The end of world

1 名前:黒龍 投稿日:2004/06/28(月) 17:09
いしよしかと
多分いしよしかと(w
矢口と愉快な仲間達も出るかと
お付き合いください
2 名前:End 投稿日:2004/06/28(月) 17:10



白木の細長い箱。
そこに静かに横たわる少女。


3 名前:End 投稿日:2004/06/28(月) 17:10
あんなに色黒だと思っていたのに、こうなってしまったらむしろなんだか色白に見えて。
「…なんだよ、ほんとは白いじゃん。」
そんな言葉が口をついて出た。
他に言うべき事なんてたくさんあるような気がするのに、どうしても出てこなくて。
いや、それを口に出して言ってしまったら全てが終わってしまう。
そんな気がして。
もうあたしの生きるこの世界に彼女がいないなら、この先なんて何もなくて。
終わるも何もないんじゃないかって。
心のどこかで誰かが囁いたけれど、終わりだと、もう彼女と私の世界は繋がらないと。
それを認めるのが怖くて。

あたしはそっと俯いた。
4 名前:End 投稿日:2004/06/28(月) 17:10
「…なんだよ、ほんと勝手なヤツだなぁ。」
背中の辺りにそっと添えられる手の感触。
「大変だよな、最後まで。何だかんだ言って結局振り回されっぱなしじゃんか。」
「…。」
「それでも、さ。」
「…。」
「アイツにはお前が必要だったんだよ。ほんとに。」
「…うん。」

知ってた。
知ってたからこそ、大事にしていたし。
それが。

怖かった。

こうやって、いつか失くす日が来るのが怖くて。
結局、彼女に依存していたのは。
あたしの方かもしれなかった。
5 名前:End 投稿日:2004/06/28(月) 17:13

「吉澤…さん?」
「あ…はい。」
躊躇いがちにかけられる声。
振り返った先に細い女性。
「初めまして。…梨華の、母です。」
「どうも…この度は…。」
ごにょごにょと口の中を絡みつく言葉達。
「いつも、貴女の話をしていたわ。手紙でも電話でも。一度お逢いしてみたいと思っていたの。ほんと、梨華の言ってた通り綺麗な目をしているのね。」
「いえ…そんな…。」
本当に綺麗な目をしていたのは、彼女の方だ。
6 名前:End 投稿日:2004/06/28(月) 17:19
「貴女みたいになりたいって、そう言ってたのあのコ。ひとみちゃんはすごくカッコイイって。ひとみちゃんみたいに強くなりたいんだって。貴女の事を話す時の梨華ったら、恋する乙女みたいだったわ、ほんと。」
くすりと笑うその顔が、彼女とダブって思わず目を逸らす。
「梨華ってば、ものすごくネガティヴでしょう?昔からポジティヴになりたい、ポジティヴになりたいって、ネガティヴに鏡の前で呟いたりしててねぇ。それがダメなのよって私、何回も言ったんだけどねぇ。」
何となく、想像がつく。
夜、たまに鏡の前で自分を凝視してる彼女を見た事があるから。
何してんの?と聞くあたしに、なんでもないって笑って答えたっけ。
7 名前:End 投稿日:2004/06/28(月) 17:23
あれがそうだったに違いない。
口には出さなくても、心の中でポジティヴになりたい、ポジティヴになりたいなんて。
願ってたに違いないんだ。
「貴女と知り合ってからの梨華は変わったわ。母親だからよくわかるの。貴女のおかげだって。本当に。」
―ありがとう。
深々と頭を垂れる彼女の母親に。
あたしは慌てて頭を下げ返した。

あたしは、何も。

していない。


8 名前:黒龍 投稿日:2004/06/28(月) 17:26
まあ こんな感じで
イキナリ暗いシーンからですが
この章さえ終われば変わりますので(w

では次回更新で
9 名前:プリン 投稿日:2004/06/28(月) 18:37
更新お疲れ様ですっ!
いしよしキタ━(゚∀゚)━!!w
梨華ちゃん・゚・(ノД`)・゚・。
続き激しく( w゚Д゚)wヨミタイッス!!

次回の更新待ってます。
頑張ってください。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/28(月) 22:29
まじ悲しい、せつねぇ。
続き待ってます。
11 名前:End 投稿日:2004/06/29(火) 16:31

―ぽすぽす

いつまでも頭を上げる事のできないあたしの背中に感じる小さな手の感触が、何だか妙に切なくて。
俯いた視線の先に小さな水溜りが出来た。

「貴女が矢口さんね?」
「はい。そっス。」
「本当に小さくて可愛らしい人なのね。でも、強い目。」
「いえ…。」
「梨華は矢口さんの事も話してくれたわ。すっごいしっかりしてて、ちっちゃいのに全然ちっちゃい感じしないんだよぉって。貴女にも憧れてたわ。矢口さんが羨ましい、羨ましいってそればっかり。」
「いえ、自分は…。」
背中に添えられた手が微妙に震える。
「何となく事情は聞いてるわ。でもね、無理はしないで?梨華みたいになって欲しくないのよ。貴女も吉澤さんも。今となっては貴女達は私の可愛い娘と同じくらいの存在なのよ。」
「「……。」」
「迷惑でしょうけど。何だかしょっちゅう貴女達の話ばかり聞かされていたから、初めて逢った気がしないの。」
そう言って。
彼女の母親は、どこか切な気な顔で。

そっと微笑んだ。
12 名前:End 投稿日:2004/06/29(火) 16:31
結局、矢口さんは泣かなかった。
最後のお別れの時、触れた彼女の肌がどんなに冷たくても。
みんなで撮った最後の写真を彼女の上にそっと乗せても。
出棺になり、彼女の眠る白木の箱が運び出されていくその瞬間も。
矢口さんは泣かなかった。

ただ。
点火の瞬間。
たった一筋だけ。
矢口さんの頬を伝い落ちるものが光ったけれど。
あたしは見ないフリをした。
13 名前:End 投稿日:2004/06/29(火) 16:31



子供の手のひらの上を転がるビー玉のように。
キラキラと笑っていた梨華ちゃんは。
坂道を転げ落ちるガラス玉みたいに、あっという間に目の前から消えて。
高層ビルから落下した花瓶のように。
砕けて消えた。
人の命なんて、一瞬で失くなるんだと。
絶対なんて、この世にないんだと。
思い知らされた秋だった。

あたし達の関係はそうやって。
終わりを告げた。


14 名前:黒龍 投稿日:2004/06/29(火) 16:38
>>9.プリン様
いしよし最近少ないですからね
ありがとうございます
脳内補完部隊としてがんがりまつ(w

>>10.名無飼育さん様
レスありがとうございます
イキナリこんなシーンからで申し訳ない
がんがりまつ


今回更新はちょいと少な目ですが
キリいいところまでUPしとこうかと…

では次回更新で
15 名前:プリン 投稿日:2004/06/29(火) 16:55
更新お疲れ様ですm(_ _)m

切ねぇ・゚・(ノД`)・゚・。
泣きそうです…。

次回の更新も頑張ってください!
16 名前:beginning 投稿日:2004/07/15(木) 15:33



「ねぇ、あたしと付き合わない?」
投げかけられた言葉は唐突すぎて、何が何だかわからなくて。
「は?」
思いっきり不機嫌な声が出る。
「吉澤さん、でしょ?」
「そうだけど…」
「キライ?あたしのコト」
さらりとなびく茶色の髪に添えられた手が妙に白くて。
視線をそこに奪われてしまう。
「いや、キライとかそういう次元の問題じゃなくて…。誰だかもよく知らないんだけど」
ぽりっとオデコを一掻きして、それでも目は白い手に釘付けのまま。
「それもそっか〜。ま、いいや。また、ね?」
「え?」

白い手のそのヒトは、ふわりと微笑んで目の前から立ち去った。
なんだかよくわからない、晴れた日の午後だった。


17 名前:beginning 投稿日:2004/07/15(木) 15:34

首をかしげつつ、左手に持ったコーラの缶を握りつぶしたその時。
「よっすぃ〜」
最近やっと聞き慣れた声で呼ばれる。
振り返った先に赤い帽子。
「あ、矢口センパイ」
「センパイなんて呼ぶなって。おいら、お前と学校一緒になったコトもないんだぞ」
目深に被った帽子のツバをぺこっと折り曲げて、あたしを見上げてくる。
身長はとても小さいけれど、実はとんでもなくケンカっぱやくてべらぼうに強いヒト。
一番最初に見た時も、街の薄暗がりの路地裏でチンピラ相手に大立ち回りを披露していて。
すげ〜、かっけ〜、等と思ったものだ。

「お前アイツと知り合いなの?」
「え?」
「今、声かけられてたじゃん」
「ああ。知り合いじゃないっスよ。なんかよくわかんないんだけど…」
「付き合ってとか言われたんだろ?」
「をを?!なんでわかったんスか?!」
「まぁねぇ…」

―ウチのおキャク≠セから

ぼそりと呟いたそのヒトコトは。
矢口さんからは初めて聞く単語だった。
18 名前:beginning 投稿日:2004/07/15(木) 15:34
「お客って、あのお店の常連さんかなんかですか?でも見たことないなぁ」
あの店、と言っても矢口さんの店ではない。
中澤さん(矢口さんとはただならぬ関係の気がする)がやっている街の大通りからちょっと外れた路地裏の喫茶店兼ダイニングバーのコトで。
あの日、大立ち回りを披露する矢口さんの助っ人に入ったあたしを、
「なかなか強いじゃん」
そう言って笑いながら、おいらいつもココにいるんだと言って連れて行ってくれた店。
それからあたしも入り浸ってて、たまに店の手伝いをさせられていたりする。

「ん〜、まぁあの店のっちゃあの店のなんだけどさぁ。ま、いいじゃん。とにかく行こう?今日も行くんだろ?」
「ええ、まぁ。これから行こうかなって」
「じゃあ決まり。店まで競争!」
「あっ!ズルいっス!」

イキナリ猛ダッシュの矢口さんを追いかけて、あたしは体育会系の体力を見せ付ける…つもりだったのだが…。
19 名前:beginning 投稿日:2004/07/15(木) 15:35


「あはははは。こんなちっちゃいヤツに負けてるようじゃ吉澤もまだまだやなぁ」
間接照明の店の中で、ゆらりと紫煙を燻らせながら笑う店長の中澤さん。
「……いや…でも…や…ちさん…が…ず…」
「なんや、若いのに息切らせてまぁ。何言うてるかわからへんで?」
「そうだそうだ〜。おいらより若いくせに〜」
カウンターに差し向かいで座り、顔を見合わせて笑う二人をちろりと見上げて。
あたしはカウンターにへたり込む。

―こん

涼やかな音を立てて、目の前にオレンジ色の液体が注がれたグラスが置かれる。
「裕ちゃんのオゴリ。今日だけやで?」
咥えタバコのまま、にやりと笑うその顔はオンナのあたしから見てもとても綺麗だと思う。
「…りがと…ご…ます…」
お礼もそこそこに一気に喉に流し込む。
程よく冷えたオレンジジュースはとてもおいしかった。
20 名前:beginning 投稿日:2004/07/15(木) 15:35
「どや?今日のは。新作やねん」
「…っげ〜オイシイっス!」
「ふふん、せやろ?裕ちゃん秘蔵のレシピやで?これ開発すんのにえらい苦労したわぁ。」

中澤さんのお店は市販のジュースは使わない。
天然果汁にこだわって、いろんな種類の果汁をブレンドしては出している。
だもんで。
たま〜に、すげ〜マズ(ry なものの味見をさせられたりもするワケで。
あたしが来るまではその役目は矢口さんが果たしていたらしく。
時々、あたしはこの味見要員の為に連れてこられたんじゃないかなとか思う。

「なに?うまいの?裕ちゃ〜ん、おいらにも!」
「へいへい。酒入れるんか?」
「ん〜、まだいい〜。」
「ほれ」
「さんきゅ」
「…。ほんとだ、んまい!」

矢口さんは、ほんと美味しそうにモノを摂取するといつも思う。
中澤さんも毎回嬉しそうに見ているから、きっと同じコトを思ってるんだろう。


「あ、そうだ。で?誰なんですか?さっきの」
どさくさに紛れて忘れてしまうところだったけれど。
この店のお客というあの白い手のヒトはいったい誰なのか。
あたしには知る権利があると思う。

「…あ〜…」
こりん、と口に入れた氷をかじって、矢口さんは中澤さんを見る。
「ん?ああ、あれ?」
うん、と頷きながら矢口さんの口の中でまた氷がこりん、と音を立てた。
21 名前:黒龍 投稿日:2004/07/15(木) 15:38
>>15.プリン様
遅くなりました
今回更新分から前回とは雰囲気変わってると思うんで切なくならないですむかと(w
ありがとうございます がんがりまつ
22 名前:プリン 投稿日:2004/07/16(金) 16:53
更新お疲れ様です♪

おぉ。今回もいい感じ。
雰囲気が違うのがまた(・∀・)イイ!
今回もまた期待ですな(w

次回の更新も待ってます!
梨華ちゃんは一体何者なのか(w
23 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 17:50



††††††††

「…でさ、その時村っちがさ。って聞いてる?」
「ん?ああ、うん。聞いてる。」
「そんなに朝からネガティヴでどうすんの?梨華ちゃん。」
「そ、そんなコトないもん…」
柴っちゃんにはわからない。
明るくてみんなに好かれて。
笑うとみんなが幸せになれるような、そんなヒトにはあたしの気持ちはわからない。
「まぁたなんかネガなコト考えてる。ほらっ!しっかりしなよ。」

ぽんっと背中を叩かれてよろける自分がまた情けなくて。
あたしはますます俯いた。
24 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 17:50

「おっは〜」
「あ、ミキスケ。おは〜」
「そのミキスケってのどうにかなんない?柴っちゃん」
「だってさぁ。ん〜…、じゃあ美貴たん」
「あ〜、それはダメ。」
「わかってるって。怒るもんね、ミキスケのコト美貴たん≠チて呼んだら」
「まぁね」
「ラヴラヴぅ」
「そんなんじゃないってば」

柴っちゃんの顔の広さはあたしの数倍。
羨ましくないと言えばウソになるけど。
あたしには柴っちゃんみたいな友達関係はちょっと難しい。
なんでかと言ったら…

「ああん?相変わらず不景気そうな顔してるじゃん、石川っち」
「…そんなことないもん」
「梨華ちゃん朝から二回目だよ、その台詞。」
「柴スケも大変じゃのう」
「いやいや、ミキスケ様ほどじゃぁございません」

「「かっかっかっかっか」」
25 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 17:55

…はぁ。
なんで朝からこのテンションを維持できるのか。
誰かあたしに教えてプリ〜ズ。

「あ、こりゃ間違いなくネガティヴモード入ってるぞ石川っち」
「いいのいいの、いつものコトだもん」
「…はぁ…」

「溜息ついてるし…。とりあえずほっとく?」
「うん。もち。」
「でさ、例のウワサなんだけど」
「ああ、あれ?新しいネタ入ったの?」
「うん。結構曖昧な情報なんだけどさ。亜弥ちゃんが聞いてきたから出所もちょっとアヤシイ」
「ま、いいや。聞かせてよ。」
「あのさ…」
26 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 18:00
柴っちゃんと美貴ちゃんは例のウワサ≠ニか言うのの話題で盛り上がってる。
いつからか囁かれ始めたウワサ
でもあたしは興味がなくて、(というかだいたいネガティヴモード大発動で人の話なんてろくに聞いてないみたいなとこもあるけど)よく知らない。
知らなくても別に構わないと思ってるし、知りたくなったら柴っちゃんに聞けばいい。
ウワサ≠ネんて眉唾モノの話がほとんどだし。
あたしにとってはその程度のコトだった。
27 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 18:06
日直だから職員室行ってくるね、と柴っちゃんに告げ。
あたしは廊下を一人で歩く。
いつも隣に柴っちゃんがいて、時々美貴ちゃんもいて。
…たまに亜弥ちゃんもいるけど、正直苦手かもと思う。
あのポジティヴさはどこから来るのか教えて欲しい。
でも亜弥ちゃんにあのテンションで教えてもらっても、余計ネガティヴになる気がするから遠慮したいかも…。
28 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 18:12
「石川やん。あんた今日日直か?」
職員室に入るや否や、飛んでくる関西弁に顔を上げる。
「そうですけど…」
「あんたのクラスの後藤な、今日も休みや。」
「は〜い…」
「なんや、朝から不景気な顔しよって。ほれ、しゃきっとせんかい!」
「…は〜い。」

保健の平家先生は三重出身らしいけど、三重は関西だと言い張ってたまに保健体育の授業でも(あたしは結構どうでもいいことじゃないかと思っている)其の事を主張したりするちょっとクセのある先生で。
キライじゃないけどあのテンションについていけない時がある。

どうしてあたしの周りはこう、やたらとポジティヴなヒトが多いんだろう。
29 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 18:24
「後藤さんね…後藤さん…」
ぶつぶつ呟きながらちょっと俯きがちに歩くあたしは正直キショいのかもしれない。
それでもそうそうヒトは変われるものじゃなし。
半分諦めの境地だったりするあたしは、やっぱりネガティヴなんだろう。

「おかえり〜ん」
「ただいまぁ…」
ひらひら手を振る柴っちゃんにちょっと手を挙げて答えてあたしはそのまま席に着く。

今日は前髪が決まらなかった。
まだ変かな、なんて思いながら鏡を取り出して覗き込んだ鏡の中にアップの柴っちゃんの姿を見る。
「うわっ?!」
「ねぇ梨華ちゃんさぁ、そんな陰気くさい顔で鏡覗くのやめなよぉ」
「いいじゃない、どんな顔してたって。」
「だってぶっちゃけ怖い、それ」
「ほっといてよぉ」
「はいはい」
30 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 18:29
こんな毎日を繰り返すあたしでも、傍にいてくれる柴っちゃんは心強い味方。
なかなか口には出さないけど、ほんと感謝してるんだから。

「そういやさ、後藤さん今日も休み?」
「らしいよ」
「ふ〜ん…」
「どうしたの?」
「いや、ほら昨日も休んでたじゃん?後藤さん」
「そうだっけ?」

思い出せないのも仕方ない。
同じクラスといえども、後藤さんを見たのはほんの数える程しかなくて。
なんかこう、うまくは言えないけど他人を寄せ付けないカンジのそんなヒトだったような気がする。
31 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 18:34
「で?後藤さんが何か柴っちゃんに関係あるの?」
「いや、そゆワケじゃないんだけどさ。昨日見たってコがいてさ」
「後藤さんを?」
「うん。」
「でも外くらい歩くでしょ?学校休んだって」
「そうなんだけどね…」

―ちょいちょい

なに?顔近づけろって?
充分近い距離だと思うけど…。

「なに?」
「病院から出てきたらしいんだけど、なんかかっこいいオトコと一緒だったらしいよ」

耳元で囁かれた情報はイマイチぴんとこなくて。
へぇ、なんてわりとどうでもいい返事が口をついて出た。
32 名前:beginning’ 投稿日:2004/08/06(金) 18:39
「もうちょっと別の反応して欲しかったんだけど?シバタとしては」
「だってさぁ…」
「ああ、梨華ちゃんはオコサマだからわかんなかったのか」
「え?なんで?」
「…できちゃったんじゃないかって話」
「ええええ?!?!」
「わわっ、声がデカいっ!」

突然素っ頓狂な声を出したあたしをみんなが一斉に見たのがわかる。
瞬間すっごい恥ずかしくなってあたしは黙って俯いた。

「…まぁ詳しくはわかんないけどさ、なんかそゆことらしいよ」
そう続けた柴っちゃんの言葉は半分くらいしか耳に入らなくて。
あたしは真っ赤になっているに違いない自分の顔のコトを考えて、本日最高点のネガティヴモードに突入したのだった。
33 名前:黒龍 投稿日:2004/08/06(金) 18:41
>>22プリン様

梨華ちゃんはこういうヒトです(w
イイカンジなんてとんでもない(照) ありがとうございます
あれこれいろいろ出てきますが
いつになったらいしよしになるんだという突っ込みはもう少々お待ちください(w


では次回更新で
34 名前:beginning’ 投稿日:2004/09/06(月) 17:20



「で?」
「…え?」
「ナニをそんな陰気な顔してるワケ?楽しい放課後だってのに」
「別に…」
「ああ、もぉ!そんなんじゃモテないよ?」
「いいもん…どうせ…」
「ったくもう、どうせどうせって。帰るよ!ほら!」
「…うん」

柴っちゃんに手を引かれて歩き出すあたし。
ちょっと強引なトコもある柴っちゃんだけど、おかげであたしはだいぶ助かっている。
感謝はしてるけど、なかなか口に出してそれを言えなくて。
あたしはそのコトでまた凹む。
毎日それの繰り返し。
たまには違うコトがあってもいいんじゃないかって思うけれど。
平凡が一番かもって。
そうも思う。
35 名前:beginning’ 投稿日:2004/09/06(月) 17:20
前を行く柴っちゃんにドスっとぶつかって、慌てて顔を上げるあたし。
「な、ナニ?痛い…」
「ちょ、あれ見てあれ」
「え?」
大通りの反対側に立つ総合病院。
その前に立つ二人組。
「あの二人?」
「よく見てみなって。後藤さんだよ、あれ」
「そう?」
後藤さんだと言われても、そんなにはっきり顔を覚えているワケじゃなし。
どうもイマイチわかり辛い。
「ウソじゃなかったね」
「なにが?」
「ほら、あれ」
後藤さん(らしい)と話してる相手は、確かにカッコいい男性みたいだった。
36 名前:beginning’ 投稿日:2004/09/06(月) 17:32
「オトコのヒトだね」
「…やっぱほんとにデキちゃったのかなぁ」
「で、でもただ単に具合悪いだけかもしれないじゃない」
「う〜ん、気になるなぁ…」
「と、とにかく帰ろう?」
「ん〜…」

腕を組んで唸る柴っちゃんをひっぱりながら歩き出して、ちらりと病院を見遣る。
一瞬相手のオトコのヒトと目があった気がして。
あたしは慌てて前を向く。
気のせいかもしれないその瞬間の視線交差が、なんとなく目の裏に焼きついて離れない。
もしまたあのヒトを見かけたらそのヒトだってわかりそうな自分がいる。
後藤さんはわからなくても、なんとなくあのヒトはわかりそうだった。

「梨華ちゃん」
「ん?なぁに?」
「眉間に皺寄せるのやめなよね」
「…柴っちゃんだってさっき…。なんでもない」
37 名前:beginning’ 投稿日:2004/09/06(月) 17:35
そのままいつも通り、喫茶店でしばらくお茶をして。
あたしはまたぼんやりしてると柴っちゃんに小突かれた。
ナニがひっかかるのかわからないけど、あのヒトと後藤さんが気になって仕方ない。
後藤さんの顔は穏やかだった。
はっきりと見えたワケじゃないからなんとも言えないけれど。
学校で見た後藤さんとは違う感じだったように思える。
理由はわからないけれど。
柴っちゃんが言うみたく。
デキちゃった、というワケではなさそうだなんて。
あたしは勝手にそう考えていた。
38 名前:beginning 投稿日:2004/09/06(月) 17:46




††††††††

正直、矢口さんの話は理解し難いカンジで。
別にあたしの頭が悪いってワケじゃないと思うけど、話を全て飲み込むまで結構時間がかかったと思う。
「まぁ、理解せぇっちゅ〜方が無理やわなぁ」
本日何本目かわからないタバコを咥えたまま中澤さんが笑う。
きっとあたしは相当困った顔をしてたんだろう。
矢口さんが自分の眉間をトントン、と指差した。

「ま、そゆコトなんだ。どうする?」
「え?どうするって…」
「おいら達と一緒にやるかって聞いてる」
「…」
「やる気になったら言ってくれればいい。でもこの話を他人に漏らしたら…」
「…漏らしたら?」

ごくりと喉が鳴る。
「裕ちゃんがあっつ〜いベーゼをお見舞いしたる!」
「あはははは」
にやりと笑う中澤さんと、大笑いする矢口さん。
そんな二人を見ながら、あたしは大きな溜息をついた。
39 名前:beginning 投稿日:2004/09/06(月) 18:02
「ま、そんな難しく考えんでもええ。習うより慣れろ、や」
「でも…そういうのって慣れますか?」
「最初はヘコんだよ、おいらも。でもすげぇ感謝されるんだよ、幸せそうな顔してさぁ。なんちゅ〜か、あんな顔が見れるんだったらいいかなって」
「そういうもんですか…?」
「捉え方はヒトそれぞれやからな、無理にやってみろとは言わへん。人生誰しも迎える瞬間なワケやし、悪い仕事ではないと思ってる」
「…はい」
「結構いっぱいいるんだよ、お願いゴトのあるヤツって。おいらはこの仕事に誇りを持ってるんだ、これでも」

矢口さんの小さな躯が妙に大きく見える。
あたしは、今までそんなコト考えたこともなかった。
なんとなく生きて。
なんとなく働いて。
なんとなく過ごしてくんだと思ってた。

矢口さんみたいにカッケくなりたかったあたしは。
ジュース2杯分悩んで。
結局、やってみたいですと返事した。
40 名前:黒龍 投稿日:2004/09/06(月) 18:04

ほぼ一ヶ月ぶりの更新になります
マターリ更新になるかと思われますがお付き合いください

さて 広げた大風呂敷をどうたたむか…
がんがりまつ
41 名前:first 投稿日:2005/02/15(火) 18:39


「ええと…、ゴトウさん?」
ベンチで足をパタパタさせながら座っているその人に声をかける
これが待ち合わせ場所、そう言って矢口さんがくれたメモには待ち合わせの公園の場所と
『後藤真希』
たったそれだけの情報しか書いてない
必要なコトは本人から聞けばええ。中澤さんはそう言ってたし
矢口さんに至っては、頑張って〜なんてひらひら手を振って
ろくにあたしの顔なんて見てなかったような気がする
初仕事なんだからもう少し何か言ってくれてもいいのに、と思ったのは秘密

「来てくれたんだねぇ」
「御指名ども。吉澤っス」
「うん。知ってる」
髪をかきあげる手はやっぱり白くて思わず見とれてしまう
「…あ、で。なんであたしなんスか?」
「カッコイイなぁって思ってたから」
「…へ?」
「ごと〜さ、ずっと」

-アナタの事見てたんだよ

42 名前:first 投稿日:2005/02/15(火) 18:40
ふわりとベンチから立ち上がった後藤さんは
そう言ってふにゃりと独特の笑顔を浮かべる
「行こ?」
手をとられて思わずドキリとする
「え?行くってドコへ?」
「いいから。行こ」
あたしはどうにもこのヒトには弱い気がする

大通りを連れ立って歩くと結構な数のヒトが振り返る
横を見遣ってまじまじ後藤さんの顔を眺めて納得
鼻歌まじりにふにゃりと微笑みながら歩く後藤さんは
世間一般で言うところの『キレイドコロ』に充分入る
そりゃ、世間の男性陣は黙っちゃいないってやつだ
「ゴトウさんさぁ」
「それヤだ」
「え?」
「ゴトウさん、っての」
「ん〜…じゃあ、ごっちん」
「それならOK。ナニ?」
43 名前:first 投稿日:2005/02/15(火) 18:40
…そんな顔で見上げないで欲しい、正直
あたしがオトコなら間違いなく惚れてるに違いない
「や、あの、結局ドコへ?」
「ゆ〜えんち」
「は?」
「一緒にゆ〜えんち行って?」
「いいけど…」
「やった!」

イヤだなんて言ってもきっとごっちんは聞いてくれないだろうなんて
まだごっちんのナニを知ったワケでもないのに、そんな気がして仕方ない
学校は、と聞きかけて
もしかしたらあたしみたく行ってないのかもしれないと思い直す
だいたい
こんな真昼間からあたしと一緒にいる時点で今更学校に行ったところで間に合うワケもなく
遊園地がごっちんの『望み』ならあたしには叶える義務がある
依頼主の『望み』を叶えるコトがあたしの仕事
平日の昼間、一緒に遊園地に行くなんて『望み』が続くなら
大して難しい仕事じゃないのかもなんて
思ったあたしは
正直甘かった
44 名前:first 投稿日:2005/02/15(火) 18:40

††††††††††

「なぁ」
「ん〜?」
「吉澤、どうやと思う?」
「あ〜…そうだなぁ…見込みはあると思うよ。ただ」
「次、の依頼を受けるかどうかは…」
「神のみぞ知るってやつだねぇ」

おいらにも裕ちゃんにもそればっかりはわからない
少なくとも
おいらは仕事の本当のツラさを一番最初に実感した時
こんな仕事やめようかと思ったぐらい
裕ちゃんはもちろん、おいらよりもたくさん依頼をこなしてきた人間
ツラくないなんてコトはないって
それでもこの仕事を続けなあかんのやって
裕ちゃんはそう言っていつも淋しそうに笑う
おいらの知らない中澤裕子はどんなヒトなのかを知りたくて
おいらはここにいるのかもしれない
そう思う
45 名前:first 投稿日:2005/02/15(火) 18:41
「ヒサビサに矢口もやるか?」
新聞から顔を上げずに裕ちゃんが問うてくる
「おいら?おいらは…しばらくイイや」
おいらがこの仕事を続けている理由はもう一つある
いつか
いつかおいらの探してるヒトが依頼してくるかもしれない
そんな針の穴程の小さな望みを
おいらは胸元にそっと忍ばせている
「そか?ま、無理にせぇとは言わへんし。今んとこ急な依頼もないしな」
「ごめんね?」
「なぁも」
裕ちゃんの手元の灰皿から煙草を取って
おいらはそれを燻らせた
46 名前:黒龍 投稿日:2005/02/15(火) 18:43
放置気味で申し訳orz
微量ながら更新

もう少しコンスタントに更新したい…
次回はなるべく早めを目指す方向で
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 13:05
更新待ってました
お疲れ様です

冒頭だけでかなりこの世界に引き込まれてます
次回も楽しみです
48 名前:マルタちゃん 投稿日:2005/02/21(月) 12:46
待ってましたっ
更新お疲れ様です
次回も楽しみにしてます♪
49 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/30(水) 23:52
一気に読まさせて頂きました。 出だしから少し興味深かったので、最後までお付き合いさせて頂きます。 次回更新待ってます。
50 名前:first 投稿日:2005/04/01(金) 19:25



一本吸いきってしまおうかというその時、店の電話が鳴った
新聞に目を落としていた裕ちゃんがゆらりと手を伸ばして受話器をとる
「はい、カサブランカ。…なんや、みっちゃんやんか。どないしてん?」
どうやら電話の相手はみっちゃんらしい
みっちゃんと言ったら近所の高校で養護教諭をしている、おいら達の飲み友達

「あ?後藤?うん、ウチの若いのと一緒やけど?」
ははぁ、みっちゃんってば心配になっちゃったワケだ
まぁあの後藤ってコ、ここ半年は保健室登校だったらしいし
みっちゃんが気にかけるのも頷ける
「うん。平気やろ。うん。ん?今日?ええけど?わかった。待っとくわ」
ふむ
さては今日ここに来るとみた
「うん、ほなな」
51 名前:first 投稿日:2005/04/01(金) 19:25

軽やかな音を立てて本体に収まる受話器
今時黒電話なんて、と思うけど裕ちゃんの好みだというから仕方ない
「仕事片したら来るって、みっちゃん」
「やっぱり」
「今日は吐くまで飲むで?」
「え〜、またおいらが世話すんのかよぉ」
「いざとなったらみっちゃんにさせたらええがな。あれでも一応保健のせんせぇなんやから」
「あ、そっか」

考えてみたらかなり酷い会話だ
本人がいないからと言って言いたい放題なおいら達
ま、バレなきゃOKでしょ
52 名前:first 投稿日:2005/04/01(金) 19:25

「しっかし」
「うん?」
「みっちゃんもあれやなぁ。自分で斡旋しといて心配するなんてなぁ」
「でもそれがみっちゃんのいいトコじゃん?」
「まぁなぁ。それはそうやねんけど」
ひょいっと首を竦めて見せる裕ちゃんにもう一本煙草を勧めて
おいらも新しいソレを口に咥える
「あんまヤニ吸うと背ぇ伸びへんで?」
「…今更ナニ言ってんだっての」
「それもそうだ」

結局
何だかんだ言っておいら達は信頼し合っているのかもしれない
だからこそ
冗談みたいに悪態もつけるし、それをさらりと流すこともできる
こんな仕事をしていなければ
おいら達の関係は成り立っていなかったかもしれない

こんな裏家業みたいな仕事をしているからこそ
曖昧なラインの上で、ギリギリおいら達はこの世界を生きているのかもしれない
そう思う
53 名前:first 投稿日:2005/04/01(金) 19:25

「ねぇ裕ちゃん」
「ん?」
「さっきの話だけど」
「さっきの?」
「もしさ、次依頼が来たらおいらがやる」
「ああ?どないしてん、急に。まぁ別に矢口がええならええけども」
「…うん。やっぱやろうかなって」
「わかった。ほんなら次の依頼は矢口に頼むわな」
「うん」
54 名前:first 投稿日:2005/04/01(金) 19:26

しばらく離れていた[現場]
今あの場所に戻ったとしたら
おいらはナニを思うんだろう
ずっと前
過ぎた時間の上に置いてきたあの感情を
また取り戻すコトができるんだろうか
あの日に止めてしまったおいらの時間を
取り戻すコトができるんだろうか

咥え煙草のまま見上げた天井は
煙で霞んでぼやけて見えた

55 名前:黒龍 投稿日:2005/04/01(金) 19:30
>>47 名無飼育さん
お待たせしたようで申し訳ないです
冒頭にいかに話を持っていくか試行錯誤していますorz
マターリお待ちいただけると嬉しいです

>>48 マルタちゃんさん
ありがとうございます
がんがりまつ

>>49 通りすがりの者さん
こんな話を一気読みしていただいてありがとうございます
さくさく更新できてない状態ですがお付き合いよろしくお願いします

次回もなるべく早めを目指します
56 名前:マルタちゃん 投稿日:2005/04/03(日) 13:03
更新お疲れ様です。
凄く文章に引き込まれて
矢口さんが気になる‥‥。
次回更新待ってます。
57 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/03(日) 21:03
更新お疲れさまです。 やぐっつぁんの言葉が妙に引っ掛かりますね。 しかも裏稼業って? 次回更新待ってます。
58 名前:first-Recollection- 投稿日:2005/06/02(木) 18:09


◇◇◇◇


‐ねぇ、もしもさぁ

‐うん?

‐矢口よりも先に死んじゃったらさぁ

‐はあ?ナニ言ってんの?

‐じゃあ、矢口の前からいなくなったら。でもいいんだけど

‐どっちもヤなんだけど

‐仮の話だって

‐…うん、それで?
59 名前:first-Recollection- 投稿日:2005/06/02(木) 18:09

‐いなくなってさ、生きてるかもわかんなくてさ

‐うん

‐したら探す?

‐え?

‐探してくれる?

‐あったりまえじゃん。探すよ

‐そっかぁ

‐それがナニ?

‐うん。聞いてみたかっただけ

‐何だそりゃ

‐ふふっ

‐ワケわかんない

‐約束だからね?

‐ってか、いなくなんないでよ

‐今の所はね


60 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:09



何時の間にかカウンターに突っ伏して居眠りしていたらしいおいら
背中にかけられた裕ちゃんのジャケットから煙草の匂いがした
「なん?起きたん?」
「うん」
「やたら小難しい顔して寝とったな、矢口」
「ん〜…、昔の夢見てた」
「昔?」
「うん。裕ちゃんと逢う前の」
「そぉか」

火の点いていない煙草を咥えたまま、裕ちゃんがおいらの頭を撫でてくる
その手があまりに優しくて
ちょっぴり涙が出た
「どないしてん、矢口」
「…うん、何でもナイ」
61 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:10

思い切り息を吸って、特大の溜息にして吐き出す
何で今、あの夢なんだろう
「何か飲むか?」
「ん…じゃあ紅茶」
「ちょお待っとき。オイシイやつ淹れたる」

おいらに背中を向けて紅茶葉を選び始めた裕ちゃんの後姿をぼんやり眺めてみる
必要以上に自分のテリトリーの中へ他人を踏み込ませない裕ちゃん
そのせいか
おいらの中へも必要以上には踏み込んでこない
それが心地良くてココにいるのだけれど

たまに
裕ちゃんが何を考えているのか
どんな人生を歩いてきたのか
とても気になる瞬間がある
聞けば教えてくれるかもしれない
でも
もしかしたらいつか、裕ちゃんから話してくれる時がくるかもしれない
だから無理に聞こうとは思わない
62 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:10

「矢口?」
「うん?」
「ツラかったら言いや?」
「え?」
「昔の矢口に何があったかは知らへんけど、夢くらいは楽しいの見たいやん?せやから、何かツラいコトあるならいつでも言うてな?話相手にくらいならなれるから」
「…うん。ありがとぉ」
透明のティーポットの中で紅茶葉がジャンピングするのを見ながら
おいらはまた泣きたくなった

63 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:11


「…昔さぁ」
「うん」
「おいらとすんごい仲よかったコがいてね」
「うん」
「年上のくせして、何かこうコドモっぽくてさぁ」
「矢口よりもコドモっぽいねや?」
「…ううっ…いいじゃん、そこんとこは」
「はいはい」
温かいアールグレイを一口飲んで、上目遣いに裕ちゃんを見上げる
にやりと笑うその顔があまりにいつも通りで
内心やっぱり裕ちゃんは意地悪だと思う

「でさ、探してんの」
「はあ?」
「そのコをね、探してんの、おいら。ずっと」
「おらへんくなったんや?」
「うん。急に。ほんっと急になんだよ?」
「家とか行ってみたんやろ?当然」
「行ってみたよ、もちろん。でも蛻のカラってヤツでさぁ…びっくりしたのなんのって」
「せやろなぁ…」
短くなった煙草を灰皿に押し付けてから
新しい箱を開けながら頷く裕ちゃん
おいらにも一本薦めながら、かちりと銀のジッポを鳴らす
64 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:11

「約束したんだよ、おいら」
「あん?ナニを?」
「いなくなったら探してって言われたから」
「はあ?なんや、そら」
「わかんない。いなくなったら探す?って聞かれたから」
「探すって答えたワケやな?」
「うん」
「ま、それが当然やわなぁ」
「…うん」
もう何年も前のコトなのに
思い出すたびに、今でもちくりちくりと刺すような痛みに襲われる
いったい、おいらにナニを求めていたんだろう

「で、そん時の夢でも見た?」
「あたり」
「ふむ」
ふわりと煙が宙を漂う
おいらは、裕ちゃんの煙草を吸う姿が好きだ
とても
65 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:11

「望めば望んだだけの答えは返ってくるもんや」
「そうかなぁ…」
「そゆもんやて」
「…うん」
「なんや、淋しいなったん?」
「べ、別に…っ」
「スキやってんやな?そのコのコト」
「…スキ…だった…ってか…スキなんだと思う、今でも」
「よろしい」
「え?」
「素直でええな、矢口は」
「別においら…素直じゃ…」
「ふふん、ええねんええねん。裕ちゃんは矢口のそ〜ゆ〜トコがスキなんやから」
「…うん」
66 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:11

ふいと視線を落としたティーカップの中で
紅茶がゆらりと波紋を描いた
「今日、ウチ泊まってき?」
「え?」
「どうせみっちゃんも来んねん。別に家帰ったかてヒトリやろ?」
「うん」
「ま、今まで言うてなかったけどな。矢口がよけりゃウチに住んだらええ」
「へ?!」
「同居。家賃タダ」
「マジ?」
「そんかわり、店の仕事ちょお手伝って」
「うん!」

嬉しさのあまり、思わず立ち上がってカウンターごしの裕ちゃんに抱きついた
「なんやねん、危ないやん」
「裕ちゃんダイスキ!」
「はいはい。裕ちゃんも矢口スキやで〜?」
こんなに正直な気持ちで誰かにスキだと言ったのは
どれだけぶりだろう
67 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:12

さっき見た昔の夢があまりに生々しくて
一人の部屋に帰るコトを少し怖いと思っていた矢先の提案だっただけに
嬉しさもひとしおで
やっぱり裕ちゃんは大人だと思う
飄々としていて掴み所のない風に見える裕ちゃんだけれど
人間としても仕事仲間としても
見習うところはまだまだたくさんあるワケで
あんなに凹み気味だったおいらは
またポジティヴな自分に戻れそうでほっとした

「おっ、なんや。いつもの矢口に戻ったな」
「わかる?」
「わかるに決まっとるやん。誰やと思ってんねん」
「中澤裕子」
「そりゃアタシの本名やん」
「尊敬できる大人だと思ってるよ」
「あほ。そんなんゆ〜たかて何も出んで?」
「わかってる」
オデコをぴんっと突付かれて
お互い顔を見合わせた瞬間に鳴る店の電話
68 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:12

「はい、カサブラ…おう吉澤やん、どした?」
今回の電話の相手は、初仕事中のよっすぃーかららしい
今日はやたらと電話の鳴る日だ
「あん?ああ、うん。別にあかんコトはないけど?吉澤がええと思うならそうしたらええし。うん。うん」
仕事中に何だか疑問ができてしまったらしい
まぁ
誰でもそうなるだろうし
第一、よっすぃーにはまともな説明をしていないから
困って当然みたいなトコロもある

「うん、了解。ほんならまた明日」
明日?
今日はココに戻って来ないってコトか
「お疲れさん」
無造作に置かれた受話器がちんと軽い音をたてた
「ナニ?」
「ああ、あの後藤ってコんチに泊まってくれ頼まれたらしいで」
「あ〜、なるほど。で、困っちゃったワケだ」
「そゆこった」
何にせよ
今のところは順調に依頼をこなしているらしい
あの仕事の本当のキツさをよっすぃーが知るのは
もう少し後の話
69 名前:first 投稿日:2005/06/02(木) 18:12

「せや、矢口」
「うん?」
「酒買うてきて」
「え?注文したらいいじゃん」
「駄目。ツマミも買うてきて欲しいから」
「めんどい〜」
「選ぶだけ選んで配達してもろたらええやん」
「あ、そっか。オッケ。じゃあちょっくら行ってくる」
「よろしく」
店のドアから外に出る時
一瞬振り返って見た裕ちゃんの表情は
なぜだかいつもよりも険しかった

70 名前:黒龍 投稿日:2005/06/02(木) 18:18

更新間隔開きまくりですが 放置じゃないです
ただ単に遅いだけです_| ̄|○

>>56 マルタちゃんさん
お待たせしまくって申し訳ないっス
ぼちぼち待ってていただけると…

>>57 通りすがりの者さん
裏稼業です
中澤さんのお店は裏稼業扱ってます(w


いしよしだって書いてあんのに、現在やぐちゅー、よしごま、いししば的なスレ
いしよしまで持っていく前段階長すぎ…
ぼちぼちお付き合いよろしくお願いします
71 名前:マルタちゃん 投稿日:2005/06/03(金) 23:41
更新お疲れ様です。
待ってるのも苦にならない位
夢中になってます♪
次回も楽しみにしてます。
72 名前:黒龍 投稿日:2005/08/22(月) 21:34
近々更新します
取り急ぎ生存報告を
73 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:23
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
74 名前:黒龍 投稿日:2006/02/15(水) 21:09
すんません
もうちょい保全させて下さい
今月中に必ず更新しますorz

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