癒しのメソッド
- 1 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/17(木) 22:25
- 紫版『雨の約束』スレ内で『癒しのメソッド』を連載していた雪ぐまと申します。
こんごまをメインに、いしよし、あやみき、やぐちゅーなどが登場します。
こちらでは、続きとなる外伝と続編を書かせていただきます。
お初の方は、こちらの前スレ90〜『癒しのメソッド』
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/purple/1081660036/
あるいは、雪ぐまのサイトでも、まとめてお読みいただけます。
http://yukiguma.s45.xrea.com/index.htm
どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ。
- 2 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/17(木) 22:31
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まずは、いしよし外伝をば。
ごっちんが紺ちゃんの修学旅行の写真をこっそり剥がして持ち去ったあの日。
よっすぃ〜もまた、“アイツ”との未来に一抹の不安を感じていたようで。
少々長めですが、一気にいくことにします。
- 3 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:31
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癒しのメソッド・いしよし外伝
『夜の迷路』
- 4 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:32
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ひとり帰っていくごっちんの後ろ姿が小さくなっていく。
空に放たれた風船みたいに頼りなく揺らめきながら。
梨華ちゃんとあたしは、小さくため息をついた。
まだいいじゃんって二人して引き止めたのに、
ごっちんはご飯を食べただけで、フイッと帰ってしまった。
久しぶりに会ったんでしょ? お邪魔でしょ?なんて、
あのふにゃっとした顔で笑って。
- 5 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:33
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「ごっちんは、相変わらず」
夜の街のなかでそう呟く梨華ちゃんの横顔は、
ひっきりなしに走り抜ける車のライトに照らされて、ひどく大人っぽい。
メイクしてる彼女の顔に、あたしはなかなか慣れない。
ごっちんがいてくれたほうが良かったんだけどな……
そんなあたしの胸の内を知ったら、ごっちんは驚くだろうか。
「どうする? どっかでお茶飲もっか?」
「あ、うん」
4月から都内の私立女子大に通い始めた、ひとつ年上の恋人。
たった半年で、身につける服も、靴も、小物も全部変わった。
ピンク一色でダッセェ奴って思ってたのに、いつの間にかこんなにセクシーな……
いや、セクシーなのは前からなんだけどぉ。
久しぶりっていっても、10日ぶりくらいのこと。
毎日メールしてるし、電話もしてるし、
テスト期間中、ちょっと会わないくらい何の問題もない。
だってもう3年近くつきあってる。
あたしが高校入ってすぐに、お互いにほとんど一目ぼれで。
- 6 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:34
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チョコレート色に灼けた肌と腰のラインがちょっと色っぽいテニス部の先輩。
清楚な感じなのに、ラケットを握ってる時の顔は怖いくらい真剣。
似たようなスコートの群れのなかで、
なぜかあたしは彼女の姿を見つけるのが得意だった。
そして、廊下や校庭で彼女とすれ違ったりするたびに、なぜか必ず目があった。
話してみたいかもというぐにゃぐにゃした気持ちは、
次第に熱くなる胸のなかでユデタマゴみたいに固まりはじめ、
そして、この殻を割ってくれ!と暴れ始めて。
でも、学年が違うから、なかなか話しかけられなかった。
毎朝、今日も目があうかなとドキドキしながら、
せっせと髪の毛をセットするのが精一杯だった。
あの人の恋人になれるなら何でもするって思ってたあの頃……
- 7 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:35
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「ごっちん、やっぱり言わなかったね」
「ん?」
「紺ちゃんと、別れたって」
ああ。
あたしはカフェオレをすする。
ごっちん、あたしにも言わないもん。
梨華ちゃんには言わないでしょ、そりゃ。
「たまにしか会わないから話せるってこともあるじゃない?」
「そんなもん?」
「なんだろう、ただ黙って聞いてほしい気分っていうのかな」
梨華ちゃんには、そんなふうに話す誰かがいるの?
聞きかけて、やめておく。思うツボだから。
梨華ちゃんはそうやって意味シンな言葉を零して、あたしを不安にさせるのが得意だから。
生真面目だけど、どっか小悪魔。
これがぶっちゃけ、あたしの感想。
たとえば、彼女の笑顔はきれいすぎて作り物みたいって思うことあるし、
仕草も妙に女っぽくて、小指とか立っちゃってるのワザとくさいし、
パッと見、かよわそうに見えたりとかするじゃん?
全然、そんなことないからこの人。
あたしなんかより、ずっと気が強いから、このお姉さん。
- 8 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:35
-
それってでも、全然あたしにとって悪いことじゃなくて、
彼女のかわいらしさとか、一生懸命さがビシバシ伝わってきて、
ちょっぴり翻弄されつつも、どんどん夢中になっていったんだ。
なのに、今はあたし、もう梨華ちゃんに振り回されたくないとか思ってる。
いつまでも梨華ちゃんしか見えてないあたしが嫌だ、とか。
だって、この人、怖いくらいきれいになってく。
なんか遠くにいっちゃうような気がする。
その不安は、ある日、確信に近くなった。
彼女がずっと胸に秘めていた将来の夢を聞いてしまったから。
- 9 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:36
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梨華ちゃん、ニュースキャスターになりたいんだって。
それ聞いた時、あたし、バッカじゃないかって思ったな。
超ミーハー。女子アナだって。バカじゃん?
『偏見じゃない? 私はちゃんと報道とか……』
ハイハイ、そーですか。
ムキになる彼女に呆れた顔をして、おもいっきり茶化したあたし。
そうやっておもいっきしバカにしてる裏で、
あたしは自分のなかに潜むドロドロした卑屈さを感じていた。
いいんじゃん? 素敵な夢だね、頑張って。
そう言うのって、すごく簡単だった。
もしもその夢が叶いそうもないなら。
だけど、恋人の欲目をさっぴいても、
梨華ちゃんが見ている夢は、そう実現不可能そうじゃなくて。
雲の上に駆け登るくらい途方もなく遠い世界だけど、
彼女なら頑張れば手が届きそうな気がした。
そして彼女なら、きっとやり遂げるような気がした。
凛と咲く白百合のように美しくしなやかで、誰よりも一生懸命な自慢の恋人。
- 10 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:37
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だから、あたしは怖かった。
あなたの夢がかなった時、あたしはどこにいるの?
置いていかれるの? 置いてく気なの?
どろりとしたタールみたいに真っ黒な不安が、
あたしの頬に歪んだ笑みを浮かべる。
『ふーん、まさか、んなこと考えてたとはねー』
『……そんなに馬鹿にすること、ないじゃん』
ひーちゃんに言うんじゃなかったな。
あの時、梨華ちゃんの顔には、はっきりとそう書いてあった。
落胆という悲しげな色のペンで。
- 11 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:38
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あの日から、あたしたちの恋は、微妙に揺れている。
ううん、表面上は何も変わっていないけれど。
「ひーちゃん、例の大学の推薦、受けるの?」
「うーん……」
迷ってる。
バレー推薦を持ちかけてくれてる大学は、隣県だ。
さほど遠くはないけど家から通うのは大変だから、きっと一人暮らしをすることになる。
そうなると、梨華ちゃんに会うにも遠くなる……
そんなことを考えて迷ってるとも知らず、
彼女はぐっと身を乗り出してこんなことを言う。
「ひーちゃんが一人暮らしになったら、もう困らないね」
「何が?」
「エヘヘ、会う場所とか」
あたしは苦笑する。
つまり、Hの場所に困らないってことね。
うん、まあそれは一人暮らしのメリットではあるよ。
母親が家にいるあたしたちは、いちゃつく場所に困っていつもジリジリしてる。
- 12 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:38
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「案外、それが長続きの秘訣だったりして」
ボソッと呟いたあたしに、「何のこと?」と梨華ちゃんは小さく首を傾げた。
頭の角度、声のトーン、瞳の見開き具合、完璧。
この媚態は、かなり天然。
きっとオッサンたちに大人気だろうさ。
再び、砂を噛んだような苦々しさが胸に蘇ってくる。
「うちら気が合わないのに、続いてるでしょ?」
「気が合わない?」
「じゃない? 趣味とか全然違うじゃん。合わせよーって気もないし」
ごっちんと紺野ちゃんは、妙に気が合ってるみたいだった。
屋上で寄り添って、二人でお弁当を食べてる姿。
しょっちゅうギャアギャア喧嘩になるうちらと違って、
二人はポツポツと囁きあったり、寄りかかりあってのんびり昼寝したりしてた。
そこにあったのは、目に見えない絆で繋がってるような、静かな熱。
ごっちんは毎日、紺野ちゃんを家に連れて帰ってたみたいだった。
見てるこっちが恥ずかしくなるほど寄り添い、指先をからめていた二人。
紺野ちゃんはごっちんの影響を受けて別人か?ってくらい変わったし、
ごっちんも紺野ちゃんといるようになって真面目になったし、
すごくいいカンケイに見えたけど……なんか無理してたのかな?
- 13 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:39
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「合わせようって気がないのは、ひーちゃんでしょ?」
「まあね。でも、オメーもないよ」
「オメーとか言うの、やめなさいよ」
「うっせぇ」
むっつりと沈黙が流れた。
ちょっと前なら、ここでギャアギャア言いあいながらじゃれあうとこ。
だけど、なんだかうまくいかないよ。
一足先に大人びてしまった彼女は、
困った子だなあって目であたしを見ているだけ。
沈黙が気まずくて、あたしは目を伏せて唇を尖らせた。
ああ、なんかすこし気弱になってるみたいだ。
ずっとこらえてた本音が、ポトリとしたたり落ちてしまう。
降り始めの一粒の雨みたいに。
あの日の夜、枕を濡らした滴みたいに。
「寂しいとかさぁ、ないの?」
あたしが遠くの大学行くの、寂しくないの?
そりゃ、一人暮らしはいろいろと好都合かもしれない。
でも、きっとマジで週末とかしか会えないよ?
今日みたいに、時間が空いたからってパッと会ったりもできない。
- 14 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:40
-
「寂しくないってことないけど……毎週末、お泊まりに行くもん」
アイスミルクティーの氷をストローでさくさくと刺しながら、
年上の恋人は砂糖菓子のように甘えた声で言った。
ほんとうに? その甘ささえ、あたしは疑ってしまう。
そりゃあ最初は毎週来てくれるかもしれない。
でも、それがなんとなく滞りがちになって、ごまかされて、
それでいつの間にかプツンって切られてしまうんじゃないかなって。
だって、彼女はとても忙しい。
大学のほかにカテキョのバイトしてて、放送研究会とかいうサークルに入ってて、
それで来年からはアナウンサー養成の専門学校にも通いたいって言ってなかったっけ?
- 15 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:41
-
「でも、ひーちゃんに会う時間はちゃんとつくるよ」
「へぇ、そりゃどーも」
「……ねぇ、なんでそういう言い方するの?」
ざりっ、と苛ついたように氷が鳴った。
うわ、来るぞ。あたしは身構える。
やさしげな彼女は実はとっても短気で、アドレナリン出過ぎって感じで。
気に入らないことがあると、ガラスをキーキー引っ掻くような声であたしを責め立てる。
どうして、ひーちゃんはそうなの?
気に入らないことがあるなら、ちゃんと言ってよ!
ちょっと聞いてるの? こっち見てったら! ケイタイの電源、切ってよ!
「……………………」
あれ、来ない………?
拍子抜けして、あたしは黙ったままの梨華ちゃんを、まじまじと見つめた。
彼女はそんなあたしを何よ?というふうに睨み、そして小さく肩をすくめた。
「ね、ひーちゃん、ホントはどうしたいの?」
「え?」
「大学。推薦受けるのヤなの?」
「ヤっていうか……」
進路指導室で聞いた保田先生の声が耳に蘇る。
受けるも受けないも勝手だけど、吉澤、あんた自分の偏差値わかってるでしょうね?
- 16 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:42
-
わかってる。
バレーと恋にかまけすぎた高校生活。
推薦をくれた大学はたいしたレベルじゃないけど、
それさえもまともに受験したら通らないに違いなくて。
うん、わかってる。梨華ちゃんと同じ大学に行きたいなんて無謀だってこと。
「どうして、迷ってるの?」
何も知らずあなたは、そんなふうにズバッと切り込んでくる。
そしてマジな顔で、とんちんかんなことを言い出す。
「ひーちゃんって、バレーでオリンピック出たいんでしょ?」
はぁ?
あたしは思わずため息をつく。
そうだね、そんなこと言ったこともあったね。
まだ高1のガキんちょの頃だったけど。
「んなこと、もう思ってねーよ」
「えっ、そうなの?」
「あんなん春高バレーとかで大活躍しなきゃムリだっつーの」
「ええっ、でも推薦がきたわけだし……」
そりゃあね。
あたしは、またまたため息をつく。
うちみたいな弱小チームにいるあたしに目をつけてくれた監督さんもいるけど、
だけど、どうだろうね。大学リーグでそこそこ活躍できたとしても。
……自分の実力は、自分が一番よくわかってる。身長が足りない。膝に故障がある。
- 17 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:42
-
「バレーじゃ、食ってけないよ」
「そう……。でも。せっかくきた推薦だから」
「だから、受けとけって?」
「それは、ひーちゃんが決めることだけど……」
すっかり空になったグラスを、店員さんが下げに来た。
居づらくなって、あたしたちは仕方なく席を立つ。
なんとなく気まずい感じのまま、夜の街にポイと放り出される。
新宿や渋谷ほどじゃないけど、特急も止まる駅前は、まだ賑やかで。
だから、あたしたちの微妙な恋は途方に暮れてしまう。
時刻は21時。これまたビミョー。
そろそろバイバイ? まだ平気?
彼女はどうだかしらないけど、あたしはまだ帰りたくはなくて。
「……どうする?」
「……どうしよっか?」
探り合う目と目。言い出しかねるさまざまな言葉。
踏み出す方向を迷うようになったのはいつから?
なんとなくカッコつけるようになったのはいつから?
ただ一緒にいたいよー、帰りたくないよーって、
だだをこね合った子供っぽいあたしたちは、もういない。
- 18 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:43
-
とはいえ、女二人あてもなく佇んでれば、すかさずナンパの声。
酒くさい息のリーマン二人組にしつこく追いすがられて、
あたしたちは慌てて逃げ出した。
「オメー、ミニスカとか、目立ちすぎなんだよっ」
「なによ、ひーちゃんだって制服じゃない!」
「こ、これはしょーがないだろぉ?」
小走りに駆けながら、あたしはとっさに梨華ちゃんに手を伸ばしていた。
彼女もごく当たり前のようにあたしに手を伸ばして、きゅっと握ってくる。
その瞬間、心臓がクッとつかまれたような気持ちになった。
初めてキスした時のものすごいバクバク感とか、
初めてHした時のものすごいガクガク感とか、
そんなのもうとっくにありゃしないけど。
だけど、こんなふとした瞬間に、あたしはまだ彼女にドキドキする。
- 19 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:44
-
ねえ、こんなふうに当たり前に繋がってたいんだ。
いつまでも、一緒に並んで走っていたいんだ。
まるで気の合わないあなたと。
だけど、あたしはどうしていいか。
どうしたらいいのか……
- 20 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:44
-
夜の街のような迷路が、あたしの胸の中に広がってる。
彼女と一度はぐれたらもう、そのまま見失っちゃいそうでビビってる。
恋が始まった頃は思いもしなかったけど、
始まれば必ず終わりがあって、そう、ごっちんたちみたいに、
うちらもいつか別れるとか、そういう時がくるのかもしれない。
- 21 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:45
-
ハァハァと息を切らせながら、あたしたちはやっとストップした。
歩道橋の階段の下に身を隠しながら、もう追いかけられてないことを確かめる。
ああ、マイった。今日のヤツラはしつこかった。
ひとりでいるより、梨華ちゃんと二人でいる時のほうが断然ナンパ率が高い。
昔っから、やけに男好きのする彼女。
男の人って苦手、なんて言ってるうちは安心だけど。
「痛ったぁい」
靴擦れでもしたらしく、梨華ちゃんは顔をしかめた。
階段下の柱に手をついてヒールを脱ぎ、踵のあたりを指先で確かめる。
軽く腰をひねったその仕草さえ、あたしは誰にも見せたくなくて、
さりげなく歩道のほうに立って、彼女の姿を人目につかないように隠した。
「あっ、やだもう」
拗ねたような声に足首を見ると、
彼女のストッキングが大きく破れて赤い血が滲んでいる。
「あーあ。んな靴、履いてっから」
あたしは、カバンの中からおもむろに絆創膏を取り出す。
ズボラ大王の梨華ちゃんが、絆創膏なんて持ってるわけないから。
- 22 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:46
-
「さっすが、ひーちゃん」
「1枚100えーん」
「ちょっと、高くなーい?」
声をあげて笑いあう。
それはほんのすこし、わざとらしい。
手をつないで走った勢いをなくさないように、慎重になってるあたしたち。
その証拠に、ほら、笑い声がやめば、どことなく気まずい沈黙が訪れてしまう。
あたしは一度渡した絆創膏を、梨華ちゃんの指から取り上げた。
そして、おもむろにしゃがみこむと、ほっそりとした梨華ちゃんの足首をつかむ。
「じ、自分で貼るよぉ」
「いいから」
ポケットからティッシュを取り出し、
アキレス腱の下あたりに滲む血を、そっとぬぐった。
あらわれた裂傷は小さいけれど、ひどく痛々しくて。
彼女を痛がらせないようにそっと絆創膏を貼りつけながら、あたしはボソリと呟く。
無理すんなよ。こんな踵の高い靴、履くことないじゃんか……
「似合わない?」
「んなことないけど」
「好きじゃない?」
「そういうわけじゃ」
もぞもぞ言いながら、ゆっくりと立ち上がったあたしを待っていたのは、
ありがとうでもごめんねでもなく、ひーちゃんのバカ!だった。
- 23 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:47
-
「なによ、さっきからグズグズしちゃって」
あたしはうつむく。
梨華ちゃんは、きっと全部わかってる。
あたしの妙な自信のなさや、ひねくれぶりや、ヘタレなところ。
そういうとこも全部好きって囁いてくれた、いつかの日の記憶は遠く。
「言いたいことがあるなら、ちゃんと言いなさいよ!」
「……オメーには、わかんねーよ」
あたしの気持ちなんて。
あたしには夢らしいでっかい夢なんて、もうないんだ。
オリンピックなんて、バレーなんて。
そうだよ、高校に入ってから、
あたしの希望はいつだって石川梨華だった。
膝を故障して、こりゃプロは無理だなって悟った時も笑ってられたのは、
梨華ちゃんとの恋があったからだった。この恋が、一番の喜びだったからだった。
あなたが隣にいたからあたしは自由で、好き勝手していて、
時には怒らせたり、泣かせたりもしたけれど。
こんな気持ち、あなたには言えやしない。
情けなくて。あんまりに、情けなくて。
置いてかないで、なんて。
- 24 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:47
-
「わかんないって、何よ、それ」
「何でもねーよ」
カッとしたように、シュッと振り上げられた彼女の右手。
ぶたれると感じて、あたしは一瞬かたく目を閉じる。
だけど、その右手は、そっとあたしの頬に舞い降りた。
羽のようにやさしく、いたわるように。
「……痩せちゃって、どうしたの?」
あたしは、ぐしゃりと顔を歪めた。
あんたのせいだよ。あなたの夢を聞いてしまったから。
あれから喉がつかえたみたいになって、あんまり食べられないんだ。
ねぇ? そんなこと言えると思う?
ヘの字口のまま何も答えないあたしに、梨華ちゃんの瞳が悲しげに曇る。
「私には、言えない?」
言えない。
好きだから、言えない。
恋人だから、なにもかもはさらけだせない。
何でも相談して。隠し事はやめて。
そんな安っぽいテレビドラマみたいな理屈はあり得ない。
理由は、好きだから。怖いくらい、好きだから……
- 25 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:48
-
あたしたちは、声もなく見つめあった。
キスする時でもなきゃ、いつだって飽きもせずくだらないことをしゃべったり、
ぎゃあぎゃあ言いあったり、バカみたいに笑ったり、してたのに。
こんなふうに大人と子供になってしまったのは、
こっち側と向こう側になってしまったのは、
たったひとつの歳の差のせいなのか、それとも。
- 26 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:48
-
きれいにマスカラが塗られた美しい睫毛が、かすかに揺れた。
静かに目の縁に浮かんだ涙は、いつものようにわめき声を伴わず、
ただ、はらはらとその頬にこぼれ落ちた。
桜の花びらが散っていくように。
そう、満開の桜が音もなく散っていくように。
そして、彼女は、くるりと踵を返した。
- 27 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:49
-
ひとり帰っていく梨華ちゃんの後ろ姿が小さくなっていく。
だけと、それはごっちんみたいに頼りなく揺らめいてはいなくて、
風を切り、確固たる足取りで、この夜の迷路を、壁さえもぶち破らんばかりに。
あたしはぐっと唇を結び、この瞬間がはやく通りすぎることを祈っていた。
はやく、行って。消えて。あたしは、そんなふうにさえ思っていた。
今、この瞬間、捨てられたという事実がくっきりと夜風に満ち、
あたしの指先を小刻みに震えさせる。
泣き虫で、信じらんないほどネガティブで、うざいくらい世話焼きで、
野原にひっそりと咲くすずらんのようだったヒトは、
その姿に立ち止まったあたしと恋をして、泣いたり笑ったりキスを覚えたりしながら、
いつの間にか神々しい白百合になって大輪の花を咲かせて、そして。
「……んだよ」
もう、用無しかよ。
吐き捨てるように呟いた言葉は、通りすぎたバイクの爆音にかき消された。
歩道橋の柱にもたれかかり、あたしは震える指で眉間をグッと押さえる。
叫び出したい気持ち、泣きわめきたい気持ち、全部、力ずくで押さえ込む。
あたしはもう意地になって奥歯を噛みしめて、
魂まで漏れてしまいそうなため息をこらえた。
- 28 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:50
-
「……OK」
何が?
わかってるでしょ?
彼女にとって、悪い選択じゃないってこと。
彼女には夢があり、あたしにはない。
そして、あたしの存在は、彼女の夢にとって少々スキャンダラスでもあり。
ねぇ? ずっと金魚のフンみたいにくっついてたって仕方ないさ。
無駄にやさしい彼女は、甘えればずっとあたしのこと飼ってくれたかもしれないけど、
あたしは絶対に甘えたくなかった。それだけのこと。
理由は? 理由は、好きだから。足を引っ張りたくないから。
……そして、負けてるって認めたくなかったのさ。
- 29 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:50
-
次々と走り抜けていく車のテールランプが赤々と潤み、
あたしはごっちんに電話したいような気分になった。
ねぇ、あたしも別れちゃってさ。カラオケでも行かねぇ?なんて。
ポケットからケイタイを取り出し、スクロールしかけて、やめる。
バカじゃねーの、あたし。ごっちんだって、何も言わないんだからさ。
ひとりで、ジッとこらえてんだからさ。
つまんねーこと言わないように、きゅっと口を引き結んで。
ごっちんに電話をかける代わりに、
あたしは梨華ちゃんの番号をディスプレーに表示し、消去しようとした。
ピッと消去しようと。そう、簡単なこと。
だけど、できなかった。
情けないほど、指が拒否する。
バカ、あたし、なんで……、もういらねんだよ、この番号は……
あたしはすうっと大きく息を吸うと、ゆっくりと振りかぶり、
歩道の脇のコンクリートの塀に向かって、ガッとケイタイを叩きつけた。
- 30 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:52
-
ガシャッ!
夜に響く、あっけないほど軽くて冷たい音。
ディスプレーが割れ、あたしの心みたいにぐしゃりと壊れた携帯電話。
もう戻れないと思った瞬間、立ってられないくらい怖くなった。
両手で顔をおおって、ゆっくりとしゃがみ込み、ぺたんと地面に座り込む。
…………でも、これでいいんだ……
ほんの少しの間、あたしは自分に泣くことを許した。
石川梨華、きっと生涯、あんたより好きになる人はいない。
冷めたガキだったあたしに、恋ってやつを教えたひとつ年上の先輩。
胸に蘇る、あたしたちの恋がはじまったあの金曜日。
- 31 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:53
-
『吉澤ひとみさん』
鉄琴のように澄んだ高い声。
初めて聞いたその声が、フルネームであたしの名を呼んだ。
それであたしは、やっとほんとに恋がはじまるって気づいたんだ。
だから、あたしも隠さずに答えた。
もう、あなたの名前をちゃんと調べて知ってるってこと。
『なんですか、石川梨華先輩』
ちょっと緊張した顔をしてた梨華ちゃんは、すごくすごく、うれしそうに笑った。
そして、ゆっくりと近づいてきて初めて目の前にピタッと立ち止まり、
吸い込まれちゃいそうな瞳を三日月みたいに細めて、あたしを見上げたんだ。
『先輩は、いらないな』
『わかりました』
『敬語じゃなくていいよ』
『うん』
『あのね、映画のチケットが2枚あるの』
- 32 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:54
-
あの時、一緒に見た映画の半券、まだ財布の中に持ってる。
印刷なんてもう擦れちゃって読めないけど、お守りみたいに入れてる。
これだけは、捨てずにずっととっておこう。
あなたとあたしが、確かに同じ時を過ごした証として。
惹かれあい、求めあい、震えながらキスをして抱きしめあった、その証として。
鼻をすすり、柱に手をついてノロノロと立ち上がった。
梨華ちゃんのいない世界はモノクロームで、それはいっそ清々しかった。
あたしを煩わすものはもう何もなく、恐ろしいものも何もなかった。
明日、登校したら保田先生のところに行こう。
そして、推薦入学の手続きをとってもらおう……
そう考えながら駅に向かって歩き出し、あたしは立ち止まった。
あのケイタイ、拾おうか……
フッと笑う。未練は、あのケイタイのメモリのなか。
ショップに持っていけばメールのデータくらい生きてるかもしれないなんて、
この期に及んであたしはまだ、そんなことを考えてる。
- 33 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:54
-
まいった、重症だ。捨てられるって、キツイもんだね。
乱暴にひっこぬかれた想いから、ドクドクと血があふれ出してる。
かたく目を閉じてじんじんする胸の痛みをこらえたけど耐えきれず、
息苦しさに吐き気さえ覚えてあたしは立ちすくみ、口元を手で覆った。
目の前のアスファルトがぐらぐら揺れる。
だめだ。だめだ、どうしよう、絶てない……
カッコわりぃ、あたし。だけど、あなたが完全にいなくなるのが怖い……
怖い、怖い、怖いんだ……
- 34 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:55
-
とうとう振り返ってしまった、その時。
未練がましく梨華ちゃんのカケラが詰まったケイタイを拾おうとした、その時。
あたしは、思いがけない場所にあたしをボロボロにした張本人を見て、目を丸くした。
「梨華ちゃん……」
彼女は、あたしがさっきまでしゃがみこんでた歩道橋の上に立っていた。
手すりに手をかけ、まっすぐにあたしを見下ろしていた。
じっと睨みつけるように。
- 35 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:55
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騒がしい夜の迷路の中で、あたしたちは再び、声もなく見つめあった。
石川梨華がいる。あそこにいる。戻ってきた……
感情より先に、胸に血が流れるスピードで、ドッと涙があふれだした。
あたしは痛感する。ちっぽけなあたしを。
どんなに意地を張っても、こんなにあの人を求めてること。
みっともなく泣き出したあたしのことを、彼女はますます睨んだ。
だけど、あたしは気づいていた。彼女の頬も、同じように濡れていること。
あの人もきっと、あたしを捨てようとして捨てられなくて、
あるいは最初っから捨てる気なんてなくて、ただどうしていいかわからなくて。
- 36 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:56
-
言葉をかわさない視線は、あなたとのキスを思い出す。
唇が腫れるほどあなたはあたしにキスをして、ひーちゃんは粘膜が弱いなあなんて笑う。
あたしはムキになってあなたのやわらかな舌を追いかけて、徹底的に困らせてやるんだ。
その瞳が、幸福に熱く潤むまで。
カラダの輪郭が、とろりと溶けはじめるまで。
いつの間にか歯車が噛みあわなくなった、あたしたちの恋。
だけど、こんなふうに見つめあえる今なら、まだ修復できるかもしれない。
もう一度、ちゃんと回せるのかも、しれない。
そうだよ、モノクロームなんて、ほんとは大嫌いだ。
いつだって鮮やかな色で、もっと広い世界を知りたいんだ。あなたのそばで。
- 37 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:57
-
あたしは、すうっと息を吸い、大きな声で怒鳴った。
「降りてこいよ!」
彼女はムッとした顔をして、すかさず怒鳴り返してきた。
「上がってきなさいよ!」
苛立ちは、彼女を凛と見せる。
胸を張った褐色の肌に、あたしは思わず目を細める。
なんて美しい、あたしの恋人。トルソーのような完璧なシルエット。
いつの間にか緋色の炎のような色香を漂わせ、あたしをこんなに狂わせた半身。
そう、まるで気の合わない、あたしの……
- 38 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 22:58
-
震える脚を踏みしめて、あたしは階段に足をかけた。
どうして、ごっちんたちが別れちゃったのか知らない。
どうして苦しげに唇を閉ざしているのか、わからない。
あたしは、とうてい別れられっこない、こんなに好きな人と。
きっとこれから先、彼女の夢が叶えば叶うほどあたし、つらくなってく気がするけど。
だけど、あたしは彼女を絶対に見失いたくない。
- 39 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 23:00
-
階段をのぼってきたあたしを見て、梨華ちゃんは泣きながらくしゃっと微笑み、
その両手を大きく広げて、あたしのほうに差し出した。
照れくさく、その笑顔に歩み寄りながらあたしは、
勇気を出して彼女に告白してみようかなと思う。
そう、今度は、あたしのほうから、梨華ちゃんに。
梨華ちゃんと、同じ場所に行きたいんだけど。
きっと彼女は目を真ん丸にして驚いて、
「はぁ?」なんて、ちょっと呆れた声を出すだろう。
それから、アンタ偏差値いくつよ?なんて、ヤなことズバッて聞いてきて、
すっごく心配そうな八の字まゆ毛で、じゃあ勉強見てあげるからなんて、
超おせっかいなこと言い出すと思うね。賭けてもいい。
そう、賭けてもいいさ。
あたしをすべて、あなたに。
一度、色を失ったんだ。夢も、失ったんだ。
もう、怖いものはないんだ。とにかく、光を追いかけて走るだけだ。
蛍みたいに、目の前でこっちだと瞬いてくれた小さな光を追って。
- 40 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 23:02
-
梨華ちゃん……と、口を開きかけたその時、
彼女がものすごい勢いであたしの首に抱きついてきて、噛みつくように唇をふさいだ。
やわらかくてしょっぱいその唇に、あたしは眩暈さえ感じて、あわてて目を閉じる。
やれやれ、あいかわらずあたしは一歩遅れて押され気味。
世界中でたった二人きりのような、
そして、世界中の人に見られちゃいそうな歩道橋の上で、
あたしは華奢な恋人の背中を強く強く抱きしめた。
彼女の背中は震えていて、彼女もまた、何かに怯えていたんだとあたしは気づく。
ああ、もしかして、うぬぼれてもいいのかな?
あたしがいるからこそ、あなたは安心して羽ばたけるんだって、
きっと前になったり後ろになったりしながら、一緒に飛んでるんだって。
もう一度、信じてみていいのかな。あがいてみていいのかな。
- 41 名前:夜の迷路 投稿日:2004/06/17(木) 23:03
-
歯車は再びまわり始めた。
夜の迷路は、煌めく夜景になった。
もう怖くないよ、あたしも、あなたも。
彼女が上がってこいと言ったこの場所から見える遠い遠いまっすぐな道の先に、
その何も見えない道の先に、あたしはじっと目を凝らした。
☆終☆
- 42 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/17(木) 23:05
-
癒しのメソッド・いしよし外伝でございました。
ご感想をお待ちしております。
次回は、あやみき外伝です。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/17(木) 23:06
- こんばんわ…新スレおめでとうございます…
超リアルタイムで読んでしまってどうしていいかわかりません、
とりあえず、めちゃくちゃよかったです……
文章からとか情景が物凄く伝わってきてすごく苦しく切なくなりました・゚・(ノД`)・゚・
お疲れ様です……!!
続編も是非是非頑張ってください。゚(゚´Д`゚)゚。
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/17(木) 23:13
- 面白かったよ。ありがとー。
- 45 名前:maruco 投稿日:2004/06/17(木) 23:27
- あんなに「こんごま」にはまったのに、
やっぱり自分は「いしよし」なんだと痛感。
最高です。ありがとうございます。
これからも楽しみにしています。
- 46 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/17(木) 23:48
- 雪ぐまさん、おかえりなさい。そして新スレおめでとうございます。
首を長くして待ってました。
雪ぐまさんの小説を読み始めてから
涙腺がさらにゆるくなってしまったみたいで涙が止まりません。
いしよし、とてもステキですね。
あやみき外伝も楽しみに待っています。
- 47 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/17(木) 23:56
- 油断してタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
新スレおめでとうございます。
うーん。雪ぐまワールド。ダメだ。離れられません。
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/17(木) 23:59
- たまんねーなぁ、ちくしょう!!・゚・(ノД`)・゚・
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/18(金) 00:36
- 読みながら、
Bette Midlerの『Wind Beneath My Wings』が
頭の中でずーっと流れていました。
「素晴らしい」の一言です。
マジレスすまそw
- 50 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/18(金) 05:37
- 雪ぐまさん、新スレおめでとうございます。
いしよし外伝、読みながらいつの間にか涙が溢れました。自分でも驚くぐらいに…
感動をありがとうございます。
あやみき外伝本当に楽しみしてます。
頑張ってください。これからもついていきます!
- 51 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/18(金) 06:42
- 新スレ移行、おめでとうございます。元々は後紺スキーなんですが、
雪ぐまさんの書くいしよしが堪らなくツボです。素敵な外伝をありがとう
ございます。あやみき外伝、続編も期待して待っています。
- 52 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/18(金) 17:32
- お帰りなさい。外伝の初っ端から涙が…こちらは嬉し涙かもしれまえん。
いしよし最高です。こういう言いあいしてそうですもん。
- 53 名前:ましろ 投稿日:2004/06/18(金) 20:34
- 新スレ、おめでとうございます。
またまたヤバイですよ、雪ぐまさん。今回もかなーり。ううっ(泣)。
特に37辺りのやり取りが、いしよしらしい感じでとても好きです。
素敵な作品をいつもありがとうございます。
- 54 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/18(金) 21:50
- 43> 名無飼育さん様
超即レス、ありがとうございました。夜の歩道橋の上のいしよし、感じていただけましたでしょうか。
ふたりの見つめる遠い道に幸あらんことを一緒に願いましょう……
44> 名無飼育さん様
はーい。ありがとうございまーす♪
45> maruco様
こんごまも奇跡ですけれど、いしよしには神の息がかかっておりますw
でも、こんごまのほうが断然、書きやすいw いやあ、今回は悶絶しました。
46> オレンヂ様
ただいまです。ありがたくもあたたかいお言葉、感激です。
雪ぐまもどんどん涙腺がゆるくなってる気がする。そしてどんどんモ娘。が、たまらなく好きになってます。
47> 名無しぽき様
油断ってw 楽しみにしていただいているみたいで、なんだかとってもうれしいです♪
ああもう、書いてみて良かったなあ〜。よーし、頑張ってもっと書くぞぉーw
48> 名無飼育さん様
たまんねーっすか。ホッとしました♪
49> 名無飼育さん様
なるほど、探して聴いてみます。けっこうこうして教えていただいたものを聞くの、楽しいんですよ。
また、マジレスを、ぜひぜひお待ちしています。
- 55 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/18(金) 21:51
- 50> 名無し読者様
こちらこそ、うれしいお言葉をありがとうございます。別れはほんの一瞬のタイミングで、
危うい橋を渡りきったうちのいしよしは、きっとこれからも仲良く寄り添ってくれると思います。
51> Stargazer様
やはり雪ぐまめのアツイいしよし愛が……w ここのところ後紺スキーな日々だったので、
いしよし感覚(?)を取り戻すのにちょいと苦労いたしました、ハイ。
52> 名無し読者79様
ただいまです。ああ、やっと嬉し涙を流してもらえてよかったです。ホッ。
いしよしといえば、言いあいw 雪ぐまの萌えどころでもあるので、うちの子たちはちょい派手めですw
53> ましろ様
梨華ちゃんの卒業は寂しいですけれど、きっとワンステップ高いところに上るんだと信じて。
そして、よっちゃんも同じように高いところに飛び立ってほしいなと思って37は書きました。
それでは、本日の更新に参ります。
- 56 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/18(金) 21:51
-
本日は、あやみき外伝。
卒業も迫る真冬になって、ひとつの大きな決断をとうとう恋人に打ち明けたあやや。
誰よりも自由でパワフルな魂の、たったひとつの泣きどころは……
- 57 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 21:53
-
癒しのメソッド・あやみき外伝
『ビー玉の弾丸』
- 58 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 21:55
-
月あかりの下、世界は蒼く光るよ。
凍るような冬の夜空、オリオン座が氷のカケラに見えそうなほどに。
あたしは綿菓子みたいな白い息を吐き、
あたたかそうな光が漏れる開かない窓を、ずっと見上げていた。
もう2時間? そのくらい。
「開かないなー」
ねえ?
待ってたって開かないさ。
運命の扉と同じだよ、みきたんの部屋の窓。
かじかむ指先に、はあっと息を吹きかける。
鼻も耳も、びゅんと千切れてしまいそうなほど冷たい夜。
- 59 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 21:56
-
気づいてよと思うのは、あたしの傲慢。
この痛み、あたしが選んだことだよ。
みきたん、あなたを泣かせてしまって、その罰。
『……あたしは、亜弥ちゃんの何?』
恋人に決まってるデショ?
そう答えたあたしに、あなたは手にしていた午後ティーを地面に叩きつけた。
『じゃあ、どうして今まで黙ってたの!』
びしゃりと飛び散った午後ティーよりも
あなたの頬に溢れた涙のほうが多かったね、きっと。
あんなに泣いたみきたん、初めて見た。
あんなに怒ったみきたん、初めて見た。
うん、きっとみきたん悲しむってわかってた。
だから言えなかった。決心が鈍るからね。
ごめんね、勝手に進路決めて。
でも、ずっと夢だった。
本格的に舞台の勉強すること。
- 60 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 21:57
-
『だからアメリカ行くって……そんな簡単に……』
高校を卒業したらアメリカに行く。
語学の専門学校に通ってから、アメリカの大学を受験する。
そう打ち明けたあたしに、怒りでびりびりに切り裂かれたように声を震わせた年上の恋人。
目つきが悪くって、でも、いつもあたしにだけは蕩けるように甘い笑顔の人。
どんなワガママだって、いいかげんにしなよなんて苦笑しながら叶えてくれる。
人前でもべたべたと甘えるあたしに照れくさそうにしながら、でも逃げはしない。
そんな彼女が、もうあたしにはついていけないと、泣いた。
わかってほしかった。
だけど、あたしの耳に聞こえたのは、切り捨てるようなサヨナラ。
ぽつんと置いていかれたあたしは、その背を追いかけられず立ちすくんだ。
くるりと踵を返したみきたんの横顔が、あまりにも傷ついていたから。
そう、そんなに。
あたしの夢はそんなにみきたんを傷つけたのね?
あたしからワガママに仕掛けた恋、あたしのワガママで終わった瞬間。
でも。でもね。
「嫌だよ、別れない……」
いつまで待ったって開かない窓。
電話にもメールにも応えてくれないみきたん。
どうせ眠れないから、真夜中にあなたの家の前に通い詰めて3日。
どんなに無視されたって、あたし、あなたが好きだから。
- 61 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 21:57
-
高校に入ってすぐに、みきたんのこと、目が追いかけはじめた。
びっくりするほど顔が小っちゃくって、手足が長くって、
ちょっと冷たく見えるほどキレイな顔してるくせに、
友達と子供みたいにふざけあって、ギャハハって豪快に笑う先輩。
ちょっぴり猫背なみきたんが、あくびなんてしながらかったるそーに歩いてるの、
いつもその姿が豆粒みたいに小さくなって見えなくなるまで、教室の窓から見てた。
うわあ、ドキドキしてるよあたし、なんて思いながら。
自分でもびっくりしたな。
片思いらしい片思いなんて初めてしちゃったから。
あたしってわりと目立つから、名前も知らない先輩たちが「あやや」なんて騒いでくれてるのに、
みきたんはあたしのことなんてまるで興味ねーって感じでさ。
だめだこりゃー、押すべし、押すべし、なんちゃって。
待ち伏せて、追いかけて、話しかけて、毎日毎日。
困惑してたあなたが、あたしのために笑ってくれるようになるまで。
- 62 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 21:58
-
「どして、別れるって話になるのかなぁ……」
ねぇ? 今だって、こんなに好きなのに。
みきたんだって、あたしのこと、ぜんぜん好きなはずだよ?
しもやけになりそうな指をこすり合わせながら、
あたしは、ふと、ごっちんたちのことを思い出す。
あの子たち、何で別れちゃったのかなあ? わりとお似合いだったのに。
ごっちんのポーカーフェィスだって、あたしはお見通し。
あの子、まだ紺野ちゃんのこと好きね。
心の中を零さないように強く強く結ばれた口元。
紺野ちゃんなんか、もっとわかりやすいじゃない?
あんなに無視しちゃって、必死で無視しちゃって、半径1メートル放電中みたいなもの。
新しい恋がはじまったなんて噂は、たぶんフェイクね。
恋がはじまる理由。恋が終わる理由。
それは二人が決めることで、二人にしかわからないこと。
選び取り、納得する。あるいは、あきらめる。流される。判断する。
ごっちんたちは、どうして別れをチョイスしたのか知らないけどさ。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/18(金) 21:58
- いしよし最高!
やっぱ雪ぐまさんの書くいしよしは好きです♪
りかちゃんの視点も読んで見たいです。
- 64 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 21:59
-
あたしは、別れない。
みきたんが何て言ったって、別れる気なんてまるでない。
あたしのことを本当に嫌いになったとでも伝わってこない限り。
ねぇ、みきたん。
あたしは夢も、みきたんも、あきらめない。
勝手だとののしられても、あたしは叶えたいの両方。
あなたが扉を開けない気なら、あたしは強行突破します!
見上げていた窓に、みきたんの影がうすく映った。
よし、部屋にいるね。
あたしはポケットに忍ばせていたビー玉を一粒とりだした。
月あかりに妙に艶めかしく光る、まるであなたの瞳みたいなガラスの玉に願いをこめて。
片目を閉じて、2階の窓に慎重に狙いを定めて。
さあ、いくよ?
- 65 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:00
-
カシャーーン!
思いのほか大きな乾いた音が、冬の空気に広がった。
ナイスコントロール! ぶっつけ本番にしては、割れ具合も小さくていい感じ。
驚いたようにカーテンがシャッと開かれ、
待ち続けていた愛しい人がやっと顔を出した。
みきたん……。あたしは胸の前で指を組み、祈るような気持ちで彼女を見つめた。
何事かと警戒していた厳しい目つきが、窓の下に佇むあたしを見つけて真ん丸になる。
あたしはもう、ほとんどテレパシーでも送るような気持ちで見つめ返した。
お願いみきたん、もう一度、話を聞いて!
その窓、閉めてしまわないで!
パジャマ姿のみきたんは、しばし状況が理解できなかったみたいで、
家の前の道路に佇むあたしと、穴の開いたガラス窓をボーゼンとした顔で交互に眺めた。
そして、部屋に投げ込まれたビー玉に気づいたらしく、かがんで拾いあげた。
よかった! 読んで、読んで、メッセージ!
必死になって、ジェスチャーで伝えるあたし。
- 66 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:00
-
ビー玉には、あたしのキモチが刻んであった。
アクセショップをやってる友達にムリを言って刻んでもらった言葉。
月あかりにかざすようにビー玉を透かして目を細めたみきたんの顔が、苦しげに歪んだ。
アイシテル。
たった五文字の、偽らざる本音。
あなたにどうしても伝えたい言葉。
冬の空気を白く煙らせながら、あたしは叫んだ。
「愛してるの! 別れたくない!」
ふいに、3日間ずっとこらえていた涙が溢れ出した。
あたしの願いは、伝えたいことはあまりにもシンプルすぎて、
寂しがりのあなたを苦しめることはわかってるけど、あきらめたくない。
「離れたって、恋人でいてよぉ!」
冷えきって真っ赤になった頬に涙が熱くて、鼻水まで出てきちゃって、
あたしって今、超かっこわるいけど、みきたん、あたしのみきたん、絶対に、別れたくないの。
あなたがどこにいても、あたしがどこにいても、
たとえ遠くに離れたって、あたしとあなたはひとつの運命。
そうでしょ?
- 67 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:01
-
みきたんはビー玉をぐっと握りしめ、ひどく苦しげにあたしを見た。
吹きつける夜風に震えながらあたしは、みきたんを。
見つめあうあたしたちを、冴え冴えとした月だけが見てる。
ねぇ、この夜の中に、二人きりみたい。
視界が潤んで、あなたしか見えないみたい。
- 68 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:02
-
永遠かと思うほど長い沈黙の後で、みきたんの唇がゆっくり動いた。
アヤチャンハ、カッテスギル……
逆光のなかのかすかな唇の動きさえ、
あなたのものなら正確に読めちゃうあたし。
ざくざくと胸に突き刺さってきて、まいっちゃうけど、
あたしは唇を噛んで、次の言葉を待つ。
ドウシロッテ、イウノ……
「待ってて!」
反射的にあたしは叫んだ。擦れきった涙声で。
「待ってて!待っててよ、みきたん! お願い! 別れたくな……」
がむしゃらに騒ぎ立てるあたしに、
みきたんが慌てたようにシッ!と唇に人さし指をあてた。
でも、でも! 伝えなきゃ伝わらない! 伝わらないじゃん!来て! 来て!降りてきて!
口をパクパクさせながら、ぴょんぴょんと地団駄を踏んだあたしを手で制し、
みきたんはガックリと頭を垂れて、深々とため息をついた。
◇ ◇ ◇
- 69 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:02
-
42度のお風呂のお湯が、ひどく熱く感じた。
一緒に入ろーよって言ったら、すっごい怖い目で睨まれた。
どうして? 抱きしめてくれたのに。
指先で、ぴちょんとお湯を弾きながらあたしは、
ちゃんと作戦成功してるのかなぁ?なんて、首を傾げた。
部屋から駆け降りてきたみきたんは、サッとあたしの頬に触れて息をのんだ。
ぴりぴりと痛むほど冷えてたほっぺたに。
『……どのくらいここにいたの?』
『えっとー、2時間くらい?』
『バカ! 風邪ひくでしょ!』
みきたんはガツンとあたしを怒鳴りつけ、
そして、イキナリぎゅうっと抱きしめてくれた。
ろっ骨がギシッと痛むほど強く。
あたしはもうヤッター!って感じでたちまち有頂天になって、
みきたーんっ!って叫んで抱き返そうとしたのに、
彼女はなぜか、ものすごい勢いでパッと離れてしまった。
スカッと抜けてあれっ?となった、あたしの間抜けな腕。
『あれ?』
『ざけんな』
みきたんは、冷たくそう言い捨てると、
怒ったみたいにあたしの胸ぐらをつかんでぐいぐい家に引っ張りこみ、
蹴り込むようにバスルームへと押し込み。
- 70 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:03
-
あったまったら、みきたんとHしたいな。
すっぽんぽんで部屋に行ったら、ぶちのめされるかな。
てか、その前にみきたんのママンに見つかるっつーの。
ひとりツッコミしつつ、あたしは頭を悩ませる。
あったまったら帰れって言われそうな確率、50%。
さあ、考えて。みきたんを取り戻す効果的な方法。
鼻先まで湯船に沈んで、ぶくぶくと泡を漏らしたその時。
「いつまで入ってんだっ!」
ドカッ!
ひゃああっ!
バスルームのドアを蹴られて、あたしは飛び上がった。
みきたん、こわーい。だめだー、やっぱりすっごい怒ってる。
なんの作戦もないままに、あたしはしぶしぶと湯船からあがった。
そうっとバスルームのドアを開ける。
でもそこにはもうみきたんの姿はなくて、
かといってパジャマとか着替えとか置いてくれてるわけじゃなく、
あたしが着てきた服のうえに、乱暴にバスタオルが投げつけてあるだけで。
- 71 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:04
-
バスタオルを手に取りかけてあたしは、
洗い流したはずの涙が、再びドッとあふれ出した。
バスタオルの上に、光るものが乗せてあった。
それは、あたしがみきたんに撃ちこんだはずのビー玉の弾丸。
そう、突き返されたアイシテル。
ああ、やっぱり、帰れコースなんだな。
別れないってあたしの決心がかたいくらい、別れるってみきたんの決心もかたくて、
ぐしゃぐしゃの、でもやわらかそうなバスタオルは最後のやさしさ。
- 72 名前:ISLAND 投稿日:2004/06/18(金) 22:04
- いしよし外伝待ってました!!
やっぱり雪ぐまさんのいしよし大好きです。
雪ぐまさんの話の展開はすばらしいです!!
私の最近のいしよし不足を払拭するようなお話ありがとうございます。
続編を楽しみにお待ちしてます。
- 73 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:04
-
バスタオルは、ほのかにみきたんの香りがして、
ああこれはみきたんのお家の香りなのねと、
いまさら知っても悲しいだけの情報が、あたしの頭にするりと潜り込んでくる。
一人でいた時には意地みたいに流れなかった涙が、
この香りに包まれると不思議なほど溢れて。
「……みきたぁん」
あたしのココロは、夢なんてもういいと叫びはじめる。
小さい頃からの夢がなに? みきたんを失ってまで手に入れたいこと?
抜け殻のあたし、舞台で一体、何ができるっていうの?
こんなふうに思ってる自分が不思議だった。
あたしはずっと一人で空を飛べていて、風よりも自由だったのに。
なのに、みきたんを見つけてしまって、自分より夢中になってしまった。
大好きなあなたのそばで小鳥のように鳴き、愛され慈しまれて、
これまでに知らなかった幸せの歌をたくさん覚えたけれど。
だけど、それって。
- 74 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:05
-
バスタオルに顔を埋め、ビー玉を握りしめながら、
あたしはどこにも動けない自分を感じていた。
みきたんを愛して、夢を捨てたら、それは堕落のような気がする。
夢を求めて、みきたんを失ったら、あたしは抜け殻になってしまう。
「……みきたん、やっぱり選べない」
もう作戦もくそもないや。
あたしはバスタオルでごしごしと顔を拭くと、キッと顔をあげた。
すばやく服を身につけ、そして脱衣所のドアを開けて駆け出す。
勝手しったる感じで階段を駆けあがり、みきたんの部屋へ。
数えきれないほど通った、恋人の部屋へ。
- 75 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:06
-
ノックもせずにバン!とドアを開けたあたし。
みきたんは学習机に向かって背を向けたまま、振り返りもしなかった。
「みきたん」
「……しつこいね」
「しつこいよ」
そんなの知ってるでしょ?
あたしは、ずかずかとみきたんに歩み寄り、
彼女が読んでいた雑誌のページに、握りしめていたビー玉をぽとりと落とした。
読書灯に照らされてつるつると光りながらビー玉は転がり、
ページを抑えていたみきたんの左手にコツンと当たった。
みきたんは動かなかった。
冷たい横顔。だけどその瞳は、どこも見てはいなかった。
それはまるで、紺野ちゃんみたい。
無視して、必死で無視して、半径1メートル放電中みたいな?
ねぇ、ごっちんはどうして諦めたのかしらないけど、あたしは。
- 76 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:06
-
ありとあらゆる痛みは覚悟のうえで、あたしは放電のなかに強引に手を伸ばす。
肩をつかんで唇を寄せようとした瞬間、鋭い電撃みたいにバチーンと平手が飛んできた。
「もう巻き込まないでって言ったでしょ!」
「みきたん……」
「帰って」
あたしを睨んだあなたの瞳の奥の燃えるような赤。
ひりひりと熱を持ったあたしの頬よりも、ずっと痛い、あなたの心。
左手のストッパーをなくしてコロコロと転がったビー玉が、ぽとりと床に落ちる。
あたしは腰をかがめ、アイシテルを拾う、何度でも。
そして、差し出す。何度でも。
「みきたん」
「……あんたの頭、どーなってんの?」
「こーなってる」
あたしはあたしの心に、ただ忠実に。
身勝手とののしられても、傷つけても、傷つけられても、
欲しいものは欲しくて、どこまでも連れていく。
ねぇ、一緒に行こう? 誰も見たことのない高い空の向こう。
「あたしといたら、成功するよ?」
胸を張るのは、声が震えないように。
笑っちゃうようなハッタリを、大真面目に。
怖いのは叶わないことじゃなくて、あきらめてしまうこと。
みきたん、あたしはあなたが欲しい。そして、夢も欲しい。
- 77 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:07
-
あたしが割ったガラス窓から、風が吹き込んでカーテンを揺らす。
みきたんはまるで頭痛でもしたみたいにゆっくりと頭をかかえ、机に突っ伏した。
かすかに震えはじめた肩と、押し殺したような嗚咽が、
身を斬るような彼女の痛みと迷いをあたしに伝えてくれる。
みきたんは、あたしがそばにいなくなること寂しくて耐えられなくて。
ずっと知らされなかったこと、ショックで許せなくて。
心から応援できないこと悔しくて自己嫌悪で、たぶん。
「……別れてよぉ」
「嫌です」
「……もう放してよぉ」
「嫌です」
血を吐くような懇願は、あたしをまだ愛してる証拠。
お願い、考え直して。あたしについてきて。
みきたんの脇にひざまずき、ちょっと強引に涙に濡れたその手をとる。
指先にそっとキスをして顔をあげるとみきたんは、
机に片肘をついて目を覆い、ますますポロポロと泣いていた。
- 78 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:08
-
「……あ、亜弥ちゃん、は、自己中すぎ、る」
「そう、なのかな」
「美貴は、ふ、振り回されて、ばっか、で」
ある日突然現れて、あたしのまわりを飛び回って、
ぐるぐる巻きにして、夢中にさせておいて、勝手にどっか行っちゃう……
「どっこも行かない」
「行くじゃん、バカ」
「カラダは行くかもしれないけど」
心は、みきたんのそばに。
そしてあたしの心には、いつもみきたんが。
「……能天気すぎだよ、遠距離なんてどうせ」
「どうせ?」
みきたんは、ため息をついて、力なく首を振る。
亜弥ちゃんに言ってもわかんないというように。
そうだね、人の心の中はわかんなくて、あなたが抱えてる不安も恐怖も、
あたしには本当のところはわからないのかも知れないけれど。
- 79 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:08
-
「信じてみよう、とか」
「バカじゃないの?」
「大バカです」
大バカのあたしを、どうか信じてください。
あたしは捕まえていたみきたんの左手にアイシテルのビー玉を握らせ、
そのグーを、上から両手でしっかりと包み込んだ。
そして祈るような気持ちで、一生に一度のお願いというような気持ちで、
もうプロポーズみたいな気持ちで、額をその手に押しつけて、
宇宙よりも広い心の中の、たったひとつの願いを口にした。
「あたしと、生きてください」
あなたがいないと抜け殻だから。
夢も追いかけられないから。
- 80 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:09
-
顔をあげるのも怖いような沈黙は、
自分が招き入れたすきま風の音でますます頼りなく。
あたしはこの願いが叶えられなかった先を何も考えてないことに、
足元が崩れ落ちるような恐怖を覚える。
だけど必死でイメージして。
みきたんがうなずいてくれることをひたすらイメージして。
祈り続けて眉間が痛くなってきた頃、
そっと髪を撫でられたのを感じて、あたしは弾かれたように顔をあげた。
そこには涙に濡れた、でも、大好きなみきたんのあたたかな瞳があった。
どんなワガママだって、いいかげんにしなよなんて苦笑しながら叶えてくれる、あの。
- 81 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:09
-
ヤッタ!
ぱあっと笑ったあたしの肩先を、なんとみきたんは蹴った!
ふいをつかれて、ふぎゃっと後ろに転がったあたし。
ベッドの角にゴツンと頭を打って、目から火花がバチッと飛び出る。
いったーい! ひっどーい!
頭を押さえて飛び起き睨んだあたしにかまうことなく、
みきたんは、あーもう!とか言いながら、パジャマの裾でゴシゴシと顔をぬぐった。
それから握らされたビー玉をつまんで読書灯に透かし、ため息交じりに眺めた。
「……美貴は、一生、言いなりかな?」
「言いなりなんて」
「なんか他に、いい言い方ある?」
亜弥ちゃんにとっつかまっちゃって、美貴もうどこにもいけないじゃん。
それは、あたしだっていっしょだよ。
あたしは口を尖らせた。
みきたんにとっつかまって、もうひとりじゃ飛べなくなって。
- 82 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:10
-
「みきたんが、かわいすぎるのがいけないんですぅー」
「はぁ? なにそれ?」
いつものあたしたちが戻ってくる、その足音に慎重に耳をすませて。
あたしはおそるおそる、みきたんに手を伸ばす。
お願い、逃げないでね。
膝立ちをして、そうっとみきたんの腰に手をまわし、エイッと抱きしめた。
ああ、あったかいみきたんのカラダ。みきたんの匂いだ……
「みきたん」
「なに、亜弥ちゃん」
「好きなんです」
「ハイハイ、よくわかりました」
ねえ? 開いたかな?
運命の扉と同じ、みきたんの心の窓。
ハァと息を吐き、震える指先を、きゅっとあなたの背にくいこませる。
ホントは怖かった。崩れ落ちちゃいそうなほど怖かった。
ぐるぐる巻きにしたはずの赤い糸が、びゅんと千切れてしまいそうだった夜。
みきたんはビー玉をパジャマの胸ポケットにぽとんと落とし、
お腹にしがみついたあたしの肩をつかんで上を向かせた。
見えたのは、泣き笑いみたいな、ヘの字口みきたん。
エヘッと笑ったあたしにみきたんは、ゆっくりと、まるで初めてキスした時みたいに
平手打ちよりアツイ唇を、グイとこすりつけた。
◇ ◇ ◇
- 83 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:11
-
ああ、眠くなってきちゃった。
Hの途中でとろとろとまどろみかけたあたしに、みきたんは呆れ顔。
「だってぇ、この3日間、ほとんど寝てなかったんだよぉ」
「それは美貴だって一緒だよ」
カーテン越しの月明かりのなか、
みきたんのなめらかな肩のラインや、すべすべの肌は蒼く光って。
その瞳、あのビー玉みたいね。アイシテルって書いてあるの、見えるよ。
あなたがいるから安心して、あたしはすごく眠くなる。
ふかふかのお布団のなか、あなたとあたしの肌の隙間から生まれてくる甘い香り。
もし目が見えなかったとしても、あたしのカラダはあなたを見分けるんじゃないかなあ?
それで、ここでなら羽を休めていいって感じる……
朦朧としてきた意識のなかで、へにゃんと笑うと、
みきたんのあの笑顔が揺らめく。困ったヤツぅって笑顔。
大好きよ、みきたん……みきたぁん……
- 84 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:11
-
深い眠りに吸い込まれ、どのくらい彷徨っていたのか。
南極でみきたんと犬ぞり探検隊をしている夢を見て、
あまりの寒さにへっくしょん!とクシャミをした。
「寒ぅ〜い〜、この部屋ぁ〜」
ねぇ、みきたぁーん。
寝ぼけまなこのまま、隣で寝てるはずのみきたんに抱きつきかけて、あたしはハッと目を醒ます。
腕がスカッスカッと、空のシーツを擦った。
あー、いないっ!みきたん、いないっ!
「みきたんっ!」
ガバッ!と飛び起きたあたし。
とたんに、「うわっ!」と、みきたんの声。
どこ? 薄闇のなか目を凝らすと、
みきたんはなぜか、すきま風が吹き込む窓際に佇んでいた。
カーテンが薄く開いていて、ガラス越しの白い月明かりがみきたんの頬を照らしている。
- 85 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:12
-
微笑んでいたけど、その姿は悲しいほど頼りなく寂しげに見えて。
あたしはあわてて気づかぬふりで明るい声をあげた。
「なーんで、そんなとこいるのぉ〜?」
「月、見てた」
ほら、満月かな。
みきたんはカーテンを大きく開き、あたしにもその美しい月を見せてくれる。
知ってるよぉ。あたしは口を尖らせる。
今日は、凍りついた月が切なくなるほどきれいな夜。
あたし、外で2時間も眺めてたんだから。
だけど、みきたんの部屋の中から見る月は、
ひとりで見ていた時のように冷たくはなかった。
蒼よりもむしろ、黄色いやわらかな光があたしたちに降り注いでいるように思えて。
「なんか、違う日みたい」
「ん?」
「さっきと、今」
あたしのなかにはきっと、毎日は2種類しかなくて。
あなたがいる日と、あなたがいない日。
アメリカに行ったらきっと、あたし毎日が少し寒いよね。
思わずそう呟くと、みきたんはもう今日何度目かわからないため息を深々とついた。
- 86 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:13
-
「置いてかれるほうの身になりやがれ」
「……あい、そーでした」
「ったく、舞台の勉強なんか、日本でやりゃあいいのにさぁ」
ぽつんと呟いたみきたん。
あたしのために、寂しさを受け入れてくれた愛しい人。
ごめんね。あたしは、みきたんに両の手を伸ばす。
「あたし、世界水準だから」
「……あっそ」
目を閉じて、おとなしくあたしの腕の中におさまったみきたんは、
月明かりの中、真っ白い薔薇の花みたいに高貴に見えた。
あたしの目を、一目で奪った美しい女の子。
ふと思う。もしかして、あなたもきっと、あたしと同じように。
「ねー、みきたんも、来れば?」
「は?」
「アメリカ☆ニューヨーク!」
もっと飛べそうな気がしないかな?
可能性がありそうな気がしないかな?
うん、い〜い考え! みきたんの目をのぞき込んだあたし。
みきたんはやれやれというふうに笑って、「考えとく」と素っ気なく言った。
そして、外気とほとんど変わらなさそうな室温にぷるっと震えると、
恨めしそうに割れたガラス窓を振り返った。
- 87 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:13
-
「しっかし、割るかな、フツー」
「あ、もちろん弁償します☆」
「当然です」
あーあ、せっかく貯めた軍資金が減っちゃうぞ。
あたしは笑う。ハハ、仕方ないね。あたしは、破壊するのが得意。
どんな難題も、どんな障害も、笑ってブチ抜いちゃうよ。
たとえ怪我をしても、リスクを負っても、損をしても。
そしてあたしは手に入れる。
でっかい夢も、みきたんも。
これがあたしのやり方で、これ以外は知らないです。
あたしは、みきたんの手をひいて、あったかいお布団の中に引っ張りこんだ。
「あややの“みきたんのハートを取り戻せ大作戦”、大成功でしたー!」
「……亜弥ちゃんには、かなわないよ」
あたしだって、みきたんにはかなわないよ?
みきたんだって、すっごく乱暴なとこ、あるじゃない?
ほんと、怖いんだから。
- 88 名前:ビー玉の弾丸 投稿日:2004/06/18(金) 22:14
-
ぴったりと寄り添って眠ったせいか、
あたしの夢のなかには、また、するりとみきたんが入り込んできた。
今度は南極じゃなくて、ステージの上。
目も開けていられないような眩しいスポットライトを浴びていたら、
突然、割れるような拍手喝采と声援がわき起こって、
なぜだか向かいのステージに、派手なドレスを着た一人の少女が現れて。
みきたん!
目を丸くして声をあげたあたし。
みきたんはマイクをかまえ、妙に挑戦的な瞳で、あたしをぴたっと指さした。
『来たよ、亜弥ちゃん』
あたしは笑って、彼女に百連発の投げキッスを飛ばした。
☆おしまい ☆
- 89 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/18(金) 22:15
-
『癒しのメソッド』あやみき外伝でした。
ご感想をお待ちしております。
次回は、続編がスタートします。
- 90 名前:ISLAND 投稿日:2004/06/18(金) 22:27
- すみません (ToT)
間に入ってしまいました。
書き込んでしまってから気づきました。
追伸ですが「40」の部分が私的にはツボでした。
あやみき外伝も素敵ですね。
個人的には切ないストーリー展開で雪ぐまさんの右に出る人は
いないかも と思ってます。
文章を書くのに時間が掛かってしまうので
次回の感想はちゃんと見てから書き込みます。
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/18(金) 22:43
- 続編に大期待!!
- 92 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/18(金) 22:47
- 更新お疲れ様です。
あやみき外伝、いいですね〜。
ごっちんと紺ちゃんに対して思ってたことを
亜弥ちゃんがちゃんと言葉にしてくれててすっきりしました。
雪ぐまさんの小説はすごく人間くさいのに美しいくてステキで大好きです。
続編を楽しみにお待ちしています。
- 93 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/18(金) 23:32
- あやみきよかったヨー。・゜・(ノД`)・゜・。
ドキドキしながら読みました。
うっすら、こんごまの姿も垣間見えて、
続編に大いに期待ですね。
楽しみにしております。
- 94 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/19(土) 06:44
- うわぁ…こうきましたか。色んな愛の形はありますが、彼女達の
選択もまたすごいなぁと。この2人の行く末も気になりつつ、次回からの
続編が楽しみです。無理なさらない程度に、頑張ってください。
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/19(土) 08:06
- あやや強いですね。
この強さがごっちんにも欲しいなあ。
- 96 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/19(土) 08:57
- うぅ〜・゜・(ノД`)・゜・この涙は、何なの?
あやみき最高でした!
あ〜もう、何を書けばいいか分からなくなってしまいました。
続編楽しみしてます。頑張ってください。
- 97 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/19(土) 09:29
- もう言葉が…。いしよしに続いてあやみき…次回は続編のこんごま…。
3つのカップルをこんなにも…本当素晴らしすぎます。
今回は、ラストが良かったです。読み返して待ってます。
- 98 名前:名無し23。 投稿日:2004/06/19(土) 13:20
- 新スレおめでとうございます。
いしよし&あやみき外伝、ところどころの小ネタにニヤリとしつつ堪能させていただきました。
それぞれのCPならではの深い味わいがある、最高の物語でした。
う〜ん、雪ぐまさんは、時速160km/hの剛速球と140km/hの高速スライダーと90km/hのスローカーブを投げ分ける人ですねw
この組み合わせで来られると完敗de乾杯な訳ですw(意味不明)
恋愛は深く、怖い・・それでもその煌きに皆魅せられてしまいます。
次回も楽しみにワラジを脱いで待たせていただきますでやんす。
- 99 名前:名無しもっさん 投稿日:2004/06/19(土) 18:24
- 始めて書き込ませてもらいます。
もう、最高の一言です。
登場人物ごとにその人のもつ雰囲気を書き分けられる、あなたの才能に脱帽です。
できればあやみき主体の話を長編で書いていただければなぁ、と。
これからも応援させていただきます。
- 100 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/20(日) 21:40
- 63> 名無飼育さん様
おや、途中に差し込まれてしまいましたね。わざとではないと思いますが、
読みにくいと感じられる読者様もいらっしゃるので、以後、お気をつけくださいませ。
お褒めいただき、ありがとうございます。申し訳ないのですが、
今回は梨華ちゃん視点は予定しておりません。どうぞ皆さまのお心の中でご推察のほどを……。
72、90> ISLAND様
いえいえ、以後、お気をつけくださいませ。丁寧にレスの文章を考えていただいているようでうれしいです。
40は、うん、きっといしよしってこういう関係なんじゃないかなあと思うんですよw
91> 名無飼育さん様
ご期待に添えるよう、頑張ります。
92> オレンヂ様
いつもありがとうございます。ごっちんと紺ちゃんのキモチ、垣間見えましたでしょうか。
続編はさらに人間くさく、なんてったって、まずはまこっちゃん視点ですからw
93> 名無しぽき様
よかったっすかー。安心しました。あやみきを書くと、雪ぐまは元気になりますねぇー。
前向きでパワフルで、かわいくって、ちょっとマヌケw さてさて、続編のほうは…。
94> Stargazer様
お気遣いありがとうございます。彼女達の選択はまたキビシーですが、
怒濤のあやみきパワーでぐいぐい乗りきっていただこうと思いますw
95> 名無飼育さん様
そうですね。そしたら少なくとも別れはしないでしょうけど、でも…。
うむむ。あややにはあややの魅力、ごっちんにはごっちんの魅力があるのでしょう。
- 101 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/20(日) 21:40
- 96> 名無し読者様
うぅ〜・゜・(ノД`)・゜・その涙は、やはり愛ですよ!w
あ〜もう、レスも何を書いていいのかわかりません。とりあえず、ありがとう♪
97> 名無し読者79様
ひとつの学園で育まれた3つの恋模様。てゆうか、この学校通いたい、雪ぐまはw
ラストは超前向きハッピーエンドの予感。やっぱ清々しさがありますね。
98> 名無し23。様
素晴らしく光栄なたとえ、ありがとうございます。各CPならではの恋物語を考えるのは楽しいです。
続編は、初のまこっちゃん視点でドキドキだ! またお楽しみいただけることを祈りつつ。
99> 名無しもっさん様
初めまして♪ お褒めいただき、ありがとうございます。あやみきの長編かぁ…(もやもや妄想中)。
実験体と研究者の許されぬ恋……とか、面白いかも?w でも、ちょっと今はまだまだ。考えておきます。
それでは、本日の更新に参ります。
- 102 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/20(日) 21:41
-
本日から、『癒しのメソッド』続編、スタートです。
でも、続編というのともちょっと違って……まこっちゃんが見ていたひとつの恋の物語、でしょうか。
本編とリンクしながらお読みいただけると幸いです。
では、まったりと始めさせていただきます。
- 103 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:42
-
『癒しのメソッド〜初恋自転車〜』
- 104 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:43
-
初恋は叶わないっていうからさ、
まあハナっから期待とかはしてなかったわけよ。
だけどさ、なんでだかちょっと手が届きそうだったから、
たぶんどうにも苦しいわけで。
- 105 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:43
-
学校帰りの土手で、あたしはひとり夕焼けを見ていた。
先週まで、一緒にあさ美ちゃんがいたよ。
長く伸びる二人の影を見ながら、ゆっくり歩く帰り道。
いつの頃からか、この土手にさしかかると並んで座って、
真っ赤な夕陽を眺めながら、おしゃべりしたり、笑ったりするようになった。
『さてと、そろそろ、帰らなきゃ』
18時になると、そう呟いてスクッと立ち上がるあさ美ちゃん。
でも、いつも名残惜しそうに、夕陽が落ちていくのを振り返って見つめてたっけ。
ぷくぷくの頬っぺたがオレンジに染まって、きれいだったなあ。
おっきな目のなかに、お日さまの光が全部入っちゃったみたいに見えた。
『あたし、あさ美ちゃんが好きだなあー』
そう言うと、あさ美ちゃんはくすぐったそうに笑う。
それから決まってこう言うんだ。
『私も、まこっちゃんの笑顔が大好きだよ』
- 106 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:44
-
あさ美ちゃんと、後藤さん。
二人がコイビトだってことは先生まで知ってるくらいだったから、
二人がダメになっちゃったことも、すぐにみんな気づいた。
でも、あさ美ちゃんが気丈にしてたから、かえって誰もそのことに触れられなくて、
さまざまに飛び交う噂はすんごく無責任な感じで、
あたしはいつも、あさ美ちゃんの耳を両手でふさいであげたくなった。
後藤さんは、いつも不機嫌そうにぼんやりしてるか、
不思議な薄い笑みをたたえて遠い目をしていた。
天使とか、悪魔とか、そういう人間じゃない気配を感じる。
『ごとーさんが?』
あさ美ちゃんは、くすっと笑ってかすかに目を伏せる。
自分で話をふっちゃうくせに、あたしはいつも苦い気持ちになったんだ。
あさ美ちゃんのココロのなかに、かなりくっきりと後藤さんの面影が舞い降りるのがわかったから。
- 107 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:45
-
忘れてとは言えない。
あんな人、忘れてなんてとても。
でも、いつかは忘れなきゃいけないよね、あさ美ちゃん?
そう思って、ずっと待ってたんだよ。
ずっと待っていたのに。
- 108 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:45
-
◇ ◇ ◇
………………………………………
………………………………………
………………………………………
………………………………………
………………………………………
………………………………………
◇ ◇ ◇
- 109 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:46
-
あさ美ちゃんって、もうHなこととか知ってんのかなあ。
なーんて、何考えてんだあたしったら。もお、やだねぇ〜。
あたしは一人勝手に恥ずかしくなって、ガバッと教科書に顔をつっこんだ。
でもさ、あさ美ちゃん見てたら、なんかそういうこと考えちゃう。
あさ美ちゃんはだいたい真面目に授業を聞いてるんだけど、
時々、すっごくぼんやりしてる日とかあって、今日とかもそう。
教科書に目を落としてるふりをしながら、その瞳は記憶の中を見つめているみたい。
それで、時々、口元をかすかに緩めたり、ふうっと小さく息をついたりするんだ。
すっごく幸せそうに。
それってさー。
なんかあったのかなって思うじゃん?
後藤さんのことでも思い出してんのかなーとか。
うー、なんかちょっと想像つかないな。
色気より食い気みたいなあさ美ちゃんが、
キスとかしたり、もっとHなことまでしてるかもとか。
- 110 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:47
-
入学した頃は、三つ編みメガネのガリ勉ちゃんって感じのコだった。
席が近かったからよく話しかけたんだけど、
ても、3回に1回くらいしか返事が返ってこなくて、
もしかして、ひとりでいたいタイプなのかなーなんて思ってたんだよね。
そしたら夏休み前くらいに、いっきなりメガネ外してきて。
「うわー、別人みたいだねぇ!」
言っちゃってから、ありゃ、失礼だったかなと思ったけど、
あさ美ちゃんは気を悪くするふうでもなく、照れくさそうにエヘヘと微笑んだ。
次の日には、まじめそうに見えた三つ編みもほどいてきた。
スカート丈も短くなって、びっくりするくらいきれいな脚がすらりと伸びてた。
その変身は芋虫が蝶に変わったくらい衝撃的で、あたしはポカンとするばかり。
どんどんきれいになって、明るくなって、それからなんでかちょっと色っぽくなった。
ふとした仕草や表情が、時々すごく大人びててドキッてする。
その理由が、あの後藤先輩だって知って、すげーって思ったんだ。
後藤さんすげー。恋ってすげーって。
- 111 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:48
-
「あさ美ちゃんって、大胆やの」
「ほえ?」
ある日の体育の授業の前。
更衣室で愛ちゃんが、いきなりとんでもないことを囁いてきた。
「あれ、キスマークってやつじゃないかし?」
周りに気づかれないように、そっと指を差すほうをみると、
あさ美ちゃんの背中の、キャミソールで見えるか見えないかあたりの肩甲骨の上に、
虫刺されみたいな小さな赤い痣が、チラリと顔を覗かせていた。
肌が白いから、けっこう目立つ。でも。
ほあ〜? あたしは首をひねった。
キスマークって口紅のあとのことじゃないの?
「まこっちゃんは子供やのー」
愛ちゃんはどことなく得意げにそういうと、
自分の手首の内側に唇をあて、チュッと吸った。
「ほら」
そこには、あさ美ちゃんの背中と同じ赤い痣。
うっひょーーーー!!!!
あたしはたちまちトマトよりも真っ赤になった。
なんすか!そういうことすか!
- 112 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:48
-
「あの様子じゃ、あさ美ちゃん気づいてないのー」
隣のロッカーの子になにか話しかけられて
キャミソール姿のまま、うんうん頷いてるあさ美ちゃん。
はよ、体操服きたらいいのに。愛ちゃんは心配そうに顔をしかめた。
噂になるのを心配してるんだろう。
あたしはもう心臓がばくばくして、それどこじゃなかった。
なんで、なんであんなとこ?
後藤さんの唇が、あの場所に触れた。
そのシーンが、妙にリアルに頭の中に浮かび上がってしまう。
その時、あさ美ちゃんはどんな顔をしたんだろ。何を思ったんだろ。
なぜか、ツンと鼻の奥が熱くなった。
あたしが知らないことを知ってるあさ美ちゃん。
あたしの知らないあさ美ちゃんを知ってる後藤さん。
目をそらし、がばっと体操服を着た。
視界が遮られた瞬間、一瞬マジで泣いちゃいそうになった。
なんだろ、あたし、変だ……。
「ぷっはー!」
襟ぐりから頭を出して、景気づけに大きく息をつく。
あさ美ちゃんのほうを見ると、愛ちゃんに背中のことを耳打ちされ、
ゆでダコみたいに真っ赤になって、ものすごい勢いで体操服を着込んでるところだった。
◇ ◇ ◇
- 113 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:49
-
あさ美ちゃんは、後藤さんとのことについてあまり口を割らない。
「ファーストキスの場所は?」とか「どこまでいってるの?」とか
そういう興味しんしん女子高生な質問されても
笑ってごまかすだけで、ほとんどのってこない。
うれしそうに自分から暴露しちゃう子もいるのにね。
だからかな?
嘘かホントかわからない噂が、じゃんじゃん流れてた。
二人がラブホに入ったのを見たとか、そういうの。
校内には何組か有名なカップルがいて、やっぱりそういう噂の餌食になってる。
だけど、あさ美ちゃんの場合、気の毒なのは、噂に悪口入ってることかな。
全然お似合いじゃないとか、なんであの子が後藤先輩ととか、
そういうこと平気で言う子たちがいる。
「アホなこと言う子たちやの」
妙にまっすぐなとこがある愛ちゃんは、
あさ美ちゃんをあたしたちの仲間にするって決めたみたいだった。
うん、あたしも大歓迎。ずっとあさ美ちゃんがポツンてしてたの、気になってたしさ。
- 114 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:50
-
だけどさ。
みんなが言うのとは違う意味であたしは、
あさ美ちゃんと後藤さんって、あんまりお似合いじゃないよねとか思ってたりして。
だってさ、ちっと違和感な〜い? なんか、異質っていうかさ。
それに、なんだろう。
後藤さんといる時のあさ美ちゃんって、あさ美ちゃんじゃないみたいっていうかー。
すんごくおとなしい感じだしさ、ちょっと後ろなんて歩いちゃってさ。
- 115 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:50
-
「後藤さんって、なんか緊張しない?」
「うーん」
あさ美ちゃんは首をかしげる。
緊張……うん、まあ、することもあるけど。
「あの、昔なにかの本で、読んだことが、あるんだけど」
「うん」
「その人といる時に“楽しい”って感じる人と、“うれしい”って感じる人が、いて」
つまり、それがその、友情と恋の違いっていうのかな……
そんなふうに言うあさ美ちゃんの声音は、
バニラエッセンスをふりかけすぎた生クリームみたいに甘くって。
「うおー。恋だって!」
あたしはなんか胸のあたりがむずかゆくなって、
そこいらへんをぴょこぴょこ飛び跳ねた。
「もー! まこっちゃんが訊くから答えたんでしょー!」
ふざけながらあたしを突き飛ばす真似をするあさ美ちゃんは、
確かにあの後藤さんと恋とかしていて、だからこんなに毎日ご機嫌なのかな?
だから、どんどんキレーになってくのかな?
- 116 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/20(日) 21:51
-
「あいたたたたた……」
体育の時間、目をおさえてしょっちゅう悶絶してるあさ美ちゃん。
コンタクトって、大変みたい。
風に舞った砂が目の中に入っちゃうと激痛なんだって。
「無理することないのにー」
「だって、ごとーさんが、メガネないほうがいいって」
そう言ってあさ美ちゃんは、はにかんだみたいに笑った。
- 117 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/20(日) 21:52
-
本日はここまでといたします。
- 118 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/20(日) 22:22
- …一番乗り?ま、それはさておき。初っ端から、ぐいぐいと引き寄せられる
文章ですね。今後のことを考えて、今のうちから本編を熟読しつつ…無理の
ない更新で頑張ってくださいませ。
- 119 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/20(日) 23:44
- 新章(?)おめでとうございます。
あの話を、多角的に見ることができる…ステキですねw
ゆったりとお待ちしております。
ムリせず、雪ぐまさんのペースで。
- 120 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/21(月) 00:03
- お待ちしていました♪
違う視点から見れるってうれしいですね。
しかし、最近自分の中で紺ちゃんがかなりきてます。
きっと雪ぐまさんの小説のせいですw
- 121 名前:名無しマカー 投稿日:2004/06/21(月) 00:13
- ごっちんと紺ちゃん二人だけの密やかな恋を
より近いところから見られるなんて、
なんていうか、おトクな気分です。続編(でいいのかな?)バンザイ!
読みながらずっと、まこっちゃんの顔が思い浮かんでました。
- 122 名前:時限爆弾 投稿日:2004/06/21(月) 03:34
- お久しぶりです。レスが遅れて非常に申し訳ないのですが、癒しのメソッド完結、お疲れ様でした。そしていしよし、あやみき、続編開始と短期間で執筆なされた様で、驚いてます。流石雪ぐま先生。私、一日にして一通りの感情が溢れてきました。お蔭様で一日がとても充実しました。感想は長文になりそうなので、控えます。…先生最高です。執筆頑張って下さい。ずっと、見守ってます。
- 123 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/21(月) 16:39
- 今回のまこっちゃんは、リアルのデビュー時の髪型に戻った姿が思い浮かび
ました。彼女によってどんな風にこれから語られていくのか…
また楽しみな毎日が戻ってきました。次回も待ってます。
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/21(月) 19:36
- 続編はこんまこですか
ごっちんには辛い展開っぽいですが、紺ちゃんが幸せなら・・・。
- 125 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/21(月) 20:32
- 118> Stargazer様
一番乗り、ですね。まこっちゃん、初っぱなからエロい想像ふくらませちゃってますw
紺ちゃんもボーッとしてるっていうか、ごとーさんが鬼というかw
119> 名無しぽき様
ああ、新章。そういう感じかな。あの時やあの時の紺ちゃんの様子を見ていたまこっちゃん。
それから愛ちゃん。5期メン仲良し物語みたいな感じで、のんびり進んでいきますw
120> オレンヂ様
雪ぐまは、まこっちゃん、愛ちゃんがきていますね。やっぱ観察するからw
4期メンは家族、5期メンはクラスメイトがよく似合うなーと思います。あっ、ガキさんも出てきますよw
121> 名無しマカー様
まこっちゃんと愛ちゃんには、二人のホントのとこは見えないんですけど、
でも、ごとーさんが知らない紺ちゃんの姿を見ています。等身大の紺ちゃん、っていうのかな……
122> 時限爆弾様
では、長文感想は、ぜひサイトのBBSのほうへ。お待ちしています♪
にしてもなんか、ドラマのなかで編集者にヨイショされてるみたいですねぇ。>「センセイ、最高です」w
123> 名無し読者79様
まこっちゃんはすっかり雰囲気変わりましたよねぇ。最初はあんなにキリッとしてたのに……
雪ぐまは今のほうがほんわかしてて好きですけど、時々心配になる、グッズ売り上げとかw
124> 名無飼育さん様
おお、紺ちゃんが幸せなら! さてさてどうなりますか。
まったりとご愛読くださいませ。
それでは、本日の更新に参ります。
- 126 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:34
-
愛ちゃんは、さっきから熱心に手帳にペンを走らせている。
メモってるのは、あさ美ちゃんが教えてくれた服屋さんの名前。
二学期の中間試験が迫るなか、グループ発表の準備で週末に集まらなくちゃいけなくて。
パッパとすませちゃおうよなんて話してたのに、
愛ちゃん、あさ美ちゃんの私服が、どーしても気になったみたい。
まあ、なんかわかるけどね。
制服姿しか知らない友達が、びっくりするくらいかわいい着こなしで現れたらショーゲキだもん。
あたしも驚いてる。今日のあさ美ちゃん、ちょっと別人みたいじゃん?って。
それにあさ美ちゃんって、こうして見るとあんがいむ、胸が……じゃなくて!
ス、スタイルいいよねぇ〜、うん。
- 127 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:34
-
「ほーか。やっぱ原宿とかで買ってるんやのー」
「ついで、だよ。髪をね、ごとーさんのお友達の美容師さんに、切ってもらってて」
「それ、どこ?」
もう、グループ発表なんてそっちのけ。
身を乗り出す愛ちゃんにノセられて、あさ美ちゃんはいつもよりおしゃべり。
そんなに高くないんだよとか、古着屋さんも面白いよとか、
どこそこのカフェのケーキがすごくおいしくてとか、
ほっぺを赤くして、ぶんぶんと身振り手振りをつけながら、熱心に話しはじめる。
ごとーさんとのデートの様子を。
「後藤さんって、私服どんな感じ?」
「うーん…、あんまりこういう感じって、決まってなくって」
パンツも、スカートもどっちもよく似合ってて。
なんか、テキトーに着てる感じなのにセンスよくって。
いろんなお店知ってて。アクセサリーいっぱい持ってて。
よく笑うし、あの、転びそうになるとサッて助けてくれて。
それで、私のお洋服とか選んでくれるし、似合うものとか見つけてくれたり、
私、レストランとかで、あの、ほら、迷っちゃってなかなか決められないじゃない?
でも、決まるまでずっと待っててくれて、……うん、やさしい。
- 128 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:35
-
「くわー! なんか、ノロケになってきてないっすかぁ? あさ美ちゃ〜ん」
「そ、そんなことないよっ!」
あさ美ちゃんの唇からこぼれ落ちてくるごとーさんは、
思ったとおりオトナでクールでかっこよくって、いろんなこと知ってて。
でも、面白かったり、気まぐれだったり、甘えん坊なとこもあったりして、
あたしと愛ちゃんは、へぇ〜っ?って思う。
「ハァ……、うらやましい」
ふいに、愛ちゃんが深々とため息をついた。
「いいねー、後藤さんみたいな人が恋人やなんて」
「え……?」
「なんか後藤さんと一緒にいると、いろいろ勉強になりそうやがのー」
「あ、そ、そう、だね……」
原宿情報によっぽど感激したのか、妙に後藤さんリスペクトの愛ちゃん。
褒められてるのに、なぜかあさ美ちゃんはうつむいて黙り込んだ。
- 129 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:36
-
およ? どしちゃったの? 首をかしげたあたし。
愛ちゃんは、訳知り顔でニッて笑った。
いつもみたいに、鼻のところをくしゃってして。
「安心しぃ。別に後藤さんのこと好きになったりせんよ」
「そ、そんなつもりじゃあ……」
「フフン、顔に書いてあるがし、心配〜って」
うははっ、なーんだ。
たちまち耳まで真っ赤になったあさ美ちゃんを見て、あたしは思わず大笑い。
そっかー、あさ美ちゃんってけっこうヤキモチ妬き〜?
「あさ美ちゃんって、わりと顔に出るの〜」
「そ、そうかな……」
「まあ、まこっちゃんもわかりやすいけどの〜」
「なんであたしの話ーー!!」
たちまち、ぎゃあぎゃあじゃれはじめたあたしたち。
だけど、あさ美ちゃんは波に乗り遅れたみたいにポツンとして。
襟元をぐずぐずさわりながら、きゅっと唇を結び、うつむいてしまった赤い頬。
何かをこらえるようなその表情に、愛ちゃんがあれっ?と心配そうな顔をする。
- 130 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:37
-
「なんやの、冗談やがの」
「……う、うん」
ごめん。
あさ美ちゃんはそう呟いて、
恥ずかしそうにエヘヘと笑いながら、頬っぺたを掻いた。
あっ、よかったぁー。ご機嫌、直ったー。
にへらっと笑い返したあたし。
だけど、愛ちゃんはやれやれというように、ヒョイと肩をすくめた。
「もっと自信、もちねのー」
ちょっと呆れたトーンのその言葉に、またもやあさ美ちゃんは、しょぼん。
え? なになに? なんの話ぃー??
キョトキョトしたあたしにかまわず、二人の話は進んでいく。
「……もてないよぉー、自信、なんて」
ぽてっとした唇から漏れたのは、信じられないほど気弱な声。
あさ美ちゃんは、なんとなく甘えるみたいにその唇を尖らせて愛ちゃんを見た。
クールに足を組んで、さぁ、話してみ?ってな感じで目を細めた愛ちゃんを。
- 131 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:37
-
「どうして?」
「……だ、だって、な、なんで、私なのかなあって、思う、し」
「あさ美ちゃん、かわいいがし」
「だ、だめだよ……顔、大きい」
ぶはっ、た、確かに!
吹き出しかけたあたしを、愛ちゃんがすかさずグーで小突く。
い、いってえ! な、なにするんすかぁーー!!
「なんやの。ごとーさん、そんなことからかうんか?」
「ううん」
「ほやろ? かわいいって言うやろ?」
「……う、うん、でも…私、ごとーさんって、時々、わかんなくて」
ううん、すっごくやさしいんだけど。
なんだろう、ちょっと変わってるし、その、何を考えてるのか……
なんか、あのぉ、……好き、とかも、ずっと、言ってくれなく、て……
はああ?
今度はあたしだけじゃなくて、愛ちゃんも目をまんまるにした。
「なにそれ。好きって言わんで、どーやってつき合い出したん?」
「えっ……」
そっ、それは、なんて首まで赤くなる。
さすがにあたしにもピンときた。
ほほー、なるほどー。なるほどねぇー、あさ美ちゃん。やるねぇー。
- 132 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:38
-
「ち、違うよっ。そ、そんないきなりとかじゃないよっ!」
「よろしいんですのよ〜? 恋は突然にって言いますからねぇー? オーホホホホ!」
「違うってば! ……一応、ちゃんと…言われたもん」
「なんて?」
うちら、つき合おうって。
ぼそっと打ち明けたその言葉に、
愛ちゃんが目を剥いて、ヒューと声をあげた。
「うはぁ、超かっこいい! 後藤さんって自信まんまんやの〜」
「え?」
「つき合おうってすごくない?」
つき合ってほしいじゃなくて、つき合ってみない?でもなくてさあ。
「あさ美ちゃん、ごとーさんのこと好きなの、バレバレやったんやね」
「………た、たぶんね」
あさ美ちゃんは、うう、と呻くと、両手で桃みたいな頬っぺたをぎゅっとおさえた。
もう、バレバレだよ。全部、顔に出ちゃってるんだよ。あー、もうヤダ!
そう言ってジタバタするその姿は、なんだろ、ふわふわの子猫みたいに超かわいくって。
- 133 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:39
-
「かーわいいよぉ、あさ美ちゃんはぁー」
あたしはポンポンと彼女の頭を撫でた。
きっと後藤さんも、かわいくってたまんないと思うよぉー。自信もちなよぉー。
「……そ、そうかな?」
「そうだよー」
「……大丈夫かな?」
「大丈夫だよー」
あたしは、後藤さんの不思議な瞳を思い出す。
あさ美ちゃんがいうように、きっと彼女はちょっと変わってて、
どこ見てるのかわかんないゆらゆらと揺れる視線は、人間じゃないなにか、
そう、天使みたいで悪魔みたいで。
でも、その瞳があさ美ちゃんの姿をとらえてやさしく微笑むのを、あたしも愛ちゃんも知ってる。
何度も見てる。隣にいるあたしたちなんてスルーして、あさ美ちゃんだけに笑いかけるのとか。
だからちょっと、打ち解けにくいんだけどさ……
- 134 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:39
-
「ま、あんま心配せんと。うちらで良かったら話聞くがし」
「そーだよ、細かいこと気にすんな」
「うん、ありがと……あ、そうだ、あの、今度、カラオケ、教えてほし……」
「カラオケ?」
「う、うん。歌をね、……あの、上手に唄う必要が」
必要? はぁ、なんでまた急に?
ええーーっ?! 松浦先輩と藤本先輩と一緒にカラオケ行ったぁ?
そんで、次は石川先輩と吉澤先輩も来るってぇー?
うおお、我が校のアイドル勢ぞろいじゃん!
すんごいメンバーに、あたしは思わずポカーン。
愛ちゃんも、梅干しでも食べたみたいにキュッと顔をしかめた。
「うわー、そりゃ大変や」
「あ、よ、よかったら愛ちゃんたちも一緒に……」
「遠慮しとくわ」
冷たくそう言いながら、愛ちゃんはさっそくどこかからイーカラを持ち出してきた。
うおっ、さすが合唱部の歌姫! 家でも歌いまくりってわけですかい!
- 135 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:40
-
「ほら、唄ってみ?」
「え、や、そ、そんな、急には……」
「慣れやよ、こんなの」
「じゃ、じゃあ、……失礼して一曲……」
♪ ♪
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
♪
…………あー、だめだこりゃ。
声が、びょびょびょ〜〜〜〜ってしてる。
びょびょびょ〜〜〜〜って。
「あかん、もっと腹筋使って! ハイ、まこっちゃん、お手本!」
「ほいきた!」
お〜なかいっぱいにワンダホーーー!ってか?
- 136 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:41
-
「ま、まこっちゃん、上手だねぇ……」
「オーホホホホホ!」
「……うう、よ、よし!」
♪ ♪
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
♪ ♪ ♪
「かーっ、あかん、あかん!」
「ふえぇ……」
「腹筋やがし! 腹筋んとこ力入れて!」
「こ、こう……?」
めらめら燃える愛ちゃんのスパルタ教育に、どんどん泣きそうになってきたあさ美ちゃん。
あたしや愛ちゃんには簡単にできることが、彼女はなぜかできなくて。
頭いいんだし、べつに歌なんか歌えなくてもいいと思うんだけど、
彼女は顔を真っ赤にして何度も、何度でも歌った。
どうしても震えちゃう声を、一生懸命はりあげて。
- 137 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/21(月) 20:42
-
「カ、カモンセイアゲン!」
「怒鳴ったらあかんて」
「……カ、カモンセ…アゲン?」
「いや、もっと自信持ってや」
へたくそだと自分が恥ずかしいのもあるだろうけど、
きっとあさ美ちゃんは、自分が下手だとお友達の前で、
後藤さんが恥ずかしい思いをすると思って。
うーん、けなげだねぇ〜。
「ところで、後藤さんって歌うまいの?」
「もう、プロ級だよ、プロ級っ!!!」
なぜかあさ美ちゃんは、そこだけ複式呼吸に大成功。
スピーカーが割れんばかりの大音量に、あたしたちは耳がキーーンとなった。
- 138 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/21(月) 20:42
-
本日はここまでといたします。
- 139 名前:tsukise 投稿日:2004/06/21(月) 20:46
- 更新お疲れ様です。
ひ、ひっそりさんなので一言だけ…(ぇ
腹式最高デス(笑
- 140 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/21(月) 20:50
- 音符ワラタ…
いやいや、久々の雪ぐまほのぼのワールド。
いいですねぇ。好きです、この世界観。
- 141 名前:名無しもっさん 投稿日:2004/06/21(月) 21:08
- 小川さん視点だとなぜか安心して読めますねえ。
彼女のもつほのぼの具合が滲み出ているようで。
>>99 実験体と研究者の許されぬ恋……
ぜひぜひお願いします!
シチュエーション聞いただけでドキドキしてる自分って一体(w
- 142 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/21(月) 21:53
- まこっちゃんってこういう擬音使いそう〜と笑いながら読みました。
愛ちゃんいいキャラですね。ガキさんの登場を楽しみにしています。
- 143 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/21(月) 21:59
- すいません、雪ぐまさんの手の平の上で踊らされてます。w
も〜、小川さんが可愛いぃ〜。もちろん、紺野さんも可愛いんですが。w
やはり5期はクラスメート、ですねぇ。
- 144 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/22(火) 00:15
- 腹式呼吸、最高です!!w
紺野は健気で小川はアフォキャラで高橋はちょっとお姉さんぶってて
絶妙なバランスが保たれてるな〜って思います
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/22(火) 12:39
- うひょー おもしれー―。
- 146 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/22(火) 18:26
- 139> tsukise様
ご無沙汰しております(ペコリ。あ、褒められた〜と思って見返して、
腹式の字が間違えてるのに気づいた!w ハァ、まだまだ修業が足りませんw
140> 名無しぽき様
5期メン3人娘。のほのぼのワールド、気に入っていただけてうれしいですw
紺ちゃん、こんなに穏やかな世界が似合うのにね……まったりが似合うのにね……
141> 名無しもっさん様
リク、恐縮です。でも、あの、あんまり期待しないで〜〜〜(泣
なんてったって、愛トメも途中なのです、今の雪ぐまは……うぅ。
142> オレンヂ様
まこっちゃん書いてると、楽しいですよぉ〜。自分も挙動不審になるw
愛ちゃんはちょっぴり融通がきかなくて、3人のなかではリーダー格、なのかな。
143> Stargazer様
小川さんはかわいいですよぉ〜。もうハロモニとか見て、雪ぐまは毎回悶絶してますw
最近は愛ちゃんもキャラが立ってきましたね。クラスメイトの3人娘。書いてて超楽しいです。
144> 名無し読者様
うん、なかなかバランスのいい3人です。ここにガキさんが入ると一気にソウルフルな風が?!w
それは冗談ですが、ガキさんは後輩として出演してもらおうと目論見中。
145> 名無飼育さん様
うひょー ありがとうございますw
それでは、本日の更新に参ります。
- 147 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:27
-
友達のキスシーンなんて、照れくさくって見たくない、でしょ?
とくに、あさ美ちゃんのは見たくなかった気がするよ。
- 148 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:27
-
運動会の日、後藤さんとお昼を食べに行ったあさ美ちゃんを、
あたしと愛ちゃんは迎えにいったんだ。
隣のクラスにわざと聞こえるようにあさ美ちゃんの悪口言ってる子たちがいて、
それをいきなりあさ美ちゃんに聞かせたくなくて。
応援合戦の後藤さん、思わずポーッとしちゃうほどかっこよかった。
ストレートの長い髪を太陽にキラキラとなびかせて歌う姿。
スタイルいいからダンスもすっごいきまってて、
ファンの子たちが騒いでるみたいに、ほんとにアイドルみたいだった。
そんな後藤さんだから、あさ美ちゃんはヤキモチ妬かれて大変だよね。
うちのクラスの子たちは、もうかなり応援モードなんだけど、
やっぱクラス違うと、あさ美ちゃんがいい子なんだってこと、わかんないんだよねー。
- 149 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:28
-
「あの子ら、アホなことばっか言って恥ずかしないんかな?」
愛ちゃんは、例によってぷりぷり怒ってる。
あたしはさ、ちょっとは仕方ないんじゃん?って思ってたりして。
悪口言ってる子たちはさ、後藤さんに相手にしてもらえなくて悲しーんだよね。
「相手にしてもらえんのは、自分のせいやわ」
「うー、愛ちゃんは厳しーなぁ」
「なんで? あさ美ちゃんのせいやないやろ?」
「そーだけどぉ」
あんまり相手にしてもらえないと、
その人のココロを奪ってる人が恨めしいってキモチになる。
……わからんでもないけどなぁ。
- 150 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:29
-
そんなことをしゃべりながら校舎の通用口に入りかけた瞬間、
あたしと愛ちゃんはあっけにとられて、ピタッと口を閉ざした。
な、なんと、バッチリ目撃しちゃったんだ。
後藤さんにつかまえられて、思いっきりキスされちゃってるあさ美ちゃんを!
あたしたちは申し合わせたみたいにくるっと踵を返し、
最初は忍者のごとく抜き足差し足で、
それから脱兎のごとくダダダッと全速力でクラス席へと駆け戻った。
走ったせいだけじゃなく、すっごいドキドキしてた。
愛ちゃんも、息を切らせながら真っ赤になってた。
あたしたちは目を見合わせ、たはっ……と情けない顔をする。
たぶん、同じこと、考えてたと思う。
すっごい、後藤さんって、強引なカンジ!
- 151 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:30
-
階段の踊り場なんてとこで、思いっきり唇をふさがれてたあさ美ちゃんの横顔。
泣いちゃいそうなほど切なげに、すごく苦しげに眉を寄せてた。
後藤さんにギュッと肩をつかまれて、まるで唇を食べられてるみたいだった。
それがなんか……、なんだろ、なんかの映画で見た美しいバンパイアと少女、みたいな?
ちょっと怖くて、うわあって感じで、でも、すっごくやらしくて……
すっごく胸が痛くなるみたいな……
「……どうしよ、ドキドキが止まらん」
愛ちゃんが、心臓のあたりを抑えて、えへへと笑った。
自分がされてるわけでもないのにの、なんて照れくさそうに。
そうだよ、キスされてたのはあさ美ちゃん。
あさ美ちゃんで……あさ美ちゃんが……
- 152 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:30
-
「う……うあああああああああああ!」
「どっ、どしたんやの、まこっちゃん!」
「む、む、胸がカユいぃぃぃ〜〜〜!!」
「はぁ〜?」
なんやの、それ。
がりがりと胸を掻きむしったあたしの肩を、愛ちゃんが笑って小突く。
「まこっちゃんは、あっちこっち掻きすぎや」
「ち、違うぅ〜! 胸のなかぁ〜〜!」
「ええっ?!」
あああああ! これ、絶対、変な虫がいるよ!
どうなっちゃってるの、あたしのココロ!
びょういん、病院行かなきゃあ!!!
「どしたの?」
「うっひゃぁ!!!」
振り返ると、いつの間にか席に戻ってきていたあさ美ちゃんが、
わたわたと落ち着きのないあたしと愛ちゃんを見て、ほんわりと首をかしげていた。
そのノンキな様子は、あんまりにもいつもどおりのあさ美ちゃんで、
あたしたちはからかうこともできずに、密かにどぎまぎするばかり。
- 153 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:31
-
「あ、お、おかえり……」
「ただいま」
はああ〜〜、困っちゃうよぉ〜〜、もおお〜〜〜。
妙にもじもじしてるあたしたちには目もくれず、
あさ美ちゃんは席につくとやおらプログラムを広げて、そわそわしはじめた。
「ど、どしたの?」
「ん……ごとーさん、クラス対抗リレーに出るって」
ま〜た、後藤さんかい!
まったく、あさ美ちゃんの頭の中は後藤さんのことばっかり。
中間の成績、ひどかったって噂になってるよ?
ラブラブもいいけど、もっとしっかりしなきゃダメじゃん。
妙にムッとしつつも、ついついあさ美ちゃんの唇を凝視してしまうあたし。
ムムム、心なしか、いつもより赤くなってるような……
これは、す、す、吸われて、充血してるってことですかい……?
「? なんか顔についてる?」
「いえっ!全然!」
- 154 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:32
-
カモシカのように後藤さんは校庭を駆けて、あっという間に3人もゴボウ抜きにした。
ワッと盛り上がった歓声のなか、ゆうゆうとゴールの白いテープを切って彼女は満足そうに笑う。
そして、そのままなめらかに身を翻し、天にバトンを振り上げた。
それは、煌めく剣のよう。
あさ美ちゃんに向かって、あさ美ちゃんだけを見つめて、
この勝利がまるで、あさ美ちゃんのためだけであるかのように微笑み。
あさ美ちゃんが一瞬息を呑み、
そしてその瞳がうっすらと潤んでいくのを、あたしは彼女の一番近くで見ていた。
スローモーションみたいに彼女はまばたきをし、うっとりと眩しげに目を細める。
たちまちクラスメイトの冷やかしに囲まれてうつむいてしまったけれど、
それまでのほんの数秒の、からまりあった視線の熱さに、
あたしはなぜか後ずさってしまい。
なんだ? この人たち。
あたしはなぜか、恐怖を感じる。
得体の知れない感じ。ううん、後藤さんはもともとだけど、
あさ美ちゃんも、なんか、なんか……
- 155 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:32
-
その時だった。
あさ美ちゃんの幸福を打ち砕こうとする黒い矢が、彼女の背中に刺さった。
「ブス」
あさ美ちゃんはカアッと目尻を染めて、苦しげに目を伏せた。
あたしはとっさに声がしたほうを振り返ってガルルルルルと睨み、
愛ちゃんはあさ美ちゃんをかばうように、サッと肩に手をかけた。
「気にしたらあかんよ」
「……うん」
あさ美ちゃんは小さく息を吸うと、ぐっと顔をあげた。
その横顔は思いのほか凛々しくて、もちろんブスなんかじゃなくて、
むしろうちらの学年では誰よりも大人びてて、
きれいな露がついた朝顔みたいにしっとりとしてて。
- 156 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/22(火) 18:33
-
ほんとにきれいになった、あさ美ちゃん……
あたしはさっき感じた恐怖なんて忘れ、思わずボーッと見とれてしまった。
天使のようで悪魔のような後藤さんに、
どんどん変えられていくあさ美ちゃんのことを。
- 157 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/22(火) 18:34
-
本日は、ここまでといたします。
- 158 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/22(火) 19:31
- 本編では見られなかった姿、
しかと見届けております。
いろいろあったんだね、紺野…
そして2人の視線はいつもあたたかいなぁ。
- 159 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/22(火) 19:59
- そんなことがあったんだぁ…と、しみじみしちゃいました。
小川さん視点の奥深さを感じつつ、ふと思ったのは…この話は
続編というよりも、もう1つの本編なんじゃないかなぁという
ことです。何か上手く言えませんが…更新、お疲れ様です。
- 160 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/22(火) 20:21
- 本編では語られなかったことがグサッときました。
紺野さんは…。まこっちゃんと愛ちゃんがいい感じです。
- 161 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/22(火) 22:39
- ぐはぁ・・・そんなことがあったんですね。
がんばれ紺ちゃん!
でも、女って怖いなぁ〜
- 162 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/23(水) 02:39
- 紺野さん色々あったんだなぁ・・・ほろり。
そして小川さんにも色々心の葛藤があるようで・・・
更新お疲れ様でした。また続き期待して待ってます
- 163 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/23(水) 20:19
- 158> 名無しぽき様
なにやら、あさ美姫を守るナイト2人という様相を呈してきていますw
なんだかんだいっても恋する紺ちゃんの姿が健気だから、2人も一生懸命かばうんでしょうね。
159> Stargazer様
あ、そうですね。そんな感じかもしれません。続編とはちょっと違いますよね。
まこっちゃんが見ているのは恋の表面ではありますが、客観的にしか見えてこないものもありそうかなと。
160> 名無し読者79様
紺ちゃん、何があってもごっちんの前では笑ってますよ〜。頑固なだけに、意外と根性ありそうです。
まこっちゃんと愛ちゃんは、まっすぐで正義感のある子たち。健やかです。
161> オレンヂ様
残念ながら、世の中にはいろんな人がいますからねぇ〜。でも、紺ちゃんはそんなことには負けないw
一生懸命だし、素敵な恋人と、とってもいい友達に恵まれてますから。
162> 名無し読者様
まこっちゃんは、いつ心の虫の正体に気づくのやらw
ほわ〜と口を開けてる場合ではありませんが、どうやらまだまだお子ちゃまみたいですねw
それでは、本日の更新に参ります。
- 164 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/23(水) 20:20
-
テスト期間が近づくと、あたしたち3人組は図書室にお篭り。
最初の頃は、あたしと愛ちゃんと二人で勉強してたんだけど、
中間でこっぴどい点を取ってから、あさ美ちゃんも一緒についてくるようになった。
「で、これがこうで……」
「あ、そっか。わかったがし」
愛ちゃんは、あさ美ちゃんが来るようになってうれしいみたい。
まこっちゃんに聞いても全然わからんとかいって。
あたしは、別の意味でうれしいかな。
あさ美ちゃんは、頑張ったら東大だって夢じゃないって稲葉先生ゆってた。
だから、ちゃんと勉強する気になってくれたこと、うれしい。
- 165 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/23(水) 20:20
-
18時になると、あさ美ちゃんは必ず席を立つ。
それを合図に同じ駅を使うあたしも帰るんだけど、
愛ちゃんは図書室が閉まるぎりぎりの時間まで残って勉強をしていく。
「愛ちゃんは、頑張り屋さんだよね」
あさ美ちゃんが感心したように言う。
質問も熱心だし、なんて。
それにいちいち答えてあげてるあさ美ちゃんも、すごいと思うけどなあ。
「説明すると、自分もよくわかるから」
あさ美ちゃんは笑う。
ほんわかと、やさしい笑顔なんだ。
- 166 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/23(水) 20:21
-
校門を出かけて、あたしはハッと立ち止まった。
いっけね、今日はやたら早起きしちゃったから自転車で来てたんだ。
うっかり置いて帰っちゃうとこだったっす。
あさ美ちゃんに校門のところで待っててもらって、たかたか走って自転車を取ってくる。
「ハーイ、オガワッショイ一号でーす!」
じゃじゃーんと愛車を紹介すると、
あさ美ちゃんは「変な名前ー!」って、腰を折り曲げて大笑いした。
「駅まで乗せたげる」
「いいの?」
重いよ〜?なんて言いながらあさみちゃんは、自転車の荷台に横乗りした。
軽快に走り出しましたオガワッショイ一号。
なんだ、ちっとも重くありましぇ〜ん。
- 167 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/23(水) 20:22
-
「ほう」
走り出してすぐに、あさ美ちゃんがなにやら感心したように呟いた。
「自転車だと、周りの景色が見える」
ほあ? 自転車だとって、何のこっちゃ。
首をかしげるあたしに、あさ美ちゃんは「えへへ」と笑って、
とんでもないことを言い出した。
「ごとーさんって原付に乗っててね、時々、後ろに乗せてもらうんだー」
「ぅえっ? 二人乗りで、道走るのぉ?」
「うん」
うっそー、モロ交通違反じゃん、それー。
あたしは目を丸くした。
交通違反にもビビったけど、それを許してる……っていうか、
一緒になって乗っかってるあさ美ちゃんにも。
「ケーサツに見つかったらヤバいよぉー?」
「んー、なんか見つからないような気がする」
ごとーさんって、運が強そうなんだよね、だって。
あさ美ちゃんにとって後藤さんっていうのは特別な存在で、
後藤さんとならあさ美ちゃんは、悪いことだって平気でしちゃう。
そうだよね。授業とか補講とか、さぼっちゃったりもするもんね。
- 168 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/23(水) 20:22
-
「ごとーさん、けっこうスピード出すから恐いんだよねぇ」
あさ美ちゃんはご機嫌に話し続ける。
ちっとも困ったふうではなさそうに。
あたしは、なんか不機嫌になってきた。
だってさ、それって見つかったら停学ものだよ?
ぜったい、特待生でいられなくなっちゃうよ?
「やめなよー。危なくない?」
「うん、危ないかも」
わかってるのかいないのか、あさ美ちゃんはノンキに笑う。
そしてもう一度、独り言のように呟いた。
「ほんとに、何も見えないんだよね……」
それって、見えないんじゃなくて、見てないんじゃないの?
あたしはものすごく簡単に思い浮かべてしまう。
後藤さんの背にしがみついて、彼女の肩や、
風になびく髪をぼんやりと眺めているあさ美ちゃんを。
景色なんて、目に入るはずもないよ。
違反だってことも、危険だってことも……
- 169 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/23(水) 20:23
-
胸の奥のほうが、チリチリする。
どうして後藤さん、あさ美ちゃんにそんなことさせるの?
どうしてあさ美ちゃん、そんなことしちゃうの?
ぐるぐると胸に渦巻く言葉は、なぜか喉の奥に詰まって暴れ回るだけで。
- 170 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/23(水) 20:23
-
うう。あたし、ほんとにどうかしてるよぉ。
妙な胸のうずうずを吹き飛ばしたくて、
あたしはやおら「よっしゃあー!」と雄叫びをあげた。
「オガワッショイ一号、原付のスピードにチャレンジしまーーす!」
「ええっ?!」
ガガガーーッと強くペダルを踏み込む。
突然の加速に「ひゃあ!」と声をあげて、あさ美ちゃんがあたしの背にひっついた。
「ちょ、ちょっとまこっちゃーん?!」
「原付ってどんくらいスピードでるのー?」
「し、知らないよぉ〜〜!」
ヤダヤダ怖いよ、お尻痛いよ、まこっちゃーん!
荷台で大騒ぎするあさ美ちゃんの情けない声を無視して、
あたしは全速力で駅までの道を爆走した。
- 171 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/23(水) 20:24
-
本日はここまでといたします。
- 172 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/23(水) 20:29
- リアルタイムで見ちゃいました。本当、この話を読んでいると…小川さんが
非常に可愛くて仕方がないです。w 1人称なのに、3人称で読んでるかの
ような読後感…今後の展開に注目しつつ。更新、お疲れ様です。
- 173 名前:ましろ 投稿日:2004/06/23(水) 21:41
- レスに間があいてしまいました。
変わらずの雪ぐまさんの更新ペースに脱帽です。読む側としてはかなり嬉しい。
まこっちゃん視点の続編、くすぐったいようなせつない感じで好きです。
続編のタイトルの意味も、今日、そういうことねって思いました。
- 174 名前:名無し23。 投稿日:2004/06/23(水) 22:46
- 更新、お疲れ様です。
まこ視点、イイですねぇ。タイトルもさすがです。
ずっと気になってた子に対するどこかせつない気持ち、ビシバシ伝わって来ます。
まこっちゃんはリアルでもムードメーカーって言うか、すごくイイヤツって感じがしてます。
恋する気持ちは誰にも止められないけど、でも危なっかしくもあり・・
いっかいき〜りの青春♪みんな輝いてて素敵です。
- 175 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/24(木) 09:30
- 今回は読んでて笑顔になりました。
まこっちゃん和みますね。こういう友達いいですね。
紺ちゃんの笑った顔が思い浮かんできます。
- 176 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/24(木) 20:02
- 172> Stargazer様
雪ぐまも、最近まこっちゃんがかわいくてかわいくてw 彼女は髪形を変えたみたいですね。
まだ見てないのですが、はやく見たいと思ったりしています。
173> ましろ様
そう、そういうことですw まこっちゃんは自転車(しかも、オガワッショイ一号)、
ごとーさんは原付(しかも、ベスパ)という恋模様ですねw
174> 名無し23。様
そう、いっかいき〜りの青春♪ 青い春らしくみんなそれぞれ不器用に頑張っております。
リアルまこっちゃんはあのソワソワした動きがもうたまりませんねぇw 微笑ましい子です。
175> 名無し読者79様
リアル紺ちゃんも、まこっちゃん大好きみたいですもんねぇ。
きっとたくさん笑顔をくれる女の子なんでしょう。こんまこ、ほのぼの癒し系コンビw
それでは、本日の更新に参ります。
- 177 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/24(木) 20:03
-
いつもソッコーで帰っていくあさ美ちゃんが、
ぼやっと窓の外に舞い散る雪を見てたから。
「今日は後藤さんと帰らんの?」
「ううん、帰るけど」
ごとーさん、進路指導で遅くなるっていうから、待ってるの。
ああ、そっか。
冬が終われば、後藤さんは3年生。受験生だもんね。
「後藤さん、進学するの?」
「うん。専門学校行って、調理師さんになるって」
へぇ、後藤さんって料理するの?
そう聞いたあたしたちに、あさ美ちゃんは「すっごく上手だよ。天才だよ!」なんて主張した。
ハイハイ、わかったわかった。
まったくあさ美ちゃんは、後藤さんのことだとすぐムキになるよね。
あたしたちは笑って、あさ美ちゃんの前に腰かける。
愛ちゃんは部活が始まるまで、まだちょっと時間があったし、
あたしはべつに帰りを急ぐわけじゃないし。
- 178 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/24(木) 20:04
-
いつも帰りはバラバラのあたしたち。
放課後にこうして話してるのは、なんかちょっと特別な感じ。
外は雪だけど、教室の中はスチームがポカポカしてて、
あさ美ちゃんが鞄から出してすすめてくれたヨーグルト飴を舐めながら、
あたしはなんかご機嫌になってきた。
「たまにはさぁー、いいよねぇー」
「何が?」
「こーやって、なんてゆーの? 井戸端会議ってゆーの?」
「まこっちゃん、おばさんくさいよ」
そう言って笑うけど、愛ちゃんもあさ美ちゃんもすっごく楽しそうにしてる。
うーん、よろしいんじゃないですかぁー、女の友情っていうのも。
「あさ美ちゃんって、毎日、後藤さんとどこでデートしてるの?」
「えっ? ご、ごとーさんち、とか」
「ええっ、家? もしかして二人のカンケイは、後藤さんの親公認?」
「……夕方は、誰もいないから」
「ああ、共稼ぎかあ」
親のいぬ間に、ちゃっかり上がりこんでるってわけですかぁー。
ヒュー、お熱うございますねぇー。
- 179 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/24(木) 20:05
-
「フーン。毎日毎日、何話すんやの?」
「え?……それは、まあ、いろいろと」
なぜかポッと頬を染めたあさ美ちゃん。
それを見てニヤリとした愛ちゃんに何を思ったのか、
あわてて、私たちだって毎日いろんなこと話すじゃん、なんてボソボソ呟く。
「友達と恋人は違うやろし」
「そ、それは、そうだけど」
「わかった、Hなことばっかしてるやろ?」
「……愛ちゃん、そこに話、もってきたかったでしょ?」
もう。
拗ねたようにそう口を尖らせながらも、
あさ美ちゃんの頬は、まるっきり緩みまくってて。
ごとーさんとのこと、妙に口が重いあさ美ちゃんだけど、
あたしたちのことは信頼してて、つまり、たまにはノロケてみたいと、そういうことかもしれない。
愛ちゃんにノセられたふりをして、あさ美ちゃんは時々、
ぎゅっと握ってる手のひらをちょっとだけ開いて、あたしたちに見せてくれるんだ。
彼女が大切にしてる、きらきら光る記憶のカケラを。
- 180 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/24(木) 20:06
-
縁日での約束のキス。
洗濯してもごとーさんの匂いのパジャマ。
いつも冷房がききすぎてて心配だった夏の水槽。
ギシギシ鳴るのが少し気になる黒くて大きな革のソファー。
甘い香りのアロマオイルは、“花のなかの花”という意味。
メープルシロップをたっぷりかけてくれたキツネ色のホットケーキ。
遊園地で初めて好きと言ってくれた時、瞳に映ってた花火の色。
毎日、18時に帰んなくちゃいけないのが、すごく寂しくて。
電話したいけど、なんだかできなくて。
会えない夜が長くて、朝が待ち遠しくて。
次から次へと取り出される、
それはなんて甘くてぎこちない初恋の風景。
- 181 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/24(木) 20:07
-
「いいな……」
愛ちゃんは頬杖をついて、うっとりと目を細める。
あたしは冷やかす。力いっぱい冷やかして、あさ美ちゃんを笑わせたり拗ねさせたり。
あさ美ちゃんと後藤さんの話。
聞きたくて、もう全部あらいざらい聞き出したくて、
でも、すっごく聞きたくないのはどうしてだろう?
ツンツンと細い肩をつっついたりしながらあたしは、
頬に張りついてる笑顔ってやつを意識してる自分にふと気づく。
だけど、どうしても気になって。
気になって気になって気になって。
- 182 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/24(木) 20:07
-
「ねーねー、チューすると、どんな感じぃ?」
「……今日のまこっちゃんはダイレクトだなぁ」
…………あったかくて気持ちいい、よ……、うん。
消え入りそうな声でもじもじとそう答えるその恥ずかしげな唇の動きが、
やけにHっぽく見えて、あたしまでカアッと赤くなった。
隣を見ると、愛ちゃんもオサルさんみたいに真っ赤っ赤になってて、
でも、さすがです隊長、 「じゃあ、Hは?」とか、さらにダイレクトに切り込むあたり!
「え、あ、そろそろ時間かな……?」
「こら、ポン野!待て!吐け!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐあたしたちにひらひらと手を振って、
あさ美ちゃんは楽しげに笑いながらマフラーを揺らして駆け出していった。
今日も後藤さんと約束してる、待ち合わせの校門へ。
- 183 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/24(木) 20:08
-
あたしたちは、チェッ逃げられたとかブツブツ言いながら、
ヤジ馬のごとく廊下の窓に張りついて、校門のほうをのぞき見た。
雪はいつの間にかやんでいて、うっすらと白く染まった夕暮れ。
校門には、寒そうにコートの襟を立ててマフラーに鼻先をうずめた後藤さんが待っていて、
あさ美ちゃんが駆け寄ってきたのに気づくと、
不機嫌そうだった頬をとても幸せそうに緩めて笑った。
ここからは見えなかったけど、きっとあさ美ちゃんも幸せそうに、
もう蕩けちゃいそうに笑っちゃってるんだろうな。
「ラブラブや」
「うん」
後藤さんは毛糸の手袋の先で、ちょんとあさ美ちゃんの頬に触れ、
それから、当たり前のようにパッと彼女の手をとって歩き出した。
スタスタと無造作に歩く後藤さんに手をひかれて、あさ美ちゃんはチョコチョコついて歩く。
時々、雪に足元をとられて、小さくよろめいたりしながら。
「ほんと、ラブラブや」
「うん」
あたしは黙って、二人の後ろ姿が曲がり角に消えてしまうまで見送っていた。
どうしてだか愛ちゃんも何も言わずに、寄り添う二人の後ろ姿をじっと眺めていた。
- 184 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/24(木) 20:08
-
本日はここまでといたします。
- 185 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/24(木) 21:08
- こんなこともあったんですね…(うっとり
本当こういう友達最高です。ほのぼのします。
更新お疲れ様でした。
- 186 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/24(木) 23:37
- 更新お疲れ様です。
はぁーステキですね〜。
こういう女友達は
川o・-・)<完璧です。
- 187 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/25(金) 00:26
- まことは小さな幸せをかみしめるのが上手ですね
いつもと少し違うことをすごく特別に感じて・・・
こういう感性大好きです☆
- 188 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/25(金) 17:59
- あややのお誕生日ですね。18歳……まだ18歳なのかあの子。
185> 名無し読者79様
人知れぬごっちんの努力で穏やかな恋が続いていた、冬のある日のお話でした。
やさしい恋人と楽しい友達に囲まれて、紺ちゃんはご機嫌です。ノロケちゃったりしてね。
186> オレンヂ様
恋に憧れて、恋の話が大好きで、友達の恋が気になって、わいわいとかしましく。
女友達っていいですねぇ。でも、まこっちゃんはちょっと複雑かな、この場合w
187> 名無し読者様
まこっちゃんはかわいいねぇw 見れば見るほどいい子なんだろうなあと思います。
でも気遣いのあるタイプじゃなくて、天然イイコなだけなんだけどw
それでは、本日の更新にまいります。
- 189 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/25(金) 18:00
-
なにやってるの、あさ美ちゃん?
あたしと愛ちゃんは、打ち合わせたみたいに揃って首を傾げた。
- 190 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/25(金) 18:00
-
2年生になって何度目かの音楽の授業。
来るはずの先生が来なくて、あたしたち3人はこれ幸いと
陽当たりのいい窓際のところでおしゃべりしまくってたんだ。
そしたら、急に窓の外に現れた後藤さん。
あたしたちは、幽霊でも見たみたいに目を真ん丸にした。
春の光を浴びて、大きな桜の樹の下でさらりと微笑んでる後藤さんは、
まさにそんないるはずのない異世界の住人みたいに見えた。
もともと白い光に包まれたみたいなきれいな人だけど、
でも、今日はなんだか怖いくらいきれいすぎる。儚すぎる。
なんか、今にも消えてしまいそう……
後藤さんの瞳は、狙い打つようにあさ美ちゃんだけを捉えている。
その口元がわずかに動いて、あさ美ちゃんはみるみるうちに耳まで真っ赤になった。
あたしは、ぐわっとのけぞる。
なんすか? テレパシーっすか? 以心伝心ってやつっすかーーー?!
まあ、とにかくあさ美ちゃんは釣られた魚みたいに、
ぴゅーっと後藤さんのところへ走っていってしまったわけで。
なんなのよ、一体。入れ食いですよ、ホント。
フェイントで先生来ても、しらないからね。
- 191 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/25(金) 18:01
-
ちぇ、話、盛り上がってたのにさ。
面白くないなって思いながら、後藤さんに駆け寄っていくあさ美ちゃんを見てたんだ。
そしたら、あさ美ちゃん、なんか妙なこと始めたんだよね。
リボンほどいて、何? 襟んとこ開いて、何見せてるの?
「……なんか、やらしい」
「……うん」
「なんやろ、キスマークでも見せてるんかな?」
ぐわあっ! 愛ちゃん、あんたの想像のほうがやらしいってばさ!!
ズバリつっこもうとしたその瞬間、もっとやらしいことが起きた。
後藤さんがあさ美ちゃんのチョーカーを指でクイッて引いて、
いきなりチュッてしたんだ!! チュッて!!!
「見た?」
「見た」
キス目撃は2回目ってこともあって、
あたしと愛ちゃんは表面的には、なかなか冷静だった。
でも、内心はドッキドキ。すくなくとも、あたしはね。
だって後藤さん、ちょっと大胆すぎませんかぁ?
角度的にあたしたちから丸見えって、わかってましたよねぇ?
- 192 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/25(金) 18:02
-
「ああ、あのチョーカー見せてたんか」
「あのお守りとかいうやつ?」
「ははーん。さては、後藤さんからもらったヤツやったんやな?」
やーらし。
そう呟いて、愛ちゃんはポッと頬を染めた。
あっ、やっぱ愛ちゃんもドキドキしてたのね?
あー良かった。あたしだけじゃなかったよ、なんて安心したりして。
ほんと、あさ美ちゃんには参っちゃうよ。
さっきまで一緒にバカ話してたのにさぁ、
いっきなりすっごい遠いところに行っちゃうんだよねぇ。
キスとかさぁ、ほんと見たから信じるけど、
そんなこと全然したことありませ〜んってな顔してるくせにさぁ。
- 193 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/25(金) 18:03
-
なんか久々に胸の虫が暴れ出す。
うがーっ!とボリボリ掻きまくってたら、
なにごとか考え込んでた愛ちゃんがボソッと口を開いた。
「後藤さんって、なんか」
言いかけて、やめる。
なによ。気持ち悪いじゃん、言いなよ。
「なんか最初、うちらのこと、ものすごい目で睨んでたよーな」
「ほあ?」
ええ?
なんで睨まれるのよぉ?
うちら、ちゃんと挨拶とかしてるじゃあん。
「ほやの……気のせいかな」
「気のせいだよぉ」
そんなことよりさ。
ちょっとー、どー思う?
あさ美ちゃんさあ、いつまでもごとーさん、ごとーさんってさぁ。
- 194 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/25(金) 18:03
-
「しゃーないわ。夢中やもん」
「友達より恋人をとるのかぁー!」
「基本やろ?」
愛ちゃんは冷たい。
ううっ、いいんですかぁー?
いいかげん、うちらの友情の危機ですよぉ?!
「なにが危機やの?」
「だからぁー、うちらよりいっつも後藤さん優先ってゆーのはぁー」
「恋がうまくいくように応援してあげるのが友達やないかし?」
「……はい、そーでした」
「ん、イイコ、イイコ」
愛ちゃんが、ポンポンとあたしの頭を撫でる。
ちぇー、なんかいっつも子供あつかい。仕方ないけどさ。
口を尖らせた私を見て、愛ちゃんはくしゃくしゃ顔で笑う。
それから窓枠に手をついて目を細め、青く抜けるような春の終わりの空を眺めた。
- 195 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/25(金) 18:04
-
「まぁ、まこっちゃんのキモチもわかるけどの」
「ほぁ?」
「友達ってムナシイなーって思うこともあるけど」
「ムナシイ?」
「うん、いつも2番やろ? 恋人の次とか、家族の次とか」
「ああ、うん」
「でも、あんがい友達ってゆーのはおいしいポジションで」
もしかしたら、家族よりも恋人よりも仲良くって、
それで、長〜く、ず〜っと一緒にいられるんかもしれんよ?
「はぁ、そうかな」
「見てみ?」
愛ちゃんがヒョイと指さすほうを眺めたら、
そこには立ち去っていく後藤さんの後ろ姿を見つめるあさ美ちゃん。
ボーゼンと立ちすくんだその姿は、なぜかすっごく不安げに見えて。
「恋人に振り回されてる図」
「はぁ」
「後藤さんみたいな人は、たいへんそうやわ」
「あれ? うらやましいって言ってなかった?」
「そーやけど、なんか最近ちょっと……あたしはムリ。続かんわ」
- 196 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/25(金) 18:05
-
ふらりと戻ってきたあさ美ちゃんは、さっきまでとは全然違う顔をしてた。
キスされてたくせにあんまり幸せそうじゃなくて、
次の授業中も不安そうにシャープペンシルの頭を齧ったり、
妙に襟元のリボンをいじくったりしながら、なんとなく上の空のまま。
「後藤さんに、何か言われたの?」
「え? あ、ううん、そういうわけじゃないんだけど……」
いまにも泣いちゃいそうな顔。
なにがそんなに不安なの? 何があったの?
さっきまで超ご機嫌だったじゃん?
あさ美ちゃんと後藤さんのカンケイって、わかんない。
クールな瞳で、あさ美ちゃんを狙い打つ後藤さん。
撃ち落とされたあさ美ちゃんは、操り人形みたいに後藤さんの言うがまま。
後藤さんの機嫌ひとつで、ふわふわ幸せそうにしていたり、どよんどよんと落ち込んでたり。
あーあ、ほんとわかんない!
後藤さんといる時のあさ美ちゃんは、いつものあさ美ちゃんじゃないんだモン。
それとも、後藤さんの前のあさ美ちゃんがホンモノとか? まさか!
- 197 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/25(金) 18:05
-
お昼休み、あさ美ちゃんはお弁当をかかえて、
いつも以上の猛ダッシュで教室を飛び出していった。
そんなに気になるの? もう1年近くつきあってる恋人のご機嫌が。
あたしたちよりも、後藤さんが大事?
『あんがい友達ってゆーのはおいしいポジションで』
そうかなあ?
愛ちゃんの言うこともわかるけど、でもやっぱり寂しいよ。
なんでこんなに寂しいのか、よくわからないけれど……
- 198 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/25(金) 18:06
-
本日はここまでといたします。
- 199 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/25(金) 19:08
- 更新お疲れ様です。
紺ちゃんの方ではこういうことになってたんですね。
まこっちゃん、複雑そうですね〜。
そして何気に愛ちゃんが気になってきたり。
- 200 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/25(金) 19:52
- うーん紺ちゃん…。
まこっちゃんは、こう思ってたんですね。
愛ちゃんの言葉も気になりました。
- 201 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/25(金) 20:36
- …1日覗かない間に、まこっちゃんがえらいことになってますね。
何か意味深な言葉も出てきたし、あぁ…。ともあれ、更新お疲れ様です。
- 202 名前:ましろ 投稿日:2004/06/26(土) 18:03
- 更新お疲れ様です。
まこっちゃんと愛ちゃんのこの会話、
なーんか、ずっと昔同じことを考えたことがあるような気がするなぁ。
まこっちゃんの気持ちが分かる気がします。はい。
- 203 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/26(土) 22:53
- 199> オレンヂ様
なにげに気になってきましたか、愛ちゃん。でも、まこっちゃんはちっとも気になってないふうw
いっつも恋人優先の友達にイラついてるその理由さえ、ね。
200> 名無し読者79様
まこっちゃんねぇ、ほんと子供っぽくて。あさ美ちゃんがなんで後藤さんを好きかもワカラナーイ!
って感じですよ、ほんと。愛ちゃんはたぶんわかってる、こんごまの危機的状況も。
201> Stargazer様
ええもう、たいへんなことになってきてますよ、まこっちゃんは。本人が気づいてないだけでw
少しずつ狂ってきたごとーさんに、紺ちゃんもキビシーことになってきました。
202> ましろ様
友達ポジションはおいしいか否か。誰しも一回くらいは考えそうなことですねw
とくに身近な人が気になっちゃったりしちゃうと、ね。
それでは、本日の更新にまいります。
- 204 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 22:54
-
つまり、恋っていうのは、
安全ベルトなしでジェットコースターに乗ってるみたいなもんやの。
愛ちゃんの言葉を、しみじみと聞いていた。
強烈な夏の陽射しを遮るようにバスタオルを頭からかぶって。
それなりに混みあった市民プール。
あさ美ちゃんは、もう何度目かわからないターンを蹴っている。
ざぶざぶと、ただひたすら泳ぐ姿は、なにかを振りきるように。
後藤さんを、振りきるように。
「ジェットコースターねぇ」
「まあ、相手によってはトロッコかもしれんけど」
そうだね、きっと後藤さんは世界最速コースターで。
しかも、予測もつかないようなすんごいカーブとかループとかあって。
必死でしがみついてたあさ美ちゃん、とうとうはじき飛ばされてあえなく墜落ってか?
……いや、よく知らないけど。
- 205 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 22:55
-
二人がうまくいってないのは、あさ美ちゃんを見てたらなんとなくわかった。
休み時間は笑ってるし、変顔とかしておどけてるけど、
授業中になると、たちまち目が透明なガラス玉になる。
教科書もノートも見ていない、何か考え込んでるような、記憶をさまよっているような瞳。
上の空のあさ美ちゃんなんて何度だって見たことあるけど、
だけど、前はもっと幸せそうでさ。甘ったるく微笑んでてさ。なのに。
あの横顔の陰りは何?
あさ美ちゃんらしいほんわかとしたオーラさえ消し去る暗い影。
何に悩んでるの? 何がうまくいかないの?
あたしたちには話せないこと?
『ねぇ、紺野ちゃん呼んでもらえる?』
ある日、教室の前で、そう声をかけられて超ビビった。
わあああああ、吉澤さんだっ。うおおおおおお、カッコイーー!
思わず、ぽかんと開いちゃった口をあわててパフッと閉じる。
『あ、ちょ〜っと待ってくださいねぇ〜』
『悪いね』
- 206 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 22:56
-
教室の入り口んとこで、ボソボソと何やら話しはじめた吉澤さんとあさ美ちゃん。
あたしだけじゃなくて、教室中のみんながその姿をうらやましげにチラチラ見てた。
そりゃそうだよ。なんてったって我が校の王子様、吉澤先輩だもーん。
さらさらの茶色い髪が、つやつやの柔らかそうな頬にかかる。
薄いピンク色の唇が何かあさ美ちゃんに囁き、印象的なその瞳がやさしく細められて、
あたたかそうな大きな手が、あさ美ちゃんの頭をポンポンと撫でた。
キャアッ! 小さな羨望の声が、クラスメイトからあがる。
あたしも、思わずいいなあ……なんて。ぐは。
だけど、席に戻ってきたあさ美ちゃんは、まるでうれしそうじゃなかった。
緊張したような強ばった頬で、ノートをぴりぴりとちぎり、なにやら書きはじめる。
『どしたの?』
『ん……ごとーさん、体調悪いみたいで』
ちょっと保健室、行ってくるね。次の授業、たぶん、出られないと思う。
なんでよ?
あたしは首をかしげる。
子供じゃあるまいし、なんであさ美ちゃんがごとーさんにつきあって……
言いかけて、やめる。
よく見たらあさ美ちゃんの目の縁はうっすらと赤くて、瞼もすこし腫れぼったくて。
そう、まるで泣いたあとみたいなんだもん。
- 207 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 22:57
-
『あの、教卓のとこに、保健室行くってメモ残してくけど……』
『わかった。先生に訊かれたらテキトーにゆっとくね』
ごめんね、ありがと。
拝むように指先をそっと合わせ、八の字眉毛でかすかに微笑んだあさ美ちゃんは、
なんだろう、いやだな、まるで幽霊みたいで。
そうだ、いつか桜の樹の下に佇んでた、後藤さんみたいに儚くて。
ふらりとあの世にでも旅立っちゃいそうな頼りない背中に、あたしは慌てて声をかけた。
『あさ美ちゃん、その次の授業は!』
『え?』
『……次の次の授業は、グループ発表だからね』
だから、ちゃんと戻ってきてね。この教室に。
あたしと愛ちゃんのところに。
『……ウン、わかってる』
そう呟いて、あさ美ちゃんは保健室に向かった。
あたしを安心させるように、もう一度ニコッと首をかしげて微笑んで。
約束だよ。あたしは、その背中につぶやく。
困っちゃうからね、あたしたちあさ美ちゃんがいないと。
- 208 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 22:57
-
あさ美ちゃんの姿が見えなくなると、
そのやり取りを黙って見ていた愛ちゃんが、フッとため息をついた。
『あかん。まこっちゃん、あさ美ちゃんの発表んとこ、二人で手分けして覚えよ』
『ええええっ?! な、なんでよっ』
『戻ってこんよ、たぶん』
戻ってこれんよ、たぶん、あさ美ちゃん。
そう言いながら愛ちゃんは、さっそくグループ発表の台本を開きはじめた。
ちょっと、なんで? あたしは、ムッとして愛ちゃんにくってかかる。
『あさ美ちゃんは戻ってくるよぉ、そんな無責任なことしないモン!』
『あたしかって、そう思いたいけどの』
最近のあさ美ちゃん、ちょっとおかしいわ、あれ。
……わかるやろ? 念のためや。
くっ。
あたしは返す言葉を失い、ドカッと椅子に腰かけた。
愛ちゃんが、ぱっぱとあさみちゃんのパートを均等に割り振る。
覚えるのは別にむずかしいことじゃない。
だけど、あたしの頭はひどく煮えくり返ってジリジリして。
- 209 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 22:58
-
頭を突き合わせて暗記に励むあたしたちの背に、能天気なクラスメイトの声。
いいなー、紺野さん、吉澤先輩とも仲いいなんてー! ずるーい、ずるーい!
ねー? なんでー? 超ラッキーって感じじゃない? あの子ぉー。
『……超ラッキーだって』
『……とてもそうは見えんね』
あさ美ちゃんは、何も言わないけど。
休み時間には、笑ったり、おどけたりしてるけど。
いつもみたいにやさしい瞳であたしたちに勉強を教えてくれて、
クラスの仕事やお掃除なんかも、誰よりも熱心なんだけど。
そう、あたしたちは気づいてる。
あさ美ちゃんが、もうギリギリいっぱいにムリしてること。
寝不足みたいに顔色はいつも青くて、あたしたちに隠れてちょっと吐いたり、
ぼんやりしてゴツンと柱にぶつかったり、体育の時間に崩れ落ちるようにしゃがみこんじゃったり。
ねえ、後藤さんがどうかしたの?
あたしたちは聞いちゃいたくて、
だけどあさ美ちゃんが、なんでもないって必死で笑うから。
一学年上の、ほんとうは2つも年上のカノジョとの恋に、
ただ振り回されて翻弄されてるくせに、その手を絶対に離そうとしないから。
そうなんだ、背伸びして、平気な顔して。心から幸福だというふりをして。
だから、あたしたちも知らないふりをして、気づかないふりをして、
こんなふうにできるとこでフォローしたりしながら、
あさ美ちゃんの恋を応援してる。……だって、友達だから。
- 210 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 22:59
-
愛ちゃんの予測を裏切って、あさ美ちゃんは教室に戻ってきた。
ほらね? 帰ってきたじゃあん! あたしは得意満面。
ワーイ!とあさ美ちゃんに飛びつきかけて、ピタッと止まる。
げっ、なんじゃ、その顔色はっ?!
青いを通り越して白いんですけどーっ。
そそそそれにその真っ赤な目、ちょっとぉー!!
わたわたするあたしを軽く睨んで、愛ちゃんがあさ美ちゃんにやわらかく笑顔を向けた。
『後藤さん、大丈夫やった?』
『あ、うん、寝不足だったみたい。もうお家に帰ったから』
そうだよ、あさ美ちゃんが笑うから。
あたしたちは、この時、まだホントには気づいていなかったんだ。
もう、彼女の風船が限界までパンパンに膨れ上がって、今にも弾けてしまいそうだったこと。
- 211 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 22:59
-
つつがなくグループ発表が始まって5分もしないうちに、教室は蒼然となった。
なめらかに発表を続けていたあさ美ちゃんの言葉が、唐突にウッと詰まり、
呼吸困難を起こしたように胸元を押さえて、ガタガタッと椅子から崩れ落ちた。
『あ、あさ美ちゃんっ!』
冷たい床に倒れたあさ美ちゃんは、打ち捨てられた人形のように真っ青で。
そうまるで、ぐちゃぐちゃにいじくりまわされて捨てられたオモチャみたいに痛々しくて。
その姿は、手足がもげていないのが、不思議なほどに。
貧血? 発作? 保健室! 担架! 救急車!
悲鳴をあげて騒ぎ立てるクラスメイトたち。
あたしと愛ちゃんは、泣きそうになりながらあさ美ちゃんを抱き起こして、
しっかりして!と耳元で叫んだ。しっかりして!あさ美ちゃん、目を覚まして!
- 212 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 23:01
-
ねえ、お願い、あさ美ちゃん、目を覚ましてよ。
あさ美ちゃんが見てるのは、きっともう幸福な夢じゃない。
- 213 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 23:02
-
意識を失ったあさ美ちゃんの瞼からは、涙だけが生きてるみたいにどんどん流れてた。
数人の先生と一緒に担架がやってきて、彼女が保健室に運ばれていってしまってからも、
教室はしばらく興奮状態で、あたしと愛ちゃんも呆然としたままだった。
それくらい、ぐったりとしたあさ美ちゃんの姿は衝撃的で。
なのに、休み時間にソッコーで保健室にかけつけたあたしたちが見たのは、
彼女が勝手に抜け出したあとの、もぬけの殻のベッドだった。
紺野のヤツ、いつの間に! 一体、どこに消えたんや!
頭を抱えた稲葉先生の悲鳴に、あたしと愛ちゃんはヘの字口で顔を見合わせた。
決まってる。
意識を取り戻したあさ美ちゃんが、駆け出していった場所なんて。
あんなにボロボロになっても、会いたい人なんて。
- 214 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 23:03
-
そして夏休みがはじまり、愛ちゃんとあたしはすぐに気づいた。
あんなに必死だったあさ美ちゃんの恋が、とうとう終わっちゃったこと。
ううん、あさ美ちゃんは気丈だったと思う。
少なくとも、夏休みがはじまるまでは、あたしたちに気づかせなかったんだから。
補講が終わっても、あさ美ちゃんがぐずぐずと教室に残っていなければ、
あたしたちはずっと気づかなかったかもしれない。
そう、やっぱりあさ美ちゃんはにこにこと笑ってたから。
まるで、恋が終わってなんかいないみたいに。
一緒に…帰る?
おそるおそるそう訊いたあたしたちに、あさ美ちゃんはホッとしたように、
それからちょっと泣いちゃいそうな情けない顔になって、こっくりとうなずいた。
それで、あたしたちの間には暗黙の了解ができあがったんだ。
あさ美ちゃんは、もう後藤さんのものじゃない。
- 215 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 23:04
-
市民プールには、容赦なく夏の陽射しが降りそそぐ。
去年の夏は、一度も3人では遊びに出かけなかった。
あさ美ちゃんは、補講が終わるとまっしぐらに後藤さんのもとへ。
だけど今年は、あたしたちと一緒にいる。
遊園地と海と、それから富士山にも一度登ってみたいよね。
せっせと夏の計画を立てるあたしたちの話を、ニコニコと聞いてる。
「なんで別れたか、聞いた?」
「聞いてない。……聞けないモン」
「ほやね」
ピーーーーーーーーーッ!
いきなりけたたましいホイッスルが鳴り響いて、あたしたちはハッとプールの方を見た。
ライフセーバーのお兄さんがきれいなフォームでばしゃんと水に飛び込み、
まっしぐらに一番水深の深いところへと泳いでいく。
ざぶんと潜ったお兄さんが水中から引っ張り上げた女の子を見て、
あたしたちは悲鳴をあげて立ち上がった。
あ、あさ美ちゃんっ!!!
- 216 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 23:05
-
火傷しそうに熱いアスファルトを蹴り、あわててプールサイドに駆け寄る。
引き上げられたあさ美ちゃんは真っ青な顔でぐったりしていて、あたしたちは再び悲鳴をあげた。
お兄さんが膝にあさ美ちゃんをかかえて、ドン!ドン!と激しく背中を叩く。
その衝撃でぶわっと水を吐いてあさ美ちゃんはハッと意識を取り戻し、
ドッとプールサイドに倒れ伏みながら、小刻みに肩を震わせて激しく咳き込みはじめた。
ああ、良かった! た、助かったみたい……良かったよぉぉぉ!!
背の立たないところで泳がないでください。
ライフセーバーのお兄さんにキツク注意され、
まるで動けないあさ美ちゃんの代わりに、あたしたちは半泣きでぺこぺこと頭を下げた。
そうだよぉ、あさ美ちゃん、いつの間に深いほうのプールに行ってたの?!
「もおっ、あんな馬鹿みたいに泳ぐから溺れちゃうんだよぉ!」
「……ちが……なんか、水の底、きれいで……」
光が蜘蛛の巣みたいに水の底に映ってて……ゆらゆらってきれいで……見てたら……
あさ美ちゃんは苦しそうに咳き込みながらそんなことをボソボソ言って、
あたしと愛ちゃんを呆れさせた。
あのね、きれいだからって溺れるまで見てるか、フツー?
- 217 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/26(土) 23:05
-
「…ゴホ…ゴホッ…ふ…あぁ、苦…し……」
喉が切れちゃうんじゃないかってほどゼエゼエ咳き込み、
涙ぐみながら苦しげに体を丸め、顔を歪めているあさ美ちゃん。
あーあ、こりゃ、しばらく動けそうもないね。
あたしたちは丸まって震えてるあさ美ちゃんのそばにすとんと座り込み、
じりじりと太陽に焼かれながら、膝をかかえて彼女を見ていた。
ざらざらしたアスファルトに倒れ伏し、地に頬をつけたまま喘いでいるあさ美ちゃんが
自分の力で、ゆっくりと起き上がるまで。
- 218 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/26(土) 23:06
-
本日はここまでといたします。
- 219 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/26(土) 23:08
- リアルキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
…っていいますか。
あの日の紺野が、実はこんなコトになっていたとは。
その後の紺野が、実はこんなコトになっていたとは…
「その後」はまだまだ続きますもんね。
さて、紺野は、ごっちんは、マコトは、愛ちゃんは、何を思うのか…
毎日お疲れ様です。ますます目が離せません。
- 220 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/26(土) 23:16
- 何というか…続編があってよかったとしみじみ思いました。この続編が
まるでフィルターのようで…これを読んで分かること、というものに
優しくなれたり、切なくなったりしています。更新、お疲れ様です。
- 221 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/27(日) 00:25
- 更新お疲れ様です。
こんなことが起こってたんですね・・・
このあと紺ちゃんにどういうことがあったのか気になります。
- 222 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/27(日) 14:38
- もう本編では語られなかった部分がかなりあって…。
複雑ですねー。これからまこっちゃんと愛ちゃんがどう動くか…。
次回期待してます。更新お疲れ様でした。
- 223 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/27(日) 22:14
- 219> 名無しぽき様
ごっちんもひどかったですけど、紺ちゃんの苦しみもまた格別。てゆうか正直ボロボロ。
ごとーさんのことわからなくて、ただ振り回されちゃったあげく……でも、表面は気丈なんです(泣。
220> Stargazer様
フィルター、そうですね。まこっちゃん視点は、客観的な第三者の視点。すべては見えない。
特定の条件に合う光しか透過しませんが、だからこそ見えてくるものがあると思います。
221> オレンヂ様
こんなことが起こってたんですよー。紺ちゃん、もう大変ですよ、ほんと。
もう何回か後には、本編よりも先の時間も流れていきます。お楽しみに。
222> 名無し読者79様
もうごとーさんのものじゃなくなった紺ちゃん。まこっちゃん&愛ちゃんにとっては
ほぼ初めて接するシングルの紺ちゃんですね。3人の友情がどう変わっていきますか……
それでは、本日の更新にまいります。
- 224 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:15
-
「その子と、つきあってるの?」
「………はい」
目が丸くなった。
思わず「なーに言ってるのぉ?」なんて声をあげそうになったけど、
次の瞬間、あたしの手をぎゅっと握りしめたあさ美ちゃんの指が、
かわいそうなくらい震えてるのに気づいて、あたしは。
「あさ美ちゃんに、何かご用ですか?」
「別に」
後藤さんは、素っ気なくあたしたちの脇をすり抜けて行ってしまった。
すっぱりと短く切ってしまった髪を揺らせながら遠ざかっていくその後ろ姿は細っこくて、
なんとなくピリピリしてるように感じられて、あたしは目をこらす。
後藤さんの本心が知りたい。
もしかして、いま、嫉妬しましたか?
絡めた指に思わず力を込めるのと、
あさ美ちゃんがワッと泣き崩れるのと、ほとんど同時だった。
あたしの指をぎゅっとつかんだまま、地面にぺたりと座り込んで震えながらしゃくりあげる。
ボロボロと頬に流れ落ちる数えきれないほどの涙。
まるであさ美ちゃんじゃないみたいな激しさが、
わかりやすすぎるほど、ホンネってやつをさらけだしていた。
- 225 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:16
-
知りたく、なかったなあ。
あたしまで泣きたい気持ちになる。
まだ、こんなに好きなのかぁ。
後藤さんじゃなきゃ、駄目なのかぁ。
もう、秋も終わりそうなのに、ねぇ?
さっきまで、笑ってたじゃん。
夕暮れの空と大きな桜の樹をしょって、桃みたいなほっぺをほころばせてた。
帰りかけに急に校内放送で音楽室に呼ばれた愛ちゃんを待ってて、
ふざけて膝にコロンと頭をのっけたあたしに、髪の毛くすぐったい!なんて。
当たり前のあたしたちのじゃれあいの日々は、楽しい時間は、
まだ今でも、後藤さんにあっけなく壊されちゃうんだね。
- 226 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:17
-
地面に跪き、あさ美ちゃんのつやつやの髪を、よしよしと撫でた。
あさ美ちゃんは、まるで溺れかけてる人みたいにあたしにすがりつく。
そして、突然、過呼吸でも起こしたみたいに、ウッと苦しげに胸をおさえた。
あの時みたいに。授業中にいきなり倒れた時みたいに。
ど、しよ……まこ……息、できな……
涙でぐちゃぐちゃになった、呼吸困難の唇。
薄く開き苦しげに動く、死にかけた蝶みたいに動く、その唇。
わあっ! あたしはとっさに、その細っこいカラダをギュウッと抱きしめた。
あさ美ちゃんは一瞬、切なげにフワッと息をついて、あたしにもたれかかるように目を閉じた。
そしてやっと息の仕方を思い出したみたいに何度か大きく息を吸い込むと、
あたしの腕のなかで再び小さく身を震わせはじめて。
- 227 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:18
-
全身から伝わってくる、あさ美ちゃんの激しい痛み。
苦しげに吐き出される、とぎれとぎれの呼吸。
あとからあとから流れ出てくる、生き物みたいな涙。
あたしはまだぜんぜん子供で、
だけどさすがに気づいてしまった。
ごとー、さん……ごとーさん……
音もなく繰り返しそう紡いでいる唇に、
血を吐きそうなほど苦しんでる唇に、
触れてみたいと思うなんて。
- 228 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:18
-
我慢したけど、両方の目から一粒ずつ、ひどく熱い涙が零れた。
あさ美ちゃん、あたしあなたが好きみたい……
- 229 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:21
-
「……ごめんね、まこっちゃん」
どのくらい、ふたりで冷たい地面に座り込んでいたのかな。
ゆっくりとあたしから離れ、手の甲で頬の涙を拭いて立ち上がったあさ美ちゃんは、
なんだか大人っぽくて、青白くて、なんていうか“女”って感じだった。
なんて悲しげな、でもすごく、きれいになったなあって思う。
見とれてしまう。そうだ、あたしはいつもあさ美ちゃんに見とれていたんだ。
「……ごめんね」
うつむいたまま、土埃で汚れたスカートを軽くはたいて、
あさ美ちゃんはもう一度、小さな声であたしに謝った。
巻き込んじゃって、ごめんね。
あたしは首を振る。あたしはいいんだ。
あさ美ちゃんがあんな嘘を言わなくても、あたしは勝手に巻き込まれてた。
後藤さんに恋をしたあさ美ちゃんを好きになった。
目の前で、どんどんきれいになってくあさ美ちゃんを。
「あんなこと、言っちゃっていいの?」
心配なのは、あさ美ちゃんが無理してること。
後藤さんのことまだこんなに好きなくせに、とんでもない嘘をついたこと。
- 230 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:22
-
長い長い沈黙の後、あさ美ちゃんは、風に消えちゃいそうな声でポツンと答えた。
それは、あんなに夢中だった人と別れた理由。
「……ごとーさん、ずっと前のヒトのこと、好きだったみたい」
その人、帰ってきたみたいで。
だから、私のこと、……もういらないみたい。
はぁ? あたしは呆気にとられて、ぽかんと口を開いた。
うそ。あんまりじゃないの、それって。
- 231 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:23
-
廊下ですれちがう時、木曜の体育の時間の前、全校集会の時、運動会の時、
後藤さんの視線はいつだってあさ美ちゃんだけを選び取って、
綿菓子みたいにふわりと微笑みかけていた。
あっという間に噂になるほどの、とろけるように甘い視線。
人目も気にせずに、あさ美ちゃんをかっさらっていく強い手。
あんなふうにされたら、夢中になるに決まってる。
そうやってあさ美ちゃんのこと徹底的に奪い取ったくせに、もういらないって?
「……ひどいよ」
おなかの底のほうから、熱い怒りが込み上げてくる。
「ひどいよぉー!!」
「うん」
「すんげー勝手な人じゃん、後藤さんって!」
「うん」
もっともっと言ってやりたい。
だけど、すぐに気づいてしまう。悪口って、むなしい。
あさ美ちゃんはどんなひどい悪口言っても、きっと「うん」ってうなずくんだ。
だけど、それでも好きだと、きっともっと悲しくなるんだ。
- 232 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:24
-
あたしは口をつぐんだ。
あさ美ちゃん、後藤さんなんか忘れて、あたしと。
そんな言葉がぐるぐると心の中を暴れまわって、自分で自分に笑ってしまう。
あたしなんて、後藤さんにかなうわけないジャン。
「元気、出せーーーーーーーーー!!!」
悔しいから、腹式呼吸で大きな声を出してみた。
「ま、こっちゃん?」
「ピーマコがついてるぞぉーーーーーー!!」
「ま、まこっちゃん??」
「うぉーーーーーーーーー!!!」
「なんやの、騒がしい」
急に上のほうから声が聞こえて、音楽室の窓から眉をひそめた愛ちゃんがひょこっと顔を出した。
ああ、愛ちゃん。あたしはちょっと恨めしい気持ちになる。
愛ちゃんがなかなか戻って来ないから、あたしたちごとーさんに会っちゃったじゃんかぁ!
もちろんそんなことは言わなかったけど、愛ちゃんってやっぱり勘がいいみたいで。
しかめっつらが、泣き顔のあさ美ちゃんに気づいてエッ?となる。
慌てて階段を駆け降りてきて彼女は、あさ美ちゃんの肩をそっと撫でた。
「後藤さん?」
あさ美ちゃんはホッとしたようにうなずき、
愛ちゃんの肩を借りて、もうちょっとだけ泣いた。
頼られてる愛ちゃんに、あたしはすこし胸がチリチリした。
- 233 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/27(日) 22:25
-
あさ美ちゃん、あたしは後藤さんみたいにカッコよくないし、
愛ちゃんみたいに大人っぽくもないけれども。
だけど、待ってることにする、あさ美ちゃん。
もっともっと時が流れて、いつかあなたが後藤さんを忘れる日まで。
その時まで、ずっと笑ってそばにいるから。
ずっと、あさ美ちゃんを笑わせるから。
だから、いつか、選んでほしい。
あたしのことを。
あたしのことを。
- 234 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/27(日) 22:26
-
本日はここまでといたします。
- 235 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:35
- せつないねぇマコ・・・
そうかーこれが真実だったのかーって感じですね
- 236 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:38
- 更新お疲れ様です。
やっぱり紺ちゃんの心は……
切なくてこっちまで泣きそうですよぉっ!
続編は意外な事実が発覚しすぎです。
続きが毎日気になって仕方ない・・・
- 237 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:40
- マコ、そんな瞬間にまでキミは紺ちゃんの心配をするのか、マコ……
このシーンは、どっちサイドも涙があふれてしまいました
- 238 名前:ましろ 投稿日:2004/06/27(日) 22:56
- そういうことだったのかぁ・・・が最初の感想。
このまこっちゃん、ほんと優しいですね。かなり好きかも。
特に232辺りのまこっちゃんの叫びが。
本編と続編を交互に行き来する日々が、続いております。
- 239 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/27(日) 23:03
- マコ切ないね…
∬´▽`)<ガンバルモン…
紺野は、やっぱりね。
結局どうなるんでしょう。むむむ。気になります。
- 240 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/27(日) 23:13
- マコ・・・ええヤツやなぁ、マコ・・・
ついにあの場面まで時間が流れたんですね。
思わずため息がもれてしまいました。
紺ちゃん・・・そう思ってたんだねぇ・・・
マコ視点も、本編より先に時間が進むのも楽しみにしています。
- 241 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/27(日) 23:30
- 痛い…痛すぎますよ、雪ぐまさん〜。でも、この特殊なフィルターの
おかげで、点と点が線で繋がったりして…読んでいて、まるで本編と
続編を同時に読んでいるような錯覚さえ覚えます。まこっちゃんの優しさが
今後の鍵、なんでしょうかね?ともあれ、更新お疲れ様です。
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/28(月) 04:13
- 雪ぐま先生。。。癒しのメソッド本編を拝見しました。
泣きました。夜通し泣きました。
娘小説で泣くのは本当に久しぶりだった気がします。
外伝まだ見てませんが、勝手に期待しております。
ありがとうございました。
一生の思い出に残ります。
- 243 名前:名無し23。 投稿日:2004/06/28(月) 15:07
- 更新、乙でございます。
ぐはぁ〜、ヤラレました・・メチャクチャ胸が痛いです。
物事には裏と表・光と影がありますが、恋愛はその振り幅が
残酷なまでに大きいものなんでしょうか・・
まこっちゃんも最高にイイですが、実はここのたかはすぃがかなり好きなのです。
優しくて大人で他人の気持ちがよく分かる、最高の親友。
羽根をもがれたこんこんですが、もう一度飛び立てるために必要な人たちが
いつもそばにいてくれたんですね。
次回もチクチクする胸を押さえつつ、お待ちしておりますです。
- 244 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/28(月) 17:29
- そうだったのか…紺ちゃん…。
外伝の松浦さんの所で出ていた言葉がかなりひっかかっていたんですが…。
そうか…とうなずくばかりです。本編と照らし合わせると本当悲しいですね。
本編のその後のみんなもわくわくしながら待ってます。
- 245 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/28(月) 21:54
- 235> 名無飼育さん様
そうです、これが真実でした。紺ちゃんもたいへんですが、
ここではやっぱ、まこっちゃんがキツいですね。
236> 名無飼育さん様
毎日、楽しみにしていただけているようでうれしいです。
このシーンはごっちんも紺ちゃんもまこっちゃんも泣いちゃいましたね、それぞれの理由で。
237> 名無飼育さん様
初恋なのに、紺ちゃんのことちゃんと心配できる、あたしはいいんだと言える。
うちのまこっちゃん、なかなか男前娘。ですね。お気づきいただけてうれしいです。
238> ましろ様
ライバルごっちんって、なかなかキツイでしょうねぇ。なんだろ、圧倒的なものがあるというか。
後藤さんのこと気に入らないマコだけど、魅力はよーくわかってるみたいです。切ないね。
239> 名無しぽき様
紺野は、やっぱりね、ですかw まあ、そうですね。でも、見た目よりもずっと頑固娘。ですから、
どうにもこうにもこじれちゃうんですよねぇ。ごっちんも追求しないからなぁ……
240> オレンヂ様
だいぶん駆け足で時間が流れておりますw 紺ちゃんは、ごっちんのことわからない。
ごっちんは、紺ちゃんのことわからない。理由は好きだから、かな。もどかしい恋です。
241> Stargazer様
まこっちゃん、そして愛ちゃん、タイプの違う2つのやさしさが今後の鍵でしょうか。
ごとーさんを失った紺ちゃんの日々、仲良し三人組の時間が増えていきます。
- 246 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/28(月) 21:54
- 242> 名無飼育さん様
うわあ、こ、光栄です……。一生の思い出かぁ、うれしいです正直。思いきって書いて良かったです(涙。
雪ぐまもこうして皆さんに読んでいただいてること、一生の思い出です。日々、充実しています。
243> 名無し23。様
リアル愛ちゃん見てると、ああ、この子、ちょっと損する性格だなあって思うことあって。
でも、生真面目で正義感の強い子なんじゃないかと思う、そんな思いが詰まったうちのたかはすぃ。
好いていただけて、うれすぃです。紺ちゃん、あったかい親友に守られています。
244> 名無し読者79様
うちの松浦さんは人よりもより多くモノが見える聡明な瞳を持ってます。で、わかってんだけど言わない。
欲しいものは自分で手に入れれば?って感じw うちの紺ちゃんには残念ながらまだない発想ですね……。
それでは、本日の更新にまいります。
- 247 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/28(月) 21:55
-
あ、まただ……。
自習時間のなんとなくざわめいた教室の中で、
あたしは配られてた英語のプリントなんかハナっから解く気もなく、
窓際の席のあさ美ちゃんをぼんやりと見ていた。
あさ美ちゃんはうつむいて、熱心にプリントにシャープペンシルを走らせている。
時々、考え込み、またサラサラと回答を書き込んでいくその合間に、
彼女は繰り返し同じ動きをする。たぶん、無意識に。
あれ、最近よく見るんだ。クセなのかなぁ……
横から見ると、いつもちょんと尖ってるように見える唇を、
人さし指の先で、くにゃくにゃといじる仕草。
- 248 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/28(月) 21:56
-
「あさ美ちゃんの、あれ、なんか色っぽいのー」
ほわっ!
急に話しかけられてびっくりした。
プリント片手に、いつの間にかあたしの脇に立ってたのは愛ちゃん。
いたずらっぽい瞳でニヤッと笑い、あたしの耳元に顔を寄せてコソコソ囁く。
「モロ、唇が淋しいっちゅー感じやの」
「く、くちびるがさみしい??」
「あれ、後藤さんと別れてからのクセやもん」
とっくに気づいてましたと言わんばかりの口調。
なによ、“唇が淋しい”って?
お菓子食べたいの“口淋しい”じゃなくって?
「まこっちゃんは、子供やのー」
ますます愛ちゃんは得意げな顔をする。
「あさ美ちゃん、後藤さんと、きっと毎日キスとかしてたやろ?」
「そ、そうかな」
「ほやから……、わかるやろ?」
わ、わかります。わかりました、ハイ。
たら〜りと、背中に汗。
あー、あさ美ちゃん、キスしたいのか、そっか。
あたしならいつでも……じゃなくてー、後藤さんとしたいんだよね、そうだよね……。
- 249 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/28(月) 21:57
-
ああ、そっかぁ。そういうことね。
あたしはたちまち悲しい気持ちになって、再びあさ美ちゃんを見つめた。
クラスメイトたちは勝手に席を代わったり、おしゃべりをはじめたり。
どんどん騒がしくなる教室の中で、あさ美ちゃんはむずかしい顔のままプリントに熱中している。
それは、あの夏休みのプールで何度もターンを蹴ってた時みたい。
目の前のことに集中して、何かを振りきるように。
後藤さんを振りきるように。
その姿は風のなかで揺れながらも、しゃんと立ってるたんぽぽみたいにけなげで、
だけど、だから、わかってしまうことがある。
まだ、あさ美ちゃんは、そんなに……
「あさ美ちゃんもいいかげんにせな……」
「ほえ?」
「……まあ、いいけど」
愛ちゃんは一人勝手になにか納得して、フッとため息をついた。
あれっ? 心の中に警報のランプが灯る。
その瞳は、なぜかさっきまでのいたずらっぽい輝きと全然違ってて。
まるで、心配と悲しみが入り交じったような色、そう、たぶんあたしみたいに。
え、あれ?
うそ、もしかして、愛ちゃんもあさ美ちゃんのこと……?
- 250 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/28(月) 21:58
-
じっとその横顔を見上げたあたしに、
愛ちゃんはちょっと動揺したように顎を引いた。
「な、なんやの?」
「いえっ、なんでも!」
愛ちゃんは、変なのっていうみたいにちょっと眉をあげると、
まるっきり白紙のあたしのプリントを見て「真面目にやんねの」と文句を言った。
それで、あたしじゃあナンカ訊いても無駄と悟ったらしく、
てててとあさ美ちゃんに近づいて、プリントをさし出しながら何やら話しかけた。
あさ美ちゃんはパッと顔をあげて、にこにこ笑う。
あ、もう唇をいじらない。
おしゃべりしてると忘れるのかな?
あさ美ちゃんは参考書まで取り出して、愛ちゃんの質問に答えはじめた。
どの問題のこと、訊いてるんだろ?
プリントに目を落として、あたしはげんなりする。
なんじゃ、この長文問題。宇宙からのメッセージか?
- 251 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/28(月) 21:58
-
やめやめ。
あたしは、ポイとシャーペンを放り出すと、
さっきのあさ美ちゃんの真似をして、そっと唇に人さし指をあててみた。
くにゃくにゃ。くにゃくにゃ。
なんじゃ?
キスってこういう感じなん?
なんか別に、なんてことないけどなあ。
くにゃくにゃ。くにゃくにゃ。くにゃくにゃくにゃ。
「何やってるの、まこっちゃん?」
「うわあああ!」
いつの間にか、あさ美ちゃんがすぐ近くに立ってて、怪訝そうに首をかしげていた。
その後ろで愛ちゃんが、まったくバカなんだから……という顔をしていた。
◇ ◇ ◇
- 252 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/28(月) 21:59
-
もう、吹っ切ってますから私。
そう言ってあさ美ちゃんは、後藤さんの姿を見ないふりする。
見ないふりをすればするほど、見るよりももっと意識が流れちゃってる。
全校集会の時とか、もう大変。ピリピリしてて声かけにくいったら。
あたしは、こっそりため息をつく。どうしたらいいんだあー!
「オーホホホホ、ごめんあさぁせ! ハイ、失礼!」
いきなり白百合伯爵夫人で近づいてみたりして。
あさ美ちゃんが眉を寄せた険しい顔のまま、ぐりんとあたしを振り返った。
ありゃ? やっぱウザいっすかね………?
「………プッ」
あ、面白かった? イケてた? ねぇ、ねぇ?
「まこっちゃん、イケてるって死語だよ」
「ウヒョー! 最高ですかぁー!」
「なにそれ、もう」
あさ美ちゃんの頬が呆れたように、でも楽しげにほわんと緩んだ。
あたしはホッとして、えへへと笑う。
ピンと張ってた空気が、やわらかなあさ美ちゃんの色を取り戻すから。
- 253 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/28(月) 22:00
-
「ふぅ……」
あさ美ちゃんはなにやら急に、気が抜けたような息をついた。
首をぐるぐるまわして肩をコキコキし、一人で「ウン、よし」とか呟いてる。
おや、肩こりっスか? わざとらしく首をかしげて、ヒョイと顔をのぞきこんだあたし。
あさ美ちゃんは、また「プッ…」と吹き出しかけて、
いっけないというように指先で軽く唇をおさえた。
「あっ、人の顔みて笑ったぁー!」
「ごめんごめん。なーんか、まこっちゃん見てると笑っちゃうんだもん」
「ほあー?」
「うん、なんか、楽しくなる」
うおおお、OK! もっと笑わせるよぉ! ナンダコノヤロー!
すかさず猪木の真似とかしてみたりして。
五郎さんもやってみたりして。ほたるー、純ー。なんちって。
「あははは、サイコー!」
なんかどんどん変な人になってってる気もするんだけど。
でも、あさ美ちゃんが笑ってくれると、すごくうれしくて。
心の中がカアッと熱くなるくらいドキドキするから。
- 254 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/28(月) 22:05
-
「なーにやってるんやの」
列の前の方に並んでた愛ちゃんが、あたしたちを振り返って、
シーッ!というように人さし指を唇にあてた。
あさ美ちゃんが、いっけないというふうにピンと背筋を伸ばす。
「ちゃんと先生の話、聞かなあかんがし?」
「ふぁい」
どことなく冷ややかな声に、あたしは首をすくめる。
いいじゃんねぇ、別に。みんなだっておしゃべりしてるんだしさぁ。
愛ちゃんって、ほんと融通きかないとこあるよねぇー。
あたしはめげずに、コッソリとまたあさ美ちゃんの顔をのぞきこんだ。
「だあれだ、今返事したのはぁ〜」
北海鮭男になりきってキョトキョトとしてみせると、
あさ美ちゃんはプププッと吹き出しかけて、あわてて両手で口を押さえる。
よっしゃ! あたしは満足して、やっと先生の話を聞く気になった。
- 255 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/28(月) 22:05
-
「ね、小川さん」
突然、知らない声に呼ばれて、へっ?と振り返ると、
隣のクラスの子が、あたしの袖をチョンとひっぱっていた。
興味本位の、濁った瞳。薄笑いの唇。
「もしかして紺野さんとつき合ってる?」
「ナイショ」
素っ気なく答えて、あたしは前を向く。
ナイショ。そう答えるのは、後藤さんに意地を張りたいあさ美ちゃんのためで、
それから、彼女にナイショの恋をしているあたしのため。
あさ美ちゃんとあたしの未来がどこにいくかはまだわからない。
まだ、わからないから、あたし、あきらめない。
だから、ナイショ。ぜんぶ曖昧なまま。
- 256 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/28(月) 22:06
-
本日はここまでといたします。
- 257 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/28(月) 22:10
- 更新お疲れ様です。リアルタイムで読ませていただきました。
マコ・・・切ないね、マコ・・・がんばれぇ〜〜〜
あぁ〜紺ちゃんも切ないっすね。
マコには悪いけど私はやっぱり・・・
- 258 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/28(月) 22:30
- 作者さん乙かれっす。
常駐読者2号です。
>>257
みなまで言うな。拙者も同じじゃ。。。
- 259 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/28(月) 22:40
- 上に同じ‥
- 260 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/28(月) 23:16
- いや、自分はむしろマコを応援したくなってきたが……
- 261 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/06/29(火) 02:46
- >>115のあたりのやりとりがかなり切ない…
- 262 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/29(火) 07:23
- 小川さんの可愛さにメロメロになりつつ、仄かに漂う切ない空気に
やられております。穏やかなんだけど、ちょっと切ない時間の中で
彼女達はどうなっていくんでしょうかね?更新、お疲れ様です。
- 263 名前:名無しマカー 投稿日:2004/06/29(火) 08:58
- 紺ちゃんの精一杯の恋を応援しつつも、
健気でまっすぐなまこっちゃんがかわいくて仕方ありません。
あー、朝から切ないなぁ。。。
- 264 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/29(火) 09:47
- うーん…切ない。
でも切ないから綺麗?
完全に魅了されてます。
- 265 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/29(火) 17:16
- まこっちゃんが可愛いですね。そこまでしてって感じで…。
紺ちゃんの笑顔が思い浮かんできます。
愛ちゃんは、クールですね。でも、何かが熱い…。
- 266 名前:ましろ 投稿日:2004/06/29(火) 20:46
- 更新、お疲れ様です。
まこっちゃん、がんばってるなーって感じで好きです。
え?愛ちゃんも?って思った部分があるんですけど…もしかする?
とにかく、毎日気になって仕方ないこの続編です。いい感じ。
- 267 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/29(火) 22:38
- 257> オレンヂ様
マコ頑張れ、だけど私はやっぱり……ですかw やっぱり紺ちゃんにはごっちんが似合う?
∬T▽T)<あ、あたしなんて後藤さんにかなうわけないジャン!
ああ、マコやマコ……。なんか妙にマコが愛おしくなってる雪ぐまw
258> 名無飼育さん様
常駐いただきありがとうございますw むむ、おぬしもごっちん推しでござるか?w
259> 名無飼育さん様
おぬしもか!w
260> 名無飼育さん様
む、たまにはマコ推しもいるようじゃな。
261> 名無飼育さん様
でーすねー。マコには痛いですねー、あれは。大打撃だ。
∬T▽T)<ガンバルモン!
262> Stargazer様
どうなっていくでしょうか。なんにしても後藤さんの存在があまりに大きすぎて、オーラが強すぎて、
良くも悪くもかわいらしい女子高生3人組は翻弄されてる、それが切なさの種でしょうか。
263> 名無しマカー様
朝からありがとうございますw そーですねぇ、紺ちゃんの恋とまこっちゃんの恋を
同時に応援できないのがつらいですねぇ。うーん、過去にとらわれてても仕方ないと思うけど、でもなぁ…
- 268 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/29(火) 22:39
- 264> 名無し飼育さん様
恋は切ないから綺麗、綺麗だから切ない、どっちも言えそうですね。
こんがらがって散ったこんごまの恋も、紺ちゃんの記憶のなかできっと悲しいほど美しいことでしょう。
265> 名無し読者79様
まこっちゃん小学生男子なみw 好きな子を笑わせたい、かわいいですけど、それって方向性がw
愛ちゃんはどうも融通がきかないなぁw まこっちゃんとは逆のタイプみたいですね。
266> ましろ様
恋する紺ちゃんを、ナイトのごとく見守ってきたまこっちゃんと愛ちゃん。
いい感じの仲良し3人組の友情が、微妙に変わりつつあります。さてさてのんびりまいりましょう……
それでは、本日の更新にまいります。
- 269 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:40
-
「ねぇ、あさ美ちゃん、後藤さん行っちゃうよぉ?」
あたしは、もう一度あさ美ちゃんの肩を揺すった。
あさ美ちゃんは、桜の樹の陰に隠れたままうつむいて、さっきからずっと動かない。
桜の精の声でも聞きたいみたいに額を幹に擦りつけて、
ぎゅっと瞳を閉じて苦しげに眉をひそめているんだ。
- 270 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:41
-
とうとうやってきたこの日。後藤さんの卒業式。
式の時からあさ美ちゃんはずっと、貧血でも起こしたみたいに青い顔してうつむいてて。
そう、絶対に後藤さんと目があったりしないようにうつむいてて。
後藤さんが卒業証書を受け取ってる時なんて、ギュッと目まで閉じてて、意地でも顔をあげなくて。
そのくせ式が終わると、前庭のあたりを用もなくうろちょろして。
なのに、やっぱり生徒玄関から後藤さんが出てきた瞬間、
ものすごいスピードでピャーッと桜の樹の裏に逃げ込んだ。
あたしにはわかんないな。
好きなのに、会いたくないとか。見たくないとか。
会いたくないくせに、さっさと帰らずに前庭でうろうろするとか。
てゆうか、吹っ切ったって言ってませんでしたっけ?
「あ〜〜〜行っちゃう、行っちゃう、もう行っちゃう!」
「……ど、どのへん?」
「もうちょっとで校門のとこ」
「……の、覗いても見つからない?」
「たぶん」
あたしはぐずぐずしてるあさ美ちゃんの手を、ちょっと乱暴にひいた。
ホントは見たいんでしょ? さっさと見ればいいジャン。
ほんっと、わかんない。
- 271 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:42
-
校門を出かけて、ちょっと佇んだ後藤さん。
脇を通りすぎる吉澤先輩や松浦先輩と手を振りあっている。
そのすらりとした後ろ姿を、じっと見つめるあさ美ちゃん。
唇をきゅうっと噛みしめて、まるで網膜に焼きつけるみたいに。
ふいに後藤さんが振り返って、あたしたちはビクッとなった。
あさ美ちゃんが再び樹に隠れかけて、止まる。
校舎を見上げてフッと目を細めた後藤さんの横顔に、見とれたように。
あさ美ちゃんは後藤さんと会っちゃいそうなところは徹底的に避けてて、
だけど時々こんなふうに、あたしたちにさえ見つからないように、
廊下の窓や木々の陰から、後藤さんの横顔や後ろ姿を見つめていることを、あたしはちゃんと知ってた。
こんなふうに、いつだってぴったりとそばにいるから。
見れば見るほど後藤さんはきれいな人で、白い光に包まれてるみたいで。
相変わらず周りのことなんてあんまり興味なさそうだけど、でも吉澤さんとつるんでるのをよく見た。
よっすぃ〜よっすぃ〜なんて楽しそうにじゃれてる笑顔は、あんがい子供っぽくて、
ちょっと前より、ずっといい感じに人間っぽい……っていうのも変な言い方だけど。
だけど、そんな笑顔を見ると、あさ美ちゃんはひどく悲しそうな顔をした。
そうだね。自分以外の誰かが咲かせた笑顔なんて。
後藤さんが結局、前の人とヨリを戻してるのかどうか知らないけど、
あさ美ちゃんは「たぶん、そう」と言う。なんで?と訊くと、曖昧に笑う。
- 272 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:43
-
後藤さんがゆっくりと首をめぐらせ、そしてあたしたちを見つけてピタリと動きを止めた。
あさ美ちゃんの震える指が、痛いくらいあたしの指をつかんで、
あたしは思わずあさ美ちゃんの顔をのぞき込む。
その時の、あさ美ちゃんの横顔、一生忘れられそうもない。
魂がすうっと流れ出していきそうな目をしてた。
後藤さんもぴたりと立ち止まったまま動かず、
かすかに何か言いたげな、もどかしげな顔をした。
ああ。
あたしはいつかのように、また、後ずさりしてしまう。
こんなふうに、二人の視線が遠くからみあう時に、
あたしはいつだって一番そばにいるような気がする。
あさ美ちゃんと後藤さんの間には確かに二人しか知らない時間があって、
別れちゃってさえなお、特別な言葉で、二人にしかわかんないテレパシーみたいなもやもやで、
あたしとか、風景とか、時間とか、すべて弾き飛ばして、何かを確認しあってるような気がするんだ。
- 273 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:44
-
あたしは、あさ美ちゃんに気づかれないように小さくため息をつき、
つながれている手を、軽く揺すった。
「……痛いよ、あさ美ちゃん」
「あ、ごめん」
パッと手を離し、あさ美ちゃんはうつむいた。
考えてる、後藤さんのところに行こうかどうしようか。
そう、あさ美ちゃんはいつも、後藤さんのことは、ひとりで決める。
そして、決めたことをあたしに言う。
「……ちょっと、行ってくる」
最後、だから。
勇気を振り絞るように強く地を蹴って、まっすぐに駆け出していく後ろ姿。
数えきれないほど見た、懐かしいその姿。
また、置いてかれたあたし。放り出されたあたし。
まだ蕾だらけの桜の枝を見上げながら、誰に遠慮することもなく深々とため息をついた。
痛いよ、あさ美ちゃん。胸が痛い。
不思議だね、ほんとにキリキリって痛むんだね。
マンガとか、小説の中のことだけかと思ってた。
時々、こっそり胸の上のほうをおさえてうつむいてるあさ美ちゃんのこと、大げさだなあって思ってた。
だけど、こんなに痛いなら、苦しいなら、泣かないでいるのはすごく大変だね……
- 274 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:45
-
あさ美ちゃんは、なかなか戻ってきてくれない。
ねぇ、後藤さんと何話してる?
もしかして、よりを戻したりとか、しちゃうのかな?
そんな、まさか、でも………
いつか聞いた愛ちゃんの言葉が耳に蘇る。
『恋がうまくいくように応援してあげるのが友達やないかし?』
ごめん、あさ美ちゃん、あたしもう応援できないよ。
あさ美ちゃんの望みを知ってるのに、叶わなければいいって思っちゃうんだ。
ひどいね。ほんと最悪と思う、あたし。
ねぇ、後藤さんと何話してる?
見たい、見たくない、見ちゃいけない。
葛藤する、ちっぽけなココロ。ほんとちっぽけな……
- 275 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:45
-
「まこっちゃん?」
「うあっ?!」
いきなり声をかけられてハッと我に返ると、
合唱部の先輩に花束を渡しに行っていた愛ちゃんが戻ってきていた。
「なんやの、ぼんやりして」
「あっ、ううん」
愛ちゃんの視線はまっすぐで、心を見透かされてしまいそうになる。
あたしは慌てて、ニカーッと笑った。
「花束、渡せたのー?」
「うん、泣いてしもたー。でも、ブレザーのボタンもらえたし」
得意げに、金色のボタンを見せてくれる。
なんだ、好きな先輩とかいたのかー、愛ちゃん。
「好きっていうか、憧れの先輩やの」
あさ美ちゃんの後藤さんとは、違う。
そう言って愛ちゃんが心配そうに目をやったのは、
もうどこにもいない後藤さんを見送る、あさ美ちゃんのポツンとした後ろ姿だった。
- 276 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:46
-
あ、後藤さん、行っちゃったんだ……
チクリと痛む胸。ほんのちょっとだけ安心した自分が苦くて。
ねぇ、あんなに、あんなにあさ美ちゃんの背中は痛々しいのにさ。
あたしたちは砂ぼこりの舞う春風に目を細めながら、
しばらく黙ってあさ美ちゃんの頼りない背中を見つめていた。
こんなに遠くからでも、泣いてるに違いないとわかる震える肩。
こんな時、友達ってどーしたらいいんだろうね? 愛ちゃん、教えてよ。
「……フツーにしてるしかないやろ?」
「フツーに?」
「友達やもん、フツーにしてるしかないわ」
そう言ってフッと眉を寄せた愛ちゃんの横顔は、やっぱりどっか切なげで。
ああ。思わず眉をしかめたあたしに気づいているのかいないのか、
愛ちゃんは、胸の底からわきあがってきたようにポロリと言葉をこぼす。
「あさ美ちゃん、きれいになった」
「…………………………」
「後ろ姿まで、なんか花みたいや。……森の奥に咲いてる小っちゃい花」
それは、あたしも思ってたことで。
あたしはそんなふうにきれいな言葉で口には出せないけれど、まるでおんなじように思ってる。
後藤さんと恋をして、あたしたちの目の前でどんどんきれいになっていったあさ美ちゃん。
- 277 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:47
-
あたしと愛ちゃんは、けっこう世話やかされたよね。
あさ美ちゃん、後藤さんファンの子たちにすっごい嫌われちゃって、囲まれちゃったりしてさ。
あん時は、あたしたち、けっこうカッコよかったよねぇ?
バッカじゃないのあんたたちなんてタンカ切って大喧嘩してさぁ、
あさ美ちゃんがありがとうありがとうって泣いてさ、うちら正義の味方みたいだったねぇ。
なのにあさ美ちゃんってばさ、後藤さんがいるとピューッて行っちゃって。
もう!なんて思うあたしに、愛ちゃんは夢中やから仕方ないがしって笑ってた。
そう、夢中だから、あんなに夢中だったから、あさ美ちゃんはどんどんきれいになって。
バクバクお菓子を食べまくってるあたしを恨めしそ〜うに見ながら、うううと我慢してた。
どこをダイエットするんだか?ってカラダをもっと絞るんだって言って、
愛ちゃんにバレエのストレッチを習ったりしてた。
そしてどんどんきれいになった、あさ美ちゃんは。
内側から、外側から、きれいになった。
後藤さんと並んでても、ちっともおかしくないようになった。
花のように幸せそうに笑って、それからどんどん溺れるみたいに苦しそうになっていって、
なぜかますますきれいになった。なぜか、ますます後藤さんみたいに……
- 278 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:47
-
あんまり黙ってるのも変に気まずくなりそうで、
あたしはニカッと愛ちゃんに笑いかけた。
「黒縁メガネのガリ勉ちゃんだったのにねーっ?」
「あはは、そうやの。そういえばそうやった」
もう、忘れてもたわ、そんなの。
愛ちゃんは眩しそうに目を細め、それからフッと独り言のように呟いた。
「忘れられん恋、なんやろうなぁ……」
たぶんね。
万が一、記憶喪失とかであたしたちのこと忘れても、
あさ美ちゃんは後藤さんのことは忘れないよきっと。
あーあ、友達ってムナシすぎる。愛ちゃんだって、さすがにそう思ってるんじゃない?
- 279 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:48
-
「……ごめん、お待たせ」
「お疲れ」
ノロノロと足を引きずるように帰ってきたあさ美ちゃんを、
愛ちゃんはパッとお姉さんっぽい笑顔になって迎えた。
あたしは上手に笑えなくて、ただ黙っていた。愛ちゃんがうらやましいと思った。
愛ちゃんは、暗い空気を振り払うように、ぽんぽんと彼女の頭を撫でる。
「ちゃんと、おめでとう言えたかし?」
「うん」
「ブレザーのボタンとか、もらった?」
「……あ、考えつかなかった」
愛ちゃんが一瞬、シマッタというように言葉に詰まる。
そっか、さすがの愛ちゃんも完全には演じきれないみたいだね。
そうだよ、憧れなんかじゃない。
ブレザーのボタンとか、そんなレベルじゃない。
あさ美ちゃんが欲しかったのは、後藤さんの心。後藤さんの、すべて。
「……そーいえば、も、全部なかった、かも」
「ふええ?」
後藤さんって、相変わらずモテモテやのー。
愛ちゃんはおどけたように小さく肩をすくめたけど、あたしは思いっきり顔をしかめてしまった。
一個くらい残しといてくれてもいいのに。
もしかしてあさ美ちゃんが欲しがった時のために。
後藤さんって、ほんとに冷たい人だ。
- 280 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:49
-
「……あ、だめだ」
あさ美ちゃんの唇が、ううっと震えた。
「え? あ、ちょっと!」
「ごめ……泣くか、も……」
言い終わらないうちに、あさ美ちゃんの目からは再び、ざあざあと雨が降り出した。
両手で顔を覆ってしまったあさ美ちゃん。
あたしたちはあわてて両方から腕をまわして、彼女を抱きしめる。
「………ほ、ほんとに…い…いなくなっちゃ、た……」
もう声も聞けない、姿も見られないとあさ美ちゃんは泣いた。
あたしはとてつもなく悲しくなる。とてつもなく。
まだ、後藤さんのこと、そんなに見ていたかったの?
いらないなんて、モノみたいに捨てられたのに。傷ついたのに。
- 281 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/29(火) 22:50
-
涙もろい愛ちゃんは、はやくももらい泣きしてる。
だから、あたしも泣いちゃっていいよね。
桜の樹の下で、あたしたち3人は抱きあい、もたれ合い、わんわん泣いた。
あさ美ちゃんを変えた初恋は、あたしたちが仲良くなったことにも無関係じゃなくて、
後藤さんの存在はきっと、あたしたちも一生忘れられない。
あたしたちの涙が止まっても、
あさ美ちゃんの涙は、なかなかおさまってくれそうもないみたいだった。
まるで、止めようとしても止められないしゃっくりみたいに。
「ご、ごめ…んね……」
「いいよ、好きなだけ泣いたらいいがし」
「う…ん…、あ、ありがと……」
目をかたく閉じ、胸をずっとおさえて唇を噛んでるその姿は、
まるで心臓から血が噴き出すのを必死で止めてるみたいと、思った。
- 282 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/29(火) 22:50
-
本日はここまでといたします。
- 283 名前:名無しぽき 投稿日:2004/06/29(火) 22:58
- 。・゜・(ノД`)・゜・。
痛いよ、雪ぐまさん。胸が痛い。
ぽきも3人と一緒に涙しましたが、さて、では、このあと…
- 284 名前:オレンヂ 投稿日:2004/06/29(火) 23:32
- ・゚・(ノД`)・゚・。うえーん。
紺ちゃぁ〜ん!!!
- 285 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/29(火) 23:34
- 痛いなぁ…3人も痛いけどすれ違ってる後藤さんも痛いです。
んー…僕もなんか、こんこんにはごっつぁんって感じですね。
てか、まこは叶わない切なさが見ててきゅんとくるのかもw
- 286 名前:ゆんせ 投稿日:2004/06/29(火) 23:42
- 。・゚・(ノД`)・゚・。
もう黙ってられないです
初恋はそういうものなんですね
- 287 名前:名無しマカー 投稿日:2004/06/29(火) 23:56
- うあぁ・・・胸が痛いよー。
ぐっと耐えてる感じの紺ちゃんがせつないです。
マコと愛ちゃんがいてくれてよかった。。・゜・(ノД`)・゜・。
- 288 名前:名無しですよ? 投稿日:2004/06/30(水) 00:30
- 。・゚・(ノД`)・゚・。 えーん(涙)
もう、痛いよぉ〜
痛くて痛くて、でも先が見えなくて…続き、すっっごく気になります。
雪ぐまさん、更新頑張ってください。
- 289 名前:名無し23。 投稿日:2004/06/30(水) 00:53
- 更新、乙でございます。
280でワタクシの心にもザーザー雨が降り注ぎましたです。
せつないし苦しいけど、本当に狂おしく燃えた日々・・
どんなに歳月を重ねても、きっと忘れることのないかけがえのないもの。
こんな恋が出来たこんこんに、どこか羨ましい想いも抱いてしまいます(しみじみ)。
次回もドキドキしつつお待ちしておりますです。
- 290 名前:Stargazer 投稿日:2004/06/30(水) 07:01
- ついに、ここまで時間が進んでしまいましたね…痛くて、切なくて
うぎゃ〜ってなりながら読ませてもらいました。そう簡単には癒えない
傷を残して去ってしまった後藤さん、残された3人…これからが非常に
気になります。続きを楽しみにしつつ、更新お疲れ様です。
- 291 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/30(水) 08:46
- そしてこの裏ではこんな事…なんですよね…。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/purple/1081660036/647n
痛い、痛い…切なすぎる。
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/30(水) 16:39
- うぅ リアルだよー。書いてあることが。
こういうとき現実に起きる心情っていうか… …ため息出ます。
- 293 名前:名無し読者79 投稿日:2004/06/30(水) 20:20
- 紺ちゃん…。やっぱり…うーん涙が…。
悲しいですね…なんでなんでしょうねこんなに…。
この後、どうなっていくのか…。
- 294 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/30(水) 22:40
- 283> 名無しぽき様
泣いちゃった3人組。もちろん紺ちゃんの涙が一番深いわけですが、さてさて、このあとは……
284> オレンヂ様
揺れ動く紺ちゃんの感情。好き、嫌い、愛しい、憎い。でも、まだ見てたかったみたいですね。
285> 名無飼育さん様
同じ時間を過ごしながら、4人それぞれに違うことを考えてます。人の心は見えないから痛いですねぇ。
286> ゆんせ様
こんな苛烈な初恋ってすごいですけれどw でも、幼くてすれ違い、初恋ってそんなものかも、ね。
287> 名無しマカー様
うん、紺ちゃんにはマコと愛ちゃんがついてます。恋人よりも長い時間を過ごす大切な二人です。
288> 名無しですよ?様
ハイ、できるかぎり頑張ります。後藤さんがいなくなっても進んでいく時間、まったりご覧ください。
289> 名無し23。様
世界が変わるほど狂おしく燃えた日々。雪ぐまも羨ましいですが、紺ちゃんにとっては幸か不幸か……?
- 295 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/30(水) 22:41
- 290> Stargazer様
ごっちんは悲しくても未来への旅立ち、でも置いていかれたほうは泣きたい気持ち(てか、大泣きだわな)。
291> 名無し飼育さん様
そう、ごっちんはごっちんで痛みに耐えてますね。でも、自分で選んだことだから……
292> 名無し飼育さん様
痛い? 痛い? 雪ぐまも痛いぃぃ!w 4人のキモチ、それぞれに違うけど、痛いってことは同じですね。
293> 名無し読者79様
なんででしょう?それは人の心は決して覗き見ることができないから。だから伝えるしかないのだけれど……
それでは、本日の更新にまいります。
- 296 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:41
-
3年生になって、新入生が入ってきた。
はやいなあ。ついこないだ、自分たちが入学したと思ったのにねぇ。
なんだかんだで、一学期ももうすぐ終わる。
あっついねーなんて小さなタオルで汗をふきふき、夏の風に前髪を揺らしているあさ美ちゃん。
廊下の窓から、まだ真新しい制服を着て歩き回ってる女の子たちを眺めて目を細め、ふと呟く。
「1年生って、なんかかわいーねぇ」
その瞳に、また記憶をたぐってるような色を見つけて、あたしは小さくため息をつく。
どうせ、あの頃のごとーさんと同い年になってしまったとか思ってるんだよ。
それで、ごとーさんの目には、自分はこんなに幼く映ってたのかなあ?とか考えてる。
あー、もう。あさ美ちゃんって、ほんっと顔に出るんだから!
- 297 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:42
-
「こ・ん・の・さーーん♪」
ふいに呼びかけられたノーテンキな声に振り返ると、
廊下のむこうからパタパタと駆け寄ってくる道重ちゃんの姿があった。
その後ろから、苦笑しながらついてくるのは愛ちゃんとガキさん。
ガキさんと道重ちゃんは、愛ちゃんの部活の後輩。
3年になって合唱部の部長になった愛ちゃんは、
副部長に2年生のガキさんを指名して、よく連れ歩いてる。
そして、新入生の道重ちゃんは、美少女フェイスに似合わぬブッ飛びキャラらしく。
「あっ、小川さんもこんにちはー♪」
「小川さん“も”かい!」
まったく、はっきりしてるコだなぁー。
何回かしゃべっただけなのに、道重ちゃんはなぜかあさ美ちゃんに懐きまくり。
まっしぐらに駆け寄ってきて彼女は、片足をレの字に跳ねあげる古典的ポーズで、
あさ美ちゃんにひしっとしがみついた。
- 298 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:43
-
「紺野さーん、かーわいいっ♪」
「こら、みちしげーー!!」
「はやく私とつきあってくださ〜い、なんて♪」
「みみみみちしげー!!!」
ブッ飛びキャラぶりを発揮する道重ちゃんに、礼儀正しいガキさんは大慌て。
あさ美ちゃんが両手で口元をおさえて、おかしそうに笑った。
「道重ちゃんって、ホント面白いね」
くすくす笑い続けるあさ美ちゃん。
道重ちゃんが、かわいらしくむくれた。
「ほ・ん・きですよぉー、もぉ〜」
「恐縮です」
「あー、ほんきにしてくれないんだー。女の子同士ってダメですかあ?」
ぴくん、とあさ美ちゃんの肩が小さく揺れた。
あたしたちはサーッと青くなる。うわぁ、何も知らないって怖っ!
2年生のガキさんも、あさ美ちゃんと後藤さんのことは知ってたらしい。
わたわたと慌てふためきながら、なんとか道重ちゃんの暴走を遮ろうとする。
- 299 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:44
-
「みちしげ、もー帰るぞ!」
「だめですかぁ? さゆは、ぜんぜん気にしないけどぉ?」
「み、みちしげーーーっ!!」
ガキさんは「すいません、ほんとすいません」とあたしたちに頭を下げると、
いつまでもしゃべり続けそうな道重ちゃんの腕をぐいぐい引っ張って去っていった。
引きずられながら、道重ちゃんはほわほわと笑い、あさ美ちゃんにひらひらと手を振る。
「紺野さぁーーん、今度プリクラ撮りにいきましょーねー♪」
あさ美ちゃんは困ったなあというように笑いながら手を振り、その姿を見送っていた。
その横顔に、ほんのすこし感傷的な影を見つけて、
あたしと愛ちゃんは、目を見合わせて肩をすくめる。
やれやれ、また思い出しちゃったよ、あの人のこと。
- 300 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:44
-
「あさ美ちゃん、最近モテモテやの」
「え? そんなことないよ、愛ちゃんこそ」
ふたりが言ってることは、そう大げさなことじゃあないと思う。
あたしたちはいつの間にか後輩から先輩になって、追いかけられる立場になった。
歌のコンクールで賞をとったりするようになった愛ちゃんは、ちょっとした有名人。
合唱部には、いつの間にか愛ちゃんのファンがいっぱい。
そんなふうには目立たないんだけど、あさ美ちゃんには時々、熱狂的なファンがつく。
たぶん、ちょっと遠い目をしてるのがいいんだと思う。
どうしてそんな目をしてるのか知らないで、1年生は騒ぐ。
「でも、最近モテモテといったら、まこっちゃんでしょう」
「おーーほほほほほ!」
だっから、あたしみたいに「小川先輩、伯爵夫人やってくださーい!」とかいうのとは
根本的に違うんだってばさ、あさ美ちゃん!
「いよっ、マジモテ!」
「もーー」
ビシバシと肩を叩きあってじゃれるあたしたちを、
愛ちゃんは、ちょっとクールな視線で見た。
あたしはハッと手を止めて、おそるおそる愛ちゃんをうかがう。
- 301 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:45
-
気にしすぎかな?
なんか最近、すっごくドキッとするんだ。
愛ちゃんってもともとちょっとノリが悪いとこあるんだけど、それが最近、ますます……。
もう3年生だから?
それとも、あたしがあさ美ちゃんにベタベタしすぎるから怒ってる?
何を考えてるかわからない愛ちゃんは、ふいにゆっくりと口を開いた。
「ね、あさ美ちゃん」
もし、ホントーに付き合ってって言われたら、どうするし?
あががっ!
ななななんて大胆な質問を、愛ちゃん!
なんか時々、愛ちゃんってぶっちぎりだよぉ〜〜!
あさ美ちゃんもびっくりしたみたいで、何言ってるの?というように首をかしげる。
「道重ちゃんのこと? あの子は……」
「いや、道重はまあ放っといていいやろけど」
「あはは、ひどいなー愛ちゃん」
「ミーハーやから、あの子は」
「うん、まあ、あんな感じだよ、もし言われたって」
「そっかな? それは、わからんがし」
愛ちゃんはちょっと首をかしげて、まっすぐな瞳であさ美ちゃんを見た。
最近、すごくきれいになってきた。そう噂される大人びた微笑みで。
- 302 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:46
-
「ね、本気で、あさ美ちゃんを好きな人が現れたとしてー」
「ええ?」
「だから、もしもの話。どうする?」
あさ美ちゃんは困ったような声で、「ええ〜?」と呟き、
なんかどぎまぎしたみたいにうつむいて、ぐじぐじと前髪をいじった。
「や、まだ、誰とも、そういうのは」
「ほやけど、後藤さんとこ戻る気もないんやろ」
「……気もない…っていうか、だって」
「フーン、まだ好きなんや? じゃあ、会いに行ったら?」
「……そ、そういうわけには」
「同じ沿線やろ? 偶然に会ったりせんの?」
「……ぜんぜん会わない、ね。……会っても、困るけど」
「なんで困るんやし?」
「……えーー…、困るよ」
「ふうん」
愛ちゃんは、やれやれというように肩をすくめた。
あさ美ちゃんが、拗ねたように甘えるみたいに愛ちゃんに肩をぶつける。
もう、なに急に〜?なんて。
- 303 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:47
-
「いや、だからあさ美ちゃん、誰かと付き合えばいいのにって思って」
「ええー?」
「なんか、いっつもボーッてしてるし」
忘れるために、誰かとつきあってみれば?
愛ちゃんの言葉に、あさ美ちゃんはきゅっと眉をしかめてプルプルッと首を振った。
なぜか怯えたみたいに、両腕でぎゅっと自分を抱きしめながら。
「……それが、一番イヤだ」
「絶対、だめ?」
「絶対、だめ」
絶対だめ。全然、だめ。
その言葉に、あたしは密かに口を尖らせる。
それって頑固すぎると思うなー、あさ美ちゃん。
愛ちゃんは「そう」と呟き、それっきりつっこまなかった。
あさ美ちゃんが、むうっと唇を尖らせる。
「人のことより、愛ちゃんはどうなの?」
「あたし?」
「そう。知ってるよぉ、けっこうコクハクされてるでしょ?」
ふええ、初耳っ!
耳ダンボになって「誰、誰、誰にっ!」と、思わず話に割り込む。
愛ちゃんはちょっと眉をあげて「こっちも道重みたいなもんやわ、ミーハーで」とクールに言った。
- 304 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:47
-
えー、そんなのわっかんないよぉ?
あたしは力説する。ふざけてるように見せかけて本気かもしれないよぉ?
超ドッキドキで、高橋先輩っ、私、高橋先輩になら青春を捧げますぅ!みたいな〜?
「アホ」
「いやーん、ひどーい、高橋センパーイっ!」
「あーもーウルサイ、まこっちゃんはぁー」
「高橋センパイッ、私ほんきなんです、ほ・ん・きなんですぅー!」
「やかまし!」
目にもとまらぬ早業で愛ちゃんにビシーッとデコピンされて、痛ェ!とのけぞる。
あいたたと身を起こして、目にした光景にドキッとする。
あさ美ちゃんが愛ちゃんの耳元に唇を寄せて、なにやらコソコソと耳打ちをしていたんだ。
えっ、ちょっとぉ? なに、なんであたし仲間はずれ?
愛ちゃんの耳元から離れたあさ美ちゃんの目は、ちょっといたずらっぽく笑ってて。
なにかを囁かれた愛ちゃんはびっくりしたように目を真ん丸に見開き、
あさ美ちゃんの顔をまじまじと見て、それから不愉快そうに眉を寄せて、フンと鼻を鳴らした。
「断っといて」
「ええっ?ちょっとは考えてくれたぁ?」
「考えるもなにも、そういうことは自分で言ってこな」
「ドキドキしちゃって話しかけられないんだって。かわいいじゃない?」
「あほらし」
素っ気ない愛ちゃんの言い草に、
あさ美ちゃんは愛ちゃんはキビシーなぁと苦笑した。
- 305 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:48
-
「1年生からみたら3年生なんて、もう神様みたいじゃない?」
「ふん、まあ緊張はするやろけど」
「話しかけられなきゃ、ぜったい話せないよ。……わかるけどな」
「そう? どうしても話したかったら話すやろし」
「何のハナシーーー!!!!」
ギャーーッと叫んだあたしに、あさ美ちゃんはごめんごめんと笑って教えてくれた。
名前は教えてくれなかったけど、同じ委員会の1年生のコが愛ちゃんのことすっごく好きで、
1回でいいから二人きりでしゃべってみたいって思ってるんだって。
「聞いてみて、って言われてたの。今、ちょうどいい話になったから」
「フーン、愛ちゃんとしゃべってみたいんだぁ。1回でいいの?」
「それは、そう言ってるだけじゃない? まずは、知ってもらってっていうか〜」
「ほぉほぉ」
「もしかして気に入ってもらえたらうれしいなっていうか〜」
「ほぉ〜、なるほどなるほど」
「なかなか、けなげでしょ?」
「けなげだねぇー」
キャッキャと盛り上がりを見せるあたしたちに、
ハイそこまで!と、愛ちゃんは冷たい言葉を投げた。
「とにかく、断っといて」
「うーん、仕事熱心なイイコだよぉ? 一回くらい」
「期待させるのイヤやもん」
「そっかぁ……。あー、ガッカリするだろうなぁ。なんていって説明しようかなぁ〜」
「好きな人がおるって言っといて」
- 306 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:50
-
エッ? と、あさ美ちゃんの目が丸くなる。
当然、あたしの目も丸くなった。うおおっ、あ、愛ちゃんっ!
「おるよ、好きな人くらい。ナイショやけど」
愛ちゃんはニッと笑うと、ふいっと踵を返して教室に入り、
窓際の席で頬杖をついてパラリパラリと楽譜をめくり始めた。
え、話、終わり? こんなミステリー残して終了?
あたしとあさ美ちゃんは呆気にとられて目を見合わせる。
それぞれに驚きの意味が違う、真ん丸な目を。
きっと、あさ美ちゃんは、愛ちゃんって好きな人いるんだーってびっくりしてて。
あたしは、うおー、愛ちゃんってなんかすっげーかも、ってビビってて。
「……愛ちゃんって、よくわからないな」
ぼそっと呟いたあさ美ちゃん。
そして、彼女の横顔に目をやり、じっと見た。
静かに長い睫毛を伏せて楽譜を見てる、キレイな横顔を。
人には忘れるためにつきあったら?なんて言うくせにさ、
好きな人がいるから、しゃべるのもイヤだなんて……
「いまいち、何考えてるかわかんないんだよね、愛ちゃんって……」
あさ美ちゃんは考え込む。首をかしげて。
そして、うーん?と顎に寄せた人さし指が、
いつの間にか唇をくにゃくにゃさわるあのクセになって……。
- 307 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:51
-
ちょ、ちょっとぉー!
あたしはなんかミョーに慌てて、
あさ美ちゃんのわき腹をコチョコチョつついてこっちを振り向かせた。
「なによ〜、あさ美ちゃんこそ、もう吹っ切ったって言ってたじゃ〜ん」
「そ、それはもう期待しないってことで」
まこっちゃんにはわかんないよ。
あさ美ちゃんが、わざとらしくツーンと横を向く。
あっ、馬鹿にしたなあーー!!
また派手にビシバシポカスカと大騒ぎを始めたあたしたちを、
ちょっと煩そうに目を細めて、愛ちゃんは見た。
「そろそろ先生、来るよ」
ふぁ〜い。はーい。
怒られたあたしたちは、おとなしく手を下ろす。
ちぇー、まだ遊んでたかったのにな。
しぶしぶ席に戻りかけたあたしの背中に、あさ美ちゃんがぴょこんと飛びついてきた。
おっ!あさ美ちゃんも遊び足りないっすかい? ヨッシャー!
ところが、満面の笑みで振り返ったあたしの耳にコソコソと囁きかけられた声は!
- 308 名前:初恋自転車 投稿日:2004/06/30(水) 22:51
-
「ね、まこっちゃんわかる? 愛ちゃんの好きな人」
うええっ?!
あたしは、ありとあらゆる意味で、冷や汗たら〜りとなった。
いやあ、なんといいますか、そのぉ……。
「ぜんぜんわかんない」
- 309 名前:雪ぐま 投稿日:2004/06/30(水) 22:53
-
本日はここまでといたしますw
まこっちゃん、冷や汗たら〜りw
- 310 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/30(水) 23:44
- うぅ…どうしても自分の中には後紺が住んでるようです。
甘甘幸せな後紺、また見れる日が来るのでしょうか。・゚・(ノД`)・゚・。
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/01(木) 00:21
- 作者殿、毎日更新お疲れ様です。
>>310
我輩も貴殿と同じでござるが、そんな期待は作者殿に酷ではないか。
もしものときは我輩が介錯いたすから安心せい。
- 312 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/01(木) 01:06
- 更新お疲れ様です。ピスタチオ食べながら読んでましたw
何かしながら読まないと小説の世界に入りすぎてやばいんですもん。
もうそんな時間が経ったんですね〜。
ガキさんがかなりいい感じです♪
- 313 名前:Stargazer 投稿日:2004/07/01(木) 06:50
- 進んでいく日常の中で、少しずつ…変わり始める3人の関係に、内心
はらはらしながら読ませてもらいました。変化を拒む、その頑固なとこが
妙にリアル紺野さんを思い出してしまいます。そして、ガキさんキター!w
- 314 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/01(木) 10:45
- 新キャラが出てきましたね。紺野さんが言ってた子も気になりますが
愛ちゃんの…も気になったり。まこっちゃんがそう思うってことはって
思っちゃったり…。紺野さん…リアルでも可愛くなりましたよね…。
- 315 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/07/01(木) 12:47
- どいつもこいつもみんな可愛いすぎる。
なんか切ないのが続いたからやけにニヤニヤしてしまいました。
- 316 名前:名無しマカー 投稿日:2004/07/01(木) 21:42
- 連日の更新お疲れさまです。
最後のところ、紺ちゃんの無邪気な行動になぜかドキドキ・・・
ハロモニで紺野さんを見ると妙にせつなくて応援したくなったり、
すっかり雪ぐまさんの世界にやられちゃってるみたいです。
- 317 名前:ましろ 投稿日:2004/07/01(木) 22:11
- お!始まりましたね、本編後の部分が。
火曜更新分、新キャラ登場など笑いながら読みました。
さーて、こんこん、まこっちゃん、愛ちゃんが
どういう風になっていくのか、とても気になります。
- 318 名前:ましろ 投稿日:2004/07/01(木) 22:17
- あ、訂正、水曜更新分でした。
火曜のレスをつけていないので、間違ってしまいました。
本当に、毎日毎日の更新お疲れ様です!
- 319 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/02(金) 00:08
- 310> 名無飼育さん様
来るのでしょうかねぇ……。こんごまもここまで熱烈に支持されて果報者。でも、まったり頼みます。
311> 名無飼育さん様
貴殿の心意気、なかなか男前でござるな。吾輩も切腹するはめになったら介錯たのもうぞ……。
312> オレンヂ様
ガキさんねw 味がありますね彼女は。チョイ役だけど、今後ちょこちょこ出てきます。
313> Stargazer様
変化を拒む紺ちゃんにも時の流れは訪れて。季節が変わるように3人の友情も変わっていきそうです。
314> 名無し読者79様
チョイ役なんですけどねw リアル紺ちゃんがかわいくなったのはなんでかなあ? 気になりますねw
315> 名無し飼育さん様
5期メンはほんと、かしましクラスメイトがよくお似合いです。こんな女子高、いいなあw
316> 名無しマカー様
まこっちゃんもドキドキさせられちゃってるみたいですよw うちの紺ちゃん、鈍感ですねw
317、318> ましろ様
始まりましたよ〜。後藤さんのものじゃない紺ちゃんの日々、まったりとお楽しみください。
それでは、本日の更新にまいります。
- 320 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:10
-
愛ちゃんが、あさ美ちゃんを好きかもしれない。
そのことは、あさ美ちゃんの心に残る後藤さんのことよりも気にかかったりする。
目の前から後藤さんの存在が消えたことで歪みはじめた、
あたしたちのビミョーなトライアングル。
- 321 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:11
-
3年になって、いちはやく進路を音大の声楽科と定めた愛ちゃん。
いつまでも進路の決まらないあたしにとって、
その姿はどことなく凛々しく、大人びて見えた。
あたしと同じように進路を決めかねてるあさ美ちゃんの目にも、たぶん。
その考えは、あたしをユーウツにする。
あさ美ちゃんはきっと、大人っぽい人が好きだからさ。
「文学部と経済学部?」
「うん。愛ちゃんだったら、どっちにする?」
ほら、そーゆーことは、あたしには相談してこないんだよねー。ちぇっ。
「そんなもん、好きなほうやわ。あたしはどっちも嫌やけど」
「そ、そうだよね」
「にしても経済かぁ。エライの。もう就職活動のこと考えてるん?」
愛ちゃんが、くしゃくしゃっとあさ美ちゃんに微笑みかける。
あさ美ちゃんがポッと頬を染めるから、あたしはヒヤヒヤしてしまう。
「……そ、そういうわけでもないけど」
「ん?」
「……な、なんでもない」
「座れば? その資料みして」
- 322 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:11
-
すすめられるままにあさ美ちゃんはおとなしく愛ちゃんの隣に腰かけ、
愛ちゃんは、あさ美ちゃんが持っていた大学のパンフレットに目を通しはじめる。
熱心に文字を追う愛ちゃんの伏せられた睫毛や、ページをめくる指先を、
なんとはなしにあさ美ちゃんは見ている。
午後の光が射しこむなかで、二人の髪がきらきらと眩しい。
ああ、こんな感じ、見たことがある。
そう、後藤さんとあさ美ちゃん……
肺をぐっと押しつぶされたみたいに息苦しくなって、パッと目をそらした。
あたしもまぜてと割り込んでいけば全然OKなんだろーけど、
だけど、それさえもできないくらい、胸が苦しくて。
- 323 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:12
-
「ねえ、愛ちゃんってもしかして後藤さんに似てる?」
「え?」
ある日、とうとう、そんなふうに訊いてみた。
あさ美ちゃんと二人で、放課後にくだらない話をしてた時。
そう、あたしとあさ美ちゃんはつまんないことばっか話してる。
今食べてる新発売のチョコのこととか、なんか、目の前のことばっかり。
「似てないよ。どっちかっていうと、まこっちゃんのほうが似てる」
「ほあ?」
どっちかっていうとだけど、と前置きして、
まこっちゃんっぽいよ、あの人……と、あさ美ちゃんは呟いた。
「ボーッとしてるし、甘えんぼだし、寂しがりで」
「ほえ?!」
「ちっともクールじゃなかったかも、今思うと」
うーん、と、あさ美ちゃんはこめかみに指をあてた。
いまさら気づいても、遅いんだけどね。なんて言いながら。
- 324 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:13
-
あさ美ちゃんはなんかもやもやと後藤さんのこと考えはじめたみたいだったけど、
あたしは思いがけない言葉に興奮して、たちまち有頂天になった。
「そっかー、あたし後藤さんに似てるかー!」
「どっちかっていうとだってば」
「フーン、カッコいいジャン、あ・た・し!」
「カッコよくないんだってば、だから」
ほえ? なんで? いいじゃん、
かっこいいってことにしようよ、ねえねえ?
「ほら、そういうところ」
もう、なんでも思ったとーりに、しようとして。
あさ美ちゃんは、ほんとに可笑しそうにくすくす笑って、
それからゆっくりと机に頬杖をついて、フッと目を細めた。
やさしく目を細めて、じっとあたしを見た。
あたしは、なんか、うわあおっ!って感じでパッと目をそらした。
妙につるっと光って揺れる黒い瞳に見つめられて、なんか、なんか。
- 325 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:14
-
「? なに、まこっちゃん」
「やー、なんか恥ずかしい!」
「えぇ?」
「あさ美ちゃん、恥ずかしい!」
なにそれ? ひっどーー。
あさ美ちゃんが、ベシベシベシッと強烈にあたしの肩を叩く。
いってぇ! なにすんじゃあ、デメキン!
笑って振り向きかけて、思いがけずあたしはうぐぐっ!となった。
あさみちゃんが、黙れ!っていうみたいにあたしのクチビルをわしっとつかんで、
ギュウウッて、ひねりあげたんだ、いきなり。
「んんんーーーー!!!!!」
「だーれがデメキンだってぇ?」
「んんんーーーー!!!!!」
うりゃうりゃうりゃっ。
あさ美ちゃんは容赦なく3回も手を上下させて、やっとパッと放してくれた。
で、「あ、ツバついちゃった」なんて言って、
あたしの制服の肩先に手のひらをエイッとかこすりつける。
あたしは超〜ヒリヒリする唇をおさえて、もう半泣きで文句を言った。
- 326 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:14
-
「いってよぉーー!なにすんじゃ、バカーー!!」
「まこっちゃんが悪いんでしょーぉ?!」
「てっめー、ポン野ォ!!」
ガーー!と立ち上がったあたしに、あさ美ちゃんはキャー!なんつって楽しそうに笑って。
ガタンとイスを蹴って逃げ出したあさ美ちゃんの制服をわしっとつかまえながらあたしは、
なにかこう、いつものじゃれあいだけじゃない、ドキドキする気持ちを胸の中に確かに感じていて。
うわあ、チャンスだと、密かに感じていて。
そう、あさ美ちゃんのクチビルにふれる、チャンス。
「イヤーー!ごめんごめん、まこっちゃーん!」
「エーイ、覚悟しろぉーー!!!」
「ヤーーーー!!!!」
えいっ!
その瞬間の、心臓がひっくり返りそうなほどのやわらかさ。あたたかさ。
生まれて初めてあたしは、自分のじゃない、ヒトの唇に指をふれた。
あさ美ちゃんのあのぽてっとしたクチビルに。
- 327 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:15
-
「んんーーーーーー!!!!」
ギュッと目を閉じて楽しげにジタバタと腕を振り回し、なんとか逃れようとするあさ美ちゃん。
逃がしてたまるかグニューなんてつかみながらあたしは、自分のドキドキを悟られないように、
さっきのあさ美ちゃんの仕打ちを忠実に再現する。
うりゃうりゃうりゃっ!
ぱっと手を離した時、やっぱりあたしの指先もちょっと濡れちゃってて。
でも、あたしはその手をあさ美ちゃんの肩先にこすりつけたりはしなかった。
たださりげなくぎゅっと握りしめて、どうだまいったか?というようにカカと笑った。
「あーー、痛ったーい、もおおっ!!」
「ぐははははーーー!!!」
ああ、すっごいやわらかかった、指先にふれた熱。
うひょ〜〜、今夜は眠れそうもないよぉ〜〜〜。
- 328 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:16
-
ごめんね愛ちゃん、ちょっと抜けがけしちゃったかも。
でも、あたしが悪いんじゃないよぉ?
あさ美ちゃんが先にしてきたんだから、ねっ?
あたしはぐふぐふとご機嫌になり、まだ悶絶してるあさ美ちゃんの手をとってぶんぶんと振った。
「ますますクチビル腫れちゃうねーっ」
「ちょっとぉー、どういう意味ー?」
「いえ、べっつにー」
もお、まこっちゃんキラーイ!
そう言いながら、あさ美ちゃんが笑ってる。いたずらっぽく笑ってる。
すっごく楽しそうに体をくの字に折り曲げて大笑いしてる。
「なんでぇー? あたし、あさ美ちゃんラブですよぉ〜?」
軽いノリに、ちょっぴり本音をこめて。
ねぇ、すっごい楽しいじゃん。うちら、すっごい楽しいよね毎日。
あたしってほんとふざけてばっかだけど、愛ちゃんみたいに頼りになったりしないけど、
あさ美ちゃんは、ほら、タンポポみたいに楽しそうに笑ってくれるよ。
「うん。私も、まこっちゃんといるの、好きー」
まこっちゃんの笑顔、好きだよー。
でっしょーぉ?
あたしたちは手をつないで、テキトーな歌を唄いながらくるくる踊った。
こんな時、あさ美ちゃんは後藤さんのこと絶対忘れてると思うんだけど。
思うんだけどねぇ……希望的観測かなぁ?
- 329 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 00:17
-
駅でバイバイって手を振って別れて、
あたしはさっきあさ美ちゃんのクチビルにふれた指を、
こっそり自分のクチビルにもってった。
そんで、人さし指でくにゅくにゅってしてみる。
あさ美ちゃんの真似をするみたいに。
キスってこんな感じ?
ああ、すっごいドキドキする。
あさ美ちゃん、好きだよ。もうすっごい好き。
もっともっと笑おうよあたしたち。
もっともっとはしゃごうよあたしたち。
そしていつか、あさ美ちゃんが魔法にかかってくれるといいな。
- 330 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/02(金) 00:17
-
本日はここまでといたします。
- 331 名前:名無しあつ 投稿日:2004/07/02(金) 00:24
- リアルタイムで読んでしまちゃったので初レスを・・・
まこっちゃんもうードキドキって感じで・・・・
まこっちゃん辛いのかな〜
- 332 名前:名無しマカー 投稿日:2004/07/02(金) 00:29
- 初リアルタイムでした。
あ〜、まこっちゃーーーーん!
こんな感じの甘酸っぱさ・・・なんだかすごくよくわかります。
- 333 名前:名無しぽき 投稿日:2004/07/02(金) 00:29
- ひさびさ〜に、のんびりした雰囲気でしたね。
イイヨイイヨー。
マコ積極的だヨー。
に、しても、あの学部って気になりますな。
もしや、あの考え、まだ…?
- 334 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/02(金) 01:38
- おがわっしょいの想いが甘酸っぱい〜!!
まさに青い春って感じですね〜
- 335 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/02(金) 02:50
- はふぅ〜〜〜〜!マコキャワ!!!
ほのぼのとしてて癒されますね。
そっか。あの学部と迷ってるのかぁ・・・
- 336 名前:Stargazer 投稿日:2004/07/02(金) 07:30
- まこっちゃん可愛い〜!!ほのぼのとしてて、でもちょっぴり切なくて。
はっ!私、雪ぐまさんの手の平の上で踊らされてる?w 歪みはじめた
トライアングルに注目しつつ、更新お疲れさまです。
- 337 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/02(金) 07:31
- いやーいいですね。まこっちゃんが本当可愛い。
友達になりたいですねこういう子…。この後どうなっちゃうんだろう。
- 338 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/02(金) 08:11
- あの学部…
もしそれが僕の思ってるそれだとしたら…
うん…なんか、そういうの大事にしてほしいですね。
ああ、すっかりもう引き込まれてますよ。
そして出遅れましたが>>311さん。
僕にも介錯お願いします…。
- 339 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/02(金) 13:10
- 331> 名無しあつ様
あつさん、こんにちはw も〜まこっちゃん大変ですよ、紺ちゃん無邪気だから。なかなか罪な女ですなw
332> 名無しマカー様
もうねぇ、まこっちゃんったら純情w 紺ちゃんはもっといろんなこと知ってんだぞ〜、とw
333> 名無しぽき様
ええ、あの学部ですよ。紺ちゃん、どうなのよ?w 川*o・-・)<な、なんの話ですか?
334> 名無し読者様
見てるこっちが恥ずかしいわい!って感じですなw あーもう、マコかわいいっ(ポワワ。
335> オレンヂ様
ねー、迷ってますよ。マコには相談しないけどw 自分がホントに勉強したいこと、紺ちゃんは選べるかな?
336> Stargazer様
踊って踊ってw あさ美姫にナイトが二人。ごっちんがいれば、それでバランス良かったんですけどね。
337> 名無し読者79様
雪ぐまもマコと友達になりたい! てゆうかこの3人の仲間にいれてw 川*’ー’)<お断りやし。
338> 名無飼育さん様
331さん大人気だw 迷ってる紺ちゃんのキモチ、大事にしたほうがホントにいいかな? だって人生は恋だけじゃないですよぉ?
それでは、本日の更新にまいります。
- 340 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:12
-
あっ!と足をすべらせたあさ美ちゃんの手を、とっさに愛ちゃんがとった。
「あっ……!」
「わ……!」
女子高らしくお茶の作法を学ぶ授業があって、
今週の当番だったあたしたちは3人で残って、作法室でお茶セットの片づけをしてたんだ。
ふたりは座布団を重ねた上にのって、棚の上のほうにせっせとお茶碗をしまってた。
たいした高さじゃないけど、ぐらぐらして危ないなーっては思ってたんだよ。
座布団、つるつるしてるし。
そしたら、案の定……
ふたりはあたしが見てる前で、重なり合ってスローモーションのように落ちた。
あさ美ちゃんを助けようとした愛ちゃんは、結局、あさ美ちゃんを下敷きにして。
- 341 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:13
-
「あいたたたた……」
「あー、いったぁ……」
仰向けにひっくり返ったあさ美ちゃんに、
べたんと覆いかぶさるみたいに乗っかっちゃった愛ちゃん。
あたしは、慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫?」
「あー……、うん」
「下が畳で、よかったの……」
そう言いながら、なぜか愛ちゃんは、
ぐたりとあさ美ちゃんの上に乗っかったまま。
小柄な愛ちゃんだけど、全身で乗っかられたらさすがに動けないみたいで、
あさ美ちゃんは、怪訝そうにちょっと首をあげた。
「愛ちゃん?」
「……なんか、あさ美ちゃん、気持ちいい」
えええっ?!
うらやまし……じゃなくて、はやくどいてあげなよ、愛ちゃん!
ポッと赤くなったあさ美ちゃんと、わたわたしちゃうあたし。
なのに愛ちゃんはあたしたちのことなんておかまいなしで、一人ぶっちぎりはじめる。
- 342 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:14
-
「あー、ホント気持ちいいわ。やわっかい」
「……………」
「重い?」
「……ううん」
それは別に、なんてことない会話だったのかもしれないけど、
あたしの胸はズッキーン!と、うずいた。
なんで愛ちゃん、離れないの?
なんであさ美ちゃん、じっとしてるの?
「なんか、いい匂いするあさ美ちゃん。香水?」
「え? ううん、何もつけてないよ」
「シャンプーかぁ。なんやろ、当ててみよっかな」
鼻先をくんくんと犬のように動かす愛ちゃん。
あさ美ちゃんは、なぜか息を詰めて、ますます頬を桃のようにうっすら染めた。
ちょっと……ちょっとちょっとちょっとーーぉ!!!
「ああああ愛ちゃんっ!」
思わずあげちゃったあたしの非難の声に、愛ちゃんがやっとヨイショと身を起こす。
ホッとしたのも束の間、愛ちゃんはあさ美ちゃんの両わきに腕をついたままふと動きを止め、
何を思ったか、ニヤッとあさ美ちゃんの顔をのぞき込んだ。
あさ美ちゃんが戸惑ったように、でも、じっと愛ちゃんの顔を見上げる。
うえええええ?
見つめあう二人に、なにやらまたカーッと胸が熱くなった瞬間。
愛ちゃんは、またとんでもないセリフをブチかました。
- 343 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:15
-
「これって、ちょっとHな感じ?」
「……そ、だね」
なんなの? なんなのなんなのもぉ!!
あたしが入りこめないことしないでよぉぉ!
愛ちゃんはひょいと立ち上がると、今度はあたしを見てニヤリとした。
「うらやましい?」
「はーー? なんの話デスカーーー???」
「まこっちゃんにも、乗っかってあげよっか?」
「いやーーっ!愛ちゃんの変態ーー!!」
「そんな、騒ぐほーが変態っぽいわ。やーらしっ」
あたしたちがぎゃあぎゃあ言いあう横で、
あさ美ちゃんはゆっくり起き上がり、ぐずぐずと襟元を直した。
その赤く染まった横顔が、なんかちょっと、いつもと違った感じに見えて。
なんとなく、ぼんやり、してて。
その様子に気づいた愛ちゃんが、すばやく彼女の脇に腰をかがめる。
「どしたの、頭、打った?」
「あ、うん、ちょっと」
「どれ、見してみ」
ためらいなくあさ美ちゃんの後ろ頭に伸ばされた愛ちゃんの手。
髪をかきわけるその指をまるで嫌がりもせず、
ううん、むしろ触れられる感触を感じたいみたいに、
あさ美ちゃんはカクンと首を前に折ってかすかに息をつき、そっと目を閉じた。
- 344 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:16
-
うっわーーー。
その横顔を見て、はっきりわかってしまった。
その顔、見たことある。見たことあります!
あさ美ちゃん、愛ちゃんのこと、後藤さんみたいって思ってる!
わーん! やっぱ後藤さんみたいって思ってんじゃん!!!
- 345 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:17
-
「ふん、タンコブできてるわ」
「……あ、やっぱり?」
「保健室、行く?」
「あ、い、いいよ、このくらい」
愛ちゃんがジッとあさ美ちゃんの目をのぞきこんだからか、
あさ美ちゃんはカアッと頬を染めたままパッと立ち上がり、
残っていた茶碗を電光石火の勢いでばたばたと棚にしまいこんだ。
そして、棚の鍵をカチャッとかけて、ふうっと一瞬、息をついた。長い睫毛を伏せて。
「あさ美ちゃん?」
「あ、か、鍵、私、返してくるね」
慌てたようにバタバタと職員室へと駆け出していったあさ美ちゃんの、その真っ赤に染まった耳ときたら。
あーあ。あたしは横目で愛ちゃんをジロッと睨む。
あーあ、もう、また変なこと思い出しちゃったじゃんか、あさ美ちゃん。
- 346 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:18
-
「……愛ちゃん、悪趣味じゃないかなあ?」
「ふうん、まこっちゃんも気づくようになったんか」
ちょっとは大人になったみたいやの。
愛ちゃんは、あたしの文句をさらりとかわして肩をすくめる。
「やっぱ、わざとしてたのーっ?」
「ちゃうよ、ほんとに気持ち良かったで、つい」
「どーだかっ」
「ま、ちょっとは、わざとやったけど」
「ほらーー!!」
「だって、気になったんやもん」
あさ美ちゃん、まだ後藤さんのこと好きかなーって。
なんでそんなこと知りたいの? 知ってどうする気なの?
あたしは口をヘの字にして、むっつりと黙った。
愛ちゃんだってあさ美ちゃんのこと好きなら、
わざわざ後藤さんを思い出させるみたいな真似、しないでよね。
- 347 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:19
-
いや、……てゆうか、まてよ。
あたしは探るように、愛ちゃんの横顔をじっと見る。
あれって、なんか気を引こうとしてなかった? 口説きっぽくなかった?
そうだよ、あの口調、かなり。あの低めの、やさしく囁きかけるような声。
あさ美ちゃんに恋の熱を思い出させるみたいな、なんだろ、Hっぽい感じ……
- 348 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:23
-
胸の奥のほうが、カアッと熱くなる。
お腹の底のほうが、ざわざわと落ち着かなくなる。
ちょっと、やめてよ愛ちゃん……。
そんなことを口にするわけにもいかず、代わりにあたしはボソッと呟く。
わしゃわしゃと貧乏揺すりとかしちゃいそうな膝をぐっと踏みしめて。
チリチリする胸の内を、もっともらしい理由にくるみこんで。
「……可哀想じゃん、あさ美ちゃん。忘れたいって思ってるんだよ?」
「そう?」
愛ちゃんは、なにやら考え込むように首をかしげた。
「あの子、忘れたいかな?」
はあっ?
何言ってるの、愛ちゃん?
「忘れたいに決まってんジャン!」
「あさ美ちゃんがそう言った?」
「言ってたよっ」
ふうん、愛ちゃん、知らないの?
あたしはちょっと優越感なんて感じつつ教えてあげる。あさ美ちゃんがあたしに言ってることを。
そう、昨日の帰り道だって言ってたよ、駅前に新しくできた雑貨屋さんのアロマオイルのコーナーで。
- 349 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:24
-
あさ美ちゃんは、フッとひとつの小瓶に目を止めて手にとり、
瓶の後ろのラベルのとこに書かれてた説明文をジイッと見た。
そして呟く。……花のなかの花……。
それであたしは思い出した。ああ、後藤さんが好きだったオイル……?
買うのかな?って思ったのに、パッて棚に戻しちゃったからなんで?って訊いたんだ。
ちょっとやけっぱちに、買えばいいジャン、なんて。
あさ美ちゃんは、買わないよぉ、って笑った。
『買わないよぉ。思い出したくないもん』
『そぉ……』
『買わない。忘れたいもん』
- 350 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:25
-
「ふうん」
話を聞いた愛ちゃんはそう呟いて、ちょっと面白くなさそうに腕を組んだ。
へっへー悪いね、なーんて思ったりして。
帰宅部のあたしたちと違って、愛ちゃんは週3回の部活があるから毎日一緒に帰れるってわけじゃない。
だから、あたしのほうがきっとあさ美ちゃんとたくさん話をしてるんだよ。
あたしのほうがあさ美ちゃんのこと、よく知ってる……はず。
なのに、愛ちゃんときたら。
ひょいと肩をすくめて、「やっぱまだ忘れたくないんやな、あさ美ちゃんは」なんて!
「ちょっと、なんでよ」
「だいたい、そうまで忘れられんのは忘れたくないからじゃないかし?」
「はぁ? なにそれ、どういう意味?」
「てゆうか、むしろ思い出したいんやないかな?」
なぞなぞみたいな愛ちゃんの言葉。
頭が痛くなってくる。ちょっと、お願い、もうちょっとわかりやすくさ。
うがぁ…と呻いたあたしの鼻を、全然むずかしいことゆってえんがしと愛ちゃんは笑って弾いた。
- 351 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:25
-
その瞳。かわいらしくって、いたずらっぽくて。
でも、小さな宝石みたいに鋭く強く光る。
心の中が読まれちゃいそうな、吸い込まれそうな、からめとられそうな。
「あたしのこと、ジイッて見た、あの子」
「えっ?」
愛ちゃんの目は黒く光る。賢そうな深い輝き。
学年一の美少女と噂される、その整った笑顔。
品のいい口元からきれいに揃った白い歯がこぼれ、ドカンととんでもない言葉を紡ぎ出す。
さっき。
カラダ起こした時。
あの子、すごい目で見た。見上げてきた。あたしのこと。
「ほやから、つい、ははーん?って思ってもて」
「はああああっ?!」
「まあ、からかう気やったわけじゃないけど」
結果的に、ちょっとからかってもたかもしれん。
ははーん、Hなこと考えてるな、あさ美ちゃん、って思ったからゆっただけやけど。
- 352 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:26
-
ぬわあああああ!!!
思ったからってそんなこと言うなああああ!!
てゆうか、そんなHなことカンタンに思い出させるなああああ!!!
ぐわっと真っ赤になったあたしを見て、愛ちゃんはニイッと妙にうれしげに笑った。
わー、性格悪っ。知ってんだ、愛ちゃん、きっと知ってんだ、あたしがあさ美ちゃんを好きなこと!
あたしは、ぎゅっとコブシを握りしめて、なんとか、こう、平静を装おうとした。
だって、あまりにカッコ悪いんだもん。愛ちゃんとあたし、レベルが違いすぎない?
なんか愛ちゃん、余裕ぶちかましって感じじゃない?
一歩リードどころじゃない、百歩くらいリード?
いや、もしかして土俵が違うのかも。
あたしはどこまで行っても友達ゾーンをうろうろするはめになって、
愛ちゃんにはもしかして違う道が拓けてる? その可能性がある? そのやり方を知ってる?
「まあ、とにかくね」
あたしは精一杯スカして言った。
チリチリする胸の内を、バカの一つ覚えみたいに、もっともらしい理由にくるみこんで。
- 353 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:27
-
「からかうのとか、よくないよ。あさ美ちゃん可哀想じゃん」
「そうかのー? 感謝されてるくらいやと思うけど」
「か、感謝ぁ?!」
「だって、いいこと思い出したやろ? あさ美ちゃん」
いいことって!
愛ちゃんはいちいち、もういちいち、発想がやらしすぎますっ!
わめいたあたしに、愛ちゃんは笑って、なんでまこっちゃんがそんなに怒るの?なんて言う。
グッと詰まってあたしは、あさ美ちゃんが可哀想だから、と答える。バカの一つ覚えみたいに。
「忘れたいと思ってるのにさー」
「だから、忘れたくないんやって、あの子は」
「ちがーーう! 忘れたいってゆってたモン!」
「ふん、やっぱまこっちゃんは子供やの」
言葉なんて、真実と限らんわ。
ふざけてばっかえんと、たまにはちゃんと考えたら?
そう言うと愛ちゃんは、いきなりガキッ!とあたしにヘッドロックをかけてきた。
「いでーーーーっ!!!」
「小川麻琴っ。いくつやの、あんたはっ」
「じゅ、じゅうなな……」
「やろ〜? 考えれ、考えれ〜」
- 354 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:28
-
愛ちゃんの腕にぐわっと頭を抱えられながらあたしがまず考えたのは、
あれえ?この子、いつもこんないい匂いしてたっけ?ってこと。
桜みたいないい香り。女の子とオトナの女のヒトの間くらいの爽やかな甘い香り。
ガシガシと揺すられてやっと解放され、
フラフラになりながら、まじまじと愛ちゃんを見た。
1年の時から、ずっと一緒のクラス。見た目、なんか地味な子。生真面目な優等生。
ちょっとキツい顔してたあたしに、最初ビビってたみたいだった。
やせっぽちで、なまってて、なんか田舎っぽいよなぁって思ってたけど、
今、目の前に立つ3年生の愛ちゃんは、全然ちがう。変わった、愛ちゃん。
どうして、こんなに変わった?
堂々として、すごくカッコ良くなった。
そうだよ、最初はあたしのほうが成績だってよかったし、目立ってたのに……
- 355 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:28
-
なんやの?と笑って先に歩きかけて、愛ちゃんはふとあたしを振り返った。
そして、こめかみにちょんと指をあてて、「考えなあかんよ」と言った。
そのあと、なぞなぞみたいに投げ掛けてきた言葉はきっと、
出会った頃から変わらない、彼女のまっすぐなフェア精神のあらわれ。
もう一人の親友であるあたしへの、おそらく友情の証。
「考えなあかん。あさ美ちゃんが忘れたくないんやったら、どうしたらいい?」
- 356 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:29
-
次の授業であさ美ちゃんは、
熱心に教科書に目を落としながらも、ひっきりなしにあのクセをしてた。
人さし指で、唇をくにゃくにゃってするやつ。
『忘れられんのは、忘れたくないからじゃないかし?』
そうなの、あさ美ちゃん?
今この瞬間も、後藤さんのこと思い出してるの?
もしかして、どっぷり思い出にひたったりとかしてるの?
ううん、忘れなきゃって、言ってたよね。
もう会えない人だし、思い出すとつらいから忘れたいって。……だよね?
夏の風に、さらさらとあさ美ちゃんの黒髪が揺れる。
あたしとあさ美ちゃんが出会って、3度目の夏が来る。
そして、あさ美ちゃんが後藤さんと別れて、もうすぐ1年。
さすがに、もういいかげん……そうだよ、もういいかげん……
でも。
あたしは、シャープペンシルをぎゅっと握りしめた。
忘れた後に、愛ちゃんのことを好きになってるんじゃ困るんだ。
- 357 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:30
-
『恋がうまくいくように応援してあげるのが友達やないかし?』
いつか聞いた愛ちゃんの言葉がまた蘇ってきて、チクチク胸が痛む。
さっきのカッコいい、フェアな愛ちゃんを思い出して、ズキズキ胸が痛む。
恋のライバルは、大親友。
彼女は、あたしの恋をそれなりに応援してくれてるのかも。
考えろなんて忠告までくれて、正々堂々と戦いましょって感じ?
だけど、あたしはなんだか焦るばっかで。悔しいばっかで。
あー、あたしって、ホント友達がいがないタイプかも。
愛ちゃんにあさ美ちゃん取られちゃったらヤダよォなんて、思ってる。
そういえば、後藤さんのことだって、いっつもイライラしてたし……
- 358 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/02(金) 13:31
-
あたしの視線に気づいて、ふと顔を上げたあさ美ちゃんが、
ニコッと笑ってタコチュー口を、チュッとしてみせた。
いつものおふざけ。だけど、あたしはドキッとする。
キスをもらったような気がして。
あたしはもちろんいつものようにニマッて笑って、チュッて返した。
そして教科書に目を戻し、先生が説明してるところを一緒に読もうとする。
だけど、文字なんかぜんぜん頭に入ってこなかった。
あたしの頭のなかはぐるぐると、檻の中のハムスターみたいにぐるぐると、
どうしても口に出せない質問が回り続けていて。
あさ美ちゃん、ねぇ、あたし後藤さんに似てるってホント……?
あたしたち、ずっと噂になってるの気づいてるでしょ……?
それとも、愛ちゃんのほうがやっぱ後藤さんに似てるとか……?
あたしと愛ちゃん、どっちが好き……?
ねぇ、どっちが好き……?
- 359 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/02(金) 13:31
-
本日はここまでといたします。
- 360 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/02(金) 16:53
- 更新おつかれさまでございます。
むひょ―――――!マコ切ねぇ――!
でも、愛ちゃんの想い人ってもしかして・・・?なんて思ってました。
- 361 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/02(金) 18:36
- まこっちゃん…本当可愛い…。
雪ぐまさんの書かれているキャラクターって憎めない人が多くて
その時々で、好きな娘。が変わってしまうほどです…。
どんどんみんな変わっていって、続きが気になる…。
- 362 名前:ぽち。 投稿日:2004/07/02(金) 19:38
- 初レスです。雪ぐまさんの作品は全て大好きです。
特にまこっちゃんには思い入れがあるので、今回の話が一番グッときます。
性格の良いまこっちゃん、是非幸せになってほしい…がんばれ!
- 363 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/02(金) 20:25
- >>358
このあたりのどっちが...ってのがマコの幼さでもあり、後の2人との違いなんでしょうか。
忘れたくないって気持ち、それはそれで大事にしてほしいなと思います。
(別によりが戻るとかそういうんじゃなくて)
なんて…なんかほんとに感情移入しちゃいますねぇ…。
完全に引き込まれてしまいました。
- 364 名前:名無しぽき 投稿日:2004/07/02(金) 20:25
- 更新お疲れ様です。
愛ちゃん大人なんやね…
川’ー’川<そうやよ〜
マコトはやっぱり切ないね…
∬;´▽`)<………
あぁ、それでもやはり、ぽきは推しカプが気になるのです。
- 365 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/02(金) 23:47
- 愛ちゃんも切ないよ紺ちゃんが好きならね。
自分の気持ちより好きな人のほんとの幸せ優先ってなかなかできねぇべ。
なんにせよ忘れられない人がいる人を愛するのはつらいよ。
- 366 名前:名無しマカー 投稿日:2004/07/03(土) 00:35
- ちょびっと前を行く愛ちゃんを見て、悶々と苦悩してるまこっちゃんがかわいーです。
それにしても、みんな本当に生き生きとしていて、
笑ってても泣いてても、ニコニコと見守りたくなりますねぇ。
- 367 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/03(土) 01:37
- なんか愛ちゃんみたいになりたい。
そんなふうに思った。頑張ります。
- 368 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/03(土) 04:14
- うわー!高橋さんもなんだか色々と思わせぶりな態度とりますね〜
小川さんと同じようになんだか、うろうろと焦ってしまいますw
- 369 名前:Stargazer 投稿日:2004/07/03(土) 06:36
- ディスプレイに思わず頭突きをかましてしまいました、まこっちゃんの
ごとく焦りすぎて。w 切ないんだけど、ちょっと微笑ましいような…
また、雪ぐまさんの手の平の上で踊らされてしまいますた。次回も踊ら
されるんだろうなぁと思いつつ、更新お疲れ様です。
- 370 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/03(土) 11:43
- 360> オレンヂ様
むひょーですね。大胆ぶっちぎりの愛ちゃんに、まこっちゃんはハラハラドキドキです。
361> 名無し読者79様
うれしいお言葉、ありがとうございます。たくさんの娘。の魅力を描けたらいいなあ……
362> ぽち。様
初めまして♪ まこっちゃん視点は初めてなのでドキドキしてます。気に入っていただけてうれしいです。
363> 名無飼育さん様
マコは後藤さんにはかなうわけないジャン!で、愛ちゃんのことはライバル。負けたくないみたいです。
364> 名無しぽき様
愛ちゃんが何をどこまで知ってるかは謎ですなw まったくマコの恋は苦労続きで不憫です……
365> 名無飼育さん様
なかなかできねぇべなぁ。幼いなりに筋を通そうとする3人組。切なさも苦しみも引き受ける、のかな?
366> 名無しマカー様
ええもう、見守ってやってくださいな。三者三様にひたむきというポリシーで頑張っているみたいです。
367> 名無飼育さん様
おお、フレッシュなご感想ですねぇ。雪ぐまも愛ちゃんのようでありたいです。一緒に頑張りましょう♪
368> 名無し読者様
どこまで計算かわからないのが素敵ですねw かっちょよくてセクシーな愛ちゃんになってきましたw
369> Stargazer様
川’ー’川<ふん、タンコブできてるわ。保健室行く?……と、うちの愛ちゃんが言ってましたw
それでは、本日の更新にまいります。
- 371 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:44
-
あさ美ちゃんって多重人格じゃないかなあ?
そう言ったあたしに、愛ちゃんはハァ?と首をかしげた。
ある晴れた週末、待ち合わせのマックで、
ちょっと遅れると連絡のあったあさ美ちゃんをふたりで待っていた時。
「多重人格って病気やよ、まこっちゃん」
「やっ、違う違う、そんな深刻な話じゃなくってぇー!」
はー、もう、あいかわらず冗談が通じないっていうか。
あたしは焦ってボリボリと首のあたりを掻きながら、カタブツの愛ちゃんに言いたいことを説明する。
だからぁー、一緒にいる人によってあさ美ちゃん、性格変わりすぎっていうかぁー。
- 372 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:45
-
そうなんだよ。あさ美ちゃんってマイペースで、
ひとりでいる時は、だいたいほわほわーんとしてる。ポーッとしてたり。
おとなしい子だね、控えめだねって、みんな言う。
だけど、ほんとはすっごいおしゃべり好きで、
面白いこととか変なギャグとか超好きで、
だいたいあたしのギャグに一番ウケてるのあさ美ちゃんだし。
一緒になって変顔したり、変装したりっていうのもけっこう好きだね。
恥ずかしーなんて言いながら好き好んでやってるよ、あれは。
こないだなんて、着ぐるみ着てみたい…って呟いてたし。
それなのに、愛ちゃんと一緒にいる時は、優等生のあさ美ちゃん。
なんてったって学年トップの才女だから当たり前かもしんないけど、
勉強熱心な愛ちゃんの質問に答えてる横顔なんて、白衣とか超似合いそうだよ。
ふたりはあたしが一緒にいない時はあんまりふざけてなくて、
なんか小説の話とか? 進路の話とか?
まあ、なんかマジメくさいこと話してんだわ、窓際とかで。
並んでると美少女ふたり、ってこれはふたりのファンって子たちが言ってたコメント。
ふんだ。どーせあたしがいないほうが絵ヅラがキレイですよーだ!
ちぇっ、サルとタヌキじゃん?って言ったら、ふたりにさんざん追いかけ回されたっけ。
- 373 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:46
-
「ね? あたしといる時と愛ちゃんといる時、全然違わない?」
「そうやの、そう言えば」
「どっちがホントー?って思わない?」
そう言えば、あさ美ちゃんが後藤さんの恋人だった時も、あたしはよくそう思った。
あたしたちに見せてる顔と、後藤さんに見せてる顔が全然違うような気がして。
後藤さんといる時のあさ美ちゃんはあさ美ちゃんじゃないモン!って。
「ほやけど、人って誰でもそうやないかし?」
愛ちゃんは、別にあさ美ちゃんだけ特別に多重人格ってことないやろって言う。
誰かって好きな人の前と、友達の前では全然違うやろ?
そういうのが細かくあるんやないの誰にでも、って。
そっすかねー。あたしはあんまり変わんないけどぉ?
まあ、変わんないとこがダメなような気がしてるんだけど、最近。
あたしは、ポテトを齧りながら、ふうっとため息をついた。
ここんとこ、ちょっとブルーな気持ちになるんだ。
あたしって、ほんと三枚目でさ。イイヒトでさ。
ただ笑わせる、笑わせるしかできない。
- 374 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:46
-
こないだ、文化祭のステージで、愛ちゃんが歌ったんだ。
合唱部で何曲か発表した後に、コンクールで賞をとった賛美歌みたいのと、
それから意外だったんだけど、だいぶ前によく有線で流れてた歌謡曲。恋の歌を。
誕生日に泣いた 空の星に泣いた
あなたのこと考えながら泣いた 夏の夜
眠れなくって泣いた 寂しくって泣いた
あなたのことわからずに泣いた ummm…
好きで好きで好きで好きで好きで
朝も昼も夜も真夜中でも
Love You Love You Love You 止まらない……
涙 涙 涙 涙 涙 何回目でしょう?
あなたのことで泣くの……
その歌声に、会場中がシーンとなった。
あたしも、うわぁ……って、なんか切なくなった。なんて伸びやかな深い声。
それに、なんだろう、この感じ。きゅうっとくる感じ。
いつもクールな愛ちゃんのキモチが、想いが、歌声にのってどこまでも響きわたる。
……ああ、この歌はきっと。
- 375 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:47
-
そっと隣をうかがって、あたしはギョッとした。
それから、熱っつく焼かれたナイフで胸をザクーッと刺されたみたいになった。
あさ美ちゃんがステージをじっと見つめながら、ぽろぽろぽろぽろ涙を零していたんだ。
お月さまみたいなまあるいほっぺたにきらきら光って涙は流れる。
真っ黒な瞳は、清らかな水があふれだす泉。
あさ美ちゃんの心があふれだす泉。
ねぇ、愛ちゃんの歌声に感動してるの?
それとも後藤さんとの恋を思い出して?
どっちだって一緒だ。
あたしはあさ美ちゃんをこんなふうに泣かせたりできない。
笑わせることしかできない。
- 376 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:48
-
ああ……。
あたしはそっと自分の心臓の上あたりを撫でた。
愛ちゃんの歌声に、あたしの気持ちがのっていればいいのに。
同じなのに、あたしたち同じなのに。
好きで好きで好きで好きで好きで、あさ美ちゃんのこと。
だけど、歌っているのは愛ちゃんで。
いま、あさ美ちゃんを泣かせているのは愛ちゃんで。
愛ちゃんの歌声が、あさ美ちゃんを包み込んでる。やわらかく抱きしめてる。
それはまるで、いつだってあさ美ちゃんを中傷から守ってきた愛ちゃんのように。
そして、あさ美ちゃんはその歌声のなかで、安心して泣くんだ。
- 377 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:49
-
ステージを降りた愛ちゃんは、殺到したファンの下級生たちにもみくちゃにされながら、
首を伸ばしてきょろきょろとし、あたしたちの姿を見つけるとニコッと笑って手を振った。
どお?聴いてた? よかった?みたいに。
いつかの運動会の時の後藤さんみたいにその輪のなかから飛び出してきたりはしないけど、
愛ちゃんはカメラに笑ったり、小さな花束を受け取ったりしながら、
あたしたちのほうを何度もチラチラと見た。あさ美ちゃんをチラチラと見た。
どこにも行かないでね、ちょっと待っててね、というように。
体育館のすみっこであたしたちは壁に寄りかかり、愛ちゃんを待った。
なにかあさ美ちゃんに話しかけようかと思ったけど、やめた。
愛ちゃんの姿をぼんやりと眺めてる横顔が、懐かしい色に似ていて。
そう、幸せだった頃、アイドルみたいに騒がれてた後藤さんを見つめてた、あの誇らしげな。
- 378 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:50
-
ひととおりファンサービスして、案外はやく駆け寄ってきた愛ちゃん。
あたしよりも先に、あさ美ちゃんは愛ちゃんにキャーッと飛びついた。
「……もう、すっごく良かった!」
「ふん、歌詞が、やろ?」
「もう、違うよぉー。歌詞もそうだけど、愛ちゃんが歌ったから」
すうっと緊張する。
愛ちゃんがあたしをチラッと見て、
それからあさ美ちゃんの背中に軽く腕をまわし、
「褒めてもなんも出んよ?」と冗談っぽく囁いて笑った。
「もう、すっごい上手! 愛ちゃん、プロ級だねぇー!」
「だって、プロになるもん、あたし」
あさ美ちゃんが驚いたようにパッと身を離し、その顔をじっと見つめた。
愛ちゃんは照れくさそうに鼻んとこをクシャッてして。
「なるよー」
「か、歌手に?」
「オペラとかあっちのほうやけどの。そのつもりで声楽科行くんやもん」
あたしも驚いた。知らなかった、そこまで本気だったなんて。
あさ美ちゃんとあたしは目を見合わせる。
愛ちゃんって、いつの間にあたしたちよりずっと前を走ってるんだろう?
- 379 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:51
- 「すっごーい、愛ちゃん!」
「なんもすごくないよ。うまくいくかどうかわからんし」
「いくよー、絶対」
「うーん、まあ、そう祈ってるけどの」
でも、あたしは、イマイチ運が悪い。
そう言って、愛ちゃんはふっと目を伏せて笑った。そして、小さな小さな呟き。
ほんとに欲しいものは、いつも手に入らん…ような気がしてる…。
「そうなの?」
あさ美ちゃんは、どこまでもノンキ。
超モテモテになってきた愛ちゃんが、誰ともつきあったりしない理由。
まだ、気づかない。バカやってるあたしの気持ちなんて、もっと気づくはずもない。
- 380 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:52
-
「お待たせー。ごめんねー」
自動ドアがガーッと開いて、あさ美ちゃんがパタパタと駆け込んできた。
そして、あたしの隣にパッと座って、目の前にあったポテトにキランと目を光らせ、
何の断りもなくぱくぱくと食べた。
「あー、こら、ポン野ォ!」
あたしは笑って、あさ美ちゃんの肩を小突く。
ほんとはうれしくって仕方がない。
あさ美ちゃんが愛ちゃんじゃなくてあたしの隣に座ったことも、
あたしのポテトを当たり前みたいに勝手に食べたことも。
愛ちゃんは、ずずっと爽健美茶をすすると、
「心配したがし、あんがい遅かったで」とボソッと言った。
「ナンパでもされとるかと思った」
「えー、されないよぉ、そんなの。されたことないもん」
「うっそやー、そんなわけないやろ」
「ないって、ないって、ほんとにー」
食いしん坊のあさ美ちゃんの次は、恥ずかしがり屋のあさ美ちゃん。
たいしたからかいでもないのにオデコまで真っ赤になって、
もぉ、あるわけないじゃんそんなの!なんてムキになって。
- 381 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:52
-
ふくふくとしたやわらかそうなほっぺた、子犬みたいなうるうるとした瞳。
ポテトを齧るクチビルはぷよんつるんとしてて、指先には形のいい桜色の爪。
こんなにかわいいのに、あなたは自分の魅力を知らない。
顔が大きいとか、声が出ないとか、ああまた食べちゃった太るとか、
すぐにうつむいてしまうあさ美ちゃんは、コンプレックスの塊のあさ美ちゃん。
「思ったよりも、洗濯物多くて時間かかっちゃった」
あさ美ちゃんが、愛ちゃんの爽健美茶をもらって、ちゅうと飲む。
わ、間接キスじゃん、なんて胸をチリッとさせながら、フムと考える。
家族思いのあさ美ちゃんっていう面もある。
事故か病気かしらないけど、あさ美ちゃんにはお父さんがいなくて、
お母さんと小さい妹さんふたりと一緒に、おせじにも大きいとは言えないマンション暮らし。
一生懸命勉強して、奨学金もらって高校に通って、
毎日毎日、妹さんを迎えに行って、家事のお手伝いもちゃんとしてるっぽい。
そういうとこエライって、愛ちゃんはいつも言う。
- 382 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:53
-
「たいへんやの、いつも。疲れん?」
「疲れる」
でも、しょうがないもん。
お母さん、仕事忙しそうだし。
妹たちは、かまわないと寂しがってすぐ泣くし。
「うわー、泣くんか?」
「うん、よく喧嘩するしねぇ。仲良くしてくれると助かるんだけど」
「わー、あたしなら殴るわ……」
「あはは。まだ小学2年生と3年生だもん、しょうがないかなって」
「エライのー……」
あたしなら殴るな、絶対。
そんな乱暴なことをブツブツ言いながら、
愛ちゃんは自分が食べてたアップルパイを半分ちぎってあさ美ちゃんにあげる。
目を輝かせて受け取りかけて、あさ美ちゃんはピタッと動きを止め、
「……こ、これは私を太らせようという愛ちゃんの罠では?」と呻いた。
あ、いらないの? じゃあ、あたし、もーらい!
もぎゅもぎゅもぎゅ。
おっいしー、甘ーい♪
じとーっとあさ美ちゃんが恨めしそうにあたしを見るのがおかしくて。
愛ちゃんは、まこっちゃんにあげたんじゃないのに、って肩をすくめて、
最近またちょっと太ってきてないかし?なんて、言いにくいことをはっきりと言いやがった。
なによー、まだ全然平気だよ、ヘ・イ・キッ!
- 383 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:54
-
「さ、行こ!」
あたしが食べ終わるのを待って、あさ美ちゃんはひらっと立ちあがった。
買物するの、久しぶり! いっぱい買っちゃうんだ!
そんなふうにはしゃぐあさ美ちゃんは、等身大の高校三年生の。
「どこ行く?」
「どこでも」
「渋谷? 原宿? 代官山?」
「……渋谷か、代官山」
はいはい、お姫様。
あたしと愛ちゃんはチラッと目を見合わせて、やれやれと合図をしあう。
原宿は、お嫌ですか? あたしたち、原宿がいいねってさっき話してたんだけど。
「じゃあ、代官山かの、たまには」
「うんっ」
「行ってみたいカフェがあったんや、そういえば」
わーーー、愛ちゃんエグー!心変わりはやすぎー!
心ひそかにそう思いつつ、素知らぬ顔でパンパンと手をはたいてパイのカスを払い落とす。
よっしゃ、行こっか。今日は受験のことは忘れて、久々に遊ぼーね!
- 384 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:55
-
自動ドアがシャーッと開く。
明るい陽射しのなかに飛び出したあたしたち3人組。
あさ美ちゃんは真ん中で両腕にあたしたちをしっかりつかまえて笑う。
あー楽しいな、お買物、楽しーい! ねっ?まこっちゃん、愛ちゃん!
そうだね、お姫様。
あさ美ちゃんに組んだ腕をぐいぐい引っ張られながら、あたしも笑う。
愛ちゃんも笑ってる。あさ美ちゃんにはかなわんわ、って感じ。
引っ込み思案のあさ美ちゃんは、長い間、あたしたちにもどっか遠慮がちだった。
ごめんね、ありがとう、そんなことばっか言ってた。
きっと内弁慶なんだね。最近は、すっごく甘えん坊になってきたあさ美ちゃん。
こんなふうに何の遠慮もなくなるまで、すこし時間がかかったね。
- 385 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/03(土) 11:55
-
よーし、今日は3人で笑顔いっぱいの休日にしよう。
悲しい恋は忘れて、切ない夜は忘れて、涙も忘れて、
お日さまの下で、元気にはしゃいで、笑って、ぶっとばすのだー!!
あたしはカナリご機嫌になってきた。
うん、今日はたぶん、愛ちゃんよりもあたしのほうが活躍できるはず。
今日のあさ美ちゃんには、あたしが必要なはずさ。
- 386 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/03(土) 11:56
-
本日はここまでといたします。
- 387 名前:ぽち。 投稿日:2004/07/03(土) 14:55
- 今日も早い更新ですね。ありがとうございます!
3人の関係は表面上なかなか変わらないところが、ほのぼのしてて…
でも自分と人を比べないで、まこっちゃんには自信持って欲しいと願います。
- 388 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/03(土) 15:20
- はぁ―――。最近、ほんと言葉で感想が言えませんw
>374の、大好きです。かなりきますね。
ここのマコは本物よりマコっぽいとか思ってしまいましたw
- 389 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/03(土) 18:39
- お姫様とナイト二人…
その構図がなんだか似合う三人ですね〜
弱々しそうに見えて実は一番強いのがお姫様ですよ!みたいなw
- 390 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/03(土) 18:44
- 三人のほのぼのした日々ですが、後藤さんと過ごした日の思い出が端々に・・・。
それを忘れられない紺野さんということですか。やっぱりまだ好きだよね。。。
後藤さんの幻影をいつまでも引きずるのでしょうか。
痛いよ。
- 391 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/03(土) 20:14
- 食べている姿を想像すると和みます。
きっと幸せそうな姿なんでしょうね。次回も楽しみに待ってます。
- 392 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/03(土) 20:27
- どうも愛ちゃん側に感情移入してしまう。
さっさと送り届けてきっぱり失恋したいね。
まこっちゃんかわいいんやけどなぁ。
- 393 名前:Stargazer 投稿日:2004/07/03(土) 20:37
- 保健室に駆け込んだばっかりなのに、またしても保健室行きですよ。w
不安定なトライアングルの今後を気にしながら、更新お疲れ様です。
- 394 名前:名無しマカー 投稿日:2004/07/04(日) 07:54
- 更新お疲れさまです。
愛ちゃんが眩しく見えて仕方ないまこっちゃんと同じように、
愛ちゃんもまこっちゃんのこと羨ましく思ってたりするのかな・・・
楽しい休日になりますように!
- 395 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/04(日) 10:13
- サ○とタ○キ!
マコっちゃんを追い掛け回す2人を想像してチョー笑いました。
全体的には切ないんだけど、仲良しの3人の高校生活が生き生きと描かれててうれしくなります。
恋をしてるから普通の友達よりもすごく仲がいいんだろうし、
だからハラハラするとこもあって……もう目が離せません。
マコっちゃんと愛ちゃんの間に強い友情がありそうなのもいいな。爽やかです。
- 396 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/04(日) 21:21
- 387> ぽち。様
ねぇ? でも、うちのまこっちゃんと愛ちゃんは正反対の魅力だから心が揺れちゃうみたいですねぇ…
388> オレンヂ様
本物よりマコっぽいって!w うれしいけど、リアルマコには怒られそう。∬∬`▽ ´)<チガウモン!
389> 名無し読者様
いつの世もお姫様というのは最強ですよw おとなしそうに見えて、紺ちゃんは素質がありそうなw
390> 名無飼育さん様
どうでしょうねぇ。はっきり答えてもいいんですけど、やっぱり秘すれば花かな。
まこっちゃんはイマイチ図りかねてるみたいですよ。読者様よりも情報量が少ないから。
391> 名無し読者79様
楽屋とか、こんな感じっぽいなーとw 川;o・-・)<こ、これは私を太らせようという罠では…
392> 名無飼育さん様
お、送り届けるってどこに? いくら愛ちゃんでもそこまで男前じゃあ……だったらどうしようw
393> Stargazer様
川’ー’川<ふん、あたしの歌にやられたんか?……と、あいかわらずのうちの愛ちゃんw
394> 名無しマカー様
隣の芝生は青く見えるといいますからねぇ。いいなぁ、お姫様。こんな友達2人って羨ましいと思う雪ぐま。
395> 名無飼育さん様
まさに女子かしまし物語ですねぇw 恋なんてしてなけりゃ、もっと無邪気なんですけどねぇ。
それでは、本日の更新にまいります。
- 397 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:22
-
美しい風景って、なにも山や海の景色だけとは限らない。
たとえば、あさ美ちゃんと愛ちゃん。
ふたりのファンの子たちが言ってるみたいに、並んだ時、不思議にきれい。整ってる。
タイプの違うかわいい女子高生ふたり。ちょっとレトロなのがいい。
仲間に混ぜてくれと、強く主張したい。
だけど、たしかに美しい風景だからさ、悔しいけど少し離れて見てる。
見とれてる、あたしの自慢の親友たちに。
- 398 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:23
-
ここのところふたりは、桜の樹の下に座っておしゃべりするのが好き。
寄り添って肩を並べてクスクス笑ってる、それはとても美しい風景。
あれ歌ってと、あさ美ちゃんは愛ちゃんにせがむ。
最近、愛ちゃんがお気に入りの歌。晴れた日の空に囁くように口ずさんでる歌。
あさ美ちゃんもすっごく好きなんだって。
もっとちゃんと聞きたいんだって。
あの文化祭のステージ以来、愛ちゃんの声、大好きと彼女は言う。
せがまれるままに愛ちゃんは何度でも歌ってあげる。かわいらしい初恋の歌。
あさ美ちゃんが目を閉じてほほ笑みながら聴く、季節はずれの歌。
さくら色 片思いの人
さくら色 目が合えばほほ染め
少しずつ 大人に近づく
でもダメね 会話にならないの
少しずつ 仲よくなれるの?
何百年 掛けてもなりたいの
伸びやかな愛ちゃんの声は、青い空にさらさらと散っていく。
いつも遠い空の向こうを眺めながら歌う愛ちゃん。
高音のところで、すこし切なげにフッと瞼を閉じる。すごく大切に歌ってる。
その声にうっとりと身を任せながら、あさ美ちゃんもつられたように一緒に口ずさんだりする。
超小さな声で、そうっと、サビのとことか。
- 399 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:24
-
ああ さくら満開
ねえ さくら満開 胸の中
もう 言葉にならないくらい
恋の花が満開
ああ さくら満開
ねえ さくら満開 好きすぎるわ
もうあなた以外の人は 目にも映らないみたい……
かわいい歌なのに、いつもあたしはすこししんみりするんだ。
ふたりがそれぞれに何を想って唄ってるのか、わかるような気がして。
肩を寄せて、いかにも女の子してる恋の歌を唄うふたり。美しい風景。
まこっちゃんも一緒に歌おーよって言われるけど、あたしは笑って首をふる。
聴いてることにするよ。あたしにはなんか、似合わない。
- 400 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:25
-
「愛ちゃんの声って、なんか切なくなるね」
水の中にぼんやり差し込んでくる光みたい……
いつだってどこか感傷的なあさ美ちゃんの言葉を、
愛ちゃんは鼻のところをくしゃっとして、すこし照れくさそうに聞いている。
どうして愛ちゃんの歌声が切ないのか、そのことはあさ美ちゃんは考えない。
ただ、あの風にかき消えちゃいそうな声で呟くだけ。
もっと歌って。もっと違う歌も。
愛ちゃんの声、好き。愛ちゃんが唄う歌、好き。
愛ちゃんは唄う。求められるままに何度でも。
目を閉じてあさ美ちゃんは、甘えるように、くたりと愛ちゃんの肩にもたれる。
そして、そのままじっと動かなくなる。
口元が微笑んでる。なにかとても幸せなことを思い出してるみたいに。
- 401 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:26
-
あさ美ちゃんに肩を貸したまま小さな声で唄い続けてた愛ちゃんが、ふっと黙った。
肩にもたれたまま、あさ美ちゃんがスウッと寝入ってしまったから。
くぅくぅと子供みたいな寝息が聞こえそうなノンキな寝顔。
どこか安心したような寝顔。愛ちゃんはフッと目を細める。
それから、顔をあげて、少し離れて三角座りをしてたあたしと目を合わせる。
「寝てもた」
「よく寝るね、最近」
「そやね、そういえば授業中もウトウトしてるの」
「夜中までガリ勉してるんだ、きっと」
「さあ、どうやろ? 眠れない夜、ってこともありうる」
愛ちゃんはナンカ自虐的だな。
あたしはそう思う。もちろん顔には出さないけど。
眠れない夜か。
わからなくもないんだ、あたしとしたことが。
息苦しくて、胸の中がざわざわして、ううって掻きむしりたくなる。
楽になりたくて、ケイタイに手を伸ばして、やめる。真夜中。
声を聞きたい人は、きっともう眠ってる。
起きてたとしても、何て言うの? ただ声が聞きたくてなんて、言えない。
ホントのことが言えなきゃますますぎこちなく、苦しくなるだけ。違う?
「悲しい歌は嫌いなんやなあ、あさ美ちゃんは」
「そうなの?」
「リクエストせんね」
そっか。どうしてかな?
そう呟くあたしに、愛ちゃんは黙って幸せそうなあさ美ちゃんの寝顔に目を落とす。
そして、クールな横顔が、静かに答える。
考えたらわかるやろ?
- 402 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:27
-
「あっ、いた! 高橋さーー……」
「キャー、こ・ん・の・さーー……」
ふいに張りのある声とちょっと気の抜けた声が聞こえてきて、途中でぴたっと止まった。
パッと顔をあげて、愛ちゃんは微笑む。
ああ、ガキさん、シゲさん。どしたんやの?
愛ちゃんを探しにきたらしいガキさんと道重ちゃんは、
少し離れたとこで立ちすくんだまま、なんとなくどぎまぎしたように頬を染めた。
美しい風景から視線を外せないみたいに、じいっと見てる。
大きな桜の樹の下で、愛ちゃんの肩にもたれかかって眠ってるあさ美ちゃん。
秋風のなかで寄りそうふたりに、ガキさんも道重ちゃんも特別な何かを感じるの?
あさ美ちゃんと噂になってたのは、ずっとあたしのはずだった。
最近は少し違うこと囁かれてる。あれぇ? もしかして、高橋さんと?
あさ美ちゃんファンの道重ちゃんの顔には、そんなふうにはっきり疑問符が書かれてる。
好奇心に満ちた瞳が、あたしと愛ちゃんを無邪気にジロジロ見比べる。ホンメイはどっちなのかなぁ?
ガキさんは、コラ!というように道重ちゃんを肘でつつくと、
えーっと…と、ちょっと困ったような顔をして愛ちゃんを見た。
「ん、なんやの?」
「あ、えーとぉ……今月の部のスケジュールのことでぇ、先生が」
「ああ、呼んでるんか」
「あっ、でもぉ、もしアレでしたらあたしと道重が聞いときますんでぇ……」
妙に気がまわるガキさんに、愛ちゃんがクスッと笑った。
アホ、何考えてるんやし?
それから、あたしのほうを見て、まこっちゃん、と呼んだ。
こっちきて。肩貸してあげ。
- 403 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:28
-
ええー?
あたしは小さく不服の声をあげる。
確かにうらやましいと思ってた、あさ美ちゃんに甘えられてる愛ちゃんのこと。
あたしもあさ美ちゃんにあんなふうに肩を貸してあげたいと思った。
でも……なんかヤだ、こんなのは。
愛ちゃんからあさ美ちゃんをゆずってもらうみたいで……ヤだ。
「起こせばぁ?」
「かわいそうやろ?」
愛ちゃんが、くたりと眠りこけてるあさ美ちゃんを肩からひきはがすと、
あさ美ちゃんは一瞬ハッと目をさまし、どこいくの?と妙に悲しげな声をあげた。
「……先生に呼ばれたで。まこっちゃん、いるよ」
「ああ、うん。まこっちゃん……」
あさ美ちゃんは今度はあたしに腕をからめて、ポテッともたれかかった。
肩に感じる頬のやわらかさに、たちまち意識が集中してしまう。
「…も…お昼休み…おわり?」
「ううん。まだ20分あるよォ」
「……寝て…いい?」
「……いいよ」
自分がクマか何かの大きなぬいぐるみになった気がした。
ただもたれかかられてる、なんの心もないぬいぐるみみたいな。
- 404 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:30
-
ガキさんたちと連れ立って校舎へと戻っていく愛ちゃんは、
後ろ髪を引かれたように、一度だけチラッと振り返った。
桜の樹の下で寄り添うあたしたちは、どんな風景に見えるのかな?
ヘの字口のあたしに気づいて、彼女はかすかに頬を緩めた、ように見えた。
素直じゃないの、というように、すこし皮肉に。
愛ちゃん、あたしたち最近、昔ほどギャアギャアはしゃがないね。
ホンネってやつを、まるで話せてないね。
なんだかブルーになるんだ、最近。
ひとつのココロを挟んで、惑星みたいにまわってるふたつのココロ。
あたしより百歩リードしてそうな愛ちゃんだけど、
彼女でさえ、決定的にあさ美ちゃんに踏み込むことはできなくて。
それはあさ美ちゃんがまだ時々ボーッとするからで、
それから、あたしのキモチにたぶん気づいてしまってるから。
仲良し3人組のトライアングルを壊したくないと、愛ちゃんはきっと思ってる。
だから、こんなふうにあたしにあさ美ちゃんを任せたりする。
だけど、ヘンな同情すんなよナなんて、あたしのココロはぐしゃっと歪んで卑屈に。
……心のブスにゃならねぇ!って思って生きてきたんだけどな。
- 405 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:30
-
これが大人になるってことなら、大人になんてなりたくない。
あさ美ちゃんをいじめるヤツは許さねぇ!なんて、
ふたりでガーッと正義の味方を気取ってた頃に戻りたい。
あさ美ちゃんだってほんとに幸せそうに笑ってたよ。
後藤さんのものだったあさ美ちゃん。
ナンカツマンナイって思ってたけど、今思えば全然ツラくなんてなかったさ。
まるっきり何の望みも抱いてなかったから、あたしも愛ちゃんも。
目の前に綿菓子みたいに甘そうなあさ美ちゃんが、
ふわふわと頼りなく漂ったりしてなかったから。
- 406 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:31
-
「……ん………」
あさ美ちゃんが寝苦しそうにグイグイと襟元を引っ掻いた。
息苦しいのかな? あたしはきっちりとまってた彼女の襟元のリボンを引っ張ってほどいてあげる。
フッと開いた襟から、チラッと鎖骨が覗く。
彼女の鎖骨がとてもきれいなことに、あたしは長い間気がつかなかった。
彼女の襟元はいつもきっちりとまってて、その下には革のチョーカーが隠されてた。
校則違反だって、あさ美ちゃんはまるで平気だったね。
それが後藤さんにかかわることなら。
チョーカーで飾られなくなった鎖骨は、無造作にあたしにだってさらけだされる。
なんだかブルーになるんだ、最近。
いつかあさ美ちゃんの肩甲骨のところについてた赤い印を思い出して。
後藤さんのクチビルがその場所に触れた印。
この鎖骨にも、おんなじように触れたのかなって。
……あたしも触れてみたいなって。
これも美しい風景。
襟元からのぞく、あさ美ちゃんの鎖骨から目が離せない。
雪みたいな白い首筋は、妙につやつやと光って見えて。
くったりともたれかかってる仕草さえ、やけに色っぽく大人っぽく感じるのは、
あさ美ちゃんがあたしの知らないことを、もう知ってるからなのかな。
あの後藤さんと、忘れられない恋をしたからなのかな。
なんだかブルーになるんだ、最近。
こんなに安心してあたしにしがみついてるオンナトモダチを、
なんか変な目で、じっと見ちゃうこと。
変にドキドキしちゃうこと。
- 407 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/04(日) 21:32
-
「……くぅ………」
あさ美ちゃんの眠りはひどく深そうで、よだれとかまで垂れちゃいそうで。
こんなに青く晴れた空の下でどうしてこんなに眠いのか、聞きたいけど聞けないな。
どうしてこんなに頬をあたしの肩に擦り寄せてるのか、
どうしてこんなにしっかりとあたしの腕をつかまえてるのか、
聞きたいけど聞けないな。なんか、やぶへびになりそうで。
あさ美ちゃんの髪はとてもいい匂いがする。シャンプーの香り。
自分がクマか何かの大きなぬいぐるみになった気がする。
ただもたれかかられてる、なんの心もないぬいぐるみみたいな。
なんだかブルーになるんだ、最近。
なんの心もないぬいぐるみ……のフリをするのは、すこし疲れてきたよ。
あさ美ちゃん、心に想いを秘めてるのは、あなただけじゃないのに。
- 408 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/04(日) 21:33
-
本日はここまでといたします。
- 409 名前:ましろ 投稿日:2004/07/04(日) 21:47
- はぁぁぁぁぁ。
まこっちゃんといっしょに、なんだかブルーになってしまいました。
手の届きそうな場所にいるのに、その心には触れられなくて・・・。
うーん、切ないっ。不器用なまこっちゃんへ、がんばれ!ってな感じです。
- 410 名前:ぽち。 投稿日:2004/07/04(日) 22:00
- う〜ん。まこっちゃん、ファイト!
安心感+楽しさを与えられるのはきっとポイントが高いはず。
って、最近、親みたいな心境になってきた…
- 411 名前:Stargazer 投稿日:2004/07/04(日) 22:16
- あぁ…まこっちゃん、切ない…。またも頭を打ち付けてしまい、運ばれた
3度目の保健室は、保健室の先生にあんたもよく怪我するねと言われて
しまいますた。w 温かくも切ない文章に感動しつつ、更新お疲れ様です。
- 412 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/04(日) 22:23
- 更新お疲れ様です。
歌がほんとうまく織り込まれてて素敵です。
みんな切ないねぇ〜。
- 413 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 13:46
- まこっちゃん切ないですねぇ
しかしまだ紺野ちゃんはごっちんのことを想ってるのでしょうか
そろそろ登場キボンヌw
- 414 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 15:55
- 作者さんを困らせちゃいそうなレスはいかがなものかと。
案内板のレスのマナーを読みませう。
- 415 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 16:26
- この話を読んでたら、はじめて、カプにこだわらなくなりました。
雪ぐまさんの文章の魅力に惹かれてる証拠・・・。
本当に毎日更新が楽しみです。
- 416 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/05(月) 17:34
- なんだか切ないですね。
友達も大事だし…なんて。。405のまこっちゃんの言葉が…悲しい。
更新お疲れ様です。
- 417 名前:名無しマカー 投稿日:2004/07/05(月) 22:24
- 好きだからこそ、遠くに感じられたり、ついつい卑屈になってしまったり・・・
う〜ん、恋ってフクザツですなー。
まこっちゃんも愛ちゃんも紺ちゃんも、みんながんばれ。
- 418 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 22:47
- >お、送り届けるってどこに? いくら愛ちゃんでもそこまで男前じゃあ……
ってことは…楽しみに待っときます。
- 419 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/05(月) 23:39
- 409> ましろ様
天真爛漫なまこっちゃんも、ブルーなんて覚えちゃいましたよ。頑張れるかな、まこっちゃん……
410> ぽち。様
雪ぐまも親のような心境ですw 3人の親って感じですけれど。あ、ごっちんも心配かも……
411> Stargazer様
そういえば保健の先生は誰だろう、考えてないですねw まだ出てきてないからなっちかなぁ。
412> オレンヂ様
弊サイトで開催したハロプロ歌詞を見直す企画が生かされておりますw 織り込むの、楽しいですね。
413> 名無飼育さん様
切ないですねぇ。紺ちゃんのキモチはご想像にお任せします。ごっちんは……元気かなあ?
414> 名無飼育さん様
お気遣いありがとうございます。読者様に守られているから、書き続けられるんですねぇ。
415> 名無飼育さん様
あ、うれしいです、とても。娘。はみんなそれぞれ魅力的ですから、書きがいがあります。
416> 名無し読者79様
悲しいですね。恋が理由でトモダチとあっさり絶交しちゃう人もいるでしょうにね。やさしい子です。
417> 名無しマカー様
ついつい卑屈になっちゃうのがブルーですね。うちのマコ、初恋で複雑な感情を覚えたみたいです。
418> 名無飼育さん様
いやー、あんまり深読みしないで〜(汗。
それでは、本日の更新にまいります。
- 420 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:39
-
「じゃあの」
「うん、バイバイ」
「また、明日」
その瞬間、毎日、愛ちゃんがちょっとつまらなさそうな顔をするように感じる。
学校から駅までの帰り道は、あたしがあさ美ちゃんを独占できる時間。
愛ちゃんは秋になっても週3回の部活をちゃんと続けていて、
部活のない放課後も、音大受験の特別レッスンを受けるために、
自主的に音楽の先生のところに通いはじめていたから。
「毎日毎日、愛ちゃんはエライねぇ」
「ほんと、一回もサボってないでしょ?」
「うん、愛ちゃんらしい」
ねぇ、ほんとはサボってついてきたいに違いないのにさ。
あたしはちょっと後ろ暗い気持ちになってうつむく。
内緒で、愛ちゃんが心配するような時間を過ごしている。
ますますフェアじゃなくなってきたあたし。
- 421 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:41
-
商店街を抜ける最短距離をいけば駅まで10分ほどだけど、
その時間をちょっとでも引き伸ばしたくて、
ある日、かなり遠回りの土手道コースに誘ったのは、あたし。
だけど、その土手にちょこんと座り込み、夕陽を眺めはじめたのはあさ美ちゃん。
受験生の毎日はあっという間に過ぎてって、
土手を歩くあたしたちの影は、どんどん長く伸びてゆく。
日没は日々はやくなり、並んで座っておしゃべりをするあさ美ちゃんの頬っぺたは
どんどんきれいなオレンジに染まっていく。
ああ、なんて、きれいなんだろう。
夕焼けって。あさ美ちゃんって。
口に出せない想いは、ガキっぽいあたしの心さえ潤ませる。
こんなふうに流れる川がきれいだと思ったり、草の香りが心地よかったり、
頬に吹きつける風の温度を意識したことはないよ……
- 422 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:42
-
あさ美ちゃんは、いつも眩しげに目を細めて夕陽を眺める。
後藤さんとの恋で、あさ美ちゃんの心はどのくらい深くなったんだろう。
時々、潤んでるように見える瞳の奥の彼女の心を、あたしはあいかわらず図りかねていて。
忘れたいと言っていた。
でも、言葉は真実とは限らない。
わからないな。目を閉じて愛ちゃんの歌を聴いてる幸せそうな微笑み。
あたしの背中に飛びつき、くだらないギャグに弾けたように笑う鈴のような声。
「あさ美ちゃん、志望校決めた?」
「うん、どうせなら一番むずかしいとこに、しようかなって」
うわあ。
あたしは目を丸くする。
こんなとこで、だらだらしてていいのォ?
「いいよ、もともと……」
「なに?」
「ううん、もともとなんか、中途半端な時間だし」
妹、迎えにいかなきゃいけないし。
なんか……もてあましちゃう時間だから、
まこっちゃんがいてくれて……うん、助かるっていうか。
「フーン。なら、いいけど」
「まこっちゃんこそ、勉強しなくていいの?」
「うがーーっ!」
あたしは、わざと大げさに頭をかかえてみせる。
あさ美ちゃんがキャッキャと笑う。そう、笑ってほしくて。
- 423 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:43
-
「どっこ受けよっかなー」
「将来、何になりたいの?」
「えー、わっかんねーよぉ、そんなのー」
「そうだね、私もわっかんないなー」
愛ちゃんは、すごいねぇ。
あさ美ちゃんは、よくそう言うんだ。
愛ちゃんは叶えたい夢がちゃんとあって、一生懸命頑張ってるもん。すごいねぇ。
だよね。あたしは全然、ダメダメだー。
もうお笑い芸人でもなるか。
あー、それもナカナカ厳しそうな道だよねぇ。
「んー、向いてると思うけどー?」
「ちょっとぉー、あさ美ちゃん!」
「だってまこっちゃん、すっごい面白いもーん」
一緒にいると、ホント楽しい。
そんなあさ美ちゃんのなにげない一言が、あたしには宝物になって。
いつかあさ美ちゃんが開いて見せてくれた、きらきらした後藤さんとの恋のカケラみたいに、
あたしの胸には、あさ美ちゃんの言葉や笑顔や瞳や髪や、
たった一度だけふれたクチビルがたくさんたくさん降り積もって、
ああ、ほんとはもう溢れてしまいそう。
- 424 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:44
-
「ごとーさんは」
ふいにその名を呟いたあさ美ちゃんに、あたしはビクッとなった。
「……ごとーさんは、なんで調理師になるって、決めたんだろう」
もう付き合ってた時間より、別れてからのほうが長いはず。
なのに、あさ美ちゃんは、まだ後藤さんのことを考えるんだ。
それはまだ好きだからなのか、ただの懐かしい感傷なのか。
いずれにしても、あたしは苦い気持ちになって、ボリボリと眉間のあたりを掻く。
「料理が好きだからナンじゃないのォ?」
「うん、そうなんだけど、なんか……」
私が、押しつけちゃったような、気もしてて……
押しつけたぁ?
首をかしげたあたしに、あさ美ちゃんは曖昧に笑った。
そして、抱えた膝に額を埋めるようにして、ちょっと苦しげに目を閉じた。
「将来の……大切なことなのに」
「……………………」
「ごとーさん、後悔してないと、いいけど……」
なんであさ美ちゃんが、んなこと気にせにゃあならんのじゃ!
ああもう。あたしは苛立って、そのへんの草をぷちぷちむしった。
あのね、後藤さんはあさ美ちゃんのこと捨てた人なんだよ?
ぐちゃぐちゃにして、ポイって。ポイって!
- 425 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:44
-
「さてと、そろそろ、帰らなきゃ」
18時になると、そう呟いてスクッと立ち上がるあさ美ちゃん。
でも、いつも名残惜しそうに、夕陽が落ちていくのを振り返って見つめる。
ぷくぷくの頬っぺたがオレンジに染まる。
愛ちゃんみたいにまっすぐな強い目じゃない。
自信なさげに揺らめく、泣き出しそうな瞳。だけど、なんてきれいなんだろう。
おっきな目のなかに、お日さまの光が全部入っちゃいそう。
「あたし、あさ美ちゃんが好きだなあー」
そう言うと、あさ美ちゃんはくすぐったそうに笑う。
それから決まってこう言うんだ。
「私も、まこっちゃんの笑顔が大好きだよぉー」
おとといも、昨日も、今日も、きっと明日も、あさっても。
あたしたちは平行線のままで、サイコーに仲良しの親友のままで、
だけどもうあたしは、耐えられないかもしれない。限界かもしれない。
- 426 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:46
-
あさ美ちゃんの背を追いかけて立ち上がった時に、
ふいにケイタイの着信音が、静かな土手に広がった。
「あ、私のだ」
どうやらメールが来たらしい。
あさ美ちゃんは鞄からゴソゴソとケイタイを取り出してディスプレーを確かめる。
「愛ちゃんだー」
え?
思わずのぞき込んじゃいそうになって、おっといけないと顎を引く。
なにか面白いことでも書いてあるのか、
あさ美ちゃんは画面をスクロールしながら、ふふっと笑う。
「お腹空いて死にそうってー。もう声出ん、だって」
ガンバレなんて返信を打ってるあさ美ちゃんを見ながらあたしは、
愛ちゃんはいつまで待つ気だろうと思う。
『あんがい友達ってゆーのはおいしいポジションで』
もしかしたら、家族よりも恋人よりも、仲良くって、
それで、長〜く、ず〜っと一緒にいられるんかもしれんよ?
ほんとにそう思う? 愛ちゃん。今でもそう思う? 愛ちゃん。
愛ちゃんも、もう零れ落ちてしまいそうなんじゃないの?
いつまでも後藤さんの面影を手放さないあさ美ちゃんを、なんとかして振り向かせたい。
そんなふうに思いはじめてるんじゃないの……?
- 427 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:46
-
そっと自分のケイタイを確かめる。メール、ない。
でも、仲間外れだなんてふくれる資格さえ、あたしにはもうないよね。
メールを打ち終わったあさ美ちゃんが、パッとあたしを振り返って小さな白い花みたいに笑った。
「ホント、愛ちゃんは頑張ってるねぇー」
「だねぇー」
「こんなとこでフラフラ遊んでるってバレたら怒られちゃう」
「内緒だよぉ?」
「うん、内緒だー」
ナイショナイショと楽しげに、あなたは夕陽のなか鞄を振り回して。
スカートがおっと危ない!ってくらい、パアッと広がって。
ねえ、あなたがほんとに楽しそうにするから、なんか。
あー、なんか、なんかなんかなんか。
「あーー、なんか切ないねぇ!」
「ええっ?まこっちゃんどうしたの? お腹すいた?」
「ばっ、あたしがたそがれちゃあ、いかんのかぁー」
えー、なになにー? どしたの急にー。なになになにかあったの、教えてー?
なんて無邪気にあたしの腕にすがりついてきたりして。
チェッ。聞いたらひっくり返るぞ、ばーろー。この、鈍感あさ美姫め!
- 428 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:47
-
「夕陽を見ると切なくなるねぇ〜ってハナシ!」
「まこっちゃんがぁ?」
「いけませんかぁ?」
あさ美ちゃんはクスッと笑って「いけなくないよ」と言った。
フーン、まこっちゃんがねぇ?ってあたしの顔をのぞき込んだけど、
彼女はフッとやさしい瞳になって、ちょっと大人びた顔になってこう言った。
「夕陽は沈んじゃうから、切ないね」
え?
なに、そんなこと思ってるの? あさ美ちゃん。
「いっつも思ってた」
「ハァ」
「夕陽が沈むのを止めるにはどうしたらいいのかなぁって」
「ええ?」
何言ってんの?と首を傾げたあたしに、あさ美ちゃんは、
「時間が止まるといいなあってハナシ」と、ちょっと照れくさそうに笑った。
「時間が止まる? 今?」
「ん? ……まぁ、今でもいいかな」
楽しいし。
そんなことをあさ美ちゃんがふわりと呟くから、あたしはカアッと真っ赤になった。
あたしの心に降り積もる宝物がまたひとつ増えて、ズキンと重くなって、一瞬、目を閉じる。
……夕陽のなかでよかった。赤い頬に気づかれちゃうとこだった。
- 429 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/05(月) 23:48
-
ああでも。
あたしは、くるりと踵を返して歩き出してしまったあさ美ちゃんの背を見つめる。
きっと、いつか気づかれてしまう。
遠からず気づかれてしまう。そんな気がする。
だって、あたしもう気づかれてしまいたいと思ってる、半分。
だからきっといつか気づかれてしまう。気づかれてしまう……
- 430 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/05(月) 23:51
-
本日はここまでといたします。
実はあと3話ほどで最終話となるのですが、本業が忙しく、
少々更新ペースが落ちるかもしれません。
なるべく頑張りますが、どうぞご理解のほどを……
- 431 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/06(火) 00:51
- 更新お疲れ様でございます。
今回の更新分でお話の舞台が冒頭の時間までやってきたのでしょうか。
マコ、切ないですねぇ。紺ちゃんも切ない・・・。
ぬっ、あと3話で最終話ですか・・・どうなるんだろう。
更新はマイペースでかまいませぬゆえ
本業のほうがんばってくださいまし。
- 432 名前:名無しぽき 投稿日:2004/07/06(火) 01:19
- おひさでっす。
…そうでもない?w
本業一番。そうです、ムリはなさらずに。
これまでの雪ぐまさんのペースに文句なんて誰も言いませんから。
ですから、これからも。
あと3話かぁ。
今回はいったいどういう形で物語が閉じられるのでしょう。
- 433 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/06(火) 02:17
- 更新お疲れ様です
まことが切なすぎるぅぅぅぅー!!
なんかそろそろ決着つくかな〜うーん…と悩んでるとこだったのですが
あと三回と言われると、え、終わってしまうの?それはそれで切ない…
と、ワガママ全開な読者心ですw
本業が忙しいとのことですが、夏バテとかもありますし、体調にはお気をつけを!
小説はマターリと待ってますのでw
- 434 名前:ぽち。 投稿日:2004/07/06(火) 12:00
- 雪ぐまさんもお忙しい中、素晴らしい作品をありがとうございます。
あと3回ですか〜。終わってしまうのは寂しいですが、それは
つまり何らかの形で初恋の行先が見えることですもんね。
なんか毎回言っていますが、まこっちゃんファイト!
- 435 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/06(火) 17:46
- 更新お疲れ様です。本業の方がお忙しいそうで…。
あまり無理をなさらないでください。待ってますんで。
今回は、あー最近空を見ることがないなーと思いました。
夕焼けもきれいですよね。きっと紺野さんは横顔も可愛いんでしょうね。
- 436 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/07(水) 00:21
- 乙です・・・。
>>398-399で泣きました。何の変哲も無いあの歌なのに。。
後藤さんとの日々を思い出しちゃったっす。
- 437 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/07(水) 00:27
- あわわわ…最終話はマコには悪いけど後藤さんと(ry
いやいや紺野さんに幸せになってもらいたいです。
残り3話!楽しみにしています。
作者様お忙しそうなので無理をしないで、ゆっくり焦らずに良い作品を作りあげて下さいね。
応援しています。
- 438 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/07(水) 16:54
- 7月2日分の更新を読んで、
あれ…? 高橋ってもしかして……?
すいません。初レスです。
マターリ読んでいますのでマターリがんがてください。
- 439 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/07(水) 20:13
- 今まで、ずっとロムってました。連日の更新おつかれさまです。
まこっちゃん以外の人達は誰かに愛されてる感じがしますね。
まこっちゃんも誰かに愛されていて欲しいと思ったり・・・
次回の更新まで、のんびり待ってます。
- 440 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/08(木) 23:52
-
皆さま、あたたかいレスをありがとうございます。
お一人ずつお返事をするのが筋かと思いますが、
ラストが近づき、なにやら作者自らネタバレしてしまいそうな悪寒がw
今回は紺ちゃんモテモテで、ごっちん推し、まこっちゃん推し、愛ちゃん推しと
さまざまなご意見ご要望(?)、いただいております。
どうしよう迷っちゃう〜というのは嘘ですがw
ポロッとネタバレしちゃうとつまんないですもんね。
というわけで、たいへん失礼なこととはわかっておりますが、
今回はラストまでお一人ずつのお返事は見送らせていただこうと思います。
どうぞ、よろしくご理解くださいませ。m(_ _)m
それでは本日の更新にまいります。
- 441 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/08(木) 23:53
-
桜の樹の下で、今日もあさ美ちゃんはくぅくぅ眠る。
あたしの膝にすがりつくように眠ってるあさ美ちゃんを、じっと見下ろしてた。
愛ちゃんは職員室に呼ばれてて、めずらしく二人きりのお昼だった。
うん、あさ美ちゃんと二人でお昼食べたなんて初めてかも。
後藤さんと別れちゃってから、あたしたちと一緒にお昼を食べるようになったあさ美ちゃん。
あの頃のあさ美ちゃんはまだあんまりぶっちゃけてなくて、
2学期の最初の日のお昼、どうしようかなって、ちょっとうじうじしてたっけ。
いまさら仲間に入れてなんて、ずうずうしいかなって感じで。
愛ちゃんがすぐ気づいて「なに突っ立ってるんやの、こっち来て食べ」なんて、さらっとカッコ良く決めてさ。
あさ美ちゃんはホッとしたような顔をして、でもその後、ちょっと悲しそうな顔になった。
最初のうちは、笑ってても、少ししょんぼりしてるように見えた。
- 442 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/08(木) 23:55
-
今は、もう全然、悲しそうに見えない。
食欲おう盛でバクバク食べるし、あたしのギャグに大ウケして、
一緒に変顔の研究して、愛ちゃんに歌って歌ってとせがんで。
それで、これまた遠慮なくよく昼寝するんだ。ぐうぐうと。
今日も食べ終わったらすぐに、コテッてあたしの膝を枕にして寝ちゃった。
甘えられてうれしいけど、困るなあっても思ってる。
だって無防備すぎる。観察し放題だ。
あたしの制服をつかまえてる指先や、抜けるように白くてすんなりした首筋や、
まあるい鼻先や、薄く開いた唇や、夢でも見てるみたいに時々震えるまつ毛。
誰の視線を気にすることもなく、気づかれる心配をすることもなく、
あたしはあさ美ちゃんのあっちこっちを、頭のなかのカメラにおさめる。
ほんとはケイタイをとりだして、パシャッて撮りたいくらい。
ああ、あたしはなんでこんなにあさ美ちゃんをジロジロ見ちゃうんだろう。
好きって、こういうことなのかな?
きれいだなって見つめちゃうことなのかな?
したら、美人はトクだね。あさ美ちゃんは美人っていうよっか、かわいいタイプと思うけど、
この顔があたし、好きってことなのかな。この頬っぺたとかが。
でも、この顔とカラダのなかには、目に見えないココロってやつがあって。
それも好きなんだろうなって思うんだ。でも、見えないからほんとのとこはわかんない。
あさ美ちゃんの雰囲気に恋をしてるような、そんな気もする。
ほんわかと甘くて、どこか遠くをみてるような不思議に揺れる瞳に。
- 443 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/08(木) 23:56
-
見つめていたその瞼がふいにゆっくりと開いて、あたしはドキッとした。
ぽてっとした唇から、寝起きの掠れた声が漏れる。
「愛ちゃん、来た」
え?
あたしは顔をあげる。
そして、胸をチリッとさせる。
本当に愛ちゃんが校舎のほうから、スタスタと近づいてきていた。
「……よくわかったね」
「足音、した」
まだ半分寝ぼけた声で、あさ美ちゃんはむにゃむにゃとそう言い、
膝の上でコロンと寝返りを打って、あたしを見上げてふにゃーと笑った。
「おはよー」
「いや、昼ですがな」
「なんや、あさ美ちゃんは、また寝てたんか?」
上から降ってきた愛ちゃんの声は、いつものようにお姉さんぽくやさしくて。
でも、あれ? なんか……なんか……不機嫌みたいな。ピリピリしてるみたいな。
- 444 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/08(木) 23:57
-
まさか膝枕してたからじゃないよねぇ?
そんなのいつもだもんねぇ?
ちょっとギモンに思いながらあたしはニカッと笑って愛ちゃんに話しかけた。
「遅かったねー」
「あー、うん、ちょっとの」
「あれぇ、お弁当箱はァ?」
「ん……いいわ、なんか食欲ない」
その言葉で、あたしと同じ疑問をあさ美ちゃんも感じたみたいだった。
膝からゆっくり起き上がり、不安げに愛ちゃんを見上げる。
「愛ちゃん、どっか調子悪い?」
あたしたちの前に立ったままだった愛ちゃんは、
そんなあたしたちの目を交互にじっと見下ろして、くすっと笑った。
「……フン、さすがに誤魔化せんの」
何が?と思った瞬間、思いがけない言葉が続いて、あたしは目を剥いた。
「あたし、落っこちた、推薦入試」
ええっ?
あたしとあさ美ちゃんはギョッとして目を見合わせた。
愛ちゃんが落ちたってぇ? 嘘ぉ?!
- 445 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/08(木) 23:58
-
成績も良くて、全国コンクールの入賞経験もある愛ちゃんは、
一般入試に先駆けて、第一志望の音大の推薦入試を受けていた。
稲葉先生も音楽の先生も、十中八九、大丈夫だろうって、えーっ、言ってたよねぇ?!
「えーー!!!なんでぇ??」
「知らん。さっき、稲葉先生んとこに通知あったって」
「えーー!!!なんでヨォ??」
「知らんって」
あたしより光ってる子がいた、それだけのことやろ。
放り投げるようにそう言って、愛ちゃんはあたしの隣にストンと腰かけた。
その、ヘの字口の横顔。ピリピリと電気の出そうな。
あさ美ちゃんが、心配そうにその顔をのぞき込む。
だけど、愛ちゃんは悔しげにきゅっと唇を結んだまま、じいっと前を見ていて。
わーー……、どうしよ。
こ、こ、こういう時は、なんて声をかければ。
な、なんて慰めてあげたらいいの?
第一志望の入試に落っこち……落っこちたって……そ、そんなぁ!
「あ、あ、あ、愛ちゃん、落ち着いてッ!」
「落ち着いてるがし」
まこっちゃんこそ、落ち着いてや。
愛ちゃんはふてくされたようにそう言うと、ハァッとため息をついて膝に額を押しつけた。
あわわわわと慌てるあたしの耳に、ほとんど半泣き顔のあさ美ちゃんの耳に、
くぐもった小さな声がボソボソと聞こえてくる。
なんでやろ、ベストコンディションで歌えたのに、実技試験………
- 446 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/08(木) 23:59
-
「……あたし、歌、下手なんかな?」
「まままままさか!」
「じょ、上手だよぉ、すっごく」
「……あたしの歌、魅力ない?」
「そそそそんなわけないでしょぉぉぉ!!」
「すっ、すっごくいいと思うよぉ、うん」
ほんとに?
愛ちゃんは膝にこめかみをつけたまま、睨むようにあたしたちを見た。
ほんとのこと言って? あたしの歌、なんかあかんのやろ? なんか、足りんのやろ?
そ、そんなことないよぉ!
あたしはますます慌てて、ブンブンと両手をふる。
「ほ、ほんとだよぉ! 愛ちゃんの歌は最高だよぉ!」
「嘘や」
したら、なんで落ちるの? なんで、あたしあかんかったの?
愛ちゃんの声はおっそろしいほど静かで、ドスがきいてるくらいで。
彼女は悔しげに目を伏せると、唸るように呟いた。
- 447 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/08(木) 23:59
-
「……あたし、絶対、運が悪い」
宝塚受験の時は身長が足りんかった。
全国コンクールも優勝はできんかった。
今度は……今度はなんやろう?
あかん、いつもほんとに欲しいものは手に入らん………
「そんな……」
「……ほやの、運のせいにしたらあかんの」
あたし……何か足りんのやな……何が足りんのやろう…?
小さくなって、両手で顔をおおって、小さく小さくなって愛ちゃんは肩を震わせた。
みんな、褒めてくれるよ。上手やね、いい声やねって。頑張り屋さんやねって。
ほやけど、あかん。何やっても競り合うといつもあたしは負けて……
そこそこまで行くのに、最後があかん……いっつもあかんのや……
ああ、歌のことだけじゃないんだな。
初めて聞くかもしれない、愛ちゃんの弱音。
頑張っても、努力しても、なんとなく報われない彼女。
そうだ、恋だって……
- 448 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:00
-
「お願い、教えてや……あたし、何が……」
愛ちゃんがすっごく悩んで苦しんでること、わかった。
推薦入試に落っこちたっていうショックだけじゃなくて、
なんかもっと深いとこで、ひどく傷ついてるんだってことがわかった。
自分に足りないものを、ほんとに知りたがってるのもわかった。
あさ美ちゃんが、うつむいて黙り込んだ。
ああ、きっと同じこと考えてるな、とあたしは思う。
あたしたちは実のところ、その答えを知ってると思うんだ。
親友だから、こんなふうに聞かれたら、正直に答えてあげるべきなのかもしれない。
はっきりと教えてあげるべきなのかもしれない。
でも、どう言っていいかわかんなくて、あたしもやっぱりうつむいた。
だって、言えないよ。
光が足りない、なんて。
- 449 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:01
-
愛ちゃんはうちの学年のエースで、ぶっちぎりに目立ってて。
歌も上手だよ。ほんとにびっくりするくらい上手だよ。
だけど、あたしが見てきた華やかな先輩たちに比べると、……光が足りないんだ。
たとえば、石川先輩の木漏れ日がきらきらと零れ落ちるような笑顔や、
吉澤先輩のゾクッとするほど美しい色をした瞳や、
藤本先輩の空気さえはらうような凛とした雰囲気や、
光そのものみたいな松浦先輩の煌めくパワーや、
それから、天使みたいで悪魔みたいな誰よりも不思議な光を纏っていた後藤さんみたいな、何か。
愛ちゃん、比較しちゃいけないけど、たぶん。
あたし、初めて会った時に、なんか地味な子だなって思った。
美しく成長した今でさえ、本質は変わらない。
天性の、そう天性のなにかで、あなたは苦しんでる。
頭を抱え、悔し涙をにじませて苦しんでる。
やれること、全部やったよ。喉の調子も良かった。
あたしより飛び抜けて上手い子もおらんかったと思う。
ほやけど、あかんって何やろ? もうわからん。あたし、わからん……
自分で言うように、彼女はちょびっと運が悪くて。
たぶん、愛ちゃんより下手っぴな子がみせた、火事場のバカ力みたいな一瞬の輝きに負けて。
- 450 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:01
-
愛ちゃんの苦しみようを見て、あさ美ちゃんはきゅうっと唇を噛んだ。
彼女はきっとあたしよりもわかってるんじゃないかな、そのこと。
ごとーさんは金色に光ってる。よくそう言ってた。
その光に、たちまち心を奪われたあさ美ちゃんだから。
だけど彼女は、気づかないふりをすることに決めたみたいだった。
愛ちゃんの手をとって、私は愛ちゃんの歌が大好きだよ、ときっぱり言ったから。
「だれがどんなふうに言っても、私は好き、愛ちゃんの歌」
今回は残念だったけど、だけど、まだ一般入試があるよ。
次はぜったい気づいてもらえるよ。
愛ちゃんのこと見逃すなんて、おかしいよ、ぜったい。
いつも強くモノを言ったりしないあさ美ちゃんだから、
その言葉は、あたしの胸にさえジンと染みて。
そうだね、光がなんて、気づいたってどうにかできることじゃない。
自分を信じて努力を続けるしかない、そのうち手に入るかもしれない、
あるいは天性なんて超える何かを身につけるか……。たぶんそういうこと。
あたしたちにできるのは、彼女の一番の味方になって応援すること。
- 451 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:02
-
だけど愛ちゃんは、あさ美ちゃんの言葉に、なぜかもっと傷ついたみたいだった。
皮肉に頬を歪め、うつむいて、力なく首を振る。
苦しげにギュッと寄せられた眉。
「……あさ美ちゃんは、あたしの歌が好きなんやないよ」
愛ちゃんらしくない卑屈な言葉。
いきなり否定されたあさ美ちゃんが、一瞬、言葉に詰まる。
たちまち流れる沈黙に、あたしはドッと冷や汗が出た。
あたしたちが、どんなに愛ちゃんに頼ってるかわかった。
非常事態にトライアングルの司令塔が悲鳴をあげてる。
感情のコントロールを放棄してる。迷走してる。
「あさ美ちゃんはあの歌が好きなんよ。誰が歌っても一緒やよ」
「ち、違うよぉ、愛ちゃんの声だから。すごくきれい、な」
「だから?」
「え、だからって……?」
「だから、何を思い出すの? 人の肩で」
低く投げつけられた一言は、あさ美ちゃんを切りつけるナイフ。
目に見えないあさ美ちゃんのココロを暴こうとする乱暴な刃物。
あたしでさえ、うわっと目を閉じてしまうほど鋭い……
あさ美ちゃんはたちまち青くなり、襟元をぎゅっとつかんだ。
- 452 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:03
-
再び訪れるイヤな沈黙。
あたしはもうオロオロして、泣きそうになって、
どうやってフォローしたらいいんだよぉ!仲良くしてよぉ!なんて、泣き言を言いたくなって。
あさ美ちゃんはしばらく絶句して愛ちゃんの顔を見つめていたけど、
でも、彼女は気丈だった。すうっと小さく息を吸うと、震える声を押し出して、反論した。
「…で、でも、わ、私、ほんとに愛ちゃんの歌…好き。好きだから、いつも……」
愛ちゃんの目を見つめて訴える半泣きの瞳。
そう、あさ美ちゃんはきっと嘘は言ってなくて、
愛ちゃんの歌でなにかを思い出してたとしても、
その声が好きだなあと身を任せてたこともホントで。
悲しげに愛ちゃんを見つめるその姿を見て、
愛ちゃんはハッと自分を取り戻したみたいだった。
「ごめん、八つ当たりや……」
「ううん……」
あさ美ちゃんは、小さな花みたいにそっと微笑んだ。
それから、ゆっくりと愛ちゃんの手をとると、困ったように首を傾げた。
涙の止まらない愛ちゃん。いつもより小さくみえる愛ちゃん。
どうしたらまたいつもの愛ちゃんに戻ってもらえるのかなあ?というように。
- 453 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:04
-
愛ちゃんの瞳から、もうこらえ切れないみたいにドドドッと涙がこぼれ落ちた。
ああ、あさ美ちゃんって、マリア様みたいだね。
こんな時、傷ついてる時、たぶん誰もがあさ美ちゃんに癒される。
あさ美ちゃんの腕に抱かれたら、きっと幸せになる。
そのなかで安心して眠りたくなる。清らかな水がこんこんと涌き出るオアシス。
あさ美ちゃんの肩に額をこすりつけてわんわん泣き出した愛ちゃんの背中を、
あさ美ちゃんは抱きしめ、やさしくやさしく撫でた。
あたしには白い翼が見えた。羽の先でそっと傷を撫でているように見えた。
「……ごめ……あさ美ちゃん、ありがと……」
「そんな。……私こそ、いつも愛ちゃんに頼ってばっかだし」
「……あ、あかん……どうしよ……止まらん…」
「いいよ、好きなだけ泣いて」
いつかと逆みたいだね。ああ、そうだ、後藤さんの卒業の時。
あたしはなんか声をかけることもできずに、ただ黙って二人を見てた。
それはやっぱり、とても美しい風景。
愛ちゃんがこんなに悲しんでても、あたしは見とれてしまう。
そして、ふと思ったんだ。
ほのかにだけど、今、光が宿ってないかな二人、って。
あさ美ちゃんと愛ちゃんの組み合わせ。きれい、とても。
- 454 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:05
-
穏やかな光に包まれて、愛ちゃんが心の扉を少しだけ開く。
マリア様に、いつもクールな横顔は仮面だと告白する。
どこか不敵な、整いすぎた笑顔も芝居だと。
「……こ、怖がりなんよ、あたし」
ほんとは自信なくて、なんも自信なくて、みんなお世辞言ってるんやって思う。
試験かって、嫌やな嫌やな、きっとまたうまくいかんわって、
そう思ってビビってるから、ほんとに落ちてまう。
歌かって……なんも知らんくせに、すました顔して歌うんやもん。
だれも、感動させられるはずないわ……
「そんなことないよ」
あさ美ちゃんは、かぶりを振った。
そしてやさしく囁く。よく聞くとあたたかな、少し掠れた声で。
私、感動したよ。文化祭の時の歌も、いつも歌ってくれる歌も。
すごく感動する。涙がでそうになる。
「それは……」
あれは、片思いの歌やから……
ぼそっと呟いた愛ちゃんに、あさ美ちゃんはフッと目を伏せた。
そして、ちょっとぎこちない笑顔で、ゆっくりと首を傾げて呟く。
わかんないな、愛ちゃんって。私が愛ちゃんだったら……
- 455 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:06
-
「……愛ちゃんみたいにきれいだったら、才能があったら、なにも迷わないと、思う、けど」
ああ、なんて世の中って、うまくいかないんだろう。
愛ちゃんはあさ美ちゃんに心を奪われてるのに、
あさ美ちゃんは愛ちゃんを羨んでいて。
あたしからみたら、どっちもすごい魅力的なのに。
なのに、ふたりとも自信がないなんて。
- 456 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:07
-
あたしは、すくっと立ち上がった。
エッ?と、あさ美ちゃんが驚いたようにあたしを見上げる。
「あたしぃ、先に教室、戻ってるね」
あたしの声に、愛ちゃんもハッと顔をあげてあたしを見た。
あたしも、じっと愛ちゃんを見つめた。
こんな時にナンだけど、愛ちゃん、あたし消えるね?
この意味、考えたらわかるよね?
愛ちゃん、あたし、愛ちゃんが怖がりだってこと、ほんとはずっと知ってたよ。
あさ美ちゃんに、ほんとの気持ち、ずっと言えなかったね。
あたしたちのトライアングルが壊れるの、怖がってたね。
でも、もう遠慮しないで。怯えないで。もっとわがままでいいデショ?
もう苦しくない? 変わりたくない?
なら、あさ美ちゃんにぶつかってみなよ。
諦めないで、欲しいもの、手に入れてみれば?
たぶん、あなたの歌も変わる。
- 457 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:08
-
なんでもわかってる愛ちゃんは、
ちゃんとあたしの考えてること、わかったみたいだった。
涙で潤んだ瞳が、あたしを見つめて、苦しげに揺れたから。
「ちょ、ちょっと、まこっちゃん?」
あわててるのは、あさ美ちゃん一人。
何もわかってないのは、あさ美ちゃんだけ。マリア様のくせにさ。
ああ、天然なのか。これが彼女の天性なんだな、きっと。
あたしはポンポンと彼女の肩を叩く。
ごめんね、あたしぃー、こーゆーの苦手ぇ。
あさ美ちゃん、話きいてあげてよぉ。
「に、苦手って!」
さすがに怒って立ち上がりかけたあさ美ちゃんの腕を、愛ちゃんがつかんだ。
ええよ。怒らんといて、あさ美ちゃん。
まこっちゃんの考えてること、わかってる、わかってるし……
- 458 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:08
-
よっし。
あたしはくるっと踵を返してパッと駆け出した。
これ以上、ここにいたら泣いちゃいそうだった。
愛ちゃん、大切なシンユウ。あたしのこといつも面倒みてくれて。
まっすぐな瞳で、ちょっと融通がきかないんだ、正義感が強くてさ。
そのくせ臆病で、ホントに何百年でも待ちそうなほど怖がりで我慢強くて。
だから、あたしが、愛ちゃんにチャンスをあげる。
愛ちゃん、きっと今が、打ち明ける時。
勇気を出して、人生を変えてみる時。
きっと大丈夫。
あさ美ちゃん、愛ちゃんなら考えてみてくれると思う。
すぐにはダメかもしれないけど、始めなきゃ、始まらない。
あたしに遠慮しないで、足りないものを手に入れて。
あなたの歌、きっともっと深くなる。もっと広くなる。光を手に入れる。
- 459 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:09
-
「なーんつって、あたしってカッコいい!」
だけど、あたしってやっぱカッコ悪いかも。
どうしても我慢できなくて、校舎に駆け込むときに一瞬振り返ってしまった。
遠く、目に飛び込んできたのは、また震えはじめた愛ちゃんをその胸に抱きしめてるあさ美ちゃん。
白くて大きなあさ美ちゃんの羽根。妖精みたいにみえる華奢な愛ちゃん。
それは、なんて美しい風景……胸がビリビリに切り裂かれるほど。
あたしは爆走しながら生徒玄関を突っ切って、
ガーーッと校舎を走り抜けて通用口を飛び出し、
その勢いのまま、裏庭の非常階段の手すりにガツンと手をついた。
「あーーーーーーーーーーー!」
どうしよ。
愛ちゃんにコクハクされたら、あさ美ちゃんきっと。
最初は驚いても、でもきっといつか。
- 460 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:10
-
だって、愛ちゃんだもん。いつか後藤さんにだって追いついてしまう。
もしかしたら追い越せてしまう。うちの学年でたった一人、その可能性があるエース。
汚い中傷から誰よりもあさ美ちゃんを守ってきた正義の味方1号。
「うわぁ……」
自分で選んだことなのに、ばたばたと地面に涙が落ちた。
ヤバい、へなちょこの正義の味方2号、もう泣いちゃってますよォ。
バカ、ほんとあたしってカッコわるすぎ。
制服が汚れるのもかまわずに、非常階段に小さくうずくまった。
あたしぃ、耐えられるかな? 愛ちゃんとあさ美ちゃんの美しい風景。
その横で笑えるかな、これまでと変わらずに。
バカみたいに笑うんかな? これまでと変わらずに。
「あーー……」
自分で選んだことなのに、あたしの涙はあんまりにも正直に流れて。
イタイイタイと鼓動が叫ぶ。
ダメ、苦しい、死んじゃうと喉の奥が呻く。
- 461 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/09(金) 00:10
-
愛ちゃん、もし今日を限りにあたしがいなくなっても怒らないでね。
あさ美ちゃんだけで我慢してね。お願い、後悔しないで。あさ美ちゃんも。
あたし、たぶん逃げちゃう、ふたりの前から逃げ出しちゃうけど。
愛ちゃん、頑張れ。
今、今だけだけど応援してるぜ。
たぶん、これが、あたしの、精一杯。
- 462 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/09(金) 00:11
-
本日はここまでといたします。
常日頃と同じくレス歓迎ですが、ラストも押し迫ってまいりましたので、
どうぞネタバレ、先読み、推しCPのリク等はご容赦いただけますよう、
ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。m(_ _)m
- 463 名前:名無しぽき 投稿日:2004/07/09(金) 00:19
- マコ…。・゜・(ノД`)・゜・。
- 464 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/09(金) 00:39
- 作者様、更新お疲れさまです。
愛ちゃんの苦悩がすごくリアルで。・゜・(ノД`)・゜・。
マコ、いい子だね。正直なとこがまた人間くさくて好きです。
あーこうくるとはって感じなので、今後どうなるのか……。
ドキドキしながらお待ちしています。
- 465 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/09(金) 01:40
- 更新お疲れさまです。
マコ切ないよマコ・・・・゚・(ノД`)・゚・。
- 466 名前:名無しマカー 投稿日:2004/07/09(金) 02:15
- 更新お疲れさまです。
あぁ、胸の奥をギュッとされたみたいです。・゜・(ノД`)・゜・。
- 467 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/09(金) 02:50
- せつないよぉ・゚・(ノД`)・゚・。
- 468 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/09(金) 04:37
- うひー。
更新ありがとうございます。
ラストまで楽しみにしてます。
- 469 名前:名無しですよ? 投稿日:2004/07/09(金) 08:43
- あ〜・゜・(ノД`)・゜・。
愛ちゃんの悩みはすごくリアルでこっちまで痛っ!!
ラストまでついて行きます!頑張ってください。
- 470 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/09(金) 13:09
- かぎりなくせつない・・・3人とも幸せになって欲しいです。
そして、あの方の再登場を願う・゚・(ノДT)・゚・。
作者様頑張ってください!!
- 471 名前:ぽち。 投稿日:2004/07/09(金) 22:20
- あ〜せつない。三人とも弱い所も含め大好きです。
でもやっぱりここのまこっちゃんが一番いじらしくていとおしい…
雪ぐまさんの書かれる素敵な話は、今回も最後まで目が離せません
- 472 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/11(日) 02:09
-
皆さま、あたたかいレスをありがとうございます。
お一人ずつにお返事したい気持ちをぐっとこらえて、
さっそくですが、本日の更新にまいります。
- 473 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:10
-
「もうね、マジであたしと付き合っちゃおうよ!」
ガオー!と叫んだあたしに、あさ美ちゃんは驚いたように目を見開き、
それから、とたんに泣きそうな顔になって、ぎゅっとコートの胸元をつかんだ。
いつもの、あの夕暮れの土手で。
- 474 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:10
-
愛ちゃんは勇気を出さなかった。
あの後、いつもとまるで変わらない様子で教室に戻ってきた二人。
あたしはポカンとして、マジで穴があくほど二人の姿を見つめ、それから愛ちゃんをじっと見た。
どうして? 言わなかったの? どうしてよ?
愛ちゃんはあたしの視線に気づくと、微妙に口元を歪めてフッと目をそらした。
そんなカンタンに言えるわけないやろ?とでも言うように。
カタンと椅子に座って教科書を取り出し、ピッと姿勢を正した姿。
そのクールな横顔、もうなんの感情も読めなかった。
よく見ると目の縁と鼻の頭はちょっと赤かったけれど、
推薦入試に落っこちたことも、ナイショの恋をしてることも、告白の一大チャンスを見送ったことも、
クラスメイトは誰も気づかないと思う。あたし以外、誰も気づかないと思う。
彼女のすべては、もう一人の親友のあさ美ちゃんさえ。
- 475 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:11
-
そっか。
あたしはギュッと拳を握りしめた。
最悪なことに、あたしは安心していた。愛ちゃんが勇気を出さなかったことに。
そのことに気づいてた、すぐに。
わんわん泣いちゃった時から、わかってた。
そして思ったんだ。
愛ちゃん、じゃあ次はあたしの番。
もうわかってた。これ以上、自分が待てないこと。
誰にも、愛ちゃんにさえ、あさ美ちゃんをさらわれたくないってこと。
あの日に芽生えた、覚悟みたいな強い気持ち。
- 476 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:11
-
もうすぐ、クリスマスがやってくる。
今日は大事な話があると告げたあたしに、あさ美ちゃんはすこし不安げな顔をした。
隣のクラスのいじわるな子たちにあたしたちとのこと、
……後藤さんの次はまこっちゃんなの?愛ちゃんなの?なんてくだらないこと、
とっつかまって、ぐるって囲まれて、からかわれてた日だった。
あさ美ちゃんの動向が注目を集めるのは、もういない後藤さんのせいで、
そう、あたしたちの学年にとってはアイドルみたいに輝いてた後藤先輩の元カノジョだからで、
そして、いまやうちの学年で一番目立ってる愛ちゃんの親友だから。
三枚目のあたしはまるで分が悪くて、でも、なぜかみんなはこう囁いてる。
どっちかっていうと、まこっちゃんとのほうが似合ってる気がするよね。
まこっちゃんって、なんかかわいーじゃん? 超おもしろいし。
でもでも、やっぱフツーは愛ちゃんのほうがさぁー。
『私って、甘えすぎなのかなあ。べたべたしすぎる?』
そんなふうにこぼしたあさ美ちゃんに、あたしと愛ちゃんはなんとも答えかねた。
手をつないだり、腕をくんだり、もたれたり、抱きあったり、あたしたちには当たり前のこと。
なのに、なんで最近、変なふうに言われちゃうんだろ?
無邪気な言葉に、あたしはちょっとバツが悪くなってうつむく。
愛ちゃんは、フッと窓の外に目をやる。
しょうがないよ、なんかもう変なふうに見えちゃうんだよ。
なんかすごく無理があるんだよ。
仲良し3人組。あたしたちのトライアングル。
- 477 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:12
-
『馬鹿馬鹿し。あんな子らがいうこと、気にせんとき』
しばしの沈黙のあと、結局はあいかわらずカッコよく、そう切って捨てた愛ちゃん。
勝手に言わせとけばいいわ。甘えたらいいがし。うちら、親友やろ?
愛ちゃんの言葉に、あさ美ちゃんはホッとしたように息をつき、微笑んだ。
やさしいね、愛ちゃん。
あたしはすこし皮肉にそう思う。
いつまで待つつもりなの?
『考えなあかん。あさ美ちゃんが忘れたくないんやったら、どうしたらいい?』
どうしろっていうの?
愛ちゃんは諦めるつもり?
それとも、えんえんと待つつもり?
このまま友達の笑顔のまんまで、さりげなくそばにいるの?
あの日以来、愛ちゃんの横顔はますます大人びていて、なんの感情も読めない。
- 478 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:13
-
そうだね。たぶん、あさ美ちゃんの心にはまだ後藤さんが。
愛ちゃんの選択は、とてもクレバー。そう、わかってる。
どんなにあたしたち、仲が良くても。
『あたし、あさ美ちゃんが好きだなぁー』
『私も、まこっちゃんの笑顔が大好きだよぉー』
あさ美ちゃんの言葉はとても正確で、
好きという言葉が友達以上の深刻な意味を持たないように選ばれてる。
友情と恋の違いを、はっきりと線引きしてる彼女。
あたしはといえば、曖昧に気持ちを伝えようとしてて、
でも、このままじゃいつまでたっても平行線だってことに、とっくに気づいてた。
何百年待ってたって、あさ美ちゃんは動かない。そういう子だよ、愛ちゃん。
ごめん、あたし、ほんとに友達がいがないけど、苦しいんだ。
このままじゃ受験勉強も、手につかないんだ。
- 479 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:13
-
愛ちゃんだって、ほんとはそうなんじゃないの?
推薦入試に落ちた日以来、すこし削げた青白い頬。
時折、切なげにあさ美ちゃんを追いかけ、ぼんやりとうつろになる伏し目がちの瞳。
どうしても勇気を出せなかった自分、やっぱり変われなかったイイコの自分、
たぶん少し後悔してるはず。
だから、あたしはバカな選択をしてみようと思う。
高校最後のクリスマスが来る前に、勇気を出して動いてみようと思う。
あさ美ちゃんがキッチリ引いてる友情と恋の間のラインを、ガツンと踏んでみようと思うんだ。
だって、もう気づかなくっちゃいけないよ、あさ美ちゃんだって。
心に想いを秘めてるのは、自分だけじゃないってこと。
あさ美ちゃんは後藤さんに捨てられたあの日から、どこにも動けないでいる。
きっと動きたいのに、動けないでいる。
だから、あたしがその手を引っ張るんだ。
- 480 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:14
-
「……それ、ほんとに言ってる?」
「ほ、本気だよ。ずっと好きだったモン、友達じゃなくて」
胸を張ってそう言いながら、うわ、どうしよう? みたいな?
やっぱ思いっきし困らせてるだけかよ、みたいな?
ああ、少しは、少しは期待してたんだけどな。
私も実はまこっちゃんが、みたいな言葉。
「ずっと……?」
「そ、そうだよ」
「い、いつから?」
「もうずっとだよ! 1年の時からだよ!」
息をのんで襟元をぎゅっとつかむ指先。
お人形さんみたいなきれいな睫毛が伏せられる。
整えられた眉毛が、苦しげに寄せられる。たぶん、いろんなこと思い出して。
後藤さんとの恋にあたしを巻き込んだこととか、思い出して。
- 481 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:15
-
長い長い、倒れちゃいそうに長い沈黙。
北風に吹きつけられながらあたしは、あっという間にカクゴする。
そして震えながら聞こえてきたのは、予測通りの言葉だった。
「……あ、あのね、ま、まこっちゃんは大事な友達だから」
だから、こ、恋人には、なれないよ……
あさ美ちゃんは、ごめんとか、言わなかった。
だから絶望的な気持ちになりながらあたしは、かろうじて立っていられた。
あたしはすうっと息を吸う。
いいさ、かんたんにOKもらえるなんて最初っから思ってない。
勝手に友達以上に好きになったのはあたしで。
あさ美ちゃんの想い人が誰かなんてこと、百も承知の上で。
それでも、ぴったりとあたしはそばにいた。親友の顔で。
一緒の教室の中で、たくさん思い出をつくってきた。
だから、言うよ。震えちゃう脚を踏みしめて、あえて言うんだ、あさ美ちゃん。
「わかってる。でも、あさ美ちゃん、お願い、考えてみてよ」
あんなにあたしたち、笑ってきたじゃん?
すごく気が合うと思うし、愛ちゃんよっか頼りになんないかもしんないけど、
でも、ずっと一緒にいられると思うし。大切にするし。ほんと、それは約束するし。
ね、一緒に笑おう? もっと笑おう?
きっと幸せになれる、もっと、今よりもっと。
- 482 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:16
-
こんなに必死になったのは、生まれて初めてかもしれなかった。
必死になって説得した。考えてみてほしい、今すぐじゃなくていい、
お願い、あたしのこと、友達以上に考えてみて。そういう目で見てみて。
ゆっくりでいいから。ちょっとずつでいいから。
お願い、あさ美ちゃん、あさ美ちゃん……
だけど、何をどう言っても、あさ美ちゃんは、
しおれちゃった花みたいにうつむくだけだった。
「……だ、だめだよ、わ、私……好きな人が……」
「愛ちゃん?」
「ちが……」
まこっちゃん、わかってるでしょう?
あさ美ちゃんは、ひどく苦しげに両手で目をおおった。
そう、愛ちゃんでもないよね。……ホントはわかってるよ、信じたくないけど。
- 483 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:16
-
ねぇ、だって、その人は。
後藤さんのことは、もう諦めなきゃって、あさ美ちゃん言ってたじゃん。
- 484 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:17
-
「忘れたい、って、言ってたよね?」
いじわるだ、と思いながら、あたしはあえて訊いた。
あさ美ちゃん、忘れたいって、忘れなきゃって言ってたよね?
苦しいから、あんまり思い出したくないんだって。
言葉は真実とは限らない。
だけど真実かもしれない。真実にできるかもしれない。
あたしは後者を信じようと思う。だって苦しいって言葉はたぶんほんとう。
だからもう忘れよう、あさ美ちゃん。一緒に忘れようよ、あの人のこと。
あなたを捨てたあの人のことなんて。
「あたしは、あさ美ちゃんが好きだよ」
これは、あたしのたった一つの切り札。
あたしは、あさ美ちゃんが好きだよ。
後藤さんはあなたを捨てた人だよ。
あたしは、あさ美ちゃんが好き。
ずっと好きだった。見てたよ。ずっと見てた。
あたし、あさ美ちゃんが好きなんだ。
- 485 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:18
-
馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返す言葉。
あなたを好きなのはあたしだと、大切にできるのはあたしだと訴える言葉。
ふざけたふりをしていつも伝えてきた、あなたを笑顔にする言葉。
そう、いつもあなたはくすぐったそうに笑ったね。
だけど、あたしの本心を知ってしまったあさ美ちゃんは、
もう、いつものように軽やかに笑ってはくれなかった。
まこっちゃんの笑顔が好き、とも言ってくれなかった。
ただ、うつむいて唇をぎゅっと結ぶ。苦しげに目を閉じる。
さっきよりもさらに重い沈黙。
時間はすべるように流れてく。
ああ、このまま夕陽が全部沈んじゃいそうだ。
地球が終わっちゃいそうだ。
だけど、かんたんには諦めない。あなたを守りたい。
過去から動けないあなたの手を引いて、ここから未来に行きたいんだ。
あたしは、震える脚に気づかれないようにあさ美ちゃんの前に胸を張って立ち、
自分が強そうに、勇敢に見えることを祈った。
そして幸運なことに、それはどうやら成功したみたいだった。
あたしをうかがうようにそっと目をあげたあさ美ちゃんが、一瞬、ハッとした顔をしたから。
- 486 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:18
-
そうだよ。
あたしはもう泣いちゃいそうな目にぐっと力をいれて、あさ美ちゃんを見つめる。
そうだよ。これが、ほんとのあたし。
あなたの前でふざけてばっかだったまこっちゃんじゃなくて、
あなたの手を引いて記憶の牢獄から連れ出そうとする戦士。
イバラの道は、この腕でなぎ倒そう。
月に届きそうな高い塔に傷だらけで這い上がろう。
あなたを助けに来た、あさ美ちゃん。さあ、もう苦しい牢獄から逃げ出そう。
あなたを守る誰よりも勇敢な戦士でありたい、あたしは。
「あさ美ちゃん、あたしを、選んでください」
あたしらしくもない静かな声に、あさ美ちゃんの瞳が戸惑ったように揺れた。
友達の殻をバリバリと破り捨てて生まれた新しいあたし。
あなたの恋人候補として目の前に立った、もう友達じゃないあたし。
あさ美ちゃんが、かすかに眩しげに目を細めたのがわかった。
- 487 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:19
-
彼女の瞳が揺れる。
記憶をさまよい、目の前に立つあたしに戻り、また記憶へと旅立つ。
忘れられない過去の人。未来を語るあたし。
ほら、あさ美ちゃんだってこのままじゃいけないと思ってる。
いつまでも後藤さんに執着してちゃいけないと思ってる。
揺れはじめた彼女にあたしは朝の光が射しこんできたような希望を感じて、
胸の中で、できれば使いたくないと思ってたカードを確かめた。
それはジョーカー。たぶん効果絶大。
でも、使ったら最後、一生あたしを苦しめる。
運命が最初から決まってるなんて、あたしは思わない。
きっと誰にだって、たくさんの未来があるんだ。
たくさんのターニングポイントでどっちに行くか、いっこいっこ選んで決めてくんだ。
あさ美ちゃんは今、ふたつの道の前で迷ってる。
ううん、行きたい道はたぶん……だけど、その道の先は光の届かない迷路のような闇の森。
負けねぇ、ぜってぇ負けねえ。
あたしは胸のなかで、ジョーカーを握りしめる。
あさ美ちゃん、こっちだよ。こっちは見晴らしのいい草原。
ポンコツのエンジンだけど、あなたがいれば百人力。
きっと飛んでみせるよ、ここからダッシュして高い空の向こうまで。
- 488 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:21
-
記憶のなかから、彼女の瞳があたしに戻ってくる。
その目の前に、あたしは最後のカードを切った。捨て身のジョーカーを。
「後藤さんのこと、忘れなくってもいいよ」
あさ美ちゃんの目が驚いたように見開かれる。
あたしは雰囲気が深刻にならないように、ニカッと笑った。
自分を奮い立たせるように、あさ美ちゃんを安心させるように笑った。
「全部、好き、まるごと」
「……まこっちゃん、言ってる意味、わかってる?」
「わかってるよォ」
ずっと2番目でもいいよ、あなたと恋ができるなら。
後藤さんを心の奥底に秘めたあさ美ちゃんでもいいよ。
あなたと手をつないで、この道を一緒に歩いていけるなら。
悲しいことかもしれないけど、あたしは後藤さんと恋をしたあさ美ちゃんを好きになったから。
だから、どうしても忘れられないならかまわない。
あなたの過去も、今も、記憶もありのまま、受け入れるよ。
- 489 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:21
-
「………なに、言ってるの?」
「今のまんまのあさ美ちゃんと、ずーっと一緒にいる。一緒にいたい。だめ?」
「………な、んで、そんなこと、言うの?」
苦しげに、あさ美ちゃんは呟いて。
なんでって、もうすっごく好きだからだよ。
あたしは思い切ってあさ美ちゃんの腕を引き、ぎゅうっと抱き寄せた。
彼女は一瞬ビクン!とカラダをかたくしたけど、逃げはしなかった。
鼻先をかすめるシャンプーの香り。
抱っこするなんて何百回目かわかんないけど、ドキドキして心臓が壊れそう。
でも、もっと強く。いつもよりも特別になりたくて。
あさ美ちゃんと呟いてぎゅううっと腕に力をこめると、
彼女は蚊の鳴くような声で切なげに呻き、それから、ぐったりとあたしに身を預けた。
張りつめてたココロの糸が、ぷちんと切れたみたいに。
「まこっ、ちゃん、私………」
「うん」
全身から伝わってくる彼女の苦しみ、痛み、そして迷い。
きっと楽になるよ。一緒に、もっと笑おう。
あたし、連れていきたい、あなたのこと、ここから。だから。
- 490 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:23
-
突き上げられる想いに涙が出そうになってあたしは、
心の奥底から涌き上がってきた言葉をはっきりと口にした。
迷ってる彼女をつかまえる強い言葉を。
「うちら、つき合おう?」
耳元で囁いたあたしの声に、あさ美ちゃんはなぜか小さな悲鳴をあげた。
ガクンと膝が折れて、あたしの腕の中からずるずると滑り落ちる。
え? あ、あさ美ちゃん?
放心したようにぼんやりと座り込んだそのうつろな瞳から、つうっと涙がこぼれ落ちた。
それで、あたしはハッと気づいた。
そうだ、この言葉は。
『……違うよ!一応、ちゃんと…言われたもん……うちら、つき合おうって』
あさ美ちゃんの瞳から、生き物みたいにどんどん涙があふれはじめた。
その涙を、あたしは黙って見つめる。妙に冷静な気持ちだった。
- 491 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/11(日) 02:24
-
だって、彼女が感じてるのは、記憶が塗り替えられる痛み。
そして、もう目の前にいない後藤さんから引きはがされる痛み。
彼女がいつか向きあわなくちゃいけなかったこと。
後藤さんと同じ言葉を使っちゃったのは偶然で、
あなたが話した言葉を、あたしの脳のどこかが覚えていたからで。
うん、あたしは後藤さんみたいに自信満々であなたにそう言うんじゃないよ。
つかまえてくれと言わんばかりに浅瀬を泳ぎまわるお魚に網をかけるんじゃない。
あなたの心は深い深い海の底にある。
息を詰めてあたしはそこに潜り、なんとか辿り着こうとしていた。
そして闇の中で膝をかかえて泣いてるあなたに手を伸ばして、必死に呼びかけたんだ。
さあ、この手をとって!
ぼんやりと座り込んだままのあさ美ちゃんの目の前に、
あたしはゆっくりとこの手をさし出した。
ゆらゆらと揺れる瞳が、あたしの手をじっと見つめ、それからあたしの瞳を見上げた。
あたしは微笑む。できるだけ勇敢に見えるようにと祈りながら。
彼女の瞳からもう一粒、透明な滴がこぼれおち、
指先が、手元の草をぎゅっとつかんだ。
- 492 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/11(日) 02:25
-
本日はここまでといたします。
次回、最終回です。
引き続き、ネタバレ、先読み、推しCPプッシュ等はご容赦いただけますよう、
ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。m(_ _)m
- 493 名前:ゆんせ 投稿日:2004/07/11(日) 02:41
- ため息がでました。
最終回、楽しみにしています。
いつも素敵な作品をありがとうございます。
- 494 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/11(日) 02:43
- ずるいなぁ…なんか、こういう泥臭さがまたリアル。
ほんとなら…とか思いますが、こうやってがむしゃらな必死さ…
>>488みたいなのって多分この年代だから言えるのでしょうけれど、だからこそとても美しいと思いした。
初恋自転車。
まさにタイトル通りだと思います。
ああ、あんまり書くとネタバレになりそうなんで控えますが、
最終回、心してお待ち申し上げております。
- 495 名前:時限爆弾 投稿日:2004/07/11(日) 04:46
- もう…紺ちゃんは私です。だからこそ、気持ちが分かり過ぎるからこそ言いたい。
心に忠実に、生きてほしい。笑って欲しい。幸せになって欲しい。
久しぶりですが、雪ぐまさんの子供達の行く末を、愛しく思い見守ってます。そんな雪ぐまさんも愛しいです、テヘw
執筆、焦らずに頑張って下さい。
- 496 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/11(日) 08:48
- 更新お疲れ様です。
はふぅ・・・読んでる間ドキドキしすぎて呼吸困難になってました。
それぞれの気持ちがわかるから切なすぎて苦しくなっちゃいますね。
最終回、楽しみに待ってます。
- 497 名前:ぽち。 投稿日:2004/07/11(日) 12:33
- 更新ありがとうございます。
もう感想は色々書くとネタバレになるので、読んだ時の自分の
リアクションをまこっちゃん風?に書きます。
ウォ〜?!あ〜!あ〜〜〜!!!!!最終回が待ち遠しい…
- 498 名前:ましろ 投稿日:2004/07/11(日) 13:56
- 更新お疲れ様です。
数日分まとめて読んだこともあってか、ヤバイ、きてしまいました・・・ううっ。
次はとうとう最終回ですか。早かったような。
楽しみなんだけど、なんだか苦しいような気持ちもあります。
- 499 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/11(日) 18:06
- まこっちゃん…
>>491下から3行目
ここらあたりが後藤さんと似てるところかも…
もう、誰とくっついてもいいから
みんな幸せになって欲しいっす ゚・(ノД`)・゚・
- 500 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/11(日) 23:14
- あぁ〜!と叫びながら読んでました。
最終回・・・。期待してます。終わって欲しくない。しかし・・・。
とにかく、さくら満開を聴きながら最終回に臨みます。
- 501 名前:名無しマカー 投稿日:2004/07/13(火) 19:06
- 更新お疲れさまです。
あぁ・・・長文レスしてしまいそうな気持ちですが、ぐっと我慢!です。
それぞれの勇気がいいほうに向かうといいな。
最終回、楽しみにしています。
- 502 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/20(火) 23:53
-
皆さま、あたたかいレスをありがとうございます。
本日もお一人ずつにお返事したい気持ちをぐっとこらえて、最終回の更新にまいります。
やや長めですが、よろしくおつき合いください。
- 503 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/20(火) 23:54
-
あさ美ちゃんは白くて大きな羽根をもってる。
傷ついてる時、つらい時、たぶん誰もがあさ美ちゃんに癒される。
あさ美ちゃんの腕に抱かれたら、きっと幸せになる。
そのなかで安心して眠りたくなる、清らかな水がこんこんと涌き出るオアシス。
それは彼女の天性。
あたたかなオーラに包まれた自分の魅力をあさ美ちゃんは知らない。
穏やかな光に満ちた美しい羽根があることに気づかない。
いつだって安心できる誰かの陰に隠れて彼女は笑い、
子犬みたいな潤んだ瞳で、おどおどと世界を見つめる。
あさ美ちゃん。
たくさんの人があなたを見つめているのに、
あなたはどうしてか自信なさげにうつむくんだ。
どこにだって飛び立てるのに、あなたは怯えたように羽根を震わせるだけで、
大きく開かれた鳥籠の扉を見て、もっと奥へと逃げ込んでいく。
そして光も射し込まないほど奥のほうできゅっと身を縮めて、
小さな小さな声で恋の歌を唄うんだ。
あの人の耳には決して届かない悲しい歌を。
- 504 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/20(火) 23:54
-
………………………………………………………
………………………………………………………
………………………………………………………
………………………………………………………
………………………………………………………
………………………………………………………
- 505 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/20(火) 23:55
-
初恋は叶わないっていうからさ、
まあハナっから期待とかはしてなかったわけよ。
だけどさ、なんでだかちょっと手が届きそうだったから、
たぶんどうにも苦しいわけで。
学校帰りの土手で、あたしはひとり夕焼けを見ていた。
先週まで、一緒にあさ美ちゃんがいたよ。
だけど、あれから気まずくて。なんとなく、ぎこちなくて。
いつもと変わらずに誘おうと思うんだけど、泣いちゃったら困るなと思ってる。
あさ美ちゃんがじゃなくて、自分がね。
『あたし、あさ美ちゃんが好きだなあー』
そう言うと、あさ美ちゃんはいつもくすぐったそうに笑ったね。
それから決まってこう言うんだ。
『私も、まこっちゃんの笑顔が大好きだよ』
まったく、ねぇ?
ホントそのまんまの意味だった。
なんの含みもなかった。彼女は、きっとほんとにあたしの笑顔が大好きだった。
だから、変わらずに笑っていたいなあって思ってるのに、上手にできなくて。
ぎこちなくひきつっちゃう頬が、情けないくらいに。
- 506 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/20(火) 23:55
-
……まこっちゃん、私、頭がおかしい、かも……
一世一代の大コクハクをしたあの日、
風に掻き消されちゃいそうな涙声は、ずっと知りたかった答えを連れてきた。
さまざまな言葉の奥に隠された、彼女の本心を。
……まこのこと、好きだよ……でも……
……どうしても……どうしても、ごとーさんのものでいたい……
そして、あたしが見たのはあさ美ちゃんの後ろ姿だった。
あたしを置いてまっしぐらに駆け去っていく、懐かしい後ろ姿だった。
- 507 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/20(火) 23:56
-
目に映る光景が、去り際に鼓膜に届いた震える言葉が、信じられなくて。
あたしはただ、呆然と夕陽のなかに立ちすくみ。
そしてココロは、どこにも動けなくなったんだ。
瞼の裏に映るのは、高い塔のてっぺんからあえなく落下していく自分。
深海から一人くるくると弾き飛ばされて、ぷかりと波間に浮かんでしまった自分。
それは情けなくて、空回りな、超カッコ悪いあたし。
お姫様は、牢獄に閉じこめられていたいんだそうです。
海の底で、ひとりで膝を抱えていたいんだそうです。
どんなに笑ってても、あさ美ちゃんはやっぱり胸の中で泣いてて。
あたしを有頂天にしたたくさんの笑顔も、
愛ちゃんの歌に零した涙も、ぜんぶぜんぶ後藤さんのもので。
忘れたいといいながら、あなたは繰り返し繰り返し後藤さんを思い出してる。
どうしてもあの人じゃなきゃだめだと叫んでる。
そして、頑ななほどその気持ちを守って。そう、守って。
……本当は、忘れるつもりなんか、最初からまるでなかったんだね。
- 508 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/20(火) 23:57
-
あの日から、あたしは毎日、ひとりでこの土手に通ってる。
それで、まだしつこく考えてる。どうしてかなあ?って。
どうして彼女は前に進まないんだろう?
新しい世界をのぞいてみようともしないんだろう?
「後藤さんのものでいたい、か」
あさ美ちゃん、ものすごく振り回されて泣かされたのに、
ひどい言葉で捨てられたのに、どうしてそんなにあの人がいいのかな?
どうしてあたし、まるでかなわないのかな?
わりと上手に、笑わせてたと思うんだけどな。
あさ美ちゃんにすごく好かれてるって、思ってたんだけどな。
かなり捨て身で、頑張ったんだけどな……
何回流れても敗北の涙は熱くって、眩しい夕陽に目の奥が痛くなる。
ハッキリ答えが出ちゃった長い長い初恋。
叶わなかった想いはどこにいくのかな?
お腹の底のほうがすごい悲しくって、取り返しのつかない後悔が押し寄せてくるんだ。
時間を巻き戻して、話してしまった言葉を全部かき集めて喉の奥に戻してしまいたい。
悲しいんだ。なんだかすっごく気まずくなっちゃって。
あたしたちが過ごした時間の意味が、楽しい日々の思い出が、
ぜんぶパチンって消えちゃいそうな気がするよ。
ほんと、あたし、バカだった。
- 509 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/20(火) 23:58
-
でもさ、終わった恋のことは心のどこかにしまって、
次に歩き出さなきゃだめだよって思ったんだ、あさ美ちゃん。
あなただってそう言ってた。わかってると思ってた。
だから、待ってたんだよ。ずっと待っていたのに。
ねぇ、今だって心のどこかで待ってる。
あさ美ちゃんが、いつものこの土手に来てくれないかなって。
あたしのこと、追いかけてきてくれないかなって、さ。
吹きつける冬の風にぶるぶる震えながら、あたしはなかなかこの場所を動けないでいる。
ハハッ、そっか、つまりこういう気持ちか。
あさ美ちゃんのこと、何も言えないかもしんないな、あたし。
ねぇ、あさ美ちゃん、待ってるんだあたし。
まだ、待ってるんだ………
- 510 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/20(火) 23:58
-
ふいに真後ろで、キイッと自転車が止まる音がして、ハッと振り返った。
自転車からひらりと降りたのは、オレンジの夕陽を浴びた華奢なシルエット。
ピーコートからすらりと伸びた、折れちゃいそうに細っこい脚。
うえ? まさか。まさかまさか………
「探したがし」
ギャアッ!
ドッと冷や汗が出た。
そこにいたのは、よりによって一番こんな姿を見られたくないライバル。
「あああ愛ちゃん、ななななんでここがっ?」
「あさ美ちゃんに聞いた」
「ぶ、部活は?」
「サボった」
オレンジに染まった愛ちゃんは、てててと土手を降りてきて、あたしの隣にすとんと腰かけた。
あたしはバツが悪くなって、しゅんとうつむいた。
あさ美ちゃんからこの場所を聞いたなら、もう気づいたよね?
あたしが愛ちゃんに内緒で、あさ美ちゃんを独占してた時間があったこと。
それに、それに………
- 511 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/20(火) 23:59
-
気まずい沈黙が流れて、愛ちゃんはチラと横目であたしを見た。
「風邪ひくよ、こんなとこにおると」
「ウン……」
小さくため息をつく。
愛ちゃんのほうを見られない。
どうしてここに来たのか訊くこともできない。怖くて。
だけど、ぶっちぎりの愛ちゃんはあいかわらず容赦なくって。
「まこっちゃん、あさ美ちゃんに、ゆったやろ?」
「うう……」
やっぱその話か……
耳の奥が痛くなるほどかたく目を閉じて、ますますうつむいた。
だよね、気づかないわけない。あんなに気まずいの。
きっとフラれたのバレバレだよね……わぁ、カッコ悪ぅ。
「アホやのー、うんって言うわけないがし」
「うう……」
「あさ美ちゃんね、忘れられんのじゃなくて忘れたくないの」
「……みたいだね」
「本人、気づいてるかどうか微妙やけど」
「……気づいてるみたいよ」
ああ、そう。じゃあ、ホントに記憶の中に生きてたいんやな……
そう言って、愛ちゃんはクールに肩をすくめた。
そして、フッと夕陽に目を細める。
なにもかもわかってる、そんな大人びた表情で。
- 512 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:00
-
「まあ、忘れたくないっての、わからんでもないけど」
最初にあんな……後藤さんみたいな人と恋をして。
幸せっていうか、不幸っていうか、微妙なとこ。
不幸だよっ。
キャンと吠えて、あたしはそう決めつける。
だって、ちっともあさ美ちゃん動けない。動こうとしないジャン!
別れてもいつまでもあの人のものなんて、そんなのただの自己満足だよっ!
「でも、それが、あさ美ちゃんの選択やし……」
「……愛ちゃんって、大人っぽいね」
「まこっちゃんが、子供っぽいんやわ」
そうだね。
大人の愛ちゃんはあさ美ちゃんのことよくわかってるから言わなくて、
子供のあたしは結局わかってないから、言っちゃった。
それで気まずくなっちゃって、トホホだよ。
「何回も教えてあげたのに、アホや、ほんと」
半泣きでうつむいちゃったあたしの頭を、愛ちゃんは慰めるようにポンポンと撫でてくれた。
やさしいね、愛ちゃん。あたし、抜け駆けしようとしたのに。
愛ちゃんに黙って、あさ美ちゃんのこと、かっさらっちゃおうとしたのに。
- 513 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:02
-
「やっぱ愛ちゃんは、オトナだ……」
「どうかな。あたしかって、わからんことあるし」
「たとえば?」
んー?
愛ちゃんは三角座りの膝に、頬をのせて夕陽を眺めた。
すこし尖った、まっすぐな瞳。夕陽を跳ね返して輝く賢そうな瞳。
今日はちょっと、悲しそうにみえた。
永遠に叶わぬ恋を憂えてるようにみえた。
「あさ美ちゃんと後藤さんは、何でつながってたんやろうね?」
何で、つながってた?
愛ちゃんの返事は、思いがけなくて。
じっと見つめたあたしに、彼女はすこし照れたように笑った。
あたしね、いつもうらやましいなって思ってたよ、あさ美ちゃんのこと。
あたしの知らんこと、知ってる。なんか、きれいな時間を知ってる。
ねぇ? あの子、あんなのんびり屋さんやのに、
後藤さんのことあんなに好きになって、信じれんくらい変わって。
ふたりを見てるの、好きやった。
目に見えん輪っかでつながってるみたいやって思った。
うまくいかんようになってからは可哀想で見てられんかったけど、
それでもあの子、ますますきれいになったやろ?
それが不思議やなあって、見てた。
いいなあ、きれいやなあ、あさ美ちゃんって、見てた。
- 514 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:02
-
そうだね、あたしもそう思う。
だけど思った言葉は口に出せなかった。
だって、泣いちゃいそうだよ。
愛ちゃんとあたしは、いっつも同じこと思ってあさ美ちゃんのそばにいたね。
「あたしね、なんかうらやましいなって思う、あさ美ちゃんのこと」
そんなに忘れたくない記憶って、どんなんやろ?
あんなに泣いたくせに、いっつも胸んとこ押さえてるくせに。
そんな恋っちゅうのは、なんか怖いね……怖いなって思うけど……
考えながらぽつぽつとしゃべる愛ちゃんの言葉に、カァッと涙腺が熱くなる。
あー、だめだよぉー、こういうしんみりしたのはぁ!
あたしはあわてて夕陽に目をやっておちゃらけた声をあげた。
「ははっ、アホだね、あたしー。ホントなんかいけそうな気ぃしててェー」
あさ美ちゃんが笑ってくれるから、勝手に期待してて。
愛ちゃんが言うみたいに、どっからどうみても後藤さんのこと忘れてなさそうだったのに、
「忘れたい」とか「もう吹っ切った」とか、自分に都合のいい言葉ばっか取り出して聞いてた。
そんで、自分が見たいことだけ見てた。すっごい甘えてくるとことか。
すっごい気を許してるみたいに人の膝でくぅくぅ眠っちゃうこととか。
あーもう! 勘違い勘違いカッコ悪ーーーい!!!!
- 515 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:04
-
「しゃーないよ、そういうもんやろ人って」
「あれ、勘違いするよねぇー? 勘違いしない?ねぇ?」
「しゃーないね、あさ美ちゃん鈍感やもん」
「鈍感すぎだよぉ! ちっくしょぉーーー!」
「しゃーないわ、寂しいんやろ」
ヘーエ、つまり愛ちゃんは、なんでも“仕方ない”なわけね。
チクッと言ったあたしの言葉に、愛ちゃんはムッと拗ねたように口を尖らせた。
「だって、しゃーないやろ?」
「フーン、さっすが大人ですねぇー」
「あっ、むかつくー」
愛ちゃんが手元の草をちぎって、パッとあたしに投げつけてきた。
あっ、こんにゃろー! あたしもさっそくブチッとちぎってやり返す。
えいえい!とさんざん投げつけあって、コートが冬の枯れかけた草だらけになった頃、
愛ちゃんが、ふっと手をとめて、切なげに首をかしげた。
「泣かんでよ」
あたしはエヘヘと笑って、ぐしゅっと鼻をすする。
自分でもわかってた、こらえきれずに涙が流れはじめたこと。
じわんと目の縁に涙がたまったかと思ったら、
あっという間にポトポト落っこちてきちゃった。
- 516 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:05
-
だって仕方ないなんてさぁー、愛ちゃん。
うん、仕方なかったんだけどさぁー、悲しいじゃんホント。
とっくに終わっちゃった恋に、記憶なんかにかなわないなんてうちら。
この真っ赤に染まる空、あさ美ちゃんと見ることさえ、もうないかもしれないし。
ねぇ、ずっとやまないんだ、心の中にざあざあ降ってる熱い雨。
どうしたらいい? 教えてよ、愛ちゃん。
「いろいろ覚悟して言ったんやろ?」
「………そうだけどォ」
「………したら、もう泣かんでよ」
ふいに愛ちゃんがフッと目を伏せて、あたしの耳元にスイッと唇を寄せた。
- 517 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:05
-
あたしが、いるやろ?
- 518 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:06
-
次の瞬間、ほっぺたにおっそろしいほど柔らかい熱を感じてギャッ!と飛び退いた。
なっ、ななななななーー?
ほっぺを抑えてアワアワしたあたし。
愛ちゃんは目を伏せたまま、あたしの涙がついた自分の唇をチロッと舐めた。
「しょっぱい」
「ななななーにやってんですか、愛ちゃんっ!」
「あ、ほら、止まった」
からかうように瞳を覗き込んでくる、その頬が真っ赤なのは夕陽のせい?
ずっと同じクラスの、一番近くにいた親友。
なのに、はにかんだように唇をきゅっと曲げたその顔は、
これまでに一度も見たことがない表情で。
「さ、もう行こ、まこっちゃん。ここじゃないとこ」
動かんと、風邪ひいてまうよ。ね?
愛ちゃんはひらりと立ち上がり、コートの草をパッパッと払うと、あたしの手をサッととった。
ぐいぐいと引っ張られるままに立ち上がったあたし。
だけど、全然、わけがわかんなくて。
なんなの? さっきの何? もう行こって、え、ちょっとどういうこと?
あっけにとられて、まじまじと愛ちゃんを見る。
なにを考えてるかわかんない合唱部の歌姫を。
- 519 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:06
-
手を引かれてもすぐに歩き出せないほど固まってるあたしを見て、
愛ちゃんは照れくさそうに、でも、からかうみたいに笑った。
「まこっちゃん、口ポカンってなってるし」
「えっ、あっ、ああ…」
「怒った?」
首をかしげる愛ちゃんは、いつもと全然違う顔をしてた。
なんだろ、すごく女の子みたいな顔をしてた。
だって、愛ちゃんがこんな、あたしの前ではにかんで俯くなんて……
「ごめん。だって、泣きやんでほしかったんやもん」
泣きやんで、ほしかった………?
「あたし……まこっちゃんの笑顔が、好きやから」
笑顔が、好き………?
それってあさ美ちゃんが言ってくれてたのと同じ言葉なんだけど。
だけど、だけど、そのニュアンスが……
ニュアンスがなんか……うええええええええええっ!!!!!
- 520 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:08
-
いきなりすっごいパニックが襲ってきて、愛ちゃんの手をブンと振りほどいた。
乱暴なあたしの仕草にたちまち彼女の顔がスウッと緊張して、はっきりと確信した。
鼓動が、宙返りするみたいにドクンとひっくり返る。
うそっ、愛ちゃんって、あさ美ちゃんが好きなんじゃないのっ?!
「……あ、愛ちゃん?」
息をのんで五歩は後ずさったあたしに、愛ちゃんの顔がくしゃんと歪み、
さっきまでいたずらっぽく光ってたその瞳が、たちまち零れ落ちそうに潤んだ。
まるで、計画があっという間に狂っちゃったっていうみたいに。
ごくんと息をのむ。
なにをどうする気だったの、愛ちゃん。
背中にたらりと冷や汗が流れた。
ど、どうしよう、あさ美ちゃんにフラれるのと同じくらいたいへんなことが目の前で起こってる。
仲良し3人組、あたしたちのトライアングル、一体どうなってるの?!
- 521 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:09
-
あたしたちの間に、冬の風が吹き抜ける。
彼女は覚悟を決めるみたいに、一瞬きゅっと唇を引き結んだ。
そして、まこっちゃん…と声を漏らして、あたしの目をじっと見つめた。
「……あ、あたしね、いつもうらやましいなって思ってた、あさ美ちゃんのこと」
その言葉は、彼女の秘密を開く鍵。
誰よりも近くにいた親友のクールな横顔を解析する暗号。
まっすぐな瞳からあまりにも唐突に伝わってきたメッセージに、呆然と立ちすくんだ。
アタシハ、アサミチャンガ、スキナンジャナイヨ……
嘘でしょ?
思わず額に手をあてる。
なんてこった、まるで気がついてなかった。
愛ちゃんが切なげにあさ美ちゃんを見つめていた、その瞳の本当の意味……
『相手にされんのは、自分のせいやわ』
『あさ美ちゃんのせいやないやろ?』
くだらない中傷から、誰よりもあさ美ちゃんを守ってきた愛ちゃん。
あたしよりもあさ美ちゃんに頼られてる愛ちゃん。
フェアで凛々しい大親友。そして、恋のライバル……じゃなかったの?
- 522 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:10
-
「……あ、たし、まこっちゃん泣いてるの、いやや、から」
もう、こんな寒いとこで、ひとりで泣かんといてよ……
勇気を振り絞るように愛ちゃんは駆け寄ってきて、もう一度パッとあたしの手をとった。
一瞬ビクッとしたけど、あたしはもうその手を振りほどけなかった。
……もう行こう、ここじゃないとこ……
だって、静かに耳に聞こえてくる愛ちゃんの声が、
まるであさ美ちゃんの声みたいに小さくて、掠れてて、震えてたから。
ピーコートからすらりと伸びた脚が、あたしの手をつかむ指先が、
穴の中にいる怖がりのうさぎみたいに、小刻みに震えてたから。
愛ちゃん、大切なシンユウ。
…………ねぇ、ほんとに? 全然そんなじゃなかったじゃん。だって全然、あたしたち。
なんでもわかってる愛ちゃんは、
ちゃんとあたしの考えてること、わかったみたいだった。
涙で潤んだ瞳が、あたしを見つめて、苦しげに揺れたから。
「あ、あたし、一番欲しいものは、いつも、手に入らんから」
まこっちゃんのことも、しゃーないって。
友達でいいって何回も。友達がいいって何回も。
何回も何回も何回も……ほやのに………
- 523 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:11
-
愛ちゃんの瞳からとうとうポロッと涙がこぼれ、
そしてあっという間に、その頬に何本も透明な川が流れた。
いつもあさ美ちゃんと見てた川の流れみたいに夕陽に赤くきらめきながら。
「………あたし、アホやな」
もう、あさ美ちゃんの代わりでもいい………
それは、川のせせらぎに消えちゃいそうな、小さな小さな呟き。
ああ、愛ちゃんのココロにもジョーカーがいる。
長い片恋の末に、いつの間にか胸に棲みついてしまうジョーカー。
彼女を内側からメチャクチャに切りつけて、血の涙を流させる。
あさ美ちゃんの前で、あたしの瞳もきっとこんなふうに赤かったね。
夕陽に染まる赤、それ以上に。
- 524 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:12
-
「………あかん、かな?」
ああ、わかる。
息が詰まるほどわかる、愛ちゃんの痛み。
だけど、ちょっと待って。困っちゃうよ、こんなの。
ジョーカーが連れてきたのは、やっぱり地球が終わっちゃいそうに長い長い沈黙。
あさ美ちゃんの代わりでもいいなんて、そんなの無理だよ。
だって、あたしはあさ美ちゃんだから好きなんだもん。
いいとか悪いとかじゃないんだ。
考えられないんだ、そんな愛ちゃんとなんて。
………そうか。
つまり、あさ美ちゃんも、そういうこと………
- 525 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:13
-
何にも答えないあたしに、愛ちゃんはますます小さくなってうつむいた。
いつもみたいにあたしをやり込めることもせずに、ただ唇を噛んで震えてる。
涙だけが沈黙の時間をカウントするみたいにポロポロとこぼれてて、
それは信じられないことだけど、彼女がほんとに本気だって、
ほんとにあたしが好きだって、言葉よりもずっと。
愛ちゃん、大好きな親友。
あたしのことバカだアホだって言いながら、いつも面倒みてくれて。
まっすぐな瞳で、ちょっと融通がきかないんだ、正義感が強くてさ。
そのくせ臆病で、ホントに何百年でも待ちそうなほど怖がりで我慢強くて。
馬鹿だなあ、それなのに、こんな時にぶっちぎっちゃってさ。
あかんかなって、ダメに決まってんじゃん。
あさ美ちゃんのこと、まだ泣いちゃうくらい好きだよあたし。
見てて、わかったでしょ? 考えたら、わかるでしょ?
わかってるはずなのに、どうして?
- 526 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:14
-
………ああ、そっか、それはきっと。
あたしは心の中だけで小さくため息をつくと、
愛ちゃんの指先をきゅっと握りしめて、ノロノロと土手をのぼりはじめた。
「ま、こっちゃん?」
「行こ。ここね、夕陽が沈んじゃうと真っ暗だから」
返事はできない。
だけど、捨て身で迎えに来てくれて、ありがとう。
膝を抱えて動けなくなったあたしに、手を伸ばしてくれてありがとう。
愛ちゃんも、好きな人のためにバカな選択をしたりするんだね。
「まこっちゃん…あたし、ずっと」
「あー、ダメッ!今日はダメッ!聞かない!」
怒ってるんじゃないよ。迷惑とかでもない。
そのことを伝えるために、つないだ手に力をこめた。
ありがとう、だけど、どうしていいかわかんないから。
- 527 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:15
-
うつむいちゃった細い指先をひいて歩きながら、あたしはあの歌を思い出してた。
あさ美ちゃんにせがまれて、桜の樹の下で彼女がよく唄っていた歌。
高音のところで切なげにフッと一瞬、瞼を閉じるあの表情を。
廊下では元気そうな
笑顔だね 目だってますよ
ああ さくら満開
ねえ さくら満開 好きすぎるわ
もう 言葉にならないくらい 恋の花が満開
さあ 打ち明けるとき
ああ 小さな胸が 張り裂けそう
だからねえ 告白したら抱きしめて やさしく……
まさか抱きしめたりなんてできないよ。
そんな無責任なこと、できない。
だけど、耳の奥に残る愛ちゃんの歌声が、
あさ美ちゃんのために歌ってると思ってた言葉が、
今はあたしのためみたいに聞こえてくるんだ。
ねぇ、あの文化祭の歌もなのかな?
あー、歌詞忘れちゃったよ。なんかすごい切ない歌だったような。
あさ美ちゃんが泣いちゃうくらい、苦しい恋の歌だったような。
- 528 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:16
-
愛ちゃんの自転車のカゴにガコンと荷物を放り込んだあたし。
彼女はビクッとして、そっとあたしの顔色をうかがってきた。
何よ? 軽く唇を尖らせながらあたしは、まるでいつもと逆みたいだって思う。
愛ちゃんがあたしの気持ちを計りかねてて、あたしは妙にクールを気取ってて。
「もー、泣くなよォ」
「だっ、て……」
「泣かれたって、困るよォ」
ますますぐちゃっとなった愛ちゃんは、ちっちゃなお猿さんみたいだった。
あーあ、学年一の美少女が台なしだ、こりゃ。
カッコつけてポッケからハンカチを取り出し、差し出しかけてハッとする。
わああ! あたしの涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったぁ!
アワワワとハンカチを丸めたあたし。
愛ちゃんは一瞬きょとんとして、それからプーッと吹き出した。
もう、まこっちゃんは……なんて。
「なんでしまってまうの? 貸してや」
「ダ、ダメッ。汚かったモン!」
「汚くないよ。貸して?」
「ダメッ!」
ちぇ、ホント決まんないな、あたしって。
プイと先に歩きかけたあたしの背を、可笑しそうな愛ちゃんの声が追いかけてきた。
- 529 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:17
-
「ねぇ、まこっちゃんって、ひまわりみたいやね」
振り返ると、サドルに手をかけた愛ちゃんが、
夕陽のなかでちょっと首をかしげて微笑んでいた。
まだぐちゃぐちゃの泣き笑いの、でもやさしい瞳で。
「あたし、まこっちゃんってホントにやさしい人やなあって思うよ」
まこっちゃんは、太陽みたいや。
みんなを元気にしてくれる。笑顔にしてくれるよ。
「……な、に言ってんのォー」
それ以外、なんて答えていいかわかんない。
なんとなくぶすっとしたあたしに、愛ちゃんはなぜかまた笑った。
さっき泣いたカラスがもう笑ったみたいな笑顔。
ちぇ、わっかんないな、ホント。
ぶっちぎったり泣いたり笑ったり、愛ちゃんはなんか忙しい女の子。
「ほんとやよー」
「なんだよォ、アホバカ言ってたじゃん!」
愛ちゃんは答える代わりにてててと自転車を引いて駆け寄ってくると、
エヘヘと笑って、「ホラ、後ろ乗ってや」って荷台を指さした。
「えっ、いいよ、重いよぉ」
「なんで? 1年の時はよく乗ってたがし」
「……だって、太っちゃったモン」
- 530 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:18
-
愛ちゃんはまた可笑しそうに笑って、細っこいカラダで「平気やよ」って胸を張った。
なんか照れくさくて、愛ちゃんに背をむけるようにわざと後ろ向きに座ったあたし。
やっぱ子供みたいやなって、愛ちゃんはクスクス笑う。
「うわ、ほんとに重くなってるし」
「ほらぁー……」
「うーん、これは、ちょっと痩せなーあかん」
文句を言いながらも、愛ちゃんの自転車はぐんぐんスピードを上げる。
びゅんびゅんと風を切って、オレンジに染まった土手を走る。
目の前に、あさ美ちゃんの瞳みたいに、とろりとこぼれ落ちそうな真っ赤な夕陽。
白い雲にほのかに金色を残して、その夕陽が消えてくのを見てた。
ねぇ、何百回、夕陽が沈んでも、
いつまでも後藤さんのものでいたいってすごいね、あさ美ちゃん。
後藤さんは一体、どんな魔法をあさ美ちゃんにかけたんだろう。
あたしは、あさ美ちゃんのものになりそこねちゃったな。
- 531 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:19
-
もうすぐクリスマスがくる。
乾いた冬の風は冷たくて、愛ちゃんの背中はすごくあったかい。
なんか、こうして二人で帰るの、懐かしい感じ。
そうだ、あたしたち、最初は仲良し二人組だったんだっけ。
「ねー愛ちゃん、なんでうちら、あさ美ちゃんと仲良くなったんだっけ?」
「んー? なんでやろ? 忘れてもたけど」
後藤さんに恋してるあさ美ちゃんが、好きやったんかな。
すごいきれいな遠い目をして、いつもほわあって微笑んでた。
おとなしい子やのに、うっすらとやさしく光ってて、きれいやった。
「あさ美ちゃんみたいになりたいなって…あの頃も、きっと思って」
ちょっと淋しそうにそう呟いた愛ちゃん。
あたしは、いつか聞いたあさ美ちゃんの言葉を思い出す。
私が愛ちゃんだったら、愛ちゃんみたいにきれいだったら、才能があったら、
なにも迷わないと、思う、けど……
ああ、世の中って、なんてうまくいかないんだろうね。
愛ちゃんはあさ美ちゃんが羨ましくて、あさ美ちゃんは愛ちゃんが羨ましくて。
あたしからみたら、どっちもすごい魅力的なのに。
なのに、ふたりとも自信がないなんて。
- 532 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:20
-
あーあ、まったく、ただ正反対なだけじゃんか。
ふたりとも、大人気のくせしてさぁー。
あたしは足をバタバタさせながら、後ろ頭をゴツンと愛ちゃんの背にぶつけた。
「愛ちゃんは、愛ちゃんっぽいのがいいよォー」
芯の強い瞳で、指先まで爪先までピンと力を漲らせて一生懸命走ってる。
つまづいて悩みながら、なんとか自分の道を切り拓こうとしてる。
そんな凛々しい愛ちゃんが、あたしは好きだから。
愛ちゃんはしばらく黙って自転車をこいでいた。
ありゃ、なんかまずいこと言ったかなって不安になってきた頃に、
ありがとって囁きと一緒に、くすくす笑いのやさしい声が背中から伝わってきた。
「ほやの。まこっちゃんも、まこっちゃんっぽいのがいいんやもんね」
うぇっ、あたしっぽいってなんだろな?
なんかかなりバカっぽい気がするけど、まあ、いいや。
あさ美ちゃんにはきっぱりフラれちゃったけど、
世の中にはあたしっぽいのが好きって言ってくれる変わり者もいるみたいだしね。
- 533 名前:初恋自転車 投稿日:2004/07/21(水) 00:23
-
変わり者の愛ちゃんの声は続く。
今度は、もう一人の親友の声で。
「あさ美ちゃんかって、まこっちゃんが好きやよ」
「……そうだね」
慰めの言葉には、まだ涙が滲んじゃうけれど。
だけど、あさ美ちゃん、明日は上手に笑ってみようと思う。
あなたが大好きと言ってくれた笑顔を、きっと取り戻すよ。
そしたら、また自然に、元の仲良しに戻れるよね?
愛ちゃんの背にもたれながらあたしは、どこかここじゃないとこに運ばれていく。
バイバイ、この夕陽の土手。もう、ひとりで座り込んだりしない。
ガタガタと揺れる自転車の荷台の上で目を閉じて、
あたしはそっと初恋にさよならした。
☆おしまい☆
- 534 名前:名無しあつ 投稿日:2004/07/21(水) 00:26
- リアルタイムで最終回を読んで感動です
まずはお疲れ様でした
最後はまさあんなふうになるなんて・・・・これは一本取られた感じがします
実はとっても複雑なトライアングルだったんですね・・・
感動させていただきました♪
- 535 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/21(水) 00:29
-
『癒しのメソッド〜初恋自転車〜』完結しました。
仲良し三人組、書いていて意外なほど楽しかったです。初めてのまこっちゃん視点も。
ご感想等、いただけるとうれしいです。お待ちしております(ネタバレにはご注意くださいませ)。
よろしければ、サイトにも遊びに来てくださいまし。
http://yukiguma.s45.xrea.com/index.htm
また、しばしお休みをいただきまして、
外伝を1本挟み、紺ちゃん視点の最終章をスタートします。
またおつき合いいただけると幸いです。
- 536 名前:名無しぽき 投稿日:2004/07/21(水) 00:30
- リアルで、じっくり読ませていただきました。
最終回、お疲れ様でした。そしてありがとうございました。
なんか、どこか切なくて、じわり涙を誘うというのは
ホント、雪ぐまさんの得意なカタチ。
うらやましい。ぽきもこういうの、書いてみたいです。
でもまだ、あのコが、あの人が、みんなが、
結局のところ、どうなるのか気になってみたり…w
外伝、そして最終章、楽しみにしております。
まずはゆっくりお休みくださいませ…
- 537 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/21(水) 00:50
- まこっちゃん編完結お疲れさまです。
雪ぐまさんの文章は情景がとても鮮明に浮かびます。
まこと、高橋、紺野の友情そして愛情が初々しくてもどかしかったです
ありがとうございました。
最終章も楽しみにしてます。
- 538 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/21(水) 00:58
- 初恋自転車完結お疲れ様でした。
色々感想を書くとネタバレしそうなので一言
とても癒された気持ちになりました。
有難うございます。
外伝、最終章でまた癒されたいと、楽しみにしています。
- 539 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/21(水) 01:23
- 初恋自転車完結お疲れ様です。
涙せずには読めませんでした。
雪ぐまさんの小説は映画を見ているかのように
景色や風の色、空気のあたたかさが伝わってきます。
タイトルをつけるのもすごくうまいなぁ・・・とため息がもれました。
外伝と最終章を楽しみにしています。
- 540 名前:読んだ人 投稿日:2004/07/21(水) 02:40
- 上手く言えないけど。この作品がスゲー好き。
自分にとってスペシャル。
癒しのメソットは娘。小説じゃなくても感動したと思う。
そんくらい綺麗にハマッタ。
ステキなものをありがとう。
つづきも楽しみです。
- 541 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/21(水) 06:36
- よかった・・。
ありがとう、雪ぐま先生の作品に会えてよかった。
- 542 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/21(水) 08:47
- やったー。まだ続きがあるんだー。
うぎー待てないー。待つけどー。
- 543 名前:ぽち。 投稿日:2004/07/21(水) 13:48
- 初恋ってせつない。さわやかなエンディングで、涙ぐんでしまいました。
この作品で三人がますます好きになり、応援したくなりました。
読者として雪ぐまさんの描くキャラクターをいとおしく感じるのは、
描かれ方に愛情がこもっているからだと思います。
また随所に伏線がきちんと書かれていて、読み直すと
「あ!このときの〜は〜だったんだ」と何度も楽しめます。
今後の最終章や外伝も楽しみにしてます。ありがとうございます。
- 544 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/21(水) 16:54
- お疲れ様でした。
ますますどうなっちゃうんだろう?というようなエンディングで…。
紺ちゃん視点が楽しみになってきました。
外伝も期待して待ってます。本当お疲れ様でした。
- 545 名前:リムザ 投稿日:2004/07/21(水) 23:27
- 久しぶりにボロ泣きしました。
いつも良い作品をありがとうございます。
- 546 名前:ほしお 投稿日:2004/07/21(水) 23:47
- 素敵なお話をありがとう!
お疲れ様でした!!
外伝、最終章と楽しみにしてます!
- 547 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/22(木) 11:36
- おもしろかった!
伏線が巧みで…読んでる途中も気になってたのに、結局は
最後までマコといっしょにホンローされまくってしまった。
この世界とまだ繋がっていられるなんて感激。
- 548 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/22(木) 18:19
- あいかわらずのクオリティの高さに脱帽。
CPに関係なく娘。小説を楽しめたのは初めてかもしれない。
泣きそーなほど切ない気持ちをありがとう!
ずっとアンタについていくぜぇ!(マジで
- 549 名前:時限爆弾 投稿日:2004/07/25(日) 04:59
-
遅ればせながら、初恋自転車、完結お疲れ様でした。
色彩は煌々と茜に広がる世界で、ただただ皆に見蕩れていました。
苦しくて仕方ない筈なのに、どこか爽快さを感じたり、どこまでも忠実な心を感じ取れたのは、やはり、雪ぐまさんの世界が暖かく響くから。いつも、貴方が込める優しさや愛を感じてます。
これからも、雪ぐまさんの世界を仰いでいたいです。
マイペースに執筆、頑張って下さい。
- 550 名前:ましろ 投稿日:2004/07/25(日) 20:49
- やっと落ち着いて「初恋自転車」最終章を読むことができました。
やっぱり雪ぐまさんの話は、すごいなぁ深いなぁと感心します。
最終章で、才能があるのになんだか不器用な(言葉違うかな?)
愛ちゃんが、すごく好きになりました。
いつか壁を越えろ!って応援したくなるような。
そう、おもいきり惹かれるんですよ、雪ぐまさんの書くキャラクターに。
愛情も感じます。素敵な作品をありがとう。
次回も楽しみにしています。
- 551 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/27(火) 23:17
-
皆さま、あたたかいレスをありがとうございました。
とっても励まされました。
534> 名無しあつ様
想う人には想われず、想わぬ人に想われて、な3人組だったのでしたw
勇気を出したまこっちゃんと愛ちゃん、ちょっとふっ切れたみたいです。
536> 名無しぽき様
川o・-・)<あの人、今ごろ何してるんでしょう……
ぽきさんもそんな気持ちでしょうか。最終章でもじわり涙誘えるかな…頑張ります。
537> 名無し読者様
ありがとうございます。ぎこちなくもどかしいあの初恋の景色、
すこしでも思い出していただけたなら幸いです。
538> 名無飼育さん様
あ、癒されましたか?w 本編はかなり癒されない展開でしたので、
ちょっとホッとしていただけたならよかったです。はい。
539> オレンヂ様
いつもとても綺麗な言葉でお褒めいただきありがとうございます。
今回のタイトルは雪ぐまも気に入ってます。レトロでいいかなあとw
540> 読んだ人様
なんかストレートな言葉にぐっときました。ありがとうございます。
これからもスペシャルと言っていただけるよう、精進します。
- 552 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/27(火) 23:18
-
541> 名無飼育さん様
雪ぐまも 541さんをはじめ、読者の皆さまにお会いできてよかったなあと
日々思っています。勇気を出してよかったです。
542> 名無飼育さん様
ありますよー。お待たせしました〜、今日は外伝の更新ですよ〜。
543> ぽち。様
ていねいにお読みいただいて感激です。雪ぐまは本当に読者様に恵まれています。
雪ぐまもこの3人が大好きになりました。娘。への愛をこめて書き続けます!
544> 名無し読者79様
ねぇ? どうなっちゃうんでしょう、紺ちゃんったら。
金色に光る王女様に心奪われてしまった彼女。幸運をお祈りください。
545> リムザ様
おお、リムザさん。そう言っていただけるとうれしいです。
愛トメのほうも、ちょびっと更新しましたのでぜひご覧になってみてください。
- 553 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/27(火) 23:19
- 546> ほしお様
こちらこそ、お付き合いいただいてありがとうございました。
今後の展開もお楽しみいただけるように頑張りますね。
547> 名無飼育さん様
マコは、ホンローされまくりでしたねぇw 愛ちゃんにまでw
一緒にお楽しみ戴けたようでホッとしました。これからも繋がっていてくださいね。
548> 名無飼育さん様
こちらこそ、ドキドキするほどうれしいご声援をありがとうございます。
ずっとついてこいYO!なんちってw マジで今後もよろしくです。
549> 時限爆弾様
美しい言葉をありがとうございます。どこか爽快なのはきっと、
3人が精一杯だったからかな。またこんな恋を描いてみたいと思っています。
550> ましろ様
うちの娘。たちが魅力的だとしたら、それはリアルの娘。さんたちが
とても魅力的だからです。欠点もあるけど一生懸命という美しさ、雪ぐまはいつも感動してるんです。
それでは、本日の更新に参ります。
- 554 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/27(火) 23:19
-
紺ちゃん視点に入る前に、外伝をひとつ。
え? CPは何かって? それはたぶん皆様のご想像どおりw
長めですけれど、一気にいきます。
- 555 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:21
-
癒しのメソッド・外伝
『あたしのカノジョは世界一!』
- 556 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:22
-
ふわぁー、口から心臓が出ちゃいそうだよぉー。
むちゃくちゃドキドキするよぉー。
「……あ…」
薄く開いた愛ちゃんの唇からなにやら切なげな声が漏れるたびに、
あたしの心臓はドックンドックンと悲鳴をあげる。
だけど、それはあたしだけじゃないんだから。
愛ちゃんだって、こんなに、そうだよ、ぎゅっとシーツをつかんでる指先とか、
恥ずかしげに横を向いたままの苦しげな顔とか、ガチンとかたまった肩。
それはそのまま彼女の怯えと緊張を、はっきりとあたしに伝えてくれていて。
「…く…ぅ……あっ……」
時々、ぴくんと跳ね上がるのは、そこが気持ちいいからだよね?
でも、そこばっかさわってると、愛ちゃんは苦しげな声をあげて逃げてしまう。
それでも、ぐっと唇を噛んで、またあたしの前にその身をさらす。
全部あげる、どうぞ好きにしてというように。
それはすっごくうれしくて、かわいくって、愛しくって。
だけど、なんてったって超若葉マークのあたしは、
地図もなく見知らぬ土地に放り出されたような気にもなってしまい。
- 557 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:23
-
はい、正直に言います。
オガワッショイ、どうしたらいいか、よくわかりませんっ!!!
- 558 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:23
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………………………………………………………………
- 559 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:24
-
それは、卒業式を控えた春休みのある日のこと。
愛ちゃんは見事、あの第一志望の音大に合格して。
あさ美ちゃんも日本で一番むずかしい大学に合格して。
あたしは、えーとぉ、第一志望に見事すべりまして、浪人決定。
うん、あのね、いちおう第三志望くらいはひっかかったんだけどぉ。
『ほんとに行きたいとこ行くほうがいいやろ?』
そんな愛ちゃんの言葉に、コクンとうなずいたあたし。
頑張ったら、来年は通るがし。まこっちゃんは、実力あるんやから。
そんなふうに愛ちゃんに励まされると、
そうだよね、1年くらいナンダッ、そんな気がしてきて。
- 560 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:25
-
『とりあえず、卒業旅行、しよ』
愛ちゃんはそう言って、たくさんパンフレットを持ってきた。
よく見ると、それは二種類にわけてあった。
片っぽは、3泊4日の北海道ツアー。
もう片っぽは、なぜかディズニーランドのオフィシャルホテルの宿泊プランで。
ほあ? えらく方向性が違うね。そう首をかしげたあたしに、
愛ちゃんはポッと頬を染めてプイと横を向き、ボソッと言った。
『北海道は、あさ美ちゃんとうちらの3人で行こ』
『ああ、うん』
『ディズニーは……、ふたりで行こ』
ぐわあああ!
あたしもたちまち真っ赤になった。
うちらが住んでるとこからディズニーなんて、日帰りで十分行ける。
それを、わざわざ泊まるってことはぁ!
しかも、こんな高級ホテルに泊まるってことはぁぁ!
- 561 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:26
-
『……あかん?』
『いえっ、そ、そんなことはありませんがっ!』
うおおおーー。
愛ちゃんって、あいかわらずぶっちぎりー。
いまいち行動が読めないカノジョに、あたしはいつもドッキドキ。
ええ、ハイ。
小川麻琴、高橋愛にすっかり口説き落とされてしまいました……
- 562 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:26
-
だって愛ちゃん、あのコクハクの日以来、すごいんだもん!
もー開き直ったわとか言っちゃって、
休み時間ごとにあたしの膝の上に乗っかってきて囁くんだもん!
『まこっちゃんが好き』
『まこっちゃん、好きや』
『ねぇ、あたしまこっちゃんが好きやよ』
誰が見てたっておかまいなしの、歌姫の甘い声。
絡められる腕。肩先にこすりつけられる頬。
それはなんか、ぎゅううって閉じこめてた想いが
一気にパァンって弾けちゃったみたいに熱烈で。
えーっ?愛ちゃんマジで?なんて、学校中のみんながギョッとした。
あたしだって、びっくりだよっ!
アホとかバカとかキモとか、さんざん言ってたくせに急にそんなっ。
- 563 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:27
-
隠しごとをやめてしまった愛ちゃんは、
もう世界にあたししかいないみたいな瞳で、じっと見る。
その瞳、小さな宝石みたいに鋭く強く光る。
吸い込まれそうな、からめとられそうな輝き。
品のいい口元からはきれいに揃った白い歯がこぼれ、
ドカンととんでもない言葉を紡ぎ出す。
『あたし、まこっちゃんが、欲しいんや』
うぎゃあ!!
あたしは恥ずかしくって、ドギマギして、
抱きつかれるままに、ただ赤くなって俯くばかり。
こここ困るっ。困るそんな、困るよぉ……
だけどそれは、嫌とかじゃなくて。
うん、全然、やめてとかは思わなくって。
わぁ、すっごいいい匂いするよとか、ちっちゃいなー、軽いなーとか。
それに、愛ちゃんファンの子に超ウラヤマシーとか言われると、
そっかなー、そうだよねーなんて、
ちょこっと誇らしい気持ちにもなってみたりして。
- 564 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:28
-
あさ美ちゃんはそんなあたしたちに最初ずいぶん遠慮してたけど、
愛ちゃんが「なんやの。おいでや」なんて手招きするから、そうっと近寄ってきて。
それで、あのタレ目をくりくりさせて、不思議そうにじいっと見てた。
別人みたいに女の子っぽいカンジになってあたしにくっついてる愛ちゃんと、
赤くなってナンカぶすーっと黙ーってるあたしのことを。
あさ美ちゃんに見つめられると、あたしの胸はやっぱちょっとチクチクした。
でも、なんでだろ、ちゃんと笑うこともできたんだ。
たははっ、参っちゃうよって感じだったけど。
- 565 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:29
-
そして、愛ちゃんの音大受験の前の日、
あたしはとうとう音楽準備室に引っ張りこまれた。
『まこっちゃん、一生のお願い、聞いて』
愛ちゃんのすんなりした人さし指が、あたしの唇をぴたりとおさえた。
わぁっ!と、思わず後ずさったあたし。
床に置かれてたアコーディオンをガタッと蹴って、痛ぇ!と思った瞬間、
がっちり両腕をつかまれて、動けなくなった。
『……あかん?』
あと1センチで絶対くっついちゃう。
唇に息がかかるほど至近距離で確かめられた言葉。
あたしはもうカーーッて頭に血がのぼって、
反射的にギュッて目をつぶっちゃったんだ。
わあああああっ!って感じで。
愛ちゃんの唇は、おそるおそるあたしにふれてピクンと離れ、
それからもう一度、ゆっくりと押しつけられた。
信じらんないほどやわらかい熱に、あたしはもう卒倒寸前。頭ん中、真っ白。
わあわあわあキスしてるキスしてるよぉぉぉーーーって。
ちょっとぉ、あさ美ちゃんっ、人さし指と全然違うじゃあん!!って。
- 566 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:30
-
呼吸困難でカナリ気が遠くなってきた頃、
ゆっくりと唇を離して愛ちゃんは、
照れくさそうな上目遣いで、あたしの目をのぞき込んだ。
『……人さし指と違うって、思ってたやろ?』
『な、なんでわかるの?』
『あたしも、そう思ったから』
愛ちゃんは長い睫毛をフッと伏せると、
もう一度首をかしげて、今度はすごい勢いであたしの唇に唇を重ねた。
まるで、あたしの初恋の傷を唇でギュッてふさいじゃうみたいに。
舌先で、滲んでる血を舐めとっちゃおうとするみたいに。
わあっ!って。
やたら強引な愛ちゃんに、あたしはわあっ!って暴れそうになったけど。
でも、次に唇が離れた時、彼女の頬には音もなく静かに涙が伝ってたんだ。
『……こうしてたら、いつか特別になれる?』
あたしの肩に、そっと額をのせた愛ちゃん。
両腕をつかんでる指先にぎゅっと力がこもって。
こらえ切れないように苦しげなため息が薄く開いた唇から漏れて。
- 567 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:30
-
それは、なんかどうしようって思うほど切なげで。
あたしのこと、このままもうどうしても離したくないって感じで。
なんかもう、お願いまこっちゃんあたしを好きになってって感じで。
ドクドクと暴れ回る鼓動に突き動かされて、あたしはううっ…と呻いた。
『もぉ、特別だよォ……』
愛ちゃんがハッと顔をあげた。
その潤んだ瞳にくらくらした。
ああ、もう特別だよ、愛ちゃん、こんなに。
見つめられるとドキドキするんだ、息が止まりそう。
『……ほんとに?』
コクコク頷いたあたしを、愛ちゃんはぎゅうううっって抱きしめて。
肋骨が折れちゃいそうなほど強く、もう離さんざって感じに抱きしめて。
うれしい……まこっちゃん、ありがとう……ありがとう……
ああどうしよう、もう、全部うまくいく気がするわ。
まこっちゃんがいてくれたら、全部うまくいく気がする。
試験かって、受かる気がする……うん、絶対受かる、受かるわ……
- 568 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:31
-
あ、あたしはダメだ。ドキドキしすぎて死ぬ。
抱きしめられた腕のその切ないほどの強さに、
さっきよりももっと激しくぶつかってきたすっごい熱い唇に、
心の針が信じらんないほどブルブル揺れてて。
ヒザんとこもガクガク震えちゃってて。
うわぁ、これは明後日の試験、だめかもしんない(泣。
そんなヤな予感は当たっちゃったんだけど、
なんかあの日からあたし、完全ノックアウトっていうか、うん。
愛ちゃんがもう、まるっきりトモダチには見えなくなっちゃったってゆーか、うん。
- 569 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:32
-
『じゃ、この日で決まり。もう申し込むから、ちゃんと空けとかなあかんよ』
『う、うん。わかーた……』
『ん。じゃね、またメールするわ』
愛ちゃんは、照れくさそうにくしゃっと笑うと、
あたしの肩に手をかけ、ちょっと背伸びをして、すばやくキスした。
わおっ、大胆! 道行く人が見てますがなーー!
地下鉄の駅に吸い込まれてく背中は細っこくて、まるで妖精みたい。
軽やかなその足取りにあたしもうれしくなって、わははっと空を見上げる。
んー、片思いじゃない恋って、いいな。超ハッピー。
こんな気持ちをくれた愛ちゃんに、感謝してる。
あたしを好きになってくれた愛ちゃん、いつも励ましてくれる愛ちゃん、
ぐいぐい手を引いて、幸せな場所に連れてきてくれた愛ちゃん。
だけど、ちょっとあたし、受け身に慣れすぎてたかもしれない。
こういうことも愛ちゃんがリードしてくれるって、思ってたんだけど。
- 570 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:32
-
ドキドキしながら手をつないでディズニーの花火を見て、
ホテルに帰ってきてシャワーを浴びて、さてってことになって。
ぎりぎりまで絞られた照明のなかでそっと唇を合わせられて、
もじもじとしたあたしの耳元に、バスローブ姿の歌姫は甘く囁いた。
「まこっちゃんが、先」
ぅえええっ? 先って?
あたしが先に、愛ちゃんにナンかするってことぉー?!
「ななななーんでですかァーー!」
「見た目的に」
見た目ってアナタ………
うぐっ!と詰まったあたしの目の前で、
愛ちゃんはきゅっと唇を結ぶと、するりとバスローブを脱ぎ捨てた。
さらけ出されたすんなりとしたカラダに、ぎゃあっ!とのけぞったあたし。
バレエの立ち姿みたいに、一瞬すうっと背筋を伸ばした愛ちゃん。
その、凛と研ぎ澄まされた美しさに。
- 571 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:33
-
ちょ、ちょっと待って!
せ、せ、銭湯とか更衣室とかで見てたのと全然違うっ!
しょ、照明のせい?! なんかすんごいHな感じするんですけどっ!
こっ、こっ、こんなキレイなの反則なんですけどーーーー!!!
わわわと目をそらしたら、待て!って感じで、こめかみをわしっと掴まれた。
「あ、愛ちゃん、あのっ………」
「まこっちゃん………」
もんのすごい至近距離でのぞき込んでくる小さな宝石のような瞳。
恥ずかしげな、でも切なげなニュアンスで見つめられて、
腰のあたりがたちまちゾクッときた。
うわぁー、どうしよ。
でも、こ、こーなったら、うん、よしっ………
- 572 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:34
-
「………あ…ああっ……は、ぁっ……」
聞いたことのない愛ちゃんの声が、耳から脳をガンガン直撃する。
脳内のシナプスはもうあっちゃこっちゃ乱れ飛んでて、
自分でももう何をしてるのやら、いやはや、もう。
うむむ、とくにおへそから下は危険地帯ですぞ。
あー、どうしよ? 自分のだってロクにさわったことないのにさぁー。
頭をぐらぐら煮えたぎらせながら、
いつまでもおっぱい付近をうろちょろしてるあたしに、
愛ちゃんはうっすらと目を開けて、ちょっと焦れたように囁いた。
「ね、まこっちゃん……」
うわあ、ハイハイ!
ええ、ええ、わかってますとも。
うん、その、今後やることは、おおまかには、わかってるんだけどさあ……
- 573 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:35
-
おそるおそる、そうっと手を伸ばしたあたし。
そこにふれた瞬間に愛ちゃんはビクッ! あたしも内心ビクッ!
愛ちゃんはもう恥ずかしくてどうしよ?みたいに両手で顔をおおっちゃったけど、
でも、気丈にもちょっとだけ膝を開いてくれた。
「い、いいよ」
「あ、ありがと」
「う、うん」
変な会話。
肝心なところにきて、ぎこちなさ最高潮のあたしたち。
や、やっぱ友達期間が長すぎたってゆーの?
まさかまさか、愛ちゃんのこんなとこ、さわっちゃう日がくるなんて。
わぁ、ぬ、濡れてるよ……あったかい……
とんがってるとこをチョコチョコさわると、
愛ちゃんの声のトーンがびっくりするほどはね上がる。
ああああ、もう恥ずかしいよぉぉぉ……どおしよぉぉぉ……
- 574 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:36
-
ほとんど半泣きになりながら、でも頑張って、あたしなりに頑張って、
おっそろしくやわらかい、なんていうの、あのへんを指先でそっと探って、
それから、こう、どうやらこのへんというところを見つけてみる。
ちょっと押すと、かたく目を閉じたままの愛ちゃんが、ぴくっと眉をしかめた。
「……んっ」
ウハァ、どうしよ……?
いやいやここはですね、ここはひとつ、えっと、えい、ぐいっと!
行けっマコト!
「……あ、い、痛っ」
うわーーおーーーー!!!
即座にピュッと手をひっ込めちゃったあたし。
愛ちゃんはエエッ?というように、かたく閉じていた瞼をパチッと開けた。
「ちょっと、まこっちゃん」
「だ、だって、だって、だってーぇ……」
「だいじょぶやって、ほら」
ほらって!
かーなり色気のないことになってきたベッドの上。
ああ、もう、痛がることとかしたくないよぉーーー。
- 575 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:37
-
「しょうがないがし」
「ううう、だって、だって、だってーぇ……」
「平気やよ、あたし、ダイジョブ」
「でも、でも、でも、でもーーぉ……」
「……まこっちゃん、嫌? あんまりしたくない?」
清潔な白いシーツに横たわった、一糸まとわぬ愛ちゃんをおずおずと見下ろす。
ずっとバレエを続けてるカラダはほっそりとしなやかで、
絞り込まれたライトに浮かび上がるラインは、うっすら琥珀色に染まってる。
あ、なんかの楽器みたい。そうだ、バイオリン。
「……したくないって、ことはないけどォ」
きれいだから、それはやっぱりさわってみたくて。
撫でたりとか、キスしたり、とか。いっぱい。
うん、いちゃいちゃはしたいんだけどー。
だけど、痛ませたいわけじゃない。
だって困る、万が一、血とか血とか血とか。
「ダイジョブやよ、あたし……」
「う、うん……」
でもぉ……。
ハァ、だって愛ちゃん、すっごくきれいだけど、
なんかちっちゃいんだもん。細っこいんだもん。
妖精みたいで、まだ青い果物みたいで、なんかドキドキしちゃうんだ。
うぅ、まだちょっと、もうちょっと、
その、このまま大事にとっときたいっつーのは……だめっすかねぇ?
- 576 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:38
-
もじもじとうつむいてしまったあたし。
シーンとなった室内に愛ちゃんも恥ずかしくなったのか、
端っこに寄ってた掛けシーツをぐいと引っ張って、
くるんと巻きつけるようにそのカラダを隠してしまった。
そのまま、ころんと横を向いて、むっつりと黙りこむ。
あたしの背中にたらーりと冷や汗が流れた。
うわ、お、怒っちゃいましたかねぇ?
「あのー……」
「も、いい。今日はやめよ」
すんまへん。
あたしはなんかちょっと情けない気持ちで、
愛ちゃんの背中側のシーツを引っ張り、おずおずとすべりこんだ。
あーあ、ごめんね、愛ちゃん。あたしにはまだちょっと。
うん、まだちょっとこういうのは刺激が強すぎたかも、ね……。
でも、こうしてるのは好きだな。うれしいな。
愛ちゃんのうなじに鼻先をうずめて、犬みたいにくんくんと嗅いでみる。
いーい匂い! なんとなく桜みたいな香り。
後ろからくるむみたいに素肌をきゅっと抱きしめると、
それはやっぱりビリビリと痺れるくらい気持ちよくって。
- 577 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:39
-
「ふわー、気持ちいいー」
「………………」
「気持ちいいねぇ、愛ちゃん」
「………………」
ありゃ?
反応のなさに心配になって、半分起き上がって顔をのぞき込む。
そして、あたしはギョギョッ!と目を見開いた。
「ふわっ!」
わーー! な、なんで愛ちゃん、泣いてるのぉー?!?!
黄色いライトに光るのは、音もなく流れてた愛ちゃんの涙。
ジッと目を開いたまま、虚空を睨んでるその瞳。
あ、もう一筋……
「どっ、どっ、どっ………」
「……なんでもない」
なんでもないってことないでしょーよアータ!
とたんに、あたしまで泣いちゃいそうな気持ちになる。
ああ、もう、ごめんなさい。私が悪かった、意気地なしだった。
わかった、決めた、続きしましょ、続き、続き、ねっ、ねっ?
- 578 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:39
-
「嫌や。もうやらん」
「あ、愛ちゃん……」
「もう、まこっちゃんとなんてせんわ」
ぐわっ!
ちょっとアナタ、他に誰とする気ですかーーァ!
「あああ愛ちゃん、ちょっと落ち着いてっ!」
「まこっちゃんこそ、落ち着いてや」
冷たくそんなこと言いながらも、愛ちゃんの涙は次から次へと流れ。
ねぇ、それは、なんの涙なんだろう。
ちゃんとできなかった悔しい涙?
それとも、情けないあたしに怒って?
「愛ちゃん……」
「さわらんといて」
冷たい声に、肩にのせた手をビクッと引く。
やり場のなくなったその手を、どうしたらいいのか。
こんな時、どうしたらいいのか、すいません、習ってないんですけど。
- 579 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:40
-
「愛ちゃ〜ん……」
「……そんなん、誰も教えてくれんわ、アホ」
こらえきれなくなったように、
とうとう両手で顔を覆って身を震わせはじめた彼女。
あたしはボーゼンと、ただボーゼンと、
そしてなぜか、あさ美ちゃん、どうしよう?って思った。
あさ美ちゃん、どうしよう?
あたし、愛ちゃんのこと、泣かせちゃった。
こんな時、どうしたらいいの? あさ美ちゃんはどうしてたの?
なんで泣いてるのか、わからない。
大好きなカノジョのこと、まるでわからないんだ。助けて!
- 580 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:41
-
何を考えてるかわかんない愛ちゃんは、やおらガバッと立ち上がると、
ガラッとクローゼットを開けて、もんのすごい勢いで服を身につけ始めた。
「あたし、帰るっ」
「うえええええっ?!?!」
ちょ、ちょっと!
あたしは慌ててバスローブを着込み、愛ちゃんの前に立ちはだかった。
鞄をひっつかんで、マジで部屋を飛び出しかけた愛ちゃんの前に。
「ちょっと、なんで?!」
「もう、いやや! まこっちゃんは、やっぱあたしのことなんか!」
薄闇の中でも強く光る愛ちゃんの瞳からは、
まったく枯れる気配もなく、次から次へと涙が溢れ出した。
怒りと悲しみに縁取られたまっすぐな瞳が、ギッとあたしを睨む。
- 581 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:41
-
まこっちゃんは、あたしのことなんか、ほんとは好きやない。
ほんとは欲しくない。ただ、甘えてるだけや、ただ……
「ただ、恋がしてみたいだけや……」
「そ、そんなこと……」
「ま、まこっちゃんは、いつも……」
まこっちゃんはいつも、あさ美ちゃんの唇を見てた。
首筋とか、胸とか、肩甲骨のとことか、チラチラ見てた。
触ってみたいって、きっと一回でいいから触ってみたいって、すごく思ってた。
けど、まこっちゃんは、あたしのことは……
「あたしのことは、いつまで経っても、そんな目で見てくれん……」
その瞬間に、あたしは気づいた。
愛ちゃんが、どうしてあたしが先だと言ったか。
彼女は試したんだ、あたしの気持ちを。
ほんとうに自分のすべてを、あたしが欲しがるかどうかを!
- 582 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:42
-
「……やっぱ、あさ美ちゃんの代わりなんていやや」
ハッ?!
一瞬、言葉を失ったあたしを突き飛ばして、愛ちゃんは部屋を飛び出した。
尻餅をついて、あたしはボーゼンとバタンと閉まるドアを見ていた。
恋がしてみたいだけ?
愛ちゃんのことを、そんな目で見ていない?
……よくわからない、だけど。
華奢で小っちゃな愛ちゃん。妖精みたいな愛ちゃん。
バイオリンみたいだった琥珀色のシルエット。
「……違うよ、愛ちゃん」
あたし、ドキドキした。触ってみたかったよ。キスしたかった。
怯えたのはどうしていいかわからなかったからで、
女のあたしから見ても折れちゃうそうなそのカラダを痛ませたくなくて、
そう、大事だから、なにも急がなくても、もっとゆっくりと。
ねぇ、トロッコで、トコトコ走る恋だっていいじゃない?
そう思った……だけなんだけど。
- 583 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:43
-
『……やっぱ、あさ美ちゃんの代わりなんていやや』
「うわあ、愛ちゃんっ!」
あたしは慌てて立ち上がると、
バスローブの上にコートをガバと羽織って、裸足のまま廊下に駆け出した。
何言っちゃってんの、あさ美ちゃんの代わりなんかじゃないですって!
あたし、もう全然、愛ちゃんのことが好きですって!
何なの? そのこと、まるで伝わってなかったわけ?
シャンデリアがぶら下がるロビーに駆け出た時の、
ホテルマンの皆さんのギョッとした顔。
かまってられない、緊急事態。
ここで決めなきゃ、いつ決める?
やるときゃやりますオガワッショイ!
待ってて、愛ちゃん、追いついてみせる。
伝えてみせる、あたしのキモチ。今のホントのあたしのキモチ。
- 584 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:44
-
ああ、なのにいないよ。
愛ちゃん、いないよォ! どこ?!
だだだだっとエントランスに駆け出してみると、
愛ちゃんを乗せたタクシーが、まさに夜の中へと走り出していくとこだった。
たちまちスウッと小さくなるその車体。
わああああっ、愛ちゃんっ!
あたしはドアボーイのお兄さんを突き飛ばさんばかりの勢いで、
次に来たタクシーに、もう頭から転がり込んだ。
「うっ運転手さん、あのタクシー追いかけてっ!」
「おおっ、お客さん、探偵さんだべか?」
「違っ……」
「なーんだ、つまんないべ」
「ああ、もう! そうですそうです探偵ですっ!」
「いいねー。じゃ、行くべ」
妙な北海道なまりでニコニコ笑う運転手さんの耳元に、
ツバが飛びそうなほど叫びまくる。
絶対追いついて、絶対追いついて、絶対追いついてーーーー!!!!
- 585 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:44
-
「OK。なっちに任しとき」
かわいい顔に似合わず彼女は、思いっきしガツンとアクセルを踏んだ。
どっかーんと走り出した深夜のタクシー。
ねぇ、愛ちゃん、あたしはまた、全然わかっていなかった。
あさ美ちゃんにフラれたあたしの手を引っぱってた愛ちゃんが、
大胆なふるまいと笑顔の裏でどのくらい不安で、
どのくらいあたしのホントのキモチを気にかけてたかを。
そうだ、ディズニーランドでだって、あたしデリカシーなかったかも。
『プーさんって、あさ美ちゃんに似てるねぇ!』
『……まこっちゃんのほうが、似てるわ。ハラとか』
『このチュロス、おいしいねぇ! あさ美ちゃん好きそう』
『……あー、なんか温泉卵食べたい』
シートに額を押しつけて、はああっとため息をつく。
ねぇ? あたしはもうあさ美ちゃんより愛ちゃんが好きだから、
だから平気であさ美ちゃんの名前を口にして。
でも、愛ちゃんにはそんなことわかんなかったかもしれない。
ぶっきらぼうな言葉の裏で、小さな胸をチクチクと痛ませてたかもしれない。
- 586 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:45
-
「愛ちゃん……」
びっくりするほど歌がうまくて、ぶっちぎりの女の子。
いっつも大人ぶってて、なんか素直じゃない女の子。
自分のカラダを賭けて震えながらベッドに横たわってた愛ちゃんを、
今、あたしは、すっごく欲しいと思った。
強くつかんで、この腕に、ぎゅうって抱きしめたいと思った。
ねぇ、その唇に、その柳のような腰に、その内側に触れてさせて。
だって、絶対に、逃がしたくないから。
ほかの誰にも渡したくないから。
ほんとのあなたを知られたくないから。
愛ちゃん、あたしはもう……
- 587 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:47
-
「ほら、追いついたっしょー!行けー!」
「あいよっ!」
ガーッと全開にした窓から上半身をエイッと乗り出し、
並走する愛ちゃんのタクシーにぶんぶんと手を振った。
両手で顔をおおってしくしくと泣いてた愛ちゃんが、
びっくりした顔の運転手さんに話しかけられて、エッ?と顔をあげる。
そして、かなりキケンなあたしの体勢に、心底ぎょっとした顔をした。
「ぅ愛ちゃんっ!!!」
腹式呼吸でお腹の底から、あなたの名前を呼ぶ。
聞こえてんのか聞こえてないのかわかんないけど、とにかく呼ぶ。
世界一大好きな、あたしの恋人の名前を。
「愛ちゃーーん、あたしは愛ちゃんが世界一好きだよおーーっ!」
あさ美ちゃんより愛ちゃんが好きだよおっ!
好きになったんだよぉっ! 信じてよおっ!
- 588 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:47
-
叫びながらあたしは、ほんとにそうだと思う。心からそうだと思う。
目頭がカッと熱くなって、びゅんびゅん走る風に涙がポロポロと舞う。
わかってほしい、愛ちゃん。
どうしてもわかってほしい。絶対に。
あたしは優柔不断で、まるでデリカシーなくって、
そのうえヘタレで、ビビリで、アフォだけれども!
だけど、ほんとにあなたを大切にしたいと思ってる。
愛しはじめてるって、思うんだ。
だってあたし、愛ちゃんじゃなきゃあ、あんなことOKしないモン!
こんなふうに必死で追いかけたりしないモン!
- 589 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:48
-
イイネー、青春だねぇー。
かわいい運転手さんの妙にうれしそうな声を背中に聞きながら、
あたしはもうやみくもに、愛の告白を夜のハイウエイに撒き散らした。
時々、アワワと車から落っこちそうになりながら、必死でわめき散らした。
愛ちゃんはそんなあたしのことをボーゼンと見つめて、
それから八の字眉毛に顔をくしゃっとさせて、両手で口元を覆った。
そして、いつも生意気そうなその瞳が、ゆらゆらと水面みたいに揺れて、
真珠みたいな大きな滴がポロポロと零れ落ちた。
◇ ◇ ◇
- 590 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:49
-
ジェットコースターでぐるんぐるん回るような時を過ごした後、
愛ちゃんとあたしは、汗まみれのシーツに横たわったまま、
お互いの瞳の中を、じっとのぞき込んだ。
「感想は?」
「ドキドキした」
「好き?」
「好き」
好き。愛ちゃんのことも、こうすることも。
うん、なんかあんま上手にできなかったけど。
いってー!とか、ちょっと待ったぁ!とか、大騒ぎだったけど。
あたしだけじゃないよ、愛ちゃんもガー!イタイイタイイタイ!とか大暴れしたし。
「あれって、気持ちよくなるのかなぁー?」
「そのうち」
「そうなの?」
「って、本に書いてあった」
本ーー?!
何読んでるの、愛ちゃん!
目を丸くしたあたしに、愛ちゃんはフフンと笑う。
誰も教えてくれんもん、自分でベンキョーせなの、なんつって。
- 591 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:50
-
妙に生真面目な愛ちゃん。
なんかスッとぼけてる愛ちゃん。
あたしは世界一キレイだと思う。
鼻んとこクシャッてする笑顔も、くるって丸くなる瞳も、
腕の中にすっぽりおさまっちゃう華奢なカラダも。
「ちっちゃいねぇー、愛ちゃん」
「まこっちゃんが大きいんやわ」
「うぐっ……」
んー、ダイエットしてるんだけどねぇ。ダイエットコーク飲んで。
「ダイエットコークは痩せ薬やないよ?」
「わ、わっかってるよォ、そんなこと!」
「ほんとかなぁー」
まこっちゃん、わかってるんかなぁー?
愛ちゃんは、そう言ってまたあたしを子供あつかいして。
ちぇーっ。あたしはふくれる。わかってるモン。
ちゃんと正しい方法でダイエットしますよぉーだ。
- 592 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:50
-
「べつに、ダイエットなんかせんでええがし」
「ぐわ! こないだ、もうちょっと痩せなーあかんってゆってたジャン!」
「そんなこと言ったかし? 言ってないよ」
言ったよぉ、言った言った!!
じたばた騒ぐあたしにおかまいなしで、愛ちゃんはあたしにぺたんてひっついて、
でっかいぬいぐるみに抱きつくみたいにギュッてひっついて、
超うれしそうに、幸せそうに、ガァー!って叫んだ。
「あーもー、世界一かわいいわ、まこっちゃん。くまちゃんみたいや!」
く、くまちゃん?!
うわ、なんかビミョー……でも、愛ちゃんが好きって言ってくれるならいっか!
んっ、ダイエットなんて、やめやめ!
- 593 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:51
-
愛ちゃんは、あたしの腕の中でおっかしそうに笑って、
それから、首筋にチュッてキスをした。
うひゃっ!身をすくめたあたしに、どうにも素直じゃない歌姫はいじわるに囁く。
「アホやなあ、あんなカッコで追っかけてきて」
「だってそりゃ、追っかけますよぉ!」
てか、愛ちゃんさあ、本気で帰る気だったでしょお!
勘弁してよ、タクシーなんて乗っちゃってさぁ。
あたしはふくれる。
あれから大変だったんだよォ。
あたし財布持ってなくって、結局愛ちゃんに立て替えてもらって。
運転手さんにはオモイッキシ指さされてヒャヒャヒャーなんて笑われるしさァー。
あーもう、超カッコ悪かったあぁ!
バスローブにコート姿でウガウガしたまぬけなあたしを思い出したらしく、
腕の中で、愛ちゃんはまたクックッと笑った。
「だって、もーあかんって思ったんやもん」
「なにがぁー?」
「……ううん」
彼女はあたしの腕の中で、そっと瞳を閉じた。
それから、聞こえるか聞こえないかくらいの声で小さく呟いたんだ。
……幸せやな、あたし。
- 594 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:52
-
もっともっとおしゃべりしてたいけど、
あったかい愛ちゃんの体温と髪の香りに、うとうとと眠くなってくる。
すうっと眠りに落ちかけた時、腕の中から静かな歌声が聞こえてきたんだ。
なにげないひとりごとみたいに。
後悔しない悔やまない
もっと腕に抱かれたい
大人びた 気の利いた
くちづけはできないけど
すこし掠れた甘い声は、とろりと溶けて耳の奥に染み込んでいく。
ああ、なんだろうこの歌、そうだ、あの文化祭の時に聞いた歌だ。
たくさんの人の上に降り注いでいたあの声を、
歌姫は今、あたしだけのために、この夜に散らす。
なんも知らない私でも
世界一愛してる
不器用な恋だけど
精一杯 愛してる……
夢うつつのあたしは、もう瞼を開けることはできなかったけど、
目頭がじわんと熱くなって、涙がツーッとこぼれ落ちた。
- 595 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:53
-
ああ、あたし、愛ちゃんの歌で泣いてる。
初めて、泣いてる。
大好きだ、あたしだけの愛ちゃんの歌。
歌がフッとやんで、瞼にあたたかな唇が押しつけられたのがわかった。
ねぇ、歌が上手な恋人って、すごくいいね。
それは、どっか不器用なあなたに、神様がくれた才能だね。
ありふれた歌詞の中に、心の底の想いをこっそりとのせられるように。
愛ちゃん、あたしは愛ちゃんのこと誰よりもわかってたいよ。
だから、一緒に眠る時は必ずあなたの歌を聴かせてね。
あなたのキモチ、こんなふうにずっと、あたしの腕の中で伝えてほしい……
◇ ◇ ◇
- 596 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:54
-
「もう、痛ってーの、痛くねーのって!」
「あはははは!」
陽射しがまぶしい午後のカフェ。
愛ちゃんが遅れてくるのをいいことに、
あたしは、ドッキドキ初体験の詳細をあさ美ちゃんにぶっちゃけていた。
だって、教えて教えて!ってゆーから、しょーがなく。なんちって。
まぁ、つまりノロケさせてもらってるっつーやつですね。はははっ!
「笑いごとじゃないよもお、死ぬかと思いましたって!」
「まこっちゃんは、おーげさだなぁ」
えええーー?
なによあさ美ちゃんは痛くなかったのォ?
全然、へっちゃらのプンだったのォ?
プッとふくれて身を乗り出したあたしに、あさ美ちゃんはポッと頬を染めた。
「え、そ、そりゃあ……、それなりに」
「ほらほらー。てっか、最初、愛ちゃん怒っちゃってー、まいったわ、ホント」
「怒った?」
- 597 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:55
-
事の顛末(もちろん、あさ美ちゃんうんぬんは抜きにしてね)を話すと、
あさ美ちゃんはお腹をかかえて、もう涙を流さんばかりに笑い転げた。
「あはははは、まこっちゃんらしーい!」
「いっやー、まじヤバかった、捨てられるとこだったアタシ」
「あーもう最高! バスローブで追いかけないよ、フツー」
「や、ロビーとかにいると思ったのよ、したらさぁ」
「いやー、愛ちゃんは帰るったら帰るでしょう」
「帰るかぁ? ヤれなかったからって帰るかぁ?」
それだけ、すっごい決心してたんじゃないの?
そう言って、あさ美ちゃんはやさしく目を細める。
かわいいなあ、けなげだなあ、愛ちゃん、なんっつて。
ちょっとぉ、かわいいのはむしろアタシでしょうが、あ・た・し!
「もう純情でさぁー、ほんと」
「純情って死語だよ、まこっちゃん」
「はァ、もう、あれヤッバいでしょ? みんな最初っからやり方わかんの?」
「えー? わかる……んじゃないのー?」
「えーっ、あさ美ちゃんもォ?」
私は別に……。
あさ美ちゃんは飲みかけた紅茶のカップに鼻先をうずめて、
なにやら恥ずかしげに目を伏せた。
- 598 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:56
-
私の時は、ごとーさんが、その、慣れてたから……。
そう呟くあさ美ちゃんの声は、
なぜだかほんのちょっとだけトーンが暗くなって。
ああっ、そ、そーいえば!
なんだっけ、後藤さんが前の人とよりを戻したかなんかで別れたんだっけ?!
いや、前の人のことを忘れられないだったっけか?!
ああああ、どっちにしても、そっか、ちょっとこの話題は……アワワワワワ。
「いいなあ、ふたり。全部これからって感じ」
あさ美ちゃんは、そう言ってほにゃんと微笑んだ。
もうずっと、そんなこともしてないなー、なんておどけながら。
でも、だから、かえってちょっと、寂しそうで。
「あっ、あーー……ごめん」
「えっ? あっ、ううん、どうして?」
「うう、あたし、やっぱデリカシーないねぇ……」
「え? ううん全然。ねぇ、まこっちゃん、もっと話してよ」
「でもぉ……」
「聞きたいもん、私。まこっちゃんたちの話、聞きたいんだ」
すっごいかわいいよふたり、なんて。
だけど、あさ美ちゃんの笑顔は、なんかもう痛々しく見えちゃって。
あーあ、はしゃぎすぎちゃったかなアタシ……って落ち込みかけた時、
カフェのドアがキイッと開いて、楽譜の束を抱えた眩しい美少女が入ってきた。
- 599 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:56
-
愛ちゃんっ!
あたしは一瞬にしてご機嫌になり、パタパタと手を振る。
彼女はあたしのことをすぐに見つけて、
鼻のとこをくしゃっとさせて笑い、胸元で小さく手を振った。
うっひゃあ、かっわいいーー!!
なんで愛ちゃんがおサルさんに見えたりしてたんだろーねぇ?
あさ美ちゃんは、あいかわらずタヌキに見えるけど。
「……まこっちゃん、それひどくない?」
「あっ、いっけね。つい心の声が言葉に」
「イイヨイイヨー、その調子やし、まこっちゃん」
「ちょっとぉー、ふたりともひどくない?」
まるっきり遠慮のない冗談に戻ってきた、あさ美ちゃんの楽しそうな笑顔。
いつものあたしたち、仲良し三人組のトライアングルは、
たぶん一番バランスのいい形におさまった。
あさ美ちゃんも笑顔で、愛ちゃんも笑顔で、あたしも笑顔で。
うん、これで、あさ美ちゃんがもうちょっと、ねぇ……前向きにっていうか……
あさ美ちゃんの選択やから仕方ないよって、愛ちゃんは言うけど。
フツーにしてるしかないよ、うちらはって言うけど。
- 600 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:57
-
「まあ、所詮あたしにはかなわんってことやのあさ美ちゃん。フッフッフ」
「ちょっとぉー、私だってそれなりにファンの方がねぇ」
「あー、たれ目フェチとか?ほっぺフェチとか?」
「むか〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「愛ちゃんは正統派美少女だもんねーぇ?」
「あーはいはい、そうですねー」
「ねぇ、愛ちゃんって世界一キレイと思わない?ねぇねぇ?」
「はいはい、もう勝手にして」
盛大なあたしのノロケに、あさ美ちゃんは笑って肩をすくめて。
でも、おもむろに紅茶カップに鼻先をうずめ、
蚊が鳴くような声でなにやらボソッと呟いたのを、
あたしの地獄耳は聞き逃さなかった。
世界一キレイなのは……さん、だもんね。
え? 誰よ?
聞きかけてやめる。聞くまでもないよね。
愛ちゃんもその声に気づいたらしく小さく眉をあげて、
でも、やっぱり何も聞かずに北海道旅行のパンフをテーブルに広げはじめた。
- 601 名前:あたしのカノジョは世界一! 投稿日:2004/07/27(火) 23:58
-
パラパラとパンフレットをめくりながら、
北海道にいた頃のことを懐かしそうに話すあさ美ちゃん。
ジャガイモ最高だの、いも餅食べようねだの、相変わらずのイモのことばっか。
食いしん坊なその笑顔には、もう何の陰りも見えないんだけど。
たけど、心の底のことは、聞くまでもないね。
一体、いつまでこの調子でしょ?
あーあ、馬鹿だな、あさ美ちゃん。
思いきって動いてみたら、こんなに幸せなのに、ね。
☆おしまい☆
- 602 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/27(火) 23:59
- ありがとう・・・。
最高でしたですよ。そして次がとうとう。。。
- 603 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/28(水) 00:01
-
癒しのメソッド・外伝『あたしのカノジョは世界一!』でした。
ご感想、お待ちしていますw
次回から紺ちゃん視点の最終章がスタートします。
2〜3日で戻ってまいりますので、またお付き合いくださいませ。
- 604 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/28(水) 00:08
- おぉー!久しぶりに来てみたら大量更新にびっくりしております。
更新お疲れ様です。
いやいや甘いですなw
まさにあの方がおっしゃたように青春だなぁうらやましい・・・
- 605 名前:ぽち。 投稿日:2004/07/28(水) 01:37
- 今週の二人ごとで、愛ちゃんの意外な一面に強く惹かれています。
なので今回の外伝も「この展開もありえるかも...」と思ってしまった。
ハッピーエンドだけど、せつなさもあり、感動しました。
まこっちゃん、良かったね。やっぱりやれば出来る子だ!
雪ぐまさんのストーリーは勇気ある行動が報われるから大好きです。
- 606 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/28(水) 02:57
- 外伝の更新お疲れ様でした。
よかったよー。ほんとによかったよー(涙
よかったけどちょっと口から砂糖をはきそうでしたw
レモンシュガーを大量に入れた紅茶にハチミツを入れるより甘いw
でも、青春っていいですね(遠い目
読んでなんか、心の中のモヤモヤとれてすごく嬉しいです。
紺ちゃん視点の最終章もとても楽しみにお待ちしています。
- 607 名前:名無しぽき 投稿日:2004/07/28(水) 05:22
- おー。そうなったのかー。
…なんか幸せ気分w
マコトらしい感じが出てて、楽しく読ませていただきました。
さて、最終章。
ついについに、ですね。
ドキドキしながら待ってます。
- 608 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/28(水) 13:26
- 新曲PVのメイキングに、この二人+ガキさんのとても良いシーンがあって…。
そこでのやりとりをホーフツとしたのでした。
本当に面白い話を有り難う!
- 609 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/28(水) 20:25
- 大量更新お疲れ様でした。
なんだかまこっちゃんがいい感じに…(笑 愛ちゃんは、結構前から好きだったん
ですが、私も雪ぐまさんと同じく二人ごとで愛ちゃんの言動にハマッテしまい
ました。本当ますますこの登場人物が好きになってしまって…大変です。
次回、紺野さん編楽しみに待ってます。
- 610 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/29(木) 09:43
- もう、このお話大好きです。青春の輝きに拍手です。
恋で輝くマコはもちろん、愛ちゃん素晴らしい。
助演賞のアノ方も良かった^^
さてさて、いよいよですかね…。
ニクいねぇ作者様…。
- 611 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/29(木) 23:53
- 皆さま、あたたかいレスをありがとうございました。
お楽しみいただけたなら幸いですw
602> 名無飼育さん様
最高でしたですか。ありがとうございます。
とうとう最終章、紺ちゃんの視点を感じてください。
604> 名無飼育さん様
あの方ねw 「任しとき」がかっこよかったでしょ?w
またぜひお時間のある時に遊びに入らしてくださいね〜。
605> ぽち。様
愛ちゃん、思った以上にオモロイ子でしたw もう雪ぐまは釘づけです。
二人は勇気を出してハッピーに。もう一人の親友は、さてどうなるでしょう。
606> オレンヂ様
ザーッとねw 雪ぐまも書きながら超笑ってて、恥ずかしくなっちゃってwうーん、いっかいきりの青春、雪ぐまも遠い目しちゃいましたw
607> 名無しぽき様
愛ちゃんの気持ちに応えたまこっちゃん。マコの気持ちを振りきって
ごとーさんへの気持ちを守った紺ちゃん。正反対の選択の行方、どうぞ見守ってやってください。
- 612 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/29(木) 23:54
- 608> 名無飼育さん様
あのやりとりには、雪ぐまはやられましたね〜。ここの愛ちゃん、
まさにああいうイメージで書いてたので思わず鼻血出そうになったのでしたw
609> 名無し読者79様
雪ぐまは急速に愛ちゃん注目度がアップしてますねw そしてこの3人から、
もう目が離せなくなってきました。紺ちゃん編もお楽しみいただけますように……。
610> 名無飼育さん様
ニクいっすか?w そう言っていただけるとうれしいですねぇ〜。w
ご期待に応えられるかわかりませんが、青春の輝きに負けないように頑張ります。
それでは、本日の更新にまいります。
- 613 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/29(木) 23:54
-
金色の光を放つあの人に心奪われた紺野さん。
深い海の底の記憶の牢獄のなかで、彼女が見つめている風景は……。
- 614 名前:最終章〜心音〜 投稿日:2004/07/29(木) 23:56
-
『癒しのメソッド最終章 〜心音〜』
- 615 名前:心音 投稿日:2004/07/29(木) 23:56
-
擦り合わせる肌だけが、存在の証。生まれてきた意味。
ねぇ、紺野、そう思わない?
- 616 名前:心音 投稿日:2004/07/29(木) 23:57
-
薄闇のなかで、私の腕はあなたを求める。
唇も、指先も、あなただけを。
ああ、ごとーさん……
生まれてきてよかった、あなたに出会えたから。
あなたとこんなふうに、気が狂いそうな時を分かちあえたから。
ごとーさん……ごとーさん……
私、ほんとに狂ってるかもしれません。
あなたのこと好きすぎて怖い。鼓動が溢れそうで怖い。
涙が止まらない。空気が足りない。だって、灼熱のあなたの瞳。
どこか冷たい、白い炎みたいな、その瞳。
見つめられて、叫び出しそうになる。
愛してる、愛してます、ごとーさん……
めちゃくちゃに求められて、つかまれて、揺さぶられて。
そして、私は自分が怖くなる。
狂気の血がカラダの奥で泡立って沸騰する。
胸の奥を激しく突き上げられて、叫びそうになるんです。
- 617 名前:心音 投稿日:2004/07/29(木) 23:57
-
殺して、ごとーさん!
今、殺して、殺して、お願い、時を止めて……!
- 618 名前:心音 投稿日:2004/07/29(木) 23:58
-
あわてて唇をおさえて、汗ばんだあなたの左胸に押しつけた耳。
かすかに聞こえてくる、あなたの心音。
ものすごいスピードで脈打ってる。
それは、私を求めてくれる速度。
ああ、ごとーさん、私のこと、こんなに愛してくれてる。
愛してくれてる……あなたと、生きていく、私……
その肌に押しつけた私の唇に、一瞬、うっとりと閉じたあなたの瞼。
長い睫毛が、透明な滴をのせて震える。
口元がやさしく緩む。
スローモーションのようにうっすらと開かれる美しい瞼。
その奥の炎の瞳は、信じられないほど熱く揺れて。
吸い込まれるように、からめとられるように、そう、私はあなたの意のままに。
ゆっくりと伸ばされたあなたの指先に、私は幸福な気持ちで喉元を差し出す。
ごとーさん、このチョーカー、あなたの印です。
もっと触れて。食べて。好きにして。私を閉じこめて。
あなたが欲しいなら全部あげる。今も、未来も、運命も、魂も。
だから、お願い、私だけ、私だけを……
- 619 名前:心音 投稿日:2004/07/29(木) 23:59
-
『好き……いちーちゃん……』
- 620 名前:心音 投稿日:2004/07/29(木) 23:59
-
悲鳴を上げて、真夜中の闇の中で飛び起きました。
「あ、また……」
びっしょりと汗をかいてるカラダ。
絶望的な気持ちで、シーツをぎゅっと抱きしめます。
夢の感触が、生々しく肌に残っています。
ごとーさんに、愛された記憶が。
ごとーさんに、裏切られた記憶が。
私は、深々とため息をついて枕に額を押しつけました。
夢魔というものがいるとすれば、私の場合、ごとーさん。
もう、5年も前のことなのに、
悲しみは、まるで昨日のことみたいに私の心臓を狙って切りつけてくる。
どこにも持っていきようのないざわざわとした息苦しさに、
枕に額を押しつけたまま、必死で息を吸い込みました。
ああ、また、呼吸が、おかしい。
溺れてしまっているのです。
ごとーさんに捨てられてからずっと。
- 621 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:00
-
擦り合わせる肌だけが、存在の証。
生まれてきた意味。
『……ねぇ、紺野、そう思わない?』
ごとーさんの甘い声が、鼓膜にはっきりと再生されます。
私はたまらない気持ちになって、振り切るようにベッドから起き上がり、
大きく窓を開けて風を招き入れました。
夜風は生暖かく、気のはやい蝉が鳴いている声まで運んでくる。
もうすぐ、夏が来ます。
天国の記憶と地獄の記憶が入り交じる夏が。
- 622 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:01
-
これでも、ずいぶん慣れたと思います。
なんといっても、ごとーさんと一緒にいたのは、もう5年も前のことなのです。
叶わぬ思いは心の奥底に潜り込み、溶けることのない谷底の根雪のように、
ただ重く、密やかに存在しているだけです。
毎日は、おおむね穏やかに過ぎていきます。
今夜のように懐かしい夢を見てしまうと、
たちまち溶けて好き放題に流れ出し、私を困らせたりしますけれど。
あの頃16歳だった私は、この5月で21歳になりました。
もう、わかっています。
ずっとごとーさんのものでいたいなんて、ただ空しいだけのことだと。
今日みたいに寝苦しい夜は、誰かが私のそばにいてくれたらなあと思います。
ごとーさんも、こういう気持ちだったのでしょうか。
- 623 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:01
-
『うちら、付き合おう?』
なんとなく、甘えたような声だった。
自信満々で私のこと引き寄せたけど、なんだか。
繰り返し記憶を巻き戻すうちに、気づいたんです。
なんだか得意げで、でもどこか痛々しかったあの人の瞳の色。
ゆっくりと唇を離し、ごとーさんは何かを確かめるように、
細い指先で私の唇の輪郭をたどった。
視界がかすむほどボーッとしてしまった私に、くすっと笑った。
それから、私の肩を抱いたまま、フッと縁日のあかりに目をやって、
すこし眩しげに、すうっと目を細めたんです。
まるで遠くから、天に立ち上るキャンプファイヤーの炎を見てるみたいに。
ああ、なんて、きれいな瞳。
夜の中のあかりを、全部吸い込んでしまいそうな不思議な瞳。
私、この人と恋をするんだ。ううん、もう恋している……
あの時はただ、舞い降りてきた幸運の大きさに震え、
そっと指を組んで、ありとあらゆる神様に感謝していました。
見渡せば世界は、ほんの数分前よりも確かに輝いて見え。
かたく閉ざしていた心に、細く光が射し込んできたのを感じ。
- 624 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:02
-
すらりと立ち上がってごとーさんは、私を振り返りました。
『ジャガバター、もういっこ食べる?』
えっ? あっ?
手の中にあったはずのジャガバターを取り落としていたことに気づいて、
ますますカアッと真っ赤になった私。
ごとーさんは笑って私の頬を撫で、
返事を待たずにもうひとつジャガバターを買ってきてくれました。
そして、カップを手渡してくれながら、いたずらっぽく囁いたんです。
『食べさせて』
さっき……キスの前にそう言われた時は、
何言ってるの?って思わず固まっちゃったけど。
でも、今はもう、こ、恋人だから。
ですよね? だから。
- 625 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:03
-
私はスプーンを握りしめ、かつてないほど慎重にジャガバターをすくうと、
ごとーさんの口元に、おそるおそる差し出しました。
スプーンの先が震えちゃってて、恥ずかしかった。
ごとーさんは子供みたいにニコーッて笑って、パクッて食べた。
『おいしーね』
幸せな気持ちが、じわんと胸にやってきました。
すごくすごく、自分でもびっくりするほど、うれしかったです。
私が差し出したものを、ごとーさんがおいしいって食べてくれたこと。
気になってたんです、ごとーさんの食が細いこと。
つまらなさそうな顔で、ただ咀嚼して呑み込んでること。
私のこと、好きですか?
ほんとに好きになってくれたんですか?
そう聞いてみたかったけれど、言葉は喉の奥につかえて泡のように消えてしまう。
だから私は、せっせとスプーンを差し出して、
あなたの笑顔から気持ちを確かめようとしていました。
あの後、もう一度だけ、キスをしてくれましたね。
ありがとう、おいしかったって。
あの夜、ぜんぜん眠れなかった。
かたく瞳を閉じて、枕をぎゅうぎゅう抱きしめて、
いつもより熱を持ってるみたいに感じる唇をもてあましていた。
完全に恋に落ちた、運命が決まったと感じた、あの遠い夏の日の夜。
- 626 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:04
-
あの頃、私は2つ年上のごとーさんをとても大人だと感じていて、
子供じみた気まぐれや、刃物で切りつけてくるような冷たい言動にいちいち衝撃を受け、
でも、やっぱり何も訊けないままでいました。
やさしかったり、冷たかったりする人。
たまらなく惹かれながら私は、ひどく怯えてもいて。
ごとーさんが何を考えてるのか、まるでわからなかったから。
どうして、どんどん不機嫌になるの?
どうして、家の中に閉じこもろうとするの?
どうして、お酒なんて飲んだりするの?
どうして、あんなに乱暴に……乱暴に……
今はすこしわかるように思います。
あの頃、あの人が抱えていた孤独な状況は、
とても高校生の女の子に耐えられるものではなかった。
そして、ごとーさんはほんとは全然クールな人じゃなかったから。
むしろ誰よりも感情の起伏が激しく、躁鬱が激しく、
孤独ゆえに愛を求め、自分のなかの狂気と戦っていたような……
きっと、すごく寂しかったんだなって思います。
もうすごく、寂しくて寂しくてたまらなかったのかなって。
- 627 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:06
-
私自身も子供でした。
別れたあの日、あの人のこと許せなくて、ただ逃げ回ったこと、
よりによってあの人の顔にチョーカーを投げつけたこと、
……とても後悔しています。
あのチョーカーは、私がごとーさんのものだという印でした。
『チョーカー、見せて』、そう言われると、涙が滲むほど心が震えました。
こんなものを与えておいて、手酷く裏切ったことが許せないと思った。
だけど考えてみれば、最初から印だったわけではありません。
ごとーさんは熱心に服を選んでくれて、きっと純粋にその服に合うからと思って、
首からチョーカーを外して、ヒョイと私にくれたのだと思います。
そういう無頓着さのある人です。
そのことに、意味を持たせたのは私。
身につけていたものをくれたことに彼女の愛を見出そうとし、
肌身離さずつけていることで、私の愛を伝えようとした。
ごとーさんはそんな私を見て、チョーカーに意味を見いだしたのです。
- 628 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:07
-
『……もう、いらないよ』
あの時、私はモノじゃないと目の前が真っ暗になりました。
珍しいおもちゃみたいに気まぐれに手に取られ、
そしてもう言うことを聞かないから捨てられるの?
だけど、あの酷い言葉を彼女に言わせた責任の一端は、
もしかしたら私にもあるのかもしれない。
いつだって私は、自分はごとーさんのものだとアピールしていたように思います。
本当に自信がなくて、自分をすべて差し出すことしか、
彼女をつなぎとめる術がないと、無意識に思っていた。
殺されたってよかった、私だけを求めてくれるなら。
いつだってそう思っていた。すべて差し出せると。
だけどあの時、私を壁に押しつけて、ゾッとするほど妖しく微笑んだあの人。
悪魔じみた、真っ暗闇の瞳の奥。
どうして笑うの?
私のこと追いつめて、面白いですか?
振り回されるのはもう嫌です、あなたのことわからない!
紺野だけだって……私だけだって言ったのに! 信じていたのに!
一瞬、胸を突き上げた憎しみが唇を動かし。
- 629 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:07
-
『……嘘つき』
- 630 名前:心音 投稿日:2004/07/30(金) 00:08
-
私は小さく息をついて窓を閉め、記憶を辿っていた思考も閉ざしました。
だけど、目を閉じたら、きっと夢の続きがやってきてしまう。
私はベッドサイドの灯をつけて、読みかけの本を開きました。
ごとーさんは、9月には23歳を迎えるはずです。
あの金色に光るオーラは健在でしょうか。
立ってるだけで周りの空気さえ変えてしまうような。
結局、いちいさん、と、どうなったのか知りません。
もし、もう彼女と別れてしまっているとしても、
とても魅力的な人ですから、きっとやさしい誰かがあの人を支えているでしょう。
寂しがり屋のごとーさん。
もう、寂しくないといいな。
幸せに暮らしていてくれるといいなと思います。
- 631 名前:雪ぐま 投稿日:2004/07/30(金) 00:09
-
本日はここまでといたします。
- 632 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/30(金) 00:11
- うぅ・・・。そうきましたか。ドキドキ
見守らせていただきます。
- 633 名前:名無しぽき 投稿日:2004/07/30(金) 00:43
- 時は流れていたのですね。
新編、おめでとうございます。
この話はおそらく、静かに見守ることになるかもしれません。
…とかいいつつ、カナリドキドキ…
- 634 名前:オレンヂ 投稿日:2004/07/30(金) 00:54
- そうなんですか・・・ドキドキ
今回はただそっと、でも最後まで見守らせていただきます。
- 635 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/30(金) 02:57
- ひぇえええ ドキドキするようううう(完全に手玉だなぁ)
- 636 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/30(金) 03:10
- ぬおっ!
思いもよらぬところから話が始まりましたね…
期待してます。更新頑張ってください
- 637 名前:名無し読者79 投稿日:2004/07/30(金) 20:26
- うわ…紺ちゃん…。なんだか前を思い出して涙が出そうに……。
なんだかもうこの話に夢中です。
どうなるんだろう…次回も楽しみにしてます。
- 638 名前:名無しマカー 投稿日:2004/08/01(日) 11:47
- お久しぶりです。初恋自転車最終回〜マコ&愛ちゃん編〜紺ちゃん編と
一気に読ませていただきました。ゆ、雪ぐまさんってホントにすごいですねー。
それぞれの話にそれぞれの色があって、登場人物と一緒に気持ちがぐるぐる動いて
忙しいですw
紺ちゃん編にもすでに惹きこまれてしまいました・・・。
- 639 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/01(日) 13:24
- ↑そう思う!書き分けがすごいですよね!
でも、どの話にも温かさと優しさと勇気が溢れてて大好きです。
毎回、登場人物の気持ちになってのめり込んでいます。
なんだか切ない予感のする紺ちゃん編、ドキドキしながら待ってます。
- 640 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/02(月) 23:46
- どして皆さん、ドキドキっておっしゃるのかな?って思ったら、
そっか、タイトルが『心音』だからですね?w
632> 名無飼育さん様
どうぞよろしくお願いします。
ドキドキ しながら見守っていただけるよう頑張ります。
633> 名無しぽき様
あれ、そうなんですか? でも、bbsのほうではお待ちしてますよ〜♪
時は流れても紺ちゃんの気持ちは変わらず、でした。さてさて……
634> オレンヂ様
ありゃ、オレンヂさんも? でも、bbsのほうには遊びに来てくださいね〜♪
紺ちゃんは、相変わらず一途な女の子。ごっちんは一体……?
635> 名無飼育さん様
わああ、大丈夫ですかああああ?w 今回は紺ちゃんペースで
まったりのんびりいこっかな?と思ってます。どうぞよろしく。
636> 名無し読者様
あの高校を卒業してから2年後ですね。女子大生、紺ちゃんですw
溺れたまんまでどうするのやら。どうぞ見守ってあげてください。
- 641 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/02(月) 23:46
-
637> 名無し読者79様
ありがとうございます。前の話とリンクしてるところが多いので
ぜひ思い出していただきつつ、お楽しみいただければ幸いです。
638> 名無しマカー様
お久です♪ 娘。さんたちの色をちゃんと書き分けられていればよいのですが……
紺ちゃん編は、しっとりとお楽しみいただけるよう頑張ります。
639> 名無飼育さん様
うれしいお言葉、ありがとうございます。そう言っていただけるとホッとします。
あまりに一途すぎる紺ちゃんの恋の姿、どうぞ見守ってくださいね。
それでは、本日の更新にまいります。
- 642 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:47
-
「彼も全然、紺野のタイプじゃない?」
「そうですねぇ」
「じゃ、あの人はどぉ?」
「うー……ん、ピンとこないです」
「んもー、紺野のピンとくるって、何?」
バイトの先輩の飯田さんが、あきれた声をあげました。
ピンとくるっていうのは、ピンとくるっていうことなんですけど。
あの中庭で、ごとーさんを初めて見かけた時に、
光の中に天使がいると思ったような。
- 643 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:48
-
「だめだ、紺野に紹介できるオトコはいないわ」
「紹介していりませんってば」
「でもカヲリね、ハタチ超えて彼氏いないってあり得ないと思うの」
「あり得なくない、ですよ」
私は、笑ってエプロンを外しました。
授業の合間に、大学内の本屋さんでアルバイトをしています。
のんきなバイトなので、ちょっとかっこいいお客さんがくると、
飯田さんは暇つぶしに、私のタイプかどうかっていちいち聞くんです。
カレシいるの?って訊かれて、
カレシ?……いたことないです、と応えた私。
だめよ、恋しなきゃ紺野! 恋はいいよぉ〜!って、
うん、まあ、彼女なりに心配してくれてるところもあるんでしょうね。
「学部にいいオトコいないのー? 経済なんてオトコばっかでしょ?」
「んー、7割くらいですよ?」
「わー、7割もいたら選びホーダイじゃん」
「選びホーダイって……」
「ね、いいオトコいたら紹介して。そうだ、合コンしよう、紺野!」
「いや〜、私、あんまり学部に友達いなくって……」
もう、この話、何回目だろ?
笑いをこらえながらエプロンをたたんでレジの下にしまい、
私はぺこっと頭を下げました。
- 644 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:49
-
「じゃあ、お先に」
「あ、ごめーん、この本、棚に戻しといて」
「あっ、だめですよ。売り物を読んじゃあ」
「ううん、カヲリが悪いんじゃないの。本がカヲリを呼んだのー」
まったく。
私は苦笑しながら飯田さんから本を受け取りました。
困っちゃうけど、なんだか憎めない先輩。
ほんとのこと話せなくてごめんなさいね。
恋、したことあるんです、ほんとは。
- 645 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:50
-
店内のいちばん奥の、
天井まで届きそうに背の高い書棚にコトリと本を戻しました。
ここの前に立つと、いつも懐かしい記憶が目の奥に流れ込んできます。
『……見られてたら、選べません』
『じゃあ、あたしが選んであげる。ご、と、う、ま、き。はい、これ』
あちこち引っ張り回された揚げ句、図書館で差し出された本。
どこまで強引な人なんだろうって驚きました。
でも、首をかしげてニコッと笑った姿がかわいくて、つい受け取ってしまって。
あの小説、タイトルも、お話もはっきり覚えています。
あの日の夜、読み始めて、どうしようかと思うくらいドキドキしたから。
女の人同士の、燃えるように激しい恋の話。
絶対に、絶対に、私、からかわれてるって思いました。
だって。
鏡をのぞきこむと映るのは、嫌になるほど冴えない自分。
ほっぺたがぽてっとしてて嫌だ。
すぐ赤くなっちゃうのも嫌だ。
厚すぎるように感じる唇は、まともに言葉を紡ぐことさえできなくて。
あの頃のひどいコンプレックス、今思い出しても、胸が痛くなるくらい。
- 646 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:51
-
あの中庭の、光の中で微笑むごとーさん。
夏の陽光さえ弾き返しそうなほど涼やかで眩しい人。
美しい瞳も、金糸のような髪も、やわらかであたたかみのある声も、
洗練された仕草も、そして輪郭が景色から浮かび上がっているようなオーラも、
私には遠く、けっして手の届かない才能に満ちて。
だからいつも、テレビのなかの人を見るような気持ちでいたのです。
トラちゃんがくれた、中庭だけに降り注いでる特別な魔法。
ちょっぴり、優越感なんかも感じてました。
クラスメイトが騒いでた憧れの先輩が毎日やってきて、
なぜかとても楽しそうに私とおしゃべりしてくれること。
超かっこいいよね。
でも、留年してるんだよね。
そーとー怖いらしいよ、すっごい遊んでるんだって。
そんな噂をチラチラと耳に挟んでもいました。
でも、彼女はちっとも怖くなんかなくて、私といると落ち着くって言ってくれた。
どもっちゃうのにも嫌な顔しないで、にこにこと待っててくれて。
噂なんて、無責任な嘘ばっかり。
どうしていい加減なこと、平気で言うのかな?
私は、自分の目で確かめて知ってる。
ごとーさんは、とってもやさしい先輩。
春風みたいに穏やかな人。
このままずっと仲良くしてもらえるとうれしいな……
- 647 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:51
-
でも、トラちゃんがいなくなった時、
中庭の魔法は、とんでもないつむじ風を巻き起こしました。
まさか、いきなりキスされるなんて!!
そのうえ、『久々にキスしたくて』だなんて!!!
あれは、ひどかったなぁ。
あの時のショック、今でも覚えてる。
私は授業に出ることさえできなくて、わんわん泣きながら家に駆け戻って。
だって、私だって私なりに、初めてのキスにはいろいろ夢とかあったんです。
なのに、そう、まるで誰かの身代わりみたいに、気まぐれに。
冴えない私。
私の気持ちなんて、だれも大切にしてくれない。
ごとーさんも、私のこと、ほんとは馬鹿にしてるんだって……
- 648 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:52
-
だけど、その週末に街で偶然、会ってしまった時、
彼女は『ラッキー!』って、心底うれしそうに笑った。
ごとーさんは、わからない。何を、考えてるのか。
おいしいパスタを食べさせてくれて、やさしく待っててくれるかと思うと、
強引に私をベスパに乗っけて、ぐんぐん連れまわす。
『メガネないほうがかわいーね』
『かわいーよ、紺野は』
おそるおそる、鏡の前で黒縁のメガネを外してみました。
中1の時からずっと、朝起きてから寝るまでかけてるメガネ。
あっというまに視界はぼやけて、自分の顔もよく見えなくなります。
鼻先がくっつくくらい鏡面に顔を近づけて、じっと見てみる。
…………目、タレてるよねぇ。
でも、ごとーさん、かわいいって、言ってくれた。
ううん、からかってるんだと、思うけど。でも。
私の中の、大決断。
ごとーさんの気持ち、試したかった。
もう一度、あの人にかわいいって言われたかった。
だから次の日、小さい頃から貯めてた貯金をおろして、コンタクトにして……
- 649 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:53
-
本屋を出て、大学の校門へと歩きながら、私は考えます。
あんなふうにピンとくる人が現れたら、おつきあいしてみようかなと。
運命というものがあるとすれば、出会わせてくれるはずなのです。
私の前にトラちゃんが現われ、トラちゃんに会っているうちに、
ごとーさんが目の前に舞い降りたように。
「そのうち、ね、きっと」
電車に揺られている時、私は文庫本に目を落としています。
都内の大学を選んだので、高校の時と同じ沿線の電車を利用しています。
だから私はあまり、車窓を見ないようにしているんです。
いつもごとーさんと見ていた景色は、記憶を呼び起こしすぎて苦しいから。
とくに、あの駅を通過する時、私は今でも緊張する。
ふいに、あの人が乗り込んできやしないかと。
- 650 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:54
-
夏の陽射しが車内に差し込むようになると、とくに落ち着かないです。
あの夏休み、私は毎日あの駅で降りて、あの人の家まで駆けた。
1秒でもはやく会いたくて、会いたくて、会いたくて、会いたくて、
噛んでるガムを飲みこんじゃいそうになりながら猛ダッシュして。
ああ、私、走ってるなあって、思いながら。
ドアが開くと、薄暗い家の中からヒンヤリとした空気が流れ出てきて、
たいていバスローブ姿のあの人が、植物みたいな笑顔で立っていました。
腕を引かれて、その胸のなかに抱きしめられるのが好きでした。
あの人は私の肌を雪のようと褒め、
真っ白い魚みたいにきれいと言ってくれました。
すべてをさらけだすのは恥ずかしくて、でも、ごとーさんだから。
眩しいほど美しいごとーさんが、褒めてくれるから。愛してくれるから。
そうされるといつも潤んでしまう視界のなかで、
私はあの人を、金色に光輝くお魚みたいだと思っていました。
冷房の水槽の中で一緒に泳ぎまわるのは、怖いくらいに幸福で。
でも、とても心配な時もありました。
閉じられた空間のなかであの人がどことなくボウッとしていて、
なんだか少しずつ痩せてきたから。
私は、ごとーさんにお日さまの下で笑ってほしくて、
無理にお散歩に引っ張り出したり、買物に誘ってみたり。
面倒くさそうにしながらも、ごとーさんは笑ってついてきてくれましたっけ。
ちょっと変わった人。
でも、とても静かな、やさしい人でした。
- 651 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:55
-
あの駅を通過してしまうと、私は少しホッとします。
ううん、実際のところ、会う確率はかなり低いんです。
実は、何度か真夜中にあの人の家の前に立ったことがあります。
どうしても会いたくて、一目でいい、遠くからでいい、
その姿を見たくて、窓に映る影でもいいから見たくて、耐えられなくなって。
別れたあの夏休みにも、それから後も、
彼女が卒業してしまってからも、何度も何度も。
でも、いつ行ってもあのお家は真っ暗で、ごとーさんの気配はしなかった。
叔母様のマンションに居を移したか、あるいは、あのいちいさん、という方と……
それとも、私の知らない誰か、かも……
私と別れてからあの人は、とても子供っぽく笑うようになって。
吉澤さんとはしゃいでる姿を遠くから見るたびに、幸せなのかな、って思った。
それならいいと思う反面、胸の奥をジリジリと熱く焼かれるみたいに苦しくて。
どうしてそんなふうに笑えるの?なんて。
私にはそんな笑顔、見せてくれなかったのに、なんて。
……きっと、人よりも嫉妬心が強いんだと思います。
悔しくて、苦しくて、かすり傷でもいい、あの人を傷つけたくて、
私だってあなたのことなんかもうどうだっていいって、意地を張った。
まこっちゃんと付き合ってるなんて、嘘をついた。
愚かで、身勝手だった私。
大切な親友を傷つけているとも知らず。
- 652 名前:心音 投稿日:2004/08/02(月) 23:56
-
私は文庫本を読み続けます。
ごとーさんが卒業してから、一度も会っていません。
チラともお見かけしません。たぶん、この沿線に住んでいない。
私の手元に残っているのは、彼女の視線をとらえた一束の写真と、携帯のメモリ。
あの人に電話なんて、もうかけることもないのに。
だけど私は、携帯の機種を替えるたびにあの人のメモリを残し、
ふいにメモリを失ってしまった時に備えて手帳にも番号を書きつけ、
財布の中にまで、あの人の電話番号を書いたカードを入れています。
自分でも、いいかげんにしたらいいと思う。
だけど、私はごとーさんのこと、母に話してないから。
だから、もしかして私が不慮の事故とかで死んでしまったりした時に、
誰かがその番号を見て、あの人に私の死を伝えてくれたらと、思うのです。
あの人にとっては、迷惑な話でしょう。
これは完全に私の未練、私のわがまま。
そう、私は死を賭けて、あの人の心に一瞬でも私の姿を蘇らせたい。
……今でもその番号が生きているかどうか、わかりませんが。
- 653 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/02(月) 23:56
-
本日はここまでといたします。
- 654 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/03(火) 00:27
- こんちゃーんせつなーいよ。
ごとーさんどこにいるんですかー!
- 655 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/03(火) 00:41
- なんかすっごいドキドキするんですけど・・・
- 656 名前:名無しぽき 投稿日:2004/08/03(火) 00:43
- ケッキョクヤッパリアラワレチャッタw
なんか切ないという言葉だけじゃ片づけられないです。
紺野、別れてからも、そんなことしてたんだね…。・゜・(ノД`)・゜・。
- 657 名前:名無しマカー 投稿日:2004/08/03(火) 02:41
- 紺野さんの穏やかな語り口が逆にぐっときますね。
静かな情熱というか。あぁー・・・
- 658 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/03(火) 12:47
- 読んでるだけで息が苦しいよー… 紺野ぉ…
ついでにカン娘。での切なげな歌声がセクシーやのぉ… 紺野…
- 659 名前:名無し読者79 投稿日:2004/08/03(火) 19:49
- なんだか胸が苦しいですね…。
紺ちゃん…そんな…なんだか笑顔が見たいです…。
- 660 名前:オレンヂ 投稿日:2004/08/05(木) 21:27
- 見守るって言ったのに・・・切ないすぎるんですよねぇ・゚・(ノД`)・゚・。
これを考えてる紺ちゃんの表情が思い浮かんでよけいに切ないです。
- 661 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/05(木) 23:34
- 654> 名無飼育さん様
ごとーさん、どこにいるんでしょうねぇ?
紺ちゃんの奇妙に静かすぎる毎日、やっぱちょっと切ないですね。
655> 名無飼育さん様
ドキドキしてください……
656> 名無しぽき様
まこっちゃんたちも知らない紺ちゃんの一面ですね。
もちろんごとーさんも知らないし……。川o・-・)<ゴトーサン……。
657> 名無しマカー様
海の底の記憶の牢獄で膝を抱えたまんまの紺ちゃんです。
その情熱が外側に出たらいいのにね…………。
658> 名無飼育さん様
あー、紺ちゃんっていい声ですよねぇ。雪ぐまもドキッとしました。
あたたかいやさしい声で癒されますね。
659> 名無し読者79様
笑ってはいるけど、ほんとには笑ってない紺ちゃん。
でも、自分で選んだ道だから紺ちゃんは淡々と日々を送っています。
660> オレンヂ様
電車に揺られながら紺ちゃんはきっとすこし目を伏せて……
車窓じゃなくて心の奥を見つめている瞳の色はどんなでしょうね。
それでは、本日の更新にまいります。
- 662 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:35
-
「んー、3日しかないんやったら、やっぱ国内やの」
3人のスケジュールを比べて、冷静に呟く愛ちゃん。
「はーい! じゃあ、遊園地がいいでぇーす!」
手をあげて、元気に声を張り上げるまこっちゃん。
おかしくって、つい笑っちゃいます。
もう、カフェ中のお客さんがこっち見ちゃってるよ?
夏休みに、3人で旅行にいこうという話。
ラブラブなんだから二人で行ったらいいのに、
きっと相変わらずひとりで夏を過ごす私に、気をつかってくれてるんです。
大学は違っちゃっても、こんなふうに長くつきあえる友達ができた。
あの高校に通ってよかったなと思います。
- 663 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:36
-
「遊園地ねぇ」
「ハイハイハイハイ! USJがいいです! USJ!」
「USJ〜? 修学旅行で行ったがし」
「いいのーっ。もー1回、行きたいのーっ」
あいかわらずの二人の会話。
私は声をあげて笑いながら、
頭の隅で、ちょっぴり悲しい記憶を思い出してしまいました。
USJ……ごとーさん、来てくれなかったな、当たり前だけど、なんて。
修学旅行は、楽しかったです。
京都のお寺の清廉なお庭には、本当に感動しましたし、
愛ちゃんやまこっちゃんと夜中までおしゃべりしたのも楽しかった。
だけど、どうしても最終日のUSJのことが気になって気になって。
『学校サボって行くから。待ってて』
それは、私たちがまだ甘い蜜のなかに浸っていた頃の約束。
ごとーさんは、きっとまるで覚えていない。そういう人。
だけど、もしかして……もしかして……
- 664 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:37
-
ひどい言葉で私を捨てたごとーさんのこと、嫌いになってしまいたかった。
苦しくて、もう偶然に見ることのない場所に行きたいと願った。
季節すら何も感じなくなってしまっていたあの頃の私。
だけど、まだ夢を見ていて。
失恋を信じきれないでいて。
もしもUSJにあの人が待っていてくれたら。
あの綿菓子のような甘い笑顔で、「紺野」と呼んでくれたら。
いちいさんのことも、嘘をつかれていたことも、
ひどい言葉を投げつけられたことも、全部忘れて、
私はあの人の胸にまっしぐらに飛び込んでいけそうな気がしてた。
「あさ美ちゃんは、どお?」
「え?」
「USJ〜」
「あ…うん、どっちでも……あ、でも、行ったことないとこのほうが」
「たとえばー?」
「え? えーとぉ……」
行きたいところを考えたり、主張するのはむずかしい。
どこだって行ってしまえば、楽しいし。
あーあ。なんていうか、とことん受け身なのかも。
これって、ごとーさんといる時もそうでした。
ごとーさんと一緒ならどこでもよくって、
ごとーさんに誘われたら、どこだって天にのぼるような心地になって。
- 665 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:38
-
ああ、でも、ごとーさんには、
行きたい!行きましょう!って言ってたとこって、いくつかあったかな。
東京の空しか知らないごとーさんに、一度、北海道の空を見せてあげたかったし、
一緒にお洋服を選びたくって、髪を切りにいく日を毎月すごく楽しみにしてた。
「希望ないの? じゃあ、USJ!」
「……うん、いいよ」
「あ、なんか不満っぽーーい!」
「そりゃ、一回行ってるでやろ? まあ、今日急いで決めることないし」
「なんでー? USJ楽しかったじゃーん!」
スパイダーマンのやつ、すっごかったじゃん!
3Dのサングラスかけて乗るとか、すっごいアイデアだよねえ?
あの、ほら、スパイダーマンが、ひらってライドに乗っかってくるところー。
くるくるくる〜ってライドが回ってー、すっごかったでしょ? ねぇねぇ!
それから、あれ! ジュラシックパークライド!
あれ、すっごいよねぇ? すっごいでっかい、なんだ、ティラノザウルス?
あれが、ガーーーって脅かしてくるところ!
んで、ざばーって落ちるじゃないデスカー? あーもう! 最高だよねぇぇぇ!!!
あと、あれあれ、あれですよ、ETね! ET、ET!
ETがね、「バイバイ、麻琴」って言ってくれたのに、もう感動しちゃったんだよねぇぇ!!
オーバー気味のジェスチャーで、一人しゃべりまくるまこっちゃん。
やれやれと肩をすくめた愛ちゃんとは違う意味で、私は苦笑しました。
なんか、聞いたことあるなぁ、この話って。
- 666 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:38
-
ごとーさんも、おんなじようなこと、騒いでた。
USJ、すっごく気に入ったみたいだった。
だけど、来てくれなかった……ですね。
「もうわかったって、まこっちゃん」
「うおー! USJ決定?」
「待ちねって。あたしらはいいけど」
そっち方面やったら宝塚観られるし。ほやけど。
愛ちゃんは、たしなめるようにきゅっとまこっちゃんの鼻をつまむと、
くるんと私のほうを見て、心配そうに首をかしげました。
「あさ美ちゃん、あんま遊園地好きじゃないやろ?」
「え?」
思いがけない愛ちゃんの言葉。
私は首をかしげます。ううん、好きだけど?
「なんや、乗り物怖いんかと思ってた」
「ううん、平気だよ」
「あ、そう。USJで、なんか変やったで」
「え?」
「あー、そうだ!なんかそわそわしてさぁ、やたらモシャモシャ食べてさあ!」
ほんとはスパイダーマン、怖かったんじゃないのー?
からかうように顔をのぞき込んでくる二人。
私はあわてて、ぶんぶんと両手を振ります。
あー、ほんとに私って、なんでも顔に出ちゃってるんだろうな。
あの時、上の空にならないように、二人にバレないようにって、必死で笑ってたのに。
- 667 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:39
-
USJで私は、煙のような約束を追いかけて、
あるわけのない姿を必死で探しまわっていました。
ごとーさんがおいしかったと言っていたキャラメルポップコーンとチュロスを、
ひっきりなしに口に詰め込みながら。
もし、ごとーさんが来てくれていたら、
今が悪い夢になって、記憶のなかの日々が戻ってくるはず。
そんな勝ち目のない賭けに負けて私は、本当に恋を失ったんだって、
ごとーさんは本当に私のことどうでもよくなったんだって、やっと悟ったんです。
「そういえば、あん時の写真さぁ、あさ美ちゃんのやつ!」
「ああ、そうや。誰かに持ってかれて」
「そう、だっけ?」
とぼけてみましたが、よく覚えています。
あの写真が貼り出された時、あちゃーって頭を抱えちゃったから。
あんな顔、ヤです。
夕闇が迫る頃、祈るようにごとーさんと呟いた瞬間。
あの時、胸に押し寄せていた絶望的な気持ち。
まこっちゃんは、なんでだかあの写真をすっごい気に入ったらしくて、
「これ、カワイイ!すっごいカワイイ!」って連発してくれたけど、
私はいたたまれなくって、すぐにでも剥がしちゃいたいって思っていました。
だから、誰かが持ってってくれて、助かった。
- 668 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:40
-
「あさ美ちゃんは隠れファンが多かったでのー」
「そ、そんなことないよぉ」
「紺野せんぱーい、あたしほんとは先輩のこと〜〜」
「もー、やめてよ、まこっちゃん」
私は赤くなって、二人の肩を小突きました。
ほんと、仲がいいのはいいけど、二人揃ってからかってくるから……。
あー、それにしても誰が持ってちゃったんだろう、あの写真。
恥ずかしいな、あんな私。
なにも隠してない、剥き出しの私。
- 669 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:41
-
そう思いながらうつむき、紅茶をズズッとすすった時、
まこっちゃんが唐突に「トイレー!」と宣言して、ぴょこんと席を立ちました。
穴から飛び出した子熊みたいに、たったか走っていくその後ろ姿。
思わず、私も愛ちゃんも声をあげて大笑い。
まこっちゃんは、かわいい人。
いつもみんなに笑顔をくれる人です。
「まこっちゃんは、あいかわらず」
「うん。見てて飽きんわ」
愛ちゃんはますますきれいになって、絵に描いたような美しい人になって。
彼女はすでに声楽の世界でセミプロで、ミニコンサートで聴いた歌声は、
あの頃よりもグッと深みと広がりを増し、
北海道で見た地平線を思い出させるほどでした。
それはきっと、あたたかなまこっちゃんに支えられているから。
朝の目玉焼きのようなオレンジ色の幸福の光が、彼女を包み込んでいます。
眩しい光を手に入れた愛ちゃん。
すこし、うらやましい……
- 670 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:41
-
「あさ美ちゃんは、アホやなぁ」
「え?」
「ううん」
愛ちゃんの瞳はまっすぐだから、
私はまた心を読まれてしまったのかなと思ってうつむく。
もしも、あの時。
まこっちゃんが私を好きと言ってくれた時にうなずいていたら、
今の愛ちゃんの幸福を感じていたのは私だったのかもしれないなあなんて、
そういうこと考えちゃうのは、私の弱さだな。
- 671 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:42
-
ため息をつく。
もう一度、幸せになりたい。
あの夏の水槽の中で、ごとーさんと泳いでた頃みたいに。
胸がちぎれちゃいそうなほど大好きなあの人と肌を合わせながら私は、
この世の中にこんなに大きな幸福があるんだって驚いていました。
お父さんが死んじゃったの、なんかわかるなって。
きっとお父さんは、お母さんのことや私たちのことも大切に思っていて、
でもどうしても手放したくない幸福を見つけてしまって。
………身勝手な選択。許せないけど、わかってしまう。
私には確かにお父さんの血が流れてる。
あんなに憎んだお父さんの血が、私を狂わせる。
ごとーさんに溺れていくこと、涙が出るほど幸せなのに、恐怖もあった。
お父さんみたいになりたくない。
お母さんや妹たちを悲しませたくない。
未来を、捨ててしまいたくない。
- 672 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:43
-
18時になると、私はいつも自分の弱さと必死で戦って、
ほとんど逃げるようにごとーさんから離れていました。
ココロは、ずっと一緒にいたいと叫んでいたけど、かたく耳をふさいで。
だって、一度誘惑に負けたら、すべてを捨てて溺れきってしまう。
脳裏に焼きついたごとーさんの笑顔にうつつを抜かして、
あっという間に信じられないほど成績を落としてしまうくらいなのです、私は。
ごとーさんは、最初、私がちゃんとお姉さんしてるのが好きって言ってくれました。
それから、『あと5分だけキスしよ?』なんてかわいいワガママを言うようになって、
いつからか、どんどん苦しそうに、寂しそうになっていった。
ホントは気づいていたけど、ずっと気づかないふりをしていました。
だって、私だって、もう気が狂いそうなほど、そばにいたかった。
それに、胸がざわざわとするほど心配だった。
金色の光を纏った、魅力的なごとーさん。
いつだって、誰かが私からあの人のこと、奪っていっちゃうんじゃないかって。
もう考え出すときりがなくて、全部、遮断していたんです。
とにかく、絶対にお父さんみたいにはならない。
私は、遠い未来の夢を持つことにしました。
ごとーさんと一緒に、いつか小さなカフェとかできたらうれしいな。
ごとーさんが安心してお料理をつくれるように、私、しっかりしなくっちゃ。
そう思うと、すうっと気持ちがほぐれ、とても上手に毎日が過ごせました。
ただ重荷なだけだった勉強にも、目標ができ。
なのにあの人はどんどん冷たくなって、乱暴になって……
- 673 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:43
-
「あさ美ちゃんも、あいかわらずやの」
愛ちゃんの声に、ハッと顔を上げました。
いけない。私、また。
「……あ、ごめん。ボーッとしてた」
「また、後藤さんやろ?」
ストレートな愛ちゃんの言葉にドキッとする。
誰かの口から「後藤さん」なんて響きを聞いたの、久しぶりです。
いかに自分だけがあの頃のままか、痛感します。
「いまどき、そこまで初恋を忘れられんってヒト、珍しいのー」
「……そ、かな?」
「ま、お陰で私は助かったんやけど」
「え?」
「ふふっ、あさ美ちゃんはアホやなー」
またノロケー?
ふざけて言い返しながら私は、そうかもしれないな、なんて思う。
私、頭がおかしいよね、なんて。
- 674 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:44
-
まこっちゃんは、ほんとはとても勇敢な人です。
あの時、夕陽の土手で私の目の前に凛と立ったまこっちゃん。
守りたい、大切にする、熱い瞳でそう言われる心地よさ。
『まるごと、好きだよ、全部』
傷だらけになるのを覚悟のうえで、
記憶の牢獄に閉じこめられてる私を助けにきてくれた親友。
ずっと笑顔で、私のこと見守ってくれてた人。
理性は、この苦しみからもう逃げ出そうって叫んでいました。
この人の手をとって! 大好きな人でしょ?
そう、まこっちゃんは、真っ暗闇の私の心をいつも和ませてくれた人。
彼女となら、今度こそ穏やかに幸せになれる、きっと。
……だけど、私はどうしてもその手をとれなかった。
理性以外のすべてが、牢獄のなかにいたいと叫んでいたんです。
やさしい人に愛されるより、あの人のことで苦しんでいたい。
ずっと、あの人のものでいたいと。
- 675 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:45
-
まこっちゃんの前で、迷って、揺れて、逃げ出したから。
だからますます悲しませて、気まずくなって、私って馬鹿だなあと思いました。
そんなあたしたちの軋んだ空気に愛ちゃんが気づかないわけなくて、
とぼとぼとひとりで帰りかけた放課後、部活に行ったはずの彼女が追いかけてきて。
『まこっちゃんに、言われたの?』
その一言に、ものすごく驚きました。
こんなことは絶対に言えないと思って、一生内緒だと思ってたのに。
愛ちゃん、まこっちゃんの気持ちにずっと気づいてたんだ……
うつむいて黙り込んだ私に、愛ちゃんは静かに訊ねてきました。
『まこっちゃんは、どこ?』
すべてわかってる瞳。有無を言わさない瞳。
ほんとは臆病だなんて、やっぱり違うんじゃないかな?
もう一度、強い口調で訊ねられて、
私は言っていいものかと迷いながらもボソボソと呟きました。
たぶん、土手のとこと、思う、けど……
パッと踵を返して駆け出した愛ちゃん。
私はあわてて、その後ろ姿に声をかけました。
『あの、行かないほうが、いいと思うよ……!』
まこっちゃん、きっと愛ちゃんに知られたくないんじゃないかなと思ったから。
私なんかにフラれて落ち込んでるとこ、
きっと誰にも見られたくないんじゃないかなって思ったから。
- 676 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:46
-
愛ちゃんは立ち止まり、ゆっくりと振り返って。
その、ひどく傷ついた瞳。
ドキッとして、私は思わず胸のところをおさえました。
見たことのない悲しい色……推薦入試に落っこちた時よりも……どうして……?
『……あさ美ちゃん、あたし、まこっちゃんが好きなんや』
すうっと血の気が下りて、目の前が暗くなりました。
あ、私、愛ちゃんも失うんだ。そう覚悟した、あの瞬間。
愛ちゃんは、そんな私を見て、なぜかすこし申し訳なさそうに微笑みました。
『あたし、迎えに行かな』
『…………………』
『まこっちゃん、動けんくなってるから、きっと』
ごめんね、うまくいかんかったら。
そしたらきっと、あたしたち三人、たぶん、もう………
まるで気づいてなかった、トライアングルに潜んでた秘密。
ううん、気づく気がなかった、たぶん。
ごとーさんのことで塗りつぶされてたココロ。
毎日ちゃんと暮らしてるような素振りで、でも、何も見えなくて、何も見てなくて、
いつだって一番近くにいてくれた大切な親友たちの気持ちさえ、
ほんとはまるで気にかけていなかった………
- 677 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:47
-
愛ちゃんは私に何の恨み言も言わなかったけど、
去り際にもう一度振り返り、まこっちゃんを悲しませた私を小さく責めました。
『あさ美ちゃん、まこっちゃんは、ほんとにやさしい人やよ?』
そうだね。
血がにじむように、涙が零れ落ちました。
ごとーさんは冷たい人。私から何もかも奪ってしまう。
ココロも、カラダも、運命も、親友たちさえも。
だけど………
- 678 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:48
-
洗った手をぶんぶん振りながらまこっちゃんが戻ってきて、
愛ちゃんは、あーあというように自分のハンカチを取り出しました。
にこにこしながら、おとなしく手をふかれているまこっちゃんは、
前よりももっと甘えん坊さんになったみたい。
愛ちゃんを信じきってる笑顔は、搾りたてのフレッシュジュースみたいに陰りがなくて。
私はさっき、もしもまこっちゃんの気持ちに応えていたらなんて考えたことを、
すごく恥ずかしく思いました。
あの時はものすごく悲しい気持ちになったけど、応えなくてやっぱり正解だったんです。
もし、そのやさしさに甘えていたら、彼女をこんな笑顔にはしてあげられなかった。
愚かな私はきっと、まこっちゃんを
ごとーさんの身代わりにしてしまっていたと思います。
似てるとこあるから、すこし。
だから、好きだなあって思ってたから。
「ねぇ、なんでそんなに忘れられんの?」
「えっ? あ、いや〜……」
「なになに、何のハナシー?」
「まこっちゃんは、いいの」
「あーー! またハブにしてぇ!!」
- 679 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:49
-
帰り際、愛ちゃんは、まこっちゃんの車(オガワッショイ2号だそうです)の
助手席に乗り込みながら、私の顔をちょっと見上げて言いました。
「まだ、忘れたくない?」
……うん。
珍しく正直にそう答えた私に、愛ちゃんは、
まあいいけどって感じに肩をすくめました。
「ほしたら、連絡とってみたらいいのに」
「えっ?……いや〜……」
それは、ちょっと。
もじもじとうつむいた私。
連絡をとらない理由は、いろいろあります。
だって、迷惑だったら嫌だし。
もう、恋人とか、いるんじゃないかなと思うし。
……そして、ただ思い出話をするのは、私にはまだつらくて。
- 680 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:50
-
「ほんと、重症や」
「愛ちゃんだって、重症でしょ?」
「なにが?」
「まこっちゃんに」
「アホ」
鼻のとこをくしゃってした愛ちゃん。
もう知ってるよ、まだ時々、私にヤキモチ妬いてること。
ちょっと素っ気ない大人びた笑顔の裏で、
もうとっくに消えちゃってるまこっちゃんの昔の想いを気にしてて、
それでも、私のことを心配して、大切にしてくれる大好きな親友。
尊敬してるし、とても感謝してるんだ。
私も愛ちゃんみたいになれたらな。
理性は囁く。あんなふうに凛々しく、未来を追って歩かなくっちゃ。
だけど隙あらば記憶の中に閉じこもって、私はあの人の記憶をリピートする。
だから、いつまでも忘れられない。
忘れたくない、あんな人は、ほかにいない。
理性以外の、すべてがそう叫んでる。
- 681 名前:心音 投稿日:2004/08/05(木) 23:51
-
だって、彼女が話していたのは水の中の言葉。
あの人は私の手をとり、美しい泡が立ちのぼる見たことのない世界に連れていった。
固く閉ざしていた私の秘密も本当の姿も、あの人の指で裸にされて。
さあ、あたしと一緒に溺れよう。
深い水の底から、仄かに光射す遠い水面を見つめよう……
静かに耳に流し込まれた誘惑は、かすかに死の匂い。
私の中の危険な血が、恍惚に震えながらあの人にすがりついた。
逃げ出したいほど恐ろしく、あらがえないほど満たされた、あの人の腕の中。
あんな人、いない。
ガラスのような瞳。ひんやりとした肌、甘い誘惑の囁き。
境目がなくなりそうなほど求められて、すべて支配されていると感じて。
傲慢な人。身勝手な人。残酷な人。
だけど、金色に輝く私の……
- 682 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/05(木) 23:51
-
本日はここまでといたします。
- 683 名前:みぃ 投稿日:2004/08/05(木) 23:54
- ぼーっとしているようでいて、
考えが頭の中をかけめぐってる感じが、
こんこんっぽいなぁと。
リアルタイムで拝読できて幸せですた。
- 684 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/06(金) 17:39
- 一気に読みました。
五年後も「まこっちゃんは、あいかわらず」でなんとなく
嬉しかったです。個人的には某映画(先頭が「せ」で最後が「ぶ」
のあの映画)より泣けました。
- 685 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/06(金) 17:42
- おがたか好きなので、前スレからの流れからレスを控えてましたが、
今回の更新メッチャ悶えました。
それで、こんこんのことが凄い心配になってきましたよぉ・・・
この小説の3人の関係、最高ですね。
- 686 名前:名無し読者79 投稿日:2004/08/06(金) 17:57
- 紺ちゃんは、この二人と出会えて本当良かったな〜と思いました。
それにしてもまこっちゃんは、和みますね。可愛いです。
- 687 名前:685 投稿日:2004/08/06(金) 18:01
- 書き込んでから、焦った。時間被りすぎだよ・・・
684さんと自分は別人です。684さん、何かごめんなさい(-人-;)
- 688 名前:ぽち。 投稿日:2004/08/06(金) 21:01
- 紺ちゃん一人の時は、あまりに痛くて何となくお返事そびれました。
でも今回、三人のやりとりを読んで、楽しくなり又癒されました。
三人とも愛しいので、紺ちゃんにも、是非幸せになってほしい。
続きが楽しみです。
- 689 名前:名無しどくしゃ 投稿日:2004/08/07(土) 08:23
- 切なさに磨きがかかってますな。・゚・(ノД`)・゚・。
実はまこあいヲタでして、作者様がまこあいを書かれていることが、
とても嬉しくて。嬉しくて。涙が出そうです。
個人的に小ネタがツボでしたw
- 690 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/08(日) 23:12
- 683> みぃ様
それにしても、うちの紺ちゃんはボーッとしすぎですよねw
周りの人たちはきっとハラハラしちゃってると思います。
684> 名無飼育さん様
ありがとうございますw 雪ぐまはそのベストセラー、まだ読んでないんですよ。
書くほうが楽しくなってしまい、読書量が減る傾向w いかんですなぁ。
685> 名無飼育さん様
仲良し3人組を愛していただいてうれしいです。これでこんこんが幸せなら、
なにもいうことないんですけどねぇ。愛マコも案じています。
686> 名無し読者79様
紺ちゃんは二人に助けられ、二人は紺ちゃんから何かを学び……。
子熊のようなまこっちゃん同様w、ずっと変わらないでいてほしい関係です。
688> ぽち。様
きっと苦しいのに、長い長い片思いを手放そうとしない紺ちゃん。
仲良しの愛マコの姿に癒されつつも、悲しくなったり…。さてさて…。
689> 名無しどくしゃ様
初のまこあいで緊張しつつw でも、この二人、どうしてもオモロくなってしまうんですけど〜w かわいい二人ですね。
それでは、本日の更新にまいります。
- 691 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:14
-
『紺野、こっち来て』
リビングの真ん中にある大きな黒革のソファ。
ごとーさんは寝ころんだまま、よくそう言って私を呼びました。
甘えられてるみたいでうれしい。求められてるみたいでうれしい。
手を引かれて、折り重なるように横になると背にまわされる腕。
胸のところに鼻先をおしつけられるとくすぐったくて。
笑って身をよじる私に、ごとーさんは拗ねたような声をあげます。
『だめ。紺野は誰のもの?』
『ごとーさんのもの』
『じゃあ、逃げちゃだめ』
だって、くすぐったいです。
幸せな気持ちで私はごとーさんの髪を撫でて。
まっすぐな、さらさらの茶色い髪。
すうっとすくいあげると指先から零れてゆく煌めき。
なんだかハープの音色を思い出します。
キラキラキラ、サラサラサラ。
- 692 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:14
-
うらやましいな。
こんな髪になりたい。
ごとーさんとおつきあいするようになってから、
私は毎朝早起きして、ヘアアイロン命。
鏡の前で必死になってるその姿は、お泊まりした時にもう見られちゃってて。
『紺野の髪って、そうだったんだ』
『くせ毛じゃないですっ』
別にいいじゃん、くせ毛だって。
ごとーさんは、そう言って笑うけど。
あなたは三つ編みをほどいた私が好きでしょう?
まとめてるよりおろしてる時のほうが、髪を撫でてくれる確率が高い。
その時、さらさらだなあって思ってほしいです。
つやつやだなあって思ってほしいです。だから。
- 693 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:15
-
あーあ、ごとーさんの髪、うらやましいな。すごくきれい。
肩甲骨の下まであるサラサラストレートヘア。
『なんか、この髪型飽きてきた。パーマかけよっかな』
『だだだだダメッ!』
『んあ? なんで?』
『こ、校則違反ですっ』
ほんとは、もったいないですっ!って叫びたいけど。
でも一応、もっともらしい理由で。コホン。
『わりと似合うらしいよあたし、ウエーブも』
『……パーマかけてたことあるんですか?』
『ううん、カーラーでさ。けっこう雰囲気変わるよ』
女の子っぽくなるっていうかー。
指先で自分の髪をくるくるといじりながら、のんびりとそう言うごとーさん。
まるで気づいてない、私の不機嫌。
わりと似合うらしいよ、だって。
ねぇ、あなたに似合うといったのは誰ですか?
『……私はまっすぐなのが好きです』
『ふうん?』
あなたは少し髪を揺らして。
イメチェン禁止かぁって、可笑しそうに呟きました。
- 694 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:16
-
『禁止ってわけじゃないですけど……』
『あたしはいろんな紺野が見たいけどなー』
ショートとか、ウエーブとか。
もっと大人っぽい感じとか、ボーイッシュなのもいいかもね。
『検討します……』
『検討して』
ギシッとソファを軋ませながら、あなたは寝返りを打って天井の方を向く。
ふわあっとあくびをして、目を閉じてむにゃむにゃと微笑む。
リラックスしてるその様子に、私も安心するけれど。
ボーイッシュ、その言葉にちょっとだけ引っかかる私。
そういえば、後藤さんは吉澤さんと仲が良くて、
よっすぃ〜よっすぃ〜って甘えてるのを時々見かけます。
ほんとは、あんな雰囲気の人が好きなのかな、中性的な……
でも、それって私とは、全然違う……
- 695 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:17
-
あなたは何も言わないけれど、私が初めての恋人じゃないはずです。
こんなこと気にしてるなんて、私ってほんとにヤキモチ妬きですね。
前のヒト、何人くらいいるのかなあ。
どんな人だったのかなあ。
女のヒト? 男のヒト?
初めてのキスは誰と?
初めてのことは?
ねぇ、あなたはいろんなことに馴れすぎている。
巧みに私を追いつめるその言葉、仕草、指先……
聞きたいけど、なんだか聞けない雰囲気です、ごとーさんって。
だから、つまんないこと言いたくないです、私。
だけど、自分の中にすごく卑怯で、悪い私がいる。
あなたがシャワーを浴びてる時に、テーブルに置かれたままの携帯が気になったり。
雑然と本やノートが押し込められた本棚の中に、
昔の恋人の姿が写ってるアルバムがあるんじゃないかと思ったり。
- 696 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:17
-
どうしよう、覗いてみたいって思ってる。
あなたの携帯のなか、アルバムのなか。
だけど、もしもそんな姿を最愛の人に見られたらと思うと……。
それに、卑怯なやり方で知った情報は、自分の首を絞めるだけ。
ねぇ、ほんとはひとつだけ知ってるんです。
ごちゃごちゃのアクセサリーボックスの一番奥底に、
隠すように小さな袋に入れて沈めてあったプラチナのシンプルな指輪。
内側に刻印があった。“All of you. MAKI.”って。
勝手に取り出して見たことがばれないように、私はそうっと元に戻して。
見なければよかったと、いつまでも後悔しました。
All of you. MAKI. ……あなたがすべて。真希。
誰かから贈られたもの?
それとも、ごとーさんが誰かに贈ったもの?
どちらともとれるメッセージ。
もしかしていつか私にくれるつもりかもなんて、
好意的に考えてみようとしたけどダメでした。
だって、あきらかに新品じゃなかった。小さな傷がついていました。
それは、贈ったにせよ贈られたにせよ、
それなりに長い期間、ちゃんと誰かの指を飾っていたということで。
- 697 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:18
-
見なければよかったと、いつまでも後悔しました。
あんなふうに仕舞ってあるからには、すでに終わった恋でしょう。
でも、あなたがすべてとプラチナに刻むような恋が、確かにあなたのなかにあって。
私の知らない、過去のあなたのなかにあって。
それは、膝が震えるほど怖かった。
- 698 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:19
-
クリスマスプレゼントはどうしようかと訊かれた時、
私は思い切ってさりげなく口にしてみました。
『おそろいの指輪、とか?』
ごとーさんは、へぇ?という顔をして。
紺野って、指輪とかほしいんだという顔をして。
とってもうれしそうに微笑んでわしゃわしゃと髪を撫でてくれましたけれど、
でも、あの人は少し考えてこう言いました。
『校則違反じゃないの?』
そうですね。
私は、悲しい気持ちでうなずきました。
今の私たちは、指輪を交換しても身につけていられない。
やっぱりあの指輪は、ごとーさんが誰かに贈って返されちゃったものなのかな。
学校なんてもう通ってない、年上の人とかに……
あ、なんか、そうかも。
年上の人だ、きっと。
どこか大人びてるごとーさん。
覚えにくい名前のお気に入りのお酒……
- 699 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:20
-
『キーホルダーとかは? ちゃんとしたやつ。お揃いでさ』
ごとーさんの提案に、コクンとうなずきました。
そしてまたさりげなく、私はごとーさんのキモチを確かめようとしました。
キーホルダーにメッセージを刻んでもらいましょう、なんて。
ごとーさんは、また、へぇ?という顔をして。
紺野って、そういうことするの好きなの?って顔をして。
『恥ずかしいなぁ、ちょっとこっち見ないでよ?』
『ごっ、ごとーさんこそ、覗き込まないでくださいよっ?』
照れながらお互いに背を向けて、刻んでもらうメッセージを専用の用紙に書き込みます。
なんて書いてくれるのかな、ごとーさん。
ドキドキしながらこっそり振り返ると、
ごとーさんは、「んー?」って感じで目をつむって天をあおいでて。
その真剣な様子に、幸せな気持ちになりました。
ごとーさん、私のことをこんなに大切にしてくれてる。
一生懸命、私に贈る言葉を考えてくれてる。
- 700 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:20
-
さあ、私も。
ペンを握りしめて用紙の白を見つめ、私は思います。
All of you.って、すっごくいい言葉。
私の今の気持ち、All of you.
ごとーさん、あなたがすべて。
A……と書いて、苦笑します。
まさかそう書くわけにはいかないですね。
偶然重なってもおかしくない慣用句だけれど、
あなたに前の恋人を思い出してほしくない。
私はすこし考えて、さらさらとペンを走らせました。
Addicted to you.
……ちょっと大胆かな? 英語だとキザになれちゃうものですね(ポ。
- 701 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:21
-
お店から出るとすぐに、
ごとーさんは待ちきれないように「交換しよ」って言い出して。
私は笑って、首を振りました。
楽しみは後にとっておきたい。
ドキドキしながら、もっとこの時間を味わいたい。
『もうちょっと、後にしません?』
『ヤだ。今がいい』
『夜、ケーキ食べてから交換とか』
『ヤーだー』
もう、しょうがないなあ。
ごとーさんは、時々せっかちな人。
なんでも思い通りにしようとする。
だけど、アヒルみたいにちょんと尖らせた唇がかわいくて、
子供みたいに、ちょうだいって差し出してる手が愛しくて、
………私、ほんとにごとーさんに弱いです。
- 702 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:22
-
ジャンケンで負けた私から先にキーホルダーを渡すことになりました。
なんだか得意げな顔でごそごそと箱を開いて、パッとメッセージを確認して、
途端に、ふにゃっ?と首をかしげたごとーさん。
『あ、あでぃ……?』
もう。そんなにむずかしい単語じゃないと思うけどな。
授業サボってばっかだから、わかんないんですよ?
私は笑って、助け船を出しました。
『アディクト。中毒、です』
おおっ、なるほど。
ごとーさんは、感心したように声をあげて、それからポッと頬を染めました。
『紺野は、中毒なわけ? あたしに』
『……そうですよ』
もう、夢中です。まこっちゃんや愛ちゃんが呆れるくらい。
ごとーさんがいないと生きていかれないです。
つらかったり、わかんないなこの人って悩むこともあるけど、
でも、ごとーさんがいないと寂しくて。
いつもいつでも会いたくて、くっついていたくて。
長い夜も、眠たい朝も、授業中も、友達といても。
『Addicted to you.です』
『ふうん』
- 703 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:23
-
うれしそうにニヤッと頬を緩めたごとーさん。
もっと中毒にしてやる〜なんて、妙にうれしそうに。
私は死ぬほど恥ずかしくなって、慌ててハイと手を出しました。
はい、次はごとーさんの番ですよ?
『えー、なんかさー、渡しにくくなっちゃったなー』
『えっ、な、なんでですか?』
『むずかしーこと書くんだもん、紺野』
『む、むずかしくないですよなにも!』
『なんかなー、あたし自信なくなってきた』
スペルとか間違ってないかなー。
ブツブツ言いながらますます頬を染めて、しぶしぶ差し出してくれたプレゼント。
待ちに待ったメッセージは、思いがけない一言でした。
Crazy my baby.
……狂った私のベイビー?
ご、ごとーさん、ぜったい文法間違ってます、これ。
いやややや、ここは意訳をするべきですね。
えええっと、かわいい君に夢中とか、そういう感じ、かなぁ?
でも、そしたらCrazy for you. とか……
- 704 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:24
-
むむむとビミョーに黙り込んじゃった私に、
ごとーさんは慌ててわたわたと説明を始めました。
『あのさっ、あたしのー、紺野じゃん?』
えっとー、紺野のこと、すっごいかわいくってー、
そんで、その、あたしもう狂っちゃってるっていうかー。
そういうの、言いたかったんだけどー。
ドクンと鼓動が脈打つのがわかりました。
紺野のこと、すごいかわいくて……
あたしもう狂っちゃってるっていうか……
ごとーさん、ほ、ほんとに?
『んー、けっこうね、ヤバい、かも、とか思ったり』
戸惑うように、照れたように、ゆらりと揺れた瞳。
もらったばかりのキーホルダーを思わずぎゅっと胸に抱きしめました。
ごとーさん、うれしい!
紺野はすっごくうれしいです!
もっと、もっと狂って。私に、狂ってください。
- 705 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:24
-
『ヤバいよ、そーゆーの』
『ヤバくない。ヤバくないですっ』
目を細めてフッと笑った、あの時のあなた。
人混みの中でコートごと抱きしめられ、口づけられて気が遠くなりました。
腕をからめて騒がしいクリスマスの街を歩きながら、
私はこの腕をぜったいに離さないって思ってた。
ううん、大丈夫。私たち離れられないはず。
だって、AddicteとCrazyだもん。
ちょっと狂った言葉を選んだふたり。
『私たち、なんだか似てますね』
『そーだよ、だから』
だから、一緒にいるんでしょ?
- 706 名前:心音 投稿日:2004/08/08(日) 23:25
-
あのキーホルダーは見るのも苦しくて、でも捨てることもできなくて、
ごとーさんみたいにアクセサリーボックスの底に沈めてしまいました。
大好きだったごとーさんのサラサラの髪は、
私と別れるのを待ってたかように短く切られてしまいました。
少年みたいに、中性的な感じに。
あの幸せだった日々の記憶。
悔しいけれど、Addicteだったのは私だけ。
あなたは“あなただけの私”にCrazyだったかもしれないけれど、
だけど、そうじゃない私のことは嫌いでしたね。
あなたを責めた私を、即座に切り捨てた。
All of you.
青い空に、私はいまでも時々呟いてみます。
あなたに言われてみたかったです、私も。
- 707 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/08(日) 23:25
-
本日はここまでといたします。
- 708 名前:オレンヂ 投稿日:2004/08/09(月) 01:05
- 更新おつかれさまです。
紺ちゃんから見るとこうなってたんですね。
あとから冷静に考えてみればわかることも
そのとき、当事者になってしまえばわからないことはいっぱいあるんだなぁ。
紺ちゃんの恋を最後までそっと見守らせていただきます。
- 709 名前:ぽち。 投稿日:2004/08/09(月) 09:08
- 最近すっかり仲良し三人組に感情移入していました。
紺ちゃんの痛みが綴られる中で、知らない間にごとーさんのイメージが悪くて。
でも今回のエピソードで、言葉を伝えるのが下手なごとーさんと、頭が良くて
少ない言葉の中から自分なりに物事を理解する紺ちゃんの関係が微笑ましく、せつなかったです。
だって、こんなにお互いのことを思っているのに… 若いからでしょうか?
もしセカンドチャンスがあれば、二人には自己完結しないで、是非コミュニケーションを大事にして
幸せになってもらいたいです。
- 710 名前:名無し読者79 投稿日:2004/08/09(月) 17:42
- 久々の二人…。なんでなんだろう…と思ってしまいます。
お互いがお互いをすごく大切にしていたんですね。
二人の笑顔が見れた気がして良かったです。
- 711 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/09(月) 21:54
- わしゃわしゃ わしゃわしゃ ^_^
- 712 名前:ましろ 投稿日:2004/08/09(月) 23:55
- 更新お疲れ様です。久しぶりの書き込みになります。
ずっと読んでいましたよ、さすが雪ぐまさんだなぁと。
今回の2人のやりとりがとても素敵で、入り込んでしまいました。
ああ、ほんとヤバイなぁって。
- 713 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/10(火) 14:38
-
☆お知らせ☆
自サイトbbsに、「美勇伝」結成記念小説、UPしました。
お時間のあるときにぜひ。
http://yukiguma.s45.xrea.com/index.htm
- 714 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/11(水) 06:12
- お互いに好きなのに些細な勘違いで別れてしまった2人がもどかしいです。
こんこんとごとーさんに幸せが訪れますように…。
- 715 名前:名無しマカー 投稿日:2004/08/12(木) 02:17
- 正反対なようで実は結構似たもの同士で、
いろんなエピソードを読めば読むほど
こんなにもぴったりな二人なのにね・・・って思っちゃいます。
- 716 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/13(金) 01:44
- 708> オレンヂ様
人の心は見えないですからねぇ。好きな人の心はなおさら……
自分の心さえ、ああそうだったのかと、紺ちゃんは思ったりもするようです。
709> ぽち。様
二人は言葉がなくても通じるところもあり、そうでないところもあり。
思いあいながら少しずつズレて軋んでいくのを止められなかったみたいです。
710> 名無し読者79様
笑顔の裏にいつも不安があった紺ちゃんと、笑うことに不安があったごっちん。
ほんとうはお互いを好きでしょうがなかっただけなのにね。
711> 名無飼育さん様
紺ちゃん?
712> ましろ様
ありがとうございます。二人のたった一度のクリスマス。
ささやかなやりとりに幸せを感じたり不安を感じたりした紺ちゃんでした。
714> 名無し飼育さん様
些細な勘違いで別れてしまうはめになるほど、二人の恋は揺れていたのでした。
臆病な二人をどうぞ見守ってやってくださいませ。
715> 名無しマカー様
ね。でも磁石も同極は反発しちゃったりしますし。
異質なところが、うまく重なり合うといいのかなあと思うのですけれど。
それでは、本日の更新にまいります。
- 717 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:45
-
初めてお会いした母の恋人は、ちょっぴり髪の毛が薄くって、
おせじにもハンサムとは言えないけれど、とってもやさしそうなオジサマ。
もう少ししたら、この人をお父さんと呼ぶ日がくるんだな。
不思議な感じです。
同じ会社の上司にあたる人だそうです。
最初は厳しくってヤな人だなって思ったのよ、なんて嬉しそうに話す母。
真面目と言ってほしいな、あさ美ちゃんたちに怖いと思われたくないよ。
そう言って母の恋人は笑い、ちょっと心配そうに妹たちのほうをうかがいました。
もうすぐ中学生になる妹たち。
新しいお父さんとかって、やっぱりちょっと複雑なのかな。
うつむいてモジモジしているばかり。
私は微笑んで、母のことよろしくお願いします、なんて言ってみます。長女らしく。
3人もコブがついてて、なんだか申し訳ないですが、なんて。
「いや、実は僕、バツイチなんですが、子供がいなくて」
「そうなんですか」
「こんなにかわいい娘がいっぺんに3人もと思うと、ほんとにうれしくてね」
仕事にも張りが出ますよ。
カラッと笑うその横顔を、母はうれしそうに眺めていて。
ああ、よかったなあって素直に思えるんです。
もう一度、恋ができてよかったね、お母さんって。
- 718 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:47
-
死んでしまった父と母とは大恋愛で、妙に豪快なところのある母は、
結婚する前にあんたのこと産んじゃったわよなんて、
思春期の私にそんなことを言ってドギマギさせたりしたものです。
勝手に私を産んだことで実家といさかいになった若い父母は駆け落ちをして。
狭いアパート暮らしだったけど、私はよく覚えています。
小さな頃3人で暮らしてた、幸せな空間のことを。
父と母はそれはもう仲が良くて、いつも小鳥みたいにくっついていて。
父は私のこと、それこそ目の中に入れても痛くないほどかわいがってくれて。
夕飯を食べ終わると、毎日のように3人で手をつないで月夜のお散歩をしました。
春には桜、
初夏には蛍、
盛夏には蝉の声、
秋にはススキの野原、
冬には雪原。
幼い私に四季を感じさせようとしていたのは、きっとどこか繊細だった父のほう。
内気で友達が少ない私を案じる母に、いいじゃないかマイペースでと笑ってた。
- 719 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:49
-
幸せだったから、とても幸せだったから、
やっと結婚の許しが出て、妹たちが生まれて賑やかになった家の中に、
急速に暗雲が立ちこめていく気配を、中学生の私ははっきりと感じていました。
大好きだった父を憎むようになったのも、その頃。
重なっていく父の嘘に気づきながら母は気丈に明るく振る舞ってて、
でもとうとう最悪のことが起きたんです。
ショックでした。
母を裏切り、知らない女の人と死んでしまった父。
気丈な母が、半狂乱で泣き叫ぶ姿。
もともとどもりのあった私は、一時期まともに口もきけなくなって、
無責任な噂と好奇の視線に傷ついて、どんどん自分の殻に閉じこもっていって。
でも、母はもっとつらそうだった。
毎晩、ものすごくお酒を飲んで泣いてた。
お酒、理性を失う液体。ココロを麻痺させる液体。
別人みたいになっちゃう母に、幼い妹達は脅えて泣いて。
そしてある日、母がポツンと東京でも行こうかって言った時、
私はため息をついて、いいよって答えたんです。
北海道は大好きだけど仕方ないよね、ここにはもういられない。
誰も私たちのこと知らない場所でやりなおそう、お母さん。
私も頑張るから。頑張るから……
- 720 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:50
-
「ええと、これ、あさ美ちゃんたちに……」
気に入ってもらえるといいんだけど。
母の恋人が恥ずかしそうに差し出したのは、都心の有名なアロマショップの袋。
あはは、なんだか似合わない。どんな顔してお買物したのかな?
妹たちは、笑顔でお礼を言ってプレゼントを受け取りました。
恋人の娘たちに何か気の利いたものあげたいという微笑ましい気持ち。
まだまだ子供の妹たちにも、伝わったみたいです。
妹たちが、さっそく包み紙を開きました。
コロコロと転がり出てきた小瓶のなかに、すばやくイランイランを見つけた私。
やっぱり入ってた……。チクッと胸が痛みます。
メジャーな精油だから、袋を見た時から、たぶん入ってるって思ってました。
イランイランって、ロマンティックな気分になるんだって。
マレーシア語で“花のなかの花”っていう意味なんだって。
アロマオイルを焚くのは嫌いじゃないけれど、
この香りだけは、いつも避けていました。
理由はもちろん、ごとーさんを思い出してしまうから。
……花のなかの花……
- 721 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:51
-
「私、これー」
下の妹が、ふいにイランイランの瓶をパッと手に取って。
私はハッとして、反射的にその指から瓶を掠め取ってしまいました。
「だ、だめっ!」
「えー、なんでぇ?」
「えっ……」
妹たちだけでなく、母も、母の恋人も驚いた顔。
あ、大人げなかったでしょうか……
えっと、どうせ焚かないんですから、妹にあげてもいいんですけどぉ。
……ううん、やっぱり、嫌だ。
「お姉ちゃん、これがいい。あと全部あげるから」
妹たちは不思議そうな顔で、でもまあいっかと肩をすくめて、
二人でわいわい言いあいながら、残りの小瓶を選びはじめました。
私は少々バツの悪い思いでうつむいて、手の中のイランイランを見つめます。
ずっと避けてきたくせに、妹にとられるのも嫌だなんて、ほんと私って……
- 722 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:51
-
「これとこれ、ブレンドするとすっごいいい匂いって知ってるー?」
「そうなの? じゃあ、私、それとそれ」
「だめだよー、私だってこの2つは絶対ほしいもーん」
「えーー!!!」
「あ、返せーー!!!」
ああ、もう、喧嘩しないで。
あわてて仲裁に入った私。
母の恋人が、感心したように褒めてくれました。
「あさ美ちゃんは、いいお姉さんだね」
「そうなの。この子がいてくれたから、今までやってこれたようなものよ」
ほんとに感謝してるわ。
あたたかい母の手がそっと私の背を撫でて、思わず涙が出そうになりました。
何も言わないけど、お母さんは、たぶんきっと、わかってます。
あの頃、高校生だった私が、初めての恋に落ちたこと。
そして、たった1年でその恋を失ったこと。
- 723 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:52
-
ごとーさんとの恋が不安定だった頃、
自分でも嫌になるくらい私は毎晩泣いていて。
だって、いちいさん、が現れてから、ごとーさんはどんどん痩せていったから。
寝不足の青い顔でぼんやりとして、時々、私のことを冷たい瞳で見たから。
ごとーさんのことがわからなくて不安で、
信じたいのに、何の根拠もない疑惑にかられて、
どんどん目の前が真っ黒に塗りつぶされていく。
喉元が焼けるほど熱い嫉妬に胸をかきむしっていた、たくさんの夜。
愛は永遠じゃない。
どんなに愛しあってても、裏切りの罠がある。
そう、お父さんみたいに……ううん、ごとーさんはそんな人じゃない。でも。
金色に光ってるごとーさん。
刃物のようなごとーさん。
冷たい炎のようなごとーさん。
ガランとした一軒家に、孤独に暮らしている人。
寂しいけれど、なんの束縛もない自由な暮らし。
真夜中だって、どこにでも出かけていける。
誰だって、あの家にあげることができる……
そう、あの人がまたあなたの家を訪れたら……
- 724 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:53
-
私の誕生日に、ごとーさんの家の前で待ってた女の人。
彼女を見て息を呑んだ気配、幽霊でも見たように見開かれた瞳、
そして私の手を握りしめて震えてた指。
……あの人がきっとごとーさんのAll of you.
『あの人ね、あたしのこと捨ててNYに行ったの』
吐き捨てた言葉のその奥に見えたのは、
恋を失って泣き叫ぶ、私が知らないあなた。
きっとまだ、あどけない頬の。
あの人は風のようにサラリと去って行き、
ごとーさんはただ青くなって硬直していました。
どんな恋をしたの? 金色に輝くあなたをフリーズさせる人。
あの日から、何かが崩れ落ちたようにおかしくなったあなたが怖くて。
私、あの人みたいに大人っぽくないけど、かっこよくないけど、
でも、あなたのこと、こんなに愛してます。
だから、どこにもいかないで。離れたくないんです、私も。
許してください。そんな寂しい瞳で見ないで。
私、ずっとあなたのそばにはいられないけど。
でも、待っててください、いつか。必ずいつか。
だから、どこにも行かないで。
私以外の人に目を向けたりしないで。
私以外の誰にも触れないで。触れさせないで。
あの人のこと思い出さないで……
お願い、ごとーさん……ごとーさん……
- 725 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:54
-
鳴らない電話。
かけられない電話。
すべてを振りきるようにノートに走らせてるペンを握りしめる、苦しい夜。
するべきことはたくさんあって、
でも、ほんとにしたいことはひとつだけ。
ごとーさん、今すぐ会いたい。あなたの胸で眠りたい。
叶わない、叶えられない、私。
- 726 名前:心音 投稿日:2004/08/13(金) 01:55
-
ぼんやりして肩を揺すられるまで返事もしなかったり、
洗ってるお皿を次々に割っちゃったり。
お母さんは、きっと気づいてたと思います。
ごとーさんと別れてからしばらくは、とくにひどかったから。
だけど、怒ったりとか困った子ねとか、そういうこと全然言いませんでした。
お母さんは、きっと気づいてたと思います。
いろいろ気づいてて、黙っててくれたんだと思います。
誕生日やクリスマスやバレンタイン、いろんなイベントのたびに、
私がついていた小さな嘘にも、きっと。
『……あの、明日ね、まこっちゃんちに泊まってもいい? その、愛ちゃんも来るし……』
『いいわよぉ。たまには楽しんでらっしゃいな』
大人みたいな恋をしてた私。
お母さんの顔、まっすぐに見られなかったけど、
でもきっと、微笑んでてくれてたように思います。
何も聞かないで、私が選んだ恋を信頼して、快く送り出してくれた。
だから、私も裏切れなかったんだと、思います。
- 727 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/13(金) 01:56
-
本日はここまでといたします。
- 728 名前:Fenlir 投稿日:2004/08/13(金) 02:33
- 更新お疲れ様です。此方にレスを付けるのは初めてですが。
心理面での様々な葛藤・・・切ないですがいいですねぇ。
私は今現在リアルでこれに似た状況下にあるので何となく共感できますね。
次回の更新も心待ちにしてますね。
- 729 名前:名無しぽき 投稿日:2004/08/13(金) 05:56
- 母よ…。・゜・(ノД`)・゜・。
紺野の中はまだまだあの人のことでいっぱい。
あぁ、助けてあげてと、切に願いたいものです。
- 730 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/13(金) 09:26
- あぁ〜紺ちゃんのお母さん素敵です!
紺ちゃんも頑張ってるんだなぁ〜
彼女の心の中の事はものすごくリアルで共感できてて切なくて切なくて…・゜・(ノД`)・゜・。
続き待ってます。頑張ってください。
- 731 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/13(金) 13:33
- あ〜いいですねぇ。毎回の更新がカナリ楽しみになってます。
紺野さんの頭の中をこんなにもいっぱいにさせるあの人は今どうしてるんでしょうか・・・
- 732 名前:名無し読者79 投稿日:2004/08/13(金) 19:04
- こんなことがあったんですね…。
前にも書きましたが読み返してみるとこう感じてたんだとかわかって
なんとも切ないですね。。
- 733 名前:684 投稿日:2004/08/13(金) 20:53
- <Crazy my baby>と<Crazy for you>って、あの歌からきてるのかな
と思ったり。今更ですが。確かに、あの歌のような関係(?)
ですね。あの本は私も授業の成り行きで読んだだけですから(w
寛大なお母様ですね。素敵ですw
- 734 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/18(水) 19:08
- 728> Fenlir様
そうでしたか……。恋人同士のことが二人にしかわからないように、
家族のことも当事者にしかわからない葛藤がありますよね……。
729> 名無しぽき様
∬∬´▽`)<助けたげるってゆったのに、ヤダってゆーんだもん。
と、うちのまこっちゃんが申しておりますw 川*’ー’川<当たり前やわ。
730> 名無し読者様
紺ちゃんママは、苦労しただけあって粋な大人のオンナですね。
でも、だからこそ裏切れなかった紺ちゃん。反対されてたらもしかして…?
731> 名無飼育さん様
どうしてるんでしょうねぇ。ちゃんと調理師になったのかなあ。
更新、楽しみにしていただいてうれしいです。これからもヨロシク!
732> 名無し読者79様
ごとーさんには見えていなかった紺ちゃんの家庭の事情と過去。
嫉妬に泣いてたたくさんの夜。だけど、何も言わなかった紺ちゃん……(涙
733> 684様
Crazy my babyは、うちのごっちんがひとりでよく口ずさんでた、
もっとちょうだいっていうあの歌です。文法違ってるけどw、切ない気持ちがこもっていたのでした。
それでは、本日の更新にまいります。
- 735 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:10
-
左胸に、あたたかな重さを感じて目をさましました。
カーテンごしの仄かな月明かり。
私を起こしてしまったことに気づいて、
ごとーさんはバツが悪そうに身を起こしました。
『死んだみたいに寝てるから』
私があんまり深く眠るから、ごとーさんは不安になるんだそうです。
眠る私の左胸に耳をあてて、心音を確かめてしまう人。
死を恐れるあなたの孤独が胸にせまり、
私はごとーさんに腕を伸ばし、しっかりと胸に抱きしめました。
『大丈夫ですよ、私は』
『うん』
腕の中で目を閉じるあなたは、いつもの大人びたあなたと違う。
トラちゃんがよくそうしたように、鼻先を私の肌にこすりつける。
甘えられるのは不思議にうれしくて、私は彼女の額に唇を落としました。
- 736 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:11
-
一体、家族がいないというのはどんな気持ちなのでしょう。
私が父を失った14の歳に、ごとーさんはお母様も弟さんも失って。
高熱を出して苦しんでたあの夏の日の、寂しげな瞳が忘れられない。
私でよければ、ずっとそばにいてあげたい。
あなたの新しい家族になりたい、いつか。
私はとても平凡で、結婚とかすぐに夢みたりするんです。
可笑しいですね、私たちの恋はそういう形はとれないのに、
私、ウエディングドレスとか着てみたいなあって思うんです、あなたの隣で。
ごとーさんはどうかな?
タキシードもドレスも似合いそうだな。
そうだ、両方着てもらいましょう。
頭の中でくるくると着せ替えて、くすくすと笑った私に、
ごとーさんは眠たげな目を一瞬上げましたが、
ほどなくストンと寝入ってしまいました。
- 737 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:12
-
腕の中から聞こえてくる、規則正しい寝息。
このままじゃ腕が痺れちゃうかもと思いながら、私はあなたを離せない。
ぼんやりと月あかり差すカーテンの白、
薄闇に浮かび上がるいつもすこし雑然としたあなたの部屋、
机の上に無造作に置かれた鍵にはお揃いのキーホルダーが光り、
そのわきにやっぱり雑然とアクセサリーが転がってる。
目に映るすべてのものが愛しくて、
あなたとずっとこうしていたいと思います。
大切な人を起こさないように気をつけながら、
私はベッドサイドに置いたままだったチョコレートに指を伸ばしました。
あなたがつくってくれたトリュフ。
私を酔わせようともくろんだそれは、びっくりするほどラム酒がきいていて。
甘い。
舌の上でゆっくりと幸せな甘さを転がしていると、
じわりじわりとアルコールが思考に染み込んでくるのがわかります。
眠気も手伝って、ゆらりゆらりと揺れていく視界の中で、
私はすこし感傷的に、確かめようのない二人の過去に思いを馳せていました。
私たちきっと、前世でも恋人だった。
見えるような気がする。記憶の奥底に、美しい瞳を持つあなたの姿。
はるか遠くに生まれ落ちても、運命は私たちを出会わせた。
そしてこんなふうに肌を合わせて眠る、やさしい夜を連れてきた……
- 738 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:13
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- 739 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:14
-
目をさました時、私の頬には涙が溢れていました。
深夜の闇の中。ひとりきりのベッドの上。
まだかすかに残っている、眠る前に焚いたイランイランの香り。
ずっと封印していた香りが運んできたのは、バレンタインの夜の夢でした。
すごく、リアルだったな。
腕の中にまだごとーさんがいるようで、
私はその腕でぎゅっと自分自身を抱きしめました。
感覚が、あまりにはかなく消えてしまわないように。
舌の上には、あのトリュフの甘さが残っているようです。
箱を開けたら小さな宝石みたいにお行儀よく並んでたトリュフ。
ごとーさんの指先は本当に才能に溢れてて、
そのへんのお店のものよりもずっとずっとおいしくって。
- 740 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:15
-
私、手作りにしなくて良かったなあって思ったものでした。
すごく迷ったけど、ごとーさんに私の手作りなんておこがましくって、
その頃、話題になってた自由ケ丘のショコラティエのお店まで買いに行ったんでした。
ごとーさんは、一度食べてみたかったんだと喜んでくれて、
もぐもぐ食べて、んーやっぱおいしいね、なんて感心してました。
ごとーさんのつくったトリュフのほうがおいしいですと言うと、
んなわけないでしょって、あの笑顔で、にこーっと笑って。
『紺野は、お菓子はつくらないの?』
『そう、ですね。食べる専門で』
『ふうん、面白いよ。来年は一緒につくろっか?』
『えっ、えっ? いやぁ、自信ないです……』
私たちにバレンタインが1回しかないなんて、あの時は思わなかった。
嘘でも、笑って「ハイ」って答えたらよかった。
素直に、ごとーさん教えてくださいねって甘えたらよかった。
こんな小さな後悔も息苦しく私を責め、
枕に額をうずめて、息を殺しながらひとしきり泣きました。
薄い壁の向こうで眠っている妹達に聞こえないように。
- 741 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:16
-
体中の涙を流し終えてしまうと、私はすこし落ち着いて、
闇の中でぼんやりと天井を見上げます。
人間はみな、ひとりで生まれてきて、ひとりで死んでいく。
よくわかっています。自分を裏切らないのは自分だけだし、
結局のところ、ひとりで立って歩いていかなくっちゃいけない。
いつだって、そう思ってきたんです。
裏切りや、無責任な噂に傷つきたくなければ、ひとりが一番だと。
自分の心を守れるのは自分だけなんだと。
怖がりの私、鈍くさくて上手に話すことさえできない私。
いじめられるなら、笑われるなら、友達なんかいなくてもかまわない。
だけど、あの中庭であなたが教えてくれたこと。
その指先で私の手を取り、声を出してごらんと囁いて、
ほら何も怖くないと手を引いて、明るい世界に連れ出してくれて。
そう、最初は、とてもやさしく穏やかに。
- 742 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:17
-
だけど、やさしいはずの先輩は、
次第に竜巻のように私を振り回しはじめて、
密かに纏っていた堅い鎧をはじき飛ばし、強引に生身の私を引きずり出しました。
『ごとーさんといると、世界が、全然違って見えます』
『じゃあ、もっと変えてあげる』
ごとーさんは、何の躊躇も予告もなく私に手を伸ばしてきて、
知らないことだから私は怖くて、何度も待ってと懇願したのに許してくれなかった。
薄くアトが残ったほどごとーさんは強く私の首筋を噛みながら私を奪い、
引き裂かれる痛みに悲鳴をあげた私の耳に届いたのは、呪文のような囁き声。
『あたしたちに必要なことだよ』
いつもそうでした、ごとーさんは。
強引で、思い立ったままに、自分の好きなようにして。
私のこと待ってなくて、待ってなんてくれなくて、馴染ませようとして。
中庭でのいきなりのキスも、プリクラも、髪形を変えることも、
制服の着こなしも、おしゃれも、路地裏での恋人のキスも、初めてのことも、
この香りのなかで一緒にお風呂に入ることも、
二人きりでいることも、そして別れさえ。
『慣れないことにいちいちビビるの、紺野のクセだね』
悪いクセとは言わなかったけれど、いつもごとーさんの目は笑ってました。
いいから、あたしの言うとおりにしてみなよ。
あんたの人生、変えてあげる。
- 743 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:18
-
確かに、私の人生は変わりました。
まともに話せるようになって、味方になってくれる友達もできて、
あなたが教えてくれたことも戸惑いながら私は結局、好きになっていって。
キスだって、プリクラだって、肌を合わせることも……
だけど、鎧を剥がれたまま放り出された私は、
何も知らない頃のように頑なになりきることもできず、
こうして誰も知らない涙を、闇の中に流したりするのです。
ひとりで眠るのも当たり前だったはずなのに、
こんなに寂しい気持ちになるのは、あなたの隣で眠ることを知ってからですね。
起き上がり、アロマポットに再び数滴のイランイランを垂らしました。
ごとーさん、私たち、あんがいあっけなく途切れてしまいましたね。
あの頃、運命だと思ってたんです私。
あんまりあなたのことが好きだから。
冷静に考えると、あなたって子供っぽくてわがままで、
妙に素っ気ないとこあるし、考えてること全然わからないし、
サボリ魔で、全然ルールとか守らなくて、お酒とか飲むし。
何度も泣かされて、不安になって、
でも、私、気が狂ったみたいにあなたのことが好きでした。
あなたから溢れ出し、天に立ちのぼる金色の光。
私には誰よりもはっきりと見えている気がしていました。
だから運命の人だと、思っていたんです。
- 744 名前:心音 投稿日:2004/08/18(水) 19:18
-
やわらかに懐かしい香りが漂ってきて、私は再び瞼を閉じました。
そして胸の前で指を組み、そっと祈りました。
また、あなたが夢の中を訪れてくれますように。
私に、はかなく熱い恋の夢を見せてくれますように。
つまりこれが、私の運命なのかもしれません。
- 745 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/18(水) 19:19
-
本日はここまでといたします。
☆お知らせ☆
自サイト小説ページに、こんごま短編『ブラヴィッシモ』をUPしています。
BBSとあわせて、お時間のある時にぜひ。
http://yukiguma.s45.xrea.com/index.htm
- 746 名前:ぽち 投稿日:2004/08/18(水) 21:07
- 読んでいるだけで、胸が痛いです。
紺ちゃん、過去に生きないで、一歩前に進む勇気を持って欲しい。
ごとーさんは今どこにいるんだ!って思いました。
- 747 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/18(水) 21:43
- 紺ちゃーん・・・・・・
胸が痛いっす・・・
- 748 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/18(水) 21:49
- 痛いなぁ…読む度ぴりぴりしちゃいます。
ああ、次回こそ物語が動くのか…。
今はとにかく見守りたいです。
- 749 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/18(水) 22:16
- せつねぇよぉ・・・・
- 750 名前:ゆんせ 投稿日:2004/08/19(木) 01:08
- もうつらいですよ。
読むことによりのが自分の傷口を掘っているようで。
でも、これが雪ぐまさんの魅力です。
続きがんばってください。
- 751 名前:名無しマカー 投稿日:2004/08/20(金) 00:55
- 紺ちゃん辛いですねぇ・・・
今は痛くてせつないけれど、揺り起こされた記憶が
いつか紺ちゃんのチカラになってくれたらいいなと願ってます。
- 752 名前:名無し読者79 投稿日:2004/08/20(金) 20:53
- いつまでも大事にしている紺ちゃん…(泣
彼女の悲しみを無くしてあげたいです…。
- 753 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/22(日) 23:24
- 746> ぽち様
うちのごとーさん、今どこにいるんでしょうねぇ……
囚われの身の紺ちゃん、彼女が選んでることだけど、見てるほうは心配ですよね。
747> 名無飼育さん様
痛いっすねぇ・・・ 川o・-・)<ごとーさん・・・
748> 名無飼育さん様
超特急だったごとーさん。紺ちゃんは、やけにスローペースです。
この二人の速度の違いがねぇ・・・。どうぞ見守ってあげてくださいまし。
749> 名無飼育さん様
せつないね・・・
750> ゆんせ様
ありがとうございます。傷口はいじらないことが回復への近道ですが、
うちの紺ちゃんは、どうにもこうにもいじっちゃうんですね。痛いのに。
751> 名無しマカー様
そうですね。何かきっかけがあって、凝縮した想いがポーンと弾ければ。
うちの愛ちゃんがそうでしたね。川o・-・)<愛ちゃんはすごいな・・・
752> 名無し読者79様
∬∬´▽`)<だからあたしが〜。 川*’ー’川<しつこいざ、マコト!
紺ちゃん、なんでそこまでって気がしてきました、作者も。
それでは、本日の更新にまいります。
- 754 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:26
-
「♪恋は〜青い海にぃ〜、恋は〜住んでる〜のでしょ〜♪」
「カーオリン、ヲイ!カーオリン、ヲイ!」
落ち着かない気分でマラカスを振っています。
飯田さんはジュディオングを彷彿とさせるフリで遠い目をして歌っているし、
ガキさんはよくわからない合いの手をいれながらタンバリンを叩きまくっているし。
不覚です。
昼間っから、飯田さんとガキさんにつかまってしまいました。
カラオケは苦手なのに……
高校の1年後輩だったガキさんは、一浪してうちの大学に入ってきました。
最初に声をかけられた時はびっくりしたけど、うれしかったな。
合コンとか飲み会のノリにいまいちついていけなくて、
大学ではいつまでたっても仲良しができない私。
ガキさんは校内で私を見かけると、必ずあの張りのある声で、
「紺野さあーーーん!」と声をかけてくれます。
時々、待ち合わせて学食でご飯を食べるようになって、
そのうちにガキさんも一緒に本屋さんのバイトをするようになって、
高校の頃よりも、ずっと打ち解けてしゃべれるようになり……
- 755 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:26
-
「ちょっと紺野、ちゃんと聴いてんの?」
「あっ、はいっ」
「アンタもちょっとは唄いなさいよー」
「いやぁ〜、私、歌は〜〜」
「あっ、じゃあ、私が歌いますよ飯田さん」
ええっと、ラストキッス……っと、えい、転送っ!
「いいセレクトね。ガキさん、いいわよ」
「やーっぱ、タンポポは初期タンですよね〜ぇ?」
「あんた、見どころあるわよ」
飯田さんはなぜかご満悦。
人あたりのいいガキさんは、いつの間にか飯田さんとも仲良くなった様子。
私は、タンポポなら『BE HAPPY 恋のやじろべえ』が楽しくて好きですけど、
ガキさんもこないだそう言ってた……ってことは言わないほうがいいみたいですね。
- 756 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:27
-
本当にスキだった
あなたがいない
初めての恋 終わった
今夜は夢に
笑顔のままで
出て来ないでよ ねえ
カラオケは画面に歌詞が出てくるから、時々ドキッとします。
平凡な、なにげない言葉が、心の奥に隠した想いに触れて鮮やかに立ちあがる。
くちびるにだけ
やめてよあなたの温もりが
くちびるにだけ
ずっと残ってるやさしいあなた
画面から、目をそらしました。
最後のキス、覚えていません。
どのキスが最後か、あの日の記憶、混乱していて思い出せません。
探ろうとすると嫌な記憶に触れてしまうから、さわらない。
ずっと残ってるのは、やさしいあなた。
- 757 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:28
-
カラオケは苦手です。
視覚と聴覚、両方から入ってくる言葉は逃れにくい。
愛する人が歌えばもっと、その言葉には色がついて。
そう、幸福から逃れられなくなるのなら喜んで飛び込むけれど。
いや、そうでもないかな。
生きた心地がしなかったな、あのカラオケは。
ごとーさん、そして石川さんや松浦さんたちと一緒に行ったカラオケ。
『紺ちゃんがさー、超かわいいのよ〜』
『わー、楽しみー』
『いえっ、ほんと、あのっ……』
先輩たちの容赦ないからかいに、
ボックスに入る前から赤くなったり青くなったりしてた私。
ごとーさんは可笑しそうに笑って私の肩を抱くと、
ヘーキヘーキ、大丈夫だよと、のんびり言いました。
『ででででもっ』
『ヘーキヘーキ、すぐわかるって』
確かにすぐわかりました。
ボックスに入るやいなや、はじまったのは大狂乱。
- 758 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:29
-
『泣いてすむなら、ぬわ〜きやがれ、すべての恋はシャボンだむぁ〜〜!』
『ホンキで好きだって言ったじゃん!なによ!電源切ってよ!』
『ぎゃははは!梨華ちゃん、キモーイ!』
『ちょっ、次、次、ひーちゃんと“電車の二人”歌うからっ』
『ダメ、続けて歌うとかあり得ないから! 次はうちらだから!』
『えーっ、今の曲あたし、ほっとんど歌ってないぜぇ〜!』
思わず、ポカーンとした私。
なにこれ、すっごいノリ。
あやみきといしよしの壮絶なマイクの奪い合い。
ちょっとこれ、ファンの子たちが見たら引くと思うんですけど。
『みきたん、めちゃホリ歌おう!めちゃホリ!』
『えー、ヤダ。ブギートレインがいい』
『ひーちゃん、ピース☆歌お、ピース☆ピース☆!』
『うっせーよ!耳元でピース☆ピース☆ゆうなっつーの!』
仲間割れまではじめたし。
呆気にとられた私に、ごとーさんがクックッと笑いながら教えてくれました。
美貴と梨華ちゃんがセットになると、いっつもこうでさぁ。
松浦とよっすぃ〜がいるぶん、パワーアップしてるね。
『ごとーさんは、歌わないんですか?』
『んー、そのうちね。みんなが飽きたら』
唐突に、フッと甘い瞳で見つめられて、私は赤くなりました。
先輩たちがいるのに、二人きりの時みたいなニュアンス。
それはなんだか、ドキドキする秘密の遊びみたいに。
- 759 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:30
-
ねぇ、なんか一緒に歌おっか?
……何を?
『Do it! Now』とか。
耳にかかる吐息の言葉。
くすぐったくて首をすくめるけど、私の頬は勝手に緩んでしまいます。
『Do it! Now』、それはごとーさんと私にだけ通じる甘やかな囁き。
いつもいつまでも何年経っても、決心したこの愛が続くように。
ねぇ、ほんとに?
ごとーさんは、いたずらっぽい目をしてわざと尋ねてくるんです。
私が死ぬほど恥ずかしがるのをわかってて、何度もからかって訊くんです。
もう、ほら、何か歌ってくださいよ〜。
照れて選曲の冊子を押しつけた私に、ごとーさんはまた笑って。
- 760 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:30
-
『紺野って、いつもどんなの聴いてんの?』
『何でも聴きますよ。あんまりCD買ったりとかはしないですけど』
『ふうん、どんな感じのが好きなの?』
『んー、わりと明るい歌が好きですねぇ。面白い歌とか』
悲しい歌や、スローバラードも好きだけど、時々ちょっと苦手です。
私、その世界に入り込みすぎちゃうみたいです。
だから、明るい歌が好き。
元気が出て、よし頑張ろう!って思えるような歌が好きです。
『へぇ、意外。なんか歌ってみてよ』
『い、いえっ、そういう歌は練習してきてないから……』
『練習?』
『あ、私、下手だから、その、愛ちゃんたちにつきあってもらって……』
『愛ちゃんたち? ああ、高橋と小川ね』
ごとーさんは興味なさそうにフイッと冊子に目を落として、
パラリパラリとページをめくりながら、素っ気なく呟きました。
『練習なら、あたしがつきあってあげるのに』
いやー、それじゃ意味がないっていうか。
私は苦笑して、黙ってアイスティーをすすります。
だって、ごとーさんの前で歌うために練習するんですもん。
- 761 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:31
-
『今度、歌います』
『ん』
じゃあ、そろそろ一緒に歌おっか、『Do it! Now』。
ごとーさんはそう言うと、嫌がる松浦さんからコントローラーを奪って、
さらに嫌がる石川さんからマイクを奪い取ってきました。
きゃあきゃあ騒ぎあう先輩たちはとっても楽しそうで、
ごとーさんもすっごく笑ってて、ご機嫌な感じで、
わあ、ごとーさんもこんなふうに騒いだりするんだって、私はうれしくなって。
『あ、ごっちんのマイク、音ちっちゃくしたほーがいーよー』
『なんでよー』
『こないだ全然、紺ちゃんの声聞こえなかったもーん』
ふ、藤本さん、そんなハッキリと……(涙。
きょ、今日は大丈夫です! 100万回練習してきたから大丈夫ですっ!
真っ赤になってそう叫んだ私に、
先輩達はフーンと冷やかすような笑顔になって。
ごとーさんもなぜか、私と一緒にちょっと赤くなって。
『Do it! Now』、絶対、ごとーさん選ぶと思ってました。
だから、 100万回練習してきました。
今日は恥をかかせません! 私も恥をかきません!
- 762 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:32
-
でも、前奏が流れてる間、ちゃんと歌えるかなってドキドキして。
どうか、ごとーさんの足を引っ張りませんようにってハラハラして。
そして歌ってる間中、あなたの少し後ろからチラチラと
あなたの背中に流れる髪を見ていました。
歌うあなたはいつもよりもっと金色に輝いて見えて、
眩しいその光に寄り添えるこの一瞬を、ここにいる先輩たちだけじゃなく、
世界中の人に見てもらいたいと、なぜか思いました。
私たち二人の姿を永遠に、たくさんの瞳の奥に焼きつけたいと……
- 763 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:32
-
「……んのさーーーん? 紺野さーーーん?」
え? あ、ガキさん?
ハッと首を巡らせると、すっかり歌い終わったガキさんが、
マイクを握ったまま、どしちゃったの?という顔で私を見ていました。
あ、しまった。私、またやっちゃったみたいです。
飯田さんが、やれやれというふうに足を組みました。
「あんた油断しすぎよ?」
「あっ、はい、す、すみません……」
「ほんっと、紺野ってボーッとしてるよね」
「……飯田さんに言われるとそれなりにショックですね」
「むかっ。生意気よ、あんた」
「す、すいません」
さ、罰ゲーム、罰ゲーム。
飯田さんはニヤリと笑って選曲の分厚い冊子を差し出してきました。
あーあ、失敗したなあ、もう。私はしぶしぶ冊子を受け取って、
仕方なく、ちょっとはまともに歌える歌を探し出しました。
愛ちゃんに猛特訓を受けた、あの頃流行ったあの歌を。
- 764 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:33
-
手を握って道を歩こう
楽しい日が来そうな予感
手を握って誓おうよ
ねえ サンシャイン
冒険の日々 Go! My Way
引っ込み思案だから暗くみられがちだけど、
ほんとは明るい歌や、楽しいことが大好きです。
お日さまの下で笑って、手をつないで歩くデートや。
無理はせずに
マイペースで
お出かけをしよう
人生のお出かけの時間
手を握って道を歩こう
山や谷も当然あるだろう
手を握って乗り超えよう 青春
大切な日々 Go! My Way
さあ、一緒にお出かけしましょうって、ごとーさんにそっと伝えたくて。
何があってもあなたと二人なら私は大丈夫って知らせたくて。
あれから一生懸命、この歌を練習したのでした。
次の機会があったら歌おうって、残念ながら、なかったけれど。
- 765 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:34
-
「なんだ、ちゃんと歌えるんじゃない」
飯田さんはちょっとつまらなさそうな声をあげて、
でも、長い髪をかきあげながら、ふいにこう言いました。
「紺野はさー、もっと自信もって前に出ないと」
「え?」
「余計なお世話だけどねー」
心配になっちゃうのよ、なんか。
パラパラと冊子をめくりながら、そう呟いた飯田さん。
ときどき威張ってて怖い先輩だけど、やっぱり根はやさしい人。
そうですね、こんな私の周りにいてくれる人たちは、
鈍くさい私のこと、いつもなんとなく心配して、見守っててくれる。
ありがとうって思います。
愛してる、素敵な人、素敵な家族、そして素敵な友達。
そして、ありがとう、素敵な思い出。
- 766 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:34
-
いま思い出せば胸が引き裂かれるほど苦しいけれど、
あの頃、確かに幸福という感情を私は覚えて、それを失ったから、
闇に包まれた世界で震えながらも、人のあたたかさにふいに涙が出そうになる。
こんな時、なんとかして一歩進まなきゃと思う。
イランイランを焚くのは、もうやめなくちゃ。
あの人に中毒の自分を、もう手放さなくちゃ。
この海の底の牢獄には、決して鍵はかかっていないのです。
- 767 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:35
-
「どーも、どーもぉ! ピーピーピー、ピーマコ小川でぇーす!」
「ガキさーーーん、久しぶりやのー!」
ええっ?
なんの前触れもなく、突然ボックスに乱入してきたまこっちゃんと愛ちゃん。
ギョッとして、真剣に腰を抜かしそうになりました。
ま、まこっちゃん、愛ちゃん! どうしてここに?!
「ニイガキがさっき、電話してみましたぁー」
「紺野だけじゃ盛り上がんないからさあ。あんたたちけっこう歌えるんだって?」
「ハイハイハイ、あさ美ちゃんのぶんもバッチリ歌いますよぉ〜」
「腰抜かすざ」
生意気よ、あんたたち。
飯田さんは妙にうれしそうにそう言うと、
やおら、すっくと立ち上がって宣言しました。
「わかったわ。まずは私の歌を聴きなさい。名曲よ」
なんの指示もないのに、ガキさんがすぐさま曲を入れました。
流れてきたやたらムーディーな前奏を聞いて、私はちょっとあきれます。
またですかぁ? 今日もう5回目ですよぉ?
「いいから黙って聴きなさい」
「はい……」
- 768 名前:心音 投稿日:2004/08/22(日) 23:36
-
時を止めて しまったひと
エーゲ海の 波の音に 抱かれるように
恋は 青い海に
恋は 住んでるのでしょう
ちょっと流す涙 青く染まるの
恋は どんな色を
恋は しているのでしょう
きっと あなたの眼で 染められるの
あーあ、困るなあ、こういう曲。
飯田さんに気づかれないように、そっとため息をつきます。
名曲だかよくわからないけど、なんだか悲しい気配。
心が弱い私はすぐにまた、ぐるぐると海の底に落ちていってしまうのです。
ディープブルーの海の底から、仄かに光さす水面を見つめて、
またちょっと涙ぐんでしまうのです。
- 769 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/22(日) 23:37
-
本日はここまでといたします。
- 770 名前:オレンヂ 投稿日:2004/08/23(月) 11:40
- 更新おつかれさまです。
毎回読んで、ため息と、そっかぁ・・・という言葉しか出てきません。
紺ちゃんの周りにいい人がいてよかったです。
これからの紺ちゃんも見守らせていただきます。
- 771 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/23(月) 14:07
- お、おもろすぎる!!(爆
こんなカラオケ、見てみたいっス。ガキさん最高!
でも、そんななかでも紺ちゃんの切なさにジーンときました。
あー後藤さんのヤキモチに気づかないんだなーとか。
後藤さんも必死こいて練習した紺ちゃんの気持ちに気づいてないんだろーなーとか。
どこまでもすれ違いの恋なんですね・・・(涙
- 772 名前:名無し読者79 投稿日:2004/08/23(月) 16:25
- 紺ちゃんの周りには本当に優しい人が多くて…。
いつか自分の気持ちに正直になってもらいたいです紺ちゃんには…。
- 773 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/23(月) 19:29
- 恋をゆっくり総括していくかのようなこんこん…。
ごとーさんの卒コンで涙しながら聞いたあの曲、ほんと泣けるんだよなぁ。
…で、今回の更新でも泣きました。
- 774 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/25(水) 22:18
- 770> オレンヂ様
紺ちゃんって、身近にいたらなんかかまいたくなる感じしません?w
きっとそんな感じでみんな心配してます。一途すぎる紺ちゃんのことを……
771> 名無飼育さん様
紺ちゃんは、ごっちんが嫉妬するなんて思いもよらないし、
ごっちんは紺ちゃんのコンプレックスとか、いまいちわかってないし。
どっちも感情表現が苦手なんですよね〜。ハァ。
772> 名無し読者79様
ほんとにねぇ。紺ちゃん、ぼんやりしてるから心配なんですね。
いつまでも記憶のなかにいられないと思いつつ、また舞い戻ってしまう紺ちゃん……
773> 名無飼育さん様
総括してるつもりでなんだかぐずぐずしてる……そんな感じでしょうか。
あの歌が好きなのに、いつまでも乗り越えられない紺ちゃんです。
それでは、本日の更新にまいります。
- 775 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:19
-
まこっちゃんの車に乗るのってなんか怖いねぇー。
そう言うと彼女はぷうっと膨れて、安全運転だよぉーと胸を張りました。
カラオケの後、大学に戻ったガキさんたちと別れて、
3人でご飯を食べに行くことになって。
「わかってるけど、なんか怖いっていうか」
「わかるわ、あさ美ちゃんの気持ち」
「なーんでですカァー!」
そんな冗談交じりに軽快に走るオガワッショイ2号。
いつかまこっちゃんの自転車の後ろに乗せてもらったことがあったな。
私たちも、すっかり大人になりました。
- 776 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:20
-
「あさ美ちゃん、就職活動はー?」
「えっ、なに急に」
「えー、イマドキ3年からはじめるもんじゃないですかァー?」
そうなの?
不安な気持ちになります。
一浪したまこっちゃんは、まだ2年生。
なのに、もう就職活動のことなんて考えてるのかな?
「だ、大学院、行こうかな」
「フーン、大学の先生になるの?」
「えっ、いや〜……、でも、一般企業って自信ないかも」
「なに言ってんですカァー。ソチラの大学はひっぱりだこでしょぉ?」
いや、そういう意味じゃなく。
私、ちゃんと働けるのかなって、すっごく不安です。
ごとーさんのこと、人に雇われてるとこが想像できないなんて言いましたけど、
私自身もなんだか、バリバリ働くとかすごく向いてない気が。
「ほやの。ボケーッとしてるし」
愛ちゃんは、あいかわず容赦ありません。
でも、返す言葉もありません。実際、そうだもん。
ただでさえノロマなのに、ごとーさんのことばっかり考えてて私。
- 777 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:20
-
「あ、愛ちゃんはどうするの?」
「あたし? あたしは留学するよぉー」
えっ?
初めて聞く話です。
愛ちゃんは、ごく当たり前みたいにサラッと続けました。
プロんなるって言ったやろ? 来年あたり、ウィーンに留学するよぉ。
思わず、後部座席からまこっちゃんの横顔をうかがいました。
私の反応がわかってたみたいに、まこっちゃんはバックミラーにチラッと目をやって、
それから、ほわあ〜っと微笑みました。
「国費留学の試験、受けるんだってぇー。たぶん通るって、愛ちゃん」
「そう……」
「寂しくなるねぇー」
夢を追いかける恋人。
ああ、まこっちゃんは、ちゃんと応援してあげるんだ。
当たり前のことかもしれないけど、実際にはなかなかむずかしいんじゃないのかな。
距離が離れると、引き裂かれてしまうような気がしないものでしょうか。
- 778 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:21
-
急な話題でなんとも言葉を返しかねて、フッと車窓に目をやった私。
流れる景色の中、反対車線の向こう側に、
大きな教会の美しい三角屋根が見えてきました。
あ、結婚式してる。平日なのに珍しいな……と思った次の瞬間。
エッ?!
私は我が目を疑い、バン!と車窓に張りつきました。
「ご、ごとーさんっ?!」
うえええっ?!
まこっちゃんの驚きのままに、フラフラッとよろめいた車。
愛ちゃんが、ギャーー!と叫びました。
ああっ、もう見えない! でも、でも……
「止めて、まこっちゃん、戻って!」
それは、信じたくない光景。
教会の階段のところで祝福のライスシャワーを浴びていた花嫁。
その人が、ごとーさん、だった。
ああ、わからない。だけど、ごとーさんにすごくよく似ていた……
- 779 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:22
-
「嘘やろ? そんなはずないわ!」
「でも、でもっ!」
「待って、待ってェ! 車線変更できないよォ!」
やっと路肩につけられた車から、ダッシュで飛び出しました。
通りすぎてしまった教会は、大通りの反対側の、ずっと向こう。
ああ、はやく変われ変われ、赤信号!
車がじゃんじゃん走り抜ける横断歩道の前で、地団駄を踏む私。
後ろから追ってきた愛ちゃんが、心配そうに顔をのぞきこんできます。
ねぇ、あさ美ちゃん、ほんとにごとーさんやったの?
ほんとにごとーさんやったら、どうするの?
言葉にしなくてもわかる、親友の心配。
もし、本当にごとーさんだったら?
わからない、わからない。そんなのわからない。
ただ、確認したいだけ。確認しなきゃ、いられないだけ。
横断歩道をダッシュして、今来た道をまっすぐに駆け戻る。
車だったからあんがい距離があって、遠くに見える教会の階段から、
花嫁さんの白い後ろ姿が、通りにつけたリムジンに乗り込もうとするのが見えました。
待って!
身軽な愛ちゃんも追いつけないほどの全速力で駆け寄ります。
まだ、出ないで! 顔を見せて! 間に合って!
- 780 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:22
-
「ごめんなさい!失礼します!」
ものすごい勢いで見送りの一群に駆け込んだ瞬間、
ブーンとエンジン音を響かせて、リムジンが動き出しました。
見知らぬ人たちをかき分けて、もう必死でその横顔に目をやって、
そして私は、へなへな〜〜っと、その場にへたりこみました。
「あ、あさ美ちゃんっ、気を確かにっ!!」
「……………違った」
「へ?」
「違ったぁ………」
はあぁぁぁ。
思わず、地面に両手をつきました。
すっごく似てた。背格好とか、鼻の感じとか。
でも、違った。違ってた。良かった………良かった………。
じわっと涙が滲みました。良かった、そう思っていることに。
ごとーさんが誰かと幸せをつかんだとして、それを本当には祝福できない私。
どこかで楽しく暮らしててくれますように。
寂しい思いをしてませんように。
そう願ってる気持ちも、嘘じゃないはずなのに。
- 781 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:23
-
「ああ、違ったんか………。もー、びっくりさせんでよ」
「ご、ごめん、ね」
「ああ、もう、びっくりしたあ」
憤慨ぎみの愛ちゃんに手を引かれて、よろよろと立ち上がります。
滲み出た涙を手の甲で拭いた私を、見送りの人たちが訝しげにジロジロ見ました。
その視線の意味に気づいて、思わず赤くなります。
花婿さんのナイショの恋人?とか思われちゃってる気がする。
まさか花嫁目当てに駆け込んできたとは思わないもんね。
ご迷惑にならないといいんですけど………、ごめんなさい。
- 782 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:23
-
車に戻ると、まこっちゃんが心配げにそわそわとハンドルを握りしめていました。
ごめん、違ったの。見間違いだった………
申し訳なく小さな声でそう言うと、彼女はパッと明るい顔になりました。
「あー、そう! 良かったねぇ、良かったねぇ!」
まこっちゃんの言葉は素直で、私はすこしうつむいてしまいます。
花嫁さんが、ごとーさんじゃなくて良かった。
まこっちゃんはシンプルにそう言う。大きな声で言う。
好きな人が、自分じゃない誰かと幸せになったらヤダ。
彼女は全然かっこつけずに、その気持ちを肯定します。
私は、胸中複雑。
後部座席に、ぐたりとカラダを沈めました。
うん、ごとーさんじゃなくて、良かったです。
だけど、気づいてしまうと、すごく疲れるんです。
まだ、あの人とつながってるような気がしている自分に。
まだ、あの人と恋人のような気がしている自分に。
- 783 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:24
-
幻想です、ただの。
いつも夢を見てるから、妄想を広げてるから、
まるでそれが事実のように錯覚をはじめるんです。
そして、想像外のことが起こると裏切られたように思い、傷ついてしまう。
ひとりよがりな錯覚。勝手な妄想の、痛い代償です。
そんなの愛情っていわない。ごとーさんは喜ばない。
あなたが幸せなら、祝福してあげられる私でいたい……
- 784 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:24
-
再び走り出した車の中で、まこっちゃんは興奮冷めやらぬ様子。
いつもはたぶん遠慮して言わないことを、ここぞとばかりに口にします。
「てかさー、あさ美ちゃん、ごとーさんに連絡とってみなよぉ」
「………うーん」
「ゆったらいいジャン。やり直しましょうとかさァ」
「………うーん」
奈落の底に落ちていくみたいな恐怖。
私は、まこっちゃんみたいに勇敢ではありません。
ありとあらゆるマイナスの可能性をシュミレートする。
ごとーさんを困らせませんか? 私、もっと傷つきませんか?
愛のプライドというやつもあるかもしれない。
ごとーさん、ほんとに私のことが好きでしたか?
身代わりじゃありませんでしたか? 言いきれますか?
そこから訊かなきゃいけない自分が悲しい。
そんな恋を、いつまでも忘れられない自分が。
それに私は、ごとーさんの性格、よく知っています。
ほんとにやりたいことなら、必ずやってのける人。
ほんとに欲しいものには、手を伸ばす人。
私を手放したくなければ、理屈に合わなくたって、きっと。
………だから、いつまで待っててもなんの連絡もないというのは、つまり。
- 785 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:26
-
「あさ美ちゃんはさァ、受け身すぎるっていうかさァ」
「………受け身っていうか」
「頑固っていうかさァ、怖がりすぎっていうかさァ」
「マコト」
それまで黙って窓の外を見ていた愛ちゃんが、静かに恋人をたしなめました。
いつの間にか名前をそのまま呼びかけるようになった、特別な呼び方で。
その声色に、まこっちゃんがグッ…と黙ります。
シンとなった車内。
胸のなかだけで彷徨う私の想いに、苛立ちを感じるまこっちゃん。
複雑に入り組んだ恐怖やプライドを、なんとなくわかってくれる愛ちゃん。
いずれにしても、長い間、心配をかけ続けてることには違いなく。
「ごめんね、私、もうやめなきゃね」
悲しくそう呟いた私に、愛ちゃんは遠くに目をやったまま言いました。
「別に無理にやめることはないがし」
「………………………」
「あさ美ちゃんの気持ちやから、あさ美ちゃんの好きにすればいいし」
- 786 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:26
-
すこし突き放した、その距離感。
2年以上もまこっちゃんに片思いを気づかせなかった愛ちゃんだから、
ホントは一生言うつもりがなかったと後でこっそり漏らしてた愛ちゃんだから、
空の星に泣いても、眠れなくて泣いても、言えない言いたくないこの気持ち、
やっぱり、なんとなく察してくれてるのかな。
「えー、そーゆーのってどーかと思うよォ」
まこっちゃんは、不服げにブツブツ。
それも、あたたかい友情。
いつまでも失った恋の虜になってる私を、心の底から心配してくれてる。
あんまり強く言われると困っちゃうけど、やっぱり感謝、ですね。
- 787 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:27
-
それにしても、良くも悪くも単純(失礼!)なまこっちゃんが、
愛ちゃんの留学話を、泣き言も言わずに応援してるっていうのも不思議な話です。
ヤダヤダ騒いで、私のところに泣きついてきそうなものだけど……?
「……そりゃあ、愛ちゃんの将来のためですからねェ」
「そうだけど。へぇ、まこっちゃん、大人になったねぇ〜」
思わず感心した声をあげた私に、
我慢しきれなくなったみたいに、愛ちゃんがクハハ…と笑い声をあげました。
「ちょっ、愛ちゃんっ!」
「ごめん、ほやかって……」
クックッと可笑しそうに笑う愛ちゃんに、真っ赤になったまこっちゃん。
あ、さては、やっぱりケンカしたね?
「ケンカっていうか、マコトが一方的に怒ったってゆーか」
「あ、あったりめーですよぉ!」
怒るくらい、させてチョーダイよ。
あたしのこと置いてくってゆーんだからさァ。
ぎゅううとハンドルを握る手が白くなってる。
むっつりと前を睨んでるまこっちゃんに、我慢して納得してるのがわかりました。
- 788 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:27
-
愛ちゃんは?
首をかしげてのぞき込むと、
彼女はくちゃっと鼻の頭に皺をよせて笑いました。照れくさそうに。
「あたしー、ずっと断ってたんやけどの」
すこし早口で話しはじめた愛ちゃん。
実は音大に入ってすぐ、1年生の時から、
推薦するから留学試験を受けるようにと教授から言われていたそうです。
それってどのくらいすごいのかわからないけど、でもきっと。
「ほやけど、あたし、マコトと離れるのが嫌で」
ずっと断ってたんや。
生意気やって先輩らに言われたし、
教授もやる気ないんかって呆れてたし。
ほやけど、なんやろう、別にいいわって思ってた。
わかってもらえんかっていいわって。
「不思議やけど、夢もなんか、もういいわって思ったんや」
べつに、すっごい大きい舞台に立てんかって、
セミプロでかって、コンサート聴きに来てくれる人はおるし、
音楽の先生んなって、マコトとずっといられたらそれでいいわって。
- 789 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:28
-
ああ、それはなんて幸せな人生。
愛する人と平凡に暮らす、私の夢。
ずっと夢を追いかけてた努力家の愛ちゃんだって、
思いがけず舞い降りてきた幸せな恋の前に、すべてを投げ打ってひれ伏す。
たぶんたくさんの人が、そうやって家庭をつくり、子供を育てて、
平凡な人生を時々嘆いてみたりしながら、
でも、幸福に、穏やかに、なめらかに。
- 790 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:29
-
「ほやけど、雑誌で松浦さんの記事、読んでから」
え?
私は思わず聞き返しました。
松浦先輩、懐かしい名前です。
雑誌に載ってたの? 松浦先輩が?
「あれ? 言ったやろ? この話」
「ううん、知らない」
「嘘や、言ったよー」
「そうだっけ? どんな話だっけ?」
ほんとにその話は聞いてませんけど、
ムキになって話がズレていきそうな愛ちゃんを、あわてて軌道修正。
愛ちゃんはしつこく「言ったってぇー」と言いながらも、説明してくれました。
購読してる音楽雑誌に載っていた、小さな記事のこと。
まだ端役ながら、ブロードウェーでのデビューを果たした少女のこと。
「松浦さんって、アメリカに行ってたの?!」
「ほやって。びっくりやろ? ブロードウェーやざ」
なるほどね。
それで、愛ちゃんの負けず嫌いに火がついたってわけか。
そう言うと、愛ちゃんは、ん、まあ、そうなんかな……と、なぜか言葉を濁しました。
フグみたいにプクーッと膨れたまこっちゃんが、代わりに言葉をつなげます。
- 791 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:29
-
「それがさあ、毎日、毎日、ゆーんだよぉ、愛ちゃんが!」
「なにを?」
「松浦さん、すごいすごいって。かっこいい羨ましいって」
もー、しつこいから頭に来ちゃってさあ。
じゃあ、愛ちゃんもブロードウェー行けばいいジャン!ってゆったらさー、
実はずっと留学の話が……とか言い出してー。
あとは、おして知るべし大喧嘩、ってことなのね。
目に浮かぶようです。なんの準備もなく、唐突に切り出した愛ちゃん。
ギョッとしてウギャーとわめいたまこっちゃん。
「でも、マコトは、行けって」
愛ちゃんはそう言うと、愛おしげな瞳で恋人を見つめました。
あれれ? まこっちゃん、怒ったんじゃなかったの?
「怒りましたよォー。でも、だからって諦められるのもヤじゃないデスカ!」
「そっか。そうだね」
「一生、あたし、負い目に感じるじゃないデスカ!」
ぷんすか、ぷんすか。
やり場のない寂しさは怒りになって、愛情は涙になって。
だけど、まこっちゃんは背中を押した。才能あふれる恋人の背を。
やっぱりとても勇敢な人です、まこっちゃんは。
- 792 名前:心音 投稿日:2004/08/25(水) 22:30
-
「ハタチ超えて、今さら遅いわってみんなゆってるけどの」
無神経な影口を思い出したのか、
愛ちゃんは肩をすくめて苦笑します。
遅くないって、あたし、思うことにしたんや。
だって、ずっとマコトといられてそれで満足やったし、
あん時、もし我慢して行ってたら、つらくて耐えられんくって、
夢も恋も、両方だめになったかもしれんよ。
「でも今は、じゃあ行こうかなって気持ちになってるから」
マコトとも、離れたくらいでダメになったりせんかなって思うし。
「あったりめーですよォ!」
「やろ? だいたい、あたし以上の女とかおらんよ」
「あ、愛ちゃん……(汗」
冗談にまぎらせて、3人それぞれの想いをのせて、
オガワッショイ2号は軽快に走ります。
夕暮れの道、風を切って、スピードに乗って。
遅くないって、あたし、思うことにしたんや。
愛ちゃんの言葉が、耳に残りました。
迷う愛ちゃんの背をおした、まこっちゃんの姿が心に残りました。
後藤さんによく似た花嫁さんを見かけた、夏の前のある一日のことでした。
- 793 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/25(水) 22:31
-
本日はここまでといたします。
- 794 名前:ぽち 投稿日:2004/08/25(水) 22:44
- あ〜。いいね〜。この三人が出てくるとなごみます。
まこっちゃんは良い子だ〜。その魅力が分かっている愛ちゃんも。
今回の話で、あさ美ちゃんも前向きになってほしい。
関係ないけれど、この間深夜のフットサル番組でごとーさんと紺野さんが
試合の合間に一緒に座っているのを見てこの小説を思い出してしまった…
(もう一人ごとーさんの隣にいたけど、誰かも思い出せない)
- 795 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/25(水) 22:55
- 雪ぐまさん、チャイコーです……
- 796 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/25(水) 23:15
- 出来ればageて欲しくないわけで・・・
- 797 名前:オレンヂ 投稿日:2004/08/26(木) 00:42
- 更新お疲れ様です。
ほんと、紺ちゃんはそばにいたらかまいたくなりますね。
一途な紺ちゃんも好きですけど、やっぱり止まったままではダメなんでしょうね。
周りの人の成長に触れながら紺ちゃんもかわっていくんでしょうかね。
紺ちゃんにかまいたくなっちゃうんで、見続けていきます。
- 798 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/26(木) 00:58
- ごとーさんは今何処に…。
- 799 名前:名無しマカー 投稿日:2004/08/26(木) 08:34
- 更新お疲れさまです。
この三人組のバランスがすごく好きです。
高校時代と変わらないようで、でもそれぞれ自分なりに前に向かっていて。
紺ちゃんもがんばれ!
- 800 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/26(木) 08:49
- 紺こん、せつねぇえええ
恋愛ってそーゆーものだよね…シミュレートしたり、自己嫌悪になったりさ…
すっかり正調・恋愛小説として読んでるざます
- 801 名前:名無し読者79 投稿日:2004/08/26(木) 17:40
- ちょっと紺ちゃんと共にびっくりした場面がありましたが・・・
良かった……。まこっちゃんと愛ちゃんも何かに向かってってるんですね。
紺ちゃんには、本当にこの二人の親友がいて良かったと思えます。
- 802 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/29(日) 09:16
- まこっちゃんと愛ちゃん、イイですねぇ。
大学生になったこの2人もこれまで進んできた道があって、これから未来に進んでいくんですね。
この3人の関係はそれぞれのぜんぜん違う個性なのにお互いの優しさがあふれていて、
とても暖かい気持ちになります。
この小説大好きです。これからもがんがん応援していきます。
あと、飼育って500kbyteから書き込みができなくなるようですが、
このスレはすでに490k近いようです。
差し出がましいですが、そろそろ次スレの季節だと思います。
では、あまり要領も無駄にできないと思うのでこの辺で。
次回の更新を楽しみにしています。
- 803 名前:雪ぐま 投稿日:2004/08/30(月) 00:26
- 皆さまのあたたかいレスに励まされて、
今日も妄想小説を書いております雪ぐまでございます。
802様のご親切で、容量がギリギリなことにハタと気づきましたw
(また、やっちまうとこでございました……)
紫板に舞い戻り、新スレを立てさせていただきました。
本日からはそちらで続きを書かせていただきます。
紫板『癒しのメソッド#2』
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/purple/1093791595/
本日のレスのお返事は、更新のあとにつけさせていただきます。
どうぞ、今後ともよろしくお付き合いくださいませ。
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