CALCIO CALCIO CALCIO!! 4
- 1 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 01:23
- 雪板、風板と続いてきました吉澤さん主役のサッカー小説です。
また風板で書かせていただきます。
どうかよろしくお願いいたします。
CALCIO CALCIO CALCIO!!
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/snow/1076257817/l50
CALCIO CALCIO CALCIO!! 2
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/snow/1079742486/l50
CALCIO CALCIO CALCIO!! 3
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wind/1082996705/l50
- 2 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:28
- そしてそれから1週間、みっちりと練習が行われた。
みな気合いが入っており、いい動きだ。
控え組がまだ大人しい点は気になるが、全体的にいい感じだ。
その中でも特筆なのが次代のエース、高橋愛。
積極的に声を出し、動きのキレもいい。
実は合宿当初、マコトが頭を悩ませていたのが高橋だった。
彼女は最初、右サイドハーフのポジションを拒んだのだ。
- 3 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:29
- 「あたしはFWです。FWで起用してください。」
意を決した表情で高橋は言った。
合宿初日、フォーメーション練習で各自のポジションが言い渡された。
マコトはシステムを4−2−3−1にする事を言い、
高橋には右サイドハーフに付くように言った。
が、これに高橋は猛反発した。
オリンピック代表やA代表で右サイドハーフを務めることはあったが、
彼女自身は常々FWで勝負したいと思っていた。
憧れの存在はレアル・マドリードのFW後藤真希。
昨シーズンの後藤の活躍や、
オリンピックで共に戦ってその思いはさらに強くなった。
さらには同い年の松浦亜弥が世界の一線で戦っている。
彼女たちに少しでも追いつきたい。
その気持ちが高橋にFWのポジションを強く望ませた。
さらに自分はA代表でも活躍している。
そしてここはU−19日本代表だ。
この中では自分は圧倒的に格上だと考えていたため、
ポジションに拘ったのだ。
- 4 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:30
- しかしマコトは首を縦に振らなかった。
「俺は高橋を右サイドのアタッカーとして招集した。
このチーム、システムでは1トップのFWとしては正直考えていない。
それでもFWで行きたいというならポジションはベンチだ。
それでもいいのか?」
「構いません。サイドで出るよりかマシです。」
高橋はそう言い切った。
さすがにその言葉にマコトもカチンときた。
が、この雰囲気を察した辻がスッと間に入る。
「愛ちゃん、それは言い過ぎだよ。監督には監督の考えがあるんだから。
とりあえず言われたポジションでやってみて、
その後で話し合ったらいいじゃん。」
この辻の言葉に高橋も少し冷静さを取り戻す。
「わかりました。右サイドに入ります。」
そう言って高橋は納得しない表情を浮かべたままピッチに入っていった。
- 5 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:31
- しかしその後の練習は散々だった。
フォーメーション練習での高橋のポジショニングが悪すぎた。
常に前に前に、さらには中に中にと入り込むのだ。
そのポジションはまさしくFWそのもの。
そのため1トップの道重が中央で張れずに左サイドへと流れていく。
そして高橋が上がって空いた右サイドのスペースはトップ下の田中が埋めるしかなかった。
4−2−3−1のはずが、4−2−2−2へとなったのである。
「うーん、高橋の奴、相当FWに拘ってるな。」
マコトが高橋の動きに溜息をつく。
もちろんマコトもシステムには余り拘らない。
選手たちが4−2−2−2の方がやり易いのならばそれで行ってもいいと思っている。
だが、道重のポストプレー、田中のパスに前線への飛び出し、加護のドリブル、
辻のダイナミックな動き、新垣の守備能力、小川のサイドアタック、
そして高橋のチャンスメイク能力に得点力などメンバーの長所を活かすことを考えれば、
自ずとシステムは4−2−3−1となる。
- 6 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:31
- だがそれも本人たちが納得してこそだ。
納得しないまま強引にシステムに当てはめても力は発揮できないであろう。
そう、あのセリエAインテルミラノのように。
「さて、どうしたもんかな。」
マコトはこの後、どうやって高橋を納得させるか考えていた。
が、翌日。
マコトの心配は杞憂に終わった。
高橋が自ら右サイドで行くと言ってきたのだ。
その言葉どおり練習でもきっちりと自分の役目をこなす高橋。
「何だ?何があったんだ?」
思わず首を傾げるマコト。
その答えを教えてくれたのは小川だった。
「昨日、亜弥ちゃんと電話してましたから、
きっとそれじゃないですか?」
- 7 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:32
- 「もしもし、亜弥ちゃん?」
『そうだよ。愛ちゃんだね。久しぶり、元気だった?』
合宿初日の夜。
高橋は遠くスペインにいる同い年のライバルに電話した。
今日のことを聞いてもらうのもあるが、
それよりもバルセロナからセビージャへ移籍し、開幕戦を迎える松浦に
一言“がんばれ”と言いたかったのだ。
日本は午後11時。スペインでは午後3時だった。
「練習は?もう終わったの?」
『うん。こっちでは大体午後3時から2時間ぐらい昼寝の時間なんだ。
だから練習も終わって家に帰って来たとこ。』
「そうなんだー。いよいよ開幕戦だね。がんばってね。」
『ありがとう。すっごく楽しみなんだ。』
電話口から聞こえてくる松浦の声は活き活きしていた。
それに対して高橋の声はやや沈みがちだ。
『どうしたの愛ちゃん。何かあった?』
それに気付いた松浦が高橋に尋ねた。
高橋は今日マコトに言われた事を松浦に説明した。
- 8 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:33
- 『なるほどね。でも、はっきり言ってそれは愛ちゃんのわがままだよ。』
「えっ・・・・・?」
松浦の言葉に驚く高橋。
『もちろん、ポジションに拘るのはいいと思うよ。
でも話を聞いてると愛ちゃん、サイドハーフはFWより格下だって思ってない?
サイドハーフだと格下げだから、FWに拘る。それじゃただのお子様だよ。』
「ちが・・・・・・」
『そうでしょ?それ以外に何か理由ある?』
「・・・・・・」
高橋は言い返せなかった。
確かにそんな風に考えていたかもしれない。
しばらく沈黙が流れる。
- 9 名前:第4話 Repay 投稿日:2004/06/08(火) 01:34
- 『・・・・ま、あたしも人の事言えないけどね。
散々バルセロナからセビージャに行くのを迷ったもん。』
松浦がおどけた様に言った。
「・・・・そういえば亜弥ちゃん。どうしてセビージャに移籍するのを決めたの?」
『うん。ホントはバルサにいたかったんだけど、
試合にわずかな時間しか出ないよりも1シーズンきっちりと試合に出れる所に行った方がいいと思って。
しかもレンタル移籍なんだから1年たてばバルセロナに戻れるしね。』
「ふーん、そうなんやー。」
相槌を打ちながらも、それでもよく松浦が決心したなと高橋は思う。
高橋の知っている松浦は自分とよく似ている。
プライドが高く、マイペースでありながら周りの声を気にするタイプ。
そんな松浦が、いくら試合に出られるからといって格下のセビージャに移籍するだろうか?
もし自分ならば控えでもバルセロナにしがみついていたかもしれない。
サイドを嫌がり、FWに固執する今のように。
- 10 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:36
- 『愛ちゃんの思ってること分かるよ。』
不意に松浦が言った。
「えっ?」
『それでもよく格下のセビージャに移籍したなって思ったんでしょ?』
「あっ・・・・・」
ズバリと言い当てられ、高橋は電話口で顔を赤らめる。
そんな高橋を想像して松浦はニコリと笑う。
『あたしもねもちろん抵抗あったよ。
でもね、この移籍はあたしをバルセロナに入団させてくれたコーチのゴリーエさんが持ってきたものなのね。
あたしのためになるからって。
ユタカールト監督はあたしを戦力として見てくれてたみたいだけど、
それはバックアッパーとしてだった。
それじゃああたしのためにならないってゴリーエさんは必死で監督やフロントを説得したらしいの。
でもね、これってゴリーエさんにとってはすごく不利なことなの。
上に噛み付いた事になるし、もし仮に怪我人とかが出て戦力が足りずに成績が落ちたら、
間違いなくゴリーエさんのせいだしね。それでもゴリーエさんはあたしの事を第一に考えてくれた。
そしてマコトさんも、迷うあたしに自分のためだからって移籍を勧めてくれたし、
ユース代表にも選ばないって言ってくれた。
・・・・・・・ホント嬉しかった。あたしはね、そんな自分の事を真剣に思ってくれる人の期待に応えたいの。
勝手なことばっかり言う人たちには何を言われたっていいし、
そんな人からは嫌われてもいい。自分を必要としてくれる人のためにあたしはがんばらないと駄目なんだ。』
- 11 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:39
- この言葉に高橋はショックを受けた。
同い年の松浦が自分よりはるかに大人だった。
松浦と比べたら確かに自分はただのわがままな子どもだ。
「亜弥ちゃん、あたし・・・・・・」
『愛ちゃん。愛ちゃんならきっと大丈夫だよ。
どんなポジションに付いたって高橋愛は変わらないんだから。
それにきっとサイドハーフのポジションに付く事はいい経験になるよ。』
「・・・・・・うん、ありがとう。ごめんね、何か励ましてもらって。」
『いえいえ。それじゃあたしはもう寝るね。
こっちに来てもう長いからシエスタ(昼寝)の習慣が付いちゃって。』
「あ、ごめんね。亜弥ちゃん、開幕戦頑張ってね。」
『うん、ありがとう。愛ちゃんも頑張ってね。』
この電話の2日後。
欧州で開幕戦が行われたが、
松浦のセビージャは見事に強豪アトレチコ・マドリーを破った。
この試合で松浦は見事にゴールを決めた。
これが高橋を刺激した事は言うまでもない。
一日でも早く同い年のライバルに追いついてみせる。
高橋はそう誓い、練習に励んでいった。
そしてこれが高橋愛を加速的に成長させる事になるが、
それはまだもう少し先のことであった。
- 12 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:40
- そして開幕戦から1週間後、松浦はついに古巣との対決を迎えた。
スペインリーガエスパニョーラ第2節
FCバルセロナVSセビージャ カンプノウ(バルセロナ)
- 13 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:40
- 周りはほとんど全てバルセロナサポーター、バルセロニスタ。
98000人入るこのスタジアムは試合前からすでに揺れている。
選手紹介が始まった。
まずはアウェーのセビージャから。
GKからDF、MFと紹介されていく。
そのたびにカンプノウがほとんどのブーイングと少しの拍手で揺れる。
特にブーイングがひどかったのがセビージャ11番キク・カワ・レイエスだ。
彼女はこのチームの中心選手。
それだけにバルセロニスタからは徹底的に攻撃される。
「相変わらずここはうるさいね。
今度バンキシャのフクザワに頼んで特集してもらおうかしら。」
このブーイングにレイエスはつんと澄ます。
どうやらご機嫌斜めのようだ。
- 14 名前:第4話 Repay 投稿日:2004/06/08(火) 01:41
- そして最後の選手が紹介された。
“FW、背番号13!!アヤ・マツウラ!!!”
するとカンプノウから割れんばかりの拍手が起こった。
みな分かっている。
チーム事情で今シーズンはセビージャにレンタルされたものの、
松浦亜弥はこれからのバルセロナに必要な存在であることを。
- 15 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:41
- 試合開始前に両チームの選手が握手を交わす。
松浦も元チームメートたちと握手を交わしていく。
「アヤ、今日は遠慮しないからね。」
アルゼンチン代表FWタマキル・ナミオラが松浦に話しかけた。
鋭い飛び出し、ドリブルからゴールを陥れる世界一流のストライカーだ。
「それはこっちだって。覚悟しといてね。」
松浦も負けじと言い返す。
バルセロナに復帰した時には彼女とポジションを争う事になるであろう。
それだけにこの試合で自分の力をみなに見せ付ける。
「あたしは正直あんたと組めるのは楽しみにしてたんだけど。」
松浦にこう話しかけてきたのは背番号10を背負う彼女。
ブラジル最新の天才コヤナギーニョ。
「あたしもです。でも、それは来シーズンで。
今日は敵ですから。」
この松浦の言葉にニヤリと笑うコヤナギーニョ。
「そうだね。ならば今日、オリンピックの借りを返させてもらうよ。」
- 16 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:43
- ピィー!!!!
主審の笛が高らかに鳴り、試合が始まった。
バルセロナは変則的な4−2−3−1のフォーメーション。
<バルセロナ>
9
7 DF 3 ユウコ・アサーノ
10 MF 5 イワサキ・ヒローミ
20 アフロ・ヒトエ
4 6 MF 4 アツコ・アサーノ
20 5 6 メグ・オキーナ
DF 3 10 コヤナギーニョ
FW 7 タマキル・ナミオラ
GK 9 キョウコリック・コイズミート
- 17 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:44
- 前線はトップにオランダ代表コイズミート。
左サイドのやや上がり目にナミオラ。
そしてトップ下にコヤナギーニョ。
バルセロナが誇るトリデンテだ。
この攻撃陣を支えるボランチにキャプテン、スペイン代表メグ・オキーナ。
オランダ代表のアツコ・アサーノ。
センターバックにはオランダ代表ユウコ・アサーノ。
右サイドバックはカンテラ(下部組織)上がりのスペイン代表イワサキ・ヒローミ。
左サイドバックにアルゼンチン代表アフロ・ヒトエが控える。
世界でもその名を轟かせる選手たちばかり。
まさにドリームチーム、FCバルセロナだ。
しかしここ5年間はタイトルを1つも獲得していない。
今季こそ永遠のライバルレアル・マドリードを倒し、
栄光を取り戻さねばならない。
- 18 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:44
- 一方松浦のセビージャは開幕戦同様4−2−3−1だ。
トップ下のレイエスとトップの松浦がこの試合の鍵を握る。
試合は序盤からホームのバルセロナのペース。
カンプノウの圧倒的な声援に後押しされて、
スーパースターたちが華麗な攻撃を仕掛ける。
- 19 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:45
- 前線に張るコイズミートがセンターバックのユウコ・アサーノから送られたロングパスを
柔らかいタッチでトラップする。
コイズミートはパスをトラップすると、上がってきたナミオラに落とす。
ナミオラはさらにコヤナギーニョに送り、
コヤナギーニョはすかさずDFラインの裏にスルーパス。
これに抜け出したコイズミートがGKとの1対1を迎えた。
もらった!!
これで先制点だ!!
カンプノウに詰め掛けたバルセロニスタたちがゴールを確信する。
が、コイズミートはシュートを撃たずGKをかわそうとした。
これを読んでいたセビージャGKはきっちりと
コイズミートの足元に飛び込みボールを押えた。
バルセロナ、絶好のチャンスを逃した。
- 20 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:46
- ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!
98000人が一斉にバルサの背番号9にブーイングを降り注ぐ。
このオランダ代表FWは恐らくポストプレーでは世界ナンバーワンであろう。
類まれなフィジカル、そして鋭い身のこなしは抜群だ。
それに今の吸い付くようなトラップや、トップ下としても活躍できるパスセンス、
難しいシュートを難なく決めてしまうテクニックを併せ持っている。
が、反面簡単なシュートをよく外してしまうのだ。
それに精神的にも不安定でよくキレてしまう。
そのため、彼女はバルセロニスタのハートを掴みきれていない。
バルセロニスタの中には『マツウラが出るくらいならコイズミートを放出しろ!』
と言う者もいたほどである。
それが逆にコイズミートを追い詰める。
今のも確実にゴールを狙うためにあえてGKをかわそうとしたのだ。
- 21 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:47
- 「よし、予想通りだ。」
ボールを抑えたセビージャGKが思わずほくそ笑む。
松浦に聞いていた通りだった。
コイズミートはGKとの1対1の時はほとんど抜きに来る。
しかもフリーであればあるほどだ。
「ちっ、アヤの奴め・・・・・・」
キャプテン、メグ・オキーナがちっと舌打ちする。
どうやらこちらの癖や性格などは全て筒抜けのようだ。
「フフ。来シーズン戻ってくるのに関係なしか。」
オキーナが笑う。
来シーズンはまたチームメートに戻る。
それなのに癖や性格を惜しげもなくセビージャの選手たちに伝えている。
おもしろい。そうでなくっちゃね。
「コイズミート、切り替えろ!!次だ次!!」
オキーナが大声を張り上げる。
「メグ・・・・オッケー。」
その声に最初は驚いたコイズミートだったが、
スッと手を挙げて応えた。
さすがはバルサ一筋のキャプテン。
その存在感は群を抜いている。
- 22 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:48
- このキャプテンのゲキにより、
コイズミートは気持ちを切り替えてセビージャゴールへと向かう。
が、バルセロナもまだコイズミート、ナミオラとコヤナギーニョの
連係が噛みあっていない。
先ほどは見事なパスワークだったが、その後は見られない。
特にコヤナギーニョだ。
彼女はまさに天才だが、その独特のリズム感から放たれるスルーパス、
トリッキーなパスに味方がタイミングを合わせきれないのだ。
しかしそれでも彼女には卓越したドリブルがある。
何度も中央から個人技でセビージャゴールへと襲い掛かる。
だがセビージャボランチ、DF陣も必死に身体を張ってコヤナギーニョを止める。
そして今日はセビージャGKが当たっていた。
最初にコイズミートを止めた事で気分が乗っていたのだった。
何度もビッグセーブを連発し、チームを救う。
- 23 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:49
- 一方、セビージャは全くと言っていいほど攻められなかった。
ほぼ全員がゴール前で守りを固めている。
まるでイタリアセリエAのプロヴィンチャのクラブのようだ。
この守備的な姿勢にカンプノウはブーイングを降り注ぐが、
セビージャの面々はそんな事を気にしている暇はない。
一瞬でも気を抜けば必ずゴールを奪われるからだ。
「いいよ、そのまま頑張って。」
前線で1人待つ松浦。
チームメートの頑張りに祈る。
前半、何とか無失点で抑えて欲しい。
そうすれば後半、必ずこっちにチャンスが来るから。
松浦の祈りが通じたのか、セビージャMF、DF陣、そしてGKの奮闘で
バルセロナが圧倒的に攻めながらも前半は0−0で終わった。
- 24 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:49
- ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!
この展開にカンプノウが不穏な空気に包まれた。
それはもちろんセビージャの余りに守備的なサッカーに対してのものも含まれるが、
何よりも格下相手に点がとれないバルセロナの選手たちに向かってのものだった。
相手は昨シーズン降格をギリギリ免れたセビージャだぞ?
このままじゃ今季もあのメレンゲ(レアル・マドリードのこと)どもに嘲笑されるぞ?
また今季も屈辱のシーズンを味わうのか?
そんな鬱屈した思いがカンプノウを覆う。
- 25 名前:第4話 Repay 投稿日:2004/06/08(火) 01:50
- 「・・・・・よし。」
松浦はニッと笑う。
計算どおりだ。
バルセロニスタの熱い気持ち。
これが逆にセビージャの味方になってくれるはずだ。
松浦のこの予想は見事に的中することになる。
- 26 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:51
- 後半戦に入ると、バルセロナの攻撃が変わった。
まるでタイトルがかかった試合で、リードされているような攻撃になったのだ。
右サイドバックのヒローミ、左サイドバックのヒトエが
何度もオーバーラップしてチャンスを創る。
しかも2人同時にだ。
この両サイドバックが前線のトリデンテと絡む事で
バルサの攻撃は分厚いものになっていく。
そしてこの攻撃を指揮するのはもちろんこの人、メグ・オキーナ。
長短様々なパスがピッチを駆け巡る。
だが、セビージャも懸命に身体を張って守る。
トップ下のレイエスまでもが自陣ゴール前に戻っている。
セビージャの懸命な守りにバルセロナも点が奪えない。
時間はどんどん過ぎていく。
いつまでチンタラやってんだ!!
早くゴールを奪え!!
カンプノウが不甲斐ないチームに一斉にブーイングを降り注ぐ。
- 27 名前:第4話 Repay 投稿日:2004/06/08(火) 01:52
- このカンプノウの雰囲気がセビージャに味方した。
このブーイングと、セビージャの懸命の守りでバルサの攻撃が焦り、
単調になってきたのだ。
こうなればいかに個人能力の高いバルセロナといえども容易にゴールは奪えない。
これこそ松浦の狙い通りだった。
松浦は試合前に前半はしっかりと守って、
後半も半ば過ぎにカウンターというゲームプランを監督に進言していた。
松浦はチームメートの性格、カンプノウの雰囲気など全て知り尽くしている。
後半半ばまで無失点でいければ、絶対にホームで勝たねばならないバルサは焦ってくると。
監督もその進言を取り入れ、選手たちに指示していた。
そして予想通りバルセロナは焦っている。
あの冷静なオキーナやアツコ・アサーノまでもが前に前に行っている。
そして両サイドバックも上がったままだ。
チャンスだ。
松浦がその牙を静かに研ぐ。
- 28 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:53
- そしてその瞬間が来た。
コヤナギーニョが中央の狭い所を強引に突破し、
左サイドに開いたナミオラにスルーパス。
このパスを受けたナミオラ、ワンフェイク入れて中にクロス。
低いボールにコイズミートが合わせるもののGKの真正面だった。
ブゥゥゥゥゥゥゥ!!!!
またも決定的なシュートを外したコイズミートにスタジアムからブーイングが溢れる。
バルサの選手たちもまたかという顔だ。
- 29 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:54
- ―――今だ!!―――
松浦はスッと左サイドに流れていった。
待ちに待った瞬間が来たのだ。
そこへGKが素早くロングキック。
右サイドバックのイワサキ・ヒローミが上がって手薄となったスペースに松浦が走り込む。
慌ててセンターバックのユウコ・アサーノがチェックに向かう。
『スペースがあればユウコには勝てる!』
松浦はそう計算していた。
オフェンシブハーフもこなせるほどのテクニックを持つユウコ・アサーノ。
ロングパスの精度も高く、最終ラインからの彼女のパスはバルセロナの攻撃の起点となる。
が、スピードがそれほどある訳ではない。
本来ならばあまりスピードを必要としないボランチこそ彼女のベストポジションだが、
そこにはアツコとオキーナがおり、
またユタカールト監督は最終ラインに攻撃の起点となれるパサーを組み込めたいため、
ユウコをセンターバックにおいていた。
- 30 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:55
- それを松浦は狙った。
両サイドバックのうちどちらかが残っていれば
3バックシステムのようにDFを正しく操り、
スピード不足をカバーできる。
が、両サイドバックが上がりきった今では
センターバック2人で広いスペースをカバーしなければならない。
そこが狙い目だ。
センターサークル付近で松浦はGKからのパスを身体をひねり、胸でポンと弾く。
そのボールはチェックに来たユウコの頭を超し、スペースに転がる。
着地と同時に松浦がダッシュする。
ユウコも必死に追いかけるが松浦の方が圧倒的にスピードがある。
見る見る引き離されていく。
- 31 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:55
- 慌ててもう1人のセンターバックが捨て身のタックルに行くが、
これを松浦は華麗にかわす。
そして飛び出してきたGKをよく見て、右足で巻くようにしてシュートを放つ。
懸命にダイブしたGKの手が空を切る。
ボールは見事にサイドネットに突き刺さった。
後半37分、セビージャまさかの先制点。
- 32 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:56
- ゴールを決めた松浦が数少ないセビージャサポーターの元に走っていき、
拳を突き出した。
ウオオオオオオオオオオオオ!!!
セビジスタは歓喜の雄たけびをあげた。
バルセロニスタは困惑した表情だ。
まさかマツウラにやられるとは?
- 33 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:57
- ゴールを決めた松浦はバルセロナベンチを見る。
その視線の先にはコーチのガレッジ・ゴリーエがいた。
ゴリーエはニヤリと笑っていた。
『やってくれるじゃないのマツウラ。』
『ゴリーエさん。これが日本でいう“恩返し”ってやつですよ。』
松浦もニッと笑うとチームメートとともに自陣へ戻っていった。
その後姿を見ながらゴリーエは呟いた。
「でもねマツウラ。バルサはこれで負けるようなチームじゃないから。
それはあなたが一番分かっているんでしょう?」
- 34 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:57
- 残り時間はわずかに8分。
これは大番狂わせか?
しかしさすがは名門バルセロナ。
底力は相当なものだった。
- 35 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:58
- 中盤でオキーナがボールを持つ。
「来いっ!!」
前線でボールを要求するのはコヤナギーニョ。
相手に何人囲まれようがこの天才には関係ない。
「頼んだよ!!」
オキーナは鋭いパスを送った。
このパスを3人に囲まれながらもコヤナギーニョはきっちりトラップした。
そして3人のわずかな間を見逃さず、
背負ったままヒールキックでDFラインの裏にスルーパス。
このパスに反応したのはナミオラ。
得意ではない左足でGKのニアサイドを豪快にぶち抜いた。
後半44分。
バルセロナが土壇場で同点に追いつく。
- 36 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:58
- ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
カンプノウが大きく揺れた。
土壇場での同点弾にバルセロニスタたちは狂喜乱舞。
セビジスタは大金星を逃してガックリきている。
「やっぱ凄いね。さすがだ。」
松浦も感嘆するしかなかった。
バルサの底力を見せ付けられた感じだ。
- 37 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 01:59
- 結局試合は1−1の引き分けに終わった。
セビージャにとっては強豪バルセロナ、しかもアウェーでの勝点1。
これは勝利したのと同様の結果だ。
松浦は古巣相手に見事に“恩返し”を済ませた。
一方バルサは何とか勝点1を得たものの、これは完敗に等しかった。
「ナイスゲーム。」
コヤナギーニョが松浦に手を差し出す。
「どうも。」
松浦もがっちりとその手を握る。
「今日はオリンピックの借りは返せなかったけど、
次、そっちのホームで返させてもらうから。」
「楽しみにしてますよ。」
そう言って2人はユニフォームを交換した。
その後、他のバルサの選手たちと一言二言かわし、
松浦は控え室に戻ろうとした。
- 38 名前:第4話 Repay 投稿日:2004/06/08(火) 02:00
- ワアアアアアア!!!!!
その時、満員のカンプノウから一斉に松浦に大声援と拍手が送られた。
「えっ?」
予想だにしない事に戸惑う松浦。
「ナイスプレーマツウラ!!」
「俺たちは待ってるぞ!!」
大歓声で聞こえにくいが、みな松浦に対して好意的な声援を送っているようだ。
これには思わず松浦の胸が熱くなる。
『みんな・・・・・ありがとう。』
松浦はこの大声援と拍手に手を振って応えた。
- 39 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 02:01
- 古巣への“恩返し”は済ませた。
次は本当の意味での“恩返し”をしよう。
バルセロナのアヤ・マツウラとして。
松浦はこの慣れ親しんだピッチでそう誓った。
- 40 名前:第4話 Repay a person's kindness 投稿日:2004/06/08(火) 02:02
-
第4話 Repay a person’s kindness (終)
- 41 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 02:05
- 第4話 Repay a person’s kindness 終了いたしました。
今回は前半部分がU−19日本代表の話ですが、
それが思いのほか長くなってしまいました。
それが本来ならば第4話の主役である松浦さんにもろにあおりを。
申し訳ないです。
さらには前スレの984で合宿4日目と書きましたが、
6日目の間違いです。
すみません。
さらには何度も題名がRepayで切れてしまってました。
これも重ねてすみません。
- 42 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 02:06
- 次回予告
第5話 夢一夜
ついに欧州で最高峰の戦い、チャンピオンズリーグが始まった。
欧州を、いや、世界を代表するクラブが頂点を目指して戦う。
そして予選の初戦にして、ついにこの日が来た。
チャンピオンズリーグでの日本人対決が。
グループB アーセナルVSインテル
―――市井紗耶香VS吉澤ひとみ―――
次回もよろしくお願いいたします。
- 43 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 02:08
- ではスレ隠しです。
Jリーグ編。
まずはJ1から。
<コンサドーレ札幌>
GK 1 飯田圭織
DF 16 紺野あさ美
37 斉藤美海
FW 9 安倍なつみ
<横浜Fマリノス>
DF 2 斉藤瞳
MF 8 矢口真里
14 石川梨華
31 村上 愛
<京都パープルサンガ>
GK 1 前田有紀
DF 3 中澤裕子
MF 10 加護亜依
<名古屋グランパスエイト>
GK 1 亀井絵里
FW 10 リーエ・ミヤザワビッチ (セルビア・モンテネグロ)
<浦和レッズ>
DF 4 キャンディ・ヨシコー (ドイツ)
MF 10 平家みちよ
FW 9 ミサト・レボリュション (ブラジル)
監督 ギド・ガッツバルト
- 44 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 02:08
- <鹿島アントラーズ>
DF 3 里田まい
7 木村麻美
MF 6 戸田鈴音
<東京ヴェルディ1969>
DF 2 石黒 彩
FW 9 キョウコリック・ウチボマ (カメルーン)
<ジュビロ磐田>
MF 21 新垣里沙
FW 11 高橋 愛
<柏レイソル>
MF 6 保田 圭
FW 28 道重さゆみ
<ヴィッセル神戸>
GK 1 信田美帆
FW 11 木村アヤカ
<清水エスパルス>
DF 2 小川麻琴
MF 7 田中れいな
- 45 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 02:09
- <ジェフユナイテッド市原>
GK 23 梅田えりか
MF 28 徳永千奈美
FW 9 村田めぐみ
<セレッソ大阪>
GK 1 ミカ・トッド
DF 26 石村舞波
<ベガルタ仙台>
FW 9 大谷雅恵
19 熊井友理奈
<ガンバ大阪>
MF 4 辻 希美
<大分トリニータ>
あっ、誰もいない?!!
- 46 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 02:10
- 続いてJ2です。
<サンフレッチェ広島>
DF 17 矢島舞美
<アルビレックス新潟>
DF 22 須藤茉麻
<川崎フロンターレ>
MF 18 清水佐紀
FW 13 夏焼 雅
<横浜FC>
MF 25 鈴木愛理
<モンテディオ山形>
MF 14 菅谷梨沙子
- 47 名前:ACM 投稿日:2004/06/08(火) 02:12
- <FC東京>
DF 35 萩原 舞
<大宮アルディージャ>
DF 26 中島早紀
<アビスパ福岡>
FW 32 嗣永桃子
<ヴァンフォーレ甲府>
GK 18 岡井千聖
<サガン鳥栖>
<湘南ベルマーレ>
<水戸ホーリーホック>
以上スレ隠しJリーグ編でした。
すみません、何か目新しい選手がいなくて。
各チームの外国人を何とか考えたかったんですけど、
思いつきませんでした。
また思いついたらJリーグに登場させますのでどうかご容赦下さい。
気付けばスレも4枚目となりました。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
- 48 名前:みっくす 投稿日:2004/06/08(火) 02:22
- いやー見事にリアルタイムで読んじゃったです。
4枚目おめでとうございます。
それにしてもU−19は深刻な問題を抱えているみたいで。
辻ちゃん頑張れ。
あややは、しっかりバルセロニスタのハートを掴んだようですね。
<Jリーグ編>どうもです。
なんとか所属チームが把握できそうです。
それしても、我が愛するコンサドーレから4人も代表が出る日はくるのだろうか。
次回も楽しみにしてます。
- 49 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/06/08(火) 12:19
- 4枚目おめでとうございます。
愛ちゃん、よくぞMFを受け入れてくれましたね。そのきっかけがあややだったとは。
そのあややもバルサに見事な恩返しでした。来シーズンバルサに戻っても、活躍してほしいです。
Jリーグのスレ隠しありがとうございました。みうな以外のカントリーは全員アントラーズだったんですね。
- 50 名前:名無しぃく 投稿日:2004/06/09(水) 00:47
- 更新お疲れ様です。久しぶりにPCつけたら大量更新でバビりますた。
Jリーグ編ありがとうございます。マリノスの14番はいしかーさんですか。グッジョブ
タナーカも良い番号もらってるようで。すんばらすぃ。アヤヤカッケー。
次回も楽しみにしております。
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/10(木) 19:37
- >>49
ネタバレ注意
- 52 名前:ピクシー 投稿日:2004/06/11(金) 03:01
- 新スレおめでとうございます。
それにあわせまして、初レスさせていただきます。
まだ名古屋のアノ選手が現役なようで・・・嬉しいですねぇ♪
次回更新も楽しみに待ってます。
- 53 名前:ACM 投稿日:2004/06/11(金) 10:37
- 48>みっくす様
リアルタイムで読まれたそうで、どうもありがとうございます。
U−19代表はこれからのチームです。
色んな問題を乗り越えてきっと成長してくれるでしょう。
そしてコンサドーレ。まずは一刻も早いJ1復帰ですね。
49>娘。よっすいー好き様
ありがとうございます。
ようやくJリーグの選手たちを紹介できました。
作者自身も全員把握できてなかったんで、いい機会になりました。
カントリーは何故かこうなってしまいました。
50>名無しぃく様
ありがとうございます。アヤヤは頑張ってくれました。
背番号ですけど、石川さんは“いし”かわで14です。
田中さんは“れいな”で07、7番です。
・・・・・すごく安易ですね。
- 54 名前:ACM 投稿日:2004/06/11(金) 10:44
- 51>名無飼育さん様
どうもありがとうございます。
ネタバレは中々判断が難しいとこですね。
ご指摘をありがとうございます。
52>ピクシー様
初レスとのことで、ほんとありがとうございます。
お名前の通り、あの選手のファンなんですね。
現実では引退しましたが、ここではまだまだ活躍してもらうつもりです。
これからもこのCALCIO×3をよろしくお願いします。
- 55 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 10:45
- 松浦は古巣バルセロナに見事に“恩返し”を済ませた。
その日、欧州各国でもリーグ戦第2節が行われていた。
松浦の所属するスペインリーガエスパニョーラ。
この日は2強が揃って格下に足元をすくわれる結果となった。
バルセロナはセビージャ松浦の活躍によりホームで痛い引き分け。
そして後藤真希擁する王者レアル・マドリードも
格下のビジャレアル相手にアウェーとはいえ1−1の引き分けだったのだ。
- 56 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 10:46
- この試合、ビジャレアルで最も輝いた選手がスズキ・“アミーゴ”・リケルメ。
誰もがアルゼンチンの栄光の背番号10は彼女のものだと期待していた。
しかし様々な事情で一度このサッカーの世界から身を引いた。
だが、彼女は復活した。
より一層強くなって。
このアミーゴの見事なFKで先制したビジャレアル。
そしてこの1点を全員で守る。
このまま逃げ切るかと思われたが、やはり王者レアル。
きっちりと追いついた。
試合終了間際にヒカルド、後藤のコンビネーションで得たFKを、
シバサキが蹴ると見せかけてジュディマリ・ユッキーが最凶の左足で突き刺した。
これでレアルは何とか引き分けに持ち込んだ。
が、正直ここで勝点3を取って開幕ダッシュを成功させたかったところである。
2強が揃って足元をすくわれる。
サッカーは何が起こるかわからない事を痛感させられた試合であった。
- 57 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 10:47
- イタリアセリエA。
王者ユヴェントスはアウェーでキエーヴォと対戦。
昨シーズン8位のキエーヴォ。
メンバーもほとんどが残留し、今シーズンも期待を抱かせる。
試合の方は緊迫した展開に。
両チームとも守備がよく組織され、チャンスを生み出すことが出来ない。
そんな時は個の力が必要となってくる。
ユヴェントスにはパーフェクトクイーンがいた。
マツシマが28mのミドルをゴールネットに突き刺しユヴェントスが先制点を挙げる。
しかしキエーヴォもチーム一丸で反撃に出る。
それが実り、後半29分に同点に追いついた。
流れ的には追いついたキエーヴォだったが、
これを断ち切ったのが我らが日本代表福田明日香だった。
中盤の高い位置でボールを奪った福田、左サイドに流れたハセキョンにロングパス。
その後全速力で前線へ。
左サイドでボールをキープしたハセキョンがタイミングを見計らって中にクロス。
このクロスを最前線に飛び出した福田があわせ、ユヴェントスが勝ち越した。
結局試合はこのまま2−1でユヴェントスの勝利に終わった。
- 58 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 10:49
- 続いてシエナVSインテルミラノ。
前節不安定な内容ながらも地力の違いで勝点3を獲得したインテル。
アウェーでシエナとの対戦。
この試合もいつものインテルだった。
単調なロングボールに2トップが走り込むというサッカー。
確かにヨネクランとひとみの2トップは脅威的だ。
2人とも恵まれた身体に類まれな身体能力を持っている。
空中戦ではヨーロッパでも1,2を争う2トップだろう。
しかしひとみの魅力はやはり“ファンタジスタ”だ。
1.5列目、セコンダ・プンタならばともかく、
最前線では自慢のパスが出せない。
しかしインテル監督オシオル・マーナブはひとみに最前線に張れと指示を出している。
さらに左サイドにまわされたヤイコは、まったくといっていいほど活躍できていない。
恐ろしいほどの精度を誇る左足はあるものの、
彼女のテクニックは前線で自由に活かしたほうがいい。
左サイドではいかにも窮屈な感じだ。
明らかにポジション配置に無理があるが、マーナブは決して4−4−2を崩さない。
試合は右サイドのタカコッティのミドルでインテルが1−0で辛くも勝利を挙げた。
ひとみはこの試合、ほとんど活躍できなかった。
- 59 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 10:53
- そしてパルマVSペルージャ。
前節見事な活躍を見せたペルージャの柴田あゆみだが、
相手は強豪パルマ。
選手たちの力は前節のシエナとは違っていた。
セリエAを何年も戦い抜いた猛者たちが柴田を徹底的にマークする。
この密着マークを柴田は抜け出す事ができなかった。
やはりフィジカルの面ではまだまだ分が悪い。
何も出来ず、後半20分には交代という屈辱を味わった。
フィジカル。
これこそ、柴田あゆみが直面する大きな壁であった。
試合の方もホームのパルマが3得点。
3−0と完敗だった。
- 60 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 10:55
- 続いてイングランドプレミアリーグ。
アーセナルはミドルスブラと対戦。
アウェーながらも4−0と圧勝した。
ミドルスブラは今シーズン直前に守護神サ・トエリがチェルシーに移籍したのが響いた。
守備力が激減していた。
逆にアーセナルは連係が高まり、完成度の高いサッカーを展開。
ウエト・アーヤ、シノハラ・リョウコール、タカコリック・トキーワ、
そして市井紗耶香がゴールを挙げた。
市井は今シーズン、調子がいいようだ。
動きにキレがある。
次戦、いよいよ大一番を迎えるが、
それに向けて準備は万端だ。
- 61 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:02
- 最後にブンデスリーガ。
藤本美貴のシャルケ04はアウェーで1860ミュンヘンと対戦した。
藤本はこの日は左FWで先発出場。
この試合はミュンヘンで行われた事もあり、
バイエルン・ミュンヘンの関係者も藤本のプレーを観にスタジアムに来ていた。
が、藤本の出来云々より、この日はチーム全体の動きが悪かった。
開幕戦とメンバーを変えたため、チームのリズムが狂ってしまったのだ。
藤本もその波に巻き込まれ、平凡なパフォーマンスに終わった。
結果は1−1の引き分け。
アウェーということを考えれば上出来であるが、
正直勝てた試合である。
この結果と、自分の出来に藤本は怒り心頭だった。
- 62 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:03
- 欧州でもそれぞれ2試合を終えた。
開幕戦こそ日本人選手はみな大活躍だったが、
さすがに欧州はレベルが高い。
そう何度も活躍はさせてくれない。
だが、こういった高いレベルで競ってこそ更なる成長が望めるのだ。
2006、さらには2010に向かって選手たちは激しい戦いを経験していく。
- 63 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:03
- そしてついに今季もこの戦いが始まる。
世界最高峰の戦い、UEFAチャンピオンズリーグが開幕した。
- 64 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:06
- <グループA> <グループB>
リヨン(フランス) アーセナル(イングランド)
バイエルン・ミュンヘン(ドイツ) ロコモティフ・モスクワ(ロシア)
セルティック(スコットランド) インテルミラノ(イタリア)
アンデルレヒト(ベルギー) ディナモ・キエフ(ウクライナ)
<グループC> <グループD>
モナコ(フランス) ユヴェントス(イタリア)
バルセロナ(スペイン) バレンシア(スペイン)
PSV(オランダ) ガラタサライ(トルコ)
AEKアテネ(ギリシャ) オリンピアコス(ギリシャ)
<グループE> <グループF>
マンチェスター・U(イングランド) レアル・マドリード(スペイン)
ボルシア・ドルトムント(ドイツ) FCポルト(ポルトガル)
パナシナイコス(ギリシャ) マルセイユ(フランス)
レンジャーズ(スコットランド) パルチザン・ベオグラード(SCG)
<グループG> <グループH>
チェルシー(イングランド) ACミラン(イタリア)
スパルタ・プラハ(チェコ) レアル・ベティス(スペイン)
ベジクタシュ(トルコ) クラブ・ブルージュ(ベルギー)
ASローマ(イタリア) アヤックス(オランダ)
- 65 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:07
- 各国の上位クラブが顔をそろえるこの戦いは、
間違いなく世界一レベルの高い大会だ。
それだけにグループリーグ初戦から好カードが目白押しだが、
一番の注目はこのカードであろう。
<グループB>
アーセナル(イングランド)VSインテルミラノ(イタリア)
市井紗耶香VS吉澤ひとみ。
とうとうチャンピオンズリーグで日本人対決が実現する。
- 66 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:08
- その日は雲ひとつない星空が広がっていた。
霧の街、ロンドンにあるハイバリースタジアム。
そのスタンドには数多くの日本人が見える。
この世界最高峰の舞台で日本人がぶつかる。
しかもお互いチームの主力とあってはこの試合は絶対に見逃せない。
- 67 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:09
- 「この試合は最低でも勝点1が必要だ!!
守りを固めてカウンターを狙っていけ!!」
インテル監督マーナブが選手たちに指示を出す。
大事なチャンピオンズリーグ初戦、相手は強豪アーセナル。
この采配は妥当である。
が、ひとみは高まる高揚感を押さえきれない。
夢にまで見たチャンピオンズリーグ。
しかも市井との日本人対決。
これで気分が高まらない日本人などいない。
「ヒトミ、今日は期待してるよ。」
ヤイコがヒトミの肩をポンと叩く。
「守備はあたしたちに任せろ。ヒトミ、ヨネクラン、得点頼むよ。」
守備の要、ミホ・カンノバーロだ。
「オッケー。」
ヨネクランが笑顔を見せる。
ムロイ・シゲルッツィ、チエン・アヤドバ、マキチェスコ・ミズノといった
他の守備陣も気合いを入れている。
アーセナルの攻撃はヨーロッパ屈指だ。
彼女らの奮闘に期待する。
「よし、みんな行くよ!!」
キャプテンのウエハラ・タカコッティがゲキを飛ばした。
昨シーズン準優勝に終わった借りを返すべく、
インテルのチャンピオンズリーグが始まる。
- 68 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:10
- 「中盤での争いはこちらに分がある。
が、相手はロングボールを多用してくるだろう。
最終ラインはヨネクランとヨシザワに充分注意しろ!!」
アーセナル監督カラサワの指示だ。
インテルは堅い守備からすぐ前線につなげるサッカー。
いかにこちらがボールポゼッションを保って優位に進めていくかが鍵となる。
そして先制点だ。
先制点をこちらが取れればグッと有利になる。
「サヤカ、今日はあなたがキーだからね。」
フランス代表タカコリック・トキーワだ。
市井とセンターハーフコンビを組む。
「ああ、分かってる。」
市井は静かに答えた。
が、その表情からは気合いが入っているのが分かる。
欧州では勝てないアーセナル。
その汚名を返上すべくアーセナルはチャンピオンズリーグに挑む。
- 69 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:11
- 午後7時、両チームの選手たちが入場した。
ひとみと市井は列の一番後ろにいた。
ワアアアアアアアアアアア!!!!!!
彼女たち2人の姿が見えるとスタジアムは大声援につつまれた。
アウェーのインテルの選手がアーセナルの選手たちに握手していく。
そして最後、ひとみが市井の前に立った。
「市井が勝つよ。」
「いえ、吉澤が勝たせてもらいます。」
2人はそう言うと握手はせず抱き合った。
いよいよチャンピオンズリーグで日本人対決が幕を開ける。
- 70 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:12
- 午後7時6分、インテルのキックオフで歴史的な試合が開始された。
インテル、アーセナルともにフラットな4−4−2というシステム。
試合の主導権を握ったのはホームのアーセナル。
左サイドのフカーツ・エリス、中央のタカコリック・トキーワと市井紗耶香。
この3人がゲームを組み立て、右サイドのシノハラ・リョウコールが
ライン際を駆け上がりチャンスを演出する。
それを2トップ、スピードのウエト・アーヤと、
テクニックのハヅキ・リオナンプがインテルゴールを襲う。
- 71 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:12
- が、インテルディフェンスは堅い。
イタリア代表の3人、GKマキチェスコ・ミズノ、DFミホ・カンノバーロ、ムロイ・シゲルッツィ。
そしてコロンビア代表のチエン・アヤドバが鉄壁の守備ブロックを作り、
アーセナルの攻撃を跳ね返す。
さらにセンターハーフのアルゼンチン代表アイウチ・リナメイダも下がってディフェンスするため、
インテルゴール前には堅固な錠前が出来る。
イタリアが誇るカテナチオだ。
- 72 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:13
- 「何だよこの守備は?」
中盤でボールを持った市井がインテルの守備ブロックに驚く。
各々がきっちりとポジショニングし、隙がない。
こういう時は個人技で突破して風穴を開けるのであるが、
その個人の力もインテルディフェンス陣は持っている。
そうやすやすと抜かせてはくれない。
今日はタフなゲームになりそうだ。
市井はそう予感していた。
- 73 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:14
- ホームの大声援を受け、圧倒的にボールを支配して攻めるアーセナル。
自陣に引いて守るインテル。
この試合はこの展開だ。
ウオオオオオオオオオ?!!!!
ハイバリー・スタジアムがどよめく。
それはアーセナルの華麗なダイレクトパスが中盤を駆け巡るからだ。
その速さにみな目を丸くする。
これが出来るのもアーセナルの中盤の質がいいからだ。
フランス代表、タカコリック・トキーワ、シノハラ・リョウコール、フカーツ・エリス。
そして日本代表市井紗耶香。
この4人で構成されるアーセナルの中盤こそ世界最高だとアーセナルサポーター、
グーナーたちは言う。
この速く華麗なパスワークを他のチームは出来るか?
グーナーたちが高らかに声を上げる。
- 74 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:14
- ダイレクトパスでインテルディフェンスを翻弄するアーセナル。
エリス、市井、トキーワと渡り、トキーワから右サイドを走るシノハラにパスが出た。
これらは全てダイレクトパスだ。
パスを受けたシノハラ、中を見る。
が、インテルDF陣もきっちりと中を固めている。
「シノハラ!!」
FWのリオナンプがボールをもらいにペナルティエリアの外に下がってきた。
シノハラから出されたパスをリオナンプは
追ってきたシゲルッツィを背負いながらトラップ。
そして右手でシゲルッツィを抑えつつ中へ切れ込もうとする。
「くっ!!」
シゲルッツィも懸命に身体を張る。
- 75 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:15
- が、その瞬間リオナンプは右足アウトサイドで
シゲルッツィの股を抜くスルーパスを出した。
このパスに左サイドからアーヤが飛び込んでいた。
「もらった!!」
アーヤが思い切り右足を振るう。
しかし目の前に黒い影が。
アーヤのシュートは大きく弾かれ、ゴールラインを割っていった。
- 76 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:15
- 「ナイスミズノ!!」
前線でひとみが声を上げる。
見事な飛び出しでシュートコースを狭めた。
そしてあの至近距離からでも反応できる反射神経。
さすがはGK大国イタリアで1、2を争うGKだ。
マキチェスコ・ミズノ。
世界bPGKを狙う資格を持つ選手だ。
- 77 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:16
- 前半も25分を過ぎた。
ここまで圧倒的にアーセナルが攻め込んでいる。
インテルは完全に防戦一方だ。
特に中盤での争いで負けているため、
チャンスらしいチャンスが前線に回ってこない。
「このままじゃどうしようもない!!」
たまらずひとみが前線から中盤に下がる。
「ヨシザワ!!!下がるな!!!ずっと前線で張れ!!!」
だが、それをマーナブは許さない。
とにかくひとみには前線にいる事を要求する。
「ヤイコ!!!お前は中盤だろ!!!厳しく当たれ!!!」
一方、中盤左サイドのヤイコには相手に厳しくチェックに行くように命じる。
- 78 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:17
- その指示に戸惑うひとみ。
いや、ひとみだけではない。
インテルの選手はみな思っていた。
その指示は逆だろ?と。
中盤でのバトルはフィジカルに優れ、元DFでもあるひとみが担当すべきで、
前線で待機して攻撃に全ての力を注ぐべきはヤイコの方である。
選手たちはそう思っていた。
だがマーナブは自分の指示を、哲学を曲げない。
カウンターの際には精度の高いロングパスを送れるヤイコこそ中盤で、
フィジカルとスピードに優れるひとみがFWであるべきだと。
監督と選手。
お互いが意志の疎通をし、共通の目的に向かって共に進んでいく関係。
だが、インテルはそうではなかった。
- 79 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:18
- アーセナルが鋭い攻撃を仕掛ける。
それをインテルはヨネクランとひとみ以外の9人で必死に守る。
アーセナルは結局この錠前を崩すことが出来ず、
0−0で前半を終了した。
- 80 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:19
- 主審が前半終了の笛を吹いた瞬間、
何とも言えない雰囲気がスタジアムを包んだ。
お互いの力と力がぶつかり合う好ゲームを期待していた日本人たちは、
この退屈な展開に溜息を漏らしていた。
もちろんアーセナルの攻撃は素晴らしいが、
それ以上にインテルが引きすぎだ。
「おい、吉澤。まさかこのままってことはないよな?」
ピッチからロッカールームに戻る際に市井はひとみに思わず尋ねた。
何よりも彼女がこの戦いを一番楽しみにしていたのだ。
それだけにインテルの戦術が気に入らない。
「もちろんですよ。そんな事はあたしがさせません。」
そう言うひとみの眼には決意の光が宿っていた。
その眼を見て市井も理解した。
この戦術にひとみは納得していないのだと。
いや、戦術云々よりも自分のポジションに納得していないのだと。
「後半楽しみにしてるよ?」
そう言って市井はロッカールームに消えていった。
- 81 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:20
- 「よしよし!!これでいいぞ!!
このまま守りきって勝点1を何としても取るんだ!!」
マーナブは嬉しそうに話す。
ここまで自分のプラン通りに事が運んでいる。
が、一方選手たちは不満の表情が現れている。
もちろん彼女たちも敵地で勝点1が取れればいいと思っている。
が、それはあくまで全力を出しての結果だ。
もし自分たちが明らかに格下ならば後半もこのまま
貝のように閉じこもって守ればいいだろう。
だが自分たちはイタリアのみならず欧州屈指の名門インテルだ。
昨シーズンチャンピオンズリーグ準優勝のインテルだ。
選手たちも各国を代表する、世界でも一流の選手だ。
そんな自分たちがこのままアーセナルに怯えたような戦いをするのはガマンならなかった。
それだけにマーナブの戦術に不満がある。
このマーナブに対する不満はこの試合だけで生まれたものではない。
今シーズン開幕してからみな一様にマーナブの戦術に不満を持っていた。
何よりもヤイコとひとみのポジション。
明らかに不適性なポジションで苦しんでいるヤイコにひとみ。
さらにミホ・カンノバーロも右サイドバックで苦しんでいる。
だが、マーナブは頑として4−4−2を崩さない。
その余りの頑固振りに選手たちはマーナブの手腕に疑問を持った。
この監督は4−4−2しか使えないのか?と。
思えばこういった疑問が生じた瞬間からインテル崩壊は始まっていたのかもしれない。
- 82 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:21
- 後半も前半と同じくインテルは自陣にこもり、アーセナルの攻撃を防いでいく。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!
そんな展開にアーセナルサポーターはもちろん、
日本人サポーターからもブーイングが飛ぶ。
「・・・・・・・くそっ!」
ひとみは拳をギュッと握り締めていた。
組み合わせが決まってから今日という日をどれだけ待ち望んでいただろうか?
チャンピオンズリーグで日本人対決。
そして相手はあの市井紗耶香。
それだけに歯がゆい気持ちで一杯だ。
しかしそんなひとみの気持ちを汲み取った選手がいた。
- 83 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:22
- 「ヤ、ヤイコ?上がりすぎだよ!!」
ひとみが驚く。
左サイドのヤイコがスッとFWの位置まで上がってきた。
これではヤイコ、ひとみ、ヨネクランの3トップになる。
ただでさえ中盤での争いに負けているのに、人数を減らしてどうする?
思わずひとみはバランスを保つために中盤に下がる。
その結果ヨネクランとヤイコの2トップ、
ひとみのトレクァルティスタという形となった。
「おい!!何してる!!下がれヤイコ!!」
マーナブが叫ぶがヤイコは下がらない。
この形に気付いた他のインテル選手たちはヤイコの狙いを理解した。
「みんないいね?!!」
キャプテンのタカコッティが叫ぶ。
頷く他のインテルの選手たち。
それと同時にインテルの守り方が変わった。
今まではラインを深く下げて、ゴール前で跳ね返すというやり方だったが、
積極的に中盤でボールを奪いに行くようになった。
- 84 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:22
- 「なっ?!!」
いきなりのインテルの変貌に驚くアーセナル。
一気に中盤のプレッシャーがきつくなる。
「しまった!!」
その影響か市井が信じられないトラップミス。
それを見逃さず市井からボールを奪ったリナメイダがひとみにパスを送る。
パスを受けたひとみがフリーで前を向く。
インテルのカウンターだ。
前線にはヨネクランとヤイコ。
対するアーセナルDFは3人。
3対3だ。
- 85 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:24
- 「ヤイコ!!」
ひとみは迷わずヤイコにパスを送る。
ヤイコのテクニックなら必ず1対1は勝つ。
ひとみの読みどおりヤイコは抜群のテクニックでアーセナルDFをかわし、
中に鋭いクロス。
そのクロスをヨネクランとイングランド代表DF、ナオミ・“ザイゼン”・キャンベルが競り合う。
この競り合いに勝ったのはヨネクラン。
中にヘッドで落とす。
最後そこに詰めたのはひとみ。
付いていたDFをスピードで振り切り、
右足でアーセナルゴールへと突き刺した。
後半19分。
インテル、鮮やかなカウンターアタックで先制点。
- 86 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:25
- ワアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
その瞬間ハイバリースタジアムが大歓声で揺れた。
まさにイタリアお家芸の鋭いカウンターアタック。
しかも最後ゴールを決めたのがひとみだったので、
観戦に来ていた日本人はみな狂喜乱舞している。
「ヒトミ!!」
「ヨシ!!」
ゴールを決めたひとみの元にヨネクランやヤイコ、
タカコッティたちが抱き付く。
他のインテル選手たちもみな抱き合って喜んでいる。
海を越えてロンドンにやってきたインテリスタたちも大歓声を挙げる。
- 87 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:26
- 「ヤイコの奴め・・・・・・」
が、対照的に怒りでプルプルと震えているのは監督のマーナブ。
今の得点は明らかにヤイコの命令違反からだ。
彼にとって選手はコマ。
命令違反など決して許されない。
すぐさま控えの選手を呼び、アップさせる。
- 88 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:26
- 「くっ・・・・・・!!何てミスを!!!」
市井は悔しさで顔を歪ませていた。
自分のミスで失点を喫してしまったのだ。
しかも最後、ひとみに決められた。
それが余計に悔しい。
「ドンマイ、イチイ。」
フカーツが市井の肩をポンと叩く。
「そうだイチイ。まだ時間はある。すぐに追いつこう。」
アーヤも笑顔を見せる。
「ああ、そうだな。みんなゴメン。」
市井も自分の顔をパンパンと叩き、気合いを入れなおす。
『まだ勝負は決まってないからな。覚悟しとけよ吉澤!!』
- 89 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:27
- しかしイタリアには1−0(ウノゼロ)の文化がある。
リードを守りきることにかけては世界ナンバーワンだ。
またもインテルディフェンスは引いて守り、アーセナルの攻撃を許さない。
そして選手たちは自らの判断でシステムを変えた。
ヤイコが上がっているため、中盤の左サイドにスペースが出来ている。
そこを埋めるために左サイドバックが中盤に上がる。
その結果、残りの3人、アヤドバ、シゲルッツィ、カンノバーロで最終ラインを創る。
イタリア代表でも採用している3バックだ。
3バックに変更したことにより、相手2トップのアーヤ、リオナンプに
カンノバーロとアヤドバが密着マーク。
カンノバーロの類まれな身体能力でアーヤを抑え、
アヤドバの老練なマークに熱い喋りでリオナンプを切れさせる。
そしてシゲルッツィがきっちりとカバーリングをこなしていく。
それでも放たれるシュートはミズノが全て抑えていく。
インテルは3バックにすることで本職がセンターバックのカンノバーロが活き活きとし、
ディフェンスがより強固になった。
- 90 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:29
- が、アーセナルの破壊力も凄まじいものがある。
特に市井紗耶香だ。
自分のミスで失点した分、それを取り返そうと普段より鋭い動きを見せる。
それにフカーツやシノハラが絡み分厚い攻撃を仕掛けてくる。
華麗な攻撃のアーセナル。
力強いディフェンスのインテル。
両者、互角の戦い。
- 91 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:29
- 市井のミドルシュートは惜しくもクロスバーを叩き、
ゴールラインを割った。
その時、主審が選手交代を指示した。
第4審判が持つ電光掲示板にはOUT20の表示があった。
「なっ?!!」
この采配に驚くのはひとみたちインテルイレブン。
カウンターの際に前線にボールを運ぶのは今現在中盤にいるひとみの仕事だ。
その分ヤイコには前線でカウンターを仕掛けてもらわねばならない。
そして彼女には正確無比の左足がある。
一撃必殺のセットプレーは必要不可欠だ。
この采配には誰も納得できない。
- 92 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:30
- が、当の本人、ヤイコは当然といった感じで受け止めていた。
「やっぱりね。あの男のしそうなことね。ヨシ、ヨネクラン、タカコ、後頼むね。」
そう言ってヤイコはピッチを後にした。
この時チームメートは理解した。
マーナブが自分の指示に従わなかったヤイコを見せしめのために交代させたのと、
ヤイコはそれを分かった上でひとみのために命令違反を犯したのだと。
みな知っていた。
ひとみがどれだけこの試合を楽しみにしていて、
そしてマーナブが今日とった戦術に失望していたのかを。
それを代表して汲み取ったのがヤイコだったのだ。
『ヤイコ・・・・・・』
ひとみは胸が熱くなる。
と、同時に怒りで頭が冷めていく。
「見てろ。必ずあんたの顔を潰してやる。」
ひとみはベンチで怒鳴り散らす男を見てそう呟いた。
- 93 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:31
- 試合は攻めるアーセナル、守るインテル。
だが、インテルもこのリードを守るだけとは考えていない。
機があればカウンターを狙っている。
みなヤイコのために監督の鼻をあかしてみせると息巻いている。
そんな事とは知らずにアーセナルは強引に攻める。
左サイドバックが上がり、中にクロス。
これはシゲルッツィがヘッドでクリア。
跳ね返ったボールをリナメイダがダイレクトで前線に送る。
これをトレクァルティスタの位置でひとみが受け、
右サイド、アーセナルの左サイドバックが上がって出来たスペースに流す。
そこに快足を飛ばして飛び込むのはタカコッティ。
ライン際を駆け上がる。
インテル、電光石火のカウンターだ。
「戻れ!!!」
市井が叫びながら懸命に戻る。
最前線にはヨネクランとヤイコの代わりのFW、
そしてその後ろからひとみが走り込んでいる。
- 94 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:32
- 「タカコ!!」
ヨネクランがグッとニアに走り込む。
この動きにイングランド代表ナオミが必死にくらい付く。
もう1人のFWは逆にファーサイドに開く。
この動きを見てタカコッティが中にクロス。
クロスはニアに走り込むヨネクランの頭を超え、
その裏、ゴール中央に走りこんでいたひとみに。
完全にフリーだ。
- 95 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:33
- が、ただ1人これに追いついた、気付いた選手がいた。
「市井さん?!」
「お前だけには決めさせない!!」
クロスに飛び込むひとみに全速力で戻った市井が体をぶつけてくる。
さすがはフリーロール。
きっちりと展開を読んでいた。
ひとみと市井が同時に跳んだ。
互いの意地がぶつかり合う直接対決だ。
- 96 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:34
- が、フィジカルではひとみの方が上だった。
市井に競り勝ち、強烈なヘッドをアーセナルゴールに叩き込んだ。
「しゃあっ!!」
ゴールを決めたひとみが吠え、ベンチに向けて拳を突き出す。
そこへヨネクランとタカコッティが抱き付く。
ベンチではヤイコが手を叩いて喜んでいる。
インテル、見事なカウンターで2−0とリード。
- 97 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:34
- 「・・・・・・まあいまのはいい。」
マーナブは苦虫を噛み潰したような顔だ。
今のプレーは誰も命令違反を犯していない。
が、正直気に入らない。
彼は見せしめのためにヤイコを交代させたが、代わりの選手はFWを入れた。
つまり、システムはこのまま3−4−1−2でいいということだった。
しかし、選手たちに自分の哲学を曲げさせられた。
気に入らない。
- 98 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:36
- 『くそっ、吉澤め、これで勝ったと思うなよ。』
競り合いに負け、ピッチに倒れた市井。
起き上がった時の表情はまさに鬼のようだった。
このままでは終わらせない。
絶対に逆転してみせる。
- 99 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:36
- アーセナルのキックオフで試合が開始された。
大事なチャンピオンズリーグの初戦、しかもホームで2点差をつけられた。
これにはさすがのアーセナルも焦ってしまう。
先ほどのカウンターを忘れたかのような攻撃。
特に市井が前へ前へと行ってしまい、中盤のバランスが崩れてしまう。
「イチイ!!落ち着け!!」
アーセナル監督、カラサワが叫ぶ。
が、市井の耳には届かない。
市井にはフリーロールということで自由なポジショニングを許している。
が、それだけに彼女が適切なポジショニングをしなければバランスは著しく崩れてしまう。
こんな時に瞬時に的確な判断が出来るのが名将だ。
カラサワは熱くなりすぎた市井を諦め、控え選手にアップを命じた。
- 100 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:37
- 市井が中央からドリブルで突き進む。
インテルのセンターハーフ2人をぶち抜き、
右サイドを駆け上がるシノハラにパス。
そして自分はゴール前に顔を出す。
シノハラが中を見てクロス。
ボールはファーサイドのアーヤへ。
このボールをアーヤとカンノバーロが競り合う。
ボールがこぼれる。
- 101 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:37
- 「ここだ!!」
このボールにいち早く反応したのが市井紗耶香。
浮いたボールに飛びつき、左足で華麗にジャンピングボレー。
その鮮やかなシュートにイタリア代表マキチェスコ・ミズノも動けなかったが、
今日の幸運はアーセナルには微笑まなかった。
カンッ!!!
市井のシュートは激しくクロスバーを叩いた。
ボールが大きく跳ね返る。
それを拾ったトキーワがミドルシュート。
が、これはGKミズノの真正面だった。
ガッチリと胸でキャッチ。
- 102 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:38
- 「マキ!!!」
その瞬間右サイドハーフのタカコッティが呼ぶ。
ミズノはそれを逃さず正確なスローイング。
受けたタカコッティ、そのまま右サイドを上がる。
チェックに来たアーセナル左サイドバックをフォローに来たひとみとのワンツーでかわし、
さらに右サイドを駆け上がる。
「タカコ!!!」
ヨネクランが手を挙げてファーサイドに流れていく。
それを見たタカコッティ、ファーサイドにアーリークロスを送る。
これをヨネクラン、胸でトラップし、そしてそのまま左足でとらえた。
これをアーセナルGKは何とか手に当てる。
ボールはポストに当たり、大きく跳ね返る。
- 103 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:39
- このこぼれ球はペナルティエリア外のひとみの元へ。
幸運はインテルにあった。
「もらった!!」
ひとみはそのままダイレクトで蹴り込んだ。
アーセナルGKが懸命に飛びつくが届かなかった。
インテル、とどめとなる3点目をあげた。
ウオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
ハイバリースタジアムが大きく揺れた。
アーセナルにとってはいくらインテルとはいえ、ホームで3失点。
信じられないスコアだ。
さらに吉澤ひとみがハットトリック。
これには観戦に来ていた日本人がみな喜びを爆発させている。
- 104 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:40
- 「くそっ!!!」
市井は悔しさの余り、ピッチを叩く。
今日の3失点は全て自分が絡んでいる。
しかも全てひとみに決められた。
そしてそんな市井にさらに追い討ちが。
- 105 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:40
- 「イチイ!!!」
ベンチからの声に顔を向けると、そこには第4審判と交代選手がいた。
第4審判が持っている電光掲示板には11の数字が。
「なっ?!!」
一瞬にして顔が真っ青になる。
交代?
今までこんな状況で交代されたことなどなかった。
何でだよ!!とベンチのカラサワの顔を見る、
「?!!」
いつもは穏やかな、紳士のカラサワの表情が怒っていた。
その顔を見て市井はハッとなる。
この試合、自分がひとみに対して必要以上に対抗意識を持ちすぎていた。
それが結果としてチームにマイナスになったのだ。
『あたしの・・・・・・せいだ・・・・・・』
市井は俯きながら、表情を歪めながらピッチを後にした。
「市井さん・・・・・・」
その後姿をひとみは見つめていた。
- 106 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:41
- 「あ、あの、監督・・・・・」
戻ってきた市井がカラサワに話しかける。
「・・・・・・まあこういう時もある。
いい勉強になっただろ?次は頼むぞ。」
カラサワはいつもの紳士的な表情で市井の肩をポンと叩き、
テクニカルエリアでピッチの選手たちに指示を送る。
その後姿に市井は心の中で頭を下げる。
カラサワはきっと自分の事を責めたいのだろう。
が、そんなことをしても何にもならないことを彼は分かっている。
特に市井が自分のミスに気付いているのならばなおさらだ。
それならば何も言う事はあるまい。
『今日はあたしの負けだ。でも次は必ず勝つからな。
ミラノで借りは百倍にして返す。』
市井はピッチの中を駆けるひとみに心の中で呟いた。
- 107 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:42
- 試合はこのままのスコアで終了した。
アーセナル0−3インテル
初のチャンピオンズリーグ日本人対決はインテル吉澤ひとみの勝利に終わった。
インテルは強豪アーセナル相手にアウェーで3−0という、
これ以上ない最高の結果だった。
そしてなおかつ吉澤ひとみが見事ハットトリックを達成した。
まさに夢のような一夜だった。
- 108 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:43
- が、インテルはまさにこの試合が夢一夜。
今シーズン最高の試合であった。
これ以降、インテルは崩壊への道をたどっていく。
逆にアーセナルはこの敗戦が1つのきっかけとなる。
彼女たちは今シーズン快挙を達成するのであるが、
それは間違いなくこの試合が大きな要因であった。
- 109 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:43
-
インテルにとっては崩壊への。
アーセナルにとっては栄光への夢一夜であった。
- 110 名前:第5話 夢一夜 投稿日:2004/06/11(金) 11:44
-
第5話 夢一夜 (終)
- 111 名前:ACM 投稿日:2004/06/11(金) 11:44
- 第5話 夢一夜 終了いたしました。
世界の名門クラブに所属し、中心選手としてチャンピオンズリーグを戦う。
そんな日が来る事を夢見つつ。
といった感じで書きました。
・・・・・・いつか現実でもこんな日が来るといいなあ。
- 112 名前:ACM 投稿日:2004/06/11(金) 11:45
- 次回予告
第6話 奇術から芸術へ
いよいよワールドユース予選が始まった。
来年(2005年)オランダで行われる本大会に向けて負けられない試合。
この若い日本代表の中心を担うのはトリックスター。
その“奇術”は“芸術”にまで昇華する。
次回もよろしくお願いいたします。
今回はスレ隠しなしです。
またネタを考えておきます。
- 113 名前:ピクシー 投稿日:2004/06/11(金) 12:50
- 更新お疲れ様です。
>お名前の通り、あの選手のファンなんですね。
その通りです(w
HNの由来の1つです。(もう1つ由来があるのですが)
素人が見ても溜息が漏れそうなトリッキーなプレイの数々は、今でも頭に浮かびます。
>現実では引退しましたが、ここではまだまだ活躍してもらうつもりです。
現実でも、日本選手に多大な影響を及ぼしたと思うので・・・ここでも良い影響を与えてくれそうですね。
次回も楽しみにまってます。
- 114 名前:みっくす 投稿日:2004/06/11(金) 22:36
- 更新おつかれさまです。
チャンピオンズリーグで、こんな日本人の活躍を見れる日はくるのですかね。
よっしーはどうなっていくのでしょうかね。
次回はユースですね。
いよいよあの人が覚醒ですか?
次回も楽しみにしてます。
- 115 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/06/12(土) 03:54
- まず>>51さんすいません。ネタバレ自分で分かっていませんでした。
更新お疲れ様です。
すごい試合になってましたね。よっすいー大活躍のようで・・・選手の心の中は前々回のレスのメール欄(後半は自分の観測的希望)なのではと思います。
次回のU−19楽しみにしています。
- 116 名前:名無しぃく 投稿日:2004/06/13(日) 03:35
- 日本人対決、楽しませてもらいますた。
インテルは何と言うか、その、まぁあれですね。
柴田さんも課題が見つかったようで。次回も頑張ってください。
- 117 名前:ACM 投稿日:2004/06/15(火) 10:28
- 113>ピクシー様
レスありがとうございます。
お名前にはもう1つ由来があるのですか。もしよければ教えてください。
この小説でも“ピクシー”は活躍してくれますよ。
出番は少し先なので、もうしばらくお待ちくださいませ。
114>みっくす様
レスありがとうございます。
ホント、現実でもチャンピオンズリーグで日本人選手が活躍して欲しいものです。
吉澤さんはこれから試練の時ですね。チーム状態がちょっと悪いので。
その隙を虎視眈々と狙うトリックスターといった所です。
115>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
よっすぃーが大活躍してくれました。でも市井もこれで黙っているはずがありません。
次のミラノで行われるインテルVSアーセナルにご期待下さい。
それまでにインテルがどうなるか注目しておいてください。
116>名無しぃく様
レスありがとうございます。
インテルはそうですね、あれですね。
それと現実のポルトガルもそうですが、何よりイングランドはあっこから?
サッカーとは恐ろしいものでございます。あんなの小説でも書けません。
いつも皆様ありがとうございます。とても励みになります。
では本日の更新です。
- 118 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:32
- 欧州でついにチャンピオンズリーグが始まった。
オープニングから日本人対決があるなど、注目度は俄然アップしている。
ここで全試合の結果を記しておこう。
<グループA>
バイエルン・M2−1セルティック
リヨン 1−0アンデルレヒト
<グループB>
アーセナル0−3インテル
D・キエフ2−0R・モスクワ
<グループC>
AEKアテネ1−1バルセロナ
PSV 1−2モナコ
<グループD>
ユヴェントス2−1ガラタサライ
バレンシア 1−0オリンピアコス
<グループE>
マンチェスター・U5−0パナシナイコス
レンジャーズ 2−1ドルトムント
<グループF>
パルチザン 1−1ポルト
R・マドリード4−2マルセイユ
<グループG>
ベジクタシュ0−2ローマ
S・プラハ 0−1チェルシー
<グループH>
ブルージュ1−1レアル・ベティス
ACミラン1−0アヤックス
- 119 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:33
- インテルの吉澤ひとみが見事にハットトリックで市井との日本人対決を制した。
それ以外にもユヴェントスの福田明日香、
レアル・マドリードの後藤真希も順調に勝利を収めた。
特に後藤は2ゴール2アシストとレアルの全得点に絡む活躍。
今季こそチャンピオンズリーグ制覇、
そしてひとみとの約束を果たすべく気合いを入れている。
その他の試合では昨季チャンピオンのマンチェスター・ユナイテッドが
5−0とパナシナイコスを圧倒。
今季も当然優勝を目指す。
バイエルン・ミュンヘンやACミランといった強豪も順調に勝利を収め、
今季の優勝を狙っている。
欧州全土を興奮の渦に巻き込むチャンピオンズリーグ。
来年の5月25日。
決勝戦のピッチに立つのは果たしてどのチームなのか?
- 120 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:35
- そのころ、田中たちU−19日本代表選手はマレーシアへと降り立っていた。
3日後に迫ったワールドユースアジア予選を戦うためだ。
<U−19日本代表>
GK 1 亀井絵里 名古屋グランパスエイト
12 梅田えりか ジェフユナイテッド市原
DF 2 小川麻琴 清水エスパルス
3 紺野あさ美 コンサドーレ札幌
6 須藤茉麻 アルビレックス新潟
15 斉藤美海 コンサドーレ札幌
17 矢島舞美 サンフレッチェ広島
20 中島早貴 大宮アルディージャ
MF 4 辻 希美 ガンバ大阪
5 加護亜依 京都パープルサンガ
7 新垣里沙 ジュビロ磐田
8 徳永千奈美 ジェフユナイテッド市原
10 田中れいな 清水エスパルス
14 村上 愛 横浜Fマリノス
16 清水佐紀 川崎フロンターレ
FW 9 道重さゆみ 柏レイソル
11 高橋 愛 ジュビロ磐田
13 夏焼 雅 川崎フロンターレ
18 嗣永桃子 アビスパ福岡
19 熊井友理奈 ベガルタ仙台
- 121 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:35
- 以上の20名がこの予選に挑む。
この予選はU−20AFCサッカー選手権大会として行われる。
この大会でベスト4に進出したチームが
来年のオランダワールドユース本大会に出場できるのだ。
4チームのグループに分かれ、そこの1位のみが決勝トーナメントにいける。
そうなれば本戦出場決定だ。
グループの組み合わせにも恵まれており、本大会出場はほぼ確実視されている。
マコトの狙いは出場権を得ることはもちろんだが、
徳永、夏焼などA代表、五輪代表に選ばれていない選手たちに
国際舞台の経験を積ませることである。
もちろんサッカーはこんな計算どおりに行く事はないが、
そうなるようにマコトは対戦相手のデータをこれでもかと調べつくしている。
さすがはA代表でツンクを支えてきた名コーチ。
このあたりに抜かりはない。
- 122 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:36
- 「足を止めるな!!もっとプレスだ!!」
マコトの声が響く。
試合を明後日に控えたU−19日本代表。
初戦のバーレーン戦に向けての最終調整を行っていた。
地元マレーシアのクラブチームとの練習試合を行い、
引いた相手を崩していく。
レギュラー組のメンバーはGK亀井。
DF左からみうな、須藤、紺野、小川。
MFはボランチ新垣、辻。左に加護、右に高橋。
トレクァルティスタに田中。
1トップに道重だった。
- 123 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:37
- 試合の方は4−0で日本が圧勝した。
トレクァルティスタの田中が3ゴールと大活躍。
これは2列目からの飛び出しが徹底できている証拠だ。
1トップの道重が囮になって2列目から田中が飛び込む。
レアル・マドリードでもここに後藤を置いているように、
このポジションには得点力が必要だ。
田中の動きに問題はない。
その他の選手も満足のいく動きだ。
いい形で初戦に望めそうである。
- 124 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:37
- 「お疲れ、れいな。気合い入ってたね。」
試合を終え、クールダウンも終わった亀井が田中の肩をポンと叩く。
「うん、お疲れ。」
田中は短く返事をすると高橋のところに行き、
今日の試合のことで色々と話している。
「・・・・何かれいなが変だ。」
亀井は田中の様子がいつもと違うことに気付いていた。
どこかこう、切羽詰っているような感じだった。
- 125 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:38
- 「あいつは今プレッシャーを感じてるんやと思う。」
「あ、監督。」
田中の様子に首を傾げる亀井にマコトが話す。
「プレッシャーって何のですか?」
「もちろん予選のプレッシャーってのもあるけど、
何より背番号にやな。」
「背番号にですか?」
「そうや。あいつの背番号は10番や。
サッカー界ではやっぱ特別なんや。その重さをひしひしと感じてるんやろ。」
「えっ?でもれいな、10番は前もつけてますよね。
しかもA代表で。」
マコトの言葉に驚く亀井。
亀井の言うとおり田中はA代表で10番をつけた事がある。
先のワールドカップアジア1次予選、対インド戦。
背番号10を背負い、見事にこの試合4アシストを決めた。
- 126 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:38
- 「そうや。でもな、あの時はいわば代役で10番を背負ったんや。
A代表の10番、それは吉澤か柴田のもんや。
だから田中は背負ってもそんなに意識はせんかったんやろ。
けど、このチームでは違う。
正真正銘のエースナンバー、10番や。
だからこそプレッシャーを感じてるんやろ。」
マコトの言うとおりだった。
もちろん自分の実力を驕るわけではないが、
ナンバー10を背負い、トップ下でスタメンを張る。
ある意味U−19日本代表は田中のチームと言えるし、
本人もそう思っている。
自分の出来次第でチームは大きく変わる。
そう思うとプレッシャーが波のように押し寄せてくる。
- 127 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:39
- 『だが、これを乗り越えなあの2人には勝てへんぞ。』
それが分かっていながらマコトは何も田中にアドバイスをしない。
プレッシャーというものはサッカーを続ける限り必ず襲い掛かってくる。
それは自分がステップアップすればするほど大きくなる。
ファンからの期待というプレッシャー。
マスコミからの持ち上げる、またはどん底に叩き落すというプレッシャー。
これらを克服しなければ世界に飛び出す事など夢のまた夢だ。
ここが田中の踏ん張りどころである。
- 128 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:40
- 翌日は軽めの調整で体調を整える。
ここまでほぼ順調に来ている。
キャプテンの辻を中心にチームが上手くまとまっている。
もちろんまだまだ辻たち“A代表”組と夏焼たちU−19組の間に
壁はあるのだが、初めのころと比べると大分薄くなった。
後はこの戦いをみなで切り抜け、
チームとしての一体感を高めていく。
そしてついにワールドユースアジア予選が始まった。
日本の初戦の相手はバーレーン。
明らかに格下だ。
が、サッカーに絶対はないし、しかも初戦だ。
何があるかわからない。
よってマコトは初戦をベストメンバーで臨む。
- 129 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:40
- 「さあ、いよいよワールドユースに向けての予選や。
けど、そんな事は忘れよう。
この一戦、ワールドカップの決勝戦のつもりで戦え。」
「はいっ!!!」
威勢よく返事する選手たち。
みな表情は適度な緊張感と高揚感で満ち溢れている。
これならばいいゲームが出来るだろう。
「辻、キャプテンとして気合いを頼むで。」
マコトはキャプテンの辻に振る。
辻はキャプテンマークを左腕に巻き、みなを呼び寄せ円陣を組む。
「いよいよ今日から始まるね。ピッチにいる人も、
ベンチにいる人も全員で戦うよ。全員の力で勝とう!!」
「おうっ!!」
「それじゃあいくよ。がんばっていきまー・・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!!!」
- 130 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:41
- U−19日本代表
GK 1 亀井絵里 システム 4−2−3−1
DF 2 小川麻琴
3 紺野あさ美 道重
6 須藤茉麻
15 斉藤美海 加護 田中 高橋
MF 4 辻 希美
5 加護亜依 新垣 辻
7 新垣里沙 美海 小川
10 田中れいな 須藤 紺野
11 高橋 愛
FW 9 道重さゆみ 亀井
- 131 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:42
- 日本のキックオフで試合が開始された。
道重から田中、田中から辻へとボールが渡る。
ボールを受けた辻、前を見る。
バーレーンのシステムは4−4−1−1。
4バックに4人のセンターハーフという、ガチガチの守備体型だ。
前線には2人しか残っていないが、トップの選手とトップ下の選手はそこそこのスピードとテクニックがある。
バーレーンはこの2人以外で守り、
ボールを奪った後はその2人に任せるといった戦術だ。
- 132 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:43
- 辻は右サイドに張る高橋にパスを送る。
すぐさまバーレーンも高橋に左サイドバックとハーフがチェックに向かう。
高橋はこの2人を充分に引きつけて田中に返し、自分は前に出る。
そこへ田中からリターンが出る。
鮮やかなワンツーで抜け出した高橋、ペナルティエリア手前からグッと中に切れ込む。
その後ろを絶妙のタイミングで右サイドバック小川が駆け上がったのを高橋は見逃さない。
右足アウトサイドで小川に出す。
これを受けた小川、中を見るがペナルティエリア内には道重と田中しか入っていない。
「麻琴!」
小川に出した後、またサイドライン際に戻っていた高橋が小川にボールを戻すように要求する。
小川からボールをもらうと高橋はボランチの辻に返す。
「辻ちゃん、逆サイド!!」
高橋がよく通る声で指示を出す。
辻は逆サイドにいるみうなにパスを出す。
- 133 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:43
- 「よしよし、いいぞ高橋。じっくり攻めたらいい。」
ベンチでマコトが満足気に頷く。
これ以降も攻撃が手詰まりになれば逆サイドに大きくサイドチェンジしていき、
バーレーンディフェンスをサイドに開かせていく。
これを繰り返していくうちに中央の守りが少しずつであるが薄くなっていく。
そこを突けばいい。
「亜依ちゃん!!」
小川から逆サイドの加護にサイドチェンジのパス。
これを加護はダイレクトでフォローに来た田中に落とし前へダッシュ。
「ここだ!!」
そこへ田中がリターンと見せかけ、中に切れ込む。
トリックスターの本領発揮だ。
この動きにバーレーンDF陣は完全に逆を取られる。
中央にぽっかりと穴があいた。
- 134 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:44
- 「はいっ!!出して!!」
右サイドから声が聞こえる。
『分かってますよ高橋さん!!』
瞬時に田中はスペースへスルーパス。
見事な天使のパスだ。
このボールに右サイドから鋭く切れ込んできたのは高橋愛。
やや角度が無いところながらもダイレクトでシュートを放つ。
これをバーレーンGKは何とか手に当てたが、
そのこぼれ球を道重が押し込んだ。
前半23分。
U−19日本代表先制点。
- 135 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:44
- 「やったあ!!」
道重がグッとガッツポーズ。
初戦でゴールが奪えたのがFWにとって何よりだ。
そこへ他の選手たちが抱き付く。
「ナイスだよさゆ!!」
「ナイス!!!」
みなの声に満面の笑みを浮かべる道重。
「高橋さん、ナイストライでした。」
「田中ちゃんこそナイスパス。ホントは自分で決めたかったけど。」
道重の得点をお膳立てした2人が手を合わせる。
この得点で田中もホッとする。
行ける。
今日の自分の調子は悪くない。
- 136 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:45
- 「ふむ。さすが日本だ。」
「あの背番号10、タナカはいいプレイヤーだ。
テクニックが素晴らしいし、トリッキーなプレーもいい。」
「タカハシもさすがだ。ここでは一枚も二枚も抜けてるな。」
スタジアムには欧州各国からスカウト陣が大挙押し寄せていた。
ここ最近日本の躍進は凄まじい。
特に若い世代にいい選手が揃っている。
それだけに欧州各国のクラブは、
他のクラブに手を付けられる前に自クラブで獲得してしまおうと躍起になっていた。
- 137 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:45
- この1点で随分気持ちが楽になったのか、日本はのびのびとプレーする。
バーレーンも相変わらずディフェンスを固めるが、
そんなディフェンスを打ち破るのが個人技だ。
「こっちや!!」
加護が左サイドでボールを受ける。
そしてそのまま中に切れ込む。
迫り来るバーレーンDFをあの独特のステップで1人2人とかわしていく。
「うわっ!!」
そしてペナルティエリアに侵入した時に足を引っ掛けられ倒れた。
ピピピピピ!!!!
主審が笛を吹いてペナルティスポットを指差した。
「よっしゃ!!」
加護が痛みに顔をしかめながらもグッと拳を握る。
加護の個人技で得たPKを田中が見事に決め、
2−0とバーレーンを突き放した。
- 138 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:46
- この得点でバーレーンは明らかに気持ちが落ちてきた。
中盤でのプレスも緩くなり、
田中、加護、高橋の3人が自由にピッチを駆け巡る。
「マコ!みうなさん!上がっていいです!!」
DFの紺野が両サイドバックを押し上げる。
相手は1トップにオフェンシブハーフが1人。
これならば紺野と須藤で充分だし、
もしもの時はボランチの新垣がカバーリングに入る。
両サイドバックがウイングバックの位置に上がったことで両サイドハーフ、
高橋と加護がウイングの位置に上がりさらに攻撃に専念するようになる。
トップに道重、右に高橋と小川、左に加護とみうな。
後ろからは辻も上がってこれる。
これだけある選択肢の中からどれを選ぶか。
背番号10を与えられた田中れいなの見せ場だ。
- 139 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:46
- 「はいはいはい!!!」
加護が左サイドから中に切れ込んできた。
このドリブラーはDFにとっては恐怖の対象でしかない。
ボールを持たしては終わりだ。だからボールを受ける前に潰す。
加護もそれを分かっているだけにフリーランニングで敵をひきつける。
加護が切れ込んで出来た左サイドスペースにみうなが走り込む。
この一連の動きを田中は見逃さない。
田中は3人に囲まれながらもボールをキープし、
左サイドを上がるみうなに完璧なパスを送った。
「えっ?!!」
みうなは驚いてしまった。
まさかあれだけ囲まれているのにきちんとパスが来るとは?
フリーでボールを受けたみうな、中に鋭いクロスボールを送る。
これに道重が飛び込むがバーレーンDFがヘッドでコーナーキックに逃れた。
- 140 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:47
- このチーム、A代表でも充分活躍できる選手もおり、
この年代では世界でも上位のチームであるとマコトは確信している。
現役時代、それから指導者になってからも様々な女子ユースチームの試合を見たことがある。
そこで活躍する選手にも高橋や加護、辻といった面々は何ら劣る事はない。
むしろ高橋や加護なんかは即エースになれるであろう。
そんな選手が揃うこのU−19日本代表だが、唯一の弱点がセットプレーだ。
このチームにはA代表の石川梨華、
平家みちよといった一流のプレースキッカーがいないのだ。
サッカーの得点の約3割がセットプレーからだ。
それだけに優秀なプレースキッカーがいると大きなアドバンテージとなる。
- 141 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:47
- 左サイドのコーナーキック。
ここは右足の田中がキッカーだ。
このチャンスにセンターバックの須藤が上がってくる。
田中が右足で上げる。
その瞬間須藤と道重がニアサイドに走り込む。
この2人にバーレーンDFがみな釣られた。
マークが薄くなったファーサイドに高橋が飛び込む。
が、田中のキックはやや大きすぎた。
高橋の懸命なジャンプもわずかに届かず、
ボールはそのままゴールラインを割ってしまった。
「あーもうっ!!」
田中が表情を歪める。
今のはきっちりと合わせないと。
柴田ならば確実に合わせたはずだ。
- 142 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:48
- 前半も残り10分となった。
マコトとしてはここでもう1点取り、
試合を完全に決めてもらいたいところだ。
2点差ではまだわからない。
バーレーンもわずかのところで踏みとどまっている。
が、3点差にしてしまえばバーレーンも完全に切れる。
そうなれば後半は主力を休ませ、
控え組に経験を積ませることが出来る。
「あと1点だ!!前半、必ずもう1点取れ!!!」
マコトはテクニカルエリアで声を張り上げる。
- 143 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:49
- 「れいな!!出して!!」
前線で道重がマークを受けながらもボールを要求する。
1トップは真ん中で身体を張りボールをキープしなければならない。
ここでキープできないと後ろからの押し上げが出来なくなり攻撃が止まってしまう。
前線でターゲットとなり、味方を活かすポストプレーの技術が1トップには必要不可欠だ。
2人からプレッシャーを受けながらも田中からのボールをトラップし、
また田中に戻す。
が、このパスをバーレーンDFは読んでおり、
一斉に田中にプレッシャーをかけるとともにDFラインを上げる。
- 144 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:49
- 「!!!」
これに気付いた田中、道重から戻されたボールをスルーし、
左足の踵越しに右足インサイドで左に弾く。
これは中央に切れ込んでフォローに来ていた加護のもとに。
加護はダイレクトでDFラインの裏にフワッとした浮き球のパスを送る。
このパスに上手くバーレーンDFと入れ替わって飛び出したのが田中だ。
絶妙のタイミングでの飛び出しで、オフサイドトラップを破った。
- 145 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:50
- が、パスの速度が田中の飛び出すタイミングより少し遅かった。
ボールは田中のやや後ろに。
「くっ!!」
田中はこのパスを身体を斜めに倒して飛び、
空中に浮いたまま左足のヒールでとらえた。
サッカーの神様と言われた人物が現役時代にみせたダイレクトヒールボレーだ。
「うわっ?!!」
飛び出してきたバーレーンGKの頭上をボールが越える。
ボールは見事にゴールネットへと吸い込まれていった。
- 146 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:51
- ウオオオオオオオオオオ?!!!!
このゴールにスタジアムが大きく揺れる。
みな田中のプレーに驚愕の表情を浮かべる。
「れいな!!!」
「田中ちゃん!!!」
他の選手たちが田中に抱き付く。
みな興奮状態だ。
うちの10番は何て凄いプレーを見せるんだ?
- 147 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:51
- 「何というテクニックだ?!!」
「いや、あそこであれを思いつくイマジネーションが凄い!!」
「そしてそれを実行する勇気も素晴らしい!!!」
スタンドではスカウト陣が目を丸くしていた。
そしてそのうちの1人がこう言った。
「彼女のプレーは“トリック”じゃない。“アート”だ。」
この瞬間、“トリックスター”は“アーティスト”へと進化した。
- 148 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:52
- 「よっしゃ!!」
ゴールが決まった瞬間ベンチでマコトがガッツポーズ。
これでこの試合はもらった。
「徳永、夏焼、後半アタマから行くぞ。」
マコトはベンチに座る徳永と夏焼に声をかける。
「はいっ!!」
威勢良く返事し、2人はアップのために立ち上がった。
「徳永は加護と交代。夏焼は道重だ。で2トップにする。
高橋と夏焼の2トップに、徳永と田中のダブルオフェンシブハーフな。」
この言葉に頷く徳永と夏焼。
このフォーメーションはすでに練習済みだ。
夏焼の得点能力を活かすための布陣である。
前半はこのまま3−0というスコアで終了した。
- 149 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:53
- 後半は予定通り4−4−2、中盤はボックス型にして臨んだ。
4−4−2にした分サイドの人数は減ったが、
FWが2トップになったためFWのマークが分散される。
そのため、前線での勝負が可能になってくる。
「徳。パスの配給は徳に任せるよ。
あたしはどんどん前に飛び出すからね。」
田中が後半から入った徳永にゲームメイクを任せる。
徳永は完全なパサーだ。
ボールを持ってこそその実力が発揮される。
一方田中はパスはもちろんだが、前線への飛び出しも武器である。
そのため夏焼、高橋に続く3人目のFWとして前線に絡める。
- 150 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:53
- 徳永からのパスを右サイドに開いた高橋が受けた。
すかさずバーレーンDFがチェックに来るが、
高橋は華麗にかわし、右サイドを深くえぐる。
ペナルティエリアではファーサイドからニアサイドに夏焼が切れ込み、
田中は逆にファーサイドに開く。
高橋はタイミングを計って中にクロス。
だがこのクロスはペナルティエリアの中ではなく、外にあがった。
「ナイス愛ちゃん!!」
このクロスに猛スピードで走り込むのはボランチの辻。
その勢いを右足に乗せ、思い切り叩いた。
- 151 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:54
- 「うわっ?!!」
バーレーンGKの顔の真横をボールが通り過ぎた。
真正面であるにも関わらず全く反応できなかったのだ。
ボールはゴールネットを千切らんばかりに突き刺さった。
日本、これで4点目を挙げる。
「ようしっ!!!」
ゴールを決めた辻がガッツポーズ。
周りの選手はみな唖然となる。
あんな凄いシュート、どうやって撃つんだ?
- 152 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:54
- さらに日本は攻める。
徳永が自慢のパスセンスで日本の攻撃を上手くコントロールする。
「ほう、徳永の奴上手くパスを出してるやないけ。」
徳永のプレーにマコトは満足気に頷く。
徳永にすれば、このチームはやり易くてしょうがなかった。
自分の出したいところにきっちりと味方の選手が走りこんでいるからだ。
高橋や田中はきっちりと前線のスペースに走ってくれるし、
小川が絶妙なタイミングで上がってもくれる。
みうなも素晴らしいスピードがあり、パスの出しがいがある。
前が手詰まりの時はきっちりと辻や新垣がフォローに来てくれる。
パスを出すのが楽しくてたまらないといった感じだ。
- 153 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:55
- 「よし、中島。行くで。」
後半25分過ぎには3枚目のカードとして左サイドバックのみうなに代えて中島を投入。
本来はセンターバックのため左サイドバックとしての経験の少ない中島に実戦経験を積ませる。
世界の主流はいまや4バックだ。
あのドイツやオランダでさえ4バックにしているし、
イタリアも近頃、4バックへの変更を検討しているほどだ。
それはサイドアタックが現在のサッカーの主流で、
FWが1トップ、もしくは3トップ気味のチームが多いからだ。
2トップであれば3バックシステムは大きな意味を持つが、
1トップや3トップでは苦しい。
DFが4バックならばこれにも対応できるし、
攻撃もサイドアタックが行える。
そのためマコトはいち早く4バックシステムを取り入れたが、
如何せん日本は3バックのクラブが多いため、
サイドバックが本職の選手が少ないのだ。
そのためマコトは試合をしながらサイドバックを育てなければならない。
これが中々頭を悩ませる問題である。
- 154 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:56
- 同じ問題でツンクも悩んでいる
ツンクもこの2日後に行われるワールドカップアジア1次予選対オマーン戦で
4バックシステムを試す事を明言している。
今まで3バックで結果を出してきた。
が、やはり世界が4バックの1トップ、もしくは3トップで来るチームが多いため、
4バックに変更したほうがいいと判断した。
それに元々ツンクとしては4バックの方が好きなのだ。
彼はブラジルで生まれ育ったため、
ブラジル伝統のシステム4−2−2−2が身体に染み付いている。
今まで3バックにしていたのはツンクの監督就任が急だったため、
前監督のやり方を踏まえるしかなかったこと。
それに中澤裕子という最高のDFがいたため、
彼女の能力を発揮できるシステムにすべきだと判断したからである。
その中澤が代表から引退し、他のメンバーも大分固定された事で
個人の連携も心配ないことからツンクは4バック変更に踏み切った。
- 155 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:56
- が、今現在マレーシアでワールドユース予選が行われているため、
右サイドバックを務める選手がいない。
右サイドバックならば小川麻琴の右に出る者はいない。
本来ならばA代表を優先させたいが、
マコトのU−19代表はこの試合が船出であるのでワールドユース予選にまわした。
そこでツンクは横浜Fマリノスの矢口真里を右サイドバックで使う事にした。
果たしてそれがどうでるか?
- 156 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:58
- 交代で入った中島はまずまずのプレーを見せた。
元々センターバックであるため、守備力には問題はない。
後は攻撃であるが、まだ慣れていないためどこかぎこちない。
それでも機を見ては積極的に上がり、攻撃に絡んでいく。
日本の追加点はこの中島から生まれた。
左サイドを上がる中島。
そこへ徳永からパスが通る。
中島、相手DFのチェックが来る前にクロスを上げた。
このクロスにファーサイドで合わせるのは田中。
そのままヘッドでシュートを撃てるところだったが、
強引に中に折り返した。
そこには夏焼が待っていた。
夏焼はこれをあっさりとゴールに押し込んだ。
日本、止めとなる5点目。
- 157 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 10:59
- 「やった!!!!」
夏焼が右拳を高々と突き上げる。
FWにとってゴールとは全て。
そのゴールを国際試合で決められた事はたまらなく嬉しい。
「ナイッシュ雅。」
田中が祝福にくる。
「田中さん、ありがとうございます!!」
夏焼が田中に抱き付く。
後半から投入されたものの、引いた相手に中々仕事が出来なかった夏焼。
その夏焼にきっちりとラストパスを送った田中。
尊敬するマエストロ柴田のようなゲームメイクだ。
- 158 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 11:00
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
試合終了の笛が鳴った。
日本は見事に5−0というスコアで勝利した。
A代表組はもちろんの事、生粋のU−19代表組も
それぞれ活躍できた試合であった。
- 159 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 11:00
- 「よっしゃ、これはいける。」
マコトはこのチームに手応えを感じた。
アジア予選はもちろん、その先の本番。
更には最高の高みまで行ける可能性があると。
「ふふふ、ツンク。待っとけよ。
ピッチに立つのは俺らかもしらんで?」
マコトの秘めたる野望。
それはドイツワールドカップのピッチに“自分の”チームが立つ事。
- 160 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 11:01
- 試合終了の笛が鳴ると、スタンドにいたスカウトたちが忙しなく動き始めた。
各々がチェックした内容を確認し、電話でどこかと話している。
そのうちの1人の言葉をここで紹介しておこう。
「日本には“アーティスト”がいます。世界を虜にする“アーティスト”が。
彼女を一刻も早く獲得すべきです。他のクラブにとられる前に。」
- 161 名前:第6話 奇術から芸術へ 投稿日:2004/06/15(火) 11:02
-
第6話 奇術から芸術へ (終)
- 162 名前:ACM 投稿日:2004/06/15(火) 11:03
- 第6話 奇術から芸術へ 終了いたしました。
現実でもEUROが始まり、熱い戦いが繰り広げられています。
オリンピックもヨーロッパの出場国が決まりました。
その中のイタリアですが、オーバーエイジにインザーギとトッティ、
それからネスタを考えているようです。
ん?そういえばこの小説でもこの3人をオーバーエイジで出したような気が。
さらにセリエAはオリンピックの事を考えて開幕を遅らせるそうです。
・・・・・・・・・何か恐いっす。
- 163 名前:ACM 投稿日:2004/06/15(火) 11:05
- 次回予告
第7話 ライバル
ワールドユース本大会出場を目指し、激闘を繰り広げるU−19日本代表。
本大会出場だけではなく、狙うはもちろん優勝だが、
その前に立ちはだかるのはやはりあの国だった。
日本の永遠のライバル韓国。
この世代の韓国との対戦成績は全敗。
果たしてその雪辱をここで晴らせるのか?
次回も引き続きU−19ですが、よろしくお願いいたします。
- 164 名前:ACM 投稿日:2004/06/15(火) 11:11
- 今回もスレ隠しはなしです。
最近は一度の更新で使うレス数が大分減りました。
今までは短く区切り過ぎてたんですね。
でも余り1レスに多く詰め込みすぎると読みにくいですし。
その辺りが難しいですね。
もっと勉強します。
では、次回もよろしくお願いいたします。
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/15(火) 12:29
- 更新お疲れ様です。
- 166 名前:みっくす 投稿日:2004/06/15(火) 23:54
- 更新おつかれさまです。
ドイツでは果してだれが10番を背負っているのでしょうかね。
1番若い10番も世界デビュー?
- 167 名前:ピクシー 投稿日:2004/06/16(水) 02:12
- 更新お疲れ様です。
>お名前にはもう1つ由来があるのですか。もしよければ教えてください。
別に大した意味はないです。ただ、自分の推しメンの「イメージ」が「ピクシー」のように感じるだけです。
この小説の中で置きかえると、まさに田中みたいなプレーをしそう・・・という推しメンのイメージです。
ユーロ、自分も見てますよ。
フランスの逆転劇や、デンマークの組織された攻撃&守備(全体的にみれば、イタリアより良かったと思ってます。)には感動・感心しっぱなしです。
次回も楽しみにまってます。
- 168 名前:名無しぃく 投稿日:2004/06/16(水) 02:24
- 更新お疲れいな。
また黒い影が潜んでおるようで。(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
あとFIFA?UEFA?はこの小説を読んでる。間違いない。
リアルのデンマークのグロ○キアの諸事情を聞いて感激しますた。
イタリアは・・・髪型がおかしかったかな・・・。TBSでしか見れない我が家の環境が悲しい。
- 169 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/23(水) 22:54
- 更新待ってまーす☆
- 170 名前:ACM 投稿日:2004/06/24(木) 11:22
- 165>名無飼育さん様
レスありがとうございます。
ちょっと今回更新が遅れました。どうもすみません。
これにこりず、また見ていただけると嬉しいです。
166>みっくす様
レスありがとうございます。
そうですね、誰がドイツで10番を背負っているのでしょうかね?
ファンタジスタか、マエストロか、アーティスト。
この3人の10番争いにご注目下さい。
167>ピクシー様
レスありがとうございます。
推しメンのイメージがピクシーですか・・・・誰でしょうか?
作者の中では、顔からするとよっすぃーなんですけどね。
デンマークは凄くいいサッカーです。EURO、熱いですね。
- 171 名前:ACM 投稿日:2004/06/24(木) 11:23
- 168>名無しぃく様
レスありがとうございます。
黒い影は所々に潜んでおります。
EUROですけど、自分もTBSしか見れないんですよ。
もっと色んな試合を観たいんですが、ニュースで結果しか見れないのが悲しいです。
169>紺ちゃんファン様
レスありがとうございます。初めまして、ですよね。
すみません、お待たせいたしました。
せめて週一更新が出来るよう頑張ります。
では本日の更新です。
- 172 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:25
- U−19日本代表は見事に初戦を快勝した。
そしてそのまま波に乗った。
つづく第2戦はバングラディシュ。
マコトは前の試合からスタメンを6人入れかえた。
GK 12 梅田えりか
DF 2 小川麻琴
6 須藤茉麻 道重
15 斉藤美海
17 矢島舞美 熊井 徳永 清水
MF 4 辻 希美
8 徳永千奈美 村上 辻
14 村上 愛 美海 小川
16 清水佐紀 須藤 矢島
19 熊井友理奈
FW 9 道重さゆみ 梅田
- 173 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:25
- 辻以外総入れ替えした中盤。
細かな連携面でのミスもあり、守備を固めるバングラディシュを
中々崩すにはいたらない。
それでも右サイドの清水が積極的に上がりチャンスを演出する。
田中の代わりにトレクァルティスタに入った徳永も、
時間が経つごとに落ち着いたゲームメイクを見せていく。
試合が動いたのは前半35分。
相手の攻撃を止めたセンターバック須藤から前線に大きくロングフィード。
これを道重が相手と競り合いながらもヘッドでGKとDFラインの間に流す。
それをDFラインの裏に飛び出した左サイドの熊井が拾い、
そのままゴールに切れ込む。
ペナルティエリアやや外から思い切って撃ったシュートは
DFに当たってコースが変わりゴールに吸い込まれた。
前半は1−0のスコアで折り返す。
- 174 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:26
- 後半も同じメンバーで臨んだ日本。
左サイドバックのみうなが積極的に上がり、チャンスを演出する。
一方、右サイドバックの小川がこの試合はオーバーラップを控えていた。
センターバックの2人はまだ経験の少ない須藤と矢島であるし、
ボランチの村上も同様である。
そのため小川は最終ラインに残っていつでもカバーリングに入れるようにしているのだ。
案の定ボランチの村上がトラップミスした所を突かれピンチに陥ったが、
須藤、矢島と小川でピンチを凌いだ。
中々得点が入らずイライラする展開であったが、
後半28分辻が放ったミドルをGKがファンブル。
それを道重が最後詰めた。
- 175 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:26
- 試合は後半39分に道重がこの日2点目となるゴールを、
清水からのクロスで決めた。
さらには終了間際にもう一度道重が熊井からのクロスにヘッドで合わせた。
4−0。
正直もっと得点は取れたが、連携面で不安のある控え組中心ではまずまずの結果だ。
そして何より徳永たち中心で試合に勝ったことで、
彼女たちもやれるという手応えを掴んだ事が大きい。
- 176 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:27
- そしてグループリーグ最終戦。
相手はオマーン。
中東の強豪国であるが正直日本の敵ではない。
もちろん油断すれば簡単に足元をすくわれてしまうが、
今の選手たちにそんな気の緩みはない。
GK 1 亀井絵里
DF 3 紺野あさ美
15 斉藤美海 嗣永
16 清水佐紀
20 中島早貴 加護 田中 高橋
MF 5 加護亜依
7 新垣里沙 新垣 徳永
8 徳永千奈美 美海 清水
10 田中れいな 中島 紺野
11 高橋 愛
FW 18 嗣永桃子 亀井
- 177 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:27
- 今日の試合はボランチに徳永を試してみる。
彼女のパスセンスはかなりのものだが、
田中と比べて劣るところは前線への飛び出し、得点力だ。
そのために1列下げて彼女のパスセンスを活かしてみる。
そしてFWにはアビスパ福岡の嗣永桃子を起用した。
彼女は典型的なポストプレイヤー。
身長はそれほど高くないが、
中央に構えて柔らかいボールタッチからポストをこなしていく。
彼女を起点にして2列目から田中、加護、高橋が積極的に飛び出していく。
DF陣は清水を右サイドバック、中島をセンターバックで起用した。
この2人は所属クラブでこのポジションを本職としているため特に問題はなかった。
- 178 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:28
- 「うん、なかなか機能しているな。」
マコトが頷く。
この布陣は練習ではそこそこ機能していたが、練習と実戦は別物だ。
がここまで特に問題はない。
マコトの睨んだとおり徳永はそのパスセンスを如何なく発揮して上手くゲームをコントロールしている。
その分トレクァルティスタの田中がシャドウストライカーとして積極的にゴール前に顔を出せている。
そのため1トップの嗣永も孤立することがなかった。
DF陣も紺野が見事に舵を取りオマーンの攻撃をシャットアウトする。
何本か放たれたシュートは亀井がきっちりと押さえ込む。
もちろん両サイドハーフの加護、高橋は言うまでもない。
ここでは格が違いすぎる。
試合は田中が2ゴール、嗣永が1ゴール、高橋が1ゴールの
4−0というスコアでオマーンに圧勝。
見事3戦全勝でワールドユース本大会への出場権を獲得した。
- 179 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:28
- 「ようしっ!!」
試合終了の笛を聞いた瞬間、マコトは両手を天に突き出した。
とりあえず最低限のノルマは達成できた。
これで来年、さらに厳しい戦いを経験する事が出来る。
それでチーム力はまた上がるだろう。
マコトの野望が一歩ずつ実現に向かっていた。
- 180 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:29
- ここで少しA代表のことにも触れておこう。
マコトたちU−19日本代表がワールドユースアジア予選の第1戦を戦い終えた2日後。
A代表はオマーンの首都、マスカットでワールドカップ予選を戦った。
この試合に勝てば1次予選の勝ち抜けが決まる。
この試合に臨むメンバーは以下の18名。
GK 1 飯田圭織 コンサドーレ札幌
12 ミカ・トッド セレッソ大阪
DF 2 石黒 彩 東京ヴェルディ1969
3 斉藤 瞳 横浜Fマリノス
4 里田まい 鹿島アントラーズ
5 大谷雅恵 ベガルタ仙台
16 木村麻美 鹿島アントラーズ
MF 6 保田 圭 柏レイソル
7 平家みちよ 浦和レッズ
8 矢口真里 横浜Fマリノス
10 吉澤ひとみ インテルミラノ(イタリア)
14 石川梨華 横浜Fマリノス
17 戸田鈴音 鹿島アントラーズ
18 福田明日香 ユヴェントス(イタリア)
FW 9 安倍なつみ コンサドーレ札幌
11 木村アヤカ ヴィッセル神戸
13 村田めぐみ ジェフユナイテッド市原
15 後藤真希 レアル・マドリード(スペイン)
- 181 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:30
- 海外組はひとみ、後藤、福田の3人を招集するにとどまった。
柴田、藤本、松浦はチーム状態が思わしくないため、
または残留に向けてリーグ戦に集中して欲しいためクラブ側が難色を示した。
ツンクも正直この試合は行けると思っていたため、
ここでクラブ側に恩を売っておいた。
アーセナルの市井紗耶香はあのチャンピオンズリーグ、インテル戦でフォームを崩し、
現在大スランプに陥っている。
そのため、今回は招集を見送った。
一刻も早い復調を願うばかりである。
- 182 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:30
- この試合、ツンクは宣言通り4バックで臨んだ。
GK 1 飯田圭織 システム 4−2−2−2
DF 2 石黒 彩
4 里田まい 安倍 後藤
8 矢口真里
16 木村麻美 石川 吉澤
MF 6 保田 圭
10 吉澤ひとみ 保田 福田
14 石川梨華 麻美 矢口
18 福田明日香 石黒 里田
FW 9 安倍なつみ
15 後藤真希 飯田
- 183 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:32
- このスターティングイレブンのコンセプトは4バック。
全員所属クラブでは4バックの選手をツンクはスタメンに選んだ。
試合は序盤から実力に勝る日本ペース。
中盤の4人がボールをキープし、
その間に両サイドバックがライン際を駆け上がる。
「矢口!上がる時は思い切って上がっていいから!」
今日が初サイドバックの矢口に福田が声をかける。
「オッケー!!」
矢口は福田運動量とカバーリングを信じて積極的に上がる。
自分の売りはスピードによるサイド突破だ。
ツンクもそれに期待して矢口をサイドバックで使ったのだ。
その期待に応えてみせる。
- 184 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:33
- 先制点はこの矢口のクロスから。
ひとみがボールをキープしている間に矢口は右サイドを駆け上がっていく。
そこへひとみが絶妙のスルーパス。
抜群のスピードで右サイドを抜け出した矢口、
中に鋭いクロスを送る。
このクロスに飛び込むのは後藤真希。
ニアサイドに素早く入り込み、左足アウトサイドでとらえた。
これはGKの足元を破りゴールネットに突き刺さった。
前半29分。
日本が先制点。
- 185 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:33
- さらに前半終了間際。
左のオフェンシブハーフに入った石川が2人にマークされながらもボールをキープする。
その時、左サイドバックの麻美が勢い良く上がってきた。
この上がりに石川のマークについていた選手の意識が向けられた。
「いまだ!!」
石川はそれを逃さずすかさず“魔法の左足”を振りぬく。
このクロスはファーサイドに走りこんだひとみにピタリ。
ひとみはこれをダイレクトボレーで中に折り返した。
最後足を投げ出して合わせたのは安倍。
さすがといえる嗅覚だった。
- 186 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:34
- 前半を2−0で折り返した日本。
後半は少しメンバーを入れかえた。
GK 1 飯田圭織
DF 2 石黒 彩
4 里田まい 安倍 後藤
8 矢口真里
14 石川梨華 吉澤 アヤカ
MF 7 平家みちよ
10 吉澤ひとみ 福田 平家
11 木村アヤカ 石川 矢口
18 福田明日香 石黒 里田
FW 9 安倍なつみ
15 後藤真希 飯田
麻美を下げてアヤカを投入。
石川を左サイドバックに持っていき、アヤカを右オフェンシブハーフにいれる。
さらに保田に代えて平家をいれ、両サイドバックを活かしたゲームメイクをさせる。
- 187 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:35
- 「・・・・ひとみと同じピッチに立つのは久しぶりやな。」
「そうですね。天皇杯以来ですかね。」
元浦和レッズの黄金コンビが手を合わせる。
あれから10ヶ月。
お互いどれだけ成長したのか見せ合う。
平家の右足から長短高低緩急自在のさまざまなパスがピッチを駆け巡る。
「・・・・・・・やっぱ凄い。」
ひとみは久しぶりに受ける平家のパスに驚かされる。
今まで色んなボランチ、センターハーフとコンビを組んできた。
その中でもやはり平家は別格だ。
平家がいれば自分は最後、フィニッシャーの仕事だけに専念できた。
そこまでのお膳立てはきっちり平家がしてくれるからだ。
もちろん平家に劣らないほどのテクニック、パスセンスの持ち主はいる。
エンポリ時代のマユコなどがそうだ。
しかし平家との相性、呼吸には敵わない。
- 188 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:35
- 平家のパスにアヤカが抜け出した。
アヤカは右サイドを深くえぐり、中に鋭いクロス。
このクロスに後藤が飛び込むが、
これはDFがクリアした。
このこぼれ球は平家のもとに。
平家はこのパスをダイレクトでファーサイドに上げた。
そこにはフリーでひとみが待っていた。
ひとみはこれをシュートを撃つと見せかけて右足アウトサイドで中に落とす。
最後ここに走り込んで来たのは福田明日香。
強烈なボレーシュートがゴールネットに突き刺さった。
- 189 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:36
- 「さすが平家さん。ナイスパスです。」
「ひとみこそ大分視野が広くなったやないけ。
ちゃんと明日香が上がってくるの見えてたんやな。」
福田のゴールをお膳立てした2人がニッと笑い合う。
この後も平家のパスから両サイドバックが上がりチャンスを生み出す。
しかし追加点は奪えず、逆にオマーンのカウンターにより失点を喫してしまう。
そのきっかけとなったのは右サイドバックの矢口だった。
矢口は攻撃面では何の不安もないが、やはり守備面で大きな不安がある。
オマーンFWの突進を止めきれずに抜け出され、きっちりと決められた。
だがこれも経験を積んでいけば何とかなりそうなものだ。
本人も初のサイドバックに手応えを感じている。
小川が戻ってきても自分がこのポジションをとると気合いを入れていた。
- 190 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:37
- 試合はこのまま3−1で終了した。
ツンクとしてはこれで1次予選突破が決まったこと、
さらには初の4バックが中々機能したことで満足できる一戦だった。
「ふふふふ、マコト。そう簡単には譲らんで。」
ツンクがニヤリと笑う。
ドイツのピッチに立つのはもちろん我々だ。
指揮官たちの間でも熱い戦いが繰り広げられている。
- 191 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:38
- ここでまた話をU−19日本代表に戻そう。
U−20AFCサッカー選手権大会も決勝トーナメントに突入した。
予選を突破した4チームがトーナメント形式で優勝を目指す。
抽選会で対戦相手が決定した。
日本VS韓国
中国VSサウジアラビア
残ったのはやはりこのアジア4強。
そして日本はいきなり永遠のライバル韓国とぶつかることとなった。
関係者の評判も高いこの両チーム。
事実上の決勝戦といえる。
- 192 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:39
- 「のの、相変わらずくじ運ええな。」
「ホントですね。見事って感じですね。」
「あいぼん、里沙ちゃんそれは言わないでくらさい。」
辻がちょっとへこんでいる。
今大会唯一日本に戦える相手が韓国だ。
フィジカルに関しては正直日本より上だ。
パワープレーでこられるとやっかいな相手だ。
「ま、どっちにしろ倒さないといけない相手なんだから、
早い方がいいじゃん。」
高橋がふふふと笑う。
「ホントホント。元気も有り余ってるし、ちょうどいいよ。」
「そうです。監督がうまく選手交代してくれたのでみなに疲れはありません。
いい状態で韓国とやれます。完璧です。」
小川と紺野だ。
- 193 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:39
- へこむ辻をよそに、他の連中はそんなの関係ないといった感じだ。
その表情からはいい意味で余裕が感じられる。
ここまでの戦いを通じて自分たちなりに手応えを感じている。
A代表組もU−19代表組も全員が試合に出て活躍を見せている。
今のチーム状態ならばきっといい勝負が出来る。
みな、そう確信していたからこその表情だった。
『ええやんけ。みんなええ表情してる。』
マコトが選手たちの雰囲気に満足気だ。
誰も韓国という名前にびびっていない。
- 194 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:40
- 先のU−17世界選手権、日本は予選リーグで1勝も出来ずに敗退した。
一方韓国はベスト8まで上り詰めた。
親善試合でも何度か韓国と戦っているがこの世代ではまだ一度も勝ったことがない。
そんな相手を前にこの雰囲気。
A代表組はもちろん、U−19代表組も韓国と当たるのを心待ちしている感じだ。
『若い世代っていうのは自信が付くと凄い成長やな。』
若手の成長力に驚きを隠せないマコトであった。
また、これを感じる事が出来るのは指揮官冥利に尽きるというものだ。
- 195 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:40
- 一方、永遠のライバルである日本との対決とあって、
U−19韓国代表も燃えていた。
こちらも今まで全勝しているとあってその表情からは余裕が見て取れるし、
インタビューでも歯に絹を着せぬ発言を堂々と言い放っている。
この韓国代表の中で一番の注目選手が彼女だ。
背番号10を背負うエース、サ・エコ。
彼女は将来韓国を背負ってたつ選手と、
今韓国中の期待を一身に受けている。
- 196 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:41
- 試合前日。
公式会見にこのサ・エコが出席し、インタビューに答えた。
――――次の試合はライバル日本との一戦だね。勝算の方はある?
『もちろんだ。日本など我々の敵ではない。100%我々が勝つ。』
――――自信があるようだね。この試合の鍵は君と、日本の10番レイナ・タナカだと言う記者が多いんだけど、
それについてはどう思う?
『・・・・・そんなことを言う記者は今すぐ記者を辞めたほうがいい。見る目が全くない。
あんな球遊びの延長のようなプレイヤーと私を比べないで欲しい。
それに奴とはもうすでに勝負はついている。・・・・・・・不愉快だ。』
――――・・・・・・・(記者絶句)
以上がサ・エコの公式会見だった。
- 197 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:42
- 「何だよこいつ!!」
「言いたいこと言いやがって!!」
日本選手たちはこの日の夜に流れたニュースを見て怒り心頭といった感じだ。
「田中。気にせんでええぞ。」
マコトが田中を気遣う言葉をかける。
辻をはじめ、他の選手たちも同様に田中に言葉をかける。
「ええ。全然気にしませんよ。」
田中はみなにニッと笑う。
- 198 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:42
- 「・・・・・れいな、マジで切れてるよ。」
「あ、やっぱ絵里も分かった?」
2人でこそこそと話すのは亀井と道重。
一見冷静に見える田中だが、この2人の目はごまかせなかった
『・・・・・・明日、ピッチにはいつくばらしちゃるけん覚悟しいや。』
田中の目が妖しく光る。
その目にガタガタと震える亀井に道重。
明日の試合はえらいことになる。
間違いない。
- 199 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:43
- そしていよいよ韓国戦の日を迎えた。
ピッチの上では両チームの選手がウォームアップをしていた。
韓国の選手たちはリラックスしており、
日本の選手たちはみな気合いの入った表情だ。
この試合で負けることなど微塵も考えていない両チーム。
しかし、今から2時間も経てば確実に勝者と敗者に別れる。
それがサッカーだ。
- 200 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:44
- アップを終えた両チームの選手が引き上げてくる。
その際に偶然、田中とサ・エコが隣り合った。
「・・・・ふん。」
チラッと田中を一瞥し、スッと顔を背けるサ・エコ。
一方、全く相手を見ない田中。
が、2人の間には確実に青い炎が渦巻いている。
前日の会見でもあったが、この2人は初対決ではない。
U−17代表の時に何度も戦っている。
結果は韓国が全勝。
つまり全てサ・エコが田中をねじ伏せてきたということだ。
しかし今の田中はあの時とは別人だ。
果たしてサ・エコはそれに気付いているかどうか?
『・・・・・そんすかした顔、歪ませちゃるけんね。』
田中は昂る自分をなだめつつロッカールームへと戻っていった。
- 201 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:44
- 午後7時。
両チームの選手が入場した。
日本はいつもの通り青いユニフォーム。
韓国ももちろん赤いユニフォームだ。
両チームともワールドユース本大会を決めている。
が、お互いこの国だけには負けられない。
意地と意地とがぶつかり合う。
- 202 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:45
- 両チームが握手し、記念撮影も終えた。
そしてピッチに散らばる。
「円陣組むよ。」
キャプテンの辻がみなを集める。
「この試合、絶対に勝つよ。」
辻の言葉に頷く選手たち。
絶対にこの試合負けられない。
全敗記録を更新してなるものか。
「いくよ!!がんばっていきまー・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!!!」
- 203 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:45
- <日本代表スターティングイレブン>
GK 1 亀井絵里
DF 2 小川麻琴
3 紺野あさ美 道重
6 須藤茉麻
15 斉藤美海 加護 田中 高橋
MF 4 辻 希美
5 加護亜依 新垣 辻
7 新垣里沙 美海 小川
10 田中れいな 須藤 紺野
11 高橋 愛
FW 9 道重さゆみ 亀井
- 204 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:45
- 日本はいつも通りの4−2−3−1システム。
ここまで3試合をこなし、段々とこのシステムも板についてきた。
テクニックと組織力で韓国に挑む。
一方韓国は3−4−3システムでこの試合に臨む。
トップ下に入ったサ・エコを中心にそのフィジカルを存分に活かしたサッカーだ。
テクニックVSフィジカル
ある意味究極の対決。
- 205 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:46
- 「日本などに負けるわけがない。」
U−19韓国代表監督、イ・シダーがニヤッと笑う。
彼の創り上げたチームは世界へと飛び出していくチームだ。
日本などにかまってはいられない。
が、試合が始まってすぐにイ・シダーの表情が青ざめる。
それはピッチ上の韓国の選手も同様だった。
- 206 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:46
- 韓国はトップ下のサ・エコを中心にしたチーム。
攻撃は全てサ・エコを経由して行われる。
この試合もいつも通りサ・エコにボールを集めるU−19韓国代表。
だが、今日は全く機能しなかった。
「里沙ちゃん!!ここ止めるよ!!」
「オッケー!!!」
辻と新垣のボランチコンビがサ・エコに密着マークし、仕事をさせない。
- 207 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:47
- 「何故だ?!!」
驚きを隠せないサ・エコ。
それもそのはずだ。
何度も日本と戦ってきたが、いつも勝ってきた。
どれだけ密着マークに付かれようが、全て振り切ってきた。
辻と新垣、この2人も全然問題なかったはずだ。
だが、今日はどうしても振り切れない。
辻の激しいボディーコンタクト。
新垣の粘り強いディフェンスに何度もボールを奪われる。
韓国は全く攻撃が出来ない。
- 208 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:48
- それは守備陣も同じだった。
ボランチの選手が日本のトップ下、田中にピッタリと付く。
彼女も今までの試合、田中を完全に抑えこんできた。
だが、今日は田中の影を掴むことすら出来なかった。
その変幻自在のパスにドリブル、フリーランニングに惑わされっ放しだ。
「辻さん!!」
サ・エコからボールを奪った辻。
田中が手を挙げパスをもらいに下がる。
当然韓国ボランチもついてくる。
トップ下の位置にスペースが出来た。
- 209 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:48
- 「のの!!」
そこへ左サイドから中に入り込むのは加護。
加護が辻のパスをフリーで受けた。
「しまった!!」
慌てて韓国ボランチが田中から離れ、加護に向かう。
前を向いた加護に韓国ディフェンス陣は釘付けとなる。
彼女のドリブルは危険だ。
しかしドリブルさえ気を付けていればいい。
前に対戦した時はドリブルだけでパスなどなかったからだ。
- 210 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:49
- が、それは過去の話だ。
加護はドリブルをせず左サイドへパスを送った。
このパスに走りこんでいるのが田中れいな。
パスをもらいに下がった後素早く反転して、
空いた左サイドのスペースへ走りこんでいたのだ。
フリーでDFラインを抜け出し、ペナルティエリア内、左に侵入した田中。
日本攻撃陣、韓国DF陣が一斉にゴール前に殺到する。
「ここだ!!」
田中は左サイドから右足アウトサイドでクロスを送った。
「なっ?!!」
このクロスにタイミングを狂わされる韓国DF陣。
左足でなく右足のアウトサイドで?
このクロスに飛び込んだのはエースストライカー道重さゆみ。
右足で合わせてゴールネットを揺さぶった。
前半18分。
日本、あっさりと先制点。
- 211 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:50
- さらに日本は攻める。
日本はトップ下に田中が君臨しているが、基本はサイドからの攻撃だ。
ピッチを広く使い、ワイドに攻める。
中盤で新垣がサ・エコへのパスをスライディングでカットした。
このこぼれ球を拾った辻、一気に右サイドの奥深くへロングパス。
このパスに素早く反応したのは高橋愛。
辻の速いパスをワンタッチでコントロールすると、右サイドを駆け上がる。
韓国は3バックシステムだ。
だからピッチを広く使えば3人の距離が間延びし、中央に隙が出来る。
高橋がチェックに来た韓国右センターバックをキレのあるドリブルでかわす。
- 212 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:50
- 「高橋さん!!」
「愛ちゃん!!」
ゴール前には道重と加護が詰めてきている。
韓国センターバック2人も食らいつく。
高橋は中を良く見て鋭いクロスを送った。
高橋のクロスは道重と加護の頭を越え、ファーサイドに。
そこに走り込むのはやはりこの人、田中れいな。
道重と加護を囮にしてフリーで走りこんでいた。
このクロスを田中はももでワントラップ。
そして落ち際をダイレクトで狙う。
- 213 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 11:51
- 「撃たせない!!」
が、韓国ボランチも必死に戻ってシュートコースに身体を投げ出す。
田中はこれに気付いていた。
田中はシュートを撃たず、ポンとボールを浮かせて韓国ボランチをやり過ごす。
そしてもう一度落ち際をダイレクトで狙った。
強烈なシュートが逆サイドのサイドネットに突き刺さった。
前半26分。
日本追加点をあげる。
- 214 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:06
- ウオオオオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!
スタジアムが大きくどよめいた。
日本の背番号10、レイナ・タナカが醸し出す見事な“アート”に
みな驚きを隠せない。
「くそっ!!!何て失態だ!!!」
サ・エコが鬼のような表情で叫ぶ。
相手ではないはずの日本に2失点とは?
そこへ田中が近付き一言言った。
「まだじゃけん。まだまだあんたらをぶっ潰しちゃるけん。」
- 215 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:07
- この田中の言葉どおり日本はまだまだ攻撃の手を緩めない。
中盤で新垣、加護、田中、高橋と華麗にパスが回る。
高橋が辻にパスを送ると辻は一気に左サイドに振る。
そこには左サイドバックのみうなが抜群のスピードで上がっていた。
スピードで韓国DFを振り切ったみうな、中にクロス。
このクロスに道重がヘッドで合わせるがボールは惜しくもクロスバーを越えた。
奮闘しているのはもちろん攻撃陣だけではない。
紺野を中心としたディフェンス陣は完全に韓国の攻撃をシャットアウトしている。
サ・エコを中心とする韓国自慢の攻撃陣はシュートを撃つことすら出来ない。
- 216 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:09
- 「くそっ!!何故だ?!!」
サ・エコが信じられないといった表情だ。
何故突破できない?
が、日本から言わせてもらえば抑えこめるのは当然である。
ここ1年、自分たちはアジアカップやオリンピックで世界の超一流と戦ってきたのだ。
新垣や辻はサ・エコの先輩であり、韓国A代表のエースミ・サキーや
アルゼンチン代表マイ・セバスチャン・クラキ、ブラジル代表コヤナギーニョといった相手と戦ってきた。
紺野や小川もミユキトゥータやヒカルド、アユウド、ウチボマといった
ワールドクラスのFW陣を相手にしてきたのだ。
そんな相手と比べればU−19で止まっているサ・エコたちを抑え込むのは至極簡単なことだった。
- 217 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:10
- 韓国の左ウイングからボールをあっさりと奪った小川。
前線から下がってきた道重にくさびのパスを当てる。
道重はセンターバックを背負ったままこのパスを新垣に落とす。
新垣はダイレクトで道重が下がって出来たスペースへパスを出す。
ここに走りこんでいるのは当然“アーティスト”。
田中と道重の見事な連携。
田中が中央を爆走する。
韓国ボランチも必死に食らいつくが田中は自分の腕を巧みに使って近付けさせない。
高橋についていた韓国右センターバックがサイドハーフに高橋のマークを任せ、
田中のチェックに向かう。
これを見た田中、チェックを避けるため左へと切れ込む。
シュートコースを創って左足でゴールを狙う。
韓国右センターバックも足を伸ばしてシュートコースに入り込む。
- 218 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:10
- しかしこれは田中のフェイクだった。
左足で思い切り振りぬくと見せかけ、
軽くとらえて韓国右センターバックの股間を抜いた。
ボールはちょうどDFラインとGKの間に出た。
「ナイスパスれいな!!!」
このパスに後ろから遅れて上がってきた道重がフリーで飛び込んでいた。
道重が右足で強烈なシュートをゴールネットにぶち込んだ。
前半41分。
日本、駄目押しとなる3点目を挙げた。
- 219 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:11
- 「そ、そんな・・・・・・」
サ・エコがガックリと崩れ落ちる。
これは何かの間違いだ。
「まさか・・・・・・・」
ベンチでもイ・シダーが呆然としている。
今までの戦いはこちらが圧倒的に勝ってきた。
それが何故だ?
ここで前半終了の笛が鳴った。
- 220 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:12
- 韓国陣営はみな呆然としながら、
この現実を受け入れきれないままピッチを後にする。
日本陣営はこの結果に驕ることはない。
今まで全敗の屈辱を晴らすにはまだまだ足りないからだ。
このような心境の両チーム。
後半戦の結果は火を見るより明らかだった。
- 221 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:12
- 後半に入っても日本は攻撃の手を緩めない。
両サイドから鋭い攻撃を何度も仕掛けていく。
左サイドの加護にボールが渡った。
韓国左センターバック、左サイドハーフがすかさず加護にチェックに行く。
「加護ちゃん!!」
その時、素晴らしいスピードでみうなが加護を追い越していく。
「ヤバイ!!」
その上がりに気付いた韓国の2人はみうなに意識がいった。
- 222 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:13
- 「あっ?!!」
その瞬間を逃さず加護が2人の間をすり抜ける。
まさにミリ単位のボールコントロール。
抜け出した加護、ペナルティエリアに切れ込んでいく。
慌てて道重のマークに付いていた韓国DFが加護のチェックに行く。
韓国DFは加護の視線が自分でなく、その後ろに向いているのに気付いた。
『中への折り返しか?!!』
そのDFはそう判断した。
視界の端に、青いユニフォームが走り込んでいるのが見えたのもある。
だがこのDFをはじめ、韓国DF陣はみな大きな勘違いをしていた。
このドリブルの魔術師相手にドリブルを失念するとは言語道断だ。
加護は中に折り返すと見せてタテに鋭く抜け出した。
そして角度がやや悪いが、思い切り左足を振り抜いた。
加護のシュートはGKのニアサイドを破り、ゴールネットに突き刺さる。
日本、これで4点目。
- 223 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:13
- まだまだ日本は止まらない。
またも左サイドで加護がボールを持つ。
韓国DF陣はそれだけでパニックに陥る。
ドリブルなのか?
パスなのか?
完全に受身で足が止まる。
加護が選んだのはパスだった。
ライン際でなく、中央に向かって切れ込んできたみうなに絶妙のスルーパス。
これは受けたみうな、やや遠目ながらも思い切って左足を振り抜いた。
辻のような豪快なシュートが韓国ゴールマウスをとらえる。
が、このシュートは激しくゴールポストを叩いた。
- 224 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:14
- 惜しくも得点にならなかったが、加護とみうなの左サイドはかなりの脅威だ。
一方がテクニックの極み。
もう一方がフィジカルの極み。
この2人を同時に止める事は難しい。
もちろん右サイドも黙ってはいない。
高橋と小川が絶妙のコンビネーションで右サイドを切り崩す。
- 225 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:15
- 「マコ!!」
「愛ちゃん!!」
高橋がフォローに来た小川とのワンツーで右サイドを抜け出した。
慌てて韓国左センターバックがチェックに向かう。
これを見た高橋、クロスを上げずヒールキックで後ろに戻す。
その戻されたボールを小川がダイレクトで中にクロスを上げる。
「うおっ?!!」
韓国DF陣はもちろん、日本の攻撃陣も驚いてしまった。
それは小川のクロスの弾道にだ。
小川の右足から放たれたクロスは速いボール。
しかも途中で鋭くカーブがかかり、
ゴール前に飛び込む道重の頭にピタリとあった。
まるで照準が付いたような精度だった。
- 226 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:15
- このクロスを見たとあるスカウトが思わず呟く。
「・・・シバサキのレーザースコープクロスだ。」
世界一の精度を誇る右足、レアル・マドリードのルイビット・シバサキ。
彼女のクロスに小川のクロスは例えられた。
道重はこのクロスを韓国DF陣に囲まれながらもあっさりとヘディングで押し込んだ。
日本5点目。
道重はこれでこの試合ハットトリックを達成した。
- 227 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:15
- 「よしっ、行くで夏焼、熊井!!」
マコトはこの得点を見届けるとすかさず手持ちのカードを切る。
投入されたのはFW夏焼雅と熊井友理奈。
この2人も散々韓国に煮え湯を飲まされてきた。
その借りを今日、何十倍にして返す。
- 228 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:16
- 「くそっ!!!!」
サ・エコが中央をドリブルで上がる。
韓国にも意地がある。
絶対に得点してみせると、鬼のような形相で突き進む。
「辻さん!!里沙ちゃん!!あたしが止めるっ!!」
そこへ当然辻と新垣がチェックに向かおうとするが、
田中がそれを止めた。
サ・エコ。
こいつだけは自分がぶっ潰す。
「くっ!!!」
田中の激しいチャージによろけるサ・エコ。
しかし何とか持ち直し、田中との1対1を迎える。
- 229 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:16
- サ・エコがボールを動かし、身体を振る。
自慢のテクニックで田中をかわすつもりだ。
だが田中はこのフェイントに振られない。
しっかりと反応し、完全に進路をシャットアウトする。
「くそっ!!!」
業を煮やしたサ・エコ、強引に抜きにかかる。
テクニックがダメならばフィジカルで勝負だ。
だがこれをも田中は止める。
サ・エコの強引な突破にこちらも強引に身体をぶつける。
そして田中が押し切りボールを奪った。
完全に田中が勝利した瞬間だった。
- 230 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:17
- 「友理奈!!」
ボールを奪った田中、一気に左サイドへロングパス。
「凄いパス!!」
熊井は田中のパスに驚かされていた。
あれだけの距離のロングパスでありながら、
自分の走るスピード、タイミングにばっちり合わせている。
これを受けた熊井、中に低く速いクロスを送る。
このクロスに詰めたのは夏焼。
抜群の得点感覚を活かしてゴールに押し込んだ。
日本、圧倒的な大差の6点目。
- 231 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:17
- 「よしっ!!!」
思わずガッツポーズをする田中。
そしてピッチに這い蹲るサ・エコにチラッと目をやる。
『あんたのテクニックは柴田さんの足元にも及ばん。
あんたのフィジカルは吉澤さんとは比べもんにならん。』
自分の尊敬する2人に比べれば、サ・エコなど相手にならない。
そして何より。
- 232 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:19
-
『あたしはあんたと違って見えないもんが見える。』
- 233 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:19
- それが全てだった。
日本は6−0という歴史的なスコアで韓国を叩き潰した。
- 234 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:20
- 「これは・・・・何かの・・・・・間違いだ・・・・・」
サ・エコをはじめ、韓国陣営はみな憔悴しきっていた。
信じられない、信じたくない大敗。
日本にとっては大きな1勝。
この世代とはこの先何度も戦うことになる。
2008年北京オリンピックや、2010年南アフリカワールドカップなどで
激突するであろう。
その相手に対して、今まであった苦手意識を克服し、
逆に永遠のアドバンテージを獲得できた。
日本にとって大きな1勝だった。
- 235 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:21
- 2日後の決勝戦、対中国戦。
ベストメンバーで臨んだ日本。
攻守に渡り中国を圧倒。
4−0で勝利を収め、見事U−20AFCサッカー選手権大会を優勝で飾った。
今大会のMVPには圧倒的な存在感を放った田中れいなが選ばれた。
得点王は道重さゆみ。
4試合で9得点とその力を見せ付けた。
この世代のアジアでは日本が最強である事を世界に知らしめた大会であった。
- 236 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:21
- 「とりあえず今日でこのチームは一旦解散や。
みんなようやってくれた、ありがとう。」
成田空港に向かうチャーター機の中でマコトが選手たちに礼を言う。
「この後自分らのクラブJリーグがあると思うけど、
このU−19日本代表で学んだことを活かして頑張ってくれ。
で来年、いよいよオランダでワールドユースが行われる。本番はちょうど一年後だ。
みんな俺の代表選考はわかってるよな?調子のいい奴しか選ばんし、レギュラー安泰、確定なんて言葉は
俺のチームにはない。ちょっとでも気を抜いたら俺は選ばんで?」
この言葉に頷く選手たち。
そう、今いるメンバーはあくまで予選のメンバー。
本戦にはまったく違う選手たちで臨むかもしれないのだ。
今日、この瞬間から本戦に向けての日本代表サバイバルが始まるのだ。
- 237 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:23
- 「じゃあキャプテン、最後に一言よろしく。」
マコトが辻に振る。
「はい。・・・・・みんなお疲れ様れした。
のんはちゃんとみんなをまとめられたかどうかわかんないれすけど、
みんなが協力してくれたから、頑張ったから予選を突破できたのらと思います。
のんはこのチームが大好きれす。またみんなで戦いましょう!!」
「お疲れキャプテン!!!」
「ありがとうキャプテン!!!」
みんなから一斉に声が上がる。
精神的に未熟な選手が多く集まったこのチーム。
そんな中、辻がみんなの潤滑油となりチームをまとめていった。
この功績は誰もがわかっているし、マコトも辻の存在に感謝していた。
安泰と確定はないと言ったマコトだが、唯一辻だけは例外だ。
- 238 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:23
- こうしてマコト率いるU−19日本代表は順調に2004年を終えた。
しかし戦いはまだまだこれから。
2005年、さらには2006年へ向けて更なる飛躍を誓う。
- 239 名前:第7話 ライバル 投稿日:2004/06/24(木) 12:23
-
第7話 ライバル (終)
- 240 名前:ACM 投稿日:2004/06/24(木) 12:25
- 第7話 ライバル 終了いたしました。
EURO2004もえらいことになってきましたね。
スペインに続いてイタリアも予選落ちとは・・・・・・
でもギリシャもデンマークもスウェーデンもいいチームですよね。
決勝トーナメント出場に相応しいチームと思います。
僕の中では特にデンマーク。
ト○ソンがめちゃくちゃ好きなんで応援してます。
ちなみにU−19日本代表はデンマークのサッカーをイメージしてます。
両サイド、サイドバックも含めた攻撃力。
トップとトップ下のコンビネーション。
しっかり動き回る中盤。
固いセンターバックにGK。
ええチームです。
- 241 名前:ACM 投稿日:2004/06/24(木) 12:26
- 次回予告
第8話 迷走
チャンピオンズリーグ初戦。
アーセナルにアウェーで3−0で勝利し、まさに夢一夜を過ごしたインテル。
だが、その先は大きな闇に包まれていた。
果たしてインテルはこれからどこに行くのか?
インテルの迷走が始まる。
次回もよろしくお願いいたします。
- 242 名前:ACM 投稿日:2004/06/24(木) 12:27
- 今回もスレ隠しはなしです。
何かネタがないですかね?
やはりというか、最近は当初に比べて更新ペースが落ちてきてます。
でも絶対に放置はしませんので、どうかこのCALCIO×3に最後までお付き合い下さい。
ではまた次回更新まで失礼いたします。
- 243 名前:ピクシー 投稿日:2004/06/24(木) 12:55
- 更新お疲れ様です。
>推しメンのイメージがピクシーですか・・・・誰でしょうか?
>作者の中では、顔からするとよっすぃーなんですけどね。
顔というより雰囲気ですかねぇ。
ハロモニ等の番組で見せる表情、表現などですね。
個人的には、「アドリブがキレる」人だと思っているのですが・・・よっすぃ〜ではありません。
スレ隠しですかぁ・・・
ここいらで、登場人物の紹介を改めてやってみてはどうでしょう?
得意なプレーとか、プライベートでの趣味とか・・・まぁ、自分が知りたいだけなんですが(w
次回も楽しみに待ってます。
- 244 名前:みっくす 投稿日:2004/06/24(木) 21:18
- 更新おつかれさまです。
いやー、U19強いですね。
世界で揉まれてきただけありますね。
次回も楽しみにしてます。
>スレ隠し
登場人物の紹介っていい案ですね。
これだと選手いっぱいいますのでしばらくは大丈夫ではないかと。
- 245 名前:娘。よっすぃー好き 投稿日:2004/06/24(木) 21:25
- お久しぶりです。前回は読ませてもらいましたが、U−19の試合を全て読んでからつけようと思い、自粛させていただきました。
予選は圧倒的な強さでしたね。韓国戦も凄い試合でした。
読んでいくごとに、重さんは平○のイメージになっていってしまうのは、自分だけでしょうか?
スレ隠し・・・登場人物のキャッチフレーズなんかをまとめるのはどうでしょうか
- 246 名前:ACM 投稿日:2004/07/01(木) 01:54
- 243>ピクシー様
レスありがとうございます。ありゃ、違いましたか。
うーん誰でしょうか?作者にはちょっと思いつかないっす。
スレ隠しのネタのご提供、ありがとうございます。
早速ですが、今回から登場人物紹介をさせていただきます。
244>みっくす様
レスありがとうございます。
U−19、強すぎですね。ちょっとやりすぎたかもです。
まあ世界で揉まれてきたという事でご勘弁を。
スレ隠しですが、選手が多すぎて困るどころか連載終了までに終わらない勢いです。
245>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。お久しぶりでございます。
予選はこんな感じで終わりました。来年の本戦にご期待下さい。
重さんは確かにそんな感じですね。最前線のターゲットですからね。
スレ隠しですが、キャッチフレーズも同時に紹介させていただきます。
では本日の更新です。
- 247 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 01:56
- U−20AFCサッカー選手権大会が終わった。
マレーシアから帰国した選手たちはそれぞれの所属クラブに戻り、
残りのJリーグを戦う。
現在25節を終えて首位は横浜Fマリノス。
日本代表石川梨華、矢口真里、斉藤瞳を擁し、
U−19代表の村上愛もワールドユース予選で成長を見せた。
攻守に穴がなく、このまま逃げ切れる可能性が高い。
2位には昨シーズン王者の浦和レッズが上がってきた。
平家みちよ、ミサト・レボリュション、キャンディ・ヨシコーのタテのラインは健在。
サポーターの熱い声援を受け、逆転優勝を狙う。
3位にはコンサドーレ札幌。
ワールドユースで守備の要、紺野あさ美と斉藤美海が抜けていたが、
彼女たちも戻り、残り4節で逆転を狙う。
- 248 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 01:56
- 4位にはドリブラー加護亜依、キャプテン中澤裕子率いる京都パープルサンガ。
5位には“ピクシー”リーエ・ミヤザワビッチ、
PKストッパー亀井絵里の名古屋グランパスエイトがつけている。
以上の5チームにまだ優勝の可能性があるため、
今シーズンは例年になく大混戦だ。
果たして最後に笑うのはどのチームか?
- 249 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 01:57
- ここで話を主人公、吉澤ひとみに戻そう。
開幕2連勝、さらにはチャンピオンズリーグ初戦で強豪アーセナルに3−0で勝利し、
数字上ではこれ以上ないスタートを切ったインテル。
だがリーグ戦第3節で崩壊への兆候が見え出した。
- 250 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 01:57
- 第3節の相手はサンプドリア。
スクデットも獲得した事がある名門チームだが、
1998−1999シーズンでセリエBに降格。
今シーズンになってようやくセリエAに復帰したチームだ。
それだけにインテルはホームでもあるこの試合、
きっちり勝点3を取りたいところだ。
- 251 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 01:58
- だが、スターティングイレブン発表で、
いや、ベンチ入りメンバーの発表でひとみをはじめ、
インテルの選手はもちろんインテリスタも驚きを隠せなかった。
チームの要、ウルグアイの産んだ天才アルバロ・ヤイコの名前がなかったからだ。
これはインテル監督オシオル・マーナブのいわば制裁であった。
チャンピオンズリーグ初戦、アーセナル戦でヤイコは自分の意思でポジションを変えた。
これはマーナブの指示を守らなかったということだ。
その見せしめとしてマーナブはヤイコをベンチ入りのメンバーから外したのだ。
- 252 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 01:59
- このマーナブの采配に反発を覚えるひとみたち。
その影響か、サンプドリア戦はみな気合いが空回りしていた。
現在のチーム力からすると圧倒的に格下のサンプドリア相手に攻め倦む。
普段のインテルならばロングボールだけでも勝てる相手。
だが冷静さを失っているインテルではそうはいかなかった。
結局0−0の引き分け。
インテルは勝点を2点取り損ねた形となった。
この試合後、ひとみはインテルを離れ日本代表の試合に向かった。
(オマーン戦の結果は前話の通り。)
- 253 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:00
- 続く第4節対ウディネーゼ戦。
この試合もヤイコはベンチ入りせず。
さらにはマーナブの采配にみなを代表して異を唱えた
キャプテン、ウエハラ・タカコッティもスタメン落ち。
もうインテルの雰囲気は最悪であった。
試合どころではない。
みながマーナブの采配に怒り心頭で、
本来の相手ウディネーゼの事など頭から抜け落ちていた。
こんな状況で試合に勝てるわけがない。
この試合もウディネーゼ相手に得点を奪えず0−0で引き分けた。
逆に引き分けで終わった事を喜ぶべきであろう。
この頃からインテリスタたちは声を大にして叫ぶようになった。
『マーナブを解任しろ!!』と。
- 254 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:02
- ウディネーゼ戦の3日後。
チャンピオンズリーググループリーグ第2戦が行われた。
インテルはホームでウクライナの雄、ディナモ・キエフと対戦。
この試合、ついにマーナブが折れた。
ヤイコをスタメンに復帰させ、タカコッティも当然スタメンに名を連ねた。
だが、それでも一度狂った歯車を元に戻すには至らなかった。
序盤からディナモ・キエフのスピード溢れる攻撃に防戦一方のインテル。
DF陣が何とか踏ん張るものの、後半41分にとうとう失点を喫してしまう。
試合終了間際に痛恨の失点。
この試合もこれで終わりか?
誰もがそう思った。
- 255 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:03
- だが、インテルには彼女がいた。
日本のファンタジスタ吉澤ひとみが。
親友との約束。
チャンピオンズリーグ決勝戦で戦う。
先の日本代表オマーン戦で後藤と会い、
その気持ちは更に強くなった。
約束を実現する為にはこの試合で負けるわけにはいかない。
その思いが久々の“スーペルひとみ”を引き出した。
- 256 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:04
- 右サイドを駆け上がったタカコッティが中に鋭いクロスを送る。
このクロスにひとみが飛び込むが、ディナモ・キエフDFも必死にひとみのマークにつく。
ディナモ・キエフDFはひとみのユニフォームの襟首を掴みながら後ろに引き倒そうとする。
だがひとみの身体の軸はぶれなかった。
むしろ身体をこのDFに対し預けるような形にしながら反転し、
右足で合わせた。
アクロバティックなボレーは見事にゴールネットに吸い込まれていった。
後半44分。
インテル起死回生の同点ゴール。
- 257 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:04
- 同点ゴールに沸くスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ。
だが“スーペルひとみ”はこれだけで終わらなかった。
後2分ほど守りきればインテル相手に大金星だったディナモ・キエフ。
失意のうちにキックオフの笛を聞いた。
その瞬間一気に飛び込む“スーペルひとみ”。
驚くディナモ・キエフの選手に強烈なスライディングをお見舞いする。
こぼれたボールは左サイドのヤイコが拾った。
ひとみはすぐに起き上がり前線へ上がっていく。
その姿から見えるのは勝利への執念。
絶対にこの試合に勝つという執念だった。
- 258 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:05
- この執念にインテルの選手たちは引っ張られる。
ヤイコが左サイドをその個人技で上がっていく。
そして相手を引き付けて中央にパス。
このパスをリナメイダがダイレクトでDFラインの裏に出す。
これに抜け出したのは“スーペルひとみ”。
ディナモ・キエフのGKが飛び出してくる。
『ここだっ!!!』
これに気付いたひとみ、強引に右足アウトサイドで中に折り返した。
- 259 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:06
- 「来たっ?!!!」
このパスは戻るディナモ・キエフDF陣の密集地帯を抜け、
逆サイドのヨネクランへ。
その鋭さ、そして有り得ないコースを通したパスに
ヨネクランは思わずトリハダがたった。
「なっ?!!」
インテル監督マーナブも思わず目を見張る。
何故あのパスコースが見えるのだ?
他のインテル選手もその“悪魔のパス”に釘付けとなった。
ディナモ・キエフの選手は絶望の表情だ。
満員のインテリスタたちは驚愕の表情を浮かべている。
『これがヒトミ・ヨシザワの“ファンタジー”なのか?!!!』
- 260 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:06
- ヨネクランは懸命に左足を伸ばして悪魔のパスを押し込んだ。
後半ロスタイム。
見事な逆転ゴール。
そしてここで試合終了の笛がなった。
インテルは何とかディナモ・キエフを下し、
これでチャンピオンズリーグ2連勝を飾った。
- 261 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:07
- 「ヒトミ?!!」
「ヨシザワッ?!!!」
だがこの逆転ゴールの代償は大きかった。
見事な“悪魔のパス”を出したひとみが立ち上がれない。
右足首を抑えたまま倒れている。
あの場面、強引に右足アウトサイドでパスを出した。
そこへ勢い良く飛び込んできたGKが右足をかっさらったのだ。
嫌な角度で右足首が曲がったのをひとみ自身確認できた。
試合後すぐに病院で診察を受けた。
診断結果は右足首靭帯損傷。
全治まで2ヵ月はかかるだろうという怪我だった。
- 262 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:07
- これはインテルにとってもひとみにとっても痛かった。
それはこれから強豪との戦いが続くからだ。
次節はインテル最大のライバル、ACミランとのミラノダービー。
続く6節はイタリアの至宝、ヤマグチ・トモコオ率いるブレシア。
チャンピオンズリーグもあるし、その後の第7節はユッキエ率いるASローマ戦だ。
この大事な戦いにピッチに立つ事が出来ない。
こういった点でも今季のインテルは運に見放されていた。
- 263 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:07
- 「よっすぃーが怪我か・・・・・」
ユヴェントスのチャーター機。
機内で福田明日香がPCに目を通しながら呟く。
福田のユヴェントスも同日、チャンピオンズリーグを戦い、
ギリシャのオリンピアコスにアウェーながら2−1で勝利した。
その帰りの機内でインテルが勝ったものの、
ひとみが怪我をした事を福田は知った。
- 264 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:09
- 「ヨシザワが怪我したのか?怪我の程度は?」
隣に座るマツシマが福田のPCを覗き込む。
自分が後継者と認めた相手だけに気になったようだ。
「そこまではちょっと分からない。終了間際に2点目を入れて逆転したけど、
その時にGKと接触して足を痛めたみたい。」
「そうか。・・・・・アスカ、ちょっと試合内容を見せてくれる?」
マツシマはふと思うところがあって福田にその試合の詳細を見せてもらった。
「・・・・今季のインテルは何か変だな。
正直ディナモ・キエフにここまで苦戦するチームじゃない。
昨季までのあの力強さが無くなっている。ヨシザワが入ったのに。」
マツシマが疑問を口にした。
- 265 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:09
- 「それが原因だろう。」
「監督。」
福田とマツシマの会話にユーヴェ監督、オダギリ・ジョリッピが入ってきた。
ジョリッピは断言した。
「ヨシザワが入ったこと。それこそインテルがおかしくなった原因だ。」
「それってどういう事ですか?」
思わずハセキョンが尋ねる。
気が付けばみな、聞き耳を立てていた。
機内はいつの間にかサッカー講義が始まった。
- 266 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:11
- 「昨季のインテルが強かったのは、みながマーナブの指示通りに動いていたからだ。
堅守からの速攻。インテリスタやマスコミからは批判があったようだが、
これを完全に迷いなく遂行したからこそインテルはチャンピオンズリーグ決勝まで進めたのだ。
あれだけの能力を持った選手たちの集まりであるインテルが、
全員同じ考えのもとで動くとどれだけ恐ろしいかはお前たちなら分かるだろう?」
ジョリッピの言葉に深く頷くユヴェントスの選手たち。
サッカーにおいて意思統一というのは最重要事項である。
11人全員が同じ考え、コンセプトを持ったチームは強い。
しかし、一流クラブになればなるほどプライドの高い選手たちばかりが集まり、
意思統一は難しくなる。
だが、昨季のインテルはマーナブがその豪腕で強引に1つにまとめたのだ。
不満を持ちつつも、その時にいたメンバー(ゲームメーカー不在)では堅守速攻しかないとみな納得し、
インテルは1つになって戦った。
だからこそ昨季のインテルにはチームとしての力強さがあった。
- 267 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:12
- 「だが、今季からここに“ファンタジスタ”ヒトミ・ヨシザワが加わった。」
ジョリッピの言葉にみなゴクッと息を飲む。
「インテリスタや選手たちは大いに喜んだだろう。
課題であった中盤の選手、しかも“ファンタジスタ”が加わったのだから。
だが、私はこれは全く逆効果だったと思う。
なぜなら、“これで堅守速攻以外でもいけるんじゃないか?”と選手が思ってしまったからだ。
昨季の強みであった“堅守速攻”という意思統一がここで崩れ去ったのだ。
だから今季のインテルにはチームの一体感としての力強さがないのだ。」
「なるほど・・・・・・ヨシザワの存在がチームの方向性を迷わせているのか・・・・」
オランダ代表エドガー・マヤミッキだ。
「そうだ。皮肉な事にな。しかしそれもヨシザワに実力があってこそだ。
凡庸な選手ならば使わなければいい。選手たちも期待をしないだろう。
だが、あのフィジカルに得点能力、そしてファンタジスタとしての能力を見せ付けられては
どんな監督でも使わざるを得ないだろう。
それがあの4−4−2のマーナブであってもな。」
- 268 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:13
- 「・・・・でもシステムを変えればそれは解決するんじゃないですか?
今季のユーヴェがそうしたように。」
こう言うのは今季よりユーヴェに移籍してきたチェコ代表アキコ・ヤダベド。
彼女の加入によりユーヴェはシステムを4−3−1−2から4−2−2−2に変更した。
この変更により、中盤の4人がそれぞれ生きる道を作り出した。
「だろうな。だが、マーナブは絶対に4−4−2の堅守速攻を崩さないだろう。
いくらヨシザワがいようともな。
これはマーナブの能力が低いからではない。
それが彼のアイデンティティだからだ。
現に4−4−2、堅守速攻。
この2点でマーナブに勝る監督はこの世にはいない。」
- 269 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:13
- 機内が沈黙で包まれる。
サッカーとは何と奥深いのであろう。
いい選手が加入する事が必ずしもチームにプラスになるわけではないのだ。
「・・・・・ま、あたしたちとすればインテルが落ちてくれるのは大歓迎だね。」
沈黙を破ったのは福田明日香。
クールに言い放った。
が、あくまでそれは装ってだ。
みな分かっている。
内心はひとみの事が心配でたまらない事を。
- 270 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:14
- 「あーあ、あたしたちにももっと優しくしてくれたらいいのに。」
GKのフカキョンがニヤッと笑って言った。
それに釣られるように他の選手もみなニヤニヤ笑う。
普段は福田にきついゲキを飛ばされるだけに、ここぞとばかりにやり返す。
「・・・・・何?」
福田が顔を真っ赤にしてみなを睨む。
それを見て機内は爆笑に包まれた。
この雰囲気の通り、今季のユーヴェは1つにまとまっていた。
今季こそチャンピオンズリーグをとる。
その思いのもとに集まった各国のカンピオーネ(王者)たち。
ひとみたちインテルの前に立ちはだかるのは
やはりこの『イタリアの貴婦人』、ユヴェントスなのか?
- 271 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:15
- チャンピオンズリーグを戦ったインテルの選手たちは翌日、
軽い練習で身体をほぐしていた。
チャンピオンズリーグ2連勝。
最高の結果が出ている。
だが、チームの雰囲気はこれ以上なく悪い。
マーナブの采配に不満を募らせていたし、
なおかつひとみを怪我で欠いた。
インテルはチームにすらなっていなかった。
それはインテリスタたちもはっきりと感じられるほどだった。
果たしてこんな状態で4日後に控えた大一番、
ミラノダービーに臨めるのであろうか?
不安を抱え込んだまま試合当日を迎えた。
- 272 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:15
- 今回で通算258回目になるミラノダービー。
舞台となる戦場はスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ。
別名スタディオ・サンシーロ。
このスタジアムはインテルがホームの際にはスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ。
ACミランがホームの際にはスタディオ・サンシーロとその名を変える。
つまりそれほど両チームの間にライバル意識があるということだ。
例え調子が悪かろうがミラノダービーだけには負けるわけにはいかない。
意地と意地、誇りと誇りがぶつかり合う。
- 273 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:16
- 「いいか。このミラノダービー、絶対に負けるわけにはいかん。」
マーナブが静かに、そして熱く選手たちに語る。
ここまでインテルホームのミラノダービーは3連敗を喫している。
それを今シーズン、絶対に止めねばならない。
「今日のゲームプランは昨日言った通りだ。
守備を固めて速攻を狙う。昨シーズンの戦い方でいけ。」
マーナブが指示を送る。
この指示は誰が見ても妥当なものだ。
ひとみが欠場する事で今日のスタメンは昨シーズンと全く同じメンバー。
ならば昨シーズンの戦い方をとるのがベター。
『もう一度昨シーズンのような、
自分に反目しつつも一丸となったインテルで試合に臨める。』
マーナブはそう思い、この指示を送った。
- 274 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:16
- だが、事態はもう取り返しが付かなくなっていた。
この指示にあからさまに不満を見せるインテルイレブン。
彼女たちは夢を見てしまったのだ。
そしてもうその夢から離れられなくなってしまっていた。
“ファンタジスタ”が描く“ファンタジー”から。
- 275 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:17
- 選手たちのこの態度を見た瞬間、マーナブは悟った。
『・・・・・・このチームで俺の成すべき事は終わった。』
選手たちは名将オシオル・マーナブよりも
“ファンタジスタ”ヒトミ・ヨシザワを選んだのだ。
- 276 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:17
- 「さあみんな、気合い入れていきましょう!!」
マーナブは松葉杖をつきながらもこの試合をサポートすべく、
ロッカールームに顔を出したひとみをジッと見つめる。
こんな小娘に俺は負けたのか・・・・・・
悔しさがマーナブを支配する。
が、一方であの“ファンタジー”を見せ付けられては仕方がないかとも思う。
あれはまさに“幻想”だったのだから。
「やはり俺と“ファンタジスタ”は合わないようだな。」
ボソリと呟いてマーナブは一足早くベンチへと向かった。
- 277 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:18
- ロッカールームから入場行進のため整列する仲間たちを見つめるひとみ。
「怪我で出場できないのは残念だなヨシザワ。」
その時、不意に声をかけられた。
伝統の赤と黒のユニフォーム。
声をかけたのは背番号11を付けた選手。
「・・・・アユウド。」
ブラジル代表“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウドだった。
「せっかくこの試合でオリンピックの借りを返せると思ったんだけどな。」
「そんなの返してもらわなくていいよ。遠慮しとくよ。」
「お、言ってくれるね。でもそれはいらない心配だよ。
今日の試合、あたしたちが勝つから。」
アユウドがニッと笑う。
その表情は余裕だった。
- 278 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:19
- 「・・・・随分と余裕だね。あたしがいなくてもインテルは強いよ?」
アユウドの余裕の表情に思わずひとみも挑戦的な口調になる。
「それは分かってる。でもね、それ以上にあたしたちの方が強い。
彼女が入ったからね。」
アユウドはそう言ってクイッと右手親指である選手を指した。
「・・・・・マユさん。」
アユウドが指した選手は、
今季エンポリより移籍したイタリア代表ボランチ、マユコ・ハカセだった。
- 279 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:19
- 「お久しぶりですマユさん。」
「久しぶりだねヒトミ。今日は残念だね。
せっかくヒトミと戦えると思ってたのに。」
「はい。あたしも楽しみにしてたんですけど。」
同じ都市を本拠地に持つチームながらも、
2人が会うのは久しぶりであった。
ひとみがオリンピックを戦っている間に、ミランはマユコ・ハカセを獲得した。
マユコ自身は愛着のあるエンポリで現役生活を終えたかったのだが、
サッカーバブルの崩壊でエンポリの財政事情が思わしくなかったため、
高額オファーをくれたミランに移籍するしかなかったのだ。
- 280 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:19
- 「アユの言う通り悪いけど今日は勝たせてもらうね。」
「えっ?」
マユコの自信満々な言葉に驚くひとみ。
マユコは決して過大な事は言わない。
そのマユコが勝つと言い切った。
「じゃ、またね。」
そう言ってマユコにアユウドは他の選手たちが
入場行進に備えているところへ向かった。
ひとみはその後姿を見て何か胸騒ぎがした。
- 281 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:20
- ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
選手が入場すると、スタジアムは一気に爆発した。
スタンドはネッラ・ズーロ(インテル)と
ロッソ・ネロ(ミラン)で真っ二つに分かれていた。
「これが・・・・・ミラノダービー・・・・」
スタンドに座るひとみもこの雰囲気に圧倒される。
まさにこれは全てを賭けた戦争だ。
ピィー!!!!!
両チームのサポーター、インテリスタとミラニスタが殺気を含んだ声援を送る中、
主審の笛が鳴り、第258回ミラノダービーが開始された。
- 282 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:20
- <インテル>
20 32 GK 1 マキチェスコ・ミズノ
DF 2 チエン・アヤドバ
MF 4 17 ミホ・カンノバーロ
25 MF 23 ムロイ・シゲルッツィ
MF 4 ウエハラ・タカコッティ
DF 17 25 アイウチ・リナメイダ
23 2 FW 20 アルバロ・ヤイコ
32 ヨネクラン・リョウコ
1
- 283 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:20
- <ACミラン>
7 9 GK 12 ウーア
DF 2 ユーミン
11 10 3 タマオ・ナカムラーニ
13 マキコサンドロ・エスミ
20 21 MF 10 ヒロスエ・リョウ・コスタ
DF 2 11 ハマ・サーキ・アユウド
3 13 20 サトレンス・アイコルフ
21 マユコ・ハカセ
12 FW 7 イイジマー・ナオチェンコ
9 スズカゼ・マヨザーギ
- 284 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:21
- ミランのキックオフで始まったこのミラノダービー。
序盤から両チームともエンジン全開だ。
ミランのボランチ、マユコ・ハカセがボールを持ってパスの出し所を探す。
そこへ猛然とチェックに行くヨネクラン。
さすがはミラノダービーなだけあって普段は守備を余りしないヨネクランも
積極的に前線からプレスをかける。
マユコは無理をせず後ろのナカムラーニに出した。
ナカムラーニは一気に最前線へロングパス。
これを最前線で待ち受けるのはスズカゼ・マヨザーギ。
競り合うのはミホ・カンノバーロ。
空中で激しく交錯した。
- 285 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:22
- ピィー!!
主審が笛を吹く。
今のプレーはマヨザーギの反則をとった。
一斉にブーイングが鳴り響くスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ。
のっけからイタリア代表同士の激しいバトルだ。
このファウルで得たFK、カンノバーロはすぐに右サイドのタカコッティにボールを渡す。
そこへすかさずチェックに行くのは、
確かなテクニックとダイナミックなプレーが持ち味のオランダ代表サトレンス・アイコルフ。
左サイドバックとともに当たりに来る。
タカコッティはじりじりと距離を詰め、
一度ボールをまたいですぐさまトップスピードに入った。
サイドバックはかわされたが、アイコルフがこれに食らいつく。
が、タカコッティは中央にパス。
これをインテルセンターハーフがすかさずリターン。
きれいなワンツーにより右サイドをタカコッティが抜け出した。
- 286 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:24
- ウオオオオオオ!!!
ジュゼッペ・メアッツァが揺れる。
インテルのチャンスだ。
タカコッティは中を見る。
ペナルティエリアにはヨネクランしかいない。
そのヨネクランにはナカムラーニとエスミがしっかりマークについている。
しかしタカコッティは構わず中にクロスを入れた。
ゴール前でヨネクランとエスミ、ナカムラーニが激しく競り合う。
その中から頭1つ抜け出たのはヨネクラン。
だがボールは大きくゴールを超えていった。
競り合ったエスミがホッと胸を撫で下ろす。
2対1の状況でありながら競り勝つヨネクランの強さは驚異的だった。
- 287 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:24
- 開始早々チャンスを創りだしたインテルだが、
時間が経つごとにミランが押し気味の展開となる。
トップに張るヨネクランだが、さすがのヨネクランも
エスミとナカムラーニの2人にピッタリとマークされていてはきつい。
ヤイコには右サイドバックのユーミンがきっちりとマークについている。
ヤイコとしてはフィジカルでがんがん当たってくれる相手の方がやり易い。
自慢のテクニックでかわせるからだ。
だが、ユーミンのような老獪なディフェンスを得意とするタイプは苦手だった。
インテル自慢の2トップは完全に抑えられていた。
- 288 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:25
- リナメイダが中盤から強引に前線にパスを通そうとするが、
これはマユコが鋭い出足でカット。
マユコがすかさずヒロスエへ預ける。
ヒロスエ・リョウ・コスタ。
世界の司令塔には様々な超一流選手がいる。
ユヴェントス、ナナコーヌ・マツシマ。
ACミラン、ハマ・サーキ・アユウド。
ASローマ、ナカマチェスコ・ユッキエ。
バレンシア、チヒロ・オニツカール。
ラコルーニャ、ミ・サキー。
ビジャレアル、スズキ・“アミーゴ”・リケルメ
アヤックス、クニナカ・チュラ・サン・エリート。
バイエルン・ミュンヘン、イケワキ・チイヅルー。
ドルトムント、ミズノ・ミキツキー。
そしてインテル、吉澤ひとみ。
彼女たちは世界に名だたる司令塔だが、
彼女たちに「一番パスが上手いのは誰か?」と聞くと、
ほぼ間違いなく同じ名前があがるであろう。
ポルトガル代表MF、ヒロスエ・リョウ・コスタの名前が。
- 289 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:26
- 彼女は間違いなく世界一のパッサーである。
もちろんパスだけでなく世界有数のドリブル、優れた状況判断。
そして見えないものが見えるファンタジスタ。
その実力を疑う者は誰もいないが、世間の評価は低い。
それはなぜか?
タイトルが少ないからである。
代表でもクラブチームでも栄冠を手にした事は数えるほどしかない。
それがヒロスエの名を落としている。
が、ピッチではそんな事は関係ない。
対戦する誰もがヒロスエのパスに溜息をついて見とれ、
そしてどん底に叩きつけられるのである。
まさに天使と悪魔が同居したパスだ。
- 290 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:27
- マユコからパスを受けたヒロスエ、前を確認する間もなく一気に前線へロングパス。
そのパスに絶妙のタイミングで飛び出したのがスズカゼ・マヨザーギ。
DFラインから抜け出し、GKミズノとの1対1。
が、シュートを撃つ瞬間快足を飛ばして戻ってきたアヤドバがスライディングでブロック。
そのこぼれ球をシゲルッツィが大きくタッチラインに蹴りだした。
『何やあのパス。いつマヨザーギを確認してん?』
普段は陽気で、まるで大阪のおばちゃんのような雰囲気のアヤドバ。
そのアヤドバの表情が青ざめ、背中に冷たい汗が流れる。
ヒロスエは一度も前を、マヨザーギの位置を確認していなかった。
それなのにあの完璧なパス。
ヒロスエしか出せないパスであった。
- 291 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:27
- 「・・・・な、何いまの?」
今のヒロスエのパスにひとみの腕にトリハダがたつ。
自分も今や世界でも有数のトップ下とうたわれるようになったが、
ヒロスエと比べると雲泥の差がある。
確かにフィニッシュへとつながるパスはひとみも負けてはいないが、
ゲームメイクのパスは圧倒的にヒロスエだ。
「・・・・・くそっ、こんな時にピッチに立てないなんて。」
目の前であんなパスを出されてはたまらない。
何で自分はこんなところにいるんだ?
怪我した右足を恨みながら、
ひとみは焦る気持ちを必死に抑えていた。
- 292 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:28
- 試合の方は押すミラン、受けるインテル。
ミランが中盤のテクニシャンたちがチャンスを創り、
ゴール前の危険な2人が襲い掛かる。
インテルは世界レベルのDF3人とGK王国イタリアの代表GKがゴールに鍵をかける。
その熱い戦いにスタジアムも熱狂がうずまいている。
ミランは攻める。
マユコ、ヒロスエ、アユウド、ナオチェンコとつないで最後はマヨザーギ。
マヨザーギの放ったシュートはシゲルッツィがブロックし、
ボールはゴールラインを割った。
ミランの素早いパスワークにインテルディフェンス陣は完全に押し込まれている。
「ここしっかり!!集中するぞ!!」
キャプテンのタカコッティが声を張り上げる。
ミランは現在3勝1分で首位の勢いのあるチーム。
それだけに先制点を取られてはならない。
- 293 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:28
- ボランチの位置から上がってきたアイコルフが思い切ってミドルを放つ。
これはシゲルッツィが身体を張ってブロックする。
このこぼれ球を拾ったのはナオチェンコ。
ナオチェンコはそのまま単独で中に切れ込む。
「そうはさせへんで!!」
すかさずアヤドバがチェックに向かう。
『こいつが“ウクライナの矢”ことイイジマー・ナオチェンコか。
・・・・どれくらいか見せてもらうで。』
アヤドバが腰を落とし、ナオチェンコの突破に備える。
この体勢のアヤドバを振り切った者など今まで誰もいなかった。
あの神速シマーブクロ・ヒロコをして30m走ならば負けると言わしめた脅威の加速力。
その加速力でウクライナの矢に挑む。
- 294 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:29
- 「来た!!」
ナオチェンコがゆったりとしたドリブルから急速にスピードを上げた。
もちろんアヤトバも食らいつく。
「?!!」
が、急速にナオチェンコがストップした。
その急激なストップにアヤトバの身体が流れる。
すかさず身体が流れたのと逆サイドからナオチェンコが抜け出した。
そしてエリアに入った瞬間左足を振り抜いた。
利き足とは逆の左足のシュートながら威力、コース共に
文句なしのシュートがインテルゴールに突き刺さった。
- 295 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:29
- 「そんな?!」
思わずスタンドでひとみが叫ぶ。
腰を落として構えたアヤドバをぶち抜き、
なおかつ左足であのミズノが止められないほどの強烈なシュート。
まさに化け物だ。
「くそっ!!!」
この失点に顔を歪ませるのはアヤドバ。
平面での勝負ならば絶対に負けないと自信を持っていた。
それがいとも簡単にぶち抜かれてしまった。
このショックは大きい。
- 296 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:31
- ミランはさらに攻め込む。
ここまでボランチのマユコが見事にゲームメークし、パスを振り分けている。
彼女の存在はミランの中盤を更なる高みへと昇華させた。
中盤の4人、アユウド、ヒロスエ、アイコルフ、そしてマユコ。
誰もがゲームを創れ、誰もが一撃必殺のパスも出せる。
そしてこのパスを受けるのは世界有数のストライカー2人。
“ミスオフサイド”スズカゼ・マヨザーギ。
“ウクライナの矢”イイジマー・ナオチェンコ。
攻撃に関してはまさにイタリアbPのチームとなった。
その攻撃陣が一斉に浮き足立つインテルを攻める。
- 297 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:32
- マユコ、ヒロスエ、アイコルフと中盤で華麗にボールがまわる。
そしてアユウドにボールが渡った。
「ここだ!!」
アユウドはリナメイダのチェックをかわした瞬間、
悪魔の左足を振り抜いた。
必殺の悪魔のパスだ。
アユウドの左足から放たれた悪魔のパスは
インテルの固いディフェンスをあっさりと崩壊させた。
このパスに絶妙の飛び出しで抜け出したのは
得点への嗅覚という点では世界一のスズカゼ・マヨザーギ。
GKミズノとの1対1を冷静に決めた。
- 298 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:32
- 前半だけで2失点。
圧倒的なミランの力にインテル選手たちは呆然となる。
スタンドではミラニスタたちが狂喜乱舞し、
インテリスタたちは沈黙する。
だが、悪夢はこれで終わらなかった。
- 299 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:32
- カウンター戦術のインテル。
だがそのカウンターもみなが意思統一されていないため
昨年までの鋭さがない。
ヨネクランを狙ったロングパスはあっさりとエスミに跳ね返された。
こぼれ球を拾ったアイコルフ、すかさずヒロスエに送る。
「ヒロスエ!!」
左サイドでナオチェンコがパスを呼ぶ。
ヒロスエはすかさずパスを送る。
が、このパスはナオチェンコの頭を越えていく。
- 300 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:33
- 『さすがヒロスエ。良く見てる。』
その後ろにはアユウドが走りこんでいた。
ヒロスエはナオチェンコの後ろまでしっかり見ていたのだ。
なおかつアユウドの走るスピードを落とさせない絶妙のパス。
これもヒロスエ以外に出せないパスであろう。
パスを受けたアユウド、左サイドを深くえぐる。
そこへチェックに向かうのは右サイドバック、イタリア代表ミホ・カンノバーロ。
アユウドはカンノバーロが来る前にゴール前に思い切り蹴り込んだ。
シュートとも思えるような鋭いボールがゴール前に入る。
このボールに足を目一杯伸ばしてとらえたのは
すぐにゴール前に飛び込んでいたナオチェンコ。
ナオチェンコのボレーが決まり、ミランは3点目を挙げた。
そしてここで前半終了の笛が鳴った。
- 301 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:34
- ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!
引き上げてくるインテルの選手たちに一斉にブーイングを降り注ぐインテリスタたち。
ミラノダービーでこの不甲斐ない戦いは何だ?!!
インテリスタたちの怒りはいまや頂点に達していた。
選手たちがロッカールームに戻ると、
誰彼となく味方を批判し始めた。
攻撃陣は「3点もとられやがって」と守備陣をなじり、
守備陣は「お前らがシュートすら撃てないからだろう」と攻撃陣をなじる。
まさにインテルは大崩壊だった。
- 302 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:34
- 「馬鹿野郎が。」
と、この声に選手たちの言葉が止まる。
マーナブが鬼のような形相で選手たちを睨んでいた。
その表情に思わず身を硬くする選手たち。
「責任の押し付けは後からでいい。
今はとにかく後半戦どう戦うか考えろ。」
そう言ってマーナブはロッカールームにあるホワイトボードを取り出した。
「いいか。ミランの攻撃は中盤だ。中盤の4人が全ての始まりだ。
ミランは4バックながらもサイドバックの上がりはほとんどない。
ユーミンもこの試合はヤイコのマークについているから上がってこない。
だから中盤を潰せばこちらにチャンスが来る。」
マーナブの言葉に頷くインテル選手たち。
- 303 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:35
- 「こっちも中盤は4人だ。フラットの概念は捨てて、それぞれがマンマークにつけ。
アユウド、ヒロスエはセンターハーフ2人で。
マユコ、アイコルフは両サイドハーフがマンマークについて抑えろ。
ヤイコはそのまま前線で、左サイドに張っていろ。
それでユーミンを縛り付ける事が出来る。」
「DF陣はナオチェンコ、マヨザーギにそれぞれ2人ずつマークにつけ。
さっきも言ったように両サイドバックの上がりがないミランだ。
中央突破しかない。だから中を固めれば抑えられる。
そしてヨネクラン。センターバックの2人は強力だが、
ナカムラーニの方がややフィジカルが弱い。
そこを攻めて1点とってこい。」
マーナブがホワイトボードを使い、的確な指示を送る。
その指示の的確さにさすがは名将だと選手たちは再認識させられた。
「後半、インテルの意地を見せて来い。」
「はいっ!!!」
選手たちは気合いを入れなおす。
マーナブの豪腕により、インテルはギュッと1つにまとめられた。
- 304 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:36
- 後半は前半とは違った展開となった。
インテルの守備陣がきっちりと機能し、
ミランの攻撃を抑えこんでいく。
「・・・・何か今までと雰囲気が違う。」
スタンドで見つめるひとみの目には、
インテルが変わったように映っていた。
昨シーズンのように力強いインテル。
エンポリで戦った時に感じた強いインテルだ。
「・・・・・・・・・・・」
ひとみは内心複雑だった。
自分のチームが蘇ったのは嬉しいが、
それは自分がいないところでのこと。
この外から見ている今のチームがベストなのではないか?
自分がいないほうがチームは機能するのではないか?
そう思えてならない。
- 305 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:37
- 試合は意地を見せたインテルが
堅い守りからの速攻でヨネクランがゴールをこじ開け、
3−1で終了した。
第258回ミラノダービーはACミランの勝利で終わった。
- 306 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:37
- 試合には負けたものの、後半の戦いは明らかにインテルペースだった。
ボールはミランに持たせているものの、局面ではきっちりと守り、
鋭いカウンターを仕掛けていた。
インテリスタたちも後半戦の戦いにはまずまず満足していた。
選手たちもみな手応えを感じていた。
堅守速攻。
これがマーナブの戦い方であり、
マーナブが監督である限りこの指示に従うべきだと。
それがチームを強くする。
選手たちもこの考えに再度傾きつつあった。
- 307 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:38
- だが、ミラノダービーはこれで終わりではなかった。
試合終了後の記者会見でマーナブはこう言った。
「本日をもって私はインテル監督を辞任する。
理由は、このチームでやるべき事がなくなったからだ。」
- 308 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:38
- この発言に衝撃を受けたのは他ならぬインテルイレブン。
マーナブにもう一度付いていこうとした矢先に辞任発言。
これから自分たちは、インテルはどこへ向かうのか?
インテルは出口のない迷路を迷走し始めた。
- 309 名前:第8話 迷走 投稿日:2004/07/01(木) 02:38
-
第8話 迷走 (終)
- 310 名前:ACM 投稿日:2004/07/01(木) 02:39
- 第8話 迷走 終了いたしました。
EURO、デンマークが負けて残念です。
チェコはやっぱ強いっす。
準決勝はポルトガル、オランダ、ギリシャ、チェコですか。
予想外の結果にびっくりしてます。
果たしてどこが優勝するのでしょうね。
- 311 名前:ACM 投稿日:2004/07/01(木) 02:40
- 次回予告
第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節
インテルは監督辞任に揺れていた。
が、戦いは待ってはくれない。その後も激戦は続く。
そして迎えたセリエA第11節。
奇しくもこの日はリーガ、ブンデスも第11節を迎えていた。
この日のカードはセリエ、ユヴェントスVSインテル。
リーガ、セビージャVSレアル・マドリード。
ブンデス、シャルケ04VSバイエルン・ミュンヘン。
王者に挑む日本人選手に、挑戦を受ける日本人選手。
欧州を日本人が制覇する。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。
- 312 名前:ACM 投稿日:2004/07/01(木) 02:42
- ではスレ隠しです。
今回は主役クラスの3人です。
吉澤ひとみ
“ファンタジスタ”“創造と破壊の悪魔”“スーペルひとみ”
得意プレー:悪魔のパス アクロバティックプレー
ポジション:OMF CF SF(セカンドトップ) CB
所属クラブ:浦和レッズ → エンポリ(イタリア) → インテル(イタリア)
・プレーの特徴
フィジカルがとんでもなく強いため、少々の当たりでは倒れない。
その抜群のフィジカルから繰り出されるシュート、パスは恐るべき破壊力を持つ。
テクニックはある方ではないが、気分が乗っていると難しいプレーも難なく決めてしまう。
また、バレーボール経験者のためか、空中感覚に優れており、
しばしばアクロバティックなプレーで観客を魅了する。
課題は精神面。気分が乗っている時と乗っていない時は雲泥の差がある。
乗っている時は“スーペルひとみ”になり、手が付けられない。
またカッとなりやすい性格でそこを突かれると案外脆い。
- 313 名前:ACM 投稿日:2004/07/01(木) 02:44
- ・作者のイメージ
ジダン+トッティです。
本編で吉澤さんがDFからMFに転向したのもジダンを参考にしてます。
ジダンもユース時代はDFだったそうです。
今となってはユース時代にコンバートをした関係者に感謝ですね。
・本編での存在
第一部、二部、三部と進むに従って段々と影が薄くなったと噂される本編の主人公。
一応彼女を中心に話は進めているつもりなんですけど・・・・・・・
本人もどうやらそのあたりを気にしているみたいですね。
なおかつ読者様が自分よりもライバルの柴田の方を応援しているのでへこんでます。
また作者にも不満を持っています。
それはキャッチフレーズというか、あだ名。
“ファンタジスタ”とよく言われますが、柴田も田中もそうですし、
ユッキエやらマツシマとファンタジスタはかなりの数がいます。
別に吉澤さんだけではありません。
“悪魔”もアユウドがいます。
“スーペルひとみ”も“スーペルユッキエ”が。
自分だけのキャッチフレーズがないのでかなり機嫌が悪いとのことです。
・・・・皆様、どうかひー様に愛の手を。
- 314 名前:ACM 投稿日:2004/07/01(木) 02:44
- 柴田あゆみ
“マエストロ”“創造と再生の天使”
得意プレー:天使のパス ラルクアンシエル(ループシュート)
ポジション:OMF DMF
所属クラブ:名古屋グランパスエイト → ペルージャ(イタリア)
・プレーの特徴
テクニックに優れ、類まれなゲームメイクでチームを指揮する。
そのパスは相手の事を第一に考えたパスで、
どんな選手からも好かれるタイプの選手である。
FKなどのセットプレーもうまく、華があり、まさに“10番”の選手だ。
課題はフィジカル。世界で戦うにはまだフィジカルが弱い。
また、真面目な性格なので、一度落ち込むと中々上昇できない。
- 315 名前:ACM 投稿日:2004/07/01(木) 02:45
- ・作者のイメージ
中村俊輔+名波浩ってとこですかね。
テクニックのある、パスセンスのあるレフティ。
なおかつどこかひ弱さを感じさせるところですね。
・本編での存在
主人公吉澤ひとみのライバル。
本来ならば主人公の引き立て役になるはずなんですけど、
読者様の支持もあり今や主人公を食う勢いです。
作者としても嬉しい限りで、書くのが楽しい人物です。
- 316 名前:ACM 投稿日:2004/07/01(木) 02:45
- 田中れいな
“トリックスター”“アーティスト”
得意プレー:トリックプレー 前線への飛び出し
ポジション:OMF SF
所属クラブ:清水エスパルス
・プレーの特徴
やはりそのテクニックをいかしたトリッキーなプレー。
ただ、闇雲にトリッキーなプレーをするのではなく、
状況を考えてトリックを出せる選手。
また前線への飛び出しに非凡なものを持っており、
1トップの下に入るには最適のプレイヤー。
課題は全ての面。
まだまだひとみと柴田には全てにおいて敵わないが、
これからの伸びしろが一番ある選手。
- 317 名前:ACM 投稿日:2004/07/01(木) 02:47
- ・作者のイメージ
松井大輔ですね。
トリッキーなプレーなんかはまさにそのままです。
あとちょっとロナウジーニョも入ってます。
更に言えばオコチャ。とにかくトリッキーなプレイヤーです。
・本編での存在
今や吉澤ひとみ、柴田あゆみに続く第3の主人公に。
この2人の争いに加わりつつも、その後を引き継ぐ人物になっています。
思わぬ出世に作者自身が一番驚いています。
今後もいろいろと活躍してくれそうです。
以上で今回のスレ隠しを終わります。
というか長すぎましたね。
ではまた次回まで失礼いたします。
- 318 名前:ピクシー 投稿日:2004/07/01(木) 03:45
- 更新お疲れ様です♪
おぉ、意見が採用されている・・・こちらの方も楽しみに見ております。
名の由来・・・「アドリブがキレる(=頭の回転が速い、何をしだすかわからない)」「(時折)計算してカメラに写っていそう」なメンバーですね。
ピクシーは、「(華麗かつトリッキーなプレーは)ゴールへ繋がる最善の選択として実行しなければならない」としています。
「計算して、アドリブをかます」という行為(まぁ、自分がそう思っているだけですが)をしている彼女が「ファンタジスタ(=ピクシー)」に見えるんです。
まぁ、この話の中でも、ある意味その通りなプレーをしているんですけど・・・
早く人物紹介で紹介される事を祈ってます。ちなみにU−19です。(これでわかるかな?)
次回も楽しみに待っております。
- 319 名前:娘。よっすぃー好き 投稿日:2004/07/01(木) 07:40
- 迷走しはじめましたね。この後インテルはどうなって行くのでしょうか。
たた、自ら辞めるとはおもってもいませんでした。
>ひー様に愛の手を
いいキャッチフレーズ、考えてみますね
次回の更新楽しみにしています。
- 320 名前:みっくす 投稿日:2004/07/01(木) 19:54
- さて、よっしーどうなちゃうのですかね。
なんか、次回は、すごそうな試合だらけですね。
楽しみにしてます。
- 321 名前:ACM 投稿日:2004/07/08(木) 09:41
- 318>ピクシー様
レスありがとうございます。
うーん、これでもまだ分からない作者って・・・・・
恐らく“ドリブラー”かなあって思うんですけど、どうでしょうか?
319>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
ホントは解任される予定だったんですけど、
書いてるうちに中々ええキャラやんという事で自ら辞任してもらいました。
320>みっくす様
レスありがとうございます。
そうですね、主人公、どこに行くんでしょうか?
ただでさえ影が薄いというのに・・・・・・・
皆様、いつもレスありがとうございます。
凄く励みになります。
では本日の更新です。
ちょっと長いですがご容赦ください。
- 322 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:43
- 『オシオル・マーナブ辞任!!』
セリエA第5節、ミラノダービーが終わった翌日。
各紙の一面をマーナブ辞任の文字が飾った。
これには選手たちはもちろん、インテリスタからも驚きの声が上がった。
もちろんインテル会長イブ・マサッティも説得を試みたが、
マーナブの意志は固かった。
リーグ戦序盤にして監督辞任。
インテルの2004−2005シーズンは出航して
すぐに船長を欠くこととなった。
- 323 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:43
- ミラノ戦の翌日。
練習も今日は休みのため、選手たちは自宅で疲れを取ることに専念していた。
ひとみは怪我で試合に出ていないためクラブハウスを訪れ、
身体がなまらないように軽く筋トレをしていた。
一通りトレーニングを終え、ひとみはふうっと一息つく。
「・・・・・・これからインテルはどうなるんだろう。」
思わず呟いてしまう。
昨シーズンチャンピオンズリーグ準優勝のインテル。
ここならば後藤との約束を果たす事が出来る。
今シーズン、新天地で期待を大きく膨らませていたひとみ。
果たしてこのままインテルは終わってしまうのだろうか?
「・・・・とにかくあたしは怪我を治さないと。」
ひとみは自分の右足を見つめる。
まずは怪我を治し、試合に出ることだ。
ひとみはパシッと頬を叩いて気合いを入れなおし、
またトレーニングに励み始めた。
- 324 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:44
- そんなひとみの思いとは裏腹に、インテルは後任監督が見つからなかった。
この時期、当然有力監督は他のクラブの指揮をとっており、
また、今シーズンのインテルの迷走ぶりからみな二の足を踏んでいるのも事実だ。
インテル会長イブ・マサッティは仕方なく
トップコーチを暫定監督にすると発表した。
その間に後任監督を探し続ける。
この事からもインテルは迷走し続けていた。
- 325 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:45
- それが結果に現れた。
続く第6節、これまた格下のブレシアに2−2で引き分けた。
もちろんブレシアには“イタリアの至宝”ヤマグチ・トモコオがいるが、
それを差し引いてもインテルの出来は悪すぎた。
新監督は今までマーナブの元でやっていたが、
いつかは自分がという野望を持っていた人物。
その意欲は買うのだが、
如何せんインテルというビッグクラブを率いるには経験が浅すぎた。
あの名将オシオル・マーナブの豪腕で何とか1つにまとめられたインテル。
この暫定監督では荷が重すぎたのだ。
チームはまとまりを欠き、2点先制したものの、
終盤にヤマグチに2発食らって追いつかれ、引き分けた。
- 326 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:46
- 嫌なムードのまま臨んだ3日後のチャンピオンズリーグ。
インテルはアウェーでロコモティフ・モスクワと対戦したが3−0で完敗を喫する。
苦難はまだまだ続く。
続いて第7節はホームで強豪ローマとの対戦。
本来ならばここで昨シーズンイタリア中を熱狂させた“マツシマ後継者争い”
が行われるはずだったが、ひとみが怪我、ユッキエが累積警告で出場停止。
2人揃ってスタンド観戦だった。
試合は両チーム見せ場がなく、0−0で引き分けた。
これでインテルはリーグ戦第2節以来、5節連続で勝ち星を得られていない。
この結果にインテルの選手たちはみな意気消沈していた。
インテリスタたちも今季はもうすでに終わったと諦める現状だった。
- 327 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:47
- 続いて第8節、アウェーで対キエーヴォ戦。
この状況に奮起したキャプテンのタカコッティのパスから
ヨネクランとヤイコがゴールを上げ、久々にインテルは快勝した。
この勝利に思わずひとみもスタンドでガッツポーズ。
『早く復帰して、インテルを頼むぞ!』
というインテリスタの声に笑顔で手を振るほど上機嫌であった。
久々の勝利で上昇気流に乗りかけたが、
3日後のチャンピオンズリーグ。
対ロコモティフ・モスクワ戦でホームながら1−1と引き分け。
やはりまだ完全に復調できたわけではなかった。
- 328 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:47
- だが、そんなインテルに一筋の光明が差し込んだ。
ここでようやく新監督が決定したのである。
サンプドリア、ラツィオでファンタジスタの名を欲しいままにした男。
タケナカ・ナオトーニだ。
- 329 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:48
- 「よーう諸君!!元気かね?!!」
アロハシャツに短パン、サンダルと、監督とは思えぬ姿で
練習場に現れたタケナカに選手たちはみな目を丸くする。
「お、何だ何だその顔は?
覇気がねーな。もっとシャキッとしろ!!」
そう叫ぶ姿はまさにチンピラのおっさん、
と言うにはいささか歳をとりすぎているが。
クスクス。
選手たちの間から失笑が漏れる。
「あ、笑いやがったなこいつら。
・・・・まあいい。今日は機嫌がいいので許してやる。
いいかお前ら!チンタラやるのも昨日までで終わりだ!
今日からはちゃきちゃき行くからな!
おら、早速走って身体温めてこい!!」
そう言った後、そそくさとジャージに着替えるタケナカ。
今は11月。寒いのはあたり前だ。
これにも選手たちは笑う。
- 330 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:49
- タケナカの指示に従い、グラウンドを走り出すインテルイレブン。
みなこの破天荒な監督の登場に戸惑いながらも、どこかホッとしていた。
あの明るい雰囲気ならば、今の暗い状況を吹き飛ばしてくれるかもしれないと。
そして監督としての力も充分にある。
昨シーズン、経営難で選手を手放さざるを得なかったラツィオを
率いて、上位に食い込んだのだから。
ひとみもこのランニングの列に加わる。
ひとみの右足もこの頃はもうほとんど回復していた。
次節の復帰は少し難しいかもしれないが、
その次の第10節には確実に復帰できるであろう。
- 331 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:50
- 「おめえがヨシザワだな?」
ランニング終了後、別メニューで調整するひとみのもとにタケナカがやってきた。
「あ、はい。」
「まあちょっと座れや。」
タケナカはクイッとベンチを指す。
「で、おめえは今までやった中で誰が一番良かったんだ?」
「は?」
タケナカがニヤニヤ笑いながらひとみの腕を突付く。
こんな真昼間から何を言うんだこのおっさんは?
ひとみの冷たい視線がタケナカを貫く。
- 332 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:50
- その視線に気付いたタケナカ。
「バカ、ちげーよ。今まで組んだボランチで
誰が一番良かったかと聞いてるんだよ。」
・・・・・最初からそう言え。
そう思いながらひとみは即答した。
「日本で浦和レッズというチームにいたんですけど、
そこのキャプテン、平家みちよさんですね。」
「よっし、分かった。もう練習に戻れ。」
タケナカはひとみをシッシッと追いやった。
『・・・・・・なんだこのおっさんは?』
ひとみは首を傾げながらも練習に戻った。
- 333 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:51
- 新監督タケナカ・ナオトーニを迎えて臨んだセリエA第9節。
インテルはホームでアンコーナを迎えた。
この試合でタケナカが採ったフォーメーションは3−4−1−2。
GKにミズノ。
3バックにアヤドバ、シゲルッツィ、カンノバーロ。
センターハーフにリナメイダ。
右サイドハーフにタカコッティ。
トレクァルティスタにヤイコ。
トップにヨネクランという布陣だった。
このフォーメーションにインテリスタたちは大歓声を上げる。
今日こそヤイコがトレクァルティスタに入っているが、
それはひとみ復帰までのこと。
ひとみ復帰後はひとみがトレクァルティスタに入り、
ヤイコがトップに上がるだろう。
アーセナルを3−0で葬った3−4−1−2システム。
これでインテルは巻き返しを狙う。
- 334 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:51
- インテルはインテリスタの期待に見事に応えた。
ヨネクランが2ゴール。
ヤイコもFKから1ゴール奪って3−0でアンコーナを一蹴した。
チーム全体もスムーズに動けており、まずは復活への第一歩を示した。
そして第10節。
ホームでレッジーナを迎えての1戦。
この試合でついに吉澤ひとみが復帰を果たした。
「さあ、今日からヨシも復帰だ。
復帰戦、絶対に飾るよ。」
「おうっ!」
タカコッティの言葉に応える選手たち。
前節快勝し、雰囲気はいい。
そしてひとみも戻り、ベストメンバーで臨める。
- 335 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:52
- 「よっし!!!」
試合終了の笛を聞き、ひとみは右拳を天に突き上げた。
インテリスタたちもスタンドで狂喜乱舞だ。
レッジーナとの結果は6−0。
まさに圧勝だった。
先制点はイタリア代表ミホ・カンノバーロ。
40m近くはあろうかという距離からミドルシュートを決めた。
この得点で勢いに乗ったインテルは怒涛の攻撃を見せる。
ひとみのスルーパスにヨネクランが抜け出し、2点目を決める。
続いてヤイコが卓越した個人技でDFラインを突破し3点目。
4点目はタカコッティのミドル。
5点目はヤイコのコーナーキックにヨネクランが頭で合わせた。
そして最後6点目はひとみ。
タカコッティのクロスに滞空時間の長いヘッドで合わせた。
「何だよ。やれば出来るじゃねーか。」
タケナカがニヤリと笑う。
これでインテルはリーグ戦3連勝。
チームの雰囲気も良く、一時の最悪な状況から抜け出せつつあった。
- 336 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:53
- ここで他のヨーロッパで活躍する日本人選手とそのチームを見てみよう。
ユヴェントス福田明日香はさすがにもう4シーズン目。
高いレベルで安定している。
チームも10節を終えて8勝2分とここまで無敗できており、
スクデット3連覇も夢ではない。
これも新加入のヤダベドの働きが大いにあった。
昨シーズンのユヴェントスの弱点はストライカーとオフェンシブなMFだった。
トレクァルティスタにマツシマ、ボランチに福田、セコンダプンタにハセキョンというラインは
確かに強力であった。
が、それを決めるべきストライカーがいなかったのと、
オフェンシブなMFがマツシマ1人だったため、
マツシマが抑えられると攻撃の形がつくれなかったのだ。
そこへ今シーズン加わったチェコ代表アキコ・ヤダベドはゲームも創れ、
得点力もあるMFである。
なおかつ無尽蔵のスタミナを持っている。
彼女の加入でマツシマのマークも分散し、
ハセキョンも前線に張って攻撃に専念する事が出来るようになったのである。
ここまで無敗の首位であるのも頷ける内容である。
- 337 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:54
- 続いて今シーズンよりセリエAに参戦した柴田あゆみ。
開幕戦こそ1ゴール1アシストと活躍したがその後は低迷。
やはりフィジカルの弱さが致命的だった。
特に下位チームであるため、ディフェンスを重視する傾向にあり、
ディフェンス力、特にフィジカルの弱い柴田にとっては不利な状況だ。
しかも昨シーズン同じ日本人のひとみがエンポリで大活躍をしたせいもあり、
柴田に対する期待が大きすぎたのも不運なところだ。
ペルージャはここまで6分4敗。
いまだに勝ち星がない。
これは全て柴田のせいになっていた。
彼女が出れば確かに得点のチャンスは広がるが、
同時に失点の危険も増える。
第7節のウディネーゼ戦などはその最たる例だ。
前半柴田の活躍で3−0とリードを広げたものの、
後半になると柴田がボールを奪われてカウンターというパターンで一気に同点に追いつかれてしまった。
これ以降ペルージャ監督は柴田をベンチ入りからも外してしまった。
名古屋グランパスの同僚、リーエ・ミヤザワビッチはこれを心配していたのだ。
彼女だけはペルージャに移籍するのを最後まで反対していた。
フィジカルと守備の国イタリア。
その中では柴田は確実に異端児だからだ。
その心配が見事に的中してしまった。
柴田は今、どん底にいた。
- 338 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:55
- 続いてスペイン、リーガエスパニョーラの2選手。
レアル・マドリードの後藤真希は今シーズンも順調だ。
10節を終えた時点で7勝2分1敗で首位に立っている。
この1敗は天敵バレンシアに喫したものだが、
それ以外の試合は順調に勝ち星を積み上げている。
ここまで後藤が5得点、ヒカルドが8得点、シバサキが2得点に、
ユウーコが4得点と恐るべき攻撃力を発揮している。
チャンピオンズリーグでも4試合で3勝1分と無敗で首位をキープ。
ほぼ決勝トーナメント進出が決定している。
王者と天才は磐石であった。
- 339 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:56
- そして今シーズンバルセロナからセビージャにレンタル移籍の松浦亜弥。
初戦でアトレティコ・マドリーに勝利し、2戦目で古巣バルセロナと引き分け、
世間をあっと言わせた。
続く3節、ラコルーニャには競り負けたものの、昨シーズン6位のレアル・ソシエダ、
同じく4位のレアル・ベティスといった強豪相手に引き分けに持ち込み、
勝点1をきっちりと取っている。
しかし下位チーム相手でも取りこぼしが多く、ここまで2勝6分2敗という成績である。
が、降格圏内からは大分離れており、このままの調子ならば残留は間違いない。
この原動力となっているのは間違いなく松浦亜弥。
チームの得点の大半は彼女が上げたものだ。
ここまでリーガ唯一の二桁得点10点を上げ、
ヒカルドや後藤真希といったスーパースターを押さえ、
現在得点王レースのトップを走っている。
セビージャの救世主として申し分のない働きを見せている。
- 340 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:57
- 続いてイングランドプレミアリーグ、アーセナルに所属する市井紗耶香。
チャンピオンズリーグ対インテル戦で己の未熟さを思い知った市井は
その後しばらく低迷していた。
そのためカラサワ監督は不調の市井にしばらくリフレッシュさせようと、
試合には使わなかった。
しかしチームは10節を終えて無敗の7勝3分の成績で首位を走っている。
それも前線の2人、アーヤとリオナンプの存在があるためだ。
この2人が市井不在の穴を埋めている。
が、チャンピオンズリーグでは遠征の際には
飛行機嫌いのリオナンプはチームに帯同しない。
そのためアーセナルは著しくチーム力を低下させてしまう。
本来ならばその穴を埋めるのが市井なのだが、カラサワは市井を使わない。
体調と気持ちがもどるまで必死にガマンしている。
その結果ホームでインテルに3−0で敗れた後、アウェーでロコモティフ・モスクワと0−0、
ディナモ・キエフと2−1で敗れ、アーセナルは後がなくなった。
残り全勝しなければ決勝トーナメント出場は敵わない。
- 341 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:58
- 第4戦、ディナモ・キエフ戦。
ホームのためリオナンプも出場したがディナモ・キエフの堅守に得点を上げる事が出来ない。
これを救ったのが途中出場の市井紗耶香。
この第4戦の直前にあったリーグ戦第8節での対リヴァプール戦で途中出場ながら復帰を果たした市井は、
期待に応え見事勝ち越し弾を決めた。
そしてこのチャンピオンズリーグ第4戦でも値千金の一撃を試合終了間際に叩き込み、
アーセナルを救ったのだった。
その後調子を完全に取り戻した市井は9節のチェルシー戦で先制点、
10節のチャールトン・アスレチック戦でチームを敗戦から救う貴重な同点ゴールを決めている。
一時のどん底から市井は大きく飛翔していた。
- 342 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 09:59
- そして最後にドイツブンデスリーガの藤本美貴。
彼女が所属するシャルケ04はチャンピオンズリーグには出場できないが、
その代わりにUEFAカップに出場している。
UEFAカップでは1回戦を突破するものの、
2回戦でPK戦によって惜しくも敗れた。
リーグの方は10節を終えた時点で2勝5分3敗と、
いまいちの成績である。
が、その中でも藤本はコンスタントな活躍を見せる。
左サイドならばどこでも出来るそのマルチロールを活かして、
本職のMFの他にもFW、左サイドバックとチーム事情によって務め上げている。
ここまで得点も4得点上げており、元気のないチームを引っ張っている。
が、本人はまだ満足していない。
この成績ではチームに恩返しできないからだ。
- 343 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:01
- 欧州で活躍する日本人選手。
その日本人選手にとって大事な節がこの日行われる。
この日は各国でリーグ戦第11節が行われる。
<イタリアセリエA>
ユヴェントスVSインテルミラノ
<スペインリーガエスパニョーラ>
セビージャVSレアル・マドリード
<ドイツブンデスリーガ>
シャルケ04VSバイエルン・ミュンヘン
イタリアとスペインでは日本人対決が。
さらにドイツでは藤本美貴が来シーズンの所属チームと戦う。
日本人ならば絶対に見逃せない試合ばかりだ。
- 344 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:02
- ユーヴェのホームスタジアム、デッレ・アルピ。
ひとみたちインテルはアウェーに乗り込んでの戦いだ。
ここまで無敗で首位のユヴェントス。
8勝2分で勝点26である。
それをインテルは5勝4分1敗、勝点7差で追う。
が、監督も替わり、システムも自分たちに合ったものを採用しているし、
何よりここ2戦、3−0、6−0と圧勝してチーム状態もいいため、
この試合に期待するインテリスタも多い。
「ヨシ、今日はフクダとの対戦だね。」
「・・・・そうだね。気合い入ってるよ。」
ストレッチで身体をほぐすひとみだが、
その身体からは何かオーラみたいなものが溢れていた。
「ヒトミは相手が強いと燃えるよな。アーセナルの時がそうだった。」
そう言うのはヨネクラン。
一時の最悪の状況から好転しつつある事によって、
選手たちの表情にも明るさが見える。
いい状態で首位ユヴェントスに挑めそうだ。
- 345 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:03
- 「アスカ、いよいよヨシザワとの対決だね。」
「ん。」
ハセキョンに一言だけ答える福田だが、
その表情からは気合いが入っているのが分かる。
「インテルはここ最近調子良くなってるからね。
ここで叩いておかないと。」
「フカキョンの言うとおりね。ここで叩いておかないと後々やっかいな相手だからね。
特にヨシザワは。」
イタリア代表GK、ジャンルイジ・フカキョンの言葉にマツシマが答える。
昨シーズン、エンポリに所属していたひとみと戦った。
あの時はチーム力の差でユヴェントスが勝利したが、今回はあの時とは全く違う。
欧州屈指の名門インテルが相手なのだ。
ひとみだけでなくヨネクランにヤイコ、それにタカコッティもいる。
「あたしも昨シーズンヨシザワにやられたからね。今日はその借りを返すよ。」
こう言うのはアキコ・ヤダベド。
昨シーズンラツィオに所属していたが、ひとみのエンポリに敗れた。
「よし、今日は必ず勝つよ!!」
キャプテンのハセキョンが気合いを入れる。
王者ユーヴェ。
スクデットのためにはインテルは倒さねばならない相手だ。
- 346 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:04
- ひとみと福田が両チームの最後列でピッチに姿を現すとスタジアムが大歓声で揺れた。
周りを見渡せばあちこちに日本人の姿が見える。
「よっすぃー、今日も勝たせてもらうからね。」
「昨シーズンの借りは返させてもらいますよ。」
2人とも短い言葉だけを交わしたが、
その言葉だけでも気合いが充分に入っている事が分かる。
いよいよ今シーズン初のセリエA日本人対決が始まる。
- 347 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:04
- スペイン、セビージャ。
この地でもリーガエスパニョーラ初の日本人対決が行われようとしていた。
セビージャの松浦亜弥は、ホームに王者レアル・マドリードを迎えた。
入場行進の際、松浦と後藤は隣同士だった。
「まっつ、今日は勝点3もらうから。」
「そうは行きませんよ後藤さん。こっちがホームですから。」
後藤と松浦が激しく火花を散らす。
リーグ戦もそうだが、この2人は日本代表でもFWのポジションを争うライバル。
それだけにお互い負けられない。
- 348 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:05
- そしてドイツではシャルケ04藤本美貴が、来シーズン加入する事が決まっている
バイエルン・ミュンヘンとの1戦を迎えようとしていた。
「凄いメンバー。」
ピッチに立った藤本が相手の選手を見て呟く。
さすがFCハリウッドというだけあって、各国のスーパースターが揃っている。
この中に来季、自分が入るとなるとサッカー選手として嬉しくなってくる。
が、それはあくまで来季の話だ。
今はシャルケ04のアイドルミキティだ。
バイエルンは倒すべき相手。
パンと頬を叩き藤本は気合いを入れる。
イタリア、スペイン、ドイツ。
世界各国で日本人が大きく飛翔する。
- 349 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:05
-
ピィー!!!!!
主審の笛が高らかに鳴り、各国で熱い試合が開始された。
- 350 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:06
- <インテル> 3−4−1−2
20 32 GK 1 マキチェスコ・ミズノ
DF 2 チエン・アヤドバ
10 17 ミホ・カンノバーロ
23 ムロイ・シゲルッツィ
MF 25 MF 4 MF 4 ウエハラ・タカコッティ
10 吉澤ひとみ
2 23 17 25 アイウチ・リナメイダ
FW 20 アルバロ・ヤイコ
1 32 ヨネクラン・リョウコ
- 351 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:06
- <ユヴェントス> 4−4−2(4−2−2−2)
FW GK 1 ジャンルイジ・フカキョン
10 DF 4 アンパン・トダム
21 11 MF 11 アキコ・ヤダベド
18 福田明日香
26 18 21 ナナコーヌ・マツシマ
DF DF 26 エドガー・マヤミッキ
DF 4 FW 10 アレッサンドロ・デル・ハセキョン
1
- 352 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:07
- <セビージャ> 4−2−3−1
13 MF 11 キク・カワ・レイエス
FW 13 松浦亜弥
MF 11 MF
MF MF
DF DF
DF DF
GK
- 353 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:08
- <レアル・マドリード> 4−2−3−1
9 GK 1 ナカネ・カスミージャス
51 DF 2 ミチェル・ヒナガタ
7 10 3 ジュディマリ・ユッキー
6 リナン・ウチヤマ
19 23 MF 7 ユウーコ・タケウッチャン
3 2 10 ヒトミ・クローキ
DF 6 19 アマイロ・シマタニッソ
23 ルイビット・シバサキ
1 FW 9 ヒカルド
51 後藤真希
- 354 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:08
- <シャルケ04> 4−4−2
FW FW MF 20 藤本美貴
MF
20 MF
MF
DF DF
DF DF
GK
- 355 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:08
- <バイエルン・ミュンヘン> 4−4−2(4−2−2−2)
10 9 GK 1 ヨシナ・ガーン
MF 13 ナキャタニ・ミキック
MF 26 26 イケワキ・チイヅルー
FW 9 アマミステン・ユウキー
13 MF 10 キムラ・ヨシーノ
DF DF
DF DF
1
- 356 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:09
- ―――イタリア―――
まず最初にリズムを掴んだのはホームのユヴェントス。
ボランチの福田がその抜群の戦術眼で的確にパスを散らしていく。
そのパスにマツシマやハセキョン、ヤダベドが絡んでインテルゴールを襲う。
もちろんインテルも負けてはいない。
その攻撃をカンノバーロ、シゲルッツィ、アヤドバ、ミズノを中心に
力強く跳ね返していく。
跳ね返されたボールはタカコッティ、リナメイダのアルゼンチン代表コンビから
前線の危険な3人に渡される。
ヨネクランのパワー、ヤイコのテクニック、ひとみのファンタジーが鋭い牙となって
ユヴェントスゴールに襲い掛かる。
- 357 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:10
- 前半の半ばまで一進一退の攻防が続く。
得点は入らないものの緊張感溢れる好ゲームだ。
このように両者の力が拮抗しているゲームで恐いのはミスだ。
そしてこのミスを逃さないのが彼女、日本代表福田明日香だ。
インテルのセンターハーフがボールをキープしている所に
ヤダベドが積極的にプレスを仕掛ける。
このチェックに慌てたインテルセンターハーフがひとみにたまらず預ける。
が、このパスを狙っていた福田がコースに入り、これをカット。
そしてすぐさま左サイドに開いたハセキョンに送る。
このハセキョンに付くのはイタリア代表ミホ・カンノバーロ。
イタリア代表同士のマッチアップだ。
- 358 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:10
- 「ハセキョン!!」
その時中央からマツシマが上がってきた。
これがカンノバーロにとってフェイクとなった。
ハセキョンは中にクロスを送るフリをしてスッと縦に抜け出す。
そしてラインギリギリまで駆け上がり中にクロス。
これをボランチの位置から駆け上がってきた福田がダイレクトでボレーシュート。
決まったと思われたがイタリア代表GKミズノがこれをスーパーセーブ。
こぼれたボールはシゲルッツィが大きくタッチラインに蹴り出した。
「ちっ。」
福田が顔を歪め、舌打ちする。
完璧なボレーシュートだったがさすがはミズノ。
おいそれとは決めさせてもらえない。
- 359 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:11
- 「ドンマイアスカ!!」
福田が上がった後、ボランチの位置まで下がったヤダベドが声をかける。
今シーズン、例年に比べて福田明日香が前線に上がってくる回数が増えていた。
それは数字にも表れており、
昨シーズン11得点だった福田が10節を終えた時点でもうすでに6得点上げている。
この積極的な上がりがユーヴェの攻撃に厚みを加えていた。
これを可能にしたのがヤダベドの加入だ。
試合終了の笛が鳴るまで決して足を止めないヤダベド。
彼女がいるから福田もチャンスがあれば前に上がっていけるのだ。
上がった後のカバーには必ずヤダベドが入ってくれる。
そう信じて福田は前に出る。
福田とヤダベド、この2人が中盤から最終ライン、
最前線まで休むことなく走り回る事でユーヴェはここまで無敗で来ているのだ。
- 360 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:11
- 「これは嫌だな・・・・・」
思わずひとみが呟く。
福田にヤダベド。
ユーヴェには試合終了まで決して足を止めない選手が2人もいる。
しかもこの2人は運動量だけでなくテクニックでもヨーロッパ屈指だ。
さらにオフェンシブハーフにはパーフェクトクイーン、ナナコーヌ・マツシマがおり、
守備力では福田をも凌ぐマヤミッキもいる。
さすがに中盤ではユーヴェの方に分がある。
が、かといって中盤を省略してロングボールを前線に蹴り込むサッカーでは
ユーヴェの鉄壁の守りは崩せない。
「よしっ、行くか!!」
ひとみは覚悟を決めた。
自分が動き回る事で必ず中盤の争いに勝ってみせる。
- 361 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:12
- 「はいっこっち!!」
「そっち行ったぞ!!!」
「任せて!!!」
中盤でひとみが守備に攻撃に所狭しと駆け回る。
このひとみの動きに釣られるよう他のインテル選手も動きを高めていく。
この運動量にディフェンス力。
そしてフィジカルにファンタジー。
これらの長所を活かせるポジションこそトレクァルティスタなのだ。
- 362 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:13
- 「くっ!!」
ボールをキープしたひとみに福田が当たるがビクともしない。
フィジカルは圧倒的にひとみが上だ。
それにひとみはそのフィジカルの使い方が上達していた。
今も身体を上手く使い、福田の届かない位置でキープしている。
「よっすぃー、厄介な選手になっちゃって!!」
「福田さんこそ相変わらずキツイディフェンスで!!」
そう言いながらも2人とも笑みがこぼれる。
日本人が世界の名門チームに所属して戦う。
なんとも言えない高揚感で一杯だった。
が、勝負は別物だ。
お互い倒さねばならない相手。
すぐに笑みを消し、激しく当たる。
- 363 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:13
- その瞬間福田は躊躇なくひとみを引き倒した。
主審はもちろんファウルをとった。
「ごめん、よっすぃー。」
福田はスッと手を差し出す。
「いえいえ、さすがですね。」
ひとみは差し出された手につかまり立ち上がった。
ひとみは2列目からタカコッティがDFラインの裏を取ろうとしているのが見えた。
そこへパスを出そうとした瞬間に福田に引き倒されたのだ。
つまり福田もタカコッティが見えていたのだ。
そこへ出されたら1点は確実。
そう思ったからひとみを躊躇なく引き倒したのだった。
類まれなテクニックに豊富な運動量、高度な戦術眼。
そして必要ならばダーティなプレーも厭わない精神。
これがマツシマやユッキエ、ハセキョンといった
世界のスーパースターから恐れられる福田明日香だ。
- 364 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:14
- その後も両チーム一進一退の攻防を繰り広げる。
が、ここでインテルはFKのチャンスを得た。
右サイドから中に鋭く切れ込んできたタカコッティが倒されて得たものだ。
セットプレー。
インテルには“魔法の左足”がある。
ゴール正面、距離は約34m。
正直狙うには遠すぎる距離だが、魔法の左足には充分射程距離だ。
ヤイコがボールをセットする。
この距離であるがユーヴェも壁を5枚並べている。
「もっと右!!そう、そこ!!!」
GKフカキョンが指示を送る。
ここは止めてみせる。
- 365 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:14
- ピィッ!!
短い笛を聞いた後、ヤイコが軽く助走に入る。
そしてインパクトの瞬間、全身のパワーを左足に乗せた。
「なっ?!!」
フカキョンは予想していた弾道と違う事に焦った。
ヤイコの左足から放たれたボールは壁の真横を抜き、
グングン伸びながら曲がる。
「くっ!!!」
フカキョンが懸命に飛びつくものの、
そのありえない弾道はゴールポストの内側に当たってゴールに吸い込まれた。
前半39分、インテル先制点。
- 366 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:15
- 「カッケー!!!ヤイコカッケー!!!!」
ひとみがヤイコに抱き付く。
そこへヨネクランが、タカコッティが飛びつく。
よくFK世界一はレアル・マドリードのシバサキと言われるが、
今のFKを見て果たして同じ事が言えるだろうか?
まさに魔法がかかったFKだった。
前半はこのままのスコアで終了した。
アウェーのインテルがここまで1点リード。
だが、無敗で首位の王者ユヴェントスが黙っているはずはない。
後半戦も熱い戦いが待っている。
- 367 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:15
- ―――スペイン―――
スペインで行われているセビージャVSレアル・マドリードの試合は意外な展開だった。
「マツ!!!」
「アヤ!!!」
セビージャの選手たちが一斉に松浦に抱き付く。
その輪の中で凛とした表情でグッとガッツポーズをとる松浦亜弥。
スタジアムは大興奮に包まれている。
そしてスタジアムの電光掲示板が現在のスコアを示した。
- 368 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:16
- Sevilla 3−0 Real Madrid
前半20分が経過。
現在、3−0でセビージャのリード。
これははっきり言って誰も予想だにしない展開であった。
確かに今日のレアルはDFの要、キャプテンのイナモリッド・イズミを欠いてはいるが、
あの銀河系軍団と言われるレアル相手に3−0とリード。
これにはセビジスタですら信じられなかった。
- 369 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:16
- セビージャの得点は全て松浦亜弥によるものだった。
今日のスターティングイレブンを見て、松浦はチャンスだとほくそ笑んだ。
それはイズミの代わりに今季初先発のレアル若手センターバックの名前を発見したからだ。
彼女とはユース時代に何度か対戦した事があった。
レアルの首脳陣に期待され、大事に育てられてきたこのセンターバック。
そのせいか、どこかDFにしては正直すぎる、クリーンすぎるきらいがあった。
いわゆるいいとこのボンボンだ。
イズミやウチヤマなどは酸いも甘いも知り尽くした歴戦の勇士。
審判の影に隠れて足を削るなど、ダーティなプレーも使って相手FWを抑え込む。
が、このセンターバックは真直ぐ正攻法で来る。
こういったタイプは正直攻めやすいのだ。
- 370 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:17
- 先制点はPKだった。
セビージャのトップ下、キク・カワ・レイエスからのスルーパスに抜け出した松浦。
そのままダイレクトでシュートを撃てるタイミングだったが、
あえてタイミングをずらし、このセンターバックがスライディングを仕掛けるのを待った。
案の定このセンターバックは得点を許さないとスライディングを仕掛けてきた。
これに松浦はわざと足を引っ掛け、もんどりうって倒れた。
ここはセビージャのホーム。
当然主審はPKの判定をとった。
このPKを松浦は落ち着いてゴール右隅に決めた。
- 371 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:17
- この失点で今季初先発のセンターバックはパニックに陥った。
これ以降判断に迷いが出てきたのだ。
前に出るのか、それともカバーに入るのか。
迷いながらのため動きが遅く、
しばしばセビージャにビッグチャンスを与えてしまう。
2点目は無意味な飛び出しから奪われた。
ボールを持ったレイエスの足元に飛び込んだ。
が、それはあまりに無謀というもの。
レイエスはあっさりかわし、
そのセンターバックが飛び込んで出来たスペースへスルーパス。
これを松浦がきっちりと合わせ、カスミージャスを破った。
- 372 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:18
- 更にセビージャは、松浦はたたみ掛ける。
レイエスからのパスを受けると、真正面からこのセンターバックに突っ込む。
鋭いシザースでバランスを崩させ、ボールを股間に通す。
そして飛び出してきたカスミージャスの頭を越えるループでハットトリックを達成した。
松浦にとっては序盤こそ全てだった。
このセンターバックはレアル首脳陣が期待するだけの選手だ。
時間が経って落ち着いてくれば厄介な選手であることは間違いない。
だからこそ序盤で、まだ試合に入り込めていないうちに
強烈なパンチを食らわせなくてはならなかった。
そしてそれは見事に成功した。
PK、スルーパス、そして股抜き。
センターバックは顔面を蒼白させ、震えていた。
- 373 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:18
- 「まっつの奴め・・・・・・・」
後藤がギュッと拳を握り締める。
彼女をはじめとするレアル最強の攻撃陣もここまで音沙汰なし。
セビージャの勢いに押されている。
そして何より、松浦がハットトリック。
「・・・・・このままでは終わらせないから。」
セビージャの救世主に天才がその牙を剥く。
- 374 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:19
- ―――ドイツ―――
ドイツでも他の2国に負けない熱い戦いが繰り広げられていた。
「もうっ!!ミキ!!」
イケワキが叫びながらディフェンスをする。
司令塔であるイケワキがディフェンスに追いやられる。
それは王者バイエルン・ミュンヘンが劣勢だということだ。
- 375 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:19
- ブゥゥゥゥゥゥ!!!
バイエルン・ミュンヘンのサポーターからブーイングが飛ぶ。
その標的はシャルケ04の左サイド。
ミキ・フジモトだ。
『お前は来季からこっちに来るんだろ?!』
『それなりの戦い方をしろよ!!』
そんなブーイングが飛ぶ。
それはつまり、バイエルンがこのミキティにいいようにやられているという事だ。
- 376 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:20
- 中盤の左サイドから幾度となく藤本が上がる。
その鋭い突破にイケワキまでもが守備にまわらざるを得ない。
「何?今日のミキ、キレまくってるじゃん。」
反対側のサイドでミキックが藤本のプレーに驚いていた。
元々の実力は折り紙つきだが、今日のプレーは今までをさらに超える。
ひとみもそうだが、藤本もはっきりいって気分屋である。
相手が強ければ強いほど燃えるタイプ。
海外に出ている日本人選手は福田や柴田を除き、みなそうである。
それは逆に言えば安定感がないとも言えるが。
来季所属するチームで、チャンピオンズリーグでも好勝負を挑めるチーム。
そんな相手に藤本が燃えないわけがなかった。
- 377 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:20
- イケワキら3人に囲まれながらも藤本は鋭いドリブルで左サイドを抜け出した。
中には2トップが走り込んでいる。
「ここだ!!」
藤本はクロスを上げると見せかけてニアサイドに強烈なシュートを放った。
昨シーズン、これでガーンから得点を奪ったパターンだ。
だが世界bPGKに同じ手は通用しない。
ガーンはこれを見事にフィスティング。
コーナーキックに逃れた。
- 378 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:21
- 「さすがガーン。同じ手は通用しないね。」
藤本がペロッと舌を出す。
一方、ガーンはホッと胸を撫で下ろした。
今のシュートは完全に読んでいた。
ガーンは今まで失点した場面を全て覚えている。
藤本がシュートを撃つ瞬間、昨季の失点が脳裏に浮かんだ。
が、それにも関わらずキャッチできず、弾くしか出来なかった。
『昨シーズンよりフィジカルも強くなってるみたいね。』
ガーンが来季のチームメートの成長に目を細める。
「コーナーキック!!集中!!」
が、すぐに気合いを入れなおし、ディフェンス陣に指示を送る。
今は当然倒すべき厄介な敵なのだから。
- 379 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:21
- シャルケ04のコーナーキック。
ゴール前に上げられたボールに藤本が飛び込む。
が、バイエルンもユウキー、ヨシーノ、ミキックが3人がかりで藤本を抑え込む。
この3人に同時にこられてはひとたまりもない。
藤本は弾き飛ばされ、ピッチに叩きつけられた。
「・・・・やってくれるじゃん。」
起き上がりながら藤本がニヤリと笑う。
さすがはバイエルン。
これぐらいしてくれないとこっちが困るってもんだ。
ドイツの戦いも熱かった。
- 380 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:22
- 3試合とも前半戦を終えた。
ユヴェントス 0−1 インテル
セビージャ 3−0 レアル・マドリード
シャルケ04 0−0 バイエルン・ミュンヘン
ここまで全て挑戦者が昨季の王者に対して互角以上の戦いに持ち込んでいる。
だが、王者も決してこれで終わるチームではない。
後半戦も熱い戦いが待っている。
- 381 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:23
- ―――スペイン―――
まず試合が動いたのはスペインだった。
後半7分、天才が躍動した。
「シバサキ!!」
後藤が中盤に下がり、シバサキからボールをもらった。
そして前を向き、1歩、2歩、3歩・・・・・目でトップスピードに入った。
同僚のヒカルドの光速ドリブルだ。
襲い掛かってくるセビージャDF陣を
その類まれなテクニックとスピードで次々とかわしていく。
その余りに鋭い突破に、セビージャDF陣は後藤に集中してしまった。
「ゴトウ!!」
ヒカルドとユウーコがこの隙を逃さずフリーなポジションに飛び込む。
後藤もこれに気付いており、しっかりとスルーパスを通した。
これに抜け出したのはヒカルド。
飛び出してきたGKを引き付けて最後はユウーコに預ける。
ユウーコはこれを難なく沈めた。
- 382 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:23
- ウオオオオオオオオオオオ?!!!!!
セビージャのホームスタジアム、サンチェス・ピスファンが大きく揺れた。
このプレーにはセビージャサポーターも思わず脱帽だった。
さすがは昨シーズンMVPの後藤真希。
その力を見せ付けた。
「凄い。あのドリブルにパス。後藤さん以外無理なプレーだ。」
松浦も今の後藤のドリブルからのスルーパスには心底震えさせられた。
あのスピードで突破した上にスルーパスをきっちり通すとは。
もちろんあの場面、自分で撃つ事も出来たし、撃っていれば確実に決めていたであろう。
ドリブル、パス、そしてシュート。
そのどれもが一撃必殺。
まさに彼女こそセカンドトップ、1.5列目の申し子だ。
“日本が産んだ天才”ここに在り。
- 383 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:24
- このゴールにレアルの攻撃陣が目を覚ました。
中盤で華麗にボールがまわる。
その間にジュディマリ・ユッキー、
ミチェル・ヒナガタの両サイドバックが攻めあがる。
その分厚い攻撃にセビージャDF陣はゴール前に張り付くしかなかった。
セビージャゴール前に堅固な壁が出来る。
こんな時、状況を打破するのがドリブラーだ。
世界bPドリブラーと言われるヒトミ・クローキ。
彼女の出番だ。
クローキがボールを持って右サイドから中へジリジリと進む。
スピードは決してあるほうではない。
だが、誰も彼女からボールを奪えない。
相手の常に逆をとり、タイミングを完璧にずらさせる無敵のドリブル。
迫り来るセビージャDF陣をまるで闘牛士のようにヒラリヒラリとかわしていく。
セビージャDF陣はファウルで止めるしか出来なかった。
- 384 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:24
- ペナルティエリアぎりぎり。
絶好の位置でのFKをレアルは獲得した。
となると今度は彼女の出番だ。
世界bPフリーキッカー。
ルイビット・シバサキ。
シバサキがボールをセットする。
松浦も自陣に戻って壁に入る。
ここで得点を許すと勢いは完全にレアルのものになる。
絶対に得点を許すわけにはいかない。
- 385 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:25
- 「あっ?!!」
思わず松浦は叫んでしまった。
シバサキがボールをセットし、助走の距離をとる。
が、次の瞬間、ボールの横にいたある選手がワンステップから鋭く左足を振り抜いた。
ボールはタイミングを狂わされジャンプできなかった壁を越え、
あっさりとゴールネットに突き刺さった。
「よしっ!!!」
グッと拳を握り締める背番号51。
天才はFKも天才だった。
これでレアルは1点差にまで追いついた。
- 386 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:25
- ・・・・これはレアルの逆転勝利だ。
この連続2ゴールにスタジアムにいる誰もがそう思わされた。
が、後半33分、予想だにしない出来事が訪れる。
レアルの攻撃を何とか防いだセビージャ右MF。
強引に前線の松浦にパスを送る。
が、これはミスキック。
グラウンダーのボールで、
しかも松浦の前にきっちりとあのセンターバックがいた。
- 387 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:26
- 「よし、もう一度攻めるよ!!」
後藤を初め誰もがそう思い攻撃に転じようとした瞬間、
グラウンダーのクロスはそのセンターバックの足元を抜け、松浦の元に。
痛恨のトラップミスだった。
これには松浦も驚きトラップが一瞬大きくなったが、何とかコントロールし、
カスミージャスとの1対1を冷静に押し込んだ。
- 388 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:26
- ウオオオオオオ?!!!!
スタジアムが大きく揺れた。
レアルにとってはまさかの失点だった。
これからという時のこの失点。
これはレアルを沈ませるのに充分だった。
その後、後藤が必死に攻撃を仕掛けるものの、
ほぼ全員が引いたセビージャに1点を返すにとどまった。
(ゴールは後藤のポストプレーからシマタニッソが豪快なミドルで決めたもの。)
スペインでの日本人対決は4−3でセビージャがまさかの勝利を挙げた。
- 389 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:27
- 今日4得点を上げた松浦。
文句なしのMVPだ。
スタジアムの大声援に両手を振って応える。
すぐ側でこの試合4得点全て自分のミスで失った
レアルセンターバックが泣きじゃくっていた。
それをちらりと横目で見ながらも松浦はチームメートと喜びを分かち合う。
この世界は弱肉強食。
力の無い者はこのピッチに立つ資格はないし、
自分の敵となる者は全力で叩き潰さねばならない。
今日叩き潰したセンターバックはレアルで将来を嘱望されている選手だ。
順調に行けばレアルの屋台骨を支える選手になったであろう。
が、それは“バルセロナ”の松浦にとって厄介な存在となる。
だからこそ今のうちに叩き潰しておかねばならない。
そうしなければいずれ自分が叩き潰されるからだ。
力なき者は去れ。
それがこの世界のルールだ。
- 390 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:27
- 「まっつ、今日は負けたよ。」
後藤が松浦のもとに歩み寄り、ユニフォームを渡す。
後藤にしては珍しい光景である。
「いえ、個人としては後藤さんの勝ちですよ。」
松浦もユニフォームを手渡す。
「何言ってんの。4点も取っといてそれはないでしょ?」
「いえ、たまたまですよ。」
「また謙遜しちゃって。ま、でも次はこっちが勝つからね。」
「あ、それは遠慮しときます。」
「いや、いいし。」
「こっちもいいです。」
そう言って笑った後、後藤と松浦はがっちり握手をかわした。
セビージャ 4−3 レアル・マドリード
【得点】
セビージャ
松浦亜弥(前7、11、19、後33)
レアル・マドリード
ユウーコ(後7)
後藤真希(後14)
シマタニッソ(後41)
- 391 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:28
- ―――ドイツ―――
後半20分を過ぎたが、お互いまだ得点は決まっていない。
だが後半開始からはバイエルンがリズムを掴んでいた。
それはバイエルン監督の指示が利いていたからだ。
後半に入ると、バイエルンはミキックを左ボランチから右ボランチに変えた。
それはつまり、藤本美貴を抑え込むこと。
この指示は後半20分までは功を奏した。
前半戦、幾度となく中盤からチャンスメイクをしていた藤本が、
ミキックに抑えこまれることでシャルケの攻撃は完全に滞ってしまった。
逆にバイエルンはイケワキがフリーになり、攻撃が鋭くなっていく。
- 392 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:28
- しかし、後半20分を過ぎると少し様相がおかしくなった。
「ん?ミキティ、DF?」
シャルケ04のサポーターが藤本のポジションに疑問の声を上げた。
先ほどまで中盤の左サイドにいたはずなのに、
今は完全に左サイドバックになっていた。
左サイドハーフにはさっきまでサイドバックだった選手がいる。
「?」
マークに付いていたミキックの頭にクエスチョンマークが。
『何故DFに下がるんだ?
自分のマークに恐れをなして下がったのか?』
と一瞬思ったが、すぐにこの考えを捨てる。
『ミキがこれぐらいで逃げるわけがない。
きっと何かある。』
- 393 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:29
- ミキックの考えは正しかった。
藤本はじっとその機会を待っていた。
そして後半38分、その時がきた。
バイエルンがイケワキを中心にシャルケゴールへと襲い掛かる。
当然ミキックもDFに下がった藤本を気にせず、ゴール前に詰めていく。
左サイドから攻めあがったバイエルン左MFが中にクロスを送る。
このクロスを長身FW、アマミステン・ユウキーがヘッドで中に折り返す。
その折り返しにオランダ代表FWキムラ・ヨシーノが飛び込むが、
これを寸ででシャルケDFがクリアした。
このこぼれ球を拾ったシャルケMFが一気に前線に送る。
これをシャルケFWとバイエルンDFがヘッドで競り合う。
ボールはシャルケFWの頭に当たり、後ろのスペースに流れていく。
とその時、そのボールを追いかける一陣の風が左サイドを流れた。
- 394 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:29
- 「ミキ?!!」
ミキックが驚愕の表情で叫ぶ。
何故左サイドバックの藤本がそこにいる?
藤本はこのこぼれ球に追いつき、そして中に切れ込んでいく。
完全にフリーだった。
「ちっ!」
GKヨシナ・ガーンが一気に前に出てくる。
両手を広げ、シュートコースを狭める。
- 395 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:30
- 藤本はさらに中に切れ込む。
『ファーサイドへ右足!!』
ガーンは藤本の体勢からそう読んだ。
中に切れ込むことでファーサイドへのコースを創り出した。
後は右足で転がせば決めれる。
ガーンは素早くポジショニングし、コースを防ぐ。
「なっ?!!」
が、このガーンの読みは完全に外れた。
藤本の身体は完全にゴールの真横を向いていた。
左90度にゴールがある。
それにも関わらず強引に左足アウトサイドでガーンの股間を通した。
ボールはころころと転がり、ゴールネットに優しく包まれた。
後半38分。
シャルケ04が貴重な先制点。
- 396 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:30
- ウワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
6万人以上入るアレナ・アウフシャルケが大歓声で揺れた。
あの世界bPGKヨシナ・ガーンからゴールを奪った。
しかも奪ったのが自分たちのアイドルミキティだ。
これで興奮しない奴はシャルケ04の、ミキティのファンではない。
一方、バイエルンのサポーターたちは苦虫を噛み潰したような顔だ。
来季から加入する藤本のゴール。
正直一番決められたくない選手に決められた。
「活躍するのは来季からでいいのに・・・・・・」
この言葉がバイエルンサポーターの偽らざる本音であろう。
- 397 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:31
- 「何であそこにミキがいたんだ?」
ミキックはいまだに信じられなかった。
確かに藤本は直前までサイドバックのポジションにいたはずだ。
それが何故?
その答えが出ぬまま、試合が再開された。
優勝を狙うバイエルンにとって、最低でも勝点1は必要だ。
1点を奪うべく総攻撃を仕掛ける。
- 398 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:31
- バイエルンの攻撃は右サイドが主だ。
それは司令塔のイケワキ・チイヅルーが右サイドの選手だからだ。
必然的にボールは右サイドに集まる。
なおかつ今日は途中からミキックも右サイドに移ったため、
それはより一層顕著である。
だがこのバイエルンの攻撃も全てシャットアウトされた。
バイエルンの右サイドは、シャルケにとって左サイドだからだ。
左サイドのスペシャリスト、ミキティがここにはいた。
- 399 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:31
- 「ミキ?!!」
ミキックが叫ぶ。
自分は世界でも数人しかいない“フリーロール”。
その抜群の戦術眼でフリーな位置に飛び込んだはずだ。
だが、この“フリーロール”の動きにも藤本は付いていった。
イケワキからのスルーパスを素早い反応でカットした。
「ミ、ミキ?!」
イケワキも驚く。
藤本がどこにいるのか分からないからだ。
今最終ラインでディフェンスをしたかと思うと、
次の瞬間には最前線に飛び出している。
かと思えば、中盤で自分のマークにも付いてくる。
その動きはまさに“フリーロール”。
- 400 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:32
- 「左サイドはあたしのものだ。」
ピッチの左半分。
そこは藤本美貴のテリトリー。
何人たりとも犯す事は許されない。
それが例え“フリーロール”であろうとも。
- 401 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:32
- そして試合終了間際。
カウンターで左サイドを駆け上がった藤本、
GKヨシナ・ガーンの反応も遅れるような強烈なシュートをぶち込んだ。
藤本の活躍でシャルケ04は王者バイエルン・ミュンヘンに完勝した。
シャルケ04 2−0 バイエルン・ミュンヘン
【得点】
シャルケ04
藤本美貴(後38、44)
- 402 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:33
- ―――イタリア―――
イタリアの方でも試合が動いていた。
後半17分、インテルが追加点をあげる。
右サイドを突破したタカコッティがヨネクランにクロス。
これがピッタリと合い、フカキョンを破った。
サイドを突破してセンタリング。
単純な攻撃だが、これもヨネクランがいるからこそだ。
フランス代表アンパン・トダムと競り合いながらもこのクロスをヘッドで叩き込んだ。
もちろん右サイドを突破したタカコッティのテクニック、スピード、
そしてクロスの精度も素晴らしいものだ。
- 403 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:34
- ユーヴェも反撃に出るがカンノバーロ、シゲルッツィ、アヤドバ、
それからミズノというインテルディフェンスを中々崩せない。
それに加えて今日はマツシマとハセキョンがいまいち調子が悪い。
もちろん福田やヤダベドがカバーをするし、調子が悪いといっても局面局面では
マツシマもハセキョンもさすがと唸らせるプレーを見せる。
ユーヴェにとっては何よりもストライカー不在が大きかった。
インテルのヨネクラン、ミランのマヨザーギにナオチェンコのような
絶対的なストライカー。
これがユーヴェに欠けているのだ。
そのためチャンスは創るものの、最後で跳ね返されてしまう。
王者ユーヴェのラストピース、それはストライカーだった。
- 404 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:34
- 2−0のまま試合時間は刻一刻と過ぎていく。
「マツシマ!!!ハセキョン!!!しっかりしろ!!!!
あんたたちはそんなもんか?!!!」
福田がこの2人を叱咤する。
この2人にこれだけの事が言えるのは福田明日香ぐらいであろう。
確かにユーヴェが点を取れないのはプリマプンタのせいだが、
今そんなことを言っても仕方がない。
プリマプンタに期待できないならこの2人に頑張ってもらわねば点が取れない。
点を取れなければこの試合は負ける。
ただそれだけだ。
何より彼女は負けるのが大嫌いなのだ。
そのために福田は声を張り上げ、叱咤する。
- 405 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:35
- この叱咤に超一流選手のプライドがくすぐられる。
「アスカ!!出せ!!!」
マツシマが激しいマークを受けながらもボールを要求する。
「それでいいんだ!!」
福田がパスとは言えないような強いボールを出す。
それをマツシマは難なく足に吸い付くようにトラップすると
両足を使ってクルッと回転し、マークについていたインテル選手をかわした。
伝家の宝刀、本家本元マルセイユ・ルーレットだ。
- 406 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:35
- オオオオオオオオオ!!!!!
デッレアルピが大きく揺れる。
さらにマツシマは左足アウトサイドでDFラインの裏にスルーパス。
これを左45度、通称“ハセキョン・ゾーン”で受けたのは
アレッサンドロ・デル・ハセキョン。
コースが見えた。
ハセキョンは後ろからタックルに来たカンノバーロを切り返しでかわすと、
鋭く右足を振るった。
ハセキョン得意の形だ。
- 407 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:36
- が、守るは同じイタリア代表マキチェスコ・ミズノ。
ハセキョンがこの形が得意なのは百も承知だ。
そしてボールがどこで曲がり、どのコースに行くのかも分かる。
「なっ?!!」
しかしボールが曲がらない。
しかも弾道がやや低い。
これではコースに行かないし、
GKの手を掠めるようなループシュートにならない。
- 408 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:37
- 「パス?!!!」
ミズノがそう気付いた時には遅かった。
この“パス”に最後飛び込んだのはヤダベド。
GKミズノの手前でヘッドで押し込んだ。
ユーヴェ、後半36分ヤダベドのヘッドで1点差に追いついた。
「よしっ!!」
ゴールを決めたヤダベドは喜びもそこそこにすぐさまボールを拾い
センターサークルに走る。
これで2−1。
追撃へ射程距離だ。
- 409 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:37
- ゴールを決めたヤダベド、見事なドリブルのマツシマ、
絶妙なパスを出したハセキョンが誇らしげに自陣に戻ってくる。
まるで福田にどうだと言わんばかりだ。
が、福田はそんな彼女らに一言。
「あんたたちならそれぐらい当然。さあ、すぐに追いつくよ!!」
手を叩いて周りを鼓舞する。
その姿は王者ユヴェントスを指揮する将軍そのもの。
その小さな身体が誰よりも大きく見える。
- 410 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:38
- 「・・・・・福田さん、カッケー。」
ひとみは敵ながら福田の姿に見惚れてしまっていた。
あのマツシマが、ハセキョンが、ヤダベドがその小さな身体の少女に引っ張られている。
この人と正面きって戦える。
そう思うと体中に力がみなぎってくる。
「ドンマイ!!!すぐに突き放しましょう!!!」
ひとみが笑顔で気落ちするチームメートに声をかける。
その姿は自信に満ち溢れていて、
決して揺らぐ事はないように見える。
「ヒトミの言うとおり。すぐに突き放すよ!!」
キャプテンのタカコッティも周りを鼓舞する。
残り10分、まだ戦いは終わっていない。
- 411 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:38
- 1点差に詰め寄るゴールを上げ、勢いはユヴェントス・・・・・・・のはずだが、
やはりプリマプンタだった。
中盤でいくらユーヴェが主導権を握ろうとも最後、
詰めが弱ければ各国代表を揃えたインテルディフェンスを打ち破る事はできない。
逆にインテルはトレクァルティスタ、セコンダプンタ、
プリマプンタがワールドクラスだ。
しかも一人一人が一撃必殺の破壊力を持っている。
特にひとみだ。
ようやくエンジンがかかってきたのか、
動きのキレがどんどん増していく。
そのため福田が前線に上がる事が出来ない。
少しでもひとみをフリーにすれば必ず止めを刺される。
だから福田に出来る事はひとみを止め、
前線のマツシマ、ハセキョン、ヤダベドにボールを預ける事だ。
- 412 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:39
- 『くそっ、抜けない!!』
時間が経つにつれ、自分の気持ちと身体に力がみなぎってくるのが分かる。
ここ最近で心身ともに一番いい状態のはずだ。
が、それでも福田を振り切れない。
今まで一流と言われた色んな選手たちと対峙してきた。
しかしその中でもこの福田明日香は別モノだ。
『ユッキエ。あなたの言ってること分かるよ。この人、嫌だ。』
一瞬ひとみの心を支配する弱気。
それはこのピッチでは命取りになる。
「あっ?!!」
その隙を突かれた。
福田に上手く身体を使われ、スッとボールを奪われた。
高い位置で奪ったため、ユヴェントス、絶好のカウンターチャンス。
が、次の瞬間。
「ぎゃっ!!!!!!」
という悲鳴が響き、小さな身体が宙を舞ってピッチに叩きつけられた。
- 413 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:39
- 「あ・・・・・・・・・」
一瞬何が起こったか分からなかった。
しかし右足に残る感触と、目の前に映る映像が全てを物語っている。
右足を押さえ、のた打ち回る福田。
嫌な角度で右足に入った。
主審がすぐさま駆けつけ、ひとみにイエローカードを出す。
「何でそれでイエローなんだ!!!」
思わずハセキョンが主審に食って掛かる。
ヤダベドにいたっては呆然と座り込むひとみの胸倉を掴む。
「何するんだ!!」
そこへヨネクランが入り、ヤダベドの手を払う。
それをきっかけに両チームとも小競り合いが始まった。
- 414 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:40
- 「やめろっ!!!!!!」
この叫び声にみなピタッと動きを止める。
その声の主は何事もなかったようにスッと立ち上がった。
「時間がもったいない。早く試合を再開させるよ。」
「アスカ・・・・・・」
顔からは脂汗が流れ、右足もブルブルと震えている。
だが目は死んでいない。
ぎらぎらと激しく光っている。
「よっすぃー。」
福田は今だ座りこむひとみの腕を取って立たせた。
ひとみの顔は真っ青だ。
「あ、あの、福田さ・・・・・」
「ストップ。今は試合中だから。」
恐らく謝罪の言葉を言おうとしたひとみを福田は制した。
そしてボールをファウルをもらった位置に置き、
マツシマたちに前線に行くように指示する。
そして痛めている右足で大きく蹴り出した。
「よっすぃー、手加減なんかしたらどうなるか分かってるね?」
FKを蹴り終えた後、福田はひとみに背を向けたまま言った。
ひとみにはその背中が何倍も大きく見えた。
- 415 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:42
- 2人抜いたマツシマがミドルレンジから強引にシュートを撃つ。
が、これはシゲルッツィが身を挺してブロック。
跳ね返ったボールは福田の元に。
「ぐっ!!」
右足でトラップした瞬間激痛が走り、ボールがこぼれた。
それをひとみが拾い、ゴールに向かって走る。
同点に追いつくためにサイドバックも上がっていたユーヴェ。
3対2とインテルの方が数的優位がある。
「ヨシ!!」
「ヒトミ!!」
ヤイコとヨネクランがスッと両サイドに開いた。
DFはこれについていくしかなくひとみの目の前がパッと開く。
『撃てる!!』
ひとみはペナルティエリアすぐ外から右足を思いっきり振るった。
「ぎゃっ!!!」
またも聞こえる福田の悲鳴。
痛みを堪えながらも必死に戻り、
さらに痛めている右足でひとみのシュートをブロックしたのだ。
ひとみの右足と福田の右足に挟まれたボールは力が相殺され、
やや前方にフワッと浮いた。
- 416 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:43
- 「くっ!!!」
ひとみは前につんのめりながらも脅威のバランス感覚で体勢を立て直し、
そのボールに懸命に右足を伸ばす。
ボールは右足の爪先に触れた。
「あっ?!!」
コースを狭めるために前に出ていたGKフカキョンの脇の下をボールが抜けていく。
そしてそのボールはパサッという音とともにゴールネットに絡まった。
インテル、駄目押しとなる3点目だった。
そして次の瞬間、
ピィー、ピィー、ピィーッ!!!!!!
主審の笛が3度高らかに鳴った。
首位ユヴェントス、第11節にして初の黒星。
- 417 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:44
- 「・・・・・入ったの?」
福田がピッチに仰向けになりながらひとみに聞いた。
「・・・・・そうみたいです。」
ひとみが申し訳なさそうに言う。
「ちぇっ、今日は負けちゃったな。あ、ごめん、立てないわ。起こしてくれる?」
そう言って右手をスッと上げる福田。
ひとみはその手を取って福田を立たせた。
軽かった。
こんな身体のどこにあんな力があるのだろうか?
「でも今度、ミラノではあたしが勝たせてもらうからね。」
福田は軽く微笑んでユニフォームを脱ぎ、ひとみに差し出した。
ひとみもユニフォームを脱ぎ、福田に渡す。
そして2人はがっちりと握手をかわした。
ユヴェントス 1−3 インテルミラノ
【得点】
ユヴェントス
ヤダベド(後36)
インテル
ヤイコ(前39)
ヨネクラン(後17)
吉澤ひとみ(後44)
- 418 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:47
- 第11節
ユヴェントス 1−3 インテルミラノ
セビージャ 4−3 レアル・マドリード
シャルケ04 2−0 バイエルン・ミュンヘン
ビッグマッチが揃った第11節は、イタリアもスペインもドイツも
昨季のチャンピオンチームが敗戦という結果に終わった。
どの試合でも日本人がチームの主軸として活躍を見せた。
今までサッカー後進国と言われ続けてきた日本。
その日本が世界のサッカーをリードする。
そんな夢の時代に期待を抱かせるセリエ、リーガ、ブンデス第11節であった。
- 419 名前:第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 投稿日:2004/07/08(木) 10:47
-
第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 (終)
- 420 名前:ACM 投稿日:2004/07/08(木) 10:48
- 第9話 セリエ、リーガ、ブンデス第11節 終了いたしました。
とうとうEUROも終わりました。
まさかギリシャとは・・・・・・
でも、これはいわゆる中堅国に希望となったのではないでしょうか?
もちろん日本もこれに含まれています。
これからに期待です。
- 421 名前:ACM 投稿日:2004/07/08(木) 11:52
- 次回予告
第10話 逆襲のフリーロール
チャンピオンズリーグ、予選グループ。
初戦はホームで3−0という屈辱の敗戦。
自身も我を見失い、屈辱の途中交代。
それから2ヶ月。
リベンジを胸に秘め、フリーロールの逆襲が始まる。
次回もよろしくお願いいたします。
- 422 名前:ACM 投稿日:2004/07/08(木) 11:53
- ではスレ隠しです。
後藤真希
“日本が産んだ天才”
得意プレー:切り返し 光速ドリブル
ポジション:FW SF WG
所属クラブ:FC東京 → レアル・マドリード(スペイン)
・プレーの特徴
テクニック、スピード、キレ、パワーと全てにおいて高いレベルを持つ。
特に切り返しはまさに芸術品。
攻撃力においては他の追随を許さない。
1.5列目を任せるにはこれほどの人材はいないであろう。
課題は精神面。
彼女も気分にムラがあり、乗ってる時と乗っていない時の差が激しい。
- 423 名前:ACM 投稿日:2004/07/08(木) 11:54
- ・作者のイメージ
元ACミランのサビチェビッチですかね。
“ジェーニオ(天才)”と呼ばれた左利きのテクニシャンです。
・本編での存在
主人公吉澤ひとみの親友であり、ライバルでもあります。
チャンピオンズリーグ決勝でひとみと戦う。
これが一応話しの軸であるにも関わらず、
主人公と同じくいまいち彼女も影が薄いんです。
作者的には吉澤さんに匹敵するぐらい好きなんですが。
- 424 名前:ACM 投稿日:2004/07/08(木) 11:56
- 本日はここまでとします。
今回久々に100以上更新したので、
途中で書き込めなくなりました。
どんだけ次回予告を引っ張んねんと、自分で突っ込んでしまいました。
ではまた次回もよろしくお願いいたします。
- 425 名前:みっくす 投稿日:2004/07/08(木) 21:27
- 大量更新おつかれさまです。
いやー興奮しまくりの試合展開で。
実際にこんな光景を拝める日はくるのでしょうかね。
それにしても、インテルの新監督の発言が気になるなぁ。
もしかして・・・・
- 426 名前:ピクシー 投稿日:2004/07/09(金) 01:21
- 更新お疲れ様です。
>恐らく“ドリブラー”かなあって思うんですけど、どうでしょうか?
・・・正解!(みのもんた風)
「何をしでかすかわからない」という意味では「ドリブラー」でも間違いじゃないですね。
ごっちんはサビチェビッチですか。言われてみれば・・・
あの国は、精神的に問題があるのは、国民性ですかね?(笑)
Jリーグでもオールスターがありましたね。
ピクシーのような「テクニックでファンを涌かせる選手」がいなくて残念、と思いきや・・・
ウェズレイの2点目(高松とのワンツーのやつ)のワンタッチ目は「ピクシーっぽさ」を感じました。(笑)
次回も楽しみに待ってます。
- 427 名前:名無し 投稿日:2004/07/12(月) 00:11
- ここまで一気に読ませて頂きました。
一回の更新量が凄いですね、これからも頑張って下さい。
- 428 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/12(月) 01:26
- もう3回、最初から一気に読んでいます
オリンピックの最後の2試合での紺野・新垣の活躍には、涙ものです
- 429 名前:ACM 投稿日:2004/07/14(水) 10:56
- 425>みっくす様
レスありがとうございます。
いつの日にか、こんな試合が観れる事を願っておきましょう。
そしてインテル新監督の発言ですが、果たしてどうでしょうかね?
今のところはノーコメントとさせていただきます。
426>ピクシー様
レスありがとうございます。
ライフラインを3つ使い切ってやっと正解できました。
確かにJリーグオールスター、あのウェズレイのワンツーはお見事でした。
ピクシーのようなセカンドトップが日本代表に欲しいなあと思う、今日この頃です。
- 430 名前:ACM 投稿日:2004/07/14(水) 10:56
- 427>名無し様
レスありがとうございます。
ここまで一気にですか?それは凄く嬉しいです。ありがとうございます。
けど、長いんで貴重な時間をとってしまって申し訳ないです。
これからも見ていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
428>名無飼育さん様
レスありがとうございます。
もう3回もですか?それはホント嬉しいです。ありがとうございます。
オリンピック、自分の中ではもう終わったんですが、現実はこれからですよね。
紺野さんや新垣さんのような活躍を見せてもらいたいところです。
では本日の更新です。
- 431 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 10:58
- 吉澤ひとみVS福田明日香。
後藤真希VS松浦亜弥。
そして藤本美貴。
イタリア、スペイン、ドイツでの日本人の激闘に世界は沸いた。
が、この一戦でユヴェントスの福田明日香は右足首を負傷。
戦線を離脱する事となった。
ユヴェントスにとってこれは痛いが、幸いにもシーズンはまだまだ長いし、
チャンピオンズリーグも決勝トーナメントにほぼ出場が決定している。
今の状態ならば福田の離脱も耐え切れる。
福田も今焦っても仕方がないと、ゆっくりと静養に努めていた。
今休んでおけばシーズン終盤、
チームメートが苦しい時に自分がいいコンディションで臨めるからだ。
こういった気持ちの切り替え、ポジティブな思考も一流選手の条件である。
- 432 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 10:58
- そして第11節終了から3日後。
またも注目すべき対決が行われた。
チャンピオンズリーググループリーグ第5戦
インテルミラノVSアーセナル
吉澤ひとみVS市井紗耶香、第2ラウンド。
- 433 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:00
- ひとみと市井のいるこのグループBは激戦が続いていた。
ここまで首位はひとみのインテル。
2勝1分1敗の勝点7。
これを追うのがディナモ・キエフ。
2勝2敗の勝点6。
3位には1勝2分1敗の勝点5でロコモティフ・モスクワ。
最下位には市井のアーセナルだが、
1勝1分2敗の勝点4のためまだグループリーグ突破の可能性はある。
逆に言えば首位のインテルも勝ちぬけが決定したわけではなく、
今日のこの試合に負けると危なくなる。
もちろんアーセナルは絶対に落とせない試合。
どちらも気合いは充分だ。
前回はひとみのハットトリックでインテルがアウェーながら3−0で快勝した。
しかし今回はそうはいかない。
フリーロール市井紗耶香の逆襲が始まる。
- 434 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:00
- <インテル>3−4−1−2
20 32 GK 1 マキチェスコ・ミズノ
DF 2 チエン・アヤドバ
10 17 ミホ・カンノバーロ
23 ムロイ・シゲルッツィ
MF 25 MF 4 MF 4 ウエハラ・タカコッティ
10 吉澤ひとみ
2 23 17 25 アイウチ・リナメイダ
FW 20 アルバロ・ヤイコ
1 32 ヨネクラン・リョウコ
- 435 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:01
- <アーセナル>4−4−2
14 25 DF 23 ナオミ・“ザイゼン”・キャンベル
MF 4 タカコリック・トキーワ
7 9 7 フカーツ・エリス
4 11 9 シノハラ・リョウコール
DF DF 11 市井紗耶香
23 DF FW 14 ウエト・アーヤ
25 ヒローコ・オグー
GK
- 436 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:03
- 両チームが試合前にそれぞれ握手をかわしていく。
トキーワ、アーヤ、フカーツなどはこの試合にかける思いのためか
表情が険しい。
そして市井がひとみと握手をかわす。
「?」
ひとみは市井のその時の表情に戸惑ってしまった。
市井の表情はただ1人完全に余裕だったからだ。
この試合を落とすとアーセナルはほぼ終わりとなる。
だからこそ他の選手はみな鬼のような形相だ。
だが、市井の表情は涼やかだった。
『何で市井さんはそんな余裕なの?』
ひとみは市井の表情に何とも言いようのない不安を感じた。
- 437 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:03
- 「・・・・やべーな。」
インテル監督タケナカ・ナオトーニが表情を歪める。
試合が始まって15分たった。
見た目には一進一退の攻防が繰り広げられている。
さすがは欧州屈指の名門、インテルとアーセナルだ。
だが、実際は違った。
大事な局面局面ではアーセナルがボールを支配している。
インテルがボールをキープしても、それはただ持たされているだけ。
サイドをえぐってクロスを上げても、それは上げさせられただけ。
全てアーセナルの手の上で踊らされていた。
そしてそのアーセナルの中心となっているのはフリーロール市井紗耶香だった。
- 438 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:04
- 今日の試合は他の国でのアウェー。
つまり背番号10、元オランダ代表ハヅキ・リオナンプが遠征に帯同していない。
いつもはこれでチーム力が落ち、アウェーで星を落とすため
“ヨーロッパでは勝てないアーセナル”というありがたくないあだ名がつけられている。
カラサワは今日、リオナンプの代役としてナイジェリア代表の長身FWヒローコ・オグーを指名した。
普段は市井をトップの位置に上げリオナンプの代役を務めさせるのだが、
カラサワは今日はあえて市井を普段のセンターハーフで起用する事に決めた。
ここ最近の市井の活躍は凄まじいものがあるし、
今日は前回の対戦の雪辱を期すために気合いが入っている。
今日の市井ならばやってくれるとカラサワは期待している。
- 439 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:09
- その市井。
ビデオなどで研究し、今シーズンのインテルの弱点は左サイドにあると見抜いていた。
3−4−1−2システムのインテル。
各ポジションにワールドクラスが揃っているが、
左サイドハーフだけは正直インテルのレベルではない。
ここを突けばチャンスが生まれる。
そこで市井は右サイドのシノハラ・リョウコールを攻撃の中心として
ゲームを組み立てていく。
シノハラが見事なドリブルで右サイドを切り崩していく。
右が活性化すれば、アーセナルが誇る左サイド、
アーヤ、フカーツ、トキーワのフランス代表トリオも活性化する。
そしてトップに入った長身FWオグーがサイド攻撃の締めを行う。
今日のアーセナルは戦術と選手起用がバッチリはまっていた。
- 440 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:09
- 「イチイ!!」
シノハラ・リョウコールが右サイドを駆け上がっていく。
インテルDF陣もこれに対応しようとする。
市井はそれを囮にして、逆サイドのフカーツ・エリスに出した。
このパスを受けたエリス、タカコッティのチェックをかわして素早く中にクロス。
これをオグーがヘッドでペナルティエリア外、マイナスに戻す。
そこへ走り込むのはパスを出した市井。
シュートチャンスだ。
が、カンノバーロが身を挺してブロックに来る。
しかし市井もこれに気付いており、
オグーが落としたボールをチップキックでフワッとカンノバーロの裏に送る。
そこに左サイドから猛スピードで駆け込んだのはウエト・アーヤ。
走りこんだ勢いのまま右足を振り抜いた。
この強烈なシュートにさすがのミズノも触れなかった。
前半25分。
流れるような攻撃でアーセナルが先制点をあげた。
- 441 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:10
- 「よしっ!!」
パスを出した市井が思わずガッツポーズ。
普段はドリブルで相手を切り崩していく市井だが、
今日はパスも冴えている。
見事なゲームメイクだ。
「市井さん、やってくれるね。」
今のアーセナルの攻撃にひとみは顔をしかめる。
局面局面で負けているのはみな疲れが出ているからであろう。
ここまでリーグ戦、チャンピオンズリーグとフルに戦っている。
その疲れが少しずつ出始めている。
しかしひとみは怪我で休んでいた分、体調はいい。
つまり、自分が走り回ってインテルを救わなければならない。
「よっし、行くか。」
ひとみはパシッと頬を叩き、気合いを入れる。
- 442 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:10
- 「ヨシザワ!!分かってるな!!」
ベンチでタケナカが声を張り上げる。
その言葉に頷くひとみ。
今日の試合、インテルは3−4−1−2のシステムを採っている。
つまりトレクァルティスタを置くシステムだ。
このシステムだと相手がフラットな4−4−2システムの場合、
3−4−1−2の1、つまりトレクァルティスタが
ちょうどDFとMFの間に位置するためしばしばフリーになれるのだ。
タケナカは試合前、アーセナルに勝つにはお前の動き次第だとひとみに発破をかけた。
これにひとみは当然乗った。
この辺りは人を乗せるが上手いタケナカだった。
- 443 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:11
- そしてこのひとみの動きからインテルの同点弾が生まれた。
ひとみが絶妙のポジショニングでしばしばフリーになり、
前線に危険なパスを配給し始めた。
アーセナルももちろんひとみをフリーにさせまいと、
市井やトキーワ、ナオミたちがマークを受け渡していくが、
それをひとみは許さない。
激しく動き回ってマーカーをかく乱していく。
「ヤイコ!!」
「ヨシ!!」
それに加えてヤイコとひとみがしばしばポジションチェンジを
繰り返し、マークをずれさせていく。
ひとみとヤイコの間も大分連携が取れてきている。
- 444 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:12
- このひとみとヤイコの動きにアーセナルセンターバックは気を取られすぎていた。
右サイドでボールを持ったタカコッティがハーフウェーラインを少し過ぎた辺りから
一気にゴール前に出した。
アーセナルDFはまさかあんな位置から一気に来るとは思っていなかった。
ひとみかヤイコに預けると思い込んでいたため、ヨネクランに対しての集中が薄かった。
オフサイドをギリギリで抜け出したヨネクランが、このパスをダイレクトで左足であわせ、
ゴールネットを揺らした。
前半34分、インテル同点に追いつく。
「ようしっ!!」
ゴールを決めたヨネクランが拳を突き上げる。
そこへインテルイレブンが集まる。
「ヨネクラン、ナイスシュート。」
「ヒトミもヤイコもいい動きだったよ。」
「ナイスラン。」
タカコッティ、ヨネクランがひとみとヤイコと手を合わせる。
今のはひとみとヤイコの動きでほぼ決まった。
パスを出さなくても、ボールを持っていなくてもフィニッシュへと
つなげさせる。
ひとみも次の段階へとレベルを上げていた。
- 445 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:12
- 『ふーん、吉澤のやつ完全にトップ下の選手になったな。』
市井もひとみのポジショニングに感嘆していた。
ひとみがDFからトップ下に転向して1年半ほどになる。
ファンタジスタとしてはともかく、トップ下の選手としては今までポジショニングにも課題はあったが、
ここに来てだんだんと良くなってきているようだ。
そして市井もフリーロールを任されて1年半。
スタートが同じなだけにひとみの後塵を喫する訳にはいかない。
『次はあたしの番だ。見てろよ吉澤。』
市井がニヤリと笑う。
前半はこのままのスコアで終了した。
- 446 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:13
- 「どうだお前ら?もうへばったか?」
ハーフタイム。
ロッカールームで監督のタケナカがみなに挑発するように言い放つ。
「大丈夫です。」
「行けます。」
選手たちは口々に答える。
もちろんその表情、疲れ具合からみな無理している事はわかるのだが、
ここで勝点をとらなければチャンピオンズリーグ決勝トーナメント行きの
切符が取れなくなる。
もちろん最終戦に勝てば文句はないが、
それを当てにしては最後、大きな失望を生むことになる。
- 447 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:13
- 「よし、頼むぞ。」
タケナカは腕を組み、頷く。
そして視線をひとみに送る。
『ヨシザワ、てめー次第だぞ。』
『はい、分かってます。』
ひとみが頷く。
チームメートの負担を減らすためにはひとみの力が必要だ。
ひとみに走り回ってもらわねばインテルは負ける。
が、一方でタケナカはもう1つ考えを持っていた。
シーズンはまだ長い。
しかもインテルは序盤に一度沈没しかけた。
そんな船が果たしてゴールへと向かうべきなのか?
指揮官はいつでも最悪のことを考えておかねばならない。
- 448 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:14
- 「よし、前半はいい出来だ。」
アーセナルのロッカールーム。
カラサワが選手たちに声をかける。
確かに同点には追いつかれたものの、動きは悪くないし、
試合はこちらが完全に支配している。
後半もこの調子でいけば必ず勝てる。
「ただ厄介なのはヨシザワだ。ヨシザワのポジショニングに注意しろ。
お互い声を掛け合ってマークの受け渡しを素早く。
もちろんヤイコとのコンビもだ。」
カラサワが選手たちに指示を出す。
そしてスッと市井を見る。
『分かってるなイチイ。』
『はい。吉澤を抑えこんで見せます。』
市井が頷く。
ひとみが絶妙のポジショニングでアーセナルディフェンスをかく乱させる。
ならばフリーロールがそれを止めねばならない。
- 449 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:14
- 奇しくも両チームとも鍵は日本人選手が握る事となった。
吉澤ひとみ。
市井紗耶香。
果たしてどちらがチームを勝利に導くのか。
- 450 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:15
- 後半が開始された。
両チームとも主導権を握ろうと笛がなると同時に前線から積極的にプレスをしかける。
激しい競り合いの中、ボールが宙に浮いた。
「任せて!!」
「任せろ!!」
このボールに飛びつくひとみと市井。
「うわっ!!」
「うおっ?!」
2人とも空中で激しく交錯し、ピッチに叩きつけられた。
主審は市井のファウルをとった。
「悪い、吉澤。」
「いえ。」
市井が起き上がりながらひとみの肩をポンと叩く。
ひとみもそれに手を上げて応える。
ウオオオオオオオオオオ!!!!!
後半開始からキープレイヤー2人のガチンコ対決にスタジアムも大きく揺れる。
- 451 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:15
- この後も2人が激しくぶつかり合う。
ひとみは前半と同じく激しくDFとMFの間を動き回ってフリーになろうとする。
それについていくのは市井。
抜群の戦術眼とスピードでひとみに食らい付いていく。
「く、なんてパワーだ!!」
市井が全力で当たってもひとみは全て受け止める。
このフィジカルの強さはまさに脅威だ。
「これぐらいじゃないとイタリアでトップ下は張れないんすよ!!」
ひとみが市井を押し切り、前線を走るヨネクランにパスを送る。
- 452 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:16
- 「なっ?!」
しかし市井は素早く体勢を立て直し、足を伸ばしてパスをブロックした。
ボールはこぼれ、タッチラインを割っていった。
「市井さん・・・・・」
ひとみは驚いていた。
あの体勢からタックルに来るとは?
何と言うボディーバランスに身体のキレであろうか?
「これぐらいの強さとキレがないとプレミアではセンターハーフは張れないんでね。」
市井がニッと笑って言う。
「なるほど。でも負けませんから。」
ひとみもニッと笑い返す。
- 453 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:16
- ひとみが市井を、市井がひとみを抑えあうというこの展開。
となると試合の展開は他の選手次第となる。
その点では完全にインテルは不利だった。
シーズン序盤。
監督との確執からインテルのチーム状態は悪かった。
チームの雰囲気が悪い時は得てして疲れも溜まるものだ。
また、ターンオーバーも使っていなかったため疲れが出始めたインテル。
一方、カラサワ監督のもとチーム一丸となっているアーセナル。
ターンオーバーも上手く使っているため、同じような試合数をこなしているにも関わらず
アーセナルの選手たちの方が動きに余力があった。
- 454 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:18
- 中盤のプレスの掛け合いからボールがこぼれた。
これを拾ったのが市井。
すぐさま左に開いたアーヤに送る。
これを受けたアーヤ、いきなりトップスピードに入る。
彼女の高速ドリブルはあのヒカルドに匹敵するものだ。
ヒカルドの光速ドリブルがまるで弾丸が板を貫通するかのように突破するのに対し、
アーヤの高速ドリブルはウナギが手からすり抜けるように、
スルスルといとも簡単にマークを引き離していく。
「シゲルッツィ、頼むよ!!」
カンノバーロがアーヤに必死に身体を寄せ、くらいつく。
その後ろではシゲルッツィがカバーリングに入っている。
が、今日のアーヤは動きがキレていた。
類まれな身体能力を持つカンノバーロを振り切り、
老練なディフェンスが魅力のシゲルッツィをもいとも簡単に抜き去ってしまった。
そして中央にラストパス。
- 455 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:18
- これに中盤から飛び出して合わせたのが
ひとみのマークから離れて最前線に上がっていた市井紗耶香。
見事にミズノの守るインテルゴールに突き刺し、
アーセナルが再びリードを奪った。
「よっしゃ!!!!」
市井がグッと拳を握り締める。
今日のアーヤのキレならば絶対に抜ける。
そう確信して市井はひとみのマークから離れ、最前線に飛び出した。
そして見事にインテルDF陣の隙を突いた。
さすがはフリーロール。
- 456 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:19
- 「くそっ!!」
ひとみが表情を歪める。
気付いた時には市井は自分から離れ、駆け上がっていた。
その指示を出せなかった自分が腹立たしい。
「市井さん。これで勝ったと思わないで下さいよ。」
ひとみの闘志に火がついた。
- 457 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:20
- 再びリードされたインテルは同点に追いつこうと積極的に攻撃を仕掛ける。
ひとみとヤイコがボールをキープしてゲームを創り、
ヨネクランがゴール前に飛び出してシュートを狙う。
右サイドのタカコッティも積極的に上がってチャンスを演出する。
だが、これも全て止められてしまった。
アーセナル11番。
“フリーロール”市井紗耶香に。
その絶妙なポジショニングでここぞという所に必ずいるのだ。
ひとみのマークについていたと思えば、自陣ゴール前でディフェンスをする。
かと思えばサイドのタカコッティにもタックルを仕掛ける。
それは攻撃でも同じだ。
味方がいて欲しいと思うところ、敵が嫌だと思うところに必ず彼女がいるのだ。
まるでピッチ全体が市井の支配下にあるようだった。
インテル、アーセナルの両選手たちは市井が何人もいるように感じていた。
- 458 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:21
- 「タカコ!!」
ひとみがトレクァルティスタの位置から最前線に上がった。
そこへタカコッティがクロスを送る。
上手くポジショニングしたひとみがナオミに競り勝ち、
ヘッドで合わせる。
『ナオミに競り勝った?!!』
市井もこれには驚かされた。
イングランド代表で、屈強のセンターバックのナオミ・“ザイゼン”・キャンベル。
その高さと強さにはマンチェスター・ユナイテッドの稀代のストライカー、
オランダ代表マツ・ユキ・ヤスコローイでさえ中々競り勝てないというのに?
しかしこのひとみのヘッドはクロスバーを激しく叩いた。
このボールを拾ったトキーワ、素早く前線に。
アーセナルのカウンターアタック。
- 459 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:21
- トキーワからのパスを受けたアーヤが左サイドを素晴らしいスピードで駆け上がる。
が、インテルのDF陣も必死に戻っている。
アーヤの前に立ちふさがったのはミホ・カンノバーロ。
腰を落とし、半身になって構えアーヤの突破に備える。
さすがのアーヤもこの体勢のカンノバーロを抜くのは難しい。
スローダウンせざるを得ない。
「アーヤ!!」
一方、2トップを組むオグーも逆サイドを上がってきていた。
しかしそこにはキッチリとアヤドバがついているためアーヤもパスが出せない。
それにカンノバーロから一瞬でも目を離せば確実にボールをとられてしまう。
カンノバーロもアーヤに集中しきっている。
逆サイドからオグーが上がってくるのは分かっていたが、
それはアヤドバがついてくれると確信していた。
それに後ろにはシゲルッツィがカバーリングに控えてくれている。
だからこそアーヤだけに集中できているのだ。
後はここで時間を稼いで他の選手が戻ってくるのを待つだけだ。
- 460 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:22
- が、ここでカンノバーロの予期せぬ事が起こった。
「アーヤ!!!」
ピッチのど真ん中からアーセナルの選手がもの凄い勢いで走りこんでくる。
まさか?!!
こんな速いタイミングで上がってこれるはずがない。
「イチイ?!!」
カンノバーロはその選手を見て驚いた。
市井は確かひとみのマークについていたはずでは?
- 461 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:23
- これが命取りになった。
一瞬アーヤから目を離したカンノバーロ。
さらにはカバーリングのシゲルッツィも市井に引き付けられた。
それを見逃さずアーヤはカンノバーロをスピードで抜き去った。
そして左足の強烈なシュートでミズノを破った。
これでアーセナル、3−1とリードを2点に広げた。
- 462 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:23
- 「イチイ!!」
ゴールを決めたアーヤが真っ先に抱きついたのは市井。
市井の上がりがあったからこそカンノバーロを抜く事が出来たのだ。
「さすがね、サヤカ。」
トキーワも市井のもとに駆けつける。
彼女は見ていた。
ひとみのヘッドがクロスバーを叩いた瞬間、
市井がカウンターのために前線に走り込んでいったのを。
このボールの流れ、試合の流れを読む力こそが、フリーロールを務める条件なのだ。
市井もひとみがトップ下を掴みつつあるのと同じ様に、
フリーロールを手中にいれつつあった。
- 463 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:23
- 「くそっ!!」
ひとみが顔を歪め、はき捨てる。
この試合、いいように市井にやられている。
このままではこの試合に負ける。
そうなると後藤との約束が遠くなる。
「まだだ。まだ足りないよ、吉澤。」
市井はこの状況にまだ満足していなかった。
前の試合は3−0の完封負け。
さらにはひとみにハットトリックを許した。
まだ借りは全部返していない。
- 464 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:24
- ピィー!!!
主審の笛が鳴り、試合が再開された。
インテルは2点差をひっくり返すべく総攻撃を仕掛ける。
だがアーセナルもこの攻撃に耐える。
世界bPボランチの資格を持つトキーワ。
万能MFのフカーツ。
そしてフリーロール市井紗耶香の中盤が激しい守備を見せ、
DFのナオミも屈強なフィジカルでゴールを守る。
- 465 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:24
- 「よしっ!!」
中盤で市井がパスカットに成功した。
インテルは前がかりのため、後ろには人数が揃っていない。
「サヤカ!!」
すぐさま前線のアーヤ、オグー、そして右サイドのシノハラがそれぞれサイドへ走り込む。
この3人に残っていたシゲルッツィとアヤドバは引き付けられた。
「ここだっ!!」
それを見た市井はぽっかりと空いたど真ん中を駆け上がる。
ドフリーでピッチ中央を突き進む。
「行かせませんよ!!」
とそこへ1人のインテルの選手が市井の前に立ちふさがった。
吉澤ひとみだ。
- 466 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:25
- 市井紗耶香VS吉澤ひとみ。
1対1の真っ向勝負だ。
- 467 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:25
- 『・・・・市井さんのドリブルはシザースのみ。足の動きに惑わされるな。
ボールは動いていない。』
ひとみは元DFで、あの後藤真希をも完封したほどのディフェンス力を持つ。
そのひとみが腰を落とし、市井のドリブル突破に備える。
この体勢のひとみを抜くのは正直至難の業だ。
「行くぞ!!」
だが市井はかまわず真っ向から突っ込んでくる。
市井がボールをまたぐ。
その動きは余りに鋭かった。
『く、来る?!!』
市井がボールをまたいでいる最中、何度もひとみは“今来る!!”と思わされた。
しかし市井は仕掛けて来ない。
足と同時に上半身も鋭く振るが、軸も全くぶれない。
その鋭いシザースにひとみは完全に手玉に取られていた。
- 468 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:26
- 「くそっ!!」
こらえきれなくなったひとみは市井の足元に突っ込む。
だがこれを市井はあっさりとかわした。
そしてペナルティエリアやや外から弾丸ミドルをインテルゴールに突き刺した。
アーセナル、ついに4点目。
- 469 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:26
- ウオオオオオオオオ?!!!!
スタジアムが大きく揺れた。
それは今の市井のドリブルが余りに鋭いキレだったからだ。
ひとみも市井のドリブルがシザースから始まる事を読んでいた。
が、それでも止められなかった。
恐るべき市井のドリブルであった。
この失点でインテルの集中力は完全に切れた。
イージーなミスを連発しまくる。
これを市井はすかさず突く。
市井がリナメイダからボールを奪い、ドリブルで中央を突破する。
その市井にインテルDF陣が引き付けられたところで右サイドに振る。
そこにはシノハラが走りこんでおり、ダイレクトで中にクロス。
これをファーサイドにいたフカーツが頭で合わせてアーセナルは5点目を決めた。
- 470 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:26
- 「ちっ。」
タケナカが舌打ちする。
最悪の状況になってしまった。
ならば自分がとる采配はただ1つ。
この試合は諦め、次戦に備えさせる。
タケナカはメンバーを一気に3人入れ替えた。
交代するのはヤイコ、ヨネクラン、タカコッティ。
インテルは完全にこの試合を捨てた。
- 471 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:27
- 『くっそ、今日は市井さんにやられた!!』
3人がベンチに下がるのを見てひとみは悔しさで一杯だった。
自分が市井との争いに負けたせいでこんなに点差が開いてしまった。
ひとみは腰に手を当て、表情を歪ませる。
『どうだ吉澤。きっちりと借りは返させてもらったよ。』
威風堂々とピッチに立つ市井。
ロンドンの時と全く反対の状況だった。
- 472 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:27
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!
主審の笛が3度高らかに鳴った。
インテル1−5アーセナル
ホームで1−5という屈辱的なスコアでインテルは敗れた。
この敗戦に大きなショックを受けるインテルイレブン。
ここまでユーヴェを含め、連勝を重ねていてチーム状態が良かった。
そんな中で喫したこの大敗。
この大敗が後に大きな影を落とす事となる。
- 473 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:28
- 「サヤカ!!」
「イチイ!!」
アーセナルの選手たちはみな喜色満面だ。
きっちりとインテルに借りを返した。
しかも倍以上で。
その立役者となったのは間違いなく市井紗耶香であった。
アーセナルの選手たちはみな市井に抱き付く。
逆襲のフリーロール。
リベンジは見事に成功した。
- 474 名前:第10話 逆襲のフリーロール 投稿日:2004/07/14(水) 11:28
-
第10話 逆襲のフリーロール (終)
- 475 名前:ACM 投稿日:2004/07/14(水) 11:28
- 第10話 逆襲のフリーロール 終了いたしました。
オトコマエ対決でした。
EUROも終わり、次はアジアカップですね。
この話のように見事に優勝を飾って欲しいです。
- 476 名前:ACM 投稿日:2004/07/14(水) 11:31
- 次回予告
第11話 低迷
日本が産んだファンタジスタ、悪魔と天使。
その2人に欧州は容赦なく鋭い牙を向けてくる。
果たしてこの2人は試練を乗り越えられるのか?
そして生き残るのはどちらなのか?
悪魔と天使、その生命力が試される。
次回もよろしくお願いいたします。
- 477 名前:ACM 投稿日:2004/07/14(水) 11:32
- スレ隠し
市井紗耶香
“フリーロール”
得意プレー:シザース ポジショニング
ポジション:FR(フリーロール) SMF CMF(センターハーフ) WG SF
所属クラブ:FC東京 → ASモナコ(フランス) → アーセナル(イングランド)
・プレーの特徴
テクニック、スピード、そして何よりキレ。
三拍子揃った優秀なサイドアタッカー。特にボールをまたぐシザースは天下一品。
現在は中央にポジションをとり、世界でも数人しかいないフリーロールに。
ディフェンス力もついてきており、総合力に優れるMF。
課題はこちらも精神面。
すぐカッとなり、プレーに支障をきたす。
・作者のイメージ
これといってモデル選手はいなかったんですけど、
EUROを観てるとクリスチアーノ・ロナウドとダブって仕方ないです。
あのまたぎからのドリブル突破は市井が突破する時のイメージと凄く合います。
・本編での存在
主人公と並ぶオトコマエ。
キャラがかぶるのか、吉澤さんとぶつかるのはいつもこの人。
- 478 名前:ACM 投稿日:2004/07/14(水) 11:33
- 福田明日香
“偉大なるパイオニア”“心臓”“武闘派軍団のドン”“将軍”
得意プレー:ライフルのようなミドルシュート 豊富な運動量
ポジション:DMF CMF
所属クラブ:コンサドーレ札幌 → ユヴェントス(イタリア)
・プレーの特徴
何と言ってもその総合力。
テクニックはもちろん、身体は小さいがフィジカルも強く、スタミナも豊富、
そして何より勝利への執念がもの凄い。
試合終了の笛が鳴るまで足を止めないという、サッカー選手の鑑。
課題はクールなところ。
もちろん内面は熱いのだが長く付き合わないと分からない為、
しばしば冷たい人と誤解を受け、チームの雰囲気を落としてしまう。
・作者のイメージ
ドゥンガ+中田英寿ってとこですかね。
中盤に君臨するリーダー。それから『静かなる首領』かな?
・本編での存在
欧州に道を切り開いたパイオニア。
なおかつ今も先頭を走り続ける。
そして何と言っても武闘派軍団のドンとして君臨ですね。
- 479 名前:ACM 投稿日:2004/07/14(水) 11:34
- 松浦亜弥
“日本のプリンセス”“バルセロナの次代のエース”“セビージャの救世主”
得意プレー:全く同じ精度の両足
ポジション:FW SF WG OMF
所属クラブ:バルセロナB(スペイン) → バルセロナ(スペイン) → セビージャ(スペイン)
・プレーの特徴
ゴールもチャンスメイクも出来る万能型FW。
特に右足も左足も全く同じように蹴ることが出来る能力は特筆ものだ。
テクニック、スピードは充分に欧州で通用するレベル。
課題はこちらも精神面。
普段は物怖じしない性格だが、ピッチに立つと途端に優等生になる。
その辺りが克服できるかどうか。
・作者のイメージ
柳沢敦ですかね。ゴールもチャンスメイクも出来るってとこで。
精神面も何となくかぶるかな?
・本編での存在
第二部で満を持して登場したにも関わらず、余りオリンピックで活躍できず。
ようやく第三部で光が当たりだしたかな?と思っています。
これからの活躍に期待です。
- 480 名前:ACM 投稿日:2004/07/14(水) 11:35
- 藤本美貴
“ミキティ”“武闘派軍団の核弾頭”
得意プレー:左サイドでのプレー ブルドーザードリブル
ポジション:SMF SB WG SF FW (左サイドならどこでも)
所属クラブ:シャルケ04(ドイツ)
・プレーの特徴
左サイドならばどこでもこなせるというのが何と言っても強み。
それを可能にするテクニック、スピード、フィジカルを持っている。
何よりも彼女は熱い気持ちが持ち味。
武闘派軍団の核弾頭は伊達じゃない。
課題はまたまた精神面。ちょっと熱くなりすぎるトコも。
それから右足の精度が悪いとこです。
・作者のイメージ
こちらもこれといっていないですね。
あえて言うならチェコのヤンクロフスキ。
それかキリ・ゴンザレスですかね。
・本編での存在
こちらも第二部で満を持して登場。
武闘派軍団の核弾頭としてこれからも盛り上げてくれるでしょう。
- 481 名前:ACM 投稿日:2004/07/14(水) 11:36
- 以上で終わります。
ではまた次回まで失礼いたします。
- 482 名前:ピクシー 投稿日:2004/07/15(木) 03:02
- 更新お疲れ様です。
”ドン”の「中田+ドゥンガ」・・・なんとなくわかる気が。
中田英寿がいるいないで、何となくチームの雰囲気が変わる気がしますし。
アジア杯どうなるでしょうねぇ?
先のセルビア・モンテネグロ戦も、ちょっと不安が残る内容だけに・・・
遠藤が活躍したのは嬉しいですけど(←ワールドユースから推してます)
次回も楽しみに待ってます。
- 483 名前:みっくす 投稿日:2004/07/15(木) 04:01
- 更新おつかれさまです。
いちーちゃん完全復活ですね。
アジア杯はぜひ優勝してもらいたいものです。
今後のためにも。
次回も楽しみにしてます。
- 484 名前:ACM 投稿日:2004/07/22(木) 01:53
- 482>ピクシー様
レスありがとうございます。
そうです、ドンはまさしくそのイメージなんです。
その存在感は群を抜いてますし。
アジアカップ、日本の10番の左足アウトサイドにびびりました。
さすが“ピクシー”が認める選手だけありますね。
483>みっくす様
レスありがとうございます。
いちーちゃん完全復活です。オトコマエとして頑張ってもらわねばならないので。
アジアカップはやはり優勝でしょう。
とにかくいい試合を経験してチーム、個人ともレベルアップして欲しいです。
何てったって目標はドイツですから。
では本日の更新です。
- 485 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:54
- アーセナルとの戦いを終えたインテル。
1−5という思わぬ大敗にみなショックは隠せなかった。
だがひとみだけは(珍しく!)次の試合に頭を切り替えていた。
それはとうとうこのイタリアの舞台で彼女と対戦するからだ。
日本人対決3連戦のラストを飾るに相応しい相手。
- 486 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:55
- セリエA第12節
インテルミラノVSペルージャ
吉澤ひとみVS柴田あゆみ
永遠のライバルとの直接対決。
- 487 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:55
- まだ記憶に新しいアテネオリンピック。
その決勝戦、ひとみと柴田が産んだファンタジーに
世界のサッカーファンは幻想の世界へと誘われた。
その2人がついにイタリアで対決するという事で、
日本はもちろんのこと、イタリアでも注目のカードとなっていた。
- 488 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:56
- 「リナ!!もっとプレス速く!!」
ひとみの声が練習場に響く。
ペルージャとの試合が近付くにつれてひとみの動きが鋭くなってきた。
モチベーションもこれ以上なく高い。
ひとみはリナメイダのプレスをかわして豪快にミドルを放つ。
が、これは守るミズノがきっちり弾いた。
「さっすがミズノ。」
ひとみがペロッと舌を出す。
身体のキレを感じるため表情は明るい。
- 489 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:56
- 「ほーう、ヨシザワの奴えらい気合いじゃねーか。」
タケナカがひとみの躍動感溢れる姿に思わず感嘆の声を漏らす。
アーセナルとの一戦で大敗を喫したインテル。
他の選手たちは相当ショックを受けた。
だがひとみのこの明るい雰囲気に他の選手たちも段々と乗せられてきた。
この調子ならばすぐにチームを立て直し、リーグ戦、チャンピオンズリーグに挑める。
「これはペルージャ、いや、アユミ・シバタ様々だな。」
タケナカ自身もペルージャ戦を楽しみにしていた。
- 490 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:57
- 試合前日、ミラノへ向かうペルージャの遠征メンバーが発表された。
その中には背番号10、柴田あゆみの名前が含まれていた。
「シバタを入れてきたか。ならば次節、日本人対決は確実だな。」
イタリアの記者たちはそう予想した。
実は柴田は第7節ホームでのウディネーゼ戦以来、ベンチ入りすら出来ていなかった。
この試合でペルージャ監督は柴田をばっさり切り捨てたのだ。
確かに柴田がいると、攻撃面ではかなりの好影響を与える。
が、それ以上に守備面での不安が勝った。
いくら得点を奪おうが、それ以上失点してはどうにもならない。
- 491 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:57
- 柴田が出場していた第7節までで、ペルージャは9得点奪っている。
そのほとんどが柴田のタクトによって奪ったものだ。
が、一方で失点は15失点。
これも柴田がボールを奪われたのがきっかけとなったものが多い。
つまり柴田がいれば点が取れるが、失いもするということだ。
果たしてペルージャ監督は点を取りにいくのか、
それとも守りにいくのか?
ここはイタリア。
そしてペルージャは中堅クラブ。
セリエA残留に向けて確実に勝点を稼ぎたい。
ならば答えは決まっていた。
よって第7節以降、柴田はベンチ入りからも外れた。
- 492 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:58
- ところがこれに今度は他の選手たちが戸惑った。
今まで柴田を中心にチームは機能していたが、
彼女が欠けたことで攻撃にリズムがなくなってしまったのだ。
そして何より。
ペルージャの選手たちもインテルと同じく夢を見てしまったのだ。
ファンタジスタが描くファンタジーに。
- 493 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:59
- チームは方向性を迷ってしまった。
その結果、現在第11節を終えて7分4敗。
いまだに勝利がない。
順位も17位と最悪だ。
ペルージャサポーター、グリフォーネたちも柴田の予想外の出来に失望を露わにする。
特に昨シーズン、ライバルのひとみがエンポリを見事にセリエAに残留させたとあって、
その落胆はより一層大きかった。
- 494 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 01:59
- 「今節はライバルヨシザワとの対決だ。きっと爆発してくれるだろう。」
だが、一方でこの試合に期待するグリフォーネが多いことも確かだ。
ライバルとの直接対決。
きっとこの試合で柴田は爆発してくれるとグリフォーネたちは期待していた。
だが、その願いもむなしく消え去った。
- 495 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:00
- 「・・・・・・何でそんなとこにいるんですか・・・・・・・・」
「・・・・・・何であたしはここに・・・・・・・」
1人はピッチから見上げ、もう1人はスタンドから見下ろす。
2人の間には決定的な距離があった。
強豪インテルを恐れたペルージャ監督は日本人対決よりも
チーム状態を最優先させた。
永遠のライバルとのイタリアでの直接対決は、幻と消えた。
- 496 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:00
- 「・・・・・せっかく日本からはるばる来たのに・・・・・」
スタンドからはこの日を楽しみにイタリアに来た日本人の溜息が漏れる。
それは無論プレス席でもだ。
この試合のために50人近くの報道陣が詰め掛けたが、
それも完全に肩透かしに終わった。
試合の方も見るべきものはなかった。
マエストロを欠き、貝のようにゴール前に閉じこもるペルージャ。
ヤイコ、シゲルッツィ、カンノバーロ、ミズノを
ターンオーバーで欠いたインテル。
そして何より。
「・・・・・つまんない。」
急激にモチベーションが下がったひとみ。
この試合は、最高の試合を期待した者にとって最高の失望を感じた試合になった。
- 497 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:01
- 試合は地力に勝るインテルが2−0で勝利した。
ゴールは2点ともヨネクラン。
しかしチームとして奪った得点ではなく、
ヨネクランの個人の力によるものであった。
「ヨシザワ!!!何だ今日の動きは?!!やる気のねー奴は帰れ!!!」
試合後、タケナカの雷がひとみに落ちた。
それぐらい今日のひとみの動きは悪かった。
全くやる気が感じられず、ただのボールウォッチャーに成り下がっていた。
- 498 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:01
- この試合、誰よりもひとみが楽しみにしていた。
が、それが完全に肩透かしを食らったのだ。
それで一気に熱が冷めてしまったのだ。
思えば今季は始まりからずっとこうだ。
序盤はマーナブとの確執。
続いて怪我による戦線離脱。
これによりミラノダービーもユッキエとの対決も流してしまった。
市井には強烈なカウンターパンチを食らい、
福田には怪我をさせてしまった。
そして今日、柴田との対決も流れてしまった。
ライバルと毎週、身を切るような熱い戦いがしたい。
そう思ってひとみはインテルを選んだ。
だがここまでそれはほとんど実現できていなかった。
ひとみは今、言いようのないもどかしさで一杯だった。
- 499 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:02
- 柴田は柴田で、この大事な試合にピッチに立てない自分が情けなくてたまらなかった。
ライバルに追いつくためにイタリアへ移籍した。
が、ライバルに追いつくどころか、試合にすら出れない。
なおかつライバルを失望させてしまった。
自分が出ないせいで動きの悪いライバルの姿を見るのは辛かった。
オリンピック決勝戦。
2人は奇跡を起こし、ブラジルを打ち破った。
もしかするとその奇跡の代償を今、払っているのかもしれなかった。
- 500 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:02
- 翌日、ペルージャの名物会長のコメントが新聞をにぎわせた。
『うちに指揮者はいらない。戦士が必要なのだ。
軟弱な指揮者は今すぐ日本に帰ってもらわねば。』
日本でもこのニュースが大々的に流れたのは言うまでもない。
- 501 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:03
- 続いて第13節。
インテルはアウェーでボローニャと対戦した。
タケナカはこの試合、3日後に行われるチャンピオンズリーグ最終戦のために
ヨネクランとタカコッティ、リナメイダ、アヤドバを欠場させた。
が、その分前節休んだヤイコが大活躍。
1ゴール1アシストで、2−0でボローニャに完勝した。
ひとみはこの試合フル出場を果たしたが、動きは何とか及第点といったところか。
ひとみを中心としたインテルを創りたいタケナカにとっては
不満以外の何物でもないが。
- 502 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:04
- 一方、柴田のペルージャはホームでサンプドリアと対戦。
柴田は当然ベンチ入りすらせず。
完全に監督の構想から外れてしまった。
このままだと1年間、ずっとスタンドから試合を観戦する事となる。
それは柴田にとって大きな痛手となる。
この状況を打開するには他のクラブに移籍するのが一番だが、
イタリアでのこのプレーではどのクラブも手を挙げないであろう。
柴田に残された選択肢は、日本に帰ることだけになってしまった。
イタリアに舞い降りた天使は、今ボロボロに傷ついていた。
- 503 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:04
- 第13節から3日後。
ついにこの試合を迎えた。
チャンピオンズリーググループリーグ最終戦。
ディナモ・キエフVSインテルミラノ
- 504 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:05
- この試合は後に吉澤ひとみが、
『人生の中で2番目に最悪な試合だった。』
と語る試合であった。
- 505 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:05
- ここまでグループBの順位は、
首位はロコモティフ・モスクワ。
2勝2分1敗の勝点8だ。
2位にはアーセナルがつけている。
2勝1分2敗の勝点7だ。
そして3位にインテルミラノ。
こちらも2勝1分2敗の勝点7だが、得失点差でアーセナルの遅れをとっている。
最下位にはディナモ・キエフ。
2勝3敗の勝点6という成績だ。
そして最終節の対戦カードは以下の通り。
アーセナルVSロコモティフ・モスクワ
ディナモ・キエフVSインテルミラノ
結果次第では4チーム全てに決勝トーナメント出場の可能性がある。
それだけに最終節、熱い戦いが繰り広げられる。
- 506 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:06
- ロンドンのハイベリースタジアム。
市井紗耶香がピッチに君臨する。
この試合、アーセナルは絶対に勝たねばならない。
負けるか引き分けると、インテルVSディナモ・キエフの試合で勝敗がついた場合、
アーセナルは予選落ちとなる。
しかし、この試合に勝てば文句なしの決勝トーナメント進出だ。
さらにインテルが勝てば、アーセナル、インテルのワンツーフィニッシュとなる。
「決勝トーナメントでまた勝負だ吉澤。」
市井がひとみにメッセージを送る。
- 507 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:07
- そしてひとみはウクライナの地に降り立っていた。
決戦の舞台はオリンピスキ・スタジアム。
10万人入るという巨大なスタジアムだ。
スタンドは超満員。
観客はほとんどみなディナモ・キエフのサポーターだ。
ディナモ・キエフもグループリーグ突破の可能性があるため、
この試合に対する思いは熱い。
- 508 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:07
- 「この試合、うちは勝つしかねーぞ。
勝たねば終わる。これほど単純なことはねー。
お前らもその方がわかり易くていいだろ?」
ロッカールームでタケナカがニヤッと笑う。
選手たちもそれに釣られてニヤッと笑う。
この際得失点差とか、ロンドンの試合の結果など関係ない。
自分たちの力で勝利をもぎ取り、決勝トーナメントの切符を手に入れる。
それだけだ。
- 509 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:08
- 「よっし、気合い入れていこう!!」
ひとみがチームメートにゲキを飛ばす。
3日前は平凡なパフォーマンスに終わったひとみだが、
チャンピオンズリーグになると話は別だ。
この試合に勝てば後藤との約束の実現に、また一歩近付く事となる。
それだけにこれ以上なく気合いが入っていた。
ちなみに後藤真希のレアル・マドリードはこの前日に試合を行っており、
ポルトガルの雄、FCポルトと1−1の引き分け。
このFCポルトとともに見事に決勝トーナメント出場を決めている。
それがひとみのモチベーションをさらに高まらせる。
そして運命の試合が開始された。
- 510 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:08
- インテルはこの日のためにタケナカがリーグ戦でターンオーバーをしいたため、
みなコンディションは良好だった。
もちろんベストメンバーが揃っている。
システムもいつも通りの3−4−1−2だ。
対するディナモ・キエフは4−4−2の
オーソドックスなシステムでこの試合に臨む。
- 511 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:09
- まず先制攻撃はアウェーのインテル。
試合開始早々ひとみのパスからタカコッティが右サイドを抜け出した。
タカコッティが“スピード”の名に相応しい突破で右サイドをえぐる。
ゴール前には怪物ヨネクランとパスを出したひとみという、
インテルが誇るツインタワーが飛び込んでいる。
天才ヤイコはその周りでこぼれ球に備えている。
タカコッティはゴール前に鋭いクロスを上げた。
このクロスはヨネクランの頭に。
ヨネクランはディナモ・キエフDFと競り合いながらも豪快なヘッドを叩き込む。
が、これはGKがビッグセーブ。
惜しくも得点はならなかった。
- 512 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:09
- 「ドンマイ!!ナイスシュート!!」
タカコッティがヨネクランにグッと親指を立てる。
ヨネクランもナイスクロスとタカコッティに手を上げる。
得点こそ奪えなかったものの、いい攻撃だった。
「よし、今日はいける。」
ひとみも手応えを感じる。
タカコッティへいいパスを出せたし、
タカコッティもヨネクランも素晴らしいプレーだ。
この調子ならば今日は勝てる。
ひとみはそう確信した。
- 513 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:10
- ひとみの確信どおり、その後もインテルは分厚い攻撃を仕掛ける。
右サイドはタカコッティが、左サイドはヤイコがそれぞれチャンスを創る。
そして中にはヨネクランとひとみが飛び込む。
この重厚感のある攻撃にディナモ・キエフは自陣に貼り付けられる。
だがディナモ・キエフも決勝トーナメント出場の可能性があるため、
必死にゴールを守る。
前半はインテルが押し気味にすすめるものの、
無得点のまま終了した。
- 514 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:11
- 「よしよしよし。得点は決まらなかったがいい動きだ。
時間はまだたっぷりある。焦る必要はない。
前半と同じ戦い方で後半も臨め。」
タケナカが選手たちに指示を送る。
前半、得点こそ奪えなかったが選手たちの動きは申し分なかった。
このペースならば必ず得点は奪える。
だが、絶対に勝たねばならないこの試合では、
前半に得点が入らなかったのは意外にプレシャーになるものだ。
そしてそれがいいペースを乱してしまう。
それを見越したタケナカ、余裕の表情で選手たちに指示を送る。
この表情に選手たちも自分たちの前半の動きに自信を深める。
後半は必ず決勝トーナメントへつながるゴールを奪ってみせる。
- 515 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:12
- タケナカの指示通り、後半戦も落ち着いて前半のように戦うインテル。
タカコッティとヤイコがサイドからチャンスを創り、
ひとみとヨネクランが中央を突破する。
センターハーフのリナメイダもその豊富な運動量で攻守に絡む。
そして後半21分。
ついにその時がきた。
- 516 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:12
- 「リナ!!」
ひとみが手を挙げ、リナメイダにパスを要求する。
その後ろからディナモ・キエフMFが当たりに来る。
その時、ひとみの視界の右端に誰かが前線に上がったのが見えた。
「ここだ!!」
ひとみはリナメイダからのパスをトラップするのではなく、
身体を反転してさらに前に押し出した。
リナメイダのパスを、勢いを殺すことなくさらに加速させた。
「あ?!!」
ひとみの意表を突くパスにディナモDF陣は全く動けなかった。
- 517 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:13
- 『ホンマに来たわ。』
このパスに反応していたのはヤイコ。
ひとみの視界に入るような動きで前線に飛び出したが、
まさかこんな凄いパスが来るとは思ってもみなかった。
『ていうか、もっと優しいパスを出してーな。』
ヤイコはこの鋭いパスを何とかトラップした。
恐らくヤイコ以外だと上手くトラップできなかったであろう。
まさに受け手に資格を要する“悪魔のパス”だ。
ヤイコはGKとの1対1を冷静に決めた。
後半21分。
とうとうインテルが先制点を上げる。
- 518 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:13
- 「よしっ!!これで勝った!!」
ひとみは勝利を確信する。
今日のインテルの調子ならば絶対に負けない。
ひとみが思うように、今日のインテルの出来だと1点あれば充分だった。
決勝トーナメント出場のため、奇跡の逆転を狙うディナモ・キエフの総攻撃を
インテルは力強く跳ね返す。
そして残りはロスタイムとなった。
- 519 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:14
- ディナモ・キエフはせめてもの意地とばかりに同点ゴールを狙う。
インテルはそれをきっちりと跳ね返す。
「でやっ!!」
中盤でリナメイダの激しいタックルが決まった。
ボールがこぼれる。
「オッケー!!」
これにいち早く反応したのはひとみだった。
- 520 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:14
- 『ごっちん、いよいよ決勝トーナメントだよ。』
ひとみは親友に思いを馳せる。
- 521 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:15
-
それが命取りだった。
- 522 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:16
- 「?!!」
ディナモ・キエフのMFがこのこぼれ球に食らいつく。
これに気付くのが遅れたひとみ、慌ててDFのアヤドバにバックパス。
「あっ?!!」
このパスは慌てたため、ミスキックだった。
さらにアヤドバはこのパスに反応できなかった。
まさか後ろに戻すとは思わなかったからだ。
安全のために前に大きくクリアするとばかり思い込んでいた。
ひとみが出したボールはゴール前にポツンといたディナモ・キエフFWに。
- 523 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:16
- 「なっ?!!」
慌ててGKミズノが飛び出すが、どうしようもなかった。
ディナモ・キエフFWはきっちりとゴール隅へと流し込んだ。
後半ロスタイム。
インテル、まさかの失点。
- 524 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:16
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
ここで主審の笛が高らかに鳴り響いた。
インテル、ロスタイムの痛恨の失点によりまさかの引き分け。
「あ・・・・・・・」
ひとみは呆然となり、ピッチに膝をつく。
手が、身体がガタガタと震える。
何てミスを・・・・・・・・
- 525 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:17
- 「アーセナルは?!!」
誰かの声がひとみの耳に入った。
そう。
グループリーグのもう一試合、
アーセナルVSロコモティフ・モスクワの結果で全てが決まる。
インテルが決勝トーナメントに進むには、
1、アーセナルが敗れる。
2、アーセナルが5点差で勝利する。
このどちらかしかない。
選手たちは不安げな表情で、コーチから報告を受けているタケナカを見る。
- 526 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:17
- 次の瞬間、タケナカは首を横に振った。
アーセナル2−0ロコモティフ・モスクワ
「うっ・・・・・」
その瞬間ひとみは両手で顔を覆い、泣き崩れた。
インテル、まさかのグループリーグ予選落ち。
この結末にインテルの選手たちは呆然とピッチに立ち尽くしていた。
- 527 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:19
- 「ヒトミ・・・・・」
ヤイコがうずくまっているひとみに声をかける。
それに気付いた他の選手たちもひとみのもとに集まる。
ひとみは人目をはばからず泣きじゃくっていた。
「ヒトミ。」
ヨネクランがひとみを起こし、抱きかかえる。
誰もこんな姿のひとみを責める事は出来なかった。
「ヨシ、また次頑張ろう。」
キャプテンのタカコッティがひとみの頭をポンと叩く。
他のチームメートもひとみを気遣う。
『ごめんみんな。・・・・・・ごめんごっちん・・・・』
- 528 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:19
-
悪魔はウクライナの地で消え去った。
- 529 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:20
- 日本が誇る悪魔と天使は欧州という戦場で傷つき、そして倒れた。
2人とも今、どん底にいた。
この状況から立ち直り、また大きく羽ばたくのは一体どちらなのか?
悪魔と天使、2人の生命力が試される。
- 530 名前:第11話 低迷 投稿日:2004/07/22(木) 02:20
-
第11話 低迷 (終)
- 531 名前:ACM 投稿日:2004/07/22(木) 02:22
- 第11話 低迷 終了いたしました。
ちょっと今回は短いお話でした。
ほんとはこの続きもあったんですけど、
それは内容的に第12話に含めさせていただきます。
- 532 名前:ACM 投稿日:2004/07/22(木) 02:24
- 次回予告
第12話 差し伸べる愛、見守る愛。
自分の可愛い妹が深く傷ついてしまった。
妹の窮地に彼女たちの“姉”が立ち上がる。
しかしその愛情は十人十色。
手を差し伸べる愛もあれば、見守る愛もある。
果たして姉たちは妹たちにどうしてやるのか?
・・・・・何か題名と予告を見ているとサッカー小説に思えないですね。
では次回もよろしくお願いいたします。
- 533 名前:ACM 投稿日:2004/07/22(木) 02:30
- スレ隠しですが、登場人物紹介はしばらくお休みさせていただきます。
それはこの小説内ではもうじきあの時期になるからです。
そう、冬の移籍市場です。
今回の移籍市場ではビッグサプライズが(多分)あると思います。
残るメンバーの所属クラブがどこになるのか分かってから紹介したいと思います。
それまでしばしお待ち下さい。
では次回更新まで失礼いたします。
- 534 名前:ピクシー 投稿日:2004/07/22(木) 04:02
- 更新お疲れ様です。
柴田には厳しい状況ですが、乗り越えて欲しいですね。
何かきっかけがあれば・・・
アジアカップ、なんとか勝ちましたね。
10番の左足は確かに凄かった・・・けどそれ以外が。
このままじゃ、かなり危ない感じがするのは私だけ?(アジア杯も次回のオマーン戦も)
次回の更新も楽しみに待ってます。
- 535 名前:みっくす 投稿日:2004/07/22(木) 07:26
- 更新おつかれさまです。
おっ、なんか次回はなにか一発ありそう?
次回も楽しみにしてます。
- 536 名前:ACM 投稿日:2004/07/24(土) 01:30
- 534>ピクシー様
レスありがとうございます。
きっかけですね。やはりきっかけが大事です。今回の話にご注目下さい。
アジアカップ、確かにやばいですね。
でも韓国も中国も初戦は引き分けてます。EUROもそうでしたが、
もう強豪国があたり前に勝てる時代では無くなったのかもしれませんね。
535>みっくす様
レスありがとうございます。
一発ですか。果たしてどんな一発なのでしょうね。
とりあえず今回の話を読んでください。
きっとビッグサプライズがあると思います。
・・・・・・・多分ですが。
では本日の更新といきます。
- 537 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:32
- 後藤真希は練習を終えた後、家でずっと携帯電話を握り締めていた。
後藤のレアル・マドリードは一昨日FCポルトと引き分けたが、
余裕でチャンピオンズリーグ予選リーグ突破を決めた。
これでいよいよひとみと戦えると思っていたが、まさかのインテル予選落ち。
その試合が終わってからずっとひとみのことが気になっていた。
ひとみの事だからきっと約束を守れなかったと落ち込んでいるはずだ。
さすがに昨日は試合が終わったばかりだし、
ウクライナからイタリアに戻るだろうから電話は出来ない。
しかし今日ならばイタリアにいるし、電話しても大丈夫だろうと思うのだがその気持ちに反して後藤は通話ボタンを押せなかった。
電話して何を言えばいい?
後藤には分からなかった。
が、このまま放ってはおけない。
でもどうしていいか分からない。
後藤は歯がゆい気持ちで一杯だった。
- 538 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:33
- と、その時、携帯が鳴った。
ディスプレイに表示されたのは
『よしこ』
後藤は素早く通話ボタンを押した。
「もしもしよしこ?!!」
『・・・・・・・ごめん、約束守れなかった・・・・・・』
ひとみの消え入りそうな声が聞こえてくる。
「よしこー・・・・・・・」
『ごめん、ごめんねごっちん・・・・・・』
「・・・・・・・・・」
後藤はかける言葉が見つからなかった。
しばらくの沈黙。
『ごっちん、次も頑張ってね。じゃあ・・・・』
「ちょ、よし・・・」
そう言って電話は切れた。
「うっ、うっ。」
一番の親友、それなのに自分は慰めることすら出来ない。
後藤はそんな自分が不甲斐なくて泣いた。
- 539 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:34
- 一方、ひとみも電話を切った後泣いた。
約束を破った申し訳なさはもちろん、
今の電話できっと後藤は自分を責めて泣いているだろう。
そうさせる自分が情けなくて仕方がない。
あの試合、これで行けると思った。
それがあのバックパスにつながった。
自分の気の緩みのせいで予選落ちしたようなものだ。
後藤はもちろん、チームメートにも申し訳なかった。
ひとみは自分をこれ以上なく責めていた。
- 540 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:35
- チャンピオンズリーグ敗退から3日後、
第14節対ラツィオ戦がアウェーで行われた。
強豪ラツィオ相手とはいえ、この日のインテルは
チャンピオンズリーグ敗退のショックが尾を引き、
みな動きが悪かった。
特にひとみがひどかった。
余りのひどさにタケナカは前半だけでひとみをベンチに下がらせた。
タケナカとしてはサッカーの事を吹っ切るにはサッカーしかないと考え、
あえてこの試合にひとみを出したが、それも実らなかった。
チームもラツィオに2−1で敗れ、
インテルは8勝4分2敗、勝点28の4位で2004年を終えることとなった。
- 541 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:36
- この14節でセリエAはウインターブレイクに入るが、
14節を終えて首位に立ったのはイタリアのプリンセス、
ナカマチェスコ・ユッキエ率いるASローマであった。
何といっても今シーズンはユッキエが絶好調だ。
そのプレーには風格すら感じられ、イタリアのみならず世界を代表するプレイヤーになった印象を受ける。
このユッキエに引っ張られるようにナカジマル・ミユキトゥータら既存の選手や、
ディ・カリーナといった新加入の選手も活躍し、
ここまで無敗の11勝3分の勝点36で堂々の首位だ。
- 542 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:36
- これを追うのがACミランとユヴェントス。
2位のACミランはここまで10勝3分1敗の勝点33の2位。
司令塔のアユウド、ヒロスエ・リョウ・コスタが好調をキープしており、
前線のスズカゼ・マヨザーギとイイジマー・ナオチェンコも順調に得点を重ねている。
中盤はベテランのマユコ・ハカセがその存在感をアピールしており、
DFラインもマキチェスコ・エスミ、タマオ・ナカムラーニが健在である。
13節まで無敗できていたが14節対ウディネーゼ戦でまさかの敗戦。
首位ローマに遅れをとった。
が、年明け初戦はそのローマと対戦。
ここで勝って首位に並びたいところだ。
- 543 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:37
- ユヴェントスは9勝3分2敗の勝点30の3位で2004年を終えた。
序盤は無敗できていたが、インテル戦で敗れ失速。
続くラツィオ戦にも敗れ、さらに14節で下位のレッチェに引き分けた。
このユーヴェの失速の原因は福田の負傷欠場であった。
インテル戦で負傷し次節のラツィオ戦から欠場したのだが、
ユーヴェは全く別のチームに変わってしまった。
あれだけのメンバーを揃えたユーヴェが格下相手に手こずる様は、
いかに福田明日香の存在が大きいかを示す結果となった。
が、福田も順調に回復し、年明け初戦のペルージャ戦には復帰できるようだ。
これからの巻き返しを狙う。
- 544 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:37
- スペインでは第16節まで進んでいた。
ここまで首位は後藤真希率いるレアル・マドリード。
11勝3分2敗で首位を独走している。
この11勝の中にはあの宿敵バルセロナとの試合も含まれていた。
- 545 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:38
- リーガエスパニョーラ第15節。
伝統のエル・クラシコこと、バルセロナVSレアル・マドリード。
バルセロナのホーム、カンプノウでこの試合が行われた。
ここ20年、レアルはカンプノウでバルサ相手に勝利を収めていない。
が、それがこの試合でとうとう破られる事となった。
ここまで12位と極度の不振に陥っていたバルセロナ。
そんなバルセロナに首位を走るレアルを止める事は出来なかった。
前半34分、左サイドのジュディマリ・ユッキーから
右サイドに開いたシバサキに大きなサイドチェンジ。
フリーでこれを受けたシバサキは今度は反対の左サイドに開いたユウーコへ
再びサイドチェンジ。
ユウーコはこれをワンタッチで落とし、
これを走り込んで来たジュディマリ・ユッキーが豪快に決めた。
ピッチを余す所なく使ったダイナミックな攻撃にバルセロナはどうする事も出来なかった。
- 546 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:39
- そして後半17分、左サイドを個人技で突破したヒカルドからのクロスに
後藤真希が合わせて止めを刺した。
バルセロナは後半39分にコイズミートがコーナーキックを頭で合わせて
1点返すので精一杯だった。
2−1。
とうとうレアルがカンプノウでバルセロナに勝利を挙げた。
この敗戦にバルサは大きなショックを受けた。
ここまで調子の上がらないバルセロナにとってカンプノウでの無敗記録は心の拠り所であったが、
これをも失う事となった。
- 547 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:39
- 現在バルセロナは6勝5分5敗の12位。
レアルの最大のライバルが思わぬ苦戦。
原因はズバリ、得点力不足。
今シーズン、FWのコイズミート、ナミオラが揃って不調。
コヤナギーニョが1人異次元の動きを見せるものの、
それ以外は全く振るわなかった。
地元メディアでは監督のタケノウチ・ユタカールトの解任を求めるほどだ。
- 548 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:40
- この現状に心を痛めているのはセビージャの松浦亜弥。
確かに自分は今セビージャの一員であるが、やはりバルサの事は気にかかる。
その松浦のセビージャは現在7勝6分3敗で7位。
昨シーズン17位でギリギリ残留を決めたチームがこの大躍進。
まさにこれは救世主松浦亜弥の力であった。
松浦はここまで何と17得点。
2位のヒカルドの11得点を大きく引き離している。
- 549 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:40
- この活躍にバルセロニスタは苦い顔だ。
・・・・・もし今シーズン、マツウラがバルサにいてくれてたならば。
誰もがそう思っていた。
その思いが冬の移籍市場でウルトラEを生み出す事となる。
- 550 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:40
- 続いてイングランドプレミアリーグ。
首位は昨シーズンの3冠王者、マンチェスター・ユナイテッド。
ここまで14勝1分3敗という成績。
チームの顔、ルイビット・シバサキはレアルに移籍したが、
名将サトミックス・ファーガソンのもと今シーズンも高いレベルのサッカーを見せる。
2位は市井紗耶香が所属するアーセナル。
18節を終え、12勝6分。
つまりここまで無敗で来ているのだ。
しかし引き分けが多いため、マンチェスター・ユナイテッドに勝点1及ばない。
しかし名将ザイゼン・カラサワのもと、
一丸となって打倒マンチェスター・ユナイテッドに燃えている。
- 551 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:41
- 3位にはテツヤ・コムロビッチオーナーが大補強を敢行したチェルシー。
ここまで12勝3分3敗という成績だ。
そのほとんどが新加入の選手たちのため連携面に戸惑うかと思われたが、
意外とスムーズにチームは機能していた。
後半戦はさらに連携も高まるだろうし、注目のチームであろう。
4位には名門リヴァプール。
イングランド代表のエースストライカー、マツタカ・コーウェンを中心に序盤は首位争いに絡むものの、
マツタカ・コーウェンを怪我で欠くと後は失速。
何とか4位という現状だ。
- 552 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:41
- 優勝はマンチェスター・ユナイテッドで決まりだ。
イングランドのメディアはほとんどそう唱えていた。
シバサキがいなくてもレベルの高いサッカーで他を圧倒している。
そして何より彼女らは王者だ。
勝ち方、優勝の仕方を知っている。
混戦ではその勝者のメンタリティーが勝敗を決める。
その点でもマンチェスター・ユナイテッドは有利だと、
みなそう判断していた。
- 553 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:42
- が、実際は違った。
マンチェスター・ユナイテッド監督、サトミックス・ファーガソンは
チームの弱点を痛いほど感じていた。
そしてそれは当然アーセナル監督ザイゼン・カラサワも気付いているし、
チェルシーも分かっていた。
このままだとマンチェスター・ユナイテッドは失速する。
ライバルチームはそう睨んでいた。
- 554 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:42
- その弱点を補うため、サトミックス・ファーガソンは
クラブにある日本人選手を必ず獲得するように伝えた。
この選手が入るか入らないかで全ては決まる。
彼女ならばシバサキの代わりを務める事が出来る。
そう。
恐るべきキックの精度を持つ日本代表のあの選手だ。
- 555 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:42
- ドイツでは首位に何とベルダー・ブレーメンが躍り出ていた。
特に目立った選手はいないものの、チーム力でそれをカバーしている。
ここまで12勝3分2敗という好成績を収めている。
2位には王者バイエルン・ミュンヘン。
ここまで10勝5分2敗という成績。
これは王者にとって意外すぎる展開。
今シーズンはどこかかみ合わない。
EUROで惨敗したドイツ代表の面々がその影響からか調子を落としていた。
だがこちらも王者の、勝者のメンタリティーがある。
それだけに後半戦、必ず巻き返す。
- 556 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:43
- 3位にボルシア・ドルトムント。
だが首位、2位とは大分離れている。
こちらはGKのミスが多く、勝てる試合を何度も落としたのが痛かった。
チェコ代表コンビ、トミ・ナガーとミズノ・ミキツキー、
さらにはナイジェリア代表のボランチ、ニシヤマ・キクエーらは調子がいいだけに
この冬の移籍市場で優秀なGKを探す。
藤本美貴が所属するシャルケ04は6勝6分5敗で9位という成績。
開幕戦で宿敵ボルシア・ドルトムントに引き分け、
王者バイエルン・ミュンヘンには見事に勝利した。
が、それ以外のチームとは勝ったり負けたりの繰り返しだ。
藤本が孤軍奮闘するものの、やはり戦力不足は否めない。
だが、藤本は少しでも上の順位を目指している。
それが今季でチームを去る藤本にとっての恩返しだからだ。
- 557 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:43
- 欧州各国では前半戦を終了した。
これから後半戦に向けてクラブは戦力の補強を考えねばならない。
移籍市場。
サッカーのもう1つの熱い戦いがもうすぐ始まろうとしていた。
- 558 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:43
- この頃、日本ではJリーグも終わり、天皇杯が行われていた。
準々決勝の対戦カードは以下の通り。
ジュビロ磐田VS名古屋グランパスエイト
コンサドーレ札幌VSジェフ市原
浦和レッズVS京都パープルサンガ
横浜FマリノスVS柏レイソル
- 559 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:44
- 「次はいよいよ姐さんとのラストゲームやな。」
浦和レッズキャプテン、平家みちよが気合いを入れる。
対戦相手は京都パープルサンガ。
そこには彼女がいる。
日本サッカー界のキャプテン、中澤裕子が。
中澤はこの天皇杯で現役を引退するため、
平家との対戦はこの試合で最後となる。
- 560 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:44
- 今まで中澤とは敵として戦い、
また日本代表のチームメートとして共に戦ってきた。
一番厄介な相手であり、一番頼もしかった相手。
そして何より一番尊敬できた人だ。
そんな人だからこそ、自分が最後に引導を渡す。
平家は燃えていた。
- 561 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:45
- 気合いが入ったいい状態で練習メニューを消化していく平家。
一通りメニューを終え、ホッと一息つく。
そこでふと脳裏に浮かぶのは可愛い妹分。
「・・・・ひとみ・・・・・」
平家はポツリと呟いた。
あの試合は平家もテレビで見ていた。
まさかの結末に平家も呆然としていた。
そして画面が泣きじゃくるひとみを映すと、
それを見て平家も思わず泣いた。
ひとみがどれほど後藤と戦いたかったか、平家は知っている。
それをあんなミスで失ったのだ。
ひとみの今の気持ちを思うと、平家は不憫でならなかった。
- 562 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:45
- 「平家、ちょっとクラブハウスに戻ってくれ。」
とその時、クラブの上層部の者が平家に声をかけた。
「え?あ、はい。」
平家はその指示に従い、クラブハウスへと戻った。
そしてVIPルームへと入った。
そこには浦和の球団社長と監督のギド・ガッツバルト、
そしてある人物がいた。
「タ、タケナカ・ナオトーニさん?」
そこにいたのはインテル監督、タケナカ・ナオトーニであった。
タケナカは通訳に言葉を促した。
通訳ははっきりこう言った。
「私は今日、あなたを獲得するために日本に来ました。
平家みちよさん。この冬から我がインテルでともにサッカーをしませんか?」
- 563 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:46
- その翌日。
国立競技場で天皇杯準々決勝、
浦和レッズVS京都パープルサンガの試合が行われた。
試合結果は1−0。
京都パープルサンガが中澤の堅守で浦和の攻撃陣を抑え込み、
ドリブルの魔術師、加護亜依が浦和の赤い壁を突き破った。
- 564 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:46
- 「姐さん。ありがとうございました。」
「みっちゃん、こっちこそありがとうな。」
試合終了後、中澤と平家は抱き合った。
試合に負けはしたが、平家のプレーは素晴らしかった。
お互いの健闘を称えあい、そしてサヨナラを言う。
「・・・いいプレイヤーだ。それだけに残念だ。
縁があればまた会おう。」
試合を観ていたタケナカはそう言い残してイタリアに戻っていった。
この言葉の通り、平家はインテルのオファーを断った。
それは何故なのか?
- 565 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:47
- 「そ、それホンマですか?あのインテルがうちを?」
通訳の言葉を聞いた時、平家は驚きを隠せなかった。
イタリアのみならず世界の名門インテル。
そこからオファーが、しかも監督のタケナカ・ナオトーニ自らが
わざわざ日本にまで出向いてくれたのだ。
これほど嬉しい事はない。
「本当です。あなたの今までのプレーは全部見せてもらいました。
特にそのゲームメイキングに私は魅かれました。
知っての通り、インテルの弱点はゲームメーカー不在です。
そこであなたにインテルの司令塔になって欲しいのです。」
通訳を通してタケナカの言葉が伝えられる。
平家は高まる興奮を抑えきれない。
あの世界のタケナカにここまで評価されているのだから。
- 566 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:47
- だが、一方で現チーム、浦和レッズを思う。
平家自身、この浦和レッズこそ自分がいるべきチームだと思っている。
平氏の“赤”、そして誕生石の“ダイヤモンド”。
いや、そんな事より熱いサポーターたちのもとでサッカーが出来る。
それは何事にも代え難い幸せだ。
しかし、平家自身欧州で勝負したいというのも正直な気持ちだ。
福田や市井、そして何より可愛い妹分のひとみが欧州で活躍するのを見てると
自分もあそこに立ちたいとも思う。
そんな時に来たこのオファー。
何よりひとみとまた同じチームになれる。
平家の心は、大分傾いていた。
- 567 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:47
- 平家のその表情を見てタケナカは内心ガッツポーズをする。
彼女を獲得できればインテルはさらに強くなる。
何より、極限まで落ち込んだひとみも平家が来れば立ち直れるであろう。
まさにこの平家獲得はインテルにとって一石二鳥だ。
また浦和球団社長も、ガッツバルトも今回の移籍に対して好意的であった。
確かに平家がいなくなるのはチームの痛手だが、
平家自身のことを思えば歓迎すべき移籍だ。
この移籍に障害は無かった。
その後、移籍を前提として細かな事を話し合った。
この辺りの事はひとみがエンポリに移籍した際に色々と聞いていたので
スムーズに行う事が出来た。
- 568 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:48
- 「ところでタケナカ監督、ひとみはどうしてますか?」
契約の話が一段落付いたところで、
平家は気になっていたひとみの事を尋ねた。
「・・・・正直言ってどん底にまで落ち込んでいます。
あのショックは並大抵では消えないでしょう。
でも、あなたが来ればすぐに立ち直るでしょう。
実は日本に来る前にヨシザワにあなたを獲得することを伝えました。
彼女は大喜びでしたよ。『平家さんが来てくれればもう安心だ』って。」
タケナカがにこやかに答えた。
- 569 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:48
- 「えっ?」
しかし平家はこの言葉に絶句してしまった。
「ホンマですか?ホンマにひとみはそう言ったんですか?」
「えっ?・・・・・ええ。そう言いましたが。」
タケナカが戸惑いながら答える。
「・・・・・そうですか・・・・・」
平家はそう呟いた後、黙り込んでしまった。
しばらく平家は何かを考え込んでいたが、意を決した表情で口を開いた。
「・・・・・申し訳ありませんが、今回の話は無かった事にしてください。」
- 570 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:49
- 「なっ?!!」
「何を言ってるんだ平家?!!」
「OK牧場?!」
平家の言葉に声を上げる浦和首脳陣に通訳。
タケナカも通訳に聞かされ、驚きの声を上げた。
「それは一体どうしてですか?理由を教えて下さい。」
しかしすぐに冷静さを取り戻すと、静かに尋ねた。
- 571 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:49
- 「・・・・・タケナカ監督はひとみをどのように評価しておられますか?」
平家は質問に答えず、逆に質問をタケナカにぶつけた。
ある意味失礼な事だが、タケナカは嫌な顔をせず答えた。
「・・・・・私はヨシザワの素質を高く評価しています。
今はまだ発展途上ですが、ゆくゆくはマツシマを追い抜き
世界最高のプレイヤーになると信じています。」
タケナカの口から最大級の賛辞が出た。
- 572 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:50
- その言葉に平家は静かに頷いた。
「・・・・私もそう思っています。あの子はきっと世界最高の選手になるでしょう。
だからこそ今、私があの子の側にいてはダメなんです。
私を頼ってはダメなんです。自分の力で今回の事を乗り切らなければならないんです。
これを乗り越えられなければ、世界最高の選手にはなれないでしょう。
ですから、今、私はインテルに行くわけにはいきません。
これがお断りする理由です。」
- 573 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:51
- 思いもよらぬ理由に、VIPルームは沈黙に包まれた。
「・・・・本当にそれでいいのですか?」
タケナカが口を開いた。
そしてさらに言葉を続ける。
「確かにあなたの言うとおり、ヨシザワの将来を思えば自力で乗り切らせるべきかもしれません。
しかし、あなた自身にとってこれはビッグチャンスなのではないですか?
他人の事を気にして、このチャンスを棒に振ってもいいのですか?
確かにあなたを獲得するのを決めた理由の1つはヨシザワを立ち直らせるためです。
これは否定しません。
ですが、それ以上にあなたのゲームメイキングに私は心底惚れたのです。
私は一監督として、いやサッカーを愛する一個人として心からこのチャンスを
あなたに掴んでもらいたいのです。ぜひ私たちと一緒にサッカーをしましょう。」
- 574 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:52
- この言葉を聞いた平家は心底感激した。
「・・・・・・ありがとうございます。
そこまで言っていただいて本当に幸せです。
でも、やはり今回の話は無かったことにしてください。」
平家はスッと頭を下げた。
「・・・・・何故です?どうして君はそこまでヨシザワを?」
タケナカの問いに答えるため、平家は頭を上げた。
この時の平家の表情をタケナカは一生忘れられなかった。
- 575 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:52
- 「あの子はあたしの可愛い妹です。
姉が妹の幸せを願うのはあたり前の事ですよ。」
平家は困ったような表情ではにかんでいた。
その表情にタケナカも諦めざるを得なかった。
- 576 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:53
- 「・・・・分かりました。今回はご縁が無かったということで。」
そう言ってタケナカはスッと立ち上がった。
慌てて平家も浦和首脳陣も立ち上がり、深々と頭を下げる。
はるばるイタリアから来てくれたにも関わらず、
結果がこれでは正直申し訳なく思う。
「・・・・帰ったらヨシザワに言っておきますよ。
“君の姉は最高の人だった”と。」
タケナカはそう言ってクラブハウスを後にした。
- 577 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:53
- 「・・・・・これで良かったのか?
本当は今すぐにでもイタリアに行って、
ヨシザワを救いたかったんじゃないのか?」
タケナカが出て行った後、ギド・ガッツバルトが平家に尋ねた。
平家はその言葉に苦笑する。
この人はたまーに鋭いんだから。
「・・・・ホントはそうです。でも、手を差し伸べるだけが愛情じゃありません。
黙って見守る事も愛情ですから。」
「・・・・・・・OK牧場。」
ガッツバルトがグッと親指を立てる。
平家はふふっと笑うと、遠くイタリアにいる妹に思いを馳せる。
『頑張れひとみ。お前なら絶対に大丈夫。いつもあたしが見てるからな。』
- 578 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:54
- ここで天皇杯準々決勝の結果を見てみよう。
ジュビロ磐田1−0名古屋グランパスエイト
コンサドーレ札幌2−0ジェフユナイテッド市原
浦和レッズ0−1京都パープルサンガ
横浜Fマリノス2−1柏レイソル
- 579 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:55
- ジュビロは後半38分、
高橋愛のミドルシュートがここまで堅守を誇っていたグランパスGK亀井絵里を破った。
守備面でも新垣里沙が密着マークで“ピクシー”リーエ・ミヤザワビッチを手こずらせ、
見事にグランパスの攻撃をしのぎきった。
コンサドーレは磐石。
GK飯田圭織、DF紺野あさ美、斉藤美海がきっちりと守り、
カウンターからエース安倍なつみが2得点を奪った。
ジェフもU−19代表のGK梅田えりか、トップ下の徳永千奈美、
そして日本代表のFW村田めぐみが積極的に攻めるが惜しくも実らず、
準々決勝で姿を消した。
- 580 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:56
- 今シーズンJリーグ王者に輝いた横浜Fマリノス。
DFに斉藤瞳、MFに矢口真里、石川梨華という日本代表を揃え、
ボランチにはU−19代表の村上愛がおり、攻守に穴がない好チームだ。
対する柏レイソルはボランチの保田圭、
FWの道重さゆみという日本代表コンビで試合に臨む。
試合は保田のFKに道重が頭で合わせてレイソルが先制したが、
Fマリノスも石川の“魔法の左足”が発動。
FKを2発ぶち込んで見事に逆転した。
- 581 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:57
- この結果、準決勝の対戦は以下の通り。
ジュビロ磐田VSコンサドーレ札幌
京都パープルサンガVS横浜Fマリノス
準決勝も熱い戦いが期待できる。
- 582 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:57
- 天皇杯準々決勝が終わった翌日。
彼女はある地に飛び立った。
日本からほぼ地球の真裏に当たる地への長いフライト。
試合が終わった翌日で長時間のフライトは正直辛いものだが、
あの子のことを思えば何とも無い。
飛行機を乗り継ぎ、17時間かけてようやく目的地へと到着した。
「・・・・・本当は夏にここに来たかったけどね。」
思わずこの言葉が口をつく。
この夏、この地で欧州最大の戦いが繰り広げられた。
自分の国は予選で敗退し、本戦に進む事は出来なかった。
街は熱い激闘を忘れたかのように静かだった。
- 583 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:57
- 空港からタクシーを拾い、約束をしていた人物のもとへ向かう。
丁度今の時間ならば練習も終わっている頃だろう。
記者たちもいないだろうし、騒がれる心配もない。
しばらく美しい町並みを走っていると、目的地へと着いた。
そこはこの地で現在最強を誇るクラブのクラブハウスだった。
タクシーから降り、クラブハウスの中に入ると約束していた人物が出迎えてくれた。
「ようこそ。久しぶりだな“ピクシー”。」
「はい。お久しぶりですテレ・キダターロ監督。」
“ピクシー”リーエ・ミヤザワビッチとテレ・キダターロはがっちりと握手を交わした。
- 584 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:58
- 2人はクラブハウスのVIPルームに場所を移した。
今日、この会談はリーエがお願いしたものだ。
天皇杯で敗れた直後に電話すると、
この日ならスケジュールは大丈夫だと答えが返ってきた。
それを聞いてすぐに飛んできたのだ。
「で、頼みたい事とはなにかね?」
キダターロが尋ねる。
電話でリーエからどうしてもお願いしたいことがあると言われていたのだ。
“ピクシー”といえば今だ世界にその名を轟かせる選手。
その選手の頼みとあれば無下に断る事など出来ない。
「はい。単刀直入に申し上げます。
アユミ・シバタ。彼女をあなたのチームに獲得していただきたいのです。」
リーエはまっすぐ見て言った。
- 585 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:58
- このVIPルームには他にもクラブの者が数人いたが、
みな絶句していた。
それも無理はない。
“ピクシー”が他の選手の押し売りに、なおかつ日本人で、
イタリアで全く通用しない選手を押し売りにきたのだ。
しばらく沈黙が流れる。
「・・・・・・ふふふ。」
それを破ったのはキダターロの笑い声だった。
そして続けてこう言った。
「君で3人目だよ。これを言ってきたのは。」
- 586 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:59
- 「えっ?」
リーエは驚いてしまった。
自分以外にこんなとてつもない事を願い出たのが他に2人も?
「私の他に誰が?」
「まずは我が国が誇る10番。
“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。」
「えっ?アユが?」
リーエはその名前に驚かされた。
ブラジルの10番、ハマ・サーキ・アユウド。
彼女もシバタをこのチームに?
- 587 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 01:59
- 「そしてもう1人は日本代表監督、ツンク寺田。」
「・・・・・なるほど。」
2人目の名前には納得できた。
彼は柴田を高く評価している。
今の状況では柴田はその才能を潰してしまう。
日本代表監督として何か手を打ちたいのが本音だろう。
「まあ2人とも電話でだったがね。直接私のもとに来たのは君だけだったよ。」
そう言ってキダターロは笑った。
クラブの首脳陣は出てきた名前に驚いていた。
ブラジルの10番に、アジアの島国をオリンピック金メダルに導いた監督。
そして何よりここにいる“ピクシー”。
世界に名だたるサッカー関係者がここまで気に掛けるアユミ・シバタとは一体?
- 588 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:00
- 「・・・・・しかし私にはよく分からない。
何故君やツンク、アユウドはここまでシバタのことを買うのだ?
正直私はシバタよりもヨシザワの方が上だと思うのだが。」
キダターロの言葉にリーエは深く頷いた。
「ええ。実は私もそう思っています。
ヒトミ・ヨシザワ。彼女はまさに現代サッカーの申し子です。
あの恵まれた身体、身体能力、そしてファンタジスタ。
正直アユミはヨシザワには勝てないのかもしれません。」
「だろう?なのに何故だ?」
「それは監督がマツシマよりアユウドを選ぶのと同じ理由ですよ。」
「・・・・・なるほど。」
キダターロはリーエの言葉に納得した。
- 589 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:01
- 現在のサッカー界では欧州のマツシマ、南米のアユウドの2強とされている。
が、実際はマツシマの方が上だというのが世間一般の評価である。
それは何故か?
身長の違いである。
テクニック、ファンタジー、スピードはほぼ互角。
アユウドは何らマツシマに劣る事はない。
いや、むしろスピードはアユウドの方が上だ。
テクニックも南米特有の柔らかなボールタッチはマツシマ以上かもしれない。
だが、アユウドは身長が低かった。
現代サッカーはまさにフィジカル全盛。
テクニック以外で勝負が決まる要因が増えてきた。
それだけに体格のよいマツシマの方がアユウドよりも
現代サッカーにマッチしているといえる。
- 590 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:01
- しかしそんな不利を被りながらもアユウドはマツシマと肩を並べている。
一昔前のようにその抜群のテクニックのみによって。
だからこそ彼女は“ラストカナリア”と呼ばれるのだ。
彼女の存在は“テクニックこそサッカーだ”という信念を持つ者にとって
大きな希望なのだ。
- 591 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:02
- テレ・キダターロ。
彼もテクニックを第一に考える監督だ。
だからこそ彼もマツシマよりアユウドを好むのだ。
アユウドが頂点に君臨する。
それはテクニックがサッカーには一番必要だと言う事を証明する事になる。
そしてリーエ・ミヤザワビッチ。
彼女もサッカーはテクニックだと考えている1人だ。
それは何より自分がそうだからだ。
彼女もフィジカルは強くない。
だがそのテクニックとファンタジーで世界の頂点に君臨していたのだ。
その彼女が希望の目を向けるのが柴田あゆみなのだ。
アユウドが柴田の事を気にするのも、自分と境遇が良く似ているからだ。
ライバルと体格面で不利を被りつつも、戦いを挑むという境遇が。
柴田がひとみに勝つ。
それは自分もマツシマに勝てるという事になる。
- 592 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:03
- ツンクの場合は前述の3人とは少し違う。
ツンクもテクニックが必要だと考えているが、彼自身イタリアで活躍したように
フィジカルも必要だと考えている。
もし今回、ひとみが柴田と同じ状態だったとしても迷わず手を差し伸べていただろう。
それはひとみと柴田。
この2人を何度もいい状態で争わせなければ日本が強くならないからだ。
- 593 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:03
- 「だから私のチームにシバタを入れようとするのか。」
「はい。」
キダターロの言葉に頷くリーエ。
フィジカルよりもテクニックを重視する監督ならば
柴田をきっと使ってくれる。
「でもそれだけではありません。
アユミのパスは味方を活かすパスです。
だからこそ周りが上手ければ上手いほどアユミは輝きます。
だから中途半端なチームではアユミも中途半端になってしまいます。
この国ならばアユミのフィジカルでも活躍できますし、
このチームならばアユミも一層輝くことが出来ます。
まさにここしかないというチームなんです。」
リーエが熱く語った。
- 594 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:03
- 「・・・・・どう思いますか?」
キダターロがクラブの首脳陣に尋ねる。
アユウド、そしてピクシーから絶賛を受ける選手。
確かに魅力的だ。
しかしイタリアでの現状を知っているのでどうしても懐疑的になってしまう。
「・・・・逆に言えば今が獲得のチャンスではないですか?」
その時、クラブ首脳陣の1人がこう言った。
「それはどういうことかね?」
会長が尋ねる。
「今、彼女はイタリアで不振にあえいでいます。
ペルージャ会長も一刻も早く彼女を手放したいと思っています。
ならばこちらの言い値で獲得できるのではないでしょうか?
つまり通常よりも安い移籍金で獲得できるという事です。
それに我々はこれからリーグ戦、チャンピオンズリーグ、カップ戦と戦わねばなりません。
選手層を厚くするといった面でもいい補強になるのではないですか?
彼女のポジションはトップ下ですし、このポジションは手薄でしたから。」
- 595 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:04
- 「・・・・・なるほどな。それは確かに一理ある。」
会長をはじめ、みな深く頷いた。
戦力は補強できるし、今の状態ならばかなり安く獲得できるだろう。
言い方は悪いが、もし不発に終わってもそれほど痛くはない。
いわゆるお買い得だ。
またそれを後押しするように外国人枠が1つ余っている。
「どうだねキダターロ監督。」
「ええ。私としては大歓迎です。」
キダターロも頷いた。
リーエの熱意に彼も折れた。
- 596 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:04
- 「よし、では早速ペルージャにFAXを送れ!
アユミ・シバタを獲得するぞ!!」
「はいっ!!」
クラブの方向性は決まった。
- 597 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:05
- その翌日、イタリア。
「シバタ、会長が呼んでいる。今すぐ来るようにだって。」
「・・・・・・はい。」
とうとうこの日が来た。
新聞などの報道でわかってはいたが、さすがにその時が来ると悲しくなる。
ライバルに追いつきたくて渡ってきたイタリア。
しかしその差は追いつくどころか広がるばかり。
ライバルは名門インテルで背番号10を背負い、今やチームのエース格。
一方自分は中堅クラブでさえレギュラーはおろか、ベンチ入りすらままならない状態。
周りの人間はみな柴田は終わったと言う。
悔しいが、それを否定できる場すら与えられない。
- 598 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:05
- 『・・・・・・・・・・リーエの言うとおりだったね。』
最後までこの移籍に反対していたリーエ・ミヤザワッチ。
イタリアは自分には合わないと。
自分でもそう感じていたが、弱点を克服するため。
そして何よりライバルと戦うためにイタリアを選んだ。
しかしそれは完全に失敗だった。
『これで日本に帰るのか・・・・・』
柴田は足取り重く、会長の家に向かった。
秘書に会長室へと案内される。
「失礼します。」
そう言ってドアを開け部屋の中に入ると、
そこには久しぶりに見る顔があった。
「リ、リーエ?」
「久しぶりだねアユミ。」
昨日、あれからすぐにイタリアへと来たリーエ・ミヤザワビッチが
ペルージャ会長とともにそこにいた。
- 599 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:06
- 「ど、どうしてここに?」
柴田が思わず尋ねる。
「今日はね、アユミの意志の確認に来たんだ。」
「えっ?」
「アユミ、まだヨーロッパでサッカーする意志がある?」
「?!」
この言葉に柴田は一瞬息を飲んだ。
が、意を決した表情で言い切った。
「はい、あります。」
「だそうです。」
リーエはその言葉を聞くとペルージャ会長を見た。
「分かった。私はシバタの移籍を認めよう。」
ペルージャ会長は頷いた。
「えっ・・・・?」
柴田は訳が分からないといった感じだ。
移籍?
解雇ではないのか?
- 600 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:06
- 「実はね。」
戸惑う柴田にリーエがいままでのいきさつを説明した。
「・・・・・・ありがとう。」
柴田は声を震わせた。
リーエにツンクにアユウド。
みな自分のためにここまで動いてくれたのだ。
それが柴田にとってたまらなく嬉しかった。
- 601 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:08
- 「・・・・・本当は分かっていたんだ。君にはここイタリアは合わないということは。」
ペルージャ会長が遠い目で呟く。
「だが、それでも君のパスをこの目で見てみたいと思った。
そのパスで自分のチームが勝つところを見たかったんだ。」
「・・・・・・・」
柴田は言葉を返す事が出来ない。
自分にここまで期待を掛けてくれていたのに、
それに応える事はできなかったのだから。
「・・・・これからも私は君を応援している。
向こうでも頑張りたまえ。」
「・・・・・はい。ありがとうございました。」
柴田は感謝の意を込めて深く頭を下げた。
もちろん会長だけでなく、ツンクやアユウド、
それから獲得を決めてくれたチーム関係者。
- 602 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:09
-
そして何より、今回手を差し伸べてくれた、いつもは恐い姉に。
- 603 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:09
-
翌日、新聞紙上にこのニュースが乗った。
- 604 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:09
-
『アユミ・シバタ、ポルトガルスーペルリーガ、FCポルトに移籍!!!』
- 605 名前:第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 投稿日:2004/07/24(土) 02:10
-
第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 (終)
- 606 名前:ACM 投稿日:2004/07/24(土) 02:11
- 第12話 差し伸べる愛、見守る愛。 終了いたしました。
今回、ほとんど試合場面がないにも関わらずこの量。
文章力がほとんど無いので読み辛くてすみません。
まずはビッグサプライズ第一弾でした。
彼女のここへの移籍は、実は連載前から決まってました。
現実のここのクラブの大躍進にはかなり驚きました。
でも何より、みっちゃんはいい子です。
- 607 名前:ACM 投稿日:2004/07/24(土) 02:11
- では次回予告です。
第13話 譲葉
譲葉という木がある。
この木の葉は、枯れて落ちるのではなく、
新しい葉が生長してから落ちる、つまり新しい葉に後を譲るのでこう呼ばれている。
そして今こそ彼女から葉を譲ってもらわねばならない。
それが長年日本を支えてくれた彼女への最高の恩返しなのだから。
日本サッカー界のキャプテン、ついにラストゲーム。
次回もよろしくお願いいたします。
- 608 名前:ACM 投稿日:2004/07/24(土) 02:13
- 今回もスレ隠しはなしです。
次回の次、第14話が移籍市場の話になると思います。
そこから人物紹介を再開させます。
ではまた次回まで失礼します。
- 609 名前:ピクシー 投稿日:2004/07/24(土) 02:21
- 更新お疲れ様です。
活躍してますね、「ピクシー」が♪
やっぱりプロスポーツはこういう移籍市場がないと。NBAとかもビッグネームがどんどん移籍しますし。
日本のプロスポーツの「固定性」はどうも気に入らないです。
現実の五輪代表もアテネへ始動しましたね。
不動のボランチの怪我は気になりますが・・・果たしてどうなるんでしょう?
次回更新も楽しみに待ってます。
- 610 名前:みっくす 投稿日:2004/07/24(土) 08:01
- 更新おつかれさまです。
こういう結果になりましたか。
次回はいよいよこの時がきたかって感じです。
次回も楽しみにしてます。
- 611 名前:ななししぃく 投稿日:2004/08/02(月) 14:11
- 更新お疲れ様です。
久しぶりの書き込みになってしまいましたが、
毎回楽しみに読ませてもらっていました。
ところで、ACMさんはサッカー小説を読んだ事がありますか?
もし読んだ事が無ければ、ここで紹介させてもらっても
よろしいでしょうか?
次回更新も楽しみにしています。
- 612 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/07(土) 12:00
- 空版にもサッカー小説あるしサッカー好きとしては楽しい日々だ
- 613 名前:ACM 投稿日:2004/08/08(日) 00:59
- 609>ピクシー様
いつもレスありがとうございます。
確かに移籍市場があると期待は膨らみますよね。
もちろん固定性もいいと思いますが、固定過ぎるのも嫌ですよね。
現実ではアジアカップも終わってしまいました。
これからはオリンピックに期待ですね。
610>みっくす様
こちらもいつもレスありがとうございます。
そうです、こういう結果になりました。
今回はいよいよこの時が来ました。
何事も始まりがあれば終わりもあるのですが、やっぱ切ないですよね。
もし現実でキングカズが引退したならば、僕は泣くかもしれません。
611>ななししぃく様
レスありがとうございます。ご無沙汰いたしております。
毎回読んでいただいて本当にありがとうございます。
サッカー小説ですけど「龍時」は持ってます。
ですが作者がお亡くなりになって続きが読めないのが残念です。
他は全然知りませんのでよければ教えて下さい。
612>名無飼育さん様
レスありがとうございます。
そう言っていただけると、とても嬉しいです。ありがとうございます。
空板にも、そして月板にもサッカー小説ありますよね。
僕もやはり同じジャンルを書いてる者として、
いつも両作品は読ませて頂いていただき、勉強させてもらってます。
両作品からいつも刺激を受けて頑張ってる次第です。
- 614 名前:ACM 投稿日:2004/08/08(日) 01:00
- では本日の更新です。
第13話 譲葉
- 615 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:01
- 『アユミ・シバタ、ポルトガルスーペルリーガ、FCポルトに移籍!!』
このニュースをひとみは平家の獲得断念とともに聞いた。
姉と呼べる存在と一番のライバル。
この2人が結果的に自分のもとから去っていく。
ひとみは何とも言えぬ気持ちで一杯だった。
- 616 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:03
- 「・・・・・ヨシザワの奴、もう今シーズンは無理かもしれん。」
タケナカはひとみの様子を見てそう感じていた。
後藤との約束を守れなかったこと。
さらには柴田の移籍、平家の獲得断念。
マイナスのことが続いてしまったため、
完全に気持ちの面で切れてしまっている。
「・・・・・ここはあいつを獲得するか。」
タケナカは決心した。
昨シーズンラツィオの監督をしていたタケナカ。
その時、彼女を中心にチームを組み立てていた。
セルビア・モンテネグロ代表で、あのピクシーも絶賛する選手。
アサミ・イシカワビッチを。
『・・・・・今シーズンは何とか4位以内だ。勝負は来シーズンだ。』
タケナカは現状を考え、そう割り切った。
- 617 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:03
- 一方、日本では天皇杯準決勝が終了した。
ジュビロ磐田0−1コンサドーレ札幌 (埼玉スタジアム)
京都パープルサンガ1−0横浜Fマリノス (長居陸上競技場)
- 618 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:04
- 埼玉で行われたジュビロ磐田VSコンサドーレ札幌は
まさにエース対決となった。
日本のエース安倍なつみに次代のエース高橋愛が挑むという試合。
安倍が若手bPの成長株、新垣里沙の密着マークを破るか。
高橋がコンサドーレの守りの三銃士、飯田圭織、紺野あさ美、斉藤美海を破れるか。
結果は後半39分に安倍が貫禄のゴールを決め、
1−0でコンサドーレが決勝進出を決めた。
- 619 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:04
- この結果に悔しさを隠せない高橋。
だが、この天皇杯、高橋の動きは特筆ものであった。
アジアカップ、アテネオリンピック、
そしてワールドユースという国際大会を数多く経験したことで
完全に一皮向けた感じだ。
このいいイメージを抱きながら、彼女は次の“新しいステージ”へと向かう。
- 620 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:05
- もう1つの試合、長居で行われた京都パープルサンガVS横浜Fマリノス。
こちらは中澤裕子率いるサンガDF陣、そして斉藤瞳率いるFマリノスDF陣が
いかに相手の飛び道具(石川梨華のFK、矢口真里のスピード、加護亜依のドリブル)
を抑えこめるかが勝負の分かれ目となった。
結果は京都パープルサンガが1−0でJリーグチャンピオン、
横浜Fマリノスを下した。
- 621 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:06
- この勝敗を分けたのはやはり中澤の存在であろう。
サンガの選手たちはこの日本サッカー界のキャプテンの最後を絶対に優勝で飾ろうと
みなが一丸となっていた。
最高のモチベーションだった。
特に中澤に可愛がられていた加護が執念のドリブルで石川、矢口、そして斉藤をぶち抜き、
決勝進出へのゴールを決めた。
守っても今季、サンフレッチェ広島から移籍したGK前田が中澤とともにFマリノス攻撃陣を抑えきった。
- 622 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:07
- 試合終了後、矢口も石川も、そして斉藤も泣きながら中澤裕子と抱き合った。
今まで自分たちを引っ張ってくれたキャプテン。
ありがとうという感謝の気持ちと、
これからは自分たちがやるという決意をここで誓った。
その決意を胸に石川と矢口の2人は斉藤とU−19代表の村上愛にチームを任せ、
新しいステージへと挑戦する。
- 623 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:07
- この結果、天皇杯決勝戦はこの2チームの決戦となった。
コンサドーレ札幌VS京都パープルサンガ
決戦の舞台は、今まで数多くのドラマを生み出してきた聖地、国立競技場。
2005年1月1日。
この日、1つの時代が終わり、新しい時代が始まる。
- 624 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:08
- 「お疲れさん。」
「お疲れさまでした。」
「お疲れー。」
試合前々日。
京都パープルサンガは京都府の城陽市内にあるグラウンドで最終調整を終えた。
明日、新幹線で最後の決戦を挑みに東京に向かう。
選手たちはクールダウンを終え、それぞれクラブハウスへと戻っていく。
が、1人だけピッチに立ち、目を細めて周りを見回していた。
中澤裕子だ。
その姿を見て加護や前田たちサンガの選手はハッとなる。
『そうだ。今日で中澤さんはこのグラウンドで練習するのが最後なんだ。』
- 625 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:08
- 「ここも今日で最後か・・・・・」
中澤が呟く。
この城陽市のグラウンドは1998年からサンガの練習場となった。
それまでは滋賀県八日市市に練習グラウンドがあった。
年数にすると6年しかここで練習していないが、
この6年は現役生活14年の中で何よりも濃い6年だった。
初めてワールドカップに出たのがこの1998年。
2000年にはアジアカップで優勝を果たした。
2002年には自国開催のワールドカップに出場。
そして2004年、アテネオリンピック金メダル。
中澤の栄光の歴史は全てこのグラウンドから生み出されたと言ってもいい。
- 626 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:10
- 「・・・・・色んなことがあったけど、うちは幸せモンやったんやな。」
中澤が柔らかい表情で呟いた。
1993年。
信田美帆、小湊美和、稲葉貴子といった日本代表の同僚たちが
華々しくJリーグ開幕を迎えた時、中澤はJFLを戦っていた。
この時にはすでに日本代表で中心選手として活躍しており、
Jリーグのチームから引く手数多のオファーがあったが、
彼女は全て断り続けていた。
彼女の思いはただ1つ。
絶対に京都パープルサンガをJリーグの舞台に上がらせてみせること。
そして開幕から2年後、ようやくJの舞台へとたどり着いた。
- 627 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:10
- だが、Jリーグに昇格してからが本当の試練であった。
全くと言っていいほど勝てない試合が続く。
せっかく上がったJの舞台から引きずり下ろされたこともあった。
日本代表でも低迷の時期をずっと戦ってきた。
だが、それでも日本サッカー界のキャプテンは走り続けた。
それが実り、加護亜依といった才能豊かな若い選手も現れ、
京都パープルサンガはJリーグの強豪クラブの仲間入りを果たした。
日本代表もいまやアジアの盟主になり、
世界と堂々と渡り合えるようにまでなった。
もちろんみなの力のおかげだが、
それでも自分は頑張ったと胸を張って言える。
そう思えることが幸せなことなのだと中澤は思っていた。
- 628 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:11
- 中澤はしばらくピッチの上でたたずんだ後、
ゆっくりと外に向かって歩き出した。
そして入り口の所で振り返り、ピッチに向かって静かに、深く頭を下げた。
『・・・・・・今までありがとうございました。では、行って来ます。』
- 629 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:11
-
そして決戦の日を迎えた。
- 630 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:12
- 2005年1月1日。
その日は新しい年を迎えるに相応しい晴れやかな日であった。
聖地国立競技場は超満員だった。
みな、日本サッカー界のキャプテンのラストゲームを見逃すまいと
スタジアムに足を運んでいた。
もちろんスタジアムに来れない者はテレビで観戦をする。
日本中がこの試合に注目していた。
- 631 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:12
- ウワアアアアアアアア!!!!!!
選手たちがアップのためにピッチに姿を現すと、
国立競技場は大きく揺れた。
特にサンガの3番、中澤裕子が現れるとその声援は一層大きくなった。
スタンドを見渡せばあちこちに横断幕が広げられていた。
『今まで夢をありがとう!!!』
『日本サッカー界のキャプテン、永遠に!!!』
京都パープルサンガサポーターだけでなく、
コンサドーレ札幌のサポーターの席からも横断幕が広げられていた。
これこそ彼女が今まで辿ってきた軌跡であろう。
- 632 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:12
- 「・・・・・凄いわ・・・・うちなんかのために・・・・」
たかが一個人のラストゲームなのに。
中澤の胸がジーンと熱くなる。
これにはプレーで応えよう。
これこそ日本サッカー界のキャプテンというプレーで。
- 633 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:13
- アップを終え、ロッカールームへと戻っていく選手たち。
その際に中澤はコンサドーレの紺野あさ美と眼が合った。
「・・・今日は絶対に勝たせてもらいます。」
紺野の目は真直ぐで力強かった。
この試合で中澤を乗り越える。
それが後継者たる者の使命だ。
中澤はそんな目を向ける紺野を嬉しく思う。
彼女ならばこの後、全てを任せられる。
だが、今日は、今日だけは負けるわけにはいかない。
最後まで大きな壁でい続けなければ。
「・・・・ええ目や。けどな、勘違いすんなや。
うちが引退するのは力が衰えたからやあらへん。
うちに勝つのは100年早いっちゅうことを見せつけたるわ。」
中澤は鋭い眼光で紺野を睨む。
思わずたじろぐ紺野。
日本DFラインの統率者の第一ラウンドは中澤に軍配が上がった。
- 634 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:13
- 「さ、時間やな。円陣組むで。」
ロッカールームに戻り、最後のミーティングを終えたサンガ。
中澤がみなを呼び寄せ、円陣を組む。
今まで数え切れないぐらい試合前に円陣を組んできた。
それも今日で最後だ。
中澤は他の選手たちの顔を見渡す。
みな、これからの選手たちばかりだ。
彼女たちがいてくれればサンガは、日本は大丈夫だ。
安心して後を任せられる。
- 635 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:14
- 譲葉という木がある。
この木の葉は、枯れて落ちるのではなく、
新しい葉が生長してから落ちる、つまり新しい葉に後を譲るのでこう呼ばれている。
彼女は一番大きな葉だった。
今日、それを見せ付けて新しい葉に後を譲ろう。
- 636 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:14
- 「さあ今日、元日に試合が出来るのはうちらだけや。
最高の結果で正月を祝おうやないけ。」
「はいっ!!」
中澤の言葉に笑みを浮かべる加護たち。
しかしみなの思いはただ1つ。
中澤の引退に大きな花を添えてみせる。
「それじゃあいくで。がんばっていきまー・・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!」
- 637 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:15
- 午後1時30分。
両チームの選手たちが入場した。
京都パープルサンガの先頭は当然この人、中澤裕子。
黄色いキャプテンマークを左腕に巻いて入場する姿はいつもと同じ。
そしてコンサドーレ札幌は飯田圭織がキャプテンマークを左腕に巻き、先頭を歩く。
中澤の後を継いで日本代表のキャプテンとなった飯田。
この試合で“後は任せて”とメッセージを送るつもりでいる。
- 638 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:15
- そして飯田の後ろには日本のエース、安倍なつみがいる。
「裕ちゃん・・・・・」
安倍はふと初めて日本代表に選ばれた日を思い出した。
期待のストライカーとして日本代表に意気揚々と乗り込んだ安倍。
しかし、そんな安倍の目の前に立ちはだかったのが中澤裕子だった。
「なんや、北海道の天才も大した事あらへんな。」
何度もピッチに這いつくばされた。
これはその時に中澤に言われた言葉だ。
飯田圭織もこの時、安倍と一緒に選ばれていた。
飯田も当然中澤にがちこんいわされた。
日本代表の合宿所でよく2人で慰めあったものだ。
- 639 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:16
- 当時はこんな言葉を吐いた中澤に反感を持っていた。
が、今なら分かる。
あの時、中澤の目は愛情に満ち溢れていた事を。
自分に期待し、プロとして、日本代表として鍛えてくれてたのだと。
それがあるからこそ今の自分たちがある。
その恩返しを今日、そしてこれから先もずっとしていくつもりだ。
- 640 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:16
- 両チームの選手が試合前に握手を交わす。
コンサドーレの選手は一人一人ギュッと中澤と握手をかわす。
親交のない者であっても、中澤裕子の存在の大きさは感じている。
そんな彼女のラストゲームが自分たちとの試合とあって
コンサドーレの選手たちも燃えていた。
写真撮影も終え、両チームの選手たちがピッチへと散らばる。
主審が線審、副審たちに目配せする。
自分が腕につけている時計を進める。
そしてホイッスルを口にくわえた。
ピィー!!!!!!!
2005年1月1日午後1時38分。
日本サッカー界のキャプテンのラストゲームが始まった。
- 641 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:17
- <京都パープルサンガ>3−5−2
FW
加護
MF MF MF
MF MF
DF 中澤 DF
前田
- 642 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:17
- <コンサドーレ札幌>4−4−2
安倍 FW
MF MF
MF MF
美海 DF
DF 紺野
飯田
- 643 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:18
- サンガのボールから試合が始まった。
サンガは中盤でボールを回す。
そしてFWに入った加護にボールがわたる。
日本代表やU−19代表では加護は左サイドハーフを務めることが多いが、
攻撃陣にコマを欠くサンガではFWに入ることが多かった。
ボールをもらった加護、すぐさま前に突き進む。
「そこで当たって止めてください!!!」
紺野がすかさず指示を送る。
サンガの攻撃は全て加護のドリブルからだ。
だからこそ加護を抑えこめればこちらが有利になる。
- 644 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:18
- 加護にコンサドーレのボランチ2人が襲い掛かる。
「甘いで。」
だがこのドリブラーを止めるにはいたらない。
あっさりと2人の間を細やかなステップですり抜けた。
「くっ!!」
たまらず紺野がチェックに向かう。
が、それを見た加護、すかさずDFラインの裏にふわっと浮かせたスルーパス。
- 645 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:19
- このパスに絶妙のタイミングで抜け出したサンガFW。
絶好のチャンスだ。
だがシュートの直前で左サイドからカバーリングに入った
みうなのタックルに潰されてしまった。
「うおっ?!何であれに追いつくねん?!!」
加護が思わず頭を抱える。
あそこからでも追いつくのか?
U−19日本代表の左サイドでコンビを組むみうなの身体能力に
加護は驚きを隠せない。
- 646 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:19
- 「ナイスみうな!!」
飯田がパンパンと手を叩く。
「はいっ!!」
みうながこれに手を上げて応える。
「ほう、ええ動きしてるやないけ。」
敵である中澤も今のみうなのプレーに思わず笑みをこぼす。
「危なかった。さすが加護さん。凄いドリブルに加えてパスまでも。」
加護のキレのあるプレーに紺野の背中に冷たい汗が流れる。
ここ最近は日本代表、そしてU−19代表と加護とは同じチームで戦う事が多かった。
久しぶりに敵に回してみてこれほど嫌な選手はいないと紺野は再認識させられた。
「中盤もDFラインも加護さんを絶対にマーク!!!
絶対に抑えますよ!!!!」
紺野がコンサドーレイレブンに指示を送る。
必ず加護を抑えこんでみせる。
そんな気迫が表に出ていた。
- 647 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:20
- この加護の先制パンチでサンガは勢いに乗った。
加護を中心に鋭い攻撃を仕掛けてくる。
当然コンサドーレも加護を抑えるべく複数で激しいプレスを仕掛けてくるが、
その分他の選手たちがフリーになる。
「こっちや!!」
サンガボランチがボールを持った瞬間、加護が左サイドへと流れていく。
この動きにコンサドーレDF陣は釣られる。
中央にスペースが出来る。
そこへサンガ左MFが鋭く切れ込んだ。
- 648 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:20
- 「あっ?!!」
そこへサンガボランチからスルーパスが送られるが、
これはきっちりと紺野が読んでいた。
スライディングでこれを大きくクリアした。
「さすが紺野や。この程度では破れんか。」
中澤が紺野の危険察知能力に舌を巻く。
さすがは自分の後継者だ。
この紺野、そしてみうなに加えて飯田までもがいるコンサドーレ。
まさに鉄壁のDF陣。
「でも必ずうちがゴールを決めたる。」
加護が闘志を燃やす。
どんな組織でも打ち破る。
それがドリブルの魔術師の役目なのだから。
- 649 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:22
- 一方、コンサドーレも負けてはいない。
最前線には彼女がいる。
日本のエース、安倍なつみが。
「なっちから絶対に目を離すな!!」
中澤の指示が飛ぶ。
サンガは3バック。
コンサドーレは2トップのため、
2人がマンマークにつき、中澤がカバーリングに回る。
が、中澤の意識はほとんど安倍に。
それはこの日本のエースから目を離す事は、
飢えた獣に自ら首を差し出すようなものだからだ。
- 650 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:23
- 「来いっ!!」
安倍がマンマークを受けながらもボールを要求する。
世界の名だたるDFと遣り合ってきた安倍だ。
マークについているサンガDFでは正直相手にならない。
安倍はサンガDFを背負いながらトラップすると、上手く身体を入れかえ前を向く。
「?!!」
が、その瞬間鋭いタックルに倒されてしまった。
誰に潰されたかは見なくても分かる。
「こんなもんかいな日本のエースは?」
タックルをお見舞いした中澤が不敵に笑う。
「・・・・・さあどうだべか?まだこれからだべ。」
安倍はそれをさらりと受け流す。
まだ試合は始まったばかり。
必ず裕ちゃんを破ってみせるから。
- 651 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:23
- 前半も30分を終えた。
ここまで0−0というスコア。
両チームともDF陣が見事な守りを見せている。
「おらっ!!そこで当たれ!!」
「ここで時間稼げ!!」
中澤から指示が飛び交う。
この類まれなコーチングはさすがの一言だ。
- 652 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:24
- 「くっ!!」
安倍がマークを外して強引にシュートを放つ。
が、これはカバーに入った中澤がコースを切っており、
GK前田が真正面でこれを掴む。
今のは完全に撃たされたといった感じだ。
「よしよし、ナイスやでゆきどん。」
中澤がグッと親指を立てる。
今季、J2に落ちたサンフレッチェから移籍してきた前田有紀。
日本代表でもある彼女の持ち味は見事なフィスティング。
積極果敢に飛び出して見事にボールを弾くことから、
“コブシの利くGK”と呼ばれている。
彼女が加入した事により、サンガはさらにディフェンス力がアップしたのだ。
現に、今季も途中までは鹿島アントラーズに劣っていたものの、
最終的にはリーグ最小失点だった。
- 653 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:24
- 「むっ?!」
加護にボールが渡った瞬間、素早い寄せが来た。
やはりコンサドーレは加護を警戒していた。
「ええんか?うちにマークを集めすぎると他がフリーになるで?」
しかし加護は慌てない。
トリッキーなフェイントでマーカーのバランスを崩させ隙を創ると、
そこを見事に通し、左サイドにパスを送る。
ここにはサンガ左MFがフリーで走りこんでいた。
サンガ左MFはサイドを深くえぐると、中に鋭いクロスを入れた。
- 654 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:24
- 「よっしゃ!!」
このパスにサンガFW、そして加護がゴール前に詰める。
が、その加護の視界に現れたのは日本代表の守護神。
鮮やかな跳躍でこのクロスをがっちりと掴んだ。
「甘いよ加護。絶対に入れさせないからね。」
飯田がニヤリと笑う。
加護にマークが集中して他がフリーになろうが何の問題も無い。
自分がそれを止めればいいのだから。
日本が誇る守護神がゴール前にそびえ立つ。
両チームとも守備陣の素晴らしい動きで前半は0−0で終えた。
- 655 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:25
- ロッカールームでは両チームとも後半戦の戦術を確認し、
時間が来るのを待っていた。
中澤はロッカールームの椅子に座り、
眼を閉じて静かに精神を集中させる。
他の選手たちは中澤に気を遣って黙っていた。
ロッカールームに沈黙が流れる。
「時間です!!」
スタッフから声が掛けられる。
その瞬間中澤は静かに目を開けた。
いよいよラスト45分。
この45分で自分のサッカー人生は終わる。
結果がどう出ようが、悔いの残らない戦いをしてみせる。
「・・・・よし、みんな行くで。」
「はいっ!!!!!」
選手たちは勢い良くピッチに飛び出して行った。
最後の45分が今、始まる。
- 656 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:25
- 後半戦の序盤はコンサドーレがペースを握った。
上手く中盤でボールを奪ったコンサドーレ。
すぐさま前線に張る安倍にロングパス。
安倍はこれをDFを背負いながらきっちりトラップすると、
左サイドのオープンスペースに出した。
「ナイスパスです!!!」
そこにトップスピードで走り込んでいたのは左サイドバックのみうな。
素晴らしいスピードでサンガの右サイドをぶち抜く。
- 657 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:26
- ボールに追いついたみうなはゴール前に鋭いクロスを上げた。
このクロスはコンサドーレFWの頭にピタリ。
「もらった!!」
そのFWがそう確信した瞬間、中澤が強引に身体を入れ、
このクロスをヘッドで弾き返した。
「えーっ?!!あれをクリアするの?!!」
クロスを上げたみうなが信じられないといった表情で叫ぶ。
今のクロスは会心のクロス。
コース、スピード、タイミングともに申し分なかったはずだ。
それを弾き返した中澤裕子。
その力はまだまだ日本のトップだ。
- 658 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:26
- 「今のクロスといい、オーバーラップ、そんで前半のディフェンス。
なかなかおもろいやつやな。」
中澤はこの若いDF、斉藤美海のポテンシャルに驚いていた。
まだまだ荒削りなところがあるが、将来きっとビッグな選手になる。
「ふふふふ。こんな若くて活きのいい奴が現れてくれると、
こっちも道を譲りがいがあるってもんや。」
中澤は若い力の台頭に胸を躍らせる。
- 659 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:27
- このみうなのプレーにサンガも若い力、加護がお返しする。
右サイドに開いてボールを受けた加護、
そのままドリブルで突き進む。
その目の前に立ちはだかるのはみうなだ。
腰を落とし、加護のドリブルに備える。
だが加護はかまわずみうなに突っ込んでいく。
そしてみうなの間合いの直前で左アウトサイドでボールを弾き、
みうなの右から抜こうとする。
- 660 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:27
- 「えっ?!!」
叫んだのはみうな。
この加護のフェイントに反応したまでは良かった。
が、加護は左アウトサイドでボールを弾いた瞬間、すぐに左インフロントで弾いた。
そしてみうなの左から抜き去った。
みうなはそのあまりの鋭い切り返しに反応できなかった。
「やるやんけ加護!!」
思わず中澤が叫ぶ。
あの“日本が産んだ天才”後藤真希、“ブラジル最新の天才”コヤナギーニョが得意とする
高速切り返し。
これを加護が出来るとは?
- 661 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:28
- 右サイドを深くえぐった加護、中を見る。
ゴール前は紺野が的確な指示とポジショニングで固めている。
誰もフリーの選手はいない。
「ちっ、やっぱきっちりと固めてるか。
・・・・・・・ならば!!」
加護はクロスを上げず、そのままグッと中に切れ込んでいく。
ここはクロスを上げても跳ね返されるのがおちだ。
ならば、個人技でかき回す。
「予想通り!!完璧です!!」
しかし紺野はこれを読んでいた。
加護がドリブルを開始した瞬間、素早く距離を詰め、
タックルで加護を止めた。
- 662 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:28
- ピピピピッ!!!!!
が、主審は笛をけたたましく鳴らした。
そしてスッとペナルティスポットを指差した。
「よっしゃ!!!」
倒れこんだまま加護がガッツポーズ。
京都パープルサンガ、PKを獲得。
- 663 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:29
- 「今のは完全にボールに行きましたよ?!!
何で今のでPKなんですか?!!」
紺野が主審に食って掛かる。
だが主審は首を横に振るのみ。
当然判定は覆らない。
「紺野、もういいよ。」
これ以上抗議しては審判の印象が悪くなる。
飯田は紺野を主審から引き離した。
「・・・・・すみません飯田さん。」
ハッと我を取り戻した紺野が飯田に謝る。
飯田は紺野に一言。
「大丈夫。絶対にカオリが止めるから。」
日本の守護神の表情から温度が消えた。
- 664 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:29
- ペナルティスポットに加護がボールを置く。
自分で得たPKだ。
自分で決めてみせる。
そして中澤に勝利をプレゼントする。
加護は軽く助走の距離をとった。
一方、飯田は両手を広げて加護を威嚇する。
ここで点を取られてはまずい。
自分たちが勝つには絶対に止めねばならない。
加護は視線をゴール左上隅に向けている。
一方、飯田は加護の視線を気にせず、加護の身体全身を見ている。
もうこの瞬間から駆け引きは始まっている。
- 665 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:30
- ピィッ!!!!!
主審の笛が短く吹かれた。
その瞬間、加護が助走を開始する。
飯田は加護の左足を凝視する。
「右!!!!」
飯田は自分の勘を信じて思い切り右に跳んだ。
- 666 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:30
- チッ!!!!
コースはドンピシャだった。
飯田が懸命に伸ばした指先にボールは触れた。
そしてゴールポストに当たって大きく跳ね返る。
「なっ?!!」
加護は思わず叫ぶ。
京都パープルサンガ、痛恨のPK失敗。
- 667 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:31
- オオオオオオオオオオオ?!!!!!
スタジアムが大きくどよめく。
サンガサポーターは頭を抱え、
コンサドーレサポーターは歓喜の声を上げる。
「チャンスだべ!!」
今のPK失敗でサンガは明らかに気落ちした。
今こそ得点のチャンス。
獣がその嗅覚で獲物を捕らえる。
- 668 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:32
- ゴールポストに跳ね返ったボールはみうなが拾った。
「みうな!!!」
安倍が最前線でボールを呼ぶ。
みうなは最前線へ大きく蹴りだした。
このパスに素早くDFラインの裏へ飛び出した安倍。
浮き足立つサンガイレブンのわずかな隙を決して逃さない。
安倍はみうなのパスを見事にコントロールすると、
そのままゴールに向かって突進する。
サンガ右DFが捨て身のタックルに向かうが、これを安倍はかわした。
- 669 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:32
- 安倍の目の前にはGK前田のみだ。
その前田はコースを狭めるため思い切ってゴールから飛び出す。
これを見た安倍、前田の届かないコースへボールを流し込む。
だが前田も懸命に足を伸ばし、このボールに触った。
ボールがこぼれる。
「ちっ!!!」
このボールを中澤と安倍が追いかける。
クリアか、それかねじ込みか。
両者が激しく交錯した。
- 670 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:33
- 「よっしゃああ!!!!!」
鬼のような形相で雄たけびを上げたのは中澤裕子。
安倍を押し切り、このボールを大きくクリアした。
それはまさに執念だった。
「あんたには絶対にゴールは割らせん。」
中澤がギロッと安倍を睨む。
その中澤の鋭い眼光に安倍は確信する。
今まで対戦したDF。
その中で一番強かったのは中澤裕子だと。
飯田、そして中澤のディフェンスで両チームとも絶体絶命のピンチを乗り切った。
- 671 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:33
- その後も両チームとも気迫を込めて必死に戦う。
サンガは中澤、前田がゴールに堅い鍵をかけ、
加護が何度も何度も飛び道具でコンサドーレゴールを襲う。
コンサドーレは飯田、紺野、みうなが鉄壁のディフェンスをみせ、
安倍が日本のエースとして優勝へとつながるゴールを狙う。
天皇杯決勝に相応しい一進一退の攻防に、
満員に膨れ上がった国立競技場は大歓声で揺れる。
そしてとうとうロスタイムとなった。
- 672 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:33
- 安倍のポストプレーからみうなが左サイドをえぐる。
だがサンガDF陣は完璧な守り。
中澤の指示に従ってゴール前をきっちりと固めていた。
「どこに上げれば・・・・・」
みうなもクロスを上げるポイントを見つけられないでいた。
と、その時、みうなの視界に1人の選手が映った。
「ここだっ!!」
みうなは左足を振り抜いた。
- 673 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:34
- みうなの左足から放たれたクロスは低い弧を描き、ゴール前中央へ。
そこには中澤がきっちりといた。
「任せ・・・・・なっ?!!」
中澤がこれをクリアしようとした瞬間、
自分の後ろから誰かが飛び込んできたのに気付いた。
その選手は地面すれすれのボールに頭から飛び込んだ。
- 674 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:34
- 「あっ?!!」
この低空ダイビングヘッドはゴール右隅へと飛ぶ。
GK前田が懸命に飛びつくが触れない。
ボールはゴールネットに包まれた。
後半ロスタイム。
コンサドーレ札幌、DF紺野あさ美のダイビングヘッドにより貴重な先制点。
- 675 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:35
- ウワアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
スタジアムが大きく揺れる。
待ちに待った先制点。
しかも中澤裕子の後を継ぐべき紺野あさ美が、
その中澤裕子に競り勝ってゴールを決めた。
これこそ日本サッカー界にとって願っても無い展開ではないか。
満員の観客たちは大満足していた。
- 676 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:35
- 「・・・・・これで勝ったと思うなよ。」
だが、彼女だけは満足していない。
最後の最後まで自分がトップだ。
乗り越えられるのではなく、道を譲ってやるのだ。
勘違いしてもらっては困る。
中澤は気落ちするイレブンを尻目に、
ゴールネットに包まれたボールを拾ってセンターサークルに走る。
そしてそのままFWの位置に残る。
時間が残っている限り、最後の最後まで勝利を目指す。
それが中澤裕子のサッカーだ。
その姿にサンガイレブンも気持ちを取り戻す。
そう、必ずこの試合に勝って中澤を新しいステージへと送り出さねば。
- 677 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:36
- ピィ!!!!!
主審の笛が鳴り、試合が再開された。
残り時間はあとわずか。
あともう1プレーか2プレーだろう。
死力を尽くして両チームイレブンがピッチで戦う。
「加護!!あんたが絶対にゴール前まで運ぶんや!!」
中澤はボールを加護に預けると自分はゴール前へと走る。
コンサドーレはほぼ全員が引いて守っている。
この堅固なディフェンス網を打ち破れるのは加護しかいない。
中澤は加護のドリブルに全てを賭けた。
- 678 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:36
- ボールを受けた加護はボールを前に押し出す。
その加護に安倍たちコンサドーレイレブンが襲い掛かる。
が、それを加護は軽やかにかわしていく。
ボールが足に吸い付いているような。
それでいてボール自身が自分の意思で相手をかわしているような。
まさに無敵のドリブルだ。
“ドリブルの魔術師”は伊達じゃない。
- 679 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:36
- そしてこのドリブルがさらに加護の可能性を広げる。
迫り来るコンサドーレボランチを今度は味方とのワンツーでかわす。
それでもうコンサドーレイレブンはパニック状態。
ドリブルで来るのかパスで来るのか全く分からない。
全てが後手後手に回らざるを得ない。
「ファウルだ!!ファウルでいいから止めろ!!」
飯田が最後尾から指示を送る。
もう時間は残りわずかだ。
ここで一度流れを切れば試合終了の笛を聞ける。
- 680 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:37
- 飯田の指示に従い、加護を止めに行くコンサドーレ。
が、これを加護は狙っていた。
ファウル狙いで自分に突っかかってくるという事は組織が崩れる事。
その瞬間こそ最大のチャンスが生まれるはずだ。
「ここや!!」
そして加護の眼がそのチャンスをとらえた。
加護は飛び出してきたコンサドーレDFの裏へ見事なスルーパスを送る。
「ナイスパスや!!!」
このパスに飛び込んだのは中澤裕子。
全ての思いを右足に込め、思い切り振り抜いた。
- 681 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:37
-
・・・・・・だがボールはクロスバーを大きく越えていった。
- 682 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:38
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!!
そしてここで試合終了のホイッスルが鳴った。
コンサドーレ札幌、天皇杯優勝。
- 683 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:38
- 「紺野!!!」
「あさ美ちゃん!!」
優勝が決まったコンサドーレ。
しかし誰も歓喜に沸かず、倒れこむ紺野のもとに駆け寄る。
中澤が今までの全ての思いを込めたシュート。
それを紺野は顔面でブロックしたのだ。
まともに顔面に受けた紺野は脳震盪を起こして意識を失っていた。
- 684 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:39
- 「紺野!!」
「紺ちゃん!!」
「紺野さん!!」
飯田や安倍、みうなが呼びかける。
すると、紺野はうっすらと目を開けた。
「大丈夫だべか紺ちゃん?!!」
「あ、安倍さん・・・・・あっ?!!ボールは?!!」
段々と意識がはっきりしてきた紺野はガバッと立ち上がる。
しかしいきなり立ったため、よろけてしまった。
- 685 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:39
- 「あんたの勝ちや。」
その紺野を受け止めたのは中澤だった。
中澤は優しい表情で紺野を見た。
もうその顔は戦う選手の顔ではなかった。
その顔に、表情にみなハッとなる。
そう。今、中澤裕子はその選手生活を終えたのだ。
- 686 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:40
- 「あれを顔で止めに来るとは思わんかった。
その前のゴールもそうや。まさかあの低いクロスに頭から突っ込むなんてな。
・・・・・・あんたはもううちを超えたんやな。」
「な、中澤さん!!」
思わぬ言葉に紺野の目に熱いものが。
「紺野、後を頼むな。」
そう言って中澤はギュッと紺野を抱きしめる。
紺野は嗚咽をもらす。
譲葉は、今、その葉を譲り終えたのだ。
- 687 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:42
- 中澤は紺野を抱きしめながら、飯田と安倍を見る。
「カオリ、なっち。うちの大好きな日本代表を頼むな。」
「裕ちゃん!!」
飯田と安倍も中澤に駆け寄り、抱き付く。
2人とも泣いていた。
「中澤さん!!」
みうなをはじめ、コンサドーレの他の選手たちも中澤のもとに駆け寄る。
敵であろうと味方であろうと関係ない。
この中澤裕子こそ、日本サッカーそのものだったのだから。
「みんなありがとうな。うちの最後があんたらでよかった。」
中澤がコンサドーレの選手たちに感謝を述べる。
彼女たちのおかげで、今日、悔いのないゲームが出来たのだから。
- 688 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:42
- その後、中澤はサンガのチームメートのもとへ戻る。
中澤が真っ先に向かったのは、頭を抱えてピッチに泣き崩れている加護だった。
「加護。もう泣くな。」
中澤がスッと加護の腕を取り、立たせる。
「うちが、うちがPKを外さんかったら。」
加護はそう言って泣きじゃくる。
今まで目を掛けてくれた中澤の最後を勝利で飾れなかったことが何よりも悔しい。
「あんたはよう頑張ったで。何も泣くことあらへん。
ありがとうな加護。あんたと同じチームでホントに良かったわ。」
「な、中澤さん・・・・・」
加護が中澤の胸に飛び込む。
他の選手たちもだ。
みな、中澤と同じチームでいれたことに感謝し、幸せに思った。
- 689 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:43
- 「裕ちゃん!!」
その時、スタンドから久しぶりに聞く声が。
中澤はその声がした方に振り向く。
「信ちゃん、あっちゃん、美和。それに先輩方。
来てくださったんだ・・・・・」
そこにいたのは日本代表で苦楽をともにした信田美帆、稲葉貴子、小湊美和であった。
そしてその周りにはサンガの先輩、代表の先輩たちもいた。
みな、わざわざ中澤の最後の試合を観に来てくれていたのだ。
- 690 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:43
-
みんなありがとう。うちは、うちはホンマに幸せもんや。
- 691 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:44
- その後、サンガ、コンサドーレのイレブンは全員で中澤を胴上げした。
そしてその光景にスタンドにいる観客は全員立ち上がり、中澤に拍手を送る。
“今までありがとう。そしてお疲れさま”という思いを込めて。
2005年1月1日。
今、日本は1つの時代の終焉を迎えた。
- 692 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:44
- が、それはまた新たな時代の始まりでもある。
今日、この瞬間から新たな時代が始まるのだ。
先人たちの熱い思いを受け継ぐ者たちの手によって。
- 693 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:45
-
2005年1月1日。
この日、1つの時代が終わり、そして新たな時代が始まった。
- 694 名前:第13話 譲葉 投稿日:2004/08/08(日) 01:45
-
第13話 譲葉 (終)
- 695 名前:ACM 投稿日:2004/08/08(日) 01:49
- 第13話 譲葉 終了いたしました。
ここ最近色々と忙しくなりまして、更新が遅れてしまいました。
申し訳ありません。
次回はもう少し早く更新できればと思います。
アジアカップ、見事に優勝してくれました。
○澤のプレーはホント素晴らしかったです。
僕の中では彼がMVPです。ボンバーヘッド最高です。
- 696 名前:ACM 投稿日:2004/08/08(日) 01:51
- では次回予告です。
第14話 日本人大移動
4世紀後半、ヨーロッパではゲルマン民族が大移動を開始した。
この大移動によってヨーロッパの情勢は大きく変化した。
そして時は経ち、2005年。
ヨーロッパからはるか遠いアジアの島国日本から、
多くの者がヨーロッパへと大移動を開始する。
それはまさに新時代の幕開けであった。
次回もよろしくお願いいたします。
- 697 名前:ACM 投稿日:2004/08/08(日) 01:52
- 今回もスレ隠しはなしです。
次回は移籍市場のお話です。
予告にもあるように日本人がヨーロッパに大移動いたします。
果たして誰がどこのクラブに行くのか?
楽しみにしていてください。
- 698 名前:みっくす 投稿日:2004/08/08(日) 02:44
- 更新おつかれさまです。
いい試合でしたね。
今の日本にこれだけ愛される選手は果しているのでしょうかね。
代表では一つ抜けたDFには誰がはいるのかな?
それもちょっと楽しみ。
次回は移籍市場のお話ということで、
かなり楽しみです。
- 699 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/08/08(日) 09:39
- お久しぶりです。
遂に終焉を迎えましたね。今までの活躍凄かったです。
アジアカップも終わって12日(日本時間)からオリンピックも始まりますね。メダルを目指し、ガンバレニッポン
- 700 名前:ななししぃく 投稿日:2004/08/08(日) 14:57
- 更新お疲れ様です。
次回は移籍市場ですか。たのしみです。
さて、本の紹介です。(龍時も入れるつもりだったんですけど)
悪魔のパス 天使のゴール/村上龍
吉澤や柴田の関係はこの題名からとったんじゃないか
と思い、驚きました。試合描写が巧で、またヨーロッパ
サッカーの裏世界ともいえる部分が描かれています。
主人公は中田英寿タイプ。
文体とパスの精度/村上龍×中田英寿
小説ではないですが、中田選手と作者の対談形式
の本です。また、メールのやり取りも収録されています。
中田英寿 鼓動/小松成実
ペルージャ移籍に対するスタッフや代理人の奮闘を
描いたものです。試合に関するものはあまり無いですが、
オフシーズンの参考に。
以上です。もし、文章が合わなかったらすいません。
- 701 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/08(日) 16:59
- いい試合でした。
でもね、まだ引退させないでくださいよ〜
自分の好きなフィーゴより年下なんですから。
- 702 名前:ピクシー 投稿日:2004/08/09(月) 03:54
- 更新お疲れ様です。
いずれはどんな選手にも、こういう時はやってきますね。
あの「ピクシー」もそうだったし・・・
新時代、期待してます。
アジアカップ、確かに○澤が一番全試合で安定して良いプレーしてた気がします。
U−23の今野もそうですけど、ガツガツいっているのだけど、ファウルが少ないのも好感でした。
今度はU−23です。個人的には背番号「11」に期待。
この前の強化試合でも存在感の大きさを示したし。
是非、ここの「ドリブラー」にも、彼のような劇的な進化を期待したいですね。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 703 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 18:20
- 三好と岡田はどうなるんですかね。今の展開だと三好は使いづらいですね。
そういえば、和田はどうしてるんでしょうか?
- 704 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 21:18
- 698>みっくす様
レスありがとうございます。
確かにこんなに愛される選手はそうはいないですよね。
まあ僕としてはキングカズなんですけど。
今回、移籍がたくさんあります。
ちょっとややこしいですけど楽しみにしてください。
699>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
どうもご無沙汰しております。お元気でしたでしょうか?
遂に終わりがやってきました。作者もちょっと寂しいです。
オリンピック、いつの間にか終わってしまいましたね。
この小説のようになって欲しかったです。
700>ななししぃく様
レスありがとうございます。
本のご紹介もありがとうございます。
悪魔のパス 天使のゴールは読みましたよ。
ただ、これから2人の関係をとったわけではないんですよ。
実は中田英のキラーパス、小野伸ニのエンジェルパスからとりました。
- 705 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 21:28
- 701>名無飼育さん様
レスありがとうございます。
いい試合と褒めていただき、ありがとうございます。
そうですよね、確かにまだ引退は早いかもしれませんね。
でも、彼女にはまだまだ頑張ってもらうことがあります。期待してください。
フィーゴ、自分も好きですよ。あのドリブルは芸術です。
702>ピクシー様
レスありがとうございます。
そうですね、いずれ引退はどんな選手にもきますよね。
しかしその分新たな力が生まれてくるはずです。
オリンピック、背番号「11」にとっては不本意な大会となりましたね。
でもこれで終わりじゃないですし、これから大きくなってほしいですね。
703>名無飼育さん様
レスありがとうございます。
三好さん、岡田さんですか。正直作者も困っております。
それから和田さんですが、小説には出てきませんが世界中を飛び回ってますよ。
海外組のクラブと日本サッカー協会の交渉は全て彼の役目ですから。
またいずれ出したいと思います。
では本日の更新です。
- 706 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:30
- 天皇杯決勝戦が遂に終わった。
優勝はコンサドーレ札幌。
見事な勝利であった。
そして表彰式も終わり、
さらにはこの試合で引退する中澤裕子のセレモニーも終わった。
このセレモニーにおいて中澤裕子は今後、
マコト率いるU−20日本代表のコーチに就任する事が発表された。
この発表に満員のサポーターから大声援が上がった。
これからを担う若い逸材たちを日本サッカー界のキャプテンが厳しく導いていく。
日本サッカー界にとってこれほど良い事はない。
- 707 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:30
- だが、今日はこれだけではなかった。
全てのセレモニーが終わった後、両チームの広報から緊急発表があると伝えられた。
報道陣はその発表の内容をある程度予想しつつ、
プレスルームで今か今かとその発表を待っていた。
そしてついに発表の時が来た。
- 708 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:31
- 「みなさま、お待たせいたしました。」
まず最初にプレスルームに現れたのは
コンサドーレ札幌と京都パープルサンガの球団社長だった。
そしてその後ろから今日の試合で激闘を繰り広げたコンサドーレ札幌GK飯田圭織、
DF紺野あさ美、FW安倍なつみと、京都パープルサンガMF加護亜依が入ってきて、
用意された会見の席に腰をおろした。
オオオオオオオオオオ・・・・・・・・・・
その瞬間報道陣たちからどよめきが起こった。
この面子である。
もうみな確信していた。
- 709 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:31
- 「ではこれより発表させていただきます。
まずは我々、京都パープルサンガからさせていただきます。」
サンガの球団社長がスッと立って頭を下げた。
それに倣い、加護も立ち上がって頭を下げた。
「えー、この度我がクラブの選手、加護亜依はオランダリーグ、
アヤックスへの移籍が決まりました。」
- 710 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:31
- オオオオオオオオ!!!!
プレスルームに駆けつけた報道陣から一斉にどよめきが起こる。
オランダが世界に誇る名門クラブ、アヤックス。
若手育成に定評があり、アヤックスアカデミー出身で世界に名を轟かせた選手は
アーセナルのハヅキ・リオナンプ、バルサのキョウコリック・コイズミート、
ACミランのサトレンス・アイコルフなど数知れない。
今現在チームの顔は、オランダの宝石と言うべき存在、
クニナカ・チュラ・サン・エリートである。
その他にも将来を嘱望される若手が数多くいる。
この若いチームに“ドリブルの魔術師”が加入する。
そう、今日の緊急発表とは海外移籍の発表であった。
- 711 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:33
- 続いてコンサドーレの発表となった。
「我がコンサドーレから飯田圭織、紺野あさ美、そして安倍なつみの3名が
この度、海外のクラブからオファーをいただき、移籍することになりました。
まず、飯田圭織。
彼女はドイツブンデスリーガ、ボルシア・ドルトムントへの移籍が決定いたしました。」
- 712 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:34
- オオオオオオオオ!!!!
こちらもプレスルームがどよめく。
現在ドイツブンデスリーガ3位のボルシア・ドルトムント。
チェコ代表MFミズノ・ミキツキー、FWトミ・ナガーに
ナイジェリア代表MFニシヤマ・キクエーと世界の一流選手が揃う
名門クラブだ。
このゴールマウスを日本の守護神が守る事となる。
- 713 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:36
- 「続いて紺野あさ美。
彼女はイタリアセリエA、ASローマへと移籍いたします。」
オオオオオオオオ?!!!
この発表にもプレスルームはざわつく。
現在セリエAで首位を走るASローマ。
イタリア代表MF“プリンセス”ナカマチェスコ・ユッキエ。
アルゼンチン代表FW“地上の星”ナカジマル・ミユキトゥータ。
同じくアルゼンチン代表DF“壁”オカモト・マヨエル。
さらにはイタリア代表MF、ディ・カリーナにキョウノ・コトミージ。
ブラジル代表MFアイコソンなどまさにタレント揃いのクラブ。
ここに日本のパーフェクトDFが名を連ねる事となる。
- 714 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:36
- ここまで加護、飯田、紺野と移籍先が発表された。
どの移籍先も世界に誇れる名門クラブばかり。
これには報道陣も興奮を隠しきれない。
そして、最後の選手の移籍先の発表となった。
日本のエース、安倍なつみ。
いやが上にも期待が膨らむ。
果たして日本のエースはどこに?
「では最後に安倍なつみです。
彼女はイタリアセリエA、ユヴェントスへと移籍致します。」
- 715 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:36
- オオオオオオオオ!!!!
最後もビッグクラブであった。
世界の名門、『イタリアの貴婦人』ユヴェントス。
イタリア代表FW、アレッサンドロ・デル・ハセキョン。
フランス代表MF、“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマ。
チェコ代表MF、アキコ・ヤダベド。
イタリア代表GK、ジャンルイジ・フカキョン。
オランダ代表MF、エドガー・マヤミッキ。
フランス代表DF、アンパン・トダムとまさに世界最高クラスの面々だ。
そして何より、ここには彼女がいる。
日本代表MF“偉大なるパイオニア”福田明日香が。
あの日、彼女は自分の力が足りないばかりにチームから旅立って行った。
しかし、とうとう日本のエースはパイオニアに追いついたのだ。
- 716 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:42
- その後、それぞれが新天地へ向けての意気込みを語った。
みな新たな世界に飛び出すという事で興奮を隠し切れない様子だった。
「これで13人か?この冬に海外に移籍するのは。」
ある1人の記者が呟く。
その言葉に別の記者はこう言った。
「ああ。まさに“日本人大移動”だな。」
- 717 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:42
- この記者の言うとおり、この年、多くの日本人が海外へと活躍の場を広げた。
その数は13人。
信じられない数字であるが、2004年のアジアカップ優勝、そしてアテネオリンピック金メダル、
さらには後藤真希、福田明日香、市井紗耶香などが海外で大活躍していることも後押しした。
日本人は使える。
それが各国クラブの共通認識だった。
- 718 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:44
- 「矢口さん、次はチャンピオンズリーグで勝負ですね。」
「おう。アゴンには負けないからな。」
昨シーズンJリーグチャンピオンに輝いた横浜Fマリノスからは
“魔法の左足”石川梨華と“スピードスター”矢口真里が移籍を果たした。
- 719 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:44
- まずは“魔法の左足”石川梨華。
今季JリーグMVP選手は、イングランドプレミアリーグ、
昨シーズン3冠王者のマンチェスター・ユナイテッドへの移籍が決まった。
この移籍はマンチェスター監督、サトミックス・ファーガソンが熱望したものだ。
今季のマンチェスターは前半戦を首位で終えている。
が、これはたまたまで、チームは大きな弱点を抱えているとサトミックスをはじめ、
他のプレミアクラブは見抜いていた。
マンチェスターの弱点、それはシバサキ移籍である。
このイングランド代表貴公子の移籍は、事の他大きかった。
それは何より、あの正確無比なクロスだ。
マンチェスターの得点パターンはシバサキのクロスに
マツ・ユキ・ヤスコローイが決めるというもの。
シバサキがいるからこそ稀代のストライカー、
マツ・ユキ・ヤスコローイが活きていたのだ。
- 720 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:45
- だがシバサキがレアルに移籍したことにより、
質の高いクロスの配給が無くなった。
よってヤスコローイは自ら突破して点を取らねばならなくなった。
よって、ボールを持ちすぎてチームのリズムが悪くなっていったのだ。
その結果、サウサンプトンやフラムといった中堅クラブにまさかの敗戦を喫しているし、
ライバルのチェルシーに敗れ、アーセナルとは引き分けだった。
この現状を打破するには、正確なクロスボールを配給できる選手が必要だ。
そこで白羽の矢が立ったのが“魔法の左足”石川梨華であった。
彼女の左足ならばシバサキの代わりを務める事が出来る。
もちろん、FKにも期待できる。
「これで今季も我々の優勝だ。」
サトミックスは高らかに語った。
- 721 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:46
- 続いて“スピードスター”矢口真里。
彼女はかねてから噂のあったバレンシアへ移籍が決まった。
バレンシアの左サイドにはスペインが誇るスピードスター、ミホチャン・シライシがいる。
実は矢口加入をこのスピードスターが一番望んでいたのだ。
フロントに矢口獲得を進言したのは他ならぬこのシライシだった。
シライシにとって矢口は絶対に負けたくないライバル。
が、もし2人が同じチームならば?
シライシはそう考えると興奮を抑える事はできなかった。
シライシが左、そして矢口が右に入ることでバレンシアの両翼は世界最速となった。
この両翼を大歓迎なのが司令塔、アルゼンチン代表のチヒロ・オニツカール。
自分のパスでこのスピードをどこまで活かせるか。
オニツカールもシーズン再会を心待ちにしていた。
- 722 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:46
- 「行ってくるね里沙ちゃん。」
「うん。あたしもすぐに追いかけるから。」
ジュビロ磐田の高橋愛。
何と、高橋を獲得したのはあの銀河系選抜といわれるレアル・マドリード。
数シーズン後に引退を表明しているポルトガル代表MFヒトミ・クローキの後継者として
レアルは“日本の次代のエース”に目をつけ、そして獲得した。
が、今はまだクローキが健在だ。
高橋が今レアルにいても出場機会は恵まれない。
ということで今シーズンの残りは、かつて市井紗耶香が所属していた
フランスリーグのASモナコにレンタル移籍となった。
このモナコとの契約は1年半。
ここで経験を積み、そしていずれは銀河系の一員へと登りつめる。
- 723 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:47
- 「あいぼんに勝つのれす。」
ガンバ大阪、“小さな弾丸”U−19日本代表キャプテン辻希美。
彼女も相棒、加護亜依と同じくオランダリーグへ。
だが、移籍先はアヤックスのライバル、PSVアイントフォーへン。
実はアヤックスからもオファーが来たが、辻はこれを断った。
それはもちろんライバルと全力で戦いたいからだ。
加護VS辻。
オランダの地でライバルと熱い戦いを繰り広げる。
- 724 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:47
- 「重さん、後は頼んだよ。」
「はい、任せてください。」
柏レイソルMF“頼れる姉貴分”保田圭。
彼女はスペインの首都、マドリードに本拠を構えるアトレティコ・マドリードへ。
中盤の底での潰し役、そしてパスの配給役とセンターハーフとして申し分のない実力の保田に
このスペインの古豪は期待を込める。
古豪復活は保田の左足にかかっている。
- 725 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:48
- 「あんたなら大丈夫。がんばってこい。」
「はい。ありがとうございます信田さん。」
ヴィッセル神戸、木村アヤカ。
右ならどこでもこなせる“オールライト”はスペインリーグのセルタ・デ・ビーゴに。
サイドアタックが命のスペインにおいて
彼女のような優れたサイドアタッカーはまさに喉から手が出るほど欲しい人材だ。
そしてアヤカ自身もスペイン行きを熱望していたため、
意欲に満ち溢れている。
そんな彼女にサポーターたちの期待も熱い。
- 726 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:49
- 「サ・トエリさんに勝ちます。」
セレッソ大阪GK、“秘密兵器”ミカ・トッド。
彼女はイングランドプレミアリーグ、
ブラックバーン・ローバーズに移籍が決まった。
アジアカップで激闘を繰り広げた中国代表サ・トエリと
イングランドでも名勝負を繰り広げるであろう。
その証拠にサ・トエリもミカのプレミア参戦を歓迎するコメントを出している。
- 727 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:52
- 「まいちん頑張れよ。」
「期待してるよ。」
「サンキュ、麻美、鈴音。」
鹿島アントラーズからも“脅威の身体能力”里田まいが海外移籍を果たした。
彼女はギリシャが誇る名門、オリンピアコスに移籍が決まった。
オリンピアコスは今シーズンまで国内リーグ4連覇を達成。
ギリシャに敵はないだけに、今度はチャンピオンズリーグに照準を合わせる。
そのためにこのフィジカルに優れ、さらには攻撃力もある日本代表DFを獲得した。
チーム首脳陣も熱い期待を抱いている。
- 728 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:53
- 「あゆみ、勝負だね。」
そして“ミスオフサイド”ことジェフ市原の村田めぐみ。
彼女はポルトガルの名門、ベンフィカへと移籍が決まった。
先にFCポルトに柴田が移籍しており、柴田と海外で、
しかもポルトガルが誇る名門クラブ同士で戦えるのが何よりも嬉しい。
そして目指すは日本代表のスタメン。
同じく海外移籍を果たした“日本のエース”に挑戦状を叩きつける。
- 729 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:53
- 前述の安倍たちも含めたこの13名が海外移籍を果たした。
それだけ日本人選手の価値が上がったということだった。
そしてこれに伴い日本国内でも多くの移籍があった。
- 730 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:54
- 安倍、飯田、紺野という日本代表の主力を一気に放出したコンサドーレ。
弱体化が心配されたが、この移籍で得た移籍金を有効に使った。
安倍の後釜としてU−20代表期待のストライカー、川崎フロンターレFW夏焼雅を獲得。
紺野の代わりには大宮アルディージャDF中島早貴を、
飯田の代わりにはヴァンフォーレ甲府GK岡井千聖をそれぞれ獲得し、
見事に穴を埋めてみせた。
横浜Fマリノスも石川、矢口の穴を埋めるべく川崎フロンターレMF清水佐紀、
横浜FCの鈴木愛理を獲得。
こちらも万全の補強体制。
- 731 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:54
- 京都パープルサンガはモンティデオ山形のボランチ、菅谷梨沙子を獲得。
加護、中澤が抜けた穴は大きいが、その分2人(オフェンシブハーフとセンターバック)の間の
ボランチに良い補強をした。
GK前田とともにもう一度鉄壁の守りを築いてみせる。
ジェフ市原はエースストライカー村田の後を
アビスパの若きストライカー嗣永桃子に任せた。
鹿島アントラーズはFC東京から萩原舞を獲得。
まだ若いが将来は楽しみなDFであり、里田の穴を埋めてもらう。
その他のクラブも、移籍金を使って新外国人選手を獲得。
新シーズンに向けて勝負はすでに始まっていた。
- 732 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:55
- この国内での移籍は、ほとんどJ2のU−20世代の選手がJ1にというものであったが、
1人だけJ1からJ1のチームへ移籍した選手がいた。
清水エスパルスMF、田中れいな。
彼女は決断した。
清水エスパルスから移籍することを。
- 733 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:56
- もちろん今のクラブ、清水エスパルスに何の不満もない。
同僚には日本代表の小川麻琴もいるし、
サッカーどころ静岡の熱いサポーターもいる。
優勝を狙うにはちょっと厳しいが、J2降格の心配もほとんどない。
そんな中堅クラブ。
ある意味プレッシャーもなく、最高に心地よいクラブ。
だが、自分はそのぬるま湯にどっぷり浸かりきっていないだろうか?
田中はそう感じていた。
優勝争いというプレッシャーをシーズン中、ずっと感じたい。
そうしなければ世界で戦うあの2人に絶対に追いつけないからだ。
しかしそれには今のクラブ状況では厳しい。
悩んだ末の決断であった。
もちろん海外のクラブから正式オファーが届いてはいたが、
自分はまだまだ日本で勉強しなくてはならない。
そう感じ、田中は日本のあるクラブへと移籍した。
- 734 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:57
- 「あ、来た。おーいれいなー!!!」
「こっちだよ。」
移籍先の都市はすぐ隣の県だった。
新幹線ですぐの距離。
駅にはこれから同僚となる彼女と、そのお目付け役が出迎えに来ていた。
田中はその2人を見つけると笑顔で駆け寄った。
「絵里。これからよろしくね。リーエさん、よろしくお願いします。」
田中れいなは2005シーズンを名古屋グランパスエイトの選手として迎える。
まるで尊敬する柴田あゆみの足跡を辿るかのように。
2005年1月1日現在で以上の移籍が決定していた。
- 735 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:58
- イタリアミラノ空港に1人のジョカトーレが降り立った。
イタリアセリエA、ユヴェントスの安倍なつみである。
出口から出た瞬間一斉に焚かれるフラッシュ。
多くの報道陣がこの童顔の日本のエースを出迎えていた。
『うわー、すごいべ・・・・・・・』
安倍は報道陣の数とその熱気に圧倒されていた。
出迎えに来てくれたチーム関係者とともに安倍はトリノに向かった。
そして伝統を誇るユヴェントスのクラブハウスでユーヴェ会長、イシザカ・グランデ・コージンスとともに
入団会見を行った。
背番号は27。
足して9になる数字を選んだ。
- 736 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 21:59
- ―――伝統を誇るユヴェントスに所属することになってどう思うか?
「光栄に思っています。この伝統のあるユヴェントスでプレーできる事を幸せに思ってますし、
少しでもチームの役に立ちたいと思っています。」
―――このヨーロッパでも屈指の名門クラブでレギュラーを取れる自信はあるか?
「もちろんあります。来たからには必ず成功したいと思っています。
ただの広告塔で終わるつもりはありません。」
―――ここユヴェントスには元チームメートのアスカ・フクダがいるが。
「はい。自分よりも先にイタリアに来て成功した選手ですし、とても尊敬しています。
また同じチームになれて嬉しいですし、力を合わせて頑張っていきたいです。」
―――3日後にペルージャ戦があるが、その試合には出るつもりか?
「日本ではつい先日シーズンが終わったばかりなので今すぐでも充分動ける身体ですから、
監督が行けと言えばいつでも行けます。自分しては一日でも速く試合に出たいと思っています。」
―――最後にこのチームでの目標を。
「世界の超一流の選手たちが集まるユヴェントスです。スクデット、ビッグイヤー、コッパイタリア、
全てのタイトルを獲れる力があるチームです。そのチームに対して少しでも貢献できればと思います。」
安倍は報道陣からの質問に堂々と答えた。
- 737 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:00
- 会見終了後、安倍は練習グラウンドに向かった。
チームメートや監督と顔を合わせるためだ。
そこに着くと、選手たちは2チームに分かれて紅白戦を行っていた。
ピッチに聞きなれた声が響く。
「ハセキョン!!もっと動いて!!マツシマ、フォロー!!!」
怪我も完治し、休養も充分にとったため体調も絶好調の福田明日香だ。
ハセキョン、マツシマ、ヤダベドとダイレクトでボールが回り、
最後に福田がペナルティエリア外から強烈なミドルをゴールに突き刺した。
「フカキョン!!今の触れたよね?!!」
ゴールを決めた福田がGKフカキョンをあおる。
「今のはまぐれだ!!次は止めるから!!」
フカキョンもやり返す。
練習のピッチの上は試合と変わらないほどの熱気だった。
ここでの争いに勝たねば本番のピッチには立てないである。
- 738 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:02
- 「どうしたアベ?」
ユーヴェ会長、イシザカが隣で震えている安倍に尋ねた。
イシザカは、安倍はユーヴェのレベルの高さに震えているのだと思った。
が、安倍の顔は予想に反して輝いていた。
「凄いです、嬉しいです。こんな所でサッカーが出来るなんて。」
日本特有の武者震い。
まさに安倍はそれを感じていた。
「マツシマ、大分調子もどったんじゃない?」
「ああ。何とかね。アスカこそ怪我の具合もいいみたいね。」
「うん。大分休ませてもらったからね。」
練習を終え、福田とマツシマが言葉を交わす。
「ハセキョンはどう?膝の方は?」
「うん、大した事ないよ。次の試合も大丈夫。」
「さ、これから巻き返しだね。」
ヤダベドだ。
ユーヴェの誇る4人衆、ハセキョン、マツシマ、ヤダベド、福田。
チームのキャプテンはハセキョンだが彼女は前線のため、
ゲームを指揮するゲームキャプテンは福田であった。
彼女の統率力は素晴らしく、中盤のど真ん中で指揮する姿はまさに将軍であった。
みなはもちろん、キャプテンのハセキョンもこの小さな身体の日本人を頼りにしていた。
- 739 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:02
- 「おいみんなこっちに来てくれ!」
ユーヴェ会長、イシザカが練習を終えた選手たちを集める。
そこで安倍を紹介した。
「みんなも知っていると思うが、今日からわがユーヴェに入団するナツミ・アベだ。」
「安倍なつみです。みなさんよろしく。」
安倍はにこりと微笑んで挨拶した。
「アベ!!よろしく!!」
「ようこそユーヴェへ!」
マツシマとハセキョンが声を上げる。
彼女たちは安倍と対戦した事があり、その実力を知っている。
ようやく待ち望んだプリマプンタが来たということで彼女たちは安倍を歓迎していた。
- 740 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:03
- 「アスカ?どうした?」
ヤダベドが同じ日本人が、しかも親友の安倍が来たというのに
一言も発しない福田を怪訝に思い、尋ねた。
「・・・・・・・・・」
福田は明らかに様子がおかしかった。
「どうしたべ福ちゃん?」
安倍の声にビクッと身体を振るわせる福田。
よく見ると福田の頬が紅潮している。
「・・・・・・えへへ、なっちと同じチームになれて嬉しい。」
福田は頬を赤らめながら、モジモジしながらそう言った。
「なっちも福ちゃんと同じチームになれて嬉しいべ!!」
安倍は満面の笑みを浮かべ福田に抱きついた。
さらに頬を赤らめる福田。
- 741 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:04
- 「な・・・・・・・?」
この福田の様子にユーヴェの選手たちは驚愕の表情を浮かべる。
こんな福田など見た事ない。
あのクールで無愛想で誰に対しても厳しい福田明日香。
それをこんな状態にさせるとは・・・・・・
「・・・・こいつには逆らわないほうがいい。」
ユーヴェの選手たちが安倍に一目置いた瞬間だった。
あの福田に勝てる人物?として安倍はみなから一目置かれ、
すんなりとユーヴェの一員として認められた。
- 742 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:04
- そしてついにイタリアセリエAが再開された。
ここまでセリエAは第14節までを終了している。
現在首位を走るのがASローマ。
2位にはACミラン。
3位にユヴェントス。
そして4位にインテルミラノだ。
恐らくこの4チームにスクデットは絞られたであろう。
それだけにこれからは絶対に勝点の取りこぼしは許されない。
- 743 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:05
- 3位のユヴェントスはホームでペルージャとの対戦。
本来ならばここで福田明日香VS柴田あゆみという日本人対決が見られるはずだったのだが、
この冬の移籍市場で柴田がポルトガルの名門FCポルトに電撃移籍したため、
日本人対決はお預けとなった。
しかしその代わりに安倍なつみのデビュー戦という事で注目を集めた。
安倍はこの試合いきなりスタメンで出場した。
前半こそ周りとの連携がかみ合わず、上手く攻撃が出来なかったものの、
時間が経つにつれコンビネーションも合ってきた。
幾度となく素晴らしい攻撃を見せ始める。
- 744 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:06
- 安倍は典型的なプリマプンタだ。
もちろんサイドに開いてチャンスメイクもするが、
ほとんどセンターフォワードとして中央で構えている。
『アベ・・・・・・凄くやりやすい!!』
こう感じたのは2トップを組むアレッサンドロ・デル・ハセキョン。
彼女は典型的なセコンダプンタで、前線を自由に走り回りチャンスメイクするため
中央でドンと構えてくれるタイプのプリマプンタとは相性がいい。
イタリア代表でコンビを組むインテルのヨネクランはまさにこのタイプ。
この2人のコンビは世界中の並み居る2トップを差し置いて世界最強の2トップと言われている。
もちろん安倍もこのタイプのため、ハセキョンは心地よくプレーしていた。
- 745 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:07
- 『・・・・アベ、さすがだ!!』
さらにオフェンシブハーフのマツシマも安倍との相性の良さを感じていた。
彼女がフランス代表でコンビを組むのはアーセナルのウエト・アーヤ。
このストライカーはその自慢のスピードで裏へ抜け出すのを得意としている。
マツシマもそのファンタジーによるDFラインの裏へのパスを得意としているため、
アーヤとの相性はばっちりなのである。
安倍はアーヤと比べてスピードは格段に落ちるが、
ストライカーとしての嗅覚は安倍の方が優れているため、
アーヤよりもDFラインの裏へ抜け出す反応が速い。
そのためマツシマも代表の時と同じ様に自分の得意なスタイルでプレーできるのである。
- 746 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:08
- 『ナイスアベ!!』
そしてチェコ代表アキコ・ヤダベド。
彼女の得意とするプレーは前線への飛び出しやスペースへの走り込み、
強烈なミドルシュートである。
このプレーを活かすためには前線のFWがきっちりとポストプレーをこなさなければならない。
チェコ代表では長身FWのトミ・ナガーがそのポストプレーでヤダベドを活かしている。
安倍は高さこそトミ・ナガーに及ばないものの、そのフィジカル、
そしてテクニックとポジショニングは安倍の方が上である。
これを活かして見事なポストプレーをするためヤダベドが積極的に前線に飛び出せるのである。
- 747 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:09
- 『・・・・なっち。』
そして最後に福田明日香だ。
中盤の底にポジションをとる福田。
ボランチ(ポルトガル語で“舵取り”)と呼ばれるこのポジションは攻守の起点となり、
現代サッカーで最も重要なポジションである。
マツシマやハセキョンといった攻撃指向の強い選手たちの中にあって
福田は攻撃をしながら守備にも重点を置けるプレイヤーである。
そんな福田にとって前線から積極的に守備をしてくれる選手はありがたい以外の何物でもない。
安倍の魅力は得点能力だけでなく、積極的な前線の守備もその1つである。
というか、日本のFWはほとんどが例外なく守備もきちんとする。
そして何より安倍は一番の親友だ。
まさにベストパートナーだ。
- 748 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:10
- ユーヴェ監督、オダギリ・ジョリッピはこの日本人アタッカーを獲得したフロントに感謝した。
この日本人アタッカーはユーヴェに欠けていたラストピースを埋めるだけでなく、
もとからあったピースをさらに輝かせたのだ。
これならば3冠(スクデット、ビッグイヤー、コッパイタリア)を本気で狙える。
そう確信するジョリッピであった。
試合のほうは5−0でユヴェントスが圧勝。
安倍が2点を挙げ、マツシマ、ハセキョン、ヤダベドがそれぞれ1点ずつ挙げた。
安倍の欧州デビューは鮮烈なものであった。
- 749 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:11
- アジアカップ、オリンピックを制し、日本サッカー界が栄光に包まれた2004年。
それ以上の年になるように選手たちは新たなステージへと上っていく。
それがこの日本人大移動であった。
日本人の本格的な挑戦が今、始まった。
- 750 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:11
-
第14話 日本人大移動 (終)
- 751 名前:第14話 日本人大移動 投稿日:2004/08/24(火) 22:12
- 第14話 日本人大移動 終了いたしました。
今回は話じゃないですね。
完全に説明文です。
そのくせ時間がかかりすぎて申し訳ないです。
第13話から今回までの間でオリンピックも終わってしまいましたし。
日本、残念でした。
最終戦の戦いを最初からしてくれてたならば。
- 752 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 22:13
- 続きまして第15話の予告です。
第15話 復活の天使
欧州各国でシーズンが再開されていく。
そしてそれぞれのリーグに日本人が飛び込んでいく。
そんな中、新天地で復活を期する者がいた。
もう一度天高く羽ばたく。
その思いを胸に秘めて。
次回もよろしくお願いいたします。
- 753 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 22:14
- では久々のスレ隠しです。
安倍なつみ
“日本のエース”
得意プレー:バイシクルシュート ゴール前のポジショニング
ポジション:FW
所属クラブ:コンサドーレ札幌 → ユヴェントス(イタリア)
・プレーの特徴
何と言ってもセンターフォワードらしいプレーが特徴。
点を取るためにゴール前で勝負を仕掛ける。
シュートテクニック、ポジショニング、そしてゴールへの嗅覚が何よりも鋭い。
エースとはこの人のためにある言葉ではないだろうか。
大舞台になればなるほどその存在はより一層輝く。
課題はテクニック。
一人で突破できるだけのテクニックがないため、
味方に活かしてもらわねば点が取れない。
・作者のイメージ
三浦知良+武田修宏ですね。
大舞台に強い“キングカズ”と、これぞストライカーの極みという武田。
ヴェルディ黄金期の2人です。
・本編での存在
日本のエースとして引っ張ってくれている・・・・・・とは言い難い現状です。
本来ならばもっと前面に出てくれてもいいのですが、
何故か出てきてくれない。作者としてももどかしいです。
が、今回海外移籍を果たしたのでもっと前に出てきてくれるでしょう。
- 754 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 22:15
- 飯田圭織
“日本の守護神”
得意プレー:鋭い反射神経 長身を活かしたハイボールの処理
ポジション:GK
所属クラブ:コンサドーレ札幌 → ボルシア・ドルトムント(ドイツ)
・プレーの特徴
恵まれた身長を活かしてゴールに鍵をかける。
反射神経も鋭く、さらにはジャンプ力もある。
そして何よりその威圧感は敵を恐れさせ、相手が勝手にミスをしてくれる。
課題は得点を奪われると落ち込み気味になること。
オリンピック予選の中国戦などはその最たる例。
ゴールを決められた後も「ねえ笑って」と言えれば大丈夫なんでしょうけど。
・作者のイメージ
特にこれといったイメージはないですね。
長身GKということでファン・デル・サールってとこです。
・本編での存在
序盤は大活躍です。
だけど第二部に入ってからは舞台が欧州に移ったため、
中々出番が無かったですけど、オリンピックではさすがの活躍。
これからもヨシナ・ガーン、サ・トエリ、
ミカ、亀井との戦いで盛り上げてくれるはずです。
- 755 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 22:16
- 保田圭
“頼れる姉貴分”
得意プレー:中盤での激しい守備 左足のロングパス
ポジション:DMF CB
所属クラブ:柏レイソル → アトレティコ・マドリー(スペイン)
・プレーの特徴
中盤での強固な守備が持ち味。激しく、それでいて冷静なディフェンス。
一度ボールを奪うとその左足から精度の高いパスで攻撃へとつなげていく。
ボランチとして申し分のない選手。
課題はスピード。
ちょっと足が遅い。が、その分は読みとポジショニングでカバー。
・作者のイメージ
アルゼンチン代表のシメオネ+レドンドってとこです。
激しいプレーと、優雅なパス。
どちらも保田さんならありえそうなので。
・本編での存在
姉貴分として静かに後ろから見守ってくれてます。
中々表立っては出てきませんが、いないと困る人物でしょう。
会話とかで何か知的な、落ち着いた発言をする、できるのはこの人だからです。
- 756 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 22:17
- 矢口真里
“スピードスター”
得意プレー:光速スピード 1人スルーパス
ポジション:SMF SB WG
所属クラブ:横浜Fマリノス → バレンシア(スペイン)
・プレーの特徴
何と言ってもその快足。よーいドンの一瞬でトップスピードへ。
その速さは間違いなく世界最速。
自分で出したスルーパスに自分が追いつけるほどのスピード。
そのスピードでサイドを何度も駆け上がる。
課題はパワー。
身体が小さいだけにパワープレーに弱い。
そして高さもきついが、その分スピードを持って生まれたと考えるべきだろう。
・作者のイメージ
快足マルティンス。快足ババンギダ。快足岡野。
快足と名のつく全ての選手です。
・本編でのイメージ
チーム内のムードメーカーです。
特にオリンピック決勝トーナメント1回戦でのチーム立て直しに多大な貢献。
ポジションもサイドバックを開拓したように、
これからどんどん光が当たるのではと作者も期待しております。
- 757 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 22:18
- 石川梨華
“魔法の左足”
得意プレー:(左足からの)FK アゴンボール クロスボール
ポジション:SMF SB
所属クラブ:横浜Fマリノス → マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)
・プレーの特徴
何と言ってもその左足。
恐るべき精度の左足はどんな距離も関係なしにピタリと届く。
サッカーの得点の3割はセットプレー。しかし彼女がいればその割合は一気に跳ね上がる。
テクニックも充分にあり、サイドアタッカーとして申し分ない実力である。
課題はフィジカル面。
ボディバランス、スタミナ面で不安がある。
ここを克服せねば藤本、加護、麻美、みうなとの勝負は不利になる。
・作者のイメージ
レコバ+ベッカム+中村俊輔ですね。
ずばりFKです。
で3人ともサイドを経験しているので石川さんもサイドハーフの選手となりました。
・本編での存在
困った時の“魔法の左足”です。
そしてよく困らせてくれます。それは藤本さんとの兼ね合い。
どちらも好きなんですけど、ポジション的にどっちかしか出場できないんですよね。
いっつもどっちを出場させるか悩む所です。
- 758 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 22:19
- 加護亜依
“ドリブルの魔術師”“クラック”
得意プレー:ドリブル
ポジション:SMF WG SF OMF
所属クラブ:京都パープルサンガ → アヤックス(オランダ)
・プレーの特徴
ドリブル。ひたすらドリブル。まだまだドリブル。これでもドリブル。
スピードももちろんあるが、相手の裏を突くドリブルが持ち味。
相手は何をしてくるか分からない。そのドリブルで凍りついた局面を砕いていく。
その特徴からか、スーパーサブとして使われる事が多い。
課題は大分克服したが、まだまだ持ちすぎる事が多い。
そのためチームのリズムを崩す事がある。
・作者のイメージ
デニウソン。ひたすらデニウソン。
人生ドリブル1本。それこそデニウソン。
誰も読めないドリブルはまさに変幻自在です。
・本編での存在
辻とならんで海外組以外ではかなり目立っているのではないでしょうか?
またスーパーサブとして膠着した場面での登場が多いため、印象がよく残っています。
が、何かとシュートを外しまくっているような気が・・・・・・
- 759 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 22:20
- 辻 希美
“小さな弾丸”
得意プレー:弾丸ミドル ぶちかまし 最前線への飛び出し
ポジション:DMF CMF CB
所属クラブ:ガンバ大阪 → PSVアイントフォーへン(オランダ)
・プレーの特徴
そのフィジカルの強さを活かしたダイナミックなプレーが持ち味。
またタイミングの良い飛び出し、鬼のような弾丸ミドルで
ボランチの選手とは思えないほどの攻撃力を誇る。
さらにはその雰囲気で上手くチームをまとめられる。
課題は攻撃好きすぎること。
しばしば上がりきったまま帰ってこないことがある。
後は細やかなテクニックにも少々欠ける。
・作者のイメージ
攻撃的という事でバラックですかね。それと稲本。
2人とも攻撃的MFも出来るぐらいの攻撃力です。
辻さんもそれをイメージしました。
・本編での存在
加護ちゃんと同じく辻ちゃんも結構活躍してくれてます。
オリンピック決勝トーナメント1回戦、
さらにはワールドユースと作者も予想だにしない活躍です。
これからも期待です。
- 760 名前:ACM 投稿日:2004/08/24(火) 22:21
- 以上でスレ隠しを終わります。
では、また次の更新まで失礼致します。
- 761 名前:みっくす 投稿日:2004/08/25(水) 01:39
- 更新おつかれさまです。
いやー、一気にとびだしましたね。
でも、3番手のナンバー10がちょっと以外でした。
それにしても、やっぱりなっちはどこに行ってもエースなわけで。
次回の復活劇も楽しみにしてます。
- 762 名前:ピクシー 投稿日:2004/08/25(水) 03:45
- 更新お疲れ様です。
うんうん、やっぱこれくらい移籍市場が活発じゃないと・・・(特に国内)
加護は登場当時はデニウソンでしたけど、「高速切り返し」やスルーパスも覚えてきて・・・どんどん成長して欲しいなぁ。
思えば、田中達也も「最初はとにかくドリブルで抜く事を考えた、今はゴールの為のドリブル(みたいな事)」言ってますし。
同じような軌跡を歩んでいますね。
安倍&福田・・・思えば、初期の「黄金ペア」ですね。今は「W」が「黄金ペア」に感じますが。
「W」の対決はまだ描かれていないので、楽しみです。
五輪・・・もっと「11」を見たかった、たら・ればを感じさせるプレーをしていただけに(涙)
次回更新も楽しみに待ってます。
- 763 名前:ACM 投稿日:2004/09/01(水) 18:07
- 761>みっくす様
レスありがとうございます。
仰るとおり一気に飛び出しましたね。
ちょっと多すぎたかなっと思いもしますが、これも願望という事で。
762>ピクシー様
レスありがとうございます。
移籍市場、大盛況でした。が、まだあるかもしれません。
どうかご期待下さい。あ、もちろん加護さんの成長も。
- 764 名前:ACM 投稿日:2004/09/01(水) 18:15
- えー、ここで皆様にお詫びです。
今回、第15話『復活の天使』をお送りする予定でしたが、
前回で欧州に移籍した人たちのデビュー戦を書いたところ
思いのほか長くなってしまいました。
ですので、今回は思い切って彼女たちのデビュー戦を
第15話として取り上げたいと思います。
第15話は 『欧州デビュー』 です。
ということで『復活の天使』は第16話でお送りいたします。
急な変更、申し訳ありません。
では、本日の更新です。
- 765 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:18
- 欧州に日本人が大移動を果たした。
ユヴェントス安倍なつみの2ゴールに代表されるように、
みなそれぞれ新天地で活躍を見せた。
マンチェスター・ユナイテッドに移籍した“魔法の左足”石川梨華。
彼女も見事に欧州デビュー戦を飾った。
プレミアリーグ第19節対ミドルスブラ戦に石川は左サイドハーフでスタメン出場。
そのため今までずっと左だったウェールズ代表マツシタ・ユキスはセカンドトップに。
セカンドトップであったイングランド代表タバタ・ナズナールズは
本来のポジション、センターハーフへ。
センターハーフを務めていたカメルーン代表タカシマ・アヤパンアヤパンは
右サイドハーフへとポジションを移した。
- 766 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:18
- 試合はホームのミドルスブラが勢いよく攻める。
マンチェスターはポジションを変更したせいか、少々動きが鈍い。
しかし後半33分。
石川梨華の“魔法の左足”が一発で流れを変える。
中盤でアイルランド代表“闘将”シマ・キーンがボールを奪った。
そしてすぐに左サイドを駆け上がった石川にボールを出す。
このパスを受けた石川、相手右サイドバックがチェックに来る前に
ペナルティエリア手前からアーリークロスを上げた。
- 767 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:19
- このクロスの先にはオランダ代表マツ・ユキ・ヤスコローイが走りこんでいた。
「この感覚、久しぶりだ!!」
左右対称のきらいはあるものの、
シバサキのあのクロスに合わせる感覚だ。
ヤスコローイは上手くポジションをとり、これを頭で合わせた。
ボールは見事にゴールネットに突き刺さった。
- 768 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:19
- 「イシカワ!!!」
ゴールを決めたヤスコローイがクロスを上げた石川に抱きつく。
そこへ他のチームメートも加わり、石川を中心に輪が出来る。
みな、今のクロスに感嘆していた。
まさにシバサキを髣髴とさせるクロスだ。
そして同時に今シーズンもこれでいけると確信した。
これで我々に弱点は無くなった。
昨シーズンの3冠王者が自信を取り戻した瞬間であった。
チームはこの1点を守りきり、アウェーながらもきっちりと勝点3を獲得した。
- 769 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:19
-
まずは石川梨華。
“魔法の左足”でその存在感を大いに見せ付けた。
- 770 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:20
- 続いて同じくイングランドプレミアリーグ、
ブラックバーン・ローバーズに移籍したミカ・トッド。
彼女もアウェーでの対ニューカッスル戦にスタメン出場。
格的には圧倒的にニューカッスル。
しかもアウェーとあってブラックバーンは苦しい戦いを強いられる。
シュートの雨が幾度となくブラックバーンゴールに降り注がれる。
- 771 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:21
- が、一度もゴールネットが揺れる事は無かった。
小さな身体が何度も宙を舞い、シュートの雨を弾き返す。
サポーターたちはこの小さなGKの俊敏な動きに驚きを隠せなかった。
そして逆にブラックバーンがカウンターで一度だけゴールネットを揺らした。
ブラックバーンは1−0でアウェーながらも強敵ニューカッスルを下す大金星。
- 772 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:22
- 「ミカ!!!」
チームメートが殊勲のこの小さな身体の守護神を抱き上げる。
「みんなこそナイスディフェンス!!」
ミカは自分の前で身体を張ったディフェンス陣を称える。
ミカはハワイ生まれなだけに英語は当然完璧だ。
それだけにDF陣との意思の疎通はキッチリ出来た。
攻撃的なポジションならばまだしも、守備では絶対に意志の疎通が必要だ。
だからこそミカは英語が国語のイングランドを選んだのであった。
サ・トエリのことだけでは無かったのだ。
この判断は正しかった。
ミカ・トッドも素晴らしいデビューを飾った。
- 773 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:22
- 続いてスペイン、リーガエスパニョーラ。
まずはバレンシアに移籍した“スピードスター”矢口真里。
ホームでセビージャを迎えた一戦。
そう、いきなり松浦亜弥との対決だった。
が、矢口はベンチからスタート。
バレンシアの右サイドにはスペイン代表にも名を連ねる選手がおり、
その選手には何の問題も無いため、いきなり矢口がスタメンとはいかなかった。
しかし終盤、必ず出番は来ると信じてベンチで戦況を見守る。
- 774 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:23
- 「ほえー、しっかし松浦の奴すっごい上手くなったな。」
ベンチで松浦の動きを見て感嘆の言葉を漏らす矢口。
昨シーズン、そして今シーズンもリーガ最小失点を誇るバレンシアDF陣を相手に
真っ向から勝負を仕掛ける松浦。
その動きは鋭く、そして狡猾さをも併せ持っていた。
「レイエスともう1人誰かいたら確実にゴールを決められてるよ。」
矢口の言うとおりだった。
バレンシアのDF陣は松浦とキク・カワ・レイエスの
コンビネーションにかなり手こずっていた。
もしここにもう1人誰かが絡む事が出来れば間違いなくゴールは生まれたであろう。
だがそのもう1人がいなかった。
このあたりが中堅クラブの悲しい性か。
- 775 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:23
- しかしセビージャはここまで7位と大躍進。
選手たちも自信をつけつつあった。
2位につけるバレンシア相手に互角に近い戦いを見せる。
「ヤグチ、行くぞ。」
「はいっ!」
そして0−0のまま後半20分。
ついに矢口に声がかかった。
- 776 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:24
- 「出てきましたね矢口さん。」
松浦が滴り落ちる汗を拭いながら言う。
終盤に来て当然選手たちは疲れている。
そこへこの世界最速が入るのだからセビージャとしてはたまらない。
松浦がチームメートに矢口のスピードに気を付けるように促す。
「ヤグチ、ガンガン走ってよ。」
バレンシアの司令塔、チヒロ・オニツカールが矢口に声を掛ける。
これで左にスペイン代表シライシ、右に矢口とスピードスターが2人揃った。
このハイスピードを演出するのは自分とばかりにオニツカールは気合いをいれる。
- 777 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:24
- 「ヤグチ!!」
オニツカールが右サイドに開いた矢口にパスを送る。
これを矢口は相手左サイドバックのチェックをやり過ごすため、ダイレクトでタテに出す。
「げっ?!」
イメージとしては右サイド奥のスペースに1トップが走り込むというものだったが、
その1トップとの意志の疎通が合わなかった。
1トップは中央で動かなかったのだ。
ボールが転々と転がる。
- 778 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:25
- 「ちっ!!」
これを矢口自らが追いかける。
あれに追いつくはずがない。無駄走りだ。
セビージャ陣営はもちろんのこと、バレンシア陣営もみなそう思った。
だがメスタージャスタジアムにいる者たちは、みな我が目を疑った。
小さな身体の日本人がグングン加速し、一歩ずつボールに迫るからだ。
「何だあれは?!!」
「ありえないぞあの速さは!!!」
口々に叫ぶサポーターたち。
まるであそこだけコマ送りをしているようだった。
- 779 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:25
- ラインギリギリで追いついた矢口、中へ鋭いクロスを送る。
しかしまさか今のに追いつくとは思っていなかったため、
みなゴール前に走りこむ出足が鈍い。
しかし1人だけ彼女ならば追いつくと信じてゴール前に素早く詰めた選手がいた。
『ヤグチなら追いつくと思ってた!!』
矢口のスピードを誰よりも知る彼女、
スペイン代表ミホチャン・シライシ。
このクロスを右足で合わせ、見事にゴールネットを揺らした。
- 780 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:25
- 「よっしゃ!!!」
矢口がグッと拳を握り締める。
「ヤグチ!!」
「マリ!!」
そこへゴールを決めたシライシをはじめ、
バレンシアの選手たちが一斉に矢口に飛びつく。
「ちょ、ちょっと痛いって!!」
手荒な祝福を受ける矢口。
その姿は瞬く間に見えなくなる。
「やられた!!」
松浦が表情を歪める。
彼女もまさかあれに追いつくとは思ってもみなかったのだ。
結局試合はこのまま1−0でバレンシアが逃げ切った。
- 781 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:26
- 試合終了後、矢口が選手たちとともにサポーターに挨拶をする。
とその時、バレンシアのホームスタジアム、メスタージャは大歓声で揺れた。
「ヤグチ!!!」
「すごいぞちっこいの!!!」
「マリー!!!」
言葉は分からないが、自分の事を言っているのは矢口にも分かった。
しかも好意的だというのも。
あの小さな身体から生み出される爆発的なスピード。
バレンシアサポーターにとってかなり強烈なインパクトだった。
この一発で矢口はバレンシアのファン、選手からその存在を認められたのだった。
- 782 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:26
- 続いてアトレティコ・マドリーに移籍した“頼れる姉貴分”保田圭。
アトレティコはホームでラシン・サンタンデールを迎えた。
保田はボランチの位置で先発出場。
が、前半開始早々立て続けに2失点を喫してしまう。
「うーん、さすがスペイン。
話には聞いてたけどここまで中盤のプレスが弱いなんてね。」
序盤は様子を見ようとしていた保田であったが、
味方中盤のあまりのプレッシャーの緩さにもう我慢できなかった。
- 783 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:27
- 「あんたたち!!!キリキリ行くわよ!!!」
声を張り上げ、激しい当たりで中盤を引き締めていく。
そして中盤での守備をさぼるものがいれば容赦なく雷を落とす。
この保田のゲキに刺激され、
アトレティコの中盤もきっちりと機能するようになった。
- 784 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:27
- 「はいっ!!」
中盤でボールを奪った保田、一気に前線へロングスルーパスを送る。
このスルーパスにタイミングよく反応したのはスペイン期待の若手FW、
ミムランド・ミームラ。
見事にゴールネットを揺らし、1点差に追いつく。
さらにミームラは終了間際にもゴールをねじ込み、
アトレティコは何とかホームゲームを引き分けで終わった。
- 785 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:28
- 「ダメよあんたたち!!全然なってないわ!!
今日は勝ててた試合よ!!次の試合からはもっとキリキリ行くわよ!!」
「は、はいっ!!!」
保田の強烈なゲキにアトレティコの選手たちは姿勢を正して頷くしかなかった。
保田はその独特の存在感でアトレティコイレブンを掌握した。
- 786 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:28
- そしてセルタ・デ・ビーゴに移籍した“オールライト”木村アヤカ。
アヤカは4−3−3の右ウイングでスタメン出場を果たした。
相手は現在9位と大低迷の名門、FCバルセロナ。
カンプノウに乗り込んでの試合となった。
序盤は、低迷しているとはいえ選手の力はあるバルサが押し込む。
が、相変らずバルサの攻撃陣は決定力を欠いており、ゴールが決まらない。
そして流れは次第にセルタの方へ。
- 787 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:29
- 「ちっ!!」
苛だったコヤナギーニョが単独ドリブルで突き進む。
迫り来るセルタDF陣を華麗なフェイントでかわしていく。
そして見事なノールックパスをDFラインの裏に通した。
このパスに走り込むのはアルゼンチン代表FW、タマキル・ナミオラ。
チェックに来るDFを振り切り、左足でシュートを放つ。
が、これはGKの真正面。
バルセロナ、またもチャンスを決められない。
これにバルサの選手たちも気落ちし、思わず足が止まる。
- 788 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:29
- この隙を逃さずGKは前線へロングスロー。
中盤からボールはすぐさま右サイドを駆け上がるアヤカへ。
アヤカは素晴らしいスピードで右サイドを駆け上がる。
何とか戻った左サイドバック、アルゼンチン代表アフロ・ヒトエと
センターバックのオランダ代表ユウコ・アサーノが一気にアヤカに当たる。
が、アヤカはさらにスピードを上げ、2人の間を一気にすり抜ける。
歴戦の猛者であるヒトエとユウコが一歩も動けなかった。
そしてゴール前へラストパス。
セルタFWは足を出すだけでよかった。
アヤカの見事なドリブル、そしてパスでセルタが後半22分、先制点を上げた。
- 789 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:30
- オオオオオオオ?!!!
この得点にバルセロニスタをはじめ、
バルセロナの選手たちも驚きを隠せなかった。
あのヒトエとユウコがあんなにもあっさりかわされるとは?
セルタのサポーターも驚いていた。
みな、ほとんど無名のこの日本人選手の実力を正直疑っていた。
何でこんな無名な選手を獲るのかと、憤る者もいたほどだった。
が、今のドリブルは一目見てワールドクラスと分かるものであった。
- 790 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:30
- 「何だ今のは?」
コヤナギーニョも今のアヤカのキレのあるドリブルに驚かされていた。
今のドリブルのキレ、明らかにワールドクラスだ。
そう思い、電光掲示板で背番号12の名前を確認する。
Ayaka Kimura
初めて聞く名前だ。
日本にはまだこんな選手がいたのか。
「ホント、いやになるね。」
コヤナギーニョは肩をすくめる。
が、この天才はただ相手を褒めるだけでは終わらない。
きっちりと倍にして返す。
- 791 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:31
- またもコヤナギーニョが単独でセルタDF陣に突っ込んでいく。
1人、2人と華麗にかわしていく。
が、そこへもう1人セルタDFが突っ込んできた。
オオオオオオオオ!!!!!!!
カンプノウが大歓声で揺れた。
それはコヤナギーニョがあの独特の高速切り返し、“エラシコ”を見せたからだ。
ちなみにこれは日本の後藤真希、加護亜依も得意とする切り返しである。
これでDF陣をあっさりとかわした。
そして飛び出したGKの足元を上手く抜いた。
後半36分。
バルセロナ、同点。
- 792 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:31
- ウオオオオオオオオオオ!!!!!
カンプノウが天才が生み出す幻想に揺れる。
「すご・・・・・」
アヤカもこれには完全に脱帽だった。
試合はこのまま引き分けに終わった。
が、対戦相手がバルセロナであったためスペイン人の目が多く注がれた試合であった。
アヤカにとってはその力をスペイン中に見せ付けられた良い機会となった。
- 793 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:31
- フランス、リーグ1のASモナコに移籍した“次代のエース”高橋愛。
モナコはホームで現在首位のリヨンとの対決。
この試合、高橋愛は味方のサポーターに苦しめられる事となった。
- 794 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:32
- 高橋の背番号はたまたま空いていた11。
ポジションは4−2−3−1の3の右。
そして何より日本人選手。
こう来るとモナコサポーターならば誰もがあの選手を思い出さずにはいられない。
現在、イングランドプレミアリーグ、
アーセナルに所属する“フリーロール”市井紗耶香を。
- 795 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:32
- 今から3年前、この無名の日本人選手は
低迷していたASモナコを久しぶりに表舞台へと立たせた。
その活躍はアーセナルに移籍した今もなお、人々の心に刻み込まれている。
その幻影をそのままこの新たな背番号11に重ねてしまったのだ。
そして得てしてその幻影は美化されてしまう。
「イチイはもっと上手かったぞ!!!」
「何やってるんだ!!イチイならば今のは抜いた!!」
高橋がボールを失ったり、少々のミスをするとサポーターから容赦なく叱責が飛ぶ。
これはかなりひどいものであった。
- 796 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:33
- しかし、高橋はこの叱責を自分のプレーで黙らせてみせた。
『確かにドリブルやテクニック、スピードでは負ける。
けどあっしの方が点を取れる。』
自分はFWだ。
サイドハーフもこなせるが、本職はFWだ。
市井さんとは違う所を見せてやる。
- 797 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:33
- その思いの通り高橋は見事に2ゴール奪ってみせた。
1点目は左からのクロスにヘッドで合わせたもの。
DFの間に上手くポジションをとり、豪快に叩き込んだ。
2点目は味方1トップが放ったシュートをリヨンGKがファンブル。
それを見逃さずにきっちりと押し込んだ。
2得点ともFWだからこそ奪えた得点であった。
- 798 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:34
- この結果にモナコサポーターも気付かされた。
今回加わった日本人選手は、
市井とはまた違った魅力を持つ選手だという事に。
モナコは高橋愛の活躍もあり、3−0で首位リヨンに快勝した。
- 799 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:34
- ポルトガル、スーペルリーガ。
現在2位のベンフィカに移籍した“ミスオフサイド”村田めぐみ。
年明け初戦は3位のスポルティング・リスボンとの一戦。
この試合、村田はベンチスタート。
しかし後半28分、3−0とリードされた時点で投入された。
だが彼女の持ち味はDFラインの裏への飛び出し。
3−0とリードしていてはスポルティング・リスボンもDFラインを下げるため、
村田の持ち味が活かせない。
- 800 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:35
- それでもストライカーらしい動きでゴール前に飛び込む村田。
裏へ飛び出すスペースはないが、その分嗅覚を活かしてゴール前に飛び込んでいく。
この村田の鋭い動きが相手の目を釘付けにし、
その隙にスロベニア代表MFイチロ・マキビッチが得意の左足でゴールネットを揺らした。
が、ベンフィカの反撃もここまで。
3−1でスポルティング・リスボンにホームでありながら完敗した。
- 801 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:35
- が、試合には完敗したものの村田の動きは悪くなかった。
チームメートも首脳陣も、そしてサポーターたちも満足していた。
特にチームの中心、イチロ・マキビッチが村田を絶賛。
次戦はぜひ村田をスタメンで使うべきだと監督に進言した。
マキビッチの得意とするプレーはDFラインの裏へと出すスルーパス。
村田がFWならば自分も得意なプレーで勝負できると思ってのことだった。
もちろん村田としてもチームの中心選手から気に入られるのは大歓迎だし、
裏へ出してくれるパッサーは村田にとって恋人のようなものである。
その恋人に惚れられたのだから、言う事はない。
村田めぐみのデビュー戦は結果こそ出せなかったが、
次戦に期待を抱かせる内容であった。
- 802 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:36
- そしてギリシャリーグ、名門オリンピアコスに移籍を果たした
“脅威の身体能力”里田まい。
現在14位のクサンチとの一戦をホームで迎えた。
この試合、里田はセンターバックではなくボランチの位置で先発出場。
これは里田の攻撃力をより活かすためであった。
センターバックだとやはり守備重視にならざるを得ない。
そこでチーム首脳陣は攻守両面でフル稼働してもらうため、
里田をボランチに置いた。
- 803 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:36
- 元々サンフレッチェではボランチだった里田。
このポジション変更には何の戸惑いもなく、見事な活躍を見せた。
さらには日本代表、それから鹿島アントラーズでセンターバックを務めていたため、
守備力は格段に上がっており、チームとしては本来のDFラインの前に強固なDFブロックが形成された形となった。
もちろん積極的に前線に飛び出し、攻撃面でも大きな戦力となった。
里田はゴールこそなかったものの攻守にきっちり絡み、
2−0の勝利に貢献した。
- 804 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:36
- ドイツブンデスリーガは長いウインターブレイクのため、
リーグ再開は1月の末まで待たねばならない。
が、飯田が移籍したボルシア・ドルトムントの次節の対戦相手は、
開幕戦にルールダービーを戦ったシャルケ04。
そう、ルールダービーは飯田圭織VS藤本美貴との一戦になる。
現地ドイツでは今からその話題で持ちきりだった。
もちろん両者ともお互いを意識するコメントを発しており、
いやが上にも盛り上がる。
- 805 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:37
- オランダエールディビジもウインターブレイクは長く、
リーグ再開は1月下旬だ。
加護亜依が移籍したアヤックスは、ホームでNECと。
辻希美が移籍したPSVはアウェーでフローニンゲンと対戦する。
これは2人にとってはありがたいこと。
チームとの連携を高めるには準備期間があればあるほどよい。
まあ2人はその明るい雰囲気であっさりとチームに馴染んだため、
プレーでの連携もきっちりとれるだろう。
2人にはそれだけの実力もあるのだから。
- 806 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:37
- 新たに日本から移籍した13人のうち、
ここまで12人のデビュー戦を語った。
最後は彼女。
セリエA、ASローマに移籍した“パーフェクトDF”紺野あさ美。
デビュー戦は何と、ACミラン戦。
首位決戦という大事な試合で、紺野は欧州デビューを飾ることとなった。
- 807 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:37
- 「今日は絶対に勝つよ!!」
「おうっ!!」
ホームにミランを迎えるローマのロッカールーム。
キャプテンのユッキエが気合いを入れる。
ここでミランを叩いておかねば後々厄介なこととなる。
選手たちもそれを理解しており、
みな気合いが入っていた。
「コンノ。期待してるよ。」
「あ、はいっ!」
アルゼンチン代表FW“地上の星”ナカジマル・ミユキトゥータが紺野の肩をポンと叩く。
ミユキトゥータと紺野はオリンピックで対戦した事がある。
その時は最後、紺野はミユキトゥータを引きずり倒して退場となった。
が、ミユキトゥータは試合後この若き日本代表DFを絶賛していた。
そして今回の冬の移籍市場で、ローマフロントがDFを補強するという方針を聞いたとき、
紺野を強烈にプッシュしたのであった。
これにはアルゼンチン代表DF“壁”ことオカモト・マヨエルも強く賛同したことから、ローマ首脳陣は紺野あさ美獲得に踏み切ったのであった。
- 808 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:38
- <ASローマ>
20 DF 6 紺野あさ美
19 オカモト・マヨエル
MF 10 9 MF 9 ディ・カリーナ
10 ナカマチェスコ・ユッキエ
17 11 11 アイコソン
DF DF 17 キョウノ・コトミージ
19 6 FW 20 ナカジマル・ミユキトゥータ
GK
- 809 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:38
- <ACミラン>
7 9 GK 12 ウーア
DF 2 ユーミン
11 10 3 タマオ・ナカムラーニ
13 マキコサンドロ・エスミ
20 21 MF 10 ヒロスエ・リョウ・コスタ
DF 2 11 ハマ・サーキ・アユウド
3 13 20 サトレンス・アイコルフ
21 マユコ・ハカセ
12 FW 7 イイジマー・ナオチェンコ
9 スズカゼ・マヨザーギ
- 810 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:41
- 「おうおう、やってくれるね。凄いよあいつ。」
ユッキエが思わず苦笑いを浮かべる。
試合が開始して35分経った。
ここまで両チームとも得点なしの0−0だが、
観る者にとって興奮せざるをえない熱い試合展開であった。
みな初出場のローマ背番号6のプレーに驚かされる。
- 811 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:42
- ローマは今季から3バックから4バックへと変更した。
そのDFラインのセンターにオカモト・マヨエルとともに入った紺野。
試合開始から積極的にラインを上げる。
これにはミランはもちろん、ローマの選手、サポーターたちも驚かされる。
ミラン2トップは裏への抜け出しが得意な2人。
マヨザーギは天性の得点感覚で、ナオチェンコはその類まれな身体能力で勝負するため、
この2人相手にラインを上げてスペースを創るのは愚の骨頂とされていた。
が、紺野はそれに敢然と立ち向かう。
DFラインを限界まで上げ、ミラン2トップと勝負する。
- 812 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:42
- もちろん紺野もこの危険性は承知している。
が、ラインを下げればそれだけミランの中盤が自由になる。
ミランの中盤は黄金の中盤と呼ばれ、セリエAでも最強を誇る。
ボランチにはイタリア代表マユコ・ハカセと、
オランダ代表サトレンス・アイコルフがおり、高品質なプレーを見せる。
そしてダブルオフェンシブハーフは世界有数のファンタジスタ。
“世界一のパッサー”ポルトガル代表ヒロスエ・リョウ・コスタ。
“ラストカナリア”ブラジル代表ハマ・サーキ・アユウド。
この4人を相手にDFラインを下げ、
中盤のプレスを緩くしてしまうと果たしてどうなるか?
- 813 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:43
- 待っているのは完全な敗北のみだ。
プレッシャーを与えねば、
いくら強固なディフェンス陣であろうと必ず破られる。
それほどの中盤であり個人の力量だ。
だからこそ紺野は勇気を持ってラインを上げる。
黄金の中盤を黄金に光り輝かせないために。
- 814 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:44
- 「いいね、彼女。」
イタリア代表ストライカー、スズカゼ・マヨザーギがニッと笑う。
いつもDFラインの統率者と格闘する彼女。
今回の相手はかなりの実力者だ。
しかし、それが逆にマヨザーギを燃えさせる。
オオオオオオオオオオ!!!!
ローマのホームスタジアム、スタディオ・オリンピコが
紺野とマヨザーギの熾烈なライン争いに熱く揺れる。
前線で何度も消える動きで飛び出すタイミングを計るマヨザーギ。
それを絶対に見逃さず、絶妙なタイミングでラインを押し上げる紺野。
日本では恐らく注目されない、
気付かれないであろう熱い戦い。
しかしさすがは守備の国イタリア。
この熱い戦いに当然注目し、興奮している。
前半戦は0−0で終わった。
それはつまり、前半は完全に紺野が抑えきったということであった。
- 815 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:44
- 「ナイスディフェンス!!!」
ロッカールームに戻るなりミユキトゥータが紺野の頭をくしゃくしゃと撫でる。
あのミランの強力2トップを、さらには黄金の中盤を完璧に抑え込んだ。
ホントに今日がセリエAデビュー戦か?
と思わず口に出てしまうほど紺野は見事なディフェンスを見せていた。
- 816 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:45
- 「いえ、まだ前半戦だけです。後半戦がまるまる残っています。
油断せずにきっちりと抑えましょう。」
が、紺野に油断や慢心はない。
それをした瞬間ゴールを奪われる事を肌で感じ取っていたからだ。
「今度はあたしたち攻撃陣が活躍しないとな。」
キャプテン、ユッキエがパンパンと頬を叩いて気合いを入れる。
紺野をはじめ、マヨエルたちの活躍でミラン攻撃陣は抑えられている。
今度は攻撃陣の番だ。
- 817 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:45
- 「よし、行くぞ!!!」
「おうっ!!!」
気合いを入れてピッチへと向かうローマの選手たち。
ピッチに入る直前、紺野はソックスを下げ、
レガースをもう一度しっかりと足に付けなおす。
「ん?コンノ、随分年季の入ったレガースだな。」
マヨエルがそれに気付き、声を掛けた。
何年も使い込んだのが一目で分かるレガースだった。
「はい。これはこっちに来る時に頂いたんです。
一番尊敬する人から。」
- 818 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:45
- 「紺野。これ、うちがずっと使ってたもんなんや。
荷物になってまうけど、ちょっとでええからイタリアの風を吸わしたってえな。
すぐ捨ててくれてええしな。」
イタリアへ出発の日。
わざわざ空港まで来て見送ってくれた。
その時にこのレガースを渡されたのだ。
紺野はこのレガースをまじまじと見つめた。
これをつけて彼女はサッカー人生を全力で駆け抜けたのだ。
そう思うと、軽いはずのレガースが重く感じる。
「ありがとうございます中澤さん。
これを付けてイタリアで頑張ってきます。」
中澤は自分に後を託してくれたんだと紺野は理解した。
あの熱いプレー、魂は充分に見てきた。
レガースはそのきっかけにすぎない。
この人に認められたことを誇りに、そしてこの人の顔を潰さぬように頑張ろう。
紺野はそう誓ってイタリアへと向かったのだ。
- 819 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:46
- 後半戦が始まった。
ミランはアウェーながらも積極的に攻めてくる。
「さあそろそろ点とってよ。」
中盤でヒロスエがボールをキープする。
対面のコトミージの激しいプレッシャーを受けながらも
その目は最高のパスコースを探し続ける。
そしてその目が1人の選手の動き出しを捉えた。
- 820 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:46
- 「ナオ!!!」
ヒロスエの右足から華麗なスルーパスが出される。
そのパスに合わせて飛び出したのはナオチェンコ。
線審は旗を揚げない。
ナオチェンコは一度中盤近くまでポジションを引いた。
そしてマヨザーギを囮にしてDFラインの裏へと走りこんだのであった。
が、このパスは途中でカットされた。
ボールは大きく弾かれ、タッチラインを割っていった。
- 821 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:47
- 「ナイスですマヨエルさん!!」
紺野がグッと親指を立てる。
「そっちこそナイスカバー!!」
それに手を上げて応えるマヨエル。
今のは紺野とマヨエルのコンビプレー。
ナオチェンコが中盤まで引いたのを見て紺野はラインを上げるのをやめた。
いわゆる2列目からの飛び出しをオフサイドにかけるのは不可能だからだ。
さらに相手はあのナオチェンコ。
かなりのスピードを誇る相手だ。
その相手が助走をつけてトップスピードに乗り、
こちらは反転して追いかけるのはやはり分が悪い。
そのため紺野はスッと下がり、いわゆるスイーパーの位置へ。
一方マヨエルはストッパーとして前目に出て、ヒロスエのパスコースに飛び込んだのだ。
横並びから縦並びへとあの一瞬でポジションチェンジをしたのだ。
このコンビでは今日がはじめての実戦とは思えないコンビネーションであった。
- 822 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:47
- 「・・・・・エスミ、これは負けられないですな。」
「ええ。」
紺野とマヨエル、この2人のディフェンスに触発されるミランセンターバックコンビ。
世界最高のDF、マキコサンドロ・エスミ。
生きた伝説、タマオ・ナカムラーニ。
最強のセンターバックコンビは自分たちとばかりにこちらもローマ攻撃陣を抑え込む。
両チームともディフェンス陣が奮起し、相手の攻撃陣を抑え込む。
これにはユッキエ、ミユキトゥータ、
アユウド、ヒロスエといった世界のスーパースターも攻めあぐむ。
- 823 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:48
- 両チームとも完全に均衡状態に陥った。
が、後半32分、ミランは動いた。
ボールがタッチラインを割る。
ここでミランは選手交代。
副審が持つ電光掲示板には背番号9の数字が。
「・・・・・アサミ・コンノ。次は絶対に勝たせてもらうから。」
これを見たマヨザーギは憮然とした表情でピッチを去る。
「・・・・マヨ、お疲れ。」
「後は頼んだよ。正直コンノは手強いよ。」
「オッケー。」
代わりの選手とタッチをかわし、マヨザーギはベンチへと退いた。
- 824 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:48
- 代わりに入ったのは背番号15を付けた選手だった。
「出てきたな。」
マヨエルの表情が険しくなる。
そしてすぐに相棒に忠告する。
「コンノ、あいつには気を付けろ。
あいつは本当に上手いよ。」
「はい、知ってます。デンマーク代表のエース、ニシ・ダール・ナオミンですね。」
紺野もその選手が出てきたのを見て気合いを入れなおす。
- 825 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:49
- デンマーク代表エース、ニシ・ダール・ナオミン。
ファーストトップも、セカンドトップも、そしてトップ下もこなせる万能FW。
効果的なフリーランニング、前線への鋭い飛び出し、そしてシュートテクニック。
FWとして全てを持ち、なおかつ相手に合わせられる柔軟性を持つ。
例えばポストプレータイプのFWとコンビを組めば、
自分はその周りを衛星のように動く。
また相手が裏への飛び出しタイプだと、自分はポストプレーをこなしたり、
裏へのスルーパスを狙ったりとどんなタイプのプレイヤーにも合わせられるのだ。
正直ナオチェンコ−マヨザーギのコンビよりも、
ナオチェンコ−ナオミン、またはマヨザーギ−ナオミンのコンビの方が破壊力はあるのだ。
しかし会長のシロイ・キョトウスコーニがナオチェンコ−マヨザーギコンビを押すため
ナオミンは残念ながらベンチを温める機会が多い。
が、出場すれば必ず大仕事をやってのける。
それがニシ・ダール・ナオミンである。
- 826 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:49
- 「ちっ、これはマジでやばいな。」
ローマキャプテン、ユッキエが汗を拭いながら呟く。
ナオミン投入後、ミランの攻撃が圧倒的に威力を増した。
今までのマヨザーギ、ナオチェンコは2人とも裏への抜け出しが身上のストライカー。
そのため、紺野やマヨエルにしても守りやすいといえば守りやすかった。
が、ナオミンが入ったことで攻撃パターンにバリエーションが増えた。
これにはさすがのローマDF陣も劣勢に押し込まれる。
- 827 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:49
- 「アユ!!」
ナオミンが右サイドに開く。
そこへアユウドから絶妙のパスが届く。
ナオミンはジリジリと中に切り込んでくる。
と、そのナオミンの後ろから猛然とオーバーラップしてくる選手がいた。
ブラジル代表キャプテン、右サイドバックのユーミンだ。
「中来ますよ!!」
それを見た紺野がユーミンからのクロスを警戒する指示を出す。
が、ナオミンはユーミンにパスを出さず中に鋭く切れ込み左足でゴールを狙う。
- 828 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:51
- 「ちっ!!」
これを止めるべくマヨエルがスライディングでシュートコースをブロックする。
が、これもフェイク。
ナオミンは左足インサイドで軽く横に出し、自分は前に走る。
このパスをヒロスエが右足アウトサイドで裏へ飛び出したナオミンへ。
“天使のパス”だ。
ナオミンがフリーで抜け出した。
ゴールまでの距離、わずかに13m。
- 829 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:51
- 「くっ!!」
紺野が必死にシュートコースをブロックに行く。
が、これに気付いたナオミン、またもシュートを撃たず中に折り返す。
この辺りはナオミンは生粋のファーストトップではないため、
パスという選択肢を常に持っている。
「よしっ!!!」
ゴール前に詰めているのはナオチェンコ。
これだからナオミンとの2トップは最高だ。
もちろんマヨザーギとも最高の2トップを組めるが、
やはりタイプ的にはナオミンとの方が合う。
- 830 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:52
- 「あっ?!」
しかしナオチェンコは思わず声を上げる。
このパスが自分の元に届かなかったからだ。
紺野が崩れた体勢からでも必死に右足を伸ばし、
このパスのコースをずらさせたのだ。
ボールはペナルティエリアの外へと流れる。
ローマ陣営は一瞬歓喜で拳を握り締めるが、
次の瞬間には大きく目を見開く。
- 831 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:52
- このこぼれ球の先にいたのは彼女。
ブラジル栄光の10番、“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。
アユウドの悪魔の左足が振り抜かれた。
悪魔の意志を持ったボールはローマディフェンス陣のわずかな隙間を抜け、
ゴールネットへと突き刺さった。
後半41分。
ついに、ついにミランが先制点を上げる。
- 832 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:53
- ウオオオオオオオオオオ!!!!!
歓喜に沸き、拳を天に突き上げるミラニスタ。
頭を抱え、うな垂れるロマニスタ。
明暗がくっきりと分かれた。
- 833 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:53
- 「アユ!!!」
ミランの選手たちがゴールを決めたアユウドに抱き付く。
「ナイスナオミン。」
アユウドがパスを出したナオミンとハイタッチ。
「本当はナオへのパスだったけどね。
まさか足を出されるとはね。」
ナオミンが肩をすくめて驚く。
「ホント。まさかあの体勢から。」
ナオチェンコも同様に驚く。
「あの背番号6、厄介な存在になりそうだな。」
ヒロスエが呟く。
それはミラン選手の共通認識であった。
「やられた・・・・・・」
一方、その紺野はがっくりとうな垂れる。
ここまで完璧に抑えこんでいたが、それも1点とられれば全く意味が無いこと。
それに今のはミランの攻撃陣に完璧に振り回された。
それだけに余計に腹立たしい。
- 834 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:54
- 「ドンマイ。今のは仕方ない。次頼む。」
気落ちする紺野の肩をキャプテンユッキエが叩く。
この失点は紺野たちDF陣のせいではない。
不甲斐ない自分たち攻撃陣のせいだ。
「ミユキ、カリーナ。必ず逆転するよ。」
「ああ。」
「オッケー。」
プリンセスの声に頷く屈強の兵士たち。
残りは約5分。
逆転するには充分な時間だ。
- 835 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:54
- ピィー!!!!
主審の笛が鳴ると同時にローマは一気に攻めあがる。
一方ミランはほぼ全員が引いて守りを固める。
もちろん最前線にはナオチェンコとナオミンがおり、
いつでもとどめのカウンターを仕掛けられるようにしている。
そのため紺野とマヨエルは上がる事が出来ない。
が、紺野はチームメートを信じて後ろで守る。
「ユッキエ!!」
右サイドをディ・カリーナが駆け上がる。
全てにおいて弱点がないミランで、唯一弱点と言われるのが相手の右サイド、
つまり自陣左サイドだ。
ここを務める選手は名門ミランに名を連ねるには少々役不足。
そのため今日の試合でも唯一チャンスが生み出されていたのがこの右サイドだった。
- 836 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:55
- ユッキエからボールを受けたカリーナがミラン左サイドバックと対峙する。
が、カリーナの敵ではない。
鋭い動きからあっさりとかわした。
「よしっ!!来いカリーナ!!」
ゴール前にはミユキトゥータとユッキエ、
さらにはボランチの位置からアイコソンまでもが上がっている。
しかしミランも中に人を揃えている。
このまま中にクロスを上げても跳ね返されるのがオチだ。
- 837 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:55
- 「ならば!!」
カリーナは鋭く中に切れ込む。
少しでも中を混乱させるためだ。
「行かせない!!」
しかしそこへ素早くチェックに来たのはオランダ代表サトレンス・アイコルフ。
鋭いタックルでディ・カリーナを止めた。
ピピピピピッ!!!
主審がけたたましく笛を鳴らした。
主審は今のアイコルフのタックルをファウルと判断した。
後半ロスタイム、ローマ、ペナルティエリアぎりぎりでFKのチャンスを得た。
- 838 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:56
- 「よしっ、ナイスカリーナ。後は任せろ。」
ボールをセットするのはやはりこの人、ナカマチェスコ・ユッキエ。
最後のチャンスだ。
逆転は無理かもしれないが、
何としてでも同点に追いつき引き分けに持ち込まねばならない。
ここで敗れるとミランとローマは勝点で並ぶ事になる。
そうなるとミランはこれからさらに勢いを増すであろう。
それだけは避けねばならない。
ユッキエが助走を取り、自分の右足に魂を込める。
ミランはブラジル代表GKウーアが指示を出し、壁を創らせる。
壁は6枚。
それ以外の選手は全員ペナルティエリア内で守りに入っている。
- 839 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:56
- ピィ!!!!
主審の笛が鳴る。
その瞬間助走を開始するユッキエ。
そして思い切り左足を踏み込み、全身をしならせて右足でボールをとらえた。
ユッキエの放ったボールは真直ぐだった。
何の小細工もなし。
ただ思いっきり蹴ったボールが真直ぐゴール隅へ。
- 840 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:57
- カーブをかけないため、ユッキエの蹴ったコースは壁がないコース。
そこには当然GKウーアが控えている。
超人的な反応では間違いなく世界最高峰のウーア。
しかし、そのウーアでさえこのシュートに触れなかった。
そのコースにいたというのに。
恐るべきユッキエのシュート。
ガンッ!!!!!
が、ローマの選手の耳に聞こえたのはくぐもった金属音。
クロスバーに当たりボールは真下に落ちた。
「飛び込め!!」
「クリアだ!!」
そのこぼれ球にミラン、ローマの選手たちが一斉に飛び込む。
- 841 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:58
- ユッキエは思わず頭を抱えてしまった。
誰が触ったのかは分からなかったが、
ボールは大きくゴールラインを割っていった。
- 842 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:58
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
ここで主審の笛が3度高らかに鳴った。
ローマ0−1ミラン
これでローマはミランと同勝点で並ぶことになった。
- 843 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:58
- 「負けた・・・・・」
紺野は腰に手をあて、がっくりとうな垂れる。
欧州デビュー戦は痛い敗戦で終えることとなった。
「・・・すまん。これはあたしたち攻撃陣の責任だ。」
ミユキトゥータが険しい表情で紺野に謝る。
1点を取られたとはいえ、あのミラン攻撃陣をほとんど完璧に抑えこんでくれた。
それでも勝てなかったのは自分たち攻撃陣が得点を奪えなかったからだ。
- 844 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 18:59
- 「・・・・次だ。まだミランと並んだだけだ。
後全部勝てば必ず優勝できる。」
ボランチのコトミージだ。
いつも前向きな彼女らしい言葉だった。
「そうだ。コトミージの言うとおりだ。
後全部勝てば何の問題もない。次のペルージャ戦、必ず勝とう。」
ユッキエの言葉に頷くローマ選手たち。
そう、まだリーグ後半戦が始まったばかりなのだから。
- 845 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 19:00
- 『・・・・中澤さん。世界はやっぱ凄いです。』
ソックスからレガースを取り出しながら紺野は思う。
今日はたまたま上手くいったが、
次はどうなるか分からない。
いや、恐らくこっちがやられるだろう。
それ程のレベルはごろごろいる。
それが世界だからだ。
- 846 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 19:00
- 『あたり前や。そんな簡単に上手くいくかいな。
まあでもこれからや。頑張れよ。』
そんな声が紺野の耳に聞こえたような気がした。
- 847 名前:第15話 欧州デビュー 投稿日:2004/09/01(水) 19:00
-
第15話 欧州デビュー (終)
- 848 名前:ACM 投稿日:2004/09/01(水) 19:01
- 第15話 欧州デビュー 終了いたしました。
デビュー戦というのはやっぱ大事ですよね。
そこでいかに自分をアピールできるか?
それが今後の展開を決めてしまうのではと思います。
ペルージャデビューの中田選手はまさに衝撃でしたし。
もちろんその後もいいパフォーマンスを見せなければダメですけど。
現実でもこれぐらい活躍してくれればなあと書いてて思いました。
第16話は前回の予告どおり『復活の天使』です。
皆様、次回もどうぞよろしくお願いいたします。
- 849 名前:ACM 投稿日:2004/09/01(水) 19:03
- 人物紹介
中澤裕子
“日本サッカー界のキャプテン”
得意プレー:カバーリング ラインコントロール 味方の鼓舞
ポジション:CB SW(スイーパー) LIB(リベロ)
所属クラブ:京都パープルサンガ → 引退
・プレーの特徴
日本最高のDF。
タックル、カバーリング、ラインコントロールなどDFとしての能力は全て持っている。
それ以上に武器は闘志。
熱い魂こそディフェンスに一番必要だという事を身体で示してくれる。
課題は引退なされたのでまあいいでしょう。
・作者のイメージ
“闘将”ということで僕の中ではオフト時代の柱谷哲二ですね。
それから井原、洪明甫ですかね。
センターバックでキャプテンの選手を総合したのが中澤さんです。
・本編の特徴
精神的支柱として大活躍してくれました。
今思えば何で引退させたんだろ?と後悔することもありますが、
それはそれでまた物語に新たな道を示してくれると思います。
次はU−20代表コーチとしての中澤さんをご期待下さい。
- 850 名前:ACM 投稿日:2004/09/01(水) 19:03
- ではまた次回の更新まで失礼いたします。
ACMでした。
- 851 名前:ピクシー 投稿日:2004/09/01(水) 19:09
- 更新お疲れ様です。
デビューは大事ですよね。
自分も昔、中田のデビュー戦テレビで見ましたけど、驚きました。
正直、あれほどのデビュー戦が出来た選手はいないでしょうね。PK蹴らせてもらえればハットだったし。
そういえば、飯田さんの紹介の所で「長身だからファン・デル・サール」と書いてありましたが・・・
長身で神憑り的セーブ、存在感といえば、「シュマイケル」の方がしっくりきそうですね。
ファン・デル・サールは足技も(GKにしては)上手い、という特徴がありますし・・・
次回更新も楽しみに待ってます。
- 852 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/01(水) 19:14
- 更新お疲れ様です。
- 853 名前:みっくす 投稿日:2004/09/02(木) 00:40
- 更新おつかれさまです。
いやー、最後の試合は興奮する展開でしたね。
点の取り合いより、こういう緊迫した試合が好きです。
次回の「復活の天使」楽しみにしてます。
あと、かおりんvsみきてぃも楽しみです。
- 854 名前:B.C 投稿日:2004/09/02(木) 01:30
- 最初からずーっと気にしてROMってましたが、もう我慢できないのでレスいたします。
本当にこの話は引き込まれてしまいます。
何回最初から読み返したことか…。
作者さんすばらしいです。
自分もこれくらい書けたらなあって思います。
これからも、がんがってください。
- 855 名前:ACM 投稿日:2004/09/09(木) 10:25
- 851>ピクシー様
いつもレスありがとうございます。
デビュー戦は大事です。今度はフィオレンティーナでのデビュー戦を期待ですね。
飯田さんが「シュマイケル」・・・・・それです!!
それでいきましょう。グレートデーンを忘れてました。
852>名無飼育さん様
レスありがとうございます。
この時間という事はリアルタイムで見てくださったんですかね?
お疲れさまです。ありがとうございます。
853>みっくす様
こちらもいつもレスありがとうございます。
確かに1点を争う緊迫したゲームは見ててドキドキしますよね。
そして1点が入ったときの「よっしゃー!!」は凄く力入ります。
そんな試合もいいですよね。
854>B.C様
初レスですね、ありがとうございます。
すばらしいなんてとんでもないです。
こんな話を褒めていただいてとても恐縮です。
またこれからも読んでいただいて、感想などいただけると嬉しいです。
みなさまありがとうございます。凄く励みになります。
では本日の更新です。
- 856 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:26
- 冬の移籍市場で欧州に参戦した日本代表の面々は、
それぞれ新天地で見事な活躍を見せた。
もちろんこれに黙っていないのは元からいる海外組だ。
元々負けず嫌いのカタマリのような連中。
新参組に刺激を受け、当然のように燃えていた。
彼女たちの活躍もここで少し述べていこう。
まずはイングランドプレミアリーグ、アーセナルの市井紗耶香。
市井はアウェーのサウサンプトン戦に当然スタメン出場。
前半戦を何と無敗で終えているアーセナル。
その記録更新をまだまだ続けるべくこの試合に挑む。
- 857 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:27
- が、この試合はサウサンプトンの堅守速攻に苦しめられる。
サウサンプトンの守備陣は北欧系の選手が多く、体格も良いため安定している。
ボールを奪うとそこから一気にサイドにボールを送りカウンターを仕掛けていく。
このカウンターにアーセナルは苦しめられる。
前半は0−0ながらも、明らかにサウサンプトンペースで終了した。
後半もサウサンプトンのカウンターが冴え渡る。
アーセナルのサッカーはダイレクトでひたすらつなぐサッカーのため、
一度ボールを失うと相手に絶好のカウンターチャンスを与えてしまう。
その辺りが守備のレベルの高いイタリアやドイツのクラブに
アーセナルがチャンピオンズリーグで苦杯を舐める要因でもある。
- 858 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:27
- 「このままじゃまずいな・・・・・・」
市井が表情を歪める。
自分の“フリーロール”としての戦術眼が、
このままではやられると警告を発している。
ここはやり方を、戦術を変えるべきでは?
そう思って市井は監督のザイゼン・カラサワを見る。
カラサワも同様に思っていたのであろう。
ベンチに控えていた長身FW、
ナイジェリア代表ヒローコ・オグーにアップを命じていた。
「さっすが監督。」
市井はカラサワの確かな戦術眼に満足する。
彼は理想と現実をきっちりと見極められる監督なのだ。
だからこそここまで無敗記録を更新できている。
- 859 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:28
- 後半21分、アップを終えたオグーが投入された。
オグーは右サイドのシノハラ・リョウコールとの交代でピッチに入る。
それに伴ってシステムも変わる。
フラットな4−4−2から4−3−3へ。
14 25
10 14 10
7 9
4 11 7 4 11
→
DF DF DF DF
23 DF 23 DF
GK GK
DF 23 ナオミ・ザイゼン・キャンベル
MF 4 タカコリック・トキーワ
7 フカーツ・エリス
9 シノハラ・リョウコール
11 市井紗耶香
FW 10 ハヅキ・リオナンプ
14 ウエト・アーヤ
25 ヒローコ・オグー
- 860 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:28
- カラサワはダイレクトでつなぐいつものアーセナルのサッカーを捨てた。
長身FWのオグーを真ん中に張らせ、
サイドやDFラインからロングボールを放り込むというサッカーに。
イングランド伝統のキックアンドラッシュだ。
しかしこの退化したと言われる戦術も、状況によっては何よりの武器となる。
まずはロングボールを主体としたということで、
チーム全体が前へと押し上げなくなった。
そのためサウサンプトンは効果的なカウンターを仕掛ける事が出来ない。
そして攻撃面でもオグーが最前線に張ることで
サウサンプトンの屈強な両センターバックはオグー1人につかざるをえなくなる。
そうなるとオグーの後ろに控える2人、
フランス代表ウエト・アーヤ、オランダ代表ハヅキ・リオナンプがフリーになる。
スピードのアーヤ、テクニックのリオナンプ。
この恐るべき2人がオグーのポストプレーからゴール前に飛び出していく。
- 861 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:29
- そして市井紗耶香だ。
このシステム変更により、久しぶりに中盤の右サイドにポジションをとった。
中盤センターは世界最高のボランチ、トキーワが守ってくれる。
自分の役目はドリブルでサイドを崩し、オグーの頭に合わせることだ。
オオオオオオオオ?!!!!
スタジアムが大きく揺れる。
市井の鋭いドリブル突破からオグーが強烈なヘディングシュートを放ったからだ。
これは惜しくもクロスバーを超えていったが、
市井の鋭い突破にはアウェーながらも嘆息が漏れる。
「アヤカにゃあ負けないよ。」
昨日、スペインリーグのバルサVSセルタの試合を見た。
この試合でセルタに移籍した木村アヤカがデビューを飾ったが、
そのデビューは市井にとって衝撃だった。
あのオランダ代表ユウコ・アサーノ、
そしてオリンピックでも苦戦したアルゼンチン代表のアフロ・ヒトエを
一瞬でかわしたドリブル。
まさに恐ろしいの一言だった。
そしてこのアヤカのドリブルが市井の闘争心に火をつけた。
- 862 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:29
- ここ最近の市井はドリブルをする回数が減っていた。
それは中盤センターで“フリーロール”として動くため
中々ドリブル突破をする機会に恵まれなかったためだ。
中盤センターでドリブル突破を試みるのはチームにとって自殺行為に等しい。
サイドならともかくセンターではボールを奪われると即カウンターを食らうからだ。
そのため市井はテンポ良くパスを散らさねばならず、自然とドリブルは減っていった。
その事を市井は全然気に留めていなかった。
市井自身新境地を開拓したと思っていた。
が、アヤカのプレーを見て気付かされた。
やはり自分は根っからのドリブラーだということに。
- 863 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:29
- “ドリブラー”の言葉どおり、
市井は鋭いドリブルで右サイドを何度も突破しチャンスを創る。
誰も市井を止める事は出来なかった。
そして試合終了間際の後半43分。
市井独特のシザースから右サイドを突破し、中にクロス。
これをついにオグーがゴールネットへと叩き込んだ。
「よっしゃ!!!」
ゴールが決まった瞬間市井はグッと拳を握り締める。
そしてこう呟いた。
「・・・・アヤカ、加護、そして後藤。
あたしがbPのドリブラーなんだよ。」
アーセナル、いまだ無敗記録を更新中。
- 864 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:30
- 続いてスペインリーガエスパニョーラ、レアル・マドリードの後藤真希。
こちらはアウェーでマジョルカとの対戦。
前半戦を当然のように首位で折り返したレアル・マドリード。
イングランドの貴公子ルイビット・シバサキもチームに上手くフィットし、
後半戦も期待がかかる。
先制点はこのシバサキから。
世界一といわれるFKを見事ゴールに突き刺した。
7枚の壁も彼女にとっては何の意味も成さなかった。
- 865 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:31
- 2点目もFKから。
ブラジル代表ヒカルドの鋭いドリブル突破。
マジョルカDF陣はファウルでしか止められなかった。
PKか?と思われるような位置でのファウルだったが、
主審はFKと判定した。
ボールをセットしたのは世界最凶の左足、
ブラジル代表ジュディマリ・ユッキーだ。
これには壁に入ったマジョルカの選手たちは青ざめる。
至近距離からのジュディマリ・ユッキーのキックは凶器なのだから。
ピィ!!!
主審の笛と同時にあの独特のステップで助走するジュディマリ・ユッキー。
そして思い切り左足を振り抜いた。
ボールは思わず身体を横に向けてしまった選手の間を抜ける。
が、GKの真正面。
難なくキャッチのはずだった。
が、余りにもスピードが速すぎた。
真正面であるにもかかわらずマジョルカGKは触れなかった。
これでレアル、2−0とリードを広げる。
- 866 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:31
- そして最後、とどめはレアルが誇る黄金の攻撃陣。
シマタニッソ、シバサキ、ユウーコ、クローキと中盤でボールが華麗に回る。
そして右サイドのクローキから逆サイドに開いた後藤真希にボールが渡る。
すぐさまマジョルカ右サイドバックがチェックに行くが、
後藤はあっさりとかわした。
あの必殺技、高速切り返しこと“エラシコ”で。
しかし今見せた後藤の“エラシコ”はコヤナギーニョや加護のとは少し違った。
彼女の“エラシコ”は逆だったのだ。
普通はアウトサイドでボールを弾いてすぐにインサイドで弾くというものだが、
後藤はインサイドで弾き、そしてすぐにアウトサイドで弾いたのだ。
これにはスタジアムもどよめいた。
- 867 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:32
- 左サイドを突破した後藤。
中にふわりと柔らかいクロスを送る。
このクロスに最後合わせたのがヒカルド。
胸でポンと弾いてゴールに流し込んだ。
レアル、圧倒的な強さで3点目。
この後、マジョルカの反撃を1点だけに抑え、
レアルは後半の開幕戦を見事に勝利で飾った。
後藤真希も相変らずの存在感。
リーグ2連覇、2年連続MVP、
そして夢のチャンピオンズリーグ制覇に向けて天才に死角なし。
- 868 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:32
- ドイツブンデスリーガはいまだウインターブレイク。
シャルケ04藤本美貴は後半戦に向けて合宿中。
後半の開幕戦はボルシア・ドルトムントとのルールダービー。
チェコ代表ミズノ・ミキツキー、トミ・ナガー、
ナイジェリア代表ニシヤマ・キクエーとおり、
ここに日本代表GK飯田圭織が加わった。
相手にとって不足はない。
シャルケ04は前半戦を9位でフィニッシュ。
この成績のままでは藤本も恩を返したとは言えない。
後半戦、巻き返すべく藤本は練習に打ち込む。
- 869 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:32
- セリエAユヴェントスの福田明日香は前話の通り。
安倍なつみという最高のパートナーを得た福田は怪我も回復し、
ユーヴェの将軍として中盤に君臨し、見事に快勝した。
首位決戦となったミラン−ローマ戦は上手い具合にローマが敗れてくれた。
これで首位の両チームとユヴェントスは勝点3差。
充分に射程距離だ。
王者ユヴェントス、追撃体制は整った。
- 870 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:33
- そしてここで話をようやく主人公に戻そう。
そう、インテルミラノ吉澤ひとみである。
まさかのチャンピオンズリーグ敗退。
この結果にひとみは落胆を隠せなかった。
しかもその原因は自分ときているからなおさらだった。
年が明けたにも関わらず今だ沈んだままだった。
さらには自分が姉と慕う平家みちよがインテル移籍を断り、
最大のライバルである柴田あゆみもイタリアからポルトガルへと旅立って行った。
もちろん普段のひとみであればこの2人の決断の意味を理解し、
礼なり激励なりの気持ちを持つものだが、如何せん今の状況では無理であった。
「・・・・おもしろくない・・・・」
今、ひとみはサッカーが苦痛でしかなかった。
- 871 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:33
- そんな中迎えたセリエA後半開幕戦。
インテルはホームでレッチェを迎えた。
「頼むぞイシカワビッチ。下手なプレーしやがったら承知しねえからな。」
インテル監督、タケナカ・ナオトーニが色白で長身の選手にゲキを飛ばす。
「はい。任せてください。」
その選手はニッコリ笑って頷いた。
彼女はこの冬の移籍市場でラツィオから獲得した選手。
セルビア・モンテネグロ代表MF、アサミ・イシカワビッチだ。
テクニックはもちろん、スピード、パスセンス、
そして運動量も豊富とMFとして申し分のない選手だ。
その実力はあの“ピクシー”も賛辞を惜しまないほどである。
本来は攻撃的MFであるが、中盤ならばサイドもボランチもこなせる素晴らしい選手だ。
- 872 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:34
- タケナカは彼女を一列下げたボランチで起用する事を考えている。
低い位置からパスを振り分けてゲームをコントロールし、
トレクァルティスタのひとみをフィニッシャーの仕事に専念させる。
そう、彼女は獲得できなかった平家みちよの役割を担う事となる。
インテルに待望の中盤の指揮官が加わった。
これでインテルに穴は無くなったと理論上では言えた。
が、当然サッカーは理論で全て片付けられるものではない。
- 873 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:34
- 「ヨ、ヨシザワ・・・・?!!!」
試合が開始してから30分。
タケナカ・ナオトーニが呆然と叫んだ。
インテルホームスタジアム、ジュゼッペ・メアッツァに集まった
インテリスタたちも同様に今目の前で起こったことが信じられなかった。
吉澤ひとみ、前半30分レッドカードにより一発退場。
- 874 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:35
- 今日のインテルのフォーメーションは以下の通り。
<インテル>3−4−1−2
20 32 GK 1 マキチェスコ・ミズノ
DF 2 チエン・アヤドバ
10 17 ミホ・カンノバーロ
23 ムロイ・シゲルッツィ
MF 25 11 4 MF 4 ウエハラ・タカコッティ
10 吉澤ひとみ
2 23 17 11 アサミ・イシカワビッチ
25 アイウチ・リナメイダ
1 FW 20 アルバロ・ヤイコ
32 ヨネクラン・リョウコ
まさに各国を代表する選手たちで構成されたベストメンバー。
しかもそれぞれが得意とするポジションでプレーできるため、
自分の力を充分に発揮できる。
的確な補強で上位追撃の体制は整ったと誰もが思った。
しかしそれも一瞬で全て終わった。
- 875 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:35
- 試合開始早々、レッチェボランチから厳しいマークを受けるひとみ。
3−4−1−2のシステムのインテルにとって、やはり1の部分、
トレクァルティスタは最重要ポジションである。
そして当然そこには厳しいマークが来る。
これはあたり前の事であり、このポジションの選手にとって宿命でもある。
当然今までのひとみもこのマークを受け入れ、そして跳ね返してきた。
が、今日だけは違った。
- 876 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:35
- 中盤でアサミ・イシカワビッチが上手くパスを回していく。
が、やはり新加入のためコンビネーションが合わないこともある。
特にひとみとのコンビネーションが上手く合わなかった。
もちろんひとみに密着マークが付いていることも関係するのだが。
「・・・・平家さんならあたしの足元にピタリと合わせてくれる。」
しかし今のひとみにそんな事を考慮する余裕はない。
ただ、不満だけを募らせていた。
そしてその不満が爆発した。
- 877 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:36
- またもイシカワビッチからのパスがひとみに合わなかった。
「いい加減にしてよ!!ちゃんとあたしを見てるの?!!」
ひとみが声を張り上げる。
「いや、今のはあなたが動かないからでしょ?!!
今のは走り込んで受ければマークをかわせたでしょう?!!」
イシカワビッチも負けずに張り合う。
いかにも大人しげに見えるが、
潜在的に熱さを持っているのがセルビア・モンテネグロの人々である。
彼女も例に漏れず熱さを見せた。
「やめろ!!!」
これをキャプテンのタカコッティが何とか止める。
止めつつも今のはイシカワビッチの言うとおりだとタカコッティは思っていた。
やはりあのチャンピオンズリーグ以降、ひとみがおかしい。
確かにチャンピオンズリーグ敗退は悔しいが、
来シーズンもチャンスはある。
ここはスパッと頭を切り替えるのがプロだというのに?
- 878 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:36
- タカコッティの思うとおりである。
現にレアル・マドリードの後藤真希は落ち込む親友を気にしながらも
きっちりと自分の仕事はこなしている。
「この娘は・・・・危ない。」
タカコッティが呟く。
強さと、そして脆さが同居している。
そんな矛盾を抱えたダイヤモンドだ。
上手く削って形を整えていかないと、取り返しのつかないことになる。
- 879 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:37
- 「・・・・チャンスだ。」
このインテルの様子を見てほくそ笑むのがひとみのマークについている
レッチェのボランチ。
相手は熱くなっている。
ちょっとつつけば爆発してくれるかも。
「くっ、こいつ!!!」
ひとみが苛立たしげに叫ぶ。
これ以降、レッチェボランチは執拗にひとみを削っていった。
もちろん主審には分からないように。
- 880 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:38
- 「このやろっ!!!」
ひとみはユニフォームを掴んだこのレッチェボランチを手で振り払った。
ピピピピピ!!!!!!
主審がけたたましく笛を鳴らす。
そして胸元からイエローカードを出した。
「なっ?!!何でだよ!!
ユニフォームを引っ張ったてたの見てないのかよ?!!」
ひとみが激昂して主審に詰めよる。
だが主審は澄ました表情で首を横に振る。
「あんたどこに目を付けてんだ?!!」
なおもひとみは主審に詰めよる。
これには主審も不快感を露わにする。
「やめろヒトミ!!!」
ヤイコやヨネクランがひとみを引き離す。
ひとみは完全に我を失っていた。
- 881 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:39
- その様子を見てタカコッティはベンチにいるタケナカに
ひとみを交代させるように進言する。
タケナカも頷き、すぐに控えの選手にアップをさせた。
次、ボールが出ればすぐに投入する。
が、次は無かった。
レッチェボールで試合が開始された。
レッチェは前線にボールを放り込むが、
これはインテルDF陣があっさりとクリアした。
このこぼれ球をイシカワビッチが拾う。
そして前を向いた瞬間、その視界に信じられない光景が飛び込んできた。
- 882 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:39
- 「ぎゃっ!!!!!」
絶叫がピッチに響き渡る。
みな一瞬足が止まる。
次に聞こえたのはひとみのハー、ハー、という荒い息。
そしてその足元で顔面を押さえてのた打ち回るレッチェボランチ。
その手の間からは真っ赤な血が流れ落ちる。
誰もがあの瞬間を目撃した。
ひとみがレッチェボランチの顔面に思い切り頭突きを食らわせたのを。
ピピピピピ!!!!!!
主審は躊躇無くレッドカードをひとみに突き出した。
前半30分。
吉澤ひとみ、レッドカードにより一発退場。
- 883 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:40
- レッドカードを突きつけられた瞬間、ひとみは真っ白になった。
気付けばひとみは自分の家にいた。
誰と何を話したのか、自分がどうやって戻ってきたのか。
全く覚えていなかった。
だが、自分のしでかした行為ははっきりと覚えている。
あたしは、なんて事を・・・・・・・・
ひとみは心底後悔した。
- 884 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:40
- 追い討ちをかけるようにFIFAは3日後、
吉澤ひとみに2ヶ月の出場停止処分を下した。
あの悪質な行為には情状酌量の余地はなしと判断したようだった。
この処分にもひとみは大打撃を受けた。
吉澤ひとみの2004−2005シーズンはこの日、終わった。
- 885 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:40
- 光があれば影がある。
その逆も然り。
一方が強烈な闇に包まれれば、もう一方は強烈な光を浴びている。
この場合、影とはひとみである。
ならば光とは?
ここで時間を少し戻そう。
その日は欧州各国でシーズン後半戦が開幕する3日前のことであった。
- 886 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:41
- 「ちょ、ちょっとシバタ!!」
運動量の少ない柴田に選手が苛立ちをぶつける。
これではパスが出せない。
シーズン後半開幕戦を3日後に控えたFCポルトは紅白戦で調整をしていた。
柴田は控え組に入っていた。
だが、柴田はほとんど動かなかった。
パスをもらってもすぐに味方に預けるだけで、
自分から何かアクションは起こさない。
「何をやっているんだシバタは?」
この様子にFCポルト監督、テレ・キダターロは首を傾げる。
柴田は決して運動量の少ない選手ではない。
前線で動き回っていい形でボールをもらい、そして味方へ最高のパスを出す。
それが彼女のプレースタイルだ。
ところがこの紅白戦での柴田はほとんど動かない。
それどころかゲームに参加していないようにさえ見える。
ここで結果を出さねばもう後がないという状況なのに?
- 887 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:42
- レギュラー組のFW、南アフリカ代表ミナコ・ナッカーノーが
スルーパスに反応して鋭く裏に抜け出した。
『・・・・速い。彼女の武器はスピードね。』
その動きを柴田はジッと見ていた。
そして頭の中で自分がパスを出すイメージを創る。
ここで結果を出さねばもう後がない。
この状況だからこそ柴田はこの紅白戦で動かなかったのだ。
自分の最大の武器は“天使のパス”だ。
それを活かすためにはチームメートの特徴を頭と身体に叩き込まねばならない。
しかし自分にはチャンスはもうほとんど残されていない。
デビュー戦で結果を残さねば、もう全ては終わる。
だから控え組のメンバーにパスを出しても何にもならない。
自分がパスを出さねばならない相手はレギュラー組の連中なのだから。
だから柴田はこの試合中、ほとんど動かずレギュラー組の特徴を頭に叩き込んでいく。
追い込まれたこの状況では形振りなど構ってはいられなかった。
- 888 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:42
- 思えば柴田に足りなかったのは、イタリアで成功しなかったのはフィジカルではなく
この形振り構わない泥臭い気持ちなのかもしれなかった。
やはりヨーロッパで活躍しようと思うなら、
ある程度は自分のためだけを考えるエゴイストにならなくてはならない。
今まで柴田は周りに合わせすぎていたのだろう。
だからこそ他のプレイヤーには好まれるものの、
肝心の自分のプレーが精彩を欠いていたのだ。
現に今海外で活躍している日本人選手は
ほとんど例外なく自分のプレー第一のエゴイストなのだから。
- 889 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:43
- さらに紅白戦は続く。
もちろんナッカーノー以外の選手も柴田はじっくりと観察していた。
レギュラー組のトップ下を張るのはブラジルから帰化し、
ポルトガル代表になったカンダルソン・マツダ・ノ・サヤカ。
通称、サヤ。
まずは彼女に勝ってポジションを奪わねばならない。
が、見ているとサヤはしばしば下がってパスを振り分けている。
『彼女ならボランチに下がっても機能しそうね。』
サヤと自分とタテのコンビを想像する。
・・・・・いい感じだ。フィニッシュの前のパスを最高のタイミングで出してくれる。
自分も下がってのゲームメークは出来るし、
ポジションチェンジを繰り返してもおもしろいだろう。
- 890 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:43
- レギュラー組の右サイドバック、ポルトガル代表スズキ・エミイラが勢い良く上がる。
そこへサヤから絶妙のパスが通る。
このパスを受けたエミイラ、控え組の左サイドバックを華麗にかわして中にクロス。
このクロスは飛び込んだナッカーノーにピタリと合った。
が、これはGKがファインセーブ。
コーナーキックへと逃れた。
『スピードもあるし、足元の技術もクロスの精度も高い。
彼女の上がりはポルトの大きな武器ね。
・・・・でもあたしがパスを出す時は左利きだから気を付けないと。』
左利きの選手はどうしても左サイドの方に視野が向いてしまう。
それだけにいかにエミイラのタイミングを予測できるかが鍵となる。
- 891 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:44
- レギュラー組のコーナーキック。
このチャンスにセンターバックも上がってくる。
サヤがボールをセットし、ゴール前に上げた。
このボールに飛び込んだのはこちらもポルトガル代表DF、ナナコド・オオコーチ。
豪快にヘッドで叩き込んだ。
『高い。そして強い。セットプレーでは彼女に合わせるのがいいかも。
でも守備はどうかしら?』
- 892 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:45
- 「はいっ!!こっち出して!!」
試合が再開され、柴田が動いた。
いきなりの事で驚いたが、控え組のボランチから柴田にパスが通る。
これを受けた柴田、前へと突き進む。
「行かせないわよ!!役に立たない奴はただの豚よ!!」
こう言って柴田の前に立ちはだかるのは激しいディフェンスで中盤を引き締めるボランチ、
ポルトガル代表マジュ・オザワーニャ。
柴田に激しくガツガツ当たる。
しかしこれを柴田は華麗なテクニックでかわした。
が、その瞬間センターバックのオオコーチが飛び込んできた。
- 893 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:45
- 「うわっ?!」
オオコーチのタックルにもんどりうって倒れる柴田。
「ふん、あたしたちボタバラに勝とうなんて百年早いわよ。」
オザワーニャが倒れこむ柴田にはき捨てる。
今のはオオコーチとのコンビプレー。
自分が激しく当たり、その隙にオオコーチが潰すというプレーだ。
『・・・・いいね。後ろはしっかりしてる。
これならあたしは攻撃に専念できる。』
いいじゃないか、このチームは。
柴田はそう思った。
世界に名を轟かすスーパースターはいないが、
みな個性溢れ、確かな実力を持っている選手ばかりだ。
柴田は確信していた。
このチームはあたしのチームだと。
あたしのタクトでこのチームは世界の頂点に立つ。
いや、立たせてみせる。
- 894 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:46
- 「やっぱ大した事ないね。」
「日本人だし仕方ないだろ。」
紅白戦が終了し、グラウンドから去る控え組の選手たちからそんな言葉が聞こえる。
が、柴田は全く相手にしない。
今日のレギュラー組のプレーを頭の中で復元するのに忙しいからだ。
それにだいいち言葉が分からないのもあるが。
柴田はクールダウンをそこそこに終えると、1人ピッチへと向かった。
「な、何やってるんだあれは?」
みな柴田を見て唖然としていた。
ピッチに立った柴田。
個人練習でもするのかとみな思っていたが、彼女はボールを持っていない。
ボールも無しに何をするのか?
- 895 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:47
- と思っていたら、彼女はあるポイントに立った。
そして目を閉じてそのまま立ちすくむ。
時折身体を反転させたりするものの、
ほとんど何もしないし、動かない。
みなこの奇妙な光景を冷ややかに、かつ不気味に思いながら眺めていた。
そして10分ほど経っただろうか?
ようやく柴田は目を開け満足気な表情で戻ってきた。
同僚たちは訝しげな視線をこの日本人に送っていた。
- 896 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:47
- 「ねえマジュ。今日のシバタ、何かおかしかったね。
紅白戦でもあんまりいい動きじゃなかったし。
それにクールダウンの後のあれ。何だったんだろ?」
練習を終え、帰宅する選手たち。
サヤはまだ車の免許がないのでマジュ・オザワーニャの車に乗せてもらっていた。
「さあね。日本人の考えてる事は分からないわよ。
ま、あと半年もしたらいなくなる選手の事なんか考えるだけ無駄よ。」
「え?・・・・そうかなあ。あたしはずっとポルトにいるような気がするんだけど。
エースとしてね。」
このサヤの言葉にオザワーニャは声を上げて笑った。
「あいつがエース?ありえないありえない。
サヤ、あんた冗談が上手いわね。」
そう言ってまたオザワーニャは笑った。
が、サヤは笑う気になれなかった。
- 897 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:48
- 「シバタが入ったんだから、
チャンピオンズリーグはあんたのチームを第一に警戒しないとね。」
サヤは尊敬する選手から聞いたこの言葉がずっと心に引っかかっていた。
あの人は冗談でもこんな事を言わない。
ラストカナリア、ハマ・サーキ・アユウドという人は。
ブラジルの10番にここまで言わせる選手だ。
絶対に何かある。
サヤはそう確信していた。
「ま、どっちにしろ後半戦も前半と同じ面子でしょ。
期待してるよ、エース。」
オザワーニャはサヤにニッと笑った。
そして3日後、ついにシーズン後半戦が開幕した。
- 898 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:48
- ポルトのホームスタジアム、ドラゴンスタジアムは超満員であった。
5万人集まったサポーターたちが大声援を送っている。
ここまでポルトは絶好調だった。
リーグ戦は12勝3分と無敗。
さらにチャンピオンズリーグもグループFをレアル・マドリードに次ぐ2位で突破した。
昨季はUEFAカップとリーグ戦の2冠を獲得したポルト。
この調子ならば今季はもっといい夢を見れるのではないかと
サポーターたちは期待していた。
シーズン後半戦の開幕戦の相手は現在8位のリオ・アベ。
ここはきっちり勝って勢いをつけたい所である。
- 899 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:49
- <FCポルト>4−2−3−1
77 DF 4 ナナコド・オオコーチ
22 スズキ・エミイラ
MF 10 MF MF 6 マジュ・オザワーニャ
10 サヤ
MF 6 FW 77 ミナコ・ナッカーノー
DF 22
DF 4
GK
- 900 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:49
- 柴田はベンチからのスタートであった。
チーム状態はかなりいい。
それだけにいじる必要はないと、テレ・キダターロ監督は
シーズン前半戦の基本メンバーをそのままピッチに送り出した。
試合開始と同時に地力に勝るポルトが圧倒的に攻め込む。
サヤのパスからエミイラがオーバーラップし、クロスを中に入れる。
これにナッカーノーが飛び込むが惜しくも合わず。
さらにはサヤの個人技から最後は上がってきたオザワーニャの強烈なミドル。
しかしこれはGKの真正面。
コーナーキックではオオコーチがその長身を生かしてヘッドで合わせるが
これもゴールの枠をとらえきれない。
- 901 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:50
- 「むむ、これはいかん。」
この試合展開にテレ・キダターロがうなる。
一見圧倒的にポルトが攻撃を仕掛けているようだが、実際はそうではなかった。
ごくわずかだが、選手たちのリズムが噛みあっていない。
そのためゴールが決まらない。
現にリオ・アベもこれだけ攻め込まれているにも関わらず、
まだ余裕を持って攻撃を跳ね返している。
『・・・・・ウインターブレイクのせいね。
少し休みを挟んだからリズムが狂った。』
ベンチでは柴田がこの状況を分析していた。
そしてそれは当たっていた。
- 902 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:50
- 前半戦、まさに無敵を誇ったFCポルト。
今季敗れたのはチャンピオンズリーグ予選のレアル・マドリード戦のみ。
20試合以上戦ってわずかに1敗のみなのだ。
リーグ戦では無敗記録を誇る市井のアーセナルも、
チャンピオンズリーグではインテルをはじめディナモ・キエフにも遅れをとっている。
そう考えるといかに前半戦のポルトが充実していたかが分かる。
だがこのよいリズムも休みを挟んだ事で少しだけ狂ったのであった。
1人1人はごくわずかな狂いであるが、それが11人集まると狂いは大きくなる。
この辺が1シーズンを波なく過ごす事の難しさ、サッカーの難しさであろう。
前半はこのまま0−0で終了した。
- 903 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:50
- 前半終了の笛と同時に柴田はピッチに出る。
チームがこの調子ならば後半、きっと出番がある。
柴田はそう確信し、念入りにアップを行う。
そして身体が充分に温まると、柴田はあるポイントへと向かった。
紅白戦の時と同じポイント。
つまりトレクァルティスタ、トップ下の位置だ。
ここで目を閉じ、イメージを膨らませる。
『・・・このタイミング・・・・』
- 904 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:51
- 「お、おいあいつ何やってるんだ?」
サポーターたちも柴田の様子に気付き、声を上げる。
「何だ、眠たいのか?おーい、眠たいのなら家に帰ってもいいぞー!!」
「別にお前がいなくても関係ないしさー!!」
サポーターたちが声を上げて笑う。
が、柴田は全く動じない。
嘲笑したければ嘲笑すればいい。
試合終了後にはそれを賞賛に、あたしを称える声に変えてやるから。
- 905 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:51
- 「おい、またやってるよ。」
ロッカールームから戻ってきた前半のメンバーは
ピッチに立っている柴田を見て呟いた。
「おいシバタ、後半が始まるから戻れ!!」
キダターロが叫ぶ。
その声に柴田は目を開き、ピッチから戻ってくる。
そしてそのままベンチの裏でアップを始め出した。
「何だあいつ、まさか出るつもりなの?」
「ふん、生意気な。あいつなんか出なくてもあたしらは勝つ。」
オオコーチの言葉にオザワーニャが不快感をにじませて言う。
あんな日本人に助けられてたまるか。
- 906 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:51
- 後半が始まった。
ポルトは前半と同様激しい攻撃を仕掛ける。
そして前半同様、点が入らない。
ブゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!
攻めても攻めても点が入らないこの状況に
ポルトのサポーターたちも苛立ち、ブーイングを飛ばす。
が、サポーター以上に苛立っているのが当の選手たちなのだが。
シーズン前半戦は完璧に洗練されていたポルトの攻撃が明らかに雑になっていく。
- 907 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:52
- 「あかん、リズムが悪すぎる。」
“モーツァルト”に例えられる名将が呟く。
ここは指揮者が必要だ。
リズムを上手く整えてくれる“指揮者”が。
「ん?指揮者?」
キダターロはハッとなりベンチ裏を振り向く。
そこにはジャージを脱いですでに準備を終えていた“マエストロ”がいた。
- 908 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:52
- サイドラインで選手たちが激しく競り合う。
そしてボールがタッチラインを割った。
オオオオオオオオ?!!!
その時、スタジアムが大きく沸いた。
何事かと選手たちがタッチラインを見ると、
そこには新加入の日本人選手が立っていた。
後半22分。
“マエストロ”柴田あゆみ、ポルトガルスーペルリーガデビュー。
- 909 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:52
- 柴田はボランチの選手との交代だった。
ではポジションはどうなる?
「サヤ!!!一列下がってボランチに入れ!!!
シバタがトップ下!!!!」
キダターロがすぐに指示を出す。
が、この指示に明らかに不快感を示すポルトの選手たち。
何故役立たずのシバタがトップ下でエースのサヤがボランチなんだ?
「サヤ、指示に従う必要はない。あんたはトップ下に張ってなさい。」
オザワーニャが指示に従って下がってくるサヤを前へと押しやる。
「マジュ、でも!!」
「大丈夫、あたし一人でも中盤は大丈夫だから。
それよりあんな日本人に任せてたら勝てるものも勝てなくなる。」
そう言ってオザワーニャは柴田を睨む。
下手くそな日本人は出てくるなと言いたげな表情で。
- 910 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:53
- この言葉通りオザワーニャが激しい当たりで中盤を引き締める。
そしてボールを奪った。
「はいっ!!出して!!」
その瞬間柴田はスッと動いてフリーなポジションをとる。
「ふん!!」
「なっ?!!」
だがオザワーニャは柴田にパスを出さず、
近くにいるサヤにボールを渡した。
「くっ!!」
このパスをサヤはダイレクトで柴田に送るがもうすでにタイミングを逸していた。
リオ・アベのボランチがこのパスをスライディングでカットした。
- 911 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:54
- 「・・・・なるほど、そういうこと。」
柴田がボソッと呟く。
どうやら味方は、特にオザワーニャは自分を歓迎していないらしい。
「・・・・・いいね、そうこなくっちゃ。」
だが柴田はニヤッと笑う。
これぐらいの方が指揮しがいがあるし、
彼女を指揮できないようでは
自分は世界に出る資格はなかったということだ。
- 912 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:54
- 「おらっ!!!」
またもオザワーニャが激しいスライディングをお見舞いする。
リオ・アベのMFはもんどりうって倒れる。
そのこぼれ球を拾ったのはボランチに下がっていたサヤ。
すぐさまトップ下の柴田にパスを出した。
「サヤ!!あんたは!!!」
これを見たオザワーニャが目を大きく開いて叫ぶ。
あいつに出したって無駄なのに。
『彼女だけはあたしを認めてくれてるみたいね。』
サヤからのパスを柴田はワンタッチで見事にコントロール。
そしてタイミングを計って右サイド奥のスペースへ出した。
何度もイメージしてきたプレーだ。
が、そこには誰も走っていなかった。
ボールはそのままゴールラインを割っていった。
- 913 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:55
- ブゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!
ドラゴンスタジアムがブーイングで揺れる。
せっかくのチャンスなのにあんなパスミスをするとは!!
ポルトサポーターが怒号を柴田に浴びせる。
「サヤ!!今ので分かったでしょ!!
こいつにパスを送っても無駄なのよ!!」
オザワーニャがそれ見たことかとまくし立てる。
「・・・いや、今のは違う。」
サヤはそう呟いて右サイドバックのスズキ・エミイラを見る。
- 914 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:55
- 『・・・・今のはあたしだ・・・・・・・』
エミイラは分かっていた。
あの時どうせパスはこないと思い、途中でオーバーラップをやめた。
しかし柴田は最高のパスを出していた。
もしあのまま走っていたならば完璧なタイミングでパスが渡っていたはずだった。
それはサヤも思っていた。
あのタイミング、コース、そしてパススピード。
もしエミイラがそのまま走っていたら全てが完璧だったはずだ。
それに自分が出したパス。
余り優しいパスではなかったが、見事にワンタッチでコントロールし、
スムーズにパスを出していた。
恐るべきテクニックだ。
- 915 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:56
- 「ドンマイ。」
その当の本人は何を気にするでもなく
エミイラに手を上げる。
それが一層柴田のテクニックの凄さを引き立たせる。
あんなパスなんか普通だと言っているようで。
- 916 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 10:56
- さらにまたもサヤからパスを受けた柴田は、
ダイレクトで最前線のナッカーノーへスルーパス。
が、これも合わなかった。
惜しくも届かず、飛び出してきたGKがこのパスをしっかりと掴んだ。
「まただ!!またパスミスだ!!!」
オザワーニャをはじめ、サポーターたちも呆れかえる。
こいつは使えないと。
『しまった・・・・・』
しかしナッカーノーも今のは自分のミスだと認めていた。
彼女もさっきのエミイラへのパスは完璧だったと思っていた。
が、まだ半信半疑だったため裏へ飛び出すタイミングが少し遅れたのだ。
もし柴田を信じて全速力で走っていたならばワンタッチでゴールできていたであろう。
まさに完璧なパスだった。
しかも驚くべき事にこのパスをダイレクトで出したのだ。
- 917 名前:ACM 投稿日:2004/09/09(木) 10:58
- あ、容量がもうないです。
といういことで新スレに行かせてもらいます。
途中で申し訳ありません。
- 918 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/16(土) 20:56
- 落
Converted by dat2html.pl v0.2