on
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 12:05
-
いしよしです。
宜しくお願いします。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 12:06
-
惰眠を貪る、あたしの鼓膜がビリビリと震えた。
こんなふうに力ずくで引っぱり起される、目覚めの電話が
良い知らせの訳は無い。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 12:07
-
「・・・はい」
不機嫌を音に出来たら、まさしくこんな感じ?
けれど、受話器の向こうから返ってきたのは、感情の無い
どこまでも事務的な声。
「吉澤ひとみさん、でしょうか?」
「・・・そうですけど?」
「こちらは、−−病院です。
石川梨華さんをご存知ですか?」
心臓が、ドクンッと一回大きく跳ねた。
ドクンドクンドクン、血の流れが頭の芯で不吉な楽器みたいに鳴っている。
息が上手く出来ない。
あたしは喘いだ。
言葉が喉に引っかかって、なかなか口から出てきやしない。
空咳を繰り返して、やっと出た声は掠れていた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 12:07
-
「・・・あ、あぁ・・・はい、知り合いです。
梨・・・石川さんがどうかしたんですか?」
「実は・・・事故に会われまして・・・あ、ご安心下さい。
外傷は殆んどありませんので、ただ・・・問題が・・・
すみませんが、こちらに来て頂きたいのですが・・・」
・・・事故にあった?梨華ちゃんが?
あたしは息を呑んだ。
けど、外傷は殆んどない、と聞いて、今度は大きく息を吐いた。
そうしたら、頭に疑問が浮かぶ。
たいした怪我をしてないなら、何故病院から電話が来るんだろう?
しかも、あたしのところに・・・
「・・・それは・・・どういうこと、ですか?
怪我は無い、なのに・・・何かあるってことですか?」
あたしは探るような声を出した。
相手はもちろん、そんな事で動じたりはしない。
「取り合えず、来て頂きたいのですが・・・
そうしましたら、主治医の先生から説明があります。
何時頃なら、おいでになれますか?」
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 12:08
-
あたしは学生だ。
選挙権を持っているのを、この国で大人というのなら、一応大人の
仲間入りもしている。
そして、長い夏休みの真っ只中で、時間は余る程、あった。
「・・・そちらの場所、どこですか?」
あたしに行くか行かないかという選択の余地はないらしい。
受話器越しに聞える、答え慣れた案内に、あたしは携帯を肩で挟んで
軽く相槌を入れながら、メモを探した。
- 6 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 12:09
-
お待ちしております、と通話が切れた後。
あたしは暫く手に持った携帯をぼんやりと見ていた。
梨華ちゃん・・・
石川梨華・・・あたしより一つ年上の、たぶん、恋人と呼ぶべき存在だった人。
梨華ちゃんとあたしの間には、付き合おう、という始まりの言葉が
なかった。
だから、さようなら、という終わりの言葉もなかった。
けれど、一年近く連絡を断っていたと言うことは、きっと過去形で
語られるべきことなんだろう。
本当に過去形?
多分、違う・・・少なくとも、あたしの中では。
- 7 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 12:09
-
ずっと待ってた・・・梨華ちゃんから電話がくるのを。
あの、砂糖の山が崩れていくような、甘さの余韻が残る声。
その声が、受話器からこう流れて来る日を想像してた。
「・・・ひとみちゃん。
あのね?わたしわかったの。
わたしやっぱり・・・ひとみちゃんが傍にいてくれないと
ダメみたい・・・」
出逢ったばかりの頃。
二人の曖昧な付き合いの最中。
梨華ちゃんはよく、あのね?ってあたしの顔色を伺うように
上目遣いで話始めた。
それが、また繰り返されることを、あたしは思い描いてた。
梨華ちゃんが傍にいなくなって、ふっと自分の体温が下がったように
感じた去年の冬。
すぐ連絡が来ると信じてた。
梨華ちゃんが、あたしの傍から離れることはない。
根拠のない自信。
明日か、明後日か・・・一週間後か。
けれど、どこかで強く信じてたことは、所詮、あたしの幻想に過ぎなかった。
- 8 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 12:10
-
春が来て・・・
携帯が鳴る度に、どこかが消耗していく自分に嫌気がさした。
あたしは番号を変えようと思った。
だけど・・・それも出来なかった。
そして、あたしはよくわかったのだ。
いつでも、相手に依存し、頼っていたのは、実はあたしの方だったのだ、と。
多分、梨華ちゃんは、そんなあたしに嫌気がさしたのだろう。
付き合う程に、思っていたのとは違うあたしに・・・
どんどん過去へと駆け戻っていく思考をあたしは頭から払った。
いまは想いでに浸っている場合ではない。
あたしは、頭を軽く振って、立ち上がった。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 12:12
-
取り合えず、始まりはこんなところで。
興味を持って下さる方がいらっしゃれば嬉しいです。
途中までタイトルを入れ忘れてました。
お見苦しくてすみません。
- 10 名前:プリン 投稿日:2004/07/14(水) 16:35
- 更新お疲れ様です。
いしよしキタ━(゚∀゚)━!!w
やっぱりいしよしは永遠ですよね(謎
梨華ちゃんどうしたのかな…。心配です。
雰囲気好きですw
次回の更新も待ってます。応援してるんで、頑張ってください。
- 11 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 18:30
-
止まっていたバスの行き先を確認すると、あたしは
ハァハァと荒い息をついきながら飛び乗った。
ぐるりと車内を見回して、後ろの二人掛けの席に座る。
ここから渋滞にはまらなければ、二十分。
降りる停留場は、目的の病院前。迷う心配も無いだろう。
あたしは一息つくと、窓の外に目を遣った。
普段、バスに乗ることがないあたしには、少し高見から見下ろす駅前の
景色が、どこか知らない街に来てしまったようで、所在無さを感じる。
あたしは軽く、目を瞑った。
唐突に、梨華ちゃんと出会った日の情景が浮かんでくる。
- 12 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 18:31
-
私立高校の三年生だった。
明けたばかりの夏休みの名残で、教室は怠惰な熱で溢れていた。
もとよりこの学校に通う者には、三年生に進級しても大学受験に向けて
色めきたつ輩はあまりいない。
殆んどの生徒は、恙無く付属の短大に上がり、勉強というものに
嫌気がさした者は、専門学校へと進路を変えた。
そんな中で、あたしは少し異質だった。
四年生の体育大学に行くことを決めていたから。
だけどそこは、名前を言ったところで誰も知らないような三流大学で
受験に対して、あたしの中で気負いはなかった。
中学からこの学校に通いはじめて、六年間の女子校生活。
あたしは、憧れの先輩という役をやりつづけていた。
自分を慕ってくる女の子は確かに可愛いけれど、それだけだった。
貰った手紙も数知れず。
学園祭で男装した時は、その写真で儲かったから、とダチが奢ってくれた。
- 13 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 18:31
-
時々・・・
自分はいったい何者なんだ?と、あたしは思った。
あたしは正真正銘の女だったけど、気づけば、いつでもどこかで
男っぽさを意識した振る舞いをしてる。
あたしはわからなくなったのだ。
これが自分らしい自分なのか?・・・それとも
そうあることを望まれてるから、意識せずそれに答えているだけなのか、が。
だから、自分のいる場所を変えたかった。
吉澤ひとみという人物の、固定概念を持たない人たちの中へと。
ちょうどそんな時だった。
ダチのごっちんがあたしに声をかけてきたのは。
「吉子さぁ〜 今晩、おヒマ?」
「・・・なんだよ?
気味悪い猫なで声出しちゃって」
「気味悪い〜〜〜?!」
ごっちんはムスッと眉を寄せた後、気の抜けたような声で笑う。
- 14 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 18:32
-
「あはっ
吉子がつれないのは今に始まったことじゃないもんねぇ〜
昔はもぉっと、可愛げあった気もするんだけど?」
「なんだそれ?」
頬杖をつきながら、鼻先で笑うと、ごっちんはあたしを指差した。
「それ、それ〜
カァッコイイィ〜♪吉子ってば、イケメンぶりが板につきまくりぃ〜」
「・・・あっそ」
あたしは、相手をしてられないと言うように横を向いた。
「ごとーさ、心配なんだぁ〜 吉子のこと・・・」
しんみりとした声に、あたしは横目でごっちんを見た。
「は?・・・何がよ?」
「・・・吉子ってぇ〜
男前過ぎて・・・それがさぁ〜キマリすぎなんだよ
そりゃぁ〜ごとーも格好いい吉子って、好きだけど・・・
なんか最近、イタク感じたりして〜」
イタイのか?・・・あたし?
軽くショック。それでもあたしはきっと顔に出していない。
- 15 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 18:39
-
「で〜
たまにはさっ 自分を女の子だと自覚する為にぃー
合コンしよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
はい?
・・・なんでそーなるっ?!
あたしは心ん中で突っ込んだ。
「・・・吉子は・・・このまんまがいーの?
女の子に囲まれてさ、チヤホヤされて?
だけど、そんなの学校の中でだけだよ?
・・・吉子は代わりをさせられてるだけなの
男子がいないから・・・その代わり
だからさぁ〜 ここらで彼氏とか作っちゃってぇ
まわりを、あっと言わさないかい?」
あたしは、なんだか情けない気分になってきて、大げさな溜息をついた。
- 16 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 18:39
-
別に彼氏なんて欲しいとは思っていなかった。
とりあえず、今までは。
だからと言って、女の子の方が好きなのか?と聞かれたら
そう言うわけでもない。今のとこは。
そもそも、恋?お付き合い?どっちにしろあたしには、面倒臭いという
イメージしかない。
だからと言って、そう切り捨てていいのだろうか?
あたしは一応、青春ってヤツの真っ只中にいるのに?
とってみせる態度と裏腹に、実は優柔不断なあたしは、気づけば、この日
合コンとかいう集まりに、行くことになってしまっていた。
- 17 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 18:40
-
夏の終わりの長い夕暮れ時
会場となった居酒屋の入り口は、自分の履いてきた物を入れる為に
空いてる下駄箱を探して、ごったがえしていた。
ごっちんと言葉を交わしてた女の子が、ビーサンを下駄箱に入れようと
していたあたしの方を見て、大声を出す。
「梨華ちゃんっ!こっち、こっちーぃ」
梨華ちゃん?
振り向いたあたしの後ろに、ミュールを手にし女の子がおどおどと回りを
見回しながら、どうしていいかわからないと言うように立っている。
あたしは、その子の落ち着きなく左右に動く顔と手に持っているミュールを
交互に見た。
梨華ちゃんっ!もう一度、怒鳴るように名前を呼ばれて、その子は
ビクッと顔を上にあげた。
へぇ〜可愛い顔した子だな・・・
あたしはなんとなく、その子の顔から目が離せないまま、声をかけた。
- 18 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 18:40
- 「・・・あのさ、良かったらココ、どーぞ」
あたしは自分のビーサンを下駄箱の端に乱暴によせて、隙間をつくった。
梨華ちゃんと呼ばれてる、その女の子は、あたしを上目遣いで見上げた。
その目が少し潤んで見えて、あたしは柄にもなくドキドキした。
「・・・でっでも、あ、あの」
しどろもどろに口をモゴモゴさせる梨華ちゃんに、あたしは軽く笑う。
「たぶん、同じトコみたいだから・・・うちらが飲む場所。
あ、あたし吉澤ひとみ、そっちは?」
「あっ、あ、はい石川梨華ですっ!よろしくお願いしますっ!」
梨華ちゃんはペコンと頭を下げた。
仕草も可愛いと思った。そして、声までも。
女の子を見て、しみじみと可愛いと感じてる自分が、あたしは妙に
照れ臭くなって、素っ気無い声を出した。
「なんかさっきから呼ばれてるよ?
急いだ方がいいんじゃない?」
「・・・あ、はい、そうですね?
ありがとうございますっ!」
梨華ちゃんは、急いでミュールを下駄箱に入れて、もう一度あたしに
ペコンと頭を下げると、パタパタと走って友達の所へ行った。
- 19 名前:on 投稿日:2004/07/14(水) 18:41
-
あたしは下駄箱を見た。
あたしの黒いナイキのビーサンに、寄り添うみたいにくっついてる
ベビーピンクに光るミュールが、なんだか頼りなさげだった。
下駄箱に鍵をかけていると、ごっちんが寄ってきた。
「・・・吉子〜
そのカッコ、ありえない・・・」
「・・・なんで?・・・変?」
「変じゃないよ?変じゃないけどぉ〜」
あたしはごっちんの白いショートパンツから出てる、太腿をチラリと見た。
そっちのがヤバいんじゃん?
そのまま、上へ目線をあげると・・・キャミの重ね着。
コイツ・・・確信犯だ。
やっぱり・・・来なきゃよかった。
あたしは迷彩柄のTシャツの首元を掻きながら、下駄箱の抜き取った札を
膝の破けた、ブラックジーンズのポケットに押し込んだ。
「・・・おまけに吉子、髪が濡れてる」
「あ?・・・あ〜ぁ 暑くってさぁ〜シャワーしてきた。
乾かすのめんどくて。」
「なんか・・・イヤ〜な予感がする・・・」
ポツリと、そう零すごっちんに、それはこっちのセリフだ、と
思いながら、あたしは乾ききってない髪をかき上げた。
- 20 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/07/14(水) 18:47
-
更新しました。
プリン様
早速、レスを下さり、雰囲気が好きと言って頂いて
とても嬉しいです。ありがとうございます。
もちろん、いしよしは永遠です。
これからもお付き合い頂けるなら、もっと嬉しいです。
頑張りますので、よろしくお願い致します。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 19:41
- なんだか面白くなりそうですね。
期待しています。
- 22 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:26
-
あ〜とか、う〜とか、訳の分からない唸り声を上げてる
ごっちんに続いて、あたしは座敷に向かった。
だだっ広い部屋が衝立で仕切られていて、あたし達が行くと
男女合わせて、二十人以上がすでに座っている。
「ぉおっ!来たなぁ〜真希ちゃんっ!まぁ、こっちゃ来いっ!」
見るから大学生の、そこそこ格好よさげな男に手招きされて
ごっちんは、あたしにゴメンと手刀をきると、そそくさと
呼ばれた席に着いてしまった。
そー言うことですか?
ま、いーけどね・・・こっちは適当に抜けてやる。
あたしが座席をザッと見回すと、真ん中辺りに座ってる梨華ちゃんと
目が合った。
梨華ちゃんは、口を、あ、と言うように開けた。
そして、あたしを見上げて、少し恥じらうような、それでいてなんとなく
安心したような、なんとも言えない感じで、可愛らしく微笑んだ。
- 23 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:26
-
胸が・・・ドキン、とした。
あたしは焦った。
女の子に微笑みかけられて、ときめきそうになってる自分に焦った。
こんなこと、いったい今まで何回、何十回、何百回あったことだろう。
というより、日常的な事じゃないか。
頭が混乱しかけた時、あたしのジーンズが横から引っ張られた。
「ここっ!座んなよぉ〜」
「へ?・・・あたしっすか?」
あたしはキョトンとして、自分を指差した。
だってあたし・・・女だぞ?
あんた、男探しに来てんでしょ?
と、言いたいとこだったけど、ひょっとして、この一見イケイケ風の
ギャルいおねーサンも、意外と頭数合わせで来ただけかも知れない、と
思い直して、あたしは素直に座ることにした。
軽く胡坐をかいて、腰を落ち着かせる。
正面の斜め左から視線を感じる気がする。ちょうど、梨華ちゃんが座ってた辺り。
気のせい。気のせい。
あたしの前に置かれていたカップに、横から、おねーサンがビールを
注いでくれた。
- 24 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:27
-
「「カンパーイッ!!!」」
って、何に乾杯してんだよ?・・・あたし
そして、そこっ・・・お前もなっ!
あたしは前方の左端に座るごっちんを軽く睨みつつ、何人かとカップを
合わせると、ビールをあおった。
ゴクゴクとほろ苦い液体を、喉に流し込みながら、何気なく梨華ちゃんの方を
見ると、隣に座る男と話をしてる。
いまさらだけど、ここに来るってことは・・・
あーんな純情そうな顔してるクセに・・・男探しかよ!
けど、あーゆう一見純情派のが、男好きってよくある話じゃん?
どーでもいいけど、ブサイクなヤツとしゃべっちゃって。
あんなのより、あたしのがよっぽど・・・
「ね?・・・かっこいいねっ」
「はっ?・・・どこが?」
あたしは、隣りのおねーサンの話しかけてきた声を、鼻先で嘲笑ってから
やべーと思って辺りを見回した。
梨華ちゃんに話しかけてる男に気を取られてた。
だけど、見渡す限り・・・
いるかぁ〜?かっこいいヤツ?
まぁ、ごっちんの横の男はまあまあイケてるけど。
- 25 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:27
-
「・・・違うよぉ〜 キミだよ、キミッ!」
「あ、あたしぃ〜〜〜?」
おねーサンはニヤニヤ笑いつつ、あたしのカップにビールを足す。
「惜しいなぁ〜 キミ、男の子だったら、私、絶対、お持ち帰り
されちゃうのにー」
「・・・は、ははは・・・」
あたしが引きつって乾いた笑い声を上げてると、背後から声がした。
「私も混ぜてよーっ!
今日、いい男いないわね〜 この子、ちょっと格好いいけど♪」
うーそーだぁー
なんで合コンに来てまで?
なんで、あたしは女の子が両脇に?
もう、いい。別に男探しに来た訳じゃないし。
じゃ、何しに来たんだ?・・・あーもー考えるの止めっ!
- 26 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:28
-
あたしは余計なことは考えずに、おねーサン達と、適当に楽しむことにした。
それでも、時折、梨華ちゃんの方を盗み見てしまう。
そして、あたしは気がついた。
梨華ちゃんが実は嫌がってることに。
お酒を飲むように言われて、首を横に振ったり。
会話の途中で、何げなさを装いつつ、思いっきり下心がありそうな
目つきで、腕に触ってくるのを避けたりしてる。
あたしはムカムカしてきた。
このまま立ち上がって、あの男との間に入り込み、梨華ちゃんの前に
置かれたカップのビールを一揆飲みしてやったら、どんなにスッと
するだろう。
あたしが、男だったら・・・
迷わず、そうしてる。
だけど、合コンなんて、男女の出会いの場で女のあたしが、そんなことしたら
みんな固まってしまうだろう。
あたしは構わない。
だけど、今日初めて会った女の子に、そんなことをされても梨華ちゃんは
きっと、困るだろう。
- 27 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:28
-
助けてあげることも出来ず、かと言って、見なかったことにも出来ない。
あたしは、梨華ちゃんの様子を気にしながら、イライラと飲んでいた。
今度は、男が梨華ちゃんの手をおもむろに握った。
そして、梨華ちゃんの手の平の上で、指をさして何か言ってる。
俺、手相見れるんだ、とかってヤツですか?
オマエーッ!いーかげんにしとけっ!!!
もー我慢出来ないっ!後のことなんか知るもんかっ!
あたしが立ち上がろうとした時、俯いてた梨華ちゃんが、スッと立ち上がった。
何かいう男に、小さく頭を下げている。
そして、俯いたまま小走りに座敷から出て行った。
どこに行くつもり?
トイレ?それとも帰る気?
あたしは下駄箱のことを思い出して、サッと立ち上がった。
どうしたの〜?という、おねーサンの声に、ちょっとトイレ、そう言って
あたしも座敷から、足早に出る。
- 28 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:29
-
まずは、下駄箱だ。
酒が入って、大音響を上げてる客席を通り抜け、下駄箱へと行く。
いない。
またまた、多重音量響く店内を横切りトイレへ。
個室は三つとも空いてる。そんなバカな。
入れ違いか?
あたしは座敷に戻って、開け放たれた障子の影から梨華ちゃんの座ってた
席を見る。戻ってない。
おいおい、どこ行ったんだよ?
あたしはもう一度、下駄箱に行ってみた。
すのこが敷かれた先の店の出入り口。
斜めに揺れてる店の旗の横に人影が見えた。
あたしはハァと息を吐いて、下駄箱から自分のビーサンを出して履くと
梨華ちゃんのミュールを指先に引っ掛けて、その後ろ姿に声をかけた。
「お客さーん
店のサンダルで、外に出られたら困るんですよー」
「ごっごめんなさいっ!」
慌てて振り向いた梨華ちゃんの、大きく見開かれた目。
その目が少し、赤くなってて・・・あたしの胸がチクリと痛んだ。
- 29 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:29
-
泣いてたの?
そんなこと聞けやしない。
だけど・・・この子を、梨華ちゃんを、もうあの場所に座らせることは
したくないって、あたしは思った。
「・・・抜け出そうよ」
「え?」
「このまま、どっか消えない?」
「・・・えぇ?」
「・・・店に戻りたいならどーぞ、あたしはもう帰るけど?」
「わ、わたしもっ・・・
わたしも、お店には戻りたくないのっ!」
「んーじゃ、決ーまり!ほいっ」
あたしはミュールを、梨華ちゃんの足元に置いた。
梨華ちゃんがおずおずと履き替える。
その足元にしゃがみ込んだあたしが、店のサンダルを手に立ち上がろうと
すると、とても小さな声が頭の上から聞える。
「・・・ありがとう」
あたしは、かなり照れくさくって、サンダルを持って立ち上がると
店の入り口へと返しながら、わざと大声で言った。
「えぇ〜?今、なんか言った〜?」
- 30 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:30
-
「次は−−病院前です。お降りの方は、お近くのブザーを・・・」
無機質な案内の声に、あたしはハッとして、ブザーを押した。
バスは色あせた大きな白い建物の前で止まる。
ステップを降りながら、あたしはまたぼんやりと考える。
- 31 名前:on 投稿日:2004/07/15(木) 11:30
-
いま思えば、あれは思いっきり一目惚れってヤツだった。
後になって、こんなことがあったから、とか、あんないいところがあったから
好きになったんだ、なんて、そんなのは、女の子に恋してしまった自分自身を
どうにか納得させようと、してるだけにすぎない気がする。
本当は・・・梨華ちゃんが女の子だってことも、関係ないのかも知れない。
なんだかわからないけど、誰かを好きになってしまう。
だけど、なんだかわからないじゃ不安だから、理由を後から探すんだ。
好きになってしまった理由を。
恋って、案外、そんなものなのかも。
梨華ちゃんとの恋は・・・ずっと特別なものだと思ってた。
それは密かな自慢だったし、重荷でもあった。
なのに・・・実はありふれたものだったのかも知れない。
誰かが、誰かを好きになった。ただ、それだけのことで。
それが・・・あたしと、梨華ちゃんだった、と言うだけで。
- 32 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/07/15(木) 11:32
-
更新しました。
21名無飼育様
レスをありがとうございます。うれしいです。
励みになります!
ご期待に答えられるかは、わかりませんが・・・
頑張ってます(笑)
- 33 名前:プリン 投稿日:2004/07/15(木) 13:31
- 更新お疲れ様です♪
すごく(・∀・)イイ!
こういうの大好きです!
よっちゃんの一目惚れいいですねぃ。
梨華ちゃんが心配だなぁ。
次回の更新も待ってます!頑張ってください!
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/15(木) 23:21
- 更新お疲れ様です。
始めから読んでます。読み易くて面白いですね、
続きが楽しみです!!理華ちゃんが心配だけど・・
いしよし・ってやっぱり好きだな〜
- 35 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 11:51
-
「・・・どうも」
あたしは口をもごもごさせて、部屋の中にいる、梨華ちゃんの主治医に向かって
軽く頭を下げた。
どうも?・・・って、なんだそりゃ?
どんな挨拶なんだか。何が言いたいんだか。
自分でもわかりゃしない。
こういう時、自分をシミジミ、子供だと思う。
子供?・・・それも違うか?
大人になりきれてない。半人前ってヤツだ。
挨拶も満足に出来ない、最近の若者。
そう思われただろうか?そして、主治医は不安を感じるのだろうか?
こんなあたしが、自分の患者の引受人なこと。
どうでもいいことばかりが頭に浮かんで、肝心なことが考えられない。
軽くパニクってる証拠。
医師は、あたしの方を見ながら、何の感情も表さない声で静かに言った。
「・・・お大事に」
そしてそのまま、デスクにむかってカルテにペンを走らせる。
あたしは卑屈なくらい顔を俯かせて、ドアを閉めた。
- 36 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 11:51
-
病室に向かいかけた、あたしの足が竦んだように動かなくなる。
困ったなぁー・・・マジ、困った。
こんなに動揺してていいんだろうか?よくないだろ?
梨華ちゃんが、不安がるに決まってる。
ポーズだけでもいいから、どうにか取り繕わないと。
あたしはエレベーターのボタンを押した。
- 37 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 11:52
-
診察時間が終わった、待合室は閑散としてる。
心なし、薄暗くさえ感じたりして。
そこだけやけに煌々としてる自販機で、ウーロン茶買って、待合室の
ソファに、ドンッと身体を投げるみたく座る。
なんとなく回りを見回すと、剥げかけた、出涸らしのお茶みたいな色の
壁に囲まれて、蛍光灯の光がぼんやりと明るい。
なんだかな。掃除されてない水槽ん中。・・・みたいな?
パチンッ
プルトップを引く音が長い廊下の先に消えてく。
ゴクッと勢いよく飲んで、顎を伝ってきた液体を手の甲で拭うと
あたしは天井を見上げて、溜息をつく。
さっき見たばかりの医師の顔が、もうぼやけてる。
あたしってさ、記憶力ねーよなぁ・・・
だけど・・・言われたことははっきりと覚えてた。
- 38 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 11:52
-
「・・・吉澤さんは、石川さんとご親戚ですか?」
医師は抑揚のない声で聞いた。
親戚?違うよ。
だけど、この場合・・・
あたしは、当たり前だと言うように強く頷いてみせた。
「・・・そうです。遠縁なんですけど。」
「石川さんが、ここに搬送された時ですね、丁度、勤務先の封筒を
持ってらしたから、そちらにまずご連絡して、吉澤さんの連絡先を
教えて頂きました。・・・驚かれたでしょう?」
「・・・はぁ」
あたしは唐突に思い出した。
あれは、梨華ちゃんが就職して間もない頃だった。
- 39 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 11:53
-
春の午後。麗らかな日差しは、細く、長い光の線を、あたしが見てる
テレビの上に引いていた。
少し開けた窓から入る風が、ピンクグレーのカーテンを、ほわんと
膨らませる。
会社から渡された封筒から、ガサガサと薄いパンフレットみたいなのとか
とか、紙の束とか、次々出して、テーブルに並べてた梨華ちゃん。
「・・・あ、どうしよ」
あたしに話しかけたと言うより、思わず口から漏れちゃったって
感じの小さな呟き。
「・・・ん?」
「・・・・・・・・・・」
あたしが、テレビを見たまま出した声に答えはない。
寝転がった体勢から起き上がると、胡坐をかいて梨華ちゃんの顔を見た。
「どーしたよ?」
「・・・緊急連絡先だって・・・うーんとぉ・・・困っちゃうな」
梨華ちゃんは、眉を寄せながら、困ると言うより、ちょっと情けないって
顔をして笑った。
- 40 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 11:53
-
梨華ちゃんのご両親は交通事故で亡くなっていた。
それは梨華ちゃんが小学校に上がる、直前のことだったらしい。
そのせいか、梨華ちゃんはその頃の記憶がひどく曖昧だと
あたしに話してくれたことがある。
高校まで親戚の家にいた梨華ちゃんは、短大進学を機に一人暮らしを
することにしたらしい。
−保険金があったから、お金の面で迷惑をかけることはなかったけれど
やっぱり、ね−そんな風に、言ってたっけ。
あたしは言った。
「・・・あたしの名前書けば?
いちーち調べたりしないでしょ?
もし何か聞かれたら・・・遠縁とかなんとか言えばいいじゃん」
「・・・いいの?」
「いーんじゃない?」
あの頃、あたしは考えたことも無かった。
あたしと梨華ちゃんが離れてしまうなんて。
二人が存在する位置も。もちろん心、なんて見えないモノの
位置さえも。
梨華ちゃんが、あたしをいらなくなる日が来るなんて。
・・・考えたことも無かったから。
- 41 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 11:54
-
ずっと傍にいるつもりだったから。ずっと、ずっと。
何も言ったりしなかったけど。そのつもりだったから。
書類に、吉澤ひとみ、と、あたしの名前を書いてる梨華ちゃんの
手元を見ながら、あたしは言った。
婚姻届みてー。梨華ちゃんは笑ってた。
少し恥ずかしそうに。すごく嬉しそうに。
あたしはちょとだけ切なくなって。その何倍も愛しくなって。
梨華ちゃんを抱きしめてた。
いまの自分の気持ちを上手く伝えることは、あたしには一生かかっても
出来ない気がした。
だからあたしは、梨華ちゃんを抱いた。
梨華ちゃんを愛してるって伝えたくって・・・抱いたんだ。
- 42 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/07/20(火) 11:55
-
更新しました。
プリン様
イイですか?嬉しいです、かなり。
梨華ちゃんって、一目見たら思わず好きになってしまいそうなんで。
あの雰囲気が・・・ついつい(笑)
34名無飼育様
読んで頂いて、うれしいです。ありがとうございます。
書くのって難しいな、と感じながら、読んでもらえるのって
うれしいな、と思って頑張ってます。
- 43 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 21:40
-
「えー、それで石川さんなんですが・・・事故、といいますか・・・
子供を庇う為に、車道に飛び出たらしいんです。
しかしですね、車の方のブレーキが早かったことと、石川さん自身も
脇へと転がって、幸い、自動車自体との接触はなかったんですよ」
ただ・・・その先の医師の言葉を思い出すのは、今はもう、その内容を知ってる
だけに、気持ちが重くなる。
さっきは、梨華ちゃんが無事だということで、ほっとしてたけど。
ほっとしてる場合じゃなかった。はっきり言って。
医師はこう続けた。
「・・・その時に、頭部を打ったらしく・・・。
精密検査の結果、異常は見られないので、一時的なものと思われるのですが
記憶障害をひきおこしています。」
- 44 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 21:41
-
記憶障害って・・・?
あたしは、よっぽど呆然とした顔をしてたんだろう。
訳わかんねーよってな感じで。
「一定の記憶が無くなったり、一定の記憶しかなかったり、と個人の記憶の
障害です。
心因的要素がなければ事故のショック症状で、一時的に記憶が混乱を起したと
いうことになるのですが・・・ただ、具体的に、いつになれば、元通りに記憶が
戻るのか、と、言うことは、現時点では・・・」
現時点では・・・って。なにそれ?
わからないって言いたいんだ?・・・そんないい加減な・・・
あたしは奥歯を噛締めながら聞いていた。
「頭部を打った前後の記憶障害と言うのであれば、よくある事ですので
こちらとしましても、すぐに思い出されるんじゃないでしょうか、と
お答え出来るですが・・・石川さんの記憶障害は、極めて稀なケースでして。
今回のことはきっかけに過ぎず、なんらかの心因的ショックが原因という
事も考えられますので。」
- 45 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 21:42
-
・・・そうだ。
梨華ちゃんのご両親は、交通事故で、って聞いてた。
どんな事故だったのか、あたしは梨華ちゃんに聞くことはしなかったから
詳しくは知らないんだけど。
だけど、交通事故・・・
それが目の前で起こりそうになって。
たぶん、子供が危ないと思った梨華ちゃんは、思わず飛び出してて。その後、頭を打った。
そんな状況で、昔の事故の影響がないとは言いきれないのかも知れない。
あたしがそのことを話すと、医師はカルテに精神科要相談と
書き込んでいた。
「・・・それで、ですね?吉澤さん・・・」
医師は眼鏡の奥の目を上目遣いにして、あたしを見た。
- 46 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 21:42
-
そして、あたしは医師の言うことに、言葉を失った。
本当に驚いた時、人は何も言えないのだ。
嘘だー。マジ?んな訳ないって。
どこかで、間の抜けた自分の声がする気がした。
ひょっとしたらあたしは薄く笑ってたかも知れない。
言葉で打ちのめされるってことが、始めてわかった気がした。
今も信じてないのかも。まだ、あたしは。
そうだ。この目で見なくちゃ。見なくちゃいけない。
・・・行こう。行くんだ、梨華ちゃんの病室に。
あたしは自分を奮い立たせるために、言い聞かせた。
そして、ウーロン茶を一揆に飲み干すと、立ち上がった。
- 47 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 21:43
-
病室の前で、名前のプレートを何回も確認する。
ゴクッ。喉が鳴った。
力が入りそうな拳を軽く握って、あたしはドアをノックする。
・・・コンコン
少し間があって、はぁ〜い、と、あどけなさを感じさせる返事。
あたしはガチャッとノブを回して、のそりと部屋の中に入る。
「・・・こんにちは、梨華ちゃん。」
笑おうとしたけど、上手く出来なかったらしい。
梨華ちゃんは少し、難しい顔をした。
そして、誰なのかと思い出そうとするように、小首を傾げる。
「・・・おねーちゃん、だぁれ?」
あぁ・・・・・
あたしは目を閉じた。ベッドに座ってるのは。ここにいるのは。
自分を五歳の子供だと思ってる、梨華ちゃん・・・だった。
- 48 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 21:43
-
「・・・おねーちゃん、りかのこと・・・しってるの?」
梨華ちゃんの、もともと高音で可愛らしい声が、少し下足らずになって
ゆっくりと話し出す。
「うん。よく知ってるよ?梨華ちゃん、頭痛くない?」
「もうへーき!」
梨華ちゃんは、子ども独特のふわんとした無防備な笑顔を見せる。
あたしもそれにつられて、取り合えず、笑顔になれた。
「・・・良かった。」
「ねー おねーちゃんもどっかいたいの?にゅういんしてるの?
りかね、もう、たいいんしていいんだって。せんせいいってたもん。
おむかえくるのまってるの。・・・ママ、まだかな?」
窓の外を、そわそわと見る梨華ちゃんに、あたしはまた言葉を失う。
迎えにこない人を待ってる梨華ちゃん。
あたしはその窓を見ている頭に、心の中で必死で呼びかけた。
・・・梨華ちゃん、梨華ちゃん、ねぇっ梨華ちゃん!!!
あたしを知ってる梨華ちゃんはここにはいないのに。
- 49 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 21:44
-
目頭が熱くなってくる。ヤバイ。しっかりしろっ!
あたしは深く深呼吸して、梨華ちゃんを声に出して呼んだ。
「・・・梨華ちゃん」
梨華ちゃんは振り向いた。あたしを真っ直ぐな目で見返してくる。
「あのね?梨華ちゃんのママ・・・パパもなんだけど、すっごく忙しくて
しばらく、迎えに来れないみたいなんだ。
それでね、お姉ちゃん頼まれたの。梨華ちゃんのことよろしくねって。
だから、お姉ちゃんとお家に帰って、待ってようよ。」
梨華ちゃんは、驚いたように目を見開いた。
その目にじわじわと涙が浮かんできて、あっと言う間に流れ出す。
そして、両手を目にあてて、えんえんと声を出して泣き出した。
しまった。ショックだったか?・・・だけど・・・だけど
他になんて言えばいいんだよ?!
あたしはオロオロして、よくわからないけど謝っている。
「・・・ごめん。ごめんね?」
梨華ちゃんは鼻を啜って、なんとか泣き止もうとしてる。
あたしはそんな姿を、いじらしいと思い、泣きじゃくる梨華ちゃんの頭を
そっと撫でた。
- 50 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 21:44
-
梨華ちゃんは、えっえっと喉を詰まらせながら、顔にあてた手をどけて
あたしを見た。
「パ・・・パも、マ、マも・・・いっ・・・いっつ、も、おお、おしご、と
りか・・・り、かの、こと、す、すきじゃ、な、ない、んだぁぁぁ」
あたしの胸にバッと顔を埋めて、梨華ちゃんは激しく泣き出した。
両手でギュッと、あたしのシャツを掴んで。
その手も、そして体中も、小さく震わせながら。
梨華ちゃん・・・
小さな梨華ちゃんは自分をそんな風に思ってたの?
自分は好かれてないと思ってたの?
だとしたら、お父さんとお母さんがいなくなった時
いったいどんな風に感じたんだろう?
あたしは梨華ちゃんをギュッと抱きしめた。
- 51 名前:on 投稿日:2004/07/20(火) 21:45
-
「違うよっ 好きじゃないなんて、それは絶対違うから!
本当に、忙しいだけなんだ。
・・・きっと、お仕事が終わったら、すぐ帰ってくるよ。
それまで待ってよう?お姉ちゃんと一緒に。
だって・・・だってさ、梨華ちゃんは覚えてないかも知れないけど
お姉ちゃんは、梨華ちゃんに初めて会った時から、梨華ちゃんのこと
大好きになっちゃったんだよ・・・だから・・・一緒に待っていたいんだ、ね?」
梨華ちゃんは頷いた。
コクコクと何度も。何度も頷いていた。
- 52 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/07/20(火) 21:46
-
更新しました。
話を進めようかと。本日二回目ですね・・・(苦笑)
突っ込みどこ満載かと思われますが・・・
お付き合いして下さる方がいらっしゃれば嬉しいです。
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/20(火) 22:48
- 更新お疲れ様です。最初から読ませてもらってる者(笑)です
こちらこそ、いしよし・書いてもらって嬉しいです。
梨華ちゃ〜ん・・・うっ・・よっすぃ、守ってあげて・・。
更新、ゆっくり待ってます。
- 54 名前:ひー 投稿日:2004/07/20(火) 23:36
- はじめまして。
今、はじめて読ませていただきました。
面白い展開ですね。
とてもワクワクしちゃってます。
次回の更新を楽しみにお待ちしております。
- 55 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2004/07/22(木) 01:32
- いきなりインパクトに引き込まれました
設定と回想からの演出が見事ですよね
梨華ちゃん描写が最高に胸にきます
なんでこんなにも幸せを願ってしまうのか…
とにかく作者さん応援してます!!
- 56 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:25
-
「・・・梨華ちゃん、アイス食べよっか?」
「・・・いいの?」
「うんっこーんなおっきなパフェとか?梨華ちゃん、食べきれないかも?!」
あたしが自分の両頬の前で、バスケットボールくらいの円を描くと
梨華ちゃんは目をキラキラさせた。
あたしは目の前にある喫茶店に入る。昨日から考えてたこと。
この店は、あたしと梨華ちゃんが出会った日に、二人で寄った店。
あの時、メアド交換して・・・電話番号も教えあって。
最初に電話したのはどっちだったっけ?
・・・あぁ、そうだ。梨華ちゃんから、ありがとうってメール着て。
あたしが電話したんだ。もう一度、会いたかったから・・・
「いらっしゃいませぇ〜二名様ですか?・・・お席にご案内します」
ウエイトレスのやたら陽気な声。
過去に戻ろうとした、あたしが引き戻される。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼び下さい。」
- 57 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:27
-
窓際の席に案内され、メニューを差し出すと、ウェイトレスはテーブルから
離れて行く。
おずおずとテーブル越しに見上げてくる梨華ちゃん。
「いいよ。好きなの食べて。どれでも、ね。」
梨華ちゃんの顔中が、パァァァと明るくなる。
メニューをガバッと開いて、顔を近づけ、難しい問題を解くように
眉を寄せる。
ちょっと小首を傾げて。メニューの写真を確認するみたいに指差したりしながら。
あどけない仕草。迷う表情。
かわいい、かわいいね?梨華ちゃん・・・だけど・・・
「・・・おねーちゃん、りかね〜これにする。」
あたしをおねーちゃんって呼ぶ梨華ちゃん。
- 58 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:28
-
その梨華ちゃんが指差すのはピンク色のパフェ。麦藁帽子みたいに生クリームを被って。
ラズベリーの飾りを付けてる。
「梨華ちゃんは・・・ピンクが大好きだもんね?」
「そうなの。だいすきなの。おねーちゃんはなにいろがすき?」
「何色かなぁ〜?」
「りかね?おねーちゃんにはあおいいろがにあうとおもうな。
おそらみたいないろ。」
梨華ちゃんは窓の外を指差した。真夏の青い、青い空を。
- 59 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:29
- ウェイトレスを呼んで、注文をした。
梨華ちゃんはウエイトレスが通るたび、自分の所にくるのかと構えてる。
ちょっとドキドキしてる顔。
違うとわかるとつまらなそうに、両足をブラブラさせた。
「お待たせ致しました。」
ウェイトレスがテーブルの前に立ち、パフェに手をかけると、梨華ちゃんは
身を乗り出した。
「りかのっ!そのアイス、りかのだよっ」
ウェイトレスが一瞬、驚いたように両目を見開く。
そして、何事もなかったかのようにパフェを梨華ちゃんの前に置いた。
次に、あたしの前にもティーソーダがコツンと置かれた。
自分の頬がカッと熱くなるのがわかった。あたしは俯いていた。
「わーいっ!アイスだぁアイスだ〜♪」
梨華ちゃんは歌うように、大きな声で言った。
「・・・ごゆっくりどうぞ」
あたしは俯いたままだった。顔が上げられなかった。恥ずかしかったから。
梨華ちゃんといることを恥じている自分も情けなかった。
そして、グラスの中で小金色に輝やく気泡を見ながら小さく頷いた。
- 60 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:31
- 「おねーちゃんっ!りかのアイスおいしーよぉ
おねーちゃんもたべる?」
梨華ちゃんは長いスプーンを不器用そうに持って、一匙すくうと、あたしの
口許へと差し出す。
顔が思わず強張る。回りからの視線を感じる気さえする。
あたし達はいったいどう見えるんだろう?あたしは首を横に振った。
「あた・・・お姉ちゃんはいいから、梨華ちゃん食べて。」
梨華ちゃんはつまらなそうに唇を尖らせた。
りかのすっごくおいしいから。おねーちゃんにもあげようとおもったのに。
小さく呟く声。無邪気な思い遣り。胸の奥がつんと痛んだ。
あたしは顎を上げて組んだ両手に乗せると、口を大きく開いた。
「梨華ちゃん、梨華ちゃんっ!やっぱ、ちょーだい
お姉ちゃんも食べたくなっちゃった」
- 61 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:32
- 梨華ちゃんはニコッと笑った。
ちょっとまっててね?スプーンですくう、大きな一匙。
それを、あたしの口の中に入れて、得意げに広げる笑顔。
「ね?おいしいでしょ?りかのいったとおりでしょ?」
あたしは笑った。うん、おいしいね。梨華ちゃんと一緒に食べるとおいしいよ。
舌の上で、とろりとした甘さが広がっていく。
「おねーちゃんのきれいね?」
グラスの中で、あがっていく気泡を見ながら梨華ちゃんが指差した。
「飲んでみる?」
あたしがグラスを梨華ちゃんの前へと出すと、目を見開いて、いいの?と聞く。
- 62 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:33
- うん。頷くと、梨華ちゃんの目は、あたしに向かって、うれしい、と言っている。
わかりやすいなぁ。もともと顔に出やすいタイプだったけど。なんか・・・新鮮。
梨華ちゃんは、勢いよくストローで吸って、ちょっと咽た。
くす、あたしが笑うと、梨華ちゃんはちょっとムッとした。
「りかねーシュワシュワってにがてなの。」
シュワシュワ?・・・あぁ炭酸ね。シュワシュワかぁ〜なんか面白れー
あたしは頬杖をつきながらニヤニヤした。
「りか、これいらない。」
梨華ちゃんはつんっと顔を背けて、また、アイスを食べだした。
おやおや。あっと言う間にコロコロと変わる表情。
アイスを口に頬張る、梨華ちゃんの顔を見ながら、あたしは慌ただしかった
昨日の事をぼんやりと思い出していた。
- 63 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:33
-
昨日、泣きつかれて眠ってしまった梨華ちゃんに置手紙をして、あたしは病室を出た。
だいすきなりかちゃんへ
おねえちゃんはあしたむかえにきます
いいこにしてまっててね
何度か書き直した。自分が親からも好かれていないと思ってる五歳の子供。
そんな梨華ちゃんを置いていっていいのかも迷った。けど、なんの準備もしていない。
梨華ちゃんが目を覚ました時、また泣かなければいいけど。
あたしはドアをそっと閉めながら、梨華ちゃんの寝顔を見て、そう思った。
会計で費用を聞いて、明日退院する手続きをした。
かかるお金は、それだけではない。しばらくの間の生活費。そして、住むところ。
あたしはポケットに手を入れて、その中にある鍵を握り締めた。
それは・・・梨華ちゃんの部屋の合鍵。
この会わなくなった、一年足らずの間に何回も捨ててしまおうと思った。
そしてやっぱり捨てることは出来なかった。
まさかこんな風に使うことになるなんて。
- 64 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:34
- あたしは目まぐるしく頭を回転させた。幸いうちの親はあまり煩くはない。
あたしは娘だったけど、下は弟ばかりで息子を育てることに慣れた母親は
一番上のあたしにも、厳しいことは言わなかった。
あたしは一度、家に帰って母親相手に一芝居打った。
急にサークルの夏合宿に参加しなくてはならなくなったこと。
その費用を貸して欲しいということ。バイトして返すから、と頭を下げた。
少し訝しげな顔をする母親に、ごっちんの名前を出した。
どうしてもって頼まれちゃって。
友人は大切にしろ、そう、あたしに言い続けてた母親は、長い付き合いのごっちんが
困ってるから、と言うと、渋々ながら了承してくれた。
後で、ごっちんと話を合わせておかなきゃな。
期間は、一応十日にした。これ以上長くしたら怪しまれそうだし。
最悪、その後はごっちん家でも泊まりに行くことにするか。
わずかながらの貯金が入った通帳のキャッシュカード。簡単な着替え。
あたしは急いで準備すると、家を出た。そして梨華ちゃんの部屋に向かった。
- 65 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:35
- 通いなれた道。一時期は半同棲みたいに入り浸ってた部屋。
手の平に馴染んだ鍵を回す時、時間が戻った気がした。
このままドアを開けて、勝手にシャワーを浴びたり、冷蔵庫からなんか出して
飲んだり、寝転がってテレビを見てたら、梨華ちゃんが後から帰ってくる気がする。
ただいまぁ〜ひとみちゃん、来てたんだぁ?
ね?聞いてっ!今日、会社でね・・・
そんな風に繰り返されてた、あの頃の二人の時間、が。
あたしは頭を軽く振って、幻想を追い払うと鍵を回した。
- 66 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:35
- 部屋は・・・・・・まったく変わっていなかった。
そのことにあたしは、大きく息を吐く。安心していた。
そして気がつく。実は自分がこの部屋に入ることを怖がってたことに。
あたしは、梨華ちゃんがテレビ台にしている、ローチェストの一番上の細い引き出しを
開けた。そこには梨華ちゃんの保険証があった。
大事なものをしまってある場所もかえてないんだ?
何も変わってない部屋。あたしがよく来てた頃と。来なくなった今でも。
雑然と散らかってるところも変わらない。なんだか可笑しかった。
そしてなぜだか、なぜだか少し、悲しかった。
- 67 名前:on 投稿日:2004/07/29(木) 01:37
- こうして、この部屋は何も変わってないのに・・・それがわかるのに。
今日、あたしが会ったのは・・・見た目は何も変わってなく見えた梨華ちゃん。
なのに、あたしを覚えていない梨華ちゃん。
それが、梨華ちゃんの心が、あたしの目には見えないところが変わってしまったことの
表れのような気がして。
あたしとのことが、梨華ちゃんにとって忘れてしまいたいことだったから・・・
だから記憶を失くしたの?
馬鹿げた被害妄想・・・わかってる。
だけど、じわじわと、静かに浮かんでくる涙は、あたしの視界をゆらゆら揺らした。
懐かしい梨華ちゃんの部屋の光景を歪んで見せる。
- 68 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/07/29(木) 01:39
- 更新しました。
53名無飼育様
読んで下さって嬉しいです。
お待ち頂けるほどの話がかけるのか?正直、自信ありませんが
頑張ります。
ひー様
はじめまして。読んで下さって嬉しいです。
ワクワクして頂ける方がいらっしゃるのがわかると、自分も
ワクワクしてしまいます。
ラヴ梨〜様
お読み下さって嬉しいです。
過剰にお褒め頂いたような・・・恐縮です。そして光栄です。
応援の言葉、ありがとうございます。
- 69 名前:プリン 投稿日:2004/07/29(木) 12:22
- 更新お疲れ様です!
梨華ちゃん可愛い(/▽\*)
切ない・・・ですが可愛いのでよしw(爆
最後ら辺の部分は・・・泣けてきますね。
次回の更新も待ってます!頑張ってくださいw
- 70 名前:on 投稿日:2004/08/03(火) 22:41
-
「ごちそーさまでしたっ!」
窓の外の日差しみたいに、勢いよく耳へと響いてくる高い声。
ハッとして見ると、梨華ちゃんがペコンと頭を下げた。
すぐに顔を上げて、ニコニコッと笑う。
あたしも微笑み返した。穏やかに。
「帰ろっか?梨華ちゃん」
「うんっ!」
店の外に出ると、梨華ちゃんは手を伸ばして、探るようにあたしの
手の平を捕まえた。
チラリと見ると、そこにあるのは真っ直ぐにあたしへと注がれる視線。
とても無邪気に。逸らされることなく。
「おねーちゃんっ!りか、おねーちゃんのおうちにおとまりするの?」
「・・・うん。寂しい?パパとママ、いなくて?」
- 71 名前:on 投稿日:2004/08/03(火) 22:42
-
梨華ちゃんは首を横に振る。
「さびしくないよ?
おねーちゃん、りかにすっごくやさしいもの。
いっしょにいてくれるっていってくれたもんっ
りか、りかね?おねーちゃんがだいすきになったの!」
大きく目を見開いて、感じたままの好意をあたしに一生懸命
伝えようとしてくれる。キラキラと、その目を輝かせて。
「・・・そっか、よかった。
お姉ちゃんさ?梨華ちゃんのこと、すごい好きだから嬉しいよ」
この梨華ちゃんになら、あたしは正直に言える気がした。
あたしの言葉の一つ一つに嬉しそうに笑う目。
その目の中にある真意なんて、考える必要のない会話。
自分がどこか、ホッとしてることに気づいた。
あたしはどこかで望んでた?こういう梨華ちゃんを?
あたしのことだけ見て。あたしの声だけに頼る梨華ちゃんを。
- 72 名前:on 投稿日:2004/08/03(火) 22:42
-
あたしは梨華ちゃんをジッと見た。
「ね?梨華ちゃん・・・お姉ちゃんの名前
ひとみって言うんだ。名前で呼んで欲しいな・・・」
「ひ・・・とみ、ちゃん?」
梨華ちゃんは、ちょっと難しい顔をして小首を傾げた。
「りか・・・おねーちゃんのこと、そうよんでたの?
まえにあったとき?」
「そうだよ。ずっと・・・ね」
「りか、あたまいたくなったでしょ?それでわすれちゃったのかな?
・・・ごめんね?・・・おね・・・ひとみちゃん」
上目遣いで、心細そうに梨華ちゃんは呼んだ。あたしの名前を。
一瞬、ドキッとして・・・。
そして、情けなかった、自分が。
この梨華ちゃんに、あの梨華ちゃんの代わりをさせることなんて
してはいけないのに。・・・わかってるのに。
- 73 名前:on 投稿日:2004/08/03(火) 22:43
-
電車に乗って、梨華ちゃんの部屋の最寄駅で降りた。
さんざん悪趣味だとバカにしてた梨華ちゃんの部屋を、あたしの部屋だ
と、言うことに、多少の抵抗はあるけど。
記憶を失くしてても、梨華ちゃんは梨華ちゃん。
きっと、あの部屋が気に入るだろう。
近くのスーパーで買出しして行こう。
料理って、あんま得意じゃないけどね。
梨華ちゃんが、急に足を止めた。公園の横で。
熱のこもった横顔で、ブランコや滑り台を見てる。
あたしは、フッと思い出した。
いつだったか、この前を通りかかった時、寂しそうに見えた梨華ちゃんを。
- 74 名前:on 投稿日:2004/08/03(火) 22:43
-
気候のいい時期だったと思う。
長袖一枚で。風が気持ちよくて。
何時頃とかも覚えてないけど。子供が大勢遊んでた。
あの時も梨華ちゃんは、急に足を止めた。公園を見ながら。
「・・・わたし
小さい時のことって、あんまり覚えてないんだよね。
ひとみちゃん、覚えてる?」
「うぅ〜ん、どうかな?・・・ビミョー
あぁけど、あたしんちって男兄弟じゃん?
木登りしてたぜぇ〜あたし。上手かったんだな、コレが。
ねーちゃんスゲーとかって、弟達に尊敬されてた」
梨華ちゃんは、あたしの顔を見て微笑んだ。
優しく、そして悲しく。
「・・・あたし、思うの。
たぶん・・・なんていうのかな?
本当に大事な・・・普段忘れているようで、でもずっと忘れられない
想いでとかって、そうやって出来てるんじゃないかなって。
些細な・・・そんな想いでが重なって、その人らしさっていうか
そういうのになっていくんじゃないかなって。」
- 75 名前:on 投稿日:2004/08/03(火) 22:44
-
「あたしには・・・それが抜けてるの。
だから自分に自信がないのかも。」
「まーた、ネガティブなこと言っちゃって。んなの、オーバーだって。
あたしそんなん、全然、思い出したりしないし。
なんなら、遊ぶか?付き合うぞ〜」
あたしは笑い飛ばした。
あたしから見たら、ホントにつまんないことだったから。
だけど、梨華ちゃんにとっては・・・どうだったんだろう?
あたし達は、あの日、子供に混ざって遊んだりはしなかった。
・・・ひょっとして、梨華ちゃんは想いでが欲しかったの?
手に入らなかった、子供の頃の想いでってヤツが?
人はいつでも、ないものねだりなんだ。バカバカしいほど。
今のあたしには、それがよくわかる。
あたしも、あの頃もってたものを、失くしてしまったから。
それを取り戻したくて・・・諦め切れなかったから。
- 76 名前:on 投稿日:2004/08/03(火) 22:44
-
午後の陽の高い時間。暑さのせいで誰もいない公園。
その前で、こうしてまた、梨華ちゃんと立ってる。
あたしは、今ならあげられるかも知れない。
あの日、梨華ちゃんが諦めてたものを。
それを記憶が戻った時の梨華ちゃんが覚えているのかは
わからないけど。たぶん忘れてしまうんだろうけど。
「梨華ちゃんっブランコ乗ろ?どっちが高くこげるか競争だ!」
あたしが出した大声に、弾かれるように梨華ちゃんは走り出した。
繋いでた手を振り解いて。
あたしより速く、あたしより高く、ブランコをこぐ為に。
- 77 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/08/03(火) 22:45
-
更新しました。
プリン様。
レスありがとうございます。かなり励みです。
少し切ないかも知れませんが、それも恋することのスパイスかと。(笑)
けれど、書いてる自分が焦れて甘い物が書いてみたくなりますね。
- 78 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2004/08/04(水) 01:14
- 可愛いとしか言えなくてスミマセン!
幼い梨華ちゃんがホントに可愛くてトロけます
こんな子がいたら、何があっても裏切らない、守りたい…そんな気持ちを呼び起こしてもらえる小説ですね
続き楽しみです
- 79 名前:on 投稿日:2004/08/04(水) 23:39
-
途中で買い物をした。一緒にスーパーで。
お菓子ばかりを次々欲しがる梨華ちゃん。
しょうがないなぁ〜って・・・笑ったりしながら。
今晩はオムライス。
これくらいなんとかなるだろ?なるのか?・・・ま、いっか。
明日の朝はベーグルの玉子サンド。お昼はホットケーキ?
そして明日の夕飯は・・・うぅ〜〜〜ん、ま、明日考えよう!
きっと、なるようになる。なんとかなる。
梨華ちゃんがさっきから抱えて、絶対、離さないものがある。
ハート型のピンクの缶に入った、クッキーの詰め合わせ。
蓋には、あたしでさえ知ってるディズニーのプリンセスが
何人も描かれてる。
そう言えば最近よく見かける気がする。流行ってんのかな。
梨華ちゃんは、買って!買って!!!なんて声を上げたりしないけど
缶を大事そうに抱えて、あたしのシャツの裾を引っ張ると
上目遣いで、ジィィィーーーッと見上げてくる。
- 80 名前:on 投稿日:2004/08/04(水) 23:39
-
その目はおしゃべりに、あたしに訴え続ける。
欲しいの。欲しいの。これが欲しいの。どうしても欲しいの。
はいはい、わかりました。
こんなにも幼い、梨華ちゃんの仕草。それに惑わされて、言いなりになる
あたしっていったい?
小さく溜息をつきながら、あたしは言った。
「いいよ。買ってあげる。」
「わーいっわーい!ひとみちゃんっひとみちゃんだいすきっ!」
梨華ちゃんは、ガバッと、あたしに抱きついてきた。
今にもキスまでしそうな勢いで。
・・・ははははは。
女の子を物で釣る、オヤジになった気分。
- 81 名前:on 投稿日:2004/08/04(水) 23:40
-
梨華ちゃんの部屋への帰り道。梨華ちゃんは歌を歌う。
大きな声で。身体を大きく揺すって歩きながら。
〜おさんぽ、おさんぽ、たのしいなぁ〜♪
なんの歌?あたしが聞くと、梨華ちゃんはニッコリ笑った。
「おさんぽのうた!りかがね、りかが、いまつくったの」
梨華ちゃんはまた歌いだす。楽しそうに。歌わずにはいられないって
感じで。同じフレーズを、ただ繰り返して。
部屋に入ると、梨華ちゃんは目を丸くした。
ひとみちゃんもピンクがすきだったんだね?りかといっしょだね。
・・・イヤ違うんだけど。
そう言う訳にもいかず、あたしはしようがなく頷く。
「おじゃましまーす!」
梨華ちゃんは、さっさと部屋に入って、キョロキョロ見回すと
ベッドサイドに置いてあった、ピンクのクマを抱きしめた。
いいこいいこって言いながら、ぬいぐるみの頭を撫でたりしてる。
- 82 名前:on 投稿日:2004/08/04(水) 23:40
-
あたしは買ってきたものを片付けながら、梨華ちゃんに声をかけた。
「梨華ちゃん、なんか飲む?喉渇いたでしょ?」
梨華ちゃんは、うん!と、頷きながら、あたしの傍にきた。
もちろんクマの手を引いて。
「・・・ひとみちゃん、りかね〜あれがたべたいの」
梨華ちゃんは買ってきたばかりのクッキーの缶を指さした。
「ダメだよ。これは明日ね。
もう少ししたら、オムライス作ってあげるから。」
あたしは辺りを見回して、背伸びをしながら食器棚の上に
クッキーの缶を乗せた。そのままグイグイと奥に押す。
梨華ちゃんには届かないでしょ?これでよし。
お腹すいてないと、あたしの作ったもんなんて美味しくないに
決まってる。
梨華ちゃんは口では、はぁ〜い、と言いながら、それでも
恨めしそうに、食器棚の上を見上げていた。
- 83 名前:on 投稿日:2004/08/04(水) 23:41
-
麦茶をグラスに入れて、梨華ちゃんに渡す。
向こうで座って飲んでて。
傍にくっついてきたまま、あたしと一緒に動く梨華ちゃんにそう言った。
「・・・はぁ〜い」
梨華ちゃんはつまらなそうに返事して、テレビの前にぺたんと
座り込んだ。
買ったものを片付け終わったあたしが、横に座ると、梨華ちゃんは
甘えた声を出す。
「りか、ひとみちゃんのおひざのうえにすわりたいっ」
・・・・・・・・・・ハァ
「・・・いいけど」
「わ〜〜〜いっ♪」
梨華ちゃんはストンと、あたしの胡坐をかいた足の上に乗っかった。
そのまま、力の抜けた背中をあたしにピッタリと預けてくる。
- 84 名前:on 投稿日:2004/08/04(水) 23:41
-
「・・・りか、ひとみちゃんのおうちにこれてよかった
おばさんのとこにいかなくていいんだよね?」
「おばさん?」
梨華ちゃんはコクンと頷きながら、クマをぎゅっと抱きしめた。
「だって・・・パパとママがおしごとでおうちにかえってこないとき
いつもおばさんのおうちにいくんだもん」
おばさん?誰だろう?
考えても、あたしにわかるわけないんだけど。
それでも梨華ちゃんが、そのことを嫌がってるのは、その背中から
なんとなく伝わってくる。
「おばさんち・・・行きたくないの?」
梨華ちゃんは動かない。じっとしたままで。
「・・・おばさん、りかのこときらいなんだとおもうの」
- 85 名前:on 投稿日:2004/08/04(水) 23:42
-
また、だ。梨華ちゃんは・・・また、そう思ってる。
「・・・なんで?なんでそう思うの?おばさんにそう言われたの?」
梨華ちゃんは、違う、と言うように首を振った。
「・・・おばさん、りかとあんまりおはなししてくれないの。
りか、りかね?おてつだいとかしようとおもって、おばさんの
とこにいくと、あっちいっててっていわれるの。
おはなししようとすると、こわいおかおになるの。
おそとにもつれてってもらえないし。
りかね、おばさんのおうちではいつもテレビみてるの。
ずっと、ずーっと、ひとりで。
おうたうたうと、うるさいっておこられるから、テレビも
しずかにしてみてるんだよ。
あとね、おえかきもするよ?おえかきはおこられないから。」
梨華ちゃんの、ただでさえ華奢な背中が、本当に小さく見えた。
なんの力もない、一人では生きてはいけない小さな子供。そのままに。
- 86 名前:on 投稿日:2004/08/04(水) 23:42
-
梨華ちゃんのお父さんとお母さんが、どんな仕事についてたのか
あたしは知らない。
それはとても多忙で、家が留守がちだったらしい、と感じるだけだ。
けして梨華ちゃんを大切に思っていなかったわけではないと思う。
おばさんのことも、大人から見れば、多分、梨華ちゃんの面倒を
きちんと見てくれていたんだろう。・・・だけど
だけど・・・幼い梨華ちゃんには、それが伝わっていなかった。
子供の梨華ちゃんは、きっと、もっとわかりやすい好意を、いつも
求めていたんだろう。
好きだよ。大切だよ。愛しているよ。
そんな言葉をシャワーのように浴びせて、抱きしめる。
そういう単純なことが。そして、自分は好かれてるんだって
そう思える時間が。梨華ちゃんは欲しかったんだ。
- 87 名前:on 投稿日:2004/08/04(水) 23:43
-
梨華ちゃんは小さく欠伸をした。
色々あって、疲れてしまったんだろう。
梨華ちゃんの姿は、あたしの知ってる大人の女のものだったけど、
今のあたしには、不思議と幻が重なって見える。
寂しい、小さな子供の梨華ちゃんの姿が。
「少し、お昼寝する?」
あたしは梨華ちゃんの背中を抱きしめて、あやすように揺らした。
「ん〜〜ひとみちゃんもいっしょにねてくれる?」
「いいよ〜 だっこしてあげる」
梨華ちゃんは口許に手をあてて、キャッキャと笑った。
その時、梨華ちゃんの家の電話が鳴り出した。
- 88 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/08/04(水) 23:44
-
更新しました。
ラヴ梨〜様
レスありがとうございます。かなり嬉しいです。
何があっても裏切らない、守りたい、そう思って頂けたなら
この小説を書いて良かった、と、心から思えます。
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/05(木) 00:58
- とっても、おもしろいです。
設定もシリアスだけど面白いと思います。
そして梨華ちゃんがとってもかわいい。
けど、この梨華ちゃん、すごく心配です。
よっすぃ〜、がんばれ。
- 90 名前:もも 投稿日:2004/08/07(土) 00:04
- こうしんお疲れさまです。
大好きないしよしがとても可愛いです。
幼い梨華ちゃんがスッゴク(・∀・)イイ!!
自分も暖かく見守って行きたいと思います。
- 91 名前:プリン 投稿日:2004/08/07(土) 13:11
- 更新お疲れ様です♪
梨華ちゃんかわええー!!!!
甘える梨華ちゃん(*´Д`)ポワワ
大きい梨華ちゃんもいいですが、小さい梨華ちゃんも(・∀・)イイ!w
今後どう展開していくのか気になるところです…
次回の更新待ってます。
- 92 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:35
- 咄嗟に立ち上がる事が出来なかったあたしに、留守電の
無機質な女の声がスピーカーから、梨華ちゃんの不在を
相手に伝えてる。
(−−発信音の後、メッセージを・・・)
(××商事、保田と申します。石川さんの有給休暇が
二週間残ってますが、その時点で回復されない様なら
一度、ご連絡頂きたいのですが・・・)
事務的な落ち着いた声が淡々と流れてくる。
けど、一度切られた言葉の後、早口にその人は言った。
(石川〜あんた大丈夫なの?お見舞いいけなくてゴメンッ
そこにいんの?・・・ねぇ?
ちょっとーアンタ、ほんと大丈夫なのっ???)
ピィーーーッ
メッセージの録音時間が切れて、耳障りな電子音が、シンとした
室内にいつまでも残って響いてる気がした。
- 93 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:36
- あたしはその人が、もう一度電話をかけてくる気がして
暫く身体を硬くしていた。
それどころかその人の声は、梨華ちゃんが電話に出て・・・
・・・先輩っ!石川は大丈夫ですって・・・
そう言わない限り、この部屋の電話を鳴らし続けるんじゃ
ないか?そう思わせるほど、その声は・・・その声は・・・
切羽詰った感じで・・・とても真剣だった。
・・・ヤスダサン
顔は知らない。けど、その人がどんな人かって事は、まるで
知り合いの様によく分かっていた。
・・・いつからかその人の名前は、梨華ちゃんの口から出ない日が
無いんじゃないか?とあたしに思わせた名前だったから。
- 94 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:39
- 梨華ちゃんは社会人になると、会社の話をよくした。
それは最初、仕事に対する戸惑いや、いつものネガティブな
自己批判に始まって、あたしは呆れた顔して、面倒臭そうに
話を聞きながら、学生時代と少しも変わらない梨華ちゃんに
どこかでホッとしていた。
・・・保田さんって先輩がいてね?
梨華ちゃんが、その名前をよく口にするようになった頃から
ふと気づくと、いつも頼りなげだった梨華ちゃんの顔つきが
少しづつ変わってきているのを、あたしは複雑な気分で
見ていた。
・・・最初はね?なんだか怖い人って思ってたの
・・・でも本当は、優しいのね
・・・なんて言うのかな?すごーく大人なのっ
仕事がバリバリ出来て、テキパキと皆を仕切って。
その上、面倒見がよくって、頼まれごとを断ったりしない。
だけど、仕事だけじゃなく、いつでも場の空気がきちんと読める
適切な処理能力。上司も一目置くような先輩。
なのに実は、影で皆が嫌がる事を黙って片付けてたりもする。
そして、それを顔に出すことはしない。
いつも飄々と。
- 95 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:40
- なんて完璧な年上の女・・・あたしは苦笑いを浮かべること
しか出来ずにいた。
保田先輩がね?保田先輩がね?保田先輩がね?
梨華ちゃんの唇がそう動けば動くだけ、あたしの口は開く事を
止めていった。
もう分かったよ!止めてよっ・・・ねぇ?梨華ちゃん?
あなたはその人とあたしを比べているの?
あたしの傍にいることを後悔してるんじゃないの?
格好悪すぎて、口に出来ない言葉ばかりが、あたしの中に
溜まっていく。
何でも出来る先輩、世の中の事が分かってる大人の女。
それに比べて・・・あたしは・・・
まだ大学に入ったばかりの、自分のことさえ分からない様な子供。
勝負は見えてるじゃん?笑っちゃうよ。
- 96 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:40
- あたしは楽しそうに会社での出来事を話す梨華ちゃんに
笑い返すことさえ出来ないようになっていった。
いつもつまらなそうな顔して。
ねぇ梨華ちゃん、ほんとはさ?
ひとみちゃんって見かけばっかり・・・
わたしはそれを知らなかったから、付き合ったりしちゃって
世の中には素敵な人がいっぱいいるのに・・・損しちゃった。
そんな風に思ってるんじゃないの?
あたしの中に溜まり続ける毒は、どんどん濃度を濃くして行く。
このままじゃいけない・・・それは感じていた。それでも
この部屋に来ることは止められなかった。
少しでも会わずにいたら・・・
梨華ちゃんの気持ちが、どんどんあたしから離れていく
気がして。
・・・あなたはあたしの物だ。
- 97 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:41
- だから・・・あたしは・・・
梨華ちゃんが、あたしを拒むことをけして許さなかった。
・・・今日は嫌・・・
そう言われた夜は、よけいに激しく抱いた。
あなたはあたしの物だから。それを、思い出させてあげるよ。
あたしが押さえつける様に抱いた夜。
夜更けに、布団から出て、声を殺して肩を震わせてる背中を
見ないふりをした。
- 98 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:41
- 愛してる、愛してる、愛してる、あなたを。
・・・なのに、伝える言葉は出てこない。
離れないで、離れないで、離れないで、あたしから。
・・・縛ることでしか、方法が浮かばない。
初めての恋。他の事はもう、どうでもよかった。
あなたをあたしだけのものにしたい。
誰にも渡したくない。
誰かに取られるくらいなら・・・いっそ・・・
少しずつ、少しずつ・・・おかしくなっていった、あたし。
今ならそれが・・・わかるのに。
- 99 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:41
- 「・・・ひとみちゃん?ひとみちゃんっ???」
あの、梨華ちゃんとの関係が駄目になった頃の自分に戻り
かけてる、あたしの気持ちを、今ここにいる梨華ちゃんの
戸惑う声が、現実のあたしへと返してくれる。
膝の上で、座り心地悪そうに振り返って、あたしの頬っぺたを
ピタピタとさわっていた。
「・・・ん?」
「どうしたの?ひとみちゃん、どっかいたいの?」
梨華ちゃんは泣きそうな顔をして、あたしの顔を見た。
「・・・あ・・・ん?・・・ちょっと頭がね・・・でも、もう大丈夫だよ
・・・ハハ」
あたしが無理に笑って見せると、梨華ちゃんはあたしの頭に
手をちょこんと乗せて、ゆっくりと擦り出した。
「かわいそう・・・かわいそうね?ひとみちゃん・・・
いいこ、いいこ・・・」
- 100 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:42
- 自分もどこかが痛むように、声まで泣きそうになって
梨華ちゃんは、あたしの頭を撫で続ける。
「あ!りか、おまじないしてあげるっ
いたいの、いたいの、とおいおそらにとんでいけー!」
梨華ちゃんはあたしの頭に置いた手をグシャグシャっと
動かすと、そのまま片手を高く上げた。
そして真剣な目で、あたしの顔を覗きこむ。
あたしの事を心から心配して。
自分の事のように心を痛めて。
・・・なんで・・・なんで
あたしは忘れてしまっていたんだろう?
あたしもこんな風に・・・心から、そう・・・心から
梨華ちゃんを大切に思っていたことを。
傍にいたいと願っていたのは、それは、いつでもあなたの
味方であることを、信じて欲しかっただけのはずなのに・・・
- 101 名前:on 投稿日:2004/08/27(金) 19:42
- 梨華ちゃんの笑顔が大好きで。
その為なら、なんでも出来るって思ってた。
その顔が曇ることがあるなら、あたしが晴れやかに
笑わせてやろうって思ってた。
・・・なのに、いつの間にか、あたしに向ける笑顔が少なく
なっていった梨華ちゃんを・・・あなたの事を・・・あたしは
責めていた。
なぜそうなったのか、気づこうともしないで。
あたしの頬を・・・涙が伝っていく・・・
梨華ちゃんがあたしの傍にいなくなってから、初めて
流れ出た想い。あなたが、離れて行ってしまった事が
その現実が、今やっと、わかった気がした。
視界が揺れて、目の前の梨華ちゃんの顔も歪んで見える。
なんてバカなあたし。
なんて可哀想な梨華ちゃん。
あたしは、驚いて泣き出す梨華ちゃんをギュッと抱きしめた。
「・・・ごめんね?梨華ちゃん・・・ごめんっ・・・」
腕の中にいる梨華ちゃんに、想いでの中の梨華ちゃんに
あたしは謝り続けていた。
- 102 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/08/27(金) 19:43
-
更新しました。
89名無飼育様
面白いと読んで下さる方がいらっしゃるのが
自分の書きたい気持ちの原動力です。
もも様
梨華ちゃんを子供にしてしまう事に迷いがあった作品
なのですが、受け入れて頂けて良かったです。
プリン様
リアルのお二人も、そんな気では無いのに傷付け合ってしまって
そんなことがあっても、離れて欲しくないと願い書いております。
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/27(金) 22:28
- ぬぅおぉぉぉぉ!!!
つれーよなぁ〜よっすぃ〜
- 104 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:41
- 背中を擦ったり、今度はあたしが頭を撫でたり、感傷的な
気分はどこかに飛んでいってしまった。
ひきつけを起したのかと思うほど、震えていた梨華ちゃんの
身体から、だんだん力が抜けて行って、ホッとしたあたしは
抱きしめていた腕の力を抜いた。
「ひ、ひとみちゃぁ〜ん」
梨華ちゃんはあたしの背中に回していた両手に、また力を
入れて、ギュッと抱きついてくる。
愛しいと思った。
闇雲に自分に抱きついてくる梨華ちゃんが・・・ただ、愛しくて。
心のずっと奥底から、ただ、その気持ちだけが溢れ出てきて。
全身で、あたしを必要だと語りかけてくる、梨華ちゃんを
こうして、抱きしめていると・・・理由なんかない・・・だけど
- 105 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:41
-
何故だか・・・お互いを支えあえている気がした。
- 106 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:42
- あたしは、その後もグズる梨華ちゃんをどうにか宥めて
ベッドに並んで横になった。
「・・・おててつないでて?」
軽く掛けたタオルケットを口許まで引き上げて、あたしの
顔を見ながら、梨華ちゃんは恥ずかしそうに笑った。
その表情は、あたしの見慣れた、今までの梨華ちゃんそのものに
見えて・・・
さっきまでとは、また違う居た堪れなさが、あたしの胸に迫ってくる。
あたしは繋がれた手に力を入れて握り返しながら、何か
答えてあげようと開きかけた口を、結局そのまま閉じた。
今、何か口にすると、目の前にいる梨華ちゃんには言っては
いけないことを言ってしまいそうで、あたしは、ゴクリと喉を
鳴らしながら、梨華ちゃんより先に目を閉じた。
ほんとは自分でも、何が言いたいのか、わからなかったけど。
- 107 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:42
- そのまま寝たふりを続けていると、暫くして、横から
規則正しい寝息が聞えてきた。
あたしは、そっと目を開けた。
横目で梨華ちゃんの寝顔を見て、そのままなんとなく
天井を見上げる。
ぼんやりと薄暗くなっていく部屋の中で、天井を見上げて
いるうちに、いつだったか、梨華ちゃんがポツリと話出した
日のことを思い出して、あたしは、それを探した。
そして見つけた・・・黒い小さな虫の影のような染み、を。
- 108 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:45
-
「あれって・・・虫?」
二人で眠るということに、緊張よりも安心を感じられる様に
なった頃だったと思う。
あたしは、隣りで横になってる梨華ちゃんの言葉に、目を
凝らして、光量のほとんどない部屋の暗い天井を睨んだ。
「・・・梨華ちゃんがさ〜部屋、汚くしてるから、蝿じゃねーの」
あたしが笑いを滲ませた声で言うと、梨華ちゃんは大袈裟に
溜息をつきながら、もぉ〜と責めるような声を出した。
「冗談だって・・・ただの染みじゃん?」
あたしの答えに返事がないから、首を回して見ると、梨華ちゃんは
何か考える顔をしながら、染みを見詰めてる。
そして、こう言ったんだ。
「・・・A fiy is on the ceiling 」
「え・・・なんだって?」
「・・・天井の上に蝿が留まっている」
「・・・はいぃ?」
- 109 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:46
- あたしが、想像出来ない突拍子もないことを言い出すのは
梨華ちゃんの得意技だったけど、今のはひどすぎる。
呆れて声が裏返ったあたしに、梨華ちゃんはやけにしんみりと
した声を出した。
「・・・中学校の時ね?先生が言ったの。
onって、〜の上にって訳するんじゃないんだよ?って
その支えがなければ落ちてしまう状態って意味なんだって。
上辺だけで覚えてると、すぐに忘れてしまうけど、その意味を
ちゃんと考えていれば、忘れないだろう?ってね。」
「・・・・・・・・」
あたしは、なぜだか返す言葉が浮かばなくて黙ってしまった。
「・・・わたし」
梨華ちゃんは何か言いかけて、やっぱり黙ってしまった。
そして、こっちを向くとあたしの顔をじっと見た。
- 110 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:46
- 「・・・なんだよ?」
「ふふっ・・・なんでもなーい!おやすみなさい」
梨華ちゃんはそう言うと、笑顔の余韻を唇に残したまま
目を閉じた。
その顔がなんだか幸せそうに見えて。
あの晩あたしは、やたら訳わかんない幸福感みたいのなのが
湧き上がってきて、それにすっかり満たされて。
かなり気持ちよく、ぐっすりと眠れた。
そして、梨華ちゃんの隣りで眠れば、その気持ちはずっと
続くと思ってた。
なのに・・・
- 111 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:47
- 梨華ちゃんがあたしから離れていくんじゃないか?
そう思い始めたあたしは、自分の作った幻想の物語に追い
つめられて行って。・・・そして
現実の、目の前の梨華ちゃんではなく、空想の中に住む
幻の梨華ちゃんを、繋ぎとめることに夢中になっていた。
梨華ちゃん・・・あなたを、いつの間にか、一人の人としてではなく
自分の所有物のように見ていた、あたし。
乱暴な仕草。冷ややかな眼差し。気持ちのない言葉。
あなたを傷つけて・・・それでも寄り添ってきてくれるのか?
それを試すことでしか、梨華ちゃんと付き合っていく方法が
あたしは見つけられなかった。
とうとうあの日、あたしは梨華ちゃんに言わせてしまった。
- 112 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:47
- 「・・・ひとみちゃん・・・わたし達、暫くの間、会わない方が
いいのかも知れないね?」
覚悟していたことなのに、梨華ちゃんの唇がそう告げた時
あたしはカァッと頭に血が上って、目についた雑誌を
梨華ちゃんの座ってる前の、テーブルに投げつけた。
「なんだよっ!それっ!!!」
「・・・だって」
目に薄っすらと涙を浮かべながら、それでも梨華ちゃんは
あたしを真っ直ぐに見返してきた。
「ひとみちゃん・・・わたしといても全然、楽しそうじゃない!」
あたしは鼻で笑った。
「逆だろ?・・・そっちが楽しくないんじゃん?
人のせいにすんなよ!
だいたい暫くってなんなんだよ?・・・あたしといたくないなら
はっきりそう言えばいいだろっ!」
「・・・ち、ちが・・・」
- 113 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:48
- 梨華ちゃんの言葉の途中で、あたしは乱暴に立ち上がると
部屋を出ていった。
そのままいたら、自分が梨華ちゃんに何をしてしまうのかが
もう、わからなくなっていた。
梨華ちゃんに拒絶された。
あたしは、もう・・・いらなくなったんだ。
そんなどす黒い感情だけが、嵐の中を舞う紙切れみたいに
あたしの心の中で、狂ったように舞っていた。
諍いから時間が経って、少し冷静さが戻ると、梨華ちゃんへの
強すぎる執着は、今度は強固なプライドに姿を変えて、あたし
自身を囲って行った。無意味な鎧の様に。
梨華ちゃんが謝ってきたら。いや、謝らなくてもいい。
あの日、言った言葉を後悔してくれてるのなら。
少しでも、あたしを必要だと思ってくれたのなら。
それだけで・・・いいから。
だけど、あれだけ酷いことを言っておいて、そんな都合の
いい日は来るわけがなかった。
- 114 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:48
- 馬鹿みたいに下手糞で。
そう伝わるようには、ちっとも出来なくて。
傷つけてばかりだったけれど。
愛してたから、あなただけを。
何も見えなくなるほど。他のすべてを捨ててしまえるほど。
だから・・・
- 115 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:49
-
梨華ちゃんにとって、あたしという存在が支えだった時が
少しでもあった、と、今でも思いたい。
あたしが、そう感じていたように。あなたもまた、同じように
感じてくれた時は、確かにあったのだと。
どこかで間違えて、こんな風になってしまったけれど。
少なくても、あの夜の、あの瞬間は・・・
そう言おうとしてくれていたと、あたしは信じたいんだ。
- 116 名前:on 投稿日:2004/08/28(土) 21:49
-
それでもまだ、あたしは・・・
逢いたいよ。
梨華ちゃん、あなたに。
・・・まだ、あたしは
こんなにも・・・あなたを、あなたを
愛してるから。
この想いだけが・・・あたしをずっと、そう、ずっと
支えてきたから。
今まで。
そしてたぶん・・・これからも。
- 117 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/08/28(土) 21:54
- 更新しました。
最初にお詫びと訂正を。
104の書き出しを抜かして上げてしまいました。
申し訳ないです。ごめんなさい。
本来なら下記の文面が最初に入ります。
あたしの気持ちを察知したように、梨華ちゃんは激しく
泣き続けた。
そして、レスのお礼を。
103名無飼育さん
ツライですよね。でも、そうレス頂けたから、きっとここで
苦しんでるよっちゃんの励みになります!
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/29(日) 19:31
- よっすぃ〜がんばれ!
もっと君が素直になれば
君の好きだった頃の梨華ちゃんに会えるさ
・・・・きっとね。
- 119 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:41
-
- 120 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:42
-
ガラガラガラッドッシャァァァンッ!!!
物凄い音がして、身体がビクッと反応した。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
慌てて横を見ると、そこに眠ってたはずの梨華ちゃんが
いない。あたしは飛び起きた。
音のした台所に行って、あたしは息を呑んだ。
- 121 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:42
-
梨華ちゃんが倒れてる。
その横に、梨華ちゃんが台所で高い物を取る時に使ってた
丸いパイプ椅子が、開ききらずに倒れている。
そして、あたしの足元のすぐ前にはピンクの缶が転がって
いた。
これを取ろうとしたの?
一瞬、そんなことを呆然と考えてから、あたしは慌てて
梨華ちゃんの横に跪くと、その身体を抱き起こした。
「梨華ちゃんっ梨華ちゃんっっっ」
強く揺すりそうになる腕の力を、ハッとして抜いた。
頭を打ってるかも知れない。揺すっちゃ駄目だ。
「梨華ちゃんっ・・・梨華!梨華!!!」
大声で名前を呼び続けながら、救急車を呼ぶべきか?と
あたしが電話を振り返った時、腕の中で梨華ちゃんが
身動ぎした。
- 122 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:43
- 「・・・あ、
・・・ひ・・・とみちゃん・・・」
あたしはその消え入りそうな声に、梨華ちゃんの顔を見た。
梨華ちゃんは何故だか、安心したように微笑んだ。
「・・・よかった」
今まさに、自分が言おうとした言葉を先に言われて
あたしは呆気に取られた。
何がよかったのさ?人を心配させて。危ないことして。
非難の言葉を口にする前に、梨華ちゃんがあたしの首に
腕を回して、ギュッと抱きついてくる。
「・・・夢、だったのね」
・・・夢?
なんだか様子がおかしい・・・気がする。
あたしは、強い力でしがみついてくる梨華ちゃんの背中を
トントンと軽く叩きながら、自分の心臓の音が急にドクドクと
高鳴っていくのを感じて、聞き返した。
- 123 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:43
-
「・・・夢?」
「・・・ん」
梨華ちゃんは落ち着いたのか、首に回していた腕を解いて
あたしの顔を、上目遣いで見上げた。
「・・・すっごく嫌な夢。
ひとみちゃんが・・・ひとみちゃんが、ね
わたしから離れていっちゃうの。
ひとみちゃん、ここにいるのに、ね?」
そう言うと、梨華ちゃんはまた、確かめるように、あたしの
首に両腕を巻きつけて身体を寄せてきた。
・・・あぁ
・・・神さま・・・
いままで、一度も本気で信じたことなんてなかったけど。
あたし・・・今、心から・・・感謝してます。ありがとう。
大切な人を、あたしに返してくれて・・・
ほんとにありがとう・・・ありがとうございます。
- 124 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:44
-
梨華ちゃんはショック状態で記憶が混乱してるみたいで
あたしと別れていた日々を、夢の中の出来事だと思って
いるみたいだった。
今、それをわざわざ梨華ちゃんに教える必要なんて・・・たぶんない。
・・・それがすぐに、わかってしまうことだとしても。
あたしは梨華ちゃんの腕を、自分の首から、そっと外すと
その両手を、自分の頬にあてた。
「・・・ここにいんじゃん?・・・それよか、その・・・夢、その夢さ?
ホント、は・・・梨華ちゃんの、願望なんじゃねーの?」
あたしは、おどけた顔を作って、内心ビクビクしながら
今までなら口に出さなかったことを、声に出して聞いた。
梨華ちゃんは、ぷぅ、と頬を膨らませて、つん、と横を
向いた。
「そんなことあるわけないよ!・・・イジワルッ」
「・・・ア、ハハッ、アハハハハッ!」
あたしは安心して。そしたらなんだか可笑しくって。
いろんなことがやけに笑えて。
呆れた顔をする梨華ちゃんを見ながら、目に涙が浮かぶまで
笑い続けた。
- 125 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:44
-
自分に起こった状況が、なんだか分からない、という顔を
する梨華ちゃんに、あたしは、適当に高いとこにあった目に
つく物を指差した。
「アレ!取ろうとしてさ〜梨華ちゃん、足滑らせてー
なんか一瞬だけだけど、気を失ってるみたくなっちゃって
あたし、あせったぜぇ〜」
自分でも、ヘタな言い訳って思ったけど、梨華ちゃんは
疑うことはなく、そのまま信じたみたいだった。
ただ、少しして起き上がると、足元に転がってるピンクの缶を
不思議そうに手に取った。
「・・・なに?これ?」
- 126 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:45
- 「えっ?・・・あぁ〜・・・あ、プレゼントって言ったじゃん?
ピンクだしぃ〜ハートでプリンセスッ
おまけに甘〜いお菓子!なーんて、梨華ちゃんが大好きなモン
ばっかっしょ?」
「エェーーーッ!
わたし、子供じゃないのにぃ〜」
あたしは目を見開いて、その缶を見た後、普通に言った。
「ちぇーさっきは喜んでくれたじゃん?
頭打って、忘れてんじゃねーの?
やっぱまだ、横になってた方がいいって!」
そして、納得いかないって顔してる梨華ちゃんから、缶を
取り上げると、テーブルに置いて、そのままベッドに
連れて行った。
- 127 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:45
- 少し寝なよ、と言うあたしの言葉に、梨華ちゃんは素直に
頷くとベッドに横になった。
一緒に寝て、とか、手を繋いでて、とか言い出さない梨華ちゃんに
なんだか物足りない、なーんて、勝手なこと思ったりして。
すっかり暗くなった部屋で、音を消したテレビをなんとなく
眺めてると、梨華ちゃんがあたしを呼んだ。
「ん〜?」
振り返らずに声だけで返事を返す。
「・・・そうっ!思い出したの」
あたしの背中に、ドキンッと緊張が走る。
「わたし、もう一つ夢を見たの・・・こっちもひとみちゃん
出てくるんだけど・・・ふふっ可笑しいの!」
強張りそうになっていた身体から、今度は力が抜けた。
- 128 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:46
- 梨華ちゃんの楽しそうな声音に、なんとなくその夢の話が
わかるような気がしながら、あたしは見てないテレビを
見てる振りをしながら聞き返す。
「・・・どんな?」
「あのね〜 なぁーんとわたしが子供になってるの!
ひとみちゃんは今のままなんだけど・・・
あれってたぶん、五歳くらいかなぁ?」
「へぇ〜 んで?」
「うぅ〜ん、なんかあんまりよく覚えてないんだけどぉ・・・」
「・・・そっか」
あたしはホッとした半面、どこか残念に感じた。
でも・・・これでいいんだ・・・きっと。
あたしは覚えてる。五歳のあなたを。
けして・・・忘れたりしないから。
いつの間にか知らない間に忘れていたことを、あたしに
思い出させる為に、ほんのひと時現れた、真夏の妖精
みたいな女の子のこと。
- 129 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:46
- だからあたしは、心の中で語りかけた。
その姿を見た訳じゃないけれど、少しだけだったけど。
確かに触れることが出来た、小さな梨華ちゃんに。
もう心配しなくていいよ?
未来のあなたを泣かせるようなこと、もうしないから。
絶対にしないから。約束するから。
フッと誰かが、小さく優しく、微笑む気配がした。
そしてあたしは、背中からふわりと抱きしめられていた。
「・・・だけど、これだけは覚えてるの」
耳元に甘く響くような梨華ちゃんの声。
- 130 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:48
- 「ひとみちゃんは・・・大切にしてくれた。
ちっちゃなわたしを、すっごくわかってくれてた。
ああ、わたし大事に想ってもらえてるって。
ひとみちゃんは、わたしがもし変わってしまったとしても
同じように、傍にいてくれるんだって思ったら・・・」
ふふっ・・・と梨華ちゃんは小さく笑った。
「・・・なんだかわたし・・・わたしね?
よく覚えてない昔のことなんて、ほんとはどうでもいいこと
なんじゃないかって。
今のわたしには関係ないことだって、思えてきたの。
そんなことに拘って、だから自信がないとか、だから
ダメなんだ・・・なんて思うのは、バカみたいって」
- 131 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:49
- 梨華ちゃんがすぅ〜と息を吸う音が、あたしの鼓膜を震わす。
「・・・ずっと、わたしみたいなのがひとみちゃんの
傍にいていいのかって、どこかで思ってた。
ひとみちゃんの重荷にしかなってないんじゃないかって
ほんとは・・・迷惑なんじゃないかって、不安だった。
だけど・・・いまわかったの。
わたしは自分のこの気持ちには、自信があるってこと。
だったらきっと、胸を張って、言っていいことなんだって。
わたしは・・・ひとみちゃんが好き、大好きなの・・・」
・・・先、越されちゃった。
いつでも・・・あなたはしなやかに、あたしの一歩前を歩いてく。
- 132 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:49
-
悔しいな・・・
あたしは梨華ちゃんの腕を引っ張りながら、その身体を
こっちに向けた。そして・・・
少し驚いたように開かれてる唇を・・・自分の唇で、塞いだ。
ただ愛しい、と・・・その想いを込めて。
そして合わされた唇を離す時。こう言った。
「まだまだ甘いね!・・・あたしなんかさ?愛しちゃってるよ」
- 133 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:50
- 言えた。
あたし・・・言えたんだ。
あたしもそうだったんだよ?・・・あなたは驚くかも知れないけど。
上手な愛し方が出来ない自分に、自信なんてなくって。
あたしの気持ちを、一方的に押し付けるだけな気がして。
ちっぽけなプライドに拘ってばかりいて。
素直に自分の気持ちを、伝える強さが持てないでいたんだ。
- 134 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:50
- あたしは、震える瞼をそっと上げていく、梨華ちゃんの髪を
撫でた。・・・その目には、あたしだけが映ってる。
あたしの目にも、梨華ちゃん・・・あなたが映ってるでしょ?
それが、今になってわかったから。信じられるから。
だから・・・やっと、やっと伝えられたんだ。
やっぱり、その顔を見ているだけで、他のことはどうでも
よくなっちゃうくらい、あたしにとって梨華ちゃんは魅力的
だけど。今はもう違う。今度は間違ったりしない。
ちゃんと愛してたつもりだったけど。
あなたを悲しませるような愛し方を・・・これからはしない。
誰かを幸せにするなんてことは、あたしには難しい。
だけど、ありふれた愛の言葉で、他愛無い時間を重ねていけば
・・・いつか、きっと。
- 135 名前:on 投稿日:2004/08/31(火) 10:51
-
まだ、まだ子供のあたしには、その為の時間が
・・・たくさん、そうだよたくさん、ある・・・から。
終
- 136 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/08/31(火) 10:51
-
更新終了しました。
118名無飼育様。
仰る通りになりましたねぇ〜(笑)
レスありがとうございました。
- 137 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/08/31(火) 10:52
-
そして・・・
お付き合い下さった方、ありがとうございました。
レスを下さった方、頂いたレスを読むのが、とても
楽しみでした。ほんとにありがとうございました。
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/31(火) 13:42
- 完結お疲れさまです。
題名には、こんな意味があったんですね。初めはシリアスで重い物語なのかと思っていましたが、更新のたびに、ほんわかした気持ちになりました。
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/31(火) 18:51
- 更新お疲れさま。
そして完結おめでとうございます。
もうちょっと延ばすのかな?と思いきや一気に完結。
それはそれでスキッとしてていい感じです。
よかったなぁ〜よっすぃ〜素直になれてさw
梨華ちゃんは夢だって言ってるけどきっと覚えてて分かってるはずだよ。
それに幸せにするんじゃなくって
自分が幸せになれば相手もまた幸せだと思うよ
・・・きっとね。
がんばれ〜♪
- 140 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2004/09/01(水) 01:15
- 完結おめでとです
ちっちゃい梨華ちゃんの描写をもっと見たい衝動にかられますが、純粋で素敵な物語に巡りあえて、幸せです
ホントにツボなストーリーでした
- 141 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/03(金) 14:15
-
レスをありがとうございます。
138名無飼育様。
最後までお付き合い下さって嬉しいです。
あの二人は、自分の中では支え合ってるイメージなので
それを書いてみたかったのです。
139名無飼育様。
最後までお付き合い下さって嬉しいです。
いや・・・これ以上延ばせません。自分の力量じゃ・・・
最後の方のお言葉は、是非言ってあげたいですね、作中の二人に。
ラヴ梨〜様
最後までお付き合い下さって嬉しいです。
ツボですか?そのお言葉、かなり感激です。
自分も読んで下さる方に巡りあえて、幸せした。
- 142 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/03(金) 14:15
-
頂いたレスを読んでると、嬉しくて、ついついまた
書いてみようか?等と思ってしまいました。
スレ残しも勿体無いですしね。
前作とは、かなり違う趣になりそうですが、
お付き合い願えたら、と思っております。
もちろん、いしよしで。
- 143 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/03(金) 14:17
-
私にとって、ね?
いつでも大切なのは・・・アイ。
人をアイする愛。目は口ほどにって語るeye。
そして私自身の事・・・I。
- 144 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/03(金) 14:17
- 「・・・ほっへぇぇぇ〜〜〜・・・上がったよぉ〜んっ!」
私は、出来たばかりの原稿を編集部に送信すると、メガネを外して
う〜〜〜んっと伸びをした。
「お疲れぇい♪梨華ちゃん!」
美貴ちゃんがちょうど、アイスティーを入れて持ってきてくれた
みたい。ほい、と私のデスクトップのパソコンの脇に置く。
私は首をグルリと回す途中で、目が合った美貴ちゃんに聞いてみる。
「・・・ダメだし出るかな?」
「どーだろ?」
美貴ちゃんはイヒヒとちょっとヤな感じに笑う。
も〜ぉ!
ほぼ二週間のカンヅメ状態。ココはお世辞でも
「梨華ちゃんっいいよ!いいよぉ〜」ってくらい
言ってくれてもいいと思うんだけど。
- 145 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/03(金) 14:18
- よっぽど恨みがましそうな目をしちゃってたのか、美貴ちゃんは
コホンッと咳払いをすると、私を横目でみた。
「・・・付き合うよ〜 買い物行くぅ?
それともなんか美味いモンでも食べに行きますかぁ?」
美貴ちゃんの言う美味いモンって、焼肉ばっかじゃない?
それより・・・なんかこう、疲れた私の身体は家庭の味みたいなのを
求めているのよねぇ〜
ムダとわかりつつ、ねだってみたりして。
「いま外に出る気力ないよぉ〜 美貴ちゃんなんか作って!」
「えぇーーーっ 美貴には無理だって!」
「・・・だよねーっ」
速攻で私が頷くとプライドが傷付いたのか、美貴ちゃんがボソリと言う。
「インスタントラーメンぐらいなら・・・」
・・・ヤだよ。
- 146 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/03(金) 14:18
- なんとなーく二人してお互いの顔を見てたら、美貴ちゃんの携帯が
鳴った。メールが着たらしい。
「げっ・・・美貴、編集部戻んなきゃ!」
「・・・保田さん?」
美貴ちゃんはしかめっつらをして、開いた画面を見ながら頷くと
素早く返信してる。
「先輩さ、人使いメッチャ荒いんだよ。時給安いのに。」
美貴ちゃんは携帯を閉じると、スチャと片手を上げて、じゃって
言いながら、玄関に向かって歩き出した。
その足を、ふっと止めて振り返る。
「夜なら空いてる。気が向いたら連絡してよ。」
「・・・焼肉屋には行かないよっ!」
私の言葉に、ニヤリと笑うと美貴ちゃんは部屋から出て行った。
- 147 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/03(金) 14:19
- あ〜〜〜ぁ・・・
お母さんの作った、甘〜い厚焼き玉子が食べたいよぉ・・・
ほかほか湯気がたってる、ホワイトシチューの中には、真ん丸い
ロールキャベツ。
それからそれから、あれも捨て難い。鶏肉の出汁が染みた炊き込みご飯。
・・・ごくっ
デザートは・・・ほのかに酸味が残ってるアップルパイ。
もちろん冷たいバニラアイスを忘れちゃダメ。
・・・じゅるっ
バサバサバサッと何かが崩れる音がして、目の前に広がってた
ご馳走は、マッチ売りの少女が炎を吹き消した後の様に、儚く
私の前から消え去った。
・・・ふぅ
あまり気乗りしないけど、音のした方に首を回すと、ダイニング
テーブルの上に乗せてた、仕事用の資料のファックスや、本が
雪崩れを起してた。
- 148 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/03(金) 14:19
- よいしょっと。
もう終わりとは言え、とても十代の子の口から出る言葉とは
思えないかけ声で、自分に気合を入れて立ち上がると、私は
バラバラと散らばってる、資料に手を伸ばした。
それを拾い上げる時、フローリングの上を綿埃が舞っていた
のは、見なかったことにしよう・・・
そもそもねーっ保田さんも! 私は心の中で声を荒げる。
どーせお目付け役を付けるなら、家事の得意な子にしてくれたら
いいのにっ!
美貴ちゃんって、極端なのよね。
食べ物とか、自分の好きなモンだけ食べれてればいいって感じだし。
部屋が汚れてても、気にならないみたいだし?
・・・って、私の部屋なんだけどね。
でもね?保田さん、こう言ってたじゃない?
「石川の執筆中、身の周りの世話させるバイト雇ったから。」
- 149 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/03(金) 14:20
- 嘘ばっかり。
美貴ちゃんの鋭い目線はいつでも、私を見張ってるのよ!
ネタに困った私が、現実逃避してフラフラ出歩いたりしない為に。
・・・そりゃ、美貴ちゃんってキライじゃないけど。
同じ年で、サバサバしてて、一緒にいても変な気を使わなくて
済むし・・・ちょっと突っ込みキツイけど。
私は落ちた資料を、テーブルにまた無造作に重ねて置いた。
そして何気なく、自分の指先に目が留まる。
「ヤだーーーっ!ネイルがはげちゃってるぅ
・・・そうだっ 真希ちゃんトコ、行〜こうっと。」
私が、部屋を出がけにドアを閉めた時。
また何かが、バサバサと落ちる音がしたけど、聞えないふりを
して、そのまま部屋を後にした。
- 150 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/03(金) 14:23
-
ますは、こんな感じで。
また、週明けにでも更新したいと思っています。
お口に合うようなら、ぜひ、見に来てやって下さいませ。
- 151 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/03(金) 19:03
- 更新お疲れさまです。
おっ!今度もなかなか期待大!
身の回りと言うよりも「番犬」ですなw
・・・で、梨華ちゃん一体何書いてるの?w
- 152 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 15:27
-
真希ちゃんのネイルサロンにある、生成りの布張りの肘掛椅子は
私のお気に入り。
それに深く腰掛けて、愚痴っぽく、最近の自分の生活について
零す私に、真希ちゃんはオイルを塗った私の手を、マッサージ
しながら笑った。
「あはっ 梨華ちゃんさ〜
ごとーのトコに来てる場合じゃないんじゃないの〜?」
「・・・だってぇ〜」
これでも一生懸命仕事してるんだからっ!
そんな自分に、ご褒美なの!ココでの時間は。
ちょっとだけイラだってた気持ちが、ほら溶けてくんだよ?
う〜〜〜ん気持ちいいよぉ!真希ちゃんっ
真希ちゃんが、はい、手入れて、と出した、何だかわからない
器具に、私は両手をそぅっと入れた。
「・・・温か〜い」
「パラフィンパックだよ。梨華ちゃん初めてだっけ?」
「うん。あ、なんか手が固まってきた・・・」
- 153 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 15:28
- その器具から手を抜くと、私の両手はまるでロウみたいな
薄い膜が張っていた。
真希ちゃんは繊細な指使いで、それをそっと剥がす。
「すごいツルツルになるよ?
ま、梨華ちゃんの手ってもとからキレーだけどさ。
それでもね?それを維持するためには、日々のお手入れが
何より大事ってこと。これから乾燥する季節だし。
・・・カラーはどうしよっか?」
う〜〜〜ん。
いっつも悩んじゃうんだよねー。だってどれもカワイイんだもん。
私は真希ちゃんの指先に目を留めた。
ちょっとだけメタリックで、深いのに澄んでいる色。
まるで、海の底に日差しが差し込んで、輝いてるみたい。
そこには、サカナじゃなくって、白い蝶が泳いでた。
「真希ちゃんと・・・同じ色ってどうかな?」
「・・・これ?」
真希ちゃんは首を僅かに傾げた後、立ち上がって棚の中から
ネイルを二本選んで、戻ってきた。
- 154 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 15:28
- 「ごとーが、今塗ってるのはこの色なんだけど。
梨華ちゃんの手には、こっちのが映えると思うな。
・・・色違いなんだ。」
真希ちゃんが、指先で摘み上げるように私の目の前にかざして
見せたボトルの中で、微かにゴールドがかった淡いピンクの
ネイルがとろんと揺れた。
綺麗・・・高級なシャンパンみたい。
「うんっいい!それにする。」
真希ちゃんはニッコリ笑って、頷くと私の手を取った。
そして、ベースコートの刷毛を、爪の先へ滑らせる。
ふと、その手を止めて、何か思い出すように顔を上げた。
「梨華ちゃん・・・前、確か部屋余ってるって言ってたよね?」
「え?・・・うん。」
- 155 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 15:29
-
私がデビューしたのは高校生の時。とある賞に投稿したの。
・・・それには、もちろん落ちてしまったんだけど。
その原稿を見た、編集部の保田さんが連絡をくれて・・・
「他にも書いたものがあるなら、見せて欲しいんだけど。」
そう、その一言からすべてが始まったのよね〜
物語を書くことは、もちろん好きだったけど、だからと言って
それが仕事に出来ると思うほど、私は世間知らずでは無いつもり
だったから。
あの賞に投稿したのだって、わりと軽い気持ちだった。
それが今では・・・ほんと不思議。
あのまま田舎にいても、パソコンもファックスもあるから
困ることは無かったんだけど。
やっぱり私は都会に出てみたかった。だから両親を説得して上京。
高校を卒業した私は、憧れの一人暮らしを始めたの。
- 156 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 15:30
- あまり大都会は・・・と、怖気づく私に、保田さんはいくつかの
物件を探しておいてくれて。
今、住んでいるいる所はその中の一つ。
田舎から出てきたばかりだった頃の私には、自分の住むことになる
部屋のある駅でさえ、かなり都会に思えたっけ。
でも、いまではそれが、わりと大きめだけど、どこにでもある駅って
くらいなのがわかるけど。
それでも本物の都会にまで、特急で一時間はかからない。
女の子の一人暮らしだから、オートロックのマンションがいい
だろうって、探してくれた私の部屋は、駅から少し離れてることも
あってか、部屋数が一人暮らしには多かった。
3LDKの部屋のうち、使ってるのは寝室にしてる7.5畳の洋室。
リビングと仕切られてる5畳の洋室は、ほとんど物置だし。
もう一つの洋室に至っては、その存在を忘れてるくらい。
えぇ〜っと・・・あの部屋、何畳だっけ?
- 157 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 15:30
-
真希ちゃんは、目線を私の手に戻して、刷毛を動かしながら
何気なく言った。
「梨華ちゃんさ・・・同居人ってどう?」
「・・・へ?・・・それって、真希ちゃんがってこと?」
「違うよ〜」
予想外な話の展開に、私が目を丸くすると、真希ちゃんは
へらっと笑った。
「ごとーの中学校ん時のトモダチ。
そいつさ?仕事場の寮に住んでたんだけど・・・なんでか
辞めちゃって。住むトコ困ってんだよね〜
んで、ちょっと前にごとーのとこにも着たんだけど・・・
ほら、ここ仕事場兼ねてるし、居辛かったんじゃん?
いままた、他の友達んちに転がり込んでるみたいなんだ。」
・・・・・その子を?・・・・・うちにぃ〜〜〜?
なっなんでぇぇぇ???
驚きのあまり、言葉が口から出ない私に、ごっちんはさらりと
続ける。
- 158 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 15:31
- 「・・・そいつの前の仕事って、コックの見習いだったんだよね。
料理上手だよ?・・・確かキレイ好きだったと思う。
それに、同い年だからさ?・・・なんつーか・・・その、梨華ちゃんの
いい話相手になれるんじゃないかな〜なんて、思ったりして。
あっ!モチロン女だし。いいヤツだから・・・」
・・・真希ちゃん
私がまるで、ホームシックみたいな情けないこと言っちゃったり
したから・・・心配してくれたの?
そっか・・・
コックさんになろうとしてた、お料理好きな女の子。
おまけに掃除も得意だなんて、すごーく女の子らしいよねぇ。
きっと、繊細で可愛らしいんだろうな・・・
いいかも・・・
お揃いのエプロンとかして。お菓子作りとか教えて貰って。
可愛い雑貨屋さんとか一緒に巡ったりとか?・・・ステキ・・・
私はすっかりその気になった。
- 159 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 15:31
- 「真希ちゃんっ!そのお友達、紹介して?!」
「う・・・うん。」
俄然、張り切りだした私に、真希ちゃんが今度は顔を曇らせた。
どうかした?と、私は、その顔を覗き込む。
「・・・ただ、そいつ今、無職だから、家賃とかは入れられないと
思うんだよね。」
「なんだぁ〜そんなこと?
それはいいのっ・・・その代わりって言うのもなんなんだけど
お仕事決まるまで、家の事してくれたら嬉しいかな?・・・
なんて。」
真希ちゃんは笑顔で大きく頷いた。
「それはバッチリだと思う・・・だけど、ねぇ?梨華ちゃん・・・」
またまた何か、気がかりなことがあるって顔をする真希ちゃん。
意外に心配症なのねぇ・・・そのお友達って、そんなにナイーブな
タイプなのかな?人見知りが激しいとか?
- 160 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 15:32
- 私がその思案顔を、じっと見てると、真希ちゃんは思い切った
ように、口を開いた。
「ま、大丈夫だよね?・・・うん。
そいつ、吉澤ひとみって言うんだ。
連絡がつき次第、梨華ちゃんちに行かせるから。」
・・・何が大丈夫なのかしら?
真希ちゃんが、そこまで心配するほど、大人しい女の子なの?
大丈夫よ!まかせてっ真希ちゃん!!!
私、すごく優しくするわ、その子に。何も心配しないで。
・・・ひとみちゃん。名前まで可愛いじゃないの!
私は、すでに自分の頭の中に住み始めた、野に咲く一輪の可憐な
花のようなひとみちゃんに向かって、ニッコリと微笑んだ。
- 161 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/13(月) 15:33
-
更新しました。
151名無飼育様
折角ご期待頂けてたのに、更新が遅れてしまい
申し訳ありませんでした!
「番犬」・・・ココのミキティにはぴったりかも?w
お約束より、一週間更新が遅れてしまい申し訳無いです。
(ま、見に来て下さった方がいれば・・・の話)
どうにもパソコンが反抗期で、一難去って、また一難に
見舞われておりました。
今は落ち着いておりますが、またアクシデントが起こるかも?
なので、更新予定を書くのは止めに致します。
けれど、更新は続けて参りますので、読みに来て頂けたら
嬉しいです。
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/13(月) 17:52
- 更新お疲れさまです。
前作とはまた違う雰囲気ですね。何かコミカル?な感じがします。
今後に期待してます。
- 163 名前:いつもの名無し。 投稿日:2004/09/13(月) 20:42
- 更新お疲れ様です。
アクシデントにもめげずにがんばってください。
おぉ〜っとこれは!!
これは・・・この後とっても波乱の予感が(笑
- 164 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 21:28
-
◆◆◆
「・・・言っとくけど、絶っ対、自分のこと、オレとか
言わないでよねっ梨華ちゃんの前で!」
ごっちんは鼻息荒く、オ・・・あたしに言った。
その梨華ちゃんって子の話を聞けば、聞くほど、あたしと
仲良くやってけそーなタイプじゃない。
要するに、ごっちんは考えが浅い。中学ん時からそーだった。
お世辞にも勉強が出来たとは言いがたい。
けど、頭の回転とか要領はいいヤツで・・・なのになぜか、行動を
起してから考える、そういうヤツなのだ。
たぶん起こってもないことを、ゴチャゴチャ考えるのが性に
合わないんだろう。それはよくわかる。
あたしも面倒な事や、考え事なんて大嫌いだから。
ごっちんのその癖は、専門学校出たてでいきなり、ネイルサロンを
やってしまう無謀さにも表れてる。
それでもどーにかなってしまう、そんな運の強さみたいなのが
ごっちんにはあった。
だからあたしは、笑って見てられたのだ。
その考えのない行動の数々を。
・・・けどな?
- 165 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 21:29
-
それがまさか、自分の身に降りかかって来ようとは・・・
「フツーに女の子してくれたら、それでいんだから、ね?」
ごっちんの別れ際のセリフ。
「あ〜〜〜うぜぇ・・・」
オ・・・あたしは頭をガシガシと掻いた。
ちょっと猫を被ってみよーかとも思った。
家事は好きだ。美味いモン作んのも。人に食わせるのも。
部屋がキレイなのは、単純に気分がいい。
そんなことで、タダで間借り出来るなら、あたしにとっては
かなりオイシイ話だったから。
けど・・・昔からのダチにさえ、最近ボーイッシュを通り越してる
と言われる自分に、果たして、それが可能なのか?
・・・わからん!ってか、メンドくせー
- 166 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 21:29
- まぁいいさ。
仲良くやってけるなら、そうするし。無理そーなら諦める。
物事はいつもシンプルに考える。
それが、オ・・・あたしの流儀だ。
とりあえず、ごっちんの顔を立てて、なるべく、あたし、と
自分を呼ぶこと。
不満があっても、自分から出ていかないこと。
この二つを心に固く誓う。
あたしは短気で、不満があると喧嘩を吹っかけずには
いれない性分なのだ。
だから、これだけでもかなり前向きに考えてると言える。
この、有りがた迷惑な話をした時に、転がり込んでた先の
アヤカが楽しげに笑う顔が、頭に浮かんだ。
「いいお話じゃない?
・・・よっちゃんもね、そろそろ人に合わせるって事を
お勉強した方がいいわ。・・・その方が、より男っぷりが
上がるってものよ?」
「だーかーらーっ ダレが男なんだよっ」
「あら・・・自覚があったのね?良かったわ。
ついでに、その、すぐにカッカくるクセも治るといいわね?」
まったく、他人事だと思いやがって。
- 167 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 21:30
-
愚痴ってても仕方ない。
あたしは重ね着した、ネルのシャツのよれた襟を直して
キャップを被り直すと、オートロックに閉ざされたドアの
先を一瞥してから、ごっちんから聞いていた部屋番号の
ボタンを押した。
ピンポーン〜♪
- 168 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 21:31
-
◇◇◇
ピンポーン〜♪
あ!きっと、ひとみちゃんだわっ
真希ちゃんから、今日来るって聞いて、待ってたの!
いまかいまかとっ
駅からは迷うような道じゃないけど、迎えに行こうかなって
思っちゃったくらいよ?
インターホンを持ち上げた私は、思い切り弾む声を出した。
「はぁい♪石川でぇ〜すっ!!!」
・・・シーーーン ・・・あれ?
「・・・・・吉澤です。」
ヤだぁ〜いるんじゃない?やっぱりひとみちゃんねっ!
・・・けど、なんか思ってたより、随分落ち着いた声だわ。
「ごめんねっ!今、ドア開けるから、それでお部屋は・・・」
「わかるよ。・・・部屋。番号押したし。」
「あっ!そうよねー ひとみちゃんって頭いいのねぇ〜」
「・・・・・・・・・・・・じゃ。」
「はぁ〜い、待ってまぁ〜す♪」
- 169 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 21:31
-
私は顎に手を当てると小首を傾げた。
なんだか、人違いしてるみたいな気分・・・
ひとみちゃん・・・だよね?だって、吉澤ですって言ったもん。
低い声。素っ気無い口調。イメージしてたのと全然違う。
おっかしいなぁ〜・・・あ!緊張してるのね?
そうよねぇ〜 そう、そう!当たり前じゃないっ
うんと、うーんと優しくしてあげなくっちゃ・・・私が。
ピンポーン・・・
今度は部屋のチャイムが鳴って、私は転がる様に玄関に
走って行って、思い切りドアを押し広げた。
「いらっしゃ〜・・・」 ゴンッッッ!!!
・・・ゴン?
「・・・痛ってぇぇぇ」
「へ?」
- 170 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 21:32
- 私はドアノブを掴んだまま、呆然と、頭を押さえながら
目の前に立つ人を見た。
・・・うそ
こ・・・これが・・・この人が・・・
俯いてたその人は、ゆっくりと顔を上げると、睨むような
怖い目をして、私を見た。
「・・・吉澤・・・ひとみ、です。」
う、う、うそぉぉぉ!
だって、だって・・・えぇぇぇーーーっ?!
私に向かって名乗ったその人は、可憐さとは対極にいるような
女の子だった。
だって・・・まるで、まるで・・・
私が書いてるジュニア小説に出てくる、男の子みたいだったから。
- 171 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 21:32
- その人は、男の子と呼ぶには線が細くて。
さらりと流れるクセのない髪と、大きな瞳は色素が薄めで。
その上、欠点の見つからないような、天才的な顔の造りで。
だから一見、女の子みたいに見えて・・・だけど、だけど、ほんとは強くて
すっごく優くて、どこまでも格好いい男の子。
ずっと、ずっと私の、頭の中にだけいたはずの人。
それがなんで、なんでっ実在してるのっっっ?!!
・・・あ、違った。女の子だった。
- 172 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/13(月) 21:33
-
・・・神様、なんのジョーダンですか?
- 173 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/13(月) 21:33
- 二度目の更新をしてしまいました。
パソへの危機感と、お約束を守れなかったお詫びに。
それと、今回から書き方が少し変わってしまいました。
梨華ちゃんの視点で書くつもりだったのですが、書いてるうちに
・・・無理だ、と、わかりました。
わかりづらいかな?と、少し心配です。
- 174 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/13(月) 21:34
- レスをありがとうございます。
162名無飼育様
ご期待に答えられると、よいのですが・・・
思いっきり(?)コミカルにしたいですっ!←野望
いつもの名無し様
相変わらず、素晴らしい読みですね?
自分のパソがダメんなったら、続きをお願いしようかなw
- 175 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:18
- ◆◆◆
・・・なんだよ?
のっけから人の顔じぃぃーっと見やがって。
やたらテンション高かったかと思ったら、人形みたいに
動かないし。・・・てか、まず謝れよっ!
ついつい、いつものノリで上がりそうになるボルテージ。
いかんいかん。
しょっぱなから喧嘩売ってどーする?・・・オレ。
違った、あたし。ここは、あたしから折れよう。うん。
「・・・あのさ、上がっていい?」
肩からズリ下がってきたリュックをかつぎ直して言う。
ほんとに言いたいことを飲み込んだあたしの声は、自分の鼓膜に
内側から冷ややかに響いた。
「え?・・・あ!はいっどーぞ!!!」
あたしの家主になるはずのその子は、大袈裟なくらいハッとすると
耳に響くキンキン声を出して、玄関を塞いでいた身体を横にどけた。
「お邪魔しまーす。」
- 176 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:19
- あたしはスニーカーを脱いで、玄関に上がった。
取り合えず、目の前の廊下を先へと進む。
ガラス張りのドアがあって、この先がリビングだってことは
わかる。わかる・・・けど。
あたしは振り返った。
部屋の主は・・・まだ、玄関にいた。
・・・なにしてるわけ?
ごっちんが、梨華ちゃんは時々、トリップしちゃうんだよ。
ここではないどこか違う世界にって言ってだけど・・・いきなりかよ?
ふぅ・・・しかたない。
「あのーちょとぉ・・・リビングってここだよね?
入っていいの?」
「・・・あっはいっ!」
あたしが声をかけると、梨華チャンは弾かれたおはじきみたいに
物凄い勢いで、ドアの前にすっ飛んできた。
- 177 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:19
- ドアを開けて、ご丁寧にダイニングテーブルの前にある椅子を引き
ながら、梨華チャンは、やたらと大声を出した。
「ど・・・どうぞっっっ!」
「どーも。」
あたしは、リュックを足元に下ろして、進められた椅子に浅く腰掛けると
キャップを取りテーブルに乗せて、軽く頭を振った。
と、頭の上に矢がつきささるような視線を感じる。
顔にかかった前髪をかきあげながら、そのまま、目線を上げると
梨華チャンとバチンッと目が合った。
沈黙。
・・・なに?
なぜだか頬を赤らめてる梨華チャンは、ビクッと一度身構えてから
しゃべりだした。
「ま、迷わなかった?」 「いや・・・全然。」
「つ、疲れてない?」 「べつに・・・平気。」
「な、なんか飲む?」 「ん・・・出来れば。」
- 178 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:20
- なんでこの子は、いちーちどもってんだ?
・・・変な女。あたしは眉を寄せた。
「あの、さ」
「は、はいっ あ!ごめんなさいっ
すぐ、すぐなんか淹れるね!コーヒー?紅茶?」
ふぅ・・・なんかあたし、気が滅入ってきた。
この子、あたしが怖い、とか?
連続で溜息が出そうになって、それを誤魔化す為に頬杖をつきながら
あたしはボソリと答えた。
「・・・んじゃ、コーヒーで。」
「は・・・はいぃ!ただいまっ」
梨華チャンは、キッチンのカウンターの奥へ、猫と遭遇してしまった
哀れな鼠みたいに、素早く消えた。
・・・ハァ
ガラガラガッシャアァァァン!!!
- 179 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:20
- ◇◇◇
ガラガラガッシャアァァァン!!!
ヤだっっっ!!!
私は自分の手からカップが滑り落ちるのを、スローモーション
画面みたい、なんて、ぼんやりと見送ってしまった。
もうっなにやってんのよぉ〜〜〜
目の前に広がった破片の前にしゃがみ込むと、背中越しに声がした
「大丈夫?」
「・・・うん。」
破片を拾おうと伸ばした私の腕が、ギュッと掴まれた。ドキ。
「何かアンタ・・・いいや、ちょっと退いて。」
ほへぇ?
一瞬、ひとみちゃんが何が言いたいのかがわからなくて、その顔を
マジマジと見上げてしまった。
ひとみちゃんは、なぜか小さく溜息なんかついてる。
そして、私の腕を軽く引っ張りながら、自分が前へ出ると膝を付いて
破片へと指を伸ばす。
「箒とちりとり、ある?」
- 180 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:21
-
か、かっこいいぃぃぃ〜
ひとみちゃんたら・・・ひとみちゃんったらっ・・・
私が失敗したのに。自分が変わりに片付けてくれるなんて。
それは私が怪我しないようにってことよね?
その為なら、自分が血を流してもいいってことなのね?
なんて・・・なんてかっこいいのっ?!
私は両手の指を胸元で組むと、うっとりとひとみちゃんの背中を
見つめた。
「・・・あのさ」 「はいっ!」
「・・・聞えなかった?」 「は?」
「箒とちりとり・・・って」 「あ!・・・いま、いますぐっ」
もっとひとみちゃんの凛々しい姿を見ていたかったけど、私は
箒とちりとりを取りに玄関にあるクロークへ走った。
- 181 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:21
- 結局コーヒーが無くて(考えてみれば、私ってコーヒー飲まないのよねぇ)
紅茶のカップを前に、ひとみちゃんと私はテーブル越しに向き合ってる。
私は紅茶が好きだから、紅茶を淹れるのだけには自信があったんだけど
気がついたら、ひとみちゃんがもう淹れててくれた。
ひとみちゃんは紅茶を一口飲むと、真っ直ぐに私を見た。ドキ。
「なんか・・・注文ってゆーか、あたしに言っときたいことある?」
注文?・・・私は眉を寄せた。
注文、注文???・・・えぇーーーっと。
ごはんのこと?・・・なんか違う気がする。
ひとみちゃんは頬杖をつきながら、私の顔を見てる。
「・・・え、えっと。・・・うぅ〜ん?・・・えっとぉ・・・」
ひとみちゃんは頬杖をついてた手を外して、中指の背で軽く自分の
唇を叩き出した。
イ、イライラさせてる?ひょっとして?
- 182 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:22
- 「悪いけど。
アンタさ、ほんとにわかってる?・・・あたしと同居するって意味。」
・・・意味?
私が小首を傾げると、ひとみちゃんは大きく息を吐いた。
「オ・・・あたしらは今までお互いを知らなかった。
もともと友達って訳じゃない。だから、まったくの他人同士が
一緒に生活するってことでしょ?
ルールみたいの、決めた方がよくない?」
「・・・ルール?」
ひとみちゃんは、ゆっくりと一つ頷いた。
「例えばあたしは料理とかするなら、キッチンは全て自由にしたい。
掃除にしても、勝手に模様替えとかしちゃうかも知れない。
それでも、いいの?」
私はちょっと考えてみた。でもうまく想像出来ない。
ただわかったのは、ひとみちゃんが遊びに来ただけのお客さん
じゃないんだってこと。
このうちにずっといるってこと。一緒にいるってこと。
そっか・・・もう、一人の時間がなくなるんだ。
- 183 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:22
- 「私の部屋には入らないで欲しい。」
ひとみちゃんは頷いた。
「掃除は?しなくていいの?」
今度は私が頷いた。
「このうちのものは・・・自由に使っていいけど、パソコンだけは
触らないで。」
ひとみちゃんがまた頷く。
「・・・あたしは自分の行動を詮索されたくない。」
詮索?・・・それってどういうこと?
ひとみちゃんのこと、あれこれ聞くなってことかな?
私は・・・知りたいのに。そして知って欲しいのに。
お友達になりたいのに。・・・なんか、寂しいよ。
私は少し悲しい気持ちになって俯いた。
「・・・ま、あたしの部屋には、入りたかったら入っていいよ?
ただし、あたしがいる時ね。」
- 184 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:23
- 顔を上げると、ひとみちゃんがニヤッと笑ってる。
どういう意味?・・・いまいちわからない。
話し相手になってくれるってこと?
「好き嫌いはある?」
ひとみちゃんの声に、私はぼんやりしてた目の焦点を合わせて
首を傾げた。
「・・・特にはないと思うんだけど。」
「分かった。
・・・あ、そうだ。こういうのって言い辛いんだけど・・・
ごっちんから聞いてるよね?あたし今、金持ってないんだ。
買い物とか、どーすればいい?」
あ!
私はキッチンカウンターの下の引き出しから、封筒を出すと
テーブルの上に乗せた。
「十万円入ってます。足りなくなったら、また言ってね?
・・・それと、お仕事探してるんだよね?
何かでお金が必要なら、その中から使って下さい。」
- 185 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:23
- ひとみちゃんは封筒を摘み上げると、自嘲的に笑った。
「なんかあたし・・・ヒモみてー。」
「・・・そんな意味じゃ・・・」
「わかってるって。悪い。ありがたく使わせて貰うよ。
ところで、あたしにどこの部屋使わせてくれんの?」
「あ・・・うん。こっち。」
私は立ち上がって、全然使ってなかった洋室に案内した。
とりあえずカーテンと照明だけは、引っ越してきた時に付けて
おいた部屋。
「・・・これ、なに?」
部屋の真ん中にドーンと置いてある、ソファベッドを指差して
ひとみちゃんが振り返った。
「あ・・・私が前使ってたの。でも、スプリングが柔らかすぎて
腰が痛くなっちゃって・・・ちゃんとしたベッドに買い換えたの。
ひょっとして使うかな?って思って。」
口許に手を当てて、急にひとみちゃんは声を押殺すようにクックックと
笑い出した。
「・・・初めてだよ?ベッドなんかプレゼントされるの。・・・そうだ。」
- 186 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:23
- ひとみちゃんは、ドアの前に立っていた私の傍に戻ってきて
腕を組むと、私を見下ろした。
「アンタさ、男いんの?」
・・・は?
あっけにとられる私に構わず、ひとみちゃんはなんだかすごく
意地悪そうに口許を歪めて笑った。
「男、連れ込む時、言ってね?
覗きの趣味なんかねーし、ちゃんと気を利かせて外出るから。」
「な、な、なっ・・・」
身体が勝手にブルブル震えて、私は下ろした両手を固く握った。
「な、なんてこと言うのっ!そんな人、いませんっ」
「・・・へぇ〜 そうなんだ?
だってさ、アンタって男と女が、好きだとか言い合ったり
ヤッたりヤらなかったりって、そう言うの書いてんじゃないの?」
ヤ?ヤヤヤ・・・ヤるぅぅぅ〜〜〜?
- 187 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:24
- 「書いてませんっっっ!!!」
あまりに大声で叫んだから、自分の鼓膜がキィーンと鳴っている。
ゼェゼェ・・・呼吸困難で眩暈がしそう。
「ふ〜ん。ま、どっちでもいんだけど。
仕事のタメっつーの?必要なんじゃないかと思ってさ。
お困りなら相手しようか?・・・そっちも。」
ひとみちゃんは嫌な感じの笑顔で私を見たまま、更に冷ややかに
目を細めた。
そしてなんと、部屋にあるソファベッドの方を、背中越しに
親指で指して見せる。
私の顔から、サーーーッと血の気が引いた。
笑顔なんかさっきから、とっくに消えてたけど。
なんなの?なんなのなんなのなんっなのっこの人はっっっ
「お気遣い頂かなくても、間に合ってますから結構ですっ!」
- 188 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:25
- やたらシンとしてる私の頭の中で、自分の声だって信じられない
くらい硬質な声が響いてる。
変にニヤついた顔を、キッと睨み上げると、ひとみちゃんは
肩を竦めた。
ムッ、ムカツクゥゥゥ〜!!!
私は、フンッと鼻を鳴らすとそのまま乱暴にドアを閉めた。
だんだんだんっと、わざと足を大きく鳴らして、リビングまで戻ると
私は床の上にペタンと座り込んだ。
可愛い女の子だと思ってたのに。・・・でも。
格好いい女の子も、ちょっと素敵。なんて思い始めてたのに。
ただの・・・ただの・・・性悪オンナだったなんてっっっ
- 189 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/14(火) 17:25
-
最悪・・・
真希ちゃぁ〜〜〜ん!ヒドイよぉぉぉ・・・・・
- 190 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/14(火) 17:29
- 更新しました。
自分で書いといて、今更何言ってんだ?って感じですが・・・この
作中のよっちゃんのキャラ、許容範囲でしょーか?(ニガワラ
- 191 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/14(火) 18:02
- 良いです!面白い!
石川さん可愛いですね。こーゆうコミカル、ちょっと抜けた感じが彼女の持ち味を出してると思います。
続きが楽しみです。
- 192 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/14(火) 20:00
- 更新お疲れ様です!
よっちゃんのキャラおもしろいです。
がんばってくださいww
- 193 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/14(火) 20:14
- 連続更新お疲れ様です。
いやぁ〜すごく(・∀・)イイです!
梨華ちゃん視点いい感じですよ!
よっちゃんもいい感じです!
でもやっぱりどこかに優しい部分が残ってるぁ〜って、そんな感じがしましたw
もっとドンドンいちゃって下さいw
これから楽しみです。がんばってください!
- 194 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/14(火) 21:03
- おもしろい
期待してます
- 195 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/15(水) 00:04
- おもしろ〜い!!
楽しみにしてます。
- 196 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2004/09/15(水) 02:13
- こっそり愛読しております!
間借りさせてもらい、大金を無担保で頂いているのに態度がデカいよっすぃ〜が何かおもしろいですね
- 197 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:00
- ◇◇◇
「・・・おはよ。」
私は、寝不足気味で腫れぼったい目を擦りながら、リビングに
入った。
「・・・はよ。」
求人誌らしき物を読んでたひとみちゃんは、一瞬、顔を上げて
私にそう言うと、リビングのソファに身体を沈め直した。
テーブルの上は、午前中の日差しを出窓から受けてキラキラと
輝く食事が乗っている。
今日のメニューは、フレンチトーストとフルーツサラダだった。
ポットには、濃い目に淹れた冷めた紅茶が入ってる。
私は立ち上がって、お気に入りのグラスに冷凍庫から出した氷を
たくさん入れて、ポットから紅茶を注いだ。
ひとみちゃんがうちに来て、約一ヶ月が経っていた。
- 198 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:00
- あの最悪の初めの日。
ムカついてしょうがなかった私は、自分の部屋で不貞寝してた。
ウトウトし始めた時に、部屋をノックされたけど、もちろん無視。
その後、本気で寝てしまって、次の日、午後になって空腹が
我慢の限界になるまで、部屋から出なかった。
そして、人の動く気配がないことを確認してリビングへと行った。
テーブルの上には、三品だか、四品の料理が並んでて、それが
冷め切ってて・・・ちょとだけ、私の胸が痛んだ。チクンッて。
この一ヶ月のひとみちゃんの仕事ぶりは完璧だった。
もし、家政婦さんとして来てもらってたらって考えると、家賃
(それもたった一間)と、食費では、割りに合わないのは
彼女の方かも知れないって、私は思う。
ひとみちゃんは最初の頃、私が起きてくると、洗濯の途中でも
掃除の途中でも手を止めて、テーブルにやってきた。
食事を温め直したり、わざわざ紅茶を淹れてくれる為に。
- 199 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:01
- 一緒に生活してみると、ひとみちゃんという女の子は、見かけの
粗野さと裏腹に、とても思慮深く、繊細な心遣いが出来る子だって
わかった。・・・だから、最初のあの日は、虫の居所が悪かったとか
知らずに私が、彼女の気に障ることをしたか、言ったのかして
しまったのかも知れない。
そうは思っても、一回捻くれた態度を取ってしまうと、今度は
素直に甘えることも、感謝することも、私にはとても無理で・・・
だから・・・心苦しくてもこんな言い方しか出来なかった。
「私はこういう仕事だから、昼も夜も関係ないの。
食べたい時に勝手に食べるから、かまわないでよっ」
とか、寝起きは食欲がないことを上手く言えなくて。
「朝っぱらからこんなに食べれるわけないじゃんっ」
とか、とても大人げない態度を取り続けてしまっている。
- 200 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:01
- ひとみちゃんは、最初の日みたいに冷ややかな目で私を見たり
しないで、何を言っても顔色ひとつ変えなかった。
「あっそ」「ふ〜ん」「お好きなよーに」「分かった」
たぶん、この四つと「・・・はよ」と、寝る時はなぜか「おやすみ」
ではなくて「・・・じゃ」あとは「出かけてくる」と「ただいま」
それだけの言葉で、私と一ヶ月を過ごしてた。
あ〜 ぼんやりしちゃった・・・
私は考えるのを止めて、アイスティーを一口飲んだ。
あ、グレープフルーツの香りがする・・・
・・・ありがとね、ひとみちゃん。口の中がさっぱりするよ・・・
心の中だけでお礼を言ってみる。絶対口には出来ないけど。
振り返って、顔を見たりもしないけど。
- 201 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:02
- 今度はフレンチトーストに手を伸ばして、横に置いてある蜂蜜の瓶に
気がついた。手にとって・・・
あれ、あれれ?・・・開かないんですけどぉ〜〜〜
「うっ!」 ・・・固い。手が痛くなるじゃんっ!
私は蜂蜜を諦めて、横に置いた。
そしたら・・・すーっと横から手が伸びてきて。
カチッ・・・ 頭の上で音がして。
コトンって、またテーブルに戻された。
「・・・・・・・・」
顔を上げると、ひとみちゃんはもう、リビングから出て行くとこ
だった。
・・・なによっかっこつけちゃって!
口の中で、ついつい悪態をついてしまう。
蜂蜜をたっぷりかけたフレンチトーストは、なぜだか甘いよりも
優しい味がした。
- 202 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:02
-
私の朝食が終わる頃、洗濯物のカゴを抱えたひとみちゃんが
リビングに戻ってきた。
「あ、そうだ。パソコン動かした。」
「え?」
「パソコンいじってないけど、場所かえたから。」
言われて、リビングを改めて見ると、確かにパソコンがない。
「あっちの引き戸の向こうの部屋。
あそこ、仕事部屋にしたら?・・・入るなっていうなら
あたし入んないし。」
だってあそこ・・・荷物でグチャグチャで。
呆気にとられたまま、催眠術にかかった人みたいに、私は立ち上がって
洋室へと入った。・・・そして。
驚いた。
- 203 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:03
- 魔法でも使ったの?って。
だって、だって。ダンボールが一個もなくなってる。
通販で買ったまま組み立ててなかった棚が出来上がってて。
おまけに・・・
そうよっ!なんで気がつかなかったの?
終わった連載分の、主人公達が立ち寄る場所や学校、制服の
イメージ作りの為に、ダイニングの色んなとこに置いといた
資料が、みんな無くなってたことに。
いつの間に・・・
・・・そっか。始めの一週間、連載が終わったことと、ひとみちゃんと
顔を合わせたくなくって私、出かけてばかりいたから。
「・・・あの、さ」
ボソリとした声が背中から聞えたけど、私は振り返らなかった。
驚きすぎて、振り返れなかったから。
- 204 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:03
- 「よけーなことかなって思ったけど。
アンタ、夜遅くまで仕事してるだろ?・・・あたしが寝た後、ずっと。
仕事するの、こっちの部屋にすれば、昼間でも物音とか、少しは
・・・気にならなくなるかなって思ってさ。」
ズンって、何かが胸に響いた。
それがなんなのかわからないうちに、目の奥が熱くなって。
私は呟いていた。
「・・・なんでぇ・・・なんで、知ってるの?」
フッて、息が洩れる音がした。
それは、全然冷たくなくって、むしろ温かな感じなのが
背中越しでも、よくわかる。
「アンタさ、鏡、見ねーの?・・・目の下、隈がすげー。」
・・・あ、ヤだ。
私は、顔をバッと両手で押さえた。背中を向けてるのに。
見られてるのは、今じゃないのに。
- 205 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:04
- 昔からそうだった。徹夜とか無理で。
物書きって夜型が多いって思われてるけど、私は違った。
寝るのが好きだから、早起きってわけじゃないけど。
・・・見てたんだ?
私のことなんて、全然見てないって顔してるクセに。
ずるい・・・こんなのってずるい・・・
ガラガラガラってドアが閉じる音がした。
- 206 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:04
-
・・・うっ・・・ふっ・・・え、えっぐっ・・・ふぇ・・・
なんでだろ?
何も悲しくなんかないのに。
私は顔に当ててた両手を離せないでいた。
- 207 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/15(水) 18:05
-
「・・・あ゛・・・あり、がと・・・」
閉まった扉の向こう側に、聞えるわけなんかなかったけど。
私は初めて、声に出して言ってみた。
- 208 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/15(水) 18:05
- 更新しました。
こんなにたくさんの方に、読んでいて頂けてたなんて
この作品を書いてよかったと思っております。
191名無飼育様
自分も、こーゆうキャラは梨華ちゃん以外ありえない、とw
192名無飼育様
キャラ、大丈夫ですか?良かったですw
いつもの名無し様
すごく嬉しいです。ドンドカ行きますよ〜w
194名無飼育様
少しでもご期待に答えるべく頑張りますねw
195名無飼育様
楽しみに思って下さるのが続くよう、努力、努力、とw
ラヴ梨〜様
自分の書くよっちゃんは、なぜか態度が3Lなのでw
- 209 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/15(水) 18:54
- 本日も更新お疲れ様です。
いやぁ〜やっぱりよっちぃはカッケーし、いいやつだ!うん。
はっ!今だけかも・・・w
そういや「番犬」どこ行ったの?w
- 210 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/15(水) 23:16
- 更新お疲れ様です。
あのふたりのイメージに
ぴったりはまってる感じですよ〜♪
楽しみです!!
- 211 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:32
-
◇◇◇
ひとみちゃんが造ってくれた仕事部屋は快適だった。
彼女がかける掃除機の音とか、ベランダのサッシを
開け閉めする音。ソファに、少し乱暴に座る音。
ボリュームを絞った洋楽が流れてる。
曲はわからないけど、スローなテンポで。
誰かがそこに、ドアを一枚隔てた向こう側にいるっていうのは
なかなか楽しいって私は思った。
フッと気づいて、時計を見ると、もう三時を過ぎていた。
いつの間にか、物音も聞えなくなってる。
何かにとりつかれたみたいに、書き続けた文章を、私は
スクロールして読んでみた。
・・・はぁ
いくらなんでも・・・これは・・・ねぇ?
削除しようかと思ったけれど、出来としてはかなりいい気がして
保存した。
- 212 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:32
-
あ〜〜〜コンタクトで仕事しちゃったよぉ
・・・目が痛ぁ〜〜〜い
瞬きを繰り返して、肩を回す。
そう言えば昨夜は、何もプロットが浮かばなくて寝るのが
夜明けを過ぎてからだった。だからお風呂にも入ってない。
うぅ〜〜〜ん、今、入っちゃおうかな?
今夜も、何時に寝れるかわからないし。
いくらなんでも、そろそろ新作考えないと。
保田さんとのミーティングまで、日にちがもう、そんなにない。
私は大きく伸びをして、仕事部屋を出た。
- 213 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:33
-
リビングにも、ダイニングにも、ひとみちゃんはいなかった。
テーブルの上に、ラップされたサンドウィッチが乗っている。
一個つまんで口に入れる。
「すごぉ〜〜〜いっ おいしーーー!」
アボカドかな?・・・たぶん。
あとは、クリームチーズにスモークサーモン。お店やさんみたい。
そうだよねー。プロになろうとしてた人、だもんね?
私は指先を舐めて、続きはお風呂の後にすることにした。
- 214 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:33
-
昨夜のお湯が残っているのか見る為に、浴室に行って、ドアを開けると
花の香りがした。
・・・へ?
湯船に張ってある、お湯に手を入れてみると、少し温いかな?
くらいの温度で。・・・まさか?・・・ここまで。
なんで気づかなかったんだろう?
ひとみちゃんが来てから、お風呂掃除はおろか、私・・・
給湯器のスイッチにすら触ってない。
それがわからないくらい・・・自然に、当たり前みたいに・・・
しててくれたんだ?
ひとみちゃんて、見た目に拘らなくて、仕草も男の子みたいだ
けど、お嫁さんに出来た男の人は・・・きっと世界一、幸せだよ。
私は湯船に身体を浸しながら、しみじみとそう思って、心に
誓った。
次・・・次に、ひとみちゃんの顔を見たら、絶対、お礼を言おうって。
きっと、きっとすごくびっくりすると思うけど。
絶対、言おうって。
- 215 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:34
- 全身と髪を、ゆっくり洗った。
いっぱい粟立てた、香りのいいしゃぼんで。
最後にもう一度、柔らかいお湯に身体を沈めてると、バタンと
ドアが開く音がした。
へっ?!
思わず、身体に力が入って、そのまま縮こまって、胸なんか押さえ
ちゃったりする。何してんの私?見えてるわけじゃないのに・・・
「洗濯したてのヤツ、ここに置いとくから。」
そっけない声がそう言うと、またバタンとドアを閉める音。
ふっ・・・ふふふ。
ひとみちゃんって・・・ほんとに見かけと違う。
まるで、子供の面倒を見るお母さんみたい・・・
冗談で、ママァ〜とかって言ってみようかな?
どんな顔するかなぁーーー?
・・・・・やめとこ。
- 216 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:34
-
洗濯したてのお日様の匂いがする、ふかふかのバスタオルを
想像して、私はものすごーくご機嫌にお風呂から上がった。
バスタオルを鼻にあてて、くんくん匂いなんかかいでみたりして♪
と。
その下に置かれてる物を見て、私は固まった。
な、なななっなんでーーーーーっ ・・・信じられない・・・
物凄い勢いで、服を身につけると、私は力まかせに浴室のドアを閉めた。
バッタンッッッ!!!
- 217 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:35
-
◆◆◆
バッタンッッッ!!!
・・・すんげー音。
あんな閉め方してたら、すぐ傷むぞ。
そもそも、梨華チャンって行動にムダおおすぎってか、ソレのみ
みたいな? フッと口から笑みが漏れた。
そのまま、今日買ってきた料理の本の続きを見てたら、今度は
もの凄い勢いで、バタバタやってくる音がする。
やれやれ・・・うるせー女だな。ま、わかりやすくて楽だけど。
バッタンッッッ!!!
再度、ドアが歪むような音をさせて、現れた梨華チャンは鬼みたいに
真っ赤な顔をしていた。おまけに、ゼェゼェ肩で息して。
長湯のしすぎ?
あたしは梨華チャンの顔を見て、取り合えず口を開いた。
「・・・よ」
梨華チャンは、あたしの顔を、キッと睨んだ。
どうやら風呂のせいじゃなくって、なんか怒ってるらしいぞ。
はて?
- 218 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:35
- 「・・・ど、どうしてよっ?」
のっけから全身で叫ぶ梨華チャン。 ・・・疲れそ。
「なにが?」
「だっ、だからぁ、なんでそんなことまでするのって聞いてるのっ!」
さっぱりわからん。
無視しよーかと思ったけど、もっと面倒なことになりそうだったから
取り合えず、もう一回聞く。
「なんの話?」
なんのって・・・梨華チャンは口ごもると俯いた。
そして何かを決意したみたいに顔を上げると、大きく口を開く。
「お洗濯に決まってるじゃないっっっ」
「・・・洗濯?」
あたしが眉を寄せて、聞き返すと、梨華チャンはイライラと足を
踏み鳴らし始めた。
「だからっなんでっ
わ、私の下着まで、洗ってるのかって聞いてるのーーーっ!」
- 219 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:35
- ・・・なんだ。
そんなことかよ? バカバカしい。付き合ってらんねー。
あたしは、また本に目線を落とした。
「ちょ、ちょっとっ!ちゃんと答えなさいよっ」
カチン。
答えなさい・・・だと? このオレに向かって、命令系かよ?
・・・随分、偉そうじゃねーか?
あたしは本をバサッと閉じて、顔を上げた。
「ついでだよ。」
「つ、ついでって・・・余計なことしないでよっ!」
「うるせーなぁ
下着洗ったからって、なんなんだよっ」
「む・・・無神経なのよっ!」
カッチーン。
ヤベ、キレちゃうかも・・・オレ。
「お、女の子のクセしてっ!!!」
・・・無理。
あたしはゆらりと立ち上がると、梨華チャンを鼻で笑った。
そして、手を伸ばして頬に軽く触れる。
- 220 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:36
- ビクッと後ずさろうとするのを、指先に力を入れて止め
そのまま上を向かせる。引きつる顔に冷ややかに目を
細めた。
「女同士だろ?・・・何、意識してんだよ?
アイだかコイだか知らねーけど、そんなことばっか考えてっから
頭ん中が花畑になってんじゃねーの?」
梨華チャンはうっすらと涙ぐみ、唇を噛んだ。
どっかでまだ冷静な自分が、止めろって言うけど、止まらない。
「自意識過剰なんだよっ!
アンタのしてることなんて、なんもイミねーじゃん。・・・アイ?
くだらねーつーの。んなのなくたって生きてけんだよ。」
見る間に涙を溜めながら、それでもそれを零すもんかって感じに
目に力を入れて、梨華ちゃんは睨み返してきた。
「・・・ひとみちゃんって、全然わかってないっ!」
「はぁ?・・・なんつった?」
- 221 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:36
- 「ひとみちゃんこそ、自惚れてるよっ!
ひとみちゃんは・・・ひとみちゃんは・・・何をやっても、確かに完璧で。
だけど、だけど、そんな風に思ってしてるなら、張りぼてと一緒
じゃん?・・・中身がないよっ・・・人は・・・人って何かをしてもらうと
嬉しいし、ありがたいって思うけど、それは・・・それは完璧なことを
してくれるからじゃなくって、してくれようとする、その気持ちが
嬉しいからなんだよっ!」
シーーーン・・・・・
・・・な、んだ?
なんかが、ズシンッって落ちてきて。
ぐっと言葉に詰まった。
- 222 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:37
- あたしは、普段は無口な方だけど、言葉で人をやり込めるのが苦手
なわけじゃない。 ・・・なのになぜ、言い返さない?
それは・・・たぶん。
あたし自身が。・・・どこかで、否定しながら、それでも。
・・・気づいてたことだったから。
あたしが頬に当ててた手を、そっと離すと、ギリギリに保たれてた
バランスが崩れたみたいに、梨華チャンの頬に涙がぽろぽろと落ちた。
ほんとは・・・この子の言う通りなんだって。
あたしはこのうちに来てから、梨華チャンの身の回りのことを完璧に
こなしてきたけど。
きたけど、それは・・・この子のことを思って、なんかじゃない。
どこかで、これは仕事って、割り切ってたから。
自分の仕事ぶりは、完璧だって。文句のつけようがないだろう?って。
いつでもそう、そんな風に自惚れてたから。
それを受ける相手の気持ちなんて、考えたことない。
・・・たぶん、今まで、ただの一度も。
考える必要さえないと思ってた。・・・いつでも、あたしのすることは
完璧だから。なんの落ち度もないから。
えっぐ、と嗚咽を堪える声がした。
- 223 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:37
-
「わ・・・私の、か、書いてるもの、なんてぇ・・・たっ確か、に
く、くだらないかっかも、しれ、ないけ、けどっ・・・」
言い争ってるあたしの前で、なんでそんなに無防備でいられるんだ?
ポロポロ涙を零しながら、それでも梨華チャンは何かを必死に言おう
とする。鳥の雛みたいに身体を震わせて。
それはたぶん、あたしには出来ないことで。
だってそれは、あたしをやり込めようとしてるんじゃなくって、
あたしに何かを、必死で伝えたいって思ってるらしいから。
「あ・・・愛は、く、くだらなく、ないよ?
き、き、と・・・な、なかったら、い、生きて、いけない、よ?
だ、だって・・・」
あたしは、気がついたら梨華チャンの頭を乱暴に抱き寄せてた。
まるで、何かの技をかけるみたいに。
優しく抱きしめることも、たぶん出来たはずだったけど、それを
してしまったら、なんだかマズいことになる気がした。
なんでそう感じたのかは、まだ・・・考えたくなかった。
- 224 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:38
- 「分かった。・・・アンタの言いたいこと。たぶんだけど。
あたし、わかったから。・・・だから、もういいよ。」
ふ、ふぇぇぇーーーんっ!!!
梨華チャンは激しく泣き出した。ただ、ただ、わんわん、と。
そこにどんな想いが隠されてるのか、いまのあたしにはきっと
わからない。・・・それでも。
どこかで、こういう子だって気がついてた気がする。
言葉だけの「ありがとう」を、この子から聞いたことはないけど、
あたしの作ったものを口に運ぶ時。
梨華チャンの顔がパアァァって輝いて、美味しい、美味しいって
言ってくれてたから。
梨華チャンの表情は、いつでもとってもおしゃべりで。
だから、それを盗み見てるあたしは・・・あたしは・・・なんとなく
こういう生活も悪くない、なんて思ってしまっていたから。
「・・・梨華チャン」
初めて、名前を口にして呼んでみる。
- 225 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:38
-
ヒックヒックと、小刻みに震えてた身体の揺れが、驚いたように
一瞬、止まった。
「・・・夕飯、何が食いたい?」
「・・・・・・・・ オムライス。」
「オーケー」
あたしは、梨華チャンの頭を二度、ポンポンって少し強めに
叩いた。そして腕を離して、キッチンに入る。
- 226 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/16(木) 17:39
-
もちろん。
とっておきの、オムライスを作る為に。
- 227 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/16(木) 17:39
- 更新しました。
いつもの名無し様。
お名前通りにレス頂けて、かなり励まされてます!
ありがとうございます。
「番犬」は・・・今、散歩に・・・そのうち帰ってきますよw
210名無飼育様。
レスをありがとうございます。嬉しいです!
・・・イメージ。そのうちぶち壊すことにならなければ
いいのですがw
- 228 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/16(木) 18:00
- 今日も更新お疲れ様です。
およよ・・よっちぃ〜もう溶けちゃったのかい?
梨華ちゃんマジック炸裂!ですねw
もうちょっとガーンと来てドーンと来るのかと思ったのですが・・・
はっ!これからかも・・・w
それにしてもよっちぃ〜とっておきのオムライス食べたいなぁ〜
お腹が減ってきたw
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/16(木) 22:45
- 更新お疲れ様です!
ほんとっ、おもしろい、というか好きですよ〜
先が楽しみです♪
(よっすぃバージヨン・読んでイメージさらに
ぴったり☆って感じです〜)
- 230 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 11:50
- ◆◆◆
寝過ごした。
リビングのドアに手をかけると、ガタガタと人の気配がする。
なんだ?
ドアを開けて、キッチンを覗くと、なんと梨華チャンが立っていた。
はぁ?どーいう風の吹き回し?
まだ寝てんのあたし?・・・夢、とか。
「・・・はよ。」
声をかけると、ビクッとした梨華ちゃんは持ってたフライパンを
落としそうになって、あたふたとフライパンに直接、手をつけた。
「キャッ 熱っ!」
「バカッ!置けよっ」
あたしがキッチンに回りこむ間、梨華チャンはフライパンを
レンジの脇に置いたものの、熱いよぉ〜と涙目になってるだけ。
役立たず。トロすぎる・・・てか、ありえねーだろ?
梨華チャンがじっと見てる、自分の手の手首を、あたしは横から
手を出して、乱暴に掴むと蛇口を大きく捻った。
- 231 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 11:50
- 滝のように勢いよく流れ出た水流に、少し赤くなってる手を
つけてやる。
「火傷したら、すぐ冷やす。これ基本。」
「・・・はい」
事務的な口調で言ったら、シュンと肩を落とすから、あたしは
言葉を続けた。
「で、何つくりたかったの?
てか、呼べよ。同じ家にいるんだからさ。」
「・・・・・オムライス。」
「へ?またぁ?」
「ち、違うのっ! オムライスを作りたかったの!・・・昨日
ひとみちゃんが作ってくれたの。すごく美味しかったから。
なんか、ママが作ってくれたのと味が似てる気がして・・・
私にも出来るかな?って思っちゃったんだもんっ」
「・・・無理。」
「ひ、ひどぉ〜〜〜いっ!」
梨華ちゃんは、空いてる方の手でポカポカとあたしの背中を
叩いた。あたしは横目で、真っ赤になってる顔を盗み見ながら
気づかれないように、小さく笑った。
- 232 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 11:51
- 「で?ほんとにまた、オムライスが食いたいの?」
うぅ〜〜〜ん。梨華ちゃんは取り合えず、冷やし終わった
自分の手を見ながら、眉を寄せた。
「オムライスは、私が作ってみたかったの・・・ひとみちゃんが作って
くれるならなんでもいいよ。だって、全部美味しいもん。」
何を今更、当たり前のことを。
大きく頷くあたしを、それに、と、梨華ちゃんは上目遣いで
チラリと見る。
「昨日すごーーーく美味しかったのは、きっとね?
ひとみちゃんと一緒に食べれたからだったと思うの。」
な、なに言い出すんだっ!
コイツ・・・急に態度変えやがって。よくもまあそうゆーこと口に出せるよ。
信じらんねー・・・てか、ヤバい。恥ずい。顔が・・・。
あたしは、またシンクの方にクルリと向きを変えた。
すかさず、ツンツンと、あたしのシャツが引っ張られる。
「・・・あんだよ?」
「前・・・あんなこと言っちゃったけど。
これからは、一緒にごはん食べてくれる?
ほんとは私・・・ひとみちゃんと一緒がいいの。」
- 233 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 11:51
- 「・・・・・・・な。」
「え?」
「な、なんでもねーよ。・・・それもいいかもなって言ったの!
向こう座っててよ、そこにいられると邪魔っ」
「はーーーい!」
ルンルン♪って感じで、キッチンから出て行く後ろ姿を見て
あたしは頭を抱えたくなった。
おバカな梨華チャンに対してじゃなくって、自分に。
・・・あたし、さっき・・・なんて思った?
思わず、なんて口走ってた?・・・ありえねーだろ。
− アンタ、可愛いな −
止めろーーーっ ・・・参った。思い出すなオレ!
そんなこと口走るくらいなら、死んだほーがマシだっつーの!
はぁ・・・・・
朝っぱらから・・・疲れる。
- 234 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 11:52
- 気を取り直して。
梨華チャンが作りかけてたチキンライスもどきを、一口、食べてみる。
・・・ダメだ、こりゃ。
味付けがどーのこーの以前に、全体がべチャべチャしてる。
リゾットかよ?
オムライスって単純で簡単だと思われてるけど、ほんとに美味く
作るのは、結構、難しい。
炒めメシ系は腕に力と、コツがいる。あと、勢い。
だから、梨華チャンには絶対無理なんだ。
ふんわりと半熟を残したままの玉子を、被せるタイミングは
慣れ、みたいなとこがあるけど。
けど・・・
昨日のオムライスは・・・マジで特別だったから。
- 235 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 11:52
- 昨日。
しゃくり上げてる、細い肩を見てたら。
うんと美味いもん食わせてやろうって。喜ばせてやろうって。
あたし、思ったんだ。
思うところあって、中卒で料理の道に入ったあたしは、下積みも
長かったけど、そこそこなんでも作れる。
デミグラスを最初から煮込んでる時間は無いとして、市販のソースに
一手間かけて、それなりの物を作るなんてなんでもないことだ。
バターライスに濃厚なホワイトソースって、いう手もある。
けど。
梨華チャンが、いま食いたいって思ってるのは、そういうんじゃない
気がした。
- 236 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 11:53
- ねー?よしこ〜 って、ごっちんが話し始めた、梨華チャンの話。
よしこがさぁ〜、口ベタなの知ってるし、自分語り苦手なのも
わかってるから、ベラベラしゃべれ、なんて言わないけど。
梨華ちゃんの話とか、たまに聞いてあげてよー
なんかあの子、ちょっと寂しいみたいだからさぁ〜
なんだそれ?って言ったあたしに、ごっちんは笑った。
さぁ?軽いホームシックみたいなモンじゃない?って。
梨華ちゃんって、たぶん、うちらとは全然違う風に育った子だよ?
アイとかユメとか、甘〜いお菓子みたいなもの、惜しみなくたくさん
与えられて、育った子。じゃなきゃ、あんなになるわけないって。
ノーテンキで、思ってること全部顔に出るんだよ?信じらんない。
笑っちゃうけど、あの子の世界って、きっと、ピンク一色で、
出来てんじゃん? いつでもハッピ〜♪って感じでさぁー。
バァーカって思うけど。・・・でも・・・ま、面白いよ。
あの時、ごっちんはどんな顔してたっけ?・・・あたしは?
ぼやけてたごっちんの顔が消えると、最後に喧嘩した日のチーフの
顔が浮かんだ。
- 237 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 11:53
- 「吉澤、お前は腕はいい。確かにな?
けどな、お前の作る物には、心、がねーんだよ!」
あたしが、修復不可能なくらいマジギレしたセリフ。
・・・だけど、その言葉の意味がわかった気がした。
そうしたら。
あたしの頭に浮かんだのは、なんでもなく普通で。
ほんとにありふれてて。
ただ、母親が家で子供の為に作るような、オムライス、だった。
- 238 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 11:54
- なんだか調子がおかしい。
昨日から、よけーなことばっかり考えてる気がする。
おかげで昨夜は、なかなか寝付けなかった。
さて。何を作るかな?
・・・・・・・・・・
改めて、シンクの回り、レンジの回りを見て、あたしは
絶句する。
これ、片付けるの・・・オレかっ?!オレなのか・・・・・。
台風が通り過ぎたみたいに、とっちらかってるキッチンの
シンクに両手をつくと、あたしはがっくりと項垂れた。
- 239 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/17(金) 11:58
- 更新しました。
いつもの名無し様。
ドーンと来て、ガーンと来て、ですか?・・・それもいいなぁw
まだ、半解凍くらいだと思うんですが、溶け出すと、案外速い
かも知れないですw
オムライスって急に食べたくなりません?自分はなるんですよw
229名無飼育様。
イメージ合ってました?趣味が合いますねw
両視点で書くと舞台裏がないので、読者さまに二人の心のうちが
モロ見えなとこが気になってたので、面白いと言って頂けると
ホッとしますw
- 240 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/17(金) 15:51
- 連日更新お疲れさまです。
二人とも可愛いなー。この微妙な二人の距離感がたまらないです。
- 241 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/17(金) 18:37
- 更新お疲れ様です。
急に後ろから声かけたらダメダヨォ〜w
おぉ〜よっちぃ〜少しずつ梨華ちゃんにハマっちゃってないかい?
何か・・・早いなw
でも梨華ちゃんかぁ〜いい♪
よっちぃ〜今度は梨華ちゃんと一緒に作ってあげてねw
- 242 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 20:52
- ◇◇◇
久しぶりに、編集部を訪ねてみれば、保田さんは忍者みたいに
あっちこっちにと現れたり、消えたりしてる。
忙しそうだから、暫くその様子を黙って見てたけど、約束してた
ことを思い出して、私は声をかけてみた。
「あ、あのぉ〜〜〜やっ保田さぁーーーんっ」
無視。 ・・・聞こえないのかなぁ?
今度は、口の前で両手でメガホンを作ると、息を大きく吸い込んで
背伸びして叫ぶ。
「や・す・だ・さ〜・ぁぁぁ・〜んっ!!!」
目の前のデスクに座ってた人の背中がビクッと震えた。
それでも振り返らなかった保田さんは、近くにいた人に肩を
叩かれると、私へと振り返った。
- 243 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 20:52
- ギョロッとした目を、更に見開くと、あちこちの机の端から
落ちそうに垂れ下がってるものを、上手によけながら、保田さんは
私の目の前へきた。
「石川〜 来てたなら呼びなさいよっ!」
・・・呼んでました。さっきから。
そう言ったところで、呼ばれてないわよ?って答えが返ってくる
ことを、私は知ってるから、言ったりはしなかった。
保田さんは頭に手をやるとガシガシ掻いた。
「・・・例の大先生が逃げちゃってさー。今やっと、捕まえたのよ。」
そして大きく溜息をつく。
「悪いけど、あんたね? 迎えの喫茶店でなんか飲んでてくれる?
・・・もうそんなに、待たせないと思うから。」
はい。私がコクンと頷くと、保田さんは、いい子ねって感じに
目を細めて、私の頭を軽く撫でた。
- 244 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 20:53
- 言われた店の窓際に腰を下ろすと、メニューを片手にやってきた
ウェイトレスさんに、そのまま注文をお願いする。
「ティーフロート、お願いします。」
「はいかしこまりました。少々、お待ち下さい。」
ここのティーフロートは、アイスティの下に紅茶のゼリーが入ってて
それをスプーンで潰して飲むの。
氷とアイスで薄まってしまう紅茶の味が濃くなって、いつまでも
美味しく飲める、私のお気に入りの飲み物。
こんど、ひとみちゃんにおねだりして作ってもらおうかな?
でも、なんて言ったら、わかるのかなぁ〜
いくらひとみちゃんでも、自分が食べたことないものでも
同じように作れたりするのかしら?
ひとみちゃんは、一回食べた物なら作れるって言ってたけど。
料理の世界は日々進歩してるからって、よくお料理の本とか
読んでるひとみちゃん。
最近、昔働いてたお店の人が独立して出したお店に、お手伝いに
行ってるし。
やっぱり、お料理の仕事、したいんだろうなぁ・・・
だって、あんなに上手なんだもの。
私だけの為に、なんて贅沢過ぎるよね?
- 245 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 20:53
-
昨夜、ひとみちゃんが・・・
「悪りーけど。
しばらく夕飯、作ってやれないかも知んない。」
「・・・え?」
「今、手伝いに行ってる店。こないだ雑誌に載っちゃったみたいでさ。
裕ちゃん・・・あ、店のオーナーシェフね?あたしの先輩。
裕ちゃんは、一時的なモンだろ?って言ってたけど。
・・・忙しんだわ、いま。」
「・・・ひとみちゃん・・・そこで働くの?このまま?ずっと?」
「裕ちゃんは、あたしがよければ来いって言ってくれたけど・・・」
ひとみちゃんは、だらしなく頬杖をついてた顔を私に向けた。ドキ。
・・・・・・・・
や。嫌だよ?・・・開こうとした唇を、慌てて止めた。
私は・・・ひとみちゃんのお料理ももちろん食べたいけど。
そんな事じゃなくって、こうして二人でいる時間が無くなるのが嫌。
嫌だもん。・・・・・でも。
言えないよね?そんな我がまま。言っちゃダメだよね?
- 246 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 20:54
-
私の顔を黙って見ていたひとみちゃんがフッと笑う。
「・・・まだ、決めたわけじゃねーよ。」
ダイニングテーブルに両手をついて、立ち上がりながら、ボソリと
ひとみちゃんは言った。
「これでもいろいろ考えてるんだぜ?・・・ま、最近だけどな。」
そのままテーブルを回って、私の前で足を止めてニヤリとする。
「けど・・・外に出たら、意外と金稼げるよ?あたし。
家賃も入れられるし、生活費も出せる。」
「そんなのっ・・・」
「・・・わかってる。」
ひとみちゃんは私の顔を見ながら、ゆっくりと右手を上げた。
その手が途中で、戸惑うように止まって。
そのまま自分の首の後ろに回すと、ひとみちゃんはポリポリと
掻いた。そしてリビングから出て行ってしまった。
・・・お金なんていらないよ。
だってひとみちゃんは、お金で買えないものを、私にいっぱい
くれるじゃない?・・・・・だけど。
すっと傍にいて。なんて言っちゃいけないんだ。それは・・・・・。
それは、私の・・・我がままなんだから。
- 247 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 20:55
- 「お待たせしました。」
コトリとテーブルに飲み物が置かれて、ハッと上げた私の目線の
先で、ウェイトレスさんの後ろに立ってた、保田さんが片手を
上げた。
「待たせたわね。」
その声に、横にどいたウェイトレスさんに、悪いわね、急いでるから、
と、注文を断って、私の前に座ると方眉を器用に上げる。
「・・・どう?」 「どうって、言われても・・・。」
「書けてる?」 「・・・・・はぁ。」
モジモジする私に、保田さんは少し、身を乗り出してきた。
ちょっと・・・コワイ。
「あのね?石川。」 「はい。」
保田さんは至近距離にある顔の、眦にグッと力を入れる。
やっぱり・・・かなりコワイ。
「・・・あんたの作風、あたしは好きだけど。
そろそろ、一皮剥ける時期なのかも知れないわ。」
「・・・・・・・・」
- 248 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 20:55
- 「わかってると思うけど、最近、読者アンケート、悪いでしょ?
こう言っちゃなんだけど。
石川が相手だからはっきり言うわ。あんた、飽きられてる。」
私は唇を噛むと俯いた。薄々わかってたこと。
きっと、そういうことなんだろうなって。だけど。
私は物を書く勉強とか、したことがあるわけじゃなくて。
読者を惹きつける文章なんて、ちっともわからなくて。
ただ自分の頭の中にある、ときめきに対する憬れとか。
想いが通じる喜びとか。そんな気持ちを書いてただけで。
それは。
川辺でキレイな石を見つけて、そっと持ってかえったものを、並べて
楽しむ。そんな一人遊びをパソコン相手にしてたみたいなものだから。
だから。
ほんとにわからなかった。
これからどうすればいいのか?何を書いたらいいのか。
「・・・石川」
そっと囁く声に、私は顔を上げた。
- 249 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 20:55
-
「あんた、もっと欲張りになりなさい。
恋する気持ちは、美しく、優しいだけじゃないわ。
人はね?・・・好きになるだけじゃ足りないものなのよ。
もっと強欲なの。
気持ちだけじゃ、収まらないの。もっと先が。続きが欲しいの。
・・・・・わかる?」
私は顔を曇らせて、眉を寄せた。
「・・・わからない、か。
恋をしなさいよ。恋を。頭の中だけじゃなくて、全身で。」
「・・・・・全身?」
「そうよ。
・・・抱きしめあったり、キスを交わしたり、その先も。
身体を使ってでしか、感じられないことも世の中にはあるの。」
「そっ・・・・・そ、そ、そんなのっっっ!」
勢いこんでそこまで言って、私は続きが言えないで黙り込んで
しまった。
そんなのわかってますって言いたいのか、そんなの無理ですって
言いたいのかが、自分でわからなくなってしまったから。
- 250 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/17(金) 20:56
-
「・・・とりあえず、キスシーンくらいは書いてみせなさい?
お伽話みたいなのはダメよ。もっとリアルなヤツ。
それが無理なら、刺激的な設定でもいいわ。
読者が、ドキドキして、先が読みたくなるような、ね?」
保田さんは、口を開いたまま、片目は半目という荒業なウィンクを
して、伝票を掴むと颯爽と店から出て行ってしまった。
・・・・・・・・
私は、アイスティをスプーンでかき混ぜると、外を見た。
自分の頭が、何か考えてる気もするけど、それが言葉になって
現れることは無かった。
- 251 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/17(金) 20:56
-
更新しました。またまた二回目w
三連休中は更新出来そうもないので、パソの機嫌が変わらぬうちに
ストック大放出状態です。
240名無飼育様。
自分も微妙な雰囲気って好きですw
書いてる自分が楽しんでます。
いつもの名無し様。
溶け出したら、もう戻りませんw
早いのは、神の采配の二人なので許してね。
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/17(金) 21:42
- 圭ちゃんのウインクにワロタ
いつも楽しみに読んでます
- 253 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/17(金) 23:12
- またまた更新お疲れ様です。
もうね、うぉ〜〜〜〜〜っ!!!って感じです。
読みながら小躍りしたい心境です!
ヤッスーの言葉はよっちぃ〜じゃないけども自分の所にズーンときましたよw
うっ!やられたって感じで・・・w
では次の更新を楽しみに待っています。
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/17(金) 23:42
- 更新お疲れ様です!!
今日はたくさん読めてうれしかったです♪
二人のやりとりが甘・甘 の一歩手前、って感じで
ワクワクします。梨華ちゃんカワイイ〜
(両視点って、読んでる自分だけがそれぞれの気持ちを知った
みたいで好きなんですよ〜・・作者様と趣味があって嬉しい♪)
- 255 名前:もも 投稿日:2004/09/18(土) 17:32
- 超〜面白いっす!!
(0^〜^)の3Lな態度最高だね!
( ^▽^)ちゃんハッピー!!
更新を楽しみにしています。 ( ^▽^)人(^〜^0)
- 256 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/18(土) 18:30
- 最初からいっきに読みました。作者さん最高!!!
新作のいしよし、両視点で書いて頂いてすげぇーなと思います。
(0^〜^)<って、梨華ちゃんかぁいいすぎるぅ〜
これからも頑張ってください。
- 257 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:37
-
◇◇◇
コンコン・・・
窓ガラスがノックされて、ハッとすると、その先で美貴ちゃんが
ニタニタ笑ってた。
私が立ち上がると、座ってて、と言うような身振りをして
美貴ちゃんも、お店に入って来る気らしい。
もう一回座り直していると、テーブルの横に美貴ちゃんが立った。
「珍しいじゃん。美貴もなんか飲もうかなー」
「いいの?そんなこと言って。編集部、目の前だよ。」
「美貴、今日はもう上がりだも〜ん。
この封筒、上に持ってったらお終い!」
「・・・それ、先に持って行った方がいいと思うよ?」
「やっぱり?」
肩を竦める美貴ちゃんを見ながら、私は立ち上がった。
「私も、もう帰ろうと思ってたとこだし。」
「え〜〜〜なんでよ!せっかく美貴が来たのに。
そうだっ 美貴、これから梨華ちゃんとこ、行ーこぉっと!」
「・・・なんで?」
「なんでって、、冷たいなー・・・そんなの決まってるじゃん!
ひとみちゃん、が見たいんだよ?」
- 258 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:37
- 「・・・な、なんで?」
なんでって・・・そんなことも分からないの?って、呆れた顔をする
美貴ちゃんの様子を、ウェイトレスさんが気にしてる。
私は、もう出ますからって言って、美貴ちゃんの腕を引っ張った。
店の外で引っ張ってた腕を離すと、立ち止まった美貴ちゃんは
私の顔を見て、ニヒヒッと笑った。
「だってさ〜ぁ、 梨華ちゃんがウルサイんだもんっ
ひとみちゃん、ひとみちゃんって。」
・・・・・え?
そんなに話してた?美貴ちゃんに?いつ?どこで?
口に出して聞く前に、美貴ちゃんが、からかうみたいに言う。
「最初はメールでさ。すっごい可愛い子と同居することになったって
寄こしたじゃん。
美貴が聞いてもないのに。可憐な花がどーとか、こーとか。
家主になる自分が、あーだ、こーだ。
あんまり、梨華ちゃんのメールが多くて、あの日、学校で
からかわれたんだからねっ美貴は。」
・・・そうだっけ?
- 259 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:38
- 「次は、焼肉屋いった時。
会ってみたら、ボーイッシュな女の子で、外見はかなりイイけど
中身は最悪だって、文句たらたらだったじゃん。
あの日、梨華ちゃんの口からは、その話しか出てないよ。
美貴が、他の話題振っても、また戻すしさ〜
付き合うのアホらしくなったけど、梨華ちゃんの奢りだったから
美貴は、食べるのに専念してたんだ。」
・・・そ、そうなの?
確かに、あの日。いつもよりお会計が高かった気もするけど。
たらりと汗が出てきた私に構わず、美貴ちゃんは話を続ける。
「その後。
仕事関係で電話とかしても、二言目には、ひとみちゃんがね?
ひとみちゃんがね?ってさ。
美貴は、一応、仕事で電話してるわけだし。
そもそも聞いてないよ!そんなことはって感じ。」
あ、あはは・・・・・
「こんだけメーワクかけられたら、美貴には見る権利があると
思う。実物を。」
うぅ〜〜〜ん。そういう問題なのかな?・・・あ、でも。
- 260 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:38
-
「美貴ちゃん、でもね?
いま、ひとみちゃん、おうちにいないと思うよ。
知り合いの人のお店に、お手伝いに行ってるから。」
「えぇぇーーーっ!マジで?・・・・・うーーーん。
でもいーや。美貴、今日予定なくて暇だし。
梨華ちゃんのノロケ話に付き合ってあげるよ?
そのかわり、ケーキ買っておいてね?・・・あの店のモンブラン
美貴の好物だから。」
美貴ちゃんは、今、私たちが出てきた喫茶店を指差して、言いたい
ことだけ言うと、じゃ、待ってろよ!なんて、捨て台詞を残して
編集部のあるビルに入って行った。
なんだか、聞き捨てならないことをいろいろ言われた気もするけど。
美貴ちゃんは、早口すぎて、反論する隙がない。
だけど。取り合えず。
ノロケ話なんかしないもんっ。
だって、ひとみちゃんは、大好きなお友達だよ?
ひとみちゃんが、私を気に入ってくれてるかは自信ないけど。
私にとっては、とっても大切なお友達。・・・・・それなのに、
そんな言い方するなんて・・・ヘンなのぉ、美貴ちゃん。
- 261 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:39
-
- 262 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:39
- うちのダイニングで、早速、モンブランにパクつく美貴ちゃんは
何か言いたげな顔をして、私を見た。
その視線の意味はわかってる。
なんでしゃべんないの?って言いたいんでしょ?
だけど、美貴ちゃんがヘンなこと言うから・・・
口を開いたら、また、ひとみちゃんって言ってしまいそうで
私は、怖くて口が開けなかった。
だけど。
考えてみれば、私の生活してる行動範囲ってものすごく狭い。
最近は書けなくて、ずっとパソコンに向かってた。
そうすると、ひとみちゃんとしか顔を合わせてないわけで。
ひとみちゃんの話ばかりになってしまうのは、仕方ないことじゃない?
そうは言っても。
じゃあ、ひとみちゃんがうちに来てくれる前はどうだったっけ?
美貴ちゃんと何も話してなかったわけないし。・・・・・う〜〜〜ん。
- 263 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:40
- カチンッって、美貴ちゃんが、フォークをお皿に少し乱暴に
置く音がして、私はバッと身構えた。
「・・・ところで、だ。」
・・・・・な、なによ?
「今日、保田さんとこ行ってたんでしょ?何か言われた?」
なーーーんだ。そのことね。
ハッ!!!
なんだってことはないじゃない?!・・・重要な問題だったわ!
うぅ〜〜〜む・・・・・あ!!!・・・そうだっそうだわっ
「ねぇ?美貴ちゃん・・・・・」
「ん?」
「キスしたい?」
ブッッッ!!!
美貴ちゃんは噴出した。口に入れてた紅茶を見事に。お笑いみたいに。
「もーーーぉ!ヤだっ美貴ちゃん。汚い。」
ダイニングテーブルが大きめだったから、かかったりしなかったけど。
- 264 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:40
- 美貴ちゃんは、咳払いをした。
「イキナリだね。梨華ちゃん・・・したいの?」
私は首を傾げた。わからないから聞いてるんだけど。
「じゃ、なんでそんなこと聞くの?美貴に。」
実は・・・・・って、私は保田さんに言われたことを話出した。
美貴ちゃんは、ちゃんとした編集部の人ってわけじゃないけど、
保田さんが前、藤本がやる気があるなら、大学を出た後、うちで
使ってもいいって言ってたから。
保田さんは、仕事には厳しい人で、その保田さんに、そう言われる
美貴ちゃんは、きっとこの仕事に向いてる人なんだろうなって思うから。
相談してみようかなって。
私の話を聞き終わった、美貴ちゃんは、大きな溜息をついた。
「そういう話なわけ? なーんだ。」
「なーんだってことないでしょ?美貴ちゃん!
私にとって、すっごく大変なことなんだからっ!!!」
「・・・大変ねぇ〜〜〜」
- 265 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:41
- 美貴ちゃんは、自分のサイドの髪を摘んで見て、つまらなそうに
離した。
「・・・それより梨華ちゃん。
作家としてって言うなら、言葉の使い方の勉強した方がいいよ。」
ムッ!・・・・・って、あれ?
そのセリフ・・・どこかで聞き覚えが???
私はグーにした手で、頬杖をついた。
「おーい!梨華ちゃーーーんっ美貴の話、聞いてる?」
あ、思い出した!
「そう、そう美貴ちゃん!この間ね。
ひとみちゃんが、こう言ったんだよ?
ひとみちゃんて、最近・・・結構ね?優しくしてくれる感じなんだけど
よく意地悪なこと言うの。
そうすると私、とっさに言い返せなくて、こう、手が出ちゃうのね、
もちろん、本気で叩いたりしないよ?
悔しいから、ペチンッてするくらいで。そうしたら、口で上手く
言えないから手が出るなんて、子供みたいだって。
物書きがそれじゃマズいんじゃないって。
ひどいとおも・・・」
「もういいよ。」
「・・・・・え?」
- 266 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:41
- 美貴ちゃんが、ジトーーーッて私の顔を睨んでた。
ひょっとして私・・・また、やっちゃった?
「ひとみちゃんの話は、もう聞き飽きた。」
「・・・・・ごめん。」
「面白くないんだよ。その話。」
「うん。美貴ちゃんに関係ないもんね?・・・ごめんね。」
「て、いうか。
梨華ちゃんは、美貴のおもちゃだったのに。」
・・・・・はい?
「結構、気に入ってたのにさ。
横取りって許せないよね?そうでしょ、梨華ちゃん。」
え?・・・えぇぇーーーと??? 横取りはいけないって話?
・・・あれ?・・・でも?
「さっきの保田さんが言ってたこと・・・。」
美貴ちゃんはふいに立ち上がって、キョトンとしてる私の手を取ると
そのままリビングのソファへと引っ張っていく。
いつもと違う美貴ちゃんの雰囲気に呑まれたまま、ストンと
並んで座った。
「なんなら、美貴が教えてあげてもいいよ?」
美貴ちゃんは、私の髪に指先を通して、少し顔を近づけると
囁くように言って、指を外した。・・・ごくっ。
- 267 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:43
- す、すごい・・・迫力あるんですけど。美貴ちゃんのアップって。
知ってたことだけど、こうやって間近で見ると。
やっぱり、キレイだなぁ・・・なんてぼんやり見惚れてる場合じゃなく。
この、ヘンに危険な空気は、な、なにぃーーー?
あせって、ジリジリと身体を後退させていたら、ソファの肘掛に
背中があたった。・・・・・げっ!!!
「今まで、そういう目で梨華ちゃんのこと見たことなかったけど。
よく見ると・・・うん。可愛いし。
さっきの保田さんとの話、あれ、聞いちゃうとさ。
他のヤツと、梨華ちゃんが、こーゆうことするくらいなら
美貴が相手のがいいでしょ?梨華ちゃんも。」
こ、こ、こーゆうことって。そ、それは・・・・・えっと。
- 268 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:43
-
美貴ちゃんの顔が、どんどん近づいてくるから、どんどん身体を
引いていったら、とうとうソファの上に寝転がってしまった。
美貴ちゃんはソファに片手をつくと、その腕にグッと力を入れて
覆いかぶさるように、顔を近づけてくる。
そして、もう片方の手が私の頬に触った。
「いまキスしたら、モンブランの味がするよ?」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、待ったぁーーーっ」
私は美貴ちゃんの両肩をグイッと押した。
- 269 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:44
-
「やーだーねっ!美貴に火ぃつけたの梨華ちゃんだし。」
肩に置いた私の両手を掴むと、その手を左右に広げながら
美貴ちゃんの顔が・・・顔が・・・
も、もうダメーーーッ!!!
私はギュッと目を閉じて、横を向いた。
その時、私の頭に浮かんだのは。浮かんだ人は。
コンコンッ
「お取り込み中、失礼。」
- 270 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/21(火) 20:46
-
浮かんだ人は・・・・・・・・
ノックの音と共に、いまこっちに話しかけてくる声の主、その人
だった。
- 271 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/21(火) 20:47
-
更新しました。
252名無飼育様。
笑ってもらえて、よかったですw
いつも楽しみにって、すごく嬉しいです。
いつもの名無し様。
またまたレスをありがとうですw
やっちゃった♪って感じで、これまたすごーく、嬉しいです。
254名無飼育様。
読めて嬉しいと思って頂けるなんて、自分こそ嬉しいです。
甘甘の一歩手前・・・自分も好物ですよw
- 272 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/21(火) 20:47
- もも様。
超〜〜〜ありがとうです。
自分の書く二人はちょっと極端ですけど、楽しんでやって下さいw
256名無飼育様。
イッキ読み、お疲れさまです。
これからも二人を(と、自分もw)見守ってやって下さい。
今週は忙しく、更新出来そうにありません。
楽しみだと読んで下さる方々には、ごめんなさい、です。
パソの機嫌が崩れなければ、週末か、来週の始めの方に更新したいと
思っております。よろしくお願いします。
- 273 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/21(火) 22:10
- うおぉ〜!いいところで切りますね〜(泣
パソのご機嫌が悪くならないようお祈り致しております。
- 274 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/21(火) 23:20
- NO〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
またまたいい所で!!!
思わず地団太踏んでしまいましたよw
梨華ちゃんピ〜〜〜〜ンチな時のおいしい所で参上ですか?
よっちぃ〜カッケー!
ってか美貴ちゃん悪者?( ̄へ ̄;ムムム
更新のほう大変そうですががんばってください!
待ってます!
- 275 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/22(水) 13:18
- いいとこで切りますなあw
- 276 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:40
- ◆◆◆
コンコンッ
「お取り込み中、失礼。」
口の中に砂が入ってるみたいに、ザラザラ言葉が引っかかる。
その不快感を口の中で、転がすように出したあたしの声は
なんだか掠れてた。
梨華チャンに覆いかぶさるみたいに、ソファに身を乗り出してた
女は、ゆっくりと上体を上げて、振り返った。
「あ、おかえり。」
昔からの知り合いに言うみたいに、サラリと言って、その子は
立ち上がった。
「ひとみちゃんでしょ?
美貴、えぇと、藤本美貴です。よろしくぅ!」
呆気にとられた。
スゲーこの子。まったく動じてない。
「何してたの?二人で。」
だからあたしも、わざと聞いてみる。一目瞭然だったけど。
- 277 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:40
- 「練習・・・かな?・・・ね?梨華ちゃん!」
話を振られた梨華チャンは、ショック状態から醒めたばかりで
何もわからない、という表情で、ぼんやりとあたしの顔を
見てた。やれやれ。
「梨華チャン!」
あたしが名前を呼ぶと、梨華チャンは今度こそ、本当に目が醒めました
って感じで、はぁいぃぃぃっと、タダでさえ裏声みたいな、甲高い声を
さらにひっくり返した。
「・・・なんの練習?」
そうとう意地が悪いか?と、思ったけど。止まらない。なぜか。
「な、なんの?」
片手で口許を隠して、上目遣いで見上げてくる。
「そう。なんの?」
目を細めて、ジィーーーと見返すと、蛇に睨まれた蛙みたいに
梨華チャンは、ごくり、と、息を呑んだ。
- 278 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:41
-
ポンポン。肩を叩かれて、ハッとした。
「・・・ひとみちゃんってサディストなんだ?
ま、そんなことはどーでもよくて、美貴の存在、忘れてるでしょ?」
確かに。てか、ヤベッ・・・。何やってんだ?オレ。
周りの状況が見えなくなるなんて、ありえねーーー。
あたしは頭をポリポリ掻きながら、話を変えた。
「今日、早く上がれたからさ。夕飯作ろうと思って。
でも・・・・・邪魔、しちゃったみたいだな。悪い。」
まだ固まったままの梨華チャンに、ニヤリと笑いかけると、
壊れたおもちゃみたいに、激しく首をブンブンと横に振った。
だから・・・もう止めとけよ?オレ。マジで。
あたしは、なんかを引きずってる気分を無理に切り離して、藤本、と
名乗った子を見た。
「もう、練習はいいの?
するなら消えるし、しないなら、藤本さんも夕飯食べてく?」
「そーだなぁ〜 どーする?梨華ちゃん?」
- 279 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:41
- 梨華チャンは、相変わらず、壊れたおもちゃ状態で、首を横に
振り続けてる。
「・・・・・だって。あと、折角のお誘いだけど、美貴、止めとく。
今日はこのスリーショット、楽しめそうもないじゃん?
てことで、今度また、ご馳走して?」
言いたいことだけ言って、藤本は、じゃって片手を上げると
リビングを出て行こうとする。
その足を、思いついたように止めて、あたしを振り返った。
「ひとみちゃんさー
ひとみちゃん、なんて呼ばれるキャラじゃないよね。
ホントは恥ずいって思ってるでしょ。
美貴は、なんて呼べばいい?普段なんて呼ばれてるの?」
「・・・最近は、よっちゃん、かな?」
「んじゃ、敬意を込めて、よっちゃんサンって呼ぶよ。
んじゃね、梨華ちゃん。よっちゃんサン。」
藤本は、大きな仕事が成功して満足した人が、帰途につくみたいに
足取り軽やかに、出て行った。
さて。
あたしはどうしたらいいんだ?・・・・・この空気。
- 280 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:42
- 「・・・そうなの?」 「あ?」
梨華チャンの沈んだ声に、あたしはその顔を見た。
眉を寄せ、悲観的な表情を浮かべて、私・・・気づかなくて、とか
なんとかゴニョゴニョ言ってる。はぁ?
「ひとみちゃん・・・ほんとは嫌だったんだ?ごめんね・・・・・
じ、じゃ、私もよっちゃんって呼べばいい?」
思いつめた顔でするよーな話じゃねーっつーの。バカらし。
大袈裟過ぎんだよ。梨華チャンは。ま、いんだけど。笑えるし。
・・・なんか、この子と話してると、ほんとに調子が狂う。
なんか・・・・・なんかつい、笑っちゃったりしてんだよね、あたし。
「べつに。アンタにそう呼ばれるのは慣れたから。
あ、悪い。あたしはついアンタとか言っちゃうけど。」
「私もっ慣れた!」
梨華チャンが、ふふって笑顔になったから、あたしも、ハハッて、声に
出して笑って。
なんとなく、うやむやに、リビングは和やかな空気になった。
- 281 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:42
-
けど。
やっぱり気になる・・・あたしもたいがいしつこいな。
あーうぜぇーーーっ!あたしってこんなキャラだった?
違うだろ。
あたしは梨華チャンの顔を見たまま、考える。
あれはどー見ても、してたよな?
ドアんとこからだから、よく見えなかったけど。
そう言えば。最初の日。
初対面の梨華チャンに、金を強請るようなこと言わなきゃいけない
自分の不甲斐なさに苛立ってたあたしは、ついつい挑発するような
ことをワザワザ言ったりして。・・・んで。当然、怒らせて。
あん時、確か・・・梨華チャン。
間に合ってるとかなんとか、言ってたよーな?
- 282 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:43
- 藤本。
梨華チャンの彼女?
男はいないけど、女ならいるってわけ?・・・ふぅーーーん。
・・・・・・・・
あたし。
なんで邪魔なんかしたんだ?カンケーねーじゃん?
カンケーねーはずなんだけど・・・なんつーか、その。
気が付いたら、止めてたってつーか。
取り合えず、見たくなかったってつーか。・・・・・・・・
止ーめた。止め、止め。考えるの中止。・・・・・・・・・・・
けど。
・・・・・練習ってなんだ?
テルルルル・・・
- 283 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:43
- ◇◇◇
テルルルル・・・
あ、電話。
ひとみちゃんが、ハッとしてる。
珍しーーー。そう言えば、少し、ボォとした顔してたような?
私は私で、美貴ちゃんのこと考えちゃってたんだけど。
美貴ちゃんが私にあんなことしようとするなんて、意外すぎて
頭が全然、まとまらないよ。・・・・・だけど、さっき。
さっきなんで。浮かんだのかなぁ?
ひとみちゃんの顔が・・・・・頭に。そんなことを思いながら、受話器を
取った。
「はい。石川です。」
(保田です。)
「あれぇ〜?どーしたんですかぁ?」
(さっき、言い忘れたのよ。)
「ハイ。」
(取り合えず、一週間後ね。なんか書いときなさいよ!)
「えぇぇぇーーーっ?!無理ですってば。」
(無理は承知。石川、あんたプロでしょ?・・・まぁ
一発OKのもの書けるって言うなら、いいわ。二週間後でも。)
「そ、そんなぁーーーっ」
(連載枠、取っといて貰えるうちが華じゃないの。
頑張りなさい、石川。それじゃね。)
「え?・・・や、やす・・・」
(ガチンッ・・・ツーツーツー)
- 284 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:44
- 美貴ちゃんの言いたいことだけ言って、いなくなっちゃうのって
保田さん譲りだったのね?
なんてことはどうでもよく・・・・・どーしよ?
どーしたら・・・書けるのぉぉぉ〜〜〜
どよーーーん・・・
ふらつく頭で、ダイニングの椅子に座ると、ひとみちゃんが
ねー?って私を呼ぶ。
なぁに?
声が出てこない。顔だけ上げた私に、ひとみちゃんは指差した。
「それさ、まだいるわけ?」
げっっっ!受話器持ったままじゃんっ私!!!
慌てて立ち上がると、テーブルの脚に脛をぶつけた。
い、痛い・・・・・。
- 285 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:44
- もぉ〜〜〜っ もぉもぉヤーーーーーッ!
半泣きになりながら足を擦って、蹲ってると、受話器を横から取り
上げられた。がたんって戻す音がして、頭の上で声がする。
「なに、パニクってんだよ?」
顔を上げると、ひとみちゃんの顔がすごく近くにあった。ドキ。
目の前に、しゃがみ込んでたひとみちゃんは、私の顔を見た後
プイ、と顔を横に向ける。
「足、ぶつけたくらいで、泣くなよ。
あたしなんか、包丁で指、落としそうになったことあるぜ、骨が見えた。」
「う・・・うそ?!」
サーーーッと青ざめた私に、ひとみちゃんは、嘘って言いながら
立ち上がった。
なんだ、嘘かぁ・・・でも、想像しちゃった。すっごく痛そ。
痛いなんてもんじゃないかも?気絶しちゃうかも?
「で、どーした?なんかあった?」
落ちそうになってる指とか、そういう時は救急車呼ぶのかな?とか
そんなことまで、考え始めてた私は、ハッとして顔を上げた。
- 286 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:46
- うん・・・。私は俯いたまま立ち上がって、顔を上げた。
ひとみちゃんは小首を傾げて、私を見てる。
なんだか心配してくれてるみたい。
ここまできて、言わないのも、なんだかなぁって気がする。
だけど。
ひとみちゃんって、恋愛系の話をちょっとバカにしてるっていうか
あんまり好きじゃない気がするんだよね?
・・・なんて言えばいいのかな?
私が言葉を探して黙っていると、ひとみちゃんが肩を竦めた。
「言いたくないならいい。べつに。」
- 287 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:47
-
「ちっ違うの!・・・・・たぶん、すっごく、くだらないって思うよ?
時間の無駄とか。ひとみちゃん、それでもいい?」
「いーよ。」
「えーーーっとね? 私の書く物が・・・いまいちなの。
それで・・・・・読者の心を掴むようなものを書けって言われて。」
「・・・当たり前だろ?アンタ、プロなんだから。」
「そ、それはそうなんだけど。・・・ちょっとその、苦手な分野って
言うか・・・・・」
「はぁ?アイとかコイとかそういう話だろ?
苦手もなんも、アンタずっと書いてきたじゃん。」
「書いてなかったのっ!書いてなかったこと書けって言われて。
美貴ちゃんに相談したら、あんなことになっちゃったんだもんっ!」
「・・・・・は?」
「だ、だからぁ〜キスシーンとかっっっ
リアルなのって言われてぇ・・・そしたら、教えてあげるって。」
- 288 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:48
-
ぶっっっ!!!
「あははっ!・・・おかしーよ、マジで。ははっ・・・あはは!」
恥ずかしくなって、俯いてた私は、ひとみちゃんのバカ笑いに
顔を上げる。
な、なによぉ〜〜〜〜〜・・・・・笑うことないじゃないっ!・・・でも。
でも、なんか。・・・・・くす。
あれ?なんだか私まで可笑しくなってきちゃった。
ふっふふ。
ひとみちゃんは目を薄っすら涙ぐませて笑ってる。
そ、そこまでは可笑しくないと思うんだけどなぁ・・・
ひとみちゃんの笑いのツボって謎だわ。
「アンタさぁ〜からかわれたんだよ?藤本サンに。
んで、ほんとにしちゃったんだ?」
「しっしないよっ!だってしたこと・・・・・」
- 289 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:48
- 勢いこんで喚いてた私は、ひとみちゃんがこっちをジッと見てるのに、
気づいて言葉を止めた。
したことない・・・なんて。恋愛小説を書いてる身としてどうなの?
って思う。・・・・・それこそ笑い話だよ。
ひとみちゃんは、もう笑ってなかったけど。また笑われちゃうのかも。
あれ?でもなんだか、今度は真面目な顔してるし。
「ひょっとして・・・・・ない、とか?」
「ち、違うもんっ!あるよ?あるに決まってるじゃんっっっ
た、ただ、その、なんて言うか・・・えっとぉ、その、すごく昔で。
そう!そうなのっ昔過ぎて忘れちゃったのっ。」
ゼェハァ、ち、ちょっと苦しい?平気よね?上手く乗り切れたわ。
さすがに、物書きだわっ私!
「ふ〜〜〜ん。・・・忘れちゃったんだ?」
私は、うん、うんっそーなの!って頷いた。
信じてくれたみたい。ひとみちゃんって意外にチョロいわ。
・・・・・よかった。
- 290 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:49
- ひとみちゃんは、あたしの顔をジッと見たまま、なんか考える顔してる。
ちょっと目の焦点が合ってないみたいな顔。
この表情・・・・・なんか好きかも。
大きな目がぼんやりしてて、こういうの色っぽいっていうのかしら?
あ、でも。お料理してる時の真剣な顔つきも格好いいし。それを食べた私が
美味しいって言った時、そーだろ?って自慢げに笑う顔も、子供みたいで
可愛いいんだけどな。それにあと、あとねぇ・・・・・
「じゃ・・・思い出させてやろうか?」
そぅそぅ!思いだ・・・・・へ?
・・・・・えと、なんの話してたんだっけ?
あ゛。・・・・・いぃぃぃ?・・・・・うぅぅっ!
え、えとぉ〜〜〜それって、それって・・・どう言う・・・・・
どくんっ!!!
- 291 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:50
- どう言う意味って思ったら。急に心臓が大きく跳ねた。
鳴ったなんてもんじゃない。心臓がバネになって、身体が飛んじゃうくらい。
ドクドクドクドク。・・・・・ヤ、ヤだ。なに?
急に身体がぶわぁぁぁって熱くなってく。顔もポッポッポって。
「・・・さっきも、そんな顔してたの?」
囁くように聞かれたら、今度は耳の奥がゾクゾクした。
な、な、なにーーーぃ?私の身体、ヘン!
なんか、頭がパニックになりそうっっっ
さっき?さっきってなに?わ、わかんないよぉ〜〜〜
「どういうのが好み?
挨拶みたいに軽いヤツ?恋人っぽく甘くとか?強引に奪われる感じ?
それとも・・・・・」
ひとみちゃんの身体が動いた。
私は、一歩、前に出たその足を凝視してしまっている。
か、身体が固まっちゃってるぅ、うっ動けないぃぃぃ〜〜〜
- 292 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:50
-
「やーーーめた!」
- 293 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:54
-
・・・・・へ?
「なんかアンタ、思い出せたみたいだし。もういいでしょ?
さて、と。夕飯の支度しなきゃなぁ〜」
ひとみちゃんの足が、くるりと向きを変えた。
パチンって合図があったみたいに、金縛り状態が解けて、私は
大きく息を吐いた。
はぁぁぁ〜〜〜。疲れる。
そっかぁーーーこんなに疲れるものなのね?・・・・・そのぉ、キスするのって。
よくわかったよ?ひとみちゃん。心臓にも悪そうだし。
それに、それになんか。
なんか・・・ちょっと寂しい。
お伽話で、約束の時間が来たお姫様は、王子様とダンスを止める時
こんな気持ちだったんじゃないかな?・・・・・
・・・・・って、何なのそれ?・・・ヘンなの、私。
- 294 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:54
-
「今晩はなんかリクエストある?」
- 295 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/25(土) 11:55
- キッチンの奥から、ひとみちゃんの声がした。
その、私とは全然違う、少しだけ低く耳に残る声を聞いたら、
また顔がカッカしてきて、両頬を慌てて押さえて、振り向いた。
「迷っちゃう〜〜〜ひとみちゃんて、ほんとになんでも上手
なんだもん。」
「経験がさ?ものを言うんだよ。・・・・・なんでも。」
そうだよねぇ。
私が大きく頷くと、ひとみちゃんはなんだかヤな感じに、ニヤリと笑った。
- 296 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/25(土) 11:58
- 更新しました。
273名無飼育様。
あはは。お祈り効きましたよ。
取り合えず更新出来て、ほっとしておりますw
いつもの名無し様。
地団駄w
ミキティ悪者っぽいですか?そんな気はないだけどなぁw
275名無飼育様。
イヒッ。ここで切ったろとか狙った訳じゃないんですよ?
ただ視点の変わり目なだけでw
- 297 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/25(土) 14:04
- いい!
よすぎ
- 298 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/25(土) 17:33
- うわ〜
ドキドキする
- 299 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/25(土) 18:46
- 更新お疲れ様です。
はは!何だか見てるこっちが金縛り(w
あっちにこっちに手玉に取られそうな梨華ちゃんに萌え・・・(w
いやぁ〜よっちぃ〜もうちょっと絡んでも面白かったのに(w
次回更新も楽しみにしてます。
- 300 名前:273 投稿日:2004/09/26(日) 00:13
- はぁ〜よかった。祈った甲斐がありましたw
続きも期待しております。頑張ってください。
- 301 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/27(月) 00:14
- かなーり引き込まれます。
ほんとにいい!
更新がんばってください!
- 302 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:21
-
◆◆◆
梨華チャンの態度がおかしい。まるで避けられてるみたいだ。
この間ので、あたしにビビッてるとか?
まさか。
ほんとに、したわけじゃねーし。けど。
梨華チャンなら、ありえるかも。
かと言って。
「自分がしたいかもわかってねーヤツ、無理矢理、やったりしねーから
安心しろ。」
なんて言うのが、適切だとは思えない。やれやれ。
あたしが溜息をついていると、リビングに梨華チャンが入ってきた。
目で追っていると、こっちを向いた。
ツツーーー
目を逸らしやがった。オマエなっ!怒るぞ、マジで。
「・・・ちょっと、梨華チャン。」
- 303 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:22
- あたしの声にギクッと足を止めた、梨華チャン。
それでも振り返らないで、声だけが返ってくる。
「な、なぁに?」 「こっち来て。」
今度は振り返った梨華チャンが、笑ってんだか、引きつってんだか、よく
わからない表情をしてる。
あたしは片手で、おいでおいで、と、自分の立つキッチンのカウンター
前へと招いた。
「あのさぁ・・・」
ビクッと肩を竦める仕草に、気持ちが萎える。
あたしがなんかしたのかよ?わかんねーって。
振り回されて困ってるのは、あたしの方だっつーの。
「・・・言いたいことがあるなら言えよ。」
梨華チャンは覚悟を決めた侍みたいな、悲壮な目をして、あたしを
見上げた。
「ひっひとみちゃんっ」 「ん?」
- 304 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:23
- 「ひとみちゃんは・・・ジュニア小説なんか読まないよねっ?!」
「読まないけど?」
「絶対、絶っ対っっっ読んだりしないよねっ?!」
はぁ・・・コイツってほんとマヌケ。
読んで欲しくないわけね?あたしに。・・・なんでだ?
「読まねーけど?読んで欲しいなら読んでやるよ。」
嫌味ったらしく、言ってやると、梨華チャンは千切れそうな勢いで
首を横に振る。
「い、いいのっ!ごめんねっ 変なこと聞いて。
あ!今日・・・・・
今日ね?私、編集部の人とお食事会なの。せっかくひとみちゃんが
お休みなのに・・・・・。」
「気にすんなって。あたしがいつ休めるかなんて、ずっと、マジ
わかんなかったし。・・・それより、ちゃんと食ってたか?」
うん。コクンって頷いて。
やだなぁって、梨華チャンは照れたように笑う。
嘘だってわかってたけど、あたしも、そっかって笑い返した。
- 305 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:23
- 「ひとみちゃんこそ・・・身体壊さないでね?
じゃ私、支度して出かけるね。」
「おぉ、気をつけろよ。転んでも泣くんじゃねーぞ。」
「もぉぉぉ!泣くわけないじゃんっ」
梨華チャンは顔を赤くして、カウンターに乗せてた、あたしの腕を
ポカポカと叩いた。
そして、イーーッて顔をしてから、ニコッと笑うと、くるりと身体の
向きを変えた。
そのまま、仕事部屋に入って行く後姿を見て思う。
少し痩せてない?食わなきゃダメだろ?
もともと、折れそうに華奢なのにって。
・・・・・どーすっかな?
あたし、どうしようか?梨華チャン・・・・・
- 306 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:23
-
あたしが風呂掃除をしていると、、梨華チャンの、行ってきまーす
って言う声が聞えた。
ちゃんと前見て歩けよってあたしが大声で返すと、もぉーーーっ!って
いつもの声がして、ドアがガチャリとしまった。
軽く流す程度はしてたけど、久しぶりにする本格的な風呂掃除で
天井や、ドアのパッキンとか、いろんなとこに赤黴を見つけた。
・・・これで、ほんとにいいのか、あたし?
一通り、掃除の終わったあたしは、自室のソファベッドに
ゴロリと横になった。
手伝いに行ってる店の、裕ちゃんが倒れた。過労だった。
- 307 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:24
- ただ、料理だけしてればいい雇われシェフと違って、オーナーとも
なると、やらなければいけないこと、考えなければならないことが
山のようにあるらしく。だから。代わりって言っちゃあナンだけど、
あたしは、自分で力になれることはなんでもやろうと思った。
だけどそれは、裕ちゃんの為だけじゃなくって。
自分にとっても、必ず、プラスになることだと思えたから。
早朝の仕入れも。閉店後の掃除も。定休日に新しいメニューを
考え、その試作を作ることも。
それでも、時間がある時は、梨華チャンにと、一食分くらいは作っていった。
帰って見ると、いつでもきれいに洗われた食器がシンクの水切りの上に
乗っていた。
けど。
あたしが作っておかないと、仕事にのめり込んでる時の梨華チャンは
あまり、食べていないみたいだった。
家に帰って、菓子パンの残りが、テーブルにのってると、あたしは
取り合えず、ホッとした。
なんとかしてやりたかったけど。
あたしには、それをするだけの時間がない。それが現実で。
- 308 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:25
- そんな日々が一ヶ月以上続いていた。いつからかな。
なんだか様子のおかしい梨華チャンにも、気がついたけど
まともに話す時間が取れずにいて。
あたしは朝が早く、梨華チャンは寝ていたし、夜、帰ってくると
反対に、梨華チャンは仕事部屋にこもってたから。
裕ちゃんが退院して、一週間がたった今日。
久しぶりに、あたしは梨華チャンの顔を正面から見た気がする。
昨日。
裕ちゃんは、このままあたしに働かないか、と言った。
前にも言われたけど、その時は裕ちゃんの下で、普通のシェフとして。
でも・・・・・昨日は。
「うちなぁ?ごっつナイーブやねん。知ってた思うけど。
そんで、金勘定と料理作ってくの両方は身体がもたへん。
あんたさえ、良かったら、ここ任せるわ。」
- 309 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:26
- あたしが磨いてたシンクを、愛おしそうに撫でながら、そんな弱気な
言葉を口に出だす裕ちゃんが、切なくて笑い飛ばした。
「なに言ってんすか?
・・・オレ、修行の途中で逃げ出すようなヤツですよ。」
裕ちゃんは、柔らかく目を細めると、あたしを見た。
「あんた、まだ自分のこと、オレって言うんやね?
そこは変わらんね。女のクセにって言われるの嫌やって。そんなん
関係ないって。よう喧嘩してた。」
「・・・もう、なんつーか、ただのクセみたいなもんで。拘ってないっすよ。
それに最近は・・・これでも言わなくなりましたよ?あたし。」
あたしがニヤリとすると、裕ちゃんもニヤリ、とした。
- 310 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:26
- 「そうか?ならええ。
昔っから、あんなん挨拶みたいなもんやって、うち言ったやろ?
男やら、女やら、あんたが思うほどは誰も気にしてへんのよ。
吉澤な、負けん気が強いから遊ばれてたんよ。
そうや。あんた辞める時、大将なんて言うてた?」
「・・・総料理長は・・・・・お前を色眼鏡で見てるのが、ほんとは誰なのかが
分かったら、戻って来いって。」
「わかったか?」
「・・・・・はい。」
「そうやろな。
吉澤がな、最後に見舞いに来た日にうちに言ったこと。
覚えてるか?
あんた、もっと一人一人のお客さんに合った料理を作りたいって
言ったんや。うちの店の料理を食べにきてくれてるのに、それを
完璧に出来ないことが、なんや申し訳ない気がする、言うてな。
うち驚いたで。それはな、うちが自分で店持ちたいって思った時の
気持ちと一緒やったからな。」
裕ちゃんは、ふっと、寂しそうに笑った。
- 311 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:27
- 「そやけど・・・それは無理な話や。わかるやろ?
うちみたいに小さな店かて、一人一人に合った作り方なんて
出来ないんよ。
そんなん、おかかえシェフ以外、不可能なことや。
吉澤はそれもわかった。そして心の中でな、申し訳ないって思えてる。
食べさせてやってるんやない。食べに来てくれはった。あんた、それが
わかるようになった。だから、あんたに任せたいんや。」
いつもは豪快に笑う人だ。だから、こんな笑顔を見るのが辛い。
昔、店で最初に会った日。
「中澤先輩とか、止めてーや。うち、えらい歳取った気ぃするわ。
裕ちゃんて呼んで。」
あの笑顔を、今でもあたしは覚えてるから。
とっさに「はい」と答えそうになっていた。「あたしでよければ」って。
だけど。裕ちゃんがそれを止めた。
- 312 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:27
- ちゃんと考えなあかん。自分がどう料理と付き合っていきたいのかを。
本当に望んでる形をって。じゃないとあんた、またダメんなるでって笑って。
「この店は、うちの子供や。
一度引き受けたら、途中で逃げ出すなんて許さへん。・・・・・次は逃げたら
あかん。同じ間違いを繰り返すのはアホや。わかるやろ?」
・・・・・・・・・・・・
- 313 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:28
- あたしが・・・・・いま、ほんとに望んでる形。
それは、作り手と食べてくれる相手が、ちゃんと向き合えること。
相手のコンディションも、嗜好も、栄養も計算して、丁寧な料理を
心を込めて作ること。
たくさんの人に、程々に満足してもらうより、たった一人でいいから
心の底から満たしたい。そして。
その満たされた笑顔を見た時、自分もまた満たされて笑顔になれることを
・・・・・今のあたしはもう、その充実感を知ってしまっている。
それでも、それを手放せるか?・・・・・・・・それに。
それだけじゃない。
純粋な料理人としてのやりがいの問題だけじゃない。
今のあたしの心を占めてるのは。
- 314 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:29
- 目を閉じると、梨華チャンの笑顔が浮かんだ。花開くみたいに。
「出てくんじゃねーよ。・・・・・ったく。」
悪態をついたら、しゅんとするから、あたしの口許がついつい緩む。
嘘だよ。嘘に決まってるだろ?
どうすっか?梨華チャン。・・・・・あたしら、このままでいーんかな?
なんかさ、不自然じゃねー?
けどあたしが、ちゃんと金稼げれば、もっと自分に自信持って、
アンタと向き合える気がするよ。・・・・・だけどさ、あたし。
こー見えて、そんなにチャランポランじゃねーし、器用でもない。
働きに出て、そこに責任があるなら、アンタのことは、きっと
後回しにしちゃうよ。アンタのことちゃんと見てやれなくって
今よりもっと、すれ違いばっかになっちゃうかも知んねーし。
・・・・・そしたら。
そーゆう笑顔、あたし、見れなくなんのかな?
な?どうして欲しいあたしに。答えてよ?梨華チャン。
- 315 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:30
- 幻想の梨華チャンが答えるはずはない。
得意の困った顔をしてるだけ。
・・・わかってる。そんな顔すんなよ。
自分で考えなきゃいけないこと。あたしがあたしの意志で決めること
・・・・・そうだよな?
閉じた瞼の裏っ側に浮かんだままの梨華チャンは、控えめにそっと
頷いた。
あ、そうだ。アンタさ、あたしに何隠し事してんだよ?
- 316 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/27(月) 18:30
- あたしは、ゆっくり瞼を上げて、むっくりと起き上がった。
ああ、ダメだ。頭を軽く振る。
あたしは梨華チャンのペンネームはおろか、掲載雑誌の名前すら
知らない。
どーにもなんねーじゃん。
諦めたあたしは、溜息をつくともう一度、ベッドに身体を投げ出した。
- 317 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/27(月) 18:31
- 更新しました。
297名無飼育様。
簡潔なお褒めの言葉。嬉しいです!
298名無飼育様。
これまたシンプル。ありがとうございます!
いつもの名無し様。
金縛り、すぐ解けました?w毎回の感想、感謝です!
273様。
あははっ!ご心配おかけして申し訳ないです。w
301名無飼育様。
かなーり嬉しいです。ありがとうございます!
- 318 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/27(月) 19:29
- 更新お疲れ様です。
なぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!
引き続き金縛り中です(w
おぉ〜おぉ〜おぉ〜よっちぃ〜どうするんだい!?
頭の中はそこまで来てるのに(w
次回は波乱の予感が・・・(w
そうなる事を期待しつつ次回も楽しみにしてます。
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/27(月) 22:49
- あぁー
いいっ!
きゅんきゅんするよ
- 320 名前:273 投稿日:2004/09/27(月) 23:48
- 葛藤するよっすぃイイヨーイイヨー
- 321 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/28(火) 00:56
- 更新お疲れ様です。
あっ〜〜 おもしろい!!
もうね、グッとひきこまれます・・
先が気になりまくりです。
- 322 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/28(火) 17:06
- まじ、最高です。
よっすぃ、がんばれ!自分の気持ちに正直に
作者さまももがんばってください!!
- 323 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:02
-
◆◆◆
ピンポーンピンポーンピンポーン・・・・・
・・・・・?
あたしは右手を額に当てて、前髪を掻き揚げながら、横を向いた。
いったん開いた瞼が、また閉じそうになってハッとする。
部屋が真っ暗だった。あ゛ー寝ちってたか。
・・・で、いったい今、何時なんだ?
慌てて飛び起きて、リビングに行くと、またチャイムが鳴った。
インターフォンの受話器を持ち上げると、画面の中で、両頬を膨らませた
藤本がこっちを睨んでる。
「早く〜〜〜っ美貴もう限界だって。」
藤本はぐったりした梨華チャンを半分担ぐように、抱えていた。
- 324 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:02
- エントラスのドアを開けたあたしは、そのまま廊下をつっきって
玄関まで行くと、ドアを開けた。
チンッ
誰もいない廊下にエレベーターが止まった音がして、あたしは
サンダルをつっかけながら、早足になる。
「よっちゃんサン!早く手伝ってって。」
ぜぇぜぇ息を吐く、藤本が抱えてるのと反対側から、ぐにゃりとしてる
梨華チャンの身体を支えたら、強烈な酒の匂いがして、あたしは呆れた。
「こんなんなるまで、飲ませるか?フツー。」
「美貴が飲ませたんじゃないよ!止めても飲むんだもん。参ったよ。」
藤本が大袈裟に溜息をついたら、梨華チャンが急にガバッと顔を上げた。
「ちぃ〜なぁうでぇしょっ!・・・ヒック、いぃけなぁいのわぁぁ美貴ちゃぁんっ
わぁたしはぁぁ、いぃやってぇ、いったのにぃぃぃ〜ヒック・・・」
「はいはい。美貴が勝手にやりましたっと。ごめんごめんっと。」
- 325 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:03
- 藤本の投げやりな謝罪の言葉を聞くと、梨華チャンは完璧に据わってる
目をスローモーションみたいにゆっくり閉じた。
なんだ?なんの話だよ?見えねーって。
梨華チャンの垂れ下がった、頭越しに、藤本の顔を見たら、その間から
梨華チャンの声がした。
「・・・ね〜むぅいぃぃ・・・・・」
「待ってって!もうちょっとだからぁ〜」
藤本はあたしの顔から目を逸らすと、ズルズル落ちて行こうとする
梨華チャンを担ぎなおして、急ぎ足になった。
玄関に入って、自分の穿いてた、爪先の細い靴を乱暴にそこらにとばした
藤本があたしを見る。
「この酔っ払いどーする?」
あたしは取り合えず、廊下の先にあるリビングを顎で指した。
「あそこのソファ。」 「ラジャ!」
- 326 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:03
- 三人がけのわりとゆったりめのソファに、梨華チャンを下ろす。
あたしが膝をついて、靴をぬがせていると、頭の上から早くも寝息が
聞えてきた。
「よっちゃんサン、お水いい?」
「どーぞ。」
藤本はキッチンの中に入って、天然水の小さなボトルを片手に持つと
リビングに戻り、ドアの前に立った。
キャップを捻って、喉を鳴らしてる横を、梨華チャンの靴を手にした
あたしが通ろうとすると。
「ご協力、感謝。」
そう言って、ニタニタ笑う。・・・なんだ?こいつ。
訝しげな顔をするあたしを横目に、藤本は、ボトルの水を一気に飲み干した。
そして、おもむろに肩に下げてたバックに手を突っ込んで、雑誌を取り出すと
あたしの胸元に押し付ける。
「美貴から、プレゼント。」
眉を寄せたまま、あたしが開いてた方の手で、それを受け取ると、藤本は
意味深に声を落とした。
「もっと頑張ってよ?よっちゃんサン。
・・・んじゃ、美貴、帰るね〜後、よろしくぅ!」
- 327 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:04
- 藤本は、前きた時と同じように片手を上げて、そのままリビングから
出て行った。・・・・・なんなんだ?
あたしは、手に持った靴と、雑誌を交互に見て、はぁと息を吐く。
そして、雑誌をダイニングテーブルの上に置くと、玄関に靴を置きに
向かった。
ちょうど、締まりかかったドアの向こう側に、藤本の背中がチラリと
見えた。
リビングに戻ったあたしは、少し考えて、自分の部屋から毛布を取ると
梨華チャンにかけた。
そして、そのままダイニングの椅子に座って、藤本から渡された本を開く。
これ。梨華チャンが書いてる本だよな?どう考えても。
目次を開いて、目で追った。
わかんねーつーの。ヒントくらい言っていけ。
あたしは頭をガシガシ掻いた後、頬杖をついて、もう一度、丁寧に
目次を読んだ。
- 328 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:04
-
−lasthouse 〜アイの場所〜 −
- 329 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:05
- ふいに、ほんとうにふいに、その題名が目に飛び込んできて。
あたしは目次に記されたページを開いた。
そして。
今度は、その文面を読み始めて、あたしは絶句した。
そこに書かれてたのは・・・・・脚色されてるものの、間違いなく
あたしと、梨華チャンだった。
主人公のリカコは、そこそこ売れてる少女漫画家。
不規則な生活の上、炊事が大の苦手だ。
友人に相談すると、ルームシェアして、リカコが家賃を、相手に
炊事を頼んだらどうかと言われる。
たまたま、その友人の友人で調理の勉強中のヒロミの話を聞き
リカコは飛びつく。相手が言いよどんでる話の続きも聞かないで。
- 330 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:06
- そして、数日後、自宅にあらわれたヒロミを見て、リカコは驚くのだ。
話をした友人は、同性で、ヒロミという名前からてっきり同性だと
思ってた相手が、実は異性だったから。
あはは・・・あたし、男にされてるよ。
てか、この名前、ないよな。一文字増えたり、変わったりしてるだけだし。
設定もなぁ。
こんなん、梨華チャンの周りのヤツらに、モロバレじゃねーの?
あたしはなんだか可笑しくなって、拳を口にあてて声を殺して笑うと
続きを読んだ。
断ろうかと悩むリカコに、ヒロミは自意識過剰だと言い放つ。
この同居は契約で。仕事みたいなもんだと。
それでも、家主のリカコが望むなら、ベッドの相手もプラスしてやっても
いい、と、挑発的な言葉を浴びせるのだ。
夢見がちなリカコが、いつか自分の前に現れると、思い描いていた王子様
そのものの外見なのに、中身は傲慢で嫌なヤツのヒロミ。
最初は反発していたリカコだけど、同じ家に住むうちに、ヒロミの
表面上だけではない、人柄が表れているような優しさに触れ、心を
開いていく。
- 331 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:06
- そんな時、無職で、一日中家にいたヒロミが、職場を見つけ、外に出て
行ってしまう。
自分の中に芽生えた、ヒロミを独占したい気持ちに、戸惑うリカコ。
リカコの目に映るヒロミは、気まぐれに優しかったり、意地が悪かったり
して、リカコは混乱しているのだ。
こんな風に見えてたんだ?あたし、が?
文中のヒロミは、何をやらせてもスマートで格好よかった。
思ってることが、まったく顔に出ないヒロミ。
いつも何を考えてるか、わからないヒロミ。
リカコの視点で書かれてるこの話では、ヒロミは、掴み所がなく、悩む
こともなく、冷静でありながら時に温かい、優秀な人間に見える。
バカみてー。んなわけねーじゃん?
そして。
実は恋愛経験が、片想い止まりだったリカコが作品作りで悩んでいると。
- 332 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:07
-
「・・・書くなよ。」
あたしは、文中のヒロミの気障ったらしさに眩暈がしそーになる。
こんなかよ?あたしって。
やべぇ〜 顔から、火が出そうに恥ずい。
だけど。
その先に書かれてることを読んで・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・マジ?
バサリッ
シンとした室内で、梨華チャンの身体にかけてた毛布が落ちた音に
あたしは、一瞬、ヒヤリとする。
立ち上がって、毛布を拾い上げるともう一度かけて、あたしはソファの
前に膝をつく。あどけない寝顔。安心しきった寝息に思わず、微笑んで
しまう。そして、何も知らない寝顔に、心の中で話かけてみる。
あたしが、アレ読んだって知ったら、アンタどーする?
- 333 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:07
-
そう言えば。
ソファに寝てしまったリカコを、抱きかかえて、部屋のベッドに
運んでやるヒロミの描写が書かれていたっけ。
あれはさ、梨華チャンのアコガレかなんかなわけ?
んなことマジで夢見ちゃってんの?
アホらしいって。・・・・・けど。梨華チャンらしい気もする。
一瞬。
叶えてやろうかと、腕を伸ばしかけたけど、途中で止めた。
あたしは、女にしては力があると思うけど、でも、やっぱり女だ。
相手が梨華チャンなら、出来そうな気もするけど、寝てる相手に試して
失敗して落としたら、格好悪りーなんてもんじゃない。
ま、いつか。
いつか、してやってもいいよ?
梨華チャンが、あたしに、あたしにして欲しいって思ってんなら。
どんなにシンクロしてても、リカコとヒロミは架空の人物で。
おまけにヒロミは男で、あたしは女だしな。
それでも。
- 334 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:08
-
梨華チャンの唇にかかった髪を、そっと指先ではらって、あたしは
その寝顔に聞いてみる。声を出さないで。唇だけ動かして。
ねー?梨華チャンの気持ちは・・・リカコと同じなわけ?
リカコはヒロミの気持ちがわからなくて、悩んでるけど。
あたしには、ヒロミの気持ちならよくわかる。
だから、今度は、小さく声に出して言ってみた。
「ヒロミは、リカコに惹かれてる。・・・・・好きなんだよ。」
聞えてるわけないのに、あたしは気恥ずかしくなって、たぶん、とか
言い訳みたいに、つけてみる。
梨華チャンは、身じろぎ一つしないで、スヤスヤと寝息をたてて
静かに瞼を閉じたまま、あたしの告白を聞いていた。
あたしは指を伸ばして、梨華チャンの唇を中指で一度だけ撫でた。
- 335 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:08
- リカコは、あの日、自分がほんとはヒロミにキスされたかったんだって
後から気づいたらしいけど。
梨華チャンもそう?・・・そんな風に思ったの?
・・・どうなんだよ?
あたしが思うに。
ヒロミはさ、かなり・・・・・無理してたね。
たぶん。
- 336 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:09
-
あたしは暫く、梨華チャンの寝顔に付き合った。
そして立ち上がると、本を手にして、リビングの照明を落とす。
そろそろ・・・・・腹、括るか?
暗くなった部屋の中。
ソファで眠る梨華チャンにあたしは言った。
- 337 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/28(火) 21:09
-
「・・・おやすみ、梨華チャン。」
- 338 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/28(火) 21:10
-
皆様のレスに支えて頂き、今日も無事更新。
ほんとにありがたいです!
いつもの名無し様。
期待とは、常に裏切られるものって感じでは?w
319名無飼育様。
きゅんきゅん・・・素敵だw
273様。
273サンのレスもイイヨーイイヨーw
321名無飼育様。
この先も気になってもらえるとよいな、とw
322名無飼育様。
素直かぁ〜なれるかなぁ?どうかなぁ〜w
- 339 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/28(火) 23:27
- 更新お疲れ様です。
おぉ〜っ!!なんだか思ったよりもすんなり行っちゃった?(w
よっちぃ〜かわいぃ〜〜〜〜ぞ♪
さぁ〜さぁ〜これからどうするよっちぃ〜!?
って感じですね(w
- 340 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 00:05
- 更新お疲れ様です。
もう、最高で〜す!!
どのドラマよりこちらの更新が楽しみだったり
する私です・・。またまた、先が気になりまつ・・
- 341 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 00:59
- やっほー
ステキだ!
やったねやったね
- 342 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2004/09/29(水) 01:58
- 素晴らしい話だ〜
ホントになんでこんなの書けるもとい、描けるのですか!
最近のマンネリ&つまらなすぎなTVドラマの脚本家どもに見習わせたいですわ
- 343 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 13:56
- 更新お疲れ様です。
まぢおもしろいですvv
次回更新がまちきれん(>_<)
- 344 名前:273 投稿日:2004/09/29(水) 14:11
- ぐはっ!仕事中に携帯からコソーリ読んでニヤニヤしてるのを上司に見られてしまいました。どうしてくれようこの気まずさ(バカ
でもイイヨーイイヨーW
作者さんこれからもがんがってくださーい
- 345 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:15
-
◇◇◇
相変わらず、忙しそうなひとみちゃんとすれ違う日々が、一週間以上
続いた。
先々週の夜。
素面で、ひとみちゃんと向き合うのが耐えがたかった私は、たくさん
お酒をのんで、酔いつぶれて帰ってきた。
もちろん、なにも覚えてないし。
そして。次の朝。
ひとみちゃんが作る、お味噌汁の匂いで私は目が覚めた。
がぁ〜〜〜ん、がぁ〜〜〜ん、がぁ〜〜〜ん・・・
私の頭の中に、誰かが住み着いて、ヘタな楽器を鳴らしてる。
しかも、近所迷惑なくらいの大音響で。
身体を起したものの、そのまま動けない私に、ひとみちゃんが言った。
「・・・はよ。
アンタさぁ、飲めないなら無理すんな。酒に飲まれんのって、
みっともないぜ?」
がぁぁぁん。みっともないだって。・・・ひどい。
- 346 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:16
- だけど。情けない思いで顔を上げると、ひとみちゃんは笑ってた。
まだ、お酒が抜け切らない私の目に、その笑顔は眩しくて。
だから私は、余計に恥ずかしくなって。
もう一度、ゴソゴソ横になると、毛布を頭から被った。
そしたら。そしたら、いまさら。
気がついたの。この毛布って私のじゃないって!・・・・・キャァァァ!!!
すごい勢いで、顔が熱くなってきて、酸欠になりそうで、顔を出そうと
したら、頭の上で声がした。
「身体ん中に、なんか入れといた方がいいぞ。
味噌汁くらい飲めるだろ?
あたし、もう出るから。・・・調子悪かったら、無理すんなよ。」
私は頭から被った毛布を、口許でギュッと握り締めて、うんうん、と
頷いた。
「じゃ、な。」
その時、ポンポンって、軽ーく叩かれた気がする。丁度、頭のとこ。
え?気のせいだよね?
ひとみちゃん、そんなこと、するような人じゃないし。
あ!ゴミとか払ってくれたのかも?
- 347 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:16
- 暫くして、ガチャリってドアの閉まる音がして、私は亀みたいに
辺りを伺いながら、顔を出した。
・・・ふぅ、苦しかった。
リビングには、芳しいって感じでお味噌汁の匂いが漂ってたけど。
私は自分の身体を包み込むように、巻きついてる毛布に、もう一度
顔を埋めた。・・・・・こっちのが、いい。
温かくって、どこか甘い匂い。キュゥンって胸が鳴く。
生まれたての子猫みたいに、小さな声で。
いけないことしてるみたいに、胸がドキドキいってるのに、どこか
安心してる。ヘンな気持ち。上手く言葉に出来ないよ。だけど。
ここが、ひとみちゃんの腕の中だったら・・・・・
- 348 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:17
- ぎゃぁぁぁーーーっ!私ったらっ私たら!!!なんてことをっっっ
恥ずかしいよぉ・・・というより、私ってバカみたい。
毛布握り締めて、朝っぱら一人で何やってるのかしら?
だけど。
幸せ。・・・うん、幸せかも?私。それもかなり。
でもでも・・・平気?
こんなに大切になってしまった時間が、なくなることはないっ
て、言える?
雲ひとつなかった、晴れ晴れとした気分がほんの少し陰る。
・・・そうよ。
それもこれも。美貴ちゃんがぜーんぶ悪いんだからっ!
- 349 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:17
- あのお話。 あれは・・・・・
日記みたいなもので。私の想いを素直に綴ってしまっていた。
勘違いの出会いも。一瞬、ときめいた気持ちも。その後の反発も。
次第に大切な人に変わって行った心の流れも。それから。
・・・・・気がついたら。気がついたら・・・手が勝手に動いてて。
私の指から零れた気持ちが、キーボードを伝い落ちて、パソコンの
画面に流れ出てしまった。今の、私の心の中にある本音、が。
つい読み手を想定して、多少、面白そうな事柄を、脚色してしまったり
願望みたいなのをプラスしてみるのは、物書きとしての、悲しい性
みたいなもので。
だからって、誰かに読ませる気があったわけじゃない。だから。
気持ちだけは創ったりしなかった。誰にも明かすつもりがないから。
だからこそ、作中の架空人物には、言わせてしまった言葉。
− 好き − って。
・・・・・なのにぃぃぃ
- 350 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:17
- ちょっと目を離した隙に、それを読んでた美貴ちゃんは、私が戻ると
「いいじゃん?これ。」って目を細めた。
私は、この話を雑誌に載せるのは嫌って、もちろん、言った。
「なんで?面白いよ〜よく書けてるじゃん。」
なんて、涼しい顔して言いきる美貴ちゃん。
おまけに、保田さんのパソコンにもう送った後で、それが一発オーケーに
なっちゃうなんて。思うわけないじゃんっっっ
美貴ちゃんたら、しらっと、いつも美貴に読んでって言ってるからさぁ
とか言うし。絶対間違ってると思うよ?その態度!
- 351 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:18
- だけど。
発売日が過ぎて、読者アンケートが戻ってくると、あのお話は上位に
入ってた。ファンレターもいつもより、全然多くて。
ヒロミくんがカッコイイです!ファンになっちゃった♪
そんな風に言ってもらえるのは、もちろん嬉しいけど。
ヒロミくんは実在してるから。
モデルは男の子じゃないけど、格好いいものは格好いいのね。きっと。
だけど。・・・・・なんか、複雑。
そう・・・・・たぶん。
ひとみちゃんってモテるんだろうなぁ、現実でも。
あれだけ格好よかったら、女の子でも関係ないよって人、なんか
いっぱいいそうな気がする。なんてことを思ってみたり。
そう言えば、私たちって、お互いの恋愛の話とかってしたことないなぁって
改めて、気づいたり。
私って、ほんとに彼女のこと、何も知らないなぁって。
この本を読んでくれた読者の子が、ヒロミくんを知ってる程度しか、
私もひとみちゃんのこと、知らないんだもん。
そんなこと、いまさらわかっちゃったよ。
- 352 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:18
- ひとみちゃんのことを、ただの同居人だと思ってる保田さんは、
大喜びで奢ってくれた。
「石川!やれば出来るじゃないっ・・・ひとつ屋根の下。いいわねぇ〜
妄想が膨らんで。刺激的だわぁ。」とかって言うし。
はぁぁぁぁぁ・・・・・
だけど、取り合えず。
ひとみちゃんは、ジュニア小説なんて読まないって言ってたもん。
バレることはないんだから。だから、大丈夫だよね?
何かが変わったり、しないよね?
うん。きっと大丈夫・・・・・大丈夫だよっ!
あの日の朝。
自分が起してしまった(美貴ちゃんが起した気もするけど)
重大な事柄に、先行きの不安を感じながら、それを誤魔化すように
私は眠った。ひとみちゃんの匂いに包まれながら。
- 353 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:19
- そして、昨夜。
めずらしくひとみちゃんが、早い時間に帰ってきた。
どうしたの?早いね?って驚く私に返ってきた、ひとみちゃんの
言葉は、思いもよらないものだった。
「裕ちゃんとこ、昨日で辞めたから。
いろいろ片付けて帰ってきた。今日はさ、店出てないんだよ。」
え?
頭の中で情報処理出来るより早く、私の顔が勝手に笑おうとする。
ち、違うでしょ?いきなり喜んでどうするのよっ!私ったら。
まずは、ひとみちゃんの話をちゃんと聞かないとっ
「あの、大丈夫なの?お店・・・オーナーさんの身体とか。」
「もう落ち着いた。それに、裕ちゃんは経営に専念するんだってさ。
そのうち、店増やしたるでって、吹いてたし。」
「・・・そう」
一瞬。
そんな時こそ、ひとみちゃんに手伝って欲しいんじゃないかな?って
思ったけど、口に出せなかった。ううん、出さなかった。
だってまた、それもそうだねって。ひとみちゃんが行ってしまう気が
して・・・・・。私、卑怯だ。
- 354 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:21
- だけど、やっぱり気になって。何も言わずにいることの出来ない私は
ひとみちゃんに遠まわしに聞いた。
「・・・ひとみちゃんが辞めるって言ったら、何か言われた?」
「あ?・・・あぁ、随処作生って、言われた。」
「へ?・・・あのぉ〜 意味がわかんないんですけど?」
「あたしもわかんねー。ほらあたしって、中卒だし。学がねーから。」
「そうなの?・・・・・そうなんだ。なんかすごいね?ひとみちゃんって。」
私は、すっごく感心していた。
だって、中学を卒業したばかりで、自分の進みたい道が決まってて
それを行動に移せるなんて、なかなか出来ることじゃないって思う
から。格好いいなって。
- 355 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:21
- どういう意味だよ?って訝しげな顔をする、ひとみちゃんに、私は
感じたままを伝えた。だってほんとに、すごいって思うから。
私が、すごいよ、すごいねって、言い続けたら、ひとみちゃんは、もう
よせよって呆れた顔で言った。
ほんと、単純でいーよなぁ、アンタとかって。だけど。
ま、頑張れってことらしいから、頑張るよ。って笑ってた。
その笑顔は・・・なんて言うのかな?
身体の余分な力が抜けたみたいに、柔らかかった。
- 356 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:22
- そして、今日。
ひとみちゃんは、朝からとても忙しそう。
さっきダイニングに紅茶を飲みに行ったら、キッチンの大掃除みたいな
ことしてて。
ほんとは、お話したかったけど、これからはいつでも出来るんだって
思って。邪魔にならないように、そうそうに仕事部屋に戻った。
今晩は外食とかどうかな?
ふと、私は思った。ひとみちゃんは自分でお料理するのが好きな人だけど、
たまにはいいよね?ずっと忙しかったんだし。
ひとみちゃんが、これからどういう風に自分の進む道を決めたのか
私にはわからない。けど、それでもたまに美味しいものを、外で食べるの
って、けして悪いことじゃないよね?
ひとみちゃん、行きたいお店とかってあるかな?
あとで、聞いてみよーっと♪
テルルル・・・
電話が鳴る音が聞えた気がして、私が立ち上がってドアを開けると
ちょうど、受話器を持ってきてくれたひとみちゃんが立っていた。
ドキッ。
- 357 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:22
- 「保田サンから。」
ひとみちゃんは、短く私に言うと、受話器を渡してくれる。
い、いきなり目の前に立たれてると、ドキドキしちゃうんだからぁ〜
ひとみちゃんって、心臓に悪い・・・・・
私は受話器を受け取って、ありがとって言って、小さく息を
整えてから、声を出した。
「はい。」
(あ〜石川?あたし。保田よ!
ねぇ?いまのが同居人の子?落ち着いた感じの子ねぇー
あの声や、話し方の雰囲気から察すると、あんたとは正反対の
タイプってイメージだわ。・・・ふっふふ。)
な、なにぃ?
いきなり一人で納得して、含み笑いまでしてぇぇぇ・・・
こ、怖いよぉー 保田さん・・・
「な、なんなんですか?!保田さん?ちょっと変ですよ!」
(え?変?あんた、失礼よっ・・・あたしは藤本がさ、石川の同居人の
話をしてて、あの子の言う通りかなぁって、思ったのよ。)
- 358 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:23
- みっ、美貴ちゃぁん?!
その名前を聞くと、ひたすらヤ〜な予感がしてくるんですけど。
私は、ちょっと警戒しながら重ねて聞いた。
「それで、今日はどうしたんですか?」
(あ、そうそう。あたしね?これからあんたんとこ行くから。)
「えっ?!うちにぃぃぃ?な、なんでですかぁ〜?」
(なんでって・・・あんたの顔見によ!
仕事の進み具合もチェックさせてもらうつもり。
後、ちょっと、話も、ね。)
パキパキしてる保田さんが、誤魔化すように語尾を曖昧にするから
きっと本題はこの最後の、ちょっと、話ってとこなんだって、私に
だってピンとくる。
「・・・なんのお話ですか?」
(それはまぁ、会って話すわ。顔見ながらね。そうねー
一時間で行くわ。)
「・・・わかりました。お待ちしています・・・」
じゃ、後でねって電話は切れた。
- 359 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:24
- はぁぁぁ・・・
話って、なにぃ?・・・・・なんだろ?
私の書くお話を乗せてもらってる雑誌は、二ヶ月に一度の
発売で、まだ次の締め切りまで余裕があるし。
この間、連載が終わったお話の文庫化についてのあれこれは
もう全部、終わったはずだし・・・んーーー?わからないよ・・・
私が受話器で、ポンポンと肩を叩きながら考えてると、Gジャンを
片手にかけたひとみちゃんが来て、私の手から受話器を取った。
「アンタって、なんか考えだすと、目の前のもんが見えなくなる
タイプだよな。」
あ。
でも、受話器って肩叩きにちょっといいかも?
・・・いま、気がついたんだけど。
「肩が凝ってるの!」
ちょっとくやしいから、言い返してみる。
「ふぅーん。後で・・・」
- 360 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:24
- 受話器を戻しながら、思いついたようにそこまで言って、いったん
言葉を切ったひとみちゃんは、ニヤリと笑って私を見た。
「あたしがマッサージしてやろうか?・・・そうだな。うーんと
スペシャルなヤツ。」
「い、いいよっ!そこまで凝ってないし!!!」
思いっきり、断っちゃう私。だって、なんか、なんかヤな言い方
するんだもんっ。ひとみちゃんが。考え過ぎ?だけど・・・
ひとみちゃんに触られたら、緊張して返って体中に力が入っちゃう
気がするし。
たぶん、リラックスなんて、とてもじゃないけど出来ないよっ
「あっそ。ならいいけど?」
ひとみちゃんは気を悪くした風もなく、ジャンバーに腕を通しながら
言った。
「ちょっと、買い物してくる。」
「うん。行ってらっしゃい、車とか気をつけてね?」
「・・・アンタじゃないから。」
- 361 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:25
- ムッ。
どうしてそう余計なこと言うのかしら?ひとみちゃんって。
玄関まで送ってあげようと思ったけど。止ーめた!
ひとみちゃんがリビングから出て行こうとする背中に、私は
あっと思い出して、言葉をかけた。
「あのね、ひとみちゃん。後で保田さんが来るって。」
「ふ〜ん。・・・わかった。」
足を止めたひとみちゃんは、半分振り返りながらそう言って
そのまま、お買い物に行ってしまった。
- 362 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/29(水) 19:25
-
だけど、保田さん。
ほんとになんの話なのかな?
私はまた考えてみたけど、さっぱりわからなかった。
- 363 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/29(水) 19:26
- 更新しました。
いつもの名無し様。
もしや貴方様は波乱好き?wこの先・・・どうしよかなぁ〜
340名無飼育様。
あははっ!喜ばせるのがお上手ですなぁw
431名無飼育様。
やっほ〜♪(←木霊もどき)ちくっとやっときましたw
ラヴ梨〜様。
イヤ、言いすぎですって!舞い上がってしまいまするw
343名無飼育様。
今宵もお楽しみ頂けたら、幸いでございますぅ〜
273様。
ブハッ!噴いちゃいましたよw個人的にイイヨーイイヨー
- 364 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 21:25
- 連日更新お疲れ様です!!
吉もかわいいけど梨華ちゃんもかわいすぎっっvv
連日PCの前でニタニタがとまりません。
- 365 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/29(水) 21:41
- 更新お疲れ様です。
えっ・・・いや・・波乱好きと言えば波乱好きです・・はい(w
ドキドキするのもニヤッとするのも好きです(^w^)
もうね、今回もドキドキニヤニヤしっぱなしですよ!
よっちぃ〜のその絡みいいねぇ〜
やっぱり次ぎ波乱の匂いがしますぞ(笑)
- 366 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 21:49
- 更新お疲れ様です。
初めから一気に読まさせて頂きました。
私もPCの前でニヤニヤしっぱなしです…。
やっぱりいしよしはいいですね〜!
- 367 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/30(木) 02:07
- あーもう あーもう!
もどかしーい
- 368 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/30(木) 16:54
- ホント、どうなるんですかー
めちゃくちゃ続きが気になります。
そして、ヤッスーに期待
- 369 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:07
-
◇◇◇
保田さんは、ひとみちゃんが淹れてくれた紅茶を飲むと
ほぅ、と息を吐いた。
「不思議ね・・・貴方の淹れてくれた紅茶。味も香りもフワリと
優しいわ。」
保田さんは、ひとみちゃんを見て、ゆったりと微笑んだ。
それはかなり珍しい笑顔。
保田さんの笑顔には、いつでもパワーがあって、こんな風に
寛いだ感じに微笑むのって、私は見たことがない。
「・・・どうも。」
ひとみちゃんは無愛想に、軽く頭を下げて、じゃ、あたしはって
席を外そうとした。それを、待って、と保田さんが止める。
「貴方、吉澤さんにも聞いてほしいの。・・・実は」
そして保田さんは、とんでもないことを言い出した。
私と、ひとみちゃんに向かって。
- 370 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:08
- いま、特別企画で巻頭カラーページがあるでしょ?
保田さんの言葉に私は頷いた。
その企画は、前回発売した雑誌の読者アンケートで一位を取った
作品を書いた作者さんのインタビューページだ。
私が書いてる雑誌では、毎回イメージイラストを、少女漫画家
さんとか、イラストレーターさんが、挿絵をしてくれているん
だけど、そのカラーページは読者に人気のあったシーンの
イメージフォトを載せていた。
「・・・次の号、石川、あんたなのよ?」
えっ?!
う、うそぉ〜〜〜〜〜ほんとにぃぃぃ?!
だって。だって今まで。最高でも五位くらいにしかなったこと
なかったのに・・・
- 371 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:08
- 私は驚きのあまり、両目を大きく見開いて、言葉が出てこない
口を両手で押さえた。
「よかったわね?石川。
あたしもほんとに嬉しいわ。あんたがって思うと。」
ありがとうございます。ペコリと頭を下げた。
私はシミジミした気持ちになって、なんだか全てがありがたかった。
読んでくれる読者さんはもちろん。
ここまでいつでも、私を見守ってくれてた保田さん。
なんだかんだ言って付き合ってくれる美貴ちゃん。
そして。そして、いつの間にか。
傍にいるのが当たり前みたいな顔してる、ひとみちゃん。
みんなに、ありがとうって叫びだしたいくらいで・・・・・
- 372 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:09
-
「浸ってるとこ悪いんだけど、続きいい?」
私は宙を彷徨わせてた視線を慌てて、保田さんに向け、胸元で
組んでいた両手を膝に置いた。
「は、はいっ!」
それでね?問題はその、イメージフォトなわけ。
保田さんが言うには。
今回、私の作品に人気が出たのは、読者の想像を膨らませる
登場人物達が置かれてる設定もあるけど。
ヒロミのキャラクターの魅力が大きいって。
みんなどこかで、こんな人はいないって思ってる。
お話の中だけって。だけど。
ひょっとしたら、ひょっとしたら、どこかにいるのかも知れない
幻想の麗しい男の子。
男性的な思考回路と行動力を持ちながら、女性的に甘く整った容姿。
どちらの要素も持ちながら、それが損なわれることがない。
それが独特の雰囲気になって、ヒロミを彩っている。
- 373 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:09
- それで。あたしは考えたわけって、保田さんは笑う。
ヒロミのフォトを撮るモデルを女の子にしようって。
だってさ、いくらモデルでも、石川が書くような、色がぬける
ように白い肌とか、絹糸みたいに細い、色素の薄い髪やらの男
なんてもんは、いるわけないのよ?
読者が持つ、それぞれのヒロミ像を崩さない為に、正面からの
人物が特定される写真を撮るつもりは最初からない。
後ろ姿や、横顔をかなりぼかした仕上がりにする予定。
探したのは、すらりとしたスタイルに、さらりと揺れる柔らか
そうな短めの髪。芯が強そうな横顔のライン。ところが。
イメージに合う子がいなかったらしい。
ま、うちが出せる予算の問題もあるわけよ?
いくら巻頭ページとはいえ、たかだか見開き二ページのこと。
出せる金額が大きいわけがない。だけど。
このヒロミのイメージを、左右しかねない写真に妥協はしたくない。
それで。
- 374 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:10
- あたしが頭を抱えてたら、藤本が横から言ったわけ。
よっちゃんサン、わりとイケてますよって。
あたしが誰って聞いたら、石川の同居人だって言うじゃない?
それで、そんなに身近にいい素材が?って思ったら、興味が湧く
でしょ?誰でも。
そしたら、教えてくれたのよ。色々と。それで。
問題があるとしたらって、藤本は首を傾げたわ。
よっちゃんサンって、すらっとしてる感じなんですけど。
モデルってわけじゃないから、そこまでは背が高くないですね。
リカコ役のモデルさんが小柄なら、バランスいいと思いますけど。
・・・梨華ちゃんみたいに。
あ、保田さん。美貴、いいこと思いつきましたよ!
リカコも梨華ちゃんにやらせちゃえばいいんです。
そうすれば、よっちゃんサンもやりやすいだろうし。
梨華ちゃんって華奢で背も高くないし、生真面目そうな黒髪とか
まんまリカコじゃないですか?
それに。編集部も出さなきゃいけないお金が減るってもんです。
ってね。
- 375 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:10
-
「・・・・・・・・」
私は頭が真っ白になった。
何か言わなきゃって思うのに、言葉が出てこない。
頭の中では、ペラペラ得意げに美貴ちゃんがしゃべり続けてる。
やーーーっやめてよぉぉぉ・・・
ふ、ふ、藤本ーーーっ!!!あんた、あんた覚えてなさいよっ!?
もう絶対、絶対!!!
絶ーーーっ対、焼肉なんか奢ってあげないからねっっっ
私がメラメラと怒りの炎で、体中を熱くさせていると、で、
と、保田さんが、ひとみちゃんの顔を見た。
「協力してもらえないかしら?石川の為に。
さっきお話した通り、貴方だってわかるような撮り方は
しないわ。それは約束する。
お小遣い程度だけど、謝礼も出せるし。」
私の為ってぇ・・・・・そんなぁ〜保田さんっ
- 376 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:11
- 慌ててひとみちゃんの方を見た。
とんでもない話に巻き込んじゃってごめんねって思いながら。
ところが。
ひとみちゃんは、困った顔なんかしてなかった。
少し俯き加減の口許が薄く笑ってる。
ひとみちゃんはゆっくり顎を上げて、保田さんの顔を見た。
「いいですよ?あたしはべつに。けど、条件がある。
あたしは家主であるこの人に協力するわけだから・・・」
この人って言いながら、親指でグイッと私を指す。
少しも迷う様子や、躊躇う風もなく、さっさと、とんでもない
ことを言い出すひとみちゃんの、口の動きを、私はボォーと
見てしまっていた。
「相手役、リカコっていうんですか?
それはこの人じゃないと。それが条件ですね。」
な、な、なにを言うのーーーっ?!!!
- 377 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:11
- ひとみちゃんが私を指差した後、そのまま無造作にテーブルに
乗せた右腕をガシッと掴んで、私はユサユサ揺すった。
「ひ、ひとみちゃんっ自分の言ったことの意味、わかってる?
雑誌に載っちゃうのよ〜〜〜
それも、それもっ・・・男の子の役なんだからっ!」
「だから?・・・べつにいーじゃん。
あたしだってわからないようにしてくれるって言ってんだし。
お金も貰える。どっちかって言えばいい話っつーか。
アンタがなんでそんなに興奮してんのかって方が、あたしには
わかんねーよ。」
そっ・・・そうかぁぁぁ・・・・・そうだった・・・
ひとみちゃんは自分が、ヒロミのモデルだなんて知らないから。
全然、気まずくないんだわ・・・・・
て、ことは。
ここで私が断ったりしたら、すごぉーーーく変よね?
いくら恥ずかしいからって言ってみたところで、私の作品の為に
協力してくれるって言ってるんだもの。
どどどどどーーーしよぉぉぉ
- 378 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:12
- ひとみちゃんの腕を強く掴んだまま手の平が、じんわりと
汗ばんでくる。
目の前には、なんでだよ?って顔してるひとみちゃん。
その顔から、目を逸らして。腕からも手を離して。
正面を見ると保田さんが笑ってた。
賭けに勝った、勝負師みたいな目で。ごくっ。
ま、まさに、前門の虎、後門の狼状態。
逃げ場がないじゃなぁーーーいっ!!!
「そういうことだから。いいわね?石川。」
私は保田さんの強く光る目に捕まったまま、はい、と答えた。
保田さんの眼光は、その答え以外、認めないって言ってたから。
どうしてぇ?どうしてこんなことになっちゃうのぉぉぉ・・・
- 379 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:12
- 私の返事に、満点の答案を返す教師みたいに目を細めて
保田さんが言った。
「じゃ、日程を調節するわ。
写真があがってから加工するから、早い方がいいの。
二、三日後でいいかしら?」
に・・・にさんにちぃぃぃ?
了承してしまったものの、なんとか逃げ道がないかと、後で
ゆっくり考えてみようと思ってた私は、絶望的な気分になる。
「いいですよ?・・・なんなら、明日でも。」
しらっと答えるひとみちゃん。
人の気も知らないでーーーっ!バ、バカァァァーーーッ!!!
「それは助かるわ、ほんとに感謝してる。ありがとう。
じゃ、今日はごちそうさま。撮影楽しみにしてるから。」
- 380 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:13
-
やっぱり、自分の言いたいことだけ言うと、今日も保田さんは
サッサと席を立つのだった。
私の原稿の進む具合さえ、チェックしないで。嘘つきっ!
保田さんが帰ってしまうと、ひとみちゃんはカップを手に
キッチンで洗いものを始めた。
自分の発言が、私を窮地に追い詰めてるなんて思いもしないで。
- 381 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/09/30(木) 18:13
- 私は両腕をテーブルに投げ出して、ズルズルと突っ伏した。
人生って悲しいね・・・
なんでこう、思いもよらないことがおこるのぉぉぉ?!
- 382 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/30(木) 18:14
- 更新しました。
364名無飼育様。
梨華ちゃんはカワイイのですっ自分の一押しなもんでw
いつでもカワイイのです!←バカ・・・
いつもの名無し様。
いいことを思いつきましたw貴方様にも番犬の称号を・・・
要るわきゃないですね?失礼致しました!
366名無飼育様。
一気をありがとうございます。
いしよしは神なんでw自分のワールドでは!
- 383 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/09/30(木) 18:14
-
367名無飼育様。
もどかしいですか?
うぅ〜ん。しばしご辛抱をw
368名無飼育様。
どうしましょうかw
保田さんは勤勉で優秀なキャリアーウーマンですw
ストックが切れてしまいました!
申し訳ありませんが、次の更新目処は一週間後位の予定
です。多少、前後があるかも知れません。すみません。
お待ち頂けたら嬉しいです。
- 384 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/30(木) 18:45
- 更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
ずっと待ってるので作者様のペースで
がんばって下さいvv
- 385 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/09/30(木) 19:45
- 今日も更新お疲れ様でした。
うほほほ〜〜〜〜っ!!
いいねぇ〜美貴ちゃんグッジョブ!やっすーもグッジョブ!(w
よっちぃ〜おぬしもなかなかやるよのぉ〜(w
梨華ちゃんの脳内波乱が見ていてとても楽しい!!(悪?)
えっ!?自分に番犬の称号を・・・ですか?
それはどういう意味の番犬で?(w
でも面白いから次回からは「いつもの名無し」改め『いつもの番犬』でお邪魔しますね(w
いいですかね?(w
では次回更新待ってます。
- 386 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/01(金) 02:03
- どっひ〜っ!
一体どうなってしまうのか!
- 387 名前:プリン 投稿日:2004/10/01(金) 16:35
- 更新お疲れ様です♪
いやー。どーなるんでしょ(w
続きが激しく気になりますね♪
次回の更新待ってます!
マターリ待ってますねw
(○^〜^)<マイペースマイペース♪
- 388 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/01(金) 16:57
- ひーちゃんおもしろがってるね
- 389 名前:273 投稿日:2004/10/01(金) 18:45
- ミキティ!いいこと言った!いいこと言った!
興奮したので繰り返してみましたw
ヤスとヨシに挟まれてキョドるりかちゃんイイヨーイイヨー。
マターリお待ちしております。
- 390 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:03
-
◇◇◇
撮影の日がやってきた。三日後に。
保田さんは有言実行の人なのだった。
「今日は宜しくね?楽しくやりましょう。
二人とも固くならずに、自然にね。
仕上がりは、イラスト風っていうのかしら?
石川の作風に合わせた、甘いパステルトーンの絵のような
写真。そんな感じで行きたいと思ってるの。
藤本が来れなくて残念がってたわ。ほ〜っほほほ。」
その笑い、コワイから。止めようよ?・・・・・保田さん・・・
けど。ウルサイ、裏切り者のギャラリーがいないことに、ホッと
胸を撫で下ろす私。
カメラマンの人が来てくれる前に、ダイニングで向き合いながら
軽く打ち合わせしてると、四パターンのイメージフォトを考えている
と、保田さんがひとみちゃんと、私の顔を交互に見て、説明する。
朝食を作るひとみちゃんと、ダイニングテーブルの上に両手で
頬杖を付きながら、それを見てる私。これは後ろ姿。
- 391 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:03
- 二人のそれぞれの日常って感じで。掃除機を担いでるひとみちゃん。
それと、パソコンに向かってる私が、横に置いてあるマグカップを
取ろうとしてるところ。この二枚は後ろ向き寄りの斜め。
「それで、次なんだけど。
吉澤さん。貴方って腕力に自信あるタイプかしら?」
保田さんに、ジッと見つめられて、ひとみちゃんは、まぁ、と
答えた。
「あたし、コックしてたから。
ランチ時の半端じゃない重さの飯の釜とか持ち上げてたんで。
慣れっつーか、力の入れ方のコツみたいのがあるから、持つ物
にもよるかな、とは思いますけど。それが何か?」
「実はね。石川を抱き上げて欲しいのよ。出来そう?」
「え゛ーーーーーっ!!!
ち、ちょっと保田さんっ!なっ何を言い出すんですかぁ?!」
ひとみちゃんが何か答えるより早く、私は猛然と立ち上がって
保田さんに抗議した。
そ、そんな、恥ずかしいことっ出来るわけないじゃんっっっ!
ひとみちゃんも、きっと呆れた顔してる。
見なくてもわかるよ・・・・・情けないったら。
- 392 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:04
- 「何言ってるのよ?石川。
リカコが自分のベッドで朝目覚めて、ヒロミくんが運んで
くれたの?って想像する、あのシーン。
イラスト入りの場面っていうのもあるかも知れないけど。
読者から、評判よくって、大人気だったんだから、外せる訳
ないじゃない?」
ギョロッとした目で睨み返された。
読者の人気がって言われちゃうと、私に返す言葉はない。
でも。
そんなのひとみちゃんがやるって言うわけないんだから。
ま・・・いいか、と思おうとした私の横で。ガタンと、音がする。
見ると・・・。
ひとみちゃんが立ち上がってる。・・・・・え?
「暴れんなよ?」私を横目で見て、そう言うと。
私の方に向き直って、腰の辺りを両手で支えて、そのまま上へと
持ち上げた。
ひょいって感じで。わりと軽く。・・・・・へっ?
- 393 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:04
- 一瞬だけ。ひとみちゃんの頭の上が見えた。
普段見ることのない場所。それが、あっという間にもとの視界に戻る。
ストン、て。
ひとみちゃんは、首の後ろに手をやって、指先でちょっと
掻きながら、保田さんを見た。
「こんくらいなら。あたし・・・イケますよ?」
「お願いしてもいいかしら?」
「まぁ・・・じゃ、割り増し料金で。」
ひとみちゃんがニヤリとして、保田サンは、言うわね?貴方って
言いながら、面白そうに笑った。
私は全然笑えないんですけど?
いくらバイトを辞めたからって、こんな見世物みたいなことして
お金を貰おうとするなんてっ!
ひとみちゃんって、ちょっと、間違ってるって思うよっ!!!
人のこと、こんくらいならとか、割り増し料金とか言っちゃって。
私は、私はねっ?荷物じゃなぁーーーいっ!
- 394 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:05
- 保田さんは、私の意見を聞いてくれるつもりはまったくない
みたいで完全無視。ひとみちゃんだけを、真っ直ぐに見てる。
ひとみちゃんも、普通の顔して、その視線を受け止めてる。
保田さんは、笑いの余韻を口許に残しながら、眼差しだけを
鋭く、細めた。
「じゃあ、割り増し料金を上乗せするから、もう一つお願い
してもいいかしら?」
「・・・なんです?」
「最後の一枚ね?・・・キスする直前って絵が欲しいのよ。
唇が触れ合うまで、後、一歩ってとこの。
それは、今のリカコとヒロミの心の距離と、ダブっているの。
あと、あと一息で二人は触れ合える。・・・身も、心も。
もうすぐそれが起こりそうって、読者に期待させる写真。
ラストは、これからに繋がるようにしたいわけ。」
「ちょっ・・・」
私が声を出した瞬間。
保田さんがゆっくりとこっちを見た。
その眼差しはあまりにも真剣で。なんだか痛いくらいで。
- 395 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:05
- 「石川。あたしね?ずっとあんたを甘やかしてきた。
あたしと初めて会った時。あんた、制服着てたのよ?
今だに思い出すの。あんたの、あの姿。そうするとね?
石川が自分でしなくちゃいけない選択を、あたしが代わりに
しちゃった気がして・・・。なんだか石川のことは、あたしが
守っていかなくちゃって思ってたのよ。」
ヌルイわねって、保田さんは目を細めて笑う。
「・・・あんたはもう、あの制服を着た女の子じゃないって。
気がつくまで時間がかかちゃったわ。あたしもヤキが回った
もんよ。石川は・・・自分の仕事をなんだと思ってしてきたの?
あんたの選んだ仕事はね?ただ幻想を描いてりゃいいってもん
じゃないの・・・たくさんの少女達に夢を売るってことなのよ?
そしていつでも売り物には、売る側に責任があるものなの。
手を抜いたら見抜かれるわよ?読者は、あたしほど甘くないから。
それを続けて行く覚悟があるかってことだと思ってる。
今回のことは。」
夢を売る覚悟?
私の作った物語は・・・・・もう、私だけのものじゃない・・・?
- 396 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:06
- 保田さんに会う前。
退屈な授業中。自分が夢みる恋愛のお話を私は夢中で書いていた。
自分だけが満足出来ればよかった。あれは、私だけの夢だったから。
だけど。もう違う。そう言うことだよね?保田さん?
なぜなら私自身が、それを仕事として選んでしまったから。
今頃、そんなことに気づくなんて。全然ダメだぁ・・・私・・・
それでも。そんな私の書いた物を、求めてくれてる女の子達が
いるんだ・・・・・楽しみにしてくれて、応援してくれて・・・
だったら、私の出来ることってなに?
しなくちゃいけないことは・・・
その夢をもっと見続けたいって、思ってもらうこと。
この夢を見れて良かったって、思ってもらうこと。
それには、たぶん。
私の夢だけを書くのだけじゃ足りなくて。
本を手にとってくれた人の、夢にならなくちゃいけない気がする。
私の生み出すもの、が。
- 397 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:06
- それには、きっと。
私は、私の全てを使うべきなのかも知れない・・・表現する為に
出来ることをしないで済ませてしまったら、伝わらなくなって
しまう気がする。私の夢の形が。私って物書きが描く夢が。
だったら。伝えたい夢に、少しでも近づく為に・・・
「・・・・ひとみちゃん。」
はっきり呼んだつもりだったのに、息が洩れるような声しか
出なかった。それでも、ひとみちゃんは私を見た。
「私・・・・・。私の書いたものを、うんと楽しんで欲しいの。
それが私が、お話を書いていることの意味なんだと思う。
だから。その為に出来ることなら、なんでもしたいって
思うの・・・・・協力してくれる?」
ひとみちゃんは、驚いたように、一瞬、目を見開いた。
そして、フッと鼻先で小さく笑う。
「オーケー。
だけどさ、いちーちアンタってオーバーなんだよ。
だって、フリだけだぜ?全然たいしたことねーじゃん?」
- 398 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:07
- そう言うものなのかな?
恋人ってわけじゃなくても?・・・・・オーバーなの?私。
うぅ〜〜〜ん・・・・・わかんないよ。
だって。私はイヤだもん!・・・例えフリだけでも。
ちゃんと好きな人と、じゃないと。イヤなんだもんっ
たぶん。
まだまだ覚悟が足りないのかな?物書きとしての、私の。
けど。保田さんは私の選んだ答えを、あんたにしては上出来!って
小さく拍手してくれた。
その音に重なるように、インターフォンがなる。
一番傍にいた保田さんが、立ち上がると受話器を取った。
そして。
少しすると、今度は部屋の方のインターフォンが鳴った。
玄関に向かえに出た、保田さんと一緒に現れたのは、背の高い
かなりキレイめの人だった。
ユルリと波打ちながら、キラキラ輝く長い髪が、とても目立つ女性。
- 399 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:07
- 「こちら、今日の撮影をしてくれる飯田さん。
こっちは、ヒロミ役の吉澤さんと、リカコ役の石川さん。」
それぞれが、よろしく、と頭を下げた。
飯田さんは、ちょっとどこを見てるのかわからない独特の
眼差しで、たぶん私とひとみちゃんの顔や、部屋の中をぐるり
と見回していた。
そして無言のまま、カメラのセッティングを黙々と始めた。
自分で書いた設定のせいで、冴えない黒ブチ眼鏡をかけて
撮影することになった私。
何が悲しくて、コンタクトの上から伊達眼鏡をかけているの
かしら?
おまけにサイズが合わなくて、時々ズリ下がってくるし。
あ〜〜〜んっイライラするぅぅぅ・・・
それでも。
朝食のシーンと、二人の日常のシーンは、呆気ないほど
あっと言う間に取り終わった。
- 400 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:08
- シンとした部屋に、飯田さんのシャッターを切るカシャカシャ
って音と、息を殺した保田さんの気配がする。
だけど、背中を向けているわけだし。思ったより、全然緊張
しなかった。
不思議なもので。
シャッターを切る音に慣れてしまうと、目に見えるのは見慣れた
日常だったりするから、撮られていることを忘れそうになっちゃった
くらい。
それが狙いだったのか、飯田さんも保田さんも、ずっと無言の
ままだったし。
だから、たぶん、とても自然な写真が撮れてた気がする。
そして。次はひとみちゃんに抱き上げて貰う写真の番。
「ちょっと待って。」
飯田さんは、いつの間にか後ろに結んでいた長い髪を、一振りして
フィルムを入れ替えるからって、持ってきた大きなバックの前で
膝を付いた。
あ゛〜〜〜緊張するぅぅぅ・・・・・
- 401 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:09
- その横に立っていた私は、知らずに身体を小さく揺すっていた
らしい。くすり。足元から笑う声がして、下を見た。
「君、面白い子だね。緊張してるの?」
な、なんでぇぇぇ?普通、緊張するよね?
私がキョトンとすると、飯田さんは、あれ?という顔になった。
「・・・君ら、恋人なんでしょ?」
「えっ?えーーーっ?!ち、違いますよぉ・・・」
私はちょっと赤くなってしまった顔の前で、片手をブンブン
振った。
あ!そうかぁ〜 飯田さん勘違いしてるんだ。
「・・・・・あの、ソレはお話の設定です。
でも。リカコとヒロミも、まだ恋人ってわけじゃないんです
けど。」
「そう。ヘンだな。・・・・・でも好き合ってるよね?」
私は、振ってた片手で頬っぺたを押さえた。
- 402 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:09
- まだ、好き合ってるって設定にするか決めてなかったんだけど。
・・・・・そうした方が、読者さんが喜んでくれるかな?
ほらなんて言っても。
発表する気がなかったから、お話としての続きをまだ練って
ないのよねぇ。・・・保田さんが聞いたら卒倒しそうだけど。
「そうなるんじゃないっすか?・・・たぶん。」
いつの間にか、ひとみちゃんが私の前に来ていて、たぶんの言葉
とは裏腹に、やけに自信たっぷりの声で言う。
やっぱり、その方が面白いかな?
私がそう思いながら、ひとみちゃんの顔を見上げると、飯田さんが
ケラケラ笑った。
「そっちの君はわかってるんだ?君らって面白いね。
キョーミ深いよ・・・じゃ、続き行こうか?」
飯田さんがサッと立ち上げると、ひとみちゃんが私に、ぼぉっと
してんなよって顔をする。焦った私は頭に何かが、引っかかってた
気もしたけど、二人の後ろ姿についてリビングを出た。
- 403 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:10
- 私の部屋のドアの前で、ひとみちゃんは私の顔を見た。
なんだかすごく無表情。
怒ってるの?って、思わず聞きたくなっちゃうくらい。
私がビクビクしながら、その顔を見返すと、ひとみちゃんは
軽く膝を曲げて、私の背中と、腿に腕を回して、そのまま私を
グイッと持ち上げた。
「きゃっ!」
あんまり突然だったから、思わず口から大きな声が出る。
「・・・目、閉じろよ。」 「な、なんでぇ?!」
私が、落ち着かなくて身じろぎすると、ひとみちゃんは
やれやれって感じで溜息をついた。
「リカコが寝ちまったから、こんなことになってんだろ?
あたしはモノホンのヒロミじゃねーから、モタモタしてると
落とすよ?」
私は慌てて、ギュッと目を閉じた。
- 404 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:10
-
「力抜いて。もっとアンタの身体をあたしに預けて。
・・・落としたりしねーから、アンタのこと。信用しろよ?」
私は小さく、こくんって頷いて、自分の頭をひとみちゃんの胸に
おずおずともたれ掛けた。・・・・・そうしたら。私の耳に響いてきたの。
ドクゥンドクゥンって、ひとみちゃんの心臓の音が。
それは、今まで聞いたことのない音。
力強いのに、優しく、温かく響いてて。なんだかふいに、何もかも
この人に任せちゃえば、きっと大丈夫って思えた。
そしたら。私の身体から、自然に力が抜けた。
ひとみちゃんが身体の向きを変えてるのを、感じる。
カシャカシャカシャッって、連続してシャッターが切られる音が
なんだか、すごく遠くに聞えた。
そしてやっぱり突然、私は下ろされた。
トンって、足元がフローリングに当たって、私はゆっくり瞼を
開けた。
へんなの。まるでほんとに、ちょっとだけ寝ちゃって、短い夢を
見た後みたい。目の前の景色がぼんやりしてる。
- 405 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:11
- だけど。
反対にひとみちゃんの顔だけが、すごくくっきりとよく見える。
いつもと同じ、抜けるように白い肌の色が、ほんのりと朱に
染まってた。それに気づいた私は、なにかとんでもない秘密を
盗み見てしまったみたいで、やたらとドキドキする。
ひとみちゃんは、急にプイッっと私から顔を背けた。
「マジで寝てんじゃねーよっ・・・・・重いだろ?!」
お、重いーーーっ?!
ああぁ、ごめんね〜っひとみちゃんっ・・・・・
でも、でもね?寝てはないからっ!いくらなんでもっ
ひとみちゃんは、パーカーの胸元をパタパタさせて、あっちぃ〜って
いつもより幼く聞える声で呟いて、サッサとリビングに戻って
しまった。
私が慌てて、その後を追いかけていると、クスリ、壁に寄りかかる
ように立っていた飯田さんが、軽く拳に握った手を口許にあてていた。
- 406 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:11
-
・・・笑われてる?
だけど、なんでかさっぱりわからない。
私は首を傾げながら、リビングへと戻った。
お茶を飲んで、軽く休憩した私たち。
その後に待ってることを思うと、大好きなフルーツミックスの
フレーバーの紅茶さえも、なかなか喉を通らない。
もうなんか・・・湯気を吸い込むだけで、いっぱいいっぱいだよぉ〜
「美味しかった。色も香りも楽しませてもらったよ。」
飯田さんはカップをソーサーにカチンと戻すと、リビングを
振り返った。
「あの辺りで撮ろうか?バックが白だと明るく仕上がるし。
どうせ、後で画面処理するからね。」
ガタン。飯田さんが立ち上がると、保田さんもその音に合わせる
ように、立ち上がった。
「そうね。サッサとやっちゃいましょう。」
「・・・サッサと、ね。」
- 407 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:12
- ひとみちゃんは肩を竦めて、立ち上がる。
そして、根っこが生えたみたいに座ったままの私を見た。
「なんだよ?その顔は。・・・抱き上げて連れてって欲しいってか?」
「ち、違っ・・・」
ガタタンッ。私が焦って立ち上がると、ひとみちゃんは薄く笑った。
そしてそのまま、飯田さんがスタンバイしてる前に歩いていく。
私も大きく深呼吸すると、こっそり人という字を手の平に書いて
ごくんっと飲み込んだ。
フリだけ、フリだから、うんフリ、そうフリ・・・フリだってぇ!
そう口の中で呟きながら、ひとみちゃんの前に立つ。
「じゃ適当に。
こっちは撮りたい時、勝手に取るから気にしないで。」
飯田さんはあくまでノータッチで私たちが、自分達で、そう
見えるポーズをとるのを待つ気みたいだ。
ひとみちゃんは、迷うように目線を上に上げ、それから私の
顔を見た。ドキーーーンッ
- 408 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:12
- 目が合うと、ヒクッと顔が引きつった。
ひとみちゃんの手がまっすぐ私に伸びてくる。
ドクッッッ・・・ドクンッドクンッドクンッッッ
バクバクと左の胸が激しく打って、手足が細かく震えてくる。
ヤだ、ヤだなんか、どうしよぉ・・・・・
ひとみちゃんの手が、私のこめかみ辺りに、そっと触れた。
今度はその手の触れた方へ、物凄い勢いで血液が流れ込んでくる。
頭がカーーーッとのぼせて、このまま倒れてしまうんじゃないかって
私が思った時。
ひとみちゃんの手は意外な動きをする。私の眼鏡を外したのだ。
・・・・・へ?
呆気に取られて、ひとみちゃんの手の動きを私の目が追う。
ひとみちゃんは、おもむろに取った眼鏡を自分がかけた。
と、その眼鏡がズルズルと、ひとみちゃんの鼻の上を滑って
途中で止まった。それも中途半端に。なんだか斜めに。
- 409 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:13
-
ブッッッ!
ふざけたパーティの出来損ないの変装みたい。
私の頭に、いつだったか見たことのある人形の姿が浮かんだ。
赤と白の派手なストライプの服とかきて、太鼓とか持ったりして。
ヤ〜〜〜格好悪ぅい!
ひとみちゃんは、クスクス笑う私の目の前に、自分の顔を少し
近づけた。
「ど?・・・似合う?」
私が笑ってるのがわかってるクセに、ひとみちゃんはどお?どお?
って目をまん丸に見開いて、どんどん顔を近づけてくる。
ヤだっもぉーーーっ!
私は、ひとみちゃんの、ずり下がった眼鏡をおどけた風にかける
顔が、さっき思い出した人形と重なって、すっごくおかしくて、
俯くと、小さく声を上げて笑い出した。
クスクスクスッと私が笑い続けていると、いつの間にか、それに
重なる音がする。・・・カシャッカシャッカシャ、カシャカシャッって。
「ねぇーっねぇねぇ?見てよ。」
- 410 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:13
-
ひとみちゃんの手が私の肩に触れた。
「もぉ〜ヤだぁ、全然似合わ・・・」
顔を上げていく私の笑いが滲んだ吐息。
それがかかるほど、間近に迫るひとみちゃんの顔は、ふざけた眼鏡で
なんかかけていなくて。・・・そこには。
吸い込まれそうに大きな・・・大きな輝きを持った瞳が・・・。
瞳・・・が・・・・・
- 411 名前:〜アイ〜 投稿日:2004/10/07(木) 15:14
-
あっ・・・ カシャッ!!!
- 412 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/10/07(木) 15:15
- 更新しました。
384名無飼育様。
ずっと、ですか?嬉しいなぁ!
いつもの名無し様。
いいっすよ〜てか、鼻が利きそうとかいう下らないオチなんでw
386名無飼育様。
うっひょ〜っ!・・・こんな感じになりましたw
- 413 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/10/07(木) 15:16
-
プリン様。
どーなるのか気になって頂けるのは嬉しいものなのです。
388名無飼育様。
えぇ、かなり。ちなみに自分も面白がってますがw
273様。
梨華チャンは無意識優等生だから、突発的出来事に弱いのでw
- 414 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 17:50
- あひゃ――
ええでねぇの ええでねぇの〜
どきどきどきどきどきどきどき・・・・・・・・・・・・・・・
- 415 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 18:13
- 更新お疲れ様です!
ヌァ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!
いいところで・・・
続き待ってます(*´Д`)ポワワ
- 416 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 18:27
- ひとみちゃんイイ仕事しますねぇ
期待して待ってます!
- 417 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 18:49
- うわっ
またいいとこでw
- 418 名前:いつもの名無し 投稿日:2004/10/07(木) 20:28
- 更新お疲れ様です。
やはり「番犬」は影ながらと言う事で、やはりいつものやつで(w
さすが飯田さん!(w
それにしてもよっちぃ〜よく気がつくよなぁ〜(w
そう来てそう来るかね!?さ・す・が!!くうぅぅぅぅぅ〜〜〜!!!
- 419 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 23:07
- お待ちしてました〜♪
おもしろすぎる☆☆ううっ・・いいところで
次回へ〜ですね?! 楽しみにしてます。
- 420 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/10/09(土) 15:28
-
上げきれないので引越します。
次スレはこちらで↓よろしくお願いいたします。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wood/1097303154/l50
- 421 名前:名無し飼育作者 投稿日:2004/11/15(月) 17:16
- 落とします。
Converted by dat2html.pl v0.2