トリックゾイケ
- 1 名前:ある 投稿日:2004/04/28(水) 04:28
-
【トリックゾイケ】〔trickzoike〕
…奇抜なトリックを用いて犯罪を行なう、ある種の異常者の事。(ドイツの著名な犯罪者、
マルクス=ゾイケに由来する造語。ゾイケについては後述)
警視庁捜査一課弐係にお勤めの吉澤さんと、吉澤さんの部屋に居候している身元不明の
女の子、梨華ちゃん。
「事件が早く解決すれば、それだけよっしーと一緒にいられるね」
「だからって現場についてくるなよ」
おかしな二人組が事件を解決したり、はたまた事件を起こしたり。そんなお話。
- 2 名前:トリックゾイケにまつわる梨華と吉澤の会話 投稿日:2004/04/28(水) 04:49
- トリックゾイケ、その一例。
『究極の密室トリック』
「これは外国で実際にあった話なんだけど、推理小説好きの女の人がいてね、その人がと
ても斬新な密室トリックを思いついたの。そのトリックがあまりにもよくできていたものだから、
実際に試してみたくなったの。
その人には夫がいて、死ねば自分に多額の保険金が入ってくる。結婚して何十年も経って
いて愛情はとっくに冷めていた。だからといって殺したいほど憎いわけじゃなかったけれど、
誘惑に勝てず、とうとう夫を殺害してしまったの。
書斎でくつろいでいる夫の背中をナイフで一突き。―――そして、完璧な密室を作り上げた。
彼女は警察を呼んだ。「いくら呼んでも夫から返事がない。ドアに鍵が掛かっていて部屋に
入れない。窓から覗いたら床に夫が倒れている」と。
すぐに警察がやって来て、ドアがこじ開けられ、夫が殺害されているのが発見された……。
その後、事件がどうなったかわかる?」
「もったいぶらずに教えてよ。どうなったの?」
- 3 名前:トリックゾイケにまつわる梨華と吉澤の会話 投稿日:2004/04/28(水) 04:53
- 「その女性は逮捕されたの。
自宅で夫が殺されて、しかも多額の保険金が掛けられていたのだから当然よね。
起訴されて、裁判で有罪となり死刑判決が下されたわ」
「密室トリックはどうなったの?トリックが見破られたの?」
「そう、問題はそこ。女性は無実を主張した。あの部屋は完璧な密室だったと。
確かに部屋のドアには鍵が掛けられ、窓には格子がついていて出入りは不可能。唯一のド
アの鍵は机の引き出しに入っていた。女性が鍵を引き出しに入れる暇がなかった事は警察
が証言している。―――女性の言うとおり、部屋は完璧な密室だった。
だけど、警察と検察はその事を問題としなかったの。
女性の致命的なミスは、夫を自殺に見せかけて殺さなかった事と、殺害の現場に自宅を選
んだ事。
裁判で検察は言ったわ。
『被告は密室の事ばかりを無罪の根拠としているが、そんなもの、合鍵があったとすれば密
室には成りえない。被告は合鍵の存在を否定している。合鍵の存在を証明する事はできて
いないが(依然捜査を続けているが)、合鍵の存在が無かった事を証明する事もできていな
い。自宅の書斎なのだから合鍵を作るのは簡単な事だ。そして、状況からみてそれが可能
なのは被告だけだ』 」
「つまり、警察ははなから密室だと思わなかったんだ」
- 4 名前:トリックゾイケにまつわる梨華と吉澤の会話 投稿日:2004/04/28(水) 04:58
- 「彼女は推理小説の読みすぎだったのよ。そして、トリックばかりに固執してしまった。
警察にしてみれば、現に殺人が起こっているわけだからトリックなんて二の次。一見不可
能な事が起きても無理矢理辻褄を合わせるだけ。
トリックがわからなければ事件が解決しないなんて、小説の中だけの話だよ」
「…………」
「もちろん合鍵なんて存在しなかった。彼女はトリックを使って密室を作り上げたのだから。
なのに有罪になり、刑務所に入れられた。
王様の耳はロバの耳。
彼女は自分のトリックを誰かに言いたかった。私のトリックは完璧なんだと。だけどそれは
罪を認めることになる。まだ再審で無罪になる可能性を捨てていなかったの。
究極のジレンマだよね。―――そして、死刑執行の日がやって来た。
彼女は結局、トリックの事を明かさずに死んだの。事実が判明したのは遺書が公開された
時。遺書には自分が夫を殺した事と、トリックを用いて密室を作った事が書かれていた。
でも、肝心のトリックの内容については触れられていなかった。
彼女が一体どんなトリックを使ったのか、それは今でも謎のまま。そしてそのトリックは、
"究極の密室トリック"と呼ばれているの」
- 5 名前:トリックゾイケにまつわる梨華と吉澤の会話 投稿日:2004/04/28(水) 05:11
- 「なんだよ、結局謎のまま?本当にそんなトリックが存在したの?
実の実は合鍵があったとか」
「―――これには更に後日談があってね、彼女が刑務所に入っていたときに、受刑者の誰
かにそのトリックを教えたというの。遺書にそう書かれていた。
彼女は死刑囚の女性に秘密を打ち明けたと書き残していた。自分と同じ、死に逝く運命の
人だから気を許したのだろうね。
……だけどね、いくら調べてもそんな女性はいなかったの。彼女が勘違いをしていたのか、
それともその誰かが嘘をついていたのか。結局その人物も未だに謎のまま。
―――そして……」
「―――そして?」
「……それからしばらくして、不可思議な殺人事件が起こるようになったの。
現場は密室。合鍵とかなんとか、そんなものでは到底説明できない完全なる密室殺人。
それらの事件は、すべて迷宮入りになっているの……」
トリックゾイケ、その一例。
『究極の密室トリック』
終。
- 6 名前:トリックゾイケ 投稿日:2004/04/28(水) 05:28
- ト
リ
ッ ウサギ
クゾイケ 第一羽 『 は 跳ねる 跳ねるは』
- 7 名前:プロローグ 投稿日:2004/04/28(水) 05:33
-
「どうしてウサギを一羽二羽って数えるか知ってる?」
「…ウサギの耳が鳥の羽に似ているから?」
「ぶー、はずれ。
正解はね、江戸時代に―――」
―――ウサギは跳ねる、跳ねるは……
- 8 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 05:40
- 暗闇の中、携帯が鳴る。着メロではなく無粋な電子音の連なり。
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ
職業柄の癖で、寝る前に着信音のボリュームを最大にしてある。
吉澤は目を覚ますと瞬時に携帯をとった。
「あい、もひもひ」
起きたばかりで口が回らない。
ふと横を見ると、梨華がもぞもぞと起きだした。
(やばい…)
吉澤のあせりにお構いなく電話の相手は用件を伝える。「至急現場に来い」。
吉澤は「分かりました」と返事をし、携帯を切った。
「なぁに、……じけん?」
寝ぼけまなこの梨華が、悲しみと不満を込めた声で訊いてくる。
「そうだよ」
吉澤はベッドを抜け出し急いで着替える。梨華はそれを、ミノムシみたいに布団から顔だ
け出して見ている。
「あれ?ネクタイどこにやったっけ」
「クッションの下は?」
「あっ、あったあった」
「ひとりでつけられる?」
「大丈夫だよ」
- 9 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 05:43
- スーツを着て大きな姿見の前に立つ。うん、決まっている。
「よっしー、カッコいいよ」
「はいはい」
梨華の言葉は軽く流す。吉澤だったら何でもOKなのだ。はげヅラでもペンギンの着ぐ
るみでも。むしろ「よっしーカワイイ」と言って喜ぶだろう。
「じゃあ行ってくるね。戸締り、ちゃんとしておいてよ」
「うん」
寂しげな顔で吉澤を見送る。
ドアがバタンと閉まる。途端、梨華は怪しく笑みを浮かべた。ベッドからおもむろに這い
出る。
- 10 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 05:46
- 吉澤は階段を下りて駐車場に向かう。愛車は国産RX−7。黒一色のボディーはところど
ころ凹んでいる。その傷一つ一つに思い出があるが、吉澤は早く忘れてしまいたい。
エンジンを掛け出発しようとすると、突然車の前に、招き猫がニャーンと現われた。
「あれ?さっきまであんなもの無かったハズだけど…」
轢いて壊れでもしたら縁起が悪そうだ。ただでさえ薄給なのに、これ以上金運が下がるの
は勘弁して欲しい。わざわざ車から降りて招き猫をどかす。
「ん?」
数メートル先に、信楽タヌキが○○をでろーんとさせていた。
近づく。とぼけた表情でこちらを見上げている。
「なんでこんなものがここに?」
見るとさらにその先、キューピー、ビリケン様、ケロヨン、ビクター犬。何かの怪しい儀式だ
ろうか、5メートル置きにキャラクター人形が鎮座している。吉澤は気味の悪いものを感じ
ながらすべてを駐車場の隅によけた。
再び車に乗り込む。
「ん?」一瞬、梨華ちゃんの匂いがした気がした。
(気のせいかな?)
気を取り直し、勢いよく車を発進させた。
- 11 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 05:50
- 現場は都内某所のマンションの一室。吉澤(と梨華)の住んでいる小さなマンションに比
べたら、家賃が2、3倍するだろう高級マンション。
住人の男性が何者かに襲われ、意識不明の重体になっているらしい。
エレベーター特有の、胃が下に押される不快感を味わいながら最上階まで上がる。
天井の防犯カメラがこちらを見ているのに気がついた。
(あとで調べる必要があるかも…)
最上階のフロアに降り立つ。廊下の一番奥の部屋、ドアの前に制服警官が立っている。
吉澤の見た事の無い顔だ。自宅からの直行なので腕章など持っていない。軽く会釈し
て中に入ろうとすると、案の定止められた。
「ちょっと駄目ですよ、中に入っちゃ」
お決まりの対応。今ではすっかり慣れて逆上する事はない。……滅多に。
「こう見えてもオレ、刑事なんだよね」
そう言って、胸のポケットから警察手帳を取り出し笑顔で掲げる。手帳の吉澤の写真も
満面の笑顔。この警察手帳、一般市民や犯罪者よりも同僚の警官に見せることの方が
多い気がする。
「あぁ、あなたがあの…」
その反応もお決まりのもの。
オレが何なの?まあ、大体想像はつくけど。
- 12 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 05:56
- 男装の女刑事、吉澤ひとみ。その存在は警察内部に広く知られている。
吉澤は以前、埼玉県警のノンキャリアの新米刑事だった。(ノンキャリアで新米なのは今も
変わらないが)。
運と実力が幸いし、凶悪事件を立て続けに解決した。その功績が認められ、警視庁捜査一
課にお呼びが掛かったのである。……というのは建て前で、本当のところは男女共同参画
なんたら、『一線で活躍する刑事に女性も』という社会風潮の煽りを受け、上が擦った揉ん
だの挙句に生け贄に選んだのが吉澤だった。生け贄という言葉は語弊があるかもしれない
が、実情はやはり、歴然とした男社会と警察内部の醜い権力争い、矛盾溢れる理想と現実
の狭間に捧げられた憐れな子羊だった。
それを自覚しているのかそれとも無自覚なのか、当の本人は自分の置かれた状況を深く考
えていない。それどころかメラメラと激しく燃えていた。一人でも多くの犯罪者をこの手で捕
まえてみせると。
女のクセにと舐められないように、男装でビシッと決めた。(半分は自分の趣味だけど)。
色気が足りないとセクハラまがいの暴言は日常茶飯事。吉澤はそんな事を気にする様子も
なく頑張っていたが、頭の固い上司は女の刑事を認めようとせず、雑用ばかりを押し付けた。
自分は女の刑事を押し付けられて、貧乏クジを引かされたと思っている節があった。
そんな状況を見兼ねて今の弐係に引き抜いてくれたのが……
- 13 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 06:02
- 「吉澤、遅いぞ!」
「すみません」
吉澤を怒鳴りつける茶髪の女性。吉澤の直属の上司、弐係係長中澤裕子、その人である。
年齢は30を越えたばかり。吉澤と同じノンキャリアでしかも女ながら、警部という階級と係長
という地位を得ているのは異例中の異例としか言い様がない。
吉澤に昔の自分を重ねているのだろうか、その境遇を気の毒に思い弐係に誘った。
元の上司は諸手を上げて吉澤を手放し、無理を通しての時期外れの人事異動が行なわれた。
それが数ヶ月前の事。…そして現在に至る。
足跡を荒らさないように、科捜研特製スリッパ、通称シロクマくんを履く。両手には薄手の白い
手袋。中澤の後に続き室内に入った。
高価な家具が並ぶリビングは普通といえば普通の部屋だが、凶行があったというだけで異世
界に紛れ込んだような不思議な感覚がする。違和感とでもいうのだろうか。それが毎回味わう
"現場"独特の雰囲気だった。
吉澤は、この空気に触れると神経が研ぎ澄まされていくのを感じる。刑事としての本能が緩や
かに目覚める。
- 14 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 06:11
- 室内に目立った異変は無い。唯一目を惹くのが床に残された血痕。その赤い色が事件の証だ。
中澤は状況をまったく知らない吉澤に、これまでのところを一通り説明する。
「今から1時間前、119番に入電。通報者は隣の部屋の住人で、この部屋の男性が頭から血
を流して倒れているとの事。事件性が認められ、最寄りの交番から警官が派遣された。
被害者はこの部屋の住人で、大根俳雄(おおねはいお)、29歳……」
「ちょっと待ってください。大根って、俳優の大根俳雄ですか?」
「どうやらそうらしいね。あたしが来た時にはとっくに救急車で運ばれていたけど」
大根は女性に人気のイケメン俳優だ。特撮ヒーロー物でニヒルなブラックを演じ、主婦層を中
心に人気が出てきた。最近では多くの女性タレントと浮名を流し、ワイドショーを賑わしている。
ちなみに吉澤はあまり好きではなかった。キザな笑顔が気に食わない。
- 15 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 06:20
- 「で、大根なんだけど、医者の話だと命に別状はないみたい。
意識が戻り次第事情を聴くけど、それまでに犯人が逃亡する可能性もあるから、できる限
り捜査は進めておく。……というわけで、後はよろしく」
「え?」
部屋を出て行こうとする中澤を慌てて止める。
「よろしくって、中澤さんは?帰るんですか?」
「あたし、酒飲みすぎちゃって、使い物になりそうにないから帰って寝るわ」
そう言われてみれば、普段より顔が赤く息も酒臭い。
「だからって、オレ一人でやれっていうんですか。こういうのは初動捜査が大切なんでしょ。
応援は?所轄はなにをやっているんですか?」
「例の麻薬がらみの事件で手が回せないって。うちもいろいろ立て込んでいるし、暇なの
あんたしかいないの。
まあ、厄介事が弐係に押し付けられるのはいつもの事だからいいじゃないの。吉澤も慣れた
やろ、うちのやり方に」
「…………」
吉澤は呆れて言葉が出ない。帰っていく中澤を、黙って見送った。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/28(水) 08:08
- ケイゾクにトリックですか。
好きな雰囲気なんで期待しています。
スーツのよっしぃーかっこいいだろうなぁ
- 17 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 08:24
- 仕方がない。人手が足りないというのなら一人でやるしかない。……とは言ったものの、
部屋を見回し、どうしたものかと途方に暮れる。
「猫の手も借りたいよ……」
吉澤がなにげに呟く。と、
「だったら貸してあげるにゃーん」
この場に相応しくないランキングがあれば、ダントツでナンバーワンに輝くだろう甲高い声。
物凄く嫌な予感。おそるおそる振り向くと、目の前に招き猫がゴロニャーゴ。
「……梨華ちゃん、なんでここにいるの?」
招き猫を吉澤の目の前に掲げながら、梨華はテヘヘと笑う。
「よっしーがピンチに陥っていると連絡があってね、ずばっと参上した次第です解決ずば
っと」
そう言って、訳の分からないポーズをとる。
どうやってここに来たの?……って、手に持っている招き猫が答を示している。
吉澤が人形を片している間に車の後部座席に潜り込んだのだろう。なんとも手の込んだ
事をするものだ。
- 18 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 08:27
- 「それでそれで、今回はどんな事件なの?強盗?殺人?」
声がはしゃぎまくっている。
「梨華ちゃん、いいかげんに―――」
「あっ、血だ」
床の血痕を見つけ、そこに飛びつく。
目が爛々と輝きだす。その様はまるで、血に飢えた吸血鬼のようだ。
「部屋が荒れてないし、デッドボディーラインが無いって事は傷害事件?
血の乾き方からみて、……犯行が行なわれたのは2時間くらい前。いや、それ以上かな。
ソファーの位置から考えて、犯人は被害者を後ろから殴った。後ろから…。知り合いだっ
たのかな。痴情のもつれ?それだったら被害者が犯人を知ってるね。
なんだ、つまんないの。被害者は死んでいないんでしょ?」
一気に喋る。
梨華の悪い癖がまた始まった。
- 19 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 08:32
- 極度の犯罪事件フェチ。事件に遭遇するといつもの梨華ちゃんはどこへやら、途端に目
付きを変え事件の謎を究明したがる。
こうして犯罪現場に身を置くと、神経が研ぎ澄まされていく。好奇心という名の本能が瞬く
間に目覚める。
梨華が吉澤と根本的に違うのは、興味の対象が犯人ではなく犯罪にある事で、その為、
倫理観が欠如することもしばしばだった。ミステリーの読者のように、単なる傷害よりも殺
人事件を好む。刑事の吉澤としては嫌悪感を抱かざるを得ない、はっきり言えば、梨華
ちゃんの嫌いな一面だった。
大概の事は冗談として受けとめるし、梨華の破天荒な言動も許容できるが、犯罪を楽し
む行為はどんな種のものでも許せない。それほどまでに、吉澤の犯罪に対する憎しみは
大きかった。
刑事として適任であるが、一方で危うくもある。
―――その性格は、のちのち吉澤の運命を変えることになる。
- 20 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/04/28(水) 08:38
- 「梨華ちゃん、いいかげんにしろよ。事件に首を突っ込むなって何度も言ってるだろ」
床に寝そべっている梨華の首根っこを捕まえる。
「だって〜」
猫なで声の梨華。吉澤は容赦ない。
「きしょい声出すな」
「だってだって、事件が早く解決すれば、それだけよっしーと一緒にいられるじゃない」
「だからって現場についてくるなよ」
「でもでも、前の事件だってあたしが手伝ってあげたから犯人が捕まったんじゃない」
……そうなのだ。吉澤の捜査を邪魔する事もしょっちゅうだが、その推理力がずば抜けて
いるのも確かだった。何度か助けられたことがあり、それを言われると大きな事が言えな
くなる。
「ねっ、今回も手伝ってあげる。運良くほかの刑事さんはいないみたいだし。
よっしーは猫の手も借りたいんでしょ」
「…………」
吉澤は悩んだ。帰れと言っても梨華が大人しく引き下がるとは思えない。人手が欲しいの
も確かだ。なにより梨華の推理力の凄さを知っている。
「……少しでも邪魔したらすぐに帰らせるよ」
吉澤は苦渋の決断を下した。
「うん」
大喜びの梨華は吉澤に抱きついてくる。
「それが邪魔だって言ってるんだよ。離れろ」
「あたし、よっしーに触れていると何故か頭が冴えるんだよね」
「ウソつくなよ。そうやって、いつも暴走するじゃないか」
―――こうして、おかしな二人組の捜査が開始された。
- 21 名前:はじめのおわりのはじめに 投稿日:2004/04/28(水) 08:48
- 作品中に出てくるトリックは
@古典トリックを流用、アレンジしたもの
A知り合いに頂いたもの
B作者オリジナル
それらをごちゃまぜに使用しています。
トリックそのものはてきとーに考えているので、重大な欠点がある場合を除いてツッコミ
は勘弁して下さい。
物語の性質上、被害者、容疑者、犯人となる人物の性格が著しくデフォルメされる事が
あります。特定の人物を愛好されている方、ご容赦下さい。
また、殺害される事があっても、あくまでフィクションなので秘密の呪文で何度でも復活
します。別の役で再登場する事もしばしばです。ご安心を。
レスは頂けるのでしたらage、sage、ochi、ochiai、hage、saru、saga、どれでもかまいま
せん。(sageが無難ですが、程々の遊びなら許容範囲)
ネタバレには十分ご注意下さい。
どうしても答を言いたい方は人目につかない他所でお願いします。見事正解された方は
漏れなく作者に嫌われます。副賞としてリクエスト権を進呈。一押しキャラの出演、まい
なーCP等、要望にできうる限り応えたいと思いますが、その方法が確立できていないの
で当分の間は無理です。そもそもお話がそこまで進んでいません。
いろいろと方法を模索中です。なんとか形にできればと。
謎解き半分ストーリー半分、どちらも面白いと言われる作品を目指しています。
気楽に書いている作品なので気楽に読んで下さい。その上で楽しんで頂けたら幸いです。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/28(水) 15:41
- あ、新作だ!
タイトルがインパクトありますね
おかしなふたりに期待してます
頑張ってください
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/29(木) 00:35
- おもしろそうですね!期待してます!がんばってください!
- 24 名前:名も無き読者 投稿日:2004/04/30(金) 19:41
- おぉ、おもしろそうな推理モノだ!!
2人のキャラもイイ感じで楽しみです。
期待してますw
- 25 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/01(土) 08:48
- 吉澤と梨華は捜査を開始した。
まずはじめに、情報が足りない。中澤は帰ってしまったし、ほかに刑事はいない。
隣の部屋でゴソゴソと音がするのでのぞいてみると、二人の鑑識が指紋の採取や写真の
撮影をしていた。見覚えのある顔だ。
(確か……)
名前が思い出せない。吉澤はその二人を(心の中で)、"メガネ"、"ヒゲ"とだけ呼んでいた。
細身で病弱っぽい顔をしているメガネが吉澤に気付いた。
「吉澤さんじゃないですか。ご苦労様です」
首からカメラを提げている姿はどうしてもオタクに見えてしまう。実際、かなりのアイドルマ
ニアらしい。
「なんだ、ねえちゃんが担当なのか」
もう一人の鑑識、年齢は50を超える強面のヒゲ。吉澤のことを"ねえちゃん"と呼ぶ。鑑識
一筋25年のベテランで頼りになるオヤジだが、口が悪いのが欠点だ。
「人使いの荒い中澤の大将に比べたらマシか」
ガハハと笑う。
女の刑事を疎む者が多い中、この二人はそんな様子なく普通に接してくれる。
- 26 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/01(土) 08:54
- 「ん?なんだ、その後ろのピンクいのは」
二人の視線が自然と梨華に集まる。
「えっと、これは……」
吉澤はどう説明したものか困る。
「"これ"って、物じゃないんだから」
梨華は不満げに言い、一歩前に出た。
「初めまして、特別捜査協力員の金田一梨華です。よろしくお願いします。梨華って呼ん
で下さい」
ニコッと笑い、おじぎをする。
「特別捜査協力員だと…?」
「ええ、警視庁が新しく採用した民間の犯罪捜査のプロなんです。こう見えても何件か事
件を解決したことがあるんですよ」
平気で嘘をつく梨華に、吉澤は呆れてしまう。
「そんな話、初耳だぞ。本当なのか?ねえちゃん」
ヒゲが吉澤に訊いてくる。
「は、はい、本当です。ほら、海外の警察でよくあるじゃないですか。それを参考にしたん
ですよ」
「超能力者じゃあるまいし…。
まあそれはいいとして、お嬢ちゃん、どうしてパジャマなんだ?」
ヒゲの言うとおり、梨華はピンクのパジャマにコートを羽織っただけの姿をしている。しかも
吉澤のコートなので丈が少し長い。
「突然の呼び出しだったから、着替える暇がなかったんです。でもほら、このパジャマ可愛
いでしょ。よっしぃーが買ってくれたの」
「よっしぃー……」
吉澤に似つかわしくないニックネームに、ヒゲは思わず吹き出した。
なにがおかしいんだよ。吉澤が睨む。
- 27 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/01(土) 08:58
- 「ん?」
吉澤は、メガネの様子がおかしい事に気が付いた。さっきから梨華ばかり見つめていて、
その表情は呆けている。
「あ、あの……、記念に1枚いいですか?」
そう言ってカメラを構える。
「いいわけないだろ、鑑識用のカメラだぞ」
すかさず吉澤がツッこむが、
「いいじゃない。それに、スーツ姿のよっしぃーと写真撮った事ないし」
梨華は吉澤の腕に抱きつき、ポーズをとった。
「えっ?一緒に写すんですか」
メガネが思わず不満を洩らす。
「なんだよっ、オレが一緒じゃイヤなのか」
「いえいえとんでもないです。それじゃあ撮りますよ。ハイ、チーズ」
パシャッ。フラッシュがたかれ、思わず目をつむった。
「出来上がったら下さいね」
「もちろんです」
メガネと梨華ちゃんはどちらも上機嫌。吉澤だけ不機嫌で、梨華を部屋の隅に引っぱって
いき、鑑識の二人に背を向けて小声で説教を始めた。
- 28 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/01(土) 09:10
- 「邪魔するなって言ってるだろ」
「え〜、邪魔じゃないよ。鑑識さんとのスキンシップだよ。鑑識さんと仲良くするのは大事な
事なんだよ。あの三億円事件だって、鑑識をもっと重要視していれば…」
「そんなうんちくどうでもいい。それより、金田一ってなに?まさかそれが本名じゃないよね」
「もちろんだよ」
「偽名にするならもっと普通の名前にしろよ。嘘だってバレるだろ」
「明智にしようかとも思ったんだけど、あたし、乱歩より横溝正史の方が好きだから。ちなみ
に、金田一耕助の名前は言語学者の金田一京助からとられていて、この人は国語辞典を
つくった事でも有名なんだよ。あたしが中学生の時に使っていた辞書も…」
「だ・か・ら、うんちくはいいの。そんな事より、いいかげん本名を教えてよ。"梨華"は本当の
名前だよね?それともそれも偽名なの?」
「―――ひ・み・つ。女はね、少しぐらい謎があった方が魅力的なんだよ」
「少しどころか謎だらけじゃないか、梨華ちゃんは」
吉澤にとって最大の謎は、梨華ちゃんの存在そのものだった。
「兎に角、邪魔をしないように気をつけてよ」
「はーい」
梨華はおどけて、ビシッと敬礼をする。
「敬礼は、左手じゃなくて右手だよ」
「そうなんだ」
もう一度右手でやり直す。
ハァ〜、吉澤は溜息をつく。なにをやってんだか……。
- 29 名前:名無し読者やよー 投稿日:2004/05/06(木) 00:51
- タイトル見てふらふらやって来ました。
推理モノは初めて読むのでこれからどうなるか
楽しみにしています。更新頑張って下さい〜
スーツ姿のよっすぃー・・
金髪ならトリックのあの方を想像してしまう・・
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/11(火) 18:42
- おお…タイトルが、すごいですね。
梨華ちゃん…何者なんでしょう。
これからどうなるのか楽しみです。
- 31 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:06
- 吉澤は気を取り直し、鑑識の二人に向き直った。
「中澤さんが帰っちゃって、情報が全然足りないんです。今迄に分かっている事を教えて
ください」
「分かっている事といってもなぁ、大した情報はないぞ」
ヒゲは隣のリビングに移動した。吉澤と梨華も後についていく。
「俺達鑑識は遅れてやって来たから、その時の詳しい状況は知らないぞ。半分は先に駆
けつけた奴らに聞いた話だ」
そう前置きして説明を始める。
ヒゲは床の血痕の辺りをあごで指した。
「被害者はここに、身体を横向きにして倒れていた。後頭部を鈍器で殴られている。この
血はそこから出血したものだ」
「ドンキー…」
梨華がポツリと呟く。
「ドンキーじゃなくてドンキだよ。鈍い器と書いて鈍器」
「そんなこと分かってるよ」
「ならいいけど…」
梨華の頭の中に、ポニーテールをした福井訛りの少女の顔が思い浮かんでいた。
- 32 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:09
- 「話を続けるぞ。傷の位置が後頭部の右側にあることから、犯人はおそらく右利き。
傷の形状からみて、凶器は角ばった硬いものと推測される。凶器の特定はできていない。
血液反応が他からは出ていないので、凶器は犯人が持ち去ったと思われる。
部屋が荒らされた様子は無く、ドアや窓が無理矢理開けられた形跡も無い。よって、空き
巣などの物取りの可能性は低いと思われる。
部屋からは複数人の指紋が見つかっている。照合していないので誰のものか判っていな
いが、ただ、指紋を拭き取ろうとした不自然は形跡は無かった。採取した指紋の中に犯人
のものが含まれているか、または手袋のようなものを着けていたかだ。後者なら計画的な
犯行だな」
梨華はヒゲの話を聞いているのかいないのか、部屋の中をウロウロしながらあちこちに視
線を彷徨わせている。
「今のところ分かっているのはこれくらいだ。後は指紋・毛髪・足跡、それらを採取して分析
の結果が出れば、他にもいろいろと分かってくるだろう。
犯行時刻やら容疑者やら、それを調べるのはそっちの仕事だ。なんにしても、被害者の回
復待ちだな」
「そうですね…」
犯人に直接結びつく情報が無く、吉澤は肩を落とす。
- 33 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:14
- 「そうそう。事件に関係あるかどうか分からないが、面白いものがあるぞ」
ヒゲが言う。
その時、外にいた制服警官が慌てた様子で入ってきた。
制服警官は何故か、脇にペコちゃんの人形を抱えている。梨華を見ると、意味あり気に笑
い返す。……どうやらまたやったらしい。
「病院から連絡がありました。被害者が意識を取り戻したそうです」
制服警官からの朗報に、吉澤は顔を輝かす。
「それで、犯人は?誰にやられたって?」
「それなんですが……、残念ながら被害者は、犯人の顔を見ていないそうです」
制服警官は、自分の責任であるかのように申し訳なさそうに言った。真面目な性格らしい。
「なんだって!?顔見知りの犯行じゃないの?」
「はい。一人で帰宅した直後、何者かに襲われたようです」
となると、話は一気に振り出しに戻ったことになる。
吉澤は携帯を取り出し、中澤と連絡を取ろうとした。容疑者が特定できないとなると、もっ
と応援が必要だ。
- 34 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:20
- 「姐さーん、聴き込みに行ってきましたよー」
突然、場違いに明るい男の声が聞こえてきた。ドアに目をやると、髪を金髪に染めた若い
制服警官が入ってくる。新顔だ。
「アレ?中澤の姐さんは?」
部屋を見渡し、中澤の顔が無いことに気づいて言う。
「中澤さんなら帰ったよ」
電話を掛ける手を止めて、吉澤が答える。
「マジかよ。人に仕事を押し付けておいて、ざけんな。―――で、アンタ誰?」
「馬鹿野郎、口のきき方に気をつけろ。この人は本庁の吉澤さんだ」
同僚の制服1号が注意する。
それを聞き、金髪の制服2号は吉澤の顔をじろじろと見た。
「へえー、アンタがあの。
想像してたのより全然キレイじゃん。もっとゴツイ女だと思ってた」
一応褒められているのだろうか、でも全然嬉しくない。
「で、後ろの可愛いお嬢さんはどなたですか?」
ターゲットを梨華に変える。そう訊ねる口調も変わっている。
制服1号は首をかしげる。誰だこの子?いつのまに部屋に入ったんだろう?そんな顔だ。
- 35 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:29
- 「初めまして、特別捜査協力員の明智梨華です。よろしくお願いします。梨華って呼んで
下さい」
ニコッと笑い、おじぎをする。
「特別捜査協力員?」
「ええ、警視庁が新しく採用した民間の犯罪捜査のプロなんです。こう見えても何件か事
件を解決したことがあるんですよ」
ほぼ完璧なリプレイを見せられ、吉澤は呆れてしまう。唯一の違いはセリフが一部変わっ
ていること。ヒゲがそれに目ざとく気づく。
「明智?金田一じゃなかったか?」
吉澤が慌てて誤魔化す。
「彼女、探偵フリークなんです。すぐに"明智"とか"金田一"とか名乗りたがるんですよ。
おかげで誰も彼女の本名を知らないんです」
実際本当の話なのだが、ヒゲにはふざけているようにしか聞こえない。協力員という話も
にわかに信じられなくなってくる。疑わしい眼つきで吉澤と梨華を見る。
- 36 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:35
- 一方、
「ヨロシク、梨華ちゃん」
制服2号は、梨華のでまかせに疑問を持つこと無く完全に受け入れている。
「その服可愛いね、パジャマみたいだ」
「パジャマみたいでしょ。実はパジャマなんです」
「へえー、すごく似合ってるよ。
そういうファッション、アメリカで最近流行ってるらしいね」
「そうなんだ。アメリカの人は寝不足なのかなぁ。パジャマだったらいつでもどこでも寝ら
れるもんね」
馬鹿な会話を繰り返す二人に、吉澤は頭が痛くなってくる。
中澤の携帯に急いで電話した。早くまともな人材を寄越して欲しい。
「……………………駄目だ。あのおばさん、電源を切ってやがる」
忌々しく呟き、携帯をしまう。
仕方が無い。自分達だけで進めるしか無いようだ。
- 37 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:40
- 「病院からは他に情報は無いの?」
制服1号はメモをめくる。
「―――えっとですねぇ、被害者の話だと、仕事が終わったのが11時半頃。タクシーで帰
宅して、マンションに着いたのが深夜の12時。
いつものように玄関の鍵を開けて中に入り、廊下を抜けてこのリビングに入ったところまで
は憶えていますが、そこから先の記憶が無いそうです」
「つまり、このリビングに入った瞬間に後ろから殴られたってことか。犯行時刻は12時頃と
いうことになる?」
「そうみたいっスよ」
制服2号が口を挟んでくる。
「どうして分かるの?」
「オレ、中澤姐さんの命令でマンションの住人の聴き込みをやらされていたんだけど、ここ
の真下の部屋にすっげー美人のOLが住んでて、これがまたセクシーなネグリジェで出て
くるものだからグフッ―――」
制服2号はみぞおちを押さえ床に崩れ落ちる。我慢できなくなった吉澤が一発お見舞いした。
「そのOLがどうしたって?」
「12時頃に上の部屋から、何かが床に落ちる大きな音を聞いたそうです」
すっかり敬語になる。
「その時間は確か?」
「はい。彼女、ドラマの「仔犬の悪2」を毎週観ているのですが、今日(正確には昨日)は野
球中継が60分延長して、観終わったのが12時近くになったんです。その後風呂に入ろう
として、服を脱いで裸になった時に物音を聞いたそうです」
「そうか……」
詳しく 訊いたものだと感心する。余計な事まで聴き込んでいたのかも知れない。
- 38 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:44
- 吉澤はふと、制服2号の言った言葉が気になった。微妙なニュアンス。
「床に何かが落ちる……。
そのOLが聞いたのはどんな音だったの?人が倒れる「ドタッ」という感じの音?」
「さあ、どうでしょう。ちょっと待ってください、直ぐに訊いてみます」
制服2号は自分の携帯で、どこかに電話を掛けた。相手が出る。
「もしもし、はい、うん、うん、早速掛けちゃった。
うん、ちょっと訊きたい事があるんだけど―――」
皆、呆れ顔で2号を見ている。勤務中に何をやっていたんだ。
話し終え、2号は携帯を切った。
「いえ、そうではなく、「ガシャーン」という硬いものが落ちたような音だったと言っています」
「硬いもの……。何の音だろう?」
- 39 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:46
- 「第一発見者は?」
吉澤は制服1号に訊ねる。
「隣の703号室の男性です。今は自室にいます」
「話を聴きたいから呼んできて」
「はい」
「それと、エレベーターの防犯カメラ。記録しているかどうか管理人に訊いてきてくれる?
もし記録しているのなら、ビデオテープを貰ってきて」
「わかりました」
1号は部屋を出て行く。
「聴き込みで、他に目ぼしい情報はあった?」
2号に訊ねる。
「特に無いっス。ほとんどの人が就寝中だったから、けんもほろろで…」
「あんたの訊き方が悪かったんじゃないの?」
「OLさんは素直に答えてくれたよ」
「まあいい、朝になったらもう一度訊き直そう」
- 40 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:49
- 梨華ちゃんは何をしているのだろう。そう思って様子を窺うと、皆に背を向けて、なにやら
テレビの辺りを熱心に見ている。
「ところでさぁ、被害者って大根俳雄なの?」
梨華が訊ねてくる。
「そういえば梨華ちゃんに言ってなかったね。そうだよ、俳優の大根俳雄」
「そうなんだ。―――よっちゃん、凶器が何なのか分かったよ」
「えっ、本当!?」
梨華の言葉に吉澤とヒゲは驚く。
「うん。凶器はわんわんオスカルちゃん」
「はぁ?」
また訳の分からない事を言う。こいつ大丈夫か?と、ヒゲが吉澤を見る。
「これを見て」
梨華はテレビの上を指差した。
そこには大小様々なトロフィーが所狭しに並んでいる。トロフィーの台座には大根俳雄の
名前が彫られていて、写真立てもいくつかあり、そのどれにも大根が写っていた。
梨華はこれを見て、被害者が大根だと知ったのだろう。
梨華が素手のままでトロフィーに手を伸ばしたので、吉澤が寸前で止める。
予備の手袋を持っていないので、仕方なく自分の左手にはめていたものを外して梨華に
渡した。梨華はそれをひっくり返し、右手にはめた。
「えへへ」
何が嬉しいのか、右手をグーパーグーパーさせて微笑む。
クンクン。
「匂いを嗅ぐな!」
- 41 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 17:52
- 「"第629回スター☆ボーリング優勝"。
"第304回クイズところ変われば!?優勝"だって。すごいね」
「そんな番組誰も知らないよ。それに出演している事の方がすごいよ。
それよりも、凶器は一体なんなの?」
「アワテナイアワテナイ♪」
梨華が拍子をつけて言う。余計に苛立つのはどうしてだろう。吉澤はこめかみを押さえる。
「ここをよく見て。ここだけ埃をかぶっていないでしょ」
テレビの上はずっと掃除をしていないのか、一面埃だらけだったが、梨華の指差す一点、
10センチ四方だけ埃が積もること無くきれいになっている。
「そしてこれ」
梨華は写真立てを一つ取り、吉澤に渡した。
その写真には、犬をかたどった像を持ち、白い歯をキラリと輝かせて笑う大根の姿が写っ
ている。バックには"日本あかでみい賞授賞式"の文字が見える。
吉澤は、梨華の言ったオスカルちゃんの意味がやっと分かった。
日本で最も栄誉ある映画賞、日本あかでみい賞。その賞に輝いた者には犬の像が贈られ
る。正式名称はちゃんとあるのだが、ある女性が、「叔父の飼っているオスカルにそっくり」
と言った事から、いつのまにかオスカル像と呼ばれるようになっていた。
大根は昨年、この日本あかでみい賞の新人賞をもらっている。写真に写っているオスカル
像の台座は10センチ四方の角ばった形。そして、マイナー番組で貰ったトロフィーでさえ
飾っている大根の部屋に、そのオスカル像が見当たらないという事は……
「つまり、ここに置いてあったオスカル像が凶器なんだね」
「そのとおり」
二人の会話を後ろで聞いていたヒゲは、梨華の推理にすっかり感心していた。
「特別捜査協力員てのは本当のようだな」
- 42 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 18:02
- 「あと、もう一つ気になる事があって―――」
梨華は血痕の傍の床の上に寝転がった。
「さっき気づいたんだけど、ほらここ、床に小さなキズが二つある」
吉澤も梨華の隣に寝る。梨華の言うとおり、確かにキズが二つある。ぱっと見では分から
ないほど小さなキズ。
「ルーペを貸して下さい」
「わかった、ちょっと待っててくれ」
ヒゲは鑑識道具の入ったジュラルミンのケースからルーペを取り出し、梨華に渡した。
キズの上にルーペを置き、梨華と吉澤は顔をくっつけるようにして覗き込んだ。
「―――よっちゃん、キズの断面をよく見て。汚れていないでしょ。このキズは新しくできた
ものだよ」
「そうみたいだね」
「何がぶつかってできたキズなんだろう?」
お互い顔を見合わす。5センチメートル。すぐ触れそうな距離に梨華の顔がある。吉澤は
慌てて立ち上がった。思わずどぎまぎしてしまう。
(なにを意識してるんだ、オレは……)
梨華は吉澤の動揺に気づくことなく、辺りをキョロキョロ。
- 43 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 18:05
- 「もしかして、このCDラックかな?」
キズから50センチ程離れた所に、金属製のCDラックが置かれている。そのCDラックの
高さも50センチ程。
梨華は指で、CDラックの横幅を測った。親指から人差し指までの長さ、およそ三つ分。
床の二つのキズの間の距離も測る。これもおよそ三つ分。
CDラックの天板は、四つの角が5ミリほど前に出っ張っている。
「この出っ張りがぶつかってできたキズじゃないかな?」
梨華はCDラックの中を確認した。
「やっぱりそうだ」
CDラックから一枚CDを取り出す。"もーにんぐ娘。"の『ザ☆ピ〜ス』。そのケースのふち
に、小さくヒビが入っていた。
梨華はCDのジャケットを見つめたまま、じっと動かなくなる。どうしたのかと思ったら、
「チャーミーってやっぱり可愛いね」
と、ひと言。
「…………」
吉澤はあえてツッこまなかった。
- 44 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 18:09
- 「他にも何枚かケースにヒビが入っている。おそらく、被害者が襲われた時にこのCDラッ
クが倒れたんだと思うよ」
「下のOLが聞いたのは、その時の音?
―――という事は、犯人がCDを入れ直したって事かな?」
CDラックは上下3段に別れていて、それぞれの段に20枚程CDが並べられている。一つ
の段に余裕で30枚入る大きさなので、CDは左から右にいくにつれ、斜めに傾いてきてい
る。
「このCDから指紋は採りました?」
「いや、まだだ」
ヒゲが言う。
「犯人が触れているかもしれないのでお願いします」
「ああ、わかった」
「その前に、写真をお願いします」
梨華が注文を出す。それを聞きつけ、メガネが隣の部屋から勇んで飛んできた。
メガネはCDラックの正面に立ち、全体を1枚、それぞれの段を1枚ずつ撮影した。
それが終わった後、ヒゲはCDをCDラックから全て出し、指紋の採取を始めた。
- 45 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/05/13(木) 18:10
- 「確認の為に、実験してみる?」
梨華が提案する。
「もう一度OLさんに電話してください」
制服2号は言われたとおりに、階下のOLに電話した。
「いいですか?いきますよ。3、2、1」
梨華は合図と共にCDラックを倒した。
ガシャンッ
CDラックは大きな音を立てる。
どかしてみると、床に二つのキズが残った。
「同じ音だったと言ってますよ」
2号が言う。OLの方も確認が取れた。
推測は正しかったようだ。
- 46 名前:ある 投稿日:2004/05/13(木) 18:29
- 隠しついでに完成度の低いナゾナゾをひとつ。
- 47 名前:ある 投稿日:2004/05/13(木) 18:30
- モーニング娘。のメンバーが、人ひとりがやっと通れるくらいの狭い洞窟に探検に入りま
した。突然メンバーの前に、正体不明の化け物が現われました。みんな、一目散に出口
に引き返しました。
さて、洞窟から一番最後に出てきたのは誰でしょう?
- 48 名前:ある 投稿日:2004/05/13(木) 20:00
- 答は次回。
- 49 名前:名無し飼育 投稿日:2004/05/31(月) 08:58
- 解んない…
- 50 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 03:58
- 「あのぁ、すみません」
声がして振り返ると、リビングの入り口に太った男が立っていた。
「まだ何か用ですか。明日仕事があるので早く休みたいのですが」
どうやら第一発見者の男性らしい。
「申し訳ありません。お話を伺いたくて」
「またですか。何度も話したでしょう」
「すみません、すぐに終わらせますから」
吉澤は下手下手に出る。男のうんざり顔に、慣れない愛想笑いを返す。
(梨華ちゃんならうまくやるのに)
そう思って梨華の腕をつっつく。梨華は吉澤の意図を理解したようで、
「どうか御協力お願いします。お手間は取らせませんから」
ニコッ。チャーミーばりのスマイルをしてみせた。
「わ、分かりましたよぉ。早くしてくださいね」
効果覿面。男はニヤケ顔、鼻の下が伸びている。
(さすが梨華ちゃん……)
狙い通りなんだけど、何故かちょっと悔しい。
「まず、お名前は?」
「戸成野重人(となりのしげと)。42歳。独身。出版社に勤務。彼女イナイ歴6年」
訊かれていない事までスラスラ答える。散々訊かれたのだろう。警察の事情聴取はとにか
くしつこいから。
(その顔で彼女がいたんだ)
吉澤は男の顔を見て、失礼ながらそんな事を考えていた。機嫌悪そうな顔が友人の飼っ
ているパグにそっくりだ。
- 51 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:02
- 「被害者を発見した時の状況を詳しく教えてください」
「―――時間は1時くらいだったと思います。正確には憶えていません。
寝ようと電気を消して布団に入った時です。隣の部屋から「キャー」という女性の悲鳴が
聞こえたんです」
「女性の悲鳴?」
「はい。突然だったのでビックリしました。心臓が飛び出しそうなぐらい。
その後しばらく聞き耳を立てていたのですが、うんともすんとも言わなくなって。
私、こう見えても心配性なんです。何かあったのではないかと気になって気になって、頭
の中でどんどん悪いイメージが膨らんできて、いてもたってもいられなくなったんです。
どれくらいでしょうか、5分か10分、もっと経っていたかもしれません。外に出て隣のイン
ターフォンを押してみたんです。でも、何回押しても返事が無くて。
ますます不安になって、ドアノブを回してみたら鍵が掛かっていなかったので中に入った
んです」
梨華はじっと戸成野の話に耳を傾けている。真剣な顔つきだ。
「それで?」
吉澤が先を促す。
「玄関で声を掛けたのですがやっぱり返事が無くて。
それで、恐る恐る中に入っていったら、そこに大根さんが倒れていたんです」
思い出したのか、顔をしかめながら血痕の辺りを見やる。
「倒れたままピクリともしないので、最初は死んでいると思いました。
触れてみると脈があったので、すぐに救急車を呼んだのです」
- 52 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:07
- 「部屋には誰もいなかったのですか?」
「はい、いませんでした。
ですけど、他の刑事さんにも言いましたが、玄関に女物の靴があった気がするんです」
「女物の靴、ですか…。どんな靴です?」
「空色のスニーカーです。……だったと思います。
すみません、はっきりとは憶えていないんです。
ただ、玄関に入った時にまず靴が目に入って、男物のブーツや革靴が並んでいる中、そ
のスニーカーだけがそぐわない感じがしたので憶えているんです。色が他とは違います
し、大きさも一回り小さかったので、だからといって女物とは限らないのでしょうが、女性
の悲鳴を聞いていたので自然女物の靴だと思ったんです。
―――それが、救急車を呼んで一度外に出た時に見たら、その靴が無くなっていたんで
す」
吉澤はリビングから廊下に出た。
- 53 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:10
- 大根の部屋、704号室の間取りを簡単に説明すると、まず南に玄関がある。
玄関に入ると、廊下が北に真っ直ぐ伸びている。
廊下の突き当たりにあるのが事件現場のリビング。
その途中、廊下の東側に風呂とトイレに続く二つのドアがある。
廊下の西側にはキッチンへの入り口があり、キッチンの北側には食卓の置かれた小さめ
の部屋がある。鑑識の二人がいた部屋だ。その更に奥がリビングにつながっている。
食卓のある部屋とは反対側、リビングの東側には寝室がある。
リビングの北側はテラス。このマンションは道一つ隔てて川に面していて、テラスからは
緩やかに流れる川面が望める。
マンションは7階建。一つのフロアに四つの部屋がある。どの部屋も間取りは同じ。西か
ら順に701、702、703、704号室となっている。
つまり、事件現場のリビングの西側には、壁を挟んで703号室の寝室がある。その為、隣
の部屋からの悲鳴が戸成野に聞こえたのだろう。
吉澤はトイレや風呂のドアを開け、中を窺いながら、
「玄関から上がった後、これらの部屋は見ましたか?」
と、訊ねた。
「いいえ。私が入ってきた時にはこのリビングにだけ電気が点いていて、あとの部屋は真っ
暗だったのでよく見ていません」
「もしかしたら犯人はキッチンかどこかに潜んでいて、あなたがリビングに行っている間に
玄関から逃げたのかもしれませんね」
リビングから玄関へは、直接廊下に出る、またはキッチンを回って廊下に出る二つ道があ
る。足音を忍ばせれば、戸成野に見つからずに逃げだすことも可能だろう。
- 54 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:15
- 吉澤はリビングに戻った。質問を続ける。
「まだ断定はできていませんが、被害者が襲われたのは12時頃だと思われます。
その時あなたは何をしていましたか?
あ、いや、これはあなたを疑っているのではなく―――」
「形式的な質問だって言うんでしょう。疑うのが警察の仕事だとも。分かっています。
12時頃ですか……。
今夜は残業で帰宅が遅れたんです。マンションに着いたのが11時40分くらいでしょうか。
12時頃……。その時間は風呂に入っていました」
「犯行時刻には自室にいらしたんですね。
何か物音を聞きませんでしたか?例えばガラスが割れるような」
吉澤が質問したのは、OLが聞いたCDラックが倒れる音の事だ。戸成野からも確認が取
れれば犯行時間がはっきりする。先入観を持たせない為に、あえてCDラックの事は言わ
ない。
戸成野は腕を組んで考え込む仕草をする。しかし、
「これといって思い当たりませんね。残念ながら」
手掛かりは得られない。
「そうですか……。被害者の大根さんとは親しかったですか?」
「いいえ、近所付き合いも特にありません。たまに顔を合わせたら会釈するぐらいで。
なんせ相手は芸能人ですから、日頃から一般人を避けている様子でしたよ」
「大根さんに恨みを持つ人物に心当たりはありませんか?
不審人物を見かけたとか、変な人が訪ねて来ていたとか」
「先程話したように大根さんとは親しくなかったので、恨みを持つ人物なんて知りません。
ですが、大根さんの部屋にはいろんな人が訪ねて来ていたようです。お笑い芸人の人と
か綺麗な女性とか、中にはストーカーまがいのファンまで。夜遅くに騒いでいることもしば
しばでした」
「この事は、本人に直接訊いた方が早いようですね」
- 55 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:17
- 吉澤は梨華を見る。なにか質問はある?
そう眼で訊ねると、梨華は首を横に振った。
「最後に、もう一度部屋の中をじっくり見てもらえますか?
何か気付く事があるかもしれないので」
戸成野は首をめぐらす。
ギョロ、ギョロと眼が動き、リビングの隅のパソコンで止まった。
「そのパソコン、私が入ってきた時には電源がONになっていて、裸の女の人が映っていま
したよ」
「裸の女?」
リビングの一角にデスクトップ型のパソコンが置かれている。その横には、プリンタやデジ
カメなどの周辺機器が置いてある。
パソコンの画面は真っ暗。ピコンピコンと、ウルトラマンのカラータイマーのようにオレンジ
色のランプが点滅している。
「そうそう、それだよ。面白いものがあるって言っていただろ。そのパソコンの事だよ」
ヒゲが言う。
「面白いって、裸の女が?」
そりゃあ男だったら面白いだろうけど、女の吉澤は当然興味ない。
梨華も女の裸に興味ないけれど、
(よっしぃーだったら……)
後頭部に微熱を帯びた梨華の視線を感じる。吉澤は、怖くて振り向けなかった。
- 56 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:21
- ヒゲがパソコンの前に座る。胸のポケットから鉛筆を取り出し、その頭の方でキーボード
のリターンキーを押す。画面はたちまち鮮やかなブルーに変わった。
小さなウィンドウが開いていて、その中にいくつかフォルダが並んでいる。
ヒゲはマウスを握った。
「このマウスからは2種類の指紋が見つかっている」
既に採取済みらしい。マウスを動かして、ポインタをフォルダに合わせる。
「その人の言うように、このパソコンは既に起動していた。俺達が来た時にはスクリーンセ
ーバーが働いていたが。
でだ、最初に現われた画面に何が映っていたと思う?」
ヒゲがにんまりやらしい笑みを浮かべる。
「もったいぶらずに早く教えてください」
「見て驚くなよ。これだよ」
ヒゲは『A・M』という名前のフォルダを開いた。
パッパッパッと、縮小された画像の一覧が出る。ヒゲはその一つをダブルクリック。
画面に大きく映し出されたのは、少女のあられもない姿。
風呂上りだろうか、濡れた髪そのままに全裸でベッドに腰掛けている。
ヒゲが画面下部の右矢印をクリック、次の画像が表示される。
キスをしている男女の顔のアップ。男の方は被害者の大根俳雄で、少女の方にも見覚え
がある。
「まさか、この子って愛鳥マヤじゃない?」
吉澤が驚きの声を上げる。
「そうみたい」
梨華が頷く。
- 57 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:24
- 愛鳥マヤ(あいどりまや)、16歳。現役女子高生のトップアイドル。
歌にドラマに大活躍の少女で、同じトップアイドルの松浦亜弥のライバル的存在になると
目されている。あややに対抗してか、ファンからはマヤヤと呼ばれている。
これらの画像はこの部屋で、デジカメによって撮影されたもののようだ。パソコン横のデ
ジカメには取り込み用の線がくっついたままになっている。
トップアイドルと人気俳優の、人様にお見せできない過激な写真が次々に現われる。
梨華がギュッと、吉澤の腕に掴まってきた。見ると、顔を真っ赤にさせている。こういうもの
に免疫が無いのだ。吉澤の肩越しに、恐る恐るといった感じでパソコンの画面を覗いてい
る。そんな梨華の様子を少しだけ可愛いと思った。少しだけ。
「すっげー。オヤジ、次、次。ちょっと待て、ストップ。さっきのもう一回出して」
制服2号のテンションが上がりまくり。一人ヒートアップしている。
「うるせーぞ小僧。黙って見てろ」
「いいなぁ〜俳優って。羨ましいよ。オレもなろうかなぁ」
微妙に前屈みになり気味の制服2号。
「あっ、これです。これですよ、私が見た写真は」
戸成野が言う。
ベッドに横たわっている愛鳥マヤ。鼻から上が切れていて、これだけでは誰だかわからな
い。戸成野の言うとおり、確かに"裸の女の人"だ。
それから数枚の写真が映し出され最初のものに戻った。
愛鳥マヤの写真は全部で30枚あった。
- 58 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:30
- 「驚くのはまだ早いぞ。これだけじゃないんだな」
「まだあるんですか?」
「あぁ」
ヒゲは『A・M』のフォルダを閉じ、今度は『H・S』という名前のフォルダを開いた。
(エイチエス、エイチエス、エイチエス……、誰だろう?)
画像が表示される。
大人びた雰囲気の女性。長く伸びた黒髪が白い肌を隠すように広がっている。
先程の愛鳥マヤと同じく、この部屋で撮影されたらしい。ベッドカバーの柄が一緒だ。
「エイチエス。お次の登場は閑田聖子ですか」
吉澤が言う。
閑田聖子(ひまだせいこ)、34歳。
十数年前、トップアイドルとして一世を風靡したが、三十を越えた今、いまいちパッとしない
女優になっている。それでも華やかな美貌は健在で、ドラマで共演した大根との熱愛が一
時噂になっていた。この写真を見るところ、噂は本当だったようだ。
マヤヤに負けじと過激な写真の数々。歳も手伝ってか、より過激さが増している。
荒○○に○○○、○○が○○で○○○。さすがに直視できなくなり、梨華は吉澤の背中
に完全に隠れてしまう。
「どえらいものを見つけてしまいましたね。他にまだいるんですか?」
「あぁ。まだ何人かいるが、残りは素人のようだ。アイツが言っているから間違いないだろう」
メガネが眼鏡を中指でクイッと持ち上げる。
「有名無名問わず、僕が知らない女性アイドルはいません。そんな僕が知らない子達です
から、おそらく素人の子です。最近出たてのキャンギャルはノーマークですが、まあ僕に言
わせれば、キャンギャルはまだまだ素人の域ですから」
誇らしげに言う。が、全然立派に見えない。吉澤は呆れ気味に聞いている。
- 59 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:32
- 「被害者は帰宅直後に襲われたのだから、パソコンを使っていたのは犯人って事だよね。
部屋は荒らされていなかったんでしょ。犯人の目的はこの写真なのかな」
梨華が吉澤を見て言う。
「今迄の情報が全て正しいと仮定して、被害者が襲われたのが深夜12時。戸成野さんが
被害者を発見したのが1時過ぎ。それまで犯人がこの部屋にいたとすると、1時間以上も
の間何をやっていたのだろう?
愛鳥マヤが関係するの?戸成野さんが聞いた悲鳴は何?犯人は女?」
吉澤が疑問を口にする。
次々に謎が浮かび上がってくる。
- 60 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:35
- ヒゲに頼んで、パソコンの他のデータも漁ってみる。事件解決の手掛りがあるかもしれな
い。
探索の結果、CDからコピーしたらしい大量の音楽データが見つかった。
それから分かることは、大根が相当のハロプロファンだという事だ。
"もーにんぐ娘。""松浦亜弥""藤本美貴""めろん記念日""かんとりい娘"、その他各シャ
ッフルユニットまで。
CDラックに入っていたCDもハロプロ関係のものばかりだった。それらのCDから取り込ん
だのだろう。きちんとアーティスト、グループ別に整理されていた。
他に送受信メールが数十通ある。仕事仲間や友人からのものがほとんどで、差出人不明
の女性からのメールもあるが、事件に関係あるかどうかは分からない。
ざっと見たところ、それ以外に大したデータは無かった。
「科捜研に回して中身を詳しく調べてもらいます。旨くいけば消えたデータも復元できます
から、それで何か分かるかもしれません」
メガネが言う。吉澤は「頼む」と頷き返した。
- 61 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/04(金) 04:38
- 「あのぉ、私、もういいですか?」
戸成野がおずおずと言う。
「そうですね、今日のところはもう結構です。後日またお話を伺う事になると思いますが、
その時はよろしくお願いします」
「こんな面倒な事に巻き込まれるのだったら、第一発見者になんてなるんじゃなかったで
すね」
吉澤に背を向けながら、ポツリとこぼす。
「そんな事ありません。発見が遅れていたら手遅れになっていたかもしれないんです」
吉澤が言うと、戸成野は眼を見開き驚いた表情をして見せた。
「大根さん、助かったんですか」
「ええ、そうですよ」
「そうですか……」
戸成野は少しも喜んでいる様子ではなかった。その事に吉澤と梨華は気付いていた。
戸成野が部屋を出て行く。
入れ替わりに、制服1号が管理人を伴って帰ってきた。
- 62 名前:ある 投稿日:2004/06/04(金) 04:42
- 前回のナゾナゾの答………藤本美貴。いつも前に前に出るから。
ほら、完成度が低い。解らなくて当然です。
- 63 名前:ある 投稿日:2004/06/04(金) 04:44
- 予定より大幅に遅れてしまい申し訳ありません。まあいろいろと。
期待に添えるよう努力する所存です。
推理モノは独り善がりになりがちですので、ワケ分かんない所があれば質問してください。
答えられる事については答えます。
- 64 名前:ある 投稿日:2004/06/04(金) 04:45
- わざわざ隠す内容でもないのですが、隠しついでに完成度の低いナゾナゾを再び。
- 65 名前:ある 投稿日:2004/06/04(金) 04:46
- モーニング娘。のメンバーが自転車でレースを行ないました。
さて、一番最後にゴールをしたのは誰でしょう?
(ゴールすらできずにリタイヤになった可能性もあります)
答は次回。
- 66 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/11(金) 17:49
- 更新お疲れ様です。
最後のが気になりますねぇ。。。
なぞなぞ・・・ナルホドw
今回のもわかんないですねぇ・・・。
次まで大人しく待ちまってます。
- 67 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 18:47
- 「こちら、このマンションの管理人さんです」
制服1号に紹介されたのは、顔中皺だらけのかなり歳のいった老人だ。
眼光鋭く吉澤を睨んでくる。
「あんた、刑事さんかね?」
「はい、一応…」
「犯人はまだ捕まっとらんのかね」
「目下、鋭意捜査中です」
「ふん、そんなこと言うたかて警察は当てにならんて」
ブツクサぼやきだす。
「少しお話を伺いたいのですが。
大根さんに恨みを持つ人物に心当たりはありませんか?」
「心当たりなんてそんなもん、ありすぎて困るわい。いつかこんな事になるんじゃないかと
思っとったわ」
「と、言いますと?」
「あの大根ゆうんは日頃からトラブルばかり起こしよる。
芸能人だかなんだか知らんが、夜遅うに大騒ぎするわ、女をひっきりなしに連れ込むわ、
マスコミ連中がうちの周りをうろつくわで、あいつが入居してからろくでもなぁ事ばかり。
とにかくトラブルが絶えないんだ。その度に苦情が来よる」
大根には随分と迷惑しているらしい。
「それで、犯人の心当たりは?」
「…………そりゃあ、やっぱり女じゃないか?
あれだけ派手にやってたら、一人や二人、殺したいほど憎んでいる奴がいるだろう」
「……つまり、具体的には知らないわけですね」
「女だ、女。女関係を調べれば、おのずと犯人がわかるよ」
「そうですか、分かりました。ご意見参考にさせていただきます」
「ふん」
怒りでまくし立てた割には有用な情報は無かった。
- 68 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 18:49
- 「防犯カメラの方は?」
吉澤は制服1号に訊ねる。
「防犯カメラの映像は6時間ごとにテープに記録しているそうです。
これが、今夜の午後9時から先程まで録画していたテープです」
吉澤は1号からビデオテープを受け取る。
「エレベーターの他には防犯カメラを設置していないのですか?」
管理人に訊ねる。
「あぁ、エレベーター以外にはつけとらん。
そもそもカメラをつけたのは、去年の夏にエレベーターで住人の女性が変質者に襲われ
る事件が起きてのぉ。住人からの苦情もあって渋々防犯カメラをつけたんだ。
犯人はまだ捕まっとらんそうだし、つくづく物騒な世の中になったもんだ……」
最後の言葉には多分に警察への皮肉が込められている。
(オレに言われても困るんだけど……)
「テープはこれだけ?」
「いえ、全部で8本あります。一日4本、それを順番に上書きして使っているそうです。
しかし最近は、録画しているのは夜中だけだそうです」
「一日中録画するなんて無理があるわい。わしも暇じゃないんだ。
だから最近は、夜寝る前にだけテープをセットしとる」
老人一人では無理も無いだろう。
それに、防犯カメラは設置しているだけで、ある程度の犯罪抑止になる。
「そうですか。…それでも何かの参考になるかもしれない。残りのテープも調べてみます
ので、あとで借ります」
- 69 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 18:51
- 吉澤は梨華たちの方に向き直った。
「とりあえずこれを観てみよう。このビデオデッキは使っても大丈夫ですか?」
リビングにあるビデオデッキ。
「ああ、いいぞ」
ヒゲの了承をもらい、テープをデッキにセットする。
ジーコ。テープが長方形の穴に吸い込まれる。
吉澤はリモコンを持ち、再生ボタンを押した。
テレビにモノクロのエレベーター内部が映し出される。
「このアングルだと、どの階で乗り降りしたか判らないね」
吉澤の言うとおり、カメラは扉側、ボタンの上の天井の角に設置されていて、扉の上にあ
る階数表示が映っていない。
画面の右下には白い文字で時間が表示されている。
吉澤は左腕の腕時計を見た。今現在の時刻は午前2時50分。映像はその5分前。
02:45:17
02:45:18
02:45:19
ザーザーザーザーザーザー
カウントが進み、突然砂嵐に変わった。
しばらくして、またエレベーター内部の映像に戻る。
02:52:58
02:52:59
02:53:00
時間が飛んでいる。
今夜録画した映像が終わり、以前に録画したものに変わったようだ。
- 70 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 18:52
- 吉澤は巻き戻しボタンを押す。画面に横線が走り、映像が歪む。
誰かがエレベーターに後ろ向きで入ってくる。吉澤は慌てて再生ボタンを押した。
最初に登場したのは制服1号だった。時刻は2時42分。管理人の部屋がある1階に降り
た時の映像だ。
カメラのレンズが魚眼気味に作られているので、ボタンを押す制服1号の手と顔が極端に
大きくなる。頭と体がアンバランスで、少し滑稽な光景だ。
制服1号は当然事件に関係ない。吉澤は再び巻き戻しボタンを押す。
- 71 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 18:55
- ※以下は、人が乗り降りした時刻(秒は省略)。その人物と行動。皆の会話の一覧。
【2:31】
制服2号登場。大きなアクビをしている。
「聴き込みから帰ってきた時だよ」と、2号自ら説明する。
【2:26】
中澤登場。吐き気を催し、口を押さえている。壁に向かって何かブツブツ言っている。
ビデオには映像だけで、音声は入っていない。
「音が無いのも欠点だね」と、吉澤。
【2:21】
吉澤登場。途中、防犯カメラに気づいてカメラ目線になる。
「あれ?梨華ちゃんは?」
吉澤より後にやって来たはずなのに、その前の映像に映っていない。
「あたし?見つからないように階段を使ったの。よっしぃーがどこで降りたかは、1階の表
示で分かったし」
「わざわざ何をやってんだか……」呆れる吉澤。
【2:11】
制服1号。肩に携帯無線機を背負っている。
【2:07】
再び制服1号。肩に何も背負っていない。
「無線をパトカーに忘れて、一度取りに戻ったんです」と、1号。
【1:50】
中澤再登場(時間的にはこちらが先)。
吐き気を催し、口を押さえている。壁に向かって何かブツブツ言っている。
「…………」これについて、誰も何も言わない。
- 72 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 18:57
- 【1:41】
鑑識の二人。ジュラルミンのケースを手に提げている。
【1:30】
二人の救急隊員とタンカに乗せられた大根。もう一人、横に制服警官が付き添っている。
「この警官、まだ見かけていないけどドコにいるの?」
吉澤はテレビ画面の制服警官を指差して訊ねる。
「被害者と一緒に病院に行っています。被害者に事情聴取したのもそいつです」
「そう」
吉澤は心の中で勝手に"制服3号"と命名する。
【1:26】
救急隊員と空のタンカ。
【1:24】
制服1号2号3号。最寄りの交番から派遣された三人。
「我々が現着一番乗りでした」1号が言う。
【1:19】
住人とおぼしき女性。
「誰か判りますか?」吉澤は管理人に訊く。
「601号室の山田さんだ」管理人が答える。
「1時19分。この時間ですね、救急に入電があったのは」
制服1号がメモを確認して言う。
「1時19分……。思ったよりも遅い時間だね」と、梨華。
【1:08】
サラリーマン風の男性。
「4階に住んでいる鈴木さんだな」管理人。
- 73 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 18:59
- ここまでのところ、ビデオに不審な人物は映っていない。
「もしかしたら、犯人はこのマンションの住人かもしれないっスよ」
巻き戻し中のテレビ画面を観ながら、制服2号がおもむろに発言する。
「……それも十分ありえるね。だとしたら、ビデオに映っていても不自然ではない」
今まで吉澤は、外部の人間による犯行だとばかり思っていた。その考えを改めないといけ
ないのかもしれない。
と、
「ん!?」
「よっしぃー、とめて!」
「うん」
吉澤は慌ててビデオを停める。
画面に、明らかに怪しい人物が映っていた。
吉澤は再生ボタンを押す。
時刻は1時03分。
夜だというのに、つばの広い帽子を目深に被った女がエレベーターに乗り込んでくる。
帽子に隠れて顔がよく見えない。口元だけが辛うじて確認できる。
服装は黒っぽい色のパーカーにジーンズ。映像がモノクロなので色が特定できない。
一見、地味な印象を受けるファッションだ。
その女がボタンを押す時も、帽子に隠れて顔が映らなかった。
「顔を上げろ!帽子をとれ!」
吉澤はテレビ画面に向かって念じる。
それが通じたのか、女が大きくクシャミをした。ポケットからティッシュを取り出し鼻をかむ。
その瞬間、女が顔を上げた。吉澤はすかさず一時停止ボタンを押した。
- 74 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:00
- 「―――この子って、もしかして」
「「ミキティー!?」」
吉澤と梨華の声が重なる。
「ミキティーって、誰だそりゃ?外人か?」
間の抜けたヒゲの発言に、信じられないといった様子でメガネが言う。
「知らないんですか。藤本美貴ですよ」
白黒で、一時停止で顔が僅かに歪んでいるが、画面に映っているのは確かに"もーにん
ぐ娘。"の藤本美貴だった。
―――事件は意外な展開を見せ始めた。
- 75 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:02
- 「ミキティーがここの住人ってことはないですよね?」
「こんな子は知らんて。うちの住人じゃないわい」
管理人もミキティーを知らないようだ。
「ということは、ミキティーが犯人?そんな……」
メガネはショックを受けている。
「決めつけるのは早計だけど、その可能性は高いね。重要参考人であることは間違いな
い。すぐに所在の確認をしなければ。
……どうすればいいかな?ミキティーの所属事務所ってどこだっけ?」
「アップフロントです」
メガネが即答する。
「詳しいね」
「もちろんです」
アイドルマニアの面目躍如、誇らしげに言うメガネ。
「じゃあ、事務所に連絡して所在確認をしよう。あと、マスコミに嗅ぎつけられると面倒だか
ら、報道規制の方もなんとかしないとね。君、頼める?」
「はい、任せてください」
頼もしい返事をし、制服1号は部屋を出て行く。
- 76 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:04
- 「よっちゃん、続きを観てみよう。まだミキティーが犯人と決まったわけじゃない」
梨華が真剣な眼差しで言う。
「うん、そうだね」
再びビデオを観始める。
【0:44】
40歳くらいの男性。
「404号室の佐藤さんだ」管理人。
【0:22】
40歳くらいの女性。
「さっきの佐藤さんの奥さんだ」と、管理人。
【0:07】
50歳くらいの女性。
「誰ですか?」吉澤。
「えっと……、701号室の大場さんだな」管理人。
【0:05】
再び701号室の大場。両手に大きく膨らんだゴミ袋を持っている。
それを見て管理人が怒りだす。
「あれだけ夜中にゴミを出すなって言うとるのに、まったく。近頃はルールを守らん奴ばっ
かり増えよって……」またブツクサぼやきだす。
「この人、何か目撃しているかもしれないよ」梨華が言う。
「でもこのオバサン、オレが聴き込みにいった時には何も知らないって言ってたよ」と、2号。
- 77 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:06
- 「あっ、大根だ」
被害者の大根がエレベーターに乗り込んでくる。連れはなく、一人きり。
時刻は11時56分。この直後、自宅で何者かに襲われることになる。
そんなこと夢にも思っていない大根は、なにやら上機嫌な様子だ。携帯の画面を見なが
らニヤニヤしている。普段テレビで見せている二枚目の顔と違い、男性特有のいやらしさ
を滲ませた顔だ。
「なんか、悪だくみをしてるって感じの顔だね。見ているのはメールかな。誰からのメール
だろう。大根の携帯はどこにあるの?」
吉澤の質問に鑑識の二人が顔を見合わす。「分からない」と首を横に振った。
「大根と一緒に病院じゃないっスか?一度も見かけていないっスから」
おそらく2号の言うとおりだろう。
大根の携帯の通話記録を調べる必要があるかもしれない。相手は被害者なので渋る可
能性もある。この部屋に残していれば勝手に調べたのだが。
テレビ画面に目を戻す。
エレベーターが停まり、扉が開く。
大根は降りる間際、革ジャンのポケットから何かを取り出した。小さすぎて画面では確認
できない。親指と人差し指に挟んだそれを見つめ、ニヤリと笑った。吉澤の嫌いなキザな
笑顔だった。
「なんだろう、アレ?」
吉澤は、その小さなモノが気になった。
大根がエレベーターを降りていく。
それから20分ほど、ビデオには誰も映っていなかった。
- 78 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:07
- 【11:37】
鞄を抱えた戸成野が乗り込んでくる。
「証言どおりだね」吉澤。
【11:28】
住人とおぼしき女性。
「この人、前にも映っていたよね?」吉澤。
「601号室の山田さんだよ」と、梨華。
「よく憶えてるね、梨華ちゃん」吉澤は感心する。
普段はボケボケ、決して記憶力が良いと言えない梨華だが、こと事件が関われば変わる
らしい。右脳左脳とは別に、推理用の脳ミソがもう一つ備わっているのかもしれない。
「よっしぃー、どうかした?」
よっしぃーが自分の顔をじっと見ている。
「もしかして、あたしのチャーミングな顔に見とれちゃった?」
「…………」
やっぱり、頭がどこかおかしいのだろう。吉澤は思った。
- 79 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:09
- 【11:16】
30歳くらいの女性と10歳くらいの少女。
「5階の田中さんとこの親子だな」管理人。
・
・
【10:25】
20代半ばの茶髪の女性。
「あっ、あのOLさんだ」制服2号が嬉声を上げる。
大根の部屋の下、604号室のOLらしい。なるほど、色っぽい雰囲気を醸し出している女性
だ。2号が電話番号をゲットしたくなる気持ちも分かる。
・
・
・
【8:56】
誰も乗っていない空のエレベーター。
天井の蛍光灯が切れかかっているのか、2、3度チカチカまたたく。
映像はそこで終わった。
ビデオを観終え、一同「ふう〜」と溜息をつく。思ったよりも疲れる作業だった。
結局、テープに映っていた不審人物は藤本美貴だけだった。残りの人物は全てこのマン
ションの住人で、管理人の知っている顔だった。
- 80 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:11
- ちょうどよいタイミングで制服1号が戻ってきた。
「藤本美貴の事務所と連絡がつきました。事務所の方で所在を確認してもらったところ、
藤本美貴は自宅のマンションにいるそうです」
「逃亡の可能性はないみたいだね。とりあえずそのマンションに行ってみよう。
あと、大根からも詳しく話を訊かないといけないね。どこの病院なの?」
「S大病院です」
「わかった」
吉澤は鑑識の二人に向かい、
「現場検証の方、引き続きお願いします」
「おう、任せとけ」
ヒゲが言う。メガネも頷く。
今度は制服1号2号に向かい、
「事件に関係するのか分からないけど、愛鳥マヤと閑田聖子の所在も一応確認しておい
て。それから、6時になったらもう一度マンションの住人に聴き込みを行なって。今度は二
人一緒で。聴き込みの要点は大根の交友関係。推定犯行時刻、12時におけるアリバイ。
不審者の目撃情報等。
それと、住人全員の指紋採取もお願い。準備できますよね?」
ヒゲに確認する。「大丈夫だ」と、ヒゲ。
「事情を説明して丁重にお願いするように。何かとトラブルになりやすいから」
頼りになりそうなのは、金髪の2号ではなく真面目な好青年風の1号。二人一緒に聴き込
みを行なわせるのもその為だ。
「朝になったら応援を回してもらうから、それまで少人数だけど頑張って」
「はい」「うぃっス」
二人は元気よく返事をする。
- 81 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:14
- 「じゃあ梨華ちゃん、行こうか」
当然梨華一人を置いていくわけにはいかない。
「うん」
二人はエレベーターに乗り下に降りる。外に出ると、マンション前の路上に停めてある車
に乗った。梨華は指定席の助手席に。
大根のマンションは閑静な住宅街にあり、この時間、車はほとんど通らない。
「タクシーを捕まえるにしても、もっと大きな道に出ないといけないね」
梨華が言う。
車は発進すると、マンションの角を右に曲がった。橋を渡り、都心の方向へと向かう。
藤本美貴はマンションで一人暮らしらしい。大根のマンションからだと吉澤と梨華のマンシ
ョンも同じ方向にある。
吉澤は、助手席の梨華の様子を横目でチラッと窺った。梨華は無言のまま、窓の外に目
を向けている。何か考え事をしているようだ。何を考えているのだろう。
「…………梨華ちゃん、一度ウチに戻って着替える?パジャマのままだといくらなんでも
おかしいでしょ」
梨華は振り返り、吉澤の顔を見る。
「……うん、わかった」
車は目的地への進路を少しだけ逸れ、二人が住むマンションに向かった。
- 82 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:20
- 自分達のマンションに着き、部屋に入る。
吉澤が一人で住んでいた頃は、モノクロトーンで統一されたシンプルで落ち着いた感じの
部屋だったが、疫病神が住み憑いてからはどんどんピンクに侵食され、しまいには変て
こなバランスの部屋になってしまった。
タンスの中も同様で、半分をピンクフリフリの可愛いらしい服に占領されている。
考えてみれば、特別捜査協力員(そんなもの実在しないのだが)に相応しい服装なんて、
梨華が持っているわけが無い。梨華がお気に入りの淡いピンク色のセーターを着ようとす
るので、吉澤は押入れの奥から昔着ていた女物のスーツを引っ張り出した。
「少し大きいかもしれないけど、これ着てみ」
「ありがとう、よっしぃー」
ガバっと抱きついてくる。
「ええい鬱陶しい。離れろ!」
「えへへ、よっしぃーのスーツ」
何が嬉しいのか、スーツを手にニヤニヤ笑っている。
クンクン。
「うげー、防虫剤くさい」
顔をしかめる。そんな梨華を、吉澤は冷ややかな眼で見ている。
(なにやってんだコイツは……)
- 83 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/06/16(水) 19:22
- 梨華がパジャマのボタンを外しだす。下着姿になった梨華に背を向け、吉澤はそっと部屋
を出た。
(しめしめ、今のうちに……)
音を立てないように静かに外に出る。
着替える為にウチに寄るというのは口実で、本当は、梨華にこれ以上付きまとわれたくな
いから、おいてけ堀にしようという作戦だ。
事件も進展を見せ、これ以上梨華ちゃんの手を借りる必要は無いだろう。
車に近づき、鍵を取り出そうとポケットに手を突っ込む。
「あれ?」
車から降りた際に、背広のポケットに入れたはずの鍵が無い。
反対側のポケット、胸、尻のポケットも探すが見つからない。
「おかしいな、どこかに落としたのかなぁ」
辺りの地面を見回す。
「探し物はこれかな?」
顔を上げると、吉澤のグレーのスーツに身を包んだ梨華が、車のキーを人差し指でクル
クル回しながらやって来た。街灯の明かりを受け、指先で回る鍵がキラキラ光っている。
「いつのまに……」
「よっしぃーの浅はかな考えなんて全てお見通しだよ」
「むぐぐ…」
先程、吉澤に抱きついた隙に盗ったようだ。なんたる早業。
「さあ、出発しようか」
そう言って、運転席に座ろうとする梨華。すぐにつまみ出される。
「冗談だよ、冗談。約束はちゃんと憶えてるよ」
助手席に座りなおす。
ハァ〜。吉澤は大きく溜息をつき、車に乗り込む。
車は夜の街に緩やかに発進した。
- 84 名前:ある 投稿日:2004/06/16(水) 19:23
- 前回のナゾナゾの答…………石川梨華。いつも空回りしているから。
ほら、完成度が低い。
- 85 名前:ある 投稿日:2004/06/16(水) 19:25
- レスありがとうございます。
やっと問題編の前半が終了しました。
問題編後半はとっとと終わらせる予定です。……予定です。
問題編終了後に出題を予定しています。メール欄を使用しての回答になります。
ネタバレの危険性がありますが、前述のとおり、読者の方に少しでも楽しんで頂けたらと。
テストも兼ねて、今回のナゾナゾの答が解ったらレスしてみて下さい。sageが望ましいで
すが、ageても構いません。(それ以前に読者がいるのか、という問題がありますが、それ
も含めてのテストです)
- 86 名前:ある 投稿日:2004/06/16(水) 19:25
- 隠しついでに完成度の低いナゾナゾを再び。
- 87 名前:ある 投稿日:2004/06/16(水) 19:26
- 長いお休みをもらったモーニング娘。のメンバー。
久し振りにダンス練習で、いまいち調子の出ない人がいます。
さて、それは誰でしょう?(一人とは限らないようです)
答は次回。
- 88 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/22(火) 17:34
- 更新お疲れ様デス。
まさか彼女が現れるとは・・・。
出題も楽しみです。
次回も期待してます。
なぞなぞの回答はメル欄にて。。。
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/22(火) 21:41
- 当てずっぽうですが…。
石川さん素敵です。振り回される吉澤さんも大変そうですね。
次回も期待してます。
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/22(火) 22:53
- みんな考えることは同じなようで。
推理系好きなので次回楽しみに待っています。
- 91 名前:閑話的推理小話 其ノ壱 『チョコはどこに消えた?』 投稿日:2004/06/29(火) 04:23
- 絵里とさゆは大の仲良し。互いのうちに遊びに行くこともしょっちゅうで、その日もさゆは
絵里のうちに遊びに来ていた。絵里の部屋でくだらない話に華を咲かせる。
途中、絵里がトイレにたった。部屋に一人残ったさゆは、絵里が持っていた"もーにんぐ
娘。"のCDを借りようと思い、積み上げられたCDの山を漁った。だけど見つからない。
「絵里、どこにしまってたっけ?」
机の引き出しを勝手に開けて、中を探る。
―――1段目。みんなで撮ったプリクラが入っている。
「やっぱり、アタシって可愛い」
―――2段目。絵里の誕生日にプレゼントしてあげた、アヒルの人形が入っている。
「グワグワ。この人形、何度見ても絵里に似てる。グワグワ」
―――そして3段目の引き出し。目当てのCDを見つけた。
- 92 名前:閑話的推理小話 其ノ壱 『チョコはどこに消えた?』 投稿日:2004/06/29(火) 04:25
- 「なんだろうコレ?」
CDの横に、天使やら女神やら、綺麗な絵の描かれた四角い箱があった。箱には大きく
"CHOCOLATE"、その下に"MADE IN BELGIUM"と記されている。
「ちょこれいと?めいどいんべるぎうむ?」
それがチョコレートの箱だとかろうじてわかる。国名まではわからない。
見た目からして高価なもののようだ。さゆは好奇心を抑えきれず、蓋を開けた。
中にはビー玉のような、丸くて小さいチョコレートがいっぱい入っていた。
「お、おいしそう〜」
思わずよだれが出る。食べたい。だけどつい先日、絵里のお菓子を無断で食べてこっぴ
どく怒られたばかりだ。
「う〜ん、どうしよう」
さゆは悩む。しかしそれも3秒ほど。チョコの誘惑には到底敵わない。
「こんなにいっぱいあるんだから、1個くらい食べてもバレないよね。…………よね?」
誰に確認したのか、自分を納得させてチョコを1粒取り出す。
茶褐色の表面は艶やかな輝き。カカオのビターな香りが鼻をくすぐる。
- 93 名前:閑話的推理小話 其ノ壱 『チョコはどこに消えた?』 投稿日:2004/06/29(火) 04:27
- そおっと口に入れる。チョコは舌の上でゆうくりと溶けて、甘美な味わいが口いっぱいに
広がった。
「お、おいひ〜。ちゃいこーです。これちゃいこーです」
至福のひと時へといざなう極上の味。あまりの美味しさに、しばし時が経つのも忘れ呆然
としてしまった。
廊下に絵里の足音を聞いて我に返った。急いで箱をしまい、何事も無かったように元の
場所に座る。
絵里が入ってくる。さゆの顔を見て、
「さゆ、どうかした?」
「えっ、なんでもないよなんでもないよ。ホントになんでもないよ」
「そう言うと、余計に怪しいんだけど」
「ホントだってば。ホントにホント。
どうしたもこうしたもなんでもないですよ亀井さん。はい」
「?」
さゆの様子がどうもおかしい。おかしいのはいつもの事だけど、今のさゆはことさらにヘン
だ。いぶかしがる絵里。
―――ま、いいか。おかしなさゆを見ているのも楽しいから。
絵里が追求をやめてくれたようで、さゆはホッとする。
その日はどうにかバレずにすんだ。
- 94 名前:閑話的推理小話 其ノ壱 『チョコはどこに消えた?』 投稿日:2004/06/29(火) 04:29
- それからというもの、味を占めたさゆは、絵里のうちに遊びに行く度に隙を見てはチョコを
頂戴した。絵里にバレないように毎回1個ずつ。もう1つに手を伸ばしたくなるが、そこは
我慢。犯罪が露見しないように細心の注意を払う。
幾日か時は流れ、その日もさゆは絵里のうちに遊びに来ていた。
お母さんが用意してくれたお茶を受け取りに、絵里が部屋を出て行く。
「さてさて、今日も……」
3段目の引き出しを開け、チョコを1粒取り出す。続いて2段目の引き出しを開け、アヒル
さんに向かって、
「絵里さんゴメンナサイ。今日もいただきますね。―――グワグワ。どうぞどうぞさゆみさ
ん、遠慮なさらずにお食べ下さい。さゆみさんには日頃からお世話になっていますから。
絵里、さゆみさんには感謝しているんです。感謝してもしたりないほどです。ですからお
気になさらないで下さいね。グワグワ。―――そうですか。そこまでおっしゃるのでしたら
ありがたく頂きますわ。ありがとうございますね、絵里さん」
人形相手の一人芝居に満足し、さゆはチョコを口に入れた。トロ〜リとろけるチョコレイト。
しばし味わう至福の時間。
- 95 名前:閑話的推理小話 其ノ壱 『チョコはどこに消えた?』 投稿日:2004/06/29(火) 04:31
- トットットットッ
階段を軽やかに上がってくる絵里の足音。さゆは何事も無かったように元の場所に座る。
盆を抱えた絵里が入ってくる。テーブルにつくと、マイセンのティーポットから熱々の紅茶
を淹れてくれた。絵里のお母さんは紅茶に凝っていて、このアールグレイという高級茶葉
がお気に入りらしい。さゆには普通の紅茶との違いなんてよくわからないけど。
ゆっくりお茶をしながら、くだらない話に華を咲かせる。
「最近、修行の方はどうなの?」
「それがさぁ、師匠が厳しいんだよね。家庭がうまくいってないみたいで、絵里にあたって
くるんだよ。もう最悪。―――さゆの方は?」
「んー、任務が忙しいかな。だから最近寝不足なんだよね」
「へー、さゆも大変だね」
「あっ、そうだ、忘れてた。ねえ絵里、もーにんぐ娘。のCD貸してくれない?前に借りよう
と思ってたんだけど、すっかり忘れてた」
「いいよ。でも、ちゃんと返してよね。前みたいに失くさないでよ」
絵里は立ち上がり、山積みになっているCDからもーにんぐ娘。を探す。
「あれ?ないぞ」
「机の引き出しじゃない?」
「そうかも」
絵里は引き出しを開け、
「あった。―――ん?」
チョコの箱を取り出す。そして蓋を開け……
- 96 名前:閑話的推理小話 其ノ壱 『チョコはどこに消えた?』 投稿日:2004/06/29(火) 04:33
- 「さゆ、アンタこのチョコレート食べたでしょ」
「え?食べてないよ」
「とぼけてもムダ。わかってるんだから」
絵里は黒目がちの瞳を細め、さゆを睨んでくる。唇を尖らし、アヒル口が更にアヒルになっ
ている。
さゆの心の声。
「えー、どうしてバレたんだろう。どうして?なぜ?
いつもと同じだったはずだよ。盗ったのは1個だけだから減ったことはわからないはず。
今までだって気づかれなかったのにどうしてだろう。
口の周りにチョコをつけていたのだろうか。いや、それはない。5分おきに鏡を見ているか
ら、チョコがついていたら自分で気づくはずだ。さっき見た時も、いつもの可愛い顔でおか
しなところは一つも無かった。
もしかしたら絵里のやつ、箱に付着した指紋を採取して調べたのかも。いつのまにそんな
技術を……」
見当外れのさゆはほっといて。
さて、絵里はどうしてさゆがチョコレートを盗み食いしたとわかったのでしょう。
つづきはすぐあと。
- 97 名前:閑話的推理小話 其ノ壱 『チョコはどこに消えた?』 投稿日:2004/06/29(火) 04:35
- 何のことは無い。絵里はチョコレートを引き出しにしまっていたことをすっかり忘れていた
のだ。久し振りに箱を開け、すぐに異変に気づく。チョコの数が明らかに減っている。
さゆの場合、チョコは1個ずつ減っているのでその変化に気づきにくい。
でも絵里の場合、チョコは一気に減っているので変化が一目瞭然だ。
さゆもまさか、絵里がチョコを食べていなかったとは思わない。
「アタシの目の届く所にチョコを置いていた絵里が悪いんだよ」
「机の引き出しの中だよ。どこが目の届く所だよ」
「開けたら目が届くじゃない」
「なんで勝手に引き出しを開けるのよ」
「だって、絵里がいなかったから」
・
・
・
次元の低い口論は、いつまでも続いた。
『チョコはどこに消えた?』
おしまい。
- 98 名前:ある 投稿日:2004/06/29(火) 04:36
- 前回のナゾナゾの答…………高橋愛。もしくは田中れいな。訛っているから。
ほら、完成度が低い。
- 99 名前:ある 投稿日:2004/06/29(火) 04:37
- レス&回答ありがとうございます。
「ナルホド」と思う答でしたら、そちらの方を正解にしようと思っていましたが……。
まあ、彼女達も……。
今回のナゾナゾも、答が分かったらレスしてみてください。
本編の方はもうしばらくお待ちください。
- 100 名前:ある 投稿日:2004/06/29(火) 04:38
- 隠しついでに完成度の低いナゾナゾを再び。
- 101 名前:ある 投稿日:2004/06/29(火) 04:39
- モーニング娘。のメンバーの中で、出身地が海の辺りなのは誰でしょう?
答は次回。
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/29(火) 17:24
- 更新おつかれさまです。
相変わらずクイズに正解できません…が、楽しく読ませてもらっています。
次回も楽しみです。
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/01(木) 16:29
- なぞなぞの要領が段々分かってきましたが相変わらずカンで回答を。
次回も楽しみにしてます。
- 104 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/01(木) 17:59
- 更新お疲れ様です。
いや、前回のクイズは完成度高い気もしますが。。。
次も楽しみにしてます。
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/31(土) 04:35
- タイトル見た時、トリックとケイゾクの逆読みさせて繋ぎあわせたのかと思ったがちゃんとそういう意味があったのね。 ああ、ハズカシ
- 106 名前:ある 投稿日:2004/07/31(土) 05:06
- >>16と>>17のメール欄参照。
更新が遅れていて申し訳ありません。
来週中にはできると思います。
これ以上ナゾナゾの答を引っ張るのも酷だと思いますので、
解答だけでもさせてもらいます。
答はメール欄。
ほら、完成度が低い。
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/31(土) 12:30
- なるほど! って完成度高いと思いますけど・・・・。
更新は自分のペースで頑張って下さい。
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/31(土) 20:46
- ああ…、なるほど。解答に普通に感心しました。
更新楽しみにしてます。
- 109 名前:習志野権兵 投稿日:2004/08/04(水) 02:23
- 小説書くって、すげえ大変なことっすもんね。自分のペ-スで全然問題ないっす。今はただ、完結に向かって頑張ってください。
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/16(月) 21:56
- おーい!根性だっ!
更新待ってます。
- 111 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/08/25(水) 03:54
- とあるマンションの一室。二人の少女がソファーに身を寄せ合い座っている。
二人とも誇れる容姿をしているが、今はその顔も曇っていた。
「これからどうなるんだろう。怖いよ……」
普段表に出さない不安げな表情を、傍にいるのが只の親友ではなく、誰よりも心許せる存
在として、少女はさらけ出す。
「大丈夫だよ、アタシが護るから」
もう一人の少女は、その身体を強く抱きしめた。
大丈夫、絶対大丈夫。アタシが護ってみせる。
二人なら、どんなことでも乗り越えられるよ、きっと……
少女にとっても腕の中の震える背中はかけがえのない存在だった。
彼女を護る為ならなんでもするし、なんでもできる。
少女は瞳に強い決意を宿していた。
壁掛けの時計に目を遣る。やがて訪れるであろう"その時"。
本当は今すぐ逃げ出したい。でも、そうすればますます不利な状況に追い込まれる。
その時に備え、心を強く保とうとしていた。
(一体どんな人達だろう。大勢でやって来るのだろうか?)
コワモテの男を想像する。昔テレビで観た、ヤクザと見紛いそうな迫力の男達。
(どんなことを訊かれる? なんと答える?)
頭の中でシミュレーションを繰り返す。
何があっても彼女への疑いを晴らさなければならない。
(やはりマスコミに知られるのだろうか。…いや、そんなことどうでもいい。たとえ引退を余
儀なくされたとしても、彼女を護り通せるのなら……)
カチ カチ カチ カチ ・ ・ ・
部屋の中に、秒針を刻む音が冷たく響く。
招かれざる客を、静かに、でも心の内では激しい思いを抱きながら、
―――少女は待っている。
- 112 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/04(土) 21:20
- 核心に迫ってきた感がありますね…
犯人は一体誰なんでしょう?ドキドキしながら待ってます。
- 113 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 14:12
- 保
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/12(火) 03:49
- タイトルを「エドウィン・ドルードの謎」に変えようかと…
冗談です
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/20(水) 21:56
- タイトルを「悪霊」に変えようかと…
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/22(金) 08:55
- ちみは江戸川乱歩か!
・・・で、いいかな?
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 16:30
- つっこみありがとう
- 118 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/03(水) 16:35
- 吉澤の所属する弐係は少し特殊な部署だ。長である中澤の影響もあるのだろうが、その
活動は至ってフリー。専門分野というものが無く、良く言えば「オールマイティー」、悪く言
えば「なんにでも首を突っ込む」。だからといって特別な権限が与えられているわけでは
なく、ほかが手を付けたがらない厄介な事件を押しつけられる事も多々ある。
刑事は通常ツーマンセル(二人一組)が基本だが、弐係の面々は単独で行動する事が多
い。単純に、自分勝手な連中ばかりなのだ。一番下っ端の吉澤は、そんな先輩達にいつ
もこき使われている。
弐係には謎が多い。吉澤が配属されて以来、一度も顔を合わせたことの無い人物もいる。
ある有名私立校で連続殺人事件が起きた。スキャンダルを恐れた学校側が情報を隠蔽し
てしまい、捜査は遅々として進まなかった。
業を煮やした上が弐係に特命を下すことになった。
『教師に成りすまし、学校内に潜入セヨ』
白羽の矢を立てられたのは昔から金八先生に憧れていた一人の刑事。
流石は警察、国家権力。偽の名前と戸籍と教員免許を捏造し、新規採用の教員として潜り
込ませることに成功した。
―――そこまでは良かった。
肝心の捜査は一向に好転しなかった。
憧れの教師。教育に目覚めてしまったその刑事は本来の目的をすっかり忘れ、教師生活
を謳歌するようになってしまったのだ。
笑うに笑えない話は更に続き、新たに刑事を送り込もうとしたのだが、その刑事は採用試験
に見事に落ち、潜入すらできなかったのである。
こうして、教師デカは今も教壇に立ち続け、事件は御宮入りの様相を呈している。
- 119 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/03(水) 16:50
- 吉澤の愛車が夜の街を走る。警察保有の緊急車両ではないので、無線や赤色灯は積ん
でいない。本来、捜査に自家用車を用いることは禁止されているが、そこは弐係、規則に
は至ってルーズだ。
交差点で赤信号に捕まる。吉澤はイライラとハンドルを叩いた。こんな時、サイレンを鳴ら
し、信号も制限速度も無視してブッ飛ばしたくなる。
「よっすぃ、落ち着きなよ」
助手席の梨華に注意される。
「梨華さんにだけは言われたくないです」
「なによ」
唇をとんがらせて拗ねる梨華。
「オレの可愛いRXちゃんを凹ましてくれたのはどこのどなたでしたっけ?」
「そのことは何度も謝ったじゃない。しつこいよ」
「そもそも、免許を持っていないのに運転しようとするのが無謀なんだよ。本当だったら道
路交通法違反で捕まってるよ。だいたい、自転車もろくに乗れないくせして車の運転がま
ともにできると思ってんの? よしんばできたとしても、オレをおいといて独りでどうするつも
りだったの? それこそ只では済まなかったかもしれないんだよ」
「…………ごめんなさい」
梨華の表情が次第に暗くなる。
(ありゃりゃ、ネガティブモードに切り替わっちゃったかな)
数ヶ月の間ずっと一緒にいる梨華ちゃんだが、その操縦は戦闘機並みに難しい。独特の
クセがあり、操作を少しでも誤るとパイロットの吉澤と共に墜落してしまう。それは勘弁して
欲しいから、
「ま、いいけどさ。梨華ちゃんが無事だったから。―――そんなに落ち込むなって」
吉澤がフォローすると、途端、笑顔に戻った。
「ありがとう。よっすぃはやっぱり優しいね」
吉澤の腕に抱きついてくる。つられて車が対向車線に大きくはみ出した。
「馬鹿野郎! 殺す気か!!」
「…………ごめんなさい」
(梨華ちゃんはちょっとばかり落ち込んでいる方がちょうどいいのかも……)
改めて梨華の扱いの難しさを実感する吉澤だった。
- 120 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/03(水) 17:23
- 車は目的地を変えて走っていた。目指しているのは大根のいるS大病院。藤本美貴のマ
ンションは大根のマンションからだと車で30分程の距離がある。病院の方が近くにあるの
で、先に大根に話を訊く事にした。
藤本美貴の所には最寄りの交番から警官を向かわせている。藤本美貴が犯人だとする
と、警察が一番恐れるのは逃亡ではなく自殺だ。常に目を離さないようにしなければなら
ない。
車は直ぐして病院に着いた。表は閉まっているので裏に回る。守衛に手帳を見せて中に
入った。
夜の病院は静まりかえっている。が、それは表向き。ここは救急指定病院なので、緊急
救命室には次々と患者が運び込まれ、戦場の様な慌ただしさを見せている。
ナースステーションで大根の病室を教えてもらい、薄暗い廊下を歩く。
不意に梨華が立ち止まった。吉澤が振り返ると、なにやらモジモジ、様子がおかしい。
「どうかした?」
「…………おしっこ」
「行ってくればいいじゃん」
「…………ついてきて」
「この歳になって連れションかよ」
「だってだって、夜の病院って怖いじゃない」
「だったら尿瓶を持ってこようか?」
「バカ」
仕方なく、梨華は一人でトイレに向かった。
- 121 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/04(木) 03:05
- 病室前の廊下の長椅子に制服警官が座っていた。壁にもたれかかり、居眠りをしている。
(3号か…)
防犯カメラに映っていたもう一人の制服警官だ。
吉澤は肩を揺すって起こすと、手帳を見せて名乗った。
「ご、ご苦労様でふ」
「大根は?」
「中にいます」
吉澤はドアをノックし、返事を待たずに中に入った。
さすがは芸能人といったところか、大根には十分な広さの個室があてがわれていた。
衝立があり、その奥に大根はいた。傍らには白衣の医師が立っている。
大根がベッドから体を起こす。入ってきたのが女性だと判ると、その表情は柔和なものに
なった。
「警視庁捜査一課の吉澤です」
大根は驚いた様子を見せ、
「貴女の様な美しい人が刑事だなんて、信じられない」
歯の浮くようなセリフを言った。
推定殺人未遂事件の被害者だというのに、この余裕は何なのだろう。
「怪我の具合はどうなんですか?」
医師に訊ねる。もしかすると、大根の妙な言動は怪我の影響かもしれない。
「出血が酷かったですけど、その割には大した事ありませんでした。意識もはっきりしてい
ますし、脳にも影響は見受けられません。多少の記憶の混乱が見られますが、一時的な
ものでしょう。念の為、もう2、3日入院してもらって様子を見ます」
「そうですか」
「刑事さん、見てくださいよ」
大根が自分の頭を指差す。包帯が巻かれていて、その上に網が被せてある。
マスクメロンを連想させた。
「傷を縫うのに邪魔だからって、周りの髪の毛を切られてしまったんですよ。もうすぐ新し
い映画の撮りもあるっていうのに」
(そんなこと訊いてねえよ)
吉澤は顔をしかめた。どうやら、軽薄な性格はデフォルトのようだ。
- 122 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/04(木) 03:09
- 「すみません、席を外してもらえますか」
「わかりました」
医師に出て行ってもらう。部屋には吉澤と大根の二人きり。
「事件について、もう一度お話を訊かせてください」
「代わりに電話番号を教えてくれますか?」
キザな笑顔を向けてくる。
「いいですよ。イチイチゼロです」
「はははは。面白いですね、刑事さん」
皮肉が通じない。吉澤の苦手なタイプだ。
事件当時の状況を訊ねるが、返ってきた答は今までのものと変わらなかった。
「犯人を目撃していないそうですね」
「ええ、後ろから突然だったから」
「犯人に心当たりはありませんか? 誰かに恨まれていたとか」
「こんな仕事ですから、あると言えばあるし、無いと言えば無いですよ」
「そうですか……」
なかなか的を射る証言が得られない。
- 123 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/04(木) 03:33
- 『OPEN THE SESAME (開けゴマ)』よろしく、状況を打開する呪文(キーワード)。
「―――藤本美貴」
吉澤は、その名を唱えた。
大根の表情が変わる。しかしそれは一瞬のことで、すぐに元の顔に戻った。
「…………彼女がどうかしたんですか?」
「それは、こちらが知りたいことでして」
「……まさか、彼女が犯人なんですか?」
「まだ判っていません。―――今夜、藤本さんと会う予定はありましたか?」
「…………」
沈黙。
数秒の間があり、
「……分かりません。……思い出せない。どうやら記憶が混乱しているようです」
と、答えた。
吉澤はじっと、大根の表情を窺っている。大根は仮にも俳優だ。演技している可能性が
ある。演技する必要があるのかどうか、定かではないが。
「失礼ですが、藤本さんとはどのような関係ですか?」
「関係といっても……ただの知り合いですよ」
「今までに、藤本さんが大根さんのマンションを訪ねられた事はありますか?」
「……いえ、ないです」
「―――実は、エレベーターの防犯カメラに彼女が映っていました。その為、我々は彼女
が犯人ではないかと疑っています。―――もし彼女の犯行だとすると、その動機が分か
りますか?」
「分かるわけないですよ、そんなの」
怒ったように言う。
「そうですか。―――藤本さんと男女の関係はありましたか?」
「ないです」
即答した。
- 124 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/04(木) 03:35
- 一瞬、大根の視線が吉澤から逸れた。
視線の先を追う。窓際に椅子があり、その上に革ジャンが置かれていた。
(何だ?)
記憶を探る。
(…………携帯か)
大根と藤本美貴が連絡をとっていれば、携帯に着信履歴、もしくはメールのやりとりが残っ
ている筈だ。
- 125 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/04(木) 03:43
- 「リビングのパソコンですが、帰宅されてから一度でも触りましたか?」
「いいえ。―――どうしてです?」
「パソコンの電源が入っていました。犯人が使用していた可能性があります。部屋に荒ら
された形跡がないので、犯人の目的は大根さんの生命、それと、パソコンの中身にあった
のではないかと考えています」
「…………」
「パソコンにはプライベートに関わる写真がありますね」
「勝手に見たんですか!?」
「すみません。捜査の一環ですからご理解ください」
「…………」
大根の顔が僅かに赤みがかっている。怒りと羞恥の所為だろう。
「その写真に関して、何かトラブルはありませんでしたか?」
「トラブル? ないですよ、そんなもの。すべて相手の合意の下に撮った写真ですから」
(どんな合意だよ)
「その相手の方々ですが、今でも……そういう関係は続いていますか?」
「ネてるかって事? そりゃあ、続いている子もいれば、一度きりの子もいますよ」
「具体的に教えていただきたいのですが。愛鳥マヤさんと閑田聖子さん。このお二人とは
どうですか?」
「そんな事まで言わなきゃいけないんですか。……マヤとは続いています。聖子とはとっ
くに別れました。―――この事は秘密にしてくれるんですよね。マスコミに知られたら大変
な事になる」
「もちろんです。ちゃんとマスコミの対策もしています」
「お願いしますよ。ただでさえ、あっちの事務所には睨まれているんだから」
(そんなこと知ったこっちゃない)
「パソコンですが、警察の方で詳しく調べさせてもらいます」
「そこまでする必要があるんですか? 俺は被害者なんですよ。まるで容疑者の扱いじゃ
ないですか」
「念の為です。容疑者が否認した場合、犯行を裏付ける証拠が必要になりますし、自供し
た場合でもそれは同じですから。あらゆる物証を集めなければならないんです」
「…………」
大根の顔からは最初の頃の笑みが完全に消えている。痛くない腹を探られて気分を害し
ているのか。それとも、探られて痛い腹があるのか……。
- 126 名前:マシュー利樹 投稿日:2004/11/05(金) 23:49
- おかえりなさい!
次回、更新、楽しみにしてますんで頑張って!!
- 127 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/11(木) 23:55
- ここまでのところ、大根に事情聴取してみて―――
(大根は何かを隠している)
刑事としての直感がそう告げていた。
隠し事が何なのか、具体的には判らない。おそらく、藤本美貴に関する事だと思われる。
彼女の名前を聞いた時の大根の顔に、僅かな動揺が見られた。
大根は藤本美貴を庇っているのだろうか? だとしたら、その理由は?
ただの知り合いというのは嘘で、本当は深い関係にあるのだろうか?
手掛かりは大根の携帯に隠されていると思うのだが、今の様子からして、携帯の確認を
求めても素直に応じてくれるかどうか。拒否されたらそれまでだ。正当な理由を以って、
正式な手続きを踏まなければいけなくなる。そんな暇はないし、余計な警戒心を持たれた
くもない。
(どうしよう…)
携帯を穏便に確認する方法はないだろうか。
(アイツならどうするかなぁ…)
自然と梨華の顔が思い浮かぶ。奴なら瞬時に事も無げなく妙案を思いつくだろう。
(そういえば、梨華ちゃんはどうしたのだろう。トイレに行ったきり。迷子にでもなっている
のか? …………もしかして、大?)
- 128 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:11
- と、廊下が何やら騒がしい。男女の言い争う声が聞こえてくる。
……嫌な予感。
「ちょっと失礼します」
吉澤は慌てて廊下に出た。
「通してよ! あたしは関係者なのっ!」
「ウソをつくな。そんなこと言って、どうせ大根のファンなんだろっ」
「ちがうよー。あたしは特別捜査協力員なのー」
3号と梨華が押しつ押されつ格闘している。
「おまえら何やってんだよ! ここは病院なんだぞ、静かにしろっ!」
吉澤の鶴の一声。3号と梨華は大人しくなった。
「この女が勝手に中に入ろうとしたものですから…」
梨華は3号を睨みながら吉澤にすがりついてくる。
「よっちゃ〜ん、この人ドサクサに紛れてあたしの胸を触った〜」
「ほ、本官はそのような事しません」
頭が痛い。吉澤は梨華を引き剥がし、
「コイツは"一応”関係者だから、スルー(無視)して」
3号に言った。
「なんだよ、その言い方」
「ウルサイ、ダマレ」
「う゛〜〜〜」
機嫌を損ね、妙な唸り声を上げる。
そんな梨華を見ているうち、吉澤の頭の中に天啓がひらめいた。
「―――梨華ちゃん」
「ん?」
「梨華ちゃんに頼みたい事があるんだけど」
「なあに?」
吉澤は梨華の耳にごにょごにょ、耳打ちをする。
「うん、うん、…うん、わかった」
「頼んだよ」
「了解!」
梨華はビシッと敬礼をし、ナースステーションの方向へと駆けていった。
(…………大丈夫かなぁ)
- 129 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:16
- ―――さてと。
吉澤は病室に戻る。
「失礼しました。話を続けます」
「何かあったんですか?」
大根が怪訝そうに訊ねる。
「いえいえ、何でもないですよ。二重人格を自称する女の患者が暴れていたようですが、
麻酔を打たれて大人しくなりました。世の中には変わった奴がいるもんですね」
「はあ…」
「空色のスニーカーをお持ちですか?」
「スニーカー? 空色? 持ってませんよ」
「周りの知り合いで履いている人はいませんか?」
「……さあ? 思い当たる人はいないなぁ」
「わかりました。―――あかでみい賞のオスカル像ですが、どこに保管されていました?」
「オスカル像? テレビの上に置きっぱなしだけど…。どうしてですか?」
「凶器として使われた可能性があります。現場に見当たらないので、犯人が持ち去ったと
思われます」
「あんな重たいもので殴られたんですか? よく無事だったものだ……」
大根は後頭部の傷に手をやる。
自分に向けられた殺意。誰かが明らかに自分を殺そうとした。
その事実を改めて認識し、恐怖心がふつふつと湧き上がってくる。
- 130 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:23
- 「お手数ですが、指紋を採らせてください。指紋の照合に必要なので」
鑑識のヒゲから借りてきた指紋採取キットを取り出す。大根の指にインクを付け、それを
台紙に押し当てる。
「あと、頭髪を数本いただけますか」
大根が数本の髪の毛を抜く。それをビニール袋にしまった。
「あとは……」
コンコン。ドアがノックされた。
誰だ? と大根がドアの方向に目をやる。
「失礼しまーす」
聞こえてきたのは、耳に馴染みのある甲高い声。
(まさか…)
吉澤を再度嫌な予感が襲う。
衝立の奥から現れたのは、ナース服に身を包んだ梨華だった。
「…………」吉澤は言葉を失う。
「大根さん、頭部の精密検査をするので来てください」
「またですか? さっきもやったんじゃないんですか?」
「すみません。機械の調子が悪くてうまくいかなかったんです。直ぐに済みますので、もう
一度お願いします」
梨華はニコリと笑う。その笑顔に大根の顔も崩れた。
(さすがは梨華ちゃん)
「でしたら、こちらも一旦引き上げます。また後でお話を伺う事になると思います。現場写
真の確認などしてもらいますので。何か思い出したら、外にいる警官にお話ください」
吉澤は部屋を出て行く。すれ違いざま、梨華が下手なウィンクをしてきた。
(頼んだよ、梨華ちゃん)
大根に気づかれないように吉澤もウィンクを返す。
- 131 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:27
- 梨華が大根を引き連れて病室を出て行く。それを、物陰に隠れて見ている吉澤。
二人の姿が廊下の角に消えたのを確認し、無人の病室に忍び込んだ。
窓際に寄り、椅子の上に置かれた革ジャンを手にする。そして、ポケットの中を探った。
左のポケット―――何も無い。
右のポケット―――「あった!」
予想通り、携帯電話を見つけた。
「さてさて、何が出るやら」
鬼か、はたまた蛇か、それとも……
吉澤は携帯を開いた。
まず、通話履歴を調べる。
- 132 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:30
- 【着信履歴】
4/29 01:16 非通知
4/28 23:30 安藤マネ
4/28 23:10 事務所
4/28 22:52 090□□□□□□□□
4/28 22:38 香織
4/28 21:45 非通知
4/28 21:40 非通知
4/28 20:48 ママ
4/28 20:42 社長
4/28 20:37 事務所
4/28 19:55 安藤マネ
4/28 19:00 照美太郎
4/28 17:25 安藤マネ
4/28 16:14 03○○○○○○○○
4/28 14:28 ママ
4/28 13:05 090△△△△△△△△
4/28 10:12 井上マネ
4/28 09:50 090□□□□□□□□
4/27 23:57 マヤ
4/27 23:47 香織
- 133 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:32
- 【発信履歴】
4/28 23:32 井上マネ
4/28 22:25 090********
4/28 22:03 ママ
4/28 18:06 事務所
4/28 02:18 テツオ
4/28 01:40 照美太郎
4/28 00:37 ともや
4/27 22:43 マヤ
4/27 20:18 社長
4/27 20:09 03○○○○○○○○
4/26 23:32 ピザ1
4/26 18:22 安藤マネ
4/26 12:40 タモリ
4/25 14:32 ラーメン1
4/25 11:37 ○○銀行
4/25 10:11 090□□□□□□□□
4/24 17:57 ラーメン3
4/24 16:22 090△△△△△△△△
4/23 23:00 渡辺先輩
4/23 00:27 閑田聖子
- 134 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:34
- 名前、番号、日付と時間を素早くメモする。
俳優という職業柄、いろんな人物と頻繁に連絡をとっているようだ。
マネージャー、事務所、社長。事務所関係者からの電話が多い。
予想に反し、通話履歴に藤本美貴の名前は無かった。
気になってメモリーを調べてみると、そこにも名前が載っていない。
(登録していないという事は、そこまで親しい間柄ではない?)
履歴には番号だけのものもある。その中に含まれているのかも知れない。
またはニセの名前で登録しているか。
- 135 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:38
- 次にメールを調べる。
事件後にも数件のメールが届いていた。それらは全て未読のまま。大根が事件後、一度
も携帯に触れていない証拠だ。証拠隠滅を心配していた吉澤は一安心する。
事件後のメールに手掛かりは無いだろうと、内容を確認することは諦めた。メールを見た
ことを大根に気づかれないようにする為だ。
送信、着信共にかなりの数がある。全てを確認する時間は無い。
新しいものから順に見ることにした。
一番新しいのは事件直前に送ったと思われるメール。
時刻は23:50。送り先の名前は「マヤ」。愛鳥マヤだろうか? メールを開く。
―――ガラッ
その時、病室のドアが突然開いた。驚きのあまり、心臓が止まりそうになる。
振り返ると、そこにいたのは可愛い白衣の天使(なんて思ってしまった事は、梨華にはも
ちろん内緒)だった。
「ビックリさせるなよ。―――大根は?」
「偶然MRIの部屋を見つけたから、機械にセットして、「先生を呼んできまーす」ってそのま
ま放置してきた。エライでしょ。褒めて褒めて」
「よくやった―――と言いたいところだけど、その格好は何? 誰がコスプレをしろと頼んだ?
看護婦か医者に、大根を病室から連れ出すように頼んできてって言ったんだよ」
「それがね、ナースステーションに行ったら誰もいなくて。で、更衣室を覗いたらコレがあっ
たから借りてきたの。どう? 似合う?」
「うん。似合い過ぎててなんかヤラしい。今すぐお店で働けそうだよ」
「何だよそれ。やらしいのはよっちゃんの頭の中だよ」
「で、どうなの?」
梨華が携帯を覗き込む。
「これが、大根が最後に送ったメール」
- 136 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:42
- 送信(返信)
【送信先】マヤ
【日付・時刻】4/28 23:50
【タイトル】Re:今夜逢える?
【本文】
今日は予定があって会えない。
ゴメン。
この埋め合わせはいつかする。
- 137 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:43
- 吉澤はメモを確認する。
「大根が防犯カメラに映っていたのが11時56分」
「予定って何だろう? これって返信したものだよね。元の受信メールはどれ?」
「ちょっと待って」
受信メールから”マヤ”の名前を探す。
「多分これだ」
- 138 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:45
- 受信
【送信元】マヤ
【日付・時刻】4/28 22:31
【タイトル】今夜逢える?
【本文】
近頃逢っていないから淋しいです
今夜逢えますか?
良いお返事を待っています。。。
- 139 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:46
- 「愛鳥マヤって、見かけによらず健気なんだね」
「メールじゃ本音や本質は見えないよ」
梨華には珍しく、意味深い発言をする。
「ほかのメールも見てみよう」
- 140 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:47
- 受信
【送信元】照美太郎
【日付・時刻】4/28 23:47
【タイトル】富山の薬屋より
【本文】
用法・用量を正しく守り、
楽しく安全にお使い下さい(笑)
- 141 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:52
- 「なんじゃこりゃ?」
「ワケわかんないメールだね」
「一応メモしておくか。照美…太郎…。番号は……」
手帳に書き込む。
- 142 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:52
- 送信
【送信先】090********
【日付・時刻】4/28 23:45
【タイトル】無題
【本文】
約束はちゃんと守るよ。
待ってます。
- 143 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:55
- 「約束?」
「誰へのメールかな?」
「番号に見覚えがある。着信履歴に同じ番号があった気がする。
―――藤本美貴かもしれない。彼女の番号はメモリーに登録されていなかったから。
受信メールはどれだろう。……これかな?」
同じ番号からの受信メールを見つけ、開く。
- 144 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/14(日) 23:55
- 受信
【送信元】090********
【日付・時刻】4/28 23:41
【タイトル】無題
【本文】
1時くらいになるかも知れません
本当に返してくれるんですよね
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 01:24
- 面白い気がする
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 05:54
- 私もそんな気がします
気のせいではないことを願っています
- 147 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/15(月) 05:57
- 「この人物と会う予定だったみたいだね」
「返す……約束……。大根がこの人物に何かを返す約束をしていた?」
「やりとりからして、そのようだね」
「問題は、この人物が果たして藤本美貴なのかどうか」
ざっと見たところ、事件に関わりがありそうなメールはこれだけだった。
トラブルを臭わす内容のものは、特に見つからない。
「とにかく、藤本美貴の携帯の番号を知ることが先決だね。これが彼女からのメールだと
したら、大根は彼女が訪ねて来るのを知っていた事になる。つまり、彼女を庇っているわ
けだ。これで藤本美貴が否認でもしたら、面倒なことになるなぁ」
- 148 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/15(月) 06:18
- 「そろそろ大根にバレる頃かも。ここらで引き上げるとしますか」
「うん」
吉澤は携帯を革ジャンのポケットに戻す。
「ん?」
何だろう。指先に何かが触れた。小さくて硬いモノ。
取り出してみる。
「カプセル?」
ポケットから出てきたのは、青と白、半々のカプセルだった。全部で三つある。
「何の薬だろう?」
「…………富山の薬屋さん?」
梨華が言う。
「あぁ、そうか」
先程の意味不明なメールは、このカプセルの事を言っているらしい。
「あっ!」
吉澤は思い出した。防犯カメラの映像。大根がエレベーターから降りる間際、ポケットから
何かを取り出すのを。その取り出したものを見て、大根はニヤリと笑っていた。
「これだったんだ…」
吉澤は、手の平にのせた三つのカプセルを見つめる。
包装されていない裸のカプセル。
風邪薬の類なら、このような持ち運びの仕方はしないだろう。
どこかしら、きな臭い。刑事としての直感だ。
「―――たのしくあんぜんにおつかいください、かっこわらい」
メールの文章を口に出して読む。
自ずと連想するのは麻薬だった。最近、都内で麻薬がらみの事件が頻発している。
吉澤がこの事件を一人で担当することになったのも、所轄が麻薬がらみの捜査で忙しい
からだ。
もし、このカプセルがそうだとすると……。
「三つあるんだから、一つぐらい無くなっていても、どこかに落としたと思うんじゃない?」
吉澤の心を見透かしたように梨華が言った。つまり、盗めとそそのかしている。
「そうだね」
吉澤は頷き返す。
一つを失敬し、ビニール袋にしまう。あとで鑑識の二人に渡し、科捜研で中身が何なのか
特定してもらう。残りの二つは元の場所に戻した。
- 149 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/15(月) 06:27
- 病室を出たところで、廊下の向こうから大根の怒鳴り声が聞こえてきた。
「一体どういうことだよ!?」
「私にも分かりませんよ。検査なんて誰にも頼んでないですから」
「じゃあ、あの看護婦は何だよ!」
医師に食ってかかっている。
「やばい、逃げるよ」
二人は反対側に走って逃げた。
「待って待って、よっすぃのスーツを置きっぱなしだよ」
「あ〜もう、仕方が無い。今は大根に見つからない事が先。スーツは後で回収する事にし
よう」
裏口から出る。ナース姿の梨華を見て、守衛が首を傾げていた。
車に乗り込み出発する。
次の目的地はいよいよ藤本美貴のマンション。そこを最後の目的地にしたい。
藤本美貴が犯行を自供してくれる事を祈るばかりだ。
- 150 名前:第一羽 『ウサギは跳ねる 跳ねるは』 投稿日:2004/11/15(月) 06:32
- 車を運転しながら、助手席のニセナースをちらりと窺う。
視線に気づき、梨華も吉澤を見る。
「なに?」
「……大根に何か言われなかった?」
「何かって?」
「……いや、何でもない。気にしないで」
「口説かれたかって事?」
「…………まあ」
「電話番号訊かれたよ」
(あんにゃろう)
点滅している赤信号の交差点を、スピードを落とさずに通過する。
「心配してくれてありがとう。でも、安心して。あたしはよっすぃだけのものだから」
(…………誰か、この人の頭を治す薬を下さい)
吉澤は切に願った。
- 151 名前:ある 投稿日:2004/11/15(月) 06:36
- レスありがとうございます。
永らくお待たせして申し訳ありません。
HDD故障とか放棄はしないとかきかくなんて言葉は口が裂けても言えないので言わないです。口が裂けたらそれこそ言えない。逝ってしまわれたヴァイヲ君(享年二年二ヶ月)の供養と供養をきょうようと読んでしまう石川さんに免じて許してください。(ちゃんちゃみ第19回参照)ワケわかんない人はスルースルー。
- 152 名前:ある 投稿日:2004/11/15(月) 06:38
- なぞなぞのネタも尽きました。
中が回文、昆布いかがかな?
というわけで、隠しついでになぞなぞ考案中に生まれた完成度の低い回文をいくつか。
- 153 名前:ある 投稿日:2004/11/15(月) 06:40
- Q、美勇伝の三人のうち、誰か一番良いと思いますか?
矢口真里「三好ちゃんかな」
石川梨華「真ん中のリーダーの子かな。エヘッ」
飯田圭織「岡田イイ!」
巨乳に苦戦する仔猫たち。
コンプレックスからか、やる気が空回りして普段の力が出せないでいるミキティ。
「後浦なつみって、ハロプロのイエローキャブだよな」
ぽつりとこぼす中澤姐さん。
まいっちんぐが相手のパスをカット。前線を見ると、よっちゃんがフリーに。
パスのタイミングを計る。
「今だとさ、里田まい!」
ベンチから監督の指示が飛ぶ。
絶好のタイミングで出されたパスはよっちゃんの足元にピタリ。
振り上げた右足がボールの芯を捉え、ゴール一直線に勝利の軌跡を描いた。
ソロになって何かと苦労の絶えない後藤さんですが、彼女のダンスはファンを天国にいざなってくれます。
「苦楽、後藤真希。舞うと極楽」
- 154 名前:ある 投稿日:2004/11/15(月) 06:42
- 著しくデキの悪い意味不明な回文
留守怒り、若し命の石川、理解する。
よく長い足は硬い。高橋愛が泣くよ。
留守、藤本美貴。居ない君とも自負する。
余談、神のみぞの実話、辻希美の蜜柑だよ。
結構デキが良いのではと自負する回文
松浦亜弥は最早、洗う妻。
良い子、戸田鈴音。2年リーダーと恋よ。
中居、痒い顎掻く加護亜依愉快かな。
こんなの考えてる暇があったらさっさと更新しろという意見はきっと正しい。
- 155 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 10:39
- こんなの考えてる暇があったら(ry
どちらの回文もまあまあのデキかと。
今後の展開、いろんな意味で裏切られそうな予感。
- 156 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 16:54
- とりあえずカムバック乙。
とりあえず企画のカムアウを(ry
- 157 名前:マシュー利樹 投稿日:2004/11/20(土) 01:54
- ま、のんびり行きましょう。
次回、更新待ってます。
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/22(火) 03:12
- (0^〜^)「どこにいったんだろうね、作者は」
( ^▽^)「乱歩Rで見たのを最後に、神隠しにあった和泉元彌のようだね」
(0^〜^)「梨華ちゃんの婚約者を演じたバチが当たったんだよきっと」
( ^▽^)「よ、よっちゃん……ポッ」
- 159 名前:作者 投稿日:2005/02/22(火) 12:47
- お茶を濁すなぞなぞを考える暇も無い
話の展開上、ラストまで一気に読ませないといけないので、
ラストまでちまちまと書いてます。
・・・書 い て ま す ?(疑問形)
次回の更新予定は未定ですが、続きを読みてい人がいるならば、
更新確定 ぜってい 書くでい
放置は最低 そんな奴にゃ掌底
みきてい なりてい でいかっぷ
月亭八方 師匠は可朝
ダコダコYeah! ダコダコyo!
作者による生存報告は謙虚にやらなければいけないそうです。
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/08(火) 17:04
- まだ謎々に一問も正解してないしな。
気長に待ってるよ。
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/12(日) 13:51
- 待ってる
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/07(日) 11:52
- 生存報告頼みます
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