信念ヲ持ツ者
- 1 名前:右京 投稿日:2004/05/14(金) 22:47
- 月で書かせていただいておりますが、
こちらでは別ジャンルの続きのある話を書かせていただきます。
藤本メインのオカルトモノです。
- 2 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:48
- 人々が住む六門世界は3つのエリアにより成り立つ。
ヘルメス哲学――錬金術と呼ばれる学問を熟知し、それを利用する錬金界。
陰陽説、五行説という新たな知識を用いて神道に代わる呪力を行使する陰陽界。
再生医療工学という最先端の再生工学を用いる一般界。
古の昔から3者の長が友好同盟を結び平穏に世界バランスを保っていた。
が、その微妙に保たれていたパワーバランスは崩壊しようとしていた―――――――――
◇◇◇第1話 錬金界からの脱出◇◇◇
- 3 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:49
-
肩に手を当てた後、地面につける。
すると、頭にイメージしていた練成陣が地面に描かれ
そこにあるモノを再構築し、異なる物質に変える。
例えば練成陣の上に壊れた機械とそれを構成していた部品さえあれば再構築して新品同様に戻すことも出来る。
コレが錬金術と呼ばれる、再生医療工学とは違う道を歩んだ化学の力。
錬金術を語るにはもう一つ知っておかなければならないことがある。
何かを生み出すにはその代償に同じ程度のものを支払わなければならない――――これを等価交換の原理という。
それが錬金術の根本。師から最初に学び、そして最後に言われる言葉だ。
- 4 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:50
-
「美貴、これからは自分を磨く道。
だから圭織から出来ることは何もないけど、これだけは忘れないで。
基本を怠るものは成長しない。
美貴には才能がある、だけどそれを伸ばすも殺すも美貴次第なんだからね。」
「はい、飯田さん。」
「それと・・・本当は圭織が行かなくちゃいけないんだけど
・・・美貴を逃がすことが精一杯。ごめんね、ダメな師匠で。」
「そんなことないです。飯田さんはこの世界が混沌の渦に
飲みこまれようとしているのを感じ取ったんですよね。
美貴は飯田さんの意見に共感を持ったんです。
師匠と弟子としてではなく、一人の人間として、一人の錬金術師として。
だから少しも後悔してません。それに・・・なるようになると思います。
神を越えようとする者が神の加護を求めるのは筋違いだとは思いますが
・・・飯田さんも希望の光が見えたから行動に出たんでしょう?」
「フフフ・・・そうだね―――――美貴その通りだわ、ありがとう」
真っ暗な広い空間に壁にかかった無数の灯し火がかろうじて地面を照らす。
遠くでは騒がしく足音が聞こえているが、
ここに近づくにはまだ時間はあることは、音の大きさでわかった。
危機感を持たなければいけない状況だが、藤本と飯田は微笑んで手を差し出した。
これが最後の別れになるということはなんとなく二人ともわかっていた。
ただ、わかっていてもこの場は何としても乗り切らなければならない、
藤本はそう感じ取ってから・・・そうしたのかもしれない。
- 5 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:51
-
「―――っ!!美貴、そろそろここも危ない。急いでっ!!」
「はい――――世界が平和になったら・・・また逢いましょう。」
「そうね、平和になったらね。」
叶わないとわかっている願いを交わして、藤本は踵を返して奥へ続く暗い道を走った。
ただがむしゃらに、ここから脱出することだけを考えて。
「――――強がるところまで似ちゃったわね・・・。
でも、それでいい。その力強さがなければこれから美貴は生きていけないから。
圭織にはわかるよ、この神様からのメッセージはニセモノなんかじゃない。
美貴には険しい道のりが続くけど終わりは闇じゃない、
希望っていう光がちゃんと輝いてるのが見えるんだから。」
右目から流れた涙が頬を通り、一線の道を作る。
それを視線を落としながら手の甲で拭った後、
前を向き直すとそこには30〜40人規模の人だかりが出来ていた。
- 6 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:51
- 「評議会からの反逆は万死に値するぞ、絶対零度の錬金術師
―――――いや、5大錬金術師の一人、飯田圭織。」
「フフフ。まだその呼び名をしてくれるのね、嬉しいわ。」
「余裕でいられるのも今のうちだ。
たとえ、絶対零度の錬金術師といえどこの数は相手に出来まい。」
「甘く見ないでもらいたいわ。
伊達に絶対零度の錬金術師って称されてるわけじゃないのよっ!!!」
飯田は肩にポンと手を当てた後、手の平を前に出して目を瞑った。
すると青白く光った線が巨大な魔法陣を描いていく。
描かれた高級魔法陣からは巨大な氷の槍が無数に飛び出したっ!!
「ここは絶対に守り抜くっ。それが私の役目。最後の大仕事なんだからっ!!」
◇◇◇
- 7 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:53
-
一心不乱に建物から抜け出した藤本は目的地である岬へと向かった。
そこから用意していた船で錬金界を脱出し、
まずは一般界へと逃げる・・・そして身を隠しつつ、中枢を目指す。
隕石が飛来したといわれている特殊磁場層――――忘却の地へ。
「はぁはぁ・・・よし、もう・・・平気」
建物は人々が住む街からは少し離れた森の中に建ってたので、身を隠して移動するには適していた。
足元をふらつかせながらも休みなしに走り続けたおかげで予定よりも早く森を抜け出すことになり、
見上げた空が建物に入る前の漆黒の闇から表情を変えて、明るみを増していた。
急かしていた足を止めて周りを見渡す―――――思っていた以上に静かで追っ手の気配もない。
少し不気味に思いながらも自分の師である飯田の事だ、
見事に追跡者の足を止めているのだろうと藤本は思いゆっくりと歩みを進めた。
「まず協力者を探さないといけない、
・・・果たしてこの危機を理解できる者がどれだけいるのだろうか。
現に錬金界では誰一人として理解者はいなかったと聞いている。
最悪は・・・自分だけを信じろということか。」
- 8 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:53
-
胸に輝く白いペンダントをギュッと握って孤独になった
ということを再認識すると、心に大きな穴が空いたような気がした。
これから自分の肩には世界救出という、
大それた誰にも求められてないモノを背負って生きていかなければならない。
――――――――――たった一人で。
あの時、行動に支障は大きく出たかもしれないが
飯田と一緒に追っ手と戦い、一緒に逃げることも出来たはず。
けれど、それをせずに踵を返した自分を今更ながら後悔している自分が心の中にはいる。
「飯田さん・・・・これからも強がって生きていく為に・・・少しだけ泣いてもいいですかね」
ボソッと小さく呟いた言葉と共に片方の目から涙を流した―――
これからは何があっても泣くことも音を上げることもできない、最後の涙だと自覚しながら。
―――しかし、感傷に浸らせる余裕を与えられなかった。やはり神というものは美貴を見放しているのだろう。
後ろから何か気配を感じて身を強張らせながら振り返るとそこには見慣れた顔の小柄の女性が一人立っていた。
- 9 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:54
-
「魅惑の錬金術師・・・・・・・あなたが自ら来るとは思っていませんでした」
「んー・・・やっぱ藤本は油断できないからねぇ〜。圭織が溺愛した弟子だもん」
「・・・情報だと、矢口さんは外交関係で出払っていると聞いていたのですが」
「あぁ、あれは早めに切り上げて戻ってきたよ。
こんなことが起こるだろうなぁ〜ってなんか直感がね、ピピッと。
でね、さっそくで悪いんだけど・・・漏らさないでくれるかな??その情報。
ウチら評議会だけじゃなくて他の関係者にもバレると不都合な情報なんだよねぇ」
「残念ですがそれは出来ません。こっちにもやることがありますので」
「・・・そっか、やっぱりダメだよねぇ。なんとなくわかってたよ、こーなるってさ。
圭織の負けず嫌い、信念を通す頑固さをそのまま継いじゃったようだね」
「―――――飯田さんの意志は美貴が継ぐ。たとえ矢口さんであっても邪魔のするなら・・・・」
「邪魔のするなら??藤本がおいらに勝てると思ってるの??
アハハッ♪それこそムリな話だよ。これでもこの世界では名が通ってる方だから」
「・・・・やってみないとわかりませんよ?」
ガクッと膝を曲げて体を落としつつ肩に手を当て地面につける。
すると瞬時に黄色い線が現れ、小さな魔法陣を描く――――
低級魔法陣が形成され、その魔法陣からは小さな竜巻が発生し
地面にあった砂利を巻き込んで矢口の視界をふさいだ。
- 10 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:55
-
「クッ・・・はなから戦う気はないってことかよっ、藤本!!」
「自分の実力ぐらいわかります。美貴はここで倒れるわけにはいかないんですっ!!!」
魔法陣作成についた手をそのまま体制を整えるために使い、
態勢を整えると逃げる道も考えずにとにかく走り出した。
船の置いてある岸に向かうのは諦め、まずこの最大の敵の目から姿を隠すことが第一。
しかし砂嵐で視界を塞ぎ、バランスを崩している時間なんて限られている
―――――その短い時間に逃げられるか・・・。
短時間で頭の中でこの危機を脱出する方法を探すが最善策を思いつく時間はさすがに存在はしなかった。
矢口の目の前にある緑の小さい魔法陣――低級魔法陣から伸びた緑色の植物が
美貴の左足に絡みつくようにまとわりつく。
ソレによって、足がもつれ美貴はそのまま体を地面に叩きつけるように倒れこんでしまった。
倒れたまま鋭い視線で矢口を睨むが、見下ろしている矢口は
クスリと笑ったままで威圧感というものを感じていなかった。
- 11 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:56
-
「――――っ!!」
「あんまりバカな行動はとらない方がいいよ?
今だって後ろからグサッと一撃できたんだよ??感謝してよね、おいらを。」
「・・・・やるならやればいいじゃないですか。ただ、死ぬ気はありません」
「あっららぁ〜。こんな状態まだ強がれるんだぁ・・・圭織の最後とそっくりなこと。」
「――――何?!」
「藤本が国立図書館からいなくなった後、圭織がんばってたんだけどねぇ・・・あれは分が悪かった。
重火器を持った兵が40人に、評議会からの錬金術師が1人。」
「誰です?錬金術師って」
「よっすぃ〜、吉澤ひとみ。」
不敵に笑った矢口から出た吉澤ひとみという名前に藤本は聞き覚えがあった。
最高の力を持つ5大錬金術師を師匠に持った見習いの錬金術師として共に稽古をしてきた仲。
互いに励ましあい、時にはキツイ言葉を放って精神を奮い立たせた――好敵手。
矢口の弟子で、錬金術を習い始めた頃から天才という名を独り占めするぐらいの素質と力量。
鍛錬さえつめば、師である矢口をも越えると飯田でさえ褒めたほどの原石。
「勝てない相手ではないけどただえさえ苦戦する相手に、
邪魔が入るんだもんねぇ・・・おいらでも切り抜けられる自信ないわ」
「・・・それで飯田さんは」
「まぁ、藤本には悪いんだけど・・・よっすぃ〜、手加減知らないからね」
「くそっ・・・」
- 12 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:58
-
下唇を噛んで事実から逃避しそうになる思考を痛みで現実に戻させる。
唇からは血が流れて赤い線を作った。
「おいらも悪いと思ってるんだよ?
なるべく殺さないように平和的に解決しろって言ったんだけど・・・ダメだったみたい。
先に一般兵とドンパチやっちゃってたから会話もクソもなかったんだってさぁ〜。」
「・・・」
「だから罪滅ぼしと言っちゃなんだけどさ、藤本は殺さないであげようかなぁって思ってるんだ。
まぁ情報は返してもらうけど。
どうせ、あの短期間だから頭の中にしかないんでしょ??記憶という形でしか」
「・・・・さぁ?」
「まぁ、いいや。藤本には今後、こーゆう世界に関わってもらいたくないからね」
そう言うと左足だけに絡みついていた植物が全身を覆い、体の自由を失わせる。
そして矢口は肩に手を当てた後、美貴の前髪を払いのけて額に手を当てた。
「なっ・・・何をっ?!」
「バイバイ、藤本。これからは幸せな時間を過ごしてね」
美貴の額に青白い線が魔法陣を構成していく――――それと共に全身に痺れのような激痛が美貴を襲う。
- 13 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 22:58
-
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
―――――――――――藤本の記憶はここで全て失われた。
- 14 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 23:00
-
- 15 名前:錬金界からの脱出 投稿日:2004/05/14(金) 23:01
-
- 16 名前:右京 投稿日:2004/05/14(金) 23:01
- Today's Update
>>2-13
※錬金術師が魔法を使うのは仕様です。
- 17 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/15(土) 15:43
- おおぅ、錬金術・・・。
面白そうです。
期待してますw
- 18 名前:我道 投稿日:2004/05/15(土) 16:49
- 初めから気になる展開・・・。
これからもチェックさせていただきます(ペコリ)
p.s 読者としては初めましてでしょうか?名もなき読者様。
このレスを見て頭にきたら、スイマセンです・・・。
- 19 名前:右京 投稿日:2004/05/17(月) 20:36
- >>17 名も無き読者様
拙い文章ではありますが、
今後も見ていただけると嬉しく思います。
序盤は全然錬金術は出ませんがご了承を。
>>18 我道様
勢い任せの文章なので表現方法が乏しいのですが
これからも見ていただけると嬉しいです。
今回はとりあえず次回への予告を。
本文自体は近日中にUPします。
- 20 名前:右京 投稿日:2004/05/17(月) 20:36
- ―――――とても平凡な朝。
「藤本さんっ!!」
「わかったよ、わかったって。
朝からそんなに怒っちゃうなんて美容に良くないよ?アハハッ♪」
―――――テーブルには真っ白なご飯、具がジャガイモな味噌汁。
そう・・・これが美貴の生活。
失くした記憶の部分もきっとこんな感じなんだろう。
―――――藤本さんって弱いんですね。
「何がわかるって言うんだよ。
記憶のない者の苦しみなんて当事者しかわからないんだよっ!!」
―――――どうして?どうして?という単語が頭の中に駆け巡る。
「――――これを見てください。」
「それって・・・」
信念ヲ持ツ者
―― 第二話 「失くした記憶」
- 21 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:46
- 瞼の上から当たる光が眩しくて、
藤本は手の甲で目を覆いながらゆっくりと起き上がった。
ベッドから離れて、椅子にかかっているブラウスジャケットを羽織る。
光の差し込む窓を全開すると、一気に潮の匂いが鼻腔を擽り光が反射して
キラキラ光る巨大な宝石のような海が一面を覆う。
背伸びをしてそれらを全て受け取ると机の上にあった指輪を
人差し指にはめ、藤本は寝室を後にした。
岬に立つ灯台の1階部分を大改造して作られた
居住スペースの寝室からそう遠くはない台所へ向かう。
――そこにいる彼女に日課の挨拶をするために。
◇◇◇第2話 失くした記憶◇◇◇
- 22 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:47
-
「うぅ〜ん、いい香り。味噌汁の具はジャガイモが一番ですね・・・・
あっ、サツマイモもやっぱり捨てがたい・・・・」
いつもの白衣姿からエプロン姿に変わるこの時は後姿にせよ愛おしい気持ちを増大させ、
危ないとわかっていても抱きしめたい気持ちを抑えることはできない。
藤本はその華奢な体をギュッと抱きしめて首元に頭を埋めると
ぷにぷにとした頬の持ち主は真っ赤になって身を強張らせた。
「紺ちゃ〜ん、おはよ。ってゆーかさぁ、
そんな力入れなくてもいいじゃん。いい加減慣れようよ。」
「な、慣れるとかそーゆう問題じゃないと思うんです。
どちらかといえば、その・・・行為自体を辞めていただけるとありがたいんですけど」
「あぁー、それはダメダメ。だって紺ちゃん抱きしめてると落ち着くんだもん」
「わ、私は抱き枕とかそーゆう癒し系の類ではありませんし・・・」
「んー・・・まぁいいじゃない。紺ちゃんも嫌いじゃないでしょ??
ん?チューもして欲しいならしてあげるけど??」
「そんなこと言ってませんっ!!
ほら、料理冷めちゃいますから早く席に座ってくださいっ」
「もぉー、恥ずかしがり屋なんだからぁ♪」
「藤本さんっ!!」
「わかったよ、わかったって。
朝からそんなに怒っちゃうなんて美容に良くないよ?アハハッ♪」
- 23 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:47
-
怒って顔を赤くしている紺野を尻目に笑いながら木製のイスに腰をおろす。
もぅ!とため息混じりの声を零しながら紺野は味噌汁を
お椀に注いで自分と藤本の分をテーブルに置いた。
テーブルには真っ白なご飯、具がジャガイモな味噌汁、
そして甘い卵焼きという素朴ラインナップ。
素朴こそ最大のウマ味っ!という紺野の考えが丸出しなメニューを藤本は一番好んでいた。
テーブルを挟んで向かい合って座った二人は手の平を合わせる。
「それじゃあ・・・」
「「いっただきまぁーすっ♪」」
とても平凡な朝。
そう、これぐらいでちょうどイイ。
昔からきっとこーゆう生活をしてきたんだ。
朝起きて、大好きな妹をからかって美味しい朝食を食べる。
その後は、妹は趣味の研究。美貴は何もすることがないから、海を眺める。
そう・・・これが美貴の生活。
失くした記憶の部分もきっとこんな感じなんだろう。
でも――――この違和感はなんだろう。。。
片身離さず持っているこのペンダント、それを握り締めると何かを思い出せそうで・・・
断片的に懐かしい思い出みたいなものが感じられる。
全然わからないんだけど、感覚的にこれは懐かしいと思う気持ちだろう。
何か大事なことを大切なことを忘れてる気がする。
――――――けど、思い出せない。
- 24 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:48
-
「・・・さん?・・・藤本さんってば」
「・・・う、うん?どーしたの??紺ちゃん」
「さっきから魂ココニアラズって感じでしたので」
「そんな事ないよ。もしそーだとしても、紺ちゃんに見とれてただけだって」
「もぉー、からかうのはヤメてください!!」
「紺ちゃん可愛いから仕方ないじゃーん」
「うぅ・・・」
反論できなくなって俯いてしまった紺野の頭をガシガシと撫でると
藤本は味噌汁の中にプカプカ浮いているジャガイモを口に放り込む。
紺野はその後、顔を赤くしたまま俯きご飯を食べることに集中していたが
ふと何かを思いついたのか箸を止めて美貴を見上げた。
- 25 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:49
-
「あの、そのペンダントの事なんですけど・・・」
「あぁーうん、どうだった??何かわかった??」
紺野の目線の先にあるペンダント―――
藤本の胸元に楕円形の形をした白く輝く宝石が先端を飾るペンダントを
2週間ほど前に美貴は紺野に調査を頼んでいた。
藤本が海岸に倒れているところを紺野が発見し
看病をしてくれたのだがその際、既に藤本の記憶の一部は消え去られていた。
名前と何故か基本的な錬金術を使えるということ以外の全てを失っており
何故海岸に倒れていたのか、無数の傷は何だったのか。
そして、片身離さず持っていた白く輝く宝石は一体なんなのか・・・。
数多くの謎を持っている藤本の謎の一つである白く輝く宝石のペンダントの正体を暴くため
幅広い分野の研究をしていた紺野にお願いしていたのだ。
テーブルの端に置いてあった資料を閉じたバインダを手に取った紺野はソレを開き、
藤本が見えるようにテーブルに広げた。
- 26 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:49
-
「色々調べてみたのですが、根本的に私達が住んでいる世界・・・
一般界、そしてその他二つの世界・・・錬金界、陰陽界
全ての世界において存在しない物質だということがわかりました。」
「じゃあ、なんでコレを美貴が身に着けていたのかっていうのは、わからないままなんだ?」
「はい。・・・ただ、推測ができることはあるんです。」
「なになに??」
「文献でしか見た事はありませんが、
それは伝説とまで言われたモノかもしれません。
でもまだ証拠がないので言えません・・・
余計な不安を持たせる事になりかねないので――すみません」
「紺ちゃんが謝る事なんてないよ。
そっか・・・・とりあえず今言える事は、誰にも奪われないようにしろってことでしょ?」
「そうですね、きっと何か重要なモノ・・・
藤本さんの記憶に関係するものに間違いはないので決して奪われないようにしてください。」
「うん、ありがと紺ちゃん。」
- 27 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:49
- 「いえ、そんなお礼を言われるようなことは。・・・それともう一つ藤本さんにお話があるんです。」
「ん??」
「藤本さんの右肩に刻まれている六芒星と鎖のタトゥーなんですが、
それは錬金界の錬金術師の印なんです。
それも5大錬金術師の弟子が修行を終えると刻むと言われる六門紋章。」
「六門紋章?」
「はい。錬金術師の世界では世襲という制度があって、
術師候補である弟子は師匠である錬金術師から全ての技を習得すると
右腕の肩に鎖状のタトゥーを刻むんです。
そしてその鎖状のタトゥーにもランクがあって、
錬金界最高の術師である5大錬金術師の弟子は
鎖状のタトゥーとは別に六芒星も印として彫るんだそうです。」
「それが美貴の腕にもあるんだ。」
「だから藤本さんは錬金術が使える、それも高度な練成まで――――完璧です」
「なるほど。」
- 28 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:50
-
藤本は最後の卵焼きを口に放り込みながら、
服の上から右肩のタトゥーのある部分に触れる。
藤本に六門紋章があるということは、
錬金界の住人ということが証明されたということ。
そして住人でも特殊な錬金術師であり、
その中のトップである5大錬金術師の弟子であるという・・・。
その事実を知り、藤本は・・・・どうしたらいいのか・・・どうしたいのか。
自分を知りたいということは今でも思っていることだが、
それを拒むことで今の生活を続けられる。
何か感覚的に、昔の自分を求めることによって今の自分を
全てなくしてしまうコトがわかるっているから
余計に迷いという感情が藤本の求めるココロを拘束する。
すると、藤本の気持ちを知ってか知らずか、
紺野はバインダーを閉じて藤本の目をじぃーっと見つめた。
- 29 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:50
-
「・・・藤本さん、旅に出てみませんか?」
「ほぇ??」
「自分を見つける旅です。こんな所にいたって何の解決にもなりません。
傷もだいぶ癒えてきてると思いますし、そろそろこの家を出た方がいいと思うんです。
外へ出る準備はこの通り整っていますし。」
紺野がテーブルの下に置いてあったシルバーの
小さな二つのアタッシュケースをテーブルの上に置いた。
何が入っているかわからないが、紺野が準備をしたということは
何かしら役立つグッズが満載なのだろう。
しかし、藤本はソレを見るとフルフルと首を振った。
- 30 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:50
-
「紺ちゃん・・・・気持ちは嬉しいんだけどね、
美貴このままでいいかなぁ〜って思ってる。
だってさ、のんびりとした時間が流れるこの生活に
居心地がイイって美貴は思っちゃってるんだもん。
それにさ、知らなくてイイコトっていうのも存在するような気がするんだ。
この家を出てしまったら、記憶を――真実を知ってしまったら後戻り出来なくなる・・・。」
「藤本さんがそんな事言うとは思いませんでした。―――――藤本さんって弱いんですね」
「――っ!!」
照れて真っ赤になったり、ふにゃふにゃした笑顔しか
見たことのなかった藤本には驚くほどの豹変した表情だった。
笑みは消え、相手のことを見下したような冷徹な表情。
紺野はそのまま表情を変えずに口を開く。
- 31 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:51
-
「知らなくていいなんて言わせません。
誰もが隠したい事、言いたくない事あると思います。
けど、そんなものを背負っていたって負けずに今を生きてるんです。
でも今の藤本さんはどうですか??
それさえもわからずに今の平穏な生活に浸かろうとしている。
何かを捨てたって、見つけなきゃいけないモノだってある・・・それが今なんです。」
「・・・紺ちゃんに何がわかるって言うんだよ。
記憶のない者の苦しみなんて当事者しかわからないんだよっ!!
それを知っているかのように語らないでくれないかな?」
「――――知りたくもありませんよ、そんな事。」
「はぁ?!」
「そんな弱音なんて知りたくもありません。
弱い自分をさらけ出すことと自分の殻に閉じこもることは違いますよ?」
言われなくたってわかってる、美貴だってそんな事はわかってる。
全てを知らないといけない、この記憶を早く取り戻さないといけないっていう事はわかってる。
けれど・・・けれどっ――――
下唇を血が出てしまうぐらい噛み締めて紺野の目を鋭く見返す。
- 32 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:51
-
「――――わかりました藤本さん、コレを見ていただけますか?」
そう言った紺野はエプロンを取り、着ていた白いシャツのボタンを一つずつ外していく。
「ちょ、ちょっと紺ちゃん?!」
「黙ってみててください。」
超がつく程の恥ずかしがり屋の紺野が
何故こんな行動をしていくのかが藤本にはまったくわからなかった。
どうして?どうして?という単語が頭の中に駆け巡る。
そして、ボタンを全て外した紺野はシャツを脱いで下着一枚の状態になり、
右腕に巻きつけてあった白い布を解いた。
「――――これを見てください。」
「それって・・・」
藤本の目に映る紺野の右肩には鎖のタトゥーが刻まれていた。
- 33 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:51
-
「そうです、私も錬金界の住人でした。
でも理由があって錬金界を抜け出し、この一般界に住むようになりました」
「・・・」
「藤本さんの記憶のない苦しみはわかりません、ただ錬金界から理由は違えど
この一般界に流れ着いたという点では共有するものがあると思うんです。
・・・私も微力ながらお手伝いさせていただきます、藤本さんの記憶探しに。」
「・・・紺ちゃん」
紺ちゃんがこんな恥ずかしい格好をしてまで自分の過去を晒しだしてくれた。
その行動が、その気持ちが嬉しくて・・・・その思いが迷いという鎖が砕いた。
藤本は立ち上がると下着姿のままでいる紺野に着ていたブラウスジャケットをかける。
「ありがとう紺ちゃん。そうだよね、
美貴は・・・美貴であるために失くした記憶を取り戻さないといけないよね。
紺ちゃんがここまでしてくれるなんて思わなかった、ホントありがとう。」
藤本はギュッと紺野を抱きしめる。ついでに赤くなっている耳も齧ると――――
- 34 名前:失くした記憶 投稿日:2004/05/20(木) 15:51
-
「ひゃっ!!な、何やってるんですかぁ!!
言ってる事とやってることが全然違うじゃないですかぁ!!!」
「いーじゃんいーじゃんっ。美貴とっても嬉しかったんだよぉー。
紺ちゃんはやっぱり美貴の妹っ!!愛してるっ♪」
「わっ・・・だからそんな言葉を簡単に
――――やっ!!そんなところ触らないでくださいっ!!」
「たまには過激に攻めてみたり?」
「もぉー!!藤本さんっ!!!!」
紺野がもがいても美貴の長い腕からは逃げられずにいたが、
抵抗をやめるつもりはもちろんなく必死でもがいていると
玄関のドアが轟音と共に突如破壊された。
「「なっ・・・何?!」」
その方向に二人が振り返ると逆光になって顔は見えないが影がヒトツ、そこにはあった。
- 35 名前:右京 投稿日:2004/05/20(木) 15:52
- Today's Update
>>21-34
- 36 名前:第3話 予告 投稿日:2004/05/20(木) 15:55
- ―――――人々が寝静まった夜。
「やっぱりマズイですよぉ・・・昼間にお邪魔した方がいいんじゃ・・・」
「うっさぁーいっ!!誰も住んでないなら昼に来ようが夜に来ようが関係ないじゃんか。」
―――――マヌケな来訪者。
「なっ!なんだっつーのよ、これぇ!!!」
「ってゆーか、そんなあからさまに怪しいモノを押すか?普通」
―――――邪魔をする者。
「ドアって壊して入るもんじゃないんだけど?」
「ノックしても反応がなかったんで壊させてもらいました。」
―――――本能が動かすカラダ。
「ひょっ・・・寒かったなコレ」
「―――っ!!お前、何者だっ!!こんなところに錬金術師などっ」
―――――類稀な素質。
「アンタぐらいのヤツにしてはよく粘ったよ、お疲れ様。」
―――――進むべき道。
「では、行きましょうか藤本さん」
「・・・シカトかぁ〜いっ!!」
信念ヲ持ツ者
―― 第参話 「旅立ち。」
- 37 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/20(木) 17:26
- 更新お疲れ様です。
んひょ!?いきなり気になる切り方を・・・。w
予告、ワクワクさしてくれますねぇ。
続きも楽しみにしてます。
- 38 名前:我道 投稿日:2004/05/20(木) 18:28
- 更新お疲れ様です(ペコリ)
・・・カ、カワイイ!!二人して、カワイイ!
おっとぉ、壊れる寸前でした(苦笑)申し訳。
マイペースに頑張ってください!
- 39 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/20(木) 22:19
- はじめまして。
おっ・・・!錬金術のお話とは!!
私は某番組「ハガレン」とゆうものが大好きです。
さらにみきこんも大好きです。これは偶然ですねー。
お気に入りに登録します。
作者さま、更新待ってます。続きへの期待大です。がんばってください。
- 40 名前:shou 投稿日:2004/05/25(火) 20:26
- はじめまして。更新お疲れ様です。
「・・・シカトかぁ〜いっ!!」にはかなり笑いました。
不思議系はかなり好きなんで期待してます。
自分、文書くの下手なんで不快に思ったら遠慮無く言って下さい。
- 41 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:29
- 「誰も住んでないとはいえ、人の家に勝手に入ったら
やっぱりマズイですよぉ・・・昼間にお邪魔した方がいいんじゃ・・・」
「うっさぁーいっ!!誰も住んでないなら昼に来ようが夜に来ようが関係ないじゃんか。
アンタはソコで見張ってればいいだけなんだからジャマすんなぁ!」
「ちょっとあさみっ!そんな怒鳴ったら何か作動するかもしれないから静かにしなって。
みうな、私達の職業わかってるでしょ??こーゆうコトするのが仕事なんだから我慢しなさい」
「・・・はぁーい」
人々が寝静まった夜遅く、無数の機械が立ち並ぶ部屋の中で身を屈め
コソコソと何かを探している人影が3つ。
気の弱そうな少女が泣きそうな表情を浮かべながら
必死に気の強そうな小柄の少女の服を後ろから引っ張る。
それを横目で見ながら作業に没頭するリーダーらしきスレンダーな人物。
どうやら、この家の盗みをはたらこうとしているらしい。
- 42 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:30
- 「あぁー、もぅ!!どこにもないじゃんか。ホントにココにあるの??
・・・ってゆーかガセネタ掴まされたんじゃない??みうなっておっちょこちょいだもんなぁ」
「あさみさん失礼すぎです、ちゃんとありますから!!ココにあるってゆう情報は確かなんです。
なんせ、管理コンピュータにハッキングして手に入れたんですからぁ」
「そうそう、みうなだってそこらへんは抜け目がないから平気だって。
「わかってるねぇ〜、里田さんっ♪」
「調子に乗るんじゃないっつーの。
・・・あっ、あさみ!そこに光ってるモノって何??」
「う〜ん・・・なんだろう―――――押してみようか、ポチッとな」
「ばかっ!!押すなっ!!!!」
「ほぇ?!」
あさみと呼ばれる少女が光るボタンを押したと同時に突然地面が揺れ、
けたたましい音のサイレンが部屋に響き渡った。
――――ウォォォォォォン、ウォォォォォン――――
- 43 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:30
-
「なっ!なんだっつーのよ、これぇ!!!」
「ってゆーか、そんなあからさまに怪しいモノを押すか?普通」
「う、うっさいなぁ〜!!押したくなったんだからしょうがないじゃんかよぉ」
「これで決まりましたね、あさみさんが一番おっちょこちょいですっ♪」
「うっさいんだよ、みうなぁ!!それより早く逃げないと・・・・あっ!!!」
3人が逃げようと身を翻したその時、
侵入してきた窓やら鉄製のドアに3重にシャッターが下りて脱出口を遮る。
そして天井にあるスピーカーらしきものから声が聞こえてきた――――――
「んぁ・・・ごとー、眠たいんだけど。」
「「「でたぁ!!んぁんぁオバケェェェェ」」」
「失礼なっ。ごとーを何だと思ってるんだこの不法侵入者さん達は。
まぁいいや、ごとー眠いからもう少し寝るね。だからもうちょっとゆっくりしてて、それじゃ!」
「「「寝んじゃねぇーよっ!!」」」
3人のツッコミは見事にスルーされ、朝までその場に取り残されることになった。
- 44 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:31
-
◇◇◇第3話 旅立ち。◇◇◇
- 45 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:31
- 破壊されたドアの前にいたのは、麻のマントで全身を覆っている男の影だった。
藤本は紺野を瞬時に自分の後ろに隠れさせていつも以上の鋭い眼光で睨みつける。
「ドアって壊して入るもんじゃないんだけど?」
「ノックしても反応がなかったんで壊させてもらいました。」
「ふーん・・・弁償してくれんの?高いよソレ、特注だったから」
「あなた方が生きていたら弁償させていただきます
・・・いや、そちらの紺野さんが生きていたら・・・といいましょうか」
「誰だかわかんないけど、美貴には興味ないって??」
「えぇ、名前もわからないザコには興味ありません。邪魔するなら・・・消えてもらいますが」
「一つだけ言っておくよ。・・・・あんただけなんだよ、名前名乗ってないの。
わかるでしょ??――――――アンタの方がザコって事。」
紺野を抱きしめて、這いずるようにテーブルの下へ隠れる。
その瞬間、藤本達の延長線上にあったキッチンが燃えあがった。
「紺ちゃん、ここでジッとしておいて。こんなザコは美貴一人で十分だから。」
「えっ・・・でも・・・」
「これ以上、大事な妹の肌を他の輩に見せたくなんだって。・・・わかって、この気持ち」
「ふ、藤本さんっ・・・」
照れて縮こまる紺野にフフッと笑ってみせ、
前髪を指で撫でて額を露わにさせると唇を落とした。
- 46 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:32
-
「終わったら、ハグさせてねっ♪」
「藤本さんっ!!」
ウインク一つ見せて勢いよくテーブルから飛び出す。
すると、待っていたかのように麻マントはゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れた。
「終わりましたか?別れのご挨拶は」
「んー・・・そんなんやってないから終わってないって言えばいい??
っつーかね、ココ、土足厳禁だから。」
「減らず口はそこらへんにしてもらいましょうか。武器をもたないモノでは勝てませんよ??」
「勝てないかぁ・・・美貴、負けた記憶って
ちょうど持ち合わせてないのね?だからわっかんないなぁ〜・・・」
「――――死ね」
肩にポンと手を当てた麻マントは地面に両手をつける。
手から伸びた赤光りした線が小さな低級魔法陣を作り、そこから炎が飛び出す。
「あっぶないなぁ〜」
その火をサラリと体を捻って避けると
藤本も同じように体を動かし、青光りした線で低級魔法陣を作る。
そこからは冷たい風が巻き起こり、燃えていた箇所は少しも燃え広がらずに鎮火した。
- 47 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:32
-
「ひょっ・・・寒かったなコレ」
「―――っ!!お前、何者だっ!!こんなところに錬金術師などっ」
「アンタだっているじゃん・・・
あぁー、ちなみに名前は言うつもりないから。自分で調べてこいっつーの」
「―――幾度にも渡り侮辱するとは・・・・許さんっ」
自分が弱いからじゃんと口に出そうとする前に、麻マントは肩に手を当てていた。
緑に光っている線の巨大な魔法陣が麻マントの周りを回って、魔法陣を作っていく。
しかし、それが完成する前に美貴は麻マントの懐に飛び込んでいた。
「アンタにはコレだけの魔法陣作るのムリ、記憶なくしてる美貴だってわかるよ。」
「なっ・・・貴様っ!!」
麻マントが反応を示したときには遅かった。
身長に合わない美貴の長い腕が麻マントの頭を鷲づかみ、ソレは地面に強烈に叩きつけられる。
「・・・ぐはっ!!」
- 48 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:33
-
真っ赤な血の池を作った麻マントの下には、ソレの他に白く光る魔法陣が存在していた。
藤本が間髪いれずに肩に手を当てて作成していたのだ。
「コレが最後。アンタぐらいのヤツにしてはよく粘ったよ、お疲れ様。」
「・・・・くっそぉぉぉぉぉぉ」
麻マントの叫び声は魔法陣から放たれる
まばゆい光と共に失われる――――――体が足元からキレイに失われていった。
「ふぅ〜。いっちょあがりぃ〜♪」
藤本は額に吹き出た汗を手の甲で拭った後、しゃがみこんでテーブルの下を覗き込む。
そこには普段以上の驚いた顔をしている紺野が覗き込む藤本の顔を凝視していた。
「もぅ終わったんですか?」
「うんっ。あの程度美貴でも余裕っ♪・・・ってゆーか、どうしよっかこの部屋。」
- 49 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:33
-
テーブルの下の紺野に手を差し伸べる藤本が同時に呟いた台詞。
紺野は藤本の手を掴み、テーブルの下から出てくると
平然とした表情に戻った紺野の姿がそこにはあった。
「だいじょーぶです、ソコのところはバッチシなんで・・・完璧ですっ」
「なんでそんな余裕なのさ?これ直すの大変だぞ、絶対」
「フフフ・・・ちょっと下がっててもらえますか?危ないですから」
「ほぇ!?・・・う、うん」
紺野は隠していたタトゥーの彫ってある肩をポンと叩くと両手を地面につけた。
するとさっきの二人同様に陣が形成されていくのだが、
それは藤本が見たことのない特殊な形の陣だった。
星と円との組み合わせる魔法陣が一般的なのだが、
他にも違う形――――星を六角形が覆うっている形。
不思議そうに首をかしげて藤本が見つめているとその陣はまばゆい光を放ち出した。
その光は部屋中を満たし、光が消えると同時に部屋がキレイさっぱり元の姿に戻っていた。
まるで藤本と麻マントが戦った事など忘れてしまったかのように。
- 50 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:33
-
「これって・・・どーゆうこと?紺ちゃん」
「錬金術には再練成という技術があって、
材料さえ揃っていれば今使った陣――
練成陣使えば、再構築して元の形に復元することが可能なんです。
ただし、それは魂や心といった精神体には無効なんですが。」
「ん?ってことはだよ、人以外なら全て復元可能ってこと??」
「はい、それを錬金術の世界では再練成と呼びます。
ただ、古の昔にはネクロマンサーと呼ばれる
闇の召喚魔法に長けた人は人体練成さえも行えたようですが
今となっては、そのような系統を受け継ぐ者は存在しないと言われています。
しかしネクロマンサーは死の王、ノーライフキングと言われ
不死身であったと書物に記されているので
実際は生きているのかもしれませんが・・・・」
「そんな怖いこと言わないでよ、そんな人が目の前に現れたら
美貴達どーなっちゃうかわかんないじゃん。」
「大丈夫ですって藤本さん。魔界という第4の世界は封印されたんですから。」
- 51 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:33
-
よくわからないことを笑顔で答える紺野につられて
藤本が引きつった笑いを見せると、紺野は満足そうに頷き
テーブルの下に隠しておいたアタッシュケースを手に取って片方を藤本に差し出す。
「私はある事情で錬金界に狙われています。
――――理由は聞かないでくれますか?。
今はまだ言えないんですけど、いつか絶対話しますから。」
「うん。話したいときに話してくれれば美貴は別に聞かないよ。
―――それで?まだ続きあるんでしょ??」
悲痛な表情を浮かべていた紺野の髪をクシャクシャっと掻きまわしながら
ふにゃっとした柔らかい笑顔を作り、首をかしげる。
その反応に安心した紺野は軽く頭を下げて言葉を紡ぎ始めた。
- 52 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:34
-
「何回か錬金界からの追撃者に襲われましたが、なんとか切り抜けて
ここで身を隠しながら研究をしていたんですけど・・・」
「今回で見つかっちゃったと。」
「はい。それで藤本さんにはとっても迷惑をかけてしまうんですけど
旅の最初の目的地を勝手に決めちゃってもいいですか?」
「うん、別にそれは構わないけど。」
「よかった、それじゃあ・・・まず北に行きましょう!」
人差し指をピンと天井に向けて勢いのある口調で答えた紺野にすかさず藤本は再び首をかしげる。
- 53 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:35
-
「――北に何かあるの?」
「はい、知り合いの研究室があるんです。
この灯台はあくまでも私が勝手に居座って身を隠していた場所なので、
昔住んでいた研究室へ戻って色々と調べ直すコトがあるんです。
それに今はそこに住んでる人にも逢っておいて損はありませんから是非行きましょうっ!」
「別に紺ちゃんが行きたいっていうなら拒否なんて
美貴はしないけどさぁ・・・その住んでる人って誰??」
「私の憧れの人であり、尊敬する工学者であり・・・とにかくすごい人なんです、完璧ですっ」
「いや、答えになってないじゃんか」
「では、行きましょうか藤本さん」
「・・・シカトかぁ〜いっ!!」
何事もなく部屋の出口であるドアへと体を向けた紺野はスタスタとその場を後にする。
その後、藤本のベタなズッゴケに地面が豪快に揺れた。
- 54 名前:旅立ち。 投稿日:2004/05/27(木) 14:35
-
- 55 名前:右京 投稿日:2004/05/27(木) 14:37
- Today's Update
>>41-53
※次回は説明だらけなので今まで以上につまらなくなりそうです。
- 56 名前:右京 投稿日:2004/05/27(木) 14:44
- 遅ればせながらレス返し。
>>37 名も無き読者様
期待に添えるようなモノなのか不安に感じますが
とりあえず更新しましたのでよろしくお願いします。
>>38 我道様
どんどん壊れてください(笑
ただ、壊れる要素が皆無な気はしますが。
>>39 紺ちゃんファン様
当分は藤本と紺野のペアが動きますので。
ハガレン、大いに活用させていただいてます(笑
>>40 shou様
予告だけで笑っていただけるとは。
文章に不快感はまったく感じませんよ(笑
これからも見ていただけると嬉しいです。
では、予告編。
- 57 名前:第4話 予告 投稿日:2004/05/27(木) 14:45
- ――――――どこか抜けている天才。
「・・・天才は考え付かないことを実現させるから天才って呼ばれるんですっ♪」
「・・・後藤さんステキです。」
――――――妹による特別授業。
「じゃあ藤本さん、この一般界について簡単な特徴から説明しますね?」
「えぇー、それって難しいんでしょ?美貴めーんどくさぁーい」
――――――機械が特化してる世界。
「・・・え??紺ちゃん、オンナの武器を使って稼いでるんじゃ・・・」
「ば、バカッ!!何を言ってるんですか!!そんな事するはずないじゃないですかっ!!」
―――――果たして大丈夫なのだろうか。
「そ、そうでした。行きましょう藤本さんっ!!」
「おぅっ!!」
信念ヲ持ツ者
―― 第四話 「北へ」
- 58 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/27(木) 18:30
- 更新お疲れ様です。
強ッ。
次回は説明が多いとのコトですが、
こういう物語での説明は興味深いので楽しみにしてますw
- 59 名前:我道 投稿日:2004/05/27(木) 18:52
- 更新お疲れ様です(ペコリ)
ん〜・・・強いですねぇ・・・(w
このコンビは大好きなので、更新が楽しみです。
- 60 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/27(木) 19:10
- 更新お疲れ様です。
藤本さん強いですね〜!紺野さん、なぜ狙われている!?
みきこん大好きなので、作者さまの次回に超期待です!
完璧です!!
- 61 名前:shou 投稿日:2004/05/30(日) 14:53
- 更新お疲れ様です。
藤本さんカッコいいですね(惚
この二人の旅路、想像しただけで(笑
予告の書き方がものすごく上手いので期待も高まります。
- 62 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 17:57
- 「・・・で、この家にあると知って盗みに入ったって事??」
「盗むなんて失礼な。ココには誰もいないって聞いたからお裾分けしてもらおうと思っただけだいっ」
「・・・そうだったんですか?あさみさん。てっきりアタシ、盗みに来たとばっかり・・・」
「よ、余計な事は言うなっつーの!!アタシ達がそんな悪いコトするかっ」
「まぁ結果的に盗むという行為になった、この事に関しては悪いと思っているわ。
けど、あたし達にとってどうしても必要だったの。」
「・・・ふーん、なるほどねぇ〜。」
軟禁状態になった3人が解放されて後藤と同じテーブルに座ることになったのは
それから4時間程経過した後だった。
どんな罰を受けるのか不安に思っていた3人(特にみうな)ではあったが
後藤の寛大な処置として、んぁ・・・処罰は受けないでいーけど理由ぐらい教えて。
という結果になり、今この状況に至る。
一般の思考としてはかなり無謀な判断だと思われるが、
後藤の判断が正しいという事は後に明らかになるだろう・・・。
里田の真剣な眼差しに適当に応えた後、
後藤は席を立ち上がり奥にあるチェストの上部の引き出しから
何か小さな金属を手に取ると、それを3人の前に見せた。
- 63 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 17:57
-
「これって、もしかして・・・」
「そう、皆が狙ってたモノ、機械心臓-マシンハート-の一部だよ。
これはもう使い物にならなくなったパーツだけどね。」
みうなが口を開いた以外、他の二人は手のひらサイズの金属に見入っていた。
実は、管理コンピュータにハッキングして詳細を知っていたのみうなただヒトリで
遂行組である残りの二人はハッキリとした情報は聞いていなかったらしい。
「あのさぁ今更って言われるかもしれないんだけどさぁ・・・ホントに動くの?」
「はぁ?!あさみぃ!今更何言ってんのよ。」
「いやだってさぁ〜、アトミック化できるのは外面のみってゆうのが常識っしょ?
アタシの目だって、まいちゃんの腕だって、みうなの足だってアトミックだけど・・・
内臓関係は一切聞いたことないもん、まいちゃんだって聞いた事ないだろ??」
「そりゃ聞いた事ないけどさぁ、作っている事は事実だし
管理コンピュータにもバッチリ情報が残ってるんでしょ?
だったら、信じざるおえないじゃない。アタシ達はそれに縋ろうとしてココまで来たんだし。」
「まぁ・・・そーなんだけどさぁ」
- 64 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 17:57
- あさみは納得のいかない表情で腕を組んで、再度機械心臓の一部を見つめていると、
後藤はアハッと笑みを零して自慢げに胸を張ってゴホンとわざとらしく咳払い。
「んぁ〜・・それが伊達に一般界の工学者の中で
イチバンって名乗ってるワケじゃないんだよ?って言いたいところだよねぇ。
ほら、他の人はここまで機械化してしまおうなんて考えないもん。
ハジメからムリだって決めつけちゃうでしょ?
それが、凡人のダメなところだっつーの。
・・・天才は考え付かないことを実現させるから天才って呼ばれるんですっ♪」
「・・・後藤さんステキです。」
「オマエ、やっぱり変わってるよな・・・脳までアトミックなんじゃねぇーの??」
「・・・アタシもそんな気がしてきた。」
里田とあさみの視線は機械心臓から一瞬にしてみうなに向けられていた
――――――完全な呆れた表情を浮かべる二人に。
視線を浴びたみうな本人は、胸の前で手を組み目をキラキラさせながら
自分を天才と自負する後藤を見つめていた。
- 65 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 17:58
-
◇◇◇第4話 北へ◇◇◇
- 66 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 17:58
- 岬の灯台から駅までの道のりはおよそ30分。
おっとりな紺野の足取りだと40分ほどになるだろうか。
あえて徒歩で向かっているのはなるべく二人の時間を作りたいという藤本の勝手なワガママ。
時間がないというワケではないので紺野も承諾して今に至る。
ついさっき錬金術師に襲われていた事がウソのように
まったく関係ない話をしながら二人は笑顔を絶やさなかった。
ただ、藤本が小さなアタッシュケースの中身を聞こうとすると
紺野はフフフと不敵な笑いをするだけで、特別教えてくれる素振りは見せる事はなかった。
「紺ちゃんってさぁ、結局何を調べてたの??」
眩しい日差しに目を細めながらウーンと手を高く上げて背伸びをしながら藤本は口を開く。
それを隣で見ている紺野は鼻の頭をポリポリと書いてそれはですねぇ・・・と答え始めた。
- 67 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 17:58
- 「海の近くにある材料で機械血液-パワーリキッド-を
ろ過するモノが出来るかどうかを調べていたんです」
「機械血液??」
機械に血液??・・・わけわかんないんだけど。
美貴の知ってる範囲だと、機械ってオイルだよね。ほら、自転車にも油差すっていうし。
聞いた事もない言葉に首をひねるしか出来ない藤本に
うーんと悩んだ紺野はポンと手を叩いてそれじゃあと話を再び始めた。
- 68 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 17:58
- 「じゃあ藤本さん、この一般界について簡単な特徴から説明しますね?
今まで話したことありませんし。」
「えぇー、それって難しいんでしょ?美貴めーんどくさぁーい」
「なんでいっつもそーやって拒否するんですかぁ〜!
もっと学ぼうとする気はないんですか?」
「だってぇ、聞いたってわからないと思うしぃ・・・」
「そーゆうところがダメなんですよぉ、
初めてもいないのにムリだって思うことが。
やって後悔する方がイイってよく言うじゃないですか、
ね?簡単に説明するんで駅までの道のりで簡単に勉強しましょ??」
「うーん・・・・紺ちゃんがそういうのなら。」
「さっすが、藤本さんっ。じゃあさっそく・・・」
そういうと、紺野は立ち止まって小さなアタッシュケースの中から小さな金属片を取り出した。
その瞬間に藤本が自分のものにも同じものが入ってるんじゃ・・・と感じ、
背筋が軽く凍ったのは言うまでもない。
- 69 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 17:59
-
「これ、なんだと思います?」
「んー・・・研究材料とか??
ほら、紺ちゃんってこーゆーのも研究してたよね?なんか見覚えある感じするし」
「半分当たってますけど、半分違いますね。ザンネンでしたぁ〜♪」
「わっ・・・可愛い・・・抱きしめてもいい??」
「 ダ メ で す !!」
「・・・ちぇっ」
舌打ちをして地面を蹴った藤本を口元を吊り上げて見つめた紺野は
その金属を人差し指の第二関節にグィッと押し当てた。
「ここの関節です、人差し指の第二関節。」
「えぇ!!何言っちゃってるの??ただの金属じゃん・・・まぁ、ちょっと変な形してるけどさぁ」
「フフフ・・・藤本さん、信じられないかもしれないですけど本当なんです。
じゃあなんで一般界が錬金界、陰陽界と同じ立場でいられると思います???」
「んー・・・人当たりが良いとか??」
「そんなんじゃ対等に立てるはずないじゃないですか、同じように特徴的な武器を持ってなくちゃ。」
「少しぐらいノッてくれたっていいのにぃ・・・ま、いいけど。
それで、その武器ってのがその関節なの??」
「はい。人体のアトミック化・・・これが一般界の強みなんです。」
- 70 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 18:00
- 「アトミック化??」
「えーっと、単純に言えば体のダメになった部分を機械を用いて再生させようとする事です。
それには、代えの部分・・・例えば腕とか足を機械化したり、
またはナノマシンと呼ばれる小型生物機械で
再生能力を一時的に高めて新しく作りなおしたりします。」
・・・再生・・・機械化・・・アトミック・・・
自慢げに語る紺野の言葉を何一つ理解が出来なかった。
当然の事だといえば当然である。
ただえさえ専門的な言葉を並べる紺野の台詞を
今までちゃんと聞いた事はなかった。
研究中は外に出て海の匂いと太陽の光を浴びていたし、
食事のときはこんな話は一切しなかった。
そんな専門用語とは正反対の場所に存在している藤本には、
その話の意味を理解する前に他の部分に着目してしまう。
・・・単純に物事にはお金がかかる、けど・・・そのお金はどーやって??
そもそも、紺野の研究にだって莫大なお金は必要なはず。
嬉しそうに一般界のこと、機械のことを語る紺野の言葉を聞きもせず
お金のことばっかり考えていた・・・
- 71 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 18:00
-
「・・・アトミック化すると今まで出来ないことがいとも簡単に出来てしまうんですっ。
それになんといっても耐久性、あのクロガネのボディに染みるオイルの匂い、そして圧倒的な重量感。
もう完璧すぎてたまりません・・・あぁ、アトミック♪♪」
「・・・もしかして窃盗集団のボスだったりして。。。いやでもさぁ紺ちゃんに限って、
美貴の大事な大事な妹に限ってそんなこと・・・
けど、可愛い顔して何をするかわからないってことも考えられるし。
あっ!!一番考えられるのは・・・そんなの嫌。
紺ちゃんが自分の体を犠牲にしてまでお金を稼ぐなんて・・・
紺ちゃんは美貴のモノだよ?そんな変なオッサンに大事な妹の体を触られるなんてありえないっ!!
くっそぉ・・・オッサン!!
オマエの体を練成してこの世から消してやる・・・まってろオヤジィ・・・」
どちらも相手の話など聞かずに自分の世界へとのめり込んでしまっていた。
しかし、自分の金属に対する思いに変更していたことにやっと気づいた紺野は
金属の魅了の世界から自分を引っ張り出し、そのまま頭を下げた。
- 72 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 18:00
-
「すみません、ついつい金属の話を始めると――――って藤本さん?!」
紺野の目の前にいる錬金術師は明後日の方向を見つめて手をギュッと握り締め、
キリキリと噛みしめながら打倒エロテロリスト・・・もとい、エロオヤジに執念の炎を燃やしていた。
それを見た瞬間に自分が謝ってしまった事を少し後悔した紺野はハァ〜とため息を吐くと
美貴の目の前で手を振って現世にいるかどうか確認する。
「藤本さーん、藤本美貴さーん。意外と謎の多い藤本美貴さーん」
絶対この世界に存在してないと決め付けていた紺野が適当に手を振っていると
急に目がジロリと動き、紺野の目と視線が合う。
その瞬間にガシッと両肩を掴むとギュッと紺野を抱きしめた。
- 73 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 18:00
-
「紺ちゃん、美貴が変わりになんでもやるから、
夜のお仕事も紺ちゃんの為なら・・・美貴頑張れる。
紺ちゃんの為に、この体・・・奉げても構わないから・・・・グスン」
「――――何言ってるんですか?藤本さん。」
「・・・ぐすん。紺ちゃんの研究資金は美貴が稼ぐからね。今まで気づかなくてごめんね。
怪我が治ってなかったからっていうのも言い訳になっちゃうもん。
美貴、紺ちゃんに受けた恩は一生をかけて恩返しするから心配しないでね」
「・・・・何を勘違いしてウソ泣きしてるか
まったくわからないんですけど・・・これだけ聞いてください。
この一般界は機械文明と呼ばれるぐらい機械が特化してる世界で
この国の工学者は国家技術士と呼ばれる資格を得ると
国から研究資金が想像もつかないほど出るんです。」
「・・・え??紺ちゃん、オンナの武器を使って稼いでるんじゃ・・・」
「ば、バカッ!!何を言ってるんですか!!そんな事するはずないじゃないですかっ!!」
- 74 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 18:01
- 頬を紅潮させて勢いよく怒鳴りつけると、
恥ずかしさのあまり視線を落としてしまう紺野。
もちろん、藤本はそんな様子の紺野になぞ関心がなく、
自分の思っていた事が違うという事実だけを確認するべく
ポカンと開けた口を一度閉じてからゆっくり聞き返した。
「・・・ホントに違うの??」
「な、何を想像してたか知りませんけど、
藤本さんが思ってるようなことは何一つしてませんからっ!!」
「・・・そうなの?ふぅ〜、よかったぁ〜。
アタシの紺ちゃんが汚れた体になっちゃってるのかと本気で心配したよぉ。」
「そ、そ、そんな事を私で想像しないでくださいっ。
わ、私は国家技術士の方のお手伝いで研究をしていただけですっ」
「―――ホント、よかったよかった」
「ちょっとぉ〜!人の話聞いてくださいよぉ」
- 75 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 18:01
- 紺野の訴えを軽く流して、
ココロの中で安堵の色を浮かべた藤本はふと、
ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認すると
そこには驚愕の事実が待ち構えていた―――――――
「あっ!!!」
「ど、ど、どーしました?!」
思いっきり大きな声をあげた藤本は、目を見開きながらそれを紺野に見せる。
と、紺野もまた驚いてすぐにアタッシュケースを手に取った。
「急ぎましょう!!あと10分しかないじゃないですか」
「紺ちゃんが適当な事喋ってたからこんなになっちゃったんだぞ」
「藤本さんだって意味のわからない妄想にふけってたじゃないですか、
そもそも藤本さんが歩いていこうなんて言うから―――――」
「ストーップ!!マジで急がないと間に合わないんでしょ??」
「そ、そうでした。行きましょう藤本さんっ!!」
「おぅっ!!」
- 76 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 18:01
-
二人は今までの無駄な時間を取り返すべく、猛ダッシュで目的地へ向かう。
もし列車に乗り遅れたりしたならば、このド田舎で1日以上待つことになる。
そうなるとさすがの藤本達も危険すぎると察し、死に物狂いで駅へと走った。
一般界の事情について何一つ理解できなかった藤本だが―――――果たして大丈夫なのだろうか。
- 77 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 18:02
-
- 78 名前:北へ 投稿日:2004/06/03(木) 18:04
- Today's Update
>>62-76
- 79 名前:右京 投稿日:2004/06/03(木) 18:15
- ではレス返し。
>>58 名も無き読者様
弱い藤本美貴なんて見たくないという
作者の身勝手な設定です(笑
>>59 我道様
旅には面白い相方が必要だと思いますので
もうしばらくこのコンビが旅を続けます(笑
>>60 紺ちゃんファン様
紺野の謎の解明は先延ばしということで。
期待に添えられるよう頑張りたいと思います。
>>61 shou様
拙い文章ですが、少しでもこの話の雰囲気を出せればなと思います。
予告はそれっぽく見えれば満足です(笑
では予告編。
- 80 名前:第5話予告 投稿日:2004/06/03(木) 18:15
- ――――――慌しい数の武装した人の群れ。
「そっか、じゃあ誰だろう??」
「さぁ・・・最近流行の武装集団なんて知りませんし」
―――――眼の中に燃え出した炎。
「紺ちゃん??」
「派手にドカーンとやっちゃいましょう。」
―――――再び発揮される才能。
「―――エーステ」
―――――鉛を弾く肉体。
「そ、そんなバカな・・・」
「銃は効かんぞ、オレにはなぁ!!!」
―――――ただ、ただ驚愕する。
「藤本さん・・・スゴすぎですよ」
信念ヲ持ツ者
―― 第五話 「傷の代償」
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/03(木) 18:28
- 更新お疲れ様です。
藤本さんは戦闘中と普段とのギャップがありすぎですねw
そんなところもステキです。
紺野さんをエロテロ(ryから守ってあげてください(笑
- 82 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/03(木) 23:33
- 作者さま、更新どうもです。
う〜ん・・・毎度のことながら、予告編書くの上手ですね!!
藤本さん!紺ちゃんを・・・・から守ってください(笑
続きへの期待大です!
- 83 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/04(金) 18:10
- 更新お疲れ様です。
ん〜、イイですねぇ。。。
説明と予告のおかげで想像が膨らみますw
エ(ryには笑いましたww
次も楽しみにしてます。
- 84 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:14
- 窓から吹き込む風はいつの間にか無臭に変わって、風景は緑から鋼の灰色へと変化した
好きだった緑も青も美貴の前から消えていた・・・。
列車にギリギリセーフで飛び乗った藤本と紺野は所どころにポツポツとあいている席へ腰を下ろし
しばらくお世話になる列車の中で外の景色を見ていたのだ。
「あぁー、なんか全然違う場所に来ちゃったみたいだなぁ・・・」
「うーん、これが一般界の本当の姿なんですけどね。私達のいた場所がド田舎すぎたんです」
「でも美貴はあの景色好きだったなぁ〜。。。紺ちゃんはこっちの風景の方が好き??」
「私も灯台から見える景色の方が好きです、心が洗われるような心地よい気分になれましたし。
――――藤本さん、全てが終わったらまた灯台に戻りますか??」
「そだね、紺ちゃんとノンビリ暮らしてる日々の方が
美貴にはあってる気がするし。うん、そうしようっ!!」
「はいっ♪」
二人仲良く微笑みあう。
まだ何も始まっていない気がするが、着実に歯車はかみ合い動き出していた――――――――
- 85 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:15
-
◇◇◇第5話 傷の代償◇◇◇
- 86 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:15
- 外の景色も黒いベールを羽織り、姿を隠し始めた頃だった。
突如、慌しい数の武装した人の群れが列車の中に現れ
その中心人物らしき黒ずくめの男が藤本達乗客にむかって声を荒げた。
「これからこの列車は、我々『焔-ほむら-』のモノとさせてもらう。
貴様達は次の駅までの人質となってもらうが、反抗したものは容赦なく殺す。
死にたくなければその場で大人しくしていろ!!!!!!」
男はそういうと隣にいた部下のような男に何かを伝えてその場をあとにした。
藤本はバレないようにグィグィと隣に座っている紺野を肘でつついて耳元に顔を近づける。
「あれも紺ちゃん狙いなの??ずいぶんと先回りのイイ奴等じゃん」
「あれは違うと思います。私達を狙っているのは錬金界の人間、
そんな人たちが銃なんて持ってるはずがありません。
錬金術師なら練成してしまえば済みますから」
「そっか、じゃあ誰だろう?? 焔って。」
「さぁ・・・最近流行の武装集団なんて知りませんし」
- 87 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:15
- 二人がう〜んと悩んでいるところに目の前に座っていた
中々がっちりとした体格の口髭を生やした中年男が突然、口を開いた。
「最近中央都市と南方都市を中心に暴れている武装集団だ。
アトミック化された体のパーツを強奪し、邪魔をしたものは容赦なく殺しているようだ。
国家警察もコイツらを取り締まる為にかなり必死になって働いているらしい」
「・・・ずいぶんと詳しいですね」
「当たり前だ、そこらのニュースでいつも報道されているからイヤでも頭に入ってくる」
「なるほど。」
納得した藤本は、とりあえず周りの様子を伺うために腰を少しあげて周りを見渡す。
すると近くにいた焔のメンバーらしき男と目が合い、
何をしている!殺されたいのか!!と罵声を浴びて冷や汗を少しかきながら定位置に戻った。
- 88 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:16
- 「ひゅ〜・・・殺されるかと思った」
「バカッ!何やってるんですか藤本さんっ。自分から死ぬような行動とるなんて」
「ごっめんごめん。でも、だいたい状況はつかめたよ。
この車両に武装している男たちは全部で5人、近くに2人と扉付近に3人。」
「もしかして・・・やっつけに行くとか言っちゃうんですか??
相手は大人数ですよ?黙っておけば無事解放されますって。」
「いやぁ〜やっぱり正義の味方としてはやっつけにいかないと。
それに相手は最近ブイブイ言わせちゃってる奴等なんでしょ??
そーゆう奴には渇を入れてやんないといけないって美貴は思うわけよ。」
「どーしても行くんですか??」
「紺ちゃんはそこで待っててくれればいいよ。あんな奴等、美貴一人だけで―――」
「行きますよ、私も」
紺野は話の途中でコツンと肩をぶつけて、藤本にしか聞こえない程の小さい声で呟いた。
「藤本さんヒトリであの数を相手に出来るはずないでしょう?
それにどうせ、派手にやっつけてやろう!とか思ってるんじゃないんですか??
私達・・・追われてる身なんですよ??」
「ギクッ!・・・そ、それは」
「だと思いましたよ、藤本さんの考えることなんて手に取るようにわかるんですから。
でも、その考えはとってもいいと思います・・・ギャフンと言わせてやりましょう」
- 89 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:17
- 「紺ちゃん??」
「派手にドカーンとやっちゃいましょう、
ただ・・・なるべく早く終わらせるように努力してください。
幸いにも次の駅が私達の降りる駅です、最初っから全力でお願いします。」
「ひょ〜!!紺ちゃんからゴーサイン出るとは思わなかったよ。
よしっそんじゃ、美貴・・・暴れるぜぇ〜」
眼の中に燃え出した炎は一度大きくなったら最後、消えることもなくとめどなく燃え続ける。
その炎は藤本だけでなく紺野の眼からも見えていた。
二人は顔を見合って、どちらともなく行くべし!のゴーサインが両方の心の中に出されたその時
またも目の前に座る中年男が口を開く。
「待て、お前たち何するつもりだ」
「「悪者退治」」
「ふぅ〜・・・お前ら相手の数をわかっているのか? この車両だけじゃないんだぞ。
他の車両にも同じぐらいの人間が配置されてると見て間違いないだろう
それをオマエ達二人だけでやろうと思っているのか??
――――ましてオマエ達、丸腰で何が出来る」
- 90 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:17
- 呆れ顔でため息をついた中年男が言ったセリフは全て本当で
実際この数をこなすことが出来るかといえば不安な点が多い。
しかし、二人には確実にやり遂げられるという自信があった。
その証拠として炎の大きさがどんどん大きくなっているのだから。
「やってやれない数じゃないですよ、
それに美貴達にはとっておきがありますから。 ね?紺ちゃん♪」
「はい、この程度ならば私の計算上不可能ではありません。
それに今の私達ならヤル気の比率が普段と全然違いますから完璧ですっ」
二人のすさまじい程のプラス思考にふぅ〜っと再びため息をついた中年男は
ヤレヤレと言わんばかりに頭を振った。
「・・・しょーがない、お前らが何を持ってるかは知らないが、協力してやる」
「「・・・・・・はぁ!?」」
「お前らがやりたいように動け、サポートしてやる」
- 91 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:18
-
中年男は口角を上げてニンマリと微笑むと、顎をクイッと前にやって行けと合図した。
それを二人は黙って頷いて答えると同時に立ち上がり
まず藤本は肩に手を当てて座っていた椅子の金属製の手すりに触れる。
すると、みるみるうちに藤本の手が金属に覆われ気づいたときにはメリケンサックをつけていた。
目のあった男にニヤッと微笑んだ藤本はそのまま勢いをつけて
全力で右コメカミ部分に強烈な一撃を与え、ソレを地面へ叩きつける。
男は地面に叩きつけられて車両に凄まじい音が響き渡った。
「―――エーステ」
藤本の微笑みは男を倒すと共に瞬時に消え、色素の薄い茶色の眼は次の標的を見据えた。
後方にいるには男には目もくれずに藤本は全速力で奥の扉まで低姿勢で走り出す。
途中でこちらに向けて銃を発砲しようとした男には
猿のように体を揺らしながら飛び上がり、足の裏全体で顔を踏み台にして更に高く舞い上がった。
その時、また藤本は微笑を零していた。
「―――ツヴァイテ」
- 92 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:18
-
◇◇◇
- 93 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:18
- 一方、後ろを気にしない藤本の背中を守る紺野は肩に手をあて地面に手をついた。
すると、木製の床からは木の柱が無数に立ち塞がり、壁となって男の発砲した銃を無効化する。
ひるんだ男は銃を連射するが、まったく効果はない。
気の動転した男は休みもなく、とんでもないものを見ることになる。
椅子の背もたれを使って木の壁を乗り越えた中年男が猛突進で襲ってきたのだ。
またも銃を乱射するのだが、何故か中年男に弾が当たっても倒れない―――むしろ、弾き返している。
「そ、そんなバカな・・・」
「銃は効かんぞ、オレにはなぁ!!!」
「グッ」
言葉とともに放った拳は男の喉仏へ一撃を与え、倒れた。
中年男は休まず踵を返して、再び背もたれを足がかりに木の壁を飛び越えると
紺野と共に美貴の元へ向かった。
- 94 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:19
-
◇◇◇
- 95 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:19
- 目の前にいる二人の男は躊躇なく藤本に銃を向け、引き金を引いた。
弾丸は藤本の頬をかすって後方へと過ぎていく。
頬に出来た一筋の紅い線を人差し指の腹で一度なぞるとまた微笑みを見せる。
まるでこの生きるか死ぬかの戦闘を楽しむかのように―――――
肩を叩いた手は背もたれにある金属製の手すりに触れ、
その形が今度は小さなナイフの形に変化する。
出来上がったナイフを狙いを定めた男へ投げ込むと見事に右肩へ刺さり蹲った。
「クソッ」
それを見たもうヒトリの男がその行動に驚き一歩後ろに後ずさる
―――――それを藤本は見逃さなかった。
すかさず肩を叩き右手にはめていたメリケンサックへ左手を当てる。
そのメリケンサックも小さなナイフへと変化し、勢いよく投げられた。
またも男の肩に刺さったナイフだが、今度の男はけたたましい呻き声と共に
ソレを抜いて藤本を睨みつけた。
- 96 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:20
-
「このガキ―――」
「遅いよ」
男の目の前まで既に藤本は迫っていた。
中指をリードさせて人差し指と薬指で両目を潰し、頭を掴むと思い切り膝へと打ちつけた。
変な音を鳴らしながら男はその場へ崩れ落ちた。
「―――ドリッテ」
最後に藤本は蹲っていた男の首を手刀で打って気絶させる。
「―――フィーアテ」
無数の男が倒れている車内は思った以上に静まり返っていた。
あまりにも現実離れした光景に加え、
まるで一瞬の出来事だったかのような速さに声も出せなかったのだ。
- 97 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:20
- そんな事になっている乗客の顔を見渡して
怪我人がいないことを確認するとふぅ〜っと大きく息を吐く。
そして念のため、その場の敵がいなくなったのを確認しながら
首や指の関節を鳴らしている藤本の周りには
紺野と中年男がやってきていた。
「藤本さん・・・スゴすぎですよ」
「ここまでやるとはな」
「こんなの朝飯前だってば。
それより、まだ先はあるんだから行くよ二人ともっ!!」
「はいっ」 「おぅ!!」
車両にいた乗客は未だに呆然としながら、3人の背中を無言で見送った。
- 98 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:20
-
- 99 名前:傷の代償 投稿日:2004/06/10(木) 22:21
-
Today's Update
>>84-97
- 100 名前:右京 投稿日:2004/06/10(木) 22:28
- ではレス返し。
>>81 名無し飼育さん
確かにギャップありすぎですね。
自分でも書いてて思います(笑
おちゃらけた藤本さんとクールな藤本さんの
二面性がキャラの特徴ということで。
>>82 紺ちゃんファン様
予告っぽく見えているなら、作者的にすごい満足です(笑
テキトーに文をつなげてるだけなので、脈略ゼロですが・・・。
>>83 名も無き読者様
微妙な説明でしたが少しでも
想像しやすくなっていただけたのなら幸いです。
スピード感がありませんが、これからも御ひいきに(笑
では予告編。
- 101 名前:第6話予告 投稿日:2004/06/10(木) 22:29
- ――――――――返す言葉も出ずに固まってしまった。
「おっさーん、オツムまで歳くって錆びついちゃってんじゃないの?
美貴がそんなヘマするはずないじゃ〜んっ♪」
「なっ・・・」
――――――――傀儡って言葉を知っているか?
「あぁ、構わないが・・・出来るのか?」
「はい、完璧ですっ」
――――――――再び、かける声を失った。
「超風力圧縮砲――名づけてコンコンバズーカ風魔君ですっ♪」
「・・・・」
――――――――照れを隠すように鼻で笑う。
「くだらん事を言うからだ」
「ホントの事言っただけなのにぃ・・・」
信念ヲ持ツ者
―― 第六話 「記憶-パズル-の欠片 前編」
- 102 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/11(金) 18:00
- 更新乙彼サマです。
やっぱし強ッ。
新キャラも特殊なモノをお持ちのようでそちらも楽しみですw
ていうか予告に出てきた兵器名らしきもんが気になる。。。
続きも楽しみにしてます。
- 103 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/11(金) 20:10
- 作者さま、更新どうもです。
新キャラ(?)のおっちゃんの存在、ど〜も気になります。
紺ちゃん・・・なんだろうね?その「コンコンバズーカ風魔君」って・・・。
つづきを楽しみにしてます!
- 104 名前:shou 投稿日:2004/06/13(日) 17:03
- 更新お疲れ様です。
藤本さん強ッ!というかうか怖ッ!!
それと新キャラ以上に気になる兵器名?
どちらもどんな活躍するのか楽しみに待ってます。
- 105 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:55
- 列車は6両編成、そのうち後方に貨物車両が2つに乗客車両が4つ。
集団の頭は先頭にいるのがセオリーだとすれば、
ココからあと2つ先の先頭車両にいるはず。
頭さえ潰せば他の雑魚は大人しくなるだろう――
まぁほとんどはこの小娘が気絶させてしまっているが。
しかしただの戦闘経験値の無さに調子付いているだけかと思った子供がここまでやるとは。
特に自分の事を美貴と呼ぶ小娘、錬金術師としての技量はさることながら体術までこなすとは――――
先頭と突っ走る藤本の背中を追いながら中年男はそんな事を考えていた。。。
- 106 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:55
- 早々と制圧した2つ目の車両の先頭では、椅子に寄りかかりながらアイディアを練る藤本
その隣で練成して作った謎の鉄製の二つのボールを
右手の掌でグルグルをまわして視線を落としながらブツブツ呟いている紺野。
そして、二人の強さに驚きを隠せない中年男が腕を組んで立ちつくしていた。
「―――おい、おっさんっ!!聞いてるの??」
「・・・あ、あぁすまない、もう一度言ってくれ」
「だからぁ、おっさんはあと二つある車両の雑魚を紺ちゃんと一緒に一掃して欲しいの」
「よろしくお願いします。」
一応の挨拶をした紺野は再び黙り込んで遊ばせていた鉄のボールをガリガリと
リズムのない音を立てて掌でまわしだす。
紺野の奇妙な行動に目を奪われてしまった中年男はハッと我に返り返事と共に首を縦に動かした。
- 107 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:55
-
「あぁ、わかった。・・・ところでオマエはどうするんだ??」
「美貴は連結部分から上にあがって、直接機関室に行く。」
「寝言は寝て言え、風の強さはハンパじゃないぞ?鈍行と言えどオマエ程度の体重じゃ飛ばされる。
オマエが強いことは認めるが、行きつく前にゲームオーバーじゃ話にならないな」
「おっさーん、オツムまで歳くって錆びついちゃってんじゃないの?
美貴がそんなヘマするはずないじゃ〜んっ♪」
「なっ・・・」
口角を吊り上げて微笑みながら顔を覗きこむ藤本に、中年男は返す言葉も出ずに固まってしまった。
そんな中年男をよそ目にずっとボールを転がしていた紺野がやっと口を開き藤本を見定める。
「藤本さん、ヒトリで行かせる事は特に問題には思っていませんがこれだけは守ってください。
あまり熱を出しすぎて列車を壊さないようにお願いします。
機関室を壊してしまったら元も子もありませんからね」
「リョーカイリョーカイッ♪」
「では、そろそろ行きますか、駅に到着するまで時間がありませんし。」
- 108 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:56
-
紺野の言葉を合図に3人はそれぞれの行動に移る。
紺野は持っていた鉄製のボールを地面へ捨てると、それは勢いよく落下し木製の床を貫いていた――
- 109 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:56
-
◇◇◇第6話 記憶-パズル-の欠片 前編◇◇◇
- 110 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:56
- 扉を開けるとそこには先ほどの2両いた乗客は一人もおらず、
そして銃に頼り切った弱々しい男共もいなかった。
その変わりに明らかに異なったモノが集まっていた――――
マシンガンのような長身の銃を持っているのではなく
連射能力のないコルトパイソンのような
リボルバー型の銃を持ち、顔の半分を隠す白い面をつけていた。
それだけなら何も変わること無い――むしろ弱くなったと思えばいいのだが、
異なったモノ達の周りからはおぞましい程の殺気が漂っていた。
そんな雰囲気のガラリと変わった空間に足を踏み入れた紺野と中年男は
すぐさま近くにあった椅子に左右に分かれて身を隠す。
すると、その直後に小さな黒鉛の弾が何発か列車の壁へのめりこんだ。
- 111 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:57
-
「おじさん、アイツらの眼・・・見ましたか?」
「あぁ・・・アレは生きてる人間の眼なんかじゃない―――まるで死人のようだな」
「ということは・・・今までのように
倒せばいいってわけじゃないですね、元凶を滅さないと。」
「――――察しがいいな小さいの、傀儡って言葉を知っているか?」
「傀儡――あやつり人形。マリオネット。
転じて、他人に言われるままに行動する人。・・・完璧です」
紺野は眼鏡を吊り上げるような動作をして、ニヤッと口角をあげる。
眼鏡なんてしていないのにそんな動作をするのは紺野の昔から癖で
何か言われたことに完璧に答えたと確信すると必ずとる動作である―――
紺野の答えにそうだと短く返した中年男は
胸元から金属製の棘のついたナックルのようなモノを
取り出して自分の両拳にそれぞれはめた。
「アイツらは人間じゃない、ただの人形だろうな。
その証拠に手足から光る線が見えるだろう?あれは操るものが作った念の糸だ。」
- 112 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:57
- 異なったモノ達の手足には指摘されたように無数の光る線が張っていた。
紺野はコクリと頷くと中年男は話を続けた。
「どこかに念の糸を束ねたモノがあるはずだ、
それを媒介としてアイツらを操作しているんだろう。
糸は個人の強い念によって作られるから切ることはでないが、媒介になるものはただのモノ。
それさえ壊してしまえば動きは止まる。」
「なるほど、それじゃアイツらの足止めは私に任せてもらえませんか?
ちょっと思いついたことがあるので」
「あぁ、構わないが・・・出来るのか?」
「はい、完璧ですっ」
またも不敵に微笑んだ紺野は肩にパンと手を当てると背もたれに手を当てて
小さな緑の光に満ちた魔法陣を形成する。
錬成陣とは反対の位置に存在する魔法陣―――
古の錬金術師が欲望に負け、ソレを受け入れた時から使われるようになった不可思議な陣。
それをイメージ通りに複雑な形に描くと一瞬の光を放ち、その中からあるモノを取り出した。
- 113 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:57
-
「な、なんだそれは」
中年男が目を丸くして見つめている紺野の右肩には巨大な大砲が姿を現していた。
予想通りの反応に満面の笑みを浮かべた紺野は、ゴホンとわざとらしく咳払いをして口を開く。
「超風力圧縮砲――名づけてコンコンバズーカ風魔君ですっ♪」
「・・・・」
中年男はかける声を失った。
少女が持てるサイズは到底思えないモノを肩に乗せ、笑顔で答えたその名前。
あまりにもバカすぎてあんぐりと口を開けてしまっていた。
魂の抜けかかった中年男を横目に紺野は左手の人差し指を下唇に持ってきて可愛げなポーズをとる。
「風魔っていうと小太郎じゃないですかぁ〜、
だから小太郎ちゃんにしようかと思ったんですけどぉ・・・
やっぱり小太郎にしちゃうと人間そのものになっちゃうんでぇ〜
・・・そのまま風魔にしましたっ♪」
さっきとは打って変わって甘ったるい口調で語る紺野はエヘッと可愛らしく笑ってみせる。
- 114 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:58
- 焦点のあっていなかった視点を戻して、あんぐり開けていた口を閉じた中年男は
思い浮かんでしまったことを紺野に言おうか迷っていた。
これを聞いてしまったら自分はまた魂を飛ばすはめになるかもしれない―――――その恐怖を胸にして。
「も、もしかして・・・さっき黙って俯いていたのは、
その名前を考えていたからではないよな?
それはさすがにオレの思いすごしだよな、何か作戦でも練っていたんだろう??」
「え?もちろんコンコンバズーカの名前を決めてたんですよ?
色々候補があってだいぶ時間かかっちゃいましたけど。
やっぱり私って優柔不断なんですよねぇ・・・」
―――――紺野の言葉に中年男はまたも魂を飛ばした。
―――――
――――
―――
――
―
- 115 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:58
- 「おじさんっ!!寝てる場合じゃないですよ
私は一気にアイツらをこのコンコンバズーカ風魔君で吹き飛ばします。
その間におじさんは媒介にしているモノをお願いしますね。」
笑みを浮かべていた顔はその瞬間にキリッと引き締めた顔になる。
そして、一気に体を通路へ投げ出し中腰のまま前方にいる異なったモノ達へその砲身を向けた。
「エネルギー充填100%、開放レベル1、コンコンバズーカ・・・発射ぁぁぁ!!!!」
ひっくり返った声と共に飛び出した小さな薄緑色の弾は異なったモノ達の中心部へと届き、弾けた。
するとソレを中心とした大きな竜巻が発生し、周りの椅子をなぎ払い、自分の一部へとしていく。
その光景を見て満足していた紺野に我に返った中年男の罵声が飛ぶ。
「バカか!あの中にどうやってオレが入るんだっ!!」
するとキョトンとした表情を浮かべる紺野が平然と言い放つ。
「銃弾を跳ね返すぐらい不思議なおじさんなんですから突入するぐらい――簡単ですよね?」
「―――過大評価しすぎた、小さいの!!」
- 116 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:59
- 皮肉を言いつつも少し表情を緩ませた中年男は
椅子の陰から飛び出し、竜巻の起こっている中心部へと駆け出した。
紺野の言うとおり、いとも簡単に竜巻へ入り込み渦の中に体を
引っ張られる事もなく地面を踏みしめながら――
そして、迷う時間も必要とせずに見つけた媒介となる小さな箱を自らの拳で粉砕した。
『竜巻に煽られたヤツらの糸が無数に絡まって一本の太い糸に変わる・・・か。
あの錬金術師もさることながら、この小さいのもなかなかやるな。』
竜巻の中から出てきた男を確認すると紺野は右肩に乗ったコンコンバズーカを消す。
同時に起こっていた竜巻も消え、そこには飛び散らかった椅子と
無数の異なったモノ達の体だけが転がった。
「さすがですねぇ・・・お見事ですっ♪」
「馬鹿な事を言うな、次に行くぞ次に。」
「歳をとっても照れるんですね」
「・・・ふんっ」
中年男は照れを隠すように鼻で笑い、通路に横たわる体を足で払いながら次の車両へ向かう。
- 117 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:59
- 「ちょっとぉ、勝手に行かないでくださいよぉ」
「くだらん事を言うからだ」
「ホントの事言っただけなのにぃ・・・だから待ってくださいってばぁ」
中年男の作った道を小走りでついていく。
足で払ったモノが仮面をつけていた部分は剥がされて
そこには自分の尾を噛んで円形を成す龍のマークが刻まれているのを二人とも確認していたが
特にココで口に出す必要はないと考え、敢えて口を開こうとはしなかった。
◇◇◇
- 118 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 20:59
- 数体の体をどかして道を作った中年男は次の車両へ繋がる扉を開ける。
すると体を縄で拘束された乗客数十名が各座席で気を失って座っていた。
それを見た中年男はフゥ〜と息をついた。
「やはり頭は機関室か」
「そのようですね、後は藤本さんに任せましょう」
「―――あぁ」
二人は乗客の縄を解きながら、鍵のかかった最後の扉を見つめた。
- 119 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 21:00
-
- 120 名前:記憶-パズル-の欠片 前編 投稿日:2004/06/18(金) 21:01
-
Today's Update
>>105-118
- 121 名前:右京 投稿日:2004/06/18(金) 21:15
- 毎週木曜日の予定でしたが、事情により一日ズレてしまいました。
次回は目指せ木曜日!ということで、レス返し。
>>102 名も無き読者様
紺野さん独自の特殊能力ということで。
いつか設定をご紹介させていただくときに
キャラクターの能力なんてものを書いてみようかと思ってます。
>>103 紺ちゃんファン様
コンコンバズーカ、この様な結果となりました。
おっちゃんの正体は後々解明されますので、
想像してみてください(爆
>>104 shou様
こちらもこのような結果となりました。
新キャラの存在が薄くなってますね(笑
- 122 名前:第7話予告 投稿日:2004/06/18(金) 21:16
- ――――――――場違いな風景。
「アホッ!アンタがアタシが必要なんでしょーが」
「そーゆうことにしておくよっ♪」
――――――――アタシでも知ってるよーな事いうな。
「美貴の記憶・・・・」
――――――――俄然勢いは止められない。
「美貴を敵に回した時点で負けだっつーの」
――――――――強いと初めて感じた。
「早いうちに摘み取っておく必要があるかもな」
「フッ、出来るもんならしてみろ」
――――――――所詮、エゴなんだ。
「全てを我が手中に治める事で乱れた秩序を統制するのだ」
「なりかけの独裁者が偉そうな事言うんじゃねぇよ」
信念ヲ持ツ者
―― 第七話 「記憶-パズル-の欠片 後編」
- 123 名前:我道 投稿日:2004/06/18(金) 23:08
- 更新お疲れ様です。
おぉ、紺野さん・・・意外と、大胆ですねぇ(w
あんなものを作り出すとは・・・
次回も楽しみにしております。頑張ってください。
- 124 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/19(土) 20:50
- 作者さま、更新毎週木曜日がんばってください!
登場人物全員、行動が読めません(笑)
藤本さん、大丈夫でしょーか?
紺野さんの活躍、待ってます。
- 125 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/20(日) 09:28
- 更新乙彼サマです。
またエライもんをあの子は。。。w
中年のオッサンもなにやらカッコ良さげで、
次回活躍しそうなあの方も楽しみデス。
続きも期待してます。
- 126 名前:shou 投稿日:2004/06/20(日) 12:55
- 更新お疲れ様です。
紺野可愛いですね、腕力半端なさそうですけど
それに藤本さん、次回暴れてくれそうですね(期待
更新待ってます。
- 127 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:54
- 眩暈が襲う。
視界が暗い闇に外側からジワリジワリと侵食していく。
気だるさにも襲われる体。
止めることも出来ない闇の全てが視界を覆った時、
同時に視界の中心から場違いな風景が飛び込んできた。
灰色の景色には変わりないが何か懐かしい気持ちに浸ることが出来る建築物が並ぶ街。
行きかう人々は笑顔に満ちて、目が逢うたびに次々とおはようという挨拶が飛び交う。
―――そんな中で美貴は誰かの手を握って歩いていた。
顔は曇って見えないが心地よい甘い声で美貴に囁く。
「絶対離れんなよぉ〜ミキたん。
アタシを一人にしたら絶対許さないんだからぁ〜」
「ハイハイ、離れませんって。―――ちゃんは美貴がいないとダメだもんねぇ」
「アホッ!アンタがアタシを必要なんでしょーが」
「そーゆうことにしておくよっ♪」
- 128 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:55
- 肝心なところが聞き取れない。
自分で言ってるハズなのに、そこだけ雑音が入ってかき消されてしまった。
美貴達は笑顔を絶やさないまま路地に入り、目的地へ向かおうと細い道を肩をくっつけて歩く。
決してそこまで狭くはないんだけど・・・くっつきたい為にそうしてるように思える。
「そー言えば、飯田さんのシゴキはどーなのさ?」
「相変わらず怖いよぉ〜、美貴っ!
そんなどん臭いと死んじゃうよ?って平気で死ぬなんて言葉使ってくるし
そんなんじゃ圭織に勝てるわけないじゃん!!って澄ました顔で罵られたりとか。」
「へぇ〜、たんも飯田さんの前だとタジタジなんだ??」
「ぼぅーっとしてるように見えるけど、指摘する事が全部正確でさぁ反論も出来ないんだよねぇ
ホント、―――ちゃんに代わってもらいたいぐらいだよ」
「ばぁーか、素質を見込まれて錬金術師になろうと思ったんでしょ??頑張らなきゃダメじゃん。
キツイって思っても全部自分の為なんだからさ」
「わかってるよぉ、だから必死についていってるんだしっ。
まぁ地獄の特訓の後に―――ちゃんに逢うから余計に疲れるんだけどぉ〜」
「照れんなミキスケ、アタシがいるから頑張れるくせにぃ〜」
「ち、違うよっ。美貴は美貴の為に―――」
顔を真っ赤にしながら反論しようと力のこもる美貴に彼女はチュッと頬へ唇を当てニッコリと微笑む。
心臓は鼓動を早めて、美貴の顔はより熱がこもる。
- 129 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:55
- 「まぁ今日はお休みもらったんだから、たくさん遊ぼうねバカたんっ♪」
「バカは余計だバカは」
「じゃあアホ美貴にしておく??・・・あっ、どっちもかわんないか、にゃははっ♪」
「このぉ〜」
隣で笑う幼さの残る可愛い彼女のわき腹をくすぐると
さっきの笑い声が倍ぐらいの大きさになって路地に響く。
なんか・・・すごい幸せ。
美貴、この子が大好きなんだ。
名前も顔もわからないけど、この声を聞いてるだけで心が和むし楽しい気持ちでいられる。
理由なんてわからない――――けど幸せ。
この子が笑っていてくれるだけで側にいてくれるだけで幸せを感じられる。
脇から手をひっこめて再び手を繋ぐと、彼女はプゥーっと頬を膨らませてばっかぁ〜!と怒った表情。
けど、その表情でさえも可愛く愛らしい。
- 130 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:55
- 「くすぐるなんて卑怯だぞ!!笑いすぎて死んじゃったらどぉーすんのよぉ」
「そん時は錬金術で蘇らせたり?」
「ばぁーか、それは禁じられてるでしょーが。一般人のアタシでも知ってるよーな事いうな」
「アハハっ、ごめんごめん。でも、―――ちゃんのことは死なせたりしないさ。
だってずっと側にいなきゃいけないんしょ?美貴は」
「そのとーりっ!!たんはアタシとずぅーっと一緒にいなきゃいけませぇーん」
「ほんと、ワガママだなぁ」
「これぐらいのワガママ聞かないでどーすんの。アタシといられるのがどんなに幸せなことか」
「ハイハイ、ちゃんと幸せだってわかってますから。 ほら、もうついたよ」
「あっ!ホントだ。はやいねぇ」
バカな話をしながらついた場所には大きな家が建っていた。
どこか西洋の洋館を思わせるような家はその大きさゆえに圧倒的な存在感を漂わす。
周りを植木で作った茂みが並び、柵の代わりをなし視界を隠し侵入者を防ぐ。
美貴達はいつ見てもデカすぎ!と呟きながら、柵門から誰かに声をかけて仲良くその家へと入っていく。
――――――――そこで画面は砂嵐になった。
- 131 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:55
-
◇◇◇第7話 記憶-パズル-の欠片 後編◇◇◇
- 132 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:56
- 気づいたときには列車の屋根を上っていた。
強烈な風圧に体が飛ばされそうになるが、あらかじめ錬成陣で
作成しておいたスパイクが地面に噛み付いているので上半身さえ低く構えていればこの風は苦ではない。
しかし、さっきの光景はなんだったんだろう・・・ひどく懐かしく愛おしい日々だと感じたアレは。
「美貴の記憶・・・・」
右手で頭を抑えながら目を閉じる。
だが、さっきのイメージは再び現れることはなかった。
藤本は頭を左右に振って頬を両手でパンパンと叩いた。
「いけないいけない、こんな事してる場合じゃなかった。
今はとにかく頭を潰すこと、記憶なんて思い出そうとして思い出せるもんじゃないし」
決意を改めて固めると、一歩一歩確実に踏み出し機関部へ急ぐ。
せっかく二手に分かれた意味を見せなくちゃ意味がない。
焦る気持ちを胸に風圧と戦いながらゆっくりと距離を縮める。
- 133 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:56
- 「さすがに屋根には敵ナシ・・・ってわけにはいかないか」
呟く藤本の目には木製の人形のように関節が妙に引っ張られた状態に
なっているモノが2体映り行く手を塞いでいた。
「あのさぁ、美貴急いでるのね?だからさぁ、そこどいてくんない?」
「「・・・」」
「シカトかぁ〜・・・ずいぶんいい度胸してるじゃない。
まぁ最初から話せるヤツだとは思わなかったけど。」
体を屈めたままパンと肩に手をつけて床に手をつく。
練成陣が形成して床が柔らかい物質へ変化し、波を打って人形へとぶつかっていく。
衝突した人形は体を大きく翻し、宙に舞った。
「なーんだ、楽勝じゃん。」
もっと何かしてくるかと思った藤本は
つまらなそうな顔を見せると再び足を進めようとした、しかし―――
さっき吹き飛ばしたはずの人形が体を縦にも横にも捻りながら藤本の頭上を襲った。
- 134 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:57
- 「なっ――」
上半身を2度捻ってその場をなんとか切り抜ける。
藤本の肩を隠していたジャケットが中のTシャツごと
鋭利な刃物で切り裂かれたようにキレイな複数の線を残していた。
あと少し反応が遅ければ、体は2つになっていたかもしれない。
少し離れた位置に着地した2体の人形は何事もなかったかのように行く手を塞いだ。
「ボスの前には強めを配置ってワケかぁ・・・じゃあ本気でいくよ」
パンと肩を叩いて、掌から白い光を放ち白い魔法陣を空中にゆっくりと描いていく。
体の半分ほどの大きさの魔法陣描ききるとその魔法陣へ手を入れ、
何もない場所から透明な球を取り出した。
透明は透明なのだが球だと断定できるには理由―――
そのモノがある場所が歪んだ球の形をしているのだ。
それを右手に持ちながら人形に一瞥を送ると口角を吊り上げてソレを思いっきり投げつける。
人形は動くこともなくまともにソレにぶつかり、
その瞬間にソレは形を維持することが出来ずに弾けた。
すると、2つの人形はソレの作った歪んだ空間へ押し込まれ、
ミシミシと軋む音を立てながら小さな木製のボールへと変化していく。
- 135 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:57
- 「美貴を敵に回した時点で負けだっつーの」
藤本は吹き飛ばされたボールを見つめてボソッと呟くと、機関室へと急いだ。
◇◇◇
- 136 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:58
- 「――――やられた・・・か。
まぁいい、列車が奪えないとしても必要なモノは手に入れられるからな。
少々遠回りをすることにはなるが、その見返りも十分に望める」
機関室のドアを開け、部屋へ一歩踏み入れようとした藤本に
背を向けたまま黒ずくめの男は圧倒的な威圧感を漂わせる。
正面で視線を合わせるよりも異質の威圧が存在していた―――――
しかし、威圧感に負ける藤本ではない。
腰に手をあてて、だら〜っとした姿勢でその背中を見据えた。
「アンタ、目的なんなのさ??」
「自己破壊と自己創造、我が求める理想郷創設の為、乱れた世を混沌-カオス-に戻す」
「はぁ!?意味わかんないんだけど」
「オマエにわかる程簡単な理想なぞ掲げるはずがないだろう」
「はぁ??殺られたいの??」
「オマエに殺られる?―――フンッ、甘く見られたものだな」
「なめんじゃねぇよ!!」
肩に手を当てて、その手で足元に刺さっていたパイプを触れる。
するとバチバチと光を放ちながらソレは
フォールディングタクティカルナイフの形へ変化し、
握り締めたハンドルの先には鋭利な刃物が鈍い光を放つ。
- 137 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:58
- 腰を落として素早く前進すると振り返った男に刃を右下から左上に動かし、切りつけた。
しかし上半身を軽く後ろへ傾けただけでソレは避けられてしまった。
何度も何度も切りつけるが、紙一重で全てかわされてしまう。
「純度のいい練成、そしてそれを相乗させる総合体術―――オマエの師は中々の実力者だったようだな」
「ハンッ!おかげでこんな事件に出くわすようになっちゃったけどねぇ」
握っていたハンドルから手を外し、それを投げつける。
予想通り上半身を動かすだけでかわした黒ずくめの男。
それを確認すると瞬時に藤本は体を回転させながら手を肩に当てそのまま右足の踵へ触れる。
安全靴のようにつま先と踵に金属の板をつけた紺野特製のブーツを履いていた藤本は
それの踵を刃物に変化させて回転による遠心力を利用してローリングソバットを繰り出す。
黒ずくめの男はそれさえもかわそうとするが、腹部に一筋の線を作り、覆っていた黒い布が破けた。
「へへっ、とりあえず一発」
息を軽く切らしながらバックステップで再び間合いをとった藤本は攻撃の手を止めなかった。
今度は猿のように飛び上がり、男の右側にめがけてキックを放つ。
男は右手を使ってとめようとするが、
藤本の足はそれをかわし軌道を変えて脇あたりに強烈な痛打を与える。
バキバキと骨の砕かれる鈍い音がした。
- 138 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:58
- 「―――うぐっ」
「まだまだぁ!!」
声と共に動いた右足は男の股間部へ振り上げられる。
怯んだ男にはソレを避ける手立てはなく、見事に決められてしまった―――――
が、表情を変えない男は放った足首を掴み体に似合わない怪力で藤本を壁へ投げつける。
受け身の取れない状態で背中から強く叩きつけられた為、
藤本の顔は苦痛に歪み、口から血を吐き出し地面にそれが飛び散る。
汚れた口を手の甲で拭って、口角を少し吊り上げた。
「強いねアンタ、けど・・・負けるわけにはいかない」
「素質は十二分にある、だがまだまだ原石にすぎん。
巨大な脅威に成りうるモノは早いうちに摘み取っておく必要があるかもな」
「フッ、出来るもんならしてみろ」
喋るたびに口の中から鈍い痛みが襲う。
きっとさっき投げつけられた時に歯をかみ締めるタイミングが遅くて
口の中を切ってしまったんだろう。
口にたまった血反吐を再び地面に吐くと、体を起こしてパンと肩に手を当てる。
今までとは打って変わったゆっくりした動作で手を前に出して目を瞑った。
男は攻撃してくるような素振りはおこさずに、ただそれを見つめていた。
- 139 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:58
-
――美貴さ、思い出したことがあるの。
さっき見たあの映像で一緒にいた子とも会話してたけど
美貴には師匠がいた、飯田圭織っていう師匠が。
師匠はとにかく厳しかった、、、けど・・・
誰にも負けず、弱音を吐かず、優しい笑顔を持っていた。
そんな師匠に美貴は強い憧れがあった。
恥ずかしくて口には出さなかったけど、美貴は飯田さんが大好きだった。
恋愛感情とかそうゆうモノじゃなくて、親や兄弟に対する愛情のようなモノを。
そんな師匠が言ってた言葉、今――思い出したよ。
『一なるものから、一なるものによって、一なるものに。』
全ては繋がってて、人間、動物、森、海、空、地球、そして・・・宇宙。
この世にあるものは手を取り合って形成されてる。
だからこの世界は全であり一なんだ。
知らないウチに助け合って生きている。
周囲を愛する心を持たない、勝手に理屈並べて私利私欲を語ることなんて許されることじゃない。
世界を更地にして新しく理想郷を作ったってそこから生まれるものはないにもないっ!!
- 140 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:59
-
藤本の目がゆっくりと開かれる。
描いた練成陣はとてつもなく大きなものになっていて眩い光を放つ。
それを見て男が口を開く。
「大型錬成陣――か。
今のオマエに使いこなせるのかな?その力を――――」
微動だにしなかった位置から一歩後ろに退いた男は、
膝を曲げて屈むと片手を床につけた。
男のつけた手からは漆黒の闇を思わせるような黒い線が陣を描き、そこから黒い塊を取り出す。
ソレを自らの体に押し当てると体の中に浸透して黒くて薄い膜状のモノが体全体を包み込む。
「アンタの語る理想郷なんて所詮、エゴなんだ。
自分の存在を示すための表現の一つにすぎない」
「フフフ、わかりもしない小娘がでかい口を叩くな」
「何もわからないわけじゃない、
一人の意見を押し付ける理想郷なんていらないって言ってんだよ」
「全てを我が手中に治める事で乱れた秩序を統制するのだ」
「なりかけの独裁者が偉そうな事言うんじゃねぇよ」
- 141 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 22:59
- 藤本の描いた練成陣がパラパラと砂のように消えるとその光は藤本の手元へ注がれた。
藤本は体を低くして男の下へ駆け出す。
そして、男の右手首を掴むと腕は光になって消えていく。
「なっ・・・何?!練成ではないだと」
「生成・形成を理解し、ソレを分解し再構築する――それを錬金術というのなら
分解でとめる術は何て言えばいいと思う??半練成とでも言っておこうか?」
不敵に微笑んだ藤本は離れようとする男の左肩を掴む。
右手同様に粒子に分解され光を放つように消える。
「くぅ――――暗黒錬気を打ち破るとは・・・仕方ない、ここは退かせてもらう」
男を包む黒い膜状のモノが消えると、ソレはカランと軽い音を立てて地面に落ちる。
男――だったモノにも自分の尾を噛んで円形を成す龍のマークが刻まれてた。
「なかなか面白い女だ、今度逢った時は命はないと思え。
・・・邪魔するモノは死ぬだけだ」
「アンタ、一体誰なんだ!?」
虚空を見つめ、藤本は言い放つ。
存在の消えた男の笑い声が響き渡る。
- 142 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 23:00
- 「混沌に生きる者、焔-ほむら-と名乗っておこうか・・・フハハハハハ」
「このキザ野郎が―――」
低く笑った声と共に男の気配も消える。
そして藤本の意識も途絶えた。
- 143 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 23:00
-
- 144 名前:記憶-パズル-の欠片 後編 投稿日:2004/06/24(木) 23:01
- Today's Update
>>127-141
- 145 名前:右京 投稿日:2004/06/24(木) 23:09
- とりあえず列車事件は終わりです。
次回の更新、少し間があいてしまうかもしれません。
ということで、レス返し。
>>123 我道様
ある意味、おちゃめなポンちゃん。
みたいな感じに受け取っていただけると嬉しいです(笑
>>124 紺ちゃんファン様
キャラの行動は、みんな自分勝手ということにしてください(爆
いい意味で想像しきれない展開なんぞ書いていけるようにしたいなと感じています。
>>125 名も無き読者様
中途半端に強いキャラはいらないという自分勝手な設定です。
強いヤツらばっかりってのもいいかなと思いまして。
その代わり、雑魚は徹底的に弱いですが(笑
>>126 shou様
握力ありすぎですね、ポンちゃん。
バズーカ自体は重くはないんですが、
個人的に鍛えておかないと色々と(ry と思いまして(謎
では、予告編。
- 146 名前:第8話予告 投稿日:2004/06/24(木) 23:11
- ――――――――圧倒的な力で恐怖に体を震わせていた。
『アンタ達、さっきの人の知り合いやろ?』
『・・・』
――――――――力がなくて何も出来なかった自分に対する悔しさ。
『久々に見たのぉ〜・・・あんな元気な人。』
『―――っ!!』
――――――――アタシ達は誓いを立てた。
月に一度ものすごい痛みが体を襲って動けなくなるんだ。
死ぬかもしれないって思う程の苦痛。
――――――――説得力の欠片もない弁解。
アタシ達ホントはこんなにマヌケじゃないからね?
結構ハードな仕事してんだから。
――――――――呆れ果てる程の素直さ。
「アハハ、負けたよ―――――」
「・・・あぁ、おかしすぎて反論もできねぇわ」
「――――――優しい方なんですね、アハハッ」
信念ヲ持ツ者
―― 第八話 「ソウルテイカー」
- 147 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/26(土) 00:31
- 作者さま、更新おつです。
藤本さん、徐々に記憶が戻ってきてるみたいですね。
今後の展開に期待です。
- 148 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/26(土) 17:30
- 更新お疲れ様です。
奴は一体・・・?
記憶についても気になりますね。
続きも楽しみにしてます。
- 149 名前:shou 投稿日:2004/06/29(火) 18:48
- 更新お疲れ様です。
骨粉砕された奴は何者?
それに記憶の中の人物は…
どう展開するのか楽しみます。
- 150 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:01
- 「それじゃあさぁ話してよ、機械心臓が欲しかった理由。」
緩めていた顔を引き締めて後藤は、
マグカップに入ったミルクと砂糖がたっぷり入ったコーヒーをズズズと音を立ててすすった。
前にいた3人の顔の顔はさっきの呆れ顔とは打って変わって
顔の筋肉を収縮し、引きつった表情を作る。
「・・・やっぱり、何かワケありなんだ??それも結構重たい事情」
「「「・・・」」」
後藤の問いに3人は答えようとはしなかった―――――いや、出来なかったのだ。
息さえも出来なくなるような程3人の体は固まり、悔しさに歪む顔。
今思い出すだけでも恐怖と悔しさに胸を切り裂かれる。
圧倒的な力で恐怖に体を震わせていた、力がなくて何も出来なかった自分に対する悔しさ。
「んぁ・・・やっぱ、ムリしなくてもいいからね。
人って言いたくないことなんて山ほどあるし―――」
気遣いの言葉をかける真希の言葉に正面にいたあさみは大丈夫、と短く返した。
下唇をグッと噛む――今にも血が滲んできてしまうのではないと思わせるぐらい強く。
しばらく沈黙の時間が続いたが、その沈黙を破ったのはあさみだった。
力強く目の前にいる後藤を見据え、口を開く。
- 151 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:01
- 「なんでここまで来ちゃったのか、なんでこんな事したのか全部話すよ。
ただ・・・一つだけ守って欲しいことがあるんだけど」
「――んぁ?」
「アタシの話を聞いて、アタシ達のことがキライになっちゃったら
遠慮しないでこの家から追い出しちゃっていいから。
アタシ達、そーゆうのは慣れてるし」
アハハッと笑ったあさみの顔には悲しげな瞳。
余程なことがあったんだろうと改めて感じた後藤は返事をせずに首を縦にゆっくりと振った。
何かを感じ取ったあさみは、ありがとうと小さく呟いてから
自分の為に淹れてくれたコーヒーから立ち上る湯気に視線を落とし、語り始めた。
「もう2年以上前になるのかな、アタシ達は小さな村に住んでたんだ。
村の人みんな気さくで家族みたいに仲良しでのんびりとしててさ、
一般界の端にあった村だから自然がたくさんあったんだ。
けど、あの日・・・村にいきなりアイツが来たんだ――――ソウルテイカーが」
- 152 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:02
-
◇◇◇第8話 ソウルテイカー◇◇◇
- 153 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:02
- あの時にもっと力があれば・・・と3人の気持ちは同じだった――――――力が欲しいと思った。
何を目的に動いているのかは不明だが、何かを求めるために殺戮を繰り返す鬼のような女。
人を簡単に殺す姿はまるで魂を狩る死神のように見えるため
人は彼女を魂を狩る者――ソウルテイカーと呼んだ。
『まい、あさみ、そしてみうなちゃん!!
アンタ達はジッとそこで隠れているのよ?何があっても絶対に動いちゃダメ!』
『で、でも・・・りんねさん』
『大丈夫だよまい、アタシがやられるハズなんだから。
アタシが帰ってくるまで泣くんじゃないよ?わかった』
『『『・・・はい』』』
暗闇の中にオレンジ色の海が広がり、その中には逃げ惑う様々の大きさの影。
まいにみうなそしてアタシに指示を出したりんねは、
三日月のように目を細めてニッコリと微笑むと走り去っていった。
それが最後の笑顔、永久の別れになるとはその時は想像すら出来なかった。
それよりも恐怖が全てを包みこんでしまってアタシ達は身を震わせて。
―――後姿を見つめながら3人の下瞼は涙を頬へ流すまいと必死に震わせ耐えていた。
- 154 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:03
- 次々と聞こえる悲鳴、そして何か鈍い音。
瓦礫の隙間に身を隠していたアタシ達は何故こんな事になってしまったのか理解出来ずにいた。
だって平和で長閑なこの村になんでヤツが現れたのか、
そして何故火を放ってまで村の皆の恐怖を駆り立てたのか。
未だにわからない・・・ただアタシが言える事は、ヤツは狂ってる、ただそれだけ。
『・・・りんねさん大丈夫かなぁ』
『大丈夫に決まってるだろ?りんねが負けるはずないだろ・・・絶対負けるもんか』
『そ、そうだよね、、、りんねさんが負けるはず・・・ってみうなどうしたの??』
まいの言葉にアタシも一緒になってみうなの方にかおを向けた。
そしたら、みうなは膝を抱え込んで歯をガチガチ上下させて震えていたんだ。
いきなりどうしたのかと思って、アタシはみうなの側にずずずっと歩み寄って顔を覗き込んだ。
『――――りんねさん・・・消えちゃった、りんねさんが・・・消えちゃった』
『はぁ!?何言ってんだよ、りんねはアタシ達を守るために今、外でアイツの目を引き付けて・・・
ま、まさか・・・いや、そんなことは・・・』
みうなの直感はただの感覚じゃない、何か霊的なモノを感じて一瞬先の未来を見ることができる。
そんな力を持ってるみうなが言ったんだ・・・もしかしたら・・・ってアタシだって考えた。
りんねの力を信じていたけど、、、考えざるえなかった。。。
その時、瓦礫の中にいたアタシ達の目に鋭い赤い光が差し込んできたんだ。
すぐに自分の後ろにまいとみうなを寄せて体を盾にすると
その瞬間、金縛りにあったかのようにアタシは体の自由が奪われた。
- 155 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:03
- 『まだ残ってるなんて思っとらんかったのぉ〜・・・』
あどけない少女の声だが、とてつもない殺気を放っていた――と思う。
今考えるとよくあれだけの殺気を前に生きていたなって思うよ。
あの時が初めてだった・・・殺気ってゆうのはどんなものかって身をもって体験した。
ただ体を小刻みに震わせることしか出来なかったけれど。
『アンタ達、さっきの人の知り合いやろ?ひぃふぅみぃ・・・3人おるし』
『・・・』
『ほやった、喋られんのけ?ごめんなぁ、この殺気消すの結構苦労するんやよ。
コイツがまだ吸いたい吸いたい言いよるから――――』
赤い光の正体は紅く光る刀だった。
血を吸い取ったように紅く光る刀は日本刀らしい刀身で
刃こぼれ一つないとてもキレイな刀。
そしてそれを持つヤツの容姿もキレイだった、
刀に似合わない漆黒のボディスーツに身を包んだスレンダーな体に
胸の当たりまで伸びるウェーブのついた茶色い髪――キレイすぎて不気味に思った。
- 156 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:04
- 『ほやけどのぉ〜あの人はえらい図太い精神しとった。
久々に見たのぉ〜・・・あんな元気な人。』
『―――っ!!』
動かない体を無視してアタシは赤い光―――ヤツの眼を睨んだ。
殺されるかもしれないという気持ちは少しも思わなかったんだよね不思議なことに。
りんねに何かされたって事が無性に腹立たしく思えてさ、それだけで頭の中がいっぱいだった。
何も出来ないって知ってるんだけど、殺してやるって思った。
けどヤツはヘラヘラと笑って刀を地面にズブッと差した。
『そんな心配せな、あの人は殺しておらんて。
ほやけど・・・あれだけの魂を黙って見過ごすわけにもイカンと思っての。
ちょっといただいといたわ。』
何を言っているのか意味がわからなかった。
魂をいただく?何を言ってるんだこの女は。
アタシより明らかに歳は下に見えるが、こんな状況の中笑顔を作っていることは信じられなかった。
いや、この出来事の張本人なんだから出来て当然・・・・か。
少女は膝を曲げてしゃがみこむとアタシ達を改めて見つめると、ふ〜んと言いながら眉尻をあげた。
- 157 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:04
- 『ん〜3人ともイイ眼しとるがし。
特に一番前のアンタはアタシの事睨みつけるぐらいやしのぉ〜。・・・ほや、コレやったるわ。』
ヤツは腰元の差していた小振りの短刀をポンと投げ出し、再度微笑みを見せた。
『それなぁ〜妖刀紫苑っていうんやよ、アタシを殺すことが出来るただ一つの刀でこの村正の兄弟。
さっきの人の魂・・・・奪ってみなよ、、、アタシはいつでもまっとるからの』
そう言ってヤツは身を翻して去っていった。
アタシの足元には小振りの短刀が残っていた――――――
- 158 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:05
- 炎は全てを燃やし尽くして姿を消した。
焦げ臭い匂いと血生臭いが強烈に残っているそこは・・・元々村があった場所。
アタシ達が瓦礫からの中から出てきた時には、無数の死体と焼けた木と血の湖。
まいとみうなは自分の目を疑ってたって聞いた。
つい数時間前まで笑顔と自然の溢れる町だったのに、あまりにも変貌した姿を見せたこの場所に。
そして・・・・村の一番外れに小高い丘に・・・りんねさんは横たわっていた。
アタシ達は駆け寄って、りんねを抱き寄せた。
肌の色は変わらなかった、ただ心臓の音も脈の音もしなかった。
普通なら青く変色するはずだが、それはなく外傷さえ微々たるものだった。
ヤツのいう事は正しかったのかわからない・・・
けど何か時が止まったように見えるりんねは微笑みを見せて眠っていた。
- 159 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:05
- それからアタシ達は誓いを立てたんだ。
ヤツを倒して、魂と呼んだモノを必ず手に入れてりんねを元の姿に戻すって。
その為には力が必要だった、アイツに勝てるような圧倒的な力が。
だからアタシ達は体の70%以上をアトミック化して自分の体を強化した。
―――一般界で体の40%以上をアトミック化することは禁じられているけど
そんな規則守っているヒマはなかった。
アイツは絶対的な力がある、、、
それに少しでも近づかないといけないから仕方なかったし後悔はしてない。
ただ、まいやみうなにまで同じ事をさせるのはちょっとヤだったんだけど。
こんな事言うと、また怒られるから言わないけど・・・心配してるのは今も同じ。
アタシ達の事を手術した闇医者が言ったんだよね、
コレによって全能力は大幅にアップはしたけどそれに伴う代償は大きいって。
工学者の後藤さんならわかると思うけど、月に一度ものすごい痛みが体を襲って動けなくなるんだ。
死ぬかもしれないって思う程の苦痛。
でもこれでりんねが助けられる道が少しでも見えるなら希望があるなら全然苦にならない。
それにアタシはヒトリじゃない、まいとみうながいるから。
・・・あっ、話それちゃったね、ごめんごめん。
- 160 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:06
- えーっとどこまで話してたっけ・・・
あっそうそう、それでアタシ達はりんねの魂と呼ばれるものを見つける旅に出たんだ。
でもアタシ達には何も情報がないし、何も持っていないし、大事なモノは全て失われた。
そこでアタシ達は何でも屋として名を売ることにした。
ヤツをやっつけられる力もつけることが出来るし
情報も入手することが出来る、一石二鳥の仕事だと思ったからな。
もぅーそりゃ必死だったべさ、何をするにも蔑まされて。
裏の業界と呼ばれる場所ではド新人だったからさ、
実力を見せるまで全然相手にされなかった。
けど、どーにかこうにか仕事が入るようになってきて、
それに伴って情報の収集できるようになって
ちょっと前の仕事でみうなが管理コンピュータに
侵入してある情報を手に入れるっていう依頼があったんだ。
そこで偶然みうなが見つけたわけさ、
この研究所で昔、最高峰の国家技術士が集まって
壮大なプロジェクトをやっていたっていうネタを。
それから色々な人脈を使ってこの研究所の詳細を調べてたんだけど、
まさか後藤さんがいるとはねぇ・・・ビックリしたわ。
ちなみに、アタシ達ホントはこんなにマヌケじゃないからね?結構ハードな仕事してんだから。
そこだけは勘違いしてもらっちゃ困るワケ。
- 161 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:06
- ◇◇◇
「まぁ、ここでアタシの話は終わり。
天才さんには重すぎた話かな??気分悪くしちゃってるならごめんね、
なんか全部話しちゃいたいと思ったから、つい。」
マグカップの中のモノは既に生ぬるい温度にまで冷めていた。
後藤の飲んでいるモノもぬるくなっているハズだが、気にせずすすっている。
「んぁ・・・大変だったんだ。
―――もしかして、機械心臓が欲しかったのって・・・」
「そう、もっと強くなりたいから」
あさみの右隣に座っていた里田があさみの頭をぽんぽんと優しく撫でながら口を開く。
「アタシ達は誰にも負けない力が欲しい、りんねさんをあんな風にしたアイツを倒すために」
左隣に座っていたみうなも強い意志に満ちた目で後藤に力が欲しいんですと訴える。
後藤はんーっと唸りながら胸の前で腕を組んだ。
- 162 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:07
- 「――3人とも、事情はわかったけど機械心臓はあげられない。
むしろ、事情を知った以上渡すわけにはいかないなぁ・・・
体をアトミック化してどんなに強くなったって今のままじゃ勝てないよ絶対。」
「どうしてさっ!!!」
テーブルに両手をバンッと大きな音を立てながら叩き、立ち上がったのはあさみだった。
その眼はさっきと違い、怒りの色に変わっていた。
後藤はその目を動じることもなくジッと見つめる。
「アタシが説明してもどうせ納得してくれなそうだからなぁ・・・んぁ・・・どうしよっか」
後藤が困って頭を捻る。
すると、可愛気のない電子音が部屋に響く。
――――ビビビビ・・・――――
- 163 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:07
- 「あっ、電話。」
ピリッとした空気だった事も気にせずに立ち上がった後藤は
そのまま奥のチェストの上にある受話器を耳へ。
あさみの鋭い視線は真希の背中えジリジリと浴びせられる。
「はい、ごとーです・・・あぁ、紺野?おはよ・・・うん、うん・・・え?迎えに??
しょうがないなぁ・・・わかったよ、今すぐ行くから」
ピッと電話を切って受話器を置くと、身を翻して3人を見つめニコッと微笑んだ。
「んぁ・・・知り合いの迎えに行くんだけど、もしよかったら一緒に来ない?」
後藤の問いにすかさず里田が呆れた顔で答える。
「後藤さん、一応アタシら盗みに来たんだよ?
ここで断って、家にいるとか言ったら居させてくれるわけ?」
「んぁ・・・そっか、そーゆうことも出来るんだよねぇ〜。
けど、3人はそんなこと出来ないよ。だって3人とも優しいもん」
「「「・・・」」」
- 164 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:07
- 3人は顔を見合わせて黙ってしまった、あまりにも人を信じる後藤に呆れ果てて。
しかし、ほぼ同時に3人の呆れ顔は笑顔に変わった。
「アハハ、負けたよ後藤さんには」
「・・・あぁ、おかしすぎて反論もできねぇわ」
「後藤さんって優しい方なんですね、アハハッ」
そんな顔をする3人を不思議そうな顔で見つめる。
「んぁ?ごとーそんな変な事言ったっけ??
・・・あぁ!ごとーの事はごっちんって呼んでいいよ、皆そう呼んでるからさ」
――――後藤の言葉に再び笑顔が零れたのは言うまでもなかった。
- 165 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:09
-
- 166 名前:ソウルテイカー 投稿日:2004/07/04(日) 21:09
-
Today's Update
>>150-164
- 167 名前:右京 投稿日:2004/07/04(日) 21:15
- 少々遅くなってしまいましたが更新です。
まったく違う視点になってしまったので微妙かもしれませんが
今後の広がりを・・・ということでご了承を。
では、レス返し。
>147 紺ちゃんファン様
今回は紺野さん出ていないので
ご覧になっていただけるかわかりませんが
徐々に出演回数は落ちていくのでご了承ください。
>148 名も無き読者様
メル欄は残念、不正解です。
けれども似たようなのは近々出てくるかもしれません(笑
>149 shou様
無駄な展開の遅さで飽きてしまうかもしれませんが
今後とも見ていただけると嬉しいです。
では、予告編。
- 168 名前:第9話予告編 投稿日:2004/07/04(日) 21:16
- ――――――――どこか見覚えのある部屋の作り。
「あれ?戻って来ちゃった??」
――――――――錆び付いたマシンガンが動き出すとスグには止まらない。
「いつまでも子供の気持ちを持ったままの純粋無垢な人って言って欲しいなぁ」
「全然純粋じゃありませんよ、まったく」
――――――――新しい人影。
「驚かせてごめんね・・・ってとりあえず戻るから」
――――――――状況が把握できない。
「散々迷惑かけたようで悪ぅございましたね。」
――――――――心境の変化。
「紺ちゃんを守っていただいてありがとうございました。」
「どーしたのさ急に」
信念ヲ持ツ者
―― 第九話 「繋がりし糸」
- 169 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/04(日) 21:43
- 更新お疲れサマです。
ソウルテイカー・・・話が広がってきましたねw
前回のメル欄のと似たようなのも出てくるようで、そちらも楽しみにしてます。
続きも期待デス。
- 170 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/06(火) 21:10
- 作者さま、更新どうもです。
167>
大丈夫です。もとは紺ちゃんが出てるので見てましたが(失礼なことかきました。)
徐々にこの話自体が好きになってので、今後もここに現われたいと思います。
では、これからもどうぞよろしくお願いします。作者さま。
- 171 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:30
- 瞑っていた目をゆっくりと開くと、視界には木目が綺麗に並んだ茶色い天井だった。
どうやら眠っていたらしい――――いや、気を失っちゃったんだっけ。
ギシギシと軋む音が聞こえるんじゃないかと思うぐらい
痛む体をどうにか起き上がらせて周りを見渡す。
どこか見覚えのある部屋の作り。
「あれ?戻って来ちゃった??」
紺野と二人で住んでいた灯台の部屋とほぼ一緒の作り。
だたえさえ自信のない記憶が余計にあやふやになって、頭をかきむしる。
「あんな大変な思いして来たのに、また逆戻りかよぉ・・・もしかして、これがデジャブ??」
「ウフフ、違いますよ藤本さん。」
視界の先にあるドアがギィーと音を立てて開けられる。
そこに頬の柔らかそうな丸顔の少女が笑みを浮かべながら現れた。
- 172 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:30
-
◇◇◇第9話 繋がりし糸◇◇◇
- 173 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:31
- 「ちゃーんと着いたんで安心してください。
どっちの家も私の家なんで、家具とか雑貨とか一緒になっちゃうんですよねぇ・・・」
藤本にゆっくりと近づき、頭にあったライトスタンドのボタンをカチカチと押して
光をつけたり消したりしてみせる。
「そっか、ならよかった。
ところで・・・美貴、どれぐらい寝てたの??」
「・・・うーんと、2日ですね。丸2日」
下唇に指を当てて唸って出された答えに藤本は目を丸くして
パチクリと瞬きを増やしながら紺野を見つめる。
「マジで?!・・・そんなに寝ちゃってたんだ美貴」
「だいぶ疲れてたみたいですからね。
私達よりもやっつけた人の数多いですし、何か新しい練成でもしたんじゃないんですか?」
問う紺野の顔は興味を十二分に示した表情をしていた。
藤本と紺野達が別行動をしていた時のことを聞きたがっているのがわかる。
- 174 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:31
- 「うん、ちょっと思い出した事があったから試してみたんだ。
そしたらさ、あまりにも疲れちゃって・・・
美貴ってば自分の力量を測り間違えたみたい・・・アハハ」
照れくさそうにチクッと痺れのような痛みが走る腕をあげて鼻の頭をポリポリとかいて見せるが
紺野の興味深々な表情は消えることなく続いていた――まだ満足した答えは与えていないらしい。
ベッドの側に置いてあった丸椅子に紺野はまたがって座り、
表情を少し変えてふんわりとした優しい笑顔を浮かべた。
「思い出したんですか、よかったですねぇ」
「ありがと。でもまだほんのちょっとだけなんだけどね。
知りたいことは何一つわかんなかったし・・・」
「そうですか・・・・そういえば、その試してみたことって何ですか??」
「んっとねぇ、練成過程の途中―分解の状態でやめて
対象者の体を光の粒子に変えるって事なんだけど」
「・・・」
紺野の顔は怒りに満ちたような表情に変化していた。
目尻の下がったチャーミングな眼を少し吊りあげて
藤本の顔へ自分の顔をゆっくりと近づけ、ジッと目を見つめた後に口を開いた。
- 175 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:32
- 「練成を途中で止めるなんて変なコトどーして考えるんですか??
明らかに攻撃的じゃないですか」
「そんな怒らないでよ。これは美貴の先生が教えてくれた練成で
・・・いや、練成って言ったらおかしいのかもしれないけど・・・」
常にマイペースで独自の時間が流れているのかと思わせるようなおっとり型の彼女が
急に血相を変えて、しかも早口で藤本に言葉を次々とぶつけるなんて一度も体験したことがなかった。
錆び付いたマシンガンが動き出すとスグには止まらない。
「だいたい藤本さんはいっつもいっつも危ないことばっかして、こんなに怪我してぇ。
私がいつもどんな気持ちで藤本さんの背中を見てるのかわかってるんですか」
「えぇー!!今回はさすがにちょっと無茶したかなぁ〜って思ったけどさ、今回だけじゃ〜ん」
「今回だけじゃないですよ。灯台にいた時から擦り傷やら青痣をいっぱい作ってたじゃないですか。
遊んでたっ♪なんて言ってましたけど、大の大人が遊んでたっ♪
なんて可愛らしく言ったって格好悪いだけですからね」
「格好悪いだなんて失礼だなぁ〜。
いつまでも子供の気持ちを持ったままの純粋無垢な人って言って欲しいなぁ」
「全然純粋じゃありませんよ、まったく」
- 176 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:32
- 労ってくれるかと思った紺野の意表を突いた猛攻を藤本はノラリクラリと交わす。
その反応にご立腹な紺野は頬を紅潮させ、
ふっくらとした頬を膨らませて腕を組んで睨んでいる――らしい。
そんな中に新しい人影が現れる。
「まぁまぁそんな言い争わなくたっていいじゃん。気楽にいこうよ気楽にさっ♪」
ウルフカットの髪を金と赤の半分ずつに染めた女性。
ノースリーブの白いシャツ。
腰には2重のチェーンベルト。
ブルーのパンツに厚底スニーカー。
右手には金属のボールを持ち、それを器用にコロコロと掌で
回しながら体をドアに任せもたれかかっていた。
「紺野ちゃ〜ん、そんな怒ってたらせっかくの可愛い顔が台無しだよ。
ほら、笑って!スマイルスマイルッ♪」
「――大谷さん」
振り返った紺野と目があった大谷はニィ〜っと口の両端を吊り上げる、目は何か企んでいる色。
コツコツとブーツの音を立てながら紺野の隣に立つと耳を手で隠してそっと耳打ち。
- 177 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:33
- 「・・・新しいダイエット方法教えるから機嫌直しなって。
―――好きな人の前で怒ってるのもつまんないでしょ??」
「そ、そんなっ・・・」
紺野の頬がまた違う意味で紅潮しそれを両手で隠し俯いてしまった。
反応を見てフフッと笑うと、今度は藤本に視点を変えてスッと一礼した。
「こーやってちゃんと挨拶するのは初めてだよね、はじめまして大谷雅恵です。」
「藤本美貴です・・・あの、ちゃんと挨拶ってゆうのは・・・」
藤本の記憶の中に大谷のような女性はなかった。
昔逢った事がある人なのかもしれないが、あいにく記憶喪失の藤本には昔の記憶はない。
断片的にフラッシュバックされた映像にも彼女はいなかった。
首を傾げながら答えた藤本に大きく口を開けてワザとした笑いを見せた。
「アハハ。やっぱりわかんないよねぇ・・・ちょっと待ってね」
そう言うと、目を瞑って持っていた金属のボールをそっと額に当てる。
するとボールは額に溶けるように入り込み、金属の鈍い光沢が大谷の全身を包み込む。
鈍い光沢をまとった大谷の体が徐々についさっきまでの体型とは異なり始め
次第に見覚えのある中々がっちりとした体格の口髭を生やした中年男の姿へと変化した。
- 178 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:33
- 「お、お、おっさん?!」
瞼をパチクリと何度も上下させて瞳を大きく見開いた。
驚くのも無理はないだろう、さっきまで大谷がいた場所には
今ではまったく異なった人物である中年男が立っているのだから。
「驚かせてごめんね・・・ってとりあえず戻るから」
中年の男の声には絶対に合わない口調で話すと
再び大谷の体は鈍い光沢の色へと変化した。
そのままさっきとは逆の変化を見せたその金属は
大谷が目を開けた時にはボール状へと戻っていた。
「これね、メロンメタルって言ってねアタシが作った特殊液体金属なんだ。
これを使って色んな人になれる・・・いわば、便利になった変装グッズってとこかな。
いつもはこうやって持ちやすいようにボール状になってるんだけどね。」
- 179 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:34
- ――メロンメタル。
新たなる機械の可能性、機械の更なる進化を求めて大谷が発案したメロン計画。
規格を破り、新たなる機械の繁栄を掲げる事により規格番号は存在しない。
その計画の第一号がこの金属。
Melon-Metal――Machines evolution of lost numbers-Metal type.
額に当てることによって、目には見えない程の細い端末を植え込み
体全体を無害の特殊金属で包み込むことにより、対象者のイメージに従い
想像した人物に変化することが出来る。
ソレによる変化は、外見の変化、声色の変化、体重や筋肉の変化のみであり
特殊能力を得られるような事はない(金属に包まれることによって強度は上がる)
体に付け加えること(人工筋肉や背丈など)は出来るが、
自分より身長や体重が下回るモノには変化できない。
(自分の標準のデータが根底になる為)
- 180 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:34
- 藤本に見せるように手を開く。
藤本はボール状になっている金属を人差し指でツンツンと突っつくと
プニプニとした金属らしからぬ弾力性を持っていた。
この鈍い光沢さえなければ金属と気づくのはムリだろう。
「それじゃあ、列車の時から紺ちゃんは大谷さんだって知ってたわけ??」
藤本は俯いている紺野に問うと、ゆっくりと顔を上げて首を傾げて見つめた。
「私ですか?」
「うん、知り合いなんでしょ?大谷さんと紺ちゃん」
「はい。 けど、あの男の人がまさか大谷さんだとは気づきませんでした。
そういえば何でここに来るまで黙っていたんですか?」
「ちょっと調べてた事があってさ。
その途中でアタシだって事をバラすわけにいかなかったんだ、ごめんね。」
顔の前で手を合わせて悪戯っぽく舌を出して片目を閉じた。
紺野はそうだったんですかと言って納得したようだが、
藤本はまだ大きな疑問符を頭の上で回していた。
- 181 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:34
- 「ん?ちょっと待って。
美貴、全然状況を把握できてないんですけど。
そもそも列車で気を失った後、美貴はどーなったの??」
「えっと、藤本さんがいつまで経っても車両に帰って来なかったので
痺れを切らして大谷さんがドアを突き破って機関室に行ったんです。
そしたら藤本さんが倒れてて。。。」
「そうそう、アタシもビックリしちゃったよ。
まるで楽しんでるかのように闘ってた藤本さんが倒れてるんだもんなぁ」
額に手を当てて汗を拭うフリをする大谷を藤本は横目で確認するが
それを気にせず、紺野に話の続きを催促した。
「それでどうしたの??」
「持ってきてたケースも置いて来ちゃってたんでどうしようと思ったんですけど
大谷さんがイキナリ藤本さんを担いで飛び降りるって言い出して。
その時、ちょうど駅に近くなってて速度が落ちてたんです。
だから今が列車から脱出するチャンスだって。
私はちょっと怖かったんですけど、大谷さんが言う方法が最善策だなぁって思ったんで
椅子の背もたれを使って、クッションを練成してそれに体を埋めて飛び出したんです。」
- 182 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:35
- 大谷と紺野は目を合わせるとフゥ〜と息を吐いて
大変だったねぇ・・・と声を合わせて天井を見上げた。
藤本に対して嫌味だという事はすぐにわかる。
「散々迷惑かけたようで悪ぅございましたね。
それで美貴を抱えて大谷さんとここまで来たってこと??」
「いえ、後藤さんに迎えに来てもらえるように電話してそれでココまで」
「後藤さん??」
またもわからない人の名前を出されて困惑気味に眉を寄せて顔をしかめる。
「出発する前に言ったと思うんですけど、藤本さんに逢わせたい人がいるって。」
「あぁ、言ってたね。たしか紺ちゃんの憧れの人だって」
「はいっ♪その人が後藤さん――後藤真希さんなんです」
目をキラキラさせて嬉しそうに口角を上げて言う紺野。
その口調と表情から、よほど好きな人なんだろうと予想がつく。
―――紺ちゃんがそんなに笑顔を作るなんて・・・ちょっとヤキモチ妬いちゃうなぁ。
心の中で呟くと、それをまるで読み取ったかのように大谷が口を開く。
- 183 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:35
- 「まぁ紺野ちゃんの育ての親というか姉ちゃんというか教育係というか
ま、そんな感じな人だから、心配しなくても平気だよ藤本さん」
「いや、美貴は別に心配なんて―――」
「アハハッ♪照れんな照れんな。
とりあえずはごっちんに逢ってみてよ。色々と話することもあると思うからさ」
「話??」
「うん。アタシから話してもいいんだけどさ、
今はウチのリーダーが野暮用でいないから
代わりにごっちんに説明してもらった方がイイと思うし。」
「・・・はあ」
要領のつかめない話にただ返事をするしかなかった。
理解に苦しむ話だが、言葉とは裏腹に大谷の真剣な目が大事な話だと物語っていたので
まずはその後藤という人に逢わなくちゃいけないという事はわかっていた。
- 184 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:35
- 「それじゃ私、後藤さん呼んできますね。」
紺野は席を立つと、待っててくださいね♪と可愛らしく言ってその場を後にした。
その後ろ姿が見えなくなるのを確認してから美貴はその場に立っていた大谷の顔を見上げた。
「あの、、、大谷さん」
「うん?どうしたの??」
「紺ちゃんを守っていただいてありがとうございました。」
「どーしたのさ急に」
頭を下げた藤本におどけた表情を見せる。
「強がってますけど、紺ちゃん・・・あの時イヤだったと思うんです。
優しい子なんで、ヒトと闘うとかそういう事苦手な子なんだろうなぁ〜って。
だから闘う事に関しては美貴が全部やろうと思ったんですけど、逆に助けられちゃって」
「お礼を言うのはこっちの方さ、あの数をいとも簡単にやっつけられたんだから。
――紺野ちゃん・・・昔っから争いごとは好まない子だったんだ。
聞いてると思うけど紺野ちゃんって追われてる身だからさ、
絶対闘わなくちゃいけない状況とかあったけど最後の最後まで闘おうとはしなかった。
そんな紺野ちゃんを昔はアタシ達が守ってあげてたけど・・・今は自分の力で闘おうとしてる。
闘いが好きになったわけじゃないと思うけど、藤本さんと出会って何かが変わったんだろうね。
イイ意味での心境の変化ってヤツかもしんないな。」
- 185 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:36
- 何か妹的な存在の紺野が大きくなったと思うと微笑ましく思う。
それを思うのは藤本だけではなかった、大谷も同じ想いを胸に秘めていた。
「心境の変化か―――可愛いだけが妹じゃないですね」
「あぁ・・・そうだね。
ホント頼もしい妹に育ってくれたもんだよ」
二人は窓から零れる光を見つめながらさっきまでそこにいた成長した妹の姿を頭に思い浮かべていた。
- 186 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:36
-
- 187 名前:繋がりし糸 投稿日:2004/07/13(火) 21:37
- Today's Update
>>171-185
- 188 名前:右京 投稿日:2004/07/13(火) 21:44
- >>169 名も無き読者様
伏線を綺麗に手繰り寄せることが出来るか不安な部分もありますが
いろいろなキャラの線を太い線で繋げます(笑
>>170 紺ちゃんファン様
これからもよろしくお願いします。
では予告編。
- 189 名前:第10話予告編 投稿日:2004/07/13(火) 21:46
- ――――――――お姫様のように彼女は静かに眠っていた。
「こ、これが一般界が総力をあげて行った計画の正体・・・」
「現代の再生医療工学の力はこんな事まで出来ちゃうなんて・・・」
――――――――ほんのり紅潮した頬を掻く。
「バカッ!そのままの意味で取るなっ。それぐらい図太いって事だよ」
「んぁ、これでもか弱い女の子なんだけどー」
――――――――厳しい沈黙も起きずに会話は進んでいた。
「そんな事するはずな―――ん?一度捨てそうになった事あったかも」
「んなぁにぃ!!!藤本さん、それは大罪じゃ大罪ぃ!!」
――――――――二人の間に飛び交う殺気。
「―――アンタ達うっさい、喧嘩するなら外でやってよ。」
「「・・・」」
――――――――不敵に微笑んだ後藤。
「藤本さんって―――」
信念ヲ持ツ者
―― 第拾話 「眠れる美女」
- 190 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/13(火) 21:59
- あはっ!!更新ほやほやダァ!!
大谷さん登場!!なんかカッケー・・・!
次はついにごっちん登場ですか。いや〜、楽しみだ・・・。
第拾話「眠れる美女」、楽しみに待ってます。
- 191 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/15(木) 16:13
- 更新乙彼サマです。
そーゆーコトだったんですか。。。
僕はまた上半身裸になって我が家が云々言い出さないかとヒヤヒヤしてましたw
そしてまた読欲をそそる予告で、、、
次回も楽しみにしてます。
- 192 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:09
- 太陽の光も届かない薄暗い部屋には照明器具が極端に足りず
それを補うかのようにケーブルで繋がれたコンピュータの
ディスプレイの光が部屋の照明代わりになっていた。
部屋の6割近くを占める数多くのコンピュータはケーブルで
互いを繋げ、その先を辿っていくと部屋の中心へと向かっていた。
中心にいけばいくほどソレは太い1本の線へと束ねられていく。
その末端は、中央にそびえる巨大な筒状のガラスケースのようなモノに繋がっており
ケースにはオレンジ色の液体が満たされ、その中には一人の少女が
目を瞑って眠るように浮かんでいた。
- 193 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:09
-
◇◇◇第10話 眠れる美女◇◇◇
- 194 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:09
- 「こ、これが一般界が総力をあげて行った計画の正体・・・」
「現代の再生医療工学の力はこんな事まで出来ちゃうなんて・・・」
後藤に案内され、何でも屋の3人がやってきたのは研究所の奥深くに作られた大きな部屋だった。
人間は理屈を越えるモノと直面したとき、言葉が出ないということは本当らしい。
現に里田とみうなはケースを前にして呆然と立ち尽くしていた。
しかし一般的という言葉に型にハマらない人物も中には存在する。
「うっひょー!!なまらでっけぇ筒だべさ。
ってゆーか、こんな暗いところでこんなのやってたら目ぇ悪くするよ?」
「んぁ・・・やっぱりそーだよねぇ。
ごとー、最近目がしぱしぱするのってこのせいかなぁ??」
「絶対そうだって。今度手伝ってあげるからライトつけようよ、ごっちん」
「そだねぇ。悪いけど手伝ってもらおうかなぁ」
「オッケーオッケー任せなさいっ♪」
胸をポンと叩いてコクコク頷くあさみに屈託のない笑みを浮かべる後藤。
場に到底合わない会話にツッコミを入れるものは誰もいなかった。
けれどその会話もすぐに終わり、キッと真剣な表情を浮かべたのはあさみの方だった。
- 195 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:10
- 「―――で、これが世界初のアンドロイド??」
「うん。半永久稼動機関搭載、自律プログラム運用型アンドロイドHP0625-AM」
後藤の大きな瞳が見上げるソレ――
オレンジ色の液体の海に浮かぶ少女はまるで天使のようだった。
天使のようなキュートな微笑みを浮かべ
王子様の口付けを待つお姫様のように彼女は静かに眠っていた。
「そろそろ話してくれないかな?
アタシ達にわざわざこんなの見せたのって何か理由があるんでしょ?」
あさみはコンピュータの置いてあるテーブルに入れてある
椅子の背もたれを掴んで引っ張り出しそれにガスッと腰を下ろした。
後藤も同じように椅子に座ると、頭をポリポリと掻く。
屈託のない笑みは徐々に失われ、真剣な眼差しであさみを見据えた。
- 196 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:10
- 「協力して欲しいの、ごとー達のやろうとしていることに。」
「悪いけど、こっちも忙しいの。それに仕事に関してはそんな簡単にOKを出すつもりないし」
「仕事じゃないよ。ごとー達に協力してくれるなら、
そっちの行動を出来るだけサポートさせてもらう。――ようはギブアンドテイクって事」
「・・・それってどうゆう事??」
首をかしげるあさみに後藤は表情を変えずに言葉を続ける。
「高橋の情報・・・掴めてないんでしょ?
いくら何でも屋って言ったって、所詮は個人。限界だってあるはずだと思うけど?」
「うん・・・実は全然集まらないんだ、、、アイツの行動は明確な目的があるとは思えない。
規則的な動きなら追いやすいんだけど・・・」
あさみは自分の手を握って開いて握って開いてを繰り返していた。
現在ドコにいるかわからない敵、どんなに苦痛に耐え強くなろうとも
肝心の相手がいなくては意味はないことをあさみは十分わかっていた。
- 197 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:12
- 「ごとー達は国家技術士だから特権を使って
国のデータベースを使って高橋の行方を追うことが出来る。
どう?悪い話じゃないと思うんだけど」
あさみ達には断る要素は一つもなかった。
自分達の目的を成し遂げるためにはどうしても協力者が必要だった。
それは向こうと変わらない状況。
利害の一致、信用できる屈託のない笑顔の天然女、マイナス面はまったくない。
「ごっちんのような国家技術士をコキ使えるなんて
チャンス滅多にないから協力してあげてもいいけど?」
照れ隠しにほんのり紅潮した頬を掻く。
その反応に後藤の表情もいつものふにゃっとした笑顔に戻っていた。
「あさみにコキ使われたら、ごとー死んじゃうかもなぁ・・・」
「大丈夫、ごっちんは心臓刺しても死にそうにないから」
「えぇー!それはさすがにごとーだって死んじゃうよぉ」
「バカッ!そのままの意味で取るなっ。それぐらい図太いって事だよ」
「んぁ、これでもか弱い女の子なんだけどー」
- 198 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:12
- 頬をプクッと膨らませて口を尖らせる。
場に合わない会話は再びツッコミを入れるものがいない状態になるはずだった――――
が、この部屋の入り口に現れた影によって終わりを迎えた。
「後藤さん、藤本さんが目を覚ましたんで寝室まで来てもらえませんか?」
「うん、わかった。今すぐ行くから先に行ってて」
「はい、わかりました」
ニッコリと可愛らしい幼い笑顔を浮かべると身を翻して立ち去った。
それを確認してから後藤もさてと、と言いながら膝に手を当てて立ち上がる。
「これから具体的な話するからさ、一緒に来てくれる?
もちろん、あそこの二人も連れてきてね」
目をやった先には巨大なケースの近くにあった端末の側に二人座ってコソコソと話しこんでいた。
あさみはやれやれと肩をすくめる。
「わかった、先に行ってて。
二人とも興味のあるモノにはホント時間と労力は惜しまないヤツらだから」
「いいねぇ〜。そういうのイイと思うよ。」
「この研究所を隅から隅まで調べるって言われても知らないからな」
「出来るモノならご自由にどうぞ」
- 199 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:13
- ふにゃっと頬の筋肉を緩ませて微笑むと後藤は踵を返して、ゆっくりと歩いていった。
「まったく、人事だからって適当な事言いやがって。
・・・・ほら、まいちゃん、みうな行くぞ。」
「待ってよ、まだこのデータが取れてないんだからさぁ・・・」
「アタシもですよぉ、ここだけでいいんでもうちょっと・・・」
「ウッサイウッサイ!こんなのアタシ達の専門外なんだから関わんなくていいっつーの。」
いつの間にか置いてあったコンピュータで情報を調べている
二人の首根っこを掴んであさみは強引にその場から離れた。
◇◇◇
- 200 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:13
- ボーイッシュな見た目と同じく、
性格もサバサバした後先考えないタイプだった。
大谷とは意外と話が合う事がわかり
紺野が立ち去ってからも厳しい沈黙も起きずに会話は進んでいた。
「・・・でさぁ、はっさくとまどかってば
勝手にカゴから飛び出しちゃってさぁ大変だったのさ」
「まだ元気だからいいじゃないですか。
美貴ん家のムクなんて死んでるのかと思ったぐらい動かない時ありましたもん」
「えぇ!!・・・もしかして捨てたとか言わないよね?」
「そんな事するはずな―――ん?一度捨てそうになった事あったかも」
「んなぁにぃ!!!藤本さん、それは大罪じゃ大罪ぃ!!」
首をかしげて斜め上を見上げる藤本に
刀を右手に持って振り上げるような動きで脅そうとする大谷。
藤本は手を前でフルフルと振り無実の証明をするために口を開く。
- 201 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:13
-
「いやいやいや、捨ててないってば。そーしそうになっただけですってぇ・・アハハッ」
「・・・あっぶないヤツだなぁ〜」
おばちゃんっぽく大きく口を開けて豪快に笑う。
大谷も刀をしまう動作をした後、噴き出すように笑いだした。
そんな和やかな空気に新鮮な空気がフーっといつの間にか入り込んでいたらしい。
部屋には紺野の姿、そして少し遅れてショートカットの外国人のような
くっきりとした顔立ちのした少女が姿を現した。
藤本は見た瞬間に確信した―――――このヒトが後藤真希だということに。
「おっ、ごっちん。そっちの用事はもう済んだの??」
最初に口を開いたのは大谷だった。
後藤はそれに答えるようにふにゃりと笑顔を浮かべて頷いた。
「とりあえずは協力してもらえるみたい」
「おっ、そりゃよかった。人手は多くて困る事はないからね」
大谷も白い歯を光らせながら親指をグッと立てる。
すると、ドタバタガヤガヤと騒がしい音を立てながら部屋に入ってくる人達。
- 202 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:14
- 「あんな事やったってアタシ達に関係ないべさ」
「わかってないなぁ、あさみは。
知識ってゆーのはいつドコで役立つかわからないの。
だから知っておいて損はないんだよ」
「そーですよぉ。里田さんの言うとおりっ!!」
「だぁーもぅ!!アタシは動いてた方が性に合ってるの!!」
「そうやって逃げるんだから、あさみは」
「なにぃ!!まいちゃん、もーいっぺん言ってみろ」
「あぁ何回でも言ってやるわ、
自分のやりたくない事から逃げるなって言ってるの」
「・・・・このぉぉぉ」
ギュッと拳を握ってカタカタと体を震わせると
目の色が赤く染まり、里田に向けて殺気が悶々と放たれる。
「お、お、落ち着いてくださいよぉ。」
おろおろとするみうなの言葉は二人の耳には入っていないようだ。
里田は手を開き、いくつもの血管を浮かばせ爪が見る見るうちに鋭く伸びていく。
二人の間に飛び交う殺気。
ぶつかり合って飛び散るソレは周りの空気をも冷たいモノへと変えていく。
しかし、それはすぐに破られることになる。
- 203 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:14
- 鋭い眼光がベッドの上から放たれた。
「―――アンタ達うっさい、喧嘩するなら外でやってよ。」
「「・・・」」
その言葉にあさみと里田の視線が一気に藤本へ向けられる。
――が、藤本の更なる威圧高い鋭い視線にあさみと里田の殺気は極端に薄まった。
あさみが握っていた拳に込めていた力を緩ませて口を開く。
「アンタ誰?」
「―――先に名乗れよ」
「アタシはあさみ。このツンとすましてるのが里田。で、ビクついてるのがみうな」
「そう、アタシは藤本美貴。よろしく」
「「よろしく」」 「・・・よろしくお願いします」
3者の鋭かった視線が柔らかいものへと変わる。
ピリッとした空間で起こった、『普通』という状況から逸脱した自己紹介。
それを黙って見守っていた後藤が、んーっと背伸びをして流れている重たい空気を破壊する。
「んぁ〜・・・自己紹介まだだったのに先にしちゃうんだもんなぁ。
それじゃ改めて・・・コホン、アタシは後藤真希。一応、ココの責任者になってるんだ」
- 204 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:15
- 屈託のない笑顔を浮かべ藤本を見つめる。
藤本もその笑顔に負けないぐらい柔らかみのある笑顔を見せて答える。
「藤本美貴です。今回は随分ご迷惑かけたみたいで、ありがとうございました。」
「んぁ、気にしないでいいよぅ。マサオがもっと頑張ってくれたらよかっただけだから」
笑顔を絶やさずに大谷を見つめる。
当の大谷は、人差し指で自分を指して目を大きく開けた。
「オ、オレ??」
「そーだよぉ。マサオがいてなんでここまでボロボロなワケ??
んぁ・・・もしかしてまだアレ使ってなかったんでしょ。」
「いや・・・その、それは・・・。
だ、だ、だってさぁアレ使うと必要以上に疲れちゃうからさぁ」
「国を守る立場の人間が手ぇ抜くなんて・・・」
「ごっちんだって同じなクセに」
「んぁ?何か言いましたか、マサオさん」
急に後藤の視線が変わる。
キツイ表情では決してないが、さっきとは違う緊張した空気を漂わすと
大谷は目を泳がし、何も言わず俯いてしまった。
- 205 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:15
- 「あはっ♪―――よし、皆そろったことだし本題に入ろうか。」
パンと掌を合わせた後藤は紺野と共に椅子に腰を下ろし
何でも屋の3人は壁に寄りかかって部屋全体を視野に入れるようにして耳を立てた。
「さっそくだけど藤本さん、アナタに一つだけ聞いておきたいことがあるんだ」
「うん?何ですか??」
「――――藤本さんって、カオリの・・・飯田圭織の弟子だよね?」
不敵に微笑んだ後藤を藤本は驚いた表情でただ見つめるしかなかった。
- 206 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:15
-
- 207 名前:眠れる美女 投稿日:2004/07/18(日) 22:16
- Today's Update
>>192-205
- 208 名前:右京 投稿日:2004/07/18(日) 22:24
- 先週お休みをした分、早めのスパンで。
次回は説明だらけ+少し長いので2回にわけて更新します。
では、レス返し。
>>190 紺ちゃんファン様
後藤さん達は今まで別の舞台で、やっていたのが合流って形ですね。
これからそろそろ動いていきます。
>>191 名も無き読者様
『紺野、藤本に強し』ってコトワザが生まれるかもしれません(笑
エロチックな展開はないので、裸はもう・・・
―――不明瞭に(爆
では予告編。
- 209 名前:第11話予告編。 投稿日:2004/07/18(日) 22:25
- ――――――――――初めて知る事。
「うん、そーゆうことになるね。
いやはや、錬金界の化学力は一般界のモノサシじゃ測れないよ、まったく。」
――――――――――あまりにも足りない記憶の数。
それさえも記憶にないんだよね美貴は・・・・
ごめんなさい飯田さん、恩を仇で返すような弟子で。
――――――――――白い石。
「そっか。・・・紺ちゃん、コレが―――必要なんだよね」
――――――――――白き想いを。
「眠りに着いたお姫様には王子様が
口付けして目覚めさせるのがセオリーでしょ?」
――――――――――変な気持ちにさせるナイスバディ。
「・・・な、なんでしょう」
「もぅ!!他人行儀は辞めろって言ってるだろぉ〜」
信念ヲ持ツ者
―― 第拾壱話 「動き出す歯車」
- 210 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/19(月) 16:23
- 更新お疲れサマです。
御三方コワッ・・・。(汗
ごっちんは何かを知ってそうですねぇ。。。
続きも楽しみにしてます。
- 211 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/19(月) 20:51
- 作者さま、更新どうもです。
最後のごっちんのセリフ、気になりますね。
何かありそうですなぁ・・・。
続きを楽しみにしとります。
- 212 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:04
- 窓から溢れていた光はいつの間にか暗い闇へと変わっていた。
部屋の照明によって光を得た室内には7つの大小の影。
その中でベッドに身を預けている藤本は驚きの表情を隠せないでいた。
後藤の不敵な笑みは消えず、言葉は再び紡がれる。
「そんな驚かないでよぉ・・・ってムリか。紺野まで驚いてるぐらいだしねぇ。」
目を大きく開けて見つめる紺野の頭を微笑みながらポンポンと叩く。
「紺野から聞いてるよ、藤本さんって記憶喪失だってね。
でも、その藤本さんが驚くってことは・・・何か思い出してるんでしょ?」
「はい、美貴―――いや、アタシに錬金術を教えてくれた人は飯田さんだって事を
あの列車で思い出したんですけど、でもそれはまだ誰にも言ってなかったです。
それなのにまさか後藤さんの口から出るなんて思ってもなかった事だったので驚いちゃいました。
・・・ってゆーか、なんで紺ちゃんも驚いてるの??」
首をかしげて紺野を見てみる藤本だが、
何かショックから立ち直っていないらしくまったく気づいていない様子だった。
何故ここまでの反応を紺野が見せるのかわからない。
- 213 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:04
- 「だ、だって・・・アレですよ、飯田さんのお弟子さんが藤本さんなんて聞いてませんよ」
「そりゃ言ってないもん。だから美貴だってビックリしたんだし」
「そ、そんな平然と言わないでくださいよぉ」
「そんな事よりさぁ、紺ちゃんって飯田さんと知り合いなの?
後藤さんは――――――知り合いらしいし。」
「えぇまぁ・・それは・・・」
後藤に視線を向けるとニコニコと笑顔を絶やしておらず
隣にいる紺野は急に曖昧な態度をとり始めた。
目尻の垂れた目をキョロキョロと動かし、
耐え切れなくなった間を埋めるかのように再び後藤にすがるように見つめている。
「これ以上紺野をイジメたら可哀相だねぇ・・・。
それじゃ順を追って説明するけど、全部話し終わった時にある事を聞くから答えて欲しいんだ。」
「・・・あ、はい。わかりました」
「うん、ありがと。」
部屋にいる全員の視線が後藤へと集中すると、天気も何かを悟ったのか
急に風が強くなり、カタカタと窓を揺らし始めた。
- 214 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:05
-
◇◇◇第11話 動き出す歯車◇◇◇
- 215 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:05
- まず、この世界の成り立ちから説明した方がいいかもね。
だいたいの事は知ってると思うけど、この世界は大きく分けて3つのエリアで成り立ってる。
そう、錬金界と一般界と陰陽界の3つ。
でも実は、数えることさえ困難ぐらい昔―――古の昔にはもう一つの世界が存在していたんだ。
それは魔界、人々が感じるマイナスのイメージ――不安、怒り、憎悪、嫉妬などと
その世界に漂う特有の物質で作られた魔空気というものを糧にして魔法という力を
行使する不滅の体を持つ精神体の住む世界。
澱んだ欲望と強大な力を持つ魔界はマイナスイメージの塊
当然のことのように六門世界を統一して世界を闇に変えようとした。
その強大な力を使うことによって。
―――――けどそれは未然に防がれた。
何故だと思う?それはね、陰陽界に住む巫女の力。
未来を読むっていう未来見(さきよみ)の力が強い人が事前に察知してくれたおかげだったらしい。
んー、実際どうゆうものかは知らないんだけどカオリや
そこにいるみうなが感じるっていう力がたぶんソレだと思う。
藤本さんも知ってるでしょ?カオリの勘って怖いぐらいに当たるって事。
あさみやまいちゃんもわかるでしょ?皆が高橋に狙われた時に使ったみうなの能力。
それが恐ろしく強くなった感じだと思ってくれればいいと思うよ。
ただ、陰陽界の人間は科学という分野をまったく無視して生きてるからごとーにも実はわからないんだ。
- 216 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:06
- 錬金界と一般界は形は違えど化学の道を究めていった世界。
けど陰陽界は深層心理に根深く生きる宗教を極めた世界、謎が多いことばっかりでさ。
でまぁ話を元に戻して、その巫女の力によって不安を感じた3つの世界はこの世界を無理矢理封じた。
封じた方法はよくわからない、ただ3つの世界の突出した力を
重ね合わせて出来たって本には書いてあったよ。
『特殊磁場による強力な呪符による結界網を作りそれを封じた』ってね。
それかららしいんだ、その場所―――六門世界の中枢には一切人々を近づけさせないように
3つの世界が隕石が降り注ぎ、その場は崩壊したから近づいてはいけないって発令したのは。
元々ごく一部にしか魔界の存在は知られてなかったからそんな適当な事言っても平気だったらしい。
それで人々は、その場を忘れ去られた虚空の地―――忘却の地って呼ぶようになった。
もちろん、今の今までバレてないのは各国の上層部の巧みな情報操作のタマモノです。
- 217 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:06
- これでこの話、これでハッピーエンドっ♪ってわけにもいかなかったんだ。
3つの世界は前々から不思議がっていた、
何故魔界にだけ魔空気が存在しているんだろうかって。
人間って皮肉なもんだよね、何でも利用できるものは
利用しようっていう欲が勝手に表に出てくるらしくて
3つの世界の選ばれた人間達がそこへ再び調査しに行ったんだ。
もちろん、公には公表せずに極秘裏にね。
―――――でも結果は散々なものだった、派遣した人間は全て謎の消失。
結界網と呼ばれる場所の前で溶けてなくなったように服装だけが人の形をして残ってたんだってさ。
何も結果が得る事が出来なかった3国はそれ以上の追求を断念して、歴史から葬り去ろうとした。
―――――けれど悲劇は繰り返された。
覚えていないかもしれないけどカオリの家って
以前、国家の管轄下に置かれていた古い屋敷だったの。
だからものすごい古い本から道具やらがビッシリ詰まってる倉庫みたいな場所があるんだ。
そこでカオリが見つけた古ぼけた赤い日記帳に興味深い事が載ってたの。
- 218 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:07
- 『×月○日。 調査1日目。
封印した魔界を覆う結界網は魔界全てを封じたわけではない。
網から漏れる不思議な力を持った空気――魔空気は
濃度は極端に薄くなったが忘却の地に漂っている。
それを知った我々錬金界は、他の2国に悟られないよう
極秘裏に再度調査へ向かい、魔空気の物質構造を調べている。
しかし、まったくコレを理解する事は出来ない。
我々の科学力では解明できない何かがコレには含まれているようだ。
- 219 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:07
- ×月○日。 調査14日目。
いつの事だったんだろう、一日中見せている暗く重い雲が消えて一瞬のうちに消えて
我々の前に黒い澱んだ空気の塊が姿を現したのは。
ソレはどうにか聞き取れるほどの低い声で急に語りだした。
六門世界に再び魔界の存在を安定化させるように外部からの支えを作れば
その代償として魔空気の物質構造と利用方法を教えてやる、と。
我々は迷った、しかしこの力を手に入れたモノが
六門世界の真の統治者になれるのではないかという欲望に負け、それを受け入れた。
ただ、錬金界へさえ報告をしていない状態では大掛かりなことは出来ない。
その代わりに多少の緩みを与える事は出来ると言うとソレは納得し必ず成せと言葉を残して消えた。
アレは何だったんだろう・・・夢なのか幻なのか定かではない。
たぶん見つけられないゴールを探すことに焦り、疲れが溜まっていたんだろう。
今日はいつもより早く寝ることにする。
- 220 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:07
- ×月○日。 調査28日目。
仲間の一人が結界網を解こうと言う。
あの夢のような事件から2週間、依然として結果は出ていなかった。
我々も限界だった、この場所は酷く理性を狂わせるような場所だ。
あの夢を見てから満足に眠れた日がなかった。
全てが狂っているように思えた、仲間も私自身も。
目は虚ろな状態、食事も喉へは通らない。
ここ何日かは水だけの生活だった。
―――この環境から抜け出すにはコレしかないと思った。
あの夢の事を実際に行えばこの呪縛から解放されるんじゃないか。
そうだ、あれは夢ではなかったんだ・・・神の啓示だったんだろう、きっとそうだ。
- 221 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:08
- ×月○日。 調査35日目。
胸には漠然な期待感が芽生え全員の合意の下、我々はソレの約束を守るため
結界網の力を8割に抑え魔空気を全世界へ行き届くようにした。
というよりかは、7日もかけて我々が解除出来たのはここまでだった。
魔界を封じた面々はかなりの実力者だという事が改めてわかったのはこの時だった。
失意の底へと落ちた我々に光が差し込んだのはそれから間もない事だった。
急に脳へものすごい量の情報が直接流れ込んできたのは。
ソレは魔空気の物質構造と利用方法だと気づくのはそう遅くはなかった。
急いで紙に書き写しアレへ入れた。
すぐに書かなければソレは消えてしまうような気がしたからだ。
これでこの呪縛から解放される・・・やった、やっと帰れるんだ
- 222 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:08
- ×月○日。 調・・・
甘かったらしい、我々はもうダメだ。
アレは神なんかじゃなかった・・・我々を利用しただけだったんだ。
もう我々に逃げ道はない、だがアレだけは必ず錬金界へ届ける。
これでも選ばれた錬金術師だ、最後の抵抗をしてやるさ。』
――――この数ヵ月後命を代償に手に入れたその知識は錬金界に届けられて
正式に魔空気の物質構成が理解され、錬金術寄りの魔法――――
つまり空気中の物質(又は空気そのもの)を
魔空気と反応させてその力を示す混沌錬金術が完成した。
ソレは錬金術の作成方法と同じで円と構築式で構成する魔法陣によって作られる・・・・・・・
ってこれは実際使ってる藤本さんもわかることだよね。
そういえば、少ない代価で大きな力を得る事のできる混沌錬金術は
今は普通の錬金術より使われるらしいね、紺野が言ってたよ。
あとは、この知識の応用させてイメージで練る陣の作成方法も同時に提案されて
現在の錬金術に使われてるんだってさ・・・まぁ、この情報は全部カオリからの受け売りなんだけどね。
- 223 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:09
-
◇◇◇
- 224 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:09
- 「つまりですよ、その・・・魔空気ってゆうのを利用して
美貴達は錬金術を使ってるって事ですよね?」
「うん、そーゆうことになるね。
いやはや、錬金界の化学力は一般界のモノサシじゃ測れないよ、まったく。」
一通り説明を終えた後藤は首を傾け肩をポンポンと叩くと、首をゴキゴキと鳴らした。
―――記憶を失ってからも切っても切れない関係だった錬金術にそんな過去があったとは思わなかった。
きっと、記憶を失う前にはこういう事を飯田さんから学んだと思う。
それさえも記憶にないんだよね美貴は・・・・ごめんなさい飯田さん、恩を仇で返すような弟子で。
あまりにもバカすぎる、思い出も何も持ってない自分が。
大事な人の顔さえ思い出せない、尊敬していた飯田さんとの思い出さえ。
自嘲の笑みを浮かべる藤本の肩に置かれた温かいぬくもり、
顔を上げるとそこにはべッドの隅に座っていた大谷だった。
「今、こんな事も知らなかったのかって顔しただろ?」
「いえ、別にそんな。」
「気にすることなんてない、記憶喪失は自分がなりたくてなったわけじゃないっしょ?
記憶なんてモノはゆっくり取り戻せばいいじゃんか、逃げることはないんだしさ。
紺ちゃんと一緒に来た旅のゴールはこんなトコじゃないだろ?」
- 225 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:10
- 微笑みを見せる大谷が藤本にはなんだかとても大きな存在に思えた。
奥からは口を噤んでいた紺野が目を細め、ニッコリと微笑みかけてくれる。
何かココロの底からジワッとするモノが攻め寄せてくるのを感じる。
藤本の視界がジワッと歪んだ。
「うん・・・ありがとう。
何か美貴らしくないね、ごめんごめん。」
「なぁ〜に謝ってるんですかぁ。・・・あれ?もしかして泣いてたりします??」
ニヤッと口角を吊り上げて上目遣いで覗きこむ紺野の目を手の平で制しつつ、空いた手で目を擦った。
「はぁ?バカ言わないでよ、泣くわけないじゃん。美貴が泣くわけないじゃん。」
「なんでそんな必死なんですかぁ??あっ、そっか。図星だから必死なんですねぇ」
「紺ちゃん・・・・それ以上言うと美貴ホントに怒るよ?」
「なんで怒るんです――――」
パンッ
藤本は肩に手を叩いて錬成陣を目の前に描き始めた。
すかさず、紺野は立ち上がって頭を上から下へ何度も下ろす。
「ご、ご、ご、ごめんなさいっ。悪ふざけしてごめんなさーいっ!!」
- 226 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:10
- 部屋の中で響きわたる紺野の声。
大谷や壁に寄りかかりでずっと口を開かなかった何でも屋の3人も慌てて動き出す中
ただ一人後藤だけはふわぁ〜と大きく口を開けてあくびをしながら背を伸ばしていた。
「んぁ〜仲いいねぇ。ごとー、そういう関係好きだなぁ。」
マヌケな言葉に一同あんぐりと口を開けてしまう。
少しの間を置いて、部屋中に笑い声が沸き起こった。
後藤はそんな面々の顔を見渡すと自分の顔を人差し指で指しておどけた表情を浮かべた。
「ほぇ?!ごとー、また変な事言った??」
「「「「「「言いましたっ!!」」」」」」
「・・・あぁそっかぁ〜。ごめんねぇ、あはっ」
さっきまで難しいことを話していた後藤と今ここにいる後藤が同一人物かと疑ってしまうぐらいの笑顔。
屈託のない笑顔を見せるとその場の空気が一気に和んだ。
- 227 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:11
- 「はぁーいっ!ちょっとしつも〜ん」
その空気に便乗するように抜けた声を出して手をぴーんと高くあげたのは
壁際に寄りかかっていた3人の中で髪を上の方で一つにまとめている女性、里田だった。
黒と白のカラーを胸で分けたカットソー。
膝上の黒いスパッツ。
膝下まであるサッカーソックスに黒スニーカー。
白い皮手袋を片手につけ、手首にはゼブラ柄のリストバンド。
わき腹につけているリボンの紋章が白黒のスポーティな衣装にアクセントとなっている。
「んぁ、まいちゃん。どうぞ〜」
「・・・あのさぁ、その錬金術と魔法がスゴイ事はわかったんだけどさぁ。
結局ごっちんは何が言いたいワケ??一般界の人間が錬金界の宣伝でもしてるわけ??」
「あっ、肝心なこと言ってなかったっけ??ごっめんごめん。」
「・・・おぃおぃごっちん。」
ため息混じりの里田の言葉に頭を掻きながら首を引っ込めた。
「それじゃ私から説明します、完璧にっ♪」
「えっと・・・たしか紺野さんだったね。
じゃあさっそくだけど、何が言いたかったの??」
優しく問いかける里田に紺野はない眼鏡を中指で吊り上げる。
- 228 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:11
- 「魔空気の濃度が濃くなってるんです。
つまり、結界網の効果が弱くなってるということです」
「えっ・・・だってすっごーい昔から平気だったんでしょ?
なのに急になんで??」
「それは・・・」
紺野は苦虫を噛み潰したように顔を歪ませ、うな垂れて言葉を失くす。
チラッと視線を流した先にいる後藤までも口を噤んでしまっていた。
「―――誰かが結界網を崩した。
誰かはわからないけどソイツは魔空気を異常な程吸っている」
視線をキッチリ里田に合わせ低い声で言い放ったのは大谷だった。
青く暗い瞳の色をしながら。
「魔空気は古の昔に存在した魔界そのもの、濃い魔空気は人を惑わす。
自分の欲望のままに行動し、邪魔になるものは容赦なく切り捨てる。
取付かれた人間は精神が崩壊し、自分自身の身を滅ぼす。
つまり、華麗に死ぬことを目的として数多くの者を巻き込んで死ぬ。
犠牲者は右肩上がりで増えている、再び封印しなければこの六門世界は―――滅亡する。」
「・・・だからごとー達はソレをやる、それがカオリとの約束だから。
―――――そう決めたんだ。」
- 229 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:12
-
強い意志を持った目。
揺るぐことのない強い想い―――信念を持つ者の目をしていた。
「ひゅ〜、それが目的か。
でか過ぎなんだよ、掲げるものがさ」
口で吹いた笛の音は高く響く。
両手の平を空に見せて肩をすくめて見せたのは里田と同じ格好をしたあさみ。
もたれかかっていた壁から体を離しゆっくりと後藤の方へ歩み寄る。
「けどまぁ、なまらでっけぇ〜目標ってのも悪くねぇべさ。
な、まいちゃん。みうなっ。」
振り向いて壁際に視線を送ると、二人とも少し笑みを浮かべた顔で頷いた。
確認したあさみは向きを直して藤本を見つめる。
「ってわけで、後は藤本さん。アンタだけだわ」
「美貴は・・・」
下唇をクッとかみ締めてベッドシーツをギュッと握り締める。
- 230 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/24(土) 21:12
- うぐっ・・・な、何?!
眩暈が襲う。
視界が暗い闇に外側からジワリジワリと侵食していく。
気だるさにも襲われる体。
止めることも出来ない闇の全てが視界を覆う―――――こ、これは・・・前と同じ感覚。
◇
- 231 名前:アイキャッチ 投稿日:2004/07/24(土) 21:26
-
−−信念ヲ持ツ者−−
『藤本美貴の意思は?!』
- 232 名前:右京 投稿日:2004/07/24(土) 21:26
- Today's Update
>>212-230
ここで一度とめます。
続きは明日もしくは明後日に。
話が終わった時点でレスを返させていただきます。
- 233 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/26(月) 08:14
- ふ・・・藤本さんに一体何が!?
話がどんどん複雑な方に・・・。
更新がんばってください。
- 234 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:12
- 『――――美貴を巻き込むなんてカオリには出来ないよ』
目の前に現れた淡い色の映像-ヴィジョン-は頬を濡らした端整な顔立ちの女性と自分の姿だった。
美貴はニコッと白い歯を見せて微笑んで飯田さんの頬の涙を親指で拭う。
『なぁ〜に言ってるんですか。美貴は巻き込まれるんじゃないですってば。
どうせ美貴は大罪人です、錬金界にいればただ死ぬだけ。
だったら世界を救う!――それぐらいデッカイ夢、追いかけさせてください。
それが亜弥ちゃんを助けられなかった美貴のせめてもの―――――罪滅ぼしです』
・・・亜弥ちゃん?
誰?
それは誰??
ねぇ美貴、もしかして・・・それは、あの笑顔を見せてくれた人なの??
それに罪滅ぼしって、美貴は何かをしたの??
- 235 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:12
- 『・・・フフッ、運命は変えられないか。
バカ正直で頑固な弟子を持つと苦労するなぁ。』
『そんな風に指導してくれたのは誰だったんですかねぇ』
『アタシ?』
『そのとーりですっ・・・アハハッ♪』
◇
「―――藤本さん?大丈夫??」
淡い光と共に戻ってきた景色には後藤の顔があった。
気だるさの残っていた体にも力が戻っている。
そしてココロには――――強き意志。
「飯田さんとの約束って言いましたよね」
「んぁ・・・そう、カオリとごとー達のね」
「美貴は飯田さんの遺志を継ぐ。
そう決めてあの場所から美貴は出てきたんです。」
「それって・・・」
「はい、協力します。
飯田さんの代わりになるかはわかりませんけど」
「―――ありがとう、藤本さん」
- 236 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:13
- 目を上弦の月のように細めた後藤の微笑み。
ココロに温かい光を照らしてくれるような柔らかい表情は
何故か昔から知っているかのように思わせる表情だった。
癒しとはこういう事なんだろうか。
「あのぉ・・・ちょっとよろしいでしょうか」
恐る恐る前へ踏み出したのは何でも屋の一人、みうなだった。
ベッドの周辺にいた5人はいっせいにみうなに視線を向ける。
その途端、びくっと体を震わせたみうなは上目遣いで鼻をかきながら口を開いた。
「あの、さっき見せていただいたアレの事なんですけど。
アレってまだ完成品じゃありませんよね」
「あぁ・・・うん。後ちょっとなんだけどね」
「やっぱりそうでしたか。。。」
内容の掴みきれない会話に藤本一人だけ首をかしげている。
わざとなのか、伏せられた言葉は何か大事なモノな気がしていた。
そんな藤本の様子に気づいたのか、紺野が反応を見せる。
- 237 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:13
- 「前に言ったんですけど、機械血液のろ過できる材料を探してるって話を。覚えてますか??」
「あぁ、なんだかわかんなかったけど。それが紺ちゃんが灯台にいた目的でしょ。」
「はい、そうです。
でも・・・それは見つからなかった―――その代わりに見つけた答えがありました。」
「答え?」
「・・・練成による変換しかムリってことか。」
口を開いたのは後藤、前々から結果は出ていたような口調だった。
その答えに紺野はコクリと頷く。
「はい、それも等価交換の原則を破った練成反応じゃないと
機械心臓は今まで通り、30分しか耐えられません」
「―――――となると、厳しいね」
「いえ、打開策は見つかりました」
「えっ・・・それじゃあ」
「―――ただ、それは私の想像の域の話ですし、それに藤本さんが許可がないと」
真摯な眼差しで藤本を―――藤本の胸元に光る白い石を見つめる。
- 238 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:14
- 「み、美貴?!」
「単刀直入に言います、藤本さんの持っているソレは―――白い石だと思います」
「白い石??」
「賢者の石、哲学者の石、天上の石、大エリクシル、
紅きティンクトゥラ、第5実体と様々な名で呼ばれた
等価交換の原則を無視した練成が出来るといわれる赤い石―――それの第一段階が白い石。
赤い石が太陽と例えれば、白い石は月。
物質を金に練成できる力を持つ赤い石、一方白い石は物質を銀に練成できるといいます。
赤い石ほど力は持ちませんが、白い石も充分すぎるほど強大な力を持っています。」
「コレにそんな力が」
「ただ、その白い石を精製する事は赤い石同様に禁忌を犯すことになります。
だから前は・・・言えなかったんです。」
「そっか。
・・・紺ちゃん、コレが―――必要なんだよね」
白い石をギュッと握り締める。
今までわからなかったモノが少しだけわかった。
それだけでも十分に嬉しいこと、たとえどんな因縁があろうとも。
「ねぇ、紺ちゃん。
美貴はね、紺ちゃんが必要というなら使ってくれても構わないと思ってる。
けど・・・これは美貴のワガママなんだけど、その使うモノ・・・見せてくれないかな?」
- 239 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:14
- 今日で何度目になるだろう、再び顔を歪ませた紺野に明るい声がかけられた。
「いーんじゃないの?どうせ見せるわけだし。
・・・というよりも、かおりんに藤本さんの為にってお願いされて作ったんじゃん。
見る権利だって、使ってもらう権利だってあるよ」
「大谷さん・・・でも」
「紺野・・・見せよう。
それがカオリの望んだ事だよ、あの子が藤本さんの為に役立つなら今すぐにでも。」
「後藤さん・・・」
後藤は、膝に手を当てて立ち上がった。
そして藤本に手を差し伸べる。
「藤本さん、ちょっと悪いけどついてきてくれるかな。」
「あ、はい。わかりました」
体を捻って、少し痛む足を床に下ろすと後藤の助けを借りて立ち上がった。
肩を貸してもらい、一歩一歩着実に進めていく。
「んぁ・・・皆はちょっとココで待ってて。
すぐ・・・には戻れないかもしれないけど」
それぞれが返事をして了解すると、二人は部屋を後にした。
- 240 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:14
-
◇
- 241 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:15
- 「この子・・・どうしたの?」
オレンジ色の液体の海に浮かぶ少女を見つめ呟く。
耳を見せる程の短い栗色の髪、幼さの残す顔立ちはお猿さんのように可愛い。
首から鎖骨にかけてのラインは妖艶さを漂わし、視線を下ろすと豊満なバストが姿を現す。
そのまま下ろしていくと、括れたウエストからヒップラインへの綺麗な曲線が浮かび上がる。
―――美貴より胸あるじゃん・・・う、羨ましいなんて全然思ってないぞ、全然っ。
それにしても何か見覚えがあるような・・・ないような・・・。
「この子に使って欲しいんだだよ、その白い石を。」
「えっ・・・」
大きな瞳で見つめる先は藤本と同じく海に浮かぶ少女だった。
驚いて後藤の横顔を見つめると、後藤はそのまま話を続ける。
「この子がトップ5の国家特別研究員が共同で行ったHumanizm Projectの最大にして最高の研究結果。
半永久稼動機関搭載、自律プログラム運用型アンドロイドHP0625-AM。」
「ア、アンドロイドぉ?!」
「外見はもちろん、思考や行動なども人間同様の人工生命体・・・それをアンドロイドっていうんだ」
- 242 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:15
- 可愛い女の子だと思ったソレは、人間ではなく作り物。
しかし、藤本にとってはどこをどう見たってただの人間にしか見えない。
「ねぇ藤本さん、あの子はね藤本さんの為にいるんだよ。
アナタを守るためにアナタの側にいるために作られたんだ」
「・・・美貴のため?」
「そう、最初はこの子は男性型に設計していたの。
精神的にも肉体的にも男性の方が相手を威圧できるからね。
けど、カオリの要望でこの子はこの形―――松浦亜弥ちゃんのデータを忠実に再現したの。
もちろん、人間の力を遥かに超えた機械の力ではあるんだけど。」
「松浦・・・亜弥」
「うん、カオリから聞いた話だと藤本さんの一番大切な親友って聞いたけど」
「親友・・・亜弥・・・ちゃん」
――――美貴の親友・・・大事な人。
声を聞いてるだけで心が和んだ。
笑っていてくれるだけで幸せだった。
側にいてくれる事が美貴の支えになった――人。
うっすら浮かぶヴィジョン。
今までノイズの入っていた部分がだんだんと消えていって
そこから見える愛くるしい表情。
目の前にいるこの子の笑顔。
- 243 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:15
- 「思い出した・・・この子なんだ、美貴の隣にずっといてくれた子」
「・・・」
「美貴の胸の中にいた子がここに――」
「ちょっと、あの子の胸のところを見てくれる?」
「そ、そんなっ。美貴は羨ましいなんて思ってないですってば」
「んぁ・・ごとーそんな事、一言も言ってないけど」
「・・・コホン」
頬を紅潮させてわざとらしく咳をした藤本は恥ずかしがりながらもその豊満な胸に視線を合わした。
そこにはある模様が刻まれていた―――あの形は錬成陣。
「あそこにその白い石を入れてくれればあの子は目覚めるはずなんだ。
爆発的な練成が可能になって機械心臓が動き出す。」
「・・・あの後藤さん」
「んぁ?」
「なんで錬金術が必要なんですか?だってこれは一般界の計画でしょ??
前に紺ちゃんに教えてもらいました・・・技術提供は基本的に認められないって。」
- 244 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:16
- 各国、ある一定以上の地位にいれば他国との個人間の接触は可能になるが
必ず報告書を提出することが条件となる。
それ以外は何人もソレを犯してはならない、例外も認められない。
国交は担当についたモノのみソレを行うことができる。
しかし最低限の情報公開のみとし、必要以上の干渉は行わない。
これがこの六門世界における絶対的なルールである――――
「んー・・・本当はこの計画は、破棄されるようになってたんだ。」
「・・・え?」
「理論も設計も完璧だった、けど・・・実際はそうウマくいかなかった。
アンドロイドの命でもある機械心臓が動かなかった、
正確に言えば30分しかパーツがもたなかったの。
機械血液のろ過、全身への循環。この二つの負荷はパーツの消耗を早ませる原因になった」
「だから錬金術を?」
「うん。現在の鉱物では二つの負荷に耐えられるパーツは作る事は出来ない。
だったら錬金術を利用して機械血液のろ過をすればいいってカオリが言ってくれたの。
でももちろん最初は相手にしなかった、紺野には錬金術の知識があったからね。
理論的に不可能なんだ、絶えず練成し続ける事なんて。だけど―――」
「・・飯田さんの勘ですね。」
「そう、カオリが見たんだ。遠くない未来に必ずこの子は胸に白き想いを刻んで動き出すって。」
「白き・・・想い」
「だから、あの子の目を覚まさせてくれないかな。
眠りに着いたお姫様には王子様が口付けして目覚めさせるのがセオリーでしょ?」
- 245 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:16
- にひひと子供のように無邪気な笑みを浮かべる。
その笑顔につられるように藤本も口角を吊り上げて不自然に息をはいた。
「しょーがないなぁ・・・美貴、ホントはお姫様がいいけど。
――――それじゃ行ってきますね。」
「おぅ!・・・んじゃ、ケース開けるね」
後藤は近くのコンピュータの下へ行くと、
カタカタとキーボードに触れてケースの安全装置を解除する。
するとオレンジ色の水は抜け、全てなくなるとケースがウィーンという音を立てて降りていった。
カクンと膝が折れる彼女を精一杯の力で支える。
―――あれ?思った以上に軽い。それも肌の感触なんて人間そのもの。
彼女を床に寝かせて、首にかけていたペンダントをとる。
ソレを右手に握り締めて、谷間の上にある錬成陣に乗せた。
「亜弥ちゃん・・・目を覚まして。
また美貴にその笑顔を・・・見せて。」
藤本が呟くと錬成陣は輝き、右手に握ったペンダントが胸の中へと埋まっていった。
それと共にけたたましい機械音が部屋中に響きわたる。
- 246 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:17
- 「なっ・・・何?!」
「大丈夫、最初だけ・・・の予定だから」
「えぇー!!!推測かよっ」
耳を押さえてしばらくその音に耐えると横たわった少女の表情が変わる。
ゆっくりとその瞼が開かれて、つぶらな瞳をのぞかせる。
が、その眼は焦点が定まっていない。
そこへ機械的な音声が彼女の口元から聞こえてきた。
「生命維持プログラム機動・・・機動率100%。
ニューロンネットワークノ接続ヲ開始・・・全回路接続完了。
イメージチップノ読込ヲ開始・・・完了。
全システムオールグリーン」
「・・・亜弥・・・ちゃん」
「・・・記憶バンクカラノ読込開始・・・判明・・・藤本美貴。
マスター藤本美貴ヲ守ル事・・・最優先事項。
藤本美貴・・・藤本・・・・」
「あ、亜弥ちゃんっ。しっかりして!」
閉じられる瞼。
急に不安という感情が藤本のココロを支配し、とっさにソレの肩を揺さぶった。
二度と目を開かないんじゃないかという不安。
しかし、それはすぐに裏切られた。
- 247 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:17
- 「・・・ミキ・・・たん?」
「えっ・・・」
「アナタ、ミキたんだよね?」
「あ、はい」
「なんでそんな他人行儀なんだよぉ〜、あっもしかして・・・浮気でもしたんだろ?」
「そっ、そんな美貴は」
無邪気な笑顔で攻め寄られる藤本は急に展開するこの状況を理解できずに
コンピュータの制御をしている後藤に視線を向かわせた。
「あはっ♪ついに動いたんだぁ〜。
あっそうそう、思考プログラムは村っち―――村田めぐみってゆう国家技術士が組んだから
かなり人懐っこく出来てると思うよぉ。」
まるで他人事のように話す後藤の助けは借りられず、
再び視線を戻すとソレは地べたに正座をして異常な程近寄り、
痛くなるほどの視線を藤本の方へ送っていた。
その変な気持ちにさせるナイスバディな体を露わにしたままで。
- 248 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:17
- 「ねぇねぇミキたんっ♪」
「・・・な、なんでしょう」
「もぅ!!他人行儀は辞めろって言ってるだろぉ〜」
「・・・な、なにさ?」
「ミキたんはアタシが守ってあげるからねっ♪」
屈託のない笑顔で言われたこの言葉が
この亜弥ちゃんそっくりのアンドロイドの最初の約束だった。
- 249 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:18
-
- 250 名前:動き出す歯車 投稿日:2004/07/26(月) 23:21
- Today's Update
>>234-248
- 251 名前:右京 投稿日:2004/07/26(月) 23:27
- 今後はこの新キャラが動いていくので
まったりムードをゆっくりですが打破していきたいと思います。
では、レス返し。
>>210 名も無き読者様
後藤さんの語りがメインとなりました(笑
説明文だらけで見にくいモノになってますが。
>>211 >>233 紺ちゃんファン様
こんな結果となりました。
見にくいですが今後ともよろしくお願いします。
では予告編。
- 252 名前:第12話予告 投稿日:2004/07/26(月) 23:28
- ――――――――――ペースはアナタ側。
「たんの肌で暖めてくれればアタシは大丈夫だよぅ」
「ぬわっ!ひっつくなぁ!!!」
――――――――――心の底から笑いあえる親友。
「――――期待してるからね?」
「――――期待されちゃうからね?」
――――――――――アトミック化。
「―――あさみ、油断してたら許さないからね」
「それはこっちのセリフだから」
――――――――――深紅の色。
「まぁまぁ、そんな怒るなってぇ〜」
「フンッ」
――――――――――大きな声で笑い声。
「プッ・・・アハハッ♪」
「お、大谷さん?!」
信念ヲ持ツ者
―― 第拾弐話 「すっごい仲間」
- 253 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/27(火) 21:52
- 作者さま、更新ありがとうございます。
あ・・・亜弥ちゃんご登場!!軽く(?)みきあやだぁ!
紺ちゃんとごっちん、何気にかっこいい・・・?
次回更新を楽しみに待ってます。
- 254 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/31(土) 14:05
- 更新乙彼サマです。
ま、まさかこうやって出てくるとは・・・。
良い意味(?)で期待を裏切ってくれましたね。
次も楽しみにしてます。
- 255 名前:875760 投稿日:2004/08/20(金) 11:47
- そろそろ続きカモ〜ン・・・
- 256 名前:七誌さんデス 投稿日:2004/08/26(木) 22:02
- ・・・・・放置ですか・・・・・?
- 257 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:40
- 「ねぇ後藤さぁーん!!着るものないんですかぁぁ」
「んぁ、もちろんあるよぉ〜。けどもーちょっと待ってて。」
「たんの肌で暖めてくれればアタシは大丈夫だよぅ」
「ぬわっ!ひっつくなぁ!!!」
後藤は藤本の悲痛にも思える訴えを軽く手を上げるだけで聞き流してしまい、
いつの間にかかけた眼鏡でモニターを覗き込んで思いをぶつけるようにキーボートを叩く。
そんな後藤の姿にガクッと肩を落とす藤本の体にはベッタリ抱きついて微笑む松浦。
「もう寂しくないからね、ずぅーっと側にいてあげるから」
「別に美貴は一言も淋しいなんて言ってないから」
「もぅ〜♪相変わらずヒネくれた性格なんだからぁ〜」
「相変わらずって、アナタはさっき起きたばっかりじゃん。
美貴の知らない過去を知ってるとでも言っちゃうわけ??」
「もっちろんっ。アタシのココには記憶もバッチリ残ってるしっ。」
松浦はコメカミをコンコンと人差し指で叩く。
それを見る藤本は、そっかと一言で返すと視線をズラして悲しそうに微笑んだ。
- 258 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:41
- 「・・・ん?たん、どうかしたの?」
「いや、別に何でもないよ」
「むぅ!!アタシに隠し事するとはいいドキョーだぁ」
藤本の両頬をつまんでくぃっと顔を上げさせ、
自分の頬はぷぅーっと膨らませて顔を覗きこんだ。
しかし藤本の視線は松浦へと向けられる事はなかった。
「言えっつーの、アタシの前で隠しゴトは禁止だったハズだぞぉ。」
「・・・」
「・・・ミキたん??」
「あのさぁ・・・一つ聞いてもいいかな?」
「うん?」
浮かない表情のまま視線を松浦に向けた藤本の目にはうっすら涙が溜まっているように見えた。
- 259 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:41
- 「アナタは自分がアンドロイドだっていう事・・・わかってるの?」
「もっちろんっ♪ミキたんを守る為に作られたんだよアタシ。」
「じゃあ、前の記憶は自分のモノじゃないって事も?」
「当たり前じゃん、アタシのモデルになった前のアタシ――松浦亜弥の記憶を
メモリークローンっていう技術でそのままコピーしたんだ。
だから、前のアタシの思っていた事はアタシには全部わかる。」
「――――寂しくないの?」
「へ?」
「アナタは自分の記憶が作り物だって事を、自分が作られたモノだって事・・・寂しくないの?」
藤本は悲しい目の色をしていた。
何か思い悩んでいるか、戸惑っているような暗い目の色。
普通なら気づかないかもしれない、けれど松浦の人工的な目にはそう写っていた。
それは、人間という枠を超えた松浦だからではなく、
藤本をココロの底から想っている親友だからこそ見えたのかもしれない。
- 260 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:41
- 「美貴は記憶を失くした。
断片的には思い出してきたけれど、飯田さんとの思い出も亜弥ちゃんの思い出もない。
でもソレは取り戻すことが出来る、どんなに時間がかかっても取り戻せるモノ。
だけどアナタは・・・アナタの記憶は作りモノなんだよ?寂しいって、悲しいって思わないの??」
「思わないよ、寂しいなんて悲しいなんて絶対に」
力強く答えた松浦の目に暗い色は一つも滲んでいなかった。
アンドロイドといえど、無機質な目をしているワケじゃない。
「たしかに、前のアタシは天国に行った。
でもアタシはココにいる、前の記憶もちゃんとある。
それってアタシにもう一度生きるんだっていう神様がくれたチャンスだと思うの。
そりゃあ作られた存在って事は認めるよ、見方を変えればただの人形だもんね。
――――けど、アタシはアタシ。
松浦亜弥は新しいカラダで生まれ変わったって思いたい。
昔のアタシはさ、たんを不安にさせちゃった。。。
だから二度とたんを不安にさせるようなことはしたくないの。
その為には今のアタシに出来るコトをしてあげたい。
それがたんを守るって事なら、アタシは全力でたんを守るよ。
昔のアタシが出来なかったコトを今のアタシがやってみせる。
―――――だからアタシは全力でミキたんを守るんだっ」
「・・・ホントに守ってくれるの?美貴を」
「まっかせなさぁーいっ!たんの敵はアタシの敵だからっ♪」
- 261 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:42
- 親指をクッと立てて悪戯っぽく笑うと
藤本もつられて笑みを浮かべ、額と額をコツンとぶつけた。
「言った以上は思いっきり守れよぉ〜。嫁入り前の美貴のカラダに傷をつけたら許さないかんね」
「だぁーいじょーぶだってぇ♪全力だよ?全力。アタシの全力はすっごいんだからっ」
「――――期待してるからね?」
「――――期待されちゃうからね?」
「「プッ・・・アハハッ♪」」
- 262 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:42
-
――――――心の底から笑いあえる親友。
カラダは違うモノになっても、ココロは変わってなかったんだね。
実は怖かったんだよ、美貴。
記憶はなくても、亜弥ちゃんをそうしたのは美貴だって事はわかってるから。
だからココロのシコリを残したままで亜弥ちゃんに守ってもらうなんてコト
言ってもらえる資格なかったから、あんな事聞いちゃったんだ・・・ごめんね。
でも、美貴を守るっていう使命が亜弥ちゃんにあるのならそれを断るコトなんて出来ない。
だから美貴は亜弥ちゃんに守ってもらうよ、全力で。
けど、新しい人生を生きる亜弥ちゃんを美貴も全力で守るから。
亜弥ちゃんと同じように美貴も亜弥ちゃんを守りたい。
義務とか使命とか償いとかじゃない。
・・・もう大事な人が側からいなくなるのがイヤだから――――――
- 263 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:43
-
◇◇◇第12話 すっごい仲間◇◇◇
- 264 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:43
- 「「――ッ!!」」
研究所の奥深くにある部屋へ向かった藤本、後藤を待っていた残りのメンバー。
それなりに話も弾み、打ち解けて表情も柔らかいものになることが多くなっていた。
しかし、その中の二人―――あさみと里田が
急にフッと表情を消して眼球だけを動かし聞き耳を立てる。
何かを察知したらしいという事は、聞かなくてもだいたいわかった。
「お客さんが来たらしいからアタシ達、気分転換も兼ねてちょっと外の空気吸ってくるわ」
な?と目で合図を交わすあさみと里田。
それと同時に隣にいたみうなが右足を摩り、コクリと頷いた。
「大谷さんと紺ちゃんはそこで待ってた方がイイと思う。
もしかしたら時間かかっちゃうかもしれないからさっ」
軽い調子で言う里田に同じ口調で大谷もヘラッと笑ってみせる。
「3人だけってズッコくない? 見学させてよアタシ達にもさ。
ね、紺野ちゃん??」
「はいっ。それに、危なくなったらお手伝い出来ると思いますし」
- 265 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:43
- ニコニコと笑う紺野は両の手を握っては開くという動作を何度も見せて
準備万端です!っと言っているかのような素振りを見せていた。
「・・・やれやれ。あんまり人に見せるのはイヤなんだけど、しょうがないか」
「見てもらうなら、肝心のごっちんにも見てもらいたかったけど・・・
ま、差し詰め『んぁ〜スゴイスゴイ』ぐらいしか言わないだろうし。」
「ですね、とりあえずアタシ達のコンビネーションを大谷さんと紺ちゃんに見てもらいましょう。」
あさみはお手上げのポーズをとり、
里田はダラリと両腕をぶらさげてぽけぇ〜っと口を開けて後藤のマネを、
そしてみうなは、親指をクッと立てて既に勝利宣言してみせる。
三者三様の反応にクスリと口角を吊り上げて笑った大谷はパンと掌を叩くとドアの方を指し示す。
「よしっ、それじゃ行こうよ。
どーせ待ってくれそうにないんでしょ?お客さん」
「うん、大勢で遊びに来るし、全員がせっかちだから早く逢いたいらしいや。」
まるで他人事のように言うあさみの表情が再び引き締まる。
「――――殺るとしますか」
- 266 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:44
-
この言葉を最後にほんわかした優しい空気を漂わせていたあさみはいなくなった―――――
◇
- 267 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:44
- 薄墨色の空に淡い光が地面を照らす。
アスファルトのねずみ色が数人の影によって翳り、濃い色へと変化していた。
顔の半分を覆う白い面をつけ、全てが肩をダラリと下ろし前傾姿勢で
ゆらりゆらりとカラダを揺らしてこちらへと向かっていた。
「人間―――じゃないな、何か木の腐った匂いがする」
アトミック化したことにより人間の数倍の嗅覚を持ったあさみが言う。
「そんな事より顔をお面で隠すこと自体、趣味悪すぎだから。」
あさみの隣にいた里田は手を開き、甲にいくつもの太い血管を浮かばせると
爪を見る見るうちに伸ばしていく。
月の光で照らされる金属状の鋭い爪は鈍い光を放つ。
その爪をガチガチとぶつけながら後ろにいるみうなの方に気配を通わせた。
「数は10、カラダの構成組織は―――99、8%木と酷似してます。
昔、何度か闘った事がありますね・・・コレは人間のように動く人形のようです」
- 268 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:45
- 緑に光らせたみうなの眼球はソレらを見据えていた。
そんな3人の少し後ろについた大谷と紺野は顔を見合わせてゴクリと息を飲んだ。
「・・・またコイツらかよ。なんでアタシ達のいる場所知ってるんだ」
大谷の呟いた言葉に反応したのはあさみだった。
「またって、お知り合い??
だったらココは立ち入り禁止なんだってコトを伝えてくれると嬉しいんだけど」
「言えたら苦労しないだろーが。
ところでアンタ達・・・傀儡との闘いなんて出来んの??」
「バカって言ってんじゃないべさ。
アタシら何でも屋を嘗めないでもらいたいんだけど。」
「―――それじゃ、3人サンのお手並み拝見させていただきますか」
嫌味ったらしく改まって敬語を使うと、大谷は腕を組んで口を噤んでしまった。
紺野も頑張ってくださいと一声かけるとそれ以上は口を出さなかった。
「よし、人形だって確証ができた以上容赦しない―――」
- 269 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:45
- あさみの眼が紅く染まり、風に揺られるかのように自分の体を揺らし始めた。
その動きに連鎖するように里田も指を揃えて手刀を作る。
「みうな、アンタはそこにいなよ?アンタが動くとロクな事ないんだから」
「ヒドイですよぉ。そんな言い方しなくたっていいのにぃ〜」
「しょーがないでしょーが、事実なんだから。わかったね?」
「・・・はぁーい」
口を尖らせて答えるみうなは、やはり納得がいっていないようだ。
しかし、それを口調で判断した里田は少しだけ口角を吊り上げていた。
続けるように里田は前を見据えたまま隣にいる人間に声をかけた。
「―――あさみ、油断してたら許さないからね」
「それはこっちのセリフだから」
「「・・・フフッ」」
笑みを浮かべていた二人だったが瞬時に表情が消える。
それと同時にあさみのカラダが闇夜に消えた。
一人残った里田は勢いよく一直線に駆け出す。
身構える様子を見せない人形。
それに容赦ない一撃が加えられた。
- 270 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:45
- ―――バキバキッ
木が軋むような音が闇夜に響く。
先頭を歩いていた人形は腹の中心をエグられ、そのまま大きく宙へ舞った。
「バカッ!!それじゃ意味がないっ!!」
慌てて言葉を発した大谷だったが、それは驚愕の表情へと変化する。
宙に舞った人形が再び里田へ落ちていく手前で急にフワッと一度浮いて里田の真後ろへ落ちる。
四肢の砕けたその人形の上に姿を現したのはあさみだった。
「ツメが甘すぎ、何度そんな風に闘えば気が済むんだよ。
腹狙ったって意味ないじゃんか」
「余興だよ余興。驚かせることもパフォーマンスには必要でしょーが」
「・・・まいちゃん、アンタもしかしてアタシがフォローに回る事をわかってて―――」
「もちろんっ。なんだかんだであさみは優しいからね」
「――――けっ」
- 271 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:45
- 言葉を吐き捨てると、再びあさみは姿を消した。
ニンマリ微笑んだ里田は周りの状況を把握する。
無駄話をした分、懐に飛び込んだのがアダになったようだ。
――――――周りには9体の木偶。
「フフッ・・・今度は助けてくれないか。」
ガシャリと爪をぶつけ合わせて火花を起こす。
一瞬灯った光を合図にその場から高く飛び上がった。
その跳躍力、アトミック化のタマモノだろう。
空の頂点に達した里田は両の腕を真横へ広げ、指の間を最大限に広げた。
「暗殺術―――闇爪牙」-アンソウガ-
低く放った声と共にカラダを急降下させ、何かを放つように腕をクロスさせた。
シュンと音を立てた後、元の位置に着地すると両端、そして前方にいた5つの人形が
4つ切り裂かれその場にヘタリと崩れ去った。
しかしまだ後ろにいた4つの無傷の人形は動きを止めない。
里田は気づいていないのかピクリとも動かず、その場にしゃがみ込んだままだった。
- 272 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:46
- 「危ないっ!!!」
紺野が視界を両手で塞ぐ、その時――――
「暗殺術―――月夜円舞曲」-ツキヨのワルツ-
低く放たれたあさみの声が響く。
途端に後方の4つの人形がヘナッとその場にアヒル座りをするかのように落ちた。
―――――動く気配は微塵もない。
「だからさぁ・・・人を頼りにするなって。」
里田の背後に姿を現したあさみの眼は血を連想させる
深紅の色から元の黒い色へと戻し呆れたような口調で声をかけた。
「コンビネーションを試すにはちょうどいいでしょ?」
「いっつもしないクセにさぁ、こーゆう時に限ってぇ・・・ブツブツ」
「まぁまぁ、そんな怒るなってぇ〜」
「フンッ」
- 273 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:46
- 紺野が恐る恐る指の隙間から里田を見ると、
爪を元に戻した手でガシガシとあさみの髪を笑顔で掻き乱していた。
そして周りに散らばる木片と動きのない人形。
状況が理解できない紺野は目を何度も擦って確認するが、その光景に変化はない。
「あ、あれ??・・・二人とも無事なんですか??」
「プッ・・・アハハッ♪」
「お、大谷さん?!」
きょとんとした紺野の隣で、大谷は頭に手を当てながら大きな声で笑い出した。
「紺ちゃん、コイツら口だけじゃないらしいや。
こいつはすっごい仲間が出来たよ、アハハッ♪」
大谷の笑い声は静まった夜に響き渡った。
- 274 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:47
-
- 275 名前:すっごい仲間 投稿日:2004/09/02(木) 15:48
- Today's Update
>>257-273
- 276 名前:右京 投稿日:2004/09/02(木) 15:54
- 8月は忙しく、一度も更新できなかった事をお詫びします。
9月からは相変わらずマイペースにやっていこうと思います。
>>253 紺ちゃんファン様
今度からの藤本さんのパートナーということで。
今回は脇役にスポットを当ててみました。
>>254 名も無き読者様
良い意味で裏切れてよかったです(笑
これからもよろしくお願いします。
>>255 >>256
長いことお待たせしました。
では、予告編。
- 277 名前:第13話予告 投稿日:2004/09/02(木) 15:55
- ――――――新しい旅の始まり。
「基軸の修正は出来ないジャン・・・でしょ?」
「・・・そっか。わかった、ご指示を謹んでお受けいたしましょう」
――――――それは今までの旅の終わり。
「紺野はごとーのお手伝いね。」
「えっ・・・あのっ・・・後藤さんがいう事なら構いませんけど・・・」
――――――今度のパートナーも超個性派。
「んぁ?だってさ、この世に絶対なんて事はないしぃ〜」
「そこは言い切っていいんですっ!!」
――――――しかし繋がったココロは離れる事はない。
「頑張ってね紺ちゃん、応援してるからさ。」
「・・はい。そちらもあんまり無茶ばっかりしないでくださいよ?」
信念ヲ持ツ者
―― 第拾参話 「終わりは始まり」
- 278 名前:名も無き読者 投稿日:2004/09/02(木) 18:10
- 更新お疲れ様です。
あの2人、ちょっぴり切なかったけどイイ感じですw
さらに例の方々、想像以上のお手前のようで。。。(汗
相変わらず次回予告に踊らされつつ続きも楽しみにしてます。
- 279 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/03(金) 21:46
- 作者さま、更新どうもです。
あの二人・・・切ねぇ・・・(涙
そしてあの方々も・・・スゴッ・・・!
次回予告で次が楽しみになりました。
まってます。
- 280 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:14
- 「ってなわけで、もう危ないわけさ。」
外から戻った5人と奥深くから戻ってきた4人は再び合流し、
寝室とは別の居住スペースと思われる、だだっ広い部屋へと集合していた。
脇腹をぐいぐいと押しながら外で起こったコトの経緯を話した大谷は
あ〜面白かったなぁと最後の一言零して
チラリと視線を定位置の壁際にいる何でも屋の3人に向けると
当然面白くない表情で返すあさみと里田
それを隣でオロオロとして見ているみうなの姿が映った。
「んぁ・・・それってマサオ好きな人形ストーカーが来たってコト?」
「ち、違うよ。アタシはそんなモンに好かれるフェロモンなんて持ってないの。
ストーカーに追われてるのは、どちらかって言えば紺野ちゃんじゃない?」
「わ、私ですかぁ!?・・・そ、そんな変な事した覚えは・・・
まぁ・・・あるかもしれないですけど・・・」
- 281 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:14
- 二人の細めた猫目に覗かれた紺野は指をイジクリながらモジモジと視線を落とす。
そんな態度を見せた紺野の頭をガシガシとかき回して後藤はフフッと小さく笑った。
「ま、そんな冗談は置いといて。
危ないって言われちゃったなら動かざるをえないよなぁ・・・・・
どうせ他にも狙ってくるヒトはわかってるわけだし。
ちょっと予定とは変わってくるけど仕方ないか」
両膝にパンッと音を立て両手を乗せ、力を込めながらゆっくりと立ち上がると
ぐるりと部屋全体に散らばっていたメンバーを見渡す。
後藤の側にいた国家技術士と元錬金術師、少し離れた場所にある金属の椅子に座って
ベタベタイチャイチャしている天才錬金術師とアンドロイド、そして何でも屋。
後藤の視線に気づくと個々に何かを感じ取ってくれたようで、
皆の表情はキリッと引き締まったモノとなった。
- 282 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:15
-
◇◇◇第13話 終わりは始まり◇◇◇
- 283 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:15
- 「マサオに紺野、藤本さんにまっつー。それにあさみ、まいちゃん、みうな。
さっそくで悪いんだけど、ちょっと一仕事してもらうね。
まず・・・マサオ」
ピンッと延ばされた人差し指は見事に大谷の眉間にクリーンヒット。
より目になりそうな目の球を必死に制御しながら、後藤の視線を受ける。
「ちょっと痛い・・・」
「マサオはまだ追うだよね?アイツらの事。」
「え?あっ・・・うん、仕事だからね。
ってゆーか仕事って以上にさ、ここまで直接的に喧嘩ふっかけられたら
上等だ、かかってこぉ〜いっ!って感じになってきちゃった。」
「うん、じゃあマサオはそのまま今の仕事に戻っていいよ。」
「あれ?これから何かするんじゃなかったの?」
「マサオ君、ヒトの話は最後まで聞きなって。
マサオにはアタシから言伝を頼まれて欲しいの。
『ごとーは用事が出来たから、指揮は全部そっちに任せる』って。
届けてもらう先はあの二人だからね。」
「いいけど・・向こうの準備が終わってないかもしれないよ、いいの??」
「それは遅れたって修正がきくけど、基軸の修正は出来ないジャン・・・でしょ?」
「・・・そっか。わかった、ご指示を謹んでお受けいたしましょう」
- 284 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:15
- 一歩後ろに下がって、右手を額につける――敬礼のポーズをしてニッコリと微笑むと、
後藤はコクッと頷いて次にクリッとした大きな目で覗き込む紺野に視線を向けた。
「紺野はごとーのお手伝いね。
一緒に錬金界まで付き合って欲しいんだ、昔みたいに」
「えっ・・・あのっ・・・後藤さんがいう事なら構いませんけど・・・
でも、私が追われてる事・・・覚えてますか??」
「あはっ。これでも記憶力はイイほうなんだけどぉ。
もしさ、紺野に何かしてくるヤツらがいたらアタシがやっつけちゃうから、ね?
大丈夫、きっと大丈夫だからさ。」
「何で言い切らないんですかぁ〜!」
「んぁ?だってさ、この世に絶対なんて事はないしぃ〜」
「そこは言い切っていいんですっ!!」
息を切らせてツッコミを入れた紺野は肩で荒く息をつく。
理由も告げられずに合意を求められるのは、やはり納得のいっていない様子だったが
後藤のいう事を結局、認めてしまうところが紺野の優しさである。
はぁ〜、とため息混じりの返事―――呆れに近い容認の返事をすると、
確認した後藤が鼻の頭をポリポリと掻きながらそっぽを向いて答え始めた。
- 285 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:16
- 「――ごとー達には圧倒的に情報がなさすぎるんだよね、だから情報を探らないとさ」
「ま、待ってくださいよ。そんな簡単に言いますけど、
明らかに捕まりに行くようなもんですって。それは絶対に完璧にっ」
「ほ?大丈夫ダイジョーブ、それだけはないから!」
「・・・何で言い切れるんですか、そこまで」
「決まってんべ?ボクの勘だよカァ〜ンッ♪」
「ふんぎゃっ」
おでこをピンッと人差し指でつつかれて、
らしからぬ声を上げてふんずり返ってしまったが
必死に上半身を元の位置に戻してつつかれて赤くなったおでこを摩り、キッと睨みつける。
「もぉ!!濁さないで本心を言ってくださいよぉ。
後藤さんの事ですもん、情報収集だけなはず・・・ないじゃないですか」
「ごとーだからってそんな無茶な事するはずないじゃん。
ホントに情報収集だけだってば。」
「・・・」
プクッと膨らませ、頬に溜まった空気をフゥ〜と大きな音を立てて吐き出した。
「・・・もう好きにしてください」
- 286 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:16
-
――その時、紺野は後藤の本心に迫る事は出来なかった。
後藤も後藤でその本心を決して表に出すことはしなかった。
◇
- 287 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:17
- 残りの2グループ――藤本と松浦、そして何でも屋に課せられた事は単純なことだった。
何でも屋の3人には大谷同様に仕事への復帰を指示した。
独自のルートで前回襲って来た人形に関する情報収集をし、逐次報告。
見返りとして後藤が南方都市の管理コンピュータ-Gehirn-を使い
高橋のデータを洗いざらい集め整理して提供するという約束どおりの条件に同意した。
但し、『ヤッカイな子達に狙われてるから、十分に注意しなよ』と後藤からキツイ忠告を受けていた。
藤本と松浦にはこの一般界から旅立ち、陰陽界に進むことを指示した。
飯田の考えというものは国の壁を越えて賛同者がいたらしく、
陰陽界にも力を貸してくれる仲間がいるらしい。
それに協力を要請しに行くのが今回の役割。
但し、表立って活動していれば何かと邪魔が入り余計な事件に巻き込まれる。
そんな事を危惧した後藤は、ある知り合いの元に連絡をいれて
そこへ二人が向かうように言われていた。
◇
- 288 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:17
- 新たな道が決まり、新たな目標を立てた者達の目はキラキラとしていた。
未来を信じる目―――そう、新たな意志。信念を持つ者として。
それぞれが旅立つ準備をしている中、後藤は松浦の各パーツチェックをしていた。
その隣には、後藤とペアを組む紺野。そして松浦とペアを組む藤本の姿。
「紺ちゃんとずーっとブラブラするかと思ったら、すっごい事になっちゃったね」
「はい・・・あのぉ・・・藤本さん?ちょっと聞いてもいいですか??」
「うん?どうしたのさ。そんな眉間にシワなんてつくっちゃってぇ」
眉間に作ったいくつものシワをグィッと押されて
引き伸ばされるが、不安そうな色を見せる円らな目は藤本の目をジッと見つめていた。
「結果的にこういう風な状況になってしまったのって私のせいだと思うんですよ。
あの時、記憶を探す旅をしようなんて言わなければ藤本さんまで巻き込むことはならなかったし。
ずーっと迷惑かけっぱなしですよね・・・ごめんなさい」
詫びるように視線をズラして地面を見つめた紺野。
ばつが悪そうに下唇をキュッと噛み締めていて肩をすくめていると
だいたい同じ背丈なのに藤本よりも遥かに小さくみえる。
- 289 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:17
- ――なんでこうも自分が悪いと決め付けてしまうのだろうと思う。
何も悪いことをしていないのに、自分のせいだと決め付けて自分の殻に閉じこもる。
自分よりも相手の事を思いやる気持ちは大事だし、それが紺ちゃんのイイ所だという事もわかってる。
けど、人を思いやる気持ちと他人の痛みを勝手に想像して感じ取る気持ちは違う。
「―――ふじもと・・・さん?」
藤本は紺野の頭をガシガシと頭を撫でていた。
打って変わって不思議そうに見つめるその目を見返してニカッと笑ってみせる。
「ばぁーか、なに勝手に人の気持ち代弁しちゃってんだよ」
「だって・・・」
「迷惑だと思ってたら既にココからいないってば。
・・・ってゆーか紺ちゃんさぁ、怖いんでしょぉ〜?これから始まることがさ」
「そ、そんなことないですよ」
「狙われてるっつってんのにわざわざ本拠地に行こうとしてるんだもんねぇ、しょうがないか。」
「だから私はっ――」
言いかける紺野の口に人差し指をそっとあててそれを制した。
紺野はパチクリと瞬いて藤本を覗く。
- 290 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:18
- 「後藤さんが絶対守ってくれるよ、紺ちゃんの事を」
「えっ・・・」
「大事な人を守りたいって気持ちを持ってる人はだいたいわかるんだよ。
後藤さんは同じ気持ちを抱いてる、美貴や大谷さんも思ってる気持ちを」
「それって・・・」
それ以上は紅潮した頬を持った紺野には言えなかった。
言葉に続くモノを藤本もあえて言わずに、コクリと頷いて答える。
「頑張ってね紺ちゃん、応援してるからさ。」
「・・はい。そちらもあんまり無茶ばっかりしないでくださいよ?」
「ん〜・・・それは約束できないけど、絶対イイ結果持ってくるよ。」
「無茶は藤本さんの十八番ですもんねぇ〜」
「そうそう、美貴は考えるよりも行動派だから・・・って、ソレ・・・応援してる?」
「もちろんっ。」
「ならいーんだけどっ。」
お互いに笑いあい、最後に手をギュッと握り合った。
握手に込める気持ちは相手の新たな旅立ちの成功を祈ること。
大それた旅ではないが、とても重要な事をしに行くことには変わりは無い。
それを知っているからこそ、普段どおりの旅立ちの言葉を送ろうとしているのだ―――無意識に。
- 291 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:18
-
一つの旅の終わりは新しい旅の始まり。
終わりがあるからこそ、始まりはやってくる。
新たな土を踏む者、従来の生活に戻る者、真相をつきとめようとする者。
三者三様の旅ではあるが、最終的な目的はただ一つ。
それは―――――――世界の平和を守ることだ。
- 292 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:18
-
- 293 名前:終わりは始まり 投稿日:2004/09/26(日) 23:19
- Today's Update
>>280-291
- 294 名前:右京 投稿日:2004/09/26(日) 23:25
- ずいぶん期間があいた割に更新量少なくて申し訳ありません。
私事ではありますが、この話の用語集を作ってみました。
興味のある方はご覧くださいませ。
http://www.geocities.jp/ayamikix/belief_sc.html
では、レス返し。
>>278 名も無き読者様
やっと動き出すという感じでございます。
これからもよろしくお願いします。
>>279 紺ちゃんファン様
どこでもあやみきはガチです(笑
話はこんな形となりました。
- 295 名前:第14話予告。 投稿日:2004/09/26(日) 23:26
- ―――――――錬金術師とアンドロイド。
「何でもってなぁ〜・・・錬金術ってゆーのは等価交換の原理に基づいて――――」
「わーわー!!バカな松浦にはそんなムズカシイコトわかぁーんなぁーいっ」
―――――――声のトーンを落としつつも柔らか味のある声で話す金髪少女。
「単刀直入に言うよ。
―――――美貴ちゃん、ごっちんに関わるのはもう辞めてくれない?」
「・・・」
―――――――目の前で大きな爆発。
「友達を大事にするってゆう気持ち、あらへんの?」
「気持ちかぁ・・・今でも美貴ちゃんだって
あややだって大好きだけどねぇ――――これも仕事だから」
信念ヲ持ツ者
―― 第拾四話 「退けないキモチ」
- 296 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/29(水) 19:57
- 更新乙なのです。
お・・・ついにみんなは旅立ってしまうんですね・・・。
藤本さんと紺野さんも離れ離れですね・・・。
予告・・・またしても気になる・・・。
次の更新待ってま〜す!!!
- 297 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 10:59
- 陽が落ちた一般界はネオンという擬似太陽が現れ、国のほぼ全域を照らす。
昼の明るさとは180度違う印象ではあるが、明るさだけなら昼と変わらないだろう。
―――しかし、その説明が通用するのは中央都市とその四方に構える小都市だけである。
二人の出向いたその場所は後藤の家があった南方都市の端から鉄道に乗り3日。
西方都市と南方都市のちょうど真ん中、全体的に言えば、南西にあたる小さな村。
そこから更に1時間ほど歩いた森の奥。
◇◇◇第14話 退けないキモチ◇◇◇
- 298 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 10:59
- 紺のベールを羽織り黒い海へと化しており、周りに生い茂る木々がその暗さに拍車をかける。
地面には足に絡みつく高さまで無造作に伸びた草。
灰色の景色よりも薄気味の悪い、自然の色へと戻っていた。
無造作に伸びた草むらの中に茶色い一本の細い線が映える。
ヒトが往復し続けて出来た一本の線を踏み外さないように
ゆっくりゆっくりと綱渡りをするように進む錬金術師とスキップなんてしてしまうアンドロイド。
現在は使われなくなった炭鉱への細い道。
その先にあると言われた小屋が今の二人の目的地だった。
1メートル程前を行くアンドロイドは鼻歌混じりに
(――と言っても聞いた覚えのない歌だし、鼻歌程小さい音量ではないが)
左腕を豪快に振り回しスキップをして先を進む。
聞いた事がない歌だが、こっちも楽しい気分にさせてくれるのは
彼女が外を歩く喜びを表現しているかのようにテンポのイイ歌を歌うからだろう。
ショッキングピンクの細かいドットと大きなドットが印象的なワンピースの裾を
風にひらひらとなびかせる姿は天使が小さな翼を広げるように見え、
振り返って見せるその笑顔は夜に浮かぶ勘違いした太陽。
それだけ見れば健康的な少女に見えるが
視界から避ける事の出来ない不釣合いなモノを肩に軽々と乗せていた。
―――自分の身長程ある長い銃身を持つ大砲のような銃は
その重量を見せ付けるかのように鈍い光を放っている。
- 299 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:00
- 陽気な松浦からは、
『ピクニックに行くのに、ついつい銃を持ってきちゃいましたっ♪にゃはは』
なんて暴言をいつ口にするかわからない感じにさえ見える。
何度も何度も後ろを振り返り、嬉しそうに藤本との会話を楽しむ。
隣にくっついて話せばいいものの、
あえて松浦はその少し離れた距離を保ち、楽んでいるかのよう。
デートのような感覚を再び感じることが出来るという喜び。
それは――――今まで見れなかった笑顔を取り戻そうとする、ささやかな・・・・・・欲。
『やっぱりミキたんと歩くのは気持ちぃなぁ〜』
――美貴も気持ちぃーよ、でもその肩に担いでいるモンを振り回さないで欲しいんだけど。
『二人っきりにしてくれたのって、既にラブラブな事がバレてるからかな?
なんちゃって・・・にゃははっ♪』
――亜弥ちゃんみたいなジャジャ馬を扱えるのは美貴だけってことでしょ?
・・・い、いや悪い意味じゃないって、だからそんな目で見ないでよぉ。
『もぉ、素直になれって言ってんでしょ』
――美貴はいつだって素直じゃん・・・って、ソレをコッチに向けるなぁぁぁぁ!!!!
- 300 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:00
- 藤本のココロの声だと思わせるボヤキさえも
ハッキリと聞き取ってコロコロ表情を変えてくる。
ただえさえ口では絶対に勝てなかった藤本が相手にしているのは、
高性能な耳と超高速回転する口を持った
松浦亜弥――鉄腕亜弥ちゃんなのだからタジタジになるのは当然である。
妙に自分の言葉に納得してしまった藤本の頭の中には、昔聞いたような歌のフレーズが流れ始め、
こころやさしぃ〜 ラララ 科学の子ぉ〜♪
まぁ、確かに科学の子だけどさぁ・・・
でも、ココロ優しかったらもっと美貴に優しいハズだけど。
どーでもイイような事にも時折ツッコミを入れながら
前を進む少女の背中に向かってお返しに意見してみる。
「ってゆーか亜弥ちゃんさぁ、その銃やっぱり怖いよ」
「なんでよぉ〜、ミキたんだって肩にポンポン手を叩けば何でも出すクセにぃ。」
錬金術をやるように片手で肩をポンポン叩いた後に
ぶぅーっと唇を震わせて、いーだっ!と歯を噛んで口を横に広げた。
- 301 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:00
- 「何でもってなぁ〜・・・錬金術ってゆーのは等価交換の原理に基づいて――――」
「わーわー!!バカな松浦にはそんなムズカシイコトわかぁーんなぁーいっ」
両耳をパンパンと叩き出して藤本の言葉は一切シャットアウト。
自分が不利になる事はまったく聞いてやらない戦法らしい。
「ムッ・・・だったら、そっちこそ怪力女じゃんかぁ!!」
「ひっどぉーい。か弱い乙女にそんな事言うとモテないぞ?マジで」
「か弱いならそんなモン、振り回さないっつーのっ!!」
思いっきり言い放ってプイッと明後日の方向を向く。
仲がいいのか悪いのか藤本自身にもよくわからなかったが、
ここまでくだらないことで怒れる相手なのだからやはり仲がイイ証拠なのかな。
なんて頭の片隅で考えていると視野に入っていた
松浦の表情が硬いモノへとゆっくりと変わっていくのを気づいた。
不機嫌になったワケではなくピリッとした雰囲気を出して周りに神経の糸を張り巡らす。
しばらくして眉間を狭めて、片眉をピクッと上げて表情を見せる――――何かを察知したようだ。
なびかせていた翼をたたみ、その場にフッと立ち止まる松浦。
何か言いたげな視線を藤本に見せたが、口には出さなかった。
その代わりに、鼻から思いっきりだした息は藤本の耳にハッキリと聞こえていた。
- 302 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:01
- 「誰だか知らないですけどぉ〜、
ストーカーみたいにくっついてくるのはどうかと思うんですよねぇ」
甘ったるい語尾を延ばした口調で黒い空に向かって語りかける。
すると後ろの方からガサガサと木々が揺れる音。
松浦同様に藤本もその音に反応して、体を強張らせてその方向へカラダを向けると
そこから一人の少女が両手を挙げてへらへらと笑いながら現れた。
「ひょ〜、アタシがいる事わかってたんだ。すごいねぇ〜」
「だいぶ前から気づいてましたけどぉ。
こっちに危害を加えるような感じには思えなかったんで言わなかっただけです」
「じゃあ何で声かけてくれたの??・・・ってゆーか、他人行儀は辞めろな」
「それじゃ・・・急に殺気をイヤってゆうぐらい放つんだもん。
そろそろ反応してあげないと可哀相かなぁ〜と思って。」
「なんであややがココにいるのかは知らないけど・・・
今日は美貴ちゃんに話があるからちょっと黙っててくれる?」
少女の言葉に松浦の目は今までの優しい色を瞬時に変えた。
相手を威嚇するような怒りも満ちた鋭く尖った鈍い鉛色。
それに一切怯まずにへらへらと表情を変えない少女は藤本の方へ視線を向ける。
短い金髪をかきあげる右手の親指を白い布で覆い、
人差し指と中指にはめた銀色のシルバーリングが2つ顔を出している。
手首にも光るシルバーのブレスレット。
右耳だけにつけたピアスはチェーン状で先にはシルバークロス。
黒地のTシャツに黒皮のパンツ。
全てが男モノでまとめられているが、見事に着こなしている事に藤本は強く印象を受けた。
- 303 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:01
- ――――この人、どこかで見たことがある?
白目がちな大きい目が藤本をジッと見つめる。
その強い視線に負けじとキッと睨みつけるが何故か勝てずに視線を外してしまった。
その反応に少女は「ん?」と首を傾げるが、すぐに何かを気づいてポンと手を叩く。
「そーいや矢口さんが美貴ちゃんの記憶を――――。
ごめんごめん、忘れてた。アハハッ」
豪快に髪を掻いて笑い飛ばす。
それを見つめる藤本の目は点になって、パチクリと何度も瞬いた。
「ちょ、ちょっとアンタ。何言ってんのか全然わかんないんだけど。
ってゆーか、そ、その・・・美貴ちゃんってゆーの恥ずかしいからやめてくれない?」
「なんだよー、アタシと美貴ちゃんとの仲じゃんかぁ〜。
ねぇ、あややも知ってるでしょ?アタシ達が仲良かったこと」
投げかける金髪少女のセリフに松浦は鈍い鉛色を変えずにスッと足を動かして
藤本の腕に胸を押し付けるように抱きついた。
「アタシのたんを取んないでよ!!
よっすぃ〜が何しに来たか知んないけど、デートの邪魔するなんて許さないんだからぁ」
「ちょっと亜弥ちゃんっ!!アンタどさくさに紛れてなんて事言うのさ」
「あはは・・・いや、まいったなぁ〜。
――――って、冗談はこれぐらいにしてと」
- 304 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:02
- よっすぃ〜と呼ばれた金髪少女はフッと右手で髪を掻きあげると
声のトーンを落としつつも柔らか味のある声で話す。
「単刀直入に言うよ。
―――――美貴ちゃん、ごっちんに関わるのはもう辞めてくれない?
美貴ちゃんならわかってくれるはずだよ、アタシの気持ち」
「・・・」
不意に出てきた知り合いの名前。
それを聞き返すのではなく、相手の目を静かに見つめて相手が口を開くのを待つ。
というよりも、威圧されると思った声の主から発せられる安心感を与える不思議な空気に
思うように思考が働かないと言った方が正しいのかもしれない。
「アイツに軽くちょっかいを出した程度ならアタシだってこんな事言わない。
全部アイツに任せていたと思う、矢口さんも相手にしないと思うし。
けど、今は・・・ごっちんと関わりも持った――――それは見逃すわけにはいかない。」
「ちょっと待って」
手の平を前に出して、金髪少女を手で制す。
不透明な言葉の羅列には早すぎる情報が飛び交っている。
藤本が決心したのは3日前。
その後も秘密裏に、と心がけてきたつもりだ。
なのに――――――何故?
- 305 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:03
- 「アンタは美貴の何を知ってるの?後藤さんの事も知ってるのは何故?
それにアイツって――――」
「――質問しているのはコッチだってば。どうなの?辞めてくれるの?」
「マジに答えないといけないって感じか・・・あのさ、今、美貴の信じた道を進もうとしてる。
この気持ちは誰にも止められないし、自分自身でも止めちゃいけないと思う。
たとえ昔の美貴が、アンタにどれだけ迷惑をかけてたのかもしれないけど
アンタの気持ちには応えられない」
「・・・そっか。せっかく友達プライスで、選択権ぐらいあげようと思ったのになぁ。
ま、仕方ないか・・・それじゃあ美貴ちゃん―――――――ここで死んで」
安堵感が瞬時に威圧へと変わり、優しい目は死んだ魚のように感情を持たない目に変わった。
金髪少女は右手を指の先を地面へ向けるようにして出すと、
人差し指と中指に親指の平を擦り合わせて小さな火花を闇夜に散らした。
すると藤本に瞬くヒマも与えずに目の前で大きな爆発が起こり、藤本と松浦は遥か後方へカラダを飛ばされた。
「うわっ!!」
コロコロとボールのように転がった藤本のカラダは思った以上にダメージは少ない。
松浦が藤本のカラダに覆いかぶさるように抱きつき、爆風からカラダを防いだらしい。
――――着ていた服の端が少し焼け落ちていた。
- 306 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:03
- 「あ、亜弥ちゃん!?」
「ミキたん大丈夫?怪我してない??」
「うん。アタシは平気だけど・・・」
藤本が言い終わる前に松浦はニッコリと微笑み、「よかった」と安堵の言葉を零すと
膝の砂埃をパンパンと叩いて、握っていた鈍い光を放つモノの銃口を金髪少女の腹に向けた。
「ねぇ、ウチのミキたんに何してんの?」
「何って、邪魔だから死んでもらおうと思ったの。
ホントはさぁ、矢口さんにはスグに殺しなさいって言われたんだけどねぇ〜」
陽気な口調から発する殺気は尋常のモノではなく
少しでも気を抜けば、その殺気で殺されてしまいそうなぐらいだ。
松浦は大きな瞳で、自分よりも大きい瞳を有するものを睨みつける。
「よっすぃ〜には友達を大事にするってゆう気持ち、あらへんの?」
「気持ちかぁ・・・今でも美貴ちゃんだってあややだって大好きだけどねぇ。
これも仕事だから、矢口さんの邪魔するヤツらはアタシが潰すって決めたから」
「これ以上喋っても・・・無駄だね」
「そっちも退けないってわかってるさ。
アンドロイドさんの力、お手並み拝見させてもらおうかな」
「・・・知ってたの?」
「そりゃ、情報収集もアタシの仕事だから」
「まぁ、ええわ。誰であろうとミキたんには指一本、触れさせないから」
- 307 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:04
-
両者ともに相手の動作を一瞬でも見逃さないように、瞬きさえせずに凝視する。
どちらもカラダを動かした時に勝負が決まるのは言わずとも分かっていた。
松浦の大型銃か金髪少女の不思議な爆発か――――
そんな中、既に二人の中に入れない藤本は、後姿をジッと見ることしか出来ずにいた。
松浦の力量も金髪少女の力量もまったくわからない。
感覚的にわかることは、二人の一瞬の動作が結末を決めるということだけ。
亜弥ちゃんにもしもの事があったら・・・
脳裏に現れるイヤな想像(ビジョン)を無理矢理奥へ押し込め
結果を見つめる事が唯一、藤本が出来る事だった。
- 308 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:04
-
- 309 名前:退けないキモチ 投稿日:2004/10/10(日) 11:05
- Today's Update
>>297-307
- 310 名前:右京 投稿日:2004/10/10(日) 11:09
- 出てくるキャラが皆強いというのがこの話の特徴ということで。
今後どうなることやら・・・
というわけでレス返し。
>>296 紺ちゃんファン様
新しいペアでの行動ということで、
新章突入といった感じでしょうか。
- 311 名前:第15話予告 投稿日:2004/10/10(日) 11:10
- ―――――――ココは深海と似て、光が一切入り込まない静かなる場所。
「・・・悪しき念は全土に広まり、各界の賢人は醜い欲望を抱く罪人。
その者達、目の色を青く変えて世界を混沌に戻したもう」
「アナタにはまだ時間が必要なの、無理をしてはダメなんだから」
―――――――練成陣を描く必要としない想像力。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ジ・エンド」
―――――――圧倒的な力に歯が立たない。
「バイバイ、美貴ちゃん」
―――――――再び姿を現した悪鬼。
「はぁ!?バカ言ってんじゃねぇーよ。
今取り込み中なんだ、ひっこんでろ」
信念ヲ持ツ者
―― 第拾五話 「満月の夜-FullMoon Awakening-」
- 312 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/10/11(月) 00:17
- 更新おつかれいな〜^-^
うおっ・・・よっすぃ〜強そう・・・。
みきてぃ、亜弥ちゃん、がんばれ!
もちろんですが予告も気になりますね〜。
次回更新待ってます。
- 313 名前:名も無き読者 投稿日:2004/10/17(日) 02:34
- 更新お疲れ様です。
ホント、ことごとく強い方々だ、、、(汗
新章に突入って感じだそーで、ますます盛り上がって参りましたねぇw
続きも楽しみにしてます。
- 314 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/14(日) 17:05
- ついによっすぃ〜登場ですね、
このままやられてしまうんでしょうか?
更新待ってます。
- 315 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:16
- ココは深海と似て、光が一切入り込まない静かなる場所。
ココは月の裏と似て、誰も見ることが出来ない場所。
ココは廃墟と似て、一度滅び誰も近づくことをしなくなった場所。
そう、ココは古の昔に魔界と呼ばれていた――――――忘却の地。
「ヒトに憑依した存在といえど、我らは悪魔ぞ?
それが、あんな小娘程度に翻弄されるとはな―――記憶だけの消去など無意味だったな」
2メートルを超える身長とガッシリとした肉体を守るが如く肥大化した筋肉を有する巨漢。
巨漢は大きなグラスに入ったドロっとした赤い色の飲料を一気に飲み干すと
持っていたグラスをブンッと素早い音を立てて床に叩きつける。
しかし床に当たったと思われるグラスは割れて破片が飛び散る事もなく、床の中へ静かに飲み込まれていった。
「アンタにどうこう言われる筋合いはないはずだよ。
相手を干渉するなんて何を焦ってるのさ、マモン。」
巨漢の言葉をサラリとかわして、微笑を見せる色欲と呼ばれた小柄の女性。
トーンを落とした金髪を掻きあげて胸の前で腕を組むと、黒い壁に寄りかかった。
- 316 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:17
- 「未だに7大悪魔のうち、3体しか甦っておらんのだ。
我らが計画に必要な傲慢の復活も成し遂げられていない今
予定外の障害につまづくわけにはいかん。
それに、嫉妬は完全に覚醒はしておらんのだろう?」
「覚醒はしてるさ、ただ依代のチャネリングの力が強すぎてそれに押さえ込まれてるだけ」
「・・押さえ込まれてるだと?――未来見の力を使えば計画の発展に繋がると言ったのは色欲、オマエだろう!!」
女性と対峙した場所にいた巨漢は怒りに体を震わし、その威圧は空間全体に広がる。
鋭い眼光は色欲へ注がれ、握られた拳からは青い血が滲み出していた。
しかし、それをため息一つでサラリとかわす色欲。
「話は最後まで聞きなさいよ。
チャネリングは私達にさえ使う事が出来ない未知の力。
それを使いこなすには十分に依代と適合しないといけない事は説明しただろ?」
マモンと呼ばれる巨漢を煽るように挑発的な言葉で返す。
当然、マモンの怒りのボルテージが減ることなどない。
「色欲――――痛い目を見ないとわからないようだな」
「アンタにそんなことが出来ると思ってるの?無駄な労力を使うなんてまったくバカバカしい」
「・・・おのれぇ!!!」
巨体に似合わぬ高速移動で色欲に襲い掛かろうとしたその時、不思議な声が空間に響き渡る。
- 317 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:17
- 「・・・悪しき念は全土に広まり、各界の賢人は醜い欲望を抱く罪人。
その者達、目の色を青く変えて世界を混沌に戻したもう」
暗闇から突如現れた影の出現により、マモンはその場に踏みとどまった。
影の正体は、今そこにいる女性とは対照的な長身女性。
スラッとした脚線美を上っていけば、くびれた腰に形のよい胸のライン。
しかし、ただの美しい女性ではないのはすぐにわかる。
引き締まった腕には赤い六芒星と鎖の印、そして体全体から不思議なオーラを漂わせていた。
「嫉妬――――オマエもいたのか。」
「焦りは積み上げた石を崩す要素。
今は己のすべき事を行使すれば、自ずと道は開かれる」
「レヴィアタン、まだココに来てはダメでしょ。
アナタにはまだ時間が必要なの、無理をしてはダメなんだから」
体を起こした色欲はゆっくりと嫉妬に近づくと
白い面を下から見上げて、白く美しい手をギュッと握った。
「さぁ、戻ろう?」
嫉妬はコクリと頷くと、色欲に導かれるかのように踵を返してその場を立ち去る。
小さな背中と大きな背中をマモンに見せながら――――
- 318 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:18
- 「色欲――――これからどうするつもりだ。」
マモンの問いに背を向けたまま色欲は口を開く。
「障害には効果的なモノを送り込んだわ。
それによって消されるならそれでよし、もし無理でも足止めにはなるでしょう。
その間に私は引き続き、封印を完全に解くカギを探す。
マモン、アンタも自分の成すべき事をすれば??」
言い終えると色欲は再び嫉妬をつれて歩き出し、暗黒の空間から姿を消した。
「機械仕掛けの天使――アイツが現れる前に傲慢の復活を成さねばな」
呟いたマモンもその場から一瞬にして姿を消した。
―――――――まるで体が溶けたように。
- 319 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:21
-
◇◇◇第15話 満月の夜-Lunatic Awakening-◇◇◇
- 320 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:21
- 最初に動いたのは金髪少女だった。
右手から出した小さな火花が暗闇を少しだけ明るくすると
瞬時に松浦の銃身の先に小さな爆発が起こった。
予め計算のうちに入っていたかのように、松浦はその爆発から体を後方に飛ばすと
銃を地面に落とすように振って弾丸を充填し、金髪少女の腹に銃を向けてそれを豪快に打ち込む。
しかし、弾幕をはるように自分の前に小爆発を数発起こした金髪少女はその弾をするりとかわし、傷一つついていなかった。
ニヤッと口角を吊り上げた金髪少女に松浦も同様の微笑を見せて、天高くジャンプ。
それを追うように爆発がいくつも続き、満月が照らす大地に巨大団子のような煙が浮かぶ。
限界点まで飛んだ松浦の体はそのまま今度は地面へと急降下。
作られた煙の中に入って体が見えなくなると同時に何発もの銃声が虚空に響き渡る。
「チッ」と舌打ちをした金髪少女へと向かっていくいくつもの弾丸を小爆発で弾き返し、少女自身は後方へと下がる。
ズドンと大きな音を立てて降り立った松浦が煙の中から姿を現すと、両者は相手を鋭く睨みつけていた。
- 321 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:22
- 「なかなかやるじゃん。」
「そっちも思った以上に頑張るねぇ。
・・・けどそろそろ、お遊びは終わりにするかっ」
言った金髪少女は、火花と共にさっきよりも大きな爆発を松浦の前に展開させる。
段違いな爆風に、松浦の体はいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。
「うわっ!!」
倒れてしまいそうな体を宙返りをして、相手に体の表だけを見える体勢に維持し銃を振り落とす。
しかし、瞬時に大きな爆発が松浦の目の前で再び起こり体勢を崩して地面に倒れこんでしまった。
「うっ・・・」
頭をフルフルと振って、ブレた視界を元に戻すとそこには微笑を浮かべた金髪少女。
「ジ・エンド」
不適な微笑みを浮かべたままの金髪少女は指輪を擦って火花を発生させると松浦の体を白い炎が包みこむ。
浄化の炎とも思わせる白き炎が松浦の体をジリジリと燃やしてゆく。
- 322 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:22
- 「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「亜弥ちゃんっ!!!!」
見守っていた藤本は、とっさに肩に手を当て地面に両手をつける。
水色の小さな魔法陣を形成し、そこから渦を巻いた水を松浦に向かって一直線に伸ばす。
すると松浦を包み込む炎は見る見るうちに小さくなって、白い煙と共に鎮火された。
だが、数秒の間ではあったが炎のダメージは甚大なものだった・・・。
「亜弥ちゃん、大丈夫?亜弥ちゃんっ!!」
すかさず傍に駆け寄った藤本は松浦の体を抱き起こして顔を真摯に覗き込むと
心配させまいと振舞う松浦の精一杯の笑顔がそこにあった。
「ごめん・・・ミキたん・・・」
「謝んないでよ、それよりも大丈夫なの?ねぇ、ねぇってば!!」
「うん・・・なんとか」
小さくなる松浦の声に恐怖を感じ、藤本は大きな声をだして松浦の意識を確認する。
ボロボロとなった松浦の笑顔は痛々しく、藤本の心に痛みと怒りを与えていた。
そんな中、ゆっくりと目を閉じた松浦の体の表面温度はみるみるうちに下がり、呼吸音はより静かになる。
- 323 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:22
- 「あ・・・亜弥ちゃん?」
「・・・」
呼吸音は小さくはなっているが、規則正しいリズムを刻んでいる。
仮死状態といえばいいんだろうか、自己防衛本能がアンドロイドになることでより強力なモノ。
死んでしまったのではないかと思った藤本だったが後藤によって聞かされていた自己修復機能の事を思い出しホッと一息。
多少の安堵感は得られたものの、見下ろされる視線を感じ我に返る。
仮死状態の松浦を腕に抱きながらそれをキツく睨みつけた。
「―――わかったよ、なんとなくだけど」
「うん?何が」
「その2つの指輪が練成陣の代わりになる循環と意である円を象ってる。
たぶん、指輪の内部には構築式がたんまり書いてるんでしょ。
一つには空気中の酸素を調節させ、自由に圧縮させる構築式。
もう一つには出来上がった火の加熱量の調節する構築式、だから白い炎を発生させることが出来た。
可燃物は腐るほどあるんだから、後は火の元となる火種。
それは、その親指の布で指輪を直接擦って発生させる火花。
布がどんな風に出来てるかわからないけど、きっと金属粒子でも抱き込ませた布だろーね」
- 324 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:22
- 説明を終えると、金髪少女は「OH!」という大きな声と
両手の平を空へ見せてオーバーなリアクションをワザとらしく見せた。
「大正解、よくわかったなぁ。
そう、この指輪のおかけで練成陣を描く必要もなくなったから今のアタシは無敵―――わかる?」
胸を張って首をかしげる金髪少女の余裕な態度が藤本の低い沸点を越えさせる。
松浦を抱く力を強くしてしまう程、藤本の怒りは表に現れている。
もし松浦がここまでダメージを負っていなければ、「いたいよ、ミキたん」なんて言われていたかもしれない。
「・・・ずいぶんと楽しそうじゃん」
「そりゃあねぇ、今まで手合わせしたかった美貴ちゃんと殺りあえるんだからっ♪」
藤本は金髪少女の跳ねる声を耳に入れながらゆっくりと立ち上がって歩き出し
少し離れた場所に抱いていた松浦をゆっくりと地面へ寝かせる。
そして、再び同じ場所へ戻ってくると強烈な睨みと共に恐ろしいほどの殺気を放ち出す。
禍々しい殺気を浴びながらも金髪少女は表情一つ変えずにトントンと
つま先で地面を蹴って、ちょっとずつリズムに乗り出してテンポをつける。
- 325 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:23
- 「美貴ちゃんは覚えてないだろうと思うけど
アタシ達って明日の錬金界を指揮する期待の星って言われたんだよ。
けどカオリも美貴ちゃんもアタシ達を裏切ったでしょう?―――アタシは、それが許せなかった」
一瞬だけ藤本の目に映った金髪少女の悲しげな表情。
――だが表情はすぐに明るい表情に変えられていた。
「・・・って、余計な話をしすぎちゃったな。
――――――それじゃ行くよ!!」
金属の触れ合う音、火花を闇夜に三度散らす。
金髪少女の起こす爆発は威力を増して、先ほどの数倍の爆音と爆風があたりに響き渡った。
「いきなり当たっちまったか?
ついつい手加減すんの忘れちゃったかんなぁ〜・・・って、おいっ!!」
ガシガシと豪快に金髪頭を掻いた少女に突如飛び込んできた巨大な岩の柱。
ギリギリのところで体を捩じらせ柱をかわすが、再び岩の柱が彼女を襲う。
最初はよけた彼女も面倒になり、それを破壊する為に再び火花を散らす。
――――――それが運の尽き。
粉砕された岩の柱のせいで悪くなった視界に映し出されたのは青白い光。
次に出てきたのは巨大なツタの猛襲だった。
- 326 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:23
- 爆風で舞い上がった砂煙の中から現れたということは―――――
「こら藤本っ!!隠れて攻めてこないで、正々堂々と勝負しろぉぉ!!!」
スルリと体を捩じらせて避けつつ、着実にツタを燃やす。
子供だましのワザとでも言わんばかりに軽々とかわすのは、さす5大錬金術師の弟子といったところか。
「この程度の練成じゃ歯が立たない――――それならっ!!」
砂煙が消えかかったその場から飛び出してきた小さな塊。
金髪少女の爆発によって更地化されたこの場所では藤本の加速を邪魔する障害物は存在しなかった。
いつの間にか練成していたサバイバルナイフを逆手で持ち、金髪少女の懐へ。
指輪を擦る前に斜めに切り上げられた切っ先が金髪少女を襲う。
「ふんっ!」
上半身を反らして切っ先から逃れるが、ナイフは一度藤本の胸元に戻されて再び金髪少女を襲う―――今度の狙いは首。
しかし、鋭く伸びたナイフの刃は金髪少女の首に一筋の赤い線を残す程度に留まった。
半身後方に下げた金髪少女の右ボディが見事に藤本の腹へとヒットしていたからだ。
たちまち鮮血を吐き出した藤本はたまらず後方へ2歩3歩バックステップ。
- 327 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:23
- 「ゴホッ・・・ゴホッ」
詰まったものを吐き出すように血の塊を出すと、真っ赤に染まった口元を手の甲で拭う。
「へへっ・・・格闘技にはちょっと自信あったんだけどなぁ・・・」
「美貴ちゃんが記憶をなくして遊んでいた時も体は鍛えていたから、アタシ」
自慢げに言われるこの一言が気に食わない。
沸点をまた一度上昇させた藤本はキュッと下唇を噛んだ。
そんな行動をした藤本に投げかけられた声は予想に反して柔らかいものだった。
「ねぇ美貴ちゃん、すっげぇー楽しくねぇ??
アタシはすっげぇー楽しくてさぁ!!ホント、美貴ちゃんと殺りあってよかったわ」
身震いする自分の身を抱きしめて笑みを浮かべる金髪少女。
それに感じ取るように藤本も視線を右手を落とし、握っては開きを繰り返して『何か』を感じていた。
「言われてみれば・・・この感じ・・・あの列車以来。
戦ってる時・・・・美貴は―――――」
「快楽だよ、快楽」
- 328 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:24
- 言葉に顔をあげて金髪少女を見つめる。
彼女の口から出た快楽という言葉に何故か興味を抱いてしまった。
「戦ってると楽しいでしょ、強いヤツと戦う時なんて特に。
格闘技も錬金術も上達し始めたあの頃からアタシ達は何にも変わってないんだ」
「あの・・・頃?」
「・・・おっと、また余計な事を。
美貴ちゃんの前だとついつい口が滑っちゃうなぁ・・・安心しきっちゃってるなアタシ」
「はぁ?」
「いや、こっちの話。
それじゃ美貴ちゃん・・・十分楽しんだからもう死んで」
『生』を賭けた殺し合いに生まれる快楽――――今まで何度か経験した感覚。
自分でもわかっていなかった コレ は一度味わうとヤミツキになって離れられない脳内麻薬。
世界の平和とか、亜弥ちゃんを守る為だなんて言い訳だったのかもしれない・・・美貴はコレを―――――
ち、違うっ!!!美貴は亜弥ちゃんがいなくなった時に誓ったんだ。
世界を救うって、デッカイ夢を追いかけるって・・・それがアタシの・・・藤本美貴の存在価値なんだから!!
- 329 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:24
- 浮かんだ負のイメージを強引に振り切って、正のイメージに転換させる。
そしてそのイメージを強調させるように金髪少女をきつく睨みつけた。
「―――美貴はこんなトコロで立ち止まるワケにはいかないんだっ」
藤本は肩を手で叩き、膝を折って地面から浮かせたブーツに手を伸ばす。
バチバチと音と光を出しながら、踵を鋭利な刃物へと変化させ
その後、思いっきり地面を踏んで一気に間合いをつめた。
「・・・アタシに勝てるワケないって言ってんのに」
ボソッと呟かれた落胆の声。
おとなしく殺される事を要求していた人物は襲い掛かる切っ先をいとも簡単にかわす。
足元への右ローキック、そのまま回転して踵からの左ハイキック。
左足を振り下ろした勢いと回転の力を加えて飛び上がっての右上から左下への変化をつけたキック。
すべてがかわされて、右わき腹に強烈な衝撃をもらう。
「ぐぅぅぅぅ・・・・」
地面を滑るように後方へ動かされた藤本はヘロヘロな状態で立ち尽くしていた。
遠距離にいれば爆発による外的ダメージ、近距離にいれば内蔵に染み渡る内的ダメージ。
爆発をよけていたとはいえ爆風によるダメージも大きく、それに加え内臓に負荷のかかった状態―――絶体絶命だった。
ゆっくりと右手を目の前へあげた金髪少女―――――覚悟を決める時間のようだ。
- 330 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:25
- 「バイバイ、美貴ちゃん」
金髪少女の親指が中指のリングに触れたその時。
「うおおぉぉぉ!!!!!!」
地響きと思えるような強烈な叫び声が金髪少女の後方から聞こえ
振り返ったと同時に映し出されるのは刀の先を地面にこすり付けながら高速で走ってくる黒い影。
「吉澤ぁぁぁぁ!!!!!!」
刀を振り上げ、全力で吉澤に切りかかる。
頬に一筋の赤い線をつけながらも何とか一刀をよけた吉澤だったが、服は胸元が斜めにパックリと開いていた。
「チッ・・・こんなときにオマエかよ」
「吉澤ぁぁぁ・・・オマエの魂・・・喰らいにきたんやざ」
「はぁ!?バカ言ってんじゃねぇーよ。
今取り込み中なんだ、ひっこんでろ高橋」
「満月の夜は・・・力が抑えられんの。
ほやから・・・その注文は聞けんのぉ!!!」
- 331 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:25
- 茶髪のウェーブが風に揺れ、紅い目が相手を睨みつけ、紅い刀が肉を喰らいたいが為に襲い掛かる。
吉澤は苦虫を噛み潰したような表情をしながら襲い掛かる紅い切っ先をよけて後方に下がり指輪を擦る。
ピンポイントに狙った爆発は威力こそ低くなれど、確実に高橋を飲み込んだ。
「邪魔するからこーなんだよ」
「・・・どーなるんやって??」
紅い刀身を肩に担ぎ、口角を吊り上げている高橋が砂煙の中から姿を現す。
体に傷一つ・・・というよりも、身につけている漆黒のボディスーツにさえ燃え跡さえついていなかった。
高橋は刀をダラリと降ろして再び地面へこすり付けて、一歩二歩と吉澤へと近寄る。
吉澤の表情は更に渋みを増し、怒りの矛先は更地の地面へ。
思いっきり強く踵で地面を踏むと、ため息を一息した後、正式な構えに移った。
右手を指先が地面に向くように目の前に突き出し、左手は拳を作って腰の位置に。
右足を前、左足を後ろにやって腰を低く落とした。
その様子を見た高橋はフフッと微笑を見せて吉澤と同じように右足を前、左足を後ろにやり
左手はダラリとぶら下げ、右手で赤い刀を振り上げるように頭上に構えた。
両者が構え終わると、吉澤は高橋から視線を離さないまま後ろにいた藤本へ語りかける。
- 332 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:26
- 「邪魔者が入ったから今日は見逃してあげる、早くあやや連れて逃げな」
「はぁ?!・・・何言ってんの」
「ハッキリ言って、記憶の戻ってない錬金術師が昔の勘だけで倒せるような相手じゃないし
アタシも美貴ちゃんの相手をしながら殺るには結構キツイ相手だからねコイツは。
それに―――これが友達として最後の優しさって事にしといてよ。」
「アンタ・・・」
「昔のように、よっちゃんさんって呼んでよ。今度はそんな事も出来ないんだからさ」
表情は見えなくとも優しさのこもった声。
きっとコレが本当の姿なんだろう、記憶には残っていないけど吉澤さんの―――いや、よっちゃんさんの本当の姿。
「今度は絶対勝つからね、よっちゃんさん」
「ふんっ、勝手に言ってろ。ほら、早く行きなっ!」
言葉と同時に藤本は木陰に隠していた松浦の元へと走った。
後ろからはドカン!!ドカン!!と爆音が何度も聞こえるが決して振り返りはしない。
身体的に余裕がないのもそうだったが、最後といわれた優しさを無駄にしない為でもあった。
満身創痍の体を引きずってやっとの事、松浦の元へ駆け寄ると寝ている松浦を背中に抱え一直線に目的地へと走り出す。
- 333 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:26
-
背中では爆風と爆音が更地の地面と満月の淡い光に照らされた空のキャンパスに大胆な模様を描いていた。
- 334 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:27
-
- 335 名前:満月の夜 投稿日:2004/12/22(水) 22:28
- Today's Update
>>315-333
- 336 名前:右京 投稿日:2004/12/22(水) 22:34
- 長い間放置してしまいまして申し訳ありません。
これからはガンガン更新して・・・と言いたい所ですが
一箇所だけ伏線が拭いきれない箇所をみつけてしまいましたので
シナリオを一度再構築、いやこのお話で言えば再練成しようと思います。
なので、再び時間がかかってしまいます。
えー、復帰は目標日時は、1月の半ば頃。
遅くなってしまうと、作者の都合上、
2月の半ばとなってしまいますがご了承ください。
大変申し訳ありません。
- 337 名前:右京 投稿日:2004/12/22(水) 22:36
- まとめレス返し。
>>312-314
大変お待ちになっていただきましたが
またお待ちいただくことになってしまいそうです。
申しわけありません。
- 338 名前:七誌さん(旧・紺ちゃんファン) 投稿日:2004/12/25(土) 01:06
- 更新キタよ〜〜〜!
よっちゃんさん・・・まだまだ謎がありそうですな〜。
あやや・・・復活祈る。。。
>>3361月の中旬〜2月の中旬ですね。
わかりました。まってます。
- 339 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/16(日) 16:27
- 更新楽しみにしてます。
- 340 名前:名も無き読者 投稿日:2005/01/26(水) 14:14
- 更新お疲れサマです。(遅
す、素敵な連中が登場してるぅー。
やっぱバトルも熱くてイイですねw
続きも楽しみにマターリ待ってます。
- 341 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/29(土) 15:01
- 更新いつまでも待ってます。
- 342 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/12(土) 16:43
- 待ってますよ〜。
- 343 名前:第16話予告 投稿日:2005/02/14(月) 17:01
- ――――――――規律を犯した者の新たなる旅。
「違う!違いますって。あ、アタシじゃないですってば」
「わーってるよ。」
――――――――親しみのある近所のオバさんのような声。
「アンタ達とっては、ひどく重過ぎる術。ここぞの時にしか使わないという条件をつけたのに。まったく――」
「やらなきゃ本気で殺そうとしてたでしょーが。」
「そうですよ、今日は倒されに来たわけじゃないんですから。勘弁してくださいよ」
――――――――『リスの悪党』といった感じだろうか。
「勝手にヒトん家にあがりこむのはどうかと思うんやけどなぁ〜。」
「・・・」
――――――――世の中には強いヤツ達がまだまだいる。
「ウチらが高橋とやり合う為に飛び出した事も見てみぬフリをして自由にした。
保田さんは何をしたい? ウチらに何をさせたい? 何をそんなに―――」
「黙りなさいあさみっ!!」
信念ヲ持ツ者
―― 第拾六話 「扉の向こうに・・・」
- 344 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:20
-
一人のヒトの仇を討ちたい為に規律を犯した。
一人のヒトの優しさに報いるために大いなる黒き十字架を背負った。
一人のヒトの魂が解放されるなら、自分達は全てを失っていいと思った。
しかし3人は優しすぎた。
今までその感情のせいで何度失敗をしてきただろう。
だからこそ、特別な情を持たないように甘えや弱みを見せない為に
機械の心臓を欲していたのかもしれない――――――――――
- 345 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:21
- 彼女達は北方へ来ていた。
後藤の研究所がある南方都市から鉄道を使って
北へ向かうと一般界最大の都市―――中央都市が広がる。
そこでは多くの市民が何気ない平凡な生活を送る、誰もが望む理想郷。
しかし、その中央都市から更に北へ向かうと現れる北方都市は
そんな理想郷とは対岸の存在であり、一般人であれば近寄りがたい街。
なぜなら、数多くのアトミッカーの集落がいくつも存在し形成された異色の街であり
他の都市とは違い『ワケありの輩』が集まった街だった。
だが彼女達にとっては思い出が詰った素晴らしい街であった―――――――
街の色を表現すれば、『鋼色とベージュの混色』と呼ぶことができよう。
多くの人々の肌は、人間の皮膚ではなく機械のカラダ。
内部のアトミックだけではなく、腕や足を丸ごと機械化している。
そして機械化した人々が住む家は対称的にベージュの色。
一般界に住む90%以上の人々は黄色人種であり、このベージュに酷似している。
もしかしたら、自分達の肌の色を忘れないように建物はベージュをしているのかもしれない。
懐かしいという想いが不覚にも3人の心の中に舞い戻る。
目的地へ向かう先々で懐かしい顔におかえりという声を浴び、
隠し切れない照れを見せながら街の皆に歓迎される。
昔に失くした愛情、ヒトの愛情を再び教えてくれた街―――北方都市。
- 346 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:21
- 「またココに来るとは思わなかったな。」
「殺されちゃうんじゃないの?アタシ達」
「兄弟子達に続いて弟弟子達も勝手にいなくなったんですもんねぇ・・・
やっぱり根に持ってますよね・・・」
目的地となる寂れた家。
そこには笑顔になれる思い出と地獄を思わせる日々がたくさん詰っている宝箱のような場所。
思い出いっぱいのその家に住むお世話になったヒトの元へ彼女達は再び足をのばしたのだ。
あさみと里田はギィーっとさび付いた重い押し戸を開けて、暗闇へと一歩を踏み出した。
「ひぇ〜・・・変わってねぇなぁー」
あさみが声をあげるのも無理はない。
扉を開けたその先は数本のロウソクの灯火によってなんとか床が見える程度の明るさしかなく
その明るさで確認できるのは埃のかぶったテーブルとその上におかれた猫の置物。
他には一切モノは置いておらず、ココ数年は誰も手をつけていないような状況だとすぐに判断できる。
「二人だけ行っちゃわないでくださいよぉ」
くるくると周りを見渡していたあさみと里田はスタスタとそのモノの奥へと進んでいく。
広がってしまった二人の距離をつめるようにみうなもその場へ一歩踏み出した―――そのときだった。
- 347 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:22
- 「あっ・・・扉っ!!」
振り向いたみうなが口に出した時にはもう遅かった。
ギィーっとさび付いた音を立てながら扉が内側へ動き、バタンと大きな音を立てて完全に退路を閉ざす。
瞬時にあさみと里田はその場で構え、周りに目を配りながらあさみの眼は紅く、里田の強靭な強度を持った爪が伸びていく。
―シュンッ―
強烈な風圧があさみの頬をかすっていく。
赤い線を頬に作って、あさみは反射的に風圧が襲ってきた後方へと視線を向かわせるが
そこにはみうなの姿しか確認できなかった。
勢いでみうなへ睨みをきかせると、その子は怯えた子犬のようにフルフルと首を横に振って
「違う!違いますって。あ、アタシじゃないですってば」
「わーってるよ。」
「じゃあそんな目で見ないでくださいよぉ!ホントに怖いんですから・・・キャッ!!」
刃物のような鋭さを持つ風圧が今度はみうなの後ろから襲い掛かり、みうなの服の右脇腹がパカッと開く。
その風圧は続いて里田をも襲ってくる―――が、そのまま喰らう程お人よしではない。
顔の左側に右手を持っていき、なぎ払おうとするが気づくと、5本の爪が全て根元から折られてしまっていた。
「――技の使用は制限しているハズよ。」
部屋中に響く、親しみのある近所のオバさんのような声。
あさみと里田はその声を合図に構えを解いたが、しっかりと強化された目と耳をフルに働かせる。
しかし、音源を特定できなかった。
- 348 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:22
- 「アンタ達とっては、ひどく重過ぎる術。ここぞの時にしか使わないという条件をつけたのに。まったく――」
「やらなきゃ本気で殺そうとしてたでしょーが。」
「そうですよ、今日は倒されに来たわけじゃないんですから。勘弁してくださいよ」
空に向かって話しかけるあさみと里田は降参の意思を示すかのように両手をあげる。
すると薄暗闇の中からコツコツとヒールが床に触れる音が聞こえてきた。
「なんだそんなトコいたんだ」
「どーりでわからないハズだよねぇ」
「えっ・・・ちょ、ちょ、どこですか?」
キョロキョロと一人周りを見渡すが、一向に姿を確認することができない。
あさみも里田もそんなみうなを見ながらクスクス笑うだけで教えることはなく
その反応に余計にみうなの焦りが際立ってゆく。
「ココよ、ココ。
みうなはもっと柔軟に物事を認識しなきゃダメね。
普段は二人のサポートなんでしょーが」
年上の二人に遅れること数秒。みうなもその声と視認出来る距離まで
影が近づいてくれる事によってようやくソレを見つけ出すと
あさみ、里田、みうなはそれぞれに顔を見合わせて頭を深々と下げた。
「「「お久しぶりです、保田さん」」」
- 349 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:22
-
◇◇◇第16話 扉の向こうに・・・◇◇◇
- 350 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:23
- 遠くから聞こえていた、けたたましい程の爆発音と高橋の咆哮はいつの間にか消え、
さっきまでの出来事が幻だったかのように満月の微光が広がる静かな夜空が広がっていた。
松浦を抱えて森の中を疾走した藤本は、一つの木造の小屋を見つけていた。
『確かココから陰陽界に行けるはず・・・』
呼吸は自分でも驚くほど乱れ、心臓は張り裂けてしまうほどの速さで動く。
四肢には感覚がどんどん無くなっていて、いつ気絶してしまうのか安易に想像出来てしまう程の極度の疲労だった。
口に出した言葉は他者からしてみれば言葉といえるものではないだろう。
疲労はあらゆる場所にダメージを与え、ソレは喉をも蝕んだ。
酷く擦れ、ハッキリとした単語はもはや聞こえはしない。
前に進む事―――今の藤本にはソレしか出来る事は残っていなかった。
小屋のドアには特にカギとなるモノはついていなく、容易に入ることが出来た。
中には使われていない暖炉と小ぶりのテーブルに木製の椅子が2つ。
ドアからすぐに右に目をやればキッチンがあり、
ギリギリまで水が張った赤いバケツと隣には石で作られた釜戸。
そして正面に視線を戻すと奥には玄関からでも確認できる程の派手な装飾品で縁取られた大きな鉄格子があった。
部屋に不釣合いな鉄格子に少々疑問を感じたが、藤本はカラダを揺すって松浦を抱えなおすと
吸い寄せられるようにその鉄格子へと進んでいった。
- 351 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:23
- 鉄格子までたどり着くとその装飾品はただの金メッキで作られたモノだった。
不自然なほど煌びやかだったのはそのせいだろう。
藤本は何の疑いもなく鉄格子へ手を伸ばす、しかしそこには数十個もの南京錠がかけられて開けることが出来ない。
『疲れてんのに・・・めんどくさいな』
嘆息をついた藤本はおもむろに手を肩に当て、その手で鉄格子に触れる。
すると練成反応によって青い光がバチバチ音をたてながら発生し、
鳴り終わるとさっきまで鉄格子だったソレは見事な鉄の扉へと変化していた。
何事も無く鉄の扉をあけた藤本は次の瞬間、目をまるくすることになる。
そこにはまっすぐに伸びた人一人が通れるほどしかない細い道が1本だけ存在するだけだった。
先がまったく見えず――――というより、ぼんやりとした視界で覗いた遥か遠くはうっすらと霧がかかったよう。
藤本は再び嘆息をつくと、耳元で寝息を立てる松浦を覗く。
―――アンドロイドを背負う人間って・・・普通逆じゃない?
場にそぐわない事を思いながらも、果ての無い道を歩くことを決心した。
せめてゴールが安全なトコロで、しかもふかふかベッドなんてあれば文句無いなぁ〜と心で呟いてから歩み出す。
広いお風呂も忘れずに!なんて自分でツッコミをいれつつ壁を支えがわりに体重をグゥ〜っとかけて進んでいった。
- 352 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:24
- ◇
意外とタフだったらしい。
長い距離を歩いているが未だに意識は残っているし
支えを使っているとしても足取りが重くなることはなかった。
――でも、この無意味に長い道は藤本の体力を気力を蝕んでいった。
ゴールの見えない道がここまで辛くさせる要因になるなんて普段なら考えつかないだろう。
ましてやカラダは満身創痍。おまけに背中にはお荷物つき。
そうなると最悪な事も想像してしまう。
ココがただの長い一本道なだけで自分達の目的地ではなく
無駄に体力を消耗し、ついには気絶してここで息絶えてしまう。
犬死するようなマネはしたくないと思うも、今から戻って再び目的地を探す程は体力もない。
死ぬ前にお腹いっぱいお肉を食べたかった、紺ちゃんの手料理を食べたかった。
なんて最後の最後まで食べ物の事しか思いつかないなんて、紺ちゃんが知ったら笑うだろうなと
自分の考えに苦笑した時―――――――状況は変化を起こした。
「なんやなんや、ココは関係者以外立ち入り禁止やで」
- 353 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:24
- 後方からの声にカラダを振り向かせるとそこには一人の女性。
黄色いテカテカしたボディスーツを身を覆い、
胸元にはアクセントとなる一本の青いラインが伸びる。
腰には黄色い拳ほどの珠を2つ3つぶら下げていて
その女性を一言で表現するならば、『リスの悪党』といった感じだろうか。
そんなリス顔が仁王立ちでコチラを目を細めて嘗め回すようにジロジロと見つめていた。
「勝手にヒトん家にあがりこむのはどうかと思うんやけどなぁ〜。」
「・・・」
胡散臭さ爆発のしゃべり方に藤本は疲れきったカラダを緊張させて、キッと相手を睨みつける。
肩に手を伸ばし壁へつけるとそこからナイフを練成させ、ソレを逆手で握り構える。
だが、藤本の予想に反して目の前のリス顔は大笑いしながら空を手で払って、その手で口元を押さえた。
「ウチとアンタが闘う意味ないやろ?ウチはラブアンドピース、平和主義者や。
無駄な殺生は好まんの。そやからそんな物騒なもんは、はよ放って」
『・・・アンタ誰?』
出したくはないしゃがれ声を向けるとリス顔の口角が吊りあがり、目をいっそう細めた。
「覚えとき、ウチは渡し屋の稲葉貴子。
アンタらの事は知ってんで、ごっちんが言ってた二人やろ?
ふじもっちゃん、それにあやや。」
不敵に微笑んだリス顔は、まさに――――――リスの悪代官そのままだった。
- 354 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:25
- ◇
生活感のない寂れた家の奥へと通された3人は、またも変わっていない部屋の雰囲気に笑みがこぼれる。
生活感というよりもヒトが住んでいないように思えた空間はフェイクであり
実際には、こぢんまりとした素敵な20代前半とは思えない部屋が広がる。
光の屈折率を変えて、他方へ光を届かせるテーブルや和みを与える観葉植物。
赤いヤカンやら黄色いフライパンやら挙句の果てには大きなクマのぬいぐるみがドーンとベッドに座っている。
『女の子』を思わせる空間にこの人物が住んでいるとは・・・誰も想像ができないだろう。
保田の可愛らしい趣味に囲まれて、3人は出されたティーカップにそれぞれ手を伸ばす。
中の飲料はほんのり甘く、鼻腔をくすぐるラベンダーの香りは心を落ち着かせる。
保田の教えその一、心が汚れているモノに明日はないっ!!
という謎の教えが脳内に蘇った3人だった。
「で、何の用??
稽古だったらもうつけてやらないよ、アンタ達の方から断ったんだからね」
ティーカップに口をつけた保田がゆっくりとテーブルにソレを置くと
3人に向かって投げかけた言葉だった。
3人は互いに顔を見渡し、アイコンタクトによって決まった代表者――里田が口を開く。
「単刀直入に言います、高橋の居場所――教えてください」
「・・・バカも休み休みにしなさい。ワタシはもう現役は退いたのよ。
そんなコト知ってるわけないじゃないのさ」
- 355 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:25
- 保田はすぐに視線を地面へと落とす。そんな態度にあさみは目を細めて、ふぅ〜んと唸った。
「こっちだって無駄にアナタの元同僚である後藤さんやその協力者と逢ったワケじゃありませんよ。
後藤さん一人が動くハズがないんだ、アナタも絶対に動いてる。
そう、5年前に起こった事件は今の状況に酷似しすぎてる」
「あさみさんっ!!」 「あさみっ!!」
1年をかけて地道に集めた情報を簡単に口に出すあさみを止めようとするが、
それさえも無視してあさみは話を続けた。
「保田さんは知ってるんでしょ?今後の行く末を。私達が進むべき道を」
「あさみ・・・アンタ、アタシを怒らせにワザワザ戻ってきたの?」
「別に保田さんの行動を阻もうなんて思ってませんよ、むしろ私達がアナタの駒に戻るだけの話です。
――――高橋を始末した後に、ですけどね」
「これ以上言うと―――――殺すわよ」
保田の猫目が大きく開かれると、透明な球が3人を覆い突如その中にだけ強い重圧がかかる。
座っていた金属の椅子をも凹んで小さくなっていくほどの圧力。
アトミック化されて通常の人間とは違う3人にとっては耐えられる圧力ではあるが・・・。
師匠の威圧にはさすがに拘束されている状態のカラダが更に固まってしまう。
「そうやって―――アナタはいつも隠し通す。
自分の都合で暗殺術を教えたクセに実際にそこまでの力をつければ、それを行使させようとはしない。
ウチらが高橋とやり合う為に飛び出した事も見てみぬフリをして自由にした。
保田さんは何をしたい? ウチらに何をさせたい? 何をそんなに―――」
「黙りなさいあさみっ!!」
- 356 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:26
- 言葉と共にあさみだけ重力が増し、あさみはその場にひれ伏す形となった。
さすがに日々平常心を心がける保田であってもこの状況での平常心は作れないようだ。
「アンタ達には強い心があった、誰にも負けないってゆう強い心が。
たとえそれが復讐という形であっても、アタシが更生させてやろうと思った。
でもアンタ達は変わらなかった・・・憎む気持ちだけ持っていても何も変わらないんだよ。
それをわからせる為に外を見させてやったのに」
唇をかみ締めて床へ視線を落とす保田の表情は闇のベールを纏っているかのよう。
だがそんな保田の気持ちなぞ無視して、重圧のかかったあさみは
苦悶の表情を浮かべながらも肩膝を立ててカラダを無理矢理起こさせた。
「恨みは消えませんよ、アタシは・・・ウチらは大事なヒトを奪われたんですから―――でも」
「・・・」
保田は何も答えようとしなかったが、視線をゆっくりとあさみの方へ向けていた。
「少しだけほんの少しだけだけど、考え方が変わったんです。
アイツの正体を知りたいんです、アイツがなんで村を襲ったのか。
どうしてアタシの前にコレを置いていったのかを―――それから殺します」
あさみは腰に携えていた小刀の柄を握り、保田を真摯に見返した。
言葉はないが両者ともに何かを訴えるように視線を外さそうとはしなかった。
そんな二人に里田、みうなも口を開く。
- 357 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:26
- 「ボロボロになったあたし達を拾ってくれた恩は忘れません。
でも誰よりも強くて、誰よりも優しかったあの人の仇を討ちたいんです」
「――――仇討ちなんてしても新たな憎しみが生まれるだけだよ?」
「わかってます」
「鈴音はそんなことを望んじゃいないかもしれないんだよ?」
「ただのエゴかもしれない、でもこれがウチらの生きる意味だから」
「――――ったく、バカだよアンタ達は」
保田の嘆息と共に透明の球は消え、圧力が元の状態へと戻り
フッと抜けた力に3人がそれぞれペタンと座り込んでしまった。
それを元に戻った猫目が見下ろす。
「そんなに教えて欲しいなら言ってあげるよ、アタシの知ってる限りの高橋の情報を。
その代わり、アンタ達・・・アタシを助けてくれないかい?」
「「「・・・助ける?」」」
「―――――――一般界を壊すヤツを退治するのさ」
新たな風が何でも屋の3人を包み込もうとしていた。
その風は追い風になるのか、向かい風になるのか。今は想像もつかなかった―――――――
- 358 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:27
-
- 359 名前:扉の向こうに・・・ 投稿日:2005/02/15(火) 01:29
- Today's Update
>>343-357
- 360 名前:右京 投稿日:2005/02/15(火) 01:34
- 大変長らくお待たせしました。
長期にわたる放置っぷり、誠に申し訳ありませんでした。
今後も不定期で行くと思いますが、よろしくお願いします。
では、まとめレス返し。
>>338-342
無事?復帰しましたので、これからもよろしくお願いします。
相変わらずのキャラの強さはご了承を(苦笑
- 361 名前:第17話予告。 投稿日:2005/02/15(火) 01:36
- ――――――――――今回はお出かけの為なのか妙に決まっている。
「なぁーに考えてるんだよ。思ったことはちゃんとごとーに言いなさい」
「ふぇ・・・ふぇふにぃ」
「どーせアレでしょ?紺野を呼んだ理由でしょ」
――――――――――なんか感じ悪いんだけど・・・・・・ワルリス。
「なぁ・・・ふじもっちゃん」
「――なんです?」
「アンタ、記憶喪失らしいなぁ。何でもかおりんのお弟子さんて聞いたで」
――――――――――敵からの挑戦的な招待状。
「しかし、それは私達と戦って勝利したら――――ということですが」
「ふーん・・・やぐっつぁんも随分なコト考えてるじゃん。
まぁそう言われちゃったら、負けるわけにはいかないね」
信念ヲ持ツ者
―― 第拾七話 「古き友人・守るべき人」
- 362 名前:七誌さん 投稿日:2005/02/23(水) 20:19
- リアルタイムで更新乙です♪
ふ〜む・・・なんだかすごいことになってる。
保田さんも登場したことですし・・・。
- 363 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 18:34
- た、高橋さんとよっすぃーのあいだには何が!? そしてあややの無事は? しかもミキティの目の前にいる人は? なんか色々疑問が山積みですが。 更新待ってます。
- 364 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:18
- 人間は神様に近づきたかった。
何でもわかって、何でも作れる万能なモノになりたかった。
だから一生懸命勉強した――少しでも神様に近づけるように。
だけどそれがいけなかった。
踏み入れてはいけない領域というものがこの世界には存在していた。
不用意に領域に踏み込むものはソレ相応の代償を支払わなくてはいけない。
時には腕であり、足であり、肉体そのものであり、魂であり。
これは神様からの天罰なのだ。
自分で何でも出来ると思い込んだ人間への罰なのだ。
だから古の錬金術の本には成功例は載っていない。
成功したとしても失敗したとしても代償を支払う事は変わりないのだから。
そう、古の錬金術は身の犠牲を顧みない禁忌。
自分の研究成果を立証したいと願う欲望に取り込まれた哀れな錬金術師か
想い人を助ける為に善良な市民を守る為に、身を挺することの出来る優しき錬金術師か
両極端の存在でなければ使用することのない練成である。
錬金術師は神に近づこうとして見捨てられた存在なのだ。
- 365 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:18
-
◇◇◇第17話 古き友人・守るべき人◇◇◇
- 366 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:18
- 化学の力によって神の道へ挑んだ結果がこれだ。
広大な荒野が視界の全てを占領する。
かろうじて見える緑の楽園が『オアシス』と呼ばれる
錬金界の一般階級の人々が住む街であり発展しているとは到底思えない。
「前よりヒドくなったなぁ・・・ココ」
紺野は丘の上にのぼって辺りを見渡す。
一般界がいかに平和だったのかを思い知らされる光景であった。
ぼぉーっと遠くを眺めていると、横に現れた気配。
後ろからのんびりと歩いていた後藤がやっと紺野の隣に到着したらしい。
んーっと唸り声をあげ、背を伸ばしながら後藤は紺野と同じく景色に目をやった。
「紺野のいた頃より階級制度は一段と厳しくなったって聞くし
こうやって荒れていくのも当然っちゃ当然なんだよねぇ・・・」
「―――評議会が悪政を布いてるって事ですか?」
「人間って長く生きれば生きるほど汚れていっちゃうんだ、残念だけど」
「後藤さんは私とそんなに変わらないじゃないですか。」
「んぁ?ごとーは立派にお姉さんだよ。紺野の知らないこともいっぱい知ってるじゃん」
「・・・うぅ」
- 367 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:18
- 頭をガシガシと撫でられて反論認めずといった様子。
無理矢理納得させられる構図ではあるが、紺野には2つ気になることを胸に秘めていた。
一つは研究室を空っぽにしてまでこの錬金界に来たこと。
今まで計画の中心として研究に没頭していた後藤が自分から行動に移るなんて不可解すぎる点。
普段はぼさぼさの髪に集中できるからと言ってつけているインテリ仕様の伊達眼鏡。
純白とは程遠い、汚れや解れが目立つ白衣を身に纏っているのに今回はお出かけの為なのか妙に決まっている。
両脇が何故か開いている白いボディスーツに白いブーツ。
眼鏡はかけずに変わりにブルーのカラーコンタクトを入れていた。
もう一つは未だに話すことのない旅の目的。
ワザワザ弱点を晒してまで他国に来ることなんて到底、考えられない。
手伝い程度ならば大谷の方が遥かに知識も経験も豊富なはず―――なのに。
いつの間にか、かなりのしかめっ面をしていたんだろう。
後藤は紺野の両頬をぷにぃーっと引っ張ってみると首をかしげて覗きこむ。
「なぁーに考えてるんだよ。思ったことはちゃんとごとーに言いなさい」
「ふぇ、ふぇふにぃ」
「どーせアレでしょ?紺野を呼んだ理由でしょ」
ちょっぴりジンジンする頬を摩りながら、再び遠くを見てしまった後藤を紺野は逆に覗く。
いつもと雰囲気の違う後藤の横顔を見つめていると後藤の方から口を開いた。
- 368 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:19
- 「これから、やぐっつぁんに逢いに行こうと思ってるんだ」
「やぐっつぁんって―――評議会最高議長の、ですよね?」
「敵の大将の考えを聞いておくのも大事だと思ってね」
「そ、そんな簡単に言って――――」
反論をしようとすると再び台詞はとめられる――今度は唇に人差し指を当てられて。
「大丈夫、きっと話すだけだから・・・ごとーの勘はよく当たるでしょ?」
間近で微笑みを浮かべられた紺野はポッと紅潮した顔を隠すかのように一歩下がって
手をハタハタと前に振りながら視線を落とす。
その反応に再度笑みを浮かべた後藤は次の瞬間、フッとその場から姿を消した。
「ご、後藤さん?!」
慌てて駆け寄ってみると、勢いよく丘の斜面を駆け下りている小さな影。
遠くに行ってしまった影から大きな声が紺野の耳へ響いてくる。
「すべり台みたいで面白いよぉ!!紺野もやってみなぁ〜!!」
両手を羽のように広げてクネクネ曲がりながら丘の斜面を爆走中。
そんな後藤の姿に嘆息を漏らすと、仕方なく紺野も丘を駆け出した。
- 369 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:19
- 「待ってくださいよぉ!!!!!」
両手はきちんと羽のように広げていた。
- 370 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:19
- ◇
胡散臭いリス顔こと稲葉に連れて行かれたの通路に入る前にいた部屋だった。
ほんの数歩戻っただけなのにその場についてしまった事がとても疑問に思った藤本だったが
「とりあえず二人とも寝た方がええで・・・相方はもう寝とるけどね。」と言われ
藤本と松浦は近くにおいてあったベッドに身を沈める事になった。
おぶっていた松浦をベッドに寝かせると藤本もすぐ隣のベッドに体を委ねる。
極度の疲労は藤本に眠気をすぐさま運び、気絶するように眠りについた。
――――
―――
――
―
- 371 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:20
- 「んっ、う〜ん・・・」
誰かが頬をつつく。
ソレを手の甲で振り払って、美貴は体の向きを変えた。
しかし眠る事を妨害してくるかのように今度はベッドの中に何かが入ってきて
ギュ〜っと背中から抱きつかれる―――いくつかの柔らかいモノが背中に当たり、首の付け根の部分に暖かい感触。
「んふっ・・・もぅ、ダメだってぇ」
美貴は声と共に体を捻ってその感触から逃れようと向き合うように体の向きを戻す。
少し気になって目を開けてみたけれど、寝ぼけ眼のぼんやりとした視界にはまだ映像が映し出される事はない。
それ以前に、異常に眠たくて思考能力さえもウマく稼動していない。
すると、唯一機能が回復していた聴覚から何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「たんの匂いって気持ちぃ・・・。アタシすっごい幸せ、にゃははっ♪」
なんで亜弥ちゃんの声が聞こえるんだよ―――ミキってば寝ぼけてる?
当然だよね、まだ眠いもん眠たいもん―――ミキたんはねむいの。
「そーいえば、たんっていっつも一緒に寝てくれたよねぇ。
あの時だったけ?アタシが『寝ぼすけミキスケ』ってアダ名つけたの、あはっ♪なっつかしぃ〜」
跳ねる音色はミキの耳元へと近づいていた。
そして――――――
「ミキたん・・・大好きっ♪」
「うぎゃっ!!!!」
- 372 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:20
- 息をふぅ〜っと吹きかけられながら変な言葉がミキの鼓膜に響く。
驚いてベッドから飛び跳ねた体は見事に床とご対面。
後頭部を打ち付けてしまって、そこが熱を発しながらジンジンと痛む。
そんな美貴をベッドの上でアヒル座りをして見下ろしているのは小悪魔の微笑みを見せた亜弥ちゃんだった。
「な、な、何で亜弥ちゃんが起きてるの?!」
「むぅ〜。それってアタシが起きてちゃダメみたいな言い方じゃん。
大事な恋人が回復したのをアンタは喜ばないわけ??」
「い、いやそういう意味で言ったワケじゃなくて・・・」
頬を膨らませて怒る亜弥ちゃんとシドロモドロになって何を言っていいのかわからない美貴。
寝起きにイキナリ頭をフル回転させろってのが無理なんだよ。
このありえない位ケロッとしてるのは何で?ねぇ、アンドロイドって不死身なの??
頭の中ではこんなツッコミがどんどん浮かんでくるけど、口には決して言えなくて。
回転率20%の頭で必死に言葉を見つけ出そうとしていると、もう一つ聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ヒトん家で痴話喧嘩はやめてくれへん??」
振り返ってみると、木製の椅子に腰掛けてこっちを見て呆れた表情を浮かべるのはリス顔――あのリスの悪党。
リス顔はテーブルに肘を立てて、腰につけていた黄色い珠をギュッと握っていた。
「アンタ達急いでるんやろ?さっそく本題入ってもええかな。」
「えっ・・・あ、はい」
何もわからなかったけど、とりあえず頷いて亜弥ちゃんの隣に座る。
すると反対にリス顔は立ち上がって、持っていた黄色い珠をコチラへ放った。
緩いカーブを描いて美貴の胸元へソレは届く。
- 373 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:20
- 「何ですか?コレ」
「Two dimensions are transformed and connected device。通称『T&C』や」
「てぃーあんどしぃー?」
「・・・二つの次元を変化させ結ぶ装置―――国と国を結ぶカギ」
「あ、亜弥ちゃん!?」
美貴の記憶によれば、この子はとても頭のイイ人とは呼べる子じゃなかった。
ぶっちゃけて言ってしまえば、おバカさんだったハズ。
なのに、どうして??
「昔のアタシとは違うの―――言ったでしょ?」
「う、うん」
自慢げな微笑みを引きつった笑いで返して
言いたいことを先に奪われたリス顔へ「続きをどうぞ」と催促をすると
ゴホンとワザとらしく咳払いをして一度、場の空気を絶った。
「この世界は3つの国がある、当然2つ以上の国できたならソレとソレの境が出来るやろ?
一般界は2つの国の真ん中に存在するから両端にそれぞれ境があるんやけど・・・
ソコを無条件に繋げているのはこの世界のお偉いさんが許さんかった。
そこで生まれたのが国境間の次元ゲート。今じゃ、陰陽界と錬金界にもできたらしーんやけど。
まぁ、そのゲートを使って空間を歪ませてるとな、キーを持った特定の人間しか渡る事が出来ない。
要するに、通行が可能な人間を把握しておく為の出入国ゲートっちゅーわけやな。
そやけど、次元ゲートは非常に不安定で尚且つゲートが破壊される恐れもある。
そーなると、管理する人間が必要になるやろ?ソレがウチら。
空間管理士―――通称渡し屋や」
- 374 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:20
- 自慢(と思われる)の前歯―――ゴホン、白い歯をキラーンと輝かせて少し上を見つめてる。
『決まった!!』と言わんばかりの表情をコチラに見せ付けてるけれど―――
カッコイイです!!とはウソでも言えないし、そのまま話を続けるのも空気的にマズイ。
変な葛藤を頭の中で展開させている途中に、隣のアンドロイドは余計な事口に出してしまった――――
アタシの知ってる亜弥ちゃんって―――空気とか全然感じないヒトだっけ?
「で、コレが必要になるんですよね。空間を結ぶ鍵」
亜弥ちゃん・・・コレはこのリスの大将が答えるんだってば。
オイシイトコロ持っていっちゃダメでしょ。
嘆息をついてリス顔を覗くと―――――反応は意外なモノだった。
「そやねんっ!!コレが国境を結ぶカギなんや。
普段なら特別な人間にしか渡す事はあらへんのやけど・・・
ごっちんのお願いゴトを聞いてやらんわけにはイカンからな。」
悪代官―――重要な場所はスルーなんだね。
本題よりも前置きが大好きなんだね、悪代官。
独特のペースを刻む二人に挟まれて精神的な消耗が激しい美貴は
追い討ちをかけるようにダメージを受けることになる。
「あのぉ〜、稲葉さん。ちょっといいですかぁ」
「どーしたんや?あやや」
「あのですねぇ、松浦に服を貸していただきたいんですけどぉ。
ほら、服がこんなにボロボロなんでぇ〜」
- 375 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:21
- ムクっとベッドの上で立ち上がってクルッと一回転。
なびかせていた天使の羽は焦げていて、以前の姿を成していなかった。
見てないで美貴も一緒に闘ってればこんな風にならなかったのかな・・・。
少しばかり傷心に浸っている美貴とは対称的に
目を細めて上から下まで舐めるように亜弥ちゃんを見つめると
う〜んと唸りながらリス顔は空を仰いで何か思考中。
「そやなぁ〜、あっ!ウチが昔着ていたとっておきがあるんや。
ちょっと待っててな」
ワードローブに駆け寄り、あーでもないこーでもないと言いながら
リス顔は中にある服をポイポイと外へ投げる。
出てくるモノ出てくるモノ派手に腹部の空いたボディスーツやキャミソール
チューブトップなど肌を露出するようなものばかり。
着ているのを想像すると、申し訳ないが少し鳥肌が立ってしまった。
「これやコレ!!超万能スーツ!!」
全身真っ白なフォルムで、上腕部と腹部に炎をモチーフにしたデザイン。
そして、それと共に動きやすい白いシューズ。
確かに動きやすそうではあるが、リス顔が着ていたと思うと、少し首をひねってしまう。
- 376 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:21
- 「耐刃、耐熱、耐冷、防弾効果のある優れもの。
昔、ウチもコレ着て鋼に参加してたんや。不死身の稲葉って言ったら有名なんやで?」
「鋼?―――不死身の稲葉??」
「あぁ、なんでもあらへん。こんな昔話どうでもええしな。
そんな事よりあやや、はよ着替えて来んとふじもっちゃんに置いてかれんで??」
「はぁーいっ♪」
二人の間に入って気になる言葉を聞き返してみるも
リス顔は手をぶんぶん振って苦笑いを浮かべて話を逸らし
亜弥ちゃんは我関せずとばかりにさっそく着替える為にベッドから飛び出した。
亜弥ちゃんはいいけどさぁ―――――なんか感じ悪いんだけど・・・・・・ワルリス。
イイ印象を受けていないのを知ってや知らずか、亜弥ちゃんがいなくなったのを確認すると
リス顔はコツコツと音を立ててこちらへ近づくと、亜弥ちゃんと入れ替わりに美貴の隣に腰を下ろす。
「なぁ、ふじもっちゃん」
「――なんです?」
「アンタ、記憶喪失らしいなぁ。
何でもカオリンのお弟子さんて聞いたで」
「――――知ってるんですか??飯田さんの事。」
「飯田圭織って言えば、昔この国で過激派が起こした内戦に
追跡者として参加して一緒に戦った錬金術師さんや――英雄化もされてんねんで??」
「追跡者??」
「追跡者っちゅーのは、罪人が何らかの方法で他国に逃げた場合にソレを断罪する者を送るコトが許されててな。
それを追跡者。ちなみに5大錬金術師が追跡者になったぐらい、大罪人やったでソイツは」
- 377 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:21
- 美貴も知らない飯田さんの過去。
何にも知らなすぎるよ―――
こーなってみて初めて感じる―――記憶の重要さ、記憶の尊さを。
空いてる手元に視線を落として、握り拳を作っては開く。
そうすれば、何かを掴めるような気が――――――
「ま、元々かおりんは旅好きやったからな。
戦い以前に知り合ってたんやけど―――って、そんな事どうでもええねん。
―――――記憶を取り戻せる方法知りたくないか?」
「・・・記憶を?」
突然だった、あまりにも偶発的だった。
「そや、陰陽界の巫女さんなら記憶を戻す術を知っていたハズ。
遅かれ早かれ、記憶は戻るかもしれんけど早いほうがええやろ?」
「陰陽界の―――巫女」
「ウチも詳しいことは知らんねんけど、
"光を統べる者"って呼ばれてる黒い巫女さんがいるらしいんや。」
「黒い巫女?」
「地黒の巫女さんなんやって・・・・・・いや、腹黒いやったっけな―――まぁどっちでもええわ。
もし余裕があるんやったら、巫女さんを探してみ」
「はい、はいはーい!」
満面の笑みを浮かべてコクコクと何度も頷いて見せた。
現金なヤツと思われるかもしれないが、この際どう思われたっていい。
元々の旅を始めた目的が達成できる道が現れたのだから。
- 378 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:22
- 「陰陽界は最近荒れてるらしいから、十分気をつけてな。
おっ、お姫様のご登場やで」
リス顔――もとい、稲葉さんが目をやった先には着替え終わった亜弥ちゃんの姿。
見事に服を着こなして、自信満々な笑顔で腰と後頭部に手をあてて
「――――どう?似合うぅ〜??」
なんてモデル気取りでアピールしてる。
稲葉さんは「似合う似合う」とはしゃいでるけど、この子は褒めるとつけあがりますよ。
―――ほら、言わんこっちゃない。
「ですよね、似合いますよねぇ〜。
だよなぁ〜、アタシなんでも似合っちゃうからなぁ〜♪
ね?ミキたんも似合うって思うでしょ??」
「あーはいはい、似合ってる似合ってる」
「もぉー!!そんな言い方すんなよぉ」
「ほら、準備出来たならそろそろ行くよ」
ベッドから立ち上がって、持っていた黄色い珠を握りなおすとアゴで鉄の扉を指し示す。
- 379 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:22
- 「ただ持ってるだけで大丈夫やからね。
だいたい10歩ぐらい歩けば扉があるから、それを開けば陰陽界やで」
だからすぐにこの部屋に帰れたのか。
次元を結ぶ――――そういうことか。
「そーゆうことっ♪」
「うわわわ・・・亜弥ちゃんいきなり何さ」
「なんとなく言いたかっただけだよ、そんなアタシに理由なんて聞くなよぉ〜」
照れながら肩をつついてくる亜弥ちゃんに嘆息をつく。
って、嘆いてる場合じゃなかった!!
「・・・稲葉さん、ありがとうございました。それじゃ、いってきます。」
「服ありがとうございましたぁ〜♪」
「おぅ!気をつけ・・・あっ、ちょっと待った!!!!」
慌てて立ち上がり、再びワードローブへ近寄ると今度はすぐに何かを手に持って振り返ると
ソレをミキにめがけて放った――――白い柄に練成陣が彫られていて先には刀身と思われる黒い棒。
「なんですか?コレ」
「カオリンが昔使ってた武器―――って言っても、ただの炭素棒やで。
もう使わないからあっちゃんにあげるとか言われてもウチにどうないせいっちゅーねんなぁ?
脱臭剤ぐらいしか使う道ないっちゅーねん。」
芸人のように空にツッコミをいれる稲葉さんを
目の端に据えるようにして視線を落とし軽く脳を回転させる。
- 380 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:24
-
炭素、それに練成陣。
原子配列を再構築すれば―――もしかして・・・。
「ありがとうございます、遠慮なくいただきますね」
「それじゃ、いってきまぁーすっ♪」
「おぅ!気をつけてなぁ〜」
ゆらゆら手を振って笑顔で言葉をかけてくれた稲葉さんに再度一礼して
アタシ達は鉄のドアを開け、陰陽界へと旅立った。
「―――吉と出るか凶と出るか。圭ちゃん、アンタならどう読むんや?」
呟いた稲葉さんの声は扉の奥までは聞こえなかった。
- 381 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:24
- ◇
後藤達がオアシスを視認した場所から数キロは歩いたのだろうか。
舗装された道路だけが不自然に荒野にポツンと存在し、その上を二人が歩く。
交通機関が麻痺しているのかどうかは二人には想像つかないが
まだ十分にキレイな状態だということは、少し前までは使われていたのだろう・・・
少なくとも、10年前。
後藤がまだ国家技術士の資格をとる前に親の手に引かれて来た時には素晴らしい国だったと記憶している。
しばらく歩き続けた分、足に疲労が溜まった二人は少しの休息を取ろうと
どこか休憩できる場所を探していたその時だった。
遠くの方から人影が2つ現れ、それはこちらへ近づいてくるのが容易に感じ取れた。
「紺野、これからどんな事があっても魔法だけは使っちゃダメだからね」
「えっ、なんでですか?」
「どうしても。錬金術だけで対処できる力はあるんだから、いい?わかった?」
「――後藤さんがいうなら、そうしますけど」
「うん、素直でいい子だ」
顔を見て直接確認はしなかったが、きっと柔らかな微笑みをしてくれたんだろう。
紺野が昔から好きな笑顔、憧れている笑顔を。
- 382 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:25
- 「あとね」
「はい?」
「ダメだと思ったらすぐ逃げること。」
「―――イヤです、私はもう逃げないって決めたんです。
もう誰の重荷にもなりたくないですから」
「紺野、一つだけ間違ってるよ」
「・・・」
「紺野は昔から重荷じゃない、それだけはわかって」
「―――はい」
「紺野は私が絶対守ってあげるから」
お互いに顔は合わせずに、その人影にだけ焦点をあわせる。
ピリッとした緊張感が二人の体を包んでいた。
「・・・後藤真希さんですね?」
2つの影は軍服男と軍服女だった。
男の方は蒼い髪を清潔感漂う髪型に金色の瞳。
キチッと軍服を着こなし腰には鞘を挿している。
見事な立ち振る舞いで、眉目秀麗というのはこういうことを言うのだろう。
一方女の方は茶色い髪を胸まで伸ばし、微笑みを見せる眼は髪同様に茶色い。
スタイルのよさは軍服の着こなし方からもよくわかる。
背中には何か大きなモノを背負っているが
そんなモノを背負っていてもこちらも見事な立ち振る舞いで
容姿端麗の言葉がピッタリなヒトである。
見事に決まっている男女の男だけが二人との距離を更に縮め、後藤の前へ。
- 383 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:25
- 「そうですけど、何か?」
「私はライデン、ライディース=V=シュヴァイツァー。『雷咆』を二つ名に持つ錬金術師。
向こうはアヤカ=キムラ、『音衝』を二つ名に持つ錬金術師。
さっそくですが評議会の使者として評議会の最高意志を伝えます。
後藤真希さん―――いやお二人にはアストラルタワーへ来ていただきます。
しかし、それは私達と戦って勝利したら――――ということですが」
「ふーん・・・やぐっつぁんも随分なコト考えてるじゃん。
まぁそう言われちゃったら、負けるわけにはいかないね」
青い目が不気味に輝く。
口角をあげた後藤の表情に雷咆もフフフと笑みを零す。
「魅惑の錬金術師がおっしゃった通りですね。
――自分自身に過度の自信を持ってらっしゃる」
「やぐっつぁんに言ってやんないと・・・自分は好きにならないとってね!!」
雷咆の前にいた後藤が薄い残像を残しその場から消えたと思うと
雷咆の左側に現れ高速の蹴りを繰り出す。
何とか先に感じ取った雷咆はガードをしてみせるが、幾分か横へ引きずられてしまった。
それを見た紺野は後藤の意思を交わしたように同時に右へと走り出す。
「雷咆のっ!!」
「アナタは逃亡者を追いかけなさい!!
私はこの人の相手をしなくてはならない」
「――わかったわ」
音衝は短く応えると、紺野の向かった方へと駆け出す。
向かう気配を確認しつつも、雷咆は目を背けるほどの余裕はなかった。
後藤が姿を現し攻撃を当ててはくるが瞬時に消え、再び打撃が襲ってくるからだ。
- 384 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:26
-
「なかなかやりますね、さすが鋼の元大隊長だけはあるっ!!」
「フンッ。余計な口は叩かない方がいいんじゃないの」
繰り出される連撃。
左足を軸にして右肩へのハイキックの次は左ふくらはぎへ踵をぶつけ、最後に鳩尾を狙う正拳突き。
全てガードされてはしまってはいたが、全て瞬く間に行われる程のスピードだった。
「一般界の攻撃的な工学は未だ衰えないようですね」
「・・・少なくともごとーは大事な人を守る為に使ってきた。
ソレは今も変わってないし、今後も変わらないコトだよ」
「すばらしい信念ですね・・・では私も本気で行かさせていただきます」
雷咆は携えた鞘から刀身をゆっくりと引き抜く。
ソレは青白く輝き冷気を吐き出していた。
まるで凍えた刀が白い息を吐いているかのように思えた――――――――――
- 385 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:26
-
- 386 名前:古き友人・守るべき人 投稿日:2005/03/02(水) 23:27
- Today's Update
>>364-384
- 387 名前:右京 投稿日:2005/03/02(水) 23:31
- 今までは個人間の出来事でしたが
ゆっくりと色々なモノを巻き込んでいきます。
ではレス返し。
>>362
もう少し登場キャラは増えます。
次回からついに三国目登場。乞うご期待。
>>363
私よりも予告っぽいですね(笑
色々と想像をしていただけると面白く見れるかなぁと思います。
- 388 名前:第18話予告 投稿日:2005/03/02(水) 23:34
- ―――――――――彼女の仕事。
「断罪人として貴様達に裁きの鉄槌を下す!!」
「かまわねぇ、やっちまえ!!!!」
―――――――――新たな地での新たな影。
「―――お前も死にたいの?」
「命は、弄ぶ程安くはないっ」
―――――――――錬金術師 vs 鋼の元大隊長。
「意外と古典的な武器がお好きなようですね」
「その寒そうな刀には負けるけどね」
―――――――――望まれた成長? 生きる術(スベ)?
「イヤ、来ないで―――イヤ、イヤ、イヤァァァァァァァ!!!!!」
信念ヲ持ツ者
―― 第拾八話 「新たなる舞台」
- 389 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 14:07
- 更新お疲れ様です。
色々なものが本格的に動きだしましたね。
今後の展開が楽しみです。
- 390 名前:七誌さん 投稿日:2005/03/06(日) 20:10
- 更新お疲れ様です。
なんだか難しくなってきた〜!
でもおもしろ〜い♪
こんごまコンビはどうなるのか!?ですね♪
- 391 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/07(月) 15:21
- 更新お疲れさまです。 ついに対戦が!! この結末やいかに! 次回更新待ってます。
- 392 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/18(金) 20:20
- いつまでも待ってますよー。
- 393 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/07(木) 12:41
- 待ってます
- 394 名前:名無飼育 投稿日:2005/04/30(土) 09:19
- 保全
- 395 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/05(日) 17:51
- 3ヵ月経ちました。 生存報告だけでもお願いします。
- 396 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/08(月) 17:02
- 自サイトを閉鎖されてしまった様ですね…
もう更新されないのかな?
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