【19時3分】上野発夜光列車
- 1 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/13(日) 17:33
- 『皆様、長らくお待たせしました。13番線より札幌行き寝台特急北斗星5号、まもなく発車となります』
上野駅13番線ホーム。
ブルーの車体に金色のラインが映える12両の客車とそれらの先頭に控える赤い電気機関車。
発車のベルが鳴り響き、客車のドアが一斉に閉じる。
先頭のEF-81機関車が、唸りを上げて12両の客車を引っ張りホームを駆け出して行く。
乗客達の様々な思いを乗せて夜の世界へと疾走して行く・・・
この先、北斗星5号に待ち構える戦慄の数々を誰も知らずに・・・
- 2 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/13(日) 17:58
- 登場人物
中澤裕子
警視庁臨海署生活安全課の刑事。
ある事件の重要参考人、安部なつみを尾行して北斗星に乗り込む。
9号車B個室寝台ソロ12号室に乗車。
飯田圭織
高校教師、理科系全般を得意としている。
都内の高校から北海道に転勤となり、北斗星で北海道へ移動中。
10号車A個室寝台ロイヤル1号室に乗車。
矢口真里
女子大生、傷心旅行で北斗星に飛び乗った。
11号車B寝台8番席に乗車。
藤本美貴
雑誌社ライター、北斗星乗車記の取材の為に北斗星に乗り込む。
5号車B寝台3番席に乗車。
安部なつみ
保育士、仕事のストレスで数々の窃盗を重ね警察にマークされている。
9号車A個室寝台ロイヤル1号室に乗車。
保田圭
政府職員、とある荷物を運ぶ任務を遂行中・・・
10号車A個室ロイヤル2号室に乗車。
- 3 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/13(日) 22:07
- 窓の外の夜景が目に入ると同時に後ろへ去って行く。
私は今宵の宿となる、B個室寝台ソロ12号室のソファベッドに腰をおろしている。
それは全く予兆の無いことだった・・・
勤務が終って臨海署を後にして、いつも通勤に使うりんかい線に乗ってからだった。
大崎に着く直前、開いた座席に腰掛けた時、ドアの近くにそいつはいた・・・
管内で多発している連続窃盗事件の重要参考人、安部なつみ・・・
私は署に連絡をいれると、そのまま彼女を尾行して行った。
大崎から彼女は山手線で上野駅に行き、13番線ホームの寝台特急北斗星へと乗りこんだ。
私も署からの指示で、そのまま札幌までの乗車券を買い彼女と同じ列車に乗り込んだ。
- 4 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/13(日) 22:32
- そして、私が北斗星5号の車輌に乗り込むと、間も無くして出発した。
一度部屋に入り、私は荷物を置いた・・・と言ってもハンドバッグ一つだけだけど。
荷物を置いて再び署に携帯電話で連絡し、今後の事を話す。
今後、私はこのまま安部なつみを監視する。
途中で彼女が列車を降りるような事が無ければ、翌日、苫小牧で道警が応援に来るらしい。
とりあえず、乗務員に事情を説明して安部なつみのことについて協力を得ることにした。
と、そこへ検札のため車掌がドアをノックしてきた。
私はドアを開け、乗車券を差し出す。
「ちょっと、いいですか?」
「はあ?」
「他の人に聞かれたくないんで、中でいいですか?」
私は車掌を個室内に迎え入れた。
さすがに二人も入ると室内は狭いので、私はベッドに腰掛けて車掌に話しかけた。
- 5 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/13(日) 22:51
- ハンドバッグから取り出した、警察バッジを車掌に示す。
「臨海署生活安全課の中澤裕子巡査部長です。
この列車に、ある事件の重要参考人が乗ってると思われるんです」
「じゅ、重要参考人ですか・・・?」
車掌の顔に動揺の色が見られる・・・当たり前だ。
私だって、まさかこの列車に乗る事に成るなんて思いもしなかったんだから・・・
彼にしたって、刑事と重要参考人が乗ってくるなんて思いもしなかっただろう。
「この女性なんですが見かけたら、どこにいるか教えてもらえますか?」
携帯電話を取り出して、先ほど署からメールで送ってもらった、安部なつみの写真を見せる。
「わ、解りました・・・それで彼女は一体何の事件で・・・」
「あまり詳しくは言えませんが、窃盗事件でです。凶悪犯ではなさそうですが、用心してください」
「はい、それでは後ほど」
車掌がドアを開けて部屋から出て行く。
- 6 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/13(日) 23:09
- 車掌に協力を要請し終えた私は、室内を改めて見まわした。
まず、天井まで湾曲している窓は眺めが抜群と言えるだろう。
けれど、暗くなってる車窓からは街明かりと月が見えるぐらいだ。
ソファベッドはゆったりとしており、寝心地は良さそう。
そのソファベッドに、寝転ぼうと思い私は履いていた黒のブーツを脱いだ。
脚を伸ばしても、充分に余裕の残るベッド。
そこに横になって、私は先ほど車掌から教えてもらった北斗星に関する情報を整理する。
- 7 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/13(日) 23:14
- 19時3分に上野を出発した北斗星5号は、大宮、宇都宮、郡山、福島、仙台と停車。
その後は青函トンネルを抜けて北海道の函館まで停車しない。
先頭は赤い電気機関車で次いで電源車と言われる発電機と荷物置き場を備える車輌。
その次からが客車で、開放型B寝台車の11号車、A個室寝台ロイヤルとB個室寝台デュエットの10号車。
私のいるB個室寝台ソロとA個室寝台ロイヤルを備える9号車、二人用A個室寝台ツインデラックスの8号車、
グランシャリオと呼ばれる食堂車の7号車、ロビーとシャワールームまで有る6号車。
これ以降の5号車から1号車までは、開放型のB寝台車が続く。
シャワーか・・・6号車のロビーカーのことを考えて、1日の汚れを落としたくなってきた。
あとで、車掌が来てくれたら、情報収集でもしにいこうかな・・・
列車と線路が織り成す、心地よい振動によって意識が次第にまどろんで行く・・・
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/14(月) 01:49
- 話がどういう方向に進むのかまったくわからん…
ちょっと期待
因みに安部→安倍ですのでお間違えなく
- 9 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 03:43
- 列車の振動に身を任せる内、次第に意識が薄らいできた・・・
しかし、暫くすると列車は停止した。
我に帰って窓の外を見ると、最初の停車駅である大宮だった。
まずい・・・安倍なつみがもしかしたら降りてしまうかもしれない。
私は急いでブーツを履くと、個室を出て小さな階段を降りると通路を左へ向かった。
突き当たりのドアを開けてデッキに出たところで、無情にも乗降口のドアは閉まってしまった。
安倍なつみが降りてしまったかもしれないという不安が、私の中を突きぬける・・・
いくら勤務明けで疲れてたとわ言え・・・・
その時8号車と繋がるドアを開けて、さっき私と話した車掌が入ってきた。
「あ、刑事さん。こちらにでしたか。居ましたよ、重要参考人の彼女」
- 10 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 03:54
- 「それで、彼女はどこに?まだ乗ってますか?」
「彼女は刑事さんと同じ、この9号車のA個室ロイヤルの1号室にいます。
先程の大宮で乗客の乗り降りを見てましたが、彼女は降りてませんでしたよ」
良かった・・・彼の言葉で取りあえずは安心できた。
「彼女はどこまで乗るか解りましたか?あと、室内ではどんな感じでした?」
「切符は終着の札幌まででした。そうですね、様子と言えば・・・
彼女、どこか虚ろげな感じでしたね。何と言うか、仕草が機械的で」
「機械的?」
「ええ、切符を出す時も本当にロボットが動いてるみたいに無機的な感じで・・・
すいません、これ以上の事は私には難しくて」
そう言って、車掌は帽子を脱いで頭を掻く。
「いえ、それだけ教えてもらえれば充分です。あとは私が監視しますので」
「はあ、ご苦労様です。私は5号車の常務員室にいるので何か有れば、また」
「ええ、お願いします」
車掌は再び8号車へと消えた。
- 11 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 04:07
- 車掌と別れて、私はデッキから再び9号車の通路に戻る。
改めて室内を見まわしてみる。
木目調に整った壁と各個室へのドア。進行方向左側の窓にはカーテンと折り畳み椅子が。
車輌の前部が私も使ってるB個室のソロ、後ろ半分が安倍のいるA個室ロイヤル。
私は安倍の部屋の出入りが見える窓際の折り畳み椅子に座り監視することにした。
一旦、小さな階段を上り部屋に戻ると、レザージャケットを脱いでソファベッドに畳んで置く。
車内の暖房は充分に効いていて、上着はセーターだけで十分な程だ。
そしてハンドバッグを手に取り、再び個室を出る。
折り畳み席に腰を降ろした私は、バッグから仕事に使うファイルを取り出した。
職務に必要な書類や、捜査に使った地図のコピー、そして被疑者のリスト。
その中から安倍なつみの事が書かれた書類を抜き出す。
【安倍なつみ。臨海地区の保育園の保育士。勤務態度は良好だが、多忙に寄るストレスが大きいと見られる。
ここ1ヶ月で管内で発生している窃盗事件において、彼女の犯行を示すと思われる数々の状況証拠が多数】
- 12 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 04:17
- と言った具合に報告書には書かれている・・・
そのとき、私の携帯電話が鳴り出した。
出てみると、相手は臨海署刑事課の顔見知りの稲葉刑事だった。
「ああ、稲葉刑事、ご苦労様。まだ、署にいたんですか・・・え?
今日は泊まりこんで私のサポートと連絡係を?お疲れ様。
・・・ええ、安倍なつみはこの北斗星5号に乗ってます。
車掌によると、札幌まで乗るみたいですね。
取りあえず私が監視しつつ苫小牧での道警からの応援を待つ事にします。
それにしても、このまま尾行しても彼女の逮捕は難しいんじゃあ・・・
ああ、念のため一応ね〜。了解、彼女を監視しつつ、列車の旅を楽しませてもらうわ。
・・・はいはい、お土産に蟹でも買っていきますよ。それでは、また連絡します」
稲葉刑事とのやり取りを終えて電話を切る。
安倍なつみは動く気配が無い。
- 13 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 04:36
- 【20時38分:9号車】
その後も私は安倍なつみを監視するため、通路の折り畳み椅子に座っていた。
他の乗客が通路を行き来していったが、別段、誰も私を怪しむ様子は無かった。
10分ほど前に宇都宮に停車したが、安倍は降りる様子も無く無事に北斗星5号は出発した。
その後、臨海署に電話を入れて稲葉刑事に報告をしておいた。
「お勤めご苦労様です。よろしければ、こちら我々より差し入れです」
再び車掌がやって来て、私に缶コーヒーとアメニティセットを手渡してくれた。
「いいんですか?もらっちゃって?」
缶コーヒーもだけど、何も支度をせずに乗り込んでしまった私にとって、
歯ブラシやタオルとかの差し入れは、本当に嬉しい。
「仕事の時はお互い様ですよ。こちらとしても警察官の方がおられると思うと、
犯罪者がこの列車に乗っていると知っても、心強く感じれますから」
「どうもありがとう。酔っ払いとかのトラブルがあったら、直ぐに呼んでくださいね」
「はい、頼りにしております。それでは」
車掌が軽く敬礼して去る、私も髪を撫でる様にさり気無く答礼した。
彼に貰ったアメニティセットをバッグに閉まって、缶コーヒーを口にする。
甘くて少し苦味のあるコーヒーが体中に染み渡る。
- 14 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 04:48
- 【20時56分:9号車】
車内放送が入って、食堂車がパブタイムになり、
予約の無い人でも利用できるように成ったと伝えた。
動きが有ったのはその時だった。
私が監視していたロイヤルの1号室のドアが開き、安倍なつみが出てきた。
彼女はそのままデッキの方へと歩いて行った。
私も彼女がデッキに姿を消すのを見届けると立ち上がって、後を追った。
安倍なつみは8号車は素通りして、7号車へと向かう。
私も彼女と距離を置いて7号車に入る。
7号車は食堂車のようで、入った途端に通路が狭くなっていた。
恐らく壁の向こうに厨房があるのだろう。微かに食器や調理の音が聞こえた。
通路の先にのデザインの凝ったドアを開けると、そこはまるで車内とは思えないほど良い雰囲気の場だった。
- 15 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 05:05
- 【21時01分:7号車】
テーブルクロスの敷かれたテーブル、その上に置かれたテーブルランプ、
ワインレッドのカーテンが引かれた窓、敷き詰められた絨毯・・・
ちょっとしたレストラン並の内装が施されている。
安倍なつみは、進行方向右側の二人用の席に先頭車輌の方を向いて座るとこだった。
私も彼女を後ろから見ていられる席に腰を降ろし、メニューを手に取る。
内容はシチューやパスタにピザなどがファミレス程度の値段で揃っている。
アルコールもあるらしく、特にワインは豊富に揃っている・・・
仕事中じゃなかったら、是非とも飲んでみたかったな〜・・・
ウェイトレスが注文を取りに着たので、私はイタリアンハンバーグセットを注文した。
勤務が明けてから夕食を取っていなかったので、私のお腹的にはちょうど良かったかもしれない。
ウェイトレスが厨房へ去って行くと私は安倍なつみの監視を続けた。
彼女は注文を終えて、外の景色に見入っている様だ。
つられて私も窓から夜景を見てみる。
・・・こうしてみると、奇妙な感じだ。
いつもなら列車と言えば、通勤や仕事で使う物と決まっていたのに、
今はその列車の中で夕食を取ろうとしている・・・
- 16 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 05:24
- 次第に街明かりが少なくなって行く外の夜景に見とれていると、
私が注文した料理をウェイトレスが運んできた。
金縁の皿に、ソースのたっぷりかかったハンバーグと取り合わせのポテトにミックスベジタブル。
それにサラダとライス、スープが付いていた。
味も中々いけるもので、動く夜景を見ながら少し優雅な夕食を楽しむ事が出来た。
私が食事を終えても、安部なつみは移動する気配が無かったので私は紅茶を注文した。
運ばれてきた紅茶を口にして食後の一時を楽しむ。
紅茶を飲み終えて、すぐに安部なつみが席を立って会計を済ませると、
元から来た方向ではなく、後部車輌へのドアを開け7号車から出て行った。
私も急いで会計を済ませると彼女の後を追った。
ドアを開けた時に、カメラを首から下げた女性と鉢合わせした。
カメラと言っても家庭用のデジカメなんかではなく、
プロが使うようなレンズやフラッシュなどがしっかりとしているものだ。
彼女は、ごめんなさい。と言うと私の横をすり抜けて行き、ウェイトレスに話しかける。
多分、雑誌記者ってとこだろう・・・まさか安部なつみを狙った新聞記者ではあるまい。
ドアを超えて私も食堂車を後にした。
- 17 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 05:38
- 【21時41分:6号車】
彼女を追って私はロビーカーである6号車に入った。
ソファーとテーブル、テレビや自動販売機が備えられており、
縦に長い事を除けば、ちょっとしたホテルのロビーと同じぐらいだろう。
ロビーカーというに相応しく、何人かの乗客達が集まり、
お喋りや団らんをたのしんでいるようだ。
その中に安部なつみもいた。
1人用のソファに腰掛けて、無表情に外を眺めてる。
私は車輌後部辺りのソファーに腰掛けて、彼女を後ろから監視する。
しかし、暫くするとおもむろに彼女は立ち上がって、
再び元来たドアを戻って行った。
・・・まさか、私の尾行に感づいて・・・?
私は少し時間を置いて彼女を追いかける事にした。
ロビー内に目を配らせると、シャワー室が目に入った。
近くに行って良く見ると、ご利用は食堂車までと書いてあった。
安部の目を誤魔化すために利用手続きでもしてみようかな・・・
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/14(月) 12:39
- 面白そう!
他の登場人物がこれからどう絡んでくるのか楽しみです。
作者さん、期待してますので頑張ってください。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/14(月) 20:46
- 安倍
- 20 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/14(月) 23:42
- >>8さん
話しがどう進むのか・・・?
物語はまだ序章です、何だか中澤さんの北斗星旅行記みたいになっちゃってますね。
>>18さん
ご期待いただきありがとうございます。
暫くは中澤さんの旅行記みたいに進みますが、本編では戦慄の展開へ・・・
- 21 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/15(火) 22:56
- 【21時44分:7号車】
私は食堂車へと戻った。
7号車のドアを開けると、中で先程、私と鉢合わせした女性が、
カメラで車内やそれを彩る調度品を何回かスナップしている。
チェックのシャツと膝丈のデニムスカート、茶色のブーツと言うカジュアルな井出達だが、
セーターの上に羽織ったベストには多数のポケットが付いていて、
そこに予備のフィルムやカメラのメンテナンス用品とかが覗いていた。
そして写真を撮り終えたと思ったら、すぐにメモ帖へ書き込みを始めた。
彼女が雑誌とかのカメラマンだと見て、間違いは無いだろう。
車輌の中程で私はウェイトレスに声を掛け、シャワーを使いたいと伝えた。
「シャワーをご利用に成られる場合は、シャワーカードを購入して頂いて、
先着順ですがご利用時間を決めていただくことに成ります」
シャワーで1日の汚れを落としたいけど、私は安倍なつみを監視しなくてもならない。
11時半頃に仙台に停車した後は、翌朝、函館に停車するまで乗客が列車から降りる事は出来ない。
と言う訳で、私は一番遅い時間帯である12時からの利用を予約して、カードを購入した。
- 22 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/15(火) 23:07
- 【21時50分:9号車】
シャワー室にはタオルなどは備わっていないと、ウェイトレスに告げられたが、
私は先程、車掌からの差し入れでアメニティセットを手に入れてたので、
その事は特に気にする事もせず、シャワーカードを購入して9号車へと戻ってきた。
9号車デッキから通路に入った時、安倍なつみが自室へ入って行くのを目にした。
ドアが閉じたのを確認すると、通路の折り畳み椅子に座って安倍なつみの監視を始める。
数分後、列車は郡山へと到着した。
ここでも安倍なつみが動く事は無く、列車は再び北へ向けて動き出す。
私は携帯電話を取り出して臨海署の稲葉刑事に、異常無しの連絡を入れる。
- 23 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/15(火) 23:32
- 【23時33分:9号車】
安倍なつみを通路から監視し続けてる内に列車22時31分に福島へ到着。
私の監視対象が動きを見せる事も無く、列車は福島を離れた。
それにしても、食堂車へ行ったきり一度も部屋を出てこない彼女だが、
お手洗いとかはどうしてるんだろう?と思った私だけれど、
先程、ロビーカーで見つけた北斗星のパンフレットを読むと、その疑問は解決された。
A個室寝台のロイヤルには設備としてベッドはもちろんソファにデスク、
食事のルームサービスやテレビ、おまけにシャワールームま備えてると言う。
行儀が悪い事かもしれないが、その気に成ればお手洗いに行く必要なんか無いわけだ。
そんな事を考えているうちに列車は本州での最後の停車駅である仙台に付いた。
ここでも何人か乗客が乗り込んで来て、その後発車した。
安倍なつみも動きを見せる様子が無く、仙台からの乗客が通路を歩いて来たので、
私は一旦、自室へと戻る事にした。
ハンドバッグをソファベッドに置いて、そこへ腰掛ける。
右手に見える車窓からは、仙台の街明かりが消えつつある。
人工的な灯りが疎らになり、月明かりだけが車窓に残り出だした時、
何やら細かいものが外で舞い始めた。
・・・そのヒラヒラとしていたものは次第に数を増して行く。
はっきりと白く見て取れるようになったそれは、雪だった・・・
- 24 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/15(火) 23:52
- 【0時03分:6号車】
雪の舞う中を北斗星5号は怯む事無く北進を続けている。
私はロビーカーにあるシャワー室に向かった。
仙台から先は、夜が明けるまで乗客の乗り降りをする駅が無い。
その事を、もう一度車掌に確認した私はアメニティセットを手にし、
今日1日の汚れを落とすべく6号車へ移動したのだった。
ロビーカー後部のシャワー室に入ると、脱衣所と奥にシャワーがあった。
ブーツを脱いで脱衣所に上がり、白のセーター、膝頭がちょっと覗く黒のタイトスカート、
パンティストッキング、最後にブラとショーツを脱いで、それぞれを備え付けの籠へ入れる。
生まれたままの状態になって、奥でシャワーを浴びる。
勢い良く噴出す暖かいお湯に、今までの疲れが解きほぐされて行く・・・
けれど、室内に備え付けられたデジタル式のカウンターが時を逆に逆に刻んでる・・・
このシャワーは合計で6分間しかお湯が出ない仕組みに成っているらしい。
全身に一通りお湯を浴びた私はお湯を一旦止め、
アメニティセットに入っていたスポンジと、ボディシャンプーを手にとって体を洗い始めた。
お湯を止めている間はカウンターも止まるので、全身を泡で包んだ私はヘアーも洗い始める。
- 25 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/16(水) 00:11
- 全身くまなく泡で覆われた私は、傍目で見たら笑える状態だったかもしれない。
目を閉じていたので、蛇口の位置を探すのに少し手が宙を切ったが、
すぐに無事、お湯を湧き立たせるのに成功し、全身を洗い流し始める。
実年齢にしては魅力的、とまでは行かないだろうけど無駄な贅肉も無く、
引き締まってスレンダーと言えるだろうボディを丹念に撫で回して汚れを落とす。
・・・次第に気分が昂揚してきて脚の付け根あたりを撫で回してしまい、
気付けばお湯とは別の生暖かな液体が流れ落ちて来ていた・・・
しかし唐突に響き出した非常警報の様な音で我に変えると、
無情に時を刻み続けるデジタルカウンターの残り時間が1分を切っていた。
何やってんだろ・・・私はこんな事してる場合じゃないのに・・・
淫乱な考えを頭から叩き出して、体と頭を洗い流す。
それでも10秒前には十分に全身を洗い流せていた。
シャワーを止めて、脱衣所に戻った私は北斗星のプリントがされたバスタオルで、
全身から滴り落ちる水分をふき取って、それを体に巻くと備え付けのドライヤー手にした。
元々乾燥している列車内のせいか、体の濡れは早めに乾き私は着替えを始めた。
と言っても、来た時とまた同じ物を着るだけだが・・・
- 26 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/16(水) 00:24
- 【0時34分:6号車】
着替えを済ますと、荷物をまとめてブーツを履きシャワー室を出た。
ロビーカーには疎らだが何人かが団らんの一時を楽しんで居る様だった。
7号車とロビーカーを繋ぐドアの前にある自動販売機で冷たい物を買おうと思い、足を止める。
お金を入れて思わず缶ビールに目が行ってしまったが、
今は半分職務中だ。と自分に言い聞かせてウーロン茶のボタンを押す・・・
我ながら、シャワー中とこの事と言い、良く我慢できたと思った・・・
7号車は、もう営業を終了したらしく厨房から食器を洗う音が聞こえてくる。
かと思えば、先程まで私達を接客していたウェイトレスが慌ただしく、テーブルで遅い夕食をとっていた。
その1人と目が合った私は、ご苦労様です。と口にして食堂車を後にした。
- 27 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/16(水) 00:41
- 【0時36分:9号車】
9号車に戻った私は、翌朝まで停車する事が無いのなら少し休もうと思い自室へ入った。
個室に戻りソファベッドに腰掛け、ハンドバッグからバスタオルを取り出して、
まだ少し湿り気の残るヘアーから、優しく丹念に水分を拭き取る。
このタオルは記念に持ち帰ろるかな。と思い、乾かすため窓際のテーブルに広げてかけておいた。
腕時計を見ると時間は約0時40分・・・2時間ぐらい休もうかな。
携帯電話のアラームを午前2時40分にセットして、枕元に置く。
ブーツを脱いでベッドに横に成るが、さすがにセーターやスカートのままでは寝にくい・・・
セーターとスカート、そしてパンストを脱いで楽な格好になり、
それらを畳んでレザージャケットとまとめて、
ベッドから頭1つ分くらい高い足元の位置にある荷物置きへ置いておいた。
ドアの施錠を確認して灯りを消し、ベッドに横になると列車がレールを刻む単調な音に寄って、
今後はどうなるかを考えようと思った矢先に、私はまどろみの世界へ導かれて行った・・・
- 28 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/16(水) 04:38
- 【1時14分:9号車】
・・・奇妙な音で目が覚めた。
誰かが通路を大急ぎで掛け抜けてドアを荒々しく閉める音が微かに聞こえた・・・
それだけだったならば、また私は眠りの世界へと戻っていっていたかもしれない。
・・・しかし暫くしてから、まるで大きな赤ちゃんが・・・
それも大人数で這いずって行ったかのような音が断続して聞こえてきた。
さすがにこの音には、深めの眠りに付いていた私も頭がハッキリとしてきた。
腕時計に目をやるが、薄明かりで読み取るのが難しい・・・
枕もとの携帯電話を取り、開いて画面を明るくするとデジタル時計がAM1:15を表示している。
結構、寝てた気がするけど30分ぐらいしか、経っていなかった。
一旦、上半身を起こして臨海署の稲葉刑事に連絡する事にした・・・
あれ・・・?
耳元の電話からは発信音ではなく、サー。っと言った感じで雑音が聞こえるだけだった・・・
ディスプレイを見てみるが、バッテリーも充分残ってるし、アンテナ線も2本表示されている。
もう一度リダイヤルで臨海署にかけてみる・・・
結果は同じ、サー。っと静かな雑音が流れてくるだけで、一向に繋がる気配が無い。
電波障害か何かかな・・・?
確か北斗星の客車を引っ張ってるのは電気機関車だ。
12両の客車を引っ張るのだから、機関車がかなりの出力を出していて、
それが何らかの原因で電波を妨害しているのかもしれない・・・
確かロビーカーに公衆電話があったはず。
それもだめだったら乗務員室に行って車掌さんに、業務用の通信機でも使わせてもらおう。
私の事情は解っているのだから、それぐらい協力してくれるだろう・・・
- 29 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/16(水) 05:08
- 【1時21分:8号車】
臨海署に何とか連絡しようと思った私は、寝る時に脱いだ衣服を身に付けると、
荷物をまとめてブーツを履き、ハンド・バッグを手にして部屋を後にした・・・
一応、個室だからカードキーで外からも施錠出来るが、部屋に残してる物と言えば、
アメニティ・グッズのタオルと飲みかけのウーロン茶だけだったので、そのままにしておいた。
ハンド・バッグに有るのは財布、メイク用品ポーチ、書類ファイルとか常に仕事で持ち歩く物や、
アメニティ・グッズに入ってたヘアー・スプレー、歯ブラシセットぐらいだったから、
持って歩いても邪魔には成らないと思ったし、この後ずっと起きてるつもりだから、
洗面所で歯を磨いて、ヘアーも整えたかった・・・
と言う訳で、私は8号車先端部分の洗面所で歯を磨き、ヘアーを整え終えた。
鏡に映る自分の顔を見てみると、手を加えたため殆ど無いと言える眉が際立ち、
目元も少し寝不足のせいか腫れぼったくなっていた・・・
いくら乗客達は寝てしまってるだろうとしても、車掌さんに会いに行くんだから、
ちょっとメイクして整えておくか・・・
こういう時って女は損・・・?
いや、気にしない人は気にしないかもしれないけど、私はこう思っちゃうんだもんね・・・
格好だって、ちゃんとセーターの上にジャケットまで羽織って、スカートも皺を伸ばしてるし・・・
ま、これが私だもんね。
・・・よっし!
オリーブ・ブラウンのアイ・ブロウで細く眉を引き、薄いピンクのアイ・シャドウで目元の腫れぼったさを隠す。
ローズ・レッドのルージュで唇に潤いを与えて・・・うん、ばっちり!
清楚ながらも秘めたる力を感じさせる様になった・・・なんてね・・・
メイク・ポーチを閉まって、再びロビーカーへと私は歩き出した。
- 30 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/16(水) 05:46
- 【1時24分:7号車】
連結部分を超えて7号車の通路に入った時に窓の外に目をやると、
仙台を超えた辺りで降り出していた雪が、しんしんと降り続けている。
列車がスピードを出しているせいか、垂直にと言うよりも斜めに降っている様に錯覚してしまう・・・
北海道に入ったら、もっとすごく振ってるのかな・・・
私がいま身に付けている衣服は、冬物とは言え東京で購入したものだ。
果たしてこれらが北海道の寒さに対しても有効だろうか?
なんて考えながら、通路の突き当たりの洒落たデザインのドアを開けた・・・
そこには私が夕食をとった時とは、明らかに違う状態の食堂車の姿があった・・・
営業は終了してるから幾らか灯りは落ちているが・・・
いくら営業終了中とは言え、食器やワイングラスをテーブルの上に置いたままにするのだろうか・・・?
それだけや無い、床にはワイン・ボトルが何個か転がってるし、
椅子やテーブル・クロスもずれたままになっている。
それに放置されたままの食器類には、明らかに食べてる途中で放り出された感じのものまで・・・
車輌の中程まで来て、厨房区画が覗けるようになったので、そこを覗いてみる・・・
そこにコックやウェイトレスの姿は無く代りに、シンクに洗い掛けの食器や調理器が放置され、
野菜やバターにジャムのビンとかが、床に転げ落ちている・・・
何が有ったんや・・・この7号車で・・・
乗務員は知ってるんやろうか、このことを・・・
私は回れ右をすると、早歩きで7号車を後にした・・・
- 31 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/19(土) 02:42
- 【1時26分:6号車】
6号車に入ると、さっき私がシャワー上がりにウーロン茶を買った自販機が右手にある。
その先にロビーへの自動ドアがあって、私が近づくと何事もなくそれは開いた・・・
先程までは団らんやくつろぎの場所だったはずのそこには、さっきの食堂車と同じ様な混乱の跡が・・・
ソファーは所々で配置が乱れ、1人用ソファには倒れてるのすらある。
テーブル上の缶ジュースが倒れて床にこぼれ、プランターも倒れて土が溢れている・・・
そして案の定、誰の姿もロビーカーには無い・・・混乱の跡だけが残る車内を前へと進んで行く。
デッキへと繋がる後部のドアに近づいた時・・・
「あ・・・」
車輌後部のソファの上に寝転がっている人物の姿が有った。
それはソファの背もたれに遮られていて、一目見ただけでは見過ごしてしまうとこだった。
私が一休みして目覚めてから、初めて北斗星内で触れた人の存在・・・それも、ちっちゃな存在・・・
- 32 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/21(月) 22:17
- それは中学生ぐらいの女の子だった・・・
小柄で華奢な体をしているけど、対照的に明るくブライトなヘアーが目に付く。
フードの付いたパーカーとミニのフレアー・スカートを着て、
ルーズ・ソックスとローファーを履いた脚を投げ出して、
上半身が横に倒れる感じで、ソファに隠れる様に寝転がっていた。
眠りについている彼女の顔には、目元が涙で濡れていた・・・
「なあ、どうしたんや?」
私は彼女の肩を摩ってみた・・・
- 33 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/26(土) 01:35
- うっすらと目を開いた少女は、私を暫く凝視して・・・
「ウグ・・・!」
唐突に私の首に腕を回して抱きついてきた。
私はソファ越しに少女に抱きつかれて中腰姿勢で辛かったが、
敢えて彼女を離すことはしなかった。
私の胸元に顔をうずめるなり少女は、泣きじゃくりだしていたから・・・
それは悲しみと安堵と嬉しさの入り交じった泣き方だった。
「もう心配しんでもええよ・・・好きなだけ泣きいや・・・」
私も彼女の背中に腕を回して抱きしめる・・・
二人だけを乗せた北斗星は、それでも雪の中を疾走し続ける・・・
- 34 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/26(土) 01:53
- 【1時40分:6号車】
少女が少し泣き止んで来て、私の首を抱きしめる腕の力が弱まると、
彼女の腕を握りしめたまま、一緒にソファに腰掛けた。
少女と手を握り合って10分は、互いに顔を見つめたままだった。
彼女が何者で、ここで何が起こったのか。他の乗客達はどこへ行ったのか。とか、
聞かなきゃいけないことは沢山あるけど、今は少女を落ち着かせてあげるのが一番だ。
私がハンド・バッグから差し出したポケット・ティッシュを使い切って、
鼻を拭き終えた彼女は目元と鼻が赤くなっていた。
「もう、大丈夫か?」
「うん・・・」
少女は小さく頷いた。
「そっか・・・ここで何があったんか言ってくれるか?」
- 35 名前:北斗七星 投稿日:2004/06/26(土) 02:59
- 「うん・・・ティッシュありがと。
オイラは矢口、矢口真里て言うの、これでも女子大生だよ」
その少女・・・矢口真里は同じ大学のサークルに憧れの人がいたが、
ひょんなことから、自分の想いが叶わぬモノと知り、
そのショックからか衝動的に北斗星の切符を手にして、
当てのない傷心旅行に旅立ったのだとういう。
「そっか・・・私は中澤裕子や。私のことは裕ちゃんでエエよ」
「中澤さん・・・裕ちゃんで良いのかな?」
「構わへんよ〜。名字で呼ばれると仕事してるみたいで、堅っ苦しいやん」
「裕ちゃんって何してる人なの?」
私と会話を始めた矢口からは、次第にさっきまでの哀しげな表情は薄れかけていた。
「私の仕事?ん〜・・・何やと思う?」
私は矢口をリラックスさせるために、なるべく親しげな感じで話を続ける。
- 36 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/03(土) 02:07
- 【1時46分:6号車】
それから私と矢口はソファで語り合った。
私が臨海署生活安全課の警察官であるということ、矢口が思いを寄せていた人のこと。
それらは、こういう事態に成らなければお互いに知る由も無かったこと・・・
何も無かったら二人とも、単なる乗客同士で終っていたはずの関係・・・
それでも、今はこうして二人でソファに身を寄せ合って親しく成っている。
けど、この列車には今、確実に何かが起こっている。
それを裏付けるようなとある事を、矢口が経験しているのだ・・・
「私は11号車の寝台で寝ていたんだけど、先頭車輌の方から誰かが慌てて走ってくる音がしてさ、
それで一度目が覚めたんだけど、まだ眠かったからベッドに横に成ってたの」
先頭車輌の方から誰かが走ってくる音・・・
私も確か、そんな音で目が覚めて・・・確か30分ぐらい前のことやったっけ。
「なあ、その誰かが走って行った音以外にも、後から何か聞こえへんかった」
- 37 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/03(土) 02:21
- 私の問いかけに彼女は大きく反応した。
「うん!そうなの、誰かが走って行ってから10分ぐらいしてかな〜、
他の寝台の人達が起きだしたみたいな音がしだしたんだ」
「他の乗客達が起き出した・・・?」
「そう、1人がお手洗いに起きたって感じじゃなくて、
乗客全員が起きて後ろの方に行っちゃったみたいでさ・・・
青函トンネルを見るためにロビー・カーにでも行ったのかと最初は思ったけど、
みんな歩き方が変な感じだったんだ・・・」
歩き方が変な感じだった・・・
「それってまさか、大きい赤ん坊が大勢で這って行ったような音がしたんじゃ・・・?」
「裕ちゃんも聞いたの!?」
矢口が言うには、その奇妙な歩く音が気になって、
自分の寝てる上段のベッドから通路を覗いてみたらしい。
「カーテンを少し開いて通路を覗いたんだ・・・電気が薄くなってたけど、
誰かが歩いていたりするのは見えなかったんだけど・・・」
その薄明かりの通路を緑色に発光する人魂のような光が、何個か横切って行ったというのである・・・
- 38 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/03(土) 02:39
- 「その変な光を見て怖くなっちゃって、取りあえず車掌さんに伝えようと思って、
11号車の乗務員室に行ったの・・・けど、そこに車掌は居なかったんだ〜・・・」
この北斗星5号は、最後尾の1号車、5号車、11号車に乗務員室が備わっている。
上野を出発した時のアナウンスで言ってたし、私が安倍なつみの事を聞いた車掌も同じ事を言ってた。
11号車の乗務員室が無人だったのは、車掌が車内を見まわりに行っていたからかも、と思ったが・・・
「別の車輌に居るのかなと思ったけど、一応ドアにノックして乗務員室を空けたの・・・
そこに車掌さんはいなかったけど、帽子と背広が残されたままになってたの・・・」
帽子と背広・・・
そりゃ、車掌だって乗務員室に帰って休憩する時は帽子とかとるやろう・・・
けど、帽子と背広を残したまま居なくなるなんて、よっぽど緊急な事が起こった・・・
まさか、列車が乗っ取られた・・・?
銃か何かを持った犯人が居て、そいつが乗員や乗客を脅して後ろのほうの車輌へ追いやった・・・?
だから、食堂車やこのロビー・カーに混乱の跡がある?
矢口と私がこうしているのは、犯人が見落としたからとか・・・
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 13:02
- うーん、なんかドキドキする展開ですね〜。
この先どーなるんだろ。ワクワク。
- 40 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/10(土) 01:10
- とにかく・・・
一つ言える事は、この列車に何かが起こったっちゅうことや。
少なくとも私が仮眠を取った0時30分頃までは、何も異常は無かったはず。
私を仮眠から覚ました、先頭車輌から誰かが慌てて走ってきた様な物音、
その後から、何人かが這いずって車内を移動していったみたいな物音。
そして混乱の跡が残る食堂車とロビー・カー。
それと、矢口だけが見ている緑色に発光したという人魂のような光・・・
何人かの足音と怪しい光・・・
あかん、これだけじゃあ何もわからへん・・・
やっぱり、この先の5号車に進むしかなさそうやな・・・
- 41 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/10(土) 01:27
- 「なあ・・・矢口」
「なあに、裕ちゃん?」
「私は、5号車の乗務員室まで行こうと思うんやけど、あんたはどうする・・・?」
隣で私の手を握り締めている彼女は、今は落ち着いているけど、
11号車での奇妙な体験に加え、5号車に行こうとして食堂車とロビー・カーの異変を目にしている・・・
そのダブル・パンチで気が滅入ってしまい、ここのソファで横に成ってる内に寝てしまったらしいのだ。
そして、私が声を掛けて今に至っている訳や。
彼女に、また車内を一緒にうろつかせるのは、キツイかもしれへん。
場合によっては、私だけで5号車に行った方が、エエかもしれない・・・
本当に列車ジャックか何かだったら、危ない目に遭うのは私だけで済むし・・・
- 42 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/10(土) 01:47
- 「私も一緒に行く!」
以外な事に彼女の口から出た言葉は、この先の車輌に共に行こうというものだった。
「そりゃ、この列車に変な事が起こってるみたいで怖いけどさ、
1人でいるよりも、裕ちゃんと一緒に車輌を調べて行く方が、
よっぽど安心できるよ。だって裕ちゃん、婦警さんなんでしょ♪」
「そっか・・・そうやな、一緒に居た方がエエよね」
「うん、裕ちゃんとなら変な足音も人魂も怖くないよ!」
私の手を強く握り締める彼女の瞳に、もうさっきまでの怯えの色は無い。
「じゃあ、行こうか。5号車行ってみたら、タレントがお忍びで乗ってるのがばれて、
みんな野次馬になって押しかけたから、他の車輌に人がいなくて、
食堂車とロビー・カーが乱れてただけでした〜。何てことかもしれへんしね」
「うん、そうだね。きっと、そうだよ」
そういうと彼女は小さなリュックを背負って立ち上がる。
小柄な彼女に似合うピンクのリュックだ。
私もバッグを肩に掛け、彼女の手を放さずに立ち上がる。
「じゃ、行くで」
「うん」
私と矢口はロビーのドアを開け、5号車へと繋がるデッキに出る。
- 43 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/11(日) 22:30
- 【1時50分:5号車】
6号車のデッキから5号車に繋がるドアを開け、
手を握り合った矢口と共に5号車デッキに入る。
そこは、私がさっき歯を磨いてメイクをした8号車と同じ造りで、
右手に洗面台、反対にお手洗いが有って洗面台の隣に寝台区画へのドアがある。
ドアの前で、一旦立ち止まって矢口と顔を見合わせる。
頷き合って、目の前のドアを開ける。
そこは、今までの個室寝台とは違い、開放型寝台が続いている。
通路に出て寝台区画を一望するが、やはり人の気配は無い・・・あれ?
- 44 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/11(日) 22:36
- >>39サソ
ワクワクしていただいてありがとうございます。
中澤さん旅情記な序章が終って本編に突入です。
はてさて、北斗星5号に起こった戦慄の出来事とは?
中澤刑事は列車テロかと見ていますが・・・?
- 45 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/07/12(月) 13:24
- どう展開していくのか興味津々です。
楽しみにしています。
- 46 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/16(金) 23:58
- 可笑しな点を5号車に発見した・・・
車輌の大部分を占める寝台区画。
そこはボックス席状に二段寝台が配置されていて、下段ベッドが座席としても使われている。
流石に深夜と言うことで座席はベッドとして使われ、カーテンが閉まってる箇所もある。
けど、そこに人が居る気配は無い・・・
さらに、ベッドの中に荷物が置きっぱなしになってるいるだけではなく、
乗客が履いていたと思われるスニーカー、ブーツ、ハイヒール、革靴、
などなどが揃えられたまま、どの寝台区画にも置き去りになっている。
ここに居た乗客達は裸足で居なくなったってことか・・・?
- 47 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/17(土) 00:07
- 「裕ちゃん・・・ここも誰もいないね・・・」
考え込んだ私に、再び不安げな声で矢口が囁く。
私の左手を握った彼女の手が、更に力強くなる。
「そうやな・・・とりあえず、乗務員室がこの先やから、そこに行こうや・・・」
「うん・・・」
雪の降る中を北へと疾走する北斗星五号の中で、
私と矢口だけが唯一の所在が明らかな乗客と化してきてしまったみたいや・・・
いや、そもそも私らが所在明かだと言い切れるやろうか?
もしかしたら、私が寝てる間に列車が時空の歪みに入ってしまって、
私と矢口だけが別時空の列車に乗り移ってしまったとか・・・
アホな・・・オカルト小説の読み過ぎやわ、自分・・・
寝台区画を抜けると乗降口のあるデッキに出る。
その先に乗務員室があった。
私は躊躇うことなく、そのドアをノックした・・・
- 48 名前:北斗七星 投稿日:2004/07/23(金) 17:58
- ノックへの返事は無い・・・
「開けますよ?」
私は痺れを切らして、ドアを開けた・・・
結局、誰も室内には居なかった。
椅子と業務表の乗ったデスクが有るだけの室内には、誰かが隠れていそうな場所も無い。
私は矢口をドアのとこで待たせて、室内を調べることにした。
デスク上の業務日報に目を通してみるが、異常を伝えるような記述は見当たらない。
壁際に通信機が有ったので、外部に連絡を取ってみようと思ったけど・・・
受話器からは呼び出し音が鳴る気配は無い・・・
外線には繋がらない、私がさっき携帯電話で聞いたような雑音が聞こえるだけや・・・
やっぱり、事故か事件が起こったんやな・・・
最初は電気機関車の電磁場のせいだと思ったけど、
業務用の通信機まで同様に不通ってことは、誰かが通信を妨害してるんや・・・
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/08(日) 22:38
- 寸止めは酷ですぜ
楽しみに待ってます
- 50 名前:北斗七星 投稿日:2004/08/09(月) 22:24
- その時、唐突に・・・
「あ〜、しつれ〜い」
後ろから誰かが声をかけてきた。
もちろん、、私の後ろに居る矢口の声ではない。
私は飛び上がって驚きたいぐらい、それは唐突すぎた。
今まで、誰も居ないのが普通な状態の中にいたので、
まさか、私と矢口以外の人間がいるという事に対して、
安心感よりも異常感を覚える様に成ってしまってたみたいや。
- 51 名前:北斗七星 投稿日:2004/08/09(月) 22:28
- 乗務員室から出て矢口の後ろに位置する、デッキを繋ぐドアから、
女性が1人、姿を覗かせていた。
「あ〜・・・ビックリした〜。私ら以外にもまだ人がいたんや・・・」
「あの〜、一体どうなっちゃったんです?誰も前の車輌にいないんだけど・・・」
- 52 名前:北斗七星 投稿日:2004/08/09(月) 22:35
- 【2時03分:4号車】
女性の名前は飯田圭織。
高校の理化の先生で北海道に転勤になったんで、北斗星で移動してるっちゅーことらしい。
彼女は10号車のロイヤル個室に滞在していて、夕食が済んでから今まで本を読んでいたが、
午前1時過ぎ頃に、私と矢口も耳にしている奇妙な音・・・
つまり、誰かが慌てて走って行く音と大きい赤ちゃんが這いずるような音が聞こえ、
不信に思って乗務員に伝えようと車両を移動してる内に、異変に気付いた。
そして5号車に来たところで、私と矢口に鉢合わせしたのである。
- 53 名前:北斗七星 投稿日:2004/08/09(月) 22:44
- 私と矢口、そして飯田圭織先生は、4号車の寝台に腰掛けてお互いの話しをしていた。
この4号車にも誰もおらず、私らが腰掛けている座席にも、
ここの乗客のであろう、靴や荷物が置き去りにされている。
「その、変な物音が気に成るよね〜」
飯田先生が切り出す。
彼女の見た目は私よりは若く見える、恐らく矢口の方が歳は近そうやな・・・
背はモデルさんみたいにスラリと高く、矢口と比べるとその特徴が良く解る。
けれども、身に付けてるのはスポーツ・ジャージで、何でも顧問のバスケ部で使ってるやつらしい。
「そうなんだよね〜・・・私と矢口もそれを耳にしてると言う事は、
その音の主は少なくとも、11号車の前部から9号車の後部まで走ってるってことや」
「それと、人魂みたいなのもね・・・・」
私の隣に座っている矢口が、その人魂を思い出したのか、不安げに口にする。
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/10(金) 08:50
- 放置は勿体無いよ。
期待して待ってるヒトもいるということで・・・。
- 55 名前:北斗七星 投稿日:2004/09/14(火) 04:20
- 【2時09分:2号車】
私と矢口、飯田先生は更に後方の車両に向かうことにした。
5号車の乗務員室にも誰もいないと成ると残るは、1号車の乗務員室のみ。
3号車とこの2号車も、今までと同じで誰も乗客はいない。
ただし、荷物と靴とかが残されたままではあるが・・・
- 56 名前:北斗七星 投稿日:2004/09/14(火) 04:25
- 2号車の後部デッキに入り1号車と繋がるドアをあける。
先頭に立つのは私で、その後ろに飯田先生が続き矢口が彼女の背中に隠れる様に付いて来る。
まず、2号車側のドアを開ける。
すると連結部分にもう一枚のドアが表れる。
これが1号車へと繋がるドア・・・
やっぱり、この先にも誰もいないんやろうか?
恐怖とも安堵とも付かない思いを胸にドアをあける。
その刹那、物凄い光が私の視界を覆い尽くす・・・
- 57 名前:北斗七星 投稿日:2004/09/14(火) 05:01
- 【2時14分:1号車】
未だに、強烈な光の残像がちらつく目を瞬かせながら立ち上がる。
「本当にごめんなさい!まさか、私以外にもまだ人が入るなんて思わなくて・・・」
頭を下げて私に謝る彼女の井出達には見覚えが有る。
確か食堂車で鉢合わせしたカメラを持った女性、雑誌記者か何かだろうと思った人物だ。
その証拠に、今でもフラッシュの付いたカメラを手にしている。
1号車に入った途端、私と鉢合わせた彼女がビックリして私に向けシャッターを切ったため、
その際に焚かれた強烈なフラッシュで、私は目が眩み座り込んでしまった。
幸い、後ろから付いて来ていた飯田先生に支えられ、倒れこむ事にはならなかった。
- 58 名前:北斗七星 投稿日:2004/09/14(火) 05:10
- 「気にしなくてええよ。もう、大丈夫だから。
けど、良かった。まだ無事な人がおったんやから」
「本当にすいませんでした・・・私は藤本美貴、旅行雑誌のライターです。
最近は写真も自分で撮るようになって、こうしてカメラももってるんです」
「あなたもやっぱり、この異変に気がついて乗務員室へ?」
飯田先生が藤本記者に聞く。どい
「ええ・・・私は10分ぐらい前に目が覚めて、洗面所に行った時、
他の乗客が全然いないのに気がついて、ここの乗務員室にきたんですけど、入れなくて・・・」
「入れない?どういうことなん?」
- 59 名前:北斗七星 投稿日:2004/09/14(火) 05:19
- 「寝台区画に入るドアが、あんな状態で・・・」
彼女が指差した先には、私らがいる洗面区画とを隔てるドアが有る。
パッと見た目には何も異常は無いように見える。
しかし、ドアの上部にある窓に近付いてみると・・・
- 60 名前:北斗七星 投稿日:2004/09/16(木) 15:52
- 本当なら窓からは寝台区画を覗くことが出来たのだろう。
しかし、私が見たものは何やら粘液らしき物体に覆われ、
さながら巨大な蜂の巣の内部とかした1号車であった・・・
- 61 名前:北斗七星 投稿日:2004/09/16(木) 16:03
- 「ぐっ・・・」
その光景には生理的嫌悪感を受ける。
うなじを逆撫でされる感触がして、
鳥肌がたち車内の暖房も忘れるほど寒気がしてくる。
「中澤さん、一体何が・・・」
私の背に隠れて1号車内部を伺い知ることが出来ない飯田先生が聞いてくる。
「あかん!見ないほうがええ。矢口も近づかんといてや!」
- 62 名前:北斗七星 投稿日:2004/10/15(金) 13:21
- 「とにかく、ここから離れた方が良いと思う。この先には何があるかわからへん・・・」
私の一声で矢口、飯田先生、藤本がデッキから2号車へ移動した。
最後に1号車を出た私は、気味の悪いドアをもう一度確認して、1号車へのドアを閉じた。
- 63 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/10/29(金) 21:32
- 面白いです。ミステリー小説とかよく読むんですけど、続きが気になります。
更新待ってます。
- 64 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/09(火) 22:26
- 更新待ってます。
- 65 名前:北斗七星 投稿日:2004/11/10(水) 06:19
- 【2時19分:4号車】
無人の列車を私ら四人は再び前へと向かい出す・・・
消えた乗客、置き去られた荷物、入れない1号車・・・
頭がこんがらがりそうや・・・
私は安倍なつみを尾行して北斗星に乗り込んだはずやのに・・・
「裕ちゃん、大丈夫?」
矢口が私の様子を気にして声をかける。
「ん?ああ・・・大丈夫やで。ちょっと考えごとしながらあるいとった」
「つまずいて転ばないでね。鞄が通路に飛び出してるから」
矢口の注意したとおり、車両の通路には主の居なくなった鞄とかが散乱している。
- 66 名前:北斗七星 投稿日:2004/11/10(水) 06:32
- 「中澤さん、ここ!」
先頭を歩いていた藤本が唐突に私を呼ぶ。
「どうした?そんなビックリした声出して」
前から4つ目の寝台区画の前で藤本が、その先を指さしている。
向かい合った座席の右側・・・進行方向側の席に一際目立つ赤い染みが・・・
「血・・・?」
飯田先生が恐る恐る声に出す。
私は、すぐには答えず染みに近づき鼻に神経を澄まして臭いを嗅ぐ。
「そうやな・・・乾いてるけど臭いは間違いない・・・」
そのとき。
前方から鋭い破裂音。
あの音は・・・
希に私が耳にする音に似ている・・・発砲音・・・?
- 67 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/17(水) 19:47
- 発砲音というとまだ誰かが居るってことですよね?
ということはまさか…
更新待ってます。
- 68 名前:北斗七星 投稿日:2004/11/28(日) 00:13
- 間違いない・・・2発3発と連続して聞こえてくる発砲音。
前の車両から聞こえてくる・・・
私は立ち上がると三人の間をすり抜けて駆け出す。
5号車に入るが、そこには異変は見られない。
すると、また1発の発砲音・・・
6号車からか・・・?
私は後ろから聞こえる藤本の声を省みず、5号車を駆け抜ける。
6号車へのドアを勢い良く開く。
それと同時に、ハッキリと聞こえる発砲音が出迎える。
ロビーへのドアの前にたった私は、先程とは異なる景観の車内を目にした・・・
- 69 名前:北斗七星 投稿日:2004/11/28(日) 00:24
- ドア越しに見える私と矢口が初めて会ったロビーカーは照明が落ちて薄暗くなり、
うっすらと輪郭を現している調度品のソファーやテーブルがさらにひっくり返ったりしている。
そこに無数の緑の光が蛍のように漂っている・・・
これが、矢口が見たって言っていた人魂のこと・・・?
その幻想的な光景に見とれていた私だが、再び響き渡った発砲音に現実に引き戻される。
発砲した時のマズル・フラッシュで一瞬ではあるが、発砲の主にシルエットが確認できた。
車内真ん中辺りのソファの陰から、身を屈めて緑の光に向けて撃っている。
私は、ドアを開けるとその主に向かって駆けだした・・・
- 70 名前:北斗七星 投稿日:2004/11/28(日) 00:43
- 【2時22分:6号車】
私が発砲音の主に駆け寄ると、彼女はその銃口を私に向けて来た・・・
うっすらと見えるだけだが、年は飯田先生と同じぐらいだろうか、
キャリア風のスーツを着ているが、その様相は乱れきっている。
鋭い目つきと共に私に向けられているのは・・・SIG-P228か?
私が勤務中に携帯する拳銃はS&WのM60ポリス・リボルバーだが、
機動捜査隊に属する稲葉刑事は確か同じ形の拳銃を使用していた・・・
「まだ・・・無事・・・なの・・・?」
彼女は掠れるような声で私に問いかける・・・
「無事って・・・どういうことやねん?なあ、何があったん、この列車で!?
あんた、何が起こったかしってるん!?」
「始末しないと・・・奴ら・・・列車ごと・・・」
そこまで言うと、彼女は崩れ落ちるように腕を落とし拳銃も私の方に転がってきた。
「なあ、どうしたんしっかりしてや!?」
彼女に駆け寄ると、その体には多数の傷がある・・・
「どうしたの、裕ちゃん!?」
矢口達がロビーに入って来た。
「みんな、手を貸してや!」
3人を呼び、私は拳銃を拾い上げる・・・
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/18(土) 13:18
- 更新乙です。
もしやこの人は・・・
だんだん真相が分かってきそうかな?
- 72 名前:北斗七星 投稿日:2005/01/06(木) 13:54
- 読者の皆様、明けましておめでとうございまして、
日々拝見していただきありがとうございます。
役者も皆揃い、やっとこさ中盤です。
・・・一泊二日の内容にどれだけ時間かけるのやら・・・(;´д`)
- 73 名前:北斗七星 投稿日:2005/01/29(土) 12:53
- 【2時40分:10号車】
ロイヤル個室は客車の4分の1のスペースがあるのだろう。
5人がいても室内はゆとりを感じられる。
私、矢口、藤本、部屋主の飯田先生、そして彼女・・・
ロビーカーで倒れた彼女を私と飯田先生が担いで運び、
いまロイヤル個室のベッドに寝かしている。
- 74 名前:北斗七星 投稿日:2005/02/17(木) 04:49
- 彼女に刻まれた無数の引っかかれたような傷・・・
それも、まだ新しく白いブラウスが深紅の血に染め上げられている。
私は彼女の上着とブラウスを脱がすと、乗務員室にあった救急箱を手にした飯田先生に手当を任せた。
バスケ部顧問だけあって手慣れた様子で手当をしていく。
私は彼女の上着から何か手がかりは得られないかと、ポケットをあらためた。
北斗星の乗車券、IDカード、それに弾倉・・・
恐らくロビーカーで彼女が倒れたときに、私が回収した拳銃のだろう・・・
安全装置を掛けたそれは、今は私のバッグにしまってある。
テーブル上のバッグから改めて拳銃を取り出し、手に取ってみる。
「それ・・・本物なの?」
矢口がココアの入ったカップ二つを手に、尋ねてくる。
私と飯田先生が彼女を運んでいる間、矢口と藤本は食堂車から色々と飲物や食べ物やらを運び入れてくれていたのだ。
遮断された通信、進入不可能な一号車、そしてロビーカーで発砲していた彼女とその傷・・・
こんな状況からしてみんな一箇所にいたほうが良いと思い、
私らの中で一番広い個室の飯田先生のとこに、それらを持ち込み隠る事にしたのだ。
「多分、本物やな・・・私が発見したとき彼女は何かに撃ってたみたいだし、
ロビーカーの壁に弾痕も有った・・・」
手にしたそれにくまなく目を通して解ったこと。
型番はSIG-P-229。自衛隊で採用されたスイス製拳銃。
比較的、真新しい感触がある。弾倉を交換してみると、これも合致した。
さらにカードを調べてみる・・・
彼女の写真がプリントされて有り、
保田圭
第四管区調査部付き
重要指定事項取り扱い資格者
緊急入電番号9115
とだけ記されている。
名前は解ったが身分は不明な点ありか・・・
第四管区と言う名前から考えられる、拳銃を所持していそうな所と言えば・・・
自衛隊か在日アメリカ軍、さらに調査部とあればスパイを連想させる・・・
車内の怪奇現象に負傷したスパイ・・・
つながりが見えそうで見えへん・・・
生活安全課の刑事として安倍なつみを追跡してきたがきたが、こんな事が起こるとは・・・
「彼女について調べてくる」
私はみんなに言った。
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/01(日) 17:17
- 続きまだですか?
- 76 名前:北斗七星 投稿日:2005/05/12(木) 00:33
- 保守ありがとうございます。新居のネット環境ができるまで
まだ時間がかかります・・・(;´д`)
しばしお待ちを。
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