約束の日まで。
- 1 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 22:46
-
いしよし書きます。
今までろむ専だったのですが、昨今のいしよし不足に
ここの力を借りずとも、自ら脳内で妄想を培養出来るようになりまして。
それがはみ出てPCにまでこぼれたりしてるんで。
ちょっとお目汚しを…と。
とりあえず、こぼれ済みの短編をつらつらと上げていきたいと思います。
- 2 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 22:47
-
『約束の日まで』
- 3 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 22:47
-
あなたは、まだ覚えているでしょうか?
私たちのあの約束を。
あたしは覚えています。
恥ずかしくて、きちんと確認とかできないけど。
でも、あなたもきっと覚えていることと思います。
それで。
あの約束の答えはいかがなものでしょうか?
約束の日は、近づいています。
- 4 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 22:51
-
私とよっすぃー…もといひとみちゃんの関係は複雑で。
ちょっと人様に伝えるには難しい。
なんていうか…今は、精神的な繋がり?が大きくて。
ひとみちゃんと出会ったのは、言わずと知れた4年前のオーディション。
娘。のメンバーに選ばれて、私とひとみちゃんは同期という関係になった。
同じく同期のあいぼんやののとはやっぱり年が離れていたし、
一番近い存在はひとみちゃんだった。
マイペースでクールな感じだけど、気がつくと側にいてくれて。
ちゃんと見てくれてて。相談にも乗ってくれて。
私は、彼女よりお姉さんなんだからしっかりしなきゃって思いつつも
彼女に頼ってばかりだった。
- 5 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 22:52
- 後で聞いた話だと、ひとみちゃんはその頃から私のことを意識していた
みたいで。
最初は危なっかしくて目が離せなくて。
そのうちそれが癖みたいになってて、意識し始めたって言ってたっけ。
私は、その時は自分の気持ちに気付いていなかったけど。
でも多分、もっと前から。
オーディションの頃から彼女のことが好きだったんだと思う。
だって、ほら。
あの頃のテレビとか見てても、恥ずかしい程彼女にひっついてるし。
好きってオーラ出してる感じがあるし。
我ながら恥ずかしい。
無自覚だったんだよね、あれ。
- 6 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 22:53
-
そうこうしているうちに、結構時間は過ぎて行って。
ひとみちゃんの男の子っぽいとことか段々クローズアップされるように
なってきて。
その頃、ひとみちゃんに言われたっけ。
「梨華ちゃんが女の子っぽすぎるから、あたしが男の子っぽいキャラに
なるんだよ」
って。
ちょっと悩んだんだよね。
それってさ、私が悪いのかな〜って。
ひとみちゃんって、結構女の子で。
きっと、私よりもずっと女の子っぽいと思う。
背が高くて、その頃髪を短くしてて。
サバサバした面ばかりが前面に出ててそう思われたんだと思うけど。
整理整頓が上手で、他人のことを思いやれて、繊細で大人しくて。
私は、外見ばかり女の子っぽくて中身は結構男の子っぽい。
片付けとか苦手だし、相手のことを気遣うのが苦手。
いや、気遣おうって思いはあるんだけど、いつも空回り。
そういうのに鈍感なんだよね、私って。
空気読めって、よく言われます。はい。
- 7 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 22:54
- それで、そんなひとみちゃんが男の子キャラにされちゃうのが
私のせいだとしたらやっぱり悪いなって思ったの。
思い返せば、私、
「よっすぃーが男の子だったら良かったのに」
とか
「私たち、ラブラブなんです。ね、ヨシオ」
とか、結構そういう発言してて。
ああ、まずかったのかな。
ひとみちゃんだって、そんな男の子みたいなんて言われて嬉しいはずないよね。
とか、かなり悩んでました。
でもね。
その時のひとみちゃんの発言っていうのは、違う意味だったらしくて。
ひとみちゃん的には、結構アプローチのつもりだったんだって。
そんなのわからないよね。
ちゃんと言ってくれないとさ。
私のことを守りたいって、思ってくれてたんだって。
それが、ひとみちゃんの母性ならぬ父性?みたいな部分を刺激しちゃったんだって。
うーん。
今でも、私にはそこのとこの感覚がイマイチ理解できません。
- 8 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 22:56
-
で、そんな感じで私は私でネガティブに悩んでて、ひとみちゃんはひとみちゃんで
そんな私に対して意識しすぎて悩んでて。
そんな時に、あの事件が起きた。
まあ、週刊誌のネタなんて誰も信じないし。
それ自体はそんな事件って程でもなかったんだけど。
私とひとみちゃんの同性愛?的な記事が週刊誌に載って。
メンバーたちは一笑した。
事務所からは一応呼ばれてあまり誤解されるような行動はしないようにって言われた。
まあ、ちょっと冗談めかして。
つまり、誰も本気にはしてなかったってこと。
ただし、本人たち以外は。
私たちは笑えなかった。
だって、私たちはこの記事でお互いへの気持ちを確認してしまったから。
鈍感だった私も、この文面を読んでさすがに気付いてしまった。
ああ、私こんなにひとみちゃんの近くにいたんだって。
周りが誤解するくらいひとみちゃんにべたべたしてたんだって。
そしたら急に、ああ、それって私がひとみちゃんのこと好きだからなんじゃん
って気付いた。
- 9 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:02
- そしたら、なんだか一気に全部認めてしまって。
ああ、私ひとみちゃんが好きなんだ。
これって恋なんだ、って。
それから、怖くなった。
私、駄目じゃん。
気付いてなかったとはいえ、ひとみちゃんに迷惑掛けて。
私がひとみちゃんのこと好きになったりするから、こんなことになったんだって。
それで、事務所に呼び出された帰りにひとみちゃんに謝った。
ごめんねって。
どうして?
って、ひとみちゃんは聞くのよ。
なんで梨華ちゃんが謝るの?
だから、私は答えたの。
私ね、ひとみちゃんが好きなの。あの記事読んで、気付いたんだけど。
そしたら
なーんだ。
ひとみちゃんは言うの。
それだったら、あたしも謝らなきゃ。
って。
あたしも、好きだよ、梨華ちゃんのこと。梨華ちゃんが気付く前から気付いてたもんね。
って。
私は歩いていた足を止めて。
しばし絶句した。
- 10 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:03
- そしたら、ひとみちゃんは私の手を引いてくれて。
近くの公園に二人で入ったの。
もう、薄暗くなった公園のベンチ。
他には勿論誰もいなくて。
雲の間から覗く月を、手を繋いだままぼんやりと二人で見上げてた。
どーしよう。
私が言う。
どーしよっか。
ひとみちゃんが言う。
私は、混乱の中で焦りを感じていた。
本当はひとみちゃんに謝って許してもらって、明日からは今までどおり
…というか、今までより少し距離を置いて付き合っていこうと思ってた。
だけど、話は思わぬ方向に進んでしまって。
もう、あの場所には戻れない。
昨日までの私たちの関係には戻れない。
そう思った。
圧倒的な幸福感と軽い絶望の中で、私はさ迷っていた。
ねえ。
ひとみちゃんが先に口を開いた。
やっぱりさ、あたしたちアイドルだし。こういうのってまずいかな。
うん、きっとまずいよ。
私は答える。
そっかあ。そうだよね。
うん。
- 11 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:04
- 沈黙。
しばらくして、またひとみちゃんが言う。
じゃあさ、約束しようよ。
約束?
うん。いつか、どっちかが娘。を辞めたら、その時も二人の気持ちが
変わってなかったら、その時はちゃんと付き合おう。それまでは、友達の振り。
…うん。
約束を胸に、あたしたちはこれからも娘。として頑張る。
うん。
名案じゃん?
そだね。
それが名案だったのかどうなのかは今でも解からないけど、
私はとりあえずそれに同意した。
月が完全に雲から逃れて。
細い細い弓形の月が、優しい光りを私たちに向けていて。
私たちは、どちらからともなくキスをした。
約束の口づけ。
ひとみちゃんが言った。
嬉しい。
私は答える。
そして、
今日は、帰らないで。一緒にいて。
そう言った。まだ子供だった癖に、大胆な発言したよね、私。
でも、ひとみちゃんは微笑んで
うん。
って言ってくれた。嬉しそうに。
今日だけは、ずっと一緒にいよう。
約束の日まで、頑張れるように。今日のことを思い出して、やっていけるように。
- 12 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:06
-
それから、私たちはちょっとだけ距離を置くようになった。
変わらず仲良しだったけど。
それは前みたいなべったりって感じじゃなくて。
私はひとみちゃんをよっすぃーって呼んで。
ひとみちゃんは私を石川って呼ぶようになった。
ひとみちゃんはごっちんとどんどん仲良くなっていって、
私も柴ちゃんと仲良くなって。
それに、私は強くなった。
なるべく周りに頼らずに自分一人の力で頑張ろうって思うようになった。
だって、誰かに頼りたくなると一番に思いつくのはひとみちゃんの姿で。
でも、ひとみちゃんには頼れない。頼りたくない。
そう思った。
だけど、ひとみちゃん以外の人にはもっと頼りたくなくて。
だから、強くなろう。
そう思えた。
- 13 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:07
- それから、色々なことがあった。
ひとみちゃんはどんどん男の子キャラに拍車が掛かって。
実際、どんどんかっこよくなってって。
みんながよっすぃーかっこいいって言うと、ちょっと妬けたけど
でも、みんなが言ってる中に混じって私もよっすぃーかっこいいよ
って言えることは嬉しかった。
それに、時々だけど。
ひとみちゃんは私にサインをくれた。
それはほんとに微かな、ふとした瞬間の僅かなものだったけど。
目が合ったり。ちょっと手が触れ合ったり。
そうした時、伝わるものがあった。
忘れてないよ。
お互い、約束の日まで頑張ろうね。
だから、私もそういう時、心の中で叫ぶ。
うん、解かってるよ。
大好きだよ、ひとみちゃん。
それが、今日までの私のパワーになった。
- 14 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:07
-
あれから、もう随分と月日が経ってしまって。
変わらず、私たちの微妙でそれでも確固たる関係は続いていて。
そんな中、私は周りの勧めるままに卒業を決めた。
もう少しここで頑張ってみたかったけど
もし他に私の活躍の場があるのだとしたら、そこで
頑張ってみてもいいかなって、思える気がした。
私の卒業を聞かされたひとみちゃんは途端、話をするつんくさん
から視線を私に向けて、離さなくなった。
私は、微笑む。
ひとみちゃんはしばらく表情を変えず。
けれど、段々と笑顔を浮かべて。
私たちは束の間、微笑みあった。
ひとみちゃん。
私、今日まで頑張ってきたよ。あの約束があったから。
だから約束の日まで、もう少しだけ、頑張り続けるよ。
ひとみちゃんは、そんな私の心の言葉を聞いたように
静かに2回頷いた。
- 15 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:08
-
あなたは、まだ覚えているでしょうか?
私たちのあの約束を。
あたしは覚えています。
恥ずかしくて、確認とかできないけど。
でも、あなたもきっと覚えていることと思います。
それで。
あの約束の答えはいかがなものでしょうか?
約束の日は、近づいています。
- 16 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:09
-
ある日、私のカバンの中から出てきた紙片。
見覚えのないそれに書かれた、メッセージ。
私はいつものように、心の中で答える。
ひとみちゃん、聞こえてますか?
覚えてるよ。
答えも、決まってる。
だから待ってて。
私たちの、約束の日まで。
その日まで、お互いに精一杯頑張ろう。
- 17 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:09
-
〜END
- 18 名前:桜折 投稿日:2004/06/28(月) 23:14
- 昨今の情報をまとめ、自分なりに脳内補完してみた結果がこれです(笑)
こんな関係もありかな、と。
こんな未来が待っているなら来年が来るのも怖くないかも、と。
一人のいしよしファンとして思う訳です。
はい。
失礼しますた。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/29(火) 21:07
- この雰囲気好きです。
これからも期待してます。
- 20 名前:プリン 投稿日:2004/06/30(水) 17:28
- 更新お疲れ様です。
名無飼育さん様と同じで、この雰囲気なんか好きです(w
ホントのいしよしを見てるようでした。
次回の更新も待ってます。
頑張ってくださいw
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/30(水) 23:11
- あ〜良いですね・・確かにあのふたりって
お互いだけが分かってる・っていう空気が
ありますよね。
更新 楽しみにしてます。
- 22 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:36
- レス、有り難うございます。
やっぱり、感想があるとやる気が出るものです(照)
>19様
はい。精進していきたいと思います。
>プリン様
約束〜は自分なりのリアルなんで(笑)
そう言って頂けると私の世界を肯定されたようで嬉しい限りです。はい。
>21様
ですよね。あの二人の空気を、あの二人の世界を、これからも追い続けていきたいと思います。
今回の更新はアンリアルです。
- 23 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:37
-
『私たちの間にあるもの』
- 24 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:38
-
それは、最後の力を振り絞った行為だったのではないかと今では推察された。
「きゃあっ」
悲鳴を聞いてもしやと思いその方向へ走ると…
「わうわうっ」
最近全然鳴いていない筈の我が愛犬がそう叫んで、少女に飛びついていた。
「うわぁ―――っ」
驚いて駆け寄って
「こらっお前、なんてことすんだよぉっ」
と、引きずっている手綱を拾い、力一杯引き離す。
「すみません、うちの奴が…」
相手の顔を見て、更に驚く。
正直驚くとゆーか、血の気が引いた。
そこには私の憧れの人が目に涙を溜めて立ち尽くしていたから。
- 25 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:39
-
「よっすぃー」
その声に、私は顔を上げずとも解かる。
それは、愛しいあの人の声。
「よっすぃー…」
ちょっと涙交じりの声。
あの時と同じだね。
私が顔を上げずにいると、ふわっと暖かな感触。
そして、梨華ちゃんの甘い匂い。
「よっすぃー」
声が、頭上からした。
ああ、抱きしめられてるんだ。
初めてだよ。
ラッキー。
私は不謹慎にもぼんやりとそう考えた。
ここはペット専用の葬儀場。
昨夜、私の愛犬チェケラッチョが死んだ。
「チェケラッチョ?」
と言って、初め彼女は笑ったっけ。
失礼な。
ちょっとだけムっとして、でも梨華ちゃんのその笑う仕草が可愛くて許した。
自分の犬は「チャーミー」なんて名前だった癖に。
絶対、「チャーミー」より「チェケラッチョ」の方がかっけーって。
まあ、私が付けた名前じゃないんだからそんなムキにならなくてもいいんだけどね。
- 26 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:39
- チェケラッチョは老犬だった。
うちに来た時から、もう若くはなかった。
それなりに覚悟もしてた。
予感もしてた。
だから、大丈夫だと思ってたのに。
「よっすぃー」
私の頭を抱えて、自分の胸に寄せた梨華ちゃん。
その性で、私の名を呼び続ける声は身体同士を通じてなにか温かく響いて聞こえる。
梨華ちゃん、大胆…。
またそんな不謹慎なことをぼんやりと思う。
すると、今度は梨華ちゃんの手が私の髪を撫で始めた。
優しく、髪を梳くようにするその仕草に私は気持ちが良くなり、目を細めた。
思えば、昨日から一睡もしてなかったなあ。
ぼんやりする思考の中、ついでだから、と梨華ちゃんの胸に頬をすり寄せた。
- 27 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:41
-
梨華ちゃんのことは、ずっと知っていた。
ご近所さんだったけど面識はなかった。
お互い、小学校から私立に通ってたから。
でも、私はずっと知っていたんだ。
可愛い人だったから。
朝の電車でよく一緒になって。
夕方の電車で時々一緒になって。
最初は目を引く人だなって。
そのうち、探すようになって。
そのうち、これが好きってことなのかなって思って。
同じようにご近所さんで、高校からうちの学校に入ってきたごっちんに聞いたら
案外あっさり身元が割れた。
- 28 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:42
- 石川梨華ちゃん。
私たちより一才年上。
うちの学校からさらに20分電車に乗った所にあるミッション系の学校に通ってる。
テニスが上手で鳥が嫌い。
綺麗な顔に似合わず奥手で、何回も告られてるけど、何回もお断りしてる。
…ごっちん、どこでそこまで情報入手したの?
まあ、私はありがたかったんだけど。
とにかく、そんなこんなで。
私はずっと梨華ちゃんに片思いしてた。
でも、接点もないし。
告白してうんと言ってもらう自信もないし。
このまま、なんとなく終わってくのかな。
そう思い掛けてた時。
例の事故が起きた。
- 29 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:43
-
「ほんっとーにごめんなさいっ」
公園のベンチで。
私はチェケラッチョの手綱をブランコの柵にきつく巻きつけて。
ハンカチを濡らしてきて梨華ちゃんに渡した。
「そんな、いいんです」
梨華ちゃんは微笑んで、チェケラッチョの前足で少しだけ汚れてしまったスカートを拭いた。
「いや、そんな、ほんとーに申し訳ないですっ」
私は、少なからず混乱していた。
憧れの人に我が間抜けな愛犬が危害を加えてしまった。
どーしたらいいんだろう。
まず、それが一つ。
そしてそれから…邪まな考えも一つ。
これを機会に、なんとか知り合いになれないものか。
そんな二つの考えが入り乱れ。
私の頭はちょっとしたパニック。
「大丈夫。ほんとに、いきなり出てきて驚いただけで。怪我とかなんにもしてないし」
にっこり微笑む彼女の顔に、ちょっと見とれて…沈黙。
梨華ちゃんの顔に「?」が浮かぶ。
「あ、いや…その、そんな、ほんとに…」
訳のわかんないことを口走り、私は途方に暮れる。
- 30 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:44
- 「何歳ですか?」
そんな私に、彼女が助け舟を出してくれる。
「17…あ、ああ、もう13才なんです」
一瞬自分の年を言いそうになって慌てる。
別に私のことなんて誰も聞いてないってねえ。
と、自分で自分に突っ込み入れたり。
「そう…じゃあ、もうお年寄りなのね」
梨華ちゃんの目に、一瞬悲しげな色が浮かぶ。
「ええ…あ、あの」
その時、一番無難な話題を思い出して私は口にする。
「前はよく、犬のお散歩してましたよね?黒い…」
そう。
黒いテリア。
彼女のイメージにぴったりな上品な小さな犬を連れて、
丁度一年前くらいまでは散歩している風景を見た。
それで、私はチェケラッチョを飼うことに賛成したんだっけ。
いつか二人で、愛犬を連れて散歩できたら…。
「ああ、その時お会いしてましたっけ?」
彼女の顔に再び笑顔が灯る。
やっぱり、ペットの話題っていいよね。
「いえ、その、見掛けた気がしたなー…って」
曖昧にお茶を濁す。
さっきからこれなっかりだなあ。
なんか、変な人って思われないかなあ。
- 31 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:46
- 「チャーミーは…あ、チャーミーって名前だったんですけど。従姉妹のペットなんです。
海外に家族そろって転勤になって、それでうちで飼うことに。
でも、去年一家で戻ってきて。それで、戻してまったんです」
そう言うと梨華ちゃんはチェケラッチョに寄って行き、頭を撫でた。
「チャーミー、元気かなあ」
「奇遇ですねっ」
私は、偶然の話題に飛びつく。
「うちのチェケラッチョも、実は叔父夫婦のとこの犬だったんですよ。
でも、従兄弟が喘息持ちで。それでこいつの面倒まで手が回らなくなっちゃって」
「そっかあ」
梨華ちゃんが撫でると、チェケラッチョはくうん、と鳴いて擦り寄った。
ったく、我が愛犬ながらなんてだらしのない。
「元気ないね」
梨華ちゃんが言う。
「うん…最近。年だしね。さっきは急に走り出してびっくりしたよ。
最近じゃあ散歩に行くのも億劫がる感じだったのに、どうしたのかな〜」
- 32 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:47
- そして、ちょっとだけ勇気を出してみる。
「…石川さんが、可愛いから寄ってっちゃったのかな〜」
「そ、そんなあ」
素直に赤くなる彼女を見て、やっぱり可愛いって思う。
しかし、一瞬の間を置いて。
「あ、名前…」
というつぶやきに、私は再び焦る。
「あ、あの、私たちよく電車一緒になるんですよ?それで、同級生の友達が
石川さんの同級生で…えっと、前、見掛けた時偶然話題になったんです」
咄嗟に出た言葉は嘘と本当が入り混じり。
「あ、あの藤本さんって知りません?」
「ああ、ミキティ」
「その子と、私の友達のごっちん…後藤って子が知り合いで」
「そうなんだ」
やっと安心した笑顔を浮かべる梨華ちゃんに、私はほっとする。
「あ、あの、私は吉澤って言います。吉澤ひとみ」
「私は、石川梨華。よろしくね」
- 33 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:47
-
こうして、私たちは知り合った。
チェケラッチョのお陰。
それからは、楽しい日々が続いた。
最初のうちは、時々散歩の途中に偶然会って。
少し一緒に散歩をして。
そのうち、朝夕の電車が一緒になると話すようになり。
携帯番号を交換するようになり。
散歩の時間をメールすると、それに合わせて公園に来てくれるようになった。
どんどん老衰していくチェケラッチョはもうあまり散歩をしたがらず、
でも外の空気を吸わせてやりたくて。
私は毎日公園まで自転車に乗せて連れてきた。
その熱心さに家族はちょっと不思議な顔をしてたけど。
本当にチェケラッチョにそうしてやりたいと思ったから。
勿論、そうすれば梨華ちゃんと一緒の時間が持てるから、ってのもあったけど…。
そうして、時は過ぎ。
でも、なんとなく梨華ちゃんをチェケラッチョの散歩以外で呼び出すことは出来なくて。
デートに誘いたくても誘えない。
そんな微妙な日々が続いた。
- 34 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:48
-
しかし、そんな日々も長くは続かなかった。
昨夜、チェケラッチョは静かに息を引き取った。
本当に静かで安らかで。
私は、少しだけしか泣かなかった。
チェケラッチョは、天国に行った。
そう思えたから。
でも。
今日になって、葬儀場に来て。
チェケラッチョが焼かれて、小さな、本当に欠片みたいなお骨にされて。
それを見たらなんだかやりきれなくなって。
私は、そのまま葬儀場のソファに座ったまま。
泣くでもなく、寝るでもなく、座ったままになってしまった。
そんな時。
梨華ちゃんの声がした。
- 35 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:49
-
どれだけそうしていたのか。
気が付くと、梨華ちゃんはまだ私の髪を優しく撫でていてくれた。
「あ、ごめん、私…」
と、慌てて体をどけようとすると、予想以上に強い力でそれを押し戻された。
「いいよ。もう少しこのままで」
「だって、疲れるでしょう?」
「ううん。大丈夫。気持ち良い」
そう言って、梨華ちゃんは私の頭に顔を寄せた。
梨華ちゃん、そんなことしたら私、勘違いしちゃうよ。
「あのね、ひとみちゃん。私、一つだけ嘘ついたの」
- 36 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:50
- ぽつりぽつり、と梨華ちゃんは話し始める。
「チャーミーは従姉妹のとこに戻ったって言ったでしょ。
戻ったんだけど…死んじゃったの。戻ってすぐ。丁度一年くらい前かなあ。
チェケラッチョと同じ老衰でね。何も悲しむことはなかったんだけど。
従姉妹と私で看取ってね。みんなが良かったねって。チャーミーは幸せだったねって。
そう言ってくれたんだけどね。でも、すごく悲しかった。
でも、従姉妹がわんわん泣いちゃってね。従姉妹、私よりも年下で。
だから、私泣けなくなっちゃって。苦しかった。すごく」
顔を上げると、梨華ちゃんはいつかのように涙ぐんでいた。
どこか、遠い目をして。
「でも、泣けなかったの。それが、今でもずっと私の中にひっかかってるの。
どうして、あの時従姉妹の前だからって、お姉さんだからって我慢しないで
泣かなかったのかって。だから、ひとみちゃん。泣いて」
- 37 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:51
- 梨華ちゃんは、私を見る。
こぼれそうでこぼれない、梨華ちゃんの涙。
「私の分まで。そうしたら、私がひとみちゃんの分まで泣いてあげる」
梨華ちゃんの手が、私の頬を優しく撫でる。
何回も、何回も。
どうして、梨華ちゃんは私が泣けずにいること分かったのかな。
そんなことを考えていたら、気付くと涙が溢れていた。
本当に滝のようにぶわぁっと。
それを見て、梨華ちゃんはちょっと驚いた顔をして。
でも、すぐまた私の頬を優しく撫でてくれて。
そして、自分も瞳に溜めていた涙をこぼしはじめた。
私も梨華ちゃんの真似をしてゆっくりと、彼女の頬を撫でた。
- 38 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:52
-
どれだけそうしていただろう。
お互い、涙も枯れかけた頃。
ぐすぐすと鼻をすすりながら、梨華ちゃんが決意したような真剣な顔で言った。
「ねえ、ひとみちゃん。私、ひとみちゃんの思い、解かるよ。きっと誰よりも。
だから、何でも言って。私が何でもしてあげる。お散歩、一緒に行ってあげる。
一日中一緒にいるってことは出来ないけど…寂しくなったら言って。飛んでいく」
私は、じゃあ恋人になって…と言い掛けて、さすがにちょっと、と思い直し。
そして、思ったことをストレートに口にする。
「ずっと、一緒にいて」
梨華ちゃんは、こくこくと頷いた。
…意味、分かってるのかなあ。
気付けば、窓から射す光は茜色。
もう夕方だ。
またぐすぐすと泣く梨華ちゃんを、今度は私が胸に抱く。
そして、もうしばらく私たちはそこで抱き合っていた。
- 39 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:53
-
帰り道。
いつもは、私たちが歩く時。
二人の間にはチェケラッチョがいた。
今は、いない。
その空白を埋めるように、私たちは手を繋ぐ。
「ねえ、いきなり押しかけて迷惑…じゃなかった?」
おずおずと聞く梨華ちゃんに、私は答える。
「ううん。有り難う、梨華ちゃん。梨華ちゃんがいてくれて
本当に良かった」
そして
「好き」
と、少しだけ小さな声で呟いた。
すると梨華ちゃんは
「私も好き。ひとみちゃん。…あのね、悲しみからも、
辛いことからも、私が守ってあげるよ」
と言って、触れるか触れないかのキスをくれた。
泣き腫らした顔は赤くてよく分からなかったけれど、少し照れているようだった。
- 40 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:55
-
チェケラッチョ、有り難う。
これは、もしかしたら、チェケラッチョからの最後の贈り物だったのかな、
なんて今、思ってます。
これから、きっと私と梨華ちゃんの距離は段々と縮まっていって。
願わくは、ずっと一緒に歩いていって。
そして。
ずっと私たちの間にはお前とチャーミーがいる。
二人が手を繋ぐ時、二人の間にはお前たちがいる。
きっと、幸せになる。
だから、お前たちも幸せに。
天国で、安心して幸せにおなり。
そして私たちの幸福を、そこから見ていてね。
- 41 名前:桜折 投稿日:2004/07/02(金) 21:59
-
〜END
…but forever
- 42 名前:プリン 投稿日:2004/07/03(土) 13:15
- 更新お疲れ様です!
な、泣けた・゚・(ノД`)・゚・。
こりゃ、感動ですよ。
でも最後は甘く。最高でしたっ!!
雰囲気もまた素晴らしくて。
次回の更新も待ってます!
頑張ってください。
- 43 名前:前・No21 投稿日:2004/07/04(日) 22:13
- 更新お疲れ様です〜。
やさしい文面でほっと癒されます・・
不足気味の いしよし・のお話を読めてうれすぃ〜です☆
更新ゆっ〜くり待ってますね!!
- 44 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:01
- レス、有り難うございます。
読んで下さってる方もいるんだな、って安心します(笑)
『私たちの〜』は自分の中でのテーマは「母性石川」だったり。
自分の中でへたれよっすぃーが定型だったりするので(…)
梨華ちゃんのアレンジで話の方向が変わったりする気がしますね〜。あは。
>ぷりん様
動物ネタって泣けますよね。反則でしょうか?
(と、自分の首を絞めてみたり・笑)
やっぱり、いしよしは甘々がいいですよねぇ。
そしてそれがはまるところが素晴らしい…(うっとり)
>21=43番様
本当に最近は不足気味で。残念な限りです。
頑張って自分の中で量産していくしかないかと…!!
がんがります。
しかし。
今回の更新はお二人の期待する雰囲気とは違ったものかと…。
ここらで一度、雰囲気を変えて。
痛暗な感じです。実はこういうのの方が得意だったり…したりしなかったり(どっちだよ)
よしいしごま?な感じになります。
- 45 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:03
-
『駄目な女だから』
- 46 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:05
-
私は、駄目な女だ。
夜明け前。
初夏の澄んだ夜空を見上げて、私は思う。
「何を見てるの?」
無関心そうに投げ掛けられた言葉に、
「私の運命と夏の夜空」
と答えると、
「なに、それ?」
と、ごっちんはふっと笑いを返してきた。
白いシーツの上。
私もごっちんも裸のまま。
ごっちんは天井を見つめて煙草を燻らせ、私は窓の外を
見つめている。
交差点のない、沈黙の風景。
でもそれが私を和ませた。
私は、駄目な女だ。
つくづくとそう思う。
- 47 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:07
-
私は、私だけの誰かが必要だった。
弱い人間だから。
常に誰かが傍にいてくれなければ、駄目だった。
…本当に駄目な女だな。
自分でもそう思う。
でも、駄目。
無理なものは無理。
だから、よっすぃーを愛したのかもしれない。
よっすぃーはずっと傍にいた。
同期で娘。に入り。
ずっと、一番近い存在だった。
もし保田さんが同期だったら…
……いや、それは考えられないけど…。
例えば、ごっちんが同期だったら。
私はごっちんを愛していたのかもしれない。
そうしたら、こんなに苦しい思いをしていなかった?
私がそう尋ねると、しかしごっちんはうーん、と
ほんの少しだけ悩んだ後
「わからない」
と応えた。
私は、その率直さを好いていた。
- 48 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:09
-
私がよっすぃーに別れを告げたのは、
まだ春浅い頃だった。
桜もまだ蕾で。
私の住むマンションに近い公園で。
いつかよっすぃーに告白した時のように、桜の木の下で静かに別れを告げた。
嬉しいことに、よっすぃーは取り乱して
「なんで?訳わかんないよ!!」
と叫んでくれた。
私はただ、微笑んで。
「もう、無理なの」
とだけ答え続けた。
もう、無理だった。
私には耐えられない。
あなたの優しさが。
あなたのその綺麗な心が。
あなたはいつだって、誰にでも優しくて。
誰でも受け入れて。
それが私を傷つけた。
- 49 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:10
- でも、あなたはいつも言ってくれたよね。
「一番は梨華ちゃんだよ」
って。
そう信じていた。
そう信じたかった。
でも、それを無邪気に信じ続けるには私は弱すぎた。
私は自分の嫉妬心を抑えることが出来ない。
あなたが他の誰かに優しい視線を送る度。
あなたが他の誰かの手を握る度。
あなたが他の誰かと微笑み合う度。
私の中の醜い心が浮かび上がる。
私はもう、それには耐えられないから。
私は弱すぎて、それに抗うだけの力がないから。
幸せになりたいの。
心穏やかに暮らしたいの。
だから、これ。
その結論が、これ。
- 50 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:13
- 「ねえ、何が無理なの?何がいけなかったの?言って。
言ってくれなきゃわかんないよ」
あなたの声。
私の手を強く握るあなたの手。
こんなに近くにいるのに、あなたの声は
とても遠く聞こえる。
ああ、私たちはきっと、遠くまで流されてきて
しまったんだね。
あの頃とは違う。
私たちが初めてこの木の下でくちづけた、あの頃とは。
もう、戻ることは出来ない。
「ううん。よっすぃーは悪くないよ」
そう。
よっすぃーはこれっぽっちも悪くない。
悪いのは、全て私。
不安に勝てない、「もしも」に怯える、弱い私。
「じゃあ、なんでそんなことゆーんだよ」
ねえ、よっすぃー。
ほんとにいけないことなんてないの。
あなたが好き。
そのままのあなたが。
あなたには、ずっとそのままでいて欲しい。
それは、矛盾な願いだけど。
私はそう強く思ったから。
だから、さようなら。
「分かんない。そんなの、分かんない。別れないよ!!」
貴方はその日、結局そう言って帰って行った。
- 51 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:14
-
どこかのグループの歌じゃないけどね。
私は、一番になんてならなくて良かったの。
そんなものいらない。
私は、あなただけの私になりたかった。
私だけのあなたに、なって欲しかった。
所謂、ナンバーワンよりオンリーワン。
私は、駄目な女だから。
誰かが傍にいてくれないと駄目なの。
私の傍にいて、私を見ていてくれないと駄目なの。
駄目になってしまう。
よっすぃーを好きになって、私はそれを再確認した。
- 52 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:16
- よっすぃーは本当に優しくて。
誰にでも笑顔を振りまいて。
でしゃばることは絶対にしないけど、
必要とされれば必ず応えてあげる。
そんな心底優しいよっすぃーを、私は愛していた。
だけど、それでは駄目だった。
よっすぃーのその優しさに好きになったのに。
絶対に変わって欲しくないのに。
私には、それでは駄目だった。
私は、私だけの愛が必要だった。
私だけの愛の対象が。
そのジレンマが、私を苦しめた。
よっすぃーが好き。死ぬほど好き。
離したくない。離れたくない。
だけど、よっすぃーの傍にいる限り、恋人でいる限り、この苦悩は付いて回る。
私はきっといつも不安に見舞われ、醜い心を抱え、苦しみ続けなければいけない。
最後に勝ったのは、保身。
私は、解放されたいと思った。
この苦しみから。
- 53 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:17
- そして、よっすぃーの優しい姿を願った。
私に合わせて変わるくらいなら、
私から離れてでも優しいままのよっすぃーでいて欲しい。
本気でそう願えた。
だから、別れを決めた。
本当に勝手なこと。
私からあなたを好きだと言って。付き合ってって言って。
でも結局駄目でした、なんて。
だから、あなたには言わない。
優しいあなたはきっと、この理由を聞いたら
悩んでしまうから。
きっと、解決の糸口を探してしまうから。
ねえ、それ位の愛情は私に向けられていたと
自惚れてもいいよね?
そして、それから。
私は、私だけの愛をくれる人を探すことにした。
- 54 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:19
-
「でも、後藤は市井ちゃんが好きだよ。
きっと、梨華ちゃんがいても市井ちゃんを好きになってた」
少しして。
ごっちんは先程の答えにそう付け足した。
まっすぐな瞳。
強い意志。
「冷たいのね」
言葉とは裏腹に、私は微笑む。
強い人。
私は、強い人が好きだ。
そして、彼女は間違いなく、強い人だ。
「うん。だから、優しい梨華ちゃんが好きなんだ」
そう言って、私を抱き寄せて。
私も、彼女の肩に顔を寄せ
「いいよ。何番目でも。私も、冷たいごっちんが好きだから」
「痛いなあ」
そう言って、またふっと笑う。
- 55 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:23
-
保田さんには、本当に悪いことをした。
それでも保田さんは笑ってくれた。
「気にしないで」
と言ってくれた。
私たちが共に過ごしたのは、本当に短い期間で。
桜が散った頃から、梅雨が終わる頃まで。
その、本当にぼんやりとした、はっきりしない
季節の中で。
私の鬱屈した心を、保田さんはただひたすらに
温めてくれた。
それでも、私が彼女だけを見れなかったのは……
やっぱり、よっすぃーが好きだったから。
よっすぃーを忘れられなかったから。
私は苦しくて……そして、ただ優しく私を守ろう
とする保田さんの腕ではなく、もっと強く強引な
何かに委ねれば忘れられるかもしれない、と
淡い期待を抱き……ごっちんに抱かれた。
雨が止み。
梅雨が明け。
私は保田さんの家を出た。
保田さんは、何も言わなかった。
知っていた筈なのに。
私が何度かごっちんに抱かれたことを。
それでも、何も言わず優しく包んでくれた。
それが、これ以上彼女に甘えてはいけないと私に教えた。
彼女をこれ以上傷つけてはいけない、と。
- 56 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:24
- 「いつでも、戻っておいで」
優しく微笑む、保田さんの笑顔。
私はこの先、何があってもそれを忘れないだろう。
私の住んでいたマンションまで送ってくれた。
その帰り道。
マンション前の敷石道。
彼女は心配そうに振り返り、そう言った。
「気にしないで」
と。
「私は、いつまでもあなたが好きだから」
と。
涙がこぼれた。
私は、何をやってるんだろう。
私は……どうしたらいいんだろう。
掴みかけたと思った私だけの愛は
……そこにはなかった。
- 57 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:26
-
ねえ、ごっちん。
冷たくして。
優しくしたら。甘やかしたら。
私はきっと頼りきってしまう。
私は本当に、駄目な女だから。
保田さんにしたように、あなたに甘えて
よっかかって、そしていつか傷つけてしまうかもしれない。
そうしないためにも。
あなたは私との距離を保って、そして、
私にとっての愛の対象となって。
例えそれが、フェイクの愛であったとしても。
私は、常に誰かが傍にいないと駄目になる。
誰かが必要なの。
私がいるって。
私がここにいるって証明してくれる誰かが。
一対一で向き合ってくれる誰かが。
- 58 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:28
- ごっちんは、市井さんを失くした。
きっと、もう戻ってはこない。
だけどごっちんは待ち続ける。
強い意志を持って。
私は、よっすぃーを失くした。
きっと、もう戻らない。
そして戻れない。
弱い私だから。
そんな私たちは、きっといい愛の対象になれる。
傷を舐め合いながら、きっと暖めあっていける。
お互いに対象を失くしたから、お互いを
対象の代替として、私たちだけの愛を育てていける。
私は、それがフェイクと知りつつも
私だけの愛をごっちんに見出したの。
だからごっちん、傍にいて。
抱きしめて。
- 59 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:30
-
夏の夜空が白々と明けてゆく。
電話が鳴る。
暫くして、それが留守電に変わる。
電子音の後に零れる、あなたの声。
「梨華ちゃん、いるんでしょ?
梨華ちゃん…ねえ、もう、うちら駄目なのかな?」
よっすぃー。
よっすぃー、聞こえる?
私は、今でもあなたが好きよ。
きっと、死ぬまで、あなたが好き。
だから、無理なの。
あなたの傍にはいられない。
駄目な私を許してなんて言わないから。
だから、お願い。
私を軽蔑して。
梨華ちゃん、梨華ちゃん、と
繰り返し呼ぶよっすぃーの声を聞きながら、
よっすぃー、よっすぃー、と
胸の中で叫びながら、
ごっちんに抱かれている私を。
お願い、駄目な女と哀れんで、
どうかこのまま忘れてしまってください……。
- 60 名前:桜折 投稿日:2004/07/10(土) 00:31
-
〜END
- 61 名前:前・No21 投稿日:2004/07/11(日) 00:51
- 更新お疲れ様です〜
いっ・痛い・・痛いけど、こういう感じ
梨華ちゃんから受ける時ありますよね・・。よっすぃ〜の
無邪気さって梨華ちゃんにはつらいだろうな〜って思うことが・・。
作者様、明るいものも、痛い(笑)感じも楽しみに読んでます。
いしよし・大好きなので・・☆
- 62 名前:プリン 投稿日:2004/07/14(水) 16:32
- 更新お疲れ様です。
お久しぶりです。
非常に痛いでし・゚・(ノД`)・゚・。
でもまぁ、どんないしよしでも好きなので♪
やっぱ甘々が一番ですけどね(w
次回の更新も待ってます!頑張ってください!
- 63 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 01:54
- 同板とか、緑板とか、桃板とか。
最近更新された切にゃいいしよしを読んで
・゚・(ノД`)・゚・。ウワーン
てなって。(注:人のことは言えません>自分)
思いつきだけでほのぼのいしよし書いちゃいました。
たまには勢いであげるってのもいいかな、とか
言い訳いしつつ出来たてを載せてみます。
推敲とかちゃんとしてない駄文なんで、sageてみたり……。
- 64 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 01:55
-
ナツノヒカリ キミニコイシテル
- 65 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 01:55
-
ロケバスを降りると、そこは真っ青な海―――――
…なんてことはなく。
東京からあっという間に着いたそこは、まあ、海は海だけど。
まあ、海じゃん?って程度のシロモノ。
でも、夏の光に照らされてキラキラ光るそれは
なんだか夏!!ってムードを漂わせててちょっとあたしのテンション
を上げる。
と、
「「「うわーーーー」」」
ゴロッキーズがあたしの横をすり抜けて一路海へと駆けていく。
そんなに海が珍しいんか、今日びの子供は…?
なんてちょっとヒネたことを思いつつ、あたしもその後ろについて
砂浜へ降りていく。
今日は、撮影のために海岸までやってきた。
あたしたちのスケジュールは相変わらず詰め込めるだけ詰め込まれてて。
水着撮影でもないのに、泳げる海まで行くことを許さない。
そんなハードスケジュールをこなしてるにも関わらず、
すかさずゴロッキーズは砂浜ではしゃぎ、束の間の夏をエンジョイしてる。
いいなあ、若いって…。
- 66 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 01:56
- 遠い目をするあたしの背後からやってくるのは、
飯田さん、矢口さん、梨華ちゃん。
あたしが立ち止まると、三人とも自然に足を止めた。
さすがにこの三人は海に向かって突っ走ったりはしない。
飯田さんと梨華ちゃんなんて、しきりに日焼けについて語り合っちゃってる。
ちなみに、辻加護はロケバスで熟睡中。
Wの活動もあるし、二人は今一番大変な時期。
休めるうちは休ませておいてやりたい、と打ち合わせをするマネージャー
たちの横に転がしたままにしてきた。
起こそうとする人たちの手を一々止めて。
「起きたらうちらが海で遊んでたら、くやしがるだろーな」
って笑いながら。
ああ、スバラシキ同期愛☆
歩いてきた順番の関係で、もう一人の同期の梨華ちゃんが
あたしの隣りに立っている。
反対隣りの飯田さんとマジ真剣に日焼け対策について語ってるので、
あたしは気付かれないようにそっと彼女を盗み見る。
むき出しの腕が、夏の光線を浴びてひたすらまぶしく感じる。
いつもよりどきどきしちゃうのは、夏だからでも海だからでもなくて、
きっと愛しちゃってるから。
- 67 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 01:57
- ハミルトンの時は彼女のさらけ出された胸元や肩のラインにどきどき
したものだ。
でも、今は違う。
あたしは、彼女を知っている。
ずっとずっと、深く。
だからこのどきどきも、その腕や足が妙にまぶしく感じちゃうのも。
みんな、彼女を愛しく思ってるから。
そんな風にふかーい思考を抱きながら、決してエロい視線じゃないぞ
と言い訳しながら、ジロジロ見つめていた視線を身体から上げると
梨華ちゃんの顔はお決まりの困り顔。
眉間に皺を寄せて、憂鬱そうに日焼け後のお手入れについて話してる。
そんな顔するなよ。
夏なんだよ?海なんだよ?
ゴロッキーズをご覧よ。
あんなにはしゃいで……と、
「よっさーーん」
という声と共に、水滴が飛んでくる。
藤本……お前、撮影の衣装で海入るなよ……。
- 68 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 01:59
- しかし、気付くとゴロッキーズはみんなもう海に入っちゃってる。
ゴキーズ(言いづらい)なんて四人で結構遠くまで行っちゃってる。
多分、あの先にある岩場とか行こうとしてるんだろーな。
おーい。ちゃんと帰って来いよ〜〜。
ロッキーズはきゃあきゃあ言ってじゃれあってて。
可愛いなあ、おい。
そしてその横で、藤本は挑発するように、なおもあたしに海水を飛ばしてくる。
藤本さん…あなた梨華ちゃんと同い年でしょ……?
何、ロッキーズに紛れて悪さしてるんですか。
松浦さんに言いつけますよ……?(って、関係ないだろって?)
しかし、そんな藤本の挑発にあたしは乗らない。
いつもだったら、まあ、場の雰囲気で乗るかもだけど。
だって、隣りには梨華ちゃんがいる。
あたしは藤本たちを見る振りをして、そっと後ろ手にその手を取る。
- 69 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:00
- 一瞬、びくっとして。
でもすぐにあたしの手と気付いて、梨華ちゃんは姿勢はそのままに
手を絡めてくる。
彼女の衣装が珍しく長めのフレアスカートだったのをいいことに。
その襞にそっと二人の手を沈めて。
ぎゅっと強く握る。
うん。いい感じ。
彼女の手の感触。ぬくもり。
隣りから聞こえる声はさっきよりも断然明るく、弾んでる。
うん。いい感じ。
一陣の風が吹き。
あたしは、束の間幸せを噛み締める。
しかし。
「「なにしてんのーーーー」」
という声と共に二人組の小悪魔が飛びついてきて。
あたしは加護に、梨華ちゃんは辻に抱きつかれた衝撃で、こっそり繋がれて
いた手と手が離れてしまう。
くそぅ。
いい感じだったのに!!
と怒ろうとしたけど、後ろから抱きつく辻の頭を撫でて嬉しそうに
微笑む梨華ちゃんを見て、止めた。
まあ、こんなのもありかな。
たまにはね。
たまには。
- 70 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:00
- だけど。
「加護、重いよーーーーー」
後ろから覆いかぶさるようにあたしに抱きつく加護に抗議する。
「うっさいな〜」
「なんだとーーー!?また太ったんじゃないのかーーー!!?」
と、加護は腕に力を込めてあたしの耳元に口を寄せる。
「んなことゆーて。今、よっすぃーが梨華ちゃんの手を握って
にやにやしてたことみんなに言うてまうで?」
なっ……。
見てたのかよ!!!
と、あたしが返答に困っていた時。
ばしゃっ
加護を背負ってちょっと前傾姿勢になってたあたしの頭に
おもいっきし水が掛かった。
顔を上げると、やっちゃった……て顔の藤本。
お前……セットした髪を……。
「くぉらぁーーー」
あたしは叫びながら海に向かって走り出す。
背後にはもう加護はいない。
どうやら藤本の攻撃を察知して離れたらしく、さっきの海水攻撃の
被害も被ってないらしい。
なんて要領のイイ…。
あたしは海に突っ込むとそのままばしゃばしゃと水をかき
藤本に宣戦布告。
- 71 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:01
- 「ひゃーーーー」
なんて言いながら、藤本は嬉しそうに参戦。
普段はクールな風なのに、こういう時はホント無邪気で子供っぽい。
こういうところが梨華ちゃんと反対なんだよね。
ふと砂浜を見ると、今にもあたしの後を追って海に突入しそうな
二人組の背中を掴んで梨華ちゃんがなにやら言い利かせてる。
もうすぐ撮影なんだから駄目よ、って?
お姉さんだなあ。
あんな大人になっちゃ駄目よ、って?
梨華ちゃぁーん…。
視線をそんな微笑ましい風景に取られていると、いつのまにか
四方八方からの集中攻撃を受けていた。
はっとして見渡すと、ロッキーズが囲んで一心に
あたしめがけて海水を降らせてる。
藤本、いつの間にこんなにロッキーズを手懐けたんだ…?
あっという間に、あたしはずぶ濡れになって。
形勢不利を確信したあたしは、視線を再び砂浜に向ける。
来たれ、ヨンキーズ!!
俄か同期のロッキーズに真の同期パワーを見せつけてやる時がやってきたぞっ!!!
- 72 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:02
- …しかし。
そんなあたしのSOSな視線は届かない。
いつのまにか日傘をゲットしてる飯田さんに寄り添うようにして
梨華ちゃんは、微笑ましそうにこちらを向いてにこにこしてるだけ。
辻加護に至っては……飽きたのか?足元の砂をいじって二人でじゃれあってる。
……なんか、悲しくなってきた。
ヨンキーズパワーはいづこに?
てゆーか、梨華ちゃん、愛のパワーは??
「助けて〜」
あたしは気付くと、情けない声を上げてた。
情け無用のロッキーズの集中豪雨を身に受けながら。
「梨華ちゃん、助けて〜〜〜」
もう。
愛のパワーで以心伝心で解かってよ!!!
そんな怒りを込めて、あたしは梨華ちゃんの名を呼ぶ。
仕方ないなあ、といった風に梨華ちゃんは傍でじゃれ合う
二人に触れて、あたしに気付かせる。
そして二人の背を押す。
行っておいで…。
二人はまるでお母さんの許可をもらった子供のように
安心しきった笑顔で顔を見合わせて。
きゃーーーわーーーーー。
って歓声を上げて、こっちに駆けてくる。
- 73 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:02
- そして。
「うちのよっすぃー泣かせたの誰やぁー!!」
「ロッキーズめ!!ヨンキーズのパワーを思い知れぇー!!」
と海に飛び込み、雄雄しく参戦した。
それからは。
7人でずぶ濡れになって大騒ぎ。
ひとしきり騒いだ後は、さすがに疲れて誰からともなく
手を休めた。
はぁ…。
強い日差しのせいで、少し手を休めただけで
ずぶ濡れだった体がじわじわと乾いていく。
だけど。
あたしの気はおさまらない。
「梨華ちゃん!!」
梨華ちゃんはあいかわらず砂浜の上、飯田さんの差す日傘の中で
こちらを見て微笑んでる。
「梨華ちゃん、おいで!!」
あはって感じで笑って。
梨華ちゃんは聞き流す。
手を振るだけ。
なんだよぉ。
- 74 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:04
- 「梨華ちゃん、来なよーーーー!!」
「そうや、ヨンキーズパワーが出ないぞぉーーー!!」
近くで飽きもせずじゃれ合ってた辻加護も、叫ぶ。
飯田さんも行きなよ〜って感じの笑みを浮かべて見てるのに。
なおも梨華ちゃんはちょっとだけ困り顔で笑って立ってる。
あたしは、はぁ…ってため息をついて砂浜に上がる。
「なんだよー、もう終わりかよー」
藤本の声。
しかし、ちょっかい出そうとするその腕はあたしの行動を
察知したらしい辻加護によって押さえられてる。
まさか。
あたしは胸の中で答える。
これからだよ。
梨華ちゃんは、すかさずハンドタオルを手にあたしに寄って来る。
「もー、よっすぃーはお子ちゃまなんだからー」
濡れた髪をかき上げると、水滴の伝うあたしの額を頬を拭ってくれる。
あー。
なんか、幸せだなあ。
ずっとこうして甘えてたいかも。
……でも。
「梨ぃ華ぁちゃんっ」
- 75 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:05
- あたしは、梨華ちゃんの細い腰をがしっと抱える。
「ひぇっ?」
梨華ちゃんは、突然のことに変な声を上げる。
もう。
抱きしめるのなんてしょっちゅうなんだから。
そんな驚くことないじゃん。
…まあ、メンバーの前じゃ滅多にしないけど。
すかさず辻加護が
「ひゅーひゅー」
と古臭い掛け声をして。
あたしはそのまま、梨華ちゃんを引きずるようにして再び海に帰る。
「…ひ、ひとみちゃん?」
梨華ちゃんは、最初は何をされてるのかわかんないって顔で。
しかし、海が近づくに連れて段々わかってきたみたいで。
顔が引きつり、声が上ずる。
てか、ひとみちゃんとか言っちゃって。
あたしは嬉しくなって腕に力を込める。
二人っきりじゃなきゃ照れちゃって呼んでくれないのに。
びっくりして出ちゃったんだね〜。
可愛いなあ。
そんな小さなことに喜びを感じてる自分も可愛い、とか思いつつ
梨華ちゃんを海までエスコートすると、えいやっと
海に落とす。
- 76 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:06
- まあ、ほら。
愛があるから。
バランス崩して顔から落ちたりしないように、手だけは離さない。
案の定梨華ちゃんは持ちこたえることが出来ずに海に崩折れて。
両手のあたしの支えで上半身だけはなんとか持ちこたえたものの
海に座り込むようなカンジで下半身はずぶ濡れ。
「きゃー、もぉーーー」
サイレンみたいな梨華ちゃんの悲鳴。
藤本はそれを指差して笑い。
ロッキーズもみんなきゃあきゃあはしゃいで。
辻加護もお互いの肩を叩きあって笑ってる。
見ると、砂浜にいる飯田さんや矢口さんもこっちを見て大ウケ。
岩場から戻ってきたゴキーズも騒ぎに気付いて寄って来る。
- 77 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:07
- 「いやぁ〜」
梨華ちゃんは、あたしの手を振り払う。
なんだよ〜。
転ばないようにしてやったのにー…て、まあ、元は悪いのはあたしだけど。
離れた途端、ばしゃん、と海に倒れそうになる梨華ちゃん。
言わんこっちゃない。
するとあたしが助けるより先に
「「もー」」
と言いながら辻加護が両脇から梨華ちゃんを助け起こす。
うん。
良い風景。
ヨンキーズ万歳。
最高だね!!
「みんなきらーーい」
一人、納得してない方がいらっしゃるみたいですが。
しかし。
あたしたちがメンバー愛を、同期愛を、深めてるっつーのに。
無粋にもそこに怒声が響く。
「ちょっと、あんたたち何やってんの!?」
バスの中で打ち合わせをしていたマネージャーたちが出てきたのだ。
やばい。
うちら、これから撮影だってのに、ずぶ濡れのぐちゃぐちゃだ。
- 78 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:08
- 「に、逃げろーーー!!」
最初にこう叫んだのは誰だったか。
その声に、みんな一斉に海岸線を走り出す。
先頭はあたしたちから少し離れた、一歩リードの位置にいたゴキーズ。
そして、それに続くロッキーズ。
みんな既に靴を脱いでたみたいで、早い早い。
少し遅れて辻加護。
二人も途中でそれに気付いたのか靴を脱ぎ捨て手に手を取って走る。
「よっすぃー、早く!!」
あたしはと言うと。
「私、悪くないのにぃ〜」
既に靴も脱いで身軽なんだけど、抗議しながらよたよた走る梨華ちゃんを
気遣いながら併走中。
珍しいロングスカートのお衣装が災いして、梨華ちゃんは思うように
走れない。
履いたままのサンダルも、砂浜に足を取られるばかり。
「ほら」
あたしは、彼女の手を取る。
「行くよっ」
梨華ちゃんは困り顔を上げて…だけど、すぐにとびきりの笑顔を
あたしに向けて。
「うんっ」
あたしの手を強く握る。
- 79 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:10
- 後ろから
「カオリも悪くないのにぃ〜」
「矢口だって悪くないのにぃ〜」
という先輩たちの声を聞きながら、海岸線をひた走る。
愛する人の手を取って。
彼女はときどき足をもつれさせて、あたしに身を任せて。
一生懸命走る。
この先を目指して。
この瞬間を、ひた走る。
あたしは、そんな中。
まぶしい夏の光に目を細めながら。
ぼんやりと思う。
きっと。
この夏も、あっという間に過ぎて行って。
あたしたちはばらばらになってしまうだろう。
そして。
いつかこの瞬間も、思い出に変わるだろう。
だけど。
それを思い出す時、変わらずこの腕の中に彼女がいるといいな。
そう思った。
夏に、海に、祈った。
- 80 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:11
- あの夏。
あの瞬間。
きらきら輝く夏の光の下で。
あたしたち、恋してた。
辻加護がいて。
先輩も後輩もいて。
無我夢中に、砂浜を走った夏があった。
思い出そう、いつか二人で。
そして今はただ、この瞬間を夢中で駆け抜けていこう。
夏の光の下。君に恋してる、この夏を。
- 81 名前:桜折 投稿日:2004/07/16(金) 02:16
-
〜END
- 82 名前:桜折 投稿日:2004/07/17(土) 02:25
- やっぱり突発的に書いただけあって、
直したい部分イパーイ(鬱
で、『駄目〜』の方に話は戻りますが。
こういうのはよしいしごまというのでしょうか?(汗)
でも、自分の中では完璧にいしよしで、いちごまな訳で。うーん、複雑。
だって、後藤さんだって「市井ちゃん、市井ちゃん」だったと思うし(痛)
自分の中での石川さんのイメージは結構こんな感じです(痛痛)
女の子独特の甘さと狡さを持っている…みたいな。
決して悪い意味ではなく。
可愛い故に身に付けてしまった外見と内面に折り合いをつけるための
処世術…っていうのかな〜?
吉澤さんもね。
ずぼらそーに見えて繊細なんだけど、こーゆー微妙な乙女心ってのは
解からなそーですよね(笑)(失礼)
こういうことにならないためにも、
石川さんをちゃんと大切にしてやってください、吉澤さん…!!(爆)
21番様、プリン様、毎回レスありがとーです。
いしよしの甘々が好物なんですが、いざ自分で書こうとすると
むずかすぃ〜…と思ふ今日この頃です。
連休中に、もう一個短編をあげられそーな予感です。
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/17(土) 16:07
- 更新お疲れ様です。
無理のないよういがんばってください。
- 84 名前:桜折 投稿日:2004/07/20(火) 02:05
-
『大切なコト』
- 85 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:05
-
小川が紺野とケンカをした、と石川に泣きついてきた。
二人は付き合い始めてもうすぐ一年。
その影には石川と吉澤という先輩カップルの尽力があったとかなかったとか。
仕方ないなあ、と言いつつも、最近では自分より
吉澤に懐いている小川がこういう時には自分の所に来ることが
石川には嬉しかったし、小川を可愛く思えた。
だから、仕方なし…という体を取りつつも
「紺野に話してあげる」
と引き受けた。
実際、小川よりも紺野の方が自分にタイプが近いので
小川の話を聞いて紺野の思うところも大体解かったし、
そういった話もむしろ紺野との方が苦もなく出来るように思えた。
しかし、紺野が小川と同様に吉澤に相談していたことで、
話は予想外の展開を見せた。
- 86 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:06
-
「なんだか楽しそうですね」
石川の隣りを歩きながら、小川は怪訝そうに言う。
「そぅお?」
と答える石川は笑みすら浮かべており、恋人とケンカしたようには
まるで見えない。
「思い出してたの。昔はよくこうだったなぁって」
「昔?」
「まあ、昔って言っても一年くらい前だけど〜」
そう言いながら、石川は遠い目をする。
その目には既に高く昇った月が映り、きらきら輝いて見えた。
だから、小川は石川に聞こえないようにそっとため息をつく。
ほんの2〜3時間くらい前のことだ。
楽屋で石川は吉澤とケンカをした。
それはもう、酷かった。
しかも、その理由が自分たちではなく後輩カップルの
痴話ゲンカの為、というのがなんとも酷い。
- 87 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:07
- きゃーきゃーと騒ぐ石川と(まあ、元の声があれだから
ちょっと興奮しただけできゃーきゃー聞こえるのだが)
いつもより低い声で抗議し続ける吉澤。(いつものハスキーボイス
に磨きがかかり、ドスの聞いたそれは小川を震えさせた)
話を聞こうとしない石川に、吉澤がその手を取って
「聞けよ」
と言うと
「痛いっ離して、バカっ」
と騒ぐ石川。
それにむっとして吉澤が手の力を強くすると
きゃー、と悲鳴をあげて石川は空いている右手で手当たり次第吉澤を叩く。
「痛いよっ、梨華ちゃんのバカっ」
そう言って吉澤が振りまわされる右手も握ると、
石川は一層甲高い声を上げて
「バカって言う方がバカなんだからぁ」
と訳の解からないことを言う始末。
その頃にはさすがに小川も自分のケンカどころではなくなり
「や、やめてくださいよ〜」
と二人の仲裁に入っていた。
- 88 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:08
- しかし、自分よりも体格の良い吉澤に細くとも背のある石川。
小川一人では思うように二人を止められない。
助けを求めるように紺野を見ると、しかし、
紺野はケンカする吉澤の影に隠れるようにして立ち、
全く二人を止めようという気がなさそうだった。
自分たちのことでこの二人がケンカしているのに…と
小川はまたカチンと来るが、しかし今はそれどころではない。
「二人ともやめてください。私たちの問題ですから〜。
もう、二人で話し合って解決しますよ〜」
そう言って、とりあえず石川の腕を掴む。
「ね、あさ美ちゃん」
そう言って、小川は紺野に吉澤の腕を掴んで引き離すように促す。
ああ見えて、紺野は柔道を介していたりする。
(故に、小川はケンカになっても肉弾戦は絶対に避けようと思っている)
吉澤相手でも案外いい線いくかもしれない。
しかし、そんな小川の期待を他所に紺野は立ち尽くしたまま
動こうとしない。
あまつさえ、目の前に立つ吉澤のシャツの裾を助けを求めるように掴む。
「あさ美ちゃんっ」
- 89 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:10
- 小川の声が苛立たしげに響く。
それは、先輩とはいえ他人に迷惑を掛けているのに
それを問題視していない紺野に対する苛立ちでもあり。
また、吉澤に頼りきっているような恋人の姿に嫉妬するものでもあり。
しかし紺野はその声にはっきりと震え、そして吉澤の影に寄る。
それに気を取られ吉澤の手の力が緩み…小川の引っ張る力によって
石川の身体が引き離されて、ひゃっという声と共に小川に倒れこむ。
はっとして、吉澤は石川を気遣わしげに見た。
しかし小川の腕の中で石川は眉をひそめてはっきりと言う。
「もう、紺野には話し合う気がないみたいだね。行こう、小川」
ええっ、という声は誰から漏れたのだろう。
気付くと石川は小川の腕を取り楽屋を出ていた。
そのまま二人は喫茶室で少しお茶をして頭を冷やし(主に石川)、
もう一度話し合おうという結論に至って楽屋に戻ると、
だが二人の姿はなかった。
- 90 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:10
- 荷物はあったので待てば戻ってくるかと思ったが、
しかし石川はため息をつくと
「もう帰ろっかぁ」
とやる気のない声を出して小川を促した。
小川もまたここまでの展開に疲れ、石川の後について楽屋を出て…
今に至る、という訳である。
- 91 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:11
-
「ね、今日はうちに泊まっていきなよ」
石川は相変わらずにこにこして言う。
しかも、先程の『昔』の話は終わってしまったらしい。
続きを待っていた小川は少し拍子抜けしつつ、
「はぁい」
と答えた。
夜道を、二人歩く。
「大通りに出たらタクシー拾おうね〜」
石川のにこにこは止まらない。
やはり気になって小川は問う。
「あの、昔ってなんなんですかぁ?」
えー?と言って、少しだけ先を歩く石川は振り向く。
綺麗な笑顔だ、と小川は思う。
いつか、私もこんな風に笑いたい、と。
「私とよっすぃーもねぇ、よくケンカしてたの。些細なことで」
さっきもケンカしてましたよね?とは、敢えて聞かない小川。
「それでね、私は保田さんに、よっすぃーは矢口さんに相談するの」
段々、小川にも話が見えてきた。
- 92 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:12
- 「で、結局それぞれにそれぞれの後輩の肩を持つもんだから、
話し合いは決裂しちゃうの。ケンカ別れ〜」
ふふっと笑う石川。
「よく保田さんと帰ったなあ。私、泣いちゃうことが多くって。
で、保田さんが『あー、もう泣くなって』って慰めてくれて。
『もう、吉澤以外にもいい奴は一杯いる。別れちゃえ』って言ってくれるの」
そ、それはまた究極な発言だ、と大先輩を思う。
まあ、保田さんなら言いそうかも。
「で、私もその時はうんうんって頷いて『そうしますぅ〜』って泣きながら
言うんだけどね。夜、別れ話の練習とか泣きながらするんだけどね。
結局そんなこと出来ないで、また仲直りしちゃうの」
大きな通りが見えてきた。
車の行き交う光が、小川たちの歩く細い夜道にちらちらと零れる。
「保田さんが卒業してからはね、そんなこともなくなって。
大人になったのかなぁ。きっと、私に頼る先輩がいなくなったから
よっすぃーが譲歩してくれてる部分って一杯あるんだろうけど」
- 93 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:14
- 石川は十分大人だと、小川は思っていた。
だから、石川のその『大人になったのかなぁ』という発言は
小川には意外だった。
しかし、よく考えてみれば。
自分よりは確かに年上ではあるが、石川はまだ未成年である。
自分よりは何もかも先を行ってはいるが、
世間では19歳はまだまだ小娘だ。
「勿論、今でも保田さんに泣きつくことってあるんだよ。
『もう、よっすぃーとは別れますぅ』って。
でも、さすがに何回もやってると取り合ってくれないけど。
でもね、真剣に聞いてくれるの。だから」
石川は歩く足を止めて、小川を見つめる。
「小川も、頼っていいんだからね。私が卒業しても。愚痴くらいいつでも
聞いてあげるんだから」
にこっと笑った石川の笑顔が、先程までとは微かに違い
悲しく感じたのは小川の気のせいだったのだろうか。
石川は、そんな小川の思いに気付かない様子で再び歩き始めた。
小川の手を取って。
小川はそのぬくもりに、その悲しい程に綺麗な笑顔に、
やはりどうしようもなく『大人』を感じていた。
- 94 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/07/20(火) 02:15
- 大通りに出る。
車の音に混じって、石川の声が小川の耳に届く。
「紺野もさ、泣いてるのかな、今頃」
小川は傍らに立つ先輩にどこか似た、離れた恋人のことを思い切なくなった。
- 95 名前:桜折 投稿日:2004/07/20(火) 02:19
-
今回は、思うところあって分割であげていきたいと思います。
多分、2〜3回で終わるとは思います。
>83番様
有り難うございます。
自分なりのペースで頑張ってみたいと思います♪
- 96 名前:桜折 投稿日:2004/07/20(火) 02:21
- あ、今回はうっすらおがこんでいしよしです。
よろしくおねがいします(笑)
- 97 名前:前・21 投稿日:2004/07/22(木) 00:03
- 更新お疲れさまです。
いつも楽しみに読ませてもらってま〜す。
最近あの二人がまともに話してるのを見てない・・は〜っ
ここだけは、甘・甘だと嬉しいです。
- 98 名前:プリン 投稿日:2004/07/24(土) 13:09
- 更新お疲れ様です。
遅くなってすいませぬ。
今回も面白そうです。
甘い・・・のかな?
まぁ、でもどんないしよしでも好きなのでw
昨日は久しぶりにいしよし並びがあって嬉しい限りです(w
無理せず、マイペースに頑張ってください。
- 99 名前:桜折 投稿日:2004/07/26(月) 01:28
- >21様
いつもホントに有り難うです。
のの&ぼん(笑)卒業に向けて少しづつリアルいしよし
出てきてますね!!
でも、話してるどころか視線が合ってるのも少なくて。
決定的ないしよしがないのが残念……(鬱)
今回はそこまで…ですが、甘々も計画してますので
期待とかしてて頂けると嬉しいです(添えるかどうかは
別にして・汗)
>プリン様
ホントにいつも有り難うです。
遅かろうが早かろうが、レスを頂けるだけでホント嬉しい
ですよ〜!!
Mステですね?ハピサマ、可愛かった(*´Д`)ポワワ
甘々、期待に添えるよう計画中なんで(笑)
今後ともよろしくです。
えーっと。
ここのとこの、のの&ぼん卒業に向けての4期りすぺくと
ムードに乗ってちょっと短編を書きました。
でも、あくまでここはいしよしカテゴライズでいきたくて。
それはあくまで4期ガチなので。
緑板の作者フリーにあげさせて頂きました。
ここを読んで下さっていて、興味を持って下さった方は
是非そちらにもお越し下さいな、と。
ちょっと宣伝してみたり。
- 100 名前:プリン 投稿日:2004/07/27(火) 13:48
- 短編読みました!
ものすごく感動してしまい・・・泣きました(/Д\)
あの小説は素晴らしいですよー!
4期への愛がまた深まったかな・・・なんて思ったりw
でもホント4期大好きなんですよね。
きっとそういう方多いと思うのですが・・・。
とにかく感動しました!って事でここにレスさせて頂きました。
場違いだったらすいませんm(_ _)m
いしよしの方も頑張ってくださいw
- 101 名前:前・21 投稿日:2004/07/28(水) 00:11
- 短編、読みました。・・泣きそうになりました。
作者様の作品だったのですね。情景が目に浮かぶ
ようで・・4期は良いですね、最近つくづく感じ
ます。又、楽しみに待ってますね!
- 102 名前:桜折 投稿日:2004/07/30(金) 00:50
-
プリン様、21様。
毎度ありがとーです。
そして、向こうでレス付けてくれた方も。
今は絶好調に4期ラブで…。
書き途中なのにそっちに手が行かず4期短編ばかり
書いてしまう自分……。
ということで、『大切なコト』は8/1明けに再開
とさせて下さい。
今回はいしよしなので、晴れてこちらに…。
また喜んで頂けると嬉しいのですが。
- 103 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 00:52
-
( ‘д‘)<じゃあな、梨華ちゃん。
( ´D`)<元気れね、梨華ちゃん。
( ‘д‘)<ポジティブやで、ポジティブ!!落ち込むなや。
( ´D`)<最近の梨華ちゃんは、だいじょーぶれすよ。
( ‘д‘)<…いや、わからんで。ウチらがいなくなったら。
( ´D`)<らめれすよ、梨華ちゃん。泣いたりしたら。
( ‘д‘)<そうやで、泣いたらあかん。ウチらの為に。
( ´D`)<いつれも、梨華ちゃんには笑顔でいて欲しいのれす。
( ‘д‘)<はっぴー、や。
( ´D`)<はっぴー、れす。
( ‘д‘)( ´D`)<<はっぴー!!
( ‘д‘)<じゃあな。
( ´D`)<バイバイなのれす。
( ‘д‘)<よっすぃーと仲良くな。
( ´D`)<お幸せに、なのれす。
( ‘д‘)( ´D`)<<じゃーねーーーー……
- 104 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 00:53
-
『夢を見たの。』
- 105 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 00:55
-
「梨華ちゃん、梨華ちゃん!!」
愛しいあの人の声が、私を呼んでいる。
目を開けると、そこには予想通りのひとみちゃん。
心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
そっと、その手がまるで壊れモノに触るように
柔らかく私の頬に触れ。
それで、自分が泣いていることを知った。
頬を伝う涙を、ひとみちゃんが拭ってくれる。
「大丈夫?」
優しいひとみちゃんの声。
それで私は、全てを思い出す。
私は今、私の部屋のベッドの上にいて。
ひとみちゃんと一緒にそこに横たわり。
彼女の優しい腕の中で………悲しい夢を見た。
「どうしたの?怖い夢でも見たか?」
全てを思い出し、ぼんやりとする私を抱き寄せて。
ひとみちゃんは私の額にちゅってキスをする。
落ち着かせるように、私の背をゆっくりと擦りながら。
- 106 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 00:55
-
ううん……。
私は何も言わず、首を振るだけでそれに答える。
だけど、その動きとは裏腹にひとみちゃんの寝間着にしがみつき
彼女の首筋に顔を埋める。
なんでもないの。
なんでも……。
そう言いたくて。
でも、口を開いたらまた泣いてしまいそうで。
嗚咽が零れてきそうで。
私は口を強く結ぶ。
「そっかぁ」
訳の解からない私のその行動に、けれどひとみちゃんはそう言って
今度は優しく髪を撫でてくれた。
優しくしないで。
今は、優しくしないで。
顔をキツくその首に摺り寄せて、私は胸の中で叫ぶ。
優しくされたら、泣いちゃうから。
泣いて、さっき見た夢のことまで全部吐き出して。
不安な、弱い私の全てをここでさらけ出してしまうから。
- 107 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 00:56
-
泣かないように。
言わないように。
私は、顔をひとみちゃんの首に強く押し付ける。
だけど、ひとみちゃんは文句のひとつも言わず
「よしよし」
って、私の髪を、肩を、背を撫でてくれる。
違うの。
今はそんなことしないで。
そんなに優しくされたら、全部あなたに委ねてしまう。
悲しい気持ちも、不安な気持ちも全てあなたにさらけ出して
あなたに全てを背負わせてしまう。
私は、今でもあなたに頼ってる。
ずっとずっと、出会った時から、あなたに助けられてる。
でもね、これからはそうじゃいけないの。
私は、一人でも頑張れるようにならないといけないの。
これから出会う子たちと、また一から始めなきゃいけない。
そこに、あなたはいないから。
- 108 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 00:57
-
すごく不安。
でもね、あなたにだってあなたのこれからがあるし。
あなたの不安もある。
だから、私の不安まで背負わせる訳にはいかないの。
これからは、今までとは違う。
いつまでも、あなたによっかかってはいられない。
駄目になってしまう。
私は私、あなたはあなた。
だから、言えないよ。
だから、そんな優しくしないで。
ぎゅっとしがみついたまま、身体を強張らせたままの私を
ひとみちゃんはそのままにして、根気良く身体を擦ってくれる。
- 109 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 00:58
-
「ねえ」
暫くして、ひとみちゃんが口を開く。
「梨華ちゃんはさ、ウチのこと好き?」
突然の問い掛けに、私は思わず顔を上げる。
そんなの、決まってるじゃない。
毎日言ってるでしょ?
「ウチは、梨華ちゃんのこと好きだよ」
…解かってるよ。
毎日、言ってくれるもんね。
「だからね、梨華ちゃんのことなんでも知っていたいんだ。
例えそれがどんなにつまんないことでも、どんなに
愚かなことでもどんなに辛いことでも」
ひとみちゃんの手が、また私の頬に触れる。
私、また泣いてる。
「梨華ちゃんが、今、なんで泣いてるのか、知りたいよ」
涙が、止らない。
「梨華ちゃんが、ののとあいぼんの卒業に悲しんで泣いてるのか」
…え?
- 110 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 00:59
-
「それとも、自分の卒業を考えて不安になって泣いてるのか」
ええ?
「それとも、ウチのことが好きすぎて怖くて泣いてるのか」
……。
「ねえ、話してくれないかな。そうしないと、どうして
いいかわかんないよ」
ひとみちゃん。
ひとみちゃんはすごいね。
何も言わなくても、全部解かってるんじゃん。
あのね、ののとあいぼんが夢に出てきたの。
私にお別れを告げたの。
それがすっごく悲しくて。
それで、いつか私もそれをあなたにしなきゃいけないって
思うと。
例えそれが、メンバーとしてのことで。
私たち二人の関係にはなにも変わりないことだとしても。
すごく辛くなったの。
ひとみちゃん。
好きよ。
大好き。
- 111 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 01:00
-
「言って。幸せも悲しみも半分こだよ…って
ちょっとクサいかぁ」
ははって笑って。
頬を摺り寄せる、ひとみちゃん。
好きよ。
大好き。
そうだよね。
私が、きっと間違ってた。
進む道が違っても。
私たちはいつも隣りにいる。
これからも、ずっと。
幸せも悲しみも、分け合っていく。
それは、よっかかるとかじゃなくて。
ギブアンドテイクって奴。
私の涙をひとみちゃんが拭ってくれたように。
いつか、私がひとみちゃんの額に優しいキスをしてあげる。
そう決まってる。
未来までずっと。
- 112 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 01:00
-
だから、私は止め処なく流れる涙もそのままに。
彼女をまっすぐ見つめた。
全てを、分かち合う為に。
あのね。
- 113 名前:『夢を見たの。』 投稿日:2004/07/30(金) 01:02
-
「夢を見たの」
〜END
- 114 名前:前・21 投稿日:2004/08/02(月) 00:58
- 更新お疲れ様です。
あ〜・・卒業しちゃいましたね・・二人を見送った
よっすぃと梨華ちゃんはどんな気持ちなんだろう・
お互いだけが痛いほど分かるんでしょうね。
このお話のようなことがあったんじゃないかな〜
- 115 名前:桜折 投稿日:2004/08/09(月) 00:14
- >21様
卒業しちゃいましたね…。
落ち着いてきたとこで、また今日のハロモニで…(T▽T)
切ない……。
てことで、『大切なコト』続けます。
自分には集中力がないみたいなので、できるだけ続きもさっさと交信したいと思います(笑)
- 116 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:16
- 石川の部屋に入ると、電話が鳴っていた。
慌てて石川を振り返る小川に、後から入って鍵を掛けていた石川が
「留守電になるまで、家の電話には出ないようにしてるの」
と言った。
さすがアイドルは違う。
いや、自分もだし。
なんとなく、いつもの要領で言葉を口にできなくて。
小川はそれを飲み込む。
優しく、静かな夜の雰囲気。
それが、二人の上に満ちていて。
と、留守電の電子音が流れ、間髪入れず
「おぉーーーーいっいっしかわぁーーー」
という矢口の声が響いた。
「や、矢口さん!?」
驚く小川に、しかし石川は解かっている、といった表情でため息をつく。
「出ないんですか?」
という小川の問いに、うーん、とやる気のない声を出しながら
石川はのろのろと靴を脱ぐ。
- 117 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:16
-
「そろそろ帰ってんだろーー?お前、ケンカしたまま帰っちゃうし
携帯は繋がんないしって、よっすぃーが心配してんぞーーー?」
「前言撤回。大人になりきれてない人が一人いますね」
そう言って、石川は廊下をぱたぱた走り子機を掴んだ。
「もしもし、矢口さん?はい〜。そうですよ、今帰って来たんです〜。
ほんとですって。小川にかわりましょっか?そうですよぉ、
一緒に帰ってきたんです」
石川は慌しく話している。
小川は部屋の電気を付けてやりながら、吉澤のことを考えていた。
普段の吉澤はクールで、石川とは違った意味で大人で。
しかし、先程見た吉澤は酷く子供っぽかった。
石川に自分の気持ちが伝わらずに苛立ち、腕を引っ張り
気を引こうとしていた。
そして、今。
多分、吉澤は先程のことで矢口に泣きついたのだろう。
自分が石川にしたように。
なんだか、遠い憧れのように感じていた吉澤を、小川は近く感じる。
それどころか。
ほんの2〜3時間連絡が取れないだけで、慌てて矢口に
相談する吉澤を、小川は可愛いとさえ思った。
- 118 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:17
-
「はい〜。解かってますぅ。石川も悪かったです。はい。え?携帯ですか?」
そこで、石川は小川に手招きをする。
一瞬、小川は電話をかわれと言われたのかと思い歩み寄るが、
石川がぶんぶん首を振り、小川の足元を指したので
電話を取りに行く時に投げ出した自分の鞄を取って欲しい
と言っているのだとやっとわかった。
ベージュがかったピンクの鞄を石川に渡すと、石川は子機を
首のところに引っ掛けて中をごそごそとする。
子機が落ちそうになって慌てて小川が持ってやる。
「あ、ありがとぉ〜」
と反応した石川に
「何がありがとうなんだよっ」
と返す矢口の声が小川にまで聞こえた。
「ないですね〜」
やがて、石川が言う。
「ないってなんだよ、ないって」
また容赦のない矢口の言葉が聞こえた。
「うーん。どっかでなくしてきちゃいました」
と、石川。
- 119 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:17
-
もう鞄の中を探すのを諦めたのか、また鞄を床に落としている。
「お前さぁ」
という矢口の声を遮って
「まあ、多分スタジオですよ〜。明後日の収録の時、探しますから。
もしマネージャーさんから連絡とかあったら小川にして下さいって
言ってください。今晩うちに泊まるんで」
石川は全く危機感のない声で言った。
「はぁー…まあ、明日はオフだし。いいけどさ。とにかく
よっすぃーに連絡しなね」
その石川の声にあてられたのか、矢口もまた投げやりな声をだして
そう言うと電話を切った。
そして、再び夜の静寂が訪れ。
「まあ、きっと誰かが拾ってくれてるんじゃない?」
とにっこりと笑う石川に。
小川はすごいポジティブじゃん…と、ネガティブモードな時の石川の姿を
思い出し同一人物かと疑わしく思った。
- 120 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:18
-
石川は、キッチンで鼻歌まじりに紅茶を入れている。
「この紅茶、お気に入りなんだぁ」
まだまだ絶好調のポジティブ状態だ。
こういうのをハイって言うんだよね、と小川は考える。
ふと窓の外を見る。
高層ビル群の、所謂都会の夜景って奴が見える。
そしてまた、離れ離れになった恋人を思う。
あさ美ちゃんも、この夜空を見ているかな。
もしかして、吉澤先輩の部屋で?
なんだかちょっと不安になる。
「はいっ」
そう言って、石川が湯気の立つ紅茶のカップを小川の目の前に出した。
「ありがとーございます」
口を付けるとそれはほのかに甘く、ほのかに柑橘系の香りがして。
なんだか、小川を優しい気分にさせた。
「おいしい」
「でしょー」
目の前で、やはり優しげな笑みを浮かべる石川を見て。
そして、手の中から香る甘酸っぱい香りを嗅いで。
小川は優しい気分に加えて、少しだけ悲しい気分になる。
- 121 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:18
-
「石川さんは…不安じゃないんですか?」
つい、思ったことを口にする。
「んー?」
紅茶を含みながら、石川は答える。
「卒業して、離れちゃうの、怖くないんですか〜?」
私だったら。
そう思うと、小川は怖くなる。
思っただけで、こんなに怖いのに。
目の前の石川には、一年後には確実にやってくる現実。
「そりゃ怖いよぉ。でもね、これが乗り切れなきゃ駄目だなって」
そして、石川は視線を小川からカップに戻し。
静かに話続けた。
- 122 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:18
-
私たち、こういう世界で。
こういう、女の子に囲まれて暮らしてて。
普通にしてるけどね。
でも、やっぱり私とよっすぃーは女の子同士でしょ。
これからもずっとやってくって言うと、それはもう沢山
問題があると思うのね。
それでもね、私たちも私たちなりに考えてたりもするの。
最初は、ちょっとした夢ってゆーか。
ずっとこのままいれたらいいねっていう、ある種の幻想みたいな。
いつか二人でおうち買おうよ。
白いのがいいな。
お庭付きね。
犬を飼おう。
猫も飼おう。
海の近くがいいな。
でも、都会ってのも捨てがたい。
休みにはメンバー呼んで。
その頃にはメンバーじゃないかもだけどね。
でも、みんな呼んで。
バーベキューとか出来たらいいね。
楽しいね。
- 123 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:19
-
…って感じで。
でもね、最近、もっと現実的に、真剣に考えるようになってきて。
一緒に暮らそうか。
だったら、マンション買おうよ。
家具もちゃんと揃えよう。
きちんと、ちゃんと色んなこと考えようって。
そうやって、将来のこととか視野に入れて考えるとね。
やっぱり、これからはうれしい!たのしい!大好き!…って
ドリカムムードだけじゃ駄目なのよ。
一杯、乗り越えなきゃいけないことあるんだ。
- 124 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:20
-
「だから、これくらいで壊れるなら、それまで」
最後に、石川はさっぱりとそう言い切る。
俯いて、ひたすらカップをかき回す石川の表情は小川には読み取れない。
しかし、その言葉に。
小川は石川の知らない一面を見た気がした。
女の子女の子してて、後輩の小川から見ても
この人大丈夫かなあ、誰か守ってあげなきゃ駄目だよ、と心配してしまう
ような人なのに。
今はいっそ潔く、そこに精悍とした強さすら感じる。
自分よりも、そして吉澤よりも、もしかしたらこの人は強いのかもしれない。
強いから、自分の弱さを人に見せることを拒まないのかもしれない。
石川と吉澤。
小川は勿論、他のメンバーたちも二人の関係は守られる者と守る者、
と認識しているに違いない。
しかし、本当のところは。
この二人は、自分たちの思っているものとは全く違う関係なのかもしれない。
- 125 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/09(月) 00:20
-
石川や吉澤の親友の後藤の言う
「よっすぃーは案外女の子」
な言葉が、小川の中に蘇る。
そんなことを考えぼんやりしていると
「小川には、まだ早かったかなっ」
と石川に頭をぐりぐり撫でられた。
「まあ、小川はゆっくりいきなさい。私とよっすぃーだって、四年間
のんびり付き合ってきたんだから」
小川の前にあるその顔は、やはり綺麗な大人のそれで。
いつか、自分も紺野との関係でそんなに潔くなれる日が来るのか…
と小川に考えさせる。
と、その時。
小川の携帯が鳴った。
- 126 名前:前・21 投稿日:2004/08/09(月) 22:52
- いいところで切りますね〜作者さま・・
続きが気になりまつ。更新お疲れ様です。
お子ちゃまの卒コン、梨華ちゃん、よっすぃの手を握って裏で
泣いていたんですね・・絆はつおいぞ〜
楽しみに待ってますね。
- 127 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/13(金) 22:06
-
「もしもし?」
小川が自分の鞄から携帯を引きずりだして通話ボタンを押すと
「…吉澤だけど」
という、不機嫌そうな声がした。
「梨華ちゃん出して」
隣りで石川は、あー、話し込んでてよっすぃーに電話するの忘れてたぁ…
などと悪びれずに言っている。
「…もしもし?うん。うん。そう。ほんとになくしちゃったんだもん。
んー、明後日探すぅ。んー。もういいじゃぁん。明後日収録で行くんだし。
……うん、ごめんね。うん。解かってる。ごめんってばぁ。
はい。解かったよぉ。うん…」
少しの間、眉をひそめて石川は吉澤と話し。
そして、また携帯を小川にはい、と渡す。
「…もしもし?」
「あのさ、紺野、今日預かるから」
「…はい」
「あのさ……」
言いづらそうに、吉澤が少し沈黙する。
「はい?」
- 128 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/13(金) 22:07
-
はぁ、とひとつため息をついて。
「寂しいからって手を出すなよっ」
そう言って吉澤は一方的に電話を切った。
「手…出すなって……?」
小川には一向に意味が解からず、切れてしまった携帯を見つめる。
しかし、石川にはその断片だけで意味が解かったようで。
ふふっと、意味ありげな笑いを零す。
「よっすぃー、そんなこと行ったの〜?」
「…なんなんでしょう?」
カップを机の上に置いて。石川は小川に寄る。
「教えてあげよっかぁ」
そして小川の手からは携帯を取り、机の上に並べる。
四つん這いになって、石川はゆっくりと小川に迫ってくる。
座った小川より低い姿勢で、石川の目が上目使いに小川を捉えている。
「な、何をですかぁ」
- 129 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/13(金) 22:07
-
声が掠れて裏返る。
小川は、自分が動揺していることを必死に隠そうとしている。
しかし。
石川の潤んだ漆黒の瞳が自分を捉えているのを見ると、
どうしても早い鼓動を抑えることができない。
小川の顔に、それは色濃く出てしまっているのだろう。
石川は余裕の笑みで、またふっと笑うと
「イイコト」
と小川の耳元で囁いた。
- 130 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/13(金) 22:08
-
小川はすでに涙目で。
さっき吉澤が言ったこととか。
今、石川が言おうとしていることとか。
全てふっとんでしまっている。
だって、目の前の石川は明らかにいつもと違って。
なんだか…その…色っぽい目で自分を見てる。
小川はそう思い、そして石川を「色っぽい」と思っている自分に
気付き、また動揺する。
そんな怯えたような焦っているような小川の表情を見て
石川は笑いを押さえきれない。
ついに堪えきれなくなり、石川はあははっと笑って小川に飛びつく。
「小川ってば、かわい〜」
そこで、やっと小川はからかわれたことに気付く。
「もー、なんなんですかぁーーーー」
声が裏返って、まだ小川の動悸が収まらないことを石川に伝える。
「ごめんごめん。ちょっとからかってみたかったの〜」
悪びれず、笑いながら石川は言う。
はぁはぁ、と荒い息をしながら。
そして、
「前にね、ケンカ中にね、矢口さんと出来ちゃったことがあるんだよ、
よっすぃー」
と言った。
- 131 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/13(金) 22:08
-
「だから、そんなこと言うんだよ」
なおも笑いながら言う石川に、しかし小川は今度は身を硬くする。
「いいんですか、それ」
「いいの。私も、保田さんとそーゆーこともあったし」
あっけらかんと言う石川。
「いいんですか、それ…」
小川はそう返すしかない。
「いいの。浮気なんだから」
飛びついたまま小川に絡めていた腕を解いて。
石川はもといた席に戻る。
何事もなかったように。
冷めてしまった紅茶に手を伸ばし。
- 132 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/13(金) 22:09
-
「まあ、4年も一緒だとね。色々あるってことよ」
と、綺麗な動作でカップを口にする。
「でもそれはね、諦めとかじゃなくて。
そんなことがあっても、離れなかった自分たちっていう誇りっていうか。
一杯、取捨選択があったのね。でも、その度に私たちはお互いを選んできた。
その選択が一番難しい、苦しい選択だった時もあったけど。
でも、私たちは今でもこうしてここにいる。
だからね、卒業って節目を迎えた時、
私はよっすぃーとこれからずっとやって行こうって思えたの。
ずっと一緒にやっていけるかもしれないって」
- 133 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/13(金) 22:09
-
「でも、よっすぃーはどうなのかなあ?」
石川は微笑みながら言う。
「よっすぃーはね、自分のがバレてることも、私のことも知らないんだ。
駄目だなぁ」
そして、先程の小川のように窓の外に目をやる。
「あー。お墓の中まで持ってこうと思ってたのに、小川に話しちゃったぁ」
と独り言のように呟いた。
小川は、同じように外を見やり…目の前の近くて遠い先輩を思い…
遠くて近い恋人を思った。
- 134 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/13(金) 22:20
- ちょっこす交信。
次回でこのお話も終わりです。
ディテールは初めから出来上がってるので、すぐに交信するつもりです。
>21様
梨華ちゃん泣いちゃって、よっすぃーの手を握って乗り切ったんですよね〜。
がんがったね、母ちゃん!!(T▽T
そして、ありがとー父ちゃん!!(^〜^0
子供たちが卒業しても、そのままの君たちでいてね!!!
- 135 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:05
-
月がとっても青いから、遠回りして帰ろう。
そんな歌を、石川は思い出していた。
いつか、吉澤がくれた言葉。
それが、初めての時の言葉だった。
ねえ、梨華ちゃん。月も青いことだし、遠回りして帰ろっか。
それが、この歌の歌詞に引っ掛けていることを石川が知ったのは
かなり後のことで。
もー、一世一代の名台詞のつもりだったのに。
と、それを知った吉澤を怒らせた。
小川はあの後、お風呂にも入らずそのままソファで眠ってしまった。
さすがに石川の力では小川をベッドまで連れてはいけず、
なんとか起こして移動させようと試みたが、
眠る小川の瞼から雫が零れるのを見て、やめた。
そっと毛布を掛けてやり。
自分はさっとシャワーを浴びて。
でも、なんだか眠る気にもなれなくて。
石川はもう一度着がえると、近所のコンビニへ向かった。
真夜中でも煌々と明るいコンビニで朝ご飯の買い物をして。
石川は帰路につく。
- 136 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:06
-
見上げると、月は儚げに青く光っていて。
思わず、見惚れてしまう。
すると見上げた月の真下から。
通りの向こうから来る人影が視界に入る。
ああ、と石川は胸の中でため息をつく。
なんで、私はこうも容易く解かってしまうのだろう、と。
人ごみの中であろうと。
真夜中の小道であろうと。
私は容易く、よっすぃーを判別できる。
その自信が、石川の胸に切なさを誘った。
「携帯忘れんなよ」
近くまで来て。
吉澤はその手に握っていたものを差し出す。
「何度もしつこく鳴らしてたら、スタジオの警備員が出た」
そのぶっきらぼうな物言いに、石川はくすくすと笑う。
「ありがとー」
目深に帽子を被っていても。
吉澤が照れているのが石川には解かる。
だから、石川はもっと困らせたくてその手ごと携帯を握り締める。
- 137 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:07
-
「紺野はぁ?」
「泣き疲れて寝たから部屋に転がしてきた」
「ひどーい」
吉澤の手を取った反対の手で携帯を持ち直すと、石川はもう片方の手に
力を入れて握る。
「小川は?」
「泣きながら寝ちゃったから部屋に転がしてきた」
「誰が酷いって?」
笑いあう二人。
吉澤がちょっと引っ張って。
二人の距離が縮まる。
「なんかさ、懐かしいよね」
「矢口さんが?」
「はあ?」
「なんでもない〜」
「どーしてそこに矢口さんが出てくるんだよ」
「なんでもないって。…あー、保田さん、今頃何やってるのかなぁ」
「飲んでるんじゃない?って、なんでここで圭ちゃんが出てくるんだよ」
「なんでもないってば〜……ね」
- 138 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:07
-
石川は、繋がれた手を自分の頬に寄せる。
「あんだよ」
「キスして。仲直りのキス」
吉澤の手を自らの頬に摺り寄せて。
目を閉じて、吉澤を待つ。
吉澤は、石川の唇にそっとキスをする。
優しく2、3回繰り返して。
触れるか触れないかの距離で
「別にうちらがケンカしてた訳じゃないけど」
と付け加え、もう一度、キスをする。
甘く、濃いそれを。
先に唇を離したのは石川で。
「でも、思い出したでしょ?なんか、懐かしかったけど新鮮でもあったな」
と、一瞬挑むように吉澤を見上げ、また月に向かって歩きだす。
余韻に浸っていた吉澤は、しかし、石川の背が遠くなって行くのに
慌てて追いかける。
そして、手を繋ぐ。
ふふ、と二人から自然に零れる笑み。
- 139 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:08
-
「……ところで、石川先輩」
「なんですか、吉澤先輩」
「今日は、オアズケですかね?」
「んー。そうですねえ、どっちの部屋にも眠れる可愛い後輩ちゃんが
いますしねえ」
「ねえ、ほんとは今日、あたし、梨華ちゃんちに行く約束だったよね?
なんで小川連れ込んでるのさ」
「えー。よっすぃーだって紺野お持ち帰りしてんじゃぁん」
「それはぁ…だって、『小川に嫌われた』って泣く紺野をほっぽりだして
自分一人梨華ちゃんちに行くのは薄情かなって。
どうせ泣いてるし、さっさと寝かしつけて梨華ちゃんち行けばいい
かなって」
うわー、薄情〜。と石川ははやし立てる。
「あんだよー」
そう言って、しかし吉澤は愛しげに石川を背後から抱き寄せる。
「じゃあ、ホテル行こっか」
ちょっと、声のトーンを変えて。
恥ずかしさを隠すように石川の首筋に顔を埋めて、吉澤は言う。
「えー、二人で暮らすために節約するんじゃなかったの〜?」
- 140 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:08
-
「もー、なんだよぉ。もういいよっ」
なおもからかう石川に、吉澤はついに手を放す。
「あー、ごめんごめんっ」
石川は慌ててその手を取ると、吉澤にキスをする。
応えようとしない吉澤に、ちょっと離れて
「ほんとにごめんってばぁ」
と言って、またキスをする。
段々と、吉澤もそれに応え。
二人は夜中の道路で、人目も憚らず深く唇を交わす。
「よしっ」
今度は、吉澤から唇を離す。
何かを決めたように、掛け声をかけて。
「ふぇ?」
今度は石川がそれについていけず、もう一度、と腕を吉澤の首に絡めて
唇と寄せる。
「だーめ、オアズケっ」
微笑む吉澤に
「えーっなんでよぅ」
不満顔の石川。
- 141 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:09
-
「いいこと思いついたから。ほら、行くよ、梨華ちゃん」
不満顔の石川の手を取り、吉澤は行く。
「いいことって〜?」
「小川を叩き起こして、あたしの部屋の鍵持たせて、タクシーに乗せる」
「ええー?」
「一石二鳥じゃん。小川は紺野とよろしくやって、あたしたちも
イイコトができるっ」
「えー。それってちょっと強引〜」
抗議する石川の手を引き、吉澤は歩き続ける。
「あー。早く一緒に住みてぇーー」
「…えっちなこと考えてるでしょ。おうちとラブホを一緒にしないで」
「でも、どーせ梨華ちゃん寝室ピンク色にするつもりでしょ?」
「…」
「どっちも同じよーなもんじゃん」
「失礼ねえ!!」
「悔しかったらピンク卒業しろよ!!」
「なによ、だったら自分だってベーグル卒業しなさいよ!!」
- 142 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:09
-
言葉とは裏腹に。
二人は肩を寄せ合って夜道を行く。
ケンカも時には大切なコト。
一緒に居すぎて。近くなりすぎて。お互いを解かりすぎて。
……大人になりすぎて。
ケンカをすること、感情をぶつけることを忘れてしまっていた二人は、
そのことを気付かせてくれた後輩たちに感謝した。
しかし。
ケンカの原因について、二人は最後まで触れようとはしなかった。
今、こうして二人の距離がまた縮まったこと。
それを感じることが出来たこと。
それが重要だから。
例えその原因が「紺野のおやつの紫芋プリンがなくなって小川を疑った
ものの、本当の犯人は辻だったが、しかし謝る紺野を怒った小川が
許さなかったら今度は紺野が怒ってしまって、小川と口を利かなく
なってしまった」などという下らない内容であったとしても。
それによって、二人が大切なコトに気付かされたことは違いない
- 143 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:10
-
けれど。
そんなことを口にしたら、折角のムードが壊れてしまいそうで
二人はそれを言わない。
暗黙の了解、賢明な判断という奴である。
「ね、月が綺麗だね」
微笑む石川。
「ああ」
ぶっきらぼうに答えて、けれど繋ぐ手に力を込める吉澤。
月明かりの下、今は静かに眠る二人の後輩たちが
この先輩カップルのようになるのは、まだまだ先の話……。
- 144 名前:『大切なコト』 投稿日:2004/08/15(日) 02:11
-
〜END
- 145 名前:前・21 投稿日:2004/08/15(日) 12:57
- 更新・そして、完結 お疲れ様でした。
ずっと楽しみに読ませてもらってました。
あの二人はいろいろなことを乗り越えてきたような
気がするな〜・・
また、いしよし☆ 読ませてくださいね!!
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/16(月) 00:19
-
『ふたり』
- 147 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:19
-
目の前に座り、うつらうつらと船を漕ぐのが梨華ちゃんだと
知ったのは、電車が走り出して間もなくのことだった。
あたしはしばらく、そのありえないくらいの偶然に呆然とし
彼女をただひたすら凝視していた。
がくん、と電車が一回大きく揺れて。
あたしはバランスを崩し、隣りに立っていたおじさんに
ぶつかってしまう。
あいたたた、おじさんの鞄にもろ腕ぶつけたよ。
そして慌てて視線を戻すと…しかし、梨華ちゃんは変わらずそこにいて。
熟睡中で。
あたしはほっとする。
良かった、幻じゃないんだ。
梨華ちゃんは、ここにいる。
この広い東京で、やっと巡りあえたんだ。
そう思うと、目頭が熱くなった。
- 148 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:20
-
あたしと梨華ちゃんは同じ高校に通ってた。
中高一貫の女子校で。
あの地方ではお嬢様学校って結構有名なトコで。
梨華ちゃんは私のひとつ上。
中学から持ち上がりのバリバリお嬢様。
あたしは、高校からスポーツ推薦で入った小市民。
だけど、あたしはずっと見てた。
憧れてた。
テニス部のエースで、コートを舞うようにプレイするその姿を。
第二体育館からバレー部の練習をこそこそさぼって、
じっと見てた。
梨華ちゃんが、好きだった。
接点なんてまるでなくて。
話なんて全然したことなくて。
いつも、すれ違う時に香る彼女のコロンと
友達と話す少し高めのキイの声色を反芻し
胸を高鳴らせていた。
梨華ちゃんに、恋をしていた。
- 149 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:21
-
彼女と交わした思い出はひとつだけ。
彼女の卒業が近づいた、冬の日。
偶然、校庭の片隅で彼女に会った。
部室においていた私物を片付けたのか彼女の手には荷物が一杯で。
すれ違う時に、何かがぽろっと落ちて。
彼女に神経を集中していたあたしは、彼女より遥かに早く
それに気付き、拾いあげた。
「あの…」
振り向く彼女。
初めて交わした、視線。
あたしを見て。
そして、あたしの差し出した手を見て。
「ああ、ありがとー」
にっこり微笑む彼女。
あたしに向けられた、初めての笑み。
「2年の吉澤さんだよね?」
彼女の口があたしの名を呼ぶのを、信じられない気持ちで聞く。
幸せな響き。
- 150 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:21
-
「はい」
「バレー、頑張ってね。今年はもう応援に行けないけど」
知ってる。
部の先輩に、彼女の友達がいるんだ。
時々、練習を見に来るのも、試合の応援に来るのも、彼女のためだよね。
でも、それでも、あたしはあなたの視界の隅に入るだけで
幸せでした。
「大学、東京に行くの」
知ってる。
東京の女子大に推薦が決まってるんだよね。
東京の洗練されたキャンパスで、優雅に微笑む彼女を、あたしは
束の間想像する。
「吉澤さんは、進路考えてる?」
あたしを見る、その微かに上目遣いな視線は反則です。
身長の関係で仕方ないのかもしれないけど。
だったら、もう、あなたより背の高い人を二度と見ないで。
「あの・・・このままなら、体育推薦で・・・東京の大学に・・・」
しどろもどろに答えるあたし。
「そう。じゃあ、東京で会えるかもね」
- 151 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:22
-
軽く言わないで。
切なくなる。
だって、だって……期待しちゃう。
ねえ、期待しちゃうでしょう?
「じゃあ」
そう言って、あたしの手から拾いモノを取ろうとする彼女に、
あたしは意を決して口を開く。
「あのっ……荷物、半分持ちましょうか、石川梨華先輩」
彼女の目が、一瞬驚いたように開かれる。
あたしの意思表示、解かってくれた?
彼女は、しかしすぐにその驚いた顔をふっと笑みに変えて。
「いいよ、梨華で。吉澤ひとみちゃん」
どきどきした。
一瞬が、永遠に感じた。
しかし、その永遠の世界を切り裂くように。
背後から走ってくる足音。
「梨華ちゃーん、忘れものーーーー」
- 152 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:22
-
後藤真希。
知ってる。
一緒のクラスにはなったことがなかったけど、同じ学年で。
いつもしれっとしてて遅刻も赤点も、学年主任の怒声にも
無反応な美人だから、学校中有名だ。
彼女がテニス部に入っていたことを初めて知る。
帰宅部と信じて疑わなかったのだが。
「ありがと、真希ちゃん」
しかし、後藤さんは梨華ちゃんに持ってきた包みを渡すではなく
無言で彼女の荷物を半分奪う。
「行こ、梨華ちゃん。ごとーが持ってあげるよ」
そう言うと、あたしの存在を完全に無視して後藤さんは行く。
梨華ちゃんは、もー、マイペースねぇってつぶやいて。
そしてもう一度あたしを見て、微笑む。
「それ、あげる。使って」
「でも…」
「じゃあ、東京で会ったら返して。ね?」
そしてもう一度微笑むと、後藤さんの後を追って行ってしまった。
- 153 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:23
-
あたしは、一人校庭の隅に立ち尽くし。
彼女の揺れる後ろ姿と手に残るピンクのリストウォッチを見つめた。
- 154 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:24
-
それから、しばらくして。
梨華ちゃんは卒業し。
あたしは三年になって。
何故か後藤真希と仲良くなった。
ピンクのリストウォッチをして出た試合は、
後輩たちに悪趣味と非難されつつもことごとく優勝し。
そして、後藤真希はある昼下がりあたしに言う。
「梨華ちゃんはね〜、本当はよしこのこと
好きだったんだとごとーは思うよ」
- 155 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:24
-
電車は各駅停車で。
ゆっくりゆっくりと進んで行く。
でも、あたしは願わずにはいられない。
もっとゆっくり走って。
永遠に次の駅になんて着かないで。
ねえ、梨華ちゃん。
いつもバレー部の練習をこっそりのぞいてたってホント?
ねえ、梨華ちゃん。
あたしの教室の前を通るために、意味もなく後藤さんの教室へ
行ってたってホント?
ねえ、梨華ちゃん。
あたしのこと好きだったって……ホント?
確かめたいことばかりだよ。
ねえ、梨華ちゃん。
あたし、ずっとあなたが好きだったんだよ。
ねえ、梨華ちゃん。
高校三年の秋、足を痛めて、推薦受けられなくなっちゃったんだよ。
- 156 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:25
-
ねえ、梨華ちゃん。
それでもあたし頑張って。頑張って。自力で東京の大学に
受かったんだよ。
あなたに、あなたに会いたい。
それだけの為に。
あなたとの、あなたとの約束を守りたい。
それだけの為に。
伝えたいことばかりだよ。
でもね。
もう少しだけ。
このまま、時を止めて。
やっと、この広い東京で巡りあえた偶然を、幸福を、噛み締めたい。
ねえ、梨華ちゃん。
まだ、あたしのこと好きですか?
あたしは。
あたしは、あなたのことをずっと想ってました。
あなたが、今でも大好きです。
- 157 名前:『ふたり』 投稿日:2004/08/16(月) 00:26
-
〜END
- 158 名前:桜折 投稿日:2004/08/16(月) 00:36
- >21様
連日いしよし書きしてます(笑)
今回のいしよしはいかがでしたでしょうか?
前回のみたいな濃いいしよしじゃなくて、これから始まるいしよし。
未来に期待!!みたいな。
最近、またいしよし小説の更新少なくなってきましたね。
寂しい限りです。
ということで、今回はアンリアル学園(?)モノでした。
結構自分、リアル系が多いな〜と思って慌ててアンリアルにも
手を出してみたり。
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/16(月) 02:08
- すげぇー引き込まれた。
続きがとっても気になります
- 160 名前:プリン 投稿日:2004/08/16(月) 12:18
- 更新お疲れ様です♪
アンリアル学園モノ(・∀・)イイ!
続きキボンヌですねww
その後どうなったのか…みたいな。
次回の更新も待ってます!
いしよしオンリーなのでここ大好きっすよぉ。
- 161 名前:前・21 投稿日:2004/08/16(月) 17:20
- 更新 お疲れ様です。
日々、いしよし・読ませてくれてほんとっ!嬉しい
です。「ふたり」良い感じですね〜 好きですよぉ
プリンさん同様、続きが激しく気になりまつ・・
- 162 名前:桜折 投稿日:2004/08/17(火) 03:17
- あ、なんかそっこーレス付けて頂いてて。嬉しい限りです。
ご期待に添えるよう、『ふたり』続編頑張ってみます。
気長に待って頂ければと思います。
>159様
お褒めの言葉、ありがとうです。
続編も頑張ってみよーと思います!!
>プリン様
いつもレスありがとうです。
ここは「いしよし好きが安心して読めるスレ」がひとつのコンセプト
なので(笑)
いつでもいしよしガチですよ〜。
>21様
いつもレスありがとうです。
いしよし不足を自給自足してたりするんで。
自分の更新が早いということはそれだけ不足してる訳で
ちょっと寂しかったりもしますが(^〜^0;
喜んでいただけて嬉しいです。
- 163 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:19
-
『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』
- 164 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:20
-
ひとみちゃん。
久しぶりにお手紙書くね。
ついでに、ひとみちゃんって呼ぶのも久しぶり。
なんだか照れるね〜。
今、ひとみちゃんは隣りで気持ちよさそうに寝ています。
寝顔が可愛いので、なにかいたづらをしようかと思いましたが
起きてしまうと困るのでやめておきます。
まず、今日はありがとう。
迎えに来てくれたこと。
その場にいた飯田さんたちを除いて、最初に会う人があなただったこと。
とても嬉しかったよ。
それと、ポットに入れて持ってきてくれた紅茶。
すごくおいしかった。
ベランダで二人で並んで飲んで。すごく久しぶりに、まったり出来たね。
全部、すごくすごく嬉しかった。
ほんとは、ひとみちゃんだってこれから大変なのに。
結局、今日も私はひとみちゃんに甘えてしまいました。
やっぱり、私はひとみちゃんに甘えてるよね。
ずっとずっと、そうだった。
- 165 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:20
-
さっき、ひとみちゃんにそんなことないよ、って言ってもらったけど。
梨華ちゃんなら大丈夫って一杯言ってもらったけど。
やっぱり、新しい子たちと新しいユニットを組んでやってくのは不安です。
今まではすぐ傍にののやあいぼんがいて。
何より、ひとみちゃんがいるから頑張れた。
何があっても、ひとみちゃんが側にいてくれて。
それだけで私は強くなれた気がした。何があっても大丈夫って思えた。
だけど、これからひとみちゃんはいなくて。
私、大丈夫なのかなって。
本当に、最近、不安でしょうがないの。
ねえ、ひとみちゃん。
私は駄目なんだと思う。
私がお姉さんなんだから、頑張んなきゃっていつも思ってたけど。
それはいつもから回りで。
だけど、あなたが隣りで微笑んでくれてたから。
頑張り続けることが出来た。
- 166 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:21
-
今更だけど。
私、こんなにひとみちゃんに助けられてた。
こんなに、救われてた。
だから私は、今、こんなに不安。
迷子の子供みたいに、ひとみちゃんを探してる。
きっと、簡単なんだ。
今、ここでひとみちゃーんって叫べば、ひとみちゃんはあたしに手を
差し出してくれる。
笑ってくれる。
私に力をくれる。
だけど、それじゃ駄目なんだ思う。
今、頼って。
ひとみちゃんに甘えたら。
きっと一年後、私は本当に駄目になっちゃう気がする。
だからね、ひとみちゃん。
私は、私たちの間に少し距離を置くことにしようと思います。
今まで、一杯一杯わがまま言ってきたけど。
これが最後だから。
もう一回だけ、私のわがままを聞いてください。
- 167 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:22
-
少しだけ距離を置こう。
ひとみちゃんと梨華ちゃんから、よっちゃんといしかわに。
オンもオフもフラットな、仲の良い同期に戻ってみよう。
今日はこのまま行きます。
ひとみちゃんが寝てるうちじゃないと、また甘えてしまいそうだから。
じゃあ、また明日、スタジオで。
梨華
- 168 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:22
-
「どぉーゆぅーつもりなのかなぁ」
にっこりと微笑むよっすぃーの手には、私の手紙。
「てゆーか、なんでここにまだ梨華ちゃんがいるのかなぁ?」
私は髪から滴り落ちる雫もそのままに
「えぇーっと……」
と言ったまま立ち尽くす。
脱衣所。
浴室から漏れ出てくるムっとする熱気が充満している。
しかし、それ以上によっすぃーから放たれる殺気が息苦しくする。
「………その、予定では、よっすぃーは、朝まで起きないことに
なっていて」
などとしどろもどろに答えてみる。
「一度寝たら朝まで起きないのは梨華ちゃんでしょう?
あたしは眠り浅いから、お風呂の水音とかしたら絶対目が
醒めちゃうもん。そんなこと、梨華ちゃんは知らないよね。
だって、絶対起きないから」
知らなかった…。
私は、3年付き合った彼女の知られざる一面を知る。
- 169 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:23
-
「大体、ここ梨華ちゃんちでしょう?どこに行くつもりだったのよ?」
そ、それは…。
「えっと…その…ファミレスとか…」
「私が帰らなかったら?」
「ええっ……か、帰るまで、待つ……とか…」
「で、私がずっと帰らなかったら?」
「………そこまで考えていませんでした」
はぁ、とよっすぃーのため息。
幸せが逃げるぞっと心の中で突っ込むと
「いいの。もう、幸せなんて逃し掛かってるんだから」
と、強い口調で言われた。
うわー、以心伝心。
すごい。
やっぱり私たちってすごいかも。
と、
「なに嬉しそーな顔してんの!!」
って、ほっぺたをひっぱられた。
ひゅ、ひゅみまひぇん……。
はぁ、と、もう一つため息が降る。
- 170 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:24
-
「で」
よっすぃーは手に握り締めていた手紙を私の目の前に突き出す。
「これはどぉーゆぅーつもりなのって聞きたいんですが?」
にこっと一瞬華麗な笑みを浮かべ。
そしてすぐにお怒り顔に戻って。
よっすぃーは私に問う。
「えぇーっとぉ……」
私はあさっての方向を見る。
だって、なんて言ったらいいのかな。
なんて言おうかな。
「つまり、別れたいってことなの?」
なおも言い募るよっすぃー。
「んー…そーゆーこと……かなぁ…」
私は視線はそのままに曖昧に答える。
うーん。
なんて言おう。
「梨華ちゃん!!」
私を呼ぶよっすぃーの声。
- 171 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:25
-
だけど、見れないよ。
見たら、なんかあらぬことを言ってしまいそーで。
深夜のバスルームに、沈黙。
はぁ。
よっすぃーのため息が、沈黙に降り積もる。
「わかった」
何をわかったのか、よっすぃーはそう言うと何度か頷いて。
そのまま脱衣所から出て行ってしまった。
その背中がなんだか疲れた感じで。
私は心配になって声を掛ける。
「よっすぃー?」
見ると、私の部屋に置いてある部屋着のジャージから
今日着て来た外出用のジャージに着替えてる。
私には、その違いがイマイチ理解できないんだけど…。
返事をしないで黙々と着替えるよっすぃー。
「何してんの?」
「何って…」
手を止めて、よっすぃーは困った顔でこっちを見て。
「出てく準備」
- 172 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:25
-
「……そっかぁ」
私はそれだけ言うと、バスルームに戻る。
なんだかなぁ。
部屋着用のキャミを着て。
もう一度出ると、よっすぃーはバスルームの前に立ってて。
「じゃ」
とか言う。
「ん……」
とだけ言うと、よっすぃーは一瞬顔をしかめて、
でも玄関へと行き靴を履き…
「じゃ」
ともう一回言って。
今度は振り返らないまま、ドアを開けて出て行ってしまった……。
- 173 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:26
-
「それだけっ!?」
気付くと、私は裸足のまま外に出て。
エレベーターホールに立つよっすぃーに大声で問い掛けていた。
「り、梨華ちゃ……っ」
慌てた様子でよっすぃーが駆け寄ってくる。
「梨華ちゃん、そんな格好で外でちゃ…って、裸足だし…って、ああっ」
よっすぃーはひとつひとつに律儀に突っ込みを入れて。
最後に私の頬を包み込んで困ったような声を上げる。
「うぅ…ひとみちゃんのバカぁ…」
私はというと。
泣いていた。
真夜中のマンションの廊下で。
見ようによっては下着みたいな格好で。
裸足で。
子供みたいに、うわぁって。
「ばかぁ」
そう言って泣く私を、よっすぃーは抱き寄せて。
- 174 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/17(火) 03:27
-
「と、とにかく中入ろ。ね」
と困った顔で言いながら、私の頬を拭ってくれる。
「うっうっ…ひとみちゃんが悪いんだから」
「わかったから。泣かないで。ね」
「ひとみちゃ……」
「なんだよぉ」
「うっうっ・・・鍵、開けてぇ」
オートロックなんだから、うち。
- 175 名前:桜折 投稿日:2004/08/17(火) 03:30
- 今回は前編・後編の2回更新です(多分)
時間的にはラジオの卒業発表直後ってことで。
わかりづらいかな?ってことで一応補足。
そういうことは文中でやれよってねぇ……。
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/17(火) 11:10
- 更新お疲れ様です。
梨華ちゃん、かわいいですね。
かなり続ききになってます。
次回の更新も、がんばってください。
- 177 名前:プリン 投稿日:2004/08/17(火) 15:16
- 更新お疲れ様です!!!
うがー!w
梨華ちゃんかわええよぉー。
すごい格好で出てきてしまう辺りがw
やっぱこの二人じゃないとダメだなー。最高だー。
続き待ってますね。
『ふたり』の続編も頑張ってください♪
- 178 名前:前・21 投稿日:2004/08/18(水) 00:21
- 更新お疲れ様です☆
また・また新しいお話をありがとうごじゃいます〜
梨華ちゃん、かわいいー☆
本当に、作者さまの・いしよし、好きです。
ゆっくり待ってますね。
- 179 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/23(月) 22:01
-
玄関で。
よっすぃーがお風呂場から持ってきたタオルで私の足を拭いてくれてる。
私はそれを見ながら
「うぅっ…ひと…っ…が……悪いんだ…からぁ…」
と繰り返してた。
拭き終わると、ふぅ、とまたよっすぃーがため息をついて。
顔に掛かる髪をかき上げて。
「で、お話を聞きましょうか、お嬢さん」
と言った。
- 180 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/23(月) 22:02
-
だってだって。
卒業の話しても、『ああ』って。
全然悲しそうじゃないし。
楽屋でミキティと仲良く喋ってるし。
本番中も楽しそーにいちゃいちゃしてるし。
紺野にちょっかい出してばっかだし。
真琴と遊びに行っちゃうし。
まいちゃんとアヤカさんと仲良いし。
……私の手紙読んで、解かったなんて言うし。
- 181 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/23(月) 22:03
-
玄関に座りこんで。
私を見つめるよっすぃーを直視出来ずに、いじいじと
並んでいるサンダルとかスニーカーとかをいじくりながら言う。
恥ずかしい。
こんなこと言うなんて。
前はよく、こーゆーことってあったんだ。
よっすぃーがごっつぁんと出掛けた後とか。
矢口さんと楽屋でじゃれてるのを見た後とか。
私がいじけちゃって。
よく、よっすぃーを困らせた。
よっすぃーが、私を好きでいてくれることは解かってた。
私のことを、誰よりも考えてくれてるって。
その眼差しで。
手で。
声色で。
解かってたんだよ。
- 182 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/23(月) 22:03
-
でも、不安は降り積もり。
私を苛立たせた。
よっすぃーが困るって解かってても。
それが私のただのわがままでも。
わがまままで、愛して欲しかったの。
- 183 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/23(月) 22:04
-
だけどいつからか。
こんなことはなくなって。
それだけスムーズに私たちの関係は進むようになったけど。
だけど。
もしかしたら、その頃から何かがズレはじめてたのかもしれない。
もう、お姉さんなんだからとか。
付き合って長いんだからとか。
一々イライラする自分が馬鹿馬鹿しいとか。
そんなことを考えて、飲み込んだ言葉たち。
- 184 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/23(月) 22:05
-
言わなくなったんじゃなくて。
言えなくなってしまったこと。
それが一杯、私の中に溜まって、燻って。
それが今、爆発して私を前の私に帰らせた。
私は、わぁわぁ泣いて。
よっすぃーの差し出した手を握り締めて。
駄々をこねる子供のように、ただ不満を吐き出した。
- 185 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/23(月) 22:06
-
「ねえ、好き?」
顔を上げられないまま、問う。
「好き?」
ねえ、今でも好き?
ううん。前よりもっと好き?
「私のこと、好き?」
ただ好きなだけじゃだめなの。
前よりも、もっと好きになっていて欲しいの。
昨日よりも、もっともっと今日の私を好きになって。
- 186 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/23(月) 22:06
-
「…今日はどうしたの、梨華ちゃんは」
俯いたままの頭に掛かる、よっすぃーのため息。
困ってる?
そうだよね。
こんなわがまま、聞いてたって面白い筈ないもんね。
ごめんね、よっすぃー。
私、やっぱりいつまでもよっすぃーに甘えてる。
よっすぃーを困らせてる。
こんな私といても、よっすぃーは楽しくないね。
涙が、また零れる。
止め処なく。
好きなの。
よっすぃーが。
とてもとても、愛しくて仕方ないよ。
前よりも、昨日よりも。
確実によっすぃーをより好きになっていく。
それが、怖くて仕方ないの。
- 187 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/23(月) 22:07
-
「梨華ちゃん」
呼びかけに、まだ俯いてぐすぐすしていると
「梨ぃ華ぁっ」
よっすぃーが私の顔をぎゅっと掴んで上を向かせる。
さっきみたいに、ほっぺたをぎゅーってされて。
「んーっ」
無理矢理に上げられた視線の先には…よっすぃーがいた。
優しい微笑みを浮かべて。
全然困った顔とかしてなくて。
きっと、ちょっとだけ眉を寄せて。
どうしたらいいのかわからないって目で。
途方に暮れた表情をしてるんだと思ってたから、ちょっと驚いて
よっすぃーをじっと見つめちゃった。
だって、あの頃のよっすぃーはいつもちょっとだけ困りながら
一生懸命、私を元気にしてくれた。
だけど目の前のよっすぃーは…。
「あはは」
笑ってた。
- 188 名前:桜折 投稿日:2004/08/23(月) 22:19
-
ネガティブ石川さん、絶好調です。
前・後編と書きましたが、次回ラストの前・中・後編で。
書き始めるとあれもこれもと出てきてしまい
まとまらなくて焦ります…。
>176様
ありがとうございます〜。
興味を持って下さる方がいると思うと励みになります!!
梨華ちゃんは可愛く、よっすぃーもカッコ可愛く。
頑張りたいと思います!!
>プリン様
いつもありがとうございます〜。
乙女な暴走梨華ちゃん。
いしよし小説の定番ってのをちょっと意識してます(笑)
- 189 名前:桜折 投稿日:2004/08/23(月) 22:20
-
>21様
いつもありがとうございます〜。
今年のいしよし春の兆しが見え隠れしてる昨今。
自分も気合を入れていしよしに励みたいとおもいます!!(笑)
ああ、DVDマガジン見たい…。
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/24(火) 11:04
- あらあらおやまぁ
ビー( T▽T)(^〜^O)イイヨイイヨー
- 191 名前:桜折 投稿日:2004/08/24(火) 22:08
- >190様
まさにそのイメージですね、今回のイメージは(笑)
ネガ石、ポジ吉。イイヨイイヨー
そんなこんなで、後編です。
- 192 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:09
-
なによぉ。
なんで笑ってるのよ。
意味わかんない。
そんな私のほっぺたをなおもぎゅうぎゅうしながら
よっすぃーはにこにこしてる。
「あー、心配して損したぁ」
びっくりして止った涙の名残の、まつげに溜まっていた一滴が転がると
よっすぃーはそれを追いかけて私の頬を舐める。
「ひゃっ」
びくっとして身を引くと、また
「ははっ」
と笑うよっすぃー。
…なんだか、ちょっと心配になってきた。
よっすぃー、どしたの?
大丈夫?
じっとよっすぃーを見てたら
今度は顔じゃなくて身体ごとぎゅってされた。
なになに??
- 193 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:10
-
「はぁ……捨てられるのかと思った」
ええ?
「最近、何考えてんだかわかんないことがよくあったし」
ええー?
「なんか、どんどん大人っぽくなるし」
えええー?
「他の子と話してたりしても、全然妬いてくれないし」
……なに、それ。
- 194 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:10
-
「あのね。
卒業しちゃ……嫌だよ。
当たり前じゃん。
だけどそれ言ったら困るでしょ、梨華ちゃん」
よっすぃーは優しい声で話してくれる。
それが、昔を思い出させる。
「それと、自分だってミキティと仲良いでしょ。
よく楽屋で二人で雑誌とか見てるじゃん。
こないだ真琴と遊びに行った時は自分も誘ったのに
『柴ちゃんと約束してるから』ってそっちが断ったんでしょ。
大体、まいちゃんたちのこと言うなら
自分は柴ちゃんどーなんだよ。
ちょっと柴ちゃんと一緒に居過ぎなんだよ。
休みが被った時くらいこっちに合わせない?」
- 195 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:11
-
優しいけど、ちょっと拗ねたカンジの声。
びっくりして顔を上げると、ちょっと眉間に皺を寄せて。
「あたしだって、不満はあるんですけど」
とよっすぃーは言った。
私は、本当にびっくりして暫く声が出なかった。
「あたしだってさ、ヤキモチくらい焼くよ」
よっすぃーの言葉に
「だって、柴ちゃんはお友達だよ?」
って言ったら
「まいちゃんとアヤカだって友達だよ」
って返されて。
それ以上言う言葉がなくて、うーん、て固まってたら
よっすぃーがふっって吹き出して。
なんで笑うのよー、って言った私の声も笑ってて。
しばらく、二人で玄関先で笑い転げた。
- 196 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:12
-
そして。
「好きだよ」
って、キスをくれた。
よっすぃー。
よっすぃーの方がよっぽど成長した。大人になったね。
…ううん。
よっすぃーはずっと大人だった。
いつも私を甘えさせてくれた。
だから、私はまた甘えてしまう。
「ホントに好き?ねえ、前よりも?昨日よりも?」
ははっと、またよっすぃーは笑って。
「好きだよ?」
って私の髪を撫でて。
「本当にどしたの、今日は」
って、呆れたようにため息をまた一つ。
あ、幸せが逃げるぞ…って思うと
「いいの。今、幸せだから。少しくらい零しても」
そう言って、またにこっって笑ったよっすぃー。
思わず、私は抱きついてしまう。
- 197 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:13
-
「ほら、もう気が済んだでしょ。部屋入るよ」
だけど、私はその腕を掴んだまま。
「運んで〜」
とか言ってみる。
そういえば、最近抱っことかもしてもらってない。
「ええー」
いくつだよ、とか言いながら。
でも、よっすぃーは私を抱き上げて部屋の中に運んでくれる。
- 198 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:14
-
それは、ほんのちょっとした、報復のつもりだったの。
そう言ったら、よっすぃーは怒るかな。
- 199 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:14
-
だって。
よっすぃーのこと、好きなんだもん。
ずっと、ずっと好きだった。
それで、どんどん好きになっていく。
止められない思いに怖くなるけど。
もっと怖いのは、あなたを失うこと。
今の私の立場に、これからの私たちの関係に不安が多いのは事実。
だから、そんな時にミキティとか真琴とか
他の人とじゃれてるのを見るとね。
嫌な気分になっちゃうの。
私だけが辛い思いしてるんじゃないかなって。
よっすぃーはこんな不安とかないんじゃないかなって。
だから、報復をしてみたかったの。
私だけが不安なことへの報復。
よっすぃーが余所見してることへの報復。
私の方がよっすぃーよりずっとずっと愛しちゃってることへの報復。
だけど。
それはちょっと私の勘違いだったみたい。
- 200 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:15
-
だから、そんな諸々の思いと共にちょっとだけ謝罪の意を込めて
私を抱っこしながら、まだ笑ってるよっすぃーの耳元に
「好きだよぉ」
って囁いたら
「あたしだって好きだよ!!」
とちょっと怒り気味に返された。
何よ、笑いながら怒るなんて意味わかんなーい。
「怒ることないじゃん」
って言ったら
「何べん言っても解かってくれないから!!」
ってまたちょっと怒り気味に言われて。
そして、ぎゅうぎゅう抱きしめる手に力を込められた。
- 201 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:16
-
夜の部屋。
私の報復は無残に終わったように見えるけど。
だけど、成功もしたんだ。
本当は抱きしめて欲しかっただけだから。
優しくして欲しかっただけだから。
あの頃みたいに。
無条件に私を愛しいと思ってくれてるって確認したかっただけだから。
ありがとう、ひとみちゃん。
好きでいてくれて。
甘やかしてくれて。
あの手紙は、本当は最後の部分以外は本気なんだよ。
ありがとう、ひとみちゃん。
ありがとう。
- 202 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:16
-
「ひとみちゃん大好き」
「駄目だよ、いしかわ。ちゃんと『よっちゃん』って呼ばなきゃ」
「ええっ」
「ちゃんと自分で言ったことには責任を持たないとね」
「そんな、あれはちょっとした…」
「これから当分は『いしかわ』って呼ぶから。
あたしのこと『よっすぃー』とか『ひとみちゃん』って呼んだら罰金ね」
ええーーーーーっ
ひ……よ、よっちゃんのバカぁ。
- 203 名前:『それは、ほんのちょっとした報復のつもりで。』 投稿日:2004/08/24(火) 22:17
-
〜END
- 204 名前:前・21 投稿日:2004/08/24(火) 22:54
- 更新、そして完結・お疲れ様です。
いしよし・書きつづけてくれてうれすぃ〜です!!
ちょっとスネぎみのよっすぃがイイですね〜
ハワイで想い出作ってるかな・・?
更新、楽しみにしてま〜す☆
- 205 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:02
-
私とひとみちゃんは、幼馴染。
おうちも隣同士で。
私のお部屋の窓を開けるとひとみちゃんのお部屋の窓があって。
余裕で飛び移れる距離。
よくあるドラマやアニメの設定みたい。
そして私は、そのよくあるドラマやアニメの設定通り
大きくなったらひとみちゃんと恋人同士になって
いつか結婚するものだと、勝手に決めていた。
誤解する要因は沢山あった。
いつでもひとみちゃんは私を大切にしてくれたし。
いつでも守ってくれた。
だから私は小さな頃から安心して、ひとみちゃんに
全てを委ねていた。
- 206 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:04
-
決定的な何かがあったとすれば。
それは幼稚園の時。
発表会で私たちうさぎ組は眠り姫をやることになって。
私がオーロラ姫に選ばれたら、ひとみちゃんは自分が
王子様をやるんだって言いだして。
男の子の役なのよ、って周りがいくら言ってもきかなくて。
結局他の男の子たちを蹴散らしてひとみちゃんが
王子様役を射止めちゃった。
そして、本番の日。
ひとみちゃんは目をつぶって舞台に横たわる私に
本当に本当のキスをくれた。
ざわめく客席を他所に。
イタズラっぽい笑顔を私に向けたひとみちゃん。
私の運命は、この時、決まっていた。
- 207 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:05
-
だから、ひとみちゃんのお嫁さんになるって決めてたんだ。
それなのに…。
あれは忘れもしない、小学3年の秋のある日。
お母さんに言われた。
「もう、ひとみちゃんは女の子なんだからお嫁さんには
貰ってくれないわよ」
びっくりした。
今まで、ずっと「ひとみちゃんのお嫁さんになる」って公言して
きて。
ただの一度も否定されたことはなかった。
むしろみんな微笑ましげに頷いてくれてた。
今にして思えば、あれは冗談と受け取られていたのだろうけど。
だけど、私は真剣だった。
私だけが、真剣だった。
ひとみちゃん…。
ひとみちゃんも、冗談だったの?
私は途端に目の前が真っ暗になって、お部屋に駆け込んだ。
- 208 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:05
-
だって。
大人になったら何になる?
って問いに必ず「お嫁さん」って答えてた私。
勿論、お婿さんはひとみちゃん。
それが、お婿さんが突然「未定」になってしまった。
私の進むべき道が否定され、しっかりと見えていた筈の道筋が
突然闇に閉ざされてしまったのだ。
ひとみちゃん…。
声をあげれば、聞こえる距離にいるはずのひとみちゃん。
でも、ここで声をあげて。
ひとみちゃんを呼んで。
ひとみちゃんに否定されたら、私はどうしたらいいの?
そう思うと怖くなって。
逃げ出した。
走って走って。
全てから逃げた。
- 209 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:06
-
夜になって。
一人、寒さに震えながら公園の片隅にいると。
迎えに来てくれたのは、ひとみちゃんだった。
「何やってんだよー」
ぶっきらぼうなその物言いは男の子みたいで。
よくお母さんたちに注意されてたっけ。
「ひとみちゃんこそ何してるの。もう夜なんだからおうち
帰りなさいよぉ」
家出娘に言われたくはありませんー、と言って。
ひとみちゃんは私の座る花壇のヘリに並んで座った。
思えば減らず口もこの頃から変わってない。
それからしばらく、二人とも黙ってて。
沈黙の中で、わたしは俯いて花壇の土をいじっていた。
「あのさ」
ひとみちゃんが沈黙を破る。
- 210 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:06
- 「何があったのさ」
沈黙。
「言いなよ」
沈黙。
ぱっと。
ひとみちゃんが私の土くれを掴む手を掴んで。
「い、痛いよ」
「言いなって」
「痛いよ、ひとみちゃん、手が折れちゃうよ」
「言うまで離さないもん」
「……」
「折れても離さない」
観念して、私は話した。
お母さんに笑われたこと。
ひとみちゃんのお嫁さんになりたかったこと。
だけど、なれないことを今日始めて知ったこと。
言ってしまうと、なんだかちょっとだけ楽になった気がした。
ひとみちゃんは、全部を聞くと
「ふうん」
て気のない返事をして。
今度はひとみちゃんが黙り込んでしまった。
- 211 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:07
-
また、静寂が訪れ。
ひとみちゃんの力の抜けた手から自分の手を抜き取り、
また土をいじる。
地面に字を書いたり。
穴を開けたり。
山を作ったり。
「梨華ちゃん、今まで知らなかったんだ。おバカさんだね」
唐突に、ひとみちゃんが話し始める。
「な、なによぉ」
「でも、仕方ないじゃん」
「はぁ?」
「あたしだって、一応女の子だし」
「うん…」
「梨華ちゃんだって女の子だし」
「……」
「だから、梨華ちゃんが女の子のお嫁さんにはなれないって言うんならさ」
「うん」
「仕方ないから、あたしがお嫁さんになってあげるよ」
- 212 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:07
-
「へ?」
「仕方ないから、あたしが梨華ちゃんのお嫁さんになったげるって」
「…意味、わかんない」
えへへ、とひとみちゃんが笑って。
だから、気にすんなって。
立ち上がって、ジーンズに付いた土を払うと
私に手を差し伸べてくれて。
私がその手を取って立ち上がると、私のスカートに付いた
土を払ってくれた。
「だからさ」
私の手を引いて、ひとみちゃんが夜道を行く。
「ずっと一緒にいてやるから。心配すんなってこと!!」
照れくさそうに、耳まで赤くしてそう言うひとみちゃんが嬉しくて。
私は、繋がれた手に力を込めた。
家に帰って。
親に散々怒られたけど。
ひとみちゃんは一緒になって怒られてくれて。
その間、ずっと手を握っててくれた。
- 213 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:08
-
一度おうちに帰っても。
パジャマに着替えて、私の部屋に窓から来てくれて。
その夜は二人で手を繋いで眠った。
私はひとみちゃんと抱き合って横たわり、幸せな未来の夢を見た。
- 214 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:08
-
あれからいくつもの季節が私たちの上を過ぎ去り。
そしてまた、何度目かの秋がゆっくりと近づいてきている。
私たちは成長した。
今でも変わらずにひとみちゃんは私の隣にいる。
だけど、その距離は友達以上恋人未満。
あの頃と少しも変わってない。
今日こそ、隣りを歩くこのセーラー服の王子様にちゃんと愛の言葉を
言わせたいんだけど…
「ねぇ、ひとみちゃん」
「んー…」
甘えた声の囁きも、曖昧な返事に流されて。
今日も結局、失敗に終わりそう。
だけど、いつの日か。
そう遠くない、そう、あの時みたいな秋の夜に。
絶対、好きって言わせてやるんだから。
ちゃんと、恋人になるんだから!!
来るべき未来を見つめて、よしっと気合を新たにしていると。
ちゅ。
頬に柔らかい感触。
- 215 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:09
-
「ひ、ひとみちゃん!?」
頬に手をあて立ち尽くす私をよそに、ひとみちゃんは何も無かった
ように歩いて行ってしまう。
「今のなによぉ」
「なんでもねーよ」
「うそっ」
「うそじゃねーって」
「今、ちゅーしたでしょ」
「さあね」
「したでしょ!!フェイントなんてずるーい!!!」
恋人まではあと一歩…かな?
- 216 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:10
-
『秋の約束』
〜END ?
- 217 名前:『秋の約束』 投稿日:2004/08/28(土) 00:14
- いきなりタイトル入れずに始めてしまい、自分でかなりびびりまちた(笑)
>21様
いつも感想をありがとーです!!
ハワイで思い出を作るいしよし (*´Д`)ポワワ
ここも沢山のいしよしの思い出で埋めていければ…と思ってます〜。
- 218 名前:桜折 投稿日:2004/08/28(土) 00:16
- なんだか、今日の更新はホントだめだめやよ…
( ´・ω・` )ショボーン
- 219 名前:プリン 投稿日:2004/08/28(土) 18:46
- 更新お疲れ様ですっ!ww
もう最高だよぉ(w
いしよしイイヨーw
良すぎて泣きそうです・゚・(ノД`)・゚・。(ぇ
ハワイではどうなんだろーなー。(w
次回の更新も待ってます!!
楽しみだぁ。
- 220 名前:前・21 投稿日:2004/08/29(日) 23:14
- 更新お疲れ様です!
初々しい感じでかわいいお話ですね♪
いろんなバリエーション書けることが、ほんとっ尊敬です〜
あの二人、並んでると似合いすぎてて・もう・・by、ハロモニ。
また、ゆ〜っくり待ってますね〜
- 221 名前:桜折 投稿日:2004/09/01(水) 01:52
-
>プリン様
いつもありがとーれす☆
「泣くなよぉー」(よっすぃー風・笑)
楽しみにして頂けて嬉しいです〜。
これからも頑張ります!!
ハワイ、いしよし満載だったらしいですね〜♪
>21様
いつもありがとーれす☆
気付けばもう221番。
21の頃からご愛顧ありがとーございます〜。
色んなバリエを意識的にやってる訳ですが。
そんな尊敬なんて照れちゃいます(。・・。)ポッ
今回は、アンリアル近未来モノ。
慣れない手のものですが、頑張ってみよーと思います。
- 222 名前:桜折 投稿日:2004/09/01(水) 01:53
-
『楽園』
- 223 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/01(水) 01:54
-
そこは楽園で。
私たちはアダムとイヴだった。
- 224 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/01(水) 01:54
-
西暦3000年を迎える頃。
世の中には様々な変化が起きていた。
それは緩やかな変革を経て成り立ち、形成されたものであったが。
ここにハロープロジェクトという国家事業がある。
それは東京中心部の広大な土地を利用したドーム状の建物の中。
通常とは異なる子供を集めて行われる事業。
いつの頃からか、この都市には通常と異なる子供たちが
生まれるようになった。
小さな身体、幼い容姿に相反する長けた知能、冴えた判断力、
吸収し続ける知能。
そして、不思議な能力。透視やテレポートや。
サイコキネシス。
なによりその子たちは年を取らない。
いや、身体の成長が一時からずっと止まってしまう。
身体の時を止めて、能力をその身に留め、子供たちはその能力を活用する。
政府はそんな子供たちをこのハロープロジェクトに終結させ、
国家の為に活用していた。
今では、この子供たちがこの国を動かしていると言っても過言ではない。
- 225 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/01(水) 01:55
-
陽だまりの中。
木々が覆い茂る広い庭園。
その芝生の上で、私たちは向かい合う。
楽園で微笑み合う、アダムとイヴのように。
「私だけの愛しい梨華」
私は彼女をそう呼んだ。
微笑む彼女はただ美しく。
その大人と子供を併せ持った危うげな少女という名の美しさを
ここに留めておくために、神は彼女に才能を賦与したのではないかと
私は常々思っていた。
- 226 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/01(水) 01:55
-
私は早く大きくなりたかった。
そうすれば、梨華に追いつけると真剣に考えていた。
「待っててね。すぐに追いつくから」
ベッドの上。
睦み事にそう囁くと、梨華は少し悲しげに微笑んだ。
「いいよ、無理しないで」
無理なんてしていないのに。
ただ、彼女と肩を並べて歩きたかった。
彼女の顔に時折浮かぶ不安げな儚い表情を、その曇りの原因から
守ってあげたかった。
その為には、私は早く大きくならなければならなかった。
「このまま、時が止まってしまえばいいのに」
私の言葉を無視して、彼女は言う。
膨れ面の私を無視して。
「ねえ、大人になんてならないで。急いで大人になろうとなんて
しないで。子供のままで…このままで…」
彼女の眉間に寄る皺にくちづける。
私はその切実な願いを、いつも正面から受け止めようとはしなかった。
「こんなことまでしておいて、まだ子供?」
私は彼女を押し倒す。
- 227 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/01(水) 01:56
-
ぱたん、と布団に崩れる彼女は艶やかで。
梨華は明らかに少女から女性への最後の段階にいた。
「子供よ」
梨華は、きっぱりと言う。
「子供…」
その言葉を覆そうと、私は彼女の上に無数のくちづけを降らす。
「子供だわ」
なおも言い募る彼女の言葉に煽られるように、その身体に手を掛ける。
吐息の狭間から途切れ途切れに続く、「子供」の言葉。
それが私を責めたてる。
私が急がなければ、梨華はきっと私を置いて階段を登りきってしまう。
そうしたら、私たちは離れ離れになってしまう。
私は彼女を見失わないためにも、彼女に追いつかなければならない。
ことの終わり。
朦朧とする意識の中で。
耳元に微かに響く、梨華の言葉。
「ひとみ…。あなたを残して、大人になる私を許して…」
その懺悔は、今も私を責め苛む。
彼女は、解かっていたのだ。
- 228 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/01(水) 01:56
-
自身の変化に。
それに伴う私たちの運命に。
何故それに、私は気付けなかったんだろう。
…それは、私が子供だったから。
彼女は、大人になった。
その夜から少しして。
梨華はここから…楽園からいなくなった。
それは、ここの掟。
大人になると、私たちは能力を失う。
いや、能力を失うと、私たちは魔法が解けたように成長を始める。
そうなると私たちはお払い箱だ。
しかし、私がそのことを知るのはもっと後で。
私はずっと、幸福な嘘の中で甘い夢を貪っていた。
- 229 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/02(木) 23:28
-
美貴に会って、私の世界は変わった。
- 230 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/02(木) 23:29
- それを、私に教えてくれたのは美貴だった。
「梨華は知ってたと思うよ」
美貴は言う。
「あの子は知ってたね。うん。あの子はここの中でもトップクラス
だったし…能力も精神的なものだったし…
多分、真希の時には知ってたんじゃないかなぁ」
真希。
最後に見た、彼女の姿を思い出す。
病院棟の一室で。
彼女は、病人用のガウンを着せられて。
ぼんやりと外を見ていた。
それは、あの触れれば切れるナイフのようなあの真希ではなかった。
どこを見るでもなく、ただただ無心に窓の外を見つめていた真希の
例えようもなく儚い背中。
手首に巻いた真新しい包帯が、痛々しかった。
「真希も知っていたんだよ。市井さんのことで、真希はその辺のことを
嗅ぎまわってたから。多分、それで真希の精神に同調した
梨華ちゃんが知っちゃったんじゃないかな」
- 231 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/02(木) 23:30
-
ねえ。
…梨華の声がする。
ねえ、ひとみちゃん。
本当はね、能力なんていらないのよ。
…梨華。
本当に聴きたいと願えば、心の声なんてきっと聴くことが出来る。
だけどね、私は聴こえてしまう。
望もうと、望むまいと。
世界が音をたてて私を飲み込もうと襲ってくる。
誰かの幸福が、誰かの絶望が。
否応なしに襲ってくるの。
私が聴きたいのは。
私が聴きたいと望むのは、ひとみちゃんの声だけなのに。
- 232 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/02(木) 23:32
-
「美貴は行くよ?」
彼女は言った。
「美貴は行く。亜弥の手を、離せないから」
亜弥。
亜弥は、美貴と同じ施設にいたんだ。
私たちは、子供の頃から二人きりだった。
私たちは能力を持っていて、他の子たちは持ってないって知った時から。
世界には美貴たちしかいなかった。
二人で、ハロープロジェクトに来て。
何人もの力を持つ子を見たけれど。
それでも、私たちには私たちしかいなかった。
「でも、亜弥は…」
美貴の言葉は静かに流れるように紡がれる。
私は、ただ黙って聞いていた。
「亜弥は……事故に遭って、眠ってる。眠り続けてる。
そして、段々と眠りの中で成長してる」
ああ、と私は思い当たる。
- 233 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/02(木) 23:33
-
病院棟の奥に、ずっと眠たままの高能力者がいると聞いたことがある。
それは高い能力なので、政府は彼女の目覚めを何年も待っているとか。
「本当は、分かってるんだ。美貴の呼びかけで、亜弥は目覚める。
それが出来ないでいるのは……美貴が彼女の目覚めを拒んでいるから。
目覚めたらきっと彼女は成長し、能力を失う。
でも、もうやめることにしたんだ。
悩まない。亜弥を迎えに行く。二人で逃げる。美貴の能力があるうち
なら難しいことじゃない」
美貴は、扉に手を掛ける。
「来る?」
一瞬、自分への問いかけと分からなかった。
「一緒に来る?」
「いいの?」
「能力を持つ協力者は多いほどいいんだ」
私は、考える。
私は、どうすべきなのだろうか。
ここを出たところで、私は何をするのだろうか。
…梨華。
「行く」
- 234 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/02(木) 23:34
-
私は、答える。
「梨華を探す」
「だから」
美貴がため息をつく。
「いいよ。出てから、自分でやるから。ただ…私は、彼女を探しに行く。
だから、出るよ、一緒に」
- 235 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/04(土) 22:47
- 私はずっと、梨華を待っていた。
日が経つにつれ不安が生まれ、増幅し。
だけどただ黙って待っていた。
待っているのは簡単だから。
頭を空っぽにして、梨華のことだけを考えていればいい。
梨華のことを考えて、ここに立っているだけでいい。
けれど、いくつもの季節が私の上を過ぎていき。
けれど、彼女からの連絡はひとつも届かなかった。
大人になってここを出た者は、好きなことが出来る。
ここでも色々な勉強が出来るから、多くの者は博士号や何らかの資格を
習得している場合が多く。
それを生かして、大学院などに行って研究をする者もあれば、
このハロープロジェクトに職員として戻ってくる者もいるという。
今後の生活は全て保証されているから、別に何もせずにのんびりと
暮らしてもいい。
全ては思いのまま。
みんな、ここを出て自由に幸せに暮らすことを夢見ていた。
ここは楽園だったけど……私たちに自由はなかった。
外は自由の象徴。
私たちの憧憬。
- 236 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/04(土) 22:48
-
いつか、私は梨華に聞いたことがある。
「梨華は外に出たら、何をしたい?」
梨華は、微笑みを称え
「遠くへ行きたい」
と答えた。
「ずぅっと遠いとこ。ビルとかなくて。ここみたいに今でも
自然が溢れてるとこ」
それは、今では本当に限られた地域にしか残っていない
『田舎』という奴?
「そう。おうちが歩いて何十分とかの距離にぽつんとしかなくてね。
古めかしくて、雨漏りとかしちゃうの」
今時、そんなのあるんだろーか。
「そこで、静かに暮らしたい」
牛とか飼って?
「うん。畑を作って」
……それじゃあ、梨華ちゃん一人じゃダメだね。力ないもん。
「そんなことないよ。私だって、畑くらい耕せるもん」
そうじゃなくって。
そのさ……力持ちが一人、ここにいるんですけど。
ふふ、と笑う梨華。
- 237 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/04(土) 22:49
-
仲間に入れてくれる?
「仕方ないなあ」
そう言って、梨華は私にキスをくれた。
あれは、約束じゃなかったの?
ずっと一緒にいてくれるって。
約束のくちづけじゃなかったの?
- 238 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/04(土) 22:49
-
真希は、ずっと市井さんを待っていた。
来る日も、来る日も、窓の外を見つめていた。
私が声を掛けると、ははって笑って。
「大丈夫だよ」
って。
「あたしは強いし、市井ちゃんだって約束破るよーな奴じゃないし」
って。
だけど、段々とその笑顔は曇っていき。
そのうち窓の外を見なくなった。
それから私や梨華に隠れて、こそこそと何かをやっていて。
そして。
ある日いきなり。
真希は病院棟に運び込まれた。
どこで何があったかなんてわからない。
しかし彼女は酷い怪我をしていて。
なんとか一命は取り留めたものの
けれど運び込まれたその日から、自殺未遂を繰り返した。
- 239 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/04(土) 22:50
-
その事件以降、彼女は一切私たちと接触を持とうとはせず。
そのまま病院棟のベッドの上で急激に成長し。
ここから姿を消した。
さよならも、言えなかった。
彼女もまた、二度とここへは来なかった。
- 240 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/04(土) 22:50
-
私たちは外部の人間とも面会を許されている。
いくらか制限は掛かるものの、家族や友人や会いたい人には
いつでも会える。
その人たちが、ここに面会に来てさえくれれば。
勿論、そんなのは最初のうちだが。
家族も友人も。
私たちを置いていってしまう。
何十年もこの姿のままの私たちは、私たちしかいなかった。
身を寄せ合って。
孤独を忍ぶしかなかった。
けれど。
梨華は、私に会いには来なかった。
それは市井さんも同じ。
市井さんと真希は、深く愛し合っていた。
市井さんはここを出る時、悲しむ真希を抱きしめて言った。
「大丈夫、会いに来る。毎日、会いに来る」
それは本当に真摯な瞳で発せられ。
それを傍で聞いていた私や梨華は
それが翌日から真希がここを出て行くその日まで一日たりとも
守られることがないなどとは、夢にも思わなかった。
- 241 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/04(土) 22:51
-
私たちはそれに耐える真希を見て。
それでも待ち続けるその姿を見て。
身を寄せ合った。
離れないように。
ぴったりとくっついて。
言葉はなかったけれど。
でも、それは神聖な誓いのように。
私たちは抱きあった。
- 242 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/04(土) 22:52
-
真希がいなくなった頃から、梨華の様子がおかしくなったのは
事実だった。
時々ひどく塞ぎこみ。
そして何より。
約束を嫌った。
私が唇を寄せて
「ずっと一緒だよ」
とささやくと、曖昧に微笑んで頷いた。
その仕草に不満を言うと、困ったように微笑み。
尚も追及すると、その目に涙を浮かばせた。
「ごめんね、ひとみちゃん、ごめんね…」
だから、私はそれ以上何も言えなくなって。
ただ彼女を抱き寄せた。
その曇りを拭うために、私は精一杯手を伸ばした。
早く大人になろうと。
けれど梨華がそれを制した。
梨華は、私を置いて去って行った。
私は彼女のその真意を知らぬまま、いくつもの去っては巡り来る
季節を過ごした。
- 243 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/04(土) 22:53
-
それが、彼女の愛だったのだとしたら。
私は、彼女の愛を恨む。
どうして。
どうして、彼女は美貴のように私の手を引き逃げることを考えては
くれなかったのだろうか、と。
彼女のその弱さを、優しさを恨む。
きっと、彼女は悩んで、考えて。
いつの日か私が全てを忘れて。
外で平穏な生活を送ることを望んでくれたのだろう。
その可能性に、賭けたのだろう。
だけど、それは間違いだ。
全てを知ってしまった今。
私は、全てを忘れることなんて出来ない。
それなら、私は彼女の後を追うことを望む。
梨華。
あなたはもう、ここにはいないのだろうか。
- 244 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/07(火) 22:55
- ここを出たら幸せになれるなんて、嘘っぱちだよ。
なんてことなく言ってのけたのは、美貴。
真希が去り、梨華も去って、一匹狼だった私はいつの間にか
同じ一匹狼の美貴が近くにいることが多くなっていた。
その頃には、私は少し人生を悲観して。
仕事をさぼって屋上にのぼって
透明な存在感のない、けれど確かに存在するドーム越しの
晴れ渡る青空を見上げたりして。
でも、どうしようもなく梨華を待っていた。
美貴もよく私の隣に来て。
同じように何かを考える表情をしていた。
ある時、美貴が言った。
ここを出たら幸せになれるなんて、嘘っぱちだよ。
「ふうん」
私は、何の気なしに答えてみる。
目を閉じて、微笑む梨華を思い描いていたところだったから。
だけどそれはどう頑張っても悲しげな笑みしか描けず。
私は苦心していた。
ねえ、ここ出たらどうなるか知ってる?
美貴は、何か話していたいのか尚も言い募る。
- 245 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/07(火) 22:56
-
「んー…」
夏に、白いワンピースを着ていた梨華を思う。
あれから、一体いくつの夏が過ぎていっただろうか。
嘘だね。
美貴が言う。
ひとみは解かってない。
白いワンピースの梨華は、やはり悲しげに微笑んで。
私に言う。
『ひとみちゃんは、解かってないんだよ』
「何がだよ」
- 246 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/07(火) 22:57
-
私は、目を開けて。
美貴を見る。
「何が解かってないんだよ」
「梨華は、もう、帰って来ないよ」
じっと、私を見つめる美貴の強い視線。
「親切で言うんだ。しっかり聞きなよ」
屋上に、晩夏の涼やかな風が吹き。
「梨華はきっと、もう、いない」
私の髪と、心を揺らした。
- 247 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/07(火) 22:58
-
それから美貴から聞いた話は、断片的にしか理解出来なかったけど。
私を動揺させるには十分だった。
思い当たる節がありすぎて。
私はその足でここの職員たちに問い質しに行きたかったけど。
美貴に止められた。
全てがむなしくて。
いっそのこと力でこの施設ごとふっとばしてやろーかと思ったけど
そこまでの力なんて私にはなくて。
せめて。
せめて、私の半径数mを全て壊して心中してやろうかと思ったら。
「それ、真希の二番煎じだから」
と美貴に突っ込まれた。
私はそれでやっと、真希の事件の全てを理解した。
- 248 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/07(火) 22:59
-
私たちは、知りすぎてしまっていた。
国家機密を。
その漏洩を国家は恐れ。
大人になって、能力を失った無抵抗な私たちの記憶を消去する。
それだけならまだいい。
優れた能力を持っていた人間は、能力を失ってもその余波で
無意識にも彼女たちへの危害を防御することがある。
記憶の消去を受け付けない場合がある。
その場合。
国家は彼女たちを闇に葬る。
「きっと、市井さんも真希も…」
美貴はそこで言葉を濁した。
「梨華は、それを知っていた。自分が成長したらどうなるか」
梨華。
約束を嫌った。
曇った表情の、梨華。
- 249 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/07(火) 23:00
-
「美貴とかひとみはさ、もしかしたら大丈夫かもしれない」
美貴は言う。
「ほら、あの人たちはもろ精神的な能力だったじゃん。
うちらは、物理的じゃん?もしかしたら消去されるだけで済むかもね」
でも、と美貴は付け足す。
「でも、耐えられない」
- 250 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/07(火) 23:00
-
それから。
美貴は言った。
「美貴は行くよ?」
強い瞳で。
「美貴は行く。亜弥の手を、離せないから」
- 251 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/11(土) 17:38
-
私は美貴の差し出す手を取った。
それしか、方法がなかったから。
梨華。
なんでこんなに静かなんだろう。
私の世界から、音が消えていく。
美貴が職員たちに掛ける衝撃波や。
私が出した炎の塊が病院棟のドアをぶち抜く様や。
その全てが、音もなくスローモーションに流れていく。
梨華。
私は、きっと受け入れられない。
あなたがもう、この世にいないなんて。
それを知らずに、私がのうのうと寄せては返す季節の中で暮らして
いただなんて。
梨華。
世界は美しい。
輝く陽。
流れる水。
揺れる木の葉。
だけど、そこにあなたがいない。
私の愛した、愛しい私だけの梨華は、今、どこに?
- 252 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/11(土) 17:38
-
ふと、呼ばれた気がして振り向くと。
そこは庭園に続く小道。
向こうには梨華と見つめあい微笑みあったあの庭園がある。
古いリンゴの木の下で。
私たちは無数の時間を過ごした。
言葉なく。
微笑みあうだけ。
それだけで、全てを分かち合った。
その残像が私の中で浮かんでは消えていく。
梨華。
私たちはここで出会い、恋に落ちた。
ここは私たちの楽園だった。
もしかしたらあれは、全てこの中でのみ起こりうる幻のような
ものだったのかもしれないけれど。
ここを離れてしまえば、もう二度と取り戻すことは叶わなくなるかも
しれないけれど。
でも。
- 253 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/11(土) 17:39
-
私は行くよ?
君の元へ。
必ず、見つけ出す。
どんなに変わり果てた姿でも。
何もかもを忘れてしまっていたとしても。
大丈夫。
私が、覚えてる。
私が、守ってあげる。
だから。
ねえ。
生きて。
この世界のどこかで、生きていて。
そうすれば、きっと。
きっと私が見つけ出すから。
「行くよ」
美貴が、最後のゲートに手を掛ける。
足元に累々と横たわる職員たち。
それでも、私は行く。
- 254 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/11(土) 17:39
-
私は、リンゴの実を食べるよ?
それが例え禁忌だとしても。
亜弥の手を引き外へ踏み出す美貴の後を追い、私はゲートをくぐる。
走る。
闇のトンネルを抜け、君へと続く青い空に出会う。
梨華。
世界は美しい。
私だけの愛しい梨華。
今、探しに行くよ。
だから、きっと。
きっと、生きていて。
- 255 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/11(土) 17:40
-
「生きて」
- 256 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/11(土) 17:40
-
梨華の声が聞こえた気がした。
楽園追放。
けれど、楽園を出て、アダムとイヴは今、自由を手に入れる……。
- 257 名前:『楽園』 投稿日:2004/09/11(土) 17:43
-
〜END
- 258 名前:桜折 投稿日:2004/09/11(土) 17:44
- 長かった…(笑)
- 259 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/11(土) 20:44
- 完結お疲れ様です。
ファンタジーな世界でのいしよし良かったです。不思議な読後感を得ました。
次回も楽しみにしています。
- 260 名前:桜折 投稿日:2004/09/15(水) 02:13
- >259様
ありがとーございます。
ファンタジーな割に結構固い文章だったかな?
伝わりづらい部分が多かったかな?
とか色々思う所があるお話になりましたが
そう言って頂けると嬉しいです。
今回は、ほのぼので。
大人梨華ちゃん・へたれよっすぃー。
大好きです。
- 261 名前:桜折 投稿日:2004/09/15(水) 02:14
-
『ある学園の昼下がり』
- 262 名前:『ある学園の昼下がり』 投稿日:2004/09/15(水) 02:15
-
ここは、モーニング学園高等部。
時は昼休みの真っ最中。
2年A組の教室には、ちょっとした人だかりが出来ています。
このクラスの生徒、吉澤ひとみを囲む一群です。
「よっすぃー、このチョコ美味しいんやで、食べる?」
中等部の加護が右手を引っ張れば
「吉澤さん、それよりこの雑誌見て下さい!!これ、吉澤さんの好きなバンド
のインタビューですよ」
と同じく中等部の小川が左手を引っ張る。
はたまたその背後からは
「なー、体育館でドッヂボールしよーぜ!!」
と制服の衿を引っ張る三年の矢口先輩に
「ねーねー、美貴と放課後ケーキ食べに行こうよ〜」
と肩を揺らすC組の藤本。
その一群には高等部はおろか中等部、はたまた初等部の顔まであって、
みんな吉澤の気を引こうとしているのです。
そんな人々にあちこち引っ張られつつも、吉澤は満面の笑みで一つ一つ
に応えています。
「よしこも良くやるねぇ」
そんな一群からちょっと離れた所で。
クラスメイトの後藤真希はそれを半ば呆れた目で見ています。
そして
- 263 名前:『ある学園の昼下がり』 投稿日:2004/09/15(水) 02:16
-
「梨華ちゃん、最近怒んないね?前はしょっちゅう『よっすぃの馬鹿!!』
って叫んで教室飛び出してってたのに」
傍らに座って雑誌を熟読しているB組の石川梨華に振ると
「んー…」
石川は顔を上げ吉澤とその他大勢を眺めました。
彼女は、何を隠そう吉澤の恋人なのです。
「まあねぇ。ずぅっとこんなだと慣れちゃうってゆーか」
石川の言葉に、後藤は感心しました。
(そっかぁ、ずっとこんなだと慣れちゃうもんなんだ〜。後藤だったら
慣れられないと思うけどなぁ)
「それに、その分私がしてもチャラってことだし〜」
と、石川は不穏な言葉を続けると、いきなり後藤の方を向いてその首に腕を
巻きつけました。
「り、り、梨華ちゃん!?」
慌てたのは後藤です。
普段はクールというか、何事にも動じないタイプの後藤ですが、友人の
この突然な行動に声が裏返ってしまいます。
「ごっつぁんは、梨華のこと嫌い?」
甘えた声で言う石川。
腕にぎゅっと力を込めるので、二人の顔が接近し身体が密着します。
- 264 名前:『ある学園の昼下がり』 投稿日:2004/09/15(水) 02:16
-
「そ、そんなことないよっ。好きだよっ!?」
(梨華ちゃんっ。む、胸が当たってますっ)
「ほんと?梨華、嬉しい」
上目使いに後藤を見て、微笑む石川。
(う…石川さん…その表情は反則です…)
思わず石川の背に手が伸びそうになったその時。
しかし、後藤が刺すような視線に気づき顔を上げると
そこには、にぎやかな人だかりの中で一人冷たい目をした吉澤の姿。
(や、やばい。後藤、親友を裏切るとこだったよ!!)
後藤は慌てて石川の背に回しかけた手をその肩に置き、
やんわりと離れさせます。
「梨華ちゃん…よしこがこっち見てるよ……」
「えー」
不満そうに眉根を顰めて後藤を見ると、石川が振り返り。
吉澤は、じっと冷たい視線を石川に向けて。
沈黙。
それが暫く続いた後…。
「頂きっ」
しかし、それは加護の突然の行動で壊されました。
「あーっ」
「うわーっ」
「「「きゃーーー」」」
ギャラリーから一斉に上がる黄色い悲鳴。
- 265 名前:『ある学園の昼下がり』 投稿日:2004/09/15(水) 02:18
-
「へへん。油断してるよっすぃーが悪いんやっ」
余所見をしていた吉澤の口に、掛かるか掛からないかのきわどい線で
加護がいきなりキスしたのです。
「いいなー」
「私も私も」
「「「私もーーー!!」」」
突然のことにびっくりして怒りもしない吉澤に、ギャラリーたちが
詰め寄ります。
しかし、
「ごっつぁん、好きよ」
それを見た石川はくるっと後藤の方を振り返るとそう言い、加護よろしく
後藤の唇にちゅっと軽いキスをしたのです。
「んーっ」
「ああああーーーー」
後藤がびっくりして口を押さえて叫んだのと、詰め寄るギャラリーをなぎ倒し
吉澤が立ち上がって叫んだのはほぼ同時でした。
「…なによぅ」
教室中に響いた吉澤の悲鳴に、しかし石川は動じずゆっくりと振り返って
応えます。
「な、なにって…なにって……」
一群をかき分け、吉澤はのっしのっしと後藤たちの方向へ進んで来ます。
一群の人々も、他のクラスメイトたちも、好奇の目で二人を見つめます。
- 266 名前:『ある学園の昼下がり』 投稿日:2004/09/15(水) 02:19
-
「何したんだよ、今っ」
吉澤は二人の前まで来ると、なおも後藤の首に絡まれた石川の腕を引き離しました。
「あいぼんの真似」
顔を赤らめて怒鳴る吉澤とは対照的に、石川は笑みを浮かべて何もなかったように
応えます。
「真似って…」
絶望したようにつぶやく、吉澤。
「よ、よしこ、あの…」
後藤が吉澤の腕に触れようとすると
「触らないでっ」
と叫ぶ吉澤に
「ちょっと、ごっつぁんに当たらないでよっ」
と返す石川。
「なんだよ、なんなんだよ」
「何よぅ」
一触即発の雰囲気。
しかし、次の瞬間、その場の誰も予想のつかないことが起きました。
「…よっすぃー?」
「…」
吉澤の目に光る、涙。
- 267 名前:『ある学園の昼下がり』 投稿日:2004/09/15(水) 02:20
-
「ちょっと、何泣いてるの?」
慌てる石川。
「…ばか」
「はい?」
「梨華ちゃんのバカーーーー」
そう言うと、吉澤は教室から走り去りました。
残された人々は目が点です。
クールでかっけーが合言葉の、温厚な吉澤が泣きながらわめいて
走り去ったのです。
信じられない光景です。
「ちょ、ちょっと梨華ちゃんっ」
その場で一番最初に立ち直ったと思しき後藤が、隣りで同じように
呆けている石川の肩を揺らします。
「え……ええ?」
「ちょっとっ追いかけなよっ」
「う、うん…」
「早くっ」
「は、はーい」
まだ何が起こったのか解からない、といった感じの石川をせき立てて
後藤は石川に後を追わせました。
- 268 名前:『ある学園の昼下がり』 投稿日:2004/09/15(水) 02:21
-
「い、今の…何?」
「吉澤先輩が……ヤキモチ…?」
「信じられないっ」
教室中からはやっと立ち直った生徒たちのざわめきが響きます。
しかし、始業のチャイムが鳴る頃に出た彼女たちの結論は
『吉澤ひとみって案外、可愛いかも』
後藤は、まだまだ石川の苦悩とその暴走による吉澤の苦悩の日々は続くな……
と窓の外を眺めながらぼんやりと思いました。
- 269 名前:『ある学園の昼下がり』 投稿日:2004/09/15(水) 02:22
-
ちなみに、5、6時間目の授業も終わりHRの頃になってやっと
石川に手を引かれて恥ずかしそうに吉澤が教室に戻ってきて
二人して学年主任の中澤先生にこっぴどく叱られたことは言うに及ばず。
そして、後藤がその日の日記に『よしこは案外かわいい。梨華ちゃんの
唇は柔らかい』と今日知った友人の新たな一面を書き留めたことは
後藤だけの秘密なのでした。
- 270 名前:『ある学園の昼下がり』 投稿日:2004/09/15(水) 02:22
-
〜 END
- 271 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/15(水) 07:39
- 後藤さんの日記笑えました。
いしよしの二人も可愛いですね。
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/16(木) 17:25
- 5,6時間目になにしてたんだー!!
と叫んだのは自分だけではないはずw
- 273 名前:プリン 投稿日:2004/09/19(日) 17:30
- 更新お疲れ様ですw
よっちゃんかわえええええええええー!w
ちょーかわええ。
>>272さんと同じですよ(w
なにしてたんだあああー!!!(w
- 274 名前:桜折 投稿日:2004/09/21(火) 00:15
- >271様
後藤さん、なんでも日記につけるなよ、と(笑)
>272様
まあ、イロイロとね。そう、イロイロとあった訳ですよ。ええ。
>プリン様
イロイロの部分はご想像にお任せしますってことで、
プリンさんの好きなよーに脳内設定しちゃってくらさい(笑)
秋の次は冬、ということで。
- 275 名前:桜折 投稿日:2004/09/21(火) 00:16
-
『冬の出来事』
- 276 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:16
-
「ね、ひとみちゃん」
「んー」
「ねーってば」
「んー」
「ねー、こっち向いて」
「……ムーミンのさ、そーゆー歌あったよね」
「もー!!」
- 277 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:17
-
私とひとみちゃんは幼馴染。
おうちも隣同士で。
私のお部屋の窓を開けるとひとみちゃんのお部屋の窓があって。
余裕で飛び移れる距離。
よくあるドラマやアニメの設定みたい。
そして私は、そのよくあるドラマやアニメの設定通り
大きくなったらひとみちゃんと恋人同士になって
いつか結婚するものだと、勝手に決めていた。
子供の頃、親に女の子同士なんだからひとみちゃんとは
結婚できないって言われたショックで家出したこともあったけど
その時、探しに来てくれたひとみちゃんの言った
「梨華ちゃんが女の子のお嫁さんにはなれないって言うんなら
あたしが梨華ちゃんのお嫁さんになってあげるよ」
って言葉は私の宝物。
だってそれって、問題ナッシング、愛あらば It's all right!!
ってことでしょ?
二人の愛は国境を越えてってことでしょ??
- 278 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:18
-
まあ、私の部屋のベッドにだらーんと足を開いて座り
終業式の帰りにコンビニで買った少年マンガ誌を読みふけってる
ひとみちゃんの姿は、あんまり『お嫁さんにしたい』って
カンジじゃないけど。
セーラー服なんだから、足を広げないで座ってよ。
大体、私の部屋に来たっていうのに
途端にマンガなんか開いて読みふけっちゃって。
全く、ムードもなにもあったもんじゃないんだから。
私がココアを二人分淹れて部屋に入ってきてからは
ずぅっと「ねー」「んー」「ねー」「んー」って
会話が繰り返されてる。
もー。
今日こそ、ひとみちゃんともっと親密な関係になりたいのに!!
「ひとみちゃんってば」
「はいはい、もうちょっと待ってね」
顔をマンガから上げずに、ぽんぽん、と手だけ伸ばして
器用に私の頭を撫でて言うひとみちゃん。
もう、そんなの全然嬉しくないんだから。
怒った私はひとみちゃんにタックルを掛ける。
- 279 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:18
-
「うぉっ」
勢いづいて、ベッドに倒れるひとみちゃん。
私はその上に乗っかって、ひとみちゃんの興味を独占する
憎きマンガを掴み取る。
「ちょぉっ」
慌てて起き上がろうとするひとみちゃん。
なによ、そんなにマンガが大事なの?
マンガをそのまま放り投げようとした腕をひとみちゃんの手が
掴んで。
そのままもう片方の手が私のセーラー服の腰の辺りを掴んで。
ぐぃっと力任せにひっくり返されて。
あっという間に形勢逆転。
気付くと私がベッドに横たわり、よっすぃーが私の上に乗っかって
マンガを掴む私の手を握ってた。
はぁはぁ、と荒い息をして。
昼下がりの光線を浴びながら私を見つめるよっすぃーはひたすら綺麗で。
なんか。
なんか。
もしかして、これってイイ雰囲気って奴??
- 280 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:19
-
よっすぃーは、どんなにせがんでも「好き」とか言ってくれない。
でも、だからといって私のことを好きじゃないって風でもなくて。
むしろ、私がちょっと気を抜いてる時とか
落ち込んでる時とか
ぎゅって抱きしめてくれたり。
ちゅって頬や髪にキスしてくれたり。
多分、結構好かれてるんだと思う。
よっすぃーはすっごく恥ずかしがり屋さんだってことは解かってるから。
きっと、そーゆーこと出来ないんだろーなって。
ちゃんと理解してる。
だけどさ。
私だってお年頃な訳で。
やっぱりそーゆーことに興味あるし。
ってゆーか、その、やっぱり確かめたいんだもん。
ちゃんと。
よっすぃーが私のことを好きだってこと。
あの約束を、忘れてないってこと。
- 281 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:19
-
だから、私は荒く息をするよっすぃーの肩に手をまわし
上体を起こしてよっすぃーに近づく。
「り、梨華ちゃ……」
よっすぃーは、バカみたいに声を震わせて。
バカみたいに体を震わせて。
でも、バカみたいにじっとして。
私たちの距離がどんどん近づいていく。
顔がどんどん近づいていって。
よっすぃーが目を閉じる。
ねえ、これって、いいってことだよね?
したいってことだよね?
私もそっと目を閉じて。
更によっすぃーに近づこうとしたその時。
- 282 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:20
-
がらがらがっしゃーん。
- 283 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:21
-
盛大な音が階下からして。
私とよっすぃーは思わず抱き合った。
それから、おそるおそる部屋を出て下へ行き。
騒動に巻き込まれて。
あえなくファースト・キスのチャンスを逃すことになる。
こうして、私たちの中3の冬休みは始まった。
- 284 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:21
-
「梨華ちゃん…」
開け放たれた窓越しに、よっすぃーの心配そうな顔。
「ねえ、そっち行こうか?」
聞いてくるよっすぃーに、私は無言で首を振る。
だって声が出ないんだもん。
「……もう、泣きやみなよ」
よっすぃーのそんな言葉にちょっとカチンときて顔を上げる。
そう、私は泣いていた。
「よ、よっすぃーのバガぁ」
やっと出た声は掠れてる。
もうきっと1時間くらい泣いてるから。
その間ずっと私を見守ってくれてるよっすぃーには感謝するけど。
でもその言い方って酷くない?
「よっすぃーは、悲しくないの?私がどっか行っちゃっても!!」
「そりゃ、悲しいけど」
「じゃあ、泣きなさいよぉ」
手近にあったモノを掴んで投げると、それは昼間から私の部屋に
放置されたままのひとみちゃんのマンガ。
- 285 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:22
-
頭にぶつかりそうになって
「うぉっ」
声を上げて逃げたひとみちゃんだけど、その後嬉しそうに拾ったりして。
なによ。
そんなにマンガが好きならマンガのお嫁さんになればいいでしょ!?
「うわーーーん」
私はまた声を上げて泣く。
だって。
「ここを出てくなんて嫌!ひとみちゃんと離れ離れになるなんて!!」
昼間の騒動は私の両親のケンカだった。
理由はなんだか知らないけど、お母さんは出て行くの一点張り。
明日の朝には実家に帰るらしい。
私を連れて行く気らしい。
「んなこと言ったって……」
そんなことを言って、頭を掻くひとみちゃん。
なによなによ。
そりゃ、お母さんの実家ってそんな飛行機乗るような遠くじゃなくて
せいぜい電車で2時間程度だけど。
- 286 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:23
-
でも、ずっと隣りにいたひとみちゃんが遠くなっちゃうなんて。
私には考えられない。
「うちらはさ、未成年の子供だしさ。どうしようもないじゃん」
そう言って、またため息とかついちゃって。
ああ。
なんだか、泣くのも疲れてきちゃった。
てゆーか悲しみよりも、ふつふつと沸いてきた怒りの方が強く
なってきて。
「…もう、いい」
「へ?」
「いいもん。私が遠くへ行っちゃっても、ひとみちゃんはいいんだもんね」
「そういうことじゃなくって」
「いいよ。もう、いいっ」
私は勢いよく窓を閉じると、ピンクのカーテンを閉めた。
「おーい、梨華ちゃーん。梨華ってば!!」
ひとみちゃんの声が聞こえないように、大きな音で音楽を掛けて。
私は、しばらく真剣に荷造りをした。
- 287 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:24
-
2時間くらいして。
携帯が鳴った。
ひとみちゃんからだ。
無視しようかとも思ったけど、荷造りもあらかた終わったし。
怒りもちょっと収まっていたので出ることにした。
「梨華ちゃん?」
ひとみちゃんの声。
「……お怒り、収まった?」
なんだか、また泣けてきた。
優しい、ひとみちゃんの声。
毎日聞いていたこの声が、明日から聞けなくなるのかと思うと。
「ねぇ、窓、開けてよ」
私がカーテンの端からちょこっと手を出して窓を開けて
また手を引っ込めてしまうと
「カーテンも、開けて」
とひとみちゃんが笑い混じりに言う。
「それから、音楽も止めて。てゆーか、そのCD、私のだよね。
返してよ〜」
その緊張感のないいつも通りの言葉に、私もなんだか笑いを誘われる。
- 288 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:28
-
カーテンを開くと、ひとみちゃんは携帯を閉じた。
身を乗り出すので、その手にCDを乗せてやる。
ああ、ってひとみちゃんはそれを部屋に投げ入れて。
そのまま、窓のへりに座った私の髪に手を伸ばす。
「バカだね、梨華ちゃんは」
なんだか、前にも聞いたことのあるような台詞。
「ほんと、おバカさんなのは変わらないね。
体とか、すっげ女っぽくなったのに」
バカぁ…って言おうとして、また目から涙がこぼれて。
ひとみちゃんの手がそれを拭う。
今日の私の感情は、笑ったり泣いたり忙しい。
自分でそんなことを思いながら、ひとみちゃんの手の温もりに
また一粒、涙をこぼす。
「ほんと、梨華ちゃんはおバカさんなままだね」
「そんな…おバカさんのお嫁さんに…なるって…言ったのは、一体誰よぉ」
ひとみちゃんを睨んで涙につっかえながら言うと、ふふって笑って。
手を頬から私の後頭部に移動して。
ちょっとだけ、ぎゅって引き寄せて。
自分も身を乗り出して。
キスをした。
- 289 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:29
-
びっくりした私は、よくあるマンガとかみたいに目を閉じ損ねて。
ちゅって触れて去っていくひとみちゃんの唇を見つめてた。
「電話、するし。毎日」
今、なにしたの?
「毎日は無理だけど、会いに行くし」
ねえ、今、もしかしてキスしたの?
「だから、そんなに悲しむなってゆーか」
だって、ねえ、私もひとみちゃんもこれって
ファースト・キスって奴だよね?
「きっと、大丈夫だから、さ」
いつかのように、顔を赤くして照れるひとみちゃん。
だけど、ちょっと待って。
「ひ、ひ、ひとみちゃん」
「ん?」
「ずるいっ」
「……はい?」
「いつもいつも、ひとみちゃんはずるい」
「あにがだよ」
「いつもフェイントは駄目って言ってるでしょ?
ひとみちゃんはいつでもなんでも唐突すぎるんだよ!!」
- 290 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:30
-
赤い顔のひとみちゃんは、何が?って感じで眉をひそめてる。
もう。
ひとみちゃんだって乙女の癖に、なんでこの微妙な乙女心わかんないの!?
「ファーストキスだったのに!!なんでいきなりすんの!?
もっと、あぁ、私、キスするんだぁ…って雰囲気とか。
初めてキスしちゃったぁ…って余韻とか。
そーゆーものを楽しみたかったのに!!」
ああん?って感じで、ひとみちゃんは面倒くさそーな顔しちゃってる。
なによなによ。
なんでわかんないのよ。
「もう、ひとみちゃんのバカぁ」
そう言って、私はまた別の意味で涙がこぼれる。
はぁ、ってまたひとみちゃんのため息。
「つまり、雰囲気がよくないって言うの?」
「そーよっ」
もっと、こう、放課後の学校とか。
公園の片隅とか。
「あ」
ひとみちゃんが間抜けな声を上げるので、顔を上げると。
- 291 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:32
-
私たちの間に、ちらほらと舞うモノが。
「あ、雪!!」
思わず、声を出しちゃう。
だってこれって今年の初雪だよー。
俯いて怒ってたのを忘れて、身を乗り出して雪に触れようと手を伸ばす。
「ねえ」
気が付くと、ひとみちゃんも身を乗り出してて。
顔が近くにある。
今更ながら、ちょっと気恥ずかしくなる。
怒りが先行しちゃったけど。
私、ひとみちゃんとついにキスしたんだ…。
「二人が育った隣り合った部屋の窓越し。離れ離れになる前夜。
初雪の中。これって、結構ロマンチックだと、あたしは思うんですが」
雪に触れようと広げた手を掴まれて。
ぎゅっと握られる。
「……そう、だね」
そう言われると、そんな気がして。
フェイントでされたことすら、目を閉じ損ねたことすら、
なんだか物語の中の出来事みたいに綺麗に思えて。
- 292 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:33
-
目を逸らす。
なんだか、恥ずかしい。
「梨華」
そう呼ばれて。
「もっかい、してもいい?」
そう聞かれて。
私は、赤くなって。
目を閉じることしか出来なかった。
バカみたいに、震えながら。
- 293 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:34
-
翌日になってもお母さんの怒りは収まらず。
結局私は荷物を持って、お母さんの実家…おじいちゃんちに無理矢理
連れて行かれた。
ひとみちゃんは、ちょっと顔を赤くして
私を直視しないで手を振って見送ってくれた。
私はちょっとだけまた泣いたけど。
昨日のひとみちゃんの「電話する。会いに行く」って言葉と
2回のキスを胸にタクシーに乗り込んだ。
おじいちゃんちではおじいちゃんもおばあちゃんもおじさん夫婦も
私たちを歓迎してくれて。
何も困ることもなくて。
こうして、私はこれからはここで暮らして行くのかなー…
って思いながら、他愛ない内容のメールをひとみちゃんに送信した。
- 294 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:34
-
だけど。
- 295 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:35
-
1週間しないうちにお母さんはけろっとして家に帰ると言い出した。
「はぁ!?」
私の言葉も聞こうとせず、お母さんは
「あら、梨華はまだここにいたいの?
とにかくお母さんは帰るわよ。アンタも冬休みが終わるまでには
帰って来なさいね」
なんて言って帰ってしまった。
なによ。
なによ。
お母さんのバカぁ。
私の涙を返せーーーーーー!!
- 296 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:37
-
ちなみに、意地でも家に帰らないと言って
おじいちゃんちにずっと居座った私は、
冬休み最終日、呆れ顔のひとみちゃんに連れ戻された。
だって。
おじいちゃんちにいる間のひとみちゃんはすっごく優しくて。
メールもそっこー返信くれて。
毎日電話してくれて。
2週間の間で3回も会いに来てくれて。
帰り際には……その、優しくキスしてくれたりもして。
幸せだったんだもん。
離れてる方が………。
だから帰らない、って言ったら、ひとみちゃんに
「なんでそんなにバカな訳っ!?」
と怒鳴られて勝手に荷造りされて、引きずられるようにして
おじいちゃんちから出されちゃった。
こうして、私たちの特別な冬は過ぎて行ったのでした。
あーあ。
- 297 名前:『冬の出来事』 投稿日:2004/09/21(火) 00:37
-
〜 END ?
- 298 名前:桜折 投稿日:2004/09/21(火) 00:41
-
このカップルはクリスマス・年末年始の行事は無視ですか?
とか。
終業式に雪降るか?
とかは、まあ、突っ込んでくれるなってことで。はい。
- 299 名前:272 投稿日:2004/09/21(火) 01:47
- いえいえそんな、つっこむだなんて。こんな素敵なお話に。
ただあえてつっこまさせていただくとするならば、
続 き は あ る ん で す よ ね ?
くらいですかね。…失礼しました。
いしよし万歳。作者さん万歳。
- 300 名前:桜折 投稿日:2004/09/24(金) 00:38
-
すっごい誤爆をしてますね、自分…。
マジで恥ずかしいです。
実は、「冬」は続編を書きながら書き直しをしたりしていまして
その関係で加筆した部分の呼称がひとみちゃん→よっすぃー……。
読みづらくて本当にすみません。
ということで、よろしければ近日公開予定の続編を読んで
作者の混乱の理由を酌んでいただければと…って
すみません。ただの言い訳です。はい。
本当に以後推敲をきちんとしたいと思います。ええ。
大変失礼しました。
>272様
とゆーことで、続きはあります。多分(え)
頑張ります。
今回は悲恋です。
- 301 名前:桜折 投稿日:2004/09/24(金) 00:39
-
『卒業』
- 302 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:39
-
二人で並んで、ベッドに横たわった。
安っぽいそのベッドはスプリングが全然利いてなくて。
私たちは寝心地の悪さにしばし身じろぎをして。
そして、どちらともなく微笑み合う。
抱き合って。
愛し合って。
そして、梨華ちゃんがおもむろにバックから出したカプセルを
分け合いながら口にする。
くすくす笑って、口に含むと。
私は同じようにリュックから紅茶のペットボトルを出して
それを一気に飲み下し。
また口に含んで、梨華ちゃんの口に流し込む。
んん…っ
梨華ちゃんは甘いうめき声を上げて、それを飲み込むと
お茶で薬飲んじゃいけないんだよ。よっすぃー知らないの?
と無邪気に言う。
そんなの、もう、かんけーないじゃん。
私の言葉に、梨華ちゃんは一瞬きょとん、として。
そして、あぁ、そっかぁ。って笑う。
そーだよ。これから、私たち、死ぬんだから。
そーだよね。死ぬんだからいけないもなにもないよね。
- 303 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:40
-
そして、私たちはそっとお互いの身体を引き寄せ合う。
ぎゅっと。
梨華ちゃんが、私がココにいることを確かめるように
壊れるくらいに、ぎゅっと抱き合う。
ベッドに倒れこむ。
やっぱり、ベッドのスプリングは最悪で。
なんだかゴツゴツした感触が身体を包む。
ね、明日の朝とかさ、大騒ぎだよね。
あたしの肩の辺りに顔を埋めて、梨華ちゃんは言う。
うん、きっと大騒ぎだよ。
スポーツ新聞の一面に
『モーニング娘。石川梨華・吉澤ひとみ 禁断の愛の果て地方のホテルで心中』
って。
なんか、失楽園みたいじゃね?
腕の中の梨華ちゃんはふふって笑って、額をぐりぐりとあたしの頬に
押し当てる。
みんなに、迷惑掛けちゃうね。
ちょっとトーンダウンした声。
梨華ちゃんは言う。
そうだね。
梨華ちゃんの髪を優しく撫でながら言う。
- 304 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:40
-
きっと、すごく迷惑掛けちゃうね。
だけど。
だけど。
よっすぃー、私、あなたと生きて、死ねて、幸せだよ。
目の奥が、鼻の奥が、身体の芯がぎゅっとして。
私は目を閉じて梨華ちゃんの髪に顔を埋める。
だって。
よっすぃーがいない人生なんて考えられない。
だから、今、ココで死ぬことが私の一番の望みなんだよ。
梨華ちゃん…。
私の身体中が、彼女の名を呼ぶ。
梨華ちゃん……!!
私もだよ。
私もだよ。
気づくと、壊れたレコードみたいにその言葉を繰り返して
彼女の髪に涙を溢していた。
- 305 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:41
-
よっすぃー。
梨華ちゃんのちょっと高くて甘い声。
忘れないよ。
その温かな手が、私の頬を撫でる感触。
忘れないよ。
柔らかな唇が寄せられて、もっと柔らかな舌が私の頬を涙を舐める。
忘れないよ。
全て。
全て。
抱き締めたいんだけど、なんだか身体がぼわっとしてきちゃった。
私が言うと、梨華ちゃんも
そーだね。
って気だるげな返事をした。
薬が効き始めてる。
身体がどんどん言うことを聞かなくなり始めてる。
だから私たちはただ身体を寄せ合って、天井を仰いで、ぽつりぽつり、と話し続ける。
どんな風に生まれ変わりたい?
よっすぃーと一緒なら、なんでもいいよ。
そう言う梨華ちゃん。
- 306 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:41
-
私は、今度は私の方がお姉さんに生まれたい。
私の言葉にずるーい、と返事。
ずっと、一緒がいい。
幼馴染で、ずっとずっと一緒なの。
そう言う梨華ちゃんの声がとても眠そうで。
見るとその目は既に閉じられていて。
あたしは最後の力を振り絞って、彼女の閉ざされた瞳にくちづける。
彼女の手をしっかり握る。
はぐれないように。
おやすみ。
おやすみ。
昨日までごく普通にベッドの上で交わしていた言葉が、今は
魔法の言葉のように感じる。
おやすみ。
いい夢を。どうか、いい夢を。
でも…ね。
梨華ちゃんが、本当に気だるげに苦しそうに言葉を溢す。
出会えれば…いいや。
ね、ひとみちゃん…。
次に会った時こそ、離さないでね……。
- 307 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:42
-
そう言った後、しばらくして梨華ちゃんは動かなくなった。。
そーだね。
言いたかったけど、私ももう限界で。
呂律も回らないような状態。
あまりの急激な眠気に、なんだか目がチカチカする。
目を閉じても、瞼の裏が極彩色に光る。
梨華ちゃん。
必死に眠気と戦いながら。
私はひたすら彼女の名を呼び続けた。
梨華ちゃん、梨華ちゃん、梨華ちゃん、梨華ちゃん……。
- 308 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:42
-
*****
- 309 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:43
-
まさか、本当に死ねるなんて、思ってない。
いくら芸能人っていったって、おいそれと死に至る劇薬や
致死量の薬を手に入れることなんて出来ない。
私が目を覚ますと、時計は既に正午を越えていて。
梨華ちゃんの姿はなかった。
私はアタリを引いたんだ……。
寝起きの頭で、ぼんやりと思う。
そう、死ねる訳なんてないと最初から解かってた。
ただ、死にたかった。死ななければならなかった。
そうしなければ、私たちはもう生きていけなかった。
だから、死ぬことにした。
タクシーを乗り継いで何処だかよく解からない、山奥のラブホまで来て。
ここで、昨日、私たちは死んだ。
そういうことにすることにした。
カプセルの中には、簡単に手に入る軽い睡眠薬。
だけど、薬の量をちょっと操作して。
片方には本当に少しだけ、片方には大目に。
ハズレを引いた方は、相手の目の覚めぬうちにそこを立ち去る。
そういう約束。
- 310 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:43
-
そして。
私たちは、死んだつもりで。
この恋を葬って。
私たちの心を葬って。
私たちの魂を葬って。
これから、生きていくことにした。
この先、会うことがあってもそれは私の愛した梨華ではなくて
瓜二つの別人。
周りのことを考える臆病な私たちは、心中なんて出来なくて。
ただ、この世界、芸能人になったことを恨んだ。
芸能人じゃなかったら、この恋を反対されなかった?
芸能人じゃなかったら、ずっと二人きりでいられた?
芸能人じゃなかったら、心中することも出来た?
……だけど、芸能人にならなかったら梨華ちゃんとは会えなかった訳で。
結局、何をしたって私たちはこうなっていた。
だったら会わなければ良かったかといえば、それは絶対嫌で。
どんなことをしても。
どんなことになっても。
会いたかった。
- 311 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:44
-
もし、梨華ちゃんが言うように来世というものがあって
私も梨華ちゃんも生まれ変われるのだとしたら。
ほんの一瞬でもいいから、絶対に会いたいと思う。
例え梨華ちゃんがうさぎに、私がキリンになっていたとしても。
それでも、なんとかして会いたい。
抱き締めあうことが出来なくても。
愛し合うことが出来なくても。
会いたい。
そう思う。
また零れてくる涙を拭い、私は身支度をした。
探したけれど、置手紙も、何も、梨華ちゃんがここに存在したという
痕跡は欠片も見つからなかった。
そんなことをしている自分に自嘲して。
もう一度ベッドに倒れこんで、スプリングの悪いベッドに埋もれて。
死んでしまった私と梨華ちゃんのお葬式を、一人ですることにした。
- 312 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:44
-
帰り道。
立ち寄ったコンビニで買ったスポーツ新聞の一面には
『石川梨華 モーニング娘。卒業』の文字。
さよなら、梨華ちゃん。
そう呟く。
さよなら、梨華ちゃん。
また、いつか、どこかで。
- 313 名前:『卒業』 投稿日:2004/09/24(金) 00:45
-
〜END
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/24(金) 10:33
- う、わわ・・・
泣けます。
いしよしに幸あれ。
- 315 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/25(土) 01:07
- ・゚・(ノД`)・゚・わぁ〜ん・・・
- 316 名前:桜折 投稿日:2004/10/01(金) 00:45
-
>314様
自分でも書いてて暗くなりました(をい)
いしよしに幸あれ!!!
>315様
T▽T)ナカナイデ・・・
今回も大分暗めで重めです。
全てを捨てて、旅立つ二人。
刹那的な恋の遠飛行ってヤツです。
- 317 名前:桜折 投稿日:2004/10/01(金) 00:45
-
『遠飛行』
- 318 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/01(金) 00:47
-
夜を徹して…
という言葉がふと浮かんだ。
あれは、何かの小説のフレーズだっただろうか。
それとも、何かの歌詞だったか。
見つめた窓の外は夜の闇と静寂が支配し。
その中を突き進むこの列車にゆっくりとその闇が滲み込み、
侵食していきそうな風情を見せている。
闇に飲まれる自分を、想像する。
でも。
怖く、ない。
繋がれた手。
その先には、彼女がいる。
梨華。
眠るその横顔はあどけなく、出会ったばかりの頃の彼女を私の中に蘇らせた。
死んだように眠る彼女の静寂を壊さないように、そっと、
か細い体に腕を回して引き寄せる。
梨華という存在を、体中に感じる。
その全てを、自分が包み、守り、支配している。
それをゆっくりと体感する。
- 319 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/01(金) 00:48
-
それは本当に無謀で。
思いつきで。
子供じみた行為だった。
立て込んだ仕事の果てにやっと会うことの出来た恋人は
私にすがって泣いた。
疲れた、と。
ただそれだけで。
ただその一言で。
私は、梨華を連れて逃げることを決めた。
行こう。
その手を取って。
東京駅に駆け込んだ。
手中にあるのは、ポケットの幾ばくかのお金と、携帯と、彼女の手。
うるさく鳴る携帯は、夜道に捨ててしまった。
もう、君しかいない。
私には、梨華しか所有するものはない。
- 320 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/01(金) 00:50
-
駅に着いてからの私の行動は、予想外にスムーズで。
まるでこうなることを予期していたかのように、迷うことなく
プラットフォームへと彼女を導いた。
全てを捨てて、逃げる。君と。
そんな、懐メロみたいなフレーズが自分の中に浮かんでは消えて。
夢を見ているようだった。
繋がれた手の熱さだけが、私をこの世界に引き止める楔。
けれど今、私は楔もろとも飛び込もうとしている。
夜の世界に。
未知の世界に。
夢の……もしかしたら、私が無意識の中に幾度となく思い描いた世界に。
- 321 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/01(金) 00:52
-
私たちは、逃げる。
この世界から。
それは仕事や事務所というだけでなく。
モラルや世間の目、私たちを疎み躊躇させる全ての事象を指し。
私はずっと、その全てから逃れたいと自分が望んでいたことに
走り出した列車の中で気付いた。
ねえ、付いて来てくれるよね?
きっと、ずっと、この言葉を言えずに立ち止まっていた。
だけど。
今、私の手を強く握り返して、夜の街を見つめる梨華の目には
迷いも憂いも浮かんではおらず。
そこには、夜の東京の光にも負けぬ彩りが輝いていて。
私は、何故もっと早くこうしなかったのかとかつての自分を責めた。
彼女の顔に浮かぶ疲労は、きっと仕事のせいだけではなくて。
彼女の言った「疲れた」という言葉は、身体的なものだけを
指しているのではなくて。
私たちはこうなることを望んでいた。
もう、ずっと。
梨華のその瞳に宿る煌きを見つめ、確信した。
- 322 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/01(金) 00:55
-
私たちを否定する世界からの離脱。
それは恐ろしくも甘やかで、儚くも美しい。
故に、目を背け怯えていた。
落ちていかないように。
同時に、落ちていくことを夢に見ながら。
あ、と口にして。
東京タワーを指差して微笑む梨華。
夜闇に浮かぶ、赤。
私は何も言わずに、彼女のその瞳の下に沈む闇に触れ。
そして、彼女の赤に唇で触れる。
守ってあげるよ。
私が、守ってあげる。
全てから。
だから、一緒に逃げよう。
通路を行くおじさんやお姉さんが時々こちらを物珍しげに見たけれど
私は構うことなく彼女にキスをし続けた。
彼女が私のものであることを、世界に、自分に知らしめる為に。
「ひとみ……」
腕の中で、梨華は甘く私の名を呼んだ。
- 323 名前:桜折 投稿日:2004/10/01(金) 01:01
-
今回は前後編で。
- 324 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/01(金) 03:11
- のぉ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!
ここで切るか!?ここで切るか!?
。・゚・(つД`)・゚・。続きを・・・・・はやく・・・
- 325 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/01(金) 18:49
- うっわー…これはまたなんとも。
後編をお待ちしております。
- 326 名前:帰ってきたいしよしファン 投稿日:2004/10/14(木) 23:47
- 娘。小説にレスするの何年ぶりだろ?
何だか急に懐かしくなって今夜、いしよし小説さがしてたんですよ。
「約束の日まで。」と言う綺麗なタイトルに惹かれて
一気に読ませてもらいました。
作者さま素晴らしすぎますよ!
昔は短編物って読まなかったんですが、作者さまの書かれる話は
ひとつひとつが惹き込まれる物ばかりで感動しました!
ぜひ早く続きが見たいものです。
私の他にもきっと同じ思いの方が大勢おられるのでは?(≧∇≦)
- 327 名前:桜折 投稿日:2004/10/17(日) 23:31
-
>324、325様
お待たせしてすみません。
後編、色々と直したりしてる間に時間が経ってしまって…。
微妙に前編とカラーが違ってしまってるかもなんですが
喜んで頂ければ幸いです。
>326様
嬉しいお言葉ありがとーです。
長編の連載は自信がなくて…。これからも中〜掌編で勝負です。
レスして下さる方は勿論、326様の書かれたように
こっそりと読んで下さってるロム専の方も(いたらいいな…)
約束の日まで、一緒にいしよしを満喫できたらな〜、と思います。
次は、四季モノの続編を。
今度はそっこー更新します。
…多分(弱いな)
- 328 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:33
-
どこまで行くのだろうか。
どこまで行けるのだろうか。
それは、この恋に似て、切なく儚い束の間の旅。
私は知っていた。
この旅がすぐに終わることを。
彼女の手を引いて、走り出したその時から。
そう遠くまでなんて行けやしない。
どんなに虚勢を張ったって。
私は所詮、一人の女の子で。
悲しい程に無力だ。
ただ、行きたかった。
無駄だと解かっていても。
その、恋の遠飛行って奴に出てみたかった。
もしかしたら辿り着けるかもしれない未来に。
夢を見たかったんだ。
- 329 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:34
-
でも、
絶対に辿り着けないであろう未来に、
ここではない何処かに、
もし本当に辿り着くことが出来たとしたら。
そうしたら。
私たちは幸せになれるのだろうか。
そこで、私たちは全てを許され、全てを受け入れられ、
私たちだけの青い鳥を手に入れられるというのだろうか?
- 330 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:36
-
キスをして。
抱き締めて。
優しく髪を撫でて身を寄せ合っていたら、シートに埋もれるようにして
梨華はいつの間にか眠ってしまった。
そのことでやっと、私はそれまで張りつめていた緊張を解き、息をつく。
何か飲み物が欲しかったが、眠る彼女を置いてはどこにも行けなかった。
それは、この先の暗く美しい未来を私に連想させた。
行く先を得ぬ旅。
私はこの列車がどこへ向かっているのかも解からない。
辿り着ける筈のない未来。
だけど、束の間、私は想像する。
エバー・アフターで綴られる未来を。
- 331 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:36
-
幸せになりたかった。
梨華と。
幸せになれると、そう信じていた時もあった。
こうして王子様とお姫様は幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
そうやって。
最後の日まで幸福が続くと、無邪気に信じていられた頃。
隣りに眠る彼女の、そのあどけなさ。
顔に掛かる髪を払ってやりながら、自分たちはそこからなんて遠くまで
来てしまったのだろう、と思う。
いつの間にか、大人になっていた。
大人になんて、なりたくなかったのに。
でも、大人になってしまった。
だから、解かってしまった。
私と梨華の関係。
エバー・アフターでは終われない現実。
どうせ幸せになれないのなら、落ちていきたかった。
どこまでも、どこまでも。
この夜の闇のように果てしなく。
- 332 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:37
-
だけど、この闇に果てがあるように。
いつか物語は結末へと導かれる。
その時、私たちがどんな最後へと辿り着くのか。
怖かった。
どんなに想いあっていても。
どんなに愛していても。
世の中にはきっと、どうにもならないことがある。
そして、私たちの関係において、負のパワーは強すぎて。
そのどうにもならずに辿り着くバッド・エンドへと流されていくのが
目に見えているようで。
怖かった。
このまま、あやふやに流されて。
無理矢理に、繋いだ手を解かれてしまうのが。
だから、逃げた。
誰かが選ぶ前に、私が無理矢理に選び取った。
過ちでも。
罪悪でも。
破滅的な感情であったとしても。
私は梨華が欲しくてたまらない。
- 333 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:38
-
今だけじゃなく。
その未来までも。
奪ってでも。
だから、彼女を連れて逃げた。
用意された、未来を捨てて。
全てを捨てて。
梨華だけを選んで。
- 334 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:38
-
彼女は、いつからか病んでいった。
精神的に。
もともと、楽観的な私に比べて物事を考えすぎてしまう梨華には
この秘め事は重すぎた。
モラル的な彼女は不適切な私たちの関係にとまどい、
そしてそれが周りに知られることを恐れ、怯え。
神経をすり減らしていった。
抱えきれない程の仕事。それに加えた精神的な疲労。
彼女は、追い詰められていった。
- 335 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:39
-
きっと、私が悪かった。
私が狂わせた。
梨華を守ると決めたのに。
私だけが、彼女を守れると思っていたのに。
- 336 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:40
-
私が梨華を守る。
ずっと、そう決めていた。
彼女は私のものだから。
初めて会った時から。
…ううん。
きっと、もっと前から、それは定められていた。
私たちは出会う。
恋に落ちる。
そして、きっと、離れられなくなる。
それは遥か昔から定められていたことで。
私たちにはどうすることも出来ないこと。
そんな風に思えた。
だから仕方ない、とかそういう諦めの感情というのでもなくて。
私は、むしろその定めに感謝した。
私の元に、梨華を運んでくれたその定められた何かに。
だから私はその何かに逆らわず。
彼女をこの腕に閉じ込めようと思った。
だけど。
それが彼女を傷つけ、彼女を苦しませた。
- 337 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:41
-
守ると誓ったこの手が、梨華を苦しめている。
その事実を知った時、愕然とした。
救われない恋。
救われない想い。
だけどそれ以上に、彼女にその苦しみを与えているのが
他でもない自分で。
私の存在ゆえに彼女がその苦しみに耐えているという事実に
喜ぶ自分がいることを感じ。
自分が、自分でとても恐ろしかった。
- 338 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:41
-
ふふ、と息の漏れるような微かな音を聞いて、顔を向けると
私の肩に顔を寄せて眠る梨華の表情がほころんでいた。
花がゆっくりと開くように、浮かべた笑顔。
安心しきった様子で。
「ひ…とみ……」
うっすらと開いた唇から零れた、私の名前。
その甘い響きに、私は思わず彼女の手を取り握る。
ふふ、と再び笑みをこぼして。
梨華はまた、深い眠りへと落ちていった。
- 339 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:42
-
夢を見ているのだろうか。
微笑むような、幸福な夢?
そこに、私は存在するの?
そこに、私を置いてくれてるの?
あどけないその横顔を見つめ。
私は、その瞬間、自分が救われるのを感じた。
彼女のその夢が、彼女のその笑みが、私を呼ぶ声が。
私を包み、救い、癒した。
彼女だけが、私に救いと癒しをもたらす。
その事実だけが、闇を照らす月のように私を包み、一瞬にして全てを許した。
- 340 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:43
-
私のせいで苦しめているのだとしても。
でも、それでも離れられないのだから、仕方ないよね。
その代わり。
私が選んであげるよ。
未来を。
絶対に、バッド・エンドでは終わらせない。
連れて行ってあげる。
ここではない何処かへ。
その額にキスをして。
幸福な彼女の寝顔を見つめる。
どうせ幸せになれないのなら、落ちていこう。
どこまでも、どこまでも。
この夜の闇のように果てしなく。
落ちていこう、二人で。
繋がれた手は、暖かく。
こんな状況に至っても、私の心を勇気づけた。
- 341 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:44
-
列車は、闇を切り裂き走り続ける。
次のターミナルに着いたら、梨華を起こして別の線に乗り換えよう。
そんなことを考えている用意周到な自分に、笑ってしまう。
そうして、どこまでも行こう。
どこまでも。
例え、朝日の昇るまでの遊びのような恋の遠飛行であっても。
それでも。
今は、君の手を取りどこまでも行こう。
夜を徹して。
行けるところまで。
辿り着くところまで。
闇の世界を。
夢見た世界を。
- 342 名前:『遠飛行』 投稿日:2004/10/17(日) 23:46
-
〜 END
- 343 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/18(月) 21:04
- 更新&完結お疲れ様です。
四季モノの続編があるということなので、楽しみにしてます。
焦らず作者様のペースでがんばってください。
- 344 名前:桜折 投稿日:2004/10/23(土) 01:11
-
>343様
ありがとーございます。
自分のペースを崩さずに、ってのが結構難しいんですよね。
焦らず、怠けず、のんびりがんがりたいと思います。
春は予想外に長くなってしまいましたので、分割で。
次の更新も早めに行いたいと思います(あくまで希望的発言…)
- 345 名前:桜折 投稿日:2004/10/23(土) 01:12
-
『春の嵐』
- 346 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:14
-
私とひとみちゃんは幼馴染。
おうちも隣同士で。
私のお部屋の窓を開けるとひとみちゃんのお部屋の窓があって。
余裕で飛び移れる距離。
よくあるドラマやアニメの設定みたい。
そして私は、そのよくあるドラマやアニメの設定通り
大きくなったらひとみちゃんと恋人同士になって
いつか結婚するものだと、勝手に決めていた。
紆余曲折あったけど。
それは今でも変わらない。
女の子同士とか。結婚出来るとか出来ないとか。
そんなの関係ない。
ひとみちゃんが好き。
雪の日に、初めてキスをした。
その、ひとみちゃんの感触。
触れた場所から好きって想いが溢れて。
私に流れ込んでくるのを感じた。
ひとみちゃん、大好き……。
- 347 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:15
-
4月。
私たちは同じ高校に合格した。
勿論、狙ってたんだけどね。
「また同じ学校かよ」
って憎まれ口も、その裏に
「また一緒に通えるね」
って言葉が隠されてる気がして、嬉しくなってひとみちゃんの腕にしがみついた。
そしたら
「何、喜んでるんだよ、変な奴」
って言って……額にちゅってキスをくれて。
なんだか、通じ合ってるって思えた。
だから、クラスが離れちゃっても。
ひとみちゃんが入ったバレー部がすっごくハードでなかなか一緒に
帰れなくなっちゃっても。
私が生徒会のお手伝いをしないかって誘われて、忙しくなっちゃって
一層一緒にいられなくなっちゃっても。
大丈夫って思った。
私たちは繋がってる。
私たちは分かり合ってる。
そう、何の心配もなく思った。
- 348 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:17
-
ひとみちゃんはたちまち人気モノになった。
中学の時だって、人見知りするけどひょうきんで優しいひとみちゃんは
人気モノだったけど。
それまでとは違う意味。
女子校だから、ひとみちゃんのすらりとした高い背や中性的な顔立ちや
男の子みたいなさっぱりした態度が人目を引いて。
同級生からも先輩たちからも、次第に騒がれるようになっちゃった。
きゃー、きゃーって。
放課後の体育館から声がして、何かと思えばバレー部の練習試合。
ひとみちゃんが打つ度に黄色い悲鳴。
よっすぃー、よっすぃーって。
あだ名まで付けられちゃって。
なによ、ひとみちゃんは私だけのひとみちゃんなんだから。
よっすぃーなんて名前じゃないもん。
最初はそう思ってたんだけど。
だけど。
段々、ひとみちゃんって呼びづらくなっていった。
- 349 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:20
-
「梨華ちゃんって、吉澤さんと仲良いよね〜」
放課後の生徒会室。
クラスメイトの柴ちゃんが言う。
柴ちゃんは、高校で出来た初めてのお友達。
生徒会のお手伝いをしてるのも、柴ちゃんがいるから。
書記をしてる3年の村田さんが柴ちゃんの従姉妹なんだって。
「んー、幼馴染だからね」
今まで何度となくされた質問にお決まりの返事をする。
最近、本当によくされるんだ、この質問。
クラスメイトとか、よく知らないような先輩とかからも。
「石川さんって、吉澤さんと仲いいよね」
「吉澤さんってどんな子?」
「何が好き?」
「何が嫌い?」
「好きな子いるの?」
「好きなタイプは?」
うんざり。
「でもさ、幼馴染でも普通あんなに仲良くないよ?」
きっと、柴ちゃんは先週あったことを言ってるんだ。
- 350 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:22
-
その日は、たまたまひとみちゃんの練習が終わって帰るのと
私が生徒会のお手伝いが終わって帰るのと同じ位になって。
普段、私はそんなに遅くなることはないんだけど
その時は先輩が大事な書類をなくしちゃって、みんなで探してた。
「なに、今、帰り?」
柴ちゃんと、疲れたねー…なんて話しながら昇降口から出てくると
自転車置き場からひとみちゃんが出てくる所だった。
普段は電車通学なんだけど、ひとみちゃんは時々自転車で学校に来る。
ひとみちゃん曰く、トレーニングの一環。
だけど、私と一緒の時は絶対電車で、自転車じゃない。
後ろに乗せて〜…ってお願いしても重いから嫌、って。
トレーニングなんでしょ〜??
「うん。生徒会のが長引いちゃって」
私がこくん、と頷くと
「こんなに遅くまで掛かるの?生徒会って」
なんだか、ひとみちゃんは不服そう。
こんなに遅くって、ひとみちゃんはいつもこんなに遅くまで練習してるじゃん。
「今日はたまたま…」
「暗くなったら危ないよ。駅からうちまで歩くんでしょ?」
「だって…」
- 351 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:24
-
なんだか、ひとみちゃんはその時すっごく不機嫌で。
私の反論を許さない。
なんでそんなに怒られなきゃいけないのかなー…。
「あの、今日はたまたま遅くなっただけで。いつもはもっと明るいうちに
帰れるんで…」
隣りの柴ちゃんが口を挟む。
ひとみちゃんは、あ、いたの?ってカンジでそっちにやっと顔を向けて。
「柴ちゃんだよ。いつも話してるでしょ?」
私は慌てて紹介する。
柴ちゃんは私の話に出てくる人ナンバー1だから、ひとみちゃんもよく知ってる。
「ああ」
どうもー…ってぺこんって挨拶する柴ちゃんに、ひとみちゃんは一瞥すると
緩く頭を伏せるだけ。
ごめんね、柴ちゃん。愛想悪くって。
柴ちゃんを見てそう合図してると
「乗って」
ひとみちゃんが言う。
「え?」
「今度から遅くなったら、待ってなよ。送ってく」
何がなんだかよくわからないけど、そう言うので遠慮なくひとみちゃんの
自転車の後ろに立ち乗りした。
- 352 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:25
-
「ごめんね、柴ちゃん。じゃあ、今日はここで」
「う、うん。じゃあね」
柴ちゃんに手を振ると
「しっかり掴まってなよ」
ってひとみちゃんに言われて。
ぎゅって掴まったら、ひとみちゃんがくいって柴ちゃんの方を向いて
「梨華ちゃんのことよろしく」
って挨拶して、自転車を漕ぎ始めた。
はあ…って目を丸くする柴ちゃんを置いて自転車は進み出す。
「スピード出すから、スカート押さえてないとパンツ見えっぞ」
そんなことをひとみちゃんは恥ずかしげもなく大声で叫ぶので、
腕を巻きつけて首をぎゅっと締め付けてやった。
まったくもう。
- 353 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:27
-
「あれはカップルに見えたね、カップル!!」
やだぁ…って、柴ちゃんの腕をばしばし叩いて。
だけどはっとして、自分の崩れた顔を引き伸ばす。
「ただの幼馴染だよぉ」
でも、嬉しいな。
カップルに見えたんだ。
やっぱり、忍んでもこーゆーことはオーラで出ちゃうのかなぁ。ふふ。
「でもさ、大変だよね、梨華ちゃんも」
と、柴ちゃんはちょっとため息まじりに言う。
「人気モノを幼馴染に持つと」
そうそう。
解かってくれるのね?柴ちゃん。
私が、学校ではあまりベタベタしない理由。
ただの幼馴染を装う理由。
それは……。
「あの日さ、二人の2ケツ見てみんな騒いでたもん」
「え、ホントに?」
「そーだよー。先輩たちとか嫉妬しちゃってさ、何あれーって」
- 354 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:29
-
そう。
人気モノを幼馴染に持つだけでも大変なのに。
ベタベタしようものなら…。
「気をつけてね、梨華ちゃん。体育館裏とか絶対ついて行っちゃ駄目だよ」
柴ちゃん、今時体育館裏って…。
とか思ったけど。
確かに、時々身の危険ってヤツを感じることがある。
ひとみちゃんと並んで歩いていると。
射すような視線をビシバシ浴びる。
だから。
そんなだから。
私は、気付いてしまったんだ。
私の恋心に。
今までずっと、好き好きって言ってたけど。
女の子だっていいじゃないって思ってたけど。
みんながひとみちゃんに向ける視線を見て、解かった。
こーゆーことなんだって。
私は、本当にひとみちゃんが好きで。
あの子たちみたいなあんな目を、ひとみちゃんに向けてるんだ。
- 355 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:30
-
そしたら、急に気恥ずかしくなっちゃって。
ひとみちゃんを好きってことが。
それを、ひとみちゃんが知っているってことが。
ひとみちゃんも、多分、同じ思いでいることが。
ひとみちゃんと、キスしたことが。
だから……私は、ひとみちゃんをひとみちゃんって呼べなくなってしまった。
意識しすぎて。
窓の外、グラウンドを走るひとみちゃんが見える。
ふと顔をあげたひとみちゃんと目が合った。
こちらに向けられた笑顔に手を振って、私は
「よっすぃー」
と呼びかけた。
ついこの間から、私はひとみちゃんをよっすぃーと呼んでいる。
- 356 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:32
-
ある日の放課後。
私は教室に忘れ物をしたのに気付いて、生徒会が終わった後、
もう一度教室に戻った。
後から考えると、なんで一冊の本ごときにそんなことをしたのかわからないけど。
教室へと向かう階段を上る時。
上階の踊り場から声がした。
「付き合って……もらえませんか?」
震える声。
誰かが、告白してる。
静まり返った放課後の校舎に、それは響いて。
私は思わず顔を上げてしまった。
そこには……俯いた少女と、困惑した表情のひとみちゃん。
「その、困ったなあ…」
ひとみちゃんの声はその緊迫した場の雰囲気に似合わず間延びしてて。
私は、言い知れぬ苛立ちと不安に駆られ、走ってその場を後にした。
- 357 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:34
-
何が『困った』なんだろう。
そりゃ困るだろうけど。
あの場で言って欲しかったのは……勿論、私のこと。
困るとか困らないとかじゃなくって、ひとみちゃんには私がいるでしょ?
だから、考える余地なく断るよね?
だって、私たちって付き合ってるんじゃないの?
……でも。
と、ふと、私は思う。
付き合うってなんなんだろう。
確かに、私たちって『付き合おう』って言ったことはない。
よく考えたら、『好き』って言われたこともないかも。
だけどそれはひとみちゃんが恥ずかしがり屋さんってのもあるし。
私もあえてそんなこと確認しなくても
毎夜、窓越しに話をして。
時々、手を握りあって。
本当にときっどき、キスとかして。
それで、自分たちは繋がってるって思ってた。
でも、それじゃあ付き合ってるうちには入らないの?
付き合うってどーゆーこと??
- 358 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/23(土) 01:36
-
つづく。
- 359 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 09:33
- あらら
素敵なものを発見!
- 360 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 10:04
- 新作キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
いいですね〜この雰囲気ww
- 361 名前:桜折 投稿日:2004/10/26(火) 23:00
-
>359様、360様
レスありがとーです。
ちょっこす更新。
まだまだ続きます。
- 362 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/26(火) 23:03
-
「石川、ちょっと話あるんだけど、今日帰りいい?」
それは、ちょっとした渡りに船、だった。
「石川はさ、バレー部の吉澤と付き合ってるの?」
生徒会長の飯田さん。
返事に困ってると
「付き合ってないんだったら、カオリと付き合わない?」
ちょっと…ううん、すごく意外だった。
飯田さんってすごく大人っぽくて。
私のことなんて眼中にあるなんて思わなかったから。
「あの、飯田さん」
私をまっすぐ見る飯田さん。
それを見て、私は何も考えずに疑問を投げ掛けた。
「付き合うって、なんですか?」
「え…?」
飯田さんの顔に、疑問が浮かぶ。
「あの、私、ひと…よっすぃーが好きなんです。多分。
だけど、最近よくわからなくって…。
今まで付き合ってるんだと思ってたんですけど…その、付き合うって
のがそもそもわからなくって」
すると飯田さんは、ふっと笑って。
「じゃあ、カオリが教えてあげるよ」
- 363 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/26(火) 23:04
-
それは、綺麗な大人の顔で。
「で、もしそれでカオリのことがいいなって思ったら乗り換えてよ」
そんなことを平然と言う。
「…でも、とりあえず今はよっすぃーが好きだからえっちなこととか
しませんよ?」
私が言うと
「石川って、そーゆーこと普通に言える子なんだー。
ちょっと驚き。うん、いいよ。そーゆーことはしない。恋人ごっこね。
とりあえず、カオリの絵のモデルになってよ」
飯田さんはそう答えた。
- 364 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/26(火) 23:09
-
「梨華ちゃんさ、最近なんで先に学校行っちゃうの?」
窓越しに。
唐突にひとみちゃんが言い出した。
夜中。
私たちはよっぽど暑い日やよっぽど寒い日じゃないと
窓をあけたままにしている。
そして、本を読むのも宿題をするのも、気付けば窓のへりに
へばりついてだ。
顔をあげれば、すぐそこに同じ体勢のひとみちゃん。
いつもそのまま、何も言わずに黙々とそれぞれの用事をして。
おやすみ、とか言って、時々はおやすみのちゅーとかして、眠りにつくんだけど。
その日に限って、ひとみちゃんはなんだかそわそわしてた。
そして。
「帰りも、全然一緒になんないよね」
「それは部活とか生徒会があるからでしょ」
バレー部は忙しい。生徒会も忙しい。
だけど、本当はそんな理由じゃない。
- 365 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/26(火) 23:10
-
「でも、前は水曜と土曜は一緒に帰ってたじゃん」
その二日はバレーも生徒会もお休み。
「うん……でも、雑用とかあるし。柴ちゃんと買い物行ったりとかも」
「ねえ、今度の土曜は…」
「ごめん。今度の土曜は生徒会の用があるんだ」
「そう」
半分は、本当。半分は……。
「最近さ、飯田先輩と仲いいよね」
「……うん。だって生徒会だし」
「ふうん」
- 366 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/26(火) 23:11
-
土曜の放課後。
生徒会の仕事はお昼過ぎには終わって。
私たちは美術室にいる。
なんでかって言うと
「石川、もちょっと首……そうそう」
飯田さんは美術部の部長さんでもあって。
私は今、彼女の絵のモデルだ。
「で、ですよ。飯田さん。私、やっぱりよくわかんないんですけど」
柔らかな陽の差し込む、土曜の午後の教室。
飯田さんご指定通りに、窓の方に首を傾けたまま話す。
「付き合うって、こういうことなんですか?」
飯田さんと恋人ごっこを始めてから、はや3週間。
やったことといえば、生徒会のない放課後にこうやって
絵のモデルをすることと、あとは登下校を一緒にすること。
飯田さんは同じ生徒会だから生活リズムが同じで。
行きも、私の最寄駅で途中下車して待っててくれて。
帰りも、一緒の電車に乗った。
でも、やったのってそれだけ。
「んー…そうだねぇ」
- 367 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/26(火) 23:12
-
飯田さんは曖昧に答えて
「石川、もちょっと首」
と、また首の角度を指定してきた。
「それで、あのCDだけど…」
「あ、聞きましたよ〜。すっごく良かったです」
「でしょ」
「はい。こないだ言ってたアレがですね……」
だけど。
確実に共有するモノは増えていっていた。
- 368 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/26(火) 23:13
-
「じゃあ、今日はこれで」
「はい。ありがとーございました」
私の家の前。
いつもはうちの駅まで送ってもらってさようならなんだけど。
今日は遅くなっちゃったからって、家の前まで付いて来てくれた。
あの後、暗くなるまで美術室にいて。
それから夕飯をおごってもらった。
駅前のファミレスだったけど。
「モデルになってくれてるお礼に、今度もっといいものおごってあげるよ」
ついでに、借りたCDのアーティストのライヴに一緒に行くことも約束して。
その時着ていく服を一緒に買いにいくことも約束した。
なんだか、ちょっと付き合ってる雰囲気出てきたかな?
「約束、忘れないでくださいね〜」
「はいはい。今月中にはデートね」
そう言って、飯田さんはイタズラっぽく笑って手を振りながら去って行った。
飯田さんって、あんな風に笑うんだ。
なんて新発見に喜びつつ、その背を見送って。
家に入ろうとしたその時。
「梨華ちゃん」
ひとみちゃんが家から出てきた。
この時になって、私は、自分がちょっと迂闊な行動をとっていたことに気付いた。
- 369 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/10/26(火) 23:16
-
つづく。
春はこのスレ内で終われるとして、次の季節はどーしよー…。
ここまできて夏なしって中途半端な気がするし。
- 370 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/27(水) 00:16
- いいところでつづくだー
飯田さんがステキですね。
更新楽しみにしています。
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/27(水) 01:01
- うわー梨華ちゃんってば…
よっすぃも大変だなこりゃw
- 372 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/27(水) 13:31
- いいね〜どうなっちゃうんだろう〜
- 373 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/27(水) 21:28
- そうだね
どうなるんだろう
- 374 名前:桜折 投稿日:2004/11/01(月) 01:11
- レス、ありがとーございます。
>370様
飯田さん、大人の女です(笑)
楽しみにして貰えて嬉しいです〜。
>371様
よっすぃ、今回も大変です。頑張って貰ってます。
多分、この季節はよっすぃは最後まで(ある意味)
受難の日々かと…
>372様、373様
気にして貰えて嬉しいです〜。
次回が最終なんですが、どうなっちゃうんだろう(笑)
ということで、次回が『春』最終です。
- 375 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/01(月) 01:13
-
「あ……」
「梨華ちゃん、飯田先輩と一緒だったんだ」
目の前のひとみちゃんは、いつかみたいに不機嫌だった。
「うん」
「今日、ずっと一緒だったの?」
「うん…生徒会で……その後、ご飯食べてきた」
「それだけ?」
ひとみちゃんの目が、まっすぐ私を射抜くように見る。
「それだけって?」
私は、天敵に出会ってしまった小動物のようにびくびくしてた。
「梨華ちゃん。あたし、梨華ちゃんが先輩と付き合ってるって噂、
聞いたんだけど」
それは半分、本当で。半分、間違いで。
困ってしまう。
「梨華ちゃん!?」
返事をしない私に詰め寄り、ひとみちゃんは私の腕を強く掴んだ。
「い、痛……」
「ちょっと、嘘でしょ?」
たたみかけるようにひとみちゃんの言葉が続く。
私に、何も言わせる間を与えてはくれない。
「梨華ちゃん、言ったよね?あたしのお嫁さんになるって」
- 376 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/01(月) 01:15
-
往来だ、とか。声が大きい、とか。
ひとみちゃんは気にしてない。
頭に血が上っちゃってる。
「よっすぃー…」
私のこぼした言葉に、ひとみちゃんは更に怒って。
「なんで最近、よっすぃーって呼ぶの!?ねえ!!」
肩をがくがく揺さぶられて。
痛いくらいに腕を握られて。
私は、初めて、ひとみちゃんを怖いと思った。
「だって…」
震えながら、私はなんとか言葉を紡ぐ。
「だって、ひとみちゃん、好きって言ってくれないし。
自信、なくなっちゃって…付き合ってるのかどーなのか…わかんなかったし
だからね、飯田さんに言ったの…付き合うってどーゆーことするんですか
って。そしたら、教えてあげるって……」
余りに怖すぎて。
私の目からは涙も出ない。
春の宵にしては僅かに寒いせいか、道には誰もいなかった。
震えながら、なんとかそれを言いきると。
- 377 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/01(月) 01:17
-
ひとみちゃんは、なんとも表現しがたい表情で私を見ていた。
怒っているようで、悲しんでいるようで。
今にも怒鳴りだしそうな、今にも泣きそうな。
ひとみちゃんの手が私の顔に伸びる。
ぶたれる。
今まで、ぶたれたことなんて一度もないのに、何故かそう思って
身を固くして目を閉じた。
けれど降ってきたのは。
ひとみちゃんの唇で。
私の頬をぎゅって押さえて、キスをした。
なんてゆーか。
今までしたことのないような、キス。
すごく乱暴で。
痛いよ、って言おうと口を開いたら、ひとみちゃんの舌が入ってきた。
びっくりして首を振ったけど、手で押さえられて。
怖かった。
暴れた手も、もう片方の手で押さえ込まれて。
力じゃ、ひとみちゃんに敵わない。
そう思って、抵抗を諦めた瞬間。
ひとみちゃんはそのまま私をひきずって、自分の家へ歩き始めた。
- 378 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/01(月) 01:19
-
ひ、ひとみちゃん。
家の人に見られちゃうよ…!!
だけど、一端唇を離してひとみちゃんが開けた玄関は真っ暗で。
中に誰もいないことが解かった。
ほっとしたのも束の間。
私はひとみちゃんに腕を掴まれると、中に引き入れられ、
玄関に押し倒された。
「いったぁ……」
衝撃に、体中が痛くて。
だけど次の瞬間、ひとみちゃんが私に圧し掛かってきて。
それで。
ひとみちゃんが何をしようとしているのか、やっと解かった。
「……あたしが、教えてあげるよ」
はあ!?そーゆーこと教えてもらおうと思ったんじゃないもん!!
言う間もなく、また噛み付くようにキスされて。
そして、手が服の中に入ってきて。
「梨華ちゃん、好き…」
胸に触れた瞬間。
「きゃっ」
私は、悲鳴を上げて。
「いやっ」
ひとみちゃんを力一杯押し返した。
- 379 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/01(月) 01:22
-
多分、緊張していたであろうひとみちゃんは予想外に派手に
ひっくり返って。
私はそのまま、慌ててひとみちゃんちを出ると我が家に駆け込んだ。
「あら、お帰り」
そんな、お隣で今しがたあったことなど知る由もなく、
暢気な声を掛けるお母さんを尻目に2階に駆け上がると
自分の部屋に駆け込み、カーテンを閉めた。
電気は点けなかった。
震える体をベッドに横たえて、目を閉じる。
びっくりしたぁ…。
心臓が、有り得ないくらいどきどきしてて。
手とかがくがく震えてる。
今まで、私とひとみちゃんの間にはキス以上のことはなかった。
キスだって、たまーに、ちゅって。
きっと、アメリカとか行ったら挨拶代わりみたいな程度の。
だけど、勿論、したくないとかじゃなくって。
女の子同士だって。
ひとみちゃんが好きだし。
その、ほら、私だって青春って奴の真っ盛りで。
興味がない筈がない。
だけど。
- 380 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/01(月) 01:25
-
いつか、ひとみちゃんと…とか考える時。
それは暖かくて柔らかくて、優しい何かに包まれたような、
甘やかな何かを連想させて。
私たちは幸福な時間の中で、その時を迎える。
何の根拠もなくそう信じていたから。
さっきのそれは、その想像からはとんでもなくかけ離れてて。
驚いた。
そんなじゃなきゃ、拒む理由なんてないのにな……。
そう思うと、なんだか悲しくなってきた。
私とひとみちゃん。
二人はずっと一緒だった。
だけど、最近はとても遠く感じることがある。
どこでずれちゃったのかな?
どこで食い違っちゃったのかな?
ひとみちゃんは、好きでもない子にあんなことする子じゃないから。
きっと、決して自惚れじゃなくて、ひとみちゃんも私のことが好き。
私は、もう、ずっと、ひとみちゃんしかいない。
好きって言葉だけじゃ足りないくらい、どうしようもなく好き。
好きあってるのに、上手くいかない。
なんでなんだろう。
- 381 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/01(月) 01:26
-
カーテン越しの窓の外。
ひとみちゃんの部屋にも電気は点いていない。
今頃、きっと凹んでるんだろーな。
泣いてないと、いいな。
ひとみちゃんは人前では涙を見せない。
子供の頃から。
だから、私も数える程しか見たことはないけど。
なんとなく、この夜の向こうでひとみちゃんが泣いてるような気がして
すごく不安だった。
- 382 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/01(月) 01:26
-
つづく。
- 383 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 01:31
- よっすぃ・゚・(ノД`)・゚・。
リアルタイムで読んで自分も凹んでしまいました。
早く二人をぉ(ry
- 384 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 08:38
- ぅゎーん
切ない…
胸がイタタタタタタタタッ
- 385 名前:桜折 投稿日:2004/11/03(水) 21:57
- レス、ありがとーございます。
>383様
微妙な時間に見てらしたんですね(笑)
最終回で浮上して下さい〜。
>384様
今回はある意味、『青春の痛さ』もテーマかな、と。
(と、今思ったり)
383様同様、最終回で回復して貰えれば、と。
今回で『春の嵐』最後です。
春の次には「やうやう」夏がやってくるので。
またどこかにスレを立てて書き続けたいと思います。
- 386 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 21:59
-
日曜日、飯田さんに電話をした。
飯田さんとのことで、ひとみちゃんを傷つけてしまったこと、
昨日あったことを全て話した。
そして、もう、飯田さんと恋人ごっこは続けられないことも。
「そっか」
飯田さんのその素っ気無い言葉には、少しの寂しさが混じっている
ように感じた。
「ひとみちゃんが好きなんです」
私の言葉に、ふぅ、と飯田さんはため息をつく。
「どうしたって、何されたって、やっぱり、ひとみちゃんが
一番なんです」
「じゃあ、仕方ないよね」
こんな時でも、やっぱり飯田さんは大人で。
正直、憧れる。
「石川さ、付き合うってなんですか?って言ってたじゃん」
「はい」
「それって、答えなんてないと思うよ」
答えがないって……どういうこと?
- 387 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 22:00
-
「恋愛は人ぞれぞれだって、カオリは思う。
女の子同士だって、アリだと思う。
例えば、『好き』って言い合わなくても、寄り添ってるだけだって
恋愛になることだってあると思う」
遠い所にいる筈の飯田さんの声が酷くリアルで。
すぐ隣りにいるように感じる。
そんな安心感ひとつで。
ひとみちゃんにバカバカって言われる私だけど、
なんだか飯田さんの言いたいことが解かったような気になってくる。
そっか。
決まった形なんて、ないんだ。
「カオリはカオリのやり方でやったけど…駄目だったね」
その言い方がちょっと自嘲的で。
「そんなことないです。私、飯田さんのことも好きですよ?」
と言って。だけど慌てて
「でも、一番はやっぱりひとみちゃんなんです」
と付け加えた。
- 388 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 22:01
-
ふふ、と笑いが電話越しに漏れて。
「ありがと」
飯田さんの言葉。
「それ、ちゃんと吉澤に伝えなよ」
優しい、言葉。
「ちゃんと伝えないと、駄目だからね。アンタたちの場合、
伝わってない部分が多いと思うんだよね。
『言わなくても解かってる』なんて過信してないでさ、
もっと、ちゃんと、伝えなよ」
「……はい」
電話を切って。
ソファに倒れこんで、思う。
明日、ひとみちゃんに好きって言おう。
付き合ってって言おう。
何度も何度も、そう繰り返しながら、私はその夜、眠りについた。
- 389 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 22:03
-
「梨華ちゃん、付き合ってください!!!」
朝、ドアを開けた瞬間、その言葉は降ってきた。
うちの玄関前には、俯いたまま立ち尽くすひとみちゃんと
その自転車。
「あ、あと、一昨日はごめんなさい。もうしません。
梨華ちゃんが嫌ってことはしない。約束する」
びっくりしてそれを見つめる私と、俯いたままで
しゃべり続けるひとみちゃん。
朝の往来には、だけど、こないだみたいに誰も歩いてない。
「だから、嫌いにならないで。飯田先輩と…付き合うとか、言わないで……」
俯いた髪の間から覗く耳が、真っ赤で。
私はそれで、ひとみちゃんが無理をしてるって解かった。
恥ずかしがり屋さんのひとみちゃんが、一生懸命頑張って
今、私に伝えようとしてくれてる。
俯いた頭から流れている髪は、朝日に当たってきらきら光っている。
それをそっとすくって、キスをする。
「私も、好き」
がばっと顔を上げたひとみちゃんは、けれど私の手に握られた
一房の髪のせいで
「いたっ」
悲鳴を上げる。
- 390 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 22:04
-
それが可愛くて。
しかめられた顔を手で包んで、引き寄せて。
笑っちゃうくらいに腫れた瞼にキスをする。
「好きよ、ひとみちゃん。だけど…」
真っ赤な顔をしたひとみちゃんを、息のかかるくらいに
近くで見つめて言う。
「ひとみちゃんが私のお嫁さんになるんでしょ?」
限界まで赤くなってると思ったひとみちゃんの顔が、更に赤くなる。
すごーい。
だから、私はもっとからかいたくなっちゃう。
だって、いつもと立場がまるで逆じゃない?
たまには私が、かっこよくリードしたい。
そのまま、唇を寄せて。
思えば、私からの初めてのキスをひとみちゃんにした。
「ひとみちゃんの、恋人にして」
唇を離して言うと、ひとみちゃんはよろよろと自転車に倒れこみ…
自転車と共に路上にひっくり返っちゃった。
- 391 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 22:06
-
朝の柔らかな光の中。
二人乗りの自転車が、進んでいく。
後ろから見るひとみちゃんの耳から首筋にかけては、まだ真っ赤で。
思わず笑いを漏らすと、ひとみちゃんはそれを振り払うように
漕ぐスピードを上げる。
風を切り、私たちを乗せて自転車は駆けてゆく。
この朝を。
そして、これからも、ずっと。
そう。
私たちの青春も、まだ、走り出したばかり。
お互い、歩み寄って。
少しづつ理解しあって。
これからも、一緒に進んで行こうね?
- 392 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 22:07
-
「ねー、一昨日、私に何しよーと思ってたの?」
「…」
「ねーねー」
「あーもー、うっさいなー!!」
「……あんな風じゃなきゃ、してもよかったんだけどな」
「……え?」
「ひ、ひとみちゃんっ、前、前っ!!」
「へ?」
- 393 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 22:08
-
…。
- 394 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 22:09
-
「「ぎゃー」」
- 395 名前:『春の嵐』 投稿日:2004/11/03(水) 22:10
-
〜END?
- 396 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:00
- あぁ、青春ってスバラシイwいしよしってスバラシ(ry
凹みっぱなしでしたがようやく浮上できました。作者さんあんがと。
ひとみちゃんかわいいよひとみちゃんw
この二人のこれからをもっと見続けたいです。夏楽しみw
- 397 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 02:19
- あぁーよかったー
あんなに胸がきりきり痛かったのに
今はほんわかです
よかったよかった
- 398 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 09:35
- しやわせが過ぎるー。
ありがとうございますです。
- 399 名前:プリン 投稿日:2004/11/04(木) 16:50
- 更新お疲れ様です♪
いやーw最高ぉーw
こっちまで幸せだよ(*´Д`)ポワワ
素晴らしかったです。
- 400 名前:桜折 投稿日:2004/11/07(日) 03:28
- レス、ありがとーございます。
>386様
浮上して貰えて良かったです。
楽しみと言ってもらえると、こっちもやりがいがあるってもんです〜。
>387様
ほんわかして貰えましたか。良かったです♪
>383様
自分の書いたもので幸せを感じて貰えるとは。自分も幸せでっす。
>プリン様
同じく、そう言っていただけると、書く側も幸せですよ〜♪
今回は、お姉さん梨華ちゃんと甘えたよっすぃー。
数回の更新になります。
- 401 名前:桜折 投稿日:2004/11/07(日) 03:30
-
Even if it sleeps and awakes
〜寝ても覚めても
- 402 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:31
-
正直、ヤバイと思ってた。
こんなんじゃない。
こんなことになるなんて思ってなかった。
そう。
こんなハズじゃなかったんだもん……。
- 403 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:34
-
「おっかえり〜」
ドアを開けると、ご機嫌なよっすぃーの声。
相変わらずのジャージ姿に、エプロンとか付けちゃって
フライパン片手に私を迎える。
「今、ご飯出来るトコ。ナイスタイミングじゃん♪」
本当にご機嫌なよっすぃーは、私の曇り顔なんて気にしない。
「ねえねえ、コレ、自信作。食べて食べて」
私を席につかせると、目の前のお皿をぐいぐい差し出す。
「ね、どうよどうよ」
よっすぃー、空気読んでよ!!
普段は自分が言われがちな台詞。
言おうと思って開いた口に、よっすぃーの料理を突っ込まれる。
なんだか、見た目からは得体の知れない料理なんですけど…
「お、おいしい」
次に出てきた言葉はコレ。
だって、本当においしかったから。
「でしょでしょ?」
うきうきしながら、よっすぃーはエプロンを取る。
- 404 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:35
-
「洗濯もさ、しといたよ」
視界の端の窓の外、私のブラウスとかスカートとかが
ひらひら揺れている。
「掃除も、したんだ」
ほんとだ。
本は本棚に、服は箪笥に。
すべてきちんと整理されてる。
くやしいけど、完璧。
「あ、ありがと」
私はまたどもりながら言う。
よっすぃーは、にこにこしながら私の隣りに座り直した。
「じゃあ、ご褒美頂戴」
ぱたん。
途端に視界が90度傾いて。
「よ、よっ…」
手に持ってたお箸を取り上げられて…。
「梨華ちゃん、大好き」
私は、何も言えなくなってしまう。
ご飯の途中だったのに〜〜〜〜。
- 405 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:38
-
それは、思春期の気の迷いって奴で。
ほら。
よくあるじゃん。
女子校でさ、女の子ばっかだと。
ちょっと男の子っぽい女の子に憧れちゃう、みたいなコトって。
だから…。
「石川先輩っ」
私を見つめる、そのきらきらした瞳に、胸が高鳴った時。
私は自分にそれを許した。
高校卒業までの期限付きで。
「付き合おっか」
冗談っぽく、だけど言ったのは私で。
だけど、それに無言で頷いて、私の頬に手を寄せてキスしたよっすぃー
の真剣な表情に今までにない程にどきどきしてた。
一つ年下のボーイッシュな女の子。
学校中の女の子が、彼女に憧れてる。
きゃーきゃー言っちゃって。
ファンクラブとかふざけたモノまであるらしい。
そんな彼女が、私にだけ真剣な眼差しを送る。
- 406 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:39
-
その優越感。
その高揚感。
だから私は、その女の園にいる間だけ、自分にそれを許した。
それなのに…。
- 407 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:40
-
私の横で、半裸のままで、くーくー寝ちゃってるよっすぃー。
「風邪ひくよぉ」
ちょっとやそっとじゃ起きやしない彼女。
私はクーラーの設定を少し上げて、彼女の為に寝室から
ブランケットを持って来る。
はあ…。
ちょっとため息。
また言えなかった。
おうちに帰りなさいって。
ちゃんと学校行きなさいって。
はあ…。
駄目だなあ、自分。
ちょっと自己嫌悪。
- 408 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:43
-
高校を卒業して。
私は通っていた高校の姉妹校に当たる大学に推薦で入った。
女子大じゃないから、男の子も沢山いる。
慣れない環境に緊張してた4月。
段々、それがフツーになってきて。
こうやって、私も社会に馴染んでいくのね、なんて思ってた5月。
パパたちを説得して、家からちょっとだけ遠い大学の近くで
一人暮らしを始めた6月。
全てのものに馴染んで、ああ、こうして私も大人になるんだわって
感じた、7月。
だけど。
8月も半ばを過ぎた頃。
私の部屋にひょっこり現れた、ソレ。
まだ、誰も部屋に呼んだことはなかった。
初めては、恋人がいいって思ってた。
だから、柴ちゃんも美貴ちゃんも。
誰も上げてなかった。
それなのに…。
「よ、よっすぃー!!」
- 409 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:44
-
ドアを開けたら、そこにはかつての恋人がいて。
「梨華ちゃん!!」
叫んで、覆い被さるように抱きつかれて。
防ぐことも出来ずに、彼女が記念すべき私の部屋の初来訪者となり。
「梨華ちゃぁーん」
「よ、よっすぃ……あっ…んんっ……」
……その、この部屋での、初えっちの相手となり。
「よっすぃー、帰らないでいいの?」
「夏休みだからいーんだ」
初宿泊者となり。
「よっすぃー、もうそろそろ…」
「梨華ちゃん、ウチ、ここにずっといたい」
初居候となってしまった。
- 410 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:46
-
高校だけの恋人だった。
期間限定の。
お遊びみたいな恋愛。
……まあ、やるコトはやってましたが。
それだって、そのシチュエーションがどきどきするからとか。
そーゆーコトに興味があるからとか。
きっと、そういう遊び感覚で。
だから、高校を卒業したら、終わりだって思ってた。
それは、よっすぃーだって理解してると思ってた。
卒業式の日、ちゃんとバイバイだってしたし。
確かに、ちょっと泣いちゃったけど。
それが、未練っぽく見えたかもしれないけど。
泣いてたから、もしかしたら何言ってるのかわかんなかったかも
しれないけど……。
とにかく、さよならしたハズ。
さようなら、楽し学び舎。
さようなら、私の育った園。
さようなら、愛しいよっすぃー。
梨華は、明日から大学という未知の世界で、生きていきます。
さようなら。
さようなら。
…なのに。
- 411 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/07(日) 03:47
-
なのに、どーしてなの?
なんで、よっすぃーはココにいるの?
なんで、私の部屋に住みついちゃってるの?
そして、なんでちゃっかりえっちとかしちゃってんのよ、私たち!!!
- 412 名前:桜折 投稿日:2004/11/07(日) 03:50
-
あ、なんか恥ずかしいトコで更新終わってしまった…。
ということで次の更新は急いでします。はい。
- 413 名前:プリン 投稿日:2004/11/07(日) 16:22
- 更新お疲れ様ですw
(・∀・)イイ!wめちゃんこ(・∀・)イイ!w
次の更新いつかなー(w
楽しみに待ってるでやんす。頑張ってくらはい。
- 414 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/08(月) 00:20
- いつも拝見してま〜す
新作始まって嬉しいです!
続き、楽しみにしてますね♪
- 415 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/08(月) 02:27
- 新作だあ〜ww
積極的な吉いいですね〜
楽しみにしてます
- 416 名前:桜折 投稿日:2004/11/09(火) 01:19
- レス、ありがとーございますです。
>プリン様
更新、今回は早め早めが目標です。って、いつもそうなんですが(汗)
頑張ってご期待に添えれば、と。
>414様
ありがとーございます。
これからも楽しんで頂けるものを作り続けたいです!!
>415様
今回の吉は絶好調です。
前の『春〜』が凹まされっぱなしだったので。ええ(笑)
今回の『寝ても覚めても』全てをこのスレ内で終わらせられるか
かなり微妙です。終われなかったらこの『寝ても〜』のタイトルで
花か風辺りにスレッドを立てるつもりです。
- 417 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:21
-
服を着直していると、よっすぃーが寝返りを打ってうっすらと
目を開けた。
「ねえ、よっすぃー。学校、もう始まってんじゃない?」
「んー」
ぼんやりと答えて、よっすぃーは私の腰に腕をまわす。
私のお腹の辺りに顔を埋めるよっすぃーは、学校で
かっこいいかっこいいって言われてるのが嘘のように、可愛い。
私しか、知らない顔……なのかな?
「ねえ、よっすぃー、学校……」
「行ったよ、今日。始業式だった」
「ええっ!?行って、帰ってきたの?」
「うん。朝、梨華ちゃんが出た後支度して、遅刻だけど学校行って
梨華ちゃんが帰ってくる前に帰ってきた」
「せ、制服は?」
「持ってる」
よっすぃーは、私のお腹からちょっとだけ顔を上げて
自らが指差した方を見る。
それは、よっすぃーが持ってきたカバン。
- 418 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:22
-
「……持ってきてたの?」
「うん」
よっすぃーは頷くと身体を上げて、私の肩に顔を埋める。
「だけど、つまんなかった」
「ねえ、よっすぃー…」
「梨華のいない学校なんて、つまんない」
「よっすぃー、前にも聞いたけど」
「ずっと、こうしてたい」
「ほんとに家出してきた訳じゃないんだよね?」
「梨華ちゃん……」
「ちょっと!!」
ぼそぼそと何か言いながら、私の首筋にキスをするよっすぃーの身体を
なんとか引き剥がす。
「ねえ、ほんとーにおうちの人に言って来たんだよね?」
「てーか、うち、放任主義だから。友達んち泊まり歩いてても
今までも何も言われなかったし」
「で、でもさ。やっぱ、まずいんじゃないかな」
「なにが?」
「やっぱり、おうちから学校行った方が…」
きゅっと。
よっすぃーの顔が悲しげに歪む。
- 419 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:24
-
大きな瞳に、翳りが浮かぶ。
「梨華ちゃん、迷惑?」
迷惑っちゃー迷惑なんだけど…。
そんな目で見られたら……。
「め、迷惑って訳じゃ…」
「だよね。食事の用意も、掃除も洗濯も、全部ウチがやってあげてる
もんね」
う……反論できない……。
よっすぃーよりよっぽど女の子っぽい外見なのに、イマイチ家庭的じゃ
ないんだよね、私。
むしろ、よっすぃーがいてくれた方が有り難い…。
って、何考えてるの、私!!
「学校はさ、もう3年だからほとんど行かなくていいし」
そう言えば。
もう3年の2学期だから、進学校のうちはほとんど必修の授業はない。
「ここにいても、いいよね?」
そ、そんな、捨てられた子犬みたいな目、しないでよぉ〜。
そんな目、されたら。
されたら。
「………うん」
- 420 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:25
-
「やったあ」
ぱっと笑顔になるよっすぃー。
学校ではクールで通ってるのに。
私の前だと、ちょっとだけ子供っぽくなっちゃうの。
そこがまた、可愛いくて、好き。
思わずほっぺたを撫でて。キスしちゃう。
「梨華ちゃん」
熱っぽい目で見つめられて。
唇が触れる。
………って。
うわー。違う違う違う。
前言撤回。
好きだったのよ。
そう、可愛くて、好きだったの。
過去形。
あくまで、過去形。
そう、だって、もうこの恋は期限切れなんだもん。
「梨華ちゃん……」
だけど、また私を押し倒すよっすぃーの腕には逆らえなくって。
私は、意志に反して目を閉じてしまった。
同意するかのように。
- 421 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:27
-
そうこうするうちに、あっという間に1ヵ月が経ってしまった。
ヤバイ。
非常にヤバイ。
1ヵ月前からヤバイヤバイと繰り返しているけど
事態はどんどん深刻になってゆく。
部屋に増えてゆくよっすぃーのモノ。
私のモノなんて、一体何がドコにあるのかもわかんなくって。
よっすぃーに出されたモノを食べてよっすぃーに出された服を
着て生活する始末。
ああ、これってまさに同棲。
てゆーか、妻持ち?
よっすぃー、押しかけ妻??
はあ…。
ため息をつきながら、ロッカーを閉める。
よっすぃーに何もかも与えられる生活。
身体も心も、よっすぃーで一杯で。
それはちょっとだけ心地良い。
…………って!!
ヤバイ。
ああ、完全によっすぃーのペースだ。
- 422 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:28
-
「ねー、この後カラオケ行こーよー」
バイトの同僚、美貴ちゃんの声。
行く行く!!って言いかけて。
朝のよっすぃーの言葉が蘇る。
- 423 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:29
-
「梨華ちゃん、今日はバイト早く終わる日だよね?
予備校サボってご飯待ってるから」
「……受験生なんだから、サボらずちゃんと行って下さい」
「大丈夫だって。ちゃんとここで勉強してるから」
「よっすぃー、受験を甘く見ちゃだめだよ?」
「大丈夫だってば。早く大学生になって梨華ちゃんに
追いつかなきゃいけないんだから。絶対受かるよ〜」
「それならいいけど…(ほんとはあんまりよくないけど)」
「そんなに心配なら、石川先生にお勉強見てもらおっかな」
「私じゃ駄目だよ。受験してないんだもん」
「じゃあ、石川先生はご褒美係ね」
「何ソレ」
「ウチが真面目にお勉強したら、イイコトしてくれるの」
「……行ってきます」
「行ってらっしゃい〜。早く帰ってきてねぇ〜」
- 424 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:32
-
…ちょっと余計なことまで思い出しちゃって、頭痛いけど。
とにかく、今日はよっすぃーが待ってるんだった。
「今日はちょっと…」
口ごもった私を、美貴ちゃんがじっと見つめる。
え、なに?
「怪しい」
なにが?
「最近、梨華ちゃん付き合い悪いよね〜」
そうかな?
「全然ご飯とか付き合ってくれないし」
まあ、おうちにお夕飯が待ってますから。
「飲みとか参加しないよね」
やっぱり、その、よっすぃーがいると思うとね。
自粛しちゃうんだよね。
「前からだけど、全然部屋に上げてくれないし」
…そりゃ、上げられないよ。
女の子と同棲してます、なんて。
説明できないもん。
「さては……」
美貴ちゃんの目がきらん、と光る。
- 425 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:36
-
ええっなに?なに?
バレた?
美貴ちゃん、いつも鋭いもんね。
どーしよう。
なんて言い訳しようっ。
「男が出来たなぁ!?」
………はぁ?
「だからでしょっ。最近付き合い悪いのも、部屋に上げてくれないのもっ」
「い、いや、違うよぉ」
安堵のため息をつきながら否定する。
そーだよね。
いくら鋭くったって、私が女の子と暮らしてるなんて…考える筈もない。
「ホントに〜?」
「ホントだよぉ」
ほっとしながらも、私はちょっとづつネガティブに落ちていく。
…そう。
こんな関係、やっぱり良くない。
もう、子供じゃないんだし。
おままごとは、卒業しなきゃ。
それがきっと、よっすぃーの為にもなるんだから……。
「よしっ。じゃあ、カラオケ大会と行きますかぁっ」
私は、ネガから脱出すべく大きな声を出す。
ホイっとね。
- 426 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:38
-
「そーそー。そーこなくっちゃ!!」
美貴ちゃんも嬉しそうに乗ってくる。
うん。
今日はぱーっと騒いじゃおう!!
今はただ、全部忘れて騒いじゃおう!!
それから…それから………それが終わったら…………。
私は、そっと携帯の電源を切って鞄に入れた。
- 427 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:45
-
それから。
私と美貴ちゃんはカラオケで大騒ぎして。
喉が渇いたからって、近所のちょっとだけ洒落た居酒屋に行って。
おいしくお酒を頂いた。
大学に入ったら、コンパだなんだって飲まされる機会は多いから
もうお酒の味なんてとっくに知ってて。
渇いた喉にこくこくとサワーを流し込む。
カラオケで高くなったテンションにアルコールも加わって、
私も美貴ちゃんもすっごいご機嫌。
きゃーきゃー騒いでたら、なんだか知らない男の子たちが加わってきて。
その強引なノリにちょっとむっとしたんだけど
どんどん、調子よく飲まされちゃって。
なんだか、よくわかんなくなっていってしまって……。
- 428 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:47
-
ふわふわと、浮遊感のする体。
意識は混濁してて。
視界はうすぼんやりと霧掛かり。
あー。
なんかちょっとキモチイイかも。
よっすぃーとイイコトしてる時みたい。なんちゃって。あはは。
………よっすぃー。
よっすぃーの、目が好きだったの。
まっすぐと見つめる、大きな瞳。
うっすら茶色がかった、色素の薄い。
その目に見つめられると、いつもドキドキしちゃった。
「石川先輩っ」
初めて彼女を認識したのは、学校の中庭だった。
振り返ったそこにいる人はきっと吉澤ひとみだろうと、一目で解かった。
その年の始業式から学校の話題をさらった新入生。
きらきらしたその子は、きっとその人に間違いない。
「あの、テニス、上手いんですねっ」
すらっとした容姿。整った顔立ち。
だけど何よりも。
きらきらしたその瞳に、惹かれた。
あれから、色んなことがあったけど。
だけど。
ずっと、あの目を見つめていた気がする。
あの目に、ずっと、恋してた。
そして、おそらくは、今も………。
- 429 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/09(火) 01:49
-
「汚い手で触ってんじゃねーよっ」
声がして。
私を支えていた何かが急に離れて。
ふらふらと力なく崩折れたのは、アスファルトの上。
私の意識はまだおぼつかなくて。
よくわかんない。
世界がぐらぐらするの。
なんか。
地上に叩き落された天使みたい。
今まで、夢見心地に現実と幻想をさ迷ってたのに。
急に冷たい地面に投げ出されて。
天変地異ってカンジ?
神様、私、何か悪いことしましたぁ?
だけど。
すぐに温かな手が私の上に降りてきて。
抱きすくめられる。
その温もりは。
紛れもない、よっすぃーの匂いがして。
私はまた安心して、うっとりと目を閉じた。
- 430 名前:桜折 投稿日:2004/11/09(火) 01:50
-
もっかいくらい、ここで更新できそーですね。
- 431 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 06:25
- 待ってます。
- 432 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 08:57
- リアルタイムで読んでいたので>429の前までドッキドキでした。
そういやレスをつけてないと思い出してこの時間なんですが…。
危なっかしい梨華ちゃんはわりと萌えですw
新スレもちゃんと追いかけますよー!作者さんのいしよしかなり好きです。
- 433 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/10(水) 02:02
- いいなぁ〜いいなぁ〜こういう感じ!
好きさね〜w
是非我らに続きを!!
- 434 名前:桜折 投稿日:2004/11/13(土) 03:30
-
レス、ありあとーございまつ。
>431様
嬉しいです。ありがとーございます♪
>432様
結構、微妙な時間に見ている方がいるんですね(笑)
ありがとーございます。
一緒に来てくださいとこっちがお願いしたいくらいです〜。
自分ではしっかり考えてるつもりでも、見てる方はハラハラする梨華ちゃん。
自分も割と萌えです。あは。
>433様
こういう感じ、いいですか??
参考にします〜。続きも楽しんで頂けると嬉しいです。
案外、最後までここでいけそうな予感がしてきたので、
とりあえずやれるとこまでやってみます。
もしかしたら、掌編ならもいっこここで出来るかも?
- 435 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:31
-
いつか王子様がやってきて、私を幸せにしてくれる。
夢見ていたのは、心からそれを夢見ていたのは、いつの頃までだったかな。
そんなことを、思ってた。
よっすぃーの背で。
よっすぃー。
よっすぃーが、私の王子様だったら良かったのにね。
だけど、きっといつかよっすぃーにも王子様がやってきて。
私のことなんてほっぽって、白馬に二人乗りして行ってしまうの。
よっすぃー。
だから私に出来ることは、今は、あなたを突き放すこと。
それがきっと、あなたも私も傷つけない最良の方法と信じて。
まどろみに、そんなことを思ってた。
- 436 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:32
-
また、地面に落とされる感覚が襲ってきて。
私は慌てて、私を支えるその腕にしがみつく。
お願い、落とさないで。
冷たいのは、嫌。
その温もりに頬を寄せる。
温かいのが、好き。
「大丈夫だよ、梨華ちゃん。もう部屋だからね」
声がして。
私が横たえられたのは自分の部屋のソファだと知る。
「お水、飲む?」
泥のようになって、動くのも億劫な身体。
微かに頷くと気配が動いて、冷蔵庫がパタン、と閉まる音。
また近づいてきたその気配に、重い瞼を上げる。
明かりのついてない、暗い室内。
窓からのほんの少しの月明かり。
よっすぃーはエビアンを口に含むと、私にくちづける。
「ん…」
こくん、と喉を鳴らして飲み込んで。
けれど私は拒絶の声を上げてよっすぃーを押しやる。
- 437 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:33
-
「お酒……臭い…から」
呂律の回らない口で、なんとか言葉を紡ぐ。
「いいよ」
よっすぃーはすぐにそう応えて。
また私の上に覆いかぶさる。
「いや」
私の声が聞こえないように動く手を振り払って。
「嫌ってば」
私は、今度ははっきりと言う。
「……なんで」
上体をあげて、不満顔のよっすぃーが言う。
「嫌なの。やめて」
私の声が、きっぱりと拒絶を告げる。
あんなに回ってた酔いが、冷えた室内の空気とよっすぃーの怒りの気配で
ゆっくりと引いていく。
「よっすぃーは、いつも私の言うこと聞かない。嫌なのは嫌なの」
私の言葉に、よっすぃーの身体が離れる。
「よっすぃーは、いつも私の言うことを聞こうともしない」
部屋の電気が、ぱちり、とつけられ。
瞬間、全てがくっきりと目の前にさらけ出される。
- 438 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:34
-
「何、ソレ」
よっすぃーの声は、いつになく冷たくて。
きっと、学校のクールなよっすぃーはこういう声を出すんだろうけど。
私には馴染みがなくて。
戸惑ってしまう。
「い、いきなり来て。抱きついて。帰りたくないって…」
よっすぃーのまっすぐな目が私を見つめてる。
こんな時も、もれなくどきどきしてしまう私の胸が、憎い。
「私の事情とか、考えてることとかお構いなしで、そうやって、そうやって…」
熱いものがこみ上げてくるのは、酔いのせいだろうか。
きっと、そう。
頭がパニック状態なのも。
目頭が熱いのも。
「梨華ちゃん」
ソファに腰掛けて。
よっすぃーが私の手を握る。
頬に寄せる。
「梨華ちゃん、好き」
目を閉じて、私の手に唇を寄せるよっすぃーが愛しくて。愛しくて。
だけど。
振り払わずにはいられなかった。
怖かったから。
- 439 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:36
-
「あんな下心丸出しの男にはちゃんと拒絶しないのに、ウチにはするんだ」
俯いたままで、よっすぃーが言う。
「ウチが行かなかったらどーなってたと思うの、梨華ちゃん」
私にむけられたその背が、例えようもなく悲しげに丸まって。
「解かってる?解かってないよね!?泥酔して意識ないとこを
連れてかれそーになってたんだよ!!」
吐き出すように、言葉が零れていく。
「何やってんだよ…。ねえ、なんで携帯の電源切ってたの?
ウチがどんな思いで探してたと思ってんの!?」
握り締められた手が真っ赤で。
気付けば耳も真っ赤で。
もしかして、よっすぃーは当てもなく夜の街を探し回ってくれていたのだろうか。
切なさが胸を襲うけど。
同時に、その切なさに比例して、私の中で何かが警告をする。
駄目、って。
ヤバイ。ヤバイ。
- 440 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:37
-
「梨華ちゃん、ウチのことどー思ってんの?」
顔をあげたよっすぃーの、その表情は…とても傷ついたそれで。
「ウチは、真剣だよ」
掠れたよっすぃーの声が、私の中に渦を巻く。
「ウチは、梨華のことだけ考えてる。いつも。
寝ても覚めても、梨華のことだけ考えてる」
怖かった。
そのひたむきさが。
まっすぐさが。
いつもへらへらしてるのに。
ここぞという時、助けにきてくれるよっすぃーが王子様に見える気がして。
怖かった。
それを錯覚と、思いきれない自分を誤魔化せなくなることが。
怖かった。
長い沈黙が続く。
よっすぃーの顔は、みるみる歪んでいく。
何かを堪えるように、苦しそうに。
そして。
「………そうやって、梨華が何も言わないんじゃん」
よっすぃーは立ち上がると、部屋から出て行った。
私は、それを見送ることしか出来なかった。
涙を堪えて。
- 441 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:38
-
電気を消した部屋は暗くて。暗くて。
どうしても孤独を感じてしまう。
見上げた窓越しの月は朧げで。
それがまたこの夜の頼りなさを私に伝えた。
床に寝転んで。
思うのは、あの子のことばかり。
寝ても覚めても、梨華ちゃんのことだけ考えてる…。
よっすぃーの言葉が蘇る。
違うよ、よっすぃー。
あなただけじゃない。
私だって、こんなによっすぃーのことを思ってる。
寝ても覚めても…。
荒々しいこの思いは。
恐ろしいくらいに乱暴な恋愛感情は。
このまま思いに任せて、セーブしていた何かを外してしまったら。
堰を切って溢れ出す。
そしたらきっと、私はあなたなしには生きられなくなってしまう。
それが怖いから。
思いに蓋をした。
言葉を内に留めた。
期限を付けて。割り切ろうとした。
思いに満たされて、溺れてしまわないように。
本当は、よっすぃーが私の話を聞かないんじゃなくて。
私が言わないだけ。逃げてるだけ。
ずるい、私。
- 442 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:39
-
「よっすぃー…」
思いが溢れて、言葉が零れ落ちる。
「よっすぃー…寂しいよ……」
言葉と共に零れた涙は、一滴落ちるとあとからあとから止め処なく零れて。
まるで私の思いのようで。
止められない。
私は嗚咽を堪えることなく、泣き続けた。子供のように。
- 443 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:40
-
暖かい感触。
それが夢だと、とっさに感じた。
だって、この部屋にはもう誰もいない。
こんなに優しく私の髪を撫で、頬を拭い、包み込んでくれる何かは。
これはきっと、優しい夢。
暖かな、あの子のいた記憶。
その手は私を包み込むと抱え上げ、柔らかな布の上に横たえた。
床の上で冷えた体をさすり、毛布を掛けてくれる。
そしてまた、優しく私の頬を撫で…
「行かないで」
それが遠のきゆく感覚に、私は慌てて手を伸ばす。
少しの間、虚空をさ迷った私の手は、しかし、すぐに暖かな手に包まれる。
「よっすぃー…ここにいて……」
夢の中なら言える言葉。
夢の中だから言える言葉。
「行かないで。寂しいの」
「ここに、いて欲しいの?」
聞き慣れたその声は、いつも以上に甘く響く。
「いて。傍にいてよ」
- 444 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:41
-
泣き疲れて眠ったはずなのに、涙がまた溢れてくる。
だけど、きっと目を開けたらそれでこの夢は消えてしまうから。
瞳を閉じて、熱い涙を零す。
「解かった。梨華の傍にいる。ずっと」
「嬉しい……」
頬に触れる感触があって。
涙を拭われる。
そっと触れた唇が、何よりも熱く、ひどくリアルだった。
- 445 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:42
-
あの……この夢はいつになったら覚めるのでしょうか…?
- 446 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:42
-
私の隣りで、よっすぃーは満足げな声を上げて、頬をすりよせてくる。
「梨華ちゃん、ウチ、幸せ…」
おかしい。おかしいよね、やっぱ。
「ねえ、もっかいしよ」
恐る恐る開けた瞳の先には………。
いつものようにへらへら笑うよっすぃーがいた。
「よっすぃー…」
確かめるように顔にペタペタと手を這わすと、くすぐったそうに笑う。
「梨華ちゃぁん」
うそ……夢、じゃない?
びっくりして飛び起きた私に抱きつくよっすぃー。
「う、嘘っ。ほんとに、ほんとによっすぃーなの!?」
気づけばもう朝で。
温かな光の中、よっすぃーは幸福そうに微笑んでる。
「大丈夫だよ。どこにも行かない」
私の髪を掻き揚げて、言う。
「心配しないで」
- 447 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:43
-
ほっとして………ううん、違う。違うの。
驚いて。
私は、うっすら涙ぐんでしまった。
そしたら、よっすぃーは一層笑って
「もー、梨華ちゃんってばホントにウチのこと大好きなんだからぁ」
にこにこしながらそんなことを言う。
……はい?
「梨華ちゃんはウチがいないと駄目なんだよねぇ。仕方ないなぁ」
………。
今、なんて言ったの、よっすぃー?
なにが仕方ないって?
私がよっすぃーのこと大好きでよっすぃーがいなきゃ駄目って??
「はあ!?」
私は、よっすぃーに触れていた手を放して、彼女を見る。
だって、だって、それって絶対おかしい。
どんな流れでそーなっちゃったの?
「まあまあ、素直になりなよ、梨華ちゃん」
よっすぃーはにこにこ笑って、私の頬を撫でる。
むかっ。
- 448 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:44
-
「やめて」
私の髪をいじるよっすぃーの手を振り払うけど
「可愛い」
よっすぃーは一向に私の言葉を聞こうとせずに、振り払っても
振り払っても手を伸ばしてくる。
ちょっと、なによ、なによ。
また人の話聞いてないんじゃない。
アンタ、昨夜泣きながら出てったんじゃなかったの!?
「出てけーーー!!!」
咄嗟に出た私の叫びに、しかしよっすぃーは表情を変えずに
「もう、ホントに梨華ちゃんは仕方ないなぁ」
なんて言って、私の頬をぷにぷにしてくる。
もー!!…って、その肩を押し返したけど。
よっすぃーはひるむことなく私に覆い被さってきた。
「そんな梨華ちゃんがウチも大好きだよ〜」
だから、人の話を聞きなさいよっ
…って、言おうとしたけど、よっすぃーの唇と舌に阻まれて
それは言葉にする前に押し戻されてしまった。
- 449 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:45
-
そして、まあ、お約束になし崩しになった訳ですが。
でも。
やっぱりどうしても。
私はよっすぃーが好きみたいで。
どうしても最後の最後には、突き放すことなんて出来ない訳で。
ちょっとだけ、期間延長で。
神様。
もう少しだけ、この恋に溺れていてもいいですか?
- 450 名前:『寝ても覚めても』 投稿日:2004/11/13(土) 03:45
-
〜END
- 451 名前:桜折 投稿日:2004/11/13(土) 03:47
-
もいっこいけそーなので。
掌編を。
- 452 名前:桜折 投稿日:2004/11/13(土) 03:48
-
『Bаby you’re mine』
- 453 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:49
-
今までに、色んなコトがあった。
ホントに、色んなコトが。
でも、一杯怒ったのも、一杯泣いたのも。
梨華ちゃんが好きだから。
梨華ちゃんがどーしよーもなく好きだから。
解かり合いたかったから。
近づきたかったから。
ねえ、そこんとこ、理解してる?
隣りで、シーツに包まって眠る彼女にそっと問い掛けた。
- 454 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:50
-
昨夜、久しぶりにケンカした。
最近は、今までになく安定してて。
全然ケンカとかしてなかった。
まあ、落ち着いて会う時間もなかったってのもあるんだけど。
原因はホントに取るに足らないことで。
ウチが…子供っぽいことを言って怒らせたんだ。
その、今度の梨華ちゃんの出るドラマで、結婚式の場面があるなんて
聞いてなくて。
スポーツ新聞に、ばばん、と白無垢姿の梨華ちゃんが載って
やっとウチはそれを知った。
「なんで言ってくれなかったの?」
でも、梨華ちゃんはウチの不機嫌に全然気づかなくって。
「えー?」
なんて言って笑う。
ウチが買ってきたスポーツ新聞を見て、にやにやしちゃって。
なんだよ。
自分見てにやけるなよ。キショいよ。
「綺麗に撮れてない?」
しげしげと見つめ。
「やっぱ、日本人は白無垢よね〜」
なんて言う。
……デリカシーないよ、梨華ちゃん。
- 455 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:50
-
「なんで、そんな格好したんさ」
思わず言ってしまう。
だってさ、そんな嬉しそうに、楽しそうに言うから。
「なんでって…お仕事だよ…?」
そう、さも当たり前みたいに言うのがまた悔しくて。
「ふうん、梨華ちゃんはお仕事だったらなんでもするんだ」
そこでやっと、梨華ちゃんはウチの不機嫌に気付いて。
「何言ってるの、よっちゃん?」
「…」
部屋に、重く沈黙が圧し掛かる。
はぁ。
ホントは、そんな気なんてなかったのに。
最近、写真集の撮影だの京都の撮影だの忙しかった梨華ちゃん。
今日は久しぶりのお泊り。
なのに、なんでかな。
これまでに幾度となく訪れた、ウチらの危機がひとつひとつ
フラッシュバックする。
- 456 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:51
-
ウチと梨華ちゃんは、もともと全然趣味とか好みとか違って。
接点なんて全然なくて。
だから惹かれあったのかもしれないけど。
でも、だから、ズレ始めると修復するのがすごく難しくて。
こういうほんの些細なことから、もう絶対に戻れないんじゃないかって
トコまで行っちゃったりする。
時々、自分はごっちんとかミキティとかといた方が
楽なんじゃないかって思うことがある。
梨華ちゃんも、柴ちゃんとか辻とかといる時の方が楽しそうだし。
はっきり言って、何考えてんのかよくわかんない。
今だって。
窓の外を見上げる梨華ちゃんの横顔は綺麗だけど。
何考えてるんだかさっぱり読めない。
こんな、いつまでも子供っぽいヤキモチを焼く恋人に愛想尽かしてる?
それとも…それとも、ウチと同じに、この会話の修復点を探してる?
「よっちゃん、今のケンカって私たちの何回目のケンカかな?」
……やっぱりわかんない。
- 457 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:51
-
「私たち、よくケンカするね…」
ふふって笑う梨華ちゃんの笑顔が…寂しげで。
胸がきゅんとする。
「なんでかな」
俯いて。
髪をちょっと掻き揚げる仕草。
垣間見えた横顔が泣いてるみたいに見えて。
胸が騒ぐ。
ケンカ、したくてしてるんじゃないじゃん。
何故か言葉が出てこなくて。
これ以上ズレてくのが怖くて。
踏み出せなくなる。
「……帰るね」
そう言って、梨華ちゃんが立ち上がる。
え?
ウチがとまどってる間に、梨華ちゃんは入り口に掛けてあった
コートを着始める。
「梨華ちゃん…」
やっとの思いでその名を呼んだ時には、梨華ちゃんはもうブーツに
足を突っ込んでいて。
顔を上げて、ウチを見て。
悲しげに微笑むと。
何も言わずに出て行ってしまった。
- 458 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:52
-
「なんで、こんなことで出てっちゃうのさ?」
いなくなってやっと、言えた言葉。
「なんで、そんな泣きそうな顔するのさ?」
面と向かっては、言えない言葉。
もう、どの言葉を言って、どの言葉を言わなければ
ウチらが上手くいくのか解からなくて。
頭が痛くなっていく。
もう、無理なのかな。
そんな消極的な感情が沸いてくる。
背伸びして。努力して。辛い思いも一杯して。
それでやっと維持してる、今の関係。
きっと、それは梨華ちゃんも同じで。
ううん。
お姉さんな梨華ちゃんは、もしかしたらウチよりももっとずっと
無理してるよーな気がして。
だったら、いっそ終わりにした方がお互いのためなのかも、と。
思わずにはいられない。
- 459 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:52
-
泣きそうに惨めな気分で、床に目線を落とす。
白無垢の梨華ちゃんが、微笑む。
ウチが手を放したら。
きっと、すぐにどっかの誰かがその手を取ろうとするんだろう。
もしかしたら。
梨華ちゃんも、それに頼ったりしちゃって。
うっかり掴まれちゃって。
その気になっちゃって。
こんな写真が、リアルに週刊誌に載っちゃったりして。
思えば、ウチらももうすぐ20歳。
結婚なんてとっくに出来る年齢。
梨華ちゃんがその気になったら、明日にでも結婚出来ちゃうよ。
…それが、梨華ちゃんの幸せなのかな。
その方が、梨華ちゃんは幸せなのかな。
頭が痛い。
- 460 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:53
-
でも。
スポーツ新聞を拾う。
でも。
今はまだ、ウチのもの。
そう思う。
微笑む梨華ちゃんを見て。
まだ、この子はウチのものだ。
ぎゅっと、新聞を握って。
ウチは上着も着ずに外へ飛び出した。
- 461 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:53
-
走る。
住宅街を駆け抜けて。
大通りを、白い息を吐きながら見渡し。
最寄り駅まで全速力。
梨華ちゃんの、ピンクのトレンチを探す。
どこにもいなくて。
でも、絶対にどっかにいるはずで。
ウチは行っては戻り、戻っては別の道へ行き、梨華ちゃんを探した。
「梨華ちゃん…!!」
結局、30分以上も走り続けて。
もしかして、と一度マンションに戻ってその隣にある公園へ行ったら
ピンクのトレンチがブランコに揺れていた。
- 462 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:54
-
何も言わずに俯く梨華ちゃんの手を取る。
冷たくなった手を握って、温める。
「…よっちゃん」
「帰したくない」
梨華ちゃんが何か言う前に、ウチは急いで言葉を紡ぐ。
今なら。
素直に言える気がして。
何も考えずに、言える気がして。
「梨華ちゃんは、ウチのものだよね?」
顔を上げた梨華ちゃん。
その表情が、やっぱり泣きそうで。
思わずぎゅっと抱きしめる。
「離さない」
間を置いて。
梨華ちゃんの手がウチの胸元をぎゅっと掴んで。
微かに、頷くのを感じた。
- 463 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:55
-
窓の外が白々と明らんできて。
梨華ちゃんの寝顔を照らす。
愛しくて。
思いが溢れて止まらない。
そんな気分だった。
ねえ、梨華ちゃん。
昨夜言ったことは、本当に素直な気持ちだったんだよ。
いつまでも離さない。
いつまでも愛してる。
梨華ちゃんは、ウチのもの。
ねえ、そう思っていいよね?
白無垢は……着せてあげられないけど。
これからも、ケンカをしちゃうと思うけど。
でも、幸せな結末を、きっと梨華ちゃんにあげるよ。
だから。
梨華ちゃん。
いつまでもウチのものでいて。
いつまでも、いつまでも………。
- 464 名前:『Baby you’re mine』 投稿日:2004/11/13(土) 03:55
-
〜END
- 465 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/13(土) 11:32
- おおっ!!2つも連続して完結されている!!
2つとも何かググッっとくるものがありました。
いいすね〜やっぱいしよし最高!
- 466 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 17:46
- 完結、お疲れ様です。
ウルッときちゃいました。作者さまの作品、
大好きですよ〜 いしよし・最高♪
- 467 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/15(月) 22:11
- ぶっ通しで読まさしてもらいました。
いしよしホントにいいですよね。
更新待ってます。
- 468 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/17(水) 15:18
- 一気に読ませていただきました。
笑いあり、涙あり、で素敵な作品ばかりでした。
新作を読めるのを楽しみにしています!
- 469 名前:桜折 投稿日:2004/12/05(日) 23:37
- 感想を下さった方、ありがとーございます。
風板に新スレ立てました。また感想とか頂けるとうれしーです。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wind/1102256287/
Converted by dat2html.pl v0.2