ラブレター

1 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:33
いちごまです。
内容がだいぶしょぼいので、
いちごまなら何でもいい!っていう方
だけお読みください。
2 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:34
「最近、詩を書いてるんだ。」

「えっ、どんなのどんなの??」

「毎日、思いついたフレーズだったり気持ちを走り書きしてるだけなんだけどね。」

「やっぱ、恋愛系?」

「・・・かなぁ」

面白がって聞いたけど、すぐ後悔した。
返事をした市井ちゃんは、すごく照れくさそうで。
いかにも恋してますって感じだったから。
何度も見せてって言ったけど、いつも断られては話を流された。
3 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:35
あたしと市井ちゃんは同じ高校で、知り合ってもう1年になる。
女子高だけどモテモテな市井ちゃんは、とても目立つ存在で、だけど最初は興味がなかった。
キャーキャー騒いでる同級生や先輩たちを、そしてそれに笑顔で返す市井ちゃんを
冷ややかな目で見てたくらいだ。

初めて市井ちゃんと話したのは、放課後の図書室。
その日は雨が凄くて、傘を持ってなかったあたしは止むのを待とうと時間つぶしに
普段はめったに来ない図書室に寄った。
そこにいたのは市井ちゃんだけで、入った瞬間に目が合った。

「(うわ、イチイサヤカだ…。)」

有名人である市井ちゃんをあたしはいつも心の中ではフルネームで呼んでいた。
勝手にイチイサヤカに嫌な印象を持っていたあたしは、なんか気まずいなぁとか思いながら、
一応先輩なので、軽く頭だけ下げて適当に本を選ぶとイチイサヤカからなるべく遠い席に座った。
4 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:36
いつもみんなにしてるみたいに、あたしにニッコリと笑顔で返した後
イチイサヤカはまた本の続きを読み出した。
本を読むのが元々あまり好きじゃなかったあたしは、手元の本をパラパラとめくりながら
バレないように”イチイサヤカ観察”を始めることにした。

何を読んでるのかと思ったけど、遠すぎて分からないので諦めて、イチイサヤカの顔に視線を移す。
こうやってじっくり見るのは初めてかもしれないと思うと少し緊張した。

「(よく見てみると綺麗な顔してるなぁ〜。目元なんかキリっとしてていつもの爽やかスマイルとはまた
違う一面かも。こぉいう表情にみんなイチコロな訳かぁ〜。)」

なんだか結構おもしろくなってきて、あたしは観察を続けた。

「(あ、なんかめっちゃ瞬きしてるんだけど。目疲れてきたのかな〜。そんなに真剣に読むからじゃん。
おっ、目擦ってる!なんか可愛い〜♪)」

自然と顔が緩むのがわかる。
自分で気持ち悪いなぁとか思うけど、おもしろいから続行。
5 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:37
「(わ〜、なんか本読んで笑ってるよ。実はこの人って根暗??)」

「っていうかさぁ〜。」

「(喋った!もしかして独り言?)」

「思ってたんだけど・・・」

そこまで言うとやっとイチイサヤカは本からあたしに視線を移した。

「(えっ、もしかしてあたしに喋ってる!?)」

「さっきから市井のこと見すぎだっつーの。」

「え・・・あっ・・えっと〜・・・」

観察に夢中になっていたあたしは急に話し掛けられてかなり焦っていた。
それに、観察してるのがバレてたなんてかなり恥ずかしい。
6 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:37
「まぁ、見られるのには慣れてるけどさ〜、さすがにこの状況で見つめられると気になるよね。」

「ご、ごめんなさい!!」

「や、謝んなくてもいいんだけどさ。ちょっと意外だな〜って思って。」

「え?」

「だって、後藤さんはあたしには興味ないと思ってたから。」

「・・(確かに…。っていうか何であたしの名前知ってんの??)」

頭の中が混乱して言葉が出ないでいると、イチイサヤカはあたしの考えを見抜いてるみたいだった。

「後藤真希ちゃんでしょ?知ってるよ。」

「なんで・・・。」

「だってさぁ、会う度に睨まれちゃこっちだってさすがに覚えるよ。目立ってんだよ〜、結構。
 みんなは市井を見るたび嬉しそうな顔してくれんのに、一人だけ怖い顔してんだもん。」

言葉とは裏腹に、まったく嫌味の無い言い方でそう言った。

「あ〜、それは・・・」

「でもさぁ、なんとなくなんだけど、嫌われてる訳でもないような気がするんだよね。なんとなくだけど。
 だから1回話してみたいなぁってずっと思ってたんだ。」

そこまで一気に話してイチイサヤカはニッコリと笑った。
7 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:38
「それとも、やっぱ嫌われてんのかな・・・。」

思ったよりも口数の多いイチイサヤカに圧倒されていると、今度は不安そうな顔をした。
まずいと思ってすぐに首をブンブンと横に振ると

「よかった。暇だしさぁ、雨が止むまでここで喋っとかない?」

「・・うん。」

そこから、私たちはいろんな話をした。
初めはお互い質問コーナーみたいな感じで、あとは他愛も無い話。
打ち解けるのにそんなに時間は掛からなかった。
あたしのイチイサヤカに対する態度の誤解もちゃんと解いたし。
雨が止んだ頃には、お互いを市井ちゃん、後藤と呼ぶ仲にまで発展した。
8 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:39
「あ〜、知らないうちに雨止んでるじゃん。」

「あ、ほんとだ。」

「じゃーそろそろ帰るかぁ。」

「だねぇ。」

「今日は後藤と話せて楽しかったよ。明日からはもう睨まないでくださいね〜。」

「もう、いじわる〜。睨んだりしてないってば。」

「はは、分かってるよ。じゃーまた明日な!」

「うん、バイバイ。」


こうしてあたしと市井ちゃんは、やっとまともな出会いを果たした。
ここからがあたしの恋の始まり。
あっという間にあたしは市井ちゃんに惹かれていった。
9 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:39
それからのあたしの生活は180度変った。
仕方なく行ってたような学校も、毎日が楽しくて。
恋をするとこんなにも変るものかと自分でも感心するくらい。

ただ、そんな中でも気になるのが市井ちゃんの相変わらずのモテっぷり。
いろんな可愛い子に毎日のように告白されてる市井ちゃん。
断りつづけても、その数は減る事を知らない。
いつか市井ちゃんがそのうちの一人に心を奪われてしまうんじゃないかと心配している時に
見せてもらった「詩のノート」が私を不安にさせて仕方が無い。

あたし達が2人で会うのは、いつも放課後の図書室。
市井ちゃんは、詩を見せてと言っても絶対に見せてはくれない。
それはきっと恥ずかしいからなんだろうけど、あたしはどうしても見たかった。
市井ちゃんの事ならどんな事でも知りたかったから。
10 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:40
でも今日は違った。
いつもはあんなに拒むのに、今日は観念したようにすんなりとノートを鞄から取り出した。
あたしにそのノートを手渡すと、恥ずかしいのかトイレに行くといって席を立った。


だけど見てすぐ後悔した。


”運命だって 偶然でも 出会えた事は真実 ”

”何気ないキミの言葉一つ一つに 本当の意味を探してしまう ”

”愛しい 苛立つ 恋しい 切ない 会いたい 苦しい ”



小さなノートの1ページにずらっと並ぶ言葉たち。
見た瞬間に胸が締め付けられるのを感じた。
11 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:41
「やっぱり・・・。」

やっぱり、市井ちゃんは恋をしている。
詩を書いてると聞いた時の市井ちゃんの表情から、そうなんじゃないかと思っていたけど、
とうとうそれが確信に変った。
言葉の内容は全て恋愛。
まとまってはいなかったけど、それが逆に市井ちゃんの想いの溢れように思えた。

本当は泣いてしまいそうだったけど、必死にこらえた。

「(どうしよう・・もうすぐ市井ちゃん帰ってきちゃうよ。やっぱ感想とか聞かれんのかな。
 ていうか感想って何?普通に無理だよ、喋ったら泣きそうだもん。)」

「ごめんごめん。」

そうこう考えてるうちに市井ちゃんが戻ってきてしまった。
あたしは必死に笑顔を作って、何て言おうか考えた。
12 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:41
「もうちょいまともな詩になったら、また見てもらってもいいかな?」

「え・・・?」

「ほんとはこんなしょぼいのまだ見せたくなかったんだけどさ。だからもうちょいましになったら、
 今度はちゃんと審査してよ。」

「うん、わかった。楽しみにしてるね。」

楽しみだなんて、嘘だった。
市井ちゃんの恋の相手は誰なのかとか、いつからなのかとか、考える事はたくさんあったけど、
そんなことよりも直感で思ったこと。
きっと、”まともな詩”になった頃、市井ちゃんの恋も叶ってしまう。
根拠のない確信にあたしはただ焦るだけだった。

家に帰ったあたしは、市井ちゃんの恋を阻止するべく作戦を練った。
まずは、市井ちゃんが想いを寄せている人物が誰なのか分からなければ話にならない。
13 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:41
「ん〜、誰っていっても見当もつかないよ〜。
 市井ちゃんモテモテだし、、、でも態度はみんなに平等だしなぁ〜。」

いくら考えても答えはでない。

「あっ、もしかして学園の子じゃないとか?ありえないこともないかも。
 学校以外となると余計わかんないよ〜。」

考えれば考えるほど、泣きたくなってきた。

「あたし・・・市井ちゃんの事何も知らないじゃん・・・。」

テーブルに顔を伏せると、じんわりと視界が歪んでくる。

「う〜、好きだよぉ、市井ちゃん・・・お願いだから後藤の事好きになって・・・」
14 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:43
次の日も、その次の日も、あたしの頭の中は市井ちゃんでいっぱいだった。
正しくは、「市井ちゃんが恋焦がれてる誰か」の事なんだけど。

授業中はもちろん上の空、休み時間になれば窓から顔を出して全校生徒の中から
あの子かなこの子かなと市井ちゃんが好きそうな子をチェックしたり。

食堂とかで市井ちゃんを見かけたら、今まではすぐに駆け寄って行ったのに、
今はそれをするのも勇気がなくて、ただ市井ちゃんの視線の先を追うばかりだった。

毎日毎日、そんなことをしていたら、気分も落ち込むばっかりで、あたしは完全に自信を失っていた。
市井ちゃんの恋を阻止する事も、自分を好きになってもらう事も、できないんじゃないかと。

「何やってんだろ・・・あたし」

つぶやいた瞬間、キリキリとお腹が痛くなってきて、その後すぐ足に力が入らなくなって。

「ちょっと、真希!どーしたのよ、ねぇ!」

友達の声が遠くのほうで聞こえてたけど、それよりも自分の心臓の音の方が大きく聞こえて、
ヤバイなぁとか思いながら、あたしの意識は途絶えた。
15 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:44
気が付くと、保健室で寝てて、自分が倒れた事を思い出した。
体はだるかったけど、とりあえず先生に声を掛けようと体を起こそうとした時、
誰かの話し声が聞こえた。

「ちょっと体調が悪かったみたいねぇ、軽い貧血だと思うわ。」

「・・・そうですか。よかった。」

「しばらく寝てれば良くなると思うけど、少し熱があるみたいだから今日は早退した方がいいわね。
 今から先生ちょっと出なくちゃいけないから後はたのんでもいいかしら。」

「あ、はい。わかりました。」

「それじゃぁよろしくね、市井さん。」


「(え〜!市井ちゃん!?どうしよう・・・)」

16 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:45
市井ちゃんに好きな人がいると知ってから、普通に振舞えなくなっていたあたしは
自然と市井ちゃんを避けるようになっていた。

「(うわ〜、こっち来るよ。とりあえず寝たふりしとこ・・・)」

起こしかけた体を戻してあたしはすばやく布団にもぐりこんだ。
近づいてくる足音はあたしの鼓動をどんどん早くさせる。
カーテンが開く音がして、さらにその足音は近づいてくる。
まるでかくれんぼをしていて、鬼が近づいてくるようなドキドキだった。


ドサっと、ベットの横のイスに腰をおろす音が聞こえた。

「(あ〜、市井ちゃんの匂いがする。なんか久しぶりだなぁ)」

「・・・後藤。」

「(えっ、ひょっとして起きてるのバレてる!?どうしよぉ、起きた方がいいのかな)」

「・・やっぱ寝てるか。」

「(よかったぁ〜、そうだよ市井ちゃん。後藤は寝てるんです。だからもう行っていいよぉ。)」

「後藤・・・ちょっと痩せたな。」

そう言って市井ちゃんが少し動く音がした。
手が伸びてくる気配がして、その後すぐに頬に暖かいものが添えられた。
17 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:45
「体調悪いなら無理して来んなよ、バ〜カ。」

「倒れたなんて聞いたら、心配すんだろうが。」

「そんなに市井に会いたかったのか?・・・なんちゃって」

市井ちゃんは一人でポツリポツリと後藤にも聞きづらいくらいの小さな声で
優しく話す。あたしはなんだか胸に込み上げてくるものが抑えられなくなって
何も考えずに目を開けた。

「うわっ、・・ビックリした!起きてたの?」

心底驚いたように目を丸くして市井ちゃんはあたしの頬に添えていた手を引っ込めた。

「ん〜ん、今起きた。」

なるべく声のトーンを落として、寝起きを演じてみるけど、
あたしのよく分からない感情はストップがきかなくて。
18 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:46
「体、どぉ?しんどくない?」

「・・・」

久しぶりに近くで見る市井ちゃん。今あたしだけに話し掛けてくれてる事。
込み上げてきたものは、これだったんだ。


市井ちゃんが好きで好きでたまらない。


それに気付いた時、急に視界がぼやけてきた。

「うっ、うぇ〜ん・・っく」

「ご、後藤!?どーしたんだよ!そんなにしんどいのか??」

「・・っん・・っく」

「ちょっと待ってろ、誰か先生呼んで来てやるから!」

慌てて席を立とうとする市井ちゃんの袖をつかんだ。
19 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:46

「・・後藤?」

「・・・・いぃ・・っん・・大丈夫・・」

「でも・・・」

「・・大丈夫っ・・だから・・」

市井ちゃんは困ったように頭を掻くと、また座って後藤を見つめてた。

「・・っく・・ぅん・・っく」

なかなか泣き止まないあたしを見て、少しだけ微笑みながら。

「・・よしよし・・大丈夫だからね」

あたしの頭をいい子いい子しながら、泣き止むまで待っていてくれた。

「(市井ちゃん、好きだよぉ。なんでそんなに優しいの・・。なのに後藤は・・)」

ひとしきり泣いて、あたしはある事を決心した。
20 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:47
「今日はすぐに寝るんだぞ!わかった?」

「は〜い♪」

やっと落ち着いたあたしを、市井ちゃんは家まで送ってくれた。


「ったく、今元気だからって調子に乗るとまた熱とか出てくるんだからな!」

「も〜、わかってるよぉ。子供じゃないんだから!」

「えっ、後藤子供じゃないの?今初めて知ったよ。ずっと後藤はおこちゃまなんだと・・・」

「市井ちゃんひど〜い」

「ハハ、冗談だよ。じゃぁ、お大事にな。」

「あっ、市井ちゃん!」

「ん?」

「(よーし、言うぞ!これでもう後戻りできないんだからね)」

自分に言い聞かすように唱えてから、今までで一番の笑顔を作る。
21 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:48
「市井ちゃん!後藤、応援するからね!」

「・・へ?」

「どんなことがあっても、後藤は市井ちゃんのこと応援してる!味方だからね!」

「(よかった、ちゃんと言えた・・)」

市井ちゃんは、よくわかんないなぁって感じで笑いながら、サンキュって手を振って帰っていった。
あたしは家に入ると、自分の部屋まで走って、また少し泣いた。

「(市井ちゃん・・後藤、市井ちゃんの幸せの邪魔、もうしないから。
 だからもう少しだけ、そばにいさせて。・・好きでいるのは・・いいよね?)」
22 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:49
次の日から、あたしはまた図書室に行くようになった。
市井ちゃんの詩を見せてもらったり、どうでもいい事を話したり。
あたしはやっぱり、もっとどんどん市井ちゃんを好きになって、切なかったけど、楽しかった。

でも、その日は突然やってきた。


いつもどおりの、図書室。
今日はまるで出会った日のような雨で、静かな2人っきり。

ドキドキしてるあたしと、真剣そうな市井ちゃん。

こんな雰囲気なのは予想してた。
23 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:49
『今日の放課後あいてる?よかったら図書室に来て。見てもらいたいものがあるんだ。』

市井ちゃんから来たメール。
ついに、この日が来たんだとあたしは思った。

「市井ちゃん、見せたいものって?」

「あ、あぁ・・」

なんか顔が引きつってる市井ちゃんに催促する。

「その前に、話、聞いてくれる?」

「・・いいけど」

市井ちゃんは、照れくさそうにポツポツと話し出した。
24 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:50
「実はさ、市井、好きな子いるんだよね。」

「(やっぱり・・・わかってたけどね)」

さすがに本人からはっきり聞かされるとショックだったけど、
今は市井ちゃんの話を最後まできちんと聞こうと思った。

「でさ、告白しようと思うんだけど、なかなかできなくて。だから、ラブレターの
変りじゃないけど、詩にして渡して、気持ち知ってもらおうと思って。」

「それで、詩、いくつも書いてたんだ。」

「・・うん。」

「(やっぱあたしの勘は当たってたんだ。それで詩が完成したって今日後藤に見せて、
 反応が良ければ本番に持っていこうって考えかな。)」

今だけでも失恋の痛手を紛らわすためにあたしは展開を先読みする事に専念した。
25 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:50
「でね、やっと、出来たんだ。」

「うん、見せて?」

「えっ?」

「だって、見せたいものってそれなんでしょ?」

「そ、そうだけど・・」

「もったいぶらないで、見せてよ〜」

「・・・はい」

なるべく早くここから逃げたかった。
誰かに対する気持ちが詰まった市井ちゃんの詩なんて、やっぱりまともに読めるはずが無い。
市井ちゃんはじっとあたしの様子をうかがってる。
あたしはスラスラと目を通すフリをして、市井ちゃんに紙を返した。
26 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:51
「うん、いいんじゃないかな。」

「・・それだけ?」

「これなら、気持ち伝わると思うよ。大丈夫だって、自信持ちなよ」

「・・・後藤。」

「ん?何?」

「もしかして、お前・・・気付いてない?」

「え?・・・何が?」

急に市井ちゃんが背を向けたかと思うと、何かを紙に書き足して、また渡された。

「もう、何回見ても一緒・・・」

そう言い掛けたところで、あたしの頭の中は真っ白になった。
今度は、瞬きも忘れて何度も何度も読み返す。
27 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:52
さっきはちゃんと見てなかったけど
市井ちゃんがくれた紙には、タイトルらしい短い単語、3行の空行と、
あとはたくさんの英語が何行もいっぱい掛かれていた。

「これが今のあたしの気持ちだよ。」

思いっきり笑顔な市井ちゃんをチラっと見てから、
あたしはまたその英語に視線を戻した。

ずらっと並んだ英語をみても、これを訳すなんてとうてい無理っぽい。
これがもし英語の教科書だったら、見た瞬間に投げ出すところだけど、
市井ちゃんの気持ちなんだと思うとどうしても意味が知りたくて
諦めずに最後まで真剣に目を通す。

その間市井ちゃんは一言も喋らずにじっとあたしを見てた。
痛いくらいの視線を感じてドキドキしながらも、今はこの紙に集中する。
28 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:52
全く理解不能な単語を見送りながらも読んでいくと、5行目くらいに「love」って単語が出てきた。
やっと知ってる単語が出てきたと思って少しホッとしてから、続きを読んでいくと
何度も何度も「love」って言葉が出てきて、数えてみるとちょうど10回だった。
結局それ以外の言葉はほとんど意味がわからなかったけど、読み終えたあたしは泣く寸前だった。

だって、その紙の最初には、さっきは書かれていなかった言葉が書いてあったから。

『DEAR 後藤』って。

あたしは読み終えたと合図を出すように、“市井ちゃんの気持ち”を
元の二つ折りに戻した。顔は、上げられなかった。
29 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:52
「・・・わかってもらえたかな?」

少し控えめな市井ちゃんの言葉。
その言葉は返事を催促するようで、あたしはずるいと思った。

「・・わかんない」

「・・・」

「わかんないよ、あたしバカだもん。こんなに英語ばっか並べられても全然わかんない!」

ちょっといじわるかなって心が痛んだけど、怒るんじゃなくて、拗ねたように市井ちゃんに訴える。
キザでシャイな市井ちゃんにはぴったりの表現だけど、これだけでも本当は十分分かるけど。
欲張りなあたしは、やっぱり市井ちゃんの言葉が欲しい。
言いながら顔を上げてみると、市井ちゃんは何ともいえない表情をしていた。
30 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:53
「ちゃんと言ってよ、後藤に分かるように。」

「・・・恥ずかしいからヤダ。」

「そんなのダメだよぉ。」

「素直じゃないなぁ、分かってるくせに。」

「・・意気地なし!」

やば・・、ちょっとキツく言い過ぎたかも。
市井ちゃんがちゃんと言ってくれないから悪いんだもん。
さっきの、ドキドキな雰囲気はすっかり消えて、なんだか重たい沈黙。
あ〜、なんか想像つくなぁ、次の市井ちゃんの言葉。

「もういい!」

ほら、やっぱり。
怒っちゃったよ市井ちゃん。
でもこれであたしが謝るなんて納得いかない。
こうなったら何が何でも言わせてやる。
31 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:53
「よくない!ちゃんと言ってよ〜!」

「ヤダ!」

「意地っ張り!」

「後藤がだろ〜!」

「言って!」

「ヤ〜ダ!」

「言ってってば!」

「しつこいよ!」

「もういい!市井ちゃんなんてキライ!」

「市井は好きなんだよ!!」

「え・・・」
32 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:54
売り言葉に買い言葉。
ケンカが始まった瞬間にされた告白。
分かってても、やっぱり心臓が飛び跳ねる。
勢いを失ったあたしに、市井ちゃんは続けた。

「好きなんだよ・・・後藤が。だから嫌いとか言うなよ。」

「・・・」

「何とか言ってよ。」

「・・・嬉しい。」

「ほんと?」

市井ちゃんの声は明らかに喜んでて、いつもよりすこし高くなってる。
33 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:56
「ほんとだよ、だってあたしはもうずーっと前から市井ちゃんの事好きだったんだから。」

「まじで!?全然気付かなかった・・。いつから?」

「それは内緒♪」

「え〜・・。」

「それよりさぁ、これ日本語に訳してよぉ。後藤わかんないよ。」

「ダ〜メ。知りたかったら自分で調べなさい。辞書なら貸してやるから。」

「ヤダよぉ〜。めんどくさい。」

「なんだと!市井の気持ちをめんどくさいの一言で済ませるなんて・・・」

「だって〜、そんなことしてたら分かる頃には何年経ってるかわかんないよ。」

「いいじゃん、がんばってよ。何年でも待ってるからさ。」

「いじわる〜」

「じゃぁ、その何年も経つ間に、少しずつ答え教えてあげるから。」

「・・絶対だよ!」

「そのかわり、心変わりは禁止だぞ!」

「当たり前だよ〜、市井ちゃんこそダメだからね!」

「まかしとけっ!神に誓って絶対無い!」

それからあたしと市井ちゃんは、誓いの儀式を行いました♪
え?儀式が何かって?儀式といえばアレしかないでしょ!

誓いの・・・キス♪







34 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 00:57


END
35 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 01:00
一気に終了です。
感想とかもらえるとすごい嬉しいので
じゃんじゃんお願いします。

あと、今後小説を書く予定は無いので、
このスレ、いちごま短編コーナーになってくれると嬉しいです(笑
書きたい方はどうぞご自由に。

ではでは感想待ってます。

36 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/11(金) 07:39
おもしろかったです!もう更新しないのですか?
寂しいですなぁ………
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/11(金) 09:36
いちごま大好きなので嬉しかったです

内容も面白かったし、いちごまらしさが出てて思わずニヤニヤしてしまいました(w

38 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:19
36、37さん、読んでいただいてありがとうございました。
めちゃくちゃ嬉しいです。
なんで、調子に乗ってもう1作。

タイトルは『スペース』です。
またまたいちごまですがよかったら読んでやってください。
39 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:20
「紗耶香ぁ〜」

「ん?」

1日の授業も終わり、これから帰ろうとしていた所をクラスの友達に
呼びとめられた。

「これからみんなとカラオケ行くんだけど、紗耶香も一緒に行こうよ!」

「・・・ん〜、今日はいいや。遠慮しとく。」

「そ?じゃぁまた明日ね!」

そう言ってみんなの元へ走っていった友達の後ろ姿を見送った後、

「はぁ。(今日も疲れたなぁ・・・。)」

少し大げさにため息をついて、みんなとは反対の方向に歩きはじめた。
40 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:20
60秒60分24時間365日・・・
きっとそれは、少しもずれることなく順調に進んでいる。
そんな、保証されたような毎日が私にはひどくちっぽけに思えてしまう。

何か映画のような劇的な出来事でも自分の身に降りかかってこないかと
人任せな事を毎日のように考えていた。
そんな事を毎日考えてる自分の方がよっぽどちっぽけだったりして。






「はぁ。」

私は一度足を止め、ため息をついてまた歩き出した
41 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:21
足の向く先は古びた一軒の家。
それは人目につきにくく、子供たちなら喜んで「隠れ家」と名付けそうなものだ。
そして、その隠れ家は「私の隠れ家」でもあった。

「ふぁ〜。」

一度大きなあくびをしてから、私は家のドアに手を掛けた。

ここにいるときだけは、難しいことは考えないでいようと決めている。
静かな雰囲気から「心が安らぐ場所」と名付けたくなって、そう決めたのだ。
自分だけが知ってる、特別な場所という響きがいつも私をワクワクさせていた。



今日はずっと、胸騒ぎが止まなかった。
ここに来るのはだいたい週に2,3回。
来る曜日なんて決まってない、いつも単なる気まぐれで。
だけど今日はどうしてもここに来ないといけないような気がしてた。
予感めいたこの思いつきを、私はあまり気にしていなかった。
42 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:21
とりあえず、いつものように家に足を踏み入れる。
家に入るとまずカバンを床に置き、部屋のちょうど中央にあるソファーに
体を沈める。そして、とりとめないいろんなことをぼんやりと考えながら浅い眠りにつく。
それがここでのいつものパターンだ。
でも、今日はそれができそうにない。


お気に入りのソファーには、すでにひとりの少女が座っていた。



「・・・誰?」

私は座っている少女の後ろ姿に声を掛けてみた。
けれど、反応がない。
忍び足で私は静かに少女の前にまわりこんだ。
そして少し俯いている少女の顔を、少し警戒しながら覗きこむようにしゃがみこみ、見上げた。
43 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:22
ゆるく閉じられた瞳。
かすかに聞こえてくる呼吸。

どうやらこの少女は眠っているらしい。
でも、その存在感はなんだかとても大きくて、強く感じられた。
なんとなく視線をそらせなくて、じっと彼女を見つめていると
あまりの無防備な寝顔にこっちの警戒心まで徐々に薄れてきた。
この時すでに、もう私の中では警戒心から好奇心に変っていたのかもしれない。

この少女と話してみたい。

そう思った私は、とりあえず少女が目を覚ますまで待つ事にした。
44 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:23
少女を見つけて、観察して。
そして少女が起きるのを待とうと結論が出たところで、ああ、と思った。
お気に入りのソファーはすっかり彼女に占領されてしまっている。
ここは私だけが知ってる、私だけのお気に入りの場所だったはずなのに。
それなのにまるでこの部屋に私の居場所がなくなってしまっている。

どうやら私は唯一の居場所をこの少女に奪われてしまったようだ。
それに気付くと、なんだかとても残念なような、腹が立つような、悔しいような。
まるで子供が兄弟にお気に入りのおもちゃを横取りされたような気持ちだった。

そしてもう1度少女の寝顔に目を向ける。
5秒ほど見つめて、こらえきれず吹き出してしまった。
だって私の「お気に入り」を奪った張本人は、すやすやと今も眠っているのだから。
45 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:24
なんだかどうでもよくなって私は、
部屋の隅まで移動し壁にもたれるようにゆっくりと腰をおろした。

初めて感じたその屋敷の床と壁の感触が、なんだかとても心地よかった。
あるいは、それは感触よりも雰囲気のせいだったのかもしれない。
もう、私には「お気に入り」を奪われたという感情は無かった。
むしろ、眠っている少女と私がこの場所を、この時間を共有しているような気さえしていたのだ。

なんだかとてもワクワクしていた。
少女はどんな声だろう。
初めになんと声をかけようか、いや、なんと声をかけられるだろうか。
そもそも、少女はどうしてここにいるんだろう。
そう考えている時間は、とても楽しかった。
46 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:24
どのくらい時間がたっただろう、重いまぶたを持ち上げるとそこには
人の顔のドアップがあった。

「わっ!!」

その顔の持ち主は声をあげて反り返り、しりもちをついていた。
おそらく、というより確実にさっき眠っていた少女だ。


「びっくりした〜、いきなり目開けるんだもん。」

彼女は、全然びっくりしてなさげにそう言って、打ったお尻に手を当てながら立ち上がった。


どうやら、私は少女との出会い方をあれこれ考えているうちに眠ってしまったようだ。
そしてその結果、記念すべき「出会い」の場面は私の期待を裏切ってあっけなく終了した。

少女が眠っている間に頭の中で組み立てていたシナリオは無意味になってしまい、
私の頭の中は見事真っ白になっていた。
47 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:25
「誰?」

とりあえず、最初に私が、眠っていた彼女に言った言葉をもう1度口にした。


「えっ・・?」

急に誰?と言われ、訳わかんないといった表情をしている彼女のために、
もう1度。

「あなた、誰?」

「誰って・・・ごとう・・まきだけど・・。」

なんだか的外れな答えだな、と思った。
誰と聞かれて答えるのは名前くらいしかないけれど、
私はもっと彼女が何者なのか、ということが知りたかったんだから。

48 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:25
言葉に詰まった私を見つめて、

「あなたは、誰?」

と、私と同じ質問をしてきた。

「えっ・・いちい・・さやか・・。」

けれどやっぱり名前以外に答えることは思いつかなかった。

「・・・ふ〜ん」

そう言うとくるっと回って私に背を向けた。
(自分から聞いといてそんな態度かよ・・・)
心の中でつぶやいて、私もやっと立ちあがった。


「「・・・・・」」


しばらくの沈黙の後、彼女は何か思いついたようにまた私の方へ振り向いた。
49 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:26
「・・いちーちゃん!」

彼女がつぶやいて約10秒。

「・・はい?」

十分な間を置いて私はようやく反応した。

「いちいさやかっていうんでしょ?だから、いちーちゃん。」

「あぁ・・」

まるで当たり前のように言う彼女に思わず納得してしまった。
それにしても、あの沈黙の間彼女はずっと私のあだ名を考えていたのだろうか。
いつもなら、変なやつだなって笑えるかもしれない。きっと笑っていただろう。
だけど、その時の私はそんな余裕が無かった。
目が覚めてからずっと、彼女のペースに押されっぱなしだったから。
きっと表情も強張っていただろう。

「・・ダメ・・だった?」

すると、心配そうに彼女が聞いてきた。
怖い顔をしている私を見て彼女は彼女の考えたあだ名に対して怒っていると思ったらしい。
50 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:26
「いやっ、ダ・ダメじゃないよ、ぜんぜん・・大丈夫・・」

不安そうで、傷ついたような表情をした彼女に
私は焦って答えた。
一体何が大丈夫なのか自分でもわからなかった。
(だいたい、いちー「ちゃん」って何だよ。ちゃん付けされるようなガラじゃないだろ・・・)

私が心の中でそんなことをブツブツとつぶやいていると、

「あはっ!よかった。あっ、あたしのことは後藤でいいよ。そのまんまだけど(笑)」

彼女の表情は180度くるりと変わって、今度は満面の笑顔。

「・・・なんか変なやつ。」

「へへ、よく言われる。」

しばらく目が合って、なんか言葉が出なくて、それがお互い可笑しくって。
そしたら彼女がクスクス笑い出すから私も我慢できなくって、2人で笑った。
51 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:27
「・・いちーちゃん、やっと笑った。」

「・・へ?」

笑いが途切れてきた頃、彼女がポツリとつぶやいた。
聞き逃さなかった私はすぐさま反応する。

「だっていちーちゃんずっと怖い顔してたんだもん。後藤っていつも第一印象よくないみたいだから、
 また嫌われちゃってたらどうしようかと思ったよ。」

「・・・」

こんな顔して笑う子の、どこが印象よくないんだろ。
むしろいい方なんじゃないの?

「・・・やっぱり後藤のこと・・嫌い?」

言葉を返さない私に彼女はまた、不安そうな顔をする。
私は焦ってフルフルと首を横に振った。
52 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:28
「・・・ほんとに?」

言葉で言わないと、伝わらない。
彼女はそう言いたげに私を見つめた。
だから私は、

「・・嫌いじゃないよ」

思いを言葉にして、はっきりとそう答えた。

「はぁ、よかった。いちーちゃんはみんなとは違うって信じてたよ。」

「・・信じてるって、まだ会ったばっかりじゃん?」

「うん、だっていちーちゃんはなんかみんなと違うもん。」

「みんなと?」

「そうだよ。あっ、もちろんいい意味でね。
 なんかね、なんとなくみんなとは違う感じがする。」


53 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:29
今日出会ったばかりの少女の声に運ばれてすんなりと私の心の中に入ってきた。

話の流れで出てきたような彼女のなんの重みもない言い方が

逆に私の心に響いてきて

素直に嬉しかった。


「やっぱ、後藤って変だね」


私が、初めて「後藤」と呼んだ瞬間。


「そんなことないよ〜、今のはまともな考えだと思うんだけどなぁ。」
54 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:31
彼女はそんなことに気付くはずもなく、何かぶつぶつ言っている。
私は初めて呼ぶその名前に少し緊張していたっていうのに。
ペースが狂うとはこういうことを言うんだろう。
昨日までとても静かだったこの家はいつしか彼女の醸し出す
空気に包まれ、私もその空気に完全に飲みこまれていた。

「まぁいいや。じゃぁ改めまして。よろしくねっ、いちーちゃん」

「いちーちゃん」というところを強調して、笑顔で右手を差し出す。
私もそれに答えるように右手を差し出した。

55 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:32
日も暮れて、少し薄暗い道を一人歩きながら今日出会った少女、
後藤のことを思い出していた。
後藤に心を許してしまった私と、私の心にすんなりと入ってきた後藤。
私達は、あれから他愛もないおしゃべりをしていた。
(といっても喋っていたのはほとんど後藤だったけど。)
テレビのこと、ファッションのこと、勉強や食べ物のこと・・・

「ねぇ、いちーちゃんってどの辺に住んでんの?」

「ん〜っと、こっから歩いて5分くらいのとこかな」

「そうなんだ〜、後藤はねぇ・・・ナイショ(笑)」

「なんだよそれ・・・」

「あはっ!謎の多い人間なんだよっ、後藤は♪」
56 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:32
“いちーちゃん”と呼ばれることにも“後藤”と呼ぶことにも違和感を感じなくなった頃、
私はふと、あることが気になった。

さっきから後藤は私に質問してばかりだ。

「それって学校の制服だよね。いつもはどんな服着てるの?」

「後藤、お肉とか苦手なんだ〜、いちーちゃんは何が好き?」

「いちーちゃんってどんな人がタイプなの?なんか理想高そうだよね(笑)」

まるで、私の全てを知りたいっていう感じ。
後藤ののんびりした口調や屈託のない笑顔のせいか、全く嫌な気持ちにはならなかったし
後藤もまた自分のことをいろいろと話してくれるので、こうやってお互いのことを
知り合うのも悪くないかなぁなんて思っていた。
57 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:33
答えを得るたびに目を輝かせる後藤。

(こうやって真正面から人と話すのって久しぶりかも・・・)

後藤の言葉は、直接、心と頭に響いてくる。
そして私も、偽ることなく正直に答えることができた。
そういう後藤との会話は、普通なのかもしれないけれど単純に楽しかった。


後藤との会話も尽きてきて、そろそろ帰ろうと私は腰を上げた。

「そろそろ、帰らないと・・・」

「えっ・・・もう帰るの?」

「もう外も暗くなってきたし。後藤もそろそろ帰らないとお家の人心配するでしょ?」

「あ〜・・・うん、そうだね。」
58 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:33
曖昧な返事をする後藤を気にすることなく、私は次の言葉を発した。

「じゃぁ、もう帰るね。」

「・・・っ・・いちーちゃん!」

「ん?なに?」

後藤に背を向けた瞬間、焦ったように呼び止められて振りかえる。
その時私の瞳に映った後藤は、なんだかとても小さくて弱々しくて不安いっぱいな表情で。
その表情は、まるで伝染するかのように私の胸の奥をジンとさせた。
後藤は、一度俯くとほとんど口を動かさずに言葉を発した。

「・・・ぁしたも・・」

「え?」

聞き取れなかった私が無意識の内に聞き返すと、今度は顔をあげて、
さっきよりは少し大きめの声でもう一度後藤が言った。
59 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:33
「・・明日も、市井ちゃんはここにいる?」

「・・あ、あぁ」



静かな部屋で、まるで時間が止まったような気がした。
伝染してきたこの気持ちは悲しさを増して、私はどうしても後藤から目を逸らすことができないでいた。
何が悲しいのかは全くわからなくて、きっとそれはこの感情が私のものではなく後藤から生まれたものだからなんだろうけど、この一瞬が私にはすごく長い時間に感じていた。

「明日も、ここに来てもいい?」

この後藤の言葉に、私は思う。
どうして、そんなこと聞くんだろう?
明日、私がここにいるかどうかは確かに聞かなきゃ分からない事だと思う。
だけど、明日も私がここにいてもいなくても、ここに後藤が来るかどうかは後藤が
決める事であって、私に聞く必要なんてない。
さっきも、私は後藤を嫌ってなんかいないとはっきり言ったばかりだし。

後藤の考えることってよくわかんないなぁ。
だけど、そんな後藤がすごくかわいく思えた。
60 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:34
だから私は、押し寄せてくる笑い出しそうな気持ちを抑えて、
少し俯きながら、照れ隠しのように鼻をすすって、

「・・・あったりまえじゃん。」

そう、言ったんだ。
そして、この雰囲気を茶化すように歯を見せてニッって笑ってみせた。
すると後藤は想像通り、私につられて笑顔になった。

固まってた空気がまた一瞬で動き出した。
それと共に、後藤の口数もまた多くなる。
61 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:35
「でも、もう帰っちゃうなんてつまんないな〜」

「いや、そんなこと言われてもなぁ。」

「市井ちゃんのケチ・・・」

「っ・・ケチってお前なぁ・・」

「冗談だよ!じゃぁ後藤も帰ろ〜っと」

「ったく、よくわかんないやつだなぁ・・」

「え?何か言った?」

「いや、別に何も・・・」

「・・・」

「ほんとだって!!」

「いいよっ。聞こえなかった事にしといてあげる!」

「・・そりゃど〜も。」

「・・じゃぁ、後藤帰るね・・・。」

「あ、うん。」
62 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:36
自分の家でもないのに、私はなんとなくそうしなきゃいけないような
気がして、後藤を玄関まで見送りに行った。

「・・(先に帰るって言い出したのは市井なんだけどなぁ・・・)」

「・・じゃぁね、市井ちゃん」

「おう。」

「・・・」
「ん?どしたの?」

靴も履いて、帰る準備はできたはずなのに、なかなか後藤はドアに手をかけようとしない。
63 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:37

「・・・えっと・・・また、ね」

恥ずかしそうに、少しだけ俯いてそう言った後藤。

「・・・――――。」

そして後藤は、私より先にこの家を出ていった。

またね・・・。
それは、別れ際に使うありふれた言葉の一つ。


またね・・・。

名前以外、何も知らない。

きっと、私があの家に行かなければ、もう会うこともない。

だけど私は、明日もあの家に行くんだろう。

後藤がまたねと言った後に返したこの言葉が、何よりの証拠。





「――またね、後藤。」

64 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:38
それから私は、1日も欠かすことなくあの家に行った。
そして後藤も、1日も欠かすことなくあの家に現れた。

「こんにちは〜、市井ちゃん、いる?」

「・・・いるよ。」

これが、私達がいつも最初に交わす言葉。
後藤は、必ず私より後にやってくる。
65 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:38
「ねぇ、市井ちゃん、今日も学校楽しかった?」

「ん〜、まぁまぁかな。」

「今日はお昼ご飯何食べたの?」

「えっと〜・・卵焼きとおにぎりと・・・ってそんなこと聞いてどうすんだよ。」

「えへへ〜、いいじゃん教えてよ。知りたいの♪」

「・・覚えてません。」

「もぅ、市井ちゃんのケチ!!」


私に関することをとにかく知りたがるのも相変わらずで。
66 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:38
「さて、そろそろ帰るか!」

「市井ちゃんもう帰るの〜?」

「だってもう外も暗くなってきたし・・・。」

「・・・じゃぁ後藤も帰ろっと。市井ちゃんバイバイ!」


「・・なんなんだよ、あいつは・・・」


必ず私より先に帰ってしまうのも、もう慣れてしまった。


帰り道、暗い夜道をひとりで歩く。
後藤と過ごす時間は、すっかり日常と化してしまったようだ。
67 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:39
(それにしてもあいつっって変わったやつだよなぁ。怒ったり笑ったり
 拗ねたりまた笑ったり・・・疲れないのかな。それにいつもポケットの中に
 いっぱいお菓子入ってるし。しかも、いつも自分だけ食べて市井にはくれないし・・・。)

後藤のことをひとつひとつ文句をつけながら思い出しているうちに、
何故か顔が緩みきっていることに気付いた。

「はは、市井ひとりで笑ってるよ。変な人みたいじゃん」

立ち止まって、独り言を言って、それから両手で顔を
軽くたたいて、表情を引き締める。だけど、この行動の方が
さっきよりもっと変な人だって気付いて、また少しだけ笑った。

こんな穏やかな気持ちは、どれくらいぶりだろう。
もしかしたら、初めてかもしれない。
私は、私の中で後藤の存在が大きくなっていることを
もうとっくに認めていたし、後藤に感謝もしていた。
後藤に出会ったことで、何かが動きはじめているような気がしていた。
居場所が見つかるんじゃないかって、そう思えた。

だって、こんな穏やかな気持ちをくれたのは、

後藤、キミなんだから。

68 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:39
自分の部屋のベッドで、朝を迎えて、一番最初に考えること。

(今日もちゃんと来るかな・・・)

それは、後藤のこと。

お昼ご飯を食べている時、ふと思うこと。

(そういえばこないだお弁当のおかず何か聞かれたっけ。
 マジでそんなこと聞いてどうすんだろ・・・)

それもまた、後藤のこと。

6時間目のチャイムを聞いたと共に考えること。

(さて、今日も行くか。今日は後藤どんなこと聞いてくるんだろ・・・)

これもやっぱり、後藤のことで。


69 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:40
今日も、あの家に向かう。

心を弾ませて。

後藤に会える、あの家へ。


「・・・やっぱり今日も市井が先か・・。」

後藤はまだ来てなかった。
でもそれはいつものこと。

今日も
いつも通り後藤は後からやって来て、
いつも通り私にいろいろ聞いてきて、
いつも通り先に帰っちゃうんだろう。
70 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:41
そんなことを考えているうちに、後藤がやって来た。

「お〜い、市井ちゃーん。後藤が来ましたよ〜♪」

「あ、今日は早かったね、後藤。」

「市井ちゃんも今来たとこなの?」

「うん、そーだよ。」

「な〜んだ、後藤のこと待っててくれるっていうのが良いのに・・・。」

「な〜にいってんだよ。」

「あ、そんなことより市井ちゃん、今日は友達とどんなこと話したの?」

「・・・(やっぱりまた質問か)」

71 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:41
きっと、今日もいつもと変わらない時間を過ごすんだ。
こうやって、後藤と笑って過ごすんだ。ふと、そう思った。
だけど、それは私の勝手な思い込みにすぎなかった。

「あ〜、喉乾いたな〜、ちょっとジュース買ってくるよ。」

「えっ、じゃぁ後藤も行く!」

「いいよ、ちゃんと後藤の分も買ってきてあげるから」

「でも・・・やっぱり行く!後藤も行く!!」

「いいから、ここにいろって。近くの自販機で買うだけだからすぐ帰ってくるよ。
 んじゃぁお留守番おねがいね〜、後藤ちゃん♪いい子にしてるんだよ。」

「・・待って・・待ってよ、市井ちゃん!!」
72 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:42
何故かしつこく行くと言っていた後藤を置いて、私は外に出た。
すぐ近くにあるだろうと思っていた自動販売機は意外にもなくて、
結局少し離れたコンビニで買うことにした。
私は、なんとなく目についたアップルジュースを手に取り、後藤には
(後藤ってこんなイメージだよな〜)とか思いながら、いちご牛乳
を買うことにした。

思っていたより時間がかかったので、後藤が怒ってる顔を想像しながら
少し早足で後藤の待つ家に向かった。

「ごめんね〜後藤。いや〜、近くに自販機あると思ってたんだけど
 なかなかなくってさぁ〜、結局コンビニまで行っちゃったよ。」

「・・・」

後藤は顔を上げようとしない。
73 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:42
(あちゃ〜、やっぱり怒ってるよ・・・)

なんとか後藤の機嫌を直そうと、後藤の側まで行って
買ってきたジュースを見せる。

「ほら、後藤にはこれ買ってきたから、機嫌直し・・・」

そこまで言いかけて、私は手に持っていたいちご牛乳を滑らせた。
いちご牛乳が床に落ちた音の他に、あともう一つ、聞こえてくる音。

「・・ンッ・・ク・・グッ・・・」

後藤は、泣いていた。

「後藤・・泣いてんの?」

「・・ンッ・・・泣いて・・な・い」

そう強がった後藤の体は、震えていて。
それを抑えるかのように自分の体を自分の両腕で抱きしめた。
74 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:43
「泣いてないって・・めちゃくちゃ泣いてんじゃん・・。」

そう言って後藤の肩に触れようと手を伸ばした時、
後藤は驚いたように体を硬直させ、私の手から逃げるように
体を引いた。
それと同時に、涙に濡れた顔をようやく上げる。
涙に溢れた後藤のその瞳と目が合った瞬間、
私の頭の中は真っ白になった。





――――――血が、燃えた。




75 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:43
きっと、出会ったあの日からずっと抱いていた感情。
それを認めるのが怖くて、自分でも知らないうちに
その感情を殺していた。
だけど、たった今その感情は新しい形となってまた私の心に大きく姿を現した。


「・・ンッ・・だって・・いちー・・ちゃんが・・ック・
 後藤を置いてくから・・ック・待ってって言ったのに・・ひと・・りに・するから・・」

後藤は、必死に今どうして自分が泣いているのかを説明している。
説明と言うよりは、必死に伝えているような感じだ。
76 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:44
「・・ひとりに・・しないで・・さみしかった・・こわかったよぉ・」

後藤の目は、私の向こう側に違うものを見ているような気がした。
ただ、私の腕を強く掴みながらまた涙を溢れさせている。
その姿は、いつもの後藤よりももっと子供みたいで、
また私の心にあの感情がが押し寄せてくる。
無意識のうちに、私は後藤を抱き寄せた。

「・・ごめんね・・もうしないから・・絶対に・・しないから・・・」

「・・ウッ・・いちー・・ちゃん・・ンッ・・」

後藤が泣き止むまでずっと、私は後藤を抱きしめ続けた。

77 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:44
今、後藤がこの腕の中にいる。
後藤がこんなにも震えて、こんなにも泣いているというのに。
私の心は幸せに溢れていた。


その感情の名前は、「 愛情 」


私は、後藤を愛している。
きっと、出会った時からずっと。
後藤の涙を見てそれに気付かされるなんて単純だとは思うけど。

だけどきっと、この後もう一つの感情に襲われて、
私は後藤を愛してしまったことを後悔するだろう。
後藤に出会ったことでさえも・・・
でも今だけは、この幸せに埋もれていたい。
78 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:45
だから、もう少し。

あと少しだけ、キミをこのまま・・・


「・・ハハ・・泣いちゃった・・」

落ちついたのか、後藤は私から少し体を離して、弱々しい声でつぶやいた。

「・・・もう落ちついた?」

「うん、ごめんね。なんか嫌なこと思い出しちゃってさ・・もう大丈夫だよ」

「そっか・・・なんか、ごめんね」

「ううん、市井ちゃんは悪くないよ。あたし市井ちゃんのこと大好きだもん♪」

前後のつながりなく発せられた後藤の言葉に
私の心臓はまた大きく波打って、頭の中を真っ白にさせる。

79 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:45
「・・・ありがと」

いつもならそっけなく返すんだけど、今はその言葉がほんとにほんとに嬉しくて。

「うわっ、なんか市井ちゃんやけに素直だねぇ。」

もう、いつもどおりの元気な後藤に戻ったみたいだ。
ニヤけた後藤の顔を見て、私はほっと胸を撫で下ろす。

「よし、もう元気になったね。じゃぁもう今日は帰ろっか。」

「うん、ほんとに今日はごめんね。じゃぁ、また明日ね!」

そう言って、後藤はいつも通り私より先に帰っていった。
また明日。その言葉が心に響く。
明日も後藤に会えるんだ。「明日の私」の側にも、後藤はいてくれるんだ。

ついさっきまでは当たり前に思っていた事を、今自分に強く言い聞かせた。
80 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:46
考えて考えて、やっと出した結論。
二人の関係を1秒でも長く続かせるには、結局これしかなかった。

現状維持。

これ以上は望まないよ。

このままでかまわない。

後藤のことを、想っていられるだけでいい。

だから、お願い。神様。

ずっと、ずっと、あの子のそばに・・・


だけどそんなにうまくはいかない。
今まではうまくやってこれたのに。
81 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:49
「市井ちゃん♪今日も後藤が来ましたよ〜」

後藤に会えば、やっぱりこの心は弾んで。

「市井ちゃんってキリっとしててなんかかっこいいよね〜」

後藤の何気ない一言に、心臓は大きく波打って。

「後藤はいつもふにゃふにゃだからさ〜、あはっ」

いつも思い浮かぶのは後藤の笑顔。


後藤に出会うまでは、感情なんて平気で殺せてたのに。
だけど、この感情だけは殺せそうにない。
止めど無く溢れつづけてるこの想いを、殺したくはない。
だから、そっと私の心の中に隠しておこう。
82 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:49
不意に沈黙が訪れて、私達は静寂に飲みこまれた。
なんだか言葉が出てこなくって、隣にいる後藤から聞こえてくる
息遣いにちょっとドキドキしながら、意識しないようにわざと窓から見える空を眺めていた。
すると、左の肩に微かな重みを感じた。
首だけひねって見てみると、そこには後藤の頭がもたれかかっていた。

(寝ちゃったんだ・・・)

ひとりでドキドキしてた自分がバカみたいで、ちょっと気抜けしたけど
左側から感じる後藤の存在に、私の胸は休む暇もなくまた高鳴る。
だけどそれがなんだかすごく心地よくって、私に幸せを運んでくれる。

「このまま時間が止まればいいのに。」

素直に出てきたその言葉は、いつか後藤が言ってた言葉。
83 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:50
「市井ちゃんと喋ってるとすぐ時間が過ぎちゃうよ〜」

「だって後藤喋りっぱなしじゃん。疲れない?」

「だって、市井ちゃんといっぱい喋りたいんだもん」

「なんだよ、それ(笑)」

「あ〜あ、このまま時間が止まっちゃえばいいのになぁ」

「・・・」

きっとその言葉は、後藤が何気なく言っただけなんだろうけど、
私はそれを軽く受け流すことができなかった。
私もその時、同じ事を思ったから。
84 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:50
だから私は、自分の腕時計の竜頭を引いて、時間を止めた。

「ほら、後藤。時間止まったよ。」

腕時計を後藤に見せて、微笑んだ。
すると、後藤もにっこりと微笑んで。

「ほんとだ〜。これだから市井ちゃんって好きだよ。」

「だから、もっと喋っても大丈夫だよ。」

「うん!っていうか市井ちゃんって結構ロマンチストなんだね(笑)」

「うるせーよ」

「わぁ、市井ちゃん照れてる?か〜わい〜♪」
85 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:51
思い出すだけでも、こんなに幸せで。
その幸せをくれる人は、今自分の隣にいる。

隣でまだ眠っている後藤の髪を優しく撫でる。

「・・・ん・・・」

「・・起きた?」

眠りから覚めた後藤に、小さな声で囁く。
86 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:51
「・・市井ちゃん・・後藤寝てた?」

「・・うん、ぐっすりと」

そう言って微笑むと、後藤は私の腕を弱々しく掴んで

「じゃぁ夢だったんだ、良かった〜」

「どんな夢見てたの?」

「すっごく怖い夢」

「・・どんな夢?」

「・・・」

「・・忘れたとか?」

「ん・・覚えてるんだけど・・」

「じゃぁ教えて?どんな夢?」


―――私の隣で、どんな夢を見てたの?
87 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:51
「・・・背中」

「えっ?」

「市井ちゃんの背中がだんだん遠くに行っちゃう夢・・・」
 

「・・・」

「すっごく怖かったなぁ」

そう言った後藤の目に、私は映っていなかった。
あの日、はじめて後藤の涙を見た時と同じ。
ずーっと遠くを見ているような、そんな目。
88 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:52
「ほかにも夢見たような気がするんだけど忘れちゃった(笑)」

だけどそれは一瞬で、またすぐいつもの後藤に戻った。

「なんか後藤らしいね(笑)」

「もー!なにそれ!」

怒っている後藤の髪をもう1度撫でて、

「・・・帰ろっか」

「・・・うん」

お互いにっこり微笑んで、立ち上がる。
今日もう何度目かの幸せがまたやってくる。
89 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:53



この気持ちは、ずっと私の中に隠しておこう。

大切に、大切に、誰にも見せずに。

誰にも、後藤にも、伝えずに。



この恋心は、私だけの秘密。


90 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:54
想いを隠して接するのは本当に楽じゃないけど、
私はなんとか、後藤と楽しい時間を維持できていた。

「ねぇ、後藤?」

「ん?な〜に?市井ちゃん」

「今度さぁ、2人でどっか遊びにいこうよ」

ある日私は、思いきって後藤をデートに誘った。
デートといってもそれはただの自己満足で、
後藤にしてみればただのお出掛けなんだろうけど。

「・・・」

「遊園地とか映画とかさぁ、後藤の行きたいとこどこでもいいから。ねっ?」

「・・・いい」

「・・えっ?」
91 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 20:55
後藤なら喜んで話に乗ってくると思っていたので、ちょっと拍子抜けしてしまった。

「後藤、市井ちゃんとここでお喋りしてる方が好きだからいいや」

後藤は、私と目を合わすことなく一呼吸で一気に言いきった。

「そっか。別にどうしてもって訳じゃないからどっちでもいいんだけどね。」

内心かなりがっかりしていたけど、ここでしつこく誘って
後藤に嫌われてしまうことを恐れた私はあっさり引き下がった。



「じゃ〜ね〜、市井ちゃん」

「おぅ」
92 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:00
そう言って別れたのは、昨日の話。
いつも通りに別れたんだ。
また明日、って。



だけど今日、どれだけ待っても後藤は来ない。


私は、

(きっと、今日は急な用事でもできたんだ)

って、そう自分に言い聞かせて後藤に会えない辛さを埋め込んだ。


だけど、その次の日も、次の次の日も後藤は来なかった。

93 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:00
そして、私の「後藤を待つ日々」は続いて、今日でもう6日目。
明日も来なければ1週間会ってないことになる。
私は、姿を見せない後藤の心配なんてできる余裕がなかった。
こんな時に愛する人を心配することもできないなんて、最低だって自分を責めたり、
自分が知らないうちに何かしてしまっていて後藤に嫌われてしまったんじゃないかとか
とにかくそんなことばかりが頭によぎって、自分を追い詰めて、限界だった。

後藤に会いたくて会いたくてたまらない。
もう泣きそうなくらい後藤に会いたい。
私の心は叫び声をあげていたけど、それすらもだんだん小さくなっていく。

後藤が来なくてもとにかく通い続けていたこの家を出たとき。
94 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:01
後藤を見つけた。

とても遠くにいたけど、間違えるはずがない。
あれは確かに、後藤の背中。

「ごとっ・・・」

呼びかけた瞬間に消えてしまった後藤の背中。
多分今のは、私が作り出した幻覚。
だけど、後藤を求めている私にはあまりにもリアルで。
私はただ、後藤がいた場所を見つめていた。

95 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:03
頭の中で、もう一人の私が私に話し掛けてくる。


      ・・・ねぇ、大事なこと忘れてない?・・・

忘れてる?私が?何を?

      ・・・あなた、自分が幸せになれるとでも思ってるの?・・・

      ・・・なれるはずないでしょ、あなたが幸せになんて・・・

幸せに?もう十分幸せだよ
後藤がいてくれるだけで十分

      ・・・嘘つき。あなたは求めてるでしょう?あの子に愛されることを・・・
96 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:03
そんなことない!
私は後藤の側にいられるだけでいいんだから

      ・・・そして、あなたはもう気付いちゃったんでしょう?・・・

      ・・・あの子は、あなたがいなくても生きていけるって事に・・・

もういい…やめて…
      
      ・・・そしてあなたは、もうあの子がいないと生きていけない・・・

やめて!!
97 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:04
完全に切れてしまったその線を飛び越えて弱さが私を埋め尽くす。

もう、さっきまでの私は跡形もなく弱さに飲みこまれてしまった。

後藤に愛されたいと願ってしまった私は、もうどこにも行けない。

怖くて怖くてたまらない。

後藤は、私なんかいなくても生きていけるんだ。

だけど私は、後藤がいなければもう生きてはいけない。
98 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:05
私といないときの後藤は何をしてる?何を考えてる?
私はこんなにも後藤の事を・・・。

目には見えない何かに対する嫉妬で焼き尽くされそうだった。

私といる時以外の後藤の事を何も知らないと気付いた時、
現れた孤独の影に怯えながら眠れない長い夜を過ごした。



その次の日、私はやっぱりあの家に足を運んでいた。
後藤が来るかどうかなんて保証は全く無いけど、それでも
後藤に会えるとしたらこの場所しかないから。
私達のつなぎの糸は、この場所だけだから。
99 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:05
後藤をいつか失ってしまうことよりも

今、後藤に会えないことの方が怖い。


「・・会いたいよ・・・後藤・・」

家の中で、うずくまっていると愛しい声が聞こえてきた。

「いちーちゃーん、いますか〜?」

「・・っ!!後藤!?」

私は急いでドアの方に向かう。

「ごめんね〜、後藤がいなくて寂しかった??」

「・・・」

「も〜!市井ちゃん、いるならなんとか言ってよ!後藤ひとりでバカみたいじゃん」
100 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:06
私は、言葉が出なかった。
後藤に会えた喜びが頭のてっぺんから足の先までを埋め尽くして、身動きが取れない。

「・・市井ちゃん?お〜い」

後藤は私の目の前で手をひらひらと振っている。

「・・いちー・・ちゃん?」

後藤が私の肩に触れようとしたとき、私の中の何かが後藤を拒否した。

後藤の手を避ける私の体。
きっとこれは最後の力。
これ以上後藤を愛さないように、またひとりになっても
生きていけるように、臆病な私が踏んだブレーキ。
だけど、やっぱりそれは無駄な抵抗ですぐに負けてしまう。
後藤の瞳に、吸いこまれて・・・
101 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:07
この不安いっぱいの気持ちを吐き出すかのように涙が溢れてきた。

その勢いは増すばかりで止まることを知らない。
ついには立っていられなくなって、その場にしゃがみこんでしまった。
それでも素直に泣いてる姿を見せられない私はどこか不細工だった。


しばらく、おどおどしっぱなしの後藤。
そりゃそうだ、こんな私を見たのは今日が初めてなのだから。
だけど後藤は、この状況に慣れてきたのかいつのまにか私のすぐ
近くまで来ていて、私と同じ視線の高さぐらいまで腰を下ろす。
手で目を覆っているため気配だけで後藤を感じていると
後藤は私の頭に手を伸ばしてきた。
そして、何もいわずに私の頭を撫でてくれた。
102 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:08
「いちーちゃん、ごめんね」

そう優しくつぶやいた後藤の甘い声を聞いて
私は少しずつ、包み隠さずに自分の気持ちを告げた。
きっと後藤なら、例え何度裏切られたとしても
何度でも信じられるって思えたから。




本当の自分はとても弱い。
でも後藤に出会って前向きに進めるようになったこと。
後藤の存在は今自分の中でとても大きい。
後藤に会えなくて、寂しくて不安で怖かった。
置いて行かれたような気がした。
どうしようもなく後藤を独占したい気持ちが溢れている。
後藤なしでは、もう生きていけない。
103 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:08
思いついたこと全てを後藤に打ち明けた。
きっと、私が後藤を好きだということも
後藤は気付いてしまっただろう。
言ってすぐに、打ち明けてしまった事を後悔する。
もう限界だと思っていたけど、今思えば
もっと我慢できたかもしれない。
ここで拒絶されれば、もう2度と後藤との時間は戻ってこないだろう。
今日後藤が来た時、今まで通り平気な顔して笑えていたら
後藤との時間が簡単にまた取り戻せたのに。


104 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:09
だけど、ほんの少しだけしてしまう。

愛されてるかもしれない期待。

ここまで後藤に話してしまえば、きっともう
どんなことを言っても変わらないはずなんだけど。
でも、これだけは言えなかった。

はっきりと、素直に、

           「愛している」

とは、言えなかった。

これは、臆病な私のせい。
105 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:09
だけど後藤は、それでも私を優しく抱きしめてくれた。
初めて見せた、素の自分。
それを後藤は受け入れてくれたのだ。
私の居場所が、見つかった気がした。
ずっと否定していた自分自身の存在を後藤は認めてくれた。
この時、私の闇が割れて光が差し込んでくるような気持ちになった。

きっと、もう大丈夫。
もう、強さだけに頼らなくても
後藤を信じて生きていける。
後藤は私を認めてくれたから。

後藤がいてくれるなら、きっと・・・
106 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:10
しばらく後藤に抱きしめられて落ち着きを取り戻した私が
気になったのは、さっきから震えている後藤の体。

その原因は、すぐにわかった。
後藤にも心に闇があることは気づいていたから。
だって、そうじゃなかったら私はこんなに後藤に惹かれていなかっただろう。
きっと、私が傷を見せたせいで、後藤の傷を刺激してしまったんだ。

だから今度は、私がキミを救ってあげる。

次は後藤が傷を見せて?

「もっと早く、こうしていれば良かったね。」

後藤が元気なく、それでも勤めて明るめの声で言った。
私は返事もせず顔だけを後藤に向ける。
107 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:11
「そしたらこんなに苦しまずにすんだのに。市井ちゃんも・・後藤も」

「・・後藤も?」

「そうだよ、後藤だって・・。
 市井ちゃん、後藤が何も考えてないと思ってもらっちゃ困るよぉ。」

今からきっと、後藤は話してくれる。本当の後藤の事を。
そう思って、今もまだ冗談っぽい口調の後藤を真剣な顔で見つめた。

それが合図のように、後藤は話し出した。


「後藤はね、いつもそうなんだ。後になって後悔する。
なんでこんな事言っちゃったんだろうとか、もっとこうしていればとか。
それって、誰でもそうなのかな?後藤にはよくわかんないけど。
でも、後悔する前に取った自分の行動って、決して間違ってたとも思えなくて、
自分のしたいようにしたつもりで、じゃぁ何が間違ってたのかもわからなくて、
そしたらすごい悲しくなるの。」
108 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:11
そこまで言うと後藤は私の目をまっすぐと見た。

「後藤がそうなっちゃう時っていつも決まってるの。
 どんな時だか分かる?」

「・・・・」

私は無言で首を振った。

「それはね、失った時。友達を、すごく大好きだった。
今思い出すとほんとに大好きだったのかもわかんないけど。」

ほんの少しだけ、自虐的に後藤が笑う。
こんな大人びた表情の後藤は初めてだ。

「後藤はね、たくさんの友達はいらないんだ。
だからいつも、ひとり仲いい子が出来たら、もうその子だけでよくなっちゃうの。
あ、言い忘れてたけどこれは小学校の頃の話ね。」

「うん。」
109 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:12
以外だ、と思った。
きっと後藤には、たくさんの友達がいると思ってたから。

「でもね、後藤はその子だけでいいはずなのに、いつも満たされないんだ。
その子と遊んでると楽しいんだよ?その時はまだ、わからなかったんだ。」

思い出すように、話す後藤。
ひとつひとつ、思い出すたびに後藤は少し辛そうに笑いながら。

「でね、ある日言われたの。『真希ちゃんと遊んでると他の子と遊べないからつまんない!』って。
その時は、傷付いたけど、それでもまだ分からなかった。幼かったんだね、後藤も。」

「それで、その子とはどうなったの?」

「それからは、あんまり遊ばなくなっちゃったよ。なんか自然に。
その子は元々友達が多かったし。」
110 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:13
「そっか・・」

「それからね、後藤もまた友達が出来たりしたんだ。
 でもね、やっぱり繰り返しちゃったんだ。そしたらだんだん、わかってきて。」

「・・・」

「気付いた時、最初に言われた事もやっと分かった。後藤、独占欲が強いんだ。
後藤は、遊んでる時は後藤とだけじゃなきゃ嫌だったの。後藤にだけだよって内緒の話してくれると
嬉しかった。他の子と話してる内容は、後藤も知っていたかった。
後藤はそれで良かったけど、みんなはそれを受け入れられなかって事なんだって。」

そこまで一気に話すと後藤は小さくため息をついた。

「そう思ったら、後藤なんか遠慮しちゃってさ。誰にって、そりゃもうみんなにだよ。
それこそ、家族にも。嫌われるのが本当に怖くなっちゃって。」

「・・・」
111 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:14
「でもね、そしたらだんだん、みんな同じに見えるようになって。
教室で話してる同じ委員会の子も、その隣にいる話した事も無い子も、みんな。
当り障り無く接するようになって、交際範囲も広がったけど、つまんなかった。」

「・・今も?」

「うん・・・でもね、そんな時に市井ちゃんに出会った。
後藤、生き返った気がしたんだ。市井ちゃんは、みんなとは違って見えた。
興味が湧いたんだ。市井ちゃんに。」

「・・市井に?」

「うん、こんな事言うの照れるね。でも、ほんとにそうなんだ。
後藤、感謝したよ。だってそれでまた繰り返したらきっと市井ちゃんも
離れて行っちゃうと思ったから。だから出会ったのがこの場所でほんと神様に感謝した。
ここなら絶対後藤と市井ちゃん以外の人はいないし、いても多分知らない人だし。
ここにいる時だけだったとしても、市井ちゃんは後藤だけを見ていてくれたから。
後藤は誰に嫉妬することもなく、素直に市井ちゃんを好きになれた。

でもね・・・」
112 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:15
後藤が少し黙る。
次に言う事を考えてるというよりは、言いにくそうに。

「覚えてる?市井ちゃんがジュース買いに外へ出たときのこと。」

「・・・あぁ。」

「あの時ね、後藤気付いちゃったんだ。市井ちゃんがいないと嫌だって思ってる自分に。
満足してたはずだったのに、後藤はやっぱり変ってなかった。嫉妬する相手が、
いるかいないかってだけの話で、結局後藤は市井ちゃんを独占したいって気持ちがずっとあったんだ。
ここにいる2人の時間に、一人になるのは嫌だった。
市井ちゃんの時間を後藤だけに使って欲しかったんだ。」

あの時後藤は、確かに私が外に出ることをひどく嫌がっていた。
そして帰ってきた時には、泣いていた。
113 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:15
「一人でいるとき、いっぱい考えちゃった。何をってわけじゃないけど
市井ちゃんの事、後藤のこと。とにかくいっぱい。頭ん中、おかしくなりそうだった。」

「だから、あの時・・・」

「うん・・・。市井ちゃんが帰ってきたとき、後藤ほんとに安心したんだ。
早く帰ってきてって、それを何よりも強く願ってたから。」

「そうだったんだ・・・ごめんな。」

「ううん、いいの。でね、それから後藤は、また抑えようって頑張ったんだ。
市井ちゃんに嫌われたくなかったから。でも、市井ちゃんのそばにいるとどうしても
ダメなんだ。市井ちゃんの事全部知りたくなる。抑えられないの。」

「・・・」

「いつか、市井ちゃんどっか遊びに行こうって誘ってくれたよね。」

「あぁ、あったね。」
114 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:17
「あの時もそうなんだ。ほんとはすっごく嬉しかったのに、勇気がなかった。
もしそれで市井ちゃんの友達とかに会ってさ、市井ちゃんが話してる姿とか見たら
きっと後藤またメラメラに燃えちゃうから。たぶん心の中で思っちゃう。
その人と後藤、どっちの方が大切なのって。大げさな話だけどさ、でもそうなの。」

「そんなこと・・・」

「でもね、後藤、さっき市井ちゃんが泣いてくれて嬉しかった。
ほんとはもうここにも来ないつもりだったの。」

「えっ!・・・」

突然の後藤の告白に本気で焦った。
まさか、もし本当にそうなっていたら、私はどうなっていただろう。
後藤の気持ちが、まだそのままで、今日が最後だなんて言われたら・・・。
急に頭の中が真っ白になった。
115 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:17
「そんな・・・やだよ!絶対ヤダ!!」

「待って、まだ話は終わってないよ。そう思った。だけどできなかったんだ。
後藤はやっぱり市井ちゃんに会いたくて、会いたくて苦しくて、我慢できなかったの。
諦められなかった、市井ちゃんの事。好きなの、市井ちゃんの事が。本当はずっと前から
気付いてたけど、ずっと認めるのが怖かった。でも、もう抑えられなくて。」

「後藤・・・」

「どうしよう、どうしようって思いながら今日来たんだ。もし市井ちゃんがいなかったら。
いたとしても、どう接したら言いいの?今までどおりに?そんな事しててももう長くは続かない。
続けられないって。後藤の気持ち、もう止まらないもん。そしたらきっと市井ちゃんの事
思いやってあげられなくなる。ほんとにどうしようって、何度も足を止めながら。でも
先に市井ちゃんが見せてくれた。本当の気持ち、市井ちゃんが先に話してくれた。
だから後藤も今こうやって市井ちゃんに全部話す事が出来たんだよ。それで市井ちゃんが
後藤の事受け止めてくれるかっていうのは、正直自信がないけど。」
116 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:18
後藤はまた言葉を詰まらせた。
いや、詰まってるんじゃなくて後藤の言いたい事はここまでなのかもしれない。
今度は私がもう1度話さなきゃ。
まだ不安が残ってる後藤を安心させてあげなきゃと思った。

「後藤、市井は・・・。好きだよ、後藤。後藤のこと、ずっと考えてた。
ずっとずっと考えてたけど、後藤のこと、今日やっと分かった気がするよ。
市井はもう、後藤がいないなんて嫌なんだ。市井だって我慢できないよ。
受け止めるとか、わかんないけど、市井は今まで後藤が出会った人たちとは違う。
後藤がそこまで市井の事考えてくれてるなんて、そんな嬉しい事ないよ。」
117 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:18
「でも、後藤市井ちゃんのこときっと縛っちゃうよ?」

「いいよ、そんなの。後藤になら、何されてもいい。」

「市井ちゃん・・・。」

「だから、頼むよ。ずっと傍にいて。難しい事はもう考えなくていいから。
思った事は何でも考える前に市井に言えばいい。考える時は2人で考えよ?」

「うん・・」

緊張の糸が切れたのか、後藤がだんだんいつもの甘えたな口調に戻ってきた
118 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:19
「あっ、でも市井も後藤の事独り占めしたくなっちゃうよ、きっと。」

「それって嬉しいかも。後藤今までするばっかりでされた事ないから。」

「じゃ、うちら丁度いいんじゃん?」

「うん!」

後藤が笑ってる。やっぱ可愛いなぁとか思って、ギュって抱きしめた。

「なんか、ドキドキするねぇ・・。」

「するなぁ。」

「なんか、幸せだねぇ。」

「だなぁ。」

「なんか、なんか・・・」

「後藤?・・・」
119 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:19
沈黙を避けるように喋りつづける後藤の言葉をさえぎって、続ける。

「大好きだよ。」

「・・・うん」

「後藤は?」

「後藤も、大好き。」



この家を2人で出て、今度は外で会う約束をした。
これからも、私はどこにいても後藤の事を考えてる。
後藤もきっと、そうだよね?
120 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:20




END
121 名前:NZM 投稿日:2004/06/11(金) 21:20
またまた一気に終了です。
よかったら感想待ってます!
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/12(土) 20:05
やべー!超いい!!
いちごま好きだぁ♪
ここの後藤さん可愛い。
文章うまいっすね。期待してます
123 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:42
122さん、ありがとうございます♪
明日からまた忙しくなるので、
小説はしばらく書けなくなるかもしれないので
その前に、もう1個だけ乗せます。
よろしければ読んでやってください。
124 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:44


『メモリー』



125 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:44
危ない!!

キーッ!ドンッ!!

おぃ!事故だ!人が轢れたぞ!

女の子じゃない、かわいそうに・・・。

誰か、救急車!!


すっごく遠くの方で、人が騒いでる声が聞こえる。

この日、私は事故に遭った。

その瞬間、すごく頭が痛かったような気がする。

そして、目が覚めた時。

失ったもの、それが何なのかもわからない。

失っている事にすら、気付く事もなく。
126 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:45
病院の、屋上。
すごく寒いけど、一人になるにはここしか思いつかなかった。
とりあえず、混乱してる気持ちを落ち着かせようと、ここへ来たのはいいけれど、
思ったより精神的ダメージは大きかったらしい。

一粒二粒、涙が出てきて、それからはもう止める事が出来なかった。

泣く事は、あまり好きじゃない。

でもこんな、ドラマのような状況に立たされてしまったんだ。
体はピンピンしていたけど、でもやっぱり何かが怖かった。
今は少しくらい泣いたっていいだろうと、どこか客観的に考えながら涙を流した。
127 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:46
病院で目覚めた時、天井の次に目に入ったのは、心配そうな母の顔だった。

「お母さん・・・」

私がそうつぶやくと、

「真希!」

そう言って母は泣き止んだばかりらしいその瞳にまた涙をうかべた。
それと同時に、お母さんの隣に立っていた病院の先生らしき男の人が安堵のため息を吐く。
私が先生の方に目を移すと、にっこり笑ってから、話し掛けてきた。

「気分はどうだい?」

「まだ少し、頭がボーっと」

寝起きのせいか、少し声が掠れた。
けれど、思ったより先生の問いに対する答えはすんなり頭に浮かんだ。
128 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:46
「そう。じゃぁ、自分が誰だか分かるかい?」

「・・・・・」

けれど、次の問いにはそんなに早く答えることはできなかった。
この医者の質問の意味が分からなかったからだ。
私は誰かって?
バカにされてるのだろうか。

「私は後藤真希ですけど。」

少し、言い方が悪かったかもしれない。
言い終えてすぐそう思ったけど、先生の表情はさっきと変らず穏やかだった。

「そうだね、変な事を聞いてすまなかった。怪我が治るまではここに入院してもらう
からね、しばらく退屈だろうけど安静にしてればすぐだから。」

「はい。」
129 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:46
先生は、初めから全く表情は変らない、穏やかな笑顔でそう言うと母に
「それでは。」と軽くお辞儀をして病室を出て行った。

医者が出て行くと、すぐに母が喋りだした。
もう、目を覚ました時の弱々しい母ではなく、いつものきつめの口調だった。

「あんた、事故にあったのよ、ほんと大した事無くてよかったわ。」

「・・・っ!」

少し体を起こそうと体に力を入れた時、頭に激痛が走った。

「ちょっと、ダメよじっとしてなきゃ!大した事ないって言っても怪我してるんだから。」

「わかってるよ」
130 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:47
事故に遭ってから、病院で目を覚ましたのは実はこの時が2度目だったらしい。

1度目は、私は覚えてない。

だけどお母さんが言うには、その時私は自分の名前も、
母の顔も、自分の状況も何もわからない、いわいる一時的な記憶喪失だったらしい。
何も分からないとつぶやいた私はまたひどい頭痛を訴え、気絶した。

そして目覚めたのがさっきだというわけだ。
131 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:47
「泣いてんの?」

そうだよ、見りゃわかるでしょ。

「なんで泣いてんの?」

「・・・・」


いつの間に入ってきたのか、せっかくのひとりきりだった屋上に
来た誰かが、泣いてるあたしに遠慮もなく話し掛けてくる。


「市井もさぁ、今すっごい泣きたい気分なんだよね。めちゃくちゃ悲しいんだ。」

その人は、全然悲しく無さそうにそう言った。
132 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:48
「でも、どうしても泣きたくないんだよなぁ。」

この人が喋ってくるから、だんだん泣く事よりもこの人の言葉に気をとられる。

「泣くの嫌いなんだ。しかも、今泣くと君に泣き顔見られちゃうしね。」

だったら、家に帰って一人で泣けばいいのに。

「だからさぁ・・・」

もう、あたしの瞳には新しい涙が溢れる事はなく、さっきまでの涙の残りだけが
瞳を潤ませていた。

「・・・・・」
133 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:49
あたしの隣にしゃがんだ時から途切れることなくあたしの耳に届きつづけたこの人の言葉が途切れた。
続きが気になって、無意識のうちにあたしは顔を上げた。

「・・・だから、市井の分まで泣いてくんないかなぁ?
君がなんで泣いてんのか知らないけど、ついでに市井の分まで泣いちゃってよ。
泣き終わるまで、市井ここにいるからさ。」

ぼやけた地面から視線を上げたその先にあったのは、「市井」と名乗るこの人の、
とてもとても悲しそうな笑顔だった。

「・・・ダメ、かなぁ?」

なんでだろ、さっきまでのあたしの悲しみなんてふっとんじゃって、
この人の悲しみで心がいっぱいになっていくのがわかる。
この人の声からはまったく悲しみなんて感じられなのに、
表情は笑顔なのに、悲しみしか感じられなかった。
134 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:49
「ちょ、ちょっと、もしかしてもう泣いてくれてんの?」

「え・・?」

あたしは、泣いていた。さっきとは比べ物にならないほどの大粒の涙が自分の頬をつたっていくのが見える。

「あ、それともそれはまだ君の分?まぁどっちでもいいや。思いっきり泣いちゃって。」

さっき見た、この人の悲しい笑顔が目に焼き付いて離れない。

「・・・・」

そこからは、ずっと無言だった。
あたしはただ、この人から伝わってくるとても苦しい悲しみに
胸を締め付けられ、堪えられずに小さな声を上げながら涙を流しつづけた。
135 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:50
病室に戻って、引出しから手鏡を取り出す。
映し出された鏡には、見慣れた顔。
いつもと違う所といえば、泣いてバンバンに腫れた真っ赤な眼。
あとは、頭に巻かれた真っ白な包帯くらい。

泣きつづけるあたしの頭を撫でてくれた市井という人。
あたしの目をこんなにした不思議な人。
あの人はなんで泣きたかったんだろう。
変わりに泣いたはずなのに、さっぱりわからない。
ひとしきり泣いて、落ち着いたあたしにあの人はこう言ってた。

「泣きたくなったらまたここに来ればいいよ。
あたしはいつでもここにいる、少なくとも、君が元気になるまでは。」

そう言って、あの人は屋上から出て行った。
泣きたくなったらって、あたしはあなたのために泣いたんだよ?
136 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:51
あれ?でもあたし、最初は自分自身のために泣いてたんだっけ?
事故って、なんかショックで、それから・・・
わからない、なんで?
あたし、なんで泣いてたんだろう・・・


そこまで考えるとまた頭がズキズキしてきたので、
おとなしくあたしは体を横にした。


次の日、体の調子はすごく良かった。
ボーっとしてた頭も今日はスッキリしてるような気がする。
そう先生に言うと、先生は曖昧に笑っていた。
137 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:51
その後、病室はお母さんと2人っきりで。
いろんな事を聞いた。
姉弟は心配してない?学校はどうなってるの?
お母さんは安心したような表情で笑ってた。

「あの子達、最初はだいぶパニクってたけど昨日
お母さんがちゃんと説明しといたから大丈夫よ。
学校にもちゃんと言ってあるから。」

「そう・・」

学校。
きっと次に行く時はいろいろ聞かれるんだろうなぁ。
大丈夫とか、どんくさいねとか。
めんどくさいなぁとか思いながら、それでも
心配そうにしてくれる友達を想像するとなんかおかしくて少し笑った。
138 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:51
「行きたいなぁ、学校・・・」

あたしがそうつぶやくと、お母さんが今一番誰に会いたい?って聞いてきた。

「ん〜。」

いろんな人の顔が浮かんで、誰が一番かなぁって考えるのに少し時間が掛かった。

「誰だろ、わかんない。」

ちょっとだけ、自分でもおかしいなと思った。
会いたい人はいっぱいいる。
学校には仲のいい子だって、多くはないけどいるし、姉弟だっているはずなのに。
決して会いたくないわけじゃない。会いたいに決まってる。
なのに、一番会いたいのはと聞かれると、答えられなかった。

「冷たいねぇ、あんたって子は。みんな心配してるんだよ。」

お母さんが冗談っぽく言った。
139 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:52
「わかってるよぉ。そういえば・・・」

そういえば。
誰にも会ってないなぁ、と思った。

「誰も来ないね。お見舞い。」

特に寂しそうに言ったつもりはなかったけど、それを含んだ声が自然に出た。

「それは・・・あんたまだ完全に治った訳じゃないから遠慮してもらってるのよ。」

「そうなんだ。」

特に気にもならなかったからちょっとそっけなく答えた。
お母さんはお昼ご飯の時間だからと家に帰った。
また、夜来るねって言って、病室から出て行って、また静かになった。
140 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:52
一人でいると、なんだか急に不安になる。
これは事故のショックからなんだろうか、前はそんな事なかったのに。

ふと思い出して、あたしはベットから体を起こす。

「あたしはいつでもここにいるから。」

誰でもよかったんだと思う。
今ここに一人なのが嫌で、あたしは屋上に行こうと思った。
確かにちょっと期待はあったけど、半分はいないだろうとも思っていた。

だけど。
屋上に行くと、あの人はいた。
フェンスから下を覗いてる、後姿が見えた。

昨日の事を思い出して、あんなに泣いてる所を見られたのだから
少し気恥ずかしかったけど、声を掛けてみようと思った。
141 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:53
「(えっと〜、あの人の名前は確か・・)」

昨日の記憶と心の中で確認をして、呼びかける。

「・・市井さん!」

市井さんは驚いたように一度だけビクっと肩を震わせてすばやくこっちに振り向いた。

「・・あぁ、おっす。」

市井さんは何て言おうか迷ったように言った。

「市井さん・・ですよね?」

あたしは、昨日まともに話したわけでもないのに市井さんと
呼んでもいいのかという不安もあって、確認してみた。

「あ、うん。・・・覚えててくれたんだ。」

「昨日はなんか・・ありがとうございました。」
142 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:53
「え?」

「その・・・そばにいてもらって。」

「あぁ・・・それなら市井の方こそ、ありがとう。」

そこまでぎこちなく言葉を交わすと、あまりの気まずさが逆におかしくて
笑いそうになったけど、それも失礼かもと思ってチラッと様子をうかがってみる。
そしたら市井さんもなんだか口をギュっと結んでて、目が合った瞬間、一緒に笑った。

あたしは市井さんと並んで、フェンスから外を見た。
市井さんはずっと下を見てたけど、あたしはずっと空を見てた。
143 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:54
「あたし・・事故に遭ったんです。車とぶつかっちゃって。
結構痛かったですよぉ、頭とか特に。その後すぐ気を失っちゃったけど。」

「へぇ〜、覚えてるんだ。ぶつかった時の事。」

「うん、不思議だけど、覚えてるんです。
で、ここに来て、昨日、目を覚まして。」

「そっかぁ・・・。」

「心配かけちゃったなぁ、きっといろんな人に。」

「・・・」

市井さんの視線がこっちに向いてること、空を見上げてたけど感じてた。
だけどあたしは市井さんの方を見ずに言った。
144 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:55
「後藤真希っていいます。あたし。」

遅すぎる自己紹介だけど、あたしはあえて言っておこうと思った。
市井さんは、あたしから視線を移して一緒に空を見上げる。

「・・・知ってるよ。」

「えっ?」

驚いて市井さんの方を見た。
市井さんは空を見ながら微笑むような表情をしていた。
その表情に、少しドキっとした。

「な〜んちゃって。今、ひょっとして市井に運命感じた?」

市井さんはフェンスから手を離してあたしの方に向き直り、
やんちゃそうに笑った。
145 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:56
「なんだぁ〜、もうビックリしたよぉ。どうしようかと思っちゃった。」

「どうしようかって、なんで?」

「だって、もしどっかで会ったことがあって、
後藤が忘れてるだけだったらそんな失礼な話ないじゃん。」

「ははは、そりゃそうだ。」

市井さんは、曖昧に笑って、すぐまた空に視線を移す。

なんだろう、まただ。
昨日と同じ。この人の悲しみが伝わってくる。
あたしはまた急に泣きたい衝動に駆られたけど、我慢しようと話をそらした。
146 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:56
「市井さんは、どうしてここに?」

「・・・お見舞い。」

「お見舞いなのに、ずっと屋上にいるの?」

「そう、会えないからね。」

これ以上は、聞かない方がいいと思った。
きっとその人は市井さんにとって大切な人なんだろう。
そして、ここは病院で。
会えないって事はきっとあたしみたいな怪我しただけの入院患者じゃないって事だろう。

だけど、あたしはもうひとつだけ、聞きたかった。
いや、確認したかったのかも。
どこかで願っていた。
市井さんに大切な人なんていなければいいのにと。
147 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:57
「その人って、誰?」

「・・・恋人、ってやつかな」

苦笑いの市井さん。
あたしは、胸が締め付けられるような感覚と、
辛そうな市井さんを抱きしめたい気持ちでいっぱいで。

気付いたら、そうしていた。

「・・・後藤?」

初めて、名前を呼ばれた。
心臓は、ドキドキ言ってた。

「お願いが、あるんだけど。」

「・・・何?」

「後藤が退院するまでの間でいい。市井とここで、会ってくれないか?
 無理は言わない、市井はいつもここにいるから、時間があるときは、市井の相手してほしい。
あと・・・。」
148 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 02:59
「あと・・?」

「市井ちゃんって・・・呼んで」

そう言って、あたしの背中にある手にギュっと力が込められた。

「わかった・・・市井ちゃん」

代わりでもいい。そんな事を考えていた。
この人の傍にいてあげたい、いたいと思った。
たとえ時間が限られていても。

結局あたしは、やっぱりまた泣いてしまった。
気が付くともう夕方で市井ちゃんの着てる真っ白なシャツの背中は、
夕日のオレンジ色に染まっていた。
149 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:00
それから、あたしは毎日時間を見つけては屋上に言った。
検診の時間に病室に戻らなくて、看護婦さんに怒られたりもした。
あたしの体は日に日に良くなって、頭の包帯も来週には取れるらしい。

もう退院してもいい頃だけど、先生はまだだと言っていた。
あたしは少しでも市井ちゃんといられる時間を伸ばそうと
熱があるフリをしたりなんかして。
150 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:01
「後藤、退院いつなの?」

「ん〜、よくわかんないけどまだなんだって。」

「市井が見る限りでは元気そうだけどなぁ。」

「それは市井ちゃんといるからだよ!きっと。」

「え?お前まさか無理してんのか?だったらすぐ病室に・・・」

「やだ・・違うよぉ。市井ちゃんといると、元気になれるって事!」

「そっか、ならいいけど。お前はまだ完全に・・」

「え?何?」

市井ちゃんの声がよく聞こえなくて、聞きなおす。

「いや・・・元気っつってもまだいちお入院してんだから
安静にしてなきゃダメだぞ!」
151 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:01
そう言って市井ちゃんはニッて笑った。

市井ちゃんはたまによく分からない事を言って言葉を濁す。
だけど、あたしはいつもそれを流すようにしていた。
なんだかそれには触れちゃいけない気がして。
時々市井ちゃんの顔を見ると頭痛がする。
それは、本当にうずくまってしまいそうなほど。
だけどほんの一瞬でおさまるからあたしは我慢する。
市井ちゃんがそれを知るときっと心配するから。


その日の晩、あたしは熱を出した。
先生があたしの腕に注射を打ってる。
その様子を後ろから辛そうに見てるお母さん。
頭がボーっとして、視界がフワフワしてる。
眠くて眠くて、目を閉じた。
廊下から走ってくる音が聞こえて、ガラッと病室のドアが開く。
152 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:01
「後藤!!」

「(市井ちゃん・・どうして・・・)」


そういえば、市井ちゃんが病室に来るのは初めてだなぁって
考えながら、あたしは睡魔に負けた。


次の日と、その次の日は、あたしはベットから起きる事さえ
許されなかった。
病室にはずっとお母さんがいて、まるであたしを見張るように
何度も違う看護婦さんが来た。

無性にイライラする。
あたしは行かなきゃいけないのに。
待ってるのに。あの人が。
153 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:02
あの人。
・・・あの人?

誰?分からない。
あたしはどこに行かなきゃいけないの?

さっきまで分かってたはずなのに、考えれば考えるほどわからなくなった。

あたしはどこに行くんだっけ?
考えた、何度も。
また頭痛がしたけど、負ける訳にはいかない。
目を堅くつぶって必死に思い出す。

景色が見えた。
高いビルから見える、同じ高さのビルの屋根。
その視野に入る目の前にあるものは・・。
154 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:02
フェンス!そうだ、屋上!
思い出した。
屋上で笑ってるあの人の顔、市井ちゃん。
良かった、思い出した。

知らない間に止めていた呼吸をため息にして一気に吐き出す。
その時、あたしの知らない記憶が頭の中を走り出した。

パジャマじゃない、私服を着てる、あたしが楽しそうに町を歩いてる。
その次は制服で。
その次は町じゃなくて、誰かの家。
いつもあたしは楽しそうに。
そして、いつもその隣にいるのは・・・。
155 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:03
あたしは走った。
お母さんを振り切って一気に階段を駆け上る。
病み上がりの体がしんどいからなのか、そうじゃないのか。
とにかく泣きながら走って、あたしはやっと着いた屋上の
ドアを思いっきり力を込めて開ける。

そこには振り向いてニッコリ笑う市井ちゃんがいて、
あたしはその場に泣き崩れた。


お母さんがすぐに追いかけてきたけど、あたしの姿を見つけると
またすぐ病室に戻っていった。


市井ちゃんが近づいてくる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
それとともに、あたしの頭の中はどんどんぐちゃぐちゃになっていって。
市井ちゃんが目の前に来た時、あたしは市井ちゃんにしがみつくように抱きついた。
156 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:04
「市井ちゃん・・・あたし、わからないの。
あたしは一体、どうしちゃったの?あたしの頭の中、壊れちゃったの?」

「・・・」

「さっき、市井ちゃんの事忘れそうになった。忘れたくないのに・・
一番大切なのに!なんで?すぐ思い出したのに、思い出したはずなのに、
あたしの知らない市井ちゃんもそこにいて、あたしの知らないあたしもいて・・
あたしは・・・」

そこまで言って、あたしは市井ちゃんの顔を見た。


「後藤・・落ち着いて・・きっともうすぐなんだよ。」

「・・んっ・・」

「もうちょっと頑張れば、楽になれる。」
157 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:04
市井ちゃんは優しくあたしを立たせて、ベンチまで肩を抱いて連れて行ってくれた。
2人でベンチに腰掛けて、それでもまだあたしは興奮気味に泣きつづけた。

「市井ちゃん、市井ちゃん・・市井ちゃん」

あたしは駄々っ子のように目をこすりながら市井ちゃんを呼びつづける。
市井ちゃんはすぐ隣にいるけど、名前を呼ぶ事で少し安心できた。

「後藤にそう呼ばれるの、好きだよ」

市井ちゃんはあたしの手をギュっと握ってくれた。

「市井ちゃん、教えて?あたしは市井ちゃんを知ってたの?」

きっとそうなんだろうと、気付き始めていた。
泣きながら、階段を上っている時から。
158 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:05
「後藤、何か思い出した?」

「すごく・・・苦しいの。さっき、市井ちゃんの事を忘れかけた時、
あたし、すごい焦ってた。・・焦って、必死に思い出そうとした。
まだ市井ちゃんの存在が頭のどこかに残ってたから。
会いに行かなきゃって思って・・・そこで誰に会いに行くのか分からなくて
どこに行けばいいのかわからなくて。必死に必死に思い出そうとしたら、
屋上の風景が広がって、市井ちゃんの顔、思い出して。」

「うん・・・」

「でもね、思い出したのに、まだ苦しい。あたしまだ焦ってる。」

「・・・」

そこでまた、さらに涙が溢れてきた。
159 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:05
「市井ちゃん、あたし、市井ちゃんと歩いてるの。
町の中を、楽しそうに。あれはいつなの?あたしは・・・
市井ちゃんの事を・・・知ってる・・」

市井ちゃんに話してるはずなのに、途中からは自分と話してるようだった。
完全に取り乱しているあたしを、市井ちゃんは必死に落ち着かせようとする。

「後藤・・・焦らなくていい。ゆっくりでいいよ。」

「でも・・あたしは!!」

「後藤・・・!」

市井ちゃんがあたしを抱きしめた。
とてもとても、力強く。
160 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:05
市井ちゃんの心臓の音が聞こえる。

「好きだよ・・・後藤」

「!!」

知ってる、この場面。前にもあった。
頭の中が澄み切ったように透明になっていくのがわかる。

何もかもが、巻き戻しで、その場面まであたしを連れてってくれる。
161 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:06
「好きだよ・・・後藤」

「・・市井ちゃん」

そこは、夜の公園で。
あたし達は、一定の距離で向き合ってる。

とても嬉しそうに、市井ちゃんに抱きつくあたしが見える。
そうだ、あたしはずっと市井ちゃんが好きだった。
そしてあの日、やっと恋人同士になれたんだ。

市井ちゃんとバイバイして、浮かれ気分で帰り道を歩く。
その時・・・。
あたしは、車とぶつかって。
162 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:08
「市井ちゃん・・・」

「・・・ん?」

手の震えが止まらない。
次々とあたしの頭の中を忘れていた事が通り過ぎて、
目の前の市井ちゃんの存在がどんどん大きくなっていく。

全て思い出したとき、もうあたしは泣いていなかった。

「市井ちゃん・・思い出したよ、全部。あたし・・」

「ほんとか!?ほんとに全部・・・」

「市井ちゃん、大好き。好きなの・・・なのになんであたし・・」

「いいんだよ・・・そうか・・よかった。」

市井ちゃんは全身の力が抜けたようにあたしにもたれかかってきた。
あたしはその体をせいいっぱいの力で抱きしめた。
163 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:08
「・・後藤・・・」

「ん?」

「もう、泣いてもいいかなぁ・・市井、ずっと我慢してたんだ。」

「うん・・いいよ。市井ちゃん、ごめんね・・ごめんなさい・・」

市井ちゃんの体が、少しずつ震えてきて、それはだんだん大きくなって
市井ちゃんは、泣き始めた。しゃっくりをあげながら、子供のように。

今だけは、泣くのは我慢しようと思った。
市井ちゃんが安心して泣けるように。
164 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:09
あたしの退院の日が来て、市井ちゃんと2人で病室の荷物を整理する。

「でもまじでよかったよ、退院するまでに後藤が思い出してくれて。」

「それは、ほんとにごめん・・。」

「あの時、とっさに言っちゃったからさ。退院するまでの間でいいって。」

「あ〜、相手してくれってやつ?」

「そうそう。」

「あっ、でもあたし完全に勘違いしてたんだ。市井ちゃんには恋人がいて、その人は
不治の病かなんかで面会も出来ないくらいで、それでも市井ちゃんは毎日病院に来てるんだって。」

「なんだそれ(笑)」
165 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:09
「だって〜、そう聞こえたんだもん。それで、後藤がいる間だけ、
恋人の代わりしてくれって事なのかと思って・・・。ちょっと傷ついたんだからねぇ!」

「・・なんで傷つくんだよ?」

「だって・・後藤その時もう市井ちゃんの事・・好きになってたから」

「まじっ!?」

「まじ・・・」

自分で言ってちょっと恥ずかしくなってきて、荷物をまとめる手を
止めていた事に気付き、紛らわすようにまた動かし始めた。
166 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:10
「いや〜、て事はあれだね。また後藤が市井の事忘れても、
市井がそばにいる限り後藤は何回でも市井に恋しちゃうわけだ」

「もう忘れないってばぁ、いじわる!いじめないでよぉ。」

「いやぁ、市井だっていじめたくもなるよ。
これでもそうとうショックだったんだからさ。それこそ世界の終わりってくらい。」

大げさだとは、思わなかった。
逆の立場だったら、あたしはきっと生きていけない。
それでもあたしの傍にいてくれた市井ちゃん。

「ほんと・・・ごめんね?」

「いや、ちょっといじめすぎたかな。ごめん」
167 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:11
市井ちゃんは、あたしのそばまで来るとそっと肩を抱いて
優しくキスしてくれた。
すごく自然だったけど、これがあたし達のファーストキスだった。

「市井ちゃん」

「ん?」

甘い雰囲気だったけど、あたしは今言っておかきゃって思った。

「後藤を・・・好きでいてくれてありがとう。」

市井ちゃんは少し照れたようにはにかんで、もう一度ちゅって軽くキスしてくれた。
168 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:11
「市井こそ・・市井を好きになってくれてありがと。」

市井ちゃんはずっとあたしを好きでいてくれた。
あたしは2度も市井ちゃんを好きになった。

その事が、あたし達にはとても大切な事で。

「「これからもずっと・・好きだよ」」

そしてあたし達は、3度目のキスをした。

169 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:13


END
170 名前:NZM 投稿日:2004/06/13(日) 03:15
また時間見つけていちごま書いていきたいと思います。
感想もらえるとすごく嬉しいので、読んでいただいた
方は一言でも感想書いてくれると嬉しいです。
171 名前:まめ大福 投稿日:2004/06/13(日) 09:34
初めまして
最初から読ませて頂きました

毎回大量更新お疲れ様です


まだまだいちごまが好きなのでいちごま作品に出会えてとても嬉しく思ってます
それでいて文章も綺麗にまとまっていて読みやすく、いちごまらしさも凄く出ているので感動しました


これからも頑張って下さい
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/13(日) 20:31
更新お疲れさまです。
今回の話しもハッピーエンドでよかったです!
いちごま好きだ(ノ∀`)このスレがあってよかった。
173 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/14(月) 02:02
3話一気に読みました。いや〜読み応えあった。
おもしろかったです。
次も楽しみに待ってます。

174 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/14(月) 16:31
一気に三話読みました
めちゃくちゃいいですよ〜ここの後藤さんは可愛い!
更新楽しみにしているので頑張ってください!!
175 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 00:56
172さん、173さん、174さん
読んでいただいてありがとうございます。
私もいちごま大好きで、いちごましか書けません(笑
感想もらえるのって、本当に嬉しいです。
次を書く支えになるというか♪

ということで、みなさんの力のおかげで
もう1作書きましたのでよかったら読んでください。
176 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 00:59


『記念日』


177 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 00:59
今日は記念日。
何のって?それはあたし達、
市井と後藤の付き合って2ヶ月記念。

記念日かぁ。
そりゃぁあたしだってそういうのは嫌いじゃない。
もちろん、こうして無事に仲良く2ヶ月を迎えたんだから
嬉しいよ。後藤と2人で、お祝いしたい、とも思う。

1ヶ月記念にはおそろいの指輪だって買った。
後藤のうれしそうな顔を見たら、あたしもうれしい気持ちになった。
178 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:00
毎月23日は、お互いの誕生日と同じくらい、大切な日だって思ってる。
そのへんの考え方は、後藤と同じだって思う。

だけど、これはなぁ・・・
正直、嬉しい。今すぐ後藤に会いに行きたい。
今は夜中の12時10分で、さすがにそれは無理だから、我慢してるけど。

今現在、私、市井紗耶香は携帯とにらめっこを始めて5分が経過しております。
12時ちょうどに着いた後藤からのメール。
5分間、とりあえずバカみたいに喜んだ。
179 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:01
******************************

件名 大好きないちーちゃんへ


本文
いちーちゃん!今日で、後藤たち、付き合って2ヶ月記念だね♪
ねぇ、いちーちゃん?後藤はいちーちゃんを好きになってから、
毎晩寝る前にいちーちゃんの事を考えるんだ(*^o^*)
そうするとね、いちーちゃんの夢を見れるから♪
あっ、もちろん寝る前だけじゃなくていつもいちーちゃんの事
考えてるんだけどね☆
心配しないで、後藤はいちーちゃんのものだよ♪♪
後藤はいちーちゃんを愛し続けるよ、心から誓って!
いちーちゃんは、後藤の事好き??
これからもずっとずっと仲良くしようね!
明日のデート、楽しみにしてる☆★

******************************
180 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:02
その5分の間に、一人の部屋で、
「後藤かわいいよ!まじで可愛すぎだって!!」って4回くらいは言ったと思う。

メールはこんな可愛い内容な上に、ハートいっぱいのいかにも
ラブラブチックな画像まで添付してあった。
きっと、この画像を待ち受けにしてって事なんだろう。
たぶん、後藤の携帯の待ち受けはすでにこれに設定されているはずだ。
とりあえず、急いであたしも待ち受け画面に設定する。

これでまた一つ後藤とおそろいの物が増えたなぁなんて喜んでいた時、
あたしはある事に気付いてしまった。
これって、返信しなきゃだよな・・・それもたぶん、できるだけ早く。
181 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:02
そこから、私と携帯のにらめっこは始まったのだ。
何て送ろう、何て送ろう。
さっきからそればっかり考えている。
返す言葉なんて、素直な気持ちを言えばいいんだけど、それってかなり恥ずかしい。
後藤はこんなにもあたしを喜ばせてくれた。
あたしだって、同じくらい後藤を喜ばせてあげたい。
だけど、言葉が浮かばない。
恥ずかしさと、後藤を喜ばせたいっていうプレッシャーが、あたしに言葉を選ばせてくれない。

結局あたしは片手に携帯を握り、画面を見つめたまま朝を迎える事になった。
182 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:03
今日を迎えるまでに、あたし達は何日も前から
2ヶ月記念日デートプランを立てていた。
朝に弱い後藤のために、待ち合わせは昼の1時に。
渋谷でいつもどおりのデートを楽しんだ後、
いつもよりはちょっと高めのレストランで晩ご飯を食べて、
その後は、たぶんお泊り。

まぁ、最後のはあたしの勝手な期待と想像だったりするんだけど。

だけど、今日はそれは無理だろうなぁと、すでに予想しているあたし。
183 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:03
今は、昼の12時。
待ち合わせ場所に1時に着くためには、もう起きて準備をしていないといけない時間なはず。
いつもなら、会う約束をしてる日は、今起きただの何だのと必ずメールを入れてくる後藤。
そこからメールのやりとりを繰り返し、結局会う直前までメールしているのがいつものパターン。

な、はずなのに。
今日は、いつまでたってもメールが来ない。
まさかまだ寝てるんじゃぁ、と思って電話をしてみるけど、出ない。

心当たりは、ないことはない。
いや、確実にある。
あたしが記念日メールを返さなかった事で、後藤を怒らせてしまったんだろう。
184 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:03
待ち合わせ場所に行って待ちぼうけを受ける前に手を打とうと、
あたしは後藤の家に向かった。


ピンポーン

ドキドキしながら、後藤の家の呼び鈴を押す。
出てこなかったらどうしよう。
100%あたしが悪いと自覚していたから、つい弱気になってしまう。

ピンポーン

もう一度鳴らしてみるけど、やっぱり出てこない。
帰るわけにもいかないあたしは、とりあえず後藤にメールを送ってみる。
185 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:04
『後藤、家にいる?』

送信っと。
5秒と待たずあたしの携帯が震えだした。

『いる』

うわ〜、冷たい。
やっぱ怒ってるかぁ・・・。

『今、後藤の家の外にいるから、出てきてくれないかな?』

またすぐに返事が来る。
ちょっと想像つくような・・。

『やだ』

やっぱり。
あたしの予想は一字一句と間違ってなかった。
っていってもメールはたったの二文字だけど。
186 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:05
こうなったら、待つしかない。
あたしは、迷惑は承知で後藤の家の前にしゃがみこんだ。
後藤が出てくるまで帰らないっていう、意思表示。
きっと後藤はこうしてる今も、窓からチラチラとあたしの様子を伺ってるはずだから。

こうして待つ事20分。
だんだん足がしびれてきて、この体制って楽なようで
結構きついなぁって思い始めていた頃、背中からガチャっていう音が聞こえた。
187 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:05
「・・・」

「・・後藤」

後藤はいかにも不機嫌そうに立っていた。

「後藤、行かないの?今日、約束してたじゃん。」

「・・・」

なんで、あたしは。と思う。
なんで一言目にごめんと素直に謝れないんだろう。

「行かない」

「・・・」
188 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:05
そりゃ、断られて当然だ。

でも、ちょっと待てよ。
今までだって小さな喧嘩はあった。
その時の後藤って、もっと感情的だったはず。

「も〜、いちーちゃんのバカバカバカ!最悪!!」

「ごめんって〜、後藤」

あたしの肩らへんをボンボン殴って、それすらも可愛く見えたりなんかして。
そんなノリだったはず。

だけど今の後藤は。

「行かないから、帰って」

「え・・・」
189 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:06
明らかに、いつもと違う。
なんだろう、この冷たい空気。
後藤、まじで怒ってる?

っていうか、もしかして。


あたし・・・後藤に嫌われた・・?


「・・っご・・」

後藤。と呼ぼうと思ったらその前に後藤はまた家の中に入ってしまった。

「嘘だろ・・まじかよ・・」
190 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:06
あたしはその場に立ちつくすしかなかった。
いつまでたっても、後藤は出てこない。
後藤はもう、出てこない。
後藤の部屋の窓を見ていても、そのカーテンが開く事はなかった。
あたしは、肩を落として後藤の家に背を向けて歩き出す。

後藤に嫌われた。後藤に嫌われた。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。後藤に嫌われた。
それしか頭に浮かばずに、気付けば自分の家に着いていた。
191 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:06
それから1週間。
後藤からの連絡はなかった。
あたしからは、怖くて出来なかった。

あたしは今まで何をあんなに余裕ぶっていたんだろう。
よく考えれば、嫌われても仕方ないのに。
1週間前のあたしは、後藤にあんなにひどいことをしたのに
すぐに仲直りできると思っていた。
謝りもせずに後藤の家にノコノコと行って。
後藤が窓からあたしを見てるなんて、どこからそんな自信がわいていたのだろう。
あたしは、調子に乗りすぎたんだ。
乗りすぎた挙句、嫌われてしまった。
これは、当たり前の罰だ。
後藤が愛してくれていると安心して、後藤を安心させてあげる事をしなかったあたしの罰だ。
192 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:07
2週間がたった。
もう限界だ。
あたしは勇気を出してメールを送る。

『後藤、会ってくれない?話があるんだ』

『うん』

返事が来たのは、1時間後だった。

あたしは近くの公園で待ってるとメールを送る。
返事はなかったけど、後藤が来てくれると信じてその場所に向かった。
193 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:08
後藤が来たのは、あたしがそこに着いてから30分後だった。

後藤の表情は硬くて、あたしは後藤の笑顔が一番好きだけど、
久しぶりに見る後藤を、あたしはやっぱり好きだなぁと思う。

「ごめん、急に呼び出して。」

「・・・うん」

メールと同じ、短い返事。
後藤は一度も目を合わせてはくれない。
後藤はいつも、あたしの目を見て話してくれていたのに。

「・・話って・・何?」
194 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:09
後藤からすぐに本題に入ってきた。
後藤の声はとても冷たくて、あたしは傷つく。
体中の血の気が引いていくのが分かる。

「あ、あのさ・・」

話を切り出そうとして、自分の声が震えていることに気付く。
蒸し暑い季節なはずなのに、体もかすかに震えている。

「あたし達って・・まだ付き合ってる・・?」

こんな時に、あたしは何を言ってるんだろう。
逃げてたってしょうがないのに。
後藤は、俯いている顔をさらに俯かせた。
195 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:09
あたしは卑怯な人間だ。
後藤に、あたしを好きだと言って欲しいと思ってる。
好きだと伝えなきゃいけないのは、あたしなのに。

あたしが先に好きだといえば、後は後藤の返事待ちになる。
後藤が先に言ってくれたら、あたしは安心して好きだと言える。
どっちがいいって、それは後に決まってる。
そんなあたしは本当に卑怯で、つくずく自分が嫌になる。

振られるのが怖くて逃げてるあたしは、最低だ。
これじゃ、どんどん後藤に嫌われる一方なのに。

「・・いちーちゃん」

「・・・」
196 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:10
後藤があたしを呼んでくれる声に、あたしの胸はトクンと鳴る。
こんな状況でトキメいてるなんて、あたしはどこまでバカなんだろう。

「言いたい事があるなら、ハッキリ言ってよ。」

俯いて、小さな声で、後藤が言う。
あぁ、後藤も限界なんだ。
きっと後藤は、イライラしてる。
こんなあたしに。

これ以上嫌われたくない。
そう思ったあたしは、心を決めた。

「後藤、こないだはごめ・・・」
197 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:10
とりあえず先にこの前の事を謝ろうと思った時、
後藤はあたしの声が耳に入らなかったのかまた喋りだした。

「後藤、心の準備はできてるから。何言われても、泣いたりしないから・・」

え?
頭の中が?マークでいっぱいになる。

「いちーちゃんが、後藤の事好きじゃないなら、もう後藤諦めるから。
・・・いちーちゃんを、困らせたりしないから・・・」

「ちょ、ちょっと待って。後藤、なんか勘違い・・」

後藤の言ってる意味がわからないあたしはなんとか否定しようとするけど、
後藤は全く話を聞いてくれない。
198 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:11
「いちーちゃん、もう後藤の事好きじゃないんでしょ?だからあの時メールも
返してくれなかったんでしょ?他に好きな子とかいるんでしょ?
でもいちーちゃん優しいから、後藤にそんな事言えなくて・・・でもいちーちゃん
嘘つけない人だから、適当に後藤に合わせるようなメールも返せなかったんでしょ?
でもその優しさが後藤には辛いの!・・・辛いの・・」

後藤の声は冷たさからだんだん感情的になってきて、最後の方は涙に震えていた。
後藤の妄想はあたしの予想をはるかに越えていて、あたしの頭はついていけなかったけど
、それが一つも正しくない事だけは分かった。

「・・ほんとはヤダよ・・いちーちゃんと離れるなんて絶対嫌・・・
でも、後藤を好きじゃないいちーちゃんといるのはもっと嫌だよ・・・」

後藤はとうとう、ボロボロ泣きながら、それでもあたしの目は見てくれなかった。
199 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:12
なんで、こうなっちゃったんだろう。
あの日の後藤の冷たさは、怒ってた訳でも、市井を嫌いになった訳でもなくて、
傷つきすぎてどうしようもなかったんだ。
何で後藤にこんな勘違いをさせてしまったんだろう。
あたしはこんなにも後藤が好きなのに、何で伝わらないんだろう。

何でって・・・。
そんなの、あたしが伝えなかったからに決まってる。
そんな事にもすぐに気付けないバカな自分に嫌気がさす。

あたしはどれほど傷つけてしまったんだろう。
きっとそれはあたしに予想なんてできないほどで。
あたしが後藤に嫌われてしまったと傷ついたレベルとは、ほど遠い。
200 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:12
こんなにボロボロなのに、それでも気持ちをぶつけて来てくれる
後藤に申し訳なくて仕方なかった。
そして、そんな後藤が愛しくてしょうがない。

「後藤、後藤・・・違うんだよ、違うんだ・・・。」

「・・んっ・・うぅ・・っく・・」

あと、自分が本当に情けなくて仕方ない。
いろんな感情と、後藤を泣かせてる事が辛くて。
あたしは自分の両目を片手で覆って、泣くのを必死に我慢した。

泣く前に、しなきゃいけないことがあるだろ。
泣く前に、言わなきゃいけないことがあるだろ。
心の中で何度も自分に怒鳴るように言い聞かせて、あたしは後藤との距離を縮める。
201 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:13
「後藤・・・」

ずっと泣いてる後藤を、これ以上ないってくらい力いっぱい抱きしめる。

後藤は体を強張らせて、固まっている。

「後藤・・・違う・・・ごめん、あたしがバカなせいで・・」

「・・んっ・・うっ・・」

後藤は返事なのかわからない声を上げながら、あたしの肩に顔をうずめた。
202 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:13
「・・メール、ほんとにごめん。市井、あれもらってめちゃくちゃ嬉しかったよ。」

「・・っく・・嘘だ・・」

「嘘じゃないよ!ほんとに、うれしかった・・」

「だったら!だったらなんで・・」

「ほんと、バカだよ、市井は。・・ただ恥ずかしくて、何て送ればいいのか、わかんなかった。」

「なにそれ・・信じらんないよ、そんなの・・」

「最低だよな、まじで・・・正直に、自分の気持ち言葉にすれば良かっただけなのに。」

「・・・・」
203 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:14

後藤の体から、徐々に力が抜けていくのが分かる。
それでもあたしは、腕の力を緩めなかった。
後藤を絶対、離したくなかったから。

「後藤、ごめん・・今、市井の素直な気持ち言うから、聞いてくれないか」

「・・っん・・」

まだ小さくしゃっくりを上げながら、後藤が今日初めてあたしの目を見てくれた。
あたしは、後藤に気持ちを伝える準備のように小さく咳をしてから、腕にさらに力を込める。

「市井は、後藤が好きだよ、愛してる。
市井だって後藤と離れるなんて絶対やだよ。誰にも後藤の事渡したくない。」

あたしは、ありったけの心をこめた。

「・・・市井は、後藤のものだよ」

これは、後藤からの受け売りだけど。
あたしはこの言葉があのメールの中で一番嬉しかったから。
あたしも後藤に、安心して欲しかったから。
204 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:15
「いちーちゃんの・・・バカ」

「・・後藤、市井の事、嫌いになんないで・・」

これは、今のあたしの一番の願い。

「なるわけないじゃん・・バカ」

「ほんとに?絶対だよ?」

「しつこいよ、バカ」

これは、後藤のささやかな仕返しなんだろうか。
後藤は何か言うたびに最後にバカをつける。

でもいいや。
バカって言うたびに、後藤がちょっとずつ笑顔になってるから。
205 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:16


「後藤、大好き」

「いちーちゃん、大好き」


今度は、最後にバカって付けられなかったけど、
その言葉であたし達は、2人とも今日で一番の笑顔になった。
206 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:16


END

207 名前:NZM 投稿日:2004/06/15(火) 01:17
今回は、時間がなかったので少し手抜きですいません。
ではでは、できれば感想よろしくお願いします。
208 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/15(火) 21:28
いいねー(ノ∀`)
作者さんグッジョブ!
次回も良い作品期待しております!
209 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/16(水) 02:36
不器用ないちーと素直なごま・・・いいですね〜
いちごまは、はがゆい甘さが萌えますねw
作者さんの文章好きです。期待してます!
210 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/24(木) 03:33
いいですねぇ!!
いちごま減少の中救世主ですね!!
期待しております☆
211 名前:NZM 投稿日:2004/06/24(木) 17:59
読んでいただいてありがとうございます。
仕事の関係で7月まで更新できない
かもしれませんけど、また更新する
つもりですのでよろしくおねがいします☆
212 名前:まめ大福 投稿日:2004/06/24(木) 23:09
お待ちしてます
213 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:37
お久しぶりです。
久々、更新したいと思います。

タイトルは、『two』

今回は、意味不明かもしれませんが、よかったらどうぞ。
214 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:38
恋。
相手を自分のものにしたいと思う感情を抱くこと。

愛。
大切に思う、暖かい感情。


あたしが市井ちゃんに抱いた感情は、一体どっちだったんだろう。


恋だったのか、愛だったのか。
恋のような激しさもあったし、愛のような穏やかさもあった。

奪いたかったし、与えたかった。

どちらでもなければ、どちらともだったのかもしれない。
215 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:38
2XXX年。
9月23日。
あたしは、ある買い物をした。
今日やっと、宅配で頼んでいたそれが家に届いた。

自分への誕生日プレゼント。
結構高かったけど、それはずーっとあたしが欲しかったもので。
いや、「もの」なんて言っちゃダメなんだよね。
そういう考え方をするとすぐ飽きちゃうよって友達が言ってたし。
216 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:39
それが届くと、あたしはすぐに封を開け始めた。
心躍るってきっとこぉいうのを言うんだろう。
ダンボールのガムテープがなかなか切れなくてもどかしいけど、
それよりももうすぐご対面なのだと思うとイラつくことはなかった。

ダンボールを突破して、次はプチプチしたよくお皿を買うと包まれている
それに手を掛ける。

「(もうすぐだ・・もうすぐ会える!)」

ドキドキのようなウキウキのようなワクワクのような。
不安は一切なかった。
217 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:39
ビニール製のプチプチも突破し、ついにご対面の時が来た。

「うわ〜、すごい!これがほんとに・・・」

作り物なんて。
そう言いかけた独り言をあたしは口を両手で抑えて飲み込む。
いくらまだ起動してないからっていっても、やっぱり言ってはいけないような気がして。

丁度あたしの体と同じくらいの大きさのそれを箱から出すのには
少し苦労したけど、そんな事も苦にはならない。

「今から後藤が眠りから覚めさせてあげるからねぇ〜」

説明書を読みながら備え付けのリモコンで起動までの操作をしつつ、話し掛ける。
一人っきりの部屋に、あたしの独り言が飛び交う。
もちろん、返事の声はない。
218 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:40
「(だけど、そんな生活ももうすぐ終わりだもんね〜♪)」

やっと、操作は最後の一つとなった。
あとは、この赤いボタンを押すだけだ。


ドキドキしながら、赤いボタンに親指を乗せる。
最初の言葉は、もう決まってる。
一度だけ笑顔の練習をしてから、大きく深呼吸して、あたしは親指に力を入れた。

―――――――ピッ!


小さな機械音が一瞬だけなって、綺麗な瞳がこっちを向いて開く。
219 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:41
「おはよう、市井ちゃん。」

「おはよう」

その動き、声はやっぱり作り物とは思えないほどすごく自然で。
あたしは練習以上の笑顔で見つめた。
あたしよりは優しい彼女の笑顔に、鳴りっ放しのあたしの心臓がまたドクンと跳ねる。
出会ったばかりの彼女に、なぜか懐かしさを感じた。



商品名、市井紗耶香。
あたしからあたしへ、19年目の誕生日プレゼント。
220 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:43
この手のロボットは、今日本中で大流行していて、
値段はお手ごろとまではいかないけれど、車と同じくらいの値段で手に入る。

友達も最近買ったらしく、その評判はかなりのものだった。
この世の死んだ人をコピーとまではいかないけど、ドナー登録みたいな
のをしてる人の、生きていくために必要なある程度の知識と性格、癖、ルックスや名前などを
コピーして作られているらしい。
簡単な設定を行えば、ペットのように飼いならす必要もないし、説明書には
商品の特徴も細かく書いてあってそれをイメージしておけば2,3日で性格もわかる。
最初の設定で自分の特徴を入れておけば、ある程度相手も自分の事を理解してくれるらしい。
221 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:44
何とも簡単に、友達のように、家族のようになれるという優れもの。

リモコンで、いろいろ操れるらしいけど、あたしはそんなことしたくなかったから
引出しの奥に仕舞っていた。あれを使う事は、もうないだろう。

「ねぇねぇ市井ちゃん、ちょっとそれ取って〜」

「ん?これ?はいよっ」

「ありがと〜。」

ほら、もうこんなにも自然に接しあえる。
222 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:44
売上個数は100万体を越えたらしく、今現在もその勢いはウナギ上り。
ユーザーからのクレームも一切ないらしい。
そして、あたしもまたそんな大成功した100万人のユーザーの内の一人なのだろう。


「あ、ねぇねぇ市井ちゃん!今度ここの花火見に行こうよ!」

「どれどれ・・おっ、祭りもやってるんだって!これいつまで?」

「ん〜っと・・・今月の末までって書いてある。」

「うわっ、あと3日しかないじゃん!よしっ、明日行くぞ後藤!」

「やったー♪」
223 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:44
2人で情報誌をめくりながら計画を立てる。
過去の思い出を共有できないのはさみしいけど、こうしてこれから
たくさん思い出を作っていけると思うと嬉しくて仕方がなかった。

市井ちゃんとの生活が日常化しだしていたせいで、あたしは
市井ちゃんがロボットなんだということさえ忘れそうになっていた。

次の日、あたしたちは夕方から花火を見るために目的地に向かった。
まるでデート気分なあたしたちは終止笑顔だった。

まわりは、やっぱりカップルばっかりで、真似してあたしたちも
手を繋いだりなんかして。
224 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:45
「「綺麗〜!」」

あたしと市井ちゃん、声をそろえて花火を見上げる。
そっと市井ちゃんの横顔を盗み見ると、市井ちゃんの目には花火のいろんな色が
映っていて、あたしは少し不安になった。

どうか、市井ちゃんの目に映っている花火と、あたしの目に映る花火が同じ物でありますように。

それからのあたしは、あの花火の日と同じ気持ちに何度も襲われた。

あたしがおいしいと感じるもの、心地いいと思う音楽、おかしいと笑う出来事は、
市井ちゃんはどう感じているんだろう。
225 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:45
人と人なら、例え好きなものが違っても、そこまで気にすることじゃないはずなのに、
あたしはその不安から逃れられずに、次第に少しの違いにも敏感になってしまっていた。

そして、その頃から、まるであたしの気持ちの変化に比例するように
市井ちゃんにも変化が現れた。

それはほんの些細な事だけど、あたしはすぐに気が付いた。

市井ちゃんは最近よく、悲しそうに笑う。
遠い目をして、考え事をしたり。
そして、市井ちゃんはすごく優しい。
これは最初からだったのかもしれないけど、あたしの言う事を何でも聞いてくれる。
226 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:47
あたしは、何を考えてるか分からない市井ちゃんにまた不安を感じて、
市井ちゃんはどんどん殻に閉じこもって、あたしたちの間には壁が出来てしまった。
最初はあんなにも楽しかったのに・・・

あたしたちは喧嘩をしない。
どんな事も市井ちゃんは許してくれるから。

あたしは市井ちゃんが欲しかった。
市井ちゃんの笑顔が、あたしだけに向けられている事が幸せだった。
そういう存在が欲しくて、市井ちゃんを買ったのも事実。
227 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:48
それに市井ちゃんは100%応えてくれた。
でも・・・
あたしは、それ以上を望みだしていた。
市井ちゃんに何かを望まれる事を望んでいた。
こんな気持ち、おかしいのかもしれないけど、
あたしの何かを、奪って欲しかった。
なのに市井ちゃんはそれには応えてくれなかった。

あたしは市井ちゃんの自由を奪っているのに、あたしは自由なまま。
そんな自由にあたしは縛られて、苦しかった。
228 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:49
「市井ちゃん」

久しぶりに、その名前を呼ぶ。
もうずいぶんと、会話という会話をしなくなっていた。
きちんと向き合いたかった、市井ちゃんと。

市井ちゃんは、返事をせずに振り向いた。

229 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:49
「あたしの、嫌いなとこってどこ?」

「えっ?」

「あたしの、嫌いなとこ!1つくらいあるでしょ?」

「何だよ急に。別にないよ」

「あるって絶対!!例えば、あたしわがままじゃん?そういうの、嫌じゃないの?」

「・・・そーいうとこは・・」

「そーいうとこは?嫌い?」

「・・・そーいうとこが、可愛い」

照れたように下を向く市井ちゃん。
230 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:49
それが本音じゃないと、あたしは決め付けていた。
本音を言わない市井ちゃんに、市井ちゃんの場違いな表情に。
あたしは、無性にイライラしていた。

「・・はぁ」

あたしは大きくため息をついた。
231 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:50
「何なんだよ、さっきから。何が言いたいの?」

「・・・」

「市井、なんか悪い事した?」

「・・・」

「だったら、謝るからさ」

「・・なんでよ」

「え?」
232 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:50
「なんで謝るの?市井ちゃん、自分が悪い事したなんて思ってないんでしょ?
あきらかにおかしいのは後藤じゃん?勝手に怒ってるんだから!なんで市井ちゃんは
怒らないの?こんな後藤、おかしいっておもわないの?」

だんだん感情がこみ上げてきて、声も大きくなってしまって、最後の方は泣きそうだった。

「・・・」

「市井ちゃんは優しすぎるよ!あたしは市井ちゃんの全部が欲しかっただけじゃない!
市井ちゃんの優しさだけじゃない、笑顔だけじゃない、市井ちゃんの心が欲しかったの!
市井ちゃんだけの後藤になりたかった・・後藤の全部を、市井ちゃんにあげたいの!」

もう、自分で何を言ってるのかわからなかったけど、
市井ちゃんはただ聞いてるだけだった。
233 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:51
あたしはきっと、これから、一番言っちゃいけない事を言うんだと思う。
ダメだと思いながら、止められなかった。

「でも市井ちゃんは、何もいらないんだね・・・ロボットだから」

「っ!!」

市井ちゃんが、その言葉に反応するように顔をあげる。
あたしは、次々に言葉が溢れ出して、心ではダメだと叫んでるのに、
自分では止められなかった。

「後藤は怒らない市井ちゃんが嫌い!優しすぎる市井ちゃんが嫌い!
市井ちゃんが人間だったらよかったのに!!」
234 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:51
自分でも、最低だって思う。
こんなにひどい事を言ってもまだ、ロボットだから傷付きもしないんじゃないかって
疑ってるんだから。

「後藤・・・」

市井ちゃんはやっぱり冷静だった。
スタスタと部屋を歩いて、引き出しに手を掛ける。
何をしてるのかと目で追っていて、はっとした。

「ダメ!市井ちゃん!その引出し開けちゃダメ!!」
235 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:51
まるで聞こえていないかのように、市井ちゃんは引出しを引いて、
中のものを取り出す。
市井ちゃんの手には、市井ちゃんを操るリモコン。
それは一番、奇妙な光景だった。

「後藤・・やっぱり忘れてるんだな」

「・・・忘れてるって?」

「後藤が求めるものが、本当にさっき言ってた事なら、市井は応えられないよ。
それを求めるべきは市井じゃない。市井はロボットだから、怒り方なんか知らない。
他の感情ならわかるけど、怒り方なんかインプットされてなかった。
市井は後藤の事が、好きだったよ。愛するって感情は、ちゃんと持ってる。
今だって、後藤の事が愛しくてしかたないよ。後藤に嫌いって言われると、辛い。
こんなに感情があふれてるのに、なんで怒り方だけ知らないのか、わかる?」
236 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:53
「・・・」

市井ちゃんの言ってる意味がよくわからなかったけど、何で怒り方だけ知らないのか
なんて、もっとわからない。
あたしは首をフルフルと横に振った。

「きっと、そういうやつだったんじゃない?後藤の言う『いちーちゃん』が。」

「・・さっきから何言ってるの?意味わかんないよ」

「ここまで言っても思い出さないか。市井もほんとに知ってるわけじゃないから、
市井の口からは言えない。知りたかったら、ここの引出しの中を見ればいいよ。
きっと思い出すだろうから。」
237 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:53
そう言う市井ちゃんはすごく冷静だった。
市井ちゃんの指差した方を見ると、それは市井ちゃんのリモコンが入っていた引出しの下の段だった。

「市井だって、後藤に求めたいものはあったよ。だけど、これだけは言えなかった。
でも最後かもしれないからもう言ってもいいよな?」

「ちょっと待って!最後って・・・」

あたしの言葉をさえぎって、市井ちゃんが続ける。

「市井を、市井として見て欲しかった。誰とも比べずに、市井だけを好きになって欲しかった」

「なんで?あたしは市井ちゃんのこと好きだよ?」
238 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:54
「違うよ。後藤が求めてるのは市井じゃない。それに気付いてからは辛かった。
市井はどうすればいいのか、わかんなかった。『いちーちゃん』ならこんな時
どうするのかってそんな事ばっかり考えて・・頭がおかしくなりそうだった。」

どうしてもかみ合わない会話。
頭がクラクラした。

「市井は、少し眠る事にするよ。こんな意味わかんない市井の事、
もういらなかったらそのまま捨ててくれていいから。だけどもし本当の事が
知りたいなら、そこの引き出しを見て欲しい。だけど約束して。
見て全てが分かったら、その時は絶対に市井をまた起して。
知った後の後藤の事、ほっとけないから。」
239 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:54
そこまで言うと、市井ちゃんはゆっくりとリモコンを自分に向けた。
それはまるで、自分の手で銃口を自分の心臓に向ける映画のワンシーンのようだった。

「市井ちゃん!!」

「後藤・・・愛してる」

市井ちゃんは泣きながら微笑んで、赤いボタンを迷わずに押した。
静かに、市井ちゃんの瞳が閉じられて、反射的にあたしの体が市井ちゃんを受け止めようと動く。
間一髪で倒れるのを防げた市井ちゃんの体をそっと寝かせ、あたしもそのまま座り込む。

しばらくは、放心状態だった。
市井ちゃんを見つめても、市井ちゃんは目を覚まさない。
涙が、溢れてきた。
市井ちゃんを、こんなにも愛しているのに、どうしてこんなに傷つけてしまったんだろう。
240 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:55
まるで、市井ちゃんが死んでしまったみたいに、あたしは悲しくて泣きつづけた。
何日も何日も、泣きつづけてあたしは市井ちゃんとの最後のやりとりを思い出す。

市井ちゃんが嫌いなんて、なんで言っちゃったんだろう。
市井ちゃんが何も望まなかったのは、今の生活に満足してくれていたからなのに。
なんであんなにも欲張ってしまったんだろう。
市井ちゃんがいてくれるだけでよかったのに。

そしてあたしは大切な事にやっと気が付いた。

あたしは、誰でもなく、市井ちゃんが好き。
そう気付いて、やっと頭が冷静になり、涙も止まった。
市井ちゃんを起そう。
早く市井ちゃんの笑顔に会いたい。
241 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:56
市井ちゃんが握りっぱなしのリモコンを手にとり、赤いボタンを押す。
一度目ほど、緊張する余裕もなかった。

何日ぶりかに、市井ちゃんが目を覚ます。
変らない、優しい笑顔を見ると、また涙が込み上げる。

「市井ちゃん、ごめんなさい・・ごめんっなさぃ・・」

市井ちゃんは優しく頭を撫でてくれた。

「後藤・・・見た?引き出し。」

「引き出し?・・・あっ」
242 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:56
すっかり忘れていた。

「まさか、まだ?」

「うん、忘れてた。市井ちゃんが眠っちゃったのが悲しくて・・」

「ははっ(笑 後藤のそういうとこ、好きだよ。」

「あはっ♪」

なんだかラブラブモードで、もっとこうしていたいけど、
その前に向き合わなきゃいけないことがあるって、2人とも意識してるのがわかって
見詰め合う。
243 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:56
「後藤、どうする?きっと知ったら辛いと思うし、後藤が嫌だったらもう・・」

「ううん、知りたい。本当の事。知っても、市井ちゃんがそばにいてくれるなら平気」

「ほんとに、大丈夫?」

声は出さずに、首だけで大きく頷く。
すると市井ちゃんは引出しから、あるものを持ってきた。

1冊のノートと、リモコン。
2つ一緒に手渡される。
あたしは、ゴクリとつばを飲み込んで、ノートの表紙に手を掛けた。
市井ちゃんが、そっとあたしの震える肩を抱いてくれた。
244 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:57
3月6日

私は、あと半年で死ぬらしい。
医者に今日、そう言われた。
ずっと持ちこたえてきたけど、そろそろ限界らしい。

3月7日

あと半年。
悔いのないように生きたい。
でも、死ぬ時に一人は、嫌だ。
245 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:57
3月8日

今日は、買い物をした。
新型のロボットらしい。
名前は、後藤真希。
この子が、私の最期を看取ってくれる。

3月9日

今日は後藤と映画を見に行った。
後藤は、よく笑う。
後藤といると、楽しい。
こんな気持ちは、初めてかもしれない。


246 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 02:58
それは、誰かの日記だった。
ただただ、ページをめくり、1文字も見逃さぬように目を通す。


7月15日

今日は後藤と祭りに行った。
浴衣を着た後藤は、とても可愛かった。
ずっと、後藤とこうして過ごせたら、どんなに幸せだろう。

8月21日

体が、しんどくなってきた。
起きているのも、辛い。
私が死んだら、後藤は、どうなってしまうんだろう・・・
247 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 03:00
そこで、日記は終わっていた。

ロボットだった・・あたしも?
信じられなくて、自分の掌を見つめる。
外見からは、全く分からない。それは、市井ちゃんだって同じだ。
混乱してもおかしくない状況で、割と冷静でいられたのは、
何があっても市井ちゃんがそばにいてくれると言ってくれた安心のおかげだと思う。

市井ちゃんの方に顔を向けると、市井ちゃんはまた強くあたしの肩を抱いて
、あたしの手にあるノートの空白のページを最後までペラペラとめくっていく。
一番最後のページには、ぎっしりと文字が並んでいた。
248 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 03:01
後藤へ


後藤がこれを見ることは、ないかもしれないけど。

後藤、後藤との生活は、本当に幸せだったよ。
いつも、後藤は笑っていたから、市井も自然と笑顔になれた。
後藤を、誰よりも愛している。
後藤は何度も、市井を好きだと言ってくれたのに、
一度も言ってやれなくてごめんな。
後藤を、一人にするとわかっていたから、どうしても
言えなかったんだ。
死ぬ事は、怖くないけど、後藤と離れるのは、怖い。
でも、残る後藤はもっと辛い思いをするんだよな。

無責任だとは思うけど、どうか市井の事をいい思い出にして、生きていってほしい。
後藤が幸せになることを、いつも願ってる。



                           市井紗耶香
249 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 03:01
これで、ノートのすべてが終わった。
最期のページに挟まっていた1枚の写真には、笑ってるあたしといちーちゃんが映っていた。
あたしは、声を出さずに静かに泣いた。
市井ちゃんは、優しくあたしの手を握ってくれた。

思い出した事は、何もなかった。
全ては、とてもあたし自身に起こった事だとは思えなかった。
ただ、切ない小説を読んでいるような、そんな気分だった。
250 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 03:01
「思い出した?」

「ううん、なにも。でも、すごく悲しいの。」

「そっか・・・」

市井ちゃんは全てを察したように、あたしを抱きしめてくれた。

「市井は、この人のコピーなんだよ。それを後藤が買った。
だから、これを見つけたとき、後藤は市井に、この人の面影を探してるんだと思って・・・」

「違うよ。あたしとこの人の人生は、きっとここで終わってるの。
この人と過ごした後藤は、きっとこの人について行ったんじゃないかな。
だからあたしは、生まれ変わって、きっと市井ちゃんを買ったあの日から、
新しい人生を始めたんだと思う。」
251 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 03:02
この時、あたしはやっと市井ちゃんと気持ちが通じ合えた気がした。
きっともう間違わない。
ずっとずっと、2人で生きていける。

それからあたしたちは、2人分のリモコンを引き出しに仕舞った。

もう2度と、使う日がきませんように・・・
252 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 03:02



END
253 名前:NZM 投稿日:2004/07/06(火) 03:03
終了です。
今回は、ほんとに意味不明で申し訳ありません。
次回は、甘目をかきたいと予定してますので
飽きずにまたのぞいてやってください。

ではでは
254 名前:まめ大福 投稿日:2004/08/01(日) 10:41
大量更新お疲れさまです


ネタバレにならないよう伏せますが、まさか最後のオチがああなるとは全く読めませんでした
今回の話もとても不思議な感じで面白かったです


次回更新も期待しています
応援してますので頑張って下さい
255 名前:ミッチー 投稿日:2004/08/16(月) 05:10
初めまして。
今回、一気に読まさせていただきました。
いちごまが一番好きなので、いちごまばっかりですごく嬉しいです!
最後のやつ、泣けました…。
これからも頑張って下さい。。。
256 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:07
まめ大福さん、ミッチーさん、レスありがとうございます。
とても、励みになります。

だいぶ間が開きましたが、更新です。
257 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:08


『風邪っぴき』


258 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:11

―――――――ピピピッピピピッ

目覚まし時計の音がやけに頭に響く。

「ん、ん〜」

いつもは目覚めから5秒で体を起す私だけど、なんだか今日は目覚めが悪い。
それでもなんとか起きようと、下半身に力を入れて上体を起す。

「っ、うっ!」

そのまま頭を抱えて、体育座りのような格好でうずくまった。

ひどい頭痛と、ぐらぐらと揺れるような目まい。
これは、ひょっとすると・・・
259 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:12


「って、自分じゃわかんねぇっつうの。」

自分で額に手を当ててみても、熱があるかどうかなんて分かるはずが無い。
ギュッと1回だけ目をつぶって、大きく深呼吸すると少しだけましになったような
気がして、ノソノソとベッドから立ち上がった。

「(歩けないほどじゃないみたいだし、学校行くか。)」

一応、頭痛薬を2錠飲んで、制服に着替えると、私は学校に向かった。
学校に向かうといっても、私は学校の寮に入っているので、学校からは徒歩5分という近さ。
ぼーっとしながら、学校までの短い道のりを歩く。

「(あ〜、やっぱ体がダルイ・・・)」
260 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:12


いつもより長く感じる通学路を歩き、教室に着くとカバンを下ろしてドカっとイスに腰を落とす。
そのまま一気に机にうつ伏せて、HRまでの10分間を目を閉じて過ごした。


やっぱり今日は、いつもと違う。
頭はガンガンするとか、目を閉じていてもフワフワしてるとか、お腹もグルグル言い出しているとか。
そして何より、あいつの声を聞きたいなんて考えていることとか。

・・・やっぱり今日は、いつもと違う。

261 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:13


あいつ。
それは、他ならぬ、後藤真希のこと。

勝手に私に一目ぼれして、勝手に近づいてきて、勝手にまとわりついて。
いつもなら、声を聞きたいなんて思う間もなく、いつもあいつは私の近くにいる。
必然的に、私の耳にはあいつの声が入ってくる。

なのに今日は、それがない。

朝に弱いあいつのことだから、きっとまた寝坊でもしてるのだろうけど、
それを何だか寂しいと思ってしまうのは、きっと今日、私の体調が優れないせいだろう。

そう言い聞かせて、私は浅い眠りに落ちた。
262 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:13


チャイムの音と同時に、目が覚める。

1時間目の、数学。
力の入らない手にシャーペンを握り、なんとかノートをとる。

2時間目の、科学。
実験室に移動し、班になるので、実験は班の子に任せて、ずっと座っていた。

3時間目の、音楽。
気の弱い先生なので、みんなが好き勝手に歩き回る中、私だけ教科書をぼんやり眺める。

4時間目の、体育。
体育館でバスケだったので、熱を理由に見学していた。

なんとか昼休みまで持ちこたえた。
友達が、食堂で何か買ってこようかと気を使ってくれたけど、私はそれを断った。
食堂なら、後藤に会えるかも。というか、確実にいるはずだ。
263 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:15


あいつの笑顔とか、あいつが私を呼ぶ声とか、腕にくっついてくる感触とか。
熱のせいで人恋しくなってるのか、無性にそれが恋しくて、フラフラとした足取りで、食堂に向かって歩いた。

なのに。

後藤がいつもラーメンを買ってる窓口にも、後藤がいつもお茶を買う自動販売機にも、
いつも私が座るテーブルにも後藤はいなくて。

いつもいるはずなのに、いなくて。

何だかとってもガッカリして、よけい熱が上がってきたんじゃないかと思うくらい体が一気にだるくなる。

「(なんだよ、いないじゃん・・・。くそぉ、いつもは追っかけられてんのになんで
今日は後藤の事追いかけてんだろ。やっぱ今日はおかしい・・。)」
264 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:16


今さらだけど、私は別に、後藤の事が好きとかそんなんじゃない。
・・・はずだ。
出会ってすぐに、後藤に告白されて、私ははっきりと振った。
その時は、まだ後藤の事よく知らなかったし・・・。
それでも後藤は懲りずに私にくっついてきて、今の関係にいたる。

学校にいる気力も体力もなくなった私は、生活指導室に早退届を出して、寮に戻る事にした。
たった5分のことなのに、喉もカラカラで、歩くのも辛い。

寮に着いて、とりあえず何か飲もうと、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。
ふたをあけるにも力がでなくて、もどかしい。

なんとか、ふたを開けて、飲もうとした瞬間するりと手からペットボトルが滑り落ちた。
床にドボドボと流れる水を見ていると、激しい目まいがきて、自分が倒れる限界だと気付いた。
265 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:17


「(うわ・・コレまじでやばいかも・・)」


その場で倒れるのだけは避けたいと、必死でベッドまで目指した。
制服のまま、ベッドに倒れこむと、少しだけ安心して、思いっきり大きく息を吐いた。

ため息と共に、私はある事を思いついた。

目を閉じたまま、ポケットに入っているはずの携帯を探る。
取り出して、薄く開けた目で画面を見つめる。
メールも着信も、今日はひとつもない。
いつもなら、休み時間や授業中までも、必ず後藤からのメールがあるはずなのに。
受信BOXを開いて、昨日のメールを見る。
266 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:17


『いちーちゃんとずっとメールしていたいけど、
ごとーもう眠すぎて半分夢の中だよぉ。。。
明日もまた、いちーちゃんに会いに行くねっ♪
夢の中でもいちーちゃんに会えるといいなぁ★
なんちゃって!じゃぁねぇ、おやすみぃ!!』

昨日は、もう寝るのかなんて普通に流したメールなのに
今見ると、なんだか胸がキュンとする。
はじめは、たまにしか返さなかった後藤からのメールをまめに返すようになったのはいつからだろう。
受信BOXも送信BOXも、見ると後藤真希の名前でいっぱいで。
私が後藤に返信したメールは、まめに返してるとは言っても何ともそっけないもので
少し申し訳ない気持ちになる。
267 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:18
そういえば、返信じゃなく私から後藤にメールした事ってあるだろうか。
こんなぼんやりとした頭じゃ正確には思い出せないけれど、もしかしたらないかもしれない。


『まだ寝てんの?』

短いメールを打って、送信する。
送信すると、なんだか返事を待ちきれなくなった。
いますぐに、後藤に声が聞きたくなって。

熱のせいで、頭がおかしくなっているのか、なぜか電話をしようとは思いつかなかった。
今度は、携帯を操作してピクチャーボックスを開く。

お目当ては、後藤が可愛らしくカメラ目線で映っている画像。
前に後藤が、私の携帯を勝手にいじって、カメラでとって勝手に保存したやつだ。
268 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:19


もう何分も、その画像を見つめながら、眠さのあまり目を閉じそうになった時、
急に携帯から着信音とバイブが流れだした。
ディスプレイを見ると、『後藤真希』の文字が点滅している。

後藤から電話だ、と思ってももう微笑む余裕はなかったけど、
切れないうちにと思い急いで通話ボタンを押した。

「・・・はい。」

「もしもし、いちーちゃん?」

「・・うん。」

もう、返事をするのも辛くなってきていたけど、後藤の声を聞けてすごく安心した。

「いちーちゃんのメールで今起きたぁ〜。」

「・・・そっか。」
269 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:20


眠たそうな後藤の声が、すごく可愛く聞こえる。
なんだか、今日は後藤とたくさん話したいのに、そんな時に限って体は言う事を聞いてくれない。

「っていうかさぁ、いちーちゃんからメールくれるなんて珍しいね♪あはっ!」

「ん〜、そっかな。」

「そぉだよぉ!今、ガッコー?」

「ううん、寮にいるよ。」

「え、寮?後藤もまだ寮だよぉ。いちーちゃんも寝坊?めずらしいねぇ。」

「いや、行ったんだけどさ、帰ってきた。」

「・・・へ?なんで?」

「ん〜・・・ゴホッ」

熱があるみたいなんだと、言いかけたとき、急に咳が出てきて、止まらなくなってしまった。
270 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:24


「いちーちゃん、もしかして、風邪ひいてんの!?」

「ゴホッゴホッ!・・そうみたい」

「やばいじゃん!!すぐ行く!!――プーップーップーッ」

後藤は一方的に喋ると電話を切ってしまった。
後藤の声が聞こえなくなってしまった携帯を握り締めたまま、私の意識は遠のいていった。
271 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:24


目が覚めると、視界にあったのは天井だけで、私は寝ていたことに気付く。
朝より少しましになってはいるが、まだズキズキする頭に左手をやると額に違和感を感じた。
手で触ってみると、湿布のような感触がする。

「(なんかこれ、スース―する。あっ、冷えピたか・・・。)」

こんなの貼ったっけ。
そう思っていると、右側に人の気配を感じて、ゆっくり首だけ動かして確かめる。
そこには、私の右手をしっかりと握ったままベットの下に座り込んでいる後藤がいた。
何で後藤がここに・・・。
私は眠る前の事を思い出した。
すぐ行くと言って電話を切った後藤。
272 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:25


「(ほんとにすぐに来てくれたんだ・・・。)」

なんだか、胸が締め付けられるような感覚を覚えて、私は体ごと後藤の方に寝返る。
私の右手を握り締める後藤の手の上に自分の左手を重ねて、少しだけ強く握る。
じっと後藤の寝顔を見つめると、後藤に対する愛おしさが込み上げてくる。
もう、自分の気持ちを風邪のせいにしようとは思わなかった。


そのまま自分の方に手を引き寄せると、気付いたのか後藤が目を覚ました。
273 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:27


「ん〜・・・あっ、いちーちゃん起きた?体、だいじょぉぶ??」

「うん、だいぶましになった。後藤、ずっとここに?」

「よかったぁ〜。うん、電話切ってからすぐ来たよぉ。もう心配したんだからねぇ!
って言っても後藤も寝ちゃってたんだけどさ、あはっ!」

「・・・ありがとな」

「・・・」

「?どした??」

「ぇ・・やぁ、いちーちゃんがお礼言うなんて珍しいなぁって思って・・ビックリしちゃった。」

「何だよそれ、や、でも、まじありがと。」

「何度も言わなくていいよぉ。あっ、いちーちゃんのど渇いたでしょ?なんか持ってくるね。」



274 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:28


後藤が照れたように笑いながらそそくさと立ち上がった。
私は、なんだか離れたくなくて、反射的に後藤の腕を掴む。

「・・?いちーちゃんどぉしたの?のど、渇いてない?」

「や・・・乾いたけど・・」

「気使わなくていいよぉ、後藤が持ってきてあげるから。」

「・・んと、そうじゃなくて。」

「どぉしたの?なんか、いちーちゃん変だよ。まだ熱でもあるのかな。」

そういって、私が捕まえていない方の手で私の額を触ろうとする。
その手も捕まえると、バランスを崩したのか後藤が私のベッドに両膝を立てて乗り上げる形になった。
275 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:30


ハテナマークがいっぱいな表情で私を見下ろす後藤と、
今から言おうとしてる言葉に緊張しながら後藤を見上げる私。

「いちーちゃん、そんなに見つめられると、その・・・照れるんだけど。」

「・・・」

掴んでる両腕から手を滑らせて、後藤の手まで辿り着くと、そっと握り、自分の手で包み込む。

「後藤・・・」

「ん?」

後藤の頬は赤く染まっていて、私に握られた手から私の顔に移った視線は熱を帯びていた。
276 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:30


「(可愛いというか色っぽいというか・・・なんで今まで普通でいられたんだろ。)」

今にも抱きしめたい衝動と、今までの自分の愚かさを振り切るように、一度だけ下を向くと、
また目線を後藤に戻す。

「いちーちゃん?」

「なんか、今日気付いたんだけどさ。」

「・・うん」

「・・今さらかも、しれないんだけど」

「・・・」

「後藤のこと、好きになったみたい。」

「・・えっ」
277 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:33


以外にも小さかった、後藤の驚きに、私は少し不安になる。
後藤が1度、私は後藤を振っているのだから、後藤が今でも私の事を好きでいてくれている保証はない。

ここは、頑張らなきゃと、もう一押ししてみる。

「後藤の事、好きになった。ずっと、一緒にいて欲しいって思うよ。」

「いちーちゃん・・・本気で言ってるの?」

「本気だよ。後藤はもう市井のこと好きじゃなくなった?」

「ありえないよ、後藤がいちーちゃんを好きじゃなくなるなんんて・・・
なれるなら、もうとっくの昔になってるよ!ずっとずっと、待ってたんだから・・。
いちーちゃんが後藤の事を好きになってくれるように、辛かったけど、頑張ったんだからね!」

信じられないといった表情から、だんだん後藤の目が潤んできて、最後には泣いてしまった。
思っていたより、後藤の気持ちが大きくて、私まで少し目がジンとした。
私は、後藤の頭を撫でると、そのまま腰に手を回してゆるく抱きしめる。
278 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:33


「ごめんな・・・辛い思いさせて。」

「もう・・・いちーちゃん後藤の魅力に気付くの遅すぎだよぉ。」

「うん、市井もそう思う。でも今なら分かるよ。」

「ほんとにぃ〜?例えば、どこ?」

「えっと、笑った顔が可愛い、声が可愛い、髪形が可愛い、
後姿も可愛い、手が綺麗だし、優しいし、なんか一緒にいると落ち着くし・・・」

「ちょっちょっと、もういいよぉ!わかったから!」

顔を真っ赤にしながら、指折り数えてスラスラと後藤の魅力をあげる私を制止する後藤。
279 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:34


「あと、照れてる時も可愛い。」

「・・・」

とうとう、後藤は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
やっぱり、今日の私はおかしい。
だっていつもならこんなに恥ずかしい事、素直に言えるはずがない。

まさに、熱に浮かされているとはこの事だろうか。
その熱が、風邪からくる熱なのか、後藤への愛情からくる熱なのかは、私しか分からない。

タイミングが、いいのか悪いのか、後藤と思いが通じてホッとしている私に
再び頭痛が襲う。

「うわっ!」

そのまま後ろに倒れこんで、ベッドに逆戻り。
280 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:35

「いちーちゃん!大丈夫!?」

「・・・やばい。」

「やっぱり、まだ寝てなきゃダメだよ。」

「でも、後藤ともっといたい。」

「・・またいちーちゃんが起きるまで、ここにいるから。ね?」

「うん・・・。」

「そのかわり・・・」

「ん?」

「次起きたとき、後藤の事好きだって言ったの忘れてちゃやだよ?」

「そんなことあるわけないじゃん。」

「熱のせいで、心にもないこと言ったって言っても、今さらダメだからね?」
281 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:35
「うん、わかった。」

「じゃぁ、ハイ、目瞑って。おやすみ、いちーちゃん。」

「おやすみ。」

言われた通りに、目を閉じると、すぐに唇に柔らかい感触が降ってきた。
だけど、あえて目は開けないでそのまま眠ったフリをする。
次に起きた時に、今度は私が不意打ちでしてやろう。

後藤への告白が、この風邪のせいじゃない事を後藤に証明するために。
282 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:36


END


283 名前:NZM 投稿日:2004/08/19(木) 02:36
終了です。
また、感想とかもらえると嬉しいです。

ではでは。
284 名前:ミッチー 投稿日:2004/08/19(木) 15:31
更新お疲れ様です!
やっぱ、いちごまはイイですネ!
今回の話もよかったです。
NZMさんのいちごまは、甘々も痛めの話も大好きデス!
285 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/19(木) 18:36
もっと甘いのもお願いします
286 名前:K 投稿日:2004/08/20(金) 00:35
初めまして。
今日、一気に読ませてもらいました。
いちごま大好きなので、見つけたときはうれしくてにやけちゃいました(>_<)

次回も楽しみにしてます!

287 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:04
>ミッチーさん
ありがとうございます。
これからも読んでいただけると嬉しいです。

>285さん
実は、甘々を書くのが不得意だったりするんですが、
今回ちょっと頑張ってみましたのでよかったらまた読んでやってください。

>Kさん
喜んでもらえて光栄です。
これからもよろしくお願いします。


今回は、甘いのを目指して頑張ってみましたので、
読んでやってください。
288 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:06



『ハッピーウェンズディ』


289 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:06


今の時間は、AM6:00。
もう夏だから外は明るいけど、家族はまだ起きていない。
もちろんあたしだっていつもならまだ夢の中にいる時間。

でも今日は、週に一度の特別な日。
朝が苦手なあたしは、いつも目覚し時計がなっても
起きるのを渋っているけど、水曜日だけは目覚めバッチリ。

何でかって?
それは、あたし、後藤真希と、愛するいちーちゃんの、
約束の日だから。
何の約束かっていうと、それは、毎週水曜日は
あたしがいちーちゃんにお弁当を作ってあげるっていう約束。
290 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:07


「なんか、おいしいもん食べに行きたいなぁ〜。
後藤、今度どっか行こっか?」

昼休みに、コンビニ弁当を2人でパクつきながら、
いちーちゃんが言った。

「いいけど、別に食べに行かなくたって後藤がおいしいもの作ってあげるよぉ」

「えっ、後藤料理できんの!?」

「そんな驚く事ないじゃん!こう見えても後藤料理は得意分野だよ♪」

そう言って、ちょっとふざけて腕まくりしてみると、いちーちゃんがおかしそうに笑った。
291 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:07


「もー!ほんとだよ?後藤の手料理食べたらおいしすぎていちーちゃんのほっぺたなんか
落ちちゃうんだから!!」

「おぉ、すごい自信だなぁ。じゃぁ、今度作ってよ。」

「いいよぉ、じゃぁ、明日お弁当作ってきてあげるから、コンビニで買ってこないでね。」

「オッケー、楽しみにしてます。」

そう言ったいちーちゃんは、あたしが料理できるなんて信じてなさそうだった。
悔しかったあたしは、次の日の朝、あたしは気合を入れてお弁当を作った。
いちーちゃんの好きなものばっかり入れてたら、なんか彩りがすごく悪かったから、
ちょっとプチトマトやブロッコリーで飾りをつけて。
292 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:08


我ながら、良い出来だったから、自信満々でいちーちゃんにそのお弁当を届けた。

「おっ、綺麗じゃん。見た目はとりあえず、合格だね。」

ふたを開けたいちーちゃんが、意外そうに言った。

「ふん!見た目だけじゃないもん!」

不服そうに頬を膨らませて、あたしは早く食べるように催促する。

お箸を手にとって、いちーちゃんが一口、おかずを食べる。
それはあたしがミンチに具を混ぜる所から作った力作、ハンバーグ。
ソースだってもちろんお手製。
これをまずいなんて言ったら、もういちーちゃんと口利いてやらないって思うほどの自信作だ。
293 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:09


一口目を飲み込むと、いちーちゃんは無言のままもう一口、今度は大きめに取って口に入れた。
ちょっと大きすぎたのか、口をモグモグさせたまま、いちーちゃんがこっちを見る。

「・・・やべー、まじうまいんだけど。」

「でしょー!!だから得意だって言ったじゃん。」

「うん、バカにしてごめんなさい。」

「わかればよろしい♪次、コレ食べてみて?」

いちーちゃんのお褒めの言葉に機嫌をよくしたあたしは、次々といちーちゃんに
他のおかずを食べさせて、あっという間に昼食は終了した。
294 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:11


「ふー、ごちそうさまでした。めちゃめちゃおいしかったよ。」

そう言って、綺麗にお弁当を包むといちーちゃんはあたしの頭をよしよしと撫でてくれた。
これだけで、作って良かったなぁなんて思っちゃう。

「また、作れそうだったら作ってよ。」

そう言っていたのが、いつかの水曜日の話。
本当は毎日でも作ってあげたいんだけど、それだと
あたしの手料理のありがたみがなくなっちゃうからっていういちーちゃんの
意見から、1週間に一度だけ、作る事になった。
295 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:11


もう、こうやって、いちーちゃんにお弁当を作り出して
何週間たったかわからないけど、いちーちゃんは飽きることなく
おいしそうに食べてくれて、幸せそうないちーちゃんの顔を見ていたら
次は何を作ってあげようかとあたしもついつい気合が入る。

もう、十分に幸せなんだけど、あたしには夢があって。
今日こそは、それをしたいって思ったら止まらなくって。
だから今日はちょっと、ラブラブな感じに仕上げてみました。

「・・・」

ふたをあけたいちーちゃんは、お弁当にくぎ付けになってる。
するとだんだん、耳が赤くなっていくのが分かって、あたしまでなんか照れてくる。
296 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:12


「今日のは、ちょっと可愛いでしょ?」

「・・・こーいうの、ドラマ以外で初めて見た。」

いちーちゃんが赤面するのもそのはず、今日のお弁当は、ご飯の方に
いちーちゃんの事が大好きっていう気持ちを込めてあるから。

白いご飯の上に、鮭フレークでハートの形を作って、周りにはタマゴのそぼろで
囲んである。
ドラマに出てくる、愛妻弁当の定番みたいな形。
でも、これを普通に食べさせる事が、あたしの夢だったわけじゃない。
297 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:13


「いちーちゃん、ちょっとそれ貸して?」

「え?食べちゃダメなの?」

まだ少し顔が赤いいちーちゃんからお弁当とお箸を取り上げる。
ちょっと寂しそうないちーちゃんにニコっと笑って、あたしは一口分、箸ですくった。

「ハイ、いちーちゃん、あ〜ん♪」

「えっ、い、いいよ!恥ずかしいから、自分で食べるよ!」

「いいから〜!今日は後藤が食べさせてあげる♪ほら、あ〜んして?」

「・・・」
298 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:13


いちーちゃんは、周りをキョロキョロ見回しながら、観念したように、
口をあける。

「・・ぁ〜ん」

嫌々そうにしながら、それでも小さな声であ〜んって言ってくれるところがすごく可愛い。

「おいし?」

「モグモグ、うん、おいしい。」

だんだん、いちーちゃんも乗ってきたのか、あたしにもあ〜んって食べさせてくれたりなんかして。
299 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:14


「今日のお弁当は、特別においしかったでしょ?」

「うん、ちょっと恥ずかしかったけどな。」

「これするのが、夢だったんだぁ〜」

「あ〜んってするのが?」

「うんっ!だって、なんかラブラブな感じがするじゃん?」

「わざとラブラブにしなくたって、もうラブラブなんだからいいじゃん。」

そう言うと、いちーちゃんは後藤にチュって、ちいさなキスをしてくれた。
いつもは、学校じゃ絶対にしてくれないのに。
300 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:15
「あっ、もー、不意打ちずるい!!」

「食後のデザートだよ!ごちそうさまでした〜」

そう言っていちーちゃんはふざけながら笑って、逃げる振りをした。

「あっもー、置いてかないでよぉ!」

お弁当を慌てて片付けて、いちーちゃんの後ろを追いかける。

来週は、本当にデザートもつけてあげようかなぁ。
いちーちゃんに、もっと後藤の虜になってもらいたいから♪♪
301 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:16



END


302 名前:NZM 投稿日:2004/08/21(土) 01:18
終了です。今回は短め。
やっぱり、甘いのは難しい。
次回はまた違った路線を予定しています。
読んでくださった方、よろしければ、感想おねがいします。
とても励みになりますので。

ではでは
303 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/21(土) 10:28
甘いの最高!
次回も楽しみにしてます。
304 名前:K 投稿日:2004/08/21(土) 13:14
更新おつかれさまです。
今回の話は読んでいてほのぼのしました(*^^)
甘い話って好きなんで、苦手でしょうが気が向いたらまたお願いします。

次回も楽しみにしてるんで頑張って下さい!
305 名前:ミッチー 投稿日:2004/08/23(月) 02:31
更新お疲れさまデス。。。
いやー、ごちそうさまでした!
今回の話は、読んでて顔が思わずニヤけてしまいました(W
次回も頑張って下さい。
306 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/26(木) 22:02
いちごま最高!
デザート最高!
へたれなんだけど、決めるとこは決めてくれるいちーがいい感じですね〜
更新期待。
307 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:20
>名無し読者さん
ありがとうございます。
これからも頑張ります。

>Kさん
甘いのは、最初は苦手でしたが書いてるうちに
楽しくなってきました。(笑

>ミッチーさん
ニヤけていただいてありがとうございます(笑
また、ニヤけに来てください。

>306さん
ありがとうございます。
期待を裏切らぬよう頑張りたいと思います。
308 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:22
予定していたものがちょっと行き詰まってしまったので
息抜きで書いたものを載せたいと思います。

309 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:22



『自転車』


310 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:23
今日も、2年愛用しているコイツで、後藤を迎えに行く。
使い込んでいるせいかペダルを漕ぐたびにギーギーと音を立てる
コイツには、愛着があって、なかなか買い換えようという気にはならない。
チェーンのカバーには、後藤と一緒に選んだステッカーを貼って、
後輪の上の荷台には後藤専用のうすい座布団。

後藤の家の前で止まると、ブレーキが大げさなほどにキーッと鳴く。
この音が私が到着したという丁度良い合図になっている。

「おまたせ〜!」

「おぅ」

軽く挨拶、そして、いつものやりとり。
311 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:24

「行きは後藤が漕ごうか?」

「いいよ、後藤の運転は怖いから。」

「ふんだ、そんなことないもん!」

そう言いながら、後藤はいつもどおり私の後ろに乗る。
312 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:25

私たちのデートコースはその日その日違うけど、そこまでの道のりは
常にこの自転車に2人乗りが定番だ。
私も後藤も免許を何も持っていないので、交通手段は電車か自転車か徒歩かに
限られる。
電車はなんか、後藤は平気らしいけど、雰囲気的に喋れなくて居心地悪いから
私はあまり好まなくて、徒歩だとせいぜい地元しか行けないし。
そんな訳ですっかり自転車っ子な私たちは、毎回、駅で計算すると6駅くらい
はある、少し都会の方へ、ブラブラと1時間かけて自転車を走らせるのだ。
この距離は、1人で行けばペダルは軽いんだろうけど、それでも相当キツイもんだろう。
だけど、後藤と2人でイチャイチャ喋りながらだと、不思議な事にあっという間に着いてしまう。
313 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:25


「キャー!怖い怖い!!ちょっとくらいスピード落としてよいちーちゃん!」

「いいじゃん、ジェットコースターみたいだろ?」


たまにわざとふざけてハンドルをグラグラと左右に傾けたりしながら
急な坂道を一気に下る。
こうれでも運動神経には自信があるので、こける心配は絶対ない。

後藤を怖がらせたいっていう悪戯心と、後藤が怖がって私の背中に抱きついてくるだろうと
いう期待が同時に湧き上がって、あえていつもブレーキをかけない。
作戦通り、後藤がしがみついてくるから、下った後の急な上り坂でも、汗をかきながら
一生懸命ペダルを漕げるし、顔がニヤけるのも止められない。

314 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:26

今日は、あそこに行って、ここも見て、ご飯はあそこで食べて…。
私の後ろで、さっきから、一人で勝手に今日の予定を順調に立てる。
独り言かと思いきや、急に

「ねぇ、いちーちゃんはどっか行きたいとこある?」


なんて、私の希望もちゃんと聞いてくれて。
こういう、無邪気な後藤が時々見せる、相手に気を使う姿も、私が後藤を好きになった理由の一つだ。

「そうだなぁ・・・、あっ市井こないだTシャツ買ったとこまた見たい。」

「オッケー、じゃ、そこもね♪」

きっとあちこち見たいだろう後藤のために、どこでもいいよと答えてあげたい所だけど
それは、しないというのが私のポリシーみたいなもんで。
なんでかっていうと、昔に見た雑誌にこう書いてあったから。
315 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:27


――デートでの優柔不断は女の子に嫌われる。


行き先をなかなか決めれなかったり、買い物で誰でも少しは迷うにしろ
あまり長い事相手を巻き込んで悩んでいるのは、どうも嫌われるらしい。
あとは、相手が、服なんか迷ってて、どっちがいいかなぁなんて
悩んでいる時に、どっちでもいいんじゃない?なんて興味なさげな反応をしてしまうのもNG。
きちんと、どっちが似合うかを言ってあげるのは、小さな事だけど大きなポイントのようだ。

まぁ私は結構ハッキリした性格なので、努力は特にしなくてもクリアできる問題なんだけど。

316 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:28

こうして、1時間の道のりはやはりあっという間にゴールする。
駅の近くの、撤去が来なさそうな場所に自転車を止めて、歩き出す。
ここでまた、私たち2人のお決まりの事がある。

それは、手をつなぐ事。
最初は照れくさくて、なかなかつなげなくて、私が思い切って後藤の手を握った
後も、お互い恥ずかしがって俯いて、会話もポツリポツリしかなくて。
だけど今では、歩き出すと同時にスッと後藤の手を握る事ができる。
最初のような妙なドキドキはもうないけれど、それと引き換えに今は
手から伝わる後藤の体温に心まで暖まる気がする。

後藤はつないだ手をブンブン振ったりなんかして。
317 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:29

「子供みたいで恥ずかしいからやめろって!」

そう言う私の顔は完璧にニヤけてしまっている。

「いぃ〜の!いちーちゃんとごとーはラブラブなんだから♪」

「わけわかんねぇ〜(・・・可愛すぎだぞ後藤)」

買い物中は、手は離すものの、レジで会計をすまし財布を鞄にしまうと
またすぐに手をつなぐ。
あちこちと店をまわって見るのは、本当に楽しくて。
結局、行きに決めた今日のコースなんてすっかり忘れて
目に付いた気になる店を手当たり次第全部のぞいた。
318 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:29

私も後藤も3つほどのショップの袋に手を占領された頃。
昼食とも夕食とも言えないハンパな時間に、決まってお腹がすいたと
言い出す後藤のために、買い物も疲れた事だしと近くのファーストフード店に入る。

後藤は、毎回決まったものしか食べないので、いつものてりやきバーガーセットと
私は新しいものが好きなので、期間限定のチキンなんとかバーガーとかいうのを
セットで頼んだ。
小一時間で食べ終わると店を出ると、もう空は薄暗くなっていた。

「さぁ〜てと、そろそろ帰ろっか?」

「そぉだねぇ〜、もう十分買い物したし!あはっ♪」
319 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:31

そう言いながら手に持った袋を少し掲げて嬉しそうに微笑む後藤が本当に可愛い
と思ってしまう私は相当やばいだろうか。

荷物を全部持ってあげたいところだけど私も結構荷物があるので、
一番重そうなやつを1個だけ持ってあげる。
おかげで片手の空いた後藤は、両手がふさがってる私の腕にしっかりと
自分の腕を絡ませている。
正直、ちょっと歩きにくいんだけど、後藤との距離が近いのは私も嬉しいからよしとする。

ぴったりとくっつきながら、自転車を止めた場所までのんびりと歩く。
320 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:32

「結構歩いたよなぁ。自転車まで結構遠い。」

「そうだねぇ〜、1駅分くらいあるかも。」

「こういう時、車だったら帰りが楽なんだけどなぁ〜。」

「こっからまた1時間自転車だもんねぇ。ごとーが漕ぐよ、帰りは。」

「重いぞ〜帰りは、この荷物もプラスだし。」

「あっ、そうだった!やっぱいちーちゃん漕いで。」

「や〜だよっ!後藤が漕ぐって今言ったじゃん。」

「しくった〜、わかったよぉ、頑張るもん。」

「ファイト後藤!!」

「なんかムカツクそれ(笑)」
321 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:33

疲れながらも、会話の耐えないこういう時、私たちはうまくいってるんだなぁって実感する。

「いちーちゃん♪」

「なぁ〜に?」

後藤が、リズムに乗せていちーちゃんなんて呼ぶから、私もついつい
リズムに乗せて答えてしまう。
322 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:33

「好〜き♪」

「そんなこと言ったって、自転車漕いであげないもんねぇ〜」

「もぉ!その話は関係ないよぉ!なんか、言いたくなったから、言っただけ。」

「ふ〜ん。」

そんな可愛い事を後藤が言うもんだから、ついそっけなく返してしまう。

「いちーちゃん、大好き〜♪」

「・・・」

「大好き〜、いちーちゃん♪」
323 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:34
だんだん恥ずかしくなって、あと、意味不明に好きを連発する後藤が
可愛くておかしくて、笑いながら後藤を見る。

「いちーちゃん、好き好き好きっ♪」

「なぁんだよさっきから!(笑)」

満面の笑みで、目がなくなってる後藤はやっぱり可愛くて。

「いちーちゃんは?」

「ん?」

「いちーちゃんは??」
324 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:36

これはきっと、後藤に乗れっていうことだろう。
いつもは、絶対にこんな事できないけど、今はちょうど
周りに人もいないからし、後藤がいつにもましてやたら可愛いから。

「後藤、好〜き♪」

やっぱり恥ずかしかったから、ちょっと控えめな声になっちゃったけど。
でも、顔は後藤に負けないくらい私も笑顔で。
325 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:37

「えへへ〜♪」

こうやって私たちはバカみたいにデレデレしながら歩いて、
自転車の場所まで到着した。

言ったとおり、帰りは後藤が漕いでくれたけど、
3分の1くらいの所で後藤のペースは急にダウンし、口数も少なくなってきたので
結局は交代して私が漕ぐ事になった。

「はぁ〜疲れた。」

「お前半分も漕いでないのに疲れたとか言うな。っていうか重い。」

後ろに座った後藤はすっかりリラックスして、私にもたれてくる。
326 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:38

「だっていちーちゃん重いんだもん!」

「バカ言うなよ、絶対後藤より軽い。」

「うそだぁ〜、いちーちゃん何キロ?」

「そんなの言えるかよ、てかどう見てもそうじゃん?」

「あっ、そうだよねぇ〜、いちーちゃんよりごとーのほうが背高いもんね。」

「人が気にしてることを・・」

「へへ〜、ごとーの勝ち!」

こうやって、後藤が突っかかってくる時は、後藤がかまって欲しい時。
分かってるから、喧嘩にならない程度に私も言い返す。
327 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:38

でも、帰り道を半分も過ぎた頃、後藤は決まってこう言い出すのだ。

「寂しいよぉ〜、もうすぐいちーちゃんとバイバイだ、寂しいよぉ〜」

こうやって、全く寂しくなさそうにふざけていう時は、実は本当に寂しい時。
分かってるけど、私はいつも、そうだね寂しいねって棒読みで応える。
そしたら後藤は、寂しいなんて思ってないんでしょって、後藤は本当に寂しいのにって
またふざけた口調でちょっと拗ねてみせる。

そして、今日も後藤は本当に寂しくて。
私も、いつも本当は寂しくて。
328 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:39
だから私は、こう返す。

「市井も寂しいから、じゃぁ今日はこのまま市井ん家泊まりにくる?」

あまりにもサラっと答えたもんだから、後藤はちょっと戸惑ってたけど。

「・・・うん♪」

ちょっと間を置いて、すごく嬉しそうに後藤が返事をしながら抱きついてきた。

急に元気になった後藤は、後ろで鼻歌なんか歌ってる。

「部屋、片付いてるかなぁ」
329 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:40
なんて独り言を言いながら、帰ったら後藤が
今日買った服のファッションショーをして見せてくれる姿を
想像して、少し笑った。

「なに笑ってるの?いちーちゃん変なのぉ。」

「何でもないよ。どうせ夜お腹空くだろうからコンビニでも寄って帰ろっか?」

「うん、ごとーからあげ食べたい。」

「じゃぁ、からあげと、ジュースと、お菓子でも買って帰ろう。」
330 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:40

キーキーと、のんびり、行きより遅いスピードでも、帰り道はなぜか
行きよりも短く感じる。

こういう自転車の旅も楽しいけれど、いつか車かバイクの免許を取って
後藤と遠出するのも悪くないかも。
がんばるから、もうちょっと、このオンボロ自転車で我慢してね、後藤。
331 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:40


END


332 名前:NZM 投稿日:2004/09/09(木) 01:44
終了です。
今回は、ほのぼのいちごまでした。
24時間テレビの後藤、可愛かったですね。

ここでちょっと募集です。
リクエストとまではいきませんが、
書いて欲しいシチュエーションとか
リクしてもらえるとありがたいです。(いちごま限定です)
ネタ切れというわけではないんですが、読者のみなさんが
どういういちごまを希望してるかちょっと気になるんで。

今のままだと、私の書きたいものばかりになって
しまうのでつまらないかなぁと。

ということで、お待ちしております。
333 名前:ミッチー 投稿日:2004/09/09(木) 17:59
やった!更新されてる!
今回も、やっぱりニヤけちゃいました(w

私は、NZMさんの書くいちごまなら何でもイイのですが・・・。
書いて欲しいのが見つかったら、リクさせてもらいます。
これからも頑張って下さい。。。
334 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/10(金) 04:44
まったりいちごま
最高です
335 名前:K 投稿日:2004/09/10(金) 16:15
更新有難うございます!
やばいくらいニヤけながら読んでましたよ(^^)

ほのぼのや甘い系大好きなんでまた書いてほしいです。
でも、私もNZMさんの書くいちごま好きなので
書きたいものを書いてくれて全然構いませんよ。

次回も楽しみにしてます。
336 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/26(日) 01:42
今日ここ見つけて一気に読んじゃいました!♪
いちごま大好きなんですけど、最近かなり少ないのでホント嬉しいです!
ほのぼの甘甘ないちごまは最高ですね(^▽^)
次回も楽しみです♪

もし、リクエストOKなら、あまあまな「学園モノ」をお願いしたいです。
モテモテ市井に後藤ヤキモキ!みたいな♪

337 名前:NZM 投稿日:2004/10/09(土) 12:03
お久しぶりです。読んでくださってどうも
ありがとうございます☆
近々更新予定ですのでまた
のぞいてもらえるとうれしいですm(__)m
338 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:47


『uneasiness』

339 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:47
今日もまた、いちーちゃんは15分の遅刻。
付き合って以来毎日一緒に帰ってるけど、週に1,2回は必ずと言っていいほど
あたしはいちーちゃんに待ちぼうけを食わされる。
いつもの待ち合わせ場所になっている校門の前は、下校ピークの生徒たちが
あたしの前を通り過ぎて、今はもう誰もいない。

学年が違うあたしといちーちゃんの教室は、校舎が離れていて、
たった10分の休み時間じゃ会いにいけないから、一緒にお弁当を食べれる
昼休みになるまでは、休み時間ごとにメールでやり取りして、寂しさを紛らわす。
それでも寂しい時は、授業中にこっそりメール送るんだけど、まじめないちーちゃんは
絶対休み時間まで返事をくれなくて。
340 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:48


『授業中は授業に集中しなさい。』

授業が終わると必ずこうやってお説教メールが届くんだけど。
でも本当はいちーちゃんだって、授業中にメール打ってるの、あたしは知ってるんだからね?
だって、こんな説教メールが届くのはいつも、チャイムが鳴るのと同時で。
って事はメール打つ時間を計算すると、明らかにチャイムなる前に
メール打ってるって事になっちゃうんだよね♪
こぉいう時だけ頭が冴えるあたしは、その答えに辿り着いても、
それをいちーちゃんに言ったりはしない。
だって、言うといちーちゃん、拗ねてもう絶対授業中にメール打ってくれなくなっちゃうでしょ?
だから、あたしは知らない振りして、

「だって、寂しいんだもん!(:_;)」

なんて、送っちゃうんだよね。
341 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:49
何でも出来て完璧で。みんなにそんなイメージを持たれてるいちーちゃん。
だけど、本当はすごく機械音痴。最近おそろいにした、結構最新の
携帯を、いちーちゃんはまだ使いこなせてなくて、メールを打つのも必死みたい。

「後藤、親指の動きおかしくない?何でそんなにはやく打てんの?」

「え?普通だよぉ。みんなこんなもんじゃない?いちーちゃんが遅すぎなんだよ(笑」

そう喋りながらも、いちーちゃんは携帯の画面から目を離せないらしくて、携帯を睨みつけたまま。
あたしはもう、画面なんか見なくてもメール打てるから、親指だけをカチカチと動かしながら
余裕の表情でいちーちゃんを見る。
342 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:51
「あー!今喋ったから間違えちゃったじゃんか!」

「知らないよ(笑 いちーちゃんほんと不器用だね」

「・・・てか後藤の親指動きすぎて気持ち悪い。」

携帯のせいでちょっと不機嫌ないちーちゃんは、たまにこんな暴言を吐いたりして
拗ねちゃうけど、そんなとこも可愛くて仕方ない。

「や〜めたっ!もう疲れた。代わりに後藤打って。」

「そんなだから上達しないんだよぉ!もぉ、何て打つの?」
343 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:52
結局、時々こうやってあたしが代わりに打ってあげるんだ。
いちーちゃんがあたし以外とメールするのって、やぐっつぁんぐらいなんだけど。
やぐっつぁんは何も知らないからまさかあたしが代わりに打ってるなんて思いもしないんだろうなぁ。
ごめんね、やぐっつぁん。

待ちに待った昼休みは、いちーちゃんと2人でお昼ご飯を食べる。
だけど、楽しい反面、このあとの事を考えるとあたしはいつも不安になるんだ。
ご飯を食べたら、あたしたちは上履きに履き替えにそれぞれの下駄箱に行かないと
いけないから、いつも中庭でバイバイする。
あたしはその後は教室に戻るだけだけど、いちーちゃんはいつも下駄箱で
上履きに履き替える以外の事もしないといけなくて。
それは・・・。
344 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:52
「あちゃー、また入ってるよ。」

「相変わらずモテるねぇ、紗耶香は。」

「笑い事じゃないよまったく。また後藤に嫌な思いさせちゃうんだから。」

「まっ、モテモテの紗耶香の彼女になった以上は、ごっつぁんもその辺理解してんじゃないの?」

「そうだといいけど・・・あいつ意外とあんま怒んないからさぁ。いつか爆発するんじゃないかって
それが怖いんだよね。」

「大丈夫でしょー。」

「ほんと、人事だと思って・・・冷たいなぁやぐっちゃんは。」
345 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:53
そう、それは、下駄箱の中のラブレターチェック。
昼休みの残り5分を、あたしはいつも憂鬱な気分で過ごす。

「(今日はありませんように、ありませんように・・・。)」

どんなに強く祈っても、あたしのポケットの中の携帯が嫌な知らせを連れてくる。

『ごめん、今日帰り10分遅れる。』

「はぁ〜〜・・・」

読んで大きな溜息をつくと、そのあと続いてもう1通メールが届く。
送信者は、やぐっつぁん。
346 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:55
『紗耶香、今日は1年の子だってさ。元気出せごっつぁん!』

今日も、いちーちゃんは誰かに告白される。
ラブレターの内容は、

 放課後、○○で待ってます。

いつも、こんな感じらしい。
誰にでも優しいいちーちゃんは、絶対にその場所にちゃんと行って、丁寧にお断りする。
その紳士ぶりに、振られた子もなかなかいちーちゃんを諦められないんだとか。
347 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:57
それにしても、なんで手紙なんだろう。
あたしの時は、ちがったけどなぁ。

「市井さん!!」

「はい!!!?」

あれは、今年の春の事。
ずっと、好きだったいちーちゃんに告白する機会を狙ってたあたしは
いろいろ作戦を練ったものの行動に移せずに、気付けば
廊下ですれ違った時に大声でいちーちゃんを呼び止めていた。

「今日、放課後あたしと遊んでください!」

「えっ・・・」
348 名前:NZM 投稿日:2004/10/19(火) 23:59
言った瞬間、廊下にいたほかの生徒たちがザワザワしだして、我に返ると
あたし急何言ってんだろうって恥ずかしくなっちゃったけど、もう引けないって思った。

「時間、ないですか?」

「・・・い、いいけど。」

俯きながら返事をくれたいちーちゃんも顔が真っ赤で、すごく戸惑ってた。
その場の雰囲気に耐えられなくなったあたしは、じゃぁよろしくお願いしますとか
意味わかんない言葉を残して走って逃げた。

放課後になって、言ったもののどうすればいいんだろうって考えながら
みんなが帰った教室に一人で残っていると、ガラっと教室のドアが開いた。
349 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:00
「・・・あの、迎えに来たんだけど・・・。」

「あ・・・」

そこにはモジモジしたいちーちゃんが立っていて、ぎこちなくあたし達は
教室を出た。最初は緊張しまくってギクシャクしていたけど
だんだん打ち解けてくると、本当に楽しくて、いちーちゃんはすごく優しくて。
あたしの胸はもう、いちーちゃんを好きな気持ちでいっぱいになっていた。
その日の帰りに、告白して、見事OKをもらい、あたし達は付き合う事になったんだ。

後から聞くと、いちーちゃんも実はあたしの事がずっと気になってたんだって。あはっ♪
350 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:00
って、今はそんな事思い出して喜んでる場合じゃなかった。
とりあえず、いちーちゃんとやぐっちゃんに返信しないと。

まずは、いちーちゃんから。

『わかった☆じゃぁ、校門のとこで待ってるね♪』

なるべく、気にしてないように見えるように記号とかを意識して入れてみる。
本当は、行って欲しくないなぁ・・・なんて言ったらきっといちーちゃん困るよね。

次は、やぐっつぁんに。

『そっかぁ。。。辛いっス(><)笑 いつも情報ありがと☆』
351 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:01
これでよしっと。
冗談っぽく言ってるけど、実はかなり本気だったりする。
いちーちゃんは、何人に告白されても、絶対気持ち移ったりしないって分かってるけど。


「(やっぱり不安で仕方ないよぉ・・・)」


でも、こればっかりはどぉしようもないんだよね。
352 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:02
こうして今日も、あたしは校門でいちーちゃんを待つ。
いちーちゃんが来たら、ちゃんといつも通り、気にしてない振りしなきゃ。
いちーちゃんだって、好きでモテてるわけじゃないんだし。
もう、10分経ったから、あと5分したらいちーちゃんはあたしのために
息を切らせて走ってきてくれる。

はずだった。
なのに、10分待っても20分待ってもいちーちゃんは来ない。
メールを打っても、返事も来ないし。
あたしの頭の中を、嫌な考えばかりがよぎる。

ひょっとして、今日の子はあたしよりもいい子だった?
いちーちゃん、そっちに行っちゃうの?
そんなのやだよぉ・・・。
353 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:02
考えないようにしようと思っても、いちーちゃんが来ない時間
に嫌でも考えさせられる。

気付くともう、どうしようもないくらい涙が溢れてきて、
思わずその場にしゃがみ込んだ。

膝に顔を隠すようにうずめて、ただじっと地面を見つめていた。

「ごめんっ!遅くなって・・・」

354 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:03
いちーちゃんの声と、走ってくる足音が少し遠くから聞こえて、
顔を上げるとそこにはいつもより何倍も申し訳なさそうないちーちゃんがこっちに向かって
走ってきていた。

いちーちゃんが来てくれたことにはすごく安心したけど、いちーちゃんを
待ってる間に募った寂しさとか、今日は来てくれたけどそのうち
本当にいちーちゃんが心変わりしちゃうんじゃないかっていう不安とか。
そういうのが、なかなか消えなくて、いちーちゃんが目の前に来ても
あたしは涙を止める事が出来なかった。

「ごめんっ、ほんとすいません!」

「・・・」

必死に頭を下げてるいちーちゃんは、あたしが顔を上げないから
怒ってるんだと思ってるみたい。
355 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:05
「なんか、断ったら泣いちゃってさぁ・・・なかなか泣き止んでくれなくて。」

「・・・」

そっか、そうだったんだ。今日の子が特別可愛かったとかじゃなくてよかった。
でも、あたしだって泣いてたんだからね?

「・・・後藤?・・・えっ!」

いちーちゃんが、しゃがみこんであたしの顔を覗き込んできた。
あたしも少しだけ顔を上げていちーちゃんと目を合わすと、
いちーちゃんはあたしのまだ涙がいっぱい溜まった瞳を見て
やっとあたしが泣いてるってことに気付いたらしくて、驚いて固まっちゃった。
356 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:05
「・・後藤、もしかしてずっと泣いてたの?」

「・・・」

うまく声を出せなかったあたしは、ただコクンと首だけで頷く。

「いちーを待ってる間、ずっと?」

「・・っ・だって・・んっ・」

だって、不安だったんだもん。
そう言おうとしたら、また泣きそうになってきて、黙り込んでしまった。
357 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:06
いちーちゃんは、あたしの言おうとしたことが分かったのか、
やさしく頭を撫でながらゆるく抱きしめてくれた。

「後藤、ごめんね?」

「・・うん。」

「不安だった?いちー、遅かったから。」

「なんか、いちーちゃん待ってたら、だんだん怖くなってきて・・
今日の子は、あたしよりいい子だったんじゃないかって。」

「そんなわけないよ・・後藤よりいい子なんていないって。」

子供をなだめるように、優しい落ち着いた声で、いちーちゃんは普段は
言わないような言葉を言ってくれた。
358 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:06
「あ〜!まじでもしくったなぁ!後藤が泣いてるって分かってたら
ほったらかしてでもこっち来りゃよかったぁ〜!!」

急にいちーちゃんは大声出して今度は自分の頭を抱え込んだ。
もう、許してあげようかな。
ずっと泣いてたら、いちーちゃん可哀想だし。

「いちーちゃん、もういいよ。もう大丈夫だし。行こ?」

「ほんと、ごめんね?」

「いいって!そのかわり、今日はマックおごりだからねぇ。」

いちーちゃんの手を取って歩き出すと、いちーちゃんは
まじっすか?とか言いながら、それでもちょっと嬉しそうだった。
359 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:07


次の日。


いつものように、2人でお昼ご飯を食べ終えて。
昨日の今日で、ちょっと気まずいなぁなんて思いながらも
なるべく普通に中庭に向かう。
もうすぐチャイムも鳴ることだしと、なるべく
気にしてないように、別れようと思ったら、いちーちゃんに止められた。


「後藤?ちょっと、下駄箱まで着いてきてくんない?」

「え?でも・・・」

正直、いちーちゃんの下駄箱に入ってるラブレターなんて見たくない。
躊躇してるあたしの手を取って、いちーちゃんはどんどん下駄箱へと歩く。
360 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:07
「ちょっちょっと待ってよ!」

あたしの声も聞かずに、ずんずん歩いていくいちーちゃん。

「いいもん見せてやるから。」

そう言ういちーちゃんは少し得意そうに笑っていて。あたしは
黙って着いて行くことにした。

「これ・・・」

下駄箱の前に着いたあたしは、驚きで言葉が出なかった。
361 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:07


☆注意☆

この下駄箱に、手紙等を入れるのは禁止!!
下駄箱は、靴を入れるところです。
しかもこの下駄箱主には、可愛い彼女がいます。
これから、手紙とか入ってても、見ません!!

362 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:08
「文章は、やぐっちゃんに考えてもらった。」

少し照れながら、いちーちゃんが嬉しそうに言う。


下駄箱には、張り紙がされていて。
周りにいる生徒もこれを見たのか、ちょっとザワザワしてる。

「これで、もう嫌な思いすることないでしょ?入ってても本当に読まないし。」

「でも、それじゃ書いた子が可愛そうだって前いちーちゃん言ってたじゃん。」

「そうだけど、待ってる後藤はもっと可愛そうだって思ったから。」

「・・・」

「あんまり、嬉しくなかった?」
363 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:09
さっきまであんなに得意げだったいちーちゃんが、あたしのリアクションを
見てちょっと弱気になってる。

本当は、涙が出るほど嬉しいのに、素直になれないあたしは、
これじゃダメだって思った。

「めっっっちゃくちゃ嬉しいに決まってんじゃん!いちーちゃん大好き!!」

「へへっ」

そう言って抱きつくと、いちーちゃんは嬉しそうに笑った。
364 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:10
そのまま、教室に戻って携帯を見ると、誰かから1件メールが来てた。
やぐっつぁんからだ。

『エッヘン!やぐち、いい仕事するだろぉ〜p(^ ^)q』

あたしは、すぐに返信した。

『やぐっつぁん最高!!どうもありがとぉ〜☆』

上機嫌なあたしは、いつもは寝てばっかりの授業だけど、今日は
ちゃんと勉強しようかなぁって思って、引出しから教科書を取り出す。
365 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:10
「あれ?」

すると、引出しの中から1枚の見覚えのない封筒がヒラヒラと机の下に落ちた。

「(明らかに今あたしの机から出てきたよね?)」

首をかしげながら封を開けると、中には手紙が入っていた。
366 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:10



後藤さんへ

今日の放課後、中庭で待ってます。


「・・・」

うそでしょ・・・・


いちーちゃん、どぉしよぉ〜!!(泣
367 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:12



END


368 名前:NZM 投稿日:2004/10/20(水) 00:18
>ミッチーさん
いつもニヤけていただいてありがとうございます(w
これからもよろしくお願いいたします。


>334さん
私もまったりいちごま読むのは大好きです。
もっといちごま作者増えてくれないかな・・・
また、読みにきてくれるとうれしいです。

>Kさん
ありがとうございます。
書きたいもの、というかもう思いつく限り
書いていきたいと思いますので
これからも遊びに来てやってください。

>336さん
リクありがとうございました。
いちお応えたつもりなんですがいかがでしたか?
あと、もう1個モテ市井ネタが浮かんでいるので
そっちもそのうち書くと思います。
また読みに来てやってください。

369 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/20(水) 00:54
いちーに夢中で自分のモテっぷりに気付いてない後藤さん萌えw
370 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/20(水) 02:09
いい落ちだw もう1つのネタも楽しみに待ってます!
371 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/20(水) 22:57
あはっ!
ナイスオチ!
続きが見たくなる・・・そんなオチですねw
次ぎも楽しみに待っております。
372 名前:336 投稿日:2004/10/22(金) 21:35
リク受けてくれてありがとうございマス♪
やっぱモテいちーちゃんは最高です(^▽^)
オチも最高!
次回も楽しみに待ってます!
373 名前:K 投稿日:2004/10/22(金) 23:57
更新、有難うございます(^^ゞ
モテ市井さんもいいですねぇ(>_<)
矢口さんもいい人だなぁ…
最後のオチも面白かったしw
もう一つの方も楽しみにしてます。
374 名前:ミッチー 投稿日:2004/10/23(土) 02:31
おぉ〜!やっぱりいちごまは最高だネ!!
今回もニヤけてしました(W
モテ市井ちゃんと、市井ちゃんに夢中な後藤さんが大好物デス。
もう一つの方も楽しみにしてます!
375 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:37

お久しぶりです。
またまたしょぼしょぼですが、更新です。
よかったら読んでやってください。
376 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:38



『クリスマスなんて大嫌い!?』


377 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:39
市井ちゃんと過ごす、初めての季節。
寒いのはあんまり好きじゃないけど、市井ちゃんと
一緒にいる日だけは好きになれそう。

なんでって?
だって、市井ちゃんにピッタリくっついて歩けるいい理由になるから。
市井ちゃんは恥ずかしがり屋さんだから、
外ではあんまりくっつくなって怒るんだけど。
でも寒くなってきた最近は、市井ちゃんもそうしていた方が
暖かいからか、あたしがくっついても文句を言わなくなった。
だからあたしは、寒さに託けて寄り添うカップル達に
負けじと市井ちゃんにくっつくんだ。
本当は季節なんか関係なくイチャイチャしてたいんだけどさ。
378 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:39
それに、冬はイベント事が多いから、市井ちゃんと
過ごせる事を考えるだけで、毎日顔がニヤけちゃう♪

だけど・・・

「いちーちゃん、もぉすぐクリスマスだねぇ〜。」

「クリスマス?あぁもうそんな時期か。」

街にはあちこちにクリスマスツリーが並んで、
イルミネーションや音楽もクリスマス一色。
誰もがきっとクリスマスを意識しているはずなのに
市井ちゃんは、まるで今気付いたかのように、興味なさげに言った。
379 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:40
「そんな時期だよぉ!ねぇねぇ、クリスマスは一緒に過ごそうね!」

「ん〜、まだわかんないや。」

あたしは、あえて「一緒に過ごせる?」って聞かずに「一緒に過ごそうね!」
って、決定系で言ってるのに、市井ちゃんの返事は曖昧で。
もぉ!なんで今日はそんなに素っ気無いのさ!

「わかんないのぉ〜?でも、イブかクリスマス、どっちかは
いちーちゃんと過ごしたいなぁ〜。」

市井ちゃんがいつになくそっけないのが気になったけど、
初めて2人で迎えるクリスマスはどうしても市井ちゃんと
一緒に過ごしたくて、あたしは引き下がらずに甘えてみた。
380 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:41
「だからまだわかんないっつってんだろ。ほら、行くぞ。」

「・・・」

意味わかんない。なんでそんなに素っ気無いの?
その後市井ちゃんはすぐに普通に戻ったけど、
変りに話を逸らされて、あたしのモヤモヤは
消えないままだった。

クリスマスはどんどん近づいてくる。
何をプレゼントしようか、どこで過ごそうか。
ついこないだまでは、そんな事を考えてるだけで
楽しかったのに、あれからあたしはクリスマスを
思い出すたびに憂鬱になっていた。
381 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:42
また、クリスマスのことを話せば市井ちゃんの機嫌を損ねてしまうだろうか。
っていうか、もしかしたら、あの時市井ちゃんの機嫌が悪かったのが
クリスマスとは関係なかったのかもしれない。

「わかんない・・市井ちゃんが全然わかんないよ。」

クリスマスはもうすぐなのに、あたし達は何の約束もしないままだった。

一緒にテレビを見ていても、クリスマスの話題が流れると、あたしは
さりげなくチャンネルを変えたりして、そのたびに、少し気まずくなった。
そうやって、なんだかギクシャクしたまま、クリスマスの前日も、
会う約束をしていちーちゃんの家を出た。
382 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:42
明日もまた、市井ちゃんの家で2人きりで過ごす。
いつもみたいに、仲良くしよう。今日みたいに気を使わずに
明日は過ごせたらいいな。
そんな事を考えながら、あたしはなかなか眠れなかった。

市井ちゃんの家に着くと、市井ちゃんは優しい笑顔で迎えてくれた。
ホッとして、あたしは市井ちゃんの家に上がる。

一緒に読もうと思って買ってきた雑誌を、肩を並べて2人で読んだ。
なんだか、久しぶりに市井ちゃんと笑えてる気がしてすごく嬉しかった。
383 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:44
でも、それも一瞬で終わっちゃった。
次のページをめくった瞬間。

『クリスマスデートスポット特集!!』

大きな活字で書いてあるそこには、都内のレストランや夜景の綺麗なスポット、
イベント会場などがいっぱい書いてあって。

「・・・」

「・・・」

急に黙ってしまった市井ちゃん。
この雑誌を買ってきたことを後悔してるあたし。
384 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:45
「(でも、このままじゃ明日も明後日も会えないの?)」

そんなの嫌だと思ったあたしは、勇気を出して聞いてみた。

「明日、どぉする?」

「・・・」

市井ちゃんは、黙ったままで、俯いてしまった。

「ねぇ、なんで黙っちゃうの?やっぱり一緒に過ごせない?
なんか用事があるんだったら仕方ないけど・・・」

「・・・」

ずっとだんまりな市井ちゃん。
あたしの我慢はとうとう限界にきてしまった。
385 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:46
「明日、予定ないの?じゃぁなんで後藤と一緒に過ごしてくれないの?」

「何だよ、クリスマスクリスマスって。めんどくさいなぁもう。」

市井ちゃんは、ほんとにめんどくさそうに溜息をついた。
ダメだ、だんだん涙目になってきた。
でももう止まんない。

「後藤すっごい楽しみにしてたんだよ?初めて2人で過ごす
クリスマスだもん。プレゼントは何にしようかとか
どこに行こうかとかいっぱい考えて・・・でもいちーちゃん
あんまり楽しみじゃなさそうだから、クリスマスが嫌いな人も
いるんだって・・・そう思ったけど、でも、だからって会えないのは
やっぱり嫌だよ!!
今まで毎日一緒にいたのに、なんでクリスマスだからって理由で会えなくなるの?」

「そうじゃない!!」

「じゃぁ何で!?言ってくんなきゃわかんないよ!!」

「市井はクリスマスなんか大っ嫌いなんだよ!
あんなのなくなっちゃえばいいんだ!!」
386 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:46
めずらしく、市井ちゃんが大声出して怒るから、ビックリして今度は
あたしが黙ってしまった。
でも、市井ちゃんも止まらなくなったみたいで、そのまま続ける。

「何だよクリスマスって。意味わかんないよ、何でクリスマスに
お祝いなんかするんだよ、ただの天皇誕生日だろ?
市井だって、そのあとすぐ誕生日なのに!いつもクリスマスと
一緒にまとめられて・・・
市井の誕生日はクリスマスとまとめるために12月31日になったわけじゃないんだ!!」

「・・・」

ちょっと待って。
市井ちゃんがクリスマス嫌いな理由って、もしかして、それだけ?
387 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:47
「いちーちゃん、もしかして、それでクリスマスの話しただけで怒ってたの?」

「そうだよ!!どうせ後藤も市井の誕生日のことなんかすっかり忘れてたんだろ!」

バカだなぁ市井ちゃん。
後藤がそんなの忘れるはずないのに。
むしろ気合入りすぎて、もう誕生日プレゼント買ってあるのに。
っていうか・・・

「いちーちゃんっ、かわい〜♪♪」

きっと、昔から誕生日とクリスマスを一緒に祝われて、もしかしたら
友達とかには、年末だからあんまり祝ってもらえなくて、それがずっと気に入らなかったんだ。
そうと分かると、市井ちゃんが可愛くて、愛しくてたまらなくなって、思いっきり
市井ちゃんを抱きしめた。
388 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:47
「なんだよ!市井は怒ってんだ!!!」

「よしよし、可哀想だったねぇ。今年は、後藤がちゃんと誕生日も祝ってあげるからね。」

思いっきり市井ちゃんを子ども扱いすると、市井ちゃんはあたしの腕の中で
暴れてたけど、だんだん冷静になってきたのか、今度は耳まで赤くして急におとなしくなった。

少し顔を離して市井ちゃんを見つめると、市井ちゃんはまだ少し拗ねたような表情をしていた。
389 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:48
「(ちゃんと、いちーちゃんを安心させてあげなきゃ。)」

「いちーちゃん?」

「・・・」

「後藤が、いちーちゃんの誕生日を忘れるはずないじゃん。もう、プレゼントまで
買ってあるんだよ?」

「・・・ほんとに?」

「ほんと。後藤がクリスマスも一緒に過ごしたいって言ったのは、
別にクリスマスだからってだけじゃないよ?今まで、毎日のように一緒に
いたじゃん?だから、クリスマスだから会いたいわけじゃなくて、いつもみたいに
毎日一緒にいて、それでクリスマスも、誕生日も、お正月も、全部2人で過ごせたら
きっとすごい楽しいだろうなぁって思って。」

「・・・」
390 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:48
「だから、もしいちーちゃんが何か他に用事とかあるんだったら、その日は諦めるし、
またその次の日一緒にいればいいって。後藤はそう思うんだけど。
ねぇ、いちーちゃんは?」

「市井も、後藤と毎日一緒にいたい。」

怒っていたのがバカみたいだって思ったらしい市井ちゃんは、
恥ずかしそうにして、あたしに目を合わせずに言うとそのまま
あたしの胸に顔をうずめてきた。

「もぉ、バカだないちーちゃんは。」

クスクス笑って市井ちゃんの頭を撫でると、「だって・・・」
とかなんとか言いながら、拗ねたままだった。
391 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:50
クリスマスイブとクリスマス。
2日とも2人で楽しく過ごした帰り道。
あたしは、これだけはちゃんと言っとかなきゃって思ったことがあって。
だけど、あんまり真剣に言うのは恥ずかしいから、前を向いたまま
市井ちゃんの手をギュッと握って、さりげなく言った。

「いちーちゃん、後藤は、いちーちゃんが生まれてきてくれて
本当によかったって思ってるよ。だって、いちーちゃんが生まれてきて
くれなかったら、後藤はいちーちゃんを知らずに生きていくんだよ?
そうなってたらきっとこんなに幸せな気持ち知らないままだったと
思うもん。だから、いちーちゃんが生まれてきた日は、後藤に
とってもすごく大切な日なの。だから、いちーちゃんの
誕生日は2人で一緒に祝おうね。」
392 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:50
言ってる途中で恥ずかしすぎて、ちょっと照れ笑いしちゃったけど、
言いながらほんとにそうだなぁって実感して思わず微笑みながら
市井ちゃんを見ると、少し涙ぐんでて。

「ちょっと、いちーちゃんなんで泣いてんの!?」

わざと茶化したけど、本当はすごく嬉しかった。

「後藤はいい子に育ったねぇ〜、母さん感激だよ」

市井ちゃんも、茶化しながらわざと大きく鼻をズッてすすりながら言った。
393 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:51
きっと、今年のクリスマスは忘れられない2人の思い出になると思う。

これからもずっとこうやって、毎日一緒にいていろんな事
2人で過ごしていこうね、いちーちゃん♪
394 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:51


END


395 名前:NZM 投稿日:2004/12/04(土) 02:59
>369さん
萌えていただいてありがとうございます(笑

>370さん
もう1つのネタの前にクリスマスネタ書いちゃいました。
また感想書いていただけると嬉しいです。

>371さん
ありがとうございます。
よかったらまた読みに来てやってください。

>372さん
リクありがとうございました。
気に入っていただけるとありがたいです。
また読みたいネタありましたらリクお願いします。

>kさん
いつもありがとうございます。
読んでる方がいるとこちらも書きがいがありますので
これからもよろしくお願いします。

>ミッチーさん
いつもニヤけに来てくれてありがとうございます(笑
私もモテ市井と市井に夢中な後藤は大好物です。
また感想よろしくお願いします。

まだまだ、リク受付中ですので、
何かありましたらどんどんお願いします。
では、また。
396 名前:NZM 投稿日:2004/12/05(日) 23:12
一部、内容が抜けていました。
申し訳ありません。
397 名前:390と391の間 投稿日:2004/12/05(日) 23:13
とりあえず、ケンかは終了したみたいだけど、あたしは
市井ちゃんの意外な一面が見れて、すごく嬉しかった。

その日はそのままイチャイチャモードに突入して、市井ちゃん家に
お泊りしちゃったんだけど、次の日のクリスマスイブは、
市井ちゃんも本当はそんなにクリスマスが嫌いなわけじゃなかった
事もわかったから、2人でクリスマスプレゼントを買いに行った。

お揃いのペアリングを買って、お互いの左薬指に着け合うと
少しオシャレなレストランで食事をして、思いっきりクリスマスを
満喫した。
398 名前:NZM 投稿日:2004/12/05(日) 23:14
今後、こぉいう事のないように
気をつけますm(__)m
399 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/06(月) 00:35
クリスマスネタ、にやけながら読ませていただきました♪(笑)
めずらしく甘えっ子!?ないちーちゃんでしたね ヽ^∀^ノ
もしかして、いちーちゃん誕生日ネタもあるのかな??♪

もし良かったら、「些細な事でケンカ・後藤さんスネる・でも最後はラブラブ仲直り♪」
なんてのも、読みたいです。

自分もモテいちーちゃん好きなんですよ。
甘えん坊でいちーちゃん一筋なごとーさんツボです☆
400 名前:ミッチー 投稿日:2004/12/10(金) 01:05
更新お疲れさまデス。。。
クリスマスネタいいネ。
市井ちゃんのクリスマスが嫌いな理由が可愛かったっス!
やっぱ、いちごまはニヤけちゃいますな(W
401 名前:K 投稿日:2004/12/10(金) 12:22
更新お疲れ様です!
久しぶりにいちごまが読めて、すごくうれしかったです(^^ゞ
やっぱりいちごまはニヤけちゃいますね(W
市井さんの誕生日ネタ、私も読んでみたいです!

これからも頑張ってくださいね。
402 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 00:59
>399さん
読んでいただいてありがとうございます(ペコリ
 >もしかして、いちーちゃん誕生日ネタもあるのかな??♪
この発言に触発されて、今回書いてしまいました、誕生日ネタ(笑
予定通り進まず、だいぶ遅れてしまいましたが、よかったら読んで
やってください。

>ミッチーさん

いつも読みに来ていただいてありがとうございます。
ほんと、励みになりますので、また読みに来てやってください。
いちごま作者が少ない今、読者さんの存在がほんとに励みになります。

>Kさん

またまた更新が久しぶりになってしまってすいません。
もっと頻繁に更新したいのですがなかなか(汗
誕生日ネタ書きましたので、よかったら読んでやってください。
403 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:01


ハッピーバースデー&ハッピーニューイヤー

『ハッピーバースデー編』

404 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:02
クリスマスの少し前。
つまらない事で後藤を困らせてしまった。
それでも、2人の仲を元通りに、っていうかさらに
強い絆で結んでくれたのは後藤のおかげで。
私は、後藤の見た目より実は幼い内面とか、すごく好きなんだけど、
今回の事で、後藤の心の広さを知った。

あんな小さな事で機嫌悪くしてた私に比べて、悩みながらも
なんとかしたいと前だけを見て、仲直りへと導いてくれた後藤。

新たな一面に、尊敬を覚えたと言うか、もっと好きになったというか・・・
405 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:02
こんなこと、面と向かっては絶対言えないけど、最近後藤を好きな
気持ちが止まらない。って、のろけすぎ?

でも、本当に。

何をしてても、お前の顔が頭に浮かんで離れないんだよ、後藤。
後藤も、同じ気持ちでいてくれたらうれしいな。なんちゃって。

そうして迎えた私の誕生日の前日、12月30日。
今は夕方の5時前で、後藤が来るのを家の前で待っている。
406 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:03
夜中の0時ちょうどに、誕生日の日付になる瞬間を、2人で過ごしたい
と私が言うと、嬉しそうに頷いた後藤は、

「じゃぁ、夕方にいちーちゃん家に行くね!2人っきりで誕生日会しよぉ♪」

と言ってくれた。

外は、とても寒くて、吐く息も白い。
手をこすり合わせ、白い息を吹きかけながら、その場で足ふみをして後藤を待つ。

もうすぐ、後藤が息を切らしてやって来るだろう方向を見つめながら、
その姿を想像してちょっと笑いそうになったり。
407 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:03
こういう時、幸せだなって思う。

前に後藤に借りたCDに、
『1人でいても感じる孤独より、2人でいても感じる孤独の方が辛い』
と歌ってる歌があったけど、今の私は全く逆だ。

1人でいても、相手の事を思い浮かべるだけで幸せだし、
2人でいればもっと幸せだと感じられる。

いつまでもこの幸せが続くんだろうかと不安になることもあるけれど、
それを後藤に言うと、後藤は

「それは、後藤もよく思うけど、そういうときはね、こう考えることにしてるんだ。
失いたくないと思えるような幸せが、今ここにあるんだって。
それって、もしかして後藤ってものすごい幸せ者じゃんって。」
408 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:04
確かにそうだ。
私は黙って頷いた。

「そう思えばね、じゃぁ、この幸せを本当に大切にしなきゃって思えるんだ。
なくなったらどうしようって、そうじゃなくて、なくしたくないから大切にしようって。
そしたら、もう不安なんて気持ち、どっかいっちゃうよ。
まぁ、でもそう考えてると、今すぐいちーちゃんに会いたくなっちゃって、それもそれで
困っちゃうんだけどね(笑」

それを聞いてからは、私もそう考えるようにした。
すると、すごいもので、本当に後藤が出した答えに辿り着いて、幸せな気持ちになれた。
もちろん、今すぐ後藤に会いたくもなった。
409 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:04
ほんと最近、すっかり後藤色に染まっちゃったなぁ」

そう口からこぼれる独り言も、すっかりのろけで。
市井紗耶香、ただいま幸せの絶頂にいます。


「いちーちゃ〜ん!!」

そうこう考えているうちに、少し遠くから後藤が走ってくるのが見えた。
大きく手を振りたいのだろうけど、その両手には荷物がいっぱいで。
大きなスーパーの袋からは、ネギが体の半分を覗かせていて、まるでそこらの
おばちゃんのようだ。そんなのもお構いなしに一生懸命走ってくる後藤がまた可愛くて。
だんだん後藤の姿が近づいてくるにつれて、私はあることに気が付いた。
410 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:05
スーパーの袋に埋もれる、すこしオシャレな赤色の紙袋が見えた。

「(もしかして、アレが誕生日プレゼントかな?つーかちょっとは隠そうとか
思わないもんかねぇ。まっ、後藤らしいっちゃらしいけど(笑))」

しかも、後藤はその存在を忘れてしまってるのか、腰の辺りまで荷物を持ったまま
の手を持ち上げて(たぶん腰の高さまで上げるのが限界なんだろう)やりにくそうに
手を左右に揺らす。

「(そんなに頑張って手振ろうとしなくても(笑)あ〜、もうプレゼント
もへしゃけちゃってるよ・・・)」

せっかく後藤が頑張って手を振りつづけてくれてるし、私もそれに返すように
顔の横で小さく手を振った。
411 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:07
すると後藤は思いっきり笑顔になり、やっと役割を果たした手を、今度は前後に
振ってラストスパートをかける。

「(もぉプレゼントどころかスーパーの袋ん中もやばそうだなぁ。
そういえば鍋作ってくれるとか言ってたような・・・豆腐とか潰れてないかなぁ。)」

よけいな心配が頭をよぎりつつ、心はもう後藤を抱きしめたい気持ちでいっぱいで。

「はぁ・・はぁ、いちーちゃん!待ったぁ♪」

目の前まで来た後藤は息を切らして少し苦しそうに、だけど笑顔で私に抱きついてきた。
412 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:08
「おっとっと、おっそいよぉ後藤。いちー待ちくたびれちゃった。」

荷物と後藤の重みを両腕と胸で受け止めて、思いっきり抱きしめる。

「あはっごめんねぇ♪」

「ん、寒いし、中入ろっか?」

「うん!」

後藤が買ってきてくれた食材を持ってあげて、家の中へと通す。
一見家事などしなさそうに見える後藤だが、実はものすごく料理が上手だったりする。
最初は私も、言ってるだけだろうとか思っていただけに初めて料理を作ってもらった
時には驚いた。可愛いお菓子なんかも作れちゃううえに、煮物といった家庭料理も
ばっちり作ってみせたのだ。

それ以来、私は後藤の料理の虜になっている。
413 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:08
そんな後藤を先頭に、私達は料理に取り掛かった。

器用に食材を刻む後藤の後ろで、私はセッセと皿を並べたり、箸を並べたり、
鍋をコンロにセットしたり・・・。

え?雑用ばっかりじゃないかって?
だって、私は後藤と違ってまったくの料理音痴だからさ。

「いちーちゃーん、全部切れたから、運ぶよぉ?鍋の準備できたぁ?」

「おぉ、ばっちりだよ!」

鍋のダシまで後藤のお手製だ。ぐつぐつと音を立てるそこからは
とてもいい匂いがする。
414 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:09
「あ〜、この匂い、まじ食欲そそるね。何入ってんの?」

「おいしそうでしょ〜、後藤家代々伝わる秘伝のタレだよ、何が入ってるかはナイショだけどね♪」

「いや、これタレじゃないから。ダシだから。しかもナイショってすっげー気になるんだけど。」

「細かい事はいいじゃん!」

そう言いながら、2人分のグラスに、買ってきたジュースを注いでくれる。

「ありがと。」

ジュースを目の前にすると急にのどが渇いてきた私は、グラスに口をつけようとする。
415 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:09
「あ〜、だめだめ!まだ乾杯してないよぉ!」

「乾杯って何にだよ。」

私の誕生日は明日だし、特に乾杯する理由もないと思うんだけど。

えっとぉ。
そう言いながら、後藤が部屋にある時計をチラッと見た。

現在、8時23分。

後藤が指折り数えながら何かを計算するのを黙って見つめる。
416 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:09
「いちーちゃんの誕生日まで、あと3時間37分に乾杯!」

自信満々でグラスをこちらに傾けてくる。
そんな後藤が可愛くておかしくて、ケラケラ笑いながら私もグラスを傾けた。

「よぉ〜し、食うぞ!」

大好物の肉を狙って箸を伸ばすと、またしても後藤からストップがかかった。

「まだお肉赤いじゃん。おなか壊すよ?」

「ちょっと生なくらいがおいしいんだよ、肉は!」

「ダ〜メ!貸して?」

そう言って、皿ごと取り上げられる。
417 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:10
「野菜は早く食べないと煮えすぎたらクタクタになっちゃうから、
こっちから先に食べようねぇ。」

「ちぇ〜。」

後藤がよそってくれた皿の中には白菜やネギや糸こんにゃく、とにかく
肉は入っていなかった。
自分の分も皿によそうと、後藤は一度箸をおき、手を合わせて。

「いただきま〜す。」

「・・・いただきます。」
418 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:10
まるで小学校の給食係のように、丁寧に言う。
こういう、意外と礼儀正しい所を後藤はよく見せる。
例えば、買い物をしてる時、親しげに話し掛けてくるショップの
お姉さんたちにも、きちんと敬語で話していたりとか、電車に乗るとき
きちんと足を閉じて座っていたりとか。
見るからにいまどきの10代の女の子って感じの後藤が持つギャップが
私は好きだ。


後藤のお母さんって、しっかりしてるんだろうなぁ。

きっと、こういう礼儀に関しては厳しく育てられたんだろう。
いや、厳しくと言うよりは、それが当たり前だという風に教えられたんだと思う。
419 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:11
私の母親も、そうだった。
一人暮らしを始めてからは、口うるさく言われなくなった分
そういう習慣がいつのまにか消えてしまったけれど、
きっと私の中にある根本的な『基本』は消えていなくて。

だから、後藤といるとこんなにもあったかい気持ちになれるんだ。
何も共通点のなさそうな私達のよく似た部分。
それが、育てられ方なのだとしたら、私は親に感謝したい。

ちゃんと育ててくれてありがとう、おかげで私はこの子といる時に
まるで家族といるような安らぎを感じる事ができます。

このセリフは、そのまま後藤のお母さんにも伝えたい気持ちだ。
420 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:11
って、ちょっとくさいかな?
でも、前に後藤が「最低限のマナーを守れない人は嫌い」と言っていた時は、
本当に親に感謝した。私は、最低限のマナーを守れない人ではない自信があったから。
その自信を生んでくれたのは、まちがいなく母親だろう。

そんな事が一瞬頭をよぎりながら、私は皿に盛られた野菜を口に運ぶ。

「うまい!」

「でしょ〜。後藤をお嫁さんにしたら毎日おいしいご飯が食べられるよ。」

「お嫁さんって・・・でもマジうまいよこれ。」
421 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:11
私達が結婚する事は、今の法律じゃ無理だけど、毎日家に帰ると
おいしいご飯と笑顔の後藤が出迎えてくれるなら、幸せだろうなぁとついつい考えてしまう。

4人分はある鍋を、ぺロっと2人で食べ終わり、満タンになったお腹を抱える。

「あ〜食った食った。ごちそうさまでした。」

「おいしかったねぇ、ごちそうさまでした。」

あとは、2人で後片付け。

私がお皿を洗って、後藤がお皿を拭いて棚に戻す。
後藤の綺麗な手が荒れちゃったら大変だからね。
それに、さっきは雑用しかできなかったから、そのお返し。

後片付けが全部終わると、部屋に戻り2人でテレビを見る。
422 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:12
さっきから後藤は、そわそわと時計を見たりキョロキョロしたり落ち着きない。

「?どうしたの?後藤」

「え?あ、いや、なんでもないよ。それよりいちーちゃんお風呂入らないの?」

「ん〜、後でいいや。後藤先入ってきなよ。」

「後藤も後でいい。いちーちゃん入ってよ、ね?」

「なんだよ、先入りゃいいのに・・・」

「いいからいいから、お先にどぉぞ!」

無理矢理立たされて風呂場へと背中を押される。
首をかしげながら、私はしぶしぶお風呂に入る事にした。
423 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:13
今日は昨日より一段と寒かったため、いつもより少し長めに湯船に浸かって、
ごしごしとバスタオルで髪を拭きながら廊下に出ると、やけに静かな事に気付く。

「(あれ?なんか静かだなぁ。いつもは後藤鼻歌とか歌ってんのに。
もしかして、寝ちゃってる?テレビの音も聞こえないし。)」

不思議に思って、私はドアを開ける前に後藤を呼んでみる。

「後藤〜?上がったよぉ。」

あれ?返事がない。
っていうか、電気まで消えてるし。

やっぱ寝てるんだ。
ちょっと寂しくなって、起してやる気持ちで大げさにリビングに繋がるドアを開けた。
424 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:13
「ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデートゥーユー♪
ハッピバースデーディアいちーちゃ〜ん♪
ハッピバースデートゥーユー♪イエ〜イ!!」

「・・・」

後藤は寝てはいなくて、っていうかそんな失礼な事を考えていた自分に腹が立つ。

後藤はテーブルの前にちょこんと座って、その前にはバースデーケーキ。
真っ暗な部屋はローソクの炎がユラユラと淡いオレンジ色に染まっていて。

「誕生日おめでとぉ、いちーちゃん♪ねぇ、びっくりした?」

「・・・」
425 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:13
時計を見ると、12時ちょうど。
感動のあまり言葉が出なかった。

「あれ?どしたのいちーちゃん。」

後藤は、こぉいうサプライズを用意するようなタイプじゃないと思っていた。
きっと、ストレートにプレゼントを渡してくるんだろうと。
けど、後藤はきっと私を驚かそうと一生懸命考えてくれていたんだろう。

無言で後藤のそばまでいき、ギュッと抱きしめる。

「いちー・・ちゃん?」

「・・・ありがと。」

後藤の肩に顔をうずめて、呟く。

「こんな嬉しい誕生日、初めてだよ。ほんと、ありがと。」
426 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:14
言ってから、さらに強く抱きしめる。
自分の声が涙声になっているのには気付いていたけど、それをごまかす余裕はなかった。
ただ、嬉しい気持ちでいっぱいで。

「よかった、喜んで貰えて。」

後藤も、私の背中に左手を回して、私を抱きしめながら右手でそっと頭を撫でてくれた。

しばらくの間じっとそうしていて、どちらからともなく体を離すと、
ちょっと恥ずかしくて2人でえへへってだらしなく笑った。
427 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:14
「これ・・・」

「ん?」

後藤が恥ずかしそうにごそごそと背中の後ろから紙袋を取り出す。
後藤が来た時に私が見つけた赤い紙袋だった。

「何にしようか、すごく迷ったんだ。で、いちーちゃんに似合いそうなのやっと見つけて。」

「プレゼント?」

「うん、開けてみて?」

紙袋からそれを取り出すと、丁寧に包装された小さな箱のリボンを解く。
428 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:15
「自分でラッピングしたんだ。かわいいでしょ?」

私がプレゼントを開くまでの時間がもどかしいのか、後藤はずっと喋っていた。

破かないようにそっと包装紙を広げ、箱を開けるとそこには、シルバーのシンプルな
バングルが鈍い光を放っていた。
それは、派手好きな後藤が選びそうもないほど、シンプルで、しかも私の
タイプにドンピシャだった。
そのことが、私が好きそうなものを一生懸命選んでくれた後藤の姿を想像させた。

「かっこいい〜!!」

社交辞令じゃなく本心から言った私のことばを聞き、後藤は嬉しそうに
それについて説明してくれた。
429 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:15
「それね、渋谷のお店で買ったんだ。たぶんメンズ物なんだけど、このデザインなら
女の子がつけても大丈夫だし、いちーちゃんが付けてるとこ想像したら、
もう絶対これしかないって思って。しかもね、裏側見て?」

後藤の言葉に従って裏側を見ると、そこにはMtoSと刻印が入っていた。

「エム、トゥー、エス・・・」

「真希から紗耶香へ・・なんちゃって♪」

そう言うと後藤は恥ずかしそうにはにかんだ。

「大事にするよ、いつも付けとく。」

「うん、これが後藤だと思って肌身離さず持っててね。」
430 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:15
バングルを左手首にはめると、サイズもピッタリで。
そのまま左手首をかざして、いろんな角度から見えるように手首を返してみる。

「これっ、マジかっこいいよ!後藤、いちーのセンスわかってきたねぇ。」

自然とにやける顔をそのままに、バングルを見つめながら言うと、後藤は得意げな顔をしていた。

「でも、いちーちゃんお風呂長かったねぇ。12時ちょうどに間に合わないかと思った。」

「そぉ?寒かったからゆっくり暖まってたんだよ。」

そしたら後藤が、ほんとにぃ〜?なんて、いたずらっぽく笑うから
心当たりもないのにドギマギしてしまう。
431 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:16
「今から後藤と仲良くするために、綺麗に体洗ってるのかと思った。」

「ばっ!バカ!なに言ってんだよ、んなわけねぇ〜だろ。」

急に色っぽい声になった後藤のせいで、ついムキになって答えてしまう。
一気に赤くなった顔を後藤から背けるように後ろを向いた。

「なぁ〜んだ、つまんない。後藤もお風呂入ってこよぉっと。」

そう言ってスタスタと風呂場に向かう後藤を無言で見送る。
432 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:16
「・・・なんなんだよ。」

押しては引いて、みたいなことを後藤によくされるような気がする。
これがもし無意識の内にしているものなのだとしたら、
後藤は完璧な子悪魔気質だ。

「(絶対、いちー以外にも無意識でやってる。こりゃしっかり見張ってないと
そのうち誰かがあの目に落ちちゃうだろうな。)」

ガチャ。

後藤の子悪魔攻撃(無意識)に未だドキドキしながら、後藤への仕返し
を思いついた私は、後藤があがった風呂場からドライヤーの音が止むのを
合図に、後藤を迎えに行く。
433 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:17
「!?びっくりしたぁ!どぉしたのいちーちゃん?」

「・・・後藤」

急に現れた私に驚いた後藤は目を丸くして私を見ていた。
私は意識的に爽やかにニッコリと笑うと、そのまま後藤の背中と腰に手を回す。

この、『爽やかにニッコリ』は、自分で言うのもアレだけど、
女の子によくモテる私の得意技だったりする。
とは言っても最初は意識的にしたことなんてなかったけど、いつだったか
「市井先輩のココが好き!」みたいな話をしている後輩を見つけたことがあって、
その時に入っていた1つだ。

でも、得意技になったのは、後藤が私のこの表情が好きだと言ってくれてからだけど。
434 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:17
至近距離で見つめると後藤は分かりやすく顔を真っ赤にして、うつむいた。
その瞬間に、心の中で小さくガッツポーズをすると、キリっとした顔に切り替えて
そのまま両手に力を込め一気に後藤を抱え上げる。

「きゃっ!」

そう、女の子ならみんなが夢見る、お姫様抱っこだ。

そのままベッドまで連れて行き、やさしく後藤をベッドに寝かせる。
驚きながらも、少しうっとりとした表情の後藤。

私が思いついた後藤への仕返しとは『後藤をドキドキさせて
いちーの虜にさせる!』ということだった。

それだけ聞くとバカみたいだけど、さっき私が後藤にされたのは
まさにそれだから、言葉どおり、そのお返しだ。
435 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:18
それに、あの子悪魔攻撃で誰かが後藤に落ちちゃっても、
後藤が私の虜なら、私の心配要因は少なからず軽くなるし。

ベッドの上で寝かされたままじっとしている後藤は、あきらかにいつもと
違うシチュエーションに緊張しているはず。
そして、後藤が好きだと言った私の爽やかな笑顔&キリっとした表情の
効果もあったようで、もう後藤の目には私以外映っていないようだ。

「後藤。」

できるだけ優しい声で、後藤の名前を呼ぶ。

「・・いちーちゃん。」

後藤の声は掠れていて、体中からドキドキって音が聞こえてきそうな表情だ。
436 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:18
後藤の右側に体を移し、顔を覗き込む。

1度だけ瞬きをした後藤の目はキラキラしていて、私は吸い込まれるように近づいていく。
そのまま後藤の唇にチュっと軽く口付けて、微笑む。

「・・・いちーちゃん、好き。」

後藤もあどけない表情で、ニッコリと返してくれた。
437 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:19
そろそろ、私も我慢の限界になってきていた。
後藤をドキドキさせようと思っていたのに、後藤のドキドキしている表情を見たら、
逆にそれに私の胸が飛び跳ねるようにドキっと高鳴ってしまう。

後藤の耳に唇を近づけて、そっと囁く。

「今から2人で、仲良くしよっか?」

「・・・うん。」

こっから先は、2人だけの秘密。




〜ハッピーニューイヤー編に続く
438 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:21



END
439 名前:NZM 投稿日:2005/01/30(日) 01:24
『クリスマスなんて大嫌い!?』の続編ということで
書いてみました。
あと、さらに続編として『ハッピーニューイヤー編』を書く予定です。
誕生日ネタがこんなにも遅れてしまったので、こっちの方はなるべく
早く完成させたいとは思っていますが、多分遅くなります(笑

気の長い方は、まったりお待ちいただけるとありがたいです。
また、感想などジャンジャンお願いします。

ではでは
440 名前:ミッチー 投稿日:2005/01/31(月) 17:34
待ってました!いちごま!!!
後藤さん可愛いなー、マジで。
市井ちゃんの得意技には、皆虜だネ!
顔の筋肉ゆるみっぱなしだぁ(^^;
続編楽しみデス☆
441 名前:399 投稿日:2005/02/01(火) 18:15
いちーちゃん誕生日ネタ、最高です!
ごとーさん料理担当・いちーちゃん片付け担当なんてのも
なんだか新婚ラブラブ夫婦みたいで♪ 
やっぱりこのふたりには甘甘が一番似合ってます♪
私も続編楽しみに待ってマス!
442 名前:K 投稿日:2005/03/08(火) 11:03
ごとーさんはかわいいし、いちーさんはすっごくかっこいいし、
読んでてドキドキしました(*^^)v
この二人のラブラブな話って本当にいいですね♪
続編の方も楽しみにしてます!
443 名前:seven 投稿日:2005/03/23(水) 20:30
初めまして〜!
このスレを見つけて、一気に読んじゃいました!
いや〜、やっぱりいちごまは最高ですね。
いちーさんといる時の、甘えん坊なごとーさんがツボなんですヨ♪
こっちの、ごとーさんはどれもスゴくかわいくて、いちーさんも男前で♪
とてもイイ雰囲気を出してると思います。

わたしも続編を期待して待ってます!
頑張ってください☆
444 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:35
長い間、放置してすいません。

では、こないだの続編行きます。
よかったら読んでやってください。


『ハッピーニューイヤー編』

445 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:36

ピピピッピピピ――――


携帯のアラームが遠くで聞こえて目が覚めた。
遠く、とはいってもまだ完全に眠りから覚めていないからそう聞こえるだけで
本当は枕もとで鳴ってるんだけど。

片手を布団から出して、携帯に伸ばすと適当にボタンを押し、アラームを止める。
片手だけで感じる空気の冷たさに眉をしかめて、腕を引っ込めると大げさに
顔の半分まで布団に潜る。

「ん゛〜」

そのまま体を縮こめて、温もりのある方へ体を寄せる。
すると、うずくまった頭が何かにコツンと触れる。
それが何かを、あたしは知っていて。
446 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:37

そのまま両腕を伸ばして、ギュっとしがみつく。
あたしの素肌に直接伝わってくる体温がとても心地いい。

「ん〜、いちーちゃん。」

その温もりの持ち主の名前を呼ぶと、彼女はゴロンとこっちに寝返り、
あたしのマネをするように両腕を回してくる。

低血圧なあたしだけど、アラームを止めてからもう5分くらいたってるせいか、
だんだんと頭がはっきりとしてきた。

うすく瞳をあけると、ぼんやりとした視界に映るのはスヤスヤと眠る可愛い寝顔。

うつ伏せになり両肘をついて上体を少し起すと、その寝顔を見つめる。
447 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:38

「か〜わ〜い〜♪」

いちーちゃんを起さないように小さな声で呟いて、そっとほっぺたにおはようのキスをする。

いちーちゃんよりあたしが先に起きるのは珍しい事で、だからこうやって
じっくり寝顔を見つめる事や、いちーちゃんに内緒でキスすることは、もしかしたら
初めてかもしれない。
なんだかとても得した気分だ。

早起きは三文の得って、よくできた言葉だなぁ〜。

あたしが中途半端に上半身を起してるせいで、いちーちゃんのサラサラしてそうな
白くて華奢な肩が露わになる。
448 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:38

ドキっ!

何度見ても、やっぱりドキドキしちゃう。
しかも、こうして見ると妙に色っぽくて、昨日のキリっとした
カッコいいいちーちゃんとは別人みたい。

誘われるままにいちーちゃんの肩に指を沿わす。
冷え症なあたしの指先はとても冷たくて、いちーちゃんの肩との温度差を
より感じさせる。
その温もりが心地よくて、そのままにしておくと、冷たさを感じたのか
いちーちゃんは小さく唸って眉をしかめた。

「(今日はぐっすり眠ってるなぁ〜。いつもなら物音ひとつで目を覚ますのに。)」
449 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:39

その姿がとても愛しくなって、あたしはそのまま手を移動させて
いちーちゃんの髪を優しく撫でた。

サラサラな黒い髪にそのまま指を通しては抜いて、また撫でる。
なんだかニヤけた顔が治らなくて、ちょっと落ち着こうといちーちゃんの
髪の毛から手を離すと自分の両頬に手を添える。

「(それにしても、醒めないもんだよねぇ・・・)」

いちーちゃんと付き合いだして、まだ1年もたってないけど、それでももう
結構経つはず。それに、毎日のように会ってるわけだから一緒にいる時間は
他のカップルに比べるとハンパじゃなく多いと思う。

いちーちゃんの良い所も嫌な所も結構見てきたし。
450 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:39
なのに、あたしのこのいちーちゃんへの気持ちは醒めるどころか勢いを増すばかりで。
まぁ、もし醒めてきてたらそれはそれで問題なんだろうけど・・・。
それでもやっぱり、他の人たちは倦怠期ってやつを迎えたり、空気みたいな存在になって
隣にいる事が当たり前になったりって、よく聞く話で。

あたし、毎日こんなにいちーちゃんにときめいちゃってていいのかしら?
もしかして、あたしって異常!?

「(でもっ、まぁいっか!幸せだし♪)」

「ねっ、いちーちゃん!」

頭の中で結論付けたあたしは、一人も退屈だしそろそろいちーちゃんを
起そうと、少し大きめの声で無理矢理話を振りながら思いっきり抱きついた。
451 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:40

「へぇ!?」

急な体への衝撃に驚いたいちーちゃんは変な声を出しながら飛び起きた。

「おはよっ!いちーちゃん、びっくりした??」

「・・お、おはよ、起きてたんだ後藤。」

「珍しいでしょ〜。今日はいちーちゃんより先に目覚めたんだよっ!」

「・・・おーそうかすごいすごい。」

すっかり目が覚めてるあたしは、早く起きれた事をいちーちゃんに褒めてもらうか、
寝起きのラブラブタイムにもっていくのを狙っていちーちゃんに大げさに顔を近づけた。

だけどいちーちゃんは適当に話なんか合わせながらポリポリ頭を掻いていて、
未だ意識はボンヤリと夢と現実を彷徨ってるような表情。
声とか掠れててやたらハスキーだし。
452 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:40

まぁ、熟睡してたのを急に起しちゃったから無理もないか。

ちょっとがっかりしながらあたしは、諦めて顔でも洗おうと、体を起す。
起そうと、思ったんだけど・・・。


肩に重さを感じてそのまま逆らう間もなくベッドに逆戻り。

「・・どこ行くの?」

「え、顔洗いに行こぉかなって・・・」

寝起きのいちーちゃんが掠れた声で聞いてくるので、そのまま答えたんだけど。
453 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:41
「行っちゃダメ」

「・・・。」

この人、まだ寝ぼけてる?
意味の分からない駄々をこねるいちーちゃんを置いてベッドを降りようとすると、
いちーちゃんは拗ねたのか寝返りを打つようしてに背を向けた。

「(ちょっと意地悪しちゃったかな・・・)」

そう思いながらも、起きたらすぐ歯を磨いて顔を洗う習慣があるあたしは、
タオルケットを背中から羽織ってそのまま寝室を出ようとした。
454 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:41
「ごとー!!ごとーごとー!!!」

「何っ!?」

布団の中から、くぐもった声で急にいちーちゃんが叫びだした。
慌ててベッドに駆け寄ると、いちーちゃんはちょっと眉をしかめた顔を布団から覗かせた。

そのままぐいっと腕を引っ張られて、ちょっと変な体制のままいちーちゃんの
上に倒れこんだ。

そのままギューっと、少し痛いくらいの力で背中を抱きしめられる。

「い、いちーちゃん?」

いつもと違ういちーちゃんにちょっとビックリして、あたしは少し体を離して
いちーちゃんの顔を覗き込む。
そこにあったいちーちゃんの顔は、さっきのしかめっ面とは打って変わってニッコリした笑顔。
455 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:41
「ん〜〜」

5秒くらい目が合うと、またいちーちゃんは笑顔のままあたしの胸に顔を埋めて、
あたしを抱きしめたままゴロンと寝返る。

言葉をなくしてるあたしを気にもせずに、片手をあたしから離すと再び2人の体に布団を被せて、
ほんの5分前の状態に元通りとなった。

「何?いちーちゃん。」

いちーちゃんの行動が意味わかんなすぎて、あたしはやっとその疑問を口にした。
もちろん怒ってなんかいないけど♪
456 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:41
「ごとーがいないと寒いから行っちゃダメ!寂しいから行っちゃダメ!!」

なんかやけに大きな声でそぉ言うと、またまたギュっと抱きついてくる。

「・・・」

あたしがされるがままに固まっていると、いちーちゃんは様子を伺うようにチラっと見上げてくる。

「(・・・か、かわい〜!!!)」

何!?なんでいちーちゃんこんなに今日甘えんぼなの!?
なんでこんな幼児化しちゃってんの!?
457 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:43

いつもなら、朝は口数が少ないはずのいちーちゃんの甘えっぷりに、
すっかりあたしはメロメロになってしまった。
めったに持たない母性本能なんかも湧き出ちゃって、自然と言葉が優しくなる。
しかも、超ニヤけちゃってるのが自分でも分かってたけど、そんなの関係なし。

「ごとーと一緒にいたいの?」

「・・うん。」

「ごとーがいないと寂しい?」

「・・・うん。」

あたしが喋るたびに、コクンと大きく頷くいちーちゃん。
それがもう可愛くて可愛くて可愛くて、頬がゆるむのが止まらない。
458 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:43

「いちーちゃんはわがままだなぁ、今からごとー顔洗おうと思ってたのに。」

そう言うといちーちゃんはイヤイヤをする子供のように首を大きく横に振った。

「じゃー、ちゅーして?そしたらここにいてあげる。」

そう言うといちーちゃんは嬉しそうに頷いて、「ちゅっ」っと唇に短めのキスをくれた。

たまらなくなって、あたしはいちーちゃんの首に腕を回して思いっきり抱きついた。
いつものいちーちゃんなら考えられないけど、きっと今日のいちーちゃんは
甘えたい気分なんだ。単純な理由だけど、きっとそう。

「(いつも、こぉだったらいいのにな〜。
あっでも、かっこいいいちーちゃんも大好きだし・・・。
どっちかなんて選べないよぉ〜。でもどっちも大好きっ♪)」
459 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:43

そんな事を考えながら、あたし達は1時間以上もベッドの中でイチャイチャし続けた。
結局、いちーちゃんは甘えたらあたしがどんな反応するか見たくてふざけてたんだって。
でも、やってるうちに楽しくなってきちゃってやめるきっかけがわかんなくなっちゃったみたい。

今日はいちーちゃんの誕生日で、しかも大晦日で。
いつまでもこうしていちーちゃんとベッドの中にいるのも悪くないけど、
あたし達はもうずいぶんと前から年越しは都内では有名な大き目の神社で迎えようっていう
計画を立てていて。

それを実行するにはそろそろ起きなくちゃ。

2人で仲良くシャワーを浴びて、いちーちゃんよりメイクやセットに時間が
掛かるあたしは、セッセと準備にとりかかる。
あたしがやっとメイクが終わるころには、いちーちゃんはもう着替えてて
あたしよりはだいぶ短い髪の毛にワックスをつけてワシャワシャと無造作に
スタイリングしているところだった。
460 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:44

「うっし、でーきた!後藤まだかぁ〜?」

「んー、まだ、あと髪の毛して着替えるからもうちょい待って。」

そう言いながら振り返ると、準備万端といった感じで服も髪もメイクも
バッチリないちーちゃんが立っていた。

いつにもましてキラキラして見えるいちーちゃん。
ちょっとしたお出かけの時は、いつも適当ないちーちゃんが
今日はやたらと気合が入ってるのがわかる。
461 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:44
「いちーちゃん、今日かっこいい!どしたの?」

「どしたのって・・いちーはいつもかっこいいだろ?」

「・・そーだけど。でもなんかいつもと違うよ?」

「それはねぇ・・ジャジャーン!!」

得意げに決めたいちーちゃんのポーズは、何とかレンジャーみたいに
やたら左手を強調させたポーズだった。
その左腕には、昨日あたしがあげたバングル。

「これ、付けて外出るの初めてじゃん?だから、これのかっこよさに
似合うようにちょっといちーも気合入れてみた。」

そう言ってニカッと笑ういちーちゃんはほんとに嬉しそうで。
新しい靴を買ってもらった小学生みたいにワクワクした表情だった。
462 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:44
昨日、あれだけ喜んでくれたいちーちゃんだけど、まさか今日になっても
ここまで喜んでくれてると思わなかったから、あげてよかったって本気で思った。

「よく似合ってるよ、いちーちゃん。」

「へへ。」

満足したのかいちーちゃんは照れくさそうに笑うと、また鏡の前に
戻っていった。

あたしも、いちーちゃんに負けないくらい気合入れて髪の毛のセットも終わった所で、
あたしたちは手をつないでいちーちゃんの家を出た。

向かう先は、まず腹ごしらえに近くのファミレス。
本当はもっとオシャレなレストランで祝ってあげたかったんだけど
昨日おいしいお鍋食べさせてもらったから誕生日祝いはもう十分だよって
いちーちゃんが言うからそうすることにした。
463 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:45

いちーちゃんはパスタ、あたしはハンバーグを食べ終えて、
食後にケーキセットも食べて、あたし達は満腹になった。

さっきより冷たくなった風を受けながら、肩を寄せて
いちーちゃんと夜道を歩く。

もう少しギリギリに行ってもよかったんだけど、きっと電車も混むだろうし
神社の近くは出店がいっぱい出てるから、そこも見て回りたいって事になって
あたし達は少し早いけど電車に乗って神社に向かう事にした。

駅から出ると、神社へ続く道には予想以上に出店がズラーっと並んでいた。
この手のお祭り系に弱いあたしにつられてか、いちーちゃんもやたら
テンションが上がっていて、あたし達は笑顔のまま出店を見てまわった。
464 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:45


思ってたより神社の敷地内は結構広くて、出店を見てまわるだけで
除夜の鐘が鳴るその時まで、あたし達は退屈することなく時間を使うことが出来た。

年越しまであと30分っていう頃には、もう神社にはものすごい人が集まっていて、
気を抜いたらいちーちゃんと逸れてしまいそうなぐらいぎゅうぎゅう詰めだった。


一応手はしっかり繋いでるんだけど、それも人とぶつかる事で時々離れそうになる。
あたしといちーちゃんの間を無理矢理通ろうとした人がいて、一瞬いちーちゃんの
姿が見えなくなった。
465 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:45

「いちーちゃんっ」

不安になってキョロキョロ周りを見ると、後ろから腰に手を回される感触が伝わってきた。

「ごとぉっ!迷子になるからちゃんとくっついとかなきゃダメだぞ。」

その手の持ち主はもちろんいちーちゃんで、ニコっとやさしく笑いながらそのままずっと
背中に手を置いていてくれた。

「後藤、今何時?」

「んーと、11時53分。あと7分だよいちーちゃん。」

時計は携帯しか持ち歩かないいちーちゃんに代わって、
腕時計で時間を確かめながら答える。

「もうすぐか、それにしてもすっごい人だなぁ。後藤もっと前行きたい?」

「ううん・・・いいや。」
466 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:46
もっと前、それは賽銭箱の前辺りまで行く事で、だけどあたし達の前にも後ろにも
左右にもいるありえないくらいの人の数に、それは無理な事だと思い知らされる。
あたしは少し引きつった笑顔でいちーちゃんに答えた。

なんかもう人に押されすぎて、足元もよたよたふらついちゃって
普通に立っている事すらできないこの状況。

だけどあたしは今、この上ない幸せを感じちゃってる。
何でかって?

「くっそ〜、腕ちぎれそう。後藤大丈夫?」

「大丈夫だよ♪」

だって、いちーちゃんがあたしが人に押しつぶされないように、
思いっきり抱きしめて守ってくれてるから。
いちーちゃんは、ちょっとだいぶ痛い思いしてるみたいだけど・・・。
467 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:46

いちーちゃんはすっごく照れ屋で、人がいる時にこぉやって抱きしめてくれる
事なんてまずなくて、だからこれってすっごい貴重なんだよね。

「いちーちゃん、腕大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ、でもこれ話したらヤバイだろマジで。」

何を興奮してるのか、周りの人たちは声こそザワザワと大きなものじゃなかったけど、
とにかくもうみんなの体は押し競饅頭状態。
しっかりふんばってないとそのまま全員がドミノ倒しになっちゃいそう。

それでもみんな、時間が気になるのか携帯は片手に握り締めてる。
あたしはもう腕時計を見ることも携帯を鞄から取り出すことも
できそうにないから、ちょっとやらしいけど、前にいる人の携帯を
ばれないように覗き込んだ。
468 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:46

「あっ、いちーちゃん、もう59分だよ!1分きった。」

「まじ!?まさかこんな状態で年越すなんて思ってもみなかったよ。」

「あはっ!来年は違うとこにしよぉね。ねぇ、いちーちゃん。」

「ん?」

「2005年になる瞬間、どぉやって過ごす?」

これは、今日ずっと気になってたんだけど、恥ずかしくてなかなか言い出せなかったこと。
どぉやって過ごす?なんてやっとの思いで聞いてみたものの、ほんとはしたいことなんて決まってる。
きっと、ここにいるたくさんのカップル達も絶対そうやって12時00分になる瞬間を過ごすんじゃないかな。
469 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:47

「どぉやって過ごすって・・・決まってんじゃん。」

「えっ、決まってるって・・」

そう言い掛けたとき、周りのみんなが誰からという訳でもなく、口々に年越し10秒前をカウントし始めた。
いちーちゃんは楽しそうにみんなと一緒に10、9、とカウントダウンをしてた。

もしかして、もしかして・・・。

「(決まってるって・・・。
まさかジャンプしようとか!?絶対そうだよ!
いちーちゃんそぉいうの好きそうだもん。2005年になるその瞬間
私は地球にいませんでした、とか絶対言いそう!やっぱはっきり言えばよかった〜。)」

すっかりがっかりしていると、カウントダウンはもう3秒前にまできていて。
あたしも小さな声で一緒にカウントダウンをすると、その瞬間、この
押し競饅頭の中でしっかりジャンプできるようにと足に力を入れた。
470 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:47

「「「さん!にー!いち!ゼロー!!」」

「ごとぉ!!」

「ん?・・んっ!」

・・・そういえば、忘れてた。
いちーちゃんってこう見えて、結構ロマンチストだったんだっけ。


ゼロを言い終えたその瞬間、いちーちゃんがしたことはもちろん
ジャンプなんて馬鹿げた事じゃなくて。

地面を蹴ろうとしていたあたしの唇には、少し乱暴にいちーちゃんの唇が
重なっていた。

「明けましておめでとー!今年もよろしく!後藤♪」

「・・・」
471 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:48

そのキスが少し乱暴になってしまったのは、きっと顔を近づけた瞬間に
人に押されて体制が崩れてしまったんだろう。

だけど、まさか、いちーちゃんがあたしと同じ事考えてたなんて。
ちょっと、見直したっていうか、やっぱり好きっていうか・・・。

時間差で来た喜びが、あたしの頬を緩めて仕方が無かった。

「ハッピーニューイヤー!!いちーちゃん、今年もよろしくお願いします♪」

「なんでちょっと今、間があったんだよ。変なやつだなぁ・・って、うわっ!!」

「キャ!!」

せっかく2人の世界に浸ってたのに、周りの人はそれを許してはくれないみたい。
賽銭を全力で遠くにある賽銭箱に投げ込む人や、出来るだけ前に行って鐘をならしたい人
たちが、強引に動きまくるから、辺りはもうパニック状態だった。
472 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:48

「ごとぉ!!大丈夫か!?」

「うん、だいじょ・・いたっ。お金が頭に当たった。」

「もう限界。逃げるぞごとー。早く賽銭投げろ。」

「うん!」

あらかじめ握り締めていた5円玉を、あたしといちーちゃんは賽銭箱めがけて
思いっきり投げつけ、ここから遠ざかろうと、人の波とは逆に向かった。
もう、喋る事すらできなくて、頭を下げていちーちゃんに引っ張られるまま
ひたすら歩いた。
473 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:50

やっとの思いで抜け出すと、2人で同時に振り返る。

「・・・あの中にいたんだよな、いちー達。」

「・・・なんか、やばいよね、あの人達。」

あたし達の視線の先には、キャーキャー言いながら押し合う
何百人の姿があった。
474 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:50
「なんか、お願い事とかできなかったね、全然。お賽銭とか適当に投げちゃったし。
バチ当たらないかなぁ。」

「あっ、そぉいえば後藤、お金当たったって言ってなかった?どこ?頭?」

「うん、この辺。なんかジンジンしてる。結構本気で痛かったもん。たぶん10円玉だよ。」

「10円玉とかなんで分かるんだよ。ちょっと見せてみ?」

「だって、10円玉の音がしたもん。当たった瞬間、10円玉の映像が頭に浮かんだし。
絶対10円玉だよ。」

「意味わかんねぇ、なんだよ10円玉の映像って。ってか後藤、タンコブできてるかも。ここだろ?」

「いった!!押さえないで、ほんとに痛い。」

当たった事を思い出してからズキズキ痛み出したその場所は、いちーちゃんに
押さえられて、さらに痛みをました。
475 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:51
「大丈夫だとは思うんだけど、頭だし怖いよなぁ。病院行く?」

「えっ、そんなに腫れてるの?」

「いや、言うほど腫れてないけど。」

「じゃー、大丈夫だよ。痛いけどそのうち引くでしょ。」

「ほんとに大丈夫か?しんどくなったら言うんだぞ?」

「はーい、あっ、いちーちゃん。」

「ん?」

「お願い事、こっからでも大丈夫かな?」

「あ、そうだ忘れてた。いちお、こっから手だけ合わせとこうか。」
476 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:51

パンパンっ!

2回手を叩いて、手を合わせると2人で目をつぶってお願い事をする。

「なぁ、ごとー何お願いしたの?」

「ん〜?内緒っ!言ったら叶わないもん♪」

「いいじゃん教えろよ〜!!」

「そぉ言ういちーちゃんは?何お願いしたの?」

「ん?ごとーに関する事だよ。」

「ふ〜ん、って、え!?何?ごとーに関する事って。」
477 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:51


あんまりサラっといちーちゃんが言うもんだから、うっかり聞き流しそうになる。

「ごとーがもっと、おしとやかな女の子になりますようにってね。」

「はぁ〜?何それ!もう十分おしとやかじゃん!!」

「う〜そだよっ!っていうか、十分おしとやかって、それは聞き捨てならないことを・・・」

「ねぇ〜、何お願いしたの?」

さんざんからかわれたからには、もう絶対教えてもらわなきゃ納得いかない!
そう思ってたら、いちーちゃんがちょっと照れた風にボソっと言った。

「・・たぶん、ごとーと同じことだよ。」

「・・え?」

「ほらっ!もう行くぞ!!」

ごとーと同じ事・・・それって・・。

「ま、待ってよぉ〜。」

いちーちゃんがはっきり教えてくれるまでは、絶対にあたしも言わないでおこう。
だって、言ったら叶わなくなっちゃうから。

(((いちーちゃんと、ずーっと一緒にいれますように)))


END




478 名前:NZM 投稿日:2005/03/31(木) 23:59

更新終了です。
今回も意味不明ですいません。

>ミッチーさん
いつもありがとうございます。
私にもっと文章を書く力があれば・・・
もっと勉強します。
またよかったら見に来てやってください(ペコリ

>399=441さん
新婚っぽいいちごまっていうのが結構ツボでして(笑
もっといちごま作者さんが増えてくれないかなぁと
思う今日この頃です。
今回もいちお甘甘?にしてみたつもりなんで
よかったら読んでやってください。

>Kさん
いつもありがとうございます。
かっこつけなんだけどへなちょこないちーと
とにかく可愛いごまがいちごまって感じですよね♪
頭に浮かんだもの(妄想)がもっとみなさんに
伝えられるよう、これからも頑張ります。

>sevenさん
はじめまして!!
こんなしょぼいスレを見つけてくださって
ありがとうございます(ペコリ
これからも、時間はかかると思いますが
いろいろ書いていきたいと思ってますので
よろしくお願いします。
また覗きに来てやってください☆


次回の更新予定は未定ですが、書くつもりはしてるので
、また感想などよろしくお願いします!!
479 名前:ミッチー 投稿日:2005/04/03(日) 02:37
更新お疲れさまデス。。。
市井ちゃん可愛すぎるっ!!
顔の筋肉が緩んで戻りません(W
今回の話も、とても良かったです。
いつまでも、ラブラブでいて欲しいですネ。
480 名前:K 投稿日:2005/04/04(月) 00:46
更新お疲れ様です。
ごとーさんに甘えるいちーさんに私もメロメロでした(*^^)v
今回の話もラブラブで大好きです!!
これからもどんどんイチャつかせちゃってください(W
ゆっくりでも全然かまわないので、頑張ってくださいね!

481 名前:399 投稿日:2005/04/08(金) 22:42
ハッピーニューイヤー偏、読まさせていただきました!
いつものクールでしっかりもののいちーちゃんもカッコいいですが、
甘えっ子ないちーちゃんもイイですね!♪
ごとーさんがメロメロになるのも分かる!
どっちにしろ、やっぱりこの二人にはラブラブ・いちゃいちゃが似合ってます♪


482 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/28(土) 12:28
そろそろ読みたい病が・・
483 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/08(水) 20:12
作者さん、お元気ですか?
自分も同じく、読みたい病が・・(笑)
作者さんのラブラブいちごまカップル、気長に待ってます☆ 
484 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/09(木) 23:08
うぅっ!禁断症状が・・・!!
でも、マターリ待ってます。
485 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/16(木) 17:02
楽しみに待ってます♪
486 名前:NZM 投稿日:2005/07/28(木) 17:59
長い間放置して申し訳ありませんでしたm(__)m
8月には1作は更新したぃと思いますので今しばらくおまちくださぃ!
487 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/28(木) 18:57
まってます
488 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/28(木) 19:34
わわっ!生存報告キター!
やった!待ってますw
489 名前:ミッチー 投稿日:2005/07/29(金) 00:02
またNZMさんのいちごまを読むことができるんですね!
嬉しいです!楽しみに待ってます☆
490 名前:NZM 投稿日:2005/08/12(金) 20:53
8月に更新と約束してたんですがっ私情により9月まで更新できなくなりました。
申し訳ございません。必ずっ更新はしますのでしばしお待ちください。
491 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/12(金) 23:26
いっくらでもお待ちしまっす!
492 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/14(日) 17:36
わたしも待ってます!
頑張ってください♪
493 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/15(月) 00:47
マターリ待ってます☆
494 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:34
お久しぶりです。
今回は、甘々ではありませんので、苦手な方はお避けください。

495 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:34



『愛を、私に』


496 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:35


風が・・・
夜風が強くなってきた
夏が行くね
もう夜明けが近いよ・・・
497 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:35
CDラックの下のほうから引っ張り出してきたアルバム。
最近買った最新のコンポの、リピート機能を使いこなせないあたしは
4分ごとにリモコンを操作しながら、何度も同じ曲を聴いていた。

まだ中学生だった時、初めてこの曲を聴いたあたしは、
素直にこのメロディを「切ない」とだけ感じ、歌詞を深く考える事も
なかった。
ただ、この胸をギュッと掴むようなメロディがその時はお気に入りで、
ひたすら聴いていたことを思い出す。
498 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:35
その頃使っていたCDプレイヤーは、もう捨ててしまったけれど、
その当時はなかなかの売れ筋商品で、器用とまでは言わないけれど
機械音痴ではないあたしは説明書をパラパラと読んだだけで、使い
方は完璧といっていいほど身についていた。
だからもちろん、今みたいにリモコンを握り締めて、何度も
そのボタンを押さなくたって、あたしがあの部屋にいた時は
いつだってこの曲は絶えることなく流れつづけていた。
499 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:36
そしてこのアルバムも、当時はなかなかの売れ筋、なんて言葉で済む
ものじゃなく、大ヒットで、同年代はみんな持っていた。

このアルバムでどの曲が一番好き?と言われれば、みんながこの曲の名前をあげた。

そう、この曲は別にあたしがマイナーな音楽の中から見つけたわけじゃない。
あたしだけのお気に入りではないのだ。

新しいCDプレイヤーを買い、それを使うために新しいCDを買った。
そのCDはその当時の一番人気。
その中でも、みんなが好んだ曲を自分も気に入った。
ただそれだけのことだった。
500 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:36
だから、流行が変ればお気に入りも変る。

いつしか私はこのCDを聴かなくなり、どんどんその上に積まれていく
流行り廃ったCDに埋もれて、とうとうその姿は見えなくなっていた。

なぜ、その曲をいまになってまた聴いているのか。
20歳になったから?まさかそんなわけはない。
あたしが20歳になった今、過去を振り返るためにこの曲を選ぶほど
この曲に思い入れは無い。
その当時、今も胸に残るような恋愛をしていたわけじゃない。
501 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:36
もう何年か前、だけどその頃から少し未来に、あたしは恋愛をした。
今も胸に残るような、そんな恋愛。
だけどそれは、決して今じゃない。もう過ぎてしまった、今よりも昔の事。

もちろん今聴いたって、やっぱりこのメロディは切ないなぁとは思う。
その辺の感性は今も変らないみたいだ。

だけど、あの頃よりは少し、歌詞の意味も理解できる。

片思いの歌だったんだ・・・。

共感は、できる所とできない所がある。
502 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:37
この曲のようなけなげな片思いは、きっともうできない。
それくらい、あたしは少しだけあの頃より大人になった。

今、もしもまた会えたら。
何の問題も壁も無く、向き合う事が出来たら。

そう考えて、胸が少し痛んだ。
やっぱりやめよう、こんな事を考えるのは。

思うよりも早く泣く事が出来ていたあの頃から、やっぱり時間はどんどん経っているんだと
思い知る。
503 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:38
いちーちゃんと離れて、それが辛くて。
いちーちゃんの顔、ぬくもり、声を思い出して、
考えるよりも早く涙を流して、泣き疲れて眠る事が出来ていたあの頃。

やっぱりもう、何もかもは過ぎた事で、昔には戻れない。
昔過ごした時間も、思い出も、涙も、あたしの中には確かにあって、
だけどもう2度と、この目の前には現れないのだ。

今のあたしは、涙を流すための材料であるあなたの顔も、声も、ぬくもりも
だんだんと思い出せなくなっている。
504 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:39
もう、昔の自分には戻れない。
簡単に泣けていたあたしにも、ましてや、あなたと笑い合えていたあたしにも。
もう2度と、戻れない。


ふと時計を見ると、もう時計の針は1の字を指していた。
明日も早いし、とリモコンで電源を切ると、無造作にそのまま床に投げ捨てた。
部屋の電気を消して、ベッドに入る。

毎日じゃないけれど、眠れない夜は、たまにある。
そう、今日みたいに、冷たい風の吹くこんな夜は、なんの前触れもなく
いろんな事を思い出す。
505 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:40
だけどそれは具体的ではなく、とても断片的で、それがより一層、
もっと思い出せと頭に語りかけ、あたしを眠れなくさせる。

20歳の誕生日は、人生に1度しかなくて、たくさんの人に祝われたあたしは
とても幸せものだった。

だけど、たったひとりの大切な人に祝われたあの頃のあたしと、どっちが幸せなのだろう?
今はもう、どっちかなんて分からない。
あの頃どれほど幸せだったかなんて、もう思い出せない。
思い出さない。
506 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:41
過ぎていく時間にたくさんの力を注いで、あたしはたくさんの物を手に入れた。
失くした物もたくさんあったんだろうけど、今のあたしは、それを後悔はしてない。

だけど、たまに思い出さないと、本当に無くなってしまいそうで。
だから、こういう時もあっていい。

さっきまで聴いていたあの曲が、今日の思い出の曲になるのかな。
507 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:41
明日から、あたしが死ぬまで続いていくこの人生で、またこの曲を
聴く時が来たら、きっとあたしは今日の事を思い出す。

20年間の人生で一番愛したあの人の事を振り返った「今日」の事を。


この歌がせめて、昔流行ったグループじゃなくて、
歌う事が大好きだったあなたが歌う歌だったなら、もっとうまく消化できたかもしれないのに。
それとも、もっと苦しくなってたのかな。
508 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:42
ねぇ、いちーちゃん。
あなたは、もうあたしと過ごした時間の姿を見えなく出来るほど、新しいものを積み上げたの?
あたしは、新しいものをたくさん積み上げたけど、今日またそのはしっこを引っ張り出してしまったよ。

心の中で投げかけてみてもまだ泣けないあたしは、ゆっくりと目を閉じた。
今も頭の中で木霊する、大好きだったあの曲。
共感は半分くらいしかできないけれど、その歌詞をメロディに乗せてみる。
509 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:42






今ごろ、あなたは何してるの?




510 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:42


閉じた目蓋が少し震えて、瞳が少し潤んだ気がしたけど、
あたしはそれに気付かないフリをして、ゆっくりと寝返りを打った。
511 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:43



END


512 名前:NZM 投稿日:2005/09/27(火) 01:46
更新終了です。
今回は、後藤さん生誕記念ということで、初のリアルを書いてみました。
20歳という人生の一区切りなので、少しばかり感傷に浸った後藤さん
を書いてみたくて、書いてはみたものの、もう完璧な自己満です。
すいません。

あと、作中に出てくる曲というのは、お気づきかと思いますが
SPEEDの熱帯夜という曲です。

昔、何かの番組で後藤さんがこの曲好きだったと言っていたのを
思い出しまして・・・。

えっと、またいつになるかわかりませんが、次は甘いのを
書こうかと思ってますので、また読みに来てやってください。

ではでは、感想お待ちしております。
513 名前:はち 投稿日:2005/09/27(火) 07:36
更新乙です
もうめちゃ切ないです
泣きそうでした…
むしろごっちんの代わりに泣きたいくらい

作者さんの作品には影響受けてますw
応援してます、頑張ってください
514 名前:名無し飼育 投稿日:2005/09/27(火) 23:40
更新ありがとうございます
胸がぎゅっとなりました…
マターリでいいので無理のないよう楽しませていただけたらな、と思います
次回は甘々ということで、楽しみにしてます!
515 名前:ミッチー 投稿日:2005/09/28(水) 02:01
更新お疲れ様デス。。。
う〜ん、切ないっすねぇ・・・。
その曲自分も好きでした。今から聴いてみようかな。
次の甘いのも期待してます!
516 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/09(日) 17:14
遅ればせながら更新乙です
後藤さん二十歳ですねぇ
なんか考えちゃいますね
時の流れは早いというか。。

・・なんかふけってしまいましたw
甘いほうも更新お待ちしてます
517 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:26
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
518 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:38


『イコール』



519 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:39




――――大好きだよ。


素直じゃない彼女が時折囁く甘い言葉を、
何の疑いも無く彼女の本心だと信じて喜ぶあたしは、
イコール素直だということなんだろうか。

普段のそっけない彼女の言動も、照れ屋な彼女の愛情の裏返しなのだと
解釈するあたしは、良く言えば彼女の事を知り尽くしている風で、
悪く言えば都合人間。

520 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:40


「ごとー、何ぼーっとしてんの?」

「ん〜、ちょい考え事?」

「あ、そ。」

頭の中で何かを考えて答えを出すって、結構難しい。

「で?」

「・・で、って?」

だってあたしの頭の中だけで行われてるから
誰もヒントをくれないし、もちろん答えも教えてはくれない。


521 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:41


「何、考え事って。」

「何って・・・」

例えばそれを口に出して誰かに伝えれば、手助けをしてくれる人は
いるかもしれない。

「言いたくないの?」

「言えるけど内緒。」

「なんじゃそりゃ。」

『内緒』の部分じゃなくて、『言えるけど』の部分であたしはいちーちゃんに嘘をついた。
あたしが勝手に頭の中で考えてる事の答えを、誰かに代わりに出してもらうのは
好都合のように思えるけど、実はそれはとっても難しい事でもあるのだ。
少なくとも、あたしにとっては。

522 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:41


思っている事を言葉にして伝えるという事が、ひどく苦手なあたしにとっては、
答えを考える事よりもその疑問自体を相手に理解させる事の方が至難の業なわけで。

つまりは、内緒にしたいわけじゃないけど言えなくて。
言えるけど内緒とは逆の意味なのだ。

「悩み、なさそうなのにな。ごとーって。」

「そんな事ないもん!ごとーだっていろいろ考えるさ。」

だけど、言えないと言えないあたしは、イコール素直じゃないって事かもしれない。
どんなに好きだって、信頼してたって、全てをさらけ出すのは難しい。

隠したくないのに、さらけ出せない時だってある。
恋愛って、難しい。

今日の頭の中は、何だか難しい事だらけだ。

523 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:42


「ね〜、いちーちゃんはごとーの事好き?」

「な、何だよ急に。」

「もー、即答してほしいのに!その事について悩んでたんだよ?」

これは、あながち嘘でもない。
随分と長い時間、脱線して訳わかんないことまで考えてたけど、元はといえば
いちーちゃんが悪い。

『いちー、素直な子が好き』

あたしの事が好きで、あたしと付き合ってるくせに、何を思ったのか
二人の時間にいちーちゃんがこんな事を言い出すから。

524 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:43


そんな事を言われたら、考えずにはいられなくなる。

あたしは素直か。素直じゃないか。

例えばいちーちゃんに別れを切り出されて、
だけどあたしはいちーちゃんのそばにいたくて。

あってほしくはないけど、あるかもしれない事で考えてみる。

こうなった時にぱっと思いつく選択肢は2つ。
いちーちゃんを困らせたくなくて、頷くか。
自分の思いのままに、首を横に振るか。

前者なら、あたしにとっては不本意だから、イコール素直じゃない。
いちーちゃんにとっては、自分の言うとおりにしてくれたから、イコール素直。

後者なら、あたしにとっては自分の気持ちに従ってるから、イコール素直。
いちーちゃんにとっては、聞き分けがないから、イコール素直じゃない。

525 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:44


こう考えてみると問題は明解で。
誰にとって素直に見えるかで、基準が決まるって事になる。

素直な子が好きって言ったのはいちーちゃんだから、やっぱりいちーちゃんにとって
素直に見えないと意味がない?

何か納得いかない。
そもそも、素直って何よ?

「まじで?いちー何か不安にさせるような事したっけ?」


した。っていうか言った。
そのせいでこんなに頭をフル回転にさせて考えてるのに、
なんてノンキなんだろうこの人は。

526 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:45


「・・・・」

恨めしい気持ちを込めて、思いっきりじと目でいちーちゃんを睨む。

「そんな目で見るなよ〜。ちゃんと好きだって。な?」

「ほんと?」

「ほーんと。愛してますよ?ごとーさん。」

「えへへ〜、ごとーも大好き!」

滅多に聞けない言葉のおかげで、一瞬にして頬が緩む。

「よしよし、ごとーは素直で可愛いな〜。」

そう言ってあたしの頭をガシガシ撫でるいちーちゃん。

527 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:46


「・・・へ?」

「な、何?いちーまた何か変な事言った?」

こんなんでいいわけ?
っていうかいちーちゃんの言う素直って全然わかんない。

「ねぇ、いちーちゃん。1個だけ聞いていい?」

「お、おぅ!」

なんだかちょっとビビってるいちーちゃん。

528 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:46


「ごとーのどんなとこが素直だって思うの?」

「それは・・・口で言うの難しいなぁ。」

「まとまんなくてもいいから、とりあえず言ってみて。
ごとーもう自分で考えんのいい加減ダルイ。」

「ん〜、例えば・・いちーの何気ない一言に喜んでくれるとことか?」

「それが素直ってことなの?」

「や、わかんないけど。」

「適当なんじゃん。」

あたしが冷たく言い放つと、ムキになったのかいちーちゃんも言い返してくる。

529 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:47


「ちがっ!だってお前考えてみろよ。いちーが好きだよって言っただけでごとーすげぇ喜ぶじゃん?
じゃぁ、喜んでるのとか演技なわけ?」

「そんなわけないよ!いちーちゃんたまにしか言ってくれないからほんとに泣きそうなくらい嬉しいもん!」

「だろ?それをそのまま嬉しい〜!って表情に出すごとーって、素直って事なんじゃないの?」

「・・・そっか。」

「そーゆう事だといちーは思うけど?」

「そっかそっか。そーゆう事なんだ。」

「納得いった?」

「いったいった。」
530 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:52


どんな事だろうと、あたしの頭を悩ませるのはいつだっていちーちゃんだという事。

その答えはあたしがどんなに考えたって出せなくて、
いちーちゃんだけがその答えを知ってるって事。

そして、そうやってひとつずつ答えをもらう事が、相手を知る事に繋がって、
知ることであたしは満たされる。
その相手が恋焦がれる人ならばイコールそれが恋愛って事。

結構な時間を費やして考えた答えをあっさりと言い放たれたあたしは放心状態で、
これらの事に気付けるはずもなかった。

だからきっとまた繰り返す。
けどそれでいいんだ。
それがいちーちゃんとなら、あたしにとってはイコール人生なのだから。

531 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:53


「で、何でそんな事考えてたの?」

「それはっ・・・内緒。」

「内緒が多いぞごとー!いちーも不安になるじゃんか!」

「いいのっ!さらけ出すのは難しいんだから!ごとーが隠したい訳じゃないから問題ないの!」

「内緒なのに隠したい訳じゃないとかまじで意味わかんねぇ。
夜はあんなにいちーにさらけ出してくれるのに〜(笑」

「バカ!エロ!!」

「何だとコラ!!もっぺん言ってみろ〜!!」

532 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:54


素直な子が好きだといちーちゃんが言ったから、
自分は素直なのかどうか気になったなんて事はいちーちゃんにはまだ教えてあげない。

それをいちーちゃんが考えてから、その答えをあたしがあげて、いちーちゃんはまた一つあたしを知る。
それがいちーちゃんにとってのイコール恋愛であり人生であって欲しいから。


533 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 00:55



END


534 名前:NZM 投稿日:2006/01/12(木) 01:15


久しぶりに更新しました。
長い間ほったらかしで申し訳ありません。
最近、みきあやに浮気してしまいずっと読み手にまわっていました(汗
おかげでいちごまがうまく書けない状態に。。。

>はちさん

毎回覗いてくださりありがとうございます。
私の影響なんか受けるととんでもないことになりますよ(笑
ペースはかなり遅いですがこんな駄文にこれからも付き合ってもらえると嬉しいです。

>514さん

ゆっくりでいいと言われてしまうと甘えてしまいそうです。
ていうかもうすでに甘えてます。更新ペース遅すぎ。
続けていく意思だけは何とかありますのでこれからもよろしくお願いします。

>ミッチーさん

この曲は私も好きでした。
曲になぞって書くのは初めてだったんですが、既にイメージがある分書きやすかったです。
油断するとここが歌詞になぞった小説スレになってしまいそうです(笑

>516さん

後藤さん二十歳という事ですが、これからもマイペースに頑張ってもらいたいですね。
また良かったら読みに来てやってください。



みなさんのレス、本当に励みになります。
よかったらまた感想などよろしくお願いします。
535 名前:ミッチー 投稿日:2006/01/12(木) 03:05
更新お疲れ様デス。。。
イイね、いちごま。やっぱ好きだな。
市井ちゃんの何気ない一言で真剣に悩んでいる後藤さんがとてもカワイイ☆
そして、悩みの原因が自分だと分かっていない市井ちゃんもカワイイ☆
思っていることを言葉にするのってホント難しいことだからよく分かります。
次回作もマターリ待ってます。
536 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/17(金) 23:45
はじめまして。ここのごまはホントかわいいですね♪♪
甘えん坊ごまと、クールだけどシャイないちーちゃんが大好きです!
がんばってください!

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