彼女はこういったラフプレーに弱かった。
予選リーグ、対ドイツ戦でもマークに付かれたあのDFにほぼ完全に抑えられていた。
「松浦。」
そこにツンクが歩み寄ってきた。
その表情を見て松浦は自分のアテネオリンピックは終わったと悟った。
- 580 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:17
- その選手はピッチで身体を温めていた。
もう体調は回復している。
残り45分。
日本の勝利のため死に物狂いで戦う。
とその時ピッチに選手たちが戻ってきた。
「お待たせよしこ。」
「・・・・待ちくたびれたよ。」
ニッとお互い笑い、ハイタッチをかわす。
- 581 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:17
- ハーフタイムを終えて日本の選手がピッチに出る。
遅れてブラジルもピッチに登場した。
その時、タッチラインに1人の選手が立っているのにブラジルイレブンは気付いた。
「誰だ?」
テレ・キダターロがその選手を確認する。
一気に顔が青ざめた。
- 582 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:18
- 「ゴトウ・・・・だと・・・・・?」
そう呟いた後、日本ベンチを見る。
金髪の男と眼があった。
その男はニヤリと口元を歪めた。
彼、ツンクも予選リーグで屈辱を味わった1人である。
自分の采配ミスで試合に負けたどころか、日本の宝石を潰しかけたのだ。
その屈辱を今日、リベンジする。
そんなツンクの声が聞こえる采配だ。
「ふふふふふふ、中々やるじゃないか。」
テレ・キダターロもニヤリと笑う。
予選リーグの時は余りにも柴田に固執しすぎていた。
確かに今日の松浦のプレーはよくなかった。
しかしそれでもいきなり後半アタマから交代とはしにくい。
それを何のためらいもなく交代させた。
ただ勝利のために。
これだけ明確な目的で交代となれば、逆に選手は納得するものである。
自分の動きが悪い。
よって交代。
単純明快である。
もちろん松浦にとっては悔しい。
しかしそれは自分の力の無さのせいだ。
ツンクを恨む道理はない。
ひとみたち選手が1戦1戦成長したように、
ツンクもまた指揮官として1戦1戦成長したのだ。
その成長を肌で感じ取ったテレ・キダターロはアユウドとコヤナギーニョを呼んだ。
- 583 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:19
- 主審に交代を認められ、ピッチに後藤真希が入った。
そしてすぐさま円陣を組んでいる仲間たちのもとに向かう。
「後藤、無様なプレーしたら承知しねえぞ?」
市井がニッと笑う。
「もちろん。まっつーの分まで最高のプレーを見せるから。」
そう言って後藤は円陣に加わった。
「最後の45分。みんな全力で行こう!!」
「おうっ!!」
飯田の声に力強く頷く。
泣いても笑っても後45分だ。
「がんばっていきまー・・・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!」
後半が、世界一を決める45分が開始された。
- 584 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:19
- 開始して30秒、後藤が左足を振り抜く。
ブラジルGKはこれに何とか触れた。
ボールはクロスバーに当たりゴールラインを割った。
「・・・・・さすがゴトウ・・・・」
チームメートのヒカルドが今のプレーに思わず感嘆の声を漏らす。
日本ボールでキックオフされた後半。
安倍からボールを受けた後藤、一気に単独突破。
ボランチ2人をかわし、ブラジルDFを鋭いフェイントで揺さぶり、
コースを創って小さなモーションで左足を振り抜いた。
恐ろしいまでの動きのキレ。
昨シーズン、世界を震え上がらせたあのマキ・ゴトウだ。
- 585 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:20
- 後藤がピッチに立ち、日本は蘇った。
安倍とは違った存在感。
安倍が味方を鼓舞する存在感ならば、後藤は敵を畏怖させる存在感。
この2人が前線に揃った日本。
しかしブラジルにもこの2人がいる。
アユウドにヒカルド。
悪魔と怪物。
お互い互角。
ならばこの2人を操る者で勝負は決まる。
ブラジル、コヤナギーニョ。
日本、吉澤ひとみ。
- 586 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:21
- コヤナギーニョが切れ味鋭いドリブルでチャンスを創る。
ブラジルはポジションを変更していた。
アユウドをFWに、コヤナギーニョをヒカルドとアユウドの間に。
もう1人のオフェンシブ・ハーフは一列下がりボランチに。
数字で表すと4−3−1−2というシステムだ。
コヤナギーニョのテクニックは前後左右、
360度自由に動けるトップ下こそ最も生きるのである。
テレ・キダターロはコヤナギーニョに全てをかけた。
コヤナギーニョからのスルーパスにヒカルドが右足であわせるが、
これは小川が身を挺して防いだ。
- 587 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:21
- 対する日本、ひとみも負けてはいない。
ブラジルのボランチ3人にプレッシャーを受けてもビクともしない。
3人を背負いつつ右サイドの市井にはたく。
市井はこのボールをダイレクトで前方に。
そのパスに走り込むのは後藤。
利き足でない右で中にクロスを上げる。
このボールに安倍が飛び込むものの、飛び出したGKががっちりと掴んだ。
- 588 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:22
- 左サイドをジュディマリ・ユッキーがオーバーラップ。
これを見逃さずコヤナギーニョが左に振る。
市井も懸命にくらいつく。
がスピードではジュディマリ・ユッキーの方が上だ。
市井を振り切り、シュートのようなクロスをニアに上げる。
「任せて!!!」
このボールに飛びついたのは飯田。
大きな身体がダイナミックに宙を舞い、
フィスティングで前に弾き返す。
- 589 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:22
- 中盤でボールを受けた福田、
チェックに来たコヤナギーニョをかわし左サイドに。
ここに走り込むのは石川。
ずっと下がってばかりでは相手の攻撃を抑えられない。
こちらからも攻めなくてはならない。
対面はユーミン。
予選リーグでは藤本がさんざん手こずった相手だ。
石川はフォローに来たひとみにボールを預け、すぐさま前に。
そこへひとみからダイレクトでリターンが来る。
まさに阿吽の呼吸。
この辺のコンビネーションはさすがだ。
ユーミンを振り切った石川が中にクロス。
しかしこれはブラジルDFが懸命にクリアした。
日本も王国ブラジルに負けてはいない。
- 590 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:23
- またもコヤナギーニョがボールを持つ。
アユウドにお灸をすえられて以来、その類まれなテクニックで日本を翻弄し続ける。
コヤナギーニョ、マークにつく福田をかわした。
「ふん、フクダも大した事ないね。」
福田をあっさりかわし、前線にパス・・・・と思った瞬間、
スッと股の間から足が出てきてボールを弾いた。
「なっ?!!」
「裕ちゃん!!」
足を出した福田明日香が前に走る。
今のは福田の策略。
わざと抜かせて油断した所を後ろからボールを弾いたのだ。
弾かれたボールを拾った中澤、すぐに福田に。
あのイタリアのプリンセス、ナカマチェスコ・ユッキエを心底震え上がらせる。
そんなことが出来るのは世界にただ1人。
この福田明日香だけだ。
舐めてもらっては困る。
- 591 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:23
- 福田はそのまま上がっていく。
この試合、福田が積極的に上がるのが目立つ。
後ろは新垣がきっちり守ってくれている。
その分、自分が攻撃に絡んでブラジルゴールをこじ開ける。
慌ててボランチの1人が福田に当たる。
が、福田はこれを難なくかわす。
そしてすぐに右サイドの市井にボールをはたき、すぐさまリターンをもらう。
そのリターンのもらい際をブラジルのボランチが狙うが、
それを察知していた福田、スルー。
スルーして転がったボールの先にはひとみがいた。
- 592 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:24
- 「よしこ!!」
後藤がブラジルDFを背負いながらパスを要求する。
ひとみはダイレクトで後藤に出す。
後藤、ブラジルDFを背負いつつも一度左に身体を振り、
その後急激に中に切れ込む。
その鋭い動きにブラジルDFも負けじとくらいつく。
「なっ?!!」
そこでブラジルDFは後藤の足元にボールが無いことに気付いた。
「ナイス!!!」
そう叫んでDFラインの裏でボールを受けたのは福田明日香。
福田は市井のリターンをスルーした後、全速力でそのまま駆け上がったのだ。
それに気付いていた後藤、ひとみのパスをスルー。
しかもただスルーするだけでなく、
身体を激しく振ることでブラジルDFの眼を自分に向けさせたのだ。
- 593 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:24
- 「なっち!!!」
福田が中に折り返す。
福田ならばここに出す。
彼女はわかっていた。
誰よりも速くクロスに反応した安倍が華麗に舞った。
後半14分。
安倍なつみのダイビングヘッドがブラジルゴールを揺さぶった。
日本、1点差に追いつく。
- 594 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:25
- 「なっち!!!」
「福ちゃん!!!」
安倍と福田が抱き合う。
「なっつあん、明日香さん!!」
そこに後藤が覆いかぶさる。
「よっしゃっ!!!!」
ベンチでもツンクがグッと両拳を握り締める。
「・・・・・さすが福田さんに後藤さん・・・・・・」
ベンチでそう呟くのは松浦亜弥。
今のプレーはまさにワールドクラスだった。
あれだけ完璧な動きをされてはどうしようもない。
こんなプレーをやってのける後藤に松浦は決定的な差を感じていた。
しかしそれと同時に内面から嬉しさが湧き上がってくる。
『目標は大きければ大きいほどいい。』
「福田さん、後藤さん!!ナイスプレー!!」
スッと松浦はベンチから立ち上がり、叫んだ。
その声に後藤はニッと笑った。
- 595 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:26
- 「ドンマイコヤナギーニョ。
相手はあのアスカ・フクダだ。気にするな。」
アユウドがコヤナギーニョの肩をポンと叩く。
福田明日香。
あのナカマチェスコ・ユッキエを震え上がらせ、
ナナコーヌ・マツシマに一番敵にしたくないと言わしめた選手。
「今のは仕方がない。気持ちを切り替えるよ!!」
キャプテンユーミンが周りを鼓舞する。
「そうそう!!気合い入れていくよ!!」
ジュディマリ・ユッキーもパンと手を叩く。
まだこちらが1点勝っている。
まだまだ焦る必要はない。
- 596 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:26
- 2点差から1点差に追いついた日本、ムードは最高潮に。
しかしそんな時こそ危ない時である。
ブラジルは狙っていた。
中盤で新垣がボールを持つ。
が、ブラジルDF陣もきっちりと守っており前線にパスコースがない。
「福田さん。」
新垣は無理をせず、福田にボールを渡した。
が、ブラジルはこれを狙っていた。
ハーフタイム、ブラジル監督テレ・キダターロは1つの指示を送っていた。
『21番、リサ・ニイガキは前が詰まっていると必ずフクダに預ける。
だからそれを狙え!!』と。
新垣にとって福田は憧れの存在。
それ故に無意識のうちに頼ってしまうのだ。
- 597 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:27
- 「あっ?!!」
このパスを完全に読んでいたコヤナギーニョがボールを奪った。
センターサークル付近でボールを奪われた日本。
ブラジル、絶好のカウンターチャンス。
「ヒカルド!!!」
コヤナギーニョの右足がうなる。
その瞬間スペースへ飛び出すヒカルド。
「やばい!!!」
慌てて戻る日本DF陣。
「でえいっ!!!」
全力で戻った小川がコヤナギーニョのパスに飛びつく。
小川の身体が宙を舞う。
つま先を目一杯伸ばし、このパスを何とか叩き落とした。
さすが“オスティナート”。
最高の粘り強さだ。
- 598 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:27
- 「ナイスまこっちゃん!!!」
ベンチで紺野が歓声を上げた。
が、次の瞬間黄色い弾丸がそのボールを拾った。
ジュディマリ・ユッキーだ。
ボールを拾いそのまま駆け上がる。
突き進むジュディマリ・ユッキー、必死に追いかける日本。
ペナルティエリア手前まで来た。
「もらったよ!!」
ジュディマリ・ユッキーがその世界最“凶”の左足を振り抜いた。
「くうっ!!」
ここで失点しては負けだ。
飛び出してコースを狭めた飯田が懸命に手を伸ばす。
『飯田さん!!!!』
亀井が祈る。
- 599 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:28
- チッ!!
指先に微かに触れた。
ゴオオオオン!!!!
弾丸シュートは激しくクロスバーを叩き、大きく跳ね返った。
「よしっ!!!」
願いが通じた亀井が声を上げる。
あまりに強烈なシュートのため、
跳ね返ったボールはペナルティエリアを大きく越えた。
そのボールを拾ったのはコヤナギーニョ。
次の瞬間、コヤナギーニョの右足が一閃した。
- 600 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:28
- 「あっ!!」
誰もがそう叫んだ。
飯田が懸命に戻る。
そして全身の力を振り絞って飛ぶ。
チッ!!!
またも指先に触れた。
が、今度はそれだけだった。
指先をかすめたボールはそのままゴールネットに飛び込んでいった。
コヤナギーニョ、渾身の約35mのロングシュート。
後半21分。
ブラジル、日本を突き放すゴールを決める。
- 601 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:29
- 「ぐっ・・・・・」
さすがにツンクの顔に苦渋の色が見て取れる。
新垣のそのディフェンス力、スタミナには期待していた。
しかしこの場面、大事な大事なこの場面で失点。
「新垣はまだ若すぎたか・・・・・・?」
ツンクは自分の判断を悔いた。
が、今さらそんなことを言っても始まらない。
ツンクに出来る事は選手を信じることのみだ。
ツンクはテクニカルエリアに出た。
「まだや!!!まだ時間はある!!!顔を上げろ!!!」
その声に顔を上げる選手たち。
「そうや、ツンクさんの言うとおりや。
まだ時間はある!!絶対に諦めんな!!!」
「おうっ!!!」
中澤のゲキにみな声を張り上げる。
- 602 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:30
- 「里沙ちゃん、まだ取り返すチャンスはあるから。」
福田が新垣の肩に腕を回す。
新垣は深く頷く。
「時間がもったいない!!早く!!」
保田ゴールネットに転がったボールを前に返す。
「行くよ!!」
安倍がそれを受け取り、すぐにセンターサークルにボールを置く。
「みんな、いつでも行けるように準備しとけ。」
まことがベンチに座る選手たちに声をかける。
選手たちも声をかけられる前にもうすでにベンチを立っている。
まだ24分はある。
サッカーは15秒あれば1点取れる。
- 603 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:30
- ツンクはすぐさま交代選手のシュミレーションに入る。
現代サッカーにおいて、スタメンの11人だけで試合を終えることなど到底不可能である。
許された交代枠3つをフルに活用してゲームプランニングをしなければならない。
それは特に優秀な選手が揃うビッグクラブや、代表チームでは必要不可欠である。
『残り24分。点差は2点。そして決勝という舞台。
1点差であろうと5点差であろうと負けは負けや。
・・・・・ここは残り15分までガマンや。
残り15分になったら突破力のある加護、守備も攻撃も力強い辻を投入や。』
ツンクの考えがまとまった。
残り15分になれば、後はちびっ子コンビに任せる。
ツンクはスッと視線をベンチ裏にやった。
みな一心不乱にアップをしている。
その姿に頼もしさを覚える。
- 604 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:31
- 日本ボールでキックオフ。
安倍から後藤、後藤から新垣にボールが渡る。
ブラジルはさらに追加点をあげ、
止めをさそうと一斉に新垣にプレッシャーをかける。
が新垣もそれを察知し、素早く右サイドの市井にパスを送る。
『絶対に取り返してみせる。』
新垣は燃えていた。
- 605 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:31
- パスを受けた市井の前に1人のブラジルDFが立ちはだかる。
世界最高の左サイドバック、ジュディマリ・ユッキー。
『・・・ホントだったら勝負したいとこだけどね。』
市井は勝負を挑まず、ひとみにはたき前に走る。
そこへ間髪入れずリターンが来る。
しかしジュディマリ・ユッキーも俊足を飛ばして戻り、
再び市井の前にまわりこむ。
「あー、もうしつこい!!」
「勝負だイチイ!!」
ジュディマリ・ユッキーが挑発してくる。
その挑発に乗るほど市井は未熟ではない。
何より今日は身体もアタマも切れている。
- 606 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:32
- 「後藤!!」
市井は前に張る後藤にパスを出した。
そして自分は中央に切れ込んでいく。
ジュディマリ・ユッキーもそれに負けじと付いていく。
右サイドにぽっかりとスペースが空いた。
「後藤さん!!」
そのスペースに、後方からスピードに乗って上がってきたのは右センターバックの小川麻琴。
市井はこの小川の上がりを分かっていたからこそ中に切れ込み、
スペースを創ったのだ。
しかし特筆すべきは小川のタイミングの良い上がりだ。
ここぞという時に的確なオーバーラップを見せる。
- 607 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:33
- 「頼むよ小川!!」
後藤がスペースにボールを出し、自分はゴール前に顔を出す。
「来い、小川!!」
ペナルティエリアには安倍、後藤、ひとみ、市井の4人が入り込んでおり、
その外には福田と石川がこぼれ球に備えている。
小川が後藤から出されたパスを、ダイレクトで中に上げた。
このボールに日本選手たちは飛び込むがブラジルディフェンスも踏ん張り、
これをクリアした。
「明日香!!」
このこぼれ球に反応したのは福田。
跳ね返ってきたボールをダイレクトで狙った。
強烈なシュートにGKは反応できなかったが、
ブラジルキャプテンユーミンがこれを身体でブロックした。
ボールは大きく跳ね返り、タッチラインを割った。
- 608 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:33
- 「ちっ!!」
福田が顔をしかめる。
今のシュートは完全にコースをとらえていた。
さすがはブラジル代表キャプテンユーミン。
残り時間は15分をきった。
日本は次第に焦りも生じてくる。
攻撃が前へ前へと単調になってくる。
これも無理はない。
ビッグタイトルがかかったこの試合、焦らない方がおかしい。
特に日本のようなこれまでビッグタイトルとは縁の無かった国にとっては。
その点王国ブラジルはこういったときの戦い方を熟知している。
攻撃でも守備でも上手く時間を稼いでいる。
右サイドに開いたひとみから後藤にスルーパス。
受けた後藤が放ったシュートはブラジルDFに当たり、
ゴールラインを割っていった。
- 609 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:34
- 右サイドのコーナーキック。
セットプレーは彼女しかいない。
“魔法の左足”石川梨華。
ゴール前に日本選手が詰める。
「加護、辻!!このプレーが切れたら行くで!!」
ツンクが2人に指示を送る。
「はいっ!!」
「はいっ!!」
ちびっ子コンビが同時に返事をする。
世界一への道はこの2人に任せた。
- 610 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:34
- 石川がボールをセットする。
ブラジルDF陣は固い。
今まで守備はどちらかというとおろそかだったが、
近頃は欧州で活躍する選手が多いため、
ディフェンスもきっちりと組織が出来ている。
このまま単に上げても弾かれるのがオチだ。
石川は決心した。
『お願い、ひとみちゃん!!』
軽い助走から石川の“魔法の左足”が振りぬかれた。
ライナー性のボールがゴール前中央、GKがギリギリ飛び出せない位置へ。
絶妙のコースだ。
- 611 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:35
- が、そのボールが突然揺れて落ちた。
「なっ?!!」
日本選手もブラジル選手も、両チーム陣営も、
そしてスタジアムに駆けつけたサポーターも一斉に叫んだ。
奇跡のFK“アゴンボール”だ。
それをコーナーキックで放った石川梨華。
- 612 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:35
- 『やってくれるじゃん梨華ちゃん!!』
そのボールに飛び込んだのはひとみ。
手を使うGKですら触れない“アゴンボール”。
それを味方に合わせるコーナーキックで放つとは。
でも、梨華ちゃんならば絶対にあたしに合わせてくれる。
“魔法の左足”ならば“落ちる角度”と“揺れ”すらコントロールしてくれる。
ひとみはそう確信し、ボールに飛び込んだ。
予想通り“アゴンボール”はひとみの頭にピタリと合った。
『よしっ!!!』
アタマに当てた瞬間、ゴールの枠に飛んだことを確信したひとみ。
あとは決まるのみだ。
が、このヘディングをなんとブラジルGKが手に当てた。
- 613 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:36
- 「!!」
このこぼれ球にいち早く反応したのは安倍。
抜群の嗅覚でこのボールを押し込む。
が、カバーに入っていたアユウドがこれを止める。
ボールがゴール前にフワッと浮いた。
このボールを同じくゴール前にいたコヤナギーニョが、
外に大きく蹴りだそうと右足を思いっきり振った。
- 614 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:36
-
彼女の足に嫌な感触が走った。
- 615 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:37
- バタッと倒れる1人の選手。
そしてゴールネットに優しく包まれるボール。
一瞬何が起きたのか誰も分からなかった。
「里沙ちゃん!!!!!」
小川のこの叫びで、みなハッとなる。
「ガキさん!!!」
ひとみが慌てて新垣を抱き起こそうとする。
「駄目だ!!!吉澤触るな!!!!」
ハタケが血相を変えてベンチを飛び出してくる。
「あ・・・あ・・・・」
新垣の側には真っ青な顔をして座り込むコヤナギーニョが。
場内のスクリーンに今のリプレイが流された。
- 616 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:37
- ひとみが“アゴンボール”をヘッドで合わせ、それをGKが弾いた。
そのこぼれ球に反応した安倍が押し込むもアユウドがこれを止める。
問題は次だ。
これで浮いたボールをコヤナギーニョが大きく蹴りだそうと右足を振ったところに、
飛び込む1つの青い影が。
コヤナギーニョの死角から飛びこんだ新垣が、
コヤナギーニョが触る前にヘッドでゴールに流し込んだのだ。
しかしコヤナギーニョは勢いを止められず、
全力で新垣の頭を蹴ってしまったのだ。
キャアアアアアア!!!!
スタジアムが悲鳴で揺れる。
- 617 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:38
- 「新垣!!新垣!!!」
ハタケが呼びかける。
「里沙ちゃん!!」
小川も必死に声をかける。
「ガキさん!!!」
「里沙ちゃん!!!」
ベンチでもみなが叫ぶ。
その時、うつぶせに倒れている新垣の指がピクッと動いた。
「?!!」
みな息を飲む。
そしてゆらりと顔を上げた。
が、目の焦点があっていない。
そして恐らく力が入らないであろうその体を必死に前へ前へと進ませようとする。
新垣の焦点のあっていない視線の先には、
人々を熱狂の渦に巻き込む丸いボールが転がっていた。
「・・・・・ボール・・・・・決める・・・・・」
その新垣の動きと小さな呟きにブワッと涙が流れる中澤。
「新垣!!見ろ、ゴール決まったんや!!あんたが決めたんや!!」
中澤が必死に叫ぶ。
その声を理解したのか、新垣は力なく微笑むとバタッと崩れ落ちた。
「新垣?!!」
「中澤、どけ!!」
ハタケがすぐさま新垣をタンカに乗せた。
そしてタンカを持ってきた4人のうち、1人にすぐに救急車を呼ぶように指示した。
- 618 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:38
- タンカに乗せられ運ばれていく新垣を、
スタジアムの全員が立ち上がり、拍手で送る。
もちろん新垣のゴールは認められている。
後半31分。
新垣里沙の執念のゴール。
日本2−3ブラジル
- 619 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:39
- 「里沙ちゃん・・・・・・・」
今のプレーに全身の血が燃え滾る。
自分のミスを取り返すべくまさに身体を張ったプレー。
彼女は心底日本代表を愛している。
チームのため、みんなのために恐れることなく頭から飛び込んでいった。
それに引き換え自分は何という体たらくだろうか?
下手糞なくせにプライドだけは一人前。
また傷つくことを恐れて、戦いから逃げ出していた。
そんな事じゃ一生ライバルには勝てない。
思えば自分の周りにいた人たちはみな困難に負けずに立ち向かってきた。
- 620 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:39
- 選手として、人間として尊敬するリーエ・ミヤザワビッチ。
彼女はその将来を嘱望された時期に自分の国に内戦が起こり、
黄金期に世界の舞台で戦えなかった。
しかしそれでも負けず、FIFAからの処分が解けた後、
見事にワールドカップやEUROといった世界に舞い戻った。
- 621 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:40
- 永遠のライバル吉澤ひとみ。
彼女は一度はサッカーを止めたいとまで思った。
味方であるはずのクラブのサポーターからも何度もヤジられた。
それでも彼女は負けず、自分で這い上がり、
今や日本を飛び出し世界でも有数の選手となった。
そして欧州に道を切り開いた福田明日香。
彼女は一度日本サッカー界から切り捨てられた。
欧州に渡ってもマツシマ、ハセキョンにより“ファンタジスタ”としての
能力も失った。
しかしそれでも負けず、自分の地位を確立していった。
今、彼女の後を日本人はついていっている。
- 622 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:40
- 日本サッカー界のキャプテン、中澤裕子。
日本サッカー界が力をつけてきたのはごく最近だ。
それまでずっと低迷していた。
そんな中でもずっと最前線で頑張ってきた。
負けても負けても、いつも闘志を燃やして日本サッカー界を引っ張ってきた。
彼女たちだけではない。
加護もドリブラーとしての“壁”をぶち破った。
辻も精神面を克服し、今やリーダーの器にまでなった。
矢口や道重たちだってそうだ。
控えメンバーであっても腐らず、懸命に日本のために戦った。
そして田中れいな。
自分やひとみに続くべく必死に努力し、天使のパスをも身につけた。
- 623 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:40
- そんな人たちが周りにいる。
自分はどうだ?
ただ嘆いてばかりで何もしていないじゃないか。
その人たちに追いつくためには今しかない。
今、歩み始めるしか。
- 624 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:41
- 「すぐ行くで!!用意できてるな、辻、加護・・・・・?!!」
新垣のプレーに心では涙を流しながらも、
ツンクは監督として冷静に対処する。
予定通りここで辻、加護を投入だ。
そう思い、振り向いたツンクの視界に映ったのは、
今まで見たことの無い表情でツンクを見る背番号12。
柴田あゆみだった。
その表情がこう訴えている。
“あたしを使え”と。
- 625 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:42
- 「おい、ツンク早くせな!!試合が再開されるで!!」
マコトが叫ぶ。
「あ、ああ。辻、加護、行くで。」
「はいっ!」
「はいっ!」
そう言いながらもツンクの中の勝負師としてのカンが訴えている。
1点差に追いついたこの場面、
守備面も攻撃面も期待できる辻と、ドリブル突破を期待出来る加護を
送り込むのがベストの選択のはずだ。
フィジカルの弱い柴田では中盤が弱くなるし、第一ひとみとは共存できない。
しかしツンクの中で、今見た柴田の表情、雰囲気が離れない。
- 626 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:42
- 辻と加護が第4審判に連れられタッチラインに向かおうとする。
「ちょっと待て辻、加護!!!」
寸でのところで辻と加護を呼び止める。
「?」
辻と加護がこちらに戻ってくる。
それを見た主審は試合を再開させた。
「お、おいツンク何やってんねん!!」
タイセーが叫ぶがツンクはジッと辻と加護の顔を見る。
そして一言二言ささやいた。
「・・・・・わかりましたれす。」
「・・・・・わかりました。」
そう言って辻と加護はベンチに座った。
「ツンク?!!」
「ツンクさん?!!」
マコトもタイセーも、
矢口たちベンチに座る選手たちもツンクの行動が理解できない。
- 627 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:43
- 「柴田!!次プレー切れたら行くで!!」
「はいっ。」
その言葉に頷く柴田。
「それから藤本!!お前も行くで!!」
「えっ?!あ、はいっ!!」
この言葉に慌てて用意する藤本。
辻と加護を投入で交代枠は使い切る。
後はベンチから声援を送ろうと思っていた。
「ちょ、ちょい待てツンク!!」
慌ててタイセーがツンクの肩を掴む。
ここはどう考えても柴田より辻の方がベターだ。
それに加護でなく藤本?
一体何をやるつもりだ?
しかしツンクの表情を見てタイセーは黙った。
ツンクの表情は“勝負師”の顔になっていた。
- 628 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:44
- 「柴田さん。この借りはでかいれすよ。」
辻が柴田に向かって言った。
「・・・うん。わかってる。ごめんね辻ちゃん。」
「言葉だけじゃだめなのれす。
・・・・・ののの首に一番いいメダルをかけてくれるなら許してあげてもいいのれす。」
「・・・・オッケー。」
そう言って柴田は辻とパンと手を合わせた。
「うちもやで。頼むで柴田さん、藤本さん。」
「オッケー。」
加護の言葉に藤本も頷く。
「美貴たん。」
「任せといて。」
松浦にも笑顔を見せる。
みんなの分まで死力を尽くす。
- 629 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:44
- そして彼女だ。
「柴田さん・・・・・・」
「・・・・ごめんね、今まで。でももう大丈夫だから。」
自分を慕う田中れいなに優しく微笑みかける。
そしてその時、ブラジルのアユウドが放ったシュートがクロスバーを越えていった。
- 630 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:45
- 第4審判とともに背番号12と20がタッチラインに立った。
柴田は新垣と、そして藤本は石川と交代だった。
これにはスタジアムがどよめく。
深夜ながらもテレビ観戦している日本人も目を疑う。
藤本はまだしも、ここで柴田・・・・・・?
「頑張れあゆ!!」
そんな柴田に声援を送るのは大谷、斉藤、村田。
自分たちの分まで頑張ると約束した柴田。
ここまでその約束は果たせていない。
それがこの場面、最高の場面でまわってきた。
- 631 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:46
- 「ふ。所詮その程度か。」
ブラジル監督テレ・キダターロがフッと笑った。
この場面でシバタ投入はありえない。
ここはどう考えてもツジがベストなはずだ。
それにイシカワを下げるのも納得がいかない。
彼女の“魔法の左足”は必殺の武器のはずだ。
わざわざその武器を捨ててくれた?
「失望したよ君には・・・?」
そう言ってツンクの方を見たテレ・キダターロだが、
その表情を見て驚いた。
そう、ツンクの顔はまさしく勝負師のそれだった。
勝負師はただの博打打ちのことではない。
場の流れ、状況、自分の力、相手の力、全てを計算しつつ、
次があるといった弱い思いを一切捨てた、
今一時の気持ちで勝負する。
それが勝負師だ。
つまり絶対の勝算が無ければこういった思い切った事はしない。
- 632 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:46
- 「まさかシバタが・・・・・・?」
テレ・キダターロの身体に悪寒が走った。
「頼むね柴ちゃん、ミキティ。」
「・・・・うん。」
「任せて梨華ちゃん。」
石川が柴田と藤本とタッチをかわす。
主審が交代を認め、背番号12と20がピッチに駆け出していった。
- 633 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:46
- この交代にピッチにいるひとみたちは混乱する。
柴田と藤本が入ってポジションはどうなる?
「システムは4−4−2で。
あたしが左サイドバックです。あたし、保田さん、中澤さん、まこっちゃんの4バック。
ボランチに明日香と、市井さんで。左前によっすぃー、右前に柴田さん。
トップにごっちんと安倍さんです。」
藤本が素早くポジション変更を伝える。
- 634 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:48
- 「げっ!」
この変更を聞いて福田と市井がツンクを睨む。
ツンクはニヤリと口元をゆがめる。
「ツンクさん、あたしたちに死ねだって。」
「しゃーない、いっちょやったるか。」
福田と市井が気合いを入れなおす。
福田と市井より前の4人は攻撃。
ひとみが左サイド、柴田が右サイドであることからもそれが分かる。
利き足と逆に置いたという事は、切れ込んでシュートを狙わせるという事。
チャンスメイクのためではない。
という事は、サイド攻撃には両サイドバックが上がらなければならない。
だからこそ石川に代えて藤本を投入したのだ。
サイドバックとしてはやはり藤本の方が一日の長がある。
“魔法の左足”も捨て難いが、
左サイドのスペシャリストならばきっと遜色ない活躍を見せてくれる。
- 635 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:48
- よって中盤の守備、最終ラインのカバー、攻撃のフォロー、
そして前線と後ろの連結。
これは全てボランチのこの2人、市井と福田の仕事となる。
この大役に2人も燃えている。
「よしっ、みんな絶対勝つよ!!!」
「おうっ!!!」
飯田の声に応える。
もう後は攻めて勝つのみだ。
- 636 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:49
- 「・・・・・ちゃんとあたしのパスに追いついてくださいよ。」
「・・・・・そっちこそあたしのリズムに遅れないでね。」
約1年ぶりに同時にピッチに立った2人の第一声がこれだった。
「プッ。」
「ははははは。」
2人は笑った。
もう2人の間に不純物はない。
「ねえよっすぃー。見えた?」
「えっ?何がですか?」
「1点目のアユウドのパス、よっすぃーにも“見えた”?」
「・・・・・・はい。あたしには見えました。白い道が見えました。」
その言葉にニッと笑う柴田。
そしてこう言った。
「・・・・・・・あたしにも見えたよ。“白い道”が。」
- 637 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:49
- サッカーの神様に愛された、極わずかな人だけが持つ能力。
―――――ファンタジスタ―――――
- 638 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:50
- その能力を持った者がピッチに2人立った。
吉澤ひとみと柴田あゆみ。
ファンタジスタ×ファンタジスタは多くの指揮官が敬遠する組み合わせ。
無限の可能性とともに無限の危険性も秘めている。
そして何より、悪魔と天使は共存出来ない。
- 639 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:50
- しかしツンクは確信している。
この2人はそんじょそこらのファンタジスタとは違うこと。
そして今日、たった一度だけ悪魔と天使が並び立つ奇跡が起こる日であるということを。
- 640 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:52
-
雲ひとつない青空。
- 641 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:52
-
悪魔と天使がその翼を広げ、天高く舞い上がる。
- 642 名前:第18話 悪魔と天使と悪魔 投稿日:2004/05/14(金) 12:53
-
第18話 悪魔と天使と悪魔 (終)
- 643 名前:ACM 投稿日:2004/05/14(金) 12:53
- 第18話 悪魔と天使と悪魔 終了いたしました。
今回は初の1試合2話です。
試合の残り時間はわずかですが、お付き合い下さい。
そして次回は第二部最終回です。
- 644 名前:ACM 投稿日:2004/05/14(金) 12:54
- 次回予告
第19話 スカイハイ
ついに同時にピッチに立った悪魔と天使。
奇跡ははたして起こるのか?
オリンピック決勝戦、遂に決着。
次回もよろしくお願いいたします。
- 645 名前:ACM 投稿日:2004/05/14(金) 12:55
- スレ隠しです。
今回はドイツブンデスリーガおよび、その他の欧州リーグも一気に紹介です。
ブンデスリーガ
<バイエルン・ミュンヘン>
GK 1 ヨシナ・ガーン (ドイツ)
MF 13 ナキャタニ・ミキック (ドイツ)
26 イケワキ・チイヅルー (ドイツ)
FW 9 アマミステン・ユウキー (ドイツ)
10 キムラ・ヨシーノ (オランダ)
会長 ケージ・アオシマ・オダユージ
- 646 名前:ACM 投稿日:2004/05/14(金) 12:56
- <ボルシア・ドルトムント>
MF 5 ニシヤマ・キクエー (ナイジェリア)
10 ミズノ・ミキツキー (チェコ)
FW 9 トミ・ナガー (チェコ)
<シュツットガルト>
FW 9 ユ・ウカ (韓国)
<ハンブルガーSV>
MF 7 マチャミビキア (イラン)
<シャルケ04>
MF 20 藤本美貴 (日本)
<ヘルタ・ベルリン>
FW 9 オ・トハー (中国)
- 647 名前:ACM 投稿日:2004/05/14(金) 12:56
- オランダ
<アヤックス>
MF 10 チュラ・サン・エリート (オランダ)
<ユトレヒト>
DF 17 メ・グミー (韓国)
<ヘーレンフェーン>
GK 22 エ・ミリー (韓国)
- 648 名前:ACM 投稿日:2004/05/14(金) 12:57
- フランス
<ナント>
MF 11 サ・タマオ (韓国)
ベルギー
<ゲンク>
DF 4 シロ・オセロ (イラン)
<ムスクロン>
DF 5 クロ・オセロ (イラン)
<ベベレン>
MF 18 トモ・チカー (イラン)
- 649 名前:ACM 投稿日:2004/05/14(金) 13:06
- スコットランド
<ヒバーニアン>
DF 22 アブ・ホクヨー (イラン)
ポルトガル
<アルベルカ>
DF 19 イト・ホクヨー (イラン)
<ナシオナル>
DF 24 モ・エー (韓国)
おそらくこれで欧州リーグの選手は全員出たかな?
きっと誰か忘れてるかもしれませんが。
いよいよ次で第二部終了です。
その後、第三部も予定してます。
第一部と同じくまだ続くんかいと思われた方、
もう少しだけお付き合いください。
では次回もよろしくお願いいたします。
- 650 名前:みっくす 投稿日:2004/05/14(金) 20:47
- 更新おつかれさまです。
おお、凄い展開になってきましたね。
ツンクの勝負師の采配は吉とでるのか凶とでるのか。
次回も楽しみにしてます。
- 651 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/14(金) 23:19
- バレー見てて、ちょっと遅くなりました(爆)
決勝・・・すごいことになりましたね。ガキさん大丈夫かなぁ
悪魔と覚醒した天使の「ファンタジー」楽しみにしております。
年齢がリアルということは、ヨシナ・ガーンとタマオ・ナカムラーニは息が長いですね(笑)
WCまで突き進みましょう(爆)
- 652 名前:名無しぃく 投稿日:2004/05/15(土) 02:26
- これまた物凄いところで切りますな・・・。そんな作者さん萌え。
勝負師カッケー。安西先生・・・。(謎)つんくギャンブルはどうなるだろ・・・。
ガキさん惚れたよ。大丈夫かな・・・心配やわん。
次回めっさ楽しみにしております。
- 653 名前:ACM 投稿日:2004/05/15(土) 09:59
- 650>みっくす様
レスありがとうございます。
中々いい展開になってきたのでは?と作者も思っております。
ツンク、人生最大の大勝負です。
結末を見てやってください。
651>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。バレー、やりましたね。
ガキさんも大仕事をやってくれました。
ヨシナ・ガーンとタマオ・ナカムラーニは鉄人ですから。
まだまだ若いもんには負けません。
652>名無しぃく様
レス並びに萌え、ありがとうございます。
勝負師安西先生です。先生、バスケがした・・・(ry
ガキさんに惚れるとはお目が高いですな。
もしかして美貴ちゃんさんに迫る勢いですか?
それでは本日の更新です。
第二部最終回
第19話 スカイハイ
- 654 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:00
- 「ちっ、まさかシバタが出てくるとは・・・・・」
表情をゆがめるのはアユウド。
予選リーグで完璧に叩き潰したはずなのに。
しかもシバタの表情があの時とは違う。
一度地獄を味わって復活した者だけが持てる凛とした表情だ。
自分の最大の天敵が遂に復活した。
- 655 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:01
- 「・・・・・・みんな、あたしに力を貸してくれ。」
アユウドのこの言葉にブラジル選手たちは驚きを隠せない。
アユウドが他人を頼る事など今まで一度も無かった。
それほどこのアユミ・シバタとヒトミ・ヨシザワを恐れているということだ。
「・・・・あたり前だ。我々はセレソンなんだから。」
キャプテンユーミンだ。
みな母国を愛する心を持っている。
ブラジルのため、チームメートのため死力を尽くすのはあたり前だ。
「よしっ、絶対この試合勝つぞ!!」
「おうっ!!」
ブラジルも1つにまとまった。
- 656 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:01
- GKの飯田がゴールキックを前線へ。
そのボールに飛びつくひとみとブラジルボランチ。
こぼれたボールは柴田が拾った。
「安倍さん!!!」
間髪入れず裏を取る安倍に出す。
見事なパスだったが、これはブラジルGKが飛び出して抑えた。
「ごめん!!」
安倍は軽く手を挙げ、すぐに戻る。
『やっぱ凄いべ柴ちゃん。』
パスには追いつけなかった安倍だが、
柴田のパスセンスに驚嘆させられていた。
- 657 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:02
- 「紗耶香!!」
「あいよ!!」
中盤では福田と市井が奮闘する。
しかしブラジルのトップ下、
コヤナギーニョが新垣の頭を蹴ったショックで動きに精彩を欠いていたため、
思ったより楽に中盤を引き締めることができていた。
福田が鋭い出足でコヤナギーニョからボールを奪った。
そしてすぐさまひとみに出す。
- 658 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:02
- ひとみがブラジルボランチを背負いながらパスをトラップする。
「よっすぃー!」
柴田がフォローに来る。
ひとみは柴田に出す。
が、これをブラジルは狙っていた。
「?!!」
2人がかりで柴田のトラップ際を狙うブラジルボランチ。
それを柴田、右足アウトサイドでボールをチョンと浮かせ2人の間を通す。
同時に柴田も2人の間を飛び越える。
- 659 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:03
- ウオオオオオオオオ?!!!
スタジアムが柴田のプレーにどよめく。
「ごっちん!!」
柴田はすぐに右サイドに開いた後藤にパスを出した。
この後藤と対峙するのはレアル・マドリードの同僚、
ジュディマリ・ユッキー。
普段の練習や試合でお互いの事は知り尽くしている。
この2人がかもし出す左サイドからの攻撃は王者レアルの生命線だ。
しかし今は倒すべき敵だ。
- 660 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:04
- 後藤が積極的に仕掛ける。
右に左に重心をずらし、相手のバランスを崩す。
右足でボールをまたぐ。
そしてそのまたいだ勢いを利用して一気にタテに抜ける。
恐るべき一瞬の瞬発力だ。
しかしジュディマリ・ユッキーも必死にこれに付いてくる。
ガキッ!!
互いに身体をぶつけ合う。
骨と骨とが軋むような競り合い。
この争いに勝ったのは後藤。
ジュディマリ・ユッキーを押し切り、中にクロスを送る。
このクロスに安倍が合わせるもののボールはクロスバーの上を越えていった。
- 661 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:05
- 「後藤、何だよてめー。」
市井が後藤のプレーにニヤリと笑う。
自分が散々手こずったジュディマリ・ユッキーをいとも簡単に振り切るとは。
何とまあ恐ろしいプレイヤーになったもんだ。
市井は感慨にふけりながらも闘志を燃やす。
「てめーにゃ負けないよ、後藤。」
- 662 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:07
- 柴田が中盤に入りゲームメイクをすることで
日本の攻撃は落ち着きとリズムを取り戻していった。
長短高低様々なパスが左足というタクトから放たれ、
見事に日本を指揮していく。
そしてそれはマエストロが完全復活したことだ。
- 663 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:09
- 日本が押し気味に試合を進めるが、時間は止まってはくれない。
残りは5分を切った。
「ここを凌げ!!!ここが勝負どころだ!!!」
ブラジル監督テレ・キダターロがテクニカルエリアで叫ぶ。
柴田がこれぐらい出来ることは彼も知っている。
ある意味計算通りである。
しかし彼の監督としての経験が、警報を鳴らしていた。
彼女は危険だと。
そして同時にツンクに対して恐れを抱く。
まさかこんな采配をするとは。
“モーツアルト”は“ベートーベン”を初めて見たとき、
その才能に恐れを抱いたという。
サッカー界の“モーツアルト”は今、同様に恐れを抱いていた。
- 664 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:10
- 『次はごっちんにパスだな。』
柴田が右サイドに開いた後藤にパスを送る。
『一度外に開いて中に切れ込むつもりね。』
ひとみが一度外に開いて中に切れ込む。
『何で柴田さんが次やることがわかるんだろ?』
『何でよっすぃーのプレーがわかるんだろ?』
2人のファンタジスタは不思議に思っていた。
相手が次にどう動くか、どういった展開を狙っているかがわかるのだ。
それも時間が経つごとに、より鮮明に。
今まで2人同時にピッチに立った事は何度かあったが、
その時はこのような感覚は訪れなかった。
- 665 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:11
- 『あれ?あたし・・・・・柴田さん?』
『あれ?あたし・・・・・よっすぃー?』
そしてしまいには相手の考えなのか自分の考えなのかさえわからなくなる。
1つの意識なのに身体が2つある。
そんな感じに。
そして・・・・・・・・・
- 666 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:11
-
――――――見えた――――――
- 667 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:13
- 「「梨華ちゃん!!」」
2人同時に叫ぶ。
「えっ?」
石川は同時に叫ばれ戸惑ったが、
とりあえず近くにいるひとみにパスを出した。
このボールをひとみはダイレクトで柴田に。
そしてすぐに前へ走る。
そこへ柴田からリターンが来る。
リターンを受けたひとみの前にブラジルボランチがたちはだかる。
しかしひとみとブラジルボランチが対峙している間に
柴田がひとみの後ろから飛び込んでくる。
ひとみとブラジルボランチの間を柴田が斜めに横切っていく。
一瞬気を取られるブラジルボランチ。
次の瞬間ひとみは右から、柴田はそのまま左からブラジルボランチをかわす。
- 668 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:14
- 「ボ、ボールは?!!」
ブラジルボランチはひとみと柴田、
どちらもボールを持っていないことに気付いた。
ボールは真ん中だった。
ブラジルボランチの股間を抜けていく。
柴田はそのまま駆け上がり、ひとみがボールを持つ。
ひとみはその柴田にパス。
柴田は振り向きもせずそのパスをヒールでもう一度ひとみに返す。
ボールを持ち駆け上がるひとみ。
そして柴田は全速力で前へ駆け上がる。
ブラジルはこの2人の予想のつかない動きに惑わされている。
日本も同じだ。
2人の動きが理解できない。
まさに幻想のような動き。
しかもその全てがハイスピードだ。
- 669 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:14
- これは果たして幻覚なのか?
日本イレブンもブラジルイレブンもみな同じものが見えていた。
吉澤ひとみと柴田あゆみ。
2人の背中に大きな翼が生えていた。
黒い翼と白い翼が。
- 670 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:15
- 『見えた!!』
ひとみの目に“白い道”が映った。
ひとみの右足から鋭いパス、“悪魔のパス”が放たれた。
ブラジルDFは誰も動けない。
常人には絶対に見えないパスコース。
そこをボールが鋭く転がっていく。
それは裏へ飛び出した柴田の足元に。
- 671 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:16
- 『見えた!!』
これを柴田はダイレクトで左足でとらえた。
その瞬間、パスの質が変わった。
“悪魔のパス”から“天使のパス”へ。
- 672 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:17
- 柴田の左足にとらえられたボールはふわっと柔らかな弧を描いた。
ブラジルGKが懸命に伸ばした手、
必死に戻ったブラジルDFの頭を掠めるようにして
右からゴール前に詰めていた後藤の頭に。
後藤は走り込んで来た勢いのまま頭を出すだけで良かった。
後藤のヘッドが無人のブラジルゴールに流し込まれた。
後半43分。
日本、同点に追いつく。
- 673 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:18
- 少しの間の静寂。
誰も今のプレーに言葉を発することが出来なかった。
ウワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!
しかし次の瞬間、耳をつんざくような大歓声がスタジアムにこだました。
誰もが今のプレーが信じられなかった。
あれはコンビプレーと呼ぶには次元が違いすぎるプレーだった。
他人同士では絶対に不可能というべき動き。
まさに1つの意識に2つの身体が無ければ不可能な動きだった。
今、悪魔と天使が1つになった。
- 674 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:18
- 「ごっちん!!!」
「ナイスシュートごっちん!!」
ゴールを決めた後藤にひとみと柴田が抱き付く。
「何言ってんの?!!よしこと柴ちゃんの方が凄いよ!!!」
後藤は興奮状態だった。
あんなパスが来るなんて。
「凄いべよっちゃん、柴ちゃん!!」
安倍も2人に抱き付く。
「お前ら最高だ!!!」
そこへ市井も福田もみなが抱き付く。
- 675 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:18
- 「凄いよ柴田さんに吉澤さん!!!」
亀井が叫ぶ。
ベンチでもみなが抱き合って喜んでいた。
「・・・・・・良かった・・・・・」
そう呟いて涙を流すのは田中れいな。
憧れの2人の見事な共演。
最高に嬉しかった。
- 676 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:19
- 「な、何だったんだあの動きは・・・・・・・?」
さすがのアユウドも今のプレーには信じられないといった表情を浮かべている。
最後のパスコースもアユウドでさえ見えなかったのだ。
「あんなの止められっこない。」
ジュディマリ・ユッキーが肩をすくませる。
あまりに完璧なゴール。
それだけブラジルにショックは大きかった。
「今のはもう忘れよう。次はもうないだろうしな。
気持ちを切り替えていくよ。」
キャプテンユーミンが皆を懸命に盛り立てる。
- 677 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:19
- 第4審判が電光ボードを掲げる。
ロスタイムは4分と表示された。
「まだ時間はあるよ!!一気に逆転を狙おう!!」
ひとみがパンパンと手を叩く。
その言葉に頷く日本イレブン。
ここまで激戦続きのため、みな疲労の色が濃く出ている。
延長戦にもつれ込むとブラジルの方が有利だ。
出来うるならばここで試合を決めてしまいたい。
日本五輪代表、最後の戦い。
この後の5分間は永遠に語り続けられる5分間となった。
- 678 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:20
- ブラジルも延長などという気は毛頭ない。
王国ブラジルの名にかけて日本ゴールに襲い掛かってきた。
それを必死のディフェンスで跳ね返す日本DF陣。
「絶対に守りきるで!!!」
中澤がゲキを飛ばす。
中澤の心は今、晴れやかだった。
オリンピック決勝で金メダルをかけた戦い。
身も心も切り裂かれるような厳しい戦いのはずだ。
しかし、中澤の心は澄み切っていた。
『・・・・・うちは幸せモンや。』
中澤は心底そう思っていた。
- 679 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:20
- 中澤が日本代表にデビューしたのはもう10年以上前になる。
あの時はアジアを突破することすらままならなかった。
世界を相手にタイトルをかけて戦うなど夢のまた夢であった。
何度も悔しい思いをした。
一緒に戦った仲間たちも1人、2人と引退し、
デビュー当時からの仲間で今現役に残っているのはヴィッセル神戸GK信田美帆のみだ。
稲葉貴子、小湊美和などといった共に戦った仲間たちは夢半ばで引退した。
- 680 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:21
- しかしその後、日本も人材が登場してきた。
いまや欧州でも日本人選手の力は認められている。
そして日本代表も着実に力を付け、
ついにオリンピック決勝にまで来た。
あの時のことを考えると夢のようだった。
中澤は今、本当に幸せだった。
- 681 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:22
-
そしてこの瞬間、彼女は決心した。
今日、この試合を日の丸をつけて戦う最後の試合にしよう。
- 682 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:22
- これからまだワールドカップもある。
しかし、恐らく自分は金メダルをとれば満足しきってしまうだろう。
だが、他の選手たちはさらに高い意欲でワールドカップを目指すはずだ。
だからこそ自分は身を退き、若い選手たちに道を譲ろう。
それがきっと日本のためになる。
- 683 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:23
- 中澤はチラッとベンチにいる石黒と紺野を見る。
1人はここ7年間ずっと一緒に戦ってきた仲間。
もう1人は自分の後継者。
あんたらと組んだDFラインは最高やった。
さらにベンチで声を出している矢口たち。
みなこれからの選手ばかりだ。
みんな、うちの大好きな日本代表を頼むな。
- 684 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:23
- うちの最後の晴れ姿、ちゃんと見とってな。
中澤が優しく微笑みかける。
「オラッ!!!もっとチェック厳しくや!!!」
次の瞬間鬼の形相に変わる。
日本サッカー界のキャプテン、最後の勇姿だ。
- 685 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:24
- アユウドから左サイドを駆け上がるジュディマリ・ユッキーにパスが出る。
ジュディマリ・ユッキーは快足を飛ばし、そして中にクロスを送る。
「でえいっ!!」
このクロスをスライディングで触ったのは小川。
クロスの軌道が変わり、大きく逆サイドにまでいった。
- 686 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:25
- このボールをコヤナギーニョが拾う。
その前に立ちはだかるのは保田。
腰を落とし、気迫を込めた目でコヤナギーニョを睨む。
その気迫に耐え切れ無くなったコヤナギーニョがサイドに逃げようとする。
保田もそれに必死に身体を寄せる。
その瞬間すっと伸びてきた足がコヤナギーニョの足元のボールを弾いた。
「ナイスミキティ!!」
「当然です!!」
藤本がニッと笑う。
保田、藤本の見事な連係プレーだ。
- 687 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:25
- しかしこのボールを拾ったのは“ラストカナリア”帝王アユウド。
その眼が一本の白い道をとらえた。
『もらったよ!!』
アユウドの左足から“悪魔のパス”が放たれた。
が、パスを出した瞬間、アユウドの前から白い道が消えた。
- 688 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:26
- 「なっ?!!」
絶句するアユウド。
今までこんな事は無かった。
道が消えるなどと。
パスを出したコースには1人の選手が足を伸ばしている。
アユウドのパスはその選手の足に当たり、フワッと上空に舞った。
「よっしゃっ!!!」
日本サッカー界のキャプテンの意地と執念が勝った瞬間だ。
- 689 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:27
- しかしそのこぼれ球に飛び込む1つの影。
空中で身体をひねる。
見るもののため息を誘うような華麗なバイシクルシュート。
伊達に“フェノーメノ”とは呼ばれていない。
「くっ!!」
必死に反応するGK飯田圭織。
日本最高の守護神。
中澤の後を受け、日本代表をまとめる存在。
その指先がグッと伸び、微かに触れた。
ヒカルド渾身のバイシクルはクロスバーを直撃した。
- 690 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:27
- だが跳ね返ったボールの先にはアユウドが待ち構えている。
『これで終わりだ。』
アユウドが跳ね返ってきたボールをダイレクトボレーで狙う。
しかし、寸でのところで横からボールをかっさわれた。
「アスカ!!!」
“偉大なるパイオニア”福田明日香。
日本守備陣がブラジル攻撃陣を打ち破った瞬間だった。
- 691 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:28
- 「紗耶香!!」
福田がすかさず中盤の市井にパスを出す。
ボールをもらった市井、前線へとドリブルを開始した。
ブラジルボランチを華麗かつ鋭いフェイントでかわし、
右サイドに振る。
そこにいるのは後藤真希。
慌ててチェックに向かうブラジルDF。
しかし後藤の敵ではない。
鋭い切り返しにブラジルDFは思わずしりもちをつく。
まさにトリハダものの切り返しだ。
そしてファーサイドに上げた。
- 692 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:28
- そのボールに飛び込むのは安倍なつみ。
抜群の嗅覚で誰よりも速く飛び込む。
が、角度が少々悪い。
安倍は空中で体をひねり、ヘッドで後ろに落とした。
そこに詰めていたのは柴田あゆみ。
が、ブラジルキャプテンユーミンが身体を投げ出し、
シュートコースを防ぐ。
- 693 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:29
-
その瞬間柴田の脳裏にゴールへの道が浮かぶ。
- 694 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:29
- 柴田は安倍が落としたボールを右足の裏で止め、
それを軸としてクルッと回る。
“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマの必殺技、
マルセイユ・ルーレットだ。
が、それだけではなかった。
クルッと回転し、右足から左足にボールがわたる瞬間、
左足かかとでこのボールを弾いたのだ。
『ありがとうね田中ちゃん。』
“トリックスター”田中れいなばりのトリッキーなパス。
それはずっと自分を支えようとしてくれた田中への感謝の気持ちだった。
- 695 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:30
- 『ナイスパス、柴田さん。』
このパスに合わせたのは吉澤ひとみ。
ピッチに立っている選手たち。
ベンチで声援を送っている選手たち。
スタジアムで応援してくれているサポーター。
日本で応援してくれている人たち。
みなの思いを右足に乗せて思いっきり振り抜いた。
後半ロスタイム。
吉澤ひとみのゴールが日本を世界一へと導いた。
- 696 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:30
- ピィー、ピィー、ピィー!!!
主審の笛が3度高らかに鳴った。
その瞬間ベンチからみな一斉に飛び出した。
日本がオリンピックとはいえ、世界一になったのだ。
- 697 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:31
- 「よっすぃー!!!」
柴田がひとみに抱き付く。
「よしこ!!!」
「よっちゃん!!!」
「吉澤!!!」
後藤が、安倍が、市井もひとみに抱き付く。
「よっさん!!!」
「吉澤!!!」
「よっちゃん!!!」
「吉澤さん!!!」
「よっすぃー!!」
中澤が、保田が、藤本が、小川が、飯田が。
「よっすぃー!!!」
福田が。
「よっすぃー!!」
「よしざーさん!!」
「ひとみちゃん!!!」
「吉澤さん!!!」
ベンチから飛び出した加護や辻、高橋、石川や紺野、さらに亀井や田中、
道重たちもみながひとみに抱き付く。
- 698 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:31
- ツンクもマコトもタイセーも抱き合って喜びを爆発させている。
「みんな!!」
とそこへ新垣がハタケとともにピッチに入ってきた。
「ガキさん!!」
「新垣!!!」
「里沙ちゃん!!!」
それを見つけたひとみたちはみな新垣のもとに駆け寄り、
抱きついた。
「里沙ちゃん、大丈夫なの?!!」
「うん!!みなさんありがとうございます!!」
新垣がニッと笑う。
新垣自慢のおでこはコヤナギーニョの右足に耐えたのであった。
- 699 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:32
- 日本は見事にブラジルを破って金メダルをとった。
それはここにいる23名と、日本にいるアジアカップ組。
いや、日本全ての選手たちの力で勝ち取った金メダルだった。
- 700 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:33
- 「・・・・おめでとう。今日は完全にあたしの負けだ。」
ブラジル10番、アユウドが柴田の前にやってきた。
あの鬼のような形相ではなく、穏やかな表情だった。
そしてスッと手を差し出す。
柴田は言葉は分からないが、その手をがっちりと握った。
それからスッとひとみに視線を移す。
「卑怯だぞヨシザワ。2人がかりで来るなんて。」
「え、やっぱり?・・・でも今回だけだと思うよ。」
「だろうね。」
そう言うと2人はがっちりと握手した。
アユウドもひとみと柴田の共存は正真正銘これで最後だという事を理解していた。
「今回は負けたけど、セリエA、それからワールドカップは負けないから。
どっちが来てもあたしが叩き潰すから。」
そう言ってアユウドはチームメートの元に戻っていった。
- 701 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:33
- 「ねえよっすぃー、アユウドは何て?」
柴田が尋ねる。
「今度はリーグ戦とワールドカップで勝負しようですって。」
「あ、そうか。セリエAで対戦できるもんね。
・・・・・よっすぃーとも勝負できるね。」
「はい。楽しみにしてますよ柴田さん。」
2人はニッと笑い合った。
最高のライバル。
これからもずっとお互いを高めていく存在だ。
- 702 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:34
- 「柴田さんに吉澤さん!!表彰式ですよー!!」
田中が無邪気にブンブン手を振って2人を呼ぶ。
「プッ」
「フフッ」
その様子に思わず笑みがこぼれるひとみと柴田。
「あ、何で笑うんですか?!!」
田中がぷうっと頬を膨らませてこっちに来た。
- 703 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:34
- 「何でもないよ。」
「そうそう。」
そう言ってひとみと柴田は田中の肩に手を回す。
「わわっ、ちょっと。」
憧れの2人に挟まれ戸惑う田中。
- 704 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:35
- そんな田中を優しい目で見つめるひとみと柴田。
あたしたちはどちらか一方しかこの先ピッチに立てない。
でも、どちらが立ったとしてもその後はあんただからね。
2人は自分たちの後継者に微笑みかける。
- 705 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:35
- 「おーい!!よっすぃー、柴ちゃん、田中!!早く来いよー!!」
矢口が3人を呼ぶ。
「はーい!!すぐ行きます!!」
3人は肩を組みながら仲間のもとに向かう。
3人とも最高の笑顔を見せていた。
- 706 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:36
- 今日、日本はオリンピックではあるが、世界一になった。
だが、今日が終わりではない。
今日からが始まりなのだ。
悪魔と天使。
そしてその後継者。
この2人と1人の物語もこれからが本当の始まり。
- 707 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:38
-
この澄み切った青空に3人は大きく羽ばたいた。
- 708 名前:第19話 スカイハイ 投稿日:2004/05/15(土) 10:39
- 第19話 スカイハイ (終)
『CALCIO CALCIO CALCIO!!』 第二部 完
- 709 名前:ACM 投稿日:2004/05/15(土) 10:40
- 第19話 スカイハイ 終了いたしました。
並びに『CALCIO CALCIO CALCIO!!』 第二部
終了いたしました。
いつの間にか主役が3人になってしまいました。あれ?
とうとう第二部も終わらせる事が出来ました。
これも皆様が温かく見守ってくださったからだと感謝しております。
本当にありがとうございました。
さて次は第三部です。
第三部では少し幅を広げていこうかなと考えております。
今まで吉澤さん中心でお送りしてきましたが、
他の2人にもスポットを当てつつ話を進めていきたいと思っております。
もちろん他の選手たちもその時々で取り上げていきます。
第三部でも今までと変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。
- 710 名前:ACM 投稿日:2004/05/15(土) 10:44
- 次回予告
CALCIO CALCIO CALCIO!! 第三部
第1話 それぞれのスタート
オリンピックも終わり、それぞれが所属クラブへと戻っていった。
Jリーグは後半戦に突入。
そして欧州では2004−2005シーズンが始まる。
また新たな戦いの日々がスタートする。
次回もよろしくお願いいたします。
- 711 名前:ACM 投稿日:2004/05/15(土) 10:52
- スレ隠しは今回は無しです。
あ、それと今までのスレ隠しで2004−2005シーズンの
各クラブの選手たちを紹介してきましたが、
それはオリンピック時点での話です。
これからまた移籍とかあると思いますのでご了承下さい。
では、次回の更新まで失礼致します。
- 712 名前:ニョルゴ 投稿日:2004/05/15(土) 11:50
- 面白い。
もうずっと続けてって感じです
- 713 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/15(土) 12:32
- 第二部の更新お疲れ様でした。
悪魔と天使の最後?の共演凄かったです。
今度はセリエAでの対決ですね。よっすいー・あゆみ・マツシマ・ユッキエ・アユウド。それぞれどんなファンタジーを見せてくれるか、楽しみにしてます。
田中率いるU−17の活躍も
後は、サッカー王国静岡出身の彼女の出演でU−17のシステムが分かるのかな
第三部も楽しみにしてます。
- 714 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/15(土) 12:55
- 667
何で藤本と交代した石川がパスだしてんの?
- 715 名前:ACM 投稿日:2004/05/15(土) 13:09
- あっ!!!
・・・・・・・・やってしまった。
それは“魔法の左足”だからです。というのは無理ですね。
すみません。完全に間違えました。
皆様、脳内変換をお願いいたします。
714の名無飼育さん様、ご指摘ありがとうございました。
- 716 名前:みっくす 投稿日:2004/05/15(土) 14:22
- 更新おつかれさまです。
覚醒した天使はすごすぎです。
このあとのリーグ戦も楽しみになってきましたね。
次回も楽しみにしてます。
- 717 名前:名無しぃく 投稿日:2004/05/16(日) 02:23
- 第二部お疲れ様です。
天使さんのプレーに鳥肌が立ちますた。なかざーさん・・・。。・゚・(ノД`)・゚・。
感動をありがとう。作者さんがくれた全てにありがとう。
がきん子豆は無敵ですか。そうですか。そうなんです。
ガキさんが好きです。でも、もっさんの方がもっとすk(ry
第三部も楽しみにしてます。
- 718 名前:ACM 投稿日:2004/05/19(水) 01:58
- 712>ニョルゴ様
レスありがとうございます。
“面白い”、“続けて”と言ってくださり、本当にありがとうございます。
もちろん終わりというものはありますけど、まだまだ先ですのでそれまで
どうかお付き合い下さい。
713>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
そうです、今度はセリエAでの対決が待っています。
と言いたいところですが、果たしてどうなるんでしょうね。
ちょっと含みを持たせておきましょう。
714>名無飼育さん様
ご指摘ありがとうございました。
自分ではきっちりチェックしてたつもりだったんですが、
やってしまいました。
また何かありましたらご指摘お願いしますね。
- 719 名前:ACM 投稿日:2004/05/19(水) 01:59
- 716>みっくす様
レスありがとうございます。
とうとう天使が覚醒しました。これでリーグ戦も楽しみです。
が、この後色々と考えております。
これからの展開にご期待下さい。
717>名無しぃく様
レスありがとうございます。
いえいえ、こちらこそ読んでくださってありがとう、という感じです。
第三部では吉澤さん以外も結構取り上げるつもりなので、
もっさんにもスポットが当たると思います。ご期待下さい。
※その試合はテレビで観てました。マリノスのセットプレーは凄い破壊力ですね。
では本日の更新です。
- 720 名前:ACM 投稿日:2004/05/19(水) 02:00
- CALCIO CALCIO CALCIO!! 第三部
第1話 それぞれのスタート
- 721 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:01
- 奇跡のオリンピック金メダルの喜びもつかの間、
ひとみたちはそれぞれ所属クラブに戻り、
来るべきシーズンの開幕を今か今かと待ち望んでいた。
今シーズンは各クラブの主力選手たちが軒並みオリンピックに出場したため、
各国とも例年より約1ヶ月ほど遅れてシーズンが開幕となる。
オリンピック終了から3週間後、ついに欧州でリーグ戦が開幕される。
- 722 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:02
- 「違う!!そんな動きじゃねー!!!」
インテル監督、オシオル・マーナブの怒号が響く。
オリンピック終了後、ひとみはすぐにチームに合流した。
リーグ戦開幕前にチャンピオンズリーグ予備予選3回戦が始まるからである。
ピッチの上では地元のアマチュアチームとの練習試合が行われていた。
現在ピッチに出ているのが今シーズンの主力メンバーだ。
GKにイタリア代表マキチェスコ・ミズノ。
DFは4バック。
センターにイタリア代表ムロイ・シゲルッツィ。
そしてコロンビア代表チエン・アヤドバ。
右サイドバックにイタリア代表ミホ・カンノバーロ。
MFには右サイドハーフにアルゼンチン代表ウエハラ・タカコッティ。
センターハーフにアルゼンチン代表アイウチ・リナメイダ。
2トップはウルグアイ代表アルバロ・ヤイコに
イタリア代表ヨネクラン・リョウコという布陣だった。
- 723 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:03
- つまりシステムはフラットな4−4−2。
昨シーズンと変わらぬ布陣であった。
そして今シーズンインテルに加入し、
背番号10を与えられたファンタジスタ、
日本代表吉澤ひとみはベンチでこの試合を見つめていた。
「ぐぐぐ、マーナブめ・・・・・」
この試合を観に来ていたインテル会長イブ・マサッティは怒りで身体を震わせていた。
あれだけヒトミ・ヨシザワを使え、
ヨネクラン、ヤイコ、ヨシザワの“3Y”をピッチに立たせろと言っておいたのに。
- 724 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:03
- マサッティ会長はこの“3Y”がいたくお気に入りだった。
彼女たち3人が醸し出す攻撃を、
まだ見てもいないのに“ジェットストリーム”と命名するほどだ。
ちなみにこの“ジェットストリーム”とは日本の某ロボットアニメか、
夜の定期便と言われるラジオ番組からとったと言われているが、
その真偽は定かではない。
- 725 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:04
- しかし、マーナブにも言い分がある。
選手たちにそれぞれプレースタイルがあるように、
監督にもそれぞれのスタイルがある。
マーナブの武器はフラットな4−4−2システムによる堅守速攻だ。
これで今まで勝負し、そして結果も出してきた。
もちろんこれからもそれで勝負していくつもりだ。
いくら会長がお気に入りの選手を取ろうが、
自分のシステムに合わなければ使わない。
しかもひとみは移籍したての7月は昨シーズンの疲れがピークのため、
別メニューでずっと調整していた。
さらにその後オリンピックで1ヶ月もチームから離れていた。
そんな選手をどうやって使えと言うのだ?
- 726 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:04
- そう考えるとひとみにとって正直オリンピックでチームから離れたのは痛かった。
ただでさえ移籍したてのチームであるのに、
シーズン開幕前の1ヶ月を、大事な1ヶ月をまるまる棒に振ったのだ。
しかしひとみはそれを全く後悔していない。
あの戦いを経験できた事は自分にとってプラスになった。
それにシーズンはこれからだ。
絶対に遅れを取り戻してみせる。
- 727 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:05
- 試合の方は相手はアマチュアチーム。
強豪インテルの敵ではない。
前半だけでヨネクランが3ゴール、ヤイコが2ゴール、
そしてタカコッティが1ゴールを奪い6−0でリードしていた。
「・・・・・・・」
前半が終わり、ベンチに引き上げてくる選手たち。
ウルグアイ代表の天才、アルバロ・ヤイコは浮かない表情だった。
「どうしたヤイコ?」
思わずキャプテンのタカコッティが尋ねる。
「うん、やっぱ足りないんだよね。
これじゃあスクデットもチャンピオンズリーグも勝てへん。」
前半は昨シーズンと同じメンバー、戦術で戦っただけあって連係面では何の問題もない。
が、それだけに昨シーズンから感じていた課題が改めて浮き彫りになった。
- 728 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:06
- インテルの課題は中盤だ。
しっかり守ってカウンターは、相手が攻めてきた時には効果はある。
しかし、相手が引いて守ってきた時にはこちらから仕掛けなければならない。
昨シーズンのインテルはゲームを創れる選手がいなかった。
相手が引いてきてもただ前線にロングボールを放り込むだけ。
後はヨネクランの高さとヤイコのテクニックに全てを任せるというもの。
右サイドにはウエハラ・タカコッティという優れたチャンスメーカーがいるが、
そこにいい形でパスがこないのである。
センターハーフのアイウチ・リナメイダは完全に潰し屋である。
そのためタカコッティはある意味上がりのない守備専門のサイドバックに
なってしまっている。
これでは宝の持ち腐れだ。
- 729 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:07
- 今日の相手のようにDF陣が弱ければそれでも問題はないが、
ユヴェントスやミラン、ローマといったビッグクラブには一流のDFがいる。
いくらヨネクランやヤイコが怪物クラスでもそう簡単に突破できる相手ではない。
事実、昨シーズンインテルはその堅守で3位に食い込んだが、
上位との直接対決でことごとく敗れ去っている。
いくら堅守を誇ろうが、やはり超一流の攻撃陣相手では失点はしてしまうのだ。
しかしインテルには失点をしても取り返す力が無い。
チャンピオンズリーグでも攻撃力がないため、
マンチェスター・ユナイテッドに失点しても自分たちで攻撃が創れず、
2−0で敗れ去った。
- 730 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:08
- そんな中、今シーズンはエンポリから期待のファンタジスタ、
ヒトミ・ヨシザワがインテルに加わった。
これを一番喜んだのはイブ・マサッティ会長ではなく、
ヤイコたち選手だったのだ。
あのマツシマの後継者であり、ユッキエとためを張れる。
そしてアユウドからも一目置かれるファンタジスタ。
彼女が加われば攻撃にもっと厚みが出るはずだ。
そして元々堅守を誇るインテル。
上手く噛み合えばスクデットはもちろんチャンピオンズリーグ制覇も夢ではない。
選手たちは期待に胸を膨らませ、ひとみを迎えた。
- 731 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:09
- インテリスタたちもこの日本のファンタジスタを大歓迎した。
昨シーズン、エンポリで大ブレイクしたファンタジスタ。
インテル戦でも素晴らしいファンタジーで引き分けに持ち込まれてしまった。
その選手が自分たちのチームに来るのだ。
「ヨシザワが来れば今年こそインテルはスクデットだ。」
「ヨシザワが入るとシステムは3−4−1−2だな。」
「当然だろう。このシステムならばヨシザワのファンタジーも活きるし、
ヤイコ、ヨネクランの2トップはもちろん、タカコッティも攻撃力を活かせる。」
「カンノバーロだってそうだろ?あいつはセンターバックなんだ。
でも4−4−2だとサイドバックに行くしかないんだ。3−4−1−2ならば
アヤドバ、シゲルッツィ、カンノバーロの鉄壁の3バックが出来るぜ?」
「だな。GKにミズノ、DFにアヤドバ、シゲルッツィ、カンノバーロ。
MFにタカコッティとリナメイダとヨシザワ。そしてFWにヤイコとヨネクラン。
・・・・・・・もらったな。」
自称インテル監督が何十万人といるミラノ。
みな、ひとみ加入によりインテルが変わる事を願っていた。
- 732 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:10
- しかしマーナブは自分のやり方を変えなかった。
今シーズンも4−4−2システムの堅守速攻のスタイルを崩さない。
これにはインテリスタたちも不満の声を上げるが、
マーナブは知らん顔。
試合をするのは自分たちだ。
外野は黙っていろ。
この気持ちの強さこそオシオル・マーナブが名将と言われる所以である。
- 733 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:11
- 後半も前半と同様な展開の試合。
中盤でボールを奪うと、一気にロングパスを前線に送るという展開だ。
それが動いたのは後半10分だった。
「ヨシザワ!!」
マーナブがひとみを呼ぶ。
ついに期待のファンタジスタの出番だ。
ウオオオオオオオオオ!!!
試合を観に来ていたインテリスタたちが声援を上げる。
「よし、それでいいんだ!!」
イブ・マサッティ会長も思わず声を上げる。
これでついに待ち望んでいた“3Y”の登場だ。
みなが期待を込めた目でひとみを見る。
- 734 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:12
- だが、それもすぐに落胆に変わった。
ひとみが入ったポジションはセンターハーフだったのだ。
DFラインの前で相手の攻撃を潰し、ボールを奪った後は
すぐに前線にロングボールを送る。
全く今までと変わらない展開。
「前にスペースが空いてるのに・・・・・・」
ひとみ自身も前線に上がりたくて仕方がなかった。
MFがフラットに並ぶため、FWとセンターハーフの間にスペースがある。
ちょうどトレクァルティスタの位置だ。
だが、ピッチに入る際にマーナブから受けた指示は、
『絶対に上がるな。ボールを奪ったらすぐに前線に出して
後はその位置でカウンターに備えろ。』
だった。
- 735 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:13
- 「・・・・・・これではヨシザワを使う意味がないではないか!!」
イブ・マサッティが顔を真っ赤にして怒鳴る。
ひとみが入ろうがマーナブのサッカーには全く関係なし。
ひとみもこの下がった位置からでも多少はパスを振り分けることが出来るが、
マーナブはそれすらも許さない。
ボールを持ったらすぐに前線へ。
それを徹底させた。
試合は残り10分となった。
追加点はヤイコのミドルシュートのみ。
と、ここでマーナブがまたも動く。
ヤイコに代えてセンターハーフの選手を投入したのだ。
「ヨシザワ!!アタッカンテ(FW)に入れ!!」
マーナブの指示に従い、アタッカンテに入るひとみ。
これで2トップはヨネクランとひとみという、
ヘディングの強い、フィジカルが優れた2人となった。
- 736 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:14
- その後インテルは3点を追加した。
いつも通りロングボールを放り込むインテル。
が、今までターゲットはヨネクラン1人だったが、
ひとみが前線に上がったことでターゲットが2人になった。
その分マークが分散し、楽に競り合いに勝てるようになった。
追加点のうち、1点目と3点目はひとみがヘッドで後ろにそらし、
それをヨネクランが飛び出してゴールに沈めた。
2点目は全く逆のパターン。
ヨネクランがポストでひとみが飛び出して決めた。
- 737 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:17
- 「ほう、このフィジカルは使えそうだな。」
マーナブはこの結果にニヤリと笑う。
確かにひとみはヤイコと比べるとテクニックははるかに及ばないが、
その分フィジカルの強さは圧倒的だ。
さらには高さもスピードもある。
「・・・・これはヤイコよりもヨシザワだな・・・・・・」
マーナブはもう一度ニヤッと笑った。
彼自身、ひとみには期待をしていたのだ。
確かに自分が嫌う不確定要素な“ファンタジスタ”であるが、
そのフィジカルの強さには一目を置かざるをえない。
だからこそトレクァルティスタがいらない自分のサッカーにおいても、
どこかで使えないかとこの試合、センターハーフとアタッカンテで
出したのだ。
そして答えが出た。
- 738 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:18
- 試合はこのまま終了した。
結果は10−0でインテルの圧勝。
これは当たり前だ。
相手はアマチュアチームなのだから。
だから問題は結果でなく内容だ。
確かにひとみが入って前線の高さ、強さは増したかもしれない。
しかし、昨シーズンと変わらぬ堅守速攻のサッカー。
それにひとみ自身、最大の能力“ファンタジスタ”を活かせないポジション。
- 739 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:20
-
果たして今シーズンのインテルの、“悪魔”の運命はいかに?
- 740 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:20
- 一方、今シーズンよりセリエAペルージャに移籍した柴田あゆみ。
こちらはチャンピオンズリーグもないため、
じっくりとチーム作りに励んでいた。
こちらもシーズン開幕前の調整として、
地元のアマチュアチームと練習試合を行っていた。
- 741 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:21
- 「アユミ!!」
チームメートからトレクァルティスタに入った柴田にパスが回る。
こちらはひとみと違い、オリンピック金メダルがインパクトとなっていた。
大抵新加入の選手には、特にアジアの選手には洗礼として試合でボールが
回ってこないことが多い。
が、オリンピックで金メダルをとったこと。
さらにはACミランのアユウドが柴田の事を注目していると発言したことから、
ペルージャの面々も柴田に対して一目置いて迎え入れた。
- 742 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:21
- さらに柴田には“天使のパス”がある。
彼女にボールを預ければ自分の欲しい所、
欲しいタイミングでパスが来る。
こいつにはパスを回した方がいい。
その方が自分たちにとってプラスになる。
ペルージャの選手たちがそう思うのに時間はかからなかった。
- 743 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:22
- 柴田の左足から天使のパスが送られた。
このパスに抜け出したペルージャFWが綺麗にゴールに流し込んだ。
「ナイスパス!!」
ゴールを決めたFWが柴田のもとに来て頭を撫でる。
他の選手たちもパスを出した柴田とタッチを交わす。
みな、今の柴田の“天使のパス”に心を奪われた。
- 744 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:23
- 「来いっ、アユミ!!」
その後ペルージャ2トップは柴田がボールを持った瞬間、
全速力でDFラインの裏を取る。
その走りは完全に柴田を信頼している証拠だ。
アユミならば必ず出してくれる。
その期待を柴田は裏切らない。
きっちりとベストなタイミングでスルーパスを出す。
- 745 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:23
- 「くっ!!」
この完璧なスルーパスに相手DFは思わず手を出して
ペルージャFWを引きずり倒す事しか出来なかった。
ピィッ!!!
当然主審はファウルをとる。
しかもペナルティエリア内。
PKが与えられた。
- 746 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:24
- 「アユミ。」
ペルージャFWがボールを柴田に手渡す。
PKを蹴れということだ。
「えっ?あたし?」
柴田は驚く。
新加入の自分に?
ペルージャFWはニッと笑うとボールを柴田に預け、
ペナルティエリアの外に出て行った。
他の選手も何も言わない。
これはペルージャの選手たちが完全に柴田に実力を認め、
信頼したという事だ。
柴田はこのPKをきっちり決めて信頼に応えて見せた。
- 747 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:25
-
イタリアの地に立った“天使”は順調なスタートを切った。
- 748 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:26
- ひとみ、柴田以外の海外組もそれぞれスタートを切っていた。
まずはユヴェントス福田明日香だ。
福田は今シーズンでセリエA4シーズン目。
もう慣れたものである。
さらには他のメンバーもほとんど変わりがなく、
チャンピオンズリーグも本戦からの出場が確定のため
こちらもじっくりチームを熟成させている。
今シーズンのユーヴェの目玉はラツィオから移籍のチェコ代表MFアキコ・ヤダベド。
ひとみ獲得はならなかったが、ある意味それ以上の人材がユーヴェに加入した。
これで中盤はマツシマ、福田、ヤダベド、マヤミッキという世界を代表する選手たちで構成され、
圧倒的な存在となった。
もちろん前線にはキャプテンのハセキョン。
DFにはフランスのトダム。
GKにはフカキョンとスクデット3連覇に向けて万全の状態だ。
- 749 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:27
-
“偉大なるパイオニア”は4シーズン目も先頭をひた走る。
- 750 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:27
- 続いてスペインリーガエスパニョーラ、レアル・マドリードの後藤真希。
こちらは2シーズン目を無事迎えた。
周りの選手たちもほとんど変わらず、連係面に不安はない。
昨シーズンリーガMVPに輝いた後藤。
今シーズンも期待がかかる。
レアルは今シーズン、最高の話題をさらった。
イングランド代表キャプテン、ルイビット・シバサキ獲得である。
この世界中を虜にする貴公子獲得により、
レアルはまさに世界のチームとなった。
目標はもちろんリーガ制覇、チャンピオンズリーグ制覇であり、
それに相応しい陣容となった。
が、一方で不安もある。
昨シーズンまでレアルの守備を一手に引き受けていたフランス代表ボランチ、
マナーミ・コニシシがチェルシーに移籍。
これによりある評論家はレアルはディフェンスが崩壊し、
リーガもチャンピオンズリーグも取りこぼすと予想するほどだ。
- 751 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:27
-
果たして“日本が産んだ天才”のセカンドシーズンは?
- 752 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:29
- そしてイングランドプレミアリーグ、アーセナルの市井紗耶香。
こちらもアーセナル2年目。
特に新加入の選手もなく、
市井は昨シーズン同様、キープレイヤーとして期待されている。
特に今シーズンは勝負の年だ。
昨シーズン、ライバルマンチェスター・ユナイテッドにリーグ戦、
FA杯、チャンピオンズリーグと3冠を獲得された。
今シーズンこそこのライバルに勝たねばならない。
そして市井も“フリーロール”を極めるべく気合いを入れている。
クローキやシバサキ、ミキックらよりも早く“フリーロール”を
極めてみせる。
- 753 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:29
-
“フリーロール”の2年目は果たして?
- 754 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:30
- さて、ここで名前の挙がらなかった海外に所属する
日本人選手について説明を加えねばなるまい。
スペインバルセロナ所属のFW松浦亜弥。
ドイツシャルケ04所属MF藤本美貴。
この2人はそれぞれ動きがあった。
- 755 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:31
- オリンピック決勝戦の前にドイツの地元紙でこの記事が踊った。
『シャルケ04ミキ・フジモト、バイエルン・ミュンヘンに移籍!!』
これは半分だけ当たっていた。
バイエルン・ミュンヘンへの移籍は決まったが、それは来シーズンのこと。
今シーズンはシャルケ04に残留する事が決まった。
これは藤本の希望で決まったことだった。
「あたしはようやく昨シーズンにブンデスリーガにデビューしたばかりです。
まだ、このシャルケ04に恩返しをしていません。ですから、今シーズンはこの
シャルケ04で頑張ってクラブに恩返しをしてから移籍したいと思います。」
これは藤本の言葉だ。
自分をブンデスリーガに引き上げてくれたチームに、
“ミキティ”と名付けてくれた熱いサポーターたちに
恩返しをしてから更なる高みへと目指す。
- 756 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:31
-
“ミキティ”の決意のシーズンがスタートする。
- 757 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:32
- そしてバルセロナの松浦亜弥は。
「えっ・・・・・移籍ですか?」
松浦は信じられないといった表情で尋ねた。
「そうよ。あなたが望むならね。私としては受けて欲しいけど。」
今シーズンよりトップチームのコーチに昇格したガレッジ・ゴリーエが頷く。
オリンピックが終了してすぐ、この話を持ちかけられた。
今シーズンはパリ・サンジェルマンからコヤナギーニョが移籍し、
ポジション争いも過酷なものなるが、松浦は気合いを入れていた。
- 758 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:33
- バルセロナ監督、タケノウチ・ユタカールトはトップもトップ下もこなせる
松浦をナミオラ、コイズミート、コヤナギーニョの貴重なバックアッパーとして見ていた。
が、コーチのゴリーエは1年間のレンタル移籍を強く進言した。
それをユタカールトは受け入れ、監督室に松浦を呼んで移籍の話をしたのだ。
「・・・・・・・・しばらく考えさせてくれませんか?」
松浦はその言葉を言うだけで精一杯だった。
ゴリーエも松浦の気持ちを察して頷いた。
「わかったわ。でも出来るだけ早くね。」
コクッと頷くと松浦は監督室から出て行った。
- 759 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:36
- 「・・・・・私としては本当はマツウラには今シーズンは残って欲しいんだがな。
チャンピオンズリーグにカップ戦もあるし。」
ユタカールトが松浦が出ていった扉を見ながら呟く。
バルサのようなビッグクラブでは試合数は半端でなく多い。
選手の疲労などを考えると、2チーム創れるぐらいの戦力を
保有しなければならない。
それを考えると松浦を移籍させるのは正直痛い。
「でも監督。」
「ああ。」
ゴリーエの言葉に頷くユタカールト。
「わかっている。これがマツウラのため、
ひいてはバルセロナのためだ。」
- 760 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:37
- 『あたし・・・・もうバルサにはいらないのかな?』
松浦は涙目で歩きなれた道を行く。
昨シーズン終盤に試合にも出場するようになり、
今シーズンこそという思いは強かった。
それがここに来て移籍。
楽しみにしていたチャンピオンズリーグも移籍すれば出場できない。
『ひーちゃんにも明日香さんにも市井さんにも会えないや。』
チャンピオンズリーグで会おうと約束していた日本代表の仲間たち。
自分の不甲斐なさを思うと悔しくなる。
その時、ふと肩を叩かれた。
- 761 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:37
- 「どうした?松浦。」
「マ、マコトさん?!」
そこにいたのは日本代表ヘッドコーチ、
いや、この度U−19日本代表監督に就任し、来年のワールドユース、
そして2008年オリンピックを目指すチームを率いることになった
マコト・スティックだった。
- 762 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:38
- 2人はすぐ近くのバル(酒場)に入った。
「で、どうしたんですか今日は?」
松浦がミルクたっぷりのコーヒーを飲みながら聞いた。
「ん、ああ。今日は監督として来たんや。
これからの代表招集についてな。明日にチームに正式に訪問する予定なんやけど、
先に選手の方に伝えとこうと思ってな。」
マコトのこの言葉に松浦の表情が曇る。
マコトもそれに気付く。
「ん、どうした?何かあったのか?」
「・・・・・・・実は・・・・・・」
松浦は今日のことをマコトに話した。
- 763 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:40
- 「なるほどな。移籍か・・・・・・」
マコトはそう言って紅茶を一口飲んだ。
「でもシーズン開幕前に急やな。まあサッカーの世界では無いことも無いけど。」
「ええ。コーチのゴリーエさんの強い勧めで決まったらしいんです。
でも行きたくなければ行かなくていいらしいんです。」
「で、松浦はどうしたいんや?」
「・・・・・あたしとしては正直行きたくないんです。
チャンピオンズリーグもあるし、
何よりポジション争いに負けたままなんて嫌なんです。」
「そうやな。やっぱチャンピオンズリーグには出たいし、
ポジションも奪い取りたいよな。その気持ち分かるわ。」
マコトも頷く。
選手たちはみな負けず嫌いなのだ。
負けたまま、のほほんとしていられるような人間は1人もいないだろう。
- 764 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:41
- 「いくら1年のレンタル移籍だといっても
セビージャじゃ優勝なんて出来っこないし・・・・」
「えっ?」
その松浦の言葉にマコトは思わず飲んでいた紅茶の手を止めた。
「?」
松浦は訳の分からない顔でマコトを見る。
マコトはマジマジと松浦を見て尋ねた。
「なあ松浦。移籍ってレンタル移籍なんか?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?
セビージャへ1年のレンタル移籍。」
- 765 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:41
- しばらく沈黙が流れる。
それを破ったのはマコトの笑い声だった。
「ははははは、何やねんそれ。あーおかし。」
「ム、なんですかそれ?」
松浦がマコトを睨む。
いきなり笑われて気分がいいはずが無い。
「あ、すまんすまん。いや、まさかレンタルとは思ってもみなかったからな。
これでこの悩みは解決やな。」
「えっ?」
松浦は驚く。
そしてマコトは言い切った。
「この移籍は受けるべきや。絶対に行くべき。」
- 766 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:42
- 「松浦はまだ1シーズンスタメンでフルに戦ったことってないよな。」
マコトの言葉に頷く松浦。
ヴィッセル神戸ユースからバルセロナに来たためスペインはもちろん
日本でも1シーズンを戦い抜いた事は無い。
「チャンピオンズリーグももちろん大事や。
けどそれよりも1シーズンフルに戦う方が大事や。
まずは身体にシーズンを戦うリズムを叩き込まなあかんぞ。
オリンピックでもお前は好不調の波があった。
それは身体が連戦に耐えられる状態やないからや。
だからこの移籍は歓迎すべきや。」
- 767 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:47
- 「・・・・・・・」
松浦はマコトの言葉を噛み締める。
確かに自分は好不調の波がある。
というか、試合をこなすごとに段々と調子が下がっていった
ような気がする。
シーズンを戦うリズムか・・・・・・
確かにマコトの言う事は正しい。
が、1つ疑問が生じた。
「でもマコトさん。じゃあ何でさっきはバルセロナに残ることを賛成してくれたんですか?」
「それは完全移籍やと思ったからや。バルサぐらいのビッグクラブになると一度退団すると
ほぼ2度と戻れないからな。松浦はバルサを愛してる感じやったからな。
でもレンタルなら話は別や。1年後には戻れるんやから。
きっとそのコーチのゴリーエさんも今シーズン試合に出たり出なかったりよりも
1シーズンスタメンでフルに出た方がいいと思って移籍話を持ってきたんとちゃうかな?」
マコトの言葉にハッとなる松浦。
いつでもゴリーエは自分の味方だった。
バルサBの時も、トップに上がっても試合に出れない時もいつでも支えてくれていたのだ。
「・・・・・・わかりました。あたし、今シーズンはセビージャで頑張ります。」
松浦はマコトの言葉と、ゴリーエの愛情に決心した。
- 768 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:49
- 次の日、マコトはバルセロナのクラブハウスを尋ねた。
来賓室に案内され、部屋に入るとバルセロナのオーナー、ジョン・ト・ラポルタと
監督のユタカールト、そして松浦がいた。
「ようこそバルサへ。」
ラポルタがスッと右手を差し出した。
マコトはその手をギュッと握った。
「すでにマツウラから聞いているかもしれないが、
マツウラは今シーズンはセビージャにレンタル移籍することとなった。」
ラポルタの言葉に頷くマコト。
「はい、聞いております。しかし保有権はバルセロナにあるので私の意向を
お伝えしておかなければならないと思い、今日はこちらに伺わせていただきました。」
その言葉に満足気に頷くラポルトにユタカールト。
きっちりとこちらの顔を立ててくれている。
- 769 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:50
- マコトはなるべくクラブに顔を出し、挨拶をしようと思っている。
所属クラブと代表は切っても切れない関係である。
その関係が良好であればあるほど良い。
礼を尽くすことによってその関係が良好になるのならばマコトはいつでも
クラブに挨拶にいくつもりだ。
これは共に戦ってきたツンクがいつもしている事だ。
ツンクも頻繁にクラブを訪れ、
礼を尽くしているため日本代表は各国クラブと良い関係を持っている。
- 770 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:51
- 「えー、単刀直入に言うと私のU−19日本代表にマツウラは招集しません。
来年のワールドユース本大会でも同様です。」
このマコトの言葉にホッと胸を撫で下ろすラポルタにユタカールト。
ワールドユースのある来年2005年には松浦はバルセロナに復帰している。
その際に招集されてはバルセロナにとって大きな痛手となる。
リーグ戦にチャンピオンズリーグ、スペイン国王杯。
それからA代表に加えてワールドユースにまで招集されては松浦は潰れてしまう。
それに松浦にとってワールドユースで得れるものは少ない。
普段からレベルの高いリーガでもまれているし、
A代表にも主力として選ばれている。
そんな彼女に移動のリスクを背負ってまでユース代表に選んでも何のメリットもない。
これはインテルの吉澤ひとみ、
レアル・マドリードの後藤真希も同様だ。
マコトはこの2人も選ぶ気はなく、
すでにチームにも選手にも自ら赴き、自分の考えを伝えている。
- 771 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:52
- それからしばらくラポルタたちと今後の話をした後、
マコトはバルセロナを発った。
今度は次のチーム、セビージャに意向を伝えに行くためだ。
松浦は明後日セビージャの本拠地、セビリアに向かうことになっている。
これでしばらくはバルセロナの街ともお別れだ。
しかし1年後、今よりもっと大きくなって帰ってくることを誓う。
- 772 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:53
- セビリアでセビージャのオーナーと監督に今回の意向を伝えた所、
思いのほか大喜びされた。
昨シーズン同じセビリアを本拠地とする永遠のライバル、
レアル・ベティスが4位と大躍進したのに対し、
セビージャは残留圏内ギリギリの17位。
今シーズンは降格候補に挙がっている。
そこへ救世主として名門バルサから期待のアタッカー、
松浦亜弥が加入するのだ。
会長、監督はもちろんセビージャサポーターもこの若き日本代表に熱い視線を送る。
しかし若いため、代表はもちろんユース代表に選ばれる年齢であり、
サポーターたちはこの救世主が移動の疲労でプレーに精彩を欠かないか心配していたのだ。
それがユース代表には選ばないと来たからみな喜んだのだ。
- 773 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:54
- 後にA代表監督ツンクもここを訪れ、
ワールドカップ予選ではさすがに招集するが、
それ以外はなるべくクラブを優先させることを約束した。
今シーズン、この降格候補のセビージャが
リーガエスパニョーラに旋風を巻き起こすとは、
この時誰も予想できなかった。
- 774 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:55
-
“日本のプリンセス”は新天地でスタートを切った。
- 775 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:56
- そして日本でもJリーグが行われている。
オリンピックの期間も中断なしで行われていたが、
オリンピックを戦った選手たちも戻り、熱い戦いが再び始まる。
が、その前に大事な試合があった。
オリンピックが終了したのは8月28日。
海外組はそれぞれ各クラブに戻っていったが、
その他体調がいい数人はしばらくギリシャに滞在していた。
それは9月8日にドイツワールドカップアジア1次予選、
対インド戦がインドのカルカッタで行われるためだ。
- 776 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:56
- この試合に挑んだのは以下の18名。
GK 1 飯田圭織 コンサドーレ札幌
18 ミカ・トッド セレッソ大阪
DF 2 斉藤 瞳 横浜Fマリノス
3 紺野あさ美 コンサドーレ札幌
5 里田まい 鹿島アントラーズ
13 大谷雅恵 ベガルタ仙台
15 小川麻琴 清水エスパルス
16 木村麻美 鹿島アントラーズ
MF 4 戸田鈴音 鹿島アントラーズ
6 保田 圭 柏レイソル
7 平家みちよ 浦和レッズ
8 矢口真里 横浜Fマリノス
10 田中れいな 清水エスパルス
FW 9 村田めぐみ ジェフユナイテッド市原
11 木村アヤカ ヴィッセル神戸
17 高橋 愛 ジュビロ磐田
- 777 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:57
- アジアカップ優勝、そしてオリンピック金メダルの勢いをそのままに
見事に4−0で快勝した。
ゴールは怪我から復帰した村田がハットトリック。
そして木村アヤカも1ゴールを決めた。
そしてこれら全てのアシストは田中れいな。
そのプレーには凄みすら感じられた。
- 778 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:58
- インド戦を終え、国内組の日本代表選手も全員日本に戻り、
再びJリーグの熱い戦いが再開された。
今シーズンよりJリーグは1ステージ制に変更。
チャンピオンシップは廃止された。
それは昨シーズンの札幌の件を受けてのことである。
さらに来シーズンからは16チームから18チームへと
J1のチーム数を増やすことが決定されている。
そのため、今季はJ1最下位のチームとJ2の3位のチームだけが
入れ替え戦を行うという異例のリーグ戦であった。
その結果、優勝争いから脱落したチームで最下位に落ちる心配のないチームは
来シーズンに向けて準備を進めるところもあるほどだ。
上位陣は優勝を目指し、下位チームの心はすでに来シーズンという
少々温度差のあるリーグ戦となった。
- 779 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:59
- そしてJリーグ第19節を迎えた。
ここまでのJ1の順位は首位にコンサドーレ札幌。
安倍なつみ、飯田圭織、紺野あさ美という日本代表でも主力の選手を3人抱え、
堅守からのカウンターでここまで首位をキープしている。
札幌を追うのが横浜Fマリノス。
DFに斉藤瞳、両サイドの高い位置に矢口真里と石川梨華を擁するFマリノス。
札幌追撃の体勢は整っている。
さらに3位に京都パープルサンガ。
DF中澤裕子、MF加護亜依を中心にここまでいい位置をキープしている。
中澤はオリンピック終了後日本代表のみならず、現役も今シーズン限りで退くことを表明。
この日本サッカー界のキャプテンに最後の花道をとチームは一丸となっている。
4位には名古屋グランパスがつけているが、
ゲームメイカーの柴田がイタリアペルージャに移籍したためチーム力低下は否めない。
- 780 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 02:59
- 今節はこの上位4チームの直接対決があり、
非常に盛り上がっていた。
A代表監督ツンクもこの上位対決のうち、
コンサドーレ札幌VS横浜Fマリノス戦を視察に訪れている。
が、U−19日本代表監督マコトが視察に選んだ試合は
現在10位の清水エスパルスと7位柏レイソルの試合であった。
- 781 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:00
- 日本平スタジアムに用意されたVIP席からピッチを見やる。
今日、マコトがこの試合を視察することに決めた理由。
それは自分の描くU−19日本代表の核となるべき選手が
両チームに所属しているからである。
すなわち清水エスパルスMF田中れいなと
柏レイソルFW道重さゆみである。
- 782 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:00
- 「おう小川。今日はベンチスタートね。」
「あ、保田さん、重さん。」
試合前、ベンチ裏で入念にアップをしている小川麻琴に
柏レイソルMF保田圭とFW道重さゆみが話しかけた。
小川は一昨日の練習中に右足を捻り、
この試合はベンチからのスタートとなった。
- 783 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:02
- 「悪いけどあんたがいないんじゃ、
今日の試合はうちが勝たせてもらうからね。」
「勝たせてもらいます。」
保田と道重が自信満々に言う。
確かに小川が抜けるのはエスパルスにとって大きな痛手だ。
が、小川はニッと笑みを浮かべる。
「いや、そう簡単にはいかせませんよ。
何てったってうちにはあいつがいますから。」
そう言ってピッチでアップをしているその選手を指す。
田中れいなだ。
- 784 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:03
- 「・・・・あれ、れいなですか?何か雰囲気が違うような・・・・」
道重が思わず呟く。
オリンピック終了からまだわずか2週間。
しかし、どこか今までの田中とは違う感じがした。
「さすが重さんだね。よく分かったね。
保田さんも分かってると思いますけど、
オリンピックの時のあいつとは全然比べ物にならないですから。
ですから今日はうちが勝たせてもらいます。」
そう言って小川は先にベンチに入った。
- 785 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:03
- 「保田さん、今の小川さんの言葉って・・・・」
道重が不安な表情で保田に尋ねる。
普段は謙虚というか、ヘタレの小川。
その小川が自信満々で勝利すると言い切ったのだ。
「本当よ。確かに小川の言うとおり今の田中は別人よ。
でも、絶対にあたしが抑えきってみせるから。」
小川に言われるまでもなく保田も知っている。
あのインド戦、ベンチでその動きを見ていたのだから。
彼女は今日、かなり気合いが入っている。
- 786 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:04
- ピィー!!!
主審の笛が高らかに鳴り、
Jリーグ第19節、清水エスパルスVS柏レイソルの試合が開始された。
ホームの清水エスパルスは普段は4バックだが、
今日は右サイドバックの小川麻琴が欠場のため
システムを3−5−2に変更してこの試合に臨んだ。
普段は小川のオーバーラップが攻撃に起点となる。
が、今日はベンチスタートのため、
トップ下に入った田中れいなのゲームメイクがこの試合の鍵を握る。
- 787 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:04
- 一方アウェーの柏レイソルは普段どおり4−4−1−1でこの試合に臨む。
レイソルのキープレイヤーは間違いなく道重さゆみだ。
彼女が最前線でターゲットとなり、
その高さを活かしてポストプレーにヘディングと攻撃を仕掛けていく。
もちろんそこに至るまでのプロセスはボランチの保田が演出する。
レイソルはベストメンバーだ。
- 788 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:05
- 前半も30分を過ぎたが、未だ両チームとも無得点。
前半開始直後はレイソルが優勢だったのだが、
時間が経つにつれて両チームとも均衡状態が続いた。
それは何故か?
エスパルス田中れいなの存在だった。
- 789 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:05
- 彼女がトップ下のポジションにいる事で保田が全く攻撃に参加できないのだ。
試合開始直後こそ保田も攻撃に参加していたのだが、
すぐに攻撃を諦めた。
『この試合、ずっと田中に付かないと、抑え込まないと負ける。』
そう思ったからだ。
田中の動きはずば抜けていた。
代表でも1、2を争うディフェンス力を持つ保田を焦らせるほどである。
とにかくプレーが格段に速くなっている。
動きではなく、判断力が格段に速くなった。
そして内面から熱い気持ちがほとばしっている。
今までこんな田中など見た事がない。
- 790 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:06
- だが、相手も保田圭だ。
激しいマークに鋭い読み。
さらには狡猾さも併せ持っている。
それはあのブラジル最新の天才、
バルセロナのコヤナギーニョを抑えこむほどだ。
そう簡単に勝たせてくれるわけがない。
前半30分まで田中は完璧に抑え込まれていた。
- 791 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:06
- しかし田中は怯むことなく何度でも保田に突っかかる。
『・・・・日本じゃもう誰にも負けない。』
田中はあの日、そう誓った。
目の前で憧れの2人が、
悪魔と天使が大きく羽ばたいた。
自分もそれに続くためには、
肩を並べるためには誰であろうと絶対に負けられない。
- 792 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:07
- またも田中と保田が激しくやりあう。
田中は保田を背中で抑えつつボールをキープするが、
前を向く事が出来ない。
背中に凄いプレッシャーを感じる。
「負けない!!」
「うおっ?!!」
が、田中は左手を使って保田を抑えて強引に前を向く。
一瞬保田のバランスが崩れた。
- 793 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:07
- 「ここだっ!!」
その隙を逃さず田中は前線にスルーパスを出した。
このパスはエスパルスFWに最高のタイミングで合った。
が、このパスをエスパルスFWは力んだのかふかしてしまった。
ボールはクロスバーを越えていった。
エスパルス、絶好のチャンスを逃した。
- 794 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:07
- 「ごめんれいな!!」
その選手が手を合わせ、ゴメンと謝る。
「ドンマイです。次頼みます。」
田中はスッと手を挙げ、何事も無かったかのように自陣へと戻る。
が、内心ははらわたが煮えくり返っていたのだが。
「今のは決めてやってよ。」
ベンチでも小川が顔をしかめていた。
- 795 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:08
- 「危なかった。」
ホッと胸を撫で下ろすのは保田圭。
まさか田中にあれほどのパワーがあるとは?
『何か、吉澤と柴田を同時に相手しているみたいね。』
保田はふとそう思った。
ひとみのフィジカルに柴田のテクニック。
そしてさらに田中自身のトリッキーな予想のつかないプレー。
・・・・・・かなり危険である。
「みんな、しっかり集中して守るよ!!」
保田がチームメートにゲキを飛ばす。
- 796 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:08
- 「やってくれるじゃん、れいな。」
道重がのほほんと言う。
でもさゆだって負けないよ?
- 797 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:09
- 「出して下さい!!」
前線で道重がDFを背負いながらもボールを要求する。
ここまでエスパルスDFの密着マークに潰されていた道重。
だが、田中のプレーを見て目の色が変わった。
「お、行け、重さん!!」
レイソルMFから道重にパスが出された。
これをDFを背負いながらもトラップした道重。
身体でDFを抑え、味方の上がりを待つ。
「さゆ!!」
そこへトップ下の選手が左サイドから上がってきた。
道重はその選手にパスを送ろうとする。
が、キュッと小さくターンして前を向く。
- 798 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:09
- 「あっ?!!」
トップ下の選手にパスが出ると思っていたエスパルスDF。
身体が左に流れた所を完璧に道重に抜かれた。
「ここだ!!」
抜け出した道重はペナルティエリアやや外から思い切り左足を振り抜いた。
道重が放ったシュートはゴールポストの内側を叩いてゴールネットに
突き刺さった。
前半41分。
柏レイソル、道重さゆみのゴールにより先制点を上げる。
- 799 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:10
- 「よしっ!!」
会心のゴールに思わずガッツポーズが出る道重。
「ナイスシュート重さん!!」
「さゆ!!」
そこへレイソルの選手たちが抱き付く。
アウェーの柏レイソルが見事な先制点だった。
「ほう。ポストだけやなくて自分でも突破したか。
それに左足で決めるとはな。」
VIP席でマコトは今のゴールに驚いていた。
道重は安倍と同タイプのFW。
味方に活かしてもらう典型的なセンターフォワードだ。
それが今の場面、自分で突破し、
なおかつ距離があるにも関わらず左足で沈めた。
「やっぱこの世代は成長が早いわ。」
マコトが目を細める。
- 800 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:10
- 「くそっ!!さゆの奴・・・・・」
田中が忌々しげに呟く。
まさか道重にあれだけの突破力があろうとは?
『でも、絶対に負けない。』
しかし田中の闘志は衰えるどころか増すばかりだった。
前半はこのまま0−1で終了した。
- 801 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:11
- 後半が開始された。
後半も前半と変わらず、両者均衡状態。
保田が田中を抑えこみ、
エスパルスDF陣も道重を全力で抑えこむという展開。
「くそっ!!」
田中が表情を歪める。
どうしても保田が抜けない。
フィジカル、テクニック、スピード、そして予想外のトリッキーなフェイント。
田中が持つありとあらゆる武器を惜しげもなく使うが、
その壁を越えることが出来ない。
- 802 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:11
- 「ほーう、保田の奴、完全にマジやな。」
VIP席でマコトが腕を組んで呟く。
田中を抑えこむ保田。
その表情は完全に集中しきっている。
その集中度合いはあのブラジルの天才、
コヤナギーニョと対峙した時と同じだった。
- 803 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:12
- 「うわっ!!!」
強引に突破を試みる田中だったが、
保田の激しいタックルに潰された。
ピピピピピッ!!!
しかし主審はホイッスルを吹き、
保田のファウルを採った。
「くそっ!!」
ピッチに倒れ、表情を歪める田中。
こんな事じゃ一生あの2人に追いつけない。
- 804 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:13
- が、一方で保田も苦しい。
「やばいね。段々動きが鋭くなってきてる。」
この試合中も田中はどんどん成長している。
今の突破も正直ファウルでしか止める事は出来なかった。
確かにプレーは全てにおいてコヤナギーニョの方が格段に上だ。
だが、それを補う強い気持ちが田中にはある。
「けどね。あたしがあんたたちに負けるわけにはいかないの。」
保田がギッと田中を睨む。
あたしがあんたのような若い世代に負けるわけにはいかない。
必ずぶっ潰す。
- 805 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:13
- 保田の鋭い眼光が田中を貫く。
が、田中もそれを真正面から受け止める。
自分だって絶対に負けるわけにはいかない。
年齢なんて関係ない。
実力で倒す。
ただ、それのみだ。
ウワアアアアアアアアア!!!!!
スタジアムがこの2人の激しいバトルに大きく沸く。
- 806 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:13
- 試合時間はどんどん過ぎていく。
エスパルスは頼みの綱の田中が完全に抑え込まれているため、
攻撃の糸口がつかめない。
「くそー。あたしがピッチにいたら・・・・」
ベンチからこの試合を観戦している小川が唇を噛み締める。
自分がいたら何とか田中のフォローに入れるのに。
- 807 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:14
- 小川が思うとおり、小川が最初からピッチにいればまた違った展開になっていただろう。
田中が抑え込まれていてもその分サイドにパスを散らす事で
中央のマークを分散する事が出来る。
そうすれば田中のもう1つの武器である前線への飛び出しが活きてくる。
しかし、今日はサイドアタックの要である小川がベンチスタート。
よって中央から攻めるしかない。
しかしそこには保田圭が立ちはだかる。
そして試合は残り10分を切った。
レイソルは前線に道重1人を残し、
その他はみな自陣に引いている。
このまま1点差を守りきるつもりだ。
もちろん保田だけはきっちりと田中のマンマークについている。
- 808 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:16
- と、ここでエスパルスが動いた。
ついに小川麻琴投入だ。
足首の状態は思わしくないが、ここで負けるわけにはいかない。
現在10位だが、下位とは余り差がない。
しかもホームのため、最低でも勝点1が欲しい。
「マコ、頼むね!!」
「はいっ!!」
小川が交代選手とタッチをかわし、
ピッチに飛び出していく。
「小川さん。」
田中がホッとした表情で小川を出迎えた。
この右サイドバックが入ってくれれば絶対に逆転できる。
- 809 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:17
- 小川が入ったことにより、
エスパルスはシステムを4−2−3−1に変更した。
小川は当然右サイドバック。
もちろん田中はトップ下だ。
「ちっ、厄介な!!」
保田は苦虫を潰したような顔だ。
今まで田中を抑え込む事でエスパルスの攻撃を抑え込んできた。
が、小川によって右サイドから鋭い攻撃が繰り出される。
- 810 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:17
- 小川は絶妙なタイミングで上がってくる。
そしてその右足から放たれるクロスは正確無比だ。
浅い位置からでも精度の高いクロスを何本も上げてくる。
この小川に絶妙なパスを送るのが田中だ。
さすがの保田もワンタッチで出されてはどうしようもない。
田中の右足、左足、時にはかかとからも絶妙のパスが配給される。
- 811 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:18
- 「そこで小川を止めろ!!」
「中を固めろ!!!」
保田が声を張り上げる。
サイドから鋭い攻撃が来るので保田もコーチングはもちろん、
カバーリングに回らなければならなくなった。
それが次第に保田の頭から田中の存在が消してしまっていた。
これは保田の痛恨のミスだった。
- 812 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:18
- 後半も残りはロスタイム。
エスパルスボランチから右サイドを駆け上がる小川にパスが出た。
これを受けた小川、DFを1人かわし、右サイドを深くえぐっていく。
そして中に鋭いクロスを上げた。
このクロスに飛び込むエスパルスFW。
レイソルも道重が自陣に戻っており、このクロスに競り合う。
が、ボールは2人の頭を越える。
このボールの落下地点には保田がいた。
- 813 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:19
- 「オッケー!!」
保田がタイミングを合わせて飛ぶ。
が、その瞬間。
自分の真後ろから1人の選手が素晴らしいスピードで飛び込んできた。
田中れいなだった。
「しまっ・・・・!!」
保田が気付いた時にはもう遅かった。
素晴らしいスピードで飛び込んだ田中が抜群の跳躍力でこれを合わせ、
ゴールネットに叩き込んだ。
後半ロスタイム。
エスパルスが田中のヘッドで同点に追いついた。
- 814 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:19
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!
ここで主審の笛が高らかに鳴った。
この試合は1−1で引き分けに終わった。
「くそっ・・・・・」
この結果に腰に手を当て、うな垂れるのは田中。
もう誰にも負けない。
そう誓ったはずなのにいきなり引き分け。
しかも今日の試合は田中にしてみれば完敗。
完璧に保田に抑え込まれてしまった。
小川の助けがなければ試合にも負けていた。
- 815 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:20
-
まだまだだね、あたしは。
まだ2人の背中は遠いや。
- 816 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:20
- 「きーっ、悔しい!!」
思わず奇声を発するのは保田圭。
最後の最後で田中にやられた。
明らかに自分のミスだった。
「・・・・・それにしても。」
保田は田中を見る。
ホント、いつの間にこんな上手くなった?
- 817 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:21
- 「今日の試合は大収穫や。」
マコトが満足気に微笑む。
自分が核にと考えていた道重と田中は期待にそぐわぬ活躍。
もちろん小川もさすがの動きだった。
3バックのセンターもいけるが、やはり小川はサイドバックだ。
「これで4バックシステムのメドがたった。」
マコトがほくそ笑む。
1トップを張れる道重。
1トップ下がベストポジションの田中。
右サイドバックの小川。
この3人が核となれば、
今や世界でよく使われている4−2−3−1システムを
U−19日本代表で試す事が出来る。
大収穫だった。
- 818 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:22
- オリンピックが終了し、それぞれが新たなスタートを切った。
自分のポジションが与えられず、今シーズンは不安の種がある吉澤ひとみ。
チームメートに迎えられ、さらには信頼も勝ち取り、順調な柴田。
そして保田に抑えられたが、可能性を感じさせた田中。
三者三様のスタート。
一先ず2006ドイツワールドカップが最初のゴール。
果たしてそこに最初にたどり着くのは誰か?
- 819 名前:第1話 それぞれのスタート 投稿日:2004/05/19(水) 03:22
-
第1話 それぞれのスタート (終)
- 820 名前:ACM 投稿日:2004/05/19(水) 03:24
- 第三部 第1話 それぞれのスタート 終了いたしました。
ついに第三部まで行かせてもらう事が出来ました。
これも皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
これからもこのCALCIO×3をよろしくお願いいたします。
- 821 名前:ACM 投稿日:2004/05/19(水) 03:25
- 次回予告
第2話 Beautiful Sea
多くの試合を視察に訪れ、
将来日本を背負ってたつ人材を次々と見つけていくマコト。
そんな中、1人の選手に彼は出会う。
そのプレーは美しく、そして海のように雄大であった。
次回もよろしくお願いいたします。
- 822 名前:ACM 投稿日:2004/05/19(水) 03:30
- スレ隠しです。
の前に2点ほどお伝えしておきます。
まず1点目は忘れ者です。
ドイツブンデスリーガ
<ヘルタ・ベルリン>
GK 1 キラリー (ハンガリー)
続いて2点目は今回の話です。
今回の話で松浦さんがヴィッセルユースとありましたが、
これは間違いではありません。
中学時代、部活とユース両方でサッカーをしていたのです。
決して間違いをごまかそうという気など・・・・・・・・
- 823 名前:ACM 投稿日:2004/05/19(水) 03:36
- ではスレ隠しです。
とあるCMが日本で流れた。
「あれ?これひとみちゃんじゃないですか?」
横浜Fマリノスの選手寮で石川と矢口、斉藤がテレビを見ていると
見知った顔がブラウン管に現れた。
「あ、ホントだ。よっすぃーじゃん。」
「それにヨネクランにヤダベドにサ・トエリ?」
矢口と斉藤が他の出演者にも気付いた。
みな男物のスーツを着ている。
「「「あ、これって?!!」」」
- 824 名前:ACM 投稿日:2004/05/19(水) 03:44
- 今日は新入社員を紹介するぜ♪
こいつは中々スゴイ奴♪
きれいでかわいくかっこよく♪
仕事もばっちりモテまくり♪
これはガツンと言うとかな♪
「部長、あいつに一発ガツンと言ってくださいよ。」
「うむ。おい!!新人!!」
「はいっ何でしょうか部長!!」
キラーンと口元が光る。
「・・・・素敵。」
「「「おいっ!!!!」」」
ジョー○ア 『ゴールデンルーキー』 新発売。
- 825 名前:ACM 投稿日:2004/05/19(水) 03:51
- とあるCMでした。
最初にこのCMを見た時、こう思いました。
「おいおい、あの娘が足りひんやろ。」
・・・・・・すみません、軽く流しておいて下さい。
ではまた次回まで失礼致します。
ちょっと変な感じのACMでした。
- 826 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/19(水) 05:15
- 第3部のスタートおめでとうございます。
結局、マサオッティ会長の説得に応じないで、独自の路線を歩むマナーブ監督。
よっすいーの運命はいかにという感じですね。
その他のメンバーは順調なスタートのようですね。
田中VS保田の対決は見ごたえたっぷりでした。
次回の更新楽しみにしています。
- 827 名前:みっくす 投稿日:2004/05/19(水) 06:01
- 第3部のスタートおめでとうございます。
国内リーグも白熱した戦いが繰り広げられそうですね。
よっしーはどうなっていくのですかね。
次回も楽しみにしてます。
- 828 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/19(水) 06:52
- 追伸:トヨタカップが発展して、6大陸選手権が来年から始まるようですね。
ここでもやれれば、もっと面白くなるかな
- 829 名前:名無しぃく 投稿日:2004/05/21(金) 01:00
- 更新お疲れ様です。
いよいよ第三部でございますですね。おめでとうございます。
タナーカいいですね。ヤスーダも熱いですね。マコートも良いキャラ。マツーラもがんがれ。
もっさんかっけーYo!もっさん!やっぱフジモンですな兄貴。
スレ隠しワロタ。次回も楽しみにしてます。
- 830 名前:ACM 投稿日:2004/05/21(金) 11:27
- 826、828>娘。よっすいー好き様
いつもレスありがとうございます。
確かによっすぃーの運命はいかに?って感じですね。
監督は中々曲者ですからね。
トヨタカップから世界クラブ選手権へなりますね。
いずれこの小説でも描ければいいなと思ってます。
827>みっくす様
こちらもいつもありがとうございます。
国内リーグも熱いですよ。現実でもたまにテレビで観ますけど、
すごく熱い戦いをやってますからね。
下手な海外の試合よりよっぽどおもしろいです。
よっすぃーには下手な試合をやって欲しくない所です。
829>名無しぃく様
こちらもいつもありがとうございます。
おかげさまで第三部を始められました。これからもよろしくお願いしますね。
もっさんは義理人情に固いのでございます。そしてきっちり筋を通します。
今シーズンのシャルケ04VSバイエルン・ミュンヘンの試合をお楽しみに。
スレ隠しは・・・・・何も言わないで下さい。
では本日の更新です。
- 831 名前:第2話 Beautiful Sea 投稿日:2004/05/21(金) 11:29
- 土曜日に清水エスパルスVS柏レイソルの試合の
視察に静岡に訪れたU−19日本代表監督マコト。
翌日の日曜日には同じく静岡で行われたジュビロ磐田VSガンバ大阪の試合を視察した。
ジュビロには新垣里沙と高橋愛。
ガンバには辻希美が所属している。
この3人はA代表に常時選ばれているものの、
レギュラー奪取には厚い壁に阻まれている。
しかしまだまだ若いためこれからの飛躍が期待できるし、
ユース代表でそのきっかけを掴んでもらいたいとマコトは思っている。
もちろんユース代表の中心を担うであろう3人だ。
- 832 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:29
- 試合の方はジュビロペース。
中盤で新垣がボールを奪取し、2トップの一角の高橋がゴールを狙う。
それをガンバは辻を中心に必死の守りを見せる。
辻はディフェンス面だけでなくチャンスには積極的に最前線へと飛び出し、
現在13位と低迷するガンバにおいて1人攻守に気を吐いている。
しかし1人ではどうしようも無かった。
高橋に2ゴール、新垣にも1ゴール決められ3−0とジュビロが完勝した。
- 833 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:30
- 「次こそ勝ちましょう!!」
試合終了後、うつむくガンバの選手たちをチーム最年少である辻が元気付けている。
オリンピック予選、そしてアテネオリンピックを経て辻は大きく成長していた。
『新垣は順調に上手くなっているな。運動量も以前よりも増えたみたいや。
高橋は相変わらず動きにキレがある。得点力だけやなくてチャンスメイクも上手いわ。
それよりも辻が予想以上やな。』
- 834 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:32
- 翌週の水曜日にはJ2の試合を視察だ。
J2になると試合のレベルは落ちるかもしれないが、
試合数は多く、また財政難のために各クラブは年俸の高いベテランではなく、
まだ年俸が安くて、将来のある若手を積極的に起用する傾向がある。
U−19日本代表監督であるマコトにとってこれはありがたい事である。
若手は何よりもまず試合に出るべきである。
そうする事で得るものは大きい。
今日は川崎フロンターレ対アルビレックス新潟の試合を見に、
等々力陸上競技場を訪れていた。
- 835 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:33
- 用意されたVIP席でマコトは手元の資料を見る。
そこには昨年行われたU−17世界選手権のメンバー表があった。
この資料によると世界選手権に選ばれたメンバーがこの試合に出場していた。
川崎フロンターレMF清水佐紀、FW夏焼雅とアルビレックス新潟DF須藤茉麻だ。
試合は2−1でホームの川崎フロンターレが勝利を収めた。
フロンターレの2得点は全て夏焼があげた。
1点目は右サイドを駆け上がった清水のクロスを
絶妙なポジショニングからゴールに流し込んだ。
2点目はゴール前の混戦から最後に押し込んだゴール。
アルビレックスのゴールはコーナーキックを須藤がヘッドで押し込んだものだ。
『あの夏焼は安倍タイプだな。生粋のストライカー。』
マコトは夏焼をそうとらえた。
シュートの技術、ゴール前の得点感覚などまさにストライカーだ。
『ただ1トップを張れるタイプやないな。
2トップのファーストストライカー。
夏焼を使うときは2トップやな。』
- 836 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:33
- 夏焼以外にも清水、それから須藤も期待通りの活躍を見せてくれた。
『清水は世界選手権の時は右ハーフやったけど、川崎では右サイドバックか。
・・・・・これは貴重な存在やな。高橋、小川のいいバックアッパーやし、
スタメン起用でも充分やれる。
須藤は高さが魅力やな。紺野と組めばいいセンターバックコンビになるかも。』
まだ数試合見ただけであるが、マコトの中でだんだんとチームが形になりつつある。
ワールドユースアジア予選まであと1ヶ月足らず。
合宿は2週間後だ。
それまでに出来るだけ多くの選手を見ておきたい。
- 837 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:34
- 続いて土曜日、J1第20節ベガルタ仙台VSジェフ市原戦。
数ある試合の中から下位に低迷する両チーム同士の一戦を選んだのは、
両チームとも下位のため、来シーズンに向けて若手を積極的に登用しているからである。
ベガルタ仙台は現在14位と低迷。
大黒柱の大谷雅恵1人に頼りきりという状態である。
チーム事情によってDFとFWをこなす彼女だが、
如何せん他の選手のフォローがない。
そのため大谷1人を抑えれば楽勝である。
- 838 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:35
- しかし今日は違った。
大谷をFWに置き、左サイド、ウイングといえる高い位置に
U−17世界選手権に出場した熊井友理奈をスタメンに抜擢していた。
このスピード溢れるアタッカーが左サイドを駆け上がり、
クロスボールを大谷に供給し続ける。
大谷がその高さを活かしてゴールを狙ったり、
ポストプレーにと活躍する。
- 839 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:35
- が、市原も必死に守る。
市原のゴールマウスを守るのは梅田えりか。
彼女もU−17世界選手権組だ。
身体もまだ発展途上ながら恵まれており、守備範囲も広く技術も安定している。
この梅田が大谷や熊井の攻撃をシャットアウトし、
前線に素早くボールを送る。
そのボールをエースの村田めぐみに配給するのが徳永千奈美。
世界選手権には出場していないが、
ジェフの首脳陣もその才能を高く評価しているMFだ。
試合はベガルタの猛攻を抑えきったジェフがアウェーで勝点1を手に入れた。
- 840 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:37
- 『ふんふん。熊井は左サイドのウイング。スピードなら多分ナンバーワンやな。
梅田は冷静なところがええな。亀井との争いが楽しみや。
それから今日は徳永を見つけられた事が一番の収穫やな。
あのパスセンスはかなりのもんや。』
翌日曜日、次の水曜とマコトは試合を視察に訪れた。
そしてある程度の選手の目星はついた。
しかし、どうしても納得いく選手が見つからないポジションがあった。
左サイドバックである。
- 841 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:39
- マコトの考えるシステムは4−2−3−1。
4−4−2でもいいが、とにかく4バックシステムにしたかった。
現代のサッカーの生命線はサイドアタック。
いかにサイドから崩していくかで勝負は決まる。
その証拠に今世界の各国代表、クラブは軒並み4バックシステムだ。
強豪国の中でオランダとアルゼンチンが3バックシステムをとることがあるが、
オランダとアルゼンチンの場合は両サイドハーフにウイングと、
サイドの高い位置に選手を2人も置いている。
それだけサイドアタックを重要視しているのである。
が、近頃ではオランダも4−3−3(4−2−3−1)に変更している。
マコトもオランダ、イタリア、スペインと世界各国のサッカーを勉強し、
サイドアタックの重要性を痛感した。
そしてサイド攻撃があるからこそ中央からの攻撃も生きてくるのである。
そのサイド攻撃を生かすため、またサイド攻撃を防ぐために
4バックシステムを採用するのであるが、
左サイドバックだけがどうしても見つからない。
- 842 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:39
- いや、こなせる選手はいることはいる。
J2、サンフレッチェ広島の矢島舞美は
守備的なポジションならどこでもこなせるユーティリティープレイヤー。
右利きながらも充分左サイドバックもこなせる。
同じくJ2大宮アルディージャDF中島早貴はセンターバックが本職ながらも左利きであるし、
タイプ的に器用なのでサイドバックもこなせそうだ。
しかしこの2人はあくまで守備の選手。
マコトが求めるサイドバック。
それは守備はもちろん、攻撃もこなしてもらわねばならない。
そうでなければわざわざサイドに2人(サイドハーフにサイドバック)置く意味がない。
- 843 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:42
- 一方、反対側の右サイドバックには小川がいる。
小川はマコトの求める理想的なサイドバックだ。
攻撃力も守備力も兼ね備えている。
そしてその控えの川崎フロンターレの清水も攻撃面でも守備面でも
充分満足できるレベルだ。
小川のような守備にも攻撃にも優れた左サイドバック。
これがどうしても欲しい。
皮肉なことにU−19でなければ人材は豊富だ。
ドイツのシャルケ04に所属する藤本美貴。
鹿島アントラーズの木村麻美。
横浜Fマリノスの石川梨華。
この3人ならば誰が来てもいい。
しかしこの3人はみな同い年で現在20歳。
誰か1人ぐらい1年遅く生まれたってええやんけと、つい言いたくなる。
『うーん。最悪熊井を前で、加護を後ろで使うか?』
そんな事まで考えてしまう。
- 844 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:43
- 「マコトさん!」
ふと後ろから呼ばれた。
「おう飯田。久しぶりやな。」
J1第21節
コンサドーレ札幌VSヴィッセル神戸
札幌厚別公園競技場にマコトは視察に訪れていた。
この試合が最後の視察となる。
2日後、新生U−19日本代表を発表し、
いよいよワールドユースアジア予選に向けて合宿を張るのだ。
- 845 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:44
- 「今日は紺野の様子を見に来たんですか?」
飯田が尋ねる。
「まあな。紺野にはDF陣のリーダーになってもらわな困るからな。
で、怪我の具合はどうやねん?」
「はい、もう大丈夫ですよ。次の試合には復帰する予定です。」
飯田が笑顔を見せる。
彼女が試合に出ていないのは19節の横浜Fマリノス戦でペナルティエリアに侵入した矢口を
止めようと飛び込んだ際に強く接触し、手を痛めたためだ。
「すまんな。せっかくお前が次節に復帰して首位を
追撃って時に紺野を招集することになるけど。」
「いやいや、それは仕方ないですよ。今まで紺野に頑張ってもらってたんで、
今度はあたしが頑張りますから。」
第19節までは首位をキープしていたコンサドーレだが、
やはり飯田欠場の穴は大きく19節は横浜Fマリノスに敗れ、
首位をFマリノスに明け渡した。
そして20節でも東京ヴェルディに敗れていた。
- 846 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:45
- チーム首脳陣の本音としてはこんな状況で紺野を招集して欲しくないのだが、
日本代表に力を貸すのはクラブの務めである。
もちろんマコトも何度も挨拶に訪れ、礼を尽くしている。
そのため紺野や京都の加護亜依、名古屋の亀井絵里といった優勝を狙うクラブの
主力を代表に招集することが出来たのである。
- 847 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:46
- 「絶対に今日勝つべ!!みんな、気合い入れていくべ!!」
「おうっ!!!」
飯田の代わりにキャプテンマークをまいた安倍のゲキに札幌イレブンが応える。
この試合に敗れると横浜Fマリノスに勝点で8の差をつけられてしまう。
それだけにこの試合、絶対に負けられない。
「さ、あたしたちも意地を見せるよ。」
「おうっ!!」
ヴィッセルキャプテン、信田美帆のゲキに応える神戸イレブン。
こちらの順位は8位と優勝にも降格にも縁がないが、
ヴィッセルは来シーズンから球団社長が変わる。
という事はチームも大きく変わるという事だ。
それだけに今いる選手たちは必死にアピールしなければならない。
自分たちは戦えるということを。
そうしなければ次のシーズン、このチームにはいられなくなる。
- 848 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:46
- 「行くよ!!」
アヤカが鋭いドリブルでコンサドーレDFをかわして中にクロスを送る。
このクロスにヴィッセルFWが飛び込むものの、紺野がヘッドでクリアした。
前半20分までの試合展開は完全にヴィッセル。
ヴィッセルはFW木村アヤカが再三右サイドを突破し、チャンスを演出する。
さすがは“オールライト”木村アヤカ。
そのスピード、キレ、テクニックは
海外のクラブも獲得を狙っていると噂されるほどである。
- 849 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:47
- 「あーもう!!アヤカうまいよ!!」
飯田が思わず叫ぶ。
「さすがアヤカやな。」
マコトも頷く。
攻撃は当然アヤカが中心。
守備はベテランGK信田が的確な指示を出し、鉄壁の守りをみせる。
ヴィッセルは攻守共にがっちりと歯車がかみ合っていた。
一方、この試合に勝って優勝戦線に残りたコンサドーレだが
エース安倍が密着マークにより、ボールに触らせてもらえない。
パスが通ったとしても、それは苦し紛れのパス。
いい形で安倍にボールが渡らない。
やはりコンサドーレの弱点は中盤。
ここにパサーがいたならば、安倍の得点力がもっと生きるであろう。
- 850 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:48
- 今日何度目かわからないアヤカの右サイド突破。
「くそっ!!」
たまらずセンターバックの紺野がアヤカを止めるべくサイドに向かう。
ここで一発きっちり止めて、流れを自分たちに戻してみせる。
が、これを見たアヤカ、紺野が来る前に早めにクロスを上げる。
ゴール前に鋭いクロスが上がる。
- 851 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:48
- 「よし、これなら大丈夫!!」
しかし紺野は大丈夫だと確信していた。
クロスは上げさせてしまったものの、
コースを限定させる事はできた。
「ちっ!!」
アヤカもクロスを上げた瞬間、顔をしかめた。
自分が意図したところへ上げられなかった。
ボールはゴールに近い所へ。
充分にGKが飛び出して捕れる位置だ。
- 852 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:49
- が、何とこのクロスにコンサドーレGKは飛び出しが遅れた。
普段は日本bPGK飯田圭織がいるため、このGKの出番はほとんど無かった。
そのため試合勘が薄れていたのであった。
飛び出すタイミングが遅かったため、
伸ばした手はボールに触れなかった。
ボールはファーサイドに。
ヴィッセルFWがフリーでこのクロスを難なく押し込み、
ヴィッセルが先制した。
「ぐっ・・・・・・・」
ギリリと唇を噛み締める飯田。
今のクロス、飯田ならばあっさりと掴んでいた。
紺野も今のクロスで点が奪われるとは思っていなかったため、
思わず肩を落とす。
前半は1−0。
ヴィッセルリードで終了した。
- 853 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:49
- 「うーん、これは後半何とかせーへんとこのままズルズル行くな。」
マコトが前半を見た感想を述べる。
「マコトさんならどうします?」
飯田が尋ねる。
「俺なら左サイドバックを代えるな。
今日のヴィッセルの攻撃は全てアヤカから始まってる。
だからそのアヤカを抑えれば流れは絶対に変わる。」
「なるほど。じゃああの娘の出番かな・・・・」
- 854 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:50
- 後半開始と同時にコンサドーレは背番号37がピッチに出ていた。
「飯田、あの37番って誰や?」
マコトが尋ねる。
見た目はかなり若い。
U−19に当てはまる選手は全員知っているつもりだったが、
あの37番は知らない。
「あの娘は昨日トップチームに昇格したばかりなんですよ。
斉藤美海。年は紺野の1つ上ですよ。
マコトさん、みうなには注目しておいた方がいいですよ。」
「ほーう。」
飯田の言葉にマコトの眼が鋭くなった。
- 855 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:50
- 後半開始から投入されたみうなは左サイドバックの位置に入り、
木村アヤカにピッタリマークにつく。
「みうなさん!!」
「オッケー!!」
紺野の指示に従い、みうながアヤカのマークに付く。
アヤカとみうなの1対1だ。
アヤカがゆったりとしたドリブルから一瞬のスピードで抜きにかかる。
一瞬虚を突かれたみうな、アヤカに置いていかれる。
が、みうなは鋭く反転し、アヤカに追いつきスライディングで止めた。
「なっ?!!」
これにはさすがのアヤカも驚く。
一度完全に振り切ったはずなのに?
- 856 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:51
- 「ナイスみうな!!」
飯田が思わず叫ぶ。
その横でマコトはジッとみうなを見つめている。
『アヤカのスピードにあの体勢からついて行けるんか・・・・・。
かなりの身体能力やな。いや、それにしても・・・・・・』
みうなの身体能力に驚嘆するマコト。
が、それ以上にみうなから何かを感じ取っていた。
- 857 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:51
- 「何、この選手?」
アヤカが表情を歪める。
身体能力は確かに凄い。
が、身体能力だけでは勝てないのがサッカーだ。
アヤカも今まで様々な選手と戦ってきた。
その中には身体能力のカタマリのような選手もいた。
が、ここにいる斉藤美海は少し雰囲気が違った。
- 858 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:52
- 『何か、スケールの大きさを感じる。』
アヤカの率直な感想であった。
確かにまだまだ荒削りだ。
ポジショニングやディフェンスの仕方などもまだまだ甘いし、
ボールコントロールなどはプロとしてギリギリのレベルだ。
が、プレーの一つ一つにスケールの大きさを感じさせる。
さらにその身のこなしはアスリート特有の美しさがある。
アヤカは電光掲示板を見た。
自分のマークの選手は誰なんだ?
37 斉藤美海
『美しい海か・・・・・・ホント、そんな感じだね。
美しくて雄大な海。ぴったりだ。』
アヤカは一人納得していた。
が、勝負は別だ。
必ずこの選手をぶち抜いて追加点をあげる。
- 859 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:52
- 『さすが代表選手のアヤカさん。すごいテクニックだ。』
一方みうなもアヤカのテクニックに驚嘆していた。
自分は身体能力には自信がある。
しかし、それがあるからやっと付いていけるのだ。
一瞬でも気を抜く事はできない。
両者の争いは完全に互角だった。
アヤカが華麗なテクニックでかわしても、みうなが必死に食らいつく。
みうなが身体能力で抑えにかかっても、アヤカがそれをいなす。
組織同士がぶつかり合うのもいいが、やはり個人の勝負も燃える。
この2人に満員の札幌厚別公園競技場が大歓声で揺れる。
- 860 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:53
- 「右サイドばかりにこだわるなー!!逆サイドにも散らせ!!」
最後尾から信田が指示を送る。
その指示に従い、左サイドから攻めようとするヴィッセル。
「そうはいきませんよ。」
しかしそれは彼女が許さない。
日本最高のDF中澤裕子の後継者、“パーフェクトDF”紺野あさ美が。
紺野が的確な指示に、見事なカバーリングで
ヴィッセルの攻撃を全てシャットアウトする。
「さすが紺ちゃんにみうなだべ。後はなっちがゴールを決める。」
DF陣の頑張りに日本のエースも燃えてきた。
必ずゴールを奪ってみせる。
- 861 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:54
- 「ちっ!!」
右サイドの攻防でみうながアヤカからボールを奪った。
「みうな!!」
前線で安倍が呼ぶ。
「安倍さん!!」
すかさずみうなが前線へロングパス。
「来たよ!抑えろ!!」
信田が指示を出す。
もちろんヴィッセルDF陣も分かっている。
日本のエースは絶対にフリーにしてはならない。
これは鉄則だ。
- 862 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:54
- 安倍はヴィッセルDF2人を背負いながらもみうなからのボールをトラップした。
と同時に反転し、2人の間をすり抜けた。
安倍が個人技?
サポーターたちが驚く。
『なっちだって上を目指してるべ!!』
日本のエースと謳われているが、自分よりも上の選手はいくらでもいる。
後藤や松浦などは得点感覚も自分とほぼ変わらないし、
なおかつ彼女たちには個人技がある。
そんな彼女たちに勝つには様々な面でレベルアップが必要なのだ。
- 863 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:55
- 抜け出した安倍、ペナルティエリアやや外から思い切り右足を振りぬく。
強烈なシュートがヴィッセルゴールを襲う。
「くっ!!」
しかしこのシュートをベテランGK信田美帆がコースを読み、
何とか手に当てた。
ボールがこぼれる。
このこぼれ球に最初に反応したのは安倍なつみ。
大抵の選手はボールがこぼれたのを確認してから走る。
が、安倍はこぼれる前から『こぼれるとしたらここだ』と予測して詰めている。
狙うはゴールという獲物。
完全にとどめを刺すまで彼女の集中力が途切れる事はない。
それが真のストライカー。
後半32分。
安倍のゴールによりコンサドーレが同点に追いつく。
- 864 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:55
- 「安倍さん!!」
「なっち!!」
選手たちが安倍に抱き付く。
さすがは日本のエース。
ここ一番の決定力はさすがだ。
「さあ、もう1点取るよ!!」
「おう!!」
安倍が喜びもそこそこにすぐに気持ちを切り替える。
まだ同点。
優勝戦線にとどまるためには、絶対にこの試合勝点3が必要だ。
- 865 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 11:56
- 同点に追いついたコンサドーレ。
その勢いのままヴィッセルゴールへと襲い掛かる。
が、やはりコンサドーレには弱点があった。
中盤だ。
こちらから攻めて、相手を崩していかなければならないがどうしても崩せない。
ただ横パスをつなぐか、前線の安倍に当てるだけ。
ヴィッセルの信田を中心とした組織的な守りを崩せない。
安倍も先ほどは突破できたが、そう簡単に何度も突破できるものではない。
時間はどんどん過ぎていく。
- 866 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:10
- ロスタイムとなった。
前線で3人に囲まれながらも安倍がボールをキープする。
しかしキープするので精一杯で前を向けない。
しかしその時、
「安倍さん!!」
左サイドからみうながアヤカから離れて上がってきた。
もしこれで引き分けると正直もう優勝は厳しい。
Fマリノスが連敗を喫するとは考えられないからだ。
ならば最後のチャンスに賭ける。
- 867 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:10
- 「頼むよみうな!!」
安倍はみうなにすかさず出す。
このパスを受けたみうなはそのスピードを活かしてライン際を駆け上がる。
「行けー!!みうな!!」
VIP席で飯田が叫ぶ。
ここで得点を奪い、次節につなげてくれ。
「サイドで潰せ!!」
GK信田が的確な指示を送る。
がみうなは止まらない。
チェックに来るヴィッセルDFを強引にスピードとフィジカルで振り切る。
- 868 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:11
- 「うおっ!!凄いドリブルや!!」
マコトが思わず叫ぶ。
お世辞にもテクニックはあるとは言えないが、
身体全体を使ったダイナミックなドリブル。
その鋭い身のこなし。
まさに才能の煌きだ。
- 869 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:12
- 左サイドを深くえぐったみうな、中に鋭いクロスを送る。
このクロスはポストの後、ニアに走りこんだ安倍の上を越えていく。
ヴィッセルDFはみな安倍の動きに釣られており、
ファーサイドは全くのフリー。
そこに最後飛び込んだのは最終ラインから上がった紺野あさ美。
彼女も最後のチャンスに賭けていたのだ。
走り込んで来た勢いのままヘッドで合わせる。
が、これを何と信田がビッグセーブ。
何とか手に触れ、ボールはポストに当たって跳ね返った。
「うそっ?!!」
サポーターたちが頭を抱える。
- 870 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:12
- が、それだけでは終わらなかった。
そのこぼれ球を拾ったヴィッセルDFが素早く前線へ。
「OK!!」
このパスを待っているのはアヤカ。
彼女も試合を諦めていなかった。
みうなが上がったのを見てこれはカウンターのチャンスと思い、
ずっと前線で待っていたのだった。
必ず守備陣が止めてくれる。
そう信じて。
ボールを受けたアヤカ、前を向いて爆走する。
コンサドーレDFも2人残っていたが、アヤカのテクニックの前に沈黙。
鋭いまたぎフェイントから一気に2人を抜き、
強烈な弾丸ミドルを突き刺した。
後半ロスタイム。
ヴィッセル、木村アヤカの勝ち越しゴール。
- 871 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:13
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!
ここで主審の笛が鳴った。
2−1でヴィッセルが見事に勝利した。
この笛に溜息をもらすコンサドーレサポーターに選手たち。
これで優勝戦線から一歩後退した。
「あー、もう!!信田さんあれを止めるかなあ・・・・・」
飯田が頭を抱えている。
あれが決まっていればコンサドーレの見事な逆転勝利だったはずだ。
その横でマコトは俯いていた。
しかし内から湧き出てくる喜びを抑えることが出来ない。
最後の試合にしてとうとう見つかった。
自分の理想とする左サイドバックが。
いや、ポジション云々より、日本の将来を背負える選手が見つかった。
今日、この試合にめぐり合った幸運にマコトは感謝していた。
- 872 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:14
- 早速マコトはコンサドーレの球団社長と監督にみうなのユース代表招集の了承を得に、
挨拶に訪れた。
日本代表エースの安倍なつみ、守護神飯田圭織、DF陣の中心紺野あさ美を抱えるこのクラブは
代表に理解があり、今回のみうなの選出にも快諾してくれた。
みうなもまさか自分がユース代表に選ばれるとは思ってもみなかったので、
その知らせにポカンと口を開けていた。
「さすがマコトさんですね。みうなさんを見逃さないなんて完璧です。」
これは同僚の紺野の弁だ。
「なっちもこの娘はいけると思ってたんだべ。」
安倍がなっちスマイルを浮かべる。
ついにU−19日本代表のラストピースが見つかった。
- 873 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:15
- それから2日後。
U−19日本代表が発表された。
GK 亀井絵里 名古屋グランパスエイト
梅田えりか ジェフユナイテッド市原
岡井千聖 ヴァンフォーレ甲府
DF 小川麻琴 清水エスパルス
紺野あさ美 コンサドーレ札幌
須藤茉麻 アルビレックス新潟
矢島舞美 サンフレッチェ広島
斉藤美海 コンサドーレ札幌
中島早紀 大宮アルディージャ
石村舞波 セレッソ大阪
萩原 舞 FC東京
MF 辻 希美 ガンバ大阪
加護亜依 京都パープルサンガ
新垣里沙 ジュビロ磐田
徳永千奈美 ジェフユナイテッド市原
田中れいな 清水エスパルス
清水佐紀 川崎フロンターレ
鈴木愛理 横浜FC
菅谷梨沙子 モンテディオ山形
村上 愛 横浜Fマリノス
FW 道重さゆみ 柏レイソル
高橋 愛 ジュビロ磐田
夏焼 雅 川崎フロンターレ
熊井友理奈 ベガルタ仙台
嗣永桃子 アビスパ福岡
- 874 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:16
- 今回の選出は25名。
この後2週間の合宿を行い、20名に絞ってワールドユースアジア予選である
『AFC U−20サッカー選手権』に向かう。
(本来はU−19で行われるが、来年の本大会に合わせてU−20と表記)
- 875 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:17
- ―――マコト監督、今回はベストメンバーと言っても宜しいでしょうか?
「はい、もちろんです。代表チームはその時その時のベストを選ぶものですから。
今回、充分満足のいくメンバーを招集できたと思っています。」
―――マコト監督が理想とするサッカーを教えていただきたいのですが。
「そうですね。私が理想とするサッカーは自由と組織が融合したサッカーです。
自由と組織、これは水と油のように考えておられる方が多いですが、それは間違いです。
きっちりと組織されたチームにも個人の自由はあります。
ですから上手くバランスをとれるサッカーをしたいと考えています。」
―――今回召集したメンバーならばそれは可能だと?
「うーん、それはどうでしょうか。彼女たちはまだまだこれからの選手ばかりです。
自分の役目としては、この将来性のある選手たちを正しい方向に導いていくことだと思っています。」
―――メンバーの中に札幌の紺野あさ美、京都の加護亜依といったA代表でも主力を張れるような選手がいますが、
やはりこういった選手を中心にと考えていらっしゃいますか?
「そうですね。それはやはりA代表でもまれた経験というのが生きると思います。
紺野や加護の他にも辻や高橋、新垣、小川といった選手もいますし。
しかし、かといって彼女たちのレギュラーが保証されているわけではありません。
徳永や夏焼、それから菅谷といった才能豊かな選手たちもいますし、
レギュラー争いは熾烈なものとなるでしょう。」
―――3週間後にワールドユースアジア予選が始まりますが。
「そうですね。もちろん予選を突破し、来年オランダに行くつもりです。
チームが出来て3週間後に予選ですけれど、彼女たちの力なら充分突破出来ると思ってます。」
マコトは自信に満ちた表情で言い切った。
- 876 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:17
- 日本は見事にオリンピックで金メダルをとった。
しかしそれはもうすでに過去のこと。
それに浸っているヒマはない。
もうすでに新たな戦いは始まっているのだ。
次代を担うであろう選手たちが続々と登場している。
彼女たちを加え、日本は2006ドイツワールドカップ、
そして2010南アフリカワールドカップへと向かっていく。
- 877 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:18
- 果たしてその時にピッチに立っている選手は誰なのか?
日本代表の激しいサバイバルマッチを予感させる
U−19日本代表の選手発表であった。
- 878 名前:第2話 Beautiful 投稿日:2004/05/21(金) 12:18
-
第2話 Beautiful Sea (終)
- 879 名前:ACM 投稿日:2004/05/21(金) 12:20
- 第2話 Beautiful Sea 終了いたしました。
Beautiful Sea 『美しい海』・・・・安易なタイトルですね。
タイトルも何か気の利いたものをと考えるのですが、中々思いつきません。
思いついても内容と合ってないこともあるし、難しいです。
と、今さらですが、題名が最初だけBeautiful Sea であとは
全部Beautiful で切れてました。あれ?
それから今回、田中たち世代の代表ということでキッズが登場しました。
が、年齢がさすがに小学生は・・・・・・ということでみんな田中と同世代、もしくは一個下ということで。
正直キッズは全然分かりません。顔を見ても誰が誰だか・・・・
にしても全員がヴェルディの森○クラスなんですね。
平○でも凄いって言われてたのに。
・・・・・・ま、小説ですし。流してください。
- 880 名前:ACM 投稿日:2004/05/21(金) 12:22
- 次回予告
第3話 欧州開幕
とうとう欧州でリーグ戦が開幕した。
今シーズンはオリンピックで金メダルをとったこともあり、
例年以上に日本人選手が注目されている。
悪魔に天使、パイオニアに天才。
フリーロールにミキティ、そしてプリンセス。
7人の日本人選手がその力を世界に見せ付ける。
次回もよろしくお願いいたします。
- 881 名前:ACM 投稿日:2004/05/21(金) 12:22
- 今回はスレ隠しはなしですが、次回のスレ隠しの予告です。
次回は最近巷でファンが急増中と噂の“武闘派軍団”について取り上げます。
軍団の構成、役職、ポリシーなど様々な情報をお伝えします。
恐らくドンからもメッセージが届くと思われますのでお見逃し無く。
ではまた次回まで失礼致します。
- 882 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/05/21(金) 12:37
- ようやく来たーですね。左のDFでしたか。もう少し前目に来て、ガキさんといいコンビになるかと思ってました。
スレ隠しにJリーグの所属も取り上げてほしいですね。
次回の更新楽しみにしております。
- 883 名前:みっくす 投稿日:2004/05/21(金) 21:38
- やっとでてきましたね。
秘密兵器でしたか。
武闘派軍団編も楽しみにしてます。
あと、おいらもスレ隠しにJリーグの所属も取り上げてほしいです。
では、次回も楽しみにしてます。
- 884 名前:名無しぃく 投稿日:2004/05/22(土) 05:11
- 新しい人がいっぱい出て来やしやたね。知らない人ばっか(w
武闘派軍団・・・(・∀・)ニヤニヤ 楽しみにしてまっせドン。
欧州組もこれからどうなるか楽しみです。
僕もJリーグ所属見たいですね。暇があったらお願いしますm(__)m
- 885 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/22(土) 14:46
- 俺もキッズは全く分からん
ハロプロにはあと三好がいるけど、キッズ以上に見えない上、年行ってるんだよな…
- 886 名前:ACM 投稿日:2004/05/31(月) 11:02
- 882>娘。よっすいー好き様
ありがとうございます。
ようやく彼女を出す事が出来ました。ほんと、やっとです。
ポジションは現実の日本代表がサイドバックで苦労しているみたいなので、
ここで使わせてもらいました。
883>みっくす様
ありがとうございます。
そうです、秘密兵器でございます。ついに登場です。
それにしては秘密の期間が長かったなあと思ってます。
危うく最後まで秘密兵器になりかけました。
884>名無しぃく様
ありがとうございます。新しい人がいっぱい出てきました。
作者もはっきり言って全然知りません。
いよいよ欧州でもシーズンが開幕します。
新チームに移った選手もいますので、その活躍にご期待下さい。
885>名無飼育さん様
ありがとうございます。
作者もキッズは全然分からないんですよ。
でも、彼女らがいないと次の段階に進めないので登場していただきました。
あと三好さんですか。すみません、全然知らないです。また調べます。
では本日の更新といきます。
- 887 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:08
- Jリーグ第21節が行われた日から3日後。
ついに欧州でシーズンが開幕した。
今季もまた、海の向こうで熱い戦いが繰り広げられる。
海外の日本人選手の試合は以下の通り。
<イタリアセリエA>
インテル VSモデナ (インテル・吉澤ひとみ)
ユヴェントスVSエンポリ (ユヴェントス・福田明日香)
ペルージャ VSシエナ (ペルージャ・柴田あゆみ)
<スペインリーガエスパニョーラ>
レアル・マドリードVSレアル・ベティス (レアル・マドリード・後藤真希)
セビージャ VSアトレチコ・マドリー (セビージャ・松浦亜弥)
<イングランドプレミアリーグ>
アーセナルVSエバートン (アーセナル・市井紗耶香)
<ドイツブンデスリーガ>
シャルケ04VSボルシア・ドルトムント (シャルケ04・藤本美貴)
全ての日本人選手はホームで開幕戦を迎えた。
- 888 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:09
- まずはイタリアセリエAの3選手から見ていこう。
本拠地ジュゼッペ・メアッツァで開幕戦を迎えたインテル、吉澤ひとみ。
初戦の相手は昨シーズン13位で何とかセリエA残留を決めたモデナ。
今季こそ悲願のスクデットを獲得するには絶対に勝たねばならない相手だ。
インテルはこの試合が今季最初の公式戦ではない。
シーズン前にチャンピオンズリーグ予備戦を戦っていた。
相手は昨シーズンポルトガルリーグ2位のベンフィカ。
2試合とも1−0でインテルが勝利し、
見事にチャンピオンズリーグ本戦出場を決めた。
- 889 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:09
- が、これは当然のことである。
インテルは何といっても昨シーズンのファイナリストだ。
それが予備予選で消えるなどあってはならない。
大事なのはその戦いの内容、特にメンバーだ。
初戦はホームで迎えたが、その際の2トップはヨネクランとヤイコ。
ひとみはベンチで戦況を見守っていた。
が、2戦目アウェーでの試合はヨネクランとひとみが2トップを組み、
ヤイコがベンチを温めた。
マーナブは自分の哲学を決して曲げなかった。
システムはフラットな4−4−2。
そして堅守からの速攻だ。
ホームで攻撃にいける時にはテクニックがあり、ゲームメイクも出来るヤイコ。
アウェーでガチガチに守って正真正銘2トップだけに任せる場合はひとみ。
マーナブは2人をこのように使うと、2試合の采配から評論家たちは予想した。
- 890 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:10
- 今日はホーム。
しかも相手は完全に格下。
となると先発はヨネクランとヤイコ?
この試合にわざわざ日本から駆けつけたサポーターたちは、みなやきもきしていた。
ここで場内アナウンスが流れる。
いよいよ開幕戦を迎えるメンバーの発表だ。
- 891 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:10
- オオオオオオオオ?!!!
インテルの選手発表でスタジアムから大きなどよめきが起こった。
それはこの3人の名前が呼ばれたからだ。
「MF、背番号20、アルバロ・ヤイコ!!」
「FW、背番号10、ヒトミ・ヨシザワ!!」
「FW、背番号32、ヨネクラン・リョウコ!!」
- 892 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:11
- 「よしっ!!!!」
この発表に思わずガッツポーズをとるインテル会長、イブ・マサッティ。
これで“3Y”による“ジェットストリーム”をみなに見せ付けられる。
もちろん日本から来たサポーターたちも、そしてインテリスタたちも大喜びだ。
が、首を傾げるのは記者たちだ。
あのマーナブが自分の哲学を曲げた?
「ふん。これは俺の戦術だ。」
マーナブが口元を歪める。
堅守速攻は変わらない。
が、前線の2人の高さを活かすには精度の高いロングパスが必要だ。
右にはタカコッティがいる。
ならば左にヤイコを持ってくれば2トップの高さがもっと生きる。
そう考えた上での“3Y”の起用であった。
- 893 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:12
- 日本人サポーターやインテリスタたちが期待に胸を膨らませて迎えた開幕戦。
試合も後半に入り、25分を過ぎた。
「・・・・・ダメなのか?」
インテル会長イブ・マサッティが呆然とした表情で呟く。
ここまでスコアは0−0と両チーム得点なし。
ひとみ、ヨネクラン、ヤイコの“3Y”も引いた相手に全く機能せず。
相手のモデナにしてみれば今日は大事な開幕戦。
相手は完全に格上のインテルでしかもアウェーでの戦いだ。
ここは勝点1が取れれば万々歳だ。
そのため、ほぼ全員が自陣に引いて守っている。
相手が攻めてきた時こそインテルのサッカーは輝く。
が、こちらから攻めるとなるとどうしても手が止まる。
引いてきた相手をどう崩していくか。
それがインテルの課題である。
- 894 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:12
- しかし、相手は圧倒的に格下。
選手個人個人の能力では圧倒的にインテルが上だ。
いくらガチガチに守ろうがインテルの選手たちならば崩せるのでは?
そう思うが、インテルは彼女が大ブレーキになっていた。
左サイドに配置された天才、アルバロ・ヤイコ。
彼女が全くと言っていいほど機能していない。
これにはさすがのマーナブも計算違いだったようだ。
この天才に左サイドは窮屈すぎるのだ。
前線で自由に動かしてこそアルバロ・ヤイコの実力が発揮できるのだ。
自分の意思で左サイドに流れるのと、
最初から左サイドに固定されるのでは大きく違う。
天才の左足に戦術という足枷がはめられていた。
- 895 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:13
- 「リナさん!!」
ひとみが中盤に下がってリナメイダからボールをもらう。
相手はガチガチに引いて守っている。
だがこんな状況はオリンピック予選やワールドカップ予選で経験済みだ。
だからここはミドルで崩す。
ひとみは前を向くやいなや、右足を思い切り振り抜いた。
強烈なシュートがモデナゴールを襲う。
が、これは惜しくもクロスバーを越えていった。
「ちっ、外したか。」
ひとみが表情を歪める。
「ドンマイ!ナイスシュート!!」
ヨネクランがオッケーと手を叩く。
ひとみの狙いは悪くない。
引いた相手にはミドルを撃ち、前に引き出さねばならない。
- 896 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:13
- ひとみのミドルをきっかけに他のインテル選手たちもミドルを狙い始めた。
右サイドのタカコッティが中に切れ込み左足でゴールを狙う。
さらにはセンターハーフのリナメイダまでもミドルを狙っていく。
だがモデナも懸命に身体を張って守る。
残り時間はロスタイムのみになった。
モデナDFの必死の粘りにインテルはミドルを放っても崩す事が出来ない。
この辺りはさすが守備の国イタリア。
下位チームでもディフェンス組織はしっかりしている。
- 897 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:14
- 左サイドでヤイコがボールをもらう。
ここまで何の活躍もない天才。
「ヤイコ!!」
ヨネクランがゴール前で手を上げる。
もう時間がない。
ヤイコはすかさず中に鋭いクロスを送る。
このクロスにヨネクランが飛び込む。
が、モデナDF陣も必死に身体を張る。
激しい競り合いにより、選手たちが倒れこむ。
- 898 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:14
- ピピピピピピッ!!!
主審がけたたましく笛を鳴らし、走ってきた。
そしてペナルティスポットを指差した。
インテル、終了間際にPKを獲得した。
「何で今のがPKなんだ?!!」
モデナの選手たちが主審に抗議する。
何もファウルなどしていないはずだ。
が、主審は首を横に振るだけ。
当然ながらこの抗議は認められない。
- 899 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:15
- 「・・・・・・・」
ひとみは内心複雑だった。
確かに今のはファウルではないだろう。
主審がホームのインテルよりの判定を取ったのだ。
「・・・・・これもサッカーか・・・・」
ひとみはそう思うしか出来なかった。
このPKをヨネクランが見事にゴールネットに突き刺した。
インテル、試合終了間際にとうとう先制点。
- 900 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:15
- さらにこの失点で気落ちしたモデナの一瞬の隙を突き、
ひとみがペナルティエリア外から強烈なミドルを叩き込んだ。
このゴールには日本から来たサポーターたちは大いに喜んだ。
結果は2−0でインテルの勝利に終わった。
勝つには勝ったが、内容的には不満の残る一戦だけあって選手たちに喜びの色は無かった。
はっきり言って主審の笛に助けられた一戦だった。
インテルにとって今シーズンに不安を抱かせる開幕戦となった。
- 901 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:16
- 続いて福田明日香の試合を観てみよう。
ユヴェントスVSエンポリ
本拠地デッレ・アルピでシーズン開幕を迎えた王者ユヴェントス。
怪我人も無く、ベストメンバーで臨んだ開幕戦。
相手は昨シーズン旋風を巻き起こしたエンポリ。
しかし旋風の立役者となった吉澤ひとみ、マユコ・ハカセ、
ディ・カリーナが揃って今オフに移籍。
今シーズンのエンポリに旋風を巻き起こす力はない。
- 902 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:17
- 「さ、今シーズンも我々ユーヴェが勝つよ。それがユーヴェの使命だから。」
キャプテンのハセキョンがみなにゲキを飛ばす。
王者ユーヴェにとってスクデット以外は2位も3位も同じだ。
常勝。
それこそ王者に課せられた使命なのだ。
- 903 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:17
- 「さ、行こうマツシマ、ヤダベド、マヤミッキ。」
「オッケー、アスカ。」
「よしっ。」
「行くぞ。」
福田の声に応えるマツシマ、ヤダベド、マヤミッキ。
セリエAのみならず欧州でも最強を狙う中盤。
それが公式戦で初披露される。
そしてその中心は一番身体が小さいこの人。
背番号18福田明日香だ。
- 904 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:17
- 「右来てるよ!!」
「ヤダベドがフォローに来てる!!」
「そこでボールキープ!!」
中盤で背番号18の声が何度も響き渡る。
その的確な指示はユーヴェを見事に操っている。
もちろん指示だけでなく、自らが率先して動く。
昨シーズン同様チームの心臓として君臨する福田明日香。
今シーズンはさらにその存在感が増していた。
- 905 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:18
- 『・・・・アスカと同じチームでよかった。』
そう思うのは“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマ。
福田が後ろにいてくれるおかげで自分は攻撃に専念できる。
それはハセキョンもそうだし、マヤミッキも当然そう。
そして新加入のヤダベドも同じく福田と同じチームでよかったと思っていた。
技術・体力・気力・戦術全てが揃っている。
こんな選手を相手にしたくない。
- 906 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:18
- 試合は格の違いを見せつけたユヴェントスが圧勝。
特に“黄金の中盤”が際立っていた。
攻撃力bPのマツシマ。
守備力bPのマヤミッキ。
攻撃、守備の両方を兼ね備えるヤダベドに福田。
この4人ならばどんな状況にも対応できた。
得点はFWハセキョンが2ゴール、MFマツシマが1ゴール、
新加入のMFヤダベドが2ゴールをあげ、
エンポリの反撃をコーナーキックからの1失点だけに抑え、
5−1でユヴェントスが勝利した。
- 907 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:19
- 「よしっ!!」
試合終了の笛と同時にみな、誰彼と無く福田のもとに集まってくる。
マツシマ、ハセキョン、ヤダベドとワールドクラスはぞろぞろいるが、
誰がユーヴェの中心であるのかはっきり分かる絵であった。
福田はその一人一人と手を合わせる。
やはりどんなチームであっても、選手であっても開幕戦は特別だ。
それを見事に快勝しただけに、いつもは無愛想な福田も思わずはにかむ。
それが余りにも珍しかったため、
その日の夜のサッカーニュースでは福田のはにかむ姿が映し出された。
これを見た福田はピキッと固まってしまったらしい。
次の日、ハセキョンやマツシマたちにからかわれる福田の姿があった。
まあ何はともかくまずは王者ユヴェントス、スクデット3連覇に向けて好発進。
福田明日香は今シーズンも順調なスタートを切った。
- 908 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:19
- そして最後にペルージャVSシエナ。
両チームとも目標はセリエA残留。
それだけにこの開幕戦、勝点3を取りたいところである。
ペルージャに今シーズンより加入した日本代表柴田あゆみ。
そのデビュー戦は華々しいものであった。
3−5−2のトレクァルティスタの位置で先発出場した柴田。
ペルージャの攻撃をリズムよく指揮していく。
- 909 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:20
- 「アユミ!!!」
ペルージャFWがスッとDFラインの裏をとる。
もちろん柴田がそれを見逃すはずがない。
「ぐっ!!」
が、パスを出す瞬間後ろからの激しいタックルに倒された。
右足を抑えて表情を歪める柴田。
『さすがセリエA。チェックが速い。』
中盤でのプレスの掛け合いはさすがだ。
だが、こんな事で負けるわけにはいかない。
ライバルは昨シーズン、これを跳ね返したのだから。
- 910 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:21
- 「大丈夫かアユミ?」
「大丈夫。それよりチャンスだね。」
チームメートの気遣いに微笑む。
今日は大事な開幕戦。
痛いなど言ってられない。
それにゴールまで26mほど。
絶好の位置でのFKだ。
柴田がボールをセットする。
壁は6枚。
シエナGKはジッと柴田を睨んでいる。
と、その時柴田は一瞬視線をスッと流した。
その先にはファーサイドに走り込むペルージャFWの姿が。
シエナGKは一瞬だけペルージャFWに意識がいった。
- 911 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:21
- 『今だ!!!』
次の瞬間、柴田はワンステップで左足を振り抜いた。
ボールは壁を越え、ゴール右隅に。
「しまった!!」
シエナGKが気付いた時にはもう壁を越えていた。
懸命にボールに飛びつくが届かなかった。
前半38分。
柴田あゆみ、FKにより見事な先制点を上げる。
「よしっ!!!」
思わず出たガッツポーズ。
その背に降り注ぐ大歓声。
ペルージャのホームスタジアム、
レナト・クーリはこの日本人の一撃に大きく揺れた。
- 912 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:22
- 後半に入っても柴田は止まらない。
その自慢のタクトでペルージャの攻撃を指揮していく。
そのタクトに操られ、ペルージャの選手たちが気持ちよく攻撃を仕掛けていく。
そして後半13分、ついに出た。
チェックに来たシエナボランチをかわす柴田。
『見えた!!』
その瞬間白い道が柴田の目に映った。
柴田の左足が振り抜かれた。
- 913 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:22
- ボールはふわっと弧を描き、DFラインの裏に走りこんだペルージャFWのもとに。
裏へ出すタイミング、その選手の走るスピード、利き足。
全てが計算された最高のパス。
“天使のパス”だ。
こんなパスを外すようではFWは務まらない。
ペルージャFWはこのパスをきっちりとゴールネットに押し込んだ。
後半13分。
ペルージャは追加点をあげた。
- 914 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:23
- 「アユミ!!!」
選手たちが柴田の背中に飛び乗る。
ペルージャのサポーター、グリフォーネたちも大歓声を上げる。
今日のプレーでチームメートはもちろんのこと、
ペルージャサポーター、グリフォーネからも
全幅の信頼を受けるようになった。
「アユミ!!」
後半24分。
ペルージャ監督は柴田を呼んだ。
柴田を守備的な選手と交代させる。
残りは20分ちょっとだ。
後はしっかりと守りきればいい。
「ナイスプレーアユミ!!」
「オッケー!!」
選手たちが柴田に声をかける。
グリフォーネも柴田に大声援だ。
その声援に応えながら柴田はピッチを後にした。
- 915 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:24
- ところが開幕戦は最悪の結果に終わった。
柴田が下がったことにより、ペルージャは攻撃の起点を失った。
それを見越したシエナが総攻撃を仕掛けてきたのだ。
セリエAには得失点差という概念がない。
ようは結果だけだ。
2−0で負けようが5−0で負けようが一緒だ。
だからこそシエナは攻める。
この圧力にペルージャディフェンス陣は耐え切れなかった。
立て続けに2失点を喫し、同点に追いつかれてしまった。
- 916 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:24
- 結局柴田のデビュー戦は2−2の引き分けに終わった。
チームは勝利を飾れはしなかったものの、
1ゴール1アシストと個人としては最高の開幕戦であった。
翌日の新聞でも福田、ひとみに続く日本人を称える記事で一杯だった。
柴田あゆみ、まずはイタリアに大きな一歩を踏み出した。
セリエAの3選手は、個人としてはまずまず順調なスタートを切った。
- 917 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:25
- 次にスペインリーガエスパニョーラの2人、後藤真希と松浦亜弥を見ていこう。
王者レアル・マドリードは初戦を昨シーズン4位のレアル・ベティスと迎えた。
今シーズン、世界の貴公子ルイビッド・シバサキを獲得したレアルだが、
評論家はみな今シーズンのレアルは危ないと見ていた。
それは昨シーズンまで中盤の汗かき役としてレアルを支えてきた
フランス代表マナーミ・コニシシがチェルシーに移籍したためだ。
今までレアルがその自慢の攻撃を発揮できていたのもコニシシの存在があってこそだった。
その代わりに加入したシバサキは攻撃の選手。
これではディフェンスはあまりに脆くなるというのが一般的な見方であった。
- 918 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:25
- しかし、この予想は大きく外れることとなる。
「そっち行ったぞ!!」
「オッケー!!」
レアルの選手たちが声を掛け合い、積極的にディフェンスを行う。
それはDFのイナモリッド・イズミや、リナン・ウチヤマだけではない。
中盤の選手はもちろん、FWの後藤やヒカルドまでもが
前線から積極的に守備を行っている。
「ど、どうしたんだレアルは?」
「こんなに守備をするチームだったか?」
スタンドからこの試合を見つめる評論家たちがみな一様に驚く。
コニシシが抜けたにも関わらず、
明らかにレアルはディフェンス力が向上している。
- 919 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:26
- ベティスが得意のサイドアタックを仕掛ける。
チームの顔であったミホチャン・シライシはバレンシアに移籍したが、
このチームのサイドアタックはいまだ健在だ。
しかしレアル左サイドバックのジュディマリ・ユッキーは
このサイドアタックに備えていた。
普段は攻撃ばかりで守備をサボる所があったのだが、この試合は違った。
上がってもしっかりと戻ってくる。
そしてボールを奪った。
「ルイ!!」
ジュディマリ・ユッキーはすかさずボランチに入ったシバサキにボールを預ける。
ボールを受けたシバサキ。
その眼が前線をとらえた。
- 920 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:27
- 「マキ!!」
シバサキの黄金の右足が振り抜かれた。
ボールは、はるか50m先をトップスピードで走る後藤の足元へ。
『す、すごい!!何てパス?!!』
後藤はシバサキの右足の精度に驚きを隠せなかった。
あの距離からこのタイミングにスピード?
まさにシバサキ以外出せないパスだ。
「くっ!!」
慌ててベティスDF陣は戻り、
ベティスGKは前に詰めてくる。
「あっ?!!」
思わず叫んだのはパスを出したシバサキ。
後藤はこのパスを、真後ろから来たパスをダイレクトで中に折り返したのだ。
そこにはヒカルドがフリーで走りこんでいた。
ヒカルドはこれを難なく押し込んだ。
王者レアル、まずは“フェノーメノ”ヒカルドの先制点。
- 921 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:28
- 「ナイスパス、ゴトウ!!」
ゴールを決めたヒカルドが後藤とハイタッチをかわす。
「いや、あれはシバサキのパスだよ。」
後藤はパスを出したシバサキにグッと親指を立てる。
シバサキは後藤に手を上げて応えた。
が、内心はかなり驚いていた。
『あの真後ろから来たパスを、トップスピードのままダイレクトで中に折り返すなんて。
・・・・・さすがマキ・ゴトウだ。』
世界の貴公子も“日本が産んだ天才”の実力に驚嘆していた。
- 922 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:28
- さらにレアルは攻める。
中盤での激しいプレスからシマタニッソがボールを奪った。
すかさず右サイドに開いたクローキにパス。
これを受けたクローキ、右サイドから中に切れ込む。
この天才ドリブラー相手にベティスDF陣はうかつに飛び込めない。
その時、クローキの後ろから右サイドライン方向にシバサキが勢いよく上がった。
この動きに一瞬気を取られたDFを見逃さずクローキが中央へスルーパス。
これに反応したのは“日本が産んだ天才”後藤真希。
またもGKが飛び出してくる。
今度はヒールキックだった。
クローキのパスをヒールで後ろに流した後藤。
そこには“スペインの至宝”ユウーコ・タケウッチャンが走りこんでいた。
飛び出してきたGKの頭上を越えるループシュートで見事ゴールネットを揺らした。
- 923 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:29
- 「何だ今季のレアルは?」
「今までのレアルとは一味違うな。」
評論家たちが思わずうなる。
それはレアルのサッカーが変わっているからだ。
まずはディフェンス面。
誰もがサボらずきっちりとディフェンスをしている。
レアルの売りはその攻撃力。
少々失点しようがその分取り返せばいいというサッカーだった。
が、この試合でのレアルはしっかりと守備を固めている。
- 924 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:29
- これは何故か?
答えは2つある。
まずは選手の意識が変わったことが挙げられる。
コニシシがチームを去ったことで選手たち全員が守備に危機感を持った。
今まで頼りっきりだったコニシシの分まで自分が守らねばという気持ちが
選手全員に芽生えたのだ。
今までほとんど守備にまわらなかったFWのヒカルドも、
時折中盤に下がってディフェンスをするほどである。
これこそまさに怪我の功名であろう。
- 925 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:30
- それから次にシバサキの加入があげられる。
このシバサキ、甘いマスクに派手な私生活と、華やかな印象を受けるが、
サッカーに関しては実に泥臭い。
とにかくよく動くのだ。
マンチェスター時代には1試合に15km走ったという記録もある。
MFは1試合で10km走ればかなり走った方である。
それが15kmだから、いかによく走るかが分かる。
その彼女がボランチの位置に入り、
ピッチを縦横無尽に動き回って相手の攻撃の芽を摘んでいくのだ。
以上のことからレアルはコニシシがいた時よりもチーム全体の守備意識が高まったのだ。
- 926 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:30
- さらにシバサキ加入により攻撃面でも大きく変化した。
レアルの攻撃がダイナミックなものになったのだ。
今までのレアルは細かいパスをつないでゆっくりと攻めていくというサッカーだったが、
シバサキの黄金の右足で1点目のような一気に前線へロングパスといったサッカーも出来るようになった。
さらには大きなサイドチェンジも織り交ぜるなど、ピッチ全体を使うようになったのだ。
「ふふふふ。シバサキ獲得はユニフォームの売り上げを伸ばすためだけじゃない。
レアルが更に高みに昇るために必要だったからだ。」
レアル監督クワター・ケイスケがニヤリと笑う。
遅攻も速攻も、短いパス交換も大きな展開もレアルは手にしたのだった。
- 927 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:31
- この後、後藤が鋭いドリブル突破でファウルをもらって得たFKを
シバサキが見事にゴールネットに突き刺した。
さすが世界一のFKを持つといわれるルイビット・シバサキ。
きっちりと決めた。
昨シーズン4位の強豪、ベティスとの開幕戦を3−0で快勝したレアル。
会心のスタートを切ったといえるだろう。
我らが後藤真希もゴールこそなかったものの3得点全てに絡んだ。
今季も後藤はやってくれそうだ。
- 928 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:32
- 続いて今シーズンバルサからセビージャにレンタル移籍した松浦亜弥。
相手は名門アトレチコ・マドリー。
いくらホームとはいえ相手は強豪。
サポーターたちも勝点1が取れれば上出来と考えていた。
「絶対に勝ちましょう。」
しかし彼女はそうは思っていなかった。
松浦亜弥だ。
相手がどこだろうと最初から負ける気なんて更々ない。
「アヤの言うとおり。この試合勝とう。」
松浦の言葉に続くのはセビージャ期待の選手、
背番号11キク・カワ・レイエス。
スピード豊かなドリブラーであり、パスもうまい。
トップ下のレイエス、1トップの松浦が今季のセビージャの生命線だ。
- 929 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:32
- 試合が始まった。
アトレチコはスペイン期待の若手FWミムランド・ミームラを中心に
セビージャゴールへと襲い掛かる。
しかし最後のところではセビージャディフェンスが身体を張って止める。
レイエスはもちろん、1トップの松浦も積極的にディフェンスをする。
そしてボールを奪った後は手数をかけず、素早く前線へ。
松浦、レイエスというスピードとテクニックに優れた2人がアトレチコの喉元に
鋭く襲い掛かる。
- 930 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:33
- チャンスは圧倒的にアトレチコが多いが、
セビージャも鋭いカウンターで盛り返す。
両チーム、一進一退の攻防。
そのまま時間が過ぎ、両チーム共に無得点で引き分けかと思われた後半42分。
セビージャDFがクリアしたボールを松浦が必死に追う。
しかし先に追いついたアトレチコDFがダイレクトで前線に送る。
が、このボールはコースに飛び込んだ松浦の身体に当たった。
それはちょうどアトレチコGKとDFの間にポトリと落ちる。
- 931 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:34
- 「チャンスだ!!!」
これを見た松浦、すかさず走る。
「くっ!!」
アトレチコDFは必死に戻る。
GKも飛び出してくる。
追う松浦。
戻るDF。
飛び出すGK。
一番先に触れたのは松浦だった。
爪先でとらえたボールはGKの足元を抜け、
ゴールネットに吸い込まれていった。
- 932 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:34
- ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!
まさかの先制点にセビージャのホームスタジアム、
サンチェス・ピスファンが大きく揺れる。
やっぱり彼女は救世主だ!!
セビジスタたちが大歓声を背番号13、松浦亜弥に送る。
松浦は45500人の大声援に右手を上げて応えた。
この松浦のゴールを守りきり、
セビージャは強豪アトレチコ相手に貴重な勝点3を手に入れた。
- 933 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:35
- 「よしっ!!」
試合終了の笛を聞き、松浦はグッと拳を握り締める。
初戦を見事に勝利を飾れた。
これで次節、いい状態で臨める。
松浦の思いはあの慣れ親しんだスタジアムへと飛んでいた。
セビージャの次節はアウェー。
対戦相手はFCバルセロナ。
- 934 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:36
- イングランドプレミアリーグも熱戦が繰り広げられた。
アーセナルの市井紗耶香はホームにエバートンを迎えた。
「必ずマンUを倒す。」
これが今シーズンのアーセナルの合言葉だ。
昨シーズンは見事に3冠を獲得された。
今シーズンは必ず雪辱してみせる。
「頼むぞイチイ。」
アーセナル監督、名将ザイゼン・カラサワが市井紗耶香に熱い視線を送る。
彼は今シーズンのアーセナルは市井にかかっていると睨んでいる。
アーセナルは今シーズンほとんど補強をしていない。
ほぼ昨シーズンと同じメンバーだ。
その中で一番成長に期待できるのが市井紗耶香なのだ。
- 935 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:36
- 昨シーズン、初めて中盤センター、フリーロールのポジションを任された市井。
序盤はかなりの戸惑いを見せたが、次第にモノにしつつあった。
それだけに今シーズンは更なる向上が見られるであろう。
つまり、市井が伸びた分だけアーセナルの力も伸びていくのだ。
当然この開幕戦も中盤センター、フリーロールのポジションで先発した市井。
精力的に動き、攻守に渡ってチームに貢献する。
「サヤカ!!」
センターハーフで市井とコンビを組むタカコリック・トキーワから
前に上がった市井にパスが出る。
市井もトキーワもお互い攻撃も守備も担当するが、
どちらかと言えば市井が攻撃担当、トキーワが守備担当だ。
この2人のコンビネーションも昨シーズンとは比べ物にならないほど良くなっている。
- 936 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:36
- このパスを市井、ダイレクトで大きく右サイドに振る。
これを右サイドで待っていたシノハラ・リョウコール、ダイレクトで中にクロスを送る。
このクロスはファーサイドに走り込むウエト・アーヤへ。
アーヤはヘッドで中に落とす。
これに走り込むのはハヅキ・リオナンプ。
豪快に右足でゴールに突き刺した。
まずはアーセナル、お得意のダイレクトプレーからの流れるような攻撃で先制点。
- 937 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:37
- さらにその8分後。
「アーヤ!!」
市井が左サイドに回りこんでライン際を駆け上がる。
市井の基本のポジションは右センターハーフ。
しかし行けると思えばどんなポジションでも飛び込んでいく。
この動きに合わせて左サイドのフカーツ・エリスが中に切れ込んでいく。
チームメートもフリーロールの動きに慣れてきたのだ。
アーヤからパスをもらった市井、鋭いドリブルで左サイドを突破し中にクロス。
このクロスに打点の高いヘッドで合わせたのはフカーツ・エリス。
見事にゴールネットを揺らした。
その後、アーヤが得意のドリブルからエバートンDF陣を切り裂き追加点をあげ、
エバートンの反撃を1点に抑えて試合は終了。
3−1のスコアでアーセナルは快勝した。
- 938 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:38
- 「今シーズンの我々は強い。それに見ていておもしろいだろう?」
試合後の会見でザイゼン・カラサワが自信満々に言った。
ダイレクトでボールをつなぎ、選手たちが流動的に動く。
きっちりとシステムが確立されておきながら個人の自由度もあり、
見ていて楽しく、美しいサッカー。
今シーズンのアーセナルはカラサワが理想とするサッカーが実現できる。
それはフリーロール市井紗耶香が成長しているからだった。
つまり、今シーズンのアーセナルは市井紗耶香にかかっている。
- 939 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:38
- そして最後にドイツブンデスリーガ。
藤本美貴が所属するシャルケ04は
ホームに昨シーズン2位のボルシア・ドルトムントを迎えた。
正直、この試合が他の海外の日本人選手の中で一番燃えた試合だろう。
それはサポーターの熱狂度ではドイツで1、2を争うシャルケ04と
ボルシア・ドルトムントとの1戦、ルールダービーだからだ。
いきなり開幕戦で最高のダービーマッチだ。
- 940 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:39
- 下馬評では圧倒的にドルトムント有利。
昨シーズン見事な2位で、チェコ代表FWトミ・ナガーに
同じくチェコ代表MFミズノ・ミキツキーとタレントが揃っている。
しかしシャルケ04だってダービーで絶対に負けるわけにはいかない。
「ミキティ!!!!!!」
「ミキツキー!!!!!」
シャルケ04のホームスタジアム、アレナ・アウフシャルケが大声援で揺れる。
青のサポーターは背番号20をつけた藤本美貴を。
黄色と黒のサポーターは背番号10のミズノ・ミキツキーに大声援を送る。
この2人はそれぞれのチームのアイドル。
それがいきなり開幕戦で激突とあってサポーターたちの応援にも熱が入る。
- 941 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:40
- 特に今シーズンは藤本への声援が大きい。
それは来シーズンからバイエルン・ミュンヘンへの移籍が決まっているからだ。
ドイツといえばやはりバイエルン・ミュンヘンを挙げざるを得ないだろう。
そんなビッグクラブから誘われただけでなく、なおかつ左サイドのポジションを
空けておくというVIP待遇で藤本はオファーを受けた。
が、藤本は、自分はまだシャルケ04に恩返しをしていないという事で
今シーズンはシャルケ04に残る事に決めた。
これに感動したシャルケ04サポーター。
ならば今シーズン、精一杯応援して気持ちよく送り出してやろうじゃないか。
そんな思いがこもった大声援だった。
- 942 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:40
- 試合前、両チームの選手たちが握手を交わす。
「今日こそ勝たせてもらうから。」
ミキツキーがニッと笑い、ギュッと藤本の手を握る。
一瞬痛みで顔を歪める藤本。
「そうはいかないから。」
「つっ!!」
藤本も負けじとギュッと握り返す。
その手の握り合いは10秒ほど続いた。
両者ともボルテージは最高潮だ。
- 943 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:41
- 試合が開始された。
ホームのシャルケ04は中盤がダイヤモンド型の4−4−2でこの試合に臨んだ。
藤本は左サイドハーフ。
昨シーズンの途中からレギュラーポジションを掴んだ。
当然今シーズンはずっとレギュラーを張るつもりだ。
一方ドルトムントは4−3−3のフォーメーション。
トップ下に入ったミキツキーがパスを振り分け、サイドから攻撃を仕掛ける。
そしてフィニッシュは長身FWのトミ・ナガーの役目だ。
今シーズンこそ王者バイエルン・ミュンヘンを倒してみせると気合いが入っている。
- 944 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:41
- まずはタレントに勝るドルトムントが優勢に試合を運ぶ。
トップ下のミキツキーから左サイドに右サイドにパスが出た。
これを受けたドルトムントFW、すかさず中にクロス。
このクロスをトミ・ナガーがシャルケDF2人と競り合いながらも頭でとらえた。
が、シュートに勢いはなく、あっさりとシャルケGKがこれを掴んだ。
「さすが。あの高さは厄介。」
今のプレーに藤本は危険を感じる。
2人がかりにも関わらず、トミ・ナガーは楽に競り勝っていた。
今は強引にシュートを狙ったため助かったが、
もし中に落とされていたらミキツキーがフリーだった。
- 945 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:42
- 「セカンドボールに気をつけよう!!」
藤本が声を張り上げる。
その声に頷くシャルケイレブン。
勝負はセカンドボールをいかに抑えられるかだ。
前半も30分を過ぎたが、ここまで両チームとも得点は生まれず。
序盤こそドルトムントの攻撃に押されていたシャルケ04だが、
次第にシャルケもホームの大歓声をバックに盛り返していく。
ドルトムントの右サイドバックが積極的にオーバーラップする。
その右サイドバックから中にクロスが上がるが、
これはシャルケDFがヘッドでクリアした。
そのこぼれ球を拾ったのはシャルケボランチ。
セカンドボールに対する反応がいい。
- 946 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:42
- 「はいっ!!出して!!」
ドルトムント右サイドバックが上がって出来たスペースへ走り込む藤本。
そこへすかさずパスが送られる。
カウンターのチャンスだ。
「行けっ!!ミキティ!!」
熱いサポーターたちからの大声援を背に藤本が左サイドを爆走する。
チェックに来たドルトムントボランチを鋭いドリブルでかわす。
「ミキ!!」
シャルケ左FWがサイドに流れてきた。
その動きにドルトムントDFも釣られる。
これを見た藤本、パスを出すと見せかけて急激に中に切れ込んだ。
そしてペナルティエリアやや外から思い切って左足を振りぬく。
- 947 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:43
- 強烈なシュートがきっちりと枠に飛ぶ。
このシュートをドルトムントGKは懸命に手を伸ばして止めた。
が、こぼれ球は詰めていたもう一人のシャルケFWの前に転がる。
これを難なく押し込んだ。
前半34分。
ホームのシャルケ04が見事に先制点。
- 948 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:43
- 「ナイスシュート!!」
藤本がゴールを決めた選手に抱き付く。
「ミキこそナイスだ。半分はあんたのゴールだよ。」
シャルケFWが藤本のトライを称える。
そこへみなが一斉に抱きついた。
サポーターたちもみな声を上げている。
どうだドルトムント!!
俺たちのアイドルは?!!
「くそっ、ミキティめ・・・・」
表情を歪めるのはミキツキー。
このままでは決して終わらせない。
前半はこのままホームのシャルケ04が1点リードのまま終了した。
- 949 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:44
- が、後半は一気に流れが変わった。
さすがは昨シーズン、最後まで王者バイエルン・ミュンヘンを苦しめたドルトムントだ。
後半が始まるとその力を一気に爆発させた。
後半9分。
ミキツキーが鋭いドリブルでシャルケMF陣をかわしていく。
藤本もチェックに向かったがあっさりとかわされてしまった。
「ミキ!!」
その瞬間シャルケ04DFを背負っていたトミ・ナガーが、
身体を反転させてDFラインの裏に飛び出した。
高さだけに目がいくが、足元の技術、そして得点感覚も非凡なものを持っている。
それがチェコのスーパーモデル、トミ・ナガーだ。
次の瞬間にはミキツキーからきっちりスルーパスが出ていた。
抜け出したトミ・ナガーの足元にピタリのパスだ。
これをトミ・ナガーは豪快に蹴り込んだ。
ドルトムント、あっさりと同点に追いつく。
- 950 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:44
- さらに今度は後半22分。
左サイドからクロスがゴール前に上がる。
このクロスに飛び込むのはトミ・ナガー。
もちろんシャルケDFも必死に食らいつく。
が、この動きは囮だった。
ボールはトミ・ナガーの上を越え、その裏へ走りこんでいたミキツキーにピタリ。
懸命に戻っていた藤本を身体で押さえ込んで豪快にヘッドで叩き付けた。
ドルトムント、エースミキツキーの活躍で一気に逆転した。
- 951 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:45
- 「さすがだミキツキー!!!」
「シャルケのアイドルなんて目じゃねーぜ!!!」
アウェーであるにも関わらず多数押しかけたドルトムントサポーターが
自分たちのアイドルに大声援を送る。
「にゃろう・・・・・」
ゴールを決めたミキツキーを睨みつける藤本。
これで勝ったと思うなよ?
- 952 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:46
- 逆転されはしたが、シャルケ04の闘志は衰えない。
開幕戦でしかもホーム、さらにはダービーマッチ。
絶対に負けるわけにはいかない。
サポーターたちの大声援を背に、猛反撃を仕掛ける。
右サイドをシャルケMFが突破した。
深くえぐって中にクロスを送る。
このクロスはファーサイドに走りこんだ藤本に。
これを藤本が左足でとらえるが、シュートは枠の外に。
思わず頭を抱える藤本。
だが積極的なプレーだ。
- 953 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:46
- そして後半も40分を過ぎた。
攻めるシャルケ、守るドルトムント。
「こっち!!出して!!」
左サイドを藤本が駆け上がる。
「そこで潰せ!!」
ミキツキーが指示を出す。
ボールを持った藤本にドルトムントは3人で囲む。
「ミキ!!」
トップ下の選手がフォローに来た。
藤本は3人の僅かな隙間を通してパスを出すと、前に走る。
そこへきっちりとリターンが来た。
- 954 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:47
- 藤本はリターンされたボールをトラップすると、中を見た。
「今だ!!!」
藤本は思い切ってペナルティエリアとセンターラインの真ん中あたりから
前線にアーリークロスを送った。
ボールは鋭い弧を描き、ちょうどGKとDFの間に。
絶妙のクロスだ。
このクロスに飛び込むシャルケ2トップにドルトムントDF、GK。
ボールに触ったのはシャルケFWだった。
飛び出してきたGKと接触しながらも執念で頭に当て、
ゴールへと流し込んだ。
後半41分。
シャルケがついに同点に追いつく。
- 955 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:47
- ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
満員のアレナ・アウフシャルケが大きく揺れた。
青のサポーターはまさに狂喜乱舞。
黄色と黒のサポーターは頭を抱える。
「ミキ!!ナイスクロス!!!」
ゴールを決めたFWが藤本のもとにやってきた。
最高のクロスボールだったからだ。
「そっちこそよく決めたよ!!」
藤本も満面の笑みで抱き付く。
- 956 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:48
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!
それから5分後、主審が試合終了の笛を吹いた。
一進一退の攻防のすえ、2−2の引き分けに終わった。
この結果に正直ホッとするサポーターたち。
いくらリーグ戦で優勝しても、ダービーに負けていたら喜びも半減なのだ。
だからこそ引き分けに持ち込めた事にみなホッとしていた。
- 957 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:48
- 「どうやら今シーズンのミキティは違うようね。」
試合が終わった後、ミキツキーはふと呟いた。
この試合、積極的な藤本の姿があった。
リスクを恐れずどんどんチャレンジしている。
それがプレーにキレを加えている。
「でも次はあたしたちのホームだ。次こそ叩き潰してやるから。」
そう言ってミキツキーはピッチを後にした。
藤本はサポーターの大声援に応えている。
今シーズンが終わる時にはこの熱いサポーターたちともお別れだ。
だからこそ今シーズンは最高の藤本美貴を彼らに見せる。
- 958 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:49
- ついに今季も欧州でシーズンが始まった。
開幕戦は日本人選手がみな大活躍という結果に終わった。
各国のスポーツ紙は日本がオリンピック制覇したことにもかけて大きく取り上げた。
日本の時代が来たとまで言う新聞もあったほどだ。
しかしそんなにサッカーは甘いものではない。
ヨーロッパはもちろん、南米、アフリカの百戦錬磨の猛者たちがひしめきあう。
それが欧州リーグだ。
彼女たちの戦いはまだまだ始まったばかりだ。
- 959 名前:第3話 欧州開幕 投稿日:2004/05/31(月) 11:50
-
第3話 欧州開幕 (終)
- 960 名前:ACM 投稿日:2004/05/31(月) 11:50
- 第3話 欧州開幕 終了いたしました。
今回はちょっと時間がかかってしまいました。
ちょっと仕事が忙しかったもので。
とにかく最低でも週に1回更新できるように頑張ります。
- 961 名前:ACM 投稿日:2004/05/31(月) 11:52
- 次回予告
第4話 Repay a person's kindness
欧州リーグも開幕し、世界各国で熱い戦いが繰り広げられる。
そんな中、彼女は第2節にして古巣との対決を迎える。
日本では古巣相手に活躍する事を“恩返し”と言う。
この試合で自分の力を見せつけ、来シーズン胸を張って戻ってこよう。
慣れ親しんだカンプノウのピッチにセビージャ松浦亜弥が立つ。
次回もよろしくお願いいたします。
- 962 名前:ACM 投稿日:2004/05/31(月) 11:53
- <構成員>
ドン 福田明日香 “静かなる首領” 黙っててもその存在こそまさにドン。
副総裁 中澤裕子 “金髪鬼” 泣く子も黙る金髪鬼。
副総裁補佐 平家みちよ “鬼武者” ガタガタ騒ぐと斬るよ。
教育係 石黒 彩 “不言実行” 黙って自分の背中について来い。
教育係 保田 圭 “おばちゃん” きっちり(ねちねち?)教えます。
若頭 市井紗耶香 “男前” 誰もが認めるアニキ。
核弾頭 藤本美貴 “軽ヤン” 初っ端から核爆発。
作戦参謀 紺野あさ美 “ポイズン” 知能犯。ミス毒舌。
広告塔 松浦亜弥 “アイドル” みんな騙されます。
見習い 道重さゆみ “のほほん” 大物感タップリ。
見習い 亀井絵里 “エリザベス” 次代の女帝?
- 963 名前:ACM 投稿日:2004/05/31(月) 11:57
- 武闘派軍団 (2004年創立)
武闘派軍団の構成員です。
現在11名。
- 964 名前:ACM 投稿日:2004/05/31(月) 11:57
- ドン 福田明日香からのメッセージ。
どうもみなさん初めまして。
武闘派軍団のドン、福田明日香です。
いつもわたしたち武闘派軍団を応援してくださってありがとうございます。
この武闘派軍団、創立は2004年です。
あのワールドカップ1次予選、対オマーン戦ですね。
うちの核弾頭のFKに思わずガッツポーズをした連中で構成されています。
その後、新しいメンバーも加わり、今現在11名が名前を連ねています。
誰もが歴戦の猛者ばかりで、どこへ出しても恥ずかしくない連中です。
どんな相手にも真正面から立ち向かっていけるでしょう。
『決して逃げない。』
それがわたしたちの誇りでもあります。
これからもこの誇りを持ち続けていきます。
さて、これからも武闘派軍団は続いていくわけですが、
『舐めた相手にガツンといく。』 ※舐めた相手“だけ”
『普段は可憐な乙女。』 ※最重要!!
この2つをモットーにこれからも頑張っていきたいと思っていますので、
どうか皆様、これからもご声援をよろしくお願いいたします。
福田明日香
- 965 名前:ACM 投稿日:2004/05/31(月) 11:58
- 以上スレ隠し、武闘派軍団編でした。
次回は皆様のご希望通りJリーグ編を取り上げます。
では次回もよろしくお願いいたします。
- 966 名前:みっくす 投稿日:2004/05/31(月) 16:04
- 更新おつかれさまです。
いやー海外組はみんな良い感じで。
今年も楽しませてくれそうですね。
次節のFCバルセロナVSセビージャ楽しみにしてます。
武闘派軍団って11人もいたんですね。
次回のJリーグ編も楽しみにしてます。
- 967 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/31(月) 21:33
- 容量的にもそろそろ次スレですか?
- 968 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/06/01(火) 07:40
- 更新お疲れ様です。
いよいよ欧州が開幕しましたね
日本人選手はみんな調子がいいようで。
よっすいーが本来のポジションに戻れるかな
次回はいきなり古巣との対戦ですね。スレ隠し共々楽しみにしています。
- 969 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 00:53
- 966>みっくす様
レスありがとうございます。
海外組は順調なスタートを切ったようです。今季も頑張ってくれる事でしょう。
武闘派軍団は現在11名です。
さらに募集中ですのでまだまだ増えるかもしれません。
967>名無飼育さん様
ありがとうございます。
そうですね、そろそろ次のスレですね。
何とか4枚目にいけそうです。
次スレでもよろしくお願いします。
968>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
確かにみんなありえないぐらい調子いいですね。
でもまだまだシーズンはこれからなので、何が起こるか分かりません。
主役も監督の構想と自分のイメージが噛みあっていないようですしね。
では本日の更新です。
- 970 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 00:56
- 欧州でリーグ戦が開幕し、世界各国で熱い戦いが繰り広げられた。
今シーズンもまたサッカーの季節がやってくる。
欧州開幕から4日後、
日本ではU−19日本代表合宿が6日目を迎えていた。
この日はJ1の鹿島アントラーズと練習試合が組まれていた。
相手は現在首位と差の無い6位の強豪だ。
ワールドユースアジア予選まであと2週間を切っているだけに大事な一戦である。
- 971 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 00:57
- U−19日本代表合宿メンバー
GK 亀井絵里 名古屋グランパスエイト
梅田えりか ジェフユナイテッド市原
岡井千聖 ヴァンフォーレ甲府
DF 小川麻琴 清水エスパルス
紺野あさ美 コンサドーレ札幌
須藤茉麻 アルビレックス新潟
矢島舞美 サンフレッチェ広島
斉藤美海 コンサドーレ札幌
中島早紀 大宮アルディージャ
石村舞波 セレッソ大阪
萩原 舞 FC東京
MF 辻 希美 ガンバ大阪
加護亜依 京都パープルサンガ
新垣里沙 ジュビロ磐田
徳永千奈美 ジェフユナイテッド市原
田中れいな 清水エスパルス
清水佐紀 川崎フロンターレ
鈴木愛理 横浜FC
菅谷梨沙子 モンテディオ山形
村上 愛 横浜Fマリノス
FW 道重さゆみ 柏レイソル
高橋 愛 ジュビロ磐田
夏焼 雅 川崎フロンターレ
熊井友理奈 ベガルタ仙台
嗣永桃子 アビスパ福岡
- 972 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 00:58
- U−19日本代表フォーメーション
道重
加護 田中 高橋
新垣 辻
美海 小川
須藤 紺野
亀井
- 973 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 00:59
- U−19日本代表のボールで試合が開始された。
まずはトップ下の田中にボールが渡る。
オリンピックで柴田やひとみに大きな刺激を受けた。
それ以降目を見張るような成長振りだ。
田中が左サイドに開いた加護にパスを送る。
これを受けた加護、ジリジリと中にドリブルで進んで行く。
加護のドリブル技術を国内で知らない者はいない。
アントラーズの右サイドバックは加護のドリブルを警戒して迂闊に飛び込めない。
- 974 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:00
- 「加護ちゃん!!」
加護が中に切れ込み、アントラーズの右サイドバックがこれについていったため
左サイドに大きなスペースが生まれた。
そこを左サイドバックのみうなが積極的に上がる。
加護もこの上がりを見逃さずみうなにパスを送る。
左サイドを深くえぐったみうな、中にクロス。
このボールに道重が飛び込む。
がアントラーズDF、日本代表里田まいがこれをヘッドで跳ね返す。
このこぼれ球に辻が鋭く詰める。
やや遠目だが、迷わず右足を振り抜く。
辻のミドルはクロスバーを掠めていった。
「オッケーオッケー!!ナイスシュートやのの!!」
加護がパンパンと手を叩く。
「よっしゃ、ナイストライや!!」
マコトも今のサイドバックが絡んだ攻撃に満足気な表情を浮かべる。
マコトが4バックシステムにこだわったのはサイド攻撃を重視するためだ。
現代サッカーでは中央はもうほとんどスペースがない。
だからこそサイドからの攻撃が必要になってくるのだ。
また、4バックならば相手のサイド攻撃にも対応できる。
そう見越した上での4バックだった。
- 975 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:01
- それは合宿初日の練習から見受けられた。
練習でマコトが徹底したのがこのサイドアタック。
とりわけサイドハーフとサイドバックとのコンビネーションだ。
サイドハーフが中に切れこんでスペースを創り、そこをサイドバックが上がる。
サイドバックがサイドハーフを追い越す。
そのサイドバックを囮にしてサイドハーフが早めにクロスをあげるなど、
ありとあらゆる場面を想定して練習が行われた。
それから反対側のサイドとのコンビネーションも徹底的に確認させた。
いくらサイドアタックを重要視しているとはいえ、
両サイドが上がりすぎては守備が崩壊する。
そのため片方のサイドバックが上がった時は、
逆側のサイドバックは上がりを控えるという約束を徹底させた。
この約束事はまあ常識的なもので、
所属クラブでサイドバックを本職としている小川とみうな、
それから川崎フロンターレの清水にとっては難しくはない。
- 976 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:02
- 両サイドハーフに対しても、どちらかのサイドがチャンスを創ったならば、
逆サイドのハーフはゴール前に詰めるという約束を決めた。
1トップシステムを採っているためどうしてもゴール前の人数が足りないことが多い。
そのためサイドハーフやトップ下が積極的にゴール前に飛び込まなくてはならない。
だからこそマコトはFWとしても充分な力を持つ高橋を
あえてMFとして右サイドに置いたのだ。
高橋ならばチャンスメイクも出来るし、得点力もある。
まさにうってつけのサイドアタッカーだ。
- 977 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:03
- 試合は15分を過ぎた。
序盤こそU−19日本代表も攻め込んでいたが、
時間が経つごとにその攻撃はほとんど抑え込まれてしまった。
それは鹿島の3人の日本代表の存在のせいだった。
MF、ボランチに戸田鈴音。
DF、左サイドバックに木村麻美。
DF、センターバックに里田まい。
この3人がU−19日本代表のキーマンを潰していく。
つまり鈴音が田中を。
麻美が高橋を。
里田が道重を完璧に抑えこむ。
パスの出し手、サイドアタックのキー、
前線の受け手が潰されては攻撃が滞るのもあたり前だった。
- 978 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:03
- そうこうしているうちに鹿島アントラーズに先制点が生まれた。
得点を演出したのは日本代表木村麻美。
ボールを持った田中が鈴音の激しいチェックを受けながらも
右サイドを上がる高橋にパスを出す。
が、これを読んでいた麻美がカット。
麻美は味方にボールを預けるとそのまま前に駆け上がる。
アントラーズは中盤でボールをつなぎ、どんどん前に出てくる。
U−19も辻や新垣が激しくプレスを仕掛けるがアントラーズも素早くボールを回す。
「来いっ!!」
その間に麻美が前線まで駆け上がっていた。
その麻美にパスが出る。
- 979 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:04
- 「マコ!!」
「オッケー!!」
紺野の指示と同時に小川が麻美に当たる。
が、麻美はダイレクトで中にパスを送り、さらに前へ走る。
そこに紺野を背負ったFWがリターンを返す。
見事なワンツーで麻美は左サイドを突破した。
そして中を見てクロスを上げる。
どフリーで上げたクロスはピッタリとアントラーズFWに合った。
これをヘッドできっちりとゴールへと流し込んだ。
アントラーズが見事なサイドアタックから先制点を奪った。
- 980 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:05
- 「さすがアントラーズやな。ええ動きや。」
この展開に満足するマコト。
彼が鹿島アントラーズと練習試合を組んだのは理由がある。
それはこのチームはJリーグ開幕以来、ほぼずっと4バックシステムをとっているからだ。
そのため、チームとしてサイドバックの上がりを活かす方法を身につけているのだ。
今の攻撃も中盤は麻美が上がる時間を稼いでいたし、
FWもきっちりフォローに入ってサイドの突破を助けた。
ゴール前にはもう1人のFWはもちろん、中盤の選手も飛び込んでいた。
マコトとしてはアントラーズと戦う事でこの動きを肌で感じてもらいたかったのだ。
- 981 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:05
- 先制点を許したU−19日本代表。
すぐに取り返そうと攻撃を仕掛けるが得点するには至らない。
高橋、加護が前目にポジションをとって積極的に攻め込むがアントラーズの4バック、
さらにはボランチの2人がきっちりと組織で守る。
この組織的な守備にさすがのドリブラー加護も突破を図れない。
前半戦はこのまま終了した。
- 982 名前:第4話 Repay 投稿日:2004/06/08(火) 01:07
- 「やっぱさすがアントラーズやな。きっちり守ってくるわ。」
加護が汗を拭きながら言った。
Jリーグでもアントラーズの守備は堅い。
日本代表3人が中心となったディフェンスは、
加護のいる京都パープルサンガを抑えて今現在リーグ最小失点を誇っている。
「でも何とかして突破しないとダメですね。」
田中だ。
ここまで鈴音のハードマークに完全に抑え込まれている。
だがこのままでは終わらせない。
「れいな、さゆにボール預けて。
さゆがキープして相手を中に引きつけるから。」
1トップの道重が田中にボールを要求する。
彼女も里田の驚異的な身体能力に抑え込まれている。
だが4−2−3−1の1を務める以上、自分が身体を張らねばならない。
- 983 名前:第4話 Repay 投稿日:2004/06/08(火) 01:08
- 「重さんだけじゃなく、全員もっとボールを呼び込もうよ。
もっと声出して、もっと動こう。アントラーズの方が必死だよ。」
みなに戒めの言葉を言うのはU−19日本代表キャプテンの辻希美。
オリンピックなどの大舞台を経て、辻はキャプテンとしての道を歩み始めていた。
「キャプテンの言うとおり。もっと声を掛け合おう。」
中盤でコンビを組む新垣だ。
ボランチとしてゲームをコントロールしていると、
チームの悪い点が見えてくる。
- 984 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:08
- 『スタメン組はええ感じや。けど・・・』
マコトはスタメン組が積極的に話し合っているのを見て、
喜ぶと共に不安も覚える。
辻たちスタメン組はほとんどがA代表にも選ばれており、
オリンピックでも優勝を経験したメンバーだ。
彼女らは何の心配もない。
が、心配の種は控え組、つまり夏焼たちだ。
合宿も今日で4日目だが、夏焼たちと辻たちにほとんど接触がない。
いや、スタメン組は積極的に話しかけるのだが、控え組がつい引いてしまうのだ。
彼女たちはA代表でも活躍する辻たちに憧れはもちろんあるが、
それ以上に気後れしていたのだ。
確かに実績では劣るかもしれないが、それはピッチの外でのこと。
同じチームとしてはみな同格のはずだ。
- 985 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:09
-
U−19日本代表の間には明らかに一線がひかれていた。
それがチーム崩壊へのヒビとならなければいいが。
- 986 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:10
- 後半戦も同じメンバーで臨んだU−19日本代表。
みなが積極的に声を出し合い、動き回る。
次第に流れはU−19の方に。
新垣からのパスを前線で道重が里田を背負いながらキープする。
そして右サイドのスペースにパスを出す。
このパスに走りこんでいるのは高橋。
しかし麻美もきっちりマークに付いている。
- 987 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:10
- 「愛ちゃん!!」
その後ろから駆け上がってくるのは小川だ。
この動きに麻美も意識が引き付けられる。
それを逃さず高橋は中にクロスを送る。
このクロスに最後飛び込んだのは田中。
マークに付いていた鈴音を一瞬のダッシュで振り切り、
クロスをヘッドで合わせた。
これが見事に決まり、U−19日本代表は同点に追いついた。
- 988 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:11
- 「よし、清水、熊井行くで!」
このゴールを見届けたマコトが清水と熊井を呼んだ。
清水は高橋と、熊井は加護と交代させる。
ポジションは清水が右サイド、熊井が左サイドだ。
スタメンの11人がマコトの考えるベストメンバーである事は間違いない。
しかしそのメンバーだけで試合に臨めないのがサッカーだ。
ベンチ入りしているメンバーも含めて全員で戦わねばならない。
特に今交代した高橋、加護はA代表でも随時選ばれる選手で、試合で起用される事も多い。
そのため疲労などで使えないことがあるだろう。
だからこそサブのメンバーが充実していなければならない。
- 989 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:11
- だが、清水と熊井の動きにマコトは思わず頭を抱えてしまった。
2人とも全くと言っていいほどいつものプレーが出来ていない。
「佐紀!!どんどん勝負!!」
U−17世代から一緒に戦ってきた田中が清水にゲキを飛ばす。
が、清水の対面は日本代表木村麻美。
清水は必要以上に慎重になっていた。
最初から突破を考えていないのか、すぐさま田中に返す。
- 990 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:12
- これは左サイドの熊井も同様だ。
スピード面で言えば明らかに加護よりも優れているはずなのだが、
その自慢のスピードを活かそうとしない。
とにかく丁寧に丁寧につなごうとするばかり。
サイドアタッカーがこんな消極的ではサイドからの攻撃など無いに等しい。
サイドアタッカーにとってまず大事なのは負けん気の強さ。
リスクを犯してでも勝負する時は勝負に行かねばならない。
だが、清水と熊井は明らかにミスを恐がっていた。
そんな気持ちでは戦えるはずもない。
- 991 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:12
- これは清水と熊井に限ったことではない。
センターバックで出場している須藤も同様だった。
コンビを組むのがA代表でも不動のレギュラーである紺野。
須藤からしてみれば雲の上の存在。
だからこそ足を引っ張るような真似は出来ない。
その大事に行こうという気持ちが逆に須藤の足を引っ張り、
冷静な判断をも狂わせてしまう。
そこをアントラーズは見事に突いた。
中途半端な攻め上がりの清水からボールを奪った麻美、
一気に右サイド、前線にロングパス。
U−19は追加点を狙っていたため、前がかりになっていた。
このパスを受けたアントラーズ2トップがU−19ゴールへ突き進む。
U−19は紺野と須藤が残っている。
右サイドバックの小川は上がっており、みうなは左サイドから中へ必死に走る。
今現在は紺野・須藤とアントラーズ2トップの2対2だ。
- 992 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:13
- 「茉麻、ここ抑えるよ!!」
紺野が須藤に叫ぶ。
紺野としては須藤にとりあえず時間を稼いで欲しい。
最悪なのが一発で抜かれる事だ。
ここはとにかく相手の攻撃を遅らせる事だ。
そうすればみうなが戻り、3対2になるし、新垣も辻も戻ってくる。
しかも須藤のディフェンス力ならば一発で抜かれるはずはない。
もちろんファウルで止めてもいい。
自分はもう一人のFWを見るし、絶対にスルーパスは止めてみせる。
さらには後ろには亀井がいる。
きっちり状況を見て飛び出してくれるはずだ。
- 993 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:14
- が、須藤はテンパっていた。
行く場面ではないが、一発で飛び込んでしまった。
「ちょ、ちょっと茉麻!!」
これには紺野も驚愕の表情を浮かべる。
須藤はとにかくここで止めたかったのだ。
焦っていたと言ってもいい。
この飛び込みはあっさりとかわされた。
「くっ!!」
慌てて紺野とみうながチェックに向かうが遅かった。
アントラーズFWは亀井との1対1を冷静に決めた。
アントラーズ、再び勝ち越し弾。
- 994 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:14
- 「し、しまった・・・・・」
須藤が真っ青な表情でうな垂れる。
完全に自分のミスだ。
「ごめん、茉麻。ののが前に行ってたからだよ。」
辻が須藤にゴメンと謝る。
「あたしもだよ。ごめん茉麻。」
新垣だ。
気落ちする須藤を気遣って真っ先にこの2人が謝った。
「ドンマイ、次取り返そう。」
紺野も須藤の肩をポンと叩く。
「は、はい!!」
須藤は何度も深く頷く。
辻たちのフォローはとてもありがたい。
が、逆に須藤は追い詰められていく。
次こそ失敗できない。
- 995 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:16
- 須藤はもうガチガチだった。
普段ならばあっさりとカットできるような相手でも
全く歯が立たない。
アントラーズもそれを見越して徹底的に須藤を狙う。
須藤のクリアミスからアントラーズのコーナーキックとなった。
このチャンスにセンターバックの里田が上がってきた。
マークに付くのは須藤。
左からのコーナーキックがピッタリと里田に。
須藤も競り合う。
が、身体能力では圧倒的に里田の方が上だ。
須藤の頭一つ上から豪快にヘッドで叩き込んだ。
「あ・・・・・・」
須藤はがっくりとうな垂れる。
3失点のうち、2失点は明らかに自分のせいだ。
試合はこのまま終了した。
3−1で鹿島アントラーズの勝利。
この結果に正直戸惑いを隠せない選手たち。
確かに須藤や清水、熊井が実力を出せなかったせいもあるが、
それ以上に核となる道重や田中、高橋たちが抑え込まれていたのも事実だった。
U−19日本代表。
まずは黒星からのスタートとなった。
- 996 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:17
- 「ありがとうな麻美、鈴音、里田。」
試合を終えたこの3人にマコトが握手する。
やはり日本代表の3人だ。
きっちりとこの試合を支配していた。
「こんなもんでよかったですか?」
麻美が尋ねる。
実は麻美たちは試合前、マコトにこの試合、
U−19代表を完膚なきまでに叩きのめして欲しいと頼まれていたのだ。
「ああ。充分やった。これでいい気持ちで、
厳しい気持ちでワールドユース予選に臨めるわ。」
マコトはニッと笑った。
- 997 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:17
- 正直言ってマコトはこのU−19日本代表は反則だと思っている。
それはほとんどの選手がA代表で活躍できる選手たちだからだ。
恐らく予選は圧倒的な力で勝ち進めるだろう。
が、そこに大きな落とし穴がある。
ぬるい気持ちで臨んだ試合で成長など望めるだろうか?
厳しい気持ちで試合に臨み、全力を尽くしてこそ選手は成長する。
このままぬるい気持ちで予選に向かうと、予選の数試合が完全に無駄な試合となる。
それならばJリーグで真剣に戦った方がマシだ。
- 998 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:18
- だからこそ今日、麻美たちに潰してくれるように頼んだのだ。
U−19の面々はみな、今日の敗戦に悔しさを露わにしていた。
練習試合でも負ける事は悔しい。
そう思う選手でなければ弱肉強食のこのサッカーの世界で生き抜く事はできない。
辻たちはクールダウンを済ませた後、早速今日の試合を振り返っている。
その輪には控え組も当然入っており、
発言を遠慮する面々も辻が優しく尋ねて意見を言わせている。
「ま、問題は色々とあるけどおもしろいチームや。
これからが勝負やな。」
マコトの腕がなる。
この若手を上手く育てることが日本の将来を明るくさせる。
- 999 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 01:25
- ここで次のスレに移りたいと思います。
同じ風板です。
CALCIO CALCIO CALCIO!! 4
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wind/1086625402/l50
これからもよろしくお願いいたします。
- 1000 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 01:26
- では1000という事で落ちます。
次スレでもよろしくお願いいたします。
- 1001 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
- このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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