こんこん生誕スレ

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/06(木) 16:41
いよいよ明日は我等が紺野先生の誕生日です。
あさ美さんが好きだろうとアヒャ美さんが好きだろうと( ´D`)<それはそれでえーやん
ってことで、気が向いた方は是非書いてみてください。
期限・長さ等制限は無しです。

川o・-・)<たくさんの作品が集まると良いですね。
2 名前:卒業 投稿日:2004/05/06(木) 20:49
燦々と輝く太陽を背にしながら人通りの多い道を歩いていく。
地味な深緑の帽子を深くかぶって、目にサングラス。
ちょっと有名になっただけで、普通に街に出られないから大変だ。
最近はどうかは分からないけど。

・・・それにしても暑い。
照りつける太陽の熱に加え、地面、コンクリートからの照返し。
上下から熱され、蓋をされたホットプレートの中にいるみたいだ。
そして周りは人・人・人。
暑苦しさは一層増す。

またこの帽子の色も良く光を集めるわけで。
それでも周りの流れに逆らうわけにもいかず、歩くスピードはいっこうに落とせない。

こうなると自然と頬を伝う汗。
止めどもなく流れて来て、もはやハンカチはびっしょびしょ。
早く待ち合わせ場所の喫茶店について欲しいものだ。
3 名前:卒業 投稿日:2004/05/06(木) 20:49
そんなこんなで急ぎすぎて、30分前に待ち合わせ場所に着いてしまった。
店内は昼過ぎの中途半端な時間と言うことでほとんど人はいないみたいだ。
遠くから『いらっしゃいませー』という声が聞こえたが、案内をする様子もないので
勝手にテーブル席の方に向かい、2人は楽々座れそうなスペースに腰掛ける。

一息ついて、ハンカチを取ろうとポケットに手を入れようとしたところで店員に声をかけられる。

「ご注文は何になさいますか?」

当然のことながら、こんな暑い日は冷たい飲み物しか頭に浮かばない。
メニューを探そうかとも思ったが、少しでも動くと汗が出る今、最低限の動きで済ましたい。

「えっと、アイスコーヒーありますか?」
「はい。ございます」
「じゃあアイスコーヒー1つお願いします」
「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」

さすがにこの時期、アイスコーヒーを注文できない喫茶店はないだろう、という読みは当然のことながら的中。
まるでマニュアルに書いてあるかのようなやりとりを済まして、頬を伝い落ちてくる汗を必死にハンカチで拭く。
次第にハンカチも絞れそうなくらい湿ってきて、そこまで効果があるわけでも無さそうだ。
テーブルにあるナプキンでも使おうかと悩んでいると、店員がアイスコーヒーを持ってきた。
コップの周りに無数の水滴が付いていてとても冷たそうだ。

そう思ったときには既に右頬に冷たいものがぴったりとくっついていた。
この冷たさはまさに天国。
別にお魚ってわけじゃないけど、コップの水滴が頬から首を伝っていくのがまた気持ち良い。
コップをテーブルの上に置いて、その横に首を横たえてリラックス。
4 名前:卒業 投稿日:2004/05/06(木) 20:50
そうしていると視界がちょっと暗くなったのを感じ、顔を上げてみる。
そこには呆然と私の方を見ている可愛い少女。
開いた口がふさがらないって感じで、とても面白い。

「あ、安倍さん!?」
「紺野、久しぶり」

まだ落ち着きのない紺野に心の底からの笑顔を見せる。
紺野も私を見て戸惑いつつも

「お、お久しぶりです」

なんて返す。

「あの、いきなり失礼ですが、何されてるんですか?」
「ん?何って?」

私何かしてるっけ?と考えてみると、そう言えばテーブルとコップに顔を付けたままだと気付く。

「あぁ、暑かったからこうして冷やしてたの」
「は、はぁ…」
「にしても紺野大きくなったねー」
「そ、そんなこと無いですよ!確かにちょっと太ったかも知れませんけど…」
「いや、そう言う訳じゃないよ」

誉めたつもりが変な風に取られて、ちょっと申し訳ない気分になる。
いかにも紺野らしいなって思うと笑えてきた。

「安倍さん?どうして笑ってるんですか?私何か変なことしました?」
「いや、紺野らしいなって」
5 名前:卒業 投稿日:2004/05/06(木) 20:50
初めは不思議そうにしていた紺野だが、少しずつ顔が赤くなってきてるような気がする。
それを誤魔化すかのように話し始めた。

「あの、本当に遅くなりましたけど、卒業おめでとうございます」
「あ、ありがとう。これで聞くのは最後かな」

聞くのは久しくなったけれど、すっごく重い言葉。

「本当に最後出れなくてすみませんでした。体調管理できないなんて情けないですよね…」
「まぁ、もう終わったことだから。あのことが良い経験になったなら、なっちはそれで十分だよ」
「はい、絶対に次に生かして見せます!」

まじめな顔で見つめ合っているのがおかしくて、思わず吹き出した。

「ほんとに紺野は面白いよねー」
「いや、安倍さんほどじゃないですよ」
「面白いと言えば、最近相方はどう?」
「相変わらず頭悪いですよー。あ、本人には言わないで下さいね」
「あ、なっちのお母さんに伝えておいてもらうねー」

そういって通信してるかのような素振り。

「止めてくださいよー、って安倍さんまだそれ続けてたんですね」
「何が悪いのさー?」
「いや、別に悪くないですけど」

珍しく紺野の方が一方的に笑う。

「あー、紺野年上の人をからかってるー」
「だっ、だって面白すぎるんですもん」

どうやらツボに入ったらしく、お腹を抱えたまま下を向いて必死に堪えている。
6 名前:卒業 投稿日:2004/05/06(木) 20:51
この後も娘。のことや、お互いのこと、家族のことに至るまで話し続けた。


楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、いつの間にやら空が赤みを帯びてきていた。

「今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそ誘ってくれてありがとう。まさか紺野に誘われるとは思わなかったよ」
「いえ、あの時以来お祝いの言葉も言えませんでしたから」

お互いにっこりと微笑みながら、その後伝票の取り合い。
誘ってもらったとはいえ、先輩としての立場上私が払ってあげることになった。

「ほんとにおご馳走様でした」
「いやいや、アイスティー3杯だけでしょ」
「それでも先輩に奢って頂けるなんて光栄です」
「光栄だなんて…なっちはもうそんな人じゃないよ」
「・・・」

ちょっとネガティブになってしまって、紺野も対応に困ってしまってるみたい。

後輩の前で弱気になっても仕方ないよね。

「紺野はさ、まだまだこれからなんだから頑張るんだよ」
「はい。安倍さんも頑張って下さいね」
「なっちと紺野を太陽に例えるなら、なっちは今の夕日、紺野はまだ登り立ての朝日。だからまだまだこれから。一生懸命努力すれば必ず上まで上がれる!なっちが保証してあげる!」
「確かに私が朝日だとすると、安倍さんは夕日になるかも知れませんね…」
「・・・」
7 名前:卒業 投稿日:2004/05/06(木) 20:51
例えで使っただけで、まさか本当にそう言われるとは思わなかった。
確かに少しはそういう意も多少含んでいたかもしれない。
それでも紺野にまで言われるのだから、よっぽどなのかな…

「あ、あのー」
「ん?」
「たぶん…、私の考えてる夕日と、安倍さんの考えてる夕日の意味とは違うと思います」

まるで私の考えていることを見透かしたかのような言葉。

「紺野、どういうこと?」
「安倍さんはもうすぐ沈んでしまう夕日に自分を例えて使ったんですよね?でも私の考えは違います。確かに今ここでは沈んでいきますけど、どこか別の国から見れば、太陽が上がりたてのところもあり、南中にある国だってあるんです。つまり安倍さんはモーニング娘。という世界、現実であれば日本という国では沈んでしまったかも知れませんが、別の国、ソロの世界ではまだまだ朝日だったりするんです」
「・・・」
「だから今までのように、私たちの前を堂々と歩いていってくれる安倍さん、そしてそんな『なっち』・・・さんでいてください」
「紺野…」
8 名前:卒業 投稿日:2004/05/06(木) 20:51
今日誘いを受けて、本当に良かったと思う。
周りから見れば、とても恵まれた卒業であり、そういう路であっただろう。

でも私は、あまりにも大きな不安に押し潰されそうだった。
今まで支えあってやってきた分、一人というのはとても辛いことを心から実感した。
そしていかにメンバーが大きな支えになっていたのかを思い知らされた。
そういう人達と離れることによって、自分は芸能界という荒波に飲まれて忘れ去られていくだろうという危惧の念も抱いた。

でもそれは飽く迄昨日までの私。
正確に言えば、今日紺野と話すまでの私。
確かにメンバーとは少し離れたけれど、別に会えなくなった訳じゃなかった。
私にはまだたくさんのすっごい仲間達がいる。
紺野はそのことを間接的に、それでいて分かりやすく気付かせてくれたのだろう。

「あんまり人もいないし・・・走ろっか!」
「えっ!?ど、どうしたんですか!?」
「いいから、早くいくよー」

先に走り出した私を見て、慌てて追いかけてくる紺野。
待ってくださいよー、なんて聞こえるけど、悪戯にスピードを上げる。
所々にいる人々の合間を縫うように走っていくその先には、なかなか沈まない夕日があった。
9 名前:卒業 投稿日:2004/05/06(木) 20:52

終わり
10 名前: 投稿日:2004/05/07(金) 21:23


『優しい雨』




11 名前: 投稿日:2004/05/07(金) 21:24
「このまま五分ここにいて、一緒に風邪を引いてもらいます」
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/07(金) 21:24
今から数分前。
何がきっかけになったのかは忘れてしまいましたが、私、
紺野あさ美は、同期の小川麻琴さんに告白しました。

答えを貰う前に
沈黙に耐えられなくなってスタジオの外に飛び出したら、
雨が降っていて

闇雲に走って力尽きて佇んでいるところを、これまた同期の
高橋愛さんに発見されて

一番見られたくない姿を見られて

悔しかったから
寂しかったから
探しにきてくれたのが嬉しかったから

スタジオに戻ろう、と掴まれた腕を引っ張って、
勢いで私の胸に飛び込む形になった愛ちゃんに言いました。



「このまま五分ここにいて、一緒に風邪を引いてもらいます」



13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/07(金) 21:25
「…こ……あさ美ちゃん」
「なんでしょう」
「なんでそんな敬語なん……ま、いっか。
 ……あんなあ、あたしなあ、
 マコトと喋ってる時のあさ美ちゃんが好きやって」

一方的に抱きついている形が、背中にまわされた愛ちゃんの両腕によって
抱き合う形になる。

「マコトとあさ美ちゃんよぉ食べもんの話で盛り上がっとるやろ。
 あん時のニコニコしてるあさ美ちゃんが一番好きや」
「……まこっちゃんは?」
「マコトはいつだっておんなじ顔しとる。ほけーっとしとる」

それ本人が聞いたら泣き出しちゃうかもよ。

「……今の内緒やで?」

胸元に埋まってた顔が僅かに動いて
大きな両目が現れた。

「さけ、二人には…勝手なお願いだけど、仲悪ぅなって欲しない」

そー思たら追っかけずにはおられんかって。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/07(金) 21:26


雨。優しい雨。

私は今日はじめて
人の声と雨音がこんなにも優しい音を作り出すことを知りました。
愛ちゃんの福井訛りのおかげかな?
それともこの訛りの半分は
優しさで出来ているせいかな?

「大丈夫だよ、愛ちゃん」
「ほんまに?」

「まこっちゃんには吉澤さんがいるし」
「ええ?」
「きっと多分今頃こんな風に慰めてもらってる」

だから大丈夫だよ。
明日からはまた
愛ちゃんが好きだって言ってくれた笑顔で
彼女と話すことができるよ。

……あと三分くらいしたら完璧です。



「…のぉ、もう五分経ったんと違うかな」

「まぁだだよ」
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/07(金) 21:27
『優しい雨』

16 名前:『優しい雨』作者 投稿日:2004/05/07(金) 21:28
紺野さんお誕生日おめでとうございます。
17 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:01

小雨のぱらつく、少しじめじめした感じ悪い日だった。

こんな日はお客さんも来なくて、
仕事も暇であたしは両腕を上げて思いっきり欠伸をする。

「お客さん来ないねぇ」
「こんな日じゃねぇ。喜ぶのはお花さん達くらいでしょ!」

そう言いながらこの店の店員、石川梨華、梨華ちゃんは花を軽くなでる。
そんな光景は初めて見た人なら気持ち悪がるだろうが、
毎日行われてる光景なのであたしはもう慣れてしまった。

「ゆう…、…店長どこ行ったんだっけ?」
「んー、花木センターに鉢を取りに行ったよ。4時には戻るって」
「へぇ」

店のカウンターに顎をついて梨華ちゃんの話を聞いてると、
お客さんに見られちゃうでしょ、と怒られた。
でも外を見てもみんな傘をさして黙々と歩いてるから、
誰一人店内なんて見ちゃいない。
18 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:01
ここで働いて一年が経つ。
店の名前はフラワーショップナカザワ。
関西弁で目つきが悪い、店長であたしの従姉妹の裕ちゃんとちょっと気持ち悪い同期の梨華ちゃん。
そして今日休みの先輩、なっちと事務の圭ちゃんでこの店は運営されている。
小さな店だけどいつか支店を何店舗も持つ大きな店にするのが店長の夢だそうだ。

「…あー、暇ー。なんか仕事ない?何でもするよー」
「仕事って言われても…、あ、受注伝票整…」
「パス。そういうの苦手」
「そうやっていっつもあたしに受注伝票整理させてさぁー…何でもするって言ったくせに…」

いつまでも話し続ける梨華ちゃんを放っておいて、店のディスプレイに手を伸ばす。
少しでも位置が違うと綺麗なものは綺麗に見えないんだ。
入社したての頃はそんな事は全くわからなかったけど、最近になってそれがわかる気がしてきた。
少し角度を変えると花が喜んでいるかのように見えた。
私はそれに満足して笑みをもらす。
19 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:01
「…でもさぁ、入った時から言ってたけど、ごっちんってお花屋さんっぽくないよね。
 いつも無表情で花、手入れしてるし」
「…それ、失礼だよ。いつも言ってるけどさぁ。あたしだって笑うよ」
「だってぇ、やっぱりぃ、お花が似合うのってぇ、あたしみたいにかわいい…」
「はいはい、キモイから」

右手をひらひら振って、梨華ちゃんの言葉をさえぎり、
カウンターの方に戻ってコルクボードに目をやる。
そこには配達伝票が貼られている。
もう少し経ったら指定時間のある配達の時間だ。

「梨華ちゃん、ごとー、配達行ってくるわ。3時指定があるから」
「んー、はい。わかった、行ってらっしゃい」

コルクボードから伝票をはずし、車の鍵を手に取る。
そして冷蔵室の中に入っている花を取り出し、車に乗せた。
誕生日用に作られた華やかなアレンジメント。
昔、運転が荒すぎてよく倒して怒られたものだった。
今や、毎日車に乗っているせいかだいぶ運転も上手くなったと思う。
20 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:02
少し走ると、小雨だった雨が大降りになってきた。
ワイパーを動かし、視界の悪くなった窓を良くすると、
ワイパーはぎぎぎ、と変な音を出した。

「裕ちゃん、まだ修理してないのか…」

裕ちゃん、と呼ぶと怒られるから、いつもは店長って呼んでたけど、
一人の時はただの従姉妹に戻って昔の呼び方をする。
こっちの呼び方の方がしっくり来るんだ。

地図を見ながら走り続けると、前の方に橋が見えた。
特に何も考えずに普通に通り過ぎようとすると、端の真ん中らへんに
傘もささずにずぶぬれになって立っている女の子が目に入った。

「…早く帰ればいいのに、何であんな所に立ってるんだろ」

あたしはその横を水がはねないように注意しながら通り過ぎた。
通り過ぎた後、バックミラーで後ろを見ると、
後ろから来た車に思いっきり水をかけられてるのが見えた。
21 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:02
「…うわ」

女の子は少し気にしながら、でもそこから動く事はない。
依然、びしょびしょに濡れたままその場に立ち尽くしている。
あたしは気になって車を横につけて止まった。
3時までまだ余裕があるし。
何かあのまま川に飛び込みそうな雰囲気だし。
車の中にあったビニール傘を取り出してあたしは外に出た。
そして車で来た道を歩いて戻る。
濡れてる女の子を傘の中に入れた。

「…あの、どうしたのか知らないけどそんなに濡れてると風邪引くからさ、
 とりあえず車の中で乾かさない?」
「…?あの…?」
「あ、あぁ!別に怪しいもんじゃないからさ、あたし、花屋。
 ほら、あの車、書いてあるでしょ?フラワーショップナカザワ」

車を指差す。車の後ろにはでかでかと文字が並んでいる。
ダサいからやめよう、と言ったら思いっきり殴られた記憶が。
22 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:03
「まぁ、ほら、遠慮しないでさ。別に誰かを待ってるとかじゃないんでしょ?」
「…はい」
「じゃあさ、とりあえず車の中で、ね?」

女の子をその場から少し強引に連れて行き、車に戻った。
助手席に彼女を乗せて、少し広い道まで出て、また脇に車を止めた。
車の中にはタオルなんて都合のいいものはなく、
あたしはポケットから小さなハンドタオルを取り出し、手渡した。

「ごめん、こんなのしかないけど」
「…すみません、ありがとうございます」

彼女は受け取り、ゆっくりと濡れてる顔を拭いた。
なんとなく、明らかに雨のせいではなさそうだった。

「…泣いてたの?」
「………」

あたしの言葉に黙り込んで俯いてしまった。
どうやら図星だったらしい。
そこから会話を続けるのもなんとなく出来なかったからあたしも黙った。
この沈黙にワイパーの音が五月蝿すぎる。
さっきよりも雨は土砂降りになっていた。
23 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:04
「……昨日、恋人を、振ったんです」

ポツリと小さな声で彼女が呟いた。
あたしはよく聞き取れなかったのでもう一度聞いた。

「振った?振られた、とかじゃなくて?」

振られて泣いていたのなら、なんとなく話はわかる。
彼女は振って、泣いて、ずぶぬれになっていたのだ。

「振ったのなら別にそんなに落ち込まなくても…さぁ。
 もう付き合う気がなかったから振ったんでしょ…?」
「…そう、なんですけど…なんか、
 昨日から別れを告げた時の顔が…頭に残って…ぼーっとしちゃって…」
「…同情ならやめたほうがいいと思うよ?君だって前に進めないし、
 その…元恋人さんだって進めないと思うからさ」

なんか、上手い言葉が出てこない。
梨華ちゃんならいろいろあれこれ言って元気付けたりするんだろう。
なっちなら親身に話を聞いてあげて良いアドバイスするんだろう。
圭ちゃんだったら一緒にお酒を飲みに…ってこの子未成年だよなぁ。
いろいろ頭の中で考えていると隣の彼女が少し苦笑いを浮かべた。
24 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:04
「実は…今日、誕生日なんです、私。誕生日の前日に恋人振っちゃいました」
「…そう、なんだ。何歳になるの?」
「17歳になります」
「そっかー、若いねー」
「そんな、後藤さんだって若いですよ」

何で名前…あぁ、エプロンのネームプレートか。
あたしはかちゃかちゃと右手でプレートを触った。
雨は少し小降りになってきた。

「まぁ、さ、君がそんなに落ち込む事はないからさ、
 元気出して、次の恋見つければいいんじゃない?」
「そう、ですね」
「ほら、誕生日も来た事だしさ、昨日の自分とは違うんだ!って思ってさ」
「はい」

少し元気の出てきた声になった彼女を見て、
あたしは思いついたように後ろの座席を見て手を伸ばす。
注文品のアレンジメントから一本花を引っこ抜いた。
一本くらいならばれないだろう。
25 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:05
「はい」
「…え?」
「誕生日おめでとう。…ここから引っこ抜いた事は内緒ね?」

人差し指を立てて口にあてて言うと、
彼女は差し出されたガーベラを手にとって笑った。
その笑顔はその花よりも可愛くて綺麗だと思った。
そして、彼女が笑顔になったと同じくらいに雨は止んで、お日様が見えてきた。

「…君、もしかして、晴れ女?」
「そーかも、知れないですね?」

いたずらっぽく言う彼女を見て、目が合って2人で笑った。

「なんか、すみません。私、帰ります。ちょっと元気出てきました。
 きっと後藤さんのおかげです」
「いや、別に気にしないでよ。なんなら送っていくけど?」
「…いえ、1人で歩きます」
「そっか、じゃあ。気が向いたら花でも買いに来てよ?安くしとくからさ」
「はい、ありがとうございました」

ペコリと頭を下げると彼女はドアを開けて外に出て、前を見て歩き出した。
26 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:05
きっと1人でも歩けるだろうな。
そう思った。

息をついて深く座席に座る。
ふと、バックミラーを見て目に入った。
注文の、アレンジメント。3時まで。

「…やばっ!」

あたしは急いでまた地図を開き、アクセルを踏み込んだ。
少し迷って辿り着くと、時間はギリギリ間に合った。
安堵の息をつき、インターフォンを鳴らす。
スピーカーから声が聞こえた。

「はい」
「あの、フラワーショップナカザワですけど、
 紺野あさ美さんにお誕生日の花をお届けに来ました」
「…はい」

声の主はそれだけ答えるとスピーカーを切った。
そして扉が開く。
27 名前:花雨 投稿日:2004/05/07(金) 22:06
「…それ、私の花だったんですね?」

目の前にはさっきの彼女が笑っていた。
あたしは驚いて目を丸くした。
けれど、つられて笑った。

「…えっと、誕生日おめでとうございます、紺野あさ美さん」

それを手渡し、頭を下げてあたしは家を後にした。
彼女とは運命かもしれない。
そんな事を思って少し喜びながら店に戻るあたしは、
あの花のプレゼントの主が彼女の元恋人からで、
また彼女が1人で泣いてるという事を知らないでいたのだった。

END?
28 名前:「おとめごごろはひめてはなたじ」 投稿日:2004/05/07(金) 22:13
髪触られることは結構あった。
自慢じゃないが私、
そこそこの黒髪が大和撫子っぽいとかよくわからない褒め方までされたことある。

季節の湿気を含んでりんと垂れた黒髪も
敵わないですよ。
紺野さんの髪の
質感
湿感。

「えーでも亀ちゃんだってきれいじゃん」

そういってもらえるのは嬉しい。

「いや、紺野さんの髪に惹かれるんですよぉ」

これは前口上でして
本当はもっと素直にストレートに

触りたい

といいたい。
29 名前:「おとめごごろはひめてはなたじ」 投稿日:2004/05/07(金) 22:13
「そぉかなぁ?」

ああ、ふっくらほっぺさん。なんでそんなに鈍感ですか。

「紺野さん絵里の髪触ってみます?」
「え……?」

私を上目遣いに見る。
そのくりっとした目。
反則だぁそんなのは。

「いやっ……そんななんか悪いし」
「なに後輩に遠慮してんですか」

というか

触って欲しいの!!

じゃなくて

触りたいの!

わかってよ紺野さん。
30 名前:「おとめごごろはひめてはなたじ」 投稿日:2004/05/07(金) 22:14
鈍感な先輩と
口下手な後輩。

2人の微妙なやりとりは続く。

「髪には絵里が宿ってるんです」
「……は?」
「知りませんか。髪は女の命」
「それ……ちょっと違うよ」
「……」
「すねた?」
「……」
「どうした?」

「紺野さんお誕生日おめでとうございます」

「えっ……ありがと……」

唐突さにたじろぐ紺野さん。

「お祝いに髪、触らせてあげます」

「は?」

「だから触れってばさ!」

紺野さん。
大きな目が必要以上に大きくなった。
31 名前:「おとめごごろはひめてはなたじ」 投稿日:2004/05/07(金) 22:14
ああ声を荒げてしまった私。
さいあくだぁ。

いっつもそう。
溜め込んで溜めまくってでも言えなくって
最後に最終的に最悪の表現で発言してしまう私のわがまま。

こういう内気な志向。
紺野さんだったら
わかってくれるとばっかり
思っていた。
思い込んでいた。

でも
ダメなんですね。
やっぱり私の
不器用な私の思いは通じませんよね。

それならそれでしかたない。
32 名前:「おとめごごろはひめてはなたじ」 投稿日:2004/05/07(金) 22:14
「亀井ちゃん」
「はい?」
「私……君のそういうところ」

ごめんなさい。

これが

私なんです。



「好きだな」



「はい?」

「髪……触っていいよ」
33 名前:「おとめごごろはひめてはなたじ」 投稿日:2004/05/07(金) 22:15
「……いいんですか?」
「そのかわり私も触る」

近づいた紺野さんの顔。

近くで見るといっそうやわらかそうな紺野さんの顔。

吐息。

「ん……」

後ろに引っ張られるようなこすられるようなくすぐられるような
甘い感覚が偏頭痛みたく私を揺らしている。

私の伸ばした手が
さらっさらの中に
絡まって行った。
34 名前:「おとめごごろはひめてはなたじ」 投稿日:2004/05/07(金) 22:15
2人はさらに近づいていく。

からだが密着する。

ああ、あたたかいよ。

私の髪。
紺野さんの髪。

2人の内側に溜まった何もかもが
こうして流れを得たみたい。

紺野さんおめでとう。おめでとう。

きっと紺野さんも同じように解放されたんだよね。

いとしい人の年が変わった。
いとしい人との関係が変わった。

この髪
しばらく変えないでおこう。

それが私のバースデープレゼントだよ。
35 名前:「おとめごごろはひめてはなたじ」 投稿日:2004/05/07(金) 22:15
終わり
36 名前:君繋ぎ 投稿日:2004/05/07(金) 23:34
―――・・・手を繋ぎませんか?

突然そう呟いた私を、あなたは首を傾げて見つめます。
いつもは怖いと言われているその目つきも、この時ばかりはキョトンとし、とても可愛いです。

「どうしたの、急に?」

言葉に怪訝な色を乗せながら、あなたはそう聞きます。
私はいまさらながら自分の言ったことに羞恥を感じ、慌てふためいてしまいます。

「え、ええと・・・」
「あはは。どうしたの、本当に」

あなたはまるで天使のように笑って、私の頭を撫でてくれました。
途端に、自分でも分かるくらい顔が熱くなります。

そして次の瞬間には、もう爆発してしまうのではないかというくらい、顔に血が上りました。

「そう言えば、付き合いだしてからこうして手ぇ繋いだことなかったね」

あなたは私の手を優しく、それでも離れないくらいの程よい強さで握りしめ微笑んでくれました。
私は無言で俯いてしまいましたが、手はしっかりと握り返していました。

それから暫く、双方無言で心地よい春の日差しの下を歩いていました。
勿論、手を繋ぎながら。
頬の筋肉がだらしなく緩んでしまう感触を感じます。

37 名前:君繋ぎ 投稿日:2004/05/07(金) 23:35
「ねえ、紺ちゃん」
「は、はい!」

突然名前を呼ばれたものですから、思わず敬礼のように返事をしてしまいました。
そんな私の様子に、一瞬ぽかんとした表情を浮かべたあなたですが、

「―――ぷっ」

それはすぐに笑顔へと変わってしまいました。
お腹を抱え、笑い続けるあなたを見て、再び顔が熱くなってしまいました。

「笑いすぎですよぅ・・・」

情けないです。
自分でもそう思うくらい、か細く、掠れた声でした。

「ははっ・・・ごめんごめん。紺ちゃん面白すぎ」

ようやく笑いが納まったあなたは、目じりに浮かんだ光る雫を指先で拭い、再び私の頭を撫でてくれます。

私は少々憮然としつつ、未だ笑顔のあなたを睨みつけます。

「座ろ?」

38 名前:君繋ぎ 投稿日:2004/05/07(金) 23:35
でも、あなたはそんなこと気にもせず、私の手を引くと近くのベンチに腰を下ろしました。
私もつられる様に腰を下ろし、初めて気がつきます。

いつの間に来ていたのでしょうか?
ここはあなたが私を受け入れてくれたところ。
さび付いたジャングルジムに、メッキのはげた滑り台。鎖が壊れて使用禁止になっているブランコに、黒く汚れたのぼり棒。

一週間じゃ、そんなに変わりませんか・・・。
私はこの公園を見わたしながら、微かに微笑んでいました。

「ここ、紺ちゃんに告白されたところだよね」

どこか懐かしそうに目を細め、静かに呟くあなた。
私はそんなあなたの横顔を見つめていました。

「びっくりしたよ。いきなり『い、いぜ、以前から好きで、した!』って珍しく叫ぶんだもん。しかもどもりまくって」
「・・・ぅ」

楽しそうに笑顔を浮かべるあなたを見て、私はまた俯いてしまいます。
今思い返せば、よくあんなにも大胆に言えたものだなあと思います。

「ま、嬉しかったけどね。ミキも前から紺ちゃんのこと気になってたし。でも、告白するなら絶対ミキからだと思ってたのになあ」
「ぅう・・・」

あなたはそう言って、意地悪な笑顔を私に向けます。
そこで私の顔は更に温度を上げました。もう、噴火してしまいそうです。

39 名前:君繋ぎ 投稿日:2004/05/07(金) 23:36
「あはは。ごめん、ごめん。いじめ過ぎた?」

私は無言でコクンと頷きます。
するとあなたはまた優しく私の頭を撫でてくれました。
それはとても心地がよく、心が和みます。

でも・・・不安という感情も、少量ながら同時にわきあがってきます。
確かにこうしてくれることはとても嬉しいです。

でも・・・

「・・・これだけですか?」
「えっ?」

無意識的に声に出してしまい、慌てて口を押さえます。
でも、時既に遅しというやつです。
あなたは目を丸くして、私を見つめてきます。

「あ、す、すみません!あの、その・・・」
40 名前:君繋ぎ 投稿日:2004/05/07(金) 23:36
「紺ちゃん・・・もしかして、何か悩んでる?」

ああ、やはり私は顔に出るのでしょうか?
取り繕って笑顔を貼り付けたつもりなのに、あなたは訝しげな眼差しで私をじっと見つめます。
最初はあたふたしていた私ですが、結局その強い視線に負けてぽつぽつと話し始めてしまいました。

「・・・少し、不安なんです・・・藤本さん・・・私に、何も・・・してくれませんから」

途切れ途切れに言葉を紡いでいくとき、同時に胸が痛みます。
あなたに心配は掛けたくなかったのに・・・私は弱いですね・・・。

「キスとか・・・恋人がするようなこと・・・何にもしてくれませんから、きら・・・嫌われてるの、かな・・・って・・・ぅっ」

いつの間にか泣いていました。
情けないです。この上なく、情けないです。

あなたもさぞかし呆れているはずです。
むしろこんな情けない私を見て、呆れないほうが変ではないでしょうか・・・。

「―――!」

すると突然、何か強い力で引き寄せられました。
41 名前:君繋ぎ 投稿日:2004/05/07(金) 23:36
顔を上げて見てみると、真剣な色を瞳にともし私を見つめているあなたと目が合いました。
何故か、頬が薄っすらとピンクに染まっていました。

「ふじも・・・んむっ!?」

暫く無言の見つめ合いが続き、私から先に口を開けかけたときそれは起こりました。
私は目を見開いて、至近距離にあるあなたの顔を凝視します。

「・・・ん・・・ふ・・・ぁ」

暫くして、あなたは私から静かに離れます。
目を開けて、私と目が合うと、あなたは気恥ずかしそうに視線をあらぬ方向へと向けてしまいました。

私は自分の唇に触れます。
暖かさと、あなたの柔らかいそれの感触を残す私の唇は、やはり湿っていました。

「嫌いになるわけ・・・ないじゃん・・・」

あなたは静かに呟きます。
そこには少し怒りの色が感じられました。

あなたは私に向き直り、正面からその真剣な双眸で私を見つめてきました。

42 名前:君繋ぎ 投稿日:2004/05/07(金) 23:37
「ミキも紺ちゃんが好きだって言ったじゃんか」

そう言うあなたは怒っているというか、どこか拗ねているみたいで。
不謹慎ですが・・・可愛いとか思ってしまいました。

「でも、不安にさせてたのもミキなんだよね・・・」

すると今度は悲しそうな表情に。
眉を八の字に歪めるあなたは、初めてみたでしょうか?

「ごめんね・・・紺ちゃん嫌がると思って、勝手に自制してた。ホンとにごめん・・・」

本当に申し訳なさそうに謝るあなたを見て、私は思わず再び涙がこぼれそうになります。
私のことをこんなにも思ってくれていて嬉しい反面、自分に嫌気も指しました。

あなたの気持ちも考えず、自分勝手なことを言ってしまい、挙句の果てには泣く始末。
もう・・・愚かとしか言いようがありませんね。

「そんなこと―――!」

私が俯きながらそんなことを呟くと、あなたは強く抱きしめてくれました。
強く強く・・・でも、限りなく優しく・・・。

「・・・ごめんね」
43 名前:君繋ぎ 投稿日:2004/05/07(金) 23:37
「・・・謝るのは、私のほうですよ・・・」

時間にすると数秒のはずですが、私にはこの時間はとても長く感じられました。
このまま時が止まってくれてもいい、と心の片隅で思ったとき、あなたは私から静かに離れていきました。

と思ったら、再び抱きしめてくれました。

「・・・そんな悲しい顔しないでよ」
「ふぇ?!」

ああ、また顔に出てしまったみたいです・・・。
とても恥ずかしい・・・。

「・・・これからは我慢しなくていいんだよね?」
「え――んむ・・・」

耳元で小さく呟き身体を離してから、あなたは再び私の唇に自身のそれを重ねてくれました。
突然すぎて、動揺している暇もありません。

でも・・・とても、嬉しいです・・・。

44 名前:君繋ぎ 投稿日:2004/05/07(金) 23:38
「・・・ふぁ・・・」

白昼堂々、二度目の口付けは一度目よりも長く続きました。
やがて二つの唇が離れると、あなたは私に向かってニッコリと微笑んで、

「さ、紺ちゃん!遊びに行こう!」

と元気よく言って、私の手を引いて立ち上がりました。
私はその展開の速さに少々びっくりとしてしまいましたが、私の手を引いて駆け出すあなたを見て自然と頬が緩みました。

「はい!」

気付けば自分でも驚くくらいの大きな声でそう返事をし、あなたの手を握り返して走り出していました。

がっちりと握られた、二つの手を見て私は思います。

―――この手がいつまでも繋がっていますように・・・。

                         END
45 名前:君繋ぎの作者です 投稿日:2004/05/07(金) 23:39
紺野さん、お誕生日おめでとうございます。
46 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:27

次の仕事まで時間があるからと、事務所で飯をたかろうとした娘。の数名。
無事、事務所で昼ごはんにありついた梨華、希美、愛、麻琴、あさ美は、思い思いに食後を過ごしていた。

「ねぇ、プリクラ撮りに行こうよぉ!」
希美がそう言うものの、メンバーの反応は薄い。
ソファで眠る梨華は気だるそうに顔をあげただけで、再び目を閉じた。
麻琴はそわそわと梨華の周りをうろついている。
「ちょっと近くにプリクラ、見つけたんだって」
愛は本を片手に、小難しい顔でブツブツ呟いている。
あさ美に至っては、まだ出前の蕎麦を食べ続けていた。
「ねぇ〜え!!」
希美は誰に言うともなしに飛び跳ねながら、プリクラ、を連呼している。
47 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:27

「のの、うっさい」
梨華の冷たい視線と言葉に、あからさまにむくれてみせる希美。
「麻琴ぉ」
そう縋るものの、麻琴はにこにこと梨華を見ているばかりで、希美を相手にしない。

「愛ちゃん、一緒にプリクラ行こうよぉ」
「ええよ〜」
言葉だけ返ってくるが、愛の意識が本から離れようとする気配はない。

「じゃあ、紺ちゃん……はダメか、まだ食べてるもんね」
あさ美は蕎麦湯を探して、それどころではない。
48 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:28

「あーあ〜あぁ〜あ゙ぁ〜〜」
苛立ち紛れに、希美は辺り構わずに喚き散らしている。
働いている社員の迷惑など顧みずに。

「そこの近く、屋台でいも餅とかチーズ磯辺、出てるのになぁ」
希美は切り札を使った。
案の定、あさ美が掛かった。
「え?行く行く。プリクラでしょ?」
希美は、このやろー、と思ったが、そんなのおくびにも出さない。
「みんなで行こうよ」
希美の言葉に、あさ美があたふたと状況を見回す。
「ああ、そうだね。みんなで、ね。マコっちゃんと石川さんは……いいや。愛ちゃん、行くよ」
そうあさ美は、愛の読んでいる本を取り上げた。
「あぁ、ちょっとぉ!なにすんのぉ!!」
当然、愛は怒るが、あさ美はお構いなし。
「プリクラ、撮りに行こっ?」
そう笑顔で言うだけだ。
愛は、そうか、と身支度を始めた。
49 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:29
荷物を持った希美の視界に、麻琴が入った。
眠っている梨華のだらしなく開いた足をガムテープで閉じている。
唖然とその様子を見る希美に気付いた麻琴が、取り繕うように照れ笑いをした。
「乙女の大事にしなきゃならないところだからねっ」

「のんつぁ〜、行くよ〜」
あさ美と愛が、ドア口で希美を待っている。
希美は麻琴の視線から逃れるように、二人の元へ駆けた。
50 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:29

タクシーに乗った希美、愛、あさ美が降りたのは、汗の似合うサラリーマンの街、新橋。
萎びた匂いのする街の空気に、愛はあさ美の腕に腕を絡めた。

希美の先導で一行が向かった先は、古ぼけた大きな雑居ビル。
コンクリートのひび割れからは、オヤジのすえた匂いがしてきそうだ。
まず目の前に飛び込んでくるパチンコ屋に圧倒される愛とあさ美を他所に、希美は慣れた足取りで入り口脇の階段を降りる。
「ねぇねぇ、のんちゃん。危なくない?」
「大丈夫だって」
あさ美の不安の意味が、希美にはわからないようだ。
汚れのこびりついた階段を、一段とばしで降りていった。
51 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:30

ビルの地下一階のほとんどは飲食店で埋まっており、その隙間の小さな一画にゲームコーナーがある。
それもコインゲームばかりで、びっくりするほど薄暗い。
「これこれ」
希美が指差したのは、撤去し忘れたように隅で埃を被った、数世代前のプリクラだった。

「こんなんでええの?」
愛が怪訝そうに聞くが、希美は笑顔で頷く。
「これなら、渋谷とか行ったほうがよかったんじゃない?」
あさ美が重ねると、希美は、
「わかってないなぁ、二人とも。こういうれとろなのがいんだって」
そう言いながら、希美はもうお金を入れはじめている。
52 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:31

数枚撮り終え、希美が両替しに機械の幕から出たとき、愛の携帯がなった。
愛も幕から出て、ゲームコーナーの騒音が届かないところまで移動した。

とりのこされたあさ美、おもむろにお金を入れ、指で鼻の穴と口をかっぴろげてみる。
撮影ボタンを押そうとしても、両手が塞がっているから押せない。
肘で押そうと試みるも、それでは顔が画面から外れてしまう。

「紺ちゃん、なにやってんの?」
「え?いや、別に……なんもしてないよ」
「……そう。なんか今日、見ちゃいけないものばっかり見てる気がする」
希美の言葉に、あさ美は顔が真っ赤だ。
そんなあさ美に気付いた希美は、次に出すべき言葉を見つけられない。
何とも恥ずかしい沈黙ができあがった。

その停滞を破ったのは愛だった。
顔だけプリクラ機の幕の中につっこみ、
「ごめん。わぁし、急に仕事入っちゃったみたいで。もう行くね」
慌しく事情を告げ、愛は仕事に向かっていった。

ぼんやりと見送った希美があさ美に言う。
「どうする?」
「どうするって・・・」
あさ美の顔の赤味はひかないままだ。

53 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:31

とりあえず、磯辺チーズを露天で食べた希美とあさ美。
それでも時間はたっぷりあるということで、歩いて事務所に帰ることにした。
気温は夏に近いが、それでもまだ五月のせいか陽気が穏やかで、風が気持ちいい。

髪を撫でる風を感じながら、あさ美が言う。
「これで車が少なかったら最高なのにね」
「でも、車で移動するよりはずっといいでしょ?」
「そうだねぇ。このまま、次の仕事場まで歩いていきたいくらいだよ」

あさ美の言葉を受けて、希美の小さな冒険心がむくむくと。
「じゃあ、歩いていこうよ。スタジオまで、駅二つ分だけだよ」
「えぇ?でも、けっこうあるんじゃない?」
「平気平気。だって、山手線はぐるっと回ってるから遠く感じるけど、直線で行けばすぐだよ」
「でも、のんちゃん、道知ってるの?」
「知ってる。つぃの名前がある交差点まで行けば、完璧にわかる」
「え?でも……」
あさ美が躊躇っている間に、希美はマネージャーにメールを送ってしまった。

希美の笑顔が、あさ美にも伝染した。
54 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:32

二人は車塵にまみれながらも、陽気に歩を進める。
いつもなら流れるように消えていく景色のひとつひとつが、形を帯びている。

「手、繋いでいい?って、もう繋いでるけど」
「なんで?いっつも繋いでるっしょ」
「いや、なんか今日は外だから」
「そっかぁ、普通、こういう時に手ぇ繋ぐのって、恋人とするもんだもんね」
「うん、でも、わたし、紺ちゃんとでもいいよ」
「じゃあ、わたしものんちゃんとでもいい」

背広を着て、しわくちゃのハンカチで汗を拭うサラリーマンと対照的に、二人は涼しげだ。
笑顔もこぼれている。

「そういえばさ、麻琴、どうしちゃったの?」
「なにが?」
「梨華ちゃんの足、ガムテープで縛ってた」
「あぁ、なんかねー、宝塚の男役みたいのやりたいんだって。で、相手に石川さんなんだって」
「意味わかんない」
「マコっちゃんだもん。でも、石川さんが可哀想。マコっちゃんと愛ちゃんに畳み掛けられるんだよ?怖いよぉ?」
「でも、梨華ちゃんだから平気だよ」
「それもそうかも」

二人、顔を見合わせる。
笑顔が絶えない。
55 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:32

大きな道路と交わる小さな交差点をいくつか過ぎ、希美が立ち止まった。
「ここ。ここで曲がるの」
「あぁ、確かに辻って書いてあるねぇ」
「でしょ?ここを左に曲がるの」

次のスタジオまでは一本道。
知っている道に入ったことで小さな不安も消え、さらに上機嫌になったあさ美が、珍しく歌いだす。
「♪あ〜 この夏は〜 あなぁたがいる〜 さみしーくなーい」
「♪エンドレス エンドレス サーマー」
「あぁ〜!鼻歌泥棒!!」
「泥棒じゃないもん。ハモってもらおうと思っただけだもん」
「屁理屈じゃない」
「えへへ、そうかも」

あさ美が再び歌い始めた。
56 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:32

──

居心地が悪そうなあさ美の瞳は不安で揺れ、今にも泣き出してしまいそうだ。
「ねぇ、のんちゃん。このまま歩いてたら、絶対に間に合わないよね」
「たぶんね。無視してるけど、さっきから電話なりっぱなしだし」
「だったらさ、もうタクシー乗っちゃお?」
「いや、歩く。ここで諦めたらさ、娘。として、というか、女として、ダメだと思うんだよね」
「そう?遅刻するほうがダメじゃない?」
「考えてみてよ。ここでタクシーに乗っちゃったら、新橋からスタジオまで歩いた、っていう思い出がなくなっちゃうんだよ?もうちょっと歩けば、それが完成するんだよ?」
「えぇ〜?」
「紺ちゃんはそれでいいの?一生の思い出になる今日が、ただの一日になっちゃうんだよ?」
「そっかぁ……そうかもしれない。そうだよね。うん!のんちゃんの言う通りだ!!」
「ね?最後までしっかり歩こう」

あさ美は、握っていた希美の手を握りなおした。
それまでよりも、ずっと強く。

57 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:32

この日、一時間近く遅刻したバカ二人は、10日間のおやつ抜きを言い渡された。
58 名前:ブルーエモーション! 投稿日:2004/05/12(水) 00:33
おしまい
59 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:40


『オトナの階段』


60 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:41

ソファに寄りかかって、不機嫌にDVDを見ています。
小さく漏らした溜息は、あなたの朗々とした歌声にかき消され。

「……やはり、私のことなどあなたは」

あなたが忙しいのは、よくわかっています。
誕生日だから一緒に過ごしたいなんて、子供じみてるということも。
それにしても、メール一本くださらないとは。

「……私が、逃げないと思って」

だいたい、あの人は、最初からすごい強引で勝手なんです。
後藤真希だと思って、私が何でも許すと思ったら大間違いです。
私のことを、ただのおとなしいタレ目だと思ったら、大間違いですっ!

バン!とテーブルを叩いたら、豆乳カフェラテが反乱を起こしました。
わっ、わっ、わっ! 倒れないように慌てて押さえて、私はまた溜息。

記念すべき17歳の誕生日の夜、17歳ですよ?
なんていうかこう、人生のなかで最も美しいかもしれない
スペシャルでセンセーショナルでドラマティックなこのセレモニーナイトにですね、
仮にもモーニング娘。の美人担当・紺野あさ美が何の予定もなく、
ぽつんとひとり後藤真希コンサートツアー2003秋~セクシー!マッキングGOLD~を観ているなんて、
ファンの皆さんが泣きますよ!ええ、泣きますとも!
……いや、喜ぶのかな、もしかして。
61 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:42

時計の針は23時45分。
あと15分で、私のバースデーは終了。
こんなことブツブツ言うなんて女々しいですか?
でも、女なので許していただきたく。

てゆうか、あのですね、正直こんなことが大切なんです!
すっごく大切なんですよ紺野は!
愛を感じたり疑っちゃったりするんです!もうもうもうもうもう!
私は祈るような気持ちでケイタイを握りしめました。

私のこと、好きって言ってくださったじゃないですか。
あれは、やっぱり嘘ですか? 気まぐれなんですか?
キスしたくせに……キスした……キス……

ぽわわ〜んと甘い思い出に浸りかけた時に、
いきなりケイタイが部屋中が震えださんばかりの音で鳴り響きました。
今日は絶対に聞き逃さないようにって思ってたので音量5です。
慌てて消音しながらディスプレイを確かめて、私は天高くガッツポーズを掲げました。

ごとーさんっ!
やっぱり私のことを!
私はすうっと息を吸い込み、あーあーあーと発声練習をしてから、
ピッと通話ボタンを押しました。
62 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:43

『おーっす、元気?』
「……あ、はいっ」
『あのさ、ごとーはまだお仕事なんですよ』
「あ、お、お疲れさまです」
『そんで、明日の夜なんだけどー、うち来て。8時』

はあっ?
なんなんですか、いきなり。
誕生日の夜にほっぽっといて、「ハッピーバースデー!」でもなく、
私の予定も聞かずに「明日、来て」とはなにごと!
くうう! 後藤真希め、私がなんでも言うこと聞くと思って……思って……

「………わかりました」
『ん。』

ご飯つくるから、なんも食べないで来てね、じゃ。
素っ気なくそう言って切りかけられたからたまりません。
私はさすがに「あああああのっ!」と、声を張り上げてしまいました。

『んあー? 何?』
「あの………た、誕生日、なんです、よ、私」
『うん、知ってるよ』
「あ、ありがとうございます……じゃなくて、あの〜、バースデーメッセージなどは〜…」
『明日、言う』
「は?」
『直接会って言うよ、マイスイートベイベー。じゃ』

ぷち。つーつーつー。
63 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:44

ああああああ! なんなの? なんなの?
この人、わからない、わからない!
追い討ちをかけるように、時計の針がピッと0時をさしました。ハイ、終了!

えぐっ。
私は部屋の電気を消し、敗北感いっぱいでベッドに潜り込みました。
あーあ、こんなんだったら、去年みたいにまこっちゃんたちとパーティーしたらよかったな。
私としては、生まれて初めて、恋人がいる誕生日だったんです。
もしかしてサプライズでごとーさん来てくれるかもしれない…なーんて思って、
わざわざ別の日に変えてもらったのになぁ……。

DVDの明るい画面を悲しい気持ちで眺めます。
ごとーさん、ウルトラかっこいい……。
だから仕方ないのかなあ?

一緒に仕事をしてても、テレビの中のヒトだと思ってたごとーさんが、
なぜかこんな私のことを好きって言ってくれたんです。
それは、まだ2ヶ月前のこと。

『ねぇ、紺野、ごとーの恋人にならない?』

私はもう脊髄反射レベルで、コクコク頷いてしまいました。
ゲーノー界に入る前から、ずっと憧れてた人だから、うれしい。
でも、まだココロのどこかで信じられなくって。
だってごとーさんはわからないから。
私はなんだか、すごく怖いんです……

    ◇    ◇    ◇
64 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:45

夜道をふらふらと歩いてる私を、すれ違う人たちがチラチラと見ていきます。
きっとモーニング娘。の子だとか思ってるわけじゃありません。
それは私が、ぐしゃぐしゃの顔でボロボロ泣いてるから。

「うっ、うっ………」

私は泣きながらもキョロキョロと身を隠せる場所を探し、
ちょうどよさげなビルの陰を見つけて潜り込みました。
だって泣きながら公道を歩くなんて、道行く人に失礼ですし、
どこぞのゴシック誌に“モー娘。のK、深夜の号泣、謎の徘徊?!”とか
スッパ抜かれたりしたらたまりませんから。
しかも2ちゃ○ねるでKって加護?亀井?とか騒がれて、オイオイ紺野無視かよ?みたいな。

まあ、そんなことはどうでもいいです。
私はビルの壁に額をつけて、何の遠慮もなく、ぼーぼー泣き始めました。
ごとーさん、肉ジャガ、おいしかったです。
豆腐とワカメのお味噌汁、最高だったです。
炊き立てご飯、お米の粒がしっかり立ってました。
でもでも、もう、あのおいしい手料理、私、食べられないんですね。

さっきのごとーさん、冷たい顔をしてた。
部屋を飛び出した私を、振り返ってもくれなかった。
言うことを聞かない私なんて、きっと嫌になってしまったのでしょう。
65 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:46

ごとーさんは、すごく強引なヒトです。
それでごとーさんは意地悪で、
すごいエゴイストなとこがあって、
でも、なんだかロマンティックで……。

たとえば、いきなり私の携帯を取り上げて、
待ち受けを勝手に写メでとった私とごとーさんのツーショットにしてしまったり。
夜中に突然、家まで迎えにきて東京タワーに連れていったり。
新曲のプロモを一番に見せるって、娘。の楽屋までわざわざ迎えに来たり。
お気に入りのショップで、着せ替え人形みたいに私に試着させたり。
それで、すっごく素敵なワンピースをプレゼントしてくれたり。
フレンチレストランで、私に無理矢理ワインを飲ませて喜んだり。
お揃いの口紅しようって、すっごくていねいに塗ってくれたり。
プリクラのシャッターが降りる瞬間に、いきなりキスしてきたり。
そうだ……いきなり連れて行かれたディズニーランドで、生まれて初めてのキスをした時も。

そのたびに私は、心臓が壊れちゃいそうなほどドキドキして、
ドキドキしたと同じぶんだけ、ホンキの恋に落ちていってしまった。
そう、私はすっかりごとーさんの虜になってしまって、
あのサラサラの髪や、不思議な瞳や、私と違って安定したきれいな声、
それから、ぼんやりしてる時の寂しそうな横顔、
もう毎日ごとーさんのことばっかり、考えてるんです。
66 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:47

でも、だからってごとーさんが何しても許せるってわけじゃない。
今日のごとーさんは、あんまりにもひどかった。
約束どおりにお部屋に伺ったら、ご機嫌な笑顔で迎えてくれましたけれど、
おいしそうな手料理がほくほくと湯気を立てていましたけれど、
食後の紅茶を飲みながらおしゃべりをしてたら、急に……
急に……キ、キスよりも先のことを、しようとしてきて。

びっくりして暴れたら、空手茶帯の正拳がごとーさんのオデコにヒットしちゃって。
それは、その、たいへん申し訳なかったと思いますけど、
ムッとしたごとーさんが、オデコをさすりながら言った言葉がひどかった。

『いーじゃん、もう17なんだし』

カーーーーッときました。もう、カーーーーッと!
ハッピーバースデーも、まだ言ってくれてないくせに!!
そ、それに、そんないきなり、なにごとですか!!!
紺野だって、紺野にだって、いろいろと心の準備があるし、
シチュエーションに夢とか妄想とかあるんですっ!!!!
は、は、初めてなのに! 初めてなのに! わかってるくせにぃぃぃぃ!!!!!
67 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:48

『あたしじゃ、ヤなの?』
『そ、そ、そーゆーことじゃ……』
『じゃ、なによ?』

その、面倒くさそうな声。
ごとーさんは、もういいやというように身を起こすと、
フイッとそっぽを向いてしまいました。
怒っているんでもない、呆れてるってわけでもない、
その何を考えているかまるでわからない横顔。
ううん、なんとかしてそこから気持ちを読み取るんであれば、
そこにあるのはやっぱり、面倒くさいなこの子、って感情で。

悔しい涙が、ドバドバ溢れてきました。
ごとーさんは、いつだって私の都合とか気分とかおかまいなしで。
気まぐれに引っ張り回して、気まぐれに抱きしめて……キスとかしたり。
そのくせ私を家に呼んでおきながら、遠い目をしてぼんやりと考え事をしていたり。
急に面倒くさそうになって、話をプツンと途切らせてしまったり。

私のキモチなんて、ごとーさんはどうでもいいんでしょうか。
珍しいオモチャみたいにかまって、飽きたらポイッて捨てるの?

何をやってもかっこいいごとーさん。
たったひとりでステージに立つごとーさん。
キラキラ光るオーラを持ったごとーさん。
ごとーさんが私を好きだなんて、きっとみんな笑います。
私だって、遊ばれてるんじゃないか、からかわれてるんじゃないかって
それが、すごくすごくすごくすごく怖いのに。
68 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:49

ああ、でももう、そんなことを考える必要もなさそうです。
震える声で帰りますと告げた私に、ごとーさんは返事もしなかった。
終わりです。ハイ、終了です。金色の夢が、シャボン玉みたいに弾けて消える。

ポロポロポロポロ涙が足元に落ちてきました。
ごとーさん……紺野は………あなたのこと本気で好きで………
だから………怖かったんです………悔しかったんです………
………ああ、でもほんとに好きなら…怒っちゃいけなかったのかな………
わからない………でも、もう………遅い………遅いよ………バカ………
69 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:49

あまりの胸の痛みにギュッと身体を丸めてしゃがみこんだその時、
私の耳に、私の名を呼ぶ、信じられない声が飛び込んできました。

「………こ、んの……紺野おっ!」

ご、ごとーさん?!
驚いてビルの陰から飛び出すと、ちょっと離れたところにいたごとーさんは、
すぐに私に気がついて、ものすごいスピードで駆け寄ってきました。
ジャケットの裾を鳥の羽みたいにひらめかせながら。

ええっ?
喜びよりも、驚きが私を支配する。
お、追いかけてきた? ごとーさんが?
ごとーさんは、よほどそのへんを走り回ったのか、
ハアハアと息をきらせながら私の元へ辿り着くと、
ビル壁に手をついて、とたんにゴホゴホッと咳き込みました。

「だ、大丈夫、ですか?」
「……紺野テメエ……アタシに……こんなにカロリー……つかわせやがって……」
「す、すみません」

ごとーさんは、まだゼエゼエしながら、へらっと笑いました。
そして、私の手をとると、ぐいっとひっぱって歩き出しました。
70 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:50

「ど、どこ、行くんですか?」
「……部屋、戻ろ」

ごとーさんは、すごく強引なヒトです。
でも、今はそれがすごく嬉しかった。
いつもクールなごとーさんが、あんなに全速力で走って迎えに来てくれたから。
私の手をぎゅっとつかんでるあたたかなぬくもりが嬉しくて、
私はこみあげてくる笑顔をこらえながら、ちょっぴり甘えてしまいました。

「……こ、紺野が帰ったの、ちょっとは、イヤでしたか?」
「……あのね」

ごとーさんはピタッと立ち止まり、くるっと私を振り返りました。
怒ったような瞳。私は、マズった!と思って、びくっと身をすくめます。

「紺野、いつまでも自信ないのは、どうかと思うよ?」
「……え?」
「そりゃ入ってきた時は、足引っ張りそうな子だなって思ったけどさあ」

カァァと顔が赤くなったのがわかりました。
ど、どーせ、私は補欠です。オマケです。
俯いてしまった私に、ごとーさんはおかまいなしで言葉を続けます。
71 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:51

「でも紺野、努力したでしょ? かわいくなったでしょ?」
「……………………」
「ごとーは、好きになった。それ、信じたらいいのに」

い、いいのにって!
私は、キッと顔を上げました。
ええ、そうですとも。私は私なりに努力しました。
歌だってダンスだって下手かもしれないけど、何回も、何回も。
お菓子とかだって、ほんとはもっともっと食べたいけどっ。
でも、憧れのごとーさんにちょっとでも近づきたくて、歯をくいしばって。

でも、だからって、これでいいって、もう大丈夫って、確信なんてもてない。
それに、あなたの気持ち、神様みたいに思ってたあなたの気持ち、
それはふわりと舞い降りてきた天女の羽衣みたいに、
つかんだとたんにフッと消えてしまいそうなのに。

「し、信じたくてもっ………」

裏返った声を思いっ切り張り上げた私のことを、
ごとーさんはちょっと眉をあげて見つめました。
ふうん、言いたいこととかあるんだ、この子?みたいな目で。
悔しいっ! ぬおお、後藤真希め!
紺野は謙虚なのが取り柄だとか思ってるんだったら大間違いですっ!
72 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:52

「ご、ごとーさんは、ものすごーく身勝手です!」
「身勝手?」
「わ、わ、私の気持ちとかっ、考えたことあるんですかっ?!」
「気持ち? ………あたしのこと、好きなんじゃないの?」
「そそそそそそれはそーですけどっ!!!」

その先の、ほらもっと!
ああああ、なんて説明したらいいかわからない!
口をぱくぱくさせる私を見て、ごとーさんはフッと笑うと
「帰ろ」と言って、再び私の手をひいて歩き出しました。

「は、話がまだ終わってませんっ!」
「見つかってる、うちら」

ハッとして周りを見ると、通行人がぽつぽつと立ち止まって私たちを見ていました。
あれ、後藤真希じゃない?という興奮気味の囁き声。
一緒にいる子、あれ、モー娘。の……名前なんだっけ?

「まだまだだね、紺野」
「うっ、うるさいです!」
「今日は元気いいなあ」

手をつないでたって変なうわさにはなりっこないけど、
でも、私たちが仲いいことが意外〜って思われてることでしょう。
それは、自信ある。なんてったって、こんごまはマイナーらしいですからね。
……こんなことばっかり自信あっても鬱なだけですけど。
73 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:52

部屋に戻ってきてドアを閉めるなり、
ごとーさんは私を抱きしめてキスしようとしました。
いいかげんそんなこと百も承知の私は、
唇が私にたどり着く前に、ごとーさんの肩を強く押して拒否しました。

「イヤ、です」
「また?」
「またって……お話が途中じゃないですか!」
「なに、話すの?」
「そ、そーゆーとこが身勝手だって言ってるんです!」

ごとーさんは、わざとらしく大きなため息をつきました。
そして私を腕の中に閉じこめたまま、「いいよ、話せば?」と、軽く揺すります。
私はごとーさんの肩に頬をつけて瞳を閉じ、ため息をついた。
もう。こんなふうにされてたらちゃんと話せるわけない、ドキドキしてるのに。

黙り込んでしまった私が口を開くのを、ごとーさんはジッと待っています。
イライラしてるような気もします。いつまでも待っててくれそうな気もします。
キッチンから、肉ジャガの香り。私好みに甘くって、おいしかった。
絹さや付きで、とってもきれいに盛りつけてくれてた。
やさしい人、身勝手な人、そう、ごとーさんは、
強引で、意地悪で、すごいエゴイストなとこがあって、
でも、なんだかロマンティックで…………。
74 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:53

「……ごめんなさい、もういいです」

私はボソリと呟きました。
誕生日に一緒にいてくれなくても、こうして今、ここにいてくれるんだから。
なんだかんだいっても、ちゃんと迎えにきてくれたんだから。
そのことを、もっと、ちゃんと、信じてみよう……

なのに、ごとーさんは、なぜだか不安げに私の顔をのぞき込みました。

「……そんなに怒ってるの?」
「え?」
「あのさ、あんまり言い訳したくなかったんだけど」

昨日さ、行けなかったじゃん? あのね、悪かったと思ってるけど。
俯いて、なにやらボソボソと話し始めたごとーさん。
私は目を丸くして、じっとその口元を凝視しました。

「うちらの仕事ね、いろんな人に助けられてるわけでしょ?」
「……そ、そうですね」
「忙しいのも遅くなるのも嫌だけど、それってスタッフの人も、みんな同じでしょ?」
「……はい」
「うちらがワガママ言ったら、頑張ってくれてるキモチ、台なしじゃん?」
「……はい」
「うちらの都合、最後だから。ね?」

ああ。
私は再び、きゅっと瞳を閉じました。
ごめんなさい。私、ごとーさんのプロ意識、わかってるつもりで。
75 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:54

きっとごとーさんは、私の不満、わかってて、
ごめんねとか言うのは簡単だったのに、言わなかった。
同じ仕事をしてる私に、そのこと、ちゃんと教えるために。

「……ごめんなさい」
「ううん、一言もわがまま言わなかったし、さすが紺野だなあって思ったよ」

褒められてエヘヘと笑った私。
ごとーさんが目を細めて、頭を撫でてくれました。
ああ、ちゃんと仲直り、できそうです。良かった……
昨晩、コンニャロ後藤真希め!とか毒づきながら
セクシー!マッキングGOLDを観まくってたのはナイショ……

「紺野、昨日あたしのDVD観てたデショ?」
「な、な、なんで知ってるんですかぁ〜〜?!」
「……電話した時、すごい大音量で聞こえたけど?」

あっ、そっか、失敗したーっ!!
電話かかってきたことに舞い上がって、テレビの音消すの、忘れてました。
うわぁ、恥ずかしいぃぃ!

「うう……」
「なんで? うれしかったよ?」

会いたいって思ってくれてるんだなあって。
ごとーさんの言葉に、私はちょっと甘えて、恨み言を言ってみました。
このくらいなら、ワガママ言ってもいいかなって思って。
76 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:56

「ずっと、待ってたんです」
「え、だから……」
「違くて。あの、お仕事はわかってたんですけど」

 お誕生日おめでとうって、昨日のうちに聞きたかったナ……

ごとーさんの唇が、たちまちムクれたように尖りました。

「なんで? 直接言ったほーが、いいじゃん」
「それは、ごとーさんの考え方で」
「えー? デフォでしょ?」

紺野、ヘンだよー。
ごとーさんは、そんなふうにエラそうに決めつけます。
ええい、この後藤真希め。私は笑って言ってやります。
ごとーさんが、ヘンかもしれないでしょ?

「だいたい、私の誕生日なんですから、私の要望に合わせていただかないと」

ちぇー。
ごとーさんは、ふてくされて私の肩にアゴをのせました。

「……あーあ、なんか紺野といると調子狂う」
「え?」
「Hイヤとか言うしさぁ」

そそそそそれはっ! それはですねっ!!
ハニーパイでも踊り出しそうなほど慌てふためく私をチラと横目で見て、
ごとーさんはやれやれというように、うーんと伸びをしました。
77 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:57

「もー、ごとーの計画、台なしっ!」

け、計画?
きょとんとした私に、ごとーさんはいたずらっぽく笑い、
私の耳元に唇を寄せて、小さな声でその計画とやらの全貌を打ち明けました。

 あのさ、とりあえず記念日ってことで初Hしてー。
 Hしてる時に17歳おめでとって言おーと思ってたの。
 それでね、ちゃんと…その、恋人になった後にですね、
 ごっちん特製のバースデーケーキが冷蔵庫から登場するわけだ。
 で、二人でローソクとか立てちゃったりして、その炎とか見ながらー、
 恋人になってくれてありがとっ、とかゆってー、
 チョー盛り上がったとこで、プレゼント渡すわけですよ。
 そんでですね、フッって火を吹き消したら、さあ第2ラウンドだ!

「なーんてね」
「え、え、えーーー?!?!?」

思わず、バン!と後ろのドアに張りつきました。
ちょ、ちょっと待って! とりあえず記念日ってことで初Hってそんな勝手に……!
それに第2ラウンドってアナタ、初心者になんてことを……!

それこそオデコから首の方まで真っ赤っ赤〜になりました。
まったく、ごとーさんは、強引で、意地悪で、
すごいエゴイストなとこがあって、
でも、なんだかロマンティックで……ロマンティックで……。
78 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:57

「ははっ、フライングだったみたいね〜」

じゃ、紺野のご要望で、誕生会やり直しましょっか?
照れくさそうに私のオデコをピンと弾き、
くるっと踵を返してリビングに入りかけたごとーさん。
待って! 私は彼女の服をわしっ!とつかまえました。

「ん?」
「あ、あの、そそそそそれで……」
「へ?」
「いえ、あの、い、いまのお話の方向で、誕生会……お願いします……」

だって、ロマンチック、ですよね? OKです……
ますます真っ赤になって、ごとーさんの服をぎゅうううっと引っ張った私。
いつもクールなごとーさんも、みるみるうちに真っ赤になりました。

    ◇    ◇    ◇
79 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:58

「あれー? 紺野、早いね」

あっ、石川さんおはようございます。
ええ、私はつねに10分前行動を心がけて……にしても楽屋に誰もいないとは?

「まだ集合時間まで一時間もあるよぉ?」
「ええ……って、ええっ?!」
「あっ、紺野、時間、間違えたでしょ?」

ご、ご名答ですぅ……。
ああ、ショックです。だったら、もっとごとーさんといたかったのに。
私は、さっき「離れたくないな」なんて髪を撫でてくれた後藤さんの
寂しそうな表情を思い出します。ああ、なんてドジな私!
ごめんなさい、ごとーさん……。

それにしても、石川さんはどうして?

「私? 私は午前中に雑誌の撮影があったから」

そういえばフルメイクで、髪もきちんとセットされていて。
その笑顔は輝くばかりに美しい……完璧です。
石川さんの美しさに、私は思わずポーッとなってしまいます。

もともとの顔立ちやスタイルがいいのはもちろんですが
最近の石川さんには内側からにじみ出るような輝きがあります。
……吉澤さんに愛されてるから、かな?
80 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 01:59

「……ねえ紺野、うなじのとこ」
「へ?」

微妙にニヤつきつつ鏡の前に腰かけた私に、
後ろから石川さんが可笑しそうに声をかけてきました。

「気づいてないの?」

可憐な花のようにくすくす笑いながら、
石川さんは合わせ鏡で、私に見せてくれます。
その派手なキスマークを……って、ええええええっ?!?!?!

私の胸元には、後藤さんが「アタシのモノ」ってつけてくれた同じ印があります。
でも、こんな人からバッチリ見えるところにまでつけてるなんて!!!
そのうえ、つけたこと教えてくれないなんて!!!
……後藤さんって、すごく意地悪だ。

たちまち首まで真っ赤になった私が鏡にうつっています。
ど、どうしよう、すごく恥ずかしい……。
石川さんのほっそりした指が確かめるようにキスマークに触れて、
私は思わず半泣きで俯いてしまいました。

「うーん、これはちょっと散らせないかもねぇ」
「ち、散らす?」
「ん、あったかいタオルとかあててぇ……やり方、知らないの?」
81 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 02:00

し、知りませんよそんなことぉ……。
だって、私は昨晩初めて、そのぉ……。
何も言えず俯くばかりの私。
石川さんはいつもそうやって、ち、ち、散らしたり、してるんでしょうか。
なんか大人っぽいです。紺野、敗北です。なんか。

「今日のところは塗って隠そっか」

石川さんはそういうと、メイク道具のなかから
コンシーラーとファンデーションを取り出しました。
それで、私の隣に座って、キスマークにそうっと塗ってくれます。
くすぐったくて申し訳なくて、思わず首をすくめました。

石川さんは、寄り目になるくらい熱心に偽装工作をしてくれています。

「す、すみません……」
「くすっ、全然いーよ……はい、できた」

後藤さんのつけた印は、あっけなく消えていました。
ナルホド、こうやって隠すんですね。
私は頭の中でメモをとりました。

それにしても石川さん、全然からかったり、詮索したりしてきません。
そんなとこ、なんだか大人っぽい、ですね。
でも何だか妙に可笑しそうっていうか、うれしそうっていうか……ううっ。
やっぱり石川さん、わかってるんですよね?
その、紺野が、シタこと……。
82 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 02:01

「……ううう、紺野は消えてしまいたい、です」
「誰にも言わないよ、大丈夫」

ナイショ、というように唇に人さし指をあてる石川さん。
矢口さんあたりに「キショッ」とか言われそうなナイスポージングですが、
今の紺野には後光が射して見えますぅ!

「……見つかったのが、石川さんで、よかった、です」
「そうね、辻加護だったら最悪よね」

やけに遠い目をする石川さん。
なんか痛い目にあわされたことでもあるんでしょーか。

私はなんだか、石川さんに昨夜感じた悩みを相談したくなりました。
石川さんなら笑わずに聞いてくれる、そんな気がして。

「あのー、ですね。その、交替のタイミング、なのですが」
「は?」
「えっと、そのー」
「ああ、エッチの時ぃ?」

石川さんはそんなダイレクトな言葉を口にしたくせに、
恥ずかしげに目元をほんのりとピンク色に染めます。

「片方が、えっと、終わったらでいいんじゃないかなあ?」
「しかし、その、終わるとですね、なんというか、腰が抜けて……」

私はかなり屈辱的なキモチで昨晩のコトを思い返します。
未熟者の悲しさ、私ばかりが息も絶え絶えで、交替など夢のまた夢……。
83 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 02:02

「終わる前に交替する、というのは、マナー違反でしょう、か?」
「マナー違反? んー、そんなことないと思うけどぉ?」

石川さんは顎に人さし指をあてて、かわいらしく首をかしげます。
このようなシモの話の際にいたるまで石川さんは完璧です。

「無理に交替することないんじゃないかなあ?」
「でも」
「腰が抜けちゃうっていうのもぉ、相手の人にとってはうれしいと思うよぉ? なんか、紺野っぽいし」

紺野っぽいって何ですか……。
私は一瞬意識が遠のきましたが、
石川さんは、「なんかこーゆー相談ってうれしーな」なんてニコニコと。
「お姉さんに何でも聞いて?」なんて、ワクワクと。
だから、ついつい突撃レポーター“おじゃマルシェ”登場。

「ちなみに石川さんは毎回交替ですか? どっちが先にするんですか?」
「えーとぉ、基本はひとみちゃんが先でぇ……って、私のことはいいのっ! 紺野の話でしょ!」

ちっ(←黒マルシェ)。
でも、ここまで話しておいて後藤さんのことを隠すのもなんなので
私は石川さんにお話しすることにしました。
メンバーにはもう、かなりカンケイを疑われてますしね。
84 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 02:03

「あのー、私、昨日、後藤さんと、いたんです」
「え、じゃあ、ごっちんがつけたの? うなじ……」
「は、はい」

石川さんはもっと驚くかと思いましたが、
なぜか、妙に心配そうな表情をしました。

「おめでとう……でいいのかな?」
「え?」
「そのー、無理矢理とかじゃない?」

え? 私は首をかしげます。
そりゃ、一番最初は殴り飛ばしたりしましたけど、
結局は、その、合意したわけでして。

「じゃ、いいの。ホラ、ごっちんって強引なとこあるから。紺野、いつも断れないみたいだったし」
「そうですね」

私は思わず苦笑します。
そういえば、後藤さんに楽屋から無理矢理拉致られるとこを
メンバーには何度も見られているんでした。
ごとーさん、アナタ誘拐犯とか思われてますよ?

「……ごとーさんなら、いいんです」
「キャー、ホントにおめでとうなのね!」

ごっちんにおめでとうメールしなくちゃ、と、
石川さんはさっそく携帯に手を伸ばしました。
えいえいと携帯を打つその姿さえ、とてもかわいらしくって感動です。
85 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 02:04

「石川さんって、何で、そんなにキレイなんでしょう?」
「え、チャーミーかわいい?」
「……………」
「やだ、固まらないでよ。大丈夫、紺野のほうがもっとずっとキレイになるよ」
「それは、ありえません」
「ううん、紺野はキレイになるよ」

わかるの。
そう言って、石川さんはニコッと微笑んでくれました。

「きっとこれから、紺野、どんどん変わるよ」

私もそうだったもん。
石川さんはそう言って、ほんわりと何かを思い出すような顔をしました。
……その緩みっぷりは、たぶん吉澤さんのコトでしょうけど……

変わる。
そうですね、ちょっとは成長したかもしれません。
昨日は知らなかったことを、今日は知っています。
今朝、ごとーさんちの玄関を出て驚いたんです。
昨日と景色がまるで違って見えたから。

空はどこまでも高く、光は煌めくように眩しく、鳥の声は澄みきって美しい。
心が、どんどん深くなる、気がします。
ごとーさんが、私を変えていく。
私、大人の女性になっていくんですね。
86 名前:オトナの階段 投稿日:2004/05/14(金) 02:05

ピロロ……

石川さんの携帯からメール着信音が響きました。
ごとーさんでしょうか、ドキドキします。
携帯を覗き込んだ石川さんが、なぜかプーッと吹き出しました。

「な、なんですか?」
「紺野ぉ、アンタ苦労するねー?」

そう言って石川さんが見せてくれたディスプレーには、
なんと布団から裸の肩をむき出しにして眠っている私の姿が!!!

「ひゃーっ、い、いつの間にっ!!!」

ほんとうに、後藤さんは意地悪で、エゴイストで!
真っ赤になった私を見て、石川さんが大笑いしながら、
あの澄んだ声で、写真についていたメッセージを読み上げてくれました。

『アタシの天使☆かわいーダロ?』

私は、跳ね上がった心臓をおさえてしゃがみこみました。
……紺野あさ美、17歳。まだまだ大人の女性にはなれそうもありません。うう。

☆おしまい☆
87 名前:オトナの階段 作者 投稿日:2004/05/14(金) 02:06


かなりいまさらですが、
紺野さん、お誕生日おめでとうございます。
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/08(火) 20:58
ブルーエモーション面白かったです。
カナーリ遅いけどコンコンおたおめー!

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