フライト・レコーダー
- 1 名前:FR 投稿日:2004/05/09(日) 18:56
- よっすぃが石川さんのことを「近くて遠い人」と書いた『CDでーた』と
楽屋で描いた絵を披露した『二人ゴト』を見て浮かんだ話です。
よっすぃが卒業するとしたらきっかけは何だろう?
その後の生き方はどんなふうになるんだろう?
石川さんとの距離は近くて遠いままなのか?
、、、など数年分を妄想してみたいと。
辻加護卒業後、2004年秋から始まる、未来の話です。
注)最初の方に、ちょっとエロあります。
それ以降にエロあるかどうかは未定です。
(最初のエロは、いしよしではありません)(^^:
初小説です。よろしくお願いします。
- 2 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 19:08
- 「あれ?ここに置いといた、、、、紙、、、、、どこいっちゃった、、、か、、な」
ここはモーニング娘。の楽屋。
吉澤ひとみは、メイクコーナーから戻ると、楽屋の隅に直行した。
絵の続きを描くつもりなのだ。しかし、描きかけのそれを確かに置いたと思う
折りたたみ椅子の上から、絵が、消えている。
誰か、知らない?と思って、反射的に
「あれ?ここに置いといた、、、」
という問いかけが口から出たものの、一番近くにいたのは
吉澤が話し掛けやすい紺野や小川ではなく、
ここ一年以上、微妙な感じになっている石川梨華だった。
こちらに背中を向けて座っている。吉澤の言葉が、途中から微妙に
独り言っぽくなっていったのはそのためだ。
石川に言ったんじゃないよーという気分で言葉をしめくくる。
幸い、石川も気づいていないようだ。ネイルか何かに集中しているのだろう。
吉澤は、顔をあげて、ぐるりと楽屋を見渡す。
それにしても、散らかっている。
- 3 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 19:13
- 中央に置かれたテーブルの上には、
一口かじって忘れられたビスケット、袋からこぼれている暴君ハバネロ、
黄色い髪留めゴム、リップ、ケータイ、サングラス、帽子、
アクエリアスのペットボトル、雑誌、台本、辞書などが
脈絡なく放り出されている。
辻と加護がいなくなっても、その乱雑さは変わらない。
いや、もっとひどくなっているような気すらする。
窓がないせいだろうか。
ケータリングから流れてくる食べ物の臭いと、
さまざまな香水がまじりあった濃厚な空気。
10月だというのに妙に息苦しく感じる日だった。
石川が、ふと振り返って、言った。
「紙って、どんな紙、、、?」
「紙っていうか、絵、なんだけど、さ。画用紙で」
なんだ、聴こえてたんだ、と吉澤は思う。
- 4 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 19:19
- 絵のことを人に話すのは恥ずかしい。
ついつい、どうでもいいようなことを付け加えてしまう。
「やっ、スケッチブックみたいな、ていうか。クロッキー帖ではなくて。
色鉛筆セットと消しゴムも、あったはずなんだけど、ね」
もう、何もなかったことになっている、石川との日々。
もし、あなたが社会人だとして、同じ会社の、出世頭の同期と、
なんとなく距離を感じてしまうこと、ないだろうか。
入社当時はよく飲みに行っていても。
その人は、すっかり会社の方針とかに詳しくて、忠実で。
なんとなく、いつのまにか、話すことがなくなっていく感じ。
「そういえば、さっき、七期のコたちが、それ見てたような気がする」
「マジで?」
吉澤は楽屋をざっと眺めて七期を探す。
どこに行った?目立つコたちだからすぐ見つかると思うけど、、、。
- 5 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 19:31
- 七期の加入が吉澤たちに知らされたのは、二ヶ月前の8月、
『The BEST of Japan夏〜秋』ツアー初日、座間のライブ前日のことだった。
最終リハーサルに山崎とつんくが現れて、
「ちょっとみんな、集まってくれ」
と言った。メンバーに緊張が走る。
「明日は、辻と加護が卒業して、はじめてのモーニングのライブや。
新しいモーニングも、やっぱりすごいで!!っていうのを
世間にアピールせなならん。」
とつんくが話し始めた。
「みんなも知ってる通り、
春からエッグオーディションていうの、やってたんやけど、
そこで、ごっつい強力な才能を持ったやつを見つけたんや。
七期として、そのコと、あと、キッズからひとり、合計2名の加入が決定した。
明日のツアー初日に、発表や。新聞にもバーーンっと載るしな。
みんな驚くでぇ。とりあえず『でっかい宇宙に愛がある』だけ一緒にやってな」
そして、うれしそうに言葉を続けた。
「おーい、七期、そんなとこ突っ立ってへんで、入って入って」
- 6 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 19:42
- 緊張と興奮であいまいな笑みを浮かべるしかできないそのふたりを見て、
吉澤は小さくため息をついた。
七期が入るなんて聞いてないよね?や、聞いてたっけ?
あー、しかし、そう来たか。。。。だけど、あたし、ぜんっぜん驚いてないや。
そのことに驚くよ。ぜってー鈍感になってきたよな。
周りを見ると、飯田、矢口は「ほぉ」という顔で無言。
石川は「ええーーーっ?」と甲高い声で口に手を当てて目を見開いているが、
どこが芝居がかっているように吉澤には思えた。
五期、六期はかなり驚いて、顔を見合わせてと口々に何か言っているが
全然会話になってない。
藤本は自分の方が上、と一瞬で判断したらしく勝ち誇った表情だ。
つんくに促されて、七期の自己紹介が始まった。
「新メンバーになった、菅谷梨沙子です。
ベリーズ工房のほうは、卒業します。よろしくお願いしまーす。
おはようございまーす」
キッズからの昇格は、菅谷だった。
しかし、ベリーズ工房を卒業って、もうわけわかんねー、と吉澤は思った。
そして、隣に立っている、やけに背の高い、もうひとりの女のコ。
- 7 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 19:55
- 「コンニチハ。ハジメマシテ。
ワタシは新しいメンバーになりました。出身はエチオピア。
名前は、ムスです。モー・ムスです。うそみたいね。でもホント。
年齢はイクラでしょう?ハイ、ワタシは13才デス。特技はマラソンデス。」
エッグオーディションでつんくが見つけた『ごっつい強力な才能を持ったやつ』、
それは漆黒の肌に短い髪とひきしまった細長い手足、身長183センチ、
アフリカ大陸出身の13才、モー・ムスだった。
あれからもう二ヶ月か。
吉澤は、ムスと梨沙子を探して廊下へ飛び出した。
それにしても、と吉澤は思う。
――――誰も、あたしの絵には手を触れたことなんてないのに。。。。
まぁ、七期に「暗黙の了解」なんてものを求めたってね、と吉澤は苦笑した。
- 8 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 20:03
- エレベーターホール横の自動販売機の前でふたりを見つけたとき、
彼女たちがとても楽しそうだったので、
吉澤は声をかけるのをためらってしまった。
「ヒトーミ!」
「よしざーしゃん」
ムスが気配を感じて顔をあげる。続いて梨沙子も。笑顔だ。
歯並びを矯正中なので、大きく開けた口を急にすぼめたりして落ち着かない。
そして。
ムスの左手には吉澤の描きかけの絵。
右手には紙コップに入ったオレンジジュース。
「これ、すごくジョーズ!」
「ジョーズ!」
梨沙子はムスの言い方をマネすることにはまっていて、同じ言葉を繰り返す。
「こうしたら、もっとジョーズ!」
「もっとジョーズ!」
そう言うとムスは吉澤の絵を床に置いた。
流れるような動きですっとしゃがみこむと
紙コップをそっと傾けた。
画用紙の中央にオレンジ色が広がる。
吉澤は、一歩も動くことができなかった。声を出すことも。
- 9 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 20:10
- ブルーと紫の色鉛筆で、流線型を幾つも重ねていく、途中だった。
指で、色を伸ばしたりしてみるつもりだった。
夜空とか宇宙っぽいみたいな。意味はない。感覚があるだけ。
感覚とかイメージが自分の頭の中をいったりきたりする感じがおもしろかった。
自由で。
名前の珍しさでメンバーになる者がいても、吉澤は「楽しいじゃん」と思った。
楽屋がますます散らかるようになったけど、仕方ないと思えた。
今日のMステで初披露の新曲が、何回聴いても感情移入できない曲で、
ムスのアクロバティックな、というか、
サーカスみたいなダンスが売りであることも、これはこれでいいと思えた。
(矢口さんは最後にムスにぽーーんと放り投げられてかなり恐いらしいけど)
梨沙子が流し忘れたトイレのあとに入ってしまっても、笑っていられた。
吉澤は、自分のことを、あまり怒ったりしないタイプだと思っていた。
たいていの感情はコントロールできると思っていた。集中さえできれば。
自分の感覚を大事にしていれば。
でも。
スケッチブックに広がっていくオレンジ色を見ながら、不意に、吉澤は、
「もう限界かもしれない」と思った。
- 10 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 20:16
- そして、歌のことではなくて、
絵のことで大きなショックを受けている自分に、
二重のショックを受けていた。
――――私にとっていちばん大切なものは、何なの?
誰ともしゃべらず、吉澤は本番を迎えた。
いつものギターが鳴る。
いつもの階段を降りる。
いつもの笑顔で。
ミュージックステーションの始まりだ。
- 11 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 20:21
- 「モーニング娘。のみなさんでーす」
「うわー、辻加護が卒業したと思ったら、また増えたの?
しかも、よく焼けてるねー、新メンバー。画面に入ってんのー、これ?」
タモリが、ムスを軽くいじる。
ムスが、お決まりとなった自己紹介を言う。
「ヒトリでもー、モー・ムスでーす」
「どうなの、飯田的には?」
「はい、もうね、モーニング娘。も世界を目指してですね、
やっていこうということなんです」
「ほー。それで、なに、新曲のタイトル、すごいねぇ。
『バスコ・ダ・ガマには負けられねぇ!』って
これどうなの、よっすぃ?」
- 12 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 20:24
- 台本どおりの展開だ。
吉澤は
「だから、私、ガマっぽい衣装なんですよ」
と言うことになっていた。
しかし、カメラが吉澤を映した瞬間、
吉澤の胃の中のものがものすごい勢いで逆流した。
「うっ」
吉澤が口を抑えてうずくまるのと、スイッチャーがカメラを切り替えるのと、ほぼ同時だった。
タトゥーのとき以来の、困惑した笑みを浮かべたタモリが画面に映っている。
「え〜。生放送でお送りしております。ここでいったん、コマーシャル!」
- 13 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 20:36
- スタジオの隅で横になっている吉澤を娘。たちが囲んでいる。
「ごめん、、、、、だいじょぶだから、、、全部、吐いちゃった、、から、、さ、、、」
「よっすぃ」
「吉澤さん」
「よっちゃんさん」
「よしこ」
マネージャーが駆け寄る。
「吉澤。いけるか、無理か、30秒以内に決めなきゃならん」
そう言いながら、目でスタイリストを呼ぶ。
衣装についた吐瀉物をスタイリスト・アシスタントが三人がかりで
必死でぬぐう。それを見た飯田が涙目で言う。
「無理ですよ!疲れがたまってるんです。よっすぃは休んで13人で、、、、、」
「いいのか、それで?」
フロアディレクターが走ってきて、マネージャーに何かを耳打ちする。
担架が運ばれてきたようだ。
小さくうなずくマネージャー。他の出演者全員が注視している。
出番がまだのミュージシャン達は、順番の変更があるかもしれないと、
立ち上がってスタッフに声をかけたりしている。
- 14 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 20:42
- 飯田とて、吉澤抜きで新曲をやるのはつらい。
新曲は菅谷とムスの凸凹センターが売りだが、実はアクセントとして重要な
煽り文句「抜けがけ、抜けがけ、ガマいっちょう!」は吉澤のパートなのだ。
ガマっぽい衣装の吉澤じゃないとおもしろくも何ともない。
それに何より、ここで元気に吉澤が歌えば。
もしかしたら、何もなかったことにできるかもしれない。
新曲のためだじゃなくて。吉澤のためにも、一緒に歌いたい。
でも、目をつぶって横になっている吉澤を見ると、何も言えなかった。
「仕方ない、13人で、、、」
マネージャーが言いかけた、その時。
- 15 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 20:53
- 「よっすぃ、歌おう。歌えるでしょ?」
石川だった。
「だって、ほら、熱とかないし。ね?」
石川の手が吉澤の額に触れる。
吉澤がハッとして目を開く。
「梨華ちゃ、、、、」
カメラのまわっていないところで石川が吉澤に触れることは、
実は、一年以上前からなくなっていた。
「付き合おう」と言わずに始まり、
「別れよう」とも言わずに終わっていた関係は名づけようもなく。
いつの間にか、カメラの前、ステージの上でしか、触れることはもちろん、
笑顔も交わせなくなっていた。
プロってそういうことっしょ、と03年後半から、
吉澤は仕事への集中力を高めていったのだった。
- 16 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 21:08
-
石川が、吉澤の額にそっと手を置いた瞬間。
――――離れないで。
飯田には、そんな声が聴こえたような気がした。
それは、石川、吉澤、どちらの声だったろうか。
後になって吉澤は、
額に触れた石川の手の感覚を何度も何度も思い出すことになる。
そして、何度思い返してみても、
あの時、石川は吉澤のことを思って触れてくれたわけではなかった、と
思うのだった。
- 17 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 21:16
- 手の感じが。
触れ方が。
気持ちが。
以前とは違っていた。
それでも。
いや、それだからこそ、吉澤は歌おうと思った。
歌わなきゃ、今。
今は、今しかないから。一回きりだから。
「もうだいじょうぶです。ご迷惑おかけしました」
「CM明け、そのままモーニング娘。さん行きます!
スタンバイお願いします!!」
ディレクターの声が響く。スタジオにほっとした空気が流れる。
そして、なにごともなかったかのように、新曲披露が終わった。
「吉澤嘔吐事件」は、決定的な映像が流れなかったため、
ネットでひとしきり話題になっただけだった。
大切なことは、いつも、なにごともなかったかのように消費されていく。
それがモーニング娘。なんだよな、と吉澤は苦笑する。
- 18 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/05/09(日) 21:25
- すごく綺麗な文章ですね
感動しました
がんばってください
- 19 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 21:26
-
24時間、ガードマンがエントランスに立つ、港区の高級マンション。
家賃90万円のここが、吉澤の帰るべき場所だ。
ヨーロッパの国々の大使や、金融機関のCEO、などが住んでいる。
吉澤は、慣れた手つきでキーを使う。
仕事かぁ。
家族かぁ。
うちは、お父さん会社辞めたりしてないから、いいけどさぁ。
弟も、ポテサラ作ってくれたりするから、いいけどさぁ。
エレベーターの乗り降りにもキーがいるこのマンション、
やっぱりなんか、落ち着かないでしょ、フツー、と吉澤は思う。
- 20 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 21:34
-
「だいじょうぶなの?」
ドアをあけたとたん、母の美津子が駆け寄る。
娘の出演する番組はチェックするようにしているのだ。
マネージャーからの連絡もあった。
「うん、だいじょぶ。ありがと」
ニコッと笑って短く返事をすると、吉澤は部屋にこもってしまった。
たまには「疲れた」とか言えばいいのに。
愚痴や、悪口だって、言えばいいのに、と美津子は思う。
娘の部屋のドアをしばらく見つめてからリビングに戻った母親に、
吉澤の弟、陽介が話し掛ける。
「オレさぁ、思うんだけどさぁ、、、、、」
- 21 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 21:42
- メイクを落として。シャワーを浴びて。
ベッドに寝転んで、吉澤は考えている。
石川の手が額に触れたときの、あの感覚。
変わってしまったのは、石川だろうか、自分だろうか。
あるいは、世界?地球?宇宙?わっかんねー。
- 22 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 21:48
- いずれにせよ、もう、あの場所は私のいる場所じゃない。
なんか、壊れたっぽい。
失われたアークって感じ。知らないけど。
私が私じゃいられない。
このままじゃ、ダメだ。
何が?
自分が。
そんなんで娘。やってても迷惑だし。
そう思うでしょー?
って誰に言ってんだろ。
- 23 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 21:53
-
卒業、しよう。
自分は、どんなふうに卒業するのかな、とかときどき考えてたけど、
意外とストンっとふんぎれるもんだね。
最初に、誰に言えばいいんだろ?
中澤さん?安倍さん?
ごっちん?
マネージャー?つんくさん?
ネットに書き込み?
、、、、石川、、、梨華?
そうじゃなくて、あの人だろう、これはやはり。
「いつでも何かあったら電話してこいな」
と言われて一応、登録してある番号をくるくると呼び出す。
娘。たちのケータイにはその男の番号を登録しておくことになっている。
吉澤がその男に電話をかけるのは初めてだった。
- 24 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 21:58
-
男は、38階のツインの部屋が気に入っていた。
照明をすべて消して、分厚い遮光カーテンを全開にして、
天井から床までの大きな窓から見下ろす東京の夜景。
まだ残業中なのか、ビル街の窓がマッチ棒の頭ぐらいの大きさで白く光って、
規則正しくならんでいる。あっちもこっちもご苦労さん。
首都高速を流れるクルマのテールランプが赤く赤く、どろどろの血液のように
進んでいく。見ているだけで不健康になりそうな、この街の血管。
少し目を上げると、近くのビルの屋上に、巨大な広告ネオンが見える。
青、白、青、白、と清涼飲料水の商品ロゴをチカチカさせるたび、
この部屋全体がうっすらと青、白、青、白、と照らされる。
一流を自認するこのホテルは「お客さまの安眠のために」このネオンを
撤去するように要請しているらしいが、そんなことをする必要はまったくない、
とつくづく思う。この眺めは最高だ。
特に、スタイルのいい女と騎乗位でやっているときには。
- 25 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 22:02
- 15の時に見つけて、18まで待って、自分のものにした。
「あのコ、女性らしくなったね」という評判を最近よく耳にする。
仕込んだ甲斐があったというものだ。
青く、白く、浮かび上がる女のボディラインは、男を興奮させた。
「ん?もう、なのか?」
女の背中が汗ばんで光を放っている。絶頂が近い。
もう少しこの角度から女を見ていたいから、男はいったん腰をひいて、
胸へと手を伸ばす。
やわらかい乳房をじっくり味わうが、先端の敏感な部分には、触れないでおく。
女の身体は焦れて、弓のようにしなった。
「あ、、ああぁ、、いっ、、、、、やぁ、、いっ、、、、いじわる、、」
そのとき、ベッドサイドに置いてある男のケータイが不快な音をたてた。
- 26 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 22:05
-
はっとして、女の動きが止まる。
男は、しぶしぶ、乳房をもてあそんでいた左手を離して、そのままの姿勢で
ケータイを取る。ディスプレイを確認し、右の眉をちょっとあげて、意外だ、
という表情を作ってから、通話ボタンを押した。
「めずらしいな。どうかしたか?んんっっ?」
荒い呼吸を咳払いでごまかしながら、女に目をやる。
「そうか、、、、今はちょっと手が離せなくてな、、、、、」
男は、電話を持っていない方の手で女の腰からわき腹にかけてを、
触れるか触れないかの繊細さで何度も何度もなであげる。
- 27 名前:第一章 04年10月・東京 投稿日:2004/05/09(日) 22:11
- 「あっ、、、あぁっ、、、はぁっ、、、あぁん、、、」
女の声がこれ以上大きくなると困るが、燃えあがった炎が鎮まってしまうのも、
困るのだ。
「明日ならいつでもいいぞ。12時すぎには本社にいるから。ああ。じゃあ」
確実に電話が切れたのを確認すると、男はするりと姿勢を変えた。
キスがしたくなったのだ。仰向けに横たえられ、焦点のあわない目で男を見る女。
形のいい胸。短い呼吸が薄く開いた口から漏れている。
男は、「口直し」と心でつぶやくと、ゆっくりと、女の顔に唇を近づけた。
そして、ふと思い出したように動きをとめ、言った。
「俺に話があるんだと。お前、何か聞いてるか?同期だったよな、吉澤とは」
石川は一瞬、身体の奥でちらと燃える別の色の炎を感じた。何か言うことが、、、
この男には言うべきことが、たくさんあるような気がした。が、次の瞬間、男
の唇で石川の口はふさがれてしまう。石川の言葉は、濁流にのまれて消えた。
もとより、男は返事など期待していなかったのだが。
- 28 名前:FR 投稿日:2004/05/09(日) 22:18
-
第一章:ここまでです。
- 29 名前:FR 投稿日:2004/05/09(日) 22:19
- 読んでくださった方、ありがとうございます。
次回は、よっすぃの卒業、そして、
ええと、FRの妄想する吉澤さんの進む道の入り口ぐらいまで
行ければと思います。
ではまた。
- 30 名前:吉作 投稿日:2004/05/09(日) 22:22
- 月板で書いております吉作です。
リアルタイムで読ませていただきました。続きがどうなるのか気になりますね〜♪
頑張って下さい☆
- 31 名前:FR 投稿日:2004/05/09(日) 22:22
- 18ban nanasshisann
arigatougozaimasu!
totuzen PCga okasikunarimasita,
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/11(火) 21:18
- なんか面白そう。
期待してます。
- 33 名前:JUNIOR 投稿日:2004/05/11(火) 22:41
- 新作みっ〜けたっ♪
結構面白いぞ。
次回の更新期待してます。
- 34 名前:なち 投稿日:2004/05/12(水) 09:27
- ヤバい!超(・∀・)イイ!!
次回も楽しみにしてます♪
- 35 名前:名無し野郎 投稿日:2004/05/16(日) 00:21
- ガマ一丁にワラタ
期待してます
がんばって
- 36 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:20
-
「買い物して、それから待ち合わせして、それで一緒に
夕方ぐらいに帰ってくる。あ、お母さん、そんなに気合い入れなくていいから。
ごはん適当にって感じで。手伝わなくてごめんね。
ほんじゃ行ってきまっす」
吉澤ひとみは律儀に、そして早口で説明すると出かけてしまった。
ジーンズに長袖Tシャツの重ね着、迷彩柄のパーカー、
目深にかぶった黒いキャップ、白いスニーカー、ノーメイク。
吉澤のいつもの休日スタイル。
「いってらっしゃい」
と言ったときにはもう吉澤は玄関を出ていた。
ふぅ。
美津子は掃除機を動かしていた手をとめて考える。
ひとみがモーニング娘。でいるのも、あと少し。
それにしても、本当に、よく、決断したね。
- 37 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:21
-
美津子は、掃除機をいったん置いて
サイドボードの引き出しから、3枚のA4の紙を取り出した。
パソコンはさっぱりわからないから、そういうことに詳しいひとみの弟、
陽介に頼んでプリントアウトしてもらったのだ。
美津子は、ひとみが家にいないとき、繰り返しそれを読んでいた。
- 38 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:22
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モーニング娘。Official website
新着情報
NEWS!
2004.11.01
【つんく♂よりモーニング娘。メンバー「吉澤ひとみ」卒業のお知らせ】
いつもお世話になっております。つんく♂でございます。
秋も深まってまいりました。皆様お変わりありませんでしょうか?
さて、2000年からモーニング娘。の第四期メンバーとして活動してきた
吉澤ひとみが、2004年12月31日をもってモーニング娘。および
ハロープロジェクトを卒業することが決定いたしましたので
お知らせいたします。
吉澤本人から2004年10月に「新しい自分を探しに行きたい」との
相談があり、本年いっぱいという区切りでの卒業となりました。
- 39 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:23
- 進化を続けるモーニング娘。のなかで、吉澤ほど、次々とキャラを磨いて、
光を増して、輝き続けたメンバーはいません。
また、吉澤ほど、ハロープロジェクト内で先輩、後輩に関係なく、
親しみを持たれたメンバーもいなかったと思います。
そんな吉澤のことだから、よっすぃ〜らしい、でっかいスケールの
「ニュー吉澤」をきっと見つけられることでしょう!!
全国のみなさん、元気に旅立つ吉澤ひとみを暖かく送り出してあげてください!!
→吉澤ひとみメッセージ
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
- 40 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:24
- 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
【吉澤ひとみメッセージ】
皆様こんにちは。
吉澤ひとみです。
いつも応援ありがとうございます。
さて、この度、私、吉澤ひとみはモーニング娘。及びハロープロジェクト
を卒業することを決意致しました。
ファンの皆様には、今まで、声援と、励ましと、
言葉では言い表せないたくさんのものをいただきました。
本当にありがとうございました。
私が、モーニング娘。そしてハロープロジェクトのメンバーとして
楽しく、価値のある時間が持てたのも、皆様のお蔭です。
この、抱えきれない思い出と勇気を胸に、
吉澤は旅に出ようと思います。人生という大冒険の旅です。
まだ何も決めていませんが、
吉澤も今頃どっかでがんばっちゃったりしてるのかなぁ〜
と、ときどき、イメージしてみてください。
- 41 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:25
- これからも、モーニング娘。を宜しくお願い致します。
モーニング娘。の吉澤ひとみでした。
P.S それから、メンバーのみんなへ!
急に決めちゃってごめん!
そして、本当にありがとう。
笑顔で卒業したいから、涙はナシでお願いします!
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
- 42 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:26
-
12月31日、といえば紅白歌合戦である。
ライブ以外の卒業方法を模索していた事務所と、紅白の視聴率回復を狙う
NHKの思惑が合致したかたちで吉澤の卒業は設定された。しかし、観覧ハガキ
をめぐる複数応募の問題、ネットオークションの問題、ファンの殺到など混乱
が予想されたため、
当初予定になかった、ファンへのガス抜きのような形でライブが設定された。
それが、美津子が手にしている3枚目の紙である。
- 43 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:27
- 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
モーニング娘。Official website
新着情報
NEWS!
2004.11.09
【緊急決定!ハロープロジェクト年末ライブのお知らせ】
12月30日横浜スタジアムにて
ハロプロ年末ライブ〜来れるヤツはみんな来い!スペシャル〜
の開催が決定しました。
開場 7:00(午前)
開演 8:00(午前)
終演 9:30(午前)
出演:モーニング娘。
ほかに、ハロープロジェクトメンバー(※当日までシークレット)
チケットの販売方法など詳しい情報は後日ホームページにて告知します。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
- 44 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:28
- 吉澤自身は、卒業の形式にこだわりはなかった。
テレビでもかまわなかった。ライブに来れない人にも見てもらえるし。
でも、最後はライブで、と願うファンがいるのもわかっていた。
だから、こういう、一回限りのライブイベントでパーっとファンに会えるのは、
なんか、いいじゃん!と素直に思った。やけに、朝、早いけど。
30日は紅白の最終リハーサルがある。
それに間に合わせるため、このライブは早い時刻に始まり、終わる。
リハもなし。ぶっつけ本番だ。
そんな経緯を美津子は事務所からうっすらと聞かされていた。
他の出演者がシークレットというのも、調整がつかない、いや、つける気が
なく、もっといい仕事が入ればそちらへ行かせることを正当化しているだけ。
わが子を取り巻く、自分ではどうすることもできない状況を考えると、
胸がいっぱいになってしまうのだった。
- 45 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:29
- 美津子が掃除の手を休めて涙ぐんでいる頃、
吉澤は表参道にいた。
目当ての店で買い物を済ますと、
明治通りとの交差点近くのカフェに向かう。
その店は古いビルの2階にあって、室内にテーブルが6個とカウンター席、
表参道を見下ろす小さなバルコニーに2人がけの丸テーブル席がひとつあった。
狙い通り、その席が空いていたので座る。
木目を生かした60年代アメリカ風のインテリアでまとめた、
特に流行っているわけでもない喫茶店である。
平日の昼下がり。サラリーマン風の客と、女子大生風の三人組がいるだけ。
この席だと、室内の客からは見えにくいし、外は眺められるし、
なんか、落ち着くのだ。
「カフェオレ」
注文を済ませて、石川を待つ。
- 46 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:30
- 吉澤は、雑誌の連載で「こんどご飯を食べに行こう」と書いておきながら、
石川になかなか声をかけられなかった。
すぐに声をかけると逆にウソっぽいっていうか、
義務っぽく言ってると思われそうで、さりげなく、さりげなく、と思っている
うちに、いつのまにかタイミングを見失った。
いつもそう。
石川を見失ったのも、「いつのまにか」だ。
楽屋では、フツーに話す。
でも。
いつのまにか、石川と自分の間に透明の壁があった。
透明の壁をなくしたかった。昔のように。
それで、オフの今日、吉澤は石川を家に招くことにしたのだった。
吉澤の視界に、ピンク色の動くものが入ってきた。
- 47 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:32
- 「ごめんね、待った?」
「あ、いや、今来たとこ。。。。。。ていうか、なにそのカッコ??」
「えー、普通だよ」
「や、しかし、そのピンクの帽子はヤバすぎ」
「いらっしゃいませ」
「レモンティー、くださいっ!!」
「かしこまりました」
「声でけーんだよ、石川」
「そう?」
「あちゃー、皆さん、気づいたっぽいよ。。。。
石川さぁ、バレんの好きでしょ?自分のこと」
- 48 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:33
- 「ちょっとは、そういうとこ、あるかな?」
「あるかな、じゃねーよ。ゲーノージンはこれだから」
「よっすぃだって、ゲーノージンじゃん」
「そうだけど」
「ズルイよ、自分だけ。もう卒業するからって」
急に真剣な声になって、石川は吉澤を見つめた。
吉澤は石川の視線を受け止めきれず、唇を噛んで目をそらせてしまう。
いつもよりテンションの高い石川にノリであわせてみたものの、
それが逆に「壁」を作られてる気がして少し落ち込む。
「そんな、バリマジの顔でこっち見ないでよ」
力なく吉澤がつぶやいて足を投げ出す。ふたりとも黙り込んでしまう。
ウエイターがカフェオレとレモンティーを置くのを意味もなく見つめて。
伝票を置いてウエイターが去ると、石川が尋ねた。
「それで、ほんとに、、、、どうするの?卒業したら」
- 49 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:34
- 「いや、考えてることはあるんだけど、まだ、決めたわけじゃないから」
「普通の人に、なるんだ」
「決めたら、言うよ」
奥の席のサラリーマンがこちらにケータイのカメラを向けているのに気づいて、
石川を促して、そちらに背を向けさせる。金色の光が石川の横顔に降り注ぐ。
吉澤はキャップを目深にかぶり直す。サシで話すのは久しぶりで緊張する。
「石川はさぁ、こんなふうに、誰かにジロジロ見られてばっかでも
全然へーき?コンビニで、好きなだけ雑誌立ち読みしたいとか、思わねー?」
「思わない。きっと、普通でいたら、雑誌に載ってる人とか見て
『いいなぁ』って思うんだよ」
- 50 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:36
- 石川梨華は、普通でなくなることが、楽しかった。
吉澤ひとみは、普通でなくなることが、恐かった。
でも、「普通」とは何なのか、ふたりともよく考えたことはなかった。
「そっかぁ。あたしはさぁ、なんていうか、不思議なんだよね。
あたしなんかよりきれいな人、いっぱいいるし、歌うまい人だって
いっぱいいるし、頭いい人だって、手先が器用な人だって、なんつーか、
なんでもいいけど、いっぱいいるじゃん?」
「………なりたかったんでしょ?モーニング娘。」
「そう、、、、、だよ。娘。がイヤになって辞めるわけじゃないよ」
「じゃあ、なんで?」
「ホームページに書いたじゃん」
「だから、なんで、そう思ったのかって」
吉澤は、Mステの日の出来事を誰にも話していなかった。
そもそも、ムスのしたことは、たまたま最後の一滴だっただけ。
それを吉澤は自覚していた。
- 51 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:36
- 「自分のなかで、なんかが違ってきちゃったから」
「違っちゃったら、そのままなの?違わなくするように、努力とか、しないの?」
「………………」
なぜか突然、オーディションの寺合宿のことが吉澤の脳裏をよぎる。
カレー、作ったっけなぁ。
皿、洗ったっけなぁ。
夢は、叶えてしまえば、日常になる。
日常は、同じように見えて、少しずつ移り変わってゆく。季節のように。
季節が変わることは、誰にも止められない。Let it be.
吉澤はそんなふうに感じていたが、どこから話せばいいかわからず、
言葉を見失う。
- 52 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:38
- 「石川には、努力って言葉が似合うね、本当に」
吉澤は表参道の人の流れを見ながら言った。
いろんな人がいて、いろんな人生があるんだよね、きっと。
「よっすぃは、、、、ひとみちゃんは、逃げてる」
「え?」
逃げてる、と言われたことと、ひとみちゃん、と呼ばれたことの
ふたつに吉澤は驚く。
その呼び方は、まだ、ふたりが無邪気に寄り添えた頃の。
「勝負から、逃げてるだけじゃないの?」
石川もまた、不意に寺合宿のことを思い出していた。
あの時、石川は吉澤には到底かなわないと思った。
吉澤の勝ちだと思った。その吉澤が去ってゆく。
加護も辻もいなくなった。
石川は、心細さを、相手を責めることで誤魔化そうとしていた。
心細さが、昔の呼び方を呼び起こした。
- 53 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:39
- 「あたしは、、、、、勝負とか、よく、わかんねーよ、、、、、」
「人間は、勝ちたいから、がんばれるんだよ。努力しないのは、
勝ちたくないから、勝負から逃げてるからだよ」
「そう、、、、かな?あたしは、、、、試したいから、がんばった、、、んだと思う」
「ためす?」
「そう。なんつーかなぁ、試してみたい、と思ってた、いつも。
バレーでもオーディションでも、娘。になってからも。
自分の力を試してみたいって。どこまでいけるかやってみようって。
それは、勝ちたいっていうのと、ちょっと違くてさ。
勝ち負けじゃないの、試すのは。
誰も負ける、、、負かす必要がないんだよ。
それで、努力もした、つもり、だよ。梨華ちゃんほどじゃないけど」
そういう考え方もあったのか、と石川は思う。
でも、やっぱり、人生は勝ち負けだと思う。
よっすぃは負け組で、私は勝ち組だと、あの人も言っていた。
- 54 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:41
- 「よっすぃは、優しいもんね。繊細で女のコらしくて」
「え?なんか話ずれてね?」
あ、またよっすぃに戻っちゃったよ、と吉澤は少し残念に思う。
「ふふふ」
そういうふうに、勝ち負けに興味がないから、
みんな安心して、よっすぃに近寄れるんだね、と石川は心でつぶやく。
石川にとって、夢は、手に入れてしまえば、責任だった。
夢の輝きを維持してゆく責任。夢を叶えた者の責任。
周囲の期待に応えてゆく責任。
その責任感が、石川を不自由にしていることに、石川は気づいていない。
――――だって私が、がんばらないと。モーニング娘。は、、、、、。
ふたりはしばらく、街並をながめて、無言になる。
- 55 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:42
- 「梨華ちゃん、、、、あんまし、がんばりすぎないでね」
石川の心の声が聴こえたわけではないのに。
吉澤は、透明の壁に向かって、見えないボールでシュートを放つ。
へなちょこシュートだ。当たりそこねの。
「うん。わかってる」
石川が笑顔で答える。とびきりのカメラ目線スマイルは、拒絶の証し。
いつから、この人はこんなに自信のある笑顔をつくれるようになったんだろう。
吉澤は、大きく投げ出した自分の足の先を見つめていた。
石川に跳ね返された見えないボールがコロコロと転がって、
白いスニーカーにコツンとぶつかるのを見ていた。
- 56 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:43
-
――――強くなったんだね、梨華ちゃん。
もう、朝まで、私が抱きしめる必要もないほど。
「自信のない梨華ちゃんも、好きだったよ。あ。や、なに言ってんだあたし。
深い意味ないから」
キャップでは隠せない吉澤の白い頬が赤く染まる。
「うん」
石川は短く答えて、目を伏せる。レモンティーを飲むふりで。
――――ごめん、もう、あなたの気持ちには応えられない。
- 57 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:45
-
街路樹の影が吉澤の身体に届き始めた。
吉澤の頬をかすめた風が、そのまま、石川の髪を揺らす。
吉澤はおおげさな動きでカフェオレを一気に飲み干した。
「うめーーー。冷めたカフェオレ、最高!
冷めたカフェオレファンクラブ、作っちゃおっかな。
会長はあたしでぇ、石川、副会長やんない?」
「なにそれ?わけわかんないよー」
石川が笑う。吉澤はほっとする。
- 58 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/16(日) 16:45
- 「じゃ、そろそろ、行く?お母さん、待ってるから。
久々に梨華ちゃんが来るって言ったら大喜びでさ。陽介も、なんか作るって」
吉澤は、油断すると『梨華ちゃん』になってしまう呼び方を、
『石川』に戻そうと意識するが、あまりうまくいかない。
ま、いっか。呼び方なんて。吉澤はあきらめる。
「うん、行こ」
ふたりは店を出て、すばやく手をあげ、黄色いタクシーを止める。
12月の空気がきらきらと輝いて、迷彩とピンクのふたりを包んだ。
- 59 名前:FR 投稿日:2004/05/16(日) 16:48
-
本日はここまでです。
- 60 名前:FR 投稿日:2004/05/16(日) 17:30
- 18 名無し募集中さん ありがとうございます。綺麗っていい言葉だなと思いました。
30 吉作さん 目にとめていただいて感謝です!
吉作さんは会話の感じがうまいっすね。
32 名無しさん レスありがとうございました!この日はこれからまたじわじわっと出来事があって、、の予定です。
33 JUNIORさん なんかうれしかったです。ありがとうございます。
34 なちさん ありがとうです!ときどき見にきていただければとてもうれしいっす。
35 名無し野郎さん レスありがとうございます。名無し野郎さんのツボな更新は、
次の次ぐらいにあるかもしれません。
- 61 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/05/16(日) 21:23
- なんかいいですね。
ある一線を越えたらどっかで信じあい信頼しあっていたからというか・・・
楽しみなんで続き期待しております
- 62 名前:JUNIOR 投稿日:2004/05/16(日) 22:11
- 更新お疲れ様です。
とても素敵な話になりそうですね。
これからも期待してます。
がんばって下さいね。
- 63 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:35
-
「あらあらあら、いらっしゃぁーーい!
久しぶりね、梨華ちゃん、一年ぶり?二年ぶりぃ?
テレビで見るより、だんっっぜんっっ、きれいねぇぇぇぇえええええっ!!
女のコらしくていいわよねぇ、うちの子なんか、あれでしょ、
もうそんなかっこで出歩くのやめなさいって言ってるのにぜんっっぜんっっ
きかないし、梨華ちゃんからも言ってやって、ほんとマジで、
こないだなんか」
「お母さん、うるさい。しゃべりすぎ。そこどいてくんないと、入れない」
「あらあらあらあら、ごめんなさーーーーい、お母さん興奮しちゃって」
「お邪魔します。ご無沙汰してます。これ、つまらないものですけど」
「あらあらあらあら、いいのにそんな」
吉澤美津子は、玄関ドアを開けたとたんに、笑顔でまくしたてるのだった。
- 64 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:38
- ダイニングには、夕食の準備が整っていた。
「普通のね、寄せ鍋なんだけどいいかしら?
梨華ちゃん、一人暮らしだから、鍋ってなかなか
食べられないんじゃないかと思って」
「去年引越して、今は姉と住んでます。でも、鍋、うれしいです。おいしそう!」
「そうなのぉ!やだ、ひとみ、そーゆーことは言っといてちょうだい」
「あぁ、ごめん」
「でもデザートはね、すごいらしいの。陽介が今……よーすけーー!」
キッチンから、シェフの格好をした陽介が悠然と現れる。
「陽介君、久しぶりー。背、高くなったねぇ」
- 65 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:39
- 吉澤陽介、高校一年、身長177センチ。やせ型。
こげ茶色の四角いフレームの眼鏡をかけている。
趣味は料理。
白衣はなかなか本格的で、頭には白くて高さのある帽子までかぶっている。
名探偵コナンを高校生にしたような顔、、、、、
あれ、コナンってもともと高校生なんだっけ?
ていうか、ビストロスマップ?と石川は吹き出す。
「いらっしゃいませ。私、パティシエ・ヨーが、超スペシャルデザートを
ご提供させていただきます。では、のちほど」
陽介は軽く会釈をしてキッチンに戻る。
内心、わ、マジで石川梨華、しかも、ウケたっぽい!とガッツポーズなことは
彼的には秘密である。
「ごめん。バカでしょ?」
「料理が好きってかっこいいよ」
- 66 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:41
-
「お父さんもいたらよかったんだけどねぇ」
と言いながら、美津子は鍋に具を入れる。
「ちょっと出張でね」
普通の寄せ鍋、と美津子は言ったけれど、
手作りのつくねには細かく刻んだれんこんや生姜やゴマが入っていたりして
細かな工夫がある。湯気が石川の気持ちをほっとさせる。
「とっても、おいしいです」
仕込みを済ませて、陽介もシェフの姿のまま席について鍋に参加。
「帽子、取らないの?」
石川が尋ねた。
- 67 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:42
- 「これは、料理人の命ですから!」
と真顔で答える陽介。反応を待つ弟を、姉がフォローする。
「梨華ちゃん、今の冗談だから。笑ってあげて。役に入りこんでんの、陽介」
石川は思った。この家の人間は、みんな、コントが好きなのね、と。
「よっすぃの家は、楽しくていいね」
――――こうしてると、いろんなこと、忘れそうになる、、、、。
「ほっかなぁ」
猫背になって、大きめの白菜を口に放り込みながら吉澤が答える。
ガチャ!
え?
全員の動きがとまる。
突然、ダイニングのドアが勢いよく開く。
侵入者、、、?
- 68 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:43
- 「ただいまーーー。一日早く帰ってき、、、、、おろ、お客さん?
梨華ちゃん!?グッチャーーー!!」
吉澤の父、孝則であった。
頑固一徹に似ている。一徹のからだ全体をでかくして、眉を太くし、
輪郭を角張らせて髪を黒くすれば、吉澤パパの出来上がりである。
明るいグレーのスーツに水色のネクタイ、ベージュのコートを着た男。
帰宅した気配に誰も気づかなかったのだ。
そして、家族と石川のびっくりした顔が、なんだ〜という表情に
変わるか変わらないか、のタイミングで、孝則は言葉を続ける、ハイテンションで。
- 69 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:44
- 「みんな、安心しろ。新しい家、決めてきた。
ジョン・レノンの家の近くに、ちょーーどいいマンションがあってな、
ちょーーーどいい部屋が空いてたんだよ!
梨華ちゃんも、ぜひ、遊びに来てね、ニューヨーク。
飛行機のっちゃえばすぐだよ、すぐすぐ!
それじゃお父さんシャワー浴びてくるから。
ゆっくりしていってね、梨華ちゃん」
バタン。スタスタスタ………。
沈黙と沈黙と沈黙と沈黙が鍋を囲んでいる。
「や、決まったら、言おうと思ってて。まいったな、、、、、」
石川に説明する役は、美津子にも陽介にもできない。
吉澤は、ゆっくりと話し始めた。
- 70 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:47
- モーニング娘。を卒業する、と家族に言ったら、
いつかはそういう日がくるだろうと思ってた、と受け入れてくれたこと。
あのMステの日、
母と弟は「そろそろ卒業じゃないか」と話し合っていたこと
実は、卒業後のことを吉澤には内緒で父、母、弟は数年前から相談していたこと。
芸能界に残らないなら、外国に住むことをすすめてくれたこと。
日本では、何をするにも、どこに行くにも、元モーニング娘。として
見られてしまうだろうから、と。
行くのであれば、家族一緒がいいと考えていてくれたこと。
そして、具体的な準備を、以前から始めていたこと。
- 71 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:49
- 母は、ひそかに英会話。
父は、外資系企業への転職を検討。
弟は、アメリカ永住権について情報収集。
さらに、弟は外国の学校で料理を勉強したいとマジで考え始めていて。
それで、いろいろ検討して、ニューヨークとなったこと。
「ニューヨークは、ベーグルの本場だし。
ていうか、私がフツーに仕事してる時からそんな相談してる家族って、
すげー失礼っていう話なんだけど超マジで」
そう言いながら吉澤の表情は怒っているようでもない。
- 72 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:51
- 「そうなんだ……よかったね」
言葉と裏腹に、石川の表情は重い。
「いつ、行くの?」
「4月。こっちでいろいろやることもあるから」
「それで、、、、向こうで何するの?」
「大学とか、アートスクール、行くかもしれない。
何もしないでブラブラするかもしれないし、
すぐ帰ってきちゃうかもしれないけど、、、
まだ決めてないんだ」
「………」
「や、明日出発ってわけじゃないし、、、一生会えなくなるわけじゃないし」
「そうじゃなくて」
「?」
「そんな、、、やりたいことも決まってないのに、、、、
自分のなかでなんか違ってきたとか、、、、、、
そんな、曖昧な、理由で、、、、なんとなく、卒業するみたいなのって、、、、」
- 73 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:52
- 石川は、泣いていた。
石川にとって、「やるべきこと」は常に目の前にある具体的なものだった。
それと取り組むことが、努力であり、前へ進むということだった。
吉澤にとって「やるべきこと」は自分の内側と向き合うことだった。
自分が今、何を感じているのか、うれしいのか、たのしいのか、嫌悪感なのか、
違和感なのか、その把握なしには、前へ進めなかった。
内側への回路を切断し、怒りや不満を感じないようにして
行動だけをしていた時期の吉澤は、自分でもうんざりするほど精彩を欠いていた。
- 74 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:53
- だから、石川に卒業の理由を聞かれて
「自分のなかで、なんかが違ってきちゃったから」
と説明したのは、吉澤的には、曖昧でも何でもない、確かな根拠だった。
「やりたいことが決まっていない」のではなくて
「やりたいことが、なんか違ってきたとわかったから、
やりたいことを探すという大仕事をすると、決めた」というつもりだった。
そんな気持ちで、ファンへのメッセージにも「大冒険の旅」と書いたのだが。
「曖昧に、見えるのかな、、、、」
吉澤には、それしか言えなかった。
吉澤は、自分の気持ちを言葉にするのが、下手だった。
「なんとなく卒業する」と言われてしまえば、その通りのような気すらして、
気持ちが揺れた。
- 75 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:54
- 「ごめんね。びっくりして、泣いちゃった」
えへへ、と、石川が、涙をぬぐって、笑顔をつくる。
「おばさん、とってもおいしかったです。ごちそうさまでした。
きょうは、、、失礼します」
「あら、、、、そお?」
エントランスに連絡してタクシーを呼ぶ。
ホテルライクなサービスが当然のマンションに住むのもあと数ヶ月。
送ってく、と言いながら吉澤はパーカーを羽織り、
石川を追うように玄関を出て行った。
あとに残されたパティシエ・ヨーは、
「あーあ、これ、うまいのになぁ」
とつぶやきながら、自作のデザート、
“里芋とクリームチーズの白玉風・マンゴーパパイヤソース、
カリカリ揚げごぼうを添えて”をひとりで食べるしかなかった。
- 76 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:55
-
タクシーの中。
後部座席に石川と吉澤が座っている。
山手通りをスムーズに進むクルマの列。
窓に流れるレストランやブティックの灯り。
涙のあとを目のふちに残す石川と、こうして並んでタクシーに乗るのは
ひどく懐かしい気持ちがする、と吉澤は思った。
- 77 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 00:56
- あの頃。
レッスンの後、涙ぐんでばかりの石川を一生懸命励ましながら、
よくこうして並んでタクシーに乗っていた。
「梨華ちゃんは、だいじょうぶだよ」
「無理だよ…」
「明日は、ぜってー、できるって」
「できないよ…」
言うべき言葉がなくなると、ふたりは、そっと、手をつないだ。
手をつないで、ただ、前を見ていた。
今は。
石川の手は膝の上で固く閉じている。
吉澤の手は、パーカーのポケットの中。
「ごめんね。お家の人に、あやまっておいて」
「気にしないでいいって。お父さんが悪いよ」
- 78 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:00
- 恵比寿にある高層マンションの前でタクシーが止まる。
石川が降りる。吉澤は、一瞬、降りるべきかこのまま戻るべきか、迷う。
それを見て取った石川が、言う。
「お茶、飲んでく?」
「あ、うん」
吉澤の顔がパッと輝く。
以前の石川の部屋は知っていたが、
吉澤がこの部屋を訪れるのは、初めてだった。
招き入れられたリビングは、案外、片付いていた。
「お姉さんは?」
「きょうは、親の方に泊まるって言ってた。どうぞ」
ソファを指差してそう言って、リビングの奥にある自室らしき部屋に
石川は入り、すぐに出てくる。お湯を沸かす。紅茶の香りが広がる。
- 79 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:01
- 吉澤は、困っていた。
何を話していいのかわからなかった。
「部屋、見る?」
「あ?ああ、うん」
ティーカップを持って、ふたりは石川の部屋に入る。
ピンクが減っている、と吉澤は思った。
「へぇ、梨華ちゃん、趣味変わったの?なんか、落ち着いてるじゃんこの部屋」
もしかして、石川はピンクをもうそれほど好きじゃないのかもしれない、
と吉澤は思う。きょうの服も帽子も、自分への一種の気遣いかもしれない。
私は変わってないよ、と。
- 80 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:01
- 以前石川の部屋でよくそうしていたように、吉澤はフローリングの床に直接
腰をおろし、ベッドにもたれかかって足を伸ばす。
持ってきたティーカップのなかの紅茶が揺れるのを見つめながら、
吉澤は、石川のベッドの上にピンクのくまのプーさんがいることに
安堵する。そのことを口に出しはしないが。
石川も、吉澤の横に同じように座る。30センチ離れて。
吉澤が部屋に入った瞬間、プーさんに目をやったことを、
石川は気づいていた。さっき押し入れから出しておいてよかった、と
石川は安堵する。石川は、吉澤を傷つけたくなかった。
できることなら。同期だから。
仲間だから。
- 81 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:03
- ――――なんで、梨華ちゃんの部屋になんか来ちゃったんだろう。
吉澤は後悔していた。
こんなふうに座っていると、どうしても思い出してしまう。
最初は、なんだったっけ?
ロケバス。雨の日の。
まだ入ったばっかりで、、、、なんかの番組のロケで朝早くから郊外に行って、、、、
帰りのバスの中ではみんな疲れて寝ちゃってて、静かだった。
シーンとしてた。
高速道路を走るバスのエンジン音と、すれ違う車の走行音だけが響く、白い空間。
二人がけの席の、窓側があたしで、通路側が梨華ちゃん。
まだ「石川さん」とか呼んでたかもしれない。
あたしはMDウォークマンのイヤホンを耳につっこんでたけど、実は何も再生してなかった。
石川さんと話をして気を遣ったりするのがちょっと億劫で、そうしていた。
まだ、、、よく知らなかったから。緊張していたから。
- 82 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:05
- ふと見ると石川さんは眠っていて、、、、、
あたしは眠れなくて、窓を斜めに走る雨粒を見ていた。
追いかけて、追い抜いて、交差して、ひとつになって、止まって、進む、雫の、軌跡。
ツ、ツツーーー。ツツツーー、ツツーーー、ツーー。ツーー、ツツーーーー。
ん?石川さんは眠りが深くなってきたらしい。
身体が前後左右にガックン、と揺れ始めた。
このままじゃあ、前の席に頭ぶつけるか、通路に転げ落ちるんじゃ、、、、
と思ったら石川さんじゃなくて、彼女の膝の上のピンクのバッグが、
ゴトンッと床に落ちた。
- 83 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:07
- ハッと目を覚ましてぼーっとした顔できょろきょろする石川さん。
あたしは左のイヤホンをはずして、小さな声でこう言った。
「肩、使って、、、、、もしよかったら」
「あ、、ありがとう」
よほど眠たかったのか、石川さんは素直に、あたしの肩にコトッと頭を乗せた。
「ちょうどいい。。。。。。」
むにゃむにゃっと独り言みたいに言うと石川さんはすぐまた寝ちゃって。
身長差から言って、ちょうどいい高さだろうなとは思ってたけど。
その言い方、完全にモノ扱いじゃんって思ったけど。
肩に感じる「石川さん」の重みは、心地よかった。なぜか、うれしかった。
たぶんそれが、最初に触れた瞬間。覚えてる。
それに比べて、何があった日に、そうなったのか、実はよく覚えていない。
恋レボの後かな。中澤さんはもう卒業していたと思う。
- 84 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:09
-
ときどき泊めてもらうようになったけど、部屋でしゃべって、テレビ見て、
自分たちのビデオ見て、「おやすみ」と言って寝るだけの日々が当たり前の
ように続いてた時期。でも、もう、梨華ちゃんって呼んでたかな。
床にぺたっとすわって、ベッドにもたれて、並んでしゃべってると、
いつの間にか梨華ちゃんは眠ってしまう、あたしの肩に頭を乗せて。
「はい、梨華ちゃん、もう寝るよ」
とあたしが言って、梨華ちゃんはベッドに、あたしは床のふとんへ、というの
がいつものパターン。
でも、、、、。
その日はいつもと違ってた。
並んで座ってて、梨華ちゃんの頭があたしの肩に触れたので、
「はい、梨華ちゃん、、、」と言いかけて驚いた。
梨華ちゃんが眠っていなかったから。
あたしの肩に頭を乗せて、こっちを見あげてた。
目と目があった。
- 85 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:10
- 何秒ぐらい見つめあってたんだろう。
覚えているのは、初めて「さかあがり」ができたときのような感覚。
すっと世界が反転して、身体が空に吸い込まれる。
考えるよりも先に。
流れるように動く身体。
気がついたら、キスしてた。
唇が離れると、離れているのが不思議で、もういちどキスをした。
何度も、何度も。
- 86 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:12
-
自分の身体なのに自分でコントロールできないような、
でも、だいじょうぶって思える感じ。
きっと、泳いでいける。
ずっと見ていた海に、飛び込んだだけだから。
告白も、言い訳も要らなかった。
何も、しゃべらなかったのは、しゃべる必要がなかったからだよね、梨華ちゃん。。。。。
- 87 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:15
-
ダメだ、ダメ。今のこと考えなくちゃ、ダメだ。
吉澤は、目の前の現実に気持ちを戻す。
不意に、吉澤がパーカーのポケットから、ごそごそと、包みを取り出す。
「梨華ちゃんの1月の誕生日、あたしはもう、娘。にいないから、、、
当日とか会えないだろうから、これ、今、渡しとく。誕生日プレゼント」
「えぇっ?」
「きょう、ぜってー渡そうって思ってて。
一応、注文してつくってもらったっていうか」
- 88 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:16
-
石川が包みを開けると、中からでてきたのは、
黒い天然石をくり抜いてつくった細身のブレスレットだった。
よく見ると、繊細な曲線で成型されていて、豹がしなやかに走っている形
になっている。
PUMAのロゴのイラストを、細長く伸ばして、クルッと丸くつなげたような形。
黒豹の目のところには、小さなピンクの石がふたつキラキラしている。
「ブラックパンサー、超かっけーでしょ?」
石川は、黒いブレスレットをそれほどかっこいいとは感じなかったが、
吉澤がはしゃいでいるのを見ると、気持ちがやわらいだ。
- 89 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:17
- 「ありがとう、よっすぃ」
「これ、オニキスっていう石で、悪い物を近づけない魔よけみたいな
パワーストーンなんだよ。すげくねぇ?」
「そっか。1月には、よっすぃ、私の近くにいて守ってくれないんだもんね」
石川はブレスレットを自分の左手首につけたり外したりして眺めていた。
今かもしれない。
なぜだかわからないけど、今を逃すと聞けない、と
直感的に吉澤は思った。
全身の筋肉に力を込める。息を吸う。
視界の隅でゴールを確認。
そして。
見えないボールを、渾身の力で、吉澤が、蹴る――――。
「梨華ちゃん、つきあってる人、いるでしょ?」
- 90 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:18
-
「………」
「どんな人?」
――――――――私をほめてくれる人。
――――――――私をきれいだと言ってくれる人。
――――――――私の身体を欲しがる人、おもしろいぐらいに。
「どんな人って、、、いるともいないとも答えてないよ」
「梨華ちゃん、演技下手すぎ」
吉澤は、ガッと身を起こして、石川の顔を真正面からヒタと見据えた。
「顔に書いてある」
- 91 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:20
-
もし、自分が野生の黒豹なら、と吉澤は思う。
迷うことなく、目の前の動物に襲いかかるだろう。
首筋に。やわらかなわき腹に。この牙を突き立てるだろう。
吉澤は、石川の目を見つめたまま、動かない。
ふたりの間にあった透明の壁は、今はもうなかった。
吉澤は、久しぶりに、自分の肉眼で石川を捉えたと感じた。
しかし。
壁のかわりに、そこにあったのは、距離だった。
こんなに近くにいるのに、なぜ、こんなにも遠いのか。
サヴァンナの黒豹なら、一秒もかからず、たどり着けるのだろうか、
この、心の距離も。
- 92 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:22
- ひとつ、息をつく。
吉澤は立ち上がる。
もう、わかった。これで充分だ、と思う。
壁がない状態で、一瞬でも石川と向き合えたのだから、と。
ずっとそれが、できなかったのだから、と。
「帰る」
玄関までがやけに遠い。
手が震えて、スニーカーの紐がうまく結べない。
吉澤は唇をかむ。玄関に腰をおろして、もう一度、やり直す。
石川も部屋を出て、廊下のこちら側から吉澤の背中をまっすぐに見る。
そして、石川が、口を開く。
- 93 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:23
- 「よっすぃ、深く考えたら、負けなんだよ」
「………」
「忘れて。私とのこと。
私も忘れるから」
吉澤は、最初、うれしい、と感じる。
石川は、覚えていたのだと。なかったことでは、なかったのだと。
しかし、そのうれしさは続かない。
思わず立ち上がって、振り向く。
パーカーがバサッと大きな音をたてる。
吉澤は筋肉に命令する。
その動物に向かって、踏み出せ。
そして、押さえつけ、一片残らずその肉を食らうのだ、と。
――――動けない。
- 94 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:24
- 吉澤は、動けなかった。
吉澤は、与えたいだけだった。
与えることしか、知らなかった。
石川が不安なときは、安心を与えたくて、抱いた。
弱っているときには、強さを与えたくて、抱いた。
奪いたいと、思ったことはなかった。
それは、「忘れて」と言われた、この瞬間でも変容することはなかった。
―――――奪えないよ。
懇願でもなく。
抗議でもなく。
吉澤は、疑問を言語化する。
- 95 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:25
- 「どこから、どこまで、忘れればいい?
どこから、どこまで、覚えててもいい?」
イタタタタ。もしかして、今の自分はものすごくイタイ感じだ、と吉澤は思う。
でも、泣いたりしてない。叫んだりしてない。
聞いておきたいだけ、石川の答えを。
小さく乱れた呼吸のまま立ち尽くす吉澤に、石川が言う。
「ねぇ、そんなに私が欲しいの?」
吉澤は唐突に理解する。
石川の、あの、自信に満ちた笑顔の意味を。
奪えるものなら、奪ってごらん。
石川の身体のすべての細胞が、そう言って笑いさざめきあっている。
奪えるものなら、、、、、、 奪ってごらん、、、
奪えるものなら、、、、、、 奪ってごらん、、、
- 96 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:27
- 欲しいの?って言われれば、そりゃ、欲しい、よ、と吉澤は心で言う。
どんな速度で指を滑らせればいいのか、覚えてるよ。
うわごとのように名前を呼んでくれるかすれた声を、覚えてるよ。
ふたりでしかつくれない、温度と湿度を。
でも。
遠すぎる。
今は、あまりに、遠すぎる、石川との距離。
- 97 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:28
-
吉澤に、冷静さが少しずつ戻ってくる。
「違うよ、、、、、、、石川」
「……」
「なんか違うよ、、、、、」
「……」
「でも、きょう、ちゃんと、、、、話せて、、、、、」
「……」
「話せて、よかった。ありがとう、、、、石川」
そう言って、かろうじて口の端をあげて、笑顔めいたものをつくり、
吉澤は、ドアを閉めた。
- 98 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:29
- 一秒でも早く、ここから去りたい。帰りたい。
エレベータがゆっくりと上昇してくるのを待つ間、
吉澤は、パーカーのポケットに入っている包みを握り締めていた。
おそろいでつくった、と、言えなかった、もうひとつのブレスレット。
エレベータが到着し、スーッと扉が開く。
白い光が、吉澤を包む。
エレベータは無人ではなかった。中に、男がいた。
吉澤は驚いて、ブレスレットをぎゅっと握る。
そして、その男が、知っている人間だとわかると、小さく息を吐いた。
―――――なんだ、そうだったのか。なるほどね。
- 99 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:29
- 抑揚のない口調で吉澤が尋ねる。
「降りないんですか」
諦めたように、男がエレベータから降りる。
政治家で言えば、小沢一郎に似たその男は、二ヶ月前、吉澤が卒業を告げた時
とは全く異なる驚きの表情を浮かべいていた。
「いや、違うんだ吉澤」
「誰にも言いませんから」
でもそれは、あんたのためじゃない。この言葉は、目だけで言う。
吉澤は山崎の横をすり抜けるようにしてエレベータに乗ると
1という数字を肘で押す。
- 100 名前:第二章04年12月9日・東京 投稿日:2004/05/23(日) 01:31
- この箱の空気は、猛毒だ。吸ったら死ぬ。
そう言い聞かせて息をとめる。
吸いたくない、吸いたくない、あの男の触れた空気など、、、。
身体をくの字に折り曲げて、吉澤は耐えるが、エレベータは速度を変えない。
吉澤は、ついに呼吸をしてしまう。
悔しい、と思う。
自分の息を止められなかったことが、悔しい、と。
- 101 名前:FR 投稿日:2004/05/23(日) 01:32
-
本日は、ここまでです。
以上で第二章は終わりです。
- 102 名前:ななし 投稿日:2004/05/23(日) 01:35
- リアルタイム!
ヤッバイ、、、ハマりまくりです!
次の更新も心待ちにしております。
- 103 名前:FR 投稿日:2004/05/23(日) 01:38
- 61 名無し飼育さん
そういうふうに言っていただけけて、うれしいです。
そういう、信頼みたいなものにちょとでも肉薄できたらと思います。
62 JUNIORさん
レスありがとうございます。励みになります。
- 104 名前:FR 投稿日:2004/05/23(日) 01:39
- 102 ななしさん
あ、リアルタイムですかー。なんかうれしいものですね。
また見に来てみてください!
- 105 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/05/23(日) 01:57
- 名作の予感・・・
- 106 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/23(日) 02:02
-
最高・・・・はまりました。
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/23(日) 02:11
- 初小説とは思えないっすね
レベル高ぇ〜
- 108 名前:JUNIOR 投稿日:2004/05/23(日) 11:10
- 更新お疲れ様です。
ほんとに初小説ですか?
すごい文才だ・・・・・・・・・。
次回も楽しみにしてます。
- 109 名前:ましろ 投稿日:2004/05/24(月) 23:33
- 今日、初めて全部読みました。
深い・・・。ため息でますね。
お互い認め合ってる部分はあるのに、だんだん何かがずれてきて、
そして、その溝はどうしようもなくなってきていて・・・。
心の交錯具合がかなり痛いです。
現実のいしよしの二人のずれや溝も、こんな感じじゃないかなって
思う部分があります。
いやぁ、ハマりました。まじで。
- 110 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/05/29(土) 12:00
- ずっとROMってましたが、初めてレスします。
何て言っていいか分からないんですが、とにかく読んでいて
胸がギュっと苦しくなっています。
でも引き込まれてしまいます。
頑張って下さい。
- 111 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:14
-
12月31日、NHKホール。
いよいよだなぁ、と吉澤は思った。
ピンと来ない。明日からは、もう、、、、、。
てゆーか明日とかじゃなくて。
あと数時間で、私、吉澤ひとみは、モーニング娘。という船を降りる――――。
- 112 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:15
-
石川の部屋に行った日の翌日も仕事があり、吉澤は石川と顔をあわせた。
吉澤は自分から「おはよ」と言った。用事があれば普通に声をかけて話した。
いつも通りにふるまった。
吉澤はそれを自分の強さだと思いたかったし、石川にもそう感じて欲しかった。
しかし、心の奥底では、
「受け止めきれてないだけだろ?直視したくないだけだろ?」
という自分の声が反響していた。それを黙らせることはできなかった。
- 113 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:16
-
紅白歌合戦の本番は19:30からだが、
午前中からモーニング娘。は楽屋入りしている。
今はちょうど昼食の時間で、六期と七期のメンバーは昨日の
「ハロプロ年末ライブ〜来れるヤツはみんな来い!スペシャル〜」について
興奮さめやらぬ様子でしゃべりまくっている。
- 114 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:18
- 「まさか後藤さんがパラシュートで空から来るとは思わなかったよねー」
「矢口さんの象ってあれから、、、」
「吉澤さんのプチモ、、、」
「稲葉さんが会場を、、、」
「肉まんの湯気が、、、」
「アタラシイ曲ノ振り付けッテ、、、、」
:
:
:
とにかくいろいろなことが起こったライブだった。
- 115 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:19
- 後藤は、当初スケジュールが合わず、参加しない予定だったがどうしても吉澤
と歌いたくて、数日前、生放送中に「あのー、空から、私を、横浜スタジア
ムに落としてくれる人、いませんかね」と発言し、応えてきた人の厚意により、
ヘリコプターからパラシュートで舞い降りた。「あは。間に合った〜」と笑って。
矢口は、スタジアムまであと少しという高速道路上で事故渋滞に巻き込まれた
が、たまたま矢口の乗る車の前のトラックにサーカスの象が乗せられている
のに気づき、マネージャーの制止を振り切って、象を荷台から出し、乗り、
路肩を走らせ、スタジアムに駆け込んだ。
吉澤は、「ぶっつけ本番!ロシアンルーレット」というコーナーで
あたってしまった「プチモビクス」を「ありえねーよ!」と赤面しながら
久しぶりに踊った。
稲葉貴子は、会場の横浜スタジアムを横浜アリーナと間違えてずっとみんなを
待っており、気づいたときにはどうしようもなかったので無人の横浜アリーナ
前からFOMAのテレビ電話を通じてひとり、アカペラで『宇宙でLa Ta Ta』
を歌い、マルチビジョンにつないでもらった。
- 116 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:20
- 肉まんは、、、、
「せっかく中華街に近いのだから
早起きして来てくれたお客さんに肉まんをおごりたい!」
という娘。たちの熱い希望で、スタジアムの外野いっぱいに無数の蒸し器を
並べて約20000個の肉まんを蒸したことを指す。ライブの時刻が、お店の
営業前だったことが幸いし、中華街の多くの店から肉まんと蒸し器を調達する
ことができた。さらに、蒸し器から立ち上る湯気が独特の演出効果を生んだ。
(終演後、肉まんはスタッフから観客全員に配られた)
アタラシイ曲、というのはつんくが吉澤卒業にインスパイアされて急遽
書き下ろした曲で、おそらく次のシングルのカップリングになるのではと言わ
れている『レとイとビ!』という曲だ。昨日のライブで最初で最後の吉澤バー
ジョンとして披露されたのだが、まだダンスができあがっておらず、小川が
「吉澤さんのために、私がダンスを考えましたぁぁああ!」
と言って、仮ダンスの形で公開された。サビの部分はこんな感じだ。
- 117 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:22
-
レ!(飯田・道重・亀井)
連絡するよ(吉澤)
イ!(矢口・紺野・小川)
いつかぜったい(藤本)
ビ!(新垣・田中・ムス)
びっくりして笑いあう(高橋)
レとイと(菅谷)
ビ!(ムス)
Let it be!(石川・吉澤)
この「レ」「イ」「ビ」を身体で文字の形をつくってキメる、という
のが小川の構想であったが、やってみるとそれは「レ」「イ」「ク」に酷似して
いた。藤本に「似てるうえに、古っ」とツッコまれていたのは言うまでもない。
- 118 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:23
- そんなふうに年末スペシャルは、準備不足がかえって奏功し、
娘。たちの意気込みが反映された貴重なライブとなったが、
矢口の象による路肩走行に道路交通法違反の疑いが浮上したため
DVD化は見送られ、ファンの間で『幻の吉澤SP』と語り継がれることとな
るのだった。
楽しかった、と吉澤は前日のライブを思い出す。
飯田の「みんなーー起きてるかぁーー?目覚めの一発、いきまーす」
というMCで一曲めは『モーニングコーヒー』。
最後の曲は吉澤が好きな『ダディドゥデドダディ!』にしてもらった。
一回きりの青春
Oh yeah! Oh yeah! Oh yeah!
だから いいんじゃん
:
:
:
- 119 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:24
- 吉澤は、歌っているときは、何もかも忘れることができた。
花束贈呈はやってもらいたくなかったが、そういうわけにもいかないらしく。
石川は、何と言って渡してくれたっけ。
同期として、支えてくれてありがとう、と言ってくれた。
うん。
うん、そうだね、と思った。
涙は出なかったが、冷たい気持ちでもなくて、、、、。
あのときの気持ちは何と言えばいいのだろう。
むなしさ、かな。
「よっすぃー、石川―、ちょっと来てー」
飯田に呼ばれて、吉澤は、ハッと顔をあげる。
- 120 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:26
- 「ピースとミスムンのつなぎのとこ、最終確認だって」
紅白で、モーニング娘。はメドレーをやることになっていた。
『浪漫』『バスコ・ダ・ガマ』『ピース』ときて、最後に1コーラス『ミスムン』
があり、吉澤のThe future is mine.でしめるという構成だ。
吉澤に始まり、吉澤に終わる。卒業をかなり意識したメドレー。
ステージ上で飯田と石川と吉澤がディレクターと立ち位置の確認をしていると、
ドカドカと大きな足音で誰かが近づいてきた。
「だから、どうして、変えたらいけないんですか!?」
坂本龍一だった。坂本が、ディレクターにくってかかる。
「歌詞をちょっと変えるだけなんですよ。尺も変えません。
カメラ割りも、そのままでいいです。何の不都合があるんですか?」
- 121 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:27
- 坂本龍一もまた、今年の紅白の目玉のひとつであった。
アフリカ、アジア、ヨーロッパなどから集まった数カ国のミュージシャンとの
ユニットで出場が決定していた。ユニットの一部のメンバーは自分の国に
いながら、衛星中継でセッションに参加する予定であった。
「坂本さん、さっきもご説明した通りです。政治的なメッセージは紅白に
合わないんです。申し訳ないんですが」
「政治的って、、、」
言いながら、坂本はそこに飯田、石川、吉澤がいるのに気づいた。
「この子たちの、、、モーニング娘。の“ピース”がよくて、
どうして、僕らの“NO WAR”って歌詞がダメなんですか?同じでしょ?」
- 122 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:28
- 「いや、それは、話がめちゃめちゃですよ……まいったな」
困惑するディレクター。急に自分たちに話がふられて、飯田も困惑する。
「じゃあ、ピースやっちゃダメなんですか?」と飯田。
「え、そうなんですか?そんな……」と石川。
「だったら別の曲ですよね、変更ですよね、メンバー呼んで来ないと」と飯田。
「私、呼びにいってきます!」と石川。
走り始める石川。
ディレクターと吉澤の声が重なる。
「ちょっと待って!」
「教授さん!」
- 123 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:30
- 立ち止まる石川。坂本は、吉澤のほうを振り向く。
吉澤が一語一語かみしめるように話し始める。
「『ザ・ピ〜ス!』っていうのは、確かに、ほんとは平和っていう意味
なんですけど、この曲の場合は、ちょっと違ってて、それだけじゃなくて、
普通の毎日の、ちょっとした出来事とか、
うれしい気持ちとかのことを、歌ってるんです。
好きな人が、お昼に何食べたかなとか、愛しい人が、正直で、
正直に接してくれて、だから、全てを受け止めようと、、、、、、、思ったり」
何かを思い出したように、吉澤の視線が宙をさまよう。
あの人は正直に「忘れて」と言ったんだよなぁ。だとしたら、、、、。
―――――全てを、受け止めよう。
- 124 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:31
- あれ?なんだこれ?
頬をスッと走る水滴の感触に吉澤は驚く。
坂本は、モーニング娘。を泣かせるつもりはまったくなかったので慌てた。
「うわ、あぁ、ごめんごめん。そういうつもりじゃないんだ。あぁ、ごめんね」
この話はまた後で、とディレクターに告げながら、坂本は足早に去っていった。
ぎゅっとまばたきをひとつして、小さく息を吐くと、涙はそれ以上流れなかった。
素早く目もとをぬぐって吉澤はディレクターに言う。
「余計なこと言ってすみませんでした。位置、ここですよね?」
- 125 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:33
-
右の頬に石川の視線を感じたが、そちらに目を向けることはしない。
吉澤はステージ中央に貼られた、立ち位置を示す白いテープに
つま先をあわせ、まっすぐに立つ。
無人の客席を見つめる。赤い座席が並んでいる。
皆、吉澤は卒業直前で少しナーバスになっているのだろうと思った。
石川だけが吉澤の心の動きを理解できた。自分のせいだと感じた。
でも。
――――― 子どもっぽいよ、よっすぃ。
- 126 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:35
- 石川は、吉澤よりも大人になっているつもりだった。
仕事への取り組みも、つきあう相手も、考え方も、すべて。
もう大人だ、と思いたかったのは、自分が子どもだったからだ、と
石川が気づくには、もう少し年月が必要だった。
「石川さんも、位置、お願いします」
ディレクターに促され、吉澤の前に石川が立つ。
――――― きょうの梨華ちゃんは、ハリネズミ。
吉澤は石川の背中を見てそう思う。
吉澤は、歌っているとき、石川の背中を見れば、
石川のコンディションがだいたいわかった。
調子よさげ、羽根、生えてそう、とか、
きょうは元気ないな、鎧着てるみたい、とか。
- 127 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:36
- 今、目の前にある石川の背中は、
ぶわっと針を逆立てたハリネズミを連想させた。
そんなに威嚇しなくてもいいじゃん。
最後なのに、と吉澤は思う。
- 128 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:37
-
「第55回 NHK紅白歌合戦!」
進行役のアナウンサーが高らかに声をあげる。
華やかな音楽が鳴り響いて、番組が始まる。
吉澤ひとみがモーニング娘。を卒業する瞬間が近づく。
- 129 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:39
-
他の歌手が歌っているのを控え室のモニターで見ながら吉澤は思う。
歌って、ぜってー終わる。
いい歌は、長く感じない。時間を感じない。時間を超えちゃってる。
超えちゃってるけど、でも、いつか、ぜってー、終わるのな。
終わらない歌なんて、ない。
もし。
もしもだよ?
終わらない歌があったとして、あたしは、きょう、それを歌いたいかな。
「モーニング娘。さんスタンバイお願いしまーす!」
- 130 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:42
- 円陣。舞台の袖で飯田が言う。
「きょうは、よっすぃの、最後のステージです。
みんな、気合入れていくよ!がんばっていきまっしょぉおいっ!」
『もっと恋セヨ乙女』出演者チームの巨大スルメイカうちわによる応援の後、
司会者の紹介を受けて、吉澤がマイクを持つ。
「私、吉澤ひとみは、きょう、このステージをもって、モーニング娘。を
卒業します。今まで応援してくださったファンの皆様、本当に、ありがとう
ございました。そして、これからもモーニング娘。をよろしくお願いします」
台本通りの短い挨拶ではあったが、心をこめて言う。
どこにも嘘のない言葉。
澄んだ湖面をイメージして吉澤は位置につく。
イントロ。
吉澤が前へ出る。
歌が、始まった。
:
:
:
- 131 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:44
- :
:
:
:
:
The future is mine!
吉澤の恥ずかしそうな、困ったような笑顔のアップ。
「ありがとうございました!モーニング娘。でした!」
客席に大きく手を振って吉澤はステージから去る。
歌えば歌うほど、終わりに近づくこの世界で。
またひとつ、歌が終わった。
- 132 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:45
-
フィナーレが済み、モニターには無事、「ゆく年くる年」が映っている。
楽屋。
メンバーが吉澤の周囲に集まる。
泣き顔、笑顔、笑顔、泣き顔、、、。
花束、花束、花束、、、、。
吉澤の表情に、曇りはない。
「ほらほら、泣かねーの」
「またごはん食べにいこう、ねっ」
周囲に明るく声をかける。
- 133 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:45
- ハロプロオールスターズとして出場していた後藤や松浦、安倍、辻、加護、
中澤、保田、アヤカ、稲葉も来た。
カントリー、メロン、前田、、、どんどん人が増えていく。
吉澤を囲んで、撮影大会が始まる。
皆、カメラを持つと、とたんに元気になる。
喧騒と笑い声で満ちてゆく空間。
- 134 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:46
- 「ほい、じゃー、次は4期で撮ったげるよー」
と後藤が吉澤に言う。
「撮って撮ってー」と辻加護が来た。
吉澤がぴょんっと跳ねて楽屋を見渡して叫ぶ。
「石川っ!いーしーかーわぁぁああ!」
楽屋がたくさんの人でごったがえしていてよかった、と吉澤は思う。
その人の名前を、大きな声で呼ぶことが、こんなにスッキリすることだとは。
「バカヤロー!」と叫ぶ頑固一徹の気持ちが改めてよくわかる。
「いま、一徹みたいだったね」
思いがけず近くにいた石川が言う。
- 135 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:48
- 吉澤は驚いて反射的に振り向きながら返事をする。
「え?なに、、、わかった?」
「うん。なんか、わかった」
「とうちゃーん」
「かあちゃーん」
ひとすじ、ふたすじのノリで加護と辻がピタッとふたりに寄り添う。
石川と顔を見合わせて笑ってしまう。ほんとは、そんなの、おかしいんだけど。
でも、こうして、目を見て、笑えてしまうのも本当だ。つくり笑いではなくて。
この場の空気が見せた一瞬の幻だとしても。確かにそこにあった幻。
「ほい、今の表情いただきました〜」
そして、この瞬間、シャッターを押してくれた後藤に、吉澤は感謝する。
心から。
- 136 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:49
-
後藤と辻・加護がじゃれ始めた隙に、吉澤は石川に話しかける。
「ねぇ」
「なに?」
「てきとーなとこから、てきとーなとこまで、忘れたから。
だから、今度会うときは、別人だよ、あたし。
きっとさ、『はじめまして』とか言うよ。
そうしねー?お互いにさー『はじめまして』って言うことにしねー?」
- 137 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:51
- 吉澤は一気に話す。
本当にそんなことができるのか、わからない。
会うことがあるのかも、わからないけど。
いいじゃん、仮定の話だし。
最後に仮定の話ぐらい、しても、さ。
「そうだね」
石川の声から表情が消えている。
吉澤は思う。
わかってる。さっきの笑顔で、魔法は終わり。
これ以上話すと、ウザくなる。
だから。
「もう、行くよ」
―――――さよなら、梨華ちゃん。
- 138 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:53
- 吉澤は壁の時計を見あげる。
抱えきれないほどの花束とともに人波を掻き分けて、
隅のほうでぼんやりしている飯田のところへたどり着く。
「カオリン、この花束ぜんぶ、置いてっちゃってもいいかな?」
- 139 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:54
- 「なんで?」
「だってさ、持って帰って、結局捨てたりすんの、やだし、、、」
「じゃあ、この後ろに置いてきな。なんとかしとくよ」
「ありがと!さっすがリーダー!」
「……カオリは、、、いいリーダーかなぁ、よっすぃ?」
「あったりめーじゃん。何言ってんの。
吉澤は、カオリンに、めちゃくちゃ助けてもらったよ」
「カオリも、よっすぃがいなくなると、バカできなくなって、さみしいよ」
吉澤は、ハッとする。そうだね。そうかもしれない。
あー、でも納得しちゃダメじゃん。
- 140 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:55
- 「……バカはねぇ、するもんじゃなくて、なるもんなんだよ!!」
とりあえず、思いついたことを大きな声で吉澤は言ってみた。
「は?」
「バカ、全然OK牧場!もっともっとバカでいこうよ、カオリン!」
「わかった、バカになるよ、カオリ!」
「おーよ!」
拳をぶつけあうふたり。ひとしきり笑ったあと、吉澤が切り出す。
「それでさぁ、あたし、そろそろ、、、」
「もう?」
「うん。みんな、明日も朝から仕事でしょ。早く帰って寝た方がいいし。
あたしがいるとみんな帰んないからさぁ」
わざと乱暴な口調で吉澤が言う。
確かにそうね、と飯田は思う。そういう気遣いができるコなんだよね、よっすぃは。
- 141 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:56
-
「でも、、、、、」
「いーの、いーの。なにげに帰りたいっていうか、、、、」
―――――また明日会えるみたいに帰りたいんだ。
頭に浮かんだこの言葉を、吉澤は言えなかった。
言ったら、泣いてしまう気がして。
「すぐ会えるよね?よっすぃ」
「うん、3月いっぱいは日本にいるし。それまでにご飯たべに行こう」
- 142 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 00:58
- 吉澤は、一般には公表していなかったが、メンバーにはNYに行くことを知らせていた。
「そうだね、行こうね、ご飯」
「うん。連絡する」
嘘じゃない。連絡は、するだろう。
でも、きっと、都合は、つかないだろう。そういう仕事だ。
次に会うのはずっとずっと先になるだろう。
それをふたりともわかっている。
「じゃ、行くわ」
「待って。カオリ、今、バカになるから」
「え?」
- 143 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 01:01
- 「みんなーーーーーー、ちゅうもーーーーーく!」
「よっすぃが、帰りまーーーーす。
みんなで、エールを、送りまーーーーーす。
いいですかぁぁぁああああ!」
ざわめきが、静けさへと姿を変える。
飯田が、応援団風に、姿勢を決める。足を広げて腰を落とす。
片手ずつ、手を水平に広げながら、ぶっとい、ぶっとい、声を出す。
「フ レ ェ ェェェェェェェェええええ、
フ レ ェ ェェェェェェェェえええええええええ、
よぉ・しぃ・ざぁ・わぁ!」
フレッフレッ
よ・し・ざ・わ!
フレッフレッ
よ・し・ざ・わ!
拍手と歓声――――
- 144 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 01:02
-
「ありがとうございましたっ!」
吉澤が一礼して、顔をあげる。みんなの顔を見渡す。
泣いてるコもいるから、吉澤もちょっと涙が出そうになって唇をかむ。
―――――泣かないよ。ぜってー泣かねぇ。
吉澤は、あわてて片手をあげて、くしゃっと照れたように微笑むと、
足を踏み出す。ドアの向こうへ。
- 145 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 01:04
-
帰宅すると、父、母、弟、が小さな花束を持って吉澤を出迎えた。
「おかえり。がんばったね」
吉澤は我慢しようと試みたが、成功しなかった。
いったん流れ始めた涙は、徐々に勢いを増すばかりで。
吉澤は、初めて、声をあげて泣いた。
- 146 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 01:06
-
家族と少し食事らしい時間を過ごして、吉澤は、部屋でようやく、
ひとりになる。
窓を開けて、空を見上げる。
ふぅ。。。
寒いけど、風が肌に直接あたる感じ、きらいじゃない。
オリオン座が見える。
北極星は聞いたことあるけど、南極星ってないのかな?
わからない。
知らないことって世の中にいっぱいある、と吉澤は思う。
そして、私はこれから、知らないことをたくさん知るだろう。
新しい世界で。
そう、明日、目が覚めたら、私は、全然違う世界にいる!
すげーじゃん。
そう思って、吉澤は少し元気を取り戻す。
- 147 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 01:07
-
「うぅー、さみー」
でも、もう安心して風邪ひいたりできるんだ。
吉澤は窓を閉めてカーテンをひき、机の上の大きな封筒を手に取る。
とりあえず、明日、朝イチで、この、自動車教習所の申し込み書類に
記入して、そして、それを提出しに行こう。
天気、どうかな、きっと晴れるね。
吉澤は書類の端をタンッと揃えて机の上に置くと、ベッドにもぐりこむ。
- 148 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 01:08
-
吉澤は、いつも1月1日から働いていたので、
たいていの企業や学校が正月は休みだということを、すっかり忘れていた。
- 149 名前:第三章04年12月31日・東京 投稿日:2004/06/06(日) 01:09
-
本日は以上です。
第三章はここまでです。
- 150 名前:FR 投稿日:2004/06/06(日) 01:12
- 前回の更新の直後に飯田さん石川さんの卒業発表があって、
こんなネタで書いててアレですが、卒業は、やっぱりショック。はぁー。
105 名無し募集中。。。さん
ありがとうございます。予感は消えたり、灯ったり、消えたり、すると思いま
すがまたときどき見に来ていただければと思います。
106 名無し読者さん
はまっていただけて光栄ですー。ありがとうございます!
107 名無飼育さん
レスありがとうございます。本当に初で。コピペとかノロノロしてます。
108 JUNIORさん
いつありがとうございます。楽しみにしていただけてると思うと気合が
入ります!
109 ましろさん
そうなんですよー、すごい心の交錯具合があるんじゃないか、と妄想が
ふくらんで、どわーっと書き始めてしまったのです。 ありがとうございます。
110 名無し飼育さん
書いていても、せつなかったです。あんたたち、それでいいのか!?
とジタバタしています。またときどきチェックしてみてください。
書き込みありがとうございます。
- 151 名前:JUNIOR 投稿日:2004/06/06(日) 22:31
- 更新お疲れ様っす。
2週間ぶりの更新ですね。待ってました。
次回も心からお待ちしております。
- 152 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:32
-
「寒くない服、でも、ヒラヒラしたのはやめて」ってどういうこと?
よくわからないから、白いダウンジャケットに革のパンツとウエスタンブーツ
(凝った模様がお気に入り!)にしてみたけどこれでいい?
ピンポーン。
「はい?」
「ハーイ!イッツ、ヒトーミ!」
「開けまーす」
ガチャ。
「ねぇねぇ、私の服、これでいい?でも珍しいよね、よっすぃが
あたしの着るモノのこと言うなんて」
「あー、ダウンかー。かさばらない方がいいと思うんだよねー。
アヤカ、革ジャンとか持ってねー?」
「探してみる」
- 153 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:34
- 玄関によっすぃを待たせて、私は奥へひっこむ。
きょうは『アヤカの超マジで役に立つ吉澤専用英会話教室・その8・デート篇』の日。
NYに行く前に、時間がある限り英語を特訓して欲しいってよっすぃが言ってきて、
私、アヤカは快く引き受けたのでした。
『Be all right!』でLとRの違いを教えたのが第1回。
よっすぃの英語は雰囲気重視で、発音は適当でしょー?
口のとがらせ方とか、舌の動きとか、
顔の筋肉の使い方から違うのです、英語と日本語は。
よっすぃは、役とか設定があるほうが燃えるって言うので
今日はデート篇でレッスンしようってことになって。
- 154 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:36
- それにしても紅白のよっすぃ、かっこよかった!!
私はめちゃ×2涙もろいから、ミカの卒業のライブでも歌う前から
泣いちゃったけど(自分の卒業でもないのにー!)、
よっすぃは全然そんなことなくて、プロだなぁーって本当に感心した!
一月になると、よっすぃはすぐにクルマの免許を取りにいって、
私と英会話特訓を始めて、結構忙しくしているみたいだった。
あ、、、、、免許。
「よっすぃ、もしかしたら、免許、もう取れたの??
すごいねー2月だよ、まだ」
私はやっと見つけた革ジャンを着ながら、玄関で待ってるよっすぃに
大きな声で話しかけた。
「あれー、バレましたかぁ」
「おめでとう!!・・・・・・じゃ、きょうはクルマ??」
「んー、クルマっていうか・・・・・」
「なんで服とか関係あるのー。オープンカー?」
「ある意味、そう」
- 155 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:37
- バタバタと玄関に戻って、ブーツを履く。
履きながら、よっすぃの服装に気がついた。
「よっすぃ、それ、ツナギっていうんだっけ、黒の、革?」
にやり、とよっすぃが笑った。
「全開バリバリ」
「え?Pardon me?」
「なんだっけ、それ?ぱ〜どぅんみーって」
「なんとおっしゃいましたか?っていう意味。はぁ?とか、もう一回言って、
みたいに、聞き返すときのコトバ」
「全っ!開っ!バリッ!バリッ!です、アヤカ先生っ!!」
- 156 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:38
-
よっすぃはものすごい勢いでクルマの免許、もちろん、
マニュアル(「だってアメ車とか転がしてNYの峠とか攻めたいしー、
炎のペイントとかボンネットにしてー、真っ赤なコルベットとかー」)をとると、
続けて中型二輪の免許も取ったんだって。
すっごーーーい。
本当によっすぃはすごい。でもNYの峠っていうのはよくわからないです、私。
「じゃあ、レッツゴー、アヤカ!」
そう言って、くるり、とむこうを向いたよっすぃの背中を見て、びっくりした!!
文字が、大きな文字が、刺繍してある。
黒い革ツナギに白い糸で。毛筆風の漢字が2文字。
- 157 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:40
- 『本虎』
「ねぇ、よっすぃ、これ、どういう意味?あたし漢字苦手で。。。」
「虎が好きでぇ、でも、ただ、虎っていうだけじゃあ、さびしいじゃん?
だからぁ、『本当の虎』『本気の虎』っていう意味で、、
本虎にしたんだ。吉澤オリジナル・ホントラ・ツナギ!」
「あ、、、そうなんだ。。。。」
よっすぃの日本語のセンスは個性的。
そして私は思い出した!
私は、乗り物が苦手。バイクは怖い!でもこの状況では言い出せない!
全力で、がんばろう。がんばってみせましょう!
それから、実は、今日、よっすぃに言おう、と思っていることがあります。
それは、あとでちゃんと言うからね、よっすぃ。
マンションの前に停めてある黒いバイクは、私のイメージしてたカタチとは違って、
大きなスクーターだった。乗ってみたら、こういうほうが姿勢がラクだったんだって。
- 158 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:42
- 「ホンダ、フォルツァZ、パールサイバーブラック、ヒトミホントラ1号!」
「かっこいいねぇ、それ、仮面ライダーが変身するときの呪文みたい」
「ん、まーね。ほら、起きろ!ホントラ!」
黒い革手袋をポケットから出して、きゅっきゅっとはめながら、
よっすぃが言った。
「あ、光った。言葉通じるの??」
「近づくと、触らなくても目覚めるようになってんだ。なんとかキーシステム」
「へぇー」
「はい、これ、メット」
「ありがと」
「走りながら音楽も聴けるんだよ、スピーカーついてて」
「えー!すごいねー、バイクなのに!?何聴くの?アメリカンなロック?」
「モーツァルト」
「・・・・Pardon me?」
「英語のヒアリング力を高めるにはモーツァルトがいいんだって、周波数的に。
つかまって。行くよ!」
「しゅ、周波数?」
ぶおん!
- 159 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:45
- エンジン音にまじって微かに聞こえてくるバイオリンはモーツァルト。
バラバラなのか、統一感があるのか、よくわからないのがよっすぃっぽい。
私はよっすぃのおなかに手をまわす。
「くすぐったいから、あんまし動かさないでね」
「了解!」
ぶろろろおーーー!
うーーー、すごい風を受けるねー、さむーーい、それにちょっと怖い、
曲がる時、傾くなんて知らなかった!
この傾きはぁぁぁぁああああーーーー
本当にかなり怖いようぅぅうぅぅううぅぅぅううううぅぅ。。。。。。
ああ、やっと停まった。
私は、ほとんど目をつぶっていて、どこをどう走ったのかわからない。
渋谷の、よく行くショップだ、ここ。
- 160 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:46
- よっすぃがフルフェイスのヘルメット(もちろん黒い)を取りながら、
「試着していいですか?ってなんて言うの?」って訊く。
「May I try it on?だよ」
「メイ アイ、トゥルァー イットーン?」
「Good! Rも合格!」
トゥルァーイ、トゥルァーイ、と口の中で繰り返しながら、よっすぃは店に入ってく。
「クレジットカード使えますか?は何ていうの?」
「迷子になりました、は?」
「寒くないですか?は?」
「疲れてないですか?は?」
「頭が蒸れますね、は?」
「晩御飯たべませんか?は?」
「デザートは何がありますか?は?」
「注文したものが来ないみたいなんですけど、は?」
「おしりがかゆいです、は?」
「もう少しつきあってくれますか?は?」
英語の特訓だかふざけてるんだかわからなくなってくるよ、よっすぃ。
- 161 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:49
-
洋服見て(そのツナギにお店の人はビビってた)、
ご飯食べて(やっぱり、ツナギで目立ってた)、
夜の246をよっすぃは走り出す。
ぶおん、きゅるきゅる。。。。。。
やっと止まりました。ほっ。
目を開けると、土手の上。暗い。
「多摩川?」
「そう。なんてことない景色だけど、
向こう岸の灯りがちょっとキレイでしょ?
ほんとはもっとデートっぽい夜景の場所、
探しておきたかったんだけど、まだこれ乗り始めて
4日めだからさ。アヤカ、ほんとはバイク怖かったっしょ?」
「ううん!!全然そんなことないーーーー!」
よっすぃが土手に座る。
そうだ!言おう。言わなくては。私がよっすぃに言いたかったこと!!
- 162 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:50
- 「よっすぃ、あのね、お願いがあるの」
「なに?」
「あのね、、、あの、、、、私が言うのも変なんだけど、ずっとずっと心配で、、、、」
「え、なに?」
よっすぃの横顔が緊張している!
「あのね、、、心配だから、、、一度、忘れてほしいの!」
「や、、な、なにを?」
「今まで、よっすぃが大事にしていたもの」
「え、、、、、」
「当たり前みたいに思ってたもの」
「アヤカ、それ、、、、、なんの話?」
「忘れないと、きっとうまくいかない」
「え、、、、あ、、、、」
「よっすぃ!よっすぃの日本語、このままじゃ心配だから、忘れて!!」
- 163 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:55
- キャ―――――、言っちゃった!ついに言いました。とても重要なこと!
「よっすぃの日本語、ラフなところあるじゃない?
それをね、いったん忘れて、正しい日本語に直して欲しいって思ってるの。
『正しい英語は正しい日本語から』と私は思うのね。
たとえば、主語と述語を日本語でも意識して話すと、英語に変換しやすい!
よっすぃの場合、最初に日本語を直すのが、英語上達の近道だと思う!」
「あ、あははは、あはは。。。」
「そんなにおかしいかなぁ。。。?」
「や、そうじゃなくて、、、その、、あたしの雑な日本語を、、忘れろってこと?」
そう言うと、よっすぃは笑いながら土手の斜面をぐるぐるっところがり落ちて、
大の字になると空の星に向かって叫んだ。
「宇宙のみなさーーん、アヤカは、最高〜〜〜でーーーす!」
「だってねーよっすぃ、カフェで『私はコーヒー』っていうのを『I am a coffee.』
って言っちゃうでしょ?それは間違いなの。間違えないためには
『コーヒーを、私に』って日本語から考え直すと英語にする時に、、」
「わかった!わかったから!アヤカ」
- 164 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:57
- 「あとね、もうひとつ」
「ほぉ?なんでごじゃるか?」
油断してるなー。実は、私の心配は、日本語だけではないよーーー。
「よっすぃ、もっと、自信、持って!」
「・・・・・・」
少しだけど、私はお姉さん。もちろん、プロとしての経験は
よっすぃの方がすごいけど、私の場所からしか見えないようなこともあるよ。
「よっすぃ、ほんと私、すごいと思ってて。よっすぃ、すごいよ?わかってる?
だから、役とかキャラクターとか設定なしでも、照れないで、いけるって。
そしたらよっすぃ、すごくすごく変わると思う」
「アヤカはさぁ、今のあたし、変わった方がいいと思う?」
- 165 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:59
-
「変わった方がいいかどうかっていうより、変わるから、人間は。
だから、どうせ変わるなら、そういうふうになったらいいと思う、ほんとに!」
「変わっちゃうよねぇ、人間は。。。。」
よっすぃは身体を起こして、遠くを見てる。向こう岸の白い灯りを見てる。
そう、人間も変わるし、状況だってどんどん変わってしまうこと、私たちは
よく知っている。私だっていつまでハロプロにいるか、わかんないよ。。。。
あぁ、ていうか、よっすぃ、別のこと考えてる?
たぶん、、、私の勘が正しいなら、、、、梨華ちゃんのことだよね。
よっすぃが梨華ちゃんとの間に何かを抱えてるらしいのは、見ててわかった。
私やまいちゃんと話してるときと、梨華ちゃんと話すときと、空気、
微妙に違ったもん。
- 166 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 01:59
- そりゃ、違って当たり前。同じグループだし同期だし。
だけど、微妙さが、微妙なことに、気づいてしまった。
そして、卒業が近づくにつれて、微妙な微妙さが、
さらに微妙になってた、ように感じて。
それは私の気のせい?それに、きょうだって、
メンバーの近況とか、全然、私に訊かないのは、やっぱり不自然!
いつも明るくて、元気で、強引に見せて気配りの人。
もし、よっすぃが、梨華ちゃんの話をしてくれたら、いつでも、
ちゃんと聞こう、相談にも乗ろうって思ってた。
私はココナッツのこととか仕事のこととか、よっすぃに聞いてもらってたけど、
よっすぃがそういう相談をしてくることって全然ない、そう言えば!
- 167 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 02:02
- だから私は少し待ってみた。
今がその時?話してくれる?
何言われても、驚かないよ。
何のためにサプライズパーティで鍛えてると思ってるのー?
でも、、、、よっすぃは黙ったまま。
お姉さんに相談しろー、相談しろー、しろー、しろーってテレパシーを送る!
でも、、、、、変化なし
「変われるかなぁ、あたし。好きなこと、見つかるかなぁ、ニューヨークで」
よっすぃは、ちゃんと、話を自分に引き戻してから、返事をする。
この人は、まじめだ、と改めて思う。
OK。まだ話したくないんだね?
でも、いつか、よっすぃが誰かに話したくなったときに
一番目か、ええと、二番目には思い出してくれるような友達でいたい、私は。
神様!!
いつも突然、私の都合で思い出してばかりでごめんなさい。
私がこんなふうに考えてるってこと、ちょっと預かってくれませんか?
そして、必要なときが来たら、絶対絶対、よっすぃに届けてください。
- 168 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 02:03
-
星を見上げて気持ちをリセット。
「好きなこと、見つかるといいね、ニューヨークで」
いろいろな気持ちを込めて、そう言った。
「ありがと。。。。じゃ、帰ろっか、、、、送るし!あれ?バイクのキーが、、、」
「えー?」
よっすぃが立ち上がってツナギをバタバタと触る。自分の身体を叩くみたいに。
「キーがないって何て言うの?」
「見当たらない、なくしたっていうニュアンスなら、“The key is missing.”」
「ザ キーイズ、ミスィン!」
「リピートする前に、ちゃんと探してーーーポケットとかーーー!」
- 169 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 02:04
- 「さっき土手をころがったときにポケットから落ちたのかも、、、
カードっぽいキーなんだけど」
「ええーー。こんなに暗くちゃ、探すの大変だよ」
「まいまい、呼ぼう!懐中電灯持って来てって言おう!」
まいちゃんに電話したら、ソッコーで
「アヤカ、ずるーい!」
とか言いながらタクシーで来てくれた。
「だって、英語の特訓だもん」
「それでも、ずるーい。私も呼べーー」
- 170 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 02:05
-
「まいまい、英語好きなの?」
よっすぃがまいちゃんに訊いた。
「嫌い」
「じゃ、いいじゃん」
「そうだよねー」
まいちゃん、よっすぃに言われると、なーんですぐ納得するんですかー?
よっすぃは「ザ、キーイズ、ミスィン!ミスィン!ミスィンスィン!」って
適当な歌を歌って踊ってるし、寒いし、まいちゃんと三人で土手を探して、
やっとキーが見つかって帰るときバイクは三人乗りできないって気づいて。
ジャンケンで私が負けて私だけタクシーで帰ることになった。
- 171 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 02:06
- まいちゃんは「バイクかっこいいーーー!」とかって盛り上がってて、
私はちょっとさびしくて「えー」とか言ってたら、
よっすぃが
「じゃー、もう一軒いこう!すかーらーくガーデンでお茶!決定!
アヤカ、ついてきな!」って。
それで、あわててつかまえたタクシーに乗り込んで、
「あのバイクを追いかけてください!」
って言ったら運転手さんが笑ったので、私も笑った。
- 172 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 02:07
-
246を走る、黒いバイクと、オレンジのタクシー。
横になったり前後になったりして走る。
タクシーの窓を開けたら、風と一緒にきれいな旋律。モーツァルト?
「バイオリン協奏曲の3番だね」と運転手さん。
「そうなんですか」
風で髪がバサバサと暴れる。
まいちゃんがこっちに向かって手を振る。
左手で髪を抑えながら、私も小さく手を振り返す。
フルフェイスのよっすぃは前を向いていて、表情は見えない。
何があったわけじゃない。
日記に書くなら、バイク乗せてもらって、英語の特訓をしましたという一日。
一行で終わってしまうような。
でも、私は、今日のこと、大切に覚えておこうって思った。
- 173 名前:Interlude:アヤカ 投稿日:2004/06/13(日) 02:09
-
本日は以上です。
次回は第4章 NY の予定です。
- 174 名前:FR 投稿日:2004/06/13(日) 02:14
- ミュージカル行ってきました。モーニング娘。大好きだ!と再確認しました。
151 JUNIORさん
レスありがとうございます!
珍味な話かもしれませんが、よろしくです。
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/13(日) 10:28
- すごい・・・。こんな面白い作品があったとは。応援してます!
- 176 名前:JUNIOR 投稿日:2004/06/13(日) 23:55
- 更新お疲れ様です。
黒いバイクカッケーです。
ウチも乗ってみたい・・・・・・・。
次回更新も心からお待ちしています!
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/18(日) 03:29
- 面白いです!!
次回も楽しみにしています。
頑張って下さい!
- 178 名前:FR 投稿日:2004/07/18(日) 21:30
- FRです。更新が遅れています。書き始めたら早いんですけど
書くためのまとまった時間がなかなかとれなくて。
ある程度書きためてから8月末か9月上旬にテンポよく更新再開予定です。
気にしてくださっている方、すみません。
そして、ありがとうございます!!
175 名無飼育さん
こういう話ってやっぱダメなのかなーって思ってしまっていたので
面白いって言ってもらえて少し安心しました。レスありがとうございます!
176JUNIORさん
いつもありがとうです!エネルギーをもらってる感じです。
感謝です。
177 名無飼育さん
レスありがとうございます!
そうだ、書こうっていう気持ちになりました。
- 179 名前:JUNIOR 投稿日:2004/08/04(水) 18:26
- そうなんですか・・・。
作者様のペースで頑張ってください!
それまでまってますので。
- 180 名前:名無し野郎 投稿日:2004/09/06(月) 18:19
- そろそろくるか?
- 181 名前:FR 投稿日:2004/10/23(土) 13:07
- すみません。放棄します。
読んでくださっていた方、ありがとうございました。
申し訳ありません。
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/24(日) 20:00
- マヂっすか!?
- 183 名前:名無し野郎 投稿日:2004/10/24(日) 21:18
- 理由とか述べないよね
まあいいやお疲れさま
- 184 名前:JUNIOR 投稿日:2004/10/24(日) 23:51
- マジで!?作者さんおつかれさんでした。
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 12:54
- _| ̄|○
ここのヨシコとリカちゃんのそれぞれの考え方は自分にとってはリアルでした
この二人の未来に思い馳せる事が楽しみだったのですが
そんな夢も見させてもらえることができたこの数ヶ月間もとっても楽しかったです
ありがとう
おつかれさま
- 186 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/26(火) 20:50
- 今初めて読んでスゲー面白いと思った。
いいセンスしてるよあんた。
放棄は残念だ
- 187 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/29(金) 16:16
- _| ̄|○
めちゃくちゃ残念。
復活はないの?
- 188 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/31(日) 18:14
- 待っていただけに残念。
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