きみに会えて… vol.2
- 1 名前:うっぱ 投稿日:2004/06/09(水) 03:01
-
同板内にある『きみに会えて…』の続きです。
- 2 名前:注意事項 投稿日:2004/06/09(水) 03:04
-
・予備校の環境、規則及び入試制度も今現在とは多少違うと思われますので、
今後大学受験を望まれる方は絶対に真似しないようにしてください。
責任は一切持ちませんので。
・作品に出ている方のほとんどが娘。ではなくなった方、既にハロプロから卒業なさった方であられるので
あまりageないで下さい。
ご協力のほどよろしくお願いします。
- 3 名前:宣伝 投稿日:2004/06/09(水) 03:05
-
余談ですか、諸事情により、とある板にて別の物語(旧メン四人しか出ません)を書いてます。
【ヒント】
『 有り難い物は、揺すれば金貨覗く 』
これを上手く並びかえれば、板名、スレタイトル、題名が判ります。
敢えて場所は教えませんので、興味がありましたら、捜してみてください。
- 4 名前:登場人物紹介 投稿日:2004/06/09(水) 03:07
-
安倍なつみ……惚れ易い性格でやや夢見がちな主人公。現在、予備校で知り合った圭の虜に。
平家みちよ……元レディース特隊だが、意外とヘタレで可愛い娘好き。真希の家庭教師兼、お守役。
飯田圭織……楽観主義者で一風変わった自論を持つのほほん娘。最近では希美がお気に入り。
戸田鈴音……なつみ、圭織の親友でみちよ、希美、真希の母親的存在。才色兼備な女子大生。
後藤真希……憧れのみちよと知り合って一途に恋する能天気娘。境遇の違う梨華とは大親友。
辻 希美……みちよたちのマスコット的存在。現在、ベイビーからガールへと変貌中。
石川梨華……興味を持った物事には手段を選ばず、とことん執着する無鉄砲女子高生。
大谷雅恵……みちよの後輩、かつ梨華の幼馴染。キレやすく、考えるよりも先に行動する火の玉娘。
木村麻美……なつみたちの良き(?)後輩。自他共に認めるほど「りんね大好き人間」。
あと、物語後半には、村田めぐみ、斎藤 瞳、加護亜依も出演します。
保田 圭……対人不信症の一匹狼。冷徹ぶりが却って周囲の関心を惹かせてしまう、悩める主人公。
- 5 名前:菊 T 投稿日:2004/06/09(水) 03:08
-
夏は終わった。
そして……最も誘惑の多い季節が訪れる。
そもそも日本という国は快適な気候になると、必ず甘い誘惑が付き纏うようだ。
人間の三大欲求のうちの食欲と睡眠欲は春に訪れる。
“春眠、暁を覚えず”と言われれば、納得してもらえるだろう。
一方、秋になると食欲と性欲が訪れる。
ある年代では七月から九月にかけての出生率が高いらしい。
逆算すると、ちょうどこの“秋の夜長”と深い関係があるようだ。
今はそうでもないのであろうけれども……。
受験業界にとって、秋は各予備校主催の模擬試験が引っ切り無しに行われ、それと同時に推薦入試が始まる時期でもある。
ちなみにこの時期、本屋ではセンター関連の問題集や赤本の売れ行きが伸びるらしい。
そして、伸びると言えば、ようやく春から夏にかけて積み重ねてきた努力がここに来て成果を表す時期でもある。
ある者は成果が現れて、更なる伸びを期待して勤勉に励み、逆に効果が現れずに、焦り出す者もいる。
そして……ここにもそんな成果の現れた者が一人、喜びの声を上げていた。
「見てみてぇ〜、成績上がったよぉ〜」
「へぇ〜、この調子でいけば、四月には国立合格も夢じゃないかもね」
「イェーイッ! なんだか少しずつ合格に近づいてる気がするよ……」
七月の下旬に行われたマーク模試で、少し早めの成果が現れた圭織が一人フラッと現れ、
嬉しそうに成績表を親友の鈴音に見せつけていた。
基本的に隠し事が嫌いな圭織はなんでも人に見せたがる。
成績表はもとより、健康診断表から、内申書、果ては高校在学時に貰ったラブレターまで全てオープンだ。
成績表やら内申書はかなり興味深いのだが、他人のラブレターを見せつけられても、あまり嬉しくはない。
むしろ、差し出し人に同情してしまうのではないだろうか、と前々から鈴音は思っている。
- 6 名前:菊 T 投稿日:2004/06/09(水) 03:10
-
「でも気を付けないと、秋からは現役生が本領発揮してくるんだからね。
今後の模試の成績が本当の意味での成績だって事忘れちゃダメだよ?」
「なぁ〜に言ってんの。カオリが本気になったら、現役生なんて目じゃないって。シュッシュッと薙ぎ倒してやる」
手刀で空気を切り裂く真似をする。
気分はすっかり『ス○バン刑事』の主人公にでもなっているようだ。(象徴であったヨーヨーはないが)
実のところ、飯田圭織は隠れM野陽子ファンである。
思春期の頃、クリアファイルの下敷きに彼女の切抜きを入れていたほどだ。
そんな隠された秘密をまるで知っているかのように鈴音が一言。
「そんなナンノさんの真似しなくてもいいから」
「んげっ! なんで知ってんの?」
「え? もしかしてナンノさんのファン?」
「え、あ、いや、えっとぉ……」
鈴音は当てずっぽに言っただけであるのに対し、真顔で驚き、真っ赤になる圭織は自ら墓穴を掘って自爆した。
と言うより、M野陽子の愛称を知っていた鈴音も、実は隠れファンであった。
だが、こちらは未だバレずにいる。
「別にそんなことはいいんだってば。で、カオリはちょっと性格改善した方がいいよ」
「え〜、性格直した方がいいのはなっちだってば。もうね、カオリじゃ手に負えない所まで来ちゃってるんだよ?」
「イヤイヤ、貴方もだってば」
すこぶる冷静に対応する鈴音。
なつみと圭織に知り合ってからというもの、振り回されっぱなしであるので、ここいらで落ち着いて欲しかった。
圭織のためにも自分の為にも。
- 7 名前:菊 T 投稿日:2004/06/09(水) 03:11
-
「そういえば、なっちは今日どうしたの?」
「さあ? 寝てんじゃない?」
「もう4時半だよ?」
「最近、なんだか夜型みたいで、夜中たま〜にだけど自問自答してる声とか聞こえてくるよ。
“なんでこうなんの〜”とか、“ああっ、そういう事かぁ〜”とかって」
季節ものであるが、まだ市場では値の張る柿を食しながら圭織が応えた。
「へぇ〜、結構頑張ってんだ、なっちも」
「みたい。なんか人が変ったように何かに打ち込んでる時とかもあるしぃ。
やっとって言うか、ようやく一人立ちしてくれたかな〜って思うんだよね〜」
さも自分が面倒を見てきたかのようにしみじみと言う圭織。
なつみがその発言を耳にすれば、「その発言はそっくりそのままお返しするべさ」と言い返しただろう。
それくらい、お互いがお互いまだまだ子供であった。
当の本人たちはすっかり大人の自覚があるようだが……。
(私から見たら、カオリもなっちも同類なんだけどね……)
「ん? なんか言った?」
「別に…・…」
フォークを口に咥えたまま圭織が訊ねてくる。
その顔はちょっと間の抜けたようでダラしなかった。
飯田圭織、19歳。一丁前の大人にはまだまだ遠い。
- 8 名前:菊 T 投稿日:2004/06/09(水) 03:11
-
「ところで、今日のんちゃんは?」
「まだ学校じゃない?」
「え〜、いないの? なぁ〜んだ、つまんないの」
急に大の字になって寝転がる圭織。
どうやら今日ここへ来たのは希美に会う為だったらしい。
つい先日、皆で行った旅行で打ち解けたのか、二人はかなり親密な関係になっていた。
とは言ってもなつみや真希の様に極度の恋愛感情まではいかずに、あくまで友達感覚としてであった。
希美の方も圭織は仲の良いお姉さんとしか捉えていない様だ。
彼女の中で一番は、圭織の目の前にいる人と決まっているから……。
「のんちゃんも受験生だからね〜。これからはあんまり遊べないかもね」
「いいなぁ〜鈴音。いっつも傍に居られて」
「そう?」
「だってさ、あの笑顔毎日見られるんだよ? 楽しいじゃん。
あ〜あ、数学と理科ならカオリが親切丁寧に教えてあげるのにぃ……」
「自分の立場、判ってて言ってる?」
「判ってるよ。あ〜あ、いいなぁ〜、羨ましいなぁ〜」
傍にあったクッションを抱えながら右に左にとゴロゴロする圭織。
彼女の意図するところが何なのかは解らないが、少なくとも希美と一緒にいたいことだけは
鈴音にも十分過ぎるほど理解できていた。
気持ち解らなくもない、と鈴音は思う。
実際、希美と二人だけで居て、苦になるような事は滅多にないから。
あるとすれば、それは必ず第三者が居る時だけだ。
お調子もののみちよだったり、甘えん坊の真希だったり、希美の最大のライバルである麻美だったり……。
- 9 名前:菊 T 投稿日:2004/06/09(水) 03:14
-
そんな鈴音宅のドアの前では……。
「……なんかものすごく入り難いんだけどぉ……」
学校から帰った希美が、いつものように勉強道具を持ったまま、立ち竦んでいた。
辻希美、十五歳。
そろそろ色恋沙汰にも興味が出初めて来たお年頃。
そんな彼女の頬は、ちょっとだけ季節外れの桜色に染まっていた。
それぞれに小さな秋が訪れた日だった。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/09(水) 03:15
-
Hide this story.
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/09(水) 03:15
-
Hide this story again.
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/09(水) 03:16
-
Hide this story further.
- 13 名前:本庄 投稿日:2004/06/12(土) 22:17
- 新スレお待ちしとりやした!!
圭織さん…本当オープンな方ですなぁ…。
とりあえず今まで圭織にラブレターを渡した方に合掌れす…。
そして別物語…かなり捜してみたのですが未だ見つけられず…(悔涙)
くそぅ!ぜってぃにみっけてやるぅぅぅ!!
P.S
あ、別板のスレは見つけられませんでしたがよく行く某HPで、
うっぱさんのお部屋(?)をハケ-ソしますた。
そちらの作品はたんと堪能させて頂きやしたので(w
- 14 名前:本庄 投稿日:2004/06/12(土) 22:18
- あぁぁ!ごめんなさい!
間違えてageてしまいました…落とします。
本当にごめんなさい!
- 15 名前:菊 U 投稿日:2004/07/03(土) 01:29
-
21世紀に入っても不況といわれる昨今、数多ある店が開店、閉店を繰り返していく中で、
ここだけは未だに客足が衰えず人気を誇っている。
上手な経営の秘訣があるとしたら、多分それは言葉では言い表せないものなのだろう。
なにせ、開店当初からこれといって変わったことなど何一つ行っていないのだから。
今月も先月同様、海外からラテンバンドを招いている為、フロアはラテン一色に染まったまま。
南米独特の雰囲気がおしとやかな和の心を揺さぶり、客のボルテージを上げていく。
世代を超え、何もかもを忘れて同じ時間を共有するこの場、この雰囲気が人々を真に癒し、安らげていた。
リラックスするだけが癒しではない。
己の中にあるモヤモヤしたもの、不快なものを、すっきりさせることも癒しといえよう。
そんな陽気な雰囲気の中、これまた陽気な真希が満面の笑みを引っさげてカウンターにいる圭に近寄った。
最近、ラテン系に興味を持っている真希。
そのせいか、今日の彼女はかなり情熱的な恰好をしている。
それだけ見ても、彼女がラテンにどっぷり嵌っている証拠を表していた。
「やっほぉ〜、けーちゃん。元気ぃ〜? 羽伸ばしに来たよ〜、ひゅう、ひゅう〜っ」
「……ア、アンタには負ける……よ」
「なんだよぉ、それぇ〜。あ、それよりさ……」
もはや恒例になりつつある真希のマシンガントークが始まった。
みちよのことは勿論、最近の出来事や、嵌っているラテン系に関すること等々。
終いには今日のフロアーのノリに任せて、サンバの恰好がしたいとまで言い出す始末だ。
誰がどう見ても羽を伸ばし過ぎである。
「今日はみっちゃんとこ行かなくていいの?」
「今日はカテキョないもん。それにやっと実力テストが終わったからね〜」
「どうせまた“どんぐりの背比べ”だろ」
「どんぐり? なにそれ?」
「たいして変わらないもの同士を比べることの例えだよ。ってかちゃんと勉強しろよ」
「ムゥ〜、そんなことないもん。これでも前よりか頭良くなったんだよ」
両手を腰に当てて、ふんぞり返る真希。
派手ばでしい恰好から女性であることを強調する部分が、妙に威張っていた。
- 16 名前:菊 U 投稿日:2004/07/03(土) 01:29
-
「ま、先生がみっちゃんじゃ、たかが知れてるけどさ」
「なんだよ〜、紹介したのってけーちゃんじゃんか」
「アタシは紹介しただけだよ。誰も成績がアップするなんて言った覚え、ないけど?」
「え〜、ズルイよ〜、今更。詐欺だ〜」
「じゃあ、新しい人紹介しようか?」
「ヤダ。へーけさんがいい」
「大好きだもんなぁ、みっちゃんが」
「なっ……」
真希の顔が一気にヒートアップする。
先ほどから一人百面相をする真希。
それを面白がって煽る圭の顔はとても嬉しそうだ。
「寝ても覚めてもみっちゃん、みっちゃん。アンタと話してても、最後はみっちゃん、みっちゃん。
みっちゃんがいれば、最初っからみっちゃん、みっちゃん、だもんな〜?」
「ち、違う…もん……」
「なぁ〜に真っ赤になってんのよ?」
「……」
「相変わらず判りやすい奴だこと」
「もおっ……知らないっ!」
ふてくされてジンジャーを煽る真希を見つめながら圭は、もの思いに耽っていた。
「……なにさ?」
「別にぃ」
「……ごとーの顔なんか付いてる?」
「いいや。前に比べると随分顔の表情が豊かになったなって思ったから」
「えっ、そうかな?」
照れ笑う真希を見つめながら、感心を示しつつ、続けた。
- 17 名前:菊 U 投稿日:2004/07/03(土) 01:30
-
「あの頃は世の中ナメ切った顔つきして、目が合っただけの用のないアタシに喧嘩ふっ掛けてきたくらいだしね」
「あの時はさ、なんか無性に誰でもいいからボコりたくてさ〜」
「その割には刃物なんか振り回してたじゃん」
「だってけーちゃん、相手にしてくんないんだもん。それが余計にムカついて」
「よく言うよ。お陰で手の平6針も縫う羽目になったんだよ? 今でも少し傷跡残ってるし」
そう言って手の平を真希に差し出す。
微かではあるが、生命線と並行するように鋭い軌跡がまだ残っていた。
「それくらいいいじゃん。ごとーなんか死にそうになったんだからね。
ごとーから奪った刃物、ごとー目掛けて投げつけてさ〜」
「いやぁ〜、ウィリアム・テルの真似したくってね〜」
正気でない行動を平然と語る圭と真希の物言いは、聞いていて背筋が凍るほど危なすぎる。
だが、この二人にとってはそんなことも笑い話のひとつに過ぎないのだろう。
緊張感なく、ダレたように話し続ける。
「あと数センチでもズレてたら、今頃ごとーはこの世にはいなかったよ。あの時は正直、ビビッたよぉ」
「失神寸前で泡噴き出しそうだったもんね?」
「そうだよ〜、それくらい恐ろしかったんだから」
「大人の世界で生きてく怖さっていうもんを教えてやったんだよ、勘違いしてたガキにさ」
そう言いながらおでこを突っつく。
突っつかれる度に真希の頬が膨らんでいく。
「そっからだよなぁ。まるで腰巾着みたいに人の後くっついてくるようになったのは」
「だってけーちゃんといると面白いんだもん。スリルがあって楽しいし〜」
「それが今じゃ、みっちゃんに興味が移ったってか?」
「!! なんでそうなるのさ〜? へーけさんはそんなんじゃないもん」
せっかく治まった熱がまだ上がる。
瞬間湯沸し機は、今だけで何度お湯を沸かしただろう。
それほど今日の真希は体温変化が著しい。
- 18 名前:菊 U 投稿日:2004/07/03(土) 01:31
-
「みっちゃんが昔のごとぉ知ったらどんな反応すんだろうねぇ?」
「や、やめてよぉ〜」
熱くなった頬を押さえて首を左右に振り乱す真希。
みちよがいればさぞかし彼女の虜にもなっていたであろう、それ位に可愛らしい仕草を見せる。
それを面白がってからかう圭。
「みっちゃんでもしなかったことばっかしてたもんなぁ?
まあ、みっちゃんもかなりイってたから、似たもん同士惹かれ合ったってとこかね」
「そうなの? あのヘタレのへーけさんが?」
「まあね。なんせあのバカ、アタシの脇腹ブッ刺してくれたぐらいイっちゃってたし」
「ええっ!! ホントに!?」
「そっ。一度だけ周りのモンが見えなくなるくらいブチぎれたことがあってさ、
それを止めようとして脇腹刺されちゃってねぇ」
まるで他人事のように飄々と言ってのける圭に、真希は口をあんぐりとさせてるだけ。
「……信じられない……あのへーけさんが……そんなこと」
「そのあと大変でさ、自分でやっといて号泣してんの。あん時の顔は忘れらんないね」
「それってごとーと出会う前の話?」
「そうだね。ごとぉとはアタシが退院してすぐ会ったから。
っていうかごとぉといい、みっちゃんといいヤッパに縁があんのかな、アタシ」
「そ、それはさ……その…“わきげの至り”ってやつだよ」
「脇毛? 若気だろ?」
「そうだっけ? アハッ、間違えちゃった♪♪」
「ったくあいつはちゃんと教えてんのかよ」
「本人はすごい張り切ってるよ」
「張り切ってるっていうよりもからまわってる気がするよ、今のごとぉの発言聞くと」
「でもへーけさん国文科の学生なんでしょ?」
「そうだけど、難しい言葉使えるほどオツム柔らかくないからさ」
「アハハハッ。そこがへーけさんらしいよね〜」
「あんなんがW大生だもん、世の中どっか間違ってるよ」
と、人を肴に盛り上がっていた二人。
同時刻、みちよ宅では、なぜか希美の国語を見ていたみちよは……。
- 19 名前:菊 U 投稿日:2004/07/03(土) 01:31
-
「へっ、へっ、へぇっくしょいっ!」
「わっ!!」
「あ゙あ゙〜っ」
「汚ないなぁ。くしゃみする時は手で口を抑えるのが、正しいくしゃみの仕方。
へーけしゃんはそんなことも知らないのぉ?」
「あんなぁ、のんちゃん。いつからそんな理屈っぽくなったん?」
「いや、のんちゃんは正論を言っただけだと思いますけど……」
軽蔑するような目でみちよを見る希美と、至って普通の鈴音に見守られ、みちよはティッシュで鼻をかんでいた。
「っていうか、なんで二人がおんの? それにのんちゃん勉強をなんでウチが見なあかんわけ?」
「せっかくですから」
「てへへ」
納得のいく回答が貰えなかったみちよは腑に落ちないようだ。
だが、真希とは違った魅力でみちよをひれ伏す力を持つ希美。
そんな希美の笑顔を見ていたら、何でも許せる気がしてしまった。
「まぁ、ええけど。……ところで、なんかウチらって家族みたいやな、こうしてると」
「「え?」」
「りんねが若奥さんでウチが旦那、でのんちゃんが一人娘」
「えー、平家さんの奥さんなんて……ダメですよ。真希ちゃんになんて言い訳したら」
仮想の話でも鈴音には、ヘビーなことらしい。
きっとうだつの上がらない駄目亭主は正直、御免被りたいのだろう。
「いやいや、ホンマの夫婦やないし……」
「でも、真希ちゃんが可哀想だし、それに私には……」
「え!?」
「へえっ!?」
若奥様の大胆発言に仮想の旦那と一人娘が驚く。
もしや、不倫宣言か!?
- 20 名前:菊 U 投稿日:2004/07/03(土) 01:32
-
「ハッ!! あ、いや、な、なんでもないですよ、ええ、ホントなんでも……」
「怪しいなぁ〜、りんねぇ〜。やっぱり夏休みの時、遊びにきた麻……」
「そ、そうなんれすか?」
やや鼻息が荒くなった希美。
相変わらず興奮すると独特の喋りが復活するようだ。
「な、何を言ってるんですか!?」
「それとも……身近にいる娘かぁ?」
「ええっ!」
「と、とにかく! 平家さんの奥さん役はちょっとご遠慮させていただきます!」
「(ホッ……)アッ! のんもいやれす! へーけしゃんの子供なんていやなのれす!」
「そない強く否定せんでもええやろ?」
「「断固拒否です(れす)」」
なぜか、凹むみちよ。
その理由は誰もわからない……。
「……でも、のんはりんねしゃんがお母さんっていうのは嬉しいかな」
「え? そ、そお? ありがと」
「てへてへ」
鈴音に向ける希美の笑顔になぜか嫉妬するみちよ。
「りんねはよくて、ウチはあかんのかい?」
「百歩譲って、へーけしゃんが単身赴任か、もう亡くなってたらいいけど」
「むっかぁ〜っ。フン、ええわい! んならウチは青年実業家になって鈴音に求婚したるわ!」
意識がとんでもないところに飛んでしまったみちよは訳の分からないことを口走る。
そして……それにつられた希美もなぜか対抗した。
即席の昼メロが視聴者無しで始まった。
- 21 名前:菊 U 投稿日:2004/07/03(土) 01:33
-
「なんだとぉ〜。オ〜イっ、平家みち夫!」
「何や、辻希(のぞむ)!」
「ここからいますぐ出て行けぇっ!」
「希にそないなこと言われる筋合いないわ!」
「なにを〜、のんは管理人だぞ?」
半ば冗談混じりに始まった昼メロは、意外な方向へと向けて走り始めた。
まあ、読者の方々なら最初から間違っているのは十分承知しているとは思うが……。
みちよがいち早く素に戻ってそれを指摘する。
「管理人さんの子やろ? それに関係ないやん、今までの話しと」
「うるさい。のんは管理人代理でもあるんだ」
「そうなん?」
「さ、さあ……」
ヒロインに真意を求めるも、鈴音自身よく判っていなかった。
というよりも誰もわかっていないんじゃないか、とふと思うみちよ。
「つべこべ言わずに出てけぇ!」
“ボカッ”
「あだっ」
殻になったペットボトルで頭を叩かれたみち夫。
どうやら完全に悪者扱いらしい。
「みち夫め、りんねさんに近づくなっ!」
「そ、そないマジにならんでも……」
しかし、マジになった希美は……。
- 22 名前:菊 U 投稿日:2004/07/03(土) 01:33
-
「りんねさんはのんのものだぁっ!」
と、思わず爆弾発言をかました。
「え?」
「へ?」
「ああっ!」
スットンキョな声を上げて思考回路が停止する大人二人。
そして、ペットボトルを構えた希が瞬時に真っ赤になって、そのまま硬直。
しばらく三人の中にひんやりした空気が流れ込む。
「今、凄いこと言うたな」
「……」
「……」
「照れてる場合……あだっ」
「……」
「ちょ、のんちゃん、叩くのヤメ、いだっ」
結局、こっ恥ずかしさを誤魔化す希美に、攻撃を受け続けたみちよだった。
- 23 名前:お返事 投稿日:2004/07/03(土) 01:35
-
>本庄さん
なつみ「ついに始まったよ、Vol.2」
圭 「まだまだ先は長そうだね〜。でも初っ端がカオリってどうなの?」
なつみ「ん〜。なんか、カオリに関わるの怖くなってきちゃったよ」
圭 「よくそんな人とずっと一緒に居られんねえ?」
なつみ「カオリとは長〜い付き合いだからね、慣れちゃった」
圭 「やっぱり、なっちゃんたちとは適度な付き合いに留めとこう(納得)」
なつみ「えーっ!! なんでよ!?」
圭 (逃)
なつみ「あーっ、待てぇーっ!!(走)」
P.S
なつみ「またどっかでお目に掛かったら応援してね〜(チュッ)」
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/03(土) 01:35
-
Hide this story.
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/03(土) 01:35
-
Hide this story again.
- 26 名前:ビギナー 投稿日:2004/07/06(火) 17:13
- 保田さんと後藤さん。保田さんと平家さんの
けっこう痛々しい過去ですねぇ・・・
これでも、人間って仲良くなれる?んだから、不思議なものです。
そして、のんちゃんの恋の行方は、いったいどこへ?
ドタバタがほのぼのでこんなに暑いのに、なんだかあったかいですね。
暑さには、お気をつけくださいね。
- 27 名前:名無し読者。 投稿日:2004/07/14(水) 10:12
- 今日の深夜から、一気に読ませてもらいました。圭ちゃん好きにはたまらない作品です。
梨華ちゃんの黒さに負けず、圭ちゃんとなっちゃんには甘い関係になってほしいと思います。
これからも頑張ってください。
- 28 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/14(水) 11:28
- 続き期待してます。
- 29 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/14(水) 23:56
- 「恋情」の頃から読んでいます。
このお二人の話ってなかなか無いので
いつも続きを楽しみにしています。
- 30 名前:お返事 投稿日:2004/08/02(月) 01:14
-
>ビギナーさん
なつみ「いいなぁ〜、みっちゃんもごっちんも仲良さそうでさ」
圭 「女の人って知らなくても直ぐに仲良くなるよね」
なつみ「なっちも早くそうなって欲しいなぁ〜(切望)」
圭 「今は真夏で暑いからイヤ」
なつみ「!!! じゃあ、秋以降になっ……」
圭 「今度は寒くなって篭るから、無理だね」
なつみ(シクシク)
>名無し読者。さん
圭 「また一人、虜にさせてしまったか……」
なつみ「う〜、なっちも主役のはずなのにぃ〜」
圭 「日頃の行いと好みの問題ってとこかしら」
なつみ「いいもん。圭ちゃんとべったりくっついて『なっち可愛いっ』って
言ってもらえるようにするから」
圭 「そういうこというから、みんな引いてくんでしょうに……」
なつみ「……ごめんなさい」
圭 「可愛いっ」
なつみ「……(ポッ)」
- 31 名前:お返事 投稿日:2004/08/02(月) 01:15
-
>名無し読者さん
なつみ「なっちも頑張るから応援してね〜」
>名無し読者さん
なつみ「ホントに少ないよね〜。圭ちゃん、もっと絡まないと世間の人に認知されないよぉ」
圭 「いいの、少なくて」
なつみ「なんでなんでぇ〜?」
圭 「少ないとそれだけ価値が高いでしょ? プレミアものってやつよ」
なつみ「プレミアものかぁ……なんかいいね、それ」
圭 「隠れた名作の条件に打ってつけってことよ」
圭 「御返事レスのみだけで申し訳ないです」
なつみ「本編はもうちょっと待っててね〜」
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/21(土) 02:33
- 明るく楽しい話だけど裏もあるんですよね
どうなるんだろう
お待ちしてます
- 33 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:43
-
ようやく過ごし易い初秋のとある日、真希はみちよの部屋にお邪魔していた。
圭からみちよの過去を聞いて以来、寝ても覚めてもみちよ一筋の真希。
健気に懐いてくるそんな真希にこの頃はみちよも満更ではないご様子らしく、暇ができると誘うことも多くなった。
二人はかなり親密な関係になっていた。
そのせいか、英語以外箸にも棒にも引っ掛からないほど散々だった真希の成績もいくらか上がり、
壊滅的だった理数系も基礎問題ぐらいは自力で解ける程度にまで成長していた。
しかし、みちよが得意とする国語は何故か相変わらずであった。
最近では専ら国語ばかりに時間を費やす羽目になりつつあり、理数系の方が疎かになっていくことに
みちよは一抹の不安を覚える。
彼女の悩みの種は、なかなかしつこそうだ。
「へーけさ〜ん、ここわかんな〜い」
「どこや?」
「この光源氏が明石の上と出会うとこぉ」
「はぁ〜っ、そこはこないだ教えたばっかりやろ? 聞いてへんかったん?」
「だってぇ、ごとー古文苦手なんだもん。文法だけでも覚えるの大変なのにさ、敬語とかややこしいんだもん」
「あんなぁ、日本人なんやからせめて国語くらいできるようにならなあかんでぇ」
「現代文だけでいいじゃぁ〜ん」
「そういうもんやないの」
「だってさ、古文なんか必要ないじゃん、なんでいまさら必要のない古文とかさ数学とかやんないといけないわけぇ?」
全国の受験生ならずとも、一度高校生を経験した者ならば、誰しもが一度は思う疑問だ。
文系の人間ならば、解の公式やら漸化式がなんの役に立つのだろうか、と。
一方理系の人間も、なぜ誰も話していない昔の言葉の文法を覚えなくてはならないのだろうか、と。
それは目の前にいるみちよでさえ今でも思っている。
「んなもん知るかい。文部科学省のお偉いさんに聞きなはれ」
「ぶぅ〜」
不貞腐れる仕草に、思わず口元が緩むみちよであった。
- 34 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:44
-
「ところでさ〜、へーけさんって大学生じゃん。
国語は凄いってのはわかるんだけどさぁ、他の勉強はできたほうなの〜?」
「何や疑っとんのか? これでも全国模試じゃ、成績優秀者に名前載ったこともあるんやで」
どうだ顔をするみちよに、鼻と上唇でシャーペンを挟みながら、疑いの眼差しを向ける真希。
「え〜嘘だぁ。だったらK學院だかK技舘っていう大学受かってるはずじゃん」
「K技館は相撲するとこで、大学ちゃうわ。けど、なんでそんな事アンタが知っとんの?」
「けーちゃんから聞いた。そこって国語得意な人は受かるって聞いたよ?」
「またか……あんにゃろ。しゃあないやん、落ちてもうたんやから。
それにK學院かて国語だけで受かるわけやないし……」
なぜか最後の方は口篭もる形のみちよに、疑いの晴れない真希は核心を突いた。
「……ホントは苦手なんでしょ?」
「そこまで疑うんやったら……ちょい待っとき。えっと確かここに……あった。ホレ、これ見てみい」
部屋の隅をなにやら漁るみちよ。
そして皺くちゃになった数枚の紙切れを引っ張り出してきて、真希の眼前に差し出した。
「ん? なに、これ? 何々……全国総合模試個人成績表……ああーっ! すごーい!
へーけさん国語の偏差値79だ、しかも全国10位だ」
「どや? これでも疑うか?」
「すっごいんだね、へーけさん」
「えっへん!」
手を腰に添えて鼻高々なみちよ。
ついでに片方の眉毛もピクピク、鼻もやや前方に伸びている。
俗に言う「天狗」状態というやつだ。
「英語も日本史も偏差値60超えてる〜」
「ふんふ、ふんふ♪♪」
余裕綽々の表情で、成績表と一緒に出てきたデーターブックのとあるページを開き、
それを真希の眼前に突き出した。
- 35 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:44
-
「そんで、ここ見てみぃ」
「なに、これ? 成績優秀者一覧? あっ、へーけさん、載ってる〜」
「どうや、これがうちの実力や」
「へぇ〜凄いね。ああっ、けーちゃんも載ってるじゃん。でもへーけさんのほうが上だ」
「ふんふ、ふんふ♪♪」
みちよは圭よりも上といわれた事にたいそう満悦の様子。
日頃の鬱憤を本人が居ない所で晴らすかのように、お気に入りの鼻歌(『二人暮し』)まで披露し、
そのうえ小躍りまでしそうな勢いだ。
がしかし、そんな輝かしい栄光を真希が壊し始める。
一時の栄華は儚きもの……やはり彼女の先祖は偉大だった。
「あれ?」
「なんや?」
「でも、英語じゃ名前載ってないよ?」
「……悪いか?」
「悪くはないけど……ああっ! またけーちゃんの名前だ。うわ〜っ、全国8位だって、8位っ!!
他も載ってんのかなぁ? あ、あった。三教科総合でも載ってる〜。けーちゃんて凄く頭いいんだね〜」
「毎回どっかしらに載ってたなぁ……。まあ、本人は関心なかったみたいやけど」
懐かしそうに当時を思い出すみちよに、何故か真希も納得していた。
実は以前、圭にこっそりテスト対策をしてもらった事のある真希。
圭が張ったヤマが見事に当り、本人もビックリするような点数を取った経緯を思い出していた。
勿論、その後で呼び出しを受けてカンニング疑惑を掛けられたのは言うまでもない。
「けーちゃんだからね〜。で、こっちのは何のやつかな? えっとぉ……T大入試プレテスト?」
「あっ!」
「ええーっ! へーけさん、T大狙ってたのー?」
「ま、まあ、その、成り行きで受けてはみたんやけども……あかんかったなぁ」
「だよね〜、だって全部平均点スレスレだしぃ」
「うっさいな。ええやろ、受験料払えば、誰だって受けれるんやから」
「……なんか負け惜しみっぽい」
「ムカツク娘やな」
ニコニコ顔で言われては、怒る気もなくなるみちよ。
みちよ自身もT大は夢のまた夢だと思っていたからそれほど気にはならなかった。
- 36 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:45
-
「こっちは……K大入試プレテストだって。あれぇ? へーけさん、さっきよりヒドイよ?」
「(ギクッ)」
「なんかさぁ、合格判定がそのぉ……Dなんだけど」
「その、なんていうか……」
「T大の方が難しいんでしょ? なんで簡単なK応のほうが悪いのぉ?」
「そら、も、問題の質とか、傾向とかが違うしやな、第一、K応は国語やなくて小論やし、
入試に現代文とか古文があったら、その、もっと良かったはずやで?」
「つまり、へーけさん国語以外はダメって事だねぇ」
「(ガーン!)」
何故かその言葉がみちよの心を大きく抉った。
自分は単なる国語バカなんじゃないだろうかという陳腐な思いが駆け巡る。
不意にセンター本番、数Uの試験のことが脳裏に甦ってくる。
「これはなんだろ? あっ、W大入試プレテストだ。あれ〜、へーけさんて確かW大生だよね?」
「そ、そうや……で」
「この成績でよく受かったね〜」
「(グサーッ!)」
何気ない真希の一言一言が今のみちよにはかなりの痛手だった。
プライドと自信がポロポロと剥がれ落ちていく。
「もしかして裏で……」
「アホかぁ!!」
「うわっ!!」
急に立ちあがって咆えたみちよに驚き、思わず後ずさりしてしまった真希。
そして何事かと見上げる真希に、みちよは意を決して捲くし立てた。
- 37 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:46
-
「ウチは去年一年間、圭ちゃんと共に受験という荒波の中で闘ってきたんやっ!!
確かに第一志望はY国だったし、W大やなかったけどもやな、ちゃんと受験料に願書代、写真代、
その他諸々払うて、今年の2月28日、朝から快晴の中、地下鉄降りて各予備校の人らの声援受けながら
有名なO隈講堂を横目に正門くぐり抜けて決戦の場に立ったんじゃっ!!
全国から集まったライバルたちと共に朝の10時から英語、昼食挟んで国語、最後に小論文と
全科目諦めることなく、しかも全問完答という有終の美を飾ったんじゃ!
今でも受験した時の教室の座席と受験番号、それにウチの前に座ったM浦亜弥似の女の子の顔も、
後ろに座ったE頭2:50みたいな奇怪な奴も、それからズボンのチャックが半開きになっとった
初老の試験監督の顔も、それから国語の現代文が直前講習会でやった予想問題に的中したのも
ぜぇ〜んぶ覚えとるわっ! うちはれっきとしたW大生やーっ!!」
平家みちよ、21歳による、力拳を両手に作って魂の篭った気迫の叫び。
それを呆然と見つめる後藤真希、もうすぐ17歳。
「どうやっ!? 文句あるか!?」
「ふぅ〜ん。……良かったね、受かって」
「……それだけかい」
みちよの大演説も真希には選挙カーで喚き散らす議員と同じにしか聞こえなかったらしい。
つまりは興味も関心も一切なし。
愛想笑いにも見えなくない真希の笑顔に、無駄な気力を使い果たしたみちよは、ただただ項垂れるしかなかった。
- 38 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:47
-
「アハッ。こっちのはなんだろう? またT大入試プレテストだ……。あれ、これけーちゃんのじゃん」
「へ?」
「なんで持ってんの?」
「なんでやろ? うちもよお覚えてへん」
「でもへーけさんよりずっと良いねぇ〜」
「う、うちはその……T大なんて、その、き、興味無かってん」
そうは言うものの、何度か赤門を見に行ったり、予備校で売っていた『T大新聞』を定期購読していたりと、
T大にかなり愛着(執着?)があったことは、本人以外誰も知らない。
「ふぅ〜ん。でも、凄いよ。合格圏じゃないけど」
「圭ちゃんは数学に苦手意識持っとるからなぁ。数学を克服すれば、無敵なんやけどなぁ」
「なんかひどいねぇ。この設問別成績ってところでさ、数列問題0点だよぉ。ほかにも整数問題が5点だしぃ」
机の上に広げた圭の成績表を、肩を並べて見つめる二人。
そこに並ぶ数値に言葉も出ないほど見惚れるみちよ。
英語はこのレベルならばどこの大学でも通用するくらいであり、国語や日本史はやや隔たりはあるものの、
それでも六、七割と合格圏内の正答率を挙げている。
しかし数学だけは、英語とは対極にいるほどであった。
「数列は一番苦手や言うてたからなぁ。今でもちゃんと理解できん言うてたし。
それに整数は受験生の苦手分野の一つやしなぁ〜」
「ごとーも数列はわかんなかった。あれってどういう原理なの?」
「数学のことはウチに聞かれてもちゃんと説明できん。カオリに聞いた方がええで」
「でもカオリさんの説明も判り辛いんだもん」
「……まあ、それくらいややこしいもんやっちゅうことやね」
「そうだねぇ。ん〜、けーちゃんは数学をもっと勉強したほうがいいねぇ。
日本史もちょっと低いから頑張らないとT大は入れないなぁ」
さも進路指導の先生にでもなったかのように、減らず口を叩く真希。
圭の成績の半分にも満たない自分の成績のことを棚に上げて……。
- 39 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:47
-
「なにいっちょまえにデカい顔してモノ言うてんねん」
「へへっ。でも、ごとーの知り合いにこんな頭の良い人がいるなんて嬉しいなぁ〜」
「そ、そうか?」
「みんなに自慢できちゃうなぁ〜」
「や、やめてぇなぁ。そない、たいした事でもないしぃ」
「へーけさんのことじゃないよ?」
「……」
「ごとー、けーちゃんに教われば良かったなぁ」
「(ムカッ!)」
「へへっ、怒った?」
「もうええ、圭ちゃんとこでもどこでも好きなとこ行き、ウチは知らん」
真希に背を向けて拗ねるみちよ。
「もぉ、冗談だってばぁ、へーけさぁ〜ん」と甘えた声でじゃれ付く真希。
真希の発達した二つの双山がみちよの背中に押し当てられる。
急に邪な感情が芽生え出す。
そんなスウィートな雰囲気に小悪魔が忍び寄っていた。
相変わらず、プライベートが持てない部屋だ。
「その通りっ! ごとーしゃんなんか放っておいてのんと遊びましょぉー、おーっ!」
「「の、のんちゃん!?」」
突如、背後から大声がして思わずひっくり返りそうになる真希。
それをしっかりと抱き支えるみちよ。
何だかんだ言っても真希のことが大事らしい。
真希をガードするように懐へと収めていた。
- 40 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:48
-
「ごとーしゃんはへーけしゃんを捨てたんです。だからのんがへーけしゃんを戴きますっ」
「(ムカッ!)ダメだよ、へーけさんはごとーのっ!」
「ごとーしゃんはへーけしゃんといるから、ち〜っとも頭が良くならねーです。
これはごとーしゃんのためでもあるんですよ?」
「のんちゃんに言われたくないよ! のんちゃんこそ遊んでばっかだと、高校行けなくなっちゃうぞ?」
しかし希美は、人指し指を立てて左右に二、三度振ると勝ち誇ったように言う。
ダンディーな紳士ならばそんな仕草も決まろうものの、それとはかけ離れた容姿をしている希美が
そんな真似をすると、どうもオチャらけたようにしか見えない。
だからだろう、真希がいつになく敵意剥き出しで突っかかっているのは……。
「のんにはりんねしゃんがいるから平気だもん。りんねしゃんはへーけしゃんより賢いですから」
「そんなことないもん! へーけさんのほうが上だよっ」
「いいや、りんねしゃんのほうが上だもん」
「へーけさんはW大生だもん」
「りんねしゃんは現役で合格したんですよ」
「へーけさんはT大狙ってたんだもん」
「りんねしゃんは高校生の時、学年トップですよ」
次から次へと自分のカテキョ自慢を始める二人。
当事者であるみちよは、口を挟むことなく見守っているだけ。
「絶対にへーけさん!」
「いいや、りんねしゃん!」
「へーけさん!」
「りんねしゃん!」
小さな小さな戦争勃発。
些細な事で喧嘩する二人を見て、まだまだ子供だな〜と思わずにいられないみちよだった。
- 41 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:48
-
"コンコン"
「ん、誰や? ほ〜い、どなた?」
「あの〜、私のこと、呼びました?」
「いや、呼んでへんけど。、まあ、上がり」
「なんかのんちゃんが部屋を出て行ってすぐに私の事叫んでたから……」
入って来たのはもう一人の当事者、鈴音だった。
どうやら、希美は先ほどまで鈴音先生の元でお勉強中だったらしい。
こちらはやる時はきちんとやっているお陰で、成績はかなり飛躍しているようだ。
「ちょっとした痴話喧嘩でな……」
「何が原因なんですか?」
「それがな……」
まだ続いている戦争を傍目に、みちよは事の詳細を話した。
時折、苦笑も交えながら、事の成り行きを見守っている。
「……なるほど。お互い苦労しますね」
「そやな。ところで、りんねはどこの大学行ってんの? 今まで全然知らんかったけど」
「私ですか? J智ですよ」
「ええっ! マジで!? 学部は?」
「文学部国文科ですけど」
「……」
「平家さん?」
「……ウチ、J智アカンかった」
「あ、そうなんですか? ごめんなさい、受かっちゃって」
試験の合否は実力のせいであって、決して大学側が贔屓したわけではない。
にもかかわらず何故か自分が悪い事をしたと思って謝ってしまった鈴音。
それが余計にみちよを惨めにさせていく。
- 42 名前:菊 V 投稿日:2004/08/22(日) 17:49
-
「ち、ちなみに他はどこ受けたん?」
「えっと〜、K學院とT女、後は北海道と都内の短大を三つほどですけど」
「K學院受けたん?!」
「ええ。一応は受かりましたけど」
「!! マジでぇ!!」
みちよのあまりにも鋭い絶叫に小さな戦争が止んだ。
何事かと二人を交互に見つめ、話の中へ入ってくる希美と真希。
こういうところの変わり身は二人とも早いようだ。
「はい。J智と連続受験でしたけどなんとか」
「へぇ〜、りんねさんて頭いいんだね〜」
「そうかな? それほどでもないよ」
「……ウチが落ちたとこばっかりや」
「あ、あのぉ、えっとぉ……」
「……プププッ、へーけしゃん、情けねーですねぇ。やっぱりりんねしゃんのほうが上でした」
"がーん!"
「あ〜あ、いじけちゃった」
「のんちゃん、口に出したらダメだよ。そういうのは心の中で思うだけにしておくの」
「はい。ごめんなさいです」
(……それも嫌や)
すっかり自信を無くしたみちよ。
彼女の冬は人より二ヶ月ほど早く訪れそうだ。
- 43 名前:お返事 投稿日:2004/08/22(日) 17:52
-
>名無し読者さん
圭 「お年頃ですから、受験の他にも色々な悩みがありますから」
なつみ「明るい話から、ちょっとセンチな話、中にはダーク過ぎる話も」
圭 「どうなるんでしょうねぇ〜」
なつみ(ニヤニヤ)
圭 「なっちゃん、その笑い方、なんかイヤらしい」
なつみ(シクシク)
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 17:53
-
Hide this story.
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/22(日) 17:53
-
Hide this story again.
- 46 名前:名無し 投稿日:2004/08/30(月) 12:45
- 更新まってました!
なっちゃんも圭ちゃんと今回のようなまったりとした会話が早くできるようになるといいですね。
- 47 名前:本庄 投稿日:2004/08/31(火) 20:19
- お久しぶりですぅ!!(泣)
誰だこいつ?・・・と思われてしまう位ご無沙汰しておりますた本庄でございます!
ようやく戻ってこれましたわ・・・(T▽T)
それにしても鈴音しゃん・・・笑顔で毒舌・・・素敵すぎます!
でもわたくしめといたしましては・・・・・・
圭 ち ゃ ん は よ な っ ち と い ちゃ つ け や 。
って感じでしょうか・・・。
てなわけでひさびさにうっぱさんの甘甘けいなちを読み返そうっと♪
あ、でもお話ももちおもしろいですよ!
これからも期待しちょります!がんがってくださいね♪
- 48 名前:お返事 投稿日:2004/09/09(木) 01:58
-
>名無しさん
なつみ「名無しさんの言う通りだよぉ」
圭 「人見知り激しくってね〜」
なつみ「ねえ、いつになったら仲良くなれるの?」
圭 「さあ? アタシ、みっちゃんみたいに軽い人間じゃないから」
みちよ「ウチは軽ないっちゅうねん!!」
圭 「でも体重は……」
なつみ「え、太ったの?」
みちよ(ドキッ!!)
みっちゃん、初登場。
>本庄さん
なつみ「もぉ〜、物凄い心配したんだよ、急に音沙汰無くなっちゃったから」
圭 「まあまあ、本庄さんにも諸事情があるんだから、怒らないの」
なつみ「それはそうと圭ちゃん、早く仲良くなろーよ!!」
圭 「アタシ、好物は最後にとっておくタイプなんだよね〜」
なつみ(ええっ!! こ、好物って、もしかして……)
りんね「でもさ、圭ちゃん。一応ナマ物だから、最後までとっておくと腐っちゃうかもよ?」
圭 「そん時はそん時だよ。でも流石に腐ったら食べれないか」
りんね「賞味期限近かったら、火を通せば大丈夫でしょ」
圭 「そだね」
なつみ(ううっ……圭ちゃんもりんねもひど過ぎるべ)
りんちゃん、初登場。
- 49 名前:変更事項 投稿日:2004/09/14(火) 05:28
-
物語に変更点があるのでお伝えします。
【変更場所】
『きみに会えて…』(http://mseek.xrea.jp/flower/1055870511.html)内の「萩 W」後半部(427〜430)
【変更箇所】
・大谷雅恵 ⇒ 里田まい
・石川さんとの会話をフレンドリーに
【変更理由】
・メロン記念日は柴田さんだけ、カントリー娘は里田さんだけ出さずに、
他のメンバーが出るのは統一感が無く変だと感じたので。
・最近では、メロン記念日の小説頻度が高まっていて、マイナー路線をいくウチには合わないと思ったので。
自分勝手なこと言って申し訳ないです。
- 50 名前:変更事項 投稿日:2004/09/14(火) 05:29
-
【登場人物 再紹介】
安倍なつみ……惚れ易い性格でやや夢見がちな主人公。現在、予備校で知り合った圭の虜に。
平家みちよ……元“HP”初代特隊だが、意外とヘタレで可愛い娘好き。真希の家庭教師兼、お守役。
飯田圭織……一風変わった自論を持つ自称"なっち大好き"人間だが、最近では希美がお気に入りらしい。
戸田鈴音……なつみ、圭織の親友でみちよ、希美、真希の母親的存在。才色兼備な女子大生。
後藤真希……憧れのみちよと知り合って一途に恋する能天気娘。境遇の違う梨華とは何故か大親友。
辻 希美……みちよたちのマスコット的存在。現在、ベイビーからガールへと変貌中。 頑張れ、のんちゃん!
木村麻美……なつみたちの良き(?)後輩で、自他共に認めるほど「りんね大好き人間」。希美の恋敵。
石川梨華……圭を想い、乙女らしく健気に振舞う女子高生。が、なつみに対しては激しい憎悪を抱いている。
里田まい……梨華の幼馴染で“HP”二代目特隊。キレやすく、考えるよりも先に行動する火の玉娘。
木村アヤカ……みちよの後輩で“HP”二代目頭。昔、完膚なきまでヤラれたせいか、圭を眼の敵にしている。
斎藤美海……まい、梨華の悪友。表の顔は御氏族の令嬢だが、裏の顔は“HP”二代目親衛隊。
加護亜依……???
保田 圭……人との関わりを頑なに拒む一匹狼。その冷徹ぶりが逆に周囲の関心を惹かせてしまう、悩める主人公。
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/19(日) 23:07
- 人物とストーリーの変更とはちょっと驚きましたが
どのように転がっていくのか楽しみにしております
- 52 名前:本庄 投稿日:2004/09/26(日) 01:52
- 設定変更を読んでみてアヤカの設定が新鮮でかなり楽しみです。
今後どんなストーリーになって行くのかな?
がんばってください。
- 53 名前:訂正&お詫び 投稿日:2004/10/02(土) 04:06
-
誠に申し訳ないですが、上記に掲載した【変更事項】は無視してください。
(多忙なせいか、どうも頭の中がテンパってまひた、ごめんなさひ)
今後このような事がないよう、細心の注意を払いつつ更新したいと思います。
ホント紛らわしい事してスイマセンでひた。
>名無し読者さん&本庄さん
なつみ「ごめんね、混乱させちゃって」
圭 「お詫びになっちゃんからの投げキッスを受け取ってください」
なつみ「ええっ!! そ、そんな……(モジモジ)」
圭 「ホラ、早く早く〜」
なつみ「……チュッ(カァーッ)」
- 54 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:08
-
長い夏を経て二学期、いよいよ受験生活も後半戦へ突入した。
今年度のセンター試験の日程発表を皮切りに、私大受験に関するデーターが次々と全貌を現し始める。
最新データーと自らの成績を元にアレコレ思案して、あらかた受験する大学の目途を立てる。
安全圏内の大学で固める者、はたまたこれからのレベルUPを期待して高望みを決め込む者、
オーソドックスに志望校のレベルより±1の許容範囲をいく者と、受験の仕方も多種多様である。
そんな押し寄せる受験前の慌しさという名の波に乗らずに一人、別の波に乗ってしまった者がいる。
その波とは、この世界において原則上禁じ事とされている「恋愛」という大波。
そこへと飲み込まれていった人物、安倍なつみは先ほどから目の前に広げた英文になど全く目もくれず、
肩肘をつき、手のひらに顎を乗せ、前方より30度上を向いたまま「無」になっていた。
その姿は、今にも大気中をふんわりと漂う微粒子程度の埃を数えそうな勢いだ。
そんななつみの隣りでは、腕を組んで首を傾げながら圭織が必死に英作文に取り組んでいる。
「“休暇を利用して海外旅行をする学生がますます増えている”かぁ。ん〜」
「……ふぅ〜っ」
「“学生がますます増えている”ってことはぁ……学生が一杯いるって事だからぁ……」
「はぁ〜っ」
「……あのねぇ、人が真面目に予習してる時に、気の抜けるような溜息止めてくれる?」
「……カオリにはなっちの気持ちなんかわかんないよ……はぁ〜っ」
「当たり前でしょ。カオリはエスパーじゃないし、サイコメトラーでもないんだから。
あ、でもS摩さんてカッコイイよね〜、ああいう大人っぽい女性、憧れちゃうなぁ」
相変わらず的外れな解答をする圭織に、これまたいつも通り呆れ返るなつみ。
が、もう突っ込みをも入れる気力さえ今のなつみには残っていなかった。
- 55 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:09
-
手がおもむろに英和辞典を捲っていく。
ちょうど引き当てたのは、今のなつみに最も関わりある単語“love”が載っているページだった。
そこに書かれている様々な意味をなんとなく確認すると、ひときわ大きな溜息。
「秋って……ホント人恋しいよね」
「学生が一杯ってことはぁ、多くの学生だから……“A munber of students”…って、はあっ!?」
「なんでこんなに切ないのかな? 哀しいよね」
「なっち? 頭、大丈夫?」
「はぁ〜、ふぅ〜」
そう言って机に突っ伏してしまったなつみ。
左胸の辺りを手で押さえながらもう一度、溜息をつく。
まるで、枯れ果てた最後の葉が枝から今にも落ちそうなのを、窓際から覗く少女のような顔をしている。
その哀愁漂う表情は、見る人にとってつい先月19を迎えた娘とは言えぬほど幼く映ったころだろう。
そんな清らななつみを無表情で見つめていた圭織は思った。
(恋かぁ……カオリもしたいなぁ……)
彼女の意思は本気かどうかわからない。
が、少なくとも今はなつみの雰囲気に飲まれてしまったようだ。
圭織の手先がそれ以降、アルファベットをノートに刻すことは無かった。
- 56 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:10
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なつみたちが埒のあかない会話を繰り広げている頃、渦中の圭はというと
バイトする喫茶店にて「みっちゃんランチ」を挟みつつ、みちよと笑談に花を咲かせていた。
ちなみに、「みっちゃんランチ」なるメニューは、みちよ監修のもと圭が調理した特製ランチで、
キャベツのグラタンスープ、季節野菜のマリネ、特製クロワッサン三個、そしてコーヒーから成る。
これといって特徴的でないのがいかにもみちよ考案らしいといえばみちよらしい。
無論、圭がバイトで入っていない日には、「みっちゃんランチ」はメニューから外れる事になっていて、
しかも昼食時が過ぎた午後二時から三時までの超限定メニューというふざけた代物である。
とはいえ、それを注文する客など、一人しかいないのだが……。
「へぇ〜」
「驚きやで。ウチと同じトコ受けてたなんて」
「そりゃ幾つかは重なるでしょうに。で、その鈴音って娘は合格して、みっちゃんはアウトと」
「(コクッ)」
「現役でJ智とはたいしたもんだ」
みっちゃんランチから野菜のマリネを一口拝借する圭。
みちよはクロワッサンを手にしたまま落ち込んでいるため、それに気付いていない。
拝借した圭も当然といった感じで、心地良い歯応えを響かせながらみちよの話を聞く。
「もうなぁ、りんねにデカい態度とれんわ」
「いいじゃんか、別に。浪人してるヤツラにしたら受かっただけでもいいだろ、って言って石投げられるよ?」
「けどな〜、やっぱりどーしても比べてまうよ」
「そういうもんかねぇ」
そう言いつつ、圭は次にグラタンスープを勝手に拝借。
“暑い時期に熱いものを”と言われるが、まだ残暑が厳しいせいもあってか、
器からから立ち昇る湯気が余計に暑さを感じさせる。
熱を冷ましながら食する傍らでは、みちよが今だクロワッサンを手で千切っていた。
- 57 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:11
-
「そらアンタはええやろ。たぶんりんねよか成績は良いやろし、他人に一切関心持たんのやから」
「何が気に入らないのさ?」
「何って言われてもなぁ……」
「意外と肝っ玉が小さかったんだね、みっちゃんて。今は同じ大学生なんだから、関係ないでしょうに」
「そうかなぁ?」
「しっかりしろよ、それでも一端のW大生だろ?」
「うっさいなぁ。ってか、その台詞、もう聞き飽きたわ。もうええわ、ほんまに。
そういえば一昨日、圭ちゃんのT大プレが出てきて、ごっちんが数学弱いだの、日本史ガンバレだの言うてたで」
「なんでみっちゃんが持ってんのよ?」
「ウチもよお覚えてへんのや」
「ま、いいけどさ。過去の成績表なんてアタシにとっちゃ、それが一年前のことだろうと昨日のことだろうと
全て過去のことだからどうでもいいよ」
「……そうでっか」
まるで人事の様にそっけない態度をとる圭に、みちよは肩を落とす。
過去のことを振り返らない人間は数多存在するが、ここまで過去のことを気に留めない人も珍しい。
「数学ねぇ……アイツよりはマシだと思うけどなぁ」
「相変わらず、数列やら整数やら確率なんかもアカンの?」
「なんとか等差、等比数列は把握できてるよ。けどさ、ちょっと応用されるとね……
それに帰納法とか演繹法とかになると、もうなにがなんだか。
整数もね、それなりに色んな問題こなしてんだけどね、いまいち」
ここでもまたクロワッサンを1個拝借。
何気に「みっちゃんランチ」を勝手に食している圭に未だ気付かないみちよ。
過去に全く関心のない圭も珍しいのだが、眼前で堂々と起こっていることに全く気付かないみちよも、
ある種珍しい人間なのかもしれない。
- 58 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:11
-
「数列も整数もセンターをはじめ、多くの入試で出るからなぁ。避ける訳にもイカンしなぁ」
「数列が全くできない分を関数問題で誤魔化してるけどね」
「他の分野は大丈夫なん?」
「微積分も楽勝とまではいかないかな。結構一杯いっぱい」
「けど、数学はセンターレベルが出来ればええんやろ?」
「そうだけど、やっぱり記述が出来なきゃ理解してないってことだしね。
英語や現代文の記述が書けないのはちゃんと文章が読めてないからだってっていうでしょ?
それと一緒だよ。基本が理解できないと元も子もないからさ」
「なるほどなぁ」
「自分だって数学必死こいてやってたじゃんか。わざわざ単科まで取ってさ」
「せやったなぁ。おかげで数学を解く面白さを知ることができた」
「でも、マークでミスっちゃって……」
「見事に玉砕」
「Y国は微笑んでくれなかった、と」
「あ〜、行きたかったなぁ〜、Y国」
「今更嘆いても無駄ムダ」
傍に置いてあったコーヒーを啜る圭。どうやら昼食が終わったらしい。
我ながら満足のいく出来具合に、少しだけ気分が良いようだ。
二杯目のコーヒーを炒れる。
- 59 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:12
-
「はぁ〜、J智にも行きたかったなぁ〜」
「今年落ちたW大志願者にぶっ飛ばされるよ?」
「W稲田も悪かないねんけど……」
「……だったら退学して再受験しなよ」
「それは勘弁して」
「なら大学院で行ったら?」
「でもな〜、あと三年あるし、その頃にはもう行きたかったなんて思ってないやろし」
「……ああ、そうですか、勝手にしろっ!」
踏ん切りがつかないみちよに、苛立ちの頂点に達した圭が咆えた。
付き合いきれずにさっさと仕事に戻るが、昼食時を過ぎた時間にやることはあまりない。
「クールやなぁ。アンタは北極のペンギンかい」
「さっきまでウジウジしてた奴に言われたくないわよ」
「冷たいなぁ〜。ってちょっと! なに人のランチでお昼済ましとんねん!?」
「ごちそーさま」
「ウチ、クロワッサンしか食われへんやんか!」
結局追加注文でペンネのグラタンを頼む羽目になったみちよ。
ここへ来ると売上に貢献してしまう自分を儚んだ。
- 60 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:12
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ついこの前まで明るかった午後4時だが、陽は後一時間もすれば消え入りそうなほど傾いていた。
四限に講義の入っていた圭織と別れてから、なつみは一人自習に精を出していたものの集中できず、
一足先に家路に就こうとしていた。
圭織にメールでその旨を伝え、溜息交じりに校舎を出る。
すれ違うライバルたちのどこか生き生きとした表情を見ていると、今の自分が無性に小さく見えた。
夏の残り香を漂わせるかのように、小さい風がなつみの横をすり抜ける。
ふと、この風もどこか哀愁を帯びているのだろうか、と詩人のようなことを思った。
が、直ぐに自分らしくもないな、と自嘲気味に笑う。
その刹那、
「ねえねえ、そこの彼女。今、ヒマ?」
「???」
「そう、君だよ、キミ。今、ヒマ?」
急に背後から声を掛けられたなつみは振り向いた。
目の前には脱色した茶髪を風に泳がせて、微笑む青年が一人、なつみを足止めした。
傍を行き交う予備校生と何ら遜色のない恰好をして、言葉もそれほどキツイ感じではない。
だが、やや目つきが人よりも鋭く、それがどこか危ない雰囲気を匂わせている。
なつみにはそんな彼がどことなく圭と被っているように思えた。
- 61 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:13
-
そんな偏見的な思い込みに騙されてか、なつみは無視を決め損ね、青年と向き合う。
「えっ、私?」
「そう。君、可愛いね。よかったらさ、遊ばない?」
「あ、あのっ、えっと、い、いいです。え、遠慮しときます」
「どうして? もう授業終わったんでしょ? たまには息抜きでもしようよ」
「で、でも、私……」
「精魂詰め過ぎると身体に毒だよ? 少しだけ現実から離れてさ、パァーっとストレス発散しようよ」
「あ、あの……御免なさいっ!」
なつみは青年の執拗な誘いを振り切って通ってきた道を逆走していった。
行く宛てもなく、駆け足で歩を進めながら、今自らの身に起こった事を確認していく。
(今なっち、男の子に声掛けられた……誘われた……これって、もしかして……)
ようやく見慣れた校舎の中に飛び込むと、歩を緩め人気の無い場所で立ち止まる。
そして、改めて冷静に数分前の出来事について考え込む。
その結果はというと……
(もしかして……なっちナンパされちゃった? ウソ!? マジで!? うわっ、うわっ、ホントにぃ!?)
次第に興奮してきたのか、顔には赤みが帯び始め、無意識のうちに動作まで付いてうろたえ出す。
その様は、プールで溺れている人を思い浮かべてもらえればわかるだろう。
いつの間にか思っていたことを、声に乗せて喋っていた。
「なっち、大都会で初めてナンパされちゃったべさ!! イヤァー、キャァー、どーしよーっ!!
うっわぁ〜、誰かに自慢したぁーい!! そうだ、カオリに言わなきゃっ!!」
さっきまで憂鬱だったのが嘘のように活気づいたなつみは、圭織の元へ飛んでいった。
なつみの一人大運動会はまだまだ続く。
- 62 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:14
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、走り去るなつみを追いかける訳でもなく、ただ普通に見送った青年は踵を返した。
そのまま食堂や自習室が設けられた建物へと吸い込まれていった。
そこは憩いの場のようなスペースで、頭を働かせた学生たちが一時の安らぎを求め、思い思いに過ごしている。
青年は辺りを見回し、その一角できちんとした制服を身に纏っている女子高生の傍へと寄って行く。
そしてやや乱暴に隣りへ腰掛けると、女子高生はすかさず顔を近づけて問い掛けた。
どうやらその行為の一部始終を窓越しから見ていたようで、表情は何故か浮かないご様子。
「ねえ、マーちゃん。一体どういうつもり? あんなことして」
「ちょっと探り入れてみただけだよ」
「なにを?」
「男の影をね」
「男の影ぇ?」
「そっ」
ラフな恰好で青年を装っていた雅恵は、腕を組みながら一息置く。
そして目の前の少女――梨華に向かって軽く言い放った。
口元に微かな笑みを添えている。
「十中八九、ありゃ処女だな」
暇を持て余す代わりにと、自販機で購入したミルクティーを飲んでいた梨華が「処女」という言葉に蒸せた。
液体を霧吹きの如く噴出するまでは至らなかったが、それに近い形で口へと含んだものを外へ出してしまう。
近くでテキストを開いて講義の予習をしていたであろう男子高校生が、怪訝な顔つきで梨華を見た。
しかしそんなことに全く気付かずに、梨華はなにをこっ恥かしいことをの給うのか、とでも言いたそうな目で
雅恵を見るが、当の本人は平然と話を続けていく。
- 63 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:15
-
「アタシを野郎と勘違いした挙句にあの態度じゃ、かなりの田舎っぺだな、ありゃ。
たぶん、恋愛の『れ』の字も知らないほど初心なんだろうよ」
「急に何を言い出すかと思ったら……っていうか、そんなこと知ってどうするの?
それにわかんないじゃない、あの娘がその、し、しょ……かなんてぇ」
何故か、「処女」が言えずに、口篭もる梨華。
が、知らずと自分の頬が紅かったのを、恋や愛などに全く興味なさそうな雅恵に悟られてしまった。
ここにもなつみに負けず劣らず純な娘がいたようだ。
「なんだ、梨華もかぁ?」
「ええっ!? な、なにがぁ!?」
「おまえ、処女だろ?」
「なっ……」
真っ赤になって俯いてしまった梨華だが、その気持ちもわからなくはない。
何せ雅恵が喋ることのほとんどが、その場には全く相応しくない事ばかりなのだから。
ましてや、梨華のすぐ傍には異性が座っているのだから、恥ずかしいことこの上ないだろう。
かといって違うのかといえば……そうでもない。
雅恵による読みは梨華の肌色でほどなく証明される結果となっていた。
「まあ、いいや。いずれこれが意味するところってやつを教えてやるから」
「イケイケなマーちゃんの割には凄く慎重じゃない」
「バカ、こういう地道な努力が後で実を結ぶんだよ、覚えときな」
そう言って外を行き交う予備校生たちの群れを見つめている雅恵。
その視線から見え隠れする彼女の意思は、長い付き合いの梨華でさえも見抜ける事ができなかった。
雅恵の中でシュミレートされている「計画」を……。
- 64 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:15
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
生涯初めて異性に声を掛けられたなつみは、先ほどから舞い上がったままである。
とにかく話したくて、四限に授業の入っている圭織の教室前で講義が終わるのを待っていた。
誰も居ない廊下に自らの胸の鼓動が響き渡る気がして、手を添えて抑える。
(あ〜、もぉ〜、なんでこんなに興奮してんの? うるさいってば!)
一定の間隔で流動する血液と、そこから発せられているであろう微熱。
二つが上手い具合に絡まり合ってなつみを興奮させていく。
それを抑えようとすればするほど、余計に身体は活性化していくらしい。
(んもぉ〜、どうしたら……あっ! そうだ、深呼吸だ。深呼吸したら治まるっしょ、ねっ)
なんと大胆にも、人の往来が激しいエレベーター前の踊り場で深呼吸を始めるなつみ。
幸いにも誰一人として通らなかったものの、見つかれば間違いなく変質者と勘違いされかねない。
こうした他人の目を気にせず行動するのが、良くも悪くもなつみである(?)
そして、ようやく授業終了の鐘が鳴り、生徒と講師が集中から開放されると、
真っ先に教室に入り込んで圭織がいる席の前に座り、話し始めた。
周囲の受講生が残っているのにも構わず、大声を張り上げる。
「カオリ、聞いて聞いてっ!! なっち、ナンパされたべさ!!」
- 65 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:16
-
「はあっ!? あんだってぇ!?」
90分間、頭を目一杯使った後に聞かされる話としては最悪だろう。
圭織の表情が思いっきり曇った。
が、圭織並みのゴーイング・マイ・ウェイな今のなつみには、知ったことではない。
先ほどの深呼吸も虚しく、熱いトークを展開する。
「だからぁ、ついさっき、ちょっとイケてる男の子にナンパされたんだってば!!」
「ナンパぁ!? うっそだぁ〜」
「ホントだべ!! 『ねえねえ、そこの彼女。今、ヒマ? よかったら遊ばない?』って言われたっしょ!」
「で、どう応えたのさ?」
「そ、それがさぁ、恥ずかしくってぇ……返事もしないで、逃げてきちゃった……テヘッ」
何故かオチャラケて照れ笑うなつみに、これまた理由無く怒る圭織。
数時間前の影響が残っているのか、何かを期待していたようだ。
「なんだよ、それぇ〜!! バカ! アホ! ヘタレ! ったく意気地ないなぁ〜」
「だってだって、初めてで、なんて言ったらいいかわかんなかったんだもん!!」
「これだからお子ちゃまは……ハァ〜っ」
圭織はお手上げといった様子で、首を横に振りながら深い溜息をついた。
だが、それがなつみには違う意味で捉えられていた。
圭織が言葉の最後についた溜息、その勝ち誇ったようなそれでいて人を小馬鹿にしたような仕草が、
なつみには納得できなかったらしい。
興奮冷め遣らぬうちに、異を唱え始める。
- 66 名前:菊 W 投稿日:2004/10/02(土) 04:17
-
「お子ちゃまって、なっちはちゃんとした立派な大人だべっ!!」
「そんな童顔で田舎っぺ丸出しの方言使う大人がどこにいんのさ?」
「(ムカッ!)今の話しとそれは関係ないっしょ!!」
「まあ、確かに関係無いけどさ。でも、たかがナンパされたことぐらいで興奮してるようじゃ〜、
まだまだお子ちゃまと言わざるを得ないでしょ?」
「(ムカムカッ!)フンっ! なにさ、カオリなんかナンパされたことないくせに!」
「残念でしたぁ〜。カオリは地元にいた頃から、何回も誘われてるもんね〜だ」
どうだ!といった様子で腰に両手を当ててふんぞり返る圭織。
確かに、外見だけならばそこいらの同世代の娘たちより、一歩上を行ってる気がしなくもない。
そんな圭織を世の男たちが指を咥えて見ている訳がなかろうと、誰もが思うだろう。
少なくとも一緒にいない時に、そういう出来事に遭遇していてもおかしくはない。
そんな様子が今の圭織からは窺えたが、なつみにはその話しがいまいち信憑性に欠ける気がしていた。
「うっ、嘘吐きは泥棒の始まりだべさ!」
「ホントだも〜ん。嘘だと思うんなら、りんねに聞いてみな」
「なんでなっちが知らなくて、りんねが知ってるんだべ!?」
「りんねもああ見えて意外とモテるからねぇ〜」
自分のことを棚に上げて、鈴音のことを意外な人に見せかける圭織。
彼女の中では自分が一番マトモだと思っているのだろう。
まあこの物語を始めから読んでくださった読者さんであれば、どっちがマトモかは一目瞭然だが……。
「……ちぇっ」
自慢できる要素が却って、自分を小さくさせた結果に不貞腐れるなつみだった。
- 67 名前:お詫び 投稿日:2004/10/02(土) 04:19
-
ホント、変更を変更して申し訳ないです。
以後気をつけます……(多分)
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 04:19
-
Hide this story.
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 04:20
-
Hide this story again.
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/03(日) 23:12
- 安倍さん君は受験生だろうに…最後に笑うのは飯田さんのような。
なにげに一番幸せそうなのはみっちゃんかな。
なんにしても読んでいて気が抜けない展開になってきましたね。
変更の変更、いいじゃないっすか。要は変更なし→おっけー。でしょ。
これまで描かれてきた流れとかマサオのキャラとか石川さんとの関係が好きなんで、
嬉しいくらいです。
これからも期待してます。
- 71 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:07
-
恒例となった全国記述模試も今回で四回目を迎えた。
毎月全国規模の模試が行われているため、今ではすっかり手順も聞き流せるほど慣れてしまっている。
最初の頃は遅れないようにと、模試の開始一時間前に校舎に着いていたなつみたちも
今となっては開始二十分前に到着するほどの余裕だ。
圭織に至っては、専ら朝食がてらの「朝マック」も定着しつつある。
「じゃあ後でね」
珍しく受験番号が離れた二人は、昼食時に会う約束を交わして駅前で別れた。
圭織はそのまま本館からやや離れた校舎へと向かい、なつみはいつも利用している校舎へと向かう。
受験生たちの流れる波に乗って比較的大き目の教室に入ると、受験票の番号と座席表を照らし合わせる。
(ホッ、今回は通路側だべ。真ん中だとどうも緊張しちゃうんだよなぁ)
ここ数回の模試では長机の真ん中の確立が多かったなつみ。
いちいち通路側の受験生に一声掛けないと、出入りができないこともあって、
社会や国語の時間などは中途退出がほとんどできなかった。
中にはその一連の行動を疎ましく思う受験生も居たりして、そういう時はまるで自分に非があるかのような、
申し訳ない気持ちになったりもした。
頃合の時間となり、室内も八割がた埋め尽くされた時、なつみの目の前から見知った人物が気だるそうに歩いてきた。
そしてちょうどなつみの直ぐ隣まで来ると、机の右上に貼り付けてある受験番号と
自ら手にする受験票の番号とを照合し、そこへ荷物をやや乱暴に置いた。
椅子を倒して腰掛けてたのを見計らって、ようやくなつみは声を掛けた。
「おっは〜」
「ん? ……ちっ、最悪……」
ちょうどなつみと通路を挟んで、線対称の座席になった圭。
全国規模の模試で本校だけでも軽く二、三千はいるであろう受講生の中、これほどの巡り合わせは奇跡に近い。
しかし、更なる奇跡が数秒後に起こった。
- 72 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:08
-
「みっちゃん?」
「あ?」
なつみが指摘する方へ目を向けると、本日の模試の試験官の中に、スーツに身を包んだみちよがいた。
圭にとってはこれで二度目だが、なつみにはこれがお初だ。
毎度同じような諸説明が終わり、問題用紙および解答用紙を配布するみちよが二人に気付き、目を丸くさせた。
が、あくまで他の受験生に悟られないよう冷静に対処しつつも、やはり気になる例の二人。
近づいてくるみちよの何か言いたそうな目を察し、アイコンタクトを図る圭、なつみ。
(御苦労さん)
(なんで、あんた等が一緒に居るん?)
(知るか、そんなの)
(相変わらず仲がよろしいこって……クスッ)
(好きでこうなったわけじゃないってば!!)
(何でみっちゃんがこんなとこにいんの?)
(バイトや、バイト。ウチ、今月ピンチやねん)
(ふぅ〜ん。それにしても、似合ってないね、スーツ姿)
(やかましいわ。アンタの方が似合わへんわ)
お互いよく見知ったもの同士が、妙な巡り合わせで、4時間弱を共有することになった。
- 73 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:09
-
「始めてください」
試験官の開始の合図に、一斉に問題用紙の捲れる音が響く。
読解を要する語学系とは違い、モノの数分で用紙の捲れる音が疎らに聞こえ出す。
こういう些細な音でさえ、試験には多少影響を及ぼすこともある。
自分だけ時間が掛かり過ぎなのではないか、と。
日本史が可も無く不可も無い程度のなつみは、まさにその心境下にいた。
(なんか、時間掛かり過ぎてる気がする……そんなに難しくないのに)
そんな焦りが更に悪循環を及ぼした。
戦国武将である武田信玄の「玄」を「亥」とうっかり誤字、それに気付かず先へと進んでいってしまう。
やってはならないケアレスミスで、なつみは順位を大幅に下げる結果となる。
一方、あらかた知識の固まっている圭は、淡々と答えを記入していく。
まるで、雑用を任されたOLのように、表情はどこかつまらなそうだ。
もっとも、試験とは元来面白いものでもないのだが。
そんな二人の様子を遠目から覗いていたのはみちよ。
こちらは圭とは違い、二回目の試験監督ということも手伝ってか、暇を持て余しつつも楽しそうに人間ウォッチングしていた。
(……何やなんや、なっちはやけに焦っとんなぁ。あ〜、あ〜、そないに頭掻き毟ってからに。
試験中、焦りは禁物やでぇ。それに比べ、圭ちゃんはなんと言うか……余裕綽綽やな。
頬杖ついて、つまらなさそうにしとるし……。まあ、こんくらいのレベルやったら、簡単過ぎてしゃあないか)
そう思いつつ、問題用紙の一枚目を捲ってみた。
大問一は奈良・平安時代の土地制度からの出題だが、みちよは何故か直ぐに問題を閉じてしまった。
半年ほど前まで、参考書に手垢が付くほどこき使ってまで覚えた日本史の知識が、綺麗さっぱり抜け落ちていた。
(……アカン、全然わからんかった……ウチ、ホンマにちゃんと受かったんやろか?)
何故か自信がなくなるみちよだった。
- 74 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:10
-
試験開始から三十分経過。
大問三、江戸時代の外交政策に関する出題に手古摺るなつみを余所に、圭は例の如く退出していく。
答案を受け取るみちよにも「どうだ」顔で、教室を後にしていった。
言うまでもなく解答欄には全ての答えが達筆で、綺麗に埋め尽くされている。
ふと、記述のとある答えにみちよの頭の中に?マークが浮かんだ。
(近衛文麿? そんな奴出てくる問題あったっけか?)
みちよは再度問題用紙を捲り、問題を確認する。
【問題文】 〜そして林銑十郎内閣後に発足した( a )内閣は、戦局拡大の方針を採り、
ドイツを通じた和平工作に失敗後、( b )を発表。これにより、日中両国間で前面戦争が始まり〜
【問1】( a )に該当する首相の名を書け。
(……圭ちゃん、間違ってんでぇ。近衛内閣はもうちょい後やんか。確か東条内閣の前ぐらいやろ?
あ〜あ、二点損しとる。可哀想に……)
惜しむように問題を閉じるみちよだが、実際に間違っていたのはみちよの方だった。
みちよが言うことは正しいのだが、それは第二次、及び第三次近衛内閣のことである。
今でこそ期間を置いて再任する首相は見られないが、近現代期はやたら再任する首相が多かった。
ちなみに、先の問の答えは第一次近衛文麿内閣が正解である。
受験生ならば、みちよは完全に二点損していた。
- 75 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:10
-
一限目終了のチャイムが鳴る。
なつみはシャーペンを置くも渋い顔のまま。
どうやら時間内には解き終えたものの、いささか不安が残る出来らしかった。
(次の国語で挽回しとくべ。それにしても……)
束の間の休息の間に、途中退出した受験生が室内へと戻ってくる。
未だ気だるそうに自席へと戻る圭に、なつみは何故か恨めしそうな視線を向けていた。
(なんで、あんなに早く退出できんの? そんなに簡単だったわけ? もお、信じらんない)
なつみの恨めしげな視線を背に感じた圭は、チラッとなつみのほうを見た。
そして、小馬鹿にしたように口元を上げ、一蹴する。
相手を挑発するには充分過ぎるほどの余裕を見せつけた。
(ムッカつくぅ〜。絶対に、絶っ対負けるもんかっ!!)
- 76 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:11
-
二時間目、国語。
夏季講習で臨時に取った「W大古文」の復習が功を奏したのか、かなり力がついているのがわかった。
難易度の高い助動詞の判別も、敬語法も難無くこなし、ものの十五分で古文完答。
なるべく現代文に時間をかけたいなつみは、漢文へ着手する。
(漢文も二十分ぐらいで解ければ、良いペースで現代文に取り掛かれるべさ)
夏までの模試では、あまり考えなかった時間配分にも気を遣わなければならないこの時期。
なつみも人並み程度の受験生へと進化していた。
試験開始から、一時間経過。
配分を考えていたなつみは、予定よりややオーバーで現代文の二題目へ取り掛かる。
今までフィーリングで解いてそこそこの点を稼いできたなつみだったが、
ここへきて正確な読解法を身につけたお陰で、更になつみの国語力がUP。
問題を解くのが楽しいと感じるようになっていた。
(へっへっへ〜。なっちにかかれば現代文も古文も怖いものなしだべさ)
内心笑いたい衝動を堪えつつ、解答欄の埋め付くし作業に集中する。
プロ野球の某ホームランバッターの言う「ボールが止まって見える」が、なつみにはものすごくよく分かる気がした。
ふと隣りを見ると、居る筈の圭がいつの間にか消えていた。
(ええっ!! なんでぇ!? 国語が得意のなっちでさえ、まだ現代文が残ってるのに)
なつみはてっきり自分の方ができるのだと勝手に決め込んでいた。
だが、お互い受験勉強に取り組んできた期間は一緒だが、積み重ねてきた経験と量が違ったのだ。
去年、高校生だったせいで受験以外の勉強もしなくてはならない立場にあったなつみと、
かたや一年間受験に関する勉強しかしてこなかった圭とでは、どこをどう弄っても差が出てしまうものである。
更に言えば去年、同じ立場にあったみちよでさえもほとんど圭の上をいく事がなかったことを考えると、
今年の圭は、四月からかなりハイレベルな立場で闘っていたのである。
- 77 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:12
-
なつみは無性に悔しくて涙が出そうになった。
ふと幼い頃の記憶――今まで勉強してきた中で、一度だけ涙したこと――が蘇ってきた。
小学校低学年の時、なつみは友達と一緒にかの有名な“公○式”に通っていた。
今はどういうシステムかは判らないが、当時はやればやるだけレベルが上がり、
小学生のうちから高校レベルの数学を解くこともできた。
周りには個々の差はあるものの、変なライバル意識があったのも事実だ。
実際、なつみもかなりやりこなし、小学五年で高校一年の数学を解いていた。
だが、流石にレベルの高さからか全く解けなかった。
周りの子供たちは丸を貰って笑顔を見せているのに、自分だけは丸を貰うどころか、解けもしない。
周りの子供たちは達成感に浸って次々と帰っていくのに、自分だけは机上で悩みもがき苦しむばかり。
そして、遂に教室に自分だけ取り残された瞬間、なつみは大声で泣き出してしまった。
問題が解けない悔しさと、数学を解く楽しさを味わうことができなくなってしまった喪失感でもって。
それ以来、なつみは“公○式”から足が遠ざかり、そして数学から目を背けるようになった。
そんな苦い思い出よりも、もっと辛く悔しい思いを今日することになるなんて。
なつみはシャーペンをキツク握り締める。
(絶対なっちの方が上なのに……国語だけは負けてないと思ったのに……)
この時、なつみの中には圭に対して憧憬と恋慕の感情しかなかったが、新たに宿敵という意識が加わった。
とにかく自分の得意分野で一泡拭かせてやりたい、そうすれば自分を見る目も変わるであろうと考えたのだ。
結局なつみは、時間一杯使って全問を解き終えたが、もうテストのことなどどうでもよくなっていた。
その後、圭織との昼食時も考えることはただ一つ。
“圭を学力(国語)で見返し、そして自分を認めてもらう”
それしか頭になかった。
- 78 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:13
-
そんな直情径行のなつみだが、目の前の現実はそう簡単になつみを甘やかしてはくれなかった。
午後からの始まった英語、数学と試験が進むにつれ、徐々になつみに気分をブルーにしていく。
(はぁ〜ん、もぉヤダァ〜っ)
一方の圭も英語までは余裕綽々だったが、数学になると急激に苦戦を強いられ、
最後の地学の試験にはなつみ同様、ブルーなままで試験を終えた。
(今回は……手強かった……やばい、どうしよう)
そしてお互い意識し合った様子も無く、同じ事を考え溜息混じりにこう思った。
(鬱だ……帰ろう)
そんな二人の様子を傍観していたみちよは、最後の理科の試験中、二人にメールを送っていた。
『この後、夕飯食べてかへん?』と。
二人の様子を見て察したみちよが気遣ったのである。
二人は、それぞれ気乗りしなかったものの、せっかくの好意は受けておこうと承諾の返事を送った。
しかしこの時、なつみも圭もみちよとの食事だと思っていた。
- 79 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:14
-
昼食時間に送られてきたみちよからのお誘いの為、ゾロゾロと移動する波を掻い潜り、圭は自習室へと向かう。
すれ違う受験生たちの表情は似たり寄ったりで、今回のテストはレベルが高かったのかと、推測できなくもない。
自分と同じような輩に連れられて室内へ入ると、テストだったせいか、いつものような暑苦しさは全く感じられず、
閑古鳥が鳴くほどに空いていた。
適当な場所に陣取り、さっそく模試の自己採点に入る。
とはいっても圭自身、何点取れたかなどには全く興味がない。
興味があるのは語学系の記述問題の解説だけ。
模試における記述採点は、採点者によっていくらか誤差が生じやすい。
採点のポイントなるものはあるものの、採点者の解答に対する捉え方次第で変わるからだ。
なので、時には厳しく判定されたり、逆に甘い時もある。
現代文の記述によくある「〜はどういうことか、詳しく(簡潔に)説明せよ」、
もしくは「〜はどういうことか、○字以内で述べよ」などの問いでは、答案を作成する上で注意しなくてはならない。
どの部分を残し、どこを削るかで大きく変わるからだ。
(……あ〜、やっぱりここをしっかり押さえてないと、減点かぁ。迷ったんだよな、ここ……アラ?
こっちは逆に余計なこと書き過ぎちゃったよ)
一人、頭を掻きながら問題用紙と解説を見比べ、渋い表情を浮かべる圭。
周囲には人が居ないせいもあってか、瞳が拡大縮小を繰り返し、時折ため息なども漏れる始末。
問題用紙が鏡ならば、さぞかし面白い光景が映っただろう。
(……まだまだ甘いや。少し現代文、強化しとくか?)
多分みちよがその場に居合わせたのなら、驚愕していたかもしれない。
そして必ずこう言っただろう――アンタ、どこを強化すんねん――と。
その位、今の圭はレベルが高いのである。
- 80 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:14
-
息を抜いて顔を上げると、横から感じる物凄い自分を見つめる視線。
何時の間にか先ほどと同じように厄介な顔が圭を見ていた。
というよりも、圭の顔と問題用紙及び解説をこっそりと覗いていた。
勿論、自分も同じように机の上に問題用紙を広げながら。
最後の最後まで厄介者に付き纏われた圭は鬱陶しそうに睨む。
「(小声で)何見てんのよ?」
「(小声で)今回、ミスが多いですね」
「アンタに言われたくないわよ」
「なっち、国語完璧でしたもん(時間ギリギリだったけど)」
先ほどの仕返しでもしたいのか、なつみが鼻で笑った。
あの時は悔しい思いをして泣きそうになったが、終わってから自己採点をしてみると意外と出来は良好。
それに比べ、圭の方は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
これはチャンスと思ったなつみは、感情を逆撫でするように煽ってはみたものの……、
圭はそれについて別段憤慨するでもなく、かといって落ち込む訳でもなかった。
詰まる所、他人には興味無しの性格なので、何とも感じなかったのである。
「あっそ」
(ムカッ!)
逆に煽ったなつみ本人が腹を立てていた。
最近やたらとムカッ腹が立つことが多くなったなつみ。
カルシウム不足が原因か?
- 81 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:15
-
すっかり日も暮れ、閑散とした校舎を出ると、駅前はまだ華やいでいた。
娯楽施設がなくとも、人手は隣り街からの延長でか、かなり多い。
そんな雑踏に紛れて圭が待ち合わせ場所へ赴くと、そこには何故か因縁のある凸凹コンビが居た。
あまり待ち合わせ場所としては用いられない場所のためか、凸凹コンビが居るだけで違和感を覚える。
改めてみちよのセンスの無さを痛感した圭だった。
「あ、保田さんじゃないですか」
「……」
「感じ悪ぅ〜。せっかくなっちが話しかけてんのに」
「……何の用よ? アタシは人と待ち合わせなんだから、気安く話しかけてくんな」
「ムゥ〜ッ、なっちたちだって人と待ち合わせだもん」
(そうなの? カオリ知らなかった……アレ、なんか仲間外れ?)
「だったら少し離れなよ」
「なっちたちもここが目印なのっ」
仕方なく少しなつみたちから距離を取ることになった圭。
が、距離を置こうとすると何故か寄って来るなつみ。
言ってる事とやってる事が矛盾しているなつみに文句の一つも言いたくなるのが人間だ。
とりあえずキツイ視線を相方である圭織に向けた。
が、圭織には全くもって通じなかったらしく、首を傾げて不思議そうな顔をしているだけ。
その間にも距離を詰めてくるなつみに仕方なく注意を促す。
- 82 名前:菊 X 投稿日:2004/10/23(土) 03:15
-
「アンタさ、言動が矛盾してんじゃないのよ」
「そんなことないもん!」
「大体アンタはあのノッポがいる所に居ただろうがっ! いい加減に……」
「お〜い」
そこへ約束を交わしたご本人登場。
なつみが朝に思った通り、どことなくスーツに着せられてる感がしなくもない。
まあ、後数年も経てばそれなりに見栄えは良くなるとは思うのだが……。
「よっ、お三人さん。待たせてすまんねぇ」
「は?」
「みっちゃん、遅いっしょ」
「アレぇ〜、みっちゃんじゃん、何でそんなスーツなんか着てんの?」
「そっか、圭織は知らんかったな。ウチ、今日試験監督やってん」
「へぇ〜、みっちゃんでもできるんだぁ」
「まあな。んで、もうちょっい早く終わるはずやったんやけど、色々あって遅なってもうた」
「……なんでこの娘らが一緒なわけ?」
「え、あ……ま、まあ、ええやん。別に知らん間柄でもないやんか」
(コクコク)
「圭織お腹空いたよ〜」
「……図ったな」
「(ドキッ)…さってぇ……ウチもお腹空いたなぁ〜、はよ行こか?」
「オイ、コラ、平家!」
圭がみちよに掴みかかろうとしたが、その手はおろか両サイドを凸凹コンビに固められてしまう。
西高東低、冬型の気圧配置ならぬその配置(みちよから見て西側に圭織、真ん中には圭、そして東側になつみ)にみちよは苦笑。
そんなみちよに蹴りを入れつつ尚ももがく圭。
「はいはい。保田さん、行きますよ〜」
「カオリ、春巻き食べた〜い」
「ちょ、アンタらまで……オイ、コラ、離せ。アタシ帰る、ちょ、オイ」
「文句言わんと行くで、ホレホレ」
三人に捕獲され、必死にもがき足掻こうとするも、ズルズルと街中へと連行されていった。
- 83 名前:おまけ 〜ある日のみちゃ〜んの日記帳〜 投稿日:2004/10/23(土) 03:17
-
なんでウチがこの娘等の分まで払わなアカンの?
圭ちゃんは圭ちゃんで、店に入ってからものの五分で逃走しやがって、
それを知ったなっちが怒って悪酔い、一人勝手にテンション高ぶってたカオリもベロベロやし。
お陰でウチの財布スッカラカンや。
後で聞いたら、ウチも自分の部屋の前で泥酔したなっちらと一緒に寝てたらしい。
勿論介抱したのはりんねやけど、また迷惑かけてもうた。
ごめんな、今度圭ちゃんとこの「みっちゃんランチ」おごったるで。
- 84 名前:お返事 投稿日:2004/10/23(土) 03:17
-
>名無し読者さん
圭 「……一体何してんの、あなたは?」
なつみ「だって、だってぇ〜、ナンパなんてやたら滅多にない事だしぃ〜」
圭 「この連載始まってから随分経つけど、すっかりカオリとキャラ変わっちゃってんじゃん」
圭 織「フッフッフ」
なつみ「その不適な笑みがムカツクっしょ。っていうかみっちゃんが幸せなのは許せないべ」
圭 織「あっ、カオリもなっちの意見に賛成〜」
圭 「……アタシもそう思う」
みちよ「なんでよ!? よく言うやろ、“小説は現実よりも奇なり”って」
三人「……みっちゃんてホントにW大生?」
みちよ「え?」
- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 03:18
-
Hide this story.
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/31(日) 19:48
- 保田さん隙見せないなあ
飯田さんさりげなくナイスアシストで好印象
みっちゃんめげるなよ
- 87 名前:Tea Break 投稿日:2004/11/07(日) 18:46
-
『若奥様なっちの愛妻日記』
(●´ー`):若奥さん
( `.∀´):旦那さん
川’ー’):愛娘
(〜^◇^):お隣りの奥さん
川’〜’):お隣りの旦那さん
川o・-・):愛娘
- 88 名前:Tea Break 投稿日:2004/11/07(日) 18:47
-
【料理は愛情?】
圭&な&愛「「「いただきま〜す」」」
圭「(モグモグ)うん、美味しい。これはうまいよ、なっちゃん」
な「そ、そうかい?」
愛「ママ、お料理お上手〜」
圭「いや〜、この歯ごたえ、この微妙な塩加減。いいね」
な「ふ、ふぅ〜ん」
圭「美味しいね」
愛「うん!!」
な(なんかムカツクけど、怒るわけにもいかないしぃ)
――レンジで3分、あっという間に家庭料理――
〜翌日〜
な「なっち特製シチュー、できた。……うん、美味しいっ」
圭&愛「「いただきま〜す」」
な「どうぞ」
圭&愛「「(モグモグ)……」」
な「……」
……。
圭&愛「「ごちそーさま」」
な「……(ムスッ)」
圭「な、何怒ってるの?」
な「……バカっ」
圭&愛「「???」」
〜翌々日〜
圭&愛「い、いただきま〜す」
な「どうぞっ(今日のはどうだっ!)」
圭「(パクッ)おっ、このカレー、美味しいね」
な「えへへ。お昼から手間隙かけて煮込んだからね」
愛「おいし〜」
圭「(ゴクゴクッ)ぷはぁ〜っ、うまいっ!」
な「ムッ!」
圭「あ……(焦)」
愛(パパのおバカ)
- 89 名前:Tea Break 投稿日:2004/11/07(日) 18:48
-
【女体観察】
―三人の横をグラマーな娘(G藤M希)が通り過ぎる―
愛「うわぁ〜、あのお姉さん、きれぇ〜」
な「ホントだ。それにしても、最近胸の大きな子って増えたよね」
圭「そうだねぇ」
な「圭ちゃんも胸の大きな子好きでしょ?」
圭「ん〜、大きさ、形とかは別にして、やっぱり柔かさじゃないかな?」
な「……圭ちゃんのエッチ(プイッ)」
圭(なんで? 正直に答えただけなのに)
愛「???」
―さらに今度は肌の露出度が高い娘(M浦A弥)が通り過ぎる―
愛「わっ、すご〜い。おへそ出してる〜」
圭「おお〜、かなりすごいね」
な「圭ちゃんは好き? あーいう格好」
圭「私は別に……」
愛「でも、あれだとお腹ピーってなっちゃうよぉ?」
な「だよね〜。女の人はおなか大事にしないとね。
なっちもさ、なるべく身体のライン見えないようにしてるし……」
愛「ママのお腹、ちょっとプニプニしてるもんね〜」
な「うっ……」
圭「……なっちゃん、太っちゃったんだね?」
な(シクシク)
- 90 名前:Tea Break 投稿日:2004/11/07(日) 18:48
-
【頼れる人】
〜会社で〜
圭「身の回りの事は真里さんに任せっきり?」
織「いやぁ〜、もうね、真里がいないと生きていけないんだよね。ハズカしながら(照)」
裕(古いタイプの人間やね)
織「そういう圭ちゃんはどうなの?」
圭「ん〜、とにかくなっちゃんがいないと生きていけないかな」
織「自分でなにもかもできても?」
圭「うん」
裕(最近の若い奴は……)
〜同時刻、飯田宅で〜
真「ウチの人ったら私がいないとすぐに『お〜い、どこ〜?』って部屋中捜しまわるの。
まるで子供みたいで困っちゃう。ねぇ〜、あさ美」
あ「うん。おっきな子供〜」
な「でもそれって真里っぺがいないとダメってことじゃん。愛されてる証拠だよ」
真「へへ〜、そうなんだよね。だから嫌いじゃないんだ」
愛「あさ美ちゃんのママ、顔が赤くなってる〜」
な「のろけちゃってぇ〜、コノコノォ〜。なっちもやってみよっかな」
- 91 名前:Tea Break 投稿日:2004/11/07(日) 18:48
-
〜その夜〜
圭「ただいま〜」
な(うふふ。どんな反応するのかね?)
愛(泣いちゃうんじゃないかなぁ?)
な(圭ちゃん、涙もろいもんね)
圭「いないの〜?」
な(困ってる、困ってる)
愛(ウフフ)
圭「いないのか……だったら夕食作っちゃえ(トントン)」
な(シクシク)
愛(ママが泣いちゃったよぉ)
圭「これでも独身時代はこうやって……(ザクッ)」
な&愛((あっ!))
圭「うぎゃっ!イテテ……(シクシク)」
な(見てらんないよぉ〜)
圭「でも舐めとけば治る……うげっ、にがっ!」
な(やっぱり圭ちゃんもなっちがいないとダメだね)
愛(パパもあさ美ちゃんのパパとおんなじ子供だねっ)
〜同時刻、飯田宅〜
織「ただいまぁ〜」
あ「パパ、おかえりなさぁ〜い」
織「ただいま、あさ美。言い子にしてた?」
あ「うんっ!!」
真「あっ、おかえり〜」
織「……やっぱりホッとする」
真「? そお?」
織「……」
真「???」
織「真里ぃ〜!(ギュッ)」
真「ちょ、あっ……んもぉ〜」
あ(ママ、可愛いっ)
- 92 名前:Tea Break 投稿日:2004/11/07(日) 18:49
-
【自己中】
ピピピピピッ……
圭「ん〜っ、さて、今日も一日頑張るかぁ〜」
な「(ムンズッ)」
圭「ん? な、なに?」
な「……ダルぅ〜い。だからぁ、元気分けてぇ〜」
圭「ちょ、コラっ、体力吸い取るなぁ〜」
な「気にしない、気にしない」
愛「ああ、ずる〜い。愛も〜(ギュッ)」
圭「ぐはっ!! お、重いし暑苦しい……」
な「へへぇ〜、今日はみんなでダレてよう」
圭「……ぐへっ……会社…に遅……れる」
―ようやく開放されて慌てふためく頃―
な「圭ちゃん、今日のお昼にさ、○×ホテルのバイキング行かないかい?」
愛「わ〜い、お出かけ、お出かけぇ〜」
圭「……今日は平日なんだけど?」
な「平日だと割引してくれるんだよ」
圭「いや、だから私は会社が……」
愛「嬉しいな〜、楽しいな〜」
な「忌引き使う? 圭ちゃんのお父さんが亡くなったことにして」
圭「勝手に人の親殺さないでよ」
な「じゃあ、有給使おう」
圭「だからっ、仕事があるんだってば」
な「うぅ……なっちとご飯するの嫌?」
愛「あ〜、パパがママ泣かしたぁ〜」
圭「……人の話聞いてよ(泣きたいのはこっちだってば)」
―仕方なく付き合っていざ、会計へ―
な「あっ!!」
圭「何?」
な「お財布……忘れてきちゃった」
圭(ホントに泣きたくなった……)
- 93 名前:Tea Break 投稿日:2004/11/07(日) 18:49
-
【頑張れ、お父さん!】
な「ただいま〜」
愛「お帰り〜(トテテテテ)」
な「すっかり遅くなっちゃった、ゴメンネ」
愛「ママ冷た〜い(キュッ)」
な「愛ちんは温かいねぇ」
圭「おかえり」
な「あ、圭ちゃん、帰ってたんだ(スタスタ)」
圭(……それだけかい)
な「ん? なんだい?」
圭「……イヤ、何でもない」
愛(パパ、可哀想……)
―料理中―
愛「……(パクッ)」
な「ああっ! コラ、つまみ食いしたらダメッしょ」
愛「えへへ〜(トテテテテ)」
圭「……(パクッ)」
な「なにしてるべっ!(ヒュン)」
―揚げたての一口カツが菜箸からすっぽ抜ける―
圭「(ピトッ)アチチッ!!」
な「圭ちゃんは晩御飯抜き」
圭「そんなぁ……」
愛(パパ……)
- 94 名前:お返事 投稿日:2004/11/07(日) 18:50
-
>名無し飼育さん
なつみ「なんで主役のなっちだけ褒められないのかな!?」
圭 「褒められるような事何一つやってないじゃん」
なつみ「圭ちゃんは全然隙見せないし、カオリはなんだか好印象だし、
みっちゃんは……まあいいとして、あ〜、もおっ!!」
圭 「ホラホラ、イライラの原因はカルシウム不足なんだから、牛乳でも飲んで」
なつみ(ゴクゴクゴク……)
圭 「どお? 少しは落ち着いた?」
なつみ「……お腹……痛い(ピィー、ゴロゴロゴロ)」
圭 「……ダメだ、こりゃあ」
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 18:51
-
Hide this short story.
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 18:51
-
Hide this short story again.
- 97 名前:本庄 投稿日:2004/11/07(日) 21:16
- お久しぶりです!最近めっきりご無沙汰になってます…。
社会人がこんなに大変とは思いもしませんですた・・・。
なっちや圭ちゃんは合格したらおもいっきし学生生活をエンジョイしてくらはい・・・。
本当学生のころにもどりたいわ・・・(T▽T)
てかすみません!超私事でした!
それにしても圭ちゃん相変わらずの冷た・・・いや、クールさで・・・。
その分『若奥様なっちの愛妻日記』 にニヤケっぱなしれしたわ!!
疲れた心のオアシスのように染み込んでいくような・・・(←意味不明)
中々来れなくなってしまいましたがちゃんとチェックしてますよ♪
これからも楽しみにしていますです。
- 98 名前:momoyama 投稿日:2004/11/14(日) 15:46
- 『若奥様なっちの愛妻日記』かなり楽しく拝見しました〜
久し振りの書きコですが、ちゃんとチェックしています!
これからも期待していますね!!では!
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 18:25
-
落としまふ
- 100 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:36
-
【添い寝】
愛「パパぁ〜。きょういっしょにねよ〜(キュッ)」
圭「そうだね、たまには一緒に寝ようか」
愛「うんっ♪♪」
―五分後―
な「ふぅ〜い、イイお湯だった。アレ? 圭ちゃん?」
ガチャッ
な「あ゛ーっ!!」
圭&愛「「???」」
な「ズル〜い。なっちも入れてよぉ〜(パタパタ)」
圭「ドラマ、見るんじゃなかったっけ?」
な「録画しといたからイイのっ(モゾモゾ)」
圭(録画の仕方知らないくせに、ホント素直じゃないんだから)
愛「ママ、あったかぁ〜い(キュッ)」
な「へへ〜、そうかい? ハァ〜、今日お布団干したから、。
今夜は気持ちよく寝れそうだね」
ガサゴゾ
愛「パパぁ、どこいくの〜? いっしょにねようよぉ」
な「そうだよ。たまには3人で寝ようよ」
圭「寝る前におトイレ行っとかないとね」
ガチャッ、トコトコトコ、ピッ、ピッ、ピッ
圭「……これで良しっと」
ガチャッ、トコトコトコ、モゾモゾ
な「圭ちゃん、アリガトね(チュッ)」
圭「……(カァーッ)」
愛「???」
- 101 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:37
-
【愛情不足?】
な「ふぅ〜ん、なるほどね」
圭「何読んでんの?」
な「え、あ、べ、別に怪しい本じゃないよ」
圭「本はいいの。中身(バッ)」
な「ああっ……(焦)」
『恋愛運をUPさせる100の法則』
圭「……なんで?」
な「い、いやぁ〜(ポリポリ)」
圭「……」
な「で、でも、ここに載ってる占い、すごく当たるって評判なんだよ?」
圭「そーなの? どれどれ……」
――射手座と獅子座の相性:ここ数年最悪です。
圭「……」
――射手座と乙女座の相性:下降気味です。
圭「……」
な「どーしたの?」
愛「アレぇ、パパなんでないてるの〜?」
圭「私って、そんなにダメな奴かな?」
な&愛「「???」」
- 102 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:38
-
【夜長にすること】
ザブゥーン
圭「フゥ〜、最高」
愛「こういうときは『あ〜ごくらく×2』っていうんだってって、あさ美ちゃんがいってたぁ」
圭「じゃあ、あさ美ちゃんのパパはいっつもそう言ってるんだろうね」
な『着替え置いとくよ〜』
圭「ありがと〜。ねえ、たまには一緒にどお?」
な「え〜、いいよぉ」
圭「恥かしがっちゃって。可愛いなぁ」
愛「ママ、かわい〜」
な『そ、そんなんじゃないよぉ〜』
圭「遠慮しなくてもいいのに、ねぇ?」
愛「うん!」
な『……じゃあ、お言葉に甘えて(ボソッ)』
―数分後―
な「入るよ〜(ガラッ)」
圭&愛「「えっ!」」
な「えへへ。久しぶりだね、三人で入るの」
圭「わっわっわ!」
な「もぉ〜、恥かしがらなくてもイイのにぃ」
愛「そうだよぉ〜、パパどうしたの〜?」
圭「いや、ホントに入ってくるって思わなかったから……ビックリしちゃって」
な「もぉ〜、いつもはもっと見てるじゃん、隅々までさぁ」
圭「ブハッ!!(鼻血噴出)」
- 103 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:38
-
―入浴後―
な「止まった?」
圭「なんとか……いやぁ〜、まいったよ」
愛「パパ、どうしてはなぢだしたの〜?」
な「圭ちゃんはね、まだ純情なんだよ」
圭(誰だって、いきなり入ってこられたらああなるって)
愛「じゅんじょーってぇ?」
な「要はカッコイイってことだよ」
愛「ふぅ〜ん」
圭「……ま、窓開けるね(カァーッ)」
な「うん。ふぅ〜、外の冷たい風が気持ちイイ」
圭「空気が綺麗で、空に雲一つないや」
な「だいぶ夜も長くなったし……今日はさ…早く寝ないかい?(チラ、チラッ)」
圭「そうだね。ぐっすり寝れそうだしね」
な(きゃぁー、圭ちゃんのエッチぃ)
バシバシッ
愛「ママぁ、いたいよぉ」
―その夜―
圭「Zzz……もぉ、いらない……」
な「ホントにぐっすり寝ないでよぉ〜(シクシク)」
圭「Zzz……アハハ、なっちゃん……重そうだねぇ…」
な「……バカっ」
- 104 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:39
-
【ペット】
愛「ねえ、パパぁ」
圭「なんだい?」
愛「どうしておうちでペットかえないの?」
圭「それはね、このマンションではペットを飼ってはいけませんていう
きまりがあるからなんだよ。ペット飼いたいのかい?」
愛「ほしいなぁ〜」
圭「何を飼いたいの?」
愛「うんとね、ネコさんがほしい」
圭「ネコかぁ……子ネコならもう家にいるんだけどね」
愛「え? どこどこぉ?」
圭「アソコに。ちょっと大っきいけどね」
―とキッチンでお湯を沸かしているなっちゃんを指差す―
愛「ママがネコぉ?」
な「ん? なんだべ?(トテトテトテ)」
圭「そっ。ママはネコさんなんだよ(ニヤッ)」
愛「どうしてぇ?」
圭「ママはね、パパと知り合ってから、愛が生まれるまでは、
いっつもパパに擦り寄ってきては、ゴロゴロ甘えてててね」
な「!!!(ボッ)」
圭「パパに"子猫ちゃん"って呼んでっフガッ、フガッ!!」
な「な、何言ってるべっ!!(真っ赤っか)」
愛「ママぁ、コネコちゃんてなにぃ?」
な「さ、さあ? な、なんだろね? アハ、アハハハハ(汗)」
圭「だからね、我が家にはもう子ネ、モガ、モガガガガ……」
な「もおっ! それ以上言ったら許さないからねっ!」
愛「???」
- 105 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:39
-
【朝まで生○○】
圭「ん〜、寝れないなぁ。明日5時起きなのに……しかたがない、活字でも見て眠気を誘うか」
な「もぉ、なにエッチな本読んでるの? 愛が寝てる横で」
圭「違うってば。眠れないから小難しい本読んでたただけよ」
な「ホントにぃ? Hなこと考えてて寝れなかったんじゃないの〜?(ニタニタ)」
圭「いや、そんなんじゃ……」
な「正直に言えばいいのにぃ〜エッチしたいんでしょ?(ムギュ)」
圭「したいのは山々なんだけど……ってそうじゃなくって!」
な「そお? ん〜、だったら寝なきゃいいんじゃない?」
圭「え、でもさ、少しは寝とかないと……」
な「一日くらいダイジョウブイッ!(●´ー`)v」
圭「……」
―翌朝―
真「あれぇ、今朝は早いんだね〜」
な「圭ちゃんが寝かせてくれなくってぇ〜♪」
真「うおっ、お元気だねぇ〜♪(キャッキャ)」
圭「コラっ、なっちゃん!! ご、誤解ですって……」
真「相変わらずお熱い仲だねぇ〜(ニタニタ)」
な「なっちいないと圭ちゃん、寂しがるからぁ♪」
圭「ちょ、何言ってんの!(アタフタ)」
真「アラっ、じゃあお風呂なんかも一緒に?」
な「うん。洗いっことかもしてるしぃ〜」
真「まあっ!(キャッキャ)」
な「勿論今夜も。ね、圭ちゃん♪♪」
圭「しません! 今日は風邪気味引だからっ!!」
真「アラ、お身体は大事にしないと」
な「昨夜、湯冷めしてまでしたがるから(ポッ)」
圭「な、な、なっちゃん!!(焦)」
真「まあっ、お若いのねぇ〜♪」
- 106 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:40
-
【旦那と彼氏の差】
な「素敵な彼とクリスマス・デートなんてイイな〜」
圭「(ムカッ)私じゃダメなの?」
な「ん〜、圭ちゃんが相手だと奢ってもらえないっしょ?」
圭「……」
な「羨ましいなぁ〜。あ〜、彼氏、欲しいcなぁ〜」
圭「(なんかすげー不愉快)……私の立場は?」
な「圭ちゃんは夫でしょ」
圭「うん」
な「なっちが欲しいのは、カ・レ・シ」
圭(私が同じこと言ったら、ぶっ飛ばされるんだろうなぁ)
な「あ〜あ、いいなぁ〜」
愛「ねえ、パパぁ。かれしってなぁ〜にぃ〜?」
圭「彼氏っていうのは自分が好きな人のことだよ」
愛「??? よくわかんなぁ〜い」
圭「だろうね。愛にはまだ早いし」
な「彼氏、欲しぃ〜」
圭「じゃあさ、浮気とかもしてみたいの?」
な「それはヤダなぁ」
圭「本当はしたいんでしょ?(イジイジ)」
な「絶対しないよ」
圭「ふ、ふ〜ん(ホッ)」
な「本気の恋ならしてみたいけど(ポッ)」
圭(ケッ!)
愛「ねえ、パパぁ。うわきってなぁに〜?」
圭「ん〜、浮気っていうのはね、ママがパパじゃない男の人と内緒でイチャイチャすることだよ」
愛「パパはうわきしたいの〜?」
圭「ええっ!! それは、その……(チラッ)」
な(ムスッ!)
圭「そ、そんなわけないだろう、何言ってるんだい愛は(焦)」
愛「あいはかれしとぉうわきした〜い」
圭&な「「え゛っ!!!」」
- 107 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:41
-
【ウ・ワ・キ・ゴ・コ・ロ】
な「見つけちゃった」
圭「何を?」
な「ツーショット写真。しかも女の子との」
圭「えっ、えっ(アタフタ)」
な「……(プクゥ〜)」
圭「そ、そんな……こ、心当たりなんて、な、ないよ」
な「焦るトコが怪しい」
圭「ホントだって。なっちゃん以外には……」
な「……(ポトッ)」
〜写真〜
エイッ! ヤッタナァ〜
川*’ー’)σ)`.∀´)
圭「なんだ、愛じゃないか」
な「ホントは心当たりあるんじゃ……」
圭「ないない(汗)」
な「もう一枚あるんだけどな〜(ヒラヒラ)」
圭「ええっ!」
な「女の子に擦り寄っちゃってるし」
圭「う゛ぞ……(ワタワタ)」
〜写真〜
カワイイナァ エヘヘッ
( `.∀´))´ー`*)
圭「これってなっちゃんじゃん!」
な「だって一応女の子にはかわらないでしょ?」
圭「……なっちゃんはまだ"女の子"だったんだ?」
な「えっ……」
圭「ふぅ〜ん、へぇ〜、ほぉ〜(ニタニタ)」
な「……(ポッ)」
愛「ママぁ、かおあかいよ〜?」
な「……(ボッ!)」
- 108 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:42
-
【自己中】
真「旦那のいびきがうるさくて……寝室を別にしようかと思ってるんだ」
あ「そのせいでママはいっつもベッドからおちちゃうもんね〜(ニコニコ)」
真「コ、コラ、あさ美。余計な事言わなくていいの」
あ「ひゃぁ〜(逃)」
な「ふぅ〜ん、大変だね〜」
―その日の夜―
な(圭ちゃんはいびきかかないから、安眠できるんだよね〜)
シーン……
な「……圭ちゃん」
圭「Zzz……」
な「圭ちゃん? ねえ、圭ちゃんてばぁ(ユサユサ)」
圭「……ん……んん……」
な「圭ちゃーん!!」
バチッーン!!
圭「いってぇーっ!! な、なんだナンダァ!?」
な「良かった、生きてて」
圭「当たり前だよっ!!」
な「ホッ……それじゃあ、おやすみぃ〜」
圭「……目ぇ冴えちゃったじゃんかぁーっ!!」
愛「……パパぁ……うるさいよぉ……」
圭「ご、ごめん」
な「Zzz……」
- 109 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:42
-
―翌朝―
な「まだ起きて来ない……寒くなると寝坊が多くて困るんだよなぁ」
トテトテトテ
圭「Zzz……(ヌクヌク)」
愛「Zzz……(ヌクヌク)」
な(……なんかなっちだけ仲間外れ……悔しいっしょ)
コチョコチョコチョ
な「もおっ、くすぐってやれ」
圭「……フ……フフ……フフフフフ」
ピキッ!(足がつった音)
圭「はあうーっ!!」
な「あっ……」
愛「ムニャムニャ……あ、ママ…おはよぉ……」
な「愛ちゃん、おっは〜」
愛「……ママぁ、パパどうしてないてるの?」
な「さ、さあ? なんでだろうね?(焦)」
圭(い、痛い……酷い……)
- 110 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:43
-
【サンタさんは泥棒?】
チュン、チュン、チュン
な「Zzz……ん……んん〜っ、ん?」
―枕元に置いてあった物を見つけて―
な「あ゛ーっ!!」
圭「Zzz……フガっ!! な、なんだ、どうした!?」
愛「Zzz……フニっ?」
な「こ、こ、これぇっ!!」
愛「ん? あーっ!! サンタさんのプレゼントだぁ! わぁ〜い」
圭「よかったね〜(ナデナデ)」
愛「うんっ♪♪」
な「何呑気なこと言ってるべっ!!」
圭&愛「「???」」
な「こんな事するの泥棒が入ったからに決まってるっしょ!!」
圭「は?」
な「今、流行のピッキングにやられたべさ!!」
圭「……」
な「と、とりあえず、何か盗られてないか、手分けして探すべっ!!(ドタバタ)」
圭(……子供の夢、壊すの止めようよ)
愛「わあっ! リカちゃんにんぎょうだぁ」
( ^▽^)<エヘッ、リカデェ〜ス、ハッピィー!?
愛「……でも、くろい」
( T▽T)<シ、シドイ……
圭(ゴメンネ、愛。それしか売ってなくって……)
- 111 名前:Tea Break 〜やすらさん生誕SP〜 投稿日:2004/12/04(土) 02:43
-
【ホワイトクリスマスの夢】
な「かつての聖人のお生まれになった日」
圭「???」
な「今も尚、多くの生命の始まる夜……」
圭「なんの話し?」
な「これだよ」
――クリスマス・イブ ○○ホテルで素敵な聖夜を最愛の人と感じてみませんか――
圭「へぇ〜」
な「愛もお友達のお家にお呼ばれしてるしさ、なっちたちも肖ろーよぉ(ムニュッ)」
圭「んなっ……(ポッ)」
な「それにさ、そろそろ欲しいな(チラッ)」
圭「な、何? あまり高価なものはちょっと……サンタなら期待に応えてくれるかも知れないけど」
な「ホントに? お願いしたらちゃんと叶えてくれるかな?」
圭「してみれば? 私では無理かもしれないけど」
な「でもね、圭ちゃんとじゃないと、ダメなものなんだ(ポッ)」
圭「??? 一体何をお願いすんの?」
な「なっちと圭ちゃんの、愛の結晶二つ目(カァーッ)」
圭(……今夜は、ガンバラなくっちゃ)
- 112 名前:お返事 投稿日:2004/12/04(土) 02:45
-
>本庄さん
なつみ「もう、なっちはね、圭ちゃんのことがわかんなくなってきたよ」
圭 「なんでよ?」
なつみ「クールだったり、かと思ったらものすごくデレっとしたりしてさ」
圭 「人間なんて所詮、本音と建前があるように二つの顔を常に持ってるものよ」
なつみ「……どうして仲良くしてくんないのかな?」
圭 「それは、ちょっとテンパってるなっちゃんについてけないからよ」
なつみ「……本音は?」
圭 「あ〜、もぉ、誰も見てなかったら持ち帰ってあんなコトや、こんなコトして……ハッ!!」
なつみ「……圭ちゃんの、エッチ」
圭 「……」
>momoyamaさん
なつみ「へへ〜、評判イイね。『愛妻日記』」
圭 「ねえ、なんで愛娘が高橋なの?」
なつみ「ん〜、なんとなく?」
圭 「アタシはてっきり……」
なつみ「なっちはイモなっちじゃないべっ!!」
圭 「誰もそんなこと言ってないんだけど?」
なつみ「でも今、心の中でそう思ったっしょ?」
圭 (ギクッ!)
*本編はもうしばらくお待ちくださひ
- 113 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/04(土) 02:45
-
Hide this story.
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/04(土) 02:46
-
Hide this story again.
- 115 名前:ご報告 投稿日:2004/12/19(日) 04:40
-
本編を掲載したいところですが、しばらく本編はお休みいたします。
休載理由としましては、先の安倍さんの件もありますが、
本編ではこれから少しダークな方へと話が進み、その流れの中で
安倍さんも関わっていまして、今のこの時期には不謹慎でかつ、
悪意を助長するかもしれないと判断したからです。
なので、彼女が復帰するまでは代替として、『外伝』を載せたいと思います。
読者の皆様のご理解とご了承願います。
- 116 名前:Prologue 投稿日:2004/12/19(日) 04:43
-
今から数年前の事。
関東一体の走り屋及び、族と言われる輩の間でも有名な四人の女性単車乗りがいた。
人は彼女らをいつしか“音速四皇帝”と呼び、男顔負けのドラテクに歓喜魅了された。
そんな四人の中でも“ブルー・フェニックス”なる異名を持ち、
四皇帝の中でも最速最強とまで言われた一人の女性がいた。
彼女の名を平家みちよと言った。
都内を活動拠点とするチーム“HIGHWAY PRINCESS”の初代特攻隊長として、
近隣の族(チーム)はおろか県外にまでその名を馳せていた超有名人。
これは、そんな彼女がとある少女と出会い、青春した物語である。
- 117 名前:『きみに会えて… 外伝』 投稿日:2004/12/19(日) 04:47
-
『蒼き不死鳥伝説 〜永遠の絆〜』
主演:平家みちよ、????
共演:保田 圭、前田有紀、他
- 118 名前:紅梅 T 〜出会い〜 投稿日:2004/12/19(日) 04:48
-
「あ〜、疲れた〜」
みちよは、チームの頭で数少ない気心知れた親友の前田有紀の紹介で、
その昔この一体で名を馳せていた走り屋、稲葉貴子が経営する『稲葉商会』
――車や単車の板金・塗装・解体屋で働いていた。
数ヶ月前、有紀と共に愛車のメンテナンスを頼もうと立ち寄った際、たまたま聞いたスタッフ募集の話。
元々メカに対する知識はそこら辺のナンパツーリング兄ちゃんよりはあったし、
何よりも色々と手を焼いてくれる有紀の顔を立てる意味もあって、申し出てみた。
先方はみちよの中に流れる関西の雰囲気(?)をいたく気に入ってくれたようで、快く受け入れてくれた。
契約上ではパートに当たるのだが、ほとんど正社員と同様な待遇で、同僚と共に汗を流す毎日を送っていた。
バイトが決まってからはこの場所が自分にとって第二の家のような感じで、
自分の愛車“CBX400 BF Custom”をはじめ、集会時に必要なものは大抵この車庫の裏手に保管してあった。
時間が空くと、部品探しと偽ってよく愛車の点検などもしていた。
何度かサボっている所を貴子に見られ、その都度何かしらのお手伝いをさせられたことも……。
自らの愛車はこの家の裏に放置されていた部品の山から拾い集めて、一から組み立てたものだった。
今でそこ知る人ぞ知るみちよの愛車だが、それが以前は、解体寸前の廃車置き場にあったガラクタだったことを知る者はいない。
- 119 名前:紅梅 T 〜出会い〜 投稿日:2004/12/19(日) 04:49
-
ようやく今日の就業時間が終わり、作業服から私服に着替え、同僚に挨拶をして外へ出た。
いつもならば、貴子から夕食のお誘いがあり(サボりが見つかった日はお手伝いに代わるが)、
大抵は遠慮無くご馳走になるのだが、あいにく今日は夫婦でこれから出かけるようだった。
二十二歳の頃、結婚してここへと嫁いで来た貴子は、見た目とは裏腹になんでも卒なくこなす。
一昔前に真っ赤な特攻服羽織って、木刀片手に振り回していたとは思えないほど、今は気さくな奥様になっている。
貴子の旦那も一昔前に喧嘩等でならした猛者らしいが、今はその風格が見当たらないほど
ややお腹の辺りが出っ張ったオジサマに成り果てていた。
「さて、今晩の夕飯、どないしよ?」
みちよは自炊しない為、夕食のとれる店を探しながら街をぶらついていた。
元々あまり食に拘りがないし、お腹が満たされればなんでもいいや的な考えのため、
専ら利用するのはファミレスか、どこかのしがない定食屋だ。
一度だけ、貴子のお供で値の張るイタリア料理のレストランに連れて行ってもらったことがあるが、
場の雰囲気と己の無知さのため、ナポリタンを注文しただけというみちよらしい(?)逸話がる。
それほどみちよと食は相性が良くない。
そんな中、擦れ違う制服姿に今更ながら複雑な思いがよぎる。
自分も本来ならば高校三年で制服を身に纏い、この街を歩いていたであろう。
将来の事を考え、予備校などにも通っていたかもしれない。
はたまた、まだ見ぬ己の夢を活かすために専門学校へと進んでいたかもしれない。
(……今更、何考えてとんのやろ)
今となっては叶わぬ光景に、みちよはその場を足早に過ぎ去ろうとした。
- 120 名前:紅梅 T 〜出会い〜 投稿日:2004/12/19(日) 04:49
-
ふと、ブックストアーの前を通りかかった時、毎月購読している雑誌の発売日が
一昨日だったことを思い出し、中へと入って行った。
目的の雑誌があるコーナーは二階にあり、とりあえず店内を一周。
特にめぼしい物もなく、階段の壁に貼ってあるアイドルの笑顔に一蹴しながら二階へと上がる。
それほど広くはない二階はコミックコーナーと受験や資格に関する参考書のコーナーが大半を締め、
みちよが購読している雑誌は部屋の隅にひっそりと置かれていた。
一階と同じように店内を一周した時だった。
人気のなかった少女コミックのコーナーで、真新しい制服に身を包んだ女の子が挙動不審になって佇んでいた。
みちよは咄嗟に「万引きか」と思い、そ知らぬ顔で少女を盗み見ていた。
普段なら気にもならない筈が、この時だけは何故か無性にその少女に惹かれた。
(あの様子……真新しい制服からして転校生やな。ここの店の防犯カメラの存在知らんみたいやし)
街の人間なら誰もが知っているであろうこの書店の万引き対策にその少女は気付いていなかった。
みちよもこの書店で何度か万引きの現場を目撃しているが、何度見ても可哀相やな、と思ってしまう。
ここの書店では万引きした者を警察に突き出すという一般的な対処法はしない。
だが、その代わりにお客が数多見ている目前で、万引きという罪をを犯したことを露骨に曝されてしまうのだ。
警察の手を煩わせる事もなく、罪人に罪の意識をはっきり持たせる効果覿面のこの処罰に非難の声もあるらしい……。
(また、あのなんとも言えない現場を目撃すんのは嫌なぁ……しゃあないなぁ……)
そう思ったみちよは、未だ挙動不審な少女に背後から近寄って行き、
少女がまさに手にしていた物を鞄に入れようとした手を掴んで、真横に並んだ。
そして驚く少女に何食わぬ顔をして呟いた。
「止めとき。ここで万引きするとドえらい目に遭うで」
- 121 名前:紅梅 T 〜出会い〜 投稿日:2004/12/19(日) 04:50
-
少女は、その言葉に何かを感じ取り、怯え始めた。
掴まれた手がワナワナと震え出す。
それを見たみちよは仏心が働いてしまったのか、少女が手にしていたコミックを取り上げると、
「普通にしといたらええ。そんで何を言わずに店から出て待っとき」
そう言い残してみちよは自分の雑誌とコミックを持ってレジへと向かった。
少女がなるべく平静を装いながら、レジにいるみちよを見つめていた。
その視線を受けたみちよは何も言わずに顎で「行け」と合図をし、財布から夏目漱石を二枚抜き取った。
財布から消えていくそれを見つめながら、みちよは心の中で嘆いていた。
(あ〜あ、あれ一枚あったら、二日分の飯代が買えんのにぃ〜)
後悔、先に立たず――今最もこの言葉が身に染みるみちよだった。
紙袋を脇に抱えて店を出ると、店の前で鞄を両手に持った少女が申し訳なさそうに立っていた。
みちよは黙って少女の前に立つと、少女が身を竦めた。
「アンタ、ちょっと時間ええか?」
「は……はい……」
みちよのややドスの効いた声が更に少女の緊張を高める。
少女には自分の前を歩くみちよの背中が、何とも言えない威圧感を持っているように思えた。
が、そんな少女の気とは裏腹に、当のみちよはまだ嘆いていた。
(あ〜あ、千円あったら缶ビール三本ぐらい買えんのにぃ……)
- 122 名前:紅梅 T 〜出会い〜 投稿日:2004/12/19(日) 04:50
-
みちよは少女を連れ、自分の家へと招いた。
途中で買った缶コーヒーとレモンティーをテーブルに乗せ、遠慮気味の少女を向かいに座らせた。
黙って俯く少女に、先ほど店で購入したコミックを差し出した。
「あの店で万引きするとドえらい目に遭うってこと知らんちゅことは、アンタ転校生か?」
「は……はい……」
「そっか。制服や鞄が新しいから薄々感じてたけど。アンタいくつなん?」
「十二です」
(万引きとかしたがる年頃やね……気持ちわからんでもないけど)
「あの……」
「なんや?」
「この事……学校や警察に言いますか?」
「アンタの着とる制服、結構有名なとこやろ? バレたらヤバイんやろ?」
少女は黙ってゆっくりと頷いた。
「なら言わへんよ。アンタも万引きしたことバレて、学校で苛められたないやろし」
「……」
「けど、あんであんなことしたん?」
「……なんか自分の中で抑えてたものが爆発しちゃって……」
「なんや、なんか悩みでもあったんか? その歳で悩みを内に溜めたらアカンて。
学校の友達とか親とかに相談したらええやないか」
「友達、いないんです……それに家に帰っても夜遅くまで一人ですから」
「友達いないて……アンタ、虐めにおうてんのか?」
みちよの問いかけに少女は顔を上げて、微笑んだ。
その笑みは自虐的で、みちよを黙らせるには充分過ぎるほど効果的なものだった。
「虐めじゃないですけど、学校ではいつも一人です。私が今通ってる学校、
幼稚園から大学までエスカレーター式の所なんで、余所から来た子に対して
関心が無いって言うか、邪魔者扱いみたいな感じですから」
「……邪魔者扱い、か」
その言葉にみちよの中で葬り去られていた記憶が燻り出す。
- 123 名前:紅梅 T 〜出会い〜 投稿日:2004/12/19(日) 04:51
-
みちよは自分が高校に通っていた頃を思い出した。
受験を経てそれなりに苦学して入ったのは、進学校でもなければスポーツが強い高校でもない、
何処にでもあるごく普通の高校で、生徒たちは揉め事も無く、仲睦まじい学生生活を送っていた。
勿論みちよ本人もその中の一人として、普通に生活していた。
が、ある時を境に、みちよの高校生活は暗転することになる。
学校帰り、一人で何気なく通りかかった繁華街外れの道で、友達が絡まれていたのに出くわした。
同じ学区内にある別の高校の男子生徒らが、ナンパ目的で接触してくるのを知っていた。
友達はみちよに助けを求め、みちよも当然の如く彼らに絡まれる。
……呆気ないほど簡単に片付いた。
友達はみちよの男顔負けの強さに感謝し、みちよもその時は良い事をしたと思っていた。
だが、事実がきちんと伝わることはなかった。
みちよは友達をそいつらから助ける為に仕出かした喧嘩は、何故かみちよが友達と二人で
帰宅途中の彼らを理由なく襲った事になっていた。
捻じ曲げられた事実が原因でみちよはおろか、被害に遭った友達までもが停学処分を受けた。
謹慎期間中、みちよは納得がいかない処分よりも、友達に迷惑をかけたことで頭を悩ます事になる。
そして……処分が解けた後に待っていたのは、自分に対する周りの態度の急激な変化だった。
今まで声を掛けてくれた友達も、まるでみちよの存在などなかったかのように振舞い、
擦れ違う同級生たちからは後ろ指をさされ、陰口を叩き合っては楽しんでいる。
それは学校外でも同様で、みちよを見かけた他校の生徒たちからもバッシングの嵐だった。
友達はそれが原因で誤った道へ進み出し、学校を辞めて、どこかの風俗店で働いていると風の噂に聞いた。
そんな友達を追いかけるように自分も、学校を辞めた。
入学してたった三ヶ月足らずの出来事である。
- 124 名前:紅梅 T 〜出会い〜 投稿日:2004/12/19(日) 04:52
-
みちよはあの時の自分と重なるこの少女の気持が手に取るように分かる気がした。
「あの……」
「え、あ、スマンなぁ。ちょっと考えごとしてもうたわ」
「あの、そろそろ私、帰らないと……」
「あ、そうか。ごめんなぁ、勝手にこんなトコ連れてきてもうて」
みちよは、何の為にここへ連れてきたのかを既に忘れていて、さも自分が強引に連れ込んだ事を侘びていた。
それを聞いた少女がほんの少しだけ笑った。
その笑みがみちよの親切心を煽ったのか、思ってもいなかったことを口走っていた。
「近くまで送ってこか?」
「大丈夫です。ここから割りと近いので」
「そっか。……学校、辛くて大変やろうけど、頑張ってな。そのうち良い事あんで」
「はい。ご心配かけてすいませんでした」
「気にせんでもよろしいがな。でも二度とあんな事したらあかんで?」
「はい……でも」
「ん、なんや?」
「……嬉しかったです。私の事気にかけてもらえて」
そう言って頭を下げた少女は、日の暮れた住宅街へと戻っていった。
東の空に一番星が見え始めた夕暮れ時の、みちよと少女の運命的な出会いだった。
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 04:52
-
Hide this story.
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 04:52
-
Hide this story again.
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 04:53
-
Hide this story further.
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 18:19
- おーみっちゃん主役ですか
かっこいい話になりそうで楽しみです
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 22:58
- カッケーみっちゃん発見!!
o(^∇^)o ワクワク
- 130 名前:ビギナー 投稿日:2004/12/21(火) 20:43
- 本編だと、あんな扱いのみちよさんが、何倍も輝いてみえます。
でも、どこかやっぱりへタレな部分がみっちゃんらしいです。
番外編、楽しく読ませていただきますので、
がんばってくださいね。
- 131 名前:紅梅 T 〜友よ〜 投稿日:2004/12/23(木) 10:32
-
それから数日経って、みちよは相変わらず忙しい日々を送っていた。
街の片隅の工場にしてはやけに評判が良く、何故か顧客が多い『稲葉商会』。
何処から聞きつけてきたのか、最近では一般客が増え、今日だけで二件も依頼があったばかりだ。
勿論、客の大半は貴子夫妻の昔の仲間であったり、みちよの仲間であるが。
(……アカン、こないに忙しいとパンクしそうや。貴子さんには悪いけど、ちょっと……)
みちよはせわしなく作業に没頭する同僚の間を掻い潜り、部品を探すふりをしてその場を脱走した。
朝から単車の修理に精を出していたせいか、身体の節々が固まっているような気がして、
薄雲のかかる空を見上げながら、大きく伸びをする。
身体の隅々まで最大限に伸ばすと、今度は大きな溜息を一つ、中に溜まっていたストレスのようなものを吐き出した。
みちよはお決まりのように愛車が保管してある裏手の小さな小屋に向かう。
愛車や集会時に必要なものを貴子の許可を得て置かせてもらっているこの小屋が、みちよにとって安らぎの場でもあった。
滅多に人が来ないせいもあってか、ほとんど私物化していた事もあり、自分の家のような感覚をもっていた。
なので、いつものように小屋でしばしの休息に入ろうかとしていた……。
が、今日だけは勝手が違っていた。
「自分何してんの? こないなとこ、アンタみたいな娘が居るとこやないで」
「あっ!」
「ん? おっ、アンタはこないだの……」
みちよが小屋の戸を開けると、丁度愛車の真ん前に少女がしゃがみ込んでいた。
あまり綺麗とはいえない小屋の中で一際、少女の着ている洋服がやけに煌びやかに映る。
そしてなによりも少女を見た瞬間、何故かあの時の笑みを思い出してしまった。
純真で穢れを知らず迷い込んだ妖精――仕事上、汚れに慣れてしまっていたみちよには、そんな風に見えた。
- 132 名前:紅梅 U 〜友よ〜 投稿日:2004/12/23(木) 10:32
-
「で、アンタどっから入ってきたん?」
「あの部品の山の向こう側です。街を散歩してたら、野良犬に追っかけられて、
必死で逃げてたら丁度、抜け穴みたいなとこがあったんで」
「抜け穴? そんなモンいつの間に出来たんやろ? 後で修理視とかなあかんな」
「それでなんか色々置いてあって、ふらついてたらこの小屋見つけて、入ったら綺麗なバイクがあって……」
「あちゃ〜、見つかってもうたか。ウチの秘密の場所やのに」
「あ、ゴメンナサイ、勝手に入ったりして……」
小さなお団子頭がペコッと頭を垂れる。
みちよは何故か自分が悪い事をしているような錯覚に陥ってしまった。
(なんでや? なんでこの娘見とるとこないな気になってくんねやろ?
なんかごっつ気になる……うわっ、めっちゃ気になるわ〜)
みちよは徐々に目の前に佇む少女の事を知りたくなった。
何がみちよを虜にしたのか判らないが、みちよの中で自分が今まで親友と呼べる人々
――有紀や圭、貴子等に惹かれ感じたものと同じ何かをその少女にも感じてしまっていた。
そして、それは目の前にいるいたいけな少女も同じようだった。
- 133 名前:紅梅 U 〜友よ〜 投稿日:2004/12/23(木) 10:33
-
みちよとその少女は久方ぶりの再会する友のように、自然と打ち解けていた。
生まれが同じ関西圏(みちよは自分もそう思っている)も手伝ってか、ほとんど同級生で話が進んだ。
そしてどれくらいの時が経ったのだろうか、陽が落ち、辺りは茜色に染まっていた。
みちよとその少女は満足げな表情で小屋を出る。
「今日は楽しかったなぁ。でも、ここの事は他の人に言うたらアカンで?」
「ハイ。内緒にします〜、あっ」
「今度からはちゃんとウチの許可取ってから来てや。抜け駆けはアカンよ? ん?
なんや、どないしたん、急に困った顔してからに」
「ホォ〜、またこないなとこでサボっとったんか、みっちゃん」
「へ? あっ!! あ、貴子……さん」
にこやかだったみちよの顔もまた、バツの悪そうなものへと変わる。
腕を組んで笑みを浮かべて現れたのは、みちよの雇い主であり、この小屋の管理者でもある貴子。
みちよの傍らにいた少女を見つけて、更に不適な笑みを浮かべている。
が、みちよの傍らにいる少女には違った笑顔で挨拶をしていた。
そのギャップの違いにみちよの背中にイヤな汗が流れる。
「みっちゃん、相変わらずモテモテやね〜。こんな可愛いお嬢ちゃん連れて二時間もデートとは、
随分楽しかったんやろ〜な〜。ええなぁ〜」
「いや、あの、これには訳が……」
「やかましいっ!! みっちゃん!! 今日から一週間、就業後にこのガラクタの山の整理やっ!!」
「え゛っ、ええーっ!! ちょ、待ってくださいよぉ〜」
「言い訳無用!! それと抜け穴の修理もちゃんとしておくように、以上!!」
(抜け穴があったの、知ってたんかい)
今でこそ大人になって性格も丸くなった貴子。
だが、これが現役時であったら、恐らく普通に生活できる保証はないな、と素直に感じたみちよ。
それほど立ち去る貴子の背からは見えないオーラが出ていたようだ。
しかし、そんなみちよとは打って変わって少女は悪戯っ子のような笑みをみちよに投げつけた。
「大変ですね〜、大人って」
人懐っこそうな笑顔の少女――加護亜依がそこにいた。
- 134 名前:紅梅 U 〜友よ〜 投稿日:2004/12/23(木) 10:34
-
それからというもの、亜依はみちよの元にちょくちょく顔を出すようになった。
やがて貴子の元へも来るようになり、二人でみちよを話題に笑談している。
相変わらず亜依は学校では一人らしく、かといって酷い虐めなども無く、
普通に過ごしていてみちよもホッと胸を撫で下ろす。
時間が合うと、みちよは亜依を後ろに乗せてドライブに出かけたりもした。
自分は走り屋であると公言しているので、愛車は速く走る為の改造はしたものの、
派手なカウルやマフラーを切ったりなどの、いかにも族車的な改造は施していない。
勿論、シートも亜依を乗せるのでいじったりしていない。
唯一走り以外の改造といえば、タンクを自らが持つ異名の色に塗り直したぐらいだ。
しかし、意外と派手好きな亜依は、みちよの単車を見る度に愚痴っていた。
「みっちゃん、もうちょっと派手にした方がカッコええで?」
「亜依は判ってへんなぁ。あんな派手なもん付けたら、遅なるやんか」
「え〜、けど貴子さんとこに置いてあったやつみたいに、ド派手で目立たな、他の奴にナメられんで?」
「ああ、ウチんとこの親衛隊の奴の単車のことやろ。アレは正直、やり過ぎや思うねんけど、あいつアホやし、
せやからウチが地味〜にしてプラマイ・ゼロにしてんねん」
全く異世界の産物でもあるかのように、興味深々な目で改造車を眺めていた亜依には
みちよの愛車に対する想いが理解しずらく、いささか納得しがたい様子。
無理もない、亜依はあのド派手な単車が走っている姿を目の当たりに見たことがないのだから。
そして自分的にはいけてると思うものがいかに、他人に、いや身近な奴にも一歩引かれているかを知らないのだから。
- 135 名前:紅梅 U 〜友よ〜 投稿日:2004/12/23(木) 10:34
-
「ん〜、でも、みっちゃんあんまスピード出さんけど、なんでなん? 音なんとかテンノーなんやろ?」
「あのな、亜依乗っけて集会時と同じ速度で走っとったら、アンタ風に飛ばされてまうやんか」
「あ〜っ、またそうやってバカにする〜」
「ま、亜依がもうちょっと背おっきくなったらスピード上げたってもええけどな」
「……胸はおっきくないくせに」
「やかましいっ!!」
亜依には自分のことをきちんと話してあった。
自分がレディースに属していることも、自分がつまらぬ理由で高校を退学したバカな人間であることも、
そして、自分に関わる奴には常に危険が付き纏うことも……。
それでも亜依は全てを受け入れた上で、みちよと「友達」になることを選んだ。
あの時、みちよが自分を助けてくれたように、自分もみちよが困ったら
身体を張って助けられるくらいの大親友になるんだ、と言ってくれた。
みちよにはその言葉が素直に嬉しかった。
だからそんな親友の為ならどんな事でもしてやれると思った。
それがたとえ、生死に関わることだと判っても……。
- 136 名前:お返事 投稿日:2004/12/23(木) 10:35
-
>名無し飼育さん
みちよ「ようやくウチの時代が来たでぇ(ニヤニヤ)」
圭 (んなことぁ〜ない)
みちよ「圭ちゃんもなっちもなんぼのもんやっちゅうねん」
圭 「あのアホ……あっ!」
みちよ「これでウチが……うっ!」
なつみ(ジィー)
圭 (なっちゃんのあの目に勝てるかな?)
>名無し飼育さん
みちよ「(フルフル)あかん、あかん、ここはいつものようにカッコ良くいかな」
なつみ(ジィー)
みちよ「……けど、あのなんとも言えん表情がぁ……」
圭 (さあどうする?)
なつみ(ジィー)
みちよ「う……あ……ごめん、もう堪忍して」
圭 (やっぱみっちゃんは永遠のヘタレだわ)
>ビギナーさん
みちよ「やっぱ主役はなんどきでも輝いておらんと」
圭 「みっちゃんが輝いて見えるねぇ……単に脂ぎってるだけなんじゃないの?」
みちよ「なにを、失敬な」
圭 「なに上品ぶった言葉遣いしてんのよ、いつもはもっと卑猥な事ベラベラと……」
みちよ「あ゛ー、あ゛ー」
圭 「……その返し、認めちゃってんじゃん」
みちよ「あっ……」
圭 「結論、みっちゃんは永遠のヘタレ!」
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:36
-
Hide this story.
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:36
-
Hide this story again.
- 139 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:04
-
週末の土曜日、みちよはいつもより早めの就業時間を迎え、家路に就こうかとしていた。
空には雲一つなく、この調子ならば明日も晴天が期待できそうな空模様。
加えて、明日は休みでこれといった予定もない。
久し振りに亜依とでも遊ぼうかと、空を見上げながら考えていた時だった。
目の前の電柱から一体の影が目に映った。
視線を上げると、影が揺らめき、見たことのない二十歳前後の男が立っていた。
身体からトルエンらしき異臭を放ち、虚ろな目をしてなにやらフラついている。
(ラリッとるわ、こいつ。なんでこんなんばっかりにモテんのやろ?)
みちよの前に立ちはだかった薬物常用者は不適な笑みを浮かべながら言った。
「平家……平家みちよ、だな?」
「誰や?」
「おっと、そんなに、凄むなよ。俺はよぉ、伝言を、頼まれた、だけだからよぉ……」
「伝言?」
「……加護、亜依……知ってる、よな?」
その言葉がみちよから余裕を奪った。
- 140 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:05
-
「!! 亜依がどうしたんや?」
「加護亜依を、預かってる。助けたければ、一人で、○○埠頭、第三倉庫まで、来い、だとよ」
「……ワレ、どこの族のモンや? ああっ?」
「ひっ! お、おれは、関係な……」
みちよが歩み寄り、野郎の胸倉を掴む。
しかし野郎は怯えるばかりで知らぬの一点張り。
それが癪に障ったのか、みちよは完全に戦闘モードへと入ってしまっていた。
野郎をそのまま電柱へと投げ飛ばし、頭を押えてのた打ち回るのも顧みず、急いで来た道を戻る。
(亜依が、なんで? なんであの娘が?)
仕事先である『稲葉商会』の裏手に回り、愛車“CBX400 BF Custom”に火を入れる。
まるでみちよの怒りが乗り移ったかのように甲高い咆哮を上げる愛車。
今日も派手に行こうぜ、と愛車が語りかけているかのようだ。
みちよもそれに応えるべく気合十分で愛車に跨る。
「こらーっ、みっちゃん!! 空ぶかしは近所迷惑になる言うたやろ!!」
何事かと駆け寄ってきた貴子夫妻に目もくれず、みちよは○○埠頭に向けて飛び出していった。
それはまさに蒼き不死鳥が公道という大海原へと羽ばたいていったかのようだった。
- 141 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:06
-
みちよを乗せた愛車から奏でられるA・ミュージックに、たまたま街をフラついていた
村田めぐみ、斎藤瞳、大谷雅恵が気付いた。
初代“HIGHWAY PRINCESS”の若き幹部連で、みちよの走りに憧れて入隊した三人だ。
「あれ、この音……平家さんじゃない?」
「ん〜? そうかなぁ?」
「ちょっとぉ〜、めぐみさ、へーけさんの愛機の音ぐらいわかんないわけ?
やばいだろ、それ。仮にも同じチームで走ってんのに」
特隊副長の雅恵がめぐみを批難する。
チーム一の目立ちたがり屋で、これを誇示するかのように真っ赤に染めた髪の毛が風に靡く。
血の気が多く、やや突っ走り気味なのが珠にキズ。
「つうかさ、最近平家さんに憧れてんだかなんだか知らないけどさぁ、バッタもんが多いって言うじゃん。
ご丁寧にタンクまで蒼くして。それに平家さんがこんな時間に流すわけないと思うけど?」
総長補佐のめぐみがのほほんとした口調で言った。
眼鏡を掛けていて、普段は大人しくもやや能天気そうだが、裏の顔はかなりのものである。
奇抜な発想と行動は、頭の有紀が抱える悩みの種だが、いざという時はそれなりに重宝するらしい。
「そう言われてみれば、へーけさんはこんな時間に走らないか……」
「でもさ、さっきの音って、コーナーから立ち上がる時に奏でる平家さん独特のA・ミュージックじゃなかった?」
親衛隊副長でめぐみ、雅恵の恋女房的な役割の瞳が渋る。
チーム内ではよくみちよと行動を共にする事が多い瞳には、どう聞いてもみちよの音にしか聞こえなかった。
「でも、今日は召集かかってないし」
「それに平家さんだって、たまには一人で流したい時もあるんじゃない?」
「……それならいいんだけど」
やや能天気な二人に言い包められ、瞳たちはみちよとは逆の方へと歩き出した。
この後に、有紀からの緊急召集がかかるとも知らずに……。
- 142 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:07
-
そんな事などつゆ知らず、みちよは全開走りをかましていく。
週末だけに道路はかなり混雑していたが、元々渋滞には分が良い単車。
しかも天が味方してくれているのだろうか、信号にぶつかる事もなく車間の狭いスペースを綺麗に抜けていく。
徐々にみちよの周りに風が集まり出していた。
(待っとれよ、亜依。すぐ助けたるからな)
普段の集会時でもここまで速くは走らないみちよ。
いつ事故を引き起こしてもおかしくはない無茶な走りは、時として思わぬ観客を招く。
「うわっ! 何々今の?」
「凄げぇスピード、あっ! 俺の大根!?」
「もしかして音速四皇帝の誰かかな?」
「そうかぁ? だってこんな時間に走ったりしないだろ、って勝手に食うなよ」
「そっか〜、せっかく生で見れたと思ったんだけどな〜」
「せっかく一番ダシの染みたやつ選んだのに!!」
あどけない顔をした後藤真希はヘラヘラ笑いながら、弟と熱々のおでんを頬張っていた。
そんな二人よりも数分前に同じように風に煽られた人(娘)らがいた。
「はぁ〜、おなかすいたぁ〜。きょうのばんごはんなんらろ?」
「アンタ、ホントに食い意地が張ってるわね」
「おねえちゃんらっていっぱいたべるくせに」
「そんなこと言うのはこのお口かな?」
「ヒィダイ、ヒィダイ〜」
「このこの〜、ひやあっ!!」
「ぅひよぉっっ!!」
「ちょっとぉー、なんなのよ、あれ!?」
「しらないよぉ」
「希美、あんたのせいだからね!!」
「イターッ!! ……のん、かんけーないのにぃ」
みちよが巻き起こした風で、スカートが捲くれ上がってしまった希美の姉が希美に八当たりしていた。
- 143 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:08
-
みちよを乗せた愛車がようやく埠頭入口まで到着する頃には陽も落ち、
倉庫街から見え隠れする岸壁の向こうが不気味な赤褐色に染まっていた。
倉庫街は既に廃墟になっているのか、人影はおろか物音一つせず閑散としている。
所々に無造作に積まれた板張りの箱の上には砂埃が堆積し、
敷地内を取り囲む金網もほとんどが錆びれ果てていた。
集会やら闇取引の場所としては打ってつけの敷地内を、みちよの愛車の音だけが軽快に響く。
ここまで来るとみちよの背中には音速の神の姿は無く、破壊の神が宿っていた。
注意深く目を凝らしながら目的の第三倉庫を探す。
敷地内を走ること二、三分、西側の奥にある倉庫の側面に大きな文字で『第三倉庫』と書かれた倉庫を発見した。
愛車を降りて、入口らしき扉に近づくみちよ。外からは中の様子が全く聞こえない。
意を決し、扉の取っ手に手をかけ、ゆっくりと引いた。
首筋辺りにかゆみが走りそうな音に屈することなく、みちよは中に入る。
すると薄暗い倉庫内の奥には一点の紅い灯火が見え、薪の匂いが鼻を擽った。
そして、その奥に進むに連れ、学生服に身を包むスケ番から、レディース特有のさらしに特攻服姿の者、
更にはダラしのない服装をしたアンパン少女まで総勢二十人ほどがみちよに挑戦的な目を向けて待っていた。
「随分遅かったじゃない」
「アンタ、誰や?」
「アタシの事お忘れ? 昔一緒に停学になった仲じゃん」
みちよの前に現れたのは、忘れもしないあの当時友達"だった"女であった。
大人しそうで真面目な彼女の面影は何処にも見当たらない容姿に、みちよは驚きもしない。
今のみちよにとって、目の前にいる友達だった女は既に一人の"敵"でしかない。
「なぁ〜んだ、久し振りの再会に感動もなしぃ〜?」
「ウチを誰やと思ってんのや? 呼び出した代償は高くつくで?」
「そんな口利ける立場にあんの? 音速四皇帝“ブルー・フェニックス”、またの名を“ワンパンのみちよ”こと平家みちよさん」
「ほぉ〜、アンタのような馴れの果てみたいなもんにまでその名が知れ渡っとるなんて、嬉しいことやなぁ」
「フフッ、その余裕、今から剥ぎ取ってあげるよ。オイ、連れてきなっ」
- 144 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:08
-
女が合図を送ると、制服姿のスケ番が裏から誰かを連れてきた。
そして、引きずられるようにして出てきた物体がみちよの前に無造作に放り投げられた。
その瞬間、みちよの目が一気に見開かれる。
「亜、亜依っ!」
みちよが駆け寄り、亜依を抱き上げると、亜依の顔面は無残にも腫れ上がり、右目の辺りには青痣を拵え、
額には何かに切り裂かれた痕から血が流れ、鼻からも同じ液体を滴らせていた。
更に、微かに見えた口の中に目をやると前歯は欠け落ちていてまともに喋ることすらままならなかった。
それだけではない。
身に纏った制服はボロボロにされ、腕や足には幾つのも痣と切り傷を拵え、
すでに意識も虚ろで、身体が冷え切っていた。
「……ワレぇ」
「アッハッハッハ。可哀相にねぇ〜。素直になっとけば、こんな目に遭わずにすんだのに」
「この娘にゃ、関係ないやろーがぁ!」
「最初は脅すつもりだけだったけど、ガキのくせにえらい剣幕で反抗するからさ、教えてやったんだよ。
どんだけ世の中が怖いかってな」
「ぐしゃぐしゃにしたらぁ……」
「ぐしゃぐしゃにされんのはオマエの方だよ、やっちまいなっ!」
そう言うや否や周りにいた女たちが一斉に跳び掛かってきた。
みちよは一番手前のスケ番を得意の右ストレートで沈めるが、その拍子に左肩に鉄パイプが食い込んだ。
だが、それを押し退け、立て続けに蹴りと肘打ちで二人を沈める。
鉄パイプを持った女がそれを振り被った所で相手の懐に入り、鼻面目掛けて頭突きを食らわし、
鉄パイプを奪い取ると、そこからは一気に畳み掛けに入る。
- 145 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:08
-
たとえ相手が女だろうと幼かろうと容赦はしなかった。
みちよの振り被った鉄パイプが女の側頭部に入り、白目を剥いて崩れ落ちる。
傍らで呆気に取られる女の後頭部を鷲掴みにし、そのまま倉庫の壁に叩きつけ、
その隙にと攻撃して来た女の武器を鉄パイプで防ぎ、無防備になった女の膝目掛けて蹴りを入れる。
膝が妙な方向へ折れ、倒れ掛かる瞬間にとどめとして絵に描いたような回し蹴りをお見舞いした。
まさに男顔負け、格闘家並の腕っ節である。
みちよの餌食となったスケ番やレディースたちの甲高い悲鳴に、恐れをなした残党たちが一斉に逃げていく。
そんな連中を捕まえにいくみちよの後頭部に衝撃が走る。
「あんま、調子にのってんじゃねえよっ!」
友達だった女が木刀片手にみちよを攻撃してきたのだ。
一瞬、みちよの動きが止まった。
耳の辺りからゆっくりと鮮血が滴り落ちていく。
女は今の攻撃がダメージを与えたと錯覚し、しばし悦になりながら語り出した。
「なんで族やってるアンタが普通の奴と仲良くやってんだよぉ?
道踏み外した奴が族の世界で天狗になって しかも、自分のことを走り屋だとぉ?
挙句の果てに、こんな訳わかんねーガキなんかと戯れやがって」
「……言いたい事はそんだけか?」
「そういう態度見てっとムカツクんだよっ!!」
女が言い終わると同時に再度木刀を振り被った。
- 146 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:09
-
その刹那、みちよは一気に振り向き、目を見開いたまま女の鼻面目掛けて右拳を入れた。
その威力に女の身体が真後ろに吹っ飛ぶ。
「グハッ……な、なんて馬鹿力して……」
女が態勢と整え直す暇も与えずに、みちよはすぐさま女との間合いを詰める。
女が立ち上がるのを見計らって、みちよは左拳に捻りを加えながら鳩尾に入れる。
急激な圧迫感で前のめりになった女の頭を両手で抑えつけ、顔目掛けて膝を入れる。
「グヘェ……」
鼻が折れたことなどお構いなしにみちよの攻撃は続いた。
女の髪の毛を左手で掴むと、既にぐったりとしたダラしない面に右拳を入れる。
二発、三発と……。
女の歯が飛び、鼻か、もしくは顎の砕ける音が響き、皮膚が擦り切れる。
それでもみちよは攻撃の手を緩めない。
その間、みちよの拳からは砕けた骨が皮膚を突き抜け、そこから溢れ出る真っ赤な血が
女の腫れ上がった顔を染めていった。
- 147 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:10
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 148 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:10
-
時刻は間もなく十八時を回ろうかという頃。
いつものように喫茶店での昼間労働を終え、圭はやや早めに次のバイト先であるクラブへと急いだ。
店の裏手へ回ると、昼番の従業員の何人かが勤務を終えて次々と出てくる。
辺り障りの無い挨拶を交わしながら中へ入り、夜番の従業員らと共に夜の開店準備に取り掛かる。
粗方準備も整い、残っていた昼番の従業員が店を後にしていくのと同様に、ゴミを外へと出しに出た時だった。
一台の単車とその横で腕を組んで宙に視線を泳がせている一人の女性。
真っ白な特攻服の肩に見える斬新なチームロゴと“初代総隊長”の文字。
圭はそれが誰なのかが判ると、鬱陶しそうな顔をした。
「そんな顔しなくてもいいでしょ?」
「……何しに来たの、こんなところまで」
「ちょっと聞きたい事があってね」
「こんな時間から頭がとっ服しょいこむとは……」
「……みっちゃん、どこにいる?」
「みっちゃん?」
「詳しく言うと、みっちゃんが良く行きそうな場所、教えて欲しいんだけど」
圭が女性の方へと顔を向ける。
清閑な顔立ちは街を歩くOLとあまり変わらない。
その女性――前田有紀は真剣な眼差しで圭を見つめていた。
- 149 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:11
-
前田有紀。
みちよと共にチーム“HIGHWAY PRINCESS”を創設した初代総隊長。
RD400を操り、みちよほどではないが、走りに関しては“音速四皇帝”に匹敵するくらいの腕を持つ。
ドラテクに加えて、冷静さと判断力に優れ、物怖じしない落ち着いた雰囲気が周囲にもかなりの影響力を与え、
みちよの走りの魅力もあってか、チームに入隊したがる輩が後を絶たないほどだ。
そんな冷静沈着な彼女が今、圭の前で微かな焦りを見せていた。
「アタシよか、アンタのほうが詳しいんじゃないの?」
「誤魔化さないで。みっちゃんが腹を割って話せる人は数えるほどしかいない。
その中の一人のアンタが知らないわけがない、違う?」
「だからといって、人には知られたくない事だってあんでしょうが」
「……」
場の空気が変わる。
一触即発な雰囲気に相応しく、近くの空き缶が風で転がる。
猫目と言われる圭の眼光も鋭いが、無のオーラが漂う有紀の存在感もかなりのものだ。
二人とも互いに拳やスピードを交えた事はないが、その勝敗は甲乙つけ難いほど壮絶なものとなるだろう。
なにせみちよが心から認めた人間なのだから……。
- 150 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:12
-
一瞬先に、圭が折れた。
「……大体なんで急にそんな事聞きに来るわけ?」
「……みっちゃんが働いてるとこの奥さんから連絡があった。
物凄い形相で、ピーエックス引っ張り出して飛び出てったってね」
「それくらいで何をそんなに……」
「みっちゃんが自分から喧嘩を吹っ掛けたりはしないことぐらい、アンタだって知ってんでしょ?」
「……さあ、ホントのところはどうだか」
「アンタと一戦交えた後、みっちゃんはこう言った。"二度と自分からは仕掛けない"って」
「……」
不意に圭は腹部の辺りに微かな疼きを覚えた。
とはいえ、過ぎ去って行った過去の事に、今更ながら話をぶり返す気も、恨みを持つ気も全くなかった。
圭は有紀から視線を外し、まるで自分には関係のないような素振りで辺りの掃除をし始める。
何度か塵取りにゴミを放り入れた頃、重い口を動かした。
「……アイツの行き先なんて知らないよ、一箇所ぐらいしか」
「いい加減に……」
「慌てんなって。どうせアンタの事だから、もう都内近辺には下っ端のヤツラに捜させてんでしょ?」
「……」
「そういう意味で知らないと言ったまで」
- 151 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:12
-
有紀はつくづく目の前の人間が怖いと思った。
チームの頭を張ってる以上、喧嘩やスピードを怖いと感じた事はないが、
目の前にいる圭は、圭だけは根本的に自分やみちよとは何か違う、と。
「……それで、アンタの言う一ヶ所っていうのは?」
「湘南だよ」
「湘南?」
「ああ。アイツの事だ、どこ行ったって街うろついてるガキどもには有名になってんだろうから、
そいつ等に聞けば教えてくれんじゃないの? アイツといいアンタといい、"HP"の二大看板は顔広そうだからな」
「……仕事の邪魔して悪かったよ」
後半ほとんど顔を合わせることなく、やり取りは静かに幕を閉じた。
有紀が去っていった方を見つめながら、圭は改めて思う。
「何やってんだよ、平家ぇ。迷惑掛けすぎだってーの」
開店時間が迫り、圭は慌しく店へと戻っていった。
それから約一時間後だった。
圭の元へ再び有紀から連絡が入ったのは……。
- 152 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:12
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 153 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:13
-
どれ位そうしていたのだろうか、女の顔がほとんど原型を留めていないくらいになり、
自分の右手もズル剥けになって腫れ上がった頃、ようやくみちよは攻撃の手を止めた。
そして既に気を失っている屍同然の女たちに向かって言い放った。
「貴様等のツラァ、一生忘れんぞ?」
「……ぅ……」
「聞いとんの……かぁっ!」
おもわずのびている奴に蹴りを入れるみちよ。
腹を蹴られた女は血が混じった胃液を綺麗に吐き出した。
ようやく静まり返った倉庫内で、ここへきた目的を思い出したみちよ。
ハッと我に返ったように亜依の元へ駆け寄った。
「亜依、亜依っ! しっかりせえっ! 亜依っ!」
「みぃ……ぁん……」
「待っとれ、今、助けたるからな」
そう言って着ていた上着を亜依にかけ、そっと抱きかかえると、貧血による眩暈に襲われるが、
よたつきながらも踏ん張り通してなんとか倉庫を出た。
海からの突風が身体を痛めつけ、額から流れる血が左目に降り注ぎ、視界が覚束なくなる。
それでも所々痛みが伴う関節にムチを入れ、埠頭の入口辺りに辿り着くと、流石に無茶したせいか、
今までにない強烈な眩暈がみちよを襲った。
咄嗟に錆びた金網に寄り掛かり、転倒を防ぐ。
- 154 名前:紅梅 V 〜暴走〜 投稿日:2004/12/25(土) 03:13
-
寒さや痛みを全く感じていないのか、腫れ上がった顔で亜依の呼吸が早くなっていく。
一刻を争う事態に、中々言う事の聞かない自らの身体に苛立つ。
そんなみちよの気持ちを嘲笑うかのように襲う痛み。
「……つぅ……待っとれよ……もうちょいや……もうちょい……我慢してや……」
それでもみちよは金網伝いに歩道を歩くと、今では珍しい黄色い電話ボックスが目に飛び込んで来た。
渾身の力を振り絞り、なんとかボックスまで辿り着くが、そこで気を許したせいで意識を失いかけた。
その拍子に亜依を抱いたまま転んだ。
身体の節々に刺されたような痛みが走る。
「グハッ!」
思わず呻き声をあげた。
かなりの絶叫にも関わらず、その声さえも既に聞こえていない亜依。
「亜依……ゴメンな……もうちょい……辛抱してや……」
しかし、これ以上みちよに亜依を抱きかかえて起こす気力は残っておらず、
海からの肌寒い風と極度の貧血のせいで段々と意識が薄れていった。
- 155 名前:ご報告 投稿日:2004/12/25(土) 03:16
-
圭 「とりあえず今年度の更新は以上です」
なつみ「来年もよろしくお願いしま〜す」
圭&なつみ「「Merry Christmas & A Happy New Year!!」」
- 156 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/25(土) 03:16
-
Hide this story.
- 157 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/25(土) 03:17
-
Hide this story again.
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/25(土) 13:40
- み・・・みっちゃんカッケーよぉ〜!!
うっうっ・・みっちゃんはヘタレちゃうでぇ〜!w
- 159 名前:本庄 投稿日:2005/01/02(日) 02:24
- 明けましておめでとうございます。
今年もガッツリ憑いていきいます!(マテ
・・・ってみっちゃぁぁぁん!!
つえぇよぉ〜、かっけぇよぉ〜!!
いやぁ、みっちゃんかっこえぇと思ったのは・・・あったっけか??(オイ
でもごめんねみっちゃん。
みっちゃん素敵で終わりたかったけど・・・。
有紀さんと話す圭ちゃん・・・やっぱあんたマジかっこええよぉぉ!!!
今年もヤスヲタ全開のこんな私ですがよろしくです。
- 160 名前:紅梅 W 〜真相〜 投稿日:2005/01/14(金) 01:32
-
ゆっくりと目を開けると、真っ先に白い天井が見えた。
そして何処からともなく聞き覚えのある声が響く。
顔をずらすと、見知った顔がいつもの調子で声を掛けてきた。
「……ようやくお目覚めのようだね」
「……圭ちゃん…かぁ……ウチは、一体……」
「二日間ほど眠ってたんだよ」
みちよを覗き込む圭の顔は何処か安心したようだった。
こんな表情を圭がするのは滅多にないことだったので、少しビックリする。
「そうか……なあ、ウチはどうやってここに?」
「……アンタのチームの頭が見つけたんだよ」
「有紀どんが?」
「……おまけに何を考えてんだか知らないけど、アタシのとこに来て、力貸してくれって言ってきたよ。
みっちゃんを止められんのにアタシの力が必要なんだって言ってさ」
「……ったく……心配性やな……有紀どんは」
「よっぽどアンタが必要なんでしょ? 今のチームにとって」
「……アホ言え」
みちよは軽く笑うと、視線を白い天井に戻した。
だが、真っ白い天井を見つめているとどこからともなく親友の顔が浮かんできた。
その刹那、思い出したように起き上がろうとしたが、全身に急激な痛みが走り、そのままベッドへ倒れる。
「なに起きあがろうとしてんのさ、無理だってば。二・三日は安静にしてろって言われてんだよ?」
「圭ちゃん! 亜依は、亜依はどうしたんや、なあ、亜依は! 亜依は何処やあっ!!」
「落ち着け! あの娘は今まだ、ICUにいる。運ばれてきた時の状態がかなり酷くて、
何人かの看護師が付きっきりで看護にあたってくれてる」
「亜依は……亜依はヤバいんか? なあ、どうなんや?」
「正直、危険な状態にいることは確か」
圭の腕を掴むみちよの手から力が抜けた。
- 161 名前:紅梅 W 〜真相〜 投稿日:2005/01/14(金) 01:34
-
「……ウチのせいや……ウチが亜依と仲良ぉなったばかりに……」
「……昨日、あの娘のお祖母さんがここにきた」
「亜依の……お祖母さん……が?」
「ああ。アタシはあの娘とは関係なかったけど、あの娘のこと詳しく聞かせてもらった。
それで、一通り話し終わった後、アタシに深々と頭下げたよ。
“亜依を命がけで守ってくれてありがとうございました”ってね。アタシが助けたわけじゃないのに」
「なんで……なんでそないなこと……ウチは亜依を危険に晒したんやで? なんでぇ……」
圭は立ち上がって窓辺に向かい、そっとカーテンを開けた。
外は清々しいほど良く晴れ渡っていた。
雲一つない蒼い空を見つめながら、圭は亜依の両親から聞かされた事を一時一句漏らさず丁寧に話し始めた。
「みっちゃん、前に言ってたじゃん、ウチには新しいダチが出来たって。
その娘は学校では一人やから、せめて学校にいない時ぐらいはウチがあの娘の相手してやるんだって」
「なんや、覚えとったんかい。人に関心無いくせに」
「ほっとけ。……実はね……あの娘が言ってた事……半分ウソだったんだ……」
「えっ……」
圭は視線を窓の向こうに見える蒼い空から、窓に映る真っ白い包帯に包まれたみちよに向けてキッパリと言った。
今のみちよにとって酷かもしれないが、圭には亜依の祖母から聞かされた事実をオブラートに包んで伝える事ができなかった。
それは事が事だけに、圭自身も珍しく憤りを感じていたからである。
「あの娘はずっと、虐めに遭ってたらしい」
「う……嘘やろ?」
「あの娘は転校してきてからずっと、虐めの標的にされてた。
あの娘が通う学校はさ、K応みたいに学問の高嶺の花みたいな触れ込みで世間に知れ渡ってるけど、
実体は裏で親たちが大金はたけば、バカでも簡単に入れる糞学校なんだってよ。
だから生徒の中にはホントにクズでどうしようもない連中が結構いて、
そんな奴等がよってたかってコソコソと悪事を働いてるって訳」
みちよの握りしめていた拳に力が入る。
そんな激昂したみちよの表情を窓越しに見ていた圭は目を閉じ、更に話を続けた。
- 162 名前:紅梅 W 〜真相〜 投稿日:2005/01/14(金) 01:35
-
「一時話題になったでしょ、一連の大学生による集団暴行事件」
「ああ……なんやあったな」
「あの事件の犯人たちの一人が、その糞学校の出身らしいよ」
「……」
「そいつを含めた何人かが始めたんだってよ、遊び半分で転校生狩りと称した虐めとやらをね」
「……」
「けど、虐められてんのは亜依みたいな転校生だけじゃなくて、他にも何人かはいるらしい。
見るからにひ弱な奴は、学力が劣ってる奴とかが専らターゲットになってる。
金巻き上げられたり、パシリは勿論、中にはレイプされた娘もいるって言うから、ホントどうしようもないよ」
みちよは初めて亜依に出逢った日に、亜依が言っていた事を思い出していた。
『苛めじゃないですけど、学校ではいつも一人です。
私が通ってる学校、幼稚園から大学までエスカレーター式の所なんで、
余所から来た子に対して関心が無いって言うか、邪魔者扱いみたいな感じですから』
「亜依は専らそいつ等の憂さ晴らし用のオモチャにされてたんじゃないかって、お祖母さんは感じてたってさ。
いつもどこかしら傷跡作って帰って来てたらしいから。でも、なんともなさげに振舞って笑顔見せてたって。
だからお祖母さんもあまり深くは追求しなかったって」
「なんで……そんな風に……振舞うんや……なんで笑顔なんか見せるん?」
「わかんない?」
「わかるわけないやろ? そないなことされてて、なんで明るく振舞えんのや?」
みちよは怒り半分、悔しさ半分の表情をしたまま圭に問い詰めた。
しかし、圭は唯目を閉じたまま、微動だにしない。
- 163 名前:紅梅 W 〜真相〜 投稿日:2005/01/14(金) 01:36
-
「……みっちゃんと知り合ったからだよ」
「ウチと?」
「そう。みっちゃんっていう亜依にとって最高の親友ができた事がとても嬉しかったんだろうよ。
初めての土地で転校初日から酷い虐めに遭ってお先真っ暗の人生に、希望の光が見えたんだから」
「ウチが希望の光……?」
「みっちゃんと知り合ってから、亜依は変わったってさ。傷を拵えて帰ってきても、表情は生き生きしてたって。
虐めが解決して、友達ができたから明るくなったんだろうってお祖母さんは思って、すごく喜んだって」
「……」
「けど、そんな亜依を快く思わなかった連中がいたみたい」
「そいつ等が亜依を?」
圭は無言で頷いた。
視線を再び窓の外に戻し、極めて冷静に語る。
しかし、その手にははっきりと怒りが現れていた。
「いくら虐めても次の日には普通にしてる亜依がそいつ等にしたら物凄く不快だったんだろうよ。
んで、色々調べたら、亜依とみっちゃんが知り合いだって事を知った。
そしたら亜依を虐めてた奴の中に、姉がレディースに入ってるのがいて、
しかもそいつはみっちゃんのチームとは敵対するチームの幹部で、更に言えば昔みっちゃんと因縁がある。
ここまで言えば後は察しがつくでしょ?」
「……くっ……」
みちよはこの時、亜依と出会ってしまったことを後悔した。
あの時、亜依の行為を気にも留めずに素通りしていれば、亜依はこんな瀕死の重傷を負わずに済んだかもしれないと。
しかし、あのまま助けなければ亜依は在学中、毎日虐めに遭って悲痛な思いをしていたに違いない。
どっちが亜依にとってよかったのだろうか。
みちよにとって良かれと思ってやったことは、亜依にとってはた迷惑な行為だったのだろうか。
自問自答を繰り返しても、その答えは闇の中。
- 164 名前:紅梅 W 〜真相〜 投稿日:2005/01/14(金) 01:37
-
自然と溢れ出る涙を拭うこともできずに、嗚咽を噛み殺すみちよ。
今すぐにでも相手をブチのめしに行ってやりたい衝動に駆られるも、身体がいうことを効かず一人発狂しそうになる。
人一倍他人思いのみちよには、自分を慕い懐いてきた小さな友を裏切ってしまった事が遣る瀬無かった。
(スマン、亜依……ウチ、アンタの事、守れんかった……)
窓越しにみちよを見ていた圭は、みちよが今何を思い、考えているかが手に取るように判った。
そして最後に大事なことを言わなくて正解だと思った。
近々みちよのチームがその敵対チームと全面戦争を起こすという事実を。
そして……その結果、チームの連中が警察に引っ張られても、みちよには何のとばっちりもこないようにと、
予めみちよをチームから除隊したという事も。
人一倍情に熱いみちよのことである。
その事実を知れば、みちよが思うことはただ一つ――仲間の復讐、以外には考えられない。
みちよが万が一、事を知ったとすれば、今度こそ間違いなく相手を死へと至らしめるであろう。
そしてそんな悪事をみちよが仕出かし警察沙汰になれば、親友である亜依がまた独りぼっちになってしまう。
思春期を一人で切り抜けてきた圭には、孤独がいかに辛く耐え難いものであるかを痛いほど知っている。
だからこそ、亜依にはみちよが必要であるし、自分の二の舞になって欲しくはなかった。
みちよ同様、圭も下唇を噛み締めやり場のない怒りを必死に堪えていた。
人のためにここまで感情を高ぶらせたことは今までに一度あるかないかだ。
本当ならば、自分が目の前に横たわる奴のために仕返しに行ってやりたいとさえ思ってしまう。
だが、それを制したのは自分と同じくらいみちよから信頼を得ていた有紀であった。
- 165 名前:紅梅 W 〜真相〜 投稿日:2005/01/14(金) 01:38
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 166 名前:紅梅 W 〜真相〜 投稿日:2005/01/14(金) 01:39
-
みちよが目覚める数十分前、圭は突然の呼び出しで、K市内にある総合病院へと赴いていた。
既に夜の部の診察時間も終わり、外来患者の姿も見当たらない。
急患用の入り口から院内へ入り、看護師に事情を説明すると、迅速に対応してくれた。
そして、夜勤の看護師に先導されて連れられた場所へ行くと、数時間前に自分を訪ねて来た有紀がいた。
純白の特攻服が所々赤く染まってはいるものの、有紀本人には全く異常が見られない。
礼を述べて看護師が去っていくのを見送ると、有紀は圭について来いと促す。
各階に設けられている喫煙所兼休憩所につくと、有紀は振り返らずに窓の向こう側を見つめて言った。
「こんな短時間のうちに二度もアンタに会うとはね……」
「……こんな所に呼び出して、一体何の用?」
「あんま時間がないから、手短に言う。しばらく、みっちゃんを頼む」
「……どういう意味?」
「……みっちゃんがヤッた連中はウチらと対立してるチームのヤツら。
当然、ヤツラの残党どもはウチらが喧嘩売ったと思ってるはず。
どういった理由でみっちゃんがヤツラをボコったかは知らないけど」
「……近いうちにかち合う、ってことか」
「そうなるでしょうよ」
「……なぜ、そのことをみっちゃんに隠すわけ?」
「……ウチらのチーム体制が変わったんだよ。走り屋から喧嘩チームへとね。
口では走り屋なんて気取ってても、所詮ウチらは族ってやつだからさ」
「……」
「それと……みっちゃんにはもう既に除隊してんのよ。さっきの幹部会で決まっ……」
その刹那、圭は有紀の特攻服を掴み挙げ、怒りに満ちた表情で有紀を睨んだ。
負けじと有紀も威嚇するかのように圭を睨み返す。
- 167 名前:紅梅 W 〜真相〜 投稿日:2005/01/14(金) 01:40
-
「てめぇ、そんな事して恥かしくねえのかよ? てめぇとアイツで創ったチームだろうが」
「一匹狼で群れる事を知らない奴にチームことをとやかく言う筋合いあんの?」
「しかもてめぇ、アイツとダチなんだろ? そんな簡単にダチ裏切ってもいいのかよ?」
「時には人を裏切ってまで進まなくちゃならない時だってあるだろ!」
「だったらっ!! だったら、てめぇの口からはっきりとアイツに伝えてやれよ! それが筋ってもんだろうが!」
「時間がないんだよ!! みっちゃんが目ぇ覚ますまで待てって言うの?
その間にもヤツラがウチの連中捜してるんだ。呑気に待ってたら、ヤラれるんだっ!」
「……」
一際大きな声がフロアーに響き、看護師の一人が何事かと近づいて来る。
が、看護師も二人の殺気立った雰囲気に萎縮したのか、やや気弱な注意だけ促すとそそくさと去っていった。
二人は互いに掴み挙げていた腕を振り払い、距離を置いた。
すると、急に有紀はその場に土下座し、項垂れるようにして言葉を紡ぐ。
「アタシは今、みっちゃんのダチである前に、チームの頭なんだ。チームの奴等がアタシを待ってんだよ。
アタシが頭である以上、みっちゃんのことばかりには付き合ってらんないんだよ。わかるだろ、アンタにだって」
「……」
「アタシが頭じゃなきゃ、チームに背いてまでみっちゃんの傍に居てやりたいよ。
やりたいけど、できないからアンタに無理ってお願いしたんじゃないか。みっちゃんのダチであるアンタにさ」
「……」
「どんな状況でもみっちゃんを完全に止められんのは、アンタしかいないだ。頼むっ!!」
元々みちよのチーム連中とは犬猿の仲であった圭。
特に幹部連からは異様なまでに煙たがれれる存在で、有紀もその一人である。
そんな有紀が、チームの頭自らが己の恥を曝け出してまで、圭に頭を下げたのだ。
流石にこの突発的な行動には圭も動揺を隠せない。
だが、床に額がつきそうなほど低頭な有紀の態度からは、誠意が感じられた。
それはみちよという一人の人間のために自分ができる唯一の事だと、圭は思った。
- 168 名前:紅梅 W 〜真相〜 投稿日:2005/01/14(金) 01:41
-
「……行きなよ」
「えっ」
「早く行きなよ。待ってんだろ、アンタを慕ってる仲間が」
「……」
「今、聞いたことはアイツには黙っておく。事後報告でもいいから、直接アンタから言いな」
「けど……」
「アイツだってバカじゃないんだ。関係のないアタシから聞くより、本人から聞いたほうが納得いくだろうよ。
たとえ、自分の中で大きな役割を担っていたものを急に失ったとしても」
「……恩にきるよ」
「ただ……」
礼を述べて、戦場へと出向こうと踵を返した有紀の背に、圭は最後に忠告した。
普段よりも冷たく、重みのある声で以って。
「どっかから情報がアイツの耳に入った場合、正直アイツを止められるかはわからない。それだけは言っとく」
「……その時はその時、さ」
決死の覚悟で病院を後にする有紀を、圭はただ黙って見つめていた。
- 169 名前:お返事 投稿日:2005/01/14(金) 01:42
-
みちよ「遅くなりましたが、明けオメ! コトヨロっ!」
圭 「なんでみっちゃんが新年の挨拶してんのよ?」
みちよ「だって、なっちに頼まれたんやもん、しゃあないやろ?」
圭 「……なんか違う」
みちよ「なんでやねん」
>名無し飼育さん
みちよ「ハッハッハ! どや? ウチのホンマの姿はこんなんやったんやで」
圭 「オー、凄いすごい(乾いた拍手)」
みちよ「なんかムカツクなぁ、その人を小バカにしたような態度が」
圭 「だって、本編じゃあホントにバカ丸だしじゃない」
みちよ「いや、あ、あれは、その、なんと言うか……」
圭 (やっぱ、みっちゃんはヘタレなんだよ、ずっとずぅ〜っと)
>本庄さん
圭 「ホラ見なさい。判ってる人には判ってるんだって、みっちゃんの扱いには」
みちよ「ちょお、本庄さん、そりゃないやろ? ウチずぅ〜っと頑張ってたやん」
圭 「まあまあ、抑えて抑えて。そのうちきっと良い事あるって」
みちよ「良い事? ひょっとしてこのまま"やすみち"とか始まったり?」
圭 「……それは無い、って言うか、それはイヤ」
みちよ「なんでぇ???」
圭 「だってアタシ、なっちゃんヲタだから、やすなち以外ノーサンキュー」
みちよ(圭ちゃん……今の発言、ヤバイんとちゃう?)
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/14(金) 01:42
-
Hide this story.
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/14(金) 01:42
-
Hide this story again.
- 172 名前:訂正事項 投稿日:2005/01/14(金) 02:23
-
【166レス目、冒頭】
みちよが目覚める数十分前、 → みちよが病院に収容されてから数時間後、
以後気をつけます。
- 173 名前:紅梅 X 〜喪失〜 投稿日:2005/01/26(水) 00:36
-
みちよと亜依が急患で運ばれてから一週間が経った。
相変わらず亜依は予断を許さない状況にあり、みちよはベッドから動けるようになると毎日のように亜依の様子を見舞った。
傍にいてやりたいが、自らも患者であるが故、唯一できるのは遠目から見守ることだけ。
様々な医療器具をベッドの傍らに置かれ、そこから伸びる何本もの管が小さな亜依の身体と繋がっている。
そんな痛々しい姿を見る度にみちよは目を背け、後悔と自責の念に刈られる。
そこへ、みちよの気持ちを察してか、通りかかる看護師たちが口々に励ましの言葉を掛けてくれる。
そんな日々が今のみちよの日課となっていた。
そしてもう一つ、みちよの日課になりつつある厄介な事が彼女を悩ませていた。
自分がここにいることを何処から嗅ぎつけたのか、警察が引っ切り無しにやって来ては、探りを入れてくるのだ。
どうやら警察側は、近頃多発している族同士の対立抗争にみちよも噛んでいるのではないかと疑っていた。
族を取り締まる交通課の対策部内でも一、二を争うほど超有名人なみちよ。
日頃からみちよのチームには手を焼かされていただけに、今回の件はふって湧いたような出来事だったのだ。
「いい加減に自白したらどうやぁ? おまえもぎょうさん派手にやったんやろ?」
「せやから、ウチは知りませんて。ここんとこウチのチームがどこで何してるか、なんて」
「じゃあ、なんでこんな怪我して入院してんねんな?」
「前々から言うてるように、事故っただけですって」
「おまえは事故らん走りをモットーにしてたんちゃうんか?」
「100%事故らない保証ないでしょ?」
みちよの目の前にいるのは、何度かお世話になったこともある課長さん。
だが、テレビ等の特番で見る、いきり立って怒鳴るお偉いさんとは違い、柔らかい物腰で対処する。
「ガキにはガキなりの思いや理屈があって、それを他へ向ける事ができないだけ」と語る彼は、
若かりし頃、単車で暴れまわった経験の持ち主なので、気持ちは痛いほど分かるのだそうだ。
そんな彼の勤務態度に周りの同僚は、白い目を向けているらしい。
みちよが潔白を証明する事一時間。
結局、この日も警察側は何の情報も得ることなく引き上げていった。
- 174 名前:紅梅 X 〜喪失〜 投稿日:2005/01/26(水) 00:37
-
「ったく、なんでウチばかりが悪者扱いやねん。あ〜、それにしても有紀どん何しとるんやろ?」
そう思った矢先、病室のドアがノックも無しに開いた。
そうして入ってきたのは黒ぶち眼鏡をかけた一昔前の田舎娘のような出で立ちの女性が、
お見舞い品のフルーツ盛り合わせを手にして入ってきた。
眼鏡のふちを軽く押し上げるお決まりの仕草で、部屋から出ていった人を振り返る。
「なんかあったんですか? 平家さん」
「おおっ、めぐちゃんやんか。相変わらず自分、普通やなぁ〜」
「ええ、これが私ですから」
「そして、相変わらずボケることなく真面目に応えるんやね」
「え? あの、私的には一応ボケたつもりなんですけど……」
「あ……そ、そおなん?」
あっという間に和んだ雰囲気を作り出してしまったこの女性、村田めぐみは現在、
とある童話作家の元でアシスタントのバイトをしている現役高校生だ。
持ち前の雰囲気と空想癖を活かし、メルヘンチックな童話を作りたいと切望しているうら若き乙女。
しかし、それはあくまで表向きの顔であって、裏では次期二代目と揶揄されているレディースの幹部という顔を持つ。
一方では子供たちに夢と感動を与え、もう一方では破壊と暴走を好む、そんな矛盾に本人はあまり気にも留めていない。
むしろその二面性に酔いしれているめぐみであった。
「でどうしたんですか? なんかこの部屋から出てった人、落ち込んでましたけど、彼氏ですか?」
「アホか。何であんな腹のよう出たおっちゃんと付き合わな、あかんねん」
「だって、平家さんてオヤジ臭いところあるからついつい……」
「オヤジ臭いって……じ、自分かてオバチャン臭いトコ一杯あるやろ?」
「でも、私オバチャンと付き合った事ないですけど」
「ウチもない。せやからオヤジ臭いのもオバチャン臭いのも、元々のもんやっちゅうことや」
「なるほどっ! さっすが平家さん、伊達に歳食ってませんね!」
「やかましいっ!」
独特の世界観を持つめぐみと話すと、どうも話が横道へ横道へと逸れていく。
普段から一緒にいる瞳や雅恵はこの目の前にいるメルヘンちゃんをどう思っているのだろうか。
みちよはめぐみと話す度にそう思うのであった。
- 175 名前:紅梅 X 〜喪失〜 投稿日:2005/01/26(水) 00:38
-
「で、結局あの人は一体……」
「ああ、あれ警察のモンやねん。ウチがここにいる原因を毎日探りに来てんねん」
「……その様子じゃあ、誤魔化してるって感じですね?」
「まあな。なんぼ来られても、真実を言う気にはならんから」
しばらく静寂が辺りを包む。
みちよは自ら仕出かしたことに対して、チームに迷惑をかけた気まずさから、
めぐみはいま自分たちの身に降り掛かっていることの現状から、お互い何も言えなかった。
「ところで、怪我の具合は、どうなんですか?」
「ん? ああ、たいぶ良ぉなったで。意外と丈夫な身体やったみたい」
「見かけによらずタフガイですよね、平家さんは」
「なんや、ウチが復活すんの嫌そうな言い方やね? まあ、右手はもうしばらくかかりそうやねんけど」
そう言って未だ包帯で巻かれた右手を見つめる。
“ワンパンのみちよ”も流石に人の子であったと云うところか。
前々から右手の拳には負担をかけていたせいもあってか、今回は治りが遅い。
ここまで一度も神経等に傷を負わなかったことが不思議なくらいである。
ゆっくりと右手を動かしているみちよに、めぐみは冷静に言った。
先ほどまでの表の顔が影に隠れ、完全に裏の顔つきになっためぐみがそこに居た。
「今日は話があって来ました」
「ん? なに?」
「……今週の金曜日の夜、平家さんがボコった奴らのチームを潰しにかけます」
みちよの顔に鋭さが甦った。
戦闘モードの顔つきに向かってめぐみは淡々と語る。
が、何処か後ろめたいような感じにも取れる、そんな素振りも見せていた。
「向こうも躍起になってウチらを捜してるんで、こっちから出向いてやろうって」
「……場所は?」
「……それは言えません」
「なんでや?」
めぐみは言い難そうに顔を背け、そのまま立ち上がって病室を出ようとした。
- 176 名前:紅梅 X 〜喪失〜 投稿日:2005/01/26(水) 00:39
-
「待ちぃ! なんでウチには言えんのや?」
「……この件はもう平家さんには関係ない事ですから」
「どういうことや?」
「……」
「……関係ないのなら、なんでウチに話した?」
めぐみは意を決して振り返り、みちよと眼を合わせた。
戦闘体勢に入ったみちよの眼力に、一瞬怯むが、なんとか耐え凌ぐ。
そして事務的な言い方ではっきりと言い放った。
「実は有紀さんから口止めされてましたけど、言わせてもらいます」
「有紀どんが?」
「あの日を以って、平家さんはチーム“Highway Princess”初代特攻隊長から除名、
そして、チーム“Highway Princess”からも除籍されました」
「除籍……なんでや? 有紀どんがそう言うたんか?」
「あの日の緊急幹部会で正式に決まったんです。平家さん、ウチらのチームの掟覚えてますよね?
あの掟を作った平家さん自らがその中の第3項を破った事は、チームの名を汚した事に充分値します」
「……」
みちよは今の今まですっかりその事を忘れていた。
めぐみの言う通り、チーム結成時に掲げた掟は自らが作ったものだ。
そして、それを破った者はいかなる理由があっても、チームと縁を切らなければならないと云うことも。
だが、普段から規則などに人一倍従事していたはずのみちよが真っ先にそれを破ってしまった。
ミイラ取りがミイラになってしまった訳である。
それだけあの時は気が動転していた証拠でもあった。
「それに……」
「まだあるんか?」
「『口ではどんだけ走り屋と言っても、所詮ウチらは族に過ぎない。夢見てただけだった』と有紀さんが……」
「……ウチ1人だけがバカな夢見てたってことか」
「……」
「めぐちゃんも無理して付きおうてくれてたんやな」
「そ、それは……」
「なんも言わんでええ。なぁ〜んも言わんで……」
- 177 名前:紅梅 X 〜喪失〜 投稿日:2005/01/26(水) 00:40
-
みちよは何もかもを失ったように呆然とするしかなかった。
今までチームの為に、仲間の為に身体を張ってきた。
その中でも一番の信頼を寄せていたのは総長であり、親友でもある前田有紀だった。
自分を高く買ってくれて、働き口も紹介してくれ、自らが頭を張るチームにも招いてくれた。
そして何をするにでもみちよに意見を求めてきた大切な恩人である有紀に……裏切られた。
いや、裏切ったのはみちよの方からかもしれない。
しかし、今となってはもう何もかもが遅かった。
「めぐちゃん、ありがとうな。話してくれて」
「平家さんに全て話したのは、今までお世話になった私からの恩返しだと思ってください」
「ウチはなんもしてへん。なぁ〜んもな」
「……」
めぐみは身を斬るような思いで、みちよを見ていた。
自分がチームに入るきっかけを作ってくれたのも、自分が走る意味を熱く語ってくれたのも、
とあるチーム同士の抗争で危うく死にかけたのを救ってくれたのも、みちよだった。
そして……自分の才能をいち早く見出してくれたのも、目の前に項垂れているみちよであった。
そんなみちよと袂を分かつのが、心苦しかった。
めぐみだけではない。
今ここには居ないが、瞳や雅恵も自分と同じ思いだったに違いない。
自分たちは他のメンバーとは違い、特に目をかけてもらっていた事も大きい。
だからこそ、余計にみちよと縁を切るのが辛いのだ。
- 178 名前:紅梅 X 〜喪失〜 投稿日:2005/01/26(水) 00:41
-
「なあ」
「はい」
「ウチが抜けた今、ウチのポストは誰が付いたん?」
「マサオがそのまま昇格しました」
「大谷ちゃんか……あの娘にピッタリの役職やな」
「……」
「……めぐちゃん」
「はい」
「最後に一つ、頼まれてくれんか?」
「私にできることなら……」
「簡単な事や。現総長にチームを抜けた元特攻隊長からの言伝を預かってくれん?」
「……わかりました」
めぐみは泣きそうになるのをグッと堪えて、みちよの言葉を待った。
しばらく時間だけが経過していく。
そして、正気を失ったみちよは項垂れたまま、力無く言った。
「金曜の夜にアンタらが潰しかけるとこ、ウチが先に潰さしてもらう」
「!!!」
「文句あんのやったら、いつものトコ来ぃ。ウチが返り討ちにしたる、そう言うといてや」
「平家さん!? 本気ですか!?」
「ああ。ウチは逃げも隠れもせん。喧嘩でも走りでも、ウチとかち合ったモンは全て潰す。
それがたとえ……めぐちゃんを含め、昔同じチームで走ってたモンであってもや」
そう言い放ったみちよはめぐみを睨みつけた。
既にみちよにとって、めぐみは敵対する者として捉えられていた。
平家みちよが1匹狼へと変貌した瞬間だった。
- 179 名前:紅梅 X 〜喪失〜 投稿日:2005/01/26(水) 00:42
-
午後11時、辺りはひっそりと静まり返る頃、何処かでドアが空く音が響く。
夜勤の看護師による消灯の見回りが何時自分の部屋に来るかは知っていた。
それを無難にやり過ごし、みちよは動き易い装いで廊下へ出る。
辺りを確認しながらゆっくりと看護師たちが待機する場所の反対側へ歩みを進める。
エレベーターや階段は看護師が常時する場所の目の前に設置されているが、
幸いにも非常階段は反対側に設置されていた。
ゆっくりと鍵を開けて外へと出ると、一気に体温差を感じて身を竦める。
凍てつく寒さが、やけに傷口にしみた。
「……さてと、とりあえずは脚を連れ戻さんとな」
みちよは通りに出てタクシーを拾い、稲葉商会へと向かった。
K市の総合病院から都内へ入る頃、何処からともなく爆音を響かせた族車が数台、
みちよを乗せたタクシーを追い越していった。
「ったくアブねえなぁ〜」と運転手が呟く通り、二人乗りの族車は鉄パイプやら木刀やらを掲げ、
背後を走る一般車を威嚇しながら蛇行していた。
その刹那、みちよはしんがりを努めていた奴が背負う特服に刺繍された文字を見て、目に力を漲らせる。
(ヤツラがそうか……上等やんけ)
みちよは後部座席から不適な笑みを浮かべていた。
- 180 名前:紅梅 X 〜喪失〜 投稿日:2005/01/26(水) 00:43
-
稲葉商会の近所でタクシーを降りたみちよは、久々の街並みを懐かしむように歩く。
とは言っても、真夜中で人通りも一切無くなった道路は何処か冷たく感じた。
数分歩くと、薄汚れた『稲葉商会』と書かれた大きな看板が目に飛び込んでくる。
当然の如く、シャッターは降ろされ、住居となる二階以降の窓にも灯りは無い。
裏口からガラクタ置き場へと入る戸を開けながら、ふとみちよは思った。
(アレ? ウチの単車ってここに届いてんのやろか?)
自身が記憶している中で、最後に単車を降りたのは、寂れた埠頭だったと思い出す。
ひょっとするとまだあの場所で主人の帰りを持っているのかもしれないと、不安がよぎる。
が、その心配が杞憂に終わった。
みちよの第二の家である小さな小屋に入ると、愛車はいつもの定位置で静かに眠っていた。
しかもあの時に被った様々な埃カスや泥跳ねは一切無く、綺麗に洗車されてある。
月明かりに光る蒼いタンクに手を添えると、文句を言いながらも整備する貴子の姿が目に浮かんだ。
(スンマセン、貴子さん。色々と迷惑ばっか掛けてもうて。でも、これが最後ですから……)
みちよはそう決意すると、傍らに掛け置いてあった蒼い特攻服に手を伸ばす。
これからこの特服が蒼から紅へと変わるのを懐かしく思いながら、袖を通す。
ふと、窓に映った特服の胸元に張り付けられたチームのロゴとネームをしばし見つめ、静かに目を閉じる。
ゆっくりと目を開けてから、胸元に手を掛け、一気に引き千切った。
そして、「アディオ〜ス」と皮肉った声と共に、役目を終えた布キレが無造作に投げ捨てられた。
捨てた布キレの代わりに、みちよが今度手にしたのは最近余り使わなかった木刀。
所々形が変形した部分や色が変色した部分が数々の歴戦を物語っている。
今宵もまた新たな傷ができ、形を変え、真紅に染まることだろう。
それを愛車に積み、みちよはハンドルに手を掛けた。
小屋から外に出ると雲一つない空と綺麗な月がタンクに映った。
今宵は最高のステージになりそうだ、と抑えきれないほど気分が高まる。
(この高鳴る気持ち、久々やな)
- 181 名前:紅梅 X 〜喪失〜 投稿日:2005/01/26(水) 00:44
-
裏口から愛車と共に表へ出ると、寝巻き姿の上に半纏を羽織った貴子が立っていた。
何も言わずにただ、ジッとみちよだけを見つめている。
しかし、みちよはそんな貴子と目を合わせようとせずに、愛車を大通りへと引いて行く。
「ちょい、待ちぃ」
「……」
「アンタ、その身体で何処行こうとしてんねん」
「……それを聞いて、貴子さんはどないしはるつもりですか?」
「アンタの目的次第や。事によっちゃあ、アンタをぶん殴ってでも止める」
「フッ……そないに心配せんでもええですよ。たかがガキのお遊びですから」
「ガキのお遊びになんで特服と木刀が必要なんや?」
みちよは、一端その場に足を止めた。
そして一呼吸置いてから、振り返ることなく正面を向いて言い放った。
「……ガキのお遊びも度が行き過ぎると、ブンブン蝿がやかましいもんで、中々寝つかれへんのです。
そろそろ誰かが仕留めな、アカン思いましてね。もう充分遊び尽くしたやろ、ってね」
その言葉に貴子は目を見開いた。
流石は元レディース総長、みちよが何を言いたかったのかを瞬時に察した。
「まさか、アンタ……止めぇ!!」
「貴子さん、ホンマ有難うございました」
みちよはキーを回し、久方ぶりに愛車に命を吹き込んだ。
この時を待っていたとばかりに唸りを挙げて咆える愛車が一際、夜の街に響く。
貴子がみちよを止めようと駆け寄る前に、みちよを乗せた“CBX400 BF Custom”が飛び出していった。
みちよの中で全てを終わりにする最後の戦場へと向かって、“蒼き不死鳥”、いざ出陣!
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 00:44
-
Hide this story.
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 00:45
-
Hide this story again.
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 00:45
-
Hide this story further.
- 185 名前:本庄 投稿日:2005/01/28(金) 21:34
- ・・・やべぇ・・・。
みっちゃんどうしちゃったんですか??
め ちゃ かっ こ え え ぢゃ な い で す か。
い、いかん!私はヤスオタ私はヤスヲタ私は・・・(以下エンドレス)
ま、まぁなにはともあれみっちゃん!
男・・・じゃない女を見せてきなさい!
いやぁ〜みっちゃんに堕ちそうになる日が来るとは思いもしなかったのれす(^^;
- 186 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:00
-
みちよが夜の闇の中を疾走している頃、みちよの御守り役を強制的に授かった圭は、
バイト先のクラブの裏口で迷惑この上ない客人と相対していた。
西洋人以上の金髪にパーマを当て、どす黒いアイシャドーを塗り、胸元に彫られた般若の刺青、
そして野郎顔負けの決め文句の入った刺繍入り特攻服。
圭はみちよが締め上げた連中の下っ端どもに絡まれ、辟易していた。
「いい加減に教えろや? 知ってんだろ、平家の居場所を」
「お門違いだって言ってんでしょうに。しつこいヤツラ」
「ふざけんじゃねえよっ! オメエが平家とつるんでんのは知ってんだ!」
「どっから仕入れた情報か知らないけど、デマだね、そりゃ。捜すんなら他捜しな」
「……ヨウ、素直に言った方がアンタの為だぜぇ?」
そう言うと、金切り声を張り上げていた女の隣りにいた女は、特攻服の中からナイフを取り出し威嚇し出した。
流石に鋭利な刃物を突き出せばビビって白状するとでも思ったのだろう。
だが、圭にはそんなチンケな脅しに全く動揺する素振りも見せずに、逆に相手を煽った。
相手を小馬鹿にしたような笑みも添えて。
「んなモン振り回さなきゃ、喧嘩できないとは、アンタら人間小さいねぇ」
「んだと!」
「ま、頭ん中アンパンでイカれちゃってるヤツ等にゃ、そんな事ぐらいしか思いつかないんだろうけどさ」
「テ、テメェーっ!」
女の一人がカッとなって、圭にナイフを振りかざして突進してきた。
ナイフの使い方をほとんど分かっておらずに、ただ闇雲に振り回すだけの攻撃。
圭はボクサーが使うステップを真似るように、余裕の表情でもってそれらを交わす。
そして相手の振り回す勢いが弱まった頃を見計らって、相手の腕を取り、そのまま後ろ手に捻りあげる。
最後に少しだけ捻る力を入れると、女の手からナイフが簡単に転げ落ちた。
- 187 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:01
-
「ウグッ……テ、テメェ……」
「慣れないもんを振り回すからこういう事になんだよ」
そう言い放ちながら、圭はあっさりと女を仲間の元へ突き放し、代わりに転がり落ちたナイフを手にする。
卸したてなのか、刃先も全く汚れていないナイフの光沢が一瞬だけ辺りを照らす。
それと同じに、圭は密かな笑みを口元に拵えていた。
一瞬、女たちに動揺が走る。それを圭は見逃さなかった。
ヒュッ!!
不気味な光の筋が女たち目掛けて一直線に伸びていく。
一瞬の出来事に女どもは身動きが取れず、その場に固まる。
特に、ナイフを振り回して圭に襲いかかった女はこめかみに冷や汗を垂らしながら、口をパクパクと動かしていた。
それは誰が見ても、恐怖に怯えている様子だった。
それもそのはず、女の首筋に走る頚動脈の横わずか数十センチの所に己のナイフが戻ってきたのだから。
「忘れもんだよ」
「……」
「どうした? さっきの勢いはどこいった? まさか、そんぐらいでビビっちゃったってか?」
「あ、アンタ……し、正気か!?」
「こんぐらいでビビってちゃあ、平家はおろか、“HP”の連中すらヤレないよ。顔洗って、出直してきな」
そう言って、圭はいつもの表情に戻して、バイトへと戻っていった。
この時、女どもは改めて“保田圭”に関わった事を後悔した。
- 188 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:02
-
五月蝿い蝿どもを追っ払い、バイトへと戻る途中、圭は店長に声を掛けられた。
咄嗟に、今しがた自分が仕出かした事がバレたのではないかと、大きな不安が過る。
ただでさえ、年齢を偽って応募した身であるため、店には一切の迷惑を掛けたくはなかった。
失礼ある言動は慎み、優秀なアルバイトでいよう、それが自分を雇ってくれた店長への
せめてもの罪滅ぼしだと、今日の今までやってきた。
深夜勤務でかつ、他の深夜バイトよりも時給の良い働き口であるが故に、
雇う側もかなりシビアな目で以って雇用していることで有名なこのクラブのアルバイト。
中途半端な気持ちでいた為に、これまで幾度となく辞めさせられた輩が何人いた事か。
そんな輩を遠めに見てきた自分が今、その輩と同じ立場に立ってしまった。
……後悔、先に立たず。
「あの、なんでしょうか?」
「君に電話だよ」
「へ? アタシに、ですか?」
「ああ。K市立総合病院の石井さんていう看護師さんから」
K市立総合病院――その名を聞いた圭は、一目散に電話口に出た。
圭は後々の事を考え、みちよ担当の看護師である石井リカに何か遭った時の為にと、
自分の携帯番号と、臨時の時の為にここのバイト先の電話を教えておいたのだった。
圭のそのがっつき様に店長も事を察し、事務室から静かにフロアーへと出ていった。
事務室の戸が閉まるのを確認しながら、圭は少し顔を顰める。
ここへ電話があったとなると、みちよがらみの件で何か小言を言われるのかもしれない、と思っていたから。
だが、事態は圭の予想を遥かに凌駕していた。
- 189 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:03
-
「お電話、変わりました」
『もしもし、保田さん!? 平家さんは何処にいるんですか!?』
「はい?」
『ですから、平家さんは何処にいらっしゃるのかとっ!!』
「あの、平家はそちらにいるのでは?」
『ここにいたら、貴方のところへ電話しませんっ!? 平家さんがいなくなったんですっ!
まだ頭の傷の抜歯も終わっていないのに……』
(あのバカ……)
『とにかく、こちらでも今捜してますから、貴方も心当たりのある所を捜してくださいっ!』
「わ、わかりました。色々とご迷惑をお掛けします」
『もし見つけたら、大至急こちらへ戻るように伝えてください! 一刻を争いますからっ!』
「一刻を争う? アイツ、まだ動いちゃけないんですか?」
『違いますっ!! 平家さんと一緒に運ばれてきた加護さんの様態が先ほど急変したんですっ!』
「加護のっ!?」
『と、とにかく平家さんをまず捜し出してください! そして、こちらへ大至急連れてきてください、お願いしますっ!』
そう言い切るなり、電話は慌しく切れてしまった。
圭は受話器を叩きつけると、タイミング良く店長が戻ってきた。
圭が事情を説明する前に、店長は「早く行きなさい」とだけ言い残し、フロアーへと消えていった。
そして急いでバイト先を飛び出すと、みちよが立ち寄りそうな場所を虱潰しに捜しに掛かる。
しかし、簡単に捜すといっても、容易い事ではない。
無駄とわかりつつも、携帯に掛けてはみたが、当然の如く繋がりはしない。
仮に繋がったとしても、居場所など教える気などサラサラないだろう。
だが、もしものためと思い、メールを送っておく。
ただ一言、
『加護がヤバイ』
と。
- 190 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:03
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
体温、血圧が徐々に下がっていく。
生きる気力を失いかけている亜依を懸命に呼び戻す医師と、その医師からの指示に慌しく奔走する看護師たち。
そんな喧騒の最中、当の亜依は真っ暗な闇の中にただ一人、その身を置いていた。
何も見えず、何も聞こえない無の世界で、ただ感じる事のできるのは自分の意思だけ。
自分が思った事だけが、身体の中に響いていた。
(あ〜、メッチャ苦しいなぁ……痛いなぁ……はよ楽になりたい……)
(ウチ死ぬんかなぁ……死んだら誰か哀しんでくれるかなぁ……いなそうやなぁ……)
(ウチ、ずっと一人やったし……ウチがいなくなっても、誰も哀しまんやろし……)
(せいぜい、ばあちゃんくらいやろなぁ……ばあちゃんよりも先に逝ってまうんかなぁ……)
(あ……もう一人おったわ……ウチの一番の友達……)
(みっちゃん……今何してんのやろ……逢いたいなぁ……)
(みっちゃん……ウチ、一杯話したいことあんねん……みっちゃんと一緒に……みっちゃんと……)
心拍数の数値が微かに上がった。
- 191 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:04
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「捜せって言っても……この大都会でひと一人捜すのにも、何処にいるのやら……」
圭は何度か訪れた事のある繁華街を宛てもなくウロウロとしていた。
みちよが自宅へと戻っているのではと思い、一路みちよの住む街へと出向いてみた。
最寄駅を降りたのはいいが、真夜中とはいえ、未だ流動の激しい人の群れを見て一瞬、気が滅入りそうになる。
こういう非常事態に都会の賑わいというのは鬱陶しく、不便である。
ようやく喧騒から抜け出し、みちよの自宅へと足早に向かう。
そしてようやく見えてきたみちよのアパートの灯りはどこも点いていなかった。
一応は部屋をノックし、ドアノブを回してみる。
「だよな……家には寝に帰るだけの奴がジッとしてるわけな……」
近くの自動販売機で缶コーヒーを買った圭は独り言を呟きつつ、缶を取り出そうとした。
その際に、ふと深夜の病院で交わした有紀との会話を思い出した。
- 192 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:05
-
『……みっちゃんがヤッた連中はウチらと対立してるチームのヤツら。
当然、ヤツラの残党どもはウチらが喧嘩売ったと思ってるはず。
どういった理由でみっちゃんがヤツラをボコったかは知らないけど』
『……近いうちにかち合う、ってことか』
『そうなるでしょうよ』
『……ウチらのチーム体制が変わったんだよ。走り屋から喧嘩チームへとね。
口では走り屋なんて気取ってても、所詮ウチらは族ってやつだからさ』
『それと……みっちゃんにはもう既に除隊してんのよ。……』
『今、聞いたことはアイツには黙っておく。事後報告でもいいから、直接アンタから言いな』
『けど……』
『アイツだってバカじゃないんだ。関係のないアタシから聞くより、本人から聞いたほうが納得いくだろうよ。
たとえ、自分の中で大きな役割を担っていたものを急に失ったとしても』
『どっかから情報がアイツの耳に入った場合、正直アイツを止められるかはわからない。それだけは言っとく』
『……その時はその時、さ』
- 193 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:06
-
「……アイツ、前田のトコ行ったんじゃ……」
圭は言葉の断片を繋ぎ合わせて、未来を予測した。
人一倍仲間思いのみちよは仲間の事を心配し、チームの誰かから強引にチームの内情を聞き出し、
思い余って飛び出して行ったのではないか。
そして、有紀や仲間が取った行動を恨むことなく理解し、自分も自ら引き起こした火種を鎮圧すべく、
仲間と共に潰しをかけに行ったのではないか、と……。
「だとしたら、あいつ等は今頃……」
更に圭は未来を予測した上で、今度は自分がどう出れば良いのかを必死に考える。
と同じに、今まで何故そこに気付かなかったのかと、冷静さを見失っていた自分を恥じた。
時と場合に応じた幾多のシュミレーションが圭の脳内を駆け巡る。
その間も刻一刻と時が過ぎ、病院にいる亜依は生きるか死ぬかの瀬戸際で闘っている。
そんな焦る気持ちを捻じ伏せて出した結論は……
自ら“走り”回って捜すこと、だった。
みちよがどのように行動しているのか分からずとも、自らの足で捜し回るのにも限界がある。
ましてやみちよが単車で行動しているのであれば、尚更だ。
正直、気乗りはしなかったが、これ以外の策は思い浮かばなかったのも事実。
圭は携帯を取り出し、ある所へ電話を掛けながら、その場所へと向かった。
- 194 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:07
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほとんど乗客のいない下り最終電車に揺られ、圭はとある駅で降りる。
改札を抜けると、ロータリーには午前様を待つタクシーの群れと、二十四時間営業の店の灯りだけが静かに佇んでいた。
ひっそりと寝静まった商店街のアーケードを歩きながら、先ほどのやり取りを思い出す。
ここに来なくなって、連絡さえもしていなかったあの独特の低い声が懐かしかった。
『……なんなの、こんな時間にぃ……今日はもうとっくに終わったんだよ』
「珍しいじゃん。前は朝まで飲み歩いて、電柱とお寝んねしてたくせに」
『当たり前でしょうがっ! アタシ、結婚して、もうちゃんとした母親よ!?
まだ夜泣きする娘ほったらかして飲み歩く母親が何処にいんのよ!?』
「フッ、それ聞いて安心したよ。変わってないよ、貴方は」
『で、なんなの?』
「アレ、まだ置いてある?」
『……どういう風の吹き回しよ?』
「ちょっとした事情があってさ……使うに使わざるをえなくてね」
『……』
「……」
『……あるにはあるわ。ただ……』
「わかってるよ、言いたい事は。生き返るかどうかは知らない、でしょ?」
『……相変わらず、人の考え読むのが好きだよ、アンタは』
「そりゃどうも」
『今近くにいんの?』
「今、そっちに向かってる」
『今まで音沙汰の無かったアンタがこうしてアレを引っ張り出すくらいだから、相当な事情なんでしょ。
いいわ、今から下行って、引っ張り出しておく。ったく今回だけよ、こんな事すんの?』
「流石、Rock’n Rollerは違うねぇ〜」
『うるさいよ』
圭は以前、お世話になった『石黒モータース』の若社長、石黒彩の元へと赴いていた。
- 195 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:08
-
角を曲がると、一定間隔で照らす街頭の灯りの他に、シャッターの隙間から漏れる灯りが見えた。
その灯りの元へと近づくにつれ、懐かしい匂いが鼻につく。
昔はよく、ここで一夜を明かしたもんだ、と蘇ってくる様々な想い出に笑ってしまう。
そして腰を少し屈めて、灯りを照らす奥へと入っていった。
石黒モータース――彩の叔父が長年経営していたが、不慮の事故で叔父が亡くなってからは彩がここを受け継いでいる。
そんな彩も一年ほど前に結婚したものの、仕事に対する夫の理解が得られずに、
娘を授かってから直に離婚、現在は一児の若き母として仕事に家庭にと奮闘していた。
そんな彩のダイナミックな生活環境は、人に関心を全く示さない圭にも少なからずインパクトを与えていたようだ。
もっとも彩は彩で圭の人生には多大なる衝撃を受けたのだが……。
「よっ、久し振り。なんだ、ずいぶんオバチャンぽくなったなぁ〜」
「そう言う彩っぺこそ、ここんとこに小皺が……」
「ああっ、なんだって!?」
「お〜、コワっ」
昔のような、会うと必ず相手の神経を逆撫でするような事を言って、二人は再会した。
自分がここへ戻らなくなって数ヶ月経った今でも、あの頃と何ら変わりのないその風景に圭は安心する。
勿論、目の前にいるオーナーの彩も肩書きはコロコロと変われど、容姿は当時のままで、
トレードマークの鼻ピアスに軽めのパーマがかった茶髪は今も尚健在だ。
本人は悪事に手を染めた事はないと力説するが、彩のあのドスの効いた脅し文句と威嚇度120%の睨みは、
普通の生活環境では決して身につかないものだと、圭は今でも思っている。
- 196 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/05(土) 01:09
-
「変わってないね。彩っぺも、ここもさ」
「まあね。変わってたら、アンタのコレもとっくの昔に瓦礫の山に埋もれてるよ」
「ならそうしてくれても良かったものを……」
「顔は心底嫌そうにしてっけど、一体何が原因でコレが必要になったのさ?」
「平家みちよ」
「……ああ、今の音速四皇帝の中じゃ、最速って言われてる」
「そのバカを捜し出すのに、こいつが必要なわけ」
「んなもん、今日の今じゃなくても……」
「今、アイツを待ってる娘がいるんだ」
「待ってる娘?」
「そう。生死の挟間で、必死になってアイツが来るのを待ってる……」
「……」
「その娘が生涯唯一の友達と言って憚らない平家をコイツで捜し出す、それがコイツを引っ張り出した理由だよ」
圭は輝きを失っていない真紅に塗られたタンクに手を添える。
長い眠りに就いているのか、妙に冷たさを感じた。
彩はその横で、何気なく煙草を蒸し始める。
一息おいた彩の口からゆっくりと煙が吐き出され、冷たく冷えた作業場の空間に消えていった。
「……変わったな、圭」
「アタシが?」
「そう。アンタはそうやって人のために行動するような女じゃなかった。正真正銘の一匹狼。
アタシにでさえ、本心を見せなかったでしょ?」
「まあ、否定はしないけど」
「それがどうして?」
「……アタシにも普通の人間の血が通ってたって事よ」
「当たり前でしょ、んな事」
「よく言うよ。あの頃は人を獣扱いしてた分際で」
彩は返事をすることなく黙って煙草を吹かした。
煙が環状線を描き出して、ふわふわと立ち昇っていく。
嵐の前の静けさがそこにはあった。
- 197 名前:お返事 投稿日:2005/02/05(土) 01:09
-
>本庄さん
みちよ「ンフッ……ンフフッ……ンフフフッ」
圭 「なによ、薄ら笑い浮かべて」
みちよ「本庄さんがウチに惚れそうになっとるからな、ついつい……」
圭 「確か第三推しだったあの人が出ても、全く反応なかったような……」
みちよ「ウケケケケ、このままヤスヲタからミチヲタに」
なつみ「それは絶対ないべさ!!」
みちよ&圭「「なっち(ゃん)!?」」
なつみ「なっちが復活したから、みっちゃんはヘタレに戻るっしょ!!」
みちよ「でも、まだ外伝終わりそうもないで?」
なつみ(ガァーン!!)
なっちゃん、復活!!(でも出番は無し)
- 198 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/05(土) 01:10
-
Hide this story.
- 199 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/05(土) 01:10
-
Hide this story again.
- 200 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 01:57
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 201 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 01:58
-
深夜、区を横断する川に隣接する森林公園。
数年前に、前区長による『区のクリーンアップ計画』の一環として設けられたこの多目的広場、
日中はカップルのデートコース、家族連れやお年を召した方々などの憩いの場、
または近くの中学、高校の部活動の場として賑わい、活気付いている。
しかし夜の帳が一度落ちれば、その様相は180度変わり、何者も寄せ付けない漆黒の闇と化す。
園内を照らす外套があまり役に立たず、互いの木々が擦れ合うざわめきがより恐怖を誘い、
時折寝倉を求めさ迷う浮浪者の発狂が、より背筋を寒くさせる。
そんな環境下を利用した犯罪も、ここ一年ほどで急増しているのも事実だ。
そんな物騒過ぎる園内でも一番視界が開け、更には一番まともに光を浴びる事のできるパーキングには、
遠目からでも目立つ真っ白な衣服を纏った女性が数人屯っていた。
傍らに陣取っている単車群に立て掛けられた一旗には、著名人のサインを思わせるような殴り書きの文字
――“Highway Princess”が鮮やかに踊る。
- 202 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 01:59
-
“Highway Princess”
チーム創設者で高いカリスマ性を秘めた初代総隊長の前田有紀と、
特攻隊長で“音速四皇帝”の異名を持つ平家みちよを中心とした
都内で最も有名な正統派レディースチーム。
しかし、それ以上のチームに関する内情は全く以って知られておらず、
彼女等を取り締まる警察側も必死になるが今だ誰一人として検挙できず、
かなり手を焼かされているのが現状。
そんな異色の存在は、都内に数多存在する暴走集団とは一線を画しており、
昨今では近隣の中高生を含めた若者から絶大な支持を受けている。
また“走り”においてはライダーと呼ばれる輩たちからも一目置かれるほどで、
彼女等の集会に混ざろうとする軟派者が後を絶たない。
- 203 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:01
-
このパーキングは今やレディースでは一大勢力を誇るチーム“Highway Princess”の集会場になっていた。
夜も深けた公園に近づくモノ好きなどいない上に、チームの内情をほとんど知られていないこともあって、
この場所は今のチームにとって最適な空間であった。
そうはいっても一応は公共の施設であり、いつ何時人が現れるとも限らないため、
この施設内での最低限のルールと、チーム内の禁忌事項には注意を払っている。
たかがレディースといえど、大人の集団、侮るべからず。
そんな彼女等の拠点であるこの場には、先ほどからやや重苦しい雰囲気が流れていた。
今宵はたった数人の小さな塊だが、一人一人の放つオーラはすさまじく大きい。
その塊の中央にいる人物が口を開く。
「で、村ははっきりと聞いたんだね?」
「ハイ。自分とかち合ったモンはウチ等だろうと容赦なく潰す……と」
「……」
“村”という女性の言葉を受け、その場にいる者たちの視線を一身に受けているのは、このチームの頭、前田有紀。
揺るぎ無い信念と高いカリスマ性を秘めた統率力で以って、チームをここまでメジャーにした張本人である。
そして、その有紀に対して“村”と呼ばれた総隊長補佐の村田めぐみは、つい数時間前の事の次第を説明していた。
その場に集まっていたメンバーも、互いに顔を見合わせては事態の大きさを窺っている。
「どうします、有紀さん?」
「……やるしかないだろうね」
「……やっぱり」
「うん……いくらウチ等が説得しても、もうダメでしょうよ。あの人の性格からしてね」
「……複雑、ですね」
めぐみの重い一言がその場に重苦しい雰囲気を更に漂わせる。
今ここにいるメンバーの誰もが、めぐみが昼間に感じた、あのやりきれない想いを抱いていた。
各々が様々な想いで以って崇拝し、その想いにいつでも応えてくれた最強の味方――平家みちよが、
今や自分たちを脅かす最強の“敵”になってしまったということに。
そして同じ土俵上にいる限り、いつかはみちよとぶつかり合わなければならないということも。
- 204 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:02
-
そんな重苦しい場に一台の派手派手しいXJ400が滑り込んできた。
乗っていたのは、みちよの除籍によって新しく特隊の長に昇格された大谷雅恵。
やや下品なロケットカウルが彼女の頭髪の色と相俟って、我の強さを主張している。
雅恵はみちよが起こした先のイザコザによって、目の色を変えて“HP”を捜し回っている
敵チームの動向を調べるために、都内を駆けずり回っていた。
「有紀さん、ヤバイですッ!!」
「どうしたの?」
「S区でウチらより先に誰かが、ヤツラを……」
「!!」
「まさか、平家さんじゃ……」
「村、今すぐ瞳と絢香に連絡とって」
「わかりました」
「ウチらも出るよ!」
有紀の一声にその場に屯っていた若い連中が一斉に臨戦体勢に入った。
その顔にはもう一点の迷いも無かった。
自分たちの今夜のターゲットは敵チームと……平家みちよ,であると。
- 205 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:02
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 206 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:03
-
有紀がチームを引き連れて走りそうかという頃、“HP”初代親衛隊長である斎藤瞳は、渦中の人物と対面していた。
瞳の目の前には、数台の単車が見るも無残な鉄屑となり、その近辺には横たわる数十人のレディースたち。
皆誰もが、顔から真紅の血を垂れ流し、声にもならない呻き声を発していた。
そして……その奥には、既に意識無く屍のようになっている女の特服の襟を掴んだまま、瞳を見つめている人物。
一際目立つ蒼い特攻服の部分部分が喧嘩による返り血で黒く変わり、
左手に持っている歪な形をした木刀からは未だに鮮血が静かに滴り落ちている。
将にそこは地獄絵図と化し、瞳はその光景を作り上げた、数メートル先に立っている人物に驚愕していた。
「へ、平家……さん……」
「……久し振りやな」
「こ、これ、平家さん一人で?」
「見たら分かるやろ?」
瞳は目の前に立っていた人物、平家みちよの自分を見つめる瞳が酷く冷たいことに気付いた。
自分が知っているであろう温和で柔らかい目ではなく、敵意剥き出しの威嚇する目を自分に向けられている。
今まで何度か抗争という名の戦いで相手を殴り飛ばし、時には一方的にヤラれたこともあったが、
一度たりとて「怖い」と思ったことは無かった。
しかし今のこの状況、この惨劇下に於いては「怖い」というよりもむしろ「恐ろしい」という感情が沸々と込み上げてくる。
自分はまるでハンターに狩られる獲物だ――瞳はそう思わせるみちよの威圧感にやや腰が引けてしまう。
「な、なんで平家さんがこんな事を?」
「なんで? 変なこと聞くなや、めぐちゃんから聞いとんのやろ?」
「めぐみから?」
「……その様子じゃ、まだなんも聞いてへんちゅう感じやな」
「い、一体何を?」
瞳はこの時、まだみちよが自分を敵と見ている事を知らなかった。
みちよは表情を変えることなく、事務的に告げた。
半ば脅しにも近い感じで以って。
- 207 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:04
-
「ウチはアンタのチームの敵や。せやから、ウチは自分とかち合ったモンがどこの誰だろうと潰す、そういうこっちゃ」
- 208 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:04
-
「!! な、何を言って……」
「ウチの処遇についてはアンタも一枚噛んどるはずや。そうやろ?」
「ハイ……」
「その結果、ウチはアンタらのチームを離れた。そんなウチがこういう恰好しとるんや。
物分りのええアンタなら判るやろ?」
「けどっ……」
「アンタは今、このこと知ったようやから、今回は見逃したる。けど、次ウチと会うたら、覚悟しとき」
「ちょ、待ってください!!」
瞳は急に知らされた衝撃の事実に我を忘れていた。
チームから除籍した後のみちよが取るであろう事については、おおよそ見当はついていた。
その為の覚悟もそれなりにできてはいた……そう、親衛隊長という肩書き上では。
しかし、一人の人間、一人の仲間としては全然納得していなかったのだ。
「私は、平家さんを敵に回したくはありません」
「ウチが抜けた時に覚悟ぐらいしとったはずやろ?」
「それはチームの立場の上で、ですっ!! 一人の人間としては今でも納得していませんっ!!」
瞳は今、“HP”の親衛隊長ではなく、一人の人間としてみちよと対峙していた。
チーム内でも一番みちよと行動を共にしていた瞳。
誰よりもみちよの事は解っていたつもりであったし、誰よりも自分の事を解ってもらえたと思っている。
そんな自分だからこそ、チームという枠を超えた立場でものが言えたのだ。
そんな瞳の熱意にみちよの顔が綻びた。
瞳からすれば、その顔は自分が良く知っているみちよの顔であった。
- 209 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:05
-
「……変わっとらんなぁ、アンタのそういう人情味溢れるとこは」
「……」
「アンタのそういうトコを見込んで、親衛隊長にしたん正解やったわ」
「……ありがとうございます」
「けどな、ひとみん」
「……はい」
「そういう甘えがあると、ヤラれんで?」
「!!!」
「さっきも言うたけど、ウチはもうアンタの敵になってもうたんや。アンタが慕ってた平家みちよはもうどこにもおらん」
「そ、そんな……」
「今頃、躍起になってウチを捜しとるはずや、アンタのチームが」
「有紀さんが!?」
「そうや。ウチを潰すためにな」
「!!!」
瞳が見せた動揺の隙を縫って、現役最速の女を乗せたCBX400は次のターゲット求めて、颯爽と夜の闇へと消えていった。
先ほどからけたたましくなる携帯に出る事も忘れ、瞳は呆然とみちよが消えていった道路を見つめ続けている。
そしてその瞳には、めぐみと同じようなやりきれない想いが液体となって、瞳の目から静かに流れていった。
- 210 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:05
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 211 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:06
-
(またいた。今夜はやけに多いわね。そろそろビッグウェーブが来そうな予感)
時を同じくして、“HP”参謀長である木村絢香は雅恵や瞳同様に単独で敵チームの動向を探っていた。
テリトリーを拡大しM市と隣接するS区内を流していると、五度目の敵チームらしき塊を見つける。
有紀からは潰せるようなら潰して構わない、との指示を受けてはいたものの、
雅恵や瞳のように一人で数人も相手にできるようなタイプの人間でない自分には、
今の状況はどう考えても多勢に無勢である。
自らも特服で着飾っていることもあり、ここはあまり大きな行動には出ずに、情報収集に専念する。
(ひい、ふう、みぃ……六台か。さっきのも入れると……ちょっと手間が掛かるけど、大丈夫でしょ)
相手の出で立ちからして自分のチームより数は多いものの、それほど苦戦するような相手ではないと推測。
敵対するチームを独特の千里眼で以って見極めることに長けていることから、参謀長に抜擢された絢香。
その手腕が今回も余すことなく発揮されていく。
S区役所前のロータリーに差し掛かった時、不意に携帯が鳴る。
人通りもほとんど無くなった深夜の街に一際、軽快なメロディーが響いた。
「はい」
『絢香? 今、どこにいる?』
「S区役所前」
『んならさ、そこら辺に瞳がいるらしいからさ、合流してくれる?』
「アラ、なんかあったの?」
『……どうやら平家さんが一人で潰しにかかってるらしいんだ』
「平家さんが!? だって、あの人まだ……」
『とにかくっ!! 訳は合流してから話すから』
「……わかった」
- 212 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:06
-
通話を終えた絢香は痛切な想いに駆られる。
初代“Highway Princess”は、総長の有紀と特隊のみちよを筆頭に、
総長補佐のめぐみ、親衛隊長の瞳、特隊副長の雅恵、そして参謀長の自分の計六人から始まった。
……いや、正確に言えば有紀とみちよの二人だけから始まったのだ。
その二人のカリスマ性に惹かれて入隊し、その中で独自の長所を活かした結果、参謀長に選ばれた。
そんな今の自分があるのは、有紀からの信頼もそうだが、みちよの人を見抜く千里眼が非常に大きかったと思っている。
そんなみちよをたった数日間で敵にまわす事になろうとは誰が予想できたのだろうか?
絢香は、先の幹部会で決定したとはいえ、事の大きさをやや軽視していた事に後悔し出す。
あの時、誰かが……いや、自分だけでももっと反対していれば、こうはならなかったのかもしれない。
あの時、チームの事よりもみちよの事を考えていれば、元の鞘に収まっていたのかもしれない、と。
しかし、チームの公約を出された時、誰もがそれの前に平伏してしまった。
自分はなんて弱い人間なのだろうか……。
今更悔やんでも、悔やみきれないほど自責の念で一杯いっぱいになっていた。
- 213 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:07
-
そんな悲観的な絢香の耳に、どこか聞き覚えのある音が届く。
それは、自分たちがまだ入隊したての頃に耳にし、それでいてどこか忘れようのない独特のリズム。
「本当に速い奴には、そいつが産み出す独特のリズムがあんねん」とかつて、みちよが言っていたことを思い出す。
事実、そう言い放ったみちよにも誰が聞いてもみちよだとわかる独特のリズムがあった。
その独特のリズムが当時、四色あった事からついた異名が、かの“音速四皇帝”であった。
その“音速四皇帝”のある一台と全く以って同じリズムが今、夜の街に奏でられている。
(この音……前に平家さんが言ってた……でも、あの人はもう降りたって……)
己の記憶が正しければ、そのリズムを奏でていた単車乗りは既にこの世界から身を引いていると聞いていた。
絢香が更に耳を澄ますと、その音は徐々に絢香の元へと近づき、リズムもはっきりとしてくる。
音楽で言えば、パワーで押し捲るハードロックというよりも、心に染み入るようなクラシック。
そしてクラシックであるけれども、温かみというものを一切排除したような冷たさ。
日頃耳にしていたクラシックで「暖」のあるみちよのリズムとは対極にある「冷」の音色に、
自然と絢香の表情も険しくなっていく。
(間違いない……この音、このリズム……アレがこの世界に戻ってきたんだ)
- 214 名前:紅梅 Y 〜奔走〜 投稿日:2005/02/17(木) 02:09
-
音色がはっきりと断定できてから数秒後、派手なスキール音がロータリーに木霊する。
これといった外観的な改造の施されていない車体に、唯一目立つのは闇に映える紅。
みちよの“蒼”と対極な“紅”を基調としたZ400FXが今、絢香の目の前に止まっている。
温かみのあるリズムを奏でるみちよの“蒼い”CBX400と並び、
今やマニアの間では“音速始皇帝”として名高い、冷めたリズムを紡ぐ“紅い”Z400FX。
そのFXを駆るその人物に対しては、普段フレンドリーな関係を好む絢香もやや苦手意識があった。
「……アンタ、“HP”のモンだろ? 平家どこにいる?」
「今日はまだ会ってない」
「……なら前田はどこだ?」
「さっき出たって連絡があった」
「あっそ」
「なんなの? 貴方もウチの頭も平家さん捜してるようだけど?」
「……アンタ、参謀長のクセになんも知らないんだな」
「どういう意味よ?」
「アイツは今夜、全てを終わらせるつもりで動いてる」
「……冗談」
「ならそう思ってなよ。世の中、知らぬが仏って事もあるだろうからな」
「……喧嘩、売ってんの?」
「時間があったらゆっくりと相手してやるよ」
そう言い残すと、FXは甲高い咆哮をあげながら、その場を離脱していった。
その素早さは、“紅蓮の隼”と称された全盛期を彷彿させるほどであった。
あの独特のアクセル・ミュージックを奏でながら……。
「なんなのよ、一体」
絢香は煙たい埃を撒き散らせて去っていった方角を恨めしそうに見つめていた。
しかし絢香の手はこの時、何故か分からぬ震えが襲っていた。
今夜、何かが起こる――そんな前触れを感じさせるように……。
- 215 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/17(木) 02:10
-
Hide this story.
- 216 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/17(木) 02:10
-
Hide this story again.
- 217 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/17(木) 02:12
-
Hide this story fuether,
- 218 名前:本庄 投稿日:2005/02/17(木) 23:32
- あやや…(从‘ 。‘从<呼んだ??)
なんかえらい事になってますねぇ…。
てかみっちゃん怖っ!!
本気だすとマジ怖いのね……普段ヘタレなのに(ボソ
>圭 「確か第三推しだったあの人が出ても、全く反応なかったような……」
あの娘が出たとき以上に鬼みっちゃんが驚きだったもんでつい…。
ってなっちが!なっちが喋ったぁ!(でも出番はないのね(T▽T))
この後圭ちゃん…ではなくみっちゃんはどうなるのでしょう??
続き期待してます。
- 219 名前:紅梅 Z 〜激突〜 投稿日:2005/03/21(月) 03:49
-
有紀率いる本体と、瞳と合流した絢香、そして単独で颯爽と動く紅蓮の隼が我先にと
都内を駆けずり回っている頃、当のみちよは遂に相手方の総長と相対峙していた。
みちよの過去の親友が幹部であったそのチームは、ここ数ヶ月のうちに台頭してきた新興勢力で、
専ら近隣のチームに喧嘩を振り掛けて勢力を拡大しているらしかった。
また、支配下にあるテリトリーの中高生らにも顔が利き、窃盗、喫煙、飲酒、校内暴力は勿論、
器物破損、不法侵入、拉致監禁など日々巻き起こる事件は枚挙に暇ない。
そんな悪の巣窟下に飛び込んでしまった亜依は、当然の如くターゲットになってしまったのである。
そんな連中に牙を剥いたみちよは、とにかく潰しを掛けた。
相手が同じ女であろうと、中学生や高校生であろうと、とにかく相手のチームに関わる者たちは片っ端から的に掛けた。
現に今、目の前に寝転がる幹部たちも先ほど奇襲攻撃によって、沈めたばかりだ。
所詮は強い者が勝ち、弱い者は地に伏せるだけの闘い。
身なりを整えて、資料片手に話し合う机上の論争ではない、単なる力と力の勝負。
不意打ちだろうが真っ向勝負だろうが、関係ない。
それを教えてくれたのは、今目の前に立ちはだかる敵なのだから……。
流血と、もがき苦しむような呻き声が当たり前のように耳についた。
戦意を失いかけている幹部連を見つめつつ、頭であろう女が言葉を吐き捨てた。
「……オマエって結構姑息で卑怯な奴だな」
「喧嘩如きに卑怯もクソもあるんか? そう教えてくれたんはおまえ等のチームの奴やで?」
「その余裕……奪い取ってやるよっ!」
- 220 名前:紅梅 Z 〜激突〜 投稿日:2005/03/21(月) 03:49
-
先に仕掛けてきたのは、相手の頭だった。
みちよは突進してきた女目掛けて木刀を振り上げ、カウンターに出る。
しかし相手の女もその行動を読んでいたのか、振り下ろされる木刀を片手で抑え込むと、
木刀ごと自らの方へと引き寄せ、みちよの額目掛けたチョーパン(頭突き)をお見舞いする。
相手の喧嘩慣れした咄嗟の判断に、一瞬反応が遅れて攻撃をかわすも、左こめかみ辺りを掠めた。
と同時に、小さな血の花火が勢い良く散った。
ここへ来て初めての負傷。
「フンッ! アタイを甘く見てもらっちゃ困るぜ、ブルーフェニックスさんよぉ」
「……伊達に頭張ってへん、っちゅうことやな」
ゆっくりと滴り落ちていく鮮血も気にすることなく、みちよは薄ら笑いを浮かべる相手に目を向ける。
それに応えるかのように、相手の女は更に余裕の表情を見せる。
(今までの相手よりも中々やりよるわ。けど……所詮はウチの敵じゃないレベルやな)
再び相手からの攻撃に今度はしばらく付き合う事にしたみちよ。
とは言っても一方的にやられるようなヘマはせず、相手が繰り出す攻撃を紙一重でかわしたり、
時には防御したりしながら、己の体力の回復を図っていた。
というのも、ここまで幾度と無く相手チームの連中を相手にしてきたつけがかなり出ていたからだ。
右手の拳はグローブ大に腫れ上がり、身体の節々も微かではあるがダメージを負っていたので、
疲労の度合いはかなりのものであった。
- 221 名前:紅梅 Z 〜激突〜 投稿日:2005/03/21(月) 03:50
-
しかしみちよが体力の回復を図った最も大きな理由は別の処にあった。
それはこの後の事――有紀たちと一戦をまみえることを考えていたからである。
少数で構成された元チームとはいえ、その個々の能力は、今目の前で戦っている相手よりも数段上だと思った。
チームの在籍中に彼女等一人一人の戦闘能力はあらかた把握していた。
だが、それはあくまでみちよが見た限りの事において、である。
数十分前に出会った瞳のように、個々での勝負ならば、分は完全にみちよに有ると言っても良かった。
が、束になった場合、勝機は個々の時よりも半分以下にもなりうる。
ましてや有紀やめぐみ、雅恵、瞳、絢香らが絡めば、勝機は限りなくゼロに近いと言っても過言ではない。
だからこそ、そんなタフな連中と対等にやり合うには、ここでいくらか体力を温存しておく必要があった。
「アッハッハッハッハ!! どうしたどうした!? んな防戦一方じゃアタイに勝てはしないぜ!?」
「……」
「今夜で終わりだ、無敵の“ワンパンのみちよ”もなぁっ!!」
(精々、今のうちに言いたい事言うとけ。数分後には喋れんようになっとるんやからな)
みちよは相手の攻撃を受けかわしながらも笑っていた。
いや、笑わざるを得ないと言った方が正しいかもしれない。
これから起こるであろう事の顛末に、一人悦に浸っていたのだから……。
この時、みちよの精神は破壊の神によって完全に支配されていた。
- 222 名前:紅梅 Z 〜激突〜 投稿日:2005/03/21(月) 03:51
-
相手の女の動きがやや鈍くなってきたのを境に、みちよは攻撃を仕掛け始めた。
左手に持っていた木刀を捨て、やや軽めに握った拳を相手目掛けて放つ。
みちよの軽いジャブが女の顔面に届きそうになった時、不意に拳が解かれ、手の平が女の視界を遮った。
咄嗟の出来事に女は視界確保の為に、顔をずらす。
女はみちよのトリックにまんまと嵌ってしまった。
女に待っていたのは、“ワンパンのみちよ”と称される高速右ストレート。
ベキッ!
「ぐはっ!!」
みちよの正拳が綺麗に鼻面へと決まり、勢い良く吹っ飛び転ぶ女。
間髪入れずに、みちよは地に伏せかけた女の顔を思いっきり蹴り上げた。
その見事なまでの蹴り上げっぷりは、サッカーの女子日本代表FWの某選手を彷彿させる。
紅の血を撒き散らしながらも更に吹っ飛ぶ女はもはや、風で転がりまわる路上の空き缶状態。
この時点で、勝負は決まった。
だが、みちよは仕上げとも言うべく、ゆっくりと女へと近づいていく。
五月蝿そうに転がる空き缶を鬱陶しそうに踏み潰す要領で以って、地に伏せた女のこめかみに片足を掛け、
徐々に体重をかけていくみちよ。
女性とは言え、それなりの重みが一点に圧し掛かれば、自ずと結果は見えてくる通り。
「……ウッ、ガッ……ま、待て…ぇ……」
「……」
「……た、頼む、待ってく……ま……」
この後に及んで許しを被ろうとする女の願いなどに耳を貸すことなく、みちよは足に力を入れた。
そして……余り聞き慣れない音が二、三度鳴った後、女の断末魔によって全てが終わりを告げた。
- 223 名前:紅梅 Z 〜激突〜 投稿日:2005/03/21(月) 03:52
-
……。
辺りには息も絶え絶えしい呻き声があがっている。
みちよはそれに目もくれず、彼女等の脚である単車を一台蹴り転がすと、近くに立てかけてあったチームの旗をそこへ放る。
倒れた単車から零れ出るガソリンを、旗が見る見るうちに吸い上げていく。
それを見下しつつ、どこからともなく取り出したジッポの火と灯すと、そのままそれを投げ捨てた。
一瞬で火と言うより炎は旗を、次いで単車を焼いていき、風に煽られて尚も勢いを増していく。
族にとって旗を汚される事はすなわち、完全な「負け」を意味する。
この時点で、このチームは再起不能へと陥ったのだった。
勢い良く燃え広がる残骸に目もくれず、時折小さな爆発音で飛び散った火の粉が舞う中、みちよは悠然と愛車の跨った。
そして、不適な笑みを浮かべながら、戦意喪失となった輩に言い放った。
「相手が悪かったと思え」
この日、みちよの伝説に新たな1頁が刻まれた。
- 224 名前:お返事 投稿日:2005/03/21(月) 03:53
-
なつみ「少ないけど更新したよぉ〜」
>本庄さん
なつみ「……なんかなっちがいない間にみっちゃん変わったよね」
圭 「……変わったんじゃなくて、落ちぶれただけよ」
みちよ「んな事あるかっ! なっちも含めて皆がウチのこと知らな過ぎただけや」
圭 (得意げな顔をしているみっちゃんに疑いの目を向ける)
みちよ「……なんやの、その目は」
圭 「……確かに知らなかったよ、みっちゃんがスケベだってことなんて」
なつみ「そう言えばごっちんにデレデレしてたもんね」
みちよ「(グサッ!!)」
なつみ「それに引き換え圭ちゃんは全然変わんないね。そんな圭ちゃんがなっちは大好きだけど」(ニコッ)
圭 (なんか前よりもパワーアップしてる気が……)
- 225 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/21(月) 03:53
-
Hide this story.
- 226 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/21(月) 03:54
-
Hide this story again.
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/25(金) 23:24
- ヘビーだ…みっちゃんかっこいいけど危険だなあ
- 228 名前:本庄 投稿日:2005/04/27(水) 23:41
- みっちゃん恐!!
いや、まぁ普段へタレ人ほど怒ると恐いっていうしね。うん。
この後どうなっちゃうのでしょうか?
またデンジャラスみちよ見参??
((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
- 229 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:38
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 230 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:39
-
単独行動をとっていた瞳と絢香からの連絡を受け、本隊は上手く警察の捜査網をくぐり抜けながら獲物を追っていた。
それでも途中、交通機動隊の追尾を振り切れぬこともあったが、ケツ持ち(隊の最後尾について仲間を逃がす役)の雅恵による人を小バカにしたようなドライビングパフォーマンスによって難を逃れていた。
相変わらずのド派手な余興に、めぐみをはじめとするメンバーは次第に機嫌良く風に乗っていくも、
総長の有紀だけは先に受けた報告が頭から離れずに渋い表情を示す。
(……アイツが何故、FXを引っ張り出してまでみっちゃんを捜してるんだ?)
有紀も一応は単車乗りの端くれなので、そちらの方面に関する情報は耳を傾けずとも否応無しに入ってくる。
なので、何処のチームの誰が引退したとか、何処で誰が事故ったなどの些細な情報もリークされてきた。
勿論、“紅蓮の隼”が単車を降りた、という衝撃的な事実も知っていた。
そしてその伝説の愛機が意外な場所に保管されているという事も。
それが今宵、静かに復活している事に有紀はただならぬ畏怖を覚えた。
(まさかみっちゃんと二人で新しいチームを作った? イヤ、アイツの性格からしてそれは絶対に有り得ない)
みちよの事と同じように“紅蓮の隼”に関する知識はかなりあったと思っている。
それはみちよから間接的に仕入れる事もあれば、直接目の当たりにしたこともあった。
外見では平然を装っているものの、一人の人間として、好き嫌い関係なく興味を持っていた。
なにせあの“平家みちよ”を堕とした唯一の人間だったから……。
- 231 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:41
-
(となれば、あいつはみっちゃんを庇うつもりで動いてるのかも? 元々ウチラとは犬猿の仲だったし……)
元々“紅蓮の隼”とは折が合わず、敵視していたのは事実だ。
しかも、チームの要でもあるみちよが“紅蓮の隼”と接点を持ってからはその意識が高まったといっても良い。
みちよが居る手前では口に出す事はなかったが、チーム全員が内心嫌悪感を示していた。
血の気の多い雅恵や瞳あたりが口癖のように愚痴っていたのを記憶している。
従って、今チームを離れたみちよを庇って動いている事は考えられる選択肢であった。
(もし、アイツとブツかったとなれば、私はアイツに「走り」で勝てるのか? あの"音速始皇帝"に……)
みちよが居たお陰というわけではないが、有紀もかなりのテクを持った単車乗りだ。
しかもその走りは、周囲に「マシンに優しいドライビング」と言わしめるほど丁寧で可憐である。
故に単車での勝負はあまり得意とはいえない。
そんな有紀が、百戦錬磨とまで言わしめた“音速始皇帝”に無謀な勝負を挑もうとしていた。
やるからには勝ちに拘るのが勝負時の鉄則だが、不安も多少残っている。
(私はどうすればいい? みっちゃんとアイツ……保田圭に対してアタシの勝機はあるの?)
一瞬の迷いが生じていた時、隣りを並走するめぐみの携帯に新たな一報が舞い込んで来た。
状況を把握するため、また、先にケツ持ちを任された雅恵を待つ事も手伝って、一端路肩に駐輪する。
依然として有紀の表情は冴えないが、その凛とした顔つきが男顔負けなほど際立っている。
「……わかった。今ウチラはS区にいるから、うん、そう……OK」
「瞳たちから?」
「ハイ……ウチラのターゲットだったチーム、どうやら全滅したらしいです」
「全滅!?」
めぐみの通話中に戻って来た雅恵が戻るなり素っ頓狂な声を上げて驚く。
波紋は仲間たちにも広がり、互いに驚きを隠せない表情を浮かべていた。
しかし、前を走る有紀はみちよたちのことで頭が一杯だったせいか、表情一つ崩さずにいた。
- 232 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:42
-
「M区内の路上でどうやらカチ合ったらしく、相手チームの単車と旗が燃やされたって、
絢香が現場近くにいた野次馬から聞いたそうです」
「で、やったのは誰?」
「その野次馬が言うには、蒼い特服を着た女だったそうです」
「……」
「頭がやられた以上、雑魚を追っかけまわしても無駄ですね?」
「となると、必然的にウチラの敵はやっぱり……」
「平家さ……」
「いや」
雅恵の問いかけに応えためぐみを有紀は遮った。
「もう一人……」
「……保田、ですか?」
「……ああ。アイツもアタシ等と同じターゲットを捜してる以上、敵だ」
「はい」
「最終確認しとくよ。このままの隊列で平家と……保田を潰しにかかるよ。
平家を先に見かけた時、そのまま一気に畳み掛ける。相手は一人とはいえ、油断するな。
逆に、保田を見かけた場合だけど……」
「どうします?」
「……保田はアタシが潰す。アイツとは色々あったから、今夜ケリをつける」
「有紀さん一人でアイツを?」
「そう、タイマン勝負。そうなった時、めぐみと雅恵を軸に本隊は平家捜しに回って」
「マジですか?」
雅恵の問いかけに無言で頷く有紀。
普段チーム内でも温厚な立場にいた有紀が、これほどまでに好戦的な態度を見せたことで、
誰もが言葉を飲み込む以外に他なかった。
それは有紀が総長であるからという立場的なものではない。
それほど有紀の目には、めぐみたちには計り得ない頑なな意思が宿っていた。
そして、その意思の導くままに有紀は冷静に言葉を続けた。
- 233 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:43
-
「そうなった時は、村」
「は、はい」
「…二代目総長として、チームはアンタに全て任せる」
「えっ…二代目って」
寝耳に水とでも言うべく普段よりもいささか目を開いためぐみ。
それでも尚淡々とした表情のまま有紀は雅恵にも伝言を残す。
「それと雅恵」
「は、はい」
「いざという時、瞳や絢香と共に村のフォロー、頼むよ」
「有紀さん……それって」
有紀は一息入れて振り返り、さも当然といった様子でチームの仲間全員に告げた。
「……今夜限りで“初代 Highway Princess”は解散する。
そして、明日からは“二代目 Highway Princess”として活動していきな」
「!!!」
その場に居た全員が石化した。
淡々と用件を告げた有紀はまるで何事もなかったかのように愛機に跨る。
静かな公道に哀愁地味た空ブカシが響く。
その音色に我に返った雅恵とめぐみが、半ばトチ狂うように食って掛かった。
- 234 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:43
-
「ちょ、待ってください、有紀さん!! 何故今、この状況でそんな大事な事を!?」
「そうっすよ!! アタシ等だけじゃまだまだナメられるだけですっ!! 考え直してください!!」
「……平家みちよを敵に回した時点で、アタシはチームの頭として大きな過ちを犯したんだよ。
だから今夜、その罪を償う意味で平家みちよを叩く。これはアタシのチームの頭としてのケジメ。
そして、新たに保田を標的に加えたのは……アタシの個人的なケジメなんだ」
「……」
「けどっ……」
「アンタたちにはホントに感謝してるよ。今までこんな我侭三昧なバカに付き合ってきてくれた事に。
だから……最後に今夜だけ……我侭やらせてよ」
フッと有紀の表情が綻んだ。
それは普段おどけた時に見せる笑みに似ていた。
が、決して同一のものではなく、別の意味合いを含んだ混濁した想いが混じっていたのかもしれない。
「……くそっ!」
雅恵は内に秘めていた苛立ちを惜しげもなく晒し、傍に転がっていた空き缶を勢いよく蹴り飛ばした。
めぐみはただ黙って空き缶の描く軌跡を目で追っている。
無機質な金属音が二、三度してから、しばしの静寂が辺りを包んでいった。
- 235 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:45
-
これからが正念場という時に、意気消沈気味になってしまったHP。
そんな負の雰囲気を破ったのは、Z400GPとGS400Eの二台の単車。
そして、それに搭乗する仲間たち――瞳と絢香だった。
二人は不貞腐れている雅恵と妙に落ち込んだ様子のめぐみ、そしてその原因を産んでしまった有紀の
いつもとは違う雰囲気に顔を見合わせる。
そして近くにいた仲間に何があったのかを聞いた。
「どうしたの?」
「実は……」
事情を知らない瞳と絢香にチームの仲間が説明する。
事の重大さに一端は有紀の方へ顔を向けるが、決意を固めた有紀の顔を見るなり
二人はめぐみや雅恵のように食って掛かる事はせず、冷静に事を受け止めていた。
そんな二人の達観したような態度が気に入らないのか、雅恵はやり場のない怒りの矛先を二人にぶつけ出した。
「なんでアンタ等はそんな態度取ることができんのよ?」
「そりゃ……決まってるでしょ、アタシたちも覚悟は出来てるからよ」
「何のよ?」
「今夜、全てのカタがつく事によ」
瞳の決意にも似た物言いを受けてから、絢香が続けて言う。
「保田が言ってたわ。『平家さんが今夜全てを終わらせるつもりで動いてる』って。
有紀さんも保田も平家さんと付き合いが長いから言葉にしなくても感覚でそれがわかってた。
だから保田はFX引っ張り出してきたし、有紀さんは有紀さん自身のケジメとしてそう言った、そうですよね?」
絢香の簡潔で的を得た物言いに、有紀はただ黙って口元を緩めた。
雅恵やめぐみとは違い、二人は長い付き合いからアイコンタクトでモノが言い合える位に成長していた。
それはかつて有紀と絶大な信頼関係を築いていたみちよが常日頃からやっていたことでもある。
つまり、有紀の中で二人はようやくみちよと同じ立場に立てた事を意味していた。
- 236 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:46
-
その無言の了解を得て、瞳が雅恵をいびり始める。
「っていうかさ、アンタ今まで有紀さんの何を見てきたわけ?」
「何って……その…」
「村もだよ。はぁ〜、こんな頭の中まで直管ヤローたちが二代目の頭と特隊じゃ、ウチも終わりかね?」
「直管ヤローだあっ!?」
「特にマサオの場合は、ネジが一本抜け落ちた欠陥品だけどね」
「ア・ヤ・カ〜ッ!!」
「村も、でしょ?」
「んだとぉ!?」
先ほどまで澱んだ空気だったのが嘘のようにすっきりと晴れ渡っていた。
有紀やHPの面々の眼前でオチャラケる四人のお陰で。
(……アンタたちなら大丈夫だよ。アタシやみっちゃんが居なくても、やってけるよ)
有紀は改めて自らの決意が正しかった、そして心置きなく“ケジメ”が取れる、とそう思った。
- 237 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:46
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 238 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:47
-
風を切りながら夜の公道を走り抜けていく蒼い閃光。
が、今のみちよにとって風は厄介なものであった。
「……痛ぅ……ちょっと無理してもうたかな」
身体の節々に時折走る微痛がジワジワとみちよを襲う。
そのせいか、意識がそちらへと気を取られ過ぎて、ドライブに集中できなくなる。
加えて、あの時の怪我がまだ完璧に完治していなかったこともあり、余計に痛みを感じた。
一瞬、ハンドル操作を誤ったと思えるほど、腕が良からぬ方へと動いた。
進路が急遽真っ白いガードレールへと変わる。
ガンッ!
みちよは咄嗟の判断で以って左足でガードレールを蹴り込み、衝突を回避した。
お陰で軌道は再び公道へと戻る事に成功する。
しかし、相変わらずみちよには容赦なく様々な痛みが襲いかかっていた。
なので幾度となくガードレールに激突しそうになる。
その度に左足で体勢を立て直し、軌道修正を図ってはいたが、それも遂に途切れてしまった。
思わぬ形で以って……。
(しまった!! 空き缶か!?)
衝突を避けようと左足でガードレールを蹴り出す前に、みちよの単車は路上で潰れた空き缶にフロントタイヤが乗った。
急激に車体が傾き、みちよは背中からガードレールに単車もろとも突っ込んでいく。
ガードレールと単車に挟まれる形で数メートルほど引き摺られる。
摩擦で背中の服の繊維が呆気なく破れ、柔肌とまではいかない皮膚が直に擦られる。
「グアアッ!!」
獣のような唸り声を上げてしまうほど激痛がみちよを襲った。
その場でのた打ち回りたいほどだったが、ガードレールと単車に挟まれたままではどうすることもできない。
擦られながらもふと、ひき逃げ事故の擬似体験ができたと、不覚にも思ってしまった。
- 239 名前:紅梅 [ 〜決意〜 投稿日:2005/05/08(日) 17:48
-
ようやく静けさが辺りに戻る。
単独事故とはいえ、かなりのスピードを擁していただけに、事故の規模は自動車事故並に激しかった。
しかし、幸いにも命に別状もなく、何処かが麻痺しているという箇所もない。
みちよはとりあえず自らに圧し掛かっている愛機を退けようと試みる。
が、必死に単車を退かそうにも体力的に限界を超えていたため、思うように力が入らない。
「……アカン……こんな、時に……誰か、来たら…間違いなく、ヤラれる……やら、ウガッ!!」
みちよはやや焦りを感じていた。
それは一端の単車乗りで、しかも“音速四皇帝”とも呼ばれる自分が、
単独事故を引き起こした事に対する恥かしさから来る焦りであった。
力を入れようして筋肉の伸縮が起こる度に、突き刺すような痛みが走る。
おそらく痛みの度合いからして、火傷などという簡単なものでは済まないだろう。
その証拠に、みちよは身動きすら取れずに、イヤな脂汗を噴き出すばかりであった。
「は、早く……退かさな……だ、誰も、いっ!! くん…なよ……誰も……」
とにかく人が来ないのを祈るばかりのみちよであったが、その願いは無常にも、
遠くから爆音を響かせながらやって来るヘッドライトによって消え去った。
みちよほどになると、単車から奏でられる音色でどんな人間が乗っているかが判る。
みちよの中に絶望感だけが支配していく。
(……終わりや……ウチ、もうあかん……)
その音色(トーン)に聞き覚えのあるものだという事も解らぬままに、みちよは半分意識を失っていった。
- 240 名前:ご報告 投稿日:2005/05/08(日) 17:49
-
月一更新という遅筆さにもめげずにお付き合いくださって有難うございます。
非常に恐縮ですが、明日から二ヶ月あまり研修のため日本を離れることになりまして……。
またしばらく間が空く事、予めお詫び申し上げさせて頂きます。
ごめんなさひ。
追伸 其の一
思った以上に外伝が長引きそうなので、このスレは外伝用にしたいと思います。
本編は新たにスレッドを立てた後、『菊 T』より載せ直します。
ご了承下さひ。
追伸 其の二
『小説をマターリ語るスレ』にて隠れ(?)読者さんがいる事に気付きまひた。
気に留めていただいたことに感謝すると共に、お詫び申し上げます。
- 241 名前:お返事 投稿日:2005/05/08(日) 17:50
-
>名無し飼育さん
圭 「昔はよくカッコイイ人ってどこか危なそうでヤンキーくさかったよね?」
なつみ「なっちの地元にもいたよ、そういう人いっぱい」
みちよ「今じゃ、ヤンキーなんて化石みたいなもんやからなぁ」
圭 「ってことはみっちゃんも?」
みちよ「アホいえ。ウチはまだまだ化石はおろか現役バリバリの……」
なつみ「イヤ、現実では……」
みちよ「(シクシク)」
>本庄さん
なつみ「普段ヘタレな人ほど怖いってさ、圭ちゃん」
圭 「なんでアタシなのよ?」
みちよ「そやなぁ。圭ちゃんはこう見えてかなりのヘタレさんやし」
圭 「貴方以上のヘタレはいないわよ」
なつみ「でもホントのところみっちゃんて強いの?」
みちよ「おおっ!! こう見えても腕っ節だけは……」
−圭ちゃん、みっちゃんの腕にこっそりと針を刺す−
みちよ「痛っ!! いったぁ〜、うわっ、血、出てるっ!! ひぃ〜、血がぁ〜」
圭 「……」
なつみ「みっちゃんてよくわかんない」
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/08(日) 17:50
-
Hide this story.
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/08(日) 17:52
-
Hide this story again.
- 244 名前:本庄 投稿日:2005/05/09(月) 20:53
- ・・・本当みっちゃんてよくわかんな〜い。
外伝ではあんなにかっけ〜のに・・・(T▽T)
この後どういう経緯をえてあのような穏やか(?)な生活を送れるようになるのかな??
ん〜気になります。
本編共々マタ〜リお待ちしています。
- 245 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 04:12
- みっちゃん死なないでー
死なないけど心配
- 246 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/24(金) 00:11
- みっちゃんて結構ハードな人生送ってたんですね〜。
続き待ってます。
- 247 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/24(金) 00:14
-
- 248 名前:ご報告 投稿日:2005/07/02(土) 22:14
-
長らくお待たせ致しました……
と言っても、まだ少々再開まで時間が掛かるかもしれません。
なので、とりあえずもう一つの方で“やすなち+愛ちゃん”の
小話(?)を始めたんで良かったらどうぞ。
ちなみに何処にあるかは前出の暗号を解いてください。
- 249 名前:お返事 投稿日:2005/07/02(土) 22:15
-
>本庄さん
圭 「建前と本音があるように己の中に二人の自分がいるってことね」
なつみ「でもみっちゃんて意外性に富んだ人生送ってるんだね」
みちよ「一度きりの人生なんやから楽しまな損やんか」
圭 「その結果がごとぉに弱いヘタレか」
みちよ「うっさい」
なつみ「まあ、みっちゃんらしい人生で良かったんでないかい?」
みちよ「……覚えとれよ、いつかギャフンと言わしたるからな」
>名無し飼育さん
みちよ「そう簡単にくたばってたまるかい」
なつみ「じゃあみっちゃんは一生おバカさんのままだね」
圭 「そっ。バカは死ななきゃ治らないって言うし」
みちよ「その辺でやめとけよ、お前ら」
なつみ「おおっ!! みっちゃんが怒ったべさ」
圭 「……かかって来い」
みちよ(……こ、怖っ)
>名無し飼育さん
なつみ「みっちゃんにはハードな人生が良く似合ってるよね」
圭 「それが運命(さだめ)っていうやつなんでしょうよ」
なつみ「じゃあこの後の運命はどうなるの?」
圭 「……ごとぉに弄ばれ、辻に扱使われるだけ」
なつみ「じゃあ、なっちは?」
圭 「……受験失敗で、二浪決定」
なつみ「ひ、酷いべさ(泣)」
- 250 名前:ご報告 投稿日:2005/08/08(月) 08:22
-
スレッド整理が近いとの事なので一応、ご報告。
今月末までには、更新したいと思ってまふ。
- 251 名前:本庄 投稿日:2005/08/10(水) 23:17
- お久しぶりです。
夏真っ盛りなのになぜか夏休みは9月以降じゃないともらえない本庄です。
下っ端は悲しいですなぁ・・・。・゚・(ノД`)・゚・。
ご報告ありがとうございまふ。
また圭ちゃん達に会える日を楽しみに仕事がんがりやす!
- 252 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:37
-
『甘い貴方のBirthday』
- 253 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:38
- とある地方コンサートを終えた翌日、東京へ帰る新幹線の中で、
隣りに座る23歳のなっちゃんから変なお誘いを受けた。
「今年のなっちの誕生日さ、何もいらないよ」
「へ? プレゼントいらないの?」
「うん。あ、でもね、その代わりに一日空けといてくれないかい?」
「10日? 今の所、スケジュールは空いてるからいいけど……」
「じゃあ決まりだね。へへっ、楽しくなるな〜」
アタシはこの不可解なお誘いに、断ることも出来ずに了承してしまった。
普通、祝ってあげる側の台詞であろうことを、祝ってもらう側から申し入れてきたこの珍事。
まあ、普段からちょっとおかしな事を言うなっちゃんだから、今回もその延長かな、と思うことにした。
でも、その考えが甘かった……
ホントに“甘”かった。
- 254 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:40
-
8月9日、午後10時。
アタシは仕事を終えて、なっちゃん宅にお邪魔している。
この日は丁度、一緒に仕事だったから、結果的に2日間なっちゃんと過ごす事になった。
なっちゃん曰く、「1日も2日もたいして変わんないよ」とのこと。
間違いではないけど、でも、どっちみち、明日1日の大半は寝て過ごす事になると思う。
なにせ、娘。時代から“遅刻魔”の異名を取った彼女。
そんななっちゃんが休日に早く起きる事など不可能だから。
そんなこんなであっという間に、12時を過ぎ、日付も正式に8月10日になった。
するとどうした事だろう、さっきまでごく普通に接していたなっちゃんが見事に甘え始めた。
しかも、今日付けで24になった大人とは思えないほど、子供っぽく。
時にはまだ生まれたばかりの乳飲み子のように、縋りつく仕草まで沿えて。
「ねえ、圭ちゃん。隣り、行ってもいい?」
「隣り? 別に構わないけど」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「でもなんでそんな事に断り入れるわけ? いつもなら何にも言わなくても近寄ってくるじゃん」
「いいの、今日は特別」
確かに、隣りに来てぴったり座ることなんて、ずっと前から幾度となく有ったこと。
でも、2人っきりで、しかもプライベートな空間でこうやって密接したのは今日が初めて。
なんだか、いつもと勝手が違って、何処となく緊張してしまう。
それと同時に、いつの間にか大人びた身体つきになったなっちゃんにドキッとさせられてしまう。
夏だし部屋着なもんだから、かなり開放的な服装でして、胸元がね……。
今日のアタシは少し変なのだろうか?
- 255 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:41
-
そんな困惑するアタシを他所に、あろう事か、なっちゃんは隣りに来ただけでなく、腕を絡ませてもきた。
そして自分の胸を押しつけるように、アタシの腕を愛情たっぷりに抱きしめていく。
これじゃあ、まるで未来の彼氏にでも甘えているかのような激甘えっ振りだ。
その証拠に、はっきりとは見えないけど、伸びた髪の隙間から見え隠れする顔色は赤い。
この赤さはけっして、さっきチョビッと飲んだワインのせいじゃない。
「あのさ、何でそんなに顔赤くなってんの?」
「……いいのっ」
「??? 変なの」
益々以って、なっちゃんが何をしたいのか解らない。
本来ならば今日のアタシは、なっちゃんを祝ってあげなくちゃならない立場なのに、何故か御持て成しを受けている。
しかも、男の人から見たら極上ともいえるシチュエーションで以って。
ひょっとしたら、なっちゃんはアタシの事、男だと思ってんのかしら?
そりゃあ、名前は圭なんて男っぽいし、お酒好きだし、胡座もかくけど……。
アタシは迷った。
ひょっとしてなっちゃんはアタシに、彼氏になれといっているのではないか、と。
彼氏、かぁ……自慢じゃないけど、何気に言うアタシの一言は、結構相手の胸を居抜くほどカッコイイらしい。
だから、歳下の娘たちの中には、アタシが男だったら彼氏にしたいという意見が多いとか。
そう情報をリークしてくれた同期のちっこいのも、そう思ったそうだ。
まあ、仮にアタシが男だったら、なっちゃんも矢口も彼女にするには“上玉”で間違いないけど……。
……よくわからん。
- 256 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:43
-
片腕を占領されたアタシはこれといってやることもない。
そんなアタシを見兼ねたのか、なっちゃんが再び甘えてきた。
動く度に、柔らかい感触が皮膚を通じて伝わってくる……気持ちイイかも。
「圭ちゃん」
「ん?」
「チュウ、しよ」
「え゛っ!?」
「キス、嫌い?」
「いや、嫌いとかそういう問題じゃなくて……」
「じゃあ…」
そう言って状況がまだ把握できていないアタシの唇をあっさりと奪うなっちゃん。
時間にして十秒ぐらいは重なってた間がある。
アタシが空いた方の手を唇へ添えると、ちょっとだけ温かった。
その仕草にキスした張本人が何故か真っ赤になってた。
オイオイ、その態度は貴方が取る態度じゃないでしょうに……。
「圭ちゃん」
「はい」
「圭ちゃんとのチュウは、レモンの味だね」
「!!!」
こ、この娘はなんという萌えな事を……違う!!
なんつー事をシレッと言うんだろうか!?
そんな事言うもんだから、自分が言ったみたいで顔、真っ赤になっちゃったじゃんか。
なっちゃんのバカ。
「アレ? 圭ちゃん、顔赤いよ?」
「そ、そりゃアンタが……」
「なっちがなにぃ?」
「……」
「へへっ、相変わらずそっち方面は苦手なんだね」
「……悪かったね、得意じゃなくて」
「でも、そういう所が圭ちゃんらしくて、なっちは好きだよっ♪」
そう言って照れ隠しにアタシの腕にきつく抱きしめるなっちゃん。
もうなっちゃんの一言一言が甘くて、息が続かなくなりそうだった。
- 257 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:44
-
なっちゃんに寄り添われて1時間ほどした頃、なっちゃんはようやく腕を解放してくれた。
その間も取り立ててすることなどなかったけど、でもなっちゃんにしたら幸せな時間だったようだ。
ちょっと子供っぽく「へへっ」と顔を赤くしながら笑っていたから。
アタシ的には正直、無意味な時間を過ごしたと思っているのだが……。
一応、今宵は泊まる事になっているので、お風呂を借りた。
「一緒に入ろうよ」とか言われるかとも思ったけど、自分ちのお風呂の広さがわかっていたようで、
何も言わずに着替えとか用意してくれてたみたいだった。
続いてなっちゃんがお風呂に向かい、その間アタシは、今日一日を振り返る。
はっきりいって、今日1日は「丸ごとなっち」な日だった。
それしか思い浮かばないし、それ意外何も浮かばなかった。
今思えば今日一日中ずっと傍にはなっちゃんがいた気がする。
お昼の時も、休憩時間も、移動時間も、だ。(流石にトイレの時は離れたけど)
でも……たまにはこういう日もあっていいか。
アレ、アタシなんか変なこと言ってない?
「どうしたの? ムズかしい顔して」
「え? あ、いや、なんでもない」
「??? 変なの」
(イヤイヤ、変なのは貴方ですって)
心の中でそっと、突っ込んでおいた。
お風呂から上がってちょっくら火照り顔のなっちゃんは微笑みながらアタシの正面に立った。
ん〜、お風呂上りの女性は化粧をしている時よりも、綺麗に見えるもんだなぁ、と年甲斐もない事を考えてしまった。
……アタシャ40過ぎのオッサンか!?
そんな「一人脳内ノリ突込み」をするアタシに、なっちゃんはとんでもないことを口走った。
- 258 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:46
-
「圭ちゃん、今夜一緒に寝よ」
「へ?」
「一緒に寝ようよ、っていうか寝たいなぁ」
「一緒って……同じ布団にっ、てことですか?」
「そうだよ、圭ちゃんの温もりを感じながら寝たいな、ダメ?」
……半ば犯罪に近いようななっちゃんのお誘いにアタシが逆らう事なんて出来ないわけで……。
娘。に在籍していた頃から実に○年振りに、正確に言えば、同じ布団に寝るなどというのは、
アタシが生きてきた中でなかったわけで、つまりは初体験になる……。
いいんでしょうかね、こんなうら若き乙女が同じ布団で肩を並べて寝るっていうのは。
いくら同性とはいえ、その……ねぇ。(ポッ)
アタシの心配を他所に、なっちゃんは更に要求してきた。
「欲を言えばね、圭ちゃんの腕枕で寝てみたいなぁ」
「う、腕枕……ですか?」
「無理かな? 無理だったら、せめて手ぐらい繋いで寝たいな」
「いや、あの、無理、と言うわけじゃ……」
「へへ、やった」
かくしてアタシはなっちゃんに腕枕をして寝る事になってしまった。
ホントに今日のなっちゃんはどうしてしまったんだろう。
これじゃアタシ、完璧に「安倍なつみの彼氏」ですよね?
一応、未来の旦那様に謝っとこ、ゴメンナサイ。
- 259 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:48
-
ふと、視線が交わる。
ジッと上目遣いでアタシを見つめてくるなっちゃん。
なにやら目でモノを訴えているらしいけど、生憎アタシにはそれが何だかわからなかった。
こういう時、彼氏とか旦那さんだったら、いとも簡単にわかるもんなんだろうなぁ。
以心伝心っていうのかな、ちょっと羨ましいかも。
……おっとっと、今はそんな事思ってる場合じゃなかったっけ。
「な、なに?」
「圭ちゃんさ」
「はい」
「……」
「??? なによ、人の目ジッと見つめて」
「……やっぱりいいや、なんでもないっ」
「ちょっと、そこまで言っときながら止めるのは卑怯じゃない?」
「だって圭ちゃん、今日一日中なっちといたのに、アイコンタクトができてないんだもん」
「そう言われてましても……」
「明日までの宿題。ちゃんとやっておくように、お休みっ」
「はあ? ちょっと、なっ……」
そう言ってアタシに寄り添う恰好で寝入ってしまったなっちゃん。
当然こんな状態で寝れるわけもなく、アタシは傍で寝入るなっちゃんの寝顔をその後3時間ほど見守る形になった。
寝なきゃと思うと、なっちゃんが近くにいて寝れず、それでも寝たいと願うと今度はなっちゃんの寝言にノックアウトされ……。
これを723回程繰り返した頃に、アタシの脳は休む事ができた。
ちなみに、なっちゃんの寝言はとてもじゃないけど、電波に載せることなんか出来ないものだった。
とは言っても、エッチな事じゃなくて、今日の延長というか、とにかく甘かったとだけ言っておこう。
明日の朝がちょっぴり怖いと思った。
- 260 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:50
-
翌朝。
鼻先を擽られる感触に目が覚めた。
薄目を開けると、アタシより早めに起きたであろうなっちゃんが悪戯っ子に変身。
可愛らしい指先とアタシの髪の毛でちょっかいを出していたらしい。
視線がぶつかると、あのスマイルで以って「おはよう」の挨拶。
一瞬だけ、アタシの中で時間が止まったのは気のせい?
朝からこの檄甘な遣り取りが夢ではないかどうか、頬を引っ張ってみる。
勿論自分のは痛いので目の前にある摘み甲斐のありそうな頬で。
「い、痛いよ〜、圭ちゃん」
「……現実、か」
「??? それよりさ、朝ご飯できたから食べよ」
「え、そんなに早く起きてたの?」
「ちがうよ。昨日のうちに下拵えしといたの」
「でも、アタシ朝、あんま食べられないんだけど……」
「朝ご飯食べないと身体に良くないんだよ。それにもう二人分作っちゃったし」
アタシの手を引っ張って無理から起こすなっちゃん。
本当の彼氏ならばここでなっちゃんを引っ張り返して、んでもって「きゃっ」なんて言って倒れ込む
なっちゃんをギュッと抱きしめてから、2度寝に……。
でも生憎アタシは、そんな行動するだけで鳥肌が立ってしまう性格だから、やってあげない。
自分ですらそんなことやったこともないのに、なんでアタシがそんなことしなきゃならんのだ。
と、思ってたら急になっちゃんが不服そうな表情に。
「なに?」
「……こういう時は、引っ張り返してなっちが倒れ込むところを抱きとめたりするんだよ?」
「え゛っ!?」
「もおっ、圭ちゃんのバカっ」
膨れっ面のまま寝室を出ていったなっちゃん。
まさか思ってたことがそっくりそのままなっちゃんの口から出てくるとは!!
これこそ以心伝心ていうやつですか??
となるとアタシとなっちゃんはもう100%恋人関係なんですか!?
と、考えるよりも今はなっちゃんのご機嫌を取らなければ。
アタシは急いで着替えてリビングへ向かった。
- 261 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:51
-
2人で何処となく気まずい朝食を摂る。
アタシが推測するに、あの時アタシがなっちゃんを抱きとめていたら、
この食事ではたぶん、「圭ちゃん、あ〜んしてぇ」なんてことを言ってただろう。
んでもって、今度はお返しにアタシがなっちゃんに「はい、あ〜ん」とかしたはず。
それが無くなったことにホッとすると同時に、なっちゃんには悪い事したかな、とも思う。
なにせ、今日はなっちゃんの誕生日だし、少しぐらいなっちゃんの我侭(?)に付き合ってあげなくてはならないのだから。
長い付き合いのせいか、なっちゃんは一度臍を曲げると中々元に戻ってくれない。
そういうときは……放っておくのに限る!
これも長年の付き合いから導かれた対処法の一つだった。
けれども、食事を終えた時、食器を片付けているなっちゃんから
「食べさせてもらいたかったなぁ……ちぇっ」
という悲嘆する声が漏れれていたことは、聞かなかったことにしておこう。
何事もなく朝食を摂り終えてから、しばらくはすることなく、近くにおいてあった雑誌なんぞを読んで暇を潰す。
女性雑誌らしく、美容と健康、ファッション中心の記事が多く思わず見入ってしまった。
最近さ、ちょっとお肌荒れ気味で、且つちょっと横っ腹がね……。
そんなアタシのそばで構って欲しかったのか、それともなにか言い難い事でもあるのか、
なっちゃんが妙に恥かしげな表情で以って訊ねてきた。
どうやら今朝の事は彼女の中で既に水に流してくれたようだ。
「どうしたの?」
「え、あ、うん、あのね、圭ちゃんはさ、膝枕とか、した事ある?」
「膝枕? ああ、一回だけ、プッチのPV撮影の合間にごとーにした事があるけど……」
「いいなぁ……なっちもしてもらいたいな……」
「へっ?」
「ダメ?」
「いや、ダメって事はないけど、でもなんでまた急に?」
「……なんとなく、気持ち良さそうだから、かな」
ここで拒否すれば、また臍を曲げられるのが目に見えている。
それに今日は……もう自分に言い聞かせるのにも飽きてきた。
なので、こうなったらなんでもやらせてあげる事にした。
性別は♀だけど心は♂、保田圭。
人肌脱がせていただきます……って誰に言ってんだろ?
- 262 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:53
-
「はい、どうぞ」
「へへっ、お邪魔しま〜す(ムニュ)」
「あんまり寝心地良くないと思うけど」
「ホントに寝るわけじゃないからいいんだよ」
そう言って微笑むなっちゃん。
昨夜からの一連の行動を見る限り、はっきりと判った。
アタシはなっちゃんの彼氏で、なっちゃんは普通の恋人みたいに甘えてみたいんだって。
こんな仕事してたら、そりゃあ出会いなんてね、たかが知れてるし。
特に人一倍淋しがり屋で、他人の愛情あってココまで育ってきたような人だから。
娘。にいた頃はアタシじゃなくても、良く行動を共にしていた矢口だったり、腐れ縁なカオリだったり、
一緒にバカやってたよっすぃ〜や辻加護だったりと、必ず誰かしら傍にいた。
でも、ソロになって居るべき人が居ない環境がものすごく不安だったんだろう。
現に、今じゃこっちから誘うと、どこにでも嬉々としてついてくるようになったし。
そしてなっちゃんはこの2日間で人の温もりっていうのを再確認したかったんだと思う。
そしてその相手は、自分よりも年上で且つ、自分の事を良く知っている者に限る。
とくれば、アタシ以外には裕ちゃんしかいないわけで、でも裕ちゃんじゃ
甘えると喰われる(?)と判っているから、必然的にアタシとなったんだろう。
なっちゃんらしい答えの出し方にちょっと可笑しさがこみ上げてきそうだった。
「ん? なに笑ってんの?」
「ちょっとね」
「変なの」
アタシの膝にちょこんと頭を乗せて『おいら』を読むなっちゃん。
甘えているのはアタシなくせに、矢口の本を読んでるなっちゃんの変わった感性に何故かちょっとだけ、幸せを感じた。
仮にアタシが何かしらの自伝を出版してたら、その本を読んでくれたのだろうか?
ホントの彼氏なら、ここは嫉妬かヤキモチを焼くところなんだけど、仮想の彼氏だからそこまでしなくてもいいだろう。
仮になんか文句言ったら、余計ドツボに嵌りそうな気がするし。
- 263 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:57
-
心地良い風と夏の象徴である蝉の声を聞きながら、読書し出してから3時間。
そろそろお昼という頃に、なっちゃんは『おいら』を読み終えたらしく、ムクッと起き上がる。
そして時計とお財布とを睨めっこし、最後にアタシを見つめる。
その仕草がなんとなくハムスターを連想させ、ちょっと可愛く見えた。
そして、一連の行動を見て何をしたいか判った。
「お腹空いたんでしょ?」
「うん。じゃあさ、お買い物に行こうよ」
「いいよ」
「へへっ、はいっ」
「??? この差し出された手は?」
「手、繋ご。いいっしょ?」
「……ま、まあ、いいけど」
こんな些細なところまで甘えてくるとは、24になったなっちゃん=大人は難しいなと思った。
でも、それがなっちゃんのなっちゃんたる所以かな、とも思う。
大人のようでまだ子供、その二面性を時と場合によって使い分ける女性、それがアタシの中の「安倍なつみ」像だ。
まあ、アタシの周りにいる奴らはほとんどがそうなのかもしれないけど。
ごとーとか加護とかね。
真昼の商店街を2人仲良くお散歩。
端から見たら、友達同士が仲良さそうに見えるかもしれないが、なっちゃんの中では多分違うだろう。
まあ、それはそれでいいんだけどさ。(っていうか諦め入ってます)
手を繋いで買い物に来たけれど、あまりにも熱かったから外でそのまま昼食を摂った。
この時は流石に「あ〜んしてぇ」はなかったけど、もしも家で昼食を摂っていたら、と思うと……。
冷房が効いた店内がものすごく寒く感じた。
「どーしたの? 寒い?」
「い、いや、別に……」
「もし風邪ひいたら、なっちが看病してあげるよ」
昨日今日の展開を考えると、それは遠慮したい気分だった。
流石に自分の家であのムードはね、ちょっと……。
- 264 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:58
-
帰り掛けにアイスを買って、部屋に戻るとアタシはちょっとキザな事をしてみた。
今日限りの限定彼氏なんだから、少しぐらいは彼氏らしい事もしてやらないとね。
ま、自分がしてもらいたい事をあくまでも違う立場でやるだけど。
一応なっちゃんの誕生日だし、色々お世話になったお礼も兼ねて頑張ってみた。
「なっちゃん」
「ん? なんだい?」
「アタシに背を向けてまま、ここに座って」
「??? こ、こう?」
「よくできました」
「ひゃあっ!!」
アタシのとった行動にいつもどおりに驚くなっちゃん。
なっちゃんを股の間に座らせて、後ろからそっと抱きしめてあげる。
両腕を腰に回して、頭をなっちゃんの首根っこに寄せて、もうこれ以上ないほどの甘々抱擁。
最後の最後にアタシからのプレゼント。
やっぱりさ、誕生日には祝ってあげたいじゃん。
「……誕生日、オメデト」
「ありがとう、圭ちゃん」
……やられた。
振り向き様になっちゃんから熱い口付けを頂いちゃいました。
アタシには、キザな事は向いてないみたい。
こうして、なっちゃんの24回目のバースディは幸せに過ぎてった。
- 265 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 21:58
-
〜fine〜
- 266 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 22:00
-
****** おまけ ******
後日、久し振りに娘。とその卒業生たちと顔を合わせた途端、こぞってアタシに大波が押し寄せてきた。
どうやら、なっちゃんがこの間の事を洗いざらいに喋ってしまったらしい。
その話を聞いた輩たちが次々とアタシに誕生日を教えてくる。
「圭ちゃん、オイラは1月20日だから、覚えといてね」(矢口)
「私はその前日ですよ〜、でも矢口さんと一緒はイヤですから」(石川)
「なんでだよ!! オイラだってアゴンと一緒なんて真っ平ゴメンだから!!」(矢口)
アタシはむしろアンタたち一緒の方が都合がイイんだけど。
手間が省けて、出費も多少は抑えられるし……。
っていうか、アンタ等には散々祝ってやったろーが!!
「オバチャン、ウチは遠いけど2月の7日やで」(加護)
「美貴は26日です。保田さんを信じて待ってますから」(藤本)
「あいぼんもミキティも半年後じゃん。オバちゃんのことだから忘れられてるよ」(辻)
あ〜あ〜、可哀相に辻、加護に首締められて、藤本の啖呵にビビッちゃってるよ。
最近、加護はガタイが良くなったから、あのヘッドロックはしんどそう……。
ご愁傷様。(チィ〜ンッ)
- 267 名前:Tea Break 〜なっちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/09/16(金) 22:01
-
「圭ちゃん、カオリは1週間なら待つよ」(飯田)
「保田さん、私は有効期限が半年ほどですので、まだまだ大丈夫です!」(紺野)
「圭ちゃん、俺なんか今年中ならOK牧場だから」(吉澤)
「けぇぼぉ〜、ウチは万年誕生日や〜、いつでもええで〜」(中澤)
「「ふざけんなっ!!」」(飯田、吉澤&紺野)
ゴメンね、誕生日過ぎちゃった人は対象外って事で。
っていうか、アンタたちにはちゃんと祝ってやったろーが。
特にカオリには一昨日、朝まで付き合ってちゃんと介抱してやったじゃん。
「けーちゃん、来月の23日、絶対空けといて〜、ごとーも空けとくからぁ〜」(後藤)
「あっしは14日です。忘れないで下さい」(高橋)
「私は10月の29日です。待ってますから!!」(小川)
「マコっちゃんはまだまだ先じゃん」(新垣)
新垣の言う通り、2ヶ月も先じゃんか。
アンタを祝う前に破産しそうだから、諦めてね……。
でも、ごとーと高橋はこれからだし、祝ってやってもイイかな。
但し、アタシがちゃんと覚えてたら、だけどね。
〜 To be continued for the next stage 〜
- 268 名前:編集後記(言い訳) 投稿日:2005/09/16(金) 22:04
-
……ホント申し訳ないです。
筆が進まない……しかも聖誕祭って言いつつ、1ヶ月も経ってるし。
なんとか言葉を見つけて、続き(外伝)を書きたいと思ってまふ。
ご迷惑お掛けしてスイマセンでひた。
- 269 名前:お返事 投稿日:2005/09/16(金) 22:09
-
>本庄さん
なつみ「いやぁ〜、久々っしょ、ココに顔出すのも」
圭 「こんな長い時間留守にしててもレスをくれた
本庄さんに感謝、カンシャです」
なつみ「だから、今日は圭ちゃんから本庄さんにチュウを」
圭 「え゛っ!?」
なつみ「ホラ、早くはやくぅ〜」
圭 「……チュッ」
なつみ(……後でなっちもしてもらおっと)
圭 「……本庄さんもガンバって(真っ赤っか)」
- 270 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/16(金) 22:09
-
Hide this story.
- 271 名前:Tea Break 〜圭ちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/12/11(日) 17:53
-
『ごく普通の休日に……』
- 272 名前:Tea Break 〜圭ちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/12/11(日) 17:55
-
午後4時過ぎ、某駅の陸橋を登ると、そこには珍しく(?)早く着いた待ち人が行き交う列車を眺めていた。
ちょっと大き目のコートを羽織って、ロングブーツを履いてる割には、膝の辺りはものすごく寒そう。
こうしてみると、ようやく見た目的に大人の仲間入りをしたって感じ。
十代の頃はホント○モくさかったのに……。
それくらい今日の待ち人は、お洒落だった。
ゆっくりと待ち人に近づくと、気配を読んだ待ち人はクルッと首を90度横に捻った。
「あっ」
「ごめん、待った?」
「全然」
そう言ったきり黙ってしまう待ち人。
ちなみに待ち人の名前は安倍なつみという。
アタシの中で昔っからのお気に入りの娘だ。
「どーしたの?」
「あのね、この前ヘンなこと言っちゃったから、来てくれないかと思って……」
「んなわけないじゃん。それに気にしてないから」
「ホント?」
「気にしてたら今日此処に来てないって」
「よかった」
そう言って微笑む顔は昔っから何も変わっていない。
この変わらない笑顔がアタシは大好きだ。
でも、そんな笑顔も束の間に、なっちゃんはちょっとご立腹に。
「もぉ、圭ちゃんが遅いから、身体冷えちゃったじゃん」
「ごめんごめん」
「どっかでお茶しよ」
「いいよ」
「勿論、圭ちゃんのおごりでね」
「なんでよ?」
「遅刻した圭ちゃんが悪いから」
「ったく、たまに早く着たらこれだもん。はいはい」
自分のことを棚に挙げてこういう事を言うのが昔っからの手だ。
ホント可愛い子って得だよ。
歩き出すと、なっちゃんは必ず人と手を繋ぎたがるらしい。
例外に漏れることなく、アタシの手も握ってくる。
アタシよりも手が冷たいのをみると、かなりの間待ち合わせ場所に居たようだ。
今日だけは遅刻したことを申し訳なく思った。
あくまでも今日だけは……。
- 273 名前:Tea Break 〜圭ちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/12/11(日) 17:58
-
なっちゃんの提案で、カフェにてお茶する。
寒い寒いと言いながらもなっちゃんが選んだ場所は、オープンテラスのカフェ。
こうした矛盾に気付いていない点は、やはり昔のままだ。
両手でカップ持って、満ち行く人を眺めてるなっちゃんを観察。
こうしてみると随分と大人っぽくなったな〜、とつくづく思う。
人の目を意識したお洒落ができるようになった、と言うことであって、身体つきがという意味じゃないわよ。
身体つきはまだまだ子ど……オッホン!
ヘンなこと考えてたら、またまたご立腹気味のなっちゃん。
「なに?」
「どこ見てたの?」
「え、いや、なっちゃんを……」
「もぉ〜、何で見るの? 照れるじゃん」
「またまたぁ、ホントは嬉しいくせに」
「……バカっ」
「顔、赤いけど?」
「こ、これは寒いからっ」
「隠さなくてもいいのに」
「隠すも何も照れてないもん」
自分で照れてないという度に顔に赤みが増してくなっちゃん。
顔がちょっと赤いのは決して寒さのせいでも、飲んでる紅茶のせいじゃない。
やっぱテレてんじゃん。
- 274 名前:Tea Break 〜圭ちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/12/11(日) 17:59
-
午後6時半過ぎ、二人仲良く買い物袋背負って帰宅。
今宵はなっちゃん宅にご宿泊。
なっちゃんは早速、買い込んできた食材で本日の夕食作りに入り、アタシはお風呂の準備を任される。
とはいえ、この程度ならば数分もあれば済んでしまうわけで、結構暇を持て余してしまう。
いつもならば、夕食までの時間にPCを借りて定期的に通っているサイトに顔を出したりしているのだけども、
今宵はちょっとそんな気分じゃない。
いつもなら立ち入らないキッチンへと足を運んでいた。
「ん? なんだい?」
「イヤ……なんとなく……」
「もうちょっと待っててね。後これを煮込むだけだから」
「……そう」
どこにでもあるようなエプロンを掛けて、菜箸片手に盛り付けをしているなっちゃんを見ていたら、
なんだか急に恋しくなってしまった。
そっとなっちゃんの背後に回り、後ろからゆっくりと包み込むように彼女の腰に手を回す。
首筋辺りに顔を寄せ置くおまけ付で。
「ちょ、け、圭ちゃん? どうしたの?」
「ん……なんとなく、こうしてみた」
「もぉ……圭ちゃんのなんとなくはいっつも唐突なんだからぁ」
「温かい、や」
「それはそうだよ、火とか使ってるんだもん」
「そういうことじゃなくて、雰囲気とか、気持ち的にね、温かいの」
思ったままのことをそのまま声に乗せてみたら、なっちゃんはちょっとだけ頬を赤くしてくれた。
ストレートな想いにこうやって素直に反応を返してくれるなっちゃんがアタシは好きだ。
さっきは人が周りに居たからあんなこと言ってたんだと思う。
って言うか、このシチュエーションでこんなこと言えば、誰だってこうなるか。
「……いつまでこうしてるの? もうそろそろ出来上がるよ?」
「いつまでもこうしてたい、って言うのが本音だけど、そうさせてくれないみたい」
「へ?」
スットンキョな声を発しながらクルッと向きを変えたなっちゃん。
それと同時に聞こえてしまったアタシの腹の虫。
どうやらアタシのお腹は、本人の意思とは無関係に食を求めているらしい。
「圭ちゃん、お腹鳴ってるじゃん」
「ハハハ……」
最後の詰めが甘いのはなんともアタシらしくて、苦笑いしかできなかった。
- 275 名前:Tea Break 〜圭ちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/12/11(日) 18:02
-
お腹も満たされて、気分的にリラックスできる時間帯。
だけど、これと言ってすることがなくてテレビ画面とぼんやり睨めっこ。
二人、肩並べてグデ〜っとしてるけど、そんな時も手だけは繋いじゃってる。
何気ないことだけど、手から伝わる温もりは物凄く気持ち良い。
そのうち肩の辺りに重みを感じて見れば、スヤスヤと安らかな寝息を立てて寝入るなっちゃん。
しかし、安らかな寝息が徐々に呻き声に変わって、なんだか辛そうな表情に。
せっかく眠っていたのを起こすのは癪かなとも思ったけど、事が事なだけに起こすことに。
「どうしたの?」と聞くや否や、目を開けたなっちゃんは急にアタシに抱きついた。
ハテ?どうしたんでしょうか?
「……ちょっと怖い夢、見ちゃったよぉ……」
そう言って再度キュッと抱きついてきたもんだから、なんとも言えない幸せを感じてしまった。
頭をそっと撫でてあげると、気持ち良さそうに目を瞑った。
「眠いならちゃんとベッドで布団掛けた方がいいよ」
「……まだ眠くないよぉ」
「ならいいけど……」
そうは言うものの、やはり身体は正直らしく、ゆったりと揺れていた。
必死に眠気と戦っている姿は滑稽で、しばらくの間観察してた。
…………。
……。
結論として、なっちゃんは何をしてもアタシのツボに嵌る、だった。
- 276 名前:Tea Break 〜圭ちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/12/11(日) 18:04
-
日付が変わって二人で仲良くベッドへ。
こうして誰かと寄り添って寝るのにもすっかり免疫ができた。
初めの頃は、相部屋だったけれど、個々のベッドに一人で寝てたっけ。
そのうち精神的な弱みを和らげるため、互いに慰めあうように寝てからは当たり前になってった。
用もないのに勝手に人のベッドを占領して寝る奴が多かったなぁ……。
矢口とかごとー、石川なんかと相部屋になると、みんなこぞって人のベッドに入ってくんの。
加護なんか隣り部屋のくせに枕まで持参してくんだよ。
寝る前は別々なのに、朝起きると、真横で気持ち良さそうに寝てるし。
アタシに寄り添って寝るといい夢でも見れんのかしら?
だとしたらアタシだけ損してるじゃん。
「ねえ、一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「アタシに引っ付いて寝るとさ、なんか良い事あるの?」
「ん〜、他の人はどうか知らないけど、なっち的には良い事あるよ」
「なに?」
「圭ちゃんが前々から言ってるように『守ってくれてる』感がヒシヒシと伝わってくることかな」
……なんか聞いたアタシがバカだったかも。
確かに守ってあげたいとは常日頃思ってるけどさ、アタシ自身が寝てちゃあんまり意味がなくない?
それにアタシ、一度寝たら相当なことがない限り起きないし……。
「それって嬉しいこと?」
「あのね、圭ちゃんはね、現実的に考えすぎなんだよ」
「だってねぇ、今の世の中見たら……」
「もっと女の子の内面の気持ちを読み取らないと、モテないよ」
「イヤイヤ、同性からモテてもしょうがないんですけど……」
「多分、みんな圭ちゃんのこと男の人だと思ってるよ。だって性格とか仕草が男の人っぽいし」
「名前も、とか言わなくていいよ」
「あ〜、なっちが言おうとしてたオチ、言っちゃダメだよ〜」
男っぽいねぇ……もしもアタシが男の人だったら、モテたのかしら?
それはそれで嬉しい、かも。
- 277 名前:Tea Break 〜圭ちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/12/11(日) 18:05
-
こうして、久し振りに二人で過ごす休日は幕を閉じてった。
たまにはごく普通の休みもいいもんだ、と思った。
- 278 名前:Tea Break 〜圭ちゃん聖誕SP〜 投稿日:2005/12/11(日) 18:06
-
『ごく普通の休日に……』
〜 fine 〜
- 279 名前:編集後記 投稿日:2005/12/11(日) 18:10
-
5日遅れですが、今年も無事に(?)生誕SPをお届けできまひた。
これからちょくちょくと外伝を進めていき、本編に戻れるように頑張りまふ。
(多分、もう読んでる方なんぞいないと思いますが……)
では今日はこの辺で。
- 280 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/11(日) 18:10
-
Hide this story.
- 281 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/11(日) 18:10
-
Hide this story again.
- 282 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:18
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 283 名前:本庄 投稿日:2005/12/13(火) 00:34
- お久しぶりですぅぅぅぅ!!何とか生きています本庄です。
最近本っ当に忙しくてなっちの誕生日も顔出せませんですた…。
ごめんよほ〜なっち。なちヲタ失格っす。
でも圭ちゃん聖誕SPに間に合って…るとはいいがたいですが来れてよかった…。
おめでと、圭ちゃん♪これからもなっちをよろしくね♪♪
相変わらずの甘甘っぷり…ご馳走様です。
やさぐれた心にうっぱさんのやすなちは癒されますわぁ…。
これで明日からもがんばれるっす!うっす!
- 284 名前:お返事 投稿日:2006/01/01(日) 17:54
-
>本庄さん
圭 「明けましてオメデトー」
なつみ「(ムスッ)」
圭 「アラ?何で正月早々怒ってんの?」
なつみ「だってなっちの誕生日に来てくれなかったんだもん」
圭 「しょうがないでしょ。本条さんにも事情ってものが……」
なつみ「情事って、圭ちゃんのエッチ!」
圭 「今年こそはなっちゃんを食べ……ってちがぁーう!!
事情だってば、じ・じ・ょ・う!!」
みちよ「とまあ、新春漫才いかがでやったでしょうか」
なつみ「今年も頑張るから読んでね〜」
圭 「本庄さんの期待に応えるわよ」
なつみ「もぉ……(ポッ)」
みちよ(ええなぁ……ウチにもそんな恋人、欲し〜)
- 285 名前:本庄 投稿日:2006/01/29(日) 02:45
- 明けましておめでとうございます!!(遅)
今年もよろしくおねがいしますです。
…てか私大変な事実に気付きますた。
279のレスにて圭ちゃんから接吻のプレゼントぐぁぁぁぁ!!!
こんな素敵なことに気付けないほど追い詰められてたのね自分…。・゚・(ノД`)・゚・。
まさに一生の不覚です!という訳で圭ちゃんもう一回…
なつみ「…………(怒)」
…嘘です。冗談です。ほんのお茶目なジョークです。
てか安倍さん。顔は笑顔なのに目が笑ってないです…(恐)
新年早々あほなレスですみませぬ。
いや、最近時間に余裕が出てきたんで読み返してみたら気付いちゃいまして(^_^;
>圭 「本庄さんの期待に応えるわよ」
大期待して待っておりやす。
- 286 名前:お返事 投稿日:2006/02/01(水) 21:48
-
“音速四皇帝”平家みちよは、年齢の壁を越えた親友、加護亜依を襲った輩を壊滅状態へ陥れた。
だが、みちよが取った行動は所属するチームの公約違反に当り、強制的に除籍処分を受けてしまう。
その結果、みちよは己に歯向かう全てを敵に回し、潰す覚悟を決める。
その意気込みのまま出陣するも、連戦の疲労から単独事故を引き起こしてしまった。
思わぬ負傷を追ったみちよに迫る、ライトの灯り。
みちよに絶体絶命のピンチが……。
- 287 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/01(水) 21:50
-
薄れゆく意識の中、微かな視界でみちよが目にしたのは、見慣れた軽トラックだった。
やや汚れが目立ったピュアホワイト(貴子曰く)ボディーの側面には、
大きな文字で『いなぼ商会』とペイントされた軽トラック。
何故『いなぼ商会』かと言うと、以前に亜依がみちよと共に軽トラの塗装を任された際、
過って(業と?)描いてしまったためである。
以来、『いなば商会』は『いなぼ商会』として世間に認知されてしまった。
そんな輝かしい経緯を持った軽トラが、身動きの出来ないみちよの前で静かに停車する。
そして中から降りてきたのは、これまた馴染みの深い人だった。
「アンタは酔っ払いか、こんなトコで寝てからに」
「あ……貴子さん…? なんでここが?」
「ま、偶然やな。アンタがカッ飛んでってから彼方此方捜しまわっとったんやで」
最後に見た時は寝巻き姿であった恰好も、今は昼間と変わらぬ作業着だ。
相変わらずドカタ姿が似合う人だな、と変なところで感心するみちよ。
これで恥さらさんで済む……やや弱気な声で助けを求めた。
「ちょお、これ、除けてくれません?」
「いやや」
「な、なんで!? あつぅ!」
意地悪そうにみちよの単車に足をかけて、揺さぶる貴子。
その姿はさながら現役時の時と変わらぬ凶悪性を秘めていた。
人が数年で変われるものではないようだ。
(元々Sっ気のせいもあるのだが……)
- 288 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/01(水) 21:51
-
「ちっとは反省しいや、アンタの無謀なやり方がウチにも迷惑掛かるんやで」
「……すんません、ホンマ」
「何度、アンタが脱走した病院から電話が掛かってきたことか。
あの看護師さん、メッチャ怒っとったで。なんでウチが怒られなアカンねん」
「……面目無いっす」
「観念しいや。しばらくベッドの上でじっとしとけ」
「いや、あの、それはもうちょっと後で……」
「やかましいんじゃ、コラっ!!」
「グハッ!!」
些細な抵抗を見せたみちよに対し、容赦無しの貴子。
その証拠に、未だに愛車を抱き抱えた状態のみちよを圧迫すべく、CBXに蹴りを入れた。
当然、単車分の重みがみちよに圧し掛かり、息をも出来ぬほどの痛みがみちよを襲う。
「ええ加減にせぇ、ダボォ! このまま身体がミンチになるまで引きずり回したろか! オオッ!?」
現役時代を彷彿させるほどの啖呵が闇夜に響く。
いや、今の貴子はあの頃よりも更に凄みを増していた。
が、それは当のみちよに届くわけもなく、虚しく木霊するだけだった。
先ほどの一撃が決定打となったようで、みちよの意識は先に飛んでいたからである。
「……ったく、アンタといい、有紀といい、“HP”の連中は世話やけるで、ホンマに」
一人ブツブツと文句を言いながら、迅速に大きな荷物を二つ、軽トラックに押し込み、病院へ。
- 289 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/01(水) 21:51
-
軽トラで走ること数十分、K県境に差し掛かるところで、貴子は背後から迫って来る
一台のヘッドライトに目を配った。
(なんや、この軽トラに煽りかましとんのか? 何処のガキじゃ、ホンマ)
もし、その単車がHPの輩であるならば、この場で制裁を加えねば気が収まらない貴子。
久し振りに全身の血が滾っているのが自分でも判った。
だが、そんな微かな期待は別の意味でもって昂ぶる結果となる。
貴子の運転する軽トラに近づいた一台の単車は、何かを確認すべく並走を始める。
それを弾き飛ばそうと単車に自車を寄せる貴子。
それが抗戦の合図になったのか、スッと前へと踊り出た単車は、急停車で以って軽トラの進路を塞いだ。
明らかに抗戦目的の煽りに、貴子はフラストレーションを溜め始める。
「……あのガキ、このオバはん捕まえて喧嘩吹っかける気かぁ?って誰がオバはんやねん!」
関西出身者の悲しき性とでも言うべき、一人ノリ突っ込みをしてしまう貴子。
しかし今はそんなことどうでもいいのだ。
今は目の前に現れた、世間知らずのアホを処分しなくてはならない。
昔とった杵柄、貴子は軽トラから降り、威勢良く啖呵を切る。
「オウッ! なに人の軽トラの進路止めとんじゃ! 今時流行らんぞ、検問なんざぁ!」
「……なにを一人で熱くなってんだか」
「んじゃと、もういっぺん言ってみぃ!!」
貴子のド迫力ある啖呵に怯むことなく、単車から降りた女性はゆっくりと貴子に近づいていく。
貴子は相変わらずの威圧感でもってそれを迎え撃つ。
- 290 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/01(水) 21:52
-
二人が数センチの所で対峙すると、貴子はようやく女性が誰かを悟った。
走り屋の中ではみちよ、有紀と同様に、いや、それ以上に危険視されている存在――保田圭。
現役を退いた貴子でさえ、圭の存在は影響力を持っていた。
「オマエ……保田やな、いつこっちの世界に戻って……」
「アンタとそんな昔話をしてる暇はない」
「……ヤル気か?」
一人威勢の良い貴子を余所に、圭は冷静に事を運ぼうとする。
しかし、圭の目は決して友好的なそれではない。
貴子が熱くなるのも仕方が無いことなのだろう。
「伝言がある」
「あぁ? 伝言やと?」
「軽トラに平家乗ってんでしょ。アイツをK県立総合病院に早く連れてきな」
「それを邪魔しとんのはオマエやろ?」
「加護が危篤状態に陥ってる。そう言えば嫌でも判る」
「なんやと?」
「それからもう一つ」
そう言いながら圭は、再び愛機に跨る。
みちよとは違った紅い炎が圭の背後に浮かび上がっているのを貴子は感じていた。
それは明らかに、戦闘モードに入っている証拠であった。
- 291 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/01(水) 21:53
-
「もしどっかで“HP”の連中に遭ったら言っときな、平家のタマはアタシが貰ったってな」
「どういうことや?」
「アンタが出てきたお陰でスムーズに事が運べるよ」
「……オマエ、何企んどんのや?」
「“HP”の敵はアタシだけってことよ」
「オマエ、まさか!?」
「……アイツには貸しがあったから、そいつを返す時が来ただけだよ」
不敵な笑みを貴子に見せた圭は、決死の覚悟で戦場へと戻っていく。
どこか哀しげで、それでいて心地良いアクセルミュージックを響かせながら……。
「なに友情ごっこかましとんのや。……それに“HP”はそないにヤワなチームやない。
けど……今夜、全てが終わるかも、しれんな……」
修羅場を幾多も潜り抜けてきた元総長の感が、敏感に反応した。
そして、その感は否応でも当たってしまうという脅威の的中率を誇る。
いつしか貴子は両腕に握りこぶしを作って、震えていた。
- 292 名前:ご報告 投稿日:2006/02/01(水) 21:56
-
なつみ「長らくお休みしていた外伝、復活したよ〜」
圭 「今年中には外伝を完結に導いて、早く本編に戻すんで」
なつみ「そうだよ〜、なっちの出番ないじゃん」
圭 「ない方が良いかも(ボソッ)」
なつみ「なんか言ったかい、圭ちゃん?」
圭 「いいえ、な、何も……」
- 293 名前:お返事 投稿日:2006/02/01(水) 21:57
-
>本庄さん
なつみ「……(ムスっ)」
圭 (また怒ってる……こうなるとしばらく手つけられないからなぁ)
なつみ「……(ムゥ〜)」
圭 (……とりあえず、あけオメ、ことヨロで〜す)
なつみ「……(プクゥ〜)」
圭 (今回はこのままフェードアウトしま〜す)
なつみ「……(プンプン)」
圭 (さ○う玉緒さん!? と、とりえあえず、よろしこ!)
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/01(水) 21:58
-
Hide this story.
- 295 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/01(水) 21:58
-
Hide this story again.
- 296 名前:ご報告 投稿日:2006/02/09(木) 21:38
-
スレッド整理が近いようなので……
一応大丈夫だとは思いますが、保全で。
- 297 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/09(木) 23:27
- わあ更新きてたよ超うれしい
頼れるかっこいい人再登場でよかったー
また待つ
- 298 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/19(日) 12:09
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 299 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/19(日) 12:10
-
慌しかった昨夜の喧騒から12時間ほど経った頃、静かな部屋にデジタル音が響く。
部屋の隅で寝ていた携帯が主人よりも先に目を覚まして合図を送る。
それに追随するように主人も重い動作でそれを探り寄せる。
「……はい、どなた?」
『……相変わらず無愛想な返答じゃないの』
「悪かったね。どっかの誰かさんよりは優しいはずだけど」
『大きなお世話』
外部から聞こえてくる金属音やら排気音に眠気が一蹴された。
ようやく重い身体を起こした圭は、カーテンの隙間から外の様子を垣間見る。
外は気持ちの良いくらいに輝いていた。
「で、何の用?」
『どうだったのよ、昨日は?』
「ああ……別に、たいしたことじゃ……」
『そうじゃなくて、アンタの相棒の調子よ』
「なんだ、そっちか」
『当たり前でしょ、別にアンタや平家の事なんかアタシにはどうでも良いの』
「冷たい奴」
『あんだって?』
(……おお、コワっ)
つくづく彩は元ヤンではないかという認識が高まっていく圭。
だが、そんな彩をからかうのが楽しいのも事実。
『とりあえず、一端ウチに持ってきな』
「なんで?」
『詳しく見てやるから。事故起こされちゃたまったもんじゃないし』
「えらく親切じゃん」
『整備不足で事故起こされちゃ、ウチの信用問題にもなりかねないって言ってんの!』
「……了解。夕方頃にでも行く」
通話を終えた圭は、午後からの労働に備え準備に取り掛かる。
今日も慌しい日が始まろうとしていた……。
- 300 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/19(日) 12:14
-
午後八時前、圭は愛車と共に『石黒モータース』へと赴いていた。
従業員は既に帰宅してしまったのか、顔にオイルを付けた彩が一人、黙々と作業している。
圭が敷地内へと入っても気付かないほど一心不乱になにかを鑢で磨いている彩。
あまり工学系には詳しくはないが、1ミリ単位での作業に熱を入れるその姿勢に掛ける言葉もない。
邪魔するほど愚かでないので、圭はしばらくそれを見守ることにした。
が、圭が来たのを待ちわびていたらしく、視線を合わすことなく声を掛けた。
「時間通りに来るとこは相変わらずね」
「遅れたらどうなるかわかったもんじゃないからさ」
「いい心がけだ」
彩が一作業をこなし、立ち上がったのを見計らって、缶コーヒーを投げ渡す。
さらっとそれを受け取る姿は、そこいら辺のイケメンよりも恰好がいい。
缶コーヒー片手にマシンの見た目チェックをしながら圭に問うた。
「それより、久振りに走ってみてどうなのよ?」
「悪くは無いね。ただ、今回はセパハンにしたい」
「了解……ん? フロントがちょっとオカシイね。これじゃ4、50ぐらいでもブレが出んでしょうよ?」
「あんま、気になんなかったけど?」
「アンタが良くてもアタシが気に入らないっつーの。こいつはアタシの中の最高傑作なんだから」
そう言って彩はエンジンに火を入れる。
室内に轟音が響く。
今宵は誰もいないのか、やたら滅多に噴かしては状態を確かめていく彩。
「こっちは大丈夫そうね。タコメーターも踊ってるし、この吹け上がり、文句無し」
「……」
状態をチェックし終えた彩は、無言で紅のタンクを見詰める圭の横に立つ。
「今、何を考えてるか、当ててやろうか?」
- 301 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/19(日) 12:19
-
彩の言葉に押し黙ったまま顔だけを彩へと向けた。
「……今夜、ヤリに行くんでしょ?」
「……さぁ?」
「隠しても無駄。アンタは顔にすぐ出るから」
「全てお見通しって事、ですか……。だから電話してきたのか」
「ケジメ、つける前に無様な姿晒せないでしょうに」
「……そりゃどうも」
旧知の仲、とまではいかないが互いのことはある程度判っている二人。
だから余計な詮索はしないし、干渉もしない。
互いの共通点でのみ繋がっている関係が、二人にとって非常に心地良いのだ。
そう言った意味において、彩もまた一匹狼と言えなくもない。
それほど大掛かりな改良を施すことなく、十五分足らずで作業完了。
仕事が速い上に、圭自身も手伝ったお陰でスムーズに終わった。
新たに生まれ変わったFXは強靭な鋼を纏ったボクサーのようにシャープな様相を見せる。
マシン本来の機能を最大限に生かしつつ、“速さ”を追求した彩独自の理論が注ぎ込まれたFX。
そしてそれを天武の才で駆る者、保田 圭。
彩が密かに捜し求めていた究極がここに誕生した。
「これで負けたら、全部アンタの責任だからね」
皮肉めいた彩の言葉に、圭は一息置いてから、
「負けは……しないさ……」
- 302 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/19(日) 12:22
-
「それと……」
そう言って手を拭きながら、彩は一端奥へと引っ込んでいく。
数分後、彩が戻ってくると同時に手には何やら紅い塊。
彩はそれを圭目掛けて放り投げた。
胸元でキャッチし、広げると……
「これって……」
「アンタがFXと一緒に置いてったおっきなお荷物」
そう言って手渡されたのは、圭が走りの世界から足を洗う前までに着こなしていた紅色の特攻服。
その背には、古代中国のとある故事の刺繍が施されている。
そして……左胸元には、走りの世界で名を馳せた“紅蓮の隼 音速始皇帝”の文字。
それは以前、彩が家業と継ぐ前に通っていた専門学校の課題の一環として作ったもので、
圭が走りの世界から身を引いた際には彩に戻していたものであった。
そんな二度と袖を通すことのない代物が、再び主に戻って甦ろうとしている。
「とっくの昔に捨てたと思ってたのに……」
「それは無理ね。それ捨てたら、アンタとFXも捨てなくちゃならないし」
「それを望んでたんじゃ……」
「あの頃はね……でも、さっきも言ったけど、アタシが生んだ傑作をおいそれと失うのはなんだかね……」
「……成長したじゃん」
「アンタが未熟なだけだよ」
「かもね……奥、借りるよ」
迷うことなく圭は袖を通すために奥へと消えていった。
- 303 名前:紅梅 \ 〜死闘〜 投稿日:2006/02/19(日) 12:27
-
そして彩がタバコを吹かして待つこと数分、上下真っ紅な特攻服に身を包んだ圭が現れた。
しかもその目は既に臨戦状態の眼差しで、覚悟を決めていた。
「あの頃と変わってないねぇ〜」
「うるさいよ」
愛車に跨った圭が軽く彩に蹴りを入れる。
カウンターでやり返す彩。
圭を乗せたFXは近所迷惑も顧みずに、これでもかと言うほど甲高い咆哮を上げる。
全ては整い、あとは飛び出すだけ……
寸前に彩が忠告めいたことを口にする。
「……最後に言っとくけど」
「わかってるよ。傑作品はちゃんと返しに来るから」
「……その逆だよ」
「はぁ?」
「来んな、もう」
「フッ……自分だって顔に出てんじゃん」
「口の減らない奴」
再度彩が圭に蹴りを入れるも、いち早く圭を乗せたFXは飛び立っていった。
その後を次いで彩も表へと出る。
夜風が身体に染み始めると、どこからともなく聞こえてきた独特のアクセル・ミュージック。
独特の音色を持ったことから、いつの間にか広まっていった“音速四皇帝”の名。
その中でも異端的な存在であった圭の音色。
しかし、圭の持つクラシカルでいてクールな音色は、今宵の闇を味方にしそうなほど
彩の耳には不気味に響いていた。
- 304 名前:お返事 投稿日:2006/02/19(日) 12:28
-
>名無し飼育さん
圭 「今年はガンガン更新するわよ」
なつみ「そんなこと言っちゃっていいの?」
圭 「だってこっからアタシが活躍するんだから、プッシュしないと」
なつみ「みっちゃんは?」
みちよ「ウチもめっちゃ出まくりやで。頑張らんと」
なつみ(いいなぁ……なっちも出たい……)
圭&みちよ(こういうとこでアピールしないと忘れられるし……)
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/19(日) 12:28
-
Hide this story.
- 306 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/19(日) 12:29
-
Hide this story again.
- 307 名前:ビギナー 投稿日:2006/02/20(月) 08:57
- お久し振りです。
気付いたら、本編(?の番外?)に戻ってらして
最初から読み直させていただきました。
彩さん、圭さん、みちよさん、本当にカッコイイですね。
これからガンガン更新ですかッ。期待してます。
- 308 名前:お返事 投稿日:2006/06/17(土) 09:57
-
>ビギナーさん
みちよ「やっはり、ウチはカッコええのが一番なんやって」
圭 「まあ、確かにカッコいいっちゃカッコいいわね」
みちよ「おおっ、ついに圭ちゃんもウチの魅力に気づいたん!?」
圭 「確かにみっちゃんはカッコいい!!」
みちよ「もっと言って。もっと言ってって」
圭 「でもっ!!」
みちよ「でもっ!!」
圭 「あくまでこれは“フィクション”ですから!!」
みちよ(シクシク)
- 309 名前:ご報告 投稿日:2006/08/06(日) 11:10
-
スレッド整理が近いようなので……
忙しくて更新できない日々が続いてますが
保全でお願いします。
- 310 名前:本庄 投稿日:2006/08/08(火) 17:18
- 保全です。
本当にご無沙汰しとります。
先日PCを踏み潰すというとんでもない失態を犯しいまだ自宅で
ネットができませぬ…(号泣)
圭ちゃん!君のPC一台くれぃ!!!(切実)
- 311 名前:お返事 投稿日:2007/02/02(金) 16:23
- >本庄さん
圭 「え〜、アタシのPCはあげられないなぁ」
みちよ「なんでやねん、自分もう一台持ってたやん」
圭 (だって一台はなっちゃん仕様だし……)
みちよ「あっ!! さては圭ちゃん、アンタ」
圭 「違う違うって!! 決して起動音がなっちゃんの声で
壁紙からアイコンまで全てなっちゃん色に染まってるなんて
口が裂けてもいわないからっ!!」
みちよ「……今、おもっきり言うたで、自分」
圭 「わあっ!! しまったぁーっ!!」
みちよ「そりゃ、人にはあげられへんわな」
圭 (カァーッ!!)
- 312 名前:ご報告 投稿日:2007/02/02(金) 16:24
-
半月以上も放置しておきながら、言うのもなんですが
そろそろスレッド整理も近いことなので、とりあえず
保全でお願いします。 BY 作者
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/19(月) 07:16
- いつまでまたせるんだー!
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/11(火) 21:00
- 地味にまってる…
Converted by dat2html.pl v0.2