アイディアル

1 名前: 投稿日:2004/06/06(日) 19:44
ここでは初めて書きます。
主人公は田中れいなで、ゴロッキーズ中心かと。
わりと暗め。
長編は初なんで、見苦しいものになるかも。
苦情・感想、どんどんください。
2 名前:アイディアル 投稿日:2004/06/06(日) 19:45
もしも何もかも捨てて
大事なものすべて放り出して走ったら

そしたらいつか
幸せになれるかな
3 名前:自由を手に入れた小さな猫 投稿日:2004/06/06(日) 19:46
田中れいなはひたすら、雨の降る街を走っていた。
随分濡れてしまった。
ため息をついたがれいなは止まることはなかった。

傘をさして楽しそうに談笑している一団の隣をすり抜け、裏の通りに
入る。
濡れてしまった所為だろうか、体の震えが止まらない。
力が抜けて座り込んだれいなは首を激しく横に振って自分の手を見つめた。

やってはいけないことをやってしまった。
どうしよう。どうしたらいい?
あたしは人を、この手で殺してしまった。
4 名前:自由を手に入れた小さな猫 投稿日:2004/06/06(日) 19:48
――***

れいなは日頃から、家族のことをあまりよく思っていなかった。
何の問題も無い普通の家族だった。
しかしれいなはあの中にいると、自分が自分ではなくなっている気がして
ならなかった。

家に帰ると、母に監視されながら勉強をした。
それに祖母が加わると、まるでれいなはロボットのように勉強机から動く
ことを禁じられた。
部活などしている暇はない。
友達と遊ぶなんてありえない。
毎日が学校に行って家で勉強して塾に通う日々。
れいなはうんざりしていた。
5 名前:自由を手に入れた小さな猫 投稿日:2004/06/06(日) 19:49
とにかく母と祖母が嫌いだった。
自分に自由を与えてくれないのなら、いっそのこと死んでしまえと思っていた。
あの家にいると狂ってしまいそうだった。
しかしれいなには、逃げ出す自由もなかった。

ただ一人、父親だけが拠り所だったのに。
しかしその父親は、半年前の飛行機事故で亡くなった。
もう助けてくれる人は誰もいないんだ。
でも不思議と涙はでなかった。

それからは本当に人形のように毎日を過ごしていた。
相変わらず学校で友達が出来るわけでもなく。
家に帰ると勉強ばかり。
テスト結果が悪いとなると母親は狂ってしまったようにれいなを叱りとばす
ことさえあったが、それでもれいなは何とも思わなかった。

毎日毎日が退屈で鬱陶しくて、そして。
れいなの中で何かが切れた気がした。
6 名前:自由を手に入れた小さな猫 投稿日:2004/06/06(日) 19:50
「みんな嫌い!もう人形みたいに言うこと聞くんは耐えられん!!」
そう言うと、無意識のうちに包丁を手に取っていた。

だめだ。やめて。
何度そう思っただろう。
自分の体なのに言うことを聞いてくれない。

―――あかん!やったらあかん!

「うああああああああっ!」

れいなはそのまま、目の前の母に包丁を突き立てた。
目の前が暗くなったかと思うと、目に飛び込んできたのは真っ赤な鮮血。
あたしがやった。あたしが殺した。
包丁を投げ捨てて、血が飛び散ったTシャツを着替えもせず、
そのままれいなは家を飛び出した。
7 名前:自由を手に入れた小さな猫 投稿日:2004/06/06(日) 19:51
――***

「寒かね…」

もう六月なのに。
れいなは心の中で毒づいた。

ここには屋根もない、布団もない、暖房もない。
もう戻れない。
だってあたしは人を―――

「…血の臭い」

Tシャツについた返り血。
それを見ると、あの時の感覚や感触が蘇ってくる。とても鮮明に。
思い出す度に自己嫌悪と吐き気に襲われて、自分はなんて汚い人間だと
自分自身を呪う。
8 名前:自由を手に入れた小さな猫 投稿日:2004/06/06(日) 19:53
いつまでここにいればいい?
いつまでも隠れているわけにはいかない。

じゃあどうすればいいんだ。
警察に人を殺しました、すいません、とでも言おうか。
自首したって逃げ回ったって大した違いはない。
どうせいずれは捕まるんだから。

れいなはふらふらと立ち上がった。
気を抜けばまた座り込んでしまう。
こんな場所にいたらいつか死んでしまうだろう。
それは嫌だ。

「それならあたしは、自由がいい……」

立ち上がったれいなの目にもう光はなかった。
生きているのに、最早死人のような目をしていた。
しかし表情はとても少女らしいもので、それが何故か気味が悪い
9 名前:自由を手に入れた小さな猫 投稿日:2004/06/06(日) 19:53
自由を手に入れた。
これであたしは、誰に指図されるわけでもない。
あたしを縛るものはもう何もないんだ。

俯き加減でTシャツの血が見えないように外へ出る。
忙しそうに歩く人々の波に溶け込む。
れいなは人ごみの中で、確かに微笑んでいた。
10 名前: 投稿日:2004/06/06(日) 19:56
短いです。すいません。
更新はやめをモットーに頑張ります。

苦情・感想お待ちしてます。
…こんな短くて感想も何もないですが。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/06(日) 20:28
おお・・・五六期主体に惹かれてきてみれば・・・。
い・・・イイ!!
すいません・・・興奮しすぎました。
暗いけど、大好きな雰囲気です!
頑張ってください!
12 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/06(日) 20:58
キてます、キてますよ〜w
あ、失礼しました。
何だか惹きつけられる雰囲気です。
ついて行くので頑張って下さい。
13 名前:傘がない 投稿日:2004/06/07(月) 22:40
声が聞こえる。

「人殺し」

知らない人の声が聞こえる。

「あなたは親友を殺した」

――違う!あの子は死んでない!

「あの子は今も、絵里を待っているよ」

――…違う、私は…絵里は、

「傷つけるつもりは、なかったのに」

でも親友だった子を、ナイフで刺した。
彼女の表情を絵里は今でも覚えている。
14 名前:傘がない 投稿日:2004/06/07(月) 22:41
――***

雨が降っている。
近くに雨宿りが出来そうな場所は、ない。
亀井絵里は小さな公園のベンチに腰をおろし、深いため息をついた。

濡れるのを気にせずに座っている絵里は、端から見ればおかしいだろう。
しかし当の本人は雨宿りの場所を探すでもなく、猫のような目を真っ直ぐ
足元に向けている。

このまま座ってたら、風邪をこじらせて死んでしまうだろうか。
ふとそんなことが頭をよぎる。

――それもいいかなぁ。

一瞬浮かんだ思いを断ち切るようにふるふると首を振った。
死んだら楽になれるんだ。
しかし自分は、そんな簡単に死ねる人間ではない。
否、死ぬことを許されない人間だ。
絵里はあの時――自分の親友を刺した瞬間から、ずっと
そう思って生きてきた。
自分はあの子と同じような苦しみを味わって死んでいかなければならない。
楽に死ねる道など、自分には最早残されてはいないのだ。
15 名前:傘がない 投稿日:2004/06/07(月) 22:42
――あ。

猫だ。
絵里の表所は心なしか緩くなった。
そういえば、さゆも――道重さゆみも猫が好きだった気がする。
まだ小さい頃だったか。
二人で子猫を見つけて、親には内緒で飼っていたことがあった。

「おいで…おいで」

猫と同じくらいの目線になるように屈んで、おいでおいでをする。
その猫の背後には、同じくらいの大きさの猫の死骸が横たわっていた。
猫は動かない。
その死骸をとても大事そうに守っているように絵里には見えた。
友達だったんだね。
そっと目を閉じて、絵里は両手を合わせた。
暗くて目の前は何も見えない。
目を閉じた絵里に感じられるのはわずかに臭う血のにおいと、か細い、
消えてしまいそうなくらいの猫の鳴き声だった。

「何してんの亀井、何?猫?」

突然聞こえてきた場違いに明るい声。
何でこんな時に現れるんだ。
内心絵里は不愉快になった。

その声の主、吉澤ひとみはにかっと悪戯な笑みを浮かべ立っていた。
絵里は特にひとみのことは嫌いではなかった。
いや、むしろ好きか嫌いかだと好きの部類に入るかもしれない。
初めて人を刺したその日から、この人はずっと絵里の傍にいた。
16 名前:傘がない 投稿日:2004/06/07(月) 22:44
「…どうしたんですか吉澤さん」
「何?不機嫌じゃん」
「そんなことないです」
「まあいいや。別にどうしたってわけじゃねーよ?ちょっと散歩してたら
亀井の姿が見えたんだよ」

絵里はひとみを眺めた。
びしょ濡れの服、髪。
綺麗な白い肌は寒さの所為か少し青ざめていた。
17 名前:傘がない 投稿日:2004/06/07(月) 22:45
「こんな雨の日に、傘も差さずに散歩する人なんかいませんよ」
「可愛げないな」
「生まれつきです」
「…はあ、ったくお前の相手は本当疲れるよ」

わざとらしく息を吐いた。
がしがしと頭を掻いて、乱れた部分を手ぐしで軽く整えている。
次に絵里が見たひとみの顔は、真剣な表情に変わっていた。

「いいか、よく聞け」
ひとみの硬い声が耳に響く。

「お前の友達が、あたしのとこに来たよ」

絵里はその言葉と同時に、猫のか細い鳴き声を聞いた。
遠い日のあの子の顔が脳裏に蘇り、目元が少し熱くなった。
18 名前:少女の不安 投稿日:2004/06/07(月) 22:46
――***

「いつ、捕まるんやろ…」
れいなは一人呟いた。
その顔にはさきほどの微笑みも少女らしい表情も一切見られなかった。
ただ不安と絶望に押しつぶされそうな表情をしている。

どこへ行くでもなく歩き続けたれいなは、いつしか暗く危険な雰囲気が漂う
裏通りに来てしまっていた。
表通りの人ごみの中にいると、場違いな気がした。

「お嬢ちゃん、いいもの、欲しくないかい?」

彷徨うように歩いていると、見知らぬおばあさんがれいなを見て
笑顔で呼びかけた。
ここは裏通りだ。
いいもの、と言っても、どうせクスリかなんかだろう。
れいなはそう勘づいたが、おばあさんのその笑顔を見ると何故か無視は
できなかった。
19 名前:少女の不安 投稿日:2004/06/07(月) 22:47
「なん?」
「いいものだよ。辛いことや苦しいことから簡単に逃げ出せる。
私はお嬢ちゃんみたいな顔をした、少しでも多くの人にこれを
飲んで幸せになってほしい」
「…ふぅん」

聞こえはいいけど、どうせ麻薬かなんかだろ。
そう思ったのにおばあさんの笑顔を見ているとどうでもよくなった。

「ねえ、おばあちゃん…」

楽になりたい。
れいなはその一心で声を出した。

クスリでも何でもいい。
この苦しみ、自己嫌悪、吐き気、恐怖。
全てのものかられいなは一刻も早く逃れたかった。

「だめだよ」

小さな声が聞こえた。
20 名前:少女の不安 投稿日:2004/06/07(月) 22:48
女の子の声だ。

「そんなの飲んだら、だめになっちゃう」

れいなは辺りを見回して、声の主を探した。
やけに可愛らしい格好をした、およそこんな場所にはそぐわない美少女が
座り込んでいた。
あの子か。
どうせ世間知らずのお嬢様かなんかが迷い込んだだけなんだろう。
どっちにしろ、自分とは違う。
そう考えるとまた自己嫌悪に陥り、れいなは眩暈がした。

「なん、あんた」
「私?道重さゆみ。さゆでいいよ」
「…何のつもり?」
「人でも殺した?」

れいなはぎょっとした。
にこにこしている少女を尻目に、動揺を隠せないでいる。
さゆみと言ったその少女はれいなの着ている汚れたTシャツを指さした。

「血、ついてるよ」
「わ…わかっとーよ」
21 名前:少女の不安 投稿日:2004/06/07(月) 22:49
最早おばあさんのことなど忘れてしまったようだった。
れいなは自分の前でにこにこしているこの少女にひどく苛立ちを
覚えた。

「行こう。そんなものより、私と一緒にいた方が楽しいよ」
「うぇ?…ち、ちょお!!」

ぐいっとさゆみはれいなの手首を引っ張った。
そのまま薄暗い通りを野良猫のように駆ける。

後ろの方でさっきのおばあさんの呼ぶ声が聞こえた。
しかしそれも直に、激しい雨音にかき消された。

「あれ?重さん、新しい子連れてきたんだぁ?」
「はいっ。さっきそこで会ったんです」
「へぇ〜。君、名前は?」
「あっ…えと、田中れいなです」

どうして自分はここにいるんだろう。
れいなはわけがわからないまま自分をここに引っ張って来たさゆみを睨んだ。
気づいているのかいないのか、さゆみはテキパキと動いている。
22 名前:少女の不安 投稿日:2004/06/07(月) 22:50
「れいな、これで身体拭いて」
ぽーんとさゆみはタオルを投げる。

「あと、お風呂入ったほうがいいよ。風邪ひくから。で、あがったら
これ着て」
「あ、うん」

少し大きめのTシャツと短パンを受け取ると、れいなは断りきれない
自分を恨んだ。
さっき、さゆみのことを重さんと呼んだどこかアホそうなヘタレそうな色白の
人が近づいてきてそっと耳打ちする。

「あの子、見かけによらずしっかりしてんだよ」
「はあ…」
「あ。あたしは小川麻琴。よろしくね」
「ああ、どうも」

この人と喋っていると、何だか気が抜けるなぁ。
れいなは拍子抜けしながらもさゆみに案内され、お風呂場へと向かった。
ここにはまだ住人がいるらしく、さゆみの話に出てくる人の名前は
知らない人の名前ばかりだった。
23 名前:少女の不安 投稿日:2004/06/07(月) 22:51
「れいなはどうしてこんなところにいるの?」
「や、どうしてっていうか…流れっていうか」
「人でも殺した?って私言ったよね。あれ、当たってた?」
「…どうでもいいやろ、そんなん」
「うん、どうでもいいね」

そのあっさりしたリアクションが、れいなにはとても意外に感じられた。
予想に反してさゆみはそれ以上その話題に触れてこなかった。
24 名前:少女の不安 投稿日:2004/06/07(月) 22:52
――***

シャワーを浴びて、渡された服を着た。
れいなは麻琴に案内された洗濯機に着ていた服を放り込んで、呟いた。

「何であたし、ここにいるんだ?」

さゆみに手を引かれ走った時のことを思い出した。
第一印象は本当に腹が立つ女の子だった。
でも今は、なかなかさゆみのことを気に入っている自分がいる。

人を殺した自分が、こんなことを考えるのはいけないかもしれない。
自分はきっと幸せになってはいけない人間なんだと思う。

――でも、あたしはさゆと友達になりたい。
25 名前: 投稿日:2004/06/07(月) 23:02
更新終了です。
レスありがとうございます。

>>11 名無し飼育さん さま
レスありがとうございますっ。
ゴロッキ主体ですハイ。イイなんて…そんなww
お褒めの言葉、光栄です。
雰囲気はですね、こういう暗い感じしか書けないもんでして。
マターリ頑張ります。

>>12 名も無き読者 さま
レスありがとうございます。
も…もしや、あの作品の作者さまですか!?
僕なんかの作品を読んでくださったなんて、ありがとうございます!
キてますよ〜。かなりキてます。
惹きつけられるとは…照れますよw
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/07(月) 23:18
何か雰囲気がいい感じですね。
五期六期が主体っていうのが嬉しいです。
特に亀井のキャラが自分的に好きな感じ。
それじゃあ続きがんばってください。
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/08(火) 00:00
うん、よかですとね(w
全てのキャラが自分的につぼみたいで・・・一度読み出したら、食い入るようにパソコンに顔近づけてしまって(苦笑
変人ですね_| ̄|○
まあ、そんなことはともかく!
作者様のペースで頑張ってください!期待してますよ〜(w
28 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/08(火) 16:50
更新お疲れ様です。
>>27の方に激同です。
僕も同じコトを。。。
てことは変人なのか_| ̄|○

まぁそんなコトは今更気付くべくも無い現実なので
今後の展開に大いに期待しつつ次回を楽しみにしていますw
29 名前:それぞれの苦悩 投稿日:2004/06/09(水) 22:26
「どういうことなんですか、吉澤さん」
「それはこっちが知りてーな」

そう言うとひとみはコップに入った水を飲み干した。
喫茶店の窓から外を見た。
まだ雨が降っている。
当分止む気配はなさそうだ。

「さゆは…何か言ってました?」
「私は何があっても人殺しにはならない、ってさ」
「…それがいいです。さゆには人殺しなんて汚いもの、似合わないから」
「あと、お前によろしくだって」
「それだけですか?」
「ああ。…あんま睨むなよ、本当にそれだけなんだ。あたしには
あいつの考えてることは一生理解できない」

絵里の鋭い視線を避けるように、彼女は窓の外に目をやった。
雨は時間が経つごとに激しくなってきており、傘だけでは防げない
くらいだと見ているだけでわかる。
ひとみの横顔を見ながら、絵里は今日何回目かのため息をついた。

「鬱陶しいな、雨」
30 名前:それぞれの苦悩 投稿日:2004/06/09(水) 22:27
――***

「麻琴ぉ、遊びに来たで〜」

間延びした、麻琴よりも呑気な声が聞こえてくる。
さゆみと夜食を作っているれいなはこの廃屋の唯一のまともな入り口、
大きめのドアに目をやった。
隣ではさゆみがその声に反応して、ドアの所へ走っていく。

「高橋さーん」
「あ、重さぁん。元気?麻琴は?」
「今お風呂ですよ」
「じゃあ中で待っててもエエ?」
「どーぞー」

にっこり笑顔を浮かべてさゆみはその少女を中へ通した。
台所から、れいなが不思議そうにその光景を見やる。

「れーな、この人、高橋愛さんっていうの。小川さんのお友達で、
私のお姉ちゃんみたいな人なの」
「へぇ。どうも、田中れいなです」
「高橋愛です、よろしくな田中ちゃん」
31 名前:それぞれの苦悩 投稿日:2004/06/09(水) 22:28
その喋り方に、れいなは少々戸惑った。
自分よりも訛りがきつい。
何弁だろう?
頭の上に?を浮かべているれいなを見て、さゆみが慌てたように付け足す。

「高橋さんは福井出身なの。だからたまに何言ってるかわかんないの」
「あ、だから訛ってたっちゃね」

あんたも訛ってるよ、とでも言いたげな目で愛はれいなを見た。
その視線には気づかず、れいなはいそいそと台所に戻っていく。
さゆみは愛をその辺のソファに座らせて、れいなの隣へ行った。

「ふぁ〜。気持ちかった。…お、愛ちゃんじゃーん」
「久しぶりやざ麻琴」
「うん。久しぶりだね」

麻琴はにこにこしながら愛の隣に座った。
れいなは夜食の作業をしながらも、ちらちらと二人の様子を見やる。

「あの二人、相当仲いいんやね」
「うん。ここへ来る前から友達だったって」
「へぇ…」

とても楽しそうに笑う二人を見るれいなの心境は、何故か複雑だった。
この二人には、そしてさゆみには一体、何があったんだろうか。
自分のように人に言えないような理由でもあるのだろうか。
32 名前:それぞれの苦悩 投稿日:2004/06/09(水) 22:29
「れいな、どうしたのボーっとして」
「…いや、何でもなか。ほらさゆ、スープもう出来とうんちゃう?」
「あ。本当だっ。れいなお皿取ってぇ」
「わかった」

麻琴と愛の横を通ってれいなは戸棚から四人分の皿を出した。
その時偶然見えた麻琴と愛の顔は、先ほどとは違いとても曇っていた。

「あさ美ちゃんがな、また人を殺した」
「…うん」
「もうアタシには…あの子は止められん。どうしたらエエ?」
「…どうしようもないよ。何か手立てがあるなら、あたしだってとっくに
やってるよ」

二人の会話はそこで途切れた。
さゆみは頃合を見計らって言った。

「スープ、おいしいですから、高橋さんも小川さんも、どうぞ」

そう言ったさゆみの表情をれいなは見なかった。
さゆみはとても、暗い表情をしていた。
33 名前:それぞれの苦悩 投稿日:2004/06/09(水) 22:31
――***

「後藤さん、私、また人を殺しました」

「私、もう戻れない」

「どうしたらいいですか?私、もう自分を操ることが出来ないんです」

「愛ちゃんにも迷惑をかけっぱなしで。私には後藤さんしかいません」

少女は泣いているのだろう、声を震わせて俯いている。
その両手は血に汚れていて、今でもその感触が忘れられていないようだった。
その少女――紺野あさ美の目の前に立っている人物の名は、後藤真希。
何を考えているのかわからないその表情は、能面のようにぴくりとも
動かない。
34 名前:それぞれの苦悩 投稿日:2004/06/09(水) 22:32
「紺野はさ、ゴトーと一緒だよ」
真希は言う。
ゆっくりとした口調で、でもとてもはっきりと。

「本当はさ、ゴトーも人殺したくないんだよねぇ。でもね、それは
逃げてるだけなんだって、気づいたんだ」
「…私も、逃げてる…」
「だからさ、やるしかないんだよね。ゴトーも紺野みたいに大事な友達が
いて、その子に迷惑かけたくないって思ったコトもあったよ。だけど、
仕方ない。ゴトーの運命――紺野の運命だから」

真希は立ち上がる。
あさ美はそんな真希を見上げて、縋るような目をする。
真希は苦笑した。

「自分で決めるんだよ、決めたら、ゴトーのところにおいで。
紺野次第だよ、他人は決められない」
35 名前:それぞれの苦悩 投稿日:2004/06/09(水) 22:32
その言葉を残し、真希は消えた。
薄暗い建物の中で、ただ一人、あさ美だけが生きている人間だった。

「自分、次第…私は……」

足元に転がる血に塗れた人間だったモノたち。

――私がやったんだ。

そのことを実感して、あさ美は膝に顔を埋めた。
どうすればいい?
……彼女の中では、既に答えは出ていた。
36 名前: 投稿日:2004/06/09(水) 22:47
更新終了です。
それじゃあレス返しっ。

>>26 名無し飼育さん さま
雰囲気は自分がすごい悩んでやってるんで、そう言われると
嬉しいです。
亀井のキャラいいですか?
いろいろ試行錯誤してますw

>>27 名無し飼育さん さま
よかですか?そりゃ幸いww
全てのキャラがツボなんて…キャラにはこだわってるんで
嬉しいですねぇ。
変人……僕も変人ですから、大丈夫ですよ!
自分のペースで、頑張りまっす。

>>28 名も無き読者 さま
キャラ全員、一人一人に物語があるんでそう言って
もらえるとすごい嬉しいですね。
みなさん変人なんだ…
仲間がいてくれて嬉しいです(喜
暇あるときに更新!を忘れずに、頑張ります。
37 名前:27の名無し 投稿日:2004/06/09(水) 23:31
更新お疲れ様です。今日は携帯から失礼しますm(__)m
おぉ、キャラが増えてきましたね。イイですねぇ。もうはまりまくりです!次回もワクワクしながら待機してます(w
38 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/10(木) 18:48
更新乙彼サマです。
何やら自分が大好きな展開になって来てますね(危
キャラ一人一人の物語も楽しみデス。
続きも期待して待ってますw
39 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:32
――***

――さゆ、さゆ!

ああ、絵里の声がする。

――さゆ、ごめんね!ごめんね!

…これはあの時の記憶だ。
大丈夫だよ、そう言いたかったんだ、私は。

――痛いよね?ごめんね、さゆ、ごめん!

痛くないよ、痛くない。
絵里になら、何されても大丈夫だよ。

――…絵里ね、もう一人ぼっちになっちゃったの。

この言葉が、全ての発端だったんだ。
絵里は一人なんかじゃなかったのに。
どんな時でも、私だけは傍にいたんだよ。
40 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:33
――***

「れいな、どこ行くの?」
「ん?だって小川さんもおらんし、散歩でもと思って。
さゆも行く?」
「うん。連れてって」

薄暗い廃屋をあとにして、危ない裏通りから出た。
二人の格好はTシャツにジーンズ。
朝から表通りをこんな格好で堂々とうろつく少女も中々珍しい。
しかし人々の反応は、興味無さ気に二人を一瞥するだけに留まった。

「さゆ、学校ってどうしてんの?」
突然のれいなの一言。
さゆみは意表をつかれた表情を見せたが、すぐに答えを返した。

「行ってない。あそこに初めて来て、もう戻らないって決めた時から」
「ふぅん…」

れいなは曖昧な返事を返した。
学校に行かない、勉強をしない、テストを受けない、受験をしない。
それは全て嬉しい限りのことだったが、れいなの心境は複雑だった。
毎日することと言えば勉強だけだった。
それがなくなってしまった。
41 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:34
好きだったわけじゃなかったけど、学校に通えない、もう塾にも行けないと
なると、これから自分は何をしていけばいいのか戸惑ってしまう。

――自分が望んだ自由なのに

れいなは声を出さず自嘲気味に笑った。

「あ、藤本さぁん」
さゆみが声を上げる。
前方から走ってくる茶髪の女の人。
それが藤本美貴だ。

「重さんっ、麻琴は!?」
「さあ?知らないですけど」
「ったくもう!どこ行ったんだこんな時に!」
「何かあったんですか?」
「紺野あさ美がごっちんのところへ!!」
42 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:35
れいなを無視して話は進んでいく。
そしてその美貴の言葉を聞いた途端、さゆみののんびりとした表情が
がらっと変わった。
昨日見た表情によく似ている。
れいなはそう思った。

「紺野さんが……」
「どうなってんの、本当にっ!よりによってごっちんのとこなんて」
「…あとで小川さんに伝えておきましょうか?」
「悪いね。頼むよ。…あんたは?」

彼女の視線がれいなに向いた。
鋭い目で、まるで睨まれているような視線に少し怯んだ。

「田中…れいな、です。さゆと小川さんに、お世話になってます」
「あ、そう。藤本美貴。よろしく」
「はあ…よろしく」
「じゃ重さん、美貴は病院行くから」
「はい」
43 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:36
美貴は思いっきり地面を蹴って全速力で走っていった。
わけのわからない会話ばかりで、れいなの頭は混乱している。
そして相変わらずさゆみの表情は曇っているようだ。

「何ね、あの人」
「藤本美貴さん。結構色々あって、あんまり後藤さんのこと
好きじゃないみたい」
「…そのさ、後藤って誰?」
「後藤真希さんっていって、何かよくわかんない人。私も詳しくは
知らないの」

そう言うと、さゆみはまた歩き出した。
れいなは歩き出したさゆみの少し後ろをついていく。

その時、悪寒がした。
背筋がぞくっとなって、思い通りに体が動かない。
さゆみも同様らしく、表情は凍りついている。

「うそ……」
独り言のようにさゆみは呟いた。
本当に信じられないといった様子だ。

――嫌な感じ

何もわからないれいなは、ただただそう思うしかなかった。
振り返りたいのに振り返れない。
逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
44 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:37
「また新しい子を巻き込んだの、重さん?」
「紺野さん…」
「だめだなぁ。まこっちゃんも教育がなってないね、うん」

振り返ると、おどけたように笑う一人の少女がそこにいた。
純粋という言葉が似合うような風貌。

――コイツが、紺野あさ美!

あの嫌な感じの原因はこれだ。
するとれいなにはその笑顔が妙に不気味に思えて、無意識に
後ずさった。

「まこっちゃんは抜けてるって言うかアホだからねぇ」
「何の用?あんた」
「ちょっとれいな!」

さゆみの静止も聞かずに、れいなは続ける。
目の前の紺野あさ美の存在を拒否しようとする自分の身体を
必死にその場に踏みとどまらせる。

「特に用事はないんですよ、新入りさん。ただ重さんとは久しぶりだから
挨拶でもと思って」
「…おちょくってると?」
「全然。田中さん、あんまりイライラのしすぎはよくないよ」
45 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:38
クスクスと声を潜めて笑う紺野あさ美。
それを複雑な表情で見つめるさゆみ。
苛立ちを隠しきれないれいな。

「それじゃあ、またね、二人とも」

愛想のいい笑顔を見せてあさ美はそう言った。
軽く手を振って二人とは反対方向に歩き出すあさ美を、れいなは
釈然としない様子で見つめている。

「そういえば…」
「え?」
「何であたしの名前、知っとうと、あの人」
「……さあ?」

それ以上会話は続かなかった。
二人の間には、紺野あさ美が残した嫌な空気と、沈黙だけがあった。
れいなはさゆみに気づかれないように、小さく舌打ちをした。
46 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:39
――***

「そっか、お腹すいてたんだね」

よかった、と亀井絵里は安堵した。
目の前には昨日の猫。
放っておけなくなってしまい、彼女は今こうして牛乳をあげている。
猫が小さな声でにゃあ、と鳴く度、絵里はとても嬉しかった。

「いいね、キミ」
無心にミルクを飲んでいる猫を見ながら、小さく呟く。

「絵里も猫になりたいなぁ…」

にゃあ、という鳴き声が聞こえる。
愛らしい小さな瞳がこちらを見つめている。

その時だった。
絵里は背後に人の気配を感じ、ばっと振り向いた。
47 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:40
「よっ」

目立つ金髪。小さな、とても小さな背丈。
特徴的な大きい声。

「矢口さん」
「悪いんだけど、ちょっとさあ、手伝ってほしいことがあるんだよな」

その女――矢口真里はにっと笑い、手に持っているタバコに火をつけた。
絵里は訝しげに真里を見つめる。

「嫌、とは言わせないよ。よっすぃーの許可も取ってる」
「…絵里は吉澤さんの所有物ですか」
「似たようなモンだろ。それに……」

煙が舞う。
絵里は軽く咳き込んだ。
それには構わず真里はタバコを手に持ったまま、こう言った。

「亀井、道重さゆみに会いたくないか?」

道重さゆみ。

その名前を聞いた瞬間、絵里の心は決まった。
48 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:54
――***

血の臭い。
小川麻琴はその光景に眩暈がした。

「あさ美ちゃんがやったんよ」

愛が悲しそうに笑った。
床に転がる腐りかけの元人間だった物体。

血に塗れたこの部屋の中で、麻琴はため息をついた。

――あさ美ちゃん、何考えてんだろ

「麻琴、あの子は」
「わかってる。仕方ないんだ。あさ美ちゃんはこうしてないと
自分を見失っちゃうんでしょ」
「…ごめん。アタシがちゃんとしとらんから」
「愛ちゃんの所為じゃないよ」
49 名前:非日常 投稿日:2004/06/15(火) 23:55
必死に笑顔を作った。
血の臭いに負けそうになって、さっきから吐き気が止まらない。

どんどん自分の中に流れる血が無くなっていくような気がする。
下手をすれば、この場で倒れてしまいそうだ。

「愛ちゃん」
「ん?」
「里沙は、本当に死んだのかな」
「さあ…わからん」

あの時の光景が蘇る。
鮮明に、とても鮮明に。

――私、本当は死にたくない

里沙は飛び降りる瞬間、そう言い残した。
飛び降りたあと、急いで下を見たけれど。

彼女の残骸は、どこにも見つからなかったんだ。
50 名前: 投稿日:2004/06/16(水) 00:03
>>37 27の名無し さま
キャラ増えましたよ!今回の更新分でも2人…
ちなみにまだ増えます。
何人増やすんだって感じですがww
はまっちゃってますか?嬉しいですねぇ。
どんどんはまっちゃってくださいw

>>38 名も無き読者 さま
好みの展開なんて、嬉しいw
何だか登場人物が増えすぎてごちゃついてます。
一人一人に色んな事情があるんです。
だからそれを上手く書いていきたいなぁ、とww

更新終了です。
学校のテストがもうすぐですが、まぁ何とかなるでしょうって感じで。
マターリ頑張ります。
51 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/16(水) 01:28
すごく引き込まれます…
52 名前:27の名無し 投稿日:2004/06/16(水) 07:17
更新お疲れ様です。
全ての事柄が気になる・・・。
そして、引き込まれるこの文章力・・・最高です(感嘆
登場人物は増えたほうが嬉しいので、万事無問題っすよ(w
次回も楽しみにしています。
53 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/16(水) 17:26
更新お疲れサマです。
あぃやー、なんというか物語に厚みがありそうですw
さらに読者を惹くその文章力、、、イチワリワケテクダサイ。。。
続きも楽しみにしてます。
54 名前:あなたの痛みは私の痛み 投稿日:2004/06/16(水) 22:00

ただ

あなただけは、守り通したかった。

出来なかった美貴を、許して。
55 名前:あなたの痛みは私の痛み 投稿日:2004/06/16(水) 22:01
――***

いつ見ても清潔感溢れる内装。
藤本美貴は、病院の入り口に立っていた。

後藤真希が動き出したと知ってからというもの、美貴の中では
再び怒りと憎しみに似た感情が現れた。
決して感情的になってはいけない。
それが、真希に対抗するために美貴が身につけた唯一の術だった。

「美貴たぁんっ」
「よっ」

不意に表情が緩んだ。
美貴が待っていた人物。
それがこの目の前の少女、松浦亜弥だった。
56 名前:あなたの痛みは私の痛み 投稿日:2004/06/16(水) 22:02
「どう?調子」
「あのね、最近すっごい楽なんだ。食欲もあるし、傷も
痛まなくなったし」
「そう、よかった」

にっと微笑む美貴。
亜弥といると、いつでも本当の自分になれる。
怒りなど、微塵も感じないのだ。
そんな気持ちにさせてくれる亜弥が、美貴は好きだった。

「ねぇ亜弥ちゃん」
「ん?」
「ちょっと歩こっか」

微笑む美貴。
亜弥は嬉しそうに頷いた。
57 名前:あなたの痛みは私の痛み 投稿日:2004/06/16(水) 22:03

「ごっつぁんがさあ、紺ちゃんをそそのかしちゃったんだよねぇ」
「じゃあ紺ちゃんはもう、ごっちん側の人間?」
「ま、そうなるね」
「美貴たんはどうするの?」

亜弥のその言葉に、車椅子をついていた美貴の歩みが止まった。
不思議そうに亜弥は振り向く。

「どうするも何もないって。美貴は美貴だよ。今までどおり、
一つの目的に全力投球っ」
「あたしの為なら、危ないことはしないでね」

懇願するような口調に、美貴は声を潜めて笑った。
そして、車椅子を止めて亜弥の目の前に座る。

「美貴は、亜弥ちゃんの為なら死ねるよ。だからこれはね、
ただの自己満足」

そう言って笑った美貴の顔は、今までで一番優しいもので。
そして同時に、強い意志に満ち溢れたものだった。
58 名前:あなたの痛みは私の痛み 投稿日:2004/06/16(水) 22:04
――***

「暑いね」
「…うん」

気の抜けた様子のさゆみを、れいなは複雑な心境で見やった。
さっき紺野あさ美に遭遇した時から――いや、藤本美貴と会った
時からだろうか。
さゆみはずっとこの調子だった。

「さゆ、そのテンションうざい」
「ごめん」
「はあ……ったく」

苛立ったように頭を掻いた。
折角外に出てきたのに、これじゃあ全然面白くない。

「…私ね、紺野さんによく勉強教えてもらってたの」
「は?…ああ、うん」
「すっごい優しかった。でも、ある人が死んで、変わった」
「ある人?」
59 名前:あなたの痛みは私の痛み 投稿日:2004/06/16(水) 22:05
れいなは首をかしげた。
さゆみは構わず続ける。

「小川さんも高橋さんもしばらく塞ぎこんで…でも、1番
ひどかったのが紺野さん。食事もろくにしないで、ただ
ぼーっとしてるだけだった」
「…じゃあ何であんな風になったと?」
「後藤さんだよ。あの人が紺野さんを変えた」
「後藤真希?」
「うん」

れいなは思う。
一体、後藤真希とはどんな人物なのだろうか。
そこまで人間に影響を与えられるような人物なのだろうか。

会ってみたい。
興味本位で、れいなはそう思った。
60 名前:あなたの痛みは私の痛み 投稿日:2004/06/16(水) 22:05
その時だった。
れいなの心臓は大きく高鳴った。

『たった今、自宅で主婦が殺害されたという事件が入ってきました。
その主婦は包丁で一突き、即死の状態だったという情報です。
推定死亡時刻は昨日午後5時から……』


ニュースの終わりに主婦の名前が告げられた。
れいなの母親だった。

心臓がどきどきする。
冷や汗が止まらない。

「れいな?」

さゆみが心配そうに覗き込んできたが、れいなにはそれに
構っている余裕などなかった。
捕まるかもしれない。
覚悟してきたはずだったのに、れいなの心はその恐怖でいっぱいに
なった。
61 名前:あなたの痛みは私の痛み 投稿日:2004/06/16(水) 22:06
「どうしたの?大丈夫?」
「何でもなか…」

『犯人は未だわかっておりません。しかし関係者の話によると、娘が
まだ帰ってきていないということで……』

――だめだ。どうしよう

ニュースが終わっても、れいなは恐怖から逃れられなかった。
さゆみの心配そうな視線を受けながら、押しつぶされそうな恐怖感に
必死に耐えている。

「さゆ……ごめん」
「え?」
「あたし、自分の母親を殺した」

自分で言って、激しい自己嫌悪に襲われた。
言わなきゃよかった。
人々の足音に混じって、隣でさゆみの小さなため息が聞こえた。
62 名前: 投稿日:2004/06/16(水) 22:25
>>51 名無し読者 さま
引き込まれるなんて…
その一言だけで嬉しいですw
ありがとうございます。

>>52 27の名無し さま
そ、そんな!
文章力を褒められるなんて、思ってもみなかったです。。。
ありがとうございますww
話がややこしくなってますんで、気になるのも仕方がないかと。
ちなみに登場人物はもっと増えます。

>>53 名も無き読者 さま
物語に厚みがあるというか、単にややこしいだけというかww
みなさん揃って文章力を褒めてくださるなんて…
褒めすぎです。調子乗りますよ?
ってか、自分なんかより全然文章力あるじゃないですか!!
63 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/17(木) 00:30
更新お疲れサマです。
乗っちゃえ乗っちゃえw
少なくても連日ですし問題無いかと。
しっかし気になるコトだらけですなぁ。。。
引き続き今後の展開楽しみにしてます。
64 名前:27の名無し 投稿日:2004/06/17(木) 18:23
更新、お疲れ様でございます。
キャラ・・・増えても、オールオーケーです(w
切り方がうまく、毎日もんどりうって待っています。
・・・変人度がレベルアップしてるよ・・・_| ̄|○
まあ、私はこの小説が読めればそれだけで満たされるんですけど。
では、次回も楽しみに待っています。頑張ってください。
65 名前:会いたい… 投稿日:2004/06/20(日) 13:05
――***

「まあ入れよ」
「はい……」

狭い部屋。
絵里は真里に言われるがまま、部屋の中へ足を踏み入れた。

「ただいま、加護ちゃん」
「おかえりなさい、矢口さん」

部屋の奥に座り込んでいる少女が、力なく微笑んだ。
膝を抱いて座っている少女は絵里を一瞥すると、また俯いた。

「加護ちゃーん。オイラたちさ、ちょっと仕事の話するけど…いい?」
「いいですよ。気にせんといてください」
「オッケー。ありがと」
66 名前:会いたい… 投稿日:2004/06/20(日) 13:06
明らかに絵里と話すときとは違う優しい口調で真里は言った。
それが絵里は少し不満に感じた。
加護と呼ばれた少女は、矢口にとって何なのだろうか。

「…で、話なんだけど」
「さゆに会えるんですよね?」
「ちょっと待って、落ち着けよ、まあ」
「じゃないと引き受けませんよ、面倒くさい」
「可愛くねぇな」
「それなら吉澤さんにも言われました」

どうでもいいことのように絵里は言い放った。
面倒くさそうに真里はため息をつく。

時計の針は午後6時をさしていた。
どおりでお腹がすくわけだ、絵里は自分のお腹をさすった。
67 名前:会いたい… 投稿日:2004/06/20(日) 13:07
「そろそろ本題に入るぜ?」
「じゃないと困ります。お腹すきましたし」
「…先に言っとくが、この件は道重さゆみと直接繋がってるわけ
じゃない。この件を辿っていくと、その先にもしかしたら
アイツがいるかも知れないってことだ」
「会えるんですか?会えないんですか?」

そう言って詰め寄る絵里に、真里は少し怯んだ。
実は、この件で最終的に道重さゆみに会える確率は少なかった。
否、ほとんど無いだろうと言える。

ひとみに話を聞くと、道重さゆみという名前が数回会話に出て
来た為、絵里にその名前を言ってみた。
すると案の定、上手くひっかかってくれたというわけだ。

「亀井」
「何ですか?」
「お前、運はいい方か?」
68 名前:会いたい… 投稿日:2004/06/20(日) 13:08
元々交換条件でここへ彼女を連れてきたようなものだった。
真里は多少いい加減な人間に見えるが、人を騙したりは趣味じゃない。
絵里の答えによってはこのまま帰すつもりだった。

「すっごい強運、持ってますよ」

真里の予想に反して、そう言った。
絵里は笑っていた。
69 名前:変わりない会話 投稿日:2004/06/20(日) 13:09
――***

さゆみのため息が聞こえてからというもの、れいなはすっかり
自己嫌悪に陥ってしまった。
今ここで理由を話したとしても、きっと理解なんてしてもらえない。
当たり前だ。
人殺しなんて、理解されるわけがない、理解されてはいけない。

――あたしはそれだけのことをしたんだ

その時、さゆみがやっと口を開いた。

「れいなは、それを聞いて私が驚くとでも思った?」
「は?」

皮肉っぽい表情を浮かべるさゆみに対して、れいなは間抜けな声を上げた。
その言葉に何と返せばいいのか。
言葉が、見当たらない。
70 名前:変わりない会話 投稿日:2004/06/20(日) 13:10
「人殺しなんてね、私たちの周りにはゴロゴロいるんだよ。別に
いまさられいながそうだったなんて知ったところで、どうってことないし。
それに…まあ何となく気づいてた」
「さゆってさあ」

不意にれいながさゆみの言葉に割り込んだ。
不満そうに見つめられたが、れいなはそれに気づいていない。

「…何?」
「何か達観しとるっちゃねぇ。あたしと同い年やし、見た目もロリっぽいのに」
「じゃあ言うけどれいなってさあ、案外子供っぽいよね」
「そんなことなか。あたしは大人やけんね」
「ほら、そういうとこが子供」
「ほらぁ、そういうとこが達観しとるって」

キリがない会話。
でも、それがれいなにとってすごく心地よかった。
自分の存在を認められた気がして。
自分の犯した罪を、今なら許せると思った。

しかし。
そんな時間が続くのは、そう長くはなかった。
71 名前:始末の仕方 投稿日:2004/06/20(日) 13:12
――***

「うわ、銃声…」

小川麻琴は小さくそう呟いた。
麻琴の進行方向から銃声が聞こえたのだ。
出来れば面倒には巻き込まれたくない。
というか、もう人を殺したくはない。

「最悪だぁ」
決まりの悪い笑みを浮かべて、手持ちのサバイバルナイフを取り出した。
普段は銃を使う麻琴だが、今日はあいにく銃は持っていない。
仕方ない、と息を吐く。

――出来れば巻き込まれたくないなぁ

そう思いながら歩く。
銃声が聞こえたのは、どの辺りだろう。
麻琴は鼻をひくつかせ、懸命に血の臭いを探った。

「うわぁ、こりゃひどい」

思わず麻琴は声を上げる。
目の前に横たわっているのは、最早人間とも思えないほどの残骸。
あまりにもひどい光景に、逃げ出したい症状に駆られた。
72 名前:始末の仕方 投稿日:2004/06/20(日) 13:13
…だが、そうもいかないようだ。

「何だ?てめぇ」
「いや、何だって言われてもぉ…」

犯人らしき男がぎろりと睨む。
面倒くさいなぁ…。
そう思いながらナイフをちゃんと握りなおす。

「見られたからには消さねぇとなあ…」
「うわあ、物騒ですねぇ」

愛想笑いを浮かべながら、拳銃をかまえている男に自分から近づいていく。
男は拳銃を突きつけてきたが、麻琴は怯むことなく進む。
右手にはきらりと光る銀色のもの。
それに気づかない男はゲスな笑みを浮かべて引き金に手をかけた。

しかし、拳銃は発砲することなく力なく地面に落ちた。
それと共に滴り落ちる真っ赤な血。

「………ぅっ」
小さな呻き声を上げる男を、麻琴はただ見つめていた。
銀色だったナイフは真っ赤な血で染まっている。
73 名前:始末の仕方 投稿日:2004/06/20(日) 13:14
「そっちが悪いんだよ?あたし機嫌悪かったのにさあ、余計にあたしの
機嫌損ねちゃうんだから」

そしてまた、血に染まったソレを男の体にねじ込む。
ぼたぼたっと滴る血。
崩れ落ちる男の体。
無表情の麻琴。

「まぁ、せいぜいあの世で反省してよね」

そう言ってナイフを抜いた。
思ったより深く刺さっていたようだ。
柄の部分も少し血に染まっている。

「あ〜あ」
血がついたままのソレをポケットに収めて、息を吐く。
ゆっくりと歩き出した麻琴は、感情の読み取りにくい声で言った。

「余計な人殺し、しちゃったなぁ」

手についていた血が、滴り落ちて。
ぴちゃっ、と小さな音が聞こえた。
74 名前:微妙な二人の関係 投稿日:2004/06/20(日) 13:16
――***

「おい!いしかー!早く走れ!!」
「ま…待ってよのの!」
「うっせー。ののじゃなくて『辻様』だろーが!」
「辻様待ってください!」

石川梨華はそう叫ぶと、地面に座り込んだ。
前方を走っていた少女――辻希美は、仕方ないといった様子で
立ち止まった。

「どったの梨華ちゃん」
「のの…じゃなくて辻様、あのですね」
「いや、もうその呼び方はいいから」
「のの、さっき私、見ちゃった」
「なにを?」
「ごっつあん」

微妙な笑みを浮かべる梨華。
それとは正反対に、俯いて肩を震わせている希美。
75 名前:微妙な二人の関係 投稿日:2004/06/20(日) 13:16
「え?どうしたの、のの」
「おまえなぁ……」
「私って、もしかしてすっごい役に立ってる?すごーいっ!さっすがチャーミー!」
「いい加減にしろ役立たず!!」

静かな裏通りに希美の怒号が響いた。
突然のことで梨華は目を白黒させている。
ついでに肌は真っ黒だ。

「そういうのはなぁ、その場ですぐに言わなきゃ意味ねーんだよ!!
ぜんぜん役にたってねーよばか!」

いきおいに任せてガンガン言いたい放題。
見た目ではわからないが、希美はとても口が悪くイライラしやすい。
いや、それは梨華の前だけだろうが。

ふと見ると、梨華は泣きそうな顔をしている。

――きしょっ!

希美は心底そう思った。
そして何故自分はこんなヤツと行動しているのか。
そう思うといやになった。
76 名前:微妙な二人の関係 投稿日:2004/06/20(日) 13:17
しかし、一応大事なパートナーだ。
このまま放っておくわけにはいかない。
放っておきたい気持ちは山々なのだが。

「…あのさ、次からはもっと早く言ってよ」
「のの…」

今度は別の意味で泣き出しそうな梨華。
急に恥ずかしくなってきた希美は、梨華を置いて全速力で走り出した。

「あ、待ってよのの!」
「『辻様』だっての!行くぞ!!」
「ハイ辻様!」
77 名前:微妙な二人の関係 投稿日:2004/06/20(日) 13:18
満面の笑みを浮かべたまま、梨華も立ち上がり希美のあとを追うように
走り出す。
希美は確かに少しキツイところがあるが、たまにとても優しい。
梨華は大事な妹のように希美を見ていた。
そしてこんなむちゃくちゃな関係が、とても心地よかった。

「早く来い地黒!!」

希美のせかす声が聞こえる。
向かうは後藤真希のところへ。

――あたしたちがごっつあんの家族だよ

そう言った日からずっと。
二人は後藤真希だけを追いかけてきた。
78 名前: 投稿日:2004/06/20(日) 13:27
>>63 名も無き読者 さま
じゃあ乗っちゃいますよ?
気になることばっかり…だろうな。
だってまだ全然話が先に進んでいってないですしww
今後の展開に期待してください。
どんどんややこしくなってったら、どうしよ…

>>64 27の名無し さま
そう言ってくれるなら、まだまだ増やします!
ってかゴロッキ中心だったのにねぇ…
切り方がうまいなんて初めて言われた…嬉しいっすねぇw
ってかどんどん変人度レベルアップしちゃってください!
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/21(月) 11:32
マコっちゃん・・・(゜□゜;;ガクガク・・・
石川と辻様とごっちんの関係も気になります。。。
80 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/21(月) 17:18
更新お疲れ様デス。
おぉ、もうジャンジャン出て来ますねw
ていうかピーマコ。。。(怯
この2人も何やら新鮮な感じでグーです♪
続きも楽しみにしてます。
81 名前:絡みだす真実の糸 投稿日:2004/06/23(水) 19:41
――***

「よぅ、そこのお二人!」

大きな、少し少年のような声。
二人の前に現れた人物を見て、道重さゆみは驚愕の表情を浮かべた。

「重さん久しぶり!まゆげ、ビームっ!!」

その少女の名は新垣里沙。
少し前に死んだはずの人間だった。

しかし今さゆみとれいなの前にいるのは、見間違うはずがない。
新垣里沙本人だ。

「新垣…さん?」
「元気だった?あれ、そっちの子は?」
「田中れいなです」
「よろしく田中ちゃん!」
82 名前:絡みだす真実の糸 投稿日:2004/06/23(水) 19:42
れいなは「はあ…」と小さく頷いた。
恐ろしくテンションの高い人だな。
そう思った。

「な…何で新垣さんがいるんですか!だって新垣さんは…!」
「甘いね重さん。ま、それが重さんのいいところだけど。
私が死んだなんて、本気でそう思ってたんだ」
「飛び降りたじゃないですか!ビルの屋上から!」
「う〜ん…相変わらず頭かったいねぇ」

おどけたように言う里沙をよそに、ますますさゆみの表情に
混乱の色が表れる。

あの時の里沙の涙。
麻琴や愛、あさ美たちの表情。
まわりで見ていた今より少し幼いさゆみと、後藤真希。
そして、里沙が飛び降りたあとの、静かになった屋上。
83 名前:絡みだす真実の糸 投稿日:2004/06/23(水) 19:43
全てが蘇ってくる。
白黒の思い出なんかじゃなく、はっきりと色がついて。

幾度も他の人間を苦しめた、たった一つの死。
それなのに、その人間は……

――死んでなかった?

「私は確かに飛び降りたけど、死んだなんて誰が言ったっけ?
今ここにいるのは、新垣里沙だよ」

里沙の割と大きな声が響く。

さゆみは思う。
あの噂は本当だったんだ、と。
84 名前:絡みだす真実の糸 投稿日:2004/06/23(水) 19:43
噂とは近頃、中高生くらいの少女が不審な動きを見せているらしい、という
ものだった。
情報屋の飯田圭織の言うことだから、さゆみたちも信じていないわけではなかった。
いや、半分信じていたという方が正しいだろうか。

――その女の子、話によるとどうもガキさんと被ることが多くてさ。
まあカオリも確かめたわけじゃないから、確信はないんだけど

圭織と最後に電話をしたとき、確かにそう言っていた。
その時は気ままな情報屋の言うことだと思い、そんなに気にはしていなかった。
しかし考えているうちに、実はそうなんじゃないかと思い始めたのだ。

死体がなかったってことは、きっとどこかで生きているということ。
それだけは、根拠もなく確信していた。

「…新垣さん、多分飯田さんの情報網に引っかかってますよ。あの人は
こっちの人間だから、うまく逃げないと、捕まっちゃいますよ」
「あっちゃー。やっぱそうだったんだ。どおりで思ったんだよね、最近
やけに動きにくいなあって」
「何がしたいんですか?」
「教えなーい。楽しみがなくなるし、それに…」
85 名前:絡みだす真実の糸 投稿日:2004/06/23(水) 19:44
里沙はちらっとれいなに視線を落とすと、またさゆみを見る。
唇が乾いてきたのか、ぺろっと小さく舌を出して舐めた。
半歩ほど後ろに下がると、にっと笑った。

「まだみんな、動きだしてないでしょ」


その言葉を残し、里沙は走り去った。
さゆみは追いかけることもせず、ぺたんとその場に座り込んだ。

「え?さゆ、どげんしたとっ?」
「どうしよ…れいな、どうしよ……っ」
「なん?さゆ、何ね?」

唇を震わせてうわ言のように呟くさゆみに、れいなはかける言葉がなく
ただ同じ言葉を繰り返す。
服の袖をしっかりと握り締め、唇をかみ締めてさゆみは顔を上げた。
86 名前:絡みだす真実の糸 投稿日:2004/06/23(水) 19:45
「あの人…っ、きっとみんなあの人に殺される……!きっとれいなも、
れいなも殺されちゃうよ!」

その言葉を聞くと、れいなは凍りついた。
普段ならこんなの冗談だと流してしまうかもしれない。
しかし今のれいなはそうではない。
そんなことは、きっと出来ない。

だって今のれいなは非日常的な世界にいて、そして何よりも人殺しの恐怖を
知っている。
殺される方も殺す方も、本当は同じくらい恐ろしいということを知っている。

何より自分を一瞬見つめた時のあの目。
冷たい光が宿っていて、とても深い闇の色をしていた。

――多分あの人、一番にあたしを狙ってくる

確信めいた思いが、ふと頭をよぎった。
87 名前:やらなければいけないこと 投稿日:2004/06/23(水) 19:45
――***

「ちくしょう!何だってんだよ!!」

苛立った声を上げて、吉澤ひとみは頭をかきむしった。
目の前に広がる死体の数々。
あまりにもひどい光景で、きっと常人なら卒倒してしまうだろう。
あまりにも残酷なこの殺し方に、ひとみは見覚えがあった。

――まだやってんのかよ、ごっちん

無意識にため息がこぼれる。
親友だった人間が殺したモノたちを見るのは、やはり何度あっても
気分のいいものではない。
88 名前:やらなければいけないこと 投稿日:2004/06/23(水) 19:46
この感覚に慣れてしまってない自分に少し人間らしさを感じて、
ひとみは苦笑した。

――人間らしさなんて、捨てたと思ってたんだけど

「あーあ、ごっちん…ダメじゃん」

その場にいない人物に言っても仕方がないことなのだが、何故か
呟いてみると笑みがこぼれた。
ひとみはその残骸の後片付けをしようと、散らばったモノたちを一かたまりに
まとめる。
昔からこれはひとみの役目だった。

まだ何も知らなかった、純粋だった子供の頃。
雨が降るとお気に入りのおもちゃで遊ぶのが真希とひとみの習慣だった。
いつも真希は飽きて途中で放りだして、片付けるのはひとみだった。
しかしそれがいけないと思ったことは、今まで本当に一度もない。
それが自分の役目だと、信じて疑わなかったから。
もちろん今も。
89 名前:やらなければいけないこと 投稿日:2004/06/23(水) 19:47
真希が人殺しをするたびに、自分が求められている気がする。
寂しいと叫んでいる気がする。

だから自分は離れたところで見ているんだ。
そして昔のように、何も言わずに遊び終わったおもちゃを片付けよう。
それが自分の役目だ。

今や真希にとって人殺しとは恐ろしいものではなくなった。
むしろ、自分を支えるために必要なものになってしまったのだ。
でもそれが悪いとは思わない。
それが真希だから。

「ごっちーん…片付かねーよー」
90 名前:やらなければいけないこと 投稿日:2004/06/23(水) 19:47
空を見上げ、生まれた頃から一緒だったあの子に向けて言う。
これを聞いたらきっとあの子は笑って、

――よっすぃ、頑張れ

と言うのだろう。

だったら、とひとみは思う。
だったら、真希がそう言うのなら。
自分は自分の役目を貫き通すんだ。
彼女が笑うのなら、自分は人すら捨ててみせるんだ、と。

もう一度ひとみが見上げた空は、とても青く澄んでいた。

――こんな日は外で遊ぶのが一番だよ、ごっちん。

その時、突然の銃声が、ひとみの耳に届いた。
そして腹に鋭い痛みを感じて、そのまま地面に倒れこんだ。
91 名前: 投稿日:2004/06/23(水) 19:56
>>79 名無飼育さん さま
まこっちゃん恐くなりましたか?
確かにキャラ違いすぎですよね。。。
石川さんと辻様wと後藤さんの関係は、まあ
徐々に徐々にね、明らかになりますです。

>>80 名も無き読者 さま
はい、ジャンジャン出てますっ。
ゴロッキ中心は何処へって感じですが、ストーリー的には
一応そうなってくるのでまだまだ出します、キャラww
マコやっぱり恐かったんや……
辻様たちは何のかもそのうち明らかになります。
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 21:46
よっすぃーーーー?!

93 名前:名も無き読者 投稿日:2004/06/24(木) 08:09
更新乙彼サマです。
秤ス!?どうしたのよ彼女!?(汗
突如現れた彼女もまたスゴイ雰囲気を持ってましたが。。。
ますます目が放せねぇッスw
続きも楽しみにしてます。
94 名前:誰かを守れば、誰かが傷つく 投稿日:2004/06/30(水) 19:42
――***

私たちは心底バカだった。
何度傷ついても、誰かを信じようと必死になる。
吉澤ひとみは、弱弱しい笑みを浮かべた。

頭上には真っ青に澄んだ空。
そして、倒れているひとみに拳銃を突きつけている藤本美貴の姿。

腹にくい込んだ銃弾は急所を外していたらしい。
95 名前:誰かを守れば、誰かが傷つく 投稿日:2004/06/30(水) 19:43
――まだ生きてんのか、あたしは

自嘲気味に、ひとみは笑った。
じくじくと腹部が痛む。
何より、友達だったはずの藤本美貴が自分に銃を突きつけている。
それが理解できなかった。

「何で、美貴が撃ったのか、わかる?」
「…いや」
「わかんないよね。うん、よっちゃんさんは、本当は撃ちたくなかった」
「何が、言いたい?」

美貴の銃を持つ手は震えていた。
小刻みに震えるその手を握ってあげたかったが、ひとみの体に力は入らず、
それは不可能だった。
96 名前:誰かを守れば、誰かが傷つく 投稿日:2004/06/30(水) 19:44
「ずっと前から、よっちゃんが邪魔だった」

思いがけないその言葉に、ひとみは少なからずショックを受けた。
だが同時に、美貴が自分を撃った理由が少しわかった気がした。

「美貴、ごっちんのこと、やっぱ許せないし。ごっちんを殺そうって思ってさ。
そしたら、いっつもごっちんを影で守ろうとしてるよっちゃんさんが、すっごい
邪魔だった」

初めて語られる美貴の本心。
昔の美貴では考えられない言葉の数々。
そうか、彼女は――

「あたしらよりも大事な人、出来たんだね」

依然としてお腹がじくじく痛む。
それなのに、不思議なくらい、その言葉ははっきりと言えた。
97 名前:誰かを守れば、誰かが傷つく 投稿日:2004/06/30(水) 19:45
「…美貴、よっちゃんは殺さない。ただ、しばらくは動かないでいてほしい」

ひとみは答えなかった。
ただ静かに、目を閉じて、これから自分を襲うであろう痛みに耐えようとした。
美貴が無言で銃を振り上げる。
そして次の瞬間、ひとみの頭に殴られたような衝撃が走った。
98 名前:意外にお似合いな二人 投稿日:2004/06/30(水) 19:47
――***

亀井絵里は、隣の人物に気づかれないようにそっとため息をついた。
真里のアパートから出てからというもの、絵里はため息をつく回数が急に
多くなった。

「あの…」
「何や?」
「いえ、その、何でもない…です」
「ふぅん」

隣にいるのは、真里のアパートにいた、加護亜依という少女だった。
見かけによらず絵里よりも年上だという。
関西弁も絵里には馴染みのないものだったので、中々上手く会話が出来ない。

――亀井には、これから加護ちゃんと一緒に行動してもらう

予想していなかったその言葉に、絵里は困惑した。
亜依は別に何も言わず、無表情でただ頷いた。
99 名前:意外にお似合いな二人 投稿日:2004/06/30(水) 19:48
真里曰く、絵里は少し無鉄砲――というか、先を考えずに行動するところがあり、
頭がよく計画的に行動する亜依と組んで欲しいということだった。

確かに無鉄砲というところは否めないと自分でも思う。
しかし、だからといって見知らぬ少女と行動しろなんて無理があるのだ。

――これからどうなるんだろ

また、亜依に気づかれないよう静かにため息をついた。
……気づかれないように、したつもりだったが。

「何回目?」
「はい?」
「ため息ついたん、何回目って」
「気づいてたんですか?」
100 名前:意外にお似合いな二人 投稿日:2004/06/30(水) 19:48
「当たり前や。あんだけおっきいため息、気づかんワケないわ」
「…すいません」
「別にええよ。それより、うちとおんの、そんなにつまらん?」
「あ、いえ…まあ楽しくはないですけど」
「正直やなぁ」
「すっ、すいません」

絵里はまたため息をついた。
自分ではそんなに大きいとは思わないこのため息も、亜依にしてみれば
大きいうちに入るのだろう。

「加護さんは」
「ん?」
「何で矢口さんのところに?」
「ああ、そんなことか。うちな、親がおらへんねん。孤児なんや」
「孤児……」
「それでな、うち、矢口さんにお世話してもうてるんや」
101 名前:意外にお似合いな二人 投稿日:2004/06/30(水) 19:49
そう言って、亜依は初めて笑顔を見せた。
だがそれは何故か曇っていて、そしてとても悲しそうだった。

「絵里は、友達を探してるんです。一言、謝りたくて」

絵里の口からは自然にその言葉が出てきていた。
今まで他人にはめったに話したことがなかったのに。
何故だろう、亜依には話したくなったのだ。

「加護さぁん」

絵里が間延びした声で亜依を呼ぶ。
いつぶりだろう、こんな呑気に誰かを呼んだのは。

「何や?」
「絵里、前言撤回しますね」
「はあ?」
102 名前:意外にお似合いな二人 投稿日:2004/06/30(水) 19:50
ワケがわからないのだろう、亜依は首をかしげた。
絵里はくすっと笑って、言った。

「絵里、何か加護さんといると、たのしーです」

それを聞いて、亜依も小さく笑った。
しかしこの時、二人はすでに一人の少女に狙われていた。

紺野あさ美。
彼女は唇を笑いの形に歪めて、静かに歩き始めた。
103 名前: 投稿日:2004/06/30(水) 19:56
>>92 名無飼育さん さま
よっちゃんさん、大変大変(汗。
でも生きてますから、不死身ですから(ヲイ
負けるなよっちゃんさん!

>>93 名も無き読者 さま
えと、よっちゃんさんは大丈夫ですww
男前パワーで生きてます。
彼女はですねぇ、この話の結構鍵になる人です。
最近急激に美人になってますしw
104 名前:我道 投稿日:2004/06/30(水) 20:17
更新お疲れ様です。ROMってましたが、ついに出てきてしまいました。
いい雰囲気ですねぇ。
というか、紺野さん・・・ヒィ!!!
あ、すいません・・・PCの前で少し震えてました。
次回からも読ませていただきます。頑張ってください。
105 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/01(木) 17:19
更新お疲れ様デス。
おーぅ、みんな色々抱えてそうですねぇ。。。
あの人はまた(((( ;゜Д゜))))な感じで・・・。
続きも楽しみに待っとりましゅw
106 名前:一つだけ、なんて 投稿日:2004/07/11(日) 19:56
――***

大事なもの。

心。命。笑顔。

どれか一つでもなくなったら?
107 名前:すべて、守りたいから 投稿日:2004/07/11(日) 19:57
――***

「何の用?麻琴」
「や、飯田さんにお話がありまして」

見るからにアホそうに笑う麻琴を尻目に、飯田圭織はパソコンの
キーボードを叩く。
真っ暗なこの部屋には、パソコンと小さいライト以外は何も無い。
暗闇を好む無口な人物。
それが飯田圭織だった。

「くだらない用なら聞かないから」
「冷たいですねぇ。まあそう言わずに」
「早く本題に入って」
「あさ美ちゃんが後藤さんについたのはご存知ですよね?」
108 名前:すべて、守りたいから 投稿日:2004/07/11(日) 19:58
圭織の肩が、ふいにぴくりと動いた。
振り返った圭織の表情は、固い。

「カオリは情報屋だよ?それくらいの情報は入ってきてるけど」
「愛ちゃんが、近々暴れだすと思います」
「…どうして、高橋が?」
「カンですけどね。親友の、カン」

そう言ってへらっと笑う麻琴を見て、圭織は深いため息をついた。

――麻琴のカンって結構あたるからなぁ

そして苦笑しながら、おもむろにポケットから小さな銃を取り出した。
それを麻琴の手に握らせ、何も言わずにまたパソコンに向かう。

「へぇ?えっと、何ですかこれ」
「それ、麻酔銃。何発か撃ち込めば眠っちゃうから。ピンチになったら
焦らずそれを使うように」
「…はいっ。ありがとーございます!」
109 名前:すべて、守りたいから 投稿日:2004/07/11(日) 19:58
それ以上圭織は何も言わなかった。
麻琴は部屋のドアに手をかけた。

その時だった。

「麻琴」

圭織の柔らかい声が聞こえた。
ふわっとした、優しい声だ。

「新しい子…田中れいな、どう思う?」
「知ってたんですか」
「情報屋だからね。で、どう思う?」
「ん〜…何て言うか、面白いですねぇ。でも何か秘密ありそうなぁ…」
「…田中のことは、ちゃんと守ってあげなさい。じゃないといつか、
彼女はいなくなっちゃうよ」

その言葉に、麻琴は小首を傾げた。
しばらく無音の時が流れる。
それっきり圭織が何も喋らなくなったので、麻琴は改めてドアのノブを回した。
110 名前:すべて、守りたいから 投稿日:2004/07/11(日) 19:59

麻琴が出て行った、狭くて真っ暗な部屋。
圭織はパソコンの画面を一瞥し、独り言のように呟いた。

「母親殺し、か」

画面には、主婦の殺害事件の記事。
そして、田中れいなの顔写真が掲載されていた。
111 名前:私に出来ること 投稿日:2004/07/11(日) 20:00
――***

「さゆ」

呼びかける。
返事は、ない。

「あたし、今さゆとか小川さんとか後藤って人が何やってんのかよう知らんし、
わからん。でも、あたしは力になりたいっちゃよ?」

そう。
あたしが何かの役に立てるのならば、喜んでその為のコマになろう。
あたしなりの、全ての、償いだ。

「…人、殺せる?」
「え?」
112 名前:私に出来ること 投稿日:2004/07/11(日) 20:01
俯いたままのさゆみが放った一言は、れいなに衝撃を与えた。
あの時の、母を殺した時の感触と恐怖が去来した。

「何言うとると?そんなん、簡単には…」
「じゃあ、死ねる?殺すかわりに、自分が死ぬ覚悟ってあるの?」

あまりにも極端なさゆみの言葉に、れいなは少し眩暈がした。
確かに、自分には殺す覚悟も死ぬ覚悟もない。
いや、それが一般的には当たり前だ。

「何でそげな物騒なことになってくと?」
「私達が、今、どういう状況下にいるか、わかる?」
「そんなんわからん」
「…私達、れいなも含めて、もう逃げられないんだから。殺すか、死ぬか。
逃げるか、捕まるか」

さゆみが顔をあげた。
そして無言で立ち上がると、れいなの細い手首を掴んで歩き出す。
痛いくらいに力を込めて引っ張るさゆみに、れいなは言った。
113 名前:私に出来ること 投稿日:2004/07/11(日) 20:02
「さゆ!」
「れいな、私言ったよね、戻れないって」
「…うん」
「黙ってついてきて」

少し力を緩めて、今度は小走りに人ごみを行く。
引っ張られながら、れいなは周囲を見つめた。

楽しそうに歩く人たち。
笑顔を浮かべている人たち。
幸せそうな人たち。

――もう戻れない、か

「あたしは戻る気なんてない」
114 名前:私に出来ること 投稿日:2004/07/11(日) 20:03
――***

「一度会ったことがありますよね、亀井絵里さん」

背後から声をかけて、その少女はにこっと微笑んだ。
絵里は悪寒がした。
拳を握り締め、いつでも逃げれるようにと亜依に目で合図をする。

「紺野あさ美……!」
「…関心しませんね。年上を呼び捨てするとは」

怪訝そうな顔をした紺野あさ美。
絵里の頭には、逃げることと紺野あさ美に対しての恐怖だけが存在していた。
一度会っただけで、絵里の脳裏には紺野あさ美への恐怖が焼き付けられていたのだ。

「何の用…ですか?」
「別に何も。ただ…お知らせしておこうかと」
「なにを?」
115 名前:狂気の始まり 投稿日:2004/07/11(日) 20:05
今にも押しつぶされそうな圧迫感。
隣にいる亜依もそれは感じているらしかった。

――下手したら、殺される

足が震える。

――逃げなきゃ。今は死ねないから

そればかり考えていた。

しかし次の瞬間、あさ美の言葉に絵里は驚愕する。

「吉澤さんが、先ほど病院に運ばれました」
「え?」
「腹部に銃弾を一発、そして頭部に鈍器での打撲。命に別状はないでしょう」
「あなたが、どうしてそれを?」
「…それはお話する必要はないかと。ただ、藤本美貴さんの仕業だ、という
ことは明らかですね」
116 名前:狂気の始まり 投稿日:2004/07/11(日) 20:05
絵里は愕然とした。

何故藤本美貴が吉澤ひとみを傷つけたのか。
友達だった、はずなのに。

「その理由は…その気持ちは、亀井ちゃんが一番知ってるよね」

普通の喋り方に戻って、にこっと笑うあさ美に、絵里は何も言わなかった。
もちろん隣の亜依すらも。
117 名前:狂気の始まり 投稿日:2004/07/11(日) 20:07

あさ美が去ったあと、しばしの沈黙が流れた。

無表情の絵里と、何も言わない亜依。

何も言わなかったけれど、顔にも出さなかったけれど、二人には通じるものが
あったのかも知れない。

――友情は、得てして狂気に変わる

絵里は、爪が皮膚にくい込み、血が滲むほど強く拳を握る。

――何よりも大事なものは、いつしか不必要なものに変わっていくんだ

かつての絵里は、確かに一瞬でもそう思っていた。
118 名前: 投稿日:2004/07/11(日) 20:18
>>104 我道 さま
で、出てきてくださいましたか!
こちらもいつも楽しく拝見してますw
雰囲気を褒めてくれるというのが嬉しいです。
紺野さんは…本当はこんな風にしたくなかったんです_| ̄|○

>>105 名も無き読者 さま
みんな色々抱えてまして。。。
しかも登場人物多すぎた所為で、中々出てこない人が多々…
…精進します。
あの人は本当に、作者が思う方向に進まずに悪の道に走って
しまいましてww

更新遅れて申し訳。
次回は早く更新したいな、なんて言ってみたり。
119 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/11(日) 20:38
更新乙彼様デス。
あわわ、始まりってコトはこれからどんどん・・・。(汗
キャラの暴走は自分にも大量の経験があるので心中お察ししますデス。
ホントに奴らときたr(どんっ♪
川o・∀・)<続きも楽しみにしてますよ〜w(ニヤソ
120 名前:狂愛 投稿日:2004/07/25(日) 13:37
――***

「あああああああああっ!」

まただ。
また誰かが、誰かの腕を引きちぎる。
また誰かが、誰かの首をへし折る。

断末魔のような叫び声が続く。
高橋愛は、目を閉じて耳を塞いだ。

この叫び声はいつまで続くだろう。
この時間はいつまで続くだろう。

――いや、もうダメだな

愛がそう思った瞬間、叫び声は止んだ。
目の前に飛び込んできたのは、目を大きく開いて口から異物を垂れ流す、
見知らぬ人間の姿。
121 名前:狂愛 投稿日:2004/07/25(日) 13:38
――ああ、アタシがやったんだ

ぼーっとする意識の中、そう思った。
愛がその人間だったモノから手を離すと、ソレはあっけなく地面に崩れ落ちた。

目を閉じて、その叫び声が聞こえないように耳を塞いでいたのは、
心の中のもう一人の愛。

争いを嫌う、温和で非常に良心的な愛。
人の困惑する顔、命乞いするむごい表情を見るのが快感になった、人殺しのために
生まれた人間のような愛。

二人はふたりでひとりだった。
離れることはなかった。
それ故に、思い通りにならないことが多かった。
122 名前:狂愛 投稿日:2004/07/25(日) 13:39
「…こんなモンちゃう」

あの子の痛みは。
あの子の苦しみに比べれば、こんな薄汚い人間の、こんな薄汚い死。

「里沙……」

あの時、どうしても伝えられなかった。
伝えてあげられなかった。

――好きだよ

誰よりも、何よりも。
きっと、自分をどんなに犠牲にしてもいいくらい、愛してる。
123 名前:キズナというもの 投稿日:2004/07/25(日) 13:40
――***

「――あ、もしもし?」

外は快晴。気温も熱すぎず、涼しすぎず。
絶好の天気だった。
しかし矢口真里は外へ出かけるわけでもなく、ただ一人、散らかった部屋で
携帯を耳に当てている。

「そうそうオイラ、矢口。久しぶり――でもないか」
『…用件はなに?』
「何だよ、もうちょっと世間話とかしよーよ」
『生憎だけど、あたし今忙しいのよ』
「ハイハイ。ったく、ホントせっかちだよな圭ちゃんは」
『そういうアンタは本当に子供っぽいわね』
「ぅるさいっ!ほっとけ!!」
124 名前:キズナというもの 投稿日:2004/07/25(日) 13:41
本当に、この人はいつもそうだ。
いつまで経っても皮肉が上手な奴だな。

そう思い、真里は苦笑した。
電話の相手――保田圭は不満そうな声を漏らす。

『つまらない世間話は終わり。用件は何?』
「あー。そうソレ。えっとさ、コンコンとごっちんのこと」
『それだけ?』
「あとー、よっすぃーとミキティのこととー」
『……まだあるの?』
「――加護ちゃんについて」

最後の言葉が、妙に重みを帯びていた。
それをわかっているのかいないのか、圭は淡々と話を進めていく。
125 名前:キズナというもの 投稿日:2004/07/25(日) 13:47
『紺野とごっつぁんのことならカオリから連絡入ってきてるから』
「あ、そうなの?ってか圭ちゃんってカオリと繋がってたっけ?」
『まあね。でも内緒よ。カオリ、自分に関わった人とか人間関係とか
バラされるの嫌いだし』
「あー…確かに。あんなんでよく情報屋なんか務まるよな」

カオリか。
そういえばもう何ヶ月も会ってないな。
まあ元々アイツは人に会うのとかあんま好きじゃなかったし、不思議でも
ないか。

ふと、真里は時計を見た。
亜依と絵里が出て行ってからどのくらいだろう。
もしかしたら今回のことは、あの二人の手には負えなかったかも知れない。

『よっすぃーがどうかしたの?藤本が何かしたの?』
「――あ。えと、よっすぃーが藤本に撃たれちゃったんだよね。今さ、確か
病院にいる」
『…あの二人、仲良かったのにね』
「人の絆なんてわかんないもんだよ」
126 名前:キズナというもの 投稿日:2004/07/25(日) 13:48
吐き捨てるように言った。
本当にその通りだった。
真里は過去の自分の経験から、絆というものをほとんど信じなくなった。
そんな目に見えないモノを信じているから、いつか裏切られたときに
いっぱい傷つく。いっぱい泣く。
明るい笑顔の裏には、そんな思いが隠されていた。

『あ…ごめん。まだ引きずってるのね』
「引きずってるって言い方はやめろってー。そんなんもう忘れたっつの。
で、えっと…加護ちゃんのことだな、あとは」

電話口の向こうで押し黙る圭を無視して、真里は話を進める。

「あの子さ、そろそろキレちゃうね。オイラ、そう思う」

圭が何か話そうという気配がした。
しかし、それを聞く前に、真里は電話を切った。

ふっと、窓から空を見る。
部屋の中からもわかるように、その空は、暗くなっていた。
真里の心にも、少し影が落ちていた。
127 名前:親友と親友 投稿日:2004/07/25(日) 13:49
――***

「ここ、なんするとこ?」
「ちょっとね。あ、れいなだったらこれなんかいいんじゃない」
「は?」

二人は小さな店の中にいた。
薄暗い照明はどこか不気味だったが、それでも何故だか不思議な安心感を得ていた。
何の店だろう。
周りを見回すと、ぎらぎら光る小さな灯りに照らされてギラギラと厭に光っている
拳銃や、その他れいなが見たこともないものばかりあった。

そして、さゆみが自分に押しつけた物を見て、れいなはぎょっとした。

「うん。いいかも」
「なん言うとーと?銃なんか、どげんするつもり?」
「使うんだよ。れいなが」
「…あたし?」
128 名前:親友と親友 投稿日:2004/07/25(日) 13:50
もう一度、押しつけられた小さなソレを見る。
服越しでも十分冷たさが伝わってきて、それが余計に生々しくて、身震いした。
それでいつでも人が殺せる。
そう考えただけで、恐怖に足が震えた。

「言ったでしょ。戻れないって」
「でもあたし、人殺しをするなんて一言も言ってなか!」
「じゃあ殺さなくてもいいよ。これで自分の身だけ守ってれば」
「な…っ!」

やけにトゲのある言い方だと思った。
こんなさゆは初めてだった。
そして、こんなにも人殺しに対して恐怖を抱いたのも、おそらく初めてだった。
母を殺したときよりも自分が怯えていることに気づいて、とても驚いた。
129 名前:親友と親友 投稿日:2004/07/25(日) 13:51
「…なんで、私たちがこんな所で――陽の当たらないこんな場所で暮らしてるか、
れいなわかる?」
「………」
「れいなと同じだよ。表の世界には戻れないんだよ。戻りたくても、もうだめなの」
「さゆは…何やらかしたと?」

おずおずと拳銃を受け取ったれいなは尋ねた。
さゆみはれいなから離れて、窓から外の景色を見やった。
さっきよりも雲行きが怪しくなってきている。

「私ね、親友だと思ってた子に、刺されたの」
「刺された?」
「うん。でもね、その子、泣いてたの。だから私、痛みなんて感じなかったの。
ただ泣かないでほしくて、それだけで頭がいっぱいで、痛くなかったの」

淡々と語るさゆみの過去。
きっとそれは、そう昔のことではないはずだ。
さゆみはきっと、何らかの理由でその子を探してる、もしくは、その子の
ことをまだ引きずっているんだろう。
130 名前:親友と親友 投稿日:2004/07/25(日) 13:52
れいなはふと、いつかの優しい笑みを浮かべた母を思い出した。

「さゆはその子のこと、探しとうと?」
「うん…でもむこうが会いたくないなら、いいやぁって感じなの。そんなに
一つのことに執着することが出来ないの私」
「親友なんでしょ」

するとさゆみは困ったような笑顔を浮かべた。
れいながその言葉に含んだトゲに気づいたのだろうか。
ただ曖昧な表情をしている。

外は暗い。
時計を見ると、もう夕刻だった。
雨が降りそうだな、と心の中で思った。

「あの子も――絵里も親友だけど、れいなもさゆ大事な親友なの。違う?」

思いがけない言葉に、れいなは複雑だったが、やがて嬉しさがこみ上げてきて、
ふっと笑みをこぼした。

「そうっちゃね」
131 名前:親友と親友 投稿日:2004/07/25(日) 13:53

外を見る。
雨が降ったら、また濡れて帰らなきゃだな、と思った。
まあいいか。
あたしはもう一人じゃないから。

132 名前:支配者 投稿日:2004/07/25(日) 13:54
――***

「紺野、来たね」
「私の居場所は、後藤さん以外にないんですよ」

クスクスと静かに笑う少女の表情は、今までとは少し違うものだった。
圧倒的な狂気を含んでいる。

――ちょっと、やりすぎちゃったかな

少女を狂気に晒した当の本人、後藤真希は苦笑した。
純粋な少女を狂気でいっぱいにするのは、とても容易だった。
それ故、少しやりすぎてしまったかもしれない。

まあいい。

「これからは、ゴトーと一緒だよ」
133 名前:支配者 投稿日:2004/07/25(日) 13:55
この子は自分の言うことなら何でも聞くはずだ。
それに、少しは問題児の方が、こちらもやりがいがある。

「私、後藤さんとなら、何でも出来る気がします」
「気じゃなくてさあ、何でも出来るんだよ」

真希は確信していた。
自分達は――いや、自分が一番強く、賢明だということを。

それ故に、もともと頭もよく、自分を慕っていた紺野あさ美を仲間に
むかえいれた。
全てが自分の思い通りにいくという確信があった。

昔からそうだった。
自分の思い通りにいかないものなんて、ほとんどなかった。
それが何故か少し悲しくて、つまらなかった。

134 名前: 投稿日:2004/07/25(日) 13:58
>>119 名も無き読者 さま
レスありがとうございます。
はい、もうこれからどんどん……
もう奴らには困ったもんです、ほんと。
暴走しすぎで手に負えませんww
こ、紺野さん!!
続きも楽しみにしといてくださいw
135 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/25(日) 21:51
更新お疲れ様デス。
いや〜全キャラの過去と未来が気になって仕方ない、、、
読者を引きつけるのがお上手でw
皆の暴走、楽しみにしてます。(ヲイ
136 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 18:12
更新乙彼様です。
どんどん田中が巻き込まれてく……
道重の過去が少し明らかになりましたが他の人たちは一体…
次も楽しみに待ってます。
137 名前: 投稿日:2004/07/27(火) 13:49
――***

「梨華ちゃん…のん、もう歩けない」
「えー?もうちょっと頑張ろう、ね?」

最早廃墟となった建物が建ち並ぶ、まるでゴーストタウンのような道。
石川梨華は、歩けないといってへたり込む辻希美の様子を見て、
深いため息をついた。
はじめは強がって生意気ばかり言っても、結局最後はいつもこうだ。
いつまで経ってもこういうところは子供のまま。

「もうののったら、いつも最後には疲れた疲れたって」
「…あ。り、梨華ちゃん…」
「どうしたの?」
「うしろ……!」

どこかうろたえた様子の希美に言われ、梨華は後ろを振り向いた。
そこには、いつかの友の姿があった。
138 名前: 投稿日:2004/07/27(火) 13:49
「久しぶり、梨華ちゃん」

不気味に口元を歪めた笑顔を浮かべる藤本美貴が自分を見つめていた。
その表情が気になったが、梨華は懐かしい友に思わず抱きついた。

「美貴ちゃん!久しぶり」
「ちょっ、抱きつくなよー、キショいって」
「ひどーい」

笑いあってから、梨華は美貴を見つめた。

少し大人っぽくなった。
身長は……そんなに伸びてないな。
変わったところも変わらないところも全て藤本美貴だ。
嬉しさがこみ上げてくる。

「辻ちゃんも久しぶり」
「美貴ちゃん…」

浮かない表情を浮かべる希美を、梨華は不思議に思った。
139 名前: 投稿日:2004/07/27(火) 13:50
――どうして?久しぶりにあった友達じゃない

しかし、希美にとっては梨華の方が信じられなかった。
梨華には見えていないのかも知れない。
しかし希美ははっきりとそれを見てしまっていた。
美貴は右手に―――

「美貴ちゃん…」
「何?ってか辻ちゃん、大人っぽくなったねぇ」

屈託ない笑顔を浮かべる美貴に、言葉を失う。
しかし、言わなければならない。
自分のためにも。
そして、梨華に美貴の右手のソレを気づかせなければ。

「何で…銃なんて持ってるの…?」
140 名前: 投稿日:2004/07/27(火) 13:51
その刹那、美貴の表情は一気に歪んだ。
怒った顔になったとか悲しい顔になったとかそんなものじゃない。
確かに彼女の表情は、今までに見たことないほど醜く歪んだのだ。
もちろん、梨華にもわかるほどに。

「何で、ってねぇ…うん。説明は難しいかも」
「美貴ちゃん…そんなもの、今は必要ないでしょ?」

希美は、はっきりとわかった。
梨華は怯えている。
見たこともない美貴に、確かに怯えている。

「…二人は、ごっちんの味方?」
「当たり前じゃん。ごっつぁんはのんたちの仲間だもん」

すると、何も言わない梨華に美貴は無言で銃を突きつけた。
辺りが無音の世界に包まれたように、音を失くしていた。

再び世界が音を取り戻したのは、銃声だった。

しかしそれは、美貴が手にしているものの音ではなかった。
141 名前: 投稿日:2004/07/27(火) 13:51
「り、梨華ちゃんを撃ったらのんが美貴ちゃんを殺すよ!」

希美の手には、厭な光を放つ黒々とした銃。
それは耳をつんざくような大きな音をあげると、もう一度火を噴いた。
弾は美貴の右腕をえぐるように飛んだ。

痛みに顔を歪めた美貴は、信じられないような形相で銃の主を睨んだ。

「邪魔すんな!」
「邪魔は美貴ちゃんだよ!!のんたちはごっつぁんを探してるんだ、
今は死ねない」

足が、手が、恐怖で震える。
強がってみたはいいものの、人を殺したことはおろか、撃ったことさえ無かった。
下手をすれば死ぬかもしれない。
もしかしたら手が震えて、美貴ではなく梨華を撃ってしまうかもしれない。
何かの手違いで暴発したら、自分の腕が吹っ飛ぶだろう。
希美の脳内では次々と恐怖が溢れ、心も身体も狂ってしまいそうだった。
142 名前: 投稿日:2004/07/27(火) 13:52
「…ごっちんを探してるんだ?」
「そ、そうだよ」
「ふーん。じゃあ、やっぱり――」

梨華から離れ、美貴は希美に近づいてくる。
思わず、後ろに下がる。
足が震えている。
手の震えは止まらない。

それに引き換え美貴の足取りはしっかりしていて、血が滴る右腕は震えている
なんてことはなかった。
みっともない自分が恥ずかしかった。

「やっぱり、美貴の敵だ」

震える手を押さえ、引き金に手をかける。
拳銃を向け合う二人の少女は、同時に引き金を引いた。

パァン!!

乾いた音が響いて、希美はぎゅっと目を瞑った。

そう言えば、美貴ちゃんはごっつぁんを恨んでいるんだった。
あの子が――松浦亜弥がごっつぁんの次の玩具になって、美貴ちゃんは
狂ったみたいに怒った。

そしてそのまま、松浦亜弥は左足に肉がすべて削ぎ落とされたような傷を
負って、藤本美貴は松浦亜弥と共に姿を消した。
143 名前: 投稿日:2004/07/27(火) 13:53
――どうして忘れてたんだろう、のんのバカ

右肩に激しい痛みが走る。
梨華の甲高い声が聞こえる。

――美貴ちゃんは悪くないのに。大切な人を守りたかっただけなのに。

美貴の唸り声が聞こえた。
そっと目を開けて、目の前の美貴を見つめる。

――のんは無神経だ、最低だ、最低なクソガキだ!

希美の撃った弾は、美貴の頬を掠っただけだったようだ。
よかった、と心からそう思った。

「何でちゃんと撃たないんだよ…バカ…」
「み、きちゃんこそ…何で殺さないんだよぉ…」

肩から血が滴り、腕がだらりとだらしなく揺れる。
痛いけれど無理に笑ってみせた。

藤本美貴は、昔と変わらない涙を流していた。
144 名前:狂った彼女の狂った道 投稿日:2004/07/27(火) 13:54
――***

「誰かおんのか…」
「さあ…?」

亀井絵里は辺りを見回した。
血塗れの床が赤黒く光っている。
不気味だな、そう思った。

その刹那、誰かの叫び声が響いた。

「――何や?」
145 名前:狂った彼女の狂った道 投稿日:2004/07/27(火) 13:55
加護亜依は怪訝そうにすると、鼻をひくつかせた。
絵里はその隣でむせかえるような血の臭いを感じ、吐き気がした。

何かの腐った臭いと血の臭い。
そして、この先にある狂気に、足がすくんだ。

「亀井ちゃん、気ぃつけてや…」
「はい」

吐き気が襲うなかでも返事だけははっきりできた。
やがて叫び声は止んで、また静寂に包まれる。

この静寂が、不気味だった。
静かな時間の中でその狂気は一体何を思っているのだろう。
何を感じているのだろう。

「うっ……!」

涙が出るほど強烈な臭いが鼻を刺激した。
146 名前:狂った彼女の狂った道 投稿日:2004/07/27(火) 13:56
――血の臭いが…

足取りがひどく重い。

――いや、行きたくない

しかし、その狂気は――いや、狂人というべきだろう少女は、ほどなく絵里と
亜依の前に姿を現した。
綺麗な人だ、そう思った。

「――愛ちゃん」

隣にいる亜依の口から、そんな呟きが漏れた。
その少女は、にやっと口元を歪める。

「知ってる人…ですか?」
「知ってるも何も…」

目を見開いたまま亜依は一歩うしろに下がった。
少女の足元には血塗れのモノたちが横たわっている。

「おかえり、かーちゃん」

――ウチのお姉ちゃんや

亜依はそう言って、その少女――高橋愛にゆっくりと近づいた。

絵里はひどく生々しい光景に、さゆみの美しい、深紅の血を思い出していた。
あの時に、ひどく似ていたのだ。
147 名前: 投稿日:2004/07/27(火) 14:02
>>135 名も無き読者 さま
レスありがとうございます。
過去と未来か…どちらにせよ、明るくはないですね(ヲイ
読者を引きつけれてますかね?
自分では今いちわからないもので…(汗
あ、自分は携帯の方が死んでますw

>>136 名無飼育さん さま
レスありがとうございます。
巻き込まれちゃいましたねw
重さんの過去は今回の更新でさらに明らかになりましたよ。
まあ重さんのっていうか亀さんのっていうか…
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/29(木) 12:42
初レスです。今までこっそり読んでました。
辻と藤本……なんか切ないですね。高橋と加護も気になりますし。
次回更新待ってます。
149 名前:名も無き読者 投稿日:2004/07/31(土) 11:18
更新お疲れサマです。
のぁっ・・・、こ、この人も。。。(汗
密かに喜んでたりもしますがw(危
次も楽しみにしてます。
150 名前:我道 投稿日:2004/08/01(日) 13:35
更新お疲れ様です。
切ない場面あり、どこか恐怖を感じてしまう場面あり。
読者のひきつけ方が上手いですね(驚嘆
これからも頑張ってください。
151 名前:過去 投稿日:2004/08/09(月) 18:35

「じゃあねー絵里」
「うん。また明日」


あの頃、私たちは今よりもまだ子供だった。
だからあまりにも愚かな過ちを犯して、ただその一瞬の苦しみと悲しみから
逃げようと、必死だった。


「ただいまぁ」

ドアを開け、幼い頃の絵里は自宅の奥へと進んでいく。
広くも狭くもない廊下を抜けると、絵里はリビングへのドアを開けた。

「おかあさぁん、今日ねー」

真っ赤なランドセルをおろして、ソファに腰をおろす。
静まり返ったリビングは自分以外に誰もいないようで、絵里は何故だか不気味に
感じた。
152 名前:過去 投稿日:2004/08/09(月) 18:37
「おかあさんってばぁ。いないの?」

返事はない。
いつもなら、ああ、母は出かけてるんだ、というところで落ち着く彼女だったが、
今日は違った、
言い知れぬ不安と胸騒ぎが、絵里を襲ったのだ。

「おかあさーん。ねえってばぁー」

立ち上がり、部屋の奥へと進んでいく絵里の目に、人間の足が少し覗いて見えた。
それが母のものだとわかったとき、とても安心したような気持ちになった。
それがもう生きてはいない人間だということを知らない彼女は、早足でそれに
歩み寄る。

「おかあさぁん、そんなとこで寝ないでよー」

しょうがないなぁ、と言った風に絵里は笑みを浮かべる。
しかしその表情は、目の前の光景を見て一変した。
153 名前:過去 投稿日:2004/08/09(月) 18:38
血だらけの床。血塗れのナイフ。血が飛び散った白い壁。
ところどころ穴が開いている、床に横たわっている女性。
それが母だと認識した頃には、もうすでに立っていられないような状態だった。

血塗れの床に母だったモノと共に横たわる姿は、死体のようにも見える。
しかし彼女は生きているのだ。
この血で染まった異常すぎる部屋の中で、呼吸をして、心臓が鼓動しているのは、
最早彼女だけだった。
父もいない、兄弟もいない絵里は、自分は一人になったんだ、と確信した。
154 名前:過去 投稿日:2004/08/09(月) 18:39
――***

「おかあさん…誰がこんな風にしたの?」

もう何も言うことはない、以前は母だったモノに彼女は問う。
その表情は何故だか実に穏やかなもので、そしてその瞳は黒く澱んでいた。

ピチャ、と生々しい音を立てる紅い液体を指で弄ぶ幼い少女は、きっと
他人の目から見ると異常者以外の何者でもない。

「かわいそう…いっぱい穴あいてるよ…痛かったでしょ」

そう言って絵里はそれを抱きしめる。
血で身体が汚れることも、絵里は気にしない様子でただそれを抱きしめる。

ふと、母の傍にあるナイフを見遣った。
その血で塗れたナイフを手にとって、絵里は名残惜しそうに母から手を離す。
155 名前:過去 投稿日:2004/08/09(月) 18:40

――なにをするの?

ほんの少し残っていた理性の欠片が語りかける。

――何って、決まってるじゃない。絵里がおかあさんをこんなにした人を探して
殺してやるんだもん

立ち上がり、部屋から出て静かに廊下を歩く。

――そんなことしたら、犯罪者だよ?まだ小学生なのに……

うるさい。
ほんの少し残った理性に、一体何が出来るというのか。
何も出来ないんだから、絵里の邪魔になることはしなきゃいいんだよ。
156 名前:過去 投稿日:2004/08/09(月) 18:41
血塗れの身体で家のドアを開けた。
その様子は、まるで死体が歩いているかの様だった。

――いや、この時すでに、彼女の心は死んでいたのかもしれない。

「随分と派手なカッコだね、キミ」

絵里が出て行くと、家の前には見知らぬ少女が立っていた。
自分より2、3歳年上だろうか。
茶色い肩までの髪と、少しサル顔で―――でもとても可愛らしい少女だった。
彼女は面白そうに鼻を鳴らすと、絵里が手に持っているモノを見遣った。

「あー。もしかしてもしかして、そこのお家の子?」
「…そうだけど」
「ごっめぇん。お母さん殺したの、あたしなんだぁ」

その時、心臓が思いっきり高鳴った。
こいつが、母を殺した。
こいつが、自分の唯一の家族を―――
157 名前:過去 投稿日:2004/08/09(月) 18:42

ナイフをぎゅっと握り、そのままその少女に向かって走った。

「うわ!危ないよ!」

言葉とは裏腹に、楽しそうな声色で叫ぶ。
それに無性に腹が立って、涙が出そうになった。
――が、何とかこらえる。
こんな奴に、涙なんか見せてたまるか。

「うあああああっ!」
「なんにも考えずにナイフばっか振り回してたってあたしは殺せないよぉ」

また避けられた。
肩で息をしながら前方を見る。
血が滴る自分の身体は、自分でも気味が悪いと思った。

そのサル顔の少女は、少し離れたところで楽しそうに笑っていた。
158 名前:過去 投稿日:2004/08/09(月) 18:43
「――何で、おかあさんを殺したの?」
「何でって……うーん。暇つぶし、かな」

――暇つぶし?
そう言ったのだろうか、彼女は。
人の命を、母の命を暇つぶし扱いとは。

悔しすぎて、悲しすぎて、腹が立って。
何だかもう、わけがわからなくなった。

「――――そんなにお母さんがいないのがショックならさぁ、いっそのこと、
同じとこに連れてったげようか?」

肩で息をして、もう半ばやけになっている絵里の耳に、ふとそんな声が届いた。
―――それも、いいかもしれない。
でも、こいつにだけは――――

「ねえ、名前は?」
「…亀井絵里」
「絵里ね。可愛いね。あたしは松浦亜弥」
「………」
「むう。名前は可愛いのに、可愛げのない子なんだね。まあいいや」

またね、絵里。
その声が聞こえたときには、松浦亜弥の姿はすでになかった。

―――お母さんと同じとこに行っちゃえば?

何故だか、そうしよう、と思った。
そしてナイフを握り向かった先は、一つ年下の親友の家だった。
159 名前: 投稿日:2004/08/09(月) 18:52
えと、メル欄で書いた通り、某板でスレ立てさせていただきました。
よかったらご覧下さい。
それではレス返しっ。

>>148 名無飼育さん さま
初レス、ありがとうございます。
辻さんと美貴帝、切なくできてたら幸いでつ。。。
何か自分は切ない系が書けないんではないかと心配です。

>>149 名も無き読者 さま
レスありがとうございます。
そうです、この人もですw
この人はやばいですからね(ぇ
みんな巻き込まれちゃいますww
あ。PC復活おめでとうございます(遅

>>150 我道 さま
レスありがとうございます。
もう、またそんなに褒めてww
めっちゃ照れます、ってか調子乗りますから(嬉
切なくできてたんか、っていうのがすごい心配でしたからね。
そう言っていただけるとすごく嬉しいです。
160 名前:名も無き読者 投稿日:2004/08/09(月) 19:46
更新お疲れ様です。
過去、ですね。
この後何が起こるのか・・・楽しみですw(マテ
続きも期待してます。
161 名前:我道 投稿日:2004/08/13(金) 10:47
更新お疲れ様です。
両者の方とも、怖いですよ…ガタブルです。
でも、やはり次回が気になるので待たせていただきます。
両立は大変だと思いますが、頑張ってください。
162 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/14(土) 11:16
松浦…((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
163 名前: 投稿日:2004/08/27(金) 21:16
お久しぶりです。
えっとですね、更新というわけではないんですが
ご報告ということで。

9月のはじめから9月の中頃まで、うちの学校はぶっ続けにいくつか
テストがあるんです。
結構大事なテストなんで、それが終わるまではしばらく更新は控え
させていただきます。
…テストが終わればひょっこり戻って来ますんで、そのまま放置…には
ならないです。

それでは、また。
164 名前:マコ 投稿日:2004/08/28(土) 09:37
お初。
れいな来た〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ゴロッキーズ来た〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こう言うのもありかなぁなんて 思ったりしてます おもしろいです。
がんばってください。
165 名前:弱虫なわたし 投稿日:2004/10/07(木) 23:38

「絵里…どうしたの、そのかっこ」

ぎこちなく笑って。

取り乱すわけでもなく。
かといって、自分に近寄ることもなく。

彼女はただ、血まみれの自分を見つめていた。

「さゆ……」

ねえ。
親友でしょう?

「絵里とさゆは…親友だよね?」

絵里が笑ったら、彼女はひっと息を呑んだのがわかった。
でももう、どうでもよかった。

「そ、そうだよ。ねえ、何があったの絵里!」
166 名前:弱虫なわたし 投稿日:2004/10/07(木) 23:39
明らかに怯えているととれる声色で、それでも彼女は自分を心配してくれている。
本当はどうなの?
こんな絵里がこわい?それとも気持ち悪い?

「……さゆと一緒におかあさんのところに行って」
「え?」

聞こえにくかったのか、彼女は少し絵里に近づいた。
しかし二人の間には、確かにいつも以上に距離があった。

そう、さゆと一緒におかあさんのところに行く。
あの人の言う通りにする。

もう自分も、親友も、命も、日常も。
何もいらない。もう、どうでもいい。

「おかあさんのところへ、行こう?」


刹那、その一言で何もかもが終わった気がした。
自分と彼女の世界は、今まで幸せだった世界は、こんな一言であっけなく
終わりを告げた。
ポケットから出した不気味に光る包丁を掲げ、思い切り振り下ろした。
167 名前:弱虫なわたし 投稿日:2004/10/07(木) 23:41
自分たち以外は誰もいないその空間で、彼女の悲痛な声だけが響いて。
肉を裂く厭な感覚と血が吹き出る感覚。
生暖かい真っ赤な血が頬に飛び散った気がしたけれど、見ていられなくて、やっぱり
こわくて目を瞑っていた自分には、よくわからなかった。
声が途切れてゆっくり目を開けたら、微かに呼吸をしている親友がいた。
もう生きられないだろう、そう感じた。

待っててさゆ。絵里も今、さゆと同じになるから。

ぎゅっと目を瞑ってそれを振り下ろそうとした。
でも、待っていたのは肉を切り裂く感覚じゃなくて、痛みじゃなくて。

待っていたのは、包丁が地に落ちる軽い音と。
小さく自分の名を呼ぶ幼い親友と。
いつかの母の姿、母の声と。
最悪の提案をした松浦亜弥と。

そして、親友を巻き込んでおいて結局死にきれなかった自分が涙を流して走り去る、
情けない姿だった。
168 名前:人間の証明 投稿日:2004/10/07(木) 23:43
――***

夜の雨はとても冷たかった。
田中れいなはポケットに慣れない拳銃を押し込んで、さゆみと一緒に暗がりにいた。
本当ならこのまま歩いて戻りたいところだが、どうやらそういうわけにもいかないようだ。
一番会いたくないと思っていた人物が目の前で笑顔を浮かべていたから。

「はじめまして、田中れいなちゃんと道重さゆみちゃん。後藤真希っていうんだけど、
知ってるかな」
「はい…まあ」
「ってか、結構有名っスよ」
「ちょ、れいな!」

怖いはずなのに、わざと挑発するような口調でれいなは言い放った。
寒い、冷たい、怖い、早く帰りたい。
何でこんな状況で、後藤真希はそんなに笑顔でいられるんだろう。
169 名前:人間の証明 投稿日:2004/10/07(木) 23:45
「おもしろいねぇ、田中ちゃん。でもまあ、強がっても無駄だよ?」
「何言うとね」
「足、震えてるよ?」

真希の見透かすような言葉に、れいなは慌てて太腿に手をやった。
寒さの所為か恐怖の所為か、がくがくと震える自分の足。
みっともなくて、恥ずかしい。
そしてまるで自分を透かして見ているような真希が、とても腹立たしかった。

「な、何しに来たと?こっちは、早く帰りたいんやけど」
「つれないなぁ。そんなこと言わないで、ゴトーと遊ぼうよ」
「…後藤さん、私たち、あなたに用はないの」

おそるおそる、でもしっかりとさゆみは言った。
無駄だということはわかっている。
この女にはどんな言葉もきっと通じない。

「ゴトーはあるの。遊ぼうよ、二人とも。ゴトーさあ、今すっごい暇なんだよね」
「嫌やって言うとろうが!」
170 名前:人間の証明 投稿日:2004/10/07(木) 23:46
雨の中、れいなは犬のように吠えた。
こういう時は、ドスのきいた低い声を出せば格好いいんだろうけれど、生憎れいなの
声はそんなに低くなく、むしろ高い。
せめて表情だけでも、威嚇していると見えるように。
思い切り、ほえほえ笑うその顔を睨みつけた。

「…そんなに嫌ならさあ、ホラ、その銃でもバーンって撃っちゃえば?」

無機質な響きを含んだその言葉が暗がりに響く。
その声はどこか渇いた感じがして、聞いているだけで血の気が引いて、まるで生きた
心地がしなかった。

ここで銃に手をかけたら負けだ。
そんな気がした。

「今はまだ…そんなことせんでもよか。いつか、あたしがあんたを殺すまで、あたしは
あんたの前で銃は持たん」
「ふぅん、強気だね」
「気じゃない、あたしは強い」
「ま、言うだけならタダだってね」
171 名前:人間の証明 投稿日:2004/10/07(木) 23:47
バカにしたように言う真希を無視して、れいなは何とか足の震えを抑える。
怖くない、何も怖くないんだ。
そう言い聞かせて、自分を保とうとする。

「いつかきっと、絶対あんたを殺す…殺さなきゃ、ならんと思う」

隣でさゆみがれいなの名前を呼んだのがわかった。
一人じゃないんだ、と思うと嬉しかった。
自分の強さの証拠はさゆみの存在で、さゆみの強さの証拠は自分の存在なんだと思った。
二人なら何でも出来ると思う。たぶん、きっと。


「そうだね…ゴトーも、そう思うよ」

そう言った後藤真希の顔は、今までの能面のような表情とは違い、生きていた。
哀しげな、どこか虚無感の混じったような表情で彼女は笑っていて。
その表情は確実に、後藤真希という人間の『証明』だった。
172 名前: 投稿日:2004/10/08(金) 00:01
レスありがとうございます。
こんな作者に。。。

>>160 名も無き読者 さま
過去、ですw
あれはもうちょっと…何というか
グロくしたかったというか…
でもまあいい感じに重さんが可哀想で痛そうなんで。
愛あらば何でもアリでつ(ヲイ

>>161 我道 さま
どっちも怖いです。ていうか、気持ち悪いですw
キャメイさんは書いてて気分悪くなりました。。。
まあ楽しかったですけど。
両立……物語は両方出来上がってるんで、あとはまあ
更新するだけなんですけどねぇ…

>>162 名無飼育さん さま
その一言に尽きますね、ハイ(笑。
彼女は今後もこそこそ活躍します。

>>164 マコ さま
お初です。
れいなきました、ゴロッキきましたww
こういうのもアリです。ってか、何でもアリです。
お、おもしろいとは…!
ありがとうございます。励みになるです。


次は早めに更新します…多分。
あっちの方は近いうちに更新しますです、ハイ。
173 名前: 投稿日:2004/10/08(金) 00:02
おぅっ、age忘れっ。
気づいてもらいたいんで、一応ageます。
すんません。。。
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/09(土) 22:44
ぬおっ、更新されてる!
待ってた甲斐がありました。
ていうか後藤は一体どんな人なんだろう…
焦らず作者さんのペースで頑張ってください
175 名前:名も無き読者 投稿日:2004/10/09(土) 23:08
更新お疲れ様&お帰りなさいませデス。
やや、相変わらず惹き込んでくれる文章でw
しかし、むぅ〜、、、
彼女は何者なのか…?
タダ者じゃないこたぁ確かですが。
でわでわこれからも楽しみについて行くので頑張って下さい。(平伏
176 名前:魁愛 投稿日:2005/02/08(火) 23:31
はじめまして!ここに書くのは初めてです。めちゃめちゃ続きが気になります!これかられいながどうなるかや加護と高橋がとても気になります!更新待ってます!
177 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/13(日) 11:30
初レスさせていただきます、ごっちんは皆から反感買ってますね、それ程までになった理由とは? 最後までお付き合いさせていただきます。 更新待ってます。
178 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 19:20
いつまでも待ってますよー。
179 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/20(日) 00:50
まだまだ待ってます。
180 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/27(日) 03:16
登場人物増やしすぎて自壊ですかね。
181 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/06(水) 04:38
最終更新から半年経ちましたが・・帰ってきてほしいです。
182 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/27(金) 10:36
保全します。
183 名前: 投稿日:2005/06/15(水) 20:33
保全

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