Where are you?

1 名前:ジル 投稿日:2004/05/17(月) 16:52


突然起きたそれは、まるで昼ドラのようだった。
誰のせいでもなく、むしろそれが起きたのは一人の優しい気持ちから

<神様は乗り越えられない試練はその人に与えはしない>
昔なっちによく言われた。

でもね。もう無理だよ。こんなの耐えられない。
もう、梨華ちゃんに会えないなんて……
2 名前:ジル 投稿日:2004/05/17(月) 17:04
一旦切ります。いしごま主体。みきあやなども
書けたらいいなぁと思います。途中めちゃくちゃ不幸な
話になっちゃいますが、お許しください。
3 名前:ジル 投稿日:2004/05/17(月) 20:56

モーニング娘。の春コンが終わり、まだツアー中のだった
元メンバーの後藤真希は、恋人である石川梨華の為にオフを
もらった。

「GW中にごっちんと遊びに行けるなんて夢みただね。」
「まぁ、移動日だったし、夜までに成田に着けばって言う
 マネージャーの渋い顔は笑えたね。」

後藤はタクシーの中で石川を見て笑った。

4 名前:ジル 投稿日:2004/05/17(月) 21:01


「ちょうど梨華ちゃんの困った顔に似てる。」
「遠まわしに馬鹿にしてる?」
「いや。トレートだけど。」

文句を言う石川を無視して窓の外を見た。
広がっている、壮大な海。

「(本当は、夜に来たかったんだけどな。)」

それもこれも仕事のせい。でも、その仕事のおかげで彼女と
出会えたのだ。そう思うとなんかむかついて、唇をとがらす。

「聞いてる?ごっちん。…文句言ったぐらいで拗ねないでよ。」
「拗ねてなんかないもん。」

目的地の砂浜まであと少し。
5 名前:ジル 投稿日:2004/05/17(月) 21:10


「もう…ねぇ、こんな強風の中サーフィンしてるよ。
 こわくないのかなぁ?波がびよ〜んって大きくなって
 ドーンって落ちてくるんだよ?」
「いや、その効果音全然怖そうじゃないよ。」
「………もぅ。」

料金を払うと、砂浜に出た。
荒波。それと同時にサーファー達がヒィヒィいいながら
戻ってくる。一人のサーファーが高波にひっくり返された。

「…………。」
「どうしたの、ごっちん。」
「いや。ちょっと寒気がして。」
「大丈夫?」

幼い頃死んだ父親に重なった。
見たことはないけど、なんども夢見た光景。

6 名前:ジル 投稿日:2004/05/17(月) 21:11
更新終了。
7 名前:名無しさん 投稿日:2004/05/22(土) 18:08
いしごま発見〜
いしごまの雰囲気が好きなので楽しみにしてます
8 名前:ジル 投稿日:2004/05/22(土) 18:28


「風邪なんてひかないでね?ツアー中なんだから。」

心配そうに見上げてくる石川を見て、後藤ははっとする。
あの事故のことはもう忘れるって決めたのに。
やっぱり心のどこかで忘れきれずにいる情けない自分。
悲劇のヒーローとまではいかないけど、そんな感じがして
自分に嫌気が差す。

「大丈夫、寒かったら暖めればいいんだからさ。」

そう言って石川を抱きしめる。自黒なだけあって、見た目も
暖かい(本人は怒るけど)。出来れば、水着を着てほしかったり…。

「ねぇ、なんだか恋人同士っぽくない?」
「ぽいじゃないでしょ。実際にそうじゃん。」

実は、石川は後藤に今まで何度となく「好きだ」と言ってほしいと
ねだったのだが、「うん、そのうちね。」とはぐらかして何も言わない。
途端、無口になる。照れ屋で案外奥手な彼女は付き合い始めて
すぐにキスをしてくれたものの、『肉体論でぶつかる』ような交際を
しようとはしなかった。
9 名前:ジル 投稿日:2004/05/22(土) 18:29


石川自身もそれでいいと思っていたし、一ヶ月に数回のペースのほうが
仕事もやりやすいため、何も言わなかった。

だが、不満である。

告白だって彼女からしてきたくせに、付き合い始めたら「愛してる」
どころか「好き」ともあまり言わなくなったのだ。
まぁ、もともと言うほうではなかったが。
後藤は石川から体を離し、目をキョロキョロさせる。

「梨華ちゃん?」
「んー?」

のんびり答える。この穏やかな雰囲気を壊したくはないので
特に何も言うまい。どうせ、はぐらかされるのがオチだ。
そう言い聞かせた。

「あの、さ…その…。」
「?」

いつになく髪の毛をいじる彼女。せっかく綺麗に整ってたのに、
なんて思いながら見ていると急にまた抱きすくめられた。

10 名前:ジル 投稿日:2004/05/22(土) 18:29

「あたしってさ…その…自分で認めるぐらい超照れ屋だし、ガキっぽかったり
 るじゃない?でもそれは梨華ちゃんの前だからであるわけで…。」
「……。」
「愛してるとか恥ずかしすぎて…あぁ、照れくさいって意味でね…言えないし、
 なんか、その…梨華ちゃんは不満に思うかもしんない。でも」

正面を向き、石川の目をじっと見る。

「あたし梨華ちゃんのこと好きだからさ。だから、安心して。」

「あーもー」なんて言いながら真っ赤になった顔を手で冷やす。
石川は放心状態。当然だろう。さっきまで不満に思っていたことを
見透かされたかのような告白。そして、

『カラスが泣かない日はあっても、後藤が愛の言葉を言う日はない!!』

とメンバーにまで豪語されていた後藤が正面きって「好きだ!」
なんていうなんて。
11 名前:ジル 投稿日:2004/05/22(土) 18:30


「キザだったかなぁ?…ねぇ、無言はやめてくんない?」

困ったように石川の顔を覗き込む。でも心なしか、すっきりしたような
表情で。その顔が、まるで幼稚園児が親の似顔絵を書いて
褒めて!と言わんばかりの顔だった。

「なんかびっくりしちゃった。あたし今ごっちんにそんな風に言ってほしかったんだ。
 さてはごっちん、エスパーだなぁ?」
「そうだよ。でも伊藤じゃないよ、後藤だよ。」

そんなくだらない会話に戻り、二人は砂浜を歩いていった。

12 名前:ジル 投稿日:2004/05/22(土) 18:34




やがて降り始める雨とともに、二人に不幸が訪れるなんて、
当然二人は知るよしもなかった。






誰も責めることの出来ない、あの出来事が起こるなんて―――――




13 名前:ジル 投稿日:2004/05/22(土) 18:37

7 :名無しさん
 やったぁ!いしごま好き発見!!なんだかほのぼのできるし
 いい感じですよねあの二人。まぁ不幸が訪れるんですけど…
 でも見放さないでやってくださいね。


14 名前:ジル 投稿日:2004/05/22(土) 18:38

更新終了。まだストックが結構残ってるんで
近いうちに更新したいです。
15 名前:ジル 投稿日:2004/05/23(日) 18:17

その後、風がいったん弱まり二人は持ってきたお弁当を食べることにした。
でも砂浜の上で食べるのはなんとなくあれだったので、後藤は前に
近所の幼稚園児に教えてもらった場所を探した。

「ねぇ、早く食べようよぉ。お腹すいたよぉ。」
「あたしが我慢できるんだから、梨華ちゃんもできるでしょ。」
「どんな理屈よ、それ。」

頬をプクーっと膨らませ、後藤の後を歩く石川は急に立ち止まる。
それに気づいた後藤は、振り返って呆れたように言った。

「わかったよ。じゃあこの辺で食べよう。」
「ねぇ、あれ…。」
「は?」

石川は海のほうを指差す。つられて後藤もそっちを見る。

「っ?!」

少女漫画のような展開に、思わず驚く後藤。
横を向くと、海ではなくて石川が見えた。はぁ?と思っていると
急に抱きついてキスをしてきたのだった。
16 名前:ジル 投稿日:2004/05/23(日) 18:17


「ごっちんともっとラブラブしたいのよっ!だって夕方にはごっちんまた
 行っちゃうじゃない…。次、いつ会えるかわかんないし…。」

抱きついたまま下を向く石川。そんな石川を愛ある眼差しで見つめる後藤。
やっぱり可愛いなぁ、なんて思いながら。確かに、もう昼過ぎ。こっから
成田までにはちょっと時間がかかるし…。

「ほら、あれ。見える?」

後藤が指差した先には、海に向かってまるでセンターステージみたいに
伸びている道。そこには、ベンチとテーブルがあった。

「あそこだと落ち着いて食べれるし、まぁもう一家族が使ってるみたいだけど
 ロマンチックかなぁ、なんて思ってたわけ。好きでしょ、そういうの。」

後藤は優しく微笑んだ。石川も嬉しそうに微笑む。

17 名前:ジル 投稿日:2004/05/23(日) 18:17


「うん!」

ダッシュで駆けてく石川を見て、なんだか本当漫画チックな恋愛だなぁ
と感じる後藤。でもそれが楽しくて、好きだから。ま、いいんだけどね。
なんて納得するとスポーツフェスティバルさながらの俊足で石川を
追いかけた。






海は、少しずつ荒れ始めている―――


18 名前:名無しさん 投稿日:2004/05/23(日) 21:06
嵐の予感ですね・・・
続き待ってます
19 名前:マイキ− 投稿日:2004/05/25(火) 18:54
いしごま(゚∀゚)ハケーソ!!
続き禿しく待ってまつ。w
20 名前:マイキ− 投稿日:2004/05/25(火) 18:55
ageてしまいますた。
ゴメンナサイ。 _| ̄|○
21 名前:ジル 投稿日:2004/05/25(火) 19:31

「加奈ちゃん!」

目的地に着くと、後藤は驚いた。
先にベンチを使っていたのは、この場所を後藤に教えてくれた幼稚園児
加奈の家族だった。

「あ、真希ちゃん!」

おにぎりを持ったまま、加奈は後藤に飛びつく。
後藤はしゃがんで加奈の頭をなでてやった。加奈は、顔をクシャクシャにして
喜んだ。

「この子、加奈っていうんだ。あ、大山じゃないよ。この場所教えてくれたのも、
 加奈ちゃんなんだ。ねー?」
「うん!」
しゃがみこんだまま、ニコニコと石川を見上げる後藤。加奈もニコニコ笑いながら、
「梨華ちゃんだ!」なんて言っている。仲のいい姉妹みたいで石川もつられて笑った。


22 名前:ジル 投稿日:2004/05/25(火) 19:31

「よかったね、加奈ちゃんは家族で来てたんだ。あ…どうも。」

加奈の両親に挨拶した後、後藤は詳しく加奈を紹介した。
後藤の話によると、甥っ子のガールフレンドらしい。たしかごっちんも、
初恋は幼稚園って言ってたなぁ。そう考えながら後藤の隣にしゃがむ。

「こんにちは。石川梨華です。」
「南の丘幼稚園さくら組林加奈です!…梨華ちゃんとは組、違うね…。」

残念そうに言う加奈。それをみた後藤は加奈を抱き上げた。
途端に、笑顔になる。

「大丈夫、おとめ組はミキティや田中がから、怖いんだよぉ?それなら、加護や
 やぐっつぁんのいるさくら組のほうがいいよね?」
「加奈、ミキティ怖い…。」
「………(可哀想な美貴ちゃん)」

三人でふざけていると、

「加奈、邪魔しちゃだめでしょ。ごめんなさいねぇ。」

と母親がベンチに加奈を連れ戻した。少し離れたベンチに腰を下ろすと、
石川はおしぼりを後藤に渡して言った。
23 名前:ジル 投稿日:2004/05/25(火) 19:32


「ごっちん、後で話があるんだ。」
「?いい話?悪い話?」
「悪くはない話。」
「…わかった。」

彼女と付き合い始めてもう二年ぐらい経つ。大体、彼女の考えていることは、
わかっているつもりだ。だから今回も、なんとなくだけどわかる。



あぁ、そっか。

あたしたちが付き合い始めたのも、あたしが「その」話をしてからだったな…。




24 名前:ジル 投稿日:2004/05/25(火) 19:33


湿っぽい感じがして、後藤は大声で石川お手製のお弁当を開けた。



「いただきま〜す!!」


途中、加奈も交じって楽しくお弁当を食べた。あいかわらず石川の卵焼きは
スクランブルエッグの大きな塊みたいになっていたけど、おいしかった。




ずっとこのまま時が止まればいいのに。


なんて、馬鹿なこと考えちゃうくらい、幸せな時間だった… 




25 名前:ジル 投稿日:2004/05/25(火) 19:51
18 :名無しさん
  嵐はもう少しで来るんですけど…痛々しいんで
  もうちょっと幸せを…
19 :マイキ− さん
いしごまファン(゚∀゚)ハケーソ!!
agesageは個人的には気にしてませんので大丈夫です。
でも他の作者様に迷惑…かなぁ…?ちびりちびり更新ですが
すいません。
 
26 名前:ジル 投稿日:2004/05/25(火) 19:51

更新終了。
27 名前:名無しさん 投稿日:2004/05/30(日) 22:34
どんな波乱が・・・
悲しいのかな・・・
28 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 19:43
27 名無しさん
 悲しいです…。でも、ラストはハッピ…ゴホン!
 たまにでもまた覗いてくれると嬉しいです。
29 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 19:43



「バイバイ真希ちゃん、梨華ちゃん!」
「バイバイ。」

加奈を見送った後、後藤はベンチから立って向かいの石川の席に
座る。石川はお弁当をバッグにしまいながら、後藤のほうを見る。

「おめでとう。」
「え?」
「だから、卒業。」

なんで?とでも言いたげな表情をする石川の唇を自分のソレで塞ぐ。
そして、不気味に笑う。

「あのときのあたしと、同じ顔してる。」
「え?」

後藤は海のほうを見ていった。海ではなく、その遥か彼方を見つめて
あの日を思い出す。

「あたしが梨華ちゃんにだけ伝えた日。」
「そう?」
「うん。ていうか、梨華ちゃんわかりやすいもん。」

ニコニコ笑って後藤は言う。石川はそうかなぁ〜?とブツブツ考え込んでいる。
石川の肩に頭を乗せる。
30 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 19:44

「いつ?」
「来年の、春ツアー。」
「え、春!?」

がばっと顔を起こして、石川のほうを凝視する。驚きながらもうなずく
石川。でも、後藤は肩をつかんで揺する。

「ばかぁっ!んなことしたらあたし梨華ちゃん送り出せないじゃんかぁ!!
 どうして冬コンじゃないの!?」
「だって冬コンは飯田さんが…。」
「え!?カオリも?」
「うん。」

わっかんないなぁ!と大声で叫びながら、石川に膝枕をしてもらう。
サラサラと髪を撫でられるのがとても心地いい。猫みたいに目を細めながら
後藤は呟いた。

「梨華ちゃんも、卒業するんだ…。」
「どういう意味?」
「だって、ソロ活動してなかったじゃない?だからてっきり…。
 カオリはなんとなく次かなぁとは思ってたけど、こんな早いとは。」
「……あたしも不安。」

後藤の髪を撫でる手が止まる。
31 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 19:45


「エッグの子とユニットを組むかもっていうけど、そんなのやっていける自信ないよ。
 あ、別に人気がどうのとかっていうんじゃなくて。なんていうか、タンポポ
 の時もそうだけどあたしがひっぱって行かなきゃいけないって、思えば
 思うほど上手くできないっていうか…。」

後藤は目を瞑ったまま黙って聞いている。相槌を打つわけでも、「大丈夫」と
励ますわけでもなく、ただ黙っている。

「どうしたらいいのかわかんないよ…。」

石川は俯いた。エッグオーディションで受かる子達はみんな張り切ってついてきてくれる
だろう。きっと、裏の事情だとか中途半端に知ってしまったあたしよりも、
輝いて見えることだろう。
でも。ZYXもそうだが、学校でいう内部生と外部性が仲良くやるにしは
―――しかもおそらく年下の子――時間が必要。でもこの世界に
時間なんてない。間をおいたら下手すれば忘れられるかもしれない。
(ファンは絶対にそんなことないだろうけれど)

ふいに、後藤の唇が、自分の唇に触れた。

「梨華ちゃん、難しく考えすぎ。」

上体を起こして石川に向き直る。
32 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 19:45

「ポジティブ!しいて言うならチェンジ&チャレンジ!」
「は?」
「ぶっちゃけ、梨華ちゃんは遠慮しすぎの自信なさすぎなわけ。
 エッグの子に気ぃ使って…まぁ別にいいけど…自分なんて…とか
 考えちゃってさぁ。」

つまんなそうにいうと、ベンチから立ち上がってテーブルの上にすわる。 

「クール&ビューティーの後藤さんがぞっこんなんだから、自信もちなって。」

子供っぽく笑うと、そのままの笑顔でいった。

「あたしなんて、ソロ活動がちゃんとスタートできたの、卒業してしばらくして
 からだよ。そりゃあ、ドラマとかあったけどさ。娘。にいたときとたいして変わんないし。
 ごまっとうだごなっとうだやらされるし。」

空を見上げて、苦い顔をする。その顔は、親に零点のテストを見られたような、
そんな子供の顔だった。
33 名前:( ´ Д `) 投稿日:( ´ Д `)
( ´ Д `)
34 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 19:54


「お父さんが見たら、なんていうかなぁって思ったよ。
 きっと、『真希、大丈夫か?』って言ってくれると思う。
 そう思ったから…ん?」

後藤は頬に手を当て、空を見上げる。するとみるみる残念そうな
顔をして石川を見る。

「梨華ちゃん…雨…。」
「あ…。」

ぽつぽつと降ってきた雨は、薄黒い雲と一緒にくっついてきて。
簡単にはやまないぞ!といっているように見えた。

「梨華ちゃんが空気湿らすから、雨が喜んできちゃったじゃん。」

意地悪っぽく言うと、石川の持っていたバッグをひょいと
テーブルから持ち上げ、さっさと歩き始めた。

「なにしてんの。これでも、あなたの彼女はアイドルなんだからね。
 風邪ひかせる気ぃ?」

ぼーっとしている石川に振り返って言うと、ホラ、と手招きをする。
嫌な雰囲気をかき消すかのように、後藤はオチャラケて言った。
石川はそんな後藤の気遣いが嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。

卒業のことは、二の次。今は、後藤とのこの時間を楽しく過ごそう。
そう決心しながら、後藤の後を追った。

35 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 20:08

いったん切ります。
36 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:15
海岸を横目に、二人はバス停へ向かった。
タクシー乗り場にはこの強風で苦労しただろう若いサーファーや
親子連れが多く、後藤たちはあえてそこを避けた。

この海辺には駐車場がなく、歩いて二k先のカーフェリー乗り場にしか
車を止めることが出来ない。海辺から200m先のコンビニエンスストアには
駐車場といえるほどのスペースがない。店員の車などで手一杯だ。

「雨、強くならないといいね。」

石川が不安そうに言った。隣にいる後藤は、しきりに道路を
気にしている。

「ごっちん?」
「ん……あぁ、うん。」

気のない返事。それどころか、ボーっと道路を見つめている。
視線の先には、犬。
37 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:16



「トイ・プードルだね。」
「あの犬、飼い主を探してるみたい。」

後藤は自宅で飼っているミニチュアダックスのタカを思い出した。
以前、後藤が入っていたトイレの前で用を足した時、それをふんで
怒り狂ったことがある。『お前の目は節穴か!』と怒ってトイレの
タオルで目隠しをしてやった(後藤は誇らしげにそれを見た)。

タカはウロウロした後、床に鼻を突け後藤の後をついてきた。
まさにその行動を、あの犬はしている。

「不安だな。車に気をつけて…って無理か。」

笑いながら石川を見ると少々怒っている。それでも、雨で張り付いた髪が
妙に色っぽくて、後藤は見とれていた。

「ごっちん、犬とあたしとどっちが大事なの?」
「もちろん梨華ちゃんだよ。」
「本当に?」
「さっき言ったじゃん。」

バス停に着くと、屋根の下で石川に抱きつかれる。突然すぎる行動に
驚く後藤。
38 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:16

「寒くない?平気?」

耳元で囁くと、抱きしめる腕に力をこめる。後ろから抱きつく格好。

「梨華ちゃん?」
「ごっちんが好き。絶対に誰よりも愛してる自信がある。」

訴えるようにいう石川の腕を解き、向かい合って両肩に手をやる。
そして、静かに言った。

「後藤も、好きだよ。でも、ホラ、いくら端のバス停でも抱きつくのは
 まずいよ。ね?」
「うん…。」

なだめるように言うと、後藤はあ!と声をあげる。

「どうしたの?」
「ごめん、忘れ物。」
「どこに?」
「さっきのベンチ。」

そう言って後藤はう〜ん、とうなる。

「ちょっと取ってくる。」
「え?だって雨…。」

石川が空を見上げる。つられて後藤も、見上げた。相変わらず、
雲は空を覆いつくし、灰色の大河のように流れていた。

39 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:17


「大丈夫、だって梨華ちゃんにあげるプレゼントなんだもん!
 雨も小降りだしさ。行ってくるね。」
「小降りって…もうけっこう降ってるよ。」

それでもプレゼントだから、という後藤が可愛くて、笑った。
たまにみせる子供っぽいしぐさがつぼをつく。

「その笑顔、好きだよ。」

そういって後藤は歩行斜線を歩いていく。雨でぬれた道路で滑らないよう、
慎重に。雨のせいだろう、車が結構走っている。あの犬、平気かな?なんて
思っていた。すると、後藤のすぐそばで軽自動車が急ブレーキした。

キャンキャン!!

さっきの犬だ。今の車は犬をひかないようブレーキを踏んだのだ。
ほっとしていると…
40 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:17


パッパー…
キキーーーッ!!

軽自動車の追突事故。ぞっとした後藤は、思わず石川が安全かその場から
目をそらし、バス停を見る。


―――――良かった、思ったよりバス停より遠いところだった……




安心して視線を戻すと…


41 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:18


「!」

事故者を避けた車が、後藤に向かってくる。あまりのことに、動けない後藤。
急ブレーキも間に合わず…







その時、最後に見た梨華ちゃんの笑顔がふっと見えた気がした。
あたしの大好きな笑顔。その笑顔が、闇の中に消えていく……。
闇が晴れて、目の前には真っ赤に染まった車。
遠くから、本当に遠くから梨華ちゃんの声がする。


―――ごっちん!―――

‘ここだよ‘という声も出ない。ヒュー、ヒューとのどが鳴るだけ。
頭が痛い。あたし、どうなるんだろう?なんてそんなことを考えていると、
ふっと視界が暗くなった。



42 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:18










雨がやんだ、気がした




43 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:18




あ〜あ……


44 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:19




とうとう悲劇が訪れました。
すいません。なんかこういうの書くの好きなんです。

45 名前:ジル 投稿日:2004/06/02(水) 21:21
>>33失敗。二重更新すいません。
更新終了。
46 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/03(木) 22:32
悲しい・・・のかな
ハッピーエンドを祈りつつ続き待ってます
47 名前:名のナイ読者 投稿日:2004/06/04(金) 19:57
大好きないしごま発見です!!
っと思ったら悲しい展開ですね。
これからどうなるのか楽しみです!!頑張って下さい。
48 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 17:46

「もう、加奈ったら…駄目でしょ、置いてあるもの持って来たら。」
「だってこれ、真希ちゃんが持ってたような気がして…。」

帰りの車の中、加奈は母親に怒られていた。
駐車場へ向かって歩いている途中、加奈がクマのヌイグルミを忘れて来た
事に気づき慌てて取りに戻った。すでに後藤たちはいなく、雨に濡れた
ヌイグルミが悲しそうにベンチに横たわっている。

「ごめんね、ミニモちゃん。」

濡れたヌイグルミを抱えてその場を去ろうとした時、小さなビンが転がっているのに
気付く。見覚えのあるそのビンは確か……

――――
――



『大丈夫、おとめ組はミキティや田中がから、怖いんだよぉ?それなら、加護や
 やぐっつぁんのいるさくら組のほうがいいよね?』
『加奈、ミキティ怖い…。』



――
――――

あの時、抱き上げてくれた拍子に、後藤がベンチに置いたバッグの
隣にそっとこのビンを置いていた。


49 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 17:47



「帰ったら、真希ちゃんに渡すの!」
「間違ってたらどうするのよ…。」

そんなことないもん、と加奈はビンとヌイグルミを抱きしめたまま、車の中で
眠った。





目が覚めたとき、リビングのソファーで寝かされていた。
お母さん、と呼ぶと「起きた?」と返事が返ってきて少し安心した。
両親は荷物の片づけで別の部屋にいるらしい。周りに誰もいなかった。

「加奈、テレビつけて。」
「2ちゃんねる?」
「1チャンネル。」

リモコンを取って、テレビをつける。お母さん、違う部屋にいるのにみるのかな…
なんて思いつつソファに座りなおす加奈。

「!」

丁度夜のニュースをやっていた。ゴールデンウィークの各地の様子です、
とキャスターが事務的に言った後のニュースだった。

「お母さん、大変だよっ!!」
「なぁに?」
50 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 17:48





いそいそとリビングにやってくる母は、テレビの画面を見て固まった。
テレビには、ニュースを伝えているキャスター、そして右上の見出しに
後藤の写真、テロップには『後藤真希、交通事故』と映し出されていた。



51 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:20





52 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:20

53 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:21




54 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:21

後藤が目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。寝過ごしたかな、なんて
考えていたが、頭が痛くなって目を閉じる。

――ごっちん!――

石川の声がする。あの時と同じ声。あの時?あれ、いつだっけ…?
ていうか、どこだっけ、ここ…。まぁいっか。声のするほうに目を向ける。
でも、真っ暗だから何も見えない。

手をギュッと握り締められた。確かに石川はそこにいる。
なのになぜ?なんで、電気をつけないの?他にも、自分を呼ぶ
声がする。ねぇ、電気つけないと見えないよ。なんで誰も
気付かないの?

「ぁ…。」

声を出そうとして、喉がヒューッと鳴った。ようやく思い出した。
喉がヒューッ、ヒューッと鳴る感覚。真っ赤な車。
自分は事故にあったのだ。海岸で、忘れ物を取りに行って。
ということは、電気がついていないんじゃない、真っ暗なのは…




―――事故の後遺症だから。
 

55 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:21

看護師が後藤の定まらない視線と絶望的な表情を浮かべて
いることに気がつき、後藤に近寄ろうとした時だった。

後藤は涙を流して訴えた。

「梨華ちゃん……なにも……見えないよ……。」


「え?」

石川は愕然とする。看護師がドクターを呼び、目の検査を始めた。
石川はその場に立ち尽くした。


―――ごっちん…あたしが、見えないの?


56 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:22


元気よく、かつ慎重に歩き始めた彼女を見送ってすぐだった。
先ほどの犬が車のくるタイミングで道路を横切った。

「あ!」

思わず目を瞑る。そ〜っと開くと、こちらへ慌てて走ってくる犬と、
海岸とは反対側を走っていた車と衝突した軽自動車。
後ろから来る車も避けきれず右へ左へハンドルを切る。
海岸沿いを歩いていた人達は、悲鳴をあげる。

『あの犬、飼い主を探してる。』

彼女のこと言葉。そうだ、彼女は?確か、海岸沿いを歩いて…。

「!」

一瞬の悪夢。たくさんの車が道路わきのブロックに衝突している。
もしかして、彼女までも飲み込まれてしまったのだろうか?
車から軽症者が降りて重症者の名前を呼んだりしている。
でも、彼女の姿はない。
57 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:22

お願い、無事でいて…

石川が走り出したその時…

「救急車!だれか!救急車呼んでくれ!オイ、後藤真希が
 いるぞ!!」

血の気が引いた。必死で叫んでいる男の人が出てきた車は、
ブロックと衝突はしておらず、その車の先が、赤く染まっている…



「ごっちん!」




58 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:23



石川はふらつきながら廊下に出た。そして、泣き崩れる。
彼女の目が覚めるのをずっと待っていた。あれから五日も経っていた。
当然、大阪のライブは中止、世間にも『後藤真希交通事故』が
知れ渡っていた。

五日はあっという間だったし、長くもあった。ショック状態の石川は
後藤のそばから離れようとしなかった。
そして、やっと。やっと彼女は戻ってきてくれた。でも、彼女は虚ろな目をして
涙を流しながら訴えてきた。

『梨華ちゃん……なにも……見えないよ……。』と。
待ちに待った彼女の第一声は、今の石川にはとても酷だった。



59 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:26


待ちわびていた声は、絶望の中にあって、震えていた。

自分を見つけ、そして周りのメンバーや家族を見つけ安心
したわけじゃなく。

何も見えない。それだけですべてを悟った彼女の声は、
石川の大好きな寛恕の声ではないかのようだった…
60 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:26


61 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:27
更新終了。途中間を空けすぎました。すいません。
以後気をつけます。
62 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:31
レス、ありがとうございます!

46 :名無し読者 さん
悲しい・・・です。でも、きっと…。がんばれごっちん!
って感じです。また読んでやってください。

47 :名のナイ読者 さん
やった!いしごま好き発見。 最近少ないですよね、いしごま。
>っと思ったら悲しい展開ですね。
ホントすいません(泣)


63 名前:ジル 投稿日:2004/06/06(日) 18:33
次回の更新は遅くなるかと思いますが、放置はしませんので
今後もよろしくおねがいします。
64 名前:sage 投稿日:2004/06/07(月) 16:58
うわー悲しいなぁ…

次回の更新待ってます☆
65 名前:名のナイ読者 投稿日:2004/06/08(火) 19:26
悲しいけどこれからの展開が気になって
すごくワクワクしてきます!!
更新マターリ待ってます。
66 名前:ジル 投稿日:2004/06/21(月) 21:08


後藤が目の検査を受けた後、藤本以外に誰もそばにはいなかった。
家族は不眠不休だったために近くの病室を一晩だけ貸してもらい、
休息をとっていたし、他のメンバーはミュージカルのリハに戻らされた。
石川と、藤本を除いて。

「ごっちん、美貴だよ。ずっと傍にいるから、だからもう泣かないで。」

そう言って後藤の手を握る。妙に冷たいその手を暖めるように
優しく包み込んだ。

「ミキティ……。」
「ん?」
「約束、だよ…。」
「…うん。」



67 名前:ジル 投稿日:2004/06/21(月) 21:09


――――
――


あの後、石川はショックで意識を失った。あの場にいた全員が
ショックを受けたが、誰よりも彼女の無事を願っていた石川だけに、ダメージは
大きかった。マネージャーにより来ていたメンバー、矢口・紺野・藤本・田中は
ミュージカル稽古のために帰らざるを得なかったのだが、藤本だけは
残ることになった。

マネージャーにも、メンバーにも、おそらく聞こえていなかったんだと思う。
後藤が、石川の名前を呼び、休んでいると聞いた後の彼女の呟きを。

<誰でもいい、ずっと、傍にいて。>

小さくかすれながら呟いた声を藤本は聞き逃さなかった。普通恋人が今はいないと
言われても、「梨華ちゃん、梨華ちゃん。」というものではないのか。

「あたし、残ります。」

68 名前:ジル 投稿日:2004/06/21(月) 21:10


病室を出てすぐ、藤本はどうしても後藤の事が気になっていた。
<誰でもいい>と言った彼女。普通なら、恋人に傍にいてほしいはず…。
もしかしたら、彼女は…

「藤本、オイラ達だって残りたいんだよ。でも…今のごっつぁんは動揺してる。
 オイラ達が変に声かけないほうが…。」
「違うっ!」

思わず声をあげた。誰も、ごっちんのあの声を聞いていないくせに。
ごっちんのこと、なんにも分かってないくせに!
そう思った途端苛立ち、怒りが収まらなかった。

「どうして誰も聞いてないんですか?ごっちんいったでしょ、傍にいてって。
 矢口さんに、ごっちんの気持ちが分かるわけないじゃない!!」
「藤本…。」
「確かに、ミュージカルの稽古だってやんなきゃいけない。
 でも!それよりもっと大切なことがあるでしょ!?わけわかんないよ。
 ごっちんが事故にあった時も、すぐに稽古稽古って…。」

吐き捨てるように、その時なにも出来なかった自分を悔やむように
言う。交代でお見舞いにくることしか、できることはないってわかってるけど…と
ずっとそれが心に引っかかっていたのだ。

69 名前:ジル 投稿日:2004/06/21(月) 21:11


「藤本、それが仕事なの。後藤のことは病院に任せてあたしたちは
 今やらなきゃいけないことを精一杯やりましょう。それに後藤には…
 石川がついてる。今は寝ちゃってるけど。あたしだって馬鹿じゃないわ。
 二人の関係ぐらい知ってる。」
「!」

マネージャーの言葉に、藤本はびくっとする。

「あんたは松浦。そうでしょ。」
「………。」

そうだけど、と藤本は思う。でもあたしは、美貴は、ごっちんのことが…。
もうみれんはないのだけれど。

「梨華ちゃんが…せめて梨華ちゃんが目覚めるまでは、傍にいてあげたいんです。
 一人ぼっちにさせたくないんです。」




藤本は頭を下げてその場を去った
70 名前:ジル 投稿日:2004/06/21(月) 21:11


紺野が矢口の顔を見つめ、自分も後藤のもとへいこうとしていた。

「紺野。」
「っ…はい。」
「藤本を、後藤と二人きりにさせてやって。」
「…矢口さん。」


藤本の後藤に対する気持ちを知っていたから何も言い返せない。
ショルダーバッグを肩にかけなおして、マネージャーの方を向く。


「行きましょ。今度の空き時間にでも石川と藤本を二人を残せば
 大丈夫ですよ。オフ返上でもいいでしょ。」


そういうと誰の言葉も待たず矢口はその場を去った。



71 名前:ジル 投稿日:2004/06/21(月) 21:14

64 :sage 様
 すいません、悲しくて…。もう少し続きます。

65 :名のナイ読者 様
 わくわくしていただけて光栄です。頑張ります。


72 名前:ジル 投稿日:2004/06/21(月) 21:16

微量ですが更新終了。
次はいつだろう…。
73 名前:ジル 投稿日:2004/06/21(月) 21:18

作者。оО◯(あれ、あやみきなんだけどなぁ…なぜみきごまな
       雰囲気なんだろう…。) 
74 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/25(金) 06:36
みきごま、チュキ
この際、みきごまにしてしまいませう
75 名前:名のナイ読者 投稿日:2004/06/25(金) 23:42
更新待ってました!!
ごっちんを気にかける藤本さんが優しくていい感じです。
梨華ちゃんも頑張って欲しいです!
76 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:15
74 名無飼育さん
みきごまは続く…。うーん…もしかしたら、いやいや。
  ていうか石川さん、いつまで寝てるんですか?

75 名のナイ読者様
  優しい藤本さん、いい感じですか。良かったです。
  石川さん、起きてくださぁ〜い!
 
77 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:15


病室に着くと、藤本は後藤の傍へ駆け寄った。ただひたすらに寝ている(だろう)
後藤を前にしてちょっと緊張する。自分には、可愛い恋人が既にいるのに
なぜこんなにも傍にいたいと思うのだろうか。複雑な気持ちだ。
下心があるわけでもないし、ましてや恋心だってない。なのに、なんでだろう。

「……誰、そこのいるの。」
「っ!」

後藤は視力を失った。だが、そのほかにもひどい怪我を負っていたため、
起き上がることも許されていない。藤本はそっとそばの椅子に腰掛けた。

「いないの?いるの?あたしは、ひとりぼっちなの…?」

包帯が滲んで、隙間から涙が零れ落ちる。
慌てて藤本は名前を呼んだ。

78 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:15


「ごっちん、美貴だよ。ずっと傍にいるから、だからもう泣かないで。」

そう言って後藤の手を握る。妙に冷たいその手を暖めるように
優しく包み込んだ。

「ミキティ……。」
「ん?」
「約束、だよ…。」
「…うん。」

消えてしまいそうなくらい弱弱しい声で、でも一生懸命に藤本に
訴えている後藤を見ていると、辛そうで、思わず後藤の髪を撫でて、
引き寄せた。

79 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:16


「?」
「ごめん、ごっちん。ちょっとだけこうさせて…。」
「うん…」

包帯の巻かれた頭が少しズキッとしたが、今は藤本の優しさに甘える
ことにした。管の着けられた腕を一生懸命に藤本の体に巻きつけようとする。
でも、暗闇の中、手探りでようやく巻きつけることができた時、すでに
腕はクタクタだった。

「…暗闇の中で独りぼっちになると、もうずっと一人ぼっちのような気がして、
 怖いんだ。永遠に一人なんじゃないかって思うんだ……。」
「………大丈夫、美貴がいるから。」
「優しいんだね、ミキティ。」

自分の腕の中にいる後藤は、テレビでは決して見せない弱い姿。
等身大の、生身の後藤真希。同性としては初恋相手の彼女の
そんな姿が愛おしくて、松浦への罪悪感も忘れ、抱きしめる腕に
力をこめる。

80 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:16


だが後藤は震える腕をベッドに戻して、笑った。

「ミキティ、痛いよ、力入れないで。」
「え、あぁ、ごめん。」

力を緩め、後藤をゆっくりと寝かせた。そして今自分がした行動に
胸が高鳴る。罪悪感というよりも、緊張するような胸の鼓動。

「ミキティには、まっつーがいるんだもんね。」
「え?」

急に夢から覚めたように、胸の高鳴りは消えた。
松浦のことを気にしている…?自分よりも、後藤が…?
どうして、と困惑するがそんな藤本の思いに気付かないまま、
後藤は続ける。

81 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:17


「でも、今日だけは、いいよね?ちょっとだけ借りても、平気だよね?」
「…うん。」

困惑したままの藤本のことなんて露知らず、後藤は安心したように
口元を緩め、笑った。でも、目を塞いでいてもはっきりわかる陰のある
笑顔。

藤本はギュッと手を握り、俯きながら言った。


「ごっちん……今はゆっくりお休み。疲れてるでしょ。美貴は今日暇だから。
 稽古もないし、予定もないから。ずっと、そばにいるよ…。」


82 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:19


もう、隠しようがなかった。

松浦に悪いとか、全然考えないで後藤を抱きしめたり

胸が高鳴ってドキドキしていたのは、それは、「恋」したからなのだということを。

ずっとずっと好きだった人にこんなに甘えられて、弱い姿を見せられれば、

もしかしたら誰でもそうなってしまうのかもしれない。

でも、もちろん後藤にはそんな気持ちなどなかった。

ただ、そばにいてくれれば、それで良かったのかも知れない。



83 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:20





少しずつ、何かが変わり始めた。

あの雨の日の事故から――――



84 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:21

85 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:21

86 名前:ジル 投稿日:2004/07/04(日) 13:23
なんかミキティかわいそ(ry。
更新終了。
87 名前:名のナイ読者 投稿日:2004/07/05(月) 00:37
更新お疲れさまです!!
あややがいながらもごっちんに惹かれていくミキティ。
すごくわくわくしてきました!
88 名前:名無し 投稿日:2004/08/07(土) 15:58
更新待ってるんで頑張って下さい!
89 名前:名無し 投稿日:2004/09/09(木) 19:44
まってます保全
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/18(月) 11:38
早く更新しないと倉庫イキ
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/16(日) 13:41
更新するのずっと待ってます
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/18(火) 09:06
ageるな

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