西園寺万五郎の名推理

1 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:47
始めまして
ちょっと書かせてもらいます
2 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:48
ここは西園寺万五郎探偵事務所。
桜並木町駅から徒歩五分。抜群の立地条件にある木造アパートの二階にある。
もっとも立地条件は良いにもかかわらず、事務所は閑散としている。
もう一ヶ月も客がこない。
駅前広場の立て看板には「日本一、いや東洋一の名探偵。西園寺万五郎にはどんな不可解な謎をもたちどころに解決。いざ来たれ。迷い人よ」
などという宗教的な文言が並んでいるにも関わらず、このさびれっぷり。
西園寺が東洋一のあとに世界一を付け加えるのも時間の問題であろうか。
その閑散とした事務所で、とうの西園寺万五郎はただいまテレビ鑑賞中である。
番組はMUSIX。
MCにキャイーン、モーニング娘を擁した人気番組である(もっとも視聴率6パーセントを人気番組と呼べるかどうか、はなはだ疑問の残るところではあるが)。
西園寺万五郎、福笑いのできそこないのような顔をした、この男はさっきから拳を強く握りしめながら、テレビ画面を凝視している。
「んぐぅ、辻ちゃん、がんばれぇ、名探偵西園寺がついてるからのぉ」
今日のMUSIXはハロプロシャッフルユニット総出演ということで、クイズ大会をやっているのである。
3 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:50
クイズに答えられたら、食べ物の用意されたゾーンへ行くことができ、飲食自由。
だが最後まで残ってしまったら正解者が好き勝手に材料を投げ込んだミックスジュースを飲まなければならないという、スタッフの英知工夫が結集した素晴らしい企画なんである。
「あのケーキを辻ちゃんに腹一杯、食わせてやりたいもんじゃのぉ」チョビひげをふるふる震わせながら、西園寺は熱心に応援している。
何をかくそう、この西園寺万五郎、齢四十もなかばにして、重度の辻ヲタなのだ。
松浦亜弥が辻にかぶっていたりすると
「ええい、あややめっ。そこをどかんか。辻ちゃんが見えんではないか」
などと声を張り上げる始末。
他の娘たちには目もくれず、一心に辻だけを追いかけている。
名探偵(自称)西園寺万五郎(四十六歳、独身)、目下の夢は辻ちゃんと食べ放題のケーキ屋に行くことである。
4 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:50
さて、番組は進み、アヤカ、石川梨華などがクイズに答え、みごと天国ゾーンへ抜け出した。
頭の良さそうなのから成功を収めるというのも、これまた社会の縮図である。
知のプロレタリアート、辻希美の運命やいかに。
西園寺万五郎は固唾を飲んで見守っている。
そこから続々と正解者が続出。
罰ゲームのミックスジュースは納豆、唐辛子、青ネギ等々の異物が投げ込まれ、無惨なありさまとなってしまっている。
そして、ついに辻希美(十四歳、アイドル)の出番がやってきた。
5 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:50
問題は「ステーキの焼き方を一つあげよ」である。
常人には容易に答えられるはずのこの問題。
しかし辻には難しい様子。
「うーん」と唸っている。
西園寺、こぶしを固く握りしめ、テレビを凝視。
ここでキャイーンが助け船。
「辻ちゃん、ウエ・・・?」
それに応えて
「うえ、うえ、うええ?」
と奇声を発し始める辻希美(十四歳、アイドル、生息地東京、メス)。
「辻ちゃん、ウエルダンじゃ、ウエルダン!」
と絶叫する西園寺万五郎(四十六歳、名探偵、生息地桜並木町、習性アルコール過剰摂取、好物イカの塩から、オス)。
ところが辻、さんざん悩んだあげく
「焼きすぎ?」との珍回答。
「ぐわあああ、惜しい。辻ちゃん、あと一歩だったのにぃ」
西園寺は本気で悔しがっている。
がっくり肩を落とし意気消沈の様子。
6 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:51
とここで西園寺は背中になにやら寒いものが走るのを感じた。
氷がすうっと背筋を走り抜けていくような感覚。
ハッとして振り返ると、入り口のドアの前で腕組みしながら無表情に西園寺を見ている小梅の姿があった。
「こ、小梅、いつからそこにおった?」
「万おじが辻ちゃん、辻ちゃんって叫び始めるぐらいからよ」
と制服姿の小梅は学校の指定カバンを帽子置きに掛けながら答えた。
小梅は万五郎の姪にあたる。
7 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:51
現在は中学二年生。
ショートカットにくるくるよく動く瞳。
全身に利発そうな俊敏さがある。
よく学校帰りにこの探偵事務所に寄っては掃除をしてやったりしているのである。
まったく老人介護の精神がよく行き届いた、出来た娘である。
「まったく大の大人が、辻ちゃん、辻ちゃんって恥ずかしくないの?万おじの胴間声、向こうのタバコ屋から聞こえてきたわよ」
あきれ顔で小梅は肩をすくめてみせた。
「こらこら、梨華ちゃんみたいなことを言うんじゃない。お前のような小娘が梨華ちゃんの真似をするなんて百万光年早いぞ」
「万おじ・・・・(呆)。光年は距離の単位だよ。東京帝国大学出てるのに、そんなこともわかんないの?」
「あ・・・。そ、そうだったな。弘法も筆の誤りとはこのことかの。ほっほっほ」
8 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:52
賢い小梅は、そもそも万おじを弘法大師になぞらえたりするような愚は犯さない。
ただ、こんな奇人変人は一般社会にはそういるもんじゃないから、ここに来ているのである。
「だいたいねえ、そんなテレビの前で大声出したって、辻ちゃんには聞こえてないよ。それ録画放送だし」
「いや、それは違うぞい、小梅。辻ちゃんと、この西園寺万五郎のあいだには、なんというかな、そう、精神的な結びつきがあるんじゃ」
「あら、そう。精神的な結びつきっていうのは、なにもやることがない探偵さんが、暇をもてあましたあげく、中学生のアイドルをテレビ鑑賞することを言うのね。知らなかったわ」
「これこれ、小梅。お前という娘はいつから、そんなにシニカルにものごとを眺めるようになった。わたし三十二歳の子持ち主婦。たまに出会い系サイトで男ひっかけて小遣い稼ぎしてます、くらいの退廃感が漂ってるぞ」
「なにわけわかんないこと言ってんのよ。わたしがシニカルに見てるのは、万おじのキショい行動だけよ」
「あ、お前キショいとまでいうか」
万おじちょっとショック。
この生意気な小娘に対する敵愾心が西園寺の胸中でめらめらと燃え上がる。
9 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:53
「そこまで言うなら、わしが理路整然とお前の得心のいくまで説明してやろう。たとえば、お前がペンギンだとしよう。しかもお前だけ、体が唐草模様だ」
「わたしペンギンじゃないよ。それに言うまでもなく唐草模様でもないね」
「こら、たとえ話といっただろう。ファンタジーを解さんやつめ。とにかくお前は問答無用にペンギンだ。それも唐草模様のな。ここだけは絶対ゆずれん!」
「わかった、わかったよ。わたしは唐草模様のペンギンだよ。んで?」
万五郎の気迫に押されて、小梅は自分が唐草模様のペンギンだということをしぶしぶながら了承した。
「よしそれでいい。やっと自分がペンギンだということを認めたか」
万五郎は満足げにうなずいた。
「それでお前だけ唐草模様のペンギンなわけだ。周りのペンギンたちはお前を見てクスクス笑う。なんせお前だけ唐草模様なんだからな。ぷっぷっぷ」
万五郎は自分のたとえ話におかしくなって笑いだした。
それを見ている小梅はちっともおかしくない。
10 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:53
「それでお前は孤独だ。ときにはいじめられたりもした。学校に登校したら、机の上に花瓶がおかれていたこともあった。まったく不憫な娘だの」
今度は一転、万五郎は小梅を哀れみの目でみた。
万五郎の勝手なたとえ話で、笑われたり、同情されたりする小梅こそ不憫であろう。
「それで小梅ペンギンは一人で生きていくことを決意した。だれも信用しない。自分の力で魚をとってやるんだ。とな」
ここで万五郎は遠い目をした。
南極の海の冷たさ、その過酷な自然を思っているのであろう。
そして、そこでたった一人で生きていく小梅ペンギンの健気な姿。
それを思うと万五郎の目に熱い涙がうかんでくるのである。
11 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:54
小梅は無表情でそれを見つめている。
「とにかく、そうして小梅ペンギンは孤独に生きていた。ところが、ある日、はるか彼方の地平線から、一匹のペンギンがこちらへ向かって歩いてくる。徐々に大きくなってくる、そのペンギンを見ると、なんとお前と同じ唐草模様のペンギンじゃないか!」
ここで万五郎は尻ポケットから出したハンケチで涙をぬぐった。
自分のつくったたとえ話で感涙にむせぶことができるというのも、まったく奇特なことだ。
「どうだ、これがわしの言う精神的な結びつきってことだよ」
ようするに自分が辻ちゃんと同じバカだから、辻ちゃんを好きなのね、と小梅は言いかけたが、またわけの分からないたとえ話を出されるのもシャクなので黙っていた。
と、二人がまったく社会的有用性のない話を繰り広げているあいだにもMUSIXは進行していた。
12 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:54
正解者の一人がミックスジュースにマヨネーズを入れようとしているときだった。
まだクイズに正解していない矢口が
「やめてよぉ、わたし牛乳系ダメなんだよぉ」
と大声で嘆いているところだった。
「ん?」
名探偵西園寺万五郎はこの矢口のひとことを聞き逃さなかった。
「おい、小梅」
急に真顔になった西園寺が小梅に呼びかけた。
真顔になると結構西園寺もいい男である。
これなら田舎のホステスぐらいは引っかけることができそうだ。
13 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:54
「なに?」
「マヨネーズと牛乳って味が似てるか?」
「似てないわよ。牛タンの塩焼きとパンナコッタくらい違ってるよ」
万五郎はパンナコッタがどんなものかよく分からなかったが、パンとつくからにはパンを使った料理なんだろうと、勝手に推測して話しを先に進めた。
今はパンナコッタがなんなのかについて議論している余裕などないのだ。
「味はぜんぜん違うよなあ。マヨネーズは卵黄と酢と油で作るんだから、材料だってぜんぜん違う」
うーむと西園寺は深く考え込んだ。
「なにがそんなに気になるのよ」
14 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:55
「いや、矢口が牛乳を嫌いなのは知っておったんだがな、マヨネーズを牛乳系と呼んでしまう矢口の思考回路がわからんのだよ」
西園寺の目がらんらんと光った。
謎あってこその名探偵である。
こういう謎をとくことに魂が打ち震えるほどの悦びを感じる男なのだ。
「マヨネーズと牛乳は味も違う、材料も違う。と、するとこの両者の共通点は色や形状ということになるな。たしかに牛乳もマヨネーズも白濁色の液体だ。粘度はかなり違うがな。と、すると矢口は牛乳、マヨネーズの共通する見た目に嫌悪を感じているということになるな」
そのとき、西園寺の頭脳にある考えがひらめいた。
その考えが浮かんだとき、すべてのパズルががっちりと西園寺のなかで結びついたのである。
「そうだ!牛乳とマヨネーズに見た目が似ているものが一つあったぞ」
15 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:55
「なに、それ?」
西園寺は得意げに、人差し指を顔のまえでひらひら振って見せた
「ザーメンだよ」
「ざー・・・めん?」「
小梅は小首をかしげた。
「そうザーメンだ。日本語では精液という。男のペニスから噴出される白濁の液だな」
呆然としている小梅をよそに、西園寺はアポリア(難問)を解いたことの悦びに全身を震わせながらとうとうと語った。
「牛乳とマヨネーズ、この味も材料も違う、この二つが矢口の頭のなかでは、(ザーメンに似ている)という共通項によって、嫌悪の対象になっていたのだよ」
昂奮しながら西園寺は語り続けた。
「おそらく矢口は男のザーメンを口のなかで出されたことがあったに違いない。それがひどく苦かったのだ。アダルトビデオなどでも口内発射され女優さんは「にがぁーい」などと感想をもらしている。そのときの印象が強くて矢口は牛乳とマヨネーズが苦手になったのだ!!!!解いた!解いたぞ、矢口の思考回路を!!!!」
名探偵の力量を遺憾なく発揮した西園寺は満足に満たされながら、小梅を見た。
16 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:55
小梅。
小梅。
冷たい。
冷たいよ。
なんて冷たい瞳をしているんだお前は・・・。
それは人間の瞳じゃない。
人形の瞳だよ・・・・。
軽蔑と軽侮の目で小梅は西園寺万五郎を見ていた。
「すごぉーい、万おじ見直しちゃった」
とでも言ってくれると思っていた小梅の恐ろしいまでの冷視線に
名探偵西園寺万五郎はじっと耐えなければならなかったのである。


17 名前:キリコ 投稿日:2004/05/29(土) 17:58
MUSIXが夕方にやってるようになってるけど
それは小説の都合上なんで
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/03(木) 00:40
こんな小説を待っていた。
期待。
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/07(月) 01:29
イイ!
しかし、帝大でって何歳だよ・・・
20 名前:キリコ 投稿日:2004/06/07(月) 21:54
帝大って言葉がでてくるのは
この小説の舞台になってるのが大日本帝国だからです
あ、時代は現代ですけど
もともとこのキャラクターは別の小説のチョイ役として考えたものなんで
そっちの小説はSFでいうパラレルワールドものなんすよ

21 名前:キリコ 投稿日:2004/06/07(月) 21:57
んで第二弾です
相変わらず下らないですけど
次は観念小説みたいになってます(ってこれ前フリだけど)
少しづつ書いていきますんで、よろしく
22 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/07(月) 21:58
「梨華ちゃんはウンコしません」
と男は言った。

それは「黒潮には養分が多く含まれています」とか
「犬は雑食系の動物です」というように、ありふれた事実をただ述べただけ、という感じの言い方だった。
「ハア?」
思わず小梅は怪訝な顔で聞き返した。
目の前でコーヒーを飲んでいる男はいま「梨華ちゃんはウンコをしない」といったのだろうか?
生きている人間が排便をしないとはいったいどういうことだろう?
23 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/07(月) 21:59
「だから、梨華ちゃんはウンコをしないんです」
男はまた同じことを言った。
まるで物わかりの悪い生徒を教えさとしているみたいだった。
そこに、からかっている素振りはみじんもない。

小梅は頭が痛くなってきた。
そもそも、なんで彼とこうして喫茶店で会話するはめになったんだっけ?
そうだユカだ。
同級生のユカがストーカーで悩んでいて、だけど、それがだれか分からなかった。
それで「だれか心当たりはないの」って聞いたら、この目の前にいる男、倉橋トオルの名前をあげた。
倉橋トオルは一年前に、ユカの家庭教師をしていた大学生で、モーヲタだという。
モーヲタの約七割はロリコンだというから、現在中学生のユカにストーキングをしてもなんのふしぎもない(ってこれはユカの偏見かもしれないけど)。
それで、いきがかり上、小梅が倉橋と会って、そこらへんのことを探ってみることになったのだった。
さすがに男の部屋で会うのは危険がともなうと思ったので、この喫茶店に呼びだした。
24 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/07(月) 21:59
倉橋は貧相な顔をした男だった。
三十過ぎまで浪人生に間違えられるようなタイプだ。
聞けば大学では哲学を専攻しているという。
最初は探りを入れてみようと思って、
「モーニング娘の中ではだれが好きなんですか?」と小梅は聞いた。
すると倉橋はせきをきったように喋りだした。
「梨華ちゃんです」という最初の一言だけはわかったものの、
その後はあまりの早口ゆえにほとんど聞き取れなかった。
それでもときどき、「ポジティブ」や「いしよし」、「ムースポッキー」などの単語だけが、小梅の耳に飛び込んできた。
わけがわからない。
25 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/07(月) 22:00
矢継ぎ早に言葉を繰り出す目の前の倉橋を、小梅はただ呆然と見ているしかなかった。
十五分ぐらいたっただろうか。
どうも聞き取れる部分から判断するに、倉橋は石川と吉澤のルックス、キャラクターなどの相反する要素に萌えているらしいということだけは分かってきた。
小梅はそのあいだ一言も喋らなかった。
倉橋はそれまでの喋りっぷりがウソのようにぴたりと口を閉ざした。
まるでかれのなかにある言葉の泉がかれてしまったみたいだった。
ああ、やっと終わったぁと小梅がほっとした瞬間、倉橋は「梨華ちゃんはウンコをしない」と発言したのだった。
26 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/07(月) 22:00
「あの、ウンコをしないっていうのはどういうことなんですか?肛門がないってこと?」
言ってから小梅は、中学生の女の子が「肛門」などという言葉を公衆の面前で口にするのもどんなもんかと思ったがしかたない。

「梨華ちゃんに肛門があるかどうか、それが問題なのです」
と言って、倉橋は哲学的な深いため息をもらした。
そんなことを問題にしているのはあんただけだよ、と小梅は心のなかで毒づいた。

「石川だって、あ、いや梨華ちゃんだって人間でしょう?人間なら肛門があって、ウンコ、あっ、いや排便するのは当たり前じゃないですか」
小梅は倉橋と周りに気をつかいながら異論をはさんだ。
さっきから、喫茶店のマスターがこっちに怪訝な視線をなげている。
イヤだなぁ。
さえない大学生と女子中学生のあいだで「肛門」だとか「ウンコ」だとかいう会話がとびかっているのを聞いて、普通のひとはどう思うんだろう?
中学校に教育実習に来た大学生が生徒と性教育について語りあっているところ、というふうに好意的に解釈してくれないかな。
無理だろうな。
小梅はあきらめた。

27 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/12(土) 14:13
「それじゃあ聞きましょう。あなたは梨華ちゃんの肛門を見たことがあるんですか?」
「んがぁ!?・・・・そんなの見たことあるわけないじゃないですかっ」
中学生の女の子が「んがぁ!?」と呻くのもどんなものかと思ったが、このさいしかたがない・

「あなたは実際に梨華ちゃんの肛門を見たことがない。それなのに梨華ちゃんには肛門があると思っている。つまり、それはイマジネーションの領域における類推なわけですね?」
意味もなくまわりくどい言い方をする男だ。
こういう男に取り扱い説明書なんて書かせるとえらいことになるのだ。

「まあ、それはそうでしょうね」
小梅はこの非生産的にして白痴的な会話がどこへ向かうのかびくびくしながら相づちをうった。

倉橋はふうとため息をついた。
どう説明すれば、この分からず屋にものごとの真理を理解させることができるのだろうか、といったぐあいに。
28 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/12(土) 14:13
倉橋はふうとため息をついた。
どう説明すれば、この分からず屋にものごとの真理を理解させることができるのだろうか、といったぐあいに。

「それじゃ、ちょっとここで梨華ちゃんの肛門を想像してみてください」
この男はすごい球を投げ込んできやがる。
鼻先スレスレのピンボール。
万五郎の相手をしなれている小梅じゃなかったら命さえ危ない。

「・・・・梨華ちゃんのこう・・・もん?」
なにゆえに、そんなものをわざわざ想像しなければいけないのか分からなかったが、そこは素直な女子中学生、小梅は言われたとおり、「梨華ちゃんの肛門」を頭に思い描いてみた。
29 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/12(土) 14:14
「想像してみましたか」
「ええ、しましたよぉ」
ふてくされた声で小梅は答えた。

「ぼくもいま、梨華ちゃんの肛門を想像していました」

んげっ、変態ぃ!!!
女の肛門を想像している男の姿なんて生まれて初めて見たよ、あたしゃ。
ん?・・・っていうか、私がいままで知らなかっただけで、普通の男のひとって誰でも、好きな女の子の肛門に恋焦がれちゃったりするもんなのかな?
向こうの席に座ってる、あの真面目そうなサラリーマンも、総務課のOL、恵子さんの肛門を想像して胸がキュンキュンしてるところなのかも。
肛門で胸がキュンキュンするぅ?
略して「肛門胸キュンぅぅ」?
そんな感情がこの世にありうるなんて知らなかったよ。
私ちょっと人生観かわっちゃうかも。
と小梅が、男性の性欲の奥深さに見当違いな感慨をいだいて、一人で唸っているのを倉橋は黙ってみていた。
30 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/12(土) 14:14
「あの・・・、小梅さん。だいじょうぶですか?」
「んあ?・・・ああ、はいはい、だいじょうぶですよぉ」
「眉根をよせてウンウンうなってらしたから」
小梅を無意味にウンウン悩ませたのは、恐怖のアナルイマジネーター倉橋の責任である
と、ここで作者は気づいたんであるが、アナルイマジネーターってなんかカッコイイ響きではないだろうか。
ジャングルの奥地でたった一人、驚嘆すべきサバイバル技術で生き抜く、筋骨隆々たる男の姿が思い浮かぶ。
ふもとの村人は「アナルイマジネーターに会うと、魂を吸い取られてしまう」と迷信をたくましくしていたりするのだ、・・・・たぶん。
ってか、イマジネーターなんて英語があるのかどうかも分からんのだけど。
31 名前:西園寺小梅の活躍 投稿日:2004/06/12(土) 14:15
「で、話を本筋にもどしましょう」
と倉橋は言った。
本筋に戻ると言ったって、あいもかわらぬスカトロ話である。

「さて、ここで小梅さんが想像した梨華ちゃんの肛門と、ぼくの想像した梨華ちゃんの肛門。この二つの肛門は同じでしょうか?」

「もちろん違うでしょう、それは」
倉橋がどんな肛門を想像したのか、小梅はちらと気にはなったが、小梅のような小娘には思いもおよばないような、とんでもない肛門を想像していそうな気がしたので、聞くのはやめた。

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