作者フリー 短編用スレ 6集目
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/03(木) 00:54
- このスレッドは作者フリーの短編用スレッドです。
どなたが書かれてもかまいませんが、以下の注意事項を守ってください。
・アップするときはあらかじめ“完結”させた上で、一気に更新してください。
・最初のレスを更新してから、1時間以内に更新を終了させてください。
・レス数の上限は特にありませんが、100レスを超えるような作品の場合、
森板(短編専用)に新スレッドを立てることをお薦めします。
なお、レス数の下限はありません。
・できるだけ、名前欄には『タイトル』または『ハンドルネーム』を入れるようにしてください。
・話が終わった場合、最後に『終わり』『END』などの言葉をつけて、
次の人に終了したことを明示してください。
・後書き等を書く場合は、1スレに収めてください。
・感想、感想への返レスはこのスレに直接どうぞ。
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- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/03(木) 00:56
- スレ立てたんで自分で書きます。
田亀です。
- 3 名前:薬 投稿日:2004/06/03(木) 00:57
-
喉が痛い、薬をもっていないかね、
と、すぐ傍にいる女に訊ねると女はどこからともなく手品師のように薬を取り出し
いちいち猫の匂いのする笑顔と一緒に差し出した。
女はいつもほしい薬を持っている。
自分が不良を訴えるのを待ち構えて、そのくせのったりとした手つきで薬をくれる。
自分は毎度それを受け取ると大してきれいでもない台所に薬を放り込みながら水を飲みに行く。
鉄臭い水を口に含むのが気に入らない。
なぜそんなに薬を持っているのかね、
と訊ねるとやはり猫の匂いのする、しかし意味深な顔でふふ、と笑った。
表情もぴくりとも変えずに薬なら何でも持っているんですよ、とやたらやたら可愛い子な声で答え
濡れている自分の口の周りを洗剤と女の匂いのする袖口で丁寧に拭いた。
鼻から空気が漏れてすう、と言った。小さい頃を思い出した。
- 4 名前:薬 投稿日:2004/06/03(木) 00:57
-
読書をするもつまらず、勉強なんてつまらないときにするものではない。
音楽を聴くにもいい加減聞き飽きたと言えよう。
なによりもいい時間つぶしは目の焦点をあわせず見えない遠くを壁を透かしてみようとすることだった。
ただ、今日はどうもそれすら上手くいかないようだ。
茶色い古ぼけた壁がそこに立っているだけで壁にたまに現れる君の悪い顔は顔を出さなかった。
静かな空気もつまらない。
自分は暇つぶしが下手になったのか、と思えば前から下手くそだから今困っているのだと気がついた。
目新しいものは見つからない、女はそこにいる。
女はこっちを見ている。さっきから、もうずっと前からそうなのだが。
所々剥げかけた絨毯をむしるよりは女と話したほうが良いか。
すり心地が悪い絨毯の上で座り足を滑らせて遊びながら
何かに夢中にさせてくれる薬はないかね、
と訊ねた。
開けっ放しで放っておいた窓の外は風が吹いている。
古いこの部屋にしてみればその風は新しくなんだかこの部屋に申し訳ない気がした。
女は一度目を丸めてから細め笑い、ありますよ、と言った。
- 5 名前:薬 投稿日:2004/06/03(木) 00:57
- 少しも疑わずにくれ給え、とえらそうに言うと、女は目を閉じて少しだけ口を開けてといった。
間の抜けた雛鳥のように口を開けた。何の用心もなく目もしっかりと閉じた。
薬を口に入れられるのだから、と夕焼けを眺める程度に顔を上げてやった。
頬を涼しい風が通っていく。そのなかに女の甘い匂いが混ざっていて鼻をくすぐった。
呼吸が近づいてきたと思ったら女の体も一緒に近づいてきていた。
自分の口の中には期待していた錠剤やカプセルではなく、生暖かいざらざらとしたものが入ってきた。
それが舌だと気づいたときにはもう動けなかった。
柔らかい唇や動き回る舌。急にどくどくと自分の心臓が騒がしく鳴りはじめ、でも苛立ちはしなかった。
外から聞こえてくる子供たちの声はやかましく、少し気が散った。
唇は離れなかった。
風の代わりに彼女の黒い髪がかかる。
袖とは違ういい匂いだ。くすぐったさがあったけれどそれも欲しくなった。
やめたくなくて、唇を離したくないと誰かが言った。
口の中が女の体温で満たされてるのが気持ちよかった。
口内を弄繰り回されるのも気持ちよかった。
まさに夢心地。
- 6 名前:薬 投稿日:2004/06/03(木) 00:58
-
口を離したとき妙に寂しさを感じた。
口の中の温度が下がるように、なのに体は熱い。
頬が熱くても口の中はそうでもないのはなぜなんだろう。
夢中になれましたか、頬を赤くした女は可愛らしい猫に変わっていた。笑った。
なんだ、絵里のくせに。悔しいけれどまあ、悪くはない。
確かに夢中になったのだ。
この薬は効くね、もう一つくれないか、
とわざとらしく言うと女はまた近づいてきて夢の中に自分をいざなった。
おわり
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/04(金) 22:23
- 変わった文体ですね…!
妙に引き込まれました。ナイスです。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/06(日) 19:51
- 今更ですが間違い発見
>>4の君→気味
に直して読んでください。
- 9 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/12(土) 19:10
- は、はじめまして!!
あの〜、早速ですが、リクエストいいですか?
後紺、または藤紺をお願いします。
わたしは文章書くの苦手なので・・・
- 10 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:39
- 「なに・・・これ・・・?」
ありえないですよ・・・。
鏡に映った自分の姿。思わず見入ってしまいます。
「・・・耳?尻尾??」
頭頂から髪をかき分けて生え出る、ふさふさした黒い耳。
お尻から顔を出し、ぴくぴくと動いている黒い尻尾。
ひっぱてみると、
「いたっ!」
完全に身体の一部。自分の意志で動かます・・・。
私の周りの時が止まること、約10数秒。
「ええぇぇぇぇぇぇ???!!!」
猫耳、猫尻尾の生えた私、紺野あさ美は、
朝日が身を照らす自室の中で、爽やかに絶叫しました。
- 11 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:39
- ――――*
- 12 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:40
-
「・・・ムズ痒いよぅ」
風邪でもないのに仕事を休むわけには行きません。
私は耳を帽子で、尻尾をズボンの中に押し込んで隠し、現在タクシーの中。
「ん?何か言いましたか?」
「い、いえ!なんでもないです!」
小声で呟いたはずなのに・・・。
運転手さんは首を傾げたけど、それ以上は追求せずに再び運転に意識を傾けました。
私は安堵のため息。
その間にも、お尻のあたりがむずむず。
泣きそうです。はうぅ・・・。
- 13 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:40
- ―――*
- 14 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:40
- どうにかこうにか、スタジオに到着。
と同時に、一目散にトイレに駆け込み、尻尾を開放。
「ふあ・・・っ」
外気に晒されて、何故かとても気持ちいい。
でも、すぐに出してしまった恥ずかしい声に頬を染め、俯きます。
別に誰がいるわけじゃないけど・・・。
「・・・どうしよおぉ・・・」
この私の不安も、ご尤も。
だってだって!
仕事中まで帽子被ってるわけにいかないじゃないですか!
尻尾だって・・・あんなの我慢してたら、私、おかしくなっちゃいますよぅ!
うわーん!
第一、何でこんなことになっちゃったのー!
- 15 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:41
- 「あさ美ちゃーん?いるー?」
ひょぉっ!
ま、まこ、まここ・・・まこっちゃん・・・?
「あさ美ちゃーん?おーい、おじゃマルシェー」
未だ速度を緩めない心臓を、直にじゃないけど抑えながら、
私は何故か息を殺します。
しっかり、
もう、おじゃマルシェじゃないよ・・・。
と、ツッコミを入れるのを忘れずに。
「あっれー?おかしいなー?
ここに入っていくの見たんだけどなぁ。見間違いかなぁ・・・」
だんだんと遠くなるまこっちゃんの声に、私はホッと胸を撫で下しました。
ごめんね、まこっちゃん。
今尻尾が出てたから、出るに出れなかったの・・・。
心のうちだけで謝罪して、いそいそと尻尾をしまいます。
その間今日のスケジュールを頭に思い浮かべて、血の気が引きました。
「今日って・・・雑誌の撮影・・・」
- 16 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:41
- 三枚に下ろされ身を削り取られ、
それをかき混ぜられて丸くされ、
暖かく、そしてほんのりお酒の効いただしの中に放り込まれた気分。
目の前が白くなり、頭の中がミキサーされます。
あぁ・・・終わりだ・・・。
折角、アイドルとしてやってきたのに・・・。
やっと国民の皆さんにも、私が紺野あさ美ですって認知され始めたのに・・・。
きっとパパラッチの方々に、
パシャパシャと惜しげもなくこの醜態を取られて、
明日の朝刊にでかでかと載るんだ・・・。
「・・・諦めよう・・・」
うな垂れながらトイレから出て、楽屋に向かいます。
頭の中には、目にモザイクを掛けられた私の写真。
想像すればするほど、大きくなるため息。
「・・・はぁ・・・」
今歩いているこの廊下が、
永遠に続いてくれればいいのに・・・。
今日は心からそう思いました。
- 17 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:42
- ――*
- 18 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:42
- 「・・・ぉはようございます」
「いやいや、暗いから。周りの空気、重いから。」
楽屋の扉を開け、声を振り絞っての挨拶。
それに見事な突っ込みで返してくれた藤本さん。
でも、今の私にはそれに何か言い返す元気も無く・・・。
「・・・すいません」
「いや、だからね、暗いって紺ちゃん。ほら、もっと明るくいこうよ」
「・・・はぁ」
「あの、だからね・・・」
気の無い返事だけを返し、
荷物を置いてソファに身を沈め、そこで、気付きました。
「・・・あの、皆さんは?」
それなりに広い楽屋。14人もいるんだから当然だけど。
その楽屋に、何故か今は私と藤本さんだけ。
他の人たちは、影も形も見当たらない。
- 19 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:42
- 「ん?ああ、えーっとねぇ・・・帰ったよ」
「・・・はい?」
えーっと、あの、何を仰ってるんですか、そこの藤本ミキティーさん?
今日は仕事ですよ?
雑誌の撮影ですよ?
明日私の人生が終わる、最悪の仕事ですよ?
「・・・雑誌の撮影は?」
「ああ、あれ。何かスタッフさんが全員食中毒にかかったそうで、中止だってさ」
「・・・・・・マジッすか?」
「え?いや、マジだけど・・・どうしたの紺ちゃん?」
…
……
不肖ながらこの紺野あさ美、今年17歳。
叫ばせていただきます。
「やったー!終わりじゃない!終わりじゃないんだー!!」
- 20 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:43
- このとき私は忘れていました。
今猫耳、猫尻尾が私の身体の一部だということを。
私の感情が浮き沈みするごとに、
それらも反応してしまう、ということを・・・。
「こ、紺ちゃん・・・どうしたの、それ・・・?」
「え?――あぁ!?」
慌てて、床に落ちた帽子を拾い、
押さえつけるようにかぶっても、時既に遅し。
というか、尻尾を隠せていない時点でもう駄目なんだけど・・・。
「み、耳・・・尻尾・・・紺ちゃん猫・・・?」
「あああああ!藤本さん、見ないでくださいぃぃぃ!!」
「ふぅ、危なかったと。もう少しで携帯わすれ・・・」
「もう!何でわすれる・・・」
- 21 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:43
- 最悪最悪最悪・・・。
なんで、どうして?
神様、私何かいけないことをしましたか?
それにしても、この仕打ちは酷すぎはしませんか?
「こ、紺野さん・・・その格好・・・」
「ね、猫耳・・・」
「い・・・」
呆然と、私を指差してわなわなと震える田中ちゃんに亀井ちゃん。
一瞬だけの間があき、私は・・・
「いやあぁぁぁぁぁぁ!!!」
ムンクの叫びも真っ青に、絶叫しました。
- 22 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:44
- ――
―――
- 23 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:44
- 「・・・で、朝起きてたらそうなっていたと?」
どうにかこうにか落ち着いて、状況説明。
藤本さんはやや腑に落ちない顔をして、こちらを見つめています。
「・・・何か、変なモンでも拾い食いしましたか?」
「絵里・・・ふざけてる場合やなかね」
「真面目だもん」。そう言って頬を膨らまし、拗ねる亀井ちゃん。
それを慌てた様子で慰める田中ちゃん。
常日頃は、いい感じのカップルだなぁとか思ってたけど、
こうも腹の立つものだったとは・・・。
私のピンチのときまでいちゃつくんじゃねー・・・。
「・・・紺ちゃん、顔怖いよ」
「え?!あっ・・・」
いけないいけない・・・思わず、睨んじゃってたみたい。
パンパンと。
軽く頬を叩いて、藤本さんに向き直ります。
- 24 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:45
- 「・・・で、何か本当に心当たりないの?」
私の頭から生える黒い耳を、興味深そうに触りながら。
藤本さんはそう尋ねてきます。
あ・・・そこ、こそばゆいです・・・。
「そう・・ん・・・言われましても・・ひゃ・・本当に・・・あ」
「ん?どうしたの?」
妙なくすぐったさに身を捩っていたとき、ふと頭に浮かんだ昨日の出来事。
まさか、あれが・・・。
いやいや・・・ありえないよ・・・でも・・・。
「まさか、昨日の・・・あのおんぼろ神社・・・?」
「神社?」
浮かんでくるは、もう限界すれすれの神の社。
所々柱が腐り、コケが生え、クモの巣なんか張り放題。
でも、何故か私は惹きつけられてしまって・・・気付いたら・・・
「お金をいれ、お願いをしていた、と」
「・・・はい」
奮発して、1000円も入れてしまいました・・・。
- 25 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:45
- 「紺野さん、それなんていう神社ですか?」
亀井ちゃんが口を開く。
私は社のところに飾ってあった看板を思い浮ます。
え、えーと・・・なんだったか・・・あ、そうそう!
「確か、『薔薇神社』だったかな。何かおかしい名前だよね」
「・・・やっぱり」
神社の名前を聞いたとたん、亀井ちゃんは思いっきり脱力。
田中ちゃんが心配そうに眉を細めるけど、それに笑顔で返して、顔を上げ。
でも、私に向けられたのは、どこか申し訳なさそうな・・・そんな表情。
「実は・・・わたしもそこでお願いしたことがあるんです」
バッと。
亀井ちゃんに三人の視線が集まりました。
すると、どうしたんだろう?
頬を少し赤く染め、俯きがちになってしまいました。
顔を上げることはなく、か細い声で紡がれた言葉に、私は唖然としてしまいました。
「・・・あの神社って、ヒトの願いを本当に叶えてくれるみたいなんです。それも、恋愛についてのこと限定で」
「ああ・・・それで『薔薇』かぁ・・・」
藤本さんが納得したように頷きます。
いや、あの・・・確かに『薔薇』の花言葉は『愛』ですけど・・・。
ちょっと、無理がある気がしませんか?
…じゃなくて!
- 26 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:46
- 「そこでお願いして、わたし、れいなと・・・」
「な!えり、それほんま?!」
ゆっくりと、首肯。
まるでりんごの様に、頬が真っ赤。
「えり・・・そんな事しなくても、れいなはえり一筋だったとよ?」
「わ、わたしだって・・・!でも、どうしても、心配で・・・」
「ったく。そんな顔するから幸薄いなんていわれると。もっと自信、持ったほうがよかよ」
「・・・うん!れいな大好きー」
「・・・れいなもやけん」
扉が開けられ、そして閉められ。
完璧に二人の世界に入った二人は、私たちのことは完全に無視して楽屋を後にしました。
呆然と、扉を見つめる私と藤本さん。
…どうしろと?
黒い耳がぴくぴくと動いているのが分かります。
「・・・で、紺ちゃん。どんなお願いしたの?」
未だ「信じられるかっ!」といった表情の藤本さん。
鋭い目がやる気の無いように細められ、これはこれで・・・。
「いや・・・まあ、その・・・」
「非常事態なんだから、言い惜しみしてないの」
- 27 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:46
- いや、あのー・・・。
あなたがいる前だといいにくいんですけど・・・。
仮にも私たちは付き合ってる仲ですけど、こう面と向かって暴露するとなると・・・。
「・・・ぃく・・・って」
「はん?何?聞こえないよ」
…逆効果でした。
恥ずかしくてぼそぼそと呟いたんですけど、
藤本さんは聞き取るために耳を近づけてきて・・・。
熱いです・・・私の体温は、いまや、昼のサハラ砂漠波でしょう・・・。
…
……
ええい!私も女です!
覚悟を決めましょう!
「もっと可愛くなりたかったんですよ。
そうすれば藤本さん、喜んでくれるかなぁと思って・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?・・・・・・・・・・・・・・・」
- 28 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:47
- ああ!
恥ずかしい!
死んでしまいたいぐらい、恥ずかしい・・・。
ほら、藤本さんだって目が点になってるじゃないですか・・・。
「こ、紺ちゃん・・・ミキのために・・・?」
「・・・恋人に自分を可愛く見せたいというのは、当然のことです」
一瞬で。
藤本さんの顔が熟したトマト並みに赤くなりました。
視線が部屋の中を右往左往。
何となく・・・気まずい雰囲気。
「・・・ええと、まあ・・・可愛いけどね・・・」
「・・・え?」
「・・・だから、可愛いって。いつも以上に、すっごく可愛い」
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分。
私たちは二人そろって赤くなり、俯いてしまいます。
と、その時。
「ひゃん?!ん・・・あぅ・・・!」
「ど、どうしたの紺ちゃん!紺ちゃん!!」
突然、身体の中を電流が駆け抜けたような気分になりました。
ドキドキが増して・・・息が苦しい・・・。
ああ・・・っ!
何、これ・・・怖いよぅ・・・。
どこかへ行っちゃいそうで・・・怖いよぅ・・・。
「ふ、じもと・・・さん。こわ、です・・・と、しま、いそうで・・・」
声も切れ切れに。
私は言葉を紡ぐけれど、言葉にならず。
藤本さんを求める手は、空をかきます。
「紺ちゃん!」
- 29 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:48
- 意外にがっしりとした、その身体。
優しく包んでくれる、あなたの温もり・・・。
僅かだけど、確実に、先程よりも心が落ち着いてきます。
「大丈夫!ミキがついてる!」
「ふじ、も・・・さ・・・あ、ぁあぁァ!!」
パッと、私を中心に強い光が放たれ、
それは瞬き一回の間に掻き消えました。
ドキドキがやっと収まって、私は荒い息を付きます。
「大丈夫、紺ちゃ――ああ!紺ちゃん!耳が無いよ!」
うっすらと目を開けて、
頭に手を伸ばして、確認。
…無い。
尻尾は?
…無い!
「・・・も、戻ったぁ〜」
ガックリと。
私は藤本さんの腕の中で脱力。
でも、どうして・・・?
あ、まさか。
「・・・藤本さんが可愛いって言ってくれたおかげで戻れたんですかねぇ?」
- 30 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:48
- 「へ?ミキ?」
「はい。私の願い『藤本さんに可愛いって言ってもらう』でしたから。普段あんまり言ってくれませんからね」
そして私は苦笑。
まあ、何にせよ、願いが叶ったことだし良しとしましょうか。
…いや。あんまり良くないですよ。
なんですか、あの戻るときの感覚は・・・?
あれじゃあ、まるで・・・。
「ふ、藤本さん!これからどこかに行きませんか?」
思わず深いところまで考えそうになったのを、無理やり停止させ、
藤本さんの手を引きながら立ち上がりました。
「・・・ミキに可愛い・・・ってことは、ミキが・・・」
でも、藤本さんの魂ここにあらず。
顎に指を当て、何かブツブツ呟いています。
…不気味です。
「・・・よし!やってみよう!」
「???」
やっと終わったと思ったら、今度は私に向き直って、にんまりと笑う藤本さん。
………不気味すぎます。
- 31 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:49
- 「紺ちゃん・・・」
「・・・何ですか?」
「・・・可愛くないよ」
ポンッ!
「やったぁ!成功だぁ!」
ポンって、何ですか?
さあっと青ざめ、嫌な予感がびしびし肌に伝わります。
ああ、確認したくない。
確認したくないけど・・・。
「なんでえぇぇぇぇぇ???!!!」
「ミキに可愛いって言われるのが願いだったんならさ、それが叶うまで猫耳は必要だよねぇ」
ニヤニヤと笑う藤本さんを睨みながらも、
私は愕然とし、その場にへたり込んでしまいます。
私の両手にはふさふさとした感触。
お尻のあたりにも、嫌だけど手を持っていくと、こちらもまたふさふさ。
- 32 名前:紺猫パニック 投稿日:2004/06/12(土) 21:49
- 「紺ちゃん猫〜」
「何てことしてくれるんですか!藤本さん?!」
「だってー、紺ちゃんの猫すっごいかわ・・・っと。愛くるしいんだもん」
私に擦り寄りながら、耳や尻尾を撫でまくる藤本さん。
あ・・・そこ、やめてください・・・。
「それに、さっきの艶かしい声聞いてたら、我慢できなくなっちゃった」
「え・・・ふぁ!そこ、だめですぅ・・・」
「ああ、もう!愛くるしすぎる!
誘ってるんだね?!誘惑してるんだね!?
よぉーっしゃ!!ミキにお任せぇ!!」
それから、光の如き速度で楽屋の鍵をかけ、私をソファへと移動させます。
私は、その間、耳や尻尾に触られていて、力がはいらず・・・。
藤本さんにされるがままです・・・。
「紺ちゃん・・・ハアハア、イイ!良すぎる!ハア・・・もういただきます!!」
「ひゃあ!藤本さ・・・んぁ!やはぁ・・・!」
それから半日、
私は猫のまま、休み無く攻め続けられました・・・グスン。
END
- 33 名前:紺猫パニック作者 投稿日:2004/06/12(土) 21:50
- すいません・・・ただそれだけです_| ̄|○
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/12(土) 22:37
- 面白いです
作者さんは誰だろう?
- 35 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:05
-
早とちり
- 36 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:06
-
あーあーあー、やってらんねーやってらんねーやってらりゃしない。そうやってなっちだけ仲間はずれですか、そうですか、知りませんでしたよ、知らなかったのはなっちだけでしたか。
赤っ恥じゃねーかよ、へへ、なっちだけ知らなかったみたい。さらっといい感じの話でエッセイに書いちゃったのに。えへへへ、なっち赤っ恥!圭織、裕子、圭、虫!!そうやってなっちがかわいく、てへへ、なんて笑ってられんのはお前らの前だけなんだからな!!覚えとけよ裏じゃ怖いんだからな!!!たまに見るインターネットとかであることないこと書いちゃうんだからな!!!!
- 37 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:06
- ふぅっ、あ〜ぁ、切ないよ、全く……仕事以外の時間はプライベートな時間だからって、できるだけ連絡しないようにしてたのにさっ。なにさ、みんなでたまに集まってお酒飲んでたりしたなんて。それを何気ない会話の中で、至極当然のように聞かされたなっちの気持ちがわかるかい?わかりゃしねーだろーさ。てっきりなっちはみんなと仲良しで、どっちかっつーと外れがちなのは圭織と裕ちゃんだと思ってたんだから。
え?なっち、聞いてなかった?そう矢口がものすごく驚くもんだから、それがまた嘘臭いのなんの。なっちは誘い難いって?このバカオリ。仲間じゃないのかい?ってなっちは聞くさ、当然のように。なっちは仲間だと思ってたんだから。したらなに?そりゃそうや、なっちは仕事仲間だもんだとぉ?なっちはその裕ちゃんの言葉を聞くまでは、仕事と仲間というのは切り離せないものだと思ってましたよ。ええ、はい。
- 38 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:06
- ああ、そうだよね、なっちの唯一の仲間のグラスくん。さっきね、君の仲間がなっちに砕かれたよ。なっち、笑顔でうっかり間違えましたって感じでテーブルからグラスを落としちゃったんだけど、あれ実はわざと。圭織とか矢口とかはね、金持ちなのにエコとかやってて一日紙コップ一個しか使えないの。けど、なっちは娘。でもないし仕事仲間なだけだから、その辺はドライに新しいグラスを使うの。そう、腹いせ。圭織とかは仕事仲間じゃなくて、仲間だから。誰にも私の意図は伝わらないで、ただのおっちょこちょいってことで片付いそうたけど。そう、君は優しいよね、なっちの話だまって聞いてくれて。君の仲間を無残にも亡き物にしたってのに。君の淵にべっとりついた口紅はね、なっちのなんだよ。これをインターネットで売りに出すとね、すっごい高値になるんだから。自分を売りに出すといいよ、できるものならねっ!
- 39 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:07
- すーー、ごぉ〜〜〜がしゃんっ、がらんぐらんごわんとんじゃらがらじゅらぐわん……足元の罅入ったアスファルトにはじんわり水が黒く滲みていて、それが汚いから顔を上げると、今度はもっと汚い世界。無精髭の汚いおっちゃんが中途半端に立派なリアカーと壁に挟まれていて、あちこちがささくれてる木のテーブルになっちは手を置いていて、隣を見てみりゃ、油ハゲ、腋臭デブ、眼鏡デッパ、この狭い空間に高密度のなか日本を代表する汚いおじさんたちの集結で、しかも垢で白く汚れた元透明の厚いビニールで覆われているもんだから、酸っぱいのなんのって。染みついちゃいそう。あぁ最悪。まあ、堕ちる時には、とことん堕ちればいいのさ、だってなっちだもん。デブのレコード保持者だもん。向こう一週間なっちの体臭が酸っぱかろうが、たいしてマイナスイメージにはならないさ。もしかしたら、なっち、なんか悩んでるんじゃないかって誰か心配してくれるかもしれない。なっちだもん。
まあ、それにしてもガード下の屋台というのはなんでこんなにプライベートが守られるんだろう。誰一人なっちに気付きやしない。それにしても、なっちは大きな思い違いをしていたのかもしれない。仕事と仲間は分けられるものだということは、もしかするとプライベートっていうのは…………閃きって思考には繋がらないものなのよね。ゲハゲハブデブデ顔が赤黒くなったおじさん達が唾飛ばしながら腹から声出してるからよ。
- 40 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:07
- 「おっちゃん、酒!!」
なっちはぐいとグラスを突き出して、「おい注げよオヤジ」「今日はとことん飲みたい気分なんだよ」「いやいや飲みすぎですよ、旦那。今日はそろそろこの辺りでやめといた方が」「いいから黙って酒だせよコノヤロー!今日はそういう日和なんだからよ、めでてー日なんだよ」そんなことを言ってたら隣に座ってた眼鏡デッパがこんな時にだけ耳ざとく聞きつけやがって、なんだい、いいことがあったなんて、そりゃあ景気のいい話だねぇ、じゃあ俺の酒飲みなよ、なんて酌み交わしちゃってさ、気がつきゃ肩組み合って大合唱……みたいな流れを期待してたのにさっ。
「あいよ」
屋台のおっちゃん、無表情で酒注いだりなんかしやがる。なんて孤独なロンリーマイなっち。そんな時に限って不幸は重ねて来やがるから困ったもんだ。携帯がブルッと震えて開いてみたら愛するののからメール。ののぉ!!思わず声に出ちゃうくらいに嬉しかったわけだけど、馬鹿みたいな顔したイトオシのの、その写真メールの隣には圭織がいるではないか。なんなんだこの嫌がらせは。
- 41 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:08
- まあ、とにかく頭にきたなっちは、万札テーブルに叩きつけてその辺にあった一升瓶持って外に出てみると、あら不思議。都会の喧騒なのにずいぶん気持ちがよくて、言うなれば裸でベランダに出てみた北海道の夏の夜。しかし神は天使に試練を与え給うた。ぶりりと携帯震えりゃ、圭織がののとあいぼんに挟まれほっぺにちゅー。ずどんと天地が揺れてなっちの頭はぼわんぼわん。しっとり冷たく手馴染む一升瓶がなっちの友達。
- 42 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:08
-
深夜のここはなっちのオアシス。昼間の喧騒が嘘のような嘘かもしれない、そうきっと何もかもが嘘なんだ。そうに違いない。そう信じたい。けたたましいんだよ、バイブの音でも。便利じゃないですよ、こんなの。っていうか、また圭織?なんかなっちに恨みある?……「地球は体育館何個分?知らねーよ!ひょっとして圭織、なっちをバカにしてんのか?それとも小バカにしてんのか?」ごぉーって急に音がして、なっちの背中は何かにべったり。紺色のくっさいオンナが現れて「迷惑だから止めて頂けますか?」「わかってらい、こっちだって圭織には迷惑してんだ」「それならいいのですが、他のお客様にも迷惑なので」迷惑迷惑ってあんたの笑顔と香水そのものが迷惑なんだよ、このどてら女。「あと、非常に申し訳ないのですが、そのお手元の……」こいつはなっちのマイフレンド一升瓶。ちょいとこいつは手放せねぇ。じんわり暖かく滑る…滑る?おお、マイフレンド、こんなにも痩せ軽くなってしまって!はぁ?なんだ?ちゃぶ台オンナめ。コーヒー?いらないよ、なっち、もう懲り懲り。つーかこの蝿取り紙オンナ、笑顔が怖いんだよ、何か張り付いてんのか? くぅ〜、笑う時はどんな顔?笑う時はグッと歯を見せて頬を上げるでしょ?そう大人に怒られた子役ダンサーか。まだいたのかよサンポールオンナ。「ですが一升瓶は……」あー、誠意が伝わらん。ぞろぞろ集まりやがって。ぺスにブスにハグキにヤニに……なっちの精神は混沌そのものですか、ああ、そうですか。だって、仕事と仲間はむにゃむにゃむにゃ……
- 43 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:08
-
あっと気付けば紅い海。右手には一升瓶、やはりこいつはマイフレンド。朝なのか夕方なのかはわからない、靄の感じで恐らく朝。というかここはどこだ。お酒飲んで、とそこまで思い出してびびってパンツを確認。ちゃんと履いてる、捩れもない。どうやら貞操だけは守られた。なくしたものは?鞄も財布も時計も携帯も全てある。奇跡かもしれない。神様は乗り越えられる人にしか試練を与えないなんててきとー言ったことあるけど本当のことなのかもしれない。なっちはきっと、知らぬ間に何かを乗り越えたんだ。
とりあえずここはどこなのだと見回すが、白い砂浜、ホームレス。てらてら光るボロを引きずり、黒い顔にほつれた長髪。紅くて暗くてぼんやり白い海岸をぼろぐろぬらぬろ……生命の躍動を感じないと言うよりもむしろ死そのもの。がらんどうのはりぼてのはずなのに、やけにリアルだなぁ。なっちは今どこにいるんですか?なっちは今どこにいるんですか?誰かになっちの声は届いているのですか?悪い夢なら目覚めなくていいので、このまま薔薇色に塗り替えてください。ええい、もう、こなくそ!ごめんなさいごめんなさい。何が何だかわかんないけどごめんなさい。……なぁんて謝らないもんっ、なっちは!
- 44 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:09
- 前ばかり向いていても仕方ない。そうさ、なっちは前ばかり向きすぎてダメになってしまったんだから。前ばかり見てたせいで、なっちガードの後ろはもうボロボロ。だけどもう大丈夫。さらに強固ななっちシェルターを手に入れた今、過去なんか怖くないぞ。振り返るのなんて如何に容易いことか。走り続けるだけではなく、バック走だってできるようになったんだから。しかも今は後ろを見てみるだけなんだから。さあ、振り返るぞ!なっちはもう悩みも迷いと上手に付き合っていけるんだから。何も怖くないもん。おそるそろりと振り返ると、いい感じに浮かれた南国樹木。
ほーら、後ろを見たって平気だ。だがしかし、なっちはなっちの目を疑う。ドームがあるいではないですか。何ドーム?これ。でっかく白くて、ぽっこり丸い・・・あぉう!ハピサマかむばぁーっく!!しっかりしろ、なっち。何をそんなに取り乱しているのだね?自問自答を始めちゃいけない。いけない、いけない、マジでいけない。どっちかっつーと、いけないというよりもダメ、やめておけ、踏み込むな、というよりもやっぱりいけない。なっちだけが仕事仲間で、圭織とかは仲間だったってだけ。なっちと仕事と安倍なつみは、もう切り離せないところまできてるっしょ?でっしょ?だからいいんだよ、仕事仲間だろうが仲間だろうが、なっちはなっち。これまでの娘。としての時間は悲しいものになったりもしないし、誇るべきものなんだからぁ!なっちの娘。の日々は、誰にも否定させない。
- 45 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:09
- あれ、なんか臭い。うっすら臭いというよりはっきり臭い。「おい、ねぇちゃん。その酒くんねぇか?」黒なのか灰なのか白なのかわかんない髪がなっちのすぐ目の前にある。濁って澱みきっている目がなっちを見てる。死者なのかホームレスなのか、目の前の塊は、黄色い歯と赤黒い舌を唾液でねっちょりさせながら言った。「その酒、くれってよ。なんなら……」
知るかボケがぁああああ!!!!!──右手の一升瓶を、思い切り塊に叩きつけた。ぱりんと硬い音がして、がしゃらんと世界が罅入ると、目の前は風船が割れたみたいにしゅるっと収縮、じゃらじゃら何かが砕ける高い音がした。
「ひっ」矢口が小さく悲鳴をあげる。「ちょっと、さっきからなにしてんのさ、なっち」圭織が恐る恐る割れたグラスを集めている。「なっち、話聞いてたか?」裕ちゃんが呆れたようになっちを見てる。「え?え?」なにがなんだかさっぱりわからんち。だじゃれ?なっち、自分で自分がわからない。「あの、すいません、箒と塵取りってあります?」大きな硝子片を掌にのせた圭織が近くのスタッフに聞いた。すぐに持ってきます、とスタッフは楽屋を出て行く。「なにやってんだよ、なっち!ボーっとしたり、いきなり持ってたグラス叩きつけたり!!」矢口に頭を小突かれた。「で、どうなん?来るやろ?わざわざマネージャーさんに仕事の予定、合わせて空けてもらったんやから。来週の水曜、圭織の家で……」あ〜、なっちったらうっかり早とちり。
- 46 名前:早とちり 投稿日:2004/06/13(日) 23:10
- END
- 47 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/14(月) 19:58
- 33<紺猫パニック作者 さま。
ありがとうございます(?)
猫耳の紺ちゃん、想像しちゃいました(笑)かわいいなぁ・・・。
とってもすばらしかったです!
続編か別の話、待ってます!
紺野さん入り希望・・・
- 48 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:38
-
仕事が終わってすぐだった。
れいなが絵里にさそわれたのは。
「さゆには内緒ね」
絵里はにたにたしながら、れいなの耳元にささやいた。
そして、ふっと息を吹きかける。
れいながびっくりして、なにごとかと絵里を見る。
絵里は、うふん、とウィンクで返した。
- 49 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:38
-
「あのね、絵里ね、すっごい焼肉屋さんみつけたんだ。
映画で沖縄行ったときの店の味にそっくりなの」
れいなは、嫌なことを思い出した、としかめっ面になる。
しかし、絵里はそんなことに意を介さず、とろけてしまいそうな笑顔で続けた。
「絵里ね、あのね、ずっとれいなに悪いと思ってたんだ。仕事だけど絵里とさゆ、
沖縄行って、れいなは行けなかったでしょ?で、そこで焼肉肉食べちゃったでしょ?
だかぁね、この前そのお店に行ったときね、これだぁ、って思ったの」
「で、なんでさゆに内緒なの?」
「さゆは、れいなに沖縄で焼肉食べたのバラしたからだめぇ!」
絵里はかわいらしく腕をくみ、ほっぺを膨らませて、首をつんと振る。
れいなにはさっぱり意味がわからない。
絵里の不可解な行動は慣れたつもりだったが、今日のは二つ三つ軽く飛びこえている。
『大人しく密やかに堂々と自己主張』がモットーの絵里には珍しいことだ。
- 50 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:39
-
「いや、別にれいな、気にしてないから──」
「だめっ」
絵里のはふくれっ面を右に振る。
「でも、みんなで食べたほうが楽しいよ?」
「だめぇ」
今度は左。
「あ、さゆ帰っちゃうよ。いいの?」
「だみぃ」
唇をつきだして、再び右。
「でしょ?」
「……いや、今のはだめじゃない」
- 51 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:39
-
──
絵里の勢いに巻き込まれ、ほとほととタクシーに乗せられたれいな。
着いた先は、絵里の家だった。
タクシーを降りるや否や、両手を合わせて絵里が言った。
「ごめん!絵里の部屋、今、すっごい散らかってるんだ。ちょっと待っててね」
れいなを玄関に待たせ、絵里は一人で家の中に入ってしまった。
「え?…ちょっと、絵里?あの…焼肉……」
綺麗に染まった梅雨の切れ間の夕暮れ。
まっしろな雲が夕と夜を受け、オレンジと藍を帯びている。
いつもならその美しさに溜息をこぼすのだろう。
が、れいなはなんだかバカにされた気分になった。
- 52 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:40
-
絵里が家にこもってからたっぷり一時間、陽もとっぷり暮れた。
途中、裏庭の方からガサガサと物音がしたくらい。
悲しいくらいに何もない無駄な一時間。
「玄関灯くらい、つけたっていいよね」
本気で泣いてしまいそうなれいなだったが、それでも帰らなかった。
帰れなかった。
絵里が10分おきに、玄関からちょっこり顔を出すのだから。
「ごめんね、れいな。もうちょっとで終わるからね」
邪気のない笑顔でそう言うものだから、
れいなもそれを無下に帰ることもできない。
- 53 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:40
-
8回目の「ごめんね」の少し後だろうか。
「お待たせぇ」
エプロン姿の絵里が、わざとらしく鼻の頭にクリームをのせて登場した。
「おかえりなさ〜い」
「ごはんにします?それともお風呂?」
あっけにとられるれいなの鞄を奪った。
「ごはんにします?それともお風呂?」
ぽっかり口が開いてるれいなの上着をはぎとった。
「ごはんにします?それともお風呂?」
呆然と立ち尽くすれいなの靴を奪い取った。
「じゃ、ごはんで……お願いします」
あまりの出来事に、れいなは気付かなかった。
絵里が裸エプロンだということを。
- 54 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:40
-
きゃっきゃとはしゃぐ絵里に背中を押されるまま、テーブルについたれいな。
とりあえず、絵里には服を着させた。
そして、何となく事が読めてきたということで、少なからずの反撃。
「絵里、ここでハンバーグとか出したら、ただじゃ済まないけんね」
ふぅん、と得意気な絵里は、そんなことないもん、と言い、黙って皿を出す。
しかし、れいなの予想通り、チーズの乗ったハート型っぽいハンバーグ。
「しゃーーっ──」
「あぁ〜ん。れいなのために一生懸命作ったのに、形くずれちゃったぁ。
絵里のばかばかばかばかぁ〜」
恐らく、絵里は練習していたのだろう。
あれもこれも何もかもが予定調和。
『ここまでやれば、意中の彼はクランクラン』
絵里が熱心に見ていた雑誌に、そんな特集が組まれていたことをれいなは思い出した。
そんな下らない雑誌を世に送り出した出版社を、
そして、なんて間抜けた企画だと、鼻で笑っていた自分自身を恨んだ。
しかし、れいなは悪くない。
そんなものに感化されるバカが近くにいるなんて、どうして予想できよう。
- 55 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:41
-
れいなはあきらめ、おとなしく箸を手にとった。
うっすら黒く色のついたハンバーグの中心に箸を入れると、サシの入った赤い生肉。
火の通った部分は、ボロボロと零れ落ちる。
「絵里さ、これパン粉とか入れた?」
「ふぇ?」
「いや、ハンバーグってさ、パン粉をつなぎにしないと崩れちゃうの」
「なぁんで、なぁんでぇ?」
甘えきった絵里の高音がれいなの耳をつんざく。
「なんでって言っても、そういうもんなの」
「でも、でもぉ……マクドナルドは牛肉100%で、牛肉以外は使ってないのにぃ……」
絵里はエプロン胸元のフリルを噛み締めた。
「うん、そうだね。絵里が正しい、ごめんれいなまちがってた」
仕方なく、端の焼けている所から剥ぐように、形にならないハンバーグを食べるれいな。
頬杖ついて、それを愛しそうに見つめる絵里。
- 56 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:42
-
絵里がれいなのほっぺにごはん粒をつけた。
「やだぁ、れいな。ごはんつぶついてる」
それを当然のように取り、食べた。
「うふふ、れいなったら、せっかちさんなんだからっ」
れいなが焼けた部分をほぼ食べ終えた頃、絵里が言う。
恥ずかしそうに声を潜め、上目遣いのにこやか笑顔。
「あとさ、今日、家族、旅行で帰ってこないんだ」
「あ、そうなんだ」
「んもう、照れちゃって♪どういうことだかわかってるんでしょ?」
絵里はそう笑って、れいなの額をつんとつつく。
そして、エプロンのポケットからアレを取り出した。
「じゃーん!」
「なにそれ?」
「コンドーム」
「はぁっ!?」
「だって、妊娠は怖いでしょ?」
「いや、れいなついてないよ、ついてないから」
「じゃあ、どっかにつけてよ」
- 57 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:42
-
──
これは天災に近い。
甘ったるいが、断る余地を与えない絵里の波状攻撃に、れいなは疲れ果てていた。
抵抗する気は完全に失せている。
れいなは言われるがまま、二階の奥、絵里の部屋に来ていた。
覚悟して入ったれいなではあったが、とりたてておかしな部分は見当たらない。
綺麗に整えられたベッドに、薔薇の花びらが散らされている以外は。
ノックする音がし、絵里の声が聞こえる。
「れいな〜、入るよぉ」
れいなは身構えた。
バスタオル一枚で来るだろう程度の覚悟はしてある。
「失礼しまーす」
れいなの予想に反して、絵里は慎ましやかに浴衣姿で登場。
「あれ?」
「ん?なぁに?」
絵里の結い上げた髪はしっとり濡れて、それが艶かしい。
「……え、あ、いや、なんでもない」
れいなは、思いもかけずドギマギしてしまう自分が悔しかった。
- 58 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:42
-
が、それもここまで。
絵里はおもむろに帯の結び目をほどき、慌てた演技。
「あ、あ、あ!帯がほどけちゃったぁ。あーん、れいな、ほどいてぇ〜」
れいな、大きく脱力。
絵里はそれを見受け、自分で回転。
くるくると帯がほどけ、絵里は浴衣をざっと羽織った半裸状態。
「ゴメン、絵里。れいなもう帰るわ」
ついていけない、と言わなかったのは、せめてもの思いやり。
こんなバカ、滅多にいるものではないが、絵里本人は一生懸命だ。
- 59 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:43
-
絵里の脇をすりぬけ、部屋から出ようとするれいな。
そして、それを引きとめようとする、絵里の切ない声。
「絵里に永遠の愛を誓ってくれたのはウソだったの?」
「はぁ?誓ってないよ」
「いーや。絶対に誓ったもん。ぜぇーったい」
「え?」
「絵里がさくらで兵庫にいるとき、電話でそう話してくれたじゃない」
「そうだっけ?」
「うん、誓ってくれた。れいなには絵里しかいないって」
「そっか」
「そんなこと、あるわけないじゃない」
どっから聞こえた?
れいなと絵里の声ではない声が、どこからか。
- 60 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:43
-
何にせよ、れいなを引き止められたということで、絵里が詰め寄る。
「れいな、絵里の純潔を貰って?ね?」
れいなをベッドに投げ飛ばす。
「絵里、体も心も準備できてるから……」
羽織っていた浴衣を脱いだ。
「絵里ね、れいなだから許せるんだよ?」
れいなの肩を押さえ、顔を近づける。
「やっちょりゃれりゅがあ゙ぁ〜〜〜!!」
れいなは絵里をひっくりかえし、頬を張り、声にならない声をあげた。
- 61 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:43
-
ニュージャンルの鬱屈が爆発したれいな、絵里に浴衣を羽織らせる。
そして、何度も深呼吸を繰り返し、気を落ち着かせて言った。
「……冷静に行こう。…あ、そうだ。この人形、モノマネできるんでしょ?やってよ。
れーな、10回くらい連続で聞きたい。あの絵里、すっっごいかわいかった」
絵里は手で目隠して、そのモノマネの時のお決まりポーズ。
「いいよ!…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜…もぉぐもぉぐもぉぐもぉぐ、うぇ〜、うぇ〜 はい、おわり。かわいかったぁ〜?」
れいなは帰ってしまっていた。
- 62 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:44
-
きょとんと頭をおさえた絵里が、首を傾げた。
「あでぇ?なぁんで、れーな、帰っちゃったのかなぁ……」
亀井絵里、15歳。
大人じゃないけど少女じゃない。
いきなり大人のふりをしたって無理だもん。
夏のビーチでお花を奉げるまでは、女の子気分でいたいんだもん!!
ちょっとしたアバンチュールを楽しみたい、ごくごく普通の15歳。
そして何もかもが確信的。
- 63 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:45
-
──
「うひひひひひ」
ベッドの下から声がする。
絵里とれいなの様子をイロイロなところに隠れて見ていたさゆみ。
さゆみも思春期、恋や性に興味津々。
世界一かわいらしい犯罪者は、もう少しだけ隠れていようと思った。
- 64 名前:セカイチバカの称号を君に…… 投稿日:2004/06/16(水) 04:45
- おわり
- 65 名前:彼女とメールと桃缶 投稿日:2004/06/16(水) 11:38
-
彼女とメールと桃缶
- 66 名前:彼女とメールと桃缶 投稿日:2004/06/16(水) 11:39
-
彼女からの相談を受けるようになってから、一ヶ月が過ぎた。
最初は、メールのやりとりから始まったこの関係も今では、彼女がうちに直接来て、日々の出来事や愚痴を話すまでになった。
いつからだろう、彼女が大切なことを話してくれるようになったのは
いつからだろう、彼女が家に来るようになったのは
いつからだろう、彼女がまるで我が家にでもいるようにくつろぐようになったのは
いつからだろう、彼女といることに違和感を感じなくなったのは
いつからだろう、彼女を好きになったのは・・・・・いつからだろう
- 67 名前:彼女とメールと桃缶 投稿日:2004/06/16(水) 11:39
-
始まりは、本当に些細なことだった。
たまたま事務所の親睦会と称され行われた食事会にいた彼女とソロ同士ということで意気投合、二人にしかわからない愚痴などの話しで盛り上がり、メールアドレスを交換した。
誰とでも分け隔てなく話す自分の性格から考えれば、彼女との話も他の人とそう大差のない会話をしたはずだ。
それでも、その夜、彼女からのメールは届いた。
内容はもちろん、その日の感想。
取り留めのないメール文に、普通に返信し、何回かメールを交換した後、その日は終わった。
それから何日間かやりとりを続けたが、それも忙しさのため、いつしかなくなっていった。
普段自分からはメールを送らない自分が悪いのだが、何もないのにメールを送る理由も思い当たらず、なんのアクションもないまま時間だけが過ぎていった。
- 68 名前:彼女とメールと桃缶 投稿日:2004/06/16(水) 11:40
-
それから一ヶ月後。
冬の寒い日、何も考えず、久しぶりにメールを送った彼女の反応はどこか元気がなかった。
それとなしに、理由を聞いてみると、いろいろとストレスが溜まっていたようで、吐き出すようにそれら全てをメールの文に載せてきた。
文面を読み、大体の状況を把握すると、彼女の気持ちが晴れることを最優先に考え、返事をした。
幸いなことに、同じソロとして活動している私にとって彼女の悩みは、想像の範囲だった。
その頃もまだ彼女は悩みごとを相談してくる中の一人でしかなかった。
誰にでも送る内容
誰もが持っているはずの気持ち
誰もが気付いていない自らの力
そういった、他人でしかわからないこと、叉は本人が見えていない当たり前の事を極力優しい言葉を使い励ますことが文面の多くを占めた。
何回かやりとりを続け、最後に「私でよかったらいつでも言ってね」と締めくくった。
そして返ってきた「たんは、優しいんだね」の文字。
何をきっかけにしたのかは分からなかったが、何日もメールを続けたことにより彼女は元気を取り戻したようだった。
- 69 名前:彼女とメールと桃缶 投稿日:2004/06/16(水) 11:40
-
それからは以前と違い、彼女からメールが来るようになった。
しかし、あくまで自分からはメールを送らなかった。
この時点で少しは駆け引きめいた部分があったのかもしれない。
メールには、その日の出来事や仕事の話など、送られてくるのは前にやりとりをしている時とさほど変わりのあるものではなかった。
それでも信用してくれたのだろうか、他の人には話せないような内容のメールがちらほらと混じるようになった。
そんなやりとりが日々の習慣になり、時間は過ぎていった。
- 70 名前:彼女とメールと桃缶 投稿日:2004/06/16(水) 11:41
-
ある時、彼女が突然家に来たいと言ってきた。
別に断わる理由もないのでオーケーの返事を送ると、しばらくして彼女はやってきた。
その早さに家が近かった事を思い出したが、そんなことがどうでもよかった。
適当に冷蔵庫を漁り、買ってあった桃缶から桃を出すと、彼女は喜んでそれを食べた。
出された桃を名残惜しそうに食べ終えた彼女は、一言、「桃好きなんだ」と言った。
それから雑談に何時間か費やし、ご飯の時間だといって彼女は帰っていった。
この日を境に、徐々にメールの回数が減り、代わりに家に来る回数が多くなった。
- 71 名前:彼女とメールと桃缶 投稿日:2004/06/16(水) 11:41
-
いつからだろうか、彼女がいる空間が当たり前になったのは
いつからだろうか、彼女と一緒にいる時間が楽しくなったのは
いつからだろうか、彼女と一緒にいることで癒されるようになったのは
いつからだろうか、彼女がいない時間を苦痛だと感じるようになったのは
最初は、ただ悩みを聞いてあげているだけだと思っていた彼女を
最初は、数多くいる悩みを相談してくる中の一人でしかなかった彼女を
いつのまにか、好きになった自分がいた。
- 72 名前:彼女とメールと桃缶 投稿日:2004/06/16(水) 11:42
-
今日、覚悟を決めよう。
この数カ月間で、自分が彼女に大切な人と思われていることはわかった。
しかし、それはあくまで友達として、女同士として。
それでも、いつか言ってくれた優しさを背負い。
メールという媒体を介してではなく、直接会いに来てくれたという変化を信じて‥‥‥
もちろん、冷蔵庫には桃缶を用意して。
- 73 名前:彼女とメールと桃缶 投稿日:2004/06/16(水) 11:42
-
おわり
- 74 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/21(月) 18:09
- 誰か〜!!何か書いてくださ〜い!!
・・・私には・・・書けません・・・(涙)
- 75 名前:ゆるやかに、加速 投稿日:2004/06/22(火) 01:42
- それってかなりヘヴィなことなんだけど、手放すことなんか絶対出来ないよ。<br><br><br><br><br>
通路を歩く後ろ姿がうきうきしているように見えるのは多分気のせいじゃなくて。<br>
だってあの子が歩く先には彼女がいる。<br>
彼女が待ってる。<br><br><br>
あの二人って一緒にいても特に会話が多いってわけじゃないように見えるけど、でもきっとああいう状態を「目は口ほどに物を言う」ってやつかな、なんて思う。<br>
―――ちょっと違うかも。<br><br><br>
あたしは二人が何をするわけでもなく、ただぼーっとしているところを見るのが好きだ。<br>
なんか、和むんだよね。<br>
ふにゃふにゃした彼女と、ほわほわしたあの子。<br>
ほら、まるで日溜りみたいにあったかい。<br>
思わず誘われそうになる。<br><br>
- 76 名前:ゆるやかに、加速 投稿日:2004/06/22(火) 01:43
- だから時々すごく離れた場所から自分を見つめるんだ。
あの子は可愛い、大事な後輩だ。
彼女は大切な、親友だ。
確認した後、しっかりと気持ちを反芻する。
―――うん。変わってなんか、ない。
そうだよ、あの子は可愛い後輩の一人だよ。
頑張ってる姿を見たら応援したくなるのも、困ってたら助けてあげたくなるのも、好かれたいと思うのも、あの子が大事な後輩だからなんだよ。<br>
……多分。
- 77 名前:ゆるやかに、加速 投稿日:2004/06/22(火) 01:45
- でもさ、あたしは聖人君子じゃないからやっぱり願望を叶えたいと色々試みちゃうわけだ。
飽きるまであのやわらかい頬っぺたを突ついてみたいとか思う。
耳に優しい穏やかなその声が変化するのを、一番近くで聴いてみたいと思う。
だから、色んな形でちょっかいをかけたりする。
…あたしは小学生のガキか?
しかも親友の彼女は少しばかりヤキモチやきなところがあるから、その度にあたしは呼び出されあの子とはより心を通わせる。
ゴキゲンなあの子を見て自己嫌悪するけど、こればっかりはやめられない。
どんなクスリよりもタチの悪い物に嵌っちゃったあたしはもう立派なジャンキーだ。
- 78 名前:ゆるやかに、加速 投稿日:2004/06/22(火) 01:46
- 今あの子は角を曲がった。
ああ、確か彼女の今日の楽屋は四つ目の部屋だった。
ねえ、あたしだって本当に残念に思ってるんだよ。
彼女を視界に捕らえた瞬間に見せるきみのその表情が、とてもとても好きなんだ。
だからお願い。困ったような、懇願するようなあの目であたしを見ないでね。
基本的にあたしはきみの全てに弱いから、あんな目で見つめられたら白旗揚げてギブアップするしかないんだ。
扉一枚を隔ててこっちとあっちは多分異世界。
それならあたしはあの子があっちに行っちゃう前に、こっちに引き止める言葉を口にしよう。
真面目なあの子にしか効かない、でも無敵な呪文。
―――――さあ、
「紺野ー、もう時間だから早く行くよー」
- 79 名前:ゆるやかに、加速 投稿日:2004/06/22(火) 01:47
- おわり。
- 80 名前:>75sage 投稿日:2004/06/22(火) 01:49
- すいません、コピぺそのままやっちゃった…。
見苦しくてごめんなさい。
見苦しいままで申し訳ないですが、撤収します。
そして次の方、どぞ。
- 81 名前:80 投稿日:2004/06/22(火) 01:55
- テンパリ過ぎてsage間違えてあげちゃった…
穴があったら入りたい。
度重なるお目汚し、大変申し訳ないです。
- 82 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/22(火) 20:17
- ゆるやかに、加速 作者さま。
ありがとうございました!!!
- 83 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:43
-
「直線LOVE」
梨華ちゃんが指輪を嵌めていた。
ラウンドタイプのシルバーリングで、真中から端にかけて緩やかに反り返っている。
それ以外は至ってシンプルなデザイン。
梨華ちゃんがするには少しゴツイ。
梨華ちゃんよりも、よっちゃんの方が似合うと思った。
私の視線に気付くと、梨華ちゃんは左手の薬指に嵌めたそれを見せびらかすように言った。
「いいでしょ、これ。よっすぃとオソロなんだ」
梨華ちゃんが嬉しそうな分だけ、私には大きな衝撃となって脳天を打った。
愛しそうに指輪を撫でる梨華ちゃんの顔は、完全に恋する女の子の顔だった。
- 84 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:44
-
まさか、よっちゃんが梨華ちゃんと?
何故か慌てた私は楽屋を飛び出し、よっちゃんを探して走り回る。
「あ、藤本さん」
紺ちゃんの声が聞こえたけど、構っていられる余裕はなかった。
- 85 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:44
-
よっちゃんは自動販売機の前にいた。
私の心臓が爆発寸前だったのは、きっと走ったせいだけではないだろう。
よっちゃんに抱きつくようにして急停止、その両手を確認する。
「ちょっと、ミキティ。なに?」
なかった。
よっちゃんの両手に、梨華ちゃんが嵌めていた指輪はなかった。
あまりの安堵に、私は膝から崩れるように座り込んでしまった。
でも、梨華ちゃん、なんであんな嘘をついたのだろう。
- 86 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:44
-
頭上から、よっちゃんの戸惑った声がした。
「ミキティ、どうしたのさー?」
でも、それでもよかった。
よっちゃんと梨華ちゃん、付き合ってるんじゃないってわかったから。
「ミキティ?」
私を心配してくれる、よっちゃんの優しい声がする。
息を整え、よっちゃんを見上げる。
珍しくネックレスをしていた。
そのネックレスには、梨華ちゃんのしていた指輪と同じ物がぶら下がっていた。
「ねぇ、よっちゃん。……それ」
思わず私はよっちゃんの胸元の指輪を指差した。
「ああ、これ?」
祈るような気持ちで、私は頷いた。
「これね、梨華ちゃんとお揃い」
よっちゃんはそう鬱陶しそうに言ってはいたけど、まんざらでもなさそうだった。
「よっちゃん、梨華ちゃんと付き合いだしたの?」
そう聞いて後悔したけど、もう遅い。
「まあ……そういうことになる、ね」
- 87 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:44
-
嘘だ。
嘘だって言って。
そんなこと、言えるはずもなく、私は心がまっさかさまに落ちていくような気がした。
私は右足につけているミサンガを靴下の上から撫でた。
フットサルのメンバー、みんなで買ったもの。
けど、つけてるのは私とよっちゃんだけだった。
私はそれだけで嬉しかった。
それだけで満足なんだと思ってた。
でも、違った。
失恋して初めて気付くなんて、自分には絶対にないと思ってたのに。
あー、バカらし。
涙が零れそうになったけど、俯き、唇を強く強く噛み締め、グッと堪えた。
- 88 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:45
-
「ミキティ?大丈夫?」
よっちゃんは、やっぱり優しい。
でも、そんなよっちゃんの優しさが、今では針の筵だ。
「誰か呼んでくるから!絶対にそこ、動いちゃダメだよ!!」
よっちゃんの足音が遠ざかる。
私は崩れ落ち、声をあげて泣いた。
心にぽっかり穴が空き、喪失感が後から後から押し寄せてくる。
悲しみの渦に巻き込まれた私は、ただ泣くしかできなかった。
少しして、足音がした。
私は蹲ったまま、どうにか涙を止めようと必死だった。
「……藤本さん」
紺ちゃんの声だった。
- 89 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:45
-
「大丈夫ですか?」
紺ちゃんの甘い声は、スカスカの私の心に柔らかく滲みこんでいく。
「私が、いますから」
突然、抱きすくめられた。
「……私じゃ、ダメですか?吉澤さんじゃなくて、私じゃ」
耳元で紺ちゃんの声が緩やかに響き、私の心を暖めてくれる。
私は頷いた。
「……ありがとう」
再び涙が零れてきた。
これはさっきの涙とは、違う涙のはずだ。
- 90 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:45
-
その日、私は紺ちゃんを抱いた。
抱かれていた、の方が正しいのかもしれない。
紺ちゃんは、私の腕の中で小さくなっていた。
「ねえ、一つお願いしていい?」
そう言って私を見上げ、頬を赤らめた。
しばらく見つめあい、私はYESの代わりに強く抱き寄せる。
「……す、好きって、言──」
途中で顔が真っ赤になってしまった紺ちゃんは、キャッと布団の中に潜り込んでしまう。
布団の中では、紺ちゃんの熱い息が感じられる。
私は、布団の中の恥ずかしがり屋さんにも聞こえるように、大きな声で言った。
「好きだよ、紺ちゃん」
- 91 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:45
-
それからしばらく、穏やかで美しい日々が続いた。
私と紺ちゃん、いや、私達は上手くやっていた。
紺ちゃんはいつでもその全てを捧げてくれたし、私もそれに惹かれていた。
ある日、よっちゃんと梨華ちゃんが私達に言った。
「今度の休みの日さ、ダブルデートしない?」
もちろんOKしたのだが、言い澱んでしまった、ような気がする。
紺ちゃんが沈んだ表情をしていたからだ。
ダブルデートの日、待ち合わせの場所に行くと人だかりができていた。
その中心では、紺ちゃんが血まみれになって、呆けたように立ち尽くしていた。
その足元で転がっているのは、恐らくよっちゃんと梨華ちゃんだろう。
私は紺ちゃんに駆け寄り、抱きしめた。
「大丈夫?紺ちゃん。つーか、なんなの、これ」
「わかんない」
紺ちゃんは、そうはにかんだ。
- 92 名前:直線LOVE 投稿日:2004/06/23(水) 00:46
-
END
- 93 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/24(木) 16:13
- なんなんでしょう・・・?
- 94 名前:夢 投稿日:2004/06/25(金) 00:11
-
彼女がこの世のものでないこと
彼女はいつまでもそこにいられないこと
彼女が優しいこと
彼女は限りなく優しく笑うこと
私は彼女のことが好きで、彼女は私を好きだということ
それは太陽が昇ることより確実で
まっさらな雪に触れるより儚い。
空を抱きしめるような行為。
- 95 名前:夢 投稿日:2004/06/25(金) 00:12
-
人気のない、何もないような雰囲気の道を何年もこの近隣に住んでいるのに初めて通った。
気配のない独特の寒さはずいぶんと前から知っている。
ただ最近はめったに味わうことがなくて、しんとした寒さが新鮮に思えた。
葉の少ない木々が申し訳程度に一本一本孤立して立っている。電柱はそれよりも少し多いくらい。
冬の季節を思い出させるような空気が喉に染み入って気持ちがいい。
誰もいない一本道を急ぐわけでもなければ遅く歩くわけでもなく無意識に。
自分の踏みつける小さな砂やガラスの粒とざらざらのコンクリート。
それとこすれる靴の音。以外には何も言わずで。
黙った住宅の間は道を遠くする。
妙な苛立ちを感じながらいくつか目の電柱に近づいた。
誰もいないと思っていたのにそれは勘違いだったらしい。
黒髪で肌は白くとても柔らかそうな頬を持った大人しそうな女の子が俯き気味に電柱の横に立っていた。
人がいることに驚いて目をやると、彼女も偶然にこっちを向いた。
たれた目が印象に残る、いかにも女の子らしい顔立ちだった。
可愛いと思うのと同時に微笑まれる。
と、心臓を捕まれるような感覚。
人の感情や気持ちというのは腹が立つほど曖昧なことが多いのに。
体の芯がぼうと暖かくなり、歩く速度と同じくらい無意識に立ち止まった。
- 96 名前:夢 投稿日:2004/06/25(金) 00:13
-
なぜだろう、遠い昔を思い出すような。実際に思い出しているのだけど。
その証拠に、彼女の名前らしい単語が頭に浮かぶ。
声に出さずに心の中で呼ぶだけで、心臓が大きく鳴る。
腰のあたりにある手首が脈をうっていることに気がつく。
激しくはなっていないけれど大きくなっている。
彼女から目が離せなくて真っ黒な綺麗な瞳に魅入った。
彼女の薄い唇が動く。
「こんにちは」
高めの可愛らしい声。外見のままの声。
たまらなく懐かしい。
「久しぶり、こん、の?」
遠い過去がぐんと近づいてくる。
彼女が急に愛しくなって、そばによって抱きしめたくなった。
「お久しぶりです、後藤さん」
名前を呼ばれればもう元に戻ったような気がした。
水の底から地上にでてきたときの視界の変わりかたにそれは良く似ていた。
紺野の顔もあたしの名前を呼んだ途端にとても可愛い笑顔に変わった。
これはあたしに向けられた誘いのようなものだと思う。
甘い誘いに上手く誘われて歩み寄るとふわりと甘いような優しい紺野の匂いがした。
体が操られるように動く。紺野に触れたくて、手は頬に向かう。
紺野の肌がどのくらいなめらかなのか、頬がどれくらいやわらかいのか。
感覚が覚えているのか、それともただの想像なのか、たまらなく愛しい感触を予想する。
あと数センチで触れられる、と突然まったく動かなかった紺野が声を上げた。
- 97 名前:夢 投稿日:2004/06/25(金) 00:13
-
「まってください」
あたしは躾のいい犬のようにぴたりと動きを止めた。
もちろん、不機嫌になった。
少し歪んだ顔をしたあたしの目を真っ直ぐに見つめたまま紺野は口を開いた。
「触らないでください、触ったら」
揺らいだ目の中には悲しみが浮き上がっていた。
しんとした水面に小さな石を投げ込んだら、底から泥が舞い上がった。
その泥が、深い悲しみ。
静かなくせにずいぶんと強く感情がこもっている。
こめたつもりはないだろうけど。
言葉を止めた、絶妙な間を空けてから最高級の判決をくだす。
私、消えてしまうんです。
紺野が薄くなったような気がした。
その言葉があたしの体全体を通り抜けて痛みをもたらした。
触れかけた手は無条件でおろさなければならない。
布のすれる音以外に誰も何も言わなかった。
- 98 名前:夢 投稿日:2004/06/25(金) 00:13
-
せっかく会えたのに、悔しさが胸と頭いっぱいにある。
あたしはおかしな事に気づいていなかった。
あたしの人生の中には一度だって紺野という名前の女の子は存在しないこと。
話すどころか、見かけたこともない。
なんとも奇妙な話だ。
それはともかく、あたしは紺野のことが好きだ、好きの言葉じゃ表しきれないくらい。
だから、抱きしめたい、キスがしたい。
触れたい。
でも触れてしまったら、伸ばしてしまいそうになる手をその意識が顔を出して止める。
電柱のコンクリートが妙に冷たそうで腹が立つ。
「苦しいなあ」
何も言わなかった紺野がぽつりと漏らした。
救いようのないくらい、寂しい、笑顔。
「なんで」
電柱に話しかける口調で。
できるだけ感情を込めたくなかった。
「こんなに好きな人に、触れてもらえないから」
それからまた静かになった。あたしが何も返せないから。
伸ばしてしまった手は触れる前に気づいて空をきった。
触れたときどんな顔するかまで知っているのに、触れられない。
あたしが紺野のことを好きなように、紺野はあたしのことが好きで。
完全な両想いは上手くいかない。
紺野が地面に涙を落としたから、あたしも惜しまずに落とした。
- 99 名前:夢 投稿日:2004/06/25(金) 00:13
-
あたしの後ろをトラックが大きな音を立てて走っていく。
狭い道路ででかい図体だからやけに走るのが遅く見えた。
歪んだ地面の上を通るたびに足をとられてやかましくがたんという。
遠のいていく音が耳に入るとあたしがトラックの出た大きな通りに吸い込まれていくような
感覚になる。
トラックが後ろを通る間に思い出したことがある。
今、紺野の顔はこわばっている。
もう、何年も前に、紺野は交通事故で。
「本当は触らなくても消えてしまうんですよ
でも触ってしまえば消えるまでの時間が短くなってしまう」
それは、紺野の未練。
「もう少し一緒にいたかったんです」
寂しそうな、優しい笑顔からもっとたくさんの涙。
「私のわがままで、ごめんなさい」
眉間にしわを寄せてこらえきれない涙を流している。
白い肌を赤くして、胸が痛い。
抱きしめたい、強く強く、でも壊さないように。
「後藤さん、最後にキスしてください」
最後、という言葉が重くのしかかる。
「でも」
「もういいんです」
あたしの言葉をさえぎった声は少しだけ震えてた。
魂がひきちぎられてしまうんじゃないだろうか。
こんなときでも紺野は笑った。
寂しくて、比べるものがないくらいきれいな泣き笑いだった。
- 100 名前:夢 投稿日:2004/06/25(金) 00:14
-
どうしようもないこととわかったあたしは胸の痛みを塞ぐように紺野を強く抱きしめた。
確かにここに紺野の感触を感じるのに。
重ねた唇は冷たくて涙のせいでしょっぱかった。余計切なくなった。
閉じたまぶたの裏には紺野がいる。
目を開けてもいる。でも体が透けて消えてしまいそうだった。
胴が透けて後ろの塀のコンクリートが見えた。
「後藤さん、好きです」
離した唇から愛の言葉。
欲しくて、あげたくて、もっとと思うのに時間がない。
「あたしも好き、好きで好きでどうしようもないくらい好きなんだ」
壊さないように抱きしめるなんてできなかった。
これ以上ないくらいの力で強く抱きしめた。
それが空を抱くような行為でもそれはそれで構わない。
今はそうしていたかった。
だんだんに消えていく体。胸から上がかろうじて残っている。
残された手であたしの両頬を触って今度は紺野からキスをくれた。
つないだ口から紺野のひゃっくりが聞こえた。
最後の最後のキスもしょっぱかった。
「好きです」
小さい声で呟いた言葉には全ての想いがこもっていた。
消えかけている顔で一生懸命一番の笑顔をくれた。
「好き」
上手く笑えたかな、笑顔で答えたら紺野は跡形もなく消えてしまった。
唇にも腕にもさっきの感触が残っている。
それを確かめるように、空を抱いた。
何も残っていない、黙りこくった道路。
- 101 名前:夢 投稿日:2004/06/25(金) 00:14
-
目が覚めた。目の横には涙の通り道ができている。
どうして夢は起きたら消えてしまうんだろう。泣くほど悲しかったのに。
思い出そうとしても思い出せない。
むずがゆい気持ちだったけれど適当に一日を過ごしていたらそんなこともすっかり忘れてし
まった。
夢の中の道路が存在しなかったことにあたしは気づかなかった。
- 102 名前:夢 投稿日:2004/06/25(金) 00:14
-
終わり
一応後紺です。
- 103 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/27(日) 02:41
- 夢 作者さま。
お疲れ様でした!!とっても良かったです!
ちょっと切なかったですね・・・。
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 10:11
- >紺ちゃんファン
おまえウザイ。目障りだ消えろ。
- 105 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/27(日) 21:12
- 104>
嫌です。あなたが消えてください。
私はここが好きなので。
- 106 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:04
- >>105
とにかく、各所で紺野視点が見たいとか
そういうことは書かないようにした方がいいと思う。
作者さんの世界観を壊すことにもなりかねないので。
スレ違いスマソ
- 107 名前:お天気占い 投稿日:2004/06/27(日) 23:19
- 雨上がりの道路
水溜りがちらほらと出来ている
その固まりを巧みにかわしながら進んでいく、軽い足取りの女の子。
平日の昼間なので同世代の友達は学校に行っている時間帯。
実際に元同級生は働いているか、学生として学校に通っている。
でもこの女の子――藤本美貴――は、普通の人の人生とは多少異なる道を歩いているため、
平日の昼間からフラフラしていても問題ない。
いや、問題はあるが、今日は一日オフなのだから問題ない。
しばらく歩いていると公園が目に入る
約束まで時間もあるし、久しぶりに寄ってみるかな。
中に入っていくと、ブランコが目に入る。
懐かしさがこみ上げてきて、自然と足はそちらに向かう。
- 108 名前:お天気占い 投稿日:2004/06/27(日) 23:19
- 少し窮屈だが、何とか座って力いっぱい漕いでみる。
風が顔にあたって心地いい。
なんだか、こんなふうに優しい風にあたるのは久しぶりかもしれない。
見上げると澄みわたった青空
目を瞑ると穏やかな風
鼻を嗅ぐと若草の匂い
耳を澄ますと鳥の鳴き声
次第にすっきりとしてくる頭
そして思い出す昨日の2件の電話
- 109 名前:お天気占い 投稿日:2004/06/27(日) 23:20
- 『どうしたらいいんだろう、うちにはもうミキティ以外に目に入らない。』
弱々しい声
『美貴たん、そろそろ答えを出して。』
縋るような声
深夜に美貴の耳に響いた2人の叫び
静かな静かな叫び
だから今日はそれに応えるために出てきた。
これから会いに行く。
答えを伝えに。
でも、その前にちょっと寄り道。
ブランコに乗って、昔を懐かしむ。
答えは出てるから焦らない。
- 110 名前:お天気占い 投稿日:2004/06/27(日) 23:21
- そして1つ思い出す。
そういえば、靴を投げて表裏でお天気占いしたな〜。
思い出すと同時に足が勝手に動く。
勢い良く放り出された靴は放物線を描いて飛んでいく。
澄みわたった青空を切り裂いて、高く高く飛んでいく。
靴が表なら晴れ。
裏なら雨。
小さい頃に良くやった占い。
同じ占いなのだから今日の自分の答えも占ってみる。
表なら亜弥ちゃん
裏ならよっちゃんさん
果たしてどちらが自分に合っているのか?
- 111 名前:お天気占い 投稿日:2004/06/27(日) 23:21
- 靴が地面に投げ出されたけど、美貴のところからは見えない。
でも、どちらが出ていても関係はないのかもしれない。
もう自分は答えを出しているのだから。
でも、ちょっとだけ不安だから、靴に縋ってみる。
表か、裏か
靴を取りに行くために、ブランコから勢い良く飛び降りる。
見事に着地して靴に向かって歩き出す。
表が正解か、裏が正解か
美貴にとってはどっちが正解?
上を見上げると、何処までも晴れ渡っている空。
- 112 名前:お天気占い 投稿日:2004/06/27(日) 23:22
- 昨日まで雨だったのに
天気予報でも雨だったのに
約束をして、朝起きたら晴れていた。
さすが自称晴れ女。
占いは必要ないのかもしれない。
彼女といれば、行く先は必ず晴れているのだから。
落ちていた靴を拾うと時計を見る。
ちょうどいい時間になっている。
占いの結果も出たし、行くとしますか…。
靴をきちんと履くとブランコを背にして歩き出す。
- 113 名前:お天気占い 投稿日:2004/06/27(日) 23:23
- 汚れひとつ無い靴は、道路の上を踊るように進んでいった。
自分の答えに彼女は泣いてしまうかもしれない。
笑顔がモットーの彼女は、本当に嬉しいと泣き出してしまう。
大きな水溜りを飛び越すと、一気に走り出す。
自称晴れ女の顔に温かい雨を降らせるために。
END
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 23:23
- 空気を読まずに駄文スマソ
藤本の美貴たんでした。
- 115 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/29(火) 19:12
- 106>
はい、わかりました。気をつけます。
失礼な文すいませんでした。
- 116 名前:眠り姫 投稿日:2004/07/04(日) 01:33
-
ねぇそこのかわいい子お茶しない?
お芋にパスタに甘いケーキもつけようか?
心の中でつぶやく。
ちいさな寝息。唇が微かに開いてる。
おまけにお気に入りのソファも占領されてる。
「紺野ぉ〜」
ごとーはヒマです。
でも久しぶりに見る寝顔。
- 117 名前:眠り姫 投稿日:2004/07/04(日) 01:34
-
ん〜
スリスリ
ほっぺにほっぺを摺り寄せてみたりして。
「ん?・・・んぅ・・・」
ほへっ起きた?
覗き込んだその目は閉じられたまま。
でもさっきと違ってなんかちょっと笑ってる寝顔。
ほほう
スリスリ
ねぇ誰のほっぺだかわかってるの?
- 118 名前:眠り姫 投稿日:2004/07/04(日) 01:35
-
「ん・・・ごと・・・ん?」
は〜い正解。
目の前のピアスに舌先でじゃれてみるとビクッと動いた身体。
耳弱いよねぇ紺野って。
少し身体を起こすと同じように身体を起こそうとするからゆっくり押し戻す。
「まだ起きちゃダメだよ?」
首を傾げてくれるからごとー的には好都合。
だってほらお姫様はキスで起きるもんでしょ?
END
- 119 名前:ひーちゃん拉致事件 投稿日:2004/07/12(月) 23:19
- ひーちゃん拉致事件
時間通りにパソコンが自動起動すると、メールの着信を知らせる声が響く。
液晶モニターに照らされ、ベッドに横になる若い男が浮かびあがった。
「うーん、もう時間か―――」
トランクスだけで寝ていたのは、東北地方のイケメン娘小説作者、金岡である。
彼は朝勃ちを押さえながらマウスを操り、OutLookExpressを立ちあげた。
画面右下に表示されている時刻は、すでに深夜1時になろうとしている。
「ん? Jさんだな」
金岡は眠い目をこすりながら、Jからのメールをクリックしてみた。
ノートンが無反応であるから、悪意のあるメールではなさそうだ。
金岡へ
緊急事態発生。ついにオサーンが実力行使にでたぞ。
初タソを拉致したらしい。すぐに東京駅まで来い。
J
「なんてこった! 」
金岡はマウスを放り投げると、急いでジーンズとティーシャツを着て、
有り金全部を持って家を飛びだして行った。
- 120 名前:ひーちゃん拉致事件 投稿日:2004/07/12(月) 23:20
- 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
早朝の東京駅八重洲口に、数人の男女の姿があった。
やけに背の低い女性、美脚の持ち主、袈裟を纏った坊主、
そして、だらしなく地面に座り、居眠りをする痩身の若い男。
その男がもたれかかったのは、よく似た足の長い女性だった。
「戯れと金岡は、始発で来るそうだよ」
「遅れて来るやつは、ちねちね」
朝の5時半ではあったが、すでに太陽は顔をのぞかせている。
早朝の爽やかな風が、5人の間を吹き抜けて行った。
「おっと、上海から情報! 」
美脚が携帯でメールを受けた。
平静を装う坊主も、さすがに初が心配なのか、
小柄なJを押しのけて画面をのぞきこむ。
- 121 名前:ひーちゃん拉致事件 投稿日:2004/07/12(月) 23:21
- ごーしゅへ
オサーンは甲府に潜伏してるらしい。
駄作屋さんの援護で狛犬さんと顎タソも動きはじめた。
くれぐれも、ムリはしないように。
上海
「―――甲府か」
美脚のごーしゅは、甲府と聞いて眉をひそめた。
甲府は盆地であるため、この季節、昼間の気温は40度近くになる。
日本海側の涼しい環境で育った美脚は、暑さが苦手だった。
「金岡と戯れに連絡しようか。集合場所は甲府駅の武田信玄像前」
「そうだな。あの姉弟は置いてくか? 」
「―――置いてくんじゃねーよ」
てっきり眠っていると思った弟は、眠そうな目を開けて坊主をにらむ。
そのスキンヘッドを輝かせながら、坊主は困ったように笑った。
「それじゃ、甲府まで行こう。弟くん」
「はい! ―――ねーちゃん、起きろよ」
「ふあー、眠いなあ」
♀が立ちあがると、その身長に驚かされる。
小柄なJなど、胸のあたりまでしかなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
- 122 名前:ひーちゃん拉致事件 投稿日:2004/07/12(月) 23:22
- 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さあ、酌をしる! 」
旅館の離れにある座敷で、拉致された初は、MUに酌をさせられていた。
逃げようにもMUは柔道二段であるから、か弱い初ではそうもいかない。
泣きながら酌をする初を抱き寄せ、MUは好色な顔で彼女の頬を舐めた。
「いやああああああああああーん! おかあさあああああああああーん! 」
泣き叫ぶ初の声を楽しみながら、MUは杯をあけた。
そしておもむろに、初の背中へと手をのばし、帯をつかんでしまう。
怖くなった初は逃げようとするが、MUは帯をほどいて引っぱった。
「た、たすけてえええええええええええええー! 」
シュルシュルと帯がほどけ、初は独楽のように回転する。
MUが襖を開けると、そこには布団がしいてあった。
「わっはっはっは―――往生際のわるい娘よのう。―――むっ! 」
そのとき、どこからか鼓の音が聞こえ、妙な人影が障子に映った。
それは神楽のようにも見え、どこかMUを茶化しているようだった。
MUは帯をつかんだまま、勢いよく障子を開けてみる。
すると、そこには般若の面をかぶった男が立っていた。
- 123 名前:ひーちゃん拉致事件 投稿日:2004/07/12(月) 23:22
- 「なにものじゃ! ここはきさまのような者が来るところではないわ! 」
「ひとーつ! 人の生き血をすすり、ふたーつ! ふらちな悪行三昧」
「おのれ! 曲者じゃ! 出合え! 出合え! 」
MUが叫ぶと、奥から羽織を着た男たちが走ってくる。
彼らは3回づつ斬られないと死なない殺陣さんたちだった。
「みーっつ! 醜い浮世の鬼を、退治てくれよう黄色い狛犬」
「かまわぬ! 斬れ! 斬り捨てえ! 」
こうしてチャンバラになるのだが、MUは汚い男である。
これからテゴメにしようとしていた初を抱き寄せ、
そのか弱い首に、サバイバルナイフをつきつけたのだった。
「わっはっはっは―――太刀を捨てえ! 」
「くっ! 汚いやつだ」
黄色い狛犬は恐怖におののく初を見て、
これ以上MUを刺激するのはよくないと思った。
彼が太刀を捨てると、殺陣さんたちが取り囲む。
そして、万事休すといった場面に、
迷彩服を着た男女が飛びこんできて手に持ったグロッグを撃った。
- 124 名前:ひーちゃん拉致事件 投稿日:2004/07/12(月) 23:23
- 「うっ! 」
♀の放った9ミリパラベラム弾がサバイバルナイフをとらえ、
MUは手がしびれてナイフを落としてしまった。
そこを、すかさずJが後にまわり、初をひき離してしまう。
「坊さん、金岡、こらしめてやりなさい! 」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「坊さん、もういいでしょう! 」
「静まれえええええええええー! 」
「ここにおわすお方をどなたと心得る!
畏れ多くも飼育管理人、サザエオールスターズさまなるぞ! 」
「一同! 顎さまの御前である。頭が高い! 控えい! 控えおろー! 」
さすがに飼育管理人と聞いては、殺陣さんたちも仰天してしまう。
この世界では小説を書くサイトを提供する神にも匹敵する人物だ。
全員が桟敷に飛びだし、太刀を放り投げてひれ伏した。
- 125 名前:ひーちゃん拉致事件 投稿日:2004/07/12(月) 23:24
- 「MU! 娘小説界の美少女を拉致するとは言語道断! 」
「うへへー! こ、これには深いワケが―――」
「で、だ。アク禁! 」
「そ、そんなあ〜」
こうして、MUによる初拉致事件は、万事解決されたのだった。
めでたし、めでたし。
終
※この話はフィクションであり、登場人物と実際の人物とは何の関係もありません。
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 03:13
- 道重さゆみ生誕スレがなくてしょっく。
なのでここで書かせていただきます。
激マイナー藤道です。
- 127 名前:おねぇちゃん 投稿日:2004/07/14(水) 03:14
- 「おつかれ様でーす」
一人、楽屋を後にする。
疲れた。今日もハードな一日でした。早くお家に帰ろう。
ロビーまで歩いていくと。
「や、シゲ」
「藤本さん…」
先輩で、同期の人がソファに座っていた。
「お疲れ様」
「あ、おつかれ様です」慌てて頭を下げる。
「藤本さん、先に帰られたと思ってました」
「ん。シゲを待っていたの」
わたし?つい自分を指差すと、笑って頷かれた。
「そう。シゲを」
??なんだろう。連絡事項でもあるのかな。でもそれならメールで済むことだし。
「このあと、ヒマ?」
意図が図れないけれど頷く。藤本さんは笑顔のまま、さらっと言った。
「一緒にご飯、食べに行こ」
- 128 名前:おねぇちゃん 投稿日:2004/07/14(水) 03:14
-
――食事に誘うためだけに待っていてくれたのですか?
「はぁ…」
「ん?なーんかリアクション薄いね。お腹空いてない?」
「いえ、空いてます空いてます」
ぷるぷる首を振ると、ぶはって吹き出された。
「おっけぃ。行こ。シゲ、食べたいものある?」
――どうやら本当に誘うためだけに待っていてくれたみたい。
素直に、嬉しい。
「いえ…藤本さんの食べたいもので構いません」
「マジで?美貴が決めると焼肉屋になるよ?」
「はい。藤本さんオススメの焼肉屋に連れていってください」
「よーし、美貴を唸らせるほどのタン塩を出す店に連れていこう!」
「ありがとうございます!」
- 129 名前:おねぇちゃん 投稿日:2004/07/14(水) 03:15
-
アミの上から滴り落ちる脂。それが炎の上に落ち、じゅうという音を出す。
焼けた肉のデコボコの表面に程よく絡むタレ。
時折、ふと漂うクッパのスープの匂い。
藤本さんを唸らせるタン塩を出すお店は。
「ぅぅぅんっ、オイシイです!」
「でしょー」
わたしをも、唸らせていた。
タン塩だけじゃなく。
ハラミも。
カルビも。
トントロも。
「最高ぅ…」
至福の息を吐くと、藤本さんは満足そうに頷いてくれた。
「このお店、まだ亜弥ちゃんにもれいなにも教えてないんだよね。今のとこ、一緒に来たのはシゲだけだよ」
「そうですか…」自然と頬が緩んだ。
「さ、もっと注文しなよ。すいませーん、骨付きカルビ追加お願いしまーす!」
「あ、わたしも追加お願いします!」
- 130 名前:おねぇちゃん 投稿日:2004/07/14(水) 03:15
-
一通り食べ終えて。
二人ともデザートのシャーベットを口にしていると、
藤本さんがおもむろに口を開いた。
「ねえ…シゲってさ、お姉ちゃん子じゃん」
「はい」
「やっぱり離れて暮らしていると…時々寂しくなる?」
「――藤本さんもご兄弟がおられますけど…どうでしょうか?」
スプーンを口にくわえたまま藤本さんは一考する。
「そりゃあ、ね。時々は寂しくなるよ。落ち込んだときや部屋に一人でいるときは恋しくもなるし。で・シゲは?」
「わたしは……時々寂しくなったりしませんね」
藤本さんは目を見開いた。どうも意外だったようで。
「そう…なんだ」
噛み締めるように頷く藤本さんに言葉を続けた。
「はい。だって毎日寂しいですから」
- 131 名前:おねぇちゃん 投稿日:2004/07/14(水) 03:15
-
理解されてないような表情の藤本さん。
「こうやって思い出すだけでも切なくなります。毎日、会いたいって思いますし。時々する電話で声を聞くと、それだけで仕事を捨てて山口に戻りたくなります」
きり…っと奥歯を噛むわたしに、呆れたような…感心したような、判りづらい表情をする。
「本当に…好きなんだね」
「大切な人ですから」
溶けかけたシャーベットを口に運ぶ。すぐに舌の上で水分になった。
藤本さんはそんなわたしに神妙な顔を向ける。
「んー、こんなことシゲに言うのは失礼かもしれないけど…。
美貴はさ、シゲのお姉ちゃん的存在になりたいわけよ」
「…もう、そうですけど」
わたしだけじゃない。絵里やれいなにとっても、藤本さんはお姉ちゃんのような存在。
そう伝えると、まんざらでもない顔をした。ちょっと、嬉しそう。
「じゃあ、さ…今日の残り数時間でいいから美貴のこと『おねぇちゃんて』呼んでくれない?」
――え?
「ダメかなぁ。ほら美貴って末っ子じゃん、だから妹とか欲しかったんだよね。『おねぇちゃん』て響きにもちょっと憧れてるんだけど……」
気弱に言いながらの下がり眉毛の表情。かなり、珍しい。
そして、可愛い。
つい笑みがこぼれてしまう。
「いいですよ。えーと…」
時計を見るとそろそろ22時。
「本当に数時間しかありませんけど、それでもよければ」
「マジで!?さんきゅー♪」
ぱんっ、と手を叩いて喜んでくれた。
- 132 名前:おねぇちゃん 投稿日:2004/07/14(水) 03:16
-
焼肉屋を出て、消化活動も兼ねて二人で公園の散歩道を歩く。
「本当に美味しかったです〜。ありがとうございます、ふじも…おねぇちゃん」
「喜んでくれたなら、連れてきた甲斐があるよ」
くねくね曲がる散歩道。時折冷気を帯びた夜風が頬の横を通り過ぎる。
んー、と軽く伸びをする。
すると。
きゅう…っと抱きしめられた。
「ふじ…おねぇちゃん」
「15歳、おめでとうさゆみ」
――さゆみ――。
「おねぇ…ちゃん」
「これは。おねぇちゃんとしての言葉。おねぇちゃんが、一番にさゆみに『おめでとう』って言いたかったんだ」
視界が滲む。
そのうちに、ぽろぽろ涙が零れた。
とめどなく溢れ――おねぇちゃんの服を濡らす。
おねぇちゃんの服にしがみつく。
「おねぇちゃん、わたし、寂しかったよ……!ずっと、ずっと会いたかった…っ」
「うん…ごめんね」
あやすように髪を撫でる手が、優しくて暖かくて。
余計に涙は零れた。
「もう一度言うよ。誕生日、おめでとうさゆみ」
「……ありがとぅ」
おねぇちゃん、ありがとう。
- 133 名前:おねぇちゃん 投稿日:2004/07/14(水) 03:17
- 終了です。
マイナーだし。
訳が分からない話だけど。
日付も変わってるけど。
道重さん15歳おめでとー!
- 134 名前:NO LOVE 投稿日:2004/07/21(水) 18:32
-
「もうっ……スキじゃない……ごめんっ…」
触れていたかった。少しでも、あとほんのちょっとでも、温もりが欲しかった。
「……っ…別れようよ…?」
自然と頷いた。 本当は、もっと一緒にいたかった。 嘘、ついた。
プラスとマイナスの、違いから激しすぎる電流が流れたんだね。
- 135 名前:NO LOVE 投稿日:2004/07/21(水) 18:36
-
クリスマスは、ケーキ作ってくれた。
甘くて、キミのあったかさが確認できた記念の日。
バレンタインは、チョコが苦手だったから、お菓子は作らなかった。
それでも、キスでつながった。
誕生日には、メール送っただけじゃ満たされなくて会いに行った。
雨が降る、じめったい6月だったね。
これから、暑い夏が来る。
キミと過ごしたかった、灼熱だけど涼し気なキミと。
- 136 名前:NO LOVE 投稿日:2004/07/21(水) 18:41
-
写真が、何か言ってるよ。
腕に絡み付いて、甘えてくるキミが、懐かしいよ。
腕を振払うのはいつも自分だったけど。
キミから去っていくなんて。
触れていたかった。少しでもあとほんのちょっとでも、温もりが欲しかった。
ねぇ、今、誰と一緒にいるのかな?
あきらめ、つくまで思い出させてよ。亜弥ちゃん。
FROM 美貴。
- 137 名前:のーらぶ、作者より 投稿日:2004/07/21(水) 18:42
- さーシゲさんの後に申し訳ないんですが書かせてもらいました。
なんだよ、あやみきかよ。
と思った方もいるでしょうが。
- 138 名前:のーらぶ、作者 投稿日:2004/07/21(水) 18:43
-
かくし。
- 139 名前:のーらぶ、作者 投稿日:2004/07/21(水) 18:43
- もういっこ。
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/22(木) 11:21
- ベタですけど、石吉ものっぽいのを。
皆、社会人という設定で。
- 141 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:23
- 会社の納涼会。
「今日は無礼講で行きましょう!」
部長の一声から始まった飲み会は、かなりの盛り上がりを見せていた。
さっきからご機嫌でグラスを抱えている紺野。
すでに顔は赤い。あまり強くないのに大丈夫かな?
「お〜い。あんまり飲むなよ。」
持っていたカシスソーダのグラスを取り上げ、テーブルに置く。
「え〜。大丈夫ですよぉ。いっつもならすでに記憶が飛んでるはずなのに、まだしっかりしてますからぁ。」
それが危ないと思うんだけど。
- 142 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:24
- 「ま、ほどほどにね?」
いつのまにか梨華ちゃんがそばに座っている。こいつの顔も少し赤い。
「紺野ちゃん。あんまり飲んじゃだめよ。明日も仕事なんだから。」
「それはね、梨華ちゃん。あなたもおんなじ。ほどほどにね」
お〜い。吉澤ぁ。先輩が呼ぶ。幹事と司会を兼ねているので、アタシは飲んでいる暇が無い。
まぁ。この方が、飲ませられなくて都合が良いんだけど。
一段落して戻るとテーブルの上にはグラスが増えていて、梨佳ちゃんが抱えている。
同じ色のグラスがあるので、ウーロン茶だと思って口をつけると水割り。しかもかなり濃い。
「うわっ。これ、誰が頼んだの?」
「ん〜。あたしが頼んだら、又続けて紺野ちゃんも頼んだみたいで重なっちゃった。」
こんなに濃いのを2杯も飲ませられないよ。
「一つはアタシが飲みます。」
「え〜〜。やだぁ。」
- 143 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:25
- 有無を言わせずに一つを取り上げて飲む。モルトの香りが鼻を刺激する。
水割り、最近飲んでなかったな。
昔はよくバーボンを買ってきて、良く飲んでいたっけか。
周りを仕切りながら、ちょこちょこ飲む。
いつの間にかアタシの周りには女性の先輩達が集まり、雑談が始まっている。
座っている紺野を見るとすでに眠そう。
「大丈夫かぁ?」
頭をくしゃくしゃと撫ぜてやると、ふにゃぁと笑って寄りかかってくる。
それを見て先輩がいう
「吉澤ぁ。心配だろ〜。」
「え〜。心配っす。でもかわいくってしょうがないんですよぉ。」
この際だからと、紺野をぎゅっと抱きしめてしまう。
- 144 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:26
- ふと、梨佳ちゃんと目が合った、。全く、と言った顔をしたが、見て見ぬふりをしたようだ。
時計に目をやる。そろそろ終電が近い。お開きにするか。
- 145 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:27
-
まだまだ飲み足りない人達は流れ、私たちは駅に向かう。
「あれ?紺野?お母さんに迎えに来てもらうんじゃなかった?」
「あ〜。そうです、そうです。」
紺野はもたもたと携帯を取り出し、電話をかける
「あ〜。おかぁさん?うん。今終わったぁ。来てぇ。」
指定した場所は駅とは反対方向。一人じゃ歩けないかな?と判断したアタシは皆に
「そこまで送ってきます。」
と声をかけて、グループを離れ、紺野の腕を取って歩きだす。
- 146 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:27
-
梨華ちゃんはどうするかな?乗り継ぎをはずしたら帰れなくなっちゃうもんな?
そんなことを考えながら駅に向かうグループの方を見ると、梨華ちゃんと目が合った。
「あ、あたしも行く。」
梨華ちゃんが当然。と言った顔で、隣に来た時に、紺野はびっくりしたみたいだった。
「石川先輩、電車、大丈夫なんですか?吉澤先輩もっ、あ、私。大丈夫ですっ。」
「時間?あと15分くらいあるから平気よ?」
にっこりと微笑む梨華ちゃん。お酒のせいなのかいつもよりも声が高い。
「やっぱり、紺野ちゃんが心配だしね」
「えっ、でもっ、これで先輩達が終電逃したら私。困りますっ。」
紺野は慌てた様子で梨華ちゃんにまくし立て、アタシにも聞く。
- 147 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:28
-
「吉澤先輩は平気なんですか?」
「あ〜。アタシは梨華ちゃんより手前の駅だから、まだ平気。」
「や、やっぱり石川先輩。大丈夫です!吉澤先輩と帰ってくださいって。」
そんなこと言い合ってるうちに、待ち合わせ場所に、すっかり到着してしまっていた。
まだまだ紺野は、申し訳ないからと繰り返している。
梨華ちゃんがやれやれと言った顔をしたが、ちらっと時計を眺める。
「じゃぁ。この信号が青になったら、あたし先にいくね?」
- 148 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:29
- 信号が替わった。
じゃぁねぇ。と梨佳ちゃんは歩き出す。
「あ、吉澤先輩。早く追いかけてくださいよ。石川先輩行っちゃう。」
紺野が慌てている。
「ん?なんで?お迎えがもう少しでしょ?」
あたふたとしている紺野を眺めながら、アタシはふと沸いた疑問を訊ねる。
「ねぇ、紺野。アタシと梨華ちゃんをどんな風に見てるの?」
真っ赤な顔をして固まる紺野。少し考えてから、口を開く
「えと。恋人同士っていうか、付き合ってるっていうか。間に入れませんよ。」
ふぅん。そんなふうに見られてるんだ。
- 149 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:30
-
否定も肯定も出来ずに居るところに、お迎えの車が来た。
運転しているお母さんに、挨拶をし、紺野と別れる。
先に行った梨華ちゃんとは、まだそんなに離れていない。今ならまだ間に合うかな?
「よしっ。走るかぁ。」
アタシはダッシュで追いかける。彼女の元へ。
「おまたせぇ。」
わざと前を越して走りぬけ、振り向く。其処には大好きな梨華ちゃんの笑顔。
息を切らしながら、隣に並んで歩く。
- 150 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:30
-
「どうだった?」
「お母さんと挨拶して、見送ってきた。」
取り留めの無い会話。アタシはこれだけで幸せな気分になる。
紺野、まだアタシ、梨華ちゃんに告白とかはしていないんだよ。
なんかね、告白したらこの気持ちいい関係が、壊れてしまいそうでできないんだ。
根性なしかもしれないけど、まだこのままでいいかなぁと思っているんだ。
隣を歩く梨華ちゃんを見つめる。
少し伏し目がちに歩いている。長い睫毛が綺麗。
「なぁに?さっきからじっと、あたしの顔を見て。」
いやいや。とブンブン顔を横に振るアタシを、梨華ちゃんは面白そうに眺める。
- 151 名前:「飲み会」 投稿日:2004/07/22(木) 11:32
- 「変なの、ひとみちゃん。」
梨華ちゃんはくすっと笑い、時計を見る。
「あ、本当に終電逃しちゃうわよ」
急ぎましょ。と掴まれる腕。
こんな関係、何時まで続けられるかな?
考えるのはよそう。今が幸せならとりあえず良いじゃない?
「そうだね、走ろうか?」
梨華ちゃんが掴んだ腕をはずし、逆に手をつないで走り出す。
できればこのまま、ずっといられる事を念じて。
fin
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/22(木) 11:32
-
いやぁ。思ったより長くなっちまった。_| ̄|○
- 153 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 00:54
-
出来ることなら。
時を止めて。
ずっと、ここに。
このままに。
私は、その時そう願ってた。
夜の海は静かで。
時々、通り過ぎていく車の音だけがその一瞬辺りに響いていた。
月は優しく輝いて。
私たちを包んでいた。
私は眠るののとあいぼんの、その光に照らされた頬や瞼を見つめ。
そして、まるで私たちを何かから守るように
睨むように海をじっと見つめるよっすぃーの横顔を見つめてた。
このまま、時が止まってくれればと、願わずにはいられなかった。
- 154 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 00:55
-
あいぼんとののの卒業を間近に控えたある日。
よっすぃーが同期4人でご飯を食べに行こうと言いだした。
勿論、オフの日なんてなくて。
スケジュールはパンパンで。
でも、私たちは二つ返事でその提案に乗った。
なんとか決まった決行日は、二人の卒業の一週間前。
お仕事が終わったのはもう夜中に近いような時間だったけど。
それでも私たちは満面の笑みで支度をする。
「よっすぃー、ご飯食べて帰ろうぜ!!」
矢口さんの声。
「のんつぁん、この後どーする??」
小川の声。
そんな色んな呼びかけを振り切って。
私たちは手に手を取って楽屋を飛び出す。
「「「「ごめんねーー。また明日!!!」」」」
- 155 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 00:56
-
別に誰も追っかけてなんてこないのに。
私たちはそのまま全速力で夜道を走った。
「あーーもうだめぇーーーー」
と最初に弱音を吐いたのはあいぼん。
その手をののが取って
「あいぼん!!」
と引っ張って。
するとよっすぃーが
「ほらぁ」
って反対の手を持って走るから
「頑張れぇ!!」
って私はあいぼんの背を押す。
ののもちょっとずつスピードが落ちてきたから、私は二人の
背中を片手づつ押したけど、そのうち私も息が切れてきて。
「イシカワっそんくらいでみっともないぞっ」
とよっすぃーがキャプテンぽく掛け声をかけてくる。
誰も追ってこないけど。
私たちは笑いながら、でも真剣に、何かから逃れるように夜の闇を
駆け抜けた。
- 156 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 00:57
-
深夜だったから。
他に選択肢がなくて、ファミレスでご飯を食べた。
他愛もない昔話に花を咲かせた。
でも、食べ終わっても誰も帰るぞぶりを見せなくて。
誰も帰りたくなんてないのが、お互い解かってた。
このひと時を、終わらせたくなんてなかった。
誰も、別れの言葉を言いたくなんてなかった。
だから、思いつきで
「花火しよっ」
って私が提案した。
そしたらののもあいぼんもきゃーって歓声を上げて。
よっすぃーは、んー?ってちょっと眉を顰めたけど。
それは、ポーズだけだって解かってるよ。
だって、コンビニで花火を選んでる時一番はしゃいでたのは
よっすぃーだったから。
「加護、ロケット花火しよーぜ、ロケット花火!!」
はしゃいで言うよっすぃーに
「危ないから、普通のにしなよ」
ってたしなめるのはお姉さんの私の役目。
だって、ほら、放っておくとよっすぃーとあいぼんは
そういう打ち上げ系ばっか買い込んじゃうもん。
それで、どうせ私に向けて発射する真似とかするんでしょ?
絶対、本気でしないって解かってるからいいんだけどね。
でも、やっぱり危険だからやめてね。
- 157 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 00:57
-
それから、大量に買い込んだ花火を持って土手まで行った。
きゃーきゃー言って。
片っ端からどんどん消費していく。
赤や黄や緑や。
色とりどりの光。
煙に巻かれた、ののやあいぼん、よっすぃーの笑顔。
切ないな、って思ったら。
ちょっとだけ涙ぐんじゃった。
切ないって、刹那いって書くこともあるんだよね。
刹那いなぁ。
儚く、尊い、刹那な瞬間。
そう思ってたら、両手に花火でよっすぃーを追っかけまわしてた
あいぼんが標的を私に変えてきて。
それ以上感傷に浸っていられなくなっちゃった。
だって、あいぼんホントに火を突きつけてくるんだもん。
お気に入りのスカートにちょっとだけ焦げを作っちゃったよ!!
「もー、あいぼんのばかぁーー」
そう言いながら逃げる私と追っかけまわすあいぼんを
よっすぃーとののは、あははって笑って見つめてた。
切ないなぁ。
- 158 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 00:58
-
花火が底を尽きて。
煙の余韻と私たちが、土手に残される。
私たちは、しばし言葉なく立ち尽くす。
誰が言ったのか。
海が見たい。
ねえ、海見に行こうよ。
やっぱり、私たちはまだまだ思春期な女の子たちで。
感傷的で。
乙女な訳で。
その感傷的な気分のまま、手に手を取ってタクシーに乗り込み
海まで行った。
夜の海は静かで。
涼しくて。
海臭くて。
最初に泣いたのは誰だったか。
最後まで泣かなかったのはよっすぃーで。
辻と加護は結局泣きつかれて眠ってしまい。
私とよっすぃーは二人を間に挟んだまま、防波堤に座り込み
夜の海を見つめてた。
ずっと、このまま。
時が止まってしまったらいいのに。
そんなことを、私は考えてた。
- 159 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 00:59
- まるで、映画のワンシーンみたいに。
月明かりに照らされて、まるで私たちを守るようにじっと
睨むように海を見つめるよっすぃーの横顔を
私はずっと見てた。
よっすぃーは、何を考えているんだろう。
間もなく、私もここを去り。
一人残されてしまうよっすぃー。
その孤独を考えると、胸が痛くなった。
今なら解かる。
去る者の辛さ。
送る者の辛さ。
この三人の、丁度真ん中の地点にいるのが、今の私だから。
私は幸せ者だ。
一番に去っていく不安も、最後に残される孤独も、
味わわずに済む。
だけど。
その分、私にしか解からない辛さもある。
私には、みんなの痛さが解かりすぎて。
それが重く私の胸に圧し掛かる。
ねえ。
私の選択は間違ってなかったよね?
この子たちの、彼女の選択は間違ってなかったよね?
暗い海にぼんやりと沈む月に、私は問い掛ける。
- 160 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 01:01
-
夜の海は静かで暗くて、底が見えない。
私は海のように底なしの感情に飲み込まれていく。
不安になって。
もたれかかっているあいぼんの肩に掛けたよっすぃーの
左手に、自分の右手をそっと重ねた。
よっすぃーは、何も言わず。
前を強い視線で見つめたまま、ぎゅっと指先を握ってくれた。
闇の中で、私たちが離れてしまわないように。
私は横であいぼんにもたれて眠るののの左手に自分の左手を
絡めて。
ののの肩に顔を埋めて、目を閉じた。
手のぬくもりだけを、感じていたかったから。
それだけを、信じていたかったから。
- 161 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 01:03
-
私たちはそのままそこで朝日を見て。
近くのファミレスで所謂モーニングコーヒーを飲んで出勤した。
日々は滑らかに過ぎて行って。
きっと、二人の卒業の日もこうやって否応なく
やってくるんだと思う。
…やがて来る、私の卒業の日も。
私が時を止めてと願っても、朝日が昇ったように。
必ず巡ってくる、特別な、でもどこにでもある一日。
だけど。
私は、私たちは、忘れない。
4人で、なんてことない他愛のない話をして過ごした
あの夜を。
離れないように、手を繋いで迎えた朝を。
だから、きっと寂しくない。
怖くない。
心はいつも、あの朝へと帰っていけるのだから。
そしてあの朝日の中で、私たちは、きっと
永遠に一つなのだから。
- 162 名前:『心はいつも』 投稿日:2004/07/26(月) 01:05
-
〜END
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 01:08
-
ヨンキーズ万歳!!!
( ^▽^)人( ‘д‘)人(´D` )人(^〜^0)
てことで。
愛してるぜ、4期は奇跡だ!!!
(ちょっと場違いなノリかな?…だったらスマソ)
- 164 名前:名無し飼育 投稿日:2004/07/26(月) 13:51
- すごく感動しました。
泣いてしまった・゚・(ノД`)・゚・。
素晴らしい作品ありがとう!
4期大好きだぁー!!!!
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/27(火) 00:44
-
まぢ泣けたよ!!!!
163<名無飼育さんあんがちょ――!!
オイラも4期大好き!!!!
- 166 名前:_ 投稿日:2004/07/27(火) 02:48
- 素敵4期小説の後に恐縮ですが…まこあい書きます。
- 167 名前:_ 投稿日:2004/07/27(火) 02:48
- くい。
くい くい。
「…愛ちゃん」
「ん?」
「あのさぁ…なんでそんなに髪引っ張るのさ」
くい くい。
「えーと…一房だけ白いから」
くい。
「理由になってないよ。つーかあたしの髪は紐スイッチじゃないんだから、そんなに引っ張らないで」
「いや」
「…こんにゃろぅ」
「なーんか引っ張りたくなるんやって」
くい くい くい。
- 168 名前:_ 投稿日:2004/07/27(火) 02:49
-
「あのさぁ、引っ張られるたびに首が傾くの」
「さよけ」
「さよけ、じゃなくて。あたしが今なにしてるか分かってる?」
「本、読んどるのぉ」
くい。
「そう。だからね、髪を引っ張られるたびに読めなくなるんだけど」
「大変やのぉ」
「その『大変』を作ってるのはだれさ…」
「…麻琴?」
「なんであたしなのさ。どう考えたって、髪を引っ張る愛ちゃんでしょ」
「ほぉ」
くい。
「いや、ほぉ、じゃなくて」
くい くい。
- 169 名前:_ 投稿日:2004/07/27(火) 02:49
-
「…………………はぁ」
ぱたん、本を閉じる。
「もう、本読まんの?」
「…読めなくしたのは愛ちゃんじゃん…」
くい。
「のぉ、麻琴」
「なに?」
「あの、さ」
「うん」
「…ぎゅっ、てして」
言われたとおりに、その細い腰に腕を回して抱きしめる。愛ちゃんも、片方だけ、あたしの背中に腕を回してきてくれた。
くい。
「…のぉ、麻琴」
「…なに?」
髪は引っ張られたまま。あたしの首は傾いたまま。
「…こっちのほうが、顔が近くなるんよ」
「…うん」
「……だから…ちゅー、しろ」
「…命令形なのね。しかも『だから』の意味が繋がってないし…」
「ちゅー、しろ」
仰せのとおりに、首を傾けたまま、唇で愛ちゃんのに軽く触れた。
- 170 名前:_ 投稿日:2004/07/27(火) 02:50
-
それだけで、くたん、となってあたしに体を預けた。その後頭部を優しく撫でる。
「ねぇ、愛ちゃん」
「…ん?」
「あのね―――構ってほしかったら、今度からは口で言ってね。
あたし鈍いから、なかなか気づかないから」
「…りょーかい」
「だから、もう髪引っ張らないでね」
「……やだ。なーんか引っ張りたくなるんやが」
――こんにゃろぅ。
終わり。
- 171 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/29(木) 20:51
- 小高可愛いです!
- 172 名前:届け愛のメッセージ 投稿日:2004/07/30(金) 15:07
-
「れーいなっ、何ぼぉっとしてんの?」
「ふはっ…?」
季節の変り目。もうすぐ、夏が来るけん。
だからって、ぼぉっとせんでシャキっとせな。
「絵里の事見てたのぉ?」
「なっ…そげんこつなか!!」
「ウッソだぁ、絵里に何か言いたい事あるでしょ」
「何もなか…絵里に関係なかっ」
田中れいな。夏を控えて、片思いしてる。
同じ6期、亀井絵里に。
でも、なかなか言い出せん。絵里が鈍いっつのもある。
そいでも、勇気が出せん。
- 173 名前:届け愛のメッセージ 投稿日:2004/07/30(金) 15:13
-
「れーなってば、何で絵里にだけ冷たいのぉ?」
そや、好きやから。どう接してええのかわからんと。
絵里が、自分の事どう思ってるのか、不安でたまらん。
「……でもっ、そういうれいな、絵里は好き」
「へぇっ?」
「今までそういう友達、いなかったもん」
「とも…だち…か…」
ほら、一方通行やけん。言えるはずなかよ。
「ねっ、れいなは、絵里の事好き?」
「んはっ!?…そら…絵里と同じ…」
「えーっ、ちゃんと言ってよぉ」
「わ、わかっとるやろ…言わんでもっ…」
何でこげな恥ずかしか事を…複雑…。
「…絵里の事…一番やけん……」
「んぅ?友達として?恋人として?」
「は!??な、何を言うて……」
- 174 名前:届け愛のメッセージ 投稿日:2004/07/30(金) 15:18
-
バレとる。 れいなの気持ち、絵里は知っとる。
「……ま、真ん中やけん……」
「えーっ、絵里は恋人のほうが良いっ」
「何言うと!???さっきは友達て…」
「気が変わった♪」
何じゃこいつ。おちょくってんのか。
「れーなも、そうだったらいいなーって思ったのにぃ」
「…同じやって、言った…」
「え?」
言うてしまえ、田中れいな。
「れいなも、絵里ん事、好いとう。恋人として」
おわり。
- 175 名前:謝罪 投稿日:2004/08/03(火) 00:21
-
たった一言の過ちで、全てが終ると思った。
楽しかった思い出とか、これから作る未来とか。
もう、必要無くなるのかと、思った。
- 176 名前:謝罪 投稿日:2004/08/03(火) 00:24
-
「誰でもいいんだったら、美貴と一緒にいなくていいよ」
「違っ・・」
「いいから。新しいコでも作れば?」
フイッと風に髪を靡かせ、彼女はあたしの家からいなくなった。
昨日の自分が、どうしようもなく憎く、悔しい。
どうしてだろう。口が滑っただけ?
藤本、美貴。前のあたし、吉澤ひとみの恋人。
・・元、恋人。
- 177 名前:謝罪 投稿日:2004/08/03(火) 00:29
- 下級生に、チョコレートをもらった。
嬉しかったから、素直に受け取ってお礼もした。
別に、それだけで彼女が怒ったわけじゃあない。
彼女があたしをシカトする理由は、この後にある。
『先輩は・・好きな人、いるんですか?』
『え・・えーとぉー・・あー、いない・・』
『それじゃっ・・どんなタイプが好きですか?』
『う・・優しい人とか・・誰でもいいかなーっ・・なぁんて・・』
◇◇◇
思わず、恋人だった美貴の名前を出せなかった。
後で色々めんどくさい事になるのが、嫌だったし、美貴にも負担をかけたくなかったから。
でも、一番悪いのはあたし。
『誰でもいい』なんて、軽々しく言った自分が悪い。
- 178 名前:謝罪 投稿日:2004/08/03(火) 00:35
-
同じクラスにいながら、昨日から話し掛けられずにいる。
『おはよう』って言ったけどシカトされるし眼中に入っていない。
溜め息つくとめちゃくちゃ睨まれるし、なんせあたしの後の席なもんだから
プリントとか回す時、目をあわせてくれない。
「近くて遠いっつうのは・・この事かぁ・・」
美貴と同じクラス、同じ部活動に所属していながらも美貴はあたしの事など
気にもせずボールを打っている。
あたし以外の人とは元気に笑って、冗談を言い合っている。
好きなのに。美貴が、好きなのに。
「おーいよっすぃ。チョコ食べたかい?」
「え?あ・・まいちゃん。・・食べたっちゃあ食べたけどぉ・・」
「ミッキーの事がねぇ・・アイツ目も合わせないでやがんの」
まいちゃんてのは、同じクラスで美貴とあたしの友達。
明るくて気さくだから、悩みとか普通にはなせる相手。
- 179 名前:謝罪 投稿日:2004/08/03(火) 00:40
-
「・・別れちゃった?」
「・・・多分」
「あららぁー・・で、謝ったんでしょ?」
「まだ・・」
「ハァ?あんた謝ってもないの?」
「だって話し聞いてくれないしっ、近付けないっ・・」
「馬鹿だな、ズバっといえよ。どーせ夜もズバっと行った仲なんだから・・」
「それは関係ない!!」
確かに、美貴とはカラダの関係もある。
でもでも、それは美貴が好きだからした事。
それを美貴は絶対に分ってる筈なのに、意地をはってるとしか思えない。
「それとなく、さ。ちゃんと伝えないとミッキーいつまでもああだよ」
「う・・ん・・」
ポケットの中に手を突っ込む。
やさぐれちゃってるよ、アタシ。
その時、カサッとポケットの中から何か手にあたった。
・・・これだ。
- 180 名前:謝罪 投稿日:2004/08/03(火) 00:43
-
英語の授業中、ノートの切れ端を破って、先生に見つからないように記す。
あたしの手に握られているシャーペンは、折れるんじゃないかってぐらい熱く握られていて。
カサッ
後に、ぽいっとそのノートの切れ端を投げた。
美貴の、席に。
破られるか、返事を返してくれたとしても痛い言葉か。
- 181 名前:謝罪 投稿日:2004/08/03(火) 00:45
- カサカサッと、紙を広げる音がする。
ドキドキ・・心臓の音も同じように鳴る。
「・・・・」
「・・?」
多分、内容を見たんだろう。
『 ご め ん 』
たった一言が言えなくて、美貴をもどかしい感情に浸らせていた。
そのぶん、謝りたかった。
- 182 名前:謝罪 投稿日:2004/08/03(火) 00:47
-
「・・・読んだ?」
「・・読んだよ」
クスッと笑って、唇に何か触れた。
「バーカ。謝れば、許すっての」
キス、されちった。授業中に。
万事オッケー?なのかな。キスされて真っ赤なあたしはまた美貴にキスをされる。
本当に、ごめんね。
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/07(土) 03:40
-
最近きてるね〜いいねーーみきよし。
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/08(日) 22:50
- リテイクに間に合わなかったという悲しみ。
ここ使わせてもらいますです。
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/08(日) 22:51
- 「此の岸にて」
- 186 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:51
-
「全くやりきれん…」
和尚様は、朱色に染まる夕焼けを見ながらため息を吐いた。
「そう思わんか?」
私は、「思います」と一言に応えた。
「のう、ぼん」
ぼんと呼ばれたのは私だ。
「今やから言うが、わしらは別に宗教家でもなんでも無いんや」
「知ってます」
「そもそもな、わしらが宗祖様と崇めとる親鸞聖人は
そりゃあ立派な人じゃったが、もともとサンスクリット語はおろか
中国語すら読めんかった。人々を救おうっちゅう心意気は人一倍じゃったが
御仏の教えなんて実際殆ど知らんかったんや…」
「知ってます」
「日本の仏教なんてな、今じゃ葬式宗教や。
葬式で金貰って坊主丸儲け。権威主義と金銭主義の
腐れ宗教や。日本らしいゆうたららしいけどな」
「知ってます」
私の淡々とした返事に、和尚様は苦笑してまたため息を吐いた。
この寺は江戸の頃から続く由緒ある寺で、
私をはじめ多くの門下がこうして和尚様の下で修行をしていた。
あの、大厄災なんと表現される『天使』達の襲来以前の話である。
世界中が、わけもわからぬまま天使達によって攻撃された。
幾つかの国は既に滅ぼされたと聞く。
この日本とて例外に無く、一等始めに中枢が破壊された。
首都は壊滅。政府機関は完全に消滅して、まさに市中は地獄と化した。
『天使』達は容赦なく人々を襲い、人口は瞬く間に
もとの1割に満たなくなってしまったらしい。
私たちはどういうわけか、未だ生きていた。
- 187 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:52
-
「きりすと教なんという宗教は、そりゃあ判りやすいもんや。
理解できるんとはまた別やがな。
中にはそうでも無い奴はようけおるけども、多くの人が熱狂的やった」
「そうですね」
「そもそもわしらの仏教には、神様なんてもんはおらんのや」
「はい」
「ただ、人間が自らを救う道を説いたに過ぎん。少なくとも釈尊はな」
「はい」
この寺が生き残った理由は、戦うことが出来たからだ。
もともと街からは少し離れた位置に立っていた。
天使達は人間の多い場所を中心に襲い掛かったので
ここに来る天使は大概1匹や2匹だった。
そして、私たちには武器があった。
日本では銃器を市民が持っていようはずがない。
しかし何故か和尚様は持っていた。
坊主という特殊な立場を利用して、闇社会での様々な流通に一役買っていたのだ。
そして、あまつさえ、その一部を横領していた。
とんでも無いクソ坊主だ。
しかし、そのおかげで私たちは生きている。
おまけに経文の読み方だけでなく、銃器の扱いすら覚えてしまった。
「わしは、白状するが、ほんまに坊主としてなっとらんかった」
「知ってます」
私の即答に和尚様は少しむっとしたが、続けた。
「鎮痛な面持ちで葬式の依頼に来る遺族の顔が
福沢諭吉に見えたもんや」
もちろん福沢も立派な人物やがな、和尚様は小さな声で付け足した。
「軽蔑したか?」
「いえ」
- 188 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:53
-
もともと私とて、坊主になりたかった訳ではない。
実家が寺をしていたのでそれを継ぐ為、いやいや修行に来たのだ。
実家との連絡は点かない。
両親はもはや現世にはいないだろう。
両親は真面目な坊主ではあったが、やはり葬式で生計を立てていたし
それによってそれなりに裕福だった。
このクソ坊主と、今となってはそれほど違う道を辿ったとは思えない。
外から私よりもまだ若い修行僧が帰ってきた音がした。
和尚様は縁側を離れ、境内に向かう。
私もその後に従って歩を進めた。
「ご苦労様」
若衆に和尚様がねぎらいの言葉をかける。
「でもな」
また和尚様は私に向かって話しかけた。
「あれを見て、思い知らされたんや」
若衆が、林道を降りて集めてきたのは、人々の仏だった。
交通手段が無くてはこの寺に来るのは些か困難なことである。
それでも、この寺に向かってくる人がいる。
天使たちはそんな連中を、ことのついでのように嬲り殺していった。
- 189 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:53
-
「あん仏さまは、一体どんな思いで上ってきたんやろうな…。
きりしたんの国はいち早く滅んだちゅうが、やつらにしたら
自分の信仰しとるもんに、言い換えれば自分らが世界を滅ぼしたようなもんや。
もしかしたら気持ちよう死んだのかもしれん。そりゃあわからへんが…。
あん仏さまは、異教の、全くわけもわからん連中にいきなり街を潰され
知人を殺されて、終に自分も仏になり果せたんや。
どんだけ無念やったやろうな」
仏はもう枯れかけた老婆だったが、苦悶に打ちひしがれた表情を
嘲るごとくに、腹をぱっくりと割かれて息絶えていた。
手には念珠をきつく握り締めて。
「御仏の救いのみに縋ってここまで来ようとしたんや。
わしらに、やない。御仏にや。
きりしたんはそでも、おんなし啓示教のいすらむやらゆだやはどんなんやろう…
まさか対立しとった宗教の化身に全部滅ぼされて、どんだけ無念やったやろう」
大厄災以後、和尚様はこうして私たちに命じて
ここを一心に縋って果てた仏を連れてくるようにした。
もちろん、完全な武装と、細心の注意のもとに、である。
- 190 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:53
-
仏の数は、日ごと増した。
こんなにも多くの人々が、このクソ坊主を門主とする
この寺を縋ってやってきたことに、何故か私の心が痛んだ。
和尚様は、その仏を境内で火葬し、経を読み上げる。
そして時々やってくる天使に対しては、自動小銃を手に持ち替え応戦する。
こんな時の為においとったんや、と嘯く和尚様に
心の底から憎しみを抱いたこともあったが、それももう過去の話である。
老婆の荘重な葬儀を終えた後で、また私は縁側に連れてこられた。
夜はとっぷりと更けて、冬の寒さが、例年にも増して身体を穿つ。
「なあ、人間はこのまま終わりやと思うか?」
「……」
私は答えられなかった。
誰しもが絶望の中にいる。
しかし、それはやすやすとは口に出せない、禁忌となっていた。
「わしはそうは思わん」
「え?」
「人間は、しぶとい」
和尚様は穏やかな調子を崩さずに凛と声を張り上げた。
「今までも、なんがあっても何とかしてきおった。
乗り越えようと、最後まであがきにあがき続ける、それが人間や」
「はい…」
- 191 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:54
-
「その証拠に、絶望的な力を前にしても、わしらはまだこうやって生きとる。
日本もまだ生きとる。あめりかかて、滅ばされたゆうても人間はまだ生きとるはずや」
私たちとて、すでにかつかつの状態である。
食料は、和尚様自慢の黒い繋がりから横流ししてもらっていたが
それも日増しに減っている。
「自衛隊はあっちゅうまにやられたが、まだ戦っとるやつらがおる」
日本でも俄かにレジスタンスが形成されつつある。
形の見えない敵。いつ終わりが来るともしれない抵抗。
それでも確かに、人間はまだ抵抗を続けていた。
「仏教は、意外に大きい。この国では。
そやったって気付いたんが、あの後やったんや…」
また和尚様が苦笑した。
日本の抵抗勢力、その中心は奇しくも以前は最も胡乱がられた
日本最大の宗教法人、創○学会の後裔だった。
そして、武力を持つ、ヤクザなどと呼ばれていた連中が矢面に立って
天使どもとの交戦を繰り広げている。
政府機関の軍事力は、巨大でありながら計り知れない相手に対して実に無力だった。
縦横無尽に空を翔る天使。指揮系統と、厳格な統制に成り立つ軍隊は
悉く撹乱され、瞬く間に全滅を喫した。
それに比べれば、奇妙な仁義とやけっぱちな暴力が売りの
昔気質のヤクザ連中は、市外の戦闘で意外な強さを見せた。
- 192 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:54
-
平和な時代には闇を這い、理不尽な暴力を行使し
忌み嫌われた彼らが、今人々の数少ない希望を背負っているというのは
なんとも皮肉な話だ。
和尚様は黙って真っ暗な夜空を見つめていた。
そのままじっとしている。
動かない。
私も、先に戻るわけにはいかず、じっとその横に従った。
寒さが、手足を容赦なく蝕む。
天使の見張りなら、若い連中に任せればいい。
しかし和尚様はなおもじっとして空を見ていた。
「ぼんは、どうしたい?」
長い時間の後にようやく和尚様が、ぽつりと呟いた。
とにかく暖をとりたい、とは和尚様の質問の意味に解さない
だろうことは判ったが、それでも私はその質問の意味を図りかねた。
「お前は、ここでこのままくたばるか?」
真夜中の、耳を裂くような静寂の中に
ぽっと光を見た。
街の方角。また、戦闘があったようだ。
和尚様の言葉を反芻する。
私は、どうしたいのだろうか?
私は、私は…
- 193 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:55
-
「戦いたいです…」
思考が纏まるより先に言葉が出た。
それは、私の、人間としての本能に近い言葉だった。
和尚様は、ふぅ、と短く息を吐いて微かに笑った。
「ここの武器と、使えるものはありったけ持っていってええ。
若いもんにも声掛けてやってくれ。
葬式くらいなら、わし一人で充分なんや」
「でも、それでは和尚様は」
「わしはもう若くない。さすがに戦うことはできん。
でもお前らは、まだまだ腐らすには惜しいんや。
人間らしく、血まみれになって足掻き続けてみたいやろ?」
返事はできなかった。
しかし、私の意志は、次第次第に形作られていく。
しかしそれと同時に、こんなクソ坊主の身が案じられてくる
自分がいた。
尻込みをしているのだろうか。
どこかその思考がいいわけめいているような気がした。
「人間はな、勇気があんねん。
勇気ってのはな、虚栄心が殆どその要素や。
かっこつけやから人間は強いんや。
お前も戦いたいやろ?かっこようなってこいや」
ゴクリと息を呑む。
- 194 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:55
- 何時しか東の空が白んで来た。
その黎明は、今の私にはあまりにも美しかった。
まるで、私の無駄な意識を全部透かし落とすような白い光。
今朝、この寺から出よう。
戦おう。
意思は、完全な塊となって私の中心に腰を据えた。
私は和尚様に一礼した。
和尚様は白んで来た空に照らされ、青白い顔色のまま微かに微笑んだ。
「勝利はあると思うか?」
「それは、わかりません」
「なんや。わしは信とる。いつか、あんな訳のわからんもんとの戦いが
人間の勝利をもって終わるんをな。なんせ人間はゴキブリ並みやからな」
「では、私も信じます」
和尚様は一つ頷いて、またぱっと空に視線を移した。
「もし、勝ったら。もし、人間が勝利して、お前がまだ生きとったら
一度ここに戻って来い」
「ここの地下には倉庫がある。しっとるやろ?
あそこは、たとえこの寺が焼けても無事なようになっとる。
わしはあそこにようさん本を置いとるんや」
「本、ですか?」
- 195 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:55
- 「ああ、大厄災の混乱に乗じて霞め取ったり、流してもろたり…」
「…」
「まあ、冗談はさておきや。
この戦いが終わったら、この、戦争やな、が終わったら。
これを最後の宗教戦争にしたいんや。
もし、お前が生き残ったら、その後はもう戦士やない。
また一から世界を作っていかなあかんねん。
今度は、わしみたいな腐れ宗教家が生まれんような世界。
あんな、えんぜるなんちゅう偶像が生まれようも無い世界や」
「はい」
「宗教の本がある。わしの半生かけて集めたんや。
もちろん仏教の経典もある。研究書もある。
きりすと教もいすらむもゆだやもぞろあすたーもみとら教まで
ありとあらゆる宗教の本がある。
それから歴史の本や。色んな角度から、いろんな歴史を見つめた本がある。
ときどき小説とかも置いとる。
そういったもんを土台にして、あとはお前の頭で考えるんや。
人間は勇気だけやったらあかん。勇気ありったけ使った後には
その頭で考えなあかん。どんな世界にするんか」
「はい」
- 196 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:56
-
日はまだ顔を出さないが、外は大分白んで来た。
私は、はやる気持ちを抑えながら身支度をする。
今朝、ここを離れたいと思った。
街がどんな状況かは見て知っている。
私は、地獄に赴くのだ。
不思議と、心躍る。
若い衆に声を掛けろと言われたが、それはしなかった。
私に必要な、最低限と思われる武器と僅かな食料、水を風呂敷に包むと
私は寺の門の前に立った。
和尚様が後ろからついてきているのが感じられた。
「もう行くんかい」
「はい」
私は振り返って、深々と頭を下げた。
「これまで、本当に有難うございました」
- 197 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:56
-
不思議と、涙が滲んできた。
和尚様に怒鳴りつけられながら読経を繰り返し
いつも心の中で「クソ坊主」と罵っていたのがもう遥か昔に思える。
それでも私は、和尚様の側にあって生かされ、こうして歩みだそうとしているのだ。
和尚様の、限りなく醜い部分のおかげでと言っていい。
皮肉な話だ。
「そうそう」
和尚様は思い出したように喋りだした。
「もし、帰ってきてわしが死骸でころがっとったら、
よっちぃの写真集と一緒に埋葬してくれな。
倉庫に一冊置いてあるから」
私はもう一度頭を下げた。
顔が、見せられなかった。
「お達者で」
そのまま振り向き、一気に門を抜けた。
「クソ坊主ー!!!」
和尚様に聴こえるように、めいいっぱい声を張り上げる。
堤を切ったように涙が流れるのを無視して、私は駆け出した。
終
- 198 名前:此の岸にて 投稿日:2004/08/08(日) 22:57
- 「聖誕祭」のリテイクでして、
そっちを読まないと意味不明かもです。
悪しからずに。
- 199 名前:step 投稿日:2004/08/08(日) 23:01
-
恋してる。
変えられない感情。
あなたが、好きです。
- 200 名前:step 投稿日:2004/08/08(日) 23:10
-
恋愛って、難しい。
ぶっつけで告白するにも、できない。
もし断られたら、友達に戻れるわけがない。
『トモダチ』より『コイビト』がいい。
「ちょっと・・よっすぃ!?聞いてる?」
「・・はぁ」
「よっすぃってば!!ねえ!!」
「わっ!!・・何」
「全く人の話聞いてないんだから。最近いっつもそうだよねよっすぃってば」
「…ごめん」
梨華ちゃんに声をかけられても、全然気付かなかった。
何でかって?それは・・ねぇ。
笑顔が、好き。あの子の笑顔、一人占めできたら。
なんてな。
「・・・かわいぃな…ミキティ・・」
「え?よっすぃ何か言った?」
「・・・」
「おーい、よっすぃ!」
すごく好きで堪らない。あの子が、好きだ。
- 201 名前:step 投稿日:2004/08/08(日) 23:15
-
『美貴、よっちゃんだったら彼氏にしたいよ』
『かっこいいもん、よっちゃんさん!』
『亜弥ちゃんとは違う感じのね、親友だよ』
痛くていたくて、しょうがない。
何にも知らないからそんな事が言えるんだ。
言えるもんか。
「のの、トイレ行ってくるのれす」
「お、ウチも」
「あたしもー」
「おいらもー」
……
何だよ、この楽屋。
冗談じゃないぞ、2人っきりじゃないか。
12人で連れションってどういう事だよ。
ミキティと、2人っきり。
- 202 名前:step 投稿日:2004/08/08(日) 23:22
-
どうすんだよ。吉澤ひとみ。
部屋の隅っこで携帯いじくるミキティは、テーブルに伏せてる
あたしに笑いかける。
ドキッ。
「ねーねーよっちゃん」
「・・な、何」
「美貴の事、避けてるでしょ」
「…え?」
あたしがミキティを、避けてる?
今、溜め息ついたよね?
違う、避けてるんじゃない。
もっと、近付きたいから。
「なぁんか…寂しいよ。最近おかしいから・・美貴心配だけど」
「避けてるんじゃなくて・・」
「美貴、知らない間に何かしちゃったかな」
「違うってば!」
とっておきの人。気がついた時には、心を奪われてた。
気安く受け取るミキティからの笑顔には、大切なものがあった。
ハッキリしない自分がムカついて、ミキティとは距離を置くようにしただけなんだ。
「…きだよ……」
「よっちゃ・・」
「好きだ。あなたが、好き」
もう後戻り出来ない。そんなの分ってる。
感情抑えて、ミキティにどうしろっていうんだ。
- 203 名前:step 投稿日:2004/08/08(日) 23:30
-
「・・好きって、どういう好き…」
「友達のままじゃ、苦しいんだ。ミキティの事、もっと知りたいんだ」
みるみるうちに、彼女の顔が赤くなっていく。
予想外の展開、だったんだろう。
手にしていた携帯をカバンに押し込んで、しかとあたしを見た。
くそっ。好きだっつってんだろ。何か言えよ。
「・・美貴…さ、こういうの初めてだから、よくわかんないんだけどっ…」
「迷惑・・」
「ううん違うの。よっちゃんさんが初めてで嬉しいんだよ?でも・・」
言葉に詰まって、涙を浮かべている。
そっか、断られるのかあたし。
でも、言えたんだ。好きって、伝わったから、いい。
「よっちゃん…梨華ちゃんと付き合ってるんじゃないの?」
「そっか・・ハァァァ?!!」
「え?違うの・・?だってあいぼんと辻ちゃんが・・・」
あたしが、梨華ちゃんと付き合ってる。
事実無根。有り得ない。
……どう言う事だよ。
- 204 名前:step 投稿日:2004/08/08(日) 23:36
-
「・・別れたの?」
「違うよ、別れてもないし付き合ってもない。梨華ちゃんとはそんなんじゃないから」
「あいぼんがね、付き合ってんだよって…」
「あのクソガキ共・・」
あとでシメ殺しちゃる。
って…あれ?
今あたし、何されてんの。
ふわって、ミキティの匂いがした。
「・・・美貴も、好き。ずっと前から、好き」
「や、あのこれはっ…」
「ありがと。めちゃくちゃ嬉しい」
すっと立ち上がったミキティは、ぼーっと突っ立ってるあたしを
抱きしめた。
俗に言う女の子の匂いかな・・香水なんかじゃない、彼女の匂い。
「・・梨華ちゃんとそうなってるんだったら、言わなくてもいいかなってずっと思ってて・・」
「んな事…」
「もう一回、言って」
「は?」
自然に、あたしの両手がミキティを包む。
言ってくれと、甘える彼女の願いを叶える。
- 205 名前:step 投稿日:2004/08/08(日) 23:42
-
「・・・あなたが、好きです」
サラサラの髪をそっと撫でる。
松浦、してやったり。
愛しくて、大好きで。ずっと欲しかった温もり。
「・・言ったよ」
「ヤダ…何かハズイ」
「ミキティが言えって言ったんじゃん」
「そうだけどぉ・・あ、そろそろいい」
「へ?」
ぱっとあたしの腰にまわしていたミキティの手は解かれて、また
隅に戻って行く。
何、どういうこと。
「・・美貴でいいの?」
「ううん。ミキティがいい」
「ハズイってば!!言うな!」
「そっちが聞いたのに…」
ミキティは、あたしのモノになった。
やっと手に入れた大事な宝物だから、大事にしなきゃ。
ファーストキスは、いつになるのやら。
fin
- 206 名前:step 投稿日:2004/08/08(日) 23:42
- どうも、前作のよしみきを書いたものです。
今度も飽きずに書いてしまいました。
- 207 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/09(月) 04:21
-
よしみきをありがとう!!またもや最高でしたよ〜!
- 208 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:14
-
♪〜〜♪〜♪〜♪
「もしもし?」
『あ、まっつー?今、暇?てかどこにいる?』
「え、今?家だけど…。まだご飯食べてない…。」
『じゃああと十分ぐらいでそっち行くから、出かける準備しといて。』
「なんで?」
『いいから。絶対だよ。』
それだけいうと、彼女――愛しのごっちんは電話を切ってしまった。
待ってよ。今日ガッタスの試合だったんでしょ?結果は?ていうか
こんな夜にどこ行くのよ。
なんて思っていても、体は正直で。クローゼットの前までスイスイ歩いていく。
心なしか、ちょっとウキウキしながら。だってごっちんとはガッタスの練習とか
ハローのライブ、イベントでしか会えない。今日だって、行きたかったのに。
練習にろくに出れなくて、呼ばれなかった。まぁ仕事があったんだけどね。
一応今日は寒いので上着を取り出しリビングに戻る。
すると、目にする写真。キッチンとリビングの間にあるカウンターみたいな
台に、布巾の隣にある写真たて。
- 209 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:14
-
「ごっちん…会いたいよ…早く…早く来て…。」
春のコンサートに内緒で来てくれた時に楽屋で取った写真。
顔を寄せ合ってピースしている。満面の笑みだ。
この前冒険王で会って以来だから、まだちょっとしか経ってない。
でもね、でもねごっちん。
「会いたいんだよぉーーーー!!」
「叫ばなくていいから。ごとーも会いたかったよ。じゃ、行こう。」
「へ?」
いつの間にか後ろに立っているごっちん。ちょっと照れてるのか頬を紅くして、
でもなんか急いでるみたいに。
「な、い、いつから?」
「その写真、抱きしめた辺りかな?」
「ならさっさと声かけてよ!バカ!」
そういってごっちんを引っ張るアタシ。変なとこ見られちゃった…。
だって写真抱きしめてるなんて…そういうの、嫌いなんじゃないかな。
ごっちん束縛されるのは嫌いだって言ってたし…。
- 210 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:14
-
「タクシーでちょっとだから。」
そういうと待っていたタクシーに乗り込み、
「じゃあ運転手さん、さっき言ってたところまで。」
「あいよ。」
車が動き出す。ごっちんはなんだか真剣な顔して外をみている。
でも手はぎゅっと握ってくれてて、大事にされてるんだなぁって思った。
行き先もわからないまま、おおきな建物の前にタクシーが止まる。
「お譲ちゃん頑張りな。」
「や、そういうんじゃないですって…。」
タクシー代を払うと、ごっちんは紅くなりながら運転手さんにいう。
「行こう。」
「ごっちん、ここって…」
建物を見上げると、大きな十字架のマーク。これって…
- 211 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:15
-
「そ、教会だよ。寒いから中入ろうよ。」
「え、いいの、勝手に?」
「わかりゃしないよ。」
いやだめでしょ普通に。冷静にツッコミながらもごっちんの言動の意味が
わからず黙ってついていく。教会のドアを開けて、入ろうとした時だった。
「まっつー…んにゃ、亜弥ちゃん。」
「は、はい?」
「目を瞑ってください。」
「え、こんな中途半端なとこで?」
「うん。」
言われたとおり、目を瞑る。
ごっちんに腕を絡めながらあるく形になり、ちょっと恥ずかしかった。
だって、ここはいわゆる一つのバージンロードってヤツですよ?
「目、開けて。」
「ぅん。」
ふっとあけると、目の前には神父様…え?隣をみると、笑ってるごっちん。
振り返ると…
- 212 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:15
-
「あ、みんな!なんでいんの!?」
みきたんをはじめとするガッタスのメンバーや、ハローのメンバーが私服だけど
きちんと座ってヒューヒューなんていいながらこっちを見ている。
「な、なんなのごっちん?」
「フフフ、見てわかんない?」
そういって神父様…もとい、よっすぃ〜はゴホン、といってこっちを見ている。
え、え?これって…もしかして…
ごっちんは優しい笑顔から真剣な顔になって
みんなからかうのをやめて
よっすぃ〜は身を乗り出してこっちをみている
これは…期待しても、いいのかな?
- 213 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:16
-
「形だけでいいんだ。亜弥ちゃん、あたしと結婚してください。」
ごっちんのその言葉は、今まで言われたどんな愛のささやきよりも甘く、
アタシを幸せにするものだった。
嬉しくて、涙が止まらない。
「え、いやだった…?」
急に泣き始めたあたしに心配そうに顔を覗き込んでくるごっちん。
あたしは首を横に振って答えた。
「形だけじゃなくていいから…ごっちんと…ずっと一緒にいたい…。」
泣き顔を見られたくなくて、ごっちんに抱きつく。ごっちんは優しく
抱きしめてくれた。
「亜弥ちゃんも、もう十八になったし。本当は誕生日にしたかったんだけど、
スケジュールがね。それに、ガッタス初優勝を決めてからにしようって…。」
耳元でごっちんが言った。その声は安堵した様子で…あたしがそのプロポーズ、
断るとでも思ってたのかな?
- 214 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:16
-
「オホン!幸せなところ申し訳ないんですがね、こうれいのアレ、やってくださいよ。」
「「は?」」
見事にハモるアタシとごっちん。こうれいのって…え?
「誓いのチューに決まってんじゃん!」
後ろからみきたんがいう。いやいや、だってみんな見てるし…第一、ごっちん
顔真っ赤だし。てかみんなの前で結婚式やるって考えてたならわかるでしょ!
「ち、誓いってうちらなんも誓ってないよ?!そんなみんなの前で…」
「バカ!そんなこといったら…」
よっすぃ〜はごっちんの発言に大きく頷き、
「じゃあ、誓ってもらいましょうかね。」
と言った。
- 215 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:16
-
「アナタは一生この女性を愛することを誓いますか?」
「あれ、よっすぃ〜なんか違くなぁい?」
「いいの!誓うの?誓わないの?」
「ち、誓います…」
ごっちんは激しく頷きながら半強制的に誓った。
「アナタは生涯この女性を愛することを誓いますか?」
「誓います!!」
そういうと隣にいるごっちんに腕を絡めた。
「では、誓いのちゅーをしてください。」
よっすい〜は早くそれが言いたかったみたい。ごっちんは明らかにうろたえて
「しなきゃだめ?」と可愛らしくよっすぃ〜に言った。いつもならこれで許しちゃう
よっすぃ〜だけど、こればかりはだめみたい。
「わかったよ。」
そういってあたしのほうを向いて、肩に手を置いてあたしを引き寄せ、
あたしの唇に自分のを重ねた。恥ずかしがってすぐに離すと思っていたのに、
ぐっとあたしを引き寄せて腕の中に閉じ込めながら、キスを続けた。
- 216 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:17
-
「あ…」
急に唇を放したと思ったら、こっちまで恥ずかしくなるくらいに真っ赤になって
呟いた。
「ずっと恥ずかしくてあんまり言ってなかったけど、ハッキリ言います。
あたしは、亜弥ちゃんが好きだから。誰よりも、大切にしてみせる。」
ごっちんってばいつもみんなの前ではキスしようとしない。
甘えてくるくせに、抱きしめてくれるくせに、チューは絶対しないんだ。
「好きだよ」って言葉だって、あんまり言ってくれなかった。
でも、今回ので帳消し。
「あたしもだよ、ごっちん。」
もう一度抱き合うと、みんなが拍手してくれた。ヒューヒュー、なんて
からかったりしても、みんな祝福してくれた。
- 217 名前:あなたのとりこ 投稿日:2004/08/16(月) 19:18
-
その後、お台場カップの賞金を使ってハローのこれたメンバーで
焼肉を食べに行った。
「亜弥ちゃん、ごめんね、急にこんなことして。」
「ううん、いいの、嬉しいから。」
焼肉を食べた帰り、ごっちんは家まで送ってくれた。
あたし達だけの、秘密の結婚式。
でも仲間達が祝福してくれて、協力してくれて。
みんな、ありがと。
ごっちん、愛してます。
- 218 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/16(月) 19:19
-
あやごま書きました。終了です。
できれば自分のスレでごっちん視点かければと思ってます。
その前に小説更新しなきゃ…。
- 219 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/16(月) 21:48
- んあ、楽しかったっす!!
どちらの板で書かれているのでしょうか…?
- 220 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 04:27
-
「夏の終わりちかく」
- 221 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 04:27
-
「ねぇ、絵里。もう帰ろ?」
せっかく花火を見に来たというのに、さゆはご機嫌ななめ。
さっきから、花火にこんな人が集まるなんておかしい、とぶちぶち言ってる。
さゆは浴衣を着て、外に出たかっただけなのかもしれない。
「そんなこと言わないで、花火見よ? ね?」
わたしがそんなことを言っている間に、最初の花火が打ちあがった。
どーん、と空気が震え、ハッと顔をあげると、パラパラと花火は散っていた。
その美しさに、思わず溜息が落ちる。
- 222 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 04:28
- あれだけ文句を言っていたさゆも、ポーッとして花火に見入っていた。
さゆは花火が嫌いなわけじゃなくて、人ごみが嫌いなだけなんだ。
去年、花火を見て泣いていたことを思い出してホッとした。
わたしはさゆの手を取り、花の咲く夜空を見あげた。
花火がひとつ打ちあがるたびに、さゆの手がきゅっとわたしの手を強く握ってくる。
- 223 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 04:29
-
わたしは花火そのものよりも、打ちあがったあとの方が好きだ。
暗い空にきれいな火の粉が舞い、その軌跡に白くけむりが残る。
それはゆっくりと広がり、とけるように消えていく。
次が打ちあがり、光に目をうばわれていると、その残像は余韻すらなくなっている。
花火そのものよりも、その儚さが好きなのだ。
わたしはそれをさゆに伝えたくて、半開きの口を横目に見ながら話しかける。
「さゆ?」
赤や青、黄や緑の光の筋がいっせいに天に向かって伸びていく。
「すごぉ……」
さゆは食い入るように夜空を見つめている。
わたしの話を全く聞いていない。
聞こうともしない。
わたしはなんか悔しくなって、さゆの腕をつかみ、思い切りふった。
「さゆっ、もう帰ろう?」
「いや」
「なぁんで! 帰りたいって言ってたのにぃ!」
「もっと見るから」
こんな答えが返ってくるのはわかっていたけど、わたしも帰るつもりはなかったけど、さゆはこっちを見ようともしない。
かまってほしくて、いっしょうけんめい腕をぶるんぶるんさせてるのに。
無視されたようで、すっごく嫌な気分。
でも、いろとりどりの光に照らされるさゆの横顔を見ていると、そんな気分はしゅるしゅるとしぼんでしまう。
- 224 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 04:30
-
バチバチという破裂音とともに、眩しいくらいに空が明るくなる。
空気が弾け、夜が割れて昼が顔を出してしまったみたいだ。
いくつもの花火が連続して夜空に煌き、黄金色の光の帯が眼前にせまってくる。
天地を揺らすような空気の振動に、わたしの鼓動も高鳴っていく。
圧倒的な光景に、気がついたら涙がこぼれていた。
「ねぇ、さゆ、すごいね!!」
テンションのあがったわたしは、少し跳ねるようにして言った。
さゆがこっちを向いた。
目が合う。
それが久々の気がして、感動してる上にたまらなく嬉しくなった。
この喜びをどうにかして伝えたい。
ほとんど何も考えず、さゆの唇めがけて飛び上がった。
唇に柔らかい感触を感じた次の瞬間、歯と歯がごちんとぶつかりあってしまう。
わたしとさゆ、同時にうずくまった。
- 225 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 04:31
- 「絵里、いたい……」
「ごめん、ちゅーしたかっただけなの」
「……ふーん」
「花火で感動して、つい」
ちょっといいわけっぽくなってしまったような気がする。
さゆは口をおさえたまま、わたしを見ている。
「そっか、なら仕方ないね」
そう言って、わたしに唇を勢いよく寄せてきた。
でも、わたしとの身長差を考えないもんだから、
その唇は目とこめかみの間という、中途半端な位置におさまってしまった。
あっ、とさゆが小さく声をあげた。
わたしはそれがおかしくて、吹き出してしまう。
さゆもつられてわらう。
ふたりとも、ひとしきりわらったあと、なんとなく気恥ずかしくて沈黙。
- 226 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 04:32
-
花火大会終了のアナウンスが聞こえ、ごったがえしていた人々がゆっくりと動き出す。
わたしとさゆ、同じように白くけむった夜空を見あげたまま、動けないでいる。
周りの人が帰路をいそくざわめきの中、わたしは小さく、でもさゆに聞こえるように言う。
「あのさ、人がいなくなるまで、もうちょっとここにいようか……」
「……そうだね」
さゆが静にうなずき、わたしはその肩にそっと頭をのせた。
すると、さゆはわたしの頭に頭をコツンとぶつけてくる。
わたしは少しだけさゆに体をあずけた。
雑踏のすきまから、すず虫の鳴き声が聞こえてきた。
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 04:32
- おしまい
- 228 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 00:19
-
ここは下町。人情溢れる江戸っ子町。
今日も誰かが熱めのお湯を求めてやってくる。
誰もが心地よく、ホッと出来るスペース。
ぜひ、おいでください。
- 229 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 00:25
-
「…お湯は常温…と、温度は完璧。水位も平常…」
ここは下町江戸っ子の町。
広い風呂場で甚平を羽織り、袖をまく仕上げてお湯に触る若い輩。
『下町銭湯』の番頭である、吉澤ひとみ。
僅か20歳という若さで父の仕事を受け継ぎ、創業300年の歴史を持つ銭湯
を切り盛りしている。
「よし、これでオッケー…ってなんじゃこりゃぁ!!」
太陽に吠えろ並の声を上げ、タイルに落ちているピンクのタオルを拾った。
- 230 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 00:31
-
「こりゃー…梨華ねぇのだな」
ピンクを所持している人物といえば、彼女の姉である梨華しかいない。
本来ならば姉が銭湯を受継ぐ筈なのだが、姉には銭湯を切り盛りする
気迫は全く存在していない。
「吉澤さぁん、釣り銭確認おわりましたーっ」
「おーぅ。それじゃ扇風機かけとけー」
「オイーッス」
風呂場の引き戸を開けたのは、吉澤の従兄弟である小川麻琴。
口をポカンと開けているが仕事はよく出来る。
最近彼女が出来たらしく仕事に支障を与え、吉澤に喝を入れられた。
「さーてと…そろそろ店開けっかな」
夕方5時半、夏の風が爽やかな夕日を覗かせながら、『下町銭湯』は始動する。
- 231 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 00:37
-
「梨華ねぇー、冷蔵庫に牛乳入れといてって言っただろ!!」
「あ、ごめん忘れてた!!」
「あーもう!ほら、このタオルも梨華ねぇのだろっ」
「ごめんってば」
このドジ。
口に出せば後が怖いと恐れる若き番頭であった。
ガララ
「いらっしゃー…何だよ、美貴か」
「何よその露骨な反応…」
「別に。何でもねぇよ。何しに来た…」
「お風呂入りに来たんですぅー。客だよ客!!」
ベ−ッと舌を出して、番頭を軽くこづく彼女は藤本美貴。
番頭の幼馴染みである。
幼き頃からの付き合いだが、男勝りの番頭はぶっきらぼうだ。
- 232 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 00:42
-
「はい」
「え?金はいいよ…」
「ダメだよ。アンタ番頭でしょ?」
「そうだけど…」
「いいから。美貴客で来てるんだよ」
「……わーったよ」
美貴から渡された入浴の代金。
幼馴染みから金を取る事に抵抗を感じる番頭だが、美貴に押されて
受け取る形になってしまった。
「…ひとみ」
「わっ!!ビックリした…梨華ねぇかよ」
「美貴ちゃん…最近綺麗よねぇ、元々綺麗だけど…」
「は?そーか?どこが?」
「恋でもしてるのね。きっと」
「ハ?恋?あの女が?有り得ないから」
あの焼肉大好きレバ刺しに命をかける女。
恋に没頭するわけがない。
軽く流した番頭だったが、妙に引っ掛かった。
- 233 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 00:50
-
「…アイツが…恋ねぇ…」
有り得ないだろう。
そう思っていても、気になる。
口ではああ言うが、本当は美貴は気になる存在であった。
幼馴染み…でもなぁ。
「何ジロジロ見てんだよぉ〜」
「だっ…誰がお前みたいな奴っ…」
「美貴の事すっごい見てたよ?」
「見てなんかねぇよ。さっさと風呂入って帰れよっ…」
「素直じゃないなぁー」
タオルを番頭から受け取り、頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
美貴よりも背が高く、1つ年上であるにもかかわらず。
「吉澤さーん、女子風呂で排水溝に石鹸のカスが詰まったみたいで…」
「え?ああ、今行くよ」
客に釣り銭を渡す直前、試練が訪れた。
- 234 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 00:55
-
「…美貴がいる時に限ってよぉ…くっそっ」
意識している。
自覚しているのだが目を反らしている自分がもどかしくもあった。
女子風呂に向かう足は重い。
女子風呂にはもちろん、裸の美貴がいるのだ。
昔と今の体つきは違う。
「なっ…何考えてんだ!」
必死に頭を振り、ありもしない妄想を打ち消す。
カララ……
「何やってんのよ、脱衣所で」
「へっ?なっ…美貴!!??」
「覗き?」
「んなわけねーだろ…つーかマッパで歩くなよっ…」
「バスタオル巻いてんじゃん。何想像してんだよー」
「し、してねえよ!!」
「そーそ、あっちで石鹸のカス詰まったらしいよ」
「そうだよ。だから来たんだよっ」
急に脱衣所で出くわした、バスタオルを巻いた美貴。
心臓が高鳴り、異様に目のやり所に困った。
- 235 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 01:01
-
「あ…ここか。よっと」
排水溝の淵をあけ、棒でかきまわしカスを取った。
こんな事をするだけで勇気がいるのだから忙しい。
自分はおかしい。
他の女性の体を見ても、ちっとも変な事を思わない。
美貴だけに感情を抱いているのだ。
「んな事ねーよ。有り得ないって…」
頭にバンダナを巻き、鏡を見て頬をベチベチとひっぱたく。
「…本人に言えばスッキリすっかな……」
「何を?」
「アイツが好きなのかって事…ってうわぁぁぁ!!!」
「…ちょっとウルサイよ。声でかい」
風呂から上がった美貴はハンドタオルで髪をふきふき、鏡に向かって
何か唱えている番頭に抱きつく。
「何ぶつくさ言ってんの?」
「や…何でもねぇよ。つーか何だよコレ」
「昔みたいに遊ぼうよ、たまには」
「だ、だからって…何で抱きつく…」
鏡に向かう番頭を、後から抱きつく美貴。
自覚している気持ちが伝わりそう。としどろもどろだ。
- 236 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 01:09
-
「…ひとみさ、男顔だよね」
「だ、だから何だよ…」
「昔はかっちょよかったよね〜、喧嘩強かったし」
「…だから何が言いた…」
ギュッと、ひとみを抱き締める手は熱かった。
美貴のコドウが、背中を通して聞こえる。
「……好きだよ、昔も、今も」
「ハ…?」
「馬鹿だけどさ、そゆとこが好きなの」
「何言ってんだ…よ?」
「ひとみは、美貴の事親友止まり?」
風呂上がりの、あったかさが伝わる。
彼女の温もりでもあった。
「…好きだよ」
「ふふっ。そっか」
「美貴と同じ…なんじゃねーの?」
「何だよ。本当に素直じゃないよひとみは」
「何でだよ…」
「美貴の事愛してるでしょ?」
「ハッ!?い、今なんて…」
「大丈夫。美貴もひとみと同じだから」
「だっ…何…!?」
フッ飛べ番頭さん。
回路が壊れ、笑いながら牛乳をイッキする美貴をただ見つめる事しか
出来なかった。
- 237 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 01:13
-
「…梨華ねぇ、彼女出来ちゃった」
「知ってる、現場見ちゃったよ」
「……もー頭の回転が遅いんだけど…」
「良い経験になるわよ、恋は」
「そーかな…」
「仕事が疎かにならない程度に付き合いなさいよ」
「ハイ…」
2本目の牛乳イッキに突入した美貴を止めさせる番頭。
二人の戯れる姿は幼き頃そのものだった。
お世辞にも、カレカノにはみえない。
「それにしてもさ、お湯熱すぎない?」
「そっ…それがここの伝統なんだよ」
「体冷ましてよひとみ」
「ど、どうやって」
「こうやって」
「へっ?」
一瞬にして唇を奪われた番頭。
熱くねっするお湯よりも、熱くなる自分の頬。
- 238 名前:東京下町銭湯物語 投稿日:2004/08/23(月) 01:16
-
ここは下町。
熱くお湯が煮えたぎる、夏の日々。
「恋と仕事の両立は難しいっすよね、吉澤さん」
「すまんな、この間怒鳴ったりして」
「いいえ、愛ちゃんとはうまくいってますから」
「そうか」
「吉澤さんは、藤本さんを上手く慣らして下さいね」
「まーな…」
「ちょっと、何の話してんの?」
「…無理だな、麻琴」
「何?何の話よひとみ!!」
「いーから黙ってろよ」
東京下町銭湯。恋もお湯も、熱くねっしております。
FIN
- 239 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/23(月) 03:44
- 最高でした。
設定がたまりませんな〜
- 240 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:25
- よくある、よくある。
起き掛けとかは、顔がむくんでいたり、四肢がむくんでいたり。
髪の毛だって、爪だって知らないうちに伸びているものです。
でも、でもでも…。
こんなのって、起こりうるのですか?
「…」
「…」
正方形の窓から、陽光が我が身を照らす爽やかな朝。
私の向かいには、パツパツのパジャマを着用し正座をしている女の子。
羞恥に染まった頬を隠すように俯き、上目遣いで私を見上げてきます。
可愛い…可愛いですけど、果て無き違和感。
昨日、就寝前まで確実に彼女の背丈、胸囲、その他諸々は私よりも僅かですが下回っていました。
しかし、今はどうでしょう?
パジャマを盛り上げる、井上和○ばりの大きな胸。
裾から露出した腹部は、余計な脂肪などなく、キュッと適度にしまりきっています。
立ち上がってみても…_| ̄|○
いつも見おろす位置にある彼女の瞳が、現在は上方に。
飯田さんといい勝負ですね…。
「紺野さぁん…」
- 241 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:25
- …やめてください。
そんな潤んだ目で、私を見つめないでください。
両手を組んで、胸に押し付けないでください。キレてしまいそうです…。
「…待ってて。服買ってくるから」
暴走直前の欲望を抑え込み、彼女をベッドへと促します。
自称一番優しい笑顔を向け、さらりとした彼女の髪の毛を撫でると、私は足早に自室兼愛の営み場を後にしました。
あ、そういえば…私も着替えないとでしたね。
- 242 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:25
- ――
――――
- 243 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:26
- なんだかんだ言っても、寝坊に助かりました。
手際よく買い物が出来ましたからね。
「…ありがとうございます」
突如、尋常ならざる成長を見せつけてくれた亀ちゃん。
ちょっとした動作でもその大きな胸が大きく動いて…はっ!?
私ってこんなスケベキャラでしたっけ??!!
「あ、あの…着替えたい、んですけどぉ…」
「あ…ご、ごごごごめん…」
もう、ギュルンと。
そんな擬音がしそうなほど激しく踵を返し、亀ちゃんに背を向けます。
すると、シュッシュッと控えめな布の擦れる音が。
- 244 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:26
- ああうぅ…。
見たい…この上なく見たい、もうバッチリキッチリ見たい!
しかし、やはり親しき仲にも礼儀あり。
幾らお付き合いしていようと、他人の着替えを除くなど卑下!更には矮小。
この紺野あさ美。耐えます。えぇ、耐えますとも。
例え、今背後で見たことの無いような楽園が広がっていようと、耐えてみせます。
えぇ。それもこれも、彼女の――我が愛しき亀井絵里の為なのです。
「…終わりましたぁ」
「ん…っ!」
- 245 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:27
- ⊂⌒~⊃。Д。)⊃ <ヤラレタ…
きゅ、急な出来事だったので、適当に選び購入してきたワンピースですが…。
(・∀・)イイ!!ですね。
絞まるところは絞まり、出るべきところは出ている今の亀ちゃんの姿態。
それを惜し気もなく、ワンピースは強調してくれています。
開け広げた胸元から、む、胸の谷間が…グハッ!!
「こ、紺野さん…?」
「あ…ううん。失礼」
咳払いを一つ。
そして亀ちゃんにも促し、腰を下ろします。
亀ちゃんはベッドに。
私は少し離れた椅子に。
誰も、どちらも何も話し出すことなく、沈黙がスタートを切りました。
俯く亀ちゃん。そんな彼女を観察する私。
- 246 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:27
- しかし…ホントにこれなら、一流モデルですら目じゃありませんよ。
いや、決して私の彼女だからとか、そういう自惚れじゃないですよ。
客観的に見ても、今の亀ちゃんは完璧なのですよ。
えぇ、もうMEG○MIとか小○栄子なんかホント、足元にも及ばないですよ。
顔のつくりとか、肉のつき方とか。
彼女、元々恵まれたものを持っていましたからね。
胸や身長があれば、モデルだってやれたんですよ。
「…どうしてでしょう?」
余計な思考の巡回を即刻停止。
漸く、ボソボソとではあるけど、話し始めた亀ちゃんに耳を傾けます。
- 247 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:28
- 一言目を呟いてから、一拍後。
二言目が出て、そして三言目、四言目…途切れ途切れではあるけど、でも確りと亀ちゃんは言葉を紡ぎだしていきました。
「わたし…何も、してないのに…なんで、どうして…こんな…
こんな、不可思議な…起こるはずなんか、起こるはずなんか無いのに…
わたし…紺野さん、わたし、気持ち悪いですかぁ?」
「………はっ?」
「だって…だってだって…こんな超常現象みたいな事が起きちゃってるし、
しかも無自覚で…お化けみたいでしょ?妖怪みたいでしょ?
気持ち悪いでしょぉ…?」
…何を言っているのですか、この子は。
愚問です。
えぇ、私に問うことすら無意味な、低級な質問です。
なぜなら、私の答えは何時でも不動。
揺らぐことなく、私という存在の根底に張り付いているのですから。
- 248 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:28
- 「亀ちゃん…どうして、私が亀ちゃんと付き合ってると思ってるの?」
「えっ?」
「貴女を愛しく思うからこそ。
私は亀ちゃんのちょっとずれている所、
のんびりと、まるで老人のような所、
面白い事のベクトルが、常人と僅かにずれている所。
そういうところを含む、亀井絵里という女の子を私はとても愛しているのです。
だから、気持ち悪いなど思うわけ無いでしょう?寧ろ…」
言いかけて、どうにか踏みとどまります。
『寧ろ、現在の亀ちゃんの姿も萌える』などとほざいては、真の変態さんになってしまいますからね。
「…まぁ、そういうわけで、私はどんな亀ちゃんであろうと、好きだから。
変な心配はしなくていいよ」
「…紺野さん」
パッと、以前と変わらぬ彼女の顔に、満面の笑みが咲きました。
そして不意に立ち上がったかと思うと、これまた不意に―――。
- 249 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:29
- あぅ…。
嬉しいです。抱きしめてくれるのは、とても嬉しいのですけど…。
む、胸がぁ…っ!豊満な、肉付き豊かな胸がぁ…!
ヒィ!ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイ!!
り、理性がぁ。
娘。一、理知的でお淑やかなこの私がぁ…っ!
「あ、ゴメンナサイ…嬉しくってつい…」
「…イエ、イイノデスヨ…ハ、ハハ、ハハハハハ」
良かった。
飛ばなくて本当に良かった。
飛んでいたら、多分、亀ちゃんを何回泣かせていたでしょうか。
亀ちゃんが離れ、再びベッドに座るのを見届けると、私は心中嫌悪を感じられずにはいられませんでした。勿論、自身にです。
- 250 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:29
- 表に出さないよう沈みながら、視線を亀ちゃんの顔へと戻しました。
先ほどとは打って変わって、そこには愛くるしい笑顔が刻まれています。
いつもの亀ちゃんです。
だから、私は訝しげに首を傾げてしまいました。
「亀ちゃん」
「はい?何ですかぁ?」
「…その身体のことについては、何の懸念も持たないの?」
甘えたような猫なで声に、微かにクラリときつつも、自分を叱咤激励し再び彼女の身体に目を這わせます。
大きく膨らんだ胸の双丘、腰の括れは適度に細く、裾から除く脚も文句の付け所が無いくらい精緻で、美しい。
面影を残すのは、不変の顔だけ。
でも、幼さを残す彼女の顔が、余計に私の情欲をこれでもかと刺激しています。
「これですかぁ?別にいいですよぉ」
「…なんで?」
「わたし、紺野さんに嫌われなければ別にいいです。
それに、前よりも大人っぽくなってわたし的にもいい感じですぅ」
あぁ、そうですか。えぇ、そうですね。
確かに、以前の亀ちゃんの姿態とは月とミジンコですよ。
私も嬉しいし、亀ちゃんも嬉しい。
はい、これにてこの問題は万時解決…というわけにも逝かないのですよ。実際。
- 251 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:29
- 「…仕事はどうするの?」
「……………あ」
はぁ…。
全く、それが一番大事な問題でしょう?
忘却の彼方に追いやるとは、一体どういった脳の構造をしているのですか。
「だ、だってだって…紺野さんの言葉が嬉しくてぇ…うっ…」
「…な、泣かないでよ。別に怒ってるわけじゃないから。ほら、笑顔でしょ?」
渾身の笑顔。
独特の猫目を潤ませながら、今まさに泣かんとしていた亀ちゃんも一発で笑顔に戻ります。
完璧です。
私の笑顔は、亀ちゃんのそれにも勝るとも劣りませんよ。
涙の残滓を光らせながら嬉々として笑う亀ちゃんには見えないように、私は影で小さく嘆息しました。
- 252 名前:コンコンの苦悩with煩悩 投稿日:2004/08/23(月) 19:30
- 「紺野さん、大好きぃ!」
「わっ!?ちょ、ちょっとこら!亀ちゃん…ニヤリ」
…さて、ここからが問題です。
確か、明日はMステの収録があったはず。
私の胸に顔を埋める亀ちゃんの肩越しに、壁にかかる時計を確認。
そして、思考を巡らせます。
現時刻は、午前の十一時。
残余時間は、約二十時間。
…この短い時間の中で、目の前の大問題を解決できるのでしょうか?
「紺野さぁ〜ん」
プニュ。
プニュプニュ。
「……ニヤ、ニヤニヤ、ニタリ」
…まぁ、何とかなるでしょう。
終われや、コノヤロウ!
- 253 名前:コンコンの(ry作者 投稿日:2004/08/23(月) 19:31
- スイマセン…願望ではないです…
と、自身を持ってはいえません_| ̄|○
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/25(水) 23:19
- 誰かみきやぐ書いてくれませんか?
- 255 名前:167から170の作者。 投稿日:2004/08/26(木) 02:04
- 171>名無飼育さん ありがとうございます!……でも今度は田亀です。
- 256 名前:if... 投稿日:2004/08/26(木) 02:04
- 「ね、ね、れーな」
「ん?なんね」
マンガを読んでいた顔を上げると、絵里がちょこんと座って近くにいた。
「もしさ、明日で世界が終わるとしたら、れーなはどうする?」
「…はぁ?」
またこの一つ年上の恋人は脈絡もなく、変なことを言い出した。
「もし、の話。ね、どうする?」
- 257 名前:if... 投稿日:2004/08/26(木) 02:05
-
質問に答えないと、マンガの続きを読ませてくれなさそうなので、しぶしぶ閉じて考える。
「…う〜〜〜ん…明日で世界が終わるのなら………最後は思い切ったことをする、とか?」
「思い切ったことって?」
「普段できないこと……かな。
あ・貯金はたいて焼肉食べまくったりお菓子買いまくる、とか?」
「れーな、食べ物のことばっか」
「うっ。うるさいっちゃね。
それなら絵里はどうするんちゃ?明日で世界が終わるとしたら」
逆に聞き返すと、絵里は「わたし?」という顔になった。
「わたしは………………」
言葉の続かない絵里を見て、意味のない勝利感に浸っていると。
ぎゅっ、と腰に腕を回され、抱きつかれた。
「………絵里?」
「明日で世界が終わるのなら、わたしはれーなといる」
「…………」
「わたしね、世界が終わるときに、『なにをしているか』よりも『誰といるか』が大事だと思うの。だから、わたしはれーなと一緒にいたい」
- 258 名前:if... 投稿日:2004/08/26(木) 02:05
-
またこの一つ年上の恋人は脈絡もなく、あたしの心を揺さぶる口説き文句を言ってくれる。
あたしも、絵里の腰に腕を回す。
「…れなの意思は無視かい」
きっと、絵里の中では、世界が終わる前日と当日のあたしのスケジュールは予約済みなのだろう。
でも。
「れーな、嫌?」
「…嫌じゃなかとーよ…」
絵里のスケジュールも、既にあたしの中では予約済みだ。
腰に回した腕の力を強め、絵里を更に引き寄せる。
「……世界が終わる日は、二人で焼肉屋に行くばい…」
――絵里はふにゃりと、嬉しそうに笑った。
「うん。楽しみにしてる」
「…楽しみにしてちゃいかんちゃろ」
「え〜。楽しみ、だよ。
早く世界が終わらないかな〜」
「こらこらこら。あかん」
「ぶー」
「ぶー、じゃなくて」
この一つ年上の恋人は、きっと今目の前に世界を滅亡させるほどの核ミサイルのスイッチがあったとしたら、迷わずに押しそうな気がする。
あたしは、世界の平和のためにも、この恋人を自分の腕の中に閉じ込めておこうと密かに誓った。
fin.
- 259 名前:if... 投稿日:2004/08/26(木) 02:06
- 以上です。
単に田亀のイチャイチャが書きたかっただけだーーー!!
あーすっきり。
- 260 名前:イイと思う 投稿日:2004/08/30(月) 10:56
- 「遅いよバカ。早く帰るよ」
ちょっと待っててねと軽く30分経った
よっこちゃんの急用の理由なんて一つしかない
教室に一人になったところで帰ってやろうと思ってたら
ドアが開いた
「あー帰ってるかと思った」
半分身体を見せてヘラヘラしてるから睨んでやった
ミキはこの後とーっても大事な用がある
とにかくカバンを肩に掛けた
「この子も一緒ね」
隠れてた手をひょいっと引っぱり出した先に、俯いた女の子がくっついてた
「はぁ!?ちょっと、よっちゃんどーゆー」
「付き合うことになりましたっ」
- 261 名前:イイと思う 投稿日:2004/08/30(月) 10:57
- 見えないけどそのコが困った顔してるのは予想がつく
告白して早速後悔してるでしょ?
よっちゃんは確かに見てくれが良い。それは認める
相手を選ばずヘラヘラしてるからへんにもてる
小4の時『よっちゃんバカっぽいから、あんましゃべんな』ミキの言った事守ったせいで
クールなのに優しいって勘違いを助長させてしまった
そして相手は7割女の子
でもね、直感動物なのよ
勉強はそれなりだけど、人としては問題大有り
ミキが保証する
幼馴染として大いに保証する
- 262 名前:イイと思う 投稿日:2004/08/30(月) 10:57
- 告白現場に3度居合わせた事がある
好きですと言われるとよっちゃんは必ずこう返した
『どういうとこが?』
相手はアドリブに困って優しそうな所ですとか無難に答える
にっこり笑ってよっちゃんは『付き合うとか考えた事ないんだ』と
ごめんね、無駄に爽やかに微笑み去っていく…
こんなだから、人としての真剣さにかけるヤツだから
好きだとか愛してるなんて言っちゃえないんだろうなと
恋焦がれるとか、超似合わないし
なのになにアンタ!!
「とにかく帰ろうよ」
なんどきも崩れぬぼんやりさで笑ってた
- 263 名前:イイと思う 投稿日:2004/08/30(月) 10:58
-
ミキは自転車を押して歩く
ちょっと後から手をつないだ出来たてカップルがついてくる
「よっちゃんどういう心境の変化?」
語尾が強くなってしまう
「な〜に怒ってんの?」
「お前が歩くのが遅いからっ」
実際遅い。黙って放っておくとあり得ないくらい離れる
いつもならミキの愛車の後に乗っけて疾走してる
「いまさら」
判ってるなら速く歩け。身長分くらい速く歩け
通じない相手はやっぱりヘラヘラ
「あぁ美貴ちゃん妬きもち焼いてる」
「アンタ本物のバカ」
「冗談だっての」
隣の子を可哀想に思う事があっても妬くかっつうの!
恋人いるしっ。つーかこれからデートだし
恐いでしょーとよっちゃんは隣の子に同意を求めた
あっ、待って
- 264 名前:イイと思う 投稿日:2004/08/30(月) 10:59
- 「あのさ、悪いけどその子の名前まだ聞いてない」
手に余る人物のせいでミキ達は学校に友達が非常に少ない
顔は何となく見た事ある気もするけどね
「んがぁっ」
サザエかお前は、な声をあげよっちゃんは隣を除き込む
……ちょっと、オマエ
「ごめん、何だっけ?」
おーーい
「訊いたっけ?」
彼女は下を向いたまま頭を振った
- 265 名前:イイと思う 投稿日:2004/08/30(月) 11:00
- 「で、石川さんは何て答えたの?」
促されてようやく自己紹介を済ませたあと、
ミキの方が申し訳なくなっちゃって名前を連呼しつつ話しかけてる
史上最低の幼馴染は疲れるから放置
「あの…顔って」
そりゃ正直な。ちょっと呆れてしまったのがバレて彼女は慌ててつなげる
「たくさん話したことないし、どこって今はっきりしてるのは外見しか思いつかなくて」
一生懸命になんなくてもミキだって何となく分かる
惹かれてしまった理由なんて簡単に浮かばないよね
このバカ簡単に尋ねるけど…
「睨まないでー美貴ちゃんこわぁい」
「よっちゃん顔って言われたのが嬉しかったんだ?」
「だって顔ならそうすぐに変わんないでしょ
優しいとかだとさ余裕ないときしんどいじゃん」
- 266 名前:イイと思う 投稿日:2004/08/30(月) 11:01
- 「ねぇ石川さん。いいの?この人賢くないよ
小3から夏休み毎年一週間多く取ってるバカだよ」
意味が分からないと彼女は首を傾げる
よく聴いて。石川さんを不幸にしない人物か見極めて
「宿題やらないで、9月に始めるの。やんないで行きゃあいいのに
変に律儀に一週間かけてやるの。よっちゃんの親すら基本呆れてるの」
何事に対しても、ねぇわかる?
間違いにはまる前に伝えておきたいエピソードが多すぎる
ミキの頭に浮かぶ獅子の子落とし映像
親獅子はミキ
きっとスゴク似合う…
子はよっちゃんではない
もちろん石川さんだ
初対面なのに、うっかり突き落としてしまった気がする
今慌てて谷底に腕を伸ばし引き上げようと試みている
- 267 名前:イイと思う 投稿日:2004/08/30(月) 11:03
- 「ミキちゃんウルサイよ。デート間に合うの?」
はっ!!
そうだ。ゆっくりしてる場合じゃない
もどかしく二人を見た
石川さんの視線が恥ずかしそうによっちゃんの横顔を見つめてた
手遅れだ
ごめん助けてあげられなくて
石川さん、あなたを犠牲にしたのではない
信じてください
心の中で手を合わせ自転車に跨った
「先行くよ」
「あ、あの」
オクターブ高い声に止められた
「ん?どうしたの」
「あの…やめたほうがいいんですか、ね……」
「石川さんが良いならそれでイイと思う」
ミキはミキの愛しい待ち人の元に急いだ
- 268 名前:イイと思う 投稿日:2004/08/30(月) 11:03
- 終了です
- 269 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/30(月) 12:41
- なんかこういうのイイと思う
- 270 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/30(月) 20:58
- ヒネリがあって面白かった
こういうの読みたかった
- 271 名前:わおーん。 投稿日:2004/09/01(水) 22:38
- 沈黙というのは昔から好きではなかった。
もちろん一人の時間の沈黙は仕方がないし、一人でやたら騒いでいても虚しいだけである。
そして大勢でいる時の沈黙というのも嫌は嫌ではあるが、特に嫌いだというのは、二人の時間の沈黙である。
例えば異性と二人きりであるとか、友人と二人きりであるという時間である。
二人きりの沈黙を厭わなくなった時、その相手は自分にとって大切な存在であることを自覚するのだ。
麻琴は今、心地良い沈黙の中にいた。
ベッド、ソファ、勉強机、オーディオ、タンス。
ただそれだけの家具が詰めこまれている自分の部屋。見慣れている自分の部屋だった。
時計はもう深夜の12時をまわっている。
麻琴はベッドの上に座って、壁に背を預けている。そしてベッドには紺野あさ美が横たわっていた。
うつ伏せになって雑誌を捲っているあさ美を、麻琴はじっと見ていた。時折、足で彼女の背中に触れると彼女はぴくんとだけ体を反応させる。
二人きりの時間。
心地良い沈黙の中で麻琴はあさ美が自分にとって大切な存在であるということを自覚していた。そして甘い幸福感をじっと噛みしめていた。
- 272 名前:わおーん。 投稿日:2004/09/01(水) 22:39
- 「まこっちゃん?ヘンなカオしてる」
気づくとあさ美が振り向いて顔をしかめていた。
「ヘンなカオって…何だ、コノヤロー!」
麻琴はがばっとあさ美の背中に覆い被さった。やめてよう、と言いながらもあさ美は嬉しそうにしている。
「やめないよーだ」
しっかりと背中にまたがると、あさ美の脇に手を差しこむ。そして思いきりくすぐってやる。
「やっ、やめてえっ、あはっ、あはははっ!」
あさ美は体をよじらせて抵抗するが、この態勢では無駄なあがきだった。
「ゴメンゴメン、ごめんなさいっ!だから、あははっ!やめてえっ!あはははっ!」
もはや懇願するように訴えてくるあさ美にようやく手を止めてやる。もう、とあさ美は体を反転させた。
麻琴があさ美の腹にまたがって、あさ美を見下ろす態勢になった。
あさ美はその特徴的な潤んだ瞳でじっと麻琴を見つめてくる。
「どしたの?ゴメン、怒った?」
尋ねると、あさ美はううん、と首を振った。「じゃあなに?」と麻琴はあさ美のぺちゃんとした鼻をつまんだ。
「愛ちゃんとは、仲が良いみたいだね?」
あさ美は鼻をつままれたまま眉間にしわを寄せながらじっと麻琴を睨んでくる。
麻琴は静かに手を離すと、ゆっくりとあさ美に顔を近づけた。
「仲良いよ?親友だもん」
「へえ、そう」
あさ美はまるで無視するかのように顔を背けた。
麻琴は優しく笑った。
そして両手でふくらんだ愛らしい頬を掴み、自分に向かせる。
ばちっと視線が真正面から合った。
- 273 名前:わおーん。 投稿日:2004/09/01(水) 22:39
- 「あさ美ちゃんこそ、まぁた後藤先輩に色目使ったでしょ?」
「な、なによう、色目ってっ」
「あさ美ちゃんは無意識にユウワクしてるの。あたしね、ずっとあさ美ちゃんを見てきたからわかるの」
「な、にが?」
「ああ、我慢出来ない。襲っちゃいてー。後藤先輩のココロの叫び」
むにっとあさ美は唇を結んだ。
「そんな風に思ってるはずないでしょっ」
麻琴は口を尖らせるあさ美の前髪を梳いた。揃った前髪が流れる。意思の強そうな瞳がさらに強さを増したように思えた。
「さあ、どうかねえ」
口元に抑えきれない笑みを称えながら言ってやると、あさ美も挑むような笑顔を返してきた。
「まったく、あんなビックリ顔のどこがいいんだか」
「まったく、あんな「んあ」星人のどこがいいんだか」
声が重なって、同時に吹き出した。
「後で愛ちゃんに言ってやろ」
「あ、そんなことゆう。こっちだって後藤先輩に言ってやる」
ふふふ、とまた笑みを重ねて、麻琴はあさ美を抱き締めた。
「ヤバイよ、あさ美ちゃん。あたし、このままどうかなっちゃたらどうしよ」
「いいよ、その時は私もどうにかなっちゃうから」
「ああ、そっかあ」
「うん、そうだよ?」
麻琴の首に手を伸ばしたまま、あさ美は首を傾げて優しく微笑んだ。
- 274 名前:わおーん。 投稿日:2004/09/01(水) 22:39
- 「私がユウワクしてるのはまこっちゃんだけ」
「んあ、嬉しい」
「あ、後藤さんのマネだあ」
「はは、似てた?ねえ、似てたかな?」
「似てた」
今度はあさ美から抱き寄せてきた。それに答えるようにぐるんと態勢は入れ替わる。
あさ美が上から麻琴を見下ろしている。
「もしもさあ、出会ってなかったら…」
「あさ美ちゃん、そういうの好きだよねえ」
「いいから」
「はいどうぞ」
「まこっちゃんは愛ちゃんを抱き締めて、愛してるとか言ってるのかな?」
「きっとあさ美ちゃんは後藤先輩に「んあ、愛してる」って言われてるんだろうねえ」
じっと視線を絡ませる。合わせるではなく、絡ませる。まるで自分の中の気持ちを交換し合うかのようにじっと見つめあう。
- 275 名前:わおーん。 投稿日:2004/09/01(水) 22:40
- 「…私ってコドモ」
あさ美は落ちこんだ風に漏らした。
「同感、だけど…めちゃめちゃに嫉妬してドロドロになってるよりはマシなんじゃないかな」
麻琴が言うと、あさ美はその大きな垂れ目でじっと見つめてきた。そしてふんわりと笑った。
「まこっちゃんのそういうとこ、大人だと思う」
「そっかな?」
「ん、そーゆーとこ、好きかな」
ちゅっと鼻にあさ美が唇を落としてきた。そして頬や額やなんかにどんどん範囲を広げていく。
「ほ、ほかは、どんなとこ、好きになってくれた?」
キスされながらとぎれとぎれに尋ねた。
「他は…犬みたいなとこ」
そう言って仕上げに唇にキスをする。それでも麻琴は不満げにあさ美を見上げる。
「犬…って」
「可愛いってこと」
「わふう、わおーん」
「あ、すごい可愛い。もっとやって」
「わおーん、わおーん」
「あっはっ、かわいー!」
「わおーん」
麻琴の遠吠えは夜更けにまで及んだ。
END
- 276 名前:わおーん。の作者。 投稿日:2004/09/01(水) 22:41
- おがこん、書いてみました。
では、つづいて長めのもの。
藤本と安倍。
なつみき、かな。
- 277 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:42
- 時刻は9時半をまわっていた。集合時間までは約1時間ほど時間が余っている。
その朝、藤本美貴は珍しく早起きをした。
ところが何しろ時間が余りすぎていた。目覚めたのは六時前だった。
家にいてもやることは限られていた。
身支度の他にはニュースを見る程度だった。ニュースは最近ようやく習慣になった。
世間の動きを知ることは損にはならない。とある気に食わない先輩に言われたのだが、正論だと飲み込んで実行に移していた。
しかし、どうにも時間を埋めるには足らない。
結局、慣れない朝の余白時間を持て余して、美貴は集合場所の楽屋に赴いたのだ。
「おはようございまーす」
ドアを開けて挨拶をするとだだっ広い楽屋の脇のソファで小さな影が座っていた。
「あ、おはよ」
安倍なつみは柔らかく笑って手を振った。
その天使のようだ、と形容される微笑みに何故か体中がちくちくした。
美貴にニュースを見ろ、と勧めたのは彼女だ。美貴にとっては気に食わない先輩だった。
「んー、早かったね。どったの?あ、低血圧か、ごめん、じっとしてる」
なつみは勝手に自己完結するとまたソファに深く腰を沈めた。
そのまま何をするでもなく、ただぼうっとしている。
- 278 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:43
- 自由気ままな猫、そんな単語がお似合いの彼女が美貴はとかく気に入らなかった。
例えば、その笑顔にしても、その仕草の一つ一つを取っても、ころころ変わる表情も何もかもが何故か癪に障るのだ。
もしかしたら天敵なのかもしれない、と美貴は常々思っている。
彼女を見ると訳もなく苛々してしまう。
それは今も変わらない。
だんだん心の隅で邪悪なものが育っていくように、どす黒い感情が手足まで侵食していく。
やがて体の自由も囚われた。それに抗う術はなかった。
美貴はなつみの隣に座った。二人がけのソファなのでだいぶん距離が縮まる。
「ん?どうしたの?」
天使のような笑顔。
なつみは美貴が隣に座っても厭わない。それがさらに憎々しかった。
「誰でもアンタを好いてるわけじゃないんだよ?」
驚くほど冷たい声がするりと零れた。
どす黒い闇に心まで侵食されていく。もう、止まらない。
美貴は目を丸くしているなつみの肩をつかんだ。
なつみはひどく弱々しい瞳を不安げに揺らしている。
「な、なんて言ったの?」
弱々しい声色だった。ついと美貴は口元を歪めてみせた。
「さあ?なんて言ったんでしょうかねぇ?」
ぐっと掴んだなつみの細い肩に力を込める。
「い、いたっ…」
なつみは顔をしかめる。美貴はなつみの耳に噛みついた。
「ひゃああっ!」
なつみはびくっと体を竦ませた。
- 279 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:43
- 「アタシは、ミキは、あなたのことが大嫌いみたいです」
耳元で愛を込めて囁いた。そっと顔を離した。
なつみの顔色は青ざめて見えた。
ぞぞっと美貴の背筋に快感が走った。
気持ちいい、まるでオルガニズムに達したような快感だった。
「ミキはぁ、安倍さんのことがぁ、ダイキライ」
言語の理解出来ない子供に教えるようにゆっくりと言った。
しっかりとなつみの目を見つめながら、その奥に何があるのが見出した。
恐怖、と――かすかな、快感。
「あっは、安倍さんってエムだったんですねえ。ミキ、サドだからちょうどいいかも」
からからと明快に笑って見せる。ようやくなつみも笑顔を戻した。
「…冗談?だよね?もー」
ふざけて美貴の肩を小さな手で叩く。
「冗談言わないで下さいよ、安倍さん。あなたのことは大嫌い。顔を見る度に殴りたくなる」
またなつみの表情が強張った。
「死んじゃえ」
ついに吐いてしまった言葉。
なつみの目はもう深すぎる絶望に満ちていた。
また、気持ちよくなる。もうおかしくなっているのかもしれない。
- 280 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:44
- 美貴は知っていた。
なつみは自分を仲間という目で見ていない。
一人、六期のメンバーに混じって入ってきた自分をなつみはモーニング娘。のメンバーとしてみていない。
なつみはとかく美貴に良くしてくれた。
馴染めない美貴に話しかけて、会話に入る手助けもしてくれる。相談に乗るとも言ってくれた。
しかし、それが美貴には嫌だった。
部外者の自分を馴染めるようにしてあげる。部外者の自分を会話に入れてあげる。部外者の自分の相談に乗ってあげる。
それが偽善に思えた。
なつみが最も自分のことを部外者として扱っているではないか。
その苛立ちはすぐに憎しみへと変わっていった。
美貴はなつみの手助けもあってそこそこグループには馴染んでいった。
それでも募る憎しみの矛先はなつみに固定されたままだった。
「…ゴメン」
しばらくの沈黙のあと、なつみはぽつりと漏らした。
「ゴメンね、藤本は…私のこと、嫌いだったんだね…」
目を伏せると、長い睫毛は震えている。美貴の加虐心は煽られた。
「ええ、大嫌いです」
言い放つと、ついになつみのくりんとした目から涙が零れた。
「私、ね…気付かなかった。バカだよね…。藤本のこと、好きで…その…」
「はあ?」
思いきり怪訝そうに聞き返した。
(好き、だと?はあ?ミキのこと、部外者って思ってるくせに)
「なにいってんの?」
冷たく声を響かせる。
- 281 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:48
- 「私、は…藤本のこと、好きだった…。ヘンかもしれないけど…大好きだった…」
美貴は表情を凍りつかせた。
なつみはしゃくりあげて嗚咽を漏らしながら立ちあがった。
「でも、ね…大丈夫…。私、もう、いなくなるから…。卒業、するから…。顔見ないで済むようになるから…」
静かになつみは部屋から出ていった。
「そつ、ぎょう…?」
しんとした楽屋の中に美貴の呟きがさびしげに響いた。
- 282 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:49
- その日の内に、なつみの卒業は発表された。
楽屋でメンバーに発表するなつみの顔は少し目が腫れていたものの清々しかった。
目が腫れている理由は卒業のことだけではない。
美貴にはわかった。眼前で泣かれたのだ。
そして、確信に至った。
なつみは本当に自分のことを――。
美貴は慌てて首を振る。
自分はなつみを嫌っていた。なつみがどう思おうが関係ないではないか。
それ以来、美貴はなつみとの接触を避けるようになった。
相変わらず楽屋は騒々しい。
なつみの卒業の発表から数日たった。表面上はあまり変化はない。それは発表と卒業に時間差があるからだ。
つまり、実感がないのだ。
それも、時間と共に実感も沸いてくる。そうして卒業の時には程よく泣ける状態になる。
保田の卒業でそれはなんとなくわかっていた。
美貴の場合、ただ保田の時とは違うのは、時間だった。
保田は美貴が加入するなり、すぐに卒業していった。
わずか2ヶ月半ほどで、あまり実感もなく、結局保田の卒業のステージでは泣けなかった。
ところが、なつみの場合、それ以上の時間を過ごしている。
それに憎しみを抱いている。
矛先を失った憎しみは迷ってどこかへ飛んでいった。
心にぽっかりと穴が空いたようだった。
考えこむ時間が多くなった。
「へえい、ミキティい」
いつものように美貴が楽屋の隅で座っていると、吉澤が肩を抱いてきた。視線を上げる。
「なに?」
「もー怖いなあ。あのさ、安倍さんのことなんだけど…」
目付きが鋭くなるのが自分でもわかった。うお、と吉澤は少し身を引いた。
「ちょ、怖すぎだって。そんなんじゃ友達出来ないぞお」
「いらない」
ばっさりと切り捨てても吉澤は肩に回した手を離さない。
「ミキティさあ、安倍さんと仲良かったじゃん?意外に」
どうやら周りにはそう映るらしいことは知っていた。仲の良い、先輩、後輩。
- 283 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:50
- 「もっと仲が良い人いるでしょ?矢口さんとか辻ちゃんとか中澤さんとか」
吉澤はノーノー、と首を振った。
「一番仲良いのが誰かは今は関係ないの。ミキティね、お世話になってるでしょ?安倍さんに。だから、ちょっとは仲良くしてあげたらなあって…。そりゃ、保田さんの時抜いたら初めての卒業で戸惑ってることもあるんだろうけどさあ」
周りには美貴のことは先輩の卒業で落ちこんでいる後輩、と映っているらしい。
何も知らないで――。
心の中で呟くと、その甘美な響きに気づいた。
(そうだ。安倍さんとのことは誰も知らない。二人だけの秘密。安倍さんを傷付けてるのは、ミキだけ)
「ね、だからさあ…」
説得を続ける吉澤から視線を外して、楽屋のソファに座っているなつみを見つける。
なつみは辻と遊びながらもこちらを見ていた。
ふふん、と美貴は口元だけで笑った。
「ね、よっちゃんさん」
「ん、どう…」
吉澤の言葉は美貴の唇によって遮られた。吉澤が大きな瞳をぐっと見開く。
美貴は薄目を開けてなつみを確認した。
ひどく傷付いた顔。
ぞくっとまた背筋を甘い痺れが駆け抜けた。
唇を離す。
まるで時間が止まったようだった。そして次の瞬間にはあらゆるメンバーから興奮の声が上がっていた。
「なんで…?」
吉澤は唇を抑えながら呆然と言った。
「なに、付き合ってるの?」
「えー、うそお」
「意外ー!」
「すごーい!」
勝手に盛り上がっているメンバーたちを尻目に、美貴はそっとなつみの座っていたソファを確認した。
そこになつみの小さな体はなかった。
開いたままの楽屋のドアに視線を移して美貴はまた笑った。
- 284 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:50
- 「ねえ、藤本」
振り向くと矢口がわずかに眉を上げて怒気を含ませた雰囲気で立っていた。
「なんですか?」
億劫に尋ねる。
(アンタに興味なんかない。興味があるのは――)
「ちょっとハナシあるからさ、カオ貸してくんないかな」
「やだなあ、なんすか?その時代遅れの不良みたいな…」
「いいから来いよっ」
矢口は美貴の手首を強引に掴むと楽屋からひっぱりだした。
手首を手形がつくほど強く掴まれたまま、美貴はロビーに連れてこられた。
ソファに距離を置いて座る。
「なんすか。わざわざこんなとこまで」
不機嫌さを露わにした口調で美貴が切り出した。
「もう収録、始まり…」
「オイラは!」
矢口の声が美貴を遮った。ふと視線を向けると、矢口はじっと俯いていた。
「なっちが好きだ」
きっとなんとも思わない、はずだったのだ。
しかし、何故だか体がちくちくした。なんとかそれを無視して抑えつける。
「はあ、そりゃあ結構なことで。でも、それは本人に言ったらいいんじゃないですか?」
「もう言ったよ。断わられた」
ふふ、と美貴は笑みを零しそうになった。
当然だ、なぜならなつみは自分のことが好きなのだから。
心の中で矢口を見下した。
(アンタじゃ、無理なんだよ)
「…フラれたオイラが、こんなこというのは、なんだと思うけど…」
「じゃ、言わないで下さい」
とぎれとぎれの矢口の言葉を切り捨てて、美貴は立ちあがった。
「負け犬の言葉なんて聞きたくもないですから」
「待てよっ!」
矢口が美貴の腕を掴む。美貴はゆっくりと振り向いた。そして矢口を見下ろした。
「藤本は、なっちのこと、好きなのか?」
縋るように瞳で矢口は見つめてくる。
「あの人の傷付いてる顔は好きです」
矢口の手を振り払うと背を向けて、歩き出した。
「オイラは、オマエが大嫌いだっ!」
矢口の吼えるような声に無視を返して、美貴はゆっくりと遠ざかっていった。
- 285 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:50
- なつみのいる場所なんて知っている。
一階の一番奥にあるトイレに入ると、泣き声が聞こえた。
「ねえ、安倍さん」
確信を持って呼びかけると、泣き声は止まった。
「ミキはあなたの気持ち受け取れないんですよ。わかりますう?」
「わ、かってる…っ、ゴメン…っ」
嗚咽混じりのくぐもった声が返ってきた。ふと視線を廻らせる。一番奥の個室のドアが閉まっている。
「だから、泣いちゃったりされると、ぶっちゃけ迷惑だったりするんですよぉ」
ゆっくりと一番奥に近付いていく。
「ゴメン…っ。なんとかっ、見せないように…って、おもって…っ」
「ん、それは偉いかも。誉めてあげます」
こんこん、とドアをノックする。しばらくの沈黙のあと、がちゃ、とドアの鍵が開いた。
わずかな隙間から体を一気に滑りこませる。
「お久しぶり」
驚いて身を引かせたなつみを抱き寄せる。鼻先が触れ合うほどに近く引き寄せる。
「ミキが欲しい?」
じっとなつみの瞳を見つめながらこくりと小さく頷いた。リスなどの小動物を連想させる仕草に美貴は口元を歪めた。
「ミキねぇ、安倍さんのこと嫌いなんですよ」
またなつみは俯いた。涙が一粒だけ零れた。
「でもね」
なつみは顔を上げた。かすかな希望を見出そうとする瞳。
「安倍さんの傷付いた顔は好きなんです。抱き締めちゃいたいほど。めちゃくちゃに傷付いてくれたら、好きになれるかも」
最後になつみの頬にそっと口付けて、美貴は個室を出た。
- 286 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:51
- その翌日のことだった。
その日は忙しい中で隙間のように空いた久々のオフだった。
美貴は朝の9時に目が覚めて、トーストをかじりながら、朝のニュースを眺めていた。
じっと画面を見つめながら、ふと思い出す。
そういえば、ニュースを見る習慣のきっかけを作ったのはなつみだった。
自分はなつみのことをどう思っているのだろう。
自分を部外者として扱った憎々しい先輩。
自分をグループに馴染ませてくれた優しい先輩。
傷付いた顔が堪らない、幼い先輩。
(ミキは、安倍さんを、どう思ってる?)
ドンドンっ、ドンドンっ、ピンポーン、ピンポーン――。
思考を遮ったのは騒がしくドアを叩く音と忙しいチャイムの音だった。
「何だよ…」
憎々しげに吐き出すと、齧っていたトーストを皿に戻して、玄関に向かう。
チェーンを外してドアを開けた途端にTシャツの襟を掴まれた。
「オマエっ、なっちになに言ったんだっ!」
視線を下ろすと矢口はぎろっと睨んできた。その目は赤く腫れていた。
「は?なに言ってるかわかんないん…」
「オマエのせいだ!オマエのせいだ!オマエのせいだ!」
赤い目でまくし立てると、今度は俯いて嗚咽を漏らし始めた。
「ちょ、わけわかん…とりあえず、中入ってください」
しゃがんでいる矢口の首を掴んで玄関に引きずりこむ。ドアがばたんと音を立てて閉まった。
「中には上げません。ここで話してください」
見下ろしながら言葉を掛けると、矢口はぎっと睨んできた。
「オマエ、よくそんなことが言えるな…!オマエのせいで…なっちは…っ」
「は?安倍さんがどうかしたんですか」
「なっちは自殺しようとした」
芯の通った声だった。
- 287 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:51
- 「え…」
思考が一瞬、停止した。
じさつ、ジサツ、自殺――。
ぐるぐると頭の中で回る言葉はやがて結び付く。
安倍さんが、自殺――。
矢口の言葉を飲みこんだ瞬間、美貴は裸足で駆け出していた。
「待てッ!」
矢口が美貴の肩を掴んだ。
「離せッ!離せよッ!安倍さんはッ…!安倍さんはッ!」
矢口の手を振り払う。小さな矢口の体はいとも簡単に吹き飛ばされた。
「安倍さんッ!安倍さんっ!」
地面にしゃがみこんで喚く。喚き散らす。
なつみの笑顔、声、泣き顔。
コンクリートを思いきり叩きつける。手がじんじんと痺れる。
痛みは精神の衝撃をどんどんと引き上げていく。
そして、精神の衝撃は痛みをも超越していく。
灰色のコンクリートに赤い刻印が刻まれていく。
「藤本っ!」
矢口が美貴の腕にしがみ付く。
「ヴぁああっ!ああああああっ!」
それでも美貴は腕を振り乱して、地面に手を叩きつける。
「落ちつけよっ!まだ、死んでない!なっちは生きてるっ!」
ぴたっと手が止まった。ゆっくりと美貴は振り向いた。
そこでようやく美貴は自分が涙を流していることに気がついた。
「大久保病院…」
矢口は決まり悪そうにぽつんと呟いた。
次の瞬間には美貴はもう裸足のまま走り出していた。
マンションの階段を七階分も駆け下りて、大通りに出ると一気に走り出した。
大久保病院は知っている。わりと美貴のマンションの近所にあって、場所も正確に覚えている。
心臓が張り裂けそうだった。
肺が悲鳴を上げる。ひゅうひゅう、と空気が痛みを伴って肺に吸いこまれていく。
足がびきびきとひび割れるような幻覚を覚える。
それでもいい――。
美貴は一心不乱に走りつづけた。
- 288 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:52
- 大久保病院は大きな大学病院だった。美貴は玄関の自動ドアを押し開けるようにして通り抜けて、受付に飛び込んだ。
「安倍さんはっ、安倍さんはっ、どこですか!」
噛みつくように受付のナースに尋ねると、ナースは面食らったように身を引いて、慌てて名簿を捲った。
「え、えーと、安倍なつみさんですよね?でしたら、最上階の…」
言葉を最後まで聞く前に美貴はまた駆け出していた。
最上階は8階だ。肺が痛みを訴えるが、構ってもいられない。
裸足のまま床を蹴って、階段を駆け上がっていく。
息を切らしながら、歯を食いしばってあっという間に階段を跳んでいく。
8階に辿りつくと、廊下を走る。
すぐに病室はわかった。一番奥の個室。プレートにしがみ付くようにして指先で文字をなぞる。
安倍なつみ、その文字を強引に頭に放りこんで、ドアを横に開いた。
なつみはベッドで座っていた。
天使、だった。
白い入院着に白いベッド、白に包まれた彼女は天使だった。
なつみはゆっくりと美貴に振り向いた。
「あ、藤本…」
笑顔を見せようとして、その笑顔を引っ込める。
美貴はこれ以上ないほどの衝撃を受けた。
頭に鈍痛が引いた。
「なんで笑わないんすか」
息を押し殺して、ベッドへと近付いていく。
「だって…藤本が傷付いた顔が好きっていうから…」
なつみが悲しそうに、笑った。
その手首には痛々しい包帯が何重にも巻かれていた。
(ミキは、なにしてた?)
美貴はその場に立ち尽くしていた。
なつみを追いつめて、追いつめて――。
(何をしようとしていた?)
自分は昔、なつみを憎んでいた。
なら、今は――。
(大嫌い?)
違う。
(だって、ミキは…こんなにも…)
こんなにも、この小さな天使が愛しい。
美貴はぼろぼろと涙を零した。
「ミキは、安倍さんが好きです」
込み上げる嗚咽を堪えながら、美貴は言った。
- 289 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:52
- なつみはモーニング娘。を卒業した。
ステージを終えて、メンバーたちは二次会や打ち上げのことで盛り上がっていた。
美貴はそっと騒がしい楽屋を抜け出した。
結局、なつみの自殺未遂はマスコミには知られることはなかった。退院してからも、なつみはソロ活動の仕事が忙しくなり、ほとんど美貴とは顔を合わせることはなかった。
だから、美貴は今日に決めていた。
美貴はとある空き部屋に忍びこんだ。
そしてドアの付近においてある“もの”を手にとった。
また空き部屋を出て、足を早める。
ロビーに辿りついた。
そこには、天使が立っていた。
おそらくアンコールを終えたばかりなのだろう、ステージ衣装のままで立っている。
ふわりとしたスカートにひらひらしたブラウス。どちらも白だった。
天使だ。
「お久しぶりです」
美貴は頭を下げた。なつみは、笑った。
もう体はちくちくしたりしない。
「はい、これ」
美貴はそっと背後に隠しておいた“もの”を取り出した。なつみはわあ、と目を輝かせた。
「花束…!」
「受け取ってください」
白い花で統一された花束。なつみは目を爛々と輝かせた。
「ありがとー」
なつみは抱きかかえるように花束を受け取る。
「さあて、問題です。その白い花の中に違う色が混ざってます。探してみてください」
美貴が得意げに花束を指差した。
「えー、違う色ぉ?」
なつみは白い花の中に顔を埋めるようにして探し始めた。
美貴は微笑みを称えながらなつみを見ていた。
- 290 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:52
- 可愛らしいなつみ。
天使は嫌いだった。白すぎて染められたくなかった。
けれど憧れていた。
ずっとなつみを見ていた。
だから――。
「あ」
なつみは声を上げた。嬉しそうに白い花の中から赤い花を取り出した。
「なにかわかります?」
「…薔薇?」
「トゲは抜いておきました」
にんまりと笑うと、なつみはぱあっと子供のように表情を輝かせた。
美貴は花束ごとなつみの体を抱き締めた。
小さな体がすっぽりと美貴の腕に収まった。
「さあて、薔薇はなんていう意味でしょう?」
「…なんてゆうの?」
「愛」
さらに力を込める。囁くような鼻の香りとなつみの匂いが美貴の鼻腔を満たした。
「ミキは、安倍さんを愛してます」
美貴はふんわりとした幸福を抱き締めた。
- 291 名前:愛と花。 投稿日:2004/09/01(水) 22:53
- 愛と花。
+++END+++
- 292 名前:愛と花。とわおーん。の作者。 投稿日:2004/09/01(水) 22:54
- なつみき、なんて新ジャンルに挑戦してみました。
- 293 名前:愛と花。とわおーん。の作者。 投稿日:2004/09/02(木) 23:01
- すません。最後。
囁くような鼻じゃなくて花、です。
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/03(金) 19:28
- 長編で読んでみたいと思った
- 295 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/05(日) 22:16
- 愛と花。とわおーん。の作者タンの自スレ立て希望
- 296 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 00:46
-
REVELATION
小学校の頃やってた水泳は、選手コースにあがってタイムを競うようになってから辞めた。
推薦で入った中学のバレー部も、部内のゴタゴタが辛くなって辞めた。
オーディションを受けたのは、バレーを辞めて出来た空白を埋めたかったから。
「お前なぁ、遠慮してないでもっと自分を出せ」
マネージャーには何度も言われた。
だけど争いに巻き込まれるぐらいなら、あたしは日陰で良かった。
- 297 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 00:49
-
「よっすぃーって、何考えてるかわかんない」
って、石川梨華に言われたのは、加入してすぐに回ったツアー先のホテルで
だった。同期で年下の辻と加護に振り回されて、先輩メンバーや大人のスタッ
フに気ぃ使って、自分も初めてのステージ失敗せずやんなきゃいけなくて。緊
張が限界に達してたんだと思う。石川はあたしの前でさんざん泣いて不安を
ぶちまけた果てに、詰るようにそう言った。あたしは考えてることを口に出して
言うタイプじゃなくて、石川はその全く逆だった。加入したてで、ただでさえ心
細いのに、同期のあたしがこんな調子だから、冷たいと思ったんだろう。
- 298 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 00:52
- 本当は、あたしだって自分を出せないことに悩んでた。
学校じゃ黙ってたって、先輩や後輩、同級生がチヤホヤしてくれるのが当たり
前だった。それが娘。じゃ全然違った。中澤さんは普通にウチらを無視するし、
他の先輩メンバーもアイドルやってるだけあって、女の子のプロっていうオー
ラがガンガン出てて、相手にさえしてもらえない雰囲気。ごっつぁんなんて最
初はスゲーいきおいで睨んできたし、安倍さんや矢口さんの目の中が笑ってな
い(と思ってた)笑顔も怖かったな。カオリや、圭ちゃんは普通にいるだけで
十分怖かった。後でそのことを話したら、別にふたりとも怒ってたわけじゃな
かったんだけど。見た目平和、でも先輩の一挙一動に緊張させられる楽屋。
加入する前、部活で揉めたのが頭に残ってて、今度は絶対に先輩の気に障るよ
うなことしちゃいけないって思ってたから、ずっと黙って静かにしてた。
- 299 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 00:54
- そのうち辻加護が無邪気で暴力的なキャラクターでお茶の間を席巻しだして、
弱々しかった石川もいつの間にか「ネガティブ」をキャラにするようになっ
て、積極的に先輩にいじられるようになって。気が付くと、あたしだけ周り
から置いてかれてた。内心焦りまくってたけど、自分じゃどうすることもで
きなかった。マネージャーには「『天才的にカワイイ』って言ってもらえた
ことに胡座をかいてないで、もっとやる気を出せ」って言われたけど、女の
子のプロたちの中で、どう自分を表現すれば良いのかわからなかった。
- 300 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 00:57
- そんな中であたしに付いたのは「かっこいい男キャラ」。
ボーイッシュな見た目と、ネチネチしたのを嫌うサバサバ感が男キャラに映っ
たんだろう。待ち時間中、石川が例の甘ったるい声で、あたしのことを「よっ
すぃーってカッコイイよね」って言ってきた。「あたしたち、男の子と女の子
ってどうかな…?」って。どうかなって言われても…。
「キャラが作れるんだよ?」
この頃の石川は何かっていうと、「キャラ」って言葉を口にしてた。
でもあたしは「あのコ、キャラ作ってるよね〜」って言われるのは嫌だったし、
あんまし乗り気じゃなかった。そしたら石川は「やっぱり嫌だよね、わかった。
もう言わないから」って。でも、いざVTRの収録が始まると「私の彼氏でーす!」
って宣言されて。今なら「ちげーよ!」って、笑いにもっていけるけど、その
当時は自分の意見をハッキリ言えなくて。撮影終了後、石川は不機嫌に黙り込ん
だあたしに体をすり寄せて来て。
「ごめんね? そう言ったほうが面白いと思ったの。
ねぇ、怒らないで。あたしもよっすぃーもキャラが立っていいじゃない」
- 301 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:01
- つーか、ゆっちゃえばこっちのもん、みたいな、表と裏であっという間に態度
を変えた彼女が信じられなかった。前はそんな子じゃなかったのに。
「彼氏です」発言は想像以上に反響が大きくて、それからしばらく、あたしと
石川はお似合いのカップルみたいに言われて。石川のほうは腕を組んで来たり
喜んでアピールしてた。あたしも…他に自分をアピールする方法がわからなか
ったし、結局石川に引っ張られるカタチで、それを受け入れていった。
中学の頃から周りから男っぽく見られてたから、そういう扱いを受けるのには
慣れてた。でも石川が嫌い、とかじゃなくて、やっぱうちらは女同士だし、と
は思ってたけどね。結局、雑誌とかでもあたしと石川の関係?が取り上げられ
て、事務所はシャレにならないと思ったらしく、あたしと石川と組ませるのを
止めた。あたしと違っていつも必死で切羽詰まってる石川の傍にいるのは、正
直しんどかった。
- 302 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:02
-
じゃあお前には何があるんだ?
- 303 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:05
- 歌番組のトークに、バラエティー番組。無理に前に出てみたところで、ますま
す空回りしてる自分が寒かった。「こんなのあたしじゃない!」って、心の中
で何度叫んだかしれない。仕事場でも、家に帰っても、殻に閉じこもることが
多くなった。ヘンな意味じゃなくて、もっと石川みたいに、媚びることができ
れば良かったのかもしれない。でもあたしには出来なかった。媚びてる自分を
想像もできなかった。自分の今までの人生には必要無かったことだったから、
どうすればいいのかわからなかったし、そこまで無理しなきゃなんないの?っ
て気持ちもあった。でも、上手くいってない現実はハッキリそこにあって。
どこにも出口が見えない、あたしだけが躓いてもがいてるんだって思うと、
他人に相談もできなかった。今までぶち当たった事の無い高い壁が、あたしを
取り囲んだ。
- 304 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:07
- 鋭いスパイクが打てることなんて、ココじゃ何の役にも立たない。
それよりカメラの前で可愛らしい笑顔が作れることのほうが大事だった。上手
く笑えない。存在感も薄い。周りからどんどん置いていかれる自分。アイドル
をやるっていうことの厳しさを突き付けられて、あたしは追い詰められるまま
に居心地の良い場所に逃げた。その時心地良かったのは……同じユニットにな
って仲の良くなったごっつぁんのそば。ごっつぁんは見た目スレてる子っぽい
から、仲良くなれないんじゃないかなって思ってたけど、そんなことなかった。
お互い男兄弟がいて、フィギュアとか趣味も合ったし、いつも「よしこ」「よ
しこ」って言ってそばにいてくれて、ふたりにしかわからない合図や言葉を作
って盛り上がったりして。仕事の相談をし合うってことはなくて、ホントに普
通に同級生っぽい感じ。その当時は、ごっつぁんといるのが一番楽だったし、
楽しかった。
- 305 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:10
- その年の秋になって、いつまでたってもやる気を出してるようには見えないあた
しに、つんくさんが大きなチャンスをくれた。「新曲のカギは“男役”。センタ
ーは吉澤にしかできへん。変に考え過ぎんと、のびのびやってみ。オマエなら出
来る」って。石川の次は吉澤、オマエの番やで、って言われた気がした。プッチ
に一人で入れてもらった時のチャンスをフイにしてしまった後悔が頭をよぎった。
さすがに、ここで踏んばらないと期待してくれたつんくさんに申し訳ないって思
って。ごっつぁんも「応援するから頑張れー」って言ってくれた。一つ前のシン
グルで石川がセンターに抜てきされた時、あんまし祝福してるようには見えなか
ったから、あたしの時も…って、気まずくなったらどうしようとか、不安に思っ
てたけど、そうじゃなくて。『Mr.moonlight〜愛のビックバンド〜』は、初めて
やりきれたって思える充実感を味わうことができた。
- 306 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:11
-
- 307 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:13
- ごっつぁんとは仕事の合間に買い物に行ったり、ゲーセンやカラオケに行ったり、
たまに家に泊まりに行ったりしてた。その日も楽屋のテレビを見て一緒に大笑い
して、いつもと全然変わらなかった。帰りにマネージャーからCDを貰った。「吉
澤も頑張らないとな」って。家に帰ってプレイヤーに入れて、聴いた。ごっつぁ
んの新曲『手を握って歩きたい』だった。ごっつぁんの明るい声、歌詞を辿るう
ちに、ものすごい不安が渦巻いてきて。もしかしたら…もしかしたら…って。
次の日、ごっつぁんに会ったけど、そのことは訊けなかった。ごっつぁんも何も
言わなかった。
- 308 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:16
- いつも仕事の話は絶対にしないごっつぁんの口からそれを聞いたのは、たぶ
んメンバーの誰よりも早く、ミュージカル『モーニングタウン』公演の中頃
だった。「卒業するんだー」って。やっぱ不安は的中してた。グループのメ
インを張ってるエースだったし、前からずっと、取材とかじゃ「いつかソロ
でやりたい」って言ってたから、いつかはそうなるんだろうなぁとは思って
たけど、参った。一年ぐらい前から(石川がセンターに抜てきされた位から)
出てた話で、ごっつぁんの心の中ではもうその頃から固まってたらしい。
ごっつぁんは、あたしと遊んでいてもずっと前からちゃんと自分の将来のこ
とは考えていて。スゲー勝手な話だけどなんか裏切られたような気持ちにな
った。すぐには、おめでとうって言えなかった。そんな自分がサイテーだった。
- 309 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:17
-
今度こそ本当に置いていかれるって思った。
グループの中で独りになるのが怖かった。
今まではいつもごっつぁんとつるんでたけど、それが無くなる。
プッチモニは先輩の圭ちゃんとふたりでやるの?
なんか息が詰まりそう。気まずくなったらどうしよう。
安倍さんとも矢口さんともあんまりしゃべってこなかった。
そんなんで、やっていけるの?
口に出せない不安で頭がおかしくなりそうだった。反動で、夜中だろうがなん
だろうが、食べ物を口にした。夢中になって詰め込んでいる時だけは、もやも
やが消えたから。
- 310 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:19
- あたしはまた逃げる道を選んでた。案の定、もともと太りやすい体質ってことも
あって、みるみる体型が変わった。ピンクのドレスの衣装が妊婦さんみたいにな
って、どの衣装も全然似合わなくなって、スタイリストさんを困らせた。ダンス
も、体が重くて、前みたいに動けなくなって。カメラの前で笑えなくなって、鏡
を見るのも恐くなって、「天才的にカワイイ」吉澤ひとみはどこにもいなくなった。
- 311 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:21
-
……とうとうあたしはあたしを殺してしまった。
どんなにマネージャーに叱られたか知れない。それこそ鬼のような形相で
「応援してくれるファンの期待を裏切るな」とか、「アイドルとしての自
覚が足りない」とか。矢口さんの見ているインターネットの悪口サイトで
さんざん酷いことを書かれてるのを覗かなきゃいいのに覗いちゃって、立
ち直れないぐらいへコんだりして。だけどなにより自己管理ができない自
分が許せなかった。苦しかった。だけど苦しいってコトを口に出すことが
できなかった。こんなにも情けない自分を、だれも許してくれない気がして。
- 312 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:23
- いつも目が虚ろで家族にも心配をかけた。「辛かったら辞めてもいいのよ」っ
て、お母さんは言ってくれたけど、苦しい時は、バレーから逃げ出した時の辛
さを思い出して、だるい体に鞭を振るった。メンバーが騒いでる空間が苦痛で、
一人で本を読んでるフリをしたり、空き時間に一人で食事に出たりした。
そのうち、マネージャーも腫れ物に触るみたいになって、何も言ってこなくな
って、ここまでくると、もうなんでこうなっちゃったのか考える力もなくなっ
てて。人の来ない無人島とかに行きたかった。いっそのことクビにしてくれよ
って、マジで思った。亡霊みたいにテレビに映ってた。
- 313 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:24
- なんとか息をつけるのは自分の部屋のベッドの中だけ。でももうずっと眠
れない。瞼を閉じたって開けたって真っ暗闇。今の八方塞がりな自分と同じ。
じっとしていることが、たまらなかった。
胸が苦しい。ヤバイ。口に何かを入れないと…。早く!今すぐに!!!
階段を下りれば物音で家族に気付かれてしまうから。
戸棚の中に隠しておいたベーグルがあったはず。
隠した骨を掘り起こす飢えた野良犬みたいに、血眼になって探った。
物色していたら。
揺れたせいか戸棚の上のCDラックからCDが一枚、頭の上に落ちて来た。
あたしはそのCDを手に取って、虚ろな目でぼんやりと見た。
前、つんくさんがメンバーみんなに勧めてくれたビートルズのCDだった。
- 314 名前:あるがままに、なすがままに 投稿日:2004/09/07(火) 01:26
- The Beatles『Let It Be』
今思えば、どうして聴く気になったのか不思議だった。とても音楽なんて
聴く気になる精神状態じゃなかったのに。ベッドの上に丸まって座り、ヘ
ッドフォンに音を流しながら、干涸びたベーグルにかじりついて、和訳の
歌詞カードを読んだ。
何度も何度もボールの声で優しく繰り返される“Let It Be”
目の奥がだんだん熱くなって、溢れてくるものを止められなかった。
溜め込んだモノが一気に吐き出されてくみたいで。
ずっと泣くことすらできなかったけど、初めて声を上げて泣いた。泣けた。
一緒に口ずさむと、塞がっていた心が、ふっと緩んで広がった気して。
久しぶりに、温かい血が通ったみたいで。
涙を手で拭いながら、ベーグルを全部ゴミ箱に捨てた。
ずっとリピートかけて、朝日が昇るまで聴いてた。
- 315 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:27
-
- 316 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:29
- なんとなく、いろんなことが吹っ切れた。これでいいんだって思えるようになっ
た。事務所もあたしをセンターにもってくることはせず、自由にやらせてくれた。
例えば、ハロモニ。のコント。正直、歌もダンスもそんなに得意ってわけじゃな
いし、そっちのほうが全然面白いと思ってたからちょうど良かった。こう言った
らいけないかもしれないけど、コントで張り切るあたしを、笑いこそすれ刺すよ
うな視線で見るメンバーはいなかったからね。嬉しかったのは、ずっと喋れなか
った中澤さんに「自分、おもしろいやん」って認めてもらえたこと。
それからちょっとずつ心を開いてみんなと話ができるようになって、先輩たちも
声をかけてくれるようになった。
- 317 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:30
- 今は5期や6期の後輩たちも慕ってくれる。妬まれることもなく、周りに気を使
いすぎることもなく、あたしはやっと仕事場で居心地の良い自分の場所を見つけ
た。ハロプロでも、悩みを内に溜めてしまうあたしを自然に受け入れて、理解し
てくれて、甘えさせてくれるアヤカとまいちゃん、ふたりの大切な友達に出逢う
ことができた。体型も、フットサルをやるようになってから大分戻って来たし、
今は、気持ちがとても安定してるってのを、実感する。
- 318 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:32
- 「よっすぃーって、何考えてるかわかんない」
楽屋のドアの前であたしと鉢合わせして、あたしの姿を見た石川は、半分笑い、
半分呆れ顔でそう言った。テレビ局にジャージ姿で来るあたしの神経がわから
ないらしい。19にもなって全身ピンクの君もどうかと思うけど。
あたしが新宿なら、石川は銀座。
あたしが牡丹なら、石川は薔薇。
ごっつぁん卒業後、入れ代わるようにグループの中心を受け持つことになって、
映画にドラマにと、精力的に仕事をこなしてる。会社の上の人のゴルフにも
ちゃんと付き合って、あたしから見ればとても器用にこの世界を渡っていっ
ている。実際、周りの期待に応えようと一生懸命な仕事への姿勢からスタッ
フに信頼されて、自信をつけた石川に、昔の弱々しい姿は微塵も無い。
あたしや先輩たちに愚痴や相談を持ちかけてくることも無くなった。
本当に強い人っていうのは、彼女の事を言うんだろう。
- 319 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:33
- この春、あたしは「高校だけは出ておこう」っていう意志を通して、なんとか
芸能活動と両立させてきた通信制の高校を卒業した。両立はタイヘンだったけ
ど、通信で卒業したカオリや、大学に通うアヤカがいろいろと相談に乗ってく
れた。事務所の人があたしに仕事をあまりいれなかったのも、そうした配慮だ
った。その間に同期の石川はとても遠くにいってしまったのかもしれないけど、
それで良かったと思ってる。
- 320 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:35
- 同期の辻と加護に続いて石川の卒業も決まった。あたしはつんくさんから
サブリーダーに指名された。「いろいろ乗り越えた今の吉澤にしか出来へ
ん仕事や」って。これからは、自分と同じような悩みを抱えてる後輩の力
になってあげたい。
あるがままでいいんだって。
あの夜聴いた『Let It Be』が、あたしにそう教えてくれたように。
- 321 名前:REVELATION 投稿日:2004/09/07(火) 01:36
-
「REVELATION」 end
- 322 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/07(火) 02:03
- ものすごくよかった
これが石川だし吉澤だと思った
- 323 名前:八月のクリスマス・U 投稿日:2004/09/07(火) 22:51
-
『八月のクリスマス・U』
- 324 名前:八月のクリスマス・U 投稿日:2004/09/07(火) 22:52
- 「あ゛ぢぃーっ!」
「圭ちゃん!ちょっと静かにしてよ!今いいところなんだから!」
「そんなこと言ったって暑いもんは暑いんだからしょうがないでしょ!」
あたしは薄目を開けて諍い合う二人をしばし眺めた。
夏の代々木は出番が少ないから物足りないけど待ち時間が多いからこうやって昼寝できるのがいい。
まあ、それもこの二人が大人しくしてる間だけだけど。
「あっ、ごとー!あんたもちょっと言ってあげてよ!カオリったらずっとDVD見てて感じ悪いんだから」
「いいでしょ?!今の私の生き甲斐はヨン様だけなんだから!」
そう言いながらカオリはまたポータブルDVDプレーヤを抱えて背中を向けた。
部屋の隅に移動して耳を塞ぐ。
あれじゃ聞こえないじゃんね。
でも大丈夫なんだって。韓国ドラマは字幕が出るから。
そう。今、カオリは世のおば様方を虜にしているヨン様に夢中。
楽屋でも暇さえあればDVDで「冬ソナ」を見てるというわけ。
それもあたしの楽屋で。
「ヨン様ヨン様ってどこがいいのかねえ?」
「えー?でも、あたしもヨン様嫌いじゃないよー」
そう言って再び目を閉じて机に突っ伏した。
テーブルのひんやりとした感触が頬に心地よい。
ハローのコンサートは本当になんかやすらぐー、って感じ。
と、気持ちよく寝かけたところでまたまた何か騒がしく…
「だからあたしにもちょっと見せなさいよ」
「やだ、圭ちゃん傍にいるとあっついんだもん!」
カオリの言うことはもっともだと思う。
圭ちゃんはなんか存在自体が暑苦しい。
「じゃあごとーならいいっていうの?」
「うん。ごっつぁんなら涼しいくらい」
「言うじゃないの!ホラ、後藤!カオリがおいでって!」
- 325 名前:八月のクリスマス・U 投稿日:2004/09/07(火) 22:53
- ほへー。
なんか巻き込まれちゃってるー。
圭ちゃんはあぢあぢ言いながら満面の笑みで微笑む嗣永のうちわをパタパタと忙しく煽いでいて
見てるだけでも暑苦しい。
っていうかなんでキッズ?
相変わらず圭ちゃんのやることはよくわからない。
「ええっ?いいよー。冬ソナなら家で見たことあるし」
「あんたもヨン様ヨン様言ってんの?!」
圭ちゃんが大きな目をさらに見開いて驚く。
「まさかあ。お母さんとお姉ちゃんが好きでよく見てるから」
「ま、そんなとこだと思ったわよ」
「なによー、ヨン様の魅力は子供にはわかんないのよぅ、っていうかそのうちわやめてよ!キッズでしょー?いやみ?」
なんだか拗ねてるカオリン可愛い。
でも仮にもモーニングのリーダーなんだからキッズに敵愾心を燃やすのはどうかとも思う。
それがまたニヤニヤしてる圭ちゃんだけにカオリの気持ちもわからないではないけど。
「あら、ご機嫌斜めじゃない?」
「あったりまえでしょー?」
あったりまえかどうかはともかく。
カオリの機嫌が悪いのには理由がある。
「まあね。まだ本人がいる前で持ち歌やられちゃあねえ」
そう。
カオリはキッズにタンポポの「乙女パスタに感動!」を歌われてひどく虫の居所が悪い、
というわけなのだ。
「大体、タンポポってプッチに比べて大事にされてないんだよ」
あらあら、カオリさんそこまで言いますか?
「ええっ?逆じゃん、プッチよりタンポポの方がよっぽど大事にされてたと思うけど」
あたしもムキになることじゃいけど、つい言っちゃった。
これ絶対ホント。
つんくさんといいスタッフさんのタンポポへの執着はプッチの比じゃないと思う。
プッチの方が売れたのにね。
実を言えばあたしもそれは気に入らなかったんだ。
- 326 名前:八月のクリスマス・U 投稿日:2004/09/07(火) 22:54
- 「ええっ?なんでよー?」
カオリはわかってない。
売り言葉に買い言葉じゃないけど、ついついあたしも言い返しちゃう。
「だってさ、タンポポに1位取らせるためにわざわざリリースの順番変えたりしたじゃん」
「あれはプッチのがクリスマスソングだから時期を合わせただけだよぅ」
と言いつつカオリも少しトーンダウン。
思い当たる節があるのかもしれない。
あたしはもう止まらなくなっちゃってさらに続けた。
「大体プッチはあれだけ売れたのにオリジナルアルバムなしだからね!
最後に出したやつだってタンポポでけオーケストラバージョンとかつくってもらってるし、
ひきょーだよ!」
「ひ、ひきょーって…」
さすがにカオリも旗色が悪くなってシュンとしてる。
傍でニタニタ笑ってる圭ちゃんはなんか感じ悪い。
っていうか言い過ぎたなあ…
あたしもそこまで言うつもりはなかったんだけど。
なんかこの空気、きまずい。
「あんたたちねー」
圭ちゃんがうちわをパタパタ煽ぐ音がやけに目立つ。
「つんくさんがどっちか贔屓するなんてありえるわけないでしょ」
「そんなこと――」「圭ちゃんにはわからな――」
知ったような口を利く圭ちゃんにあたしとカオリンは同時に反応した。
圭ちゃんは黙って大きく目を見開いたままパタパタとうちわをこちらに向けて
交互にあたしとカオリを扇いだ。
ああ、なんかうちわがの風が涼しい…
「くーるだうん、くーるだうん。クールファイブは内山田洋」
「なにそれー?圭ちゃん、おやぢー」
意外に受けているカオリを横目に圭ちゃんは何か真剣な顔つきになった。
- 327 名前:八月のクリスマス・U 投稿日:2004/09/07(火) 22:54
- 「っていうかさ。似てると思わない?」
「何が?」
あたしは思わず聞き返していた。
まさかあたしが圭ちゃんに…とか本気で言ったらコロすよ。
「ぴったりぃしたいくりぃすますぅ♪」
なんか急に歌い出した圭ちゃんをあたしとカオリンはポカンとした顔で見つめていた。
「お、お、じ、さ、ま、とゆぅきのよぉるぅ♪」
「ちょっと圭ちゃん…」
言いかけるカオリをあたしは制した。
ちょっと待って?
「後藤わかった?」
圭ちゃんがニヤリと微笑んだ。
「ええ?ナニナニ?」
カオリンはまだわからないらしい。
圭ちゃんはまあまあという手振りでカオリンを宥め説明し始めた。
「似てるのよ。この二つの曲」
「ええっ?そうかなあ?」
まだわからないらしいカオリンに圭ちゃんが何かゴソゴソと書きあげて示した。
「いい?」
- 328 名前:八月のクリスマス・U 投稿日:2004/09/07(火) 22:55
- “o-o -ji-sa-ma-mi-ta-i -na-hi-to “
G-As-B -Es-F -D -G -As-G -F -Es
http://toyama.cool.ne.jp/minimonius/ouji.mid
あ、なんか…
”pit- ta -ri-si- ta-i-chri- st-mas”
G -(As)-B -Es-(F)-G-F -(G)-As
http://toyama.cool.ne.jp/minimonius/ouji2.mid
なんかスゴく似てない?
あたしとカオリんは圭ちゃんを見つめてその続きを待った。
「どう?ほとんど同じでしょ?」
あたしたちの顔を覗き込んで圭ちゃんが尋ねる。
でも、ホント、ほとんど同じだ!
「じゃ、じゃ、じゃあさ…つんくさんわざと同じようなフレーズにしてくれたってこと?」
「そうよ。でもそれだけじゃ同じ時期につくったから単に似た曲ってことになっちゃう」
「え?まだあるの?」
今度はあたしとカオリの方が目を丸くした。
さぁんたーくろーしぃずかーみーんとぅたぁーん♪
???
急にナニを歌い出すんだろう――と思ったら…
あ!
「わかった?」
圭ちゃんがニヤリと笑う。
『おんなじだ!』
あたしとカオリンは同時に叫んでいた。
それもちょっと興奮気味に。
圭ちゃんがまたしてもゴソゴソと何かを書いてあたしたちに見せた。
- 329 名前:八月のクリスマス・U 投稿日:2004/09/07(火) 22:55
- San-ta-Claus-is-com-ming-to-town
G -B -Es -G -F -As -D -Es
http://toyama.cool.ne.jp/minimonius/santa.mid
a- ta -ma-no- na-ka-ho- to-n -do-ka- re-si
G-(As)-B -Es-(F)-G -F -(G)-As-D -Es-(F)-Es
http://toyama.cool.ne.jp/minimonius/santa2.mid
ほ、ほとんど一緒だ…
http://toyama.cool.ne.jp/minimonius/santa3.mid
「『ぴったり〜』に関しては、サビの部分もこのモチーフを使ってるからね。実は――」
「"Santa Claus is comming to town"がこの歌のテーマだったんだ!」
「すごーい!知らなかった!」
頭の中で「王子様〜」と"Santa Claus is 〜"のメロディが重なった。
http://ime.nu/toyama.cool.ne.jp/minimonius/ouji3.mid
- 330 名前:八月のクリスマス・U 投稿日:2004/09/07(火) 22:55
- あたしたちはしばし何を喋ったかわからないくらい興奮していた。
だって、これが本当ならつんくさんは…
「プレゼントだよ。つんくさんからのさ」
圭ちゃんがふぅっと上を見上げながらつぶやいた。
そうだ。これはつんくさんからのクリスマスプレゼントだったんだ…
心地よい沈黙があたしたちを包んだ。
胸のうちからじわじわと何か温かいものが溢れてくる。
三年の時を経てようやく気付くことができたつんくさんの気持ち。
「だから言ったじゃん」
圭ちゃんが誰にともなく語りかける。
「つんくさんにとってはタンホポもプッチも大事な娘。なんだから」
あたしは涙が出そうになるのをなんとかはぐらかそうとして言葉を探した。
「あ!」と不意に思いついた。
「なに?」
二人が不思議そうにあたしの方に振り向く。
「やっぱ親心なのかな」
「何が?」
今度はあたしがニヤリと笑った。
- 331 名前:八月のクリスマス・U 投稿日:2004/09/07(火) 22:56
- 「来年までには決めてやる!!」
「へっ?」
ぽかーんと口を開けたままのカオリに圭ちゃんがとどめを刺した。
「決められちゃったね」
「そうだね」
ニヤニヤといやらしく微笑むあたしたちの様子にカオリが不安げに「なに?なに?」と繰り返す。
あたしと圭ちゃんは顔を見合わせてせーの!で告げた。
『卒業おめでとう!』
カオリはしばらくぽかーんとした表情のまま口を開けてあたしたちを見つめていたが、
やがてゆっくりと微笑んで「ありがと」と小さな声で返した。
「これでカオリもこっち側の人間だね」
「そうだね、やっとこっち側に来れたね」
ニヤニヤと微笑むあたしたちはすごく怪しく見えたと思う。
カオリは急にハッと気付いたようだけど多分もう遅い。
「えっ?なに?やだ!こっち側って何よ?」
「こっち側はいいよー」
「ふっ、もう病み付きだもんね、こっち側は…」
やだやだやだと首を振って地団太を踏むカオリンの姿があまりに可愛くて
あたしと圭ちゃんはふふふっと静かに顔を見合わせて笑った。
おしまい
- 332 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/09/08(水) 11:52
- これってマジネタですか?
凄い・・・
- 333 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:23
-
この夏スポーツ界でいちばんの出来事といえば、
アテネオリンピックの金メダルラッシュ。
谷から始まり、野村、北島、野口、室伏など、日本を大きく沸かせた。
しかしこの夏、日本の芸能界でもゴールドラッシュが起こっていた。
- 334 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:25
-
ナ ワ 錬 術
ニ の 金 師
- 335 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:25
- _| ̄|○
- 336 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:25
-
ナ ワ 錬 術
ニ の 金 師
- 337 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:26
-
- 338 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:26
-
1.石川梨華のケース
石川がこの日訪れたのはテレビ局の一室。
控室のはずだが中にいる芸能人を示す紙は強引に剥がされ、
黒い紙に白い文字で『練金術師家平』と書かれていた。
・・・これを深く突っ込んではならない。
石川はそーっとドアを開けた。
- 339 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:27
-
ガチャッ
「失礼します。」
中に入ると紫のローブを顔に被っている女性が椅子の上に座っていた。
学校の机のようなところに座っていて、その上には水晶が置かれている。
錬金術師というより明らかに占い師と言った様相に石川は少し困惑した。
「平家さ」
「うちは家平や。」
「はぁ。」
ヘリウムを吸ったのか、家平の声はアヒルのような声だった。
「約束どおり、金を作ったさかい。」
家平が石川に差し出した金は、どう見ても黒くて、
金色なんてどこにもなかった。
黒メダル、とでも形容しようか。
- 340 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:27
-
「あの・・・これ全然金色じゃないんですけど。」
「フッ、甘いな。」
家平は鼻で笑うと、
「心も体も黒い奴には黒く見えるんけど、それ以外の人には金メダルやねん。」
「・・・・段々と金色に見えてきました。」
石川は焦りを瞳に浮かばせながら黒メダルを受け取り、バックにしまった。
「せや。1万円。」
家平はそう言って手を差し出した。
- 341 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:27
-
- 342 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:28
-
2.松浦亜弥のケース
ガチャッ
「失礼しまーす。」
少し困惑した表情ながらも営業スマイルを見せる松浦。
ドッキリか何かではないかと警戒しているのが目に見えて分かる表情だった。
「ほれ、約束の金や。」
松浦はそれを受け取って覗き込むと、
すぐに眉にしわを寄せて表情を険しくした。
どう見ても黒メダル。
その上、ヤワラちゃんの顔が思いっきり掘られている。
ヤワラ黒メダル、とでも形容しようか。
- 343 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:28
-
「あの・・・これ・・。」
ものすごくコメントしにくそうな松浦に、家平は容赦なく毒を吐く。
「柔道教えてもろうた癖にあいつ谷谷連発してんじゃねーよって裏で言った上
ドラマの仕事を飛ばすよーな奴の目にはそー見えるんけど(ry」
「从‘ 。‘从→( `▽´)→从‘ 。‘从」
「??!」
「この輝きはまさに!!」
「ほ、ほな、カネ。」
松浦は財布から諭吉を取り出すと、机を上に叩きつけて足早に部屋を出た。
「こ・・・こわ。」
- 344 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:29
-
- 345 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:29
-
3.亀井絵里のケース
ガチャッ
不思議そうな顔をして入ってきた。
亀井は机の上に置かれた水晶を見ると笑顔になっていきなりずがずがと
前に出てくる。
そしてワケもなくバシバシと水晶を何度も叩いた。
「金下さい!」
言いながらへぇボタンのようにそれを叩き続ける。
家平は机の下においてあった袋からそれを取り出し、亀井に差し出した。
- 346 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:30
-
「?」
黒いとか黒くないとか、そんなものはもはや問題ではなかった。
UFO型で、淡い茶色の2つの円盤の間に濃い茶色い円盤が挟まっている。
「これただのハンバーガーじゃないですか。」
ハンバーガー、としか形容できない。
「よう見てみい、チーズもあるで。」
「なんですかそれ!キャメイをなめると痛い目にあいますよ!!」
「まあまあ落ち着け若者。お前みたいな隙間大好き女には(ry)やけど、
実は間に挟まって快感感じとんのが金やねん。」
- 347 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:30
-
もはや滅茶苦茶。
意味不明な家平。
しかし亀井はこれに何故か、
「絵里の事をそんなに・・・見直しました!!」
「まあまあ。」
「もう壁と自販機の間に挟まって
中澤さっさと寺田とくっついて寿退社しやがれなんて言いません。」
「んな事言うとったんか我ぇ!!・・・・あ。」
しまった、と表情に思い切り出た家平に、亀井はいつものように笑うと、
諭吉を置いて部屋をあとにした。
- 348 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:30
-
- 349 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:31
- ・・・
- 350 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:32
-
17.矢口真里のケース
ついにアテネの金メダル数を超えたところで、
部屋に飛び込んだ一人の小さな女がいた。
突然の入室に家平は慌てた。
しかし矢口はそんな家平の心の事情なんかどうでもよかった。
「裕ちゃん!!!な〜に後輩からカネ巻き上げてんだよ!!」
ガバッとローブをはがすと、そこから飛び出したのは金髪の三十路、
平家ではなく中澤だった。
- 351 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:33
-
「錬金術で金売ってるだけやんけ。」
「何が錬金術だ!!黒炭にピクルスに・・・etc・・・etc・・・じゃん!」
全く反省の色のない中澤を矢口はすごい勢いで攻め立てる。
それでも中澤は平然としていた。
「偉くはしょりおるのう。走する事でカネがギョーサン転がり込んでくる。
これぞまさに錬金術や。」
中澤の浮かべる不適な笑みに、矢口はキレる。
声のトーンが更に上がり、ヒートアップしていく。
「おいら達は落ち目なんだよ!!給料減ってんだよ!!
歌番組の尺減ってるんだよ!!とにかくみんなの諭吉返せ!!」
学校ドラマで出てくる集金袋のような紙袋を矢口は無理やり引っ張った。
それを制そうと反対側を引っ張る中澤。
結果、16枚の諭吉達が空中を舞い、パラパラと不規則に流れて地面へと落ちた・・・。
- 352 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:33
-
- 353 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:33
-
「矢口、お前の言う事は確かに分かる。
せやけどなぁ、一つだけ間違うとる。
落ち目落ち目言いよるけど、うちのが遥かに落下を体験してんねん。
スカイダイビング並やねん。
そんでもってうちのが全然落ち目やねんぞ・・・。それだけは譲れへん。
ははっ、ははははははっ・・・・はぁ。」
ガチャッ
「?誰や?」
- 354 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:34
-
18.藤本美貴のケースA
「あと3個でソロコンサートさせてもらえるらしいんでもう3個!!」
札束がヒラヒラと揺れていた。
- 355 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:34
- おわり?
- 356 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:34
-
- 357 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:34
-
- 358 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:35
-
19.高橋愛のケース
「呼ばれなかったやよ!!」
- 359 名前:ナニワの錬金術師 投稿日:2004/09/16(木) 21:35
- おわり
- 360 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/18(土) 20:11
- おもしろかった
- 361 名前:チビの特権 投稿日:2004/09/18(土) 20:50
-
「れいなって、背低いよね」
がーん。
中学入学以前に背の成長がストップしたのは自覚しとる。
それでも好いとう子にそげんこつ言われたら大ショック。
「…わーっとるよ、いちいちやかましかっ」
「絵里の方がおっきいもんね〜」
「…うるさか」
「ねえねえ何センチあるのぉ?」
「こ、答えたくなかと」
虐めるようにしつこく質問してくる。
確信犯やから余計に悔しい。
何よりれいなの方が年下で、背も絵里より低いっちゅう事が悔しい。
絵里はふざけてれいなの首に手を巻き付けてくる。
- 362 名前:チビの特権 投稿日:2004/09/18(土) 20:56
-
「絵里の妹とおんなじぐらい…」
「ほんとにやかましか!!ほっとけ!!」
「えぇーっ、可愛いのにぃ」
「か、かわいい……」
「うん、ぎゅーってしやすい」
「…あんまり嬉しくなかと」
「何で?」
絵里より立場が上やないと、格好つかん。
本当は上から絵里を見下ろして、抱きしめてやりたい。
でもそれができんから腹たつ。
「チビのれいな、絵里は好きだよ?」
「絵里が好きでもれいなは嫌やけん」
「いーじゃん、絵里が好きなれいなはチビじゃないとダメなの」
「…は?」
「だからぁ」
意味がわからんくて、耳を絵里の近くに寄せた。
「っだぁぁぁ!???」
「れいなうるさいよ」
「そ、そげんことせんでもええ!!」
「なんで?」
「は、恥ずかしか…」
「キスしたぐらいでぇ?」
「こ、言葉にせんでもよか!」
これだから、嫌だ。
肩を押さえ付けられて、頬に…き、キスをされた。
- 363 名前:チビの特権 投稿日:2004/09/18(土) 20:59
-
「…なんで、絵里にされると…」
「え?」
「ほんとは…もっとれいなからしたか…」
「じゃあ何でしてくれないの?」
届かん。
そう言うと絵里はまたも大笑いし始めた。
本気やのに、マトモに受け取ってくれん。
「おかしぃーれいな」
「本気やのに…」
結局れいなは絵里の尻にしかれるけん。
チビはやっぱり、嫌だ。
終り。
- 364 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/23(木) 21:03
- 可愛い!すごくいいです!!
- 365 名前:serch for… 投稿日:2004/09/26(日) 13:22
-
暗闇でもがく。
君が手を伸ばせば届く距離にいる。
そしてあたしも手を伸ばす。
もう少しだけ、心を開いてくれないだろうか。
「ミキティ、何処にいるの?」
返事は返ってこない。
決して失いたくないから、傍にいて欲しい。
そう願ったあたしの思いは彼女に届いているのだろうか。
まだ見えない心を、掴めずにいる。
- 366 名前:serch for… 投稿日:2004/09/26(日) 13:25
-
こっち、こっちだよ。
白い雲が空を仰ぎ、あたしを手招きする。
公園の中で彷徨うあたしを、優しく迎えて。
なすがままに、あたしはそれを追いかけた。
きっとそこにいるんだね。
「…どこに、いるんだよ…」
ブランコがゆらゆら揺れる傍らで、立ち尽くす。
追いかけても追いつけない、あの子。
だから余計、好きなんだ。
早く、早くこっちにおいで。
今度は木が、あたしを呼ぶ。
- 367 名前:serch for… 投稿日:2004/09/26(日) 13:27
-
「はぁっ…はぁ…」
林の中を駆け抜けて、暗がりを探す。
いつからか自分を傷つけてまで、あの子を感じたいと思ったから。
天から広大な雨が降り注ぎ、あたしの何かを溶かす。
闇も、苦しみも、尖った気持ちさえも。
「っ…ミキティ…?」
白い光の中で、山並は萌える。
その一角で一番輝かしく光りを放つ、あの人が。
- 368 名前:serch for… 投稿日:2004/09/26(日) 13:31
-
やっと出会えた。
傷だらけの頬を癒してほしい、君に。
そう願って彼女に駆け寄る。
その光りは紛れもなくあたしが愛を解くもので。
静かに抱き寄せると、彼女は照れたようにはにかむ。
「やっと、会えた」
「もう、勝手にどっか行くな。バカ」
「だって、風が気持ち良かったんだもん」
軽く額をこづき、キスをする。
このまま夢でなければ、唇を重ねたまままどろんでいたい。
だけど、儚くもパッと唇を離されてしまう。
そして、そのキスは深いものへと変わる。
- 369 名前:serch for… 投稿日:2004/09/26(日) 13:33
-
君と一緒に堕ちるまで。
君と一緒にまたあえるまで。
手を繋いでいようよ。
温かくて、冷たい物を織り直そう。
そこにはきっと君がいる。
ふわっと笑って、僕にキスをするだろう。
僕がいちばん、探していたものは君だから。
- 370 名前:serch for… 投稿日:2004/09/26(日) 13:34
- 作者でした。
一応みきよしで。
- 371 名前:愛があるなら 投稿日:2004/10/12(火) 20:38
-
「ねぇー」
「ん?」
「したいんだけど」
「ハッ!??」
だって、したいんだよ。
顔を真っ赤にしてジタバタするミキティの耳元で囁いた。
こういう反応が好きなんだよねぇ。
ミキティは読んでいた雑誌を投げ捨てて、焦りながらごとーの胸元をわしずかんだ。
らんぼーなんだから。
「いだ、いだだだ。乱暴はよしてよ」
「ご、ごめん…」
「別にいいけどさ。そんなにキョドんなくてもねぇー」
Tシャツがシワになっちゃったじゃんか。
ぷんすか文句を言ったら、ミキティはそれどころじゃないと今度は怒った様子でにじり寄ってくる。
「な、何さしたいって!」
「だから、えっち。最近冷たいじゃーん?誘ってくんないし」
「そっ、そんな事出来るわけな…」
「天然魔性のくせしてよく言うねぇ。四つん這いで上目遣いしてくるくせに…」
「し、知らないよそんなの!!」
バタバタ騒ぎながら染まる頬を抑えようとするミキティ。
そんなの無駄だっつうのにね。
- 372 名前:愛があるなら 投稿日:2004/10/12(火) 20:42
-
「で、していいの?ダメなの?」
「そっ…それは…」
急に黙りこくってしまった。
いつもそう、照れ屋なんだから。
結局誘ってるのはいつもごとーの方からで。
それも、何の言葉もなく急に始まる。
なんとなく、寂しいんだ。
「…ごっちんが…したいなら…」
「OK?」
コクリ、と弱々しく頷いた。
「…可愛すぎ」
「ギャッ!???」
もう、全てが大好き。
例え可愛くなかった声を上げたとしても、大好きだから。
手首をがっちり掴んで、フローリングの上に押し倒した。
ミキティはちょっと頭をぶつけたようで一瞬苦い顔をした。
ごめん、と謝ると凄い形相で睨まれる。
でも、本気では怒ってない。
なぜなら、まだ頬が真っ赤だから。
- 373 名前:愛があるなら 投稿日:2004/10/12(火) 20:48
-
「−−んっ…」
何かを先に言われる前に、素早く唇を塞いだ。
微かに甘い声が聞こえるから、ますますごとーの性感帯を震わせる。
一旦唇を離して、そっと唇を舐め上げた。
結構、こういうのが好きだったりする。
乾燥しがちな彼女の唇だから、ちゃんと潤いを保たせなきゃ、ねぇ?
「ふっ…んぅ…」
「くーっ…可愛いよぅ」
「う、うるさっ…」
「黙って」
ちょっと怒り混じりのミキティ。
つべこべ言われる前にちゃんとしつけをしなきゃね。
唇から舌を離して、段々と鎖骨に下がる。
ミキティのTシャツを無理矢理脱がせながら、ゆっくりと舐める。
我慢するような甘い鳴き声が、やる気を奮い立たす。
「…っ…ゃっ…」
「ブラ、取っていいよね?」
「……分ってる…くせにっ…んぁっ…」
「…チョー可愛い…」
わざと、虐めるような質問を投げかける。
相当ごとーはSらしいな。
ミキティが答える前に、ぱっぱとブラを外す。
- 374 名前:愛があるなら 投稿日:2004/10/12(火) 20:53
-
「ふぁっ!!んっ…くぅ…ぁっ、ぁっ…」
「ここ、すっごい立ってるよ?」
「うるさいっ…ふぅ…んっ…」
そこのそそり立っているのは、カワイらしい突起。
もう、我慢できなくてそこに口付けをする。
ちゅっと吸うように熱く舐めて、イッキに吸い上げる。
段々、ミキティの喘ぐ声も高くなって。
いつから、ごとーはこんなに上手くなったんだろう。
「チュ−ッ…チュッチュッチュ…」
音を立てて、執拗に弄る。
もう少しで涙を流しそうなミキティを見て、微笑む。
すると苛立ったようにごとーの首に両手をまきつける。
「…下、脱がすよ?」
ミキティの了解も得ず、一気にずり降ろす。
一瞬焦ったように小さく声を上げたけど、気にとめる事もなく
露になったソコを見つめた。
- 375 名前:愛があるなら 投稿日:2004/10/12(火) 21:01
-
「…くっ…んぅ…」
ここで、どうして欲しい?
って聞く筈なんだけど。
今日は素直に、ミキティの欲望に答える事にした。
何も言わないで、暗黙の了解で分ってるんだけど。
あんまりにも、可愛いから、いつもいじわるしたくなるんだ。
「ふっ…ぁぁぁぁっ!!!」
ズリッと舌全体を使って、ソコを舐め上げた。
一回だけじゃなくて、ミキティが求めるがままに。
たまにソコにある突起をちゅっちゅと吸うと、声にならない
快感が表わされているかのようになってくる。
舌を奥深くまで入れると、更にミキティの喘ぐ声は高くなる。
「んっ…んっ、あっ…ごっ…ちんっ…」
「…どうする?舐めるだけでいいの?」
「…いじっ…わる…」
「…ふふっ、可愛いなぁミキティは」
素直に、求めてくれた方が嬉しいのに。
何も言えない事は分ってるから、ごとーも何も言わないで。
ゆっくりと中指を、ソコにいれた。
「−−−くぁぁぁぁっ!!ぁっぁっぁっ…」
「…キモチイ?」
「ふっ、んっ…きもちいよっ…」
「……イかせてあげる」
そこで、ごとーも懇親の力をこめて一気に攻め続ける。
突き立てた指は凄く熱くなってるのがわかって、ドキリとする。
- 376 名前:愛があるなら 投稿日:2004/10/12(火) 21:06
-
「くっ…あっ…あっ…あっ…ああああああ!!」
______________________________
「…もー、可愛い」
「……バッカ」
「シてる時のミキティって、普段の何百倍も可愛く見える」
「う、うるさい…」
「でも、きもちかったんでしょ?」
「…う…」
「正直になろーよミキティ」
終った後は、必ず優しいフレンチキスをする。
それはいつも、ミキティからしてくれるもので。
疲れ切った身体を起こして、息を切らせながらニコッてしてくれる。
「…当分、オアズケ」
「でぇっ、何で!?」
「だって…疲れる」
「それ以上に快感を求めるとかさぁ…いだっ!」
「じゃあ美貴以外のコとヤればいいじゃん!!!」
「そんなー、ごとーはミキティのすっごく色っぽい顔が好きなのにぃ」
「し、知らん!」
もう、正直じゃないんだから。
でもねミキティ。
ちゃんと分ってるから。
ごとーの事、思ったより愛してくれてんだね。
- 377 名前:作者 投稿日:2004/10/12(火) 21:07
- エロなんでかくしておきます
- 378 名前:作者 投稿日:2004/10/12(火) 21:07
- もういっこ
- 379 名前:作者 投稿日:2004/10/12(火) 21:07
-
……
- 380 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/12(火) 22:32
- みきごまエロ───(*´Д`)────
素敵w
- 381 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:20
-
『豆形警部のものがたり』
- 382 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:21
- 「ムキー!!!」
警視庁捜査一課の片隅で派手な雄叫びが上がり、続いてバリッと紙を引き裂く音がした。
「警部・・・その新聞、私まだ読んでないんですけど・・・」
「こんな新聞、読まなくてよーし!!」
室内だというのにトレンチコートをしっかり着込んだ豆形警部はそう叫ぶと、手に残っていた新聞をパッと宙に放った。
豆形のたったひとりの部下である紺野は切れ端を拾い集めると几帳面にセロテープで繋ぎ合わせ、三面記事に目を通した。
「『怪盗ミニモニ。団、今度はケーキ屋を襲う』・・・。もう記事になっちゃってるんですねえ」
「他人事みたいに言うなー!」
机を叩いて紺野を叱る豆形。
だが、紺野は特に気にした様子もなく新聞を畳む。
怪盗ミニモニ。団は近頃世間をお騒がせしている賊で、豆形の目下の標的である。
彼等、いや、彼女等の犯行は計画的でいつも豆形の包囲網を掻い潜っている。
- 383 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:22
- 「次は絶対捕まえてやるからな!」
「昨日もそう言ってましたよね。そもそも人員不足なんですよ。増員を頼みましょう」
「お偉い方はこんな事件に人手は割けんとさ。それより、何かいい対策はないものかね?」
豆形はお茶を一口啜ると渋い顔で唸った。
毎回被害額が二万円程度の事件なのであまり重要視してくれない幹部連中は、刑事生命を賭けていると言っても過言ではない豆形にはまさに目の上のたんこぶであり、悩みの種・・・というわけではなく、単にお茶が苦かっただけである。
豆形は甘党なのだ。
紺野はいくつかの資料を手にゆっくりと喋り出した。
「ミニモニ。団の犯行には、共通点があります」
「共通点・・・?」
「ミニモニ。団がこれまでに盗んだ物を思い出してください」
「・・・ステーキ肉、飲料水、米、ケーキ・・・みんな食べ物だったな」
その位のことならとっくに気付いているさ、と豆形。
しかし紺野はかぶりを振った。
「では、数は?」
「数?」
ばさばさと資料を探す豆形より早く、紺野が自分の資料を読み上げた。
「ステーキ肉は三ブロック・・・重さ約六キロ、飲料水二ダース、米三十キロ、そしてケーキはホールが六個」
「それが、一体?」
紺野の言わんとするところが分からず、豆形は僅かに眉を潜めた。
すると紺野は唇の端を上げて微笑むと、自信たっぷりに言い放った。
「ミニモニ。団は、六人います」
- 384 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:22
-
*****
- 385 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:23
- 「全部六で割り切れるんですよ」
「しかし、現場にはいつも四人しかいないが・・・」
「恐らくアジトにでも待機しているのでしょう」
豆形は椅子に座り直すと背もたれに寄り掛かった。
「しかしなぁ、人数が分かったところで、どうやって捕まえると言うんだね?」
「囮を使います」
「囮?」
「わざと盗まれるんです。幸いミニモニ。団はメンバー分しか盗らないようですから、発信機六個くらいならすぐ用意できます」
「なるほど!」
声高に豆形が叫んだ。
その声の大きさは、課の全員がおもわず振り向いたくらいだ。
「問題は何に入れるかだな・・・」
腕組みして思案する豆形を見る紺野の目が、鋭く光った。
「警部、私に素敵でナイスな案があるのですが」
「何だ?」
「ここは一つ、石焼き芋でいきましょう」
紺野の目の輝きになど気付かない豆形。
今の季節ならそれもいいかなあとすんなり紺野の意見を採用した。
「よし、早速準備だ!」
- 386 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:23
-
*****
- 387 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:24
- 囮捜査を開始して、三日目の夜。
未だ収穫無しの豆形たちは寒さに耐えながらその時を待っていた。
「―――はっくしょん!」
「どうぞ、警部」
すかさずココアを差し出す紺野。
「一体、いつ現れるんだろうなあ」
「ここに焼き芋屋がいるという情報はそろそろ知れる頃でしょうから、今日くらいからが勝負ですよ」
「む・・・そういうものなのか」
「そういうもんだよ」
「そうそう、気長に待とうよ」
「そうだな、気長に待・・・っ!!??」
返ってきた返事に豆形は相槌を打ちかけたが、その声は紺野のものではなかった。
- 388 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:24
- 慌てて声がした方を見ると、知らない女の子が二人、せっせと焼き芋を詰めているではないか。
「あの、もしもし?」
「熱っちー!」
「ノノ、気ぃつけなあかんやろ」
豆形が話し掛けても、気にせず作業を続けている。
「あの、ちょっと」
「あいぼん、袋もう一枚!」
「―――あの、」
「新聞紙も使っとくか?」
「――――――」
わいわい言いながら、それでもテキパキと包んでいく二人。
ついに、豆形がキレた。
- 389 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:25
- 「くぉら―――!!!」
流石にこれには反応する女の子二人。
「うっさいよ、おじさん! 今忙しいんだよ!」
「そうやそうや! 言いたい事あんなら勝手に喋っとき!」
予想外の反撃に豆形は一瞬たじろんだが、すぐに気を持ち直してできるだけ優しく声を出す。
「お嬢ちゃんたち、それは商品なんだからちゃんとお金を払わなきゃダメなんだよ?」
警察の人間として、子どもとはいえ窃盗を見逃すわけにいかないのでやんわりと窘める。
しかし、もっと予想外の反撃が豆形を襲った。
「ウチらミニモニ。団やから、お金なんて払わんでぇ」
「そーゆーこと」
ビニール袋の口をしっかり縛って二つに分けた焼き芋を持って、女の子二人はさらりと言った。
豆形は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
一拍の間を置いて、絶叫が響く。
「何ィ―――――!!??」
- 390 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:26
- 驚きすぎて、声が裏返る。
豆形の声に迷惑そうに顔をしかめた二人のうち、一人が何かに気付いて目をパチパチさせた。
そして、じっと豆形の顔を観察する。
「・・・なあノノ。このおっさん、どっかで見たことないか?」
「へ? うーん、あるような、ないような・・・」
穴が開くんじゃないかというほど見られている間、豆形は震える手を内ポケットに突っ込んだ。
目的の物を取り出そうとするが、焦り過ぎてなかなか出て来ない。
「いや、絶対見たことあるんやけど・・・」
ついに、豆形の手がそれを掴んだ。
「け、け、警察だ!」
時間がかかった上にどもるという、まったく格好がつかないが、それでも警察手帳を二人の眼前に突きつけた。
「「あっ」」
ミニモニ。団の二人は短く叫ぶと脱兎の如く駆け出した。
豆形も後を追うべく駆け出し、紺野に応援を頼もうと振り返った。
「紺野君、至急応援と検問を・・・」
そこまで叫んで、豆形は足の力が抜けた。
豆形の視線の先に、赤い顔をして苦しむ紺野の姿があった。
- 391 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:26
-
******
- 392 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:27
- 「ゴホッ、ゴホッ・・・ゲホッ・・・」
「焼き芋をつまみ食いした上に喉に詰まらせるなんて・・・」
先ほど紺野に貰ったココアを渡して、情けない表情で背中をさすってやる豆形。
ミニモニ。団はとっくに逃走してしまった。
「・・・すみません」
「まあ、現行犯逮捕は逃したが、発信機があるから大丈夫だ」
立ち直って行方を追う豆形と紺野。
発信機が示す場所に辿り着いた時、二人は無言で顔を見合わせた。
「・・・あそこに落ちてるのって、食べカスですかね?」
「紺野君にもそう見えるのか? 私にも食べカスに見えるぞ」
近付いて確かめると、間違いなく豆形たちが用意した焼き芋のゴミである。
ご丁寧に発信機は六つとも捨てられている。
「やられたな・・・」
「ええ、まったく大した連中です」
「まさかミニモニ。団に子どもがいるとは思わなかったな」
「こんな短時間に焼き芋六個を食べるなんて・・・負けた・・・」
「って、おぉい! そっちかい!!」
悔しそうに下唇を噛む紺野に豆形のツッコミがキレイに決まる。
- 393 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:27
- 力なく豆形が拾った新聞紙に、何やら文字が書かれている。
「・・・・・?」
目を凝らして読み取った豆形は即座に握り潰した。
「ミニモニ。団めー!!!」
こっそりと紺野が後から拾って読むと、なんとも可愛らしい文字が踊っていた。
『刑事のおじさん、ごちそーさま』
- 394 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:28
-
*****
- 395 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:29
- 翌日、またしても朝刊を手に震える豆形に向かって、紺野はのほほんと提案していた。
「ミニモニ。団の食い意地が分かったことですし、次は移動式パン屋なんかどうですかねぇ」
「・・・」
「あ、たこ焼きもいいかもしれませんねー」
「・・・」
「警部?」
返事のない豆形に紺野が呼びかけると、ぼそりと、本当に小さく豆形が言った。
「・・・紺野君の分は用意しないからな」
幸か不幸か、しっかりと聞き取った紺野はひどく悲しそうに眉を下げた。
こうして、豆形のミニモニ。団との戦いは続いていくのであった。
- 396 名前:豆形警部のものがたり 投稿日:2004/10/24(日) 01:29
-
おしまい
- 397 名前:OGAフリーク 投稿日:2004/10/25(月) 02:45
- いしよしはね、やばいんですよ。
わたしが考えるにですよ、あやみきといしよし年齢もほぼ同じ。なんならプライベートの情報はあやみきの勝ちでしょう。いっしょにお風呂。お風呂ですよ!
ふーん。
でもね、やばさがない。それはやはりお二人の容姿によるものが影響してると思われます。あやみきお二人ともお美しいとは思います。亜矢さん、かわいい、ほんとかわウキーッ・・・いやいやかわいいです。そしてもっさん。あのひとには色気がない!
それはわかるわかる。
でしょ!?それに比べていしよし!もう、大人。 オ・ト・ナですよ。エロすぎです。石川さんの顔、体、私が男だったら絶対思いますよ。「あいつ男知ってんな」。
そうなの!?
いやいや、たとえばの話です。まあ私の知るかぎりでは白ですね。黒いけど(ry。 そんなことより吉澤さんです。最近やばくないですか? あのお美しさは尋常じゃないですよ。 まさかあそこまでとは・・・石川さんがあの瞳で見つめられてあの声で甘い言葉をアワワワワ・・・ダメッ、ダメです。ね、やばいでしょ? やばいんです。 そりゃ、事務所も情報規制するのもやぶさかではないと。
関係ないっしょ? だって事実だもん。あやみきはお友達。いしよしは・・・夫婦?
それはそうなんですけど。
- 398 名前:OGAフリーク 投稿日:2004/10/25(月) 02:46
- しかしちょっとヒクよねー。「うちのほんとうのかーちゃんになってくれないか」でしょ?一徹のかっこで。梨華ちゃんから10回は聞いたよ。
私は30回は聞きました。 吉澤さんも考えたんですね。石川さん卒業しちゃうし、告白するか悩んであんなに痩せちゃって。
あたしの卒業のときは太ってたくせに・・・あんにゃろー
まあまあ、しかしあのやばさの前には最近台頭してきたよしみきもかなわない。ましてやよしごまなんて過去のものですね。
それが言いたかったわけ? ふん。最近は親友の座も奪われたしね。
あ、それはでも吉澤さん言ってましたよ。「ごっちんは家族だから親友より上だよ。もちろん娘。みんなも家族だよ」って。そのなかでも後藤さんはほんとに仲良しな双子の姉妹だそうですよ。
よしこのやつ・・・・。
でも奥さんは石川さんなんです。完璧です。
なに? よしごまって組み合わせがいやなの? こんまことかもあるじゃん?
私のことはいいんです。あんなデ・・・いやいや、ありえないですから。
ふーん。わたしもありえないけど。 ところで最近あんまり聞かないこんごま。 どーなんですかね?
それはその、これはこれでやばいんで・・・。
エロイってこと?
いや、じ、事実ってとこがいしよしと一緒で・・・・
そこだけじゃやだな。 ね、あたしよしこたちに負けたくない。
ご、後藤さん・・・・・
ねー紺野、あたしたちもエロクなろうよ・・・・
――――end――――
- 399 名前:OGAフリーク 投稿日:2004/10/25(月) 02:50
- 感想お聞かせください
- 400 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 11:03
- 笑ったていうかニヤッとした
- 401 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 17:59
- うまいもんだ
- 402 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 20:05
- 途中で気づいて読み直した。うんうん。
- 403 名前:OGAフリーク 投稿日:2004/10/26(火) 13:41
- >>400 >>401 >>402
ありがとうございます。
めったに書かないんですが、
よしごまの関係を書きたくてまわりくどく書いてみました。
- 404 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/26(火) 14:43
- >>403
よかったよ。またどっかで書いてくらさい。
- 405 名前:やにさがる 投稿日:2004/10/31(日) 17:06
- 「安倍さーん」
甘ったるい声とともに、楽屋に飛びこんでくる女の子ひとり。彼女はなぜか、
入って来るなり顔をしかめて、パーにした手のひらでくちもとを塞いだ。
「どったの?」
MDウォークマンのイヤホンをはずして私が笑顔できくと、彼女は唇を富士山型
に曲げた。
「ごめんなさいごめんなさい、ノックするの忘れてましたぁ」
ああんとうなり、足をばたばた髪をさらさら揺らすと、ドアを閉めて出ていって
しまう。
「おおい、いいのにそんな」
笑いながらも立ち上がろうとすると。
コンコン。
ノックの音が大きく響く。私はもうおっかしくって、もともと笑ってた顔が
さらににやけてしまう。
「はいい?」わざとらしくきくと。
「エリです! 亀井です。安倍さんございたくでしょーかぁ」
こちらもわざとらしい声。
もう大笑いでドアを開けると、なっち以上ににやけた亀ちゃんが手に持っていた
ものを差しだした。
そこにあるのは、アホみたいにニヤニヤした顔で写った、はじめて撮った二人の
プリクラ。
end
- 406 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 17:54
-
アイドルに必要なものって何だと思いますか?
- 407 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 17:55
- 人によって色々意見はあると思うけど、美貴はやっぱり女の子らしさだと思うわけ。
だからスーパーアイドルである美貴は、それはそれは可愛くて女の子らしいの。
ん?今笑った人!一歩前へ出ろ!
ガス!
ちょっと、隅のほうに片付けておいて。
おっと話が横道に逸れちゃったね。
まあ、とにかく美貴は自他共に認めるスーパーアイドルなわけよ。
それなのに!
亜弥ちゃんときたら!
まあ、他の番組で美貴のことを話してくれるのは嬉しいよ?
自分が出て無い番組で話題に上るのは嬉しいよ?
でもね、その内容が問題なの!
- 408 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 17:56
- そりゃ、頼まれなくても勝手に美貴の宣伝をしてくれる亜弥には感謝しているけど、
その美貴の宣伝内容が、『レバ刺し5人前食べる女の子』っていうことが問題なの!
美貴はスーパーアイドルなわけだから、当然ファンのみんなも可愛らしい美貴を
期待しているでしょう?
ん?今また誰か笑わなかった!?
あ、そう。気のせいか。
えーと、なんだっけ。
あ、そうそう。だから親友である亜弥ちゃんの口から美貴の女の子っぽいエピソードが
出れば、美貴のファンはますます増えるって言うわけよ。
それなのに亜弥ちゃんの口からレバ刺し5人前だの
寝ながら新聞を読むだの(実際は読んでないし)
半目で寝ているから怖いだの
夜中にモソモソするだの(エッチな意味じゃないよ!)
そんなこと言われたら実際の美貴がまるでガサツな女の子で面倒くさがりで
外に出るのを嫌がる超インドアな人間で休日に遊び相手がいなくてスタジオに
来るのにも髪の毛ボサボサでアイドルなのに平気で人前で鼻をかんで本番中でも
素の顔を見せてやる気がないとぶっちょう面になって目つきが犯罪者とか
言われているみたいじゃない!!
- 409 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 17:56
- …え?そこまで言っていない?
ごほん!
あ〜まあそういうわけで美貴は頭にきているわけ。
そこで美貴は考えたわけよ。
え?何をって?
そりゃあ、亜弥ちゃんへのふくしゅうだよ。
ふくしゅう。
分かる辻ちゃん?
え?
分からないって?
大丈夫。
分かるよね紺ちゃん?
分かるよね?
分かるでしょう?
分かるだろう?
…首を縦に振ればいいんだよ。
明日の朝日を拝みたいでしょう?
そうそう。
やっぱり紺ちゃんは頭がいいね。
長生きするよ。
- 410 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 17:57
- え?
どうしたの辻ちゃん?
具体的にどうするかって?
さすが辻ちゃんはやる気がちがうね。
頭を撫でてあげるよ。
じゃあ、話すよ。
辻ちゃんは紺ちゃんと一緒に亜弥ちゃんのところに行って、この大量の焼き芋を
食べさせればいいの。
簡単でしょ?
あ〜ちょ、ちょっと、辻ちゃんが食べちゃダメだよ。
それは亜弥ちゃんに全部食べさせるために買ったんだから。
え?
う〜ん…しょうがないなー。
ひとつだけだよ?
うん、そうだよ。
もしうまくいったらケーキ好きなだけ奢ってあげるから。
- 411 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 17:58
- ん?
紺ちゃん、何か言いたそうだね。
特別に許すから20字以内にまとめてね。
『なんで美貴ちゃんが自分でやらないんですか』
…本当にまとめたね。
時々、紺ちゃん嫌味だよ。
まあ理由を言うとね、美貴だと返り討ちにあうから。
前にも亜弥ちゃんに納豆食べさせようとしたんだけど、結局何故か美貴が
食べさせられていたりしてね。
なんか亜弥ちゃんの言葉には逆らえないの。
え?
なんで辻ちゃんと紺ちゃんで行くのかって?
他に適任者がいるんじゃないかって?
……紺ちゃん、過ぎた好奇心は身を滅ぼすよ…。
そうそう、そうやってただ頷くだけで良いんだよ。
ん?
どうしたの辻ちゃん?
辻ちゃんも知りたいの?
えーとそれはね、辻ちゃんと紺ちゃんのコンビだったら誰も断ることができないからだよ。
え?
意味が分からないって?
大丈夫。
そうやって辻ちゃんが相手をじっと見つめたら誰も断らないから。
- 412 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 17:58
- どうしたの紺ちゃん?
え?
辻ちゃんと対応が違うって?
へー…紺ちゃん、面白いこと言うね。
遺書は書いてきた?
あ、そう。
じゃあ紙とペン貸すから今書いておきな。
残念だったね〜さっきのお弁当がこの世で最後の食事になるとはねー。
…紺ちゃん、晩御飯のカボチャが食べたいからって土下座はどうかと思うよ。
まあ、いいやとにかく、2人には美貴が立てた素晴らしい天才的計画を
実行してもらいたいわけよ。
え?
作戦名?
作戦名は…
焼き芋の食べすぎで本番中におならが出ちゃったよーあやや恥ずかしいー作戦!
くぅ〜、この激しさの中にも哀愁を漂わせる作戦名…美貴ってやっぱり天才。
…ちょっと、紺ちゃん!
何で肩落として首を振ってるの!
この作戦の素晴らしさが分からないの?
- 413 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 17:59
- 美貴はラジオとかテレビで亜弥ちゃんから屈辱的仕打ちを受けたんだから、
目には目、歯には歯、メディアにはメディアよ!
国民的アイドル松浦亜弥がテレビの生本番中におならが止まらなくなるの。
へっへっへ
おっと、いけねえや、笑い方が厭らしくなっちゃったよ。
アイドルらしくなかったね。
まあ、そういうわけで2人とも崇高な使命を持ったんだから、心してかかってね!
え?
どうしたの辻ちゃん?
トイレに行きたいって?
じゃあ5分後に集合ね。
――5分後――
…ちょっと辻ちゃん、そのおならは止まらないの?
…そう。
ま、まあいいや。
とにかくこの大量の焼き芋で亜弥ちゃんを今の辻ちゃんみたいにしてきてね。
うん、そうだよ、頑張ってね。
あ、辻ちゃん、トイレは我慢しちゃダメだからね。
あ、紺ちゃん、失敗したら分かってるよね。
- 414 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 18:00
- よし。
これで後はあの2人がうまくやってくれれば。
見てろよー、亜弥ちゃんめ〜。
美貴がいつもいつも亜弥ちゃんの言いなりだと思ったら大間違いなんだから。
これを機会に、美貴が主導権を握るんだから。
そうだ、今のうちから予約しておこう。
もう、ビデオからDVDから全て録画してやるんだから。
あ〜楽しみ!
お、帰ってきた。
どうだった?
そうなの?
全部食べたんだ〜。
よーし、これで今夜の本番が楽しみだ。
アイドルサイボーグの異名も今夜限りね。
- 415 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 18:01
- おかしい…。
本番が始まったのに、亜弥ちゃん全然平気そうな顔してる。
あの焼き芋は下剤を少々塗ってあるからトイレに行きたくなるはずなのに…。
辻ちゃんなんかさっきからトイレに篭もりっきりなのに。
…ちょっと紺ちゃん。
本当に食べさせたの?
…そんなに震えなくても、まだ変なことはしないよ。
まだね。
本当に食べさせたの?
返答によっては、紺ちゃんに永遠の安らぎをプレゼントしてあげることになるけど。
返品はきかないし最後のプレゼントになるだろうけど。
え?
目の前で確かに全部食べたって?
それは間違いない?
辻ちゃんが言ったら一発だったって?
まあ、辻ちゃんが言ったのなら間違いないか…。
それにしても、画面の中の亜弥ちゃんは全く普段と変わることがない。
ん?
どうしたの紺ちゃん?
え?
本番終わったら楽屋に来いって亜弥ちゃんが言っていたって?
なんだろう。
まあいいや。
せっかくだから自分で真相を確かめるか。
- 416 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 18:02
-
『松浦亜弥様』
確かここだったな。
亜弥ちゃーん、今日の本番…って、亜弥ちゃん何その格好?
まるでプリンセスあやや…
は!?
ま、まさか!?
あ、あそこにあるのは確かに美貴が食べさせたはずの焼き芋(下剤RIMIXバージョン)
確かに紺ちゃんは食べるところを見ていたと言っていたはずなのに…。
ん?
プリンセスあやや…!?
ま、まさか…イ、イリュージョン!?
紺ちゃんたちに幻を見せたの?
え?
あ、いや、美貴は今お腹いっぱいだから…。
ま、まあそうだけど。
それに焼き芋嫌いなんだ…。
あ、そうだ、この後レッスンが!
え?
いや、そんなことは…。
そ、そうだ、明日からツアーがあるから今日はもう帰らなくちゃ…。
はい?いえ、美貴はそんなことはいたしません。
…えーと、正座でよろしいでしょうか?
はい。
はい。
そうですね。
おっしゃるとおりです。
はい、土下座でよろしいでしょうか。
あ、いや、本当に。
それに明日コンサートなんで…す、すいません!
それだけはご勘弁を!
明日も会場満員になるらしいので…出来れば…はい、そうですね。
これを全て食べればよろしいのですね?
- 417 名前:ふくしゅう 投稿日:2004/11/07(日) 18:04
- お、
おいしいです。
味ですか?
分かりません。
しょっぱいです。
涙で。
翌日
『藤本ー!本番だぞー!』
…おならがとまりません…。
END
- 418 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 18:05
- コメディ初挑戦作品。
オチが…orz
- 419 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/08(月) 12:55
- >>418
作者さんの作品、いつも楽しく読んでます。
コメディも書かれるんですね〜。いつもの雰囲気とは違っていて意外でした。
でも、やっぱり面白くて、作者さんの作品好きです!
- 420 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/12(金) 00:53
- >>405
こういう恋愛要素のない、日常的な短編をもっと読みたいなと思いました。
なちえり最高です。
- 421 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/12(金) 07:30
- 恋愛要素は満載ですが
- 422 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/12(金) 20:44
- あからさまじゃないでしょってこと
- 423 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:53
- <1>
雨は夜明け前にあがって、街には今日、わずかな湿っぽさが残っている。
午後になれば水たまりも乾くだろう。
夕方まで休める日に、早くから起き出したのは、出先で眠るつもりだからだ。
この秋で最初のブーツをかつかつ鳴らし、あたしは寝ぐらへ急いでいた。
「もうすぐ着くよ。ヨーグルト買いました。ううん、目にやさしいブルーベリー」
いまや家族以上に頻繁に話す相手との電話を、目的のマンション近くで切る。
一人で部屋にいるのはつまらなくて、街へ出るのはだるい最近の休暇は、親友のマンションで過ごすことが多くなっていた。
新しい雑誌があれば雑誌を、DVDがあるならDVDを、何もなければテレビを、それがつまらなければ風呂にでも。
目的がなくメリハリもなく怠惰で、かけがえのない時間だ。
銀色のインターフォンへは、小さく到着を告げる。
玄関ホールでは、声を落とすようにしている。道で追いかけられるのはともかく、ここで見つかれば、被害者は自分ひとりで済まないからだ。
開けたよ、と朗らかな声を合図に、自動ドアは左右へ開く。
美貴は、あたしの気遣いを知っているのかいないのか、機嫌のよさそうな声を抑えもしない。
あたしはいつも、それが少し、うれしかった。
- 424 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:53
-
玄関ドアは、呼び鈴の前に内から開かれる。
毎回必ず、そうだ。
超高層マンションのエレベーターは6台あってもまだ足りずに、あたしは27階になかなか立てないのに、美貴はドアノブを握って、いつでも待っていてくれた。
「ごっめん、エレベーターなかなか来なくて」
「うん、いつもだから」
再び鍵をかけながら、美貴はゆったり微笑む。
今日は寝癖がなかった。ジーンズにTシャツの上から七分袖のカーディガンを羽織って、すぐにも外へ出られそうだ。
「今日、何時からなの」
「一時には出ないとまずいかな。あたしも夕方まで休みたいよ」
美貴は笑う。
目つきが悪くて気性が荒い『らしい』藤本美貴を、あたしは知らない。
この先も、きっとそうだ。
- 425 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:54
- 「こないだ病欠しまくったばっかじゃん」
「そういうこと言うかな、普通」
「だって、DVD見てごろごろしてたんでしょ」
「してたけど、でも喉は痛かったんですぅ」
いじけたように語尾を延ばす。
自宅にいるときの美貴は、外で会うより、3つ4つは幼く見えた。
そんなとき、あたしは美貴がそれに気づいて態度を改めてしまわないように、細心の注意で言葉をつなぐ。
水辺で長く待った末に、野生の栗鼠を見つけたときのような、たとえるならそんな気分だ。
「てか美貴たん、小津ボックス返してよね」
「無理言うねぇ。小津ばっか連続でそんな見られないって」
ブーツを脱ぐ間、内容よりも間合いを楽しむだけのやりとりを続ける。
そうしていれば、目的もメリハリもなく怠惰な時間が、ずっと続くと思っていた。特に根拠もなく、空手でそう信じていた。
「靴くらい揃えろ、ちゅうの」
「あはは。もういいじゃん、お行儀とか」
放り出したあたしのブーツに、美貴が苦笑いで手を伸ばす。
「お行儀とかじゃなくて、帰り、履きにくくない?」
「すみませんねぇ」
美貴が当たり前のようにあたしの靴を揃えてくれるのを、毛足の長い玄関マットから振り返った。
それが、正味、あたしが幸せでいた最後の時間。
長く続いた幸せの、一番最後の瞬間だった。
- 426 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:55
-
傘が見えた。
かがんだ美貴の左肩の先、ドアのすぐそばに、傘立てがある。
美貴がここへ越すときに、南青山の家具店で見立てたものだ。
はるばるスウェーデンからやってきた品だと、ひっつめ髪の店員が説明したけれど、美貴が聞いていたかどうかは疑問だ。
あたしが指差した品だったのに、美貴は傘立てに一目ぼれで、右へまわったり左に立っては、声には出さずに頷いた。
買うかどうかを考える段階を飛び越えて、自分の傘立てを愛でているようだった。
美貴がそれを正式に自分のものにしたのは、それから、たしか4分くらい後のことだ。
その傘立てに今、ミルク色の傘が立っている。
かりんとうの色をした木製の傘立てには、あつらえたようによく似合って、一緒に並んだ赤いのより青いのより目を引いた。
上がってよと美貴が言ったけれど、玄関マットのパイルはいそぎんちゃくのように、あたしの足をつかまえて放さなかった。
「ごめん。これ、冷蔵庫入れといて。あとで食べるから」
わしわしとビ二ール袋を押し付けて、逆に美貴を追い払う。
あたしには、早急に考えるべきことがあった。
- 427 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:55
- 「冷たいお茶か、あったかい紅茶だったら、どっちー?」
キッチンから美貴の声がする。電話が遠いときのような声だった。
「ミルクティーがいいなぁ」
「はあい」
足元につぶやいたあたしの声を、美貴はなんなく聞き取って、呆れ半分の返事は、けれど、またひどく遠い。
あたしは、猫より優秀な忍び足で、傘立てに近づいた。
「あ」
美貴の短い声が廊下を伝い、心臓がぐっと縮んだ。
「DVD停止中だから、勝手に抜かないでよー」
「わかったー」
舌打ちしたい気持ちで応える。
美貴の声が疎ましかったことなんて、これが初めてかもしれない。
深く息を吸って慎重に、手を伸ばした。
自分の手が細かく震えるのがわかる。
指先が触れるか触れないかで、思わず目をつぶった。
急に広がった暗闇は、今の気分と同じ色をしていた。
- 428 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:56
-
闇の中で、指をあてがったのは、ほんの一瞬のことにすぎなかった。
十分だった。
いつのまにか胸にためていた空気を、ゆっくり吐いて全て押し出した。
あたしは信じられない気持ちで、というより信じたくない気持ちで、指先を眺めた。
水滴などはついていない。そこまでじゃなかった。
けれど確かに、その白い傘は、濡れていた。
- 429 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:56
- <2>
「自分だけレモン」
「亜弥ちゃん、自分でミルクティーがいいって言ったじゃん」
美貴のソーサーにだけ置かれたレモン・スライスを咎めたら、美貴はまた呆れた。
「そうだっけ。いいなぁ、そのレモンの厚切り」
「厚切り言うな。自分だって料理できないくせに」
「レモンを薄く切るのって、料理とか以前の話だよね」
言いながら、あの傘の持ち主なら、レモンはもちろん薄く切るだろうし、たいがいの料理は満足にこなすんだろうな、と思った。
そもそも、美貴の部屋にレモンがあること自体が、彼女の仕業のような気がする。
「あれ。髪洗ったとこだった?」
美貴の髪からは、むせ返るような花の匂いがした。
「うん、寝癖ひどかったし」
いつもは爆発頭に無理やり帽子をかぶって出かけるスタイリスト泣かせが、白々しい弁明をする。
「ふうん」
弁明。頭に浮かんだ言葉を、あたしは自ら聞き咎めた。
親友になんの弁明が必要だというのだろう。滑稽だ。
頼んだ覚えのないミルクティーのカップを、しかたなく手に取った。
- 430 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:57
- 「あっつぅ」
「ちょっと大丈夫? がぶがぶ飲むから」
舌をやけどしてあわててカップを置いたら、今度は右手にミルクティーをかぶった。
美貴がかいがいしくティッシュで手を押さえてくれる。
あたしはお礼を言うことも忘れて、それをただ見ていた。
この手があたしにだけ優しい手だと、どうして信じてしまったのだろう。
実りのない、反省の時間だった。
「タオル濡らしてこようか?」
「ううん、大丈夫」
本当は、じんじん痛んだ。
「ねえ、最近この部屋、誰か来た?」
なるべく、どうでもよさそうに、ついでのように。
その意図が通じたかどうかは知らない。
美貴はきょとんとした顔になった。
それが自然の仕草であるか、演技であるか、あたしは注意深く見守る。
「誰も来ないよ。なんで?」
「いや、レモン珍しいから。友だちとか来て、お酒でも飲んだのかなって」
「ああ。サワー作るのに買ったんだ。最近、ハマってるんだよね。テレビ見ながら、一人で飲んだりとか」
「ふうん」
あたしは見たくもないファッション誌を膝の上に広げて頷く。
嘘つき。
目の細いモデルのすまし顔を睨みつけて、心の中で吐き捨てた。
「こういう服、好きだっけ?」
あたしが見つめるページを、美貴が横からのんびり覗いてくる。
「ううん」
嘘つき、嘘つき、お前は嘘つき。
「ぜんぜん、嫌い」
なんでだろう、笑えた。
- 431 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:57
-
あの白い傘なら、あたしは楽屋で見たのだ。
大晦日のNHK向けに組んだ三人ユニットの楽屋だった。
傘は柄のところが籐で編んだみたいな細工になっていて、その割に田舎くさくなくて、一目で量産品じゃないことがわかった。
その日、雨は小降りだった気がする。
家と職場、職場と職場、そのほとんど全距離を車で移動するあたしたちは、ちょっとの雨なら傘など持たない。
あたしは少し気になって確かめた。
「ごっちん。雨、これから強くなるの?」
「んー、どうだろ。予報見てないけど。傘これ、気に入ってるから持ってきた」
真希はちょっと目の離れた笑顔で、おっとり答えた。
雨は結局、テレビ番組の収録が終わる頃には止んだ。
2週間ほど前のことだ。
その傘が今、少し濡れて、美貴のマンションにある。
雨の降った昨夜、持ちこまれ、雨の止んだ今朝、置き去りにされたものだ。
持ち主は夜から朝まで、ここにいた。
美貴は傘に気づかないようだ。
証拠を玄関に飾りながら、夜から朝までのことを、あたしにさえ隠していくつもりらしかった。
眩暈がするような結論を、あたしはいやいや導いた。
- 432 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:58
-
ねえ、最近どんな感じ。
時計の広告に目を落とすだけ落として、あたしは上の空みたいな声で訊く。
「んー? どんなって……モーニングだったら普通、別に」
美貴は、ざかざかドラムを叩くばかりの映画に夢中で、こちらは真実、上の空に答える。
「ああそうだ、こないだ梨華ちゃんがまた、つっまんないことで怒り出しちゃってさぁ」
「そういうことじゃなくってさあ」
思わずさえぎったら、美貴はDVDを一時停止させて、ぐるんとあたしを振り返る。
一気に言いにくくなった。
「そういうことじゃなくて?」
「え、なんていうの、コイバナとか」
ふはは、と自分で笑ってしまった。美貴は力をこめて「ハア?」と言った。
「どしたの、急に」
「いやー、普通そういう話とかするもんみたいよ。女子としては」
「ジョシってなによ」
美貴は「女子」がおかしかったようで、からから笑った。
眺めのよい窓から、ヘリコプターのプロペラがまわるような音が聞こえる。
どこかでアスファルトか何かを固めるか何かしている音だよ、と前に美貴が教えてくれた。
- 433 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:58
- 「亜弥ちゃん、なんかあったの?」
「あたしは何もないよ」
実際、何もなかった。
あたしは美貴に本心を告げないし、だから美貴はあたしを特に拒まない。かといって、傘の持ち主について打ち明けてくれるつもりもないみたいだ。
だから、何もない。
ただ、白い傘が今ここにある。それだけのことだった。
「自分が話したいから、美貴に訊いたのかなって」
「聞いてた? 何もないって」
乱暴に割り込んだ自分の声の、その響き方が大げさで、少しうろたえた。
美貴は不快そうにこそしなかったけれど、不思議そうに、あたしを見た。
「怒ることないじゃん。失恋でもしたかと思って心配したんだからね」
もしかして自分が当事者かもしれないと、かけらも思わないその調子が、あたしを怒らせ、悲しませる。
そう説明してやったら、「なるほどそれは怒るね」と美貴は納得するだろうか。
うすっぺらなテレビ雑誌を床から拾って投げつけた。画集なみに重いファッション誌はやめておく。
「痛い」
「なんで失恋限定で想像してんの。コイバナって言ってんのに」
「あ、そっか。でも、だってさぁ―――」
三人掛けのソファの両端に座っていたのに、美貴が急に間をつめてきた。
「やっぱ今日、なんか元気なくない?」
- 434 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:59
- 腐っても鯛とか言うんだろう、こういうの。美貴は肝心なところをすっとばしているくせに、あたしの恋が砕けたことだけ、ちゃんとわかっているのだった。
ろくでもない芸当だ。
「ちょっと疲れたかなぁ」
「そっか」
わかるよ、と美貴は頷く。仕事のことだとでも思っているのかもしれない。
このわからず屋、とあたしは思う。
「ああ、コイバナっていうか、コイバナじゃないかもしれないけど」
美貴が珍しく少し慎重な言い方で何かを話し出そうとしていて、あたしの心臓はまた縮こまる。
「夢があるんだよね」
ふうん、と相槌を打ちながら、続きを聞きたいのか聞きたくないのか、自分でもよくわからなかった。迷ううちに、美貴は、「亜弥ちゃんの結婚式で」と言った。
「亜弥ちゃんの結婚式で、歌をうたいたいんだよねぇ。まだ決めてないけど、なんかメロッメロに幸せなやつを、美貴が独唱で」
「目立ちたがり屋」
「あなたにだけは言われたくないんですけど」
間髪入れずに言い返して上ずった声を、美貴は「続きがあってさ」と少し抑えた。
「美貴は歌いながらどうせ泣いちゃうと思うんだよね。泣いちゃって、あんまり声がちゃんと出ないと思うんだ。だから、そのときは、亜弥ちゃんが助けてくれたらいいなって」
なんで花嫁が、と再び茶化そうとして、やめにした。
美貴は焼肉屋のメニューを眺めるときの顔をしていた。
楽しいことを考えているときの顔だ。
- 435 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 21:59
- 「なんかその時間だけは旦那さんそっちのけで、二人で歌えたらいいなっていうか。いろんなこと思い出したりしつつ、みたいな」
レバ刺しを三人前、注文するときの顔になっていた。
「ま、ま、めっちゃくちゃ先の話になりそうだけどね!」
途中から急に恥ずかしくなったらしく、美貴はゲハハと豪快な笑い声を立てた。
あたしは面白くなかったので笑わなかった。
「なんで美貴たんが泣くの、あたしの結婚式で。パパじゃないんだからさ」
「そうだけど」
美貴はもう冷めたらしいレモンティーを一息に飲んで、思ったより熱かったのかなんなのか、顔を赤くした。
かわいいなと思ったけれど、あたしの苛立ちはまるでおさまらなかった。
「だいたい、それ全然コイバナじゃなくない?」
「なんでぇ。亜弥ちゃんが恋を実らせたらの話だから、略してコイバナじゃん」
おあいにくさまだ。あたしの恋の話は、始まる前から終わってる。
最初のシーンを画面の下からエンドロールが埋めていくような容赦のなさで、終わりだけが始まってる。
「あたしのことより自分が恋でも愛でも実らせればいいんだよ」
ぶっきらぼうに言ったら、美貴が黙った。
横顔は停止したままのテレビ画面を空ろに睨んでいる。
「ごめん、感じ悪い」
「え、気にしてないよ。てか亜弥ちゃん、そんなこと気にするって今日、ほんと変」
まるで普段は傍若無人みたいな言われようだった。
- 436 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:00
- 「実るっていうのが結婚だとしたら」
美貴はまた真剣な声になっていた。
「あたしのは実らないかもなぁ、とか、ちょっと考えてた」
怒ったわけじゃないのだ、とわざわざ説明してくれたけれど、それはあたしをまた深く傷つけた。
生涯、結婚できそうにないと美貴が、少なくとも今はそう考えている。
「不倫とか血縁とか」
あたしは慎重に言葉を選んだ。同性愛なんかは、例にだって出しちゃいけないと思った。
「確かに結婚できないのってあるけど。美貴たんのがどういうのか知らないけどさ」
意地悪が言いたかった。
好きな人との『永遠』を想像したがる気持ちに、水をさしてやりたいと思った。
「一生は続かないよ」
そうでなくちゃ、あたしが困る、とも思った。
こんな気持ちが一生続いたら、胃が荒れてコーヒーも飲めそうにない。
寝ぼけた味のミルクティーには、心底うんざりだった。
「だから、実るときもあるよ」
優しさのふりをして、底意地悪く微笑んだ。
それなのに美貴が「ありがとう」と言ったから、あたしは初めて自分を嫌いになりそうだった。
「あたしも泣くかも」
つぶやいたら、聞き返すように美貴の目がこちらへ向く。
「美貴たんの結婚式、泣いちゃうかもなって」
ほうら見ろ、と言いたそうに、それから照れくさそうに、美貴はにっこりした。
「泣いちゃいそうだよ」
どこかでアスファルトか何かを固めるか何かする音が、ずっと聞こえている。
- 437 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:00
- <3>
ひゅんひゅんひゅん。
振り回すと風を丸く撫で切って、どこか寂しい音がした。
大切に握り締める気にはなれず、さっきから、ぶらぶらさせたり、ぐるんと一回転させて弄んでいる。
手の中の傘は、もうすっかり乾いていた。
傘なんか持っちゃって、と太陽が笑う、午後一時の話。
美貴がトイレに立った隙に、あたしは足音を殺して玄関へ走り、傘をドアの外へ出して、また何事もなかったかのようにソファに身を沈めた。
十二時四十五分には、「そろそろ出る時間でしょ」と気を利かせたふりで、立ち上がった。傘が気になってしかたがなかった。
じゃあねとあたしはドアの前で笑顔をつくり、美貴もまたねと微笑んだ。
外まで見送ることはしないのも含めて、全てがいつも通りだった。
廊下へ出て、背中で鍵がかかる音を聞いてから、あたしはそっと柄をつかんだ。
ひやりとした。
- 438 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:01
- 傘を持ち出すときは体が強張ったけれど、マンションを出てしまうと力が抜けた。
どうするかは考えたけれど、どうなるかはよく考えなかった。
考えてみたところ、分が悪いなんてもんじゃない、負けの決まった勝負だった。
全てが終わった後で、美貴はあたしを嫌いになるに決まっている。
一時的に離ればなれになった恋人同士も、すぐに元の鞘に戻るだけのことだろう。
この傘は、せいぜい捨ててしまうのが一番で、それ以上のことをしてはならない。
理屈では、そう結論づけていた。
アスファルトか何かを固めるか何かする音の源だろうか、工事現場の脇をすり抜ける。
歩道へはじき出された砂利の一粒をつまさきで蹴り飛ばす。
小さくて軽そうだったのに、石はたいして遠くへは転がらなかった。
てんてん、と二度三度、アスファルトを叩いて、やがて動くことをやめる。
ギーギーと、蝉の声に似た音が聞こえている。
鉄か何かを削るか何かしているのだろうか。不機嫌そうな音だった。
傘の持ち手のところを強く握ると、さっきからのあたしの熱が伝わって、もう生温かくなっていた。
負けてもいい、と生まれて初めて思った。
振り回したら傘は、やっぱり寂しく鳴いた。
- 439 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:02
- <4>
夕方、真希に会った。
3人ユニットは今、最初で最後の新曲の売り出しに各局をまわる時期で、このところは毎日のように顔を合わせていた。
今日の歌番組が、大晦日を除けば3人で出る最後になるはずだ。
「おはよ」
最初のうちこそ気を遣って高い声を聞かせた真希も、今は起きぬけみたいな低めの声になっている。視線もちらりと投げてよこすだけで、メイクの手を休めない。
「おはよー」
そういえば、自他ともに認めるこの人見知り屋のことが、はじめは好きじゃなかった。
直に話すより、楽屋に置かれたテレビや雑誌で互いを見かける時間のほうが長かった頃のことだ。
本当はそうじゃないんです、と言うときの真希が嫌いだった。
みんなが言うほどクールでも大人でもなくて、と語るのをVTRや雑誌で見るたび、不愉快な人種だと思った。
鳥のように見られたければ羽ばたけよ、犬がよければ吠えて走れ。
ただそこにいるだけで、見られたいように見てもらえるなんて、あたしなら信じない。
- 440 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:02
- 仕事に必要なこと以外を真希と話すようになったのは、おととしの、やっぱりNHK向けユニットの結成からだった。
話している間に限れば、真希は本人の言う通り、クールでも大人でもなかった。
つまらないことで興奮して妙に早口になったり、そうでなければ、だいたい人よりスローな口調で、起承転結のはっきりしない話をした。
そのくせ、歌わせたり躍らせれば、それなりにクールな目つきも、大人の顔も見せた。率直に、そういうところは嫌いじゃなかった。
理解できないところをたくさん残したままで、それなりにうまくやっていけると思った。
実際、うまくやってきたのだ、今日までは。
「ごっちん」
真希は大きな鏡ごしに、背中のあたしを見た。
これから起こることへの期待なのか恐怖なのか、あたしの左胸は驚くほどの早鐘を打っていた。
「これ、返す」
傘をそっと、かざした。
真希の手が止まり、目が大きく開かれた。
13時台のドラマのように、真希は手に持ったマスカラを落とし、白い化粧台には黒い染みができた。
すべて鏡ごしに、あたしはそれを見ていた。
- 441 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:03
- やがてゆっくりと振り返った顔は、血色を失って白かった。
ヨーグルトみたいに、青ざめた白だった。
「会うなら返しといてって言われたからさ」
誰からとはあえて言わない。
どこで忘れたか、真希はとうに思い出しているはずだ。
「はい」
全身を固くして、まるで動こうとしない真希に、親切そうに傘をつきつけた。
真希は、黙って立ち上がり、あたしの手から傘を受け取って、また動かなくなる。
あたしが目に入ってないみたいに、ただ握りしめた傘の柄をじっと見ていた。
返したよ、と念を押してやると、ようやくあたしを見たけれど、その瞳は深くて暗い空洞だった。
誰かが指を突っ込んで全てを抉った後のように、なにひとつ宿してはいなかった。
「ごっちん。どうかした?」
あたしは、ひどく意地悪な気持ちになっていた。苛々していた。
現実が予想をなぞらなかったからだ。
怒ると思っていた。
こんなに、こんなにも、悲しむとは思わなかった。
「あ。うん、ありがとね」
真希は、あたしがどこまで知っているのか判断がつかないようで、態度保留のような硬い笑顔を作ってみせた。
傘が美貴からだということは、疑いもなく信じたようだった。
信じて、この傘から受け取れる美貴のメッセージに、傷ついた顔をしている。
- 442 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:03
- 予定通りのはずだった。
一瞬だけでも、満足できると信じていた。
なのに、真希のせいだ。
プライドが勝って美貴を憎むはずだった真希は、力ない目をして、いつもより、ひとまわりもふたまわりも小さく見えた。
どんなに探しても、真希の中に怒りの火種を見つけることはできず、かわりに見えたのは森だった。
真希はまるで、光の届かない森に置き去りにされた子どもだった。
泣き叫ぶことも出口を求めることもできずに、立ち尽くすだけの子どもだった。
感じずにはいられなかった。
高いはずのプライドをやすやすと押しのけて真希の心を占める何か。
それはきっと、美貴が永遠を誓う何かと、同じものに違いなかった。
怒りが、真希ではなく、あたしの心で青く燃えて、ゆらゆら揺れた。
「楽しかったって、言ってたよ」
文節で区切るようにゆっくり言えば、真希は何も言い返さずにうつむいた。
髪の間からのぞく耳のはしが、みるまに染まる。
それは、嫌がらせが思い通りに決まったしるしだったけれど、あたしはうれしくなかった。
どこかで、まだ信じてなかったことを、わざわざ確かめて、ひとりでに傷ついただけだった。
- 443 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:04
- 「いい思い出に」
「わかった」
さらに一太刀を浴びせようとした手を、真希が止めた。
「もうわかったから」
搾り出すように、つぶやいた。
それっきりで真希は身じろぎひとつ、しなかった。
じっとしていれば、嵐が過ぎると信じているように見えた。
傘の柄を握る指の節が、はっとするほど白かった。
それは本来の肌の色をこえて厳しい白で、真希が何かに耐えるための力が、そこにこめられているのがわかった。
真希の手が好きだったことを、あたしは思い出していた。
小奇麗な指ではなかった。
少しばかり骨ばっていて、長いけれど細すぎず、装飾品ではなく、機能品としての美しさが備わっていた。
人が食べるものを作ったり、人に見せるダンスを踊るための、はたらく手だ。
その手はけれど今、親指と人差し指のつくる輪の辺りに皺をたくさん刻んで、泣き出しそうな誰かの顔みたいに見えた。
- 444 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:05
- あたしは自分が何をしたかったのか、まるで思い出せなかった。
苦しめて満足できると思っていたのかもしれないが、それはどうやら的外れなことでしかなかった。
真希が悲しそうにすればするほど、あたしは胸が痛かった。
心臓に石をひとつずつ詰めていくような、内側から破れそうな痛みを感じていた。
間違えた。
あたしは間違えたのだと、取り返しのつかないときになって、気がついた。
「あたし……」
「おはようございまーす」
言いかけた声に別の声が乗り、楽屋のドアはユニットの3人目が外から開けた。
たまっていた空気の澱が、どこかへ流れ出ていくのが、肌で感じられた。
「なっちは朝の仕事じゃなければ、入りが早いよねぇ」
「いやいやいや。全く同じこと、返していいですか」
姉妹のようにじゃれあう二人は、いつもと変わらないように見える。
妹の声がいつもより少し高いことに、姉はまるで気づかないように、屈託なく笑う。
あるいは、気づいているから、気づかないふりで乗ってやるのかもしれない。
- 445 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:05
- 「ああ、やばい、本番でおなか鳴りそうだよー」
「ごっつぁん、よくおなか減らしてるよね、ほんと」
「わっかいからねぇ」
人に心配をかけないことに、真希がこんなにも一生懸命になれる人だと、あたしは初めて知った。
悩みの存在と、それがないかのように振舞う様子と、両方を見て初めて知れることだった。
「飴いる?」
あたしは、自分の鞄からのど飴を取り出して見せた。
受け取らないかと思ったけれど、真希はサンキュウと笑って手を出した。
少しばかり骨ばった指にも手のひらにも、もうなんの表情もなかった。
傘は、床に置かれていた。
立てかけていたものが倒れたのじゃなく、かろうじて置いてあると言えそうではあったけれど、白がくすんで見えた。
以前のような持ち主の愛着が、そこに感じられなかったからなのかもしれない。
真希は受け取った飴をすぐに口に入れて、それから、化粧台の黒い染みを、備え付けのティッシュペーパーでぐいぐい拭った。
マスカラは乾いてしまったようで、思うようには落ちなかった。
ティッシュペーパーごしに爪を立てて、真希は汚れを削ろうとする。
けれど、染みは薄く広がるばかりで、元のようにはならなかった。
- 446 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:06
- <5>
美貴から電話があったのは、それから7日後の夜のことだった。
明日の仕事の始まりが遅いから、今夜は遊びにおいで、という電話だった。
あたしたちの間ではよくある話で、いつもと違うところがあるとすれば、発信者の番号が、03で始まる、あたしの知らない番号だったことくらいだ。
おそるおそる通話ボタンを押したあたしに、切らないで、と美貴は最初にそう言った。
続けて「美貴です。これ、自宅の番号なんだ」と早口に名乗った。
電話機はファクシミリを受け取るためのものになっていて、通話にはほとんど使わないから、番号を友人に教えることもないのだという。
「美貴のケータイだと出ないと思ったから、こっちにしてみた」と、美貴はまるで悪びれなかった。
真希にも美貴にも会わない日が運良く続いたこの1週間、あたしは美貴からのメールに返信しなかったし、電話には出なかった。
最初はごく普通のメッセージだった美貴のメールは、やがて「なんかあったの」に変わり、昨日、「話したいことがあるんだけど」になった。
- 447 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:06
- 受話器から聞こえる美貴の声は、そんなはずはないのに、いつもより優しい気がした。
美貴は、あたしが電話やメールを無視した理由について、質問しなかった。
もう、知っているからだろう。
「話って、なに」
あたしは観念して尋ねた。
自宅のベッドでケータイを耳に当てながら、怖くて目を閉じた。
けれど、暗闇の中で聞く美貴の声は柔らかいままで、「会って話そうよ」と言うだけだった。
「明日、早いんだったら、明日の夜でもいいからさ」と思いやりを見せられて、あたしはもう逃げられないんだ、と思った。
「わかった。30分くらいで、あ、ごめん、45分くらいで行ける」
メイクを落としてしまっていた。
もう二度と二人で会えないなら、せめて自分の一番綺麗な顔で、美貴の記憶に残りたいと思った。
電話を切ると、テレビがちょうど、「お前アホやろ」と言って、みんながどっと笑った。
- 448 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:07
- <6>
リビングまでの廊下がひどく長くて、歩いているというより、連行されている気分になった。腰縄がついているでもないのに、あたしは脱走できない囚人だった。
「なんか、すごい久しぶりな気がする」
ソファで美貴はそんな挨拶をした。あたしは床に、三角になって座った。
「そうでもないよ」
それがあたしの実感だった。仕事を除く全ての時間を、美貴のことを考えるのにあてていて、離れている気がしなかった。
「紅茶入れようか、厚切りレモン付きで」
「いいよ」
「いいよって、え?」
「いらない。レモンいらない。紅茶もいいから」
彼女のレモンなんかもらえない。紅茶はそもそも好きじゃない。
あたしが欲しいものなんか、いつだってひとつだった。
「そ。ねえ冷たくないの、床。これ敷く?」
クッションを掲げて美貴は、こんなときにもあたしを丁寧に扱おうとする。
美貴があたしに甘いのはいつものことだったけれど、今はそれが癇にさわった。
あたしは手渡されたクッションを両手で力いっぱい、あさっての方向に投げた。
クッションはシステム・コンポを直撃してラジオ・チューナのスイッチを入れたけれど、周波数が合わずにスピーカは、雨降りみたいな音だけ、部屋に流し込んだ。
- 449 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:07
- 美貴は、コンポを止めず、クッションも拾わなかった。
「おとついさぁ」と世間話を始める口調で言い出した。
「好きな人に、電話した」
おとついだったのか、と思うだけだった。
メールの内容が「話したいことがある」に変わったのは昨日だったから、昨日かと思っていた。でも、それはたいした問題じゃなかった。
「亜弥ちゃんがさ、いつまでもは続かないって言ったじゃん。それがなんか痛くてさ」
んしゅうの……で………ッツの……。
ラジオが急に人の声らしきものをキャッチして、すぐにまた、何も拾わなくなった。
「いつか別れるのかなって思ったら、泣けてきちゃって。おっかしいよね、ちゃんと付き合ってまだちょっとしか経たないのに」
あたしは頷かなかった。なんでそれで、その日のうちじゃなく一昨日なんだろう、と少々、疑問に思っただけだ。
13回だったかな、と美貴は言った。
「は?」
「呼び出しの音。13回も鳴ってから出てくれた」
ヨーグルト色をした真希の顔を、あたしはなんなく思い出すことができた。
「おとついまでなんて、出てもくれなくて。それは誰かさんもそうだけどさ」
マスカラの染み。穴ぼこの目玉。光の届かない森。迷い込んだ子ども。
「傘、返しといてくれたんだね」
はっとした。
- 450 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:08
- 「ありがとね。美貴は、忘れてったことも気づかなかったから」
美貴の声は言葉の通りに、人に礼を言うときの温もりをはらんでいた。
あたしはそれが、怖くてならなかった。
「亜弥ちゃん」
最悪の展開だった。走って帰りたかった。
逃げるのが間に合わないなら、東京の夜景をいっぱいに切り取るこの大きな窓を破って、隕石が飛び込んでくるといいと思った。美貴の頭に小さめの隕石が衝突して記憶を失ってくれたら、と本気で願った。
できれば一番最初から、この事件よりもっと前、あたしと出会ってからの全ての記憶を。厚かましく換言するなら「思い出」を、雑巾で乱暴にこするみたいに、美貴から削り落としてしまえたらいい。
「亜弥ちゃんは、美貴のことが好き?」
最悪だ。あたしは笑った。
「好きだよ」
好きだよ。好きだったよ、はじめから。それがどうした。お前にもう、関係ないじゃないか。
「そっか」
美貴は、自分で質問しておいて、答えを受け取るや、少し考えるような間をとった。
あたしにとっては地獄の時間だった。
地獄の終わりを告げた美貴の声は、けれど、さらに残酷だった。
- 451 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:08
- 「あたしも」
殴りたくなった。
こんなときに、そんなふうにごっちゃにする人だと思わなかった。
「って言ったら、めちゃめちゃ怒られそうだけどさ」
見透かしたように付け加えて、美貴はあたしを見た。
胃にぐっとくるような、心臓にぎゅうぎゅうのしかかるような、あたしの好きな目をしていた。
「でも、美貴だって、亜弥ちゃんが好きだよ」
そんなことは知っている。
ただ少しだけ、あたしたちは、アンバランスだった。
重心が、ちょうどまんなかに来なかった。
「種類が違っても、好きは好きなんだよ」
知ってるよ、同じがよかったんだよ、それだけだよ。
声が裏返りそうだったので、口に出さなかった。
「ごめん」
「なんで謝るのよ」
裏返らないように、声を低く抑えた。雨降りに似合う声だと自分で思った。
「泣いたと思って、謝らないでよ。別にいじめられてないよ」
精一杯、あたしは美貴を睨みつけた。
「あたしは全然、かわいそうじゃないよ」
言い切ってみると、ちょっとだけ自分がかわいそうな気もした。
あたしを見つめる美貴の唇が、パグ犬みたいに歪んだ。
- 452 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:09
- 「なんで」
美貴の涙は、猫のケンカにかける水のように、てきめんに、あたしの中の黒いものを鎮めていった。ありがたい気もしたけれど、持て余したものをまた袋に包んで帰ることを思うと、ため息も出た。
「なんで美貴たんが泣くの」
「だって、考えてること、わかるもん。美貴から離れるつもりでいるって」
ひいひい、と美貴は泣き出して、離れるつもりでいるって、の後は何を言っているやら、さっぱりわからなかった。
あたしより美貴が好き勝手、盛大に泣いて、あたしの失恋はなんて冴えないのだろう、と思った。
「選ばないくせに選んでもらいたいっていうんだ」
臆面もなく、美貴は頷いた。
今度、誰かを好きになるなら、もっと大人で包容力があって、身勝手なところのなるべく少ない人にしよう、と思った。きっと失敗するのだろう。
「考えさせてもらう」
「亜弥ちゃん」
美貴は早くも「どうもありがとう」の意味で、赤い瞳のまま、あたしを見つめる。
「だから考えるって。まだそういうことじゃないから」
こんな、どうしようもない子どものことは、もう二度と好きにならない。
これが最後。
これが一番最後と決めて、美貴が腕をまわしてくるのを、止めないでおいた。
ラジオは外にまで漏れ出して、紫にくもった街の空が号泣を始める。
美貴ごしの透明な巨大スクリーンで、あたしはそれを遠いことのように見ていた。
傘を持ってこなかった、とそんなことだけ、ふと思った。
- 453 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:09
- <7>
「美貴たん、信用ないんじゃないの」
泣いたら喉が渇いたので美貴にコーヒーを入れさせて、それを飲みながら忘れていた謝罪を済ませ、あたしは図々しく、傘の件を世間話にした。
「あっさり、別れ話の伝言だと思ったみたいよ」
「やめてよね、ほんと」
美貴はまだうっすら赤い目であたしを睨むけれど、一向に迫力がない。
「普通そう簡単に信じるかな。一瞬は信じてもすぐ確かめない?」
「そうだねぇ……タイミングがよかったんだよ。うん? 悪かったのかな」
あたしを置き去りにして考え込む顔には、まだ慣れることができそうにない。
「別れかけてたわけ?」
「そんなんじゃないよ」
美貴は穏やかに笑った。詳しいことは言うつもりがないみたいだった。
二人のことだから、と暗に言われた気がした。
「やたら直感的なとこと、えらく考えちゃうとこのある子だからね」
だからね、と言われても、あたしにはなんのことだか、よくわからなかった。
美貴と真希には、わかることなのだろう。
- 454 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:10
- 「悪いことしちゃった」
真希に謝るのは、少し勇気のいることになりそうだった。
「ああ、うん」
自分のことではないから、美貴は安易に「もういいよ」とは言わなかったけれど、「でも、怒ってないと思うよ」と続けた。
「あの傘が美貴からじゃないって納得したら、それだけでいろいろわかったみたいだから」
美貴はどうして真希がよかったのか、皮肉にもあたしは傘のことで、ところどころ納得しつつあった。
「おとつい電話の後で会ってさ。そんときはあたしも興奮してたから、今から亜弥ちゃんと話す、とか言ってたんだけど」
「そうなりそうなもんだよね」
美貴は言わないけれど、そのときは相当、頭に来ていたはずだ。それが普通のことだとも思う。
「『いちんちでもいいからおきなよ』って止められて、そうだなって思って」
一日でもいいから、置きなよ。繰り返してつぶやいてみた。
かなわないな、と思った。
一日置くのは多分、美貴以上にあたしのためになることだったのだ。
美貴から怒りにまかせて好き放題に言われたら、あたしは自分を保っていられる自信がなかった。
「やさしいね」
もうすっかりくたびれた声で、あたしは感想を述べた。
美貴は、ああまあ、と曖昧に受け答えをしたけれど、瞳がうれしそうに光るのだけは、隠し切れていなかった。
好きな人のことが誇らしいのは、そんなにうれしい気持ちなのだねと、あたしはさほど傷つかずに眺めた。
- 455 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:10
- <8>
じゃあねと玄関を出たら、待ってと美貴が追いかけてきた。初めてのことだ。
「外、雨だから」
真っ青な傘、柄のところの細い、美貴が一番気に入ってる傘を、あたしの手に握らせた。
自分もこげ茶色の傘を手に持つ。
「車拾うとこまで、いっしょに行く」
アイドルが二人並ぶと目立つから、という理由で、普段いっしょに出歩くのを億劫がるくせに、「傘さしてたら見つからないし」と付け足して、先に歩き出す。
「傘だけくれれば来なくていいのに」
あたしは憎まれ口をたたきながら追いついて、隣を歩いた。
エレベーターも玄関ホールも静かすぎて、あたしたちはずっと黙っていた。
通りへ出て傘をさすと雨音がやかましくて、それでようやく何か話せる気がした。
「ごっちんとは」
もう隠さずに、美貴は1週間で初めて、あたしの前でその名を呼んだ。
「いつか終わるかもしれないと、やっぱり思うよ。向こうもそうだと思う」
そのことで泣いたとまで言った美貴だったのに、今は静かな口ぶりだった。
- 456 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:11
- 「今、すごく好きだけど、それって嫉妬とか、いろいろ連れてくるようなやつだからさ」
頭の上にパチンコ台を置いたような、ひどい雨音だった。
美貴はだから、話すのだろう。
「どっかで変なふうにふくらんで弾け飛ぶみたいなことも、あるかもしれないなって思うし」
「大丈夫でしょ、そんなに好きなんだから」
どうしてか黙っていられなくなって、あたしはわざわざ雨の中、声を通した。
美貴はゆっくりと、かぶりを振った。
「でも、それはしかたないんだ。だから今は会いに行くし、好きだって言うんだしね」
そういうことだと思うんだよね、と独りごとのように言い、それきりで口をつぐむ。
白にも黒にもできないような、どこへも持っていきようがないと思えることが、美貴にはたくさんあるのだろう。
あたしもそうだし、真希だって、もしかしたら、そうだ。
- 457 名前:傘 投稿日:2004/11/21(日) 22:12
- タクシーを、さっきから二台続けて見過ごしている。
美貴の目も確かに緑の車体を映していたけれど、乗らないの、と一度も言わなかった。
歩かずに待っていればいいのに、なんとなくあたしたちは、とうに寝入ったはずの駅へ向かっていた。
工事現場のクレーンが雨に打たれているのが、右手に見える。
塀より上に見えるのは、まだ工機の類いだけで、どんな建物になるのか、想像もつかない。
「なにができるんだろうね」
「さあ、なんだろう」
美貴は感慨たっぷりに、まるで役に立たない回答をよこした。
あたしも、答えが知りたいわけじゃなかった。
雨はどんどん強くなって、あたしたちは黙った。
オレンジのタクシーが、また一台、目の前を通り過ぎていった。
- 458 名前:_ 投稿日:2004/11/21(日) 22:13
-
『傘』、おわり。
長くてすみませんでした。
- 459 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 23:25
- ブラボー
としか言えない すごくよかった
- 460 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 23:27
- 傘、なんかよかった。乙。
- 461 名前:焦 投稿日:2004/11/24(水) 22:49
-
小さな暗い裏道を冷たい風に吹かれながら手袋の中の熱を失っていく手を意識して歩いていた。
手だけではなく顔や体も、厚着はしているが一歩進むたびに、時間が経つにつれて体の芯から冷えていく。
そうしてつないでいた片手の体温が恋しくなると離してしまった手がさらさらと見えずに流れていってしまうように思えた。
心細くなって手を握ってみるもないものはない。
そのせいで余計に寂しくなり、その寂しさは大切に思う彼女の顔を曇った夜空に思い出させた。
彼女が大切だとか、特別だとか、強い恋愛感情があるだとかそういうことは全くと言っていいほど彼女に伝えていない。
たった一度だけ結ばれたいと思い伝えたきり、せがまれても言わなかった。
決して彼女のとこを思っていないわけではない、むしろ自分じゃどうしようもなくなる感情の塊が溢れそうになり妙な恥ずかしさや意地を捨てて押しつけてしまいたくなる。
それを彼女が拒まずに受け取ってくれることも知っている。
けれど不器用なせいで上手に伝えられない、直球に直接に気持ちを伝えられる彼女がうらやましく思えるほど。
夜中突然に夜の不思議な力にかかり気持ちが溢れたとき、体中をかきむしってしまいたくなるような衝動に駆られる。
今まで溜め込んでいた伝える事を拒んでいた感情が糸を切って、伝えざるをえない状態になるとメールや電話なんかじゃ伝えられるはずもない。
まだ真夜中に外に出て彼女の家を訪ねられるだけの年をとっていない。
せっかく上手くなくても感情を吐き出させることができそうなのに、
そうして結局気持ちを触れさせることは出来ないでいた。
- 462 名前:焦 投稿日:2004/11/24(水) 22:50
- 今だってさっき会っていたばかり、歩いて数分の距離しか離れていないのに彼女の熱が自分から抜けていっただけで彼女を欲しいと求める心が騒ぎ始める。
強く手を握ってみると胸が大きく鳴った。彼女のことを強く想った。
たった数分で会いたいともうなんてどうかしているかもしれない、
彼女にこんなことを言ったら呆れられるだろうか、驚かれるだろうか。
こんなに強い感情で彼女は見られているなんて気づいていないだろう。
れいなは小さく溜息をついた、息は薄く白くなった。
彼女の移り香がまだ服に残っている。
純粋に、性的な意味を含まずに「触れたい」。
単純に、さらさらと流れてしまった手を指先から捕まえて握りたい、絡ませたい。
彼女の温度を感じて揺らいだ落ち着いた気持ちの中で囁くように何を思っているかを漏らしたい。
感覚が戻っていくような気がした。手の感覚に唇の感覚。
心を奪われたそれを思い出すと、一瞬その瞬間と同じ状態になって心臓がどきりと鳴る。
胸がなると同時に鋭く痛くなり我に返ると自分が考えたことに恥ずかしくなって顔が熱くなる。
なにをかんがえているんだか、頭を振って考えから頭を離そうとした。
前を見ると遠くに空があり、月や星は一切雲に隠されている。今にも降りだしそうな天気だった。
おそらく明日の朝は雨だろう、なんて予想は大きく外れて、数歩歩いた時点で頬にぽつりと雨粒が落ちた。
それからあっという間にバケツをひっくり返した雨に変わり、慌てて走って近くの木陰に逃げ込んだ。
おそらくは通り雨、降る量は半端じゃないがその時間は短い。
少し待っていればすぐ止むとれいなは見越した。
- 463 名前:焦 投稿日:2004/11/24(水) 22:51
- 申し訳程度に点々と経っている街灯は古く、満足な量の光を発してはいない。
隣の街灯までの距離を照らせないために雨は目に映らず仄かに明るいところだけに雨が降っているように見えた。
雨は強く、気づいたときには路面は役に立たないような街頭の光でさえ映すほどに濡れていた。
浅いくぼみに水溜りができ水面は穏やかでなく揺れていた。
水面にできたいくつもの輪のとおりに光の形が変わる。
あたり一面には雨の叩きつけられる音と、家々の隔たりで遠くなっている雨が車に轢かれる音ばかりが響いていた。
葉の表面に乗っていた大きな雨粒が滑って葉を手放して丁寧な球体を作りゆっくりと落ちていった。
葉は大きく水滴の重みで傾くけれど落ちた途端にせいせいしたかのように元に戻ってしまった。
同じ事をれいなに気づかれずたくさんの葉と水滴で行われていた。
れいなを葉が守って足元には一滴の水も落ちたようすがない。まったく乾いて、薄い灰色が際立っていた。
ゆるく風が吹いて街灯の下の雨が斜めに流れた。
思ったより長く雨は降り続いている。こんなことなら近くのコンビニまで走ってしまえばよかった。
動いてはいるものの大して変わりない視界はそろそろ飽きてきた。
手はもう完全に冷えている。暗い中で白い息が一際目立っていた。
雨の降る音はあって当然のものとなってなくなってしまえば逆に寂しいかもしれない。
また、その逆に気にしないかもしれない。実際は止まってくれたほうが嬉しい。
れいなは立つことに飽きて多分に息を吐いた。
下を向くとまだ水面は揺れて跳ねていた。
れいなは自分の歩いてきたほうからぱちゃぱちゃと人の歩いてくる音に雨音で気づかなかった。
なんとなく幼い声で自分の名前を呼ばれたところで初めて顔を上げた。
その声を聞いた途端に驚いた。一瞬で聞き分けられる、特別な声。
- 464 名前:焦 投稿日:2004/11/24(水) 22:51
-
「れいな」
「絵里」
絵里は右手でピンク色の傘を差し左手で青っぽい小さめの傘を持っていた。
彼女が自分の名を呼んだから雨の音がなくなったとしても寂しくない。無くてもよくなった。無いほうがよくなった。
れいなの立っている薄灰色の範囲内に彼女は水を踏みながらはいってきて、それから青い傘を差し出した。
その傘はずいぶんと前に自分が貸したあまり新しくない、綺麗なデザインも施されていない、どことなく寒い感じのする傘だった。
「はい」
差し出された傘を受け取る。少し触れた手は温かかった。
「ありがと」
わざわざ傘を届けにいるかどうかもわからない暗い道を歩いてきて自分を探してくれたということが
嬉しすぎてたまらないなんて口が裂けてもいえやしない。
傘を開いてようやっと濡れた地面に足を踏み出した。葉から落ちたものが鈍く弾けたのが聞こえた。
「途中まで送る」
歩き出すと躊躇いなく自然に絵里は手をつなごうとした。
ところが肌を隔てる手袋が気に入らなかったのか、寒かったのかれいなに合わせてある小さな手袋に無理矢理手を入れようとした。
「ちょ、伸びるって」
れいなが言うとむくれたような顔で絵里はれいなを見た。
仕方なく手袋を脱いで自分よりは温かい手に手を触れさせて握った。
冷たいだろうに握った途端絵里は笑って、それにれいなは胸を鳴らす。
彼女が笑っただけでうれしいとか、幸せとかそんなのは似合わない。
ましてやそれを言うことなんて。
いつの間にか築いた見えない壁は高い。しかしそれでも今は伝えたいと思った。
雨を眺めていたって、冷たい手をさすっていたって絵里を好きなことは変わらない。
触れている手がさっきよりも思ったより冷えていたってやっぱり変わらない。
歩くうちに古い街灯が再び現れて青白く足元と傘を照らした。
光は傘を通って、傘の色が顔を染める。その姿は少し滑稽だった。
雨足が次第に弱くなり水溜りはさほど激しく跳ねなくなった。
「雨、やんできたね」
「ん」
- 465 名前:焦 投稿日:2004/11/24(水) 22:51
-
会話はれいなの意識のし過ぎで不自然に止まる。妙に緊張して鼓動が早い。
握っている手は離さなければならない。
表通りのいつも別れる信号まで刻々と近づいていく。
気持ちを伝えるタイミングを探って探って、逆に失ってしまっているような。
何とかしなきゃと思いつつ一歩が踏み出せない。
付き合っているのに、まるで告白する前みたいだ、とれいなはこっそりと思っていた。
時間は過ぎる、雨はやんでいく。
雨音より大きな車の走る音がするようになったら自分の言葉はかき消されてしまわないだろうか。
気持ちは息切れしそうなほどに走っているのに言葉を出せない。走っているのに進まない。
そうこうするうちに表通りに出る小道の最後の曲がり角を曲がった。
信号はもう目の前にあるようなものだった。
別れ際、伝えられなかったら、消されてしまったらそれ以上はない。
明日、明後日、日常は変わらないとしても今伝えてしまいたかった。
心を決めてれいなは立ち止まった。
急にれいなが立ち止まったから絵里も驚きながら立ち止まる。
するとれいなの小さな手に力がこもったのがわかった。
「絵里、好いとぉ」
青い傘の中で顔は真っ赤だった。目線もふらふら漂っていた。
驚いたまま絵里は固まっているとれいなは更に動く。
「ばり好いとぉよ」
れいなは真剣な目で絵里を射抜く。
「なんで急に」
そう思うのも当然だった、れいなは絵里の事をどう思っているかほとんどいっていなかったからだ。
もしかしたら本当は好きじゃないのではないかと不安にさせるくらいに。
「なんかわからんけど、今じゃなきゃいえない気がして」
何かにすがる子供のような顔で絵里を見つめる。
「好いとぉ」
- 466 名前:焦 投稿日:2004/11/24(水) 22:52
-
何の音もない静寂にそれだけが響いた気がしていた。
絵里は瞼が熱くなるのを感じると流れてしまいそうになる涙をじっとこらえてれいなの小さい体を抱きしめた。
低い肩は頭を乗せるのにちょうどよかった。
「絵里?」
語尾が上がった小さな声も、雨の濁音が消えていくのも聞こえていた。
腰のあたりで不安げに服を握っているれいなの手が絵里はたまらなく愛しかった。
それはさっきの絵里のことを焦げつくような感情で想っていたれいなのように。
ピンクの傘はいつの間にか絵里の手をすり抜けて水溜りの中に沈んでいた。
水溜りの一部には落ちるものがなくなり不満はないらしく何も言わずに二人の足元とピンク色を映していた。
背の低いれいなを抱きしめたせいで背中が濡れている、が構わず自分が涙を降らすのをこらえていた。
その分腕の力は強くなった。
「れいな大好き」
「れいなも、絵里んこと好いとぉよ」
その言葉は二人が体を離しても落ちることはない。
二人が傘を拾う頃、雨はもうやんでいた。
初めて両方が満足して青信号で手を離した。
「じゃあ明日ね」
「明日ね」
バイバイといわないのが二人のルールだった。
左手には傘、右手には逃げないぬくもりを持ってれいなは家に向かった。
- 467 名前:焦 投稿日:2004/11/24(水) 22:52
-
終わり
田亀でした。お目汚し失礼しました。
- 468 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/29(月) 11:39
- 傘も焦もよかったす。
で、あの、桜はどこへ行ったのでせう…。→ 関係なかったら申し訳。
- 469 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/29(月) 19:59
- >>468
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/imp/1098200532/507
- 470 名前:468 投稿日:2004/11/30(火) 21:02
- >>469 Very thanx!
- 471 名前:ばか。 投稿日:2004/12/03(金) 15:33
-
怒られた。怒られたあとに事の重大さに気付いて、混乱してるうちにいろんな
ものが処理されていた。それは、あらゆる問題が詰まった箱をあっちからこっ
ちへ処理済の箱に整頓されるみたいに素早く誰かの手によって気づいた時に
は終えていて、二ヶ月の活動自粛を言い渡された。
お前は何も触るなと言われてるみたいで、きっとそれはその通りなのだろう。
事務所の人の言うとおりにするしかなくて、しなければもっとこじれたことに
なるんだろうし。
収録に参加できずに帰ってきた部屋はやたらにがらんとしていて、寂しくなっ
てテレビを付けてみても内容は頭に入ってこない。だからって考えてることは
無いんだけど、ただぼんやりとテレビに流れる映像を眺めている。
ふと何時間こうしているのかと考えていると、そこにはなっちの姿もあったは
ずだった映像が液晶画面に映し出された。
みんなまじめな顔してズラーっと並んでいて、なっちが一人いなくてもわかん
ないだろうなぁなんて思う、だいたい今、何人いるんだったっけ?
二ヶ月後なっちはお人形さんみたいにテレビの中にいるこの子達みたいに謝っ
ているだろう。
でも、裕ちゃんの手は微かに震えているし、かおりの顔は青ざめている。なん
かその緊張感、痛いまでにわかるよ、なっち。なんて他人事みたいな感想。
――なんだか疲れた。
遠くでチャイムが鳴る音が聞こえて目が覚めた。
暗い部屋の中で音はまぬけにこだましている。
ソファーによりかかって眠っていたみたいで、部屋の中は音を消したテレビが
ぼんやりと光ってる。
のろのろと立ち上がりドアを開けたら、すっごい顔したかおりが立っていた。
- 472 名前:ばか。 投稿日:2004/12/03(金) 15:38
- 思わずドアを閉めたくなって力をいれるとすごい勢いでドアが引き返され、か
おりが身体を入れてきて、ぎろってなっちを睨む。
「な、なに」
「なにってなっちアンタ今、確かめないでドア開けたでしょ?なにしてんの?
ちょっと入るよ」
かおりは身体を押し込むようにして玄関に上がると、どすどすと音を立てて部
屋の中まで入っていく。慌てて鍵を閉めて後ろからついていくと、勝手に部屋
の電気をつけていた。
「えっえっ、ちょっと待ってよ、なんでいるのっていうか仕事は?」
この時間になっても部屋の電気を消して真っ暗にしていたことに何故か気まず
さを感じて、慌てて聞くとかおりは吐き捨てるように言った。
「終わったに決まってんじゃん今何時だと思ってんの?もしかして寝てた?ふ
ーん、みんながんばって収録してる間にねえ…」
ぐさりと心にナイフ刺されたみたいに痛い言葉。ひどい。
「なに、いじめに来たの?わかってんじゃん?行ったけど帰れって言われたん
だよ」
もういやだ。この人なんで来たの?帰ってほしい。
いらだちと気まずさがごっちゃになってて、今はかおりには会いたくなかった。
- 473 名前:ばか。 投稿日:2004/12/03(金) 15:42
- このまま言いたいことを言わせて、さっさと帰ってほしかった。
だから何も言わず目すら合わさず無視しようと、ソファーの上に座ってだんま
りを決め込もうとしたら、今まで忘れていた、テレビが音もなく煌々と光って
いて慌ててリモコンで消した。後ろから声が飛んでくる。
「バカ」
「うるさい」
聞きたくない。クッションに顔をうずめたら、なんか涙でてきた。
それでも、かおりの怒ってる声が上から降ってくる。
「あたしさぁ、これから2ヶ月チョー忙しいんだよね」
「しってる」
むり。もう、むり。
「でもさ、その娘。での最後を、みんなで迎えられると思って…」
「帰ってよ」
聞こえたかな?なっち泣きそうなんだよ。帰ってください。
したら、帰るどころかかおりはソファーにうずくまってるなっちの前に立って
大声を張り上げて言う。
「帰って!?帰ってって言った?いま、安倍さん帰ってって言ったよね?ひど
くない?ね、そこは謝るところでしょ?この飯田さんが心配して来てんだよ?」
「うるさい!心配なんかしてないじゃん!」
怒ってんじゃん!とクッション投げつけたのに、かおりはナイスキャッチする。
- 474 名前:ばか。 投稿日:2004/12/03(金) 15:46
- キッと睨むとクッションを下ろして現れたかおりの顔は半泣きで目が真っ赤だ
った。もう何回も何回も見てきた辛いときの表情、どうしようもなくて泣くことも
できないあのかおりの顔。
なっちももう耐えれなくて、目から涙がダーって流れる。
そして、お互いの顔を見合わせて出てきた言葉は一緒のもので綺麗にハモった。
「バカ」と、
それで、かおりがちょっと困ったような複雑そうないろんな感情がつまったよ
うな顔になって無理矢理に笑おうとしてて、その顔見てたら、涙が止まらなく
なってしまってまともに喋れないままに、ごめんを繰り返した。
感情の波がどんどんと押し寄せて糸が切れたみたいに涙が止まらなくなった。
悔しいと強く思った。悲しいとムカつくくらい思った。ごめんなさい。なっち
のバカ、死んじゃえばいいのに。そんなことをぐちゃぐちゃにかき混ぜて、全
部涙にしてだしてたら、いつの間にか落ち着いてた。
かおりも横で落ち着いていて、ぼぉっとなっちの顔を見てた。
この人は多分、何も言わなくてもわかってんだろうと思う、なっちがさっきい
っぱい涙に代えた全部の感情とか。そんな気がするから何も言えなくなってし
まった。
「ね、カオさ」
「うん?」
「卒業式、なっちが復帰するまで延期してよ」
「バーカ」
飽きれたように、かおりがちょっと笑う。
「無理でもさ、みんな集めて似たようなことしようよ、カラオケとかでさ」
「やだね、その分全部みんなで、なっちへお説教してあげるから」
「えー!なにそれ」と笑うとかおりも笑った。
- 475 名前:ばか。 投稿日:2004/12/03(金) 15:48
- でもさ、どうしても言いたいこともあってさ。
なかなかいつも言えないけどさ。今日は言ってあげるよ。きっとかおりはそれ
を聞いたとたん、またむずかしい顔しようと眉を下げたり上げたりしてみるん
だけど、口元はうれしそうに笑うに決まってる。
で、なっちはイヤなくらい恥ずかしくなるけど、いろいろこれからも心配かけた
り迷惑かけたりするだろうから、言えるときに言っておかないとまたキレられ
ちゃうしと、止めどなく自分に言い訳しながら、言った。
「ありがとう」
だけど、かおりはいきなり顔がムッてなると今度はくしゃっとしてちょっとだ
け泣いて。なっちのおでこに自分のおでこをくっつけて、またバカと呟いた。
やっぱ、なんか恥ずかしい。
おわり
- 476 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/03(金) 19:31
- >>471-475
微妙というか取り扱い注意なネタでGJ!
- 477 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/04(土) 23:06
- クサクサしてたのが癒された…。アリガト
- 478 名前:どうしよう 投稿日:2004/12/12(日) 23:30
- あべさんにメール打とうと思うのと言ったら、さゆはうん打てばとうなずいた。
それはつまり好きにしなさいってことで、いいねともやめといたらとも言って
くれなかったから、なんだかあたしは打てなくなった。
矢口さんがあべさんを心配して毎日メールを打つ。中澤さんがあのアホってほ
んと困ったみたいに、だけどやさしくつぶやいてる。なっちだからねえと飯田
さんは安心させるみたいにあたしたちに笑う。ガキさんはすごぉく長い、メー
ルじゃなくて手紙を書いたって。
それであたしは。
あべさんのためにできること。あたしだったらどうだろう。想像する。
同じ目にあうとする。恥ずかしい情けないみっともない、そんなとき後輩に心
配されたくない。
だけどあべさんはあたしと違うし。だけどあべさんはあたしと似てるし。
今日もあたしは考える。考えて考えて何もできない。
あたしの肩をさゆがたたく。なあにと振り返るとあべさんにメールしろって。
絵里がすごくすごく心配して、でもどうしたらいいかわかんなくって何もでき
ないでいるって、あべさんに言っちゃった、ごめんね。あべさんも心配だけど、
あたしは絵里の方が大事なの。絵里が元気ないと困る。だけどあべさんも亀ち
ゃん元気でいてほしい、だけど自分からみんなに連絡ってしづらかったから、
メールくれると嬉しいな、なっちも話したいんだ、って。
ねえ、とあたしはさゆに言う。さゆはおせっかい? それとも自己中?
両方? と、さゆは小首をかしげた。
end
- 479 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 23:59
- >>478
1レスってのが良かった
こーいうの好きだなぁ・・・。
- 480 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 20:11
- あったかいな
- 481 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 01:44
- うまいな、って思った。
作者さんありがとう。
- 482 名前:あったかい 投稿日:2004/12/19(日) 19:08
- 寒いんだったらエリんとこ行くといいよ、とさゆは両手をこすりあわせた。
珍しいロケ、普段通りの待ち。
暖冬関係ない。冬は寒い。本番五分前、コートを取り上げられて、うっすいうっす
いステージ衣装のみんなは、跳ねたりくっついたりしながら震えてる。
意味がわからん、と訊いたあたしに、れいな風邪ひいてんでしょ、エリあったかい
から、とさゆは両手をふとももの間に挟んで答えた。答えになってないし。
鼻水じゅるじゅる喉が痛いし、聞きかえすのがめんどくさくて、そうかとうなずき
エリの隣に行った。
あー寒いねれいなどうしよー寒いんだけどー、エリはにやにやと寒がっている。
エリあったかいん、訊くとエリは、んん?と首をかたむける。エリあったかいん?
もう一度訊くとわっかんないぃとひどくバカっぽく答えるもので早くもキレた。
もういい、と離れようとした腕がつかまれて、手のひらがエリのお腹へ。
あ、とつぶやくとエリはうひひひひ、とあまりにもバカっぽく笑い、おいで、と
あたしの両手をお腹に導いた。手のひらからじいんと温かみがやってくる。
すげぬくいっちゃけどなんこれ、と尋ねると、あのねエリのお腹には秘密の生き物
がいて――。あ、カイロ、とさえぎるとほっぺが膨れた。と、すぐにエリは企んで
る顔になった。
れいな体で一番あったかいとこ、どっか知ってる?と訊くから、知らん、と答える
とエリはお・な・か、とささやいた。マジで? と言うと、じゃなくてぇ、お腹の
もちょっと下で足の上……っていうか付け根の――。
思い当たって、耳が熱くなった。悟られないようそっけなく、知らんかったと呟く
と、でしょ、とエリは得意そうに笑った。触れているお腹のすぐ下の、つまりそこ
の部分に一瞬目がいって、焦ってそらした。エリはくすすっと笑って、ちいさな声
で、耳に口を寄せて、触りっこしよっか? とささやいた。
ぶわっと熱が上がった気がした。な、な、な、な、なに言っと――カミカミになっ
た所に本番でーすと声がかかる。けたけた笑うエリを置いて、あたしは大慌てで立
ち位置に戻った。
あったかくなった?なんてさゆが隣から訊いてくる。
熱い、とれいなが不機嫌に答えると、さゆは変な顔をした。 end
- 483 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/20(月) 01:44
- ほのぼのだねぇ
ちょっとえっちぃえりりんに萌え萌えw
- 484 名前:名無しメリクリ 投稿日:2004/12/25(土) 00:18
-
『 ホーリーナイ 』
- 485 名前:ホーリーナイ 投稿日:2004/12/25(土) 00:19
-
年末のこの時期、あたし達は殺人的なスケジュールをこなし、
なし崩しに年明けを迎える。
世の中がイルミネーションだパーティだって浮き立つこの時期に、
ゆっくり一年を振り返る暇もない。
はーもーすげー疲れてます、はい、いくら若くてもね。
- 486 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/25(土) 00:20
-
“はい! 歌、OKです! お疲れさまでした〜
後のトークの撮りもこの調子でお願いしまーす”
『『『『『 お疲れさまでした〜っ 』』』』』
- 487 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:21
-
歌衣装からト−ク用の衣装に着替え、ヘアメイクを直して、
次の収録の準備ができるまでとりあえず楽屋で待機する。
ミキティはメイクも終わってるのに、壁に並んだ鏡の前の造り付けのテーブルに
両腕をのせ、その上におでこをのせて爆睡してる。
きっと、起きた時顔に跡が付いて、慌ててメイクルームに駆け込んで蒸しタオルで
直してもらう事になるんだろう。
『藤本さん、その体制やばいっすよ、藤本さん、フ・ジ・モ・トさんっ』
小川が背中をツンツンするが知ってか知らずか反応がない。
矢口さんも一段高くなっている畳の間に上がって、壁によりかかって脚をのばし、
目のあたりを指でマッサージしている。終わると今度は肩を交互に揉んでいる。
飯田さんも同じようなものだ。
あらかじめ用意していたらしいユンケルゴールドをぐいっとあおった。
ゴロッキのヤングチームは外の自販コーナーで騒いでいる。
楽屋で騒がなくなったのは、あの子らなりの気遣いなんだと思う。
そしてあたしは…
そんなメンバーの様子をこっそり眺めつつ、スケッチブックを広げて、
気を落ち着けるために、なんか描こうとしてるけど、
さっきから…、ここに見当たらない人の事を想って、ゼンゼン絵なんか描けてなかった。
- 488 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:22
-
「石川さん、ココの動きこれで良いんでしょうか?」
セットの関係で変更になった振り付けのフォーメーション。
「うん、合ってる、だいじょうぶだよ」
まだまだ不安げな唯ちゃんに安心して欲しくってにっこり笑いかける。
モーニングの歌録りが終わり速攻で衣装を着替えて、
慌ただしく美勇伝の歌録りに望んでいたわたし。
フットサルの練習で痛めた脚はまだちょっと痛かったけど、
カメラがオンのときはとにかく笑顔笑顔! うん、大丈夫、良い感じ。
モニターをチェックして、ほっとする。
“はい、オーケーです! じゃあ石川さんすいませんがトークの準備お願いします”
『 はーい 』 『『『 お疲れさまでした〜 』』』
- 489 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:23
-
「ただいま〜」
勢い良くドアを開けたのに、シーンとしてる楽屋。
あれ?っと思って見回すと、いつも元気な麻琴やしげさんが見当たらない。
代りに爆睡するメンバーの寝息がすーすーすーすー……、部屋中に充満してる。
はぁ、わたしもちょっと休みたいよ…、ってだめだめ、みんなわたし待ちなんだもん。
早くトークの衣装に着替えて、メイク直してもらわなきゃ。
ん? もしかして、あのコもいない?
この頭はミキティだよね…こっちは矢口さんだし…この髪の長い人はどうみても
飯田さん…やっぱいないなぁ…
気になりつつも、眠ってる皆に『待たせてごめんね〜』と小さく声をかけた。
…どこ、いちゃったのかな…最近ちゃんと話しもしてないよ……
- 490 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:24
-
局の廊下のはずれにある非常口の鉄のドアをキィィ〜っと押し開けて裏庭に出た。
すぅ〜っときりり冷えた空気を吸い込んで、頭の中に溜ってた濁った熱をふぅ〜っと吐き出す。
はぁ、きぃもちいぃ〜…
とぼとぼと歩いてぽつんとある街灯の下の木のベンチに座った。
冷えきってて、チョー冷めたい。思わずぶるっとなる。
入ったばっかの頃、よくここで梨華ちゃんとぐちってたっけ……
夜空には星がまったく見えなかった。
それは街の明かりのせいなのか、天気のせいなのか、あたしにはどっちでも良かったけど。
すぐに寒さがひしひしと体に染みてくる。
今日の最低気温はマイナス何度?ってくらい。
もう一度深呼吸したとき、一瞬感じたそのにおい。あたしは密かに願いをかけた。
…今日…もし…ほんとにそうなったら……
こんな風にしないと、あたしは自分の気持ちに素直になれない。
情けないけど、あのコとの時間が少なくなればなるほど、
あたしのココロは柔軟さをなくして、なんかもうカチンコチンに固まっちゃった。
…だから…神様…お願いします……
あたしは星のない空を見上げ、遥か上空の結晶に思いを馳せた。
- 491 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:25
- 「「「「 お疲れさま〜っ! 」」」」
「 いや〜、やーーっと終わったぁ〜 」
矢口さんはどっさり楽屋の椅子に座り込む。
あたしは畳の上を這いずって窓辺に近付きブラインドをずらして外を見た。
…ちぇっ…変化なしじゃんか……
「よっちゃん、お疲れ、何そと見てんの?」
「い、いしかわぁ! な、なんでもないよ…」
いきなり耳元で言うなよ、もう…
その場に窓に背を向けあぐらをかいたあたしの横に、なぜか梨華ちゃんも
寄り添うように座った。
なんだかこういうの気詰まりっつうか、恥ずかしいっつうか……けど…
楽屋でこんな風にするのいつ位ぶりだろうって思うくらい久しぶりに、並んで座った。
「脚、どう?」
「ん? あぁ…、もうだいぶ痛くなくなったよ、
よっちゃんこそだいじょうぶ?」
「うん、あたしのはもう癖みたいなもんだから、慣れてっからさ」
「そっか………、
それきり黙ってしまった梨華ちゃんの横顔をちらっと見てあたしの心臓はきゅんとする。
やっぱダメ、もうじっとしてらんね。
「やべ、みんなもうほとんど終わってんじゃん、
いしかわも早く着替えたほうが良いよ」
まだ何か言いたそうなのをそのままに立ち上がり、背後で俯いたのも気付かぬふりで、
鏡の前の自分の席に行き荷物から着替えと化粧ポーチを取り上げて、
あたしはそそくさと楽屋を後にした。
- 492 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:26
-
帰りのタクシーの中で、あたしはこれ以上ないくらい落ち込んでいた。
窓から見える街は真夜中近いというのにあちこちのイルミネーションがキラキラと
今日が特別な日であることをわざわさ教えるみたいに主張している。
てゆうかそれわかってるから…だから…ばかみたいなこと考えちゃったんだ……
はぁ…
ため息が、左のこめかみを押し付けた窓を白く曇らせた。
- 493 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:26
-
家の前の通りでタクシーを止めて、お金を払って、かぱっと開いたドアから外に出た。
急な冷気に顎をマフラーにうずめて歩き始めた時、頬にふわっと冷たいなにかが触れた。
立ち止まり顔を夜空に向けると、またふわり…ふわりと、白くて冷たい、それは雪だった。
確かめるように両手のひらを空に向けた。
濃紺の空から次々と落ちてくるたくさんの白い鳥の羽みたいな雪が、その手のひらにも、
ショートコートの肩にも降り積もる。
…やった…神様……
- 494 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:27
-
まだ止まっていたさっきのタクシ−にダッシュで再び乗り込んで、
慌ただしく目的地の通りの名前と目印のアジアンカフェの名前を告げた。
タクシーを降りて近くのコーヒーショップでサンタのかっこをした小さなテディベアと
星型の砂糖菓子を買って、その人の家に向かう。
マンションの下に着いてからケータイを掛けたらその人はすごく驚いていたけど、
『良いよ』って言ってくれた。
- 495 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:28
-
ひとり暮らしなんだから当たり前なんだけど、
誰もいない部屋のドアをあけるのは、なんだか、いつも、ちょっとだけ寂しい。
しかも今日は特別な日。だからよけい自分のたてる物音が冷たく響く気がする。
パチンと電気をつける音、脱いだブーツが傾いて床に落ちる音、
チャリンと部屋の鍵をテーブルに置く音…
リビングに入ってすぐエアコンとTVのリモコンをピッピッ、どさっとソファに座る。
バックの中の携帯を取り出して一応確認、でも…メールも…着信もない……
あと少しで今日も終わっちゃう……
あーあ、今年こそ最初にあのコに言いたかったのにな……
ずるずるとソファに横に倒れ込む。
疲れててすぐにお風呂とか無理。もうそんなパワー残ってないよ。
唐突に、ほんとに突然携帯が鳴って、きっと麻琴のアホメールかな位の、
いい加減な気持ちで液晶をのぞいたから、その発信者の名前がすぐには飲み込めなかった。
…え?…ひとみちゃん?……
- 496 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:29
-
ぐっと唇を噛みしめて、インターフォンのボタンを押した。
ゆっくり静かにこちら側に押し出されたドアの向こうで、
梨華ちゃんがはにかんだ笑顔を浮かべていた。
ほんとは、“こんな時間にゴメン”とか言うべきだったんだろうけど、
そんなの今さらって思うとなんも言えなくて、あたしも梨華ちゃんと同じように
笑うしかなかった。
- 497 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:30
-
部屋に入ってあたしは梨華ちゃんにその辺の椅子に掛けてあったピンクのコートを
ふわっと掛けた。
梨華ちゃんは、何?ってあたしを見たけど、それには答えずに手を引いて、
がらっと窓を開けベランダに連れ出した。
ぅわぁ…
嬉しそうに声を上げ、空を見上げ両手を広げた梨華ちゃん。
そのまわりを、あたしと梨華ちゃんのまわりを、間に合ったことを祝福するみたいに、
ふわふわふわふわ、白い天使の羽が次々と舞いおちる。
ちょうどその時、近くの教会の鐘が盛大に鳴り響いた。
あたしはポケットにしまっておいたテディベアを引っぱり出して差し出した。
「 梨華ちゃん … M e r r y C h r i s t m a s 」
梨華ちゃんは両手でそれを受け取るとあの頃と変わらない笑顔を浮かべ、
なのに急に口がへの字になったかと思ったら、うつむいてはらはらと涙を落とした。
落ちそうになったコートを直しながら腰をかがめその顔を覗き込んだ。
「ごめん、ごめんね……」
梨華ちゃんは、うううん、と首を振る。
「あやまらないで…すごく…うれしいから……」
そして、泣き顔のまま顔を上げて微笑んでくれた。
「 M e r r y C h r i s t m a s … ひとみちゃん 」
- 498 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:31
-
部屋に戻ってからあたしと梨華ちゃんはソファに並んで座り、
梨華ちゃんのいれてくれたあったかい紅茶を飲みながら、
星型の砂糖菓子をかじった。
「ほんとはケーキとかが良かったよね」
「そんなことないよ」
「…あのさ……」
「ん?」
「…あのね……」
「うん…」
手に持っていたカップをテーブルに置き、意を決して梨華ちゃんに体を向けた。
「だからその…できたら来年もそん次も………ずっと…こんな風にしたいんだ…」
梨華ちゃんは文字どおりキョトンといったかんじでフリーズ。
あーこれじゃわかんねぇか…
「あ、つまり、なんつぅか……、
さすがにそれ以上いえなくなって……、
したらキシっと皮のソファが音をたてて、あたしの首に梨華ちゃんがしがみついた。
あぁもういつもそう。
こういうとき、梨華ちゃんはちゃんとあたしの気持ち、先回りして……、
頬と頬をくっつけて感じるその温度に…胸が詰まる……、
両手で細い背中をぎゅ〜っと抱きしめて、あたしは今日という日を噛み締めた。
- 499 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:33
-
… このコとずっとこうしていられること ……
… それがあたしの全てのはじまり ……
… ふたりの鼓動が静かに降り積もる ……
… その事を心から感謝した ……
… 2004年のクリスマス ……
- 500 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 00:34
-
− fin −
- 501 名前:名無しメリクリ 投稿日:2004/12/25(土) 00:35
-
こういう感傷ってもしかしたら地域差があるかもしれませんが…
しかも教会のくだりも勝手な想像なんですが…
ともかく、皆様、
☆ M e r r y M e r r y C h r i s t m a s ! ☆
- 502 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/26(日) 13:13
- 作者さんサンクス。よかったよ。
- 503 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/06(木) 20:25
- 誰か是非みきこん書いてください
- 504 名前:読み屋 投稿日:2005/01/07(金) 22:25
-
赤い涙
- 505 名前:読み屋 投稿日:2005/01/07(金) 22:25
- 眠い目をこする
「ん、んー・・・」
ベッドの淵からひょっこり頭を出して時計を確認する
「もう8時かぁ・・・」
そしてまたそこに戻る
この部屋で私の一番落ち着く場所
こーやってベッドと壁にほどよく挟まれると落ち着く
だから最近シーツにしわが寄ってない
変なのかなぁってよく思うけど、まぁいいか、でいつも私の心は丸く収まる
必死になってベッドを動かした日のことが蘇る
そんなことを思い出し、少し苦笑する
ここから目線を少し上に上げると、南向きの窓がある
夕方、ここに落ち着いたので明かりはついていない
外は晴天なのだろうか、綺麗な星空が窓から顔を出す
「れーな・・・」
会いたくなったから名前を呼んでみた
呼んでみただけ・・・
ようようそこから立ち上がり、その窓を目指す
狭いベランダに出る
「綺麗だなぁ・・・」
もっと近くに行きたかった
はしごを持ってきた、それで屋根に上がった
ちょっと怖かった。でもね、すごく綺麗だから、許してあげた
足を抱え込むように座り込み、ぼんやり空を見上げる
「オリオン座、だっけ?」
小学校のときに学んだけど、そんなものは意味がないと思った
言葉にすればするほど星たちは私たちの心に問いかける
それを無視するかのように学者達は名をつける
赤い一筋の光が夜空を動かした
「れーな・・・」
それと同時に私の頬に赤い一筋の光が流れた
こんな風に広大な夜空を駆け巡るのもいいな、と思った
- 506 名前:読み屋 投稿日:2005/01/07(金) 22:26
-
end
- 507 名前:人災も忘れた頃にやってくる 投稿日:2005/01/09(日) 16:01
- 「ねぇ、里沙ちゃん、マズくない?」
隣で紺ちゃんがささやいた。顔つきはきっと、笑顔。わたしと同じよう
に正面に向けて、にこやかに笑いかけてると思う。
「ぜったい、かんぺき、マズいよねぇ」
でも、紺ちゃんの声もわたしの返事も、真剣そのものの声色。いつの間
にか身についてしまった技術を駆使しながら、わたしたちは内心に冷たい
汗をかく。
異様な空気が流れている。なのに、芸人さんたちがたくさんいるのに、
あまりのことに誰もそのことに言及しない。アイドルだからと気をつかっ
てくれてるのかもしれない。呆れてるのかもしれない。とにかく、ありが
たいことだけは確かだった。ツッコまれたら、目も当てられない惨状にな
るのは、分かりきったことだったから。
- 508 名前:人災も忘れた頃にやってくる 投稿日:2005/01/09(日) 16:03
- 「どう……しよっか?」
「そんなこと、わたしに言われてもぉ」
逆にらめっこだ。シリアスな表情を見せちゃいけない。お互いの顔を見
てもダメ。三秒ルールが一応あるにはあるけど、それの多用も危険。
「でも、さすがにあれはどう見ても不自然……あっ、またやった」
紺ちゃんに言われるまでもなく、わたしもあんまりな出来事が再発した
ことに気づいていた。そしてこれは、このコーナーが終わるまで続くだろ
うということは予想がついている。ハロプロ勢はみんなそうだ。だからみ
んながみんな笑顔で、裏腹に焦った口調で何かを話している。お正月に生
放送なんかを入れた事務所を恨みながら。
祈りに似た視線の先に、愛ちゃんがいた。愛ちゃんはさっきから、Dr.
コパだとかいう、お正月以外はあまりお目にかかれない風水師の言ったア
ドバイスを、ことごとくオウム返ししている。その有様といったら、自分
は他人の言葉が聞こえるけど、他人には自分の声しか聞こえていないとで
も思っているようだった。
壊れた音声付翻訳機。そんな感じだった。
- 509 名前:人災も忘れた頃にやってくる 投稿日:2005/01/09(日) 16:04
- そしてこれは、大げさな比喩でもなかった。ハロプロに所属してる人だ
けが知ってる。ちなみにわたしが、愛ちゃんがアンドロイドであると知ら
されたのは、五期加入の合格が決まった時だ。
デキレースだったという。福井弁をインプットされ、小柄で、歌の上手
な女の子。全部持った娘が欲しかったから、事務所が用意したのだという
こと。ちなみに、精神年齢も上がらない。
愛ちゃんはだから、時々調子がおかしくなる。これは普通じゃないぞ、
ってことを平気な顔をしてやってしまったりする。でも慣れとは恐ろしい
もので、それが愛ちゃんの特徴になってしまっていて、もはやああいう人
なんだと、メンバーからもファンの人たちからも見られてる。
精巧なアンドロイドなんて非科学的なのが良かったのかも、なんて思う。
だけど……。
- 510 名前:人災も忘れた頃にやってくる 投稿日:2005/01/09(日) 16:05
- 隣で紺ちゃんの身体が震えた。小さな声で、ひぃ、という小さな悲鳴と
ともに。
聞き間違いだと信じたかった。だけど、この凍りついたような雰囲気は
その淡い期待がかなわなかったことを、わたしに伝えた。愛ちゃんは確か
に、こう口にした。
「現場の、キングギドラさーん!!」
これがまた声の性能がいいだけに、はっきりと通った。
紺ちゃんの奥歯がガクガクと鳴る。わたしもスタジオ内は暖房がよく効
いているっていうのに、背中の悪寒が止まらない。
- 511 名前:人災も忘れた頃にやってくる 投稿日:2005/01/09(日) 16:06
- このいつもに増した壊れっぷりの原因を、わたしなりに考えてみた。
CM中にその考えを発表したら、みんながみんな、同意してくれた。理屈
的にはおかしい。でも愛ちゃんなら考えられる。いや、そうに違いない
って。
愛ちゃんには、2000年問題が5年遅れてやってきたんではないだろうか。
誰もがなんとなく、納得。スピードは間逆だけど、愛ちゃんにはあわ
てんぼうのサンタクロースに似た、間の抜けた雰囲気がある。仕方がな
いからおどってしまうような。
原因はなんとなく。そう、なんとなく5年遅れてきてしまったんでは
ないだろうか。
- 512 名前:人災も忘れた頃にやってくる 投稿日:2005/01/09(日) 16:07
- そうと分かれば、あとは無事に終わるのを祈るだけだ。
「……神様」
つぶやく紺ちゃんの気持ちが痛いほどわかった。
「大丈夫、きっと。今でもじゅーぶんおかしいけど、まだ引き返せるよ」
「え?」
「まだ、ちょっと頭の弱い娘がいるなぁですむよ。きっと、たぶん」
「そう……だよね」
紺ちゃんの語調は弱かった。でも、わずかな可能性にしがみつきたいの
は、みんな一緒だ。
「まだ……まだアイドル失格なことは、愛ちゃん、言ってないもんね」
「間違いないよ!」わたしは自分に言い聞かせるように、力強く言い放っ
た。「愛ちゃんはやるときはやる娘だから!」
試合終了のホイッスルを待つ、サッカー選手のような気持ちだった。そ
んな比喩を思いついたのがいけなかったのかもしれない。
数秒後、ドーハの悲劇は起こった。
「乏しい!」
それでも、わたしたちは笑顔だった。
- 513 名前:人災も忘れた頃にやってくる 投稿日:2005/01/09(日) 16:08
-
おしまい
- 514 名前:名無しさん 投稿日:2005/01/10(月) 14:43
- 川*’ー’)<おしまいだそうです
- 515 名前:みえないもの。 投稿日:2005/01/12(水) 23:52
-
目には見えない、ものだけど。
- 516 名前:みえないもの。 投稿日:2005/01/12(水) 23:53
-
不意に視界に入ってきた指先に、顔を上げる。
誰かを探る為じゃなかったのだけれど、あんまり近くに笑顔があったから、不覚にも少し驚いた。
「…柴田くん?」
「んー?」
「いや、『んー?』じゃなくて」
視界に映る指の数が増えて、ちょっとだけ笑顔の輪郭がぶれる。
眼鏡を外されること自体は別に構わないけど、こればっかりは頂けない。
「今してるのって、ダテ? じゃない?」
「じゃない、ですよ?」
「ふぅん」
「あゆみん?」
「何?」
「眼鏡、かけたいの?」
「んーん」
くらくらするからやだ、そんな声と一緒に眼鏡が外されて、そっと柄をたたむ指先の動きがぼやけた。
かけたくなったわけじゃないなら何でだろう?
- 517 名前:みえないもの。 投稿日:2005/01/12(水) 23:53
-
「…お?」
首を傾げた瞬間に、あゆみの輪郭がいきなり鮮明になって。思わず少しだけ体を後ろに引く。
ぼやけるのは嫌だったけど、くっきりと見えるのもなかなか考えものかもしれない。
「うーん」
声を出す度に近付いてくる瞳は、深くて落ち着いた黒。
真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐに、人の目を見つめてくるのはあゆみの癖なんだろう。
それはとても彼女らしい、と思う。
「どしたの」
「どのくらい見えるのかなーって、思って」
「どのくぁい?」
うん、と頷いた黒い瞳が視界の中でまた少し大きくなった。
「今、柴田の顔見える?」
「あー…」
視線を固定したまま、あゆみが小さく首を傾げる。呼吸の音まで聞こえそうな距離。
彼女の向こう側だけ滲んで見えて、見慣れたカーテンの色がある。
「このくらいだと、見える?」
そういえば、こんなに近くであゆみの顔を眺めるのは案外、久し振りかもしれない。
これ以上に近付くことはあっても、こんな風に余裕がある事って、結構少ない。―――…あ。
「めぐちゃん?」
ぼやける視界にはっきりと響く声。視線を少し上げると、変わらず真っ直ぐな瞳とぶつかった。
何ぼーっとしてんの。微かに笑って。
話聞いてるー? 少し拗ねたフリ。
- 518 名前:みえないもの。 投稿日:2005/01/12(水) 23:54
-
「…あ、ごめんにぇ」
「もー」
仕方ないなぁ。見上げてくる瞳はそう言いたげで、ちょっと傾いたまま。――そのまま。
何か思いついたみたいに、一瞬大きく開かれて。
三日月の形に細められた目と、隠そうとして隠しきれてない綻んだ口許と。
楽しそうなその表情は、悪戯したくてたまらない子供みたいだ。
「あゆみん?」
「…めぐちゃん、睫毛長いねぇ」
あゆみの上唇のちょっと上、薄い小さなほくろ。そういやあったなぁって、さっき思い出した。
それと同じ速度でゆっくりゆっくり近付いてきた、黒い瞳。
言葉と一緒に落ちた呼吸が唇に触れる、くらいに。
- 519 名前:みえないもの。 投稿日:2005/01/12(水) 23:55
-
「―――…へっ?」
一瞬目蓋に覆われかけた黒い瞳がおっきく見開かれて、ちょっと遠ざかった。
口の中にしまった舌先には、軽く触れたあゆみの唇の残片が残ってる。やわらかな、感触。
「先手必勝ですよ、柴田くん」
「…え?」
「キスしよぉとしてた」
何度かぱちぱちと瞬きをした目がふっと細くなって、ばれたかー、ってあゆみが笑う。
おぼろげな視界の中。薄らと赤くなった頬で。
「そりゃもぉ村田さんは何でもお見通しですかぁ」
「えー。見えてないでしょ、今」
「見えてますよぉ? ――柴田くんは今日も可愛いし」
「え、」
きっと照れ隠しのつもりの強気な口調とか。ごまかすどころかもっと赤くなった頬とか。
「…うん。可愛い、にぇ」
ふっと自分の口許が緩んだのが分かって、ほとんど同時に、あゆみが照れ臭そうにはにかんだ。
周りの見慣れてる筈の部屋の輪郭は相変わらず曖昧で、切り取った写真みたいに映る表情。
こーいうのも悪くないかな、って思った。
- 520 名前:みえないもの。 投稿日:2005/01/12(水) 23:55
-
「―――ぅあ」
頭を撫でようと手を伸ばそうとして動いたせいか、膝の上から雑誌がずり落ちる。
一緒に聞き取れないくらい小さく、あ、って声がして。
拾い上げた雑誌のページを閉じて、そのまま床に置いた。
あゆみの視線が私と雑誌の間を一往復する。
「…ん?」
「ん、うぅん、何でもない」
見返したあゆみの表情はやわらかで、やっぱり少し照れてるみたいで、それはきっと気のせいじゃない。
読みかけの雑誌。
手元に戻して続きのページを捲らなかったのは、開いてたページが分からなくなったからでも、
眺めてただけで内容なんてちっとも頭に入ってなかったからでもなくて、
逆さまに落ちた雑誌と拾った手を、大きな黒い瞳が追いかけたから。ちょっとつまらなそうな声と一緒に。
―――なぁんだ、って。
「ほぉ。何でも、ですか」
「なんでもなーい、ってば。―――はい、めぐちゃん」
構って欲しかったのかな、って。そうだったらいいな、って。そんな風に思ったから。
「ぅおっ」
手元に帰ってきた眼鏡をかけて下ろそうとした腕に軽く振動が走った。
振り返ると、いつのまにか移動した自分より少し濃い焦げ茶色の髪。
腰に回ってきた腕と、背中に触れる自分より少し高い体温。
- 521 名前:みえないもの。 投稿日:2005/01/12(水) 23:56
-
「あ、こら。逃げるなぁ」
解こうとした腕にぎゅって力が籠もる。折角なら正面がいいな、って思ったんだけど。
まだ顔、熱いのかな。仕方ないなぁ、って緩みそうになった頬は辛うじて抑えて、
「駄目ですか」
「だめです」
お腹の上で組んだ手に重ねた手は、そのままにしておいた。
――言葉とか表情とか行動とか。彼女はとても真っ直ぐで、ちょっと強気で。
だけど時々、こんな風に。後ろから抱き締めてくるみたいに。本音を悪戯に紛れ込ませたみたいに。
手を躊躇いがちに伸ばすこととか、瞳を頼りなげに揺らすようなことがあって。
それもとても彼女らしい、と思う。
「―――柴田くんはメール、もぉいいの?」
「うん」
眼鏡越しに見る部屋の中で、携帯が充電中の赤い光を灯してる。
自分の背中から聞こえる、さっきまでそれと睨めっこしてた持ち主の声。
真剣に携帯を見つめるあゆみの横顔の向こうで、時計の秒針の音だけやけに響いてた気がする。
メールの相手だろう一つ年下の親友と話す時の彼女の横顔や背中を、実は結構気に入っていたりする。
何だかお姉さんぽくて、オトナでいようと背伸びしてるみたいで。
真っ直ぐ伸びた背中と、柔らかく笑う横顔。
そんな所も彼女らしいな、なんて思う。
- 522 名前:みえないもの。 投稿日:2005/01/12(水) 23:58
-
「話の続き、私じゃなくてしなきゃいけない人、いるし」
あゆみの声に紛れて、時計の短針がかたん、て揺れたのが見えた。
カーテンの色がさっきより鮮やかに見えて、いつもの部屋の風景。
眼鏡を外す前と変わらない。当たり前だけど。
「そぉかぁ」
「うん。―――ね、めぐちゃん?」
ただ、あゆみの横顔が、せっかくきれいに見える視界になくて。
自分のじゃない体温に包まれてて。あゆみの声が、背中にある。
違うのは、そんなこと。
「んー?」
さっきは近くに見えた、照れながら笑う表情も今は見えないけど。
名前を呼ぶ声に応えて、身体を預けたのは少し力を緩めた腕。
見慣れたカーテンの色と、白い壁に掛かった時計。細い針が時間を刻んでいくのを見上げて。
「―――明日のお休み、何しよっか」
背中に、あゆみの声を聞きながら。
はっきり見える鮮やかな世界でも。ぼやけて見える曖昧な世界でも。
傍にいるのがあゆみだったらいいな、って。
ぼんやりとそんなことを、思った。
‐END‐
- 523 名前:みえないもの。 投稿日:2005/01/12(水) 23:59
- 村柴でした。
お目汚し、失礼致しました。
- 524 名前:クロール 投稿日:2005/01/17(月) 09:48
- 『寒い寒い』呟きながら家にやってきて
そのくせソファーに腰を落ち着けると出し抜けに『泳いでないなぁ』とのたまった
テーブルにティーカップなんかをのせながら、今日は何よと静観する
向かいでは、うんうんと一人で小さく頷いて納得して人がいる
私は、紅茶をいれ雑誌を手にラグに座った
しばらくして視線だけ上げてみると
ソファーでうつ伏せていたよっすぃが、ジタバタしてた
背もたれ邪魔されながらも、お構いなく
右腕が回り、左腕が回る。
えーっとね…きっとクロールなんだと思う。バタ足もしてるし
年末の大掃除なんてできなかったの
ホコリはまう。舞い上がる
もちろん、そんな細事を彼女が気にするはずもなくて
『泳げない人はどうして息つぎのタイミングを逃がすんだろう』
ひとり言の自問自答はなお続く
閉じたカーテンの隙間から指す光の束が鮮やかに浮かんでいる
ついていけない私は黙ったままテーブルの上にあったマスクを装着した
紅茶、あとで入れ直さなくちゃ
- 525 名前:クロール 投稿日:2005/01/17(月) 09:49
- せっかくのお休みだけど今日はゆっくりしようね。そう言ったのは私
だから家にいるのに体力使ってどうするんだろう
読み終えた雑誌を閉じて、次のに手を伸ばす頃
どうやらよっすぃは泳ぎ疲れてた
右腕は伸ばし顔ごとうつ伏せ、左腕は弛緩しソファーからずり落ちている
一段落。マスクをはずす
それにしても、ソファーの内部に埋もれそうなよっすぃの姿は
ゆっくりよりグッタリって言葉が似合っていた
「よっすぃ、眠たいならベットで寝たら?」
「……うん?へーき」
くぐもった返事は気の抜けた声
耳に届くのはBGMの小さな音楽だけ
- 526 名前:クロール 投稿日:2005/01/17(月) 09:50
-
「ねぇ」
よっすぃの呼びかけに無視を決め込む
「ねえって」
よっすぃは私の名前を呼ばなくなった。いつの間にか
そうし始めた頃、私がつっこまなかったせい?
最近はムキになってるきらいがあって
「ねぇーてば」
私も一緒になってムキになっているのだけど、今日は二人しかいない
「…何よ」
「えーっとね…あ、あけましておめでと」
「……オメデトウ」
よっすぃの新年は今し方開けたのね、きっと
よっすぃが小さくうめいた後、また沈黙になった
- 527 名前:クロール 投稿日:2005/01/17(月) 09:51
- 「もうすぐハタチだね」
「うん。プレゼント期待してる」
「あー……うん…」
よくないなぁ
生返事も、ボケもツッコミもしないのも、よくない兆し
感情の波風をなんでもないフリでやり過ごす人だから
ほんとうに時々、疲れてるときとか…
ネガだネガだと切り替えたりする私のそれより多分タチが悪い
「卒業もするしさ」
「うん」
よっすぃはもぞもぞと寝返るように背もたれに向き直る
少し丸まった背中を見つめ、私は届かないように静かにため息をついた
- 528 名前:クロール 投稿日:2005/01/17(月) 09:52
- 「あの、さ…タイミング的に。ちょうどいいんじゃないかな」
「何がー?」
「だからぁ。その、別れる…とか」
シリアスな話は面と向かって出来なくて
とか、だなんて。いつだって最大限に逃げ道を残す
「別れるのにタイミングが必要なんて始めて聞いた」
久しぶりに二人きりだと思ったら、私の部屋来て、クロールして別れ話?
たまのお休みも、それでお終いなの?
あのねぇだいたいクロールの息継ぎだってタイミングの問題じゃないよ
無駄な力のせいで沈んでいくだけと思う
難しいことじゃないの
身体が覚えれば感覚で呼吸くらい出来るでしょ
「だって…あたしたち、ケンカするでもないし」
話すたび微かに上下するよっすぃの背骨
「年齢的にも?なんか。いろいろ修正きくんでしょ?たぶん」
なかなか直射日光を浴びれない真っ白な襟足
このコだって今年大人になるのに、とても幼く映る
大丈夫なフリを上手く出来てない人の傍に座る
- 529 名前:クロール 投稿日:2005/01/17(月) 09:53
- 「よっすぃ好きな人でも出来た?」
「そう言うのじゃなく…」
「あっ。私が嫌いになったのね」
「そんなわけ、…」
ない。でしょ
消え入りそうな声に
ここぞって時の致命的な自信のなさに。はがゆくて、もどかしくて。
怒鳴るとか泣くなんてしたくないから私は気を張る
そっと手を伸ばす
柔らかな髪に指が絡むと、途方に暮れた
私は判っているから
- 530 名前:クロール 投稿日:2005/01/17(月) 09:54
-
「別れたり出来ないでしょ」
肩をなぞりながら言い聞かせる
よっすぃの心に立ち込めるモノが晴れるように
いつもいつも強くなんて望まないから
二人のことが二人じゃどうにも出来なかったみたいに、他人事に
運命とか宿命だとか。この際、宇宙の流れでもなんでもいいの
でもこれも忘れないで
「よっすぃ。私の幸せは、私が決めるの」
そこにあなたがいる
もう決めたの、決まっていたの
共有の時間より、目に見える距離より、もっと簡単に私たち一緒にいれるでしょ
離れられるはずがない
あなたの幸せに私がいればいいな
私のささやきによっすぃは大きな深呼吸をした。安心したみたいに
私の返答はあなたの用意していた模範解答と同じだった?
「ねぇねぇ。もしかして本気で別れたかった?」
「ばぁーか」
バカでもなんでもいいもん
息継ぎをしくじって、沈んだっていいの end
- 531 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/18(火) 00:19
- この二人ならではの空気感だと思った。よかった。
- 532 名前:月 投稿日:2005/02/22(火) 22:27
-
後藤は月。
- 533 名前:月 投稿日:2005/02/22(火) 22:28
-
デビューしてすぐにセンターに大抜擢されてエース街道を走ってきたくせに何言ってんだ?って思ってるでしょ!?
・・・違うんだな・・・これが。
モーニング娘。に居た頃は……、
後藤が月で、なっちが太陽。
後藤がエースみたいなこと言われてるけど、やっぱり娘。のエースは永遠になっちだよ。
後藤が入るまでずっとエースやってて、後藤が入ってからはずっと、隣に居た。
後藤がやめてからもずっとなっちはエースだった。
- 534 名前:月 投稿日:2005/02/22(火) 22:29
-
最近の曲は誰がセンターじゃなくて、メインが何人か居るって感じだけど。
なっちは、メインでないときもあったけど常に大事な部分を歌ってた。
世間の人に「モーニング娘。といったら誰?」って聞いたら、
「なっち」
って答える人が多いと思う。
後藤はいつもなっちの太陽(笑顔)に照らされてたんだ。
- 535 名前:月 投稿日:2005/02/22(火) 22:29
-
ソロになってからも、まっつーが太陽でもちろん後藤が月。
みんな知ってた?
後藤の曲って失恋ソングが割と多いんだよ?
それに比べて、まっつーはかわいらしい女の子の歌が多い。
最近は、大人路線で失恋ソング増えてきたけど。
- 536 名前:月 投稿日:2005/02/22(火) 22:31
-
Wの二人も結構そうだよね?
一見、人気も仕事も多い加護ちゃんが太陽だと思うでしょ?
違うんだな。
メンバーやスタッフさんみんなに優しい目で見間守られてる辻ちゃんが実は太陽なんだよ。
それで、加護ちゃんが月。
加護ちゃんが一生懸命考えたネタよりも辻ちゃんの天然のがおもしろいでしょ?
- 537 名前:月 投稿日:2005/02/22(火) 22:31
-
後藤や加護ちゃんってよ〜く考えると、あんま目立ってないんだよね…。
ミュージカルの役とかは事務所が決めちゃうから、しょうがないんだけど、
ハロモニとか見ると、なっとや辻ちゃんのが目立ってるでしょ!?
でも、しょうがないよね・・・。
- 538 名前:月 投稿日:2005/02/22(火) 22:32
-
月は太陽と比較されることで照らされてるんだから・・。
- 539 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/22(火) 22:39
- 思ったんで書いてみました。
駄文ですいません。
- 540 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/23(水) 19:34
- じわじわきた
- 541 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/23(水) 22:57
- そうなのかも・・・と思ってしまった。
事実そうなのかもしれない。
- 542 名前:ド フロマディ 投稿日:2005/03/06(日) 22:04
- 舞台の床は濃淡のグレーで市松模様に塗り分けられている。
いろんな方向から放たれる強烈なライトが、その上にたくさんの私の影を重ねていく。
床の表面はなんとなく潤んでいるようで、照明の照り返しがやたら目に眩しかった。
首を動かした拍子に生え際から汗が伝い、頬を落ちる。冬だというのに異常な暑さだ。でも、ここはステージだし、
効きすぎる暖房と大量の光源を考えればこんなものかもしれない。私は右手の甲で汗を拭い、頭上を仰いだ
なだらかなカーブを描く丸天井の下には音楽が流れている。聞いたことがあるようなないような、なんとも曖昧なメロディだ。
どこかにスピーカーでもあるのだろう。結構な音量で響くそれは、一定のリズムで熱くなった空気を震わせ、私の心臓にまで届く。
体内を揺らす振動音に紛れて床を踏み鳴らす音が聞こえた。
ザッザッザッザッ。幾重にも重なるステップは、なかなかチャンネルの合わないラジオのノイズにも似ている。
気配を感じて振り返ると、みんなが楽しそうに踊っていた。
- 543 名前:ド フロマディ 投稿日:2005/03/06(日) 22:04
- ◇
「加入するんだって?」
淡いベージュ色をした四角い天板の上には食べかけのお菓子の袋が散らかっている。
彼女は両手に持ったカップの底でそれらをかき分けてから、まず自分の前に、それから私の前にカップを置く。甘い香りが鼻をくすぐる。
加入するんでしょ? 彼女は笑顔でもう一度聞く。私はマーブル模様の茶色い液体に浸かったスプーンに手を伸ばし、ゆっくりとかき回す。
濃と淡の境界が消え、ステンレスとガラスが触れ合う音が分散する。
「みたいだね」
何で他人事なのー自分のことじゃーん。涼しげな声で彼女はころころと笑う。
こたつに突っ込んだジャージの両脚をもぞもぞ動かす。顔はひどく火照るのに、肩の辺りだけ妙に寒い。
私は腿の上でだんごになった毛布を胸の辺りまで引っ張り上げる。
「モーニングさんになるんだあ」
彼女はそっかそっか、と一人で納得して、がんばってね、と最後に付け足す。
私は溶け残ったココアの粉がカップの中をぐるぐる回るのを見つめている。
- 544 名前:ド フロマディ 投稿日:2005/03/06(日) 22:05
- ◇
四方は白い壁に取り囲まれているだけで、扉も窓も見当たらない。熱の逃げ場がないせいか、体感温度はぐんぐん上がっている。
汗が止めど無く流れては足元に落ちて、光を乱反射する。床が潤んで見えるのは、もしかしたら汗のせいなのかもしれない。
試しに地面を軽く踏み鳴らしてみると、何やら粘っこいものが靴底に絡んだ。片脚を上げて足の裏を覗いてみるが、何なのかよくわからない。
眉をひそめて、床に擦りつける。なんだか気持ち悪い。
「ねえ、ちょっと」
私は隣で踊る愛ちゃんに声をかける。彼女は笑顔で黙々とリズムを刻んでいる。
熱気にさらされた彼女の肩は汗にまみれ、指先から地面に向かって一筋の糸が引かれている。聞こえないのか、反応はない。
私は小さく舌打ちすると彼女に歩み寄った。足が床をとらえるごとにあの粘液の感触が神経に障る。
私が近づいても、愛ちゃんはこちらを向こうともしない。
「ねえ」
いらいらしながら、踊り続ける愛ちゃんの左肩を強く叩く。
振り下ろされた私の右手に引きずられて彼女の肩の肉がごっそりとこそげ落ち、床の上を滑った。
- 545 名前:ド フロマディ 投稿日:2005/03/06(日) 22:06
- ◇
赤いフェルト地の敷物が指の腹にくすぐったい。
私は円形の小さな舞台の上で四つん這いになってうなだれている。目の前では飯田さんが仁王立ちになっていて、私にしきりに「踊れ」と言う。
右腕は彼女にしっかりと掴まれていて、彼女が動くたびに私はバランスを失う。今にも転げそうだ。
「早くやるんだよ」
飯田さんはしつこく私の腕を引っ張る。舞台を囲むみんなの、微妙な視線を背中に感じる。
何なんだろう、これ。
たまらなくなって私は思わず笑い出す。飯田さんは笑わない。
- 546 名前:ド フロマディ 投稿日:2005/03/06(日) 22:06
- ◇
剥き出しになった桃色の神経が彼女の動きに合わせてゆらゆらとなびいているのを、私はぼんやりと眺めている。
床に落ちた彼女の肉片は一面に広がった液体の中へといつのまにか溶けてなくなってしまっていた。
粘質の液体は私の足首を浸すほど溜まっていて、緩やかな渦を描いて舞台の中心へと集まっていく。
そういえばノイズのような足音が知らないうちに聞こえなくなっている。辺りを窺うと、並んで踊っていたはずのみんなの姿はきれいさっぱり消えていて、
耳に届くのは例の音楽と、次第に大きくなる渦に吸われて消える愛ちゃんの力ないステップだけだ。
彼女は残った腕やら顔やら脚やらを溶けさせながら、ひとまわりもふたまわりも小さくなった身体でなおもリズムを取っている。
それにしても暑い。暑いというより熱い。息をするたび、喉がヒリヒリする。
ふき出す汗に耐え兼ねて右腕で額を撫でると、顔の皮膚がゆっくりとずれていった。
- 547 名前:ド フロマディ 投稿日:2005/03/06(日) 22:07
- ◇
あがった息を整えながら、渡されたタオルで前髪の貼りついた額を押さえる。
イベントを無事終えた高揚感と心地よい疲労感が相まって自然と小走りになる。ヒールの音は廊下一面に敷かれた絨毯に吸収されて聞こえない。
青いソファが並んだロビーに差し掛かった辺りで、スタッフに呼び止められる。いやにまじめな顔と、そして、カメラ。
私はソファに座らされる。肺が苦しい。胸に手を当てる。鼓動の感触が手のひらにぶつかる。
簡単に言えば、集客数が目標に足りなかったらしい。
淡々と告げられる言葉に私の顔は次第に表情をなくす。「これは失敗だ」実際口にはしないけど、スタッフたちの顔がそう語っている。
松浦亜弥に続け。カメラが近づく。泣いてなんかやるもんか。
- 548 名前:ド フロマディ 投稿日:2005/03/06(日) 22:07
- ◇
視界が真っ黒になる。目を見開いても何も見えない。
気がつくと、右の足先が溶けてなくなっている。私はバランスを崩し、水飛沫を上げながら床に背中から倒れこんだ。
立ち上がろうともがいてみたけど、上手く力が入らない。だんだん動くのも億劫になる。
液体に浸かった耳元で誰かが笑う。私も笑い返す。
身体が大きな流れに持って行かれるのを感じる。
「モーニング娘。か」
喉の奥で呟く。
それからいろんなことを考えようしたけれど、半分溶けた頭ではそれも叶わなかった。
- 549 名前:ド フロマディ 投稿日:2005/03/06(日) 22:08
-
おわり
- 550 名前:sage 投稿日:2005/03/07(月) 00:38
- 542>
むずかしい、そして深いお話ですね。
- 551 名前:言い訳 投稿日:2005/03/07(月) 00:47
- どこにでもあるような居酒屋に大きな女と小さな女。
「飯田っ、誰にメール打ってんだよ。聞いてんのかっ!?」
「聞いてる聞いてる。明日コンサートなのに大丈夫? 飲み過ぎだよ」
「いやいや酔ってないから。ってゆーか飲めよ。どーせ明日も何もないんだろ」
「カオこれでもディナーショウの準備が・・」
「いいから飲めっ! このロリコン!」
「のんちゃんはああ見えても大人ですー。 ベッドでの淫らな表・・・」
「あ、あ〜〜〜〜〜っ。聞きたくない、聞きたくない。」
「失礼ねっ。 美貴ちゃん・・・あんなの何かの間違いだって」
- 552 名前:言い訳 投稿日:2005/03/07(月) 00:48
- 「ははっ 間違いじゃないっすよ」
「美貴ちゃん・・・」
「間違いじゃなかったんですよ・・・美貴、電話で亜弥ちゃんに確かめたんです」
「そっか・・・」
「20歳早々ついてないよなー・・・失恋か・・・」
「元気だしなよ。美貴ちゃんらしくさ」
「でないっすよ。あんなにラブラブだったのに・・・」
「付き合ってたの!?」
「いや、何もないですけど・・・」
「告ってないんだ」
「今日告って振られましたよ。『何言ってんの』って」
「だめだったんだー」
「『女の子のなかでは美貴たんが一番だよ』だって。ははっ」
- 553 名前:言い訳 投稿日:2005/03/07(月) 00:49
- 「はい、ビールおまちっ」
「まだ頼んでな・・・つ、つんくさん?! ここで何してんですか」
「わかるで藤本。まだまだ世の中的には認められん世界っちゅーことや」
「無視かよ! 急にでてきて何語ってんですか」
「カオが呼んだの」
「なんで? 意味わかんない。 つんくさん呼んだって何の解決にも・・・」
「類友っちゅーやつや。 おまえの気持ち、よーわかんで。 俺も自信あんねん。男の中やったら一番やろなって。 いっつも気にしてやってるし、仕事ないゆーからコンサートの司会用意したり、あいつの為にバンドまで・・・そやのにまことのやつさっさと結婚しやがって・・・俺がどんだけあいつのこと思って毎晩毎・・・」
「キショッ! 聞きたくない、聞きたくない、夢にでる」
- 554 名前:言い訳 投稿日:2005/03/07(月) 00:50
- 「そんなさみしいことゆーなや。同じ傷を持った仲間やないか」
「違うから。 亜弥ちゃんはあんなキノコとは違うから」
「まーまー。そやっ。 おっちゃん藤本にプレゼントしたろ」
「いーっすよ。 美貴はこのまま飲んだくれてアル中になって死ぬんだ」
「おまえには歌があるやないか。ファンがおるやないか。 よっしゃ、明日からのコンサートで歌わしたろ。『ロマンチック浮かれモード』。 みんなの前で歌ってこい」
「よかったね、美貴ちゃん」
「飯田さん・・・。つんくさんありがとう。美貴ちょっと元気でた。」
「くよくよしててもしゃーない。今度2丁目つれてったろか。そうや、保田も呼・・・」
「遠慮しときます。じゃもう一個お願いしていいですか?」
「なんや、ゆーてみ。 藤本が元気になるんやったらおっちゃん何でもすんで。」
「じゃ、ソロにして」
「今は松浦とは離れといた方がええやろ。傷を癒すために」
「チッ。 いい言い訳みつけやがったな」
- 555 名前:OGAワールド 投稿日:2005/03/07(月) 00:53
- ――――end――――
駄文すいません。
今日戸田コン音源聞いて、タイムリーにこだわって書きました。
感想お聞かせください。
- 556 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/07(月) 01:24
- ワロタ
なんかありそう
- 557 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/08(火) 00:56
- 色々をうまいこと組み合わせましたね。
お見事です。
- 558 名前:ソウシソウアイ 投稿日:2005/03/16(水) 15:44
- いろんなひとに理解されなくていいって、気付いたとき決めたから。
「よっちゃん今家?」
「おうよ」
「梨華ちゃんと電話してたんだけど、今から来てほしいって言っててさ」
「はいはい。了解。行くよ」
「うん。じゃあ気を付けてね」
「あいよ。愛してるぜ」
「ははっ。バーカ。じゃあね」
恋人が出来た。
冬の手前。自転車で突き抜ける夜は冷たい。
人通りの少ない細道を梨華ちゃんの家に向かって疾走。
名前だけこじゃれたマンションてよりアパートの前で自転車を止める。
悴んでた身体が止まった途端、熱を思い出す。階段を上る頃には額を汗が伝う。
- 559 名前:ソウシソウアイ 投稿日:2005/03/16(水) 15:45
- チャイムを押したら中からばたばた音がして、開かれると笑顔の梨華ちゃんがお迎え。
「こんなに涼しいのに、汗かいてる」
ジャージの袖で拭おうとしたら、その前にちょっと冷えた手が額に触れた。
照れくさく微笑みあって取り合えず彼女の身体を引き寄せて唇に唇を合わす。
そのまま抱きしめてたら、へへへっと間の向けた梨華ちゃんの笑い声が肩口で響く。
「あんたらさ、そんなトコで外人夫婦みたいなことしてないでくれる」
リビングからツッコミも響く。
「美貴ちゃん早いじゃん」
リビングに入ると、どかっと座ってビール片手の美貴ちゃん。
「そりゃミキんちの方が近いし」
あたしは座る前に美貴ちゃんの額にも唇を落とす。
「冷た。つーかさなんでミキはオデコなわけ」
「目に入ったから」
あたしの恋人は口うるさい。
「いいじゃんねぇ。私のほうが可愛いからだよ」
自分で言いながら笑っちゃう梨華ちゃん。
「梨華ちゃんキショイから」
ツッコミの手を緩めたりしない美貴ちゃん。
梨華ちゃんが冷蔵庫からビールを出してきて美貴ちゃんの横に座った。
あたしはひとつ拝借してプルタブを空ける。おなかが空っぽだから回ったらヤダナ。
「出てったからでしょ。そんだけじゃん」
「違うってば。絶対よっすぃ私のほうが可愛いんだって」
もしかしてすでに酔ってるの?しな垂れかかるような梨華ちゃんの姿。
ナチュラルに酩酊っぽい人だけに。ほっとこ。
いつまでも続く二人の小競合い。恋人同士のソレは甘ったるくて手に負えない。
- 560 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/16(水) 15:45
- 二人は高校の1コ上の先輩
高校時代には面識はあったけど仲が良かったわけでもない。それぞれ浮いていたから存在を関知してた。
それぞれに学校生活より大事なものがあって、それが浮いていた理由で。
話したことはない似たものでしかなかった。
公言をしたわけでもないのに蔓延してた噂。共学でお年頃の輩のなか、弾き出された理由。
当時、離れないと信じたあたし達の手の先に女の子がいた。
あたしも美貴ちゃんもそうでもなかったけど、梨華ちゃんは軽薄な使命感を盾にした男に本気で疲労したんだって。
普通じゃなくても。同じじゃなくってもいいじゃん。
永遠を信じ、願っていた恋。
そんなもの有りはしないとそれどれが知った後
あたしが卒業した去年、同級生の二人が飲みに行くところに鉢合わせ現在に至る。
進行中に声を出す仲間もいなくって。向き合う相手にも口に出せないでいたたくさんの言葉。
過ぎたから、終わったから、分かってくれるから。
次の抱負を語ってみたり、テレビを見ながらこの子がカワイイと喚いてみたり
選んだときに、諦めたり開き直る方法は覚えてしまったあたし達。
相憐れんだのか、友を呼んだのか。とにかく仲良くなった。
- 561 名前:ソウシソウアイ 投稿日:2005/03/16(水) 15:47
-
「美貴ちゃんがイジワルばっか言うんだよ」
梨華ちゃんが好きだ。
「よっちゃん、梨華ちゃんがキショくてごめんね」
美貴ちゃんが好きだ。
「ひどーい」
「二人ともわかったからちょっと大人しく飲んでよ」
二人はあたしの恋人。
分かりにくい?
順番がどうとか時系列は確認していない。
それぞれと、それぞれが。
まぁその身体を重ね、既成事実を目の前になし崩しに友達じゃなくなったのに。
三人で行き詰まった二者択一。
どっちを一番にするのか。誰と誰が恋人になるか。
話し合って決める類の問題だろうか。
納まりの良い解決法。
いいじゃん。別に。おかしくったって何だって二人と一緒にいたい。
揺れながら、不安定でもバランスを保てばいい。
二人はあたしの恋人。
梨華ちゃんと美貴ちゃんも恋人同士。
- 562 名前:ソウシソウアイ 投稿日:2005/03/16(水) 15:48
- ご機嫌で乾き物を摘まむみ梨華ちゃんが、呼び出しをかけた本題に入る。
「だからね。ママが会いたいんだって」
「会うってちょっと、梨華ちゃん」
「大丈夫大丈夫。女の子って話してあるから」
「いやいや。じゃ、じゃあ。よっちゃん行きなよ」
「いつ行くの?」
「明後日」
「仕事だわ。美貴ちゃん土曜ヒマって言ってたよね」
「そうだよ。言ってた」
テーブルの向こうで美貴ちゃんは苦悶の表情で策を捻る。
見た目も普段の行動も気が強いくせに美貴ちゃんはそういうのに腰が引けるタイプらしい。
あたしは頭下げるのも罵られるのも、なーんとも感じないから仕事がなきゃ行けんだけどな。
「もー美貴ちゃん。遊びだったのね」
煮え切らない姿にしびれを切らし、二時間ドラマで殺される人みたいなセリフを吐く。
また似合うもんだから、たまらず噴出したら睨まれた。
「だってミキそういうのしたことないんだもん」
「私だって連れてくの初めてだよ」
「よっちゃん元カノ連れってた時どんなだった?」
「え?うーんとね。向こうの親に泣かれたし、うちの親に気持ち悪いって言われた」
- 563 名前:ソウシソウアイ 投稿日:2005/03/16(水) 15:48
- 現実は物分りの良いドラマの様には進まない。
個人主義がいくら増えようと。他人なら仕方なくても、身内ならまた話は別。
うちの親もしかしたら気付いてるかも、て希望的観測は呆気なく覆る。
テレビで見る可哀想だったり、可笑しかった人間。でしかないんだなと。
仕舞いに顔を合わすたび、孫の顔が見たいって恨み言。
この少子化時代に結婚したって子供なんか産むとは限んないじゃん
好きな相手といたってガキくらいどうにでもなるって言ったトコで殴られて、この話題は禁句となる。
あたしのタメになる体験談に、美貴ちゃんが右眉をピクピクさせ一層憂鬱を濃くした。
「もちっと早く言ってくれたら空けといたのに。日曜じゃダメなの?」
「日曜日はパパいるから」
- 564 名前:ソウシソウアイ 投稿日:2005/03/16(水) 15:49
-
後日あたしが焼肉をおごる。で渋々美貴ちゃんは引き受けた。
「こういうのって必要?結婚でもないのに」
往生際が悪く呟く。
「取り合えず会ってみたいっていうんだもん」
「よっちゃん何かわざわざ挨拶行っても別れてるんだよ。無駄じゃん」
無駄とか言うな。人が必死だった過去に。
「うっさい。美貴ちゃんだって梨華ちゃんだって終わってんじゃん」
「ミキは振ったんです」
「浮気されたからでしょ」
「私は遠距離で自然消滅みたいだったけどよっすぃよりマシだよ」
「それだってぜってぇ浮気されてんだって」
「どっちにしたってよっちゃんよりマシ」
二人仲良く、顔を見合わせ。息ぴったりな恋人ども。ちくしょう。
あたしの前の人との事。
一回りは離れてたしお金だって持ってた。完璧に掌の上。
それでもいいでしょ。なんで惹かれるのかなんて難しくも考えられない初めての恋人。
彼女にある日突然見限られた。
妊娠で、結婚で。だからもう終わりね。
始まったのも終わるのも彼女の決めたこと。そんだけ、ほんとそれだけだった。
呆気なく、明確に。鮮やかに砕ければ痛みはもうないさ。
笑ってられるのがもしかして二人のおかげだとしたら、ちょっとムカつく…。
- 565 名前:ソウシソウアイ 投稿日:2005/03/16(水) 15:50
-
「ミキ思うにね。H上手かったら捨てらんなかったんじゃない?」
「あーそうかも」
……あたしやっぱり人生の選択を間違えてるかも。アルコールがはいると平気でそんな事を口にする二人。
「だからもっと勉強しなさい」
「そうだそうだ」
頭痛い。
「まぁよっちゃんにテクニックは求めてないけど」
「はいはい。ゴメンナサイ。もう二人とはしません」
どこで勉強すんだよ…仕様がないでしょ。
いっつもタイミングが悪いとか後で叱られるから情けなくなるし
内緒だけど、すんの好きじゃないんだよ…。
「えーダメ。よっすぃにギュッてされるの好きだもん」
そこは美貴ちゃんも頷いた。
そうなの?そこなの?…それってサイズの問題だってりしない?
心配だ。果てしなく不安だ。
話題が美貴ちゃんと梨華ちゃんでどっちが上手いかに移り当然あたしに回答権がきて眩暈がした。
- 566 名前:ソウシソウアイ 投稿日:2005/03/16(水) 15:51
- 三人でいれば楽。
苦しくないほうに逃げてるだけだとして。楽しくて、どっちかと抱き合って日々は過ぎる。
常に同じように、常にすべてを愛してるなんて嘘じゃん?
ヤダナって欠点も三人なら笑える話に出来る。
梨華ちゃんの声が聞きたくなり、美貴ちゃんの手を握りたくなり。右に左に傾く。
双方向の矢印が明日二人だけで行き交えば、あたしは不要になる。
でもいいやって、今は笑い合う。
恋の只中に当たり前みたいに信じる永遠が、ないってもう分かっている。
今のままを信じきるほどお気楽じゃないけど。
漂う緩やかなこの空気に惑わされ二人の笑顔がどうかできる限り長くあたしにも向かってと願う。
「明日も仕事だから帰るね」
「もっと飲もーよ」
「そうだよ」
「あたしはお二人と違って学生さんじゃないの」
「よっすぃのバァカ」
「よっちゃん冷たぁーい」
アルコールにすっかり調子付いて、べたべたし始めた二人を置いてあたしは温い部屋を後にする。
- 567 名前:ソウシソウアイ 投稿日:2005/03/16(水) 15:53
-
オワリ
- 568 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 00:21
- 面白かった
- 569 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/19(土) 02:06
- この設定でもっと続きを読みたくなりました
- 570 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:29
-
君が好きです。
- 571 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:29
- 藤本の元気がないのが、吉澤は気にかかっていた。
仕事中もなんとなくぼんやりしていて(今までもたまに素の顔になっていたので、
誰も気にしていないようだった)、さては先日報道された話題のことで彼女を心配して
いるのかと、吉澤は話を聞くつもりで一緒に帰ろうと声をかけた。
その帰りのタクシーでも、藤本は薄らぼんやりしていた。気詰まりになった吉澤は
窓に向けていた顔を藤本に移した。
「なんか悩み事?」
「ん……別に」
「……直球で悪いけど、松浦?」
藤本は小さく眉をひそめ、それからわずかに頷いた。
「あたし、今どうなってんのか良く知らないんだけど。
……落ち込んでんの?」
「ううん。逆」
逆という言葉の意味をつかみかねて、吉澤は思わず「え?」と聞き返した。
藤本の視線が一瞬だけ吉澤に向き、彼女は不満そうな表情を作る。
- 572 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:30
- 「全然いつも通りなの。美貴もやっぱ、ちょっと心配で電話とかしたんだけど、
もうなんにも変わんないわけ。……判る?」
その意味が判るか、と問われ、数秒間考えてから、頷いた。
「あの子、変なとこで大人だからさあ」藤本が不満そうな顔のまま呟く。
変なところで大人なのは、別に松浦に限った話でもなかった。
吉澤も、他のメンバーも、普通の子が普通に経験する事をほとんど飛ばして成長して
しまうから(それを強いられるから)、微妙に大人の部分を手に入れて、その代わり
本来あるべき子供の部分を失ってしまう。
そういう、ひずんだ存在になってしまう。
だから吉澤は藤本の「判る?」という問いの答えが理解ったし、それを藤本が不満に
思う気持ちも推し量れた。
- 573 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:30
- 彼女はデビューしたのが少々遅かったせいか、ひずみが少ないのだ。
だから、普通に近いから。
「頼ってほしかったわけですか」
「そうなんですよ」
曲がりなりにも『親友』を自負しているのだから、何かあれば力になりたいと思う
彼女の気持ちは当たり前だろう。
そして、曲がりなりにも『親友』と公称しているのだから、余計な心配をかけたくない
という彼女の気持ちだって、本当だろう。
吉澤は座席に深く座り直して、膝の上で手を組んだ。
「でも、親友だから言えない事とか、あるよ。
あたしだってごっちんに言わない事とかあるし、ごっちんも、あたしには言えない事って
あると思う」
「判ってるけど。でも亜弥ちゃん、こういうの初めてだし。
あんま、傷ついてほしくないっていうか」
出来れば守ってあげたいっていうか。
独り言にも近い口調で藤本は呟き、視線を自身の足元に落とした。
- 574 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:30
- 吉澤には、藤本の気持ちが痛いほど理解った。
それはきっと、烈しくはないけれど、むしろとても静逸な、海と雲の関係に似た、
メビウスリングのように終わりのない、優しさと等価の愛情。
不意に、吉澤は『親友』の顔を脳裏に浮かべた。
「そんなもんでしょ。こっちがどんだけ心配したって、向こうが大丈夫って
言っちゃったらどうしようもないよ」
自分から動かない辺りは似てるなあと思って、無意識に微笑した。
「だぁってさあ、美貴の方はわりと、亜弥ちゃんに悩み聞いてもらったりしてて、
そしたらやっぱ、こっちだって助けてあげたいと思うじゃん」
「親友なんてそんなもんだって。面倒臭いっすよ、そーゆー関係」
藤本の肩を抱こうとして、直前でやめた。
その細い肩を、守る腕は持っていない。
- 575 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:30
- 「だからって、やめられるもんでもないしね」
「そうなんだよねー。なんだかんだ言って、亜弥ちゃん好きだからさ」
君を愛しています。
その想いを伝える日は、きっと来ないけれど。
「まあ、どうせすぐ終わるでしょ。あ、あの二人の事じゃなくて」
「判るよそれくらい。そうだといいんだけどね」
「結局、親友なんて言っても心配するくらいしか出来ないんだよ」
「……だねえ」
「普通の友達だったら、励ましたりとか出来るだろうけど」
藤本の肩を抱き損ねた腕は、脇に置いていたバッグの上で落ち着いた。
『親友』という枷が身体中に取り付けられた不自由な二人は、隣同士に並んで、
お互い視線を逸らせながら溜息をついた。
過去と現在の違いはあれど、どちらも同じような思いを味わって、それを共有できるのが
隣にいる相手だけだという事実に、溜息をつかざるを得なかった。
- 576 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:31
- 「損な役回りだよね、シンユウ」
「ホントだよ」
「お互い様なんだけど」
「うん」
「あたしだって、ごっちんに、言わない事とかあるしさあ……」
「美貴も、亜弥ちゃんに言わない事とかあるしねえ……」
ちらりと、吉澤が藤本を見る。
藤本も、吉澤を見た。
顔を見合わせて、二人は同時に苦笑した。
「そういうのは、美貴ちゃんさんに言うし」
「美貴もよっちゃんさんに言うからね」
しょうもねー。吉澤が座席の背凭れに首を乗せて言う。
- 577 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:31
- 「運命共同体?」
「いやそんな大層なもんじゃないでしょ」
「じゃ、美貴とよっちゃんさんって何よ?」
面白そうに尋ねてくる藤本に、吉澤は数瞬考え込む素振りを見せて、
「友達以上、親友未満かな」
得意げに唇を引き上げながら答えた。
普通の友人よりも側にいて、不自由になるほど近くもなく、何も出来ないほど
囚われてもいない。
そういう、気楽な関係。
「あぁ、いいね、それ」
藤本は満足したような笑顔で頷いて、それから時計に目をやった。
- 578 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:31
- 「よっちゃんさん、これから時間ある?」
「ん? あるけど?」
「亜弥ちゃんの事で悩んでる美貴を慰めるために、これから焼肉行く気ない?」
悪戯に笑う藤本に目を丸くし、そのあと小さく吹き出す吉澤だった。
「おっけー。なんだったら奢ってあげるよ」
「マジで? 美貴めちゃくちゃ食べるよ?」
「おー。レバ刺し三人前だろうが五人前だろうが食べちゃって」
「よっちゃんさん太っ腹っ。大好きっ」
意気揚々とタクシーの運転手に行き先変更を告げる藤本に、吉澤は苦笑いを浮かべる。
――――親友なんて、疲れるだけなんだよ。
重苦しい枷に囚われて、側にいすぎて踏み込む事もできず、意味もなく右往左往するしか
なく、そのくせ向こうは平気な顔でやり過ごしてたりして、手に入るのは無駄な気疲れ。
それでも。
何よりも大事で、何よりも純粋で、何よりも愛しい、その想いは。
- 579 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:31
- 吉澤はポケットから携帯電話を取り出し、メールの入力画面を呼び出した。
君が好きです。
「――――って、吉澤プッチモニだし」
いきなりこんなメールを送ったって、向こうには意図など伝わらないだろう。
悪くすれば気味悪がられるかもしれない。
急に照れ臭くなって、気忙しく操作を取り消した。
「そんな、タンポポの歌みたいな事、してらんないって……」
「ん? なにー?」
「なんでもない」
携帯電話をポケットに戻して誤魔化す。「ふーん?」既に意識は焼肉に向いているのか、
藤本はそう一言返しただけで済ませた。
「あ、ごっちん呼ぶの?」
「ううん。ちょっと時間見てただけ」
「吉澤と二人じゃご不満?」からかい混じりに言うと、藤本は「そんなわけないじゃん」と
笑いながら、吉澤に身体をぶつけてきた。
吉澤も柔らかく目を細めてそれを受け止めた。
「それじゃ、二人楽しく焼肉食いますか」
「おうっ」
タクシーは夜の街を走り抜けて、不自由な二人は少しだけ自由になった。
- 580 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:32
-
君が好きです。
(だから祈ります。)
(少しでも、君が幸福である事を。)
(少しでも、君の心が穏やかになる事を。)
(だから願います。)
(君をこれだけ愛している人が側にいると、君がいつか気付く事を。)
伝える日は、きっと来ないけれど。
- 581 名前:『友達以上親友未満』 投稿日:2005/03/22(火) 21:32
- 終わり
- 582 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/25(金) 03:33
- 泣ける……願わくば両想いにしてやりたい
- 583 名前:結局のところ 投稿日:2005/03/25(金) 19:36
- 『今すぐ来てくれなきゃ死んじゃう』
そんなメールがはいったもんだから
あたしは慌てて家を飛び出した。
まさか死ぬなんてことはあり得ないってわかってても
やっぱり放っておくわけにはいかなくて。
免許とりたての原チャに跨る。
あの子の家まで20分。
死なないで待っててね、なんて返事かえして。
制限速度ギリギリで突っ走る。
- 584 名前:結局のところ 投稿日:2005/03/25(金) 19:36
-
『もぉ、死んじゃうから』
急いで原チャから降りて、合鍵を出して、靴を脱ぎ捨てて
彼女の部屋に乗り込む。
電気は煌々と点いていて
音楽もガンガンに鳴っていて
テレビは派手な笑い声を上げていて。
それなのに美貴は
フローリングの冷たい床に突っ伏して
一人だけ、静かに静かに、
死んでいた。
- 585 名前:結局のところ 投稿日:2005/03/25(金) 19:37
-
…彼女なりに
携帯を握り締めたまま
睫を涙に濡らして
すぅすぅと寝息をたてている。
あたしはぐしゃぐしゃになった髪の毛をがしがし掻いた。
結局のところ、振り回されてるんだけどね。
あたしは美貴のほっぺを指先で触りながら苦笑する。
「…ん、」
薄く目を開けて、柔らかく握った手で目を擦った。
- 586 名前:結局のところ 投稿日:2005/03/25(金) 19:38
-
「よっちゃんぁん」
掠れた、甘ったるい声。
「美貴は寂しすぎて死んでしまいました。」
喋ってんだから生きてんじゃん、って言葉を飲み込んで。
「じゃぁ、王子様のキスで起こしてあげるよ」
なんてゆってみる。
美貴は幸せそうに笑って
あたしの首に腕を巻きつけた。
「…よっちゃん」
名前を呼ばれただけなのに
こんなにも彼女を愛しく感じるのは何故だろう。
「早くちゅーしろ。手遅れになるぞ」
- 587 名前:結局のところ 投稿日:2005/03/25(金) 19:38
-
結局のところ、振り回されてるだけなんだけどね。
幸せそうな君の顔を見てると
それでもいいやって、思っちゃうんだよ。
FIN
- 588 名前:結局のところ@作者 投稿日:2005/03/25(金) 19:42
- 初めて書きました。
駄文申し訳。みきよしですた。
- 589 名前: 投稿日:2005/03/29(火) 01:59
- 遊ぼう
- 590 名前:遊ぼう 投稿日:2005/03/29(火) 02:00
- 冬の寒い日の公園では遊ぶ子供も少なくて
夕方になるとさゆみただ独り、ぽつん。
遊ぼうよ。誰か、遊ぼう。
誰もいない公園には、冷たい風ばかり吹き付けて
伸びたブランコの影は、怖い。
遊ぼうよ。誰か、遊ぼう。
野良猫が4匹会議に出てくれば彼らにさゆみはお願いする。
ねえ、私も混ぜて欲しいの。
猫は気味悪がって、いってしまう。
遊ぼうよ。誰か、遊ぼう。
- 591 名前:遊ぼう 投稿日:2005/03/29(火) 02:00
- ある家の温かい食卓で坊やが言う。
ねえ、お母さん。あの公園にはお化けがでるんだよ。
いつも、遊ぼうよ、って。女の子のお化けなんだよ。
坊やスープをよそいながら、お母さんは聞いている。
ねえ君、寒いだろう。もう遅い。夜だよ。
早くおうちに帰りなさい。お母さんだって待っているだろう。
親切なおじさんがそういう。
さゆみは素直に頷いて、出て行く。
おじさんは満足そうに、自分の子供たちの待つ我が家へ
歩を早める。
さゆみはまた俯いて、公園にやってくる。
遊ぼうよ。ねえ、遊ぼう。
- 592 名前:遊ぼう 投稿日:2005/03/29(火) 02:01
- 月が昇れば日暮れは早い。
入日は消えて当たりは夜の蚊帳。
さゆみはまだ独り、公園にいる。
ねえ、ねえ、誰か。誰か遊ぼうよ。
月明かりと街灯と、温かい家から漏れる光とで
長い大きな影を連れて、さゆみは独りいる。
イヌが寒そうに遠吠えをすると。
近所のイヌが喧しく、囁きあう。
あの子はいったい何をしているんだろう。
早くお家に帰れば暖かいご飯だって待っていように。
震える指を掏り合わせて、さゆみは呟く。
ねえ、誰か。
- 593 名前:遊ぼう 投稿日:2005/03/29(火) 02:01
- ねえ、一緒に遊ぼうか。
後ろから聞こえた声に振り返る。
見たことも無い女の子が一人。
さゆみと同じように、長い影を引き連れて立っている。
遊んでくれるの?
うん、一緒に。
あるがとう。
女の子は音も無く
さゆみの側に歩いてくると
さゆみの手を取り一言呟く。
- 594 名前:遊ぼう 投稿日:2005/03/29(火) 02:02
- 冷たい手。
寒いもの。
じゃあ、おしくらまんじゅう、しようよ。
二人で?
うん、きっと一人でよりも、楽しいよ。
さゆみと女の子は押し合いへし合い。
おしくらまんじゅう、押されて泣くな。
転げまわって、おおはしゃぎ。
夜の街には二人の小さな、笑い声が木霊する。
次は何する?
睨めっこ、しようよ。
うん、いいよ。
- 595 名前:遊ぼう 投稿日:2005/03/29(火) 02:02
- だめだめ、はじめっから笑ってちゃ。
だってなんだか、可笑しいんだもの。
ちゃんと、いくよ。せーの、
睨めっこしましょ、笑っちゃだめよ、あっぷっぷ。
あはははははは
もうだめ、おっかしぃ
よわーい。
何いってるの、あなただって笑ってるわ。
夜の闇に子供が二人。
笑ってはしゃいで転げまわって。
大人は誰もお呼びでない。
夜は彼らには自分の子供、守って寝かしつける義務があるもの。
あーたのしい。そういえばあなたの名前なんていうの?
私は絵里。あなたは。
私はさゆみ。
- 596 名前:遊ぼう 投稿日:2005/03/29(火) 02:03
- 街の家に、みんな点いていた暖かな明かりが
一つまた一つ、消えてきた。
もう街もお休みの時間。
絵里は帰らないの?
帰らないよ。
どうして?
だって楽しいから。さゆは帰らないの?
帰らないわ。
どうして?
だって帰る場所がないもの。
それならば私のところに一緒にこない?
絵里のところ?
そう。すてきなところだよ。暖かくて気持ちのいいところ。
絵里はそこに住んでいるの?どこにあるの?
夜の暗闇の奥の奥に。
本当にそこが、すてきなところ?
私のことを信じられない?
ううん、信じるわ。絵里は友達だもの。
一緒においで。みんな、さゆを歓迎するよ。
- 597 名前:遊ぼう 投稿日:2005/03/29(火) 02:03
- 絵里の差し出した手を取って
さゆみが歩き出すところ
誰かが小さく囁いたのが、聴こえたような気がしたが。
さゆみの耳には届かずに、絵里の温かい手を握って
微笑み、勇んでついていく先は
公園の茂みの、草の裏の秘密のトンネルの星の抜け道。
夢のような不思議な世界を、抜けてしまえば何があったか。
それはさゆみにしか分からないこと。
それは絵里にしか分からないこと。
ただ人たちが知っているのは
朝公園に横たわっていた、氷のように冷たい、可愛らしい少女の寝姿。
- 598 名前:遊ぼう 投稿日:2005/03/29(火) 02:04
- 終わり
- 599 名前:月の裏側 投稿日:2005/04/03(日) 05:39
- 夜に月が浮いていた
赤く鈍い半分の月が今日は低いところにある
バイト帰りいつも通る道
車がスピードを出すのに適した真っ直ぐで広めの道路
日付が変わりそうな時刻だし人通りは殆どない
コンビニが煌々と放つ灯りが随分と遠くからだって分かる
点在する電灯、車のヘッドライト
光るもの全てが得意そうに存在を主張する
闇はただの黒でいいといつも思う
ぼんやりと仰ぎ見たまま歩いていたら、後ポケットで携帯が震える
8秒で留守電に切り替わる設定だけど、間に合わずとも構わないから
緩やかなスピードで画面表示をながめる
- 600 名前:月の裏側 投稿日:2005/04/03(日) 05:39
- 浮かび上がる名に溜息が出た
グズグズしていたら切り替わり、着信が切れた
で、すぐに再び震える携帯
「もしもし」
「おそいよ」
「そりゃ悪かった」
立ち止まりガードレールに寄りかかる
「ねぇよっちゃん。探しに来てよ」
「はぁ?何処いんのさ」
「好きなら。好きだったんなら、ミキの事見つけてよ」
左手でガードレールを握っても冷たいとは感じなかった
熱の無さを実感しながら、電話を切る最適の言葉を探していた
好き。だってさ
- 601 名前:月の裏側 投稿日:2005/04/03(日) 05:40
- 終わった恋人なのか、寝たりもした友人なのか私にとって微妙だった
悪くはないと感じていたのは本当だけど
恋だなどと喚きたて、結果好ましく感じていた全てを失くしていく相手についていけなくなった
一昨日の夜。ありったけの悪口雑言を浴びて、ついでに部屋中の物が飛んできて
ドアを出て行く背中を追いかけるつもりはちっとも湧かなくて、それっきり
私は右肘を擦った
袖を捲ればリモコンが直撃したせいで今だって変色してる
「何処?場所くらい言えんでしょ」
ものすごく近場なら帰路ついでに寄るくらいするよ
「…だから、ミキは探して欲しいの。見つけて」
無意識に通話口を離した
溜息は一瞬濁って、直ぐに夜の空気に溶けた
「無理だよ。世界は広いんだから」
「……一緒に行ったところ」
最近の行動を思い起こしてみたけど、隣に誰がいたかまで浮かばなくて諦めた
- 602 名前:月の裏側 投稿日:2005/04/03(日) 05:41
- 「ごめん。バイト明けで頭廻んない」
「ズルイ、やっぱりズルイよ。よっちゃんは」
会ってる時でも電話でも、投げられてきた口癖
慣れたからいつもしてた様に笑ってみた
「よっちゃんさ、いつまでそんなままでいるつもり?弱いから逃げってばっかで
そんなの間違ってると思う。ミキとだって全然ちゃんと向き合おうとしなかったよね?」
腹立たしそうな、でも哀しげな声に一昨日の泣き喚く姿が重なる
その時考えたんだよ、それなりに
はらはら零れ落ちる涙に、私はどんな意味をこじつけようか
だからなんだって冷めていくのは、やっぱり今更どうしようも出来なくて
「藤本さんの望む先が分かんない」
強くも正しくもなれないなら、それで構わないし
思うがままに、取り合えず歩いているのが逃げ道だとしても退き帰すのは面倒で
- 603 名前:月の裏側 投稿日:2005/04/03(日) 05:42
- 「よっちゃんが分かんないよ」
「そ、じゃあお互い様だね」
彼女の目から私を見れたなら、もう少し違ったんだろうね
私だってさ。藤本さんがつまらない事口にするなんて想像してなかった
私と似た温度の低さとか、他人に多くを求めるのはもう止める
ありがとう。勉強になった
「月…月、見える」
「見えるよ。外だし」
彼女も夜の下にいるのか
「月の裏側にいるよ」
私は私の、貴方は貴方の。別々だった平穏な闇
もう近づいたりしない
「じゃあ見つかんないわ。裏側じゃあ私から見えねーもん」
鼓膜に突き刺す音がして、通話が切れた
壊れる時の音がした
- 604 名前:月の裏側 投稿日:2005/04/03(日) 05:42
- 終わり
- 605 名前:「ウソのようなホントの話に基づいてます」 投稿日:2005/04/06(水) 00:32
- 「すごいびっくりしたんですけど、知りませんでした」
主語がない。
汗を吸いこんだタオルから目だけ上げて、あたしは何が、とききかえした。
水の入ったペットボトルをもったさゆは、汗をかいているせいで、いつも以上に
つやつやお肌だ。
コンサート夜の部が終わった直後のバックステージ。話しながらあたしたちは
楽屋へ向かう。
「キス、したじゃないですか」
唇を人さし指でたたく、さゆの言葉にうなずきながらも、まさかわざわざ聞い
てくるとは予想してなくて、あたしは照れ笑いをもらした。
さっきのステージ上でのこと。
キスっぽく顔を近づけるフリの時、抱きついて顔を近づけてくるさゆを、ほん
とは避けなくちゃだったのに、妙にテンション上がってたミキは、逆に顔を近
づけてやったのだ。
見事命中。目がまんまるになってるさゆの顔は、かなり面白かった。
「でね、藤本さんがさゆみのこと好きだったって、ちっとも知らなくて――」
って、おいおい。あたしはさゆの肩をたたく。
「いやいやいや、なんだそれ」
「キスしたじゃないですかぁ」
「したけどもさ、好きって。あはは、好きって!」
「え……冗談だったんですか?」
「ハァ? そりゃ……え、え、あんたナニいってんの」
「もてあそんだんですか、藤本さん。さゆみ真剣だったのに」
「え? シゲさん?」
「超どきどきしたのに」
「ちょ、ちょちょちょちょ」
- 606 名前:「ウソのようなホントの話に基づいてます」 投稿日:2005/04/06(水) 00:34
- あたしが慌てかけたところで、さゆはうふふと笑った。
「なーんて。ビックリしました? やだ、藤本さん単純だ」
さゆは、ぱちぱち両手をたたいた。
「さゆみ、意外と負けず嫌いなんですよー」
あたしは無言でさゆの髪飾りを引っぱってやった。
年上をからかいやがって。ふてえガキだ。
やーん、と女の子らしくさゆは嫌がる。やーんじゃねぇよ、というあたし
に、ぐちゃぐちゃになっちゃったじゃないですかぁ、とさゆはふくれっ面。
知るか、とあたしはさゆを置いてさっさと歩きだす。
「もお……」
負けず嫌いって言ってるのに、知りませんよ? なんてさゆはわけのわ
かんないことをぶつぶつ言ってる。
そして数日後、あたしは見事に「やりかえされた」。
さゆは知ってるだろうか。
ミキだって、負けず嫌いじゃ絶対負けねぇ。
end
- 607 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/09(土) 11:28
- いい
リアルで口チューみたけどこんな風かも
- 608 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 19:53
- 「そして未来は非日常へ」
- 609 名前:「そして未来は非日常へ」 投稿日:2005/04/15(金) 19:54
-
それは、悲しみや怒りや寂しさや絶望、そんな言葉には収まらない感情だった。
「あたしからモーニング娘。を取ったら、何が残るんやろうって昔思ってた頃があってな。
だから、あたし言うたんや。昨日あんたからこの事訊いた時、あんたに」
例えば、産まれてきた時、あたしは泣いていて。
けれどそれがどんな感情なのかは知らないでいる。
それに似てるのかもしれない。
「あんたからモーニング娘。取ったら何が残るんや?って。
けどな、一日経って、そうじゃないなぁって思ったんや。
あんたからモーニング娘。を取っても、あんたはきっと大丈夫や。
あんたにはええとこがたくさんあるから」
あたしが矢口と同じメンバーとして過ごした時間は、決して長くはなかったけど。
あたしよりたくさんの時間を矢口と共有したメンバーは他に何人もいるけど。
でもあたしは、誰よりも濃い時間を一緒に過ごしたと思ってる。
「けど、モーニング娘。からあんたを取ったら、何が残るんや?
あんたの笑顔がないモーニング娘。を想像しようとしてみたけど、しっくりこんどころの話やないんよ。
みんなの顔は、忘れようとしても忘れんくらい見てるって言うのに、全然想像が付かんかった。
これから、誰がどうやってモーニング娘。を引っ張って行くって言うん?」
- 610 名前:「そして未来は非日常へ」 投稿日:2005/04/15(金) 19:54
-
矢口は、事務所より他の誰よりも先に、あたしに電話をくれた。
一番最初に、と言うのは嬉しくもあるが、微笑えはしなかった。
「石川ももうすぐ卒業で、吉澤以外モーニング娘。の全盛期を体感してない子らばっかりになる。
そしたら彼女達は一体、どこを見て、どこを目指して走ればええんや?
それを吉澤一人が背負いきれるんか?先導できるんか?
あんたを、責める気はないねんで。
ただ、ただな」
あたしは、この未来を変えれはしなかったのだろうか。
矢口の決めた事に反対するのは自分らしくない。
反対はしてない。
あたしはいつでも矢口の味方だ。
「あんたは、あたしらオリジナルメンバーの姿を見てモーニング娘。に入ってきてる人間やけど、
五期六期の子らはたぶん、その頃の事や知らんのやと思う。
これからもメンバーは増えて行くやろし、入れ替わって行くんやろうと思う。
でも、それでも、そこにあんたがおるから、モーニング娘。はずっとモーニング娘。でおれたんやないんか?
あんたはずっと、モーニング娘。の軸やったんや。
真っ直ぐに真ん中を通る一本の柱やったんや。
それを失って、これからどうなる?」
あたしはモーニング娘。が大好きで。
あたしの好きなモーニング娘。の中にはいつでも矢口がいた。
それが当たり前過ぎて、そう、少し、当たり前になり過ぎた。
- 611 名前:「そして未来は非日常へ」 投稿日:2005/04/15(金) 19:55
-
「もう、あたしにもあんたにも何もする事は出来ん。
あとは残ったあの子らがどうにかするしかない、して行くしかない。
分かってる。分かってる、そんな事。
それは外におるあたしや、外に出たあんたより、中におるあの子らの方がよお分かってるはずやと思う」
冷静なあたしとそうじゃないあたしがいて。
伝えたい言葉がなかなか上まで上がってこない。
「これからが、ほんまにモーニング娘。にとって正念場先になると思う。
未来がどこへ向かおうとも、モーニング娘。から目、逸らさんといて。
いつかその時がくるまで、目ぇ逸らさんと、あの子らの事見とってあげて」
あたしは泣かなかった。
あたしが泣いたらきっと矢口は困るから。
泣き虫なあたしだけど、泣いたりはしない。
「何番でもええねん。あんたの「大好き」の中に、モーニング娘。と――あたしが入っとってくれたら。
忘れんといてや。あたしは、あんたの一番が例え誰になっても、何になっても、あんたがめっちゃ好きなんやで」
――なぁ、矢口。
七年は、長いわ。
「裕ちゃんはさ、モーニング娘。が大好きだって言うよね?
でも矢口はね、裕ちゃんよりもモーニング娘。が大好きなんだよね。
それとおんなじくらい、裕ちゃんも好きだよ」
終
- 612 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/16(土) 01:00
-
達人
- 613 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/16(土) 01:01
-
何かがおかしい。
矢口真里は順序よくネットを巡回しながら、言いようのない焦燥にかられていた。
ありがとう、とか、もういらない、とか、矢口に関する話ならまだ頷ける。
どうやら、ネットの焦点は脱退の背後関係に当てられているようだ。
こんなはずじゃなかった。
恋人と交際しつつ、それでいて生き残る方法。
それはHEROになることだ。
発覚し、公表され、潔く責任を取り、モーニング娘。を守るために去る。
矢口、よくやった! と絶賛の声が多数寄せられるはずだった。
順風満帆なソロ活動の船出となるはずだった。
殺到するだろう礼状を保管するスペースだって作ったのに!
- 614 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/16(土) 01:01
-
なのになんだ、ヲタのくだらん自意識の垂れ流しばかりではないか。
娘。を守ろうと辞めたことに対しての評価はどこだ!?
やばいやばいやばい。
これはかなりやばい。
真里ちゃん大失敗!!
思惑とは大きく外れた現実に震える腕を押さえ、自らを鼓舞するように叫んだ。
「辞めんの、やーめたっ!!」
- 615 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/16(土) 01:01
-
辞めるのをやめるにしても、こうなってしまった以上、一人の力では無理だ。
仲間を探そう、味方につけよう。
単純で扱いやすい石川からだ。
楽な気持ちで電話をかけた。
「あ、梨華ちゃ──」
「真里ちゃん? 梨華ね、ずーっと考えたの。頭が痛くなるまで考えたの。でね、あは!
よくよく考えたら、わたし一ヶ月もしないうちに卒業しちゃうから関係ないんだよねー。
それに、会おうと思えばいつでも真里ちゃんと会えるし、ポジティブポジティブ♪」
次は吉澤だ。
矢口の後任だし、多少の気後れはあるが、喜んで受け入れてくれるはずだ。
それに、よっすぃの名付け親はおいらだ、だから大丈夫だろう。
「あ、矢口さん。やっと覚悟ができましたんで、あとはどーんと任せてください」
と、矢口はここで立ち止まる。
この二人の他に、味方につけて役立ちそうなのは藤本しかいない。
が、いろいろ気まずい。
あれこれ思案し、迷っていると都合よく藤本から電話が来た。
「あ、矢口さん? 美貴、全部処分したんで。一応、その報告に、と」
先回りされた?
意味もなく疑心暗鬼になった矢口は、きょろきょろとあるはずもないものを探しはじめた。
「ミキティ、なんか知ってんの?」
「は? なに言ってんですか矢口さん。とりあえず処分した、ってだけの話なんで。じゃあ、失礼します」
- 616 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/16(土) 01:02
-
藤本に電話を切られた時点で、矢口は負けを悟った。
それでも諦めきれず、メンバー全員に電話をかけてまわった。
高橋はショックのあまり退行してしまったようで、言葉を忘れていた。
紺野は携帯を落としたのか、繋がらなかった。
小川の存在は忘れていた。
新垣は無駄に責任感に燃えていた。
田中はただ泣くばかりで話にならなかった。
亀井はへらへらとわかったようなわからないような感じだった。
道重には「セクシービームください」と言われてしまった。
- 617 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/16(土) 01:02
-
心が静かだ。
からっぽだ。
なにもない。
矢口はふと気付く。
燃え尽きてしまったのだろうか。
そう考えると同時に心が砕けた。
砕けた心はポロポロ零れ落ちた。
零れ落ちて矢口を包んで光った。
粉になって風に吹かれて消えた。
矢口真里、という名前だけが残った。
- 618 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/16(土) 01:02
- おしまい
- 619 名前:名無しJohnさん 投稿日:2005/04/16(土) 20:57
- 部屋に入った。
違和感を感じたのは美貴だけだろうか。
美貴に気づいた彼女は何も言わずにただ、微笑った。
普通に電気のついた部屋は明るくて。
普通にテレビは情報を告げ。
普通によっちゃんはソファに膝を抱えるように腰掛けていた。
- 620 名前:名無しJohnさん 投稿日:2005/04/16(土) 20:57
- 彼女はまた視線を戻す。
テレビなんてついていてもみてないのなんていつものことで。
よっちゃんの目の前には様々な色の花の活けられた花瓶があった。
名前も知らないそれらは、カラフルでとても綺麗だった。
- 621 名前:名無しJohnさん 投稿日:2005/04/16(土) 20:58
- 美貴は何となくよっちゃんを見ていた。
よっちゃんは不意にそれを持ち上げた。
佇む美貴の横を通り過ぎる。
美貴は何となくよっちゃんを見れなかった。
また、よっちゃんは美貴の横を通り過ぎる。
- 622 名前:名無しJohnさん 投稿日:2005/04/16(土) 20:58
- よっちゃんは、また花瓶をもとの場所に置き、膝を抱えるようにソファに座り込んだ。
花は何も変わらず綺麗に咲く。
よっちゃんはただそれを見つめる。
それだけの、こと。
違うことなど何もない。
美貴は思う。
水を失った花は、枯れてしまうのだろうか。
- 623 名前:名無しJohnさん 投稿日:2005/04/16(土) 20:58
- 終わり
- 624 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 07:48
- みきよし増殖中なスレになりつつありますね。
どの作品も良かった。
- 625 名前:ぎゅっっ 投稿日:2005/04/24(日) 14:50
- 「世界史の教科書貸せ」
勝手に上がり込んだ家の二階
幼馴染みの部屋のドアを、勝手に開けた
ドアのすぐ前に仰向けで部屋主が倒れていた
死んでる!!
嘘
「おい、こんなとこで寝るな、踏むぞ」
返答なし
ミキはおもむろに近づき、つま先で腕を小突いてみた
反応なし
「起きろ、そして早急にミキに教科書を寄こせ」
仕方がないので起こしてやろうと決めた
右足に体重の3分の2位のせて、踏みつけた
ジャスト鳩尾狙い
- 626 名前:ぎゅっっ 投稿日:2005/04/24(日) 14:50
-
「ぎゅっっ」
声帯以外から零れた。鳴き声?
…ヤバイ
……ぶっ、あは、はははは、わはは!ぎゅっって言った。いや、なった
「ははははっっっ」
うけるー、ぎゅっって
ミキが狂ったように笑い出す声と、よっちゃんの死にそうに咳き込むのは同時だった
横隔膜よじれそう、お腹痛い。ヤバっ涙出てきた
「どーしたの!?」
どこにいたのか駆け付けてきたよっちゃんの彼女こと石川さん
「はは、よっ、よっちゃん、ははっは。ぎゅって、ぎゅって鳴いた」
大爆笑中で途切れ途切れ、必死に伝えた。あー苦しい
あれ石川さん、何か若干遠巻きだね
「石川さん、ぎゅってなった。よっちゃん、ぎゅって鳴いてんの」
石川さんも絶対笑いたいよね?
唇が笑わないようにムギュムギュしてる。見逃さないから
彼女の立場上、腹抱えて丸まったよっちゃんに石川さんが寄り添った
- 627 名前:ぎゅっっ 投稿日:2005/04/24(日) 14:51
-
「だいたい石川さん来てるのに、なんであんた寝てるわけ」
ぐったりしたまま横たわるよっちゃん
おなかをさすられながら、恨めしそうな目
ちょっと踏み処悪かったかな、自分の中だけで反省
もう少し力加減を間違ってたらやばかった
「笑い事じゃないっ!内臓破裂したらどーすんだよ」
万が一障害が残ったら、シラを切り通す決意だけしっかり固めた
「いてぇーよ。踏まれたの。苦しいよ、石川さん」
「甘えてんじゃねえ」
幼馴染みのよっちゃんは、簡単に言えばバカだ
超マイペースで他人に平気で甘えるし迷惑をかけれるタイプのバカ
毎朝モーニングコールまでしてくれてる石川さんというボランティア精神あふれる縋りどころを得て
ミキの負担は劇的に減った
手を離れ、扱い方に変化が出たらムクムク湧き上がってきた
ミキって本質がいじめっ子気質
- 628 名前:ぎゅっっ 投稿日:2005/04/24(日) 14:52
- ビジュアルきっかけで始まった石川さんとよっちゃんの交際
現在彼女はどこに惹かれているんだろう?
壊れ物をケアするように、優しくしてる
お腹を撫でている眼差しが母親の石川さん。膝に頭を乗せたデレデレのよっちゃん
構いにくい。いじめにくい
ちっ
「何しに来たのさ」
「だーかーら。教科書貸せよ」
付き合いきれないから、勝手に机をあさって目的のぶつ獲得
出て行く前に思い出して振り返る
「石川さん今日泊まっていくんでしょ」
「あ、あハイ」
「びびんないで。いちいちどもらないで」
「す、すみません」
…ダメだ
- 629 名前:ぎゅっっ 投稿日:2005/04/24(日) 14:52
- 「夜ご飯食べた?」
よっちゃんの両親は今日から旅行
留守に彼女を連れ込んでるとは知らないミキのママが
よっちゃんを食事に呼んであげなさいと、教科書ついでに来たんだった
「あの、まだですけど…」
「ピザ、ピザ頼むの」
下からよっちゃんの声
「おまえに聞いてない。ミキんちにご飯あるからおいで」
石川さんの手をつかんで立ち上がらせたらよっちゃんの頭が転がり落ちた
「ちょっと美貴ちゃん」
「あーママ一人分しか用意してないから、よっちゃんはそのまま胃の回復でも待ってろ」
だから行こう、石川さん
立ち上がるまでは回復してないよっちゃんに後ろ髪引かれる石川さんを強引に連れ出した
- 630 名前:ぎゅっっ 投稿日:2005/04/24(日) 14:53
-
「だ、大丈夫でしょうか。」
「なんとかなるよ」
なんなくてもイイ
「あの吉澤さん生きてますよね」
「よっちゃんと付き合ってて疲れない?」
「えっ?…楽しいです」
急に振ったら、ポッと顔を赤らめる。黒いけど
こいつら美貴と同じ年。交際期間数ヶ月
お泊まりさせちゃうくせに、なんだその初々しさは
中学生か
「楽しくないじゃん。さっきだって寝てたじゃん」
「すごい眠たいって」
だからって恋人遊びに来てるのに寝るか?
「たたき起こしていいよ。踏みつけていいよ」
許可する。ミキの権限で許可する
- 631 名前:ぎゅっっ 投稿日:2005/04/24(日) 14:54
- 「踏むのはちょっと…」
「寝てるんだよ、失礼でしょ」
「でも見てるのも楽しいですよ」
石川さんて恋人だよね。本人公認ストーカーみたいじゃん
「楽しくないよ、絶対」
「ほ、本当に楽しいです。さっきも寝てるのに眠いって言ったんですよ」
寝言で、眠い……
なんだろうそれ。オカシイと楽しいは別物だよ
「たのしーんだ?」
「はい」
「迷惑かけてない?デートとかちゃんと出来るのアイツ」
「時々ドライブだって自転車で二人乗りして散歩?してくれます」
デートじゃないだろ、それ
ミキとだって二人乗りくらい毎日してるんですけど…
「そ、その時いつも。藤本さんの自転車、吉澤さん勝手に出してくるんです…ごめんなさい」
「いーのいーの。ミキの愛車よっちゃんのだから」
ミキんちに止めてあるしほぼミキが使用してるけど、よっちゃんが買ってもらったヤツだから
- 632 名前:ぎゅっっ 投稿日:2005/04/24(日) 14:54
-
「そーだったんですか…良かった…」
石川さん、心底安心したみたい
ミキにそんなに怯えるないでほしい
「いい子だね石川さんは」
世界って良くできている
誰かが誰かを。補助してくれてる
人生ってスバラシイ
- 633 名前:ぎゅっっ 投稿日:2005/04/24(日) 14:55
- 「言っておきたい事があるんだ」
家の前で立ち止まり不安げな瞳と向き合った
「他にいい人見つけた気兼ね鳴く乗り換えて
例えば一緒にいて火事にあったらよっちゃんを踏みつけてでも石川さんの安全を確保して」
ミキはただただ石川さんの幸せを願っているから
あのバカに犠牲にされちゃダメだよ
「藤本さんいい人ですね。私の事まで考えてくれて」
「よっちゃん発の被害者を増やしたくないだけ」
「吉澤さんにもすごく優しい」
「そんなんじゃないよ」
「吉澤さんのこと大好きですよね…」
これってジェラシーってやつ?
相手よっちゃんだよね…
「石川さん、安心して。ミキいらないし。恋人とも超上手くいってるから」
ややこしくなる前に家の中に押し込んだ。平和な匂いにミキのお腹が鳴いた
- 634 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/24(日) 14:56
- 終了です
前の方で書いたヤツの後日談だったりしました
- 635 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 00:22
- あぁ、やっぱり。読んでてなんとなく続きかなと思いました。
この3人の関係性すごく面白いです。また書いてくれてありがとう。
- 636 名前: 投稿日:2005/04/25(月) 20:29
-
野暮
- 637 名前: 投稿日:2005/04/25(月) 20:30
- ベッドの上に押し倒した時花火みたいにパッとシーツの上に舞った
長い髪を見て急に我に返った。
「あー、や、やっぱ止めよう」
「……は?」
「いややっぱ止めようよ。こんなん良くないって」
「こんなんって何」
「だからさあ……」
好きだけどさそりゃ勿論好きだけどさ。
「ほら後々めんどいし。汚しちゃうし色々」
「知るか」
「いや知っとけよ」
頼むよ頼みますよほんとに。
いつもみたいに添い寝すんのとは意味違いすぎますって。
「……おまえがーその気にーさせといてー」
「ぅぐ」
「呪たろかー」
「悪かったよ許してよ、も〜」
つーか何よその……歌?は。
「叫ぶぞー窓から」
「はぁ?」
「水色ーって」
「……?」
「今日の垣ちゃんのぱんつの色は水」
「だーーーーーーーーー!!」
- 638 名前: 投稿日:2005/04/25(月) 20:30
- 「叫ぶぞー」
どっちがガキだよ……
「あのな」
「……」
「こういう時にブレーキかけんのは反則やよ」
いやだって異常事態じゃん。
私にはさっきから三途の川のBGMが聞こえるよ。
さらさらと心地よすぎて気をつけないと向こうへ行ってしまいそうな。
「別にこっから先進んでも何も変わらんで」
「んなこたーない」
「何でよ。嫌いになんかならんよ」
「そういうことじゃないっつの」
「……どうしても嫌なんか」
「嫌……?」
嫌、ではないよ。
だからその、嫌ではないのが大問題だと言いたいんですが。
「お前はほんっと変な奴だなあ」
「人のこと言えるのかよ!」
逆切れして怒鳴ったら一瞬顔を顰められたけど
次の瞬間
ニヤリと口許を歪めて私の頬を撫でた。
「変やって。だってほんな口では抵抗しとるくせに、
何であーしの上から体どかさんの?」
- 639 名前: 投稿日:2005/04/25(月) 20:31
-
「ほれほれ、なんか言ってみれ」
ぺちぺち
と石のように固まった私の頬はなかなかいい音をたてた。
- 640 名前: 投稿日:2005/04/25(月) 20:31
- 「言うだけ野暮やけどな」
- 641 名前: 投稿日:2005/04/25(月) 20:32
-
- 642 名前: 投稿日:2005/04/25(月) 20:32
-
- 643 名前: 投稿日:2005/04/25(月) 20:32
- おそまつ
- 644 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 22:17
- お、良い新高ハケーン(・∀・)
- 645 名前:受け持ってその事に当たること 投稿日:2005/05/01(日) 21:21
-
「かわいがってくれるくせにー、今日も冷たいあの人〜、っと」
わざと調子をはずして自作の歌をうたう絵里。
その隣に並んで歩く私、道重さゆみ。
最近こそこそと藤本さんと絡むことが多くなったと思っていたら、
今日の収録での、藤本さんとかかわいがってくれますよね? 発言。
きいてやる、今日こそ絵里に、きいてやる。
「絵里、藤本さんと」「秘密」
どういう関係なの、って言う前に言葉を被せられた。
人のことはなんでも知りたがるくせに、自分のことは秘密主義なんだ。へー。
それならば、相方さんに、きいてやる。
「いいよ。藤本さんに訊くから」
まだスタジオのほうにいるかな、そう思ってくるりと方向転換すると
「あ」
- 646 名前:受け持ってその事に当たること 投稿日:2005/05/01(日) 21:22
-
れいなが高橋さんと新垣さんと歩いてきていた。
前にだそうとしていた足が思わず止まってしまい、立ち止まると
後ろから絵里が肩に手を乗せてきて、ぐにぐにと揉んでくる。
見なくても絵里がニヤニヤ顔をしているのが、手の動きからもよく分かる。
おせっかいなおばちゃんみたいだ。おっとこれは失言。
「絵里はちょっと藤本さんのとこに行ってくるんでぇ、さゆもいってらっしゃい!」
絵里は、ぽーんと勢いよく私の肩を叩いて、三人とすれ違い、
藤本さんがいると思われるスタジオへ小走りで駆けていった。
ひとり残された私、道重さゆみ。
れいなと高橋さんと新垣さんがこっちに歩いてきている。
「でもれいな、仕事場じゃ嫌がるんだもん」
道重さゆみ担当のくせに、ね?
- 647 名前:_ 投稿日:2005/05/01(日) 21:23
-
- 648 名前:_ 投稿日:2005/05/01(日) 21:23
- えんど
- 649 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:44
-
為すところを知らざればなり
- 650 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:44
- そんなこんなで、体育館でのちょっとしたミニコンサを終えると、みんなで
バスへ戻っていった。
わたしは一人、表でしゃがみ込んでじーっと通用口を眺めていた。バスの席は
二人ずつできれいに埋まってしまっているみたいで、石川さんは卒業間近だから
行ったり来たりで忙しそうだったりで、そんなわけで、気を遣ってこうして表に
いるわけである。
マネージャーさんと、新メンバーに決まった久住小春ちゃんがいっしょに出てきた。
マネさんは一言二言なにか言うと、また学校の中に戻っていった。
チャンス到来。わたしは小走りに小春ちゃんのとこへ駆け寄ると、声をかけた。
「どう? どう? 今日どうやった?」
わたしはちょっと上擦った声で言うのに、彼女はとても落ち着いた口調で、
「お疲れさまでした、田中さん」
そういうと深々と頭を下げた。
すごい。うちら6期が全然できてなかった挨拶もばっちりだ。
- 651 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:44
- 「ねー、でも今日さ、びっくりしなかった?」
「はい、それはもう」
「でもほら、これから同じ、メンバーだし仲間やけん……」
「はい、これからよろしくお願いします」
またお辞儀。わたしはぽんぽんと肩を叩くと、
「いいよーそんな緊張せんでも。うちらあんま先輩後輩とかって感じやないし。
れいなのこともれいなって呼んで欲しいな」
「はい、田中さん」
にこにこ笑いながら言うと、また頭を下げる。
「うーんと、まあ、まだ慣れてないっちゃね! でも大丈夫、分からないこと
あったらなんでも訊いてくれれば」
そういうと、通用口の近くにある段差に腰をかけて、
「座ったら?」
「けど……」
「いいっていいって。マネージャーさんまだしばらく話すことあるから
戻って来んやろうし」
「じゃあ、失礼します」
並んで座る。わたしは笑みを浮かべながら小春ちゃんの顔を覗き込んで、
「小春ちゃんは、メンバーで誰が好きとかある?」
「ええと、吉澤さんと藤本さんが」
「そっかー。れいなも二人とも尊敬しとるしね」
「なんか、可愛い系っていうより格好いい系って感じで、憧れます」
「うんうん」
- 652 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:44
- わたしは期待を込めて、
「ね、やっぱ可愛いより格好いいほうがよかよね?」
「はい」
「ね、吉澤さんと藤本さんと、他には?」
「うーんと」
小春ちゃんは首を傾げて考える。
「高橋さんとか」
「うん」
「歌うまいし」
「うんうん」
「あと……小川さんも、同郷の先輩なんで」
「うん」
「えっと」
ふっと口をつぐんでしまう。いけない、ちょっと睨みすぎたかもしれない。
- 653 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:45
- 「あれー、れいななにやってんの」
声がした方を振り返ると、絵里とさゆが、お弁当を持って立っていた。
「あ、ダメだよ、新しく入った子いじめちゃ」
「い、いじめなんてしてないっちゃ」
絵里がふざけていうのに、わたしはちょっと噛みそうになってしまう。
「れいなお昼食べないの?」
さゆが言う。そういえばすっかり忘れていた。
「ううん、食べるよ」
わたしがそういって立ち上がると、さっと二人して小春ちゃんの横に並んで
座り込んでしまった。
「あっ」
「小春ちゃんもお腹すいたでしょ? ほら、お弁当一個あげる」
絵里が言うと、袋の中から二箱のお弁当をとりだした。
「ありがとうございます!」
小春ちゃんは満面の笑みで頭を下げる。なんで絵里は二つも持ってきてたんだろう。
- 654 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:45
- 「このジャージかわいいね」
さゆがまた適当なことを言う。が、小春ちゃんはうれしそうに、はい、というと
笑いながら頷く。
「ねえねえ、会ったばっかだしさ、呼び名とか決めない?」
「うんうん」
絵里が言うのに、さゆも頷いた。わたしもなんとなく立ったまま頷いてみた。
「絵里のことはー、えりりんって呼んでほしいな」
「さゆは、さゆみん」
「ほら、やっぱ最初っから下の名前だと、呼びにくいじゃん。でも愛称っぽく
すると言いやすくない?」
「はい」
小春ちゃんは笑顔で頷いている。なんだかすごく楽しそうだ。
- 655 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:45
- 「あれ、れいなまだいたの?」
絵里が不思議そうな顔でわたしを見上げる。わたしが言い返そうとしたとき、
さゆが声を上げた。
「あー、飲み物もらってくるの忘れちゃった」
「あ、じゃあれいなついでだからもらってきてよ」
絵里がとても名案を思いついたという感じの表情で言った。
「ええ、でも……」
「田中さん、すいません」
小春ちゃんは本当にすまなそうにいうと、頭を下げた。
「いや……よかとよ。すぐ戻るっちゃ」
「ありがとー」
取って付けたように絵里とさゆの声がハモる。わたしは小走りでバスの
方へ戻っていった。
- 656 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:46
- 結局、お昼ごはんはわたしがいないあいだに配り終わってしまったみたいで、
はるばる裏の方にいるスタッフさんのところまで取りに行かされるはめに
なってしまった。
自分のお弁当とペットボトル4本を持ってさっきの場所まで戻る。遠くからでも
なんか会話が弾んでいて、すごく楽しそうな感じで。
「ほら、行って来たっちゃ」
「わー、ごめんねれいなー」
「ありがとー」
「ありがとうございます、田中さん」
口々に言われる。ちょっとうれしい。
- 657 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:46
- 「ねえねえ、それで、なんの話してたと?」
「んー、小春ちゃんのこと、なんて呼ぼうかって」
さゆが言うのに、絵里が、
「はるちゃんとか、はるてぃとか、はるちとか」
「色々ね、考えてたんだけど」
わたしは立ったまま、というのも3人が並んでいるともう座る場所はなかった
からなんだけど、言った。
「あ、じゃあれいなが一個思いついたのあるたい。小春ちゃんだから、コハトーンって
いうの。どう、イケてなか?」
「ええ……」
「それはどうかなあ……」
「すいません、田中さん、それはちょっと……」
3人が揃ったように眉をひそめるのに、わたしはちょっぴり傷ついた。
- 658 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:46
- 終わり
- 659 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:46
-
- 660 名前: 投稿日:2005/05/01(日) 21:46
- 脊髄反射スマソ
- 661 名前:名無しの桜 投稿日:2005/05/05(木) 21:55
-
別にどのCPに悪意があるとかそゆのはありません。
もし万が一、お気を悪くされたらごめんなさい。
- 662 名前:名無しの桜 投稿日:2005/05/05(木) 21:56
-
『CP論争』
- 663 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 21:56
-
それを持ってきたのは高橋だった。
「うっわー、懐かしいね。ね、ね、懐かしくない?」
新垣の声に一同がそれとなく注目すると、高橋の手にはかつて一世を風靡した
『動物占い』の本があった。
「私、コアラなんだよねぇ。愛ちゃんは?」
「ライオンやよ」
「紺ちゃんは?」
「私は黒ひょう〜」
話題は離れたトコロに飛び火する。
「よっちゃんさん、動物、何?」
楽屋の畳部分に胡坐をかいて座る吉澤の背によっかかるようにして
雑誌を見ていた藤本が視線を上げる。
「んん〜?」
聞いているのか聞いていないのか、生返事をして携帯から顔を上げない吉澤。
このまま終われば、良かった。
楽屋の平和が保たれた。
しかし。
- 664 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 21:57
-
「よっちゃんは象だよ」
二人の頭上から顔を上げずとも誰か解かる、たっかい声がする。
「……梨華ちゃん、帰ってきたんだ。早いね」
「うん。ちなみに私は虎なんだぁ」
美勇伝の仕事の打ち合わせで楽屋を離れていた石川。
手に持っていた書類で吉澤の足を軽く叩く。
「ほら、女の子は胡坐とかかかないの〜」
「んー…」
携帯から顔を上げない吉澤だが、生返事をしながらも座り方をお姉さん座りに変える。
藤本は、なんだかそれが気に食わない。
そもそも、石川から吉澤の情報を得たことが気に入らない。
亀の甲より年の功。
仕方ないことは仕方ないのだが…。
「やっだぁ、絵里とさゆ、相性10じゃん!!」
石川と藤本の間になんとも形容しがたい微妙な空気が流れた時。
亀井の声が高く楽屋に響いた。
火蓋は切って落とされた。
こうなったら、藤本の次の行動は火を見るより明らかだ。
- 665 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 21:58
-
「ちょっとソレ、こっち貸してっ」
言うより早く、藤本は亀井、道重とそれを見ていた新垣からひったくるように
それを取る。
(象とコアラ…象とコアラ……)
「…30」
微妙なトコロである。
50満点の30。
丁度、真ん中。
「象と虎は、40なんだよぉ」
藤本の独り言のように漏らした30、を目ざとく聞いて、石川は勝ち誇ったように
微笑んで言う。
それが更に藤本を煽る。
「こんなの、ただの占い本じゃんっ、ねっ、よっちゃんさん。くだんないよねっ」
「よっちゃん、コレ当たるって前に褒めてたよねぇ」
ことごとく先回りの石川に、藤本は怒りを隠せない。
ただ単に、長くいればそれだけ情報量も増えるいうだけなのだが…。
- 666 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 21:59
-
「そっ……ちょっと、よっちゃんさん、なんとか言ってよ!!」
「よっちゃん、面白いって言ってたよねっねっ?」
「ん〜」
そんな二人のやり取りを、お構いなしに携帯に集中する吉澤。
慣れたもんである。
「ちょっと、いしよしはもう古いんだから大人しくしててよ」
「何よ、ちょっと今、みきよしが勢いづいてるからって」
「時代はみきよしなんですぅー」
「そんなの一瞬の流行よ、流行。長い目で見たら5年も続いたいしよしの実績が…」
ここで、ふっと二人は違和感に言葉を止める。
いつもここに入ってくる筈の人間が1人足りない。
「……真琴?」
不思議に思って振り返った石川。
小川は珍しく鏡台の前に大人しく座って、吉澤よろしく携帯をいじっている。
いつもならこんな時は
『吉澤さんは、私のモノですぅーーーーーー。よしまこの時代だぁーーーー!!』
とかなんとか言って、乱入してくるのに。
- 667 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:00
-
「どしたの?」
俯き加減に顔を上げない小川に、藤本も思わず声を掛ける。
石川の声と藤本の声にご丁寧に一回づつ、びくっびくっと肩を震わせて。
小川はゆっくりと顔を上げた。
表情が引きつっている。
「な、なんですか?皆さん」
その顔に、石川はなおも『真琴、今日は元気ないね。変なモノ食べた?』
などと言っているが、藤本はすぐにピンと来た。
「まこっちゃんさぁ、何?動物うらない」
ニヤニヤ笑って問う藤本。
恰好の獲物を捕まえた、といったカンジだろうか。
石川に頭とお腹を撫でられていた小川は、その笑みにまた身体をびくっと震わせて反応する。
「ち、チーター、ですけど…」
ふふん、と笑って動物占いをめくる藤本。
観念した、とばかりにまたうな垂れる小川。
1人空気の読めてない石川が『なに?ねえ、なに?』と二人に聞きまくる声がむなしく響く。
「……20」
- 668 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:01
-
ニヤリと笑って言う藤本。
最後の審判は下された。
「ええー、真琴って、よっちゃんと相性20なんだぁ」
石川の悪意の込もっていない率直な意見が、更に小川を打ちのめす。
「だからずっと静かだったの?ねっ?ねっ?」
追い討ちを掛けるような石川の声がどんどん小川に降ってくる。
もう小川は涙目である。
「終わったな、よしまこ」
藤本の声に、堪えていた涙も溢れ出す。
「そ、そんなのただの、う、占いだぁ!!」
小川の断末魔に
「でも、よっちゃんさん褒めてたよ、よく当たるって」
自分のコトは棚に上げてしかも自分が聞いてきたように言う藤本の言葉が残酷にも襲い
「うわぁーーー。よしまこの時代って、いつ来るんだよぉーーーーー」
- 669 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:02
-
ついに小川は逃走した。
ほとんど、戦わずして逃げたような形相である。
「…それだから、いつまで経ってもよしまこはダメなんだよ」
「真琴ぉ、リハーサルまでには帰っておいでよぉーーー」
「まこっちゃーん、そのうちきっといい人見つかるよぉーー」
「私とだって、黒ひょうだから相性20だよぉ〜」
そんな小川の背後から様々な声が掛かる。
愛あるコメントは……見当たらない。
「…紺ちゃん、なんで相性20とかいらないこと言うの?」
「おがこんだって20なんだよってコトを教えてあげた方がいいかなって…」
「紺ちゃん、意味わかんないよ……」
新垣が紺野に同期として教育的指導をしようとしたその時。
「うあっ」
楽屋の入り口の方で固まっていた6期が一斉に悲鳴を上げた。
「な、なんばしよっとですか、ごとーさん!!」
れいなの声に、みんなぎょっとして振り返ると入り口のすぐ横に先ほどの小川よろしく
俯いて小さくなり、負のオーラをばらまく後藤がいた。
- 670 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:03
-
「ごとーさん、どーしたんですか?」
普段はリアクションの遅い紺野が新垣の手を離れてそそくさと傍らに寄る。
「お、ごまこん…」
新垣の声に、しかし後藤はいつものようなフニャっとした笑顔で返したりしない。
「……いいじゃん、いいじゃん、真琴は」
紺野に肩を揺すられながら、後藤はぽつりと言葉を零す。
「ご、ごとー、さん…?」
「ごっちん、どしたの?」
後藤の有様に藤本すら動揺する。
しかしその横で石川は、はぁ…と力なくため息をついて藤本の袖口をそっとひいた。
「ごっちんね、たぬきなんだけど」
一瞬、動物占いのことなど忘れていた藤本は何言い出すんだコイツは!?
とちょっとだけ鋭い目で見るが、しかしすぐにそれが先ほどの話題の続きだと気付く。
- 671 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:04
-
「んなことより、ごっちんの様子が…」
「象との相性がね………」
石川は、哀れむような慈悲深い目で後藤を見る。
取りようによっては蔑むとも言えなくない。
「んあー!!小川はいいじゃん。何さ、20で戦わずして逃走って。なんだよなんだよ!!」
急に激高して、後藤は立ち上がる。
普段から温厚というか、常に眠たげな後藤からは想像出来ない行動だけに、紺野は後ろに
ころんとひっくり返ってしまう。
「………10なんだ」
石川の声に、一同よりも後藤が最初に反応する。
「なんだよ、なんだよ。それがなんなんだよぉ!!よしごまは永遠なんだぞぉ!!!」
そう叫んで楽屋で暴れまくる後藤。
さながら頑固一徹である。
もう誰も後藤に追及する者はいなかった。
「10かぁ、キッツイなぁ」
「でしょ?前から、この話題になると……ね?」
- 672 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:05
-
「やっぱ、よしごまはダメだね」
「……でもなんか、あの姿を見てると小川より希望がないだけになんだか哀れで……」
「んー。そだね。よしまこより希望がないってなんだかキツイツライってより
悲壮さすら漂うね、よしごま」
慌てて後藤を宥めようとしているゴロッキーズに藤本と石川の冷めた会話。
「哀れむなっ、よしごまはキツくもツラくもないぽ!!!」
泣き叫ぶ後藤。
その横で
「ごとーさん、ごまこんだって、20ですから…」
「だから紺ちゃん、さっきから何が言いたいんだって」
「いや、だから流行ってようと流行ってなかろーと数値にしては大差ないということを…」
そんな二人の横からにょっきと出てきた手が、ひょいと動物占い本を取り上げる。
「そっかぁ、ウチら、相性10だったんやぁ。そら、あんなしょーもない男に
持ってかれてまう筈やなぁ」
新垣・紺野がその声に見上げると…
「矢口……やっぱりやぐちゅーには無理があったんか…矢口ぃ……」
- 673 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:07
-
1人涙にむせぶ中澤に、誰も掛けてやる言葉もなかった。
「そういえば、亜弥ちゃんはどーしたのよ」
よくない繋がりで思いだした石川が藤本に言う。
「あやみきよ、あやみき」
「んんー…?」
あんまり良い予感がしないのか、藤本は泣き崩れる中澤から本をもぎ取るとタラタラと
調べ始める。
「…亜弥ちゃんも象」
「あやみきも30かぁ」
石川の感慨の込もらない声に藤本は突っかかる。
「なにさ」
「いや、30でしかもどっち付かずじゃあ亜弥ちゃんも離れてっちゃうかなぁって」
「な、なんだよ、それ!!」
「だって、美貴ちゃんってみきあやもよしみきもってカンジでどっちが一番か
わかんなかったじゃない」
「み、美貴が悪かったっていうの?亜弥ちゃんがフライデーされたのは美貴のせい?」
「そこまで言ってないけど…」
「あやみきだって、終わってないよ!!あやみきだって…」
「そういうどっち付かずの対応が、不安にさせるのよ」
「うぅっ…」
- 674 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:08
-
楽屋が混迷を呈してきたとき。
そもそもこの諸悪の根源を持ち込んだ高橋がぼそっとつぶやく。
「よしたかが、50だってのをみんなに知ってもらいたかっただけやのに…」
夕べ、部屋の片付けをしていて見つけた懐かしい占い本。
ちょっと調べてみようとメンバーのプロフィールを開いてあれこれやっていた。
すると……所謂吉絡みと言われるカップリングの中で最高の50を誇るのは
自分とのよしたかだけであったのだ。
嬉々として楽屋に持ち込んだ高橋。
伝えたかったのはただひとつ。
『なんだかんだ言っても、よしたかが一番やよ。よしたかの時代がやってくるやよーーー!!』
しかし。
今の楽屋で誰1人、高橋の言葉を聞いてくれそうな者は…
「なんだよ、ちょっといしよしが高得点だからって!!」
「よしみきもあやみきもなんて、虫が良すぎるのよぉ」
「よしごまは永遠だぽ!!ごまこんだって捨てたもんじゃないぽーーー!!」
「ごとーさん…」
「いや、紺ちゃん、そこ、うっとりするトコじゃないから」
「さゆれなは30、れなえりは40、か」
「あんまり大差ないね〜」
「ね」
「よしまこの時代はドコだぁぁぁぁ…」
誰も居なかった。
- 675 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:09
-
はぁ…。
うな垂れ、1人席につこうとしたその時。
唯一、誰とも言い合いをしていなかった吉澤が顔を上げた。
高橋と目が合う。
ぽっと、高橋の頬が赤らむ。
よ、よしたかの時代……来る?
「高橋、今、何時?」
「よ、四時半…ですけど?」
「やっべ、次のリハ、5時からじゃなかったっけ?」
「は、はぁ」
「おい、お前ら何やってんだよ。リハだよリハ。さっさと支度しろ〜。10分前には
スタジオに入ってろよ!!これ、リーダー命令!!!」
新リーダーはそう宣言して気だるげに髪をかきあげると伸びをした。
「はぁぁーい」
一同はおもいおもいに返事をすると、それまでの喧騒もなかったようにそれぞれの席につき
支度を始めた。
「あ、美貴ちゃん、そのグロス新色?貸して貸して」
「いいよ、勝手に取ってって」
「まこっちゃん、帰ってこないねぇ」
「そーだねぇ」
- 676 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:11
-
「あ、そっちの鏡の方がおっきいじゃん。さゆに貸して」
「いいでしょ、そっちだって。どーせかわいいってやる気でしょ?」
「あはは、さゆ行動読まれとるぅ」
呆然と立ち尽くす高橋に、
「さっさと支度しろよ〜」
一声掛けて早々に楽屋を出て行く吉澤。
それに続くように、三々五々楽屋を後にするメンバーたち。
1人残された、高橋。
- 677 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:11
-
「………まこっちゃん、探してこよ」
こうしてまた、モーニング娘。の日常が始まる。
- 678 名前:CP論争 投稿日:2005/05/05(木) 22:12
-
〜FIN
- 679 名前:名無しの桜 投稿日:2005/05/05(木) 22:12
-
お粗末様でした。
- 680 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/06(金) 01:51
- よしまこの時代が来たとわかった
- 681 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/06(金) 10:59
- よっちゃんさんが、リーダーしてる(にしししし
- 682 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/06(金) 15:56
- うおっ!これだったのか〜作者さん早いね〜(ニヤリ
個人的には ( ´ Д `)<よしごまはガチだぽ と言いたいが(ヲイ
よしたかのくだりにもニヤリ。微妙な二人がいつか来るヨカーンw
- 683 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/06(金) 16:48
- なんだなんだ、全然Bじゃないですよ。
すんごい楽しめました!
やっぱりあの人は悲壮感が・・・
- 684 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/07(土) 03:02
- Bじゃないですよ〜w すっごい面白かったっす。
久々にこれだけたくさんのカプを見ました。
ここの小川さん、何気に好きかもw
- 685 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/08(日) 14:18
- みんな頑張れーw
最高です、作者さん。
- 686 名前:_ 投稿日:2005/05/14(土) 00:59
-
ふたりの時間
- 687 名前:ふたりの時間 投稿日:2005/05/14(土) 01:00
-
「あいたいです」
「……今から?」
私の突拍子もない願いに愛ちゃんは苦い声をだした。
昨夜のおやすみコールでのあいたいコール。
「それはさすがに。でもあーいーたーいー」
「明日も仕事で会うじゃん」
「……違う。わかりませんか?」
他のメンバーもたくさんいて、休憩時間だってぴったりできるわけじゃない。
隣にいるだけで満足もできるけど、最近の私はそれでも足んない。
「じゃあさ、明日早めに仕事行こ」
「わかりました。愛ちゃん遅れないでよ?」
「絵里こそ寝坊すんなよー。今日はもう寝よ。おやすみ」
「おやすみなさい」
- 688 名前:ふたりの時間 投稿日:2005/05/14(土) 01:01
-
昨夜のおやすみコールでの逢いたいコール。
いつも以上に駄々っ子な私に驚いたのか、愛ちゃんからの妥協案。
『早めに楽屋に来れば、ふたりになれるやろ?』
スケジュールの都合で、まだ近いうちはお互いの家に行ったり、外で遊ぶのは無理だと分かっている。
結局は仕事場なのが気に入らないけれど、それでもこんなに気分よく仕事に向かうのは久しぶりだ。
「おはよーございまーす!」
全体の集合時間の一時間前。私、亀井絵里は楽屋に到着。
さわやかに朝の挨拶をしたのに、返事はナッシング。
……あー、早かったか。でも待つのも楽しみのうち、と思ったそのとき。
ターゲットの後ろあたま、発見しました。
- 689 名前:ふたりの時間 投稿日:2005/05/14(土) 01:02
-
楽屋のドアに背を向け、パイプ椅子に腰掛けている愛ちゃんにそーっと近づく。
ぬきあし、さしあし、しのびあし。おおきく三歩。
なんのつもりか愛ちゃんは振り向かない。
横にまわりこんだところでようやく
「おぉ」
「って、おそぉい!!」
ダテに何年も藤本さんとメンバーやってツッコまれてません。
こんなところで役に立つとは思いませんでしたが。
「おぁよー」
「オハヨーゴザイマース」
愛ちゃんはのんきな挨拶をして片方の、私側の耳からイヤホンをはずす。
あ、音楽を聴いていたから来たのにも気付かなかったんだ。私もようやく気がついた。
そして、ちょっとヤなこと思い出しました。
- 690 名前:ふたりの時間 投稿日:2005/05/14(土) 01:03
-
「さゆとかガキさんにタカラヅカ。ひとつのMDで」
「うっ。いや、違うんだってホラ、宝塚の音楽すごく良くって、
これは絶対みんなに聴かせないとなあ。って」
「べつにーいいですけどぉー」
すねたフリして、すねた声をだす。それであわわと慌てる愛ちゃんを見るのは楽しい。
私以外の誰かとイヤホンを片方ずつつけて、音楽を聴いているの見て嫉妬なんかしない。
……しないんならいいんだけど、やっぱりなんか悔しく感じる。
あー、なんか自分ダメだなぁ。余裕がなさすぎるよ。
だんだん情けない気持ちになって俯いた私の手を、温かい手がつつんだ。
「……」
なにも言わずにしっかり握って上下に揺らす。
ごめん、ってことなんだろうか。
もういいよ、そんな気持ちをこめて私も強く握りかえした。
椅子に座った愛ちゃんは私を見上げてにー、っと笑った。私も笑った。
「「外に行こうか」」
- 691 名前:ふたりの時間 投稿日:2005/05/14(土) 01:04
-
「あ、ハモった! 今ハモったで!」
「おーやったぁ!」
いえーい、嬉しさあまって両手でハイタッチ。そのまま指を絡められる。
見上げられた格好のまま、目を覗き込まれる。愛ちゃんはゆっくりと口を動かした。
「そんでさ、ふたりで消えちゃおっか?」
じっと目を見たままで、甘い声。この声を聞けるのは、私だけだ。
それでなくとも引き込まれる瞳で、こんなこと言われちゃたまんない。
言ったあとで耳まで赤くなって沈黙しちゃうのも、愛ちゃんらしくてたまんない。
繋いだ手を思い切り引いて立ち上がらせる。片手だけ離してMDを片付け、また顔を見合わせた。
「どこ行きます?」
「とりあえず局内一周?」
私たちが本当にふたりで消えてしまったら、どうなるのだろう。
けれど現実、タイムリミットは集合時間の午前十時。
指を絡めて手を繋いだまま、ふたりでならんで歩き出した。
隣の愛ちゃんの髪が香る。繋いだ手が温かい。いまだけは全てが私のもの。
ふたりの時間は、まだ残っている。
- 692 名前:ふたりの時間 投稿日:2005/05/14(土) 01:04
-
- 693 名前:ふたりの時間 投稿日:2005/05/14(土) 01:05
-
おわり。
- 694 名前:読み屋 投稿日:2005/05/15(日) 00:18
- 良い!w
- 695 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/15(日) 23:19
- いいねいいね!
最近亀高好きなんだよw
- 696 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/28(土) 18:16
- かおよしキボンヌ
- 697 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 23:47
-
うんうん。それはね、あたしだってわかってるんだよ。わかってますよ。
あたしリーダーでキャプテンなんだよ。もうハタチだしさ、わかるに決まってるじゃん。
…なんだその疑いの眼差しは。ちょっとあたしのこと誤解してないか?なぁ?
だってさ、いい?よーく考えてみてよ。よく考えなくともちょっと考えてよ。
たしかに行くのは簡単だよ。パーッと行ったらすべてが済む話さ。うん。
行ってさ、あれでしょ?ちょちょいのちょいで済むっていうんでしょ?
そんなの言われなくてもわかってる。あたしだってバカじゃないんだから。
え?バカ?あたしバカなの?…そうでもない?どっちだよ!
とにかくさ、話戻すよ?いい?…は?どこにとか聞くなよ!いやむしろ聞けよ。
ってそこで、「どっちだよ!」だろー。まったくちょっとは考えろよ。
いや考えなくてもわかるだろう。うんざりした顔するなよな。まあいい。
でさ、あたしがそこに行くことに必ずしもメリットしかないとは言い切れない気がしないか?
だからその心底びっくりしたような顔はなんなんだよ。そんなに不思議か。理不尽か。
あ、ため息つきやがった。いーや、今のは絶対ため息だった。
深呼吸なわけないだろ。吸って吐いてじゃなかったし。吐いてだけだったし。
- 698 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 23:48
-
また話がそれたな。いちいち突っ込ませるような反応をするオマエが悪い。
メリットだけなんてさ、そんな美味しい話があるわけないんだよ。
この歳になると良いことの裏には必ず悪いことがあるって経験的にわかるわけよ。
まあオマエにはまだまだわからないことだろうけどね。え?一歳しか変わらない?知るか。
とにかくさ、今こうしてうちらがお菓子を食べているこの瞬間にも
地球上のどっかの国のどっかの街の誰かさんが飢えに苦しんでたりするわけよ。
それはうちらのせいじゃないしどうにもできないかもしれないけどさ、
良い面の裏側には悪い面が、メリットにはデメリットがつきものだってことを
忘れちゃいけないとあたしは思うわけよ。忘れないでほしいわけよ。
なんかしろってわけじゃないけどさ、知らないことはやっぱ罪でしょ。
だから要するに美味しい話にホイホイ乗ってついていったらエライ目に合うってことよ。
は?全然「だから要するに」じゃないって?ほー。そこを突っ込むわけか。なるほどなるほど。
じゃあ言い直すよ。要するにあたしは騙されないぞってことさ。
は?今度は要点をまとめすぎ?意味わからん?まったく文句が多いやつだなー。
要するに、そこに行ってあたしの抱えてる問題が解決するなんて言い切れないでしょ?
絶対って言い切れるか?万万が一の可能性を考えてみてよ。ほら、言い切れないでしょ。
だからあたしは騙されないんだよ。
痛みが耐えられなくったってこの信念は曲げられないんだよ。
「はよ歯医者に行くやよー」
「………はい」
- 699 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 23:49
- おわり
- 700 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:49
-
今日はみうなと一緒に図書館へ行く約束をしている。
最近はあまり自由な時間が無かったから、図書館へ行くのも久しぶりだ。
「あ〜、楽しみやなぁ。」
図書館へと歩く途中、誰かに言うわけでもなくそう呟いた。
のんびりしてるように見えるかもしれんけど、これでも急いでるんです。
待ち合わせしたのは10時。
あと15分で着けるのかな・・・。
どんな本読もうかなとか、何か新刊は入っとるかなとか、そんなことを考えていたら、ようやく図書館が見えてきた。
携帯を出して時間を確認。
ギリギリセーフってトコかな。
10時を3分程過ぎた時計を見て、私は少し速度を落とした。
・・・あれ・・?
- 701 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:50
-
「吉澤さん!?」
「うぉぉ!!たか・・っ・・愛ちゃん!?」
うぉぉ!!ビックリしたぁ・・・!
な、なんでこんなところに吉澤さんがおるんや!!
「え、なんで愛ちゃん・・・え、・・えぇ?」
吉澤さんも困惑した様子で、かなりキョドってた。
〜♪
お?
「あ、ちょっとすいませんっ。」
メールの着信音に気付き、携帯を手に取った。
メールはみうなからだった。
『ごめんねーっ(><)今日行けなくなっちゃった!!よっすぃーと仲良くね(*>▽<)』
・・・・・・へ?
- 702 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:50
-
「な・・・っ」
「なぁぁにぃぃぃぃ〜!!!?」
吉澤さんの叫び声が聞こえて、私は吉澤さんの方に目を向けた。
吉澤さんも携帯を持っていて、画面を見て何やらブツブツ言っている。
ど、どうしたんやろ・・・。
今だ画面に向かってブツブツ言っている吉澤さんの方に近づいてみた。
「〜・・こいつわざと・・・・・」
「吉澤さん?」
「・・あぁぁ・・・みうなに相談した私が馬鹿だった。あぁくそ・・・っ」
「吉澤さーん?」
「協力するね!って言ってたけど場所図書館かよ〜・・・もっとなんか無かったのかよ〜・・。」
「吉澤さんっ!!」
「ぅぇえ!?」
私が目の前に居ることに初めて気がついたらしい吉澤さんは、私と目が合った瞬間またまた変な奇声を上げた。
ちょっと傷ついたことは言わないでおこう。
- 703 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:51
-
「大丈夫ですか?」
「え、だ、だー・・・え?何が?」
苦笑に似た笑みを浮かべて私の方を見る吉澤さん。
なんっかおかしいなぁ・・・。
「メール・・ですよね?何かあったんですか?」
「あ、あのー・・・なんか、・・嵌めら・・・あ、いや。」
嘘嘘。なんでもないなんでもない。と手と首を左右に振る吉澤さん。
・・・何が嘘なのかわからんけどまぁええか。
「私、みうなと約束してたんだけど、さっき来れなくなった〜みたいなメールがきたんだよ。」
「えぇ!?吉澤さんもみうなと約束してたんですか!!」
「・・・・・・えーと・・う、うん。そうなんだよー・・・え、もしかして愛ちゃんも?」
「そうですっ。私もみうなと約束してたんですけど・・・。」
じゃあみうなは私と吉澤さんと3人で図書館行くつもりやったんか。
それならそうと先に言ってくれれば良かったのになぁ・・。
吉澤さんが来るんやったらもう2時間は早く起きとったのに・・・・・・ん?な、なんでや!!
「あー・・・とりあえず中・・入ろっか?」
「!!あ、は、はいっ。」
あかんあかん!
何考えとったんや今・・・。
自分の顔が赤くなっとるような気がして、
私はしばらく吉澤さんの方を向くことができなかった。
- 704 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:52
-
図書館の中は思ってた程の人はいなくて、数人の人が机に座っているだけだった。
「・・・」
「・・・」
意外な人の少なさと、場所が図書館ということもあって、
私たちはずっと黙っていた。
何か・・何か喋らんと・・・!
「よ、吉澤さんはどんな本を読むんですか?」
あ、しもたっ。
これで「愛ちゃんは?」だなんて聞かれたらなんて答えればええんやろ・・・。
最近のマイブームは「歴史」やけど・・・その中でも「織田信長」なんやけど・・・
こんなこと言ったら確実に引かれてまうっ。
下手したら帰ってまうかもしれん!!
そんなん嫌やー!!
「―ちゃん?・・愛ちゃん??」
「はいっ!?」
「!!・・・しー・・っ。」
「あ、すいません。」
いきなり名前を呼ばれて、つい大声を出してしまった。
吉澤さんに注意されて、反射的に机に座っている人たちにも
すいませんすいませんと頭を下げた。
「で・・聞いてた?私が言ったの。」
「・・・すいません。」
「いや、いいっていって。」
「私から聞いといて聞かないとか最低ですよね・・・。」
「そんなこと言うなって!私は全然平気だからさっ。」
そう言って笑ってくれる吉澤さんに、私はつい見とれてしまった。
- 705 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:53
-
「あ〜・・・やっぱり外出ない?ここだとあんまり喋れないし。」
私の顔から目線をそらして、吉澤さんはそう言った。
「はい・・・。」
やっぱり帰ってしまうんかなぁ・・・。
嫌やなぁ。
吉澤さんの後ろからついていくようにして外へ出た。
そよそよと吹く風が、さっきまでの重い空気を吹き飛ばしてくれるかのようだった。
気持ち良いなぁ。
「あ、あのベンチに座ろうよっ。」
ベンチを指さして、吉澤さんは振り向いた。
「あ、はいっ。」
少し小走りでベンチまで向かって、吉澤さんの隣に座った。
「なんかさぁ」
「はい?」
吉澤さんが前方の方を見つめたまま口火を切った。
私だけ吉澤さんの方を向いているのも変だと思い、
私も前方を見ることにした。
「こうして愛ちゃんと二人で話すのって・・・初めてじゃない?」
「そう・・ですね。」
「私さぁ、一回二人で話したいなーって思ってたんだよ。」
「え!!」
ビックリして思わず吉澤さんの方に顔を向けても、
吉澤さんは前を見たままだった。
- 706 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:54
-
「なんか・・・楽屋とかだとさ、あんまり話せないじゃん?」
「はい。」
「だから誘えたら良いなとは思ってたんだけどね、どうも・・上手く言い出せなくて・・・。」
そう言って吉澤さんは俯いて、髪の毛をいじりだした。
「ごめんね?」って目だけでこちらを向いた吉澤さんに、不覚にもドキッとなった。
吉澤さんはカッコイイけど・・・可愛いところもあるんやなぁ。
「吉澤さんは、どういう人に憧れてるんですか?」
「え?」
顔を上げて私の方を見る吉澤さんに、
なんでこんなことを聞いちゃったんだろう、と言ってから後悔した。
なんだかその間抜けな質問が段々恥ずかしくなって、私はつい顔を逸らしてしまった。
「あー・・・強い人・・かな。」
「強い人・・・ですか。」
「うん。」
- 707 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:54
-
強い人かぁ・・・。
この前のハロモニ。の心理テストで吉澤さんは私に憧れてるって結果が出た。
それをまるまる全部信じるのは馬鹿みたいかもしれやんけど・・・あれからずーっとそれが気になってた。
自分が吉澤さんに憧れてるかもしれないんだって思うと嬉しいけど、私だって憧れてるのになぁ・・・と思う。
あーぁ。私もあの時ロッカー探せば良かった。
でも、部屋に二人きりなのが照れくさくて、つい吉澤さんから離れるように探しに行っちゃったんだよね。
あかんなぁ・・・私。
もっと積極的になりたいなぁ。
「あー・・・愛ちゃん?」
「っ・・はい?」
呻くようにそう呟いた吉澤さんの声に、私はぼんやりしていたにも関わらず、なんとか反応することができた。
空を見上げる吉澤さんは、頭の後ろに手を回しながら言った。
「もしかして、アレ気にしてる?」
「アレ?」
「あの・・前のハロモニ。の・・さ、心理テスト。」
- 708 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:55
-
吉澤さんはいまだ空を見上げるままで、顔色を伺うことはできなかった。
気にしてるも何も、しまくりですよ。
あれからもっと気遣うようになって、話すことでさえ落ち着いてできなくなった。
「やっぱり、気にしてた・・よね?」
「・・はい・・・、少し・・・だけですけど。」
「だよねー・・・。」
嘘だ。
少しだけなわけがない。
心理テストの結果が出てからは、収録中もなんだか隣の吉澤さんのことが気になって仕方が無かった。
収録中に吉澤さんからの視線を感じても、意識しちゃってそっちを向くことはできなかったし、
きっと目が合ってたら、すぐに逸らしちゃってたと思う。
「実はさ、私もちょっと気になってたワケよ。」
「え?」
「愛ちゃんに利用されちゃってんのかーとか、あのときはちょっと凹んでた。」
それを聞いて私も今凹みました。
利用なんてしてないし、するつもりもないのに。
- 709 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:55
-
「所詮心理テストなんだから、全部が本当なワケが無いって思っても、何故か今回だけはずーっと気になっちゃって。」
「いつもはそんなの全然気にしないんだよ?私。」と自分を指差して付け足す吉澤さんに、「私もですよ?」と笑って答えた。
「でさ、なんで今回はこんなに気にしちゃうのかなーって考えて考えて、出た答えが一つ。」
しっかりと私の目を見て、人差し指を立てた。
「きっと他にも理由はあるんだろうけど・・・今の私に思いつくのはこれだけ。」
「はい。」
「私の愛ちゃんに対する気持ちが当たってたから・・かなーって。」
段々小さくなっていく声だったけど、しっかりと私は聞き取ることができた。
それに、照れくさそうに頭を掻く吉澤さんを見たら、もう一度聞き直すなんてことできない。
・・・さっきまでの胸のモヤモヤが、一気に消えていくようだった。
「だから、愛ちゃんは何も気にしなくて良いんだよ。」
照れくさそうに、でもしっかりと私の目を見て言ってくれた。
- 710 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:55
-
「私が言う強い人っていうのは・・・目標や夢を持ってて、それに向かって一生懸命努力できる人のこと。」
こんなに吉澤さんと目を合わてるのは初めてかもしれない。
「愛ちゃん、今頑張ってるじゃん。」
「・・・!!」
「愛ちゃん見てるとさ、私も負けてられないなって思うと同時に、私もそんな風になりたいなって思う。」
私はビックリしすぎて吉澤さんの方を見たままだったけど、吉澤さんはまた前方を見つめてた。
「・・ね、気にしないで、今までの愛ちゃんで居てくれたら良いから。」
吉澤さんの一言一言で、私の気持ちや心はコロコロ変わる。
都合が良いなぁと思うけど、今回はちょっと違う。
今、何かゴールが見えた気がした。
「じゃあ私もちょっと良いですか。」
「ん?」
吉澤さんだって、気にしなくて良いんですよ。
「私も吉澤さんと同じかもしれません。」
「同じ?」
「私が吉澤さんを利用してる・・・っていうのが、ちょっと当たってるかな・・・って。」
私の顔を見る吉澤さんは、あからさまに凹んだ素振りを見せた。
「あ、そ、そういう意味じゃないんです!!」
「・・ん、大丈夫だよ。」
慌てて私が否定したら、吉澤さんは笑ってそう言ってくれた。
- 711 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:56
-
「私にとっての、癒しなんです、吉澤さんは。」
「癒し?」
意味がわからないという風に吉澤さんは笑った。
「あの風船の時もそうですけど、一緒に居ると凄く心強いんです。」
素手で風船を割りに行く吉澤さんは、本当にカッコ良かった。
「それに、私が悩んでたり、嫌なことがあったりした時は、なんらかの方法で忘れさせてくれたり、
解決策を示してくれたり・・・私にとっての癒しなんです。」
言ってて段々恥ずかしくなってきた。
顔が赤くなっていくのを感じて、思わず私は吉澤さんから目線を外してしまった。
「こういうのって、利用してる・・・って、言いませんかね?」
「・・・。」
・・・あれ。応答ナシ。
吉澤さんからなんの返事もなくて、もう一度吉澤さんの方を見たら、必死に笑うのをこらえていた。
「吉澤さん?」
「くく・・っ・・・なんか・・・ヤベー・・・っ。」
涙目になりかけている吉澤さんが「おもしれー」と呟いた。
- 712 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:56
-
「ちょ・・ごめんね、なんか・・笑っちゃって・・っ・・。」
「私は全然構いませんけど・・・。」
私、何かおかしなこと言ったんやろか。
「あー・・・ヤバかったー・・・。」
ようやく笑いがおさまってきたらしい吉澤さんが顔を上げ、そう零した。
「な、何か変なこと言いました?私。」
「ううん。変なことは言ってないよ。」
なら良かった・・・けど、じゃあ何がそんなに面白かったんやろ。。
「ありがと。私も今まで通りの吉澤ひとみで居る。」
「・・はいっ!」
良かった。私が言いたかったことは伝わったみたい。
「うし・・っ。」と一声呟いて、吉澤さんは勢いよく立ち上がった。
「もうお昼だし、どこか行こっか。」
「はいっ。」
- 713 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:56
-
先を歩く吉澤さんの後を追うように走って、もうすぐ並ぶってところで吉澤さんが言った。
「さっきは笑っちゃったけど・・・高橋の気持ち、すっげぇ嬉しかった。」
後ろも見ず、足も止めず、さり気なく言ったその言葉が私には嬉しすぎたみたいで。
思わず足を止めて、離れてゆく背中に向けて叫んだ。
「私は、吉澤さんのような人を癒せる存在になれるよう努力します!・・吉澤さんが・・・私の夢です!!」
叫ぶほどの距離はあいていないけど、私は叫んだ。
「わかった・・・頑張れよっっ!!!」
吉澤さんも立ち止まって、振り向いて、笑顔でそう言った。
見ていて欲しいと思うけど、今は振り向かないでほしかったなぁと思った。
そんな自分を、「我侭だな」と笑ってみたりして。
きっと今、すごく顔が赤いから―
- 714 名前:想合い 投稿日:2005/06/04(土) 20:57
- 終わり
- 715 名前:想合い作者 投稿日:2005/06/04(土) 20:58
- 改行しすぎたような気がする。
読みにくかったらすいませんっ。
吉愛の二人のことだからあの心理テストの結果は
口では言わなくても内心結構気にしてそうだなーと。
- 716 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/06/04(土) 21:43
- 内容がとても素敵だったので読みにくさは全然感じませんでしたYO
それよりも視線の描写が非常に吉愛らしくて萌えまくり…いや感心しました!
おもしろかったです!また書いてほしいです!
- 717 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:29
- 後藤が廊下を歩いて行くと、なにやら騒がしい声が聞こえてくる。
10代の女のコ達だ、にぎやかなのも当然である。
しかし、今日はいつもの『騒がしい』とは違うようだ
「ちょっと、梨沙子聞いてってばー!!」
「バカバカバカバカバカバカバカーーーー!!!!」
ドアが開き..清水の体が出てきて、慌ててドアを閉める。
閉まったドアの向こうで何かがドアにぶつかる音がする。
中にいる人間が何かを投げつけたのであろう。
- 718 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:29
- 「どうしたの?」
ドアを心配そうに見守るBerryzのメンバー達に、後藤が柔らかく尋ねる。
「あ、後藤さん。梨沙子が..」
後藤に気づき、清水が何かを言いかける
- 719 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:30
- また、菅谷が本番前に緊張してオーバーヒートしてるのかな?
自分も最初はそうだったな
ふと懐かしいシーンが脳裏によみがえる
「後藤しっかりせいや」
「大丈夫、後藤は全部覚えたんだし問題ないべ。」
「ほら、オイラが手握っててあげるから」
「さ、泣いてないで行くわよ」
「カオリ、よくわかるよ。でもねカオリは........」
あれ?何か足りないよーな? 何だっけ?何か欠けているよーな?
- 720 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:30
- 後藤が過去のシーンを思い出している間もメンバーの説得が続く
「梨沙子、決まった事は仕方ないんだよ」
「そうだよ、雅を祝ってあげないと」
「梨沙子が出てこないと、雅が笑って次の一歩を踏み出せないよ」
「梨沙子、みんな心配してるんだよ。早く出てきなさい」
「梨沙子、みんなだって悲しいんだよ」
「モーニング娘。の新メンバーに選ばれたんだからお祝いしてあげなきゃ」
- 721 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:30
- あれ、なんだっけ?
これもあったよーな?
「後藤、決まった事は仕方ないんや」
「そうだよ、 ..かを祝ってあげないと」
「後藤が出てこないと、 .やかが笑って次の一歩を踏み出せないべ」
「後藤、カオリ心配してるんだよ。早く出てきなさい」
「後藤、オイラだって悲しいんだよ」
「モーニングにも新メンバーが入るんやからお姉さんにならなきゃあかんやろ」
- 722 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:30
- 夏焼はドアの前で座り込んで、涙を流していた
「ごめんね梨沙子」
部屋から泣き声が聞こえてくる
「雅のバカー。うそつきーーー。ずーーっと一緒だって言ったのにーーー!!!」
なんだろう。どこかであったよね。これ。
「ごめんね後藤」
「....んのバカー。うそつきーーー。ずーーっと一緒だって言ったのにーーー!!!」
!!!
心の片隅に追いやっていた記憶が、一瞬にして流れ込む!
- 723 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:30
- 「後藤さん、どうしたんですかー!?」
後藤の異変に気づいた熊井が声をかける。
「え? どうもして..あれ、私なんで泣いてんだろ」
「立て篭もってるのは菅谷?」
涙を拭い、メンバーに質問する。
「は、はい」
「理由は?」
無言で夏焼を見るメンバーたち。
夏焼の娘メンバー入りは聞いていたが、もう自分には関係ないものとして大して関心もなかった。
「これからの予定は?」
「ラジオのレギュラー番組収録で、もう移動時間なんです」
「雅のBerryz工房として最後の収録なんですよ」
- 724 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:31
- 「そっか...ここは私に任せてみんな先行ってて」
「でも」
後藤がそう言っても、夏焼はこの場を動こうとしない。
「私に任せな。
(大丈夫、私もこの部屋だったから..)」
「え? 今なんて?」
後藤の言葉は途中から小さくて聞き取れなかった。
「ほら、雅。
後藤さんがああ言ってくれてるんだから。ここはお任せしよう」
須藤が夏焼を立たせて連れて行く
- 725 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:31
- メンバー全員が去った後、ドアを開ける
「後藤だけど、入るよ」
部屋に入ると、泣き疲れて膝を抱えている菅谷の姿が見えてくる
「懐かしいなーこの部屋」
誰に言うでもなく
「この部屋、何の部屋か知ってる?」
今度は梨沙子に話している事がわかるように
首を横に振る梨沙子
- 726 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:31
- 「だよねー。
...私が立て篭もった部屋なんだ。今から5年くらい前かなー」
「..どーして?」
細い声で梨沙子が尋ねる
「あなたと同じかな。やめちゃったんだ仲の良かったコが...
3時間くらい立て篭もったかなー
でも結局、圭ちゃんが怖い顔して..あ、いつも怖い顔してるけどね
『アンタ来ないと後悔するわよ!! 今日が最後のダイバー収録なのよ』
って言って引きずられていったっけ」
- 727 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:31
- 「..それから?」
「後悔した。出て行かなきゃ収録はいつまでたっても始まらなかったのにって」
「じゃあ、私も出て行かない」
「でもさー、よく考えたらね
私が行かなくても、やっぱり私抜きで収録がはじまっていたんだと思う
だから行かなかったらもっと後悔してたかな」
「...」
「ちょっと難しいかな?」
「ううん」
そう言うと、菅谷は立ちあがる
- 728 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:32
- ドアの向こうに消えて行く梨沙子を見て、後藤はやっと過去を完了できたような気がした。
「あら、こっちは時間過ぎちゃってるよ..ま、いいか久しぶりの遅刻も」
- 729 名前:デジャヴ 投稿日:2005/06/15(水) 00:32
- END
- 730 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:03
- 「里沙ちゃん!手つなごぉ〜!!」
「はぁ!?暑いからヤダ!」
「構わんて!!」
「私が構わないから!!」
無償に里沙ちゃんと手がつなぎたくなった私は、里沙ちゃんがなんと言おうと手をつなぐつもりやった。
里沙ちゃんが、次の一言を言うまでは。
「あぁ、もう!!私と手つなぎたかったらその前に吉澤さんとつないでこい!!」
・・・・・・。
私は里沙ちゃんにこんなこと言われるなんて全く思っていなくて、
ぽかーんと口を開けてただ驚くばかり。
「えー!」とも「はーい。」とも言えなかった。
「おーい・・・愛ちゃーん・・・?」
大丈夫かー?と、里沙ちゃんが私の顔の前で手をブンブンと振っていた。
「あ、お、おぅ。大丈夫やよ。」
「いやいや、どこ見て喋ってんの愛ちゃん。私こっちだから!!」
あ、あぁ、ごめんごめん。と言って、目線を里沙ちゃんに合わせる。
「まだつないだこと無いんでしょ?吉澤さんと。」
私は何も言わずに頷いた。
- 731 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:04
- 「もうさぁ、2人は付き合ってから一ヶ月が経とうとしてるんだよ?
わかる?一ヶ月だよ、30日ぐらいだよ。24時間が30日だから〜・・・
・・・・・・なんかもうホント長い時間付き合ってるわけ。」
「うん。」
里沙ちゃんは「ハァ〜」と長いため息をついて、こっちを見てくる。
な、なんや・・なんか文句あるんかぁ?
「もうコレ・・普通のカポーだったらキスも済ましてるよ。あ、キスどころじゃないかも。」
「き・・き、き・・ききき・・・・キスとか無理がし!!」
「あぁぁ、落ち着け落ち着け。訛ってるから。落ち着け、な。」
一気に顔が赤くなるのが自分でもわかった。
里沙ちゃんが私をなだめるように肩をぽんぽんと叩いた。
「さすがに私もキスしてこいとは言わないさ。・・・そんなの期待しろって方が無理って話だ。」
どういう意味や。
「まぁ、その前に手をね、つなげって話よ。それぐらいできなくてどうするよ。」
「里沙ちゃんは人事やと思って簡単に言うけど・・・」
「いや、私だったらこんなトロトロしてないから。」
- 732 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:05
-
「私だったら付き合うことになった日にまず手つなぐし。ってかそれが普通だろ。」
里沙ちゃんに見事に言い負かされて、今日は吉澤さんと手をつないでやると決心した。
でも・・手つなぐことなんて出来るんやろか。
今日のオフに吉澤さんを遊びに誘うのだって緊張して心臓が壊れそうやったのに。
それに、久しぶりに2人で会うってこともあって、今もかなり緊張しとる。
自分を落ち着かせようと、大きく息を吐いた時やった。
「ごめんごめんっ。待った?」
「ぅぁゎああぁひゃー!!!」
「うぉぉ!!!」
私の声に吉澤さんもかなり驚いた様子で、周りの人にもちょっとだけ見られた。
あ、危ない危ない・・・っ。
「ビックリしたぁ・・どうしたの?」
「え、あ、いや・・なんでもないですスイマセン・・・。」
吉澤さんは不思議そうに私の方を見てきたけど、私は恥ずかしいのと周りの人にバレたかもしれないという思いから、
「じゃ、行きましょうか!」と言ってスタスタと歩き始めた。
「あぁ!待って待って!!」
後ろから駆け寄ってきた吉澤さんが、私の隣に並ぶ。
・・・あれ、もしかしてさっきって手つなぐところやったかな・・。
- 733 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:07
- 「今日、吉澤さんはオフじゃ無かったんですよね?すいません、疲れてるのに・・・。」
「いいっていいって!最近全然2人で会えなかったしね。」
そう、実は吉澤さんは仕事の帰り。
私はオフだったけど、吉澤さんは何か仕事があったみたい。
それでもあの日映画に誘ったら、夜になっても良ければってOKをくれた。
吉澤さんに悪いなぁとは思うけど、それより吉澤さんと2人で会えること嬉しさの方が大きくて、
その時はいつも程遠慮はしなかった。
「今日は見たい映画があるんだよね?」
「あ、はいっ。」
「楽しみだなーっ。」
私の隣で楽しそうに笑う吉澤さん。
身長差はあっても、いつでも手をつなげる距離だ。
別に何も気にすることはない。
私たちは付き合っとるんやから・・・手ぐらいつなぐのは自然なこと。
あの角を曲がったら思い切って手つなごう!と、心に決めた。
- 734 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:07
-
その角を曲がった時、思い切って手を伸ばした―
が。
「あ、映画館ってあそこ?」
吉澤さんが右手で映画館を指さした。
私の左手は見事に空を切った。
「あれ?どうかした?」
「あぁ、いえ!・・あの、映画館あそこですよ!」
「そっか。この辺あんまり来ないからわかんないんだよね。」
「あ、そうなんですか。」
・・・なんでこう上手くいかんのかな、私は・・・。
映画が終わって、2人で楽しかったね、とか言いながら映画館を出た。
・・・あの・・あの信号まで行ったら手つなご・・っ!
またまたそう心に決めた。
- 735 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:08
-
そして、信号の手前のところで、手を伸ばした―
「っ・・・!!」
吉澤さんがいきなり立ち止まったから、私の手は予定よりも早く吉澤さんの手と触れてしまった。
・・・思わず私は思いっきり手を引っ込めてしまった。
「あ、あぁぁぁすいません・・・っ。」
「あ、いや・・なんかゴメン。」
「いぇ・・・。」
吉澤さんも心無しか顔が赤くて、きっと私も顔が赤くて、思わず俯いてしまった。
もう駄目や・・・。
あんなあからさまに手引っ込めてしもて、吉澤さん絶対気悪くしたよな。
なんでやー・・なんでこうなんのじゃー・・・私の根性無しぃ・・・っ。
しばらくしてから、吉澤さんが歩き出した。
それに続くように私も歩き出す。
あ、そうか・・・信号、赤やったんや。
そんなん全く考えてなかったわ・・・。
自分の不甲斐無さにだんだん悲しくなってきて、まともに吉澤さんの顔も見れなくなってきた。
- 736 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:09
- 「映画良かったね。」
って凹んどるそばから、吉澤さんは話始めた。
「あ、そうですか?楽しんでもらえて良かったですっ。」
「本当良かったよ。特にあの主人公が・・・」
吉澤さんと映画の感想を話しながら、当てもなく歩いた。
やっぱり吉澤さんと居ると楽しい。
さっきまでの元気の無さも、もうほとんど復活したかも。
「〜で・・あそこが良かった。」
「あ、ですよねー。」
「最初の方で〜がこうなって・・・」
「うんうん。」
さっきから相槌ばかり打ってるけど、それは映画の内容があまり頭に入っていないから。
隣で吉澤さんも同じスクリーンを見てるんだって思うと、すごくドキドキした。
きっと、映画の主人公よりも・・・。
そういえば、あの映画でも2人は手をつないで歩いてた・・・。
手・・つなぎたいなぁ。
- 737 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:09
- 「愛ちゃん。」
「はぃ?」
急に吉澤さんが立ち止まって、私の名前を呼んだ。
「まだ時間・・大丈夫?」
「・・?大丈夫ですけど・・・。」
いきなりどうしたんやろ。
「この近くに公園あるの
さっき見つけたんだけど・・そこで、もう少し話さない?」
「はいっ。話します!!」
私が即答したら、吉澤さんは笑った。
「良かった。こうして2人で会える機会ってそう無いからさ、今日いっぱい話しておきたいなと思って。」
そう言って、吉澤さんは恥ずかしそうに頭を掻いた。
そんな吉澤さんを見て、私もつい笑ってしまった。
顔は・・・きっと赤いけど。
「じゃあ、行きましょぅか。」
そう言って一歩歩き出そうとした時。
「あ、待って!!」
吉澤さんに止められて、私は一歩足を出したところで吉澤さんの方を向いた。
- 738 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:10
- 「・・・!!」
「・・行こっ。」
そう言ったと同時に、吉澤さんはゆっくりと歩き出した。
「よ、吉澤さん・・っ!?」
顔真っ赤だろうなぁと思いながら、吉澤さんを呼ぶ。
あまり顔は見えなかったけど、吉澤さんの耳は確かに赤かった。
「手・・私もつなぎたいなーと思ってたんだよ?」
「・・・へ?」
私の方を見ず、前を見たまま話し出す吉澤さん
- 739 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:10
- 「手、つなぎたかったん・・だよね?」
その時ようやくこちらを向いた吉澤さんの目をしっかりと見て、私は大きく頷いた。
「ごめんね。」
「・・何がですか?」
「愛ちゃんが手つなごうとしてるのはわかったけど、そんな愛ちゃんが・・・か、可愛くて・・気付かないフリしてた。」
「・・・・・・えぇ!?」
そうだったんだ・・・。
でもなんか・・それやったらちょっと嬉しいかも。
「・・・っていうか今可愛いって言いましたよね!?」
「・・さぁ〜?」
「えぇ!?言いましたよね!今絶対言いましたよね!!」
吉澤さんに可愛いって言われたのが嬉しくて、私は握っている手に力を込めた。
すると、すぐにその手は強く握られて、吉澤さんの方を見たら、吉澤さんは照れ隠しのように笑った。
このつないだ手から今の私の心臓のドキドキが伝わるんじゃないかと心配になったけど、
耳まで赤くした吉澤さんを見たら、きっと吉澤さんもドキドキしてるんだって思えて、なんだかそれが逆に笑えてきた。
その後私たちは、公園のベンチに座って話している間も、一度も手は離さなかった。
一度このぬくもりを知ってしまったら、きっと今度は逆に里沙ちゃんと手つなげやんなぁとぼんやり考えながら、
そのぬくもりの主にそっと頭を預けてみることにした―
- 740 名前:少しずつ 投稿日:2005/06/24(金) 00:11
- END
- 741 名前:ハラポワ 投稿日:2005/06/24(金) 00:14
- 前回の図書館吉愛を書かせて頂いた者です。
またまた吉愛書かせて頂きました。
今回はよっすがリード気味というか、頑張ってる感じで。
それでも面と向かって「可愛い」と言うのに抵抗はあるんです。
また書いたらお邪魔させて頂きます。
- 742 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/06/24(金) 00:35
- 確信犯よっすぃーキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
- 743 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:56
-
- 744 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:56
-
う…ダルい…
朝、いつも通り起きようとしたウチを襲う倦怠感
風邪か?
うぅ、とりあえずガッコには行かなきゃ
だらだらフラフラと駅へ向かう
くそぅ、母さんめ
娘がキツそうにしてんだから止めろよな
なんか声かけてくれと思ったのに
- 745 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:57
-
朝の親子の言葉のキャッチボールは
「どしたの?」
「なんかダリィ」
「で、学校行くの?」
「・・・・・ぅん」
「そ、じゃあ早く支度しなよ」
・・・・終了
だけですか、それだけなんですか
母さんに悪態をつきながらも
重い体をムリヤリ引きずって電車に乗る
ガタンゴトン・・・
あ、ヤバい
この揺れヤバい
- 746 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:57
- うぇえ、と思いながらもなんとか無事到着
こんなときだけ駅の近くに学校を創ったあの変人金髪理事長のオッサンに感謝
――――――
―――――
―――
―
- 747 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:57
- 2限目3限目と時間が過ぎるごとにツラい
・・・帰ろっかな
思いたったが吉日
電車のあの揺れを思い出してウンザリしながらもさっさと帰る準備
- 748 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:58
-
ガタンゴトン・・・
・・・・うぇえ
帰ってこれたぁ
あぁ、ウチ生きてるよ
軽く自分に感動と称賛を覚えながらもズルズルと階段を上がって行く
- 749 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:58
-
う…ホントにヤバいかも
倒れそ
ベッドに着いた安心感からか制服のままウトウト・・・
〜〜〜♪♪〜♪〜〜
っは!
い、いいとこでメールかよ
誰だよ・・・って矢口さんっ!
- 750 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:58
- 『今日はどしたー?食堂じゃないのー?』
『やー、それが風邪っぽいんで早退しました』
『はいぃ!?風邪?家の人は?』
『いませんよー。サビシー』
そこでメールが途切れた
ありゃ?授業始まった?
早くない?・・・まぁいいや寝よう
- 751 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:59
-
――――――
―――――
―――
―
- 752 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:59
- ピーンポーン
・・・・
ピーンポーン!
無視無視
ピポピポピポピポーン!
あぁーもう、うるさいな!
ダラダラ降りて戸を開けた瞬間
暗転
「よっすぃー!」
鈍い頭で必死で考えた結果
矢口さんが飛びついてきて視界が暗くなった
・・・・って、は?矢口さん?なんで?
疑問だけが弱った頭をぐるぐる
あ、ヤベ・・・・
- 753 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 00:59
-
うぅん・・・・ん?
あ、ウチ寝ちゃってたのか
寝返りをうとうとすると動かない左手
見ると矢口さんが・・・
矢口さんが?
「ええええぇー?」
「あ、起きたか。よかったぁ。オマエ重かったんだぞ」
へ?あ、あ、思い出したかも
そっか運んでってくれたんだ・・・
「じゃオイラなんか作ってくるから、台所借りるよ」
勝手知ったる人の家
- 754 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 01:00
-
って、ちょ、ちょっと待った
思わず左手に力を入れる
病人とはいえ力の差は一目瞭然で
変な体勢で倒れこんできた矢口さん
「ちょ、なにすんのさ」
「あ、すいません」
無意識だった
のに
隣の家の面倒見のいいお姉さんが好きな人に変わる瞬間で
- 755 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 01:00
-
ヤバい・・・
真っ直ぐな意思の強そうな目に
ちょっと開いた小さい唇に
引き込まれる
ギュウ
思わず抱きしめてて
わわっ!何してんだウチ
- 756 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 01:01
-
「 」
へ?
な、なに?
今なんて言った?
聞こえなかったよ
さっとウチの腕から抜け出して
台所に向かう矢口さん
なんか耳赤くなかった?
それはハジマリノコトバ
「んなことしたらオイラ期待しちゃうから」
- 757 名前:ハジマリノコトバ 投稿日:2005/06/26(日) 01:01
-
END
- 758 名前:ぱっち 投稿日:2005/06/26(日) 01:03
- はじめましてのひとも2度目ましての人もこんばんわ
某サイトに載せたよしやぐをちょっとリメイクして投稿
下校途中バスの中で10分程度でささっと書いた代物なんで自信ないですが(苦笑
- 759 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/26(日) 20:50
- 緑版では楽しませていただいてますw
とっても良かったです(´∀`)また書いてください!!
- 760 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/16(土) 14:29
- 圭織絡みキボンヌ〜orz
- 761 名前:甘い毒と魔法の言葉 投稿日:2005/07/19(火) 01:07
-
- 762 名前:甘い毒と魔法の言葉 投稿日:2005/07/19(火) 01:08
-
「好きだよ」
この言葉を、あなたから聞いたのは何度目でしょう?
そんなに悲しそうな顔で言わないで、口先だけの言葉なんて要らないから。
あなたの心は、あの人へと向いていることぐらい知っている、にも、関わらず。
- 763 名前:甘い毒と魔法の言葉 投稿日:2005/07/19(火) 01:09
-
『本当に?』
「本当だよ…。」
…ウソツキ。
本音を言えばいいじゃない。
『じゃあ、私から離れないでね?』
「……。もちろん。」
- 764 名前:甘い毒と魔法の言葉 投稿日:2005/07/19(火) 01:10
-
あなたは、優しすぎる。きっと、あたしが傷つくと思ってるんでしょう?でも、そんな優しさ要らないよ?
…あなたは、卑怯だよ。見せかけの優しさ振り撒いてさ。それと一緒に、甘い毒も撒いて。
あたしも、あの人も、あなたの甘い、甘い毒に侵されて。
でも、そんなあなたよりも、あたしの方が卑怯。
あなたの優しさを利用してるから。あなたが離れないように言葉をかけているの。されは、あなたにとって、魔法の言葉。
- 765 名前:甘い毒と魔法の言葉 投稿日:2005/07/19(火) 01:11
-
…本当は、どっちが卑怯なんだろうね?
このままだと、二人とも危ないよ?毒と、魔法とで、おかしくなっちゃいそう…。
『一緒に居てね?』
「うん…。」
『だからさ…。』
「?」
- 766 名前:甘い毒と魔法の言葉 投稿日:2005/07/19(火) 01:12
-
イッショニ、キエヨウ?
- 767 名前:甘い毒と魔法の言葉 投稿日:2005/07/19(火) 01:12
- END…
- 768 名前:↑の作者 投稿日:2005/07/19(火) 01:15
- 指定のCPは特にありません。皆様のお好きなCPで読んで頂けたら嬉しいです。
- 769 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 13:34
- 想像しづらい…
- 770 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 17:12
- >>768
嫌いな文章ではないです。
むしろ好きなくらい。
ただのののCPでは無理でしたw
- 771 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:01
-
ビニールのプール
- 772 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:01
-
空が青い。
こういうのを青いっていうんだろうな。
すきとおってるくせにどこまでも青い空のおかげで、
庭の松も、白っぽく乾いた土も、ちょっとくずれた垣も、雑草もきれいに見える。
「ぶちあつーい」
さゆがひっぱりだした子ども用のビニールのプールでちゃぷちゃぷしている。
そして、ばかみたいに口をあけて、空を見た。
「なーんでこんなにあついんじゃろ」
艶やかなポニーテールの先から、水がしたたり落ちている。
水なのか汗なのかわからないけど、さゆのもみあげにたまった水滴が光った。
「絵里も一緒にはいろー?」
空を見あげていたさゆが、そのまま後ろ向きに体をたおしてわたしに言った。
さゆがよりかかったせいで、ビニールのふちがべコンとひしゃげて、
そこから水がちょろちょろと流れている。
少しはなれたところで頬杖ついて腰かけているわたしのところまでは、届きそうもない。
- 773 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:02
- わたしは今、さゆの実家に来ている。
休みが二日連続であるから、実家に帰ると言っていたさゆについてきた。
中途半端な時期だったけど、このチャンスを逃すと夏らしいことはできないような気がしたからだ。
連れて行ってほしいとお願いすると、さゆはとてもとても喜んでくれて、
その日の仕事おわりにスカイメートの手続きをしに行こうと言った。
前に来たとき、わたしはスカイメートのシステムを知らなくて、正規の料金で飛行機に乗ったのだ。
お金はたくさんあるから、わたしは正規の料金で乗ってもいいと言ったんだけど、
さゆはそういうところはしっかりしていて、わたしを優しく諭して手続きしてくれた。
- 774 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:02
- 「ねえ、絵里ぃ」
甘えた表情で、さゆはわたしの目をじっと見ていた。
写真集の撮影で買いとったという、ひらひらのついた赤い水着をきている。
さゆの白い肌は初夏の太陽よりもまぶしい気がする。
ほっそりしたおなかが、ぽっこり出ている。
昨日の夜、仕事が終わってまっすぐ空港に向かった。
この時期は予約しなくても乗れるから、というさゆの言葉どおり、飛行機が空席だらけだった。
チケットを取ると、さゆは窓口を出ないうちに実家に電話をかけた。
空港まで迎えにきて、というかんたんな電話だったけど、声がはずんでいた。
本当に嬉しそうだった。
そう言うと、さゆはあまり見せたことのない表情で、
「うん、うれしい」
と素直にうなずいた。
- 775 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:02
- わたしは実家を離れたことがないから、よくわからない感覚だった。
家にいて嬉しいというよりも、鬱陶しいときのほうが多い。
ひとり暮らしをしたいな、と思うくらいに。
実家についたさゆは、空港のときよりもさらに嬉しそうな顔をしていた。
家族の手前、そういうのを見せるのは恥ずかしいのか必死におさえようとしているけど、
どうしても頬がゆるんで声が高く大きくなってしまっていた。
そして、さゆはたくさん食べた。
わたしがツアーから家に帰ってきて食べるごはんが一番おいしく感じるのよりも、
さゆはもっともっとおいしいんだろうな、と思った。
- 776 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:03
- 足元で水がはねた。
わたしの足の甲を濡らして、すぐに乾いた。
緑色のホースを持ったさゆが、いひひ、とこっちを見て笑っている。
それにしても、空が青い。
ふと東京を思い出して、涙がこぼれそうになってしまった。
それは郷愁からなのか、山口の空の美しさからくるものなのか、考え込んでしまう。
水と一緒に足にかかった砂が、チリチリと陽光に熱されている。
「絵里、怒ってるの?」
さゆの明るい、けどどこか心配そうに機嫌を伺うような声がした。
「怒られるようなことしたの?」
「してない」
「でしょ、怒ってないよ」
「あ、やっぱ怒られるようなことした」
「なに?」
「さゆみ、お姉ちゃんにべったりで絵里に嫉妬させちゃった」
さゆが屈託なく笑った。
かわいいな、と改めて、でも新鮮にそう思う。
- 777 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:03
- 「それよりさ、一緒に水遊びしよ?」
「絵里も入ると、おしりがはみ出ちゃうよ」
まだ何か言いたそうなさゆは、かわりにホースの口をつまんで上に向けた。
きらきらと割れながら水は空を目指し、まっすぐに落ちてくる。
さゆが気持ちよさそうに目を細めている。
わたしの瞼のうらで、水の柱と乱反射する光に、さゆの顔が重なった。
頬がつめたくなって振り返ると、さゆのお姉ちゃんがアイスを持って立っていた。
アイスを手渡すときに、絵里ちゃん、と名前を呼んでくれた。
さゆのお姉ちゃんは優しくて、さゆの爛漫さの正反対にいるような感じがする。
お姉ちゃんの優しさのぶんだけ、さゆはかわいい。
「水遊びしよるんよ?」
さゆがそう言ってくちびるをとがらせた。
わたしからは背中しか見えなかったけど、お姉ちゃんがあきれ顔をしていたんだろう。
「さゆみの部屋の大きいほうのタンスあるやろ、下から二番目に昔の水着あるけえ、持うてきてくれん?」
すぐに笑顔になったさゆが、とろけるような顔でおねがいした。
方言を使っているさゆは、ものすごく自然で、元気だ。
「ぶちあついけえ、せん」
お姉ちゃんはぶっきらぼうに言ったけど、きっと持ってきてくれるんだろう。
言葉の温度と、ふたりの間にある穏やかさで、わたしにもわかった。
前は緊張していて見えていなかった部分が、見えている。
- 778 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:04
- アイスは、ブルーの印字がされた銀紙に包んである、懐かしい牛乳味のアイスだった。
くどいくらいの甘みがやけにおいしくて、意識はしてなかったけど体は疲れているんだろうな、と思った。
さゆはくちびるを窄めて、吸いつくようにしてアイスを食べている。
赤ちゃんみたいだ。
不意にさゆと目が合った。
「もうすぐ水着くるから、待っててね」
くちびるについた、とけた乳白色をなめながら言った。
当たり前けど、わたしとさゆは、違う。
あまりこういうことは考えたくないけれど、
わたしもさゆも、ふつうの女の子よりも明るくてかわいいほうだと思う。
けど、それでもふたりの間には本質的な部分での違いがある。
さゆのことを知れば知るほど、そこには埋めがたい差があるのだと知らされる。
わたしはさゆが羨ましい。
一番大好きで一番仲のいい友達をそういう目で見てしまうことが、寂しかったりする。
- 779 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:04
- しばらくして、お姉ちゃんが水着を持ってきてくれた。
サイズが合わなかったら、わたしのもあるからね、と少しアクセントのおかしい標準語で。
ありがとうございます、とは言ったけど、それだけでは足りないような気がした。
「絵里、はやく着替えてきなよ」
さゆの口の端に、アイスがついている。
教えようかと思ったとき急に、藤本さんとキスしたと、はしゃいでいたさゆを思い出した。
さっき、さゆのくちびるを強く意識したからだろうか。
藤本さんとも愛ちゃんともするのに、わたしとはフリだけだ。
さゆの頭を右手でつかんだ。
ほっぺと口のまんなかくらいに、わたしのくちびるがおさまった。
甘い牛乳の味がした。
- 780 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:04
- さゆはびっくりした顔をして、それから頬を赤らめた。
照れたり、恥ずかしがるのはよく見るけど、ここまで顔が赤くなったのは初めて見た。
顔が赤くならない子だと思ってた。
腰をつかまれ、プールにひきずりこまれた。
完全にバランスのくずれたわたしは膝から落ち、前のめるようにしてさゆにぶつかった。
非力なさゆにわたしを支えられるわけもなく、プールごと転がった。
水のひっくり返る感触がやわらかい。
「ばか」
さゆはそう言って、腰にまわしていた手を背中まであげた。
「ばかはさゆでしょ。濡れちゃったじゃない」
わたしはずりずりと下がって、さゆの首すじに顔を埋める。
垂直に近いかたちで立っていたプールが、ぱたんとわたしたちに被さった。
水気をたっぷり含んだ、ひんやりした空気が心地よかった。
- 781 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:04
-
- 782 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:04
-
- 783 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:04
-
- 784 名前:読み屋 投稿日:2005/07/21(木) 01:28
- 初夏にふさわしい青空のように澄み切った文章に心を奪われました
良いです。
久しぶりににやけましたw
- 785 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:07
-
「花火大会行きたいー」
「えー、ヤダ。めんどくさいもん」
いつもだったらこういうイベント、自分から連れてけ連れてけって言うくせに。
- 786 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:09
-
「行こうよ」
「人ごみキライ」
「…去年は同級生誘ってギャーギャーやってたくせに」
「若かったから」
「あーそ。あたしとふたりがイヤですか。いーよ美貴誘うから」
…と言えば、いつもなら大抵張り上げた声が返ってくるはずだ。
なんで美貴ちゃんなのって。
しかしどんなに待ってもその声は聞こえない。
今夜の花火大会も、むしろ梨華のほうが楽しみにしていたくらいなのに。
ひとみは諦めてひとつため息をついて、寝転がる梨華に近づいた。
- 787 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:10
- 「いしかー」
「…なぁに」
「穴場あるんだけど。誰も知らない絶好ポイント」
「美貴ちゃん誘って行ってきなよ」
そういえば。
いつもなら暑い暑いと言って、扇風機の前を陣取る梨華は、そう言えば今日は来てからずっと風にもあたらず寝転がっている。
そしていつもの梨華が、「美貴ちゃん誘って」だなんて、言うはずもなく。
ひとみはじいと、話していてもちっとも振り返ってくれない梨華の背中を見つめた。
「梨華」
「んー…?」
「もしかして、具合悪いの?」
- 788 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:11
- 図星らしい。
梨華の応答が止まった。
「なんだよー。言わないと分かんないだろ! ねぇ、平気?」
「平気だもん…。なんでもないもん」
「ウソこけ。顔色悪いんだけど。ふとん敷くよ」
「ダイジョーブ」
「うるさい。おとなしく寝てよ」
部屋の隅に追いやっていたふとんを引っ張ってきて、梨華をその上に転がした。
小さなうめき声は聞こえたが、ひとみは構わずその上からタオルケットをかぶせた。
「ひっどいよ〜、乙女にらんぼーしないでよ〜」
「何言ってんの。大サービスだよ」
梨華は明らかにヘコんでいた。口から出てくる言葉はいつもと変わらないなのだが、明らかに元気のなさがにじみ出ているその口調。
- 789 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:12
- 寒くもないのに(と言うか今は8月でものすごく暑いはず)顔のところまでタオルケットをかぶって、ため息ばかりついている。
「辛い?」
「ううん、平気」
「いしかーさぁ、なんで今日ばっかりそんな無理すんの」
いつもみたいに正直に言ってくれればこっちだって。
そりゃあ、もちろん体調が悪いのは本当なのだから、責め立てたりはしないけれど。
「だってー…」
伺うようにひとみをチラチラ見ては、またため息。
「なんだよ」
「楽しみにしてたんだもん。花火大会」
「知ってるよ。しょーがないじゃん」
「あたしがガマンすればいいだけなら良かったんだけど。よっちゃんだって珍しくノリ気だったんだもん…。なんか悪いよね。ごめん」
- 790 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:13
-
梨華の謝罪を聞いたひとみは、しばらく言葉が出なかった。
ただポカーンと口を半開きにしたまま、ぼうっと梨華を見つめていた。
ああ、扇風機の位置を変えよう。梨華がおなか冷やすと大変だし。
おもむろにひとみは立ち上がって、扇風機の位置をずらして頭を下に向けた。
梨華はそんなひとみの行動を不審に思い、怪訝な顔で問い掛ける。
「…よっちゃん?」
「あ、うん。お腹冷やすなよ?」
「…うん。ありがと」
「あのさー…」
- 791 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:14
- 「うん?」
「あたし、結構梨華のこと好きみたい」
あまりに突然の告白に驚いたが、やけにロマンスも何も感じられないほどストレートな言葉に、特にひねった返しができるでもなく梨華も普通に答えた。
「…うん。ありがとう」
「てゆーか、今すっげぇ好きみたい」
「そぉなの?」
「うん、好き」
なんとなく梨華の腹痛の波はひき、楽になってきた。
不思議そうに自分を見つめ、好きを連呼するひとみのほうがよっぽど重症だ。
「ねぇ、花火行ってきなよ。美貴ちゃん誘って」
- 792 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:15
- どうかしたの、と聞きたくなったが、とにかく気をそらさせようと再び話題を花火大会に戻す。
「花火に未練はないよ。もういい。来年も見れる」
「…そう?」
しかし、あっさりと交わされ。
ああ、なんだか変。
なんでこんなに見つめてくるんだろ、よっちゃん。
梨華もなんとなくひとみから目が離せなくなった。
どんどんと近づいてくる、顔。
そういえばあたし生理痛だって言ったっけ?
エッチはしないよー。辛いもん。痛いし。
なんか顔近いよ。
- 793 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:16
- 「…ねえ、なんでそんなに見るの」
「そっちが見てるんだよ」
「だってよっちゃんがー」
「もういーや。目ぇつぶって」
花火の音だけが、遠く耳をかすめた。
- 794 名前:ぽむ 投稿日:2005/07/21(木) 23:17
- end
- 795 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:30
- 「美貴ちゃん美貴ちゃん」
「ん?」
「海行きたいよ」
「は?」
- 796 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:31
- とんだワガママとうざい位くりくりした瞳が美貴に強請る。
アホ臭いと思ってシカトしていると、尚もしつこく「海!海!」とほざいてる。
こっちは仕事で忙しくしてるっつのにこのプ−は。
一緒のアパートで生活を提供してやってるこっちの身にもなれっつの。
美貴のクッション抱きしめてぐしゃぐしゃにする始末。殺すぞ。
- 797 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:32
-
「よっちゃん暇人でしょ。だったら一人で行けば」
「一人じゃつまんないじゃん」
「じゃあ友達とか」
「友達みんな仕事」
「だったら美貴も仕事なんだよ。いい加減にしろ」
「だって」
だって、何?
鋭い目でそう言い返すと、そいつは黙って俯いてしまった。
勝手にふてくされてろボケと言い捨ててパソコンに向うと、まだ何かぶつぶつ言ってる。
こちらとら夜中きたねー面下げてる部長と二人きりでカタカタ打ってんだよ疲れてんだよ。
あわやセクハラされそうになってんだぞ分ってんのか
- 798 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:32
-
「美貴ちゃん」
「なに…」
「仕事、手伝おうか?」
「………遠慮しとくよ」
パソコンぶっ壊す気だろうかこのクソガキ。
ガキつったって美貴の一個下なだけだよ?何でここまでバカでガキな奴が存在するのか分かんないよ。
気持ちだけ受け取って再びカタカタ始めると、背後からただならぬ視線。
- 799 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:33
-
アイス片手にぼけーっとして、目が合ったら嬉しそうに笑う。
………くっそーなんなんだよこいつ。狙ってるのかよ。
「忙しいんだったら、海はいいや」
「…だ、だからさっきからそう言ってんじゃん」
「じゃ、美貴ちゃんとこうしてる方が良いね」
「え…」
- 800 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:34
- ぐいっと強く手を引っ張られて、イスから飛び退く。
お尻を思いきりフローリングにぶつけて痛かったけど、気付けばそいつの腕の中。
こんな遊んでる暇無いのに。仕事片付けなきゃいけないのに。
不覚にもドキッとした自分が愚かに思えてくる…ああむかつく。
「は、離っ…」
「あれ?美貴ちゃん手ぇ冷たいよ。夏なのに変なの」
「…っ」
カーッと体中の体温が上昇するのが分かった。
なんで、こんなガキに惹かれたのかぜんっぜん思い出せないんだけど。
こういう時に限って、リードを許してしまう。
年下にいいように弄ばれてる自分も嫌だしイライラするけど、さっきみたいに殴りたい意識はなかった。
- 801 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:34
- 「あ、美貴ちゃん忙しいんだよね。ごめんごめん」
「…え?」
「こうしたら、美貴ちゃん怒らなくなるかなって思っただけ。仕事してていいよ」
「ちょ、ちょっと」
「ん?」
ドキン
- 802 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:35
-
よくみりゃカッコ良いヤツで。パッと見もカッコ良いやつなんだけど。
期待させといて、こんなことになるなんて。
「…も、もうちょっとこっちがいい…」
「わ」
- 803 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:35
-
くっそ。こんな自分大嫌いだorz。
そいつの手引っ張って抱きしめてもらうことなんかちっとも嬉しくない。
嬉しくない筈なのに…求めちゃってるんだよね。
「はは、美貴ちゃんかわいー」
「…るせ」
仕事。仕事しなきゃなのに。こいつから離れられなくなった。
こんなことしてるからキスとか期待してるんだよ美貴のバカ野郎。
頭撫でてくれたり、抱き寄せてくれたり。
意味が無い事だって言い聞かせてるけど、期待しちゃうんだよ。
- 804 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:36
-
「美貴ちゃん好きだよ」
そうやって笑うなよボケ。
こいつのそういう所がうざくて大嫌いだっつのに。
- 805 名前:BAKA バカ 投稿日:2005/08/11(木) 21:36
-
「あのさ美貴ちゃん」
「…な、なに」
「エッチしたいって言ったら怒る?」
「…………死ね」
バカの上に変態だった。
FIN
- 806 名前:作者 投稿日:2005/08/11(木) 21:37
- よしみきだったことにしといて
- 807 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/12(金) 01:22
- おい!おもしろかったぞBAKA
- 808 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/12(金) 09:26
- くそー!!こういうみきよしも大好きだぁー・゜・(ノД`)・゜・。
- 809 名前:ずっと… 投稿日:2005/08/20(土) 01:36
- 「すいません」
「いえ…」
君と初めて会ったのは、飛び乗った電車の中だった。
君に肩が当たってしまいすぐに謝った。
君は真面目そうで小麦色の肌をしていて、女の子の雰囲気をビンビンに発していた。
なんとなく話しかけてみた。
君はかなりびっくりした顔をしていたけど、俯きながら返事をしてくれた。
そのまま取り留めの無い話をしてたけど、君は赤い顔をして俯いてばかりだった。
浮かない顔をしている君の心の中を覗きたくなって、
いつの間にか君のことが気になっている自分が居た。
- 810 名前:ずっと… 投稿日:2005/08/20(土) 01:37
- 別の日にホームで君を見つけて、偶然を装って同じ車両に乗った。
君は驚いた顔をしていた。
また話しかけてみた。
「名前、なんて言うの?」
また驚いた顔をしていたけど
「石川です」
と名乗ってくれた。
「下は?」
「梨香」
「りかちゃんかぁ、カワイイ名前だね」
ニコニコしながら言うと、
「ありがと」
と顔を真っ赤にして言った。
ホントかわいいなぁ。と思いつつ
- 811 名前:ずっと… 投稿日:2005/08/20(土) 01:38
- 「この後どっか行かない?」
と唐突に聞いてみた。
突然そんなことを言われて少し警戒しつつも、
どこか嬉しそうな表情をしていた。
「もう…帰らないと…」
「何時に?」
「九時までには…」
そういいながら寂しげな顔をしている。
俯いている君の顔を覗き込んだ。
困った顔をしてさらに俯いた。
負けずに微笑みかけてみた。
君は少し笑いそっと頷いてくれた。
それが嬉しくて軽くガッツポーズ。
君はそれを見て笑っていた。
- 812 名前:ずっと… 投稿日:2005/08/20(土) 01:39
- 君の知らないことが世の中にはきっとたくさんある。
それを誰よりも先に君に教えてあげたい。
君が行ったこともないようなとこに連れ去りたい。
君の手を引いて、遠くまで行ってみたい。
今夜は帰れないよ。羽目はずして遊んじゃおうよ。
このままだと君はお嬢様のまま。そんな人生つまらないよ。
いっそのこと帰らないで、ずっと一緒に居ようか。二人で幸せになろうか。
君のことは大切にするよ。苦しめたりなんかしないよ。
一番君のことを思っているから。誰よりも君を必要としてるから。
自分のしたいことをしたほうがいいじゃん。縛られずに思ったことをすればいいじゃん。
- 813 名前:ずっと… 投稿日:2005/08/20(土) 01:42
- 君の事を初めて見たときから想ってたんだ。
名前も知らない君に惹かれたんだ。
出会ったのは電車の中だったかもしれない。ナンパぽかったかもしれない。
でも……この気持ちは本物だよ。ずっとずっと好きだよ、梨華ちゃん。
END
- 814 名前:サイダー 投稿日:2005/08/20(土) 01:45
- 『梨華ちゃん』の変換を間違えました。
スイマセン……
一応、いしよしのつもりですが、誰でも当てはまりますね…
- 815 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 07:35
- ケツメイシ
- 816 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/23(火) 15:43
- (*´Д`*)
- 817 名前:my weapon 投稿日:2005/08/25(木) 18:13
-
人間という仕事を与えられて どれくらいだ
相応しいだけの給料 貰った気は少しもしない
いつの間にかの思い違い 「仕事ではない」解っていた
それもどうやら手後れ 仕事でしかなくなっていた
- 818 名前:my weapon 投稿日:2005/08/25(木) 18:13
- 機械的な事の繰り返し
生きてる意味なんてあるのだろうか
それくらい自分で考えろと、握りしめるカッターは物言う
このまま血を垂れ流していたら、誰かが同情でもしてくれるだろうか
大丈夫、うまくいくよ
反吐が出る
無責任な顔を向けて、ただへらへら笑ってればいいだけ
アタシの何が解る
分かり合えると誤魔化して偽りの優しさを見せつけて
なにがしたい
- 819 名前:my weapon 投稿日:2005/08/25(木) 18:14
- なにをしたかったんだろう
この世界に希望を持って、自分の夢を追いかけたつもりでいた
でも掴めないでいる
愛想笑いを浮かべ素知らぬ顔を下げてニコリと仮面を付けて微笑
汚れちゃったのはどっちだ 世界か自分の方か
いずれにせよ、アタシの瞳は
開くべきなんだろう
- 820 名前:my weapon 投稿日:2005/08/25(木) 18:14
-
憶え出したせっかくの快感も
マイクを握って精一杯うたを歌うこと
飽きた、なんて思った事は一度もなかったけれど
今一度、この場所が自分にとって居心地が良いものかと思いに耽る
それが全て 気が狂う程まともな日常
そうだ
日常をそうやって送ってきた
何も考える事なく、与えられた物を全て手にしてやってきたんだ
アタシは美しくなんかなくて 優しい人間でもなんでもなくて
それでも呼吸をしていて 真実を隠し続けている
その場しのぎで笑って 鏡の前で泣いて
いつのまにか喜びを忘れていた 楽しいと感じる事も、なくなった
- 821 名前:my weapon 投稿日:2005/08/25(木) 18:15
-
愛されたくて吠えて 愛されることに怯えて
逃げ込んだ檻から 誰かが引きずり出してくれるのを待っている
汚れたって受け止める
そうだ
この世界は全てアタシのものだと気付いた
ふと目が覚めるとアタシの瞳は涙でいっぱいになっていて
感情と、よろこびをやっと手に入れて
気が狂うほどの日常を、少しだけいじって歩んで行く
立ち止まることは無いだろう
- 822 名前:my weapon 投稿日:2005/08/25(木) 18:15
-
構わないからその姿で 生きるべきなんだよ
- 823 名前:my weapon 投稿日:2005/08/25(木) 18:16
- 誰かがアタシの胸に、そう残して行った
- 824 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/25(木) 18:17
-
* BUMP OF CHICKEN ギルドの歌詞から。
アイドル業界について考えてたらこうなりました。書きなぐりですいません。
- 825 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/26(金) 00:50
- (゚Д゚)ハァ!
- 826 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/30(火) 16:26
- かおよしキボンヌorz
- 827 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:15
-
あたしは梨華ちゃんによく、「カワイイね」とか「綺麗だね」とか
いうんだけど、梨華ちゃんは全然言ってくれない。
もしかしたらあたしのことをそんな風に思ってないのかもしれないけど、
やっぱり思っていてほしいと思う。
あたしだけこんなに思っているのは損してる気持ちになる。
「梨華ちゃんさぁ、あたしのことカワイイとかカッコいいとか思ってる?
あたしはいつもカワイイカワイイ言ってるけど、
梨華ちゃんが全然言ってくれないじゃん!」
「そうだっけ?別に思ってるけど?」
梨華ちゃんは特に気にも止めずにテレビに見入っている。
- 828 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:16
-
もういいよ!!どうせあたしが勝手に惚れただけだし・・・
お情けで付き合ってくれてるだけだろうし・・・
ヤキモチだって全然焼いてくれないし・・・
あたしはたまにヤキモチを焼いてほしくて
他の子とベタベタすることがある。
でも梨華ちゃんはこっちすら見ずに他の子と雑談をしている。
あたしなんかヤキモチ焼きまくりで周りに飽きられてるくらいなのに。
もういいよ!!片思いだっていいよ!!
あたしはソファーから立ち上がり、拗ねたついでに散歩に行こうとした。
- 829 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:17
-
「何処行くの?」
梨華ちゃんの声がしたがあたしは拗ねていることを強調しようと
無視をした。
「ねぇ、何処行くのってば!」
梨華ちゃんも立ち上がり、玄関まで付いてきた。
「別に。散歩してくる」
「別にじゃないじゃん。散歩に行くって決まってるじゃん」
「・・・行ってくる」
「待って。私も行く。なに拗ねてんの?」
なんだ、気付いてくれてたんじゃん!
ってあんだけ分かりやすい拗ね方もないか・・・
あ、帰りにお茶買ってこよう。
- 830 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:18
-
「ちょっと財布取って来る」
「え〜、早くしてよ〜」
あたしは財布を取りに部屋に戻り、すぐに戻ったつもりが
梨華ちゃんはすでに居なかった。
「なんで居ないんだよ。どこいったんだよ!」
あたしは急いでエレベーターまで行ったが
もう下に向かったところだった。
階段で降りたほうが早いと思い、走って下っていった。
ハァ、ハァ、ハァ・・・・ハァ
なんであたしがこんなに走んないといけないんだよ。
- 831 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:19
-
下に着いても梨華ちゃんは居なかった。
エレベーターはとっくに着いているはずなので、先に出たみたいだった。
「なんで先・・・行くかな・・・」
角を曲がったところで梨華ちゃんを見つけた。
梨華ちゃんは何でもないような顔をしている。
あたしは少しムカついて、梨華ちゃんに歩みよった。
「なんで先行くんだよ!
今もう遅い時間なんだから一人で出たら危ないでしょ!
襲われたりしたらどうするのさ!」
襲われることなんて無いとは思うけど、梨華ちゃんはカワイイから
やっぱり心配で・・・
梨華ちゃんも反省した顔をして「ゴメン」と小さく言った。
- 832 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:20
-
そしてあたしは梨華ちゃんの手を引いて歩き出した。
しばし無言のまま歩いていると、梨華ちゃんが話しかけてきた。
「さっきさぁ、カワイイとかカッコいいとか思う事あるの?って
訊いてきたじゃない?あれね、結構あるよ」
いきなりその話を振られたのと「結構あるよ」と言われ、
あたしはニヤついてしまっている。
「カワイイと思うときは常にだよ。寝顔とか・・・カワイイもん」
自分で言ってて恥ずかしくなったらしく俯いている。
あたしはニヤニヤしながら追い討ちをかけるように言った。
- 833 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:22
-
「他には他には??」
「他には・・・さっきとか?」
「さっき?」
さっきっていつのことだろ。階段を走って降りてきたのが良いとか?
それならこれからは階段で降りるしかないよね、うん!
「怒ったときだよ、私のこと。
あんなに走ってさ、心配してくれて。
小さい事かもしれないけど、嬉しいんだよ。
カッコいいなぁって思った。愛されてるのかな?って」
あたしはたぶん顔が真っ赤にだと思う。
ここまで言われるとは思っていなかったから、
なんか嬉しくて恥ずかしくて・・・梨華ちゃんを抱きしめた。
- 834 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:22
-
抱きしめると梨華ちゃんの匂いがする。
なんでこんなに良い匂いがするんだろう。
梨華ちゃんもあたしの背中に手を回して抱き返してくれた。
あたしの胸の中でまた話始めた。
「あとね、、、私結構ヤキモチ焼きだから・・・」
梨華ちゃんの意外な一言にあたしは耳を疑った。
「え、だって全然平気な顔してるじゃん」
「そりぁあの場では普通にするでしょ。
よっちゃんみたいに子供じゃないもん!」
うっ、、、確かにあたしは露骨にヤキモチを焼くため
周りに気を使わせてるんだよね・・・
- 835 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:23
-
「あんなベタベタしてさ、バカじゃないの?
それなら美貴ちゃんと付き合えばいいじゃん。
あたしじゃなくてもいいじゃん!」
うわ、梨華ちゃんがヤキモチ焼いてる。今まで一度も見た事なかったけど、
梨華ちゃんがヤキモチ焼いてるよ〜〜〜〜〜!!!!!
なんか・・・すごい嬉しいよ〜〜〜〜〜!!!!!
あたしは梨華ちゃんと体を少し離して顔を見えるようにした。
梨華ちゃんはあたしの服をぎゅっと掴んで口を尖らせている。
カワイイなぁと思いながら、そっと口づける。
梨華ちゃんも優しく応えてくれる。
- 836 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:24
-
短い口づけのあと、あたしは梨華ちゃんへの思いを話した。
「あたしがヤキモチ焼きまくるのは梨華ちゃんだけだから。
他の人とかあり得ないし・・・分かってるでしょ、
こんなに好き好きビーム出してるんだから!!」
梨華ちゃんは優しく微笑んで、「私も」と言ってくれた。
二人で手を繋いで家に向かい、愛を確かめ合った散歩を終了させた。
マンションに着いてからも、愛を確かめ合う予定だけどね。
- 837 名前:思うコト 投稿日:2005/09/22(木) 03:26
-
あたしはとても愛されているみたいだ。
あたしが梨華ちゃんを思うぐらい、
梨華ちゃんもあたしを思ってくれている。
こんな幸せな事は無いだろうな。。。
もう一生無いだろうなぁ。。。
これからもこの幸せが続くといいなぁ。。。
いや、続けさせて見せる!!
梨華ちゃんを愛し続けていれば、梨華ちゃんも愛し続けてくれる。
そう信じて、愛し続けていこう・・・・・・・・・
END
- 838 名前:スカッシュ 投稿日:2005/09/22(木) 03:30
- いしよしでした。
よっちゃんが梨華ちゃんに惚れている方が好きなんです・・・
どうもありがとうございましたm(__)m
- 839 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/22(木) 18:01
- (・∀・)イイ! 楽しかったYO〜!
- 840 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:23
- 美貴は矢口さんが好き。
あのちっちゃくて元気で頑張り屋な可愛い人。
大好き。
好きで好きで仕方が無い。
一緒に居ると、抱きしめたくなるくらいに。
でも知ってる。あの人の視線の先には、いつだって。
「よっすぃ〜!」
「うあ、矢口さん、重いです」
- 841 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:26
- 天敵。
ライバル。
ちくしょう、お前、羨ましすぎだろ。
そのくせ、天然鈍。
矢口さんの想いなんて、いっこうに気付いてない。
さらに悪い事に、たらし。
梨華ちゃんとかごっちんはもちろん、五期六期にまで手を出してるんですよ?
矢口さん、とっととそんなヤツ諦めるべきです。
貴方の傷は、美貴が直してあげますから!
- 842 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:33
- 「よっすぃ〜、今日の夜、ご飯食べに行こうよ」
「あ、いいですねえ。久しぶりですね」
……。
届かぬ思いってやつですか。ああそうですか。
美貴とご飯食べに行った事ありましたっけ、矢口さん。
「ミキティ、何怖い顔してるのー?」
「うるせえんだよピンク」
「酷! 酷いよ美貴ちゃん! あたしのなにがいけないの!?」
「ピンク。顎。チャーミー」
古いネタをずばずばいってやると、今更ー!?って泣きながらどっかに行ってしまった。
しったこっちゃない。
「はあ」
「お、なんだミキティ。恋の悩みかー?」
よっちゃんさんがバカみたいに笑いながらこちらにやってきた。
うっせーよ、お前に言われたくねー。
「機嫌悪いね、なんかあった?」
優しく聞いてくれる、頼もしいね。
でもね、今は、そんな気分じゃないの。
「美貴、梨華ちゃん探してくるから」
立ち上がって、楽屋から出て行く。
ねえ、嫉妬で気が狂いそうだよ。
よっちゃんさんの顔見てると、叩きのめしたくなるくらいに。
- 843 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:34
-
……。
あ、そうだ。
いいこと思いついた。
美貴って天才!? コレは使えるよ!!
早速本気で梨華ちゃん探さなきゃ!!
「あ、いた。梨華ちゃん」
「いいの、あたしはどうせチャーミーキャラで寒いし顎だしピンクだし……」
「おい、石川。人の話聞けや。ネタが古いぞお前」
座りながらぶつぶつ言ってる石川の頭に蹴りを入れてやった。
正気に戻る石川。
「美貴ちゃん……」
「ごめんね、さっきは美貴が悪かったよ。だから美貴のいう事聞いてくれる?」
「え、美貴ちゃん、それは何か間違ってない? 普通反対じゃない?」
「いいから聞けよ」
「はい」
素直に聞いてくれる梨華ちゃんに、美貴はある事をふきこんだ。
「あのさ、よっちゃんさんがね」
「よっすぃーが!?」
「梨華ちゃんとキスしたいって」
「ホント?!」
嘘だよ。
「うん、ホントホント。でね、してあげなよ」
「そうね!」
阿呆だなー、この人。
「で、そこで美貴のお願い」
「え?」
「矢口さんの見える所でしてよ」
「え? 人前でするの?」
何赤くなってんだよ。チャーミーキャラよりマシだろ。
「うん。絶対に矢口さんの前でね。いい? よっちゃんさんがしたいっていってたんだから。それに、きっとライバル減るよ」
「そ、そうね! わかったわ。やってみる」
素直だな、この人。てか絶対よっちゃんさんとキスしたいだけなんだろうな。
- 844 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:36
-
「よっすぃ〜」
「あ、石川ぁ! どこ行ってたんだよ! お前あたしの台本持ってっただろ!」
「え? あ、それならあたしの鞄の中だ! ごめんね、よっすぃ〜」
「もぉー、しっかりしてくれよー」
梨華ちゃん、何やってるの。頑張ってよ。
今なら矢口さん、よっちゃんさんの後ろに居るから。
「あ、そうだ。ひとみちゃん」
「ん? なに? てか、ひとみちゃ……」
よっちゃんさんが固まった。
梨華ちゃんにキスされて、大きく目を見開いている。
「え? な、なに?」
唇を押さえてよっちゃんさんが梨華ちゃんから距離を置く。
周りが騒ぎ出した。
あー、ヤッパリ付き合ってたんだーなんてのん気な声が聞こえてくる。
あたしは矢口さんに目を向けた。
矢口さんは、傷ついたように悲しそうな顔をしていた。
そして、楽屋からこっそり誰にも気付かれないよう、出て行った。
よっちゃんさんは、後ろを向いてるから知らない。
周りは、よっちゃんさんと梨華ちゃんを見ているから気付かない。
美貴だけ。
美貴だけが知っている。
これで、美貴が矢口さんを慰めれば、矢口さんは美貴の物。
「あ、あたし、トイレ行って来る!」
よっちゃんさんが、場の空気に耐えられなくなったのか楽屋から飛び出した。
美貴も、そろそろ矢口さんを追いかけなくちゃ。
「美貴姉ぇ、どこいくとー?」
「美貴もトイレ」
- 845 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:37
-
矢口さんはどこに居るんだろう。
スタジオ内を歩き回っていると、声が聞こえてきた。
この声は、矢口さん?
廊下の奥のほうでなにやら言い合っている声が聞こえてくる。
美貴がそっちに言ってみると、やっぱり矢口さんが居た。
「な、なんで泣いてるんですかぁ」
困りきったような、弱りきったようなもう一つの声。
え?
なんで、よっちゃんさんが?
「うるせーな! なんででもいいだろ! 何でお前が此処にいんだよ!」
そーだそーだ!
「泣きそうな顔して楽屋出て行かれれば誰だって追いかけますよ」
気付いてたの!?
侮れないヤツだな。くそっ、もう少し早く出てけば。
後ろにも目のあるヤツだったか。
- 846 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:38
-
「誰だってかよ。そうやっていっつもおいらの気持ちはぐらかして……」
あれ、ちょっと待ってよこの雰囲気。
「……気付いてますよ。矢口さんの気持ちぐらい」
いやいやいや。なにそれ待ってよ、この展開。
「嘘吐き」
「嘘じゃないですよ。気付いてなかったら、こんな風に追いかけたりしません」
「誰だって追いかけるって言ったじゃん」
「いや、それは言葉のあやってやつで……」
「なにしどろもどろになってんだよ」
あ、矢口さんが笑った。かわいいなあ。
って、違うよ、美貴。激しく違うよ。
考えろよ、今のこの雰囲気は危ない。やばい。
何とかしてぶち壊さなきゃ。
でもまさかここに入っていくのは勇気いるなあ。
「えーと、あたし、矢口さんが好きです」
って考えてるうちに言われちゃったー!?
しかも超直球な告白だね!!
- 847 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:39
- 「矢口さんだから、泣きながら出て行くの、気付いたんです」
「泣いてねぇーっつの」
「今泣いてるじゃないですか」
よっちゃんさんが、矢口さんの頭を撫でた後、矢口さんを抱きしめた。
「泣かないでください」
低く掠れた声。緊張してるんだろう。
矢口さんは、一瞬、さらに涙をこぼして、だけど強く頷いた。
うわー。もしかして、美貴、失恋?
ううん、もしかしてじゃなくても。
失恋決定。
……計画失敗。そんな四文字が頭に浮かんだ。
失恋したんだから、これ以上、デバガメしてる必要も無い。
美貴はふらふらとその場から離れていった。
「矢口さんが、いつもあたしを引っ張ってくれるから、あたし、安心して前に進めるんです」
だから、今度は吉澤が矢口さんを引っ張っていきますから。
そんな言葉が背後から聞こえた。
- 848 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:39
-
泣きたい。
なんでよ。
こんなはずじゃなかったのに。
「あ、美貴ちゃーん。よっすぃ〜知らない?」
「……向こう」
梨華ちゃんの言葉に力なく指差す方向は、恐らく抱き合っているであろう二人組みの方向。
お前も失恋しろ。
「あれ、美貴たん、どしたの?」
「ああ、亜弥ちゃん」
「なんかすんごく泣きそうな顔してるねー」
「んー。まあね」
「何があったか知らないけどさ、元気出して!」
理由も良く分かってないのに、亜弥ちゃんはそう言って励まそうとしてくれる。
そうだよね。
早く、新しい恋を見つけるべきだよね。
「ありがと、亜弥ちゃん」
美貴が笑うと、亜弥ちゃんも笑った。凄く魅力的な笑顔で、ちょっとだけドキドキした。
- 849 名前:策士策に溺れ。 投稿日:2005/09/23(金) 04:41
-
「石川おめー、おいらのよっすぃ〜になんでキスしたんだよ!」
「え?! だってよっすぃ〜がしたいって!」
「そんな事誰も言ってないだろー!!」
「えー!? 嘘でしょー!」
あ、忘れてた。
なんか怒られてるし。
流石に悪かったかなあ。
「しかもおいら達今良い雰囲気だったのに! ぶち壊しやがって! 空気読めよ! 空気!!」
「ご、ごめんなさいー!」
……ごめん、梨華ちゃん。早く新しい恋を一緒に探そうね。
でも、空気読めなかった梨華ちゃんも悪いんだよ。
それは美貴のせいじゃないからね。
オワリ。
- 850 名前:名無し飼育 投稿日:2005/09/23(金) 23:17
- 最高でした、マジで
是非また書いてください
- 851 名前:リバーシブル。 投稿日:2005/09/27(火) 23:19
- あたしは所謂同性愛者にモテるようで、女子高にいた生もあってか在学中に五人の女の子に告白された。興味のなかったあたしはそれらを全て断り、普通の女子学生の生活を送った。
大学に入ってから、あたしはまた一人の女の子に告白された。一つ年上の、生物学部の人だった。あたしはそれにもちろん断った。
ある時あたしがルームシェアの相手を探していると、その人がやってきて言った。
「うちにこない?」
話を聞けば、親の持っているマンションに一人暮らしらしい。家賃を三分の一の支払いでいいから一緒にすまないかと聞かれた。
家賃三分の一に惹かれてあたしは即OKした。
- 852 名前:リバーシブル。 投稿日:2005/09/27(火) 23:19
- 同性愛者との同居は別段奇妙なことは何もなく、淡々と過ぎていった。
彼女はあたしのために掃除と洗濯をしてくれたし、あたしは彼女のために料理をした。
あたしがその関係を夫婦みたいだねと何気なしに呟くと、彼女は笑いながら、「でも夫婦に離れないんだよ」と悲しそうに言った。
その横顔が今にも泣き出しそうだったのでごめんと慌てて謝った。
すると驚いたように彼女はあたしを見て、ほんの少し笑った。
「どうして謝るの?」
「何となく」
「ひとみちゃんの優しさは残酷ね」
あたしの名前を呼びながら、彼女はそう言うとほんの少し泣いた。あたしはそれを黙ってみていることしかできなかった。
どんなに泣かれようとせがまれようとあたしは女の愛することはできないし、ましてや彼女の愛を受け入れるわけにはいかない。
それでも彼女はあたしを愛してくれた。
叶わぬ恋、届かぬ想いっていうのは一体どれだけ辛いんだろう。残酷にも、他人事のようにそう思った。
- 853 名前:リバーシブル。 投稿日:2005/09/27(火) 23:20
-
ある時彼女は自分の過去について話し出した。彼女の初めてのカムアウトの話だった。親友だった子に話したら、気持ち悪いといわれたと彼女は言った。それ以来、カムアウトは怖いと彼女は力なく笑っていた。
あたしのときは怖くなかったのかと聞いた。
「だって、ひとみちゃんは何もかもを受け入れそうだったから」
そうかもしれないと思った。ただ思っただけで、彼女にはそれを伝えなかった。伝えていたら、何か変わっただろうか。いや、伝えた所で一体なにが変わったんだろう。
- 854 名前:リバーシブル。 投稿日:2005/09/27(火) 23:20
- 大学を卒業した彼女が酷く酔って帰ってきた時、彼女は涙目で私に聞いた。
「キスしてもいい?」
私はそれを許した。何故許したのか今でも分からない。彼女が涙目だったからか、それとも、酷く酔っていた彼女に同情したからか。
唇が触れても、私は嫌悪を感じなかった。
だからといって、愛しさを覚えたわけでもない。
ただ、彼女が言ったようにあるがままを受け止めていた。
彼女は酔っ払いながら泣いた。
「やっぱり、ひとみちゃんは残酷ね」
そうかもしれないと思った。
「じゃあ、もうやめようか」
割と静かな口調で言えたと思う。彼女は何度も頷いた。
何をやめるのか良く分からなかった。
同居か、恋か、優しさか。
- 855 名前:リバーシブル。 投稿日:2005/09/27(火) 23:21
- 私達はそれから一年二ヶ月ほど同居していたが、私の就職先が決まったので私が出て行くことになった。
自分が卒業してもなお私を置いてくれた彼女は穏やかな微笑みを浮かべて、手紙頂戴ねと言った。
私は頷いた。
- 856 名前:リバーシブル。 投稿日:2005/09/27(火) 23:21
-
何てことの無い二年だった。
彼女は私に何もしなかったし、私は彼女に何もできなかった。
それはいけなかったのかもしれないし、それで良かったのかもしれない。
- 857 名前:リバーシブル。 投稿日:2005/09/27(火) 23:22
-
私はやさしく光る月を見上げた。
月は時に優しく残酷だ。
――否、優しさと残酷さが似ているのだ。
優しさは裏返れば残酷だし、残酷さは時に優しさにもなるだろう。
「ひとみちゃんは残酷ね」
――そう言った彼女の本当の意味が分かった気がした。
- 858 名前:リバーシブル。 投稿日:2005/09/27(火) 23:24
- END
生まれて初めてのいしよし。
前作の策士策に溺れ。と全く違った雰囲気になってしまった。
正直三十分弱でかきあげたものなので意味不明かも。
すみません。
- 859 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/29(木) 22:43
- よかったですよ。
でもせっかくのよい作品だから変換の間違いはチェックした方がいいですよ
- 860 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:32
- 「あんたが悪いんでしょー?」
「えー、うっそー。」
「いいけど、やるけどー。」
そう言って、目の前に散らばったクッキーを一つ一つ摘み、全て皿の上に置きなおして。
じっと悲しそうに見た後、捨てた。
「せっかくの手作りだったのにな。」
「ごめん。」
「正直なとこ、同時にぶっかったんだし。おあいこだよ。」
残念だけどさ、そう口にして小さな皿に避けてあったクッキーをひとつつまむ。
ほいっと口に入れると、ほわっとした笑顔。
「ちょっとしかないけどさ、おいしいし。」
「うん。」
自分もひとつ頂いて、口に放ってみる。
うん、おいしい。
- 861 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:32
- 「ねえ、マサ。」
「ん?」
「デートしよっか?」
デート。
デート。
うーん…デート。
「何あんた深く考えてんのよ。別に近所の薬局行くだけだってば。」
「…お供しまぁす。」
やっぱりね。やっぱりさ。
分かっていたことでございます。
いつもこうやってこうされて……言いなりっぱなし?私。
- 862 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:33
- ひとみんはテーブルの上に置いてあった鍵をひったくるように持つと、あんた準備は?と聞いてくる。
いやいや、あなたのほうが準備いるんじゃないの?なんて思ってしまう。
と、ふと気付くと彼女にいつものようにギラギラさせてるものが見当たらない。
「ねえ」
「んーぁ?」
「スカルプは?」
「今日はお休み。」
「ふーん…」
- 863 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:34
- なんだか不思議だった。
あるものがないっていうのは。
いつもだったら爪が黒だったり緑だったり紫だったりでピカピカしてるのに。
そんなことを考えていたら置いていかれそうになったので、靴を履き損ねながら追いかける。
「そんな急いでないってば。どうしたの、今日。」
「いや…なんでもないけど。」
私の一言に少し首を傾げるものの、そのまま階段をトトントトンと下っていく。
私はその背中を3歩後から追いかけるように、トトトントトトン。
後姿が危なっかしいなんて考えていたら、突然振り向いて、パンッと両手を合わせてニコニコしている。
- 864 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:34
- 「あ、そうだひとあれ欲しいの!」
「あれ?」
「プーさんのまくら」
「あーた、家じゅうプーさんだらけなのに…また増やすのかい。」
「だってだってかわいかったんだよ!メロン持っててね、こんなんなってんの。」
身振り手振りで大げさに教えてくれる姿が、子供っぽくてしょうがない。
いつもはあんなにセクシーぶってるのに、ホンモノはこんなんなんだもんなー。
そう考えていると、思わずふきだしてしまった。
「やだ、ちょっとなによー」
「いやいや、なんでもないですよぉ」
「うそっ!ちょっと、なんで笑ったか言ってみなさいよ!」
「あ、薬局着いた。サイトー様ご一行到着でーす。」
そういうと、もう!なんてふくれっつらで。
それを見るとやっぱり笑えてきてしまう。
- 865 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:35
- シャンプー見ながら唸っているひとみんを見ながら、そういえばなくなってたな、なんて。
ていうか、私ひとみんチのシャンプー使いすぎ?
ていうか、ひとみんチ来すぎ?
「マサ、これ使おうこれ」
「お好きなのにしなさい。」
「うん!」
シャンプーとリンスのでっかいボトルを両手に抱えて、レジまでてこてこ歩く姿はまるでペンギンのようだ。
またふきだしてしまいそう。
でも、やってしまったら今度こそ彼女の機嫌を損ねてしまいそうだから、頑張って堪えた。
あ、財布落としてるし。
ダメだなあ。
ようやく会計が終わったようで、てってっと私の元に小走り。
- 866 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:35
- 「財布落としちゃった」
「見てた見てた」
「助けなさいよ!」
「いやー…ねえ?」
「意味わかんないし」
そのまま薬局を出て、夕飯の買出しにスーパーへ。
今日はひとみんお手製の肉じゃがに大決定だったから、目的以外の買い物はしなかった。
二人でひとつのビニール袋を持ちながら歩く。
なんとなく、っぽい気分。
ひとみんの家までゆったりだらだら。
特に会話という会話もなくて、ひとみんが喋らないのは珍しいななんて思いながら。
- 867 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:35
- 階段の前に来て私が荷物を持って、ひとみんが先に行って鍵を開けることになった。
ふっと上を見ると。
!!!
……見えた。
黒か…
忘れなきゃ。
「マサはやくー」
「あー、はいはい〜」
- 868 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:36
- 青色のドアを開いてくれてて、そのまま靴を飛ばして冷蔵庫に直行。
ビニールの中身はさっさっと投入。
「マサぁー」
「おーっと、重いですよー」
突然後ろからひとみんが抱き付いてきた。
胸!胸あたってるから!!
「遊んでー」
「買い物行ったじゃん」
「なんかもっと別のぉ」
耳元で言うし、やけに艶っぽいし、ほのかに息が熱いし…
脳裏に黒い物体がよぎる。
あー、だめだだめだだめだ。
- 869 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:37
- 「マサぁぁ〜」
さらに強くぎゅっと抱きつかれる。
………。
目の前に洗面所の扉。
都合よく半分空いてる。
「…知らないからね。」
- 870 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:37
- 体勢を変えて、私が洗面所側にまわる。
そのままひとみんの腕を引き込む。
痛いなんて言った気がしたけど、気にしない気にならない。
気にすることなんかない。
ここまで強気できたはいいけど、どうにも向かい合わせになると気恥ずかしくなる。
「……。」
「…っ!」
でも、やっぱり、ひとみんが悪いんだ。
- 871 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:37
- ――そのまま真っ暗な中上から順にボタンをはずしていく。
見えなくたって分かる。
洗面所の電気も、お風呂の電気も消してて、鳴っているのは換気扇の音と、衣擦れの音だけ。
インナーだけ残してしまって、目が慣れてきて。
なんか、すっごい恥ずかしくなってきてしまった。
そのまま抱きつかれて、奪われる。
なんだ、しっかりその気だったんじゃん。
ちゃんと最後まで脱がせたけど…そんなに見えてないっていうのに、ひとみんは床にへたっと座り込んでしまった。
- 872 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:37
- 「どした」
「だって、こんなの初めてなんだもん…」
「私だってだよ」
むぅと唸り声を上げて、そのまま私にしがみついてきた。
私もいい加減服脱がないと。
「マサのも…ひとが脱がしてあげる。」
やけに震えてる声が印象的だな、なんて思った。
ゆっくりゆっくり、私のパーカーのジッパーを下げていく姿がいとしくていとしくて。
ようやく最後まで脱がすのに到達したら、ひとみんの身体は冷えてしまっていた。
- 873 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:38
- 寄り添いながらバスルームに移動する。
やっぱりひとみんの身体は震えていて、鳥肌立ってるわけじゃなかったから寒いのではないだろうけど。
シャワーを捻り、結構熱めだったので調節しながらお湯を出す。
私よりも先にひとみんに、ざっとそのままシャワーを浴びせてあげた。
「なんか、ひと、見えなくて恥ずかしい」
「私は見えてるほうが恥ずかしいけどね…」
「ひとだって見えてないほうがいいけどぉ…なんかやらしい…。」
なんでこいつはこういうこと言うかな。
私を煽るだけだって知ってるのかな。
まったく…
そういつものように思いながらも、そのまま首筋から順に口付けていった。
- 874 名前:日常 投稿日:2005/10/01(土) 22:39
- メロンの話でした。
あんまりないので書いてみました。
お粗末さまでした。
- 875 名前:7名無し 投稿日:2005/10/05(水) 18:14
- 素敵な斉大をありがとうございます。
確かにメロンの話は少ないですよね…
では、便乗して私も書かせて頂きます。
お見苦しい所もあると思いますが、宜しくお願いします。
- 876 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/05(水) 18:32
- 私は今、雑誌を読んでいる。主婦向けの料理雑誌だ。
美容院で女性週刊誌に混ざって置いてあるのをよく見たが、手にとって見ることはなかった。
今なぜ、その雑誌を読んでいるのかというと表紙に気になる見出しがあったからだ。
「肉を使わずヘルシーに」
これを見たとき、メガネの彼女の顔が頭に浮かんだ。
- 877 名前:肉無し 投稿日:2005/10/05(水) 18:57
- 彼女というのは、同じグループで自分とは一番年が離れてるメンバーの村田めぐみの事だ。
私は「めぐちゃん」と呼んでいる。めぐちゃんは肉が嫌いなのだ。
「あれ、あゆみん珍しいもの読んでるじゃん」
瞳ちゃんに話し掛けられた。楽屋でこんなもの読んでたら、突っ込みたくなるのは当然か…
「うん ちょっと…」
「あっ わかった!村っちに作っってあげるんだ」
私の見てたページを見たとたんにバレた。
まあ、隠す事でもないけど、せめてもう少し小さな声で言ってほしいものだ。
「えっ あゆみん、村っちに手料理作ってあげるの?」
あーあ マサオまで寄って来ちゃった。
この場に村っちがいなくてよかった…
- 878 名前:肉無し 投稿日:2005/10/05(水) 19:21
- 「愛情のこもった手料理作ってあげるんでしょぉー」
「いいないいな、相変わらず仲良いんだねー」
二人に冷やかされてる様な気がして、少し居心地悪い。
だけどいい機会だから、私が普段から思ってる事を二人に話すことにした。
「めぐちゃんみたいに肉が食べられないとさ、かなり食べるメニューが制限されちゃうと
思うんだよね。一緒に食事に行くとさ、メニュー見て少し困った顔してる事あるし」
「だから、作ってあげようってわけだね」
「そんな感じ」
瞳ちゃんもマサオも口元が笑ってる。何だか恥ずかしい。
「じゃぁ 村っちには内緒にしておいてあげるから、頑張って!」
そう言い残して瞳ちゃんはマサオとどっかに行ってしまった。
私は一人、楽屋に残される形になった。
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