My Believe Ways U

1 名前:我道 投稿日:2004/05/18(火) 21:34
初めましてこんにちは(ペコリ)
以前青版でチョコチョコッと書いていた我道と申すものですが、容量が危なくなったので引っ越してきました。よろしくお願いします。
ちなみに白版を選んだ理由は・・・特に無いです(あ、物投げないで・・・

http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/blue/1076894266
↑前スレです。
もう少しで完結予定です。
2 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:36
巨大な、まるで龍のようなからだが、音もなく消滅する。
それを確認し、飯田さんに飛び込んでいくまこっちゃんと咲魔さん。

咲魔さんは勢いにのせて右ストレートを、まこっちゃんは空中で石を投げつけた。
その瞬間、私はまこっちゃんの服の裾を掴み、こちらに引き寄せた。

そのちょうどコンマ一秒後。
今までまこっちゃんがいた所に雷鳴が轟く。
床が削れ、破片があたりかまわず飛び散る。

一呼吸でも遅ければ、まこっちゃんは黒焦げになってたね・・・。

「あ、ありがと、あさ美ちゃん」

いささか驚いた様子で私にお礼を言うまこっちゃんに軽く頷き、視線を戻す。
傷一つなく、佇む、二刀流。
まこっちゃんが放った石――基、爆弾は先ほどの雷で粉砕されたみたい。

―――・・・厄介だね・・・。
小さく舌打ちして、そう呟く裏紺ちゃんに、激しく同意。

「属性を操れるのさ」

スッと目の前に現われた、アフロヘアー。
私より頭一つ半ほど大きいその女性は、苛立たしげに顔を歪め、飯田さんを睨みつけている。

3 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:37
「属性?操る?」
「そ。あの日本刀を媒介として、属性を操る。ちなみに操れるのは、火、雷、氷、土、光、闇の6つらしいね」

咲魔さんの言葉が終わると同時に、後方に跳躍。
二人も散り散りに跳び退った。

その瞬間、床から飛び出した土色の大蛇。
着地してから飯田さんのほうを見やると、日本刀を床につきたてていた。

―――・・・なんにしろ、厄介なことに変わりは無いね。
再び同意。
こんな時、咲魔さんくらい体が頑丈だったらと、心底思う。
さっきだって、雷の直撃受けて、アフロになって身体が多少焦げただけ。
それだけで、本人はケロッとしている。

飯田さんの動きに注意をやりながらも、横目で咲魔さんを見てみた。
心の中で大きくため息。

―――・・・呑気すぎる・・・。
鼻歌交じりに髪の毛を整える咲魔さん。
緊張感のかけらも無いとは、彼女のためにあるようなものだね・・・。

「・・・あれ?」

4 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:37
少々疲れを感じながら、ふと浮かんだ疑問。
つい先ほどの咲魔さんの言葉が頭の中に再生される。

『・・・日本刀を媒介として・・・』

…限定?
日本刀じゃなければ駄目なの?

「紺野!!」

どうやら考え込んでしまっていたよう。
咲魔さんの切迫した声で、私は我に帰る。
その時、既に土色の大蛇は私の目の前。大口を開け、私を飲み込もうと迫ってくる。

―――交代し――!
裏紺ちゃんの焦燥したような叫びが聞こえた。

その直後、大蛇は巨大な爆発音を響かせ、吹き飛んだ。
爆風が私の身体を押し、そのあまりの強さに床から身体が離れた。

でも私の身体は壁に激突することなく、空中で停止。
首を捻り、振り返ってみると、感心したような表情を浮かべた咲魔さん。

「・・・やるようになったじゃないか、おがー」

5 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:38
私の襟首を掴んでいた手をパッと離し、咲魔さんは軽く拍手をした。
ちょうどその時、煙の向こう側から咳き込みながらまこっちゃんが姿を現した。

「ゲホッ、ガホッ・・・ま、まあね。守られてばっかりじゃいけないから」

埃の舞うところを歩いてきたせいで涙目になりながらも、明るい笑顔を浮かべるまこっちゃん。
その様子に、ちょっと驚愕。

だんだんと煙が晴れ、粉々になった大蛇だったものが姿を現す。
もうそれはただの土くれとなっていた。

―――・・・強くなったね、まこっちゃん。
思わず頬が緩んだ。

でも、それは部屋に響いた声によってすぐにかき消されることとなった。

『ほぅ・・・ゴミだと思っていたが、中々やるではないか』

咲魔さんの顔が強張り、まこっちゃんは慌てて振り向いた。
スーッと煙が完璧に消え、その先に見えたのは口の端を吊り上げて笑う飯田さん。
ここに来て、初めて口を開き出た言葉は、しかし飯田さんの声質とはあまりにも異なっていた。

6 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:38
一度見たら忘れない。忘れるわけが無い、あのこちらを見下したような、あの笑顔。
ギリッと、口の端で歯をかみ合わせた。

『しかし、こやつも使えると思っていたが、主ら如きにてこずる様では話にならんな』

飯田さんの身体を撫で、嘲るような笑みを浮かべた『咲魔夢霧』。
すると、突然・・・

「なっ・・・!?」

まこっちゃんの驚愕の呻き。
その視線の先には、自ら日本刀を腹部に刺し、身体をくの字に折る飯田さんの姿。
勿論、そうさせたのは彼女の意思ではない。

『くく・・・っ。今から面白いものを見せてやる』

口から血の線を引きながら、飯田さんの中の咲魔夢霧は笑ってそう言った。
その瞬間、飯田さんの身体が輪郭に沿って、淡い光を発し始めた。

次の瞬間。
パッと強い光が瞬き、私たちは目を瞑った。
光が止んだことを、目を瞑りながら確認し開ける。

愕然と、それを見上げた。

7 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:39
『ほほ。こやつは日本刀からしか能力を放出できぬ。しかし、こうやって体内に刺しこめばいくらでも能力を開放できるのよ。ただし、術者はその膨大なエネルギー量によって、身を滅ぼしてしまうがのぉ。ほーほっほっほ!』

まるで陽炎の如く揺らめく、5メートルはあろうかという銀色の巨体。
瞳をなくした、白い無機質な目。
背中にはやはり揺らめく、白と黒の翼。
真一文字に引き結ばれた、ふっくらとした唇だけが、飯田さんの面影となっている。

咲魔夢霧は、その怪物の姿のまま、高らかに笑った。
私はついに堪えられなくなり、その怪物の足元まで駆け寄り、叫んだ。

「人は・・・人は玩具なんかじゃないんです!ひとりひとり、二本の足で立って生きているんですよ!!」

かなりの身長差があるので、見上げながら睨みつける。
そこに流れた、僅かな沈黙。
破ったのはお腹を抱えて、心底おかしそうに笑う、目の前の怪物。

『クック・・・愚かな。人間は皆、妾の人形。妾に従い、尽くしていればそれで良いのだ。そうでもせぬと、役に立たないただのゴミくずだからのぅ』
「この―――!」

咲魔夢霧は、実に愉快げな口調でそう述べた。
ブチッと、私の中で何かが切れる音がし、無意識的に拳を握り殴りかかろうとしていた。

でも、それは叶わず。
私は揺らめく巨大な拳に打ちつけられ、幾度か床を跳ねながら、壁に激突した。
痛む身体をどうにか起き上げようとしているとき、響いた忌々しい笑い声。

8 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:39
『妾はこの奥の部屋におる。はようこやつを倒し、来るが良い。あまり妾を待たせるでないぞ。いや、それ以前に失望させるでないぞ。ほーほっほっほっほ!』

天井を仰いで高らかに笑っていた怪物が、ピタッと停止し、こちらに向き直った。
表情無き顔。
でも、私にはそれがとても悲しそうに見えた。

「・・・大丈夫?」

眉を八の字にまげて、手を差し伸べてくれるまこっちゃん。
軽く笑ってその手をとり、起き上がる。

仁王立ちし、こちらを睨みつける怪物に目をやり、静かにつぶやいた。

「あの刀を抜けばまだ助かるでしょうか?」

スッと音もなく、私の右隣につく咲魔さん。
答えは・・・無い。
ただ悔しそうに、悲しそうに怪物と成り果てた飯田さんを見つめている。

「・・・やってみよう」

代わりの返答。
首を捻り左隣を向くと、こちらを見つめているまこっちゃんと目が合った。

今までに無いくらい、真剣で、強い決意の灯った瞳。
答えは曖昧だけど・・・ううん。
この問いに、答えなんか最初から無いんだ。
私たちが、解を導くしか・・・道を作るしかないんだ。

まこっちゃんのその瞳を見つめながら、私は大きく頷いた。
そして視線を怪物に戻す。

9 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:40
胸の前で、掌を僅かに離した合掌。揺らめく二つの大きな掌。
すると掌と掌の間に、形を作っていく闇色の球体。

それを見て、私たちはそれぞれが違う方向に駆け出した。
咲魔さんは右側へ、まこっちゃんは左側へ。
私は・・・無謀にも正面から。

―――さて、誰を狙いますか?
心の中で呟き、その一秒後には舌打ち。
怪物は少しの躊躇もなく、闇色の球体を私めがけて放ってきた。

迫りくる闇。

でも、私は特に慌てることもなく、

―――なるべく、抑えてね。

「りょーかい」

落ち着いて、人格交代。
不敵な笑みを浮かべながら、かまわず駆けていく『わたし』。

闇が身体にふれ、スッと音も無く消え去った。
同時に、胸がズキリと痛み、顔をしかめる。
そこにできた、油断というバケモノ。

10 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:40
闇を消し、走り抜けた先に待つものは更なる闇。
意識を集中するけれど、遅すぎた。

「あうぐ・・・っ」

即座に闇に飲まれてしまった『わたし』。
頭が割れそうに痛い。
時間が経ってもそれはどんどんと酷くなっていく。
ついに膝をつき、意識が朦朧としだしてきた。

「・・・さみちゃ・・・あさ・・・ちゃ・・・ん」

私を呼ぶ声?
耳に入るけど、頭痛がひどくてよく理解できない。
でもそれはすぐに、

「あさ美ちゃん!」

すごく近くて、鮮明に聞こえた。
一気に意識が覚醒し、目を見開いた。そして、意識を集中する。

「―――っは!はっ・・・はぁ、はぁ」

すると闇はだんだんと色を失い、ついには完璧に消滅した。
私はその場に四つんばいになり、荒い息をする。

11 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:41
せわしなく上下する私の肩に触れた、優しく柔らかい感触。
頭を少し動かし、見上げて力なく微笑んだ。

「・・・あり、がと・・・まこっちゃん・・・」

まこっちゃんが安堵したように息をつく。
私はまこっちゃんの肩を借り起き上がった。

足元がふらつき、まだちょっと頭が痛い。
闇が私に与えたダメージは、思った異常に大きいみたい。

「しゃあぁぁぁぁぁ!!!」

叫び声の後に、衝突音。
揺らめく拳を振りぬいた怪物が、壁を見つめている。

そこに立つは、上半身に包帯を巻いた女性。
所々服は破け、傷だらけ。にもかかわらず、彼女は口の端を持ち上げた。
凶暴な笑み。

咲魔さんは床に向けて少量の血を吐き出すと、雄叫びを上げ怪物に向かっていった。
その途中で、

「おら!紺野!おがー!ボーっと突っ立ってないで手伝いな!!」

12 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:41
私に対する配慮もなにも考えていない発言を投げかけて。
まこっちゃんがむくれて、「もう!」と不満そうな声を漏らす。

それからすぐに私に向き直り、心配そうに眉尻を下げた。

「あさ美ちゃん、大丈夫なの?さっきから何だか苦しそうだけど・・・?」

ばれた・・・いや、ばれるか。
常時よりかなり激しい息遣い。自分でも分かるくらいの額の汗。
これは勿論、闇による攻撃のせい。

でも・・・実はそれだけじゃないんだよね。

「う、うん・・・大丈夫だよ・・・」

そう言って笑ったつもりでも、まこっちゃんはどこか怪訝な表情。
無理に笑ってるのがバレバレかな?

「くぉら!そこのおがこん!さっさと来いや!!」
「あーもー!うるさいなぁ!今行くよ!!」

13 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:42
繰り出される怪物の拳を自らの拳で受けながら、咲魔さんは痺れを切らしたように叫ぶ。
まこっちゃんは苛立たしげに言葉を返した。

「あさ美ちゃん、ほんとに・・・」
「うん。本当に大丈夫だから」

気張ってブイサイン。
その間にも私の胸は痛み続ける。
まこっちゃんはまだ少し訝しげにしていたけど、「無理しないでね」と残すと、その辺に落ちていた土の破片を掴んで咲魔さんの援護に向かった。

「遅いよ!」
「しょうがないでしょ!あさ美ちゃんが具合悪そうだったんだから!」

まこっちゃんが文句を言いながら土の破片を投げる。
怪物の身体に触れた瞬間、それは爆発。
そこで発生した爆煙を目隠しとして利用し、怪物の懐にもぐりこむ咲魔さん。

こちらもギャーギャー言いながら伸ばした手は、未だ腹部に刺さったままの日本刀へ。
でも、咲魔さんの手は空を掴んだ。

咲魔さんはそこでハッとして、後ろに跳躍。
その瞬間、振り下ろされた揺らめく巨大な拳。
石造りの床を砕き、小さなクレーターを作り出した。

飛び退り、着地した後に咲魔さんは小さく舌打ち。
まこっちゃんも歯痒いような表情を浮かべる。

―――やっぱり、手強いね・・・。

14 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:43
「・・・う、ん」

まだ呼吸を荒くしながら、『わたし』は頷く。
右手は胸を強く掴んでいる。

「・・・やるしか、ないね」

苦しそうに微笑んで、大きく息を吸い込む。
そしてゆっくりと吐き出す。

胸はまだ痛いと叫び続ける。でも、そんなのは気力でカバー。
歯を食いしばりながらも、不敵に笑っている自分に気付いて思わず苦笑。

「はは・・・咲魔さんの性格・・・伝染(うつ)ったかな?」

苦笑混じりにそう呟き、対峙している二人と一体のところへ歩み寄る。
近づきながら、人格交代。
創造の私にスイッチ。

―――・・・手が早いね・・・。
裏紺ちゃんの呆れたような呟きと共に、私は身を屈め、走り出した。
頭上を巨大な氷柱が通り過ぎる。

「ないすだ!こんこん!!」
「あさ美ちゃん、無理しないでね!」

咲魔さんとまこっちゃんは怪物の注意が私にそれた時を見逃さず、飛び掛った。

15 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:43
一人に注意をやると、そこにできる僅かな隙。
対複数の戦いでは、その隙が命取りになる事だってある。
はたしてそれは怪物相手にでも通用するのかな・・・?

「なっ!?」

通用はしなかった。
怪物はすぐに注意を下方に向けると、巨大な拳を振りかぶることなく床に叩きつけた。

その真下にいたのはまこっちゃん。
握った僅かな土を、今にもぶつけようとしていたためその拳に気づくのが遅れた。

避けられない!
私は焦りと共に、駆け出そうとした。

「!!んのっ!」

でも、寸でのところで停止。
こちらに向かって飛んできたまこっちゃんを、どうにか受け止めると、

「んがあぁぁぁぁ!!」

苦悶に近いようなうめき声。
声の主は巨大な拳の下で孤軍奮闘中。

「さ、咲魔さん!」

驚いたように目を瞬かせるまこっちゃんを床に下ろし、拳を支える咲魔さんに駆け寄る。
でも、それも叶わず。

「あばばばばばばばば!!!」

16 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:43
怪物の腕が、眩いばかりの青白い光を発し始めた。
それと同時に咲魔さんの悲鳴?があがる。

あの光・・・以前に見たことがある。
あれは・・・雷。藤本さんが使っていた雷と酷似している。
というよりも、完璧に雷そのもの。

「うっ!」

まるで弾け飛ぶように光が、当たり一面を照らした。
反射的に腕で目を覆う。

すぐに光は消え、目をゆっくり開くと、怪物の足元に転がる黒焦げの咲魔さん。
黒い煙と共に、小さな稲光があがっている。
小刻みに痙攣するその姿を見て、私はため息を吐いた。

「・・・咲魔さん。そういう演技は緊迫感を殺ぐのでやめて下さい」

すると痙攣が止まり、ムクリと起き上がる黒焦げの肢体。
こちらを振り向いてニカッと笑うと、これまた黒くなって並ぶ歯が見えた。

17 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:44
「もっと乗っておくれよ〜。って言うか、心配してよ」
「あなたに対する心配という感情は皆無です。というか、ありません」

ぴしゃりと言い放ち、その横を静かに通り過ぎる。

こちらを見下ろす瞳無き目を覗き込む。
それはやっぱり何も映していないけど、とても悲しそうに見えた。

「やるのかい?」

同じように怪物を見上げながら、咲魔さんが呟く。
私は右拳を強く握り、頷いた。

「・・・これで、終わらせます」

まこっちゃんが慌てた様子で私の横に並ぶ。
私が二人に目配せするのと、怪物が動くのはほぼ同時だった。

「時間稼ぎをお願いします!」

叫んで、後ろに飛び意識を右手に集中させる。
それに合わせ、引いてきていた胸の痛みが再発。
でも、そんなこと気にしてはいられない。

18 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:44
繰り出される拳を必死で避け、その巨大な身体に爆弾をぶつけていくまこっちゃん。
猪みたいに何も考えず突っ込んで行き、何度も床に打ち付けられるを繰り返す咲魔さん。

私を・・・私たちを信じ、戦ってくれている二人。
それを私の勝手で裏切るわけにはいかない。

「準備完了です!」

そう叫ぶと、二人が一瞬だけ振り返り、すぐに左右に跳躍した。
怪物は様子がおかしいことに僅かな間動きを止めたけど、すぐにこちらに向き直ると両手を引き、構えた。

片手に光、片手に闇。
それぞれ異なる性質を持った球体が両の掌に形成されていく。

それを見つめながら、握った右拳に更に力を込める『わたし』。
ここではすでに、消滅のほうの『わたし』にスイッチしていた。

「あさ美ちゃん!」

19 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/18(火) 21:45
まこっちゃんの慌てたような叫び声。
その時には既に光と闇は放たれ、『わたし』に向かってきていた。
そんなに早くは無いけれど、決して遅くは無い速度。

でもそれらは私の身体なんか一飲みにできるくらい大きくて、
まるで回避は不可能って言っているみたい。

ぐっと腰を沈めて、半身を開く。
右手は引き、顔は真正面に。
もう、すぐそこまで迫る、対なる属性を持つ二つの球体。

「あさ美ちゃーん!!」

…私を・・・私たちを信じて。まこっちゃん・・・。
一瞬だけ頬を緩め、すぐに引き締める。
同時に、勢いよく右手を突き出した。


拳と球体がぶつかったその瞬間、激しい光が瞬いた。

20 名前:我道 投稿日:2004/05/18(火) 21:51
本日の更新終了です。
前スレからの返レスをやらせてもらいます。

>>694 名も無き読者様
うーむ・・・確かに最後の人、トークし(ry
楽しみにしていただきありがとうございます!
期待を裏切らないよう、新スレでも頑張っていこうと思います。
よろしくお願いします(ペコリ)

>>695 19様
おっとっと(焦)
忙しいですね(苦笑)申し訳です。
よろしければ新スレでもよろしくお願いします(ペコリ)
21 名前:我道 投稿日:2004/05/18(火) 21:51
一応隠しです
22 名前:我道 投稿日:2004/05/18(火) 21:52
もう一つっと
23 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/19(水) 12:56
更新お疲れ様&新スレおめでとうデス。
おぉ!!盛り上がってきたぁ!!w
いくつか心配な点があるのは否めないですが、楽しいデスww
てか咲魔さん、アンタやっぱりバケm(ry
次回も楽しみにしてます。
24 名前:石川県民 投稿日:2004/05/19(水) 14:51
 更新お疲れ様&新スレお引越しおめでとうございます。
 ラストまでレスしないでおこうと思いましたが、
 引越し祝いを携えて、どの面下げて現れた、という次第でございます。
 あ・これ、新スレ祝いの石川の名産品です。 )つ..□

 マコがやられキャラじゃなくなりましたね、がんばれマコ。
 次回も楽しみにしてます。
25 名前:19→25 投稿日:2004/05/20(木) 03:49
前スレきっかり700ですね。
スレ立て更新乙です。何ですかね・・・そんなとこで更新終了ですか(T_T)
26 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:29
すうっと・・・。
あたり一面を照らしていた光は静かに引いていき、『わたし』は胸を押さえ、膝を折った。
激しい痛みが身体の中で暴れまわり、大量の脂汗が噴出す。
その痛みを堪えながらも、どうにか顔を上げ、結果を確認した。

ゆっくりと目を開けるまこっちゃんと咲魔さん。
目の前に広がるその光景を見て、幾度か目を擦る。

部屋の中央に横になって倒れる髪の長い女性が一人。
腹部には日本刀が刺さっていて、口の端からは紅い線が引かれている。

咲魔さんは急いでその女性――飯田さんに駆け寄ると、乱雑にその日本刀を引っこ抜いた。

途端に鮮血が噴出し、床を赤く染め上げる。

「うをっ!?な、なんじゃ、こりゃあぁぁぁぁ!!」

自分の手に付着したそれを見て、叫ぶ咲魔さん。
…ネタが・・・古いです・・・。

「大丈夫!?あさ美ちゃん!」

痛みに耐えながらも、的確(自称)なツッコミを入れている私に慌てた様子で駆け寄ってきてくれたまこっちゃん。
27 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:30
八の字眉毛に、子犬みたいな目。
すっごく情けない彼女の顔を見て、僅かだけど気が楽になった感じがした。

…『感じ』だけだけど・・・。

「だい、じょうぶ・・・ちょっと、疲れただけだから・・・」
「嘘!疲れただけで、そんなに顔面蒼白なんかにならないもん!」

情けない顔に似合わず、強気に叫ぶまこっちゃん。
有無を言わさず『わたし』を抱え上げると、壁のところまで歩いていく。
そして壁に私の背を預けるように下ろしてくれた。

「何にもできないけど・・・とにかく休んでよ」
「・・・あり、がと」

微笑んだつもりなんだけどな・・・。
まこっちゃんはもっと辛そうな表情になり、私を見つめてくる。

今は、何をやっても心配させるだけだね・・・。

28 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:31
心の中で苦笑。
とにかく今は痛みが引くまで、お言葉に甘えて休むことにした。

「お〜い。裏紺生きてっかぁ?」

そう思って目を瞑った矢先、呑気な声で失礼極まりないこの言葉。
片目を開き、そのバカを睨みつけた。

「・・・いたんですか?」
「ひどっ!さすが裏紺だねぇ」

『わたし』の切り返しにも、軽く笑いを浮かべるだけ。
全然気に留めた様子もなく、咲魔さんは肩に担いでいた飯田さんを下ろした。

腹部には包帯が巻かれている。
けど血は止まっていないみたいで、傷口のあたりから血がにじんでいた。

「大分弱ってっけど、さすが能力者っつーところだね。傷口の治りが速いわ」
「・・・この包帯は?」

仰向けになって眠る飯田さんを見つめながら、まこっちゃんが口を開いた。
咲魔さんはドカッと腰を下ろし、どこか面倒くさそうに答える。

「予備だよ。サラシの」

29 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:31
言ってから、ポケットに手を入れ、包帯の束を取り出す咲魔さん。
まこっちゃんは感心したような声を上げた。

「あんたの変な趣味でも、たまには役に立つんだね」

その瞬間、まこっちゃんは床に投げ出された。
何が起こったのか理解する前に、咲魔さんの長い脚がまこっちゃんの首を締め上げる。

咲魔さんのこめかみにうっすらと青筋が浮かんでいた。

「おがー・・・アンタ、ホントに言うようになったねぇ。これはアタシからのお祝いさ。受け取っておくれ」
「ぐ、ぐるじ・・・っ!じぬ・・・!まじで、じぬ・・・」

赤から青、青から白へと、瞬きするごとに変わるまこっちゃんの顔色。
苦しみ、悶絶しながら、結構あっけなく事切れた。

咲魔さんはそれを確認すると、絡めていた脚をほどいて、こちらに向き直った。
30 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:32
―――・・・ばれてるみたいだね・・・。
その表情は・・・真剣そのもの・・・。

「・・・おい、裏紺。アンタそりゃ一体どういうことなんだい?」

いつもよりも、幾分か声を低くし静かに言葉を紡ぐ咲魔さん。
私は内心ため息を吐いた。
毎回バカなことやってるけど、仲間のことになるとすごく敏感な咲魔さん。

その目は疑問より、確信に近い色を含む。

「・・・『代償』ですよ」

ポツリと。
とぼけるのは無理だと割り切って話そうとはしたものの、やっぱりちょっと言いづらい。
だから自然と小声で呟くみたいになってしまった。

「『代償』?」
「・・・はい」

でも咲魔さんは聞き取ってくれたみたい。
その地獄耳がありがたいと思い、ちょっと憎らしくもあった。

「・・・最強の能力なんて無いんです。どんな能力にも制限みたいなものがあります。まこっちゃんの『自分が触れた生物以外のモノ』や、飯田さんの『日本刀』がその例ですね」

部屋の中に『わたし』の淡々と紡ぎだされる言葉が響く。
胸の痛みはもう大分引いてきていた。

「強い能力ほど、たくさんの代償・制限があります。わたしも例に漏れないんです」

スッと右手を自分の顔の前に持ってくる。
咲魔さんが目を見開いた。

31 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:33
それと同時に、『わたし』は苦笑い。
まこっちゃんを気絶させてくれた――意図的みたいだけど――咲魔さんに、少しばかり感謝した。

「・・・アンタ、それ・・・」

咲魔さんが震える指先で、『わたし』の右手を指差す。
視線を、ゆっくりと動かす。

普通にそこにあるんだけど、ありえないことが起こる私の掌。
いきなり色が薄くなって向こう側が見えたと思ったら、すぐに肌色が戻ってくる。

安定を失いかけている、私たちの存在。
これが・・・強い能力の代償。

「・・・使った分だけ、もういくらか私という存在は消えているんです。かなり少しずつではありますが」

静かに右手を下ろし、大きく息を吸う。
ゆっくりと吸い込んだ空気を吐き出し、咲魔さんを見やる。
沈痛な面持ち。

私たちは思わず、目を瞬かせた。

「・・・驚きました。咲魔さんでも、そんな表情できるんですね」
「・・・悲しいことがあれば、アタシだってこんなんなるさ」

32 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:33
いつもの強気な口調とは一転、ものすごく弱々しく咲魔さんは呟き、微笑んだ。
『わたし』は微笑み返して、白目をむいて気絶するまこっちゃんの髪の毛を撫でた。
すこしクセがある、オレンジに近い茶色。

ジワリと、何故だか涙が浮かんだ。

「・・・やめるかい?」
「―――えっ?」

唐突に。
その言葉は紡がれた。

33 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:33
咲魔さんはとても真剣な目で、『わたし』の瞳を覗き込む。

「辛いんだったら無理してやることは無いさ。アタシの姉貴が起こしたことだからね。本当は、アタシ一人でケリをつけなくちゃいけないことなんだからね」

言葉を言い終えると、咲魔さんの口元がフッと緩んだ。
思わず見惚れてしまった。

凶暴な笑みの印象が強い咲魔さん。
こんな風に笑えるんだ・・・。

「・・・だから、別にやめてもいいんだよ。アイツのやりたい事もまだ分かんないし」

美しく弧を描く唇。
優しく細められた、いつもは鋭い目。

こんなこと言ったら失礼だけど、同一人物の笑顔とは思えないほど綺麗だった。

「・・・いえ」

今口を開いたのは、私――創造のほうの紺野あさ美。
涙はいつの間にか止まっていた。

私はまこっちゃんをから手を離し、咲魔さんを見つめた。

「私が決めた道です。最後まで進もうと思います。それに・・・」
「?それに、なんだい?」

言うとなると、やっぱり照れくさいな。
あからさまに台詞がくさいもんね・・・。

34 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:34
「それに、格好がつかないでしょう?また会いましょうと格好良く決めたのに、手ぶらで帰るのは」

咲魔さんのキョトンとした表情。
でも、それはすぐにあの笑顔に変わっていった。

「はっ!」

ニヤリと、そんな効果音が入りそうなほどに口の両端が吊り上る。
胡坐をかいていた膝を叩くと、お腹を押さえてげらげらと笑い出した。

「はっはっは!おがーもやるようになったけど、紺野。あんたも大分成長したじゃないか!大物っぽくなったねぇ。ひゃは!はっはっはー!!」

やっと少し落ち着いたかと思ったら、また再び笑い出す。
その繰り返しが6回くらい続き、さすがに咲魔さんも疲れたみたい。
ようやく笑うのをやめると、今度はにやけて私を見つめてきた。

私は軽くため息を付きながら、未だ起きようとしない二人に視線を移した。

まこっちゃんを見て・・・思わず、少し噴出した。
飯田さんを見て・・・あれ?なんだろう・・・?

何かがおかしい。
飯田さんを見て、なんとなくだけど、違和感を感じた。
別に変なところは特に無いんだけど・・・。

長い薄茶色の髪。ぽってりとした唇。
スラッと伸びた両脚に、細く綺麗な両の腕・・・え?

35 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:35
「咲魔さん・・・」

飯田さんに視線を固定したまま、私は咲魔さんに言葉を投げかけた。
まだニヤケて私を見ていたみたいだった咲魔さんは、「ん?」と短く声をあげ、笑顔を消した。

私は唖然としながら、咲魔さんに向き直った。
そして、問う。

「・・・何故、飯田さんの腕があるんですか?」

咲魔さんが眉を顰めながら、飯田さんに視線を移す。
しげしげと、横になる彼女を見わたし首を傾げること、ほんの数秒間。

双眸が見開かれ、その視線は飯田さんの右腕に注目していた。

「・・・ある」

率直な・・・本当に見たまんまの感想。

36 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:35
そう。
確かにそこに右腕は『ある』。飯田さんの身体に、違和感なく繋がっている。
でも、今はそれが違和感のもとになっている。

五体満足な人間なら、右手があるのは当然のこと。
でも、飯田さんの場合、事情が違う。

「・・・なんでさね?こいつの右腕って・・・裏紺。アンタが消したはずだろ?」

正確にはちょっと違う。

『わたし』が対象を飯田さんの右腕にしぼり、消そうとしたところ、飯田さんは消滅の最中に自ら腕を切り落とした。
外部から干渉が入り、『わたし』の能力は中断。
それでも、肘から先は無くなってたけど。

でも、今の飯田さんの右腕は正常そのものだった。
傷一つついてない。
少し触れてみても、感触は人間の肌そのもの。

「・・・これも夢霧さんの業ですか?」

37 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:36
ただただ、驚愕するのみ。
いくら能力者といえど、ピッ○ロ(マジュ○ア)みたいに腕が生えてくるわけが無い。

だとすると考えられるのは一つ。
おそろしく高性能な、義手。

確かに、空飛ぶ島を造ってしまうほどだから、あの人にとってみれば義手の一本や二本、たいしたことじゃないと思う。

「・・・へえ〜。悔しいけど、こりゃあちょっと感心したわ。あいつでも、まともなの作れ――」

感心し、なめる様に飯田さんの腕をじろじろ見る咲魔さん。
でも、ほんの数秒で表情から感心の色が消えた。

顔を出したのは、焦りと畏怖が混じった、そんな感じの表情。

「んなわけあるか・・・そうだよ。んなこと、あるわけが無いんだよ・・・」
「ど、どうしたんですか?咲魔さん・・・」

跡がつくくらい強く飯田さんの腕を握り、咲魔さんはブツブツと一人呟き続ける。
その様子はとても不気味。
だけど、その表情を見ていれば、冗談なんかじゃないことなんて一目瞭然。

私は僅かに戸惑いながらも、咲魔さんに声をかけた。

「おがー!おい!あんたいつまで寝てんだい!さっさと起きな!」

でも咲魔さんは私に目もくれず、まこっちゃんを掴み起こすと、前後左右。
更に上下と、激しく揺すりだした。

38 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:36
未だ目を覚まさないまこっちゃん。
でも、揺すられるたびに眉をひそめて、苦しそうに唸る。

「どうしたんですか、一体!?何をそんなに慌ててるんですか!?」

まこっちゃんの命の危険を感じ、咲魔さんの腕を掴み行為をとめさせる。
その瞬間、背中に氷を入れられたような寒気を感じた。
私は目を見開いて、咲魔さんの目を見つめる。

怒りに燃える双眸。
どうしようもないほどの彼女の怒りは、自らの身体をも震わせている。

「アイツが・・・」

そして、俯きながら、これまた怒りのこもった低い声で呟く。
腕から力が抜け、まこっちゃんが自由になり、床に再び倒れこんだ。

「アイツが・・・あのクソヤロウがまともなのなんて造る分けがない・・・!そんなこと分かりきってたのに・・・少しだけ、アイツを認めてしまった自分が情けないよ・・・ああああああああ!!!ムカつくムカつくムカつくムカ・・・(Endless)」

唇をかんで、らしくなく凹んだかと思ったら、いきなり立ち上がって走っていくと、壁を殴り始めた。
終わることなく繰り返されるムカつくという言葉と共に、だんだんと砕けていく壁。

「殺す殺す殺す殺す殺す・・・(再びEndless)」

39 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:37
拳から頭突きに変え、更に破壊し続ける咲魔さん。
私は驚いて目を丸くしていたけど、すぐにドッと疲れがきて、大きくため息を吐いた。

「咲魔さん・・・それでそうしたんですか?」

呆れながら、もうどうでもよさげに私は言った。
すると咲魔さんがピタッと動きを止めた。まるで、時間が止まったみたいに。

そして血相を変えて振り向くと、額から流れる血を気にも留めず、音速の如きスピードで私の目の前まで駆け寄ってきた。
瞬きを一回したとき、もう目の前には咲魔さんの超ドアップ。
私は全然動けず、固まってその焦ったような瞳を受け止めている。

「そうだったよ!こんなことしてる場合じゃなかったんだ!早く、飯田の腕を処分しちまわんとっ!」
「はいっ!?」

突然目の前で言われた、衝撃的で、破壊的な言葉。
思わず素っ頓狂な声を出し、身体が更に固まった。

「本当はアンタに頼みたくないんだけど、おがーがこの調子だし・・・。悪いけどやってくんないかい?」

これまた珍しく、眉尻を下げ申し訳なさそうに頼んでくる咲魔さん。
私はようやく我に帰ると、咲魔さんの腕を払いのけ、座ったまま後ずさり。

40 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:38
「な、なんで私が!そ、それに、何でそんなこと――」
「・・・何か仕掛けがしてあるに決まってるさね」

混乱しながら、どもりながら言う私に、咲魔さんは沈痛な面持ち。
そして、僅かだけど悔しさがにじみ出ている。

「―――えっ?」
「考えてもみな。アイツは・・・咲魔夢霧は人を人とも思わない。使えないやつはすぐ見捨てるし、思い通りにいかなかったら力ずくでそいつを奪う」

頭に浮かぶは、夢霧さんの能力によって人形のようにさせられた人たち。
そして、見向きもせず捨てられた人たち。

何となく、飯田さんを見やる。
咲魔さんの言いたいことが理解できてきた。

「でも、使えるようなものは燃え尽きるまで使うやつさ・・・」

唇を噛み締め、握った拳を震わせる咲魔さん。

「・・・わかりました」

そんな彼女を一瞥し、飯田さんに視線をやって呟いた。
咲魔さんがバッと顔を上げたのが、雰囲気で分かる。

私はそちらに向かず、無言で飯田さんに、
飯田さんの右腕に手を伸ばした。

もしかしたら・・・いや。
41 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:38
夢霧さんによって何か細工が施されている確立が高い、その義手に。

まさにもう少し。もう、あと数センチと迫ったところで、しかしそれは起こった。

「――!こんっ!」

咲魔さんが過敏なくらいすばやく反応して、私とまこっちゃんを抱え、飛び退る。
私はその間、呆然として、起き上がった飯田さんを見つめていた。

『残念。気付いたところまでは誉めてやるが、反応が遅すぎたのぅ。時間切れじゃ。ほーほっほっほっほっほ!』

夢遊病者のようにふらふらしながら、その場に佇む飯田さん。
その口が不自然に動き、言葉をつむぐ。
再び聞こえた、飯田さんの性質とは異なるその声を聞き、不快感に思わず顔が歪んだ。

「てめぇ!一体、どこまで人の命もてあそべば気が済むのさ!!」

未だ意識が無いらしく、両の目を閉じ、ふらふらする飯田さんを見て咲魔さんは声を荒げた。
すると、すぐに帰ってくる嘲るような笑い声。

『ほほ、愚かな。言っておるであろう?こやつは人ではない。妾の人形なのじゃ』

言葉の終わりと共に、飯田さんが右腕を振り上げ、勢いよく振り下ろした。
42 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:39
肘から先に、まるで植物のように生え出た、銀色の触手のようなもの。
でも、それはまるで蛇のようにその身を動かし、私たちに襲い掛かってきた。

「っのやろぉ!」

咲魔さんは下がらず、前進することでその奇襲を回避した。
私たちを放り投げ、咲魔さんは一直線に飯田さんに向かって走りよる。

怒りでゆがめた口の端が切れ、血が紅い線を引いていた。

『ほほ。残念じゃのぅ。妾の作った義手は完璧じゃ。止めることなどできるわけが無い』
「んぐあっ!」

その身に絡められた、銀の触手。
即座に咲魔さんの自由を奪うと、壁に向かって投げつけた。

かなりの力がこもっていたみたいで、石造りの壁がへこみ、周囲の壁に亀裂が入った。
そっちを、まだ開いていない飯田さんの目で一瞥をくれると、夢霧さんは唇で弧を描き、

『この義手はあと5分ほどで爆発する。妾を失望させるでないぞ』

心底面白そうな口調で。

―――・・・虫唾が走るね。
多分今私は、ものすごく不機嫌そうで、怒った顔をしていると思う。


43 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:39
その言葉を最後に、夢霧さんの気配が消えた。
ガクンと飯田さんの身体がゆれ、触手がのたうつ。

そして、次の瞬間、自分の目の前で起こったことに愕然とした。

「うあああ!!」

飯田さんの苦痛の叫び。
そのモデルのような身体には、義手から出でた触手が何本か突き刺さっている。

「いたっ・・・いたいぃぃぃ!!」

まるで子供のように。
泣きじゃくり、身を捩じらす飯田さん。
それに合わせるように、触手も、のたうちを激しいものとした。

「・・・なに、あれ・・・?」

さすがにこんな騒がしくなれば、目が覚めたようで。
私の隣に並んだまこっちゃんが、唖然としたようにそう呟いた。

私はそれを一瞥しただけで、何も答えず視線を戻した。

44 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:40
狂ったように暴れる銀色の触手。
それは咲魔夢霧が作ったもの・・・!

「まずい!まこっちゃん、飯田さんを助けるよ!」
「えっ!?あ、うん!分かった!」

突然声を掛けられ、まこっちゃんはちょっとビックリしたみたいにこちらに向き直った。
でも、すぐに真剣な表情になり、大きく頷いてくれた。

何も訊いてこなかったけど、飯田さんの様子を見て状況を判断したみたい。

「飯田さんの右腕!肘から先を破壊して!」
「分かった!」

声を掛け合い、私たちはお互い反対の方向に走り出した。
途端に、触手が私たちを狙って襲い掛かってくる。

「交代!」

叫んでから、迫りくる触手に乱暴に手を触れる。
触手は音も無く消滅。同時に、私の胸がズキッとまた痛み出した。

45 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:40
―――大丈夫なの?!

「少しずつなら、問題ないよ!」

触れて、消滅。そして痛み。

まこっちゃんの方を見ると、爆弾で何本もの触手に応戦中。

全然飯田さんに近づけない。
そのことが私を、私たちを焦燥させる。

―――私の考えがもし当たっているとしたら・・・。
心の中で舌打ちをした。

夢霧さんの触手・・・自分で完璧だと言い切るんだから、その行動に無意味なものは無いんだと思う。
それなのに何故、飯田さんの身体を攻撃するのか。

まだ、推測でしかないけど・・・。

「あぁ、もう!邪魔!」

裏紺ちゃんの、苛立ちを隠せない叫び。
消すのは最小限に抑えて。ほとんどは避けて。
進もうとするけど、なかなか思い通りにさせてくれない。

時間が無情にも過ぎていき、それと共に疲労と焦りが蓄積される。

―――まだ、推測でしかないけど・・・あの触手、飯田さんを・・・

46 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/20(木) 22:41


―――・・・爆発まで、あと約3分・・・


47 名前:我道 投稿日:2004/05/20(木) 22:52
何か、だらだらと続けてしまっている我道です。

>>23 名も無き読者
新スレ、初レスありがとうございます!
はい!盛り上がってまいりましたよ〜(w)心配な点は、多分・・・。
我道)<ぎゃっ!
凶子)<・・・誰がアタシのことバケ(ry)だってぇ〜(バキボキ

>>24 石川県民
おお。レスありがとうございます!
おがーさん・・・ヤラレキャラ卒業です・・・かね?(爆
そちらの作品も楽しみに読ませてもらっています(w
お互い頑張りましょう。
)つ..□ <これ、おがーさんの故郷の名産です

>>25 現25様(元19様)
前スレはかなり無理やり700にしました(w
キリがいいので・・・。
おおぅ!泣いてしまわれた!申し訳です。
でも、これからも・・・(にやっ・・・ドゴッ!
紺野)<気持ち悪いです。

皆様、新スレに早くもレス、ありがとうございました!
48 名前:我道 投稿日:2004/05/20(木) 22:55
すみません!
上のレス返しですが、名も無き読者様、石川県民様お二方の「様」が抜けていました・・・。
本当に申し訳ありませんでした!
49 名前:小川&紺野&後藤 投稿日:2004/05/20(木) 22:59
小川)<・・・救えない。
紺野)<・・・鶏並の知能・・・。
後藤)<んあ〜・・・(バンッ)←誰かが弾け飛んだ音・・・
50 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/21(金) 12:26
更新お疲れサマです。
ひぃっ、自分の代わりに作者さんが凶子さんに。。。(怯
ま、まぁソレは置いといて(ヲイ
ダラダラなんてとんでもない!!
ますます血沸き肉踊る(?)展開になって来てますよ!!w
次回も楽しみです。
51 名前:25 投稿日:2004/05/22(土) 01:13
結局紺ちゃんはどうやって飯田さん(大)を倒したんでしょう?理解力無くてすいません
52 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:53
銀色の雨が容赦なく降り注ぐ。
私とまこっちゃんの体力は、もう大分削られていた。

「くっ―――!」

悔しそうに舌打ちして、裏紺ちゃんはその場から離れた。
一定距離を置くと、触手は攻撃を中止する。

その場所まで下がると、うねうねと気持ち悪く蠢く銀色の触手を睨みつけて、唇をかんだ。
どうすれば・・・もう時間が・・・。

「・・・どうしよう?」

目線だけを横に移動させる。
眉尻を下げたまこっちゃんが肩で息をしていた。

爆破しても爆破しても、更に増殖を続ける触手にお手上げ気味。
ついでに私の胸の痛みも結構な域に来ているわけで・・・。

「・・・あさ美ちゃん、大丈夫?なんか、すごい顔してるよ・・・」

引かないで、まこっちゃん・・・。
自分でも何となく分かる、今の顔。

53 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:54
苛立ちながら、痛みを堪えて、疲弊したような、そんな表情。
想像してみると・・・無理です。
ありえなさ過ぎて、無理です・・・。

「・・・まあ、気にしないでよ。それより、あれどうす――あれっ?」

私が心の中で凹んでいるにもかかわらず、裏紺ちゃんは大して気にした様子も無く視線を飯田さんに戻し、そしてはたと気づいた。

「・・・咲魔さんは?」
「えっ?――あれっ?ほんとだ・・・さっきまであのへんに転がってたのに・・・」

まこっちゃんがそう言って、視線を投げかけたのは崩壊した壁のほう。
先ほど咲魔さんが触手に捕まって、投げ飛ばされ崩れた壁。
でも、そこには壁の破片が散らばっているだけで、咲魔さんの姿はどこにも無い。

『わたし』は深々とため息をついた。

「・・・また、あの人は・・・」
「え?なに―――」
「ほぉうわあちぃやあぁぁぁぁぁ!!!」

『わたし』の呆れたような呟き、まこっちゃんの疑問の声、そして耳を劈く叫び声。
その三つは見事に重なったけど、音量が違いすぎて完璧にかき消されてしまった。

耳を塞ぎながら、視線を飯田さんへと戻す。

「おりゃあぁぁぁぁぁ!!!」

54 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:54
激しくのたうち、天井からの落下物体を排除しようとする無数の銀色。
落下物体――咲魔さんは、その気合の声も空しく、あっけなく触手に捕獲された。

しかも今度は窒息させようとしているみたい。
咲魔さんの身体がだんだんと銀色に染まっていく。

「んごっ!もがっ!!むもぁー!」

頭頂からつま先まで、隙間無く銀色で縛り上げられた咲魔さん。
まるで繭のようになった咲魔さんは、くぐもった声を漏らしながらくねくねと動いている。

暫くして、その動きが停止した。
ため息が二つ、見事にハモった。

「・・・どうしようか。もう時間があんまり無いっていうのに・・・」

咲魔さんを気持ちいいくらい完璧にスルーして、まこっちゃんを見やる。
繭を見て、呆れ顔をしていたまこっちゃんは額を押さえながら私に向き直った。

「うーん・・・あたしが爆破できればいいんだけど・・・。あの触手、一本一本が独立してるみたいで、一緒に爆破させることはできないみたい」

これもまた気持ちよく。
咲魔さんのことなんか完全に無視して、首を傾げる『わたし』たち。

―――って、そんなことしてる時間あるの?!もう3分切ったんだよ!

「そうは言っても・・・独立してるんじゃ、さっきみたいに能力全部消すみたいなことできないし・・・」

そこで『わたし』は困ったように腕を組んだ。

55 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:55
―――まあ、確かにそうだけど・・・。
わたし――裏紺ちゃんの能力は消滅。それは消すもののデータを理解しなければいけない。
例えば、能力だったら、それを使う人に触れなきゃいけないとか。

でも、一応例外もある。
さっきの飯田さんの時みたいに、その人が放った能力に触れることで、その人の能力を根こそぎ消すこともできるらしい。
まあ、強力な使い方な分、帰ってくる反動も大きいみたいなんだけど・・・。

「・・・あと2分弱・・・」

裏紺ちゃんが歯痒そうに、飯田さんを見つめた。

「・・・ところで、あと2分弱で何が起きるの?」

まこっちゃんの疑問の対象が、『わたし』に移った。
『わたし』は不思議そうなまこっちゃんの顔を一瞥すると、悔しさを言葉に乗せ、はきだした。

「・・・あの触手、爆発するんだって」
「えっ!?」
「・・・でも、多分それだけじゃないと思う・・・」

驚愕に目を見開くまこっちゃんに向き直り、『わたし』は俯き、唇を噛み締めた。

「・・・まだわたしの推測の域だけど・・・あの触手、飯田さんの身体に爆弾埋め込んでるかもしれない・・・」
「―――っ!!??」

56 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:55
愕然と。
まこっちゃんの顔色がサーっと青くなったのが分かった。
開いた口は言葉を発せず、パクパクと規則的に動くだけ。

飯田さんに視線を戻し、歯を強くかみ合わせた。
何本もの触手に身体の中に侵入され、涙を流しながら呆然としている。

自分の身体から流れ出る血が作る水溜りを、弱い光の灯った瞳で見つめている。
いや、もう見つめているのかも分からない。

小刻みに揺れる肢体と、うねる銀色。そして真紅の鮮血。
絵のように綺麗で、それでいて凄惨な光景。
私たちの中にふつふつと怒りの炎が燃え上がってくる。

「・・・許せない・・・っ!」

その光景を見て暫く呆然としていたまこっちゃんが、憎々しげに呟いた。
やっぱり思うところは同じのようで。

『わたし』たちは向き合い、軽く頷くと、同時に走り出した。

途端に銀が暴れだす。
上から、左右からと無造作に、でも確実に『わたし』たちを狙ってくる。

57 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:55
爆破して、消して、または避けて。
滾る怒りがわたしたちの足を進める。

―――・・・あと、約1分半。

「ぐっ!」
「あさ美ちゃん!」

こんな時に・・・っ!

腕に、胸に、頭にと鋭い痛みが襲った。
どうにか耐えて、進んでたんだけど、やっぱり痛みの分だけ動きが緩慢になったみたい。
迫ってきた触手の一本に脚をとられ、転んでしまった。

まこっちゃんがすぐに駆け寄ってこようとしたけど、それを無数の銀が邪魔をする。
短く舌打ちして、それらを迎え撃つまこっちゃん。

「――!あさ美ちゃん!」
『ほほっ。期待はずれだったようじゃの』

まこっちゃんの切迫したような叫び声と重なり、聞こえてきた一つの声。
更なる怒りに口元が歪む。
ゆっくりと顔を上げてみると、そこには、やはりあの笑顔。

人を完璧に見下したように、禍々しく弧を描く唇。
虚ろな目をしながら口だけで笑う彼女は、飯田さんではない。

「あなたは・・・っ!」

手を伸ばし、捕まえようとしてもそこにある距離が邪魔をする。
『わたし』のそんな様子を見て、夢霧さんは更に嘲笑を深いものとした。

58 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:56
『まあ、良い。用があるのは汝の能力のみ故』

彼女の言葉が終わると共に、飯田さんの右隣に出現した巨大な銀の槍。
『わたし』を狙い済まし、空中で微動だにしないそれは触手が密集したもの。

『能力というのは使用者が死んでも残るもの』

夢霧さんが飯田さんの口で言葉をつむぐ。
その一言一言に合わせて、槍が少しずつ上昇していく。
でも、『わたし』への狙いははずさないまま。

『去ね』

どこか苛立った夢霧さんの言葉と共に、槍が『わたし』目掛けて急降下。
慌てて立ち上がろうとした。
でも、足首に絡まった何本かの触手がそれを許してくれず。

銀色の槍はもう目の前にまで迫ってきている。

―――くっ・・・!
焦りと苛立ちが混じりあう中、『わたし』は強く目を閉じた。

59 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:56
「はっはー!!」

何時まで経っても痛みは来ない。
代わりといってもいいのか、聞こえてきた高らかな笑い声。

聞き覚えがありすぎるその声に、呆れながらも目を開けた。

「触手をほとんど裏紺に使っちまったのがアンタの敗因さ!」

凶暴な笑みを浮かべ、飯田さんの腕を後ろから掴む咲魔さん。
触手は宿主の危機に気付き、急いで戻ろうとしたけど、

「遅いさね!!」
「うああぁぁぁぁ!!」

思わず目を伏せたくなる光景。
やはり神経が繋がっていたようで、飯田さんが襲いくる激しい痛みに絶叫を上げ、膝を折った。

その後ろで銀の触手が生え出た右腕を持ち、笑いながら佇む咲魔さん。

「こん!」

でもいきなり真剣な表情になると、『わたし』へ向き直り、叫んだ。
『わたし』は大きく頷いて、飯田さんへと走り出す。

触手はもう全部、床に落ちて萎びれていた。

「・・・」

近づき、飯田さんに触れてみると不快さに思わず顔をしかめた。

60 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:57
腕から流れてくる、飯田さんの中の情報。
体内に無数に散らばる、人工の汚物。
苛立ちを抑えながら、それらを残らず消し去った。

「ふぅ・・・っ!」

…やっぱり来てしまった痛み。
内心うんざりしながらも、胸を押さえその場にへたり込んだ。

するとまこっちゃんが泣きそうな顔でよってきてくれて、何故か背中をさすってくれた。
気持ち悪いわけじゃないんだけど・・・。

「どうにか収まったかね?」
「・・・狂気の天才というのは、行動が読みやすいですね」

咲魔さんが飯田さんの右腕に包帯を巻きながら呟いた。
『わたし』は床に転がる義手を見つめ安堵しながらも、少し複雑な気分に陥っていた。

「・・・笑えないよね」

同じようにまこっちゃんも義手を見ながらポツリと。
私たちは同時に大きく頷いた。

61 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:58
「・・・まだ、だよ・・・」

苦しそうな、これは本来の飯田さんの声。
視線を戻すと、飯田さんは額に脂汗を浮かべながら立ち上がっているところだった。

あまりにも辛そうな様子に、まこっちゃんが慌てて止めようとする。

「だ、駄目ですよ!もう大分身体ガタガタなんですから!」
「・・・まだ、終わってない・・・」

でも、飯田さんはその声が聞こえていないみたいに必死に起き上がった。
そして先ほどまで自分の右腕だった義手のところまで近づき拾うと、危なっかしい足取りで咲魔さんが先ほど破壊した壁まで歩み寄っていく。

「おい、電波。何する気だい?」

咲魔さんは訝しげな表情で、その不思議な光景を見つめる。
飯田さんは壊れかけた壁に背を預けると、こちらを見つめた。
そして・・・

「・・・おい」

咲魔さんの眉が潜まり、まこっちゃんが心配そうにしながらも首を傾げた。
視線の先には、弱々しく微笑む飯田さん。
とても弱々しいんだけど、どこか強さを感じさせるような、そんな笑顔。

「・・・咲魔、夢霧は、使うものは、燃え尽きるまで使う、ヒトでしょ?」

飯田さんは笑顔を崩さずそう言うと、掴んでいる義手を顔の高さまで上げて見せた。
咲魔さんの顔色がはっきりと変わる。

「ばか!やめろ!」

次の瞬間には叫んで、走り出していた。
焦りと、不安が入り混じったような叫びに、飯田さんは困ったような笑顔を浮かべ、

「・・・頑張ってね・・・咲魔夢霧は強いから・・・」

62 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/24(月) 13:58
ガコッと、音をたて崩れる石の壁。
今、飯田さんを支えるものが何も無くなった。

まるで流れるように落ちていこうとする飯田さん。
それを、精一杯手を伸ばし、捕まえようとする咲魔さん。

叫んで駆け寄る咲魔さんに、飯田さんは優しい笑顔を浮かべ、一言。

「・・・ごめんね。サヨナラ、お母さん・・・」
「でん――!カオリぃぃぃぃ!!」

咲魔さんの伸ばした手に、飯田さんの手が繋がることはなかった。
もう見えなくなった飯田さんの身体。

咲魔さんが膝をつき、俯きながら肩を震わす。

―――ドォォォォォン・・・!

その瞬間、ものすごい轟音と共にこの屋敷全体が揺れた。

天井の塗装がはげ、パラパラと落ちる中、私たちは声を押し殺して泣いていた。


「カオリィィィィィィィ!!!」


雲ひとつ無い青空に、咲魔さんの悲しい叫びは無情にも吸い込まれていった。
63 名前:我道 投稿日:2004/05/24(月) 14:05
はい、更新しゅうr・・・短けっ!!??
申し訳・・・_| ̄|○

>>50 名も無き読者様
いや〜、本当に危なかったですよ(w)まあ、生きてるんでいいですけどね。
おお!血が沸き、肉が躍ってくれますか!嬉しいです!
次回以降も頑張りたいと思います!

>>51 25様
わっ!25様が誤る必要なんて皆無ですよ!
私が書かなかっただけなんですから・・・申し訳ないです・・・。
今回分にちらりと入れときましたが、分かりづれぇよ!ということがあればお申し付けください。
ヘタレな作者で申し訳です・・・。
64 名前:我道 投稿日:2004/05/24(月) 14:05
隠したりします
65 名前:我道 投稿日:2004/05/24(月) 14:06
言い忘れましたが、更新速度が落ちるかもしれません。
テストやら何やらかんやらで・・・よろしくです。
66 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/24(月) 18:26
更新乙彼ナリ(ダレ?
あー、うー、、、
なんというか、皆ガンバ!!
次回も楽しみに待ってます。
マターリとw

67 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/24(月) 19:07
更新乙です。
速度のことはお気になさらずに。いくらでも待ちますので。

テストも頑張ってくださいね。特に英語を。w
68 名前:25 投稿日:2004/05/24(月) 19:09
すいませんすいませんわざわざ書いてもらってすいません

もうすぐ後藤さんらが合流するのかな
69 名前:shou 投稿日:2004/05/25(火) 18:06
更新お疲れ様でっす!!(叫
修学旅行やテストでみれなかった間に板までかわってて驚きました。
しかも、全員カッコ良過ぎて誰を誉めていいかわからない(悩
とにかく我道様がすごいっつうことです!
名無飼育様の仰る通り速度なんて気にしないで自分のペースでお書きになって下さい。
ちなみに、テストは確かに英語がきつかったです(涙
70 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/26(水) 02:32
↑?
71 名前:石川県民 投稿日:2004/05/26(水) 15:09
 更新お疲れさまです。
)つ□ >わざわざご丁寧にありがとうございます。

 あーもー……カオリィィィィィンッッッッ!
 ただ、この一言。

 テスト頑張ってくださ〜い。次回も楽しみにマターリお待ちしてます。
72 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:19
彼女の双眸はゆるりと流れる雲を見つめる。
頬には涙の通過した跡。
片手に持った日本刀に視線を落とすと、またもや涙が流れる。

なんだかんだで対立していたけど、
血こそ繋がっていなかったけど、二人は紛れも無い親子。

飯田さんは咲魔さんを母と。
咲魔さんは飯田さんを子と。
口にこそださなかったけど、そう認め合っていたに違いない。

そうでなければ、涙なんか出るわけが無いから・・・。

「・・・飯田さん、気付いてたみたいだね。自分が、悪いことしてるって・・・」

目元を拭いながら、悲しそうにまこっちゃんは呟いた。
私は咲魔さんから視線を外さずに、ゆっくりと頷く。

「・・・でも、飯田さんも吉澤さんたちと同じ理由だったんだと思うよ。認めたくなかったんだよ。人間って、弱いから・・・」

完璧な人間なんて、いない。
あの咲魔さんでさえ、涙を流すんだもん。
人は仲間と支えあってこそ、人なのに・・・。

「そんなんじゃないよ」

73 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:20
目じりを拭いながら、悲しみに沈んでいるとき、咲魔さんが空に視線を固定したまま立ち上がった。
声は全く震えておらず、その大きな背中は何故か以前よりもたくましく見えた。

「アイツはここのリーダー的存在だ。自分がいなくなったら色々と混乱するだろうとか考えたんだろうね。昔っから変に責任感強かったからねぇ」

背中を向けながら語る咲魔さんの声は、どこか嬉しそうで・・・。
でも、やっぱりちょっと陰りが見え隠れしていて・・・。

「バカだよねぇ、アイツは。頼ればいいのにさ・・・他人の前じゃ絶対弱音はかないんだよ。ったく、ホンとにさぁ・・・」

そこまで言い終わった後、咲魔さんは乱暴に目を擦った。
小刻みに肩が震え、小さく嗚咽が漏れる。
いつも強気で、陽気な人ほど、悲しむ姿はこちらにまで痛みを運ぶ。
咲魔さんも例に漏れず、思わず私たちはもらい泣き。

「あ、あさ美・・・?」

至極動揺したような、震えが混じった声。
目元を拭いながらエレベーターの扉のほうに顔を向ける。

綺麗な栗色の髪に、端正な顔立ち。
以前にあったことのある綺麗な女の人。でも、その瞳にはもう虚無は無い。

「・・・なにが、あったの?」

動揺という感情を表にのせ、ゆっくりと部屋の中を見わたす後藤真希さん。
床、天井、壁、咲魔さんと、視線は巡って、最後に私たちを見つめた。

私はその視線を受け止めてから、彼女の胸の辺りに視線を落とした。

「あ、いちゃ、んこそ・・・」

もう言葉は続かなくなり、私は顔を覆って膝を折った。

悲しみ、憤り、自分に対する苛立ち。
色んな感情が涙となり、嗚咽となり外に出ようとする。
私は何の抵抗もできず、ただ泣き崩れるだけ。

泣いている間、手足の無くなった愛ちゃんが心配そうに私の瞳を覗き込んでいた。

74 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:21
――――*
75 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:21

「そんなことが・・・」
「カオリ・・・」

やっと落ち着いて、愛ちゃんたちに一部始終を話した。
後藤さんと愛ちゃんは、双方辛そうに、そして悲しそうに顔を歪めた。

咲魔さんは再び腰を下ろした後、ぼんやりと空を見だした。

「・・・あいつだけはぜって許せんやざ・・・っ!」

噛み千切りそうなくらい強く、唇をかんで低く呟く愛ちゃん。
でも、目尻にはうっすらと涙が浮かび上がっている。

「高橋・・・」

しなやかな腕で、優しく愛ちゃんを抱き上げる後藤さん。
自分の足の上に乗せ、やんわりと髪を撫でる。

「・・・そっちも大変だったみたいだね・・・」

未だ隣で泣き崩れるまこっちゃんを撫でながら、私はポツリと一言。
愛ちゃんはそれに苦笑してこたえるけど、後藤さんは悔しそうに唇をかんでいた。

それだけで何となく察しはつく。

76 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:22
「・・・ちょっとむず痒いかもしれないよ」

わざわざ人の痛いところを訊くほど、私は無神経ではない。
いったんまこっちゃんから離れると、そう言ってから愛ちゃんに手を触れた。

首を傾げながら私を見つめる視線が二つ。
でも私は構わず愛ちゃんの四肢をイメージした。

「ん・・・」

どこと無く妖艶な、愛ちゃんの声。
真っ黒になっている両腕・両脚の傷口が光りはじめ、だんだんとそれはある形を作っていく。

「はい、終わり」

暫くして、愛ちゃんから手を離す。
愛ちゃんはしきりに手を握ったり開いたりを繰り返し、後藤さんはその傷一つ無い愛ちゃんの四肢を見て目を見開くと、私のほうを見つめてきた。

「・・・すごいね」
「ホットパンツはサービスです」

今、ちゃんと笑えたかな?

「・・・ありがと、えーと・・・」
「紺野でいいですよ」
「ありがと・・・紺野」

後藤さんの困ったような笑顔を見て、私は苦笑。
やっぱりちゃんと笑えてなかったみたい・・・。

―――こんな短時間で立ち直れって言うのも、ちょっと無理かもしれないけどね。
まあね・・・。
77 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:22

何気なく、咲魔さんに顔を向けた。
大きい背中のはずなのに、今はとても小さく感じる。

「・・・一番初めに育てた子だもんね。なんだかんだあっても、かなしいよね・・・」

後藤さんもその背中を見つめながら呟いた。
彼女の横顔は沈痛な面持ち。
それを見て、さらに胸が痛んだ気がした。

「あれ?」

後藤さんが不思議そうな眼差しをして、私に向き直る。
素っ頓狂な声を上げてしまった私は、キョロキョロとあたりを見回していた。

「どうし――あれ?高橋?」

後藤さんも気付いたようす。

愛ちゃんが、いない。
つい先ほどまで後藤さんの腿の上に座り、感心したように自分の手足を見つめていた愛ちゃん。
その姿が今は影も形も無い。

キョロキョロとあたりを見わたす、私と後藤さん。
そんな時、一つの叫び声があがった。

78 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:23
「いつまで凹んでる気や!このボケェェェェェ!!」

私たちは目を見開いて、同時に同じ方向を向いた。

―――・・・はやい・・・。
いつの間に移動したのか?
そこには咲魔さんの頭目掛けて、落下してくる愛ちゃんの姿。
咲魔さんは聞こえていないのか、微動だにせず、ただ座っているだけ。

愛ちゃんの狙いは正確で、私の脳内には頭に蹴りを入れられ吹き飛ぶ咲魔さんの姿が映し出された。

「「「な・・・っ!!??」」」

思わずまこっちゃんも泣き止み、驚愕に呻いた。

「ひゃあぁぁぁぁ・・・」
「ふん、オラ橋が。アタシに不意打ちなんて、62億390光年早いのさ。ひゃーはっは!」

愛ちゃんの渾身のドロップキックを、素早い身のこなしで回避した咲魔さん。

小さくなっていく愛ちゃんの悲鳴。
立ち上がって壁の穴から顔を出し、高らかに笑う咲魔さん。

次の瞬間、後藤さんの姿が掻き消えた。

「っは!死ぬかと思ったやよ・・・」

79 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:23
そう感じたのも束の間。
瞬きを一回する間にはもう、後藤さんは愛ちゃんを抱えて現われた。

眉間にしわを寄せ、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている咲魔さんを鋭い目つきで睨みつけている。

「何すんのさ」

低く、でもものすごく黒いものが詰まった呟き。
思わず身が震える。

「アタシを励まそうとしてくれたお礼さね」

それを受けても咲魔さんは何も感じていないようにヘラッとしていた。

その姿が突然霞む。
壁の崩れる音が聞こえ、そちらを見やると上下逆さまになって壁にめり込む咲魔さん。

「じゃ、それはお礼のお礼だから」

先ほどまでの咲魔さんの立ち位置に立つ後藤さん。
投げかけた言葉はものすごく優しい感じだったんだけど、何故か感じるのは悪寒のみ。
まこっちゃんなんか、私の腕を掴みながら震えている。

80 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:24
「っか〜。キクねぇ〜」

頬に痣、腕なのに切り傷。
腹部はサラシが破れて、鮮血が流れ出ている。

結構な重症であるにもかかわらず、咲魔さんは明るく笑いながら立ち上がった。
そして一度大きく伸びをすると、穴の開いた壁にむかってゆっくりと進んでいく。

外に広がるは、やはり気持ちのいいくらいの青空。

「・・・さんきゅな。後藤、高橋」

こちらを振り返らず、静かに呟かれたその言葉は、しかし全員の耳に届いた。
そこにいる咲魔さん以外の人の目が丸くなり、しきりに目を瞬かせる。

咲魔さんは背中のそんな状況を感じ取ったのか、肩を震わせ、静かな笑い声をもらした。

でも、それも一瞬のこと。
すぐに笑いを止めると、青空に向かってもう一歩を踏み出した。
あと数ミリ進めば落ちてしまうという所で、咲魔さんは歩を止め、手に持った日本刀に視線を落とす。

「・・・じゃあな、カオリ。」

81 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/26(水) 21:24
静かに紡がれたその名前と共に、日本刀が咲魔さんの手を離れた。
落下して、すぐに見えなくなる日本刀。

咲魔さんは一度大きく息を吐くと、こちらに向き直った。

「よっしゃあ!アンタラついてきな!あのクソヤロウ、ミンチにしてやんよ!!ひゃーはっはっはっはっはっは!!」

凶暴に口の両端を吊り上げ高らかに笑いながら、走り出す咲魔さん。
この部屋に取り付けられている、もう一つの扉。

バカにしたように、扉の上に設置してある【さくまゆめぎり】と書かれたプレート。
咲魔さんはその鉄の扉を突き破ると、叫び声を上げながら姿を消した。

「おらあぁ!クソ姉貴!来てやったぞォア!!姿見せろやぁぁぁぁ!!!」

その様子を呆然としながら見ていた私たち。
暫く流れた静寂は、愛ちゃんの呆れたような呟きが出るまで破られなかった。

「・・・あんの、のくてぇが・・・」

以前愛ちゃんから教わったこの福井弁。
意味は「愚か」、「阿呆」、「馬鹿」、「間抜け」など、人をけなす事を含むと言う。

一同はその呟きに大きく頷いて、咲魔さんのあとを追い、走り出した。

―――でも、なんか気持ちのいい「のくてぇ」だよね。
頭の中の言葉に苦笑しながらも周りを見わたす。
皆、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。

思うところは、やっぱり一緒か・・・。
私は更に苦笑を深くした。

―――あ、でもこれは突っ込ませてよ。

何?

―――光年は時間じゃなくてきょ・・・。

ベタ過ぎるので却下だね。
82 名前:我道 投稿日:2004/05/26(水) 21:37
短いですね・・・すいません。
でもこれが限がいいので。次回からはついに、お姉さんが直々に登場です。

>>66 名も無き読者様
応援ありがとうございます!皆頑張ってますよぉ(w
これから遅くなると思われ。
よろしくです(ペコリ)

>>67 名無し飼育さん様
ば、ばれてる(((( ;゚Д゚))))
私が英語苦手って事ばれちゃってる・・・_| ̄|○
(まあ、確かにdaughterのことdoughterってかいちゃったもんなぁ・・・)
優しいお心遣い、感謝感激です。ありがとうございました!

>>68 25様
わっ!伝染してますよ、25様!
私の腰の低さが伝染してますよぉ(危険信号
いいんです!私が悪いんですから。スイマセンスイマセンスイマセン・・・(Endless)
ポジティブシンキングですよ!(うざくてごめんなさい・・・)
83 名前:我道 投稿日:2004/05/26(水) 21:43
>>69 shou様
お久しぶりです(ペコリ)
色んな行事があったようですね。お疲れ様でした。
す、すごいだなんて・・・気絶してしまうような事言わないでくださいよ(w
これからもよろしくです。

>>70 名無し飼育さん様
ん?何か不可解なことでもありましたか?
何なりとお申し付けください(w

>>71 石川県民様
決して卒業してしまうから、こういう扱いに・・・と言うわけでは断じてございません!
結構前から脳内で彼女の扱いは決まっていたんです・・・。
なんというか・・・すいません_| ̄|○
84 名前:我道 投稿日:2004/05/26(水) 21:44
隠し・・・
85 名前:25 投稿日:2004/05/27(木) 01:45
いや、ほんとスイマセンスイマセン・・・(End)

さ、高橋さんの身体が治って・・というか直ってヨカッタ。ダルマ状態って結構惨たらしいですからね。
それにしても紺ちゃんの能力はもはや何でもあ(ry
86 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/27(木) 18:20
勉強放棄してまでの更新お疲れ様ですw
次回はいよいよですか?
マターリと楽しみにしてます。
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/30(日) 12:00
>>4
>>4
88 名前:shou 投稿日:2004/05/30(日) 14:14
更新お疲れ様です。
フルメンバー揃って、いよいよって感じですね(嬉
咲魔姉妹のバトル楽しみにしてます。

>>70 確かに・・・(謝
89 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:38
飯田さんと戦った部屋と、夢霧さんがいるはずの部屋を繋ぐ長い廊下。
その無駄とも思えるほどの長さが、私たちの苛立ちを増幅させる。

前を行く咲魔さんは思いっきり眉間にしわを寄せながら休み無く舌打ちを続け、
愛ちゃんは無意識に炎を出し、身の回りの空気を揺らめかせ、
後藤さんはそんな愛ちゃんを宥め笑いながらも、目だけは笑っていない。

あのまこっちゃんでさえ、グチグチと文句をもらすほど。

「ったく、長いよ。何考えてんだよ、全く・・・」

さっきからこの台詞の繰り返し。
いい加減、こっちまでイライラしてくる。

「・・・麻琴」「・・・小川」「・・・おがー」

前を行く愛ちゃん、後藤さん、咲魔さんが振り向かずにまこっちゃんを呼ぶ。
まこっちゃんが不機嫌そうに顔を上げたとき、
三人はちょうどこちらに振り向いて、

「「「・・・黙れ」」」

90 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:38
とても爽やかな笑顔で。
でも、ものすごく低い声で、
三人は声を合わせた。

その瞬間、まこっちゃんは意志のように硬直し、立ち止まった。
三人は何事も無かったかのように、再び前を向き歩き出す。

その背から、何か得体の知れないどす黒いものを感じたのは私だけでしょうか?

「あ・・・あざびぢゃ〜ん〜」
「・・・よしよし」

やっと動き出したと思ったら、涙と鼻水を浮かべ私に抱きついてくるまこっちゃん。
その様子に少し引き気味になりながらも、頭を撫でてあげる。

たまに格好良いんだけど、そのほかはどうしようもなくヘタレだよね。
…まったく。その通りですね。

「・・・ここか」

未だ泣き止まないまこっちゃんを慰めていると、
咲魔さんが先ほどのような低く、不機嫌そうな声で呟いた。

91 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:39
前のほうに視線を戻してみると、立ち止まった三人と、
その前に立ちはだかる黄金色の扉。
真ん中に【夢】とでかでか書かれたその扉を見て、私たちは声を揃えて一言。

「「「「「趣味悪っ・・・」」」」」

まこっちゃんも思わず泣き止むほど、趣味が悪いその扉。
シラッとした目で見つめていると、
音も無く、ゆっくりとその扉が両の内側に開いた。

自然と、私たちの顔が強張る。
全身に緊張が走り、同時に怒りの感情がだんだんと湧き出してきた。

―――・・・最後かぁ。
うん。やっと、終わるね。

扉は、完全に開き終わった。

92 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:40
咲魔さんを先頭に、気を緩めることなく歩を進める。
そして、まさに一歩部屋に踏み込んだとき、思わず顔をしかめた。

―――・・・なんか・・・嫌な感じ・・・。

部屋の両サイドにずらっと並ぶ、巨大なカプセル。
ゴポゴポと音を立てるその中の液体は、気持ちの悪いくらい、鮮やかな緑色。

何かの薬品の臭いが鼻を衝き、不快感をもたらす。
紅い絨毯が敷き詰められた床をたどっていって、顔を上げる。

「ようやくきおったか・・・」

黄金色に輝く玉座に腰掛け、
頬杖を着いてこちらを嘲笑うかのように見つめる女性が一人。

身に着けるものは、紫色の着物。
左頬に勾玉のような刺青をした、咲魔さんと瓜二つのその人は、
サッパリ緊張感の無い様子でゆっくりと立ち上がった。

「吉澤、石川が逃げ、飯田が死んだ。そして、後藤が裏切りおったか・・・」

93 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:40
数段高いところに座っていたその人は、
嘲笑を浮かべたまま私たちを見おろし、呟いた。

そして、こちらに向かって歩を進める。

「・・・元々、アンタなんかに忠誠を誓った覚えなんかないけど」

緊張をとかずに、鋭く睨みつける後藤さん。
静かな、とても静かな物言いだったけど、そこに含まれた怒りは計り知れない。

それでも夢霧さんは片眉を上げただけで、特に気に留めた様子も無かった。
だんだんと、私たちの距離が縮まっていく。

「口を慎んだほうが良いと思うがの」

部屋の中央のあたり――大体、私たちと10メートルほどの距離をとり、夢霧さんは立ち止まった。

どこから出したのか。
手に持った扇子を広げ、口元を覆うと、心底おかしそうに小さく笑い出した。

私の眉尻が、小さく、一度痙攣を起こす。

「妾は神になるもの故」
「アンタ、本当に一体何言ってるんだい?」

扇子で覆われたまま、笑う夢霧さんに、
実の妹である咲魔さんは苛立ちを露にし、尋ねた。

夢霧さんは細めていた目を少しだけ開き、ジッとこちらを見つめてくる。

「・・・よかろう」
94 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:41
すると、すぐに扇子を閉じ、懐に入れた。

露になる、紫のルージュが引かれた唇。
キラキラと光るそれは、不気味に弧を描く。

次の瞬間、唇は開かれ、言葉が紡がれる。
私たちは愕然とし、息を呑んだ。

「妾は紺野の能力を得て、このつまらぬ世界を創りかえ、神となるのよ。くくっ・・・。いつ口に出しても、惚れ惚れするほど素晴らしき思想よのぅ。ほーほっほっほっほ!」

………呆れた。
心底………呆れた。

そんな事のために、自分の私利私欲のため人を創るという禁忌を犯し、
そして・・・悲しみを生んだ。

握った拳に、更なる力が加わる。

憤り・・・。
その感情が私たちの中にふつふつと湧き上がってくる。
そして、それはついに爆発した。

「「「「「ふざけんなぁ!」」」」」

声を揃えて叫び、夢霧さんに向かって走り出す。
愛ちゃんの姿が変化し、後藤さんの姿も変化していた。

もうほとんど1人と5人の間に距離は無い。
それでも、夢霧さんは笑みを浮かべたまま微動だにせず。

「どりゃあぁぁぁ!」

95 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:42
咲魔さんの怒号と共に、繰り出された私たちの攻撃。

私は藤本さんの能力である雷を創造し、拳にまとわせて突き出し、
まこっちゃんは持参した石を投げつけ、
愛ちゃんは炎をまとった拳を繰り出し、
後藤さんと咲魔さんは同じように拳を繰り出していたけど、
後藤さんの拳にはなにか別の力も篭っていると見た。

「「「「「!!」」」」」

そのコンマ一秒後、
皆の顔に浮かんだのは笑顔ではなく、驚愕の表情。

まこっちゃんの投げた石が、数段高いところにある玉座を破壊した。

「どこを狙っている?」

僅かな笑いを含んだ声。
急いで振り返ってみると、再び扇子で口を押さえ笑みをこぼす夢霧さんがいた。

私たちの前から、後方へ。
その移動過程は誰の目にも止まることはなかったみたい。

「ちゃんと狙うが良い。妾はここにいるぞ」

96 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:42
笑みを消さぬまま、大きく手を広げる夢霧さん。
どこから見ても隙だらけだけど、
今度は誰一人動くことは無かった。

「ほれ、どうした?」

夢霧さんの挑発の声にも、皆半歩身を引いて構えるだけ。
冷静になった頭では、
夢霧さんの得体の知れない強さに自分から突っ込んでいくという、無謀な行為は排除されていた。

そんな私たちの様子を見て、小さく息を吐く夢霧さん。
パチンと音を鳴らし扇子を閉じると、つまらなそうな冷たい眼差しをこちらに送る。

「ふん、臆病者めが。来ないと言うのであれば、妾から行くぞ」

口の端を少し吊り上げ、勢いよく扇子を広げた。
それを持った腕が天井に向かって上げられたとき、何故かとても嫌な感じがして、

「みんな!避けて!!」

気がつくと、思いっきり叫んで横に跳んでいた。
みんなは少し振り返っただけで、すぐに私の声に反応し、それぞれ跳躍。

刹那。
私の目の前を、竜巻が通過した。

97 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:43
「ほほっ。良い勘を持っておるのぉ」

扇子を振り切った体勢で、含み笑いをもらす、たった今風を放った人物。

私はおろか、皆はその風が残した轍の様な跡と夢霧さんとを見つめ、
唖然とした表情を浮かべていた。

「これって・・・」

愛ちゃんの震えを帯びた声。
夢霧さんは、更に笑みを深くする。

「こんなことも出来るぞぇ」

再び天井に向かって振り上げられる扇子。
今度は閉じた状態のそれに、青白い光が集まっていく。

「この電撃、耐えられるか?」

閉じた扇子の先端に青白い光が集結したとき、
夢霧さんがそう呟いたとき、
まこっちゃんの投擲した小石が夢霧さんの扇子をもつ腕に当たり爆発するのは、ほぼ同時だった。

爆発と同時に扇子は破壊され、大きすぎた爆発は夢霧さんの身体をも飲み込んだ。
あたりに砕かれた床の破片が飛び散り、黒い煙が巻き起こる。

「あれって・・・亜弥ちゃんの・・・」

98 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:44
まだ晴れることの無い煙を見つめながら、愛ちゃんが呆然としたように呟く。
焦りと困惑の色が窺える。
私もまた然り。

「・・・どういうこっちゃ?」

少し晴れてきた黒煙にむかって、構えながら咲魔さんが口を開く。
それに答える声は、無――

「教えてやろうかえ?」

―――いや。
咲魔さんの疑問に答えた声は一つ。
私たちは、晴れつつある煙に向かい再び身体を緊張させた。

でも、そんな行動は無意味に終わる。

「うあぁぁぁぁぁ!!」

突然あがった、まこっちゃんの悲鳴。
慌てて後ろを振り返り、絶句。

99 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:44
宙に持ち上げられるまこっちゃんの身体。
その後ろから彼女の身体を支える、着物を着た長身の女性。
女性がまこっちゃんの首に顔を埋め、目を細めてこちらを見つめている。

ポタポタと・・・。
夢霧さんが顔を埋めているところから、滴り落ちる真紅の鮮血。
虚ろな目で涙を流し、びくびくと痙攣するまこっちゃん。

「てめえ!何してんだぁ、ゴルァ!!!」

いち早く先に我に帰った咲魔さんが、怒号を発しながら突進していく。
夢霧さんは更に目を細めると、まこっちゃんを咲魔さんに向かって放り投げ、

「ほーほっほっほっほっほ!!」

高らかな笑い声を上げた。

「・・・てぇんめぇぇぇぇぇぇ!!」

見事に受け止めたまこっちゃんを見て、咲魔さんは更に激昂した。
まこっちゃんをその場に優しく置くと、叫んで再び夢霧さんに向かい走り出す。

夢霧さんは、血で濡れた口の周りを舌で拭い取り、不気味に微笑む。

「つまりはこういうことじゃ」

その笑みを崩さず、夢霧さんは懐にスッと手を伸ばした。
出てきたその手に掴まれていたのは、紫色の扇子。

「ほれ」

短い掛け声と共に扇子は夢霧さんの手を離れ、宙を舞う。
咲魔さんはそれが目に入っていないみたいに、一心不乱に突っ込んでいく。

扇子と咲魔さんが衝突したとき、それは起きた。

100 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:44
「!」

凄まじい爆風に思わず腕で目を覆う。
髪が風に当たり乱雑に乱れ、腕や脚にチクチクとした痛みが走る。
多分、床や壁の破片かな・・・。

暫くして風は収まり、恐る恐る目を開けた。

対峙する二つの人影。
一人は驚いたように、でも笑みを浮かべて。
もう一人は黒焦げになりながらも、鋭い眼差しを投げかけて。

「ほぅ・・・その身体、一体どうしたことか?」

夢霧さんが興味深そうに、咲魔さんの身体をなめるように見回す。

私たちはその間に、倒れているまこっちゃんの傍に駆け寄った。
さっきの爆風で、壁のほうまで飛ばされていたみたい。

「まこっちゃ――っ!!」

無残・・・。
その言葉しか頭に浮かんでこなかった。

「ぁ・・・ぅ・・・」

101 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:45
息も絶え絶えといった様子のまこっちゃん。
その目は虚ろ以外のなにものでもない。

首筋から流れるおびただしい量の鮮血。
その原因は首筋の大きな傷。

噛み付かれ、千切られたようにごっそりと首の肉がなくなっている。
顔を見せる赤黒い肉を見ていると、思わず吐き気がして口を覆ってしまった。

「・・・まこっちゃん・・・」

吐き気をかみ殺し、その傷口に手を伸ばす。
触れると、ニチャッという感触と共に身体が震えた。
でも、かまわず静かに能力を放った。

瞬く間に回復していくまこっちゃんの首筋。
私が手を離すと、そこはもう傷があったのか疑うくらい綺麗に元通り。

でも・・・

「・・・ぅ・・・ぁ・・・」

痛みと、先ほどの恐怖が大きすぎて、まこっちゃんはまだ放心状態。
自分を抱くようにして、ガタガタと震えている。

102 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:45
「まこっちゃん・・・」

私はソッと頬に触れる。
まこっちゃんはそれだけで一度大きく身を振るわせた。
そして、目を見開いて私を見つめる。

「・・・大丈夫」

短くそう言ってゆっくりと頬を撫でると、安心したように目を閉じ、規則正しい寝息を立て始めた。
その様子に、ちょっと思わず頬が緩む。

「・・・ちょっと休めば大丈夫だと思う」

表情を引き締め、愛ちゃんたちにそう告げる。

そして愛ちゃんたちはそのままで、
私はゆっくりと振り返り未だ対峙している、長身の姉妹を見つめた。

「異常なまで頑丈な身体・・・一体それをどこで手に入れた?」
「・・・あんたがくれたんだろうが」

じろじろと咲魔さんの身体を見わたして、独り言のように呟く夢霧さん。
咲魔さんのその言葉を聞いた時、首を傾げながら顔を上げた。

でも、それはすぐに肩を震わせ、静かに笑い出した。

「くっく・・・あの時の薬か。しかし、あれは能力を与える薬だったはず・・・」

心底可笑しそうに。
笑いを止めず、続ける。

103 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:46
「まあ、失敗作だったがな。その、副作用か」
「まあね。その副作用のせいで、かび臭い牢屋の中で3年近くも眠ってたみたいだけど・・・」
「くくっ・・・たった3年の代償で、鋼の身体か・・・」

顔をしかめ、不機嫌丸出しで言葉を吐き出す咲魔さんと、
未だ静かに笑い続ける夢霧さん。

性格の全く違う姉妹の周りは、ピリピリとした空気が漂う。

「・・・話中に仕掛けるなど、不粋よのぅ」

笑顔が消えた。
代わりに出てきた、冷たく見下すような視線に、ゾクッと身体が震えた。

スッと。
夢霧さんが扇子を持った右腕を横に伸ばす
すると音も無く、その肘から先が消え失せる。
まるでそれは周りの背景に溶け込むように自然に無くなっていた。

「去ね」

口の片端を邪悪に吊り上げながら、低い声で。
その数秒後、夢霧さんと咲魔さんの間で倒れる人影一つ。
慌てて後ろを振り返ってみると、そこにはカタカタと歯を鳴らす愛ちゃんだけ。

認めたくない・・・。
認めたくないけど、やっぱりそうなの・・・?

恐る恐る、視線を前方に戻す。
104 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/05/30(日) 21:47

唖然としたような咲魔さん。
やはり口を押さえ、静かに笑う夢霧さん。

そして、
その間に小さな稲光を上げながら倒れこむ、全身が黒く焦げた女性。

信じたくない・・・。
信じたくないけど、これが現実なの・・・?

「ごとーさぁぁぁん!!」

背後から、愛ちゃんの悲痛な叫び声が上がった。
105 名前:我道 投稿日:2004/05/30(日) 22:00
前スレで、百逝かないとほざいていたけど、
逝ってしまい、倒れる寸前の我道です(←アフォ

>>85 25様
いえいえ、こちらこそス・・・(ズゴ)
紺野)<話が前に進みません。よって、代わりに私が。
    レスどうもありがとうございます。えぇ、わたしだから、【わたしだから!】なんでもありなんですよ(ニコッ

>>86 名も無き読者様
なんか・・・勉強なんかやる気はいらないっすよ(投げやり
ようやく黒幕が出てきました(苦笑
ひどいですねぇ・・・夢さんはひどいですねぇ・・・(他人事)

106 名前:我道 投稿日:2004/05/30(日) 22:01
>>87 名無し飼育さん様
え!?>>4に、>>4に何があるんですか??!!
気になる・・・まさかものすごいミスとか・・・(((( ;゚Д゚))))
ああ!教えてくださいぃぃぃぃ

>>88 shou様
姉妹喧嘩、実現です(w
フルメンバー・・・もう欠員が出てきました(焦り)

>>70 確かに・・・(謝
↑これ、どういうことですか?
差し支えなければ、教えていただけないでしょうか?
107 名前:我道 投稿日:2004/05/30(日) 22:03
最近、「24」とかいう映画にハロモニ潰されまくって、友人共々切れてる我道です(苦笑)
108 名前:我道 投稿日:2004/05/30(日) 22:04
…もうネタが無いです_| ̄|○
109 名前:25 投稿日:2004/05/31(月) 01:39
夢霧さんはバンパイアですか?
110 名前:名も無き読者 投稿日:2004/05/31(月) 16:24
更新乙彼サマです。
百逝きましたね。
読者としては嬉しい限りなんスけど、大変そうですな。(ヒトゴトジャナイダロ
ところで(ズゴ)とか聞こえましたけど無事ですか?
続きも楽しみにしてますw
111 名前:石川県民 投稿日:2004/06/02(水) 23:12
更新お疲れ様でございます。
100生きましたね、このまま200、300といっていただければ…(黙
ハロモニですが……当方石川県では、夕方枠から深夜枠に移動し、だんだんと2週3週と遅れ、
ついには放送打ち切りとなりました。ので………なんだか我道サマの地域もシャレにならないくらい
似ていますのでお気をつけください。。。
112 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:15
「無粋な輩は好かん」

眉根を寄せ、はき捨てるように言ってから夢霧さんは後藤さんを蹴り飛ばした。
何の抵抗も出来ず、ただこちらに吹き飛ばされて来る後藤さん。

愛ちゃんは泣きそうになりながらも、しっかりと受けとめた。

「ごとーさん!ごとーさん!!」

その表情のまま。
何度も何度も。焦げた後藤さんを揺する。

幾度か揺すって、何の反応も示さないと悟った後、
愛ちゃんの瞳が憎悪に燃えた。

「さくまゆめぎりィぃィぃ!!!」

右手の五指を鉤状に曲げて。そこに炎を宿して。
獣化した愛ちゃんは怒号を上げながら、こちらに不気味な笑みを向けている女性に向かっていった。

「・・・って・・・か、はし」

113 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:16
愛ちゃんが疾走しているとき、その後姿を見ながら後藤さんが呻いた。
私はすぐに駆け寄り、上体を抱え起こす。

「大丈夫ですか?!」
「こん、の・・・おね、がい・・・たかは、しを・・・たかはしを、とめて・・・」

苦しそうに。
目を細めて、うっすらと涙を浮かべて。
私に懇願するように、か細い声を発していく後藤さん。

「かて、ない・・・さくま、ゆめぎりには・・・かてな、いよ・・・」

黒くなった頬を、綺麗な雫が伝う。
弱々しくもしっかりと、後藤さんの二つの瞳は愛ちゃんの後姿を捕らえている。

「はや、く・・・たか、はしを・・・」
「分かりましたから、もう喋らないでください」

痛々しくて、切なくて。
私は静かに後藤さんを寝かせると、咲魔さんに向かって叫んだ。

「咲魔さん!愛ちゃんを――」
「言われなくたって、そうするさね!!」

咲魔さんが叫んで、その小柄な身体を捕まえる。

「なにスルンや!はなセー!!」

それでも、愛ちゃんの怒りは止まらない。
114 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:17
咲魔さんに押さえつけられながらも、必死に身を動かし、炎の温度を上げる。

「あちっ、あちゃちゃ!おい、コンコン!はやく、なんとか――あぢゃ!」

炎が赤から蒼に変わる。
さすがの咲魔さんでも熱いようで、こちらに訴えかけるような視線を送ってくる。

私はそれをあまり見ないようにして、意識を集中させた。

脳内に見えるは、灰色の光。
私の両手が輪郭に沿ってその色に光りだす。

勢いよく両の掌を床につくと、出現する五体の灰色の岩人形。

―――吉澤さん。能力、借ります!

「お願いします!」

私が声を掛けると岩人形はそろって走り出した。
二メートルほどしかないけど、岩なので、走るたびに部屋が揺れる。

「あちっ!おい、コンコン!あたしゃ、むし――ぐあちっ!」

はい、無視です。

115 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:17
見向きもせず、岩人形たちは咲魔さんたちの横を通り抜ける。
そして、一斉に腕を振り上げると、走りながら夢霧さんに向かって振り下ろした。

その速度たるや、ゴーレムのイメージを壊すほど俊敏さ。

「ほほ、面白いのぅ。ならば、妾もそれで対抗するとするかの」

五体に囲まれて、見えなくなった夢霧さんは呟いた。
危機であるにもかかわらず、その声はやはり楽しそう。

私の背中に悪寒が走る。

「む、りだよ・・・だって、アイツは・・・」

後藤さんが苦しそうに上体を起こしながら、呟く。
それと同時に、私は驚愕した。

「ほほ。妾のほうが巨大じゃのぅ」

一瞬で破壊された、五体の岩人形。
ばらばらに砕けた破片が飛び散る中、夢霧さんはソレと並び、立っていた。

「あい、つは・・・」

116 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:18
ごつごつした四肢。
無機質な、瞳無き目。真一文字に引き結ばれた唇。
5メートルはあろうかというその体躯の色は、私が生み出した人形たちと同じ灰色。

紛うことなき、岩の人形。

「あいつ、は・・・みんなの、ちからを、つかえるんだ・・・」

117 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:18
バッと振り返り、目を見開く。
後藤さんは悔しげに唇をかんでいた。

「ほほ。さすが後藤といったところかの。ただの一度、受けただけで理解するとは」

今度はゆっくりと向き直る。
扇子を口にあて、含み笑いの夢霧さん。

この二人の様子から、後藤さんの言葉に偽りはない。

―――・・・でも、そうだとしたら説明がつくよね。

平静を保っているけど、
私には分かる、裏紺ちゃんの焦り。

だって・・・私も内心、すごく焦ってるんだもん。

「・・・じゃあ、さっきまこっちゃんに噛み付いたのは・・・」
「ほぅ・・・もう順応しおったか。
 そうじゃ。妾の能力は『相手の血を取り込むことで、その者の能力を複写できる』というもの」

先ほどの吸血鬼じみた行為・・・。
思い出しただけで、寒気がする。

「だが・・・」

スッと、鋭い目が細められた。
まるで獲物を狙う蛇のような獰猛さが、夢霧さんの瞳に宿る。

心臓が、大きく一つ跳ね上がった。

118 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:19
「ヒトの血肉というのは案外美味なものよのぅ。癖になってしまったわ」
「っ!!」

扇子を閉じ、舌なめずり。

おかしい・・・
狂ってる・・・
普通じゃない・・・

人間じゃ、ない・・・

頭の中で幾度も繰り返される、私の恐怖をまざまざと表す言葉。
足が震え、身体も震え。
かみ合わせた歯がカチカチと鳴り、冷や汗がドッと噴出す。

未だかつて感じたことのない恐怖。
それが私を支配する。

「さて・・・主はどんな味がするかの?」
「――!」

夢霧さんが、まるで背景に溶け込むように掻き消えた。
私は情けなくも、キョロキョロと辺りを見回し、涙目。

怖い・・・怖い怖い怖い・・・。
ただそれだけ。

「ひ・・・っ!」
「さぁ、堪能させておくれ・・・」
119 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:19
掴まれた、私の肩。
視界が潤んで、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

生暖かい吐息と共に、紡がれた言葉にさらに恐怖の度合いが増す。

能力を使うとか、身を捩るとか、
そんなこと、考えつきもしなかった。

「くぉんの変態がぁぁぁぁぁ!!」
「死にさらせやぁぁぁぁ!!」

声量の異なる二つの怒号が聞こえ、私は我に帰った。
私の横をニつの風が通り抜け、肩を掴んでいた手が解かれた。

「妾の楽しみを邪魔するとは・・・無粋な輩は嫌いじゃといったはずであろう!」
「「ぐぉっ!!」」

不機嫌そうな夢霧さんの言葉の後、
再びよぎるニ陣の風。

吹き飛ばされながらも咲魔さんはこちらを睨みつけて、

「こん!アンタ、帰んだろ!?だったら、そんな変態に怖がってないで、ヤッチマイナー!!」

破壊された玉座に叩きつけられても、立ち上がりむかってくる咲魔さんと愛ちゃん。
愛ちゃんが、叫ぶ。

「あさ美!あたしは後藤さんを傷つけたあのヤロウを殺したい!あんたはどうなんよ!!」

私・・・?
私は・・・。
私だって・・・。

「おるあぁぁぁぁぁ!!!」
「覚悟せぇぇぇぇ!!」
「愚かしい・・・何度むかって来ても、結果は変わらぬ」

120 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:20
通り抜け、吹き飛んで。
二人がその行動を繰り返している間に、私は自問自答。

私だって・・・許せない・・・。
うん、許せないよ・・・でも・・・。

―――・・・怖い、と?
その感情は消せない。私だって人間だもん。
怖いものは、怖いんだよ・・・。

―――・・・私だって、怖いよ。でもさ・・・。
私の意思に反して、俯きがちだった顔が上がる。
前方では、灰色の巨人と奮戦中の咲魔さん。
そして、休む暇を与えず、夢霧さんに爪を繰り出していく愛ちゃん。

―――・・・あの二人、どう思う?

唐突に聞かれ、言葉が見つからない。
どうって・・・。

―――・・・あの二人、恐怖をもっていないと思う?
もう一度、二人を見てみる。

かわされながらも、吹き飛ばされながらも、何度も何度も。
しつこいくらい、攻め続ける咲魔さんに愛ちゃん。
その様子からは、恐怖なんか―――

―――怖いに、決まっているでしょう?
121 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:21
びくりと、身体が震えた。
それほどに感情の篭っていない、冷たい声。

―――咲魔さんはどうか分からないけど、少なくとも、愛ちゃんは怖いと思うよ。自分よりはるかに強くて、未知の存在に向かっていってるんだからね。

裏紺ちゃんは、淡々と言葉を紡ぐ。

―――でも、それなのに、怖いはずなのになんで動いているの?
   それは、『想い』。後藤さんに対する『想い』が、愛ちゃんを突き動かしている。

首が動き、後藤さんを見やった。
カプセルに背を預け、辛そうにこちらを見ている。

―――ヒトってそういうものでしょ?何か強い想いがあれば、負の感情を凌駕してしまい、無意識に身体が動く。ヒトって、そんなものでしょう?

とても静かなのに、何故かとても暖かいものを感じる裏紺ちゃんの声。
私は唇を噛み締め、拳を握る。
強く。自分を突き動かすために。

―――君は、どんな想いでこの戦いに望んだの?

脳内に再生される、藤本さんたちとの別れ。

『また会いましょう』

私は確かにそう言った。
これが一つの、私を動かす『想い』。

そして、もう一つは―――

『あたしがあさ美ちゃんを守る!』

122 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:21
そう宣言して、見たこともないような凛々しい表情見せてくれたまこっちゃん。
言葉通り、飯田さんとの戦いのとき、彼女は私を守ってくれた。

そのまこっちゃんが、今、部屋の隅で身体を震わせている。
誰のせい?
答えは至極簡単。

「・・・私のせいだよ」

守って上げられなかった、悔しさ。
守って上げられなかった、憤り。

守りたいと思った、まこっちゃんへの『想い』。

―――・・・今度は、私が守るよ、まこっちゃん!
気がつけば、走り出していた。

「愛ちゃん!炎を!」

『想い』が私を突き動かす。
片手に込めた、緑色の光。

愛ちゃんは、チラッとだけこちらを確認し、すぐさま身体から炎を噴射した。

「はあっ!」
123 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:22
「なんと!?」

炎目掛けて、創りだした風を放つ。
風で威力を増した、蒼い炎が夢霧さんに襲い掛かる。

この攻撃は予想していなかったのか、
初めて夢霧さんの表情に、僅かだけど焦りが見えた。

でも、

「ふん!いい攻撃だが、まだ詰めが甘いのぅ!」

すぐに余裕の表情に変わる。
そして、溶け込み、掻き消える。

しかし、炎は止まらない。
カプセルをいくつも巻き込んで、壁を破壊した。

視界に入ってくる青い空に、白い雲。
でも、そんなのをのんびり見ている暇はない。

「紺野!右だぁぁ!!」

咲魔さんの雄叫びにも似た、叫び声と共に横に身を投げだす。
その瞬間、頭上を闇色の球体が通過。

飯田さんから受けた、精神を破壊する、闇。

「うおるぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

その次の瞬間には、灰色の巨人が通過。
四肢を取られて、まるでだるま状態。

124 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:23
急いで立ち上がると、その陰に隠れながら全身。
案の定、巨人は楽々と回避された。

「その浅はかな行動が、残り少ない命を削っていくのだぞ?」

背後から聞こえた、嘲りを含んだ声。
肩に手が置かれる。

でも、もう恐怖することはない。

「私は死にません」

左手に込めていた、土色の光。
それを今、解放。

「死ぬのは、あなたですから」
「ぐおぉ、バカな!こんなことをしたらお前まで――!」

圧し掛かる重圧。
夢霧さんが初めて口にした、苦悶の言葉。

石川さん・・・この能力、ちょっと辛いですね。

「・・・私は、死なないといったでしょう?」
「おのれえぇぇぇ!!」

125 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:23
石川さんの能力『重力制御』。
それによって、私の周り半径1メートルは今、重力が少なくとも10倍近くになっている。

これはさすがに夢霧さんも、苦しいようで、
私の肩から手を離すと、すぐにその場から消えさった。

それを気配だけで確認すると、重くなっていた重力を元に戻す。

「高橋、紺野!入り口から、3つ目のカプセルだ!」

息つく暇もなく、私は言われた場所に向かって疾走。
すると、大きく目を見開いた夢霧さんが姿を現した。

「ええい!何故だ!何故妾の現れる場所をっ!」

苛立つ夢霧さんに、躊躇なく愛ちゃんは爪の一撃。
半歩身を引かれ避けられても、何度も何度も繰り出していく。

「ええい!鬱陶しい!!」

バッと、扇子が開かれた。
そこに集まる青白い光。

夢霧さんの口の端が吊り上がり、その一撃は放たれた。

126 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:24
「肩こりにはイイわなっ!!」
「――!くっ・・・ゴミがぁ!」

でも、その――藤本さんの能力であった、雷の一撃が私たちを襲うことはなく。

私と夢霧さんの間にはいり、
雷を受けても倒れることなく、自慢の拳を繰り出したのは、夢霧さんの実の妹。

その素早い攻撃は、初めて夢霧さんを捕らえ、
大きな身体を床に叩きつけた。

こちらを怒りの篭った瞳で睨む夢霧さん。
そんなことにはかまわず、私たちは追い討ちをかける。

「――!またっ・・・」

本日何度目かの、消滅。
でも本当に消滅しているのではなく、多分空間を渡っているんだろうと思う。

厄介なことこの上ない。

「――!こんっ!うしろ・・・んにゃろぉ!!」

咲魔さんが慌てたように叫び、私を持ち上げた。
そして、そのまま投げ飛ばされる。

カプセルに当たり、倒れこむ。

「んぐおっ!」

顔を上げた瞬間、咲魔さんの回りに咲き乱れる紅い華。
大きな身体がぐらりとよろけ、床に落ちていく。

でも、寸でのところでそれは停止。

「ふん。ゴミがゴミをかばい、何になるというのだ?」

127 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:25
冷たい色を瞳に貼り付けて、夢霧さんは咲魔さんを見下ろす。
片膝立ちの咲魔さんは、恨めしそうにそれを睨み返す。

「・・・仲間だから、助けるに決まってるじゃないか。この、スカポンタン」
「・・・口の減らない奴め」

閉じられた扇子が、咲魔さんの頭を打ち据える。
ガンッ、という鈍い音。

咲魔さんは何の抵抗もせずに、床に転がった。

「妾を――神を怒らせると、どうなるか・・・その身をもって思い知るがいい」

夢霧さんの瞳が私たちを捉える。

何の感情も篭っていない、冷たい瞳。
先ほどの余裕は、そこには無い。そのことに私は心の中で、ほくそ笑む。

―――・・・でも、いい事ばかりじゃないよね・・・。

128 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:25
実際はその通り。
余裕が無くなった、つまりは相手を本気にしてしまったということ。

未知が、さらに未知になる。
これからは、はっきり言ってどうなるか予想がつかない。

「おおおぉぉぉぉ!!!」

愛ちゃんが雄叫びを上げた。
それと共に上がるは、純白の炎。
それを身にまとい、愛ちゃんは夢霧さんへと突き進む。

「・・・愚かしい」

私もすぐに立ち上がろうとした。
でも、それは弱々しく私の服の裾を掴む手によって遮られた。

振り返ってみると、凛々しい表情を浮かべた後藤さん。
満身創痍なのに、その瞳に宿る色は限りなく強い意志を含む。

「こんの・・・」

か細く、振り絞られるように出された声。
しかし、それもやはり、どこか強さを感じさせる。

後藤さんは、決意の言葉を紡ぐ。

129 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:26
「あたしの、能力・・・使って」
「・・・良いんですか?」

私の問いかけにも、何の迷いも無く頷く。
そんな後藤さんを、心底格好いいと思った。

「たのむね・・・」

ニコリと微笑んだ後藤さんに、軽く微笑み返し、その額に手を当てる。
データが全て流れ込んできた瞬間、すぐさま消去。

後藤さんは小さくうめき声を上げると、脱力して倒れこんでしまった。

―――また一つ、約束が増えたね・・・。

フッと笑い、立ち上がる。
白い炎をまとった愛ちゃんが、爪を繰り出している。

でも、どう見ても戦況は不利。
愛ちゃんの身体が、
引き裂かれ、千切られ、だんだんと傷が増えていっている。

「ふぐぅっ」

130 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:26
そして、ついに膝をついてしまった愛ちゃん。
白い炎が消え、常の高橋愛にと戻っていく。

それでも、夢霧さんは容赦なく愛ちゃんの頭を扇子で打ち据えた。

こちらに転がってくる愛ちゃんを受け止めると、
後藤さんの隣に寝かせて、立ち上がる。

「す、まん・・・あさ美・・・」

私は何も言わずに、ただ微笑む。

「た、のむわ・・・」

力を使い果たした愛ちゃんは、そこで事切れた。
スースーと規則正しい寝息が、彼女はまだ生きていると教えてくれる。

思わず頬が緩んだけど、すぐにそれを引き締める。
そして、ゆっくりと振り返り、不敵に微笑む全ての元凶を睨みつけた。

「・・・終わらせます」

ぼそりと。
自分を奮い立たせるために呟き、私は歩き出す。

「妾は神になる」

131 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/11(金) 23:27
夢霧さんも扇子をたたみ、私との距離をつめてくる。

程なくして、私たちの間の距離は無くなった。

「その能力、もらうぞ」

「丁重にお断りします」

今、最終決戦の鐘が鳴る。

破壊された壁の穴からはいってきた緩やかな微風が、

私たちの前髪を揺らした。
132 名前:我道 投稿日:2004/06/11(金) 23:36
間があいてしまい、申し訳ありませんでした。

>>109 25様
それらしきことをする能力でした(w
勿論、元ネタは吸血鬼です。姉妹そろってバケモノですねぇ(苦笑

>>110 名も無き読者様
百・・・逝ってしまいました(苦笑
でも、さすがに終わりが見えてきました(ヤットカヨ
まあ、紺野さんでしたから。多少は手加減してもらって、複雑骨折ぐらいですみましたよ(w

>>111 石川県民様
ありがとうございます。でも、さすがに二百はいくかどうか・・・曖昧で申し訳。

そうですか・・・ハロモニが・・・。なんか、私のところと激似です。
不安・・・(((( ;゚Д゚))))
(やっと、放送されたと思ったら、4月の放送分ぶっ飛ばされてたし・・・ブツブツ)
おっと、失礼しました。
133 名前:我道 投稿日:2004/06/11(金) 23:36
一応隠します
134 名前:我道 投稿日:2004/06/11(金) 23:37
もう一つ
135 名前:25 投稿日:2004/06/12(土) 04:22
あれ?風?『強い想い』がエネルギーになったのか・・・

もはや僕は人間じゃない
by直太郎
136 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/12(土) 16:11
更新乙彼サマです。
息をも吐かせぬバトルシーン、グッドですw
終わりが見えてきたようですが、それも寂しいなぁ。。。
でもやはり気になるので続きも楽しみにして待ってます。
137 名前:shou 投稿日:2004/06/13(日) 16:43
更新お疲れ様です。
迫力のバトルシーン素晴らしいです!
終わりも近づき嬉しいような哀しいような・・・
しかし、続きは読みたいので頑張って下さい。

>>70は馬鹿なことを書き込んだ自分に対する罰ですかね?



138 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:42
手を伸ばせば触れられる。
そんな至近距離でにらみ合う、私と夢霧さん。

どちらにも、笑顔は無い。

ただ静かに、
淡々と時間は過ぎていく。

「分かっているのか?」

静かな空間に流れる、夢霧さんの静かな声。
私は身長差のせいで、頭ひとつ半高いところにある夢霧さんの瞳を覗き込んだ。

そこには、嘲りの色が灯る。

「何を、です?」

緊張をとかずに、聞き返す。

短い間を置き、バッという音と共に扇子が開かれ、夢霧さんの口元を覆う。
篭るような彼女の言葉には、やはり嘲りの念が込められていた。

「妾は汝らを創りし者。それがどういうことか、分かっていないわけではあるまい」

扇子が閉じ、その先が私の額に押し当てられる。
それを落ち着いた手付きで払いのけながら、夢霧さんを見上げる瞳に力を込めた。

139 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:43
でも、特には何も言い返さず。
ただ、睨むだけ。

そんな私の態度に、夢霧さんの眉間に皺が寄る。
紫のルージュを引いた唇は、形を崩し禍々しく歪む。

「・・・気に入らんな、その態度。ゴミの分際で」
「そのゴミを・・・」

憎々しげに吐き出された言葉に、私は冷静を保ちながら言い返す。
勿論、緊張は解かずに。

「そのゴミを創ったのは、何処のどなたですか?」

夢霧さんの片方の眉尻が、ピクンと吊り上る。
そして、蛇のような瞳は私の全身を這うように見わたす。

私のことを、見透かそうとしている。
…真意を、探ろうとしている。

「・・・それは、教えて欲しいといっているのか?」

やがて、全てを理解したという感じで夢霧さんは口を開いた。
唇が弧を描き、不気味な笑みがかたどられる。
しかし、その表情が瞬時に崩れた。

何故か?
それは、とても簡単。

「ただの嫌味ですよ。私は全てを知っています」

140 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:43
それは私が浮かべた笑顔を見たから。

夢霧さんの表情に、僅かだけど変化があった。
不可解なものを見るような瞳の中にも、僅かだけど焦りが見える。

「あなたは元々、自分の中に幾つもの能力を創りだすはずだった。
でも、研究と実験を重ねていった結果、人間では一つの能力しか保有できない。
もし、二つ以上与えれば、その場で拒否反応を起こし、腐食してしまうということをあなたは知った」

夢霧さんの瞳を見つめながら、淡々と。
静寂の空間に、私の静かな呟きが響く。

「だからあなたは思いついた。
自分には、全ての能力を複写できるという能力を打ち込み、
他は自らの手で作り上げ、管轄下に置く。
そうすれば、特に苦労することも無く、あなたの下に全てが集まる」

夢霧さんの目が細まる。
でも気にすることなく、私は続ける。

「でも、予想外のことがおきた。咲魔さん・・・凶子さんの脱走です。
彼女が私たちを連れて逃げ出したおかげで、
あなたの望みが果たされる時間が延びてしまった」

そこで私は言葉を止めた。
夢霧さんの目は細まったまま、私を射抜くように見つめている。

「何故・・・知っている」

141 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:44
やや間があき、真一文字に結ばれていた唇が薄く開いた。
特に何の感情も込めずに言ったつもりかもしれないけど、私には分かった。
その言葉に込められた、感情―――彼女は、焦っている。

「何故知っていると聞いている」

だんだんと語尾が強くなり、扇子の先が突きつけられた。
でも、私は怯まず。
ただ微笑みを返して、静かに口を開くだけ。

「わたしが全てを覚えていたんですよ」

細くなっていた目が見開かれ、唇の形が歪んだ。
ゆっくりと開閉する唇からは、低く、しゃがれた声が漏れる。

「貴様か・・・」
「お久しぶりです、夢霧『社長』」

恭しくお辞儀をする、裏紺ちゃん。
夢霧さんの表情は動かず。
それを見て、わたしの口の両端が吊り上がる。勿論、目は笑わずに。

「あなた一人じゃ、何も出来なかった。
所詮、あなたも人の子ということですね」

言い終わった瞬間、後ろに跳躍し着地するまでほんの数秒。
傍目にも分かるほど、顔を赤くした夢霧さんが扇子を振り切った状態でこちらを睨んでいる。

142 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:44
「黙れ・・・っ!妾は完璧。妾は最強。その辺のゴミなんぞと一緒にするでない!!」

まるで吼えるように叫んで、振り上げられた扇子の先に集まるは青白い光。
ぱりぱりと小さい稲光を上げるそれは、まさしく小型の雷。

わたしは腰を落とし、体勢を低くして走り出した。
もう、笑顔はとっくに消えている。

「去ねぇ!」

先ほどまでとは打って変わって。
感情を激しく露にし、扇子を振り下ろす夢霧さん。
青白い光が、一直線にわたしに向かって迫り来る。

でも、わたしは走る速度を緩めず。
向かってくる青白い光を睨みながら、無言で能力を解放した。

「小賢しい・・・っ!」

はき捨てるような夢霧さんの一言。
私は呆れ、心の中で一言呟いた。

―――その小賢しい能力を与えたのは誰ですか・・・。

青白い光はわたしの身体に触れた途端、音も無く消滅。
視界に映るは、背景に溶け込むように消えようかとしている夢霧さん。

それを確認し、わたしは足を止めた。
そして、人格交代。

すぐさま左手に能力を創造する。
そして、ゆっくりとその手を横に伸ばす。

143 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:45
溶け込むように、肘から先が消え、その瞬間能力を放つ。
さっきのお返しとばかりに放たれた雷は、表に出ることは無い。
こことは異なる空間で、縦横無尽に暴れまわる。

スッと手を下ろす。
同じころに、夢霧さんが姿を現した。
その姿を見て、私はニヤリと笑う。

「貴様・・・っ」

紫色の着物は所々焦げたり、破けたり。
目を引くその真紅の髪も、先のほうが大分焦げている様子。

―――・・・でも、あんまりダメージはなさそうだね・・・。
頭の中で響いた声に、苦笑を返した。

「先ほど、あなたが後藤さんに対して行った攻撃ですよ。
少しばかり、浅はかでしたね」

バキッ・・・!

震えた手で掴んでいた扇子が、音を立てて真っ二つに折れた。
僅かに焦げた紅い髪が上から引っ張られるように逆立ち、噛み合わせた歯はぎりぎりと音を立てる。
ブチッと。
今度は口の端が切れ、紅の線が引かれた。

「ゴミの分際で・・・妾を、妾を侮辱しおったな・・・っ」

夢霧さんの周りの景色がまるで蜃気楼のように揺らめき、
舞い上がった小石が音を立てて粉砕していく。

ゾクリと・・・。
背筋を、悪寒が駆け抜けた。

144 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:45
「許さぬ・・・」

彼女の両手に集まる、紅い球体。
綺麗だけど・・・私を死に至らしめるに十分な破壊力を持った、危険な球体。

夢霧さんが、吼えた。

「臓物も残さず、食らい尽くしてくれる!!」

勢い良く突き出される、夢霧さんの両手。

刹那。
球体がまるで龍のように形状を変化させ、私に襲い来る。

―――ここで慌てたら、駄目だよ。
分かってる。

「ふ・・・っ」

大きな口をあけて、一直線に向かってくる二匹の龍を、身を横に投げ出し回避する。
起き上がったときには、龍は既にこちらに進路変更をし、向かってきていた。

それを睨みつけながら、私は両手を突き出す。
形成されていく、絶対零度の氷柱。
龍の大きさにあわせ、だんだんとその巨大さを増していく。

龍がもう一度口をあけたとき、私はそれを放った。

炎の龍を貫く、氷の槍。
灼熱と絶対零度の衝突は、あたり一面を白く覆った。

霞がかかり、視界が悪くなった世界に、
それでもはっきりと分かるほど向かってくる、大きな殺気。

それを辿って、私は迷わず蹴りを放った。

「く・・・っ!おのれぇ・・・!」

それを拳で受け止め、憎々しげに言葉を吐き出す夢霧さん。
だんだんと晴れてくる霞の中で、私は休まず鳩尾に向かって掌底を放つ。

しかし、それが当たることはなく。

145 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:46
横に移動した夢霧さんが、私の頭上目掛けて手刀を振り下ろした。

―――・・・この人、肉弾戦に関しては咲魔さんより劣るね。

全くもってその通り。
殺気の接近にしても、今の手刀にしても殺気が大きすぎる。
それに大振りも致命的。

これじゃあ、反撃してくれって言ってるようなもの。

「なっ!」

いまや霞みは完全に晴れた。
慌てることなく半歩身を引き、振り下ろされた大きな手を掴む。
夢霧さんが驚愕し、目を見開いている隙に、腹部に右足を触れさせ、
そして、

「げばぁ!」

解放。
亀井さんの振動波を直接内臓に叩き込んであげた。

もんどりうって、転がっていく夢霧さん。
程なくして、停止しても四肢をばたつかせ意味不明な叫び声を上げている。

―――無様だね・・・

146 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:46
呆れながらも、
もがき苦しむ『神になる人』に私は近づいていく。

「げっ・・・がふっ・・・」

未だ引かない痛みと必死に戦い、どうにか立ち上がろうと奮闘している。
彼女のその様子を見ていると、ふつふつと怒りがわいて来るみたい。

―――こんな人に、皆は・・・っ!

歩を進めながら、目だけを動かす。

うな垂れるように壁に寄りかかり、眠るまこっちゃん。
それは、夢霧さんが与えた恐怖のせい。

満身創痍でお互いに寄りかかって眠る、愛ちゃんと後藤さん。
それは、夢霧さんが与えた傷のせい。

血の海に、うつ伏せで沈む夢霧さんの実の妹、咲魔凶子さん。
彼女は私たちを守って、沈んだ。

147 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:47
視線を元に戻す。
まだ、立ち上がれない様子の夢霧さん。
その大きな身体を、嘲りの感情を含んだ視線で見下ろす。

「この程度で倒れるような人が、神になんてなれるわけ無いでしょう」

煮えたぎる怒りを乗せ、自分でも驚くくらい低い声で。
顔を少し傾け見上げてきた夢霧さんの瞳は、弱々しく揺らいでいた。

「わ、妾が悪かった・・・謝ろう・・・」

思わず、嘆息。

無様、最低、救いようが無い。
懇願する夢霧さんを見下ろしながら、私は心の中でそう呟いた。

勿論、緊張は解かずに。

「・・・ばれてますよ」

悪役の、ありきたりな手口。
許しを請い、不意打ちを仕掛け、相手を倒す。

この人の場合も例に漏れず。
私の無防備な背中に、巨大なごつごつした拳が打ちつけられた。
しかし、何の衝撃ももたらさず、それは瞬時に消滅。

夢霧さんは、目を見開いた。

「わ、悪かった・・・今のは、ほんの冗談だ・・・頼む、見逃してくれ・・・」

148 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:47
今度は、何の気配も感じられない。

私はスッと目を細めた。
油断は禁物。
手負いで、力のほうは不安定な状況だけど、相手が相手。

緊張をとかずに、ゆっくりと夢霧さんの額に手を伸ばす。
そして、暫しの間静止。

交差する、私の視線と弱々しい視線。

それを確認して、私は人格を交代。
集中し、能力を解放しようと試みた。
でも・・・

「・・・ぅ」

ズキンと・・・。
胸に一際強い痛みが走り、わたしの集中力が一瞬だけばらけた。
その瞬間、視界に入ってきた、不気味で凶暴な微笑み。

「このときを待っていたのよ!!」
「あぁ・・・」

慌てて形勢を立て直したときには、もう遅かった。
バンと、派手な音を立て、粉砕する私の右腕。
身体も、激しい衝撃を受け、床を転がる。

「どちらが浅はかか・・・
この戦いは始まったときから、妾の勝利と決まっておるのよ!」

149 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/16(水) 23:48
痛みは、あまり感じなかった。
…いや、感じるんだけど、
自分の愚かさに対する憤りが勝っていて、大して痛くなかったんだ。

―――私は・・・くそ・・・っ!
四つんばいの格好になりながら、唇を噛み締めた。

「創造者の妾に、所詮創造物の汝らが敵うわけなど無いのじゃ!ほーほっほっほっほっほっほ!!」

高らかに笑う、夢霧さんの声もあまり耳に届かない。

ジワリと・・・
視界が潤みだし、透明な雫が床に落ちた。

右腕から流れ出る血が作った紅い水溜りにそれは落ち、混ざり溶け込んだ
150 名前:我道 投稿日:2004/06/16(水) 23:56
短くてスイマセン・・・。
あと、1,2回の更新で終わるかなぁと・・・(ハッキリシヤガレ

>>135 25様
はい、強い思いは常識をも覆します。・・・クサかったですね、申し訳(ニガワラ
ふ〜む・・・直太郎さん、いい事いうじゃないですか・・・(?

>>136 名も無き読者様
お褒めいただき、ありがとうございます(多謝
強い想い・・・自分ではクサイなぁと思っていたんですが、そういっていただき嬉しいです(w
読者様のレスを励みに、完結まで突っ走ります。

>>137 shou様
ありがとうございます。
正直、ちゃんと伝わるかな・・・と不安でしたが、そう言っていただくと飛び跳ねてしまいます(苦笑

馬鹿なことなんてそんな・・・読者様のレスはいつでも私を励ましてくれます。
感謝感謝です(拝
151 名前:我道 投稿日:2004/06/16(水) 23:56
隠し
152 名前:我道 投稿日:2004/06/16(水) 23:56
隠し・・・
153 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:08
―――こんな時に・・・っ!くっ・・・

悔しさ、憤り。
自分に対し、そんな感情を抱きながら、私は立ち上がった。

止まらず流れ続ける血が、邪魔くさい。

「ほう・・・まだ、立ち上がるか」

見下すように細まる、邪な目。
それを強く睨み返しながら、服の袖を破り、傷口の応急処置を行う。

「くく、不便よのぅ。自らの身体には効果が無い能力とは・・・」
「・・・五月蝿いです」

冷たく言い放つと同時に、キュッと強く傷口を縛った。

―――もう・・・油断なんかしない。
   私の全てをかけて、消してみせる!

胸に抱く、強い決意。
それを邪魔しようとする、鋭い痛み。

―――こんなもの・・・

「・・・どうってこと無いです」

言葉と同時に、痛みがだんだんと引いていく。

スッと、右半身を引き、腰を落とし構える。
夢霧さんは、嘲笑。

154 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:09
「そんな状態でまだやるというのか?死期を早めるだけだ――」
「黙ってください。あなたに心配されるくらいなら、死を選びます」

夢霧さんの言葉を遮って、まるではき捨てるように。
見る見るうちに変わる、夢霧さんの表情。

「なるほど・・・自ら死を選ぶか・・・」

眉間によった皺は、彼女の怒りを表し、
弧を描くようにつりあがった唇は、私への憎悪を表す。

「ならば、滅ぶがいい!!」

叫び声と共に駆け出した、『神になる人』。

勢い良く振り下ろされた右腕から、
生まれ出でた何かを避けるように姿勢を低くして疾走する。

一呼吸間があいて、背後から何かが崩れる音が響いた。

振り返らなくても、分かる。
今自分が回避したのは、真空刃。松浦さんの能力の応用。

「はっ!」

掛け声と共に、左腕を突き出した。
特に何も変化はないけど、夢霧さんには分かった様子。

「単調すぎるわ!」

横に跳躍して、後藤さんの能力を回避する夢霧さん。

155 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:09
そして着地と同時に、私の首を鷲掴みにし、勢いに任せて放り投げる。
咲魔さんのお姉さんなだけはあるね・・・。

床に打ち付けられ、一度バウンドしてから起き上がった。
その時、既に夢霧さんは肉迫してきていた。

「去ねい!」

鋭く尖った爪を振り上げ、横に薙いだ。
私は間一髪のところでかわし、がら空きのわき腹に左腕で触れた。

能力を放とうとしたその瞬間、掻き消えた夢霧さんの姿。
そして・・・

「二度も同じ手が通用すると思ったか?」

背後から聞こえた、小さな声。
一気に顔から血の気が引いて、ヤバイと思ったときにはもう、遅かった・・・。

「くあっ!」

耳に掛かる、生暖かい鼻息。
首に感じる、鋭い痛み。
飛び散り、咲き乱れる紅い華。

意識に霞がかかりだし、つま先から頭頂までがカタカタと震える。

「あ・・・ぁ・・・あぁ・・・」

身体を掴んでいた手が離され、次に感じたのは冷たい床の感触。
どんどんと、紅が床に広がっていく。

156 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:10
「くっくっく・・・これで、妾はすべての能力を手に入れた。ついに神となったのだ!ほーほっほっほっほっほ!!」

薄れる意識を繋いだのは、悔しくも夢霧さんの高らかな笑い声だった。
引かない痛みと熱を放つ首元を抑えながら、立ち上がり距離を取る。
手につく肉の感触が、気持ち悪い・・・。

「くく・・・まだやるというのか?もう勝負はついたであろう?」

口を覆う紅い液体を舌でなめ取りながら、夢霧さんはニヤリと笑う。

ふら付きながら。
霞が掛かる視界で、どうにかその大きな身体を捕らえる。

「ま、だ・・・私は・・・たたかえ・・・ます」

止め処なく流れ出る鮮血。
足元はふらつきを増すばかり。

夢霧さんが、不気味に微笑む。

「そうだな・・・ちょうどいい。早速手に入れた能力、貴様で試させてもらうぞ」

焦らすように、一歩、また一歩と。
ゆっくり、じっくり。私の恐怖をあおる様に、本当にゆっくりと。

157 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:10
私はその歩調に合わせて、じりじりと後退。
でも、距離はあくどころか、どんどんと詰まってくる。
程なくして、私の頭は大きな手に捕獲された。

逃げようとしても、力がはいらない・・・。

「消えてみるか?」

焦点が合っているのか分からない目で、静かに呟いた人物を睨む。
嫌な笑い・・・。

わざと勢い良く視線を逸らし、目を瞑った。

―――ごめん・・・ごめんなさい・・・
   私・・・私じゃあ・・・無理だったよ・・・。

絶望感と共に湧き出てくる、己の情けなさ。
私は一つの約束もろくに守れない・・・。

頬を、雫が流れ落ちた。

「ば、馬鹿なっ!何故・・・何故だ!!??」

慌てたような夢霧さんの声。
涙の浮かぶ目を開けて、見上げてみると、自分の手の平を凝視していた。

158 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:11
「何故・・・何故、消せぬ!何故、能力を使えぬのだ!!??」

叫ぶ夢霧さんを呆然と見つめる私。
何が起きたか・・・私の身体に異変は無い。

どうなってるの・・・?

「何故・・・何故だぁ!!」

「「そりゃあ、アンタの日ごろの行いが悪いから」「さ」「だよ」

僅かな間を置き、夢霧さんの叫びに返ってきた答え。
険しい顔つきを一変させ、慌てたように振り返った夢霧さんを待ち受けていたのは、大きな拳と、小さな拳。

霧もみしながら吹き飛び、カプセルに激突する夢霧さん。
その衝撃でガラスがわれ、緑色の液体が流れ出した。

「大丈夫?あさ美ちゃん?」

あぁ・・・。
今度は嬉しさのあまり、涙が溢れた・・・。

八の字に曲がった眉。オレンジに近い、茶色のクセっ毛。
何故かその情けない顔は、私を安心させてくれる。

「まこっちゃぁん・・・」
「わっ!」

気がつけば、情けない声を出して抱きしめていた。

159 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:11
血を出しすぎて、冷たくなってきていた私の身体。
その身体を温めてくれる、まこっちゃんの温もり。

血ではなく、
涙が止め処なく溢れてきた。

「あさ美ちゃん、その首・・・っ」

「貴様らぁ!どこまでも妾を侮辱しおってぇ!」
「うっさいねぇ。紺野の能力もろくに使いこなせないくせに、偉そうにほざくんじゃないよ!」

その大きな肢体を包む、ぬめりのある液体。
憤怒の面持ちで立ち上がった夢霧さんに、容赦なく罵言をはく咲魔さん。
その言葉に、夢霧さんの顔が更に赤くなった。

「貴様!誰に向かってそんな口を聞いている!」
「アンタに決まってんだろ、このスカタン」

言い終わるが早いや、咲魔姉妹は同時に飛び出し、激突した。
長身がぶつかり合うごとに、鮮血が宙に舞い躍る。

「あさ美ちゃん、その首・・・」

スッと視線を戻し、まこっちゃんを見つめた。
今にも泣き出しそうな彼女の瞳は、私の首元に注がれる。

ハハッと・・・乾いた声で苦笑した。

160 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:11
「ちょっと、油断しちゃって・・・」
「もういいよ。ここからはあたしがやるから、あさ美ちゃんは休んでて?」

優しく声を掛けて、柔らかく頭を撫でてくれるまこっちゃんを見て、私は気付いた。

ああ・・・そっか・・・。

愛ちゃんや、今まで出会った人とは違う安心感。
それを、まこっちゃんは与えてくれる。

私・・・まこっちゃんを・・・

キュッと唇を引き結び、立ち上がろうとするまこっちゃんの腕を掴んだ。

「ん?どうしたの、あさ美ちゃん?」

キョトンとした目で私を見つめるまこっちゃん。
その顔に、思わず頬が緩んだ。

だったら、尚更私がやらなきゃね・・・。
―――・・・そうだね。凹んでる場合じゃないよ?

からかわれる様に呟かれた裏紺ちゃんの声を聞き、私はまこっちゃんに顔を近づけた。
そして・・・

161 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:12
「・・・ん!?」
「・・・」

至近距離で目を見開くまこっちゃん。
でも、次第にその目はとろんとしていき、ついには完全に閉じてしまった。

それを確認すると、静かに重なっていた唇を離し、
ゆっくりとまこっちゃんを床に寝かせ、立ち上がる。

ほんのり、頬が熱いのを感じながら、未だ激闘の渦中にある長身の姉妹を見据える。
でも、最後にチラッとだけ穏やかに眠るまこっちゃんを見て、微笑む。

―――・・・行こうか
…うん。

裏紺ちゃんの声を聞いて、表情を引き締め、歩を進める。
それに気付いたのか、咲魔さんは夢霧さんに注意を払いながらこちらに跳躍してきた。

「ルァヴスィーンはすんだかい?」
「・・・五月蝿いです」

相変わらず、緊張感の無い・・・。

162 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:13
視線を前に固定しつつも、おどけた口調で言う咲魔さん。
私は思わず、深々とため息。

「・・・何故、消せぬ・・・何故、何故・・・」

肩で息をしながら、うわ言のようにブツブツと呟き続ける夢霧さん。
咲魔さんは、呆れたように大きくため息を吐いた。

「救えないねぇ」
「・・・」

何で、私の能力を使えなかったのか。
これは推測でしかないけど・・・

私の中には、私と裏紺ちゃんがいて、それぞれ異なる能力を所持している。
主人格は私、副人格は裏紺ちゃん。
だから、副人格である裏紺ちゃんの消滅の能力を得るには私の場合、二度噛まないといけないんじゃないかな?

―――・・・正論だね。でも、もしそうだとしたら、今あの人は・・・。

「・・・夢霧さんは創造の能力を持っていることになる」

スッと細まる、4つの鋭い瞳。
私の傍らで咲魔さん、前方で夢霧さん。

同じものを含んだように、私を見つめた。

「へぇ・・・そういうことかい」
「・・・なるほど。そういうことか」

…クサっても姉妹、ってやつだね。
二人同時に、今度は口の片端を吊り上げる。

でも、そこに含まれた意思は当然のことながら、全く違うもの。

「んだったら、今のうちにぶっ殺しちまえばいいってことだね」
「ならば、再び血を飲めばいいということか・・・」

向き直り、景気良くボキボキと手の関節を鳴らす咲魔さん。
それを目にも入れず、ニヤリと微笑む夢霧さん。

ソッと首元に手を触れた。
ザラッとした感触が手に残り、離してみると付いていたのは、乾燥した血。
この時ばかりは、能力者の回復力に感謝した。

163 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:13
「こん、アンタ大丈夫なのかい?」

こちらを見ずに、咲魔さんは口を開いた。
軽く一瞥をすると、すぐに視線を戻して一言。

「・・・足手まといには、ならないように」
「・・・いいねぇ。そういうの好きだよ」
「・・・止めてください。吐きそうです」

会話が途切れた瞬間、私たちは飛び出した。

「邪魔だ、貴様」

短く言い捨て、夢霧さんは創造の能力を発揮した。
形成されていく、銀の煌き。
柄と鍔の付いたそれは、紛れも無く、正真正銘の日本刀。

鞘も創らず、むき出しで創造された日本刀を両手で掴むと、
向かって行く私たち目掛けて、夢霧さんは横一文字に薙いだ。

信じられないことに、それを素手で受け止める咲魔さん。

震える両者の腕が、力と力の葛藤を物語る。
私は咲魔さんの傍らを通り抜け、手を伸ばした。

その瞬間、心の中で小さく舌打ち。

「こん!伏せろぉあ!!」

164 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:14
消えた夢霧さんが残していった日本刀。
それを片手で握った咲魔さんは吼えるように叫んで、乱暴に刀を振りおろした。

「く・・・っ」

その一呼吸後、私の背後から漏れた苦悶の呻き。
迷うことなく、後ろ回し蹴りを放つ。
手ごたえは・・・無い。
再び、舌打ち。

「そこかあぁ!!!」

振り返るときの勢いを利用して、咲魔さんは日本刀を投擲。
それは一直線に、一つのカプセル目指して飛んでいく。

いや。
正確には、夢霧さんを目指して。

「く、おのれぇ!何故妾の場所をっ!」

出現した夢霧さんは憎々しげに呟き、半身を開いて日本刀を回避。
日本刀はそのままカプセルに突き刺さり、ガラスに亀裂を入れた。
次の瞬間、ガラスは崩壊し、大量の緑色の液体が流れ出す。

その中で、姉妹は対峙する。

「何年一緒にいたと思ってるのさ?アンタの行動なんかお見通しなんだよ!」

走り出した咲魔さんは、しかし、すぐに脚を止めた。
そして、憤怒を言葉に乗せて吐き出す。

165 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:15
「・・・てめぇ」
「くくっ・・・ならば動かないでいてもらおうか」

夢霧さんは未だ起きないまこっちゃんを足元に置き、その喉元に日本刀を突きつける。

浅はかだった・・・。
何で、どうして、まこっちゃんを放って置いてしまったんだろう。
この状況は、容易に想定できたはずなのに・・・。

「そうだ、それでいい・・・」

ニヤリと。
いやな笑みを浮かべる夢霧さんの視線が、咲魔さんを射抜く。

刹那。
派手な音を立てて、咲魔さんの両脚、膝から下が吹き飛んだ。
支えを失った大きな身体は、これまた派手に床に沈む。

「・・・」

それでも、全く悲鳴をあげず、
ただただ悔しげに夢霧さんを睨み続ける咲魔さん。

「何故ですか・・・?」

その姿を尻目に、私は口を開いた。

166 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:15
何故こんなことが出来るのか?
これは後藤さんの能力。それならば・・・

「後藤さんの能力には距離の制限があるはずです。この距離では、空間干渉は出来ないはず」

それに答えたのは、静かな笑い。
俯き、肩を震わせ、
心底おかしそうに笑うその大きな肢体が、私の怒りを逆撫でする。

「なに・・・それも妾の能力のうち。
妾が複写した能力は、全て、制限を失う。故に、妾の能力は最強なのじゃ」

静かな笑いが、高らかな笑いに変わり、
夢霧さんは掻き消えた。

「こん!!」

叫ぶ咲魔さんに目もくれず、私はスッと目を瞑る。

「諦めたか」

167 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:16
背後に人の気配。
それでも私は目を開けず。

カンッと、金属の擦れる音。
それでも私は目を開けず。

強い力で、肩を掴まれ、首筋に生暖かい息が吹きかかる。
まだ・・・もう少し・・・。

首筋に、鋭い痛みが走った。

「・・・っ!!??」

行動は迅速かつ、正確に。
首の肉が食い千切られることなんか気にしてられない。

夢霧さんを振り切り、勢い良く振り返った私は、
躊躇無く、まこっちゃんを蹴り飛ばす。

そして、床に刺さる日本刀を抜き、振り返り際に突き出した。

それと交差するように突き出された右腕によって、私の左腕は消滅。

でも、それより早く、目的は果たせた。

「ほほっ。もう何をしても無駄じゃ。
貴様は消える。妾によって消される。もう用済みじゃ」

168 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:16
右肩に日本刀を刺したまま、さして気にも留めずに、夢霧さんは私に右腕を伸ばす。
片膝をつきながら、笑みを浮かべ私はその瞳を見上げた。

「何を笑っておる?もう、全てが終わるというのに」
「ええ、終わりますね。“全てが”」

破裂音を響かせ爆発する、日本刀。それと同時に、右腕が床に落ちた。
右腕を失った本人は、何が起きたか分からない様子でそれを見やる。

でも、すぐにその表情が一変する。
さあっと青ざめて、次の瞬間には、

「あああああああ!!!」

部屋中に、甲高い絶叫を響かせた。

「き、貴様!許せん!!跡形も無く消し去ってくれるぅあぁ!!」

憎しみに表情を歪め、残った腕を私に伸ばす。
そこに割り込んだ、足の無い、大きな女性。

「き、きさまぁ!邪魔をするなぁ!!」
「最後くらい、かっこつけさせろや!」

夢霧さんの腕と、咲魔さんの身体が触れた瞬間に、起こる消滅。
膝からだんだんと消えていく、咲魔凶子さん。

彼女は消えそうになっても笑顔で振り返って、元気にこう言う。

「こん!ヤッチマイナー!!」

169 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:17
私もそれに笑顔で返し、ありったけの能力を自分の身体に込めた。
繰り出される夢霧さんの腕をかいくぐり、
懐にもぐりこんで、大きな身体にピタッと張りつく。

そして、誰にとも無くこう呟く。

「・・・私も・・・私たちもサイテーかなぁ?」

私の身体から眩いばかりの光が瞬く。

「おのれえぇぇぇぇぇ!!!」

夢霧さんの絶叫を最後に、光は私たちを包んだ。


―――・・・まだ最後の仕事が残ってるよ。

うん・・・分かってる。

170 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:18
―――
――――――
―――――――――
171 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:18
目を覚ますとそこは、
先ほどまでの部屋とは著しく異なっていた。

天井も、床も、右も左も真っ白な世界。
平衡感覚を失いそうになる世界に、あたしたちは立ち尽くしていた。

「どこ、ここ?」

隣の麻琴が眉根を寄せて呟く。
そんなん、あたしだって知らんよ・・・。

「んぁ?道・・・?」

後藤さんが歩を進める。
あたしもそれに続き、その後に麻琴が続く。

少し進んだところに、何故かある“道”。
それもアスファルトとかそういうんじゃなく、光の一本道。

「なんやの・・・一体?」

呟き、首を傾げる。

第一、何でこんなとこにあたしたちはいるんよ?
あたしたちはあの天空の要塞で、咲魔夢霧と戦とったはずやのに・・・。

―――それは、皆が進む新しい“道”ですよ。

172 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:19
「あさ美?!」
「あさ美ちゃん?!」
「紺野?!」

ふと、聞こえた聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには優しい微笑み。
輪郭に沿って淡い光をたたえ、紺野あさ美は静かに佇んでいた。

「あさ美、これはどういうことやの?」
「あたしたち、あのおっきな女の人と戦ってたはずだよ」
「だいち、ここはどこ?」

次々と発せられるあたし達の質問に、
あさ美は苦笑しながらもはっきりと答えていく。

―――まず、咲魔夢霧さんは消滅しました。

―――そして、ここは“道”を決める場所。

「「「はっ?道を決める場所?」」」

見事にハモッたあたしたちに、あさ美は更に苦笑を深くする。

でも、すぐにそれを微笑みに変えると、
白い天井を見上げながら、ポツリポツリと語り始めた。

―――“道”は分岐します。
   その分岐した“道”のどれを進むかによって、全く歩む人生は異なるんです。
   皆さんは、『咲魔夢霧に創られる』という一つの道を歩んでしまった。

首を傾げるあたし達。
でも、そんなことはお構いなしにあさ美は話を進めていく。

173 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:19
―――それによって、あんな結末になってしまった。
   だから私は、戻しました。いや、消したんです。今までの時間軸の流れを。
そして・・・

優しい微笑みのまま、あたし達を見つめ、
次に自分が立っている道の先を眺めるあさ美。

目の錯覚だろうか?
その身体が一瞬、点滅したような気がした。

―――そして、創りました。新しい時間軸を。
   でも、“道”の先がどういう風になっているかは、私にも分かりません。
   それは、歩んだ人だけが分かるものですから。

…錯覚じゃない。
点滅している・・・なんで、どうして?

―――時間ですね・・・。
   短い間でしたが、最後にこうして挨拶が出来てとても嬉しかったです。
   皆さん、しっかりと、でも焦らず“道”を歩いてくださいね。

174 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:20
今にも消えてしまいそうな、あさ美の身体。
あたし達は彼女を繋ぎとめようと、手を伸ばし、“道”に一歩を踏み入れた。

その瞬間、あさ美は笑顔と一筋の涙を残し、完全に消え去った。

「あさ美!」
「あさ美ちゃん!」
「紺野!」

叫ぶあたし達の身体が、だんだんと淡い光に包まれだす。

―――すいません・・・私は禁忌を破り、人を消してしまいました。
   だから、輪廻を剥奪され、その“道”を進むことは出来ないんです。

175 名前:My Believe Ways 投稿日:2004/06/17(木) 08:20
どこからとも無く響いてくる、あさ美の普段となんら変わらない声。
でも、それが余計に悲しみを誘う。

―――私の最後の大仕事です。
   皆さん、強く生きてください。

「あさ美、何わけの分からんこと言ってるんよ!」
「あさ美ちゃん!もう一回姿見せてよ!」
「紺野、あたし達にこれからどうしろって言うの?!」

白い空間に、あたし達の声だけが木霊する。
あさ美の返事は、無い。

光が、空間のあちらこちらから発し始めた。

「あさ美!!」
「あさ美ちゃん!!」
「紺野!!」

もうお互いの姿も見えないほど、強さを増した光の中、あたし達はまだその名を呼ぶ。

次の瞬間。
眩いばかりの光が一層強く光って意識が薄れていく。

『―――――――――――――――――――――――――』

あさ美のか細い声が聞こえたのを最後に、あたしの意識は完全に途絶えた。


176 名前:**** 投稿日:2004/06/17(木) 08:21

177 名前:**** 投稿日:2004/06/17(木) 08:21

178 名前:**** 投稿日:2004/06/17(木) 08:21

179 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:22

エピローグ〜“道を、歩く〜
180 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:23
季節が巡って、あたしは卒業する。
振り返ってみると、少し小汚い大きな校舎。

―――三年間、お世話んなったの・・・。

式の時に渡された卒業証書を、
黒い筒に入れて持ち、あたしは歩き出す。

でも、

「おぉ〜い、愛ちゃ〜ん!」

聞きなれた声。
式であたしたちが歌ったとき、いっち泣いとってくれたヒト。

思わず口元が綻ぶのを感じながら、あたしは振り向いた。

「はぁ、はぁ・・・愛ちゃん、卒業おめでとう!」
「あんがとの」

人懐っこい笑顔。
あたしのいっこ下の幼馴染、小川麻琴。

大分走ってきたみたいで、額にはうっすらと汗が光っている。
全く・・・なんでもかんでも、全力疾走なんだっけ・・・。

181 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:23
「3年間って早いね」
「そやね・・・つい最近、入学したと思っとったのに、もう卒業かぁ・・・」
「・・・極端だよ」

この学校に入学してから三年間。
本当にいろんな人と出会った。

毎日交信している、変わり者保険医の飯田圭織先生。

その一睨みだけで相手を失神させたという伝説を持つ、ツッコミ数学教師藤本美貴先生。

まるでオセロのようだった、吉澤さん石川さんカップル。

いつもハイテンションの同級生、松浦亜弥ちゃん。
実は彼女、藤本先生と付き合っているとか、いないとか・・・。

どれもこれも素敵な人ばかり。

でも、何故か、あたしの胸の中には一つの穴が開いているみたいで・・・。

182 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:23
あたしは毎日に満足している。
でも、何かこう、いい知れない寂寥感があるんよ。

それはもう、大分前からの話だけどの・・・。

「あ。あれ、後藤さんじゃない?」

思い出に浸り、少しの疑問に脳を回転させていたとき、
麻琴があたしの肩を叩き、校門のほうを指差した。

彼女の言葉の中に含まれていた、一つの単語のおかげで顔に熱が灯る。

ゆっくりと。
振り返って、心臓が大きく跳ねた。

「カッコいいよね〜」
「・・・当たり前やよ」

スラッと細く長い四肢、短く綺麗な栗色の髪、大きくて綺麗な瞳。
いつ見てもドキドキして、見惚れてしまうくらいに美しい。

歩いてくる姿も、とても堂々としていてこれもまた・・・。

「高橋、卒業おめでとう」

やんわりと微笑んで、紡がれた言葉にまた顔の熱が上昇する。

183 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:24
あたしは掠れた声で、
「・・・ありがとうございます」と言うのが精一杯やった。

「あは。高橋、まだ慣れないの〜?付き合ってもう、大分経つのに」
「愛ちゃん訛ってるけど、結構シャイなんすよ」
「・・・訛りは関係ないわ」

好き勝手に話す、麻琴とあたしの恋人。
小さく突っ込みを入れるも、完璧に流され二人は楽しそうに会話を進める。

「あれ?そういえば後藤さん、仕事はどうしたんですか?」
「んあ?ああ〜・・・今日休み」

どこか歯切れの悪い返答。
だから気付いた。それが、嘘だって。

あたしと同じ高校を一年先に卒業した後藤さんは、
大学へ進学するでもなく、なにか職に就くわけでもなく、
一人暮らしの生活をバイトの掛け持ちによって食いつないでいる。

そのスケジュールたるや、超人的で、休みなんかめったに無いはず。

―――・・・サボってきてくれたんか・・・。

そう考えたら、自然と頬が緩んじまうわ。

184 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:24
「そういえば、愛ちゃん。歌手になるって本当なの?」

麻琴が思い出したかのようにあたしのほうへと向き直った。
それを追って後藤さんもこちらに。

二人に見つめられて苦笑いを浮かべながら、
でも、躊躇うことなくあたしは言う。

「まあの。まだ歌手んなれるかは分からんけどの」
「高橋は偉いよね。あたし、応援するよ」

眩しいくらいの笑顔で、
後藤さんはあたしの頭を優しく撫でてくれる。

やっと治まったのに・・・。

また顔に熱が戻ってきた。

「あー!あたしも応援するよー!」

挙手をして、元気よく言う麻琴。
その明るい笑顔につられて、思わずあたしたちも笑顔んなる。

何の変哲も無い、
普通の、あたしたちの日常。

でも、
やっぱり何か、言い知れない寂しさが沸いてくる。

185 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:25
何でやろう?
あたしがいて、麻琴がいて、後藤さんがいて・・・こんなにも楽しそうに笑いあって。
それなのに、なんで寂しさなんか感じるんやろう?

何かが足りない・・・
誰かが足りない・・・
そう思ってしまうのは何でやろう?

―――・・・らないで・・・。

春の穏やかな微風に乗って、微かに聞こえた聞き覚えの無い声。

笑顔を消し、
辺りを見回してみるけど、そこにいるのは学校の生徒ばかり。

…聞き覚えが、ない?

「どうしたの、愛ちゃん?」

麻琴の疑問の声にも返事を返さず、あたしは声の主を探し続ける。
…あの声、あたしは・・・。

「・・・高橋?」

186 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:25
後藤さんの呼びかけと同時に、
先ほどまで穏やかだった春風が、強さを増した。
麻琴と後藤さんが驚いたような声をあげ、よろけそうになる。

あたしも、暴れる髪を押さえながら、ふと校門のほうへと目をやった。

…いた。

別に何の根拠も無かったけど、そう思った。

強い風の中、校門の中央に立ち、
肩ほどまでの髪をなびかせることも無く、その子はこちらに微笑を送っていた。

どんな顔か確認したかったけど、
それは目深にかぶった帽子に阻まれ、叶わなかった。

『・・・――――』

その子が口を開く。
何を言っているか聞こえるわけない。

聞こえるわけ無いのに、聞こえた。

耳に音として入ってくるのではなく、脳に直接送り込まれてくる感じ。

『―――――――――――――――』

187 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:26
その子の言葉を聞き終わって、あたしは目を見開いた。

その子はニコッと微笑むと、踵を返し歩き始める。
無意識に、あたしは走り出していた。

もう風は、止んでいる。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

何でやろ?
わざわざ全力疾走なんかしんたってよかったのに・・・。

でも、何か身体が勝手に動いて・・・勝手に足が進んで。
気がついたら、もう校門のところで荒い息をしていた。

―――いない・・・

右にも、左にも、正面にも。
あの子の姿は見当たらない。
そんなに急いでいるふうには見えなかったのに、いまや影も形も見当たらない。

「高橋・・・今の子って・・・」
「・・・」

188 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:26
いつの間にかあたしの後ろに来ていた後藤さんが、
辺りをキョロキョロと見回しながら眉をひそめた。

その様子に、あたしは眉を持ち上げた。

「・・・後藤さんたちも、見たんですか?」
「うん。あと、何か言ってたよね」
「・・・」

様子がおかしい。
後藤さんの隣にいる麻琴が、一言も言葉を発せず、どこかを見つめている。
どこか悲しげな、そんな表情で。

「・・・さみ、ちゃん・・・」

僅かに開いた唇から漏れた言葉。
小さすぎて聞こえなかったので、少し近寄って耳を済ませてみる。

「・・・あさ美、ちゃん・・・」

思わず、息を呑んだ。
心臓が、早鐘のように速度を増す。

189 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:26
全く聞き覚えの無い名前。
知り合いにもそんな名前の子なんかいなかったはず。

でも・・・なんで・・・
なんで、こんなにも懐かしくなるんや?

「・・・あ、さ美・・・」
「・・・紺野、あさ美・・・」

どこか確かめるように。
小さな声で、その名を反復するあたしたち。

「麻琴・・・なんで泣いてるん?」
「・・・愛ちゃんだって」

知らず知らずのうちに流れ出てくる涙。

悲しいのか?
ううん・・・なんか違う。
どちらかというと、嬉しいのかな?

よく分からんけど、そう。なんか嬉しいんや!

「なんかよく分かんないけど、嬉しいね」
「・・・あたしもです」

後藤さんと麻琴がそう言い合って、涙を流しながら微笑む。

190 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:27
今あたしの・・・あたしたちの心の中は、満たされている。
何かが足りないなんていう、そんな気持ちはもう感じない。

あの子が・・・
帽子をかぶっても、隠し切れないふっくらした頬を持った少女が、
あたしたちの心の一欠けらをはめていってくれた。

「――――――――――――――――」

「愛ちゃん、それって・・・」
「あの子の・・・」

あたしは何も答えず、ただ微笑むだけ。
そして、青く澄み切った空に向け、静かに呟いた。

「・・・あたしの決めた道や」

あたしたちは横一列に並び、空を見上げた。

あの子が微笑んでくれているようで・・・。
あの子が見てくれているようで・・・。

「「「・・・ありがとう」」」

誰にとも無く、空へと。
あたしたちはそう呟いて、一緒に歩を進めた。

その時、再びあのか細い声が聞こえた気がした。


『あなたたちが信じる道を、歩んでください』


191 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:29


あたしたちは、
あたしたちが信じた道を歩く。


                  My Believe Ways 〜完〜
192 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:29
 
193 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:29
 
194 名前:エピローグ〜“道”を、歩く〜 投稿日:2004/06/17(木) 08:29
 
195 名前:あとがきみたいなもの 投稿日:2004/06/17(木) 08:42
はい、これにてMy Melieve Ways終了にございます。
ちょっと作者のあとがきみたいなものを書かせていただきますが、いらんと思った人はスルーしてください。

それでは・・・
これは、私の処女作となる作品です。
思い起こせばまだ2月・・・書き始めようと思い立ち、
悩んだ挙句、たった二日で決断を下したのもまたこの作品でした。
無計画がたたり、やたら長くなってしまい、作者自身も焦ったものです。
しかし、無事完結できたのも読んでくださる読者様がいたから!
言葉では言い表せない感謝でいっぱいにございます。
本当にありがとうございました。

最後に、私はまだ無謀にも執筆を続ける気でいます。
ここもまだ容量があまっていることですし。
ここでは我道として話をupしていきたいと思いますが、新作として他の作品を上げるときは心機一転の意も含め新しいHNであげようと思っています。
もし、「あ。この駄文は貴様かぁ!」と気付いた人がいれば、遠慮せず声を掛けてください。(拝

長くなりましたが、最後に二言・・・
今まで本当にありがとうございました。

そして・・・

――――咲魔凶子は永遠ですか?
196 名前:我道 投稿日:2004/06/17(木) 08:42
我道でした
197 名前:我道 投稿日:2004/06/17(木) 08:47
最後の最後に・・・
My Melieve Waysって・・・題名間違えんなよ、自分・・・
My Believe Waysです・・・_| ̄|○
198 名前:25 投稿日:2004/06/17(木) 09:42
川oーдー)・・・
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/17(木) 10:37
連載終了お疲れ様です。
楽しませていただきました。

次回作、さがしますね。w
200 名前:shou 投稿日:2004/06/17(木) 16:12
連載終了お疲れ様でした。
長い間、楽しませていただきました。
思い出してみれば初めて書き込みした作品でした。

次回作も読ませていただきます。
201 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/17(木) 18:11
完結お疲れ様でした。
スッキリとしてそれでいて心に何かを残してくれるラスト、感動です。
実を言うと自スレでちょくちょくココで見たモノを
生かして(殺して?)たりとしたもんデス、、、ホントありがとうございました。

例のアレもこちらでやってもらえるようなので楽しみにしてますし
次回作の方も必死に捜しますw

えぇでは最後に、
―――――――咲魔凶子は、永遠です。

良き作品をありがとうございました。
202 名前:我道 投稿日:2004/06/19(土) 14:54
>>198 25様
完結まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
そして、
_| ̄|○<こんなラストでスイマセン・・・。

>>199 名無飼育さん様
完結にありがとうございます。
ありがたいお言葉をいただき、思わず跳びあがって、足の小指を角にぶつけてしまいました(←アフォ

次回作・・・実はもう始めちゃってます(ぼそっ

>>200 shou様
ありがとうございました。
私の駄作なんかに最初の書き込みとは・・・嬉しすぎて言葉も出ません(涙

>>201 名も無き読者様
ありがとうございます。
感動とはまた・・・こちらこそ感動してしまいます(感涙
私のつまらないネタなんかを生かしてくれるなんて、嬉しい限りです。

これからも頑張っていこうと思います。
読んでいた皆様本当にありがとうございました。
そして、よろしければこれからもよろしくお願いします。
203 名前:我道 投稿日:2004/06/19(土) 14:56
さて、これからUPするものは、
前スレでひっそりと書いていた「君という花」という作品です。
(作品と呼べるか分かりませんが・・・)
あちらの容量がいよいよ限界に来たので、こちらで再録という形をとらせていただくことにしました。
完結まで一気にUPしたいと思いますので、
あらかじめご了承ください。。。
204 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 14:57
君の目に、ただ光る雫―――

ああ、青天の霹靂―――

どうしてあんなことしか言えないんだろう?
どうしてあたしはこんなにも不器用なんだろう?
今更だけど、自分で自分が憎らしい。

痛みだけなら二等分―――

痛みは全部彼女が引き受けていた。
あたしは何もできず・・・してやれず。
ただただあの子を邪険にした・・・。

そして、結果は青天の霹靂。
あの子の笑顔はとうとう崩れ、光る雫が流れ出した。

それでも、あたしはなにもできず、してやらず。

冷たい瞳であの子を睨み、その場を立ち去った。

205 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 14:57
「・・・バカや・・・」

今更ながらに自己嫌悪。
冷たい雨が、あたしの身体を打ちつける。

先ほどまでは雲ひとつ無かったのに・・・。
空まで青天の霹靂だ・・・。

「・・・あたしは、大バカや・・・っ」

それは雨なのか、涙なのか・・・。
そっと頬に触れてみるけど、
やっぱり分かるわけも無く・・・。

雨は、だんだんと強さを増す。

206 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 14:58
「・・・な、んで・・・も・・・っと、ひぐっ!やさ、しく・・・」

言葉が続かない。
視界が霞む。
あの子の呆然と泣き出した表情が、脳内ビジョンに映し出された。

再生、終了、巻き戻し。
再生、終了、巻き戻し・・・それの繰り返し。

好きだと言われ、
付き合いだしたのはもう1ヶ月も前。

了承したときの嬉しそうな、
でもやっぱり控えめな彼女の笑顔。

207 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 14:58
内心はすっごく嬉しかった。
飛び上がって、叫んでしまいたかった。

でも、
あたしのつまらないプライドが
それを邪魔した。

「ほん・・・と、ぐすっ・・・つまらなすぎや・・・」

同じ高校で、
同じクラスで、
勉強でも運動でもトップの方にいたあの子。
さらにその控えめな性格がうけ、クラスでもかなりの人気者。

運動はできても、勉強は人並み。
あたしには無いものをたくさん持っているあの子に、
いつしか嫉妬していた。

208 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 14:58
―――
―――――
―――――――
209 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 14:59
息苦しい・・・。
頭痛い・・・。
吐き気がする・・・。

体調は、はっきり言わなくても、最悪。
自宅のベッドに身を預け、天井を仰ぎながら苦しみと戦っている。

39度4分・・・。

ほとんどインフルエンザみたいな熱の高さに呆れ、
倒れたのはもう4時間前のこと。

あんな雨の中、
1時間以上も突っ立ってたんじゃ風邪ぐらい引くというもの。

阿呆やのぅ・・・。

210 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 14:59
チラッと。
首だけ動かし、壁にかかる時計を見てみる。

長針と短針が重なり、
共に12を指している。

学校は・・・4時間目の途中だろうか。

あの子はちゃんと学校へ行ったかな?

ボーっとする頭に浮かんでくるのは、
ぽろぽろと涙を流すあの子の姿。

頭に一際鋭い痛みが走った。

211 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:00
「・・・くそ・・・っ」

情けなくて、
悔しくて、
自分が憎くて・・・。

もう、このまま死んでしまえばどんなに楽だろう?

涙が頬を滑り落ち、枕を濡らす。

あの子はどんな気持ちだった?
今のあたしよりも・・・苦しんでた?

考えて、涙を流しながら自嘲の笑みを浮かべる。

何言ってんの?

212 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:00
あたし、バカ?

正真正銘、救えないバカ?

苦しんだに、決まってる。

あんなに大きな目を、更に見開いて・・・。
その目に似合った、大粒の涙をポロポロと流して・・・。

今のあたしの苦しみなんか・・・ゴミみたいなもの・・・。

それなのに・・・何が苦しんだ?だよ・・・っ。

情けなくて、
バカみたいで、
恥ずかしくて、
掛け布団を頭までかぶり、唇を噛み締めた。

213 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:01
張り付いて消えない、
あの子の笑顔と涙を流す顔。
あたしは、こんなにもあの子に依存してしまっているのに・・・。

あたしのつまらないプライド・・・。
それがあの子を認めるのを拒んで・・・。

結果は・・・。

「・・・・・・もう」

布団の中で、一人呟く。

そこで更に自分を嘲った。

誰もいないのに・・・、
ただの独り言なのに・・・、

何故こんなにも、
この言葉を紡ぐことを躊躇うのか?

214 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:01
ここは自宅。
あの子に会える、学校じゃない。

なのに、どうして、こんなにも胸が締め付けられるんだろう?

それは決して風邪のせいだけじゃ、ない。

「・・・もう、終わったほうがええのかな?あたしたち・・・」

布団から顔を出し、天井に向かって言った、
短い、別れを告げる言葉。

やっぱり、
胸が押しつぶされているみたいに痛んだ。

215 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:01

――――*

216 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:02
つまりただそれ―――

砕け散っただけ―――

砕け散ったのかな?

うん・・・
それがいいや。

砕け散って消えてしまえば、
あの子も苦しまずにすむし・・・。

でも、
それでも、
それが良策だと分かっていても、

涙を流してしまうあたしは、ジコチュー過ぎますか?

217 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:02

218 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:02
「・・・なんや、この顔・・・」

自宅療養生活も3日目に突入。
いい加減熱も下がってきて、お風呂に入ろうとした矢先のこと。

鏡を見て、思わず顔をしかめた。

「・・・出目金か・・・」

赤く腫れ上がった両方の目。
その下には、何故か隈。
頬には涙の後。

髪もぼさぼさで、
とにかく・・・酷いの一言。

「・・・阿呆みたいや・・・」

219 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:03
自分を蔑むように見て、
パジャマに手を掛ける。

ボタンを一つ一つ外していくときも、
考えるのはあの子のこと。

しつこい・・・。
しつこすぎる・・・。

そう思っても、
勝手に浮かんでくる、あの子の姿。

大きくて、吸い込まれそうなくらいの黒の瞳。

肩ほどまでの、綺麗なダークグレーの髪の毛。

ふっくらとして、気持ちよさそうな頬っぺた。

また、涙が浮かんできた。

220 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:03
「くそ・・・っ」

 ザバァ・・・

洗面器に入れたお湯を頭からかぶり、
湯船にもぐりこんだ。

それでも、
まだじんわりと視界が歪む。

「くそっ、くそっ、くそっ・・・」

張り付いて取れない、
あの子の姿を消すために。

何度も、
何度も、
乱雑に。

221 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:04
お湯を掬い上げては、
叩きつけるように、顔を洗った。

でも、
そんなことをしても消えることなんか無くて・・・。

思いは、
何故だか更に強くなる。

「なんでや・・・なんでやよ・・・っ」

あたしの目から零れ落ちた雫が、
湯船に張ったお湯に波紋を作った。
222 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:04
―――*
223 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:05
「・・・はぁ」

ため息をつくと、幸せが逃げるって言う。

だったら、
もう大分逃げちゃったな・・・。

何もする気が起きず、
自室のベッドの上で、
ただぼんやりと時が過ぎるのを感じている。

一人だと、
心身ともに一人だと、
こうも時間の流れというのは遅いものだろうか?

224 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:05
無機質な天井に飽き、
ごろんと寝返り。

「・・・何ブスッとしてるんよ」

嬉しいくせに・・・。

机に張られた、
何枚ものプリクラ。

笑顔のあの子。
無表情のあたし・・・。

バカみたい・・・。

そこで笑っていれば、
そこで素直になっていれば、
多分・・・

いや。

確実に、
何かが変わっていたのに・・・。

225 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:05
「・・・あほ・・・」

過去に戻って、
そのときの自分に制裁を与えたい。

こんなこと願っても、
どうしようもないことだけれど・・・。

「・・・はぁ」

幸せが、
また一つ逃避行。

何枚もの写真が、
あたしの心に突き刺さる。

再び、
ごろんと。

226 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:06
無機質な壁と対峙して、
このまま眠ってしまおう。

そして、
明日、

全てを終わらそう・・・。

〜♪〜♪〜

音は小さくても、
静かな部屋には五月蝿いほど響く電子音。

静かに起き上がり、
乱雑に携帯を掴んで、開いた。

「――!」

受信したメールを開き、
目を見開き。

ついでに息を呑むと、
携帯を持つ手が震えた。

227 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:06

++++++++++++

T :具合、どうですか?

3日も風邪って大変だね。
私、気になって授業に集中できなくて
先生に怒られちゃった(苦笑)

でね。
今日、ついに―――

++++++++++++

228 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:07
飛び起きて、
部屋の窓を乱暴に開ける。

外は、
酷い雨。

――あぁ・・・。

雨にぬれた、綺麗な髪の毛。

少し紅潮した、柔らかそうな頬っぺた。

あたしが顔を出したことに、
その子はやはり控えめに微笑んだ。

「・・・紺ちゃん」

傘も差さず、
雨に打ち付けられながら微笑む彼女に、

やっと止まったはずの涙が、
再びこみ上げてきた。

229 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:07
――*
230 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:07
カチ、コチ、カチ、コチ・・・

いつもはそう感じない、
時計の時を刻む音。

二人・・・
何も話さずにいると、
こんなにも耳につく五月蝿い音。

彼女がチラッとあたしを見る。
あたしは慌てて視線を逸らす。

あたしのパジャマを着て、
あたしのバスタオルを頭に掛けて、
彼女は悲しげに目を伏せた。

あたしの心は大混乱。

231 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:08
何で来たの?

もう、嫌になったんじゃないの?

あたしたち、もう終わり―――

「・・・今日ね、数学小テストがあったんだよ」

紺ちゃんが口を開く。

どこと無く、
声が暗い。

この部屋の空気を消したいがために、
発せられた言葉というのは嫌でも分かった。

「・・・ほうけ」

素っ気無く。

俯きがちの彼女の口元が、
悲しげに歪んだ。

232 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:08
「・・・あの――」
「・・・のぉ」

聞きたくない。

だから遮った。

どうせ終わるのなら、
あたしから。

最後になる、
あたしのエゴ。

「あたしらさぁ・・・」

未だ止まない、雨を見ながら。
あたしは言葉を紡ぐ。

自分勝手で、
サイテーな、言葉を。

「・・・もう、終わりにせんか?」

233 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:09
ズキリッ・・・

そんな効果音がしそうなほど、
あたしの胸は痛んだ。

でも、
すぐにそんな自分を嘲笑う。

都合のいい・・・

「なんで・・・?」

少し、
震え気味の声。

あたしの胸の痛みは増す。

「・・・なんで、そんな事言う――」
「・・・厭きたから」

234 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:09
ぴしゃりと。

なるべく、
彼女の中にあたしが残らないように・・・。

最後の最後で、
彼女を想う行動は、
またしても自己中心的で・・・。

「あんたのお節介とか、
 付きまとわれたりとか、
 なんもかも、ぜーんぶ、嫌んなった」

振り向かず、
投げやりな口調で。

今にも泣き出しそうな紺ちゃん。

見えないけど、
ひしひしと伝わってくる。

ぎゅっと。
拳を握る。

235 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:10
「友達と遊びのキスしただけで、
 それを見ただけで泣きじゃくるような奴は、
 もう嫌んなった・・・」

何都合のいい事言ってんの?

あたしが悪いのに、
あたしだけが悪いのに。

別れようと思い、
口に出す言葉一つ一つに、
あたしは腹立つ。

でも、
これが最良の策――

「・・・やから――」
「・・・嘘」

236 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:10
あたしの言葉を遮り、
紺ちゃんは力ずくで、
あたしの顔を自分のほうへと向かせた。

見つめあうあたしたち。

紺ちゃんの頬には涙の通った跡。

潤んだ目は、
あたしを見つめて、悲しそうに歪む。

「・・・嫌になったんだったら、
 どうして・・・
 どうして、涙なんか流すの?」

「・・・え?」

ソッと頬に触れてみる。

237 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:10
指に付着する、
暖かい液体。

なんで・・・
どうして・・・
あたしが・・・

あたしなんかが・・・

紺ちゃんの前で無く資格なんてない、あたしが・・・。
238 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:11
―――
―――――
239 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:11
雨も上がり、
あたしは紺ちゃんに言われるがまま、外に出た。

雨雲が流れていき、
待ちわびたように顔を出した太陽が、
下界を照らす。

「ここ、
 いい眺めでしょ?」

控えめな笑顔・・・。

240 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:12
君が泣いたとき、
もう二度とその笑顔は見れないと思った。

でも、
今あたしの前には、君がいる。

それは、何故?

あたしの別れの言葉を聞き入れず、
裏の丘に行こうといった君の優しい表情。

何のつもり?

また傷つくよ?

辛い思いをするよ?

早く分かれようよ・・・。

241 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:12
「・・・のぅ」
「ん、何?」

やめて・・・。

その笑顔を向けないで。
汚れたあたしに向けないで。

苦しいよ・・・すっごく、苦しい。

「・・・さっきの返事」
「だから、嫌」

その話題を出すと、
笑顔は消え、君の顔は強張る。

でも、
小さいけど、はっきりと、
躊躇うことなく、あたしの決断を拒む。

242 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:12
「なんで・・・なんでやよ!?
 もう、これ以上は疲れたんやよ!
 面倒なんよ!」

「嘘!
 愛ちゃん無理してる!
 涙流してまで、私と別れたくないんでしょ?!」

「うぬぼれんな!!」

言葉で駄目なら、
力づくで・・・。

ほんと、
最悪やな、あたし・・・。

243 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:13
「もうウンザリなんよ!!
 まいんち、まいんち、
 しつこいくらいに付きまとって、
 もう、アンタなんか・・・」

「じゃあ、
 何で、それつけてるの?」

胸倉を掴まれても、
紺ちゃんは怯むことなく、
あたしの瞳を見つめ返してくる。

その細い指先が指し示した物は、
あたしの首に掛かる、
君がくれた愛の象徴。

思わず、
手を離し後ずさった。

244 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:13
「それ、
 私が告白した次の日にプレゼントしたネックレスだよね?
 私が嫌いになったんだったら、
 何で今でもつけてるの?」

言葉が、出てこない。

常日頃から、
肌身離さず、首にぶら下がっていた、
シルバーのハートがついたネックレス。

仏頂面をして受け取った、君の愛。

いつも、
これを見て、一人にやけていたんだよ・・・。

245 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:14
離せる訳、無いじゃん・・・

捨てられるわけ、無いじゃん・・・

君がくれた、初めての愛の形なんだもん・・・

捨てられるわけ、無いよ・・・

「っく!
 どうして・・・どうしてやよ・・・
 あたしは紺ちゃんを傷つけた・・・
 なのに、何で、
 普通にあたしんとこ来て、
 普通に接するんやよ・・・。
 んなことしてもらっても、
 あたしが惨めになるだけやのに・・・」

嗚咽をはさみながら、
膝をつき、
君を責めるように紡ぐ言葉。

246 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:14
なんで、

どうしてこうも、

あたしという存在は、

汚く、

情けないんだろう・・・。

247 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:15
 
248 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:15
拭っても、
拭っても、
止め処なく零れ落ちてくる、涙。

邪魔・・・
邪魔、邪魔・・・

止まれ・・・

早く・・・

「止まれよぉ・・・っ」

俯き、
情けなく、嗚咽を漏らすあたしに、
静かに差し出された、純白のハンカチ。

249 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:15
綺麗な、綺麗な・・・
ハンカチを掴む手も、汚れを知らない。

受け取れない。

今のあたしになんか、
受け取れるはずがない・・・。

「もう・・・」

呆れたような、
でも、すごく優しい手つきで。

キミは膝を屈めて、
あたしの頬を拭ってくれる。

あたしを見つめる、
大きく、
優しい、
黒い二つの瞳が、
あたしの胸に棘を刺す・・・。

「やめてっ!」

250 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:16
我慢できなくて、
痛みを堪えるのが辛くて、
あたしは乱暴にキミを突き飛ばす。

「きゃっ」

勢いを殺せず、
後ろ向きに転んでしまうキミを見て、
またズキリと胸が痛む。

でも、あえて、手は貸さない。

唇を引き結んで、
彼女から目を背けた。

「大丈夫だよ、愛ちゃん」

251 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:16
背中に投げかけられたキミの言葉は、
すごく柔らかく、
心地よい響きを残し、
あたしの心に沁みこんでくる。

「私、愛ちゃんのこと好きだから」

肩に乗せられた手と、言葉。

でも、
それがあたしの痛みを逆なでする。

乱暴に、
腕を振り上げて、
彼女を振り払った。

「やめてや!
 あたしはアンタを傷つけたんよ!
 あんたに好かれる資格なんて、
 あたしにはないんよ・・・っ!」

252 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:17
ポロポロと。

あたしの涙は、
今日、
枯れてしまうんじゃないだろうか?

「・・・愛ちゃん」

再び頬に当てられた、
柔らかな感触。

「好かれる資格が無いって、
 誰が決めたの?」

ゆっくりと、
ハンカチを上下させながら、
あたしを責めるように、
でも、
宥めるような口調で。

253 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:17
「勝手に決めないでよ。
 私はまだ愛ちゃんのことが好き。
 愛ちゃんしか、目に入らない。
 愛ちゃんがいないと、私の毎日は楽しくない」

あたしを捕らえる、
真直ぐな瞳。

純粋で、
優しくて、
でも、
それでいて、
ものすごく強い意志が詰まった、
大きな黒い瞳。

「こんなに、
 私は愛ちゃんに依存してるのに、
 愛ちゃんは離れていっちゃうの?
 そんなの、嫌だよ。
 絶対に許さないよ」

254 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:18
少しもずらさずに、
強いけど、
穏やかな口調で話すキミを見て、
あたしは目を丸くする。

今まで・・・
こんなにも真直ぐに、
あたしにむかってくる紺ちゃんは、はじめて見た。

いつもおどおどして、
付き合ってるっていうのに、
あたしの前に出るときは、
どこか控えめな態度で・・・。

「愛ちゃんも、私に依存してよ。
 私だけなんて嫌だよ。
 もっと・・・
 もっと、もっと、
 私だけを見てよ」

255 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:18
ニコリと。
微笑むと同時に、
流れ落ちたきらりと光る雫。

気がついたら、
あたしはその華奢な身体を、
抱きしめていた。

「ごめん・・・
 あたしが・・・あたしが悪かったんや。
 ふざけて、
 紺ちゃんの目の前で、
 キスなんかして・・・。
 でも、でも・・・っ!」

何も言わず、
あたしの背中に回してくれた
その細い腕は、
あたしをしっかりと、
でも、ふんわりと包み込む。

256 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:19
「泣かせて・・・
 傷つけてみて、初めて気付いた。
 あたしは、こんなにも、
 紺ちゃんに依存してるんやなぁって・・・。
 寝ても覚めても、
 紺ちゃんのことしか浮かんでこんかった・・・。
 つまらん意地張って、
 素直になれんかった自分が、
 えっれ、ムカついて・・・
 えっれ、情けなくて・・・」

ギュッと、
あたしが腕に力を込めると、
紺ちゃんも、少し力を込めてくれる。

「ごめんね、愛ちゃん。
 私にも原因があるんだよね・・・。
 付き合ってるっていうのに、
 少し・・・
 ううん。
 どこか距離を置いてたよね。
 だから、
 愛ちゃん不安になっちゃったんだよね?
 ごめん・・・ごめんね・・・」

謝るキミに、
あたしは馬鹿みたく首を振る。

257 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:19
君は何も悪くない、
君は何も悪くない。

その意味を込めて。

「紺ちゃん・・・」
「愛ちゃん・・・」

スッと。
お互い同時に腕の力を弱め、
少し、
ほんの少しだけ、離れる。

あたしはキミを見上げ、
キミはあたしを見おろす。

照れくさそうに微笑むキミに、
ゆっくりと近づき、
唇を重ねた。

258 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:19
優しく・・・

ただ触れるくらいのキスだけど、
そのキスはあたし達を安心させる。

唇を重ねている間、
お互いの鼓動が聞こえ、
何でか、恥ずかしくなった。

ドキドキドキ・・・

紺ちゃんの鼓動。

ドキドキドキ・・・

あたしの鼓動。

唇を離すとき、
お互いの心に残る余韻。

259 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:20
もっと、
もっと・・・。

心が叫び、
更なる安心を求める。

だから、
再びお互いを抱きしめた。

「愛ちゃん・・・」

別の方法だけど、
すごく安心できる。

キミの温もりが伝わって、
心から安心できる。

「大好きだよ」

はにかみながらも、
小さな囁きながらも、
しっかりとあたしの耳に届く、その言葉。

また、
視界が潤むのを感じた。

「あたしも・・・」

260 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:20
丘から見えるこの街に・・・
決して大きくないこの街に咲いた、君という花。

「あたしも、大好きやよ・・・」

その花が、
今あたしの腕の中にいる。

「もう、離さんからの・・・」
「私だって」

一度は枯らせてしまったと思ったけど、

こんなに近くにいるんだから、

あたしの傍にいてくれるんだから、

「ぜってやよ・・・」
「・・・うん!」
261 名前:君という花 投稿日:2004/06/19(土) 15:21

今度こそ、

咲かせてみせるよ。

君らしい色に。

                    fin
262 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/19(土) 21:32
こっちも完結お疲れサマです。
次回作に「おっ、面白そうな新作だ、ワ〜イ♪」
・・・と、フツーに我道サマのと気付かずレスしていた事実のショックから
抜け出せてなかったんですが、コレのおかげで立ち直れそうです。w

ん〜、イイですね。。。
ネタバレしない程度だとこんな薄っぺらな感想しか言えない自分が情けないですが
こちらもあちらも楽しみにしてます。
263 名前:25 投稿日:2004/06/20(日) 04:04
レス数見て再録とは気付かず「長っ!」とか思ってしまった25です。
完結お疲れさまでした。この曲、その内聴いてみます。
さ、新スレ探すか♪
264 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/21(月) 14:54
新スレがどこにあるかわかりません。。。
よかったら教えて下さいm(__)m
265 名前:我道 投稿日:2004/06/21(月) 17:03
どうも、作者です。
更新ではないのですが、ちゃんと答えないといけないなと思い。
でも、やっぱりちゃんと言うのは恥ずかしいので落としてお知らせします。

http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/sea/1086508857
↑ここへどうぞ。
266 名前:我道 投稿日:2004/06/22(火) 22:11
>>262 名も無き読者様
その件に関しましてはまことにご迷惑をおかけしました。
読者様の感想レスは、どんな時でも作者に活力を与えてくれます。
ありがとうございます。

>>263 25様
いい曲ですよ。まあ、人それぞれですが・・・

>>264 名無飼育さん様
お手数、ご迷惑をおかけしました。
267 名前:我道 投稿日:2004/06/22(火) 22:12
ochiでいきます。
それでは、どうぞ。。。
268 名前:Factory 投稿日:2004/06/22(火) 22:13


―――創ります、あなたが望むものを・・・。

―――直します、あなたが大切にするものを・・・。

―――御代は・・・要りません。

―――ただし・・・


269 名前:Factory 投稿日:2004/06/22(火) 22:14


Factory


270 名前:Factory 投稿日:2004/06/22(火) 22:15
小さい一軒家の前に大きなリュックを背負い立っている少女一人。
どこか不安そうな目でその何の変哲も無い、どこにでもあるような一階建ての、はっきり言ってぼろい家を見上げる。

すると唐突に、扉がガラガラと音を立て横にスライドして開いた。
少女は驚き一歩身を引く。
中から出てきたのはちょっと目つきの鋭い、小柄な少女。
リュックを担いでいる少女も決して大きいほうではないのだけど、それよりも小さい。
明らかに年下だ。

てっきり自分よりも年上の人が出てくるかと思っていた少女は驚き、目を幾度か瞬かせた。

「お待ちしておりました。どうぞ、お入りください」

その少女は笑顔で、リュックの少女を家の中へと促した。
リュックの少女は軽く頭を下げて、おどおどとしながらその家へと一歩を踏み込んだ。

本当に何の変哲も無い、普通の部屋。
一つ言えば、畳が張られた部屋の中心には、今では珍しいちゃぶ台が置かれている。
それ以外は普通の、どっちかというと質素な感じが漂う、そんな部屋。

リュックを担いだ少女は首を傾げる。

「・・・あ、あの・・・」

なぜか申し訳なさそうに呟く。
小柄な少女は目を細め、微笑んでいる。

271 名前:Factory 投稿日:2004/06/22(火) 22:15
「こちらです」

少女は微笑んだまま、靴のままあがって、ちゃぶ台のところで腰を下ろした。
リュックを担ぐ少女にも、「座ってください」と促した。

リュックを担ぐ少女は少し怪訝に思いながらも、靴のままあがり、座った。

「それでは確認させていただきます」

小柄な少女がちゃぶ台をはさんでリュックの少女を見つめる。
その手にはなにやら資料らしき紙。
それをパラッとめくり、一瞥してから再び視線を戻し、柔らかな口調で言葉をつむいだ。

「安倍なつみ様。22歳。出身地北海道。血液型A型。間違いありませんね?」

リュックの少女――なつみはゆっくりと頷く。
それを見て、小柄な少女は機械的に頭を下げた。

「所長の助手の田中れいなともうします。本当ならもう一人助手がいるのですが、今で払っていて・・・私だけで対応させていただきます」

れいなはまたやんわりと笑う。
―――まだ幼いのにしっかりした子だな・・・。
なつみは感心して、そう思った。

272 名前:Factory 投稿日:2004/06/22(火) 22:16
「それでは所長のところにご案内させていただきます」

そこで言葉を切り、れいなは一度深呼吸。
そしてちょっと気恥ずかしそうに頬を朱に染めて、叫んだ。

「里芋、ジャガイモ、さつま芋!」
「ひゃっ!」

するとなつみとれいなの座っていたところが、いきなり沈んだ。
当然なつみは驚いたが、れいなは俯いてぶつぶつ言っている。

「・・・ったく、こん合言葉、はよぉやめて欲しいたい」
「?」

眉間にしわを寄せながら、先程までとは違う言葉を喋るれいなになつみは首を傾げる。
その間にも、なつみたちの座っている場所はゴウンゴウンという音を立てて下に沈んでいく。
周りの壁は、黒光りする鉄。というより、機械。
ところどころで小さな光が点滅している。

「あの、これは・・・」

恐る恐るなつみは尋ねた。
それでやっとれいなは我に返り、慌てて笑顔を貼り付けてなつみに向き直った。

「あ、すいません。えと、これはですね、エレベーターになっておりまして。所長の研究室と居間とをつなぐ、移動手段になっております」
「所長さんの研究室って、地下にあるんですか」
「はい。多少息苦しいところですが、ご勘弁を」

273 名前:Factory 投稿日:2004/06/22(火) 22:17
などと会話している間に、エレベーターは目的地に着き止ったようだ。
夏見の右手側、れいなの左手側に重苦しい鉄の扉が現れた。

「こちらです」

れいなはそこから降りると、扉のところまで歩いていき、横についている丸い突起にソッと触れた。
すると「ポーン」という音が鳴り、扉は静かに開いた。

「どうぞ」

れいなは振り向き、笑顔で部屋の中へと促す。
なつみは何故かおずおずと周りを見回しながら、足を踏み入れた。

途端に口をあんぐり、目をパチクリ。
200畳以上はあるかという広い部屋に詰め込まれた機械、機械、機械。
確かに息苦しいことこの上ない・・・。
なつみはジリッと後退し、顔をしかめた。

「お待ちしておりました。安倍なつみ様」

細く、小さなその声はしかし確かになつみの耳に届いた。
すっと顔を正面に戻してみる。
薄汚れた白衣を着、黒縁の眼鏡を掛けたふっくらした頬の女の子。
その子がなつみに笑顔を向け、立っていた。

274 名前:Factory 投稿日:2004/06/22(火) 22:17
「あなたが・・・」
「はい。『コンコン the Factory』所長のコンコンこと、紺野あさ美です」

そう言うと白衣の少女――あさ美は深々と頭を下げた。
なつみも慌てて頭を下げる。
そんな様子を見てれいなは少し可笑しそうに笑っていた。

「さて、今回の依頼の件ですが・・・」
「あ、はい!『彼女』のことなんですけど・・・」

なつみは慌てた仕草でリュックを下ろすと、チャックを開き、そこに手を入れた。
次の瞬間取り出されたものにれいなは短く悲鳴を上げたが、あさ美は微笑みながら見つめていた。

「・・・Type 02・・・かなり初期のものですね・・・」

あさ美はなつみの手の中のモノを見つめながら、静かに呟いた。
それでなつみは少し怒ったような表情になる。

「・・・そういう呼び方やめてください。彼女には“ヤグチ”っていうちゃんとした名前があります」

なつみは手の中のモノの頭を撫でながら、あさ美を睨みつけた。

「・・・失礼しました」

あさ美は真面目な顔つきになると頭を下げる。
なつみは再び手の中のモノを撫でた。

275 名前:Factory 投稿日:2004/06/22(火) 22:17
眩しいほどの金髪がさらっと流れても、まぶたが開くことは無い。
なつみの手の中のヤグチと言う首だけの少女は、無機質に眠り続けている。

「依頼は、ヤグチさんを治してほしい、ですよね?」

なつみはまだいささか憮然としながらも、コクリと頷く。
それを見てあさ美は再び笑顔を貼り付けてから、指をパチンと鳴らした。

するとあさ美の後方で床が開いた。
ゴゴゴという音を立てながら、下から何かが上がってくる感じ。
やがてそこには一つの診察台のような机が設置された。

「さ。ここにヤグチさんを」

なつみは促されるまま、両腕で抱えた首だけの少女―ヤグチを診察台に置く。
あさ美はそれを確認してから、静かに白衣の袖をまくった。
そして向こう側に回りこみ、ヤグチの頭をソッと撫でる。

「・・・ヤグチさんは、どういった経緯でこうなってしまったんですか?」

あさ美がそう訊くと、なつみは俯いて下唇をかんだ。
そのつぶらな瞳は潤みだし、今にも泣いてしまいそう。

れいなはそんななつみの様子にオロオロと慌てていたが、あさ美は何かを探るように目を細めてなつみを観察している。

「・・・あたしの、せい、なんです」

276 名前:Factory 投稿日:2004/06/22(火) 22:18
暫くして、なつみが口を開いた。
か細く、震えた、いかにも絞り出したという感じの声。

なつみは少しだけ顔を上げて、静かに目を閉じ眠る金髪の首だけの少女を見つめた。
するとついになつみの涙のダムが決壊した。
大粒の涙が、止め処なく流れ出し、床に落ちる。
目元をごしごしと拭って止めようとするが、それは全く効果をもたらしていない。

やがて嗚咽を漏らしながらなつみは床に座り込んでしまった。

「・・・・・・」

そのなつみの様子を見て、あさ美は顎に指を当てなにやら思案している様子。
れいなは困ったような表情で、なつみの背中を優しくさすっている。

「・・・分かりました。治してさし上げましょう」

ぱあっと明るくなるなつみの表情。
れいなもつられ、笑みをこぼした。

「ただし」

喜ぶ二人にどこか無機質な視線を送り、あさ美はこう付け足した。

「修理後のヤグチさんは、わたくしどもが預からせていただきます」
「なっ!?」


277 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/22(火) 23:14
おぅ、始まった〜♪
しっかしよくもまぁこう次々面白そうな話を考え出せるモンですな。。。
尊敬デスw
続きも楽しみにしてます。
278 名前:shou 投稿日:2004/06/28(月) 15:54
また面白そうな話が始まりましたね
我道様はやっぱりすごいですね!
頭が下がります(羨
続き楽しみにしてます。
279 名前:25 投稿日:2004/06/30(水) 13:18
なんか始まってる!まだあっちの読んでないのに〜
280 名前:我道 投稿日:2004/07/01(木) 00:25
レス返しのみです。スイマセン。。。

>>277 名も無き読者様
またしても素早き反応、ありがとうございます!
そ、尊敬なんて・・・私のほうこそですよ。
私の発想力、もとい妄想力が少しでも頭に入れば・・・
どうなってもしりませんよ(爆

>>278 shou様
皆様・・・誉めすぎです・・・。
思わず昇天してしまいますよ・・・。

>>279 25様
ゆっくりでいいので(w
25様のペースで進めてください。
281 名前:我道 投稿日:2004/07/01(木) 00:28
言い忘れていましたが、このスレには短編、中篇を中心にのせて生きたいと思っています。
更新は不定期というか、はっきり申し上げて、遅いです。
それも、血ぃ吐くぐらい遅いです。
スイマセン・・・あらかじめご了承ください。

我道)<拝 m(_ _)m
282 名前:石川県民 投稿日:2004/07/02(金) 02:17
 たいへんに遅ればせながら『My Believe Ways』の完結お疲れ様でございます&ありがとうございました。
紺ちゃんの最期にうるっときたのは内緒です(笑)。

 そして『君という花』アジカン…グループ名は知っていますが実際に歌は聞いたことないです。。。(爆)
我道サマのステキ小説で興味を持ちましたが、これってシングルなのでさうか???

 新作…とあるマンガを連想させてわくわくです♪
 不定期でも構いませんので、次回を楽しみにしています。
283 名前:我道 投稿日:2004/07/02(金) 20:58
>>282 石川県民様
ありがとうございます。うるっと来てくれましたか・・・嬉しいです(感涙
『君という花』はシングルです。勿論、アルバムにも入っています。
お進めですよぉ〜(w
新作のほうも頑張って生きたいと思いますのでよろしくですm(_ _)m
284 名前:Factory 投稿日:2004/07/02(金) 20:59
つぶらな瞳を押し広げるように見開くなつみ。
視線の先のあさ美は無表情。
何を考えているのか、汲み取れない。

「今、なんて・・・?」

自分の聞き間違いかもしれない。いや、そうに違いない。
なつみは口には出さず、弱々しくそう考えて、聞き返した。

「ですから、修理後のヤグチさんは私たちが引き取る、と言ったのです」

あさ美は抑揚の無い声で、しかし、確かにそう告げた。

「ふ、ふざけんじゃねーべ!!」

ダンと叩き付けた衝撃で、ヤグチの頭が揺れた。
なつみは憤然として、あさ美を睨みつけている。
傍から見ているれいなは、居心地の悪いことこの上ない。

「ヤグチはなっちの・・・なっちの大切なヒトだべ!
 直してもらったからって、得体の知れないあんたらなんかに預けられるわけねえっしょ!!」

地元の訛りを全開にしてまくし立てるなつみに、あさ美はぴくっと眉尻を吊り上げた。
先ほどとは打って変わって険しくなったあさ美の表情に、思わず怯んでしまうなつみ。
身内であるはずのれいなでも、顔を強張らせていた。

「あなたのせいなのでしょう?」

285 名前:Factory 投稿日:2004/07/02(金) 21:00
なつみの剣幕にも身じろぎ一つせず、
あさ美は抑揚の全く無い声で言い放った。

なつみの口が、ゆっくりと閉じていく。
目も、ばつが悪そうに伏せていく。

「あなたのせいで、ヤグチさんはこうなってしまったのでしょう?」

もう一度。
あさ美の容赦ない責めの言葉は、確実になつみの心に傷をつけていく。
何も言い返せず、ただ俯くだけのなつみ。
悔しさと悲しさで、表情が歪む。

「ちょ、ちょっと、所長。言い過ぎやなかとね?」
「田中ちゃんは黙ってて」

なつみの丸くなり、小さくなった背中を見かねたれいながフォローに入る。
しかし、あさ美の冷ややかな声で一喝され、黙りこくってしまった。

「いいですか?
 あなたのところに戻しても、近いうちに必ず同じことがおきます。
 それを防ぐためにも、ヤグチさんをここにおいて行くことが一番の良策なんですよ」

眉の一つも動かさず、淡々と言葉を紡ぐあさ美。
れいなは、言い知れぬ寒気を感じた。

怒っている。
今あさ美は、怒っている。
表情が無いのが、その証拠。
あと、その饒舌具合が・・・。

286 名前:Factory 投稿日:2004/07/02(金) 21:00
「お分かりいただけましたか?
 では、御代はいりませんので、お引取り願います。
 もう、夕食の時間ですので」

返事を聞く前にあさ美は、なつみの横を通り抜け、エレベータに向かう。
れいなは重苦しい空気の中、二人を交互に見ながらオロオロしている。

「――べさ・・・」

あさ美の足が止まった。
微かに響いた小さな声に、耳を澄ませる。

「嫌だべさ・・・」

嫌。
小さいけど、ハッキリと耳に届いたその言葉にあさ美は眉間に皺を寄せた。

「・・・それでも、なっちはヤグチと一緒にいたいべさ。
 今度は・・・今度こそは、なっちがヤグチを守るっしょ
 絶対、守ってみせるっしょ」

大仰に振り返ると、身に待とうサイズの大きい白衣の裾がはためく。
あさ美は険しい顔のまま早足でなつみに近づいていった。
そして、鼻の先がくっつきそうなほどの至近距離で、ジッとつぶらな瞳を睨みつけた。

なつみの足は、まるで根が張ってしまったかのように動かない。

287 名前:Factory 投稿日:2004/07/02(金) 21:01
「“今度こそ”、“守ってみせる”。
 安っぽい言葉を羅列するだけなら誰にでも出来ます。
 しかし、行動に移せる人は一握りのも満たない。
 実際に、そう思いながらもこういう結果になってしまったのでしょう?」
「でも、だからこそ!ヤグチを守りたいんだべ!」

冷たく突き刺さるあさ美の言葉に押されながらも、
なつみはそう叫んだ。

なつみの切ない思いが乗るその言葉を受けても、あさ美は表情を変えない。
大きい、吸い込まれそうなほど大きいその黒い瞳で静かになつみを見つめる。

耳が痛いほどの静寂が流れ、

「―――分かりました」

唐突に破られた。
あさ美は眼を瞑り、なつみから離れると、れいなへなにやら目配せをした。
ハッと息を呑んでから頷き、その辺に転がっている機械をごそごそといじるれいな。

なつみは訝しげな視線を、あさ美に送る。

「安倍なつみさん」

静かな声で、自分の名を呼ばれた。
反射的に、なつみは身体を強張らせる。

「あなたを試させていただきます」
「えっ・・・?」

理解が出来なかった。
突然試すなどといわれても、なつみには分からない。

聞き返そうとも思ったが、あさ美の厳しい横顔に口を噤んでしまった。
288 名前:Factory 投稿日:2004/07/02(金) 21:02

「所長。これですか?」
「ありがとうございます」

なつみが萎縮しているとき、
れいながなにやら帽子のようなものを抱えて戻ってきた。

そこら中に付着している突起。
それは明らかに布製ではない。

「そこにお掛けください」

機械の帽子を持ちながら、なつみに座れと促す。
なつみは未だ疑問の念が消えなかったが、とりあえず従うことにしておいた。

後方にあった椅子に座るのを見届けて、あさ美はスッとその機械の帽子を差し出した。

「これをかぶって下さい」

言われるがままに受け取り、かぶる。
ごつごつしていて、思ったとおりかぶり心地がわるい。
しかも、なつみの頭には大きすぎるようで、眼まで隠れてしまった。

「・・・なんですか、これ?」

闇に包まれた視界のまま、なつみは不安げに呟く。
寧ろ、ワケの分からない事を勝手に進められて、不安にならないほうがおかしい。

289 名前:Factory 投稿日:2004/07/02(金) 21:02
「これから安倍さんには、仮想世界を体験していただきます」

余計に、ワケが分からない。
首を傾げるなつみに構わず、あさ美はつらつらと進めていく。

「ヤグチさんの修理が終わって、安倍さんのもとに帰るとどのようなことがおきるかを想定して、創った世界です。
 あなたの決意というものを見せていただきましょう」

言い終わるや否や、頭にズキッと鋭い痛みが走った。
暗かった視界がだんだんと白くなり、それに応じてなつみの意識も薄れていく。

「・・・こんなんやから、儲からんとですよ」
「お黙りなさい」

妙な会話が聞こえた、僅かに数瞬後。
なつみの意識は真っ白な世界に堕ちていった。
290 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/03(土) 16:44
更新乙彼サマです。
コンコンのお言葉、、、耳が痛いデス・・・。(ヲイ
遅くてもマターリ待ってますのでw
続きも期待してます♪
291 名前:我道 投稿日:2004/07/10(土) 17:18
>>290 名も無き読者様
ええ、痛いです。。。
私も書いてるとき、「グオアッ!!!」と思いましたから(w
遅くて少ない更新ですが、どうぞよろしくお願いします。。。

それでは、少ない更新、いってみよー・・・グハアッ!
川o・∀・)<開き直るな
292 名前:Factory 投稿日:2004/07/10(土) 17:19
「所長・・・」

なつみの意識が仮想世界に入り込んだのを確認した後、
れいなはどこか不満げな声を上げた。
瞳に、非難の色が灯り、あさ美を貫く。

しかし、そんなことは気にも留めず。
あさ美は毅然とした態度で、彼女を見つめ返す。

「やっぱり、さっきのは言い過ぎやと・・・」
「田中れいな」

身が震えた。

やはり、まだ怒っている。
それをひしひしと感じさせるような、低い声。
更にはフルネームで呼ばれて、怯えないほうがおかしいというもの。

「ロボット工学三原則を言いなさい」

こちらを見つめるあさ美の瞳には、何の色も無い。
寧ろ、表情にも変化が無い。

従っておこう。
彼女が怒っているとき、そうすることが一番賢明なのはれいながよく知っている。

293 名前:Factory 投稿日:2004/07/10(土) 17:19
「・・・。
第一条、 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条、 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。
第三条、 ロボットは、前提第一条および第二条に反する恐れの無い限り、自己を守らなくてはならない
アイザック・アシモフ創作」

この職に就くとき覚えた規定を、機械的に言いあげると、
あさ美はれいなから視線を外し、テーブルにのるヤグチを見つめた。

「それを破ったロボットは、どうなりますか?」
「・・・ロボット処理班によって、駆除されます」

どういった方法でかは分からない。
しかし、処理班たちは確実に規定違反のロボットを破壊する。
未だに、その全貌は見たことはないが。

「しかし、ロボットとは本来、三原則を絶対に破らぬように製造されています。
 それなのに、どうして処理班さんたちが居ると思いますか?」

れいなは、ただ首を横に振る。
それだけが、今の今まで理解できなかったこと。

いや。
本当なら、もう当の昔に理解していたはず。
でも、そんなことは認めたくない。
認めたくないけれど・・・それしかない。

れいなの中の葛藤が、その考えを排除してしまっていたのだ。

294 名前:Factory 投稿日:2004/07/10(土) 17:20
「プログラムを組み替える輩がいるからです。
 プロテクトがかかっているから、そんなことは無理だと思うかもしれませんが、少しばかり機械に詳しければ何の問題もありません」

そして、無情にもれいなの危惧する考えは紡がれた。
しかし、それでも、れいなはその言葉の意味を拒み続ける。

「あ、ありえなかったい・・・
 そげなこつ、ありえなかったい!」
「ありえるのですよ」

大仰に首を振り、拒絶しようとするれいなの鼓膜を、
あさ美の冷たい言葉が静かに揺るがす。

それでも、れいなは拒み続ける。

「人が・・・人が、そげなこつ、するわけ・・・」
「あるのですよ。私は今まで、そのような人を沢山見てきました。
 ―――今ここにいる、安倍なつみさんも含めて」

言葉に詰まった。
息を呑んだ。

否定したい・・・
否定したいけど、あさ美の言葉は疑りようの無い真実だということは、れいなが一番良く理解している。

「Type-02の首の断面を見てください。
 このように綺麗な切り方、普通の人ならば出来るわけがありません。
 間違いなく、処理班の方々の所業です」

295 名前:Factory 投稿日:2004/07/10(土) 17:20
淡々と述べていくあさ美を見ずに、れいなは俯いて唇を噛む。

自分は無力。
その事実から来る悔しさを、噛み締めるように・・・。

「大方、安倍さんもいじめとかにあっていたのでしょう。
 自らを守るためだけに手元のロボットをいじるのは、良く聞く話です」

ヤグチを置いて、れいなに、そしてなつみにへと視線を送るあさ美。
やはり、感情は窺わせない。
しかし、それがより一層彼女の怒りの深さを示しているよう。

れいなは、何も言わず・・・
何も言えずに、ただただ唇を噛み、なつみを見つめていた。

296 名前:Factory 投稿日:2004/07/10(土) 17:21
―――*

木目がハッキリと見える天井。
開け放たれた窓から陽光がそそぐ昼下がり。

見慣れた景色に囲まれ、お茶をすする。
いつもの行動。
何の変哲も無いことが、平和だと感じさせてくれる。

「ヤグチー。何してるんだベかー?」

訛りを隠さずに、家の中にいるはずの人物の名を呼ぶ。
暫くするとパタパタと小走りで、小さな女の子が襖を開けて、はにかむ様に微笑んだ。

「ごめん、ごめん。充電してたら、うとうとしちゃってた」
「あはは。ヤグチ、可愛いべ」

照れたような仕草は、まさしく人間そのもの。
しかし、この『ヤグチ』はれっきとしたロボット。
Type-02。
現在では生産されていない、かなり初期のロボットである。

ゴミ捨て場に捨てられていたのをなつみが拾ってから、ヤグチとなつみは今日まで平和に、のんびりと暮らしていた。

297 名前:Factory 投稿日:2004/07/10(土) 17:21
「それより、なっち。大学行かなくてもいいの?」
「ん?ああ!ヤバイっしょ!遅刻っしょぉ!!」

いつまでものんびりとお茶を飲み、ヤグチを呼んでから慌てて支度をする。
これが、なつみとヤグチの日常。

「キャハハ!なっち、パジャマのままガッコウ行くの?」
「ほぇ?べ、べさぁ??!!着替えてなかったべやぁ!!」

どたばたと。
騒がしく階段を上っていくなつみの背中を見て、ヤグチは優しく微笑んでいた。

しかし、それはすぐに険しく変化する。

本人は隠しているつもりなのだけれど、ヤグチには筒抜けであった。
腕にある痣。ノートに書かれたいたずら書き。
新聞紙に包まれ捨てられていた、ズタズタに引き裂かれた前使っていたの筆入れ。

だからヤグチはこの時、決心していた。
しかし、それをなつみに知られてはいけない。
いつもの様に、自然体で。

「じゃ、じゃあ!行ってくるべ!洗濯お願いっしょ!!」

私服に着替え、ドバンと玄関を開け飛び出していくなつみ。
ヤグチはいつも通り、その背中に向かって手を振り、笑顔を送る。

「車に引かれんなよー」
「引かれるわけねーべ・・・ひょお!!??」

言った傍から・・・。

298 名前:Factory 投稿日:2004/07/10(土) 17:21
今まさに道路に飛び出さんとしたなつみの前を、黒のワゴンが通過。
振り向き際にそれを確認したなつみは、ペタンと尻餅をついてしまった。

「引かれるわけ、何?」
「・・・気をつけます」

恥ずかしそうに俯きながらジーンズのお尻を払う彼女は、正真正銘大学3年生。
その童顔と、ドジ加減から、誰からも疑われてしまうのはここだけの秘密。

「はい、いってらっさい」
「・・・ベサ」

小さな身体を更に小さくして、ひょこひょこと去っていく。
暫くすると、ヤグチの大好きなその背中が見えなくなった。

それを確認し、ヤグチは笑顔を消すと、静かに家の中に戻っていった。

「・・・なっち・・・オイラが助けてあげるからね」

先ほどまでなつみがお茶を飲んでいたところ、
つまり居間の中心にヤグチは腰を下ろした。

そして眼を瞑り、何かブツブツと呟き始める。

299 名前:Factory 投稿日:2004/07/10(土) 17:22
「Type-02・・・プロテクト、解除・・・ロボット三原則・・・犯す・・・」

鮮やかな金髪が、まるで何かに引っ張られるように逆立ち、
彼女の小さな身体からは、小さな稲光が漏れる。

Type-02の型が製造中止になったのは、やはりそれ相応の理由がある。
そして、ヤグチが捨てられていたのにも、それ相応の理由がある。

「My master・・・NATUMI ABE・・・To protect・・・」

目を開け、立ち上がる。
幾度か手を握ったり、開いたりして、ヤグチは納得したように頷いた。

「・・・carry out・・・」

さんさんと輝く太陽の下、
なつみにとっての天使は、今、悪魔に変貌を遂げた。
300 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/11(日) 13:52
更新お疲れサマです。
WAO・・・。(汗
何か気になる単語がイパーイ。。。
そして此処のもある意味怖いですな彼女w
続きも楽しみにしとります。
301 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/31(土) 19:31
我道さま、お久しぶりです。
新作、拝見させていただきました。
とっても素晴らしいです。
二人はどうなるんでしょう・・・?
これから、よろしくおねがいします。
302 名前:25 投稿日:2004/08/01(日) 04:30
>>301 お久しぶりってあなたあっちのスレでうわなにをするやめ(ry
303 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/02(月) 00:01
302>
よくわかりませんけどすいません
304 名前:Factory 投稿日:2004/08/03(火) 23:39
ルーズリーフにノートを閉じる。
パチンパチンという乾いた音と共に、聞こえてくる僅かな雑音。

―――ガキっぽいよねぇ。

―――言えてる、言えてる。

―――ほんとは中学生なんじゃないの。きゃはははは・・・。

キュッと唇を噛み締め、足早に教室から出て行く。
ノートと教科書を胸に抱き、とぼとぼと廊下を歩いていく。

向かうは中庭。
気を紛らわすとき、いつも足が向く中庭。
ヤグチがいない大学での、唯一の心休まる安息の場所だった。

「はぁ・・・」

すれ違う人の事を大袈裟に避けながら、玄関をくぐる。
樹齢200年位の木の元にある、白く塗られたベンチに腰を下ろす。

葉の隙間から漏れる陽の光が、嫌な思いまで取り払ってくれるよう。
…だといいのだが。

「・・・なんで、なっちだけ・・・」

中庭に来た時、必ず出てくる一つの愚痴。
その後、一筋の涙。

大学へ入学してから三年間。
悪質ないじめにあい続けた。一時期は、自殺しようかとも考えたときがあった。
そんな見も心もボロボロになっていたとき、なつみはヤグチと出会った。

305 名前:Factory 投稿日:2004/08/03(火) 23:40
ゴミ捨て場に埋もれ、眠ったように動かなかったヤグチ。
額に刻まれたナンバーで、すぐにロボットということは分かった。

親は死に、一人ぼっちだったなつみ。
毎日のいじめに、もう一人では耐え抜くことは出来ずにいた。

気がつけば、なつみはヤグチを持って帰ってきてしまっていた。

「ヤグチィ・・・」

呟くと同時に、俯き唇を噛み締める。
ヤグチと出会ってからは、今までより少しは耐えられるようになった。

でも、それでもやっぱり辛いし、苦しい。
学校にいる間は、心の休まる時間など無く、常にビクビクと身を小さくして過ごさねばならない。
胃炎になっても全くおかしくない。
それほどのストレスを溜めながら、それでもなつみは耐えている。

家に帰れば、愛しいヤグチがいる。
心の傷を癒してくれる、優しいヤグチがいる。
それだけが、今のなつみの心の支え。

「…頑張るべ」

両手で頬を叩き、少し力を入れすぎたと反省。
頬を擦りながら背もたれに背を預け、僅かに顔をあげた。
木漏れ日を浴びて、自然と目が細まる。

あと一時間、こうして過ごすのも悪くない。
というより、実は結構この時間が好きである。

なつみはゆっくりと目を閉じた。

306 名前:Factory 投稿日:2004/08/03(火) 23:41
――*

朝比奈工業大学。
そう記された看板を確認し、ヤグチはその敷地内に一歩を踏み入れた。

一歩、また一歩と進んでいく彼女の形相は、恐るべきもの。
今にもオーバーヒートしそうな位に煮えたぎっている怒りを、速くターゲットにぶつけたい。
ヤグチの足が、速度を増していく。

「君。ねぇ、ちょっと君」

今にも駆け出そうとしていた身体を、急停止。
かけられた声のするほうを向くと、なにやら長身の爽やかな青年がヤグチに近寄ってきた。

青年は、少し身を屈めると、ヤグチの目線に合わせる。

「君、どこの学部?もしなんだったらさ、講義サボってお茶しない?」

爽やかな笑顔で。
ヤグチのコンピュータは、即座に判断を下した。
一番簡単で、楽な行動手順の命令が降り、
全くの躊躇無く、ヤグチはその命令を実行した。

「邪魔。オイラ、急いでるから」

屈んだ青年の顎を打ち、
その勢いで後ろに倒れこんだ時、すかさずに首を掴み頚動脈を締め上げる。

少しの苦鳴も上げさせてもらえず、青年は意識を失った。
青年の状態を確認すると、草むらに放り投げて、何事も無かったかのように校舎に向かう。

307 名前:Factory 投稿日:2004/08/03(火) 23:41
背後で悲鳴が上がった。
しかし、ヤグチは振り返らない。
目的はここにあらず。
グッと、更に強く拳を握り締め、ヤグチは走り出す。

玄関を抜け、階段を上り、教室を捜す。
あった。
確かこの時間、なつみは経済学を受講しているといった。
もう一月ほど前になるのだが、ヤグチのメモリには確りと記憶されていた。

「なっち・・・」

ドアを蹴破る。
目を丸くした幾人もの人間の視線が、ヤグチに投げかけられる。
それを気にも留めずに、ヤグチはずんずんと教室内に踏み込んでいった。

「だ、誰だね?!君は!」

漸く我に返った講師が、ヤグチに向かって怒鳴り散らす。
その度に唾が飛んで、ヤグチは顔をしかめた。

そしてここでも、ヤグチは最短の手段をとった。

「ぐがっ・・・」

鼻面にストレートをもらい、講師はその場に倒れ伏した。
もやしのような見た目同様、その打たれ弱さももやしのよう。
ヤグチはもやしに一瞥をくれると、生徒たちに向き直った。

そして、叫ぶ。

308 名前:Factory 投稿日:2004/08/03(火) 23:42
「なっちをいじめるヤツはどいつだ!出て来い!オイラが皆殺しにしてやる!!」

小さい身体からは想像もつかないほどの大声。
ほとんどの生徒は身を強張らせ、その場で硬直した。

じっと、生徒たちを睨み続けるヤグチ。
しかし、誰も挙手どころか、返事もしない。
あのような物騒なことを言えば、当然のことだが。

「ちょっと、誰よアンタ」

だが、勇敢な事にも一人の女生徒が立ち上がった。
一番後ろの席、一際高くなっているその席で、その吊り目の女性はギロリとヤグチを睨みつけている。

二つの視線が交差したとき、ヤグチが口を開いた。

「オイラはヤグチ。なっちの友達だ」
「なっち?ああ、あの童顔ちゃんね。ふふ、おっかしー。
 童顔の友達は、正真正銘の小学生ときたわね」

思考回路が、熱暴走を起こす寸前だった。

なっちを馬鹿にするな。
なっちを馬鹿にするな!
なっちを馬鹿にするな!!

命令が、創られない。
しかし、ヤグチの身体は動いていた。

309 名前:Factory 投稿日:2004/08/03(火) 23:42
最前列の机に足をのせ、跳びあがる。
三列目に着地。跳びあがる。
五列目に着地。跳びあがる。
そして最後列の机に着地。眼前には、余裕の笑みを浮かべる吊り目の女。

―――解体せ(ばらせ)!!

単刀直入に、一番単純な命令が下った。
ヤグチは拳に思いっきり力を込め、吊り目の女目掛けて突き出した。

しかし、それは何者かによって阻まれる。

「アンタ、ロボットでしょ?ロボットは人間に従う道具よ?
 それが人間に楯突こうなんて・・・分をわきまえなさい」

鈍く輝く、鋼鉄の豪腕。
頭も、身体も剥き出しの鋼鉄製。

いかにもロボットなそいつが、腕を交差しヤグチの拳を受け止めていた。
その醜悪な姿に、思わず吐き気がした。

「・・・まだ」
「は?なに?聞こえないわよ、チビロボ」

高い声で、笑う女。
いつの間にかロボットはヤグチの身体を掴み、高々と掲げていた。

ヤグチは静かにその鋼鉄製の腕を掴む。
そして、未だ笑いを止めない女を見おろし、舌打ち。
視線をロボットに移して、鬱陶しそうに叫んだ。

「邪魔だ!どけえぇぇぇ!!!」

教室中の生徒の鼓膜を揺るがす大声。
それと同時に、ロボットの腕が粉砕した。

310 名前:Factory 投稿日:2004/08/03(火) 23:43
吊り目の女は驚愕し、後退った。
ロボットは女を守ろうとし、両腕が無いながらもヤグチに向かってきた。
その行動は、ただヤグチの怒りを大きくするだけだった。

「どけって言ってんだろおぉぉぉぉぉ!!」

鋼鉄製の腹部を突き破り、その中を走る何本ものコードを乱雑に引っ張り出す。
ブチブチと音を立て、切断されていくコード。
刹那、ロボットの動きが停止する。

苛立ちながら、もう動かなくなった唯の鉄くずを蹴り倒し、辺りを見回す。
ロボットがヤグチの前に立ちふさがっている時、逃げ出したのだろう。
ロボットの背後に、女の姿はなかった。

見つけた・・・。
入り口のところに、3人の女。
増えているが、多分、あの吊り目の仲間なのだろう。

何にしろ、なつみに害なすものは、殺してやる。
ヤグチは一気に駆け下りて、教室を飛び出した。

何故だろうか。
自分は怒っている。
怒っているはずなのに、唇が弧を描く。
時たまこちらを振り返りながら、怯えた視線を投げかけてくる女三人を、笑顔で睨みつけながら、ヤグチはだんだんと距離を詰めていく。

急に詰めたりはしない。
ゆっくりと、じっくりと。時間をかけて、追いついてやる。
そうしたほうが、恐怖心が募っていくだろう。

ヤグチの壊れかけのコンピュータが、そんな工程をはじき出していた。
311 名前:我道 投稿日:2004/08/03(火) 23:47
更新遅れまくり、そして極少量更新・・・。
すいません・・・

>>300 名も無き読者様
色々思考錯誤しています。。。
紺野さん・・・あう、ちょっと怖いですねぇ(w

>>301 紺ちゃんファン様
我道としては、お久しぶりです(意味深
素晴らしいとは・・・感激です。ありがとうございます。
312 名前:名も無き読者 投稿日:2004/08/04(水) 09:58
更新乙彼サマです。
ていうか強ッ・・・。(汗
これから何がどうなってあーなるのか、
続きもマターリ楽しみにしてますw
313 名前:25 投稿日:2004/08/04(水) 23:58
一瞬ロボットアクションものになるのかと思いましたw
314 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/07(土) 01:19
更新どうもです。
311>
そう言っていただけると嬉しいです。
応援してるのでがんばってください。
315 名前:Factory 投稿日:2004/08/17(火) 22:45


漆黒の大きな瞳が、宙を彷徨い続ける。
おどおどと縮こまった小柄な身体に見合わぬ、巨大な日本刀。

刃渡り二メートルはあるそれを、確りと抱きながら歩を進める小さな少女。
ヤグチと似たような背丈の少女は、髪が長い。
サラサラと、美しい紫色の髪は腰の辺りまで伸びている。
傷みなどとは無縁を思わせるほど、少女の髪の毛は精緻で、秀麗だった。

ふと、少女の足が止まり、不安げな瞳は目前の看板に向けられる。
『朝比奈工業大学』。
読み終った瞬間、少女の顔に笑みが咲く。
丸めていた背筋を伸ばし、勢いよく大学内へと踏み込んで、

「あれ?君、どうしたの?ここは大学だよ?」

再度、収縮。
少女の目線に合わせ屈んでくれる青年は、とても優しそうで。
しかし、少女は人と接する事があまり得意でない様子。
訳を話そうとして口を開いても、すぐに閉じてしまう。
羞恥に染まった頬を隠すように、少女は俯いた。

「君、中学生?だとしたら、今日学校は?」

違う。
中学生なんかじゃない。
そう言いたいが、やはり言葉は出ず。

プルプルと必死に首を振る少女を見、青年は首を傾げた。

「ん?何?どうした―――ガッ!」

突然頬を張られ、青年は地面を二転三転し、やがて動かなくなった。
振り切った長刀と青年を交互に見遣り、少女は泣きそうな声を上げる。
そして、既に気絶し泡を吹いている青年に向かって、勢いよく謝罪。

「ごごごごごごめんなさい!わ、わた、私、いそ、急いでる、んで!
 ほ、本当にごめんなさい!」

激しく慌て、激しくどもり。
人が集まってきた事に、その小さな体を一度震わせると少女は一気に駆け出した。

暫くして背後から悲鳴が上がるのが聞こえ、
もう一度、心の中で土下座をして謝った。

316 名前:Factory 投稿日:2004/08/17(火) 22:46
――*

今は誰にも使われていない、古びた闘技場。
しかし、古びたといってもそこら中が埃だらけというわけではなく、乱雑に荷物が置かれているだけ。
それを取り払えば、未だ十分闘技場をしての機能を果たしてくれるだろう。

その闘技場の中央でヤグチは仁王の如く、立っていた。
鋭く睨みつける先には、壁を背に怯えたような表情を見せる女が三人。
三人とも、肩が大きく上下している。
校内を殆ど追い立てられたのだから、それも当然の事といえる。

「もう逃げらんないね」

ヤグチの口元が禍々しく歪む。
たたまれていく指が、ギシギシと音をたて、それが余計に3人の恐怖を駆り立てた。

真ん中の吊り目が、震えながら口を開いた。

「何なのよ…何なのよ、アンタ…。
 おかしいわよ、おかしすぎるわよ…。
 人間に手を出したらどうなるか―――ヒブッ!」
「「ヒッ!」」

頬を手の甲で張られ、吊り目は木造の床を転がった。
横についていた女二人が短く悲鳴をあげ、その場に座り込む。
どうやら、腰を抜けたよう。

ヤグチは吊り目を冷ややかに見おろして、胸倉を掴んで持ち上げた。
情けなく鼻血を垂らした顔を見て、ヤグチは失笑。
吊り目の唇が、小刻みに痙攣を起こし始めた。

「処理班が来るんでしょ?だから、何?
 今、この場には関係ないと思うけどなぁ」
「ヒウッ…」
「キャハハ。馬鹿みたいな顔」

吊り目の頬を片手で掴みながら、ヤグチは冷ややかに笑った。
頬の肉が寄せられ、吊り目の唇が突き出される。
ヤグチは眉を顰めてそれを睨みつけながら、頬を掴む手に更なる力を込めた。

317 名前:Factory 投稿日:2004/08/17(火) 22:46
「イヒャ…イヒャイィィィィ!!!」
「痛い、だと?」

泣き叫ぶ吊り目に、ヤグチは声を低くする。
そして、入り口のところに大量に積まれている荷物群目掛け投げ飛ばしながら、
怒号を張り上げた。

「なっちはもっと痛かったんだ!!!」

衝突し、荷物の雪崩に飲み込まれていく吊り目。
憤激に息を荒くしながら、ヤグチは残り二人に振り向こうとして、止まった。

入り口で、その小さな身体に不釣合いな長刀を抱え、立ち尽くす少女。
不安そうに縮まっていた体が、ヤグチと視線を交わす事により、シャンと伸びた。
はにかむ様に微笑み、会釈をしてくる少女を見、ヤグチは怪訝そうに首を傾げた。

「…誰だ、お前?」

治まる事のない怒りが、口調に乗る。
少女は俄かに身を強張らせ、どもりながらも言葉を紡いだ。

「あ、ああああの…わ、わた、わ、私、巫女姫と言います。
あ、みょ、苗字は、さ、咲魔です…。
き、きて、規定違反により、あの、あな、あぬ…あなたを、裁きに参り、ました」

もう一度腰を折り、少女――咲魔巫女姫は首を垂れる。
ヤグチはチラリと、背後で怯える女二人に目をやり、すぐに少女へと戻した。
そして、腰を低くし、苛立ちを露に舌打ち。

咲魔巫女姫は、再度身を強張らせた。

「…邪魔すんなよな。今、お仕置き中なんだから」
「ああああ、あの…ろ、ろぼ、ロボットが、人間にて、てて手を、上げちゃいけないんですよぅ…」

潤んだ瞳で、それでも刀を抜き放ち、鞘を投げ捨てる。
銀の煌きが、露になる。
やはり、処理班。
おどおどしていても、挙動不審でも、確りと仕事をこなそうとする。
ヤグチはもう一度舌打ちして、慎重に咲魔巫女姫との距離を詰め始めた。

その視線は、下段に構えられた長刀へ。
咲魔巫女姫の分析が始まり、それから戦闘の工程を計算していく。

318 名前:Factory 投稿日:2004/08/17(火) 22:47
ヤグチと大して差のないほど、相手は小柄。
それに対し、あの日本刀。刃渡り二メートルは確実にあるだろう。
それでも使役しているのは、かなりの使い手だからだろう。

しかし、幾ら使い手でも、その巨大さ。
細かい動きは出来ないはず。
一撃必殺の大振りをしてくるのが、妥当と言えよう。
つまり、その一撃さえかわしてしまえば、相手には多大な隙が出来るはず。

脳内コンピュータでそう仮定を立てると、
ヤグチは身を低くしたまま、疾走した。

「は、はわわわわわ…」

突然の素早い動きに、咲魔巫女姫は動揺したのだろう。
目標も確りと定めずに、長刀を斜めに振り上げた。
長刀は天井を走る柱に突き刺さり、固定された。

「あわわわわ…」

必死にそれを抜き取ろうと孤軍奮闘する、咲魔巫女姫。
紙一重で立ち止まり、長刀の攻撃を回避していたヤグチは、
例えその姿を見ても、なんとも思わない。

唯一つ、思う事があるとすれば…

「邪魔」

唇を斜めにしながら、ヤグチは拳を突き出した。
これが最終工程。
このパンチ一発で、邪魔者は消える…はずだった。

「い、痛いですぅ…」
「!?」

思い切り力を込めたはず。
肋骨の一本や二本、軽く砕けるように力を込めたはず。

なのに、それなのに。
どうして咲魔巫女姫は、立っていられるのだろう。

319 名前:Factory 投稿日:2004/08/17(火) 22:47
「あ、あのぉ、あん、あんまり、ていこー、しないほうが良いですよぉ。
 わ、私を殴打した分だけ、罪が重くなりますのでぇ…。
 ちなみに、今ならまだ、猶予があります…」

脇腹を擦りながら、潤んだ瞳でヤグチを見つめてくる。
その態度に無性に腹が立って、ヤグチは攻撃の手を早めた。

「あた…あ、あの…イタ!
 あの、です―――あうぅ…。
 た、たぶ――あたぅ…多分、あなたの、攻撃では、私は倒せない、と思います…」

自分ものとほぼ同じ位置にある腹部を、殴る。
何か言葉を掛けられても、構わずに殴る。
無我夢中で、兎に角殴る。

そうしないと、こちらのイノチが危ないから。
咲魔巫女姫はロボット処理班。それが意味するものは明確。
壊されようが、壊されまいがなつみと離れてしまうのには変わりは無いだろう。

だから、こいつはここで倒さねばならない。
なつみと離れてしまうのは、何よりも自分自身に辛いから。
そして、相手にも辛い思いをさせてしまうだろうから。

「あ、あの〜…」

320 名前:Factory 投稿日:2004/08/17(火) 22:47
突然、身体がよろけた。
充電は、未だ切れていない。バランサーも故障していない。
だとしたら…答えはとても簡単だった。

「あ、あの…もう、猶予は、なくなってしまい、ました…すみません…」

眼前には、泣きそうに顔を歪め、
先程まで天井に刺さっていた筈の刀を肩に担ぐ咲魔巫女姫。
ヤグチは、視線を右に移動させた。

…ない。

鮮麗な断面を晒す右肩口が、火花を吹く。
そこに付着していたはずの右腕は、同じく鮮麗な断面を晒しながら床に横たわっている。

ヤグチの双眸が再び、咲魔巫女姫を捉え、
そして次の瞬間、驚愕と畏怖の色に染まった。

「す、すみません…何かと、未熟な、も、のでして…。
 姉上方から、作業の工程は聞いていたのですが…すみません…」

翻る長刀。
右腕と同じく僅かの乱れも無い、鮮麗な断面。
その断面を晒しながら左腕が宙を舞い、やがて床に落ちた。
呆然とその様子を見守りながら、ヤグチはその場に崩れ落ちた。

321 名前:我道 投稿日:2004/08/17(火) 22:52
>>312 名も無き読者様
強いですね〜(他人事
メル欄…ヒィ!つ、ついに黒の恐怖があぁぁぁ…
よろしくお願いしますw

>>313 25様
ん〜…この話のジャンルはなんなのでしょうか?(爆

>>314 紺ちゃんファン様
ありがとうございます。
レスを糧に、精一杯頑張りたいと思います。
322 名前:名も無き読者 投稿日:2004/08/18(水) 10:02
更新お疲れ様です。
ヒィ!?で、出たぁ・・・!!
い、一族ですか、、、一族でバケモノですか。。。(ガクブル
姉上方が気になって仕方ないですが、
続きもマターリお待ちしてますw
323 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/20(金) 11:53
咲魔巫女姫こわ・・・!ななな・・・。
雰囲気とは裏腹にとんでもないバケモンですな。いやはや。
次回更新を楽しみに、震えながら(?)まってます・・・。
324 名前:25 投稿日:2004/08/21(土) 01:46
処理班にもキャラがあるのか・・てことは(ry
325 名前:お詫び 投稿日:2004/09/13(月) 22:38
誠に申し訳なく、そして身勝手なことながらこちらでの
「Factory」の連載を打ち切らせていただきたく思います。。。
何を言っても言い訳になるのですが、ネタが思い浮かばないのです。
ゆえに放置になる可能性が大だったので・・・すいません。
続きは、http://www.geocities.jp/sakuma_mikohime/
ここで書きたいと思っています。。。
誠に身勝手で申し訳ありません。

幾つもスレを持ちながらも、確りと更新している作者様が多々いるのにも関わらず、
己がこうも不甲斐ないと思ったこともありません。
こんな根性なしな作者でも見捨てないでくれる方がいれば、
不定期更新は直らないと思いますが、どうぞお越しくださいませ。
それでは、最期に、呼んでくださった方々本当に申し訳ありませんでした。

尚、このスレはもうこれで使うことはありません。
流れるままに流され、倉庫逝きになることを待つばかりです。。。

管理人様にも、誠に申し訳ありませんでした。

我道
326 名前:我道 投稿日:2004/09/13(月) 22:42
>>322 名も無き読者様
>>323 紺ちゃんファン様
>>324 25様
これまで呼んでいただいたのに、誠に申し訳ないです・・・
しかし、必ずや完結はさせます。
不定期は変わりませんが、待っていただければ嬉しい限りです。

それでは、スイマセンでした(平伏・・・

Converted by dat2html.pl v0.2