わたし達の離島
- 1 名前:初風 投稿日:2004/06/03(木) 19:22
- こんにちわ。初風と言います。
以前、友達の背中と言うのを書いていました。
今回は道重と亀井の二人の話を書きたいと思います。
レス大歓迎。お暇な時に読んでやって下さい。
- 2 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:23
-
- 3 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:25
-
水の流れに沿って、わたし達の日々は
ただ静かに過ぎてゆく
- 4 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:28
- 1
頼りなさそうな指が、ぎこちないリズムで鍵盤を走る。
楽譜は無い。でも少女は旋律をすべて憶えていたので、ずっと鍵盤に視線を落としている。
音楽室の窓から斜めに差す朝陽に、顔半分が照らされ、漆黒の髪の毛がきらりと光っていた。
夜の冷たい空気が残っているのか、室内はひんやりとしていて彼女の息づかいや体温さえも
感じられず、淡々と奏でられるメロディーだけが響いている。
リズムに乗せて、少女のぴんと伸びた背筋がわずかに動き、肩にかかっていた黒髪がさらり
と揺れた。
少女の視線は相変わらず音を奏でる白と黒の鍵盤に注がれていて、何も感情がこもっていな
いように、瞬き一つしなかった。
やがてメロディーは山場を迎える。
《ソナタ第8番「悲壮」第2楽章》
- 5 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:30
-
* * * * * *
警報機が鳴った。もの凄くけたたましい音でさゆみの耳を通って行く。
さゆみは耳を塞ぎたかったが出来なかった。先程から手足が思うように動かないのだ。
さゆみは諦めて警報機が鳴りやむのを辛抱強く待った。
しばらくするとその音はあっさりと止み、そして再び静寂の波が押し寄せて来る。
静かだ。とても静かだ。
身体は宙に浮いているように軽く、力が入らない。いや入れる必要など無いのだ。
さゆみは閉じていた瞼をゆっくり開けた。
光に反射している水面が見える。水面はゆらゆらと揺れていて、地上からの光が
こちらにも差し込んできている。
ここは深い深い水の底らしい。
気が付くと波の音だと思っていた物が、自分の名を呼ぶ声に変化していた。
とても遠くの方から、まるで布に二重三重に覆われているようにぼんやりとした
感じでこちらへ届いて来る。
さゆみはなるべくその声の方角へは行きたくないと、本能的にそう感じた。
しかし行かなければならない、と言う危機感もあった。
- 6 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:33
- 身体はどうしても力が入らない。でもさゆみはそれを良い事にずっとこの場にいれると思
い、にやりとした。
だが声は徐々にボリュームを上げて行く。自分に近づいて来ていると思ったが、近づいて
いるのは自分の方らしい。身体がどんどん水面に向かって上昇しているのだ。
頭が覚醒して行く内に、その声の主に要約気づき始める。
さゆみは落胆した。
――ぽちゃん
その時、一滴の水が、透き通った水面に向かってこぼれ落ち、波紋を広げた。
――さゆみ
- 7 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:34
- 予想した人物とは遙かに異なった声で、自分の名が呼ばれた。
落ち着いた、感情の無い声だった。
一瞬の内にさゆみの身体が水面に吸い込まれて行き、水の感覚が引いていった。
そして重かった筈の瞼が開いた。
「さゆみッ!」
鋭い音と共に、自室の扉が乱暴に開かれた。
母だった。
「何回呼べば気が済むのッいい加減起きなさいッ」
「……もうちょっと」
さゆみは態とらしく声を煩わせると、枕に顔を埋める。
母は威勢良く部屋へ入ると、さゆみの布団を思い切りひっぺ返した。
さゆみは短い悲鳴をあげると、母を上目遣いに睨む。
「そんな目してもダメッ何時だと思ってるのッ毎回これじゃ癖になるでしょッ!大体……」
と、母は言いかけて部屋を見回し、転がっていた目覚まし時計を見つける。
そしてさらに顔を赤くして。
「目覚まし時計を何回壊せば気が済むのッ!?これじゃ目覚ましの意味が無いでしょッ」
- 8 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:37
-
「もうッお母さんのバカ。なんでもっと早く起こしてくれなかったのッ」
と、お門違いな怒りを燃やすさゆみは、ブレザーのボタンを掛け間違えたまま部屋を出た。
ヘアゴムを片方口にくわえ、もう片方を結びながら、階段を駆け下りる。
居間へ入ると母が朝食を作っていた。
「いらない」
さゆみは、キッチンに立つ母の背中を見て反射的にそう言った。
足早に洗面所へ向かうと、母が台所から顔だけ出して、洗面所に向かって叫ぶ。
「パンだけでも食べていきなさい」
さゆみは歯ブラシをくわえたまま「いはない」とはっきりしない口調で答えた。
「何言ってるのか分からないわよ。パンね?」
と母の声がする。
さゆみは心の中で舌打ちした。分かってる癖に。
口を軽くゆすぐと、綺麗に畳まれたタオルで顔を拭く。
タオルの感触が布団の暖かい感触を思い出させるが、そんな場合では無かった。
さゆみは肺一杯息を吸うと、大きく吐きだした。
こうすると、身体の中に残る寝起き特有のだるさが全部抜けて行くような気がするのだ。
ほんの3週間前に発見した技である。
さゆみは洗面所を後にすると、母が自家製のロールパンを一個さゆみに手渡した。
- 9 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:39
- 「これくらい食べれるでしょ」
さゆみは「ん」と面倒くさそうに返事をする。その後で「いってきます」
と早口で言い、口にパンをくわえたまま黒のローファーを履く。
「忘れ物とか無いの?」
母がそう言った頃には、もうさゆみは家を後にしていた。
家の前には母がいつも使っているママチャリがあった。
さゆみは腕時計を確認し、もう一度ママチャリに視線を注いだ。
このママチャリは母が夕方に、下の商店街まで買い物に行く時だけに使う物である。
したがって、さゆみが学校から戻って来るまでは使わない筈であった。
さゆみは口にくわえたパンを煩わしそうに口の中に詰め込むと、意を決して、ママチャリ
のチェーンを外す。
母には悪いと思ったがこれしかなかった。
さゆみの自転車は以前、駅前で盗まれてしまったので、自転車と言えばこれしか無いのだ。
早速ママチャリに飛び乗るとスカートも気にせず、一気にペダルを踏んだ。
- 10 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:41
- * * * * * * *
正門の前には二人の教師が立っていた。
一人はがっしりとした体育会系の教師で、もう一人はやたら時計を気にしているイン
テリ風の女性教師だった。
通学路には、だらだらとしゃべりながら歩く生徒達がいる。
数はそれ程でも無い。
やがて校舎からチャイムの鳴る音が聞こえて来ると、体育会系が手を振りながら、遠
くの方の生徒達に向かって叫ぶ。
「おおいッもう閉めるぞッ!おまえら走れッ!」
声に気づいた生徒達が「やべッ」と呟き、駆けだした。
- 11 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:42
- 音楽室から流れて来るメロディーがふっと途中で止む。
同時に室内のスピーカーからチャイムが聞こえて来る。
鍵盤に夢中だった少女が、初めて顔を上げ、黒板の上の時計を確認する。
少女は鍵盤の蓋を閉めると、椅子から腰を上げた。
足下に置いてあった鞄を拾い、肩に掛け、音楽室から出ていった。
廊下は、教室から漏れる生徒達の歓声で溢れていたが、それは少女の後ろ姿を余計
孤独にさせた。
陽の光によって作られた窓型の影を踏みながら歩く。
結局少女は何処の教室にも入らず、やがて階段を降りて角を曲がり消えて行った。
* * * * * * *
- 12 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:45
-
さゆみの頭上には、濃いブルーの空が広がり、白い大きな綿雲が南西に向かって一定の速
度で泳いでいた。
さゆみの前髪は向かって来る風のせいで逆立ってしまっている。
白い透き通るような肌は、5月の陽の光に照らされ、余計白く光ってみえた。
ママチャリを飛ばすのも悪く無い。ただ、さゆみは自分がママチャリに乗って登校してい
る所を余り他の生徒に見られたくは無かった。
光が眩しいので、さゆみは細めがちに辺りの風景に視線をやった。
ガードレールの向こうは崖になっていて、何処までも海が続いている。
海は白い波を立たせて、朝陽に水面を反射させてきらめいていた。
今から飛ばして行けば、出席には間に合うだろうか。
多分大丈夫だろう。後5分もすれば着くのだから。
そう考え、さゆみはペダルを漕ぐスピードをさらに上げた。
この先には緩いカーブがあり、少しばかり下り坂になっている。
そこを綺麗に曲がるのがまた気持ちよいのだ。
潮風を全身に浴びながら、流行る気持ちを抑えカーブの訪れを待った。
- 13 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:46
- 一瞬、陽の光に反射した海のきらめきをもろに視界に入れてしまった。
さゆみは瞼を閉じる。
波の音と風の匂いだけを感じた。波は柔らかく静かにざわめき、さゆみの身体を
包んでいくようだ。
明け方に見た夢はほぼ毎日見ていた。
深い深い誰もいない水の底に一人ぽつんと浮かんでいる夢。
目の前に広がっている海の底では無い。
多分、もっと別の場所だ。そもそもあの水中は海の中だったのだろうか。
カシャンと車輪が音を立てる。
それを合図にさゆみはゆっくり瞼を開けた。
すると現れた風景に、あの緩いカーブと制服の少女の姿があった。
反射的に、少女と自分との距離があまり無い事に気づき、我に返った。
さゆみはブレーキと一緒に思い切りハンドルを切った。
一気に冷や汗のような物が吹き出て来た。
少女が短い悲鳴をあげた気がする。
- 14 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:48
-
その瞬間に鋭い衝撃のような物が襲った。
何も音がしない。時が止まったようだ。
さゆみは一瞬身体が浮くような感覚を憶えた。もしかしたら飛んでいるのか。
スローモーションのように、両手一杯広げたさゆみの身体が宙を舞う。
背後にはガードレールを越えて目一杯光る海がある。
――と思ったらすぐに灰色のアスファルトが現れた。
- 15 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:50
- 鈍い音がした。
「うっ」
さゆみが渋い声をあげた。
何が起こったのか自分でも理解が出来ない。
止まっていたと思った時が、突然動き出したかのように、波の音や風の音が
元通りに聞こえてきた。
さゆみは道路に大の字に寝ている。倒れたママチャリの車輪が回る。
「大丈夫?」
上の方から、聞いた事の無い声が聞こえて来た。
恐る恐る閉じた瞼を開いてみた。
濃いペンキを塗りたくったような青空を背景に、黒髪の少女が心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫?」
少女が再度言う。
長い、真っ黒だがしっかりと艶のある髪の毛が緩い潮風になびく。
猫のような切れ長の目。髪同様に黒目がちの瞳に唖然とした顔をしている自分が映って
いた。
さゆみは声が出なかったのでゆっくり頷いた。
- 16 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:52
- 「立てる?」
少女が細長い手を差し出した。
肘の傷口に、マキロンをたっぷり染みこませたガーゼが押し当てられた。
瞬間にさゆみの顔が苦痛に歪む。
白衣を見に纏った保健の飯田が、ピンセットでそれを抑えると、救急箱からテープを
取り出した。
さゆみはじんじんとする痛みを堪えながら、向かいのソファに座っている少女を見る。
少女は文庫本を読んでいる。
さゆみの視線に気づく事無く、ページを読み進めていた。
いつ来ても保健室と言う空間は、まるで時間が止まっているかのような不思議な感覚のす
る場所だ。他の教室とは何処か根本的に違うのだ。
かと言っても病院と言う程、堅苦しい、重苦しい感じもせず、逆に心が安まりここから抜
け出したく無くなるくらいの独特の雰囲気を放っている。
- 17 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:54
- 「はい出来た」
飯田がテープを巻き終えると軽くさゆみの肘を叩く。
「いて」さゆみが眉を潜めた。
「良かったじゃない。擦り傷程度で済んで。でもあんた本当に他はなんとも無いの」
飯田が不審そうに首を傾ける。
さゆみは肘と膝の擦り傷などで済み、他は特に何とも無いように思えたので。
「はい、最初は痛かったんですけど今は別に」
「そう」
飯田はそれ以上訊く気は無いようだ。そして今度はさゆみから視線を外して、ソファで読
書に励む少女に視線を置いた。
「所で亀井。あんた今日も帰ろうとしたね」
亀井と呼ばれた少女は、本から視線を外して飯田を見つめた。
何も考えていないような、きょとんとした表情だ。
「行く気がしなかったんです」
と、答えた。落ち着いた声だな、とさゆみは肘をさすりながら思った。
雰囲気からして大人っぽく感じられ、見た事も無い生徒だったので自然と先輩である事に
気づいた。
- 18 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 19:57
- 「いい加減授業出なさい。今年受験なんだから」
「はい」
と、明らかにその場限りの返事をして本に視線を戻した。
飯田が呆れたように手を腰にやると、ぽかんとして亀井を見ているさゆみに視線を戻す。
「あんた今日は帰りなさい」
「へ」
さゆみが飯田の方へ振り向く。
「かすり傷程度とは言え、後から何処か腫れてくるかもしれないでしょ。今日は帰って安
静にしてなさい。早退届書いてあげるから」
「はい」
皆が授業を受けている時間に、校舎を後にするのは不思議な感じだ。
未だかつて早退を経験した事が無かったからそう思えるのかもしれない。
さゆみはそんな事を考えながら、砂のグラウンドを見つめた。
教師の教科書を読む声や、音楽室から漏れる生徒達の歌声がこちらまで聞こえた。
ふと、空を見上げると、変わらない青色にさゆみは溜息をついた。
- 19 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:00
- 身体も別に何とも無いし、風も丁度良い。
久しぶりに海でも見に行こうかと思い、両手を空に突き上げ身体をゆっくり延ばした。
「楽しそうだね」
ふと後ろで声がした。
さゆみは勢い良く振り返る。
校舎の出入り口で、保健室にいた筈の亀井が壁に寄りかかりながら立っていた。
さゆみは上げていた腕を慌てて降ろした。
亀井はさゆみのおろおろとした様子に、特徴的な猫目を細め、にっこり笑った。
八重歯が出た。
「自転車、平気なの」
と、亀井が訪ねて来た。
とたんにさゆみの表情が凍り付いた。忘れていたのだ。今まで。
事故の後、亀井に引き連れられ学校の保健室へ向かったさゆみ。
ママチャリはそのままにしてある。
母は激怒するだろう。黙って借りていった挙げ句に事故を起こして、その上置き去りにし
たのだから。もしかしたら壊れているかもしれない。
さゆみの顔からみるみる内に血の気が引いて行くのを見た亀井は、少し考えたような顔になり。
- 20 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:03
- 「途中まで送ってあげる」
さゆみにゆっくりと歩みより「元はと言えばわたしのせいだもんね」
と、さゆみの戸惑い顔をじっと見つめる。
「いえ、そんな風に思ってないです」
さゆみは亀井の視線に耐えきれずに、つい目を伏せた。
亀井はおかしそうにふふっと笑う。
「どうして敬語なの」
「先輩ですよねえ」
「どうして」
「どうしてって、見た事無いし」
さゆみは眉をひそめて鞄を両腕で抱いた。
困ったとき、返答に息詰まった時にやる癖だった。亀井は意に介さず続ける。
「そりゃあわたし授業に出てないし、あんまり学校にも来ないからね。
ほとんどの人はわたしの事知らないんじゃないかしら」
「保健室で言ってましたね」
「学校に来ると、必ず保健室に行くの」
「はあ」
さゆみはどう返して良いか分からず、取りあえず相づちを打った。
亀井はそれを見て何故か嬉しそうに笑みを浮かべ、じゃあ行こうか。
と言ってさゆみの肩を押した。
さゆみは、この人はとても絡みづらい。そう思った。
- 21 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:06
-
事故現場へ到着した。
と言っても学校からほんの5分間ほどの距離だが。
下り坂になった緩いカーブ地点。丁度崖と道路を隔てたガードレールにママチャリが逆さ
まに寄りかかっているような状態になっていた。
地面に押しつぶされたカゴがヘンテコな形に歪んでいて、サドルも何処かおかしいように
曲がっていた。ここまで派手な転げかただとは思いもよらなかった。
亀井が驚いたように「すごいね」と呟いた。
「わたし驚いて途中で目えつぶってたから知らなかった」
と付け加える。
さゆみは母の事を考え、ますます青ざめていく。
自分の怪我などどうでも良かった。母の激怒の方がよっぽど恐ろしい。
「どうしよ……お母さんに叱られる」
と、我ながら情けない声をあげてその場にヘタレ込んだ。
潮風に、さゆみのツインテールがぴんぴんと揺れた。
亀井はしばらく考え込むようにして腕を組む。
そして「ねえ、良い考えがあるの」と言った。
- 22 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:16
-
ママチャリは車輪の部分が壊れていたので、やはり乗れなかった。
比較的新品に近かったのに、ペンキも少し剥げてしまった。
カゴもぐにゃりと不格好に曲がっている。
さゆみはそんなママチャリのハンドルを握りながら、商店街を亀井と一緒に歩いて行く。
まだ10時半過ぎの商店街に、制服姿の学生は彼女達だけで、通りかかる大人達に少しばかり白い目で見られながら、どんどん進んでいく。
まだ午前中なので、それ程通行人はいなかったが、さゆみは後ろめたい気持ちを感じずにはいられなかった。。
「何処行くの」
さゆみが不安気に、前をゆく亀井の背中に声を投げかけた。
「もう少しで着くから」
亀井は銭湯の角をまがり、民家通りへ入る。
細い路地で、コンクリートや木の塀などに囲まれていて、どことなく古さの残る家々を通りすぎる。
- 23 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:19
- 和風の木造の家から、洗濯機の音が漏れていた。と思ったらその向かいの小綺麗な家から
テレビの音も聞こえて来た。
人の生活の匂いを肌で感じる。
やがて十字路に差し掛かかり、それを左に折れた。小さなクリーニング屋の隣に立ってい
た見覚えの無い古いアパートへ到着した。
「ここ何?」
さゆみが小首を傾げる。
亀井はさゆみの方を見ずに答える。
「わたしの知り合いの人が住んでるの。あなたの自転車直してくれるよ」
そう言って赤さびの目立つ階段を、かんかんと音を立てて昇り始めたので、さゆみも慌て
てママチャリを止め、亀井の後に続いた。
その人物は3階の一番奥の部屋に住んでいた。
亀井は扉を2回ノックし、一呼吸分置いてまた2回ノックした。
部屋の奥の方から「はあい」と間延びした声が聞こえてきた。
しゃがれた感じはしたが、多分女性の物だろう。
扉がいかにも面倒くさそうに開いた。
- 24 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:22
- 「こんにちわ」
亀井が頭を下げたので、さゆみも真似をした。「こんにちわ」
相手は、根本がかなり黒くなってきている金髪のショートヘアで、その頭をボリボリと掻
きながら、やはり面倒な顔をして「こんちわ」と返した。
片手に歯ブラシが握られていた。
亀井がさっそくその人物に一部始終を説明し、その人は「ああ、そう」とさして興味がな
さそうに相づちを打ち「歯磨いたらやっとく。その間にどっかで時間潰してて」と言った。
来た道を、もう一度2人並んで歩いた。
隣の亀井がさゆみの方を見ずに、前方だけに視線を送りながら嬉しそうに話した。
「吉澤さんって言って前に自転車屋さんでバイトしてたんだって。今は事情があって辞めて
るんだけどね。あ、ちなみに吉澤さんはおねえちゃんのお友達なの」
「へえ。一つ……訊いても良いですか」
「何?あ、敬語じゃなくて良いよ」
「あ、は……うん。えっと修理っていくらするのかなって」
「ああ、タダで良いと思うよ」
「え?良いの」
「うん。吉澤さんは仕事以外じゃタダでしてくれるよ。それに中学生からお金取ったり
する人じゃないもん」
- 25 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:23
- 「そっか」
さゆみは心から安心したように言った。
「そうだ、今からわたしの家にいかない」
「え」
さゆみは驚いて亀井の顔を見た。相変わらず亀井は前を向いている。
「でも今日あったばかりだし・・・・・」
さゆみは困惑したように視線を右往左往させた。
亀井がくすっと笑い。
「やだあ、女の子同士なんだから別に良いでしょう。それに、足」
「足?」
「痛いんでしょ」
亀井がちらりと横目でさゆみを見た。
さゆみは一回自分の足下を見た。
歩き方のリズムがおかしい。そう思った時にズキリと左股が痛んだ。
さゆみは眉をひそめながら顔を上げる。
「どうして分かるの」
「分かるよ。左足だけ歩くの変だもん」
スカートに隠れてどうなっているかは分からなかったが、腫れているのかどうか気になった。
- 26 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:26
- 「手当してあげる」
そう言って亀井がさゆみの右手を取った。
柔らかい、でも少し冷たい感覚が右手に伝わってくる。
亀井はもう一度、ね。と言った。
さゆみは言われるがままに頷いた。
亀井の家は商店街とは逆の方向にあった為、割と距離があり、さゆみは亀井に支えられる
ように歩く事になった。
やがて小綺麗な一軒家が密集した閑静な住宅街へ入った。
亀井の家はその中の一角で、特に他の家と目立った点は無かったし、亀井の家より大きく
立派な家は他にも存在したが、少なくとも自分の家とは比べ物にならないと、さゆみは溜
息をつく。
もともと亀井から発せられる、上品さや育ちの良さのような物にさゆみも気づいていたの
で特に意外には感じなかった。
亀井は制服のポケットから鍵を取り出すと、扉のノブに差し鍵を開ける。
「入って」
背後でそわそわとしているさゆみに声をかけ、扉を開けた。
- 27 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:30
- 大理石の埋まった玄関にさゆみは思わず唾の飲み込んだ。
入ってすぐ右手には、よく分からない絵が金色の額縁に飾ってあり、小綺麗な花瓶に
花が一輪差してあった。
「さ、入って」
と、亀井はさゆみを促した。さゆみは曖昧に頷き「おじゃまします」と小声で言った。
つるつるのフローリングの床は、自分たちの姿を映し出せる程丁寧に磨かれていて、
真っ白の壁紙は勿論染み一つ無い。
亀井は2階の自室へさゆみを案内した。
亀井の部屋は、さゆみの部屋よりやや広く、水色の壁紙で統一されていて、ベット、タン
ス、机、MDコンポ、本棚、ピアノ、ぬいぐるみが2つある、結構シンプルな部屋で余計
な物は何一つ無かった。さゆみにはそれが一番意外だった。
「もっと女の子っぽい部屋かと思った」
さゆみが一言漏らす。
全体的に見て、部屋の内装はあっさりしていて、ピアノとぬいぐるみさえ無ければ少年
が使っていそうな部屋だった。
「わたし、部屋はさっぱりしてる方が良いの」
亀井は窓の方に顔を向けたまま言う。「じゃあ、怪我の手当からしてあげる」
- 28 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:33
- さゆみは亀井に促され、ベットに腰掛けた。
亀井は机の一番下の引き出しから救急箱を持って来た。
「足みせて」
そう言ってさゆみを上目遣いで見るが、さゆみは亀井からすぐに目を反らした。
亀井は頬を膨らませて「何よお」と言う。
「だって中見えちゃうじゃん」
さゆみが恥ずかしげに、スカートの裾を抑えた。
亀井は軽く溜息をつくと
「見ないよ。大丈夫だから」
さゆみは渋々と頷く。
それを確認すると、亀井はタンスからバスタオルを取り出し、さゆみの膝にかけた。
それから救急箱の中から湿布の入った袋と、包帯を出した。
さゆみは亀井の手際の良い動作をしばらく見ていた。
一つ一つの動作はそこまで速いとは言えなかったが、非常に細かく的確にこなしていた。
軽い応急処置が終わると、亀井は満足げに微笑んだ。
- 29 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 20:41
- 「なかなか上手いでしょ。お母さんはね、看護婦さんなの」
「へえ、共働き?」
「うん。お父さんは普通のサラリーマンなんだけど」
亀井はくすぐるように笑った。
それから救急箱を片づけると、さゆみの方を向いた。
「なんか飲む?持ってくるね」
「ありがとう」
亀井が部屋を後にすると、さゆみは辺りを見回してみた。
ふと、先程から視界に入っていたピアノに視線を止めてみた。
音楽室に置いてあるようなグランドピアノでは無く、家庭用の小型のピアノだ。
さゆみはベットから腰を上げると、ピアノへと歩み寄る。
黒いメッキで塗られたピアノは、窓から漏れる光に艶を一層強め、見たところ、毎日手入
れが施されているのか、傷も埃もついていなかった。
さゆみはピアノの蓋を開けると、白と黒の鍵盤に目を細める。
指先でドの音を鳴らして見た。
澄んだか弱い音が部屋にこだまする。さゆみはふっと口を緩めると、そのままピアノの前
にある椅子に腰掛けてみた。
何となく亀井がピアノを弾く様子が、ありありと想像出来るようだ。
さゆみはピアノが弾けなかったが、取りあえず、片方の人差し指で、今度はドの隣にあっ
たレに触れる。次にミ。それからゆっくりと人差し指だけでドレミを繰り返し、次にラを
触れた後に、間違えに気づき慌ててソを押してみた。
- 30 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 21:03
- その後に何を弾いたら良いのか分からなくなり、人差し指は、レとミとファを行ったり来
たりしていた。
なので適当に押した。確実に考えたメロディーとは違う音である。
さゆみはううんと唸り、もう一度押してみた。
ミだ。さゆみはしっくりときたようで自分で頷く。
次にレドと続き。ミを押すとまた微妙な音階になった。
軽く溜息をつき、もうやめようと、すぐに挫折した。
「レ、ミ、レじゃない」
と横から声がしたので、さゆみはそちらを向いた。
開いた扉の前に、亀井がガラスコップと、ドーナツを乗せたトレーを持って立っていた。
さゆみは言われるがままにレ、ミ、レと続けて弾いた。メロディーがしっくりときたのが分かる。
亀井はトレーを机の上に置くと「チューリップでしょ」と言ってさゆみの横へ歩みよった。
さゆみは頷く。亀井はさゆみの右手人差し指を取ると、操り人形のようにその指に先程
の旋律の続きを弾かせた。
チューリップは何の個性も無い感動も無い、基本的旋律が並んだような曲だが、さゆみ
にとっては嬉しかった。
ピアノと思われる物は、小学校の時の鍵盤ハーモニカと言う物を弾いた時以来だったし、
チューリップもその間に学んだ曲だ。
「ピアノ、弾いてるんだね」
横に立っている亀井を見上げるような感じでさゆみが訊いた。
亀井は目を細めてうんと頷く。
「昔習ってたんだけど」
「今は」
「もうやってない」
- 31 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 21:07
- さゆみはふうんと相づちを打つと、視線を鍵盤に戻す。
ふと、名案が浮かび視線を上げた。
「ね、なんか弾いて」
そう言って席を立ち、亀井に座るように促す。
そして「良いよ」と軽く言ってさゆみに応じた。
亀井は両手を鍵盤にそっと置く。その動作だけで、さゆみにはプロ意識に見えてきた。
2拍分置いてから、両手がふわりと動き、旋律が流れた。
音の波が部屋全体に響き、その音はさゆみの身体にすっと染みこんで行くような澄んだ音
色だった。
歩くような早さの、優しい、軽やかなリズムのメロディーは割と聴き安く、楽曲を知らな
いさゆみは“きっと凄い人が作った曲なんだろうな”とぼんやり思った。
やがて曲が終わると、さゆみは反射的に拍手した。
義理では無く、心から拍手したいと思ったのだ。
亀井は鍵盤から両手を退けると、照れたように頬を染めた。
- 32 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 21:10
- 「すごい、何の曲?」
さゆみは正直に訪ねた。
「ノクターンの2番。ショパンだよ」
とピアノの蓋を閉めながら言った。
「へえ」
とさゆみは頷いたがあまりピンと来なかった。
亀井は椅子から腰を上げると、「ジュース持ってきたから飲んで良いよ」
と言って先程机の上に置いたトレーをさゆみの元へ運んで来た。
「ありがとう」
さゆみはトレーから桜模様のついた硝子コップを取った。
オレンジジュースが入っている。氷のからんと言う音がした。
「オレンジジュースで良かった?」
亀井が慌てたように首を傾げる。
「え?うん」
さゆみはそう言ってコップのオレンジジュースを一口飲んだ。
冷たい物が喉を通って行く感覚と、甘酸っぱい風味が口の中を満たして行く。
「おいしい」
と、さゆみは亀井の方を見てにっこり微笑んだ。
何となくそうした方が良い気がした。
亀井は嬉しそうに、おかわりならあるから、と言ったので、正解だったようだ。
さゆみは頷くともう一回飲んだ。
- 33 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 21:16
- 「怪我は痛む?」
亀井がさゆみの側へ座ると、顔を覗き込むようにして訪ねる。
その顔が近すぎてさゆみは思わず耳が熱くなった。
「ん、だいじょぶ」
そう言えば今日会ったばかりの少女の部屋に自分がいるのはおかしいと思う。
さゆみは気恥ずかしさから、視線を泳がせた。
「痛くなったらまた言ってね」
「うん」
それからしばらくして、二人の会話はさゆみの「うん」からそれっきり途切れたまま、特に
会話を交わす事は無かった。
亀井はピアノ椅子に腰掛け、先程保健室で読んでいた文庫本を開いている。
さゆみはベットに腰掛け、クッションを抱きながらそんな亀井の横側をぼんやり見ていた。
窓にかかった水色のレースのカーテンがふわりと亀井の黒髪を揺らし、外から漏れる光に
きらりと光った。
改めて見ると、亀井はなかなか綺麗な少女だった。
黒髪と本の似合う、少し猫のような目をした少女。
さゆみは自分でも外見には自信があったが、自分より可愛いかもしれない少女を見ている
とどうもジェラシーのような感情を持ってしまう。
- 34 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 21:17
- しかし、亀井に関しては不思議とそう言った感情は湧かなかった。
むしろ、見取れてしまうくらいの何かが亀井にはあった。
一方の亀井は本に視線を落としたまま、さゆみの視線に気づかないようだ。
さゆみはしばらく亀井を観察してから要約視線を外し、宙を仰いだ。
時計の針が12時20分を差した頃。
学校では昼時で、皆給食を囲んでいる所だろう、とさゆみは思った。
今日の給食は揚げパンが出る事を思い出し、少し後悔した。
亀井が本を閉じて、呆けっと口を半開きにして何処かを見ているさゆみを見つめた。
「もうそろそろ行こうか」
さゆみはいきなり声をかけられたので、つい肩をビクつかせた。
亀井は驚かないで、と言って楽しそうに目を細めた。
「多分、吉澤さん修理終わってると思う」
さゆみは半信半疑に頷いた。
- 35 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 21:28
-
二人は家を後にすると、早速吉澤のアパートへ向かった。
「ああ出来てるよ」
吉澤は相変わらず、ボサボサ頭を掻きながら、面倒くさそうに言った。
よくよく見ればこの人も、なかなか顔立ちの整った美人である事が伺える。
さゆみは吉澤が何となく損しているように思えた。
もっと美人らしく振る舞うべきだ。
「行こう」
亀井は何故かさゆみよりもはしゃいでいるようで、さゆみに早く行くように促すように
腕を引く。
さゆみは亀井に腕を引っ張られながら
「あ、ありがとうございます」
慌てて頭を下げると、吉澤は「おう」と言って扉を閉めてしまった。
亀井はさゆみの腕を引いて、「自転車、下にあるよ」と言って急いで階段を下りた。
ママチャリはアパートの庭の端に置いてあった。
「すごい」
さゆみは思わずそう言った。
- 36 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 21:31
- へこんでいたカゴも、剥がれたメッキも、歪んだ車輪部分もすべて治っていて、事故前の
ママチャリより綺麗に仕上がっていた。
これなら母も怒らない。
さゆみは確信に満ちた笑みを零した。
「ありがとう」
後ろにいた亀井を振り返って言った。
「吉澤さんのおかげよ」
と笑い返したようだが、逆行でよく表情は伺えなかった。
雑草だらけの庭は、空き缶やタバコの吸い殻やペットボトルが転がっていたので、ママチ
ャリが通るのも一苦労だった。
二人はまた肩を並べて商店街を通った。
午前中より人が増えていて、皆、老人か主婦ばかりで、学生服姿の自分達がより浮いて見
える。
午前中の静けさや、肌寒さは、すっかり日中の空気に変わり、辺りは活気に溢れていた。
夏間近の日差しは容赦なく照りつけ、身体が徐々に汗ばんでいく。
二人はずっと黙っていた。
もう話す言葉が無いのだ。
「じゃあ私はここで」
商店街を抜けた十字路で、亀井が後ろにいたさゆみの方へ振り返って言った。
さゆみは「今日ホントにありがとう」と、何度目かの礼を言って、苦笑いした。
亀井は静かに微笑み「良いって」と言い、さゆみに背中を向けた。
- 37 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 21:33
- さゆみもママチャリにまたがり、ペダルを踏む。人漕ぎしただけでぐんと前へ進む。
吉澤は相当な技術を持っているのだろうか、漕ぐのにそこまで力が入らず、さゆみは改め
て感動を憶えた。
「あ、待って」とふいに声がかかったので慌ててブレーキをかける。
さゆみは顔だけ後ろを振り返る。
亀井がこちらを見ている。もう大分距離があった。
「名前、聞いてなかった」
やや声を上げて言う亀井。熱いのか頬を少し赤らめている。
さゆみは驚いて目を瞬く。少し間を置いて「道重さゆみッ」と大きな声で言った。
亀井はそれを聞くと嬉しそうに目を細めて。
「亀井絵里ッ…バイバイッ」
亀井がぴょんと跳ね飛んで手を振った。
さゆみはそんな亀井が可愛らしくなり思わず吹き出して。
「バイバイッ」
と自分も大きく手を振る。何故かドキドキしていた。
また明日、亀井を訪ねに保健室に行ってみようかと思った。
- 38 名前: 投稿日:2004/06/03(木) 21:34
-
- 39 名前:初風 投稿日:2004/06/03(木) 21:37
- 今日分の更新終了。
進歩してない文章ですみません。
↓更新分
>>2-38
- 40 名前:ヒトシズク 投稿日:2004/06/03(木) 22:31
- 面白いですねぇ。
ほのぼのとした感覚がとても心地良いです♪
亀井のキャラもいい感じで、ハマりそう(笑)
では、次回まったりとお待ちしておりますっ!
- 41 名前:ピアス 投稿日:2004/06/05(土) 00:06
- 待っていました。
相変わらず暖かい文章ですね。
また作者さんのお話を読めるのかと思うと、
とても嬉しい気持ちになります。
どうなっていくのか、静かに見守らさせていただきます。
- 42 名前:刹 投稿日:2004/06/05(土) 11:29
- 初めまして。
前作からずっと拝見してましたがレスするのは初めてですね。
作者さまのお話はとても雰囲気がよくて、ほのぼのしてて
いいですねぇ。
何だか亀井がいい感じでw
ママチャで走る重さんも見てみたいですww
それでは次回も楽しみにしてます。。。
- 43 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:07
-
- 44 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:09
- 2
空に一筋の白い線が浮かんでいる。
飛行機雲だなあ。とさゆみは、頬杖を付きながらぼんやり思った。
真っ白なノートには何を書かれておらず、何処でも良いから開いてある教科書は、風で
ぺらぺらと捲れた。
教師の何かを説明する声や生徒達の咳き込む音、ペンを動かす音や、ページを捲る音な
どは、さゆみの耳には一切届かない。
さゆみが空を仰ぐ度に、亀井絵里の顔が青空に浮かんだ。
まだ顔を覚えていないのか、目鼻立ちがあまりハッキリとしない幻想だ。
黒髪と猫目は憶えている。
後はあの独特な人をからかうような笑み。
段々、幻想の中の絵里の顔が描けていく。
確か、意外と浅黒い健康的な肌色だったかもしれない。
それと八重歯。すっと通った鼻筋も。うん、そんな感じ。
出来上がった青いキャンパスに描かれた絵里の似顔絵に、さゆみはにんまりと笑う。
- 45 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:13
- 「おい、道重。何にやにやしとる」
「ふえ?」
突然、教壇に立っていた教師が、さゆみを名指しした。
さゆみは驚いて、変な声をあげる。
教室中の生徒達が「やだー」と言って笑った。
「ボケッとすんな、ボケッと。ちゃんと聞いとれ」
と、野太い声で言う。
さゆみは恥ずかしさから「はい」と小さく頷いた。
元はと言えば絵里が悪い。
さゆみはうつむき加減でそう思った。
昨日の夜から絵里との一日が忘れられない。
今日の朝、さゆみは絵里が気になり、保健室を訪れた。
しかし、絵里おろか飯田すらいなく、結局ほかに宛が無い為に教室へ帰った。
それから休み時間おきに保健室を訪ねるが、飯田は戻って来ていたが、絵里は一行に現れ
ず、飯田に「今日は来ないかもね」と、からかうように言われてしまう。
昼休みが終わり、午後の授業へ突入。
今に至るのだ。
- 46 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:15
- さゆみは軽く溜息を付くと、いい加減ノートでも書こうかとペンケースを開けた。
緩い風がさゆみの頬を撫で、二つに縛った髪の毛が揺れる。
教師は、黒板一杯に文字を羅列させていて、それはお世辞にも丁寧な物では無かったので
書きにくい。
さゆみは目を細めて見ようと勤めた。
すると、視界の端で何かがちらちらと動いている。
さゆみは黒板から視線を外した。
下のグラウンドの真ん中で、制服を着た少女らしき人物がぴょんぴょん飛び跳ねて手を振
っている。
さゆみは不審顔になり、その人物を見極めようとした。
が、すぐに分かった。
「亀井、絵里?」
驚いた拍子に立ち上がろうとして、机に膝をぶつける。
さゆみはイテッと悲鳴をあげ、反動で机の上のペンケースが床へ落ちる。
「おい、道重。おまえ騒がし過ぎるぞ」
「すいません」
さゆみは顔を赤面させながら、床のペンケースを拾う。
生徒達からまた笑いが湧きおこる。
- 47 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:17
- さゆみは席に付き、またグラウンドへ視線を注ぐ。
絵里はくすくすと笑っているようで、口を手で覆っている。
さゆみはふくれっ面になり、睨むような視線を返すと、絵里がごめんと、両手を合わせる。
さゆみは辺りを見回す。皆、もうさゆみには気にせず、淡々と机に向かいノートを書いている。
さゆみは唾をごくりと飲むと。
「先生」
と手を上げる。
教師は振り向くと、「今度は何だ」とあきれ顔。
「お腹痛いです」
「はあ?」
教師が聞き返すも、さゆみは鞄を持つと教室から飛び出した。
「おいッ道重ッ」
教師の怒鳴り声と、生徒達のざわめきが一斉に廊下に響く。
さゆみは意に返さず走り続ける。
やがて校舎を出ると、誰もいないグラウンドを見回す。
絵里は正門の前に立っていた。
さゆみはふっと笑顔になり、絵里の元へ駆けて行く。
- 48 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:18
- 「良いの?出てきちゃって」
絵里は、目の前で息を弾ませているさゆみに苦笑しながら言う。
さゆみは自分が何故あのような行動に出たのか、少し不思議になった。
「うん……でもよく分かんない。気づいたら走ってた」
と答えた時。校舎の方から「おおいッ!道重ッ戻って来おいッ!」
と先程の教師が、窓から顔だけ出してそう叫んだ。
絵里は「行くよ」と言い、さゆみの腕を引っ張った。
「おおいッ!」
教師の叫びも空しく、絵里とさゆみは笑いながら走って行く。
腕を引く絵里の後ろ姿を見ながら、何だかわくわくした。
やがて二人の背中は、道路の先のぼやけた蜃気楼の中に消えていった。
- 49 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:18
-
- 50 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:20
- 「駄菓子屋なんて久しぶり」
さゆみが関口一番に言った。
商店街の裏側にある、人通りの少ない路地に、ぽつんと建っている店。
さゆみは生まれた時からこの町に住んでいたが、この場所を知らなかった。
中は薄暗い狭い部屋で、ぎっしりと駄菓子が積んであり、レジにはおばあさんが座って
お茶を飲んでいる。
「わたしも久しぶり。小さい頃、お姉ちゃんと吉澤さんで一緒に行ったっきりだもん」
と言いながら、絵里は早速杏飴と梅ジャムを手にとって見比べている。
「ふうん、お姉ちゃんと仲良いよね」
「うん、一緒に買い物とか行くし」
「良いな。私一人っ子だから。そんなお姉さんほしい」
さゆみの言葉に、絵里が嬉しそうに笑う。
「良いでしょ。お姉ちゃんはわたしの自慢よ」
と照れくさそうに言った。
さゆみは本当に羨ましく思ったが、同時に胸の中がもやもやとした。
丁度目の前にはラムネ菓子やどんぐりガムの箱が置いてある。
隣の絵里は梅ジャムを取ってきて、「これっておいしいよね」と話かけてきた。
「ああ、ミルクせんべえにかけるヤツね」
とさゆみが言うと、絵里が目をぱちくりとさせ。
- 51 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:20
- 「え?このまま食べるんだよ」
「えー普通ミルクせんべえとかにかけるよお」
「わたしこのままだよ。おいしいって」
と言ってもう一つ取り、さゆみに渡した。
「えーここまで来て梅ジャム?」
と言ったものの、特に買いたい物もなさそうなので、一応貰っておいた。
二人は狭い店内を何度か一週したが、結局買った物は
絵里が梅ジャム2つ、どんぐりガム2つに、棒付き飴。
さゆみは梅ジャム、ミルクせんべえ、チロルチョコ4つ、棒付き飴。
二人共似たり寄ったりの内容だった。
- 52 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:21
- 「なんか学校サボって、駄菓子屋行くのってピンと来ない」
さゆみはぽつりと言う。絵里は早速梅ジャムを舐めながら。
「やる事無いから良いじゃない」
と言った。
「ねえ、絵里って授業出て無い事、親とかお姉さんとか知ってるの」
さゆみはふいに疑問に思ったので言ってみた。
少し間があって、さゆみは訊いてはいけない事を訊いたと思い、戸惑う。
絵里は前を向いたまま。
「うん」
と返した。
さゆみは驚いて「ええッ」と声を上げてしまう。
狭い路地に甲高い声が響く。
絵里は大げさだよ、と言い「ウチの家族変わってるから」と付け加える。
さゆみは目をぱちくりとさせ「どんな感じなの?絵里の家族って」
「ううん」
絵里は少し唸り、視線を上げた。
- 53 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:22
- 「何て言うか、わたしが授業出ない事報告しても、絵里がそう言うなら出なくても良い
って感じで、すんなり受け入れてくれるの。これって他の家庭じゃ有り得ないと思うの」
「うん、有り得ない。でも理解ある感じで良いんじゃない。ふところが広いって言うか
なんて言うか……」
さゆみは他に言葉が見つからず、言葉を濁すが、絵里には伝わっているようだ。
「ウチの親は学校行かせる事だけが教育じゃないって言うの。そう言う考え方の人達
だから」
「へえ」
さゆみはますます絵里が羨ましくなった。
学校に行かないで怒られないなんて、夢のまた夢である。
「でもなんで授業に出なくなったの」
と、さゆみは先程のノリで訪ねる。
絵里はううんっとまたもや唸り。
「集団生活って好きじゃないし。なんか合わないんだよね」
「へえ、なんか格好いい」
「そんな事無いよ」
と言い、目を伏せた。
- 54 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:26
- 長細い路地を抜けると、広い道路に出た。
そこの分かれ道を右に折れると、公園があった。
灰色の団地が何練か建っており、その物陰にひっそりとある、草木が生い茂り、土の湿っ
た香りのする公園だ。
そこならさゆみも知っている。
二人はその公園に入って行った。
公園には、ブランコと砂場、ベンチとジャングルジム、シーソーがあり、ブランコは一つ
だけ椅子の部分が無く、だらりと寂れた鎖だけがぶら下がっていた。
周りは種類不明の樹がぐるりと取り囲んでいて、全体的に真っ暗で、所々、幹の隙間から
陽の光が漏れている。
ペンキの剥がれたベンチに、二人腰掛けた。
「涼しいね」
絵里が制服のポケットからハンカチを取り出して、首筋と額に当てた。
「何食べようかな」
さゆみはそう言って袋の中を確かめた。
ふと、4つ買ったチロルチョコに目が行き、一個絵里にあげた。
「ありがとう」
絵里は目を細める。
光に象られた葉の影が、二人の頭上でゆらゆら揺れていた。
- 55 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:27
- 「静かだねえ」
さゆみがチロルチョコを一個頬張り、しみじみと言った。
この公園には二人しかおらず、他には人一人見当たらない。
「こんな公園じゃ誰も遊ばないよ。昔はもっと綺麗でもっと明るかったのにね」
「うん、もしかして絵里も昔ここで遊んだ事ある?」
さゆみは絵里の顔を覗き込む。
「うん、でも大体この辺の子ってわたし達くらいの年齢ならここで遊んだ事あるんじゃ
ないかな。この町って公園少ないじゃない」
「そっか」
チョコをかみ砕く音をさせながら、前方にある砂場をぼんやりと見た。
置き去りにされた、泥まみれの子供用の靴がぽつんと転がっていた。
でこぼこの砂場は、大分砂が固まっているようで、長い間ほとんど使われていなかった
事が分かる。
「そう言えば私、サボりなんて初めてかも」
さゆみが言うと、絵里が「そんな感じ」と言う。
「何それ」
さゆみが少しムッとしたように絵里の横顔を伺う。
- 56 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:28
- 「何て言うか、さゆってそう言う事思いつかなそう」
「もう、ひどいんだから」
さゆみがぷっくりと膨れた顔をしてみせると、絵里がさもおかしそうに笑う。
「だってさゆがサボったりしてるトコって想像つかないし。でも今日はさゆの不良デビュ
ーだね。」
「絵里は見掛けは大人しそうなのに常習犯だしね。それに私は絵里につられてこうなっち
ゃったんだから」
「あー人のせいにする。自分から来たんでしょ」
「だって、なんか絵里が呼んでる気がしたんだもん」
すると、絵里の瞳が一層深い色になっていく。
そして「何ソレ」と静かに微笑んだ。
風に木々の葉が擦れる音が聞こえる。
それを合図に、絵里が「砂場で遊ぼう」と提案した。
「子供みたい」
さゆみが言うと。
「わたし達も子供だよ」
と絵里は言って、腰を上げた。
- 57 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:29
-
- 58 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:30
- 砂場の真ん中にしゃがむと、絵里は砂を両手で救う。
さゆみも横にしゃがみ込む。
絵里は砂をかき集め、何かを作ろうとしている。
さゆみも手伝おうと、自分も砂をかき集め、絵里の集めた砂山に自分の集めた砂を足した。
そんな作業を簡単に済ますと、小さな山が出来上がり、絵里はさらにその山を少し崩し、
何かの形にしようとする。
さゆみは黙って見守る事にした。
絵里が真剣な眼差しで砂を見つめているからだ。
砂山は段々形を帯びていく。ひょうたんのような形だ。
「ひょうたん島?」
と、さゆみが訪ねる。
絵里は少し考えたように間を置くと。
「形は別に何でも良んだけどね」
何でも良い?さゆみは頭を傾げた。
やがて、はっきりとひょうたん型になった砂の島は完成したようだ。
絵里はしばらくその島を眺めてから、満足げに言う。
「時々、島の夢を見るの」
- 59 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:31
- 「島の夢?」
「そう。何処の国に属してるのかは知らないけど、なんかの無人島みたいな。少なくとも
日本じゃないと思う」
「それってひょうたん型?」
「島の形までは見てない。きっともっと違うと思う」
「うんうん」
夢見心地で話す絵里の瞳はきらりと潤んでいた。
さゆみは少しばかり鼓動が早まっていくのを感じた。
「自分とね、もう一人だれか一緒にいて、そこで二人で暮らすの」
そう言って、絵里はそこら辺に落ちていた枝で、島の上に自分らしき人物と、もう一人
人間のイラストを書いた。
「へえ、乙女チックだね。もう一人って誰?好きな人?」
さゆみがにやりと笑みを作り、訪ねる。
絵里は「わかんないよ」と言ってさゆみから視線を外した。
もしかしたらお姉さんかもしれない、とさゆみは瞬間的に思ったが言わなかった。
- 60 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:32
-
絵里は手についた砂を払いながら、立ち上がると。
「ねえ、ジャングルジム行こ」
と、小学生みたいににこっと白い歯を出した。
- 61 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:34
- 空が、薄い茜色に染まり、風が徐々に冷たくなってくる頃。
さゆみは家の扉を開けた。
「ただいま」
いつものようにそう声をかけ、玄関に座り靴を脱いだ。
「さゆみ」
背後で母の堅い声が聞こえてきた。いつもの母の声では無い。明らかに怒りの響きを
持っている。
やばい。さゆみは思い出した。
今日は初めて授業を抜け出した日なのだ。
母は背中を向けるさゆみに向かって続ける。
「昼頃、岩田先生から電話があったわよ。あんた今日授業を抜け出したそうじゃない。
一体どういうつもりなの」
いつもはヒステリックに声を上げて怒る母だが、妙に静かでテンションが低い。
本気で怒っているのだ。
さゆみは背中に冷や汗を感じ、立ち上がる。
「ごめん」
掠れた声でそう言った。
- 62 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:42
- 母は大きく溜息をつくと、少し間を置いて言った。
「さゆみ、何があったかは知らないけど、先生心配してたわよ。お母さん電話で謝っ
ておいたからね」
「うん、ごめん」
「あんたが言いたくないなら、無理して理由は聞かないけどね……。
後、岩田先生一見怖そうに見えるけど、本当に良い立派な先生よ」
「分かってる」
「だからね、明日学校に言ったら自分から謝るんだよ」
「うん」
「それから、早退するならちゃんと先生には事情を説明しなさい。ただお腹痛いって言っ
てそのまま出て行ったら心配させるだけでしょ。もう二度と同じ事はしないって約束出来る?」
「うん」
「じゃ、お母さんもこれ以上言わないから、さっさと手え洗ってご飯食べない。そして早
くお風呂に入って、今日はもう寝なさい」
「……うん」
母は言い終えると、そのまま居間へ戻った。
いつもより優しい口調で叱られた。叱られたのでは無く、注意された。
さゆみはまだ怒鳴られた方がマシだと思い、肩を落とした。
もっと頭ごなしに叱ってくれれば、ここまで悲しくはならなかった。
さゆみは力無くその場に座り込んだ。
- 63 名前: 投稿日:2004/06/05(土) 14:43
-
- 64 名前:初風 投稿日:2004/06/05(土) 14:51
- 更新終了。
>>43-63
- 65 名前:初風 投稿日:2004/06/05(土) 14:52
- ヒトシズクさん
亀井のキャラはちょっと凝ってみようかと
思いました(笑。ただ、ちょっと不自然な感じは否めませんね
ピアスさん
待っていて下さってありがとうございます。
期待に添えるよう頑張ります。
刹さん
こちらこそ初めまして。
ママチャリで走る道重…良い感じですね(笑
- 66 名前:刹 投稿日:2004/06/06(日) 19:31
- 更新お疲れ様です。
重さんすげーよ。。。
そしておかん、恐いですw
亀井のキャラが妙にしっくりくるから不思議です。
何か重さんの気持ちがすごいわかるんですよねぇ。
それでは次回も楽しみにしてます。
- 67 名前:ヒトシズク 投稿日:2004/06/06(日) 19:38
- 少し変わった亀井さんのキャラが何とも言えないぐらいイイですね〜
どんどんとハマっていきそうですっwww
不良娘。もいいなぁ、と思ってみたり(笑)
これからどうなるのか、まったりとお待ちしております♪
- 68 名前:_ 投稿日:2004/06/21(月) 15:37
- 保全。
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/21(月) 19:26
- 初めて読みました。
ゆったりとした静かな感じがすごく好きです。
がんばってください。
- 70 名前:初風 投稿日:2004/07/05(月) 16:13
- すいません。大分ほったらかしてしまいました。
ちょっと書いてみて、行き詰まってしまったのが理由です。
更新、絶対しますので読んで下さった読者様方、どうか見放さずに
待って頂ければ嬉しいです。
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/06(火) 01:06
- 待ってます。って書くと催促しているように聞こえちゃうの
かもしれないけど、そんなつもりないんで
ホンと作者様のペースにお任せしますので
気長に、楽しみにしています。
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/04(土) 23:13
- さ、、作者様・・・待ってます
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/03(日) 00:58
- 初風 not dead
- 74 名前:。。 投稿日:2004/10/09(土) 22:20
- ほのぼのとしたカンジ良いですね^^
続き期待してます*
コノ二人良いカンジですヨね__では
まったりと。。
- 75 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/10/23(土) 23:25
- なんか、ほのぼのしてて読むと小さい頃を思い出します。
と言ってもまだ15年しか生きてませんが{汗
急がなくても良いんで更新待ってます。
- 76 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/10(水) 19:38
- 更新待ってます。
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/05(日) 00:42
- 半年経ったか
- 78 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/16(日) 16:25
- 待ってます。
- 79 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/29(土) 14:59
- 更新いつまでも待ってます。
- 80 名前:。。 投稿日:2005/02/05(土) 00:22
- 良い作品ですね^^
続き楽しみですw
作者さんイイ!!
- 81 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/20(日) 12:30
- いつまでも待ってますよー。
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