不思議なよっちゃんさん
- 1 名前:彩girl 投稿日:2004/07/23(金) 11:38
- 謹んで初小説あげさせていただきます m(_ _)m
よしみき、リアルですが、実際の時間軸と違うところもあり…
もしかしたら違和感覚えるかたもいらっしゃるかもしれませんので、
あらかじめお知らせいたします。
未熟者で技術不足で、上記のような不備もあると思いますが、
よろしくお願いします。
- 2 名前:彩girl 投稿日:2004/07/23(金) 11:41
- 1 のみ age にしますが、いこうはひっそり sage 進行でお願いします。
* * *
『不思議なよっちゃんさん』
- 3 名前:1 投稿日:2004/07/23(金) 11:42
- それは年末の仕事を怒濤の様にこなしてた美貴達に突然告げられた。
『辻と加護は来年の夏のハロプロコンサートで
卒業することになったんや』
マジっすか???ってカンジ。
- 4 名前:1 投稿日:2004/07/23(金) 11:43
-
……………………………………………………
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………………………………
- 5 名前:1 投稿日:2004/07/23(金) 11:43
- 年が開けた、ある日のTV局の廊下、
辻さんと加護さんは卒業コメントを撮っていた。
『え〜〜〜〜って、びっくりした
メンバーのみんなもえ〜〜って』
『卒業は寂しいけど、運命だよね』
衣装の打ち合わせのあと通りがかった美貴にコメントの一部が聞こえてきた。
“運命”なんてこと加護さんが言うなんてってちょっとびっくりした。
加護さんも辻さんも思ってたよりずーっと大人なんだナ…
- 6 名前:1 投稿日:2004/07/23(金) 11:45
- 白い廊下を楽屋に向かってコツコツ歩いてくと、
俯いたよっちゃんさんが突き当たりで交差する廊下をすっと通り過ぎるのが見えた。
美貴はなんか気になって後姿についてった。
よっちゃんさんは行き止まりの窓辺にたたずんで曇った空を見上げて物思い。
いつもおちゃらけて明るいとこしか知らなかった美貴は
そんな姿がちょっとショックで、声をかけられなかった。
よっちゃんさんはなんであんなに沈んでたんだろう。
楽屋にもどって鏡の前の椅子にすとんと座って考え出す。
やっぱり寂しいのかな……
ヨンキーズってほんと羨ましい位仲良いもんね。
ほんとの姉妹みたいに。
- 7 名前:1 投稿日:2004/07/23(金) 11:47
- 美貴にも同期はいるけどいわゆる同期とはちょっとちがうんだよね。
なにしろ美貴は娘。変則加入第一号だもん。
やっとなれた一羽の鳥かごから、
いきなり有無もいわさず仲間のいる鳥かごに放り込まれた。
最初は違和感しか感じなかったけど、
最近慣れた、自分以外の鳴き声や羽の色。
でもね、ときどき一緒のカゴにいるほかの子達とは同じように鳴けてない事に気付く。
少しだけ不安になって見回すと、
よっちゃんさんはなぜかあさっての方向を向いて、
一人だけ違ううた、歌ってたりするんだよ。
らしくない、どうして?ってとーても不思議だった。
自分からわざとあほやったり、だれかにからんだり、しょっちゅうしてるのに。
- 8 名前:1 投稿日:2004/07/23(金) 11:48
- カチャっとドアか開いてよっちやんさんが楽屋に戻ってきた。
さっそく飛びつく辻さん加護さんににこにこ応えて、梨華ちゃんも自然に絡んでいく。
やっぱヨンキーズですね。
よっちゃんさんにはもうさっきの沈んだ表情はみじんもない。
ほんとに不思議。その様子をチラチラみながら思う。
- 9 名前:1 投稿日:2004/07/23(金) 11:49
-
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- 10 名前:彩girl 投稿日:2004/07/23(金) 11:55
-
1 でした…
ぼちぼち、更新いたしますので……
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/23(金) 23:22
- みきよしですか?
楽しみにしてます
- 12 名前:彩girl 投稿日:2004/07/24(土) 01:52
- >>11 さん
そうです、みきよしです。 がんばりますです。
それでは、ぽちっと更新です‥‥
- 13 名前:2 投稿日:2004/07/24(土) 01:55
-
そしてある日、美貴はよっちゃんさんの秘密を知った。
実はヘソピしてるんだ。それも2つも。
- 14 名前:2 投稿日:2004/07/24(土) 01:57
- ダンスレッスンの最中、息上がった美貴は壁際でちょっと休憩中。
目の前で同じ動きを繰り還すよっちゃんさんを、ペットボトルの水をゴクゴクしながら見てた。
相変わらず鋭い動き、サスガだなぁ。
そのよっちゃんさんが手を振り上げた瞬間、Tシャツがめくれて、
見えたおへそに、キラリと光った2粒のシルバー。
え?っと目を疑う。
だってハワイで、水着で遊んだときにはぜんぜん気がつかなかったもん。
- 15 名前:2 投稿日:2004/07/24(土) 02:01
- レッスンが一段落してよっちゃんさんが美貴の横に座ったから、さっそく聞いてみる。
「よっちゃんさーん、いつあけたんですかぁ?」
タオルで汗をぬぐっていたよっちゃんさんの手がピタっと止まる。
あ、あれ? 美貴、軽いキモチで聞いたんだけど‥‥
慌てた様子であたりを伺い、誰も美貴達に目を向けて無い事を確認すると、
「見えちゃったんだ……」
っと息を潜めて言うよっちゃんさん。
「はい…」
「あのね、これ、内緒にしといて」
と口元にひと指し指をあてた。
「梨華ちゃんとかさ、飯田さんもこういうのうるさそうだから……」
離れたところで辻さん加護さんときゃあきゃあふざけあってる梨華ちゃんを見ながら、
苦笑するよっちゃんさん。
そっか、超真面目だもんね、ふたりとも。いしかーさん大騒ぎしそうだもん。
「わかりました、誰にも言いませんから」
- 16 名前:2 投稿日:2004/07/24(土) 02:03
- 裏表なさそうなよっちゃんさんの秘密。
それを知って美貴のよっちゃんさんを見る目が少し変わった。
もしかしたらもっと秘密をもってるのかも知れない‥‥
そう思ったらね、美貴よりぜんぜん大きくて強そうなよっちゃんさんを
守りたいなんて思っちゃったんだ。
なんでだろう‥‥なんでかな。
ハロモニ。のゲームのときとか、思わず背中に抱きついちゃったり、
生放送で気がついたら衣装直してあげてたり。
そんな時よっちゃんさんは美貴にだけふにゃっと笑いかけてくれるんだけど、
それはなぜか美貴の胸をキュンと切なくする。
- 17 名前:2 投稿日:2004/07/24(土) 02:04
-
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- 18 名前:3 投稿日:2004/07/24(土) 02:06
- 去年のハロプロスポーツフェスティバルから始まったフットサル。
今年は遂に公式戦デビュー!
なんだけどー。
でもさ、無理だって。
だってみんな女子といえども本気モードだよ。公式戦だもん。
美貴もすこしだけど運動部に所属していたから知ってるんだ。
“勝つため”にみんなどんだけがんばってるか。
うちらハロプロのチームだって決して手を抜くわけじゃなけど、
圧倒的な練習量と経験の差。
結果は惨たんたるものだった。
あまりのことに悔し涙も出ないかと思ったけど、やっぱり少し泣いた。
主将のよっちゃんさんは終了のホイッスルにぼう然とピッチに立ちつくしてた。
- 19 名前:3 投稿日:2004/07/24(土) 02:12
- ユニフォームを着替えて、髪を直しに大きい鏡を見にトイレに行った。
主催者の配慮でここはハロプロ関係者専用になっていたから、
個室のドアがひとつしまってたけど得に気にしなかった。
がたんとトビラがあいて出て来たのはよっちゃんさん。
となりの洗面台で手を洗う。
鏡越しに目が会うと、弱々しく笑う目元がうっすら赤い。
いつもそうやって人前で泣くのを我慢するよっちゃんさん。
「なんかやっぱ悔しっすね」
「‥‥そう?」
「えー?悔しっすよ、いろんな意味で」
「あたし、なんか気がぬけちゃってさ‥‥」
美貴を見てまた力なく笑う。
さっきの記者会見で“一番を目指す”って言ってたのに。
「よっちゃんさん‥‥」
さすがの美貴も言葉に詰まってしまって、
よっちゃんさんは鏡に背を向けて洗面台によりかかると目線をおとした。
うわ、まじ落ちちゃってるよ。どうしよう‥‥
こんなとき美貴ならどうしたっけ?
えーと、えーーーっと‥‥‥、そうだ!
「よっちゃんさん!焼肉食べに行きましょう!
ね?こういう時は美味しいものが一番ですよ!」
「えぇ〜?! あたし、肉苦手なんだけどなぁ‥‥」
「そんな情けない顔しないでください。
大丈夫です。美貴が初歩から教えますから。
さあ、みんなのとこ、もどりましょ?」
背中を両手で押して扉に向かって、廊下に出てからは並んで歩いた。
「あの‥‥よっちゃんさん、美貴、いろいろまだまだかもしれないけど、
ちょっとは頼りにしてください、ね?」
前を向いたままうんっと頷いてくれたよっちゃんさん。
それを見届けてから、美貴はみんなのいる控え室のドアをがばっとあけた。
- 20 名前:3 投稿日:2004/07/24(土) 02:15
- 「ねえねえねえ、焼肉行かな〜い?」
「「 行きた〜〜〜い!」」
元気良く手を上げたのは辻さんとまこっちゃん。
「梨華ちゃんも行こうよ。
今日はねなんとよっちゃんさんも初チャレンジなんだよ、
ね!」
「へへへ、なんかそうみたい」
苦笑いのよっちゃんさん。
結局マネージャーさんのはからいで、
フットサルの打ち上げもかねてみんなで焼肉を食べに行った。
- 21 名前:3 投稿日:2004/07/24(土) 02:18
- 「よっちゃんさん、これ、レバ刺し、試しに食べてみてくださいよ」
「う、それだけはカンベンして〜」
涙目で拒否られて、しかたなしに断念。
でもそれ以外はひととおり試してくれたよっちゃんさん。
『カテー』とか、『なーにこの感触』とか、『ん〜ビミョー』とか、
いちいちリアクションあるから、それがまたおかしくて、みんなでいっぱい笑った。
わいわい食事をするうち、よっちゃんさんもいつものペースを取り戻したみたい。
- 22 名前:3 投稿日:2004/07/24(土) 02:20
-
美貴達はさ、
今日初めて大海に放り出された魚みたいなもんだったね。
海の大きさ流れの異様さに圧倒されて、がく然として。
今までそれなりに大きな存在でいたつもりだったけど、
違ったんだって、思い知らされた。
美貴達はいつもいつも幾重もの壁に守られてたから、泳げてただけだった。
それでも必死で、覚えたばかりの泳ぎ方で、戦った。
だれも守ってくれないフィールドで、戦えるのはピッチの自分たちだけだった。
でも最後まで全力で、決してあきらめなかった。
チームのみんなそうだったって言い切れる。
それが美貴達を今まで支えて来たものなんだもん。美貴はそれを誇りに思う。
ぼろ負けでも、ぜんぜん、ビシッと胸をはれるよ。
- 23 名前:3 投稿日:2004/07/24(土) 02:22
- ひときわ大きいレバ刺しひときれ摘んで、
半分以上かじってとなりのよっちゃんさんをつつく。
「はい、あーーーん」
「う、ん」
ギュッと目をつぶって、小さく開いた口に、ほいっとほりこむと、
うぁ〜っなんだこりゃ〜〜と、のたうちまわるよっちんさん。
ははは、超おっかしい、もう。
大丈夫ですよ、これもヘソピみたいなもんですから。
感動は、生きてる証、なんちゃって。
「ヘソピ?」
やば、梨華ちゃんの速攻レスだ。
「た、例えばの話しですよ。もう、やだなー、いしかーさん。
マジにとらないでくださいよー」
あわてて笑ってごまかした。
「なんだそっかー、
わたしてっきりよっすぃ〜がヘソピしてるのかと思っちゃった」
「「まさかー」」
思わず声がそろってしまった美貴とよっちゃんさん。
冷汗たらーっでした。あぶなかったー。
- 24 名前:3 投稿日:2004/07/24(土) 02:24
- ごめんなさい、よっちゃんさん。
あとでメールで平謝りの美貴でした‥‥‥
『マジあせったけどさ、なんとかごまかせたから、気にしないでね
ま、いつかはバレると思ってるけど今はまだ内緒にしときたいんで
今後ともヨロシクたのんます よしざわ』
スイマセン‥‥反省してます‥‥‥‥なんて‥ほんとはね、
美貴とよっちゃんさんだけの秘密がなくなっちゃうの、やだって、
それであの時、すごくあせったんだよ。
だから、少しでも長く、秘密にしといてほしいな‥‥‥‥
- 25 名前:3 投稿日:2004/07/24(土) 02:27
-
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- 26 名前:彩girl 投稿日:2004/07/24(土) 02:28
-
2 3 更新しました。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/24(土) 10:47
- みきよし大好きなので嬉しいです。
ただミキティーが敬語なのが、、、
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/24(土) 11:04
- 二人だけの秘密は良いですね。
- 29 名前:プリン 投稿日:2004/07/24(土) 13:19
- 更新お疲れ様です。
初めまして♪
みきよし(・∀・)イイ!ですねw
最近、自分の中でもきてるんで嬉しいです。
これからどう展開していくのか楽しみです♪
次回の更新も待ってます。
マイペースに頑張ってください!
- 30 名前:彩girl 投稿日:2004/07/25(日) 10:48
- >>27さん >>28さん >>プリン さん
レスありがとうございます。 嬉しいです!
ここのミキティはいわいるヤンキーキャラとはちょっと違うかもです…
それでは、ハロモニ。前に更新します。
- 31 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 10:49
- 『安倍さん、卒業おめでとうございます。
美貴は、最初入ったときになかなか会話するきっかけがつかめなくて
あんまりお話しできなかったんですけど、
話すうちにすごい楽しくていつも笑ってる安倍さんの事が
大好きになりました。
これからソロになってもがんばってください。
そして、美貴のことも見守っていてください。』
娘。を支えてきた、
娘。の代名詞といっても良いくらいおっきい存在だった安倍さんが、
娘。を卒業する日。
- 32 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 10:50
- 卒業は笑顔で送りたいって
いつもぜったい泣かなかったよっちゃんさんも、
涙で言葉を詰まらせてた。
やっぱ寂しーなぁって思うと鼻がつーんとして、
いつの間にか美貴も泣いてた。
メンバーひとりひとりの言葉を、
きっちり受け止めてる安倍さんを、すごいって思った。
『がんばるんだよ。なっちも見てるから』
って言った安倍さんの笑顔、きっと忘れません。
- 33 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 10:52
- ライブに出演していたハロプロメンバー全員によるフィナーレが終わって、
ステージ裏にはけてからもなんかすぐ控え室に戻る気になれなくて、
迷路のようなセットの間を遠回りしてゆっくり歩いた。
娘。に入って最初のメンバーの卒業は保田さんだったけど、
正直、その時は美貴もなんか慣れなくて戸惑いばかりで、
いっぱいいっぱい、感動する余裕もなかったけど、
安倍さんの卒業で初めてメンバーを送る気持ちが、美貴にも色々芽生えたみたい。
これがまた複雑っていうかなんていうか…
- 34 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 10:53
- そんなゆらゆらする気持ちと一緒にステージに上がる階段をいくつか通り過ぎると
スピーカーとスピーカーの間の暗い隙間に、美貴と同じ衣装の後ろ姿が見えた。
こんな時こんなとこにひとりでいるの、あの人しかいないじゃん。
美貴はゆっくり近付いて、そっと後ろから抱きついた。
なんかね、そうしかたったんだもん。
よっちゃんさん、一瞬びくっとして振り向きかけたけど、
美貴だってわかったのか、そのまま、前を向たまま鼻をぐすぐす言わせてる。
またひとりで泣いてたんだって思うと自然とぎゅっと力がこもる。
前に回った美貴の腕にしがみついてくるよっちゃんさん。
そのうち、うっ、ぐすっていう鳴き声がだんだん大きくなって
いきなりくるって振り向くと、美貴の胸に顔を付けて大泣きした。
- 35 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 10:55
- 寂しい、悲しい、心細い‥‥‥
よっちゃんさんの涙にはいろんなキモチが混ざってる。
もう、泣かないと先に進めなくなっちゃったんだね。
胸につかえたもの涙と一緒にはき出しちゃいなよ。
みんな、みーんな。
美貴はよっちゃんさんの頭を両手でくるんで、
よっちゃんさんの嗚咽を、しばらくじっと聴いてた。
……………………、
- 36 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 10:57
- どの位そうしてたかな。
たぶん時間にしたら10分もたってないかも。
泣くだけないて気がすんだのか
よっちゃんさんはふっと顔を上げて、泣き顔のまま微笑んだ。
涙でくしゃくしゃの目元を美貴は指先でふいてあげた。
「‥‥‥‥‥‥‥、
なんか言おうとしたみたいだけど、照れくさそうに目を伏せるから、
美貴まで恥ずかしくなってきた。
「あ、あの、よっちゃんさん、美貴さきにもどりますよ」
よっちゃんさんが、うん、とうなづいたので、
美貴は後ろを向いて歩き出そうとしたんだけど、
くいっと腕をひかれたから、またよっちゃんさんと向き合った。
「?」
急に視界が暗くなって、美貴の頬に何かがふわっとふれた。
- 37 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 10:59
- 耳元でアリガトって言って、颯爽と立ち去っていくよっちゃんさん。
美貴は目を見開いたたままフリーズ状態‥‥‥‥
‥‥‥‥って、なんだよー、
カッコ悪く泣いてたくせにかっこ良すぎじゃんかもー
ずるいよ、よっちゃんさん!
足をじたばた悔しがってから、さっきの感触が残った自分の頬にさわってみる。
ほっぺにチュって、あやちゃんとも、娘。のメンバーともしょっちゅうあるけど、
よっちゃんさんには初めてだよ。
んか‥うれし‥‥‥
- 38 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 11:00
-
おかげでライブ後の撤収のバスの時間に遅れて、
飯田さんからなにしてんのーって叱られまくりの美貴(泣)
なのによっちゃんさんときたら、
まるでいつものライブ後のようにすっきりした顔で、
泣きはらした辻さん加護さんを励ましてた。
- 39 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 11:01
- その姿を見てね、美貴は嬉しくなったんだ。
よっちゃんさんの、力になれたかなーって。
よっちゃんさんがいつもと変わらぬ笑顔でいられるなら、
その為なら、美貴はなんでもするよ。
もちろん亜弥ちゃんに対してもその気持ちは同じだけど、
最大の違いは、それで美貴も幸せ感じられるってとこ。
嬉しいじゃなくシアワセなキモチになれる。
これってなんなんだろう。
美貴もそれなりに付き合ったりとかしたけど、
こんな気持ちはじめてだよ。
好きなコと一緒いるのはとても楽しかったし、
今までの美貴はそれがシアワセだって思ってたけど、
あれ、すごーく楽しかっただけだったのかもしれない。
シアワセってココロまであったかくなるんだ。
そして、よっちゃんさんの笑顔は美貴をそんなキモチにする。
- 40 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 11:02
-
泣き疲れた辻さんと加護さんは、
よっちゃんさんを真ん中に肩にもたれて眠ってる。
ほの暗いバスの中。
美貴はよっちゃんさん達の右斜前の窓際に座ってたから、
振り向いて見えるのはシートの隙間の横顔だけ。
なのに、ふと目が合ったから、
舌を鼻につけてふにゃっと変顔をしてみせた。
ぷって吹き出して笑うよっちゃんさん。美貴もつられて笑っちゃう。
そして急に真顔になったよっちゃんさん。
口のかたちが、
ホ ン ト ア リ ガ ト
って動いた。
美貴はうんってうなずいて、体を真直ぐもどした。
窓の外を見るとバスはビル郡の中を走ってる。
もう東京なんだ‥‥
- 41 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 11:03
-
みんな自宅に近いところで次々バスを降りていく。
梨華ちゃんの次が美貴。
深夜の大通りでバスが止まる。
「じゃあ、お先に失礼しま〜っす」
大通りの舗道に降り立って、
じゃあね〜ってみんなに手を振った。
舗道側の窓に見えるコンちゃん、まこっちゃん、がきさん、辻さん、加護さん、
ニコニコ手を振ってくれる。
- 42 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 11:06
- ゆっくり動き出したバスの一番後ろの窓によっちゃんさんを見つけた。
ふと思い付いて、右手の指をくちびるにあててから、
掌をよっちゃんさんに向けてバイバイって2回折り曲げた。
これいちおー投げキスなんだよ。
恋愛映画でヒロインの女の子が恋人と別れる時にしてるのを見て
なんかいいなぁって思ってたんだ。
よっちゃんさんはふっと笑って俯いた。
そしてすぐ目をあげたよっちゃんさんは超マジ顔で、じっと美貴を見てて、なんだかドキッとした。
- 43 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 11:08
- オヤスミ、よっちゃんさん。
なんてココロの中で言うなんてこと、美貴はしないワケです。
マンションまで歩きながら、そっこーTEL。
プルルルルル プルルル プチッ
『何さミキティ、さっきバイバイしたばっかじゃん』
『よっちゃんさん、もうそろそろ着きますか?』
『あ、うん、もうすぐかな、さっき飯田さん降りたから』
『じゃあ、おやすみなさい、です』
『うん、おやすみ……あのさ、あれ良いね、カッケー』
『でしょ?!じゃあまた明日ですね』
『だね、また明日(チュッ)』 プチッ
だからー、(チュッ)って何?
- 44 名前:4 投稿日:2004/07/25(日) 11:12
-
………………………………
………………………………
………………………………
- 45 名前:彩girl 投稿日:2004/07/25(日) 11:13
-
更新しました。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/25(日) 15:31
- ミキティはよっちゃんに対して敬語は使ってないと思われ…。
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/25(日) 15:55
- 私もミキティーの言葉に違和感があります。
会話を読んでても、みきよしとして妄想できないのが残念です。
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/25(日) 17:22
- イイネェ……。敬語は使わない方がよろしいかと。
でも、それが作者さんの意図なら自分は大いに構いません!
- 49 名前:プリン 投稿日:2004/07/25(日) 20:05
- 更新お疲れ様ですー
とてもいいです。
ため息出ちゃう程いいです。
こういうの大好きだなぁ…。
次回の更新も待ってます!
頑張ってください。
- 50 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/25(日) 22:26
- 敬語のミキティ好きだよ
せっかく小説なんでこういう遊びも嬉しい
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/25(日) 23:59
- こういう関係のみきよしすごく好きです。
敬語使う感じも好きです。
楽しみな作品なので頑張ってください。
- 52 名前:彩girl 投稿日:2004/07/27(火) 22:36
- 皆様、レスありがとうございます。
ご意見、自分なりに咀嚼しつつ、
この物語がより良くなるよう、精進します。
それでは、更新します。
- 53 名前:5 投稿日:2004/07/27(火) 22:38
-
「みきすけ〜〜〜、ひっさしぶり〜〜だぁ」
TV局の廊下で、ぼすっといきなり美貴に抱きついてきたこの人は、
あややこと松浦亜弥ちゃん。
一緒に番組やってから超仲良くなって、しょっちゅうお互いの家を行き来してる。
「お互いツアーだったもんね。
ねえ、どうだった? おいしいもん食べれた?」
「うん、まあね‥‥‥」
「なにさ」
「みきたんさ、最近すっかり娘。さんって感じだね」
「なに?さびしいってか?」
「うん」
ってもうかわいいなぁ、つい頭を撫で撫でしちゃう。
この世界では先輩なんだけどね、亜弥ちゃん。
でもやっぱ年下で妹みたいに思えるのはこんな時。
いつもがんばってるのを知ってる美貴は、
だからいっぱい甘えさせたげたくなるんだよ。
「あのさ、今夜うち来る?
美貴はやめに帰れそうだから、ご飯つくるよ
亜弥ちゃんの好きなもの!」
「おそくなっても良い?」
「良いよ」
「やったー、じゃあじゃあ、みきたんのハンバーグ食べたい」
「OK!
じゃあハンバーグつくって待ってるよ」
もう一回ぎゅっとハグして、じゃあねってそれぞれの仕事に戻った。
友達以上恋人未満という言葉がピッタリの美貴と亜弥ちゃんの関係。
でもね、ほんとコイビトとは違うな〜って最近思うのは、
この人のせいだったりするわけです。
- 54 名前:5 投稿日:2004/07/27(火) 22:40
- 「んぐっ」
「「「「「 うわぁ〜〜〜〜、ひとくちで食った!」」」」」
いちご大福をためらいも無く一口で頬張るよっちゃんさん。
今日の収録は立ち位置も遠いしゲームのチームも別なので特に絡みなしで、
ちょっと寂しいとか、からかわれる梨華ちゃんが羨ましいとか、
つい思ってちゃって、
テンション落ちてるの、やっぱ解るよね。
- 55 名前:5 投稿日:2004/07/27(火) 22:42
- 撮りが終わって楽屋に戻ると、
辻さんがさっそくよっちゃんさんにじゃれついてく。
美貴は鏡の前で帰る準備。カバンに自分の物を入れて行く。
今日は亜弥ちゃんの為にハンバーグ作るんだ、どっかで買い物しなきゃ、
なんて考えてると、背中にだれかがばさっとかぶさって来た。
え?っと振り向くと、よっちゃんさんだよ。うわ、顔近!
「ミキティあそぼーよ」
「な、なんすか急に、つ、辻さんは?」
「あいぼんとジュース買いにいっちゃった」
ってことは今この楽屋、美貴とよっちゃんさんふたりだけじゃん!
なんか急にドキドキしてきた。やば。
「てか、よっちゃんさん、重いよ」
マジ恥ずかしいから離れて欲しい、顔が熱くなってくるよ。
「え〜、あたしこれでもけっこう痩せたのになぁ〜」
不満げに言って離れたよっちゃんさん。ふぅ〜、ほっとした。
そんなん、もちろん知ってるよ。
- 56 名前:5 投稿日:2004/07/27(火) 22:46
-
「ミキティこのあとどうすんの?」
「あ、今日は亜弥ちゃんがうち来るんですよ。
で、毎度の事なんですけど、ご飯美貴がつくるんで、
どっかで買い物してかなきゃなんですよね」
「そっか‥‥」
あれ、どうしたのかな?
よっちゃんさん、黙って自分の席にもどって椅子に座ると、
カバンの中をごそごそしはじめる。
んだよ‥‥まいっか。
美貴もまた自分の荷物整理を再開した。
- 57 名前:5 投稿日:2004/07/27(火) 22:47
-
「あのさ、いつかあたしも遊びに行って良い?」
「へ?」
俯いたまま急に言うから、良く聞き取れなかったんだもん。
「あの‥その‥ミキティんちに‥‥‥」
「あ、あー、あー、良いですよ、もーいつでも来てくださいよ!」
ばしっと照れ隠しに背中を叩く。
「イデッ」
背中を押さえて涙目で振り返るよっちゃんさん。
うわ、その目っ、美貴はあわてて自分のカバンをひっつかんで、
「んじゃ、お先です!」
そそくさと楽屋をあとにした。
- 58 名前:5 投稿日:2004/07/27(火) 22:53
- ふぅ〜、今マジやばかった。熱くなった頬を自分の手で確かめる。
あの涙目を見た瞬間、美貴は思わずよっちゃんさんに抱きつきそうになって、
強引に自分の体の向きをかえたんだ。
だって、だってあの上目づかいの涙目は反則だよ、よっちゃんさん。
思い出してまたドキドキして、なんか美貴やばくない?
家に向かうタクシーの中で手のひらではたはた顔をあおいでたら、
運転手に“暑いっすか?”ってこの美貴がつっこまれました‥‥。
- 59 名前:5 投稿日:2004/07/27(火) 22:55
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
- 60 名前:彩girl 投稿日:2004/07/27(火) 22:59
-
更新しました。
- 61 名前:プリン 投稿日:2004/07/28(水) 14:53
- 更新お疲れ様です♪
ここのよっちゃん可愛くて好きです。
運転手さんに突っ込みきてぃ♪されちゃう美貴ちゃんもw
次回の更新も待ってますー
- 62 名前:彩girl 投稿日:2004/07/29(木) 23:20
- >>プリンさん
いつもレスありがとうございます!
可愛いよっちゃんも男前なよっちゃんも素敵ですよね。
それでは、本日の更新です。
- 63 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:22
-
そして最近、なんか美貴ヘンなんだ‥‥
- 64 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:23
-
急によっちゃんさんと話すのが恥ずかしくなって、
でも、他の人と騒いでるの、見てらんなくて、
時々ちらっとこっちを見るよっちゃんさんと目が合うと、
慌ててそっぽ向いたりして。
そしてため息‥‥ ふぅ〜。はぁ〜。こんな感じ。
じりしりじりじりする胸のアタリ。
ビミョーに夜眠れなかったり、食欲なかったり‥‥‥
亜弥ちゃんに相談したら
「みきたん、それはさー
『おーベイベーそれは恋、恋煩いさ』
って奴だよー」
って言われちゃったよ。
生まれて初めて知った、意識するってキモチ。
今までクールに決めてたのにな。
はぁ〜。
- 65 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:24
-
今も、よっちゃんさんのいる楽屋が息苦しくて、
待ち時間、外に出て廊下の突き当たりの窓の所に避難してきた。
そう、辻さん加護さんの卒業が決まった頃、
よっちゃんさんが物思いに沈んでいた、あの場所。
- 66 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:25
-
はぁ〜。まいったナ‥‥‥
肩より少し低い窓のフチに、胸の前で両手をついて外を見ながらまたため息。
見上げると、まだ明るい空に雲がぷかぷか浮いている。
見下ろすと、ビルの隙間を行き交う人や車が小さく見える。
なんだか、世の中が急にのどかに見えて、
美貴がこんなに苦しいっていうのにって恨めしくなるよ。
- 67 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:26
-
考えてみたら自分から好きになったの“初(ハツ)”ですよ。
いつも相手から告られて、印象悪くなかったらとりあえず一緒に遊んで、
それからホントに付き合うか決めてたから。
だって、パッと見じゃ人って解らないじゃん。
だから美貴はそう言う事であれこれ悩んだことがなかった。
付き合ってからもね、ダメって思ったら正直に言って
すぐ終わりにしちゃってたし。てか、ほとんどそのパターン。
ホントは心から好きになれた人、いなかったんだよ。
そして、そのうちもっと夢中になれること見つけたら、
彼氏がほしいとか、ゼンゼン思わなくなっちゃったし。
- 68 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:28
-
なのに、いつの間にか生まれたもやもやしたキモチは、
美貴のなかで大きく膨らんでた。
もっともっと、よっちゃんさんのそばにいたい。
これが今の正直な気持ち。
そのためのすべき事アレコレ考えると、またため息が…
- 69 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:29
-
「見つけた」
「なんすか」
「この前のお返し」
いつの間にか美貴の真後ろによっちゃんさんが立ってて、
美貴の外側に自分も手をついて窓枠にもたれかかる。
よっちゃんさんは美貴よりひとまわり大きいから、
なんかスッポリ包まれてる感じ。
この人、時々無意識にこういう事するんだよ。
なんだよ、 人の気も知らないでって、なんか泣きたくなった。
や泣かないけどさ。
- 70 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:30
-
と、ボスっと急に密着する美貴の背中とよっちゃんさん。
「?!」
びっくりして振り向くと赤い顔したよっちゃんさんがさらに後ろを向いて叫んでた。
- 71 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:34
-
「辻加護〜〜〜っ、なにすんだよー、ミキティもいるんだぞー、
潰れちゃうじゃんか!」
「あ、ごめんごめん、よっすぃ〜の影で見えんかったわ」
「なわけねーだろ!」
「なにしてたのれすか?
なんか、ふたりきりで怪しいのれす!」
「そういえば、そうだよ、なにしてたん?!」
「「 よっすぃ〜、顔あか〜〜い、ますますあやしいー 」」
「うるさーーい!こらー!」
よっちゃんさんは、はやし立てて逃げる二人を追い掛けて行ってしまった。
しばらくぼう然と見送ってた美貴は、今日何十回目かのため息をついた。
- 72 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:35
-
もしもよっちゃんさんが娘。のメンバーじゃなかったら迷わず告るのにな。
自分がどうしたいか分かってるのになんにもしないなんて事、
美貴の辞書にはないんだから。
ていうかさ、振られんのやだし。ぜったいヤ。
そっちのほうがもっとありえないって。
はぁ〜、マジどうしよ‥‥‥。
また窓の外、空を見上げた。
ヘリコプターが鈍く羽の音を響かせて、
ビルのずっと上を飛んで行くのが見えた。
- 73 名前:6 投稿日:2004/07/29(木) 23:36
-
………………………………………………………
…………………………………………
………………………………
- 74 名前:彩girl 投稿日:2004/07/29(木) 23:38
- 更新しました。
今日のうたばん、涙なかったけどなんか泣けました……
- 75 名前:7 投稿日:2004/07/31(土) 00:02
-
「あのさ、梨華ちゃんって初恋いつ頃だったの?」
「え? なに急に…」
「や、なんとなく…」
「ふふ、なんか変だよ」
「うーん、じゃ、じゃあさ、今、好きな人とかいる?」
「えー? なんで急にコイバナなのよぉ」
「いいじゃん、教えてよ
いるかいないかだけでも良いからさぁ」
「もう、相変わらず強引だよね…」
「あのね、美貴しょーじき悩んでるんだよね、
だからいしかわさんとか、どうなのかなって思って……」
フェイドアウトして小さくなる美貴の声。
ぱらぱらとめくってた手元のファッション雑誌から顔を上げた梨華ちゃん。
- 76 名前:7 投稿日:2004/07/31(土) 00:03
-
美貴と梨華ちゃんはおとめ組のライブツアー以来
けっこう話すようになったんだ。
性格も正反対って感じだし、服の趣味とかも全然ちがうから、
最初一緒のユニットって聞いてダイジョブかなってかな〜り心配だったけど、
意外にも(ゴメン!) 梨華ちゃんはとてもしっかりした考えを持った、
頼れるお姉さんだった。
美貴達六期がちょっと前の娘。の曲の振り必死で覚えてた時、
さりげなくアドバイスしてくれたり、
わがまま言う辻さんをちょっと厳しく叱ったり。
それまではグッチャ〜な石川さんしか知らなかったから。
- 77 名前:7 投稿日:2004/07/31(土) 00:04
-
ココはライブ告知のために出演した地方局の楽屋で、
たまたまふたりきりの待ち時間。
ふと、ていうか美貴の口から勝手に滑り出したコイバナ。
今の美貴にとって、よっちゃんさんの次に気になる、石川さんの存在。
だって…、 よっちゃんさんとすごく仲良いんだもん。
だから、さりげなく探りを入れたつもりだったんだけど、
なんか美貴が相談してるみたいになってきた。
やめた、姑息な手段は美貴に合わない。無理無理。
もうストレートに聞いちゃお。
- 78 名前:7 投稿日:2004/07/31(土) 00:07
-
「ていうかですね、梨華ちゃんとよっちゃんさんて付き合ったりとか ‥‥」
「 えー!? まさかぁ 」
「だってすごい仲良いじゃん?」
「まぁ同期だからねぇ
でも、付き合うって‥‥、え? もしかして美貴ちゃん‥‥」
う、やば、まさにやぶ蛇ってやつ? ミイラとりがミイラ?
この際どっちでも良いけど、
「いやいやいや、なんかそーかなぁって…
ほら、美貴ってそういうの思ってんのやだからさ」
と笑ってごまかしたりして。
「そっか、なんか美貴ちゃんらしいね」
- 79 名前:7 投稿日:2004/07/31(土) 00:08
-
そしてまた雑誌に視線をもどした梨華ちゃんは、こう続けた。
「でもね、もし美貴ちゃんがよっちゃん好きなら応援するよ。
最近よっちゃん美貴ちゃんのこととっても信頼してるもん。
よっちゃんはさ、ああ見えて結構弱いとこあるんだよ。
だから美貴ちゃんなら合うと思うし。うん。 」
あはは、ばればれじゃん。全然ごまかせてなかった。
でも、ホッとしたよ。
- 80 名前:7 投稿日:2004/07/31(土) 00:09
-
ガチャっ、ノックの音のあとドアが開いて局のADさんが美貴達を呼びに来た。
『そろそろスタンバイお願いします』
「「 はーい 」」
必要な物を持ってふたりでスタジオに向かう。
「あのね、ホントは好きだったんだ」
梨華ちゃんがポツリと呟いたから、えっ?っと思わず立ち止まる。
「でも、今はね……、私、圭ちゃんと付き合ってるの」
驚いてる美貴を見て梨華ちゃんはふわっと笑いかけた。
「だから応援するヨ」
そう言ってまた歩き始める梨華ちゃん。
慌てて美貴も歩き出す。
- 81 名前:7 投稿日:2004/07/31(土) 00:11
-
そうだったんだ‥‥‥。
和尚さん、いつの間に‥‥‥。
すごい、すごいね。全然わかんなかったよ。
そっか‥‥‥そうなんだ‥‥‥そっか‥‥‥‥‥
- 82 名前:7 投稿日:2004/07/31(土) 00:12
-
- 83 名前:彩girl 投稿日:2004/07/31(土) 00:13
-
ぽちっと更新!
- 84 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/31(土) 22:42
- まってました!!イイネェー
- 85 名前:彩girl 投稿日:2004/08/01(日) 16:54
- >>84さん
待ってていただいて、嬉しいです!
では、夏空に思いを馳せつつ‥‥更新です。
- 86 名前:8 投稿日:2004/08/01(日) 16:55
-
…………………………
“ウソじゃねぇ〜よ!”
“バッカ照れんでねぇょ”
…………………………
- 87 名前:8 投稿日:2004/08/01(日) 16:56
-
やっぱネタだよね。や、わかってたけど。
ラジオ番組の企画で
よっちゃんさんがGWに一緒に過ごしたいメンバーって
美貴のこと選んでくれた。
はじめ聞いてウソだと思ったけど、番組中、電話で話した時は
『ウソじゃないないよ』 って言ってくれたから、
『やーだ、どうしよぅ』 って本気で大喜びしちゃったけど。
もうGW終わりだし、だいたい美貴達にGW関係ないしね…
- 88 名前:8 投稿日:2004/08/01(日) 16:58
-
なんて思ってほとんどそんな事忘れかけてたある日の事、
本番待ちのスタジオの隅で、ぼんやりパイプ椅子に座ってた美貴に、
ふらっと側にきたよっちゃんさんが呟いた。
「ねぇねぇ、いつにしよっか?」
急に言うから、一瞬なんだっけ?って思ったよ。
「え? なんすか?」
「えー? 忘れちゃたの? ひどいなぁ」
目をふせて足元をつま先でツンツン蹴ってる。
え? も、もしかしてあの事?
- 89 名前:8 投稿日:2004/08/01(日) 17:01
-
「あのぅ、それって例の…」
「そうだよー。もしかしてネタだと思った?」
「ま、まあ…」
「もぅ、ウソじゃないって言ったじゃん」
「そですけど…」
「でしょ?
あたし番組ん中で言った事でも、約束は守る主義なんだよ?」
「そ‥そうですよね」
「そーだよ!」
「そうですよね!」
うゎ〜ほんとだったんだ。
嬉しくなって、思わず背もたれから身を乗り出した。
よっちゃんさんもニコニコと話をつづけた。
- 90 名前:8 投稿日:2004/08/01(日) 17:02
-
「でさ、明後日って休みじゃん?
そんときどーかなってさ、思ったんだけど」
「うんうんうん、良いですよ。
美貴ちょうど家でDVD見ようと思ってたんですよ!」
「じゃあ決まりね!
そんでさ、そんであの良かったらそのぅ‥‥」
よっちゃんさんの声はそこでフェイドアウトしちゃったけど、
なんか言いたいことわかっちゃった。
「いいですよ、美貴んち泊まっちゃってくださいよ
その方がまったりできますもんね」
「良い?」
不安そうな目で確かめるから、美貴は自信たっぷりの笑顔で、はい、って頷いた。
- 91 名前:8 投稿日:2004/08/01(日) 17:03
-
「ピザとりましょうね!4分割のやつ」
「うん!」
「映画なに見ます?」
「う〜ん、一緒になんか探そうよ
てか、まじ掃除しといてよ 」
「はいはい、
もう、隅々までキレーーっにしときますから」
美貴の隣にパイプ椅子を引っ張ってきて座ると、
よっちゃんさんは、あーでもない、こーでもないと、
美貴とのゴールデンウィーク計画を話しはじめる。
なんか、良いな、こういうの。
ワクワク、楽しい想像して、よっちゃんさんも遠い目をして、
あれこれ、思いを巡らせて、時折、美貴の事、
とっても優しい目で見つめてくれる。
「お、本番はじまるよ」
- 92 名前:8 投稿日:2004/08/01(日) 17:04
-
セットの中央に集合すると、キュウが出て始まる本番。
美貴の表情がいつになへらへらしてるって、
みんなに突っ込まれたけど、そんなにこにこしてたかな〜?
ていうか、よっちゃんさんまで一緒に突っ込まないでよ。
はぁ、でもでもあさって、すっごいたのしみ…ムフッ。
「ミキティ、なんかヘンだよ、キショーイ」
や、矢口さん、美貴そんなにゆるゆるでしたか? そうですか‥‥たはぁ。
美貴のクールなイメージがカタなしだけど、
でも、やっぱ、嬉しいんですもん、ムフっ、あ゛
- 93 名前:8 投稿日:2004/08/01(日) 17:05
-
…………………………………………
…………………………………
…………………………
- 94 名前:9 投稿日:2004/08/01(日) 17:06
-
その日、美貴は休日にはめづらしく午前中に起きだして、
せっせと部屋をかたずけた。
二度寝が大好きな美貴が、マジで早起きしたわけ。
といっても美貴の部屋は意外と物が少ないから、
そんな大変じゃないんだけど。
お風呂もキッチンもしっかり隅々までピッカピカにしたよ。
- 95 名前:9 投稿日:2004/08/01(日) 17:08
-
ピンポーン
インターフォンが鳴った。
受話器をとると小さなモニターに写った
ベースボールキャップを目深にかぶったよっちゃんさん。
『やっほー、ちわーっす』
『ども、今開けまーす』
間もなく部屋のドアフォンが鳴った。
- 96 名前:9 投稿日:2004/08/01(日) 17:09
-
「いらっしゃいませ〜」
まるでデパートのエレベーターガールの様ににこやかに出迎える。
帽子をとりながら靴を脱ぐよっちゃんさん。
「おじゃましま〜〜す」
思ったより広いねぇ。
そすか?
それにキレイ。
早起きして掃除しましたもん。
物が少ないし。
どーせ男前ですよ。
とりあえずDVD借りに行きましょ。
- 97 名前:9 投稿日:2004/08/01(日) 17:10
-
美貴んちの近所のTSUTAYAで、DVDを3本借りて
コンビニで飲み物やお菓子をGETして、帰り道をならんで歩いた。
平日のまだ明るい時間にこんな風にしてるの、
なんか不思議なカンジ。
大きなペットボトルが2本も入ったコンビニの袋、
当たり前のようにスッと手を延ばして持ってくれたよっちゃんさん。
角の電柱を曲がる時、ふと見ると目が合って、
てへっと笑ってしまう。
「重いっしょ?」
「出た、安倍さんみたい」
あは、思わず北海道弁出ちゃった。
「安倍さんがんばってますね」
「うん…」
「サイコーっすよね!」
「うん!」
もう少しこうして歩くのもいいかなと思った美貴でした。
- 98 名前:彩girl 投稿日:2004/08/01(日) 17:13
-
更新ここまでです‥‥‥
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/01(日) 17:47
- お泊り会、楽しみデース♪
ガンバッテガンバッテ藤本サーン
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/01(日) 19:25
- グチャグチャになるのかと心配したら、ちゃんと進みそう。
いい感じの展開ですね。先が楽しみです。
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/03(火) 17:57
- とうとう宿泊ですか♪
- 102 名前:彩girl 投稿日:2004/08/04(水) 00:32
- レスありがとうございます。♪が‥‥‥
藤本サーンともどもがんばります。
それでは更新します。
- 103 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:34
-
借りてきたDVDは、 ベタなハリウッドアクション、
そしてよっちゃんさんのリクエストで『ALIEN』第一作。
結構有名だけど割と古い映画で、美貴も見た事なかった。
あとは、ほのぼのして良いよ〜って飯田さんが言ってた『運動靴と赤い金魚』。
- 104 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:35
-
マッタリするなら、当然ジャージだよねって、
よっちゃんさんも美貴も休日のリラックススタイルに着替えて、
「じゃあ、まずはコレね!」
「それそれ、パーと派手なヤツ!」
ハリウッドアクションをセットして
リモコン片手にソファの前にペタンと並んで座る。
- 105 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:37
-
新作予告編につづいて、ハリウッドらしいオーバーなオープニングに、
早くもワクワクしはじめる。
そりゃないじゃん!とか、やばいよ〜とか、ふたりで大騒ぎして、
1本目はアっと言う間のエンドロール。
「ふぅ〜、なんか疲れたね」
「ちょっと休憩しましょ」
美貴はクッションを抱えてソファにゴロっと横になった。
ほんの少し開けた窓の隙間から吹き込む風がレースのカーテンを揺らしてる。
- 106 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:39
-
「なんかまだぜんぜん明るいですね」
目を細めてよっちゃんさんも窓に顔を向け前髪をかき上げる。
「そだね…もう…すぐ…夏だね……」
ふと、雀が2羽、ベランダの端にパラパラと降りてきた。
ピョンピョン跳ねてキョロキョロしてる。
ソファにうつ伏せになって、よっちゃんさんの肩をつんつんして、
ほらって目で合図。すると、おっ、とよっちゃんさんも息を潜める。
- 107 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:40
-
美貴はソファのひじ掛けに顎を乗っけて、
よっちゃんさんもソファにもたれて、ふたりしばらく雀の様子を見ていた。
チュンチュンいう鳴き声が小さく聞こえる、
それほど今美貴の部屋の中は静かだった。
「…よっちゃんさん…美貴…んか眠くなってきた……
ちょっと…眠ってもいい?」
「ん、いいよ
小さくCDかけて良い?」
半分夢見心地でうんと頷いた。
すっとソファから離れたよっちゃんさんがもとの場所に戻ってくると、
ここち良いボーカルが、ほど良い音量で耳に届いた。
「これ……」
「ノラ・ジョーンズ……」
もしかして、あのラジオで言ってたのかな。
よっちゃんさんの“ゴールデンタイム”が今ってことかな。
だったら美貴、嬉しいなぁ…
よっちゃんさんがおやすみって、すっと髪を撫でてくれた。
その優しい眼差しに見守られて…
…美貴は…ふわふわ…あった…かく…なって……
…zzZZZ
- 108 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:41
-
* * *
- 109 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:42
-
目覚めると、うす暗い部屋に、ルームライトが灯されていた。
よっちゃんさんはおなし場所で、膝にスケッチブック広げて絵を描いてる。
「なに描いてるの?」
「ん、起きた?」
スケッチブックを上げて横になってる美貴が見やすいようにくるっと回転させた。
「あ、さっきの雀?」
鮮やかな色でパッと見にはなんだか全然わかんなかったけど、直感でそう思ったんだ。
オレンジ色の明かりに縁取られたきれいな横顔が、コクンと頷いた。
- 110 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:49
-
* * *
- 111 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:50
-
「う〜ぅ リプリー カッケ〜」
約束の4分割のピザを食べながら見た『ALIEN』に、
クッションを抱えて興奮気味のよっちゃんさん。
「うんうん、かっこいいよね〜」
そんで賢くて、勇気があって、ちゃんと生き延びて、
ああいう人、美貴も尊敬しちゃう。
- 112 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:51
-
「シリーズ全部見たいねっ!」
「え〜? だってさ確か…4まであるんだよ!?」
「いぃじゃ〜ん、見ょぅょー、ね?
次は『ALIEN』特集!」
「い、一気に3本見るの??」
「うん♪」
「あ、あのね?美貴たまにはラブラブなのとか…」
「それはまたそん次でいいじゃん、
うん、そん時はラブラブ特集でも良いよ」
「そん次?」
- 113 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:52
-
「うん……だってさ…
また…こんな風にしたいんだよね…」
目をふせるよっちゃんさん。
もう、口の端にソースついてるよ。
手を伸ばして中指で拭ったら、よっちゃんさんは小さくビクッとして、
思わぬ反応に美貴はどきっとした。
変だな、亜弥ちゃんにも同じ事してるのに。
- 114 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:53
-
「別に、DVD見なくても来ていいんですよ、美貴んちに」
ホント?って顔を上げた瞳はキラキラしてる。
「だからぁ、一気に3本はかんべんしてくださいよ」
「わかったよ、でも1本づつでも一緒に見てよ?」
「はいはい」
「“はい”は一回!」
「はいはいはい! もう、中澤さんみたいですよ?
それよりよっちゃんさんもシャワーしちゃってください。
美貴これかたしときますから」
散らかったピザの残骸やら食器やらをまとめながら言うと、
なんだよ中澤さんて、一緒にすんなよ……とかなんとか、
ブツブツ言いながらもよっちゃんさんバスルームに向かった。
「あ、タオル、鏡の横の扉のなかですから」
「は〜〜い、いってきま〜す」
- 115 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:54
-
* * *
- 116 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:55
-
キッチンで使った食器をじゃぶじゃぶ洗いながら、つい考えてしまう。
なんかさ、やっぱよっちゃんさんも美貴の事……。
違うかなぁ……どうなのかなぁ……
ビミョーに100%そう!って言えないというか、なんというか、
ハッキリ言って、自信、ナイけど。
あの人なつこさは天然だもん。
スキンシップもいつも辻さん加護さんとしてるレベルと変わらないし。
とーてもリラックスしてると思うけど、しすぎな気もするし…
- 117 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:56
-
でもあの優しい目……、
だから、もしかしたらって思うんだけど…
まあ、今日みたいに過ごすのも悪くないけど、
また美貴んちに来たいって思ってくれた訳だし、
それだけでも嬉しい……けど…けどやっぱり
ほんとは、気持ち知りたいって思う。
ぁーぁ、一本くらいラブラブな映画、借りればよかったよ。
そうすればせめて自然にコイバナとかできたかも‥‥
なんてもう美貴らしくないっ。
思わず手に力が入ってパシャッと水が跳ねた。
- 118 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:57
-
「ごめんね、片付け手伝わなくて」
いつの間にかキッチンの入口に立つよっちゃんさん。
「いいですよ、食器ちょっとだし、もう終わりますから」
「うん…」
まだなんか言いたげに、冷蔵庫の横の壁にもたれてこちらを見てる。
- 119 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:58
-
「なんか飲みます?」
うううん、と首を振ってつかつか近付いて来る。
なんだろう?と思ってると、美貴の肩に手をかけて、
自分の首にかけたタオルですっと鼻の頭をふいてくれた。
「あ、跳ねたの水だけじゃなかったんだ」
思わぬことに、てへっと照れ笑いの美貴。
なぜかそのまま数秒見つめ合ってしまった。
わ、なんだろう、この間。い、息が詰まる‥‥。
ふっと表情を緩めたよっちゃんさん。
「髪、乾かしてくるよ、ドライアー借りるね」
な、なんだ‥‥‥。とたんに力が抜ける。
またつかつかとキッチンから出て行くよっちゃんさん。
もう、紛らわしいすぎだよ。美貴“キスされる”って思っちゃった。
でも…なんか変だったよね…ちがうかな…ちがうのかなぁ???
- 120 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 00:58
-
* * *
- 121 名前:彩girl 投稿日:2004/08/04(水) 01:01
-
更新、ここまでです。
- 122 名前:彩girl 投稿日:2004/08/04(水) 01:05
-
つづきは明日‥‥‥
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/04(水) 02:10
- ぐっ…ぐぁぁぁっ!! イイところでっ!!w
- 124 名前:みきっティー 投稿日:2004/08/04(水) 03:14
- あぁぁぁーーーどうする、どうなるこの2人。
次回待ってます
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/04(水) 17:10
- ちくしょー!あと少しだったのにw
- 126 名前:彩girl 投稿日:2004/08/04(水) 22:21
-
す、すいません; 変なとこで区切ってしまって;
レスありがとうございます。
早速更新します!
- 127 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:22
-
* * *
- 128 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:23
-
リビングにカモミールティを入れたカップをふたつ持ってもどった。
ソファの端のよっちゃんさんに、はい、とわたす。
「ありがと…」
美貴もソファに座って手のなかのカップをふーふーする。
こういのホントまったりって言うんだよね‥‥
「飯田さんのオススメ見ましょっか?」
「うん」
DVDをセットしてソファのよっちゃんさんのすぐ左隣に座る。
- 129 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:25
-
『運動靴と赤い金魚』はイランの子供達の物語。
美貴知らなかったよ。
イスラム教の国の学校は男の子と女の子が時差で別々の時間に勉強するんだ。
でもね、一生懸命なとことか、誰かのために頑張る気持ちとか、
変わんない、どこの国とかカンケーないね。
靴のない妹のために必死に走るお兄ちゃん。
いつの間にか美貴はよっちゃんさんにもたれて、
よっちゃんさんも自然に美貴の髪に指をからめて、
静かに物語の行方を見守っている。
- 130 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:26
-
素直な気持ちって急に湧いてくる。
美貴はよっちゃんさんの腰に手をまわして肩口に頬を寄せた。
そうしたいからそうした、それだけ。
ふと美貴の髪にキスを落として、よっちゃんさんが言った。
「ミキティ、あたしの彼女になっちゃいなよ」
驚いて顔をあげると、超まじ顔のよっちゃんさんが、美貴をじっと見つめてた。
「よっちゃんさ…」
思わず小さく掠れる声。
「スキなんだ、あたしミキティのこと」
ほんと? よっちゃんさんの瞳をじっと覗きこむ。
「本気だよ、信じて」
湖の水面のように静かな瞳の底から美貴に届いた気持ちは、
真直ぐ『スキ』って言っている。
嬉しい‥‥‥。安心して両手でぎゅっとしがみついた。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 131 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:28
-
「どこがスキなんですか?」
「え? えーっと、男前なとこ」
「もう…」
「ゴメンうそうそ、んとね‥‥
頬をすっと滑った指先が美貴の顎をくいっと上に向かせる。
ミキティがミキティなとこ‥‥(チュッ)」
ちょっ、まだ美貴返事してないじゃん。
もう、お返してやろっ。
「美貴もぉ
よっちゃんさんがよっちゃんさんなとこ
スキだよ‥‥(チュッ)」
やった‥‥。 あれ?どうしよ!
真っ赤になって俯いちゃったよっちゃんさん。
- 132 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:29
-
「あ、の、よっちゃんさ‥‥わっ」
いきなりぎゅーっと抱き締められて、そのまま美貴たちはソファに倒れこんだ。
顔をあげたよっちゃんさんは美貴のことやさしく見つめて
「ミキティはうちのカ・ノ・ジョ、ね?」
細い人さし指で美貴の鼻をプニプニしてささやいて、
美貴はちいさくしっかりと頷いた。
軽く微笑みあって今度はゆっくりキス、少し離れて瞳で気持ちを確かめあう。
そしてまた‥‥キス&キス&キス‥‥‥‥
- 133 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:30
-
…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………
- 134 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:31
-
よっちゃんさん、美貴ずっとこうしていたい…
この気持ち届いてる?
その時、美貴はよっちゃんさんの熱に触れながら、
嬉しいのに泣きたいよなニガイ気分を噛み締めて、
それでもこのまま時間が止まれば良いって、本気で思った。
- 135 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:31
-
…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………
- 136 名前:10 投稿日:2004/08/04(水) 22:32
-
- 137 名前:彩girl 投稿日:2004/08/04(水) 22:34
-
更新しました。
このお話、もすこしつづきます‥‥
- 138 名前:プリン 投稿日:2004/08/05(木) 13:04
- 更新お疲れ様ですっ!!w
うわぁー!最高だぁー!!w
作者様も最高です(w
やっぱよしみきいいなぁー。大好きだー。
次回の更新も待ってますー。
- 139 名前:ベイム 投稿日:2004/08/05(木) 13:32
- よしみき発見しました。いいですね〜、甘い!!
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/06(金) 11:50
-
甘い感じがいいですねv
- 141 名前:彩girl 投稿日:2004/08/07(土) 18:35
- >>プリンさん >>ベイムさん >>140さん
ほんとに、ほんとに、レスがついてると嬉しいのです。
ありがとうございます。がんばります!
自分で最初に“よしみき”としておいて、
ほんとは“みきよし”なのかなと思いつつ‥‥
甘々の“よしみき”更新します。
- 142 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:37
-
季節外れの台風がちかづいてて、東京も朝からすっごい風。
それでも、
あおられてバサつく髪や服をおさえながらタクシーに乗って、
局に入ってしまうともう外の様子はぜんぜんわからなくなった。
スタジオなんかに入っちゃうとね、晴れてるのか雨がふってるのか、
明るいのか暗いのかさえも、いつもはわからないんだけど。
今日はときどき遠くヒューヒューいう音が聞こえて、室内と室外の間にいるみたい。
こういうの“非現実的”っていうのかな。
いつものスタジオとは違う感じがした。
ビミョーに部屋が揺れてるような気もする。
なわけない? 気のせい? 揺れてないかな?
なんかふわふわ…不思議なカンジがするんだけどな。
とにかくそんな風だから、スタジオにいても楽屋にいてもはんぱな気分。
いまいち集中できなくて、本番中『なんでしたっけ?』を連発しちゃう。
- 143 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:38
-
* * *
- 144 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:38
-
あれからいちおー美貴とよっちゃんさん付き合ってたりします。
すっごい嬉しんだけど、やっぱみんなには内緒。なんか恥ずかしいし。
でも亜弥ちゃんと梨華ちゃんには打ち明けた。
ふたりとも『よかったねぇ!』って喜んでくれて、ほんと話して良かった〜って思った。
ついでに梨華ちゃんにはね、『どうなの?』って聞いてみたりして。
したら照れつつもポツリポツリと話してくれた梨華ちゃん。
『私はね、保田さんしかいないって、いつも思うんだよ。
でね、保田さんもそう言ってくれる、それがね、いちばん嬉しんだ』
そう言って、幸せそうに笑う梨華ちゃん。
あのね、美貴もそう思う。
美貴にシアワセな気持ちをくれるのは、よっちゃんさんだけだもん。
- 145 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:39
-
* * *
- 146 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:40
-
仕事場でふたりきりになることはほとんどないけど、
それでもたまーにぽつんと楽屋にひとりでいると、
よっちゃんさんはどっからかふっとあらわれたりする。
今もそう。ほんと、なんで美貴がひとりだってわかるのかな‥‥
「あれ、よっちゃんさん、リハ終わったの?」
メイクはしてないけど、ハロモニ。劇場新キャラのスーツ姿よっちゃんさんが、
鏡の前に座った美貴の後ろにすくっと現れた。
「うん。これからメイクすんだ。
今、梨華ちゃんと麻琴がリハしてるからもしかしてひとりかなと思って…
きちゃった…」
美貴のこと両手でくるんで、鏡ごしにてへっと笑うよっちゃんさん。
背中をすこし傾けてよっちゃんさんにもたれ掛かる。
この温度が気持ちいいな。仕事中の緊張感がふわっと溶けてく。
- 147 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:41
-
「今日なんか変だよね」
「ん?‥‥うん‥‥風のせいかもしれない」
「風?」
「うん…あ、ほら今も揺れたでしょ?」
「え?この部屋が?」
「そう」
- 148 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:42
-
体を離してよっちゃんさんは部屋の中を見回した。
美貴も天井を見上げた。
すこしの間。ヒューっという風の音。あ、また揺れた。
「ほんとだ」
「でしょ? これ朝からずっとだよ。
それでなんか落ち着かなくて」
鏡に写った美貴とよっちゃんさん。
ヒューっ、ふわっ。ほらまた。
「確かにヘンな感じ」
「ね、そんな感じするでしょ?」
よっちゃんさんは美貴を回転椅子のシートごとくるっと自分のほうに向けて、
後ろのテーブルに両手をついて美貴を閉じ込めた。
すっと近付いたよっちゃんさんの瞳、吐息。自然と目を閉じていた。
- 149 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:44
-
ん、よっちゃんさんのくちびるふわっとしてて、好き。
すっと舌がふれたので、口をすこし開くと、だんだん深くなっていく。
あ、ダメだよ、胸さわんないで。
美貴は体をはなして、勢いのついたよっちゃんさんの肩をすこし押し戻した。
熱を持った瞳を伏せて、
「ごめん‥‥」
真っ赤な顔で呟くよっちゃんさん、すっごくかわいいって思った。
手をのばし引き寄せて、頬と頬をくっつける。
「今はダメだよ」
「うん、わかってるけど‥‥」
今度は美貴からふわっとくちづけて、
「今日ほんとに帰っちゃうんですか?」
ちょっと意地悪く聞いてみた。だって、今朝のメールでそう言ってたもん。
「うーん、どぉしよ…
トントンっと絶妙のタイミングでドアがノックされた。
慌てて離れて、美貴はまたくるっと鏡に向かって、
よっちゃんさんはすくっと立ち上がった。
- 150 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:45
-
「よっすぃ〜ここにいたんだ、探したよもう。早くメイクしちゃいなよ。
ミキティもそろそろ衣装に着替えないとだよ?」
「す、すいません矢口さん、すぐ行きますから」
相変わらず矢口さんには頭が上がらないよっちゃんさん。
「ごめんね、スタジオもどるよ」
美貴も必要なものを準備しながら鏡越しにうんっとうなずいた。
楽屋のドアに手をかけたよっちゃんさんは振り向いて、投げキスをくれた。
まえに美貴がよっちゃんさんにしたのと同じやつ。
いつの間にかふたりだけの秘密の合図になった。
あの映画、いつかよっちゃんさんにも見せてあげる。
- 151 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:46
-
衣装に着替えてスタジオに向う廊下を歩きながら
もう風が気にならなくなってる事に気付いた。
相変わらず遠くに音は聞こえるんだけど、揺れは感じない。
通りがかりの窓から外を見ると相変わらずの風と、雨もかなり降っていた。
よっちゃんさん今日美貴の家にくれば良いのにな。
激しく窓にぶつかる風と雨を見て、思った。
- 152 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:47
-
* * *
- 153 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:48
-
夜、収録が終わって、局を出ようとしたメンバーは、
想像以上の暴風雨に、出口の自動ドアの前でひと騒ぎ。
「ひゃースゴイなこりゃ〜」
「ほんとっすね、でも矢口さん家近いからまだいいですよ
あたしなんか帰れんのかな〜って」
「よっすぃ〜んち遠いもんね。
はやくこっちで一人暮らしすれば良いのにさ〜
なんだったらおいらの家に泊まっても良いよ 」
- 154 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:49
-
ふたりの会話を後ろで聞いていた美貴はその一言にピクっと反応。
ちらっとよっちゃんさんを盗み見ると、
「「「吉澤さん、お先します〜」」」
「おう、麻琴、こんこんとたかはしも一緒なんだ、お疲れ〜」
通りかかった三人に手を振って、矢口さんに向き直る。
「すいません、やっぱ家に帰ります」
「そっか、じゃあお疲れ」
「お疲れさまで〜す」
矢口さんもタクシーに乗りこんで帰っていった。
ガラスの向こうで梨華ちゃんと辻さん加護さんも手を振ってタクシーの中へ。
- 155 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:51
-
美貴はよっちゃんさんの空いた隣に移動した。
「やっぱ帰っちゃうんだ‥‥
「ぁのさ、こういうのってほんと慣れなくて‥なんていうかその‥‥
「あ、ふたりともまだ居たんだ、天気やばいから早く帰んなよ」
「「あ、飯田さん、お疲れ様です」」
飯田さんに反応して自動ドアが開くと、すざましい雨と風の音が聞こえて、
またすぐ静かになる。
こんな雨んなか帰れっかよ‥‥
よっちゃんさんの小さな声が聞こえた。
もう、ほんとあの心理テスト当たってる。ちょっとだけ素直じゃないんだから。
自動ドアに向かって数歩進んで、
美貴はさっきの場所に留まったままのよっちゃんさんを振り返った。
「美貴達も帰ろ」
「……うん」
- 156 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:52
-
* * *
- 157 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:53
-
雨はウソのようにピタリとやんで、強風だけが残った真夜中、
美貴はひとり目がさめて、寝室の出窓ところで外を見ていた。
- 158 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:53
-
藍色の空をグレーの雲がすごい早さで流れて行く。
少し窓を開けてみる。
ぴゅ〜〜っという音と一緒に生暖かい風が吹き込んで来たので、すぐに閉めた。
シーツにくるまったよっちゃんさんはすやすや眠ってる。
なんで自分以外の人がここにいるんだろうって時々不思議に思うことない?
あまりに静かな寝顔だからよけいそう思うのかな……
ぴゅ〜〜っ、ごぉーっという風の音。
また窓の外を見ると雲の切れ間から満月が顔をだす。
暗闇に目が慣れてたからすごく眩しくて、また室内に目を向けて息を呑む。
青い光を反射して輝く風景はやっぱり美貴には非現実的すぎて、
あわてて背を向けた。
近付いて触れればそんな気分もすぐに消えるって知ってたけど動けなかった。
- 159 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:55
-
「眠れないの?」
こんな時に響いたその声に胸がきゅんとする。
「………うん」
ごそごそとシーツのこすれる音がして、
よっちゃんさんは後ろから羽のように美貴をふわっとシーツでくるんだ。
急に背中に降りてきたぬくもりに、視界が揺れて、振り向くことはできなかったけど、
その時、美貴は今日一日感じていた不思議な感覚の正体がわかった気がした。
言いたくて言えない言葉は、言っても仕方ない言葉。
でもその一言を、美貴は今、言いたいんだろうか。
ア イ シ テ ル
その言葉を思い浮かべると美貴の体はまたふわっと浮き上がる。
- 160 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:56
-
深呼吸をして、後ろを向いて、よっちゃんさんの瞳をのぞきこむ。
「よっちゃんさん、あのね‥あの‥‥‥」
「ん?」
満月を雲が横切ると、よっちゃんさんの表情も良く見えなくなって、
ますます言葉が続かない。
「‥あ‥んと‥‥‥‥」
だめだ、やっぱ言えない……。思わず目を伏せてすぅ〜とため息。
そんな美貴をよっちゃんさんは両手でそっと胸元に抱き寄せた。
「いいよ、言わなくても‥‥」
わかるから。
美貴に届いた、声にならなかったその言葉。
うっく、やば、なんか美貴まじ泣きしそう。
気持ちをごまかすようにぎゅう〜っと抱きついてベットのそばまで追いつめて、
そのまま押し倒しても、よっちゃんさんは優しいまなざしのままなんだ。
- 161 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:58
-
両手をついて半身を起こして、
月が作った美貴の影がよっちゃんさんをすっぽり被っているのを確かめた。
ほら、美貴もよっちゃんさんもちゃんとここにいる。
するすると伸びて来た細い指は、迷わず美貴を目指してしっかりつかまえる。
だから美貴はまた安心してその胸に倒れこむ。
そっか…今は、これだけでいいんだ………
美貴はゆっくり顔を寄せて、くちびるを触れあわせた。
とくとくと聞こえる心臓の音は、美貴が触れるたび跳ね上がる。
白い胸元から首すじ耳元にそっとくちびるを這わせ吐息まじりの言葉を流し込んだ。
よっちゃんさん、しよ?
背中にあった手が美貴の頬に触れ、熱く見つめあう。
‥ んっ‥‥よっちゃんさん‥すごく好き‥ダイスキ‥‥‥
てゆうかやっぱアイシテル‥‥‥
‥どっちが先とかもうどうでもいい‥‥‥
早くいこう‥いっしょに‥気が遠くなるくらい高いところへ‥‥‥
- 162 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:58
-
……………………………………………
…………………………………
………………………、
- 163 名前:11 投稿日:2004/08/07(土) 18:59
-
- 164 名前:彩girl 投稿日:2004/08/07(土) 19:00
-
更新しました。
今回もまた‥‥‥
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/08(日) 01:40
- うがぁ!!スン止めかぁ!!
- 166 名前:プリン 投稿日:2004/08/08(日) 12:09
- 更新お疲れ様です!w
よしみき?みきよし?ん?どっちだべか…。
自分にもよくわからないw(ぇ
うぐっ…美貴ちゃんさん可愛いぞ…。
寸止めは辛いです(w
次回の更新も待ってますね!
- 167 名前:彩girl 投稿日:2004/08/11(水) 10:15
-
す、すんどめでしたか?(汗
スイマセン…
いつかはそういうシーンも書いてみたいと思いますが、
も少し修行が必要な気が…ガンガリマス!
それでは今日の更新にまいります。
- 168 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:15
-
・・・・・・‥‥‥…あ、あつ〜、
あまりの熱さにフェイドインする意識。
サイドテーブルにあるペットボトルに手を伸ばし、体を横向きに少し起こして、
コクコクと飲み込んだ。
時計を見る。
pm 2:30
みんな今頃まだリハかな‥‥‥‥
薬さっき呑んだばっかだし‥‥‥まだ効かない‥か‥‥
携帯にメールが届いてるらしく光が点滅してる。
『みきたん、だいじょぶ?』
『もうビックリしたよ、急に座り込んじゃうんだもん。
体調悪いときは無理しないでやすむ事! 急がばまわれっていうじゃん? 梨華』
『具合どう? 迷惑かもしんないけどリハ終わったら行っても良い? よしざー』
亜弥ちゃん、梨華ちゃん、よっちゃんさん、ありがと、
もすこし元気になったらレスするから、ちょっとだけ待って。
携帯を持ったまま、ドサッと倒れこんで、美貴の意識は再びフェイドアウト
……‥‥‥‥・・・・・・・、
- 169 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:16
-
* * *
- 170 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:17
-
……‥‥‥‥・・・ジジ、ジジ、ジジ
気がつくと手の中で携帯が振動していた。
‥‥‥‥‥‥ん‥‥メール? 仰向けのまま液晶をパカッと開いてチェックする。
よっちゃんさんからだ。
『何度もごめんね。事務所よってからそちらに向かおうと思います。
でもつらかったら良いから よしざわ』
『だいじょぶ かぎはいれるようにしとく みき』
んしょ、とりあえず立てるようですね、なんかクラクラするけど……はは。
ドアチェーンをはずしてまたふらふらベットにもどった。
pm5:35
だいぶ眠ってたんだ。
熱少しは下がったかな、よっちゃんさん、早く来て……‥‥‥‥・・・・・、
- 171 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:18
-
* * *
- 172 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:18
-
・・・・・・・‥‥‥‥……、
ひんやりとした掌を額に感じて徐々に覚醒していく。
「まだ少し熱あるね、でもあん時より下がったかな」
「よっちゃんさん‥‥」
ミュージカルのリハの最中、床に座り込んで動けなくなった美貴を、
抱きかかえて休憩室のソファまで連れてってくれたのはよっちゃんさんだった。
あのとき美貴のからだ、かなり熱かったよね。
病院ではかったら38.7℃もあって、美貴もびっくりした。
「なにか食べた?」
「ううん、水だけ」
「そか、フルーツあるけど食べれそう?」
「うん」
「じゃあもってくるね」
- 173 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:19
-
白いお皿をもってもどって来たよっちゃんさん。
美貴がベットヘッドに寄り掛かって座ったら、こうしたほうが良いよって、
よっちゃんさんは枕を立てて背中にあててくれた。
「いろいろあるけどどれにする?」
「あ、いいよ自分で食べる」
「今日くらい、いいじゃん」
「んー、じゃあ、メロン」
「おーけー、はい」
小さなフォークに刺して美貴の口へ運んでくれる。
うは、これかなり恥ずかしくない? でも、今の美貴にはすごく嬉しいよ。
「少し眠った方が良いね、パジャマも着替えた方が良いよ」
ひととおり食べ終えて、
ちゃんと用意されていた水を湿せたタオルで手をふいて
よっちゃんさんがクローゼットから出してくれたパジャマに着替えて、
ベットにまたごそごそと潜り込んだ。
- 174 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:20
-
キッチンからもどってきたよっちゃんさんは、ベットの横に座って美貴の手をとった。
なんか冷たく感じるのはまだ熱があるからかな。でもとてもとても落ち着く。
「ほんとたいしたことなくて良かった」
「すいません……」
「ばっか、あやまんな」
「あのね、美貴が眠るまでこうしてて」
「いいよ」
よっちゃんさんの優しい瞳を感じながら、
それからほんとゆっくりふか〜く美貴は眠りの淵に落ちていった‥‥‥‥‥‥。
- 175 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:20
-
* * *
- 176 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:21
-
あれ、よっちゃんさん‥‥‥?
いつの間にか明かりの消されたベットルームで目覚めて目をこらしてみる。
いない‥‥帰ったのかな‥‥‥‥
am 2:30。
良く眠ったせいか薬がきいたのか、熱はすっかり下がったみたいで、
どうしようもなく熱かった頭もうそのように冷めて、体も軽く感じる。
よかった。これでまた明日からリハに参加できる。
ベットから起き上がるとさすがに少しよろけるけど、
昼間よりはるかにしっかり歩けてる。
- 177 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:22
-
リビングに行くと、よっちゃんさんがソファで眠っていた。
近くに座ってのぞいたその寝顔に、息をのむ。
泣いてたの? なんで?
かすかに眉を潜め、まつげや目のふちがすこし濡れてる。
胸を締め付けられる思いで、手のひらをほおにあて親指で目元を拭った。
ゆっくり目を開けたよっちゃんさん。
自分の手でも目もとを拭って、恥ずかしそうに目を伏せた。
「今日‥‥‥‥なんか、ありました?」
「熱さがったの?」
「あ、うん、もうだいじょぶです、それより‥‥」
「うん‥‥‥‥‥‥、
美貴から目をそらし両手首を額で交差させて、少しの間天井をじっと見つめた。
そしてよっちゃんさんは口を開いた。
「飯田さんと、石川が、来年、卒業する」
卒業? 飯田さんと梨華ちゃんが?
そんな‥そんなのって‥‥‥‥‥‥、
暗い静かな部屋で打ち明けられた言葉に、美貴の思考は一瞬止まる。
いつかはってわかっていても慣れる事のないこの瞬間。
「あさって、矢口さんのラジオでふたりから発表するんだ」
よっちゃんさんはそこまで言ってくちびるを噛んだ。
今年の夏に辻さんと加護さんが卒業して来年梨華ちゃんまで卒業したら、
ヨンキーズ、よっちゃんさんだけになっちゃうじゃん‥‥‥、
梨華ちゃん‥‥‥‥‥梨華ちゃんは?
- 178 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:22
-
寝室に行きベットの横においたままの携帯を取り上げ、
リビングにもどりながら履歴を素早くスクロール、
間接照明を灯して、ソファの横に座りながら通話ボタンを押した。
- 179 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:23
-
『もしもし美貴ちゃん?』
『あ、梨華ちゃん、こんな時間にごめん』
『良いよ、ぜんぜん起きてたから、具合どう?』
『もうだいじょぶだよ、熱も下がったし』
『そう、良かった‥‥‥んと、それで?』
『あの‥‥‥卒業、決まったんですね』
『うん‥‥よっすぃ〜から聞いたんだ』
『うん‥‥‥、あ、保田さん、居るの?』
『うん、わたしよりいっぱい泣いて大変だったの、
いま膝の上で寝ちゃってるよ』
『そっか‥‥』
『よっすぃ〜は?』
『なんかボー然としちゃってる‥‥』
ちらっとソファのよっちゃんさんを見ると、なんだよって感じで美貴を睨んだ。
だってほんとの事じゃん。
『そう‥‥‥』
『‥‥‥替わりましょっか?』
『いいよ、よっすぃ〜の事は美貴ちゃんにまかせたよ』
『あの‥‥‥やっぱ、付き合ってたの?』
パっと美貴をみるよっちゃんさんに、大丈夫って意味で微笑んだ。
『うん、ほんの数カ月だけどね。
だってよっすぃ〜今よりもっーと素直じゃなかったんだもん、
続かないよ〜』
そう言って小さく笑った。今は笑い話なんだね。良かった、聞いて良かった。
『まそういうとこもかわいんですけど、イタっ』
ぱしっと美貴を叩いたよっちゃんさんはなんだか嬉しそう。
『ふふ、そういう美貴ちゃんだから良いんだよ』
『そかな‥‥』
『そうだよ』
『あ、梨華ちゃん、美貴、おめでとうなんて言いませんから、
だって、いなくなるのイヤだしやっぱ、寂しいもん』
『うん、そう言ってくれて嬉しいよ』
『たぶんみんなの前では違う事言うと思うけど‥‥
これ言っときたくて』
『うん‥‥ありがと‥‥‥‥』
『明日のリハ、参加しますから』
『うん、でも無理しないでね、おやすみ…』
- 180 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:24
-
ピッと携帯を切ってテーブルに置いた。
よっちゃんさんは起き上がってソファに座り直したから、美貴も隣にすわった。
「気にしてたんだ」
「梨華ちゃんとのこと? まぁ少しは‥‥‥」
なんてウソ、ほんとはずっと気になってた。けど、それは言わない。
「石川、どうだった?」
「梨華ちゃんは大丈夫です。
見かけよりずっと強いんですもん、それに‥‥‥、
保田さんも居るしって、言おうとしてやめた。
どうして別れたのか知らないけど、きっとよっちゃんさん聞きたくないと思ったから。
そして美貴も、そんな風に胸を痛めるよっちゃんさんを見たくなかったから。
- 181 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:24
-
「よっちゃんさん‥‥
あのね‥美貴無理して受け入れる事ないと思う。
だって、やっぱずっと一緒にがんばって来た人が急にいなくなっちゃうの、
イヤだし寂しいですもん。
変則加入で六期の美貴が、こんな事言えないかもしれないですけど‥‥‥」
「そんな事ないよ、美貴はちゃんと、娘。だよ」
そう言って強く美貴を見たよっちゃんさん。 ていうか‥‥
「いま、“美貴”って言った」
あっと言って赤くなって俯いたよっちゃんさん、
「美貴が“美貴、美貴”って言うからうつったんだ」
と、もじもじクッションをもてあそぶ。
「まそういう事にしときますか、ひ・と・み・ちゃん」
二の腕をツンツンする。
「うはぁ、それだけはやめて」
「なんで?」
「それって梨華ちゃんが‥‥」
「まじ? じゃあじゃあ、ん〜っと‥‥‥」
考えながらよっちゃんさんにもたれかかると、
当たり前のようにまわされる腕と頭にのせられる手のひら。
「やっぱ、美貴にはよっちゃんさん‥‥‥‥かな」
「あたしは“美貴”って呼びたいナ‥‥」
「んか‥恥ずかしいけど‥‥‥嬉しぃ」
肩口に顔を押し付けた。
いつの間にかいつものラブラブモードの美貴達。
それからも少しじゃれあって、
シーツを替えたベットにふたりで潜り込み、朝までぴったりくっついて眠った。
- 182 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:25
-
* * *
- 183 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:25
-
2004年5月23日深夜、
飯田さんと梨華ちゃんは矢口さんのラジオに生出演して、
自分達の卒業を発表した。
辻さんと加護さんが卒業する夏は、もうすぐそこなのに、
美貴たちはまた新しい別れに向かって歩きはじめた。
『さよならだけが人生さ』ってだれの言葉か知らないけど、
美貴たちの毎日ってほんとそうだって思うのは、
美貴が、ほんとの意味で“娘。”になったってことなのかもしれない。
でもこんなのちっとも嬉しくない。
物わかりの良い大人になるのは、まだまだもっとあとで良いって、
そんな風に思ってたら、
美貴はいつの間にかこのことで上手く笑えなくなってた。
よっちゃんさんとふたりしてやばいくらいイライラしてることも多かった。
周りの空気が張り詰めて、他のメンバーが近寄れないくらいピ
リピリしてるの自分でもわかるくらいに。
そんな時、美貴達はバッティグセンターでがんがんボールを打ちまくった。
仕事で遅い時間でも、2時間も3時間も延々と。
それでも森々と積もる雪のように、
美貴とよっちゃんさんの中に澱はたまっていった。
一日、一週間、一ヶ月、一年…
美貴達の時間は普通の人の何倍ものスピードで時間がすぎていく。
だから、気付いたらもう夏すぎて、
飯田さんの卒業コンサートもあっという間に終わり、
梨華ちゃんの卒業も、ホントにすぐそこまで来ていた……。
- 184 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:27
-
……………………………………
………………………………
…………………………
- 185 名前:12 投稿日:2004/08/11(水) 10:27
-
- 186 名前:彩girl 投稿日:2004/08/11(水) 10:28
-
更新しました。
次回、最終話になります。
- 187 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/13(金) 22:09
- 更新お疲れ様です。
次回、最終話ですか。
今一番気になるCPものだったので寂しい気もしますが、
心して待っております。
- 188 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 13:54
-
ライブ前、美貴とよっちゃんさんは朝の公園を歩いた。
なんでつんくさんが梨華ちゃんの卒業をこの季節にしたのか、
枝一杯に花を咲かせた桜を見て、やっとわかったけど‥‥‥、
「梨華ちゃん色でいっぱいだね」
「うん‥‥‥」
よっちゃんさんは眩しそうに目を細め、ピンクに染まった風景を前に立ち止まった。
でも……別に今年でなくても良かったんだ。
- 189 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 13:55
-
* * *
- 190 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 13:58
-
『梨華ちゃん‥‥‥
美貴と梨華ちゃんは、好きなものとかも正反対で、
おとめで一緒になったとき、だいじょぶかなってかなり心配したけど、
今は仕事に対する姿勢とか、いろんなとこ、ほんと尊敬してます。
梨華ちゃ‥‥(‥‥ごめ‥やっぱ‥‥言えないよ‥)』
「ありがとう‥(気持ちわかってるから大丈夫だよ)」
『石川‥‥‥、
あたし、サブリーダーとか主将とか、ほんとはガラじゃない、知ってるよね?
でも‥頑張れたのは‥同期でライバルの石川が見てたから‥‥なのに‥‥‥‥
‥‥もう‥‥‥(無理、卒業があるなら、これもアリだよね‥‥‥‥)』
「よっちゃん?(何言ってるの?!)」
目を丸くする梨華ちゃん。
深呼吸して、シーンとした客席を見渡したよっちゃんさん。
やっぱ言っちゃうんだ‥‥‥
観客もステージのメンバーも舞台そでのスタッフも全ての時間が一瞬とまる。
ゆっくりとマイクをあげ、自分の口元にあてたよっちゃんさん。
- 191 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 13:59
-
『 みんな、‥‥‥‥‥‥‥、あたし、娘。中退する! ゴメン 』
- 192 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:01
-
客席に深々と頭を下げ、梨華ちゃんにもごめんって頭を下げて、
舞台そでに向かってスタスタと歩いて、ステージから消えた。
よっちゃんさん‥‥‥
水面にポンとなげられた石から波紋が広がるように、
ざわめきはステージのメンバーから会場へ、そして溢れだす。
- 193 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:02
-
『 ひとみちゃん‥‥‥ 』
『『『『 よ、吉澤さん‥ 』』』』
『ったく、吉澤なにやってんねん!』
『 よっすぃ〜 ‥‥ 』
『 ま、まじですか ‥‥ 』
- 194 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:04
-
『『『『『 よっしー! イヤー! 止めないでー!! 』』』』』
『『『『『 よしざわーーーー!! 』』』』』
『『『『『 やめんなー! よっすぃ〜!! 』』』』』
『『『『『『『『『『 よっすぃ〜!!! 』』』』』』』』』』
『『『『『 よっちゃーーーん!! 』』』』』
『『『『『 うそだー! 』』』』』
『『『『『 よっすぃ〜!! 』』』』』
『『『『『『『『『『 よっすぃ〜!!!!! 』』』』』』』』』』
- 195 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:05
-
「美貴ちゃん! よっすぃ〜のとこ、行って!」
梨華ちゃんの声に舞台そでを見ると、壁際で記者やカメラにかこまれて、
よっちゃんさんは大変な事になってる。
ダッシュで人垣に近付くと、見えかくれするその姿。
「よっちゃんさんっ!」
一斉に振り返る記者たち、カメラのフラッシュがバチバチ光る。
かまわず掻き分けて進もうとすると、いきなりマネージャーに腕を掴まれた。
『藤本までどういう事だ』
「ならこれなんとかしてください!」
『じゃあ吉澤に発言撤回させろ』
「なに言ってんの?!」
よっちゃんさんがどんだけの覚悟か全然わかってない、コイツ。
美貴はギロッとひと睨み、ブンと腕を振りほどいて、更に前に前に進んだ。
- 196 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:07
-
あーもーこのカメラとかマイクとか超邪魔!
でも、もうちょっと、あと少し‥‥
- 197 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:08
-
先回りした別のマネージャーが、よっちゃんさんの腕を掴んで耳打ちする。
『ステージにもどれ』
「嫌!」
『もどれ、もどって発言撤回しろ』
「嫌だ!」
身を捩って抵抗するよっちゃんさん。
ようやくたどり着いた美貴は一緒にその力と戦った。
「はなしてっ!」 「はなせっ!」
強く引っ張られてよろける美貴達。
ただただ投げ付けられるフラッシュ、無数の身勝手な言葉、
誰もよっちゃんさんの気持ちに耳を傾ける気なんてないんだ。
よっちゃんさんの腕に食い込む厳い指。
大きく息を吸い込んで、美貴は、唯一の武器を振りかざした。
「美貴のよっちゃんさんに触んなぁ─────っ!」
ふぅ。腹筋がぴくぴくする。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
みんなの動きがピタッと止まった。
- 198 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:09
-
でも、そんなの一瞬だって知ってたから、
美貴はよっちゃんさんの手を掴んで駆け出した。
- 199 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:10
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 200 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:12
-
ステージ衣装のまま会場を飛び出した美貴達。
お金もケータイも持ってなかったから、そんな遠くにいけなくて、
会場の敷地のすみの人気のない階段に隠れた。
騒ぎがおさまったら、かっこわるいけど戻らなきゃな‥‥
再開したライブの音がもれ聞こえてくる。
『ザ☆ピ〜ス!』、梨華ちゃんの、娘。最後の曲。
「 ごめんね、巻き込んじゃって‥‥ 」
「 ばっか、あやまんな 」
ちいさく笑いあう。
- 201 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:13
-
いくら四月でもさすがにノースリーブは寒い。
だって真夏も暖房入れちゃうくらい美貴は寒がりなんだもん。
とりあえず腕をさすってあっためた。
それを見て隣に座ってたよっちゃんさんが美貴の後ろに移動して、
両腕で美貴のからだをくるんで、背中にふわっとくっついた。
「あったかぁ」
よっちゃんさんの体温はいつでも美貴よりちょっと高い。
「美貴‥あのさ‥‥」
こんな風に静かに話す時、よっちゃんさんの声はいつも少し低くなる。
「ずっとなんて言わない‥‥‥‥
‥もう少し‥あと少しでもいいから‥‥‥そばにいて‥‥」
美貴は前で組まれた手をぎゅっとした。
「やだよ、少しなんて、美貴そばにいるから、
よっちゃんさんがいいって言うまで、ね?」
ありがと、そう言ってよっちゃんさんは美貴の首筋に顔を埋めた。
- 202 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:15
-
「ったく、心配して来てみたらこれだ」
「まったくだよ!」
- 203 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:17
-
頭のずっと上のほうから声がした。
「あいぼん!」
「辻ちゃん!」
腕組みしてぷりぷりおこったダブルユーが、すくっとそこに立っていた。
「あほ!でかい声出すな!見つかるって!」
「梨華ちゃんがきっとこの近くにいるからって、
出番終わってすぐののん達に指令をだしたんですよ」
そういえばふたりとも、衣装のままだ。
「はい、ふたりのバックに服、確かに渡したからね」
「 ありがと 」 「 助かります 」
立ち上がってペコリ。
- 204 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:18
-
「ほんと、のん達のときはあんなにあっさりしてたのに、
梨華ちゃんがうらやましいよ…」
「ばか、あたしはあいぼんとのんの時も同じ気持ちだったんだ、
決まってんじゃん、だからいっぱいいっぱいになっちゃったんだよ」
「そっか」「そうなんだ‥‥」
腕組みを解いて、目を伏せたふたり。
「まあ、今日はこのまま帰って、
あとの事は明日ちゃんと話したほうが良いって 」
「中澤さんも梨華ちゃんもそう言ってたし、のんもそう思う」
「「 うん 」」
「じゃあうちら戻るから」
「梨華ちゃんにはちゃんとあやまり」
「うん、そうする、その辺はちゃんとするから」
- 205 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:19
-
後ろを向いて歩き出した加護さんがふと立ち止まって振り返った。
「あのさ、自分ら付き合ってるん?」
よっちゃんさんは大きくうなずいた。
目線を落として苦笑いの加護さん。
「なんや、あほらし‥‥」
「あいぼん、そんなんほっとけ、行こ!」
辻さんが加護さんの手をとって駆け出した。
黒い大きな屋根に向かってどんどん小さくなるふたり。
その小さな背中が、なんかとても大きく見えた。
- 206 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:21
-
カバンのポケットの携帯が点滅してるのが気になって取り出してみる。
パカっと開いてメールをチェック。
『みきたん、よくやった! カッコ良いいぞ!』
亜弥ちゃん‥‥。
液晶の文字が、揺れたと思ったらポタリとしずくが落ちて、美貴は慌ててそれを指で拭ったけど、そいれも間に合わないくらいあとからあとから、涙は勝手にこぼれて落ちた。
- 207 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:22
-
美貴は嬉しかったんだ。
心配してくれる仲間がいて、どんな時も味方でいてくれる友達がいる。
それが、ほんとに、ほんとに、嬉しいって、心から思った。
美貴は今度の事で、美貴もよっちゃんさんもきっといろんなもの無くすんだって思ってたけど、
ぜんぜん違ってた。
それは、砂に埋もれてた。 寒さで曇ったガラスの向こうにあった。
台風が吹き飛ばした雨雲のずっと上にあった。
それに気付かせてくれた。
ほんとに大事なものって、いつもちゃんとそこにあるんだ。
だから、もうなにも怖くないし、寂しくなんかない、ね、よっちゃんさん。
- 208 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:24
-
美貴とよっちゃんさんは、大きな大きな影に向かって胸をはる。
『 梨華ちゃん、卒業おめでとう 』
♪ WOW WO WOW WO PEACE! PEACE! WOW WO WOW WO HA HA HA!
『 梨華ちゃん、決まったね! カッケー!』
- 209 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:24
-
……………………………………………………
…………………………………………
………………………………
- 210 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:25
-
……………………………………………………
…………………………………………
………………………………
- 211 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:26
-
美貴の部屋にできたよっちゃんさんのスペース。
リビングの一角に小さな机とノートパソコン、フォトフレーム、
そしてスケッチブックとカラーマーカー。
ほどなく娘。を“中退”したよっちゃんさんは、週の半分をここで過ごして、
美貴の帰りを待っててくれる。
- 212 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:27
-
「ただいまぁ」
「おー、おかえり〜」
デスクから立ち上がって美貴のカバンを受け取る。
「よっちゃんさ〜ん、美貴、超空腹だよ」
「おーけー、じゃあなんか作ろっか? オムライスで良い?」
「うん!」
- 213 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:30
-
出来上がったオムライスをリビングのテーブルで90度向かい合って食べた。
「よっちゃんさん、ケチャップついてる」
指先でぬぐってそのまま口に含んだ。
「あ、そうそう、今日梨華ちゃんに会ったんだ。
でね、よっちゃんさんに伝言たのまれたの。
あのね、『ごはん、いつ連れてってくれるの?』って言ってたよ」
「そっか‥‥もう1年以上たっちゃったもんナ‥‥‥‥、
ねえ、一緒に行ってくれない?」
「だぁ〜め。梨華ちゃんはよっちゃんさんと話がしたいんだもん。
それに梨華ちゃんにちゃんあやまってないでしょ?」
「うん、タイミング逃しちゃってさ‥‥それはずっと気になってるんだ」
「だからぁ、ちゃんと、約束、実行して。
じゃないと、なんか美貴気になって‥、なんかこう‥なんていうか‥‥
ずっとよっちゃんさん、梨華ちゃんの事忘れられないみたいな感じがして‥」
自分のお皿から顔を上げたよっちゃんさん。
「解った、ちゃんと話して来るよ」
そういって残りのオムライスを再び口に運ぶ。美貴もまたパクっとひと口。
ふと、よっちゃんさんと目があって、美貴も食事の手をとめる。
「よっちゃんさん、これすごーく美味し、んっ‥‥
ちょっとケチャップ味のキスも美味しかったよ。ぜったい言わないけど。
- 214 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:31
-
* * *
- 215 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:32
-
そして相変わらず娘。を続けている美貴。
7期の新メンバーも入って娘。は大きくカタチを替えたけど、
『ふるさと』を歌うと安倍さんを、『モーニングコーヒー』を歌うと飯田さんを、
『I WISH』で辻さんと加護さんを、『ザ☆ピ〜ス!』で梨華ちゃんを、
『ミスムン』でよっちゃんさんを、いつも思い出す。
7期のコ達も美貴達と多少の違いはあっても、きっと同じなんだよね。
それはいつもちゃんと娘。の歌が愛されていた証。
だからこうして今もちゃんと生きてる。
- 216 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:35
-
なにより美貴は歌う事が大好きなんだもん。
だから、どんな時も、力いっぱい真直ぐに歌う、それだけ。
それが、モーニング娘。藤本美貴、なんだ。
♪ 泣いてすむなら 泣きやがれ すべての恋はシャボン玉
- 217 名前:13 投稿日:2004/08/14(土) 14:36
-
『不思議なよっちゃんさん』
☆ f i n ☆
- 218 名前:彩girl 投稿日:2004/08/14(土) 14:42
- >>187 さん レスありがとうごさいます。
寂しいと言っていただいて、嬉しいです。
最終話、うpしました。
色んな意味で詰めが甘いと言うかなんというか…反省しきりです。
でもとりあえず最後まで漕ぎ着けました。
おつきあい、ありがとうございました。
も少ししたら、またこりずによしみきで短編をあげようと思ってます。
その時はよろしくです。。。
- 219 名前:187 投稿日:2004/08/15(日) 02:53
- 完結、お疲れ様でした。
いい感じに甘い雰囲気のよしみきが読めて至福の時でした。
短編も書いて下さるんですかっ。すごく嬉しいかも。待ってますね。
- 220 名前:プリン 投稿日:2004/08/16(月) 12:21
- 完結お疲れ様でしたー!
甘ーい甘ーい感じのみきよし最高でしたよ!
短編も頑張ってくださいね。
次回の更新も待ってますー!
- 221 名前:彩girl 投稿日:2004/08/26(木) 14:59
- PCトラブルでちょっと時間があいてしまいました(W
>>187 さん “至福”なんて言っていただてマジ嬉しいです(泣
ありがとうございます。
>>プリンさん いつもありがとうございます。
これからも、このCPでがんがります!
では、みきよし短編、いっきにあっぷします!
- 222 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:01
-
『それぞれの場所』
- 223 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:02
-
「ちょ‥待ってよ!」
「やだっ!」
「もなんで?!」
「なんで?じゃないっつの」
「だってわっかんないよ」
「ほら、よっすぃ〜の番だよ」
「あ、はい!」
- 224 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:03
-
オイラと入れ代わりに立ち位置につくよっすぃ〜。
怖い顔のミキティはぷいっと横を向く。
ハロモニ。収録のあと、ウチらは同じ衣装でそのままアー写撮影をしていた。
よっすぃ〜が終わって次のミキティと入れ代わる時も、
ミキティはよっすぃ〜と目をあわせなかった。
そんなミキティを、よっすぃ〜はますます困り顔ですれ違いながら目で追って、
無視されると俯いてため息をついた。
なんかもーヘタレ全開だよ。
- 225 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:04
-
「ね、なにもめてんの?」
「矢口さ〜ん、もうさっぱりわかんないんすよ」
「だって昨日仲良く二人でかえったじゃんか」
「でしょ?昨日まで、ていうかさっきまで全然なんともなかったんですよ」
「え〜? じゃあ今日の撮りのときなんかあったんじゃないの?」
「うーん‥‥‥やっぱわかんねっす‥」
撮影の終わったミキティがウチらの横を通りすぎると、慌てて追いかけるよっすぃ〜。
「ちょ‥ミキティ〜」
うわ、やっぱ情けないなぁ。
- 226 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:05
-
でももとはと言えばオイラがふたりくっつけたようなもんだからなぁ。
なんか心配だったりするんだよ。
娘。に加入して間もなくミキティはよっすぃ〜にゾッコンだったらしく、
それを知ったオイラがよっすぃ〜の気持ちをミキティに教えたんだ。
そう、オイラは知ってたんだ。
よっすぃ〜がミキティが娘。に入るって知って、すっごく喜んでたのを。
そして師弟関係のオイラにだけ、ミキティが好きだって打ち明けたんだ。
もう、困ったな〜
ギスギスした雰囲気ってメンバーみんなに伝染するんだよね。
だからカオリンはメンバー内恋愛禁止って言ってたんだけど、
オイラはそんなの個人の自由ジャンって、それにふたりもうけっこう大人だしって、
思ったんだけどなぁ。 大丈夫かな〜
- 227 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:07
-
楽屋のドアの前まで追い掛けて来た吉澤。
中に入ろうとした美貴を扉を押さえて阻止する。
「待って、ちゃんと話そうよ」
「どいてよ、今日は亜弥ちゃんとご飯食べに行くんだから
時間ないんだよ」
「んだよ、亜弥ちゃん亜弥ちゃんって‥‥」
力の抜けた手が扉からずるずる下がって、俯いてしまう吉澤。
その様子に美貴は一瞬悲しげな表情をするが、
すぐにキッとなって吉澤を押し退けてドアを開け楽屋に入っていってしまう。
- 228 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:08
-
「それですごすごと引き下がっちゃったの?」
「アヤカぁだってさぁ…」
「はぁもうなんか美貴ちゃんの気持ち解るよ」
「え?! まじ?!
じゃあ教えてよぉ、なんであいつあんな怒ってんの?」
- 229 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:08
-
美貴に拒否られて落ち込んだ吉澤はそのまままっすぐ帰る気分にもなれず
アヤカの家に押しかけて、ぐずぐず愚痴っていた。
「あのさ、よしこいつからそんな弱気な子になっちゃったの?」
「うっ‥‥弱気? あたしが?」
という声からして弱々しい。
「そうだよ、なんかさ、美貴ちゃんと付き合ってから変よ?」
「‥‥‥‥‥、
「前のよしこならこんな風にしてないで、どんどんぶつかってたよね」
「ほかの事ならそうするけど、でも、ダメなんだ‥‥‥怖いんだよ‥‥‥」
「もうだからぁ、ソコなのよ!」
人さし指を振り回して吉澤にせまるアヤカ。
「へ? ソコ?」
なんの事だかわからない吉澤は自分で自分をゆび指した。
「なんで自分の恋人のこと怖いって思うの?!」
- 230 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:10
-
怖い‥‥‥、確かにミキティのマジ顔は‥‥じゃなくて怖いのは‥‥‥、
‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
そうなんだ、
あたし、ミキティの事、すげー好きで、何ものにも替えがたくって、
ゼッテー、ゼッテー失いたくないって思って、それがあたしの弱気の正体なんだ。
- 231 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:10
-
「アヤカぁ‥‥あたしどうしたら良い?」
「あのね、美貴ちゃんはどうなの?
よしこのことすごく好きなんじゃないの?」
「ん‥‥そだと思うけど‥‥‥時々不安になんだよ、
だってさ、今でもあややと仲良いし、
レバ刺し食べる時サイコーに幸せそうな顔するんだよ?!
もしかしてっとか思っちゃうよ‥‥」
レバ刺しまでライバル視してる吉澤に半ばあきれ顔のアヤカは、
それでもこんな風に凹んでる親友をほっておけない質である。
- 232 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:11
-
本人は気付いてないのだ。
吉澤を見る美貴の視線は、だれがどう見ても、疑いようもなく、
それこそレバ刺しや亜弥ちゃんなんて比べ物にならない位、とろけそうに甘いのだ。
そして、プライベートで仲の良いアヤカと里田に対して、たぶん美貴本人は
無意識であろう、ナイフのような冷たい態度を時々とることも。
さて、どうしたものか‥‥‥。
アヤカが策を巡らせているあいだも、ひざのクッションをもてあそんだり、携帯
をいじくりまわしたり、そわそわ落ち着きのない吉澤。
なんか、集中できないな‥‥‥、
でも答えはひとつなんだよね、
ミキティはよしこに信じてほしい、それだけなのよ、きっと、
それを、よしこに解らせるには‥‥‥‥、
パカッ、パタッ、パカッ、パタッ、パカッ、パタッ、‥‥‥‥‥、
「ご、ごめん、考えまとまらないから、
今日はとりあえず帰ってください。」
携帯をもてあそんでいた吉澤に頭を下げるアヤカ。
ほどなく吉澤は帰っていったが、
人の恋路に朝まで頭を悩ませて眠れなかったアヤカがようやく思いついた策とは……
- 233 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:12
-
…………………………………
…………………………………
…………………………………
- 234 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:13
-
「みきたん?」
「あ、ごめん、ごめん、えっと‥‥‥なんだっけ?」
「いいよ。みきたん、よっちゃんさんのこと、考えてるんでしょ?」
「ちがうよ! ちょっと疲れてるだけ‥‥‥」
「もしかしてケンカした?」
「‥‥‥‥‥‥ぅん」
パスタを絡めたフォークを皿に降ろして俯いた美貴。
- 235 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:14
-
…………………………………
…………………………………
…………………………………
- 236 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:15
-
それは、今日のハロモニ。の収録時の事だった。
- 237 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:15
-
『恒例、夏の大喜利大会!』 パフッパフッ! ワ〜〜ッ!
メンバーみんな浴衣姿でのぞむこの企画。
- 238 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:16
-
『最初のお題は、“や”“た”“い”でつくる三文字作文〜〜〜!』
パフッパフッ!
『はい、では出来た人〜、う〜〜〜ん、じゃあ、石川!』
『“や”さしくて、その上とってもカワイイ、
“た(だ)”から、みんなの憧れの的、
“い”しかわりか(ハート)』
『『『 きしょー 』』』
『 そのうえ長いからっ! マイナス1枚っ! 』
『 えぇ〜 なんでよぉ〜 』
『 じゃあ次、はい、よっすぃ〜 』
『“や”っぱ無理っ! もう
“た”まらい、ガマンの限界だ!
“い”しかわりか!』
苦笑する梨華。大喜びのメンバー。
『 うまい! ウチワ1枚!』
- 239 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:17
-
『 はい、はい! 』
『 え、また?! しょうがないな〜、じゃあもっかい、石川! 』
『“や”っぱり、こんなにかわいいから
“た”たかれちゃう、ごめんね、こんなわたしで、バイ
“い”しかわり‥‥‥
『 ヤグチさん! 』
『 はや! はい、よっすぃ〜 』
『“や”ばいよ! もう
“た”くさんだ! どうにかして!
“い”しかわりか!』
も〜っと笑いながら吉澤に手を上げてて突っ込みにくる梨華。
キャーキャー大盛り上がりのメンバー。
ただひとり、その様子を冷静に見守っていた美貴は、
“や”っぱり 美貴も
梨華ちゃんみ“た”いに、よっちゃんさんに
“い”じられたい
“や”っぱりよっちゃんさんは 美貴に
“た”いして 遠慮 して
“い”るんだ
せっかく浴衣にあわせてブイブリな髪型にしたのに、
加護ち“や”んは誉めてくれ“た”のに、
よっちゃんさんは なにも“い”ってくれない
“や”ばいよ なん“た(だ)”か
“い”らいらして来た てゆーか‥‥なんか‥‥‥‥
心の中で三文字作文をルール無視で作っていた。
- 240 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:18
-
…………………………………
…………………………………
…………………………………
- 241 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:19
-
「でもさ、よっちゃんさんがあーなのは、きっとみきたんのこと
すごーく好きだからなんだと思うよ」
「うん、わかってるんだけど‥‥‥
時々なんかね、よっちゃんさんのこと遠く感じちゃうんだよ‥‥
やや俯いて弱々しく笑う美貴。
「みきたん‥‥‥、
もう! なんでよっちゃんさん、みきたんを泣かすの!?
約束したのに! だからみきたん、あきらめたのにぃ!
よっちゃんさん、ゆるさないんだから!
そうは思っても、美貴がどれだけ吉澤の事を好きか、思い知らされている亜弥は、
やっぱりなんとか仲直りしてほしいと、心から思うのだった。
- 242 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:20
-
…………………………………
…………………………………
…………………………………
- 243 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:21
-
「ぇえーーー! みきたんにキっ‥ぅぐ‥‥‥‥、
慌てて亜弥の口を手で押さえるアヤカ。
ハロプロコンサートのリハの合間、アヤカにこっそり呼びだされた亜弥は、
ひと気のない舞台裏でひそひそと密談していた。
そして亜弥はアヤカのアイデアに思わず大声をあげてしまったのだ。
- 244 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:22
-
「す、すいません‥‥‥で、でも‥」
「わかる、わかるんだけど、
たとえば私とかが直接美貴ちゃんに言う訳いかないじゃない?
よけいこじれそうでしょ?」
「まあ、確かに‥そうだと思います。だぶん話しすら聞かないと思います。」
「でしょ?
でもよしこに言ってもあの調子で急には変わらないと思うし‥‥
だからここはもうショック療法しかないと思ったのよ。
しかもふたり同時に効かないと意味ないとすると‥‥」
「あたしがみきたんにキスを‥‥‥」
「そう、それもできるだけシゲキ的なのが良いと思うのよ」
何やら想像を巡らして顎にひとさし指をあて遠い目をするアヤカ。
「シゲキ的なの、ですか‥‥‥‥」
しばし黙りこんでしまった亜弥。
その様子に、はたと思いいたるアヤカ。
「あのもしかして亜弥ちゃん、まだだったりとか‥‥‥」
「‥‥‥は、はい」
俯いたまま目だけをアヤカに向ける亜弥。
「そっか‥‥‥‥‥‥、
完全に自分のミスだ。亜弥にたいしてすまない気持ちになるアヤカ。
- 245 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:23
-
「ごめんね、亜弥ちゃんの気持ち考えないで、
亜弥ちゃんの気持ち利用するみたいな計画立てちゃって‥‥」
亜弥の髪をそっと撫でるアヤカ。
不安げにゆっくり顔を上げた亜弥にやさしく笑いかける。
「大丈夫、他にも方法はあるから。あたしにまかせて」
自信はなかったが亜弥を安心させたくてつい言ってしまうアヤカ。
長くてさらさらの髪、やさしい目、仕種、包み込むような態度に、
亜弥はなぜかドキドキしてくる。
よっちゃんさんが頼りにする気持ちわかるかも‥‥‥
- 246 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:24
- 「さ、リハもどろ」
「待ってください」
「ん?」
「アヤカさん、練習相手になってください。
そしたら‥‥そしたらその計画上手くいくと思うんです」
「あ、亜弥ちゃん‥」
「お願いします」
じりしりとアヤカに近付いて行く亜弥。背後の壁に追い詰められたアヤカ。
「ちょ、ちょっと亜弥ちゃん!」
‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 247 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:25
-
…………………………………
…………………………………
…………………………………
- 248 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:27
-
そして、都内某局。
亜弥とモーニング娘。が折よくブッキングされたうたばん組の収録の日、
アヤカとあややの作戦は実行に移された。
作戦といっても単に亜弥が美貴にキスしてそれを吉澤に目撃させるという、
ごく古典的なものだ。
だか、アヤカの予想では、亜弥が美貴の事を好きだと知っている吉澤と、
吉澤の事を本当に好きな美貴には、効果絶大なはずである。
特に出番のなかったアヤカは見学ということで局内に潜り込み、
亜弥の合図で吉澤を約束の場所に連れ出す手はずであった。
- 249 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:28
-
リハが先に終わった亜弥はスタジオの片隅で、娘。のリハを見守っていた。
今回の新曲はかっこかわいい路線、ダンスもシャープなカッコイイ系のものだった。
はぁ‥みきたん、カッコイイなぁ‥‥やっぱまだスキかも‥‥‥
エンディングのポーズをバシッと決め、美貴は後ろの吉澤をちらっと振り向いたが、
すぐにこにこ亜弥に近付いて来た。
‥たん‥‥‥‥
吉澤はそんな美貴をちらちら気にしつつも、
他のメンバーにならって楽屋へと戻って行った。
亜弥はそっとポケットの携帯のメール送信ボタンを押した。
- 250 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:29
-
ジジ、ジジ、ジジ
局のカフェで時間をつぶしていたアヤカの携帯が、テーブルの白いカップの横で振動した。
パカッっと液晶を開くアヤカ。
『はじめます 亜弥』
亜弥ちゃん、がんばって‥‥
心の中でつぶやいてすくっと席を立つと、吉澤のいる楽屋に向かった。
- 251 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:30
-
「はぁ〜、気持ち良いねぇ」
「う、うん‥‥‥、
「ん? どうした? なんか変だよ、亜弥ちゃん」
亜弥と美貴は小さなバルコニーで、手すりを前に、並んで風に吹かれていた。
暑くもなく寒くもなく丁度日ざしからも影になっていて、遠く東京湾とレインボーブ
リッジが見える。
普段ならとてもリラックスできるこの場所で、亜弥はとてつもなく緊張していた。
ここは局のなかでもちょっと分かりにくい場所にある。
亜弥が偶然見つけて美貴にだけ教えた、ふたりだけの秘密の場所だ。
でも今日でその秘密もなくなってしまう。
そして自分の気持ちにもケリをつけなくては‥‥‥。
大好きな美貴のシアワセの為に、亜弥は気持ちを奮い立たせた。
- 252 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:31
-
「たん」
「ん?」
「よっちゃんさんとまだ仲直りしてないの?」
「あ、う、うん、ていうか最近はなしてもないや」
亜弥から風景に目を移して弱々しく笑う美貴。
痛々しいその姿から目をそらして言葉をつづける亜弥。
「あのさ、みきたん、あたしじゃダメ?
手すりに重ねて置いた自分の両手から、美貴に顔を向ける。
あたしなら、絶対みきたんのこと悲しませたりしないよ」
「亜弥ちゃん‥‥‥」
「こんなときに言うの嫌だったんだけど、
あたし、みきたんのこと、好き、大好き。
よっちゃんさんから、奪いたい位、好きだよ」
真直ぐ美貴を見て、本気で告白する亜弥だった。
「あ‥やちゃん‥‥‥、
- 253 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:33
- 好き‥美貴の事が好きって‥‥‥
亜弥ちゃん、嬉しいけど美貴はその気持ちには答えられないよ。
だって、だって美貴はよっちゃんさんが‥‥‥
でも亜弥ちゃんを傷つけたくない。
どうしよう‥‥どうしたら‥‥いい?
突然のことに美貴はただ亜弥を見つめるだけだった。
- 254 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:36
-
「みきたん‥‥‥、
アヤカとの練習通り、じりじりと美貴との距離をつめる亜弥。
そんな亜弥に気押されて後ずさる美貴は手すりの隅に追い詰められて行く。
そしてもうこれ以上美貴が下がれなくなった時、
亜弥は美貴をの肩に手を置いてすっと顔を近付けキスをした。
触れあわせ、微妙に角度を変え、そっと舌で輪郭をなぞったり、啄んだりするうち、
どちらからともなく自然とため息がもれる。
みきたん‥‥‥‥
あ、亜弥ちゃ‥‥‥
久しぶりの感触と、亜弥の気持ちのこもったやり方に、
美貴は拒否することも忘れてただ呆然と受け入れていた。
- 255 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:37
-
…………………………………
…………………………………
…………………………………
- 256 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:37
-
一方、吉澤の楽屋をおとずれたアヤカは、言葉巧みに吉澤を誘って、
すでにバルコニーのすぐ近くまで来ていた。
通路を歩いてゆくとバルコニーに出るガラス扉が見えてくる。
さらに近付くとガラス越しにちらっと見えた空と海に、
「うわ〜、こんなとこあったんだ、ゼンゼン知らなかった」
先を歩くアヤカを追いこしてガラス扉に手をかけた吉澤。
ぐいっと扉を開けてバルコニーに一歩踏み出した。
二三歩遅れてアヤカはその様子を伺っている。
- 257 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:38
-
「うわぁ〜、気持ちいい〜」
延びをして横を向いた吉澤の両手は、中途半端なところで留まった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 258 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:39
-
「よしこ、どうしたの?」
吉澤の隣にならんで降り立つアヤカ。
固まった吉澤の視線先には、熱いキスをかわす亜弥と美貴。
といっても、どう見ても美貴がされている風にしか見えないが。
(亜弥ちゃん、すごい! 上出来だよ!)
「なんだよ‥‥なんなんだよこれ」
吉澤の声にハッと我に帰った美貴は、慌てて亜弥から離れた。
「よっちゃんさん‥‥」
数メートル隔てて見つめあった美貴と吉澤。
だがふたりの距離は縮まることなく、次の瞬間、ガラス扉が大きな音をたてた。
- 259 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:39
-
‥‥‥たん! みきたん! 追いかけなよ!
みきたん! みきたんっ!」
両手で揺さぶる亜弥に目を向けた美貴は、
「亜弥ちゃん‥‥‥‥‥ごめん」
ぱっと弾かれたように駆け出すと、アヤカの横をすり抜け、
あっという間にガラス扉の向こうに消えた。
- 260 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:41
-
極度の緊張から解放され、へなへなとその場に座りこむ亜弥。
‥みきたん‥‥がんばって‥‥‥‥
うつむいた瞳から、ぽろぽろ涙がこぼれて落ちた。
アヤカは亜弥に近付いて跪くと、そっとその肩に手を置いた。
「亜弥ちゃん‥‥‥、
顔をあげる亜弥。
すっごく、カッコ良かったよ」
「アヤカさ‥‥‥っく
やさしい声と眼差しに堪えきれなくなった亜弥は、
引き寄せられるようにアヤカにぎゅっとしがみついて泣き出した。
そんな亜弥をアヤカはやさしく抱きしめた‥‥‥。
- 261 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:42
-
エレベーターホール。バシバシっと▼ボタンを叩く吉澤。
ったく、早く来いよ!
到着を知らせるランプが点滅すると、まもなく扉が開いた。
さっと乗り込み、すぐに扉の横の“閉”を叩く。
ほどなく閉まりはじめるエレベーターの扉、
その隙間が 80cm、50cm、30cm と狭まくなる。
閉まる寸前、エレベーターホールに滑り込んで来た美貴が、手を伸ばして▼を叩いた。
もうほとんど閉まりかけた扉は再び開いて、
吉澤と同じエレベーターに乗り込んだ美貴の後ろで扉は再び閉まり、
ふたりは四角い空間に閉じ込められた。
- 262 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:44
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 263 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:44
-
美貴に向けられた吉澤のかつてない強い視線。
だか、それ以上の強さでじっと見つめ返す美貴は、
近付くと同じだけ遠のく吉澤を追いつめて腕を掴んだ。
- 264 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:45
-
「なんで? なんで、逃げんの!?」
逃げる?あたしが?
「もっと、もっとちゃんと美貴を見てよ!」
ちゃんとって‥‥
「美貴から亜弥ちゃんにするわけないじゃん!」
そういえば‥‥‥‥
さっきのふたりのキスシーンを思い出す吉澤。
「好きなんだよ、よっちゃんさんのこと、なのにしないよ!
美貴のこと、もっと信じてよ」
そこまで言うと、急に勢いを無くして吉澤の腕からさがっていく美貴の両手、
そして俯いた美貴。
- 265 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:46
-
かわりにゆっくり手をあげてその頬に触れた吉澤の指に
ぽたりとしずくが落ちて、それを合図に吉澤は美貴をぎゅっと抱きしめた。
- 266 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:47
-
「ご、ごめん!
怖かったんだ‥‥‥
こうしてるといつも、離れたくないって思ってさ、そんで、なんか怖くなって、
離れようとしてたのは、あたしのほう。ばかだよ、超ばか。
疑うことなんかなんもなかったのに‥‥‥ほんとに、ほんとにあたし、
言いつのる吉澤の胸元から顔をあげた美貴。
「よっちゃんさん、美貴どこにもいかないよ」
「ミキティ‥‥‥」
- 267 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:50
-
ようやくやさしい視線をかわしたふたりが
惹かれ合うように顔を寄せキスをしたのは当然のこと。
ん‥よっちゃんさ‥‥‥‥‥
‥‥ひさぶりのキス‥‥ダメ‥なんか止まらないよ‥ミキテ‥ィ‥‥‥
そして次第に深くなっていくふたりの行為。
忘れてはいけない。ここは下降するエレベーターの箱のなかである。
いつ誰が乗り込んでくるかわからない。
だかふたりはやっぱりそんなことはすっかり忘れて、
いつのまにか相手のシャツのしたに手を差し込んで背中の素肌に直に触れ、
ぴったりくっついて、今までの空白をうめるようにその感触に溺れていた。
- 268 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:50
-
アヤカの作戦は、大成功を納めた。
- 269 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:51
-
…………………………………
…………………………………
…………………………………
- 270 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:53
-
ちょっとちょっと〜っ!
オイラのこと忘れてない? 忘れてたでしょ!
もーひどいなぁー。
もともとこの話はオイラのモノローグから始まったんだよ?
頼むよもぅ。
- 271 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:54
-
って、今はそれどころじゃないんだよ!
よっすぃ〜とミキティ、もすぐ本番だってのに、楽屋に居ないんだもん!
今何分前? うわぁ〜〜〜〜! もうあと10分しかないじゃん!
ヤッバい! ヤバいよ! ダメだ、探しに行こっ!
モーニングの楽屋を飛び出して、ひとつ隣のあややの楽屋をのぞく。
あれ? 誰もいない、あややもスタジオ入りしちゃったのかな?
トイレ、廊下の隅の自動販売機のコーナー、一通り探したけど見当たらない。
ちょっと〜、このフロアには居ないのかなぁ?
もしかして、1Fのカフェ〜? もうそこしかないもんなぁ。
- 272 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:55
-
エレベーターの▼ボタンを押して、点滅したドアの前に立つと、ゆっくりドアが開いた。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
探してたふたりがそこに居た。
- 273 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:56
-
良かった〜‥‥‥‥‥‥‥‥、じゃなくて! な、何してんだよ!
それっ、それって、キスしてんじゃん!
こんなとこで! しかも‥‥‥‥しかもその手はナンダよおいっ!
こちらを向いてるよっすぃ〜の目がオイラを見て丸くなる。
しまりはじめる扉に、慌ててオイラは自分の左手首を上げてゆび指し、
口パクで“時間、時間!”って合図した。
そんなオイラに目をだけでうなずいたよっすぃ〜。
そして扉の閉まったエレベータはまた下降しはじめた。
いやだってさ、あれじゃましたら、後で怖いじゃん…ミキテ…いやいや、ねぇ(汗
まぁ、これで、だいじょぶかなぁ。
- 274 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:57
-
それにしても、良かったぁ、ふたり仲直りしたんだなぁ
とぼとぼ楽屋に戻りながら頬が勝手にゆるんでくる。
「ヤグチさぁん、なにニヤニヤしてるんですかぁ?」
「な、なんでもないよ、てかオガワおまえ本番前にそんなもん食うなっ!」
「えだってかぼちゃ好きなんですもん!」
ともかく、ふたりはちゃんと楽屋に戻ってきて、平然と本番をこなした。
そのへんはやっぱちゃんとプロなんだよ。
オイラが心配することなかったかもね。
もうハラハラさせんなっつーの!
- 275 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 15:58
-
…………………………………
…………………………………
…………………………………
- 276 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 16:01
-
初夏の木漏れ日が満ちた昼下がりのテラス席、白いクロスのかかった丸テーブル。
「いやぁ、それにしてもこうやって四人いるのってなんか不思議だよね」
カップを皿にもどしながらしみじみと呟く吉澤。
「ほんと、まさか亜弥ちゃんとアヤカさんがねぇ」
そういう美貴の言葉に、顔を見合わせて笑いあうアヤカと亜弥。
そのふたりを微笑んで見守る美貴と吉澤。
不可能とわかっていてもずっとこんな風にしていたいと、それぞれが思っていた。
そんな四人の間を吹き抜けた優しい風は実は天使のため息。
選ばれて、ここにいる、それぞれの居場所。
だからそう簡単には離れられないのだ。 残念ながら…?!
- 277 名前:_ 投稿日:2004/08/26(木) 16:08
-
『それぞれの場所』
with a happy ending …
- 278 名前:彩girl 投稿日:2004/08/26(木) 16:16
-
短編、アップしました。 222 からはじまります。
- 279 名前:彩girl 投稿日:2004/08/26(木) 16:18
- また少し間があくかもしれませんが、
次もこのCPで……
- 280 名前:プリン 投稿日:2004/08/26(木) 20:02
- 更新お疲れ様です♪
やっぱみきよし(・∀・)イイ!w
ヘタレよっちゃんキャワイイですねw(ぇ
次回の更新も待ってます!
- 281 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/01(水) 16:26
- よかった。うまくいって♪
次回もがんばってくださいです。
- 282 名前:彩girl 投稿日:2004/09/13(月) 14:42
- しばらくほんとに間が開いてしまいすいません。
>>プリンさん
レスありがとうございます。
ヘタレよっちゃんは実はツボだったり(w
>>281さん
そう言っていただけて嬉しいです♪
次もがんがります!
今新作こつこつ書いてます。わりと長めなお話になりそうです。
先が見えるところまで書き進んでからうpしようと思います。
なので、もう少し、時間をください。。。
- 283 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/13(月) 15:23
- こちらのスレ好きです。
マターリ頑張ってください。
- 284 名前:プリン 投稿日:2004/09/14(火) 19:32
- いつまでも待ってるんで焦らず頑張ってください♪
(○^〜^)<マイペースマイペース
- 285 名前:彩girl 投稿日:2004/09/26(日) 01:28
- >>283さん >>プリンさん
あたたかいレス、ありがとうございます。
本編はまだなんですが、とりあえず短編をひとつ…
- 286 名前:彩girl 投稿日:2004/09/26(日) 01:29
-
『ふたりのじかん』
- 287 名前:… 投稿日:2004/09/26(日) 01:30
-
「だからぁ、こういうのヤメロって言ってんじゃん」
「なんで?」
久々のオフに美貴の家でまったりしながらこの間の『ハロモニ。in HAWAII』のVを見ていたあたし達。
カーペットにぺたっとあぐらをかいて座ったあたしの肩に、テレビの画面と同じに肩にアゴをのせ片手を前にまわしたこの人に、あたしは断固抗議する。
なのに「あんねぇ」ってムキになって言っても「ん?」て。くそっ、きっとわざとだ。あたしのドキドキ知ってて。思わずゆるみそうになってそれ隠すの大変なんだよ。だからこんな不自然なポーカーフェイスんなってんだかんね、もう。
- 288 名前:_ 投稿日:2004/09/26(日) 01:31
-
画面はつんくさんの7期メンバー募集のコメントに切り替わる。
『メンバーとして求める人材は、エース』
ふと、肩が軽くなって、背中に感じてた体温も遠くなる。
あれっ、振り向くと美貴はあたしとモニタに背を向け膝をかかえて、ちらり見えたその目には見えない炎がメラメラ。そう、あれ悔しかった。でもソロから加入した美貴の気持ちはあたしには“?”、ちゃんとは解ってないかも。
後ろから両手で腰のあたりを抱き寄せて、今度はあたしが肩にアゴをのせて、
「美貴?」小さく名前を呼んでから、なんて言ったらいいんだろうって、
しばし考えこむと、先に美貴が話し始めた。
- 289 名前:_ 投稿日:2004/09/26(日) 01:33
-
「よっちゃんさん、美貴、すっごい悔しいよ」「うん」
「でもさ、つんくさんの言ってることもわかるんだ、だってさ、安倍さんがいなくなって、
辻ちゃんと加護ちゃんがいなくなった娘。ってなんか……、
うまく言えないけど、なんか足んない、そういう事だよね、ね?」
そう言って足下を見ていた視線をふっと上げて、肩のあたしをちらっと見た。
あたしはやっぱり、うんって頷くだけ。だってさ…
「や、わかってる、わかってるんだけどさぁ……くぅぅっ
ってほら、こぶし握りしめて、
くそっ、美貴、ゼッテー負けねぇ、7期に、ダンスも、歌も、キャラも!」
その瞳には、もう強い闘志がみなぎってるから。
そうやって自分の中に生まれたマイナスのエネルギーをプラスにかえちゃう美貴。
やっぱすげー、かっけー。だからあたしはこの子に惚れたんだ。
一緒にいるあたしまで前向きになれんだもん。
- 290 名前:_ 投稿日:2004/09/26(日) 01:34
-
「ねキャラって?」
「決まってんじゃん、カッコかわいいキャラ!」
「うそ、ヤンキーじゃないの」
「ちがーよもう、てかよっちゃんさんもだからね!」
「へ?あ、あたし?」
「あったりまえじゃん、飯田さんと梨華ちゃんが卒業したらナンバー・ツーなんだよ?
わかってんのかな、その辺っ‥‥‥
もう良いよ、もう解ったから。
あたしは止まらなくなりそうな美貴の言葉を、キスで止めた。体ごとくいっと横に向かせて肩に手を回してぎゅってして。
はぁ、なんかさ、こうしてると、シアワセ。
あのね、あたしこう見えてもこういうの美貴よりずっと経験してんだよ。
だから、ダイジョブだって。
「あのさ、大好きだよ、それだけじゃだめ?」
あたしの胸から顔をあげた美貴の顔はなんか真っ赤で、照れ笑いして、マジかあいいなぁ。
こんなん見れんのもあたしだけ、それがうれしっす。
あたしの頬をくいぃと指でつまんで、「ばか、それとこれとは別だよ」って、
そのままふわっと頬にふれて、今度は美貴からキスしてくれた。
- 291 名前:_ 投稿日:2004/09/26(日) 01:34
-
うちらはさ、この手にしたもの、大事にしてこ。
って、ちょっと待てよ、だからさ、
「こういうの、ここだけにして」
「なんで?」
「だから…押さえられなくなるから……」なんて超ハズイ;
だってあん時、くるっと後ろむいて、美貴にチュってしたかったの、がまんすんのタイヘンだったんだって。
「ふふ、知ってたもん」 はは、やっぱりだ。
あたしは床に仰向けに押し倒される。目の前に美貴の潤んだ瞳。あたしの首にチュッってした。
こうやって美貴のくれるもの全部うけとめたいし、もっと欲しい。
だから今日もあたしと美貴はぴったりくっついて朝を迎える。きっと、そう。てか、そうしたいから。
- 292 名前:_ 投稿日:2004/09/26(日) 01:35
- でもね、今度ばっかりはあたしの胸にもちゃんとある。
だれかを前向きにさせられたり、元気にさせられたり、あたしがここにいる事でもらってる勇気、
みんなにつたえたい。
その覚悟、ちゃんとできてるから。 あたしがよっすぃ〜であるために。
エース、切り札、それはあたしだけが見つけられる、あたしだけのもの。
今はなんとなくその手ごたえってのを感じてるから、ゼッテー見つけてみせっから。
この決意を美貴にどう伝えようかって考えてた。そんで出て来たのはこんな簡単。
「ま、見てろよ、な?」
そんでも胸元で顔を上げた美貴がおっきくうんってうなづいてくれたから、
嬉しくなって額をくっつけて笑いあった。
今はこんな風に ゆるゆると過ぎる時間に浸ってたい。
あたしの上にふわっと乗っかった美貴の息が首筋にかかる、その背中をそっと撫でたり、
柔らかい髪に指をからめたり……、こんな風にすんのすごい心地良い。
だからさ、こういうの、ふたりのときだけにしたいんだよ、わかってくれた?
- 293 名前:_ 投稿日:2004/09/26(日) 01:37
-
- fin -
- 294 名前:彩girl 投稿日:2004/09/26(日) 01:39
-
みきよし、甘々(?)、超短編でした…
- 295 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/26(日) 08:34
- おぉー!!更新きてたー!
甘いです!!
- 296 名前:283 投稿日:2004/09/26(日) 20:14
- いいね〜いいね〜みきよしいいね〜
時事ネタを絡ませるあたりがニクイよ作者さんw
長編も楽しみにしております!
- 297 名前:彩ガール 投稿日:2004/10/10(日) 16:54
- >>295さん、283さん
短編にレスありがとうございます。
新作はじめます。
更新ペースはとてもゆっくりかと…
でも完結までがんがります!
アンリアル、学園ものです。
- 298 名前:??K?[?? 投稿日:2004/10/10(日) 16:55
-
『 your song 』
- 299 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 16:55
-
1、中途ハンパなはじまりの季節
- 300 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 16:56
- うららかな朝の住宅街の小道をとぼとぼとあるくグレーのブレザー姿の女子高生。
ポケットに両手を突っ込んでどっか疲れた風がただようのは、彼女が新入生ではないからだろうか。
だからといって髪が金色とかスカートが異様に短いということはなく、着こなしはいたってふつう、
だがブレザーから覗くネクタイのバランスやスカートの丈、ソックスへのさり気ないこだわり、
彼女のスタイルの良さで、だたの制服がかなり様になっているのは確かだ。
それにしても、あたりに他の生徒は見当たらない。
とおりがかりの門の前で掃き掃除をしていた主婦が、その後ろ姿をいぶかしげに見送っていた。
- 301 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 16:57
- 『新入生の皆さんはもちろん、新学年を迎えた皆さんも、
新たな気持ちでこれからの一年、元気に楽しく過ごしてください
それでは、校長先生からのお話です…』
木目の壁と床にかこまれた、暗く古めかしい講堂に、ずらっと並んだブレザー姿は全員女
子である。グレーや紺、スカートもグリーンやエンジ、青が混ざっている。
私立波浪(ハロー)女子学園の始業式もまた、ご多分にもれず退屈で長いだけだった。
赤い緞帳に囲まれたステージ中央にある演台に立つ地味なスーツを着た白髪まじりの男は
この学校の教頭である。
ステージに向かって左、三年の列の後方で、紺のブレザーの背の高い生徒が俯いてあくび
をかみ殺した。ちょうど顔が隠れるくらいの長さのラフにカットされた茶色のストレート
の髪から覗く瞳と白い肌が、横顔でもかなり目を引く。
その姿を時折他の生徒達ががちら
ちらと見てるのを本人はまったく気にとめていない。
首をコキコキいわせて、頭を片手でガシガシすると、ステージに顔を向けた。
- 302 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 17:00
- 一転して明るい春の日ざしが満ちたここはとある教室。
始業式が終わり、今は、新学年最初のホームルームの時間。
教壇に立つ教師がこの後の予定などをはなしている。
窓際のいちばん後ろの席にさっきの色白の背の高い生徒が座っている。
机にひじをついて顎を手のひらにのっけてぼんやり外を見ている。
教室は、中庭に面した三階建ての校舎の三階にあった。その校舎の前の中庭の向こうに校門があるのだが、その校門をぬけてグレーのブレザーを着た生徒がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
“うわぁ初日から遅刻かぁ、カッケ〜、ん?こっちにくるってことは三年? 誰だろ…”
‥‥‥しざわさん、吉澤さん、
つかつかと窓際の席に近付いてきた教師は机をバシッっと叩いた。
「ゴラァ! よ・し・ざ・わ!」
「す、すいませんっ」
立ち上がり頭を下げる生徒はどうやら吉澤という名前らしい。
「この保田のHRをなんだと思ってんのよ、無視してよそ見してんじゃ、ないわよっ!」
教室中の注目を浴びるなか、くどくど小言をいう教師とひたすら頭を下げる吉澤。
その様子を、ひとつおいた隣の列で同じく最後尾席の、茶色の長い髪と同じくらい茶色い瞳をした生徒が、微笑んで見ていた。
- 303 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 17:01
-
一方こちらは別の教室、こっちもまたホームルームの真っ最中だ。
生徒がずらり並んで座った席が一つポツンと空いている。
後ろの扉ががらっと開いて、グレーのブレザーを着た生徒が入ってきた。
「なんや藤本、えらいゆっくりやな、まあええわ、はよそこの席に座り、
あとで職員室な。記念すべき呼び出し第一号や。」
小さく湧く教室内。
「すいません…」
気の強そうな外見とは裏腹のおしおとした態度で、廊下よりの後ろの席につく生徒の名前は藤本というらしい。
その様子をちらちらと見ていた他の生徒達。
視線を感じた藤本がキッと顔をあげると、生徒達は慌てて目をそらしたが、ひとり丸顔の小柄な生徒だけがにこっと笑って手を小さく振ると、それを見た藤本の表情が弛んだ。
- 304 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 17:03
- 「よしこ〜、初日からやるねぇ」
「ごっち〜ん、あーもー情けねぇ…
腕を延ばして机に突っ伏す吉澤。
その前の席の椅子に横座りした茶色い長い髪の生徒のニックネームは、
どうやら“ごっちん”というらしい。
「てかあいつのせいだ」がばっと顔をあげる。
「あいつ?」
「新学期早々いきなり遅刻してきたやつがいてさぁ」
「え、だれそれ」
「知んないけどたぶん三年のだれか…グレーのブレザー着てて、背はまあふつうかな…
あ、顔ちっちゃくてスタイル良かったかも、ごっちん知ってる?」
「う〜ん、もしかして藤本さんかなぁ?」
「藤本…やっぱ知らないやぁ」
「よしこそういうのほんと無関心だもんね、でもけっこう有名人だよ、
よしことおなしくらいモテてそんで同じよーに振りまくってさ、はは」
「そゆう風に言うなってもー」
「だってほんとの事だしぃ、でもよしこよりマシかもよ」
「なんでぇ?」
「藤本さんキッパリ断るらしいから、いっつも良い顔してる誰かさんと違ってぇ、
ほんといつもフォローしてるこっちの身にもなってよね」
「ぅぅ…すいません…」うなだれる吉澤。
- 305 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 17:05
- 「「 よっちゃぁ〜〜ん 」」
開けっ放した教室の後ろの扉から、二人の生徒が手を振っている。
ふたりとも吉澤や“ごっちん”に比べると背も小さいく幼い印象だ。
色白の生徒は、ちょっとウェーブのかかった長い髪を二つにわけて頭の上でまとめていた。
もうひとりは、同じくらい長い髪を頭の上の方で束ねリボンをした健康的な少女だった。
「おー! あいぼん、のの! HR終わったんだ、いいから入って来いよ」
その声ににこにこと入ってきたふたりは、“ごっちん”に挨拶をする。
「こんちは、後藤先輩! 相変わらずカッコいいれすね!」
「ほんまですわぁ、よっちゃんなんかくらべもんにならないくらいビューリフォ〜」
妙なノリのふたりである。
「はははは、嬉しいねぇ、でもいい加減、後藤先輩はやめてよ、ハズイからさ」
そんなふたりに、照れつつも応える“ごっちん”もとい後藤だった。
「よし!じゃあ石川の教室に行ってみっか、ごっちんも一緒に行く?」
「いいねぇ、幼馴染みってやつ?」
「ばっか、今日だけだよ、でどうする?」
「今日はやめとく、でなくてもよしことはまた一年一緒なんだしさ」
「そっか、んじゃ行くか」
机の横に引っ掛けてあったエンジのリュックをとって、迎えにきたふたりと一緒に扉に向かう。
「ごっちん、じゃあまた明日ぁ」「んじゃね〜」
「ほんっと仲良いよ、あの四人は…」
後藤は三人が扉から消えるのを見届けて、窓の外に向けた目を眩しそうに細めた。
- 306 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 17:07
- 「もっさんとまた一緒で良かったぁ」
「美貴もほっとしたよ」
遅刻した藤本に対して唯一あたたかい目を向けた丸顔の生徒が、 HRが終わってすぐ藤本の席にやってきた。
藤本美貴、これが彼女のフルネームだ。
そのふたりを他の生徒は不審な目でチラチラ見てるが、ふたりとも一向に気にしていない。
「あさみちゃん美貴と同じクラスってことは就職希望なんだ」
「うん、だってさ、あたし勉強嫌いだし、それに………」
「ん?」
「同じ年代の子達ってなんか苦手だし」苦笑いするあさみ。
「実は美貴もそう」声を潜めて笑いあう。
「あそうだ、美貴、職員室行かなきゃ、めんどいからそのまま帰えるよ」
「うん、それがいい、じゃあね」あっさり自分の席にもどっていくあさみ。
なんで遅刻したかとか、あれこれ詮索しない、あさみのそういうところが美貴は気に入っていた。
- 307 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 17:09
- ぱんぱんと鈍い音がして、窓の外を白い煙りが風にたなびいていく。
ここは進学クラスのひとつ、3Bの教室だ。
窓辺で黒板消しを手にげほげほとむせる長い黒髪の真面目そうな生徒、その隣に、教室内部に向かって窓枠に寄り掛かり、のんびりと新しい教科書をペラペラめくっている明るい髪色のショートカットの生徒がいる。
「やっぱまたクラス委員は梨華ちゃんだね」
「なんでよぉ、三年でそれはしんどいって言ったの柴ちゃんじゃない」
「でもさ、ほかにいなそうじゃん」
そう言って“柴ちゃん”が見回した教室にはもう数人の生徒しか残っていないが、どの生徒達も思い思いに話したりしてるだけで、梨華のようにクラスの仕事をしいる者はいなかった。
もっとも今日は新学年初日でそれもあたりまえで、梨華はつい今までの癖でやってしまっただけなのだが。
それでも、“柴ちゃん”は、進学希望の優秀な生徒が揃ったこのクラスでも、その顔ぶれを見て、適任者は梨華しかいないと思ったのだった。
「もう、それ困るよぉ」
“柴ちゃん”の横にならんで教室の内部に向き直った梨華は口をアヒルのように尖らせたが、
開け放たれた教室の前の扉を三人の生徒が通り過ぎるのを目にすると、くるっと表情が明るくなる。
「よっちゃ〜ん、あいぼん、のの〜!こっちだよ〜」
呼び止められて、引き返した三人が扉から顔を覗かせた。
「いしかわ〜、新学期そうそうなにやってんだよ」
ずかずかと教室に入ってきた吉澤が梨華の手にある黒板消しを見てすかざず言った。
「なによぉ」梨華はまた口を尖らせたが目は笑っている。
- 308 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 17:11
- 「りがぢゃ〜ん、早くしないと穴子丼うりきれちゃうよ〜!」
そう言って梨華の前でじたばたする色黒の“のの”。
「そうだよ、あれなくなってたら超ショックだから」
梨華のグレーのブレザーの制服の袖を掴んで揺する色白の“あいぼん”。
「辻ちゃん加護ちゃん、また同じクラスなの?」
手にしてた教科書を側の机に置いて柴ちゃんがふたりに聞いた。
「そうなんですよ、柴田先輩、また同じなんですよぉ〜」
「なんやのの、不満なんか、あ゛〜?」
“あいぼん”こと加護が、“のの”こと辻のグレーのブレザーの襟、いわゆる胸ぐらを掴み上げる。
「不満じゃ! 家も隣、ガッコのクラスも一緒でどぅすんだよ、え゛〜!」
辻も同じように加護の紺のブレザー胸ぐらを掴み上げた。
そのふたりを前に、やめなよぉ、とおろおろする梨華。
額をくっつけてゴリゴリ言わせてる二人の頭のてっぺんに、吉澤が順番にゴツゴツと拳固を見舞う。
「やめろ、そんなことしてっと、マジ売り切れっぞ、穴子丼」
「「 そうだ〜よ 」」、とたんに手を放し情けない顔でお互いを指差す辻と加護。
ほっと胸をなで下ろす梨華。
その様子を見ていた柴田は、腕組みをしてうんうんうなづいて、
「ほんと絶妙の役割分担よねぇ、まさに頑固一徹一家だわ」
感心しきりである。
- 309 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 17:12
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
- 310 名前:1 投稿日:2004/10/10(日) 17:12
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
- 311 名前:彩ガール 投稿日:2004/10/10(日) 17:16
-
更新、ここまで、です。
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 19:16
- 更新キテタ−!!!
いいですねぇー…続き待ってます。
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/11(月) 00:13
- 更新お疲れ様です。
4期は良いですね。
面白そうなんで頑張ってください。
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/12(火) 01:07
- おぉ!新作始まりましたね。
これはまた面白そうな設定&人物てんこもりでw
四期はほのぼのしていてイイですね〜。
- 315 名前:彩girl 投稿日:2004/10/17(日) 20:28
-
>>312さん、313さん、314さん
早速のレスありがとうございます。
マターリ更新ですが、今後ともよろしくです。
ヨンキーズ フォー エバー!
では更新を……
- 316 名前:1 投稿日:2004/10/17(日) 20:31
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 317 名前:1 投稿日:2004/10/17(日) 20:32
- 薄暗いマンションの廊下を歩きながら鞄からカギをとりだした美貴。
ガチャっとドアが開いた室内は、暗く、人の気配がない。
内カギを閉め近くの電気のスイッチをパチンと入れる。
玄関を入ってすぐのリビングダイニング、その先の和室、
移動しながら順番に明かりをつけていくと、 家全体が生気をとりもどすような気がして、
美貴はいつも帰ると、昼でも夜でも、家中の明かりをつけた。
玄関を入ってすぐの自室に鞄とブレザーを置いてリビングにもどると、
点滅している留守電のボタンを押した。
『♪pii− 美貴ちゃん、ママ今日も遅くなりそうだから先に食事すませてね、
ひとりだからって、適当にしないでちゃんと食べるのよ、
そうそう、今朝は忘れ物届けてくれてありがとう、じゃあね』
「ったく、いつもの事なのにいちいちかけてくんなって」
悪態をついた美貴だが、冷蔵庫の母の用意した食材をつかってバランスの良い食事をとったのも、
いつもの事だった。
- 318 名前:1 投稿日:2004/10/17(日) 20:33
- 「ふぅ〜、すげーまんぷくぅ〜」歩きながら満足げにお腹をさする辻。
「ほんまや〜」同じく幸せそうに目を細める加護。
「おまえら、石川の分まで食い過ぎなんだよ」
「いいの、あそこの多いんだもん、のの達に手伝ってもらって丁度いいんだよ」
四人並んであるく昼下がりの商店街は、買い物客を中心にそれなりに賑わっていた。
昔ながらの八百屋や魚屋などが建ち並び、どこか庶民的な雰囲気だ。
ひときわ賑やかな界隈を抜けるとその先には大きな古いお寺がある。
一件の和菓子屋の前で立ち止まる四人。
「うち寄ってく?」 吉澤が他の三人に訪ねた。
『和菓子処 よしざわ』、流暢な毛筆で書かれた古びた大きな看板のある、
純和風な構えのこの店が吉澤の家である。
どうする?っと言う感じで顔を見合わせる辻と加護をよそに、
「今日はやめとくよ」数人の客で込み合う店を気づかって梨華が言った。
そんな大人な態度に「別に、遠慮することないのにさ…」と薄く笑って俯く吉澤。
「んじゃあな〜」店先で手を振る吉澤に、
「「「 ばいば〜〜い! 」」」三人もまた笑顔で手を振った。
- 319 名前:1 投稿日:2004/10/17(日) 20:34
- お寺の手前をまがり細い路地を入った最初の十字路の角が梨華の家だ。
「りかちゃん、バイバイ」「じゃあね、りかっち」
「じゃあね、明日からもちゃんと行ってよ」
「もう、いつまでもそうやってこども扱いしないでよ」辻が口を尖らす。
「そんなこと言って、今朝もうちに起こされたんはどこの誰やったかな〜」
加護がその頬をツンツンする。
「うるさいなっ!」「ほんとのことじゃん」「だからなんなんだよ!」「あ、ぶった!」
梨華のまわりで叩いたり袖を掴んだりしながら、またもぐるぐる小競り合いをはじめるふたり。
「もう、ひとんちの前でやめてよぉ」おろおろする梨華。
なのになんだかその光景にはとがったところがなく、どこか微笑ましい。
彼女らはそうする事でお互いの関係を確かめていた。小さな頃と変わらないのだと。
新学期最初の日は必ず四人で学校に行って、帰りも一緒に帰ってくるという習わしは、
辻と加護が小学校に入った時からずっと続いてる。
もちろん、それ以外のときもよく四人で遊んだり互いの家を行き来していたのだが、
それぞれがそれぞれの世界を持つようになった今では、そんな機会も少なくなっていた。
- 320 名前:1 投稿日:2004/10/17(日) 20:35
- “亜弥ちゃん元気? 美貴いきなり遅刻して、初日から呼び出されて超ウツ。
そっち校庭のさくらどお?”
食事のあと、リビングのソファに寝転んで、美貴は離れてしまった友達にメールした。
前の学校には高二の夏休み前まで通った。
その時も友達はそれ程多くなかったが、近所に住む松浦亜弥とは、学年はひとつ違いだったがすごく仲良くなった。というか、初めは亜弥の方からやたら懐いて来たのだ。
亜弥が美貴と同じ中学校に入ってすぐの事だった。
亜弥は自分が拒否されることなどこれぽっちも考えず、ただただ美貴のあとをついてまわっていた。
だからこそ、美貴は亜弥を受け入れ、素直にかわいい奴と思い、亜弥の事を大事するようになったのだ。
美貴の態度が溶けるごとに、呼び名が変わったのも面白かった。
“藤本先輩”“美貴ちゃん”“みきたん”、そして最後にはただの“たん”。
そうしていつの間にか、美貴の心の隙間を無理矢理見つけて住みついた亜弥。
そこは、美貴が、望んでも手に入らないと思って一度はカギをかけてしまった部屋。
でも気付くと今では美貴にとって一番あったかい場所になっていた。
- 321 名前:1 投稿日:2004/10/17(日) 20:36
-
携帯が鳴った。亜弥からの返メールだ。
“たん!いきなり遅刻?!さすが♪
新クラスまたコンちゃんもマコっちゃんと一緒。すごくほっとしたよ。
校庭の桜はまだまだかな、たんのガッコのほうが早いよね”
“そっか、まだ寒い?‥‥
そこまで返事を書いたメールをやめて、美貴は亜弥に電話する事にした。
呼び出し音が鳴るとすぐに亜弥が出た。
- 322 名前:1 投稿日:2004/10/17(日) 20:37
-
『たん!なんかね送ってから掛かって来ないかな〜って思ってたら
ホント掛かって来てビックリした』 嬉しさのにじんだ亜弥の声に、
『そんなの、グウゼンだよ』 とそっけなく言ってしまうのはいつもの事。
『だから嬉しいの! もう、わかってないなぁ…
そうだ、桜、思い出しちゃった?』
『うん、なんとなくね、四月だし』
『新しいクラスどう?』
『まあ相変わらずだよ、
あ、でもね、またあさみちゃんと一緒でちょっとほっとした』
『そっか〜良かったね〜
落ち着いたらまたいっぱい告られちゃうのかな?新入生とかに…』
『いやぁ、もういい加減ないと思うよ、美貴冷たいもん』
『ちがうよ、みきたんは優しいんだよ』
『ばか、そういうのキモイよ』亜弥だから許せるセリフだが、やっぱりちょっと照れくさい。
『亜弥パパは元気?』
『うん、帰りは相変わらず遅いけどね、まあ元気みたい、美貴ママは?』
『元気元気!しかもちょっと太ったよ』
『あのさ…前言ってたじゃん、あたしのパパとたんのママが結婚したら
ほんとの姉妹になれるのにねって』
『うん』
『あれほんとにそうなったら良かったのにな…』
『そうだね……』
ふたりを引き合わせて色々頑張ったが、美貴達の思いは叶わなかった。
そうこうするうち美貴ママの仕事の都合で転校が決まって、亜弥とは遠く離れてしまった。
あんなに毎日一緒にいたのに、寂しくないわけない、それは亜弥ちゃんもきっと一緒なんだ…
『あのさ、また夏休み一緒に遊ぼ、美貴がんばってバイトするからさ』
『たん…』
『ね?』
『……………、』
『あ、亜弥ちゃん?』
『たん、アリガト』
『うん…』
- 323 名前:1 投稿日:2004/10/17(日) 20:39
-
- 324 名前:1 投稿日:2004/10/17(日) 20:39
-
- 325 名前:彩girl 投稿日:2004/10/17(日) 20:43
-
ちょっと少ないですが、更新しました。
- 326 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:29
-
新学期がはじまって少しするとようやく波浪学園の校庭の桜も満開になった。
♪ さくら さくら fu fu fu fu fu fu 〜
「へぇ〜、なかなかなもんやな」
校舎の端にある非常階段でのんびり桜を眺めてるうち、ふと口ずさんでいたのを聞かれてしまったらしい。
「中澤先生…」
「や、じゃまするつもりやなかったんやんか、先生もな、この時期ここ通りたくなるねん、
たまたまやん、たまたま」
「いいですよ、別にここ私だけの場所じゃないですから」
階段の手すりにもたれてた美貴はそう言って微笑んだ。
「ふ〜ん」 感心したように呟く中澤。
「なんですか?」
「藤本もそんな風に笑うんやな、先生安心したわ、んじゃ、邪魔者は消えるな」
美貴の後ろを通って階段をおりていく中澤。
ひとりになると美貴はまた校庭の桜に目をもどした。
- 327 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:30
-
しばらくすると、下の踊り場に通じるドアが開く音がして、つかつかと足音が聞こえた。
「あ、あの、すいません、呼び出したりして…」
「良いよ、で、何? 話って?」
「は、はい………」
「ん?」
なんだか聞いちゃいけないような気がして、美貴は校舎のなかに戻ろうと体の向きを変えたが、
次に聞こえた言葉につい足をとめた。
「吉澤先輩、今つきあってる人とかいるんですか?」
「いない」
「じゃあ、好きな人とか…」
「いないよ」
「そうですか、そしたら、あの、良かったら私と…ていうか
すぐに好きになってとかじゃなくて、あ…の…えっと………
自分以外の告白シーンに遭遇するのはめったにあることではない。
しかも階下の“吉澤先輩”は美貴でも噂に聞いたことのある有名人だ。
美貴は“吉澤先輩”がどう応えるのか気になって、そのまま再び手すりに寄り掛かった。
「友だちで良い?」
「先輩…」
「あたしあなたの事よく知らないっていうか、ほとんど初対面じゃん?
だからとりあえず友だちになろう、ね?」
「はい!ありがとう…ござ…い…ます……(グスッ)」
「あ、もう泣かないでよ、よしよし」
“吉澤先輩”は頭でもなでてるんだろうか。
美貴はなんだが無性にムカついて、校舎に入る扉に手をかけると、ガラッバシッ、
わざと音をたてて校舎の中に入った。
- 328 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:31
-
階下でその音にハッと頭上を見上げる吉澤ともう一人の女生徒。
吉澤は一瞬眉をひそめるが、すぐに目の前の女生徒に顔を向けると、
「大丈夫、あたしの名前しか言ってないでしょ? さ、教室もどろ」
そう言って微笑んだ。
- 329 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:31
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 330 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:32
-
瀟洒な一軒家やマンションが立ち並ぶ静かな都心の住宅街の早朝の舗道は人気がなく、
塀の隙間から出てきた野良猫がのんびり道を横切るくらいだ。
そんな舗道をジーンズにスカジャンという私服姿の吉澤が歩いてくる。
白いタイルばりのマンションのエントランスから中に入ると、
なれた様子でエレベータに乗って4階のフロアで降り、
ひとつのドアの前にたちどまるとインターフォンを押した。
♪ピンポーン
“はーい”
“おはようございま〜す、吉澤で〜す”
カチャっとドアが開いて吉澤よりかなり背の小さい女性が顔を出す。
「おっはよう! 今日もよろしくね!」
「矢口先輩、荷物これすか?」
「うん、えっと、これとこれ、スタジオ近くなんだけどすぐ出るからね」
数種類のイメージの異なる花束がいくつか入ったのと、布や竹カゴなどこまごました雑貨類がいっぱい入ったの、大きな紙袋ふたつをトランクに入れると、吉澤は矢口に続いてタクシーに乗り込んだ。
「先輩、今日はなんの撮影なんですか?」
「ん?今日はね、雑誌のシルバーアクセサリー特集のページのなんだ。
だから布とか小物が多くてさ、スタイリングちょっと大変そうだから
よっすぃ〜にバイトお願いしたってわけ」
- 331 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:32
-
スタジオに入ると、スタイリストの矢口はテキパキと吉澤に指示を出す。
言われるままに布にアイロンをあてたり、花束を解いてバケツにはった水につけたり、
アシスタントのバイトをして大分たつので、吉澤の動きもスムーズだ。
ポラをチェックしてカメラマンや編集者と相談し、小物をかえたり、位置や角度をずらしてひとつひとつのカットをこなしていく矢口。
仕上がったポラを見くらベるとその違いは素人の吉澤にもはっきり解った。
ほんのちょっとしたことで、主役であるシルバーアクセがぱっと魅力的に見えるから不思議だ。
矢口先輩って高校の時からセンス良かったけど、それをちゃんと自分の仕事に活かしててすごいよな…
矢口の技を、カメラの後方で見ながら思う吉澤だった。
- 332 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:33
-
「「お疲れ〜」」
撮影が無事終わって、ふたりは 居酒屋に食事をしに来ていた。
矢口はビールのジョッキで吉澤はコーラで乾杯をする。
「ふぅ〜、仕事の後の生ビーはサイコーだよ」
「なんかおやじくさいっすね、それ」
「よっすぃ〜も大人になれば解るって、この幸せな瞬間がさ」
そういってまたニコニコとジョッキをあおる矢口。
「てかさ、三年になったんでしょ? 進路どうすんの?」
「それが…なんていうか…悩んでるっていうか、正直どうしたら良いか解らないんですよね、
矢口先輩みたいに得意なこととか特にないし……」
「でも絵とか写真とか好きだった言ってたじゃん」
「はい、だからそういう学校行こうと思ったんですけど、それもすげーいっぱいあって、
よけいわかんなくなっちゃったっていうかなんていうか…」
照れくさそうに目を伏せコクっとコーラを飲んだ。
「ははは、よっすぃ〜らしいなぁ、そういうとこ」
グラスを置いて遠い目をする矢口。
「でもさ、またあの時みたいにしちゃダメだよ、
よっすぃ〜どうして良いかわかんないと、一番楽な道選んじゃうんだもん」
“あん時”とは、吉澤が中学から続けていたバレーをあっさりやめてしまった時のことを言っているのだ。
- 333 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:34
-
“ ハローガクエン 1A ヨシザワヒトミ ハ インシュ・キツエン ノ ジョウシュウシャ ”
そう書かれた手紙と共に精巧に作られた証拠写真が、波浪学園バレー部顧問のもとに送られてきたのは、吉澤がバレー部に入って間もなくの事だった。矢口はマネージャーとして部に所属していた。
折しも三年生部員最後の大会が迫った時期だったので、事が外部にもれると、連帯責任で、その大会の出場も危うくなる。
密告は事実ではなかったがそれを証明するには時間がなさ過ぎた。
それを知った吉澤は自分で退部届けを提出し、さっさとやめてしまったのだ。
体格もエースアタッカーとしての才能も学校の中ではずば抜けていたから、顧問も先輩達も必死で引き止めたのだが、吉澤の気持ちは変わらなかった。
- 334 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:35
-
「あん時は、ああするしかなかったんですよ」
「そうだよね、矢口もね、よっすぃ〜が無理して意地張んないで良かったって、
正直、ほっとしたんだ。
でもさ、騒ぎが納まってからも、なんで部にもどんなかったの?
戻りたいって言ってたのにさ」
「また…迷惑かけるのが嫌だったんです」
吉澤の学校に手紙を送りつけたのは、吉澤が中学時代に振った他校の生徒だった。
それから吉澤は告られても乱暴に断れなくなってしまった。
自分が悪く思われるだけでなく、周りにまで迷惑をかけるのが怖いのだ。
「でもね、いつもそうやってて、自分の事、見失っちゃだめだよ、
自分がどうしたいか、何が欲しいのか、何がイチバン大事なのか………ね?」
「自分が、どう、したいか……」
- 335 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:36
-
夜空の下、白い街灯に照らされたシャッターの降りた店の立ち並んだ商店街を歩く吉澤の影に
別の影が近付いた。
「よっちゃん、今帰り?」
聞き覚えのある高い声に立ち止まって振り向くと、梨華だった。
当たり前のように、並んで歩き始めるふたり。
「梨華ちゃんこそ、こんな時間にどうしたの?」
「予備校だよ、もう三年なんだよ? 私たち」
「ちぇっ、そんなん知ってるよ…」
なんで同い年なのに梨華はおねえさんぶるんだよ…
いつもと同じそんな態度に、今日はなぜかカチンと来て、吉澤はプイっと横を向いた。
梨華はそんな様子にもお構いなしに話しづつける。
「よっちゃん…あせる事ないと思うよ、
私もそうだけど、みんな案外テキトーに決めてるんだから」
「うん…」
『和菓子処 よしざわ』の前にさしかかって立ち止まるふたり。だが吉澤は家に入ろうとしない。
「送ってく」そう言って梨華の家に向かって歩きはじめた。
「待ってよ」後ろ姿を慌てて追い掛ける梨華。
吉澤の背中越しに、ありがとう、という小さな声が聞こえた。
- 336 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:37
-
部屋に戻ってきた梨華は、持ってたトートバックを机の横のベットに置くと、
窓辺の机の前の椅子に座った。
参考書、問題集がずらっと並んだとなりに、四人の女の子が写った写真の入った小さなフォトフレームがある。
両端に梨華と吉澤、まん中に辻と加護。背景は緑の木々、四人とも満面の笑顔、そして今よりだいぶ幼い。
梨華はディスクライトをパチッとつけて頬杖を突くと、その写真にひと指し指でちょんと触った。
「この頃は良かったなぁ」
写真は梨華と吉澤が14才、辻と加護が12才の夏、四家族で行ったキャンプの時のものだった。
- 337 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:37
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 338 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:38
-
「花火するぜぃ〜!」
「わーい!!」
「あ、あいぼん!ののも今行くのれす、んぐっ」
「のの、すいか食べてからにしなよ」
石のごろごろした河原にならんで水の流れにむかって花火をする四人の顔を、色とりどりの炎がくるくると照らしだす。
ふと、涼しい川風が吹いて、ずっと夏だと思ってた梨華はなんだか急に切なくなった。
横を向くとそこには今まで見た事のない大人びた表情をした吉澤がいて、胸のまん中がきゅんとして、
梨華は慌てて消えかかった自分の花火に目を向けた。
「あーあ、消えちゃったね、これ、あげるよ」
吉澤はまだ火の残った自分の花火と梨華のをとりかえて、新しい花火にまた火をつけた。
「うぉ〜〜!青い炎だぜっ!かっけ〜っ!」
「あぁ、いいなぁ、ののもそれがいぃ〜」
「うりゃ〜〜〜!」 「「 わ〜〜〜い 」」
火の着いた花火をぐるぐるまわして河原の水際を走り出す吉澤につづいて、辻も加護も駆け出した。
「待ってよ〜」 遅れて梨華も追い掛けた。
静かな夜の川辺に水のばしゃばしゃいう音と四人の声が響くと、梢にいた鳥が驚いて飛び立った。
ひとしきり騒いで、最後の花火を吉澤が取り上げた。ひと束の線香花火。
さっきまであんなにはしゃいでた辻と加護はそれを見て急に押し黙ってしまった。
「これは、来年の夏まで、とっとこうな…」 これは約束ではないけれど、
「「 うん 」」元気よくうなずいたふたりは笑顔だった。
梨華はその様子を複雑な気持ちで見ていた。
- 339 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:39
-
「よっちゃん?」
「ん? 寝れないの?」
「うん…」
四人のために張られたのテント中で、辻と加護のちっちゃいふたりは大きめのシェラフに一緒に潜りぐっすり眠っている。その両脇に梨華と吉澤がそれぞれ横になっていた。
「ほんとに…来年もまた、四人で花火、できるかな…」
ガサゴソいう音がして、吉澤が横向きに梨華の方を向いて片ひじをついた。
「…ぁのさ…梨華ちゃん、来年ていぅかさ…いつも、ずっとは、たぶん…いらんないだろうけどさ…
みんなそれぞれ…あるじゃん……きっと…いろいろ」
「うん」
「でもさ…うちらは大丈夫だよ、きっと…んか、うまく言えないけど……」
「うん……」
「…ぜってー、バラバラになる事ないっていうかさ、それ、あたし、信じてるっつーか……
うん、もう信じちゃってる、間違いないよ」
「ぅっ…、ぅん」
テントの外から聞こえる水音にまじって梨華のぐすぐすいうのがテントの中に小さく響く。
ばさっ、吉澤の投げたタオルが仰向けの梨華の顔に命中した。
「泣き虫、シェラフで鼻水ふくなよ」
「っく(ぐすっ)なによぉ」(ぐすっ)(ぐすっ)
また四人でいろいろやろう、花火もキャンプも、いろんな事………ね
- 340 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:40
-
いつの間にか机に伏せて眠っている梨華。
眉を潜め閉じたまぶたの端から、すっとひと粒、雫が頬をつたって手のこうに落ちた。
あの時の線香花火は、今も吉澤がちゃんと持っているばずだ。
- 341 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:41
- 帰ってきたまま、服も着替えずに吉澤は自分のベットにゴロっと寝ころがって、
天井の木目を見つめ、矢口の言葉を思い出していた。
あたし…“どうしたらいいか”じゃなくて“どうしたいか”が、解んねんだ……
どう、したいか、あたしは、どう、したいのか……………
そう思うと今はまってる迷路の出口は前よりもずっと近い気がした。
- 342 名前:2 投稿日:2004/10/23(土) 18:42
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 343 名前:彩girl 投稿日:2004/10/23(土) 18:44
-
更新しました。
途中で地震が(w;
- 344 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 20:56
- そちらの地方にお住まいです。大丈夫ですかね?
くれぐれも気をつけて下さい。
更新乙です。
- 345 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 20:58
- すんません、そちらの地方にお住まいですか?
と訊ねたかったのですが間違えました。
- 346 名前:彩girl 投稿日:2004/10/31(日) 17:22
-
>>344さん
全然無事です(w
ご心配おかけしてすいません & レス、ありがとうございます。
更新します。なんかメル欄が見えないので、sageられないんですが…
- 347 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:23
-
「それでは、最初に専門学校案内編集部の山田さんから専門学校について、
次にハローワークの佐藤さんから就職の状況について、御説明いだだきます。
質問もあとでまとめて受けますので、聞きたい事がある人はきちんとメモをとっておくこと。
では、今日の資料を配るので右の列から順番にとりに来てください。」
ガタガタと席を立つ生徒達。資料の置かれた机の前に一列に並ぶ。
普通の教室より広めのここは、ふだんは映像学習やちょっとした講議が行われる階段状に作り付けの椅子と机が設置された視聴覚教室、進路説明会の会場である。
「よしこ〜、後藤の分も取って」
「おけー、はいごっちん」後ろに並んでた後藤に資料の入った袋を渡した。
「吉澤さん、私のも取って!」「私も!」「私のも!」
あっという間に便乗組の列が吉澤の前にでき、
なぜが吉澤は資料を渡す役をすることになってしまった。
列の後方に並んでいたあさみが後ろの美貴にそっと話しかけた。
「あれが噂の吉澤先輩なんだ、もっさん知ってた?」
「まあね、てかさ、あれなんなの?」 妙に愛想よく生徒達に資料を渡していく吉澤を顎で指し示す。
「ふふ、もっさんとは正反対って事だよ」 あさみがいたずらっぽく笑った。
「はい」吉澤があさみに資料を渡した。「どうも」と一応笑顔で受け取るあさみ。
そして次の美貴にも「はい」と渡す。美貴が受け取ってさっさ行こうとすると、
「藤本さんありがとうくらい言ったら?」 となぜか後ろにならんだ生徒が抗議した。
美貴は表情を変えずに、その生徒ではなく吉澤をちらっと見た。
その視線に次の袋を手にしたまま、ピキッと固まった吉澤は内心震え上がる。
…ふ、ふじもと…さん? てか、こ、こえ〜
それはほんの一瞬の事。美貴は何もなかったように平然と自分の席にもどっていった。
気をとりなおして再び資料を配りはじめた吉澤だが、何故かその動作はそれまでよりも機敏に事務的になり、資料は予定よりだいぶ早く生徒達に行き渡った。
- 348 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:24
-
やっぱあん時のコ、藤本さんだったんだ…
席にもどった吉澤は自分の数列前に藤本の後ろ姿を見つけ、ついちらちらと見ていた。
その様子に気がついた隣の後藤が小さな声で話しかけた。
「初対決はよしこの完敗だね」
「てかあたしなんかと全然ちがうとこ歩いてる感じじゃん?」
「うーん、案外そーでもないかもよ」
「そうかな?」
「あ?もしかして気になっちゃった」 からかい気味にひじでわきを突く後藤。
「ば、ばか、んなわけないじゃん」 吉澤の色白の頬がぽっと赤くなる。
「ははは」
楽しそうに笑いながら、もらった資料をぱらぱらとめくりはじめる後藤を見て、
吉澤も机の資料に目を落とし講師の説明に集中した。
- 349 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:25
-
「もっさん、やるじゃん」顔を前に向けたまま、あさみは隣の美貴に小声で話し掛けた。
「え?なに?」美貴はなんの事かと、素直に聞き返した。
「だってさっき、あの吉澤さんにガンとばしたでしょ?
普通さ、思わず見とれちゃうとかじゃん、あの人の場合、なのにさ、キッとかって」
「別に睨んだわけじゃないよ」
「はは、そっか、でも吉澤さんなんかびびってたよね」
「まじ? 美貴ふつうにちゃんと見たかっただけなんだけどな…」 思わず頭を抱える。
確かに自分の真顔がみんなにそう思われているのは知っていた。
それを利用して嫌な視線をさける事もある。でも意味なく怖がらせる気はさらさらないなのだ。
「で、どう? 第一印象」
「うん、まあ確かに見た目かなりイケてるよね…でもさ……」
「でも?」
「…ま、いいんじゃん、 美貴にはカンケーないし」
「そりゃそーだ」
気がすんだのか、資料を手に教壇にあがった講師の説明に耳をかたむけはじめるあさみ。
あいつきっと究極のええかっこしいだよ…
これが美貴の吉澤に対する胸に秘めた第一印象だった。
- 350 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:26
-
進路説明会を終えて帰ろうと校門を出た美貴を見知らぬ制服を着た男子が呼び止めた。
手にした小さな封筒を見て美貴は心の中で舌打ちをする。
最近は美貴の評判を聞いてかこういう事がぱったりなくなって、ほっとしていたのに。
「なに?」
不機嫌さのにじむその声と、美貴の強い視線に男子高校生は一瞬たじろいだが、
その手の封筒を差し出した。
「ぼく○×高校二年の鈴木と言います。これ、読んでください」
「や、悪いけど受け取れないから、読む気ないしさ」
- 351 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:26
- 「あれ、藤本さんじゃない?」
同じく進路説明会を終えた後藤と吉澤が校舎を出て中庭に差し掛かったところで、
後藤が前方の門を出たところに見えるふたりの人陰を見つけた。
グレーのブレザー姿の藤本がすくっと立つそのまえに封筒をかかげた男子高校生が立っている。
ふたり歩速を落としてその様子を伺いながら、
「あれってラブレターかな?」
「かなぁ…」
「どうしよう、なんかあっち行けないね」
「う、うん」
中庭の植え込みのところで立ち止まる。
- 352 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:27
-
「そ、そんな…」
美貴に冷たく言われて俯く男子高校生。お決まりの反応に美貴はうんざりする。
いつもそうだ。勝手に思いを抱いて、告ってきて、
美貴が拒否るとまるで自分が被害者のような顔をする。
最初の頃は美貴もそれで気まずい気分になったりしたが、だんだんそれがすごく理不尽に思えて、
そのうち相手の気持ちなどどうでも良くなったのだ。
ウザイ、ほんとウザイ、こういうの…
くるっと背を向けて歩き出そうとした美貴の二の腕が誰かにぎゅっと掴まれた。
「待ってよ、手紙うけとるくらい良いじゃん」
- 353 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:27
-
意外にも、美貴の腕を掴んで止めたのは吉澤だった。
振り向いた美貴を大きな瞳が強くまっすぐ見ていた。
「離してよ、あなたにはカンケーないじゃん」 美貴はその手を振りほどいた。
「そりゃそうだけど…」
「だいたいその気もないのに誰にでも良い顔して、そっちの方がおかしいよ」
「うっ…なにそれ」
「『もう泣かないでよ、よしよし』とか、キモイんだよ!」
「え?………したらあんとき上にいたの…」
「そんなんどうでもいい、吉澤先輩は吉澤先輩、美貴は美貴、そんだけだよ」
ずばり言われて凹んだ吉澤を残して、美貴はさっさとその場を去っていく。
あっと言う間に遠くなるその後姿をしばらく呆然と見送っていた吉澤と後藤。
男子高校生はいつの間にかいなくなっていた。
- 354 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:28
-
「ごっち〜ん」 吉澤は傍らの後藤に泣きついた。
「らしくないことするからだよ」
右肩に身をかがめてすがりつく吉澤の頭をよしよしと撫でながらも後藤は不思議に思っていた。
「てかさ、なんであんなおせっかいしたの?」
「う〜ん…わかんね、なんか勝手に動いてた」
「なにそれ」
まさかここまでダメージを受けるとはさすがに思っていなかったが、
あんな場面で関係ない自分が割り込めばいいことないって解っていた。
なのになんで…
ほんとに吉澤にも解らなかったのだ。
- 355 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:29
-
ったくなんだよ、美貴がちょっと言ったらあんな凹んだ顔しちゃってさ…
ワケわかんないよ、アイツ…
学校の最寄り駅に着いて改札をぬけ、ホームに降り立った美貴。
帰り道、ずっとイライラしていたのは、さっきのしゅんとした吉澤の顔を思い出すと、
腹立たしいのとは程遠い気持ちになるからだった。
両手をポケットに突っ込んで柱に寄りかかり、
美貴は隣のホームの屋根の向こうに見える空を見上げた。
- 356 名前:2 投稿日:2004/10/31(日) 17:30
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 357 名前:彩girl 投稿日:2004/10/31(日) 17:31
-
今日はこんなところで…
- 358 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 13:01
- おぉ〜二人がお互いを意識?し始めたのかな
イライラモードのミキティとビビリよっちゃんいいですね〜
これからの展開に期待大です!頑張ってください。
- 359 名前:彩girl 投稿日:2004/11/13(土) 17:20
-
>>358さん
レスありがとうございます。がんばりますYO!
では更新します
- 360 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:21
-
乗客もまばらな列車のボックスシート、
進行方向を向いて座った男は、窓枠に腕をのせ窓の外を見ていた。
暗闇の中を、時折街灯と民家の明かりが行き過ぎていく。
それも極まれである。 それ以外はただの真っ暗闇だ。
隈に縁取られたその目には、疲労の色が濃いが、瞳だけはギラギラしていた。
- 361 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:22
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 362 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:23
-
亜弥はリビングの三人掛けのソファにうつ伏せになり、雑誌をペラペラめくっていた。
つけっぱなしのテレビからは、煌々とした光と音が流れている。
♪ピンポーン
玄関で鳴った音に、はっと顔をあげて、笑顔で立ち上がり、インターフォンの受話器を取り上げた。
『はい』 『パパだよ』
ドアをあけニコニコと出迎える亜弥。
「おかえり、今日、泊まりじゃなかったんだ」
「ああ、部長に誘われたんだけど、断ったよ」
「ひさぶりの東京はどうだった?」
スーツのジャケットとブリーフケースを受け取りながらネクタイを緩める父親に聞いた。
「疲れたよ…」 どさっとソファに腰をおろすと深々とため息をついた。
「パパ…」 疲れ切ったその様子に亜弥は言葉をなくした。
本社からこっちの支店に転勤になり、月に一度は東京に出張していたが、
こんな様子は初めてだった。
不安を打ち消すように亜弥は明るく話し掛けた。
「パパ、今日ね、学校でさ… 「亜弥」
低く強く、言葉を押さえ込まれる。
「話はまた今度聞くから、ひとりにしてくれないか」
「わかった…おやすみなさい」
いつもなら、しつこくまとわりつく亜弥だったが、それ以上言えなかった。
自分の部屋に入ってから、亜弥はすぐ美貴にメールした。
“みきたん、パパがなんか心配だよ、どうしよう”
“仕事でなんかあったかな? でも亜弥ちゃんまで落ちてたらだめじゃん!
あした亜弥パパの好きなご飯とかつくってあげたら?それで立ち直っちゃうかもよ”
“そっか、そうだよね、それ明日やってみる、たん、ありがと”
パタっとフリップを閉じてベットに仰向けになると、携帯を胸に押し抱いた。
みきたんがいて良かった…
- 363 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:24
-
亜弥にメールを送ってから、どさっとベットに寝そべって、
美貴は母と別れる前の自分の父親の事を思い出していた。
- 364 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:25
-
ダイニングから聞こえたすざまじい音に、リビングでテレビを見ていた美貴達が駆けつけると、
父が母の髪を掴んでひきずり廻していた。
「ふざけんな!誰のおかげでこの家買えたと思ってんだ!」
「やめて!パパ!やめてよ!」 「パパっ!」
父の手を掴んで、必死で訴える幼い美貴ともう一人の少女。
だが父には今はただ憎しみの対象でしかない母の姿しか目に入っていなかった。
「ばかにすんな!お、おれをばかにすんな!」
暴れる父に弾きとばされ、壁にぶつかりへたり込む美貴。
「大丈夫?」 「おねえちゃん…」
痛む腕をさすりながら、怯えた目をあげると、母を解放した父は、
定位置から大きくずれてまがったままのテーブルで濃い酒をあおっていた。
傍らの、ぼさぼさに乱れた髪をした母がその父に向けていた醒めた目を、
美貴は今でもはっきり覚えていた。美貴が6才、姉のなつみが10才の時の事だった。
- 365 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:26
-
会社の経営が傾きだしてから、父の余裕がなくなっていたのを、美貴も幼いなりに感じていた。
もともと家にいることは少なかったが、休日は一緒に散歩したり、家族で買い物に行ったり、
それまではふつうの家族ってやつだったのに、次第に父の笑顔がなくなり、口数か少なくなって、
帰りも日に日に遅くなり、まったく帰ってこない日が増え、そしてふいに美貴達家族の前から姿を消した。
- 366 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:26
-
ママは泣かなかったし、美貴もなちねえちゃんもすんなりそれを受け入れられたのは、
家族が再びホントの温もりに包まれるには、もうそれしかないと、思ってたから…
オレンジ色の小さなルームライトがぼんやり部屋の中を照らしていた。
ふとんに潜り込んで仰向けに天井を見つめながら、美貴はひとり胸を痛める亜弥の事を思った。
亜弥ちゃんが心配になるほど、亜弥パパに変化があったとすれば、きっと何かあったんだ…
でも、こんなに遠くて美貴に何ができる? 前みたいにそばにいれないじゃん…
ばさっと仰向けに半身を起こした美貴は、ベットの側においた携帯を取り上げた。
『亜弥ちゃん、美貴なにがあっても亜弥ちゃんの味方だよ』
携帯のメール送信ボタンを押し、再びふとんをかぶって手を延ばし明かりを消した。
- 367 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:27
-
…‥‥‥・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・
- 368 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:28
-
「希美!希美!遅れるわよ!」
ふとんをめくられても枕に顔を埋め往生際の悪い朝の辻である。
「ほら!」
起こしにきた母は辻の頭の下からぐいっと枕を引き抜いた。
はずみでベットの縁にごつんと頭がぶつかってようやく半身を起こした。
まだ半分目が開いていない。
「あれ?あいぼんは?」
それでもいつも母より先に起こしにくる加護が今日は来なかった事に気が付いた。
歯を磨きながらダイニングにいる母に聞く。
「今日はこなかったわね、具合でもわるいのかしら」
あいぼん…
ようやくハッキリ目が醒めた辻、ばしゃばしゃ顔を洗い、制服に着替え、髪を整え、
トーストを三口で食べ、カバンをつかむと、慌ただしく家を飛び出した。
- 369 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:29
-
加護の家の呼び鈴を押すと、ドアが開いて出て来たのは加護の母だった。
「あら、希美ちゃん、今朝は亜依が迎えに来てもらちゃったわね」
「おはようございます、あの…あいぼんは?」
「今したくしてるからあがって」
辻がリビングに入っていくと、加護は大きな鏡の前で前髪を直してるところだった。
「あいぼん…」
鏡越しに見た加護の顔色がいつにもまして白く見えて、ほんとに具合が悪いのかと思った辻は、
いつものように怒れなかった。
「のの、ごめんな、なんか起きれんくて、ギリギリになっちゃって」
「大丈夫?」 心配そうに鏡の中の加護を見る辻に、
「うん」 加護は微笑んでしっかりうなずいた。
- 370 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:29
-
「「 いってきまーす! 」」
加護の家の玄関ドアが開き、ふたりが出て来た。
ほんとに大丈夫なのかな…
学校までの道を並んで歩きながら、やっぱり辻は加護の事が心配だった。
横顔をそっと覗き見る。やっぱりいつものと違う感じがする。
「ねえ、ほんとにだいじょぶなの?」
「だいじょうぶ、んと…昨日ちょっと寝るの遅くなっただけだから」
「寝不足? 何時に寝た?」
「えーっと、2時ごろ? だったかな…」
言い澱む加護、訳もなくキョロキョロして落ち着かない。
辻は歩きながら正面にまわり、加護の前を後ろ向きに歩いた。
「なんか、あやしいなぁ」
「や、そ、そんな事ないって、な、なんか忘れちゃったんだって、
そ、それよか、今日三年て校外学習だよね」
「あ、なんかショボイ美術鑑賞だってよっちゃんがブーブー言ってたやつ?」
辻はまた加護の横に並んで歩いた。
「そうそう、『どうせならパリ連れてけよ』とか、相変わらず言う事むちゃくちゃ」
「なぁ、もう18なのに」
「あんな風には…」「ならんとこうなぁ」
歩きながら隣を向いて目が合うとぷっと吹き出した。
「あ、時間やばいよ!」 加護が腕時計を見て声をあげる。
「マジ? あいぼん走れる?」
「うん!」
「んじゃダーッシュ!」「おー!」
手を繋いで駆け出した。朝の街にふたりのパタパタいう足音が響いた。
- 371 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:30
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 372 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:31
-
大きな公園の中にある美術館の前庭に、波浪学園三年5クラスの生徒達が集合していた。
うるさいというほどではないが、がやがやと賑やかだ。
美貴の担任の中澤がその生徒達に向かって両手をメガホンにして叫んでいる。
「じゃあここで解散や。集合は2時間後の午後三時、時間厳守、遅れたらアカンで」
- 373 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:32
-
「ったく、2時間なんて短いっつーの、
午前中の博物館なんかとばして、朝からこっちにすりゃいいのにさ」
「恐竜の骨とか面白かったじゃん、よしこはほんと絵見るの好きだよね」
前庭から美術館の建物に入って広々とした白い大理石ばりのエントランスホールを横切っていく
吉澤と後藤。
「こんだけ広かったらあたし一日いても飽きないよ」
- 374 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:32
-
巨匠の名のついた特別展、関連した映像の流れるスペースを通り抜け、
ぽっかりあいた開口部から展示スペースに入ると、静かな色彩の小さな肖像画が飾られていた。
立ち止まる吉澤。ジッと絵を見てもの思いに沈む。
後ろを他の生徒たちが次々通り過ぎて行くのもおかまいなしである。
後藤はそんな吉澤をそっとして先に進んでいった。
その次もその次の絵にも、ほぼ同じ時間をかけて見て行く吉澤。
近付いて細かなテクスチャや筆感を眺めたり、絵のなかの色やモチーフに思いを馳せていた。
- 375 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:33
-
南仏に暮らしその地で一生を終えたこの画家の作品は、鮮やかな色彩やモダンな構成のものが有名だ。
だか今回の特別展には幅広くその作品が集められ、いわゆる彼らしい作品から、彫刻、デッサン、
アトリエでの製作風景の写真まで展示され、吉澤の言う通りその気になればほんとに数時間では
見切れない、充実したものだった。
吉澤はそのうちひとつの絵の前に釘づけになっていた。
パリのアトリエで描かれた、壁の深い青と明るい窓辺に置かれたガラスの器の中を泳ぐ金魚の、
絵の中ではほんの小さな赤が印象的な一枚だった。
ガラスの器のところにナイフで引っ掻いたり削ったりしたような独特の処理が施されている。
畳ほど細長くないがそれに近い大きさだった。
高い壁にかこまれたまん中にある平椅子に座った吉澤は、両手を後ろについて脚を延ばし、
絵の中に入り込んでいた。
ふと、同じ絵の前にひとりの生徒が立ち止まった。
藤本さん…
両手を後ろ手に組んで、絵の中の金魚のあたりを見上げていた。
- 376 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:35
-
「あの金魚鉢んとこ、触ってみたくね?」
椅子から立ち上がった吉澤が、後ろから美貴に話し掛けた。
あたりに他の生徒達は見当たらない。吉澤のようにゆっくり絵をみるものはいないのだ。
その声に吉澤を振り返り、再び絵をみる美貴。
「これ描いた人が作った白い教会があってさ、いつか行ってみたいんだ…」
横にならび吉澤も絵に目を向け、静かに言葉を続けた。
「あのさ…こないだ…ごめん」
美貴はそれに対して特に答えることはなかったが、前を向いたままの吉澤の横顔をちらっと見た。
それから相手にあわせるともなく同じペースで絵を見て行くふたり。
言葉こそ交わさなかったがそれがちっとも不快でないことをそれぞれが不思議に思っていた。
最後の一枚を見終え思わず微笑みあう。
展示スペースを出ると、吉澤はミュージアムショップにいたの後藤のもとへ、
美貴は映像スペースで映像を見ていたあさみのもとへとごく自然に別れたから、
一緒にふたりが絵を見ていたとは、誰も気付かなかった。
だが、この時の事はふたりの中に何かを残していった。
- 377 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:36
-
…‥‥‥・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・
- 378 名前:3 投稿日:2004/11/13(土) 17:37
-
- 379 名前:彩girl 投稿日:2004/11/13(土) 17:41
-
To be continued...
- 380 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:32
- おお、更新されてる。
続き楽しみに待ってます。
- 381 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 13:55
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夕方というよりはもうほとんど夜といっていい時間。
街灯や飲食店の照明が明るく照らす駅前の繁華街の舗道は、家路を急ぐ人がほとんどだ。
その舗道沿いにファーストフード店がある。
店内は混雑し、注文を受けるカウンターにも列ができていた。
「いらっしゃいませ、御注文をどうぞ」
「えーっと、このセット、コーラで」
「はい、577円になります、3円のお返しです、少々お待ちください」
後ろのストッカーから商品を取り上げドリンクをセットして客にトレーを渡す美貴。
「ありがとうございました、次のお客さまどうぞ」
入れ代わった客にメニューを差し出し顔をあげると、美貴の機械的な笑顔が柔らかく変化した。
「いらっしゃいませ…あ、なちねえちゃん……」
「ひさしぶり、バイトがんばってるね」
小柄だが美貴によく似た髪型と顔形をした美貴の姉、なつみがカウンターの美貴に優しく笑いかけていた。
- 382 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 13:56
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- 383 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 13:57
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「ママ元気?」
「うん、相変わらずだよ」
バイトが終わって、美貴はなつみとふたり小さなイタリアンレストランに来ていた。
木の丸い板に乗ったピザをローラーナイフで切り分け美貴と自分の皿に取り分けたなつみは、
とうがらしの漬かったオリーブオイルを美貴の分にだけ振り掛けた。
「おねえちゃん、まだ辛いのダメなんだ、もしかしてお酒も?」
「うん、なかなかね、慣れないんだ、これが精一杯」
なつみはサングリアのグラスを持ち上げてみせた。
美貴は高校生の分際でグレープフルーツのパナッシェを飲んでいた。
甘い飲み物が苦手なのも美貴らしい。
「たまには家に来れば良いのに、そんな遠くでもないんだからさ…」
ちょっとのアルコールが美貴に本音を言わせる。
「ごめんね、夏には行くからさ」
「あ、夏休みはダメだよ、亜弥ちゃんと遊ぶから」
「そっか」 なつみはまた柔らかな笑顔を浮かべた。
「そ、だからバイトがんばってんの」
デザートのクレームブリュレの堅いカラメルをコツコツスプーンで割ると、
なつみはすくった最初のひとくちを美貴に差し出した。
「あんがと」
美貴はぱくっと口に含みエスプレッソをひとくち啜ってから、なつみの顔色を伺った。
「あのさ…なんかあった?」
一瞬、スプーンを持ったなつみの手と表情が止まったが、すぐに柔らいで、
「なあーんも、ないよ」 ニコっと笑う。
…なんかありそうだけど……
何もないと言う姉にそれ以上は聞けなかった。
なつみの手元のデザートはまだ半分以上残っていた。
「ねぇ、もう一口、ね?」 ひと指し指を一本たて、なつみにいたずらっぽく笑いかける。
「もう、しょうがないなぁ、いつもそうやってなっちの欲しがるよね」
苦笑しつつも、スプーンを差し出すなつみ。
口中に広がる甘さに久しぶりにあったかい気分になる美貴だった。
- 384 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 13:57
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店を出て、駅の改札までなつみを送った。
「じゃあね」
「うん、またご飯おごってね」
いいよ、とうなずいて、自動改札に切符を通し向こう側に行ったなつみが
振り向いて小さく手を振ると、美貴もそっと応えた。
なつみがホームへの階段を上っていき完全に見えなくなってから、
美貴はくるっと体の向きをかえ、力強く歩き出す。
…早く家に帰って今日の事、ママに話そ、きっと悔しがるに決まってる……
母の顔を思い浮かべて思わず笑ってしまう。
- 385 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 13:58
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“亜弥ちゃん、今日なちねえちゃんとイタリアン食べたよ。
あの店のクレームブリュレ絶品かも。
スイーツ得意でない美貴が言うんだからマチガイない。
きっと亜弥ちゃんも気に入ると思う。美貴んち来た時一緒に行こ、ね!”
- 386 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 13:59
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‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 387 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 13:59
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しとしと雨が振っている朝らしくないうす暗い朝。
吉澤は自分の部屋のベットから起き上がると、窓を少し開けた。
また今日も雨か…
憂鬱な気分のままぐずぐず起きだして、古びた狭い木の階段を降り、茶の間に行くと
もうふたりの弟達はご飯を食べていた。
「ひとみ、ご飯どうする?」
かいがいしく家族の食事の世話をする母が手を休めて聞いた。
「いいよ、もう時間ねーし」
「もう、そういう言い方やめなさいっ」
「はいはい、んじゃ、行ってまいりまーす」
「こら、ひとみっ!」
母の怒鳴る声を後ろに聞きながら、靴をはいて家を出た。
- 388 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:01
-
「ママごめん、ご飯いらない、あっ!やっば!」
ダイニングに置かれたテレビの時間を見て慌てて玄関までダッシュする梨華。
そうは見えないが意外と運動神経は良いのだ。
通学用の紺の四角いナイロンカバンを胸にかかえ傘をさし朝の商店街を小走りしていく。
ほどなく前に見なれたリュックの後ろ姿を見つけた梨華。
追いつくと息をきらせたまま、声をかけた。
- 389 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:01
-
「よっちゃん、おはよ」
「お! いしかわ〜、珍しいじゃん、あたしと会うなんてさ、しかも梨華のが後だよ?」
意地悪く自分の傘を梨華のにちょんちょんぶつけてにやにやする吉澤。
「しょうがないじゃん、昨日の夜なんかのっちゃって、勉強がんばっちゃったんだもん、
気がついたら朝の4時だったんだよ?」
「てか気付けよ、今からそんなんでどうすんの? いつもみたいに息切れするよ」
「あ、心配? ねぇ、心配してんの?」 傘を持ったひじで嬉しそうに吉澤をつつく梨華。
「なわけねーし」 吉澤は梨華の反対に軽く顔をそむけた。
「なんか入ってんの?」 梨華が胸にかかえたカバンを顎でさして聞いた。
「あ、柴ちゃんに頼まれた問題集…」
吉澤は自分の傘を梨華の傘の上に重ねた。
「こうすれば濡れないでしょ? カバンちゃんと持ちな、時間、間に合わないし」
「うん」 梨華はカバンの持ち手を普通に肩かけて、歩を速めた。
歩きながらそっと隣の吉澤を見た。肩に梨華の傘から雫がぽたぽた落ちている。
「あ、制服‥‥」思わず呟く。
吉澤は自分の肩を見て「こんぐらい、なんてことないよ」構わず前を向いた。
- 390 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:03
-
黙って学校までの道を歩くふたり。
いつもならそのまま話さない事も多いのだが、今日は珍しく吉澤がぼそっと梨華に話し掛けた。
「…のさ、3Eの藤本さんて知ってる?」
「え? 藤本さん?」
「や、ちょっと、さ…」 吉澤はさり気なく自分の前髪を掻き上げた。
「ふふっ」 梨華の目は三日月型になっている。
「な、なんだよ」 笑われて吉澤は梨華を軽く睨んだ。
「だって、よっちゃんがそういうのあたしに聞くの、初めてじゃん」
「確か…、藤本さんって転校生なんだよ、2年の2学期だったかな、うちの学校に来たの」
「ふ〜ん」
「そうそう、○○駅前のバーガーショップでバイトしてるって、柴ちゃんが言ってた」
「○○駅…地元なのかな?」
「さぁ…それは、わかんないけど……」
「よっ、おふたりさん! 朝からその相合い傘もどきはなんなの?」
校門に差し掛かったふたりを後ろから冷やかしたのは柴田だった。
「柴ちゃ〜ん、キモイからやめて」 大袈裟に顔の前で手を振って、苦笑いの吉澤。
「なによ、ちょっとは喜びなさいよ、あたし結構モテるんだよ?」 梨華がぷりぷり口を尖らす。
「そうだよ、よっすぃ〜、梨華ちゃんまたラブレターもらったんだよ」
「マジ?! そいつどうかしてんじゃん?」 呆れ顔の吉澤。
「もう、ホントだよ?!」 「ホントホント、それもケッコー良いカンジの人だった」
「またまたぁ〜、‥‥‥‥、あっ、ごっちんだっ! ごっちーーん!!」
校舎の入口に後藤を見つけるなり、吉澤はふたりを置いて駆け出した。
微笑んでそれを見送る梨華達。
「行っちゃったね、ほんとお似合いなのになぁ〜」
「あたしとよっちゃんそんなんじゃないよ」
そう言った梨華に寂し気な表情がふっと浮かんで消えたのを柴田は見のがさなかった。
よっちゃん、藤本さんとなんかあったのかな……
靴を履き替え教室に向かいながら、梨華はその事が気になっていた。
- 391 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:03
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‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 392 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:04
-
雨音に混じって生徒達の声が時折遠く聞こえる。
授業の合間の休み時間、いつもの非常階段で美貴は軽く背を伸ばし深呼吸した。
校庭の木々も湿気を吸って元気に枝を伸ばしているように見えた。
ふと、吉澤との出来事が脳裏を掠める。
あの時、最後の一枚の絵を前にした笑顔は、よく吉澤に対して言われる
カッコイイとかクールというのとはほど遠い感じがした。
そしてそれを自然に受け止めている自分にも、美貴は驚いていた。
…まともに口きいたこともないのに………
校舎の壁にもたれ、雨に霞む校庭をぼんやり見ている。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
次の授業の始まりを告げるチャイムの音が学校中に響いた。
はっとした美貴は慌てて教室にもどっていった。
- 393 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:05
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‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 394 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:05
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白い分厚い雲のずっと上に明るい夏の日ざしを感じて、亜弥の気分は浮き立った。
雨でも、ちょっと肌寒くても、半袖で来て良かったと思った。
デパート、ショッピングモール、映画館、オフィスビルなどが地方でもそれなりに立ち並ぶ、
大きなターミナル駅の駅前からまっすぐのびた通りの向こうに連なる山々、
左にまがって少し行くと古い商店の混じった繁華街があり、その真ん中を清流が流れるこの街の、
駅前の大通りの先に亜弥の通う高校がある。
傘をくるくる回して歩いていく亜弥を誰かが後ろから呼び止めた。
「亜っ弥ちゃ〜ん」
「あ、まこっちゃん、おはよ〜」
振り向くといつも元気なクラスメートの麻琴だった。彼女もまた半袖姿だ。
丸顔にキリっとした目をしてるが、その笑顔は暖かく人を包むような雰囲気を持っていた。
「亜弥ちゃん寒くないの?」
「ちょっとね、でも気持ち良いよね」
「だよねぇ〜!
なんかさ、この雲とれたら一気に夏になりそうだもん」
水色の傘を少し傾けて麻琴は白い空を見上げた。
「亜弥ちゃ〜ん、まこっちゃ〜ん」
重そうな学生カバンを下げたふたりのクラスメート、あさ美が、ふたりに追い付いて並んだ。
長い髪とふっくらした頬の、亜弥や麻琴にくらべるといかにも真面目な女学生といった感じだ。
「こんこん!」 「おはよ」
麻琴と亜弥は顔を見合わせてクスっと笑い合う。
「え?なに?」 ひとり真顔のあさ美がそのふたりを見て首をかしげた。
「こんこんも今日から半袖なんだ」
亜弥のその言葉に改めて三人の姿を見比べたあさ美は「ほんとだぁ」っと
ふわっと笑顔になった。
別にしめし合わせた訳じゃないのに、ちょうど同じ日に半袖の制服で登校した三人。
そんなちょっとした事で亜弥はこのふたりと友達になって良かったと思うのだった。
- 395 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:06
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- 396 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:07
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無機質な壁に囲まれた広々とした室内には、重苦しい面持ちの背広姿の面々が
濃い木目の会議テーブルの席に着いて、目の前の書類を思い思いにめくっていた。
間もなくピンマイクをスーツの襟に付けた白髪まじりの男が立ち上がる。
『では、お揃いのようなのではじめます。
○○地方銀行の○○都市銀行への吸収合併が、来年の4月1日ということで、
正式決定しました。それに伴う事業、支店、人員など整理統合の準備を、
M & A 推進本部の皆さんにお願いしておりましたが、本日はその進捗状況の確認
及び今後のスケジュールなど細かい擦り合わせをいたします。
えー、お手元の本日の議事リストをご覧ください…
- 397 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:07
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吸収合併【きゅうしゅう‐がっぺい】
合併する会社のうちで、一会社だけが存続し、他の会社は存続会社に吸収されて
消滅する合併方式。
- 398 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:08
-
…結局上層部はやっかい払いしたのだ……
…不良債券も株価運用の失敗も責任なしって事だ……
資料から顔をあげた亜弥の父は、ピンマイクの男とその両脇にならんだ取締役達に
うつろな目を向けた
- 399 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:08
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‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 400 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:09
-
「それにしても亜弥ちゃん偉いよねぇ」
学校がえりにスーパーで野菜を品定めする亜弥に、あさ美が感心して呟いた。
もちろん麻琴も一緒だ。
主婦で賑わう夕方の食料品売り場には不似合いな制服姿の三人連れである。
「もう慣れたからね、ねぇねぇ、まこっちゃん達さ今日うちくれば?」
手に取ったかぼちゃを愛おしそうに見つめる麻琴と、お惣菜コーナーに釘付けのあさ美に、
亜弥が言った。
「え? 良いの?」 かぼちゃを棚に戻しながら麻琴が亜弥を振り返る。
「良いの良いの、どうせパパ遅いんだもん、帰って来るの…」
「そっか…、じゃ行こっかな!」
「うん、来て来て、こんちゃんも、ね?」
「うん!」
- 401 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:10
-
それから三人はあさ美と麻琴のリクエストで決まった夕食のかぼちゃグラタンの
材料を買いそろえ、亜弥の家で二人も手伝って一緒にグラタンを作った。
オーブンで焼き上がるのを待つ間、ラップした父親の分を冷蔵庫にしまう亜弥を、
麻琴とあさ美はダイニングテーブルに片ひじを突いて微笑んで見守っていた。
「あのさ、これからもちょくちょく来て良い?」
麻琴が亜弥に声をかけた。
パタンと冷蔵庫の扉をしめてふたりに向き直った亜弥が笑顔でふたりにうなづくと、
丁度、オーブンのタイマーのベルが鳴った。
♪ tin !
- 402 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:10
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 403 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:11
-
空調のダクトがゴウゴウ音をたてている。
錆びた鉄の冊がはり巡らされたコンクリートがむき出しのさほど背の高く無いビルの屋上で、
細かい霧に近い雨が降っているにも関わらず、亜弥の父はぼんやりタバコをくゆらせいた。
焦点のあっていない目は、見るとはなしにライトアップされた東京タワーを捉えている。
ゆらり、濡れた冊に手を掛けた。 ジュっと音がしてタバコの火が消えた…
ライターで火を着け直そうとスーツのポケットに手を突っ込むと、今朝行きがけに
亜弥が無理矢理持たせたオレンジ色のキャンディの包みがカサっと音をたてた。
それを取り出してじっとみつめる亜弥の父、
‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
くるっと透明の包みを解いてぽんっと口にキャンディを放り込むと、
踵を返して屋上からビル内に通るドアに向かって、力強く歩いていった。
- 404 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:11
-
『あ、亜弥か? パパだ。今日は部長と飲むからこっちに泊まるぞ』
『ぇえ〜?! まじ〜?!
夕食のパパのも作っちゃったよぉ、もっと早く言ってよね!』
『すまんすまん、明日帰ったら食べるから』
『もう、しょうがないなぁ、あんま無茶しないでよ?』
『ああ、じゃあちゃんと戸締まりしろ』
『はぁい、じゃあね』
- 405 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:13
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
、
- 406 名前:4 投稿日:2004/11/28(日) 14:14
-
- 407 名前:彩girl 投稿日:2004/11/28(日) 14:14
-
To be continued...
- 408 名前:彩girl 投稿日:2004/11/28(日) 14:18
-
更新しました…
>>380さん レスありがとうございます。
マターリ更新ですががんがります!
- 409 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/04(土) 09:58
- 更新お疲れさまです
それにしても、亜弥パパが気になる・・・
- 410 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:12
-
パジャマ代わりのジャージ姿で洗面台の鏡に向かってシャカシャカ歯を磨きながら、
鏡の中の寝起きでちょっとむくんだ自分の顔をぼーっと見てる。
二つ年下の上の弟がその吉澤を押しのけ、
自分の歯ブラシを取って歯磨きのチューブをぎゅっとしぼる。
「んだょ‥ぉはようくらい言えょ」
泡だらけの口をもごもごいわせて吉澤が弟に文句を言った。
弟は一瞬鏡越しに目を向けただけで無言である。
洗った顔をタオルでふきながら、弟に聞く。
「おまえデート?」
「ちがーよ、いてもねえちゃんには教えねえし、家にはゼッテー連れてこないからな」
鏡越しにギロっと睨む。
「ちょっと、まだ絵里ちゃんの事根にもってんの? 男のクセにしつこいよ」
絵里とは弟の元ガールフレンドで、家につれて来たその日に姉の吉澤と出くわして、
メロメロになって、弟の事を振った子だ。
弟はフンとそっぽを向く。話にならない。まあいつもこんなものなのだが。
肩をすくめ吉澤は自分の部屋に引きあげた。
- 411 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:13
-
カ−キ色の半袖パーカーとモスグリーンのハーフパンツに着替えた吉澤が、
狭い階段をどかどか降りて来た。
片手に黒メッシュのベースボールキャップを持っている。
「あらひとみ、バイト?」
「うん」
茶の間はいつもの朝の風景である。今日は日曜だが店は休みではないのだ。
座卓のいつもの自分の場所に腰をおろすと、母がその前にご飯と味噌汁を置いた。
- 412 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:14
-
食事を終えて縁側にすわり敷石のサンダルを突っかけ足をのばした吉澤に、
母がお茶を注した湯飲みを差し出した。
「今日はゆっくりなのね」
「スタジオじゃなくてロケなんだ、場所うちから近いからさ」
数日ぶりの日ざしに庭先の木々や桔梗の葉の雫がキラキラ光っていた。
…この天気が続けば梅雨明けかな……
湯飲みを傍らに置いて、太陽に手をかざした。
- 413 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:16
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 414 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:17
-
矢口との待ち合わせ場所は、ロケ先の駅の改札を出たところだった。
ゲート正面の柱の前にいた吉澤は、構内の人波の中に矢口を見つけて手を上げた。
「せんぱ〜いっ!」
自分の体が隠れるくらいの大きなバックを肩から下げた矢口が、その吉澤を見つけてにっこりする。
両手は荷物と切符で塞がっていた。
「おはよ〜、今日もよろしくね!」
吉澤は矢口に素早くちかづいて、荷物を受け取りバックの持ち手を肩に掛けた。
「ん?これ重いじゃないっすか。やっぱ先輩んちまで行けば良かったですね」
「や、駅まではタクシーだったからさ、
それに久々にこの電車に乗ってなんか懐かしくて良かったよ」
駅前の舗道で信号を待ちながら、矢口は高架上のホームを振り返り目を細めた。
矢口の通った、今は吉澤が在学している波浪学園は、この駅の沿線にあるのだ。
- 415 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:19
-
この街の商店街に点在する雑貨を扱う店が今日の仕事場だ。
いつもの雑誌の雑貨店特集の撮影である。
モチーフはデッドストックの食器やアンティークのアクセサリー、
おもちゃ、ステーショナリーからアジアン雑貨、
ロックテイストの小物やちょっとしたインテリアまで様々だった。
- 416 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:20
-
最初の店はミッドセンチュリー系の雑貨を扱う店だった。
店頭のウインドウの前に撮影用のセットが設置された。
手前に置かれたブツにピンを合わせると、
ウインドウの中のカラフルな雑貨がガラス越しにソフトフォーカスになる。
ショップロケはそういったライブ感のある効果を見越した矢口の提案だった。
続け様にフラッシュが焚かれ、ポラが数枚テーブル代わりのジュラルミンのカメラボックスの上に置かれた。
間もなく浮かび上がったカットは矢口の予想どうり、雑貨の持つ楽しい雰囲気に満ちていた。
「バッチリですね」 それを見た雑誌の担当編集者が満足そうにうなづいた。
「ですね」 そう言って微笑んだ矢口も満足げだ。
それにしても、今日の吉澤は暇である。
時折、呼ばれて道具を渡したり布を押さえたりするくらいで、
ほとんどはカメラマンの後ろに矢口と一緒に控えていた。
- 417 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:21
-
次の店に移動するまえに撮影クルーは昼食を取っていた。
オムライスを食べながら、吉澤は矢口に尋ねた。
「先輩、今日の撮りってあたし居なくても良かったんじゃ…」
「へへ、バレた? もしかしてなんか予定あった?」
「や、ないですけど…バイト代もったいなくないです?」
「あ、その辺は気にしなくてだいじょぶ、矢口こう見えてもちゃんと稼いでるからさ」
頼もし気に胸をぽんっと叩く。
さきに食事を終えた矢口が手を上げて飲み物を注文した。
「よっすぃ〜もなんか飲む?」
「あ、じゃあアイスティ、ストレートで」
間もなく空の食器と交代に、飲み物のグラスがふたつ、テーブルに置かれた。
他のスタッフも別のテーブルで思い思いにくつろいでいた。
「あのね…矢口はさ…、
よっすぃ〜に少しでも多くこういう現場を見てもらいたいんだ、
そこによっすぃ〜の探してるなんかがあるかどうかわかんないけど…
でも学校だけじゃ狭すぎるじゃん?
でさ、ちょっとは近いわけでしょ? 矢口の仕事が、よっすぃ〜が好きな物と…
だからね、なんかさ、こんなのただのおせっかいかもしんないんだけど…
余裕があるときはなるべく来てもらえたらなって、思ってさ」
手元でストローの包みをもて遊びながら、話し終わると目線を上げた。
「わかりました、でもせっかくあたしいるんだし、パシリでもなんでも
ガンガン言い付けてください、とりあえず肩車しましょっか? 次の現場まで」
「そっか、じゃあ頼むよ、ってそれ無理だろっ!」 矢口は手を振り上げすかさずツッコム。
「先輩ちっちゃいからだいじょぶですよ、なんならポケット入ります?」
「じゃあそうしよっかな…って入るわけないから!
もう、ひとがシンケンに話してんのにさ」
呆れた風な言い方だったが、テーブルに身を乗り出し手を組んだ矢口は笑っていた。
「なんてね、まあ矢口ひとりよりはふたりのほうが楽ってのも半分あるんだけど」
「なら…良かったです」
吉澤はストローを手ですっと抜いて、グラスからカランと一個氷を口に含んだ。
「あ、真似すんなよ」 そういう矢口の頬も氷で膨らんでいた。
- 418 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:23
-
午後からの撮影も順調に進み、日が傾く前にロケは終了した。
あとの打ち上げを吉澤が断ったのには理由があった。
この駅前のどこかに、美貴がバイトしているハンバーガーショップがあるという。
それを確かめたかったのだ。
…それだけ…ほんとそんだけだから…別に話したいとか、そんなんじゃないし……
…遠目で見るだけ…って変かな?…なんかストーカーっぽい?……
…だってたまたまバイトしたのがおなし駅前だったってだけじゃん……
…良いよね…ちらっと見るくらい…そんだけ…ほんとそんだけだから……
うだうだと自分に言い訳しながらも、
美貴のバイトする姿をひと目みたいという気持ちには逆らえなかった。
昼間ロケしてたのと反対側の駅前を、その店を探しながら歩いていく。
あたりが暗くなりはじめ、店々の明かりや街灯が灯り始めた頃、
吉澤は梨華に聞いていたバーガーショップを数メートル先に見つけた。
ななめにかぶっていたキャップを目深にかぶり直して、さほど広くない通りを挟んだ
バーガーショップとは反対側の舗道を、レジカウンターの様子がわかるところまで、
吉澤はゆっくり歩いて立ち止まった。
ふたつあるレジのひとつに美貴がいた。
笑顔で客に注文を聞き、素早くレジを打ち精算すると、ストッカーを動きまわり、
商品をそろえたトレイをまた笑顔でさしだした。
…か、かわいい……
目の前にあった牛丼屋の看板に思わず手を掛け、夕暮れの舗道に佇んでしまう。
次もその次の客にも同じように向けられる美貴の笑顔。
それを見ているうち、吉澤の胸はなんだか苦しくなってくる。
というかはっきりチクチク痛んだ。
…あ、また、あっ、まただ、くそっ、あんなおやじにまで……
いくらモテても自分からそんな気持ちになったことなどなかった吉澤には、
浮かんでは消える経験した事のない感情の名前も正体も解らなかった。
- 419 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:23
-
ガッガッ ブルルルルル〜〜〜〜
エンジン音を響かせた宅配便のトラックに視界を遮られて、吉澤はようやく我に帰った。
行き過ぎたトラックの後ろ姿を見送って、視線をレジに戻すと、ちょうど客と客の切れ目で、
美貴がチラっとこちらに目を向けた。
慌てて反対側を向いて牛丼屋の店頭に貼り出されていたメニューのポスターを見た。
…えっと…牛丼…豚丼…並盛…大盛…特製カレー…チーズカレー…
…とん汁セット…サラダセット…おしんこセット………………ふ〜ん……
…やば、なんかおなか空いてきちゃったよ………
そのままの体制で視線だけ戻すと、美貴はまた目の前の別の客に笑顔でメニューを差し出していた。
…はぁ……
ほっとしたら自然とうすく笑みが浮かんだ。
…あたし…何してんだろ…………も帰ろ…
- 420 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:24
-
「あれ? よっちゃん?」
駅に向かって歩き始めた吉澤に向こうから歩いてきて声をかけたのは柴田だった。
「あ、柴ちゃん、そっかここ地元だったけ?」
「うん、よっちゃんはなんで?」
「バイトバイト」
「そっか、ねぇ、牛丼屋の前で何してたの?」
柴田が吉澤に気付いたのはおおよそ牛丼屋には不似合いな格好の人が
メニューのポスターを見てるのが遠目でもかなり目立ってたからなのだ。
「えぇっと、なんかお腹空いちゃってさ」 照れ笑いする吉澤。
「そっか…あ、ハンバーガーなら付き合っても良いよ」 美貴のいる店を指差した。
「あ、や、いい、いい、帰って食べないと親に怒られっから」 両手を顔の前でブルブルする。
「え? だって…」
妙な反応に、バーガーショップに何かあるのかと体越しに店を見ると、
カウンターに美貴がいるのに気付く。
「よっちゃん…」
吉澤は少しわざとらしく腕時計を見て、
「やっば、まじ帰えんないと、ごめん、んじゃね」
軽く手を上げて、柴田の答えを待たずにそそくさと立ち去っていく。
取り残された柴田は、再びバーガーショップに目を向けた。
…よっちゃんもしかして藤本さんを?…まさか、ね………
振り返ると、雑踏に紛れた吉澤の後ろ姿はもうだいぶ小さい。
あたりはいつの間にか暗く宵闇が降りはじめていた。
- 421 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:25
-
梅の湯の煙突のド派手なネオン、パーラー貴婦人のピンクと白の看板、
カラオケGoGo!のでっかいマイク、商店街の上半分オレンジ下半分白の丸い街灯の列、
そこだけ黒々としたお寺の境内の大きな楠の影‥‥‥‥‥‥、
帰りの電車のドアにへばりついて見ていた流れては行き過ぎる見なれてたはずの街の夜景が、
吉澤の胸にせつなく響いていた。
日曜夜、都心に向かう電車内はガラガラだ。
誰かが置き去りにした空き缶がコロコロ転がって吉澤のコンバースにコツンと当って止まったが、
吉澤は窓の外に目を向けたままだった。
- 422 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:26
-
「お先に失礼しま〜す」
バーガーショップの内に声をかけ、細めのジーンズにキャミを重ね着した美貴が、
ドアをグイと押し開け、もうすっかり暗くなった舗道に出て来た。
ふと反対側の舗道にある牛丼屋の看板を見る‥‥‥、ふわっと笑顔になる。
バイト中、カウンターの美貴が目を向けると、わざとらしく顔を背け
必死に牛丼屋のポスターを見ていた半袖パーカーのすらっとした女の子…。
黒いメッシュキャップを目深にしていたが、美貴はそれが誰なのかなんとなくわかった。
微笑みをたたえたまま歩き出す。手に持った小振りのトートが勢い良く前後に揺れて、
なかの携帯に付いたストラップの鎖がリズミカルに小気味の良い音をたてた。
通り過ぎた電器屋の店先で、大きなプラズマテレビの中のニュースキャスターが
東京の梅雨明けを告げていた。
- 423 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:27
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 424 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:28
-
…はぁ…なんか眠れない…………
今夜、幾度目かの寝返りを打って横向きになる。
細く開けた窓からの青いわずかな光が差し込んで床の畳につくる細長い影を見ながら
吉澤は美貴の事をつらつらと想っていた。
…自分のこと“みき”っていってたっけ…ふじもと、みき………
…どんな字書くのかな……
記憶の中の有りったけの美貴の表情をリプレイすると、みぞおちのあたりがキュンとした。
いたたまれず、またばさっと仰向けになる。
…直接、聞きたいけど……
…学校じゃ無理だよね…騒ぎになるに決まってるし……
再びさっきとは逆に壁に向かって横向きになる。
美術館で美貴と最後にかわした笑顔を思い出す。
…またあんなふうに笑うとこ、見てみたいなぁ……
あの時はまわりに誰もいなかったから、吉澤も美貴も素直になれたのかもしれない。
もしあの場にふたり以外の生徒がいたら、吉澤は美貴に声をかけなかっただろう。
同じような場面がまたあるのだろうか。
…どうしよう…どうしたら、またあんな風にできんだろ……
ふと肌寒さを感じ、起きあがると窓辺に近付いて窓枠に手をかけた。
眼下に夏の湿気を吸った赤茶色いブロックの商店街の舗道が見えた。
毎朝、梨華がそして吉澤が学校に行くのに通る道だ。
…どっかでまちぶせちゃおっか……
…ってあたしまじストーカーじゃんか…はは………
…でも…一回だけ…それで嫌がられたら……やだって言われたら……
……………………、
それであきらめられるのだろうか?
その時の事を想像し、吉澤ははっきり気付いてがく然とした。
どさっとベットに倒れ込む。
…それって、すんげえ、ショックじゃん……
美貴に近付きたいというどうしようもない気持ち、それと同時にわき上がる不安。
人を恋するその先にあるのは、YESかNOか、それだけなんだ。
吉澤は今まで自分のしてきた事を思い唇を噛んだ。
夏掛けにもぐり込み枕元の目覚まし時計を見る。もうすぐ午前4時だ。
まだ眠れそうになかったが、吉澤は顔まで夏掛けをかぶると無理矢理ぎゅっと目を閉じた。
- 425 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:29
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 426 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:29
-
- 427 名前:5 投稿日:2004/12/12(日) 16:29
-
- 428 名前:彩girl 投稿日:2004/12/12(日) 16:32
- 本日の更新、しました。
>>409さん レスありがとうございます。
亜弥パパは…さてどうなるでしょう……
- 429 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 22:00
- よっちゃんがんばれ!
- 430 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 22:47
- よっちゃんかわええなぁw
- 431 名前:彩girl 投稿日:2004/12/30(木) 17:55
-
年内にもう一回くらい更新したかったんですけど、
どうにもキリのいいところまで進まないのでちょっと無理そうです…
すいません、もう少し時間をください。
>> 429さん 430さん
レスありがとうございます。
皆様、良いお年を!
来年もよろしくです!
- 432 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/04(火) 01:23
- 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
いつもロムってばかりですが、新年のご挨拶と思い書き込みしました。
続き、作者様のペースで楽しんで執筆してくださいね〜
- 433 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/13(木) 01:03
- ちょっとずつ二人の距離が近づく展開がいいですね。
マターリお待ちしております。
- 434 名前:彩girl 投稿日:2005/01/15(土) 16:25
-
>>432さん、433さん
あたたかいレスをありがとうございます。
それでは、今年初の更新にまいります。
久々更新なのでageさせていただきます。
- 435 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:26
-
朝、HR前の教室、三々五々生徒達が入って来ては、それぞれの席に着いていく。
柴田はすでに自分の席で頬杖をついてぼーっとしていた。
こんな時いつも一緒に居る梨華はまだ来ていない。
「おはよー」 「おはょ…」
誰かが言ったので目を宙に向けたまま反射的に返した。
「ちょっと柴ちゃん、どうしたの?」
柴田の前に立って腰を屈めその顔を覗き込んだのは梨華だった。
「あ、お、梨華ちゃん、おはよ!」 やや焦りながらもニコっとする柴田。
「もう、またオハヨ言ってるし、なんか変だよ」 梨華は心配顔である。
「そんな事ないってば、あっ、先生来たよ」
梨華は柴田の様子を気にかけながらも自分の席についた。
ほどなくHRがはじまった。
- 436 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:27
-
柴田は昨夜の吉澤の事を考えていた。
確信はなかったし確かめたわけでもないから、ホントの所はわからない。
それは梨華の気持ちも同じ事。でも、柴田はなんとなく感じていた。
いつも明るい梨華の表情に微かな影を落とすのは、
幼馴染みの枠に納まりきらないその想いなんじゃないかと…。
柴田の席は黒板に向かって右よりの後ろから2番目、
梨華はその隣の列の前から3番目に座って、静かに前を向いてる。
悲しむ顔は見たくない、自分の勘違いなら良い。柴田は心からそう思っていた。
だが一度ざわざわしはじめた胸はなかなか収まらなかった。
- 437 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:27
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 438 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:28
-
昼休みの教室で、吉澤は窓際の自分の机に突っ伏して爆睡中である。
その前の席に後藤が窓にもたれて横座りしていた。
パラパラとめくっていた雑誌から吉澤にちらっと目を向ける。
…たく、なんで眠れなかったんだか……
「吉澤さ〜ん」
吉澤の席と対角線上にある教室の前扉からクラスの子が吉澤を呼んだ。
小さく呻いて微かに反応した吉澤より先に、後藤が声のした方を見ると、
春に吉澤に告白した下級生がそっとこちらの様子をうかがっていた。
「寝てて良いよ、後藤行ってくるから」
「あ…待って………あたし行く…」
立ち上がりかけた後藤の肩を押さえて吉澤はゆるゆると顔を上げた。
指でまだ眠い目をゴシゴシしながら、前扉に向かって歩いて行く。
「よしこ……」
その後ろ姿を見送る後藤。
…今までずっと逃げ回ってたのに……
そうしている内、たいがいは相手の子の熱がいつの間にか冷めてしまう。
それを待つのが吉澤のやり方だったはずだ。
吉澤は扉のところで下級生と二言三言言葉を交わすと教室を出て行った。
廊下と教室の境にある壁の上の小窓に見えかくれする二人の姿。
突き当たりにある非常階段にむかったのだろう。
しばらくすると、さっきの下級生が目のあたりを手で被って廊下を駆け抜けて行くのが見えた。
- 439 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:29
-
教室の後ろ扉をガラっと開けて吉澤が教室に戻って来た。
自分の席に後藤と並んで横座りし、窓枠にもたれた。
一部始終を目で追っていた後藤は吉澤の横顔をまじまじと見つめた。
「……振っちゃったの?」
「うん」
「そっか…」
吉澤の疲れた様子に後藤の疑問はますます膨らむばかりだ。
…もしかして…寝不足と関係あるんだとしたら…もしかして…もしかすると……
「あのさ…もしかして…誰かに恋しちゃったとか?……」 声を潜めて聞いた。
吉澤はコクンと弱々しくうなずいた。
… ほぇ〜〜〜?! マジでぇ〜〜〜?! …………
目を丸くして心の中で叫んだ後藤はかなり動揺していた。
「そ、そか、ぅん、ま、まあ詳しい事はあとで聞くよ、うん、うんうん…」
へらへらと力なく笑いながら何度もうなずく後藤。
午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。
まだ少しぼう然としている吉澤の肩をポンと軽く叩いて後藤は自分の席に戻っていった。
- 440 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:30
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 441 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:30
-
その日の放課後、後藤は吉澤の家に来ていた。
吉澤が階下に飲み物を取りにいったので、後藤は二階の吉澤の部屋の窓から外を見ていた。
自転車のベルを鳴らしてどっかのおばちゃんが店の前を通り過ぎてゆく。
日が長くなったのかあたりはまだまだ明るかった。
部屋の隅で扇風機がブーンと音を立ててゆっくり首を回して、
ときどき後藤の薄いグリーンの半袖シャツのソデを揺らしている。
すっと廊下に通じる襖が開いて吉澤が戻ってきた。
手にしたお盆からほうじ茶と葛きりの椀を小ぶりのテーブルに置いて後藤に勧めた。
「ま、おひとつどうぞ」
「お、涼しげだぁねぇ」
さっそく氷が浮かべられた椀でひんやり冷えた葛切りを黒蜜に浸けて口に含む。
つるんとしたのど越しが心地良い。黒蜜もほど良いコクで後味も悪くない。
「おいしい…」 感心して呟く後藤。
「でしょ? 葛も砂糖もモノホンだからね、うちのは」
後藤と差し向いに座った吉澤は誇らしげに胸をはった。
- 442 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:31
-
「そっか…あの藤本さん、ね」
「うん…」
「ま気持ちハッキリしてるならさ、あとやること決まってるよね」
「そうなんだけど…それが問題なんだよ、ヘタすると迷惑かけちゃうし…」
クッションを抱えてうじうじ悩む吉澤を見て後藤はくすっと笑った。
「ん?なんで?」
「だってさ、もう告るのに決めてんだもん」
「あもーだってさ、もうじっとしてらんねんだもんっ」
「苦しいんだ? ソコんとこが」 と吉澤の胸の真ん中あたりをゆび指した。
「うん、すげー苦しいよ、こんなんだって知らんかったけど…」
吉澤はため息をついて窓の外に目を向けた。後藤はその様子を微笑んで見ていた。
「あのね、よしこ、いきなり“好きです!”とか、だめからね」
「ぅっ、そ、そうかな、それが一番言いたいんだけどな…」
「よしこだっていつもそれで困ってたじゃん?」
「そう、だよね…」
「焦っちゃだめだって…気持ちわかるけど」
「ぅん……」 吉澤はうつむいてしまう。
「後藤はさ、その美術館の時みたいな事、
よしこと藤本さんなら、またありそうが気がするんだ……」
「ほんとに?」
「うん…、まあ絶対とは言えないけどね、
そうなるふたりは、そうなるように出来てるんだよ、最初から…ね」
「つーことは……、あたしいまジタバタしてもしょうがないってこと?」
「そーゆーこと」
「そ、か……………、」
後藤の言葉が吉澤の中にじんわり染みていく。
今までとは違う安堵のため息をふぅ〜っともらし吉澤は後ろのベットにもたれ掛かる。
「ごっちん…あんがと……」
手の中で湯飲みをもてあそんでいた後藤はニカっと笑った。
- 443 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:32
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 444 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:32
-
東京は、まだ7月に入って間もないというのに真夏日が続いていた。
摂氏40℃近くまで気温が上がる日も多く、むせ返るような猛暑だった。
夕方には、まるで熱帯のスコールのような激しい雷雨が、
その熱を覚ますように都心を襲った。
低地にあるアスファルトの道路や舗道は河のように水浸しになり、
激しい雷が国会議事堂の尖った屋根を破壊した。
- 445 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:33
-
期末テストが近い放課後の校内は部活もなくシーンと静まりかえっている。
だがいまだに進路の決まらない吉澤は担任の保田に呼び出しを受けていた。
リュックに教科書をしまいながら外を見ると、空はさっきまでかーっと晴れてたのに、
いつのまにか雲行きが怪しい。遠くゴロゴロいう雷も聞こえる。
「ゎ、なんかまた降りそだね」
吉澤の席の後ろで後藤が窓から外を見て言った。
「はぁ…、あたしも帰りてぇよ」
「まあせっかくだから相談のってもらったら?」
「保田に? なんかそれ怖くね? 良いようにされそうでさ」
「はは、そうかも」
遠くの雲の端がピカっと光って間をおいて雷が響く。
「あ、マジやばそ、ごっちん早く帰った方が良いよ、傘持ってんの?」
「うん、置いたままのがある」
後藤は自分の席に戻ると机の横に掛けてあったカバンを取り上げた。
「んじゃ、よしこがんばってね」
「うん、また明日」
前扉のところで立ち止まって手を振る後藤に吉澤も手を振った。
ほどなくポツリ、ポツリと大粒の雫が落ちはじめ雨が降り出した。
- 446 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:34
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 447 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:36
-
「降って来たみたいね」
教室の三分の一程の広さの進路指導室で、腕組みをした保田は窓辺に近付いて外を見た。
部屋の真ん中に細長い会議テーブルが二つ並べて置かれている。
それを挟んで窓側に二つ、反対側に二つパイプ椅子があり、
吉澤は出口を背にした反対側の椅子の一つに座っていた。
「さ、はじめよっか」
向いの椅子に座り保田は進路希望の資料をめくって吉澤のところを開いた。
「第一希望、専門学校進学、第二希望、同上、第三希望、同上…って、
これじゃなんだか解らないんだけど、どういう関係の専門学校に行きたいの?」
「たぶん…デザイン系だと思います……」
「そう…、でもたぶんというからには決めかねてるのね…、
まあ自分でも調べてるなら知ってると思うけど、
デザイン系の専門学校っていってもいっぱいあるじゃない?
服とかインテリアとかグラフィックとかネットとかデジタル系とか、
あとちょっとデザインとそれるけどアート系の専門学校もあるわよね、
絵とか彫刻とか写真とか……、
なんか具体的にやりたい事とか勉強したいこととかあるの?」
「それが…色々調べてるんですけど、なんか、いまいちピンとこないっていうか…
コレ!っていうのが、まだ、見つかんなくて…」
「そっか…、それじゃこうとしか書けないわね」
資料から顔を上げた保田はきまり悪そうに話す吉澤に優しく笑いかけた。
- 448 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:37
-
「吉澤さん美術の成績はまあ良いわね、自分でもそういうの好きなんでしょ?
校外学習の時も熱心に見てたものね」
「はい!すげぇ…ゃ、凄く好きです、絵とか見るのも描くのもなんか創るのも、
でも…それと将来の事と結びつかないっていうか、なんていうか……」
一瞬光を取り戻した吉澤の瞳がまたしおしおとしぼみ俯く。
…なるほどねぇ……と保田は思う。
吉澤は真面目すぎるのだ。しかもちょっと融通の効かないところがあるのかもしれない。
「吉澤さん、ちょっと考えすぎかもよ?」
「はぁ…そでしょうか……」
「だっていきなり天職見つけようとしてるもの」
「てんしょく…?」
「そう、天から授かった職業……ていうか自分にもっとも合った職業ってことかしら」
「あ……、そっか………、
顔を上げた吉澤の瞳は再び輝きを取り戻していた。
- 449 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:37
-
「あのね、誰でも最初からコレっていう仕事に出会えるわけじゃないのよ、
大学や他の職業に就いてから、思い立って別の学校に行ったり、転職したり、
それで見つけた人もたくさんいる、
だからもうちょっと気楽に、まずやりたいと思う事を、やればいいんじゃない?」
「はい」
「でも、やるからには本気でね、でないと次のステップには進めないわよ」
「はい! 保田先生、ありがとうございます!」
椅子に座ったまま吉澤は律儀にニコニコと頭を下げた。
「じゃあ、夏休み開けにでもまた話し聞くから、まぁ焦る事ないけど、
とりあえず期末がんばんなさい、どうするか決めてないならなおさらよ」
- 450 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:38
-
ザァーーーーーーーーーーーーーーッ ‥‥‥‥‥、
- 451 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:39
-
吉澤は部屋を出る時もう一度中にいる保田に頭を下げて、ドアを閉めた。
廊下の窓から外を見ると、進路指導室に行く前に降り始めた雨はかなり激しくなっていた。
…うひゃ〜、すげー降ってんじゃん………
雨雲で暗くなった空が一瞬ピカッと光ってすぐ雷鳴が轟く。
- 452 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:40
-
教室にもどりリュックを肩にひっかけると吉澤は昇降口に向かった。
あわただしく靴を履き替えトントンとつま先で堅い床を蹴る。
自分の傘があるはずの傘立てに近付くが目当ての傘が見当たらない。
… あれ? おっかしいなぁ〜 ……
困り果てて反対側の傘立てを振り返った時、
その後ろにあるガラス戸の向こうにちらっと人陰が見えた。
大きく張り出した軒下で雨宿りしてるらしい、水色の半袖ブラウスの後ろ姿。
吉澤は後藤の言った事をなんとなく思い出しコクンと息をのむ。
そして一歩ガラス戸に近付いた。
- 453 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:40
-
ザァーーーーーーーーーーーーーーッ ‥‥‥‥‥、
- 454 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:41
-
風向きが変わり軒下に雨が吹き込んだ。
「ぅわっ!」
戸口から軒下に出ていた吉澤がいきなり足元を濡らした雨に飛び上がる。
「あ…」 雨宿りの張本人は驚いて小さく声を上げた。
「…ど、ども」
頬を赤くしてペコリと頭を下げた吉澤をぽかんと見ていたのは……、
- 455 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:41
-
ザァーーーーーーーーーーーーーーッ ‥‥‥‥‥、
- 456 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:42
-
「あ、の、なんで?」
「…担任に呼び出されて…進路指導……そっちは?」
「ま、似たようなもんかな」
美貴は照れくさそうに肩をすくめた。
「傘ない?」
「うん…」
「あたしもなんだ…」
吉澤は顔を上げ軒の端からぼとぼとと切れ目なく落ちる雨の雫を見た。
また風向きが変わり今度はさっきより強く美貴や吉澤のところまで
大粒の雨が吹き込んで来た。
「わっ!」 「きゃっ」
同時に戸口から校舎の中に飛び退いた時、吉澤は思わず美貴の腕を引いていた。
…やべ、思わず触っちゃった……
慌てて手を引っ込め肩のリュックを掛け直しながら、
ふと、なんで美貴は自分の教室でなくこんなところで雨宿りしてたのだろうかと思う。
美貴は雨がかかって濡れたスカートをハンカチでふいてる。
「ぁのさ…ここ雨来るし…良かったらうちの教室行かない?」
ピカっと光ってすぐに響く雷の大音響、反射的に首をすくめた美貴は、
恥ずかしそうな困ったような顔を吉澤に向けうなずいた。
- 457 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:43
-
校舎の階段を3階まで上がり、突き当たった廊下を左に曲がった一番奥が吉澤のクラ
スだ。逆に右に行くと美貴のクラスなのだが、その方向からは数人の生徒の笑い声が小
さく聞こえたが、廊下や階段に他の生徒は見当たらなかった。
吉澤は教室に入るとパチンと蛍光灯のスイッチを入れた。
だれもいない教室には、表の雨音と雷の音だけが響いている。
「あたしの席、あそこの隅なんだ」
言いながら吉澤は窓際の後ろの自分の席に行き、
どさっと肩に掛けていたリュックを机に置いた。
閉め切った教室の中は蒸し暑かった。
「あちーけどこれじゃ窓開けらんないなぁ…」
言いながら吉澤は窓辺に近付いた。
雨粒がパラパラ窓ガラスにぶつかっては雫となって次々落ちる。
まだまだ結構な降りである。
美貴も吉澤の前の席、いつも後藤が座っている席の机に紺のカバンを置いて、
机の間をすり抜け、吉澤に並んで窓から外を見た。
- 458 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:44
-
「もしかして藤本さんてクラスのコとか苦手?」
「うん…」
「じつはあたしもなんだ」
「吉澤さんも?」
「うん、こう見えて友達少ないんだよ、そうは見えないでしょ?」
「うーん……………、でもないかも」
「へ?」
「だって……あの時…ひとりだったじゃん、
あんな風にひとりで絵とか見てるのってフツーじゃないよ」
「うっ…それってひどくね? てか藤本さんだってそうだったじゃん」
「そっか」
「そうだよ」
顔を見合わせてクスっと笑いあう。
吉澤は美貴の笑顔に、美貴は間近で見た吉澤の大きな瞳に、見入ってしまう。
静かな教室に雨の音にまじって二人の鼓動まで聞こえそうな位、
ふたりの心拍数は上がっていく。
…ごっちん…いま…かな……
すぅ〜っと息を吸い込んだ時、吉澤の横顔をピカっと強い光りが照らし、
ひと際激しい雷鳴が弾けて、直後蛍光灯がふっと消た。
吉澤は天井の照明に目を向けた。
美貴は肩をすくめぎゅっと目を閉じ両手で耳を塞いでいた。
その様子に昇降口の軒下で見た時の美貴の事を思い出し、そっと肩に手を置くと
自分より幾分低い美貴の顔を覗き込んで、耳を塞いだまま薄く目をあけた美貴に、
大きく口を動かして話し掛けた。
『かみなり、にがて?』
さっきと同じ困ったような笑顔を浮かべた美貴。
吉澤はその両手をゆっくり耳からはずして小さく力強く言った。
「だいじょうぶ、あたしといたらゼッテー落ちないから」
自信たっぷりなその言葉。だが美貴が怖かったのはその音なのだ。
なのに変に勘違いした吉澤が美貴の手を耳からのけても、嫌な感じはしなかった。
こんな風に心配されるのは久しぶりでなんだかくすぐったい気分になる。
美貴は自分の手を掴んだままの吉澤の手に目を向けた。
その手をくいっと引かれ前によろけた美貴の頭を吉澤がごく自然と両腕で包み込んだ。
- 459 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:44
-
窓辺のふたりの姿が不規則な光りに浮かんではまた暗くなる。
美貴は解放された自分の両手をちょっと迷って吉澤の背中にそっと回した。
「あ、ごめ…」 吉澤は慌てて離れようとした。
「待って…もうすこし……」 美貴は自分の手に少し力を込めた。
「ふじも…さ…」
一度意識した温度を手放すなんて簡単にはできない。
探してたって訳じゃなく、なくした半分っていうのとも違う。
感じて初めて気付いた…そういう事もあるのかもしれない。
…このどきどきいうのは吉澤さんの? それとも美貴のかな……
- 460 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:45
-
雨音も、雷鳴も、ふたりから遠のいてゆく ‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 461 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:46
-
ちかちかと蛍光灯が瞬き、再び灯った。
窓の外でもそれ以上の明るさで雲の切れ間から太陽がみるみる顔をだし、
大きな水たまりを残して雨も上がったようだ。
美貴はゆっくりと吉澤から離れて、カタンと鍵を降ろし窓を開けた。
「やんだみたい…」
夏の日ざしがあたりの水滴に反射してその眩しさに目を細める。
吉澤も同じように外を見た。
もうあとはそれぞれ家路にむかうしかないふたり。
それを寂しいと思ったのはどっちが先だったのだろう…
「一緒に帰ろっか?」
「え? 良いの? あたしといるのだれかに見られたら…
「そんなん平気だよ、それに今日なんてもうだぁれもいないでしょ?」
その時、吉澤が浮かべた笑顔をまるで子犬みたいだと美貴は思った。
- 462 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:47
-
ぽつりぽつり話しながらいつもの通学路を歩くふたり。
「ふ〜ん、“みき”って、そういう字、書くんだ」
「うん、まあそう…吉澤さん名前は?」
「ひらがなで“ひとみ”っていうんだけど…なんかガラじゃないよね」
「ふふ、ひとみちゃんか」
「ひゃ、それやめて] 笑いながら身をよじる。
…ごっちん…どうしよう……
…こん次、どうしらら良いのかな……
…とりあえずケイバンとメアド…聞きたいけど……
…まだ早い?…やば…もう駅前じゃん……
駅に着き改札の端にどちらともなく立ち止まる。
そのまわりを先を急ぐ人々は通り過ぎゲートの中に吸い込まれていく。
「あ、あたしんちこっちの商店街のはしっこなんだ、だから…」
「そっか……、
「「 あの 」」 言葉が重なる。
「ごめ…」 「ううん、えっと…なに?」
「うん……、あの、良かったら携帯の番号とメアド、
教えてもらえないかなと思って……、
あ、ケイバン嫌だったらメアドだけでも……、
美貴はカバンをごそごそして生徒手帳とペンを取り出しさらさらと書き込んで
そのページをビリっと破いて吉澤に差し出した。
「はい」
「ありがと…、んとさ……、
それを受け取った吉澤はまだなにか言いたそうな視線を美貴に向けた。
美貴はゆるやかに微笑みつつ吉澤の言葉を待っている。
「や、なんでもない…じゃあ…ね……」
改札のゲートを抜け美貴は軽く吉澤に手を振って
ホームにつづく階段を上がっていった。
- 463 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:47
-
夏の雨上がり、少しムッとするホームで美貴はぼーと電車を待っていた。
視線はやや下を向き何もない空間に留まっている。
列車の到着を告げるアナウス。それでも身じろぎもしない。
目の前を車両がガタゴト通り過ぎて、ようやく顔を上げた。
手近なドアに近付いて開いた扉から車内に入りすぐ外を向くと、
扉の横のわずかな空間に納まった。
ホームのチャイムが鳴り響いてドアが閉まり、窓の景色が動き出す。
カバンのポケットのケイタイが振動した。
取り出して液晶を見た美貴の表情に、ぱっと光がさした。
- 464 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:48
-
“吉澤です。これであたしのメアドもわかるよね。
ちなみにケイバンは 090-XXXX-XXXX です。
で、良かったらこれからも時々一緒に帰らない?”
商店街を家に向かって歩きはじめて間もなく、思い立って立ち止まり、
吉澤はもらったメモを何度も確かめて美貴にメールを送った。
再び歩き出すと、すぐに短い返事が届いた。
“いいよ 美貴”
初めての美貴からのメール…
吉澤は表示した液晶を仕舞えずそのまま歩いた。
眺めてるうち嬉しさが込み上げつい笑みがもれる。
舗道のちょっとした窪みにできた雨上がりの青空を写した水たまりを、
ぴょんと飛び越して片手で小さくガッツポーズした。
「あらひとみちゃん、なんか良い事あった?」
そんな吉澤をたまたま通りかかった顔見知りのおばちゃんが冷やかしながら追いこした。
自転車の後ろ姿がグングン小さくなる。
後ろカゴで跳ねる大根が今にも落ちそうだ。
魚屋の店先でねじり鉢巻きのおやじが手際よく
カツオをさばいている。
ほんとの夏は、もうすぐそこまで来ていた。
- 465 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:49
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 466 名前:6 投稿日:2005/01/15(土) 16:49
-
- 467 名前:彩girl 投稿日:2005/01/15(土) 16:51
-
本日はここまでです。
- 468 名前:彩girl 投稿日:2005/01/15(土) 17:40
-
最後からふたつ目の一文は、改行ミスで上の一文に続くものです。
見苦しくてすいません…
orz...
- 469 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/15(土) 22:22
- いい雰囲気だ。よっすぃかわええw
- 470 名前:桜娘 投稿日:2005/01/15(土) 23:02
-
初めまして、一気に読ませて頂きました。
とってもとっても面白いです。
これからの2人期待しています。
- 471 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/16(日) 00:31
- あぁ〜ものごっつい大好きですこの雰囲気!!
圭ちゃんの進路相談は、自分の心にも響いて…なんかすごい、嬉しかったですw
一番楽しみにしてる作品ですよマジでw
- 472 名前:ひいらぎ 投稿日:2005/01/16(日) 21:19
- よっすぃーがなんとも言えないくらい可愛いです。ミキティーもいい!作者さん、応援してるので頑張って下さい
- 473 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 03:14
- センス無いよね作者
- 474 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/03(木) 01:58
- >>474
センスがどうのこうのより、君にはモラルがないよね
作者さん頑張って下さい。
- 475 名前:nanashi- 投稿日:2005/02/04(金) 16:55
- 早く続きを…
- 476 名前:彩girl 投稿日:2005/02/05(土) 17:31
- おひさです。
皆様、レスありがとうございます。
痛いもの、とても暖かいもの、ひとつひとつを大事に噛みしめております。
お返し下手な作者ですが、とても嬉しく、励みに思ってます。
ほんとにほんとにありがとう…
それでは更新にまいります。
- 477 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:33
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
- 478 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:34
-
「ぇ…ぇえ〜?!」
「ちょっとごっちん! 声でかいよ」
「ごめんごめん…てかさ告るよりさきにそゆことする?」
「しょーがないじゃん、なんか怖がってるのかなって思ったら…
したらもう自然にそうしちゃってて…やばって思ったら…
“待って”って…言われちゃって……、
何を思い出したのか頬が赤くなる。
後藤はそんな吉澤の脇腹をコノコノと肘で突つく。
昼休み、ここは例の非常階段である。
あれからまる一週間たって、ようやく吉澤は美貴との事を後藤に打ち明けた。
時間が開いてしまったのは、すぐに期末テストが始まってしまったからで、
美貴ともメールのやりとり以外、さしたる進展もなかったからだ。
「で今日の放課後一緒にかえると…」
「うん…」
「ん?」
「なんか緊張すんだよね…」
「はは、きっと最初だけだよ」
「そかな…」
「そんな悩んでもまたかってに動いちゃうんでしょ?
そんでもオーケーだってわかったんだから、だいじょうぶだよ」
「うん…でさ、お願いがあるんだけど………、
- 479 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:35
-
放課後、吉澤は後藤と美貴との待ち合わせ場所に向かった。
校門を出て真直ぐの通学路を行かず、学校の塀に沿って右に行き細い道を左に入る。
「へぇ、こんな裏道あったんだ」
「あたしいちおう地元ですから」
吉澤はリュックのポケットから携帯を取り出して、今後藤と向かってる事を美貴伝えた。
少し行くと低い植え込みと冊が交互に置かれた公園の入口に
美貴が立ってるのが見えた。
- 480 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:35
-
敷石を敷き詰めた舗道に挟まれた、細長い公園が、
今歩いて来た道を挟んで交差するような形で、右にも左にも続いていた。
ジグザグに植えられているかなり背の高い木はケヤキだろうか。
涼しげな木陰を作っているその木々の合間に、ジャングルジムや滑り台などの遊具、
ベンチ、街灯などが点々と配置されている。
公園と舗道の境目には腰くらいの高さの植え込みがある。
- 481 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:36
-
ほとんど初対面と言っていい後藤と美貴は緊張した面持ちで向き合った。
「ごっちん、こちら3Eの藤本…美貴さん、
で、あの…これがあのごっちん…つうか後藤…えっと…真希…さん……」
だがそれ以上に緊張していた吉澤の妙な紹介に、最初にくすっと小さく吹き出したのは
美貴だった。後藤もつられて笑い出し、場の空気が一気に和んだ。
「っく、よしこってば緊張しすぎだから」
「やだってさー…、
「ともかくヨロシクね」 後藤は美貴に笑いかけた。
「こちらこそです」 美貴も微笑んで軽く頭を下げた。
後藤はそんな風に柔らかな様子の美貴を初めて見る気がした。
… へぇ〜、意外と良い感じじゃん、第一印象と違うもんだね ……
「じゃ、あとは若いふたりに任せて後藤は退散するかね」
「ご、ごっちん!」
慌てる吉澤をしり目に、後藤は後ろ向きのままじゃあねと片手をひらひらさせ、
ふたりを残し、道の反対側の公園の舗道をあっと言う間に遠ざかって行った。
「あ、もう…若いふたりって、なんなんだよあれ…ねぇ」
「いい人だね」
「そう?」
「うん」
「そっか…」
「今日バイトだっけ」
「うん」
「時間大丈夫?」
「うんまだ…だいじょぶ…」
「じゃちょっとあそこ座らない?」
吉澤は近くの木陰のベンチを指差した。
- 482 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:36
-
「まいんちアホみたいにアチーね」
吉澤はリュックから出した小さなタオルで額の汗を押さえた。
頭上の葉をざわざわ言わせて風が吹き抜け、ふたりの周りの木漏れ日がゆらゆら揺れた。
「藤本さんさ……、うーん………、なんか藤本さんて堅苦しいなぁ…
ねえ、友達とかなんて呼んでるの?」
「え? えっと………、
そう言われてすぐに思い出すのは亜弥の“たん”や、あさみの“もっさん”なのだが
どちらも吉澤に呼ばれるのはなんか変な感じがした。
「普通に名前でいいよ」
「美貴?」
「うん」
「ちょ、ちょっと待って、それちょっと…」
照れ笑いしつつ美貴を見るとその顔にはいたずらっぽい笑顔が浮かんでいた。
なんだか悔しくなった吉澤は手元のタオルに目線を落とした。
「藤本さんてさ…もしかしたらS?」 美貴を見ずに言った。
『美貴って呼んで』 言葉と息が耳にかかる。
「ひゃっ! なっ……
いきなり耳元で囁かれて飛び上がった吉澤がベンチの上でカラダごと美貴に向き直った時、
美貴は吉澤にすばやくキスした。
- 483 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:37
-
こんな展開に吉澤がついていける訳はない……。
文字どおり目を丸くして不自然な姿勢のまま固まってしまう。
冗談まじりでしたつもりの美貴は、その様子に驚いてすぐに離れた。
「ご、ごめん、やだった?」
吉澤は言葉こそ出なかったが反射的に大きくかぶりを振った。それしか出来なかったのだ。
見開いたままの大きな瞳にみるみる涙が浮かんで来る。
急に視界がぼやけ目元の異変を感じて視線から逃れるように体を折り曲げ頭を抱えた。
美貴はその肩にそっと片手を置いてもう一度あやまった。
「ほんと…ごめん……」
そのままの姿勢で吉澤はまたかぶりを振る。
美貴は肩に置いていた手をその頬にゆっくり伸ばし折り曲げた指の背ですっと触れた。
半身を起こし顔を上げた吉澤をそのまま導いて、今度はさっきよりずっとやさしく口付けた。
「…吉澤さん…好きだよ……」
吉澤はようやく目を閉じ、頬にかかる美貴の息遣いを感じていた。
- 484 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:37
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 485 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:39
-
「だってさ、よっちゃんが美貴のことSとか言うから、
だからちょっと虐めたくなっちゃったんだよ」
「あたしのせいってか」
「そうだよ、でも…でもさ……」 くっくっと楽し気にのどを鳴らせる。
「な、なんだよ」
「あの時、超かあいかった…」
「っく、くそ〜、吉澤ひとみ、一生のフカクだ……」
いつもの裏通学路を並んで歩く帰り道、美貴は顔を赤くしてそっぽを向いた吉澤の
手をとって握った。
「夏休みもバイトすんの?」
「うん」
繋がれたままの手が引っ張られ、美貴は一歩後ろに立ち止まった吉澤を振り返った。
「あのさ…亜弥ちゃんだけじゃなく…あたしとも遊んでよ」
「とーぜんだよ」
… とーぜん…とーぜんて、当然って事? ……
… ごっちん … あたしすげーしあわせかも ……
今やすっかり緩みっぱなしの吉澤の頭には、進路の事や休み明けの保田との進路相談のことなど、
すっかり抜けて落ちていた。
再び手を繋いで歩き出したふたりの数メートルうしろの電柱のかげから、
ケータイのカメラのレンズがふたりを狙っている。
パシャっという極小さなシャッター音。
チェックのスカートのすそが風にそよいで柱の影からひらひらと見え隠れしている……、
- 486 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:41
-
「「よっちゃ〜〜〜んっ!」」
駅を越え商店街を吉澤の家に向かって歩いていると、
元気の良いふたつの声と足音がパタパタと背後から近付いて来た。
振り向くと辻と加護のふたりだ。
「よっ! 今かえり? 遅くね?」
「コンビニでアイス食べてたから」
「あ…の、こちらは……」
吉澤の隣にいる美貴に先に気付いたのは加護だった。
「あ、最近仲良くなった3Eの藤本さん、これが例の“あいぼん”と“のの”」
「あぁ…
「やっぱそっか!
あのクールでカッコかわいいって評判の藤本先輩ですよね!」
「あ、のんも聞いたことある!」
「はは、ま、よろしくね」
「こちらこそですよ!
てかなんでこんなヘタレよっちゃんと友達なんですか?」
「う、うるへー! ヘタレいうな!!」
「あーもーねー、心が狭いんですよ、この人、
こんなんほっといて行きましょ、『和菓子処 よしざわ』まで案内しますよ、
それにしても嬉しいなぁ 後藤先輩といい藤本先輩といい
ビューリフォーでカッケー先輩とまたこうしてお近づきになれるなんて
な?のの」
「ほんとですよ〜、さ行きましょ行きましょ、
ほんと、カッコかわいいですねぇ」 辻は美貴の横顔に見愡れている。
ふたりは両側から美貴をはさんで腕を組んで歩き出す。
- 487 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:41
-
「そうだ、良かったら藤本先輩も一緒に行きません?
ここの商店街の夏祭り。
毎年よっちゃんと梨華ちゃんとうちらで遊ぶんですけど、
もういっつもワンパで飽き飽きしてたとこなんですよ。
ね?のの、これグッドアイデアだと思わん?」
「良いね良いね、そうだ後藤先輩も誘っちゃおうよ!」
「良いね〜! 梨華ちゃんとこの柴田先輩も誘っちゃおっか?」
「そっか…そうだね! いや〜なんかすんごく楽しそぉ〜、
きっといっぱいのほうが楽しいよ、ねぇ、よっちゃん、良いでしょ?」
美貴をあいだに盛り上がるふたり。うしろをついてくる吉澤を辻が顧みる。
「ばか、おまえらはしゃぎ過ぎ! ごめんね、うざくない?」
「ううん、ふたりともなんかすごいね…」
「でしょ? そんであたしけっこう苦労してんの」
「何いってんの? 梨華ちゃんはともかくよっちゃんの世話になった事ないから!
ねぇ藤本先輩、どうですか?」
「え?どうしよ…良いのかな…」
四人がどれだけ親密か聞いていた美貴はどう答えたらいいか迷って吉澤を振り返る。
「美貴が迷惑じゃなきゃ…てかホントは…
「なになに?“みき”ってなまえ? 先輩のなまえ“みき”って言うんですか?」
「うん…」 完全にふたりの勢いに飲まれている美貴。
「いいなぁ〜、のん達もなまえで呼んでもいいですか?
でも先輩を呼び捨てにはできないですね…
といって美貴さんってのも…うーん……」
そう言って目線を落とした辻が、美貴のカバンのポケットからのぞていた
携帯に付いてるキティのストラップを見つけた。
「あ、キティ……、そだ、ミキティ…ミキティってどうです?」
「は? あ、これ…」
それは転校するとき亜弥にもらった地元のご当地キティだった。
「ミキティ…それいいかも! ミキティって呼ばせてください!」
「ください!」 辻と加護は頭を下げる。
「…いいよ、でも他の人には秘密だよ、ふたりだけだからね」
戸惑いつつも美貴はそれを受け入れた。
「「 やったーっ! 」」 ふたりは美貴をはさんでハイタッチした。
- 488 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:42
-
「「ミキティ先輩、ばいば〜い!!」」
「またね」「じゃあな〜」
吉澤の家の前で並んでにこにこ手を振るふたり。
美貴が学校帰りに吉澤の家に寄るのは今日でニ度目だった。
- 489 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:42
-
ガラっ
「ただいま〜」「こんにちは、またおじゃましました」
玄関を上がり廊下の突き当たりの引き戸を開け、店にいる吉澤の母に挨拶をする。
吉澤は別に良いと言ったのだがあとで会うと気まずいからと美貴が頼んだのだ。
「あら、美貴ちゃん、いらっしゃい、毎日暑いわね、ゆっくりしてってね
今日は葛きりあるから、ひとみ、あとで取りにいらっしゃい」
「うん」「ありがとうございます」
- 490 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:43
-
「ごめんね、あいつら、うるさかったでしょ?」
「ちょっとね、あいうの慣れてないから…」
亜弥とはまた違った明るさを持つふたりに戸惑ったのは確かだが、
裏表のないストレートな人懐っこさは亜弥によく似ていた。
だから美貴にはめずらしく一目で心を許せたのだ。
亜弥やあさみ以外にあだ名をつけられたのは何年ぶりだろうか。
「でも…なんか…楽しかった」
「でしょ? あいつらといるといろいろ考えるのアホらしくなんだよ」
「ほんとに一緒に行ってもいいの?」
「美貴が良いならね…でも…ほんとはさ……、
「ん?」
「ふたりだけで、行きたかった……」
隣の美貴の肩に腕を回し頭にそっと手を添えゆっくり顔を寄せてゆく。
最初はあんなにぎこちなかったのに才能なのか吉澤は急激に上手くなっていた。
ふたりの吐息と時折洩れる小さな水音が扇風機のたてる鈍い音に混じって
部屋に満ちていく……、
- 491 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:44
-
「あ…」
「ん?どした?」
離れてから美貴は何ごともなかったように普通に話しはじめる。
吉澤の顔は離れて見るのと間近で見るのとではだいぶ印象が違う。
遠目でみると凛々しいというのが相応しいのだが、近くで見ると
目尻が下がり気味なところや、鼻の丸さがより増長され、
凛々しいというより愛嬌のある感じがする。
それでもキスをするのに目を閉じているとそんな穏やかさは消し飛んでしまうのだが、
再び目をあけると、そこにある優しい目や表情がきゅんとするほど愛しくもあり、
安心もしてしまうのだ。
「そういえばそのお祭りの日、ちょうど亜弥ちゃんがこっちに来る日…」
「そっか…したら亜弥ちゃんも誘えば?
あいつらますます図にのるかもしんないけどさ」
メールで吉澤の事を伝えたら“会いたい”と言っていたので
ちょうど良いかも知れない。
「亜弥ちゃんに今夜話してみる」
言ってから美貴は見るとはなしに吉澤の部屋を眺めた。
といって目に触れるのは必要最小限のもの。
雑多な物は、シルバーメタルのエレクターにサイズをそろえて並べられた
濃いグレーのボックスに、しまい込まれていたのだ。
「あの中、何が入ってるの?」
「色々…、けっこうごちゃごちゃ入ってんだ…」
その内のひとつをとって中を開けて見せた。
いろんな物がほんとにごちゃごちゃと入っていたが、
その一番上に透明のビニールにくるまれた線香花火がひと束、ポンと乗せられていた。
- 492 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:51
-
「花火?」
「あ、これはね……、
吉澤は数年前に梨華や辻、加護と行ったキャンプの時の出来事を美貴に話した。
「ほんとにそう思ったの?」
絶対、バラバラになるは事ない。
吉澤がめそめそする梨華に言った言葉は本心だったのだろうか。
「その時はほんとにそう思ってた…」
「今は?」
「今は…、よくわかんねぇけど、
あいつらが大事だって気持ちは変わんない、
美貴にとっても亜弥ちゃんがそうなんでしょ?」
「亜弥ちゃんはね、美貴に見えなくなってた物、見えるようにしてくれた、
もしも亜弥ちゃんがいなかったら……、
たぶんよっちゃんとも、こんな風にならなかったよ」
人を信じられなかったというより、美貴のまわりには信じるに足る人がいなかった。
もしも亜弥に会っていなかったら、きっと今でも美貴はそんな風にしか他人を見る事が
出来なかったと思う。同時にそんな自分が心からハッピーになれる事も信じがたかった。
亜弥に出逢うまえの美貴が日々憂鬱だったのは、おぼろげにその事を感じていたからだ。
でも今は違う。もちろん本能的に避けてしまうところもまだあるし、
手放しで受け入れられるほどピュアでもなかったが、はなから否定するような事はなくなった。
そしたら自分を締め付けてた何かがゆるみ、憂鬱な気分は嘘のように消えていたのだ。
こういう自由もあるんだと思った。
- 493 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:51
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 494 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:52
-
「亜依?どうしたの?」
辻と家の前で別れて玄関を入ったら急に力が抜けて、
靴を履いたまま上がり框に座り込んでしまっていた加護に、
洗濯物を抱えた母が気付いて声を掛けた。
「うん…なんか急に疲れちゃって……」
母は洗濯物を廊下の床に置き傍らにひざまずいて額に片手をあてた。
「…熱はないわね……、ともかく、靴、脱いで、立てる?」
「うん…、
加護は座ったまま靴を脱いで両足を上がり框に乗せ壁に手をついて立ち上がった。
ふらっとよろめいて慌てて母が支えた。
「明日病院行った方がいいわね」
「大丈夫、寝たら直るよ」
「そう?…」
一段一段ゆっくり階段を上がっていく加護の後ろをカバンを抱えた母が心配顔で付いていく。
自分の部屋に辿り着きベットカバ−の上にどさっと倒れ込み仰向けになって目を閉じた。
母はネクタイをとってブラウスのボタンを緩めてやる。
窓を開けカーテンを閉めると、扇風機の風が加護に直接当たらないよう角度を調節した。
「…何か飲む?」
「いい…」 目を閉じたまま小さく返事をした。
静かにドアを閉め加護の母は部屋を出て行った。
直後、加護のまぶたが開かれる。天井を見つめている。
時々くらくらするのも疲れやすくなったのも、
それが最近では翌日まで残ってることがあるのにも、気付いていた。
母の言うとおり病院に行った方が良いのかもしれない…。
加護は顔を少し傾けて机の上のフォトフレームに目を向けた。
梨華の机に飾られていたのと同じ幼い四人が写った写真が飾られていた。
梨華や吉澤は来年の春には卒業してしまう。そう思うと一刻も無駄にしたくないと思う。
ただの軽口ひとつでも加護にとっては宝物だった。
再び天井を向くと小さくあくびをして、目を閉じた。
- 495 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:52
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 496 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:53
-
「もしもし、みきたん?
……、
うん、だいじょぶ、
…………、
パパ? 元気元気、最近なんかね、妙に元気、ふふ、
たんにも心配させちゃったね、……、ん、あんがと…、
てかやーっと夏休みだね、早くみきたんと遊びたいなぁ、
……………………、
え? お祭り? よっちゃんさんとそのお友達と一緒に?
良いねぇ、うん、いいよいいよ、東京のお祭り初めてだし行ってみたい、
…………、
へぇ〜、友達も面白そうじゃん、
え? ミキティって言われてんの? あたしのせい??
……、
あー、あれかぁ、みきたん着けててくれたんだ…、
いいじゃんいいじゃん、かわいいよ、
そだ、たんのとこ行く前にまこっちゃん達と軽井沢遊びに行くから
また違うの買ってきたげる、
いいからいいから、遠慮しないでよ、
……………………、
ううん、あたしやだったらそう言うよ、
………、うん、無理してないよ、
………、うん、あたしも、
…………、
オヤスミみきたん……」
ピッと携帯を切って座っていたベットにあお向けになるが、
トントンっとドアがノックされると、素早くベットを降りてドアを開けた。
「パパ、なあに?」
「話したい事があるんだ」
「話し?」
「ああ…リビングに、来てくてないか」
「うん……、
- 497 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:53
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 498 名前:7 投稿日:2005/02/05(土) 17:54
-
- 499 名前:彩girl 投稿日:2005/02/05(土) 17:57
-
今日の更新、ここまでです。
次回もマターリペースかと思われます。
すいません……
- 500 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/06(日) 18:08
- みきよしの幸せを手放しに喜べないなにかが漂っていて
どうなることかと非常にドキドキしております。
嵐の前の静けさのような…。
これからも頑張ってください。
- 501 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/17(木) 01:27
- あいぼん大丈夫かな?
亜弥ちゃんにはいったい何が・・・?
これからも目が離せません。頑張ってください
- 502 名前:彩girl 投稿日:2005/02/27(日) 14:08
-
>>500さん、501さん
レスありがとうございます。
本気でマターリモードのこのスレですが、
おつき合いいただければ嬉しいです。
頑張ります!
では、更新にまいります。
- 503 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:09
-
誰にでも、その夏は一度きりなんだ…………、
- 504 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:10
-
夏祭りは夕暮れになってますます賑わいをみせ、商店街は人であふれていた。
お囃子の音に混じって、夜店の威勢のいい声が行き過ぎる端から飛んで来る。
「よ!おねーちゃんたち、金魚すくいしてかない?サービスするからさ!」
白いタオルを額に巻いた派手なアロハを着た若いにいちゃんが、
待ち合わせ場所に向かう吉澤達四人に声を掛けた。
「のん食べられない物には興味ないですから!」
「チッ、色気より食い気かよ、
あ、そっちのかわいいおねーちゃん!金魚すくいどう?」
若いにいちゃんは別の女の子の一団にまた声を掛けた。
「金魚と色気、関係ないよね?」 辻は口を尖せた。
「かんけーねーかんけーねー、あんなの気にすんな」
吉澤は辻の頭を手のひらでポンとかるく押さえた。
- 505 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:11
-
祭り提灯が連なってあたりをオレンジ色に照らしている。
その下でいつもは魚や野菜をがなっている声が、今日はビールだの焼き鳥だの叫んでいる。
浴衣を着た子供らが、かき氷を売る蕎麦屋の店先に群がって、
掛けるシロップを巡ってわいわい騒いでいた。
商店街に平行してはしるバス通りも駅を背に幹線道路にぶつかるまでの間、
車両通行止めになっていた。
駅前の広場には数台の山車が設置され、時間になれば若い衆に曵き回されて
バス通りの端から端まで厳かに練り歩く。
笛や太鼓、鉦の音……、
祭囃子は賑やかだがどこか懐かしい八百万の神に捧げる旋律なのだ。
- 506 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:11
-
駅構内では人待ち顔の一団がそこここにたむろして、改札のゲートから出て来る人を
見守っている。その中に浴衣姿の女の子が混じっているからそれでも普段の人混みよ
りは華やいで見える。
ゲートの奥のホームに続く階段からどっと人が改札に押し寄せるたびに伸び上がり、
吉澤は知った顔を探した。
辻と加護を間にはさんで梨華はその横顔をうかがっている。
『なんで?なんで藤本さんと仲良くなったの?』
『ん?なんかたまたま帰りに会ってさ、ちょっと話したら気があっちゃって…、
『どんな話ししたの?』
『えっ…と…よく覚えてねぇけど…、
『なによ、それでどうしたら気があうのよ』
『ま…なんちゅうか…フィーリング?っていうかノリ?ってやつ?』
『わかんない、なんかゼンゼンわかんないよ』
『んな…わかんなくてもいいじゃん…』
お祭りに後藤や柴田を誘うのはわかる。
梨華もそうやって大勢で騒ぐのは嫌いではないが、
美貴は梨華にとってはほとんど知らない子だ。
聞くと辻と加護が誘ったと言うが…。
梨華には吉澤らしくない歯切れのわるさも気にかかった。
吉澤は肝心なことを梨華に話してなかったのだ。
「のんはやっぱ最初やきぞばがいいなぁ」
「う〜ん、でもさやきとりも捨てがたいくない?」
「したらさ、両方いっちゃおうよ」
「そうだ、そうしよ!」
「あっ、み…、藤本さ〜ん!こっち、こっち!」
何度目かの人波に白いキャミを着た美貴を見つけて吉澤がひらひらと片手を振った。
「「あっ!ミキティせんぱ〜〜い!!」」
辻と加護も気付いて両手をあげぴょんぴょん跳ねる。
「みきてぃせんぱい?……」
「あだ名! のん達がつけたんだ!」 得意げに辻が言う。
「あだ名?…そんな…いつの間に……、
- 507 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:12
-
「「 せんぱ〜い!」」
「ふたりとも、ひさしぶり〜」
ふたりに抱きつかれよろけつつも美貴はニコニコそれに応える。
その後ろから美貴と良く似た背格好の目のぱっちりした女の子が顔をだす。
「あのね、美貴の元地元の友達、松浦亜弥ちゃん」
亜弥は美貴の横に並んで「よろしくです」と頭を下げ、四人を端から見て、
赤に黒のタンクトップを重ね着した一番背の高い吉澤に視線を止めた。
「あの…吉澤さんですか?」
「うん、よろしくね、亜弥ちゃん」
右手を差し出した吉澤と、亜弥は握手を交わす。
「「 亜弥ちゃん? かっわいい〜〜〜っ!!」」
「 あ、ミキティってつけたふたり?! 」
「「うん!」」
「亜弥ちゃん何年?」
「あたし2年」
「わ、いっこ上? 先輩じゃん!」
「部活は?」
「入ってないんだ」
亜弥を間に盛り上がる辻と加護。
美貴は梨華に軽く会釈をして吉澤の横に並び何やら話しかけている。
梨華はその光景をただ眺めるばかりだった。
- 508 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:13
-
「なに?藤本さんって…」 美貴は吉澤にそっと耳打ちする。
「しょうがないじゃん、石川もいるんだし…」
美貴は人混みに目を向ける。
「すごいね」
「毎年こんな感じだよ」
「そっか…この時期ここ来ることなかったから…」
- 509 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:14
-
「梨華ちゃ〜ん」
改札を抜けた柴田が梨華に手を振り駆け寄りながら端の吉澤と美貴をチラ見した。
梨華は馴染みの顔にようやくほっとする。
柴田は今日、梨華から美貴も来ると聞いて妙な闘志に燃えていた。
自分が梨華を守ろう…そう思っていた。
ほどなく同じ電車だったらしい後藤もやって来る。
後藤はイェ〜ィと端から皆にハイタッチ。
当然美貴とも。梨華には意味を汲みかねる親しげな笑みを交わす。
…ごっちんも藤本さんと初対面じゃないんだ……
…知らない間に何があったのかな……
梨華には想像もつかなかった。
- 510 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:14
-
それにしても、そろった吉澤達総勢8人はかなり人目を惹いていた。
吉澤や美貴を筆頭に亜弥も実は辻や加護も
学年では一二を争うルックスの持ち主だからそれも仕方ない。
全員テイストの異なったキャミやタンクトップ姿だった。
吉澤とボーイズタイプのおにい系、梨華や柴田はガーリッシュ系、
後藤や美貴、亜弥はその中間、辻や加護はカラフルな元気系。
近くを通り過ぎる人はみんなちらちらとあるいは遠めに思わず目を止めていた。
本人達はまったく気に止めてないようだが……。
- 511 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:15
-
8人はまず今日の祭の本尊のある神社にお参りに向かう。
神社はバス通りの中程を入った道の突き当たりにあった。
苔むした石段をずんずんのぼっていく。
いつもは静まりかえっている境内もかがり火が焚かれ、参拝の人々が
ひきりなしに行き交っている。
辻、加護、亜弥が前に、その後ろに柴田、梨華、後藤、美貴、吉澤がならんで
暗がりに祭られた八幡宮と向かい合う。
前の三人が社の軒下にぶら下がった大きな鈴から下がった太いヒモを揺すった。
カランカランという乾いた音、お賽銭を思い思いに放り込み、
それぞれの願いを胸に手をあわせた……。祭の喧噪が、神社の境内に満ちる。
まもなく曳山がはじまる時刻である。
- 512 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:16
-
通りに面したガードレール沿いに陣取って、吉澤達は曳山を待った。
亜弥は通りに出てガードレールに寄り掛かるようにして立っている。
辻と加護はその右の縁石に綿あめを持って腰をおろした。そのすぐ後ろに柴田と梨華が、
左隣に後藤と美貴が、背の高い吉澤がその後ろに立った。
大小の提灯をぐるっと吊るしお囃子の連を乗せた山車が、一台、また一台と、
重そうな躯体をゆっさゆっさと揺らし通りを進んでゆく。
面をつけた舞い手が扇で進路を指し示すと、ひと際高い笛の音が真夏の空気にピンと糸をはり、
太鼓の音が威勢よく弾けた。
屋根にのったはっぴ姿の若衆が提灯で別の山車を煽って盛り上げている。
吉澤は前の美貴の腰にこっそり手を置いて、その手に美貴は上から自分の手を重ねていた。
亜弥も後藤もそれに気付いていたがさして気にもとめず、通り過ぎる山車を見て、
ときおり話し掛けたり、加護が差し出す綿あめを摘んだりしていた。
辻と加護のふたりはさっきまでやきそばだなんだと大騒ぎしていたが、
山車をまえに神妙に見入っていた。
合間にとなりの亜弥やうしろの梨華や柴田に話しかける。
梨華も柴田のいつにないハイテンションにいつしかもやもやした事を忘れていた。
- 513 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:16
-
ふと、吉澤の二の腕に美貴のむきだしの肩が触れた。オレンジの光に縁取られた横顔に胸が熱くなる。
隣の後藤は梨華となにやら話している。美貴の前の亜弥も加護に何やら熱心に聞いている。
重ねた手をぎゅっと握ると美貴が顔を向けた。そのまま手を引いて近くの路地にひっぱり込んだ。
- 514 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:17
-
梨華は通り過ぎた山車から次のに目を向けて、吉澤と美貴が見当たらないのに気付いた。
「あれ?」
「ん?どした?」 後藤が梨華の声に反応した。
「よっちゃんと藤本さん、いない…」
後藤は隣と後ろを確認して「ったく、あのふたり…」呟いた。
「ごっちん?」
「あ、や、なんか買いに行ったかな?
もうちょっと待って戻らなかったら後藤探してくるよ」
「あ、ほら梨華ちゃん次の来たよ、お、今度のは笛おねえさんだ、かっこいい〜」
柴田に言われ梨華はしぶしぶ山車に目を向けた。
通り過ぎてから再び吉澤達の居た方を見ると、近くの路地から吉澤と美貴が出てくるのが見えた。
前を行く吉澤が美貴の手を引いていた。その唇が妙につやつやと光って見えた。
唇だけではない…、吉澤は…梨華の知らない表情をしていた。
美貴を後藤の隣に促すと、その腰にそっと手を置いた。その手に美貴の手が重ねられた。
梨華は自分の前に差し掛かった山車に視線をもどした。
…そういう…こと…か……
「あれってやっぱきつねかな?」
柴田は扇をふる舞い手の面を梨華の横顔に問いかけた。
いつも以上に潤んだ梨華の瞳は提灯のあかりを映し揺れていた。
はっとして柴田は吉澤と美貴の様子を見て、またすぐに梨華の横顔を見る。
「梨華ちゃん…、そだ! あのさ、あそこのあれ急に食べたくなってきた、
ねぇ、ちょっと付き合って!」
- 515 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:17
-
「あ、たん、グロスとれてるよ」
「あ…」
自分の唇にふれ焦る美貴をしり目に亜弥はポケットからリップをだして
道路から伸び上がり美貴の唇に塗った。
「あぁ〜、なんかふたりラブラブじゃな〜い?」 加護が冷やかした。
吉澤はそしらぬ風で「おっ、お囃子カッケー!」
と太鼓の刻むリズムに合わせ両手の拳を振り上げた。
- 516 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:18
-
梨華と柴田はバス通りから商店街に通じる細い道を並んで歩いていた。
裏道で人通りもないのでさすがにここまでは祭の風情は届いてこない。
白々とした街灯がぽつりとあたりを照らしていた。
「……やっぱ、好きだったの?」
「………うん…」
梨華はぎゅっと握りしめた拳を口にあて少し俯いた。歩みが遅くなり、立ち止まる。
「それとなくね…言った事あったの……そしたら…冗談だって思ったみたいで…、
笑われちゃった……、
あの時の吉澤の笑顔をなぞるように梨華も自嘲ぎみに笑って顔を上げた。
「そっか……、
…あの時、きっぱりあきらめればよかった……
…よっちゃんが優しいのは、そういう気持ちからじゃないって解ってたのに……
…今日、ハッキリして良かった……、
…先に進まなきゃ…もう…ほんとうに…あきらめなきゃ……、
…明日から、夏期講習はじまるし、模試もすぐだし……………、
…なのに…ひどいよ…、なんも考えらんないよ……、よっちゃんの、バカ………、
「泣いちゃえばいいじゃん、今すぐ、ここでさ」
柴田が微笑んで見ていた。
「柴ちゃん……、
柴田が差し出したハンカチを受け取ると顔を埋めた。梨華の肩が震え出す。
傍らで柴田はただ静かに見守っていた。
- 517 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:19
-
♪〜
吉澤の携帯がなった。ポケットからとりだしぱかっと液晶を確認する。
柴田からのメールだった。
「なんて?」 後藤が振り向いて尋ねた。
「……、柴ちゃん疲れたから帰るって、梨華ちゃんに送ってもらうってさ」
「そか…やっぱ帰っちゃったか……、
「やっぱってなによ?」
「…あのね、よしこ………、や、まいいや、また今度話そ」
「なになに?ごっちんらしくないじゃん」
- 518 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:20
- 「梨華ちゃん達どうしたの?」
不安げな顔で加護が後ろの吉澤達を見上げていた。
「あいぼん…
吉澤はすとんと座って加護に目線を合わせ優しい眼差しを向けた。
心配ないよ。
柴ちゃん疲れちゃったみたいでさ、梨華ちゃん送ってっただけだから」
「そうなんだ…」
加護はまた前を向いて俯いた。
「しょうがないじゃん、うち達で盛り上がろ?」
辻が加護の持ってる綿あめに手をのばし摘みながら言った。
「うん…」
こくんとうなずいた加護だったがいつもの元気はもうなかった。
「あたしにもちょうだい」
吉澤も綿あめにのばしたその手を、加護は体をよじってさえぎった。
「なんでよ」
振り向いてキッと吉澤を見すえた。
「よっちゃんが悪いんだっ!」
「なんで…
美貴をもキッと見て、そしてまた吉澤を睨む。
「よっちゃんのせいだもん!」
言葉そのままの勢いで加護は綿あめの袋を抱えたまま立ち上がる。吉澤も立ち上がった。
「よっちゃんの鈍感!!」
「鈍感ってなんだよっ!」
カッとして一歩前に出た吉澤の肩を後藤が押しとどめた。
「ばかよしこ、加護ちゃんだって子供じゃないんだよ」
綿あめの袋がかさっと音を立てる。加護は唇をぎゅっと結んだ。傍らに辻が寄り添った。
後ろを無数の提灯のあかりをゆらゆら揺らし、ゆっくり山車が進んでゆく。
お囃子が6人の沈黙をうずめた………。
- 519 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:21
-
駅の改札で後藤や美貴達と別れ、人が引けて静かになった商店街を歩いていた。
吉澤と加護はむっつりと黙ったままで、重々しい空気をやぶるように
辻が時折ぽつりぽつりとふたりに話しかけた。
駅から吉澤の家までの道のりを半分程行ったところで、いちばん左端を歩いていた加護が
ふいに立ち止まり電柱に手をついた。
「あいぼんっ!」
そのままずるずるとしゃがみ込んだ加護を辻が慌てて屈み両手で支えた。
吉澤もその前にしゃがんでそっと頬に手をあてた。白く血の気が引いたその頬は冷たかった。
「貧血かな…、のの、あたしにあいぼん背負わせて」
加護の前に屈んだまま背を向け片膝を地面について、辻をうながした。
「いいよ…」 力無く抵抗する加護。
「いいから、のの、早く」
辻が加護の両腕を引っ張って吉澤の背にもたれさせた。
吉澤は気合いを入れて立ち上がる。
さすがに重かったか少しよろけたが、辻がそれを支えた。
- 520 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:21
-
家に着いて、加護を2階の自室のベットに寝かせてから、
吉澤は階下で加護の母から最近の様子を聞かされた。
トントンとノックの音がして、加護の部屋に吉澤が入ってきた。
「まだいたの…」
「もう、そんな怒んなって」
吉澤はベットに腰掛けて加護の前髪を直してやる。
「最近多いみたいじゃん、こういうの」
「………、
「ちゃんと病院いかなきゃ、ね?」
「行きたくない」きっぱりと言う。
「なんで?」
「だって…、それでほんとになんかの病気で、入院とか…学校行けなくなったらやだもん」
「んな事、調べてみなきゃ解んないだろ?
それに、こんな風に具合わるくなってたら一緒じゃん」
「そうだけど…、今はやなの」
「どうして?」
「だって…、
「ん?」
「だってよっちゃんも梨華ちゃんも、もう…来年はいないじゃん」
「あいぼん…」
加護はばさっと吉澤に背を向けた。
小さな頃に比べたら大分大人になったのだが、それでも小さな背中である。
胸をはっていつもはしゃんとしてるのに、ほんとはこんなだったんだと、
吉澤は今さらながらに気付く。
「そっか…今もなかなか四人で遊べないもんな…
うち達卒業したら…もっとそうなるよな…
近所なんだし会おうと思えばあえるじゃん、とか、
じゃあ卒業までもっといっぱい遊ぼう、とか、
約束できない慰めを言って元気になるほど、もう子供ではないのだ。
吉澤は自分のできる事を必死で考えた。
- 521 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:22
-
「…あんね…先の事は、わかんない…けど…
9月1日はさ、一緒に行って、一緒に帰って、また穴子丼食お? な?」
「それだけ?」
「じゃあ…なに?…渋谷?行きたい?」
「うん」
「わかった、じゃあそれも約束するよ、
だからその前に病院行きな?
そんで夏休みのうちに、ちゃんと直さなきゃ、ね?」
「梨華ちゃんも…一緒に行ってくれるかな……」
「そうだな…、あたし話してみるよ」
横向きのまま加護が顔だけ向けて吉澤を見た。
「よっちゃん知らなかったの?」
「知ってた…知ってたけど、本気にしてなかったんだ…」
「やっぱへたれじゃん」 仰向けになった加護は頬をゆるめ笑っていた。
「コラ、へたれいうな」 吉澤はその頬を指で突いた。
「ぁのさ…、ずっと一緒とか、言えねーけど、
あいぼんはずーっとあたしのかわいいあいぼんだよ、
それだけは変わんない…わかった?」
そう言って吉澤は加護の頭をくしゃくしゃっとした。
「あ、なにすんの?」
体ごと吉澤の方に向き直り仕返しに脇腹をくすぐる。
「っく、ばかそっちこそなにすんだよぉ」
吉澤も両手でくすぐりかえすとまた加護も反撃する。
ふざけ合う無邪気な声がこだまする。
ひとしきりじゃれあって、んじゃな、と吉澤は加護の部屋を後にした。
- 522 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:23
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
- 523 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:23
-
美貴と亜弥は祭から帰ってすぐシャワーをすませパジャマに着替えて、
今はリビングのソファで寛いでいた。
自動に設定されたエアコンが室内の温度を快適に保っている。
向かって右に座った亜弥はソファの上で膝をかかえ隣の美貴を向いて横向きに座っていた。
膝の上には両手を添えた背の低い麦茶のグラスがのっかっている。
美貴も同じような感じで座っている。ただ美貴のグラスは前のテーブルに置かれ、
両膝の上には代わりに顎を乗せていた。つま先を片手でもてあそんでいる。
「…なんかごめんね」
「ん?なにが?」
亜弥は麦茶を一口飲んでグラスをテーブルに置いた。カランと氷が鳴った。
「…やっぱ行かないほうが良かったかもとか…思ってさ…
亜弥ちゃんも今日こっち来たばっかりで疲れてるのに…」
「何言ってるの? そんな疲れてなかったし、お祭り楽しかったよ」
亜弥は心持ち体を美貴の方に傾けた。
「たん…あの子達のこと気にしてるの?」
「うん…ちょっと…責任感じてる…」
「そんな、おかしいよ、たんらしくない、
だってきっと今日じゃなくても、たんとよっちゃんさんの事、
いつかわかる事だし、それってべつに悪い事じゃないと思うよ、
あとどうするかはあの子達の問題だし、
たんにはどうしようもないことじゃない?」
「そんなのわかってるよ、でもさ…、
そのきっかけが今日のお祭りで、しかも美貴ってのが、
なんか後味わるいんだもん…よっちゃんにもなんか悪い気がして…」
- 524 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:24
- それを聞いて亜弥の表情がふわっと緩む。
「ほんとはそれが一番なんじゃん」
語尾に笑いを滲ませニコニコと美貴の顔を覗き込むと頬がぼっと赤くなる。
「そうだよ!あったりまえじゃん!」
照れ隠しに亜弥に掴みかかる。
「うわぁ〜、もう、たん、重いよぉ〜」
押し倒されひじ掛けを頭に倒れ込んだ亜弥は両手を突っ張って押し返そうとしたが、
すぐその力をゆっくり緩め美貴の重さを受け止めた。
両手でそっと押し抱いてその頬を美貴の頭に押し付けた。
「たん…良かったね…よっちゃんさん、すっごく素敵だもん、
今日会って思った……、
これであたしも安心してたんから離れられるって……」
驚いた美貴が胸元ではっと顔を上げ亜弥をまじまじと見つめた。
「亜弥ちゃんそれどういう意味?」
亜弥は美貴の下から這い出してソファに座り直し、美貴もその場で体を起こした。
「あたし夏休み明けにね、転校するんだ、パパ今の会社やめて姫路に帰るの、
だからあたしもついてく事にした」
「へ? ひめじ? えっと…それってどのへん?」
「もぅ、まえ話したじゃん、兵庫県だよ、神戸とかのある、パパの地元」
「ひょうご…そんな遠く……
「遠くないよ、新幹線とかあるし、松本とそんな変んな…
「遠いよっ!ぜんぜん遠いじゃん!」 遮ってバシっと両手をソファに叩き付けた。
「みきたん…」
たかぶる感情をこんな風にあらわにした美貴を亜弥は初めて見た。
そして改めて思う。もう自分がいなくても美貴は大丈夫だと。
- 525 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:24
- 「たん…たんと初めて会ってからえっと…4年?…たつんだね……、
最初、あたしのことすごくうざがってたよね、
でも…、でもね、たん、いつもちゃんとあたしの目、真直ぐ見てくれた、
最初怖かったなぁ、そんでだんだん慣れてぇ、
でだんだん優しくなってくの、すごく嬉しかった……、
たんはね…あたしそのものだったの…、
さびしんぼなのにひとりでいたり、そんな強くないのに強がったり…、
美貴は真直ぐ亜弥の言葉の行方を見守っていた。
でもぉ、今はさ、違うじゃん、あたしもたんも素直になれた…、
だからたんはよっちゃんさんと仲良くなれたんだし、
あたしはまこっちゃんやこんこんと仲良くなれた、
きっとね…、転校しても、大丈夫だって思った、
たんもね、きっとそうだよ、あたしがそうだから、そうなの、
なんていうのかな………、
ずっと…高くて上がれなかった階段をやっと一段上がった感じ?」
「おとなのかいだん?」 なんとはなしに呟く美貴。
「うん、たぶんそう…今がそうかなぁって、すっごく思う」
「無理、してない?」 穏やかな声で美貴が尋ねる。
「ぜんぜん」 少し大袈裟に言いながら亜弥は笑顔で首を横に振った。
「そっか…」
緊張を解いて美貴はソファに普通に座ると背もたれに軽くもたれかかる。
その膝に亜弥は横になり頭を乗せた。
「あたし…たんのこと好きだったのかな」 膝の上から美貴を見た。
「かなってなに、かなって」
視線を落とした美貴に鼻の頭をひとさし指で押され
亜弥はいたずらぽく肩をすくめると、気持ち良さそうに目を閉じた。
「たんの膝、あったかいなぁ…、あたしずっと忘れないよ」
美貴の気配をすぅ〜っと吸い込んだ。額に手が置かれたのを感じる。
ほどなく頬にぽたっと雫が落ちたが、それでも亜弥は目を閉じたままだった。
亜弥と美貴の最後の夏休み……、
思い出はそれぞれの胸の奥深く大切に仕舞い込まれその場所は封印された。
止まっていたエアコンが、鈍い音を立てて息を吹き返した。
- 526 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:25
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 527 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:26
-
タオルで濡れた髪をごしごししながらTシャツにハーフパンツ姿の吉澤が部屋に戻って来た。
机の充電器から携帯をとりあげるとタオルを首にかけたままどさっとベットにうつ伏せに寝そべった。
履歴を表示させ通話ボタンを押した。耳に押しあて呼び出し音を聞いている。
しばらくそうしていたがやがてHOLDボタンをピッと押した。
そのまま仰向けになる。大きな瞳に、もはや古びてぼやけた天井の木目が写っている。
- 528 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:26
-
梨華は小さなバックの中で入れっぱなしの携帯が鳴っていたのを知っていた。
柴田だろうか…思ったが、誰とも話す気になれず、放っておいた。
ひとしきり泣いたせいか頭はぼぉっと鈍く痛んだ。
『梨華、お風呂はいっちゃいなさい』
階下で母の呼ぶ声が聞こえた。
「はぁ〜い」
つい、いつもの癖で返事をしてから、梨華はため息をつく。
- 529 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:27
-
茶の間に降りて奥の台所に行く。
冷蔵庫をあけ麦茶のボトルを取り出しグラスに注いで、
それを持ってまた茶の間にもどり父や母が座った別の場所にどっかり座り、
座卓にグラスを置いた。
「お祭りどうだった?」 隣の母が吉澤に聞いた。
「あ、まぁ…相変わらずだよ、すげえ人だし…」
TVは旅番組らしく涼し気な高原の緑を映している。
映像が切り替わり蔵づくりの古い建物が立ち並ぶの風情のある町並みになる。
リポーターの女優ふたりが『素敵ねぇ〜』とか言いながら歩いてゆく。
遠くに大きな山並が連なって見える。
そのうちやや広い通りにぶつかって右に曲がると、正面に黒々とした天守閣が見えた。
『あ、あれが国宝松本城ね』
「まつもと…美貴こっから転校して来たんだ……」
長野にある城下町、松本は美貴が高二の夏まで住んでいた街だ。
「素敵なとこで暮らしてたのね」
「うん、蕎麦がすげえうまいって自慢してた」
「そうね、信州は本場よね」
『あとは古いお城があってぐるっと山に囲まれてて川があるって以外
なんてことないとこ、こっちも向こうも変わんないよ』
吉澤は美貴の言葉を思い出す。
… 美貴、ぜんぜんそんな事ないじゃん、どこ見てたんだよ ……
天守の上に広がるの晴れた空は、四角い画面の中でも抜けるように青く澄んでいた。
- 530 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:28
-
再び自室にもどって吉澤はもう一度携帯をかけた。
…………、
やはり相手は出なかった。
ほんとはちゃんと話したいと思ったのだが、とりあえずメールを送り、
部屋の明かりを落とすとベッドに横になる。
- 531 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:28
-
“梨華ちゃん、もう4人で遊ぶとか無理?
あいぼんはずごく遊びたがってる。
ののも言わないけどきっとそうだと思う。
ちゃんと話したい。聞きたくないかもしれないけど…
ともかくいちど連絡ください。 ひとみ”
- 532 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:29
-
風呂から上がり梨華が部屋にもどるとちょうど携帯が鳴った。
ワンコールで切れたからメールが届いたのだろう。
バックから携帯をとりだしベットに座って液晶を確認する。
着信とメール、両方の表示が点滅している。
着信は三件、ひとつは柴田、あとのふたつは吉澤からだ。メールも吉澤からだった。
素早くボタンを操作しメールを開く。
……………………、
読み終わって机の写真を見た。そこには変わらぬ笑顔の4人がいる。
あの頃のままの自分、辻、加護、そして吉澤……、
……………、
梨華は吉澤にレスを送った。
- 533 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:29
-
“今日はもう遅いから明日電話するね。 梨華”
- 534 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:30
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 535 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 14:30
-
- 536 名前:彩girl 投稿日:2005/02/27(日) 14:32
-
更新ここまでです。
松本のくだりは淡い記憶と机上の知識で書いたので実際と違うかもしれません。
でも好きな街なのでまたいつか行きたい思っています。
- 537 名前:元松本市民 投稿日:2005/02/28(月) 20:54
- この年頃の子達の心情がリアルに思えます。それに皆いい子だw
松本の描写良かったと思いますよ。このお話すごく好きです。
- 538 名前:nanashi- 投稿日:2005/03/14(月) 18:18
- とても楽しく読ませて頂きました。
続き待ってますよ〜
- 539 名前:彩girl 投稿日:2005/03/22(火) 22:28
- お待たせしてすいません。
なんていいますか…公私ともいろいろテンパっておりまして、
気付いたらかなり時間があいてしまいました。
続きもあまりすすんでおらず、
っても、放棄するつもりはまったくないので、
更新までもう少し時間をください。
>> 元松本市民さん、nanashi- さん
レスありがとうございます。
こんな事情でほんとに申し訳ありません。
よろしかったらこれからもおつき合いいただけたらと思います。
- 540 名前:nanashi- 投稿日:2005/03/23(水) 09:13
- 作者さん楽しみにしてますね!!
ずっと待ってますよぉー
- 541 名前:彩girl 投稿日:2005/04/07(木) 22:35
-
お待たせしました。
ひさぶりの更新です。
ではさっそく……
- 542 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:36
-
- 543 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:37
-
ドアを開けるとよろけながら吉澤がふわっと抱きついてきた。
「美貴ちゃんさ〜ん」
「ぅわっ、ちょ、ちょっと、ママ寝てるから静かにっ…」
いきなりキスされた。
「会いたかったよぉ〜」
妙にふにゃふにゃな吉澤ともつれながらスニーカーを脱がせて、
なんとか自分の部屋に連れてくる。
「あのさ…もしかして酔ってる?」
美貴はキッチンから持って来たミネラルウォーターのペットボトルを、
フタをぎゅっとひねって渡しながら、一応聞いてみる。
「さんきゅ、矢口さんと乾杯しちゃったぁ、夏休みだしぃ〜」
ボトル半分近くをゴクゴクと一気に飲み干してしまう。
「落ち着いたらシャワーする?」
「うん…あのさ…今日泊まっても良い?」
「てかこの時間じゃもう帰れないじゃん」
時計は午前0時をまわっている。もう終電の時刻だ。
「ごめん、急に来て」
「うそうそ、さっきの電話、嬉しかったよ」
- 544 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:38
-
『もしもしぃ? みきちゃんさん?』
吉澤の声の背後で駅を思わせる雑音が聞こえた。
『あは、なぁに? よっちゃんさん、どうしたの?』
『ぅん? なんかね…声、聞きたかったから』
『ふふ、そっか、バイトの帰り?』
『そうだよ、駅で電車待ってるとこぉ』
そこまで話して美貴は吉澤の様子がいつもと違うようのに気付く。
なんだかいつもより口調も語尾も柔らかい。
『ぁのさ、なんかあった?』
『なんにもぉ、いつもどおりバリバリ動きましたよぉ』
『そぉ?』 なにがあったんだろう…美貴はいろいろ想像してみる。
『あっ…』
『ん?』
『やば…』
『な、なに?』 電話で見えないぶん心配になる。
『や…なんか…会いたくなってきた』
『は?』
『会いたい、美貴に会いたい、すげー会いたい、超会いたい
今すぐ会いたいよぉ』
『へ? ちょっとだいじょぶなの? キモがられるって、まわりの人に』
『そんなのどうでもいいっ、
会いたい、会ってナマで美貴の声聞きたい、触りたい、チュウしたい!』
『よっちゃん、わかった、わかったから、ちょっと落ち着いて…
『ねぇ、行っても良い? 美貴んちに』
『え? い、今から?』
『だめぇ?』 吉澤にしてはめずらしく甘えた声だった。
『よっちゃ…、……うん、いいよ、うちわかる?』
- 545 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:39
-
吉澤の家とは大分違う、明るいバスルームである。
浅めのバスタブ…ピカピカのタイル…シャワーノズルも切り替え式だ。
感心しながら頭をワシワシと洗う。
美貴と同じシャンプ−の匂いにときめいた、その手がふととまる。
バスルームはシャワーの水音だけになった。
補充された水分とシャワーで酔いもさめ、冴えた吉澤の頭に思い浮かんだ事。
… あたし … 美貴としちゃうのかな ……
降り注く透明の水の糸が額から頬を滑って顎の先から絶えまなく滴り落ちている。
大きな瞳…長いまつ毛…つたう雫にまぶたをしばしばさせ
吉澤はツマミをひねってシャワーの温度を下げた。
… ひゃ、冷て ……
バシャバシャと両手で顔に水を掛けた。
- 546 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:40
-
美貴はリビングで吉澤がシャワーからあがるのを待っていた。
ソファにうつ伏せに横になり膝から下を持ち上げ空中でブラブラさせ、
広げた新聞を意外と真剣に読んでいる。
かたわらにマナーモードに設定された携帯が置かれている。
そのページを読み終えバサっと紙面をめくって、
目の前のママの眠る和室につづく襖を目だけでチラリと見る。
吉澤が来る事になって美貴はママに一応言っておこうと部屋を覗いた。
だがちょっと声かけたくらいでは起きそうもないくらいぐっすり眠っていたので、
そのままにした。
吉澤から電話がかかって来た時、すでにシャワーもすませていたので、
美貴はパジャマ代りのキャミとハーフパンツ姿である。
ジー、ジー …
振動した携帯の液晶を覗く。
“よっちゃん”の文字が、点滅して消える。
起きあがり新聞を四つにたたんでテーブルに置くと美貴はリビングを出て行く。
廊下に続くガラスのはまったドアを閉める時、
パチンと明かりのスイッチをオフにした。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 547 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:40
-
フローリングの床に赤土色のアクセントの効いたザックリした生成り綿のラグ、
楕円の両端をスパっと落とした形の天板で赤っぽい木目のLowテーブル、
窓辺のラックも骨組みはつや消しシルバーだが棚板は木目調だった。
モノトーンとシルバーメタルが基調の吉澤の部屋とは正反対の趣味と言って
いいかもしれないが、美貴の部屋も女の子の部屋にしてはさっぱりしていた。
いわゆるぬいぐるみや雑貨などのかわいいものは飾られてない。
かわりに、ベットの横の白い壁に暖色系でまとめられた布がピンで止めてあり
それがゆいつその部屋で主の性格を象徴してるといっていい。
美貴に携帯でツーコールして吉澤はLowテーブルの前にぺたんとあぐらをかいて、
足の上にそこらにあったクッションを抱えている。
美貴のいない間にあれこれ見るのはなんとなく気が引けてもう用のなくなった携帯を
手の中でもてあそんでいた。
戻ってきた美貴がドアを開ける時に響いた“カチャ”という物音に、
吉澤の体がピクっと少しだけこわばった。
- 548 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:41
-
「あ、なに緊張してんの?」
美貴は机の上の充電器に携帯を置きながら背後の吉澤に話しかけた。
「してねーよ…」 語尾が心持ち揺れた。
吉澤の隣に寄り添うように座り俯いた顔を覗き込む。
「酔い、冷めちゃったんだ」
視線を避けるようにクッションに顔をうずめ、うめくように吉澤がつぶやいた。
「…あたし…帰ろかな……急に来ちゃってさ…サイテーだよね……」
美貴はクッションごと吉澤にしがみつく。
「いやだ」
「みき…
顔を上げた吉澤が目にしたのはいつもと違う熱を持った美貴のまなざし……。
…帰えっちゃ、や……
つぶやきながら向こうの頬に手を添えこちらの耳たぶを唇でそっと挟んだ。
吉澤のひざからクッションがころっところがり床に落ちた。
生まれた欲望はシンプルだ。
ただもっと深く触れたい触れてほしい……それだけだった。
- 549 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:42
-
くちびるで、ゆびさきで、触れた場所から感動が波紋のように広がってゆく。
あふれるため息、コトバにならない声……、見つめ合い確かめるのは、
もっと感じてほしいから、くちびるを、指の感触を………、
考えたり、迷ったり…、そんな理性はふたりからはすぐに消えていた……
- 550 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:42
-
ばらばらとラグの上にふたりの服が散らばっている。
ベージュのワッフル地のベットカバーがもそもそとうごめいて、
はらっとめくれると折り重なった二人の頭と吉澤の裸の肩と背中があらわになる。
ベットサイドのフロアライトがオレンジ色の暗い光を放ってその横顔を浮かび上がらせる。
はらりと落ちた髪からのぞく鼻を擦りあわせ、くすっという小さな笑い声がふたつ溢れた。
片肘から先を仰向けの美貴の頭の横について浮かせたもう一方の手で前髪をそっとよけ、
そのまま額、頬、顎と滑らせた指先は幽かに震えていた。
美貴もまた両手を上げ同じように吉澤の顔をなぞった。
すると吉澤は美貴の大好きな人懐っこい笑顔を浮かべ美貴を見つめる。
その頬にゆるゆると唇をよせチュっとキスを落とした。
美貴はかるく肩をすくめ、やわらかく頬笑んだ。
体をずらし美貴の方を向いてピッタリくっつくように横たわり、首筋に鼻先をすりよせ、しがみつく。
その髪を指ですいて額に美貴が口付けると、ふたりほぼ同時に、深くひとつ、
すぅ〜すぅ〜と息をついた。
夏の夜は、静かに更けてゆく。
……………………、
聞こえるのは、規則的に繰り返されるふたりの寝息と、
エアコンのかすかな音。
- 551 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:43
-
………………………………………………、
……………………………、
……………………………………、
………………………、
………………………………、
…………………、
……………………………………、
- 552 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:43
-
片手にふれるひんやりとした布の手触りに吉澤は目を覚ました。
仰向けの半身を四分の一ほど起こし、片手の平で顔の半分をゴシゴシすると、
まだ眠そうな目をあたりにさまよわせ、部屋の中に美貴をさがした。
床に散らばってた服はなく、窓辺の机の上に吉澤の服が畳まれて置いてあった。
窓の向きのせいか陽の光が直接差し込んではいないが、
それでも部屋のなかは白々と朝らしく明るかった。
ともかく着替えようとベットから抜け出して初めて、
吉澤は自分が何も身につけていない事に気付いた。
昨夜の事を思い出し、人知れず頬が熱くなった。
- 553 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:44
- 美貴の部屋から出て廊下を明るい陽の射す白いガラス張りのドアに向かう。
恐る恐るノブを押してリビングに入った。
すぐ右手のキッチンらしきところからジャー…という水音が聞こえた。
奥に見えるソファやダイニングテーブルに人陰は見えない。
数歩踏み出して開口部からキッチンを除くと、美貴がシンクに向かい洗い物をしていた。
「あ…美貴?……
シンクから顔を上げ美貴がこちらを向いた。
やや不安気な吉澤に美貴はレバーを押して水を止め手近のタオルで手を拭くと
ツカツカとスリッパを鳴らして、吉澤に近付いた。
「おはよ」
「…はよ、あのさ……
「あ、ママもう会社行っちゃったから」
「そっか…
吉澤の躯から力が抜ける。美貴の腰に手を回して、抱き寄せた。
沸き上がる衝動のままに、その場で一回…ニ回……三回……………、
キスをしておでこをくっつけ微笑みあう。
「なんかさ…
「ん?」
「うちら新婚みたい…
「うはぁ、なんかハズいよ」
美貴はくすぐったそうに吉澤から離れ、またシンクに向かう。
吉澤はキッチンの美貴から広いリビングに目を向けた。
- 554 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:45
-
大きな窓から夏らしいクッキリした朝日がフロ−リングの床に反射して
眩しいくらいに明るかったが、家中がシーンと静かだった。
吉澤は自分の家の慌ただしい朝の風景を思い出し、再びキッチンの美貴に目を戻した。
泡のついた食器を次々流水にさらしては隣のカゴに並べている。
凛と静かで綺麗な横顔だった。
……………、
ガタンと鈍い音をたて美貴の手から洗いかけのコーヒーカップが落ちた。
「あ、よっちゃん」
吉澤はシンクの前の美貴を後ろからぎゅっと抱きしめていた。
ステンレスに当たる水音は、しばらく止まなかった。
- 555 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:45
-
…………………………………………、
………………………………、
………………………、
- 556 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:46
-
「昨日のバイトね、冬物の靴とかバックの撮影だったんだ、
落ち葉とかさ、ブラウン系の落ち着いたトーンの紙とか生地とか、
そんなん使ってさ…あ、もういいよ…
美貴が吉澤の空のコーヒーカップに気付いてサーバーを持ち上げたのを吉澤が片手で制した。
ダイニングテーブルで朝食を済ませた後コーヒーを飲みつつまったりしていたふたり。
吉澤は昨日のことをぽつりぽつりと話しはじめた。
「したらさ…冬か…てさ、まだこんな暑いのに、思っちゃって……、
「当たり前じゃん、夏がすぎれば秋、そんつぎは冬…春、そんでまた夏、
そうやって季節が変わってもよっちゃんはよっちゃんじゃん、
そんなの気にしちゃだめだめ」
「はは、そりゃそうだけど…
美貴らしいすぱっとした言い方に、思わず笑って吉澤は手元で弄んでいたカップから
目線をあげた。
「美貴はさ、なんで就職するって決めたの?」
「美貴は…学校も勉強もあんま好きじゃないし、
仕事ってちゃんとやればやっただけ目に見えるじゃん、
その分かりやすいとこが良いんだよ。
勉強もほんとはそうかもしれなけど、美貴って遠回しなの嫌いだし、
だからきっと向かないなって思うし、こつこつなんかするとか」
「すげー美貴らしいな」
「そのね、らしいってのがいちばんじゃない?
なんかさ、無理してると、らしくないじゃん!って思って
苦しくなっちゃうもん」
「うん…」
「だからぁ、今みたいに悩んでるのもよっちゃんらしいし、
なかなか決めらんないのも、らしいって事」
「かもしんないけど、時々けっこう辛いんだよ……、
- 557 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:46
-
大丈夫、そう言って美貴は手をのばし吉澤の手をカップをごとぎゅっとした。
「よっちゃんの探してるもの、どっかに絶対ある」
「絶対って…
「だって美貴の尊敬する美輪さんがそう言ってたもん」
「ミワさん?」
「うん、みんなね、コレっていうモノを持ってるんだって、
それに気付かないだけなんだって」
「コレっていうモノ……か、てかミワさんって誰?」
「誰だっていいじゃん」
美貴は吉澤の手を離してダイニングチェアに背をあずけた。
吉澤は手にしたままだったカップをテーブルにコトンと置いた。
「だからぁ、悩んでも、迷っても、ちゃんと答え見つかるよ、
そんでさ…、辛かったらまた昨日みたいに美貴のとこ、来ていいから」
リビングの大きな窓を背に座った吉澤を目を細め包み込むように優しく見つめている。
その眼差しに吉澤の表情も柔らかく溶けてゆく。
それを見届けて美貴は思い出したように壁の時計を見た。
「やば、もうバイト行かなきゃ」
- 558 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:47
-
手をつないで駅までを歩いた。
吉澤は持っていた黒のキャップを目深にかぶってる。
ほどなく、吉澤の地元より距離は短いが真新しいアーケードの架かった
商店街に差し掛かる。
途中、間口の小さな和菓子屋の前で立ち止まり、吉澤は店先のショーケースの中を覗き込んだ。
「ふーん…この店、小豆餡が売りなんだ」
「なんで?」
「だって時期でもないにおはぎがあるし、
このきんつばと薯蕷まんじゅうも…どっちも餡が決め手なんだ。
丹波大納言かな……、
あ、すいません、このつぶ餡のおはぎ三つください」
淀みない吉澤の行動に美貴は横顔を伺った。
そこにはさっきまでの迷いや不安は微塵もなかった。
「ふぅ〜ん」 思わず口をつく。
「え? なに?」 吉澤は包みを受け取りながら傍らの美貴を振り返る。
「や、なんでもない」
「え、だって今…
「やば、時間超ギリじゃん!」
美貴は吉澤の手をぐいっと引っ張り早足であるきだした。
「イデ! うで痛いって」
無理に引っ張られ吉澤が悲鳴を上げてもお構いなしである。
… 案外すぐ近くにあるかもね、よっちゃんの探してるもの ……
そう美貴は思ったがあえて口にしなかった。
- 559 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:49
-
改札の前で、一際強く手をぎゅっとして、ゲートを抜けた吉澤はホームへと、
美貴はバイト先へと向かった。
… つぎ、いつ会えるかな ……
舗道上の美貴は吉澤が佇んでいるであろうホームの方を振り返り、
ホームの吉澤は美貴が歩いているであろうあたりを見据えた時、
ほぼ同時にふっと浮かんだ同じ想い。
空はギラギラと晴れ渡り真夏日の記録を今日も更新しそうな勢いだ。
ゆらゆらと立ち上る熱気で線路もアスファルトの道路も蜃気楼のように揺れていた。
- 560 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:50
-
…………………………………………、
………………………………、
………………………、
- 561 名前:9 投稿日:2005/04/07(木) 22:50
-
- 562 名前:彩girl 投稿日:2005/04/07(木) 22:55
-
更新ここまでです。
次回もたぶんこんなペースかと……
申し訳ないです……
- 563 名前:nanashi- 投稿日:2005/04/08(金) 15:31
- 楽しく読ませてもらいました〜
いやぁ。最初っから読み直しましたw
次回も期待してます。急がずゆっくりでいいですよー
- 564 名前:名無し待ち 投稿日:2005/05/21(土) 20:26
- 待 っ て ま す
- 565 名前:彩girl 投稿日:2005/05/30(月) 16:40
- 更新ではないのですが、一応生存報告を。
かな〜り間があいてしまって申し訳ないです。
諸般の事情によりとどこおっておりますが、こつこつ続きは書いております。
ある程度先が見えないとうpできない性分ですいません。
いま少しお待ちください…
- 566 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 21:45
- _| ̄|○
今いちばん楽しみな小説です
マイペースで頑張って下さい。。。
- 567 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 23:07
- のんびりまってますので、
作者さんのペースで頑張ってくださいね〜。
- 568 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 03:53
- 気長に待ってるんで作者さんのペースで、
頑張ってください!!
- 569 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/11(土) 22:36
- いつまでも待ってる
- 570 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/27(月) 01:24
- 作者さんの書くみきよしが大好きです。
マターリ待ってますので頑張ってください。
- 571 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/27(月) 01:24
- ↑すみません…あげてしまいました。
- 572 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 09:53
- Sals3の合宿風景とか見てたら、このお話を思い出しました。
- 573 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/04(木) 09:41
- 待ってるよぉ・゜・(ノД`)・゜・。
作者さん頑張れ〜
- 574 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:51
-
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ………、
- 575 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:52
-
壁もその他の調度品も白っぽい無愛想な室内を、昼間だというのに同じように白々とした
蛍光灯が照らしている。天井に埋め込まれたエアコンの吹き出し口からふく風が
黒板の横の壁に貼られた“集中”と書かれた紙をハタハタと言わせていた。
サラサラと筆記具のさきと紙がこすれる音が、白く細長い華奢な机の、
三つ並んだ席の端に座った梨華の周りに満ちている。
その音に混じって聞こえる一番前の机にこちらを向いてイスに座った監視役の予備校講師が、
机にのせた片腕、その爪先を規則的に天板に打ち突ける音が気になって、
梨華は模擬試験の問題をさっきから同じところばかり読んでいた。
回答欄はまだ全部埋まっていない。
他の人は気にならないのだろうかと思ったが周りを見る訳にもいかず、
ひとりイライラしていた。
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ………、
試験時間が刻々と過ぎてゆく。
- 576 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:52
-
コツ、コツ、コッ
「すいません!」
たまらず梨華は手を挙げた。
爪を鳴らしていた講師がイスから立ち上がり梨華の元にやってきた。
見ると梨華とさほど歳の変わらない青年だった。
「あの、机に指をコツコツするの、やめていただけませんか?
集中できないんです」
高めの声が予備校の教室内に小さく響いた。
「あ…すいません……」
講師は幾分顔を赤らめて元いた場所に戻っていった。
また机の上に片腕を乗せかけあわてて戻すと胸の前で両腕をくんだ。
梨華を一瞥したが、気になってた音が止んで試験問題に集中しだした梨華は
それに気づかず、ひとつ…ふたつと回答欄にペンを走らせていた。
薄緑のブラインドが下がった教室の窓の外、ほぼ同じ高さにある街路樹の枝で
アブラゼミがジージーと鳴いていた。
- 577 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:53
-
試験が終わり予備校から外に出ると、とたんに照りつける強い日差しと
焼けるような熱気に梨華は思わず空を睨んだ。
「あっつぅ、なにこれ」
トートに突っ込んであった帽子を取り出しすぽっとかぶると、持ち手を肩にかけ
駅に向かって歩き出した。
- 578 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:54
-
「いしかわさん」
歩道の先に高架に取り付けられた駅名の看板が見えたところで後ろから名前を呼ばれ、
振り向くとさっき爪をコツコツさせていた予備校講師だった。
クリーム色のボタンダウンのシャツに今時めずらしい黒フチの眼鏡をかけた、
予備校生ではないのだが下手な予備校生よりずっと予備校生らしい風貌だ。
「あの…さっき…試験中にすいませんでした」
「いえ…」
梨華は言いながらも妙に思っていた。
その事を言うためにここまで追ってきたのだろうか。
「で、あの…お詫びっていうか…
すぐそこにチーズケーキのおいしい店があって…よかったら行きませんか?
ぼくごちそうします…」
それを聞いてさすがの梨華もピンときた。
思い過ごしかもしれないが、たかだか試験中にイライラさせれたただけで
そんなお詫びをされるいわれはない。
「いえ、結構です、失礼します」
きびすを返した梨華の腕がつかまれる。
「あ、待って、そういわず、ちょっと付き合ってください」
「や、時間ないので…」
言いながら見た講師のゆがんだ笑い顔に梨華は少し怖くなる。
振り払おうとっした手の力が思いのほか強くだんだん痛くなってきた。
「ちょっ…離してください」
軽くもみ合うふたりの周りを見てみぬふりの通行人は通りすぎてゆく。
…やだ、どうしよう……
- 579 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:55
-
「梨華ちゃん!」
聞き覚えのある声。
すぐ横のファーストフード店から出てきた声の主を梨華はすがるように見た。
「ごっちん…」 梨華の声が詰まる。
「おっまえ、なにしてんだよっ!」
怯えた様子に状況を察した後藤は間に割って入り迷わず講師を突き飛ばした。
弾みで黒フチのメガネが大きくずれた。
「や、わ、わたしはただいしかわさんにお詫びがしたくて…
「ざけんな、このエロメガネ、行こ、梨華ちゃん」
後藤は梨華の手を掴んで駅に向かって歩き出した。
講師は呆然とその後ろ姿を見送りながら、震える手でまがったメガネを直した。
- 580 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:56
-
「大丈夫?」
後藤は赤くなっている梨華の二の腕にいたわるようにそっと触れた。
「うん…」
ホームのベンチに並んで座った後藤と梨華にちょうど西日が射していた。
後藤は目を細め、駅の間近まで立ち並んだ連なる古びたビルや
アーケードの屋根を眺めた。
「落ち着いた?」
「うん…」
「帰ろっか…」
「うん…ごっちん、ごめんね、遅くなっちゃったね」
「ぜんぜん、ごとー受験勉強とかないしさ」
後藤はベンチから立ち上がり梨華にニカっと笑いかけた。
- 581 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:57
-
「ふ〜ん、パティシエの学校か…、私の予備校と同じ駅だったんだ、
そういえばよっちゃんが前に言ってたな…、
“ごっちんの焼いたシフォンケーキ、ふわふわしてて超ウメーんだよ”って」
「はは、あん時ウメーウメーって大騒ぎしてたからね、
でも、よしこって和菓子屋の娘だけあって味にはうるさいからさ、
それでごとーかなり自信ついたよ」
- 582 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:58
-
乗り込んだ列車内はラッシュにはまだ少し早い時間だったがそれなりに混んでいた。
ふたりは座席前のつり革に並んでつかまってぽつりぽつりと話をした。
梨華が乗り換えるターミナル駅まではほんの数分である。
「またアイツの授業、受けることあるの?」
「授業はないんだけど…」
予備校での夏期講習は残っているし模試も数回ある。
だから二度と会わないとも言い切れないのだった。
不安気な梨華の様子に、後藤は梨華から窓のそとに目を向け、
「あのさ…よしこあの調子であてになんないし…、
ごとーで良かったら、ひとりの時とかさ、一緒に帰ろっか?」
同じように窓の外に目を向けていた梨華は、えっ?と後藤の横顔を見た。
「次いつ?」
「んと…来週の木曜」
「梨華ちゃんひとり?」
「うん…」
「じゃあ決まり、メールで時間とか教えて」
「ごっちん…」
そこで梨華達の体が進行方向にぐっと傾いた。
キーっという音の後、体が元にもどるとすぐにホーム側のドアが開いた。
「ほら梨華ちゃん着いたよ」
「あ、ほんと!」
後藤にうながされあたふたと降りた梨華は、
ホーム上でドア正面から端によけて、車内を振り返った。
「ごっちん、ほんとにありがと、じゃあね」
「ん、来週ね」
閉まったドアに近づいて窓越しに梨華に小さく手を振った。
- 583 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 12:59
-
まだジリジリとした暑さの残る真夏の夕暮れ。
ところどころ打ち水された舗道には商店のひさしや買い物などで行き交う人の影が
長く濃く延びている。
その影を横切り、梨華がとぼとぼと歩いてゆく。
遠くを見ているような視線の先にふと誰を見つけたのか表情が和らいだ。
「あいぼん」
前を行く二人連れに数歩近づいて声をかけた。
「あ、梨華ちゃん! どーしたの? どこの帰り?」
「予備校だよ、あたし一応受験生なんだからね」
興味津々ニコニコ聞いてくる加護に苦笑いして言いながら、
梨華はとなりの加護の母に頭を下げた。
「あいぼんこそ、なに?」
「あ、うん…、病院」
- 584 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:00
-
梨華は祭りから帰ったあとの加護の様子を吉澤から聞いていた。
「そっか…」
となりの加護の横顔をそっと伺った。
「大丈夫よ梨華ちゃん、亜依、ちょっとだけ重い貧血だったのよ、
お薬と食事で十分治るそうよ」
心配顔の梨華に加護の母が教えてくれた。
「大丈夫じゃないよ!ずっとレバーとかひじきとか地味なごはんばっかで、
しかもだいっ嫌いな牛乳まで飲めってもう梨華ちゃん助けてよー」
梨華の腕を掴んでゆさゆさ揺らす。
「助けてってあたしが代わりに食べたり飲んだりするわけいかないじゃん、
がんばって直しなよ、ね?」
「…うん」
優しく諭す梨華に加護も素直にうなずいた。
少し先に吉澤の家が見えて来た。軒先の“氷”ののぼりが風にゆらゆらしている。
「あ、ねえよっちゃんちでかき氷食べてかえろ」
立ち止まり一瞬躊躇したが、いいよ、と梨華はうなずいた。
加護の母は夕食の支度があるからと先に帰って行った。
- 585 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:01
-
ガラッ
幅の広い木枠のガラス戸を開けふたりが店の中入ると、ガラスのショーケースの
向こうで吉澤の母が和菓子をあれこれ品定めする年配の女性の相手をしていた。
店を入った右手に、どっしりとしたテーブル形の囲炉裏があり、
壁にそって細長い床几と、周りに切り出した丸太のままイスが置かれ、
そこが喫茶スペースになっていた。
床几側の壁には大きな丸い窓があり、格子のはめられた向こうに中庭の緑が見えた。
- 586 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:02
-
「「 こんにちは 」」
「あら、いらっしゃい」
その女性に和菓子の包みをわたし店先まで見送ってからふたりを振り返る。
「ひとみに用事?」
「いえ、外すっごく暑くて氷ののぼりにひかれちゃいました」
梨華がいたずらっぽく言った。
「そう、今日はほんと暑かったものね、好きなとこ座って、
そうそう、亜依ちゃん、具合どうなの?」
吉澤の母は冷たい麦茶を入れたグラスを、壁際の床几に座った二人の前に置いた。
「はい、今日病院に行って来て、薬と食事で治るそうなので、
だからあの…よっちゃんにも心配しないように伝えてください」
「そう、わかったわ、伝えとく」
安心したように浮かべた笑顔はどことなく吉澤に似てると梨華は思う。
- 587 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:03
-
「はい、お待たせ」
涼しげなガラスの器に盛られた氷イチゴにはメニューにない丸いバニラアイスが
トッピングされていた。
「うわぁ〜」 加護がため息まじりの声を上げる。
「がんばってるふたりにプレゼント」
「ありがとうございます」
「いただきま〜す!」
加護がスプーンを取り上げた時、店の奥で声がした。
『ただいま〜』
「あら、帰って来たみたい、呼んでくるわね」
ふたり笑顔を見合わせた。
- 588 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:04
-
「いよ〜、来てたんだ」
奥に続くのれんを上げジーンズにタンクトップの吉澤が店に顔をだした。
まだなんとなくとぎまぎしてしまう梨華だが、どうにか笑顔を浮かべる。
あぢ〜っと自分をあおぎながらふたりの前の丸太に座った吉澤に梨華がたずねた。
「バイト?」
「うん、わり、一口飲ませて」
梨華の麦茶のグラスに手をのばすと止める間もなくぐいと飲んだ。
「ふぅ〜」
「コラ、ひとみ!」
吉澤の分の麦茶を持って来た母にとがめられ首をすくめた。
その前に亜依が氷の乗っかったスプーンを、はい、と差し出した。
「お、サンキュ」
- 589 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:05
-
「病院、行ったんだって?」
「うん、今日検査の結果聞いてきて、で、
なんとか貧血とかって、薬と食事で治るって…、
だからもう心配ないから…」
そう言って加護は照れくさそうに吉澤を見た。
「そっか……、
………………………………、
そっかーーーーっ!」
吉澤は座ったまま両手をあげ大きく伸びをした。
「よっし、渋谷、行こうな! 梨華ちゃんも、ね!」
「ぇえ?あたしいちおー受験生だよ?!」 大げさに口を尖らせるのはいつもの癖だ。
「一日くらい良いじゃんか」
「良いじゃんか〜」 加護も甘えて同調する。
- 590 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:05
-
「コラーーーーーーーーーッ!!!」
- 591 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:06
-
唐突に響いたその声に驚いて三人同時に店の入り口を見る。
辻が顔を真っ赤にして突っ立っていた。
「「「 のの!」」」
「なんで、のんに内緒で密会してるんですかっ!」
「密会ってたまたまあたしとあいぼんがあっただけだよ」
「そーだよ」
「それにここあたしんちだし、いてあたりま…
「言い訳するんじゃなーー−い!」
「もーいいからこっち来て座んなよ」
吉澤は入り口の辻を囲炉裏端につれて来て座らせると、店の奥に引っ込んだ。
辻はまだプリプリしている。
「あのね、あたし今日病院行ったの、その帰りに梨華ちゃんにあったんだよ」
「ほんと?どうだった?」 とたんに心配顔で身を乗り出す。
加護は辻に病気の事をひとおり話した。辻は真剣な顔でうん、うんと聞いている。
辻の前にトンっと梨華達のと同じアイスの乗ったかき氷の器が置かれた。
「うわぁ〜」
ため息のまじるところまで加護にそっくりの感嘆詞。
心から幸せそうにかき氷を頬張る辻を、吉澤も、加護も梨華もまた、
同じように幸せそうな笑みを浮かべ見守っている。
- 592 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:07
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 593 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:08
-
いつの間にか日も暮れて、街頭が灯りはじめる時刻である。
店の暖簾もしまわれ、店頭の行灯も消されていた。
いい加減帰らなきゃと思っても、久しぶりにつきない四人の笑い声は、
柔らかいオレンジの光とともに舗道に時折こぼれいつまでも揺れていた。
- 594 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:08
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 595 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:09
-
「ねぇ、ほんとにこんなんで良いの?」
「良いんだって」
- 596 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:10
-
がさごそアイスキャンディーの袋を剥きながら言う麻琴に、
亜弥も袋から中身をすぱっとぬきつつさらっと答える。
今日亜弥達の高校は夏休み最後の登校日だった。
その帰り、三人は大通りを駅と反対に歩いて突き当たる大きな公園に来ていた。
ツタが青々と茂った藤棚のしたのベンチは広々とした広場に面していた。
- 597 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:11
-
「「「 かんぱ〜い!」」」
空色のアイスを持った手を軽くぶつけ合う。
四角い角をサクッとかじって亜弥は広場の向こうに見える連なる山々と空を見た。
麻琴もあさ美もまた亜弥にならって同じ景色に目を細めた。
東京より幾分北に位置し標高の高いこの街の夏は東京より短い。
その終わり告げるように、乾いた涼やかな風が、日陰のベンチに座る三人の髪を
さらさら揺らして吹き抜けた。
「ほんとに、見送り、行ったらダメ?」
「ダメ」
「そっか…」
拒む気持ちもなんとなくわかる気がして麻琴はそれきり口を噤んだ。
- 598 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:11
-
「あのさ…ありがと、ね、あたし、ふたりがいたから自信持てたんだよ、
ここ、離れてもだいじょぶって…」
「亜弥ちゃん…」
あさ美が潤んだ瞳で亜弥の横顔を見つめる。
麻琴がたまらず俯くと大粒の涙がひとつふたつ膝に置かれた手の甲に落ちた。
「っもぅ、まこっちゃん!」
亜弥はその頭に手をのばし髪をわしわしとかき混ぜた。
「引っ越し、あさって?」
アイスの平たい棒を指先でくるくるしながらあさ美がたずねる。
「うん、家ん中、すっごいよ、ダンボールだらけ」
くすっと亜弥が笑う。
ふっと口元を引き締め、山の端に反射する日の光を見つめる。
「ここも、今日が最後かな」
「最後なんて…日本じゅうどこにいたって、また来れるじゃん!」
そういってまたぐすっと言葉を詰まらせる。
「ふふ、そうだね」
麻琴の言葉に答えてもこんな風にこの制服でここにいることはもうないと、
亜弥は思う。
- 599 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:12
-
あさ美が亜弥の肩口にこつんと額を押し付けた。
麻琴は盛大に、ヒック、ヒックとしゃくり上げている。
そんなふたりを順番に愛おしそうに見つめ、その頭にふわっふわっと手を置いて、
「元気でね…」
亜弥が小さく言うと、そのままの姿勢でうんうんとうなずくふたり。
また、風が吹いて、三人のまわりの木漏れ日の影が揺らめいた。
遠くの木の枝で、ヒグラシがカナカナと鳴きだし、その声があたりにこだました。
- 600 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:13
-
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、
- 601 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:13
-
学校から帰るとめずらしく亜弥の父が夕食を作ってくれた。
ちょっと茹ですぎた冷し中華を食べ、シャワーを済ませ、リビングで少しテレビを見た。
もうほとんど荷造りも終わっていて、父はのんびり缶ビールを飲んでいた。
「パパ、もう寝るね」
「そっか、おやすみ」
「おやすみなさい、あ、晩ご飯ありがと」
- 602 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:14
-
『ばか、なに無理してんの?』
ベットの上で仰向けに寝そべってぼんやり天井を見ていると、
美貴のいつもの乱暴な物言いが聞こえるような気がした。
周りには引っ越しセンターのダンボールが積み上げられ、
壁に掛かっていた時計やピンナップボードもすっかり外されて、
白い跡だけが残っていた。
♪〜
ベットの横のダンボールに置かれた携帯が鳴った。
起き上がり液晶を確認すると“みきたん”の文字が点滅していた。
- 603 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:15
-
ピッ♪
『亜弥ちゃん?』
『たん…どしたの?』
『や、なんか、なんとなく、どおしてるかなぁーと思って…』
美貴にしては歯切れの悪い言い方だった。
- 604 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:15
-
少しの間、しんと静かになる。
ぼそっと言う感じで亜弥が話しはじめる。
『あのね…今日、まこっちゃんとこんこんとさよならしてきた』
『学校、今日で最後だったの?』
『うん…でも…なんか…ふたり泣いてたんだけど、あたし涙も出なかったよ』
『亜弥ちゃん…』
『それで…帰って、ごはん食べて…、
ぼーっとしてたら、なんとなく、たんの事思い出して…
そしたら…たんから掛かって来て……、たんのばかって思った』
『は?なにそれ』
『あたし、がんばってんのにって』
『…ばか、なに無理してんの? 亜弥ちゃんのがばかじゃん』
『ふふ、言うと思った』
亜弥は笑い出す。なんだかすごくおかしかった。
『笑うとこじゃないし』
『や、面白いよ、サイコー笑える』
ひとしきり笑って、やがて、亜弥が深くため息をついた。
『はぁ…』
『落ち着いた?』
『うん』
- 605 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:16
-
『引っ越しいつなの?』
『あさって』
『そっか、そんなすぐなんだ………、
……………………、
あのね…、よっちゃんが旅番組で見たらしくて、松本の事、
“いいとこじゃん!”って言ってて……、
で、美貴、亜弥ちゃんの事くらいしか良い想い出なかったし、
あんまそういうのなかったんだけど……、
よっちゃんのそうゆうの聞いてから、よく思い出すんだ、
流れてた川とか、亜弥ちゃんと行った公園とか、
どこ歩いてても見えた山とかお城とか、ちょー寒かった冬とか,
そしたら…なんだろうな…あのなんてゆーか…なんかすっごく懐かしいなって思う、
このごろ……、
『たん……、
やっと好きになってくれたんだね、
でもちょっと悔しいなぁ…あたしじゃなくて…
『亜弥ちゃんだよ』
『たん…』
『亜弥ちゃんが美貴といてくれたから…
『……………ばか、
『な…
『やっぱたんばかだ…っ…………(グスッ)
『……ごめん、ごめんね』
- 606 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:17
-
『ばか…(グスッ)
『ごめん…
『たんのばか…
『はいはい、ばかでした…
『ばかみき…(グスッ)
『そだね、美貴ばかだね』
『(グスッ)ほんとそぉだよ……、
『 うん…
『 たん(グスッ)……、
『 ん……、
- 607 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:18
-
……………………………、
- 608 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:18
-
ふたりの電話はそんなやりとりで終わった。
夏休みもあとわずか、8月も末の事。
- 609 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:19
-
それぞれの夏、それぞれの想い………、
- 610 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:20
-
……………………………………………
……………………………………
……………………………、
- 611 名前:10 投稿日:2005/08/13(土) 13:20
-
- 612 名前:彩girl 投稿日:2005/08/13(土) 13:21
-
ひさぶりの更新。
お待たせしてすいません。
レスありがとうごさいます。素直に嬉しいです。
季節に追いこされないよう、がんがります。
- 613 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 20:26
- 待ってましたー(≧▽≦)
大量交信おつかれいなでした〜从 ´ ヮ`)
こちらも『素直』にマターリまってます♪
- 614 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 11:02
- 待ち続けてました…
更新が来なかったのでアワワヽ(´Д`;≡;´Д`)ノアワワしちゃってましたよホントにもう。
作者さんが生きてて良かったです。
- 615 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/03(土) 20:37
- 待ってるぜぃ!!
- 616 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/01(土) 20:23
- 待つよ
- 617 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 19:20
- すっごい待ってる
- 618 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/26(土) 11:09
- 頑張れ〜
- 619 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/27(日) 05:40
- 待ってるよ
- 620 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:32
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 621 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/06(金) 21:05
- 待ってます
- 622 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 02:31
- 待ちます
- 623 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/06(月) 15:55
- 待ってますよ
- 624 名前:彩girl 投稿日:2006/02/09(木) 10:43
- とりあえず生存報告です。
お待たせしてすいません……
- 625 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/10(金) 00:38
- 生存報告キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
マターリ待ってますYO
- 626 名前:o-o 投稿日:2006/04/15(土) 11:55
- ho
- 627 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/05/20(土) 01:51
- 待ってます
- 628 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/07/26(水) 09:16
- ずっと待ってます
- 629 名前:彩girl 投稿日:2006/08/12(土) 00:07
- お待たせしてすいません。
ひとまず生存報告を…
後ほどひさぶりの更新もしようと思ってます。
- 630 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:29
-
- 631 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:30
-
夏休みが終わり新学期がはじまってひと月が過ぎていた。
公園のまんなかの大きな木の側に、地面に埋め込まれた大きめの木のテーブルと長椅子がある。
そこにテーブルを背に並んで座った美貴と吉澤が、
離れたところで遊ぶ小さな子供と子犬を眺めている。
傍らにたたずんで見守っているのは子供のお母さんだろうか。
「梨華ちゃんと柴ちゃんには…なんか借りができちゃったかもね」
「うん…んでも『別によっちゃんのためとかじゃないから』って
さんざん言われたよ」
吉澤はその時の梨華のムキになって言う様を思い出し、目をほそめ前髪をかきあげた。
いくつかの台風がうだるような暑さを吹き飛ばして、もう半袖一枚では少し肌寒い。
美貴は薄手のカットソーを、吉澤はスタンドカラーのウインドブレーカーを
Tシャツの上に羽織っていた。
「ね、あっち行ってみよ」
吉澤は美貴の座ったとの反対に体をむけ片足をあげ長椅子をまたぐような格好で座り直し、
こんもりと木々の茂ったほうを指差した。
- 632 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:31
-
新学期がはじまって数日は何事もなく過ぎた。
吉澤は相変わらず進路を決められなかったが美貴のおかげでそれほど落ち込んでもいなかった。
梨華はもう吉澤とも前と同じように話せるようになっていたし、
予備校の一件以来、後藤ともずいぶん仲良くなっていた。
加護の顔色もだいぶ良くなり、辻とふたり元気すぎる位で吉澤と梨華をあきれさせていた。
授業も通常のペースにもどり、吉澤は窓際の席で珍しく真剣に教壇の教師の話を聞いていた。
窓の外の日差しはまだジリジリと熱く焦がすようだった。
ふと、リュックのポケットの携帯が振動するのを感じた。
机の横に掛けたそれを一瞥したが、さほど気にせずにまた授業に気をもどした。
ほぼ同時刻、梨華の携帯も、後藤の携帯も、そのほか多数の生徒の携帯も、
同じ内容のメールを受信した。
- 633 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:33
-
“『バードサンクチュアリ』
野鳥のためのエリアです
柵内に立ち入らないでください”
公園のそのエリアの入り口の立てられた立て看板にはそう書かれていた。
小道を進んでいくとログハウス風の簡易な小屋が見えてくる。
ちょうど人の目の位置あたりに横に細長い窓が切られ池に飛来する野鳥を観察できるようになっていた。
吉澤と美貴はその小屋の窓から水草が茂った池を眺めた。
白と黒の見慣れた水鳥が数羽のんびりぷかぷかと浮かんでいた。
「サンクチュアリ…か……、なんか美貴達の学校とかもそうなのかな…
「ん……保田先生もそんなこと言ってた…
- 634 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:34
-
ふと近くの梢からひと際高い鳴き声があがり、それを合図に鳥達が一斉に飛び立った。
なおもバサバサと羽の音がする方をふたりが見ると、
池の水草の途切れた水際で黒っぽい大きな猫が口に暴れる鳥をくわえていた。
鋭い爪で羽ごと地面に押さえつけいったん離した鳥の喉のあたりに再びがしっと噛み付いた。
それきり鳥は静かになった。
都会の喧噪から隔離された場所である。
だがほんとのところの天敵であるカラスや野良猫から守られている訳ではなかった。
「やっぱそうかもね…
そう言った美貴は残酷なシーンを見たにもかかわらず薄く笑っていた。
そんな美貴を見て吉澤はたまらず否定する。
「んなことないって、あたし達鳥でもねーし猫でもねーじゃん」
「じゃなくてさ」
「もー訳わかんない事言ってないで、そろそろ美術館に行こ?」
「もうよっちゃんがよけいな事言うから」
「しょーがねーじゃん、でなきゃ美貴と一週間ずっと合えなかったんだよ?
美貴、それでも良かったの?」
「んなの…知らないょ…
そういって美貴はさっさと小屋を出て小道を美術館に向かって歩き出した。
慌てて追いかけて吉澤は美貴の隣に並んだ。
歩きながら美貴のすました横顔をにやにやと見ていた。
それに気付いた美貴は立ち止まる。
「なに?」
「や、なんか今すげーかわいいなって思って」
「ばか…」
小道の向こうの木立の隙間に白っぽい建物が見えてきた。
- 635 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:36
-
「吉澤さん、これどうゆう事? あなたの口から説明して」
担任の保田はそう言って吉澤にひと綴りの書類を差し出した。
ここは吉澤が夏休み前に保田から進路指導を受けたのと同じ場所である。
ただ前回と違って、今吉澤の向かいに座っているのは保田ひとりではなかった。
保田の隣には美貴の担任である中澤が鋭い眼光で吉澤を見つめている。
それはメールをプリントしたとおぼしき書類だった。
一行のテキスト、その下に一枚の名刺くらいのサイズの画像。
同じような書類が数枚ありそれぞれにプリントされている画像は違っていたがテキストは一緒だった。
“スクープ!このふたりマジ付き合ってる!(右3D吉澤、左3E藤本)”
「これあなたなの?」
「あ…の……、
- 636 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:37
-
その画像は美貴とふたり裏通学路を手をつないで帰った時のものだった。
ほかのもほぼ同じ場所のようだ。
後ろ姿のショット、背の高い方の生徒が肩にかけたリュックは紛れもなく吉澤のもので、
この学校にはほかにエンジのリュックで通学している生徒はいなかった。
横顔のショットもぼやけていたがふたりに良く似て見えた。
友だち同士に見えなくもないが、別の一枚ではふたりはどう見てもキスしてるようにしか見えなかった。
吉澤は迷っていた。自分だと素直に認めるべきか否か。
何がという訳ではないが何故かそれを言ったら大変な事になる気がした。
「吉澤、なんか言うたらどーや」
中澤に睨まれ内心身をすくませる。
…ど、どうしよう……
「ま、ええわ、この後 藤本にじっくり聞いてみるしな」
にやりと不適な笑いを浮かべた中澤は、なおも…
「あいつ、あんたがなんも言わんかったって聞いたらどう思うやろな…
妙な正義感もってそうやし…
ま、あたしが藤本やったらあんたのこと見損なうと思うわ」
誘導尋問である。吉澤はハッと顔を上げ中澤を見た。
「せ、先生っ
ガラッ!
吉澤の発言をとめるように、突然その部屋の戸が開けられた。
- 637 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:38
-
「3Bの石川、それに柴田やないか、
なんや、今大事な話ししてるとこや、はよそこ閉めて教室にもどりなさい」
「知ってます!だから来たんです!」
梨華はずかずかとテーブルに向かってきて三人の前に置かれた書類を手に取った。
「これ、吉澤さんでも藤本さんでもないですよ」
「でもこの制服にこのリュックはうちの学校では吉澤しかいないのよ」
「うちの生徒じゃないかもしれないじゃないですか」
「この道はすぐそこの道やん」
「こんなの似たとこいっぱいありますよ」
「あほ、そんなん調べてたらキリないやんか」
「柴田、そこ閉めて」
保田が入り口近くにいた柴田にそう言ったのは、
騒ぎを聞きつけた生徒数人が部屋の中をのぞいていたからだ。
- 638 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:38
-
「ともかく、こんなイタメール、本気にしないでください」
「あのね石川さん、吉澤さんに関しては、
ここに書かれてることがホントかウソかだけがが問題じゃないのよ」
保田はつかつかと今柴田が閉めた入り口にむかった。
曇りガラス越しに人影が見えたのだ。
保田ががらっと戸を開けるとバタバタと廊下を駆けて遠ざかる足音が聞こえた。
立ち聞きしていた生徒達が廊下の向こうに見えなくなってから
静かに戸を閉めた。
「吉澤は…こういう事これで2度目なの、そこが問題なのよ」
テーブルの側に戻ったが保田は立ったまま腕組みをした。
「そんな…そんなよっちゃ…吉澤さん何も悪くないのに…
「事実じゃなくても2度目ともなると素行不良って評価になるの、
それに……、悪くないことないわ、
ね、吉澤さん、あたし夏休み前に言ったわよね、やりたい事見つかったの?」
「や……
「本気で探したの?」
吉澤は俯いて“いいえ”と首を横に振った。
校内でも端にあるこの一室は他の教室からも遠く喋る者がいないとシーンだ。
- 639 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:40
-
「石川、柴田、二人とも教室にもどりなさい」
中澤がふたりをうながした。
「はい…」
部屋を出ようとドアに手を掛けた梨華に保田が声をかけた。
「このメール、あなたの言う通りだと思うわ、悪いようにはしないから」
「「失礼します」」
室内にきちんと頭を下げ、ふたりは進路指導室を後にした。
- 640 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:40
-
吉澤の処分は翌日の職員会議で正式に決まった。
3日間の自宅謹慎、その後3日間別室指導というものだった。
吉澤の後、同じように保田と中澤に事情を聞かれた美貴は、すんなり自分だと認め
『悪い事してるなんて思わないけど学校がどーこー言うなら辞めても良いですよ』
と二人を前に言い放ったらしい。
結果、その態度が問題になり美貴も3日間の自宅謹慎となった。
さらに…
「『今後、校外でみだりに接触しないこと』
まぁ人目につくとこでいちゃいちゃすんなって事や、わかったか」
「はい…」
「それからな、藤本、もう卒業まで1年もないやし、
勢いでも自分の口から辞めるなんて言うたらあかん」
「でも…
「でもやない、藤本が思おてるほど、世の中甘ぁないんや、
そこんとこよぉ肝に銘じなさい」
「…………はい」
- 641 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:42
-
吉澤がその処分を保田から言い渡されたのも例の進路指導室だった。
「あの…週末も外出禁止ですよね」
「そうよ」
「ですよね……」
前回前々回と同じく、窓を背に保田が座り、向かいに吉澤が座っている。
吉澤はがっくり肩を落とした。
「週末なんかあるの?」
「…あの…週末で終わっちゃう写真展があって……
行こうと思っていただけなんで……
「写真展…
「や…いいです……自業自得ですから……
言いながらも無理してるのは引きつった笑顔で一目瞭然であった。
保田はその様子にしばし思いを巡らせた。
「わかったわ、じゃあ写真展のための外出許可、一応聞いてみるから…
「え? じゃあ行っても…」
「許可でたらね、そのかわり行けたらレポート謹慎中の課題にするわよ、いい?」
- 642 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:43
-
保田の説得が上手かったのか週末の写真展のための外出はゆるされた。
だがこちらもやはり…
「くれぐれも、慎重に行動すること、
誰かさんと校外で会うのもしばらくは控えなさい、わかった?」
「は…はい……わかりました………
美貴とのことを釘を刺されたのであった。
それなのに、こうして一緒に美術館に来れたのは、なぜか美貴の担任の中澤が、
美貴に吉澤と同じ謹慎中の課題を出したからだ。
- 643 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:44
-
「『これはうちからのエールや』って言ってたけど…」
「中澤先生?」
「うん…
写真展を見終わってふたりは美術館内のコーヒーショップに落ち着いた。
美貴は手元のコーヒーカップを持ち上げ一口飲んでまた皿にもどし
思い出したように笑みをこぼす。
「ん?」 吉澤はそんな美貴を不思議に思う。
「や…でもほんとはさ、半分いじめだよ、
だって美貴が感想文とか苦手なの知ってるはずだもん」
「はは、そうかもね、あの中澤だもん」
「でしょ? きっとそうだよ」
それからひとしきりふたりの担任の話題で盛り上がる。
沈黙…吉澤が腕時計を見た。もうすぐ午後4時である。
- 644 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:45
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「そろそろ帰らないとね」
「うん…」
「よっちゃん」
「ん?」
「美貴達…このままで良いのかな?」
からになったカップをもてあそびつつ、不安気なまなざしを手元に落とした美貴。
そんな美貴を見つめる吉澤の表情も幾分険しくなる。
「あ…ま…このままで良いわけねぇけど…
あとはうちらがどうしたいかだけだと思う…」
「どう、したいか…」
テーブルに頬杖をついて美貴は窓の外を見た。
「うん…美貴は…あたしのこと終わりに…
「なわけないじゃん」 目線を上げ吉澤を睨む。
間髪いれぬ解答に吉澤は思わずほっと頬笑む。
「なら…あたし自分のことちゃんとするし、
美貴のことも、ちゃんと考える、
だからこれからも一緒に…てかいたんだ美貴と」
吉澤が真顔で見つめる。
美貴はその様子を見てすぐに笑顔を浮かべ、うなずいた。
それを見届け吉澤は自分の飲み物を一気に飲み干した。
「おっし、さ、帰ろ」
- 645 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:45
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ふたり連れ立って美術館を後にする。
といっても地元に近いこの場所から家まで一緒に帰ることはさすがに出来ない。
園内でもバス停までの小道は人通りが多く手もつないでいなかった。
吉澤は手持ち無沙汰に歩きながら両手を頭に乗っけた。
「あーあ、早く普通のデートがしてぇな」
「普通のデートってなに?」
「いつもうちらがしてるようにって事だよ。
だってせっかく美貴と会ってもなんもできないなんてさ」
美貴は隣を歩く吉澤の横顔を見た。
バス停の屋根がすぐそこに見えてきた。
- 646 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:46
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「えっと最初のがもう5分…そのあとは…その10分後か、けっこう楽勝じゃん、ね」
バスの時刻表と腕時計を見比べて吉澤は美貴を振り返る。
「よっちゃん、先で良いよ」
「なんで、ここはやっぱ美貴が先でしょう」
「いいよ、よっちゃんで」
「だめ、あたしに見送らせて」
「それが…やなんだよ…
そう言って顔を背けた美貴。
その髪に吉澤の指がすっと撫でるように触れた。
美貴が少し驚いて振り向いたので慌てて手を引っ込めたが、その頬はみるみる赤くなる。
「あ、や、友だちだってこんくらいするでしょーが…」
そう言って落ち着き無くあたりを見回す。
バス停の近くにはほかに年配の女性数人のグループと老夫婦がいたが
ふたりの事を気にしてはいなかった。
ほどなく鈍いエンジン音を響かせ最初のバスがやって来た。
- 647 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:47
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そのバスに乗り込んだのは吉澤だった。
前の乗車ドアから入って奥に行くと中程の降車口の窓から顔をのぞかせバス停に残された美貴を見た。
入口のドアが閉まった。
吉澤は右手を受話器の形にして耳と口にあて『よる電話するね』と口を動かした。
美貴はそのジェスチャーに頷いて答えた。
ほどなくバスが動きだし、美貴の目の前を行き過ぎる。
窓越しに吉澤はじっと美貴を見つめている。美貴もまたその吉澤から目を離せないでいた。
やがてバスは遠ざかりどんどん小さくなって行った。
バス停にぽつんと美貴だけが残された。
- 648 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:48
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ジー ジー ……
美術館に入ってからマナーモードにしたままだった携帯が振動メールの着信を告げる。
素早くボタンを操作しメールを開く。液晶を見て美貴はふわっと笑顔を浮かべる。
“美貴、大好きだよ”
「よっちゃん…
思わずつぶやいた。すぐ隣に吉澤がいて自分を見つめてるような気がした。
“急にどしたの?”
“や、なんとなく”
“なんとなくかよ!”
“いやいや、そーじゃなくてさー”
“わかってる、でどしたの?”
それからなぜかメールの間があいた。次のバスが近づいてきた。
- 649 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:49
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開かれたドアからバスに乗り、空いていた一人掛けの座席に落ち着くとすぐ、
再び吉澤からメールが届いた。
“さっき、別れるって言われなくて良かったなって…
美貴がすぐ否定してくれて、すごく嬉しかったんだけど、
でもありがとうっていうのもおかしいかなって”
携帯の液晶をのぞく美貴の柔らかな横顔をバスの振動にあわせて揺れる西日が照らしている。
“あのね、美貴もよっちゃんの事
そこまで書いて美貴は流れる窓の外の風景に目を向けた。
再び携帯に目を戻し言葉を入力してゆく。
大好きなんだよ”
こうして文章にするとかなり恥ずかしかったが、美貴は送信ボタンを押した。
バスは大通りに差し掛かっていた。美貴の降りるバス停ももうすぐだった。
- 650 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:49
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一足先にバスを降り駅に向かって歩いていた吉澤の携帯に美貴からメールが届いた。
歩きながらパカっとフリップを片手で開いた。
液晶を見て舗道の真ん中で立ち止まる。
‥‥‥‥‥‥‥、
なぜだかツーンとした鼻を吉澤は携帯を持っていない方の手でぎゅっとつまんで
上を向いた。その目はかすかに赤く潤んでいた。
用事に急ぐ人々が立ち尽くす吉澤を避けて追いこしてゆく、
夕暮れのすこし手前、西日がその背中をオレンジに染めている。
また駅に向かって歩き出した吉澤は、
自分を好きなバレーから遠ざけた出来事をはじめて遠く感じた。
- 651 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:52
- マンションのある通りでバスを降りて舗道を歩く美貴。
まだあたりは明るいが西日も落ちて街灯がともりはじめている。
近くまで来たところで、
美貴はその前の植え込みのブロックの縁に座ってる中年の男に気付いた。
襟がのびだらんとしたグレーのTシャツと色の抜けたジーンズにサンダル履き、
無精髭にぼさぼさの髪。
まるでボロ布のようなその男を美貴はなんとなく見ていたが、
ふとその男が誰なのかに気がついた。
歩を速めその前を通り過ぎる。
慌てて男が立ち上がり、
「あの…」
と声を掛けた。
無視してエントランスに入ろうとする美貴の背中にさらに声を掛けた。
「やっぱり美貴…だよな?」
振り向いた美貴はキッとその男を睨み付けた。
乱暴にドアを開け美貴は中に入っていった。
男はぼんやりとそこに佇んてそのドアをしばらく見つめていた。
- 652 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:54
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家に帰ってから美貴はすぐに姉のなつみに電話をした。
知るはずのない今の住所を彼に教えたのが誰か、他に考えられなかった。
『なちねえが教えたんでしょ?』
『……会ったの?』
『家の前にいたんだよ
なんでよ、ママも美貴もあの人とは縁切ったんだよ、
余計な事しないで』
『でもね美貴ちゃん、あの人…
『言い訳なんか聞きたくない、
あんな人もうパパでもなんでもないんだよ』
言うだけ言って美貴は乱暴に電話を切って、どさっとソファに座った。
- 653 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:54
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- 654 名前:_ 投稿日:2006/08/12(土) 01:54
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- 655 名前:彩girl 投稿日:2006/08/12(土) 02:02
- 更新ここまでです。
638 最後の行、ミスってたorz
校内でも端にあるこの一室は他の教室からも遠く喋る者がいないとシーンと静かだ。
です。
ほんとは、もすこし続き書いてからあげたかったのだけど…まいっか。
いつも待っていただいてる方、申し訳ありません&ありがとうございます。
- 656 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 00:49
- 更新お疲れ様です!!
この小説の空気感がすごい好きです。
次回もマターリ待ってます。
- 657 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/08/15(火) 02:23
- 更新お疲れ様です。
お待ちしてました。
ここのみきよしは等身大で何気ない日常の流れがとても瑞々しく感じられます。
いつまでもお待ちしていますのでゆっくりと作者さんのペースで進めて下さい。
- 658 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/12/31(日) 02:59
- 待っています
- 659 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/26(月) 23:12
- 懲りずに
- 660 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/24(木) 11:48
- 待ってますよ〜
- 661 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 20:15
- 待ってます
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