友情の形?

1 名前:けんけん 投稿日:2004/05/22(土) 03:16
柴ちゃん中心です。
CPはいししばでいきたいと思います。
つたない文章ですが、お付き合いください。
2 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/22(土) 03:17
友達なんて、別にいらないと思ってた・・・

「おはよう柴ちゃん!!」
「うん」
「うんじゃなくって!朝のあいさつはおはようでしょ?」
「そっか。じゃあ、おはよう」

絵描きであるお父さんのせいで、私は転校を繰り返した。どうせ知り合って友達になっても、すぐにまた別れる。別れてもずっと友達でいようね!なんて言うけど、結局時間が相手の存在を薄れさせる。ちょっとの付き合いだし、別に友達なんていらないって私はずっと思ってた。

「相変わらずそっけないね〜」

そんな風に思っているから、相手にいい印象を与えるような態度はとらないのだ。だから、転校生めずらしさで声をかけてくる相手も一週間もすれば飽きてくれて、たいがい一人でいることが多くなる。

「別にそっけなくないでしょ」
「まぁ、柴ちゃんらしくて好きだけどね」
「なにそれ」
3 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/22(土) 03:19
でも、梨華ちゃんは違った。この学校に来て一ヶ月になるけど、
彼女は相変わらず私に付きまとってくる。

「ねぇねぇ、今度の日曜さ、一緒にお買い物に行かない?」
「行かない」
「なんで?」
「だって、買い物は一人の方がいいんだもん。
なんか、誰かと一緒だと照れるよ」
「え〜?なんで?なんで?」
「う〜ん。とにかく照れるんだよね。
だから、買い物は一人がいいの」
「そうなんだ。じゃあ、カラオケに行こうよ!」
「ってそれ、先週行ったじゃん」
「じゃあ、映画!」

梨華ちゃんは必ず日曜日を一緒に過ごそうと言ってくる。他に友達もいないし、
断る理由がなくなるまで梨華ちゃんはしつこく誘うから、結局一緒に過ごすことになる。
4 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/22(土) 03:24
「みんな、おはようさん」

担任の先生は、中澤先生。怒るとめちゃくちゃ怖い上に、ここは関東なのに、関西弁。
東北出身の人は訛りを必死に直そうとするのに、関西出身の人は絶対に訛りを貫こうとする。
なんでだろ・・・その疑問は中澤先生に会って少しだけ解決した。
つまり、関西人は最強なんだ。

「今日は、宿泊行事の話し合いを行う。
学級委員前に出て、話し仕切ってや」

中澤先生はなんでも、学級委員に任せるタイプだった。
でもって、梨華ちゃんは学級委員だった。
ちなみに一人は、吉澤ひとみ。彼女はすっごくもてた。
女子高だから、女の子同士のカップリングは当然。

でもって、よっすぃの彼女は梨華ちゃんだった。

「じゃあ、班を決めます!」

仕切るのはいつもよっすぃの方だった。
梨華ちゃんはたいてい黒板に決められたことを記述していく書記担当。

「決め方なんだけど、やっぱり好きな人同士がいいと思うから、
4、5人で自由に班決めちゃって。で、決まった班から、
黒板に書きにきてくださ〜い」

周りのみんなが各友達の所に移動してどんどん班が決められていく。
女子高ともなると、グループって決まっているんだよね。
そんなグループ構成の成り行きを呆然と見つめる私。

「柴ちゃん、一緒に組もうね?」

やっぱり梨華ちゃんが声をかけてくれた。
いつもは、少しうざいけど、こういう時は助かる。

「うん」
「他のメンバーなんだけど、
よっすぃとみきちゃんと亜弥ちゃんでいい?」

誰それ?

「誰でもいいよ」
「よっし!じゃあ、決まりね♪」
5 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/22(土) 03:30
班が決まるとその後は班行動の話し合い・・・
各班に分かれて話し合いが始まる。こういうのかなり苦手だった。
地図を片手に行き先を決めるなんてめんどくだ・・・

それに宿泊行事までこの学校にいるかどうかわからない。

「じゃあ、行きたいところを一人一個ずつ上げよう!」

相変わらずよっすぃ仕切りのもとに話し合いが進む。

「で、柴ちゃんは?」
「ん?」
「柴ちゃんの行きたい所は?」

話半分にしか聞いてなくて、いつの間にか私の番になってた。

「あ・・・うん・・・別に」
「そういえば、北海道って柴ちゃん前に住んでたよね?」

梨華ちゃんの質問に過去を思い出す。

「そうだね」

北海道だけでも、六か所は住んだことある・・・

「じゃあさ、函館も札幌も小樽も行ったことあるよね?」
「うん。住んでた」

それと、根室と北見と旭川に住んでたっけ?

「じゃあ、お勧めスポットとか知ってるんでしょ?」
「さあ・・・ガイドブックのが確かだと思うよ」
「でもさ、せっかくだし、柴ちゃんのお勧め聞きたいな?」

梨華ちゃん以外の三人はとっくに私から注意は離れているのに、
梨華ちゃんは相変わらずだ。

「う〜ん・・・でも、私北海道旅行までこの学校にいるかわかんないし。
いいよ。みんなで決めて」
「え・・・」
「だって、旅行って夏休み明けでしょ?
そのころには、多分お父さんのおかげで次の町にいるよ」
6 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/22(土) 03:32
「柴ちゃんのお父さんって何者・・・?」

亜弥ちゃんが興味津々な目を向ける。

「絵描き。東京には個展の間だけいるの。
それが終ったらまた地方を回って絵描き生活だから」
「よく、家族ついてくね・・・」

美貴ちゃんは呆れ気味だった。
確かにね、お父さんと一緒だと全国転々ですから。

「ついて行くわけないじゃん。
お母さんはとっくに離婚してお兄ちゃんと二人で暮らしてるよ」
「へぇ〜。なんで柴ちゃんはお父さんについてったの?」

美貴ちゃんも興味が出てきたらしい。

「さあ?」

お父さんは一人では何もできない人間で、
家事とか私がいないと無理だし、
なにより私はお父さんが好きだから・・・
なんてことは恥ずかしくて言えなかった。

「まあ、そういうわけだから、
北海道旅行の相談は好きにしていいよ」
「・・・」

それに、気づくの遅かったけど、
亜弥ちゃんと美貴ちゃんも付き合ってるわけで・・・
つまり、この班にいたら私はかなり気まずい。
7 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/22(土) 15:27
「本当に、北海道旅行行けないの?」
「うん。多分」

ショッピングに来たのに、
梨華ちゃんは全く買い物をする気はないらしく、
さっきから同じ質問を繰り返す。

「お父さんの個展っていつまで?」
「さぁ?でも、夏までだと思う」
「じゃあ、まだわからないんだよね?」
「う〜ん」
「じゃあさ、行けるかもしれないんだよね?」
「う〜ん・・・」
「柴ちゃんと旅行行きたいよ!」
「あのさ・・・」
「ん?」

なんで、そんなに私に構うの?
って聞こうと思ったけどやっぱり止めた。

「なんでもない」

私の表情に首をかしげつつ、
梨華ちゃんは次の行動に移った。

「あ!クレープ食べようよ!」
「うん」

なんかよくわかんないけど、
一緒にいると梨華ちゃんはすっごく楽しそうだった。
で、いつの間にかに私も笑顔の時間が増えている。
8 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/22(土) 15:29
「柴ちゃん!」
「ん?」
「あのさ、夏休みに旅行に行かない?」
「え?」

梨華ちゃんが突拍子もないことを言い出したのは、
夏休み目前のテスト期間中だった。

「亜弥ちゃんの家がね、湘南に別荘を持ってるんだって」
「へぇ〜」

金持ち・・・さっすがだ。

「でね、みんなで行こうってことになったの!」
「え・・・ああ・・・う〜ん」

どうせ、カップル二組+私でしょ?そんなの微妙だし・・・

「ね?ね?行こうよ!?」
「う〜ん・・・ってか、そんなこと考えてないで勉強しなよ。
テスト期間中じゃん」
「そうだけどぉ!一緒に行こうよ!!」
「じゃあ、テストがよかったらね」
「やったぁ!じゃあ、決まりだね!!」
「?」
「だって、柴ちゃんって、めっちゃ頭いいじゃん!
この前のテストもダントツで一番だったしね」

そういえば、この学校はレベルがそんなに高くなかったことを思い出した。
転校生活が多いから、次の学校に行く度に編入試験をやらされる。
だから、勉強は他の人よりもしているわけ。
地方によってはめちゃくちゃレベル高い場合もあるしね。
この学校は中の下くらいでテストはめちゃくちゃ簡単だった・・・
9 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/23(日) 00:57
「柴ちゃん、さっすがだね!テスト今回も一番だったね」

手を抜こうと思ったのに、テストがあまりにも簡単すぎて頭にきて、
つい本気をだしてしまい、結果は一位だったんだよね・・・
つまり。旅行OKになってしまうわけで・・・

「うん・・・」

よくあんなテストで順位がつくよね・・・
世の中って不思議だ。

「あれ?嬉しくないの?」
「う〜ん・・・」
「これで、みんなで旅行に行けるね!」
「・・・そうだね」
「嬉しいな〜!!」

本当に嬉しそうだね・・・
そりゃ、恋人と一緒に旅行に行くんだもんね・・・

「やっぱり、私いいよ」
「え?!」
「だって、梨華ちゃんとよっすぃとミキティと亜弥ちゃんでしょ?」
「うん」
「ってか、カップル二組じゃん。私いなくてもいいじゃん」
「あ・・・」

今さら気づくなよ!

「じゃあさ、あと一人誰か呼ぼうよ!!」
「いいよ。とにかくさ、二組で楽しんで来てよ!
私のことは気にしなくていいからさ!!」
「柴ちゃん・・・」
10 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/23(日) 00:58
テスト明けには必ずその町で一番高い場所に来るのが私の習慣。
テスト終了の爽快感と町を一望する爽快感。
二つの爽快感を味わうのはこの上なく気持ちがいい。

気分爽快なはずなのに、
さっきの梨華ちゃんの寂しそうな表情を思い出し、
少しだけ気分が落ちる。

「し〜ばちゃん!」
「は?」

振り返ると、よっすぃがいた。

「梨華ちゃんに、旅行断ったんだって?」
「ああ・・・うん」
「行こうよ!」
「う〜ん・・・ってか、微妙だし」
「でもさ!きっと楽しいよ!!」
「そうだろうか・・・?」
11 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/23(日) 01:00
「梨華ちゃんね、柴ちゃんに会えてすっごく喜んでるんだよ」
「?」
「柴ちゃん覚えてない?」
「は?」
「梨華ちゃんと柴ちゃんは再会なんだよ!」
「え?!」

え?え?どこかで会ってたかな・・・?

「小学校一年の時に神奈川に住んでたでしょ?
そこで一緒だったんだってさ」

そういえば、神奈川にいたかも・・・
え?梨華ちゃんいたっけ??

「梨華ちゃんね、
柴ちゃんに会った瞬間に思い出したんだって。
柴ちゃんが梨華ちゃんに渡した箱みたいなの、
今でも持ってるもん」

箱?箱・・・箱ねぇ・・・

「そうなんだ・・・」
「うん!だからさ、一緒に行こうよ!!」
「うん・・・」
「やったぁ!!梨華ちゃん喜ぶよ!!」

あ・・・つい返事しちゃったよ・・・
12 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/23(日) 01:01
箱、箱、箱・・・

小学校一年の時に住んでた町ね・・・
神奈川周辺にいた気もするけど、
横浜、横須賀、逗子、葉山、鎌倉、平塚、
小田原、箱根、相模原・・・
どこにいたっけ・・・

よっすぃの言葉を受けてからずっと考えていたけど、
全然思い出せなかった。
本当に、梨華ちゃんに出会ってたのかな・・・
だいたいそんなこと梨華ちゃん本当に覚えてるんだろうか・・・?
覚えてるんだとしたら、そうとう友達思いだ・・・

その前に私は薄情だね・・・
13 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/24(月) 00:35
「うっわぁ〜!!やっぱり夏は海だね〜!!」

結局五人で海に来てしまった・・・
青い海、白い砂浜ではないのが湘南の海。
湘南の海ははっきりいって汚い。
よくこんなところで泳ぐ気分になるよな・・・なんて思ってしまう。

「あれ?柴ちゃん水着は?」
「あ?ああ・・・」

梨華ちゃんに言われて気がついた。忘れた・・・

「忘れた・・・」
「えぇ〜!!海に来たのに?」
「・・・いいよ。泳ぐの好きじゃないし」
「そうなの?」
「うん。その辺、散歩するよ」
「じゃあ、私も一緒に行くよ!」
「いいよ!よっすぃ寂しがるよ」
「でも・・・」
「気にしないでいいから」

と言っても、梨華ちゃんが気にしないわけないわけで・・・
結局その辺で水着を購入して一緒に海に行くことにした。
14 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/24(月) 00:38
あ〜あ、絶対に日焼けするよ・・・
露出が少ないやつ選んだとはいえ、絶対に日焼けする。
もともと肌弱いし、絶対に後で後悔するよ。
砂浜で楽しんでいる四人とは対照的に、
私はビーチパラソルの中で焼け付く太陽を睨んでいる。

「し〜ばちゃん?一緒にビーチバレーしない?」
声をかけてきたのはやっぱり梨華ちゃん。
「いいよ。よっすぃもミキティもめっちゃ強いし」
「うん。二人ともバレー部だからね」
「そうなんだ」
「じゃあ、海に行こうよ!」
「う〜ん・・・」

汚い海に行くのも、焼け付く太陽の下でビーチボールを追いかけるのも・・・
どっちもめんどくさいってかんじ・・・
15 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/24(月) 00:40
「行こうよ!ね?」

梨華ちゃんに無理やり手をひっぱられて、海に連れて行かれた。
汚い海に足を踏み入れたら、なんだか吹っ切れて・・・
海に心を奪われるのに、時間はかからなかった。

「柴ちゃん、見て見て、きれいな貝殻!」
「本当だ!梨華ちゃん見て見て!きれいな海草!」
「きれいじゃないよ〜!」
「きゃはははっ」
「柴ちゃん、波が来るよ!」
「よっし!波乗りだぁ!!」

久しぶりにめちゃめちゃ笑った。
この感覚なんか懐かしい・・・
16 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/24(月) 00:42
海をひとしきり楽しんで、昼が終って、
亜弥ちゃんの別荘から夕暮れを五人で眺めた。

「あ・・・」

この景色見たことある・・・

「柴ちゃんどうかした?」

隣にいた梨華ちゃんが私の言葉に反応する。

「この景色・・・見たことある・・・」
「え?」
「この景色・・・どっかで・・・」

どっかで・・・あ!?お父さんの絵だ・・・
そっか。ここ、来たことあるんだ。
亜弥ちゃんの別荘は初めてだけど、
この近くでお父さんが絵を描いてたことあるんだ。

「うん。昔、柴ちゃんと一緒に来たよね」
「え?」

あ!?思い出した・・・
17 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/25(火) 00:29
小学校一年生の夏休みに、私はこの町で過ごしたのだった。

「あゆみ、あんまり遠くに行っちゃダメだぞ」
「うん」
「お父さんもう少しここで絵を描いているから」
「うん」

お父さんは絵を描くと数時間はその場所にいる。
だから私はたいていその辺を散策するのだ。
18 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/25(火) 00:32
この海広いな〜。すっごく広いな。
そんなことを思いながら海を眺めていた。

「あ!?」

海水浴客でにぎわう海のずっと遠くに、
浮き輪に浮いた女の子がいた。
流されてる。

とっさに思い、私は無謀にもその子の救出に向かった。

助けを求めればよかったのに、無知というか、
気持ちだけが先行して・・・
気がついた時には女の子の浮き輪に自分もしがみついていた。

「大丈夫?」

私が話しかけた時には、その子は大泣きしていた。

「あ・・・えっと・・・泣かないで!もう大丈夫だよ!」
「うぅぅ・・・ぅん」
「一緒に、戻ろう・・・あ・・・」

気がついたら、気が遠くなるほど岸から離れていた。
それでも、なんとか岸までたどり着いた。
19 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/25(火) 00:33
たどり着いて気がつくと、
私は洋服のまま海に入ったから服はずぶぬれで・・・
その格好を見て女の子は爆笑だった。

助けてあげたのに、なんてやつだよ!って思ったけど、
なんかその子の笑顔につられて私も大笑いしたんだった。

「私、石川梨華!あなたのお名前は?」
「柴田あゆみ」
「この辺の子?」
「う〜ん・・・?」

自分はいったいどの辺の子になるんだろう?
・・・って思って首をかしげた。

「ははっ。あゆみちゃん面白いね!」
「ん?」

私の一つ一つの表情に梨華ちゃんは大笑いしてくれる。

「明日もまた海に来る?」
「う〜ん?」
「明日もまた一緒に遊ぼうね!」
「うん!」


その日から友達になったんだった。
20 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/25(火) 00:36
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も・・・
夏休みが終るまでずっと梨華ちゃんと海で遊んだ
二人の時間は楽しくて、その年の夏は私にとって特別だった。


「あゆみ。もうすぐ学校が始まるから、次の町に行こう」

楽しいことって、長続きしないんだ・・・
お父さんにその町を立つことを告げられたのは、
夏が終る少し前だった。

「・・・次の町って?」
「う〜ん・・・秋だから、信州がいいな」
「信州って?」
「長野かな」
「ここから遠いの?」
「そうだな。ここからだと、少し遠いかな」
「・・・」

梨華ちゃんとのお別れのカウントダウン・・・
21 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/25(火) 00:38
大切な友達、大好きな友達、もっと一緒にいたかったのに・・・

そんな思いが溢れて、お父さんにわがままを言ったんだった。

「あゆみ?ごめんな。代わりに、これをあげるぞ」

ひとしきり泣いた後、お父さんは私に小箱をくれた。

「な〜に?」
「ん?これかい?これはね、宝箱なんだ」
「宝箱?」
「そう。宝箱」
「何が入ってるの?」
「この中かい?この中には、思い出がいっぱい入ってるんだよ」
「思い出?」
「うん。あゆみがこの町でつくったいっぱいの思い出。
この箱をあければ、いつでも思い出せるんだ。
だから、魔法の宝箱」

子供だましなんだろうけど・・・
でも、めったにそんなことを口にしない
お父さんの言葉だったから信用できた。
22 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/25(火) 00:40
「もうすぐね、次の町に行くんだ」
「次の町?」
「うん」
「どこ?」
「信州」
「ここからどれくらい?遊びに行くよ」
「わかんない。すっごく遠いから」
「え・・・」

小さいながらに、遊びに行って出会える距離ではないことが想像できた。
梨華ちゃんにもそれはわかったみたいで、浮かない顔になった。

「これ、あげる」
「なに?」
「宝箱」
「宝箱?」
「うん」
「何が入ってるの?」
「思い出」
「思い出?」
「うん。この箱をあけたら、
いつでも思い出を思い出せるんだって」
「すっごい!」
「うん。だから、魔法の宝箱なんだって」
「でも、いいの?」
「うん」
「また、会えるよね?」
「・・・」

会えないだろうなってことはなんとなく、気がついてた。
小学校一年にして、その辺は妙に考えがしっかりしてた。
それなのに、暗くなった私に反して梨華ちゃんの目はキラキラしていた。

「絶対に会えるよ!」
「・・・うん。そうだといいね」
「うん!そしたらさ、二人でこの箱開こうね!!」
「・・・うん」
23 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/25(火) 00:43
そっか・・・梨華ちゃんだったんだ・・・
しかも、覚えてくれてたなんて・・・

「梨華ちゃん、覚えてたんだ」
「うん!忘れないよ!」

お父さんの言葉・・・本当だったんだ。

「ありがとう」

知り合った相手は何人もいたけど・・・
私のことを覚えてくれてる相手なんて何人いるんだろう・・・
梨華ちゃんは覚えてくれていたんだ・・・

なんか、胸がつまって、嬉しくて嬉しくて・・・
夕日が沈む前に、私は部屋に戻った。
24 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/26(水) 00:11
「じゃあさ、夜は肝試しやろうよ!」

よっすぃが夕食の時に提案する。

「えぇ!やだよ!!」

梨華ちゃんに賛成。でも言わないでおく。

「いいじゃん!やろうよ!」

ミキティまで・・・
この二人が言い出したら多分聞かないよね・・・

「あ!そういえば、この島の奥にね、洞窟があるんだ。
その洞窟にねお化けが出るんだって〜!!」

あ、亜弥ちゃんまで・・・ノリノリだよ。

「じゃあ、島の奥の洞窟に行こう!!」
「私やだよ!」

梨華ちゃんの抵抗むなしく、私たちは洞窟に行くことになった・・・
25 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/26(水) 00:13
やっぱりね・・・こういう構図になるよね・・・
歩き出して数分で、梨華ちゃんはよっすぃの腕に、
亜弥ちゃんはミキティの腕にしがみついていた。

私は一人でその後を追う。洞窟ね・・・
今の気分は退屈?窮屈?そんなかんじだよ・・・

本人たちにそんな気はないんだろうけど、
後ろからの構図は完全にのろけられているとしか思えない。
はぁ・・・ってかんじで空を見上げた。

「あ!?」

急に思い出が飛び込んできて
声をあげてしまった私に前の四人が驚く。

「なに?どうしたの?」

ミキティが尋ねる。

「あ・・・いや。なんでもない」

なんでもないことなかった。
今日は一年に一回しかない、星の遠足の日だ。
26 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/27(木) 22:45
「星の遠足?」
「そうだよ」
「お星様が遠足するの?」
「そうだよ。それはね、一年に一回しか見れないんだ。
しかも、とっておきの場所だけだよ」

この町にお父さんが来た理由の一つだった。

「いつ見れるの?」
「もうすぐ。八月の新月の夜だよ」
「新月?」
「ああ。お月様がいない夜のことなんだ。
お月様がいない間に、星たちは遠足をするんだ」

その年の新月の夜は、
お父さんと一晩中空を見上げていたんだけど私は結局寝ちゃって、
翌日描き上げられたお父さんの絵を見て後悔したんだった。
27 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/27(木) 22:46
今日はちゃんと見たい!
でも、そんな子供っぽい話をするのには少し・・・
かなり勇気がいった。

「あ・・・」

空を眺めていたせいで気がつくと周りに誰もいなくなっていた・・・
でも、これはある意味チャンスだから、
お父さんと一緒にいたテントがあった場所に行った。
28 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/27(木) 22:48
前にテントをはったその場所は、雑草が生い茂っていた。

「うっわぁ〜」

真夜中に雑草と格闘して自分の場所を確保して、星空を眺めた。
何時間も経過したと思う。でも、星空は私の心を離さなかった。

「柴ちゃん!」
「え?」

振り返ると梨華ちゃんがいた。

「心配したんだよ!!」

って・・・置いてかれたのこっちなのに。

「ごめん、ごめん!」
「でもよかった。やっぱりここにいたんだね!」

なんでわかったんだろ?

「昔さ、ここで一緒にお星様見たもんね!」
「そういえば・・・」
29 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/27(木) 22:49
そういえばそうだった。
寝てしまった次の日にその不満を梨華ちゃんにぶちまけて、
結局そのまた次の日に、二人で夜空を見たんだった。
結局星の遠足は見れなくて二人で曇った真っ暗な空を眺めたんだった。

「そうだったね」

そんなことも覚えてくれてたんだね。

「うん。今日は見えるかな?」
「星の遠足みたいな〜」
「じゃあさ!みんなで一緒に見ようよ!」
「え?!」
「みんなで一緒にね!!」
30 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/27(木) 22:50
「本当に星が遠足するの?」

ほら、やっぱり信用してないよ。

「もう!みきたんはロマンがないんだから!」

亜弥ちゃんは空を見つめている。
純粋無垢な眼差しってこういうことだろうな。

「よっすぃ寝ちゃダメ!!」

梨華ちゃんの言葉によっすぃが眠たげな眼差しを空に写す。
場所を変えて、亜弥ちゃんの別荘のバルコニーから空を眺めること一時間。
一向に変わりのない星空を私たちは眺めていた。

「あ!!」

流れ星に思わず私は声をあげた。
それが合図とばかりに、次々に流れ星が落ちた。

まるで星たちが遠足に行くように・・・
31 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/27(木) 22:51
「すごかったね!!」

星の遠足が終って部屋に戻ってからも私たちの興奮は冷めなかった。

「すっごくきれいだったね!!」

ミキティも亜弥ちゃんも感激のようだった。

「柴ちゃんって本当にすごいね!!」

よっすぃの言葉に不思議な顔で答える。

「ん?」
「だってさ、こんなに素敵なこと知ってるんだもん!」

なんかお父さんのこと褒められた気がして少し得意な顔をしたと思う。

「うん。まあね」
「もっと他にもいろんなこと知ってるんでしょ?」

亜弥ちゃんがワクワクした瞳で私を見つめる。

「う〜ん・・・どうだろ?」
「柴ちゃんいろんなお話知ってるんだもんね」

梨華ちゃんに言われて、よくよく考える。
確かに日本中を旅してきたから、いろんなこと知ってるのかも。
それからは、一晩中、私の話をみんなが聞いてた。
こんなに誰かと話したことも初めてだった。
何より、こんなに自分に興味を示してくれた相手もいなかった。
相手が興味を示さなかったのか、
自分が心を開かなかったからなのか・・・

そっか。

友達ってこんなに居心地いいんだ・・・
32 名前:友情の形? 投稿日:2004/05/27(木) 22:53
別荘から帰った後も、私は毎日梨華ちゃんと遊んだ。

よっすぃに嫉妬されつつも、梨華ちゃんと毎日一緒に過ごした。

この町が、梨華ちゃんとの時間が、
すごく大切になってずっと続いてほしいって思った。

ずっと、この町にいたい・・・
ずっとずっと、梨華ちゃんと友達でいたいよ・・・
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/30(日) 19:07
とてもいい!柴ちゃんがすごく魅力的
34 名前:友情の形? 投稿日:2004/06/01(火) 00:41
現実ってのは、残酷なわけで・・・

「あゆみ、夏休みで個展が終るから新学期はまた次の町だ」

梨華ちゃんとの二度目のお別れのカウントダウンが始まった・・・

「・・・」
「秋だし、信州かな」
「・・・」
「長野に行こう」
「お父さん・・・私この町にいたいよ・・・」
「・・・」

二度目のわがまま・・・

「・・・友達ができたの」
「そうか・・・もう高校生だしな・・・
そろそろ落ち着かないといけないもんな」
「・・・」
35 名前:友情の形? 投稿日:2004/06/01(火) 00:42
翌日学校から帰った私を思わぬ相手が迎えた。

「え・・・お母さん」
「久しぶり」

10年以上会ってなかったお母さん・・・

「あゆみ、お母さんと話をしたんだ。それで・・・
お母さんが今住んでいるところからなら、
今の学校にも通えるから・・・」

お父さんが考えていたことがわかって、私は家を飛び出した。

そんなつもりで言ったんじゃなかったのに・・・
でも、そう聞こえたんだと思う。
友達とは・・・梨華ちゃんとは別れたくないけど、
お父さんだって・・・
36 名前:友情の形? 投稿日:2004/06/01(火) 00:44
「柴ちゃん!」

思わず梨華ちゃんを学校に呼び出してしまったんだ。

「・・・」
「どうしたの?」
「うん・・・」

呼び出したのはこっちなのに、何も言わず、うつむいて自分の席に座る私。
梨華ちゃんは前の席に座って、ただそばにいてくれた。

「夏休み・・・もう終るね」
「うん」
「終ったら、信州に行くって」
「え・・・」

次の言葉が出てくる代わりに、涙が溢れ出した。
お父さん以外の人前で涙を見せたのは多分初めだった・・・
ぬぐってもぬぐっても涙はとめどなく溢れ出して止まらなくて・・・
手で顔を覆って声をこらして泣いた。

気がつくと梨華ちゃんも泣いていて、二人で散々泣き明かした。
37 名前:友情の形? 投稿日:2004/06/01(火) 00:45
「じゃあ、お父さんと一緒に行くかどうかわからないんだ?」

散々泣いた後に梨華ちゃんにお母さんのことも話した。

「・・・」
「柴ちゃんはどうしたいの?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

どうしたいかなんてわからなかった・・・
いや、わかっていたのかもしれない。
38 名前:友情の形? 投稿日:2004/06/01(火) 00:46
「そうだ!今日さ、家に泊まりに来ない?」
「え?」
「だってさ、お家に帰りにくいんでしょ?だったらさ!」
「う・・・うん」
「やった!」

シリアスな話ししてるのに、一気にお泊りってことで、
明るい雰囲気になってしまった梨華ちゃん。

梨華ちゃんの笑顔に少しだけ救われた気がした。
39 名前:けんけん 投稿日:2004/06/01(火) 00:52
>>33 名無飼育さん

レスありがとうございます!励みになります!!
この物語は次回完結予定なので、また感想レスしてくれると嬉しいです。
40 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/01(火) 10:02
石柴好きなんでハマっちゃいましたw
続き頑張って下さい!
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/02(水) 01:40
えっ。次回で終わっちゃうんですか?残念半分期待半分ですかね!どんな形で完結するのか!楽しみです。石柴\(^O^)/
42 名前:けんけん 投稿日:2004/06/02(水) 02:58
梨華ちゃんの家はお父さんとお母さんとお姉ちゃんと妹の五人暮らし。
なんか家族多いの久しぶりで、正直戸惑った。
しかも、なんか三姉妹が似てるんだよね。

「柴ちゃん、部屋に行こ!」
「うん」

梨華ちゃんの部屋はピンクだらけで、ちょっと落ち着かなかった。
女の子らしいのはわかるけど、ここまでいくと・・・

「柴ちゃんピンク好き?」
「う・・・う〜ん」
「私ね、ピンク好きなんだ」
「うん。見ればわかるよ」
43 名前:けんけん 投稿日:2004/06/02(水) 02:59
「あ!それとね、これ見て!!」
「ん?」
「可愛くない?」

アフロ犬だ・・・

「う〜ん・・・可愛い?かな」
「ね!そうだよね!やっぱり可愛いよね!!
じゃあ、柴ちゃんにもあげるね!!」
「え・・・いいよ!」
「柴ちゃんだから、茶色いのがいいよね?」
「え?あ〜!!もしかして、柴犬とか思ったでしょ!」
「はははっ。ばれた?」
「もう!」
「だって、柴ちゃんってさ、犬っぽいもん」
「もう!!ひっどいな!!じゃあ、梨華ちゃんはねぇ・・・」
「柴ちゃんが柴犬だったら、私はトイプードルだね」
「なんで、自分だけ可愛いのにするのよ!」
「じゃあ、柴ちゃんは柴犬の子犬ってことにしてあげる!」
「う〜」
「ワン!!」
「きゃははっ。何それ〜!!」
「柴犬のマネ〜」
いつのまにかに、冷たかった心が温かくなっていた。
44 名前:友情の形? 投稿日:2004/06/02(水) 03:01
一緒に夕食食べて、お風呂も入って、
布団の中に入ってからは少しだけ沈黙が続いた。

今日が終って明日が来てあさってがきて・・・夏が終ったら・・・

「梨華ちゃん・・・もしさ・・・」
「信州に行っても友達だよ」
「・・・」
「そうだ!」

梨華ちゃんは突然起き上がると私に宝箱を差し出した。

「あ〜!!」
「うん。思い出の宝箱!一緒に開こうよ」
「うん」

小さな小箱を二人で開いた。
中には何にも入ってないのに、何かが飛び出した。

「また、思い出が増えたね」
「ん?」
「また柴ちゃんと再会できて、一緒にいっぱい思い出作れたね!」

その言葉は温かかった。

「うん」
45 名前:友情の形? 投稿日:2004/06/02(水) 03:04
「また、この箱に思い出いっぱい詰まったね」
「うん」
「今度は柴ちゃんが持ってて」
「・・・ううん。やっぱり梨華ちゃんに持っててほしい」

梨華ちゃんは私の顔を覗き込んだ。

「私さ、友達とか別にいらないって思ってた。
同じ町に少しの期間しかいないし、
仲良くなってもすぐに忘れちゃうしって思ってたの。
多分、忘れることが怖かったんじゃなくって・・・
忘れられちゃうことが怖かったの」
「私は忘れなかったよ!」
「うん。この箱のおかげだね」
「・・・」
「だからさ、梨華ちゃんに持っててもらいたいんだ」
「柴ちゃん・・・私、箱があったからかもしれないけど、
柴ちゃんのこと忘れたことなかったし、忘れない自信あるよ」
「?」
「だって、友達なんだもん。
気の合う友達なんて人生に何人もいないんだって。
だからね、そういう相手に出会えたら、絶対に忘れないんだよ」

友達・・・友達か。

「だからね、柴ちゃんに持ってて欲しいの。
私はこの町にいるから、いつでもこの町の景色に出会えるの。
柴ちゃんは遠くに行っちゃうから・・・
この箱柴ちゃんが持ってて欲しい」

梨華ちゃんに手渡された宝箱はすっごく重たかった。
いろんな思い出が詰まった宝箱はすごく重いんだ。

思い出とぬくもりを胸に、宝箱を胸にしたまま眠った。
46 名前:友情の形? 投稿日:2004/06/02(水) 03:05
「あ、あゆみ!」

翌朝、家に帰ると玄関前でお父さんが待っていてくれた。

「お父さん・・・」

きっと、ずっと前から待ってたんだと思う。

「お帰り」

親子そろって照れ屋というか、感情表現が下手なんだよね・・・
お父さんはそれだけ言うと家の中に入ってしまった。

「ただいま」

私も中に入った。

「あのさ・・・信州一緒に行くから」
「・・・わかった」

お父さんのこと、好きだからってことは言わなかった。

どうせ言わなくてもわかってるだろうし。
47 名前:友情の形? 投稿日:2004/06/02(水) 03:10
夏が終って、私はお父さんと次の町に移った。
別れの瞬間は誰にも告げなかった。そういうの苦手だから・・・

梨華ちゃんの机に手紙を入れてそれでバイバイってことにした。

『梨華ちゃんへ
  今年の夏は楽しかったよ。また会おうね。
       いつまでも友達ってことで!
                  あゆみ』

きっとまたどこかで会えるよね。離れていてもずっとずっと・・・
ずっと梨華ちゃんのこと忘れないよ。友達だもんね。

目に見えないかけがえのない宝物。友情の形・・・                 

                     −完−
48 名前:けんけん 投稿日:2004/06/02(水) 03:14
>>42、43
題名と名前を間違えてしまいました・・・すみません!!

以上で、友情の形?は終了です!続いて、二作目を書く予定なので、
またよろしくお願いします!!
49 名前:けんけん 投稿日:2004/06/02(水) 03:16
>>40 名無し読者さん
 レスありがとうございます!私も石柴大好きです!!
 次回も石柴で書こうと思っているので、よろしくお願いします!!
50 名前:けんけん 投稿日:2004/06/02(水) 03:21
>>41名無飼育さん
 一作目は終了です。今回が初作品だったので、短編で仕上げました。
 二作目も内容は決まっているので、また読んでもらえると嬉しいです♪
 
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/02(水) 22:27
柴田さんが石川さんによってだんだんほどけていくのがよかったです。
二作目楽しみにしています。
52 名前:けんけん 投稿日:2004/06/04(金) 01:16
二作目スタートです。
下手な文章ですが、いししばの魅力が伝われば!って思います!!
ぜひ読んでください!!
53 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/04(金) 01:18
春は何かと物入りなんだ〜!!
新生活のスタートなんて浮かれた言葉で世間は浮かれてるけど、そのためには資金がいる。
新生活の華々しいスタートが切れるのだって、
お金のある者だけだよ・・・

「やっほ〜。親から自立して、
新たなスタートを切った感想はどう?」

お金がなくって最悪なんてこと、
言いたくないからとりあえず強がってみる。

「最高!」

もともと、嘘が苦手な私の顔色をすばやく見抜いた瞳ちゃんは苦笑する。

「さっそく、理想と現実のギャップに挫折ってところか?」
「・・・わかってるんなら、聞くなよ」

瞳ちゃんは大病院の娘だから、お金には苦労しないんだろうけど、
こっちは小市民の一家なんだよ!

「あらら。せっかくいい情報もってきてあげたのに」

その言葉に少しだけ耳を傾けながら、部屋の片付けをする私。

「一時間で3千円の高額バイト♪」
「えぇ〜!!!」

世の中お金なのだ!!その言葉に私が食いつかないわけがない。
54 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/04(金) 01:19
入院患者の話し相手をすれば、一時間で三千円。
こんなにおいしいバイトはないと思った。

瞳ちゃんに頼み込んで、バイトを紹介してもらい、
翌日私は指定の病院に行くのだった。
瞳ちゃんのお父さんの病院・・・

相手がどんな相手で、どんな病気で・・・
そんなこと考えてなかった・・・

ただ、一時間に三千円!
これで貧乏生活ともお別れできて、新生活の華々しいスタートが切れるってことだけ考えてた。
55 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/04(金) 01:22
「こんにちは〜。アルバイトの柴田です」

病室に入るときにこんなあいさつをする人はいないだろうと思いつつも、
他に言葉も思いつかなかったから、とりあえずその言葉で中に入った。

「こんにちは・・・」

相手を見て、私は驚いた。話し相手を欲するような入院患者って、
てっきりお子様だと思ったのに・・・

相手は同じ年くらいの女の子だった。

「あ、どうも・・・」

いろんなことが頭の中を駆け巡って、
私はその場に立ち尽くしてしまった。
用意していた小話も、小ネタも全部子供向けだし・・・
だいたい、なんでこの人は話し相手をわざわざ雇ったんだ?
普通友達とかいるでしょ?
もしかして、すっごく性格とか悪いのかな・・・
だよね、だから一時間で三千円なんだよね・・・うっわぁ〜。
前途多難な匂いがしてきたよ・・・

「あ、あの・・・」
「あ、ごめん」

もともと警戒心が強い私がそんな第一印象の相手に気さくに話しかけることなんてできないわけで・・・
ベッドの脇に座ったのはいいものの、結局沈黙に支配されるのだった。
56 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/04(金) 01:24
「あ、あの・・・」
「あ?はい?」
「私、石川梨華です。よろしくお願いします」

すっごく小さい声で普通なら聞こえないくらいなんだろうけど、
この空間の静寂の中でははっきりと聞き取れた。

「あ、はい。柴田あゆみです」

で、再び沈黙。もういいや。
こんなわけあり気なバイトよりも、コンビニとかで地道に稼ごう・・・
そんな風に半分諦めかけたころ、梨華ちゃんが口を開いた。

「あの、つまらないよね?ごめんなさい」

ごめんって・・・
バイトで来てるのに何にもしてない私の方が問題なわけで・・・

「え?あ・・・いや。えっと、じゃあ、何かしよっか?」
「うん!」

何かしよっかって、何にも考えてなかったのに、
梨華ちゃんは期待の眼差しで見つめてくる。

「えっと・・・何する?」
「え?」
「ははは・・・」

考えてなかった私は、結局そんな言葉を放ってしまうのだった。

「考えてないの?」
「あ・・・ははは・・・」

笑顔がひきつるってこういうことなんだな。
なんて第三者的な感覚で現実逃避しようとしたり・・・

「その、荷物は?」
「え?」

私のふくれあがったカバンを梨華ちゃんは指差した。

「ああ・・・」

この子供だましの数々を年頃の女の子に披露するほど私に勇気ない・・・

「見せて?」
「え?・・・いや〜、それはちょっと・・・」
「見せて?ね?お願い!」

そんなに言うんだったらと、顔をしかめながらも私はカバンを開けた。
57 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/04(金) 01:25
「何これ?」

よりによって、一番ふれないでほしかった小道具に梨華ちゃんは目をつけてしまった。

「ははは・・・腹話術の人形・・・」
「腹話術できるの?」
「い・・・いや、そういうわけじゃ・・・」

子供相手ならまだしも・・・って思ってたのに、
梨華ちゃんの期待の眼差し。
結局頼み込まれて、子供だましを披露することに・・・

寒いよ、寒いって、絶対にひくから・・・
そんな私の予想を梨華ちゃんは大きく打ち砕いた。
子供だましの腹話術に大爆笑の梨華ちゃん・・・この人変?
って思いながらも、うけたことに気分をよくし、
私はその後も子供だましの数々を梨華ちゃんに披露したのだった。

「すっごく、面白かった!」

こんなことで笑ってくれるんだったら、
お笑い芸人は苦労しないだろうな〜。

「あのさ、また、明日も来てくれますか?」
「へ?」
「だめ?」
「あ〜・・・いいけど。バイトだし」
「本当に?」
「うん・・・」
「約束だよ?!」
「うん。わかった」

初日のバイトの感想は・・・
楽なのか大変なのかわからないバイトってことかな。
とりあえず、時給はいいし明日もまた病院に行くか・・・
58 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/04(金) 01:28
そんな感覚で、やる気あるんだか、ないんだかわからないままに、
梨華ちゃんのもとに通うのが日課となった。
昼は大学に通い、夜は梨華ちゃんのもとへ。
だんだんと、梨華ちゃん情報も増えていった。
石川梨華、18歳、誕生日は1月19日、A型・・・
まあ、それくらいなんだけどね・・・

「今日は遅かったね?」

五限まで授業があって、
その後、友達とカラオケに行ってからだったので梨華ちゃんのところに着いたのは面会終了一時間前だった。
一時間をきってしまうとバイト代もらえない?
みたいな計算から一時間よりも前に私は病院に行くのだ。

「あ、ごめんね。忙しくて」

嘘つくのは心苦しいけど・・・
私にも私の生活があるわけで・・・
あなたのおかげで、新生活の華々しいスタートが切れたんだから遊びたいのよね・・・

「忙しいのに、ごめんね」

梨華ちゃんはよく謝る。
私がバイトなんだか、梨華ちゃんがバイトなんだかわからないくらいに、
立場が逆転してる時がほとんどだったりする。
それくらい梨華ちゃんはなぜか私に気を遣ってくれるのだ。

「ううん。こっちこそごめん」
59 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/04(金) 01:30
「柴田さんって、大学生なの?」
「え?ああ。うん」
「へ〜。どんな勉強してるの?」
「えっと・・・」

どんな勉強って言われても、まだ始まったばかりだし、
とりあえず大学生って勢いで、受かった大学に滑り込んだ私に、
目標ややりたい勉強なんてないんだよね・・・

「大学はどこ?」
「ああ。うん。早稲田」
「え〜!!すごいね!!」
「ははは・・・広末と一連の騒ぎのおかげで人気が下がったからね。
入りやすかったの」
「でも、頭いいんだ!!」
「いや〜?どうでしょう?」

別に、勉強が苦手なわけでもないっていうか、
うちは両親が教育熱心だから、ずっと私立の女子校で、
だから早稲田くらい入らないとってかんじなだけ。

「学部は?」
「教育学部」
「先生になりたいの?」

いや、決してそんなことはない?
広末さんのおかげで、教育学部の人気がガタ落ちだったから、
ラッキーってかんじで受けただけなんだよね・・・

「いや、別にそういうわけでもないんだけどね・・・」

正直に否定する私のことを梨華ちゃんは不思議そうな顔で見つめてて・・・

「でも、いいよね。大学行ったり、お勉強したり、なんか楽しそう」
「そうでもないよ。けっこうめんどくさい」
「そうなの?」
「うん」
「でも、いいな〜。楽しそう」

梨華ちゃんは、ずっと病院にいるから、
どんなにささいな事で外の環境は魅力的なんだなんてこと、
その時の私は気づかなかった。

その日から、私たちの話の中心は子供だましの小ネタから、
大学での面白エピソードに変わっていった。
60 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/04(金) 01:32
「でね、その先生がね・・・」

だんだん私は梨華ちゃんに対する警戒心が薄れていって、
毎日くだらない話で笑いあうことが増えていった。
梨華ちゃんは私の見つけてくる面白話に興味津々で、
私もそんな梨華ちゃんの笑顔が楽しみになった。

もともと、すっごく可愛くて、女の子らしい梨華ちゃんの笑顔は、
ミスなんとかに応募したら、間違いなく入選するよ!ってかんじだった。

「柴ちゃんの話って、本当に面白いね!」

いつの間にか、あだ名で呼び合うようになった私たち。
これがバイトってことを除けば、すっごく仲のよい友達に見えると思う。



バイトなんだよね・・・
いつからか、梨華ちゃんから受け取るお金に罪悪感を覚えるようになった・・・
でも、そのお金は今や私の生活の頼りになっていて・・・
それを断ることはできなくて・・・

そんな関係が続いた。
61 名前:けんけん 投稿日:2004/06/04(金) 01:37
>> 51 名無飼育さん
二作目スタートいたしました。今回も短編の予定ですが、
よろしくお願いしまっす!!
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/04(金) 06:42
新作乙です!
作者さんの描く石柴はすごく魅力的ですね!
63 名前:けんけん 投稿日:2004/06/05(土) 00:14
『面会謝絶』

夏の日差しを重たくかんじながら、梨華ちゃんのもとを訪れると、
そんな札がかかっていた・・・

その日は体調崩したんだろうくらいな感覚だったけど、
その札が一週間もかけられると、
もう一生梨華ちゃんに会えないんじゃないかと思うようになった。
ただのバイト、高額バイト、おいしいバイト・・・
だったはずなのに、いつしか、私の対象はお金じゃなくて梨華ちゃんに移ってて、
彼女の笑顔を見るのが楽しくなってた。

会えない時間は一日を何十倍にもする。
時間がたつのが長く感じる。
一日千秋ってことわざを思いついた人の気持ちがなんとなくわかったり・・・
64 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/05(土) 00:15
「柴ちゃん!元気だった?」

久々に会った彼女は前よりすこしだけ、痩せたかなってかんじだった。

「うん。元気元気!梨華ちゃんは不調だったみたいね?」
「うん。柴ちゃんに会えなくてすっごく、すっごくすっご〜く寂しかったよ」
「はははっ。なんだ。元気になったみたいでよかった」
「うん。元気元気!超元気だよ♪」

久々の梨華ちゃんの笑顔は最高だった。

「柴ちゃん、お話聞かせて?」
「あ、うん」

そんな時に限って、小話は何一つなかった。
だって、この一週間、ずっと梨華ちゃんのことが気になって、
日常生活を楽しむ余裕なんかなかったから。

「ご、ごめん・・・ネタないや」

その言葉に梨華ちゃんは残念そうな顔をする。
65 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/05(土) 00:18
「じゃあさ、梨華ちゃんのお話聞かせてよ!たまにはね?」

そんなこと、言わなきゃよかった。

「私は・・・ずっと入院してるから・・・」
「でもさ、入院する前とか!」

何にも知らないって残酷なんだね・・・
もう三ヶ月近く一緒にいたのに、梨華ちゃんのこと私全然知らなくて、
だからこんなこと平気で口にできたんだ。

「ずっと、入院してるの・・・
小学校と、中学はたまに行けてたんだけどね・・・」

その言葉で、相手が病人だったって今さら気づいた。

「お父さんとお母さんは二人とも忙しくて、
会えるのは、月に一回くらいなの。
お姉ちゃんと妹もいるから、私がいなくてもいいみたい。
毎日毎日すっごく、つまらなくって・・・
だから、嘘でもいいから、お友達欲しいなって思ったの」

嘘の友達・・・

そうだった。
バイトだもんね・・・

梨華ちゃんは始めから、私がやる気なくて、お金目当てで、
そういうの全部知ってたんだよね・・・見透かされてたんだね・・・
それでも、嘘でもいいから友達欲しいから、私にずっと気をつかって・・・
自然と視界が潤んできて、私は慌てて病室から飛び出した。
66 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/05(土) 00:20
頭をフル回転させて、必死にいろんなこと考えて・・・

自分のこと、梨華ちゃんのこと、とにかくいろいろ考えて・・・

考えて考えて考えて・・・



でも、結局なんにも整理できなかった・・・


始めからわかってたことじゃん・・・
お金が欲しくて引き受けたバイトで相手がたまたま同じ年くらいの女の子で・・・

友達欲しいって・・・それだけじゃん・・・

バイトだから、知り合って、
バイトだからつまんなくても一緒にいて、

バイトだから、バイトだから、バイトだから・・・



そう自分に言い聞かせた。

結局、バイトなんだから、もっと梨華ちゃんを楽しませてあげよう!
ってことで自己解決させた。
67 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/05(土) 00:23
「やっほ〜」
「あ!柴ちゃん!!」

あの日以来、私が病院にいる時間は長くなった。
夏休みってこともあり、ほぼ毎日朝から夜まで一緒にいるようになった。
そんなにしたら、梨華ちゃんの出費が大変だって思い、
時給制から、日給制に変更してみた。

「見て見て?」
「何?」
「じゃじゃ〜ん!!」

私が梨華ちゃんに見せたのは、病院の夏祭りのチラシだった。

「もうすぐだよ!」
「そうなんだ」

梨華ちゃんの顔はなんだか浮かなかった。

「お祭り嫌い?」
「ううん・・・好きだけど、パジャマだし・・・
ママが次に来るまでにはお祭り終っちゃうから・・・」

そっか・・・女の子だったらお祭りには浴衣着たいもんね・・・
梨華ちゃんが梨華ちゃんのお母さんに浴衣をねだるころには、
お祭り終っちゃうのか・・・

「よっし!じゃあ、私が浴衣買ってきてあげるから、
一緒に行こうよ!!」

その言葉に梨華ちゃんの顔が一気に輝く。
この人は本当に表情が豊かな人なんだ。

「本当に?」
「うん」
「本当にホント?」
「うん!バイト代で買ってきてあげるよ!」
「柴ちゃん、大好き!!」

その言葉に少し照れながらも、笑顔で引き受けた。
68 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/05(土) 00:24
吟味に吟味を重ねて、
かなりふんぱつして梨華ちゃんの浴衣を買って、
私たちはお祭りに参加した。

さすが大病院のお祭りともなると、本格的だった。
屋台に、盆踊りまで・・・
なんか地域のしょぼいお祭りよりもきっと盛り上がるって気がした。
梨華ちゃんは私が買った浴衣を着てすっごくはしゃいでお祭りに参加した。

私もそんな梨華ちゃんの様子が嬉しくて、今日は特別サービス!
くらいの勢いで、梨華ちゃんのわがままを存分に聞いてあげるのだった。

屋台のやきそばや、わたあめ、チョコバナナ・・・
いろんなものを買ってあげて、金魚すくいやら、ヨーヨー釣りやらもやらせてあげて、
梨華ちゃんのために、お金を遣いまくった。

「楽しいね!」

梨華ちゃんは何度もその言葉を口にしてくれて、
なんかその言葉を聞くのが私は楽しみだった。
69 名前:けんけん 投稿日:2004/06/05(土) 00:28
>>63
 またまた題名と名前間違えてしまいました・・・
 二度目じゃん!!次回からは気をつけます!!
70 名前:けんけん 投稿日:2004/06/05(土) 00:28
>>62 名無飼育さん

 そう言っていただけると、嬉です!励みになります!!
 また読んでください!!
71 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/07(月) 01:03
「すっごく、楽しかった!」
「うん」

お祭りから帰って病室のベッドの上でも梨華ちゃんの興奮は冷めないようだった。

「こんなに楽しかったの、生まれて初めてかも!」
「それは、大げさだよ!」

冗談っぽく笑った私とは反対に梨華ちゃんの目はマジメだった。

「本当に。こんなに楽しかったの初めてだよ」
「じゃあ、もっとも〜っと楽しいことしようよ!」

なんか、そんな言葉が勝手に飛び出してしまっていた。

「え?」

一瞬驚いたあとに、期待で目を輝かせる梨華ちゃんにひっこみがつかなくなったので、
とりあえずその言葉を続けてみる。

「だから、梨華ちゃんがやりたかったのに、
やれなかったこといっぱいやろうよ!協力するからさ!!」
「本当に?」
「うん!」
72 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/07(月) 01:05
「本当にホント?」
「うん!任せてよ!」
「じゃあ!」

その時だった。
梨華ちゃんは一瞬固まると、胸を押さえて苦しみ始めた。

「り、梨華ちゃん?」
「・・・」

みるみるうちに顔が青くなって、呼吸も荒くなって、梨華ちゃんは苦しみだしたのだ。
そんな状況を目の当たりにすることなんかないから、私はショックで震えた。

「し・・・ばちゃん・・・看護婦さん・・・呼んで・・・」

その言葉に私は必死にブザーを鳴らした。
何度も何度もブザーを鳴らした。

それから、看護婦さんがやってきて、私は病室から出されて、
梨華ちゃんには治療がほどこされた。

病室からでて、何時間も回復を待ったけど、
面会謝絶の札が下げられて、その日は帰ることにしたのだった・・・

改めて、相手が病人だということが胸に刻まれた。

次の日も、その次の日も面会謝絶で・・・
それでも、私は毎日何度も病院に足を運んだ。
73 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/07(月) 01:07
「柴ちゃ〜ん!」

久々に会った梨華ちゃんはいつものように私に明るく話しかけてきた。

「・・・」

なんか、この世界中を幸せな気分にさせそうな笑顔と、
元気に弾んだかん高い声を聞いていると、
やっぱり梨華ちゃんが病人だということを忘れてしまう。

でも、会えない時間が長かった私は、素直に笑えなかった。
すごっく会いたかったのに、会えた喜びよりも、会えなくなった時の寂しさが先立って・・・
笑顔になれない。

「柴ちゃん暗いね・・・」

梨華ちゃんの声が沈んだのがわかって、私は慌ててつくろった。

「あ!ごめんごめん。元気になった?」

私の必死の笑顔に、梨華ちゃんは苦笑しつつも、
それ以上はふれないでくれた。

「うん。元気になったよ♪
あのね、この間柴ちゃんが言ってた話さ、」
「えっと?」
「やりたいこと、いっぱいやるって話!」
「ああ、うん」
「本当に協力してくれる?」
「え?ああ。もちろん!!」

なんでもするよ!なんでもするから・・・
梨華ちゃん、その元気な笑顔、ずっと、ずっと、ず〜っと見せてくれる?
そのためだったら、なんでもするよ・・・

もちろんそんな恥ずかしい言葉は口にはださないけど・・・
74 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/07(月) 01:10
「うれしい!」
「うん。じゃあ、何からする?」
「うん。あのね、今度、一時退院することになったの」

それを聞いて、私の心は晴れるのだった。なんだ、元気になったんだ。

退院の前に一時って言葉がついていたこともあまり気に留めないで、私は喜んだ。

それから、私たちは梨華ちゃんのやりたいことを書き出していった。

1、 ディズニーに行きたい。
2、 学校に行きたい。
3、 好きな人とデートしたい。

え?好きな人とデート・・・!?

75 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/07(月) 01:12
「好きな人いるんだ・・・」
「うん・・・」

真っ赤な顔でうつむく梨華ちゃんから、
その相手が本当に好きなんだってことがわかった・・・

なんか、すっごく複雑な感情が駆け巡った。

梨華ちゃんに好きな人がいたって、おかしくないし、
それは自分とは全然関係ないのに・・・
こうして、梨華ちゃんのために何かしてるのだって、
バイトだからだし、嘘の友達ってやつだからなのに・・・

なんで、こんなに胸が締め付けられて、
頭の中がグチャグチャになるのよ・・・

「ほ、他には?」

これ以上この話題を続けたら泣きそうになるから・・・
とりあえず話題を変えてみる。

「あ・・・うん。今はそれくらいかな?」
「了解!じゃあ、計画しておくよ」
「え?うん」

で、私は足早に病室から去っていった。
病室から出たとたんに、涙が溢れ出し、
人目をばからずに泣きながら自分の家に帰ったのだった。
76 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/07(月) 01:13
で、家について、気持ちを落ち着かせてからよくよく考えると、
かなり無理な注文ばかりであることに気がついた。

ディズニーって、ランド?シー?まあ、両方行けばいいか?

で、それはいいとして・・・学校に行きたいって・・・
通信制の高校に通ってる梨華ちゃんが通う学校なんてないじゃん・・・

で、一番の問題は・・・デート・・・
梨華ちゃんが誰を好きなのか聞いてなかったよ・・・
聞きたくないけど、今度行った時に聞かなきゃね・・・

でも、翌日から梨華ちゃんはまた面会謝絶になってて・・・
好きな人は自分でリサーチするしかなくなった。
77 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/07(月) 01:15
「あ〜。それなら、多分、あゆみの前のバイトの人だと思うよ?」

とりあえず、瞳ちゃんに相談したら、話は一気に解決しそうだった。
バイトを紹介した張本人だからね。
梨華ちゃんは瞳ちゃんのお父さんが経営する病院にずっと入院していたし、
噂好きな瞳ちゃんなら?と思った予感が的中した。

「そうなんだ・・・」

やっぱり、そういう相手がいたんだってことに少しショックを受けつつも、
瞳ちゃんの話を聞くことにする。

「一番最初のバイトの人で、梨華ちゃん相当好きだったみたいで、
看護婦さんも噂してたからね」
「へ〜」

さぞかしかっこいいんだろうね・・・

「すっごくかっこよくてさ、私も狙ってたんだけどね。
バイト辞めちゃってね」

やっぱり、かっこいいんだ・・・ってか狙ってたって・・・

「そうなんだ。その人の連絡先わかる?」
「は?なんで?」

で、瞳ちゃんに梨華ちゃんのやりたいこと計画を話す。
話を聞いた瞳ちゃんはなんか複雑な顔をしていた。

「だから、教えてほしいの!」
「あゆみ・・・やめた方がいいよ・・・」
78 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/07(月) 01:18
「え?」
「あんまり、関わらないほうがいいよ!」
「なんで!」

思わず大きな声を出してしまった。
だって、バイトを紹介したの瞳ちゃんじゃん!
って言おうとしたところに、瞳ちゃんの言葉が先にのっかった。

「梨華ちゃんね、もうすぐ死んじゃうの・・・
だから、あんまり深入りすると別れる時辛いじゃん!」
「え・・・」

何かを聞いて、頭が真っ白になるっていうの・・・
本の中の世界での誇張表現だと思ってたけど・・・
本当に真っ白になるんだ・・・
頭の中は真っ白で、目の前は真っ黒だった・・・

「梨華ちゃんの病気ね、すっごく重いの。
日本では手術できなくて・・・
入院して治療するだけでもすっごくお金がかかるの。
だから、梨華ちゃんの両親は共働きでさ・・・」

それから、梨華ちゃんの病気のことについて瞳ちゃんはあれこれと話してくれたけど、
よく覚えてない・・・


ただ、最後の言葉は鮮明に覚えてる。

「でね、もう、手術できる状態じゃなくなっちゃったの。
つまり、死ぬのを待つだけ・・・
あゆみに隠すつもりはなかったんだけど、そんなに深入りしてる様子もなかったし、
バイトって割り切ってると思ってさ・・・
そういうわけだから、あんまり関わりすぎない方がいいよ」
79 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/07(月) 01:20
「・・・無理だよ・・・」
「え?」
「無理だよ!もうそんなの無理だよ!!
梨華ちゃんに約束しちゃったもん!!
今まで出来なかった梨華ちゃんのやりたいこと、全部やろうって!!
なんでもなにもかもやろうって!!そんなの無理だよ!
関わらないなんて無理だよ!!」

一気に感情的になって・・・
瞳ちゃんに抱きしめられた瞬間に涙が噴出して・・・
周りの人が驚くくらい大きな声を出して泣いた。


その日は瞳ちゃんがずっとそばにいてくれて、だからいろんなこと少しだけ考えて・・・
考えても整理しきれないけど、とにかく約束は守る!ってことに決めたのだった。


とにかく、時間がない!!
梨華ちゃんの時間が来る前に、私は約束を果たすんだ!
そう思うといてもたってもいられなかった。
80 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/09(水) 01:20
「あ、ども」

瞳ちゃんに聞いた梨華ちゃんの好きな相手に翌日連絡をとって昼に待ち合わせしてみた。

「やあ」

さわやかな笑顔の女の子・・・
ってっきり男の子だと思っていたのに、相手が女の子で・・・
なおさらショックが倍増した。

「はじめまして、柴田あゆみです」
「はじめまして。吉澤ひとみです。っていうか、君かわいいね〜!
うちさ、今彼女いないし、OKだよ!」
「はい?」

か、軽いよこの人・・・

「だから、付き合いたいっていうんでしょ?」
「は?」

軽いだけじゃなくって、世界一の勘違い野郎だ・・・

「いいよ!あゆみちゃんね」
「ち、違います!!」
「へ?」
「違うから!!」
「あ?そうなの?
じゃあ、こっちから、お願いします!恋人いるの?」
「いないけど」
「じゃあいいじゃん!付き合おうよ!」
「付き合わない〜!!」
「なんで〜?好きな人いるの?」

その言葉にとっさに梨華ちゃんの笑顔が浮かんだ。
とっさに浮かんだ梨華ちゃんの笑顔を否定するために、
私は彼女に話を切り出した。
81 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/09(水) 01:22
「そうなんだ・・・ごめん。パス」
「え?なんで!」
「そういう、シリアスなの苦手なんだよね」

そうだろう。そういうタイプじゃないだろう!
でもさ!!梨華ちゃんは死んじゃうんだから!!!
時間ないんだから・・・
せめて少しだけ楽しむくらい協力しろよ!
そんな言葉をどれから伝えればいいのか私は悩む。

「それに、梨華ちゃんは可愛いけど、うちのタイプじゃないんだよね。
うちさ、どっちかっていうと、可愛い子よりも、クールなかんじ、
つまりあゆみちゃんみたいな子が好きなのさ」

その言葉に、軽くて、調子よくて、
そういう態度がむかついて私はきれてしまった。

「あの!ふざけないでよ!!
梨華ちゃんには残された時間ないんだよ!
少しくらい協力してくれてもいいじゃん!!!」
82 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/09(水) 01:24
「・・・だからだよ」

感情的になった私にまた調子のいいことを言うのかと思えば、
吉澤さんは急に真剣になった・・・

「だからだよ。時間ないんじゃん。
それなのに、お遊びしてたらもったいないじゃん!
本気で梨華ちゃんのこと好きなら別だけど、
そうじゃないんだからさ、今日だけって気持ちで付き合うのなんて、
偽善じゃん?最低だよ。
梨華ちゃんだってきっと嬉しくないんじゃないのかな・・・」

その言葉に胸がえぐりとられた様な気持ちになった。
その通りだと思った。


そして、自分の最低さが身にしみた・・・

「そうだね・・・」

自分が恥ずかしかった。
お金もらって、バイトで・・・
梨華ちゃんには残された時間がないのに・・・
偽善者って言葉、世界で一番今の自分があてはまるよ・・・

「って、シリアスにならないでよ!」

そっか。この人、すっごく優しくて、すっごく強い人なんだって気が付いた。


私の方がずっとずっと軽いよ・・・
結局その日はそれで別れた。
83 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/09(水) 01:27
罪悪感をかかえたまま・・・
偽善者の私はその後も梨華ちゃんとのバイトは解消しなかった。
毎日毎日会いに行って、日給だったところを、月給にかえた。

「もうすぐ退院だよ♪」

退院を間近に控えて、梨華ちゃんはいつもそのことばかりを口にした。

「そうだね」

退院だけど、一時なわけで、梨華ちゃんはすぐにここに戻ってくるんだ・・・
そんなことはできるだけ考えないようにして、私はできるだけ明るくふるまった。

「ディズニー連れて行ってくれるんだよね?」
「うん」

でも、他の二つは全然未定なんだよね・・・

「ママやパパもね。最近はよくお見舞いに来てくれるようになったんだ」

それはつまり、働きまくって、
お金を稼ぐ必要がなくなったことを意味してるんだよね・・・

暗くなりかけた自分を必死で取り戻す。

「そうなんだ」
「うん。退院が待ちどおしいねって話してるの」
「うん」
「でもね、退院してる間は柴ちゃんとた〜くさん遊ぶんだって決めたんだ」

なんか、責任重大だ・・・
でも、梨華ちゃんの笑顔いっぱい見たい。
そのためなら、なんだってできる気がした。

それから、梨華ちゃんは退院してやりたいことを次々と話してくれた。

渋谷行って、クレープ食べたり、カラオケ行ったり、
ショッピングしたり、映画を見たり・・・

梨華ちゃんの要求はしばらくのうちに膨れ上がったみたい?


そんな梨華ちゃんのわがままはなんだか、心地よかった。
84 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/10(木) 02:36
梨華ちゃんの一時退院の期間は一週間だった。
だから、私は綿密に計画を練るのだった。

初日は家族と過ごす。
二日目は学校へ。
梨華ちゃんの学校はないから、私の学校に連れて行くことにした。
友達にバイト代はらって、偽授業の用意。

三日目と四日目はディズニー巡り。
近くのホテルまで予約して、二日間で両方制覇なのだ。

五日目からの予定は・・・
とにかく、吉澤さんに会わせてあげようかな・・・くらいで、
未定だったけど・・・
85 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/10(木) 02:38
「ここが、柴ちゃんの学校なんだ?」
「うん」
「すっごく広いね〜」
「大学はこんなもんだよ」
「そうなんだ」

梨華ちゃんにキャンパスを案内してから、
梨華ちゃんを大学の講義室に連れて行った。

「梨華ちゃん、授業受けてみたいって言ってたからさ、
ちょっと頼んでみたの」
「え?」

時間になると、私の友達も教室に入ってきた。

「じゃあ、授業を始めるよん」

教壇に立ったのは、めぐみちゃん。二つ上の三年生。

「じゅ、授業?」

驚く梨華ちゃんに私は作戦成功とばかりににやける。

「これこれそこ!私語はいかんよ」

めぐみちゃんは先生気取り。
まあ、教育学部だし、彼女は熱心だからもうすぐ教師になるであろう人なんだけどね。
めぐみちゃんの授業はすごく楽しかったみたいで、
梨華ちゃんは大満足だった。
86 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/10(木) 02:40
「柴田君のお友達可愛いね〜」

授業を終えてからも講義室で会話を楽しんでいた私たち。
めぐみちゃんの言葉に私は得意になる。

「そ、そんなことないです」

謙遜してるけど、梨華ちゃんは本当に可愛いよ。

「梨華ちゃん、恋人いるの?」

雅恵ちゃんだ。
雅恵ちゃんは可愛い子を見るとすぐに声をかけるんだから・・・

「い、いません」
「じゃあさ、好きな人は?」

一気に赤くなった梨華ちゃんの代わりに、私が返す。

「梨華ちゃんには好きな人いるよ!」

ちょっと不機嫌ぽい私の肩を瞳ちゃんが叩く。
別に気にしてないから!

「そうなんだ。どんな人?」

その話題、あんまり続けて欲しくないのに、
雅恵ちゃんは興味津々・・・

「えっと、優しくて、面白くて、いろんなことしてくれて・・・」

嬉しそうに話す梨華ちゃんの横で、
どんどんブルーになっていく私・・・

「梨華ちゃんにとっては王子様だね!」

めぐみちゃんの言葉に梨華ちゃんはハニカんだ。
87 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/10(木) 02:42
そうだね。梨華ちゃんがシンデレラで吉澤さんが王子様だったら・・・
私は魔法使いくらいの存在なんだろうか?
魔法使いだったら、魔法が解けない魔法を教えてよ・・・

意味わかんないことを考えてボーっとしてた私に梨華ちゃんが声をかける。

「柴ちゃんは?」
「はい?」
「好きな人?」
「ああ・・・」

その言葉を聞くといつも梨華ちゃんの顔が浮かんでくるよ。
それだけ一緒にいるってことか・・・

「いるの?」

興味津々だね・・・

「いないよ」
「そうなんだ」

心なしか、梨華ちゃんは嬉しそうで・・・

「梨華ちゃんのところにばっかり行ってるから、
恋する時間もないの!」

梨華ちゃんには好きな人がいるけど、
私はそれを仲立ちするために奔走してて・・・
恋する暇なんかないんだよ!
少し怒ったかんじだったからか、
梨華ちゃんは暗くなってしまった。

「ごめん・・・」
「あ、いや。そういう意味じゃなくって・・・
その。つまりね。梨華ちゃんのことで頭がいっぱいっていうか、
だからつまりね・・・」
「あゆみは梨華ちゃんが好きなのよね」

瞳ちゃんに核心をつかれたものの、
それを認めることはタブーだから、必死に否定する。

「ち、違うよ!!そうじゃなくって、梨華ちゃんはだから・・・」

なんかしどろもどろな私に梨華ちゃんは失笑してくれた。
笑われたとしても、笑ってくれたんだったらいいか・・・

学校大作戦は梨華ちゃんすっごく気に入ってくれたみたいで、
お昼のランチもみんなで食べて、
結局大学で夕方近くまでうろついていた。
88 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/11(金) 16:15
翌日はディズニー。
梨華ちゃんの希望で、初日はランド。二日目はシーにした。
ランドには何回も来てるけど、こんなに楽しかったのは初めてだった。
梨華ちゃんもすっごく楽しそうだった。

誰かの笑顔を見るのがこんなに幸せだったんだって初めて知った。
アトラクション制覇して、パレードも見て、写真もいっぱい撮って・・・
すっごく楽しくて、梨華ちゃんも元気で、
梨華ちゃんが病気だなんてことすっかり忘れちゃった。

ホテルも超豪華で、ご飯もすっごくおいしくて。
二人でさんざんはしゃいだから、夜はぐっすりだった・・・
89 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/11(金) 16:17
「え?」

真夜中、梨華ちゃんのすすり泣く声で私は起こされた。

「り、梨華ちゃん?」

隣のベッドに寝てた梨華ちゃんの様子を見に行くと、
枕に顔を押し付けて泣いていた・・・

「梨華ちゃん?どっか痛い?」

私の言葉に梨華ちゃんは首を横に振った。

「梨華ちゃん?具合悪いの?」

その言葉にも同じ反応。
泣いてる梨華ちゃんを前にどうしていいかわからなくて・・・

ただ隣に立ってるだけの時間が過ぎていく。

「怖いの・・・」

少しだけ落ち着いた梨華ちゃんが口にした言葉。

「え?」


「怖いの・・・」
「・・・」
90 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/11(金) 16:19
「夜、目をつぶると一人ぼっちって気になって・・・
真っ暗だから・・・自分だけそこから、
出てこれないんじゃないかなって思っちゃうの・・・」
「・・・」
「私さ・・・もうすぐ死んじゃうんだよね・・・
その日が今日なのか、明日なのかって思うと・・・
怖いの・・・
今日ね、すっごく楽しかったから、
もっと、もっと生きてたくなちゃったの・・・死にたくないよ」
「死なないよ!!」
「・・・」
「死なないよ!ってか、死なせないから・・・
梨華ちゃんがやりたいこと全部やって、
好きなこと全部やって、人生やり残すことないって思えて、
それでもいろいろ楽しんで、だから死なないんだよ!」
「柴ちゃん・・・」
「死なせないよ・・・それに、それにね!
一人ぼっちなんかじゃないよ!私がついてるから・・・
ずっと一緒にいるから!なんでもするから・・・
一人にしないから・・・」

神様お願い!

一つでいいから、魔法を使わせて!なんでもするから・・・

でも、魔法なんてないから・・・
私はその晩梨華ちゃんのベッドの脇でずっと梨華ちゃんを見守ってるしかできなかった。


朝起きたら、梨華ちゃんは少し辛そうで、
結局ディズニーシーには行かず、家に戻る方を選択した・・・
91 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/11(金) 16:20
「ごめんなさい!!」

私が連れまわしたせいで梨華ちゃんは具合悪くなっちゃって・・・
梨華ちゃんを心配して駅まで迎えにきた梨華ちゃんのお母さんに私は何度も頭を下げた。

「ありがとう。梨華ったら、すこしはしゃぎすぎちゃったのね?
今日はゆっくり家で休みませるから、元気になったらまた遊んであげてね?」

梨華ちゃんのお母さんは謝る私に何度も感謝の言葉をくれた・・・

「柴ちゃん・・・明日また遊んでくれる?」
「・・・」

一緒にいたら、また梨華ちゃん無理して具合悪くなっちゃうじゃん・・・

「柴ちゃん?」

不安気な顔の梨華ちゃんにそんなこと伝えられないから、

私はまた約束をした。

「うん。わかった。また明日ね」
92 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/11(金) 16:21
時間がない時間がない時間がない・・・


だから、私は梨華ちゃんのやり残したことを達成させたくて、
吉澤さんに会いに行った。

「やっほ〜!」
「・・・」

明るく笑顔を見せた吉澤さんだったけど、
どん底に暗い私の表情に息をのんだみたいだった。

「お願いがあるの・・・」

私が切り出した時も、吉澤さんは黙って聞いてくれた。

「梨華ちゃんとデートして欲しいの!
嘘でもいいの・・・そんなの!
って思うかもしれないけど・・・
やっぱり、好きな人と一緒にいられたら、
それだけで幸せだよ・・・お願い・・・」
「・・・なんで?」
「え?」
「なんでそこまでするの?」
「・・・」
93 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/11(金) 16:23
「前にも言ったけど、同情で関わるのは・・・」

言いかけた吉澤さんの言葉を私はとめた。

「好きなの!」
「え?」
「梨華ちゃんのこと、好きなの・・・
好きで好きで好きで・・・
だから、笑ってて欲しいの!そのためなら私・・・お願い!」
「・・・」
「始めは、お金が欲しくてバイトしたの。
でも、いつの間にか、気づいたら好きになってた・・・
好きでもない女の子とデートできないって、言ったよね?
私が梨華ちゃんのことが好きなの・・・
でも、梨華ちゃんが好きなのは、あなたで、だから・・・
梨華ちゃんが一緒にいたいのも、吉澤さんで・・・
だからお願い!私の代わりに、梨華ちゃんとデートして!!」
「・・・」
「時間がないの!お願い!梨華ちゃんのためじゃなくていいの!
私が梨華ちゃんの笑顔みたいから。だからデートしてあげて!!」

切羽詰った今にも泣きそうな私の言葉をどんな顔で吉澤さんは聞いてたんだろう。
彼女は少しだけ戸惑って返事をくれた。

「わかった」
「え?」
「わかった。一度だけデートするよ」

その言葉に、ホッとしつつも、胸が引き裂かれそうだった。

「ありがとう・・・」
「で?いつ?」
「あ・・・えっと、明日!」
「明日?!」


急すぎるよね・・・
でも、梨華ちゃんの一時退院の時間もう残されてないから・・・
94 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/11(金) 16:24
「おはよう!」

翌日、約束どおり梨華ちゃんを迎えに行った。吉澤さんと。

「おはよう柴ちゃん!え・・・?」

吉澤さんを見て、梨華ちゃんは驚いたようだった。

「梨華ちゃんのやりたかったことのあと一つ、
今日やっちゃおうよ?」
「へ?」
「好きな人とデートでしょ?」
「え・・・うん」
「じゃあ、あとは二人で!」



あんまりその場にいると、せつなさが募るから、
足早にっていうか、駆け足でその場から私は去った。
95 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 00:58
翌日、一時退院の期間が終って、梨華ちゃんは病院にもどった。
病院に戻ったシンデレラを楽しませるために、
私はいろんな小道具を用意して梨華ちゃんのもとを訪れた。

「やっほ〜」
「柴ちゃん・・・」

梨華ちゃんは少し暗かった。

「どうだったデート?」
「・・・」

吉澤のバカ!なんで、暗くさせるようなデートするのよ!!

「そっか。でもさ、好きな人と一日過ごせたんだし、
よかったじゃん!」

梨華ちゃんは私を睨むように見つめた。

「・・・ごめんね。吉澤さん、実はあんまり気乗りしてなかったんだ。
梨華ちゃんのこと、好きってわけでもないのにデートなんてできないって・・・」
「・・・よっすぃは頑張って楽しませてくれたよ」
「そうなんだ・・・よかった」
「でも!私がデートしたかったのは、よっすぃじゃないもん!!」
「え?」
「よっすぃじゃなくて、好きなのは・・・よっすぃじゃないから・・・」
「え?でも・・・」

あんなに頑張ったのに・・・振り出しだよ・・・
96 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 00:59
「ごめん・・・勘違いしてた・・・」

それから少しだけ沈黙で、それを破ったのは梨華ちゃんだった。

「柴ちゃん?」
「ん?」
「お願いがあるの」
「・・・うん」

なんでもするよ。

「私をここから連れ出して!」
「え・・・?」
「お願い!柴ちゃんと行きたいところがあるの!!」
「でも!だめだよ勝手に・・・」


「お願い!時間がないの!!」
97 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 01:00
結局梨華ちゃんの頼みを聞き入れて、
私は瞳ちゃんに協力させて梨華ちゃんを病院から連れ出した。

「柴ちゃん最高!!」

病院から開放された梨華ちゃんは輝いていた。

「なんでもするよ。シンデレラのためならね」
「え?」

思わず心の言葉を呟いた私に梨華ちゃんは驚いた。

「あ・・・うん。だって、魔法使いのおばあさんみたいな存在だからね、私」

自嘲気味に笑った私に梨華ちゃんは寂し気に微笑んだ。

「で?どこに連れて行けばいいのかな?」
「あ・・・うん」
98 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 01:02
梨華ちゃんがせがまれて連れてきたのは、
梨華ちゃんの地元の海岸だった。

地元の駅からバスで少しいったところにきれいな海があった。

「へぇ〜。きれいなところだね?」
「うん」
「いいところだね?」

ビーチといっても、地元の人しかいなくて、
海岸沿いはちょっとした散歩道もあって、
海風と木陰道が夏の暑さを和らげてくれる。

こんなにいいところもめずらしい。

「ここね、好きな人と来たかったの」
「そっか。ごめんね。私で。
本当の魔法使いだったら、梨華ちゃんの好きな人すぐに連れてきてあげるのにさ。
人間だから不便なんだよね」

私の寂しい冗談に梨華ちゃんは少しだけ笑ってくれた。

それから、散歩しながらくだらない話をした。

梨華ちゃんはなんだかすごく楽しそうで、
むちゃなことを言っては私を困らせた。


でも、そんなわがままが心地よかった。

99 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 01:03
「あ!?そうだ、水族館があるんだよ!」
「へぇ〜」
「すっごく小さくて、さびれてるんだけどね」
「そうなんだ」
「行こうよ!」
「え?ああ。うん」

水族館は本当にしょぼくて、お客さんは一人も居なかった。
なんでこんなところに水族館を建てたのか不思議に思うほどだった。

「柴ちゃん、お魚好き?」
「さぁ〜・・・好きかな〜?」
「私ね、イルカが好きなの!」
「ふぅ〜ん」
「イルカってね、頭いいんだよ。人間の言葉がわかるんだって」
「そうなんだ〜」

それからも、梨華ちゃんは大好きなイルカの話を延々続けた。
興味なんて全然ないけど、梨華ちゃんが話すから興味が出てきて、
さびれた水族館なのに堪能できた。
水族館でずいぶん時間をくって、出てきた頃には、日が沈みかけていた。

「大変!」
「え?」
「夕日が見える丘に行かなくっちゃ!」

梨華ちゃんは私の手をひいて、
夕日が見える丘とやらに連れて行ってくれた。
100 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 01:04
「すっごい!」

太平洋は日本の東側に面しているから、
海に沈む夕日が見える場所は少ない。
地理的条件が整っていないと無理なのだ。
その場所からはきれいな海に沈む夕日が見えて、
私は思わず感嘆してしまった。

「きれいでしょ?
ここね、地元の人しか知らないとっておきの場所なんだ」

地元民のお勧めスポットはこれだからバカにできない。

「本当にきれい」

私たちは丘の上に腰をおろして、ただ夕日を眺めた。

「夕日ね、本当はあんまり好きじゃないんだ」
「なんで?きれいじゃん」
「だってさ・・・お別れってかんじがするから」

夕日が別れのシンボルなんだとしたら、私もきらいだよ。

「でもさ、すっごくきれい。
なんか、一日で一番輝いてる気がするよ。
明日また会うまで私のこと忘れるなよ〜!ってかんじでさ」
「そっか。だから夕日ってきれいなんだ?」
「うん。こんなにきれいだったら、絶対に忘れないもん」
「私のことも忘れないでね・・・」

その梨華ちゃんの言葉は小さくて、私は聞き取れなかった。
101 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 01:06
「え?」
「ううん。あのね、今日はありがとう」
「うん」
「好きな人とデートできたよ」
「うん。ちゃんと相手連れてくるね」

どこまでも、鈍感な私に、梨華ちゃんは笑ってた。

「ありがとう。柴ちゃん優しい・・・私のこと、忘れないでね?」
「え?」
「もうすぐいなくなっちゃうかもしれないけど、忘れないでね!」
「何言ってんのよ!いなくなんかならないもん!夕日は沈んでもまたのぼるんだよ!」

怒った私に梨華ちゃんは苦笑した。

「そうだね。ごめんね」
「梨華ちゃんの病気は絶対に治るんだから!
いなくなんかならないよ!!」
「柴ちゃん・・・」

梨華ちゃんは私の肩にもたれて、少しだけ泣いていた。
私はそんな彼女の肩をしっかりと抱き寄せて、
沈む夕日をただ眺めていた。



梨華ちゃんが、いなくなるなんてあるはずないんだから・・・
102 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 01:07
病院に連れ戻した時、私たちは看護婦さんとお医者さんにこっぴどく叱られた。

「怒られちゃったね?」

病室に戻った梨華ちゃんは少しだけ熱を帯びた赤い顔で私に笑いかけてくれた。

「うん。怒られるのは、別にいいけどさ。大丈夫?」
「ん?」
「熱あるんでしょ?」
「ああ。平気平気」

ピースして見せた彼女に私も少しだけ微笑んだ。

「柴ちゃん?」
「ん?」
「今日すっご〜く楽しかった」

その言葉に私は黙って頷く。私も楽しかったよ。

「柴ちゃんとね、出会えて、私の毎日ね、キラキラだよ」
「ん?」
「すっごく楽しかった」

なんか、最後みたいな言葉に、私はすこしおびえた。

「また、いろんなところ行こうよ」

その言葉に、梨華ちゃんはためらいつつもうなずいた。
103 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/15(火) 01:09
日本の医学は発達していて、
だから、年金問題が発生しているのに・・・

平均寿命は延びるばかりで・・・

今や治らない病気の方が少ないのに・・・


なのに、なのになんで梨華ちゃんは助からないのよ!

そんなはずないじゃん!!


絶対に助かるんだから・・・

助かるんだから・・・

絶対に・・・助かるに決まってるんだから・・・

そんな言葉をかみ締めながら私は家に帰った。

104 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/16(水) 03:27
でも、どんどん梨華ちゃんの時間がカウントダウンされていくことに気づかされた。

「今日も、面会時間少ないの。せっかく来てくれたのにごめんね」

会いに行くたびに梨華ちゃんは衰えていくようで・・・
どんどん辛そうになっていった。

「ううん。大丈夫?」
「うん」

絶対に大丈夫なはずないのに、
梨華ちゃんはいつも平気なふりをする。

「そっか、今日ね・・・」

梨華ちゃんの気持ちをくんで二人でいるときは、
できるだけ普通の他愛ない話をしてみせた。
毎日病院に行くのが怖くなって、
それでも梨華ちゃんに会いたいから私は病院に通った。
105 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/16(水) 03:30
「柴ちゃん・・・お願いがあるの。最後のお願い」

ある日、梨華ちゃんは私に最後のお願いをしてきた。

「最後だなんて!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
じゃあ、それ聞いたらもう梨華ちゃんのわがまま聞かないからね」

梨華ちゃんの言葉の真意をわざと私ははぐらかした。
梨華ちゃんは少しだけ笑ってから、真剣な目をした。

「あのね、柴ちゃん・・・」
「なに?」
「キスしたいな」

え!?って思ったんだけど・・・
梨華ちゃんがあまりにも真剣だから・・・
ありかなって気がして、私は梨華ちゃんを抱きしめた。
こんなに細かったっけ?
少しの間だったのに、
梨華ちゃんの身体は少しでも力を入れたら折れてしまいそうなくらい細く、弱弱しくなってた。


怖くなって震えそうな自分をごまかしてから、
梨華ちゃんの唇に自分の唇を重ねた。

時間はあっという間に過ぎ去ったんだと思うけど、
すごく長くて、全てがスローモーションに感じられた。


「ありがとう」

唇を離すと、赤い顔でうつむいたまま梨華ちゃんがそう言った。
106 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/16(水) 03:32
「柴ちゃん、もう一つお願いいい?」
「ダメだよ。さっき最後って言ったじゃん?」

私の言葉が本気じゃないって梨華ちゃんは気づいていたようで、その先を続ける。

「柴ちゃんにね、私の人生預けてもいいかな?」
「え?」
「もうすぐ、私いなくなっちゃうからさ・・・私の人生預けてもいい?」



「な、何言ってるのよ!!」
「ううん。本当のことだから。私の分まで柴ちゃん生きてくれる?」


「・・・」
「お願い!」


「ダメ!!!
 ・・・・・・・・・・

さっき最後のお願いって言ったんだから、
そのお願いは聞けないよ。
聞けないから、自分でちゃんと生きてください!!」
「いじわる・・・」
「いじわるでもいい!!」

お願いは聞けないから、代わりに梨華ちゃんを強く抱きしめた。
107 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/16(水) 03:33
梨華ちゃんはその三日後にこの世から去った。

「あ・・・柴田さん?」

いつものように病院に来て、梨華ちゃんの死が告げられて、
呆然と病室の前に立ち尽くしていた私に梨華ちゃんのお母さんが近づいてきた。

「今まで、バイトありがとうございました。
梨華も本当のお友達ができたみたいで、
毎日楽しそうだったんですよ」



そういえば、これは、バイトだったって思い出す。



「これ、今月の分なんですが」
「あ、あの!!入りません!!」

お母さんが差し出したバイト代を私はつきかえしてその場から走り去った。


バイトだったんだけど・・・

でも、でも、でも・・・


でも、梨華ちゃんのこと本気で好きになってた。
梨華ちゃんと、もっともっと一緒にいたかったよ・・・


溢れ出す涙をぬぐうこともせずに、私は病院を後にした。
108 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/16(水) 03:35
「あゆみ?」

その日の夜に、瞳ちゃんが家に来た。

「あ・・・どしたの?」

「うん。これ、梨華ちゃんからあゆみへのラブレターだって。
梨華ちゃんのママに預かったの」

その手紙を無言で受け取って、瞳ちゃんを部屋に入れた。

瞳ちゃんは落ち込んでいる私を気づかって、
極力楽しい話をしてくれた。


瞳ちゃんが帰った後に、私はラブレターを開いた。
109 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/16(水) 03:36
柴ちゃんへ

今まで、本当に本当にありがとうね。
私、柴ちゃんに会ってからすっごくすっごく楽しかったよ。

柴ちゃんに出会えて、柴ちゃんに出会えたから、
私の人生はキラキラしたの。

生まれて初めて誰かを好きになった。
柴ちゃんは私の王子様だよ。

柴ちゃん!!私の最後の次のお願い、よろしくね!
110 名前:君のためにできること・・・ 投稿日:2004/06/16(水) 03:37
その手紙を胸に、わかったよ・・・って心の中で呟いた。


その日から、私の人生は二人分になった・・・

梨華ちゃん、ずっと一緒にいようね・・・




            ―終わり―
111 名前:けんけん 投稿日:2004/06/16(水) 03:40
なんか・・・二作目はシリアスな感じになってしまって・・・
ハッピーエンドにもっていきたかったんですが・・・すみません。

駄文で、申し訳ないのですが、三作目もスタートしたいと・・・
思っています。よければ、読んでください。

自作は、明るいかんじでいきたいと思います。
112 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/16(水) 16:52
。・゚・(ノД`)・゚・。
113 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/06/16(水) 23:18
悲しいけどよかったよ。・゚・(ノД`)・゚・。
次作も期待してますよ
114 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/17(木) 04:02
『君のためにできること』すごく感動しました。
号泣です。
次回はハッピーエンドがいいなぁ
115 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/18(金) 02:41
目の前にワイパーが欲しい
116 名前:けんけん 投稿日:2004/06/21(月) 16:52
三作目スタートしまっす!!
今回はちょっと長め?でいきたいと思います。
ぜひ読んでください!!
感想もお待ちしてます!!



117 名前:それいけ、岡女剣道部♪ 投稿日:2004/06/22(火) 00:06
三作目はそれいけ、岡女剣道部です。
柴ちゃん中心ですが、いろんなメンバーをちょこちょこだしていきます。

それでは、まずは第一話『現実はマンガよりも喜劇的?』
ぜひ、読んでください!!
118 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/22(火) 00:08
女子高に剣道なんて流行らない・・・
古臭いし、防具つけると重たいし、汗がしみ込んだ防具は臭いし・・・
年頃の女の子には剣道は魅力的ではない。

ダイエットになったり、姿勢がよくなったり、
メリットもあるんだけどね・・・

強ければ人気も出てくるのかもしれないけど・・・

うちの部、岡女剣道部は最弱なのだ。
119 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/22(火) 00:10
「柴田〜、竹刀直して欲しいんだけど?」
「あ、はい。いいですよ」
「助かる〜!!」
「飯田さん、打突の力をもう少し抜いた方がいいですよ」

最弱だから、もちろん部員も少ない。
私と一個上の学年に矢口さんと飯田さんとあさみさんだけ。
強ければもう少し違うんだろうけど、最弱だからね・・・

飯田さんたちが一年生だった頃は、
うちの部活はそうとう強かったらしい。
でも今はそんな面影はどこにもないわけで・・・
四人で地味〜に?練習する毎日。

「よくわかるね。さっすが、剣道オタク」
「オタクじゃないから」

私のおばあちゃんが剣道の道場を開いていて、
私も小さい頃からずっと剣道をやっていた。
だから、普通の人よりも剣道には詳しかったり?

由緒ある道場で、おばあちゃんは家元。
柴田家の誰かがその道場をつがないといけなかったのだが、
お父さんはサラリーマンだし、お母さんはピアノの先生。
お姉ちゃんは剣道よりもピアノをとったし・・・

となると、小さい頃から剣道をやっている私に期待がかかるところなんだけど・・・

私は世界で一番剣道が向いていないらしい。
生まれてこのかた、一度も試合で勝ったことがなかった・・・

だから、道場は他の誰かが継ぐってことが暗黙の了解。
120 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/22(火) 00:11
「それにしても、あさみと矢口はおっそいな〜?」
「あ、さっき、職員室で平家先生に怒られてましたよ?」
「は?なに、またあいつら、何かやったの??」
「さあ?」

矢口さんとあさみさんはしょっちゅう二人でつるんでは、騒ぎを起こす。
本人たちは大真面目なんだけど・・・
周りは呆れるようなことをやらかしてくれるんだ。

「まったく。じゃあ、二人で練習はじめよっか?」
「はい」
121 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/22(火) 00:12
練習といっても、弱小剣道部が練習するスペースなんてこの学校には確保されていないんだけどね・・・

「ちょっと!剣道部邪魔なんだけど!!」

体育館で、二人で切り返しの練習をしていたところ、
バレー部の保田さんに怒られた。

「でもさ、うちらもここで練習したいんだよね」

飯田さんが保田さんに取り合う。

「練習するのはいいけど、そのさぁ!!
ちょろちょろされると、こっちも気が散るんだよね。
ボール当てないように!って気を使ってるわけだからさ」
「いいよ。うちら、防具してるし気にしないでボール当てちゃっていいから」
「そう言われても、やっぱり気が散るんだって」
「でも、うちらだって、練習場所他にないし」

だんだん、エスカレートしていく二人・・・

きっと今日も練習にならない。

バレー部は保田さん率いる最強チーム。
春高バレーにも出場するくらい強い。
飯田さんと保田さんは、飯田さんがバレー部入部を断った時から仲が悪いみたい。
だから、言い争いになると長いんだよね・・・
矢口さんとかがいたら、仲裁に入ってくれて、
円滑に進むんだろうけど、私はこの二人に入っていくことは無理。

ってことで、ここにいても、
練習にならないから私は校庭に出て練習を始めるとしよう。
122 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/22(火) 00:13
「ちょっと!剣道部!!」

今度はバスケ部・・・バスケ部も全国常連。

「は、はい」
「ここ、テニス部のスペースだから、向こうで練習してくれる?」
「い、いや・・・でも、向こうは陸上部が・・・」
「とにかく、ここで練習されるとボールぶつけちゃうし、危ないから」
「平気です。防具してるから、ぶつかっても大丈夫なんで、気にしないでください」
「そう?」
「はい・・・体育館もバレー部いるし、ここしかないんで」
「OKじゃあ、気をつけてね?」
「はい」

いつもこんなかんじで、場所を追われつつ練習している私たち・・・
はぁ・・・

「柴田〜!!」

矢口さんとあさみさんが遠くから走ってきた。
この二人は本当にパワフルだな〜。

一人でも、かなりパワーがあるけど、
二人そろうとなんか、二倍三倍?十倍アップってかんじだよ。
123 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/22(火) 00:17
あ!!

「あさみさん危ない!!」

あ・・・バスケ部のパスミスボールがあさみさんの顔面を直撃した!!

「あさみぃ〜!!」

防具をつけてはいるものの、ボールに吹っ飛んで倒れてしまったあさみさんに矢口さんが駆け寄る。

ぶつかった時に吹っ飛ぶっていう原理は・・・運動エネルギーのベクトルが
変わるからで・・・こういう場合は、速さと重さが関係して・・・

ってそんなこと考えてる場合じゃなかった!!あさみさん?!私も駆けつける。

「大丈夫ですか?」

と言ってから、あさみさんをのぞいてみると、
完全にのびてしまっているみたいだった・・・

「とりあえず・・・保健室に運ぼう。柴田おぶって!!」

防具を外してあさみさんを保健室に運んだ。




これが、私たちの日課だった・・・
最弱剣道部の現状は・・・漫画よりも喜劇的なのだ。

最弱で他の部に笑われながら、それでも楽しく私たちは剣道してた。
124 名前:けんけん 投稿日:2004/06/22(火) 00:26
>>112 :名無飼育さん
 ありがとうございます!三作目もよろしくお願いします!!

>>113 :名無し飼育さん
 三作目ははっちゃけたかんじでいく予定です。よろしくお願いします!!

>>114 :名無飼育さん
 感動していただけて、嬉しいでっす!!
 今回はハッピーエンドになるかな?全ては柴ちゃんしだいです!!
 見守っていただけると嬉しいです!!

>>115 :名無飼育さん
 三作目もよろしくお願いします!!

感想、とっても励みになります!!三作目もよろしくお願いします!!
125 名前:ポテム 投稿日:2004/06/22(火) 01:37
あさみさんとはカントリのあさみ?
柴田はあさみを呼びすてだから呼びすての方がしっくりくるんじゃないかな
後輩だし
126 名前:けんけん 投稿日:2004/06/23(水) 13:54
>>125 :ポテムさん
 『あさみ』はカントリーの『あさみ』の方です。
 実際はあさみは柴ちゃんよりも年下なんですが、(梨華ちゃんと
 タメですよね・・・)
 今回の設定では、先輩ってことにしちゃったんです・・・
 すみません!!
 キャラ設定が微妙かもしれないんですが、読んでいただけると
 うれしいです!!
 また、ご指摘、感想お願いします!!
127 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 18:45
天使は急に舞い降りる?

誰かに出会って、人生が変わることってあるんだ。


「みんな〜、転校生や」

梨華ちゃんに初めて会ったのは高2年の夏休み前。
うちの学校に転校してきたんだ。
担任の中澤先生に紹介された梨華ちゃんはすごく緊張してたみたいで、ガチガチだった。

「よ、よろしくお願いします!」

緊張しつつも笑顔であいさつ。その笑顔はすごく可愛かった。

「席やけど・・・柴田の横開いてるからそこで。
柴田、いろいろ教えてあげるんやで」

どうせ私が教えなくても、こんなに可愛い子だったら、みんなほっておかないよ。
ほらね、休み時間になると梨華ちゃんの周りは一気に人だかりになった。

「柴っちゃんごめん。もう少し席空けてくれる?」

目的はみんな梨華ちゃんだから、私の居場所はどんどん占拠されていく。
ここにいても、人だかりに潰されるだけだし・・・
ってことで私は席をはずすことにしましょう。
128 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 18:47
教室は人が多すぎてどうも好きになれない。
教室から抜け出した時には決まって部室に来る。

「失礼しま〜す」

って言っても誰もいないんだけどね。習慣だから言ってしまう。

部室はいろんなものが置かれているんだ。
矢口さんが貼った、タイの剣道チャンピオンのポスター。
タイって剣道強いの?ってかんじだったけど、今は見慣れたから違和感がない。
それとあさみさんが拾ってきちゃってこっそり飼い続けているやる気のない犬。
動物が好きなあさみさんだけど・・・世話をしているのはほとんど私。
やる気ないし、愛想ないし、こんなに世話のしがいのない犬もめずらしい。
そして、飯田さんが書いた格言の数々・・・
飯田さんは部長だから、叱咤激励のつもりらしいんだけどね・・・
そして私の置き勉。

散らかっているし、防具臭いけど、ここはなんだか落ち着く。
129 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 18:49
「お?柴田。またこんな所でヒッキーやってんの?」

振り返ると飯田さんだった。別にヒッキーじゃないけど、
いつも一人で部室にいる私のことを飯田さんはヒッキーだという。

「違うって」
「あんた、本当に剣道好きなんだね〜?」

剣道は好きだった。

「毎日毎日よく飽きないよね〜。
よくさ、プロのアスリートは365日練習をしてるって言うけど、
練習だけだったら、あんたもプロだね」
「・・・」

練習しても弱いからね・・・

「そういえば・・・あさみと矢口があんたのこと探してたよ?」
「?」

なにかしたっけ・・・?

「部室に行けば会えるよって言ってるのに、いっつも部室にばっかりいないよ!
って二人して校内を探しまくってるよ」
「ん〜?」
「どうせ二人でまた変なこと思いついたんだよ」
「・・・」

矢口さんとあさみさんは突拍子もないことを思いついてはいつも周りを振り回すんだ。
周りって言っても、飯田さんと私だけだけど。

「まあ、面白いからいいんだけどね」
「・・・そうでしょうか?」

いつも迷惑をこうむる私は全然面白くなんかない。

「え?なに?」
「い、いや」
130 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 18:51
飯田さんが出て行った後もしばらくは部室にいて、
授業が始まる少し前に教室に戻るところで矢口さんたちに会った。

「し〜ば〜た〜!!」

遠くから走ってくる二人を見て思わずたじろいでしまった。

嵐の予感・・・

「やっと見つけた!!」

あさみさんが矢口さんよりも先について、私に抱きつく。
あさみさんと矢口さんは何かあるとすぐに人に抱きつく癖があるみたい。
この人たちは小さいのに、パワフルだから私はいつもよろけてしまう。

「ど、どうしたんですか?」
「あのさ!柴ちゃんのクラスに転校生来たよね?」

あさみさんが私から離れて話し始める。

「は、はい」
「石川梨華ちゃんだよね?その子ね、中学の時にね、
剣道の県大会で優勝したことあるんだよ!」
「ほう」
「ほう・・・じゃないよ!!」

反応が悪い私に矢口さんが怒る。

「すみません」
「これはチャンスだよ!!」

こういう時、二人は決まって声がそろうんだ。息がぴったり。
さっすがちびっ子コンビ!!

・・・なんて言ったら袋叩きだね確実に。
131 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 18:52
「その子が剣道部に入れば、うちら、団体戦がフル人数になるんだよ!!」

矢口さんの言葉で思い出す。
そういえば、剣道の団体戦は五人だった。
うちの部は現在四人だから、必然的に一敗になるのだ。

「柴ちゃん同じクラスなんだよね?」

あさみさんが詰め寄る。

「はい」
「よっし!じゃあ、その子絶対に剣道部に勧誘してね!
後は柴田に任せた!!」

任せたって?ちょっと!!

「や、矢口さん!!」
「任せた任せた!今日中に勧誘してね!!
できなかったら、部室の掃除ともんじゃおごりね♪」
「あ、あさみさん!!」

嵐のように現れた二人は、

授業のチャイムと同時に嵐のように去って行った・・・

いっつも本当に勝手なんだから〜!!
132 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 18:54
任せたって言われても・・・
大人気の梨華ちゃんに近づくチャンスは一度もなかった。

隣の席なのに話をする機会さえなかった。

それで結局部室の掃除ともんじゃ焼きをおごることになった。
今日はついてない・・・

掃除はたいてい罰ゲームの時に誰かがやる意外はやらない。
だから、やるとなると大変なんだ。
女子の部室かよ!ってくらい散らかってるからね。

「おぉ!!結構きれいになったじゃん!!」

大掃除にもだいたい目途がついたころに、
先輩たちがロードワークから戻ってきた。
きれいになった部室を見て感心する先輩たちに少し得意な顔になったと思う。

「よっし!じゃあ、もんじゃ焼き行こ〜!!」
「やっぱり・・・おごり・・・?」
「あったりまえじゃん!!」

矢口さんの言葉にうなだれつつも、
いつものもんじゃ焼き屋さんに行くのだった。
133 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 18:56
学校から一番近いもんじゃ焼き屋さん。
いつ行ってもお客さんは誰もいなくて、たいてい貸切状態。
うちの学校の生徒が帰りがけに寄るだろうってことで、
始めたらしいんだけど、女子高生にはうけは悪いみたい。
でも、おいしいし、お店のおばちゃん・・・お姉さんもいい人だから、
私たちは何かがあるとよくここに来るのだ。

「やっほ〜!!」

店に一番に入っていくのはたいてい矢口さん。

「おぉ!四戒トリオ!」

四戒トリオというのは、私と矢口さんとあさみさんのこと。
134 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 18:57
四戒っていうのは、剣道用語で驚(きょう)・懼(く)・疑(ぎ)・惑(わく)のこと。
剣道の四病ともいわれ、

「驚」とは
   突然予期しないことが起こって心が動揺してしまうこと。
   心身に混乱を起こして正確な判断ができなくなる。
「懼」とは
   恐怖心が起こること。
   心身が硬直して十分な活動ができなくなる。
「疑」とは
   疑いを持ち注意力が心の中で停滞してしまうこと。
「惑」とは
   惑いが起きて、敏速な判断ができなくなり、動作も緩慢になること。

の四つ。私たち三人が弱小なのはこの四戒を克服できてないからってことで、
四戒トリオなんていう、不名誉なトリオ名がつけられてしまったのだ。
135 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 18:58
この店のあつこさんも、うちの高校の卒業生であり、
剣道部の卒業生。もうずいぶん前のことなんだけどね。

「もう!その呼び方やめてくださいよ!!」

あさみさんが決まってそう言うんだけど、
あつこさんはいっつも笑ってすませる。

「空いてるテーブルに座りぃや?」
「ってか、全部あいてるじゃん」
「矢口〜!!」
「わ、わ、わぁ、あっちゃんやめて〜!!」

矢口さんとあつこさんがもめてる間に、
飯田さんとあさみさんと私は空いてるテーブルに座った。

「あっちゃんスペシャルと稲葉ミックスと、焼きそばと、焼肉〜」

飯田さんがいつものを注文する。
もんじゃ焼き屋さんのはずだけど、
実際にもんじゃはこの店のメニューにはない。
お好み焼きが中心で、なぜか焼肉もある。
もんじゃって行った方が女子高生にうけるとあっちゃんは思ったみたいで、
名前だけ『もんじゃ焼きATUKO!』
だから客来ないんだよ!って言ったら殺されるから言わないけど。
136 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 19:00
「で、その、石川って子、どんな子なの?」

あっちゃんスペシャルを焼きながら、飯田さんが尋ねてきた。

「う〜ん・・・可愛いですよ」
「へぇ〜。で?」
「あ・・・?しゃべる機会とかなかったから」
「もう!だから、柴田はダメなんだよ!!」

矢口さんが口をはさんできた。

「だって!すっごく人気者で、休み時間なんかみんなに囲まれちゃってて、
話す機会すらなかったんだもん!!」
「そこをさ、押しのけて話しに行かないと!!」
「そんなむちゃな・・・」
「なんで、柴田って社交的じゃないのかねぇ」

矢口さんが社交的すぎるんだよ・・・

「そうだよね〜。なんていうかさ、
初対面の相手に変な警戒心を持つよね?」

あさみさんは、誰に対しても警戒心ゼロだからね・・・

「もっと、社交性を身につけないと!」
「う〜ん・・・」
137 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 19:02
「柴田さぁ・・・」

あ・・・飯田さんが何かを言おうとしてる・・・
絶対に変な事言い出すよぉ・・・

「あんた・・・」

飯田さんは矢口さん、あさみさん以上に飛びぬけたことを言い出すのだ。

「自己啓発セミナーとか行ってみたら?」
「は?」

三人の声がそろってしまう・・・自己啓発って・・・

「ほら、サラリーマンとかがよく行くじゃん?」
「い、いや・・・それとは違うんじゃ・・・?」
「違わないっしょ?自分を積極的な人間に変えられるかもよ?
そうすれば、石川さんにも話しかけられるんじゃん?」

その言葉に、矢口さんとあさみさんも食いついてしまった・・・

「おぉ〜!!そうだよ!!柴田、自己啓発しな!!」
「や、矢口さん・・・」
「そうすれば、これで、石川さんゲットだよ!!」
「あ、あさみさん・・・話を勝手に進めないでください!!
ってか、そんなのどうやってやるんですか?」
「まっかせなさい!!」

後ろから嫌な予感と思って振り返ると、
あつこさんのやる気満々の笑顔・・・
138 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 19:04
「お好み焼きはおいしいぞ〜!ハイ、セ〜イ?」
「あ?え?は?」

店の外に連れて行かれて、あつこさんはいきなり叫びだした。

「しばった〜。うちに続いて叫びなさい!」
「は?え?」
「自己啓発や!」
「な?え?」
「行くで!!お好み焼きはおいしいぞ〜!」
「お好み焼きはおいしいぞ〜!」
「焼肉だって食べれるぞ〜!!」
「焼肉だって食べれるぞ〜!!」
「サービス満点、笑顔満開、格安激安、みんなカモ〜ン」
「サービス満点、笑顔満開、格安激安、みんなカモ〜ン」

自己啓発っていうか・・・ただの客寄せじゃん!!

「じゃあ、今のここでリピートしてな」
「は?え〜!!」

あつこさんは店の中に入ってしまった・・・

うぅぅぅ〜!!こうなれば、やけくそだぁぁぁ〜!!

結局3セットだけ呼び込みをして、店の中に入った。
139 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/23(水) 19:06
「柴ちゃんこれで、石川さんゲットだね!」

あさみさんが最後のお肉をほおばりながら、そう言った。

「・・・はい」

ゲットって・・・言いたいことはいっぱいあるけど、
これ以上何かを言って、変なことをやらされてはかなわないからね・・・
言わないでおこう・・・

「じゃあ、帰ろっか?」

飯田さんがそう言って、立ち上がった。

「え〜!!私食べてない!!」
「でも、柴田、夜稽古あるんでしょ?いいの?」

あ・・・そうだった・・・おばあちゃんに怒られちゃうよ。
うぅぅぅ・・・せめて牛タンだけでも・・・
140 名前:ポテム 投稿日:2004/06/24(木) 02:52
>>126
そうだったんだ了解っス!
続き楽しみに待ってます

141 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:14
掃除させられて、店前で呼び込みまでさせられて、
おごりなのに自分はまったく食べられなくって・・・
ついてないよ・・・って思いながら家に帰ったら、
もっと落ち込むことが待っていた。

「あゆみ!遅かったわね!!」
「めずらしく早いね」

瞳ちゃんはいつも帰りが遅いのだ。
ちなみにこの人は姉である。

「大変よ!ライバル出現なんだから!!」
「は?!」
「跡継ぎ候補がようやく来たのよ!!」
「え・・・」
「おばあちゃんの知り合いの女の子でね、
剣道がめちゃくちゃ強いんだって!!
今日から家に居候するらしいよ」
「え・・・」

それって、つまり私はもういらないってわけで・・・
期待してたわけじゃないし、無理だってわかってたけど・・・
だからってそんな・・・

急すぎるよ・・・

「そんな・・・」

一気に感情が噴出して、涙腺がうるんじゃって・・・
でも瞳ちゃんに見られたくないから、
帰ってきたばかりの家を飛び出すのだった。

「あゆみ!!」
142 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:15
そりゃ、弱いけど・・・
一度も勝ったことないけど・・・
でも、でもさ・・・
そりゃ、おばあちゃんは厳しい人だけど・・・
でもさ・・・

そうだよね・・・
私弱いし、由緒正しい道場のことを考えれば、当然のことだ。
家の近くの公園でしばらく泣いて、
その後、跳躍素振りを100本やって、
なんかすっきりしたから家に帰ることにした。

「ただいま〜」
「あら。意外と立ち直り早かったわね」
「瞳ちゃんとは違うからね」

私はお姉ちゃんのことをお姉ちゃんとは呼ばない。
この人は姉らしくないし。だから、名前で呼ぶんだ。

「まったく、可愛くないんだから!
おばあちゃんが呼んでるよ。道場に来いってさ」
「わかった」
143 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:16
「失礼します」

道場に入るのにためらいはなかった。
道場の中にはおばあちゃんと、
跡継ぎ候補の人が防具をつけて座っていた。

「あゆみ。防具をつけなさい」
「はい」

おばあちゃんに言われて私も防具をつけた。

「これから、試合を行います。
二人とも気を引き締めて全力で戦いなさい」
「はい!」

この声どっかで・・・?
それよりもまずは試合だった。
144 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:17
向かい合ったはいいけど、相手の目を見る勇気はなかった。
防具だけなのに、オーラが違う。
私も、ずっとやっているだけあって、
構えだけは強そうに見えるってよく言われる。
だから、初めての相手だとしばらく権勢が続く。
でも私は見掛け倒しだから・・・
相手が仕掛けた瞬間にすぐに一本とられた。

「一本!」

おばあちゃんの声が響く。
やっぱりね・・・二本目もあっさりとられて、私の負け。

はぁ・・・礼をして二人で再びおばあちゃんの前に正座した。

防具をはずし、おばあちゃんのお説教を聴くのも試合後の日課。
145 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:18
「あゆみ。こちら、石川梨華さんよ」

おばあちゃんの言葉に驚いて横を見る。
そこには、今日の学校での人気者・・・梨華ちゃんがいた。

「石川さんのおじいさんとは古くからの付き合いなの。
ちょっと事情があってね、石川さんのお孫さんを今日から家で預かることになったのよ」
「はい」
「石川さんは、剣の腕前も抜群なの。
あゆみも学ぶことが多いと思うわ」
「はい」
「石川さんも、あゆみから出きるだけ多くのことを学ぶように」
「はい」

梨華ちゃんの声は私とは違って凛々しかった。

「部屋だけど、あゆみの部屋を二人で使うようにしておいたから」
「え!?」
「ベッドと机を多少入れ替えておいたわよ」
「え〜!!」

勝手なことをされて思わず大声をあげてしまった。

「こら!道場では平常心を保ちなさい!!」
「すみません・・・」

おばあちゃんはいつも勝手なんだ。
勝手で厳しくて・・・だから、お父さんもお母さんも瞳ちゃんも寄り付かない。

まぁ・・・私は好きなんだけどね。
146 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:19
それから、おばあちゃんは梨華ちゃんを私の部屋に案内した。
私は梨華ちゃんの大量の荷物を持ってその後をついていく。
旅館とかにいる使用人になった気分だった・・・

「ここが、今日から二人の部屋よ」
「いろいろありがとうございます!」

やっぱり梨華ちゃんの声は凛としている。

「自分の家だと思って遠慮なく使って頂戴ね」
「はい!ありがとうございます!!」

おばあちゃんは私の部屋の構造について梨華ちゃんにあれこれ説明して帰って行った。
147 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:20
「今日からよろしくね!」

私にあいさつをしているようだったけど、
私は梨華ちゃんの荷物で前が見えなかった。

「んが・・・ごほ、ごほ」

あいさつをしようとして、荷物にむせた。

「あ!ごめん!!」

梨華ちゃんが荷物を受け取ってくれてようやく生きた心地がした。

「ふぅわぁ」

おもいっきり息を吸った私を見て梨華ちゃんは笑った。
笑顔はキラキラしていて、すっごくまぶしかった。
笑ったていたのかと思ったら、今度は梨華ちゃんは私の顔をマジマジと見始めた。
顔を近づけられて、思わずたじろいでしまった私。

「すっごく剣道強いんだね?」
「え?」

それはない。絶対ない。ありえない・・・

「さっき、見合った時にかんじたの」
「ああ・・・形だけはね・・・結構褒められるよ」
「それにね、柴ちゃんの目、強いよ」
「目?目・・・目?」
「うん。柴ちゃんの目、強いもん」

よくわかんないなって考えていたら、
梨華ちゃんがいきなり抱きついてきた。

「ちょ、ちょっと!」
「今日からよろしくね!」
「う・・・わかったから離して!!苦しい〜!!」
「あ!ごめんごめん!!」

この人・・・想像していたのよりもなんか違うなって思った。
148 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:21
「柴ちゃんはいつから、剣道やってたの?」
「う〜ん・・・?」

そういえば、いつからだろう?

「わかんない。私、おばあちゃん子だったから、
気がついたら竹刀持たされてた」
「そうなんだ」
「石川さんは?」
「なんか、その呼び方・・・しっくりこないな?」
「そう?」

初対面の人をあだ名で呼ぶなんて私にはできないよ・・・

「梨華でいいよ」
「う・・・うん。で、梨華ちゃんは?」
「小学校の時から。おじいちゃんに習ってたの」
「そうなんだ。すっごく強いね。中学の時に全国優勝したこともあるんでしょ?」
「え?なんで知ってるの?」
「うちの、部活の先輩が梨華ちゃんのこと知ってたんだ」
「剣道部があるの?」
「うん。弱小だけどね」
「そうなんだ!」
「うん」
149 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:22
「ここが部室なんだ。なんだか新鮮だな」

よかった。昨日掃除しておいたかいがあったよ。

「わぁ!ワンちゃんがいる〜!!」
「うん。先輩がね、拾ってきちゃったんだ。
内緒だから黙っててね!」
「うん!柴犬だよね?名前は?」
「あ・・・う〜ん・・・」

名前は・・・柴犬だからシバ太にしようって・・・
矢口さんが命名してしまったんだ・・・

「あ!?首輪に名前が書いてある!!
え?シバ太って言うんだ?」
「うん・・・」
「シバ太・・・柴ちゃん?ははっ。先輩って面白いんだね?」
「うん。面白すぎてシャレにもなんない」
「私も剣道部に入部してもいいかな?」

え?マジで!!やった〜!!

「うん!それはもう!!大歓迎だよ!!」
「本当に?!」
「うん!!梨華ちゃんが入れば最強だよ!!」
「でも、うちの部、最高に弱いよ?それに、人気ないし・・・いいの?」
「うん!いいよ!!」


今日っていう日は最高だ。最高な記念の瞬間だね。
まさに記念日♪
150 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:24
「柴田でかした〜!!」

放課後、梨華ちゃんを連れて部活に行って、入部のことを話した。

「や、矢口さん苦しい・・・」

矢口さんは大興奮で私に抱きついてきた。

「お?ごめんごめん」
「石川さんよろしくね!」

矢口さんとあさみさんがはしゃいでいる隙に飯田さんが梨華ちゃんにあいさつをして、部活の説明をしてくれた。
私はというと、相変わらず、二人に翻弄されていた。

「柴田よくやった〜!!」

抱きついてくる矢口さん。

「柴ちゃん偉い!!」

そしてあさみさんも抱きついてくる・・・苦しい〜!!

「わ、わぁ!止めてください!!」
「シバ太も喜んでるよ!!」

あさみさんが無反応なシバ太に同意を求める・・・

「喜んでないですよ!無反応じゃないですか!!」
「そんなことないよ!ね?シバ太??」
「だから無反応なんですって!ね?シバ太?」
「ワン!!」
「あ・・・吠えた・・・」

大興奮だった空間にシバ太の鳴き声響いた。
初めて聞いたシバ太の鳴き声に私たちは思わず固まった。

シバ太君も梨華ちゃんが入部してくれて、嬉しかったんだ・・・
151 名前:現実はマンガよりも喜劇的? 投稿日:2004/06/27(日) 23:25
「あの・・・思ったんですけど?」

梨華ちゃんが口を開いた。

「あのさ・・・シバ太って・・・紛らわしくないですか?」
「そっかな?シバ太は犬で、柴田は人だよ?」

飯田さん・・・ずれてるよ・・・
紛らわしいのは、見た目じゃなくって、名前の方だって・・・

「いや、そうじゃなくって、しばた!って呼んだ時に、
どっちのことかわかんないんです」
「そういえば・・・そうかもね?」

飯田さんの言葉に矢口さんとあさみさんも頷く。
・・・今さらなんですけどぉ〜!!

「でもさ、柴田とシバ太、似てるんだよね?」

似てるって・・・このやる気なさ気な犬に似ててもね・・・
うれしくないです矢口さん!

「そうそう似てるんだよね」

あさみさんまで・・・

「そう言われると・・・似てるかも」

梨華ちゃん・・・もういいよ。犬と一緒でいいよ。

ちなみに・・・梨華ちゃん気づいてないかもしれないけど、
私のこと柴ちゃんって呼ぶのも、我が家にいる時は紛らわしいんだよ・・・
柴田家だからみんな柴ちゃんなんだよね・・・

まぁ、もうなんでもいいけどね。
152 名前:けんけん 投稿日:2004/06/27(日) 23:29
以上が第一話『現実はマンガよりも喜劇的?』です。

>>140 :ポテム さん
 これからもよろしくお願いします!!


153 名前:それいけ、岡女剣道部♪ 投稿日:2004/06/29(火) 01:12
第二話は『強くなりたい〜!!』です!

矢口さんと飯田さんが話の中心になる予定です。
よろしくお願いします!!
154 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/06/29(火) 01:13
梨華ちゃんが入ってから、うちの部活も活気がついた。

梨華ちゃんはすっごく可愛い見た目と違って、
練習はスパルタだった・・・

うちの部活でのスパルタ練は、
週一回、うちのおばあちゃんが来た時だけだったのに、
毎日がスパルタ練になったのだ。

私は小さい頃からおばあちゃんにしごかれてるから慣れっこだったけど、
他のみんなには過酷だったと思う。
155 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/06/29(火) 01:14
今までの練習メニューの倍以上の練習を梨華ちゃんの提案のもとに行うことになり、
私たちは毎日心地よく疲れる日々が続いた。

「わぁ〜!もうダメ〜!!」
「ダメだと思ったところからのあと一歩が重要なんですよ!矢口さん!!」
「石川って、本当にすごいよ・・・」
「そんなことないですよ!ほら、頑張りましょうね!!」

どんなに疲れていても、梨華ちゃんにニコっと笑いかけられると復活してしまうんだ。

「頑張って、目指せインターハイですよ!!」
「お〜!!」

でもさ・・・

インターハイの予選はもうすぐで・・・

最近練習頑張ってるけどさ・・・



いきなりそんなに強くなんかならないでしょ・・・
156 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/06/29(火) 01:15
「たのも〜!!」

嵐の予感?露があけたのに、台風が上陸中の関東地方。
うちの部にも台風がやってきた?

「誰?」

部室を叩いた相手に矢口さんが首をかしげる。

「さぁ?」

今日は台風で学校も早めに終ったからみんな帰ったはず?
私はシバ太が気になって部室に来てて、
矢口さんは何でか知らないけど部室に来ていた。

梨華ちゃんと飯田さんとあさみさんはとっくに帰ったはずだし?

「今日ってみんな帰ったよね?」
「はい・・・」
「えぇ〜!!怖いじゃん!!柴田でて!!」
「えぇ〜!!私だって怖いですよ!!」

二人で押し問答していると、再び部室の戸が叩かれた。

「たのも〜!!」
「柴田!!早く行ってよ!!」

矢口さんに無理やり押されて私が応答しに行った。

「は、はい?」

扉を開けると・・・
157 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/06/29(火) 01:16
「こんにちはぁ」

可愛らしい女の子が二人、立っていた。

「は、はぁ」
「梨華ちゃんいますかぁ?」
「え?あ・・・えっと、帰ったよ」
「ちぇ」

二人で息ぴったりの舌打ち。

「あ、あの・・・誰?」
「辻ちゃんです!」
「加護ちゃんです!!」
「二人合わせて・・・ダブルユーでぇ〜す!!」

何この人たち?芸人さんとか?とにかく笑いがひきつった・・・

「は、ははは・・・」
158 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/06/29(火) 01:18
「梨華ちゃんと試合しにきたんだけど、いないの?」

またまた二人の声がそろう。

「う、うん」
「あなたは誰?」
「え?私?柴田あゆみ」
「ふぅ〜ん。あっちのちっちゃいのは?」

ちっちゃいと言う言葉を聞いて、矢口さんが飛んできた。

「ちっちゃい言うな〜!!お前らだって、ちっさいだろ〜が!!」

矢口さんは真剣に怒ってるのに、
二人はその姿にますます爆笑だった・・・
笑った顔はますますそっくり。なんか双子の神様みたい??
って違うか・・・

「柴ちゃんたちも剣道部?」
「う、うん」

ってか、いきなりあだ名かよ!!

「じゃあ、二人でいいや!試合しよう!!」
「え?え?い、いや・・・でも、この天気だし帰った方が?」
「試合しよ!!ね?ちっちゃいの?」

挑発されて矢口さんはまんまと挑発にのってしまった。
のりがいいのも考えものだね・・・

「臨むところだ〜!!」
「や、矢口さん・・・」
「大丈夫だよ!こんなやつらに負けないって!!
それに、いっぱい練習したから、今のうちらは強いんだよ!!」
「い、いや・・・そういう問題じゃなくって・・・
今、台風警報でてるし、帰った方が・・・」

そんな私の忠告を聞くことは無く、
三人は体育館の方に向かって行ってしまった。

「はぁ・・・」

私も仕方なく試合することにした。
159 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/01(木) 00:44
一回戦目は私vs辻ちゃんで審判は矢口さん。

向き合った瞬間に、辻ちゃんの弱点はわかった。
この人は過信してる。まぁ、私が相手じゃなめるよね・・・
剣に自信がみなぎってるけど、それは隙を生むことになるんだよね。

「一本!」

表をとった一瞬の隙を逃さずに私の飛び込み面が決まった。
気を抜かずにもう一本。
と思ったけど、辻ちゃんの泣き出しそうな顔に、
迷いが生まれてしまった。

さっきまでの表情が一変して、完全に自信を失ってる・・・
そんな顔しなくても・・・
どうしよう・・・

「一本!」

そんな私に辻ちゃんの打ち落とし面が決まった。
う・・・また、このパターンか・・・
泣きそうな顔の辻ちゃんを前にして、
完全に『居ついて』しまった私・・・
『居つく』とは、試合中に動けなくなること・・・
試合中に惑っちゃいけないってわかってるのに・・・
いつも同じパターンで一本とられる・・・

「一本!」

完全に惑って、『居ついて』しまった私に辻ちゃんの打ち落とし面が再び決まって、辻ちゃんの勝ちになった・・
160 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/01(木) 00:46
「柴田落ち込むなよ!敵はオイラがとってやるから!!」

いや・・・落ち込んではないです。いつものことだから・・・

というわけで、第二回戦は矢口さんvs加護ちゃんで、審判は私。

矢口さんは練習のかいあってか、動きが一段と増していた。
もともと動きは俊敏な矢口さん。
加護ちゃんはそんな動きについていけないはず。

ん?ついていけないと思ったら、ついていけないのではなく、
ついていってないのだとわかった。

加護ちゃんは完全に自分の間合いをつくってる。
一気に加護ちゃんが近づいた。

「一本!」

急接近に矢口さんは動揺して、
大きくあいた逆胴に加護ちゃんが打ち込んだ。
やっぱり・・・
矢口さんの動きを見て、一足一刀よりも遠い間合いから、この気を狙っていたんだ。

加護ちゃんはそうとう強い。

今の一撃は、矢口さんにとって予想外だったらしく、
完全に自分を失いかけてる・・・
矢口さんは次の一手をどうやって攻めるか悩んでるみたい・・・
疑いの心が生まれてる・・・

これは矢口さんにとっての最大の弱点・・・

「一本!」

加護ちゃんの払い小手が決まって、加護ちゃんの勝ち・・・
161 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/01(木) 00:47
「二人ともめっちゃ弱いよ!!
でも、楽しかった。梨華ちゃんによろしく〜!まったね〜!!」

矢口さんが面をはずす前に、二人は帰ってしまった・・・

「あの!台風だから、気をつけて!!」

そんな私の忠告に耳を傾けることなく、

二人は意気揚々と帰っていくのだった・・・
162 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/01(木) 00:48
「また、負けちゃいましたね」
「・・・」
「あの二人、何者だったんですかね?」
「・・・」
「けっこう強かったですね?」
「・・・」
「や、矢口さん?」

めずらしく無反応な矢口さんにおかしいなって気がついて隣を見たら・・・
矢口さんは面をつけたまま、竹刀を握り締めて、うつむいていた。

「や・・・ぐちさん」
「・・・ぅ・・・」

矢口さんの小さな身体が震えていて、

泣いてるんだってわかったけど、

どうすることもできなくて・・・



私はただその横に立ってることしかできなかった・・・
163 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/01(木) 00:49
二人で、部室に戻ってからも、矢口さんは防具をつけたままで・・・

こういうときに、相手が飯田さんだったら、
気の聞いた言葉が出てきただろうし・・・

あさみさんだったら、
元気に励ましただろうし・・・

梨華ちゃんだったら、
優しく慰めただろうし・・・

なにも言葉が出てこないし、
何も行動が思いつかない自分は本当に情けなかった・・・

「しばた〜・・・」
「はい!?あ・・・」

自分のことを呼ばれたのかと思って振り返ったら、
矢口さんがシバ太を抱きしめていた。
つまり、柴田じゃなくて、シバ太の方ね・・・ちょっと苦笑した。

「お前は優しいね?オイラのこと慰めてくれてんのか?」

防具をつけた相手に抱きしめられたら、
普通の犬は嫌がるんだろうけど、
シバ太は矢口さんにされるがままにしていた。
164 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/01(木) 00:50
「しばたは優しいな」

ようやく矢口さんは面を外した。
きっと涙で顔はぐちゃぐちゃなんだろうから、
私は背を向けることにした。

「お〜い!柴田聞いてる?」
「え?あ。私の方?」

やっぱり、名前が同じだと紛らわしいよ・・・

「柴田は優しいな」
「え?」
「何も言わずにそばに居てくれるのって、
そうとう優しくないとできないよ」
「・・・?」
「ありがとう」
「い、いえ・・・気が利いたことできなくて・・・すみません」
「ははっ。気が利いたことね?そんなのいらないって!」
「でも・・・」
「柴田の、ぶきっちょな性格、オイラは好きだよ」
「・・・ありがとうございます」

それから、他愛のない話を二人でした。
165 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/04(日) 04:38
「さっきの試合さ・・・負けちゃって、めちゃくちゃ悔しかった・・・」

他愛のない話が途切れたところで矢口さんがそう言った。

「はい」
「負けるのってさ、なんかもう慣れっこだったから悔しくなるなんて思わなかったんだよ」
「はい」
「でもさ、自分で言うのもなんだけどさ・・・
ここんところ、めっちゃ稽古してたし、だから強くなったんじゃないかな?
って思ってたんだよね・・・」
「そうですね・・・」
「でも、やっぱり弱いんだなって実感しちゃってさ・・・」
「矢口さんは・・・弱くないと思います・・・」
「え?」
なんでそんな言葉が口から出たのかわからなかったけど、
なんだか、そんな気がして、それを思わず口にしてた・・・

166 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/04(日) 04:40
「矢口さんは、相手と向き合った時にいろんなことを考えちゃうんですよ・・・」

その言葉に矢口さんは苦笑いしてた。

「本当はすっごく強いのに・・・いろんなこと考えて、
それで迷っちゃうから・・・
でも、それは、それだけ相手と向き合えてるってことだし・・・
そういうの、間違ってないと思います。
相手と向き合うっていうことは、剣道の基本だって、おばあちゃんが言ってた。
ただ、向き合うんじゃなくって、相手の心と向き合うんだって・・・
だから、矢口さんの剣道って、間違いじゃないと思うんです・・・
だから・・・だからつまり・・・」
「オイラの剣道?」
「はい。矢口さんの剣道・・・
剣道は、剣は、人それぞれ全く違うから。
えっと、つまり・・・その・・・」


肝心な所で言葉が続かなくなった自分のボキャブラリーの無さを呪った・・・

「ありがと」
「すみません・・・うまく言えなくて・・・」
「オイラの剣道、正しいのかな?」
「はい!!」
「柴田に言われると、なんかわかんないけど、
本当にそんな気がするよ。柴田は剣道好きなんだな」
「はい!」
「だから、柴田の言葉、信じるよ」
「はい!!」
「オイラの、剣道・・・そんなのあるのかわからないけど、
柴田の言葉、信じるよ」
「はい!!」

二人で、外にでたら・・・

台風は過ぎ去ったみたいで、外は一変台風一過の青空だった。
167 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/04(日) 04:42
「辻と加護?」
「うん」

家に帰ってから、梨華ちゃんに二人のことを話した。

「あぁ!!中学の後輩だよ!!」
「そうだったんだ?」
「うん。今は中三だよ」
「中学生・・・だったんだ」

中学生相手にボロ負けしたうちらって・・・

「すっごく強かったでしょ?」
「うん・・・」
「いつか、私にも勝つんだ!ってずっと言ってたからさ」
「そうなんだ・・・」
レベルが違う・・・
「で?試合したんだ?」
「あ?ああ・・・まぁ・・・」
「で?」
「負けたよ・・・私も矢口さんもね」
「そっか・・・残念!」
「うん」
「次はもっと練習して、勝てるようになりたいね?」
「勝てるかな・・・」
「勝てるよ!努力は裏切らないんだよ?」
「・・・」
「信じてない?」
「あ・・・いや・・・信じるよ!うん。信じます!!」


本当は全然信じてないのかもしれないけど・・・
梨華ちゃんの言葉だから、信じてみたかった。
168 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/04(日) 10:09
矢口さ〜ん。あなたは強いです!!
みんながんばれ!作者さんもガンバレ〜♪
169 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/06(火) 01:21
「柴ちゃんってタフだね〜」

帰り道、いつもの公園で素振り100本してから家に帰る私。
公園で素振りを続ける私に梨華ちゃんが感心しているのか、呆れているのかってかんじの声を投げた。

タフじゃないよ。日課だからね。
ってことは口に出さずに素振りを続ける。

「私なんかもうヘトヘトだよ〜」

そう言われると、別に疲れてもいないからタフなのかな?

「ねぇねぇ柴ちゃ〜ん?」

無心に素振りを続ける私に梨華ちゃんはいつもすぐに飽きてしまう。

「つまんな〜い!」
「だったら、一緒に素振りしようよ。気持ちいいよ?」

ここでの素振りはめちゃくちゃ気持ちいいんだから。

「だって、もう疲れちゃったよ・・・」

全くしかたないな。

素振りは諦めて梨華ちゃんに付き合うことにした。

「じゃあ、帰ろっか?」
「うん!」
170 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/06(火) 01:22
「柴ちゃんって、本当に剣道が好きなんだね?」
「うん。好きだよ」
「インターハイ行けるといいね?」
「う〜ん・・・そうだといいけど・・・」
「こんなに練習してるんだし!」
「う〜ん・・・練習してるけど・・・そんなにうまくはいかないよ。だって練習はしてるけど、私生まれてから一度も試合に勝ったことないし」
「そうなの?」
「うん」
「じゃあ、つまんないね?」



・・・え?つまんない?
171 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/06(火) 01:23
「だってさ、試合に勝つから面白いんじゃん?」
「そんなことないよ!!」

思わずムキになってしまった・・・

「だってさ!!せっかく試合するんだよ?勝ちたいって思うでしょ?」
「でも、勝ちたいから剣道やってるわけじゃないもん!」
「じゃあ、なんでやってるの!?」
「だから、だからそれは・・・剣道やってると心が静かになるし、そういうのが好きなの」
「それだけ?おかしいよ!勝つから面白いんだよ!!」
「勝負だけじゃないよ!!」
「違うよ!!」
「違わない!!」


それから、沈黙が流れて・・・


お互いに口をきかないままに家に帰った。

172 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/06(火) 01:24
おばあちゃんとの夜稽古の時も、夕食の時も私たちは口をきかなかった。

沈黙って・・・

普段の時間を何倍にも感じさせて、

重力も何倍にも感じさせて、

とにかく長くて重たい空気が続くんだ・・・

「さっき・・・ごめん」

ベッドの中に入ってから、私がさきに謝った。

「・・・」

「ごめんね。なんか・・・ムキになっちゃって」

「・・・」


「ごめん・・・じゃあ、お休み」
「なんで謝るのよ!!」

いつのまにかに、二段ベッドの上にいたはずの梨華ちゃんが目の前にいた。

「え・・・」
「なんで謝るの?自分が間違ったこと言ったって思ったの?」
「い、いや・・・それは・・・違う・・・けど」
「じゃあ、なんで謝ったの!!」
「・・・」


だって、このままずっと気まずいなんていやだし・・・
173 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/06(火) 01:27
「なんで?」


「だって・・・喧嘩したままじゃ・・・仲直りしたかったから」
「・・・」

恐る恐る言った私に梨華ちゃんは微笑みかけてくれた。
そして、なにかを解放するように私の隣に横になった。

「柴ちゃんってさ、強いのに優しすぎるよ」
仰向けになった梨華ちゃんの顔はやっぱり凛としていて、少しボーっとした。
「・・・え?」
「優しすぎる・・・」
「優しくないよ。愛想ないし。友達もいないし」
「友達の数と優しさは関係ないよ」

何がいいたいのよ・・・意味わかんない・・・

「私ね、さっきのことずっと考えてたの。
剣道は勝たなきゃ意味ないって思ってたから、
勝たなくても楽しいなんてただの、強がりじゃんって思ってたの」
「・・・」
「でもね、柴ちゃんのは強がりって思わなかったの。
だって、柴ちゃんは強いもん。
そんな柴ちゃんが言うんだから、勝たなくても楽しいって言ったこと、
本当なのかなって。ううん。勝つとか負けるとか、
そういうんじゃなくって柴ちゃんは剣道の楽しさ知ってるんだろうな?
それはなんなんだろうって・・・ずっと考えてたの」


怒ってたんじゃなかったんだ・・・

「ありがとう」
「え?」
「梨華ちゃんがそんな風に考えてくれてたんだってなんか嬉しかった。
負け犬の言い訳なのかもしれないんだけどね・・・」


「柴ちゃんが、試合に勝てないのって・・・優しすぎるからだよ」
「・・・」
174 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/06(火) 01:30
「柴ちゃんの好きな剣道ってどういうのなのか、
もう一回、聞かせて欲しいな?」

その言葉に、剣道の何が好きなのかを考える。


「明鏡止水ってしってる?」
「メイキョウシスイ?」
「うん・・・曇りの無い明らかな鏡のように、
静かにたたえた止まる水のように澄み切っていれば、
水面が夜空の月を写す・・・
おばあちゃんがいつもそういう心を持ちなさいって。
私は全然そんな風じゃないんだけどね。なんだろ・・・
相手を倒すとか、そういうんじゃなくって・・・なんだろ。
剣道ってね、相手の心と向き合える気がするの。そういう感覚が好き」
「そっか」
「うん。って、向き合えてないから、勝てないんだけどね?」

苦笑した私の顔を梨華ちゃんはマジマジと見つめてきた。

「な、何?」
「柴ちゃんって・・・強いけど優しすぎる・・・だから、勝てないんだよ。
でもさ・・・でもね・・・そういうところ・・・好きになっちゃった♪」
「は?きゃ!!」

いきなり抱きつかれて・・・

「ちょ、ちょっと・・・」

抱きつかれるのには、矢口さんやあさみさんのお陰で慣れてたけど・・・今回は違った。一気に心臓が爆発しそうになって、体中が熱くなって・・・なんかよくわかんなくなって、そんな自分に驚いて梨華ちゃんから離れようとした。

「今日は、一緒に寝よ?仲直りの記!」
「う・・・ん」

眠れなかった。隣で梨華ちゃんは一日の疲れからかスヤスヤ寝始めたけど、
私は心臓がバクバクして眠れなかった。


この心臓の鼓動で梨華ちゃんが目を覚まさないか心配になるくらい・・・
175 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/06(火) 01:32
「起きて〜!!朝だよ〜!!おっはよ〜!!」

う・・・朝・・・?ダメだ・・・眠い。
人間は最低5時間眠らないといけないんだって・・・

「し〜ばちゃん!!」

無理・・・もう少し寝かせて・・・

「もう!起きなかったらキスしちゃうぞ♪」

?!?!な、なに言ってんのよ!!

「う・・・起きるから・・・」
「もう!めずらしいね?柴ちゃんがお寝坊さんだなんてさ」
「ん〜・・・」

誰のせいよ!誰の・・・

「朝練の時間とっくに過ぎちゃったよ?」
「え?わ!あ〜!!」

練習に遅刻なんてしたら・・・おばあちゃん・・・

一気に目が覚めて即効で準備して道場へ向かった。

なんか・・・私の生活が乱されてる気がするよ・・・
176 名前:けんけん 投稿日:2004/07/06(火) 01:40
>> 168 :名無飼育さん
 矢口さんは強いですよ〜!!みんなもっと強くなっていくんじゃないかと・・・
 そして、私ももっともっと文才を磨かねば・・・(汗)
 これからもよろしくお願いしまっす!

 次は飯田さんのお話?の予定です!!
177 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/08(木) 01:39
毎日の練習時間は少しずつ増えていった。
私たちは学校が閉まるぎりぎりまで練習にあけくれるようになっていた。

「あれ?かおりん帰らないの?」

練習を終えた後も、飯田さんは自主練をかかさない。
でも、もうすぐ学校閉まっちゃうし?矢口さんが声をかけた。

「うん。ちょっとさ、お守り落としちゃったみたいなんだよね?
探してから帰ろうと思って」
「お守り?」
「うん。ほら、うちらが一年の時に、先輩にもらったやつ」

飯田さんたちが一年った頃はうちの部は県内に名が知れるほどの最強剣道部だった。
最強の三年生が卒業の時に、飯田さんたちはお守りを渡したんだって。

ちなみに・・・最強の三年生っていうのは・・・
何を隠そう、うちの瞳ちゃんだったり・・・
飯田さんたちは瞳ちゃんと、当時の部長、村田めぐみこと、
通称めぐちゃんを、尊敬してるんだ。
だから、三人ともそのお守りは大切に大切に、宝物のように大切に身につけてる。

「マジで!!そりゃあ大変だよ!!オイラも一緒に探すよ!!」
「私も!!」

矢口さんとあさみさんも捜索に参加することになったみたい。
ここで、私と梨華ちゃんだけが帰れるはずがなく・・・
結局五人で校内中を探して回った。
178 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/08(木) 01:41
瞳ちゃんは、私からすれば全く尊敬できないし、
めぐちゃんも、不思議な人で、年上とは思い難い人物なのだけど、
飯田さんたちにとったら、神様みたいな存在。

お守り・・・実は、私が受験の時にもらったやつだった・・・
なんて今さら言えない・・・絶対に言えない・・・

合格したから、もうお守り必要ないでしょ?
って瞳ちゃんに奪われて・・・
なんに使うんだ?って思ったら、
入学して入部した剣道部の先輩方の大切な宝物と化していて・・・

必勝って書いてあるけど、合格とも書いてあるお守りを三人は肌身離さず大事に持っているんだ。
179 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/08(木) 01:43
捜索から二時間、お守りを発見したのはあさみさんだった。

「あった〜!!あったあったあった〜!!!」

体育館の隅に落ちていたのをあさみさんが発見した。

「あさみぃ〜!!」

飯田さんがものすごい勢いであさみさんに駆け寄る。

「でかしたあさみぃ〜!!」

矢口さんもそれに続く。
三人は抱き合いながら喜びを共有してる。

本当に、瞳ちゃんたちは、三人の憧れなんだな・・・ってまた思い知らされた。

そんな関係は少しうらやましくもあったり・・・

瞳ちゃんの存在の大きさに悔しくなったり・・・
180 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/08(木) 01:44
「よかったね。お守り見つかって」
「うん」
「なんかさ、ああいうのっていいね?」
「ん?」

すっかり暗くなった帰り道。梨華ちゃんと家路を急いだ。

「三人とも先輩のことすっごく尊敬してるでしょ?」
「うん」

相手が瞳ちゃんだなんてね・・・

「本当に強い先輩だったんだね?」
「ん〜・・・強いって言えば、ある意味最強だね」
「知ってるの?その先輩??」
「うん。瞳ちゃんだよ。あと、たまにうちにやってくる、神出鬼没の人いるでしょ?」
「あぁ!!村田さんだっけ?」
「うん」
「そうなんだ!!お姉ちゃんも剣道やってたんだ?」
「お姉ちゃん・・・久々に聞いたよ、その言葉。
なんか変なかんじだから、瞳ちゃんでいいよ」
「え?そう?うん。で、瞳ちゃんもやってたんだね剣道」
「うん。でも、瞳ちゃんは全く練習しなかったし、
剣道よりもピアノが好きみたい。今は音大だしね」
「そっか。でも、強かったんでしょ?」
「うん。負けなし」
「すっごい!!剣道一家なんだね!!」
「おばあちゃんの威力だよ!おばあちゃんは最強だからね!!」
「柴ちゃんってさ?」
「ん?」
「剣道も好きだけど・・・おばあちゃんも大好きなんだね?」


なんか、その言葉はくすぐったくて、照れた自分を隠しながら頷いた。
181 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/10(土) 01:09
事件は翌日起こった・・・

『バレー部の合宿費が紛失・・・』



「バレー部の合宿費が無くなったんだってさ」

保田さんと同じクラスの矢口さんが早速その話題をふってきた。

「へぇ〜。そりゃ大変だ。バレー部は人数多いし、金額も相当だよね?」

飯田さんが新しい格言を部室に貼りながら答える。

「うん。だから、ケメちゃん大騒ぎだよ」

ケメちゃんとは、保田さんの愛称。

「ケメ子も災難だね。同じ部長として心中を察するよ」
「かおりんは、相変わらず難しい表現を使うね・・・」
「そう?」
「うん。古い」
「いいのいいの。剣道は古風なスポーツなんだから!」
182 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/10(土) 01:11
「ちょっと!!」



そんな平和な雰囲気を破ったのは・・・保田さんだった。

「ちょっとじゃないっしょ!!ノックしてから入れって!!」

失礼な保田さんのもとに飯田さんが詰め寄ろうとする。

「飯田さん、道着ちゃんと着てから!!」

梨華ちゃんが必死に飯田さんを引きとめ、道着をちゃんと着てから保田さんのもとに向かわせた。

「何よ!!」
「何よじゃないわよ!!あんたたち、昨日遅くまで学校に残ってたんでしょ?」
「いたけどそれが何?」
「何かじゃないわよ!!合宿費返してよ!!」
「はぁ?なにそれ?まるで、うちらが犯人みたいじゃん!!」
「犯人だって言ってるの!!ほら、これ、うちの部室の金庫の前に落ちてたのよ!!」

保田さんが見せたのは、あさみさんのお守り・・・

「あぁ〜!!それ、私の!!昨日から無くして探してたの〜!!」

あさみさんはこの状況よりも、お守りが見つかったことを喜んでるみたい・・・

「うちの合宿費返してよ!!」
「ちょっと待ってよ!!だから、なんで、うちの部がとったことになるのよ!!」
「この、必勝祈願と合格祈願を間違えてるお守りが、犯人を物語ってるわけ!!」
「失礼だよ!!」
「そうだよ!!オイラたちの宝物を悪く言うな〜!!」
「ひっどいよ!!」

お守りの悪口を言われたことで、保田さんvs飯田さんから、
保田さんvs飯田さん、矢口さん、あさみさんになってしまった。

「とにかく、先生に言ったからね!!」

多勢に無勢。保田さんは帰っていった。

「勝った!!」

久々に保田さんを言い負かせたってことで、飯田さんは大満足なようだった。

183 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/10(土) 01:12
でも・・・そんな満足もつかの間・・・職員室に呼び出され、戻ってきた飯田さんはすっかり落ち込んでた。

「あ・・・あの・・・さ?」

矢口さんやあさみさんが話しかけるものの、完全に意気消沈・・・

「かおり〜ん?」
「悔しいよ・・・」

口を開いた飯田さんの言葉に私たちはうつむいた。

「悔しいよ・・・うちの部は廃部寸前の弱小部だからって、
だから、学校からの援助もないから・・・
だから、バレー部の合宿費とったのか?って言われた・・・
やってないです!って言っても、残ってたのはお守り探してたからだって言ってるのに、
全然信じてくれなくって・・・うちの部、しばらく活動停止だって」

飯田さんは自嘲気味に笑った・・・私も矢口さんもあさみさんも何も言えなくて・・・

「許せない!!」

口を開いたのは梨華ちゃんだった。

「許せないよそんなの!!」
「石川・・・」
「許せない!!犯人捕まえて、私たちの無実を証明しましょう!!」
「でも・・・そんなの無理っしょ?」
「無理じゃないですよ!!絶対にできます!!
それに、このままでいいんですか?弱いからって泥棒扱いされて、
活動停止なんて許せない!!」
「そうだね・・・うん!許せない!!よっし!!犯人逮捕だ〜!!」

梨華ちゃんの元気が飯田さんにも伝染してくれたみたい。

元気になってくれた部長に私たちはほっとした。
184 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/10(土) 01:13
「犯人逮捕って言ってもね・・・どうするの?」

率直な矢口さんの質問に梨華ちゃんが作戦を語り始めた。

「まず、事情聴取班と、現場捜索班、それと、私たちの無実を証明するための、
証拠集め班のチームにわかれて活動しましょう。
事情聴取班は、バレー部のみんなとか、当日その場所に近づいた人に一通り聞き取りを行う。
現場捜索班は現場に犯人の手がかりがないかどうかを捜索する。
証拠集め班は、とにかく無実だっていう証拠を集めてください!」


なんか・・・本格的だね・・・

そういえば、梨華ちゃんは火曜サスペンスとか、
金曜の刑事ドラマをかかさず見てたっけ・・・
好きなのね、こういうの。

185 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/10(土) 01:15
それから、細かい指示が与えられて、班分けがされた。

「じゃあ、事情聴取はオイラと梨華ちゃんでやるよ。
オイラは友達多いし、梨華ちゃん、学校の人気者だしね」

なるほど。納得ってことで、事情聴取班は矢口さんと梨華ちゃんに決定。

「証拠集め班は、私とあさみでやるよ」

まぁ、お守り落とした本人だしね。
証拠集め班が飯田さんとあさみさんに決定。

「じゃあ、柴田とシバ太が現場捜索ね!」
「はい?」

飯田さん何言ってるの??

「シバ太は一応犬だし、そういうのって、犬のがいいでしょ?
シバ太は柴田になついているみたいだしね?」



シバ太が柴田でしばた?しばた?って・・・
よくわからないまま、私とシバ太が現場捜索班。

「でも・・・しばちゃんばれたらやばいですよね?」


梨華ちゃん・・・シバ太のこともしばちゃんって呼んだら、
余計に紛らわしいよ・・・

「大丈夫だよ。柴田の愛犬ってことにすればいいんだしさ」

矢口さん・・

というわけで、私とシバ太がコンビになってしまった。
186 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/12(月) 01:37
シバ太と一緒にとりあえず、バレー部へ・・・

「あの〜・・・すみません」
「はい?」
「げ・・・」

よりによって、保田さんが出てきてしまった・・・

「なによ!人顔見て嫌な顔しないでよ!」

だって・・・

「あの・・・」
「えっと、柴田だっけ?なに?ってかその犬なに?」

シバ太にはふれないで・・・

「あ・・・愛犬です。
で、あの、真犯人を捕まえようと思って・・・
金庫ってどこですか?」

犬を連れて探偵ごっこじゃあるまいしって保田さんにさんざん、
呆れられてから、金庫へ案内された。
187 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/12(月) 01:40
「あのね、こっちだって、犯人だって思いたくないよ。
でもさ、なんでわざわざ部室に忍び込むわけ?」
「あ・・・だから、お守り探してたんです」
「お守りが、うちの部室にあるわけないでしょ?」
「そうなんだけど・・・あさみさんだから・・・」
「なんか・・・納得・・・」

納得してくれてよかったよ。

「その犬が本当に見つけてくれるの?」
「・・・」



多分見つけてはくれないと思う・・・シバ太だもん・・・

でも、とりあえず、シバ太と一緒に辺りを探すことに・・・当てもなく・・・

「シバ太!!ダメだって!!そっちは違うって!!
シバ太〜!!シバ太ってば!!」


「は?柴田?しばた?」
「あ・・・」

保田さんから見れば、自分で自分の名前を連呼する私って一体???
ってかんじだよね・・・

「この犬、シバ太って名前なんで・・・」
「は?・・・そうなんだ・・・」

自分の愛犬に自分の名字つけるって・・・
意味わかんないよね・・・保田さんの視線がこの人変?
ってかんじの眼差しに変わってしまった・・・

「あんたたちさ・・・本気で探す気あんの?」

バレたか・・・

「ははは〜・・・」

とりあえず笑ってみた私に、保田さんの激が飛んだ。

「探す気がないなら、出てってよ!」
188 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/12(月) 01:42
怒られまくったあげく、私たちは部室を追い出された・・・


・・・ケメちゃん怖いよ・・・

散々怒られて、もう精神的にずたずたですってかんじになって、
その場にしゃがみこんだ。

「シバ太〜・・・」

シバ太が近寄ってきたので、とりあえずぬくもりを求めてみたけど、
もちろん、無愛想なシバ太君は私をすりぬけていくわけで・・・
余計にむなしくなったり・・・


矢口さんには抱きつかれてたのに〜!!

なんだよ。どこがなついてるんだよぉ!!

えさだって毎日私があげてるのに!!

お前のえさ代のおかげで、月々の少ないお小遣いが消えてるんだからね!!

もう!!薄情者〜!!ん?犬だから、薄情犬か??


はぁ・・・くだらないことを考えてしまった。
189 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/12(月) 01:44
「かおりん、元気出してよぉ!!」

部室に戻ろうと思ったんだけど、なんか中が取り込み中っていうか、
気まずい様子だったからシバ太と廊下で待ちぼうけすることにした。

中にいるのは、あさみさんと飯田さんみたい。

「・・・」
「犯人は絶対に見つかるって!!」
「・・・ぅぅ・・・く・・・」

え?飯田さん・・・泣いてる??

飯田さんはすっごく強い人で、強いっていうのは、
剣道がとか、怖いとかそういうんじゃなくって、
精神的にすっごく強い人だから、そんな弱音を吐くこととか、
泣いてる姿なんて見たことなかった。

「ごめんね・・・私がお守り落としちゃったから・・・」
「・・・ちが・・・うっしょ・・・く・・・ぅぅ・・・ぅぅ・・・
弱いからって・・・だからって・・・犯人扱いされて・・・
う・・・くぅ・・・悔しいよ・・・」
「ぐす・・・うぅぅぅ・・・」

あ・・・あさみさんまで・・・

「なんで?弱いからって、そんなの・・・うぅぅ・・・」
「うん・・・ひどいよね・・・ぅぅぅ・・・」
「それに・・・犯人扱いされてるのに・・・ぅぅ・・・く・・・
うぅぅ・・・ちゃんと弁解できなかった自分も悔しいよ・・・」
「かおりん・・・」
「瞳さんだったら・・・みんなのこと、部長として守ってあげられたと思うのに・・・」

飯田さん・・・

なんか、その言葉はすごく切なくて・・・

私まで涙腺がうるんできた・・・
190 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/12(月) 01:45
「しばた!!」
「え?」

あ・・・廊下で待ちぼうけしてたのがまずかった・・・
シバ太と一緒にいるところを平家先生に見つかってしまった・・・

「柴田やったよね?」
「は、はい・・・」
「あんた、なに犬連れこんでんねん!!」
「い、いや・・・それは・・・その・・・」
「それは、そのやないやろ!!いいから、ちょっときな!!」


やっばい・・・私とシバ太君は平家先生に生徒指導室に強制送還されるのだった・・・
191 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/12(月) 01:46
「で、その犬は?」
「あ、愛犬です」
「愛犬でも、学校に犬を連れ込んだらあかんやろ!」
「は、はい・・・」
「なんで犬連れこんだんや?」
「あ・・・えっと・・・合宿費の真犯人を・・・
あ!シバ太ダメだよ!!そっちはダメだってば!!」
「柴田?しばた?シバタ?」
「あ・・・いや・・・」

それから、愛犬シバ太君とともに、真犯人捜索を行うんだっていう、
まるで小学生のような説明を延々してみたり・・・

でも、先生は理解してくれなかったり・・・

そりゃそうだよね・・・
192 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/12(月) 01:48
「失礼します!」

急に、扉が開いたと思ったら、飯田さんだった。

「ん?どないしたんや?」
「はい。あの、そのワンちゃん、柴田の愛犬じゃないんです!」
「は?」
「そのワンちゃんは、シバ太といって、うちの部の愛犬なんです!!」

って!!こんな状況でばらさなくても・・・余計に話がややこしく・・・

「飯田?なに言って・・・」
「去年、体育館の裏でうちの部員が拾ったんです!
拾った時はすっごく怪我してて、柴田が毎日毎日看病したんです!」


そういえばそうだった・・・
シバ太は瀕死の状態で捨てられてたんだった。
お盆の時期だったから、獣医さんに連れて行きたくてもお休みで、
だから、私があさ〜い知識の中でこんなことしたら多分死ぬよね・・・
みたいな感覚ながらも、手当てをしたんだった。
193 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/12(月) 01:49
「柴田は毎日毎日シバ太のことを看病して、それで奇跡的に回復したんです!
元気になったシバ太が初めてえさを食べた時に、柴田、初めて笑ったんです!
だから、柴田にはシバ太が必要で、うちらにもシバ太が必要で、
だからそれからも部室で飼うようになったんです!!」


話がちょっと、オーバーな気がしたけど、確かに、
シバ太のおかげで私は先輩たちと前よりも話す機会が増えたのかもしれない。

「許可したのは、部長の私の責任で、
今回柴田とシバ太を部室の外に出したのも私が悪いんです!
だから、柴田を叱らないでください!」
「しばたがしばたで・・・って・・・?」


平家先生は『しばた』っていう単語がどっちを指しているのかが把握しきれなかったようで・・・もう一度、私が先生に説明した。
194 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/12(月) 01:50
「めっちゃええ話やん!!感動や!!」

現実はもっと喜劇だったけど、この際だからって、話をオーバーにして、
瀕死の犬を救った友情と青春の心温まるストーリーみたいな話に平家先生は共感してくれた。

「よっし!このことは、うちとあんたらだけの秘密ってことにしたる」
「本当ですか!!」

おもわず、飯田さんとハモッてしまった。

「おう!みっちゃんに二言はない!!」
「ありがとうございます!!」
「ええってええって。あんたらも、弱いなりに青春してんねんなぁ」


「・・・」




最後の一言余計だよ・・・
195 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/18(日) 00:55
「ありがとうございました」

部室に戻ったのはずいぶん遅くて、みんなもう帰ってた。

「ううん」
「あの・・・なんていうか・・・飯田さんはすっごく強いと思います!」
「は?」

話が唐突すぎた・・・
飯田さんは不思議な顔をしてる・・・

「あ・・・いや。その・・・つまり・・・」
「柴田がさ、入部した時ね。本当にすっごく嬉しかったんだよ」
「へ?」

飯田さんも、どうやら話がワープしたらしい?

「瞳さんの妹だし、きっと明るくて元気で、
剣道もめっちゃ強いんだろうなぁって」
「あ・・・ははは・・・」


現実はその真逆なわけで・・・笑顔がひきつった・・・

「でも、実際は正反対でさ。明るいどころか、ヒッキーだし、無愛想だし?無口だし。
うちらさ、どうやって柴田と打ち解けようかって毎日会議だったんだから」

ご迷惑おかけしました・・・

「でもさ、シバ太おかげで、うちらの仲が一気に縮まったんだよね?
シバ太のおかげで本当の柴田に出会えたからさ。
シバ太のおかげで、柴田はいろんな顔を見せてくれるようになって。
だから、うちらにはシバ太は欠かせないんだよ。
そんなシバ太君の危機に、部長として黙ってはいられなかったからさ」


やっぱり、飯田さんは強い。
196 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/18(日) 00:56
「飯田さんが部長でよかった」
「え?」
「飯田さんが部長でよかった」
「ふっ。励ましてくれてんの?」

ちょっと、自嘲気味に笑った飯田さんを私は真剣に見つめた。

「試合に勝つことだけが強いってことじゃないと思うんです・・・
その・・・つまり、心が、心を折らない人が強いんだって・・・おばあちゃんが」
「心を折る?」
「はい。つまり、えっと、気がくじけるっていうか、
なんていうか・・・心が折れない人が・・・えっと・・・」


やっぱり、私は口下手らしい・・・

瞳ちゃんとの喧嘩だったらもっと次々単語が出てくるのに・・・

「心が折れるか・・・なんかわかったよ」

さすが飯田さん!!

「サンキュウ柴田!心を折らずに、絶対に犯人見つけて、
試合にも勝って!みんなのこと見返してやるべし!!」

やる気とパワーがみなぎった飯田さんはいつにもまして強く見えた。


だから、飯田さんが部長でよかったんだ・・・
197 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/18(日) 00:57
「あ!!シバ太〜!!」

二人で帰ろうと部室の扉を開けた瞬間にシバ太が駆け出していってしまった。

「こら!!待って!!」

二人で必死にシバ太を追いかけて・・・たどりついたのは、さっきの生活指導室だった。
結局飯田さんはどこかではぐれたらしく、私だけが追いついた。

「え?」

シバ太にせかされるように扉をあけて・・・

「ワン!!」

シバ太は教室の棚の前で吠えた。

「どうした?あ〜!!!」

棚ーのはしに封筒が・・・もしかして?って思って中を確認。

「シバ太〜!!」



シバ太君おてがらです!!中身はもちろん合宿費だと思われるお金が!!


「シバ太!!あんたってば、名犬だったのね!!」


名犬シバ太は、私に飛びついてきて、二人でさんざん喜んだ。
198 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/18(日) 00:58
結局、合宿費は、バレー部の顧問の平家先生が預かったまま生活指導室の棚に置き忘れたらしい・・・飯

田さんは言いたいことが次々と溢れてるみたいだったけど、

さっきの一件もあり、素直に引き下がった。
199 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/18(日) 00:59
翌日問題解決の吉報をみんなに伝えた。

「しばた偉い!!」

どっちを褒めてるのかわからないけど、
矢口さんに褒められたの初めてだから、私ってことにしておこう。

「柴ちゃん無実を証明してくれてありがとう!!」

そうだよね。もとはといえば、あさみさんだった。

「でもさ、シバ太ってすごいね?案外名犬だったりして?」

矢口さんがいつもの場所でうつ伏せているシバ太をつっつく。

「よかったね柴ちゃん」

梨華ちゃんが私をつっつく。

「うん。よかったね」
「よくない!!」
「え!?」

飯田さんの言葉にみんな驚く。

「よくない!!ケメ子に謝らせる!!
あさみを泥棒扱いしたんだよ?絶対に許せない!!」
200 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/18(日) 01:00
飯田さんが出て行こうとするところに、保田さんが入ってきた。

「ごっめんね〜!!」

先に謝ってくれた保田さんにほっとする私たち。

「本当にごめん!!」
「ごめんじゃないっしょ!!ちゃんとあさみに謝って!!」
「っるさいなぁ!謝ってんじゃん!!」
「ちゃんと謝ってって!!」
「あさみ!本当にごめんね?」
「いや、いいよ。ケメちゃんも大変だったんだもん」
「ごめん!!」

ひたすら謝って保田さんは戻っていった。
201 名前:強くなりたい〜!! 投稿日:2004/07/18(日) 01:00
「かおりんありがと」

興奮気味の飯田さんにあさみさんが笑顔で握手する。

「私さ、今日ほどかおりんが部長でよかったって思ったことないよ。
信じてくれてありがと。かばってくれてありがとう!」


飯田さんは、頼りないけど、すっごく頼りになる部長なんだ。

飯田さんたちが瞳ちゃんのことを尊敬するのとは、少し違うのかもしれないけど、私にとっての先輩はこの三人。

「いいみんな!二度とこんな不名誉な汚名を着せられないように!絶対に強くなってやる〜!!」


飯田さんのコミカルな宣戦布告に私たちは大爆笑した。
202 名前:梨華ちゃんの視点から 投稿日:2004/07/24(土) 15:05
梅雨は雨ばっかりであんまり好きじゃないけど、だから、晴れの日がすごく輝いて見える。

柴ちゃんの家にお世話になって、初めての家族旅行。
柴ちゃんのお父さんとお母さんとおばあちゃんと柴ちゃんと瞳さん。
そして私の六人で箱根にやってきたんだ。

梅雨だというのに、今日は晴天。

日ごろの行いがいいからかな?なんて、思ったり・・・?


「ったく。なんで、わざわざ家族で旅行に行かなきゃいけないのよ!!」

瞳さんは朝からその言葉を繰り返してる。

「ぶつぶつ言うなら、来なきゃいいじゃん」

そのたびに、柴ちゃんにそう言われて、瞳さんはめんどくさそうな顔をしてる。
家族旅行なんて何年ぶりだろう・・・こんなに楽しいものなんだね・・・

柴ちゃんのパパとママはすっごく仲良しで、瞳さんと柴ちゃんもなんだかんだいって仲良し。
おばあちゃんはそんな家族の様子を楽しみつつ、時々私のことを気にしてくれる。


家族ってこんなにも、居心地がよかったっけ???
203 名前:梨華ちゃんの視点から 投稿日:2004/07/24(土) 15:06
「ったくもう。いい年して家族旅行なんてさ・・・」
「でも、楽しくていいじゃないですか?」
「・・・」

おじさんとおばさんは二人で行動してて、
柴ちゃんはおばあちゃんとどっかいっちゃって、
気がついたら、瞳さんと二人だった。

正直言うと・・・瞳さんはちょっと苦手。
なんていうか・・・柴ちゃんと違って優しくないんだもん・・・

「あゆみは?」
「さぁ?おばあちゃんと一緒に歩いてましたけど?」
「あぁ。また、あの子ばあちゃんにつかまったんだ」
「え?」
「多分今頃、おばあちゃんに、こきつかわれてるよ」

なんだか、その光景が目に浮かんで、思わず笑っちゃった。

でも、きっと捕まったんじゃなくって、柴ちゃんはおばあちゃんが好きだから一緒にいるんだよね?
204 名前:梨華ちゃんの視点から 投稿日:2004/07/24(土) 15:07
「梨華ちゃんさ・・・」

一緒に笑っていたと思ってたら、いきなり瞳さんは真剣になった。

「は、はい?」
「小さい頃とか、遠足行った時にさ、水筒の中身考えて飲む方だった?」
「え??」

いきなり、何を言い出すのかと思えば・・・何?

心理テストとか??

「ほら、後先考えないで飲んじゃってさ、後悔するタイプと、ちゃんと計算して飲むタイプにわかれない?」
「そう・・・ですね?」
「私は、どっちかっていうと、ちゃんと後のことまで考えて飲む方だったの」
「はい・・・私は・・・?考えるんだけど、ついつい飲んじゃって無くなっちゃうタイプ・・・かな?」
「ふ〜ん」
「え?それが・・・なにか?」
205 名前:梨華ちゃんの視点から 投稿日:2004/07/24(土) 15:10
「あゆみのこと・・・どう思ってる?」

どうって?どうって・・・いきなり聞かれても!!
しかも、話飛んでませんか??え?何?
どうって聞かれても・・・

瞳さんは柴ちゃんのお姉ちゃんだから、本当のことを言ってもいいのかな?
でも・・・でもやっぱりねぇ・・・
そんなこと言ったら、びっくりするだろうし?え?え?
どうしよう?なんて言えばいいのよ??

「あゆみってさ・・・わかると思うけど、いっつも損する方の人間なのよ」
「は、はい」
「要領悪いし、素直じゃないしね。可愛気ないし。
あゆみはさ、水筒の中身ね、人にあげちゃって無くなっちゃうタイプなの。
本人も全然気がついてないんだけどさ、バカがつくくらいに、お人よしなのよ。
だから、いっつも損ばっかり」

なんか、ちょっとわかる気がした。

柴ちゃんは、いっつも、矢口さんやあさみさんに振り回されてて、
他の人なら怒り出すようなことでもいっつも笑ってて。

もちろん私がわがまま言っても聞いてくれて・・・

「私もね、剣道やってたんだ」

瞳さんは、岡女剣道部の名に残るほど最強だったんだっけ?

「は、はい」
「あゆみは、今まで勝ったことがないけど、
私は剣道で負けたことってあんまりなかったんだ。
でもね、剣道やめちゃった」
「はい」
「ピアノのが好きだったってのもあるんだけどね、
あゆみにはね、勝てないなって思ったんだ」
「どうしてですか?」
「あゆみはね、弱いけど、剣道めちゃくちゃ好きなんだよね。
本当に剣道好きで。だから、弱いけど、
あゆみにしか見えない剣道があるんだってわかったの。
剣道好きだから、道場継ぐのはあゆみの方だなって」
「はい」
206 名前:梨華ちゃんの視点から 投稿日:2004/07/24(土) 15:12
「おばあちゃんも・・・あゆみのことわかってるって思ってたのにな・・・」
「え?」
「もし、もしも、あゆみが弱いからってことで、
梨華ちゃんがうちの道場継ぐってことになったら、
私が剣道で梨華ちゃんのこと倒すよ?」

「・・・」

「あゆみはね、不器用でお人よしでバカだから、そうなってもいいんだって思ってる。
でも、あゆみから剣道をとるようなことしたら、絶対に許さないから」

瞳さんの目は真剣で、すっごく強かった。

瞳さんは柴ちゃんのこと、ちゃんと見守ってるんだ・・・

そう思うと少しだけ嫉妬しちゃうな。

「私も、柴ちゃんのそういうところ大好きですよ?」
「え?」
「優しくて、素直じゃなくて、要領悪くて・・・そういうところすっごくすっごく好き」
「え?」
「心配ないですよ!私、道場を継ごうなんて、全然思ってませんから!!」
「はぇ?ほんとに?」
「はい!」
「え?」
207 名前:梨華ちゃんの視点から 投稿日:2004/07/24(土) 15:13
「それに、多分私なんかかなわないと思います。
柴ちゃん、今は試合に勝てないだけで、
本当はすっごくすっごくすっご〜く強いんだから!!」

本当だよ。強くて優しくて不器用で・・・
そういう柴ちゃんが私は大好きなんだもん。

「そっか」
「はい」

それから、少しだけ沈黙が流れて、
遠くの方で柴ちゃんがおばあちゃんの荷物を持たされて奔走してるのが見えて、私たちは顔を見合わせて笑いあった。



優しくて、素直じゃなくて、要領悪くて・・・

でも、柴ちゃんはみんなに愛されてるんだね。
208 名前:梨華ちゃんの視点から 投稿日:2004/07/24(土) 15:14




おじいちゃん・・・



柴ちゃんはやっぱり、すっごく魅力的な女の子だったよ。




209 名前:梨華ちゃんの視点から 投稿日:2004/07/24(土) 15:15
おじいちゃんは、小さい頃から柴ちゃんの話をよく私にしてくれた。

「柴ちゃん?」
「うん。わしの古い友人のお孫さんでな、梨華と同じ年なんだよ」
「へぇ〜」
「たしか・・・あゆみちゃんと言ったかな?」
「あゆみちゃん?」
「どうだったかな?う〜ん・・・近頃物忘れがひどくてかなわん」
「その子も剣道やってるんだ?」
「そうそう。柴ちゃんも、剣道をやってるんだよ」
「強いの?」
「試合には、まだ一度も勝ったことがないんだったかな?」
「じゃあ、弱いんだ?」
「いや。強い女の子だ。剣道を一番よく知ってる女の子かもしれないな」
「ん〜?」
「とっても、魅力的な女の子だよ」
「へぇ〜。会ってみたいな?」
「うん。そのうちな。梨華がもっと大きくなったら会いに連れて行ってあげるよ」
210 名前:梨華ちゃんの視点から 投稿日:2004/07/24(土) 15:15




話の中の柴ちゃんに、ずっと憧れてて・・・





実際に出会った柴ちゃんに・・・





私、恋しちゃいました・・・





211 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:37
「今度ね、親善試合することになったの」

親善試合だなんて・・・初めてだ♪

「すっごいね。かおりんが取ってきたの?」

矢口さんが感心する。

「ううん。なんかね、先生が。なんかね、試合を申し込まれたんだってさ」

ちなみに先生というのはおばあちゃんのこと。

「えぇ〜!!うちの高校いつの間にそんなに有名になったの??」

あさみさんが声をあげる。

「ね?やっぱり梨華ちゃんが来たから知名度あがったんだろうね〜?」
「で?相手はどこ?」
「うん。朝比奈学園」
「え!?」

驚いたのは梨華ちゃんだった。

「石川知ってるの?」

飯田さんが尋ねる。

「はい。その学校、私が前にいた学校です。しかも・・・剣道部なんてなかったんです!!」
「石川が転校してから、部活立ち上げたんだね?じゃあ、そんなに強くないんじゃない?よっし!それなら勝てるっしょ!!目指せ初勝利♪」

矢口さんの言葉にそんなに簡単に行くかな?って首をかしげてしまったけど、みんなは勝気満々らしかった。

212 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:38
出来立てホヤホヤの朝比奈学園剣道部・・・
梨華ちゃんの前の学校がなんで剣道部を創設して、うちの学校に試合を申し込んだのかは試合の日に明らかになった・・・

「梨華ちゃ〜ん!!」
「え?よっすぃ!!」

相手の学校の吉澤ひとみ(主将)が梨華ちゃんを発見して走りよってきた。

「梨華ちゃん!!会いたかったよ!!会いたくて会いたくて!!愛してるぅ!!」
「ちょ、よっすぃ止めてよ!!みんな見てるから!!」
「いいじゃん!!久しぶりなんだし!!うちね、梨華ちゃんがいなくなって初めて気がついたんだ。一番大切だったのは梨華ちゃんだって!!浮気もいっぱいしたし、悲しい思いもたくさんさせたけど、もう梨華ちゃん一筋で行くからさ!!剣道部も作ったし!!戻っておいで!!うちの学校に!!そしてうちの胸にカモ〜ンだよ!!」


そういう関係だったんだ・・・


なんか試合が始まる前にかなりブルーになってしまう私・・・
私が落ち込む必要なんてないのにね・・・

「梨華ちゃんって・・・相手いたんだ・・・」

私の隣で落ち込んでいるのはあさみさん・・・
もしかして?梨華ちゃんのこと狙ってた???

「よっすぃとはもう別れたでしょ?もう!」

しつこく付きまとう吉澤さんから梨華ちゃんは離れてこっちにやってきた。


「それにね、私もう柴ちゃんと付き合ってるから!!」
「え?!」


思わず、吉澤さんとあさみさんと私が声をあげた。

「だから、ごめんね!さ、気を取り直して試合しよ♪」

それから、あさみさんにそういう関係じゃないから!
ってことを説明するのが大変だった。

213 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:39




相手の学校は、里田さん、小川さん、ミカさん、吉澤さん、アヤカさん。
なんとなく強そう?ってか・・・国際的なかんじ?!



214 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:41
あさみさんvs里田さんの試合が始まる。


スピードがうりのあさみさんに対して、里田さんは隙がない。
この人本当に剣道始めたばかりなの?ってかんじで、堂々としている。

あさみさんが得意の小手を狙う。あさみさんと矢口さんは背が低いから、
相手が長身の場合は面打ちしないんだ。


剣道は身長なんて関係ないのに、二人ともコンプレックスみたい。


それと、あさみさんの致命傷は、四戒の一つ、「懼」つまり恐怖心。


今も、里田さん相手にびびりまくって完全に動きが鈍くなってる。
あさみさん、小手を狙いすぎて竹刀が下がってる!!防御が薄くなっちゃうよ!!

「一本!」

やっぱり・・・小手を狙って前に出たところへあっさり里田さんが小手抜き面で一本が決まった・・・

「あさみさん!前に出て!!面打ちしてきたところを潜り込んで!!」

一本とられて、うつむいたあさみさんに大声でアドバイスを送ってみた。
あさみさんは大きく頷くと、再び向かい合った。

依然、こう着状態が続く二人。い合いでけん制しあう。

「今!!」

私の声とともに、あさみさんが里田さんに仕掛けた。
前に出たところに案の定、里田さんの面打ち!
それをかわして潜り込んで得意の面応じ返し胴!!

「一本!」

やった!!あさみさんの顔も少し凛々しくなって、ようやく勘を取り戻したみたい。

「あさみさん!竹刀を下げないで!!狙って打ってください!!」

再び私のアドバイスのもと、あさみさんは飛び込み小手でもう一本先取した。
あさみさんは勝ったことでめちゃくちゃはしゃいで私に抱きついてきた。


「勝った〜!勝ったよ!!始めて勝ったよ!!柴ちゃんありがとう!!」


戻ってきたあさみさんは私に抱きついてきた。

「わ、ちょっと!!試合中は静粛にしないとぉ〜!!」

剣道では、勝ったからと言って喜びを大げさに表してはいけないんだ。
ってことで、指導を受けてしまった・・・

215 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:43
続いて矢口さんvs小川さん。


矢口さんもスピード勝負。あさみさんに比べると、
分析が得意な矢口さんは相手の隙をうかがうのがうまい。

でも、小川さんの間合い・・・普通の人と違う。
なんかボーっとしているかんじだけど、これって・・・矢口さん油断大敵です!!


しばらくけん制していた矢口さんだったけど、分析するほどの相手ではないと悟ったらしく仕掛ける。

ダメ!!相手の間合いにのまれてる!!


「一本!」


面を狙ったところを面抜き胴・・・この人できる。

「矢口さん!油断しないでください!!じっくり間合いをとって!!」

一本とられると思ってなかった矢口さんは放心状態だった・・・


矢口さんの弱点は「驚」自分が予期しないことが起こると、
正確な判断ができなくなって、混乱してしまうんだ。


「矢口さん!!勝てるから!!自分の剣道やってください!!」

思わず口からでたその言葉に正気を取り戻してくれて、矢口さんは再び構える。
今度は間合いをしっかりとって、相手をしっかりと見据えて矢口さんが逆胴で一本をとった。

それから、またこう着状態が続いた。

「矢口さん、小手!!」

小川さんは小手が死角なんだ。その言葉に矢口さんはすぐに払い小手を決めて一本が決まった!!

これで、二勝!!

「し〜ば〜た〜!!あんたってだてに剣道オタクじゃなかったんだね!!」

矢口さんにも抱きつかれて、死にそうになった。そしてまた指導・・・


216 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:45
飯田さんvsミカさん。


飯田さんは結構強かった。長身なだけに、視野が広いらしい。死角もあるんだけどね。
それに、飯田さんにも相手を飲み込む独特の間合いがあった。
間合いというよりも、雰囲気まんまで、言い換えるとタダの天然なんだけどね・・・

ミカさんは、めちゃくちゃ目が厳しい。
私だったらきっとまともに見てらんないだろうな・・・
でも飯田さんは落ち着いて相手を見据えてる。さすがだ。

飯田さんの間合いを崩すようにミカさんはい合いをかける。
でも、この人の間合いは作られたものじゃなくて、天然だから崩れないんだ。


試合は長期戦になった。ミカさんが仕掛ける技をことごとく飯田さんはかわす。

「今!!」

思わず声を出した私に、言わなくてもわかってるよ!ってかんじで

「一本!」

飯田さんがきっちり出ばな面で一本をとった。

そして、タイムアップということで、一本とった飯田さんの勝ちになった。

217 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:46
梨華ちゃんvs吉澤さん


吉澤さんはパワー系だ。強引に梨華ちゃんを押す。
素人だからなんだろうけど、これは危険だよ・・・
梨華ちゃん身体を切り返して!まともに受けちゃダメ!!

「危ない!!」

梨華ちゃんが吉澤さんに倒された。

仕切りなおしで、もう一度。梨華ちゃん!
だから、前にでるんじゃなくって、下がって自分の間合いをとるの!!
組んじゃダメだよ!!

「危ない!!」

今度は突き飛ばされた。

あ・・・梨華ちゃん今ので捻挫した?
足を引きずってる梨華ちゃん・・・もう止めて欲しいって思った。

でも梨華ちゃんの目は強かった・・・
再び仕切りなおし。


「前に出ちゃダメ!余して、間合いをとって!隙を狙うの!!」


私の言葉に梨華ちゃんはハッとしたみたいで、
迫ってくる吉澤さんから距離をとり続ける。

「今!!」

前に出た吉澤さんの勢いを利用して、

「一本!」

梨華ちゃんの引き胴が決まった。

二本目も梨華ちゃんの出ばな面が決まって梨華ちゃんの勝利になった。

218 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:47
そして最終戦・・・私の相手はアヤカさん・・・

ジャンケンで決めた順番だったけど、よりによって、最弱の私が大将なんて・・・

アヤカさんは強かった。なんか構えてるだけで、見合ってるだけで、固まってしまう。


私の弱点は「惑」、すぐに惑いが生まれて、「居つく」つまり、動けなくなってしまうんだ・・・
だから、あっさり二本とられて、私は負けた・・・

でも、結果的には4勝1敗だからうちの学校の勝利!!
みんな初勝利ですっごく喜んでた。

私は、おばあちゃんに呼ばれて、負けたことと、
試合中の私語、みんなへの応援やアドバイスを送ったことをこっぴどく怒られた。
剣道ににぎわいは不要なのだ。

219 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:48
「ありがとう!足大丈夫?」

吉澤さんが梨華ちゃんのもとにやってきた。

「うん。平気。よっすぃすごいね。こんなに強いなんて思わなかった」
「本当はね、梨華ちゃんに勝って、うちのもとにカムバック!ってかんじだったけど、負けちゃったからね」
「・・・ごめんね。今は・・・」

吉澤さんが私を睨む・・・

梨華ちゃん・・・嘘はよくないって。


恨みをかう気はもうとうないんだからさ!!

220 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:50
「足大丈夫?」

部室に戻って梨華ちゃんの足を見てみるとはれあがっていた。

「多分、靱帯がのびちゃってるんだと思う。テーピングしてしばらくは固定しておけば大丈夫だと思うけど・・・」
「柴田って、すごいね」

梨華ちゃんの足にテーピングをする私に飯田さんが感心したみたい。

「こういう怪我、私もよくするから」
「そうなんだ」
「柴田、あんたさ、なんで勝てないんだろうね?」

矢口さん・・・今さら聞かないでください。

「今日さ、うちらも頑張ったけどさ、柴田のアドバイスがあったから勝てたんだよね。
 あんなによく見えてるのになんで勝てないんだろうね?」



勝ちたいって思わないの?そう言った梨華ちゃんの言葉が脳裏をよぎった。
そうなんだよね・・・気持ちで負けてるんだよ私って・・・



「シバ太?あんたも柴田が勝った方が嬉しいよね?」

犬に聞かないでくださいあさみさん・・・

「剣道向いてないですから・・・」


向いてないから、おばあちゃんにも見放されて跡継ぎってことで梨華ちゃんがうちに来たわけで・・・

情けなさいんだよね私って・・・

梨華ちゃんにテーピングしながら少しだけ涙腺がゆるんだ・・・

今日の試合勝ったけど、やっぱり私負けたわけで・・・

何より逃げ腰だったと思う・・・

221 名前:試合しましょう! 投稿日:2004/08/05(木) 00:52
「まだ痛い?」

みんなが帰ってからも、梨華ちゃんは足が痛いからって帰ろうとしなくって・・・

「うん。痛い」
「う〜ん・・・シバ太おかしいね?」
「ワン!」
「あ・・・吠えた・・・」

シバ太に驚いている私を何か暖かいぬくもりが包んだ。え?梨華ちゃん?

「柴ちゃん?」
「・・・ん」
「柴ちゃんは、剣道向いてなくなんてないよ・・・すごく強いんだから」
「・・・」
「柴ちゃんは優しいから。誰かを倒すのにためらいがあるんだと思う。
 おじいちゃんが言ってたの。倒すんじゃなくって、守る気持ちの方が強いんだって・・・
 意味よくわかんなかったけど、なんか今はわかる」

私には両方わかんないよ・・・ごめんね。

「ごめん。わかんない・・・」
「うん。いいよ。わかんなくてもいいよ。その代わりに・・・」
「ぅ・・・」



!?・・・キスされた・・・



「柴ちゃんのこと本気で好きになっちゃった・・・」
「・・・」

「帰ろっか?」
「・・・」

「し〜ば〜ちゃん?」
「うん・・・」

「足痛いから、荷物もってね?」
「うん」

「大丈夫?」


「ううん・・・あ?うん。平気?」


天使は急に舞い降りる・・・シバ太、私変になりそうだよ・・・


「ワン!」


あ・・・吠えた・・・


222 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/08/16(月) 19:20
作者さま
はじめまして。
それいけ、岡女剣道部♪最高に面白いです!!
強いのに優しすぎて勝てない柴田さん最高です!!!!
更新を楽しみに待ってます!
PS:娘。小説の保存もさせていただいているのですが、もしよろしければ保存させてください。
当方のHPは[ http://kuni0416.hp.infoseek.co.jp/text/index.html ]です。
ぶしつけなお願いで申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
223 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:23
夏が来た。インターハイまであと少し。

その前に、私たちは合宿に行くことになった。
合宿先は顧問の中澤先生の友達のお寺。
毎年ここに来るんだけど、すっごくさびれたお寺なのだ。
お化けがでそうなくらいに・・・

「ええか?うちは用事があるから、あとは自分らで練習しとき!」

中澤先生はいつも食事以外はいなくなる。
その代わりに、おばあちゃんがいてくれて、指導してくれる。


お寺の夏稽古は地獄なんだ。


暑さで死にそうになるのに、ご飯が質素・・・
つまりスタミナを吸収することなく、体力だけが消費されていくのだ・・・
お肉食べたい・・・二日目くらいから私の頭はお肉でいっぱいになるんだ。


告白されて?キスまでされたのに?
梨華ちゃんはしらっとしていて、それまでの関係となんら変わりなかった。
ってか、幻?冗談だったの??くらいな勢いで・・・


その方がいいんだけどね・・・私なんかじゃ釣り合いとれないし。

224 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:24

「試合!?」
「うん」


三日目に、近くの高校の剣道部に試合を申し込まれた。
飯田さんがロードワークの時に話をつけてしまったらしい。

「で?いついつ??」

矢口さんはこの間一勝してから、調子がいいらしく試合ということで張り切っている。

「うん。明日の午後」
「よっしゃ〜!!頑張りまっしょい!!」


試合か・・・

225 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:26
相手の高校は安部さん率いる強豪だった。
安部さんは高校剣道界でその名を知らない人はいないほどの剣豪。

よりによって、なんで安部さんのチームとなんですか・・・って飯田さんだもんね・・・
相手が誰とかまで考えてないんだよねきっと・・・

「よろしくね!」


安部さんは屈託ない笑顔を浮かべるけど、この笑顔の奥に秘められた闘志はやばいくらい怖い。


順番はあさみさん、矢口さん、私、飯田さん、梨華ちゃんの順番。
一方相手は、藤本さん、後藤さん、高橋さん、市井さん、安部さん。



実はみんなめちゃくちゃ強かったり・・・やばいよ・・・怖いよ・・・


226 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:28

まずはあさみさんvs藤本さんの組み手が始まる。


藤本さんの威嚇にあさみさんは完全に押されてる。


藤本さんの弱点はあさみさんが得意とする小手の防御だから、
思い切って打ち込んじゃえばいいのに・・・


完全に気迫で押されちゃってるよ・・・前に出て!!


「一本!」


全く試合にならないまま、あさみさんは一本とられてしまった。


ひるんでしまったあさみさんに二本目もあっさり藤本さんがとった。


実力差は歴然・・・あっという間に負けちゃって・・・
あさみさんは呆然としたまま戻ってきた。

227 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:30

続いて矢口さんvs後藤さん・・・


後藤さんは存在感ですでにオーラが違う。


矢口さんが動くたびに自分の間合いを修正して相手を挑発する。
矢口さん、のっちゃダメ!!


後藤さんは矢口さんの行動を楽しんでる・・・


まるで大人と子供だった・・・


「一本!」


これまた試合にならないうちに、二本とも後藤さんに矢口さんは遊ばれて終った・・・


戻ってきた矢口さんの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
あんな試合・・・惨めだったんだと思う。
あそこまで試合にならなくて、なめられた試合なんて・・・


矢口さんは防具をつけたまま、ずっと肩を震わせてた・・・

228 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:33

そして私vs高橋さん。


見合った瞬間に高橋さんの真直ぐな視線が痛かった。


でもここは視線をそらさずにじっくり相手を見る。隙だらけだ。
そんなに経験はないみたい?ん?目の奥が迷ってる。
そっか・・・どう攻めたらいいのか分析しきれないんだね・・・私、構えだけはいいからさ・・・

少しだけ前に出て威嚇してみると、高橋さんは気合で答える。すごい。
この気迫は中々作れないよ。

でも、ごめん!勝ちたいから、一本もらいます!!


「一本!」


一本打たれたのは私の方だった。面打ちを狙ったのにためらったところに高橋さんの胴打ちが決まった。


なんで、いっつもこうなんだよ!!


再び向かいあって、高橋さんを睨む。
あ・・・今の気持ちって・・・怒りじゃん!!
それを相手にぶつけるんじゃなくって・・・気持ちを落ち着かせてちゃんと向き合わなくっちゃ!!


そんなことを考えてるうちに、あっさり高橋さんの二本目が決まった・・・


まただ・・・やっぱりまた負けた・・・

229 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:35

続いて、市井さんvs飯田さん。


市井さんは飯田さんと構えが似てる。堂々としていて、隙がない。
瞬殺型らしく、相手をよく見極めようとしている。


でも飯田さんの空気は壊れないんだよね!ここはなんとかなるかも?
あ・・・市井さん、気がついちゃったみたい・・・

飯田さん逃げて!市井さんはじっくり相手を精神的に追いやるのが得意なようだ。


やばい・・・飯田さん!見合っちゃダメ!自分のペースを崩さないで!!


「一本!」


ひるんだ飯田さんに市井さんの面打ちが決まった・・・


二本目も市井さんがとった。


飯田さんまで・・・やっぱり、相手が強すぎるよ・・・
230 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:36

最後は梨華ちゃんvs安部さん


梨華ちゃんも強いけど・・・安部さんは強いっていうよりも上手かった。剣道知ってるんだこの人。


すぐに梨華ちゃんの癖を分析して、あとは完全に楽しんでる。


挑発するとムキになって前にでるところ、威嚇すると少しひるむところ・・・
梨華ちゃんの弱点を正確につかんでる。


「一本!」


簡単に一本とられてしまった・・・
梨華ちゃんも一本とったけど、安部さんがもう一本とって、安部さんが勝った。


231 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:38

めちゃくちゃ落ち込まされて、お寺に戻るまで、私たちは一言も口を聞かなかった・・・


戻ってからおばあちゃんの説教を受けて夕食。

「あの・・・負けちゃったけど、気を取り直しましょうよ!」

夕食時まで続いた沈黙を破ってみた・・・

「気を取り直すって・・・だって・・・」

あさみさんは前回もボロ負けだったから、精神的にそうとう落ちてるんだ・・・

「おいらさ、この間の試合に勝って・・・ちょっといけるんじゃないかな?
 って思ってたんだ。でも・・・全然やっぱり実力なかった」


矢口さん・・・あんな風に遊ばれて終ったら立ち直れないよね・・・

232 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:40
「とにかく!練習しましょう!!」

梨華ちゃんだった。

「うん!!」

便乗したのは私だけだった・・・

「練習したからって・・・インターハイまでにあんなに強くなれる自信ないよ」

あさみさん・・・そりゃそうかもしれないけど・・・

「なれますよ!練習すれば強くなれます!!勝ちたいって思って練習しましょうよ!!」
「でも・・・」

完全に落ちてしまったみんなにとって、梨華ちゃんの言葉は理想論だった。

「次は絶対に勝ちましょうよ!!」

その言葉に答える人はいなかった。勝つって簡単じゃないからね・・・


「うん!勝とうよ!!」
誰も答えなかったからなのか・・・梨華ちゃんの言葉に思わず乗ってしまった。
「柴田に言われてもね・・・」
矢口さん・・・もっともだけど・・・


「絶対にインターハイは行きましょう!!」
「柴ちゃんに言われてもね・・・」
あさみさんまで・・・


「勝ちたいって思えば勝てる気がします・・・」
だんだん自信なくなってきたよ・・・


233 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:41

「うん!柴田が言うんだから間違いないよ」

え?飯田さん??

「石川や柴田に渇入れられてる場合じゃないよ!
 うちらにとっては、最後のインターハイなんだから、
 もっと気合入れて、後輩に見せ付けてやんなきゃ!」

飯田さん・・・やっぱ部長だ。すっごく大きく感じるよ。


「そうだね・・・よっし頑張ろ〜!!」
「おぉ〜!!」


よかった。矢口さんとあさみさんに笑顔が戻ったよ♪


みんなが笑ってるのが一番一番♪


234 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:42
「こんにちは!!」

夕食を終えた私たちのもとに、安部さんたちがやってきた。

「さっきはどうも!あのさ、一緒に花火やらない?」

さっきボロ負けした相手が目の前にいて・・・
でも、今の私たちはそんなことはひきずってなかった。

「うん!一緒にやろう!!」

飯田さんが快く引き受けて、花火することになった

235 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:44
「君って可愛いね♪」

矢口さんに後藤さんが近づいた。

「な、なんだよ!チビって言いたいのかよ!!」
「ちがうよぉ!可愛いねって言ったんだよ♪」

「さっきの試合といい、人のことバカにするなよ!」
「バカになんかしてないよ!ゴトーは可愛い子大好きなだけだよ?」


あ!?後藤さんが矢口さんに抱きついたよ・・・

「ば、バカやめろ〜!!」


なんか・・・?いい感じ??

236 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:44

「まったくごっちんは、手が早いんだから。で?君の名前は??」
「は?」

今度は市井さんがあさみさんに近寄る。

「さっきの試合さ、藤本相手によくひるまなかったね?」
「・・・」

あさみさんはめちゃめちゃひるんでたと思うけどな・・・

「いい試合だったよ♪」
「あ、ありがとう」


なに?この人たちって・・・ナンパ目的??

237 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:45

あ・・・飯田さんと安部さんもなんかいいかんじだ・・・

花火やってるのって・・・私と高橋さんだけじゃん!!


え??梨華ちゃんは??あ・・・


「へぇ〜。中学の時全国優勝してるんだ!」
「うん」

「どうりで、強いと思ったよ!!」
「みきちゃんもすごく強そうだったし」



なんだよ・・・いいかんじじゃん・・・


238 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:48

「あ、あの・・・?」
「は、はい?」
「さっきの試合、手抜きしましたよね?」

た、高橋さん・・・

「い、いや・・・別に手をぬいたわけじゃ・・・」
「ああいうの、卑怯やと思います!」

「・・・」
「私は真剣に戦いたかったのに!なんで手を抜いたんですか?最低や!」

「・・・ごめん」


最低・・・手を抜いたつもりなんてなかったけど・・・


そういう体質っていうか、勝負から逃げる癖がついちゃってるんだよね・・・ごめん。


卑怯か・・・私の剣道・・・卑怯なのかな・・・
弱いって、卑怯なことなの?・・・


とにかく、高橋さんの真直ぐな気持ちに答えなかったのは事実なんだ。


最低・・・・・・
239 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:49


花火が終っても、各自いいかんじだったから、私は一足先に帰ることにした。


勝負に負けるし、自分にも、周りにも負けってかんじで・・・私ってなんなんだよ。


そんな気持ちをふっきりたくて、お寺の道場で素振り。

でも・・・全然気持ちはふっきれなくって、素振りをやめて床に寝転んで天井を仰いだ。



梨華ちゃん・・・今ごろ藤本さんと・・・なんか似合ってたしな・・・


240 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:50

「おやおや、ここにいたのかい?」

おばあちゃんだった。おばあちゃんを見て、私はすぐに正座した。
神聖な道場で寝転ぶなんておばあちゃんに怒られるから。

「いいわよ。たまには。ちょっと、話をしようかねぇ?」

めずらしく、おばあちゃんの口調は優しかった。
おばあちゃんは私の頭を三回軽く叩いて縁側に座った。私もその隣に座った。

「あゆみは、剣道が好きかい?」
「うん」

縁側から見えるきれいな丸い月をみながら、私は答えた。

「あんたは、私の誇りだよ」
「え?」

その言葉に驚いておばあちゃんを見つめた。
241 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:52

「あゆみは、他の誰よりも剣道の楽しさをしってるでしょ?あゆみの剣はね、すごく強いのよ」
「強くなんかないよ!一回も勝ったことないし・・・弱いし・・・」


「誰かに勝つことが強いってことじゃないのよ?必ず、いつか勝てる日が来るわ。
 誰かに勝つことよりも、剣を持ち続けるこが強いのよ」


その言葉はすぐに理解できなくて・・・
継続は力なりってやつ?それとも別に意味があるの?


「いいのよ。まだ、理解できなくてもいいのよ。
 相手と向き合って、試合って、なにがあっても、
 剣道の楽しさを忘れずに、剣を持ち続けるのよ。それが強いってこと」
「うん」

「あゆみ?」
「ん?」

「あんたは、私の誇りだよ。心配しなくていいから。好きにやりなさい?」
「うん」

242 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:55

「曇りの無い明らかな鏡のように、
 静かにたたえた止まる水のように澄み切っていれば、
  水面が夜空の月を写す」


「明鏡止水?」


「あゆみの心はね、もう十分澄んでるわ」
「・・・そんなことないよ」

「石火の機を待ちなさい」
「セッカノキ?」


「火打ち石は打った瞬間に火花がたつ。
 打突の機には間も隙間もない。
 その一瞬を待つのよ。石火の機よ」


「・・・」
「とにかく、好きにやんなさい。
 これから、もっともっと強くなれるから」

おばあちゃんの言葉はいつだって、少し私には難しい。
でも、それを少しずつ噛み砕いて、自分の言葉に置き換えていく作業が好きなんだ。

243 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:58
おばあちゃんが部屋に戻ってから、もうしばらく素振りして、部屋に戻った。

五人部屋に一人でいると妙な気分。床に寝転んで天井を仰いだ。

「し〜ば〜ちゃん?」

え?天井の変わりに梨華ちゃんの顔が目に入った・・・

「もう!柴ちゃん先に帰っちゃうんだもん!!」

だって!梨華ちゃんは藤本さんと・・・

「藤本さんと話してたし・・・」
「あ〜!!」
「な、なに?」

梨華ちゃんが私にいたづらな笑顔を見せる。
何かを見抜いたときにはいつもこの顔をするんだ。

「柴ちゃんさ!焼きもちやいたでしょ??」
「べ、別に!ち、違うよ!!」

「やん♪動揺してる〜!!」
「違うってば!!」

ムキになって起き上がった瞬間梨華ちゃんに抱きしめられた。

「大丈夫だよ♪浮気しないから?!」

梨華ちゃんの腕の中はとっても温かくて、居心地よくって・・・

「だから、違うって・・・」

なんか、ホッとした自分がいた・・・

「みきちゃんは相手いるんだって」
「そうなんだ」

「心配しなくていいよん」
「してないって」

244 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 13:59
「で?」
「は?」
「柴ちゃんのもう一つのモヤモヤは?」

やっぱり・・・梨華ちゃんは見抜いてらっしゃる。

「手をね・・・抜いたわけじゃなかったんだ。勝ちたいって気持ちが強かったのは高橋さんで、
 その気持ちに負けたの。でも、高橋さんに卑怯だって言われちゃった・・・」
「・・・」

「なんだろ・・・いつもなら、負けても平気なんだけどね・・・」
「柴ちゃん?」
「ん?」


呼ばれて振り向いた私に梨華ちゃんはキスをくれた・・・
温かくて優しいキス。二度目のキスは私の心に染み入った。


「剣道、好きなんだね」

唇が離れると、梨華ちゃんは笑顔で優しい言葉をくれた。

「うん」
「柴ちゃんはさ、そのままで十分いけてるから平気だよ」

意味わかんないよ・・・

「でもきっと、今日柴ちゃんが悔しいのは・・・勝ちたいって思ったからなんだろうね?」
「・・・」

「きっと、次は勝てるよ」
「うん」

よくわかんないままだったけど・・・


梨華ちゃんの言葉は温かいから、受け入れられた。

245 名前:夏合宿でっす♪ 投稿日:2004/08/18(水) 14:00
先輩たちはその晩は帰って来なかった。
二人で五人分の布団を引いて寝ることにした。

「柴ちゃん、一緒に寝よっか?」
「ば、ばか。一人でいいよ」

「照れなくていいってば!」
「照れてない!!お休み!!」



夏合宿は、熱くて苦くて心地よいかんじで幕を閉じた。


246 名前:けんけん 投稿日:2004/08/18(水) 14:06
>>222 :ななしのよっすぃ〜 さん

 レスありがとうございます!!励みになります!!
 小説の保存の方、嬉しいです!!本当に、つたない文ですが、
 ぜひ、よろしくお願いします!!
 
 内容の方は、決まってるものの、文章力がいまいちで、
 更新が遅れてしまっているのですが、頑張ろうと思いました。
 
 今後も、読んでいただけると嬉しいです!!
 よろしくお願いします!!
247 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/18(水) 17:49
もしかして先輩たちは・・・・・・
できれば先輩たちの行動も読んでみたいです。
お願いしまっす
248 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/18(水) 20:48
せ・・先輩たち・・ど・・どこ行ったんですかね?
合宿なのに帰ってこないなんて!!!
249 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/08/18(水) 23:27
けんけん さま
保存の了承ありがとうございます。さっそくHTML化してUPします。
柴ちゃんのおばあちゃん素敵な人です。
そして柴ちゃん達人の域に近づいてますね。がんばれ柴ちゃん。
では、次回の更新も楽しみに待ってます!!!
250 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:12
あれ?いつのまにかに、花火終ってるじゃん!

でもまぁ、かおりもあさみも梨華ちゃんもいるからいいか・・・って?
柴田帰った??

ああ・・・柴田の場合は夜稽古しないと先生に怒られちゃうのか。

「やぐっつぁんって、いつから剣道やってるの?」
「なんだよ!いきなりあだ名かよっ!!」

オイラは相変わらず、この馴れ馴れしい後藤さんと一緒にいる。

「んあ?ああ。私のことは、ごっちんでいいよ〜」
「なんでだよ!!いきなり馴れ馴れしすぎるって!!」

「ん〜?そうかな?いいじゃん!」
「って、だから抱きつくなってぇ!!」

なんなんだよこの人・・・完全にオイラのことバカにしてるだろ?
251 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:14
「で?やぐっつぁんはいつから、剣道やってるの?」
「高校からだよ」

「へぇ〜。なんで?」
「なんでって?」
「きっかけは?」


きっかけね・・・きっかけは、瞳さんの試合を見てからだった。


あさみと二人で部活見学してた時に、体育館で当時の三年生で、
柴田のお姉ちゃんの瞳さんが、村田さんと試合してた。

瞳さんの構えはすっごくカッコよくて、
なによりもあの気迫にオイラは感動したんだ。

身体がちっさいオイラにも、
ああいう気迫が身につけば大きい人間になれるんじゃないかなって・・・

「ねえねえ?」
「うっさい!」

「教えてよ?」
「一年の時の三年生がめっちゃカッコよかったの!!」

「へぇ〜。ん?女子高だよね?」
「そうだけど?」

「へぇ〜。そういうのありなんだ♪」
「っつ!!」


いきなり・・・オイラの唇に暖かい感触が・・・って!!


「な、なにすんだよ!!」
「ん?だって、女の子同士ありってことでしょ?」

「は?何言ってんの?ってか、だからってキスするかよ!!」
「ん〜。だって、やぐっつぁん可愛いんだもん♪」

「可愛いからって!何してもいいわけじゃないだろ〜が!!」
「いいじゃんいいじゃん!!やぐっつぁん可愛い♪」

「ば、ばか・・・」


なんなんだよぉ〜!!


252 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:16
「やぐっつぁんってさぁ?」
「なんだよ!」

「好きな人いるの??」
「・・・」

「いるのぉ〜!!」
「・・・」

「その、先輩??」
「違うよ!!」

瞳さんはマジでカッコよかったけどね。


それ以上の相手に出会っちゃったんだよ。


剣道めちゃくちゃ好きで、
構えはめっちゃカッコよくて、
でも、敗戦記録更新中のね・・・
最弱剣士で世界一のお人好し・・・


「なんだぁ。好きな人いるんだ」
「まぁね」

「告白した?」
「しないよ!」

「え?なんで?」
「だって・・・今の関係崩したくないし・・・」

「ふぅ〜ん。じゃあ、ゴトーと付き合おうよ!」
「は?何言ってんだよ!!」

「いいじゃん!ね?どうせ、その子とは付き合わないんでしょ?」
「って!知り合ったばっかりの相手を好きになんてなれないよ!!」

「ゴトーはやぐっつぁん可愛いから大好き♪」
「それは見た目だろ!!」

「ん〜。じゃあ、とりあえず、好きになれるかどうか、今夜試してみない?」
「は?」

「はい!じゃあ、行こう!!」
「お、おい!!」

253 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:20
市井さん・・・カッコいい・・・
笑顔がさわやかで、なんかほれちゃいそう・・・

「で、君はなんで剣道始めたの?」
「え?あ、えっと」

なんでだっけ??ああ!!

「あの!私小さいから、昔っから大きい人とかにびびっちゃう癖があって。
 でも、剣道やればそういうところ治るかなって?」
「へぇ。で?治った?」

「・・・いえ」

「いつからやってるの?」
「高校からです」

「そっか。ってかさ、なんで敬語なの?
 いいよ同学年なんだしタメ語でさ」
「あ!はい!!え?ああ?うん!!」

だってぇ!!市井さんカッコいいんだもん!!
隣にいるだけで緊張するんだもん。

「はははっ!おっもしろいね〜?」

市井さんにつられて、私も笑顔に・・・って苦笑とも言うけど・・・
254 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:21
「・・・あ!まりっぺ!!」
「ん?ああ。後藤にさらわれましたか」

は?さらわれた?え?なに??

「え?え?」
「なるほどね。そういう展開ありってことか。ねえ?」

展開??そういう??どういう???

「は、はい?」
「これから、うちに来ない?」

「へ?」
「ね?はいはい!!じゃあ、行こうか!!」


わぁ?え?は?



私もさらわれるの???


255 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:23
「かおりさ、今の環境満足??」


みんなには、言ってなかったけど、なっちは幼馴染。

小学校の時まで同じ市内にいて、同じ道場に通ってた。
その時は同じ位のレベルだったんだけど、今じゃかなわん。

「満足してるよ」
「でも、岡女は弱いべさ?」
「そんなことないっしょ!」

なっちと私の実家は北海道。
ど田舎で、剣道強くなるんだ!って二人で練習してたころ・・・
そんな頃もあったのにね・・・

「なんで?なんで、岡女にしたの?」
「岡女でやりたかったから」

256 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:24
北海道のど田舎で、剣道やってても限界があるんだ。
私たちが行くはずの中学は過疎化のあおりをうけて、
子供は少ないし、剣道部も一人か二人・・・
それだと、公式戦の団体戦には出場できないわけで・・・

なっちは、中学の時に、剣道の名門でもある、
ハロモニ学園に進学するって言い出して、単身上京。
高校になったら、私もハロモニ学園に進学しようと思ってた。


そこで、また二人で頑張って、全国優勝しようねって・・・


「岡女じゃ・・・全国優勝はできないよ?」
「いいんだ。全国優勝とかそういうんじゃなくって・・・
 どうしても、先生と剣道したかったんだ」

「柴田先生?」
「うん」

257 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:26
中学の時に、一度だけうちの学校に柴田のおばあちゃんが剣道を教えに来てくれたんだ。
柴田先生のお友達がうちの道場の先生で、一度だけ教わったんだ。

先生に会って、それまでの剣のイメージが一変した。


先生の剣は、優しくて厳しくて強かった。


そういう剣道、そういう剣をもっと見てみたくて。
だから、ハロモニ学園じゃなくて、岡女を選んだ。
岡女には、先生の孫の瞳さんがいるから、そうしたら、
柴田家の先生の剣を教えてもらえるって思って。

「高校になって、やっとかおりと一緒に剣道できるって思ってたのにさ・・・」
「ごめん」

「なっちね、やっぱり、かおりのとった行動、認められないよ」
「・・・」

「だって、今のかおりは、岡女は弱いんだもん」
「弱くないよ!」

「柴田先生は、なっちもすっごいって思ってるよ。
 でも、岡女には、先生の教えが息づいてるとは思えないよ」
「そんなことないよ!!」

「じゃあ、証明してよ!」
「え?」

「岡女の剣道、証明してよ!!
 なっちとの約束破ってまで、
 かおりが見つけたかった岡女の剣道、証明してよ!!」
「・・・わかった!これから、試合しよう!!
 ん?あれ?みんなは?」

気がついたら、花火してたはずのみんなはいなくなってた。

「多分、行き先はわかってるから」
「は?」

それから、なっちにハロモニ学園寮に連れて行かれた。

258 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:27
「やぐっつぁ〜ん」
「だ、だから、抱きつくなってば!!」

ごっちんにハロモニ学園寮に連れて来られて一時間・・・


相変わらず、ベタベタしてくるごっちんから身を守って・・・なぜかチェス。


「勝ったら後藤の彼女になってね!」

なんて言いやがるから、維持でも負けられない勝負・・・
オイラだって、チェスくらいやったことあるけど・・・

ごっちんは多分めちゃくちゃ強い・・・
オイラの駒はもうあとは、キングとナイトだけ・・

「うぅぅ〜・・・」
「はい!チェックメイト!!」

「えぇ〜!!ちょっと、その手待った!!」
「待ったなし♪はい!これで、やぐっつぁんは後藤の彼女ね♪」

「だ、だから、そんな約束してないだろ〜がっ!!
 って、ちょっと!!きゃ、きゃぁぁ!!」


いきなりごっちんに抱きかかえられて、そのままごっちんのベットに押し倒されて・・・
259 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:28
「や、やめろぉ〜!!」
「やぐっつぁん可愛い〜!!」

「や、やめろってば!!訴えるぞ!!」
「はははっ。それ、古いよ!」

古いって?ダチョウクラブじゃなくってぇ〜!!

「ごっちん!!や、やめてぇぇ!!た、助けて!!」


『ガチャッ』


「や、矢口???」
「え?かおり〜!!」

ごっちんに襲われかけたオイラを救ってくれたのはかおりだった。

「なにしてんの?」
「ぅぅ!かおり、あんたって人は、本当に部長なんだね!!
 オイラ、今日ほどかおりがありがたかったことはないよぉ!!」

「・・・」

「ごっちん!本当に、いい加減にしないとダメだべさ!!」

かおりの横から出てきた安倍さんがごっちんのもとに向かう。

「だってぇ、やぐっつぁん可愛いんだもん♪」
「いつもそうやって、可愛い可愛いって、いろんな子に手を出しちゃうんだから!」

「えぇぇ?そっかなぁ?市井ちゃんよりはマシだよ!!」
「あ!!さやか!!」

安倍さんは、何かを思い出したかのように駆け出していった。

260 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:30
戻ってきた安倍さんの隣には、市井さんとあさみが・・・あさみ?
なんか、放心状態なのは気のせい??

「ごっちん、藤本と高橋起こしてきて!」
「矢口、石川と柴田連れて来て!!」

かおりたちの言葉にオイラたちは首をかしげる。


なに?なんで?もう、1時だよ??


「「これから試合するの」」



「「「「えぇぇ〜!!!!」」」」




とりあえず、かおりがマジだから、あさみと一緒に柴田たちを呼びに道場へ・・・
261 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:31
「あさみ?市井さんと何かあった??」
「・・・うん」

「何があったの??」
「・・・うん」

「あさみ?」

「チェスやった」
「お、同じだ・・・で?」

「負けた」
「お、同じだ・・・で?」

「私の戦法が、逃げ腰なんだって・・・説教された・・・」
「お、同じじゃない・・・」

「私・・・やっぱり弱虫なのかな・・・」
「そ、そんなことないよ!!」

「・・・」

「よっし!!じゃあ、絶対に試合に勝とう!!」
「うん」

262 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:32
「柴田!!」
「梨華ちゃん!!」

「「あ・・・」」


もう、1時半・・・そりゃあ、二人とも、夢の中だよね・・・


あさみが、梨華ちゃんの方に行ったから、オイラは柴田を起こしに行くことに。

ってか、なにも、こんなに広い部屋の端と端に別れて寝なくてもいいのに・・・
仲悪いっけこの二人?しかも、柴田の布団の隣に積まれてる枕・・・
なにを妨害するんだよ?不思議な寝方に?マーク満開だったけど、とにかく起こさないとね。

「梨華ちゃ〜ん?」
「柴田〜?」

夏なのに、きっちり頭まで布団をかぶってる柴田・・・
とりあえず、布団をはがそう。お・・・

「どうする?」
「うん」

「まりっぺ?」
「あ、うん」

思わず、寝顔が可愛いなって思っちゃった・・・

263 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:34
「どうする?」
「う〜ん・・・柴田?」

ほっぺをつっついてみたり。

「柴田?」

おでこを叩いてみたり・・・

「柴田〜!!」

耳をひっぱってみたり・・・


・・・可愛い・・・柴田可愛いよぉ〜!!


それにしても・・・やっぱり起きない・・・

「なんか、起きないし、やっぱり二人で行こっか?」
「う〜ん・・・柴ちゃんはともかく・・・
 梨華ちゃんがいないと、うちら勝てる見込みないよ・・・」

「そっか・・・じゃあ、石川は起こそう!」



でも、結局石川も起きなくって・・・二人でかおりのもとに戻った。


264 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:35
「なっちぃ〜!」
「ごっちん、どうだった?」
「ミキティは、部屋にいなかったよ。多分、彼女のとこじゃん?」

「藤本・・・で?愛ちゃんは?」
「市井ちゃんが起こしに行ったけど、愛ちゃんよいこだから、
 夜に起こしたらきっと怒られるよ?」
「確かに。高橋はマジメだもんね」

よっし!これで、ハロモニ学園は3人になる。
となれば、私と石川が頑張れば・・・

「かおり〜!!」
「ん?」

って、矢口とあさみだけじゃん!!

「石川は??」
「起きないんだもん」

「えぇぇ〜!!石川がいないと勝てないよ・・・」
「かおり?少しは柴田も気にしようよ?」

「どうしよう・・・石川がいないと・・・」
「だから〜!!柴田も気にしてあげてってば!!」

「ん?矢口何か言った?」
「・・・もういい」


265 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:36
「じゃあ、三人対三人だから、ちょうどよかった」
「うん。臨むところだ!」

かおりと、安倍さん・・・何があったんだ?



すっげぇ気迫。それとは対照的に、やる気なさげな市井さんとごっちん・・・


そして、微妙にやる気満々なオイラとあさみ・・・


ってか、なんでこの時間から剣道するんだよ!!


266 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:37
疑問はさておき、ハロモ二学園の体育館に連れて行かれたオイラ達。

ハロモ二学園はさっすが、インターハイの常連だけあって、24時間体育館使用できるんだって・・・
うちとは設備だけでも差が歴然だね。

ボーっと、漠然とながらすごいなって思ってたけど・・・




それからが地獄だった。




何回か試合をしたけど、誰一人ハロモニ学園に勝てる人はいなくって・・・


かおりが勝つまでやるって言い出すから、ヘロヘロになって、
疲労と眠気でやばくなっても延々試合は続いて・・・
もう、終わりにしたいって思っても、かおりの目はそれを許さないみたいで・・・
やけくそになりながらオイラもあさみも竹刀を握り続けて・・・


明け方まで何試合やったのかわからないけど、結局一回も勝てなかった。



何度も一本とられて、何度も倒されて、それでも続けて・・・




惨めで悔しくて・・・そんな気持ちも通り越すくらい試合して・・・





それで、何度も何度も負けた。




267 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:39
「もう、一回!!」
「えぇ〜?まだやるの?ゴトーもう飽きた」
「私も」

オイラもあさみもヘロヘロなのに、市井さんもごっちんも全然疲れてないみたい・・・
しかも、飽きたからって帰っちゃうなんて・・・

「もう一回!!」
「いいよ」

マジで、安倍さんとかおりの間に何があったんだよ・・・
それからは、安倍さんとかおりがずっと試合ってた。


かおりは強いのに、相手はやっぱりそれ以上で・・・


何度も打たれて、でも試合を続けるかおりをオイラとあさみは黙って見てた。



これが、現実・・・




なんでだよ・・・


なんで勝てないんだよ・・・




なんでこんなに差があるんだよ・・・




268 名前:先輩たちの長い夜 投稿日:2004/09/03(金) 01:40


「もう一回!!」


「かおり、ごめん・・・なっちも、もう行かないと」
「・・・」

「やっぱり、まだ、認められないから」
「・・・」

「でも・・・少しだけわかった気もする」
「え?」

「心はさ、気持ちは強くなったんだね・・・」
「?」

「先生の剣道、次に会ったときには見せてね!」
「うん」



長い長いうちらの夜が終わった・・・


なんにもできなかったよ。




先生の教え・・・なんにも伝えられなかった。





でも、でも次は絶対に・・・なっち、約束だよ。



269 名前:けんけん 投稿日:2004/09/03(金) 01:47
>>247 :名無飼育さん
 レスありがとうございます!!
 更新がだいぶ遅れましたが、先輩たちの長い夜です。 
 これからも、よろしくお願いします!!

>>248 :名無飼育さん
 合宿なのに、帰ってこないで、先輩たちはやっぱり、剣道です!
 弱小だけど、心は熱い先輩たち、これからも、よろしくお願いします!!

>>249 :ななしのよっすぃ〜 さん
 保存の方、本当にありがとうございます!!
 更新ペースがかなり遅れてすみません!!
 本当に、こんな文でいいのか?と思いつつ・・・
 これからも、柴ちゃん&岡女メンバーともども、
 頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします!!

270 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/03(金) 02:12
そっかー・・・
ごとーさん。いちいさん。ある意味ガンバ!
271 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:16


合宿から帰った私たちは目の色変えて練習に励んだ。


もう誰も弱音を吐く人はいなかった。




あの晩、先輩たちはそれぞれにいろいろあったみたいで、
絶対に彼女たちには負けたくないってかんじになったらしい。



私はというと・・・?
相変わらずな毎日なわけで・・・
272 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:18
「お願〜い!!一緒に行こうよ!!ね?ね?」


あさみさんの久々の無理なお願い。


「い、いや・・・でも・・・やっぱり、無理ですよ!!」

というのも、この間戦った安部さんの学校であさみさんはある女の子に一目ぼれしちゃったらしく・・・
近づきたいというのだ・・・それだけなら、まだしも・・・


その方法というのが・・・


1、 学校の前で待ち伏せ。
2、 相手の女の子にからむ(私の役)
3、 あさみさんが助けに入って一件落着!


って・・・今時そんな古典的な子芝居・・・


273 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:18
「お願い!!もんじゃ焼きおごるからさ!!ね?ね?」
「いや〜・・・もっと、普通に近づいた方が・・・」

ってか、女の子ならうちの学校にもたくさんいるから、
そっちを狙えばいいのに・・・

「そんな方法が思いつかないからこういうことになってるんじゃん!!お願い!!」
「無理!」

「お願い!!」
「無理です!!」

「お願いお願いお願い〜!!」
「う・・・う〜ん・・・」



結局、強引に連れ出されてしまう私・・・



いつもこうやって、振り回されるんだよ・・・



274 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:22
「いい、あの子だから、あの子にからむんだよ!!」

あさみさんが指差した相手は、めちゃくちゃ可愛らしかった。
こんな子だったら、他にはいない・・・

「柴ちゃんよろしく!!」
「え?あ、わぁ〜!!」

あさみさんに押し出され、その女の子の前に倒れこんでしまった・・・

「大丈夫ですか?」
「あ・・・えっと・・・はい」

近くで見るともっと可愛らしいと思って、思わず呆然としてしまった。

「ははは。面白い人!!」

でも、倒れてる私を前にめちゃめちゃ笑ってて・・・


はっきり言ってむかついた・・・


しかたなく、立ち上がって作戦決行!!


「あ、あの!」
「はい?」

「名前は?」
「あ、はい。松浦亜弥で〜す!」


「あ・・・そうなんだ」


自己紹介があまりにもナイスなかんじで・・・
またしても呆然としてしまった。

「そちらは?」
「あ。えっと、柴田で〜す」

ちょっと、控えめにマネをしてしまった・・・

「きゃははっ。柴田さんってめっちゃ面白いですね!」
「う・・・」

なんか、バカにされてる気が・・・ってか、冷静に考えると、
この状況だと、私ってめっちゃ変な人=面白い人に見えるね。
って、そんなんじゃなくって・・・作戦作戦!!

「わ、わぁ〜!!」

からむって?って感じで何も思いつかなくて・・・
気がついたらそう叫んでた・・・

「は?」
「わぁ〜!!」

バカだ・・・ってか変人だ・・・
そんな私を怖がるわけはなく・・・


松浦さんは大爆笑だった。


275 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:23
「こらぁ〜!!」

だ、ダメですよ!!最悪のタイミングで飛出してきてしまったあさみさん・・・

「は?」

そりゃ、意味わかんないだろう・・・松浦さんはキョトンとしてる。

「弱いものいじめはやめなさい!!悪人は成敗だぁ〜!!」

状況を飲み込めてないあさみさんは私を倒そうとするのだった。

「ちょ、ちょっと!!やめてください!!」

松浦さんがそんなあさみさんを止めようとする・・・

「大丈夫!私がきたからもう平気だよ!こんな悪人成敗だ〜!!」

状況が全く飲み込めてないあさみさんはなおも私を倒そうとする・・・

「やめてください!!ちょっと!!誰か〜!!」



最悪な事態とはこういうことだ・・・松浦さんが助けを呼んでしまった。



「あやたん!!」

助けに来たのは・・・藤本さんだった。
藤本さんはあさみさんをとりあえず締め上げた。

「い、痛い、痛い!!」
「あさみさん!!」

藤本さんから私はあさみさんを救出し、顔をそむける。

「あ!!この間の!!」


バ、バレタ・・・


「え?知り合いなの??」

松浦さんの当然の疑問に私たちは固まった。


・・・ほら・・・うまくいかないと思ったもん・・・


「ははは・・・」



二人して笑顔がひきつった・・・それから、松浦さんに作戦のことを私が打ち明けた・・・
276 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:24
「そうだったんだ!なんか、わざわざ子芝居してくれてありがとうね!」

松浦さんは、とっても笑顔が似合う人だと思った。
こんなバカな私たちでも、救われちゃうよ。

「でも、ごめんね?私、彼女いるの!」

その言葉にあさみさんはガ〜ンってかんじで固まってた。

「彼女のミキタンです!」

藤本さんの相手って・・・松浦さんだったんだ・・・

「ども!」

なんか・・・負けたってかんじで私たちは呆然とするしかなかった。

「でもさ、せっかく来たんだし、試合しない??」
「え・・・」

藤本さんの提案にあさみさんの顔がひきつる。

「ねぇねぇ、試合しない?」
「う・・・」

「試合しない?」
「うん!試合しよう!!」


は?え?うそ?あさみさんは試合をひきうけてしまった・・・


277 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:26
「なんで、ひきうけたんですか?」

体育館に案内される道々、私はあさみさんと小声で会議。

「だって!ここで、私が勝てば、
 あやちゃんの見る目が変わってこっちに振り向くかもしれないじゃん?」


「い、いや・・・でも・・・」


「この間は負けたけどさ、それからいっぱい稽古したんだし!!
 とにかく!ここで逃げるわけにはいかないじゃん!!」



なんか、そう言いきったあさみさんはかっこよかった。
いつものあさみさんとは違う、強いオーラがみなぎってた。

278 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:27

あさみさんは道着と防具を借りて、
藤本さんと対戦することになった。


審判は私で、ギャラリーは松浦さんだけ。


あさみさんはいつもと様子が違った。
やっぱり、好きな子の前ではいいかっこを見せたいみたい?



このペースだったら、弱点の恐怖心が克服できるかも?
とにかく、あさみさん頑張って!!
279 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:28
そう思ったのもつかの間だった。

試合早々に、あさみさんは藤本さんに倒された。
反則すれすれの体当たりに、あさみさんは場外へと倒されてしまったのだ。


場外であさみさんの反則・・・


今の一撃で、あさみさんは完全に藤本さんに対してびびってしまったみたい・・・




その後の結果は、無残だった・・・



完全にびびって腰がひけてしまったあさみさん相手に、
藤本さんはとことんまで、威嚇して完全に心をくじいて一本をとる・・・


相手は完全に弱気なんだから、そこまでしなくてもいいじゃん!!
藤本さんの攻撃は見ていて辛かった・・・


試合だってわかるけど・・・でも・・・


さんざんな惨敗試合が終って、
あさみさんは着替えをしに、更衣室に向かった。


280 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:30
「さっすがミキタン!!」

防具をはずした藤本さんに松浦さんが抱きつく。

「全く、あやちゃんを落とそうなんて100年早いよね」
「でも、もし相手が強かったらどうだった?
 試合なんて申し込んじゃうからびっくりしたよ!!」


「勝つってわかってたからね。この間も試合したし。
 すっごく弱いんだよ。剣道も弱いけど、それ以前の問題でさ。
 相手にいっつもびびっちゃって、試合にならないんだよ。
 天性の弱虫なんじゃない?」


その言葉に、私の中で何かが爆発した。


「ひどいよ!!」


気がついたら、藤本さんに殴りかかっていた・・・


「なんだよいきなり!!」

逆に突き倒されたけど、何度も私は向かっていった。

「あさみさんは、弱虫なんかじゃないもん!!
 本当はすっごくすっごく強いんだから!!」


倒されつつも、私は何度も向かっていった。


281 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:32
「ひどいよ!!」
「もう!!しつこいなぁ!!」

藤本さんに思いっきり突き倒されて、体育館の床に顔から倒れて・・・
さすがに痛くてひるんだ。

「だったらさ、さっきの試合はなんだよ?
 あんなに簡単に倒されて、それでその後はびびって試合にならなかったじゃん?」
「それは、それは・・・それは、あさみさんはびびってたんじゃなくって・・・だから・・・」


上手く言えない自分が情けない・・・


「とにかく、あさみさんは弱虫なんかじゃないんだから!!」
「それにさ?あんたも、めっちゃ弱いよね?
 今まで一度も試合で勝ったことないんでしょ?
 有名だよ?家は家元の剣道一家なのに、一度も勝ったことがない、
 負け癖がついてる柴田さんでしょ?」


「・・・」


何も言えなかった・・・それは当たってるから・・・

「柴田さんから見たら、彼女も強いのかも知れないけどさ」
「違うもん!!あさみさんは弱くなんかない!!」

再び藤本さんに立ち向かった。
今度は藤本さんを倒すことができたけど、倒れざまに蹴り倒された。



それでも、なんども向かっていって、何度も床とスキンシップした・・・


282 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:35
「柴田!!」


あさみさんだった。


あさみさんが藤本さんに立ち向かおうとする私をとめた。

「あさみさん、離してください!!」
「柴田やめなって!!」

興奮しまくってた私をあさみさんが必死に止めた・・・
それでも私の興奮は収まんなくって、何度も藤本さんに立ち向かってた。

「しっつこいな!!」

藤本さんも本気になったみたいで、竹刀を私にかざした。


「藤本!!」


大きな、凛々しい声に、私たちの時間は止まった。


「あ・・・べさん」


安倍さんだった・・・安倍さんはゆっくりと、
私たちの方に歩いてきて藤本さんの竹刀を取り上げ、
藤本さんを平手打ちした。


体育館に響くその音と、思わぬ光景に私もあさみさんも固まった。


「剣道は喧嘩じゃないんだよ!誰かを威嚇するものでもないんだよ!!」

藤本さんは安倍さんに頭を下げた。
一気に体育館が静寂に包まれる・・・
安倍さん・・・本当に大きいなってそういうオーラが漂っていた。

「あ、あの、先に手を出したのはこっちなの!!ごめんなさい!!」

私の代わりにあさみさんが頭を下げた。

「・・・こっちも言い過ぎた。ごめん」

藤本さんも少し反省してるみたいだった。

「柴田も謝んなって!!」
「・・・」

「な〜に、ふくれてんのよ!!もう!!本当にごめんね?」

あさみさんは何度も何度も相手に頭を下げて、それから、二人で学校を出た。




誰かに頭を下げることが、こんなに辛かったのは初めてだった・・・



283 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:36
「ごめんね?」

学校を出てからしばらく無言だった私たち。
河川敷を歩いている時にあさみさんの口が開いた。


「・・・」


「私のこと、かばってくれたのにさ。なんかごめんね?」


「・・・」


「でも、めずらしいね〜?柴ちゃんが取り乱すのなんて、初めて見たよ」


「・・・」


「いつも、おとなしいのにね?びっくりした〜」


「・・・」


「・・・変なことにも付き合わせちゃったしね?ごめん!!」
「・・・謝らないでください・・・」


「・・・」


「謝らないでください・・・」


「・・・ごめんね・・・話さ、全部聞いちゃってた」


「え・・・」


284 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:38
「私ってさ・・・自分でも悲しくなるくらい、弱虫なんだよね。
 チビだし、大きい相手とか、威圧感がある相手を前にするとさ、びびっちゃうんだよね」


「・・・」


「剣道始めたのもね、剣道やれば、そういう弱い性格治るかなって思ったの・・・
 でも、全然だめ。余計に相手見てびびっちゃう癖がついちゃってさぁ」


あさみさんの笑顔はいつも以上に強がりだった。


「体当たりって、相手の気をくじいて、体勢をくじいて・・・
 それで、相手の構えが崩れたところをすかさず打つためのものなんです・・・」


「え?」


「だから、誰かを倒すためのものじゃないんです・・・
 剣道は・・・だからつまり、倒すとか、そういうんじゃなくって・・・向き合うんです」


「・・・」


「相手が強いなって思って、びびっちゃうのとか・・・
 そういう気持ちは誰にだってあると思います。
 でもそれは相手を見てるってことだから、
 だから・・・弱虫なんかじゃなくって・・・弱虫とは全然違うんです!!」


私の言葉に、あさみさんは苦笑した。


「あさみさんは、弱くなんか無いです!!向き合うことは弱いことじゃないんです!!」


「・・・うん。そうなのかもしれないね?」



なんか・・・何を言っても慰めにしか聞こえない気がして・・・
こんなときに、うまく言えない自分が情けなくて、腹が立って・・・



うなだれるしかなくなった。
285 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:40
「柴ちゃん?」
「はい・・・」

「柴ちゃんさ、いい奴だね?」
「・・・」

「ありがとう」
「・・・」

「柴ちゃんはさ、本当に剣道のこといっぱい知ってるんだね?
 だからね、柴ちゃんに言われると、なんか信じられるよ?」
「・・・本当ですか?」

「うん!信じちゃう!!柴ちゃんのこと信じちゃうよ!!
 次は絶対に、藤本さんに勝って、あやちゃんの心をゲットするんだから!!
 恋する女は強いのだぁぁぁぁ!!!!!」

あさみさんの冗談に私も笑うことにした。


それから、あさみさん得意のギャグのオンパレードを一通り見て、私たちは死ぬほど笑いあった。


286 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:41
「あんた、何してきたの?」

家に戻って一番最初に会った瞳ちゃんが私の顔を見て驚いた。


そう言えば・・・床とスキンシップしまくったわけだから、
多少ひどいことになってる?


「あ?いや。別に。ちょっと、床と遊んだだけ」
「は?何言ってんの?頭打った?」

打ったと言えば、何度も打ったけどね・・・

「まぁ、もともとあんたは変だけどね?」
「うるさい。瞳ちゃんよりはマシだもん」


あんまり言うとややこしくなるから、自分の部屋に戻った。


287 名前:弱虫・恋愛・大作戦!! 投稿日:2004/09/05(日) 00:42
「柴ちゃん!どうしたの?」
「ちょっと、床と友達になった」


って、そんな抽象的な表現を梨華ちゃんが受け入れるわけはなく・・・
結局、全部を話してみた。


「そっか。そんなことがあったんだ」
「うん」

「お疲れ様!」
「え?」


もっと、いろいろ聞かれるかと思ったけど、
梨華ちゃんはそれだけいうと、優しく微笑んだだけだった。



その笑顔は私の心に広がった。



288 名前:けんけん 投稿日:2004/09/05(日) 00:44
>>270 :名無飼育さん
 レスありがとうございます!!
 なんか、うまく書ききれてませんが・・・

 これからも、よろしくお願いします!!

289 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:39
もうすぐインターハイ!

最近はアップの意味もかけて、ロードワークをするのが日課になっていた。

町中を道着で走るのは、ちょっと抵抗があったけど、飯田さんの提案だから、従うことにして。

いつもは、梨華ちゃんか飯田さんと走るんだけど、
今日は、二人は委員会のお仕事でいない。


矢口さんとあさみさん?もちろん今日も、何かやらかして先生にお説教・・・
290 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:41
「やあ!ちょっといい?」

ロードワークの途中で、吉澤さんに呼び止められた。

「う、うん」

吉澤さんは私を近くの河川敷まで誘った。
晴れてて、真っ青な青空に気分爽快だった私の胸が、なんだかもやもやしてきた。

「あのさ、梨華ちゃん元気?」
「うん」

川に石を投げながら、吉澤さんは話を始めた。

「君と梨華ちゃんってさ・・・マジで付き合ってんの?」
「・・・いや・・・」

「やっぱり・・・」
「でも!」

言いかけたところに吉澤さんが口をはさんだ。

川から私に切り替えられた視線は・・・
まともに受けることはできなくて、今度は私が川に視線を移した。

「うちと梨華ちゃんさ、付き合ってたんだ」
「うん」

「うちさ、結構いろんな女の子に言い寄られちゃうタイプらしくてさ・・・
 なんていうか、梨華ちゃんいるのに、何回か浮気しちゃったんだよね」
「・・・」

「もちろん、本命は梨華ちゃんなんだよ!でもさ、ついね・・・
 でね、三回目の浮気の時に、梨華ちゃんにもう別れようって言われたわけよ。
 で、言い訳する間もなく、引き戻す間もなく、梨華ちゃんは転校しちゃったわけよ。
 うちのこと忘れようとして・・・でしょ?」
「・・・」


そうだったんだ・・・全然知らなかった。


自然と肩が落ちる・・・


291 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:43
「梨華ちゃんさ、一途なんだ。それに結構ひきずるタイプだし、
 近くにいたら忘れられないから転校したのかなって・・・
 柴ちゃんのこと好きって言ったのもうちに強がるためなんだろうなって」


・・・吉澤さんのこと忘れるためだったんだ・・・


「うちね、梨華ちゃんにさ、気持ち伝えるために剣道始めたんだ。
 必ずインターハイ予選で勝って梨華ちゃんを迎えに行くから。
 それまで梨華ちゃんのことよろしくね!」


「・・・うん」


結局一度も吉澤さんをまともに見ることはできなかった・・・


彼女が去ったのがわかって、とりあえず川に石をなげる。


ポチャッと沈んでいく石は無機質で・・・


無意味に思えて・・・


自分とダブって何度も同じことを繰り返した。


292 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:44
つなぎかよ・・・でも、それでもいいや。
そう思えるくらい、自分の気持ちがきっと梨華ちゃんにあるんだ。


それがわかるのに時間はかからなくって・・・


つなぎでも、代わりでも、そういうんでいいよ。
梨華ちゃんが笑ってくれるんだったら。


そう心が固まった。


293 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:45
学校に帰ったころにはすっかり日が暮れていた。

「柴田遅かったね」

そういえば、ロードワークの途中だった。

「あ・・・えっと・・・風が強くて」
「今日って・・・風ふいてないよ」

矢口さんに指摘されて冷や汗が・・・

「えっと・・・一部強風だったんです」

苦しすぎる嘘・・・こんなに嘘つくのが下手だなんて知らなかったよ・・・

「柴田変だよ?」

飯田さんも不自然な私を疑ってるみたい。

「ふ、普通です。ナチュラルです」
「そう?ま、いいや。あんたっていつも変だしね。
 でね!インターハイ予選の組み合わせ決まったんだ!!」

それから、インターハイの相手チームのことをいろいろ教えられた。
なんか頭がボーっとしちゃって全然耳に入らなかったんだけどね・・・

「柴田、あんたの初戦の相手だけど、朝比奈学園の吉澤さんだってさ」
「!!!」


本当に驚くと声が出ないんだってかんじでした・・・


294 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:49
吉澤さんが初戦の相手か・・・吉澤さんか・・・吉澤さん・・・梨華ちゃん・・・

「柴ちゃん?」
「へ?はい!」
「みんな帰っちゃったよ?」
「あ・・・」

気がついたらみんな帰ってた。

「今日の柴ちゃんやっぱり変だよ?ロードワークの途中で何かあったでしょ?」
「い・・・いや。何もないよ!うん。ないない。なにもない」

「柴ちゃん?」


見つめないで!嘘つけないタイプらしいんだから!!
顔をそらして話題を変えることにする。


「梨華ちゃんの初戦は誰だっけ?」
「あ、うん。安部さんだって」
「わぁ〜!強敵だ!」
「うん。でも、楽しみ♪」
「うん。それはよかった」

「柴ちゃんはよっすぃだね?」
「あ・・・うん」

「絶対に勝ってね!!」
「・・・」

「勝ってよね!!応援するからさ!!」

黙って頷いた。

「やっぱり変だよ!!」
「う・・・」
「何があったの??」

これ以上嘘はつけない・・・ってか、嘘は無理なんだって思って梨華ちゃんに吉澤さんのことを話した。

話を聞いて、フリーズして、こわばった顔の梨華ちゃんに、やっぱり言うべきじゃなかったことをいまさら後悔したりして・・・

「あ・・・あのね。でもさ、私その・・・代わりとかでもいいよ!
 うん。よっすぃのこと許せるまでっていうか、向き合えるまででいいからさ。気にしなくていいから」

「なにそれ・・・ひどいよ!私は・・・私は柴ちゃんのことずっと・・・」


梨華ちゃんは部室から飛出して行ってしまった。


295 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:50
夜になっても梨華ちゃんは帰ってこなくて・・・
焦った私は探しに行くことにした。


学校、公園、河川敷どこにもいなくて・・・
梨華ちゃんの前の学校にも行ったけど、それでもいなくって・・・


気がつくと雨が降っててずぶ濡れで・・・
余計に梨華ちゃんのことが心配になって探して探して探しまくった・・・


296 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:52
なんで?梨華ちゃんの気持ちが見えないよ・・・


「あゆみ!!」

瞳ちゃんだった。

「うぅぅ・・・」

なんか、心配と不安でわけわかんなくなって、不覚にも瞳ちゃんに抱きついて泣いてしまった。

「梨華ちゃん帰ってきたよ」
「・・・」

「前の学校の友達に会いに行ってたんだって」
「・・・」

「あんた、ずぶ濡れじゃん。ほら・・・帰るよ」
「・・・」

「今度はあゆみが家出する?付き合うよ?」
「・・・」



瞳ちゃんは意外と優しい。


試合に負けるたんびにおばあちゃんに家から閉め出しをくらってた時も、
お母さんに変な意地はって家出した時も、一緒に付き合ってくれた。

普段は勝手だし、意地悪だし、傲慢だし、金遣い荒いし、人遣い荒いし、自意識過剰だけど・・・


意外といい奴。


297 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:52
二人であたりを散歩して、
その間なにを話すわけでもなかったけど、
そうしているうちに気分が静まって家に帰った。


家に着いたのはもう12時過ぎてて、
部屋に戻ると梨華ちゃんは寝てた。


まともに話をしなくてよい状況に少しだけ感謝。


298 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:55
翌日、私は高熱にうなされることになってしまった。
ずぶ濡れで何時間も外をうろついたわけだから当たり前なんだけどね・・・

「ごめんね・・・」

梨華ちゃんが申し訳なさそうに私のおでこのタオルを変えてくれる。

「ごめんね・・・」

思考回路が働いてなくって変なやりとり。

「あのね、昨日、よっすぃに会ってきたの」
「うん。会ったよ」

「柴ちゃんじゃなくて、私も会いに行ったの」
「?」

「ちゃんと、別れてきたから」
「無理しなくていいって。よっすぃも心入れ替えるって言ってたし」

「違うの!よっすぃと付き合ってたのは事実だよ。
 でもね、それはなんていうか、本気じゃなかったの。
 よっすぃに言い寄られて、それでまぁいいかってかんじで付き合ってただけで、
 本気じゃなかった。だから、浮気とかされても全然平気だったんだよ。
 ずっとね、好きな人がいたの」
「うん。よっすぃもね・・・え?好きな人いたの・・・」


じゃあ!私ってなによ・・・


「おじいちゃんにね、小さい頃から柴ちゃんのこと聞かされてたの。
 おじいちゃんの話の中だけだったけど、話の中の柴ちゃんに私ずっと憧れてたの。
 変かもしれないけど・・・でね、実際に柴ちゃんと出会えて、それでね、
 もっともっと柴ちゃんのこと好きになったの・・・」
「へ?」


なに?夢?


「柴ちゃんが好きなの!」
「・・・」

「好きだよ・・・」
「・・・」

だんだん思考回路が爆発してって、熱も急上昇したみたいで意識が飛んだ。

299 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:56
次に目を覚ました時には瞳ちゃんがいた。

「大学は?」
「今日は休講」
「うそばっか」

週の真ん中水曜日に学校に行かないなんて要領のいい瞳ちゃんにはありえないことだもん。

「いいじゃん。たまには姉らしいことしてやりたいのよ」
「めずらしいね」
「怒るわよ!!」

梨華ちゃんが学校に行ったので、瞳ちゃんが看病を代わったらしい。

「あんたが、風邪ひくのなんて何年ぶりかしらね?」
「うん」

剣道のおかげで、健康優良児だったりする私。

「お昼、何食べたい?」
「う〜ん・・・焼肉」

「殺すわよ」
「はははっ」

「ったく。おとなしく寝てろ!」


瞳ちゃんが部屋から出て行ってから、また熱のせいで意識が飛んだ。


300 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:57
次に目覚めたのは、来客者の音でだった。

チャイムが何度も鳴らされているのに、誰も出て行かない様子だったので、だるい身体を起こして、私が玄関に向かった。

どうやら、瞳ちゃんは買い物に行ったみたい。おばあちゃんはどうしたんだろ?

「はい?」

相手は、ちょっと、高級感が漂うおばさんだった。

「こちら、柴田さんのお宅?」
「はい」

「うちの、梨華が、こちらにお世話になっていると思うんだけど?」
「はい」

「はいじゃないわよ!梨華はどこ?」
「はい?」

「どこかって聞いてるの!!」
「梨華ちゃんは・・・学校じゃ?」

「どこの学校?」
「え?」

誰だろうってことよりも、相手の剣幕が怖くって・・・私は泣きそうだった。
そこへ、おばあちゃんが帰ってきた。

「あゆみ!」
「おばあちゃん」


おばあちゃんは相手のおばさんと面識があったみたいで、私を部屋に戻すと話をしてた。


梨華ちゃんの知り合いなのかな・・・


301 名前:恋せよ乙女!! 投稿日:2004/10/08(金) 02:58
その疑問は瞳ちゃんが明らかにしてくれた。

「梨華ちゃんのご両親ね、離婚調停中なんだって。
 でね、どっちが引き取るかで今もめてるんだってさ。
 梨華ちゃん自身はどっちを選ぶかなんてできないみたい。
 でね、梨華ちゃんのおじいちゃんが、うちのおばあちゃんに預けたんだって」


「・・・」


「梨華ちゃんのことが決まらなければ、両親は離婚しないんだって。
 梨華ちゃん、それがわかってたから、家出を繰り返したらしいの。
 で、家出をするくらいならってことで、うちにきたんだって。」


「そう・・・だったんだ」


「よかったわね?跡継ぎ候補ってことじゃないみたいよ?」


よくなんかない・・・ちっともよくないじゃん!!


興奮したら、また意識が飛んだ・・・


302 名前:名無飼育 投稿日:2004/10/08(金) 23:48
更新キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
どーなってしまうのかしら…ドキドキ

303 名前:名無し紺紺中。。 投稿日:2004/10/17(日) 21:36
ttp://offtime21.hp.infoseek.co.jp/break/vote.html
柴田さんに1票をお願いします。
304 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 02:24
よいですよ
待ってます
305 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 00:56
梨華ちゃんの事情、知ったのはいいけど、
それを本人に確認することはできなくって・・・
そんな勇気は私には無いみたいで・・・
もやもやした気持ちのまま、月日は流れた。



「すっごいね!なんだかお祭りみたい!」

年に一度のうちの道場の生誕祝いの
おばあちゃんの教え子が全国から終結する日。
年配の人からちびっ子まで、大勢の人が我が家に集まるんだ。
我が家では、お母さんも瞳ちゃんも私も料理やらもてなしやらでてんてこまいになるんだけど、
おばあちゃんが年に一回、一番楽しみにしてる日だから、やっぱりうれしい日なんだ。

「うん。あ!梨華ちゃん、ちらし寿司運んで!」
「うん!!」

今年は梨華ちゃんも手伝ってくれるから、いつもよりも・・・大変なんだよね。
梨華ちゃん、料理や家事は全くダメみたいで・・・その分、私のお仕事が増えちゃってます。

306 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 00:57
「柴ちゃん柴ちゃん!」
「ん?」
「みんなも来たよ!!」

ちらし寿司を運んで帰ってきた梨華ちゃんは、飯田さん矢口さんとあさみさんを連れてきた。

「あ!今日はどうも!」
「うちらも手伝うよ!」
「本当ですか?あ・・・あの・・・やっぱりいいです」

去年もこのパターンで、梨華ちゃん以上に使えなかった先輩方。
これ以上仕事を増やしてもらいたくないし・・・

「あ〜!去年のことまだ恨んでるんだ?」

矢口さんに言われて顔がひきつった。

「大丈夫!うちらだって、少しは大人になったって!」
「・・・」
「はいはい!さっさと料理運んじゃおう!先生、柴田のことお待ちかねだよ?」
「あ〜・・・はい」


なんで、お待ちかねなのかっていうのは、後でわかります・・・


結局先輩たちのおかげで?準備はばんたん。私たちも道場へ向かった。

307 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 00:58
「お!しばった〜!!」

道場に入るなりお酒の臭い・・・

「あっちゃん・・・」

『もんじゃ焼き』のあっちゃんこと、稲葉あつこさん。もう酒飲んでるし。
あっちゃんもおばあちゃんの教え子なんだ。
昔はすっご〜く強かったっていってるけど・・・どうなんだろう。

「しばった〜。あんた初勝利はまだなんか?」
「余計なお世話だよ」
「お?口の聞き方あかんな〜!担任のしつけがなっとらんからやな!」

「誰のこと言うとんじゃ〜!!」

な、中澤先生・・・先生もお酒に飲まれてます。
本当に教師なのかねぇ・・・

中澤先生もおばあちゃんの教え子。
この人も、昔は強かったって言うけど・・・今でも、迫力だけなら最強だけどね。

「柴田!」
「は、はい!」
「あんた、今年は一勝くらいせぇよ!」
「・・・はい」


お酒に飲まれた人はほっておいて、お寿司お寿司♪



308 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 00:59
「あ〜ゆみん♪」

ようやく、酔っ払いから解放されたのに、酔ってなくても酔ってるような人に・・・

「めぐちゃん」
「あゆみん?ちょっとは強くなったかな?」
「聞かないで」
「おやおや。じゃあ、村田さんが強くなる秘訣を伝授してあげようかしらねぇ」
「いい!」
「ちょっとぉぉぉ!」

「あ!瞳ちゃんだ!」
「え?ひとみん?どこどこ?」

めぐちゃんの天敵は瞳ちゃん。
なんせ、永遠のライバルらしいから。
瞳ちゃんをだしに、めぐちゃんから逃れる。


お寿司お寿司っと!今日のお寿司は特上なんだから。
年に一回の特上寿司。

これだけが、私の楽しみなんだから!
梨華ちゃんたちはもうお寿司のところに向かってるし。


309 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:00
「あゆみ!」
「う〜!!!」

お寿司まであと10mのところでおばあちゃんに呼ばれた。

「こっちに来なさい」

お寿司が・・・で、おばあちゃんのもとへ。

「着替えてらっしゃい?」
「う・・・今年もやるの?」
「何言ってるの!早くなさい!」
「う〜・・・お寿司・・・」

「何?」
「なんでもない」

おばあちゃんの命令は絶対。


お寿司が・・・遠ざかってく・・・



310 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:02
年恒例の、剣道の試合。
瞳ちゃんを相手に形式だけの試合をするんだ。

この時間が一年で一番嫌いだよ。

「あゆみ!瞳!」

おばあちゃんに言われてみんなの前に出る。


何で嫌いなのかっていうと・・・


小学校3年の時に、瞳ちゃん相手に試合をして、もちろん負けて、
でも納得いかなくて何度もむきになってかかっていって・・・
すっごく惨めな思いをしたから。

それだけならいいのに、
その後も毎年瞳ちゃんに負けるたびにいろんな人から慰められたり、説教されたり・・・


だから一番嫌いな時間。


311 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:03
「はぁ・・・」
「あゆみ!!」

肩を落としてため息をついた私をおばあちゃんが叱った。
心を沈めて、腹をくくって瞳ちゃんに向かい合う。

「え?」

面のおくの目・・・それは、瞳ちゃんじゃなかった。


優しいのに、やばいくらいに怖い・・・



この目・・・



312 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:04


それは、安倍さんだった。



なんで?なんで安倍さんがここにいるの??

そんな疑問を抱いている私。
でも時間は待ってはくれないわけで・・・


「面!!」


安倍さんは打ってきた。ぎりぎり安倍さんの攻撃をよけた。


313 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:05
向き合った私に安倍さんの目が笑った。

『よけるだけじゃ、試合にならないよ?』

言葉は交わしていないのに、私の胸に響く安倍さんの言葉。

剣先を安倍さんに向けて攻撃態勢。
やっぱり、安倍さんは隙が全くない。

『あなたの剣道、私に見せて?』
『私の剣道・・・』
『迷っちゃダメ!!向き合って!!』

自然と目に力が入った。
竹刀を深く握って身体を落とす。


やばいくらいに怖い安倍さんの目。

安倍さんのオーラ。


でも・・・向き合って、体中がビリビリいってるこの感覚。



たまらなく気持ちがいい・・・




「面!!」
「胴!!!」

「一本!!」
314 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:06
安倍さんが面を仕掛けてきたところを、面抜き胴で私が一本とった。

え・・・一瞬だった。全てが一瞬のうちに終わった。
何が起こったのか全くわからなくて。
自分が勝ったってことも把握できなかった。

一本とったことに驚いたんじゃない。
こわいはずの、逃げ出したくなるようなオーラをもつ安倍さん相手に、
楽しいって思って、自分の身体が自然に動いたこと、熱くなったこと、

その感覚に驚いたんだ。


そして、呆然としたまま勝負が再開。


『やっぱり、強いね。今度は本気で行くからね!』
『え・・・』
『とりあえず、並ぶね!』


「小手!!」



安倍さんの小手うちが決まった。



315 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:07
『これで、同じ土俵に立ったよ。次の決まり手で勝負が決まる。ね?あなたの剣道見せて?』
『・・・』
『お願い向き合って!!』


安倍さんは何度も私を挑発するように技を仕掛けた。
でも、私はそれに応じることはなかった。

『お願い!!さっきみたいに向き合って!!』
『・・・』
『あなたの剣道と正々堂々勝負したいの!!』


でも・・・私は呆然となって・・・向き合うことはできなかった。


安倍さんのやばいくらいに怖い目・・・それを見ないままに勝負がついた。



316 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:08
「しばった〜!今年も負けてしまったんやねぇ」

みんなの注意が自然とばらけていってもまだ、
私は終わりの礼をした位置に立ち尽くしてた。

「こら!あっちゃん!そういうこと言うなよぉ!」
「なんや?矢口後輩思いやなぁ。しっかし、柴田はほんまに弱いなぁ。
 一本とったから今年はいけるかな?って思ったのになぁ」

「こりゃ、今年も敗戦記録更新間違いなしやな」
「中澤先生!!それでも顧問ですか!!」
「飯田。うちは、こんなに弱小な剣道部を支えてる立派な顧問やで?」

「うそうそ。ただの酒飲みだよ」
「矢口なんか言ったか!!」
「オイラじゃないよ!!あさみだよ!!」

「あさみぃぃぃぃ!!!!」
「ちがっ!!ずるい〜!!!

近いはずのみんなの声が遠くに聞こえて。
ちょっとだけ吹っ飛んだ意識が戻ってきて。


だから、その場から離れることにした。


317 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:10
「し〜ばたさん?」

道場を出てすぐに私に誰かが声をかけてきた。

「はい?」

振り返ったら、そこにいたのは安倍さん。

「あ・・・・」
「はははっ。私もね、北海道にいたときに先生に教わったことがあるんだ。
 去年も来てたんだけど、知らないかな?瞳さんにお願いして、
 あなたと勝負させてもらったんだ」

思わぬ相手の登場に動揺して、自分で自分の足をふんずけて転んだ。

「はははっ。柴田さんっておっもしろいね〜?」
「・・・ごめんなさい」


バカだ。本当にバカだ・・・


安倍さんは私を起こしてくれて、それから防具を外すのを手伝ってくれた。


情けない・・・

318 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:11
「ごめんなさい!」
「あははっ。謝んないでいいよ」

安倍さんの笑顔は、やっぱり吸い込まれそうになる。やばいくらいに怖い。

「さっきの、試合、すっごくよかった」
「・・・」

最後の最後で、最後まで・・・向き合いきれなかった自分がやっぱり許せない。

「正直、柴田さんのこと、今日まで認めてなかったんだ」
「・・・弱いし」
「そっかな?本当はめちゃくちゃ強いんじゃないかな?」
「・・・弱いですから」

「・・・私ね・・・」


それから、安倍さんは飯田さんと幼馴染だったって話をしてくれた。

319 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:13
「かおりが、岡女に入学したって聞いたとき、すっごく悲しかったんだ。
 でも、かおりが選んだ剣道がそこにあるんだったら、それでいいって思ってた」
「・・・」

おばあちゃんの剣道を褒められた気がして、うれしかった。

「でもね?今の岡女は弱いでしょ?」
「・・・はい」

「私との約束破ってまでかおりが進んだ剣道。
 でも、その道認められなかったんだ」
「・・・でも、おばあちゃんの剣道は!」

「うん。そうだよね。すっごく魅力的なんだってわかった。
 今日のあなたの剣を見て、なんとなくかおりの答えがわかった。
 柴田さんの剣道、強くて、優しいんだね」
「え?」

「柴田さんが勝てないの・・・それもなんとなくわかった」
「え?」

「優しいんだね。優しいから迷いが生まれる。
 相手を倒せるって思った瞬間に生まれる迷い。
 でも、だからやっぱり柴田さんは強いよ」


梨華ちゃんと、同じこと言ってる。


「でもね!次に試合するときは、ちゃんと岡女の剣道見せてね!
 最後まで、向き合ってね?じゃなきゃ、やっぱり、認めない。
 かおりの選んだ道も。あなたのおばあちゃんの剣道も!」
「・・・」


それだけいうと、安倍さんはまたくしゃっと笑ってから、私に背を向けた。


「インターハイ予選で会おうね!」


320 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:15
空は青くて、地面は茶色くて・・・
私の心の中はそれを混ぜたような色。


おばあちゃんの剣道・・・飯田さんが選んだ道・・・
私が弱いと両方が壊れちゃうんだ・・・


道場の中から聞こえる笑い声。この人たちの剣道、否定されちゃうんだ・・・


なんで勝てないんだろ・・・本当に、向いてないんだろうな・・・


「はぁ・・・」


ため息をついて地面とにらめっこ。


321 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:16
「あゆみちゃん?じゃったかな?」
「え?」

私の前に現れたのは、おじいさんだった。
茶色のスーツにシルクハットとステッキ。
なんだか、物語に出てそうな紳士的なおじいさん。

「はじめまして。梨華の祖父です」
「あ!!」

驚いて、向き直って姿勢を正そうとしてさっき脱いで置いておいた自分の防具につまづいて転んだ。

「はははっ。あわてなくても大丈夫ですぞ?」
「・・・ごめんなさい」

おじいさんは私が立ち上がるのを手伝ってくれると、優しい笑顔で話し始めた。

「剣道は好きですか?」
「はい!!」

好きだよ!!好きに決まってるじゃん!!
弱いけど、勝てないけど、おばあちゃんの剣道好きだよ!!

そんなことは、わかってるよ。ってかんじで、おじいさんはまた微笑んだ。

「剣道は奥が深い。でも、それに気がつく人は少ない。
そういう機会に恵まれることは、めったにないからね。
君は本当に剣道が好きなんだね。大丈夫。
君には剣道の神様がついてるから」
「剣道の神様?」

「そうじゃよ。剣道の神様・・・剣を持ち続けなさい。答えは必ず出るから」
「・・・」


322 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:19
「梨華のこと、よろしく頼みます」

おじいさんの言葉を噛み砕いてたところに、梨華ちゃんの話題。
私の思考は一時中断。

「あの!!梨華ちゃんは!!」
「大丈夫。雨降って地固まるじゃよ」
「・・・」
「梨華の両親のことは気にしなくて大丈夫。今は、二人とも剣道を楽しんでください?」

「でも!!」
「悩み、もがき、苦しみ・・・それでも剣を持ち続ける。
だから、神様は君を選んだんだよ。
梨華にも剣道の楽しさを教えてやってください」


そう言うと、おじいさんはいなくなった。

323 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:19
剣を持ち続ける・・・
持ち続けることが強いんだっておばあちゃんも言ってたよね。
持ち続けるか・・・まぁ、それだけなら負けてないか・・・


少しだけ、外の空気を味わってから私は中に戻ることにした。


青い空。一点の曇りもない青空。



自分の心も自然に澄んでいくのがわかった・・・



324 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:21
「何たそがれちゃってんの?」

いつものように響いた先輩の声に振り向いた。

「ちょっと、空きれいだなって」
「本当だ!きれいだね!!」

私の隣に梨華ちゃんが立った。

「きれいなかぁ?なんか、青いだけで味気ないよ」

あさみさんの言葉に口を尖らせる梨華ちゃん。

「甘いな〜。空の青さがわからないようじゃ、あさみもまだまだ子供だね!」
「ひっど〜い!じゃあ、まりっぺはわかってるの?」
「うっ・・・あったりまえじゃん!!」
「あ〜!!絶対にわかってないよ!!」

「二人とも!うっるさい!!」

こぜりあいを始めた二人は、いつものように飯田さんに叱られた。

「柴田?なっちのこと・・・」

飯田さんはやっぱり気がついてたんだ。

「はい!次は・・・おばあちゃんの剣道、岡女の剣道で安倍さんとちゃんと向き合います!!」
「そっか」
「はい!」

325 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:21
「もうすぐだね・・・インターハイ予選」

飯田さんの言葉にみんな息をのんだ。

「勝てますよ」
「うん」

梨華ちゃんの言葉は空に吸い込まれそうになったところで、飯田さんが飲み込んだ。

「みんな、頑張ろうね!!」
「おう!!その前に・・・今日は、今日で、お寿司争奪競争を頑張るよ!!」

あさみさんがいたずらな笑顔を見せてから中に入っていった。

「ずる〜い!!」

矢口さんも続く。

「お寿司!!」

私も続くことにした。

326 名前:大好きな大好きな、おばあちゃんの剣道♪ 投稿日:2004/11/21(日) 01:23
居心地がいい空間。


私たちの剣道。


インターハイ予選まであと少し。


少しだから、今この時間を大切に、少しでも強くなれるようにみんなで頑張ろうって思ったんだ。


私の好きな剣道。大好きな岡女の剣道。大好きなおばあちゃんの剣道。
だから絶対に強くなって証明してやるんだって思い始めてた。
327 名前:けんけん 投稿日:2004/11/21(日) 01:27
>>302 :名無飼育 さん

更新遅くてすみません!!放置は絶対にしないので、
これからもよろしくお願いします!!

>>303 :名無し紺紺中さん
一票入れさせていただきました。
柴ちゃん最高!!


>>304 :名無し飼育さん

これからもよろしくお願いします!!
できるかぎり、マメに更新しますので!!
328 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:14
「柴ちゃん!」

ロードワークの途中で、久々によっすぃに呼び止められた。

「あ、よっすぃ」
「あのさ、梨華ちゃんのこと・・・」
「あ・・・うん」
「付き合ってるの?」
「いや・・・」

よっすぃは安心したってかんじで、ほっと息をついた。

「梨華ちゃんのこと、好きなんだ」
「うん。私も」
「え?」

ほっとしたのもつかの間で、私の告白によっすぃは驚いて顔を見上げた。

「好きだよ。梨華ちゃんのこと」
「そ・・・うなんだ・・・」
「うん」
「・・・でも、やっぱり、相手が柴ちゃんじゃ、うち納得できないよ」

そりゃ、そうだよね・・・弱いし、頼りないし、情けないし・・・

「だよね・・・」
「勝負しない?」
「え?」

「次のインターハイ予選で、うちと勝負しない?」
「え?」
「うちに勝ったら認めるよ」


「・・・わかった」


言っちゃったよ・・・よっすぃは、その言葉を聞き届けると去って行った。

言っちゃったよ・・・でも、勝つしかない!


また、負けられない理由を増やしちゃったね・・・

329 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:15
「柴田おっそい!!」

よっすぃのことで、いつも以上に走ってきた私。
日が暮れてから学校に戻ったら、みんな待っていてくれたんだ。

「あ、すみません。先に帰ったかと思って」
「待ってたんだぞ!」

矢口さんが飛びついてくる。
それを見てあさみさんも飛びついてきた。


ナイスコンビネーション・・・


「すみません!」
「えっへん!」

飯田さんの咳払いに、二人は私から離れて飯田さんの隣に立った。

「柴田?石川?」
「「はい!」」

「そこに立ちなさい」
「いや、もう立ってますけど」

飯田さんのいつものボケにつっこむ梨華ちゃん。
それを見て私は少し笑った。


飯田さんは決まり悪そうに、もう一度咳払いして、再び姿勢を正した。

330 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:17
「もうすぐインターハイ予選だね?」
「「はい」」

「インターハイ予選が終わったら、私たちは引退なの」
「・・・はい」

そう言えば、そういうことになっちゃうんだ・・・
この学校に入ってからずっと一緒にいた先輩たちがいなくなっちゃうんだって思うと、
なんだか胸がキュッとなった。

「最後まで、悔いの残らない試合にしたいと思うの」
「「はい」」

「矢口?あさみ?」

飯田さんは二人になにか合図した。
すると、矢口さんが私の前に、あさみさんが梨華ちゃんの前に立った。

「柴田?石川?手、出して?」

飯田さんに言われるままに、私たちは手を出した。

「あ!」


矢口さんとあさみさんが私たちの手に渡したもの、それはお守りだった。


先輩たちにとってのお守りは、瞳ちゃんたちもらった大切な宝物。
それと同じように私と梨華ちゃんにもお守りをくれた。


必勝祈願って書いてあるけど、合格っていう言葉も書いてあるお守り・・・


そこは、変えればいいのに・・・
合格お守りが伝統になったら、なんだか変だね・・・
って思いながらお守りを見つめている私の隣で、梨華ちゃんがすすり泣いていた。



・・・素直に感動できない自分に反省。


331 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:18
「石川が入ってきてくれたおかげで、うちの部もずいぶん活気がでたし、
うちらもすっごく強くなったんだ。その気持ち忘れないで、
これからも岡女剣道部ひっぱっていってね!」

飯田さんの言葉に、梨華ちゃんは何度もうなずいた。

「石川は、本当に強くてさ、オイラかっこいいなって思ってたよ」

矢口さんの言葉に、泣きながらも笑う梨華ちゃん。

「梨華ちゃんは、強いし練習熱心だし、
おかげで剣道いっぱい教えてもらえたんだよね。
ん?うちら先輩なのに変だね?」


あさみさんの言葉に、みんな少し笑った。
笑い声が消えたら、飯田さんが私の方に視線を向けた。


332 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:20
「柴田がね?入ってきてくれた時、すっごくうれしかったんだ。
 瞳さんの妹だし、先生が一番手をかけてる子だって。
 だからすっごく剣道強いんだろうなって」


現実はその逆だったわけで・・・


「でも、現実は一回も試合で勝ったことないし、
 無愛想だし、ネクラだし、友達いないし・・・」

そこまで言わなくてもいいじゃん矢口さん・・・

「最初はどうやって付き合ったらいいか悩んだよね?」

あさみさん・・・苦労かけましたね。
入部当初、無愛想な私に懲りずに話しかけてくれたの、そういえばあさみさんだった。

「でもね?やっぱり、柴田が入ってくれて、
 柴田と一緒に剣道できてよかったんだ。
 柴田はさ、剣道大好きなんだよね?
 だから、うちらも剣道大好きでいられたんだ。
 弱くったって勝てなくたって、
 剣道が大好きでいられたの柴田のおかげ」


飯田さんの言葉に、うなだれていた頭をようやくあげられた。


目の前の飯田さんの顔は涙でぐちゃぐちゃで、ううん。
飯田さんだけじゃない。矢口さんもあさみさんも・・・
みんな涙で顔をぬらしていた。


「柴田がいたから、オイラも剣道楽しめた。岡女らしい剣道できたよね?」

「柴ちゃんと一緒にいた時間、すっごくすっごく楽しかったよ」

333 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:21






私の高校生活は、ほとんどこの人たちと一緒にいたんだよね・・・









334 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:22


朝練やるって言ってるのに、
朝が苦手で実現できなかった飯田さん。


さむ〜いダジャレを連発したり、
長〜い説教をされたり・・・


でも、飯田さんとの切り返しの練習の時間大好きだった。


柴田またヒッキーしてるの?って休み時間になっては部室に現れた飯田さん。

実は、私がクラスに馴染めてないんじゃないかって心配してたんですよね?



頼りになる部長。大好きな先輩。




335 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:23


気合だけは十分で、はりきり隊長なのに空回りの矢口さん。


あさみさんとつるんではよく先生に叱られたり、
夏休みになると私に宿題やらせたり・・・


でも、矢口さんとのかかり稽古の時間大好きだった。


相手が私だと、余裕綽々で竹刀を振りかざす矢口さんはかわいらしくて、おもしろくて。


柴田!行くぞ〜!!ってよく振り回されたけど、
だから矢口さんの元気もらえて、私きっと前よりも明るくなれたんだ。


優しい矢口さん。大切な先輩。



336 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:24
放課後居残り率が高くて、
ドジなことしてよく職員室に送還だったあさみさん。


バスケ部やバレー部のボールを直撃しては保健室に運ばれたり、
昼休みになると、我が家のお弁当目当てでよく私の教室に現れたり・・・


でも、あさみさんが一緒だと、退屈で辛いだけの基礎練が楽しかったんだ。


柴ちゃんお願い!!って言葉何度も何度も聞いて、
何度も何度もバカなことに付き合わされて。

シバ太だってあさみさんが拾ってきたのに世話してないし?


でも、あさみさんのおかげで、いっぱい笑っていっぱい泣いたんだ。


暖かいあさみさん。かけがえのない先輩。



337 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:25
暑い日も寒い日も、楽しい時も、悲しい時も・・・


いっつも一緒にいてくれたのは先輩だった。


梨華ちゃんが来るまで、友達らしい友達もいなかったけど、
先輩たちがいてくれたから私の高校生活はすっごく楽しかったんだ。


そんな先輩がもうすぐいなくなるんだね・・・
そう思うと、さびしくて悲しくて・・・


どんどん胸が締め付けられた。


338 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:26

「泣けよ柴田・・・」

私だけ、泣いてなかったから矢口さんにそう言われた。

「やっぱり、柴ちゃんは無愛想だね」

あさみさんの言葉に、先輩たちは笑ってた。


「最後まで、最高の時間を一緒に過ごそう!
 そして、悔いの残らない試合をしよう!!」


飯田さんの言葉に、私の中でなにかがはじけて、
こらえていた涙が開放された。


そんな私を先輩たちがどんな顔で見てたかはわからないけど、
きっと、『遅いって!』って思いながら少しだけ笑って、少しだけ涙を落としたんじゃないかな?


339 名前:インターハイ予選まであと少し! 投稿日:2004/12/18(土) 03:29




この人たちと一緒に、一緒に剣道できてよかった・・・

インターハイ予選まであと少し。

一瞬一瞬を大切にして、悔いの残らない最高の試合、最高の思い出つくりたい。

そう思って、お守りを握り締めた。




340 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 18:03
作者さん待ってるんで頑張って続きを書いてください。
341 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:21
「いよいよだね!!」

ついに、インターハイ予選の日がやってきた。
すっごい緊張感に襲われている私の横で梨華ちゃんはなんだか嬉しそう。

「よし!!あさみ、かかり稽古しとこ!!」
「おう!!」

矢口さんたちも相変わらずで、市民体育館の前で稽古を始めた。

「ちょっと!!二人ともやめなさい!!手の内ばれるでしょ!!」

飯田さんに言われて竹刀をおさめる二人。

「二人とも相変わらずだね?」
「・・・」

「柴ちゃん?」
「え?あ?なに?」

「大丈夫?」
「え?なに?」

「なんか、変だよ?」

緊張しすぎてまわりが見えないってこういうことなんだね・・・


「柴田はいつも変だよ」


矢口さんが私の肩を叩いて体育館の中に入っていった。

342 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:23
試合は個人戦から始まった。
ってことは、よっすぃとの因縁の対決。

梨華ちゃんをかけた真剣勝負。

「柴田!相手は強いけど、剣道やってまもない素人だ!
 落ち着いてやれば、今日こそ勝てる!!」

飯田さんの言葉。

「考えすぎずに戦えば勝てるから!!」

矢口さんの言葉。

「柴ちゃんんの剣道ができれば勝てるよ!!」

あさみさんの言葉・・・まったく耳に入らないよ。


「柴ちゃん?落ち着いて!勝ってね!!」


『勝ってね』・・・梨華ちゃんのその言葉だけは頭に鮮明にやきついた。


勝たないと・・・梨華ちゃんよっすぃにとられちゃうんだもんね・・・


343 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:24
そして、試合開始・・・

よっすぃはものすごい気迫で私に打ってくる。
私はそれをかわして、次の一手の機会をうかがう。

よっすぃの攻撃は激しいものの、上半身だけで打ってるからダメージは少ない。
それに、やっぱり剣道やって間もないから足の動きで攻撃がすぐに読める。


「面!!」
「小手!!」
「胴!!」


次々と打ってくるけど、どれもみんな空振り。
次第によっすぃに焦りが見えてきた。


「胴!!」
「一本!!」


面抜き胴で、私が一本。


「あ・・・決まった♪」


この勝負いけるかもしれない。
よっすぃの攻撃見えるし、明らかに私の方が分が上だよね。


梨華ちゃんがかかってる以上絶対に負けないもん!!


再び向き合って試合開始。
もう一本もらって、梨華ちゃんももらう!!

344 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:25
「うりゃぁぁぁ!!!」
「わっ!!」

焦ったよっすぃは、私を場外に突き飛ばした。

「場外!!反則!!」
「え・・・」

今の反則はよっすぃじゃん!!
審判の判定に不服なものの、再び向き合う。

よっすぃは、また体当たりで私を飛ばそうとしてくる。
もう!!剣道は力比べじゃないっての!!

つばぜり合いに持ち込んで体勢を立て直そう。

「反則!!一本!!」


「え・・・」


峰で競ったってことで、また私の反則がとられた。


反則二つで、一本のポイントがよっすぃに・・・

345 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:26
「ちょっと待ってください!!今のは!!」

思わず審判に抗議に行っちゃった私。

「指導!!」
「待ってください!!」


「反則!!」


審判に抗議なんて・・・一番しちゃいけないことなのに・・・
冷静さを欠いていた私は気がつかなかった。


「柴田!!」


なおも審判に詰め寄ろうとした私を見かねて飯田さんが止めに入った。


「反則!!一本!!」


飯田さんに抑えられて、その言葉が耳に入って・・・つまり負けたってことで・・・
私はその場に力なくへたれこんだ。

「柴田!ちゃんと挨拶しな!!」

飯田さんにおもいっきり背中を叩かれて、ようやく我に返ってよっすぃと向き合う。


よっすぃも気まずそうな顔・・・こんな試合・・・試合っていえない試合・・・


大切な試合だったのに・・・負けちゃいけない試合だったのに・・・
なのに・・・なのに・・・剣道すらできずに終わっちゃうなんて・・・

346 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:27
呆然としたまま挨拶して、みんなの元に戻った。

「柴田・・・」

矢口さんもあさみさんも私の常軌を逸した行動にかける言葉が見つからなかったみたい。

「柴ちゃん!!」

梨華ちゃんの顔・・・まともに見れないよ・・・


私はそのままみんなの前から立ち去った。

347 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:28
「柴田?」

防具をつけたまま市民体育館の外でふさぎこみ中の私のもとに、飯田さんがやってきた。

「・・・」
「あんた・・・その格好結構目立つよ・・・」

体育館の外は普通の公園で・・・そこに防具をつけたままの私・・・確かに目立つね。
でも、今はそんなこと気にしてらんなくて・・・

「ほら!面ははずしな!」

飯田さんに外された面・・・その下は涙でぐちゃぐちゃな私の顔・・・

「どうすんの?午後も試合あるでしょ?」
「・・・」

「このまま帰る?」
「・・・」


とりあえず、涙が溢れて・・・しばらく飯田さんは黙って隣にいてくれた。

348 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:29
「かおり!!ここにいたんだ!!」

矢口さんだった。

「かおりの試合終わっちゃったよ・・・」
「え!?」

その言葉に思わず顔を上げた。
飯田さん・・・そうだよね・・・飯田さんの個人戦・・・

「いいよ。しかたない」
「そんな・・・最後の試合なのに・・・
 うちは団体戦勝てないけど、かおりだったら、
 個人戦で勝てたかもしれないのに・・・」
「いいっていいって!」

矢口さんがもったいなさそうに話す。
飯田さんはそれに笑顔で答える。

「飯田さん・・・ごめんなさい・・・」
「なに?少しは他人を気にする余裕が出てきた?」
「・・・」
「うちのエースがこんなに落ち込んでたら、ほっておけないよ」
「え・・・」
349 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:30
「さっきの柴田。すっごく強かった。
 よっすぃの動き完璧に見破ってて。
 柴田の剣道、初めてふれた気がしたんだ。
 ようやく開花しかけたエースが、
 また弱小柴田に戻っちゃったら、団体戦勝てないじゃん?」


飯田さんの言葉は・・・なんか私の胸に響いた。


「そうだね。前半は完璧に柴田が優勢だったもんね?
 あんときの柴田はやばいくらいに強そうだったよ」


矢口さんが私の隣に座って小手を外してくれた。

「あ〜あ。涙と鼻水でびしょびしょじゃん」
「鼻水じゃないです!!」

慌てて訂正した私を見て矢口さんは笑った。

「面も小手もさっさと乾かして、団体戦勝ちに行くよ?」
「・・・」

矢口さんの言葉に返事をためらった。勝てる気しないんだもん・・・
困ったような泣き出しそうな私の顔を見て、飯田さんが立ち上がる。

「次こそ、柴田の剣道私たちに見せて?」
「・・・私の・・・剣道」

「「柴田の剣道!!」」
「私の・・・」

「「行くよ!!」」

二人に手をひかれて、私はまた体育館に戻った。
350 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:31
「あ!三人とも!!どこ行ってたの??梨華ちゃん、個人戦優勝したんだよ!!」

体育館に戻ってすぐにあさみさんが吉報を伝えてくれた。

「マジで!!」
「すっごい!!」

喜ぶ二人の隣で複雑な心境の私・・・
これでまた・・・梨華ちゃんとの距離が開いたね・・・

くっら〜い顔をしてる私の頭を飯田さんがなでる。

「柴田?石川褒めに行こう?」
「・・・」

「柴田?嬉しくないの?」
「嬉しいです」

「じゃあ、行くよ?」
「・・・」

今は会いたくない・・・どんな顔で会えばいいかわかんないもん・・・

「あ!柴ちゃん!!」

って思ってたところに梨華ちゃん登場。

「石川おめでとう!!」
「梨華ちゃんおめでとう!!」

口々に祝福の言葉を送る飯田さんと矢口さん。

「ありがとうございます!!・・・柴ちゃん?」
「ん・・・おめでと」
「ありがと」

うつむいたまま祝福した私。
梨華ちゃんは苦笑しつつも、ありがとうって言ってくれた。

351 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:32
乱れた心のまま午後の団体戦に突入。

こんな心境で、もちろん私は勝てるはずないんだけど・・・
他の4人が大健闘で・・・とうとう決勝戦まで突入しちゃった。


決勝戦の相手は・・・ハロモニ学園。

352 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:34
第一回戦、矢口さんvs高橋さん
面ありで高橋さんが一本。
それからこう着状態が続いて、時間オーバーで高橋さんの勝利。

第二回戦、あさみさんvs藤本さん
小手であさみさんが一本。
面で藤本さんが一本。そのまま時間オーバーで、引き分け。

第三回戦、梨華ちゃんvs後藤さん
面で後藤さんが一本。
胴で梨華ちゃんが一本。そのまま時間オーバーで、引き分け。

第四回戦、飯田さんvs市井さん
小手で飯田さんが一本。
胴で市井さんが一本。面で飯田さんが一本で、飯田さんの勝利。


一勝一敗二引き分け・・・つまり、次で勝利が決まるんだ・・・
で・・・大将戦は・・・私vs安倍さん・・・


矢口さんの戦略で、どうせ負ける私は大将になってたんだ。
どうせ負けるんだったら、強い人と当たってってね・・・

353 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:35
「柴田!!お願い勝って!!」

矢口さんが神頼みってかんじで私に手を合わせる。

「・・・いや・・・でも」
「柴ちゃん!!お願い勝って!!」

あさみさんも手を合わせる。


でも・・・自信ないっていうか・・・
相手安倍さんだしね・・・今日絶好調じゃん。


安倍さんは、個人戦で梨華ちゃんに負けてからはずっと負けなし。

「柴ちゃんの剣道やってきてよ!!」

梨華ちゃんの言葉に、少しだけ考え込みそうになった。


私の剣道・・・そんなのあったっけ?
さっきみたいに、勝ちにこだわって審判に喧嘩うるような剣道?


「柴田?」

迷い込みそうになった私の顔を飯田さんが無理やり上げさせた。

「はい」
「剣道好き?」
「はい!!」
354 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:35
『剣道好き』好きだよ。
剣道大好き。

そりゃ、勝てないけどさ。弱いけど。剣道大好きだよ。


相手と向き合って、相手と気持ちぶつけ合って。


剣道大好きだよ。


355 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:36
「だったら、大丈夫!さ?かおりの分までなっちに岡女の楽しさ見せてきな!」

飯田さんの分まで・・・そうだった。
飯田さんは自分の個人戦を犠牲にしてまで私に付き合ってくれたんだ。
この試合だって、本当は安倍さんと戦いたかったんだよね?


「あの・・・」
「ほら!またそんな顔するんじゃないの!!行ってきな!!」


飯田さんにおもいっきり背中を叩かれて、私は安倍さんのもとに向かった。

356 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:37
安倍さん・・・強いよ。
向き合っただけで押しつぶされそうになるこの人の威圧感。
戦う前から完璧に逃げ腰の私・・・


『明鏡止水』


おばあちゃんの声が聞こえた。
澄み切った曇りのない目で見つめれば、相手の心が映し出される・・・

そうだよね・・・向き合わなきゃ始まらないんだよね・・・
おばあちゃん・・・私できるかな?

『柴田って本当に剣道好きなんだね?』
矢口さんがいつも呆れ気味で言ってた言葉。

『柴ちゃんの剣道って楽しいね?』
あさみさんの苦笑交じりの言葉。

『剣道オタクだね』
飯田さんに何度も言われて否定し続けた言葉。


『柴ちゃんって強いんだね?』
梨華ちゃん・・・私強いかな?強くなれるかな?


『柴ちゃんすっごく強いもん』
そうだよね・・・梨華ちゃんの言葉、信じるね!!

357 名前:インターハイ予選!! 投稿日:2005/02/28(月) 20:37
いろんな思いを背負って私は安倍さんの前に立った。
見詰め合った瞬間に、安倍さんの口元がほころんだ。

『待ってたよ。あなたと向き合える日』
『今日は負けません!』

『岡女の剣道見せてね?』
『はい!!』


そして、試合開始!!
358 名前:けんけん 投稿日:2005/02/28(月) 20:40
>>340 :名無飼育さん
 長い間お待たせしちゃってすみません!
 作品を保管していたフラッシュが壊れちゃって・・・
 これからまた頑張ろうと思いますので、よろしくお願いします!
359 名前:大好きだから・・・ 投稿日:2005/03/04(金) 02:53
安倍さんはやっぱり強い。
打突に隙が全くない。
安定した下半身。
攻撃はまったく読めない。
そして、切れのあるスピーディな動き。
独特なオーラ。

安倍さんの動きに身体をならすだけで精一杯の私。
でも、しびれるようなこの緊張と、張り詰めた空気。


面白い・・・面白いよ・・・
もっとこの人と向き合いたい・・・


「面!!」
「胴!!」


次々に打ってくる安倍さんの剣はすっごく重たくて。
防ぐだけで体力が消耗されていくのがわかる。

360 名前:大好きだから・・・ 投稿日:2005/03/04(金) 02:54


『石火の機』


火打石は打った瞬間に火花が飛び散る。
打突の瞬間には間も隙もない。石火の機を待てば勝機はつかめる・・・おばあちゃんの言葉。


この人相手に、石火の機は訪れるの?


『好きなようにやりなさい』


うん・・・おばあちゃんの剣道。
安倍さんに通用するかわかんないけど、でも試すね!!


「面!!」
「突き!!」


「一本!!」


面を打ってきた安倍さん。
竹刀が上がって一瞬の隙ができたところに私の突きが決まった。



「え・・・」



安倍さんから一本とるなんて・・・


『あゆみ!!しっかりしなさい!!』


は、はい!!一本とって呆然としかけた私におばあちゃんの声が響いた。
いつも怒られていた言葉・・・うん。しっかりもう一本もらってくるよ!

361 名前:大好きだから・・・ 投稿日:2005/03/04(金) 02:56
さっきよりも俊敏になった安倍さんの動き。
でも、見えてきた。
安倍さんの動きが。次の一手が手に取るようによめる。

剣先を崩すことのない安倍さんの完璧なフォーム。
ようやく気がついた。


私って剣道本気で好きなんだね・・・


剣道のことよく知ってたんだ。
だから見える。
安倍さんの動き。


「面!!」


安倍さんが竹刀を上げる。
間に合わない・・・


「胴!!」
「・・・一本!!」


審判も一瞬止まるほどの攻撃だった。


『鬼返し』


それは、おばあちゃんがあみだした伝説の技。


面を打った相手の打突の勢いを利用して、
一瞬で攻撃をかわして相手を仕留める。
目にも止まらぬ速さで繰り広げられる攻撃。


会場にいたほとんどの人がなにが起こったのかわからないってかんじで、あたりが静まり返った。
安倍さんもしばらくなにが起きたの?ってかんじで呆然としてたけど、すぐに自分を取り戻して挨拶にうつった。


『ありがと』
『ありがとうございました』


心の中でお互いの勇姿を称えあって、私はみんなのもとに戻った。

362 名前:大好きだから・・・ 投稿日:2005/03/04(金) 02:57
「し・・・柴田・・・」

まだ、実感ないみたいな飯田さん。

「え・・・これって・・・」

矢口さんも。

「柴ちゃん・・・?」

あさみさんもだ。

「柴ちゃんおめでと!!」

梨華ちゃんに抱きつかれてようやくみんな理解して、私たちは歓喜を上げた。
優勝しちゃったんだ!!!


でも・・・私は喜びの後すぐに気を失っちゃった。
お昼食べてないし・・・緊張の糸が一気に切れちゃったみたい・・・
363 名前:大好きだから・・・ 投稿日:2005/03/04(金) 02:59
「ん?」

目覚めた時には、我が家のベッドの上だった。

「あ?起きた?」
「え?」

目覚めてすぐに瞳ちゃん・・・もしかして今までのって夢だったの?
そうだよね・・・安倍さんに勝てるわけないもんね・・・

「あんたって本当に間が悪いよね。せっかく優勝したのに、気絶しちゃうんだもんね。
 表彰台なんてもう立てないかもしれないのにさ?」
「え・・・」

「覚えてないわけ?あんた、試合終わってすぐに倒れちゃって。
 みんなは表彰式があるから、おばあちゃんと私で家につれて帰ったんだからね!
 優しいお姉さまに感謝しな?」
「・・・やだ」

「ったく。本当にかわいくない。あのまま放置してくればよかった」
「・・・みんなは?」

「学校じゃん?」
「そう」

「とりあえず・・・おめでと。初勝利」
「・・・」

「ん?うれしくないの?」
「私・・・本当に勝ったの?」

「勝ったよ」


瞳ちゃんの言葉に、目頭が熱くなった。


「泣くの?」
「・・・泣かない」

「泣け泣け」
「泣かないもん!!」

「一人にしてあげるから、泣いていいよ」


そういうと瞳ちゃんは出て行ってくれて、それでようやく初勝利の涙を流した。

364 名前:大好きだから・・・ 投稿日:2005/03/04(金) 03:01
「柴ちゃん?」
「あ!はい!」

ちょっとたってから、梨華ちゃんが部屋に入ってきた。

「大丈夫?」
「うん。平気」
「よかったね!初勝利!!」

その言葉に、照れ笑い。

「本当に柴ちゃん強いね!」
「いや・・・それほどでも」

「柴ちゃん?」
「ん?」

「私に言うことあるよね?」
「ん?」

「あるよね?」
「え?」

笑顔の梨華ちゃん・・・怖いんだけど・・・

「よっすぃとの・・・」
「あ!!」

思い出した私に今度は頬をふくらませてご立腹の梨華ちゃん。

「勝手に賭けないでよ!」
「ごめん」

「ってか、負けないでよ!!」
「さらに・・・ごめんなさい」


うつむく前に、梨華ちゃんはキスをくれた。


「・・・よっすぃからの伝言」
「え?」

「あんなの勝ったうちに入らないし、勝負は来年までお預け」
「・・・は?」

「だから、来年までは二人が正式に付き合うことは認めない!だって?」
「え・・・あ・・・はい」

「もう!!柴ちゃんのバカ!!」
「ごめん」

「来年は・・・」
「勝つよ!絶対に勝つから!!」

「うん」


ようやく笑顔に戻った梨華ちゃんを抱きしめて、
今度は私から唇を奪った。


「柴ちゃん・・・好きだよ」
「うん」


梨華ちゃんが好き。
天使は急に現れるんだね。


梨華ちゃんは私に舞い降りた天使なんだ。
剣道の神様連れて、私のもとに降りてくれた天使。


勝つよ。来年はきっとね・・・


365 名前:ひろ〜し〜 投稿日:2005/03/05(土) 01:41
更新キタ〜〜〜〜!
はじめまして!ひろ〜し〜です。って言ってもずっと前っから読ませてもらってますけど。
いよいよ柴田さん、勝利したんですねぇ・・・。
そして、石柴風味になってきてますし。
続き、楽しみにまってます!
366 名前:新学期に新入生♪ 投稿日:2005/03/09(水) 02:23
インターハイでも、なんとうちの学校は優勝しちゃったんだ。
まぁ・・・私はあの日安倍さんに奇跡の一勝を果たしてから再び敗戦記録更新中なんだけど・・・


でも、なにはともあれ、最弱剣道部が全国制覇!
学校中、いや町中がしばらくはにぎやかで、私たち・・・
私以外はみんなしばらく英雄だった。


騒ぎはそれだけじゃなくって、新学期からは、
学校の方針が部活動強化ってことになっちゃって。


まぁ、バレー部、バスケ部、陸上部。
インターハイの常連部は他にも多々あるわけだから、
当たり前なんだけどさ。


夏があけたら急に方針変えちゃうってところが、
岡女らしいっていうか、
なにかんがえてんだか理事長みたいな。

367 名前:新学期に新入生♪ 投稿日:2005/03/09(水) 02:24
部活動強化のおかげで、部活動の成績優秀者は学費免除。
しかも特別に学生寮まで造られちゃって、入寮できることになったんだ。


でも、私の場合は、もともと入試の時に成績優秀者だったもんで、
特待生ってやつだったから学費はもともと免除だし、
家も近いから寮には入らないってことで、生活はなにも変わってないんだけどね。


あ!でも、学校に特設の剣道場ができたから♪
それはかな〜りテンションあがっちゃったけどね。


368 名前:新学期に新入生♪ 投稿日:2005/03/09(水) 02:25
「ねえねえ?柴ちゃんは寮に入らないの?」
「うち、近いし」

梨華ちゃんは、家の人と話し合って寮に入ることにしたんだ。

「いいじゃん?寮はただなんだしさ?」
「おばあちゃんとの稽古もあるしさ?」

「稽古だったら、私とやればいいじゃん?」
「いや・・・遠慮する」

「し〜ばちゃん!!」
「はははっ。練習練習」

全国優勝したのに、あんなに騒がれたのに、
新しい剣道場までできたのに・・・


やっぱり剣道流行らないんだよね・・・


新入部員はいなくって、梨華ちゃんと二人きりの剣道部。
このままじゃ、来春には廃部だよ・・・

369 名前:新学期に新入生♪ 投稿日:2005/03/09(水) 02:27
「なんで、新入部員来ないかな〜」

朝練を終えて部室に戻ってシバ太に愚痴る。

「私は、今のままでもいいけどな?」
「もう!梨華ちゃんまじめに考えてよ。
 このまま二人だけだったらさ、団体戦出れないし・・・」

「個人戦には出れるよ?」
「でもさ!でもさ・・・やっぱり団体戦でれないとさ・・・」

「いいじゃん、いいじゃん。二人っきりの部室ってなんかいい感じだよ?」


梨華ちゃんの誘惑開始・・・
シバ太を押しのけて私の前にしゃがむ梨華ちゃん。


「な、なに?」
「ね?二人の時間、大切にしよ?」
「シバ太?二人でやって行こうね?」

わざと梨華ちゃんに背を向けてシバ太と手を取り合ってみた。

「もう!柴ちゃんの意地悪!!」
「はははっ。でも、本当にこのままじゃ、来春には廃部だよ・・・」

「心配ないよ?」
「え?」

「昨日、剣道部に入部したいっていう転校生が寮に入ったもん」
「えぇぇぇ!!マジマジマジ???」

「うん。し・か・も!!二人も!!」
「えぇぇぇぇ!!!すっごいすっごいすごすぎすごすぎ!!!!」


久々に大はしゃぎの私を見て梨華ちゃんに笑われた。


「・・・」


「柴ちゃんかわいい♪」
「シバ太かわいいってさ」
370 名前:新学期に新入生♪ 投稿日:2005/03/09(水) 02:28


「なぜ?」


放課後、待望の転校生がさっそく部室にやってきてくれたんだけど・・・
相手を見て固まる私。


「よろしくお願いします!!」
「よっろしく〜♪」


この屹然としたあいさつと、プリティ度100%のあいさつ・・・


「なぜ?」 


ハロモニ学園の・・・


「高橋愛です!!」
「松浦亜弥で〜す♪」


じゃん・・・


「なぜ?」


?マーク満開でなぜを連発している私の隣で、
梨華ちゃんは笑顔で二人に握手。

371 名前:新学期に新入生♪ 投稿日:2005/03/09(水) 02:29
「なんで?なんでなんで?ハロモニ学園にも剣道部あったじゃん?」
「安倍さんたちが引退して、今は後藤さんと藤本さんが仕切ってるんやけど・・・
 二人とも彼女作って遊んでばっかで・・・このままハロモニ学園にいても強くなれんと思って!!」


高橋さんの熱烈な言葉に、ちょっと逃げ腰。
だからってうちの部で強くなれる保障もないよね・・・


「あ、亜弥ちゃんは?なんで?」
「亜弥ちゃん?」
「あ・・・」

梨華ちゃんが亜弥ちゃんって言った私に不信な眼差し。

「い、いや・・・その・・・前に、会ったことあってね」
「へぇ」

しどろもどろな私をよそに、亜弥ちゃんはマイペースに話始めた。


「ミキタンってばね!私がいるっていうのに、浮気したの!!
 最低でしょ?だから、ぜ〜ったいにミキタン倒すの!!
 妥当藤本美貴なの!!」



理由が不純な気がするのは・・・私だけ?


ってことで、新入部員二人・・・予想外な展開です。


372 名前:新学期に新入生♪ 投稿日:2005/03/09(水) 02:31
「犬・・・」

高橋さんがシバ太に気がついたみたい。

「うっわぁ〜!!かわい・・・くないね?」

亜弥ちゃんの言葉に、背をむけるシバ太。

「かわいいじゃん」

シバ太の頭をなでようとしたんだけど、私からも顔をそらすシバ太くん。
やっぱり、かわいくないや。

「あはは。やっぱり無愛想だね。名前は?」
「あ・・・いや」

「何々?」
「いや・・・」

亜弥ちゃんが私の隣にしゃがみこむ。

「なんて名前なの?」
「・・・シバ太」

「は?」
「い、いや!これは、これにはわけがあってね!!」


それから、あさみさんが拾ってきて矢口さんが勝手に命名してってことを伝えたんだけど、
高橋さんも亜弥ちゃんも一気に私を見る目が変人扱い・・・


まぁ、しかたないね。

なにはともあれ、新入部員。でも・・・うまくいくのかな・・・
素直に喜べない私の横で、梨華ちゃんがあれこれ説明してくれていた。
373 名前:レス 投稿日:2005/03/09(水) 02:33
>>365 :ひろ〜し〜 さん
  レスありがとうございます。
  ずっと読んでいただけていたなんてありがたいです!!
  新展開開始ってことなので、今後もご期待いただければ
  嬉しいです!!よろしくお願いします!!




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