サバイバル
- 1 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:14
- ここで書くのは初めてです、お手柔らかにお願いします。
2chの鳩板で書いていたのですが、小説は小説専用板で書きたいと思いこの雪板に来ました。
改訂していますが、シナリオに変更はありませんので、鳩板で先を読むことが出来ますが
誤字脱字が多いので……。
現娘。メンバー全員出ます。
- 2 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:19
-
どこにいるんだろう?
14人が、一切の雑念もなく、みんなが同じ疑問を浮かべている。
なんでこんな事に?
- 3 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:19
- 初夏、たまにアッツイ日があるようなそんな時期。
PVの撮影で都内からバスに乗り込み、わいわいしながら揺られる事1時間、まだ目的地には着かない。
今回のPVは曲に合わせて森林での撮影があるという事で、普段の機械に囲まれた撮影とは違う高揚感が全員を包んでいた。
いつの間にか知っている景色はいなくなり、普段の生活では考えられないような木の数が窓の外に見える。
バスに乗車しているのはアイドルグループ、モーニング娘。の14人、それにマネージャ、運転手。
現地ではすでに撮影の準備で各スタッフは先に行っていると聞かされている、まぁ不思議な事ではない。
バスの後ろの座席はまだ運転免許も取れない年齢の女の子たちで埋められていた。
お菓子を広げ、完全に遠足気分である。
「あ、プリッツちょうだい」
「いいよ〜」
笑顔が商売の彼女達の素の笑顔。
バスの中で笑い声が響き、隅々まで楽しい気分に包まれている。
- 4 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:20
- その少し前には大人チームの面々が座っている。
子供チームのように騒いではいないが、内心は一緒に騒ぎたいほど興奮している。
モーニング娘。のリーダー、飯田圭織がそれを理性で抑え、後ろに向かって注意する。
「これから撮影なんだから食べ過ぎちゃダメよ〜」
「は〜い」
ホントにわかっているかどうかまでは確かめなかったものの、彼女等もプロである。
キレイに、かわいく撮ってもらわなければならないPVで、おなかのぽっこりでている姿で映りたい者などいない。
聞こえる音が話し声だけなのを確認した飯田はフッと笑みをこぼし、先まで聞いていたMDのイヤホンを耳に当てた。
イヤホンを通り越して聞こえる笑い声に、またフッと笑みをこぼした。
- 5 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:20
- 10分も過ぎていないと思う、急に後ろから声が聞こえなくなった。
隣を見るとメンバーで一番小さい矢口真里が口をだらしなくあけて寝ていた。
深夜、というほどでもないが夜にやっているラジオがあったからだ、寝せといてあげよう。
こそこそとイヤホンをはずす、それでも声は聞こえてこない。
隣を起こさないように座席の隙間から後ろを確認する。
隙間から今夏卒業する辻希美と加護亜衣が肩を寄り添って寝ている姿が見えた。
双子じゃないのに双子みたい、それを売りにユニットを組んで卒業する二人、なんとなく納得できる寝顔だ。
この二人を中心にいつもバスは騒々しくなる、ムードメーカーというやつだ。
少し背を伸ばし他のメンバーを確認してみる。
それは少し恐怖を感じるほど、みんな熟睡している。
先ほどまであんなにはしゃいでいたのに、それでなくても誰一人もれることなく寝るとは、長きにわたりこのグループに所属する彼女でなくても
その事を考えてみると妙な恐怖感がこみ上げてきた。
その時だった。
- 6 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:21
- 頭がくらっとした、貧血のけがあるわけでもないのに、車酔いもしないのに、眠気だ。
強烈な眠気が飯田を襲う。
おかしい、さっきまでまったく眠気なんてなかったのに、そうでなくてもPVの前日はキチンと睡眠をとるように心がけているのに。
アイドルといて7年近くやってきた彼女はスタイルを維持し、髪を綺麗に保ち、肌もつるつるにしてきた、それが彼女なりのプロ根性というものであった。
PVは様々な場面で使われる、つまり多くの人の目に付くわけで、その時に寝不足でクマなんかできてたりしてたらみっともない、
これもアイドルとしての彼女のプロ根性だった。
しかしこの睡魔は、相手にするには強すぎる。
何とか意識を保ったまま座席の定位置に座ろうとする、ちらりと運転席が見えた。
それは混沌に飛び込もうとする意識の見せた幻覚ではない、ましてやそんな顔をした運転手でもない。
運転手がガスマスクをしている。
その異常な光景に目を奪われながらも、思考を働かせる事のできず、意識がフェイドアウトしていった。
- 7 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:22
- 『飯田圭織・矢口真里』
「・・・ん〜、う〜ん」
睡眠から起きたというべきか、意識が戻ったというべきか、とんでもなく深いところにいた意識を引っ張り出し、飯田は起きた。
とりあえず身体を起こし、まだ重いまぶたを右手でこする。
まだ思考も完全におぼつかない、でも、左手に感じる違和感にすぐに気付いた。
身体を支えていた左手の下には木の根がはっていた、とても力強く。
その驚きにまぶたの重量も吹っ飛んだ、周りを見渡してみる。
深緑、緑、黄緑、青々とする緑、とにかく一面緑である。
声も出ない驚き、彼女の人生ではじめて感じた驚きだった。
無言のまま右から左へ視界を動かす、首が左まで回ったとき、自分の視界のすぐ下に何か見えた。
すぐに下を見てみると、そこにはバスの中で見たまんまの顔をした矢口真里。
脳が指令を送る前に、飯田は矢口を揺り起こした。
「矢口!!矢口!!起きて!!」
「ん〜・・・」
「いいから起きて!!」
両手で肩を持ち、矢口の身体を乱暴に揺らす。
首がガクガクいっていた矢口の振幅が徐々に小さくなる、それに反比例するように矢口の意識はこちらの世界に戻ってくる。
「矢口、大変なの!!起きて、ねぇ起きて!!」
「わかったわかったって、何々?」
- 8 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:24
- やや不機嫌に矢口がまぶたを開いていく、誰だってこんな起こされ方をされたら不機嫌にはなるだろう。
でも今はそんなこと言ってられない、状況をまだほとんど把握していない飯田でもそれぐらいはわかる。
矢口の身体を起こす、まだ両手で肩を持っている。
まぶたが半分ほど開き、また閉じたと思うと矢口は手でまぶたをこすりだした。
矢口の目が完全に開いた時は、先ほどの自分のリアクションを見ているようであった。
同じように驚愕し、声が出ない。
声なきまま周りを見渡す矢口、その終着地点は飯田の顔であった。
「圭織!なにこれ!」
「わかんない、わかんないけど・・・」
「え!?バスに乗ってたんじゃ・・・他のみんなは!?」
「矢口これ・・・」
飯田は矢口の腹部を指差した、そこには白い紙。
吐き出した疑問を無視して、矢口がその紙を手に取り、開く。
中には見慣れた打ち込みの文字、都会での生活をしていると嫌でも眼にする画一された文字。
その紙に書かれている文字を矢口は小さくボソボソと読み出した。
- 9 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:25
- ┌───────────────────────────────────────────┐
│ │
│モーニング娘。の諸君、突然の事で驚いているだろう。 │
│ここは、F湖の樹海、君達はここに二人一組で点在している。 │
│1人1つ、バッグを用意した。 │
│中身は二日分の食料、水、ナイフ、毛布、軍手、マッチだ。 │
│それに各組1つずつ異なったプレゼントが入っている、有効に使ってくれ。 │
│君達のやるべき事は1つ、この樹海からの脱出だ。 │
│方法は問わない、脱出すれば成功とみなす。 │
│なお、脱出する途中での怪我や死亡などの責任は一切負わないからそのつもりで。 │
│ │
│それでは健闘を祈る。 │
│ │
│ P・S これはTVの企画なんかではない、真剣なサバイバルだ │
│ │
└───────────────────────────────────────────┘
- 10 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:29
- 手紙を読み終えてしばらく、沈黙が漂っていた。
風邪が走り草木がざわめく、音。
深緑と輝緑の競演、光。
生まれる前からずっとある大地、香り。
左手に触れる大地の上に神々しくも生きる緑、感触。
目の前にある非日常への通告、手紙。
知っていたはずの日常なんていうものは、そこにはなかった。
全ての感覚が、非日常を強調していた。
「な・・・なにこれ・・・」
息を吸うのも忘れる沈黙を打ち破った、矢口の言葉。
震える手で手紙をクシャクシャに握る。
恐怖をたたえたその顔を飯田に向け、言った。
「こんな所に置いてってどうしろっていうの・・・」
「わかんない・・・」
恐怖の半分が怒りに変わり、その怒りの鈍い光を飯田に向ける。
「これじゃ死ねって言ってるようなもんじゃない!!!」
死ね、という言葉に飯田は反応した。
「まだ死ぬかどうかわかんないじゃない!!とにかく落ちつこ、ね」
「落ち着けるわけないじゃない!!」
恐怖、怒り、悲しみ、3つの負の感情を表情に出し、矢口が叫んだ。
しかし、その感情に負けないように、飯田は矢口の顔を両手で挟んだ。
- 11 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:29
- 「私だって怖いわよ!!でもまずは落ち着かないとダメなの!!」
「で・・・・・・」
矢口は言葉を詰まらせた。
でもこんな状況でどうしろっていうの、そう言おうと思っていた。
飯田の迫力、そして地面につけている右手から伝わる感触で、これが現実である事、そしてとんでもない事だと改めて知らされた。
矢口から怒りの表情が消えた、それを見た飯田は己の恐怖を半分優しさに変え、言った。
「とにかく、冷静になろう。それから考えようよ。」
飯田は矢口の隣に座った。
1人じゃない、そう考えると恐怖が少しなくなった気がする、そう、1人じゃないんだ。
深呼吸してみる、大げさに、大きく。
普段そんなに意識しない深呼吸という行為、こんな場面で効果覿面だと思わなかった。
矢口も深呼吸を始めた、一人じゃないことを再認識する。
スー、ハ〜、スー、ハ〜・・・。
少し落ち着いてきた。
二人は同時に深呼吸を元に戻していった。
- 12 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:30
- 「これ・・・どういうことなんだろ」
矢口の方を向いた、上を向いていた、木々に遮られた空を見るような遠い目。
「わかんない・・・でもやらなきゃいけないことはわかってる」
「脱出・・・でしょ?」
「そう脱出」
先ほどからは考えられないほどゆっくりした時間が流れた。
落ち着く事はやはり正解だったのだ。
「他のみんなもこうなっちゃってんのかなぁ?」
「多分ね」
「そ〜かぁ」
両手を頭の後ろに置き、ねっころがる矢口。
今になってみると、色んな事に気付いた。
「そういえば、バッグ・・・バッグがあるはずよね」
「ああそうだ!」
飛び上がる矢口。
その矢口の向こう側に、黒いものが二つ見えた、バッグだ。
矢口はすぐさま左にある二つのバッグを二人の間に置いた。
- 13 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:30
- 顔を見合わせ、同時のバッグを開く。
中に入っているのは手紙に書いてあるとおりだった。
「異なったプレゼントってこれの事かな?」
矢口がバッグからそれを出した。
「懐中電灯・・・?」
矢口の腕ほどの太さの懐中電灯である。
「・・・だね。良かったじゃん、これで暗くなっても大丈夫よ」
「・・・」
矢口の表情は晴れなかった。
これから訪れる、この樹海のでの闇。
人一倍怖がりの矢口の恐怖は、こんな小さい光ではぬぐえないのだ。
少し空気が冷たくなった気がした、先ほどまでの落ち着きにほころびが出たのだろう。
いつもなら感じないであろうごくわずか沈黙が、何十倍も長く感じた。
状況の打開、飯田が考えたのはこれだった。
- 14 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:30
- 「でもマッチもあるわけだし、焚き火も出来るしね。大丈夫だって」
優しく肩を叩く、叩いた分だけ矢口から恐怖が抜けてくれれば、と思った。
「うん」
少し表情が晴れたように見えた、まずはこれでいいのだ。
食料や水を確認して、バッグを閉めた。
意識がバッグから外に向いた、そのとき二人は同時に気付いた。
「圭織、なにその格好」
「矢口だって同じじゃん」
バスの中で来ていた服とは違う、それはもう明らかに違う、真っ黒なジャージ。
ラインもロゴも一切なし、左胸に白くて小さな刺繍で名前が書いてある。
「なにこれ・・・って事は脱がされたって事?」
「さぁ・・・そうなんじゃない」
こんな状況でそんなことを言う女の子の心理、徐々に気持ちが安定してきている証拠だ、と飯田は思った。
- 15 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:31
- 飯田は上のジャージのチャックを開けた、真っ白なTシャツが見えた。
矢口は下のジャージの胴部分を前に伸ばした、真っ赤な短パンが見えた。
互いに自分の色を確認して、相手の色を確認し、顔を見合わせる。
「どうなってんのこれ?」
「でもまぁ動きやすいって事じゃないの」
「あ〜そうか」
「そうかじゃなくて、これからどうすんの」
「・・・とりあえず、歩こう」
「うん」
二人は立ち上がり、臀部の土を払う。
バッグを手に取る。
「さ〜てと、どっちに行こうか」
「とりあえず高いところに行こう、何か見えるかもしれないし」
「さすが矢口」
「へへっ」
初めて見えた笑顔、完全じゃないけど、それでも嬉しかった。
二人の前方はやや上り坂になっているように見えた、錯覚かもしれない程度に。
「じゃあこっちだね」
「うん、じゃあ行こうか」
- 16 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:31
- 二人は歩き始めた、足取りはなぜか軽かった。
二人ということの安心感、普段は大人数でいるからこそ、一人という孤独の恐怖が強く感じられる。
その分、二人の安心感は何物にも変えがたいものだった。
歩き始めてすぐ、矢口がこんなことを言った。
「なんかバトロワみたい」
矢口の何気ない一言、でも飯田にはとんでもない衝撃だった。
二人である事の安心感、二人だからこその恐怖、そしてこの状況。
まさか……、飯田は頭を振ってその先の考えを打ち消した。
そんな飯田を横目に矢口は見て見ないフリをした。
- 17 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/23(金) 17:33
- 今日はここまで、と。
小説板に小説を書くというのは、いささか恐怖であります。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/23(金) 18:28
- おもろそ〜
- 19 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 11:59
- 『石川梨華・吉澤ひとみ』
彼女は夢を見た。
熱くもなく、寒くもない。
風もなく、音もない。
光もない、闇はある。
地に足がついている感覚がない、でも、浮いているという感覚でもない。
上下も左右も、前も後ろもないような、そんな空間。
その空間に、石川梨華は1人立っている状態だった。
(何これ…ここはどこ?)
歩いてみても進んでいる感じがしない。
(・・・怖い・・・誰か・・・)
言い知れぬ恐怖に立ち止まり、その場にうずくまる。
その時だった。
- 20 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 11:59
- 石川の身体が白く光りだした。
徐々に光は強さを増し、光の膜は厚くなっていく。
身体が熱くなってきた、上下のない世界でぐるぐる回っている感じがする。
意識が白くなっていく、身体が自分のものでない気がしてくる。
もはや恐怖は消えていた。
もう真っ暗な世界は見えない、視点はそこにはない。
見たこともないぐらいに綺麗な光が自分の前を次々飛び交う。
自分のその光になった気がする、自由に飛びまわれる気がする。
その刹那、ものすごい速さで目の前が真っ暗になり、闇に飲み込まれた。
- 21 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 12:00
- 「うあっ!!!」
石川梨華は飛び起きた。
目の前に闇はないものの、また見たこともないぐらいの緑が広がっていた。
夢と現実が混同する。
左下に何か見えた、見てみると仰向けに寝ている吉澤ひとみだった。
「よっしー!起きてよっしー!!」
今は吉澤しか見えていない。
「ねぇ起きて!!起きて!!」
両手で肩を揺さぶる、吉澤の表情が変わった。
「ん・・・う〜ん・・・梨華ちゃん?」
「あっ、早く起きて!!」
「何々〜?」
寝ぼける目をこする吉澤、左手をついて身体をおこす。
左手の感覚に違和感を感じた、チクチク手のひらを刺す感覚。
眠気が一気に飛んだ、そして取り囲む世界が見えた。
- 22 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 12:00
- 「え? え?」
急いで自分の置かれている状況を知ろうとする人間の性、首を左右に回し周りを見る。
綺麗な木々が広がっている、もちろん今の彼女等にそんな感想を言う余裕はない。
後に起きた吉澤が訊く。
「何これ!?」
「わかんない…」
わかるわけがない、この世界を知ったのは吉澤はよりたかが数分前なのだから。
どこから湧き出たかわからない恐怖が彼女等を包んだ。
必死で周りを見渡す吉澤、その吉澤を見つめる石川。
いくら見ても情報は変わらない、取り囲むような緑。
視界の情報を諦めた、そのときに右手の神経から情報が流れてきた。
吉澤の右手には白い紙が握られていた。
吉澤が紙に気付くのと同時に、石川も紙に気付く。
「よっしー…これ」
手紙を指差す石川、うん、とうなずき手紙を両手で開いた。
- 23 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 12:00
- ┌───────────────────────────────────────────┐
│ │
│モーニング娘。の諸君、突然の事で驚いているだろう。 │
│ここは、F湖の樹海、君達はここに二人一組で点在している。 │
│1人1つ、バッグを用意した。 │
│中身は二日分の食料、水、ナイフ、毛布、軍手、マッチだ。 │
│それに各組1つずつ異なったプレゼントが入っている、有効に使ってくれ。 │
│君達のやるべき事は1つ、この樹海からの脱出だ。 │
│方法は問わない、脱出すれば成功とみなす。 │
│なお、脱出する途中での怪我や死亡などの責任は一切負わないからそのつもりで。 │
│ │
│それでは健闘を祈る。 │
│ │
│ P・S これはTVの企画なんかではない、真剣なサバイバルだ │
│ │
└───────────────────────────────────────────┘
- 24 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 12:01
- 「あたし達…」
吉澤はポツリとつぶやいた。
「あたし達…どうなっちゃってるの?」
手紙を読んでも状況が飲みこめていない、それは石川も同じだった。
「わかんない…」
「駄目だ駄目だ!!冷静にならなきゃ!!」
突如声を荒げ、吉澤は胸に手を当て目をつぶり深呼吸をする。
いつも気丈に振舞う吉澤だが、コンサート前など緊張する場面の前では人知れずこのように深呼吸をしていた。
同期の石川はそれを知っていた、時に真似をして自分も緊張をほぐしていた。
日常で見たこの光景、今は少し違うけど。
深呼吸する吉澤を見て、石川は少し気が落ち着いていった。
吉澤の呼吸が段々浅くなってきた、落ち着いてきた証拠である。
呼吸がほぼ正常に戻り、吉澤は目を開いた。
「よっしー…」
石川が声をかける、振り向いた吉澤の目は多少の恐怖はうかがえるもののほぼいつもの目をしていた。
「梨華ちゃん」
「どうしよう…これから」
「手紙の通りにするなら、この森から出ないと」
- 25 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 12:01
- 吉澤は立ち上がった。
「でもどこにいるかさえもわからないんだよ!」
石川は声を荒らげ、立ち上がる。
「そんなこと言ったって…じゃあどうしろっていうの!!」
吉澤も声を荒らげた。
「こういう時は動かない方がいいって……パパが言ってた」
石川の声が急に小さくなった。
吉澤の迫力に圧されたのではない、自分の意見に自信がなかったのだ。
「梨華ちゃん!今はそんな事言ってらんないよ!!」
まだ声は荒かった、でも先ほどの不意の怒りは感じられなかった。
「こんな所じゃ誰も助けてくれないって!!自分達でどうにかするしかないって!!」
「どうにかするって…どうするの?」
- 26 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 12:01
- 「……とにかく歩こう」
「え!?」
「歩こうよ。この森だって無限にあるわけじゃないんだし、歩けばきっとどこかに出るよ」
きっと。
今の自分達にはそれしかない、きっとにかけるしかない。
そのきっとはどこからくるものなのか。
希望? 絶望?
「…うん」
「よしっ」
「じゃあバッグ持って」
「バッグ?」
吉澤の指差す方向に黒いバッグが置かれていた。
- 27 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 12:02
- 「手紙に書いてあったじゃん、食料とか入ってるって」
そう言うと両手で二つバッグを持ち上げ、右手に持ったバッグを石川に差し出した。
差し出されたバッグを両手で受け取る、取っ手にほのかな吉澤の体温を感じた。
「ありがとう」
「・・へへ」
バッグを渡すと吉澤はキョロキョロ周りを見渡す。
う〜ん、と唸り声を発した後、顔を上げた。
「こっちに行こう」
吉澤の指差す方向、周りと違う何かは感じられなかった。
「どうしてこっちなの?」
「わかんないんだもん。どこ行ったって同じだよ」
そう言うと吉澤は指差す方向に歩を進め出す。
吉澤の強さが身に染みた、こんなに頼り甲斐があるなんて。
吉澤の後ろ姿に見とれていた、何かに気付いた吉澤は振り返る。
「梨華ちゃん、何やってんの?早く行こう」
「うん」
返事には元気がこもっていた。
- 28 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/24(土) 12:04
- 今日はここまで。
>>18ありがとうございます。
期待を裏切るかもしれませんが……なんでもないです。
暑い時は思いっきり運動して汗かいた方が気持ちいいですね。
ランニングして帰ってきたらTシャツが搾れる位汗かいてしまいました。
- 29 名前:プリン 投稿日:2004/07/25(日) 19:57
- 更新お疲れ様です。
初めましてー。
なんかすごく面白そうです!
これからどうなっていくのかドキドキです。
鳩の方は読んでないのでさらにドキドキです。
期待してるので、頑張ってください。
- 30 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:21
- 『加護亜衣・辻希美』
┌───────────────────────────────────────────┐
│ │
│モーニング娘。の諸君、突然の事で驚いているだろう。 │
│ここは、F湖の樹海、君達はここに二人一組で点在している。 │
│1人1つ、バッグを用意した。 │
│中身は二日分の食料、水、ナイフ、毛布、軍手、マッチだ。 │
│それに各組1つずつ異なったプレゼントが入っている、有効に使ってくれ。 │
│君達のやるべき事は1つ、この樹海からの脱出だ。 │
│方法は問わない、脱出すれば成功とみなす。 │
│なお、脱出する途中での怪我や死亡などの責任は一切負わないからそのつもりで。 │
│ │
│それでは健闘を祈る。 │
│ │
│ P・S これはTVの企画なんかではない、真剣なサバイバルだ │
│ │
└───────────────────────────────────────────┘
二人はしっかりと手を握りながらこの紙を読んでいる。
- 31 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:21
- どちらともなく起きてみると、もうわからなかった。
前を見ても――天使の輪が浮かび上がる飯田の髪はそこにない。
横を見ても――食べる喜びを噛み締めながらお菓子にパクつく紺野の姿はそこにない。
下を見ても――スナック菓子を落として付いた新品のシミはそこにない。
全てにあるのは、緑。
そして、疑問。
「え!? あいぼん!? なにこれ!?」
「え!? わかんない……」
知っているのは横にいる人だけ、他は知らないものが支配する世界。
「え? え? え?」
立ち上がるものの、そこからは動かず首で周囲を見渡す辻。
「……」
無言で辻を見詰める加護。
- 32 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:22
- 「あいぼん、ここは?」
「知らない」
二人の疑問、二人の答え、共に一緒だった。
太ももに抱き着いていた加護が辻のポケットに白い物を発見した。
「のの、これ」
言いながらポケットから白い物を取り出す。
一枚の紙。
辻は加護の隣にしゃがみこみ、加護が開くのを待った。
意を決したかのように、加護は勢いよく紙を開いた。
読めない漢字を互いに助け合い読んでいくも、樹海、は二人とも読めなかった。
なんとか、手紙を読み終える。
加護の開口一番。
「とにかく、ここから出ろって事?」
辻の開口一番。
「そう……なんじゃない」
手紙の言いたい事はなんとなくわかった。
とにかく、ここから出ればいいのだ。
- 33 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:22
- 「みんなもいるのかなぁ?」
次は辻の質問だった、加護は何か閃いたようだった。
「そうだよ! みんなもどこかにいるんだ!」
場違いにテンションが上がった加護、その空間の空気が変わったような気がした。
「のの! みんなをさがそう!」
加護の瞳には先ほどはなかった光をたたえていた。
その光と、妙な孤独感、辻がポカーンとしている。
加護はおかまいなしに話した。
「絶対この森のどこかにみんないるよ! 探せば絶対いるって!」
「あ!」
「ねぇさがそう、皆をさがそう!」
「そうだよね。あたし達だけじゃないよね!」
「そうだよのの! 皆でこの森を出よう!」
「うん!」
辻の瞳も光を宿した、妙な孤独感は消えていた。
二人の目の前に恐怖はない、状況に似つかわしくない高揚感が二人の周りを満たしていた。
辻が気付いた。
- 34 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:23
- 「あいぼん何その格好?」
「ん? ってののも同じの着てるじゃ〜ん」
年長者二人と違い、不必要な疑問は浮かばなかった。
加護が気付いた。
「あ、そうだ! カバンカバン……」
辺りを見回し、180度の地点、二人の真後ろにカバンが二つ。
「あ、カバン発見!」
二人同じにカバンに駆け寄る。
「食べもんとか入ってるんだっけ?」
「さっきのやつには入ってるって書いてあったよ」
カバンを開け、中身をチェックする二人。
加護は手紙と中身を見比べながらチェックしていく。
辻が嘆く。
「お菓子入ってな〜い」
年長者二人と違い、不必要な残念が浮かんだ。
加護が紙を指で叩く。
「よし、全部入ってる」
辻は諦めずにお菓子を探した、見つかったのは別のものだった。
- 35 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:23
- 「あ〜、お裁縫道具まで入ってる」
「お裁縫道具?」
加護は手紙を見直し、気付く。
「それってこれのこと?」
プレゼント、という言葉を指差し、辻に手紙を見せる。
「ん〜そおじゃない」
そう言いながら裁縫道具をカバンにしまう。
「どうせならチョコとかの方がイイのに……。ねぇあいぼん」
「ねぇのの」
その瞬間だけなら、さながら修学旅行と言えるくらい、空間と状況に合わない会話である。
チャックを閉め、加護は手紙を自分のポケットにしまう。
二人は立ち上がり、お尻についた砂を払い、カバンを持ち上げた。
- 36 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:23
- 「どうするのの? どっちに行く?」
「ん〜……こっち」
野生の勘が辻の指先の行く末を決めた。
「本当のの?」
「どっち行ったって同じだもん」
「ンフフ……、じゃあ行こうのの!」
手を差し出す加護。
「うん!」
手を握る辻。
手をつなぎ、二人は歩き出した。
二人の出した空気は、取り囲む空気を押し出すかのように広がり、また二人を包んだ。
それでも、背中にぴったりくっつくような恐怖感は、二人とも感じている。
その恐怖から逃げるように、押されるように、二人は森を進んでいった。
- 37 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:24
- 『亀井絵里・道重さゆみ』
「さゆ! さゆ! 起きてさゆ!」
泣きそうな顔で道重を揺さぶる亀井。
ついさっき、眠りから覚めてみると、まだ夢だと思っていた。
先ほど見た夢は何だったか覚えていない。
これは夢だと8割思っていた。
木々の香り、土の感触、葉の間に漏れる太陽の光。
混乱した、全ての感触がリアル過ぎたのだ。
もちろん、全て本物なのだが、彼女には理解できず、何も考えられなくなった。
ふと左を見ると、道重がお菓子の袋を開ける直前に見せる笑みで眠っている。
夢でもなんでも、起こさずにはいられなかった。
「さゆ! ねぇさゆ!」
「んん……絵里?」
長いまつげがゆっくりと開けられていく、本人もお気に入りの長いまつげ。
その様子にほんのわずかな安堵を覚えながら、亀井はさらに道重を揺さぶる。
「ねぇ起きて! さゆ〜!」
「な〜に〜絵里〜?」
開いたばかりのまぶたを擦り、上半身を起こす。
起きたばかりのおぼろげな意識、それでも生き生きとした緑を視覚認識した。
まだ擦っている指が目の前にあるのも無視し、思いっきり目を開いた。
- 38 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:24
- 「え!? 何ここ!?」
「わかんない……」
バスの中に座っていた、隣にいた新垣さんがせんべいをわけてくれた、絵里も幸せそうに食べていた、見たこともない光景が広がっていた。
有り得ない物事の順序、少し眠っていただけなのに。
キョロキョロ辺りを見まわす道重、右を向けば不安いっぱいの亀井の顔。
来た事もない異世界に、唯一同じ世界のものだとわかる、その人。
その人が不安に飲みこまれている。
道重が口を開く。
「他のメンバーは?」
「わかんない……」
亀井が道重の腕に抱きついた。
互いに少し安心した、他のメンバーはいないけど、絵里がいる、さゆがいる。
でも恐怖には勝てなかった。
「さゆ……」
「絵里……」
二人は抱き合った、相手の肩に顔をうずめ合い、そして泣いた。
二人しかいない、どこにいるかもわからない、どうなっているのかわからない、なぜこうなったのかわからない。
湧き上がる疑問は考えるまもなく恐怖に変換され、二人の心を巣食っていく。
その恐怖に耐えられない華奢な体は、涙という逃げ道を作ってでも次から溢れ出てくる。
二人を存在させてくれているのは、涙という逃げ、そして二人という希望。
- 39 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:24
- どれくらい時間が経っただろうか。
そんなに経っていない気がする、でも長いことこうしている気がする。
涙が少し恐怖を放出してくれたおかげで、亀井という存在のおかげで、道重は冷静になれた。
顔を上げ、亀井の耳元でつぶやく。
「絵里、落ち着こう……ね?」
亀井は肩を震わせまだ泣いている。
道重の右手が、亀井の後頭部にそっと添えられた。
優しく、繊細で割れやすいものに触れるように、そっと。
髪にそって頭をなでる、愛しむように優しく。
「絵里、大丈夫。大丈夫」
母の愛のごとき包容感、安心感。
亀井のぐずる音が収まった。
それを確認すると道重は亀井の肩に手をやり、少し離れた。
真っ赤に目を腫らせた亀井に言う。
「絵里、落ち着いた?」
いつもの笑顔の何万分の一の笑みで亀井を頷いた。
その亀井の向こうに、何か見えた。
- 40 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/27(火) 10:27
- と、今日はここまで。
>>29ありがとうございます。
鳩板のほうは読まない方がいいと思います……。
話が激しく動き出すまであと少し……かな?
- 41 名前:名無し 投稿日:2004/07/27(火) 18:01
- うぉ! どうなんだろう、楽しみ
- 42 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:00
- 『紺野あさ美・小川麻琴』
北海道は雄大な大地が引き合いに出されることが多い。
確かに土地が広いし、自然も沢山ある。
でも、こんなに木々の生い茂る森林は見たことない。
歩きながら、紺野は思った。
突然現れたこの森、いや、私たちが現れたといった方が正しいのだろうか。
私の2個前の記憶はバスでサラダ味のプリッツをおいしく食べていたこと。
何であれがサラダ味なんだろう、野菜の味もしないのに……。
そんなことはどうでもいいや、紺野は思った。
そして、私の1個前の記憶は、先ほど麻琴と抱き合ったこと。
わけがわからず互いに困惑して、泣きながら麻琴と抱き合って、少し落ち着いた。
麻琴のジャージの中に手紙が入っていて、読んでみたけど、結局わかったのはここを出なければいけない事、これがTVではないこと。
でも、それだけでもわかったことは嬉しかった、やらなきゃいけない事があるなら、それに向かって突き進めばいいんだ。
紺野は思った。
それに、麻琴がいる。
手紙を読んでもオロオロしていた私を落ち着かせてくれて、きっと麻琴も怖いのに、明るく振舞ってくれた。
それが今、私の歩を進める力になっている。
- 43 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:00
- 紺野は握っている手にギュッと力を込めた、その力を受け止めた小川の手。
その感触は即座に小川に伝わり、紺野の方を向いた。
「どうしたのあさみちゃん?」
「ううん、何でもないよ」
こんな状況で何にもないわけがない。
何かあるとすれば、共通の恐怖。
- 44 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:01
- 「……ダイジョブだよあさみちゃん」
「………」
「日本なんてねぇちっちゃいちっちゃい。ちょっと歩いたらすぐに出られるって」
「……うん、そうだよね」
「そうそう、新潟から東京まですぐだったもん」
「それは新幹線かなんかに乗ってきたんでしょ」
「う〜ん、でもピュ〜って行ってピュ〜だから」
「ふふふ……、何ピュ〜って」
紺野の恐怖は一時的に影をひそめた、小川のアホトークの勝利である。
二人はなおも手をつなぎながら、森を進んでいった。
どんなに進んでも、同じに見える。
深緑が覆い、その隙間から指しこむ光はどこかの神殿の柱のように傾いて地に立っている。
前も後ろも、右も左も。
もしもこれがピクニックなら、有り余る木々の生命力も、澄み渡る空気のおいしさも、どんなに感動できることだろう。
でも今の二人の感動の対象にはならなかった。
なぜなら……
- 45 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:01
- 「あ!!!」
小川が前方を指差し声を上げた、声にビクつく紺野。
「あさみちゃん! あれ! あれ! 人じゃない!?」
「え!」
前方を何度も指差す小川、その指の方向を凝視する紺野。
いくら見ても人らしきものは見えない。
「今の絶対人だって! 肌色っぽいのが見えたもん」
興奮する小川、UFOキャッチャーでぬいぐるみが取れた時のようなはしゃぎかた。
凝視を続ける紺野、見つからない。
「錯覚じゃないの?」
「錯覚じゃないってばぁ!! お〜い!!!」
両手を口のサイドに当て、大声で叫ぶ。
小川の中で――興奮と希望が恐怖を負かしていた。
紺野の中で――冷静と状況で恐怖が創造されていた。
- 46 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:01
- 「やばいよまこと! 熊とかだったらどうすんの」
紺野の中で、見るからに狂暴そうな熊が木々を跳ね飛ばしこちらに向かってくるのが浮かんでいる。
体長は3メートル、お父さん熊だ、お父さん熊? 熊親父?
出てきた出てきた熊親父、笹の葉担いで鮭背負って……
北海道にいた時によく見ていたCMソングが頭の中で流れる。
スキーに乗った、山親父……って熊親父じゃなくて山親父じゃん!!
一人ボケ突っ込みが頭の中で完成される。
吹き出しそうになるも小川の叫び声で我に返る、一人ボケ突っ込みをしてる場合ではない。
- 47 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:01
- 「お〜い!!! 誰か〜!!!」
口に当てていた右手を大きくバイバイするように振る。
紺野が小川の口と手を押さえた。
小さな声で、殺されちゃうって、と言い、小川の動きを封じる。
突然の出来事に反応できない小川、成す術もない。
と、その時
- 48 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:02
- 『高橋愛・新垣里沙』
「里沙ちゃん、今声せぇへんかった?」
「うんうん、なんか聞こえた」
一人なら幻聴、二人なら本当。
二人はその場に立ち止まり、もう一度真実を確かめようとした。
高橋は一時停止のようにその場で固まり、新垣は両手を耳に当て音を拾おうと努力する。
………
……
!
- 49 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:02
- 「今お〜いって……」
「そうそう、私もお〜いって聞こえた」
一度なら幻聴、二度なら本当。
「お〜い!!! 誰か〜!!!」
声の聞こえる大体の方向を向き高橋は叫んだ。
高橋の叫ぶ方向をじっと見る新垣。
「あっ!!!」
新垣が叫んだ。
「どしたの里沙ちゃん」
「今人がいたよ! 肌色がす〜って動いたもん!」
「え!? 本当!?」
目が驚いてると言われる高橋の目が、本当に驚いているのを新垣は見た。
その目のまま振り返り、また同じ方向に叫ぶ高橋。
「お〜い!!!」
叫ぶために口に当てていた手を耳に変え、返事を待つ。
- 50 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:03
-
!
新垣が言う。
「まこっちゃんの声だ!」
高橋が叫ぶ。
「まこっちゃぁ〜ん!!!」
一段と大きくなる声、希望を乗せたその声は何か強さを感じる。
「行ってみようか!?」
新垣が言う。
「こっちの方から聞こえたよね?」
高橋が問う。
「うんうん、こっちこっち!」
高橋の体の前方を指差す新垣。
「いこ、里沙ちゃん」
手を差し伸べる高橋、頷き手を取る新垣。
足取りが速い、焦る気持ち。
握る力が強い、焦る気持ち。
弾む頬が赤い、焦る気持ち。
行く手を遮る草花は見えていない、前方にある希望しか見えていない。
高橋の目に、新垣の目に、希望がはっきりと見えた。
- 51 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:03
- いつもの見慣れた顔。
苦楽を共にし、笑った顔も、怒った顔も、悲しんだ顔も、楽しんだ顔も、全部見てきた。
当たり前のように接してきたものが、こうしてあるということが、あらためて愛しく感じた。
「まこっちゃん!! 紺ちゃん!!」
「愛ちゃん!! 里沙ちゃん!!」
4人は抱き合った。
突然異世界の放り込まれた恐怖、どうしてもつきまとう生と死の恐怖。
そんなもの、微塵もそこにはない。
ただ歓喜が、仲間という喜びがそこにあった。
嬉しさがこみ上げ、溢れ出し、具現化され目からこぼれる。
唯一の存在を確認するように、4人は名前を呼び合い、泣き、抱き合った。
- 52 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/28(水) 13:07
- 今日はここまで。
>>41ありがとうございます
多分……楽しめないかもしれませんが……これからもよろしくお願いします。
私も娘。小説は30作ぐらい読んだのですが……奥が深いですね。
おすすめの娘。小説があったら教えてください。
- 53 名前:名無し 投稿日:2004/07/29(木) 16:28
- 4期同士はたどり着けたようですね。他のメンバーがどうなるか楽しみ。
作者さんがどうのようなタイプが好きなのかわからないので薦めにくいのですが、
タイトルの雰囲気からして、緑板の倉庫にあるデス・ゲームは如何でしょうか。
- 54 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:22
- 『藤本美貴・田中れいな』
┌───────────────────────────────────────────┐
│ │
│モーニング娘。の諸君、突然の事で驚いているだろう。 │
│ここは、F湖の樹海、君達はここに二人一組で点在している。 │
│1人1つ、バッグを用意した。 │
│中身は二日分の食料、水、ナイフ、毛布、軍手、マッチだ。 │
│それに各組1つずつ異なったプレゼントが入っている、有効に使ってくれ。 │
│君達のやるべき事は1つ、この樹海からの脱出だ。 │
│方法は問わない、脱出すれば成功とみなす。 │
│なお、脱出する途中での怪我や死亡などの責任は一切負わないからそのつもりで。 │
│ │
│それでは健闘を祈る。 │
│ │
│ P・S これはTVの企画なんかではない、真剣なサバイバルだ │
│ │
└───────────────────────────────────────────┘
- 55 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:22
- 田中は手紙を見ている。
深深と木々生い茂る中、二人は歩いている。
見たことのある草、ない草、ある花、ない花。
一人前に育った木が無限と思えるくらい立っている。
もう2時間ぐらい歩いただろうか。
2時間前は何がなんだかわからなかったけど、手紙を見てほんの少し安堵した。
とりあえず、出ればいい、と。
しかし北海道にだってこんな森林ないのに――藤本は思った。
田中は手紙を見ている。
「何が言いたかとですかね?」
田中が訊いた。
「ん〜わかんない。でも出ればいいんでしょ出れば」
「でもれな達にこんな事させる理由がわからん」
田中は小声で言った。
- 56 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:23
- 草を踏む音、小枝が折れる音、風が木々と戯れる音、この空間の音はそれしかない。
二人の内心を象徴するかのような田中の声は、しっかりと藤本の耳に届いていた。
藤本が立ち止まる。
手紙を見ていた田中は藤本より2歩進んで、止まった。
振り返る田中、藤本はうつむいていた。
「どうしたとですか藤本さん?」
中指を軸に手紙を山折りにする、目は藤本の顔を見ながら。
「なんかさ……」
藤本は顔を上げた。
「なんかさ……不安なんだよね」
いつもの気丈な声ではなかった。
「出られる出られるって心には言い聞かせてるんだけど……歩けば歩くほど……なんて言うのかな―――」
「大丈夫です!」
田中が遮った。
「大丈夫ですって!絶対脱出できますって!」
- 57 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:23
- 「田中ちゃん……」
いつになく弱気な藤本の顔、その目にいつもの光はない。
田中は続けた。
「れな達には方位磁石があるけん、絶対出られます!」
「……方位磁石」
藤本はポケットをまさぐった。
中のものを取り出すと、田中の言うそれはあった。
起きてからの混乱が静まり、田中とカバンの中を調べていた時。
手紙に書かれているプレゼント、自分達には方位磁石だった。
手の平に乗せて回る針の静止を待つ、赤い針の先とNを合わせた。
わかりやすいから北に行こう、そう言って第一歩を踏み出したのだった。
- 58 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:23
- 藤本は方位磁石をギュッと握った。
「そうだよね、これがあれば絶対出られるよね」
藤本の表情が晴れてくる。
「だめだ弱気になっちゃ、私達は絶対にここを出なくちゃ」
藤本の目に光が戻ってきたのを田中は見た。
「そうですよ〜藤本さ〜ん。ほら行きましょ、ね」
「あ、ちょっと待って」
藤本は右の手を差し出した。
手の中の方位磁石がクルクル回っている。
針の運動が弱まり、藤本の右前方を赤い針先は示した。
「ちょっとずれてる」
方位磁石をポケットにしまう。
「田中ちゃん、ちょっとずれてたわ。こっちに行こう」
先ほど赤い針が指した方向を、指差した。
「さっすが藤本さん」
田中は嬉しそうに藤本にかけより、二人は歩き始めた。
- 59 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:24
- それから1時間、二人は歩き続けた。
たわいなく話しながら、先ほどの希望を保ちながら。
「少し休もっか?」
「いいですねぇ」
- 60 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:24
- 藤本が周りを見回すと、適当な場所にカバンを下ろした。
カバンを下ろしたのを確認すると、田中はテテテッと藤本の元に駆け寄った。
田中がカバンを下ろすと同じに藤本が座り、遅れて田中が座る。
「カバン重いですよね〜」
そう言いながら田中はカバンを開け、ペットボトルを取り出した。
「ほんっとに腹立つよね」
そう言うと藤本はペットボトルのキャップをあけ、水を飲んだ。
その時。
「何か聞こえません?」
田中がキャップに手を当てた所で訊いてきた。
ペットボトルから口を離さずに、んんん、と首を横に振る藤本。
「え〜絶対今何か―――」
田中の言葉の途中、その音は二人の耳に飛び込んだ。
- 61 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:24
- 『亀井絵里・道重さゆみ』
「あっ」
道重が声を上げた。
互いに泣き、その恐怖に負かされ、それでも立ち上がろうと亀井と抱き合った。
普段の仲良し状態ではいられない、異常な状況なのだ。
気を強く持たねば、亀井を励まし、無限のような空間にぽつんと二つの小さな希望が灯る。
そんな状況には到底似つかわしくない、道重の声。
拍子抜けするような声に真っ赤に目を腫らした亀井は訊いた。
「どうしたのさゆ?」
同じく真っ赤に目を腫らした道重が言う。
「今……藤本さんが見えた」
- 62 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:25
- 「え!?」
亀井は道重の顔を見つめた、道重はなおも亀井の後方を眺めている。
木目細かくハリをもつ頬、涙で濡れなお一層長く見えるまつげ、かわいい、亀井は思った。
その顔が動こうとする瞬間が見えた。
「あっ」
道重が声を上げた。
「やっぱりそうだ!!藤本さんだ!!」
道重の表情が明るくなった。
「ホントさゆ?」
「本当本当!50メートルぐらい先にいる!」
目が輝いている、こんな目をしている道重は嘘はつかない、いや、つけないことを亀井は知っていた。
道重は立ち上がった、そして
「ふ〜じも〜とさ〜ん!!!」
両手をメガホン代わりに、思いっきり叫んだ。
その姿をただただ見つめる亀井。
- 63 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:25
- 道重がこちらを向いた、頬が熟れた桃のような色をしている。
「絵里、行こう!」
道重の言葉を呆然と聞く亀井。
「絵里、行こう!向こうに藤本さんがいるよ!」
道重が手を差し伸べた。
亀井は我に帰った、そこにあるのは希望の一手。
「うん!」
わずかに残る涙を笑顔でつぶし、亀井は立ち上がった。
道重の手を取り、二人は笑顔の原動力に向かって走りはじめた。
「藤本さ〜ん!!!」
「ふ〜じも〜とさ〜ん!!!」
少し走ったところで、亀井にもその希望は見えた。
そしてその横にはもう一つの希望がいるのも見えた。
「れ〜な〜!!!」
亀井は叫んだ。
- 64 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:26
- 「さゆ!絵里!」
田中が立ち上がった、藤本はペットボトルのキャップを閉め、カバンにしまう。
「さゆ〜!!絵里〜!!」
田中がブンブン手を振り叫ぶ、藤本が立ち上がる。
そして、藤本の前にその二人は現れた。
「道重ちゃん……亀井ちゃん……」
その名前の主達は二人に駆け寄り、抱きついた。
「藤本さぁん……良かったぁ」
「れいな……」
希望が4つに集まり、大きな一つへと変貌を遂げた。
4人は喜び合い、抱き合い、涙を流し、再会の感動を分かち合った。
- 65 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:26
- ほんの少し冷静になって、藤本が言った。
「しげさん達も歩いてたの?」
道重はまっすぐ藤本のほうを向いて言う。
「いえ全然」
「え?じゃあ今まで何してたの?」
「あ……いや……ずっと寝てました」
「えぇ!今までずっと!?」
「……ハイ」
藤本の表情が歪んだ、楽しさを表す感情に歪んでいった。
「ハッハッハ……、さすがしげさんと亀井ちゃんだね」
「え、いや、そうですかぁ」
「あたし達なんて3,4時間歩いてたんだよ」
「え!?もうそんなに歩いたんですか?」
「そう。それで休憩しようっつってここに座ってたの」
藤本が先ほどまで座っていた場所を指差した、道重が気付いた。
「なんですかこのバッグ?」
見覚えのない黒いバッグが二つ。
「え!?しげさんたちはなかったの?」
「え・・・わからないです」
「起きた近くになかった?」
「んぃや……わかんないです」
「じゃあさゆ達がいたとこまで戻るっちゃ」
「そうしようか」
- 66 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:27
- 藤本と田中はバッグを持ち上げ、こっちから来たよね、と藤本が言った。
二人から離れないように道重と亀井は早足で後を追った。
ちょっと歩いて、バッグ発見。
「あそこにあんじゃんバッグ」
藤本が指差す、その直線状に見覚えのあるバッグが二つ。
「あ、本当だ」
「じゃああそこでこれからのこと考えよっか」
藤本がそう言うと3人は同時に頷いた。
- 67 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:27
-
そして日が暮れた
- 68 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:28
- 『加護亜衣・辻希美』
「のの〜、ちょっと火ぃ強すぎじゃない?」
「だいじょ〜ぶだって〜」
生の象徴を見せつけるかのような緑は闇の衣をまとう、暗い夜。
月明かりなんてほとんど当てにならないこの森に、これからの思いをはせた炎が燃えていた。
その炎の持ち主、加護と辻は食料のおにぎりを食べている。
肩を寄り添わせ、焚き火の炎を見つめながらの夕食。
陽気に出発したものの、やはりこの闇に恐怖心が幅をきかせ始めたのだろう。
「みんなどうしてるかなぁ……」
「う〜ん……」
結局誰にも会えなかった。
もしかしたらもうみんな脱出したのかもしれない。
考えるほどに不安が募る。
「もう寝ちゃおっか?」
「うん」
バッグから毛布を取り出す、バッグを閉めて枕代わりにする。
焚き火から2メートルほど離れた場所を払い、バッグを置く。
薄暗いお互いの顔を確かめ、座りこんだ。
「くっついて寝よう」
「うん」
腕や足をぴったりくっつけて、二人は顔を見合すようにして眠りについた。
- 69 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:28
- 『飯田圭織・矢口真里』
炎を見つめ、飯田は足の揉んでいた。
一日中歩いたからなぁ、と、普段のむくみを取るマッサージより強めにふくらはぎを揉んでいる。
隣では矢口が静かに寝息をたてている。
疲れちゃったから寝るね、と一言言ってから聞こえてくるのはかわいらしい寝息。
ふと、今回のことを考えてみた。
- 70 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:28
- 運転手がガスマスクをしていたということは、このことが起こるという事を知っていたということだ。
あの運転手は何度も見たことがあるし、挨拶を交わしたこともある。
つまり、ゲリラ集団に突然催眠ガスか何かをバスに投げ込まれたということではない。
ましてや無差別にバスを襲ったとは考えられない。
マネージャを見ておけばよかった、でもマネージャまでマスクをしていたとしたら、どういうことなのか。
とにかく、二人一組で七組いるわけだから、運転手だけの策略でなく、もっと大人数が関わっているということは間違いないだろう。
―――――
それにこのジャージ。
採寸がぴったりだ、きつくもなく、ゆったりしているわけでもなく、動くということを念頭に置くならまさに理想の寸法でできていると言えるだろう。
スリーサイズはもちろん、腕の長さや太もも周りなど細かいデータがないとこんなことができる訳がない。
しかも名前が刺繍されている、これは数多くのジャージからぴったりのものを当日に選び出したわけでなく、本人のスリーサイズの合わせて作っているということになる。
- 71 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:29
- つまり、スタイリストまでもがグル?
過去のデータを盗んで誰かが、いや、それはないはずだ。
自分は成長期を過ぎてしまっているが、成長期真っ只中のメンバーじゃ1ヶ月前のデータでさえ意味がない。
それになぜジャージがこんなにぴったりくるものでなければならないんだろう?
だいたい大きさでいいものを、わざわざ刺繍までして。
とにかく、運転手のマスクといいこのジャージといい、用意周到に計画された出来事であることは確かだ。
―――――
それにこの樹海の中、今日歩いてみて人の気配はしなかった、どこからか覗いて見てる訳ではないようだ。
樹海の大きさを考えると、隠しカメラを固定しておいてもそれこそ何百台と要るだろう。
手紙に書いてあった通りとするなら、TVか何か人に見せることが目的ではないのにこんなことをさせる理由がわからない。
脱出の目的、確かに出なければならないけどどこに出るかわからない私達をこんな所において何をするつもりなのだろう。
大掛かりな計画なのに、最終的にわかるのに誰が脱出したかということだけ。
途中経過も一切わからないのに、何をさせたいのだろうか。
―――――
こんなF湖の樹海になんて……。
- 72 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:29
- そういえば、F湖はPV撮影で行こうとしていた場所とは全く別の場所にあるんじゃなかっただろうか。
地理はよくわからないけど、だいたい200〜300キロメートルは離れているだろう。
朝の出発ではあったが、そのままバスで移動したとしても時間がかかる。
さらに私達を樹海の中まで運ばなければならないのだ。
二日分の食料が入っているのから推測するに、一日では脱出できない距離に置き去りにされたに違いない。
ならばどうやって私達をこんな所まで運べたのだろう?
大の男が担いで運んだとしても限界があるだろうし、何より時間の問題だ。
- 73 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:29
-
………
……
…
- 74 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:30
- 考えれば考えるほどわからなくなる。
疑問だけが次から次へと浮かび上がり、消えることなく浮かんでいる。
……
だめだ、もう寝よう。
とにかく、今は脱出のことだけ考えて、そしてみんな無事でいることを願って。
飯田は小さくなった焚き火を消し、眠りについた。
- 75 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:30
- 『高橋愛・紺野あさ美・小川麻琴・新垣里沙』
「しっかしこんなもんどうしろってねぇ?」
揺らめく炎に照らされる顔、と、おにぎり――小川麻琴は言った。
こんなもん――それはのこぎりとロープのことだった。
紺野のカバンにロープ、新垣のカバンにのこぎり、例のプレゼントである。
ある程度アウトドアに慣れた人間なら絶好の道具だが、野外生活の知識がほとんどない彼女等にとっては要らない物でしかなかった。
小川の対面に座る高橋、ペットボトルのキャップを閉めながら言う。
「何かには使えるんじゃない?」
「その何かが問題なんだよ愛ちゃん」
新垣が突っ込む。
「あ、私のおにぎり昆布だった」
「あさ美ちゃん、おにぎりの具なんていいの」
小川が突っ込む。
「でもちょっと頂戴」
「いいよ、はい、麻琴あ〜ん」
「あ〜ん」
「もうまこっちゃん達ぃ、遠足じゃないんだからぁ」
新垣が突っ込む。
- 76 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:30
- そう、遠足ではないのだ。
急に空気が寒くなった気がした。
少しの平和な時間から現実に戻される、ここは樹海。
冷淡な沈黙がのしかかる、聞こえるのはパチパチという焚き火の音。
不思議と皆、動作が止まる、沈黙は心だけでなく体まで支配している。
支配を破ったのは、新垣だった。
「でもさ、他の皆は大丈夫なのかな?」
続いて支配を破る小川と紺野。
「きっとあいぼんとのんちゃんは一緒なんだろうなぁ」
「あ、私もそう思う」
「ってことは石川さんと吉澤さんのペアなのかな?」
「あ〜そうかもしれないね」
先ほどの平和が、少し戻ってきた気がした。
- 77 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:30
- そんな中、未だ支配から抜け出せない高橋。
無数の黒い手が体を押さえつける、その手は心にも侵入して、淡く光る希望を隠そうとする。
やめて……隠さないで……
そう願えば願うほど、黒い手は容赦しない、数はどんどん増えていく。
- 78 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:31
- 「……ちゃん、愛ちゃん」
「え!?」
「愛ちゃ〜ん、どうしたの?」
小川だった、紺野と新垣もこちらを見ている。
「おにぎり食べて、栄養つけないと明日歩けないよ」
「あっ、うん」
促されるがままおにぎりを食べる。
ふと炎を見た。
この光は、誰かに届いているのだろうか。
ここに、生きている4つの光があることを、誰か知っているだろうか。
少し顔を上げる、オレンジに染まり、オレンジの様な笑顔の小川が見えた。
その横で同じように笑うのは、紺野と新垣。
そうだ、私は今一人じゃない。
ここにある光は、4人分の大きな光なんだ。
誰が見ていなくてもいい、私達は光を持ってるんだ。
- 79 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:31
- 高橋の顔に、笑顔が広がった。
「愛ちゃん、面白かった?」
「え? あ…」
「今笑ってたからさぁ」
麻琴も笑ってるじゃん、また笑顔がこぼれる。
「ほらまたぁ〜」
「麻琴だって笑ってるじゃ〜ん」
「私はこういう顔なの」
「そうそう、まこっちゃんはこういう顔なんだって」
「里沙ちゃ〜ん」
「何〜、自分で言ったんじゃん」
「あ、愛ちゃんも昆布だ。みんな昆布なのかな?」
「またあさ美ちゃんはおにぎりの話だし」
「ハハハ……」
黒い手は、もう、消えていた。
- 80 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:32
- 『吉澤ひとみ・石川梨華』
時が止まっている、ように感じる。
吉澤は動かない――目を見開き目の前を見つめる――動けない。
石川は動かない――目を閉じ地面に横たわっている――動かない。
吉澤の頭の中には色んなことが思い出されていた。
バスの中の時、この森で気がついた時、歩き始めた時、暖を取り始めた時。
どれも中途半端に思い出しては次に代わり、ぐるぐると回っている。
何が起こったのか、起こしたのか、わからない。
焚き火が火の粉を上げ、パチッと弾けた。
- 81 名前:メカ沢β 投稿日:2004/07/30(金) 16:37
- 今日はここまで。
>>53ありがとうございます
早速デス・ゲームを読もう……と思いましたがかなりの長編なんですね。
読む時は一気に読む方なので、デス・ゲームはもう少し後に読むことになりそうです。
教えていただきありがとうございました。
ついでに、集合したのは4期ではなく5期です。
短編長編なんでもいいので、おすすめの娘。小説がありましたら、ぜひ教えてください。
- 82 名前:名無し 投稿日:2004/07/30(金) 22:04
- 4期と5期普通に間違えた…。
それは、ともかくそれぞれの想いが火の前で交錯していて面白いですね。
個人的には高橋さんに注目しています。
では短編の『嘘月』は如何でしょう。
http://mseek.xrea.jp/sea/1019314468.html#r89
- 83 名前:めかり 投稿日:2004/07/31(土) 19:31
-
今日一気に読ませて頂きました。
とっても面白くて先が気になります。
自分も同じ雪で書かせてもらってますが
なかなか思うようにうまく書けません。
もしよかったら読んで見てください。
- 84 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:03
- 「ねぇよっしー」
後ろを歩いていた石川が、久しぶりに話しかけてきた。
歩くのをやめ、振り返る。
「なに梨華ちゃん?」
「もうそろそろ歩くのやめて、どっかで休まない?」
眼差しは真剣だった、無理もない、何時間も歩きっぱなしなのだ。
「そうだね、もう暗くなってきたし……」
吉澤は空を見上げる。
空が緑色になったかと錯覚を起こすほど木の葉が多い尽くす、その隙間に見える本物の空。
歩き始めて一度休憩した、そのときから比べて空もだいぶ黒くなってきた。
視線を石川に戻す。
「どこか少し広く場所の取れるところで休もうか」
「うん」
少し嬉しそうな石川の顔、疲れは明らかに見える。
二人は再び歩を進めた―――そして
- 85 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:04
- 「ここでいいんじゃない?どう梨華ちゃん?」
「うん」
乱立する木々の中、8畳ほどの平坦な地面を見つけた。
二人は取り囲む木々の中で一番太い木の根元にバッグを置き、自らの身も置いた。
二人が座ってまもなく、石川が言った。
「今日はここで泊まろうよ」
もう歩きたくないのだろう、吉澤は思った。
「いいよ、じゃあ薪とか集めないと」
「うん、でも少し休ませてくんない?」
「うん、ってか私も休みたいし」
二人は顔を見合わせ、簡単に笑った。
- 86 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:04
- 一、二分後。
「よし」
吉澤は立ち上がった。
「じゃあ薪でも集めますかな」
ジャージを払いながら石川を見る、上目遣いの石川、いつも思う――かわいい。
「梨華ちゃんはまだ休んでていいよ」
「あ、うん。ごめんね」
「いいよいいよ。まぁそんなに離れるわけじゃないしね」
そういうと腰に手を当て、周りを見渡す。
何か決めたらしく、座っていた正面から右に向かって歩き始めた。
本日の寝床を囲む木を触り、振り向く。
「休み終わったらここらの木、集めといてね」
指で寝床を囲うように指差す。
「うんわかった」
その返事に笑みを見せ、吉澤は再び歩き始めた。
- 87 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:05
- 「あ、おかえり」
「たっだいま〜」
吉澤が薪を拾い終わり戻ってきた時には、石川も指示した場所の枝を拾い終わっていた。
石川の集めた枝の上に抱えた薪を落とす。
パキパキパキ、カランカラン、モサァ。
その場にしゃがみこむ吉澤、石川の拾った枝を調べる。
石川が近寄ってきた――仕事振りの評価を貰いたい、と、微笑んでいる。
生き生きした葉をつけた枝を手に取ると、石川の方を向く。
ひざに手を付きこちらを見る石川、少し元気にはなったようだ。
- 88 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:05
- 「梨華ちゃん、こういう枝は燃えないんだよ」
「え、なんで? いっぱい葉っぱ付いてるじゃん」
「この枝どうしたの?」
「このへんに落ちてた」
「あ、うん。ならいいけど」
「なんで燃えないの?」
吉澤は立ち上がった。
「こういう生木は水分が多くて燃えないんだよね。葉っぱも枯れたやつのほうが燃えやすいし」
「えっ、そうなの」
「って昔お父さんに教えてもらった覚えがあるんだ」
「へぇ〜」
思わぬ所で、へぇ〜、が出る、ただしこちらのへぇ〜には無駄がない。
「すごいじゃんよっしー」
「へへっ」
枝の分別。
生木は排除し、太さ別に枝を分ける。
薪をくべる時は細いものから徐々に太くしていくと燃えやすい、と、吉澤。
ふ〜ん、と、石川。
- 89 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:05
- 「じゃああともう一個だな」
枝の分別も終わり後は着火だけだと思っていた石川の横、立ち上がる吉澤。
「薪が足りないの?」
言いながら立ち上がる石川。
「いやそうじゃなくて、なんていうか……着火材っていうの……それを採りに行こうと思って」
「着火材?」
「マッチの火だけじゃ枝に火が付かないからね、これもお父さんが言ってたけど。梨華ちゃんはマッチの準備とかしててよ」
「あ、うん、わかった」
再び吉澤が辺りを見回す、何か見つけて小走りすると、3メートルぐらいで立ち止まった。
「なんだ、こんな所にあんじゃん」
そう言う目線の先、吉澤のような白い肌に吉澤のような黒い点がいくつか、白樺の木である。
- 90 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:06
- 「なによっしー、それが着火材?」
「うん」
そういうと吉澤は白樺の皮をはがし始めた。
やや白い鰹節ののような皮がはがれていく。
石川はその様子を見ながらバッグの置いてあるところまで行き、バッグを開ける。
ガサゴソとマッチを探す。
「マッチあった〜?」
吉澤の少し間の長い質問。
「まだちょっと……あった〜!」
マッチを高らかに上げ、吉澤の方を向いて振る。
吉澤の左手にはたくさんの白樺の皮が握られている、右手ではみ出た皮を押さえながら、先の枝置き場に戻る。
石川もバッグを閉めて戻ろうとした時、バッグの中に白いものが見えた。
- 91 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:06
- 「よっしー、軍手あるよ」
「うそっ」
右手をポケットに突っ込むと、手紙を取り出し、乱暴に振り広げる。
「何々〜、ナイフ・毛布・軍手・マッチ・・・、あ、ホントだ」
「軍手いる?」
「うん、ってか梨華ちゃんもしてたほうがいいよ」
「じゃあよっしーのバッグからも出すよ」
「うん、ありがと〜。ついでに私のバッグからナイフも出しといてくんない?」
「あんわかった」
石川は自分のバッグから軍手を取り出しバッグを閉め、吉澤のバッグに手を伸ばす。
吉澤は左手の着火材を置き、手紙をしまう。
軍手とナイフを取り出してバッグを閉めた時、吉澤はなにやら枝で地面に何か書いているようだった。
軍手とナイフを持って吉澤のいる場所に駆け寄る。
- 92 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:07
- 「なにやってんの?」
「ん? 焚き火をやる場所を、ね」
太い木の枝で円を書いていた、焚き火を燃やす所を書いているのだそうだ。
「はい軍手」
「あ、ありがとう」
「ナイフは?」
「あ〜……持ってて」
円を書き終わり軍手をはめる。
「え〜、怖いよ〜ナイフなんて〜」
「そんなナイフぐらいで怖がって……、何ナイフ?」
「わかんない、これ」
ナイフを差し出す、柄しか見えない、ナイフを受け取る。
「折りたたみじゃんこれ」
「でもいつ出てくるかわかんないよ」
「梨華ちゃんねぇ、黒ヒゲ危機一髪じゃないんだよ。いつ出てくるかわかんないナイフなんて使えないじゃん」
「とにかくよっしー持っててよ〜」
「いやまぁいいけど、使うの私だし」
ナイフをポケットにしまう、さも自然に。
「じゃあもう火ぃ付ける?」
「うん」
待ってましたとばかりに石川が応えた。
- 93 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:07
- 円の中心に白樺の皮をかためて置き、覆いかぶせるように細い枝を置く。
いいよ、と吉澤が合図すると、石川は慣れない手つきでマッチを擦る。
シュゥッ、ボッ
重ねられた枝の下から中心に向かってマッチを押し込む。
マッチの火が見えなくなった。
「大丈夫なのこれで」
「ん〜多分付いてると思うけど……」
その時、先ほどの火は何倍も体を大きくして、枝の隙間から顔を覗かせた。
「あっ」
「ね、言ったでしょ」
得意満面な吉澤、火を見つめる石川。
腰に手を当て吉澤が言う。
「じゃ、ご飯食べよっか」
「そうだね」
そう言うと二人はバッグの元へ行き、再び火の周りに座った。
- 94 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:08
- そう言うと吉澤はナイフの刃を出した。
ナイフが焚き火の光を反射する、当たる光を少しも弱らせることなく照り返すきれいな刃。
その刃を下に向け、枝に当てる。
吉澤はその枝にささくれを作り出した。
黙って見守る石川、黙って作業する吉澤。
吉澤の作業が終わる、ささくれだらけの枝が完成した。
「何これ?」
「太い枝はこうやってささくれを作るとよく火が付くんだよね」
「それも……」
「そう、お父さんから教えてもらった」
「すごいね、よっしーのお父さんって」
「ねえ。まさか私もこんなところで尊敬するとは思わなかったもん」
枝を置き、ナイフの刃をしまう。
「じゃ、食べよっか」
- 95 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:08
- 「よっしーもよく覚えてるね、こういうこと」
「んもうそりゃ厳しく育てられたもん」
並んで火の前に座り、おにぎりと水を出しながらまだお父さんの話。
家族の話をしていると、なぜか安心感が出てくる。
そしてその直後に襲ってくるのは、家族に会いたいという焦燥感。
二人とも火を前に、少し無言になった。
- 96 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:08
- そう言えば前にも、お父さんの話をよっしーとしたことがある。
よっしーのお父さんは女の子だというのに厳しい躾で、殴られることも幾度とあったらしい。
ただそういう場合はよっしーがすごく悪い事をした時だけで、いわれなく殴ることはなかったそうだ。
だからよっしーも殴られても文句が言えなかった、って言ってったな。
そういう風に躾られてたから、よっしーは自分より大人の人が手を上げただけでビクッと反応することがある。
無意識に叩かれる、と反応しているのかもしれない。
ハロモニの『産直娘』の回でそれを見たときは、あ〜やっぱりそうなんだ、って思った。
その時はなんとも思わなかったけど、今こうしてたくましく成長したよっしーを見てると、愛されて育てられたんだな、と思う。
石川はそんなことを考えていた。
- 97 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:09
- 「ちょっと梨華ちゃん、聞いてる?」
「え!? あ!?」
「もうちょっと聞いてなかったの、もう」
「あ、ごめん。ちょっとボーっとしちゃって」
「まあしょうがないよ、今日は死ぬほど歩いたもんね」
「……」
何も言えなかった隣でおにぎりにパクつく吉澤。
自分も不安だ、もちろん吉澤も不安だ、なのに……。
なのになんで吉澤はこんなにも気丈なのだろう、石川は思った。
「ついでだから……」
何やら吉澤がゴソゴソし始めた、ポケットに手を突っ込んでいる。
ポケットから出てきたのは、手紙だった。
「これ、燃やしちゃおっか?」
手紙をヒラヒラさせる、時にオレンジを光を跳ね返しながら、時に闇の色を吸い込みながら、紙は揺れてる。
- 98 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:09
- 「駄目だよ」
「なして?」
「なんかヒントが書いてあるかもしれないし」
「ヒント? どれどれ……」
そう言うと吉澤は手紙を広げだした、片手は五本の指で、片手はおにぎりを持ちながら二本の指で。
吉澤がブツブツ話す。
普段なら聞き取れないような声を耳をすませて聞く石川。
「……F湖の…ナイフ……異なったプレゼント…プレゼント?」
「なに? プレゼントって」
「いやなんか、ペアでそれぞれ異なったプレゼントが入ってんだって。梨華ちゃんのバッグに入ってた?」
「いや……見てないけど」
「じゃあ私の方か」
そう言うと手紙を地面に置き、その上におにぎりを置く。
左側においてあるバッグを開ける。
背中を向け、ただプレゼントを探す吉澤、を見つめる石川。
物が擦れる音だけが聞こえる、無機質な音の空間。
- 99 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:10
- 「あっ、これかな?」
「あったの」
「あ〜多分これだわ」
吉澤が振り返る、手に持っていたのはなにやら白いもの。
よく見ると、透明な袋に入った粉だった。
「何この粉?」
石川が言う、吉澤はその言葉を心の中で同時に言っていた。
「わかんない」
「小麦粉かなぁ」
「ん〜でも小麦粉だけあってもどうしようもないしね」
「あ〜確かに」
二人に心は、この白い粉の正体、を求めていた。
その刹那、一方の心が変化した。
- 100 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:10
- 「梨華ちゃん……ちょっと」
「ん?」
深刻な表情の吉澤、不安げに見つめる石川。
「ちょっと……トイレ行ってきていいかなぁ?」
「……いいけど」
- 101 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:10
- コントではない真剣な感じ、余計に面白く思える、日常では。
「いやぁずっと我慢してたんだけどさぁ、もう無理」
吉澤の目がかわいらしく変化する。
「ちょっとその辺でしてくるわ」
白い粉を自分のバッグに入れ、立ち上がる吉澤。
「すぐ戻ってくるから」
そう言いながら石川の前方に向かって小走りをする。
「よっしー紙は?」
「いい、なんかその辺の葉っぱで済ますわ」
相変わらず強い女だ、石川は思った。
- 102 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:11
- しかし、気になる、あの粉。
腕を伸ばしてバッグから粉の袋を抜き取る。
小麦粉? 片栗粉? ホットケーキの粉?
重さも並みの粉程度、正体の突き止めるには、あの方法しかない。
正体不明の食材を口に入れる、それは恐怖でしかない。
うまい、まずい、薬、毒。
その恐怖の先を、見てみたい、欲望。
好奇心。
好奇心は恐怖を圧迫する、押し込めていく、麻痺させる。
その袋を開ける、直前で手が止まった。
………
- 103 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:11
- 石川は袋を開けた。
開けた勢いでフワッと白い粉が舞う。
まだ何かはわからない。
やはり……食べてみるしかないようだ。
袋から目を離し、吉澤の駆けて行ったほうを見る。
まだ来ない。
焚き火の光が届かない闇が、笑っている。
袋に目を戻した。
粉への恐怖心は、消えていた。
指先に粉を少しつける。
袋から指を出す、指先が白い。
ちょっと舐めてみればすぐわかる、好奇心が行動を操る。
石川の舌が、指の粉をこすり上げた。
粉が舌から口に入る。
舌の上でも、口の中でも、無味乾燥。
――誘惑――欲望――好奇心
- 104 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:12
- 粉の余った指を口の中に入れた。
やっぱり味はしない。
指を抜きとり、なぜか指を眺めてみる。
「何これ……」
思わず声が漏れる。
その時だった。
- 105 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/02(月) 13:18
- 今日はここまで。
>>82ありがとうございます
『嘘月』読ませていただきました、私もあれぐらい巧みな文章を書きたいものです。
>>83ありがとうございます
もちろん読ませていただきます、でも今『デス・ゲーム』を読んでるんでもう少し後になってしまいそうです。
- 106 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/03(火) 23:29
- 『産直娘』の回など細かいところ見てますね。
どうなるか楽しみです。
- 107 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:24
- 頭がクラクラする、ポワ〜という擬音語がピッタリ当てはまる体の感覚。
目の前が少し明るくなった気がする、少し体が浮き上がった気がする。
この感覚……どこかで……
考えることができない、段々思考する場所が白くなっていく。
ああ……気持ちいい……
今にも体が浮き上がりそうなところで、意識が戻ってくる。
徐々に体が地に引き寄せられる、目の前に闇がまた巣食っていく。
- 108 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:24
- 「あ……あぁ……」
声が漏れる、しかし気にするような理性がそこにはない。
戻りたくなかった、感じたこともない、感覚。
思考が戻ってくる、この感覚の原因、白い粉。
思考が元の状態に戻る前に、もう白い粉に手は延べていた。
五指でつまむように粉を取る、そのまま口に突っ込む。
光が戻ってきた、体が熱くなる、月が私を呼んでいる。
どこかで……前にも……こんな感じ……
頭が白くなっていく、光はなおも集まってくる、体はもう浮いている感覚。
――前にも―――
理性は思考を巣食っていく白いものに食い尽くされた。
- 109 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:24
- 「ああもうこれでいいや」
目の前にある木の葉を3枚もぎ取る。
「早く梨華ちゃんの所に戻らないとなぁ」
使用済みの木の葉を捨て、パンツとジャージを同時に上げる。
前方には木があるが、そのサイドからは自分達の作った光が漏れて見える。
ポケットに入れていた軍手をはめて、いざ我等の光へ。
目の前の木を避けると直接光が見える。
光が見える、その奥にあるものが見えない。
「あれ? 梨華ちゃん?」
木に隠れる直前、覗いたときには確かに見えた。
今見えるのは焚き火だけ。
不思議に思いながら、その場所に向かって歩く。
やっぱり見えない、少々の不安が生まれる。
「り〜かちゃ〜ん」
呼んでみるも返答はない、そしてまだ見えない。
そしてその場所に、戻ってきた。
石川は、座っていた場所に寝ていた。
ただ、体がひどく、痙攣していた。
- 110 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:25
- 「梨華ちゃん!!」
石川に駆け寄る、おにぎりが地面に落ちているのが見える。
そして、白い袋が手に握られているもの。
「梨華ちゃん!!」
背中から手を回し、体を起こす。
左手に白い袋、右手は白く染まり、口元も白かった。
目の焦点は合っていない、口からは聞いたこともない声とヨダレが漏れている。
この異常な光景、原因がわかった。
「梨華ちゃん!! この粉!!」
左手から袋を取り上げる。
「この粉食べたんでしょ!! ねぇ梨華ちゃん!!」
その時、石川の目の焦点が戻ってきた。
「梨華ちゃん!!」
- 111 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:25
- 吉澤を見る石川、その顔は徐々に怒りに変わっていく。
石川の目が袋の方を見た、向きなおした石川の顔は見たこともない憤怒を表していた。
石川の右手が激しく吉澤の左肩を押す。
その抗力は吉澤を飛ばした。
その行動に、その抗力の強さに、吉澤は驚いた。
目の前の石川は、とんでもない速さで立ち上がると、もう一度袋に目をやり、そして、吉澤は睨んだ。
「ううぅ……ぅうう……」
唸り声、である。
あの石川が、だ。
目の前の光景が信じられない吉澤、恐らくこの森で目覚めてから一番の、驚愕の光景。
このまま、石川という殻を破って、何かが……
- 112 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:26
- 「そのふくろぉぉ!!!」
乱暴に叫び散らす石川。
一瞬袋に目をやる吉澤、すぐに殺気を感じて石川に目を戻す。
「一人占めしよぉぉってんだろぉぉがぁ!!!」
石川の声には聞こえなかった、いや、目の前にいるそれが、石川にさえ見えなかった。
「くぉのやろぉぉ!!!」
恐怖のそれは襲ってきた。
「待って梨華ちゃん!! 梨華ちゃん!!」
「うおぉぉぉ!!!」
止まらない、止められない。
しりもちをついている自分、襲われようとしている自分、もうどうしようもない。
- 113 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:26
- 迫る石川。
吉澤は目をつぶり、石川の方に向けて足を上げた。
なおも迫ってくる。
もう何も見えていない、見えるのは真っ暗なまぶたにも焼き付いた変わり果てた石川の姿。
「うわぁぁ!!!」
吉澤は足を曲げ、思いっきり伸ばした。
猪突猛進の石川に、それは当たった。
人間の重さが足に加わる、吉澤は目を開けた。
足の先には、石川がフェイドアウトしていくのが見える。
つまずき、倒れていく。
その瞬間の顔を見た、表情に変わりはなかった。
ドスン
石川が倒れた。
メンバーには殴り合いのケンカでは負ける気はない、力を使えば負けない、だから今までメンバーに力を使ったことがなかった。
今の私の力は、誰に?
- 114 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:26
- 石川は動かない、恐る恐る立ち上がる吉澤。
石川が倒れている、ピクリとも動かない。
自分の右手に何かある、何か握っている。
とても憎らしい白い袋だった。
その袋をその場に落とす、今はこの袋のことより……
石川に近寄る、まだ動かない。
顔はいつもの石川に戻っていた、それでも動かなかった。
- 115 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:27
- 時が止まっている、ように感じる。
吉澤は動かない――目を見開き目の前を見つめる――動けない。
石川は動かない――目を閉じ地面に横たわっている――動かない。
吉澤の頭の中には色んなことが思い出されていた。
バスの中の時、この森で気がついた時、歩き始めた時、暖を取り始めた時。
どれも中途半端に思い出しては次に代わり、ぐるぐると回っている。
何が起こったのか、起こしたのか、わからない。
焚き火が火の粉を上げ、パチッと弾けた。
- 116 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/06(金) 11:35
- と、今日はここまで。
>>106さん
ありがとうございます。
『産直娘』のやつは見た時に私が思った感想です。
女の子にしては結構きつめの躾をされていた事を色んな場所で聞くので……。
>>53さん
デス・ゲーム読みました、とんでもなく素晴らしい作品を教えていただきありがとうございます。
>>83さん
パート1の方は読ませていただきました、とても良い作品ですね。
次回作の構想を何本か練っている所なのですが、その内の一つにRPGものがあります。
もし次回作をRPGものにした時は、話のテンポなどを参考にさせていただきます。
- 117 名前:名無し 投稿日:2004/08/07(土) 23:38
- 物語が動き始めたようですね、楽しみです。
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/08(日) 04:20
- な・な・な・なんなんだぁ〜〜〜!!!
続きを・・続きを早くくれ!(笑
- 119 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 11:57
- 「梨華……ちゃん……」
1メートル先の石川にはその声は届かない、それは、声量の問題ではない。
そっと近づいていく、誰に聞かれたくないのか忍び足で。
石川の横にしゃがみこむと、横向きに倒れる石川は仰向けにする。
眠ったように動かない。
石川の顔を照らす焚き火のオレンジの光に、少しの月明かりが混じる。
その顔色は、月明かりが強いのか、少し青くも見えた。
石川の肩に手を当て、叫ぶ。
「梨華ちゃん!! 梨華ちゃん!! 大丈夫梨華ちゃん!!」
肩を乱暴に揺らすも返事はない、続けて叫ぶ。
「梨華ちゃんごめん!! だから起きて!! ねぇ梨華ちゃん!!」
涙は溢れ出てくるのは、自責の念?
それとも……
- 120 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 11:58
- 「梨華ちゃん!! 起きて!!」
もう体を揺さぶることもできなくなっていた、その力は涙と一緒に出ていってしまっていた。
ただ叫んだ、そして、泣いた。
涙は頬を伝うまでもなく地面に落ちる。
異常な世界、異常な状況、異常な粉。
たとえ全てが異常だったとしても、彼女の中に拭えない感情がある。
石川を――殺してしまった――のか?
- 121 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 11:58
- 信じたくなかった。
でも目の前の石川は動かない、いつもみたいに笑ってくれない。
自分がキチンと粉をしまわなかったから、トイレなんかに行ったから、私なんかと組んだから……
後悔が次から次へと生まれてくる。
いくら後悔しても、もう、笑ってくれない。
自分を踏み潰すかのような念が、次々と涙を外に押し出していく。
「梨華……ちゃ……」
声さえも涙に変わっていた。
石川の腹部に顔をうずめる。
涙は石川のジャージに音もなく吸い込まれていく。
あと涙にできる力は、生きる力しか残っていなかった。
- 122 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 11:59
- 彼女は夢を見ていた。
真っ暗な世界。
上下左右、温度、重力、そんなものがない世界。
(ここは…)
石川には覚えがあった、たしか前に来たことがある。
とりあえず歩き出してみる、しかし全く動いている感覚がない。
(やっぱり前に来たことが…)
いつのことだったか、来たことのある世界。
でも、来たことがあるとしても、その世界への恐怖はかえることができない。
真っ暗で、ポツンと一人浮かび上がる、孤独。
全ては闇、恐怖の具現。
(イヤ……怖い…)
石川の心を闇が食っていく、見えている空間同様に心が闇に覆われていく。
立っていられなくなった、いや、立っている感覚はないのだけれど、目をつぶりうずくまるように体を丸めた。
その時
- 123 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:00
- 心の闇が逃げていく、心に光が充満していく。
目を開けると自分の体が光っている、光の衣をまとっているかのようだ。
光の粒子は体内から溢れ出てくる、光はさらに強くなる。
ふと前を見ると、不思議な、そして、綺麗な光は無数飛んでいる。
わずかな残像を残しながら、自由に闇の中を飛び回っている。
体を見てみると、同じくらい綺麗に光っている。
(私も…飛びたい!!)
飛んだことはないけれど、飛び回る光達を見て、なんとなく飛ぶ感覚がわかる気がしてきた。
目を閉じて意識を集中する。
私は、飛ぶんだ。
体が浮いている気がする、もともと地面はないけれど、飛んでいる気がする。
目を開けてみると、光達の仲間になっていた。
(飛んでる!!!飛んでる!!!)
闇も空間で自由に飛びまわる、光とともに。
それが楽しくて、嬉しくて、面白くて、たまらない。
光が足元をすり抜け、その光を追うようにして飛んでみる。
――自由を、手に入れたんだ
もう闇の恐怖も、孤独の恐怖も、消えている。
あるのは光のように飛びまわる快楽、他には考えられない。
それは突然だった。
- 124 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:01
- 「梨華ちゃん!! 梨華ちゃん!!」
どこからか声がする。
その正体は見えない、でも、この声は聞いたことがあった。
聞いたことがあるなんてもんじゃない、いつも聞いてる声だ。
「梨華ちゃん!! 梨華ちゃん!!」
自分の名前を叫ぶ声、いつもの声。
飛びまわるのを止める石川、なお飛びまわる無数の光。
その光が自分の前方に集まっていく。
集まっていく光は徐々に大きくなっていき、最後の一つが入った時には大きな光と化していた。
その光をただ見つめる石川。
と、その大きな光は徐々に形を変えていく。
「梨華ちゃん!!」
その声は目の前の光から聞こえる。
光は人の形に変化していく、そして……
「梨華ちゃん」
その声が聞こえたときは、光は吉澤に変化していた。
「……よっしー」
- 125 名前:めかり 投稿日:2004/08/10(火) 12:01
-
更新おつかれっす。
自分のも読んで頂いたみたいで、
誠にありがとうです。
これからの話も期待しています。
頑張ってください
- 126 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:01
- 光る吉澤の後ろには、何やら縦に光が見える。
「梨華ちゃん、行こう」
右手を差し伸べる吉澤、その手は5メートル先にあった。
「行こうって……どこに?」
その質問に、吉澤は微笑んで答える。
「どこにって、私達の世界だよ。私や梨華ちゃん、みんながいる世界だよ」
「……」
石川は答えられなかった。
自由に飛びまわるのが楽しくて、一生この状態でもいいと思っていた矢先のことだったからだ。
うつむく石川、吉澤はそれを察知した。
「梨華ちゃん……私の後ろにあるこれはね……」
石川が顔を上げる、吉澤は左手の親指で後ろの光を指差す。
- 127 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:02
- 「これは私達の世界への入り口なの。この闇の世界から脱出できる唯一の裂け目なんだ」
呆然と見続ける石川、なおも吉澤は続ける。
「この裂け目、あと少しで閉じちゃうんだ。もし閉じちゃったら、一生ここから出られない」
吉澤は強く右手を差し出した。
「だから早く、行こう」
「……いいよ……行って」
「何言ってんの梨華ちゃん!! 出られなくなるよ!!」
「いいの私は!!」
石川は叫んだ。
「私はここが楽しいの!! もうあんな世界に戻りたくない!!」
「……梨華ちゃん」
吉澤は右手を下ろした。
それを見て、つぶやく石川。
「ごめんよっしー……」
- 128 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:04
- 腰に手を当てる吉澤、大きく息を吸い込み、口を開いた。
「怖いのは梨華ちゃんだけじゃない……あたしだって怖いんだよ。だからって怖い怖い言ってたってしょうがないじゃん。
逃げるのは簡単だよ、だって目ぇつぶればいいんだもん。でもさぁ、それで見えてくるもんって何だと思う?」
吉澤は首を右に向けると、右上、上、左上、左へと半円を描く様に辺りを見回した。
左に向けられた顔を瞬きしながら石川の方に戻す。
「梨華ちゃん、ここはね、見てわかる通り闇の世界なの。確かに飛んでたら楽しいけどさ、梨華ちゃん一人ぼっちなんだよ、ずっと」
石川の目から、何の感情なのか、涙がこぼれた。
「一緒に笑ってくれる仲間も、叱ってくれる先輩も、泣いてくれる親友もいないんだよ、ここには。
そりゃぁさ、仲間がいれば行き違いもあるしケンカもする。でも、それ以上に仲間が愛しく思えることがいっぱいあると思う」
涙で吉澤がぼやけて見える、けれど言葉はとてもよく聞こえる。
「言ったじゃん、一緒に抜け出そうって。約束したじゃん」
- 129 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:04
- 吉澤は微笑んだ、とても優しく、とてもかわいく。
「行こう、梨華ちゃん」
吉澤は右手を差し出す。
「行こう、光の射す世界に」
石川は涙を拭った、吉澤の優しい笑顔が見えた。
「うん」
- 130 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:05
- そう言うと走って吉澤に向かっていく、手を差し伸べ微笑む吉澤。
手を握って吉澤を見る、いつものとても優しい笑顔。
強さと優しさと、言い表せない安心感が、手の中にある。
「じゃあ行こう」
「うん」
二人は光の中に入っていった。
- 131 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:05
- 「う〜ん……」
それは吉澤の右の耳に入った音だった。
それは紛れもなく、聞きたかった声だった。
「苦しいよ、よっしー」
急いで顔を上げる吉澤。
声のする方を見ると、つぶらな瞳が待っていた。
その瞳の持ち主は上体を起こすと、いつもよりも優しい声で言った。
「よっしー」
「梨華ちゃん!!」
二人は抱きしめあった。
それは、再会、というものの最たるものであった。
二人の目からは涙があふれる、この涙の原料は、感動。
「梨華ちゃん!! ごめん!!」
「よっしー痛いよ〜」
「ごめん!!」
「私もごめんね」
しっとり落ち着いた声で、石川は話し出した。
- 132 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:06
- 「なんかへ〜ンな夢見ちゃった」
「へ〜ン……な?」
「うん」
「私、こっちの世界は恐怖しかなかった。だから逃げちゃったんだと思う。だからね、夢の中の妙な世界に行った時に、もう戻りたくない、って言っちゃったの。
でもこっちの世界でも、向こうの世界でも、私を勇気付けてくれたのは……よっしーだった……」
吉澤は黙って聞いていた、なお続ける。
「よっしーがね……向こうにいたよっしーが、行こうって言ってくれたの。みんなのいる世界に……光の射す世界に、って」
吉澤は再度ヒシっと抱きしめた。
「だからね、もう私逃げないって決めたの。それもこれもよっしーのおかげなんだけど、本当に……ありがとう」
石川は強く吉澤を抱きしめた、答えるように、吉澤も抱きしめた。
状況を読めない焚き火の弾ける音にも気付かず、二人は強く抱きしめあった。
- 133 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:06
- しばらくして、二人は体を離した。
顔を見合わせると、互いに照れ笑いを浮かべた。
瞳に残っていた涙が、笑顔に潰され頬を伝った。
涙を手で拭いて、吉澤が言う。
「梨華ちゃん、すごかったよさっき」
「すごかったって何が?」
「うがぁぁって私のこと襲ってきて、覚えてないの?」
「……全然覚えてない」
沈みかける石川に、どこか遠くを見る吉澤。
木で半分隠れる月を見ながら、吉澤が口を開く。
「ま、しょうがないよね。あの粉のせいだもんね」
「あ……あの粉……」
「そうだ!! あの粉!!」
- 134 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:07
- そう言うと吉澤は月から目を離し、振り返ると落ちている粉まで歩いた。
黙ってみていた石川から漏れる言葉。
「よっしー……」
吉澤は粉の落ちている地点で立ち止まると、じっと粉を睨みつける。
しゃがみこんで袋の口を縛ると、立ちあがった。
袋を睨みつけたまま、そのまま後ろに下がっていく。
1歩、2歩、3歩、4歩。
4歩下がるとまた立ち止まり、睨みつけていた視線を石川に向けた。
視線の険しいまま、吉澤が言う。
「あんな粉、もう要らないよね?」
視線の圧迫感は感じなかった、その視線の持つ感情と同じものを持っていたから。
「うん」
返事を聞いた吉澤の顔は一瞬安堵の表情を見せた、そしてまた険しい目つきとなり、その視線を粉に向けた。
- 135 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:07
- ふう、と深呼吸すると、意を決した。
吉澤が走り出した、そして叫んだ。
「ふざけるなコラァァ!!!」
その怒りと共に右足を上げると、力いっぱい袋を蹴り上げた。
袋は吉澤のキック力と怒り、そして石川の怒りをも受け、飛んだ。
袋はすごい速さで飛んでいくと、闇に吸い込まれていった。
袋の行き先を見つめる二人、ガサッという音。
同時に袋の行き先から目を離し、同時に顔を見る、同時に目が合う。
「ナイッシュ〜!!」
「へへっ」
石川の感謝の言葉に、吉澤は照れ笑いで答えた。
- 136 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:08
-
そして、夜は光に薄れていく。
- 137 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/10(火) 12:14
- 今日はここまで、と。
>>117さん
ありがとうございます。
その期待を出来るだけ裏切らないように頑張りたいです。
>>118さん
ありがとうございます。
とりあえずこれで納得していただけたでしょうか?
娘。小説をもう100作近く読んだのですが、まだまだあるんですね。
皆さんのおすすめ小説、教えてください。
ジャンル、メンバーは問わないので、おすすめのがあったらよろしくお願いします。
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/10(火) 19:52
- おぉ〜よかった梨華ちゃん戻ってきたんだね(T^T)
今度はあの蹴った白い粉の行方が気になるところです(笑
- 139 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:30
- 『矢口真里』
矢口は歩いていた。
もくもくと、もくもくと。
バッグを握る手には、バッグを持つのに必要な力以上の力がこめられている。
唇を少し内に巻き、弱く噛みながら、歩く。
底に少し土の付いたバッグは、パンパンに膨らんでいた。
- 140 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:30
- 『藤本美貴・亀井絵里・田中れいな・道重さゆみ』
「んにゃ」
寝言――とは言えないような声を発し、田中は寝返った。
田中のお気に入りスポット、それは、枕の下。
夏にはひんやりした枕の下に手を入れると、絶妙なひんやり加減にほのかな幸せを覚える。
夏でなくても枕の下に手を入れるのは好きだった、なぜだか安心するのだ。
枕の下、もとい枕代わりのバッグの下に手を入れる。
伝わってくる感触は、ほのかな幸せではなく、痛いくらいの地の感触だった。
寝ぼける意識はその不快感に敏感に反応したのだった。
「ふぁっ!!」
急いで手を引っこ抜き、その手を地に付いて体を起こす。
風になされるがままに体をあずける草や花が、朝の挨拶をするかのように揺れている。
- 141 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:31
- 「あ……そっか」
そうである、ここは樹海。
右手の甲に残る不快感を左手で払う。
特に夢は見なかった、こんな状況だ、きっと大した夢じゃない。
特に残念に思うことなく、田中は右手の不快感を払い落とした。
右側を見る、幸せそうに眠る亀井と、素の顔でそのまま目を閉じたように眠る藤本と、何も考えてなさそうに眠る道重が見えた。
すぐ横で眠っている道重は、顔の右を下にしていて、バッグに圧迫される右頬の肉がやや口を押し上げている。
押し上げられた口がその圧力のせいで少し開いている、少しヨダレもたれてきている。
――まだ寝かしておいてあげたい
――一人で起きてるのがさびしい
――眠る道重をいじってみたい
………
- 142 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:32
- 2番目と3番目の欲望が勝利した。
右足の外側と右手を地に付け左膝を立てる。
左手の人差し指を立てる。
その指先はゆっくりと道重の左頬に触れた。
優しく、丁寧に、ゆっくりと、指を頬に押し当てる。
十代のハリ、感触。
怒って頬を膨らませる道重を見るたび、一度やってみたいと思っていた。
やわらかくて、ピチピチしている。
何度か指を上下させる、そのたび指は頬に沈み、頬はそれをはねかえす。
なんていうか、こう、楽しくなってきた。
指の動くが少し乱暴に、強くなってきた。
それにまけじと頬は弾力で対抗する。
自然に笑みがこぼれる――フフ、面白い。
指を頬に少し沈めると、そのまま円を描いてみる。
指から逃げるように頬肉が動く――フフ、面白い。
それを見に来たのか、風が田中の元へ来ると止まることなく走り去り、草木を揺らした。
その音に驚く田中、まだ揺れている草の方に目をやる、でも、指はそのまま頬の上で止まる。
- 143 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:32
- 「……んん」
指先から声がした。
「おぉ!」
急いで指を離す田中。
道重の目元が少し動く、じっとそれを見つめる田中。
まぶたが開かれることはなく、また少し前の静寂に戻った。
今度の田中の左手は開かれていた、指をくっつけたパーのような、手刀の形。
その手刀の刃は下向きでなく、手の平の方が下を向いている。
くっつけた指を道重の頬の上に持ってきた、そして、
ポン、ポン、ポン。
頬を軽く叩いてみた。
その振動はすばやく頬に伝わり、吸収される――フフ、面白い。
弾けるような力、弾力とはこういうことを言うんだろうな、と思った。
ポン、ポン、ポン――フフ、面白い。
こんなクッション、ポン、あったら、ポン、いいのになぁ、ポン
――フフ、面白い。
- 144 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:33
- 「れいな……何?」
!
声のする方を向く前に手を無言で引っ込める。
田中の目が少し見開く、無意識に見開いているのに自分でもわかるぐらい、驚いた。
道重が薄目を開けて田中を見ている、田中には道重が少し不機嫌な感じに見えた。
「あ、さゆ、起きたの?」
演技ともなんとも言い難いテンションと抑揚、とりあえずテンパっているのだけは明らかにわかるセリフだった。
薄目のまま道重が体を起こす。
「んん」
口を開けずに発せられた道重の言葉、多分、うん、と言っているのだろう。
道重は右手で両目を覆い隠すと、そのまま擦りながら下に手を下ろす。
隠されていた目が再び開くと、先ほどよりも多く黒目が見えた。
- 145 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:33
- 「れいな何かした?」
ドキッとした。
そう、何かしたからだ。
「何もしとらんよ」
「ホントに?」
「ホント」
「う〜ん……」
唸り声と同時に腕を組む道重。
「なんかほっぺたに当たってたような気がするんだけどなぁ」
唇を前に突き出し、ん〜とかわいらしく唸りながら考える道重。
少し頬も膨らんでいる、さっきまであれを触っていたのだ。
- 146 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:33
- 「ほんとにれいな何もやってないぃ?」
「ごめん。さゆのほっぺた触ったっちゃ」
「あ〜やっぱりぃ」
セリフと同時に腕が解かれる。
「さゆのほっぺたぷにぷにしとーと面白かったばい」
「も〜、ぷにぷにとかじゃなくて――」
道重がしゃべっている途中、道重の背後で音がした。
空気の動く音
話すのを中断した道重、田中を見るとすでに音のした方を見ている。
その表情は先ほど話していた時と変わりはなかった、その目線を追うように道重も振り返る。
- 147 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:34
- そこには、ほとんど目を開けていない藤本の姿があった。
「n?」
藤本の発する、日本語にはない発音。
「ここは……?」
寝ぼけているのは明らかだった、いつもはシャキンとしている藤本の、ボッケボケな声のテンション。
「藤本さん」
田中が声をかけた、朝にはちょうどいいぐらいの軽さの声。
藤本の顔が二人の方を向く、同時に少し目が開く。
まぶたが上がった感じでなく、眉毛を上げてつられて開かれている感じ。
「んあっ」
口から上を動かすことなく発した藤本の言葉。
その顔とその声に二人は思わず笑ってしまった。
笑いながら田中が言う。
- 148 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:34
- 「藤本さん、朝ですよ〜」
「んあっ」
先ほどよりか少し寝ぼけが解消された、あっ、だった。
藤本は左手を額に当てると、ゆっくりと顔を擦りながら下げていく。
目と口のところで少し遅くなりながらも、左手は顔を滑り降りた。
いつも見る藤本の顔の90%ぐらいになっている、もう目覚めたようだ。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
呆気ない朝の挨拶に二人は同時の返答した。
「今起きたの?」
「あ、はいそうです。でもれいなの方が早くて……」
「でも5分前ぐらいですよ」
「ふ〜ん」
そう言いながら3回首を小さく上下させる藤本。
その揺れのテンポのままに、藤本の顔が前方斜め下を向いた。
その先、亀井はまだ寝ている。
顔を上げる藤本、その視線は道重に、受けとめた道重の視線は田中に。
その後3人は亀井をくすぐりながら起こしたのだった。
- 149 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:35
- 『飯田圭織』
飯田はうずくまっていた。
溢れ出して止まらない液体が、ぽたぽたと地面に落ちる。
その液体の事を心配してくれる相方はいない。
むしろ、その液体はその相方のせいで出ている、止まらない、その液体。
聞いたことあるような鳥の鳴き声、その泣き声は鼓膜を震わせているのに、その信号を受け止められるだけの心の余裕はない。
心の余裕、いや、頭の余裕が無かった。
何も考えられない、脳が機能しようとしない。
飯田は声も出せず、うずくまっていた。
- 150 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 12:37
- 今日はここまで、と。
>>138さん
ありがとうございます。
あの白い粉は……どうなるんでしょうね……
- 151 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/11(水) 16:44
- >>125めかりさん、申し訳ないです。
気付きませんでした……スイマセン、そして、ありがとうございます。
こちらとてめかりさんの小説を楽しみにしています、頑張ってください。
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/11(水) 20:26
- 6期メン楽しそう!!
3人の寝顔の描写がすごく想像できました
- 153 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/12(木) 12:25
- 粉の次は液体ですか?
一体何の液体なかすごく気になるところ。
- 154 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:29
- 『加護亜衣・辻希美』
思ったより十分な睡眠と朝食が、二人の足を動かす。
確実に進んでいる、はずなのに、歩いても歩いても景色が変わらない。
歩を止め上を見上げると、緑に所々あく穴から澄んだ空が見える。
――きっと快晴だ
空の何万分の一しか見てないにも関わらず、加護はそう確信した。
右手から繋がる相方、辻希美も上を向いている。
少し開いた口の端に、朝食に食べたおにぎりの海苔がついている。
加護が予報した快晴を告げようと辻を見ると、何よりもまず海苔を見つけた。
「ののぉ、口に海苔付いてるよ」
そう言いながらブラブラしていた左手の親指と人差し指で海苔をつまむ。
ふぇ、と言って加護の方に振り向く勢いで、海苔が取れる。
つまみとった海苔を下のジャージに擦って払う。
「あん、ありがと」
「いえいえ」
加護がジャージから視線を辻に戻すと、空を見ていた表情のまま加護を見る辻が見えた。
一瞬口を閉じ、辻が訊く。
「ホントにこっちであってんの?」
- 155 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:29
- こっち、とは、今歩いてる方角のことである。
昨日の夜、加護の提案で歩いてきた方向に足を向けて寝ることとなった。
出発するときに頭の方角に行けば昨日歩いた道を逆走することはない、という案であった。
しかし、実際には二人との寝相が悪く、バッグの位置まで変わっていたため、作戦は失敗だった。
どうしようかと悩んではいたが、加護が一本の木を指差し、この木の方に足を向けてた、と証言。
どの木も同じに見える辻にとってみれば疑いたくなる言葉ではあったが、いずれにしても進まなければいけないこの状況。
まぁあいぼんは要領がいいから大丈夫、と言って納得したのだった。
「あってるって〜」
「ん〜でもなんか昨日見たような風景ばっかだよ」
「そんなんのの、どこ行ったって同じだよ」
「そうだよねぇ」
納得、以上。
二人は再び歩き始めた。
- 156 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:30
- 30分は歩いただろうか。
全く代り映えのしない中歩いている二人に、ある変化が伝わってきた。
最初に気付いたのは加護だった。
「なんか聞こえない?」
「え、なんも」
「なんか、サーって」
「……あ! 聞こえる!」
「でしょ、ね。どっからかなぁ」
二人は耳を済まして、色んな方向を向きながら音を集める。
今度は辻が気付いた。
「こっちじゃない?」
まさしく進行方向を指差す。
「うんうん、そうだよね、こっちだよね」
「何の音?」
「ん〜……」
どこかで聞いたことあるような……
- 157 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:31
- 「川の音じゃない?」
「あ、そうだそうだ川だぁ」
「行ってみよっか」
「うん」
先ほどより1割増しで早足になる二人。
音は少しづつ近くなってきている。
少し前方に、やや開けた空間が見える。
丈の高い草の前で止まる、その先に川はあった。
緩やかな谷の底辺に位置している川、幅は5メートルほど。
「あぁ川だぁ」
「どうするあいぼん?」
「とりあえず降りてみよっか」
「いいよ」
- 158 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:31
- 立ち止まった草をまたぎ、緩やかな谷をゆっくりと降りていく。
一番下まで下りたとき加護が谷を見上げてみると、高さは3メートルぐらいだった。
ふと周りを見ると、辻がいない。
その不安が形になる前に、声が聞こえた。
「あいぼ〜ん!!」
声のする方を見ると、すでに川の水を手ですくっている辻がいた。
両手ですくった水を下にこぼす。
「冷たくて気持ち〜よ〜!」
「あ〜今行く〜」
そう言って先ほどの何十倍もひらけた空を見た。
雲一つない、快晴、予報は当たったようだ。
空を見て微笑み、辻に視線を戻すと、すくった水を前に投げている。
投げられた水は大小様々な球を作り、太陽の光を纏って光る。
今までの状態からは考えられなかった綺麗な光景、加護にはそれしか見えていない。
- 159 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:32
- 自分もあの光景の中へ、加護は足を前に出した。
その足は、加護の予定着地地点までいかなかった。
その足先は加護の足の2倍はあろうかという枯木にぶつかっていたのだ。
足は前に出なかった、でも、重心はきちっと移動している。
スローモーション、視界は美しい光景から、一面灰色に変わる。
その灰色は無数の石であると気付くのは、そのスローモーションの中でであった。
膝が曲がる、手が前に出る。
右手にバッグを持っている、右手を出すのが遅れる、体を左にひねる、全てがスローモーション。
ゆっくり流れる映像を加護は冷静に受け止めていた。
灰色の中に、違和感のある輝きが見えるものの、判別はできなかった。
ドサッ
聞こえる予定ではない音に、辻はとんでもない速さで振り返った。
単純な視覚情報が辻に入る――加護が倒れている。
- 160 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:32
- 「あいぼん!」
叫ぶが早いか、加護の元に駆け寄った。
心配ではある、けれど単にコケただけ、水への未練も少し心に残っている。
しかし、加護の倒れている所まで来た時、水のことなど完全に吹っ飛んでしまった。
- 161 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:33
- 生々しく、それは嘘のように鮮やかな血が広がっている。
加護の顔が苦痛に歪んでいる、同じように辻の顔も歪んでいる。
「あいぼん!!」
加護の前にしゃがむと血のことなんか気にせず抱き上げた。
左腕から血が滴り落ちる。
「あいぼん!!」
「ん〜……」
食いしばられた口から漏れる悲痛な声、閉じていた目が薄く開き辻を見る。
今にも泣き出しそうな加護の目、普段ふざけている時の目とは全く別物であった。
いまだに左腕からの出血は続いている。
加護のコケた位置を見てみると、そびえたつ針の城のように、割れたビンやその破片が散らばっていた。
状況を把握した辻、ただ、把握したからといってそれを処理できるほど冷静ではなかった。
抱き上げた手に生暖かい感触、加護の血が辻のジャージに流れてきた。
その気持ち悪さで我にかえり、加護を見る、口が震えながらかすかに動く。
「……のの」
「あいぼん!!」
「……助け……て……」
助けて――そうだ、助けなければ
- 162 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:34
- 誰かが辻に指示しているかのように、辻の行動は見事だった。
ジャージのチャックを開け血が出てる方の腕を出す、出血は左の上腕。
腕に残るガラスの破片をつまんで捨てる。
生暖かい感触にも慣れていた、慣れていたというよりも気にしていられる神経を働かせている暇はない。
加護のバッグを引き寄せ開ける、中から毛布を取り出し患部に当てる。
毛布を当てた瞬間加護の顔が少し歪んだが、辻は淡々と応急処置をこなしていく。
習った事もない、聞いた事もない、考えた事もない、応急処置。
辻は考える間もなく処置をこなしていく、それが正しいのかどうか、そんなことよりも、加護を助けたかった。
加護の顔色が段々と青ざめていく。
出血が止まる様子はない。
毛布がじわじわと赤く染色されていく。
それは加護の不安と共に、辻の不安が広がっていく様にも見えた。
これじゃ駄目だ、何が駄目なのか、どう駄目なのか、わからない。
でも、このままじゃ加護は助からない。
- 163 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:34
-
どうすれば……どうしたら……
毛布を押さえる力が強くなる、比例して加護の顔が歪んでいくも辻は見ていなかった。
ただひたすら考えていた。
国語も数学も英語も、まともにできないけれど。
それでも加護を助けたい、その一心で頭をフル回転させる。
神の導きのように正確に処置をしてきた辻だが、その導きが徐々に不安に侵食されていく。
加護が死んだら、いや助けるんだ、でも、もし助からなかったら……。
全身の力がわずかながらに抜けていく感じがする。
絶望が希望を食い、助けたい力までも食っていく。
なぜこんなことに……
- 164 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:35
- 辻はこの森に来た最初の頃を思い出していた。
あの時だってあいぼんがいたから頑張れた、そうやって今ここにいるんだ。
なのになんで、あいぼんがこんなことに……。
こんなことになるなんて、あの時は考えられなかった。
皆を探そうって、それで一歩が踏み出せたのに……。
涙がこみ上げてくる、毛布を押さえる力もそれに混ざって抜けていく。
思考能力は思い出の再生に費やされていた、もうこれ以上何もできない。
これ以上加護を救う手立ては、ない。
辻の過去の再生は続いていた。
その再生こそが、神の最後の導きであった。
その記憶の中の希望を、辻は見つけた。
「そうだ……裁縫道具……」
- 165 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:35
- 『飯田圭織』
自分が無力なのか……それとも……
愚にもつかない疑問、事態に焦点の合わない疑問ばかりが浮かぶ。
あの発言、バトロワみたい、あの時からなんとなく気付いてた。
疑っていたわけじゃない、いや、でも、イヤな予感はしていた。
信じてた、口では簡単に言える、いや、心にもそうやってはりぼてにそんなことを貼り付けたのかもしれない。
内心は……
そうやって考えていく内に、矢口の裏切りと自身の虚偽の心が、これでもかというぐらいに具現化していく気がする。
嘘に嘘が積み重なり、真実に真実が積み重なる。
矢口を疑う心、それを否定する心、矢口のいない現状、自分一人だけの状況。
- 166 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:36
- どんな人間にも醜い心はある――なにかの本で読んだ覚えのある言葉。
頭ではわかっていた、それが普通だろうし、自分にもあるだろうと。
ただ、実際にそれを目の前につきつけられた時、あまりの醜さに目を背けてしまった。
本当は何にもわかっていなかったのだ。
本心に見映えだけよい愛を貼り付けて、いつのまにかそれが本心だと思い込みだして。
己の醜い部分に向き合うこともせず、ひたすら見ないふりをしてきたのだ。
何がメンバー愛だ、皆を愛してるだ、ただそれを貼り付けていただけじゃないか。
外から貼り付けてるだけ、内から滲み出てきたもんじゃない。
自分は、ただただ、嘘ばっかりついてきたんだ……。
その空間への突然の訪問者にも気付かず、飯田はただ泣いていた。
- 167 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:36
- 飯田が寝返る、バッグから頭がはずれ大地を枕にした。
その寝心地の悪さに目を覚ます。
草がチクチク頬を刺す、その感触に瞼は一気に開いた。
写真で見れば清々しい光景、ただその中にいる飯田は少しもそんなことは思わない。
そして、すぐに覚醒したその意識は異変にも気付いた。
矢口が、いない。
バッグは飯田が枕にしていたそれだけ。
昨日バッグに物が入ってると寝心地が悪いからと中身を全て出したはず。
食料、水、ナイフ、軍手、マッチ、矢口のカバンに入っていた懐中電灯も、ない。
手元には空のバッグと毛布。
「……矢口」
ボソッと、ほとんど無意識に声が出た。
その声が今必要な意識を引っ張り出してきた。
- 168 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:36
- 「矢口!!」
バッグから視線を外し、360度辺りを見回す。
何度も何度も、何度も何度も見回してみても、いない。
その姿を嘲笑うかのような風の音、見下すような太陽の光。
いてもたっても、いられなくなった。
見える所全ては駆け回った、瞬きも惜しんで矢口を探す。
「矢口ー!!!!!」
必死に叫ぶ、腹の底から声を出す、なんて気にしていられない。
どんなに凝視しようと矢口はいない、その度に浮かぶ言葉。
なんで……なんで……なんで……
その言葉は浮かぶたび、不安で走る足が速くなる。
「矢口ー!!!!!」
叫ぶ力は、涙によってその威力をそがれている。
そして、全ての真実を悟った。
- 169 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:37
-
矢口は、私を、裏切ったんだ……
- 170 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:38
- トボトボとバッグの元に歩み寄る。
バッグにたどり着く前に崩れ落ちる、そしてうずくまり、泣いた。
矢口がいないから?
一人取り残されたから?
裏切られたから?
何が理由かわからない、全てかもしれない。
理由がなんであっても、この涙は次から溢れ出てくる。
次に何をしようか、そんなこと考えられる状態ではない、ただひたすら…ひたすら涙が出てくる。
風がなびかせる葉の音の中に、嗚咽だけが聞こえていた。
ガサッ
草が無理に分けられた音が聞こえるも気にせず泣いている飯田。
その光景に、その訪問者は思わず声を漏らした。
「飯田……さん?」
その声に飯田は反応した、体がピクッと動いた後、ゆっくりと顔をそちらに向ける。
飯田の目に映ったのは――
- 171 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:38
- 『吉澤ひとみ・石川梨華』
「飯田……さん?」
吉澤の肩越しにそれを見た石川が、その空間にはよく響く声で言った。
その声に反応したらしく、それはこちらにゆっくりと顔を向ける。
顔を向ける前にわかっていた、それにはまるで生気が無いことに。
予感が見事に的中したその顔は、読唇術でも使わないとわからないぐらいの声を出した。
「……よ……しー………い……しかわ……」
「飯田さん!!」
- 172 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:38
- 吉澤が急いで飯田の元に駆け寄る、飯田の横にしゃがむと肩に手を当てる。
あまりの気の憔悴の仕方に、石川は一歩も動けなかった。
その雰囲気からは考えられないような速さで、飯田は吉澤に抱きつく。
体勢が崩れ、両手を地面に付いて倒れるのを防ぐ吉澤の胸に顔を埋め、飯田は嗚咽を漏らした。
一瞬のことに戸惑いながらも、優しく髪に手を当て抱きしめる吉澤。
その刹那の行動に我を取り戻した石川、二人の元に歩み寄る。
飯田の横にしゃがみ、背中に手を当てた石川が言う。
「飯田さん、何が……」
「梨華ちゃん!」
話している途中で吉澤が名を叫ぶ。
吉澤を見ると、僅かに目を細め、首を横に振っている。
吉澤の言わんとしていることを理解した石川は、優しく背中をさすることにした。
- 173 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:39
- しばらくこうすること、10分くらい。
飯田の嗚咽が聞こえなくなったのを見計らって、吉澤が口を開く。
「飯田さん……」
優しく響くその声に、ゆっくりと顔を上げる。
真っ赤に目を腫らし、今までの時間が無かったかのように大きな水滴が目からこぼれる。
さする手を止め、石川が話し出す。
「飯田さん……何があったんですか?」
何があったのか、正直、わかっていた。
吉澤が飯田を抱きしめていた間、周りを見回せば、全てが。
そして、その全てを飯田がわかっていないのだということも。
飯田が吉澤から離れ、対峙する様に座りこんだ。
ペタン、と、女の子座りと言われる座り方。
吉澤には、普段は大人っぽい飯田からは考えられないほど、か弱く、華奢に見えた。
鼻をすすった飯田が、静かに口を開いた。
「矢口が……いなくなったの……」
風が3人の間を遊ぶように通り抜けていく、そんな風を受け入れるように草がサワサワと揺れる。
- 174 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:40
- 「私の……食料……も水………も……全部……全部持って……ちゃって……」
溢れるというより、何かに押し出されているかのように出てくる涙を手の甲で拭い、飯田が続ける。
「起きてみたら……矢口が……」
嗚咽で詰まる語間とは考えにくい沈黙が流れる。
飯田の喉が何かを飲み込んだかのように動き、そして沈黙を破った。
「矢口が……矢口が私を…………うらぎっ――」
「飯田さん!!」
その言葉を遮るように、石川が叫んだ。
虚ろな目のまま、石川を向く飯田。
その目に映るのは、今にも泣き出しそうな石川だった。
一瞬口をへの字にして涙をこらえ、石川が口を開く。
「飯田さん……その言葉は言わないで下さい!」
思いもよらない言葉に、飯田はたじろいだ。
飯田にはわからなかった、その言葉。
飯田のそれを察したのか、石川が諭すように言う。
「矢口さんは……裏切ったわけじゃないと思います」
- 175 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:40
- 今まで考えてきたことが全て吹き飛ぶような、石川の言葉。
まだ何がなんだかわからない、飯田の目から大粒の涙が流れた。
その涙は、ずっと待っていたその言葉、矢口は裏切ったわけじゃない、それを待っていたようだった。
石川が続ける。
「飯田さんが泣いてる間に、見回してみたら、わかったんです」
「矢口さんは決して飯田さんを裏切ったんじゃないんですよ」
吉澤が続けた。
「飯田さんのものを全部持っていったのは、矢口さんが一人で生き残るためじゃなくて、多分……」
- 176 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:41
- 『矢口真里』
足取りは出発時の8割くらいに遅くなった。
やはり二人分の荷物は、重い。
体も心も休息を願っている、目の前に腰掛けるにはちょうどいい木の根。
その木の根に向かって、距離を足早に縮める。
落とすスピードでバッグを下ろし、木の根に座った。
ふと、一人であることを再確認する。
- 177 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:41
- 見当違いに早く起きてしまった今朝。
用を足しに休息の地を離れてみる。
十数メートルぐらい離れただろうか、その時のことを今でも神に感謝する。
木の隙間を光が通り過ぎていくのが見えた。
その光は強く、そしてとても人工的な光。
尿意も忘れ、その光に興味を抱いてしまった。
あれは何だろう?
単純で、しかし、強大な好奇心。
好奇心なんて言ってられる状況にないのはわかっていた。
でも、その好奇心に希望が乗っかったとしたら……。
もしかしたら……
- 178 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:42
- 急いで光の見えた場所に向かった。
起きたばかりなのに、尿意をもよおしているのに。
どれくらい走っただろう、100メートルぐらいだろうか。
希望が、現実となった。
そこには樹海では見なかった、灰色のアスファルトがあったのだ。
道路手前の5メートル、足が止まった。
この時の妙な冷静さにも、感謝している。
このまま道路に出てしまったら、圭織の所に戻れなくなるかもしれない。
それよりも今この位置から180度向き直し、圭織の元に行った方がよいのではないだろうか。
そう思うが早いか、もうすでに視界は樹海の方に向き直っていた。
やっと出られる。
さっさと圭織に教えて、こんな所から早く脱出しよう。
伝えたい気持ちを抑えきれず、足が走り出した。
聞こえもしないであろう距離にも関わらず、つい叫んでしまう。
「圭織ー!!」
興奮と運動で息も上がる。
「脱出できるよー!! 皆待ってるよー!!」
ふと、己の言葉に、足も興奮も止まった。
- 179 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:42
- ――――皆
そうだ、皆はまだ脱出できてないかもしれない。
何もかも偶然、偶然であの道路を見つけたのだ。
たまたまスタートしてからこの道路へ最短距離を歩き、たまたま道路に向かって用を足しに行き、たまたま車が通り、たまたまヘッドライトを見た。
たまたまスタートした場所があそこであって、たまたま車がヘッドライトが見えるように走ってきて、たまたま私の身長から見えた。
こんな偶然が皆にも起こっているわけないだろう。
とするなら……
先ほどの興奮も冷め、止まった位置から一歩も動かない。
顎に手を当て、下を向き、考え込んでしまった。
自分達は二十歳を越える年長組だ、知恵も度胸も他のメンバーよりかはあるだろう。
まだ中学生のメンバーだっている。
モーニング娘。のメンバーとして、また年長者として、見過ごすわけにはいかない。
もし自分が中学生の時にこんな目に遭ったら…。
寒気がした、ビクッと体が震える。
無理かもしれない、諦めてしまうかもしれない。
ならば、助けなきゃ……
- 180 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:43
- 顎に手を当てたまま前を向く。
その方向に飯田はいる、しかし、遮るように、また自由に、木々が立ちはだかる。
再び下を向いた。
また樹海を歩き回ってメンバーを見つけたとしても、そこまで行く道のりを全て覚えていくのは無理だろう。
助ける、とは言っても、実際に会ってから脱出できるとは限らない。
でも……
でも、メンバーを見殺しにするわけにはいかない。
たとえ探しまわって会えなくても、今このまま脱出するより何倍もマシだ。
でも食料はあと一日分しか残っていない。
………
一人で……一人で行こう。
圭織には脱出してもらって、自分は探しに行こう。
自分だってそりゃ助かりたいけど…でも、でもやっぱり圭織を危険な目に遭わせたくない。
一人で行こう、圭織の分の荷物をもらって、出会ったメンバーにそれを分けて。
- 181 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:43
- 一人で考えすぎるなよ、どこからか聞こえた気がした。
昔、保田に言われた言葉。
心の中で大事にしまっておいたその言葉が、今になって突然出てきた。
そうか、圭織にこのことを言わなければ……。
いや、それは駄目だ。
きっと、いや、絶対、自分が探しに行くと言うだろう。
それをどんなに説得しても聞いてくれないだろうし、よしんば説得できたとしても互いに後味が悪い。
言っちゃ駄目だ、じゃあどうやって圭織だけ脱出してもらう?
手紙を書く道具はない、じゃあどうすれば……。
………
矢印だ。
矢印を地面に書いておこう、大体の距離と脱出できるという事も一緒に。
そうだ、それでいこう!!
結論が出た。
晴れやかだが少し陰があるような顔で前を向くと、胸を張って歩き出した。
- 182 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:44
- 飯田はまだ寝ていた。
言いたい、すぐにでも脱出できることを大きな声で叫びたい。
でもそれはできない、自分のため、飯田のため、皆のため。
忍び足で自分のバッグの元に行くと、バッグに物を詰める。
昨日寝心地を理由に中身を全て出していた、なんて幸運な偶然だろうか。
二人分の荷物を詰めるとカバンはパンパンに膨れ上がっていた。
二日分と一日分+一日分では量が全く違う。
きっと一日分ではなく、1,5日分ぐらいなのだろう。
安らかに眠る飯田の顔を見て、ふと思いついた。
目覚めの一杯、と、飯田のカバンの横に小さなペットボトルを一本。
―――これでカバンがしまる、と。
- 183 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:44
- 次は矢印を地面に書く。
手頃な枝を見つけ、起こさないように、起こさないように。
時々唸る風の音、朝からバカみたいに元気な鳥の泣き声にビクビクしながら、飯田が眠っていることを確認して作業を進めた。
そして、完成した。
カバンを静かに持ち上げ、ソロリソロリと飯田を背に歩き出す。
その休息の空間から出るにはあと一歩、足が止まり顔を振り向かせる。
やや寝心地悪そうな寝顔の飯田。
手を伸ばせばいつだって手に入れられる幸せ、それを手で払って今出発しようとしている。
先程の決心が僅かに小さくなった気がする。
そんなことが、許されるわけない。
「圭織……行ってくるね………元気でね……」
涙に耐え、決心の崩れにも耐え、矢口は歩を進め出したのだった。
- 184 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:44
- 『飯田圭織・吉澤ひとみ・石川梨華』
「多分……残ってるメンバーを探しに行ったんだと思います……」
「そん……な……」
相変わらず場違いな風がときたま3人の間ををすり抜けていく。
飯田が泣きそうな顔をした。
今まで泣いていた時の顔とは違う、驚愕の混ざる泣き顔。
石川がゆっくりと立ち上がり、地面を指差す。
「飯田さん、これ……見てください」
飯田は震えながら石川を見て、ゆっくりと指差す方を見る。
そこには、何の変哲もないと思っていた地面、でも、何か違う。
「飯田さん、ほら、立って」
吉澤は飯田の腕を持ちながら立ち上がる、遅れて飯田が立ち上がった。
何かに気付いた仕草をした後、飯田の両手が顔に被さる、指の隙間からそれを見る。
そこに描かれていたのは矢印、その下に100m―――そして
- 185 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:45
- 「……圭織………LOVE……」
「……矢口さんは……裏切ってなんかいなかったんです」
崩れそうになる飯田に後ろから手を回して肩を支える吉澤。
「きっと……この先に出口を見つけて……それで……」
「なんで……なんで私に……言ってくれなかっ……」
感情が、涙が、言葉を遮る。
現状を受け止めるので精一杯の飯田。
嗚咽を発する飯田に、肩を抱きながら吉澤が言う。
「それは……それはきっと飯田さんに……生きて欲しかったからだと……」
飯田の肩がビクッと震え、吉澤の言葉は止まった。
石川が静かに、ゆっくりと、話し始めた。
- 186 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:46
- 「きっと出口を見つけて……飯田さんに知らせようとしたんだと思います。でも……まだメンバーが残ってるかもしれない。
助けに行きたい……でもせっかく出口を見つけたのに……もしこれを逃したら二度と出られないかもしれない。
だからせめて……せめて飯田さんだけでもって……こうやって矢印を描いて……」
涙がこぼれそうな石川、吉澤が助け舟を出す。
「飯田さんに相談したら……きっと飯田さんが行くって言うとわかってたんだと思います。だからこういう形で……」
「じゃあ……矢口には………もし……かしたら……もう………会えないかもしれないの?」
石川はすでに泣いていた、もう話せる状態にはなかった。
「いや……そんなことないと思います。矢口さんならきっと……」
「私………矢口を探しに行く!!」
- 187 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:46
- 吉澤を振り払うかのように体を振り向かせ、バッグを取ろうとする飯田。
飯田の目線の先に、小さなペットボトルが映った。
飯田の動きが止まった。
色に例えるなら綺麗とは言えない赤色のような、得体の知れない気が漂う。
落ち着いた声で、しかし、真っ直ぐな怒りを込めて、吉澤が叫ぶ。
「この矢印も、そのペットボトルも……矢口さんの優しさを踏みにじるつもりですか!!」
「でもじっとしてられないじゃ――」
「飯田さん!!!」
泣きじゃくっている石川も、バッグに手をかけている飯田も、同時に吉澤の方を向いた。
吉澤の目が、濡れていた。
「矢口さんはきっと……いや絶対、探してくれることなんか望んでませんよ!! 飯田さんに脱出してほしいから……生きてて欲しいから……だから……」
こらえ切れない感情を言葉に込めて、また涙にして、吉澤は泣いた。
口をつぐんでこらえても流れてくる涙。
それでも、吉澤は、飯田を見ていた。
飯田の涙が、止まった。
- 188 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:47
- 吉澤と目を合わせながら、鼻から息を吸い込んで、飯田が口を開く。
「ごめんよっしー……」
その言葉に、吉澤は下を向き嗚咽を漏らした。
飯田の中で何かが吹っ切れた、シャンとした表情で吉澤に近寄る。
そのまま近寄ると、眠る我が子を抱く母親のように、優しく吉澤を抱きしめた。
「そう……だよね。矢口は……大丈夫だよ……ね」
飯田の肩に乗る頭がコクンと頷く。
「出よう……矢口のためにも、さ」
先程よりも大きく、少し笑みをもらして、吉澤は頷いた。
- 189 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:47
- 『加護亜衣・辻希美』
「あいぼん!! ちょっと待ってて!!」
左前腕を震える右手でつかむ加護、その手を離させて毛布の圧迫をさせる。
毛布を握る力も、明らかに弱い。
震えと力の無さに毛布がずれていく、辻が加護の右手を掴み、その手ごと毛布を元に位置に戻す。
加護の右手を握り締め、辻が叫ぶ。
「今裁縫道具持ってくるから!! その間だけ抑えてて!! お願い!!」
加護が力無く頷いた。
辻は急いで自分のバッグを取りに行く。
清らかに流れる川の音も、甲高く鳴く鳥の声も、辻には聞こえない。
バッグをかっさらうと、加護の元に戻る。
死力を振り搾るかのように右手に力を込める加護。
「あいぼん、あとちょっとだから!! 頑張って!!」
加護の右手の拳が小さくなる。
それを確認し、バッグを開ける。
動物の勘、一発で裁縫道具を見つけた。
ケースを開け短針を出す、糸は一番長そうな白。
血が乾きパリパリの手で針に糸を通す。
- 190 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:48
- 両手が震える、早く、早く。
焦れば焦るほど、指先が笑う。
辻は自分の指に怒りを感じた。
何がそんなに面白い――そんなことより、早く、早く。
加護を見る、さっきよりも青白い顔、血の広がる毛布。
「あいぼん!! あいぼん!!」
必死に加護を呼ぶ、青白い顔が辻に向く。
涙に濡れる目、青紫の唇、痛みに曲がる眉。
その顔が、とても薄っすらと、笑った。
その笑顔の種類は、今までに見たことのないものだった。
面白い、楽しい、おかしい、どれとも違う。
震える唇が開く、そのまま口を動かさない。
そこから、とても弱々しく、そして、とても特殊な優しさのある声が出た。
- 191 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:49
-
「……の……の………」
川の音、鳥の声、風の音、木々の音。
それらのどの音よりも小さく響いたはずのその声は、辻にはとても鮮明に聞こえた。
- 192 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:50
- その刹那、辻の指の震えが取れた。
針を見る。
糸を見る。
何かに操られているかのように、その二つが交差した。
それは当たり前の出来事のように、糸が通った。
指は震えない、糸先を結ぶ。
加護を見る、笑ってくれている気がする。
右手に針を持ち、左手で毛布を取る。
出血は未だ続いているものの、先程よりは落ち着いている。
「あいぼん、ちょっと我慢してね」
先程までの辻からは想像できないほど、落ち着き払った声。
出血の止まらない一番深く、大きい傷口の縫合。
辻の手は全く震えていなかった。
淡々と、心ここにあらずと、縫合を行う。
それは見事としか言い様のないぐらいの、完璧な手つき。
ただ、加護の目は、開いてはいなかった。
- 193 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:50
- 最後の一箇所に針を通し、玉止め。
縫合が、終わった。
その瞬間、辻の体が震え始める。
そして、加護の瞳が閉じていることを知った。
「あいぼん!! ねぇあいぼん!!」
いくら声をかけようと、加護は動かない。
加護とは対照的に、決壊したダムの様に、涙が流れる辻。
もう縫合している時のことなんか覚えていない。
ただただ加護を助けたくて、その一心だけで。
「あいぼん!! もう終わったよ!! 目ぇ開けてよ!!」
加護の青白い顔、恐ろしいほどに、綺麗なほどに、青白い。
血の気も、生気も、笑顔も、加護にはなかった。
「あいぼん!! あいぼん!!!!!」
声を大きくしても、肩を揺らしてみても、加護は動かされるまま。
辻の揺らす力は、加護をすり抜け、地面に吸収されていく。
叫ぶ力も、揺らす力も、全て吸収される。
「ねぇあいぼん……縫うのね……うまくいったんだよ…………ねぇあいぼん……笑ってよ……
のん……頑張ったんだよ………誉めてよ………いつもみたいにさ……えらいねって…………ねぇ………あい……ぼ……」
- 194 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:51
- 涙のようにか弱く、こぼれる言葉。
その言葉でさえ、加護をすり抜けていく。
加護は冷たく、静かだった。
それは、嘘のように、静かだった
- 195 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:56
- 今日はここまで、と。
>>152名無飼育さん
ありがとうございます。
田中は何をやってるんでしょうねぇ……
>>153名無飼育さん
ありがとうございます。
スイマセンです、大したオチではなくて……
- 196 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:56
- ん〜一応見えてる部分を隠すという意味で……
- 197 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/12(木) 12:57
- 引き続き、おすすめの娘。小説を教えてください、と。
- 198 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/12(木) 14:13
- 信じてたよ矢口さん…・゚・(ノД`)・゚・。
- 199 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/12(木) 15:48
- あぁ〜・・・あいぼん・・・(T-T)
- 200 名前:めかり 投稿日:2004/08/12(木) 17:42
- 更新おっつーです
いつもながら見事なものです。
あいぼん目を覚ましてよ〜
のんの一生のお願いなのれす。
- 201 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/12(木) 19:43
- あいぼーん!!゚・(ノД`)・゚・。
- 202 名前:152 投稿日:2004/08/12(木) 21:14
- アイボーン!!
- 203 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 09:56
- 『飯田圭織・吉澤ひとみ・石川梨華』
3人は地面の示す通りに進んでいた、矢口の見つけた希望の先。
己の勝利を捨て、友を思い、救うため、矢口は一人で行ってしまったのだ。
もっとも、3人は誰一人話していなかった。
喜ぶべき事態が待っている、けれど、引っ張られるような感情が湧き上がってくる。
――いいのだろうか
彼女のためとはいえ、自己を犠牲にした彼女を置いて出るなんて。
素直に喜べない、という気持ちが3人の共通する所だった。
このまま簡単に脱出しては、脱出後、自分が自分を許さないだろう。
矢口の行動は完全な献身である。
誰が為に鐘は鳴る、矢口の鳴らす鐘の音は自分達のために鳴らされた音。
その音を聞いて、ただ感謝するだけでいいのだろうか。
- 204 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 09:57
- 一様な自問自答をする3人の前にやや異質な空間が見えた。
それはこの非日常からの脱出であり、矢口から託された希望。
「あっ!! 道路!!」
「矢口さん……」
誰ともなしに道路の前で足が止まる。
あと数歩で悪夢が終わる。
夢から覚める寸前のような、妙な気持ち。
覚めるべきか、それとも……
最初に歩き出したのは吉澤だった。
しっかりと踏みしめる様に歩き、あと一歩で止まる。
180度振りかえると、実に綺麗なきょうつけをした。
鼻と口から同時に息を吸い込むと、一瞬止めて、叫ぶ。
「矢口さん!!! ありがとうございます!!」
お辞儀をしながら叫ぶ吉澤を、呆然と見る飯田と石川。
顔を上げた吉澤が、へへっ、と笑うと、また180度振りかえった。
そして、大きく一歩を踏み出した。
日常の上で吉澤が二人を見る、また、へへっ、と笑う。
- 205 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 09:57
- すると、石川が歩き出した。
吉澤を模倣するように歩き、模倣する様に振り向き、模倣するように息を吸った。
「矢口さん!! ありがとうございます!!」
石川の顔が微笑んでいる。
堂々と振り向き、少し屈んだ後、両足でジャンプする。
その足は、固いアスファルトの上に着地した。
飯田は依然、動けなかった。
同様の自問自答、しかし、飯田の場合は、重さが違う。
矢口との付き合いは、モーニング娘。の中でも、悪夢に葬り込まれた時でも、一番長い。
矢口の残していった優しさいっぱいのペットボトルを握り締め、飯田は俯いた。
――これで、いいのだろうか…
「多分……」
吉澤の芯のある声に、飯田は顔を上げる。
「多分、飯田さんが脱出しなかったら……一番許してくれないのは矢口さんだと思います」
- 206 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 09:58
- 飯田の中で無限にループしていた問題の輪が、切れた気がした。
そうだった、誰よりも脱出を願ってくれていたのは、矢口だったのだ。
飯田の口元が綻んだ。
「飯田さん……」
石川の言葉と同時に、飯田は歩き始めた。
前の二人に習うように、止まる。
やや綺麗さ加減を落とした髪が広がるように振り返る。
深呼吸するように、ゆっくりと、息を吸い込み、叫んだ。
「矢口ー!! ありがとうねー!!!」
声は真っ直ぐ飛んで木に当たり、拡散していく。
その中で声の響くが途切れても、気持ちは矢口まで届くだろう、飯田は思った。
5秒ほど森の中を眺め、振り返った顔は笑顔だった。
午後一時四分
飯田圭織脱出
吉澤ひとみ脱出
石川梨華脱出
- 207 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:02
- 『高橋愛・紺野あさ美・小川麻琴・新垣里沙』
朝食、昼食、共にパン。
育ち盛りは過ぎてしまった4人ではあるが、さすがに物足りない。
しょうがないことではあった。
いつ終わるかわからない徒歩に対して、有限の食料。
食料の省エネ、提案者は紺野だった。
その提案に3人は賛成し、そして同時に思った。
――まさか紺野の口からこんな話が出るとは、と。
滑り込むようにして空から突き刺さっていた光も、いつのまにか直立している。
昼食を終え歩き始めた4人。
4人はだいぶこの環境に慣れつつあった。
必要以上の恐怖も混乱も、4人で取り去った。
今は必要な恐怖さえも忘れそうになっている、それぐらい、4人というのは心強い。
消し去る恐怖の代わりに生まれる、楽しく妙な高揚。
恐怖がほとんど残っていない、小川が話し出す。
「ここってさぁ、よく考えてみたらすっごい空気がきれいだよね」
「そうだよね〜、こんなに沢山の木とかは北海道にだってないもん」
「ねぇ」
「福井にもないなぁ」
同じくらいの高揚で話す紺野、意味のわからない返事をする新垣、言葉少なな高橋。
- 208 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:03
- 「日本にもこんな自然が残ってんだねぇ」
「新潟にはないの? こんな感じのところ」
「あぁもうないない、畑ばっかりだも〜ん」
「私んとこも畑ばっかりやわぁ」
「あさ美ちゃんの北海道はどうなの?」
「北海道はどっちかっていうと森より野原って感じかな……」
「いいじゃん野原なら、うちのとこは畑だよ畑。コシヒカリだよ」
「コシヒカリいいじゃ〜ん、おいしいよ」
むやみな会話、会話ではもう日常と変わりがない。
神秘に映える緑にも、乾麺のような陽光にも合わない、そんなテンションの会話。
それが、希望の前触れであった。
足元の確認のため紺野から一度視線を外す小川。
欲張りに地面からはみ出る木の根も、その生命をまっとうし横たわる枯れ木もない。
安全確認完了、視線が再び紺野に向けられる。
向けられる、その途中に何か見えた。
それは緑と陽光の見せる陰影ではない、もっと異質に黒かった。
紺野に行きかけた視線は、大急ぎで元の経路をたどり、その黒に向けられた。
その黒は、やはりただの黒ではなかった。
正体のわかった小川、その黒を指差し、まさしく素っ頓狂な声を上げる。
「ああーー!!!」
- 209 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:03
- 『藤本美貴・亀井絵里・田中れいな・道重さゆみ』
「ああーー!!!」
4人の持つ空気とは明らかに違う、まさしく素っ頓狂な声。
だが、その声は、いつも聞いている素っ頓狂だった。
4人同時に声のその方を見る。
一番後ろにいる道重が、それを真似るような声のテンションで叫んだ。
「あー!!! 小川さんだー!!!」
「おーい!!」
おーい、という声、道重の叫ぶ名前、それが問題であるならば、道重正解。
道重に続き田中、亀井の順に正解を見つける。
「えぇ、何? どこにいんの?」
未だ見つけられない藤本、その横の3人はもう駆け出していた。
「あ! もう、待って!」
遅れて藤本が後に続く。
先頭を走る田中の直線上に高橋を発見、藤本は最後の正解者となれたのだった。
- 210 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:04
- 藤本が辿り着く前に田中は小川に抱きついていた。
亀井、道重も高橋、新垣に抱きつく。
そのテンポの良い連鎖にはノれず到着した藤本。
再会を肌で感じる6人、嬉しい気持ちを抑えやれやれと目を合わす2人。
紺野が藤本に近寄る、そのタイミングを狙ったかのように藤本が話す。
「紺ちゃん達はずっとそっちの方から来たの?」
5期の歩いてきた方向を指差す、振り向くことなく紺野が藤本の前に止まった。
「あ、はい。朝からずっと北に北に歩いてきました」
「え!? 北!?」
「はい、北ですけど……どうかしたんですか?」
全く引っ掛かる要素のない所で怪訝な顔をする藤本に、少し困惑する紺野。
小川とはしゃいでいた田中が会話に入ってきた。
「ホントに北に歩いてたとですか?」
「うん」
「どうやって北の方角がわかったの?」
藤本のその問いに先程の顔の理由がわかった。
紺野が口を開く直前に、小川が答えた。
- 211 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:04
- 「朝日が昇る方角を見てねぇ〜、東だっけ? 西だっけ?」
「東だよマコッちゃん……」
「そうそう東、それでこうこうこうやって北がわかったんです」
こうこうこうやって、の所は意味不明なジェスチャーがついた。
ジェスチャーに何の反応も示さない藤本、ジェスチャーに惹かれて会話に入ってくる高橋達4人。
「何々なんの話?」
「絵里、それがね、紺野さん達は北に向かっとうって言っとるんよ」
「え? 私達も北に向かってたんじゃないの?」
「え!? 北!?」
先程の藤本の表情を、小川が引き継いだ。
北に向かう2直線が、交わるわけがない。
ましてや直角に近い角度で。
「藤本さん達はなにで北の方角を知ったんですか?」
紺野の、冷静で、今一番知りたい質問。
「いや……これでさ」
藤本が右ポケットをまさぐる。
出てきたのは、方位磁石だった。
- 212 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:05
- 「それが藤本さんのバッグに入っとったけん」
「プレゼントってやつですか?」
「多分……そうだと思う」
「なんで方位磁石が嘘なんてついてんだろう」
小川が顎の手を当て考える仕草をする、実際の所は考えてはいない。
皆が首をひねる。
藤本が紺野を見る、その目にはいつもの強気っぽさが少し垣間見える。
「紺ちゃん達が間違ってるって事はないの?」
「え!? いや、それはないと……思いますけど」
「歩いてるうちに曲がってきちゃったとかは?」
「ん〜……でもそれはないと思います。方向を決めてからその方向から少し距離のある木を目印に歩いてきたんで、
多分始めの方向から反れてるってことはないと思います」
モーニング娘。一の才女、紺野あさ美の言葉には説得力がある。
しかも内容には理科が少し絡んでいる、説得力はより増す。
藤本はそれに納得せざるおえなかった。
藤本の手の上の方位磁石は、藤本達の歩いていくはずの方向を指している。
紺野の説得力、方位磁石の説得力。
藤本以下、8人の中でそれは天秤にかけられていた。
皆の首があっちにこっちにと傾いている中、紺野がおずおずと口を開く。
「私、テレビで見たことあるんですけど……」
- 213 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:05
- 皆が一斉に紺野を見る、その様子におずおずがおずおずおずになった。
少し俯き、また顔を上げると、7人の顔が先を促している。
「こういう樹海には特殊な磁場が発生するらしいんです。しかも一箇所じゃなくて何箇所も。
その方位磁石はその磁場の一つの方向を指してるんじゃないかな〜って……」
「それホントの話?」
突っ込みの早い藤本が誰よりも早く、7人一致の突っ込みを入れた。
「……はい」
紺野の眼差しは、冗談でもなければ、少し自信のあるようにも感じた。
7人には少し難しい話だったのだろうか、それぞれ顔を見合わせる。
「え、じゃあこれは北を指してるんじゃなくてその磁場ってやつを指してるってこと?」
「そういう事になりますね」
「え〜」
紺野の答えに不満なのか、藤本が声を漏らす。
その、え〜、の意味。
「じゃあ私達が行こうとしてたのはその磁場の所ってことでしょう。じゃあこれ意味ないじゃん!! あああ腹立つ!!」
- 214 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:06
- 「いやぁでもそのおかげで私達出会えたんだし、良かったじゃないですか」
苛立つ藤本を小川が宥める。
「う〜ん……そうだけどさぁ……」
まだ納得のいってない藤本。
小川が肩に手を回し、藤本を本格的に宥めにはいる。
なんとなく、絶望感に包まれる。
一番若いのが、気を利かせる。
「高橋さんたちにもプレゼントはあったんですか?」
道重の、得体の知れない空気を破ろうとする、質問。
「あ〜とたしかねぇ、あさ美ちゃんのバッグにロープでぇ、私のカバンにのこぎりが入ってたよ」
新垣の少し焦った感じの返答。
「重さん達は磁石ともう一個なんだったの?」
「あっ、ちょっと待ってください」
そう言いながらバッグを開け、中を探る道重。
中から出てきたのは、数字の表記された銀色の箱だった。
「デジタルの時計が私のバッグに入ってました」
数字は2:29と表記されている。
高橋、新垣、紺野はそれを凝視する。
- 215 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:07
- 「あっ」
亀井の声に時計から視線は亀井に移された。
口角の少し上がっている口元、普段と微妙に違う形に見える。
なにか思いついたようだった。
視線の圧力に笑顔を若干増して、亀井が話し出した。
「なんかぁ、時計を使ってぇ、方向を知る方法ってなかったでしたっけ?」
「あ〜なんか聞いたことあるね」
「ん〜でもそれってデジタルじゃなくてアナログの時計じゃないとできないよ、たしか」
「あっ、そうなんですか……スイマセン」
「いやぁ謝るようなことじゃなぃ……」
「あ!!」
新垣のライトな慰めに、紺野の閃きの声がかぶった。
亀井や新垣はもちろん、ふてくされていた藤本までもが紺野を見る。
思わず声の漏れた恥ずかしさ少し顔を赤くする紺野。
「どうかしたのあさ美ちゃん?」
「あ……うん。ちょっと時計でね、思いついたことがあって」
そう言うと両手の人差し指と親指を合わせ、円を作る。
「あさ美ちゃん、何やってんの?」
「ちょ、ちょっと待ってて。重さん、今何時?」
「2時31分ですけど……」
「うん、ありがと」
- 216 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:07
- すると右手を外し、紺野にしか見えない円に人差し指に何やら線を書き出した。
その様子を見守る面々、顔を見合わせ首を傾げる。
再び指を合わせ、田中の方に歩き出す。
その様子に田中が少し後ずさりをする、かまわず近づく紺野。
「な、何するとですか?」
「いや、太陽の光をちょっと……」
田中の前に照らされている空間、そこまできて止まった。
円を崩さない様に右手を少し前に出す。
「紺ちゃん何やってるの?」
極微量の怒りを含ませた藤本の質問。
その声は紺野の鼓膜を震わせたはずなのに、紺野は何かに集中している様で、脳が反応しなかった。
少しの沈黙
「えっ、シカト?」
先程の怒りを5倍増しにして藤本が言う。
その声と同時に紺野はある方向を指差し、それをそのまま180度かえした。
「うん……やっぱりそうだ」
「何がそうだなのあさ美ちゃん?」
皆を代表する小川の質問。
指を指したまま紺野が小川を見る。
- 217 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:08
- 「やっぱり北の方角はこっちであってたんだよ」
「?」
純粋なクエスチョンマークが、7人の頭に浮かんだ。
少し興奮してきた紺野。
「今ね、亀井ちゃんの言ってた方法を試してみたんだ」
「え、でもそれってアナログじゃないとできないってあさ美ちゃんが言ったんじゃん」
「うん、だからこうやって手でアナログ時計を作ってさ」
先程の円を作り顔の前にもってくる紺野。
クエスチョンマークが大きくなる7人。
「人差し指の合わせた所を12時にして、重さんの言った2時半の短針の位置を想像してそれを太陽の方に向けるの。
して短針と12時のちょうど間の方角が南になるんだよね。それで南の反対側が北、っていうことなんだけどさ」
「んん?」
「あさ美ちゃん、すご〜い」
理解できない人が数人、純粋に感嘆する人が残り。
「え? それがどうだって言うの?」
先程からの怒りが残っている藤本の言葉。
その怒りはキチンと紺野にも届いていた。
「あ、いや、だから……太陽が出ていればいつでも方角が確かめられるってこと……です」
尻すぼみになっていく言葉、その怒りの前では当たり前のことである。
「じゃあこれからずっと北に歩いていくって事?」
怒りが3割減少している。
- 218 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:08
- 「いや、そういうことじゃないですけど。それは皆で決めましょうってことで」
「じゃあ北でいいんじゃない?」
「賛成!!」
不意の勢いに皆が小川を見る。
「ん? ん? なんですか?」
どんな場所でも、小川は小川。
皆が、少し笑った。
小川は少し前とは違う種類のクエスチョンを浮かべる。
「な〜に〜、皆どうしたの〜?」
「いやぁなんでもないよ、じゃあ北で賛成の人!!」
「「「「「「「は〜い」」」」」」」
藤本の言葉に、7人が賛成した。
「んじゃあ北ってことで……もう行く? ちょっと休む?」
「私ちょっと休みたいんですけど……」
「じゃあ少し休んでこっか」
- 219 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:09
- 皆その場にバッグをおろす、8人での休憩。
バッグからペットボトルを取り出す者、時計をしまう者、方位磁石をしまう者。
久々の大人数での談笑。
補給される水分と笑顔が、皆に力を補充させる。
「あさ美ちゃんすごいね、さっきのやつ」
「んんいやぁ、そんな……」
「け・ん・そ・ん・しなさんなってぇ」
「そうですよ紺野さん、ホントに頭いいんだなぁって思いましたもん」
「私も〜」
「あたしも」
紺野の顔が赤くなっていく、その紺野を肘で小突く小川。
恥ずかしそうにペットボトルの蓋を開けたり閉めたりする。
穏やかな時間が、過ぎていった。
それは2人が4人、4人が8人になることで生まれた、安心感。
8人では話題の尽きることは無かった。
初めてこの森で目覚めた時のこと。
メンバーを発見した時のこと。
ここにいないメンバーのこと。
紺野のさっきのすごいやつのこと。
亀井が最初森で目覚めた時に道重がささえてくれた話をすると、道重が亀井をはたきながら照れる。
紺野は皆おにぎりの中身が昆布だったことについて、いささか残念がっていた。
- 220 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:10
- 「もうそろそろ行こう?」
バッグに水をしまいながら藤本が訊く。
「そうですね」
「紺野さん、北ってどっちですか?」
「え〜と〜、あっちあっち」
「これやんないのこれ?」
小川は見様見真似の円を作り、紺野の方に向けた。
「さっきやったじゃん」
「え〜見た〜い〜」
「マコッちゃんいいから早く準備して」
藤本の一喝、小さく返事してバッグをしめる小川。
新垣と高橋を準備がすでに終わっていて、バッグ片手に立ち上がっている。
皆準備を終え、屈伸したり伸びをしたり。
その中、藤本はまだバッグをしめていなかった。
「藤本さん、何しとーとですか?」
「ん? いや、これ要らないかなって」
これ、右手の指で摘まれながら持ち上げられる方位磁石。
「こんなん持ってても意味無いし。捨ててって大丈夫だよね」
皆が返答に困る。
- 221 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:10
- 「だめですよ〜」
小川の小川らしい抜けた声が響いた。
「自然破壊ですってそんなん捨てちゃ〜」
「じゃあマコッちゃんいる?」
「え!? ん〜にゃいいです」
「ほら〜、やっぱいらないんじゃん」
「あっ」
紺野から発せられた短い音。
左手をパー、右手をグーにして、パーがグーを受けとめる。
パオーンが象だとわかるように、その姿から紺野以外の誰もが、何か思いついた声だったのだとわかった。
「あさ美ちゃんまた何か閃いたの?」
「うん。藤本さん、その方位磁石捨てないで下さい」
「あさ美ちゃんほしいの?」
「ほしいとかじゃなくて、それを使うんです」
「使うってったって、こんなん嘘の方向指してんだよ」
「そこを使うんですよ」
本日二回目の、純粋なクエスチョン。
皆が紺野の言葉を待った。
- 222 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:10
- 「その方位磁石は磁場から離れるとちゃんと北を指すんです。だから歩いてって方位磁石が北を指すようになれば
出口が近いってことなんですけど……」
……
待った言葉が意外に難しい。
理解がほとんどできない時の人間の顔は、全くの素の顔になる。
まさに、7人がそうであった。
恐らく一番理解できていない新垣が話す。
「なんだかよくわかんないけどぉ、あさ美ちゃんはあれがほしいってことなんでしょ?」
「あ、いや……うん」
俯き頷く紺野。
明らかに煮え切らない藤本。
「えぇ? わっかんないんだけど、あさ美ちゃんもう一回言ってくんない?」
「あ、じゃあ藤本さん、歩きながら説明します」
「あぁん」
細かく頷き方位磁石をポケットにしまう藤本。
皆も消えないハテナを探ろうとせず、しまいこんだ。
藤本は立ち上がりジャージを払うと、一度皆の顔を見回す。
「んじゃあ行こうか」
- 223 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:12
- 『矢口真里』
辻の声が聞こえた時は、正直驚いた。
正確に言えば、初めは辻の声には聞こえなかった。
ただただ大きく、あいぼん、と聞こえてきた。
状況、可能性、声……3回目のあいぼんでようやく辻の声だとわかった。
そしてその声を出す状況が、いかに緊迫し、緊急で、恐怖に満ちているかがわかった。
声のする方へ走った、ウザったい程生い茂る木々の中、前方にやや開けた空間が見えた。
声は明らかにそこからしていた、辻も加護もいるのはその空間だというのは考えなくてもわかった。
空間を目の前にして止まると、川があった。
その川の向こう岸に、異質に音を出す二つの黒いものが見えた。
その黒の隙間隙間に鮮やかな深紅が見えた。
涼しさ称える川の音が、その色と全くのミスマッチで気味が悪かった。
「辻!!!」
とりあえず叫ぶと、黒いものが動いて肌色が見えた。
その向こうにも肌色が見えたものの、遠目から見ても動いてないことはわかった。
- 224 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:12
- 「矢口さん!!!」
「辻!! 今行く!!」
川岸への坂道を思いっきり下り、辻のいる方へ走った。
川が浅いことは見た時からわかっていた、走る勢いに任せて川を渡った。
膝下程度の川を無我夢中で渡った、きっと川が深くても無我夢中で渡っていたであろう。
川を渡り切っても疲れを知らず、辻の元へ走った。
やはり、それは現実だった。
「矢口さん……あいぼんが……」
「何これ!! ちょっ、加護!!」
遠くから見て深紅に見えていたのは血で、所々赤黒く変色している。
既に冷静ではなかったのだが、何故かスッと現状を受け入れることができた。
「あいぼんが……転んで腕……に……ガラスが……」
露わになっている左腕の上腕には赤黒い傷がいくつも見える。
それとは対照的に、加護の顔は真っ白に近い。
- 225 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:13
- 「加護!! 加護!!」
叫びながら加護の頬を叩く、反応はない。
「さっきから呼んでも……動かなくて……」
弱々しい声と共に涙が流れる辻。
矢口は加護の頚動脈に指を当てる。
トッ……トッ……トッ………
微弱ではあるが、脈が確認できる。
口は開かれていないが、鼻から息をしていることも確認できる。
加護は、生きている。
「辻……きっと加護は気絶してるだけだと思う」
「……ホントですか?」
「うん、脈もあるし息もしてるから……多分出血多量で気絶してるんだと思う」
「……」
辻からの返答がない。
辻の方を見るよ、口を真一文字にして耐えるように泣いている。
その顔を見るに絶えられなくなった矢口は、辻を頭を包むように抱きしめた。
- 226 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:13
- 「大丈夫、大丈夫だから……」
辻が声を上げて泣き出した。
耐えて、溜めてきた感情が爆発したようだった。
矢口はポンポンと優しく後頭部を叩きながら、辻をしっかり抱きしめた。
辻の頭から滑らせるように肩へと手を持っていく。
辻と体を離し、真っ赤な目を見る。
「ホラ、しっかりしな辻。まだやることあるでしょ」
表情は変わらない、まだ飲み込めていないのだろう。
「加護を毛布の上に寝かせて、ジャージきれいにして……まだやることあるでしょって」
辻の目が少し大きく開いたと思うと、その頭が上下に動いた。
- 227 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:13
- 矢口の指示で辻はバッグから毛布を取り出す。
矢口は加護のジャージを脱がせにかかった。
まだ血で濡れるジャージを脱がすのはいい気分ではないが、そんなことを言ってられない。
毛布を敷き終わった辻と一緒に加護を運ぶ。
慎重に脇に手を回し上半身を起こす、辻が腰と膝の裏に手を当てる。
ゆっくりと持ち上げた加護は、重い。
気絶し何の力も入れていない人間は重いと聞いたことがあるが……それだけが原因じゃない気がする。
とにかく、少しも負担をかけないように注意深く運ぶ。
ゆっくりと加護を毛布の上におろし、ため息をついた。
それからは多少気が楽になった、川で加護のジャージを洗う。
辻はまだ使っていない軍手の片方を水で濡らし、加護の傷口を拭いていた。
「おっ、辻、いいんでしょ」
「ネヘッ」
自分の涙の跡も拭いていない辻が、少しいおとしくなった。
「辻も自分のジャージ洗っときなよ」
「ハ〜イ」
- 228 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:14
- 落ち着いた。
とりあえず、やることは全てやった。
矢口は自分のTシャツをナイフでちぎり、即席の包帯を作った。
下着の上にジャージ、着心地がかなり悪い。
でも、加護のことを思うとそんなことはどうでもよかった。
加護を目の前に、並んで座る二人。
聞こえないくらいの息をしながら、目を閉じている加護。
心なしか、顔色が先程よりも良くなっている気がする。
「辻」
「はい?」
どっと疲れた表情のまま、気の抜けた返事をする辻。
仕方のないことだ、あれだけの状況だったのだから。
「あんた達朝から何か食べたの?」
「朝におにぎりを食べて……それからはなにも」
- 229 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:14
- 「ん〜やっぱりね」
矢口の返事に首を傾げる。
矢口は横に置いてある自分のバッグを重そうに辻の前に出した。
辻のバッグより、ふたまわり近く大きく見える。
「なんか食べな」
「えっ?」
「さっきあんたお腹なってたでしょ」
「いや……でも……」
「いいんだって、あんだけよくやったんだから、お腹が減って当然でしょ」
「いいんですか、矢口さん? 矢口さんの食べ物が……」
不自然なくらいパンパンになっているバッグ、初期の状態でもこんなにものは入ってなかったはずだ。
先の出来事から頭の働かない辻は、ただ単純に目の前の人の食糧の問題だけが気になっていた。
矢口が俯く。
「それについてはさ……加護が起きてから話そうと思う。だから今は食べちゃって、ね」
- 230 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:14
- 矢口の醸し出す雰囲気に、問い詰めることができなくなった。
頭を下げ、小さく、ありがとうございます、と言って、バッグを開ける。
今朝食べた昆布のおにぎりとペットボトルと取り出し、また小さく礼をして食べ始めた。
「食べたら寝ときな」
そう言うと矢口は立ち上がった。
加護の顔を見る、やはり心なしか僅かに顔色が戻った気がする。
加護の顔を見て薄く微笑むと、辻の方を向いた。
辻に向けられたのは、加護に向けられたような微笑みではなく、どこか意思の見えるような、そんな表情だった。
「ちょっと見てくるから」
「え!? 矢口さん?」
「ちょっと川の先見てくるだけだから、すぐ戻ってくるって」
そう言って矢口は川の流れる方向に歩き始めた。
足場は悪いが、しっかりと踏みしめる様に歩いていく。
- 231 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:15
- 「矢口さん!!」
辻は呼び止めた。
足を止め振りかえる矢口。
特に理由は思い浮かばない。
でも……でも……
「な〜に辻〜、戻ってくるってぇ」
「ホント……ですか?」
「あったりまえだろぉ。だから心配すんなって、それ食べたら寝とけよ」
顔を前方に戻し、再び歩き始めた矢口。
ただただその後ろ姿を見ている辻。
矢口が小さく見えた、体の大きさではない、何かが、小さく。
川の音は相も変らず、清らかに聞こえていた。
手の中にあるおにぎりを平らげ、ペットボトルもバッグにしまった。
矢口のバッグに入っている毛布を取り出し、石の上に敷く。
加護の右側、まだ加護は目を開けていない。
矢口はもう見えなくなっていた。
襲う眠気の中に、先ほどの矢口の言葉。
――食べたら寝ときな
小さく、ハイ、と返事をして、辻は睡魔に身をまかせていった。
- 232 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:15
- 『飯田圭織・吉澤ひとみ・石川梨華』
「どういう事ですか!?」
「どういうことて……そういうことや」
「だって……」
「だっても何もないやろ今更」
「じゃあこの手紙はなんなんですか!」
「あぁ、これか」
「だって手紙には――」
「嘘、って言いたいんか?」
「そうですよ! 嘘じゃないですか!」
「嘘……ん〜もっとええ言い方ないかなぁ」
「なんだったんですか今までのは!」
「はぁ? さっきからゆうとるやろ」
「納得できません!」
「フッ、納得できひんのはむしろこっちの方やて」
「どういう事だよ!」
「やめてよっしー!」
「お前等には裏切られたゆうことや」
「う、裏切られたって――」
「はぁ……まぁこっちのミスでもあったんやけどな」
「なっ、ミスって――」
「ん〜……なんかないんかなぁ」
「ちょっ、いいかげんにして下さい!」
「あっ!」
「……」
「嘘やないわ」
「……」
「希望や」
- 233 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/14(土) 10:25
- 今日はここまで、と。
>>198名無飼育さん、ありがとうございます
いい奴ですよねぇ……
>>199名無飼育さん、ありがとうございます
泣かんといてくださいよぉ……
>>200めかりさん、ありがとうございます
ごめんな辻ちゃん……
>>201名無飼育さん、ありがとうございます
叫ばんといてくださいよぉ……
>>202 152さん、ありがとうございます
カタコトにならんといてくださいよぉ……
- 234 名前:めかり 投稿日:2004/08/14(土) 10:57
- いつもながら更新おつです。
それにしてもいったい
どういう事なんですかーーー???
- 235 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/14(土) 12:59
- いいとこで切りますね〜
とにかく期待してます。
- 236 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/14(土) 14:08
- ほんまどういうことや?
・・・って感じですよ!(笑
なんかこれからの展開にワクワク!!
- 237 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/14(土) 17:44
- さすがだ、奴にしかできない芸当だ。惚れ惚れする。
じゃあ、お薦めの娘。小説を。
『チャイルドプラネット』
http://mseek.xrea.jp/blue/977064496.html
『空席』
ttp://yagu00.hp.infoseek.co.jp/kuuseki.htm
- 238 名前:川’−’) 投稿日:川’−’)
- 川’−’)
- 239 名前:川’−’) 投稿日:川’−’)
- 川’−’)
- 240 名前:川’−’) 投稿日:川’−’)
- 川’−’)
- 241 名前:152 投稿日:2004/08/15(日) 01:30
- 矢口の行動が気になります
ところで238〜240は他作品の紹介なんですかね?
(怖くて踏めません)
危険なかおりが漂ってますけど、削除依頼したほうがよいのでは?
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/15(日) 01:42
- >>241
踏んでみたけど、よく分からないゲームだった
害はなさそうだけど、まあ、削除でしょ
- 243 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:45
- 『高橋愛・紺野あさ美・小川麻琴・新垣里沙・藤本美貴・亀井絵里・田中れいな・道重さゆみ』
嫌というほど広いと知らされた森に、8人の少女達はある一点にかたまっている。
8人は頭を突き合わせる様に集まり、その視線は一箇所に集中する。
藤本美貴の右手、の、上、の、方位磁石。
誰も何も発せず、ただ黙ってそれを見る。
場知らずな針は陽気に揺れていたものの段々と弱まり、その動きを止めた。
赤い針先はNとEの中間よりややN寄りを指している。
「ん?」
「さっきよりも……北に近くなってますね」
紺野の一言に皆顔を見合わせ微笑む。
テストで良い点をとったような笑顔の小川が、紺野に訊く。
「ってことは外に近づいてるって事だよね?」
「んまぁそういうことだね」
紺野の一言に皆ハイタッチになり、軽い抱擁なり、嬉しさを体現する。
藤本と紺野は目を合わせ、確認するように微笑んだ。
- 244 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:46
- 方位磁石をポケットにしまいながら、藤本が言う。
「重さ〜ん、今何時?」
「あ」
道重は短く声を発すると、バッグを開け時計を取り出した。
「18時52分です」
「え!? もうそんな時間なの」
「あっ、今53分になりました」
そんな〜細かいよ〜、と、新垣が突っ込む。
藤本が空を見上げる。
覆うかのような緑の隙間から見える、赤紫色の空。
藤本に続き、二人三人と空を見る。
顔を戻した藤本、誰ともなく訊いてみる。
「どうする?」
- 245 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:46
- 「いやぁ……」
と、言いながら空から藤本に視線変更する田中。
「もう泊った方がよかと思います」
「私もよかと思います」
「私もよか〜」
「私も」
「それがよかよか〜」
エセ博多弁の連呼に、顔をしかめる田中。
それをごく薄い笑みで見ている藤本。
「そんなよかよか〜なんて言わんもん」
「あっ、田中ちゃん拗ねた〜」
「はいはいマコッちゃん、拗ねた〜とか言わない。じゃ、どっかその辺で泊ろっか?」
「「「「「「賛成〜」」」」」」
拗ねる田中以外の手が上がる。
唇は少し前に突き出ている、拗ねてるのがすぐわかる。
- 246 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:47
- 「ね、ほら、田中ちゃんも機嫌直してさ」
「怒ってなんかおらんもん」
「も〜マコッちゃ〜ん謝ってよ〜」
背中を押され、田中の前に突き出される小川。
「ごめん田中ちゃん! ここ出たら好きなもんな〜んでもおごるから!」
「ホントですか?」
「ホントホント」
「じゃあ脱出したらマコッちゃんのおごりでパーティだね」
「え!! いや藤本さ――」
「賛成の人〜?」
「「「「「「賛成〜!」」」」」」」
藤本の強行採決、7人の手が上がる。
笑顔の田中の代わりに小川は手を上げなかったが、その顔をまんざら嫌でもなさそうである。
「じゃ、もうちょっと歩いて泊まる場所さがそっか?」
歩くこと十五分ほど。
その間、何を食べるか楽しそうに話し合っている。
田中の好きなもの、ということで、結局焼肉に決定。
藤本はそれを狙ってパーティの案を出したのかは、まぁどうでもいい話である。
- 247 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:47
- 「やった〜! に〜くにっくぅ!」
「田中ちゃん大はしゃぎだね」
「あたしゃはしゃいでらんないよぉ」
「でもマコッちゃんだってパーティーはやりたいでしょ?」
「パーティーはやりたいけどさぁ、私のおごりだよ。8人分でさらに紺ちゃんや田中ちゃんだっていっぱい食べるんだから――」
「8人分じゃないよ、14人分だよ」
「へ!?」
「そりゃそーじゃん、飯田さん達だっているんだから」
「あ、そっか」
「あそっかじゃないよもう」
「れな一人前じゃ済まんもんね」
「あ、マコッちゃん私も……」
「美貴だって焼肉プラスおごりだったら……あぁ」
「藤本さん……よだれ垂れてますよ」
「アハハハハハハ」
笑い声のこだまする中、なんともタイミング良く8畳ほどの平坦な地面を見つけた。
藤本の指示で皆で薪を集め、火を付け、囲み、夕食をとる。
小川の本日4回目となる藤本のよだれ物真似によって、炎以上に明るい空間となっていた。
- 248 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:48
- 『矢口真里・加護亜衣・辻希美』
どんな夢を見ていたかはわからない、でもなんかの夢は見ていた、気がする。
不意に、ッフゥァ、っと夢から覚める、あの感覚。
あまりいい環境で寝ていなかったせいか、疲れが完璧にはとれていない。
薄ぼんやりとした意識、薄目を開ける。
オレンジの光、その横に……何か
――パチッ、パチッ
それが焚き火だとはわかった。
じゃあ何かって、何?
――あ、辻起きたの?
声に反応して、6割ぐらい目を開ける。
火照ったような色をした矢口が見えた。
「……矢口さん」
まだ頭の歯車はぎこちなく回転している。
そう言えば……矢口さんは……
「加護!」
- 249 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:48
- 矢口は立ち上がり辻の敷いた毛布に土足で踏み込んだ。
そんな細かいことを辻は考えていない。
矢口の一言で歯車は正常に動き出していた。
目覚め直後とは思えない速さで加護を見る。
薄く開けられた加護の黒目に、オレンジ色の光が見えた。
「あいぼん!」
「……あ、のの」
「加護! 加護!」
「……矢口さん」
「よかったぁ〜」
毛布の上にへたり込む矢口。
辻は加護の右手を両手で掴み、涙を零す。
「あいぼん、大丈夫?」
「……うん。まだジンジン痛いけどね。ねぇ、矢口さん……」
「のんが泣いてたらね……来てくれたんだよ」
無言で頷き微笑みを返す加護。
- 250 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:49
- 「加護〜よかったぁ」
「矢口さん、ありがとうございます」
「うんん、それは辻に言ってやってよ」
その言葉と加護の視線に照れ笑いをする辻。
それでも両手はしっかり加護の右手を握っている。
「のん、ありがとね」
「あいぼんもありがとう」
フフ、と笑いあう二人に矢口はニンマリ微笑んだ。
再会の感動も落ち着いて夕食になった。
加護はまだ食欲がないと言ったが、少しでもいいから食べなと矢口が説得しおにぎりを半分食べたのだった。
- 251 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:49
- 「そうだ、まだ二人に話してなかったね」
矢口はペットボトルのキャップを閉めながら炎を見ている。
辻と加護は同時に矢口を見た。
「ホンットあんた達双子みたいだねぇ、さっきも同時に起きてくるしさぁ」
二人は目を合わせ軽く笑った。
二人が視線を戻すと、先と変わらない矢口がいる。
「なんで矢口がさぁ、一人かっていうとね―――」
いきなり話し始めた矢口の言葉をただただ黙って聞いている。
今までの成り行きを全て話した。
飯田と一緒だったこと、出口を見つけたこと、矢印を描いたこと、飯田に黙って今ここにいること……
二人は一切口を挟まず、ずっと矢口の言葉を聞いていた。
「―――ってことで、今矢口はここにいるんだけどね」
「それじゃあ飯田さんは今ごろ……」
「うん、もう脱出してると思うよ。圭織のことだからすぐ矢印見つけてくれたと思うし」
「矢口さん……」
「いいんだってぇ、矢口が好きで来たんだからさ。それに……」
矢口の顔が今までと一転して、明るくなった。
「この川沿いをずっと歩いていけば一時間ぐらいで道路に出られるし」
- 252 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:50
- 「ホントですか!」
「ホントだって」
辻と加護は顔を見合わせ、い、を言う一歩手前の顔をしている。
「ぃやった〜!!!」
辻が加護の上から抱きつき、加護は右手を辻の背中にまわす。
「コラ辻! 加護は怪我してんだよ!」
「あ、ごめんあいぼん」
「いいっていいって。そんなことよりやっと出られるんだよ!」
「うん」
また叫びながら抱きつく辻、今度は矢口も注意しなかった。
- 253 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:50
- 辻が体を離すと、元の位置に戻る。
満面の笑みはまだ戻っていない。
「矢口さん、どうして見つけたんですか?」
「どうしてってまぁ、川なんだからどっかに橋ぐらいあるだろうなぁって」
「矢口さんあったまいい〜」
「なぁんそんな……でぇ二人とも、明日の朝に出発しようと思ってるんだけど」
「いいですよ」
「そりゃいいんだけどさぁ、加護は怪我しちゃってるから……」
「加護は大丈夫です……」
「ん〜、大丈夫って言ってもやっぱり血が足りなかったりしてフラフラしてくると思うんだ。
だからそん時は辻、ちゃんと支えてあげてよ」
「はい」
「荷物は水だけバッグに入れて矢口が持つから」
「他の物は……」
「置いてくよ」
「そう……ですよね。すぐ出られるんですもんね」
- 254 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:50
- 「矢口さん」
今までのテンションが急に降下した加護の声。
不思議そうに矢口と辻は加護を見る。
「あの……お願いがあるんですけど」
「な〜に?」
「あのぉ、裁縫道具も……バッグに入れてもらえませんか?」
矢口は何かに気付いたような顔を、辻は口を真一文字にして嬉しそうに微笑む。
「いいですか?」
「いいに決まってんじゃん!」
「やった! ありがとうございます!」
「やったねあいぼん!」
「うん!」
3人の喜びに相乗するように、炎は力強く燃えていた。
- 255 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 12:51
-
―――そして、白々と―――
- 256 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/16(月) 13:03
- 今日はここまで、と。
次回、最終回になります。
>>234めかりさん、ありがとうございます。
恐らく次回わかります。
>>235名無飼育さん、ありがとうございます。
期待……裏切ってしまうかもしれないです。
>>236名無飼育さん、ありがとうございます。
これからの展開にワクワクしてもらってるのに次回が最終回……スイマセン。
>>237名無飼育さん、ありがとうございます。
空席読みました、良い作品をありがとうございます。
チャイルドプラネットはまだ途中です、良作を読むと自信を無くしてしまいます……。
>>241 152さん、ありがとうございます。
矢口の献身には頭の垂れる思いです。
>>242名無飼育さん、ありがとうございます。
削除依頼は出しておきました。
- 257 名前:めかり 投稿日:2004/08/16(月) 20:13
- よかった、目覚めてよかったれす
あいぼーーーん!
- 258 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/16(月) 20:54
- よっしゃぁ〜!
あいぼんはこうでなくっちゃ!
悲しいあいぼんは見たくないよ・・・。
- 259 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 14:59
- 『高橋愛・紺野あさ美・小川麻琴・新垣里沙・藤本美貴・亀井絵里・田中れいな・道重さゆみ』
田中は目を覚ました。
テーブルクロス引きのように一瞬で全てがなくなったような、全く眠気の残らない目覚めだった。
その目覚めに驚くかのように体を起こしキョロキョロを周囲を見回る。
誰も起きていない
「みんな寝とー……」
何てことはない独り言。
―――自分は起きている―――みんなは寝ている
だいたい24時間前に似たような状況があったことを田中は思い出した。
その中の楽しかった思い出も一緒に思い出していた。
「……さゆ」
- 260 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 14:59
- 修学旅行のように4人一列頭合わせの隊形で8人は寝ている。
田中は一番端だった、道重はそこから一番対角の端。
のっそりと立ち上がる田中。
立った目線で7人を見る。
素の顔で目を閉じているだけの藤本。
眉間に浅い皺をよせ、恐らく悪い夢でも見ているのだろう亀井。
亀井とは逆に薄い笑みを浮かべている新垣。
いつもよりも幼く、無邪気に見える高橋。
口を開けている様は起きていても寝ていても変わらない小川。
何故か割りと寝顔が見慣れてしまった紺野。
前日同様、横向きで口を少し開けている道重。
草を踏む音さえよく聞こえる静かな早朝。
抜き足、差し足、忍び足。
泥棒でもなんでもないのだけれども、何故か後ろめたい気持ち。
だけれども、行動させてしまう。
それが道重さゆみのほっぺの誘惑だ、と田中は思った。
- 261 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:00
- 道重の顔の横にしゃがむ。
長く黒の強い睫毛、透き通るような肌。
あたしが一番かわいい、道重の言ってることがわかる気がした。
――左手の人差し指がその感触を欲している
な〜んてね、と、一人どこかに言い訳する田中。
しかしその人差し指は確実に頬に近づいている。
プニ
そう、まさにそれが音を出すならば――プニ
プも二も若さが作り出す、堪能されるべき弾力。
右手で自分の頬を押してみる。
自分だって若いのに、左手に伝わった感触には程遠い。
もう一度左手を上下させてみる―――負けた
「違うってぇ」
- 262 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:00
- せっかく守ってきた静寂を打ち崩すような声。
反射のように左手を引っ込める。
道重の前、まだ薄い笑みを浮かべている新垣である。
「緑の箱だって言ってるじゃ〜ん」
――寝言?
目は開かれていない、体勢も先のままである。
声の大きさは通常の会話と変わらないくらいなのに。
道重に視線を戻す、特に変わった所はない。
とりあえず安堵する、極上の遊楽はまだ終わりを迎えていない。
「んぅ〜ん」
また田中はビクッとした。
今度は道重の奥、紺野が寝返りをうったのだった。
その顔は田中に向けられている。
田中は気付いた。
もう一人、特上の感触を持つ人がいることを。
- 263 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:01
- 田中は立ち上がった。
右足を少し前に出して、上半身を倒していく。
左手の人差し指はミサイルのようにある地点をめがけてゆっくりと落下している。
そのミサイルは見事に目標の落下地点に着弾した。
プニィ
そう、まさにそれが音を出すならば――プニィ
豊満に蓄えられたその頬肉が、優しさと柔らかさで指を受け止めてくれる。
同時に優しさと若さで指を弾こうとする。
この感触はまさしく天才だ、田中は思った。
指を一旦離し、また道重の頬に当てる。
天才だ、田中は思った。
天才二人の競演、指揮者は田中れいな。
指揮棒の代わりに立てられた指がワルツを奏でるようにゆっくりと両者の頬を行き来する。
二人の天才が奏でる音色は田中にしか聞こえていない。
- 264 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:01
-
プニ
プニィ
プニ
プニィ
プニ
プニィ
…………
- 265 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:02
- 「だ〜か〜ら〜、緑の箱だってぇ」
演奏が止まった、良からぬ不協和音。
「それはバ・ナ・ナ」
コントでもなんでも、与えられるセリフというのは不自然なものが多い。
それを言おうとすると抑揚やら何やらが不自然になってしまうのは当たり前だと思っている。
中でも新垣の不器用さは群の抜いていて、それが別に笑いを作り出すこともある。
しかしその寝言は明らかに不自然な内容であるにも関わらず、そこに緑の箱もバナナも見えるくらい自然に発せられていた。
それにしても緑の箱とバナナを間違えるって……、田中は思った。
- 266 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:02
- その寝言に反応するものは田中以外にいない。
新垣の声が響き終わるとまた静寂が戻ってくる。
それでは演奏再開。
道重の音色を響かせたその時
「だぁ、なんで緑の箱開けちゃうのさぁ」
指を沈めたまま、人知れず眉間に皺をよせる田中。
緑の箱を薦めていたのは新垣さんじゃないの?
バナナを注意してまで緑の箱を薦めてたんじゃないの?
人の夢に勝手に疑問を持つことなど無意味だと、田中は微塵も考えていない。
「もぉ、私達イワシしか残ってないじゃん」
- 267 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:02
- え? イワシ?
イワシはどこから出てきたの?
しかもなんでイワシしか残ってないの?
イワシしか残ってない状況っていったい何なの?
誰かと景品をめぐってゲームでもしているというの?
なんでその景品がイワシなの?
散々緑の箱を薦めておいてなんで間違ってるの?
なんでその人は緑の箱とバナナを間違えるの?
新垣さんは誰と組んでるの?
「まったくぅ、ダメだなぁ田中ちゃんは」
「ってアタシかい!」
いつのまにか新垣ワールドに引き込まれ、最後には突っ込みまでしている田中。
それはまさに才能のなせる技である。
その突っ込みのキレやタイミング、抑揚から内容まで全てが完璧だった。
ただし、状況は良くなかった。
- 268 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:03
- その気迫ある突っ込みに7人はもぞもぞと動き出した。
当然、左手人差し指の先も動く。
急いで指を引く、と同時に道重の顔を見る。
薄くではあるが、目は開けられていた。
「ん? れいな?」
「ち、違うばい!」
テンパってしまって何を言ってるのかわからない。
急いで自分の寝床に戻ろうとすると、みんなが一斉に起き上がってきた。
「んん」
「んぁ、おはよう」
「おはよう」
「おはようございます」
意識の覚醒した者からの順番に回る挨拶の数珠。
いつもより数段目が据わっている藤本が立っている田中に気付く。
「ん、田中ちゃんおはよう」
「お、おはようございます」
「何? どっか行ってたの?」
「あ、いや、その……」
「んんん」
何に納得したのか藤本はみんなの方に視線を戻した。
あとで田中が道重に怒られたことは言うまでもない。
- 269 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:03
- 朝食を済ませ、紺野法(小川が命名)により北の方角を知る。
時刻は8時ちょうど、日の当たる所の朝露はすっかり姿を消していた。
「みんなぁ、準備できたぁ?」
「「「「はぁい!」」」」
返事する者、頷く者、合計6人のOKが出た。
藤本が気付く。
「アレ? ガキさんは?」
「トイレ行ってくるって言ってました」
「んもぉ、なんでこんなときにガキさんはぁ」
「あ、アタシも行っとこうかな?」
「ダ〜メ、ってかそんなにしたくはないんでしょ?」
「エヘヘ……」
「ほんっとテキトーだねぇマコッ――」
「みぃんなぁぁ!!!」
姿なき声の主、新垣の叫びが聞こえた。
方角は北。
今から行く方向にするなよ、藤本は思った。
その刹那、駆け込んで来る新垣が見えた。
- 270 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:04
- 「ちょちょちょちょちょちょ」
「何々? ちょっと落ち着いてよ」
「ほら〜水飲んで落ち着いて」
「ちょっマコッちゃん! それどころじゃないんだって!」
「だから何ガキさん?」
「向こうの方に道路! 道路があったんだって!」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
新垣の突拍子もない答えに、喜ぶことよりも疑問が湧く。
新垣の慌てっぷりからそれが嘘ではないことはわかるのだが、それがあまりに突然過ぎたのだ。
「ホントホントだって!」
「ちょっ、行ってみよう!」
「え? 荷物……」
「ん〜置いてこう!」
「今はとにかく行こう!」
- 271 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:04
- こっちこっち、と新垣が手招きをする。
手に持っていた荷物を落とすように置き、みんなが後を追う。
所々からやったねと声が聞こえるものの、田中は今イチの反応だった。
―――だ〜か〜ら〜、緑の箱だってぇ
―――それはバ・ナ・ナ
―――だぁ、なんで緑の箱開けちゃうのさぁ
―――もぉ、私達イワシしか残ってないじゃん
―――まったくぅ、ダメだなぁ田中ちゃんは
田中は首を横にブンブン振る。
アレは夢だ、寝言なんだから、そう自分に言い聞かせながら。
- 272 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:04
- 「れな、どうしたの?」
「ん? な、なんでもないっちゃ」
亀井の問いかけにやや焦って答える田中。
後方を走る田中に前方から叫び声が聞こえた。
「あぁ〜〜!!!」
それは勝利の雄叫びと言っていいものであった。
- 273 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:05
- そこには彼女達の顔に笑顔を灯らせていた焚き火の消し炭があった。
そこには彼女達と一喜一憂を共にしてきた黒いバッグがあった。
そこには彼女達に日常との接点を作り希望も作った時計があった。
そこには彼女達の生命力を湧かせ続けていたペットボトルがあった。
そこには彼女達の姿はなかった。
午前八時五分
高橋愛脱出
紺野あさ美脱出
小川麻琴脱出
新垣里沙脱出
藤本美貴脱出
亀井絵里脱出
田中れいな脱出
道重さゆみ脱出
- 274 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:05
- 『矢口真里・加護亜衣・辻希美』
「のの……ホントにごめん」
「な〜にあいぼん、いいってそんなの」
時刻はわからないものの、感覚的に遅目の朝食を済ませた。
加護はなんとか歩けるまでに回復はしたようだったが、実際歩いてみるとかなりフラフラしていた。
初めはそこらの枝を杖代わりに歩いていたものの、次第にその苦々しい歩きに矢口がストップを出した。
昨夜提案された辻がおぶって歩くことに加護は申し訳なさから拒否をした。
矢口と辻に説得され、辻の背中に乗っているのだった。
「ホントごめんね」
「いいよもうあいぼ〜ん」
「あ! 辻加護! あれ!」
「「あ〜!!!」」
200メートルぐらい先に、川の上を走る黒い線が見える。
それは紛れもなく、橋だった。
「あの上が道路になってるから、そこまで行ったら脱出だ!」
「やったねのの!」
「うん!」
そこから加護の申し訳なさが爆発、ここから歩くと言い出す。
矢口と辻の静止は利かず、辻が肩を貸すことで事態は収拾した。
脱出したら真っ先に何食べようか、なんて話題で盛り上がった。
午前九時五八分
矢口真里脱出
加護亜衣脱出
辻希美脱出
- 275 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:06
- 『男三人』
どこかの一室
「おぉ、ご苦労さん」
「あっ、お疲れ様です」
「どうした? 元気ないじゃないか」
「いやぁ……もっと数字いける思うてたんですけどね」
「それでも30%……瞬間で40越したらしいがね」
「僕が思うてたんは50は絶対越せるはずやったんですけど……」
「まぁまぁいいじゃないか、彼女達でこんなに視聴率が稼げるなんて思ってなかったからねぇ」
「解散前の最後のプレゼント、ってとこでしょうかね?」
「感謝してるよ、数字もらって解散までしてくれて」
「………」
- 276 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:06
- 「やっぱり納得いかないかい?」
「スゥ……えぇまぁ」
「やっぱりピストルでも入れときゃ良かったんじゃないのか」
「そ〜なると直接的過ぎますんでね。いやぁもうホントに僕の希望通りにいかんかったんわ……はぁ」
「でもアレは難しい過ぎると思うぞ」
「アイツ等もっとアホや思ってたんですけどねぇ、変な時に友情友情っていらんねんそんなもんって」
「まぁしょうがないじゃないか」
「手紙で殺し合いを強制さしたり、凶器入れといて不自然に煽ったりするんじゃなくて、もっと自然な殺し合いが希望やったんですよ。
強制的なドキュメントより自然なドキュメントの方が絶対おもろいんですけどねぇ。ほんまアイツ等……」
「まぁまぁ、とりあえず数字的には成功ってことで」
「ん〜でも納得できひんっすねぇ。結局最後までアイツ等俺の思い通りに――」
トントン
「入りたまえ」
- 277 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:06
- 「失礼します。あっ、もういらしてたんですか。ご苦労様です」
「お疲れさん」
「早速ですけど、次回の構成の方はどうしましょう?」
「ん〜……今回は失敗やったからなぁ。もうちょっと直接的に言うてもええんかなぁ」
「と、言いますと?」
「もう殺し合いって言葉入れても……あ〜あかん、それは一番やりたないなぁ……。予算はどれくらい頂けるんですか?」
「次は50%必ず越える自信があるなら、いくら出してもいいぞ」
「ホンマですか!? なら島でも借り切って……。もう募集してんねやろな?」
「あ、ハイ」
「んなら30人くらい……でぇやらせてみるか?」
「いつまでに企画出せますかね?」
「もう今から会議しようや。ほな、もういいっすかね?」
「ああ、期待してるぞ」
「失礼しました」
「失礼しました」
- 278 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:07
- 会議室
「武器とかどうしましょうか?」
「いや、いらんわ。ピストルで一発バ〜ンで死んでもおもんないやろ。
そういうとこの創意工夫は極限状態の人間が一番ええこと思いつくからな」
「じゃあバッグの中は前回と同様で――」
「いや……なんやったっけアレ……ベラドンナやったっけ、アレは入れよう」
「あの粉ですか?」
「ハズレくじみたいなもんやからな。あそこんとこ数字よかったんやろ?」
「えぇと……そうですね、そこが最高ですね」
「じゃあそれ決定、誰か一人のバッグん中入れといて」
「はい」
「それと手紙なぁ……」
- 279 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:08
- 「やっぱり殺せだの書いた方がいいんでしょうかね?」
「それやったら絶対やってくれるけど、それ以上のもんできひんからな。
希望的観測程度で終わらせとく方がむしろそれ以上にええもんできる可能性もあるし」
「じゃあ……」
「誰か一人になるまで終わらない、程度でええやろ。それで何するかっちゅーのも凶器の沙汰でおもろいことやってくれると思うで」
「その一人以外は生きて帰れない、というのは?」
「ん〜……まぁええやろ。殺すって言葉さえ入ってなければええわ」
「随分そこにこだわりますね」
「まぁな。強制よりも希望の方がええもんができる」
「でも前回は……」
「森っちゅーのがよくなかったんかもしれへんな。でも島やったらカメラ足りひん言われたしなぁ。
でも今回アレやろ、予算もぎょうさんもろうてんねやろ」
「ええまぁ」
「ならジャージとかもうあんなんこだわらんでええわ、その分カメラ代にまわしてくれ。あと食料も3食分でええわ」
- 280 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:08
- 「食料の奪い合い、ってことですか?」
「食欲は人間の三大欲求やでぇ、今回はそれ使おうや。それと……」
「はい」
「今回は最終オーディションやから顔見知りとかおらんはずやろ。カップリングの問題がなぁ」
「カップリングは失敗だったんじゃ……」
「まぁな。アイツ等あそこまでアホや思わんかったからな、純粋に友情とか信じてんの」
「じゃあ今回は一人一人ということで」
「いや、カップリングはやろうや。どうせはじめは協力やら何やらぬかすんやろうけど、それが壊れる様もありやと思うしな。
はじめっからバラバラになるとこもあるやろし。前よりある意味ドラマはできやすいかもしれん」
「じゃあどう組ませるんですか?」
「なんやそんなんテキトーに現地で二列にでも並ばせて組ませたらええやろ」
「じゃあ後は……」
「今はこんなもんでええやろ。あとでもう一回煮詰めようや」
「わかりました」
「………」
- 281 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:08
- 「どうしました?」
「いや、今回は絶対見つかるやろな思うて」
「何がですか?」
「ホンマもんのサバイバルっちゅーもんがな」
- 282 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:09
-
完
- 283 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:10
- そうですね、終わってしまったんですね。
こんな駄文を最後まで読んでくださった方、途中で止めてしまった方も、ありがとうございました。
私の書いたものがこうやって世に出る、というだけでもうなんか嬉しいです。
実はこの作品、本当は『裏サバイバル』なんです。
本当の『サバイバル』では、関西弁の男の希望通り殺し合いになります。
書いてる内に『これは希望通りだけど、希望通りいかないこともあるんだろうなぁ』と思って書いたのが、コレなんです。
本家の方と裏の方を同時進行で書いてました。
だからこんな救いようのない終わり方になってしまったんですね……スイマセン。
本家の方は最後の最後、救われる終わり方になってます。
でもそれまでがひどくて……。他殺、自殺、事故、発狂死……。
書いてて『なんてひどいんだ俺……』と思い、亀井道重初登場の所までは一緒だったので急遽裏に差し替えました。
使われなかった道具(懐中電灯やロープ等)はその名残です。
次回作の構想はもう既に練ってあります。
構想段階で何本かあるのですが、今回がこんな作品だっただけに次回はできるだけ心温まるものをと思ってます。
最後にもう一度、読んでくださった方、ありがとうございました。
そして、よく仕組みはわからないのですが、小説板に関係してる方々、ありがとうございました。
このスレッドも余っているので、少し遊ばせて頂きます。
短編などを書かせていただきたいな、と。
- 284 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/18(水) 15:13
- >>257めかりさん、ありがとうございます。
目覚めて良かったと私も思います(作者が何言ってるんでしょうねぇ……)
>>258名無飼育さん、あろがとうございます。
本家の方はもっと酷いです、悲しいです……よかった本家載せなくて
- 285 名前:めかり 投稿日:2004/08/18(水) 18:17
-
完結お疲れ様です。
なるほど!こういう構想になってたのか・・・
とりあえずはみんなが無事でよかったよかった♪
自作も楽しみに待ってます。
- 286 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/18(水) 19:49
- 完結お疲れまでした。
最後は急ぎ足って感じでしたが
プニ・プニィ・・・すんごいツボでした(笑
一人爆笑してしまいました。
表の『サバイバル』見てみたい気がしますが・・・
- 287 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:35
- >>285めかりさん、ありがとうございます
次回作は今書き上げています、これよりかは読めるものにするつもりです
>>286名無飼育さん、ありがとうございます
表のサバイバルは消去しました、あってはならない作品だと思ったので……
次回作はもっと書き上げて添削してからスレ立てようと思っているので、
その間短編をここに書いていこうと思います。
では
- 288 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:36
-
〜読めない女〜
- 289 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:36
- 私は読めない女と言われる。
重い空気の漂う中でも平気で寒い(私は面白いと思ってる)ギャグを言ってるらしいし、
気持ちの沈んでるメンバーにも場違いなテンションで話しかけているらしい。
かと思えばみんながワイワイしてる時には沈んでるように見えるとも言われる。
そう、空気も人の気持ちも読めない女なのだ。
私には好きな人がいる。
吉澤ひとみ、ボーイッシュで物に当たるなど荒っぽい所ばかりが取沙汰されるけど
芯は心優しい女の子で私の方が年上なのに私より頼り甲斐がある。
オーディションの時、初めて出会った時から運命だと思ってる。
普段はキモイだの何だの言われるけど、本当にそう思ってるのかな?
好きなのに……この性格のせい?
せめてよっしーの気持ちがわかったらなぁ……。
でもそれは無理だと思ってる、なぜなら私は読めない女だから。
いや正確には、無理だと思っていた。
- 290 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:37
- 「おはようございま〜す」
やたらと人の多い楽屋、私はメイクをしているといつも通りギリギリでよっしーは楽屋入りした。
鏡越しに見るよっしー、あぁ……愛しい人
(今日もかわいいなぁ)
よっしーの挨拶の後にまたよっしーの声がした。
鏡に映るよっしーから本物の方に急速に視線を移す。
その視線に気付いたよっしーは不思議そうに私を見つめる。
(今日もかわいいなぁ、梨華ちゃんは)
それはよっしーの声だった、絶対によっしーの声だ。
しかし、私の視線の先にある唇は一切動いていない。
発言の内容と唇の不思議に、とんでもなく熱い風呂に足をつけたかのように
ビクッと体を引いた。
- 291 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:37
- 「どうしたの梨華ちゃん?」
今度は唇は動いている。
「な、なんでもない!」
その言動だけでも何かあったとわかる、それぐらい焦っていた。
「……ふ〜ん」
そう言ってよっしーは首を上下に軽く振ると私から視線の外し、楽屋の奥にカバンを置きに行った。
その様子を固まったまま見ていた私だが、隣にいたガキさんの「ダイジョブですか?」で我に帰った。
頭がこんがらがってしまってメイクが手に付かなかった。
その日一日、ずっとそんな調子だった。
(梨華ちゃんかわいい〜)
(笑顔もイイなぁ)
(あ、梨華ちゃんとマコトのやつイチャイチャし過ぎだ)
初めの内の聞こえる度にビクビクしてたけど、途中で気付いてしまった。
私、よっしーの心の声が聞こえる
- 292 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:38
- 唇が動いていないのもそのせいだろう、よっしーが心の中で呟くたびに
それは私の心の中に入ってくる。
何故か他のメンバーのは聞こえない、でも一番聞きたかった人の心の声が聞けるのだ。
そして、その聞こえる声はどれも私を賞賛したり、時に嫉妬してる内容ばかりだった。
そう、私の思いは一方通行なんかではなかったのだ。
収録も終わり、謎の声の真相もわかって実に上機嫌な私。
最初は心配してくれていたメンバーも今の私の浮かれっぷりを見て安心、むしろ呆れている様にも見えた。
でもいいんだ、よっしーは帰り際にも言ってくれた。
(今日も一日、梨華ちゃんはかわいかったなぁ)
次の日も、その次の日も、よっしーの声は聞こえた。
いくら聞いても聞き飽きることのないくらい、よっしーの言ってくれることは嬉しい。
(かわいい)
(キレーだなぁ)
(やっぱ好きなんだなぁ)
でもその好意は表立って出されているものではない、私が盗み聞きいているだけなのだ。
だからいくら好きだかわいい言われても、その気持ちに気付かないフリをしていた。
- 293 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:38
-
いつかよっしーは私に言ってくれるはず
好きだよって
キチンとその唇から聞かせてくれるはず
その日からできるだけ近づくように私は前以上に努力した。
よっしーをできるだけ楽しませてあげるためにギャグを言ったり、そんなに得意ではないけれど
愛情をたっぷり込めたクッキーも焼いた。
ギャグを言う度キモイとか、クッキーを食べて不味いとか言ってたけども、私には聞こえるんだ。
(アハハ、おもしれー)
(スッゲーうまい! 梨華ちゃん天才だよ!)
いつかその言葉、耳から聞こえるように言ってね。
- 294 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:39
- でも、そんな日は長くは続かなかった。
突然よっしーの心の声が聞こえなくなったのだ。
初めは今日だけだろうと思っていたのに何日経っても一向に聞こえてくる気配はない。
でも変わったことはそれだけじゃない、むしろこれはよい傾向に向かっているのかもしれない。
声が聞こえなくなった日から、キモイとかキショイとか言わなくなった。
相変わらず他のメンバーは言ってくるけど、そんな時でもよっしーは言ってこなくなった。
むしろ聞こえなくなって何日か経った日には、私にキモイと浴びせ掛けるメンバーを止めてくれたのだ。
そのメンバーは不思議がっていたけど、私にはわかる。
もう、貴方の口からあの言葉が出る日も近いんだね。
心の声が聞こえなくなったのはさびしいけれど、そんなことを考えると嬉しくて仕方がない。
そう、Xデーはもう間近なのだ。
- 295 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:39
- 朝からハイテンションの私。
まだよっしーは来ていない、いつものようにメイクをする。
化粧もノリノリ、恋する乙女は綺麗になるっていうのは嘘じゃないよね。
睫毛もバッチリ上げようとしていた時、楽屋のドアが開いた。
「おはようございま〜す」
入ってくるなりよっしーは鏡越しに私を見つめる、なんだか少し笑顔に見える。
私も飛びっきりの笑顔で挨拶しようとした、その時
「おはよ―――」
(キモイなぁ相変わらず)
私はよっしーの方を向いたまま、用意しようとしていた笑顔の半分の顔で固まった。
- 296 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:40
-
今のって……よっしーの声……だよね……?
よっしーが今……キモイって言った……よね……?
中途半端な笑顔を貼り付けたまま、よっしーを見る私。
思考回路はフリーズを起こしている。
視線の先にいるよっしーは首を傾けて口を開く。
「どうしたの梨華ちゃん?」
覗き込むようにして私を見るよっしー。
まだ私の思考は正常に戻っていない。
(うわっ、化粧してもキモイな〜)
よっしーの顔のパーツは何一つ動いていない、けれども、聞こえる声。
それは私にとって一番残酷な事実だった。
その結論が出た途端叫んで楽屋を飛び出してしまった。
- 297 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:40
- 信じたくない……でも確かに聞こえた……
涙が待ってましたとばかりに溢れ出てくる。
その涙を拭きもせず一目散にトイレに駆け込み、個室のドアを閉め、便器の蓋を閉め座った。
溢れ出す涙は競うように左右の目から出てくる。
まさか……まさかあのよっしーが……
考えたくない、でも考えてしまう
あの言葉は嘘だったの……
その後メンバーに説得され収録に臨んだ。
説得されている間も、収録の間も、帰り際にも、よっしーは事あるごとに私に言った。
(キモイ)
- 298 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:41
- 何にも考えられないまま、一人暮らしの我が家に帰った。
着替えもせずソファにうなだれる。
(キモイ)
(うわっ! 最悪!)
(マコトもかわいそうにねぇ)
何もする気になれない、ただただ涙ばかりが溢れてくる。
頭の中で反復される疑問。
なんでそんなこと言うの?
時間が経つのも忘れ、同じ姿勢のままひたすら涙を流していた。
- 299 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:41
- ティリリリリリリ……ティリリリリリリ……
オートロックが私を呼ぶ。
頭の中は真っ白のまま、私はオートロックの受話器を取った。
『あ、梨華ちゃん? 吉澤だけど〜』
ガタン ガタ ガタガタガタ
『梨華ちゃ〜ん、梨〜華ちゃ〜ん』
足元にある受話器が私を呼ぶ。
何も考えていないのだが、とりあえず受話器を拾う。
『なに〜どしたの〜?』
「な、なんでもないよ。開けるね」
『開』のボタンを押すと受話器を元の位置に戻した。
何? 一体どういう事?
なんで? なんでなの?
湧き上がる疑問を考える暇はない。
頬の涙の跡を拭いて、玄関で彼女を登場を待った。
- 300 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:42
- ピ〜ンポ〜ン
「あ……開いてるよ」
ドアを開けたよっしーの服装は今日別れた時の服装と一緒だった。
左手には白い箱。
「ま、入ってよ。汚いけどさ」
よっしーの目は見れなかった。
急いで振り返り、先に部屋に入っていく。
私が飲み物の準備をしようと台所に入った時、よっしーがリビングに来た。
「相変わらず汚いねぇ」
それは部屋のことを言ってるのだとわかっているのに、何故か傷つく。
なんで? なんで来たの?
「あ、梨華ちゃんこれ。ケーキ買ってきたよ」
白い箱を私に見えるように上げ、テーブルの上に置いた。
- 301 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:42
- 紅茶をお盆にのせてリビングに向かう。
ソファに腰を下ろすよっしーの前に差し出した。
「ありがとう」
よっしーは短くそう言ってカップを手に取った。
未だに彼女の顔を見れない私、そして解けない疑問。
視線を落としたままよっしーの前に座った。
「梨華ちゃん……目ぇ腫れてるよ」
ゆっくりと視線を上げる。
心配そうに私を見つめている。
「なんでもないよ」
そう言って視線をテーブルまで下げると、私は目をつぶった。
もうよっしーを見ることさえ怖くなっていた。
真一文字に咥えた唇が、震えている。
- 302 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:43
- 「梨華ちゃん……あのさ……」
(こんなやつ嫌いだ!)
私は反射的に顔を上げ、よっしーを見てしまった。
よっしーはビクッとした反応をして驚きながら私を見る。
私はよっしーの唇を見つめていた、半開きのまま動かない。
(お前なんて大嫌いだ!)
今まで聞いた声の中で最も大きく響いた。
そして私を最も大きく傷つけた。
それがとてつもない怒りへと姿を変えた。
「なんで! なんでそんなこと言うの!」
「な……梨華ちゃ――」
「なんで! なん―――」
(お前なんて大嫌いだ!!!)
- 303 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:43
- 私の全身は震えた。
もはや怒りなどではない、そんなものをとっくに通り越した感情。
ドスドスと足音を響かせて私が向かったのは――台所。
リビングに戻ってきた私の手には包丁が握られている。
「ちょ、ちょっと梨華ちゃん!」
「うるさい! よっしーが悪いんだ!」
「なに、何言ってるかわかんないんだけど!」
「そんなの自分の胸に聞いてみればいいじゃない!」
もう何を言ってるかわからない。
それでも私は、全身を震わせた時と感情は変わっていない。
目を見開いてまま自分の胸に右手を当てるよっしー。
右手に当てられていた視線がゆっくりと私の方に戻ってきた。
視線と同時に聞こえてきたのは……
(お前なんか死んでしまえ!!!)
私はよっしーに向かって走っている。
大好きなあの人に、包丁を突き立てて……
- 304 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/23(月) 13:44
- 今日はここまで、短編の前半終了、と。
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/23(月) 21:52
- えっ・・・
どうしたの梨華ちゃんいったい・・・
- 306 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 18:57
-
今思えば全てはあの日、だったのかもしれない
あたしはいつものように遅刻ギリギリで楽屋に入った。
急いでドアを開け、妙な間延びをした挨拶をする。
正面には鏡に食い入るようにしてメイクする梨華ちゃんの姿。
正直、加入当時から梨華ちゃんのことが嫌いだった。
自分とは真逆に位置する彼女とは絶対に相容れないと思っているから。
それにギャグは寒いし、たまに作ってくるお菓子は食べられたもんじゃない。
(またピンク着てるよぉ、よく着れるなぁあんなの)
その時だ、梨華ちゃんがものすごい速さで振り向いた。
一瞬ドキリとした。
その速さの割に、何も言ってこない梨華ちゃん。
- 307 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 18:57
- 「どうしたの梨華ちゃん?」
「な、なんでもない!」
絶対になんでもある、って感じの返答だったが、なんでもないと言われて踏み入るような
性分ではないあたしは、ふ〜ん、と言って梨華ちゃんから視線を外した。
その時からだ、梨華ちゃんが妙にソワソワしだしたのは。
そして今まで以上にキモく、ウザくなった。
やたらと話しかけてくるわ、寒いギャグは連発してくるわ、不味いクッキー作ってくるわ……
何かのいたずらかと最初は思っていたが、そんな梨華ちゃんを見てる内に気付いた。
もしかして、私のことが好きなんじゃ……
そう意識し始めると、逆に私の方が惹かれていく感じがした。
話しかけられるのもウザいと感じなくなったし、ギャグや料理は前のままだけど嫌だとは思わなくなった。
そしてそれが恋心に変化していくのに時間はかからなかった。
- 308 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 18:57
- その恋心に確信が持てた、そんな日だった。
あたしはいつものように遅刻ギリギリで楽屋に入った。
急いでドアを開け、妙な間延びをした挨拶をする。
正面には鏡に食い入るようにしてメイクする梨華ちゃんの姿。
いつもより一段とかわいく見える、いや、それはあたしの恋心のせいか。
(かわいいなぁ相変わらず)
そんなほのかな幸せに浸っていた時のこと、梨華ちゃんが振り向いてくれた。
その顔は不自然な笑顔のまま固まっていた。
「どうしたの梨華ちゃん?」
そんなことを言いながら、梨華ちゃんの顔を細部にわたって見てみる。
――整った顔立ち――つぶらな瞳――かわいらしい唇
- 309 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 18:58
- (あぁ、なんてかわいいんだろぉ)
状況に反して湧き上がる幸せ。
他の人には間抜けな顔にしか見えないかもしれないけど、あたしにとってはこれもまた最高の顔だ。
刹那、梨華ちゃんが叫びながら楽屋を飛び出していった。
そこにいるみんな何がなんだかわからなかった、もちろんあたしも。
状況からして、あたしが何かひどいことを言った、ということになってしまった。
あたしには身に覚えはない、当たり前だ。
メンバーと一緒にトイレに行き、説得はしたものの、その日一日梨華ちゃんは目を合わせてくれなかった。
収録後、いち早く帰宅した梨華ちゃんを楽屋で見送った後、メンバーから謝った方がいいとすすめられた。
謝らなければならないことは何もしてれないのに……
まったくわけがわからなかったが、あたしもなんとなく、あたしが何かしたような気がしていた。
せっかく好きになったのに、これじゃあ……
- 310 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 18:58
- あたしは梨華ちゃんの家に行くことにした、途中で梨華ちゃんの好きなケーキを買って。
オートロックの時点で既に梨華ちゃんはおかしい様子だったが、とりあえず開けてもらった。
エレベーターの中で心に決めた。
梨華ちゃんに気持ちを伝えよう
好きだと言おう
そんな折エレベーターは止まった。
ドアを開けて見えた梨華ちゃんの顔は、予想をはるかに裏切るぐらい暗かった。
目が腫れていることを言おうとしたが、さっさと部屋の中に入っていってしまった。
急いで後を追い、ケーキを買ってきたことを告げる。
紅茶を持ってきてくれた梨華ちゃんの顔はまだ暗かった。
正面に座ったにも関わらず視線が下がっている梨華ちゃん。
- 311 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 18:59
- 「梨華ちゃん……目ぇ腫れてるよ」
返ってきたのは素っ気無い返事だった。
あたし、何をしたんだろう……
覚えのない罪悪感がのしかかる。
それでもあたしは、言わなきゃならないことがある。
(梨華ちゃん、好きだ)
「梨華ちゃん……あのさ……」
まだ何も言っていないのに、梨華ちゃんは突然顔を上げた。
つい驚いてしまったが、あたしの心は変わらない。
(梨華ちゃん好きだ、好きなんだ)
その瞬間、梨華ちゃんの顔が変わった。
まさに怒り、漂う気配は尋常ではない。
- 312 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 18:59
- 「なんで! なんでそんなこと言うの!」
「な……梨華ちゃ……」
ものすごい勢いで怒りをぶつけてくる梨華ちゃんにたじろぐしかなかった。
それでも心の中では、同じ言葉を繰り返している。
(梨華ちゃん! 大好きだよ!)
梨華ちゃんはマンションであることも忘れたのか、大きな足音を立ててリビングを出ていった。
帰ってきた梨華ちゃんの右手には、光るものが見えた。
- 313 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 18:59
- 「ちょ、ちょっと梨華ちゃん!」
「うるさい! よっしーが悪いんだ!」
「なに、何言ってるかわかんないんだけど!」
「そんなの自分の胸に聞いてみればいいじゃない!」
あたしは右手で自分の胸に当てた。
何を言ってるかわからないが、あたしの気持ちは本物だ。
右手から梨華ちゃんに視線を移しながら、心の中でつぶやく。
(あたしは梨華ちゃんが世界で一番好きだ!)
もし心の中で見えるのだとしたら、この純粋な気持ちを見てほしい。
梨華ちゃんのとった行動は、この気持ちとは正反対のものだった。
- 314 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 19:00
-
偶然とは言わせないぐらい正確に、包丁はよっしーの心臓を貫いている。
溢れ出てくる血液はこれから生命が途絶えようとしているにも関わらず力強く流れている。
全部……全部よっしーが悪いんだよ……
私の気持ちをもてあそんだから……
あんなひどい嘘をついたから……
私をここまで好きにさせたから……
- 315 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 19:01
-
そう、私は読めない女
- 316 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 19:02
-
〜完〜
- 317 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 19:06
- 短編終了、と。
なんじゃこりゃ、ってな感じですね。
もうちょっと短編書いてみようと思います。
次書く短編はシャベリ場のようなものを書こうと思ってます、しゃべらせるメンバーは吉石後藤です。
そこで、しゃべるテーマを募集したいと思います。
何でもいいです、それこそほんとになんでもいいです。
応募待っております。
- 318 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 19:07
- >>305名無飼育さん、ありがとうございます
誰が悪いんでしょうねぇ……
- 319 名前:めかり 投稿日:2004/08/28(土) 20:27
-
短編おつかれです。
今回のは悲しい話でしたね。
人と人って難しいな・・・
- 320 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/28(土) 21:37
- しゃべるテーマ?
娘なんでもランキングについて4人が話すってのはいかがでっか?
- 321 名前:メカ沢β 投稿日:2004/08/28(土) 23:25
- >>319めかりさん、ありがとうございます。
誤読が一番怖い、のかなぁと、ね。
>>320
娘なんでもランキングがちょっとわかりません……すいません。
- 322 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/29(日) 05:25
- >>320
えっと例えば、足が速そうなランキングであったり、
ちょっと最近人気出てきたランキングとか、
などなどetc・・・
- 323 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 17:59
- >>322
なんでもランキング、参考にさせていただきました、ありがとうございます。
- 324 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:00
-
『八五夜語』
空から見ればまるで恒星のごとく光り輝く都市、東京。
毎週金曜夜一二時(正確には土曜零時)に放送されるラジオ番組がある。
モーニング娘。の石川梨華、藤本美貴、吉澤ひとみに後藤真希を加えたハロプロ八五年世代による、
あるテーマに沿って勝手気ままに喋りまくる番組、八五夜語。
テーマは番組の冒頭に発表され、彼女等には事前に知らされていないため
まさしく本音連発のアイドル界、ラジオ界きっての爆弾番組である。
- 325 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:01
- ピ、ピ、ピ、ポ〜ン
吉澤(以下吉)「くすんだ心を綺麗にするこの言葉をあなたに……この消しゴムよく消えるよ」
ティティティティッティ〜ティリティリ〜ティ〜〜〜ン (←オープニングソング)
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
藤本(以下藤)「よっちゃんつまんな〜い」
後藤(以下後)「アハハハハハ……」
吉「ごっちんにはウケてんじゃん」
石川(以下石)「ごっちん、アレの何が面白いの?」
- 326 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:02
- 後「アハハ、えぇだって消しゴム関係ないじゃん、ハハハ……」
吉「ほ〜らごっちんにはわかるんだってこの笑いが」
藤「はいはい」
吉「あぁもうミキティ冷たいもんなぁ」
藤「冷たいとかじゃなくてさぁ」
石「ほらもうそんなこといいから、始めようよ」
吉「そんなことって……もういいよ。ハイ、始まりました八五夜語(はちじゅうごのよがたり)、略してヤゴヤゴ。
MCはワタクシモーニング娘。の吉澤ひとみと」
石「モーニング娘。の石川梨華と」
藤「モーニング娘。の藤本美貴と」
後「後藤真希でおーくりしまーす」
- 327 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:02
- 吉「え〜この番組はあるテーマに沿って八五年生まれの女の子があ〜でもないこ〜でもないと
三十分間喋りつづける番組です、と。ハイじゃあ早速、今夜のテーマに行きましょうか」
ダラララララララララララララララララ……ジャジャン
吉「え〜今夜のテーマは、モーニング娘。、なんでもナンバーワンです!」
藤「なに? なんでもナンバーワンって?」
石「なんかテキトーにナンバーワン決めちゃえばいいんじゃないの?」
吉「梨華ちゃん、テキトーは余計だってテキトーは(笑)」
後「ごとーもう娘。じゃないんですけどぉ」
吉「もぅごっちんもそんなこと言わないの」
藤「じゃどうすんの? 最初のお題は?」
- 328 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:03
- 石「じゃああたしからイイ? ん〜とねぇ、かわいい人ナンバーワンは?」
藤「どうせ、チャーミー石川でぇすとか言うんでしょ」
吉「ハイ終〜了〜」
石「えぇいや待ってよ、もう」
後「んじゃごとーイイ?」
藤「ホントに梨華ちゃん終わっちゃった(笑)」
後「あ、ごめん梨華ちゃん」
石「いいよもう、ごっちんお題出して」
後「んじゃ遠慮なく(笑)。最近頑張ってる人ナンバーワンは?」
吉「あぁ頑張ってる人ねぇ……」
藤「頑張ってる人」
石「頑張ってるメンバーだったら、やっぱ六期じゃない?」
- 329 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:03
- 吉「ん〜頑張ってるっちゃーみんな頑張ってんだけどね」
藤「田中ちゃんとかかなぁ」
吉「影の努力者だかなんだかって前にハロモニで言ってなかったっけ?」
藤「あ〜ぁ〜あったねそんなの」
後「やぐっつぁんは?」
石「あ〜矢口さんねぇ」
吉「なんかさぁ矢口さんって頑張ってるのが普通ってか」
藤「なにそれよっちゃん」
吉「いやなんか、そうじゃなくてなんつーか、ホントの頑張り屋さんっていうか。
矢口さんの場合頑張るのが頑張ってるわけじゃないっていうか」
後「よっしー意味フメー過ぎるんだけど(笑)」
石「矢口さんこのラジオ聴いてるって言ってたよ」
藤「あぁなんか言ってたね」
- 330 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:04
- 吉「あっ、いやっ、そのっ、矢口さん違いますよ! 頑張ってないって言ってるんじゃなくて
頑張ってる矢口さんが素敵ですって――」
藤「言ってないじゃん」
後「ミキティツッコミ早過ぎ(笑)」
石「矢口さん言ってたよ、ラジオの時のよっしーはおかしいって。(笑)
この前の子作り発言は聞いてるこっちが恥ずかしくなったって」
吉「いやだってあれはさ〜冗談で言ったのにさ〜、みんなシーンとしてんだもん」
後「あん時のよっしーの顔が真剣過ぎんだもん(笑)」
吉「あれはそっちの方が面白いかなぁと思ってやっただけ」
藤「梨華ちゃん、子供でも作ろっか? って(笑)」
石「恥ずかしかったじゃ〜ん」
吉「アタシの方が恥ずかしかったよ」
- 331 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:04
- 藤「アレ梨華ちゃん? ちょっとお腹出てきたんじゃない?」
後「妊娠早っ(笑)」
石「いやっ、もうちょっとぉ〜(笑)」
吉「ハイただ今梨華ちゃんのお腹の中には、みたらし団子が三つ入ってま〜す」
藤「団子三兄弟じゃん(笑)」
後「アハハハハ」
石「さっきちょっと食べただけじゃんかぁ」
吉「明日新聞に出るよ。石川梨華妊娠! あの肌の色はみたらし団子の色だった!(笑)」
藤「なに? タレ!? タレ!?(笑)」
- 332 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:05
- 石「もうタレタレ言わないでよミキティ」
後「なにじゃあ、石川タレさんになるの?」
吉「それおばあちゃんの名前だよ〜(笑)」
藤「タレさんタレさん(笑)」
石「もうちょっと今日ひどいよぉ皆ぁ」
吉「アハハハハ……、あっちょっ、CM」
ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャジャジャジャ〜ン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
- 333 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:05
- 〜CM〜
ティントンティントンティントントントン、ティロロロロロロロロロロロロロロロン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
吉「今日のテーマはモーニング娘。なんでもナンバーワンという事なんですが、
さっきはちょっと話が逸れちゃったね」
藤「ちょっとっていうかかなりだだけどね」
吉「今日は特別ゲスト、石川タレさんをむかえてお送りしてます今夜のヤゴヤゴ」
石「もうタレ禁止って言ったじゃん」
後「タレさんそんな怒んないの」
石「もぉ、いいよもう」
- 334 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:06
- 吉「梨華ちゃんもそんな怒んないで、じゃあテーマに戻ろう」
藤「じゃあ次美貴ね、それじゃあねぇ、キレたら怖そうな人ナンバーワンは?」
石「それってミキティじゃないの?」
吉「お、梨華ちゃん反撃」
藤「美貴そんなにキレないってかキレたとこ見たことないじゃん」
吉「キレる前に既に怖いっていうか……(笑)」
石「素の顔のミキティに近づけないもん」
藤「いやいやそんなに怖くないでしょって」
吉「前にガキさんだっけ? 藤本さんとはケンカしない方がいいですよって言ってたの」
- 335 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:06
- 藤「あ〜あのハロモニのやつでしょ?」
後「なんで? 生きて帰ってこれないから?」
吉「ごっちんそれひどすぎ(笑)」
藤「あたし北斗の拳とかじゃないんだけど(笑)」
後「お前はもう死んでいる(笑)」
石「アチョチョチョチョチョチョチョ、アチャーー!って(笑)」
藤「だから違うって」
吉「でもミキティのツッコミもすごいよね。あたし北斗の拳じゃないんだけど、って。(笑)
誰も言ってないつーの」
石「流石ツッコミの鬼だね」
後「すごいね、ケンシロウだったり鬼だったり(笑)」
- 336 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:07
- 藤「もうちょっと茶化しすぎぃ、怒るよホントに」
吉「やばい殺されるぅ(笑)」
藤「だから殺さないって」
後「ちょ、ミキティが怒る前に梨華ちゃん、ホラ」
石「ホラってごっちん……ん〜キレたら怖そうでしょぉ。普段静かな人ほどキレると怖いとか言わない?」
後「あ〜」
吉「紺野とか亀ちゃんとか?」
藤「あ〜亀井ちゃんは怖そうだねぇ」
吉「なんか亀ちゃんっていっつもニコニコしてっからさ〜、キレる時も笑いながら
刺しますよ、とか言いそうじゃない?」
- 337 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:07
- 石「ああなんかそう考えると怖いかも」
藤「梨華ちゃんはいいじゃん、もう串刺さってんでしょ(笑)」
後「そうだよねぇ、みたらしだもんねぇ」
石「そうだよねぇじゃないよごっちん」
吉「しかもさっきはおばあちゃんだったのにいつのまにか団子になってるし(笑)」
石「そうだよ、あたし団子じゃないよ」
藤「そっか、タレさんだもんねタレさん」
吉「もうミキティタレさんの話するとまた話逸れるから」
後「ってかもう逸れてるし(笑)」
吉「んじゃあたしお題いい? ってなに、あハイ、CM」
ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャジャジャジャ〜ン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
- 338 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:08
- 〜CM〜
ティントンティントンティントントントン、ティロロロロロロロロロロロロロロロン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
吉「とゆーわけで、もう終わりなんですけど」
後「結局誰が何のナンバーワンだったの?」
吉「ねー結局まとまんなかったね(笑)」
藤「梨華ちゃんが団子だって事だけだったね(笑)」
- 339 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:08
- 石「違うよタレさんだよ」
吉「梨華ちゃん、自分で言っちゃダメだって(笑)」
藤「もーコレは梨華ちゃん認めちゃったって事でいいよね」
後「じゃあコレからはモーニング娘。の石川タレですって言わなきゃだめだよ(笑)」
石「いやコレ聞いてない人わかんないから」
藤「色でわかるよ肌の色で(笑)」
吉「ってかなんでそんな話になったんだっけ?」
後「妊娠したなんちゃらかんちゃらって言ってタレさんになったんだよ」
藤「そーだよ梨華ちゃん妊娠したんだ、よっちゃんと(笑)」
石「してない」
吉「もういいからその話は」
後「あ、一徹さん怒った(笑)」
- 340 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:09
- 吉「もー、そんなこと言ってるからもう終わっちゃったじゃん。え〜八五夜語、略してヤゴヤゴ、
MCはモーニング娘。の吉澤ひとみと」
石「モーニング娘。の石川梨華と」
藤「モーニング娘。の藤本美貴と」
後「後藤真希でした〜」
吉「それじゃあまた来週」
吉石藤後「バイバ〜イ」
パッパラパパッパッパラッパッパ〜〜〜、パラララララララララララララララ……ジャンジャン
- 341 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/11(土) 18:12
- ここまで、と。
しかしなんなんでしょうねコレ、こんなラジオ有り得ないですよね。
ヤゴヤゴで取り扱って欲しいテーマ、大募集です。
なんでもいいです、『戦争』でも『愛』でも『ビー玉』でもいいです。
- 342 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/11(土) 22:52
- おもしろかった。いいなぁ。
>取り扱って欲しいテーマ
部活動の思い出とか、、ちょっと難しいかなぁ。
ビー玉について話すのも興味深いので読んでみたかったり。
- 343 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/12(日) 21:00
- 面白いです。
>取り扱ってほしいテーマ
ん〜、あんまり良いの思いつかないなぁ…。お互いへのツッコミ?または見習いたいとこ、など。
参考にならなくてスミマセン。
- 344 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/13(月) 15:27
- >取り扱ってほしいテーマ
お互いの容姿、性格について良いトコ悪いトコとか?
普通ですね。すみません。なかなか思いつかないなぁ。
- 345 名前:めかり 投稿日:2004/09/13(月) 16:37
- 更新おつかれです。
何か新鮮でおもしろかったです。
取り扱ってほしいテーマ はですね〜・・・
いろんなマンガについてとかってのはど〜ですか?
- 346 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:03
- >>342名無飼育さん、ありがとうございます。
部活動の思い出、参考にさせていただきます。
>>343名無飼育さん、ありがとうございます。
互いへのツッコミ、見習いたい所、参考にさせていただきます。
>>344名無飼育さん、ありがとうございます。
容姿性格の良し悪し、参考にさせていただきます。
>>345めかりさん、ありがとうございます。
色んな漫画、参考にさせていただきます。
参考にさせてもらったものの内抽選でどれかを書かせていただきます。
- 347 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:06
- と、また思いつきでひとつ書いてしまいました。
では
- 348 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:07
- アタシは加入当時から梨華ちゃんのことが好きだった。
普段男っぽいと言われているアタシは、きっと男に生まれていたなら硬派な男だっただろうと思う。
――女の子同士だから――一緒に仕事する関係だから――周りの目が気になるから
そんなことが理由じゃない、ただただアタシに勇気が無いだけだ。
――告白する勇気――自分の気持ちを伝える勇気――好きだと言う勇気
- 349 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:07
- ある日、悶々としていたアタシはあるテレビ番組を見た。
その番組は世界のテレビ番組を面白い所だけチョイスして流すという
ゴールデンタイムの長者番組だった。
夕食のハンバーグにパクつきながら見ていると、とあるアメリカの番組が流れた。
男の外人が「空を見てごらん」と言うと
女の外人が空を見て叫んだ
空には「結婚してくれ」と飛行機雲で書かれていた
女は粋な告白をされるとクラッときやすいものだと飯田さんの未来像みたいな人が
言っているのをアタシは聞き逃さなかった。
その夜からこの計画は練られていった。
- 350 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:08
- 午後六時ちょっと過ぎ、部屋で一人興奮するアタシ。
作戦の第一報であるメールを送信する。
ねぇ今なんかやってたり
するの?
今日はアタシも梨華ちゃんもオフ、更に梨華ちゃんと仲の良いメンバーは仕事ということも
もちろんチェック済み、作戦実行にもってこいの日だ。
だからといって梨華ちゃんに何も用事が無いとは限らない。
ここが第一関門だ。
- 351 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:08
- どうやら梨華ちゃんも暇していたようだ。
第一関門クリアー、と言って喜んでいる暇はない。
越えなければいけない関門はまだ沢山あるのだ。
なら行こう、本格的韓国
料理屋にさ。前に言って
たじゃん。
これは約一ヶ月前、テレビ局の楽屋にて雑誌のあるページを指差して
行ってみたいと梨華ちゃんが言っていたのだ。
帰りに同じ雑誌を買いその店の情報を完璧に入手してある。
今日は定休日ではない、へへ。
- 352 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:09
- 行きたい行きたい言っていたのに、梨華ちゃんは覚えていなかった。
詳細を聞かれたが、梨華ちゃんの為に、ということがばれてはいけない。
あくまで、前に言ってたよね、程度でなければ自然じゃない。
まぁこの返答は予測済みである、用意しておいたメールを送信する。
私は、大体韓国料理ぐら
いしか覚えてない人よ?
ホントは全部知ってる、店名もオススメメニューも何もかも。
- 353 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:09
- 梨華ちゃんは思い出してくれた。
更にそのことをよく覚えていてくれたと感謝までされてしまった、いやはやなんとも……。
しかしここで予定外の展開。
韓国料理、しかも本格的という事で服に匂いが付くことを懸念しだしてしまったのだ。
……これはマズイ。急遽用意していたメールから新しく文章を打たなくてはいけない。
焦るな、焦ってはいけない。
店がどういう感じなのか
は行った人だってコレ何
?みたいな感じに思うか
もよ。
答えになっていないのはなんとなくアタシも気付いてはいるがあまり悩んでいては
返信に時間がかかる、こんな所で躓く訳にはいかない。
- 354 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:10
- よくわからないけどとりあえず匂いが付いても大丈夫な服にするという、ごめんねよくわからなくて。
返信を待つ間に打っておいた補修メールを送信、はたまた流れには関係ないメールではあるが仕方ない。
私もジャージ着て、黒も
いいけど赤もなぁ…
これで大丈夫、作戦範囲内に話を戻した。
我ながらこういう時に急速に頭が回転することに僅かに寒気を感じる。
- 355 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:10
- 甚平はやめてくれ、とはね。
こりゃ完全に予想範囲外だ、しかも次のメールはただでさえ
扱いが難しいのに……。
重要単語は残したまま文章を作り直す、こんなとき
学校の勉強なんて全く役に立たないのだと実感する。
……できた。急いで送信。
全くさ、何?朝鮮民主主
義人民共和国の服なんだ
っけ?服だったら私は甚
平、みたいな。違うから
ね。
流石に自分でも無理があるなぁと思うが、これも仕方ない。
あの単語は絶対に外せないのだ。
- 356 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:11
- 流石にあの文章じゃおかしいことに気付いてしまったか……フッフッフ、
見事にアタシの術中にはまっている。
悠々と用意してあるメールを送信。
いや変じゃないから並だ
から。でさ今、家にいる
の?
これは見事! もう自分で言っちゃうくらい見事!
アタシの表情筋はだらしなく笑顔を作っている。
ダメダメ! まだ成功するかわかんないんだから! 気を締めてかないと!
- 357 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:11
- よっしゃ〜〜!!
イイ方向イイ方向に物事が進んでいく、いやはやたまんないね。ウハハ。
私もなんだ、家にいて今
パァっと思いついた所。
イイネイイネェ〜イイヨイイヨォ〜。ナハハ。
いかんいかん、壊れてきてる。
- 358 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:12
- ふ〜ん、じゃあどうする? だって!
もしかしたら誘ってる? ウォーイ!
ヤバイ、思わず叫んでしまった……。
焦るな焦るな、これは全てが一つで一つが全てなのだ。
どっちんちが近距離なん
だろうね。あたしん家の
ほうがどっちかっていう
と、店から遠距離じゃん
。
そうなのだ。
ジグソーパズルは一つ欠けてもダメなのだ。
- 359 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:12
- そうだったっけ? とすっとぼけた回答。
そうなんだよ梨華ちゃん、アタシは全部知ってるんだよ……ヤバイ、ノリが変態だ……。
落ち着け落ち着くんだ。
本格的韓国料理屋って、
このまえりかちゃんが言
ってたところなんだった
らさ、私がさ石川宅に、
本日十九時二十五分頃い
くね。
どんなに作り直してもこれが最善の文章だった。
さて、これの返信如何によってはまた頭をフル回転させなければならないのだが……。
- 360 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:13
- 神様、アンタホントにいるんだね。
これから信じるよ、うんホントに。
時間にだけ突っ込んでくれたことを神に感謝しつつ、メール送信。
シャワーもなんにも浴び
てないからさ、いろいろ
とね。眉もやってないし
。本格的韓国料理屋っつ
っても、人にみられるの
は否めないし。私だって
そりゃオンナノコだし。
いよいよクライマックス。
- 361 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:13
- 梨華ちゃんも髪がボサボサなのだそうだ、ごめんね梨華ちゃん、
あたしはもう完璧に準備できてるんだ。
興奮のせいで両手で携帯を持って尚震えている、これで……これで……。
私リカちゃんにいわない
といけない事がホントは
あるんだ。でもそれは本
格韓国料理屋でね…。
送信しましたのも字が出た瞬間携帯をベットに放り投げてカズダンス、
何故かその流れで最後はキャイ〜ン、と。
あぁもうなんでもいいや、これで全て終わったのだ。
一人騒いで少し疲れた、アタシはバカだと思っている所に返信がくる。
了解メールである、ウハ、ウハハハハ……。
- 362 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:14
- 約束の時間通りに梨華ちゃんの家に行きインターホン。
やはり匂いを気遣っている服装だけにそんなにかわいらしいものではなかったが、包まれている
梨華ちゃんは何を着てもやはりかわいい。
店に着くまで他愛のない会話、何度かメールの内容について聞かれたけどそれはここでは明かせない。
店に着き適当に席につく。
ウキウキしながらメニューを見ている梨華ちゃん、もうそれだけで満腹です。
実際は興奮のあまり昼食を食べておらず、メニューを選んでいる時にお腹が鳴って
梨華ちゃん爆笑、笑ってくれるならもうなんでもイイです。
メニューを頼み、やっと落ち着いた。
「で、なんなの? 言わなきゃいけない事って?」
- 363 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:14
- いきなりその話かい! と、突っ込みたかったが、アタシもずっと溜め込んでるのは
体に悪いと思った。もう心臓に負担はかけたくない。
用意しておいたセリフ、何度も何日も練習したセリフを言う時が来たのだ。
「……実はさ、もう言っちゃってるんだよね」
言っちゃった言っちゃったよオイ!
明らかに意味がわかってない梨華ちゃん、そりゃそうだ。
ここから今までの全てが発揮されるのだ。
「ケータイ出してくれる?」
言われるがままにケータイを出す梨華ちゃん。
背中の汗が流れていく、人生で一番緊張している。
「アタシが今日送ったメールをさ、全部つなげてみてくれないかな」
- 364 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:15
- 「え?」
「いやだから、つなげてみてって」
首を傾げながら作業に入る梨華ちゃん。
ごめんアタシの心臓、もう少しの間頑張っててくれ。
「で、全部つなげたらさ、メールとして保存して、それを遠目に見てみてよ」
「何? 何する気?」
「いいからいいから」
何する気ではない、もうしているのだ。
梨華ちゃんのケータイのメール設定は一行十五文字になっている。(ちなみにアタシは一行十一文字)
さらにケータイの文字は句読点や小さい『っ』や『ゃ』も全角で一文字表記なのである。
梨華ちゃんのケータイだからこそ見える――メッセージ
着々と作業する梨華ちゃん、まだ疑問の顔付きだ。
- 365 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:15
- 梨華ちゃんの手元が止まった、作業が終わったらしい。
心臓がヤバイ、口から出てくるっていうのは嘘じゃない気がする。
ケータイを持つ手を目一杯伸ばし、繋げた文章をジーっと見つめている。
もう周りの音は何も聞こえない、全ては梨華ちゃんの表情に神経を集中させる。
梨華ちゃんの目が一瞬大きく開いた。
そして、なんとも優しい笑顔に変わった。
アタシの方を向いた梨華ちゃん、そのから発せられる音は何よりも待ち望んだ音だった。
「私もだよ」
完
- 366 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/18(土) 09:20
- 題名『漢字を感じろ!』終わり、と。
思いついたノリで書いたので文章がそんなに練られていないのは私の至らない所です、スイマセン。
いかんせん吉澤のメールに時間がかかってしまったもので……。
次はキチンとヤゴヤゴ書きますんで……。
- 367 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/18(土) 11:41
- 解読できなーいよー・・・
- 368 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/18(土) 14:07
- すげー!作者さんすげーっす。
>朝鮮民主主義人民共和国
が利いてますね。なるほど外せないわけだ。
>本格韓国料理屋
の連呼にも納得。お疲れ様です。
>>367
吉のメール部分をコピペして
1行15文字に揃えて改行してみよう
- 369 名前:まる。 投稿日:2004/09/18(土) 18:49
- WOW!
すげーっ!!
こう来ましたか!
ちょっと感動・゚・(ノД`)・゚・
- 370 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:47
- >>367名無飼育さん、ありがとうございます。
解読できたでしょうか? わかりにくくてスイマセン。
>>368名無飼育さん、ありがとうございます。
漢字十一文字っていうのが難しかったです
>>369まる。さん、ありがとうございます。
いやはや、ありがとうございます。
- 371 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:48
-
八五夜語
空から見ればまるで恒星のごとく光り輝く都市、東京。
毎週金曜夜一二時(正確には土曜零時)に放送されるラジオ番組がある。
モーニング娘。の石川梨華、藤本美貴、吉澤ひとみに後藤真希を加えたハロプロ八五年世代による、
あるテーマに沿って勝手気ままに喋りまくる番組、八五夜語。
テーマは番組の冒頭に発表され、彼女等には事前に知らされていないため
まさしく本音連発のアイドル界、ラジオ界きっての爆弾番組である。
- 372 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:49
- ピ、ピ、ピ、ポ〜ン
吉澤(以下吉)「せんせートイレ行ってイイですかぁ? ……後で全員で行くから我慢しなさい」
ティティティティッティ〜ティリティリ〜ティ〜〜〜ン (←オープニングソング)
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
藤本(以下藤)「ダメじゃん」
後藤(以下後)「あ〜」
吉「アレ? 今日のは自信あったんだけどなぁ」
- 373 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:50
- 石川(以下石)「今これ私より寒いよ」
藤「なんで全員で行くの?」
吉「いやだから、そこがオチだからさぁ……なんでって言われても」
後「え何? そこがオチなの? あたしてっきり行けないっていうボケだったと思ってたんだけど」
吉「いやいやいやいやいや」
石「さすが笑わん姫」
吉「いやごっちんのは無効でしょ」
藤「ダメ〜よっちゃんの負け〜」
- 374 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:50
- 吉「いいよもう負けで……ハイ、始まりました八五夜語(はちじゅうごのよがたり)、略してヤゴヤゴ。
MCはワタクシモーニング娘。の吉澤ひとみと」
石「モーニング娘。の石川梨華と」
藤「モーニング娘。の藤本美貴と」
後「後藤真希でおーくりしまーす」
吉「え〜この番組はあるテーマに沿って八五年生まれの女の子があ〜でもないこ〜でもないと
三十分間喋りつづける番組です、と。ハイじゃあ早速、今夜のテーマに行きましょうか」
ダラララララララララララララララララ……ジャジャン
吉「今晩のテーマは、見習いたいとこです!!」
藤「この四人でって事?」
- 375 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:50
- 吉「ん〜そうじゃない」
石「え〜この四人で?」
藤「なに梨華ちゃん? なんか不満あんの?」
石「いや〜そうじゃなくてさぁ、なんか恥ずかしいじゃん」
吉「ん〜なんかわかる」
後「じゃ終わろっか?」
藤「いやいや、まだ三分クッキングの方が長いから」
吉「来た! ミキティツッコミ!(笑)」
藤「来た! とかじゃないから」
石「すごいよねミキティの反応速度(笑)」
後「しかもツッコミ意味わかんないし(笑)」
- 376 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:51
- 藤「だってまだ始まったばっかりじゃん」
吉「でも三分は経ってるよ」
藤「違う〜、三分クッキングって三分でできる料理って意味じゃないんだよ。
三分で説明できる料理って事なんだかんね」
後「へぇ〜」
石「へぇ〜へぇ〜へぇ〜へぇ〜」
吉「82へぇ〜頂きました(笑)」
藤「え? あたしのは無駄だった?」
吉「無駄だったね(笑)」
石「ホントに無駄だよ、テーマに戻ろうよ」
後「なんだっけテーマ?」
吉「え〜見習いたいとこだね」
- 377 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:51
- 石「じゃあ初めはごっちんの見習いたいとこ」
藤「真希ちゃんねぇ……スタイルが欲しい」
吉「欲しいって(笑)」
藤「だってぇナイスバディじゃん」
後「っんなでもないよ」
吉「いやでもねぇ、わかるよそれは」
藤「わかるよね〜、出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んで」
石「ミキティはね〜(笑)」
藤「何梨華ちゃん、自分もスタイルいいからってさぁ」
吉「まぁミキティは北海道の広大な大草原をそのまま体で表してるからね(笑)」
藤「何それ〜見渡す限り地平線って言いたいの」
- 378 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:52
- 吉「いやいやいや、めっそうもございます」
後「アハッ、めっそうもございますって(笑)」
石「認めちゃってんじゃん(笑)」
藤「よっちゃんそれひど〜い」
吉「ごめんごめん(笑)」
石「私はねぇごっちんぐらい歌うまくなりたい」
藤「お、いきなり来たねぇ梨華ちゃん」
吉「でもまぁ梨華ちゃんはもういいんじゃない?」
石「いや〜私だって歌上手くなりたいよぉ」
後「でもあのアニメ声はねぇ」
藤「なんか梨華ちゃんの声で歌上手いってキモいんだけど」
吉「多分ねぇ、一切音外さないで歌ってもなんか音痴に聞こえると思う」
- 379 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:52
- 藤「あ〜なんかそんな感じするね〜(笑)」
石「え〜」
後「梨華ちゃんある意味得だよ、音外しても声のせいにできるし」
吉「まぁ現段階でも外してるんだけどね(笑)」
藤「もうどう足掻いても音痴なんだね梨華ちゃん(笑)」
石「さっきから皆音痴音痴言い過ぎだから」
吉「これは誉めてんだよ」
藤「いやよっちゃんそれはない(笑)」
後「そう考えると梨華ちゃんってすごいんだね(笑)」
石「全然誉めてないじゃん(笑)」
吉「大丈夫、梨華ちゃんは生きてるよ(笑)。それじゃCM」
ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャジャジャジャ〜ン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
- 380 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:53
-
〜CM〜
ティントンティントンティントントントン、ティロロロロロロロロロロロロロロロン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
吉「え〜今夜のテーマは、見習いたいとこってことでね。
じゃあ次はミキティの見習いたいとこ」
後「やっぱツッコミ?」
藤「なんで疑問形?」
吉「でも欲しいよねその反射神経とツッコミのセンスは(笑)」
石「なんでそんなにツッコめるの?」
- 381 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:53
- 藤「そんなん知らないよ」
吉「やっぱり北海道が関係してんのかなぁ」
藤「また北海道出してくるし」
後「でも紺野とかいるしねぇ」
石「飯田さんも安倍さんも北海道だしね」
藤「ほらやっぱ北海道関係ないじゃん」
吉「いや、北海道もピンからキリまであるからね。
ミキティの育った場所はすごいよ」
藤「ピンからキリなんてないから。ってかすごいよって知らないじゃん」
吉「熊が道路普通に走ってるんでしょ」
藤「あ〜それよく言われるね、走ってないけど」
吉「ミキティの地域が普通免許持ってりゃ乗れるしね」
後「マジで! いいなぁ」
藤「いやいや嘘だから(笑)」
- 382 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:54
- 吉「授業じゃ熊と相撲するっていうし――」
藤「それ金太郎じゃん」
吉「早っ(笑)」
後「今のは早いね(笑)」
石「あたしがツッコもうと思ったらもうツッコんでたもん(笑)」
藤「そんなあたし芸人さんじゃないんだからツッコミなんていいの」
吉「え〜もったいな〜い」
石「そうだよ、魚が泳がないようなもんだよ」
藤「それ例え間違ってるから」
後「ん〜梨華ちゃん今のは違うね」
石「え〜(笑)」
吉「いやぁでももったいないよ」
藤「ってかもったいないってどういうこと?」
吉「魚が泳が――」
藤「いいのもう、次! よっちゃん!」
- 383 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:55
- 後「……よっしーはさぁ、あたしはその白い肌だねぁ」
吉「ん〜嬉しいねぇ」
藤「いいよねぇ白い肌」
石「あたしはあたしは!」
後「梨華ちゃんはタレでしょ(笑)」
藤「来たねぇタレさん(笑)」
石「もお! タレは禁止って言ったじゃんかぁ」
吉「ハイハイ梨華ちゃんおこんないおこんない。一旦CM」
ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャジャジャジャ〜ン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
- 384 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:56
-
〜CM〜
ティントンティントンティントントントン、ティロロロロロロロロロロロロロロロン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
吉「ハイ、でぇもう終わりなんだけど、最後梨華ちゃん!」
藤「特になし!」
後「あたしも特になし」
石「え〜ちょっと皆ぁ……よっしー」
- 385 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:56
- 吉「ん〜……香ばしい所かな」
藤「結局タレじゃん(笑)」
後「んじゃ焼き目とか」
藤「それもタレ、ってか団子(笑)」
石「もおまたその話になっちゃったじゃん」
吉「思いきって次回は団子にしちゃおっか?」
後「団子と書いていしかわと読む、と」
吉「いしかわと書いてタレと読むと(笑)」
藤「結局タレじゃん(笑)」
石「絶対次回からその話禁止だよ!」
吉「わかったから梨華ちゃん。……え〜八五夜語、略してヤゴヤゴ、
MCはモーニング娘。の吉澤ひとみと」
石「モーニング娘。の石川梨華と」
藤「モーニング娘。の藤本美貴と」
後「後藤真希でした〜」
吉「それじゃあまた来週」
吉石藤後「バイバ〜イ」
パッパラパパッパッパラッパッパ〜〜〜、パラララララララララララララララ……ジャンジャン
- 386 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/23(木) 12:58
- ここまで、と。
ヤゴヤゴテーマ大募集です。
- 387 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/23(木) 22:49
- 希望テーマ「ユニット名」
- 388 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/27(月) 21:04
- 更新お疲れ様です。
テーマ「お互いの変な癖」、「治して欲しいとこ」。
- 389 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/27(月) 22:36
- おつかれです
テーマ「好きなお笑い芸人」
- 390 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:31
- >>387-389
ありがとうございます、参考にさせていただきます。
また変なのを書いてしました。
「漢字を感じろ」系の話です
- 391 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:32
- アタシは加入当時から梨華ちゃんのことが好きだった。
普段男っぽいと言われているアタシは、きっと男に生まれていたなら硬派な男だっただろうと思う。
――女の子同士だから――一緒に仕事する関係だから――周りの目が気になるから
そんなことが理由じゃない、ただただアタシに勇気が無いだけだ。
――告白する勇気――自分の気持ちを伝える勇気――好きだと言う勇気
ある日、悶々としていたアタシはあるテレビ番組を見た。
その番組は世界のテレビ番組を面白い所だけチョイスして流すという
ゴールデンタイムの長者番組だった。
夕食のハンバーグにパクつきながら見ていると、とあるアメリカの番組が流れた。
男の外人が「空を見てごらん」と言うと
女の外人が空を見て叫んだ
空には「結婚してくれ」と飛行機雲で書かれていた
女は粋な告白をされるとクラッときやすいものだと飯田さんの未来像みたいな人が
言っているのをアタシは聞き逃さなかった。
その夜からこの計画は練られていった。
- 392 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:32
- 作戦決行前日、やっとの思いで手紙を書き終えた。
やっぱ学校の勉強はきちんとしとくべきだったと後悔する。
作戦決行当日。
ハロモニ収録日であったがとにかく緊張した、もちろんハロモニにではない。
収録中も妙なテンションでやや浮き気味だったけど梨華ちゃんが笑ってくれるならまぁそれもアリかな。
収録も終わり、楽屋で帰り支度をしているメンバー。
チラチラ梨華ちゃんの方を見てはタイミングをうかがう。
あ、やっぱかわいい……
まどろんでいる内に梨華ちゃんが楽屋を出た。
――マズイ、ダッシュである。
- 393 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:32
- 「リ、梨華ちゃん!」
「なによっしーおっきな声出して」
声が大きかったことなど気にしてられないくらい緊張している。
ポケットの中の手紙が、いや、手が震える。
「どしたのよっしー?」
「あ、いや、その……」
何度も頭の中でシュミレーションした光景を思い出す。
梨華ちゃんに近づき、そっとポケットから手紙を出す。
「これ……さ、家に帰ってから読んでくんない?」
「え、なにこれ? 手紙?」
「ん、まぁそうだよ。とにかく家に帰ってから読んでよ」
「まさかぁラブレターだったりして」
「な、なに言ってんの」
「そうだよね。わかった、家に帰ってから読むね」
「うん、じゃあね」
「じゃあね」
心臓が破裂してしまうそうな瞬間はあったものの、手紙を渡すことに成功した。
- 394 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:33
-
家のベッドで寝っ転がるアタシ、実際心はここにあらずといった所。
手紙が、梨華ちゃんが気になる。
今ごろ読んでくれているのだろうか……。
- 395 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:33
- ┌───────────────────────────────────┐
│ |
│ |
│ ごめんね変な手紙入れちゃって、でも聞いてほしいの |
│ 普段はおちゃらけちゃってるアタシだけどこれは真剣に聞いてください |
│ な〜んてね、柄にもないこと書いちゃってる今のアタシってなんなんだろ |
│ 大した話じゃないんだよね、ただ昔を思い返してみたくて |
│ モーニング娘。に加入してから四期メンバーとしてさ |
│ ずっとずっと |
│ 笑いあり |
│ 涙ありで一生懸命頑張ってきた |
│ いつもは泣かないって決めてるのに辻加護の卒業の時はつい |
│ 泣いちゃった。アタシだってねぇ、女の子なんですよ |
│ 梨華ちゃんだって今度卒業でさ |
│ つい思い出になっちゃうよ、よくわからないけど不味かったクッキー |
│ |
│ |
└───────────────────────────────────┘
- 396 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:34
- ┌───────────────────────────────────┐
│ |
│ |
│ 思い出を美化する |
│ つもりなんてないけどさ。いつのまにかナイスガイ |
│ キャラになっちゃったアタシ、昔の美少女はどこかに |
│ 行っちゃった。センターだってとるつもりで |
│ 頑張ってたけど、一時期あんな激太りしちゃー無理だわな |
│ 別に励ますつもりじゃないけど、来年モーニング娘。から |
│ 卒業する梨華ちゃんにしか |
│ 言わないよ。……梨華ちゃんは十分にかわいいぞ |
│ |
│ P.S 終わりよければ全て良しっていうけどさ |
│ たまには振り返ってみるのもいいと思うよ |
│ |
│ 吉澤 ひとみ |
│ |
└───────────────────────────────────┘
- 397 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:34
- 携帯が鳴った。
梨華ちゃんからのメール、なんかよくわかんないけどありがとう、とのこと。
やっぱり難しかったかな、まぁあたしの頭が悪いせいもあって文がめちゃくちゃなせいでもあるんだけど。
でもアタシから種明かしするわけにいかないよなぁ……だって恥ずかしいじゃん。
誰か
アタシが手紙に込めた本当の思いを
梨華ちゃんに教えてあげてくれませんか?
神様でも、仏様でも、読者様でもいいですから……
完
- 398 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:39
- ここまで、です。
アンタ暗号じゃないんだから、と突っ込まれても仕方ないですね。
また思いつきのノリで書いてるので、文章の稚拙さが目立つものになってしまいました、スイマセン。
ヒントはP.Sに書かれていることです。
解答は次回ヤゴヤゴを更新するときにでも。
ついでにタイトルは「スッキリ? モヤット?」です。
ふざけてますね……スイマセン。
- 399 名前:メカ沢β 投稿日:2004/09/30(木) 16:39
- 手紙隠しレス
- 400 名前:368 投稿日:2004/10/01(金) 19:00
- んがーっわがんねっ!わがんねっすよ作者さーん。
てことで解答&ヤゴヤゴお待ちしております。
- 401 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/01(金) 20:27
- 文字数揃えてみたり、逆さに読んでみたり、逆から読んでみたり・・・
がお〜〜〜〜〜っ!!(ノ ̄□ ̄)ノ ~~┻━┻ わっかんねーよぉ〜!!!!!
- 402 名前:めかり 投稿日:2004/10/03(日) 00:29
- 更新おつかれさまです。
またもや難問ですね〜♪
答えも気になりますが、
次回も期待してま〜す。
- 403 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:17
- >>400 368さん、ありがとうございます
この答えで納得して頂けるかどうか……不安です
>>401名無し飼育さん、ありがとうございます
試行錯誤お疲れ様です
この答えに納得していただけると幸いです
>>402めかりさん、ありがとうございます
難問というか、屁理屈というか……頑張ります
手紙の答えですが追伸をヒントにすると……
終わりよければ全て良し→終わり避ければ全て良し→各行の最後の文字を消して
たまに振り返ってみるのもいい→上記の作業後、
各行の最後の文字(元の文章で言えば最後から二番目の文字)を逆から読んでいく
すると「いしかわりかがすきですつきあってください」と読めます
いかがですか?
それではヤゴヤゴを
- 404 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:19
-
八五夜語
空から見ればまるで恒星のごとく光り輝く都市、東京。
毎週金曜夜一二時(正確には土曜零時)に放送されるラジオ番組がある。
モーニング娘。の石川梨華、藤本美貴、吉澤ひとみに後藤真希を加えたハロプロ八五年世代による、
あるテーマに沿って勝手気ままに喋りまくる番組、八五夜語。
テーマは番組の冒頭に発表され、彼女等には事前に知らされていないため
まさしく本音連発のアイドル界、ラジオ界きっての爆弾番組である。
- 405 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:19
- ピ、ピ、ピ、ポ〜ン
吉澤(以下吉)「あれ、マイケル・ムーアじゃない? ……あっ、違った、江川達也だったわ」
ティティティティッティ〜ティリティリ〜ティ〜〜〜ン (←オープニングソング)
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
藤本(以下藤)「誰? 江川達也って」
石川(以下石)「あの人でしょ、タルルートくんとか書いてる漫画家さんでしょ」
吉「そうそう」
後藤(以下後)「あ〜あ〜あ〜あ〜」
- 406 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:20
- 吉「ごっちんわかった?」
後「いや、顔はわかんない」
藤「美貴もわかんないんだけど」
吉「梨華ちゃんは?」
石「私もわかんない」
藤「じゃあ似てるかどうか誰もわかんないじゃん(笑)」
吉「ん〜……まぁ今回そんなに自信なかったし」
後「いやぁでも似てるんじゃない?」
石「ごっちん顔わかんないって言ってたじゃん」
後「ん〜勘かな?」
藤「勘かよ!(笑)」
- 407 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:20
- 吉「早速ミキティツッコミ頂きました(笑)。……ハイ、始まりました八五夜語(はちじゅうごのよがたり)、略してヤゴヤゴ。
MCはワタクシモーニング娘。の吉澤ひとみと」
石「モーニング娘。の石川梨華と」
藤「モーニング娘。の藤本美貴と」
後「後藤真希でおーくりしまーす」
吉「え〜この番組はあるテーマに沿って八五年生まれの女の子があ〜でもないこ〜でもないと
三十分間喋りつづける番組です、と。ハイじゃあ早速、今夜のテーマに行きましょうか」
ダラララララララララララララララララ……ジャジャン
吉「今晩のテーマは、ユニット名です!!」
後「お!」
吉「あ、ごっちん食いついたねぇ」
- 408 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:20
- 藤「ユニット名って何話せばいいの?」
吉「ん〜だからこのユニット名は変だとかそんな感じじゃない」
石「そういうことなの?」
吉「まぁこれしか書いてないからそういうことでいいんじゃないか」
後「ユニット名ねぇ……」
藤「美貴あんまりユニットとかやったことないんだけど」
石「シャッフルとごまっとうだけだよね」
吉「ごまっとうなんてあったねぇ」
藤「あたしなんかとうだからね、なぜ漢字の音読み訓読み?」
後「美貴ちゃんそうだよねぇ」
吉「ごまふだとアザラシになっちゃうからじゃない?」
石「ゴマちゃんだゴマちゃん(笑)」
藤「しかもゴマちゃんって言われるとあたし入ってないし(笑)」
- 409 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:21
- 後「ふまごとか?」
吉「なんか麩菓子と曾孫を足して二で割った感じじゃない(笑)」
石「え、じゃあサクサクした孫ってこと?」
藤「孫食べちゃダメだって(笑)」
吉「孫じゃなくてもダメだから(笑)」
後「でもあの名付け方はイマイチよくわかんないよね」
吉「プッチモニとかミニモニとかならまだわかるんだけどね」
石「タンポポだっていいじゃん」
後「やっぱりさぁ、そう考えるとシャッフルもおかしいよね」
吉「初めの頃はそうでもなかったじゃん」
石「あか色4とか三人祭とかね」
藤「あ〜でも既に三人祭辺りでもうおかしいかも」
後「三人で祭りはちょっと寂しいよね」
- 410 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:21
- 吉「しかも梨華ちゃん三人祭だったよね、チュッチュチュッチュ言ってた」
石「そうだよぉ、よく考えてみたら恥ずかしい」
藤「考えなくても十分恥ずかしいから(笑)」
吉「歌の途中で見せパンとかしてたよね」
石「ん〜」
後「梨華ちゃんの他はあいぼんと亜弥ちゃんだっけ?」
石「そうそう」
吉「梨華ちゃんのパンツだけお尻の方が茶色かったり――」
藤「よっちゃん!」
石「ちょっとよっしー!」
後「アハハハハ」
吉「なになに?(笑)」
- 411 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:22
- 石「よっしーちょっと! ダメだよてーせーしてよ!」
吉「ちょっ、梨華ちゃん、なんだと思ってんの?」
石「なにって……」
藤「だってお尻で茶色いっつったらうん……しかないじゃん」
吉「あたし一回もう……こだなんて言ってないじゃん」
石「ちょっと放送ヤバいからその話止めようよ」
吉「だからう……こじゃないって言ってんじゃん」
後「よっしーさっきからきわど過ぎだよ(笑)」
藤「じゃあよっちゃんの言う茶色いもんってなんなの?」
吉「え? ……チョコ?」
藤「え〜なにそのオチ」
石「よっしー大したオチもないのにテキトーなこと言わないでよ」
- 412 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:23
- 後「でもチョコだったらチョコだったで面白いけどね」
石「面白くないぃ」
吉「スイマセンでした、やっぱりう……こでした」
藤「やっぱりね(笑)」
石「ミキティもやっぱりねじゃないよ」
後「とにかく梨華ちゃんは茶色いんだよ(笑)」
吉「ごっちんすごいまとめだね(笑)」
石「なにまたタレいじめする気でしょう」
吉「梨華ちゃん自分から言っちゃダメだって」
藤「今日は言わないでおこうって三人で言ってたんだから、ねぇ?」
後「んー」
吉「ほら梨華ちゃん今の発言は忘れるから。それじゃCM」
ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャジャジャジャ〜ン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
- 413 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:23
-
〜CM〜
ティントンティントンティントントントン、ティロロロロロロロロロロロロロロロン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
吉「え〜今夜のテーマはユニット名ということですが」
藤「梨華ちゃん元気出して、ホラ」
石「ん〜ゴメンねみんな」
後「そんなあやまんなくたって、悪いのはよっしーなんだから」
吉「な〜んでアタシなわけ?」
藤「ほらよっちゃんももう謝って」
吉「な、ん……ゴメンね梨華ちゃん」
- 414 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:23
- 石「……うっそピョ〜ン!」
藤「うわ、うわうわうわ寒っ」
後「ピョ〜ンとかうわぁ」
石「なにちょっと二人ともぉ」
藤「いやもう今のは完全に梨華ちゃんが悪いわ(笑)」
吉「もう今日は美勇伝の話は一切無しね」
石「え〜」
後「自業自得だね(笑)」
吉「じゃあROMANSの話はしてあげるから」
藤「あ〜あったねROMANS」
石「あったねとか言わないでよ」
吉「あれってセクシーさが売りだったんでしょ?」
石「んまぁね」
- 415 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:24
- 後「実際さぁ、やぐっつぁんってセクシー?」
藤「ん〜……あんまり(笑)」
吉「やっぱり矢口さんってちっちゃいからなんかセクシーっていうよりかわいいって感じになっちゃうんだよね」
石「本人はモーニング娘。のセクシー隊長って言ってるけどね」
藤「ベトナムゥでしょ(笑)」
吉「段々矢口さん批判になってきてるんだけど……(笑)」
石「じゃあ美勇伝の話にし――」
藤「ないよ」
吉「じゃあ後浦なつみの話にしよう(笑)」
後「ね〜、後浦なつみ」
藤「真希ちゃんはごまっとうのあたし状態だよね」
吉「音読み訓読みね」
石「って言ってもごうらっていうわけにいかないしね」
- 416 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:25
- 後「なっちはねぇいいよねぇ」
吉「ごべだったらよかったのに」
石「ごべって(笑)」
藤「地方の市役所の人みたい(笑)」
吉「なにそのツッコミ(笑)」
後「山形辺りだね(笑)」
藤「あたしは岐阜らへんかなと(笑)」
石「なにそれ〜」
吉「じゃああたしは島根」
藤「じゃあってマイナーな地名を言えばいいわけじゃないんだよ」
後「でもごべだからね〜」
石「よかったねごべじゃなくて」
- 417 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:25
- 後「ごべでシツレンジャーはちょっとねぇ」
吉「それこそ地方の市役所の人だよ(笑)」
藤「だからってさぁのちうらがいいかっていうと……ん〜みたいな(笑)」
後「そんなこと言ったってもうのちうらで決まっちゃってるし」
石「そうだよミキティ笑い事じゃないんだよ」
吉「ダイジョブごっちん、応援するから(笑)」
藤「ってよっちゃん笑ってんじゃん」
吉「いやいや笑ってないから、一旦CM」
ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャジャジャジャ〜ン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
- 418 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:25
-
〜CM〜
ティントンティントンティントントントン、ティロロロロロロロロロロロロロロロン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
吉「ハイ、もう終わりなんですけど、じゃあ最後美勇伝」
石「え、やった!」
後「美勇伝ねぇ……」
藤「あたしは後浦なつみと美勇伝なら後浦なつみの方がいいな」
石「え〜」
吉「ん〜アタシもそうかも」
石「え〜なんでぇ」
後「あたしもまだ希望が持てるよ」
- 419 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:26
- 石「ちょっとみんなひどいよぉ」
藤「だって意味わかんないもん美勇伝って」
後「最初聞いた時歯肉炎かと思ったもん」
藤「いやいや歯肉炎はないから(笑)」
吉「いやでもそれは画期的かもしれない(笑)」
後「歯磨きのCMくるかも」
藤「あ〜有り得るね〜」
吉「歯肉好き好き〜歯肉好き好き〜(笑)」
後「アハハハハ」
藤「やだぁキモイ〜(笑)」
石「ちょっと好き勝手言い過ぎだから(笑)」
由「いいじゃんいいじゃん(笑)。え〜八五夜語、略してヤゴヤゴ、
MCはモーニング娘。の吉澤ひとみと」
石「モーニング娘。の石川梨華と」
藤「モーニング娘。の藤本美貴と」
後「後藤真希でした〜」
吉「それじゃあまた来週」
吉石藤後「バイバ〜イ」
パッパラパパッパッパラッパッパ〜〜〜、パラララララララララララララララ……ジャンジャン
- 420 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/07(木) 11:28
- ここまで、です。
ヤゴヤゴ、引き続き(ってゆーか随時)テーマ募集中です
- 421 名前:400 投稿日:2004/10/07(木) 14:09
- ヤゴヤゴいつも楽しませてもらってます。
吉澤さんが仕切ってるってよく考えるとおかしいですねwいやいい意味で。
テーマですがコントのキャラについてとかどうでしょう。
手紙のやつはサパーリわかりませんでした。解答を見てあぁ!って感じです。
こういう漢字を感じろ系の話も好きです。またぜひお願いしますw
- 422 名前:名無し読者 投稿日:2004/10/08(金) 14:31
- なんだか知らないけどこのラジオがムチャ面白い
本気で笑ってしまう箇所がいくつも・・・
見事に4人の個性を捉えてますね
- 423 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 17:46
- いまだに15文字改行のメールが解読できないっす‥‥
- 424 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 21:42
- >>423
メモ帖かなんかでコピペして
遠ーく離れた所から見てみたら・・・どうでしょう?w
- 425 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 21:53
- よっすぃーの手紙ってそうかぁ〜そうだったのかぁ〜(;´д` )
でもこんなの謎掛けみたいなの好きだなぁ〜
ヤゴヤゴも毎回楽しいです!
テーマ「これって変かな?」。。。ダメかな?
- 426 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 22:10
- >>424
センキュー!自分眼が悪いから気付かんかったよ。
作者さん!なんか雑談したみたいでごめんなさい。
これからも応援してます。
- 427 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:39
- >>421 400さん、ありがとうございます。
吉澤さんはボケ担当だけだと話が進まなくなりそうなので進行もさせることで適度に
ボケることができる、という設定です。しかしまぁこの4人のバランスのいいこと……。
>>422名無し読者さん、ありがとうございます。
笑って頂けるとは光栄です。
>>424名無飼育さん、ありがとうございます。
私の代わりに親切な説明ありがとうございます。
>>425名無飼育さん、ありがとうございます。
テーマは何でもいいですよ、何でもおっしゃってください。
>>423>>426名無飼育さん、ありがとうございます。
わかりにくくてスイマセン……。
ではヤゴヤゴを……
- 428 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:40
-
八五夜語
空から見ればまるで恒星のごとく光り輝く都市、東京。
毎週金曜夜一二時(正確には土曜零時)に放送されるラジオ番組がある。
モーニング娘。の石川梨華、藤本美貴、吉澤ひとみに後藤真希を加えたハロプロ八五年世代による、
あるテーマに沿って勝手気ままに喋りまくる番組、八五夜語。
テーマは番組の冒頭に発表され、彼女等には事前に知らされていないため
まさしく本音連発のアイドル界、ラジオ界きっての爆弾番組である。
- 429 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:40
-
ピ、ピ、ピ、ポ〜ン
吉澤(以下吉)「ジャンケンホ! あっち向いてホイ! ジャンケンホ! さっき剥いたホヤ! ……食べる?」
ティティティティッティ〜ティリティリ〜ティ〜〜〜ン (←オープニングソング)
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
後藤(以下後)「ホヤ?」
藤本(以下藤)「ホヤって何?」
吉「ホヤって知らない? なんかさぁ海にいて、こうグニャッとしててホヤっとしてて」
藤「ホヤっとしてるって何?」
- 430 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:40
- 吉「だから、それがホヤなの」
石川(以下石)「私知ってるよ。何かね〜とにかくキモイの」
吉「そう! キモくてホヤっとしてんの」
藤「だからそのホヤっとしてるってのがわかんないんだけど」
後「キモいキモい言ってるけどそれって食べれんの?」
藤「ね〜わざわざ剥いてくれたけどさ(笑)」
吉「食べ……れんじゃないかなぁ」
藤「知らないのかよ!(笑)」
石「食べれるはずだよ、だったパパが食べて当たったことあるって言ってたもんたしか」
後「それって食べられないからじゃなくて?」
藤「え〜なんかますますわかんなくなってきた。ホヤって何?」
- 431 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:41
- 吉「だからホヤっとしてんだって(笑)」
藤「や〜も〜それ意味わかんないし」
吉「だぁかぁらぁ、イメージだよイメージ。ホヤってしてるっていう言葉からキモイを加えて連想したら
きっと浮かんでくるよ(笑)」
藤「え〜無理無理」
石「よっしーわけわかんなさ過ぎだから(笑)」
後「んあっ!」
吉「お! ごっちんホヤ思い浮かんだ?」
後「いや、想像してみたら梨華ちゃんが出てきた」
藤「アハハハハハハ」
石「ひど〜い」
吉「じゃああとで梨華ちゃん剥いてあげる(笑)。ハイ、始まりました八五夜語(はちじゅうごのよがたり)、略してヤゴヤゴ。
MCはワタクシモーニング娘。の吉澤ひとみと」
石「モーニング娘。の石川梨華と」
藤「モーニング娘。の藤本美貴と」
後「後藤真希でおーくりしまーす」
吉「え〜この番組はあるテーマに沿って八五年生まれの女の子があ〜でもないこ〜でもないと
三十分間喋りつづける番組です、と。ハイじゃあ早速、今夜のテーマに行きましょうか」
- 432 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:42
-
ダラララララララララララララララララ……ジャジャン
吉「今晩のテーマは、これって変かな? です!!」
藤「どういうこと?」
吉「ん〜だから、自分は普通だと思ってるけど他の人から見たらおかしいよってことじゃない?」
藤「でもそれって自分じゃわかんなくない?」
吉「まぁね」
後「じゃあさ、これって変かな? じゃなくてそれって変! にすれば?」
吉「変だよアンター! って感じ?」
後「そうそうそんな感じ(笑)」
石「イチイチ言うの? 変だよアンター! って(笑)」
吉「うん。しかも言う時は指差して」
藤「ん〜じゃあ早速、変だよア―――」
石「イタッ!!」
- 433 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:42
- 後「あ!」
吉「アッハッハッハッハ」
藤「ゴメン梨華ちゃん大丈夫?」
石「ミキティ痛いよぉ……」
藤「ゴメンほんっとゴメン!」
石「いいよ大丈夫……」
吉「アハハ、え〜とただいまですねぇ、ミキティの指が梨華ちゃんの顎にヒットしました(笑)」
後「ヒットってかホームランだよアレは(笑)」
吉「まぁミキティも悪いけど梨華ちゃんも悪いよね」
石「顎が出てるからとか言うんでしょお」
吉「違うよ、顎が引っ込まなかったからだよ」
藤「ゴメンね引っ込めさせられなくて(笑)」
石「いいよそんな引っ込めなくても」
吉「あの勢いならそのままスコーンって飛ばせそうだったのに」
藤「ダルマ落とし?(笑)」
後「でぇその飛んだ顎が夜な夜な持ち主を探して歩き回るらしいよ(笑)」
藤「こわ〜い(笑)」
石「そんなことないから、もうみんな勝手に言い過ぎ」
- 434 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:42
- 吉「でもミキティが梨華ちゃんに変だって言いたかったのはズバリ顎なわけでしょ?」
石「え? そうなのミキティ?」
藤「んやぁ違うんだけど、まぁたしかに顎もね〜」
石「そんな〜ちょっとしゃくれてるだけじゃん」
吉「だって梨華ちゃんつい最近まで三点倒立は両手と顎だと思ってたんでしょ?」
石「思ってないー!」
後「それだったらもう顎だけで立つんじゃない? 地面に刺さっちゃって」
藤「カジキマグロみたいな感じだね(笑)」
吉「もう武器だよ武器(笑)」
石「そんなんじゃないからもー」
吉「あとね梨華ちゃんはね、ピンク好き過ぎ!」
石「それはいいじゃん」
- 435 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:43
- 藤「ダンスレッスンの時に着てくるジャージなんてすご過ぎるよアレは」
吉「全身ピンクも平気、ってか大好きでしょそういうの」
石「え〜だってピンク好きなんだもんしょうがないじゃんかぁ」
後「でも全身ピンクはねぇ」
吉「今時全身ピンクなんて梨華ちゃんとコーラックぐらいしかないよ」
藤「コーラックて(笑)」
後「じゃあ梨華ちゃん便秘治せるんだ」
吉「いやいやそれは違うって(笑)」
石「第一なんで私がコーラックと一緒なのさぁ」
吉「いやだから色だって」
藤「あと効能(笑)」
石「だから違うって」
吉「いいじゃん梨華ちゃん、プロフィールに書けるよ」
藤「特技、人の便秘を治す(笑)」
後「じゃあ今度梨華ちゃんにお世話になろうかな(笑)」
吉「梨華ちゃんすごいね(笑)」
石「もうみんな今日なんかひどいよ」
藤「いつもこんな感じだよねぇ?」
吉「んまぁね」
石「もう私の変な所はいいよもう」
後「あそっか、そういうテーマだったんだよね」
吉「じゃあとりあえずCM」
ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャジャジャジャ〜ン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
- 436 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:43
-
〜CM〜
ティントンティントンティントントントン、ティロロロロロロロロロロロロロロロン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
吉「え〜今夜のテーマはこれって変かな? ですが、大変なことが起きました!」
石「これはよっしーが悪いよ」
藤「そうかなぁ?」
吉「まあまあ、アタシも反省しているし」
藤「とりあえず言っちゃいなよ」
- 437 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:44
- 吉「うん。え〜なんと、CM中に矢口さんから電話がありました!」
後「しかもダメ出しだもんね(笑)」
吉「リスナーの皆さんはなんのことかわからないかもしれませんが、
本日冒頭の梨華ちゃん剥いちゃう発言に矢口さんからクレームが来ました(笑)」
石「そんな風に言ったら私が言ったみたいにじゃんかぁ」
吉「いやでもねぇ……矢口さんが反応し過ぎだと思うんだけど」
藤「よっしーあの下ネタはきつ過ぎるよぉ、って言ってたよね」
吉「いやいやそういう意味で言ってないから(笑)」
後「やぐっつぁん下ネタ好きだからね〜(笑)」
石「矢口さんがほじくり返した感じがするんだけど(笑)」
吉「んまぁでもねぇ、今のご時世甘栗だって剥いちゃう時代だよ」
藤「甘栗関係ないから(笑)」
吉「いやだからさ、梨華ちゃんだって肌が黒いって言われてるけど
日焼けの皮むきみたいに剥いていったら中から白い肌が―――」
藤「出ないよ」
後「相変わらず早いね(笑)」
吉「出ないって梨華ちゃん(笑)」
- 438 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:45
- 石「もうその話はいいからテーマに戻ろうよ」
吉「ちょっと待って、その前に一応謝らないと。え〜放送中に不適切な表現があったことを
お詫び申し上げます。こんなんでいいの?」
藤「なんか余計怪しくない?」
吉「まあ矢口さんが言っとけって言ってたからね」
後「じゃあテーマに戻って、梨華ちゃんは声も変だよね」
石「もー私のことはいいから、しかも声もってもって何?」
藤「どうやったらそんな声出せんの?」
石「どうやったらってそんなの知らないよぉ」
吉「知った所で真似しないけどね(笑)」
石「なんでよぉいいじゃないよこの声」
後「あたしさぁ梨華ちゃんの声の話になるといっつもチョーク食べた狼の話思い出すんだけど」
藤「何それ?」
後「なんかなかったそんな話」
吉「イソップ物語とかグリム童話みたいな感じ?」
後「多分そうだと思う」
- 439 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:45
- 藤「あーわかった! あれじゃない? お母さんと声が違うから家に入れないとかそんなやつじゃない?」
吉「あーあーあーあー、時計の中に隠れてヤギだか豚だかかが隠れてて、お母さんと一緒に
最後狼の腹に石詰めて溺れさすやつでしょ?」
後「そうそうそれそれ」
石「じゃあ私はチョークを食べた狼の声に似てるってこと?」
後「似てるっていうか狼の声聞いたことないからわかんないけど、梨華ちゃんの声の話になると、
チョーク食べたらあんな声になるのかなぁ、っていっつも思う」
吉「案外そうかもしれない、チョーク食べたらなるかもしれない(笑)」
藤「その前にチョークなんて普通食べないし(笑)」
吉「もしかして梨華ちゃんチョーク食べた?」
石「食べるわけないでしょー!」
後「わかんないね」
藤「わかんないよね、知らないうちに食べてるかもしれないし」
石「そんなの知らなくても食べないって」
- 440 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:45
- 吉「梨華ちゃん昔家で甘くないミルキーとか食べなかった?」
藤「ああそれだ(笑)」
吉「もしくはやたら粉っぽいクリームシチューとか」
後「砂糖も塩も味がないとか」
藤「それでも一応分けてんだ(笑)」
石「あるわけないでしょ」
後「まぁでも色もいっぱいあるからね」
吉「レモンにイチゴに抹茶に……ブルーハワイもあるし(笑)」
石「そんな味しないよ」
藤「えっ何!? そんな味しないって食べたことあるんだやっぱり」
石「な〜い〜」
- 441 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:46
- 吉「梨華ちゃん色んな色食べ過ぎるから全部混ざっちゃって肌がそんな色になっちゃうんだよ」
藤「あ〜そういう仕組みなんだ(笑)」
石「そんなわけないでしょ」
後「いや〜それなら青ばっかり食べて欲しかったなぁ(笑)」
藤「青梨華ちゃん?(笑)」
吉「頑張れば家族でゴレンジャーできるよ(笑)」
石「家族までバカにしないでよ」
吉「ゴメンそれはちょっと言い過ぎた、ゴメン梨華ちゃん」
後「ゴメンゴメン」
石「いやそんな謝られても」
吉「お詫びにチョーク一年分送るから」
藤「一年分とかどれくらいなの?(笑)」
吉「しかも青ばっか(笑)」
後「やったー、青梨華ちゃんが見れる」
石「全然反省してないじゃん!」
吉「わかったって、赤も上げるから紫になってよね(笑)。それじゃCM」
ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャラッジャ〜ンジャラジャラ、ジャジャジャジャ〜ン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
- 442 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:46
-
〜CM〜
ティントンティントンティントントントン、ティロロロロロロロロロロロロロロロン
ニッポン放送! 石川梨華後藤真希藤本美貴吉澤ひとみの八五夜語! 略してヤゴヤゴ!
吉「もう終わりですけれども、今日は梨華ちゃんのことしか話してないね」
藤「最終的にテーマが梨華ちゃんの変な所になっちゃったもんね」
石「今日みんな言い過ぎだよぉホントに」
後「むしろ梨華ちゃんに変な所が多すぎるんだと思うよ」
石「多くないって、私普通だから」
藤「ふつーの人はチョーク食べないと思うよ(笑)」
石「だから食べてないって」
- 443 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:47
- 吉「今日は梨華ちゃん家の家族の方々スイマセンでした。
本人はいたっていじられて喜んでおりますのでご安心を」
藤「そうだよ、ホントはいじられて嬉しいんでしょ?」
石「嬉しくな〜い〜」
後「ミキティ、あんまりいじるいじる言ってるとまたやぐっつぁんから電話来るよ(笑)」
吉「じゃあ今度は矢口さんを剥きます」
石「矢口さん剥いてどうすんのさ(笑)」
吉「矢口さんを剥くと中から一回り小さい矢口さんが出てきて、それを剥くとさらに一回り
小さい矢口さんが出てきてを繰り返すわけ」
藤「ロシアの人形みたいになってんだ(笑)」
吉「で、一番最後はプチってね(笑)」
藤「ダメじゃん(笑)」
吉「矢口さ〜ん、嘘ですよ〜(笑)。え〜八五夜語、略してヤゴヤゴ、
MCはモーニング娘。の吉澤ひとみと」
石「モーニング娘。の石川梨華と」
藤「モーニング娘。の藤本美貴と」
後「後藤真希でした〜」
吉「それじゃあまた来週」
吉石藤後「バイバ〜イ」
パッパラパパッパッパラッパッパ〜〜〜、パラララララララララララララララ……ジャンジャン
- 444 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 11:48
- と、ここまでです。
- 445 名前:メカ沢β 投稿日:2004/10/31(日) 12:18
- 森板
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wood/1099191701/
ヤゴヤゴを森板で立てました、以下ヤゴヤゴは森板のほうにアップします。
ヤゴヤゴ以外の短編はこのスレでアップします。
- 446 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:23
- 初めて読みました。
今更ですがサバイバルでずっと加護ちゃん、亜衣になってましたけど、正しくは亜依です。
- 447 名前:めかり 投稿日:2004/11/01(月) 22:00
- 八五夜語相変わらずおもしろ〜い
雪・森板どちらも楽しみにしてま〜す
- 448 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:17
- >>446名無飼育さん、ありがとうございます。
なんてこったい! いやはや訂正ありがとうございます。
>>447めかりさん、ありがとうございます。
どちらも期待に応えられるように頑張ります。
- 449 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:22
-
「転校生を紹介します」
人生で初めて受験生となった年、中学三年生の始業式の日。
全てが中学二年生の時からの繰り上がり、クラスメイトや担任に初々しさを覚えることはない。
一年ぶりに出席番号順に座る生徒たちに受験生という責任感はなく、田中れいなも例外ではなかった。
担任の言葉に騒々しさの収まる教室。
未だ熱気放つ生徒の中、亀井絵里はまるで関心がないと言わんばかりに文庫本を読んでいる。
窓から三列目の一番前だというのに亀井は堂々と読書に耽っている。
普通なら異常と思える彼女の行動を担任はさも当たり前かのように注意せず、
春休みの間に磨かれ綺麗になったクリーム色のドアへと歩いていく。
女子かな、と男子たちが囁く、田中もそうであればいいなと思った。
- 450 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:22
- 担任は教室の前の戸を開けると、田中の希望は叶った。
髪を二つに結び、大きな目、わりと背は高めで、わりと丸い顔、白い肌。
教室中が水を打ったように静かになった。
黒板の前、教卓の左側に立つと恥ずかしそうに視線を落とす少女。
チョークを手に取り黒板に何か書こうとしながら担任は言う。
「じゃあ自己紹介して」
「……ハイ。みちしげさゆみです、よろしくお願いします」
思っていたよりの短い自己紹介に微妙な間が空いた後、拍手が起こる。
ゆっくりとしたお辞儀をするみちしげが頭を上げると、その後ろの
黒板には「道重さゆみ」とかかれており、あれでみちしげと読むのか、と田中は思った。
初めの勢いはどこへやら、中途半端に盛り上がる教室。
異質に静まる小空間に田中は目をやる、拍手もせずに文庫本を読んでいるであろう亀井にである。
亀井は本を読んでいなかった。
ただただ、道重の顔をずっと見ている亀井。
田中が初めて見る亀井の姿だった。
道重はクラスを廊下側からゆっくりと見回している。
- 451 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:23
- 田中と亀井は小学校からの友達である。
昔も今もよく遊ぶ、しかし、それは二人だけの時。
元来、クラスの中心にいるような明るさの田中にクラスの端にいるような暗さの亀井。
できる友達の質が違うことは明らかである、中学も二年間クラスは同じだったが
教室ではそんなに仲良く接することはなかった。
田中の周りには人が集まり、亀井は常に一人だった。
田中と亀井が友達であることが関係しているかどうかは謎だが、亀井に対する
いじめは一切ない、その代わりなのか、亀井に話しかける生徒はいなかった。
それを意に介さないかのように、亀井は授業以外ほとんどの時間読書している。
亀井は道重を見たまま、まったく動かない。
窓から二列目前から四番目の田中にはそれが少しおかしく見えた。
窓側の一番奥まで見回し終ったのであろう道重は軽く視線を落とした。
亀井と道重の目が合った
- 452 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:23
- 一年近く一緒にいる生徒たちにとって新参者は興味の対象であったものの、
それ以上にはならず既に周りの友達を話し出すものがほとんどだった。
そんな中、田中は二人が共有したその瞬間を見ていた。
田中にとってそれは相当長い時間見つめ合っている気がした。
そこには音も風も時もなく、ただ二人がいるだけに見えた。
何物にも影響を受けない、完全に包みこまれた空間のように。
実際には三秒と目を合わせてはいなかった、亀井は視線を文庫本に落とし
道重は教室後方の壁に視線を放った。
担任に指示され道重は窓側一列目の一番後ろの席へ歩いていく。
その日一日、道重は注目の的ではあったものの、そんなに明るい性格でないと
わかった生徒たちの離散はあまりに素早いものがあった。
そんな生徒達のリアクションにもお構いなしといった感じの道重、その日はそれで終わった。
- 453 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:23
- 次の日には早速席替えがあった、既にクラスメイトの興味はそちらに注がれていた。
窓側から順に教卓のくじを引いていく。
道重の引いたくじは現在の道重の席と同じ場所を示しており、生徒憧れの席を
偶然とはいえ勝ち取った道重への賞賛の声は意外と少なかった。
田中の席は廊下側の一列目後ろから三番目、どうと言われてどうと返せない
中途半端な席にやや気持ちが沈む。
黒板には教室を真上から見た席位置が書かれており、田中は不本意な席に自分の
苗字を書き込んだ。
席に帰ると亀井がくじを引いているのが見えた。
特にリアクションもないまま書かれている席位置に亀井は苗字を書いた。
窓から二列目の一番後ろ――道重の隣
田中は偶然と思いたかった。
偶然、そう、偶然。
- 454 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:24
- ホームルームが終わり、おのおの新しい席への移動が始まる。
所々から、おぉよろしく、という声が聞こえる中、田中の意識はあの二席にあった。
二人が席に着く直前、二言三言会話があったのを田中は見逃さなかった。
それはどこにでもあるどうでもいい会話なのかもしれない、そもそも会話することに何の
不思議もない、はずなのに田中の中ではまた昨日のあの瞬間が思い返される。
二人以外何もなかったような空間、瞬間。
その日から明らかに亀井と道重は親交を深めていった。
クラスメイトも亀井と仲良くする様を見て道重に絡みに行かなくなっていた。
絡まなくなったのはそれだけが原因ではなかった。
道重は亀井が本を読むのと同様に、よく鏡を見ていた。
手鏡といえないぐらいの大きさの鏡をカバンから取り出し、特に髪形を直すわけでなく
ただジーっと鏡を見つめるのである。
鏡を見ながらたまに何か言っているようであったが、田中はその言葉を聞いたことはなかった。
- 455 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:24
- 亀井経由で道重と話すことは度々あった。
何度目かの時、田中は思い切って道重に聞いた。
「ねぇ、なしていつも鏡見とーと?」
そのときも会話しているはずなのに道重の顔を鏡を向いていた。
鏡から田中に向きかえる道重、なぜか笑顔だった。
「だってさゆかわいいんだもん」
理解するのに時間がかかる間、田中は道重と見つめあっていた。
田中が動き出す前に道重の顔は鏡に向かう。
未だ理解できずにいる田中に横から亀井が言い出した。
「さゆはこういう子だから」
それはとっくの昔にそれを理解したような言い方だった。
しかしそれにつっかかることなく、その言葉で田中は道重を理解した。
- 456 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:24
- 亀井が本を読む時間は減っていった、その分の時間は全て道重と話すために使われていた。
道重が鏡を見る時間は減らなかったが、亀井の話はよく聞き、ときに二人は笑いあったりしていた。
学期毎に席替えをするこの学級において、ある一角は完全に亀井と道重の空間と化していたが、
田中以外のクラスメイトは誰一人気に留める事もなく、その空間は次第に濃密さを増していった。
田中がとにかく驚いたのは亀井の変貌ぶりであった。
内気な亀井が大勢の人がいる教室などの空間で生き生きとしている姿を田中は見たことがなかったからだ。
盲目的に、という言葉とはこういうことなのか、田中は思った。
月日は流れ、田中が道重をさゆと呼べるようになった頃には既に夏休みに入っていた。
- 457 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:25
- 読書ばかりしているからなのか、亀井は成績がいい。
道重もポケ〜っとしているわりに成績はよい。
田中の成績は悪いものではないが二人ほどでもない。
田中は道重の成績を褒めると、そういうギャップもまたかわいいの、と言われ
また少し固まってしまったことがあった。
夏休みの中頃、田中は亀井の家に向かっていた。
亀井は夏休み前に夏休みの宿題を終わらせており、田中は判らないところを聞きに行こうとしていた。
特に約束はしていなかった、亀井は携帯電話を持っておらず家の電話にかけても誰も出ない。
昼だしまだ寝ているのだろう、田中は思った。
亀井の家の玄関前で携帯電話を取り出し、時刻表示に目をやる。
一二時四十八分
ちょうど起きごろの時刻だろう、田中は思った。
- 458 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:25
- 亀井の家のインターホンを押す、電子音が家に響く。
誰も出ない。
もう一回押す、響く、誰も出ない。
「んもう〜」
田中の独り言にももちろん反応はない。
小さな怒りからドアノブに手をかける。
回った。
「あれ?」
誰もいない家の玄関が開く。
修正すべきは、誰もいないではなく誰かいるということ。
ドアを開くとピンクの靴が一足、整然と置かれていた。
誰のものか、時間はかからない。
- 459 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:26
- 「絵里〜さゆ〜、いると〜?」
返事はない。
「絵里〜、入るけんね〜」
靴を無造作に脱ぎ、妙な遠慮なのかそっと床に足をのせる。
どれだけそっと歩いても、田中の足音しか聞こえない。
玄関からすぐの階段を静かに上がる。
昼だからなのかどこの電気もついていない。
窓のない暗い階段を一段ずつ、息を殺して上がっていく。
田中には静かにする必要はどこにもないのに、なぜかそうしなければならない気がしていた。
二階の廊下と目線が同じ高さになる、亀井の部屋は廊下の突き当たり、ドアは閉まっている。
家の空気が止まっている、田中が動くことでやっとかきまざされる空気。
本当は誰もいないのではないだろうかという不安が田中の中に湧き上がる。
- 460 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:26
- 亀井の部屋から、何かが動く音がした。
硬いものと硬いものが触れる感じでぶつかったような、そんな音。
ビクッと体を震わせる田中、先に湧き上がった不安は姿を消したものの、
それとは別の言い知れぬ不安は形なく姿を現そうとしていた。
「絵里〜」
未だ控えめに亀井を呼ぶ田中。
それでも十分家中に響くほど、家は静まり返っている。
「れいな〜、ちょっと静かにしてぇ」
ドアの奥ということもあるのか、小さく聞こえたその声は間違いなく亀井の声だった。
しかし、形なき不安は未だ田中の心に居座っている。
- 461 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:26
- 言われた通り静かに亀井の部屋の前まで来た。
中から物音は聞こえない。
「絵里、入るよ」
小さくそう言いドアノブをひねる。
暗い廊下に淡い光が差し込む。
窓の下に置かれたベッド、その前に亀井は座っていた。
亀井の手前には黒いテーブルがあり顔は見えないが亀井の膝枕で寝ているのはおそらく道重であろう。
昼間だというのにカーテンは閉まっていて廊下に漏れてきた光は蛍光灯の光だったことは田中にとっては
どうでもいいことだった。この時は。
「れいな、どしたの?」
「いや……宿題教えてもらおうと思って」
「ふ〜ん」
異様な空気の壊れない静かな会話、道重は起きない。
- 462 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:27
- 「いつからさゆ寝とんの?」
「ついさっき。さゆは寝付きが早いんだよねぇ」
そういいながら優しく微笑み道重の頭をなでる亀井。
言葉からも、仕草からも、幾度も経験があることを田中は悟った。
その時の亀井の笑顔は、田中が今までに見たことのない種類のもので、思わず見惚れる種類のものであった。
「宿題だっけ? 机の上にあるよ」
「えっ、ああ」
亀井の言葉で我に帰る田中。
机の上には紙の束は積まれている。
机に近づき、宿題の選別をする田中。
その間も亀井と道重から音は聞かれなかった。
必要な宿題を選び終えた田中。
亀井を見るとまだ道重の髪をなでている。
この空間に自分はいられない、田中は思った。
- 463 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:27
- 「コレ借りちゃってもよか?」
「いいよ」
必要以上の言葉が響かない空間。
宿題をカバンにしまう音だけが部屋に響く。
机の横に来ると道重の表情が見えた。
実に幸せそうで、屈託もなく、安らかに、眠っている。
「さゆ、かわいいよね」
「えっ、あ、うん」
亀井の左手が道重の方から腕、指先へを撫でる。
愛しそうに、優しく、優しく。
「さゆはいつまでかわいいんだろ?」
亀井の発言を田中は瞬時に理解できなかった。
- 464 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:28
- 「さゆはいつまでかわいいんだろうね? れいな」
亀井の視線は疑問を投げかけた田中ではなく道重の透き通るような頬に注がれている。
質問の意味がイマイチ理解できない田中だが、何か答えなければならないと思った。
「おばあちゃんになったっちゃかわいいんじゃなかろうね」
本心であるか嘘であるかなんてどうでもよかった、田中はとにかくこの空間を脱したかった。
亀井の左手が止まった。
「そうかなぁ……」
先ほどから田中の中に棲みついている形無き不安が、恐怖となって具現化されていく。
それはまだはっきりと輪郭さえ持たないが、とにかく恐怖になることは間違いなかった。
- 465 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:28
- 「さゆは今この瞬間、かわいい」
さっきよりも幾分トーンの落ちた亀井の声。
「この瞬間も。この瞬間も。この瞬間も……」
「絵里?」
田中は言葉として聞き取れないが、まだ亀井がつぶやいているのはわかった。
「でもね」
改めて、空気が止まっていることを田中は知った。
「次の瞬間はわからないんだ」
- 466 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:28
- 不可解の糸はどんどん絡まり、塊と化していく。
「次の瞬間にはもうかわいくないかもしれない」
「な、何言っとー絵里、かわいいに決まっとるとね」
未だ空気は止まっている。
無音。
- 467 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:29
- 「そんなのわかんないもん」
亀井の声が少し荒くなる。
無音。
- 468 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:29
-
「花は咲く、とっても綺麗に咲くの。でも……」
亀井の視線は未だ道重の頬に止まっている。
田中が亀井を凝視し始めてから、亀井は一度も瞬きしていない。
無音。
- 469 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:29
-
「枯れる」
その言葉は淡々と、冷徹に。
それでいて悲壮さえ田中は感じた。
言葉とは裏腹に亀井には何の変化もない。
無音。
- 470 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:30
-
「かわいくないさゆなんて、絵里は嫌」
道重は我知らん顔を眠っている。
田中は声が出せなかった。
まだ恐怖はその姿を見せていない。
無音。
- 471 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:30
-
「さゆはね、ずーっとずーっとかわいくないといけない」
亀井の声はそれは優しいものだった。
田中の足が震えだした。
無音。
- 472 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:31
-
「ずっとずっとずっとずっと……永遠に」
出たい、とにかくここを出たい。
田中は恐怖に駆られる心をどうにか抑え、部屋を出る理由を考える。
無音。
- 473 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:31
-
「さゆは永遠に美しくないといけないの」
用事があるから、田中はコレにかけるしかなかった。
無音。
- 474 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:31
-
「絵里、あのさ、れなちょっと……」
田中は部屋の時計を探す。
亀井は振り向かない。
道重は目を閉じ体を僅かながら上下に揺らしている。
無音。
「これから用事が―――」
時計を見つけた田中の言葉が止まった。
- 475 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:32
- 白い壁にかけられている時計が、割れている。
円形の時計が中心から放射状に割れている。
お気に入りだからと部屋の一番目立つ所にかけるんだ、と言っていた時計が、割れている。
田中の全身が震えだした、恐怖はまだ完全に姿を現していない。
机の上の目覚まし時計も割れている、黒いテーブルの上の目覚まし時計も、腕時計も、割れている。
部屋にある時計という時計は全て割れていて、止まっていた。
ポケットから急いで携帯電話を取り出す。
震える手は効率的な作業を妨げる、やっとの思いで二つ折り携帯を開けた。
画面の右上、小さく写るデジタル時計。
一二時四十八分
- 476 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:32
-
「れいな」
名前を呼ばれただけなのに体をビクッと大きく震わせる田中、拍子に携帯電話を落としてしまった。
笑い声が起こるはずもなく、亀井は続けた。
「うつくしい、って知ってる? あれはね、さゆのためにあると思うの」
- 477 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:32
- 田中は気付いた。
恐怖は姿をまだ現していないんじゃない
あまりに大きすぎて、ただ全体が見えなかっただけなのだ
田中を包み込むには、この部屋を包み込むには、この家を包み込むには十分すぎるほどの大きさであるということに
何もかも、時さえも包みこんでしまうほどの大きさであるということに
そして、全てはその内で動いていたのだということに
「うつくしいってね―――」
「イヤーーー!!!」
田中は駆け出した。
亀井がまだ何か話しているがお構いなしにドアに向かって走る。
部屋のドアをブチ破るがごとく開き、廊下階段を必死で走った。
靴もまともにはかないまま玄関を開け、外に飛び出した。
携帯を落としたことを一瞬悔やんだが、もう一度あそこに戻らなければならないのだとしたら諦めもついた。
- 478 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:33
-
夏休みが明けても、亀井と道重は姿を現さなかった。
きっと二人はずっと一緒にあの部屋にいるのだろう、田中は思った。
ずっとずっと、永遠に……
- 479 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:33
-
うつくしい、って知ってる?
うつくしいってね
二本の角を生やして
六本の腕を大きく広げてるの
それはまるで
全てを包み込むようにして
でもそれは誰もせいでもないの
美っていうのは
人間の狂気そのものだから
- 480 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:33
-
完
- 481 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/05(金) 13:35
- 以上、「うつくしいということ」でした。
- 482 名前:ヤグヤグ 投稿日:2004/11/15(月) 23:06
- 「うつくしいということ」読ませていただきました。
何か最初から怪しげな雰囲気でしたが、こういう結末ですか。
ちょっと怖い・・・
両板とも楽しみに待ってます。頑張って下さい。
- 483 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:44
- >>482ヤグヤグさん、ありがとうございます。
両板期待を裏切らぬよう頑張りたいと思います。
「美」という漢字を見る度思い出していただければ幸いです。
近々新スレ立てようと思ってますんで、そっちもどうぞよろしくお願いいたします。
- 484 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:45
-
夏、東京では連続真夏日日数の記録を更新した夜。
十数人の女が乗っているに関わらず静まりかえるバス車内。
彼女等はなかば半強制的にこの空間においての睡眠を課せられているようである。
無理もない、常に目の下に隈を作りながらもカメラを向けられれば笑顔を強いられる職業、アイドル。
一時超爆発的な人気を博していた時代よりかは多少マシになったものの、スケジュールの過酷さは
常人の生活リズムでは到底耐えられるものではない。
一時間ちょっと前まであれだけカメラの前ではしゃぎきっていた彼女達はインスタントな休息を
コンスタントに取る以外休める時間がないのである。
静かな寝息の交響とエンジンの単調なベース、たまに似つかわしくないいびきが楽曲に妙なアクセントを残す。
しかし、そのオーケストラの演奏とは無縁の、流行の洋楽をイヤホンで聞いている田中。
目を閉じ音楽を聴くことに集中している田中は一見すると周りの楽団員と一緒ではあるが、
音楽を聞いているのは田中だけであった。つまり、起きているのは田中だけだった。
- 485 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:45
-
女性ヴォーカルの声と共にバックの演奏までもが徐々にフェイドアウトしていく。
体に感じるエンジンの振動とエンジンの奏でるベース音がイヤホンをしてから初めて調和した。
その調和に心地良さを感じ出そうとしたその刹那、ビープ音が鼓膜を震わす。
目を開き手元のMDウォークマンの液晶を見る―――Battery Empty
彼女にとってそれは予期していた事態だった。なぜなら昨日、充電し忘れていたのだから。
とはいえやはり不機嫌になる田中、液晶を一瞬睨んだ後イヤホンを外し足元のカバンにしまった。
背もたれに頭まであずけるようにして座ると、田中は車内の退屈なシンフォニーに気付いた。
静かに体を起こし廊下側に座る亀井を見てみると、いつものニヤニヤ顔ではなく至って真面目な面持ちで眠っていた。
田中は前の座席の背もたれに手をかけ、腰を浮かせると同時に自身の背もたれにも手をかけて、腰から上を右にねじった。
どこかで聞いたことのある薄暗い柿色の車内灯は彼女達の演奏を妨げない様にといささか弱く灯っている。
その光は彼女達の顔を暗くともし、田中はその中であることに気が付きそれを無意識に声に漏らした
「みんな寝とー……」
田中の独り言を無視してなおもオーケストラの演奏は続いている。
視界の左側から一人づつ見てみても、皆熱心に自身のパートを弾いている。
視界も終着地点に差し掛かり、田中は自身の真後ろの座席を見た。
紺野と道重が並んだ座席の中央に寄り添うようにして眠っている。
田中の双眸は二人のある部分をロックオンした。
- 486 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:46
-
田中は予てから周囲の人々に言われている言葉がある。
―――細い―――痩せている
世間一般女性群に浸透している「細い」=「きれい」という一概に正しいとは言えない公式に見事にはまり、
またアイドルとしての体型維持、とそのための努力、その他云々により田中の体は細い。
服の着こなしやらヘソ出しやら水着やら、人前に出せる体のラインであるしなにより田中自身も細い自分を気に入っている。
しかし、田中にはそれに相反するかのような性質があった。
なにをかくそう、ほっぺたフェチなのである。
幼少時代より他人のほっぺたを触ることを第一のコミュニケーションとし、老若男女様々なほっぺたを触り尽くし、
今では見ただけでそのほっぺたの感触、弾力、質感、重量感、肌のキメ……ほっぺたに関する様々な情報が大体わかるようにまでなった。
彼女の好みのほっぺたはプクッと膨らんだ、ぷにぷにほっぺたである。
そんな彼女の興味は当然といえば当然、とある二人の少女に向けられるのだった。
常に近くにいるからこそその魅力は存分に伝わってきている、にも関わらず思春期特有の照れともいえる感情が
田中の行動への第一歩を留まらせている。それはまさに欲望の飼い殺し状態だった。
見てそれが極上のほっぺたであるというのに、それは近くにあるというのに……田中のフェティシズムは破裂寸前であった。
みんなが寝ているという状況が、田中一人が起きているという状況が、標的の二人が並んでいるという状況が、
田中の中にあったほっぺたに対する溜め込まれた欲望を爆発させるに至ったのだった。
- 487 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:46
-
田中は足元から体ごと反転させ、膝から座席に乗り立ち膝状態になった。
眼前の紺野と道重は田中が放つフェティシズムの熱波に未だ気付かず、心地良く眠っている。
田中は背もたれをゆっくりと慎重に下げていく、真後ろの道重に当たらぬよう使った事もない神経までも尖らせゆっくりと、ゆっくりと。
背もたれは無事最後まで倒れ、欲望の掛け橋へと変貌した。
周囲を見渡し邪魔者がいないか確認すると、田中は底無し沼に沈んでいくかのように音も立てず背もたれに体を預けた。
手を出したい欲求を何とか抑え、まずは観察から始めた。
普段下膨れだと悩んでいる紺野の輪郭はまさしくその通りであるが、故にその頬に豊満さを蓄えさせており、
顎からえらの辺りまでは堪能するに十分なほどの柔肉が包みこんでいる。
その点道重は紺野よりか顎のラインが出るものの、頬全体が若さの作り出す弾力を保持しているのが見るからにわかり、
白くて滑らかな柔肌は超高級和菓子でさえなしえなかった極上の感触を導き出しているに違いない。
薄暗い車内灯では我慢できず右手でカーテンを開けると、ハイウェイを保安する街灯が次々と流れていく。
斜め左下を見るように顔を傾げて眠る紺野のほっぺたをオレンジの光が駆け抜けていく、紺野を鏡に移したような角度で眠る
道重のほっぺたの上も光は走り去っていく。
光が二人のほっぺたに乗った瞬間から美しい隆起、いや曲線を描く光と影がほっぺたを3D照射しているように見えて
田中の内で湧き上がってくる情炎は見事なまでに噴火した。
- 488 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:46
-
背もたれの登頂部に左手をついて、右手を軽く伸ばす。
右手の人差し指を立てると、ほっぺたは間合いに十分入っていた。
指先は道重の右頬へ進路を決めていた。
押し沈められた人差し指から伝わる感触、それは細かいようで大胆な弾力。
なにをいうにもまず若さが全ての前提となりその弾性を造形し、細胞レベルでの押し返しが触れた面全てにおいて感じられる。
押しこんだ頬肉が自身で反発し、周りの頬肉はそれを助けるようにまた反発し、全ては弾力の名のもとに
人差し指を心地良く押し返す。
透き通るような雪肌は華奢で繊細な様相以上に滑らかでしっとりとした触り心地をしている。
何度指を押し込めてみてもその度完璧な頬肉の完璧な反発力が押し返してくれる。
ゴムボールというには些細で精巧、プリンというには豪胆で柔靭な弾力。
たかだか一本の指で触れているだけなのに伝わってくる快感は全身に駆け巡り、脳に集約する前に
指が、体が、彼女自身が、勝手に快楽へのアクセスロッドを突き動かす。
- 489 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:47
-
念願の幸福に陶酔する田中。
人差し指は名残惜しそうに道重のほっぺたを離れ、次なる着陸地点へと浮遊していた。
着陸した先はもちろん、紺野の左頬。
頬に触れまた押し込まれていくまでの間、終始主人格が持つ優しさを表わすように優しい弾力が人差し指を包みこんでいく。
全てが優しく、全てが柔らかく、道重の頬がまだ制服を着る少女ならば紺野の頬は新任の若い保母さんのような、
若さと共にとにかく優しさが全体を包括する感触。
食事に時間のかかる紺野の頬は他人に比べ何倍も動かされ、頬の細胞はその分刺激を受け活性化し、その
豊熟に実った頬肉は自身の重量に負けることなく美しいフォルムを保ち、また押し返すだけの弾性を誇っている。
たおやかな頬の表面はほんのりと紅色を帯び、熟れた果実を連想させる。
指を押し沈めたまま震わせてみると頬全体に細漣が広がり、わずかに左頬まで達するもそれも
彼女の慈愛に満ちた頬肉が分子レベルで受け止め静める。
田中によって隆起と陥没を強制された玉肌はどんな輪郭を描こうと美しい。
- 490 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:47
-
欲望の噴火は留まることを知らず噴き上がる。
これはある種肉欲とも言うべき人間の本能なのかもしれない、と田中は思った。
若干痺れた左手を前に出し、右手と左手で道重の頬を包むように触った。
天使の柔肌というべき感触が手の平全体に広がり、田中のエンドルフィンは過剰分泌されていく。
二度と離れない、離したくなくなるような肌の吸いつきと赤子のような無邪気な弾力。
両手の幅を狭めるとその濃厚な弾力は道重の唇まで及び、自身の弾力に負けた唇はそっと離れていった。
その間もフレッシュな果汁が弾けそうなほっぺたは田中の手の中で存在感を誇示している。
少し強く両手を当てると挑発的で挑戦的な反作用が手の中ではちきれんばかりに押し返してくる。
ほどばしる快感のせいに思わず溜め息が出てしまう田中。
ピチピチに張り詰めた頬肉がパチパチと手の内で炸裂し、田中の脳内で鋭い喜悦が爆発する。
狂わしいまでの弾力感はまだ高校生にも満たない道重だからこそなせる技であり、天性だった。
- 491 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:47
-
永遠の幸せを手に入れたような心地の田中。
しかし田中にはまだ残っている、もう一つの極楽浄土。
少し腕を伸ばし、紺野の両頬に両手を当てた。
田中の両手が包みこんでいるはずなのに、優しい弾力は惜しげもない優しさで包みこんでくれる。
指同士の隙間にもフィットし、手のしわにまでフィットし、さらには指紋にまでフィットしてこようかというぐらいの柔らかさ。
両手の幅を狭めてもその圧力は全て頬が優しく受けとめ、唇が開くことはなく、また幸せにわずかな重圧が手の平に広がる。
全てを許してくれる母の深く寛大な愛さえ感じてしまうような頬の柔軟な感触。
未曾有の快楽に田中の頬は上気していた。
もう少し両手の感覚を狭めてみれば豊満な肉塊が逃げ場を失い指の間から顔を出す。
田中の手では遮蔽できないだけのボリュームが手の中で弾け広がる。
目論見つかずして膨らみへと試み、微睡を含んだとろみある快感がしがらみを知らぬと言わんばかりに弾け、
剥き出しの悦楽に立ちくらみしそうな感覚に陥った。幸福な眩暈。
至宝の豪頬は違法の異宝であり、田中の鋭鋒からは解放された快感が絶え間なく押し寄せ、理性が壊崩しそうになる。
- 492 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:47
-
両者田中の欲望を十二分に満たすほっぺたの持ち主であったが、田中には紺野より道重のほっぺたの方が好みだった。
再度道重の頬に両手を当てる、幸せな感触が理性のたがを外した。
ペチペチ道重の頬を叩き幸せを感じている田中、道重の目が薄っすら開いたことにさえ気付いていない。
突然道重の目が開き街灯を写した。
田中の理性は一瞬にして戻ったものの両手を引くことができず、二人は見詰め合った。
ゆっくりと道重の両手が田中の頬を包むと、道重が起き上がってくる。
ただただ呆然と固まる田中。
起き上がってくる速度そのままに、ゆっくりと道重は田中と唇を重ねた。
幼少の頃から自身の顔のパーツをいたく気に入っていた道重であったが、感触が一番好きな部位は唇であった。
自身のを触り、また姉や同性の友達の唇を触っていくうちにその感触、弾力、潤い、質感……が見るだけでわかるようになっていた。
なにをかくそう、道重は唇フェチなのである。
予てから最も感じてみたかった田中の唇を自身の唇で……
- 493 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:48
- 以上、「狭小の悦楽」でした。
- 494 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:49
- >たかだか一本の指で触れているだけなのに伝わってくる快感は全身に駆け巡り、脳に集約する前に
>指が、体が、彼女自身が、勝手に快楽へのアクセスロッドを突き動かす。
エロ小説じゃないんだから……
- 495 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/26(金) 09:50
- 「サバイバル」を読んだ人は1,05倍くらい楽しめるかと……
それではレス隠しもこの辺で。
- 496 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:35
- 中編をUPしようと思います
- 497 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:35
-
23:50
わたしが生まれてから今まで、いやつい何時間前まで今日という日はなんてことない日だと思っていた。
祝祭日でもなければわたしの住む小さな町でも何の行事もない。
何も知らなければ今ごろ家で辞書片手に勉強でもしているか、部屋で音楽を聴いて雑誌でも読んでいただろう。
知ってしまったからこそ、何もなかったはずの今日がとても愛しく、意識しなくても訪れる明日がとても恨めしく思えてしまう。
だからこそ今この瞬間も、二人の約束が果たされることを切望している。
全く関係のない私だけれど……いや、だからこそ。
最後に通った電車もだいぶ前のこと、駅に来る迎えの車ももうしばらく見ていない。
さきまで降っていた雪はつい先ほどやみ、静寂はおそらくいつもと同じくこの場に居座っている。
今駅前にいるのは私を含め二人だけ。
飛び入りのわたしがいるから二人なのであって、本当に必要な一人がまだ来ていないだけなのだが。
この街で少し有名な、わたしの七倍くらいの高さを誇る駅前の大時計は自身の職務を忠実にこなしている。
その仕事ぶりを静かな深呼吸と共に見守る一人の女性。
彼女の胸の内はわたしが思う気持ちなんかとっくに凌駕しているに違いない。
ずっとずっと持ち続けてきた希望と、受け入れたくない現実と、その先にある絶望が犇めき合っているのだろうから。
だからこそ寒空の下わたしはまだ見ぬその人を待っているのだ。
- 498 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:36
-
◇ ◇ ◇
- 499 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:36
-
7:00
布団の温もりが恋しくて仕方がない寒さの中、冬休みボケの生活に似つかわしくない時間に目覚ましが鳴る。
めざましテレビのめざまし君のような典型的な目覚まし時計の音は意外に大きい。
寝ぼけ眼で時計を探し、せわしなく往復運動を繰り返すハンマーを指で止めながらスイッチを切った。
ベッドの中で蓄えた暖かさもすぐに部屋に奪われる。
掛け布団に潜りたい気持ちと体をどうにか抑えまずは暖房を付けた。
冬休みも残り一週間、来年は受験でこんな生活はしていないだろうというぐらいボケ〜っとして過ごしていた。
今日は友達と少し離れた街に遊びに行く、だからこんなに早く起きたのだ。
北海道はこの時期一番冷え込んでくる。
カーテンを開けるとまだ闇の抜け切らない空が見える、雲はほとんど見えない。
昨夜の天気予報でも今日は快晴だと確認している。
少々の寒さを承知で思いっきり伸びてみた。気持ち良かったけどやっぱり寒かった。
それにしても起きるのが少し早かったかもしれない。ちょっとはしゃぎ過ぎたかな?
- 500 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:37
-
8:35
家を出た。
太陽は寝坊を取り戻すように上がっていて、雪に照り返された光がやたらとまぶしい。
徒歩一五分ほどで着く駅で待ち合わせ、雪道だから早めに家を出たのだ。
こんな天気の日はむしろ道路をツルツルしている、道産子の知恵というべきだろうか。
待ち合わせ場所は駅の改札前。
駅前はタクシーやバスの交通を考え楕円状の道路がある、その楕円の中にある大時計。
駅入り口と大時計と私はオリオン座の三ッ星の位置にいた、時刻は現在―――
8:53
予定通りに事が進んだ私はこれから町に美味しいものを食べに行くことで頭がいっぱいだった。
ウキウキした足取りで駅入り口へと向かう。
朝再三注意したはずなのに、つい浮かれてしまった足元を冬の路面は見逃さなかったようだ。
今シーズン八回目の無重力。
お尻に激痛が走る、だけど北海道は大好きだ。
雪と痛みを払いながら注意して立ち上がった。
太ももやふくらはぎ辺りの雪も払い顔を上げた、その時だった。
- 501 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:37
- 駅と時計と垂直に交わらせた交点に女の人が立っていた。
生チョコレート色のブーツに白いコート、他の服装とは少し違和感のあるピンクのマフラー。
顔は良く見えないが雪のように綺麗な白肌、遠目でも美人とわかる。
バス停とはやや距離があるが、バスでも待っているのだろうか?
コケた場所でその女性を見ていた、雪化粧を施した駅前に不思議と調和はしていたその女性は美しかった。
芸術なんて全くわからないけど、絵になるとはこういうことなんだと思った。
刹那、肩に重みを感じた。
「な〜につっ立ってんの?」
振り向くと頬に指が刺さった。
軽薄な悪戯にケラケラ笑う女の子、友達のまこっちゃんだ。
「あ、まこっちゃん」
「またボ〜ッとしてたんでしょ?」
「いやボ〜ッとなんて―――」
「早く行こ、多分愛ちゃんも里沙ちゃんももう来てるよ」
手を繋ぎ走り出すまこっちゃん。
あの女性の事を言おうかなと思ったが、不安定に引っ張られまた宇宙を体験したくなかったので走ることに集中した。
駅に入る直前、横目にあの女性を写した。多分綺麗だった。
- 502 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:38
-
8:59
駅の改札までは二階分の階段を上らなくてはならない、既に待ち合わせ場所にいた愛ちゃんと里沙ちゃんの所に
着いた時には少し息が切れていた。
「ハァハァ……セーフ!」
息も絶え絶えまこっちゃんが叫ぶ、駅にいる数人の視線が集まるが気にしていない。
私は駅員さんと目が合ってしまい、恥ずかしさを頭を軽く下げるだけの会釈で打ち消した。
「セーフだけどギリギリだよ二人とも」
「いやぁだってあさ美ちゃんがボ〜ッとしててさぁ」
息の整ってきた私の肩を叩きながらまこっちゃんが言った。
「えっ、いやボ〜ッとなんてしてないよ」
「まぁ食べ物のことばっかり考えてたんでしょ?」
「いやぁそんな……」
食べ物のことを考えてなかったと言えば、嘘になる。
とはいえあの場に立ち竦んでいたのは食べ物のせいじゃなくて、あの女性。
「そんなことよりも二人とも早く切符買いなよ」
里沙ちゃんに促されキチンと弁解できないまま切符売り場に向かう。
まぁいっか。
- 503 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:38
-
9:05
向かいのホームの後ろは小さな崖のようになっていて、その斜面に生えている木々もすっかり白く覆われている。
ホームは人もまばらでそれぞれが思い思いのコートを羽織り、白い息を吐いて電車を待っている。
ホームに吹き込んだ寒風に反応してコートの中に顔を埋めながら愛ちゃんが言った。
「まこっちゃんの言ってた店ってほんとに美味しいの?」
「だから美味しいって、この前家族で行った時メチャメチャ感動したもん」
「なんだっけまこっちゃんが食べたって言ってたの、スープかぼちゃカレーだっけ? あれっ? かぼちゃスープカレー?」
「かぼちゃスープカレー」
「そんなんどっちもおんなじじゃん」
「おんなじじゃないよ! ねぇあさ美ちゃん?」
「あっ、うん」
「ほらぁ」
「あっ、電車来たよ!」
愛ちゃんの視線の先には少々古い型の赤い電車。
朝日に照らされたその姿は見慣れているせいか、おしろいを塗っていてもそんなにかっこいいもんじゃなかった。
わたし達の前で徐々に減速していく電車の中にはほとんど乗客はいない、これならすぐ座れるだろう。
停止線とは一メートル近く離れて止まった。まぁ冬だからこのぐらいの誤差はよしとしよう。
降りる人もいないので颯爽と乗り込み四人掛けのイスをゲット。
眼前の二人、まこっちゃんと里沙ちゃんがまだかぼちゃスープカレーのことで言い合いをしていた。
- 504 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:38
-
9:53
札幌に着いた。
大通りは雪祭りの準備で多くの人がいた。
雪像も途中のものがほとんどだった。
10:26
里沙ちゃんお気に入りの服屋さんに行った。
里沙ちゃん御用達のこの店はわたしのセンスともよく合った。
服を見てまわっている途中、愛ちゃんが小声で「不思議な店」と言っていた。
11:30
次は愛ちゃんがよく行くアクセサリーショップに行った。
まこっちゃんは終始カボチャ柄のアクセサリーを探していた……ないと思うよ。
四人お揃いのブレスレットを買った。
12:34
まこっちゃんが言っていたカレー屋さんに行った。
アタシとまこっちゃんはカボチャスープカレー、愛ちゃんは野菜スープカレー、里沙ちゃんは激辛スープカレーを頼んだ。
まこっちゃんの言っていた通り、頬が落ちそうになるくらい美味しかった。
里沙ちゃんは激辛スープカレーが思っていたより辛かったらしく一口食べる度に「辛っ」と言っていた。
- 505 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:38
-
14:02
映画を見た。
チケット売り場で何を見ようか話し合って、結局三人が”銀のエンゼル”が見たいということでそれに決まった。
ついでに、里沙ちゃんは一人”笑の大学”が見たいと言っていた。
16:25
ゲームセンターでプリクラを撮った。
撮った写真を画面で色々いじっていたらまこっちゃんの顔がめちゃくちゃになった。
里沙ちゃんがそれを見て「鼻かんだティッシュみたいな顔」と言ってみんなで爆笑した。
16:53
里沙ちゃんの門限が午後六時なのでみんなで帰ることにした。
「高校生なのに門限が早いね」とまこっちゃんが言っていたがわたしの家も門限が午後七時なのでただ頷くしかなかった。
17:47
駅に着いた。
改札を出てから帰る方向が逆の愛ちゃんと里沙ちゃんにさよならした。
わたしとまこっちゃんも来る時は急いで上った階段を今度はゆっくり降りた。
- 506 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:39
-
17:50
入り口を出る直前、あの女性のことを思い出した。
頭の中で色白の顔とピンクのマフラーが浮かんだ。
出てすぐ何気なしに彼女のいた方を見た。
ピンク色が目に飛びこんできた。
「あっ」
「どうしたのあさ美ちゃん?」
「あっ、いやぁなんでもないよ」
「ん〜変なあさ美ちゃん」
すぐに視線は逸らしたものの、あれは間違いなくあの女性だった。
あの女性はずっとあそこにいたのだろうか?
「じゃああさ美ちゃんじゃ〜ね〜」
「えっ、あ、じゃ〜ね〜」
気が付くとまこっちゃんと別れる十字路まで来ていた。
まこっちゃんの後ろ姿を眺めていた。途中まこっちゃんが振りかえり大きく手を振ってくれた。
わたしも手を振り返したが頭の中はあの女性のことでいっぱいだった。
チラホラを雪が降り始めていた。
- 507 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:39
- 18:11
家に着いた。
それまでの帰路もずっとあの女性のことを考えていた。
なぜあそこに朝からずっと立っているのだろう?
そればかりが頭の中を廻っている。
母に今日買ってきた物を見せ、食べてきたかぼちゃスープカレーの美味しさを伝えた。
母もかぼちゃスープカレーが食べたいと言った、やはりこの辺は遺伝なのだろうか?
部屋に戻ってもまだあの女性が気になっていた。
もういい加減忘れなければと思い、机に向かって英語の教科書を開いた。
窓の外の雪が心なしか大きく多くなっていた気がした。
- 508 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:39
- 19:20
夕食を食べ終えお風呂に入って、出た。
部屋でドライヤーを掛けながらかぼちゃスープカレーを思い出していた。
思わず、ハァ〜とため息をついてしまった。
近いうちにまた食べに行こうと思う。
19:33
やりかけていた英語の勉強を再開する。
やはり英語は苦手科目なだけあって頭に入っていかない。
中学生の時でも英語には苦労したのに、高校英語は格段にレベルが上がった感じがする。
なぜ英語で遺伝子組換えトマトの話を読まなければならないのだろう。
- 509 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:40
- 19:59
それでもなんとかやり終えた。
椅子に座りながら思いっきり伸びてみると肩の骨が鳴った、ちょっと気持ちいい。
カーテンを少し開け外を覗くと降っていた雪は大粒と化していて数もたいぶ増えていた。
今になって天気予報は外れたが今日やるべきことは全部終わったし、まぁ許してあげよう。
カーテンから手を離し部屋に視線を戻すと机の上の英語の教科書が目に入った。
全く、なんで英語なんでやり始めたのだろう……
英語に対するお門違いな怒りから、また思い出してしまった。
あの女性のこと。
- 510 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:40
- 20:19
一度気になりだしてしまった以上、もう頭から離れない。
ベッドにうつ伏せに寝っ転がって目覚ましの秒針を目で追う。
―――今のまだいるのだろうか
まさか、それはないだろう。わたしが初めて見た時からもう一二時間以上経っているのだ。
―――でも……もしかしたら……
ベッドから起きてカーテンを開けた。
先程よりも柔らかく大きな氷の結晶は音も無く先に降りた仲間の上に覆い被さっていく。
カーテンを閉め、窓を背に体育座りをした。
―――あの人は……
一瞬しか見ていないあの女性の顔がフラッシュバックする。
―――きっと……
あの女性の目は優しそうで、悲しそうで、美しかった。
―――きっと……いる
勢いよく立ち上がると身支度をして、家族に気付かれないようにそっと家を出た。
玄関を出た途端、雪が頬に触れ冷たさを伝えきる前に溶けた。
- 511 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 11:40
- 今日はここまで、と。
- 512 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:19
- ちょっとテスト
>>2-5
- 513 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/07(火) 19:51
- なんかいいね〜w
あの人はきっとあの人に違いない!w
- 514 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:03
- 20:34
よくコケないで来れたものだと走りながらに思う。
長距離は得意なほうだとはいえ舗装道路と雪道では疲れが違う。
やっぱり天気予報が外れたことは許さないでおこう。次男坊め。
駅前スーパーに隣接するマクドナルドの横で止まった。
膝に手を着き冷たい空気を体の奥にまで吸い込むと、それと同じ時間だけかけて吐き出した。
何回か深呼吸をして体は落ち着いてきたものの、心の騒擾は一層かきたてられていた。
この角を曲がれば……
- 515 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:04
- 20:35
いた。
やっぱりいた。
推測憶測ではなく確信を持っていたから、いることに驚きはなかった。ただ、なんだか嬉しかった。
その女性は顔をピンクのマフラーに埋め、積もる雪を見つめていた。
いや、その雪に焦点はないかもしれない。とにかく俯いていることだけはわかった。
雪はわたしが家を出た時とかわらず降っていた。
わたしとあの女性の間は大体五十メートル。
白いカーテンのせいでたまに見えなくなることがあるが、それでもピンクのマフラーだけは欠かさず認識できた。
20:36
さて……。
わたしは何も考えていなかった、ただあの女性がまだいるかどうかを確認したくて家を飛び出してきたのだから。
さて……。
- 516 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:04
- 20:37
何も思い付かなかった。
だが、もうやることは一つしかないような気がしていた。
少しの間立っていただけなのに全身に雪が纏わりついていた。
手で軽く払い、角を曲がった。
わたしは終始あの女性を見ていたが、向こうは一切こちらに気付いている感じはしない。
十メートルほど歩き、スーパー前の自動販売機の前で止まった。
ポケットから財布を取り出す。思っていたより軽い。
今日買い物に行ったことを思い出した。
かぼちゃスープカレーを食べた、ブレスレットも買った、映画も見た、プリクラも撮った……。
回想のたび明確な金額が浮かび上がり、その数字に安易な羽根が生えて闇の彼方へ飛んでいく。
電車賃もあったな、と思い出すとその数字は遅れまいと一生懸命に飛び去っていった。
夏目さんもヒゲにメガネのおじさんもいなかった。
昨日福沢さんを大事に机の引き出しにしまってしまった事を後悔した。
心許なく小銭入れを開けた。
―――銀貨が二枚と銅貨が四枚
神様もなかなか粋なことをするものだ。
- 517 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:04
- 20:40
北海道限定ミルクテイストの缶コーヒーをコートのポケットの一つずつ入れた、もちろんホット。
振りかえると同時にあの女性を見た。
マフラーから顔を上げ何かを見ていた、あの角度ならきっと時計だ。
大きく白い息を吐いたのもわかった。
口の中で「よしっ」と言って意を決し、あの女性へ歩み始めた。
雪はわたしを阻むこともなくまた促すこともなく、淡々と降っていた。
- 518 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:05
- 20:41
彼女の隣で、止まった。
彼女は少し顔を向けた後すぐに顔を向けた、いうなれば二段階振り向き。
遠目からしか見えなかった彼女の顔は見事な雪肌で、大きな瞳がわたしを映している。
寒さのせいで紅潮した頬、端正な唇。多分年上。
若干ほくろが多い気もしたが、間違いない彼女は美人だった。
右ポケットから缶コーヒーを取り出し、差し出した。
「どうぞ」
「えっ?」
彼女は怪訝な表情を浮かべた。
当たり前だ、見ず知らずの他人が突然缶コーヒーを差し出してきたのだから。
缶に雪が気軽に乗り、落ち着く間もなく溶けた。
「いえ、あのっ……朝からずっとここに立っていらっしゃったから」
「あっ、あぁ……」
「あのっ、いやっその怪しいものではないです!」
わたしが思うのもなんだが、わたしは怪しかった。
- 519 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:05
- 「朝ここを通った時に見かけて、帰って来た時もいたから、まさかと思って今来てみたらいたから……」
彼女は明らかに困惑していた。
わたしも明らかに困惑していた。
なんだか逃げ出したくなった。
「あのっ、スイマセンでした!」
「待って!」
振り返ってダッシュしようとした瞬間、右手が引き留められた。
彼女は笑顔だった。
「なんだかよくわかんないけど、ありがとね」
「あっ、いぇ」
「……缶コーヒー、くれない?」
掴んだ腕を放しそのまま手を差し出した彼女。
言われるがまま右手の缶コーヒーを渡した。
- 520 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:06
- 「あのぉ」
「ん?」
缶のプルタブに手をかけていた彼女は眉を少し上げた。
「ここで何してらっしゃるんですか?」
「あ〜、人を待ってんだ」
プコッ、っとプルタブを開けると同時に彼女は答えた。
そのまま言葉は出ずに唇は缶を受け止めた。
「あのぉ」
「ん?」
コーヒーを飲みながら横目にわたしを見てくる。
「一緒に待たせていただけませんか?」
- 521 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:06
- 自分で言って驚いた。
まだ会って五分も経っていないのに、一体何を言っているのだろう。
勝手に遠くから見ていて、勝手に缶コーヒーを差し出して、勝手に帰ろうとして引き留められて、あまつさえ一緒に待たせてもらうだなんて
どう考えたって怪しい、怪しすぎる。
怪しいというかおかしいというかなんというか、とにかくわたしは―――
「いいよ」
彼女は缶からわずかに口を離し、言った。
「へ?」
「だからいいよって」
そう言ってまた缶に口をつけた。
「あっ、ありがとうございます!」
うわずった声と共に勢いよく頭を下げた。
顔を上げると声を出して笑う彼女がいた。
「アハハハハ、そんなに感謝されても」
愉快に笑う彼女につられて、わたしも微笑んだ。
- 522 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:06
- 彼女は飲み干した缶を雪山に押し込み両手をポケットにしまった。
口を少し開け雪気の空を見上げると「そういえば」と白い息と言葉を漏らした。
「名前聞いてなかったな」
「あっ、紺野あさ美です」
ふ〜ん、と小刻みに頷く。
「吉澤ひとみ」
彼女の視線は雪と共に降りてきてわたしに行き着いた。
「この辺に住んでるの?」
「ハイ」
「じゃあもしかしたら何回か会ってるかもしれないね」
吉澤さんの微笑みは優しかった。
「吉澤さんもこの辺に住んでるんですか?」
「いやこの辺ではないけど、よく来てた」
「来て、た?」
「うん、最近来てなかったけど変わってないねぇやっぱり」
彼女の視線は時計に移った。
横顔も綺麗だった。
- 523 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:07
- よくもまぁなくならないものだ、と思わされるほど雪は降り続いている。
大粒だけど軽い、北海道特有のサラサラ雪は幻想的なまでに街を白くする。
「吉澤さん」
「ん?」
吉澤さんはこちらを向かない。
「あの……」
聞くべきか聞かざるべきか一瞬迷った。
吉澤さんは首を少し傾げてわたしの方を向いた。
「どうした?」
「あのぉ、どなたを待っているんですか?」
吉澤さんの口角がやや上がった。
「友達」
そう言ってまた時計の方に向き直した。
- 524 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:07
- 「ねぇ」
「ハイっ」
「聞きたい? アタシとその友達のこと」
「……ハイっ」
わたしの返事がおかしかったのか、わたしの方を向いてヘヘッと笑い、再度時計を見た。
やっぱり横顔が綺麗だった。わたしも時計を見た。
大きなアナログ時計は文字盤だけが雪を被らず、時をわたし達に知らせてくれている。
「まぁ随分前の話になるんだけどさ」
左から吉澤さんの声が雪をすり抜け聞こえてくる。
現在の時刻―――
20:48
吉澤さんはゆっくりと語り始めた。
- 525 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:10
- 今日はここまで、と。
>>513名無飼育さん、ありがとうございます。
予想された「あの人」はあっていましたでしょうか?
- 526 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:13
- 空板に新スレ立てました。
『神玉 〜4つの物語〜』
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/sky/1102378914/
八五夜語、誓夜(現在この板で更新している作品)と共によろしくお願いいたします。
- 527 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/10(金) 01:01
- ぐっ・・・!
なんだよぉ〜よっちゃんかよぉ〜!!w
チッ・・・ハズしたw
でもおもしろそう!続き期待!
- 528 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/10(金) 01:04
- >>527
あっ!しまった!ネタバレしちゃった(´・ω・)ゴメンナサイ。
- 529 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:36
- 彼女がその人に出会ったのは中学三年生の時だった。
わたしも通っていた中学校で近隣の二つの小学校から生徒が集まる、彼女とその人は別々の小学校だった。
でも彼女はその人のことを知っていた、いや、知っていたというよりも噂で聞いたことがある程度であった。
その人は生まれつき心臓が弱く、物心ついた時から病院通いが日常で、時に休学して入院することもあった。
実際、その人は中学三年生になった時も通学し始めたのは夏休みの一ヶ月前からだった。
彼女はその人を初めて教室で見た時、あ〜あれが噂の、程度にしか思わなかった。
噂からの興味はほとんどなかったからだ。
その人は持病のせいで学校を休みがちで通院により遅刻もする、勉強についていくには休み時間でも
机に向かって勉強するしかなかったためバカ話するような友達は一人もいなかった。
加えて病気のせいか先天的なものか入院したベッドが南向きの窓側だったのか肌が黒く、騒ぐ教室の中自習する光景は暗いという他なかった。
では、彼女の周りに友達がいたかというと、そういう訳でもなかった。
彼女はいわゆる不良だった。
髪を金色に染め上げ、ピアスは両耳合わせて五つ、学校もよくサボった。煙草は吸わなかった。
彼女は群れることもなかった、群れなければツッパれない不良のことが嫌いだったからだ。
彼女もその人も違った意味で、一人だった。
- 530 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:36
- 彼女とその人は隣り合わせの席だった、廊下側の一番後ろ。
授業の途中でも帰ってしまう彼女が廊下側、遅刻や欠席の多いその人はその隣、担任教師が決めたことだった。
彼女は空っぽのカバンを机の上に大げさに置くと、カバンと机の接触音にその人は軽く驚き身じろいだ。
恐る恐るその人は彼女の方を向いた、孤独な視線がかち合った。
彼女は軽く睨むとその人は無言で小さな会釈をして向き直った。
あまりいい形ではないが、それが彼女とその人の最初の出会いだった。
彼女とその人が夏休みまでに出会った回数はほんの数回。
通院してから学校に来ることの多いその人は午前の授業に出ることが少なく、彼女は午前の授業が終わると
昼休みをきっかけにバックレる事が多かったからだ。
かといって会えば何かがあるというわけではなく、彼女がいつも通りカバンを置いてその人が小さな会釈をするぐらいだった。
話すことなんてもってのほか、お互い声さえ聞いたことがなかった。
彼女にとってその人は隣の席の人でしかなかった、他の生徒と何ら変わりない感情、言い換えれば
何の感情も感想もないどうでもいい人だった。
ただ寝るときに隣が静かであるということは便利だった。
- 531 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:36
- 夏休み前の期末テスト。
彼女もその人もテストは受けた。
彼女は授業もろくに聞いていないのに、家庭学習しているわけでもないのに、勉強はできた。
しかし学校側は普段の態度、つまりは平常点で徹底的に彼女の成績を下げていた。
彼女はそこが気に入らなかった、平常点が悪いのは彼女に非があるとしてもそんなものたかだか教師にとって
扱いやすい生徒かどうかというだけの点数であって、結果的に勉強ができる自分よりも
勉強ができない普通の子を評価する学校の体制に納得していなかった。
だからこそテストは毎回受けにきていたのだった。
その人は日頃の努力をもってしても平均点ぐらいしか取れなかった。
授業が受けられないことからの遅れと自習でまかなえる範囲の限界、テスト前であっても無理できない病弱な体が
点数を引き留まらせていたのだった。
担任教師がテスト用紙を返却する際、彼女には高得点と生活とのギャップから来る疑問と嫌味が、その人には
努力と見合わない点数への励ましと体を懸念する上っ面の優しい言葉とが一緒に渡された。
彼女は職員室に呼ばれた。テストの後は恒例となっていた。
- 532 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:37
- ノックをせずに職員室に入った。
もう不穏な空気は流れなかった、もうどこもかしこも彼女に慣れていた。
すれ違った数学教師と軽く肩がぶつかった、口元が嘲笑しているようだったがどうでもよかった。
担任教師は椅子に踏ん反り返っていた。
「いい加減言い飽きないのか?」
「いいから座れや」
担任教師の視線の先にはしなびたパイプ椅子が折りたたまれて立て掛けられていた。
無言で椅子を引っ張り出して大げさに広げ、座った。
「さ〜て―――」
「やってねぇよ」
担任は明らかに生徒には向けるべきではない笑顔をした。
彼女にしてみれば、何度も見たことのあった笑顔だった。
- 533 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:37
- 「もういい加減言っちまえよ」
「だからやってねぇ」
「カンニングもしないでこんな点数が取れるか!」
担任教師は怒号と共に机を叩いた。
赤鉛筆やらボールペンやらが跳ねて高い着地音を鳴らした。
「何度言ったらわかんだよ! やってねぇっつってんだろ!」
彼女は担任教師と、その奥で彼女を覗いている隣のクラスの教師に言った。
覗いていた教師は表情も変えず机に戻ったのが見えた。
「大体毎回アタシのこと監視してんだろ、それでやってねぇってわかってんだろーが」
「わかったわかった、わかったからもう帰れ」
呼んでおきながら全くなっていない帰し方もいつものことだが、やっぱり腹が立った。
チッ、と舌打ちして椅子を畳み立て掛けた。
「そういう所はキチッとしてんだなやっぱり」
「お前が真面目になったらこれほどの天才はいないんだがな、残念残念」
蔑みの声を背で受けて、彼女は職員室を出た。
- 534 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:37
- 彼女は苛立ちながら玄関へ向かった。
勉強をしなくても勉強が出来る、彼女にとっては当たり前のことだった。
鉄鎚を渡されればすぐに釘が打てた。
かんなを渡されればすぐに木を削れた。
のこぎりを渡されればすぐに切ることが出来た。
基本的なものさえ手に入れれば打ち方や切り方、使い方を習わなくても使いこなせた。
試し打ちや試し切りなんて必要なかった。
彼女にとって勉強とはそんなものだった。
世間的にいえばそれは天才なのだが、態度が悪いというだけで認めてもらえなかった。
そこが嫌だからこそ、彼女は悪くいることにしたのだった。
玄関に着くとその人がいた。
不機嫌を理由にその人を睨み、学校を出た。
その日から二人は会うことなく、夏休みへと突入したのだった。
- 535 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:37
- ―――――
20:57
「あの頃は顔さえまともに覚えてなかったよ」
どこか遠い所を見るような目で彼女は言った。
吉澤さんの視線の先にはマンションがあったが、きっとそこが焦点ではないだろう。
「名前はおろか苗字だって知らなかったんだから」
無数に下りてくる白の結晶に合わせて、吉澤さんの視線はゆっくりと落ちていった。
吉澤さんの目がどこか懐かしむように細くなると、それがさ、と話を続けた。
―――――
- 536 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:38
- 夏休みに入って二日目、彼女は事故に遭った。
コンビニで雑誌を買って帰る途中よそ見をしていたライトバンに轢かれたのだった。
気が付いた時は既に白いベッドの上だった。
複数のかすり傷と打ち身、大腿骨骨折で全治三ヶ月。
左足は甲殻類のようにギプスでカチコチに固められていた。
状況が把握できてくるにつれて、骨折の痛みを実感し始めていた。
六人部屋の奥で寝ている彼女に見舞いに来る者などもちろんいなかった。
彼女自身もそんなものは望んではいなかった。
特にスポーツやらをしていたわけではない彼女にとって、ただ寝ているだけで過ごす日々に嫌気や不安や違和感はなかった。
彼女の日常と変わりがなかったからだ。変わったといえば寝床ぐらい。
入院して三日目、彼女も向かいのベッドに入院者が来た。
学校では隣の席だったその人だった。
その人が彼女のことをチラチラ見てくるものだから一瞥くれてやると、その人は視線をくれなくなった。
少しして肌の色から彼女は隣の席のその人であることに気付いた。
だからといってとりわけ何があるわけもなく学校にいた時とほぼ変化はなかった、彼女は寝て起きては雑誌などを読み時間を潰し、
その人は教科書参考書を開いて勉強するばかりだった。
- 537 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:38
- 彼女が入院して十日目、クライマックスを直前に昼食が入り中断していた小説を読み終えた。
パタンと本を閉じ、積んである本の一番上に置いた。
彼女は持ってきてもらった本を全て読み終え、暇を持て余していた。
一方その人はあいも変わらず数学の参考書を熱心に読んでいた。
セミも相変わらず鳴いていた。
その人は問題を読んでひとしきり悩んだ挙句ノートに答えを書いていく。
その人は解答を見るとノートの自身の答えの上に赤いバツを付けた。
彼女はつまらなさそうにその光景を見ていた、一度見始めてから幾度と見る光景だった。
それにしてもバツが多い。
彼女にはそれが居心地悪かった。
「ねぇ」
彼女の声にその人は手を止め、普段会釈する時の顔で彼女を見た。
「なんでそんなに勉強してんの?」
彼女からの会話の始まりは、そんなぶしつけな言葉からだった。
その人は当たり前に困惑した表情を浮かべた。
- 538 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:38
- 「なんでそんなに勉強してんのかって聞いてるんだけど」
「え、いや、あの……」
語気を強めた彼女の言葉にしりごみをするその人。
その人のペンを持つ手が少し締まった。
「わたし、入院ばっかりして勉強できないから……一応受験生だし……」
語尾になるにつれて声は小さくなっていき、合わせて顔が俯いていった。
彼女にはその様がなんかのカラクリ人形みたいに見えたが、別に笑わなかった。
セミは笑っているのではなく、鳴いていた。
「ふーん。大変だね」
その人にテストを返した教師と同じ心境で彼女は言った。
- 539 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:38
- 「そんなことないよ……仕方がないから、この体じゃ……」
「勉強なんてしたって意味なくない?」
「……だって」
「だって何? 勉強なんてできたって評価されないんだよ? 大人のいうことが聞けて初めて勉強ができるできないが
意味を持ってくんだよ? まぁアンタなら問題ないかもしれないけどさ」
「……」
「大人の言いなりになってハイハイ言って、媚び諂ってればそんなに勉強する必要なんてないんだよ。
アンタなら病気持ちだから大人はみんな馬鹿に親切にしてくれんだろうしね」
「……」
「心臓の病気なんでしょ?」
「え!?」
鳩に豆鉄砲、といった感じでその人は驚いた。
鳩じゃなくても豆鉄砲を食らえば驚きはするが。
「なんで―――」
「噂だよ噂」
刹那、その人の表情は幾分暗くなった。
- 540 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:39
- 「やっぱホントなんだ」
その人は俯いたまま、黙っていた。
彼女は冷笑ともとれる表情をしていた。
「心臓の病気ならすぐにポックリ逝っちゃうよねぇ」
「……」
「いいなぁアタシも早くポックリ逝きたいなぁ」
「……」
「生きてたって面白くねぇし、アタシも心臓に欠陥を持って生まれたかったよ」
突如その人は顔を上げた、土器色の顔は怒気をはらんでいた。
彼女とその人の間にある空気が明らかに変わった。
「いいかげんなことばっかり言わないでよ!」
その人の声は細く、叫んだ割に小さかったが、威力は十分だった。
- 541 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:39
- 「なんで簡単に死にたいなんて言えるの! 生きてることってそんなにつまらないことなの! 病気も持ってないのにどうして
そんなことが言えるの! なんで! ねぇなんで!」
彼女は今まで親や教師、様々な大人に怒鳴られたことがあったが、そのどれよりもダントツに、怖かった。
それは誰よりも、本気だったから。
「わたしは生まれてから何度もこの病気のせいで死にかけたことがあるの! でもその度絶対生きるんだって!
病気になんか負けないってずっと言い聞かせてきただよ! なのになんで! なんで吉澤さんはそんな健康体でいるのに
そんなことが言えるの!」
吉澤さん、と初めて呼ばれたが気にならなかった。気にしていられる状況でも気迫でもないからだ。
「ふざけないでよ! 生きていたい人間の気持ち考えたことある? わたしはただ生きてるだけでも精一杯なの!
わたしは生きたい! 生きて泣いたり笑ったりしたいの!」
一度に叫んだからかその人の息は切れていた。
何度か深呼吸をして最後、大きく息を吸い込むと一瞬吐き出すのを止め、代わりに言葉を吐いた。
「……ごめんなさい、少し言い過ぎた」
その人はゆっくりと体を倒し、布団を頭まで被った。
彼女はその一部始終をただ呆然と見つめていた。
セミはどこかに飛んでいったのか、鳴き声は聞こえなかった。
- 542 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:39
-
- 543 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:39
- どれくらい時間が経っただろうか。
怒鳴られてからずっと彼女の中で得体の知れない何かが這いずり回っている感覚に見舞われていた。
今だかつて経験したことのない、心の動揺。
惰性した彼女の生活の中で唯一面白いと思っていたものがあった、小説である。
活字に表わされるだけなのにその世界は夢も希望も悲壮も絶望も、人間の感覚を奮わせるものがあった。
しかし、ひとたび小説から離れればそこにあるのは、虚無。
生きている実感のない彼女には死にゆく実感もなかった。
あるとすればそれは小説の中、実際に生きているのは現実の世界。
最近では小説の世界に対する感覚も麻痺してきていた。
その人が訴えかけてきた生への執念。一つ一つの言葉が直接彼女の心に響く。
生きるということも、死ぬということも知っているその人の真の音色。
何も知らなかった彼女が発した軽い言葉。
―――わたしはただ生きてるだけでも精一杯なの!
―――わたしは生きたい! 生きて泣いたり笑ったりしたいの!
彼女のなにかが、ゴトリと動いた。
- 544 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:40
- 「ねぇ」
最初に話しかけた時よりも若干柔らかく声をかけた。
その人は動かない。
「ねぇ」
その人は動かない。
寝てしまったのかもしれない、それでもやらなくてはいけない事だと彼女は思っていた。
ギプスで重くなった下半身を引っ張り出すようにして、姿勢を立て直した。
ほぼ同時にその人は被ったかけ布団の中で動いた。
「ねぇってば」
語勢が少し荒くなったが尖ったものは含まれていなかった。
その人はのっそりと顔だけ出した、窓の方を向いていた。
窓の外の先ほどセミのいたななかまどの木を見ながら、言った。
「石川梨華」
弱々しく響いたその人の声だったが彼女には確かに聞こえた。
「石川……さん」
「……」
「そのぉ……あの……ごめん……ごめんなさい」
- 545 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:40
- ―――――
21:12
「ごめんなさいなんて言ったのはあの時が人生で初めてだった気がする」
「そう……なんですか?」
「多分ね」
私達の後ろを快速列車が雪も雰囲気も蹴散らすように走っていった。
その間吉澤さんの声が聞こえなかったが、きっと何も話してこなかっただろうと思う。
迷惑列車の不協和音が次第に小さくなって、聞こえなくなった。
「ごめんなさいかぁ……あの時からかな? きちんと言えるようになったのは。でもあの時ほど心の底から謝ったことはないなぁ」
―――――
- 546 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:40
- その人は体を彼女の方に反転させると、よいしょ、と掛け声と共に体を起こした。
目が赤く腫れていた。
「こっちこそごめんなさい、いきなり怒鳴っちゃったりして」
「いや……それはアタシが……ほんとごめん」
「もういいよ、大丈夫」
その人の顔にはごく薄い笑みが浮かんでいた。
「それよりもさ吉澤さん、ちょっといいかな?」
笑みは濃さを増したが、それは照れによるものだった。
「……勉強、教えてくれないかな?」
- 547 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:41
- 「勉強?」
「うん、吉澤さんってたしか勉強できるんだよね?」
「え? なんでアタシが勉強できるって」
「この前のテスト」
その人は人差し指を鼻にあてすすった、吸い込まれていく空気の音がした。
「吉澤さんのテストの点数が見えちゃって、いや盗み見たわけじゃないんだけど、ちらって」
「ちらって盗み見たんでしょ?」
「違うよぉ」
語尾が妙な延び方のするその人の否定に思わず笑みが零れた。
そんな笑い方をしたのはいつぶりぐらいだろうか、彼女は思った。
「いいよ」
「え」
「アタシ今動けないからさ、こっちに来てくんないかな?」
「……うん」
その人はベッドの上に散らばったノートやらシャープペンやらを拾い集めると、ベッドから出た。
彼女の元に着いたその人は彼女の目を見て言った。
「ありがとう」
- 548 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/14(火) 17:44
- 今日はここまで、と。
>>527-528名無飼育さん、ありがとうございます。
吉澤だとばれても特に問題ないのでネタバレなんかじゃないですよ、大丈夫です。
おそらく予想されたのは道重ではないかなぁと思います、白肌にピンクのマフラーあたりで。
- 549 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 22:59
- 時間表記には謎があるのだろうか…。
続きが楽しみです
- 550 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:26
- その日から夏休みの間は休みなく、彼女はその人に勉強を教えた。
人に何かを教える、という行為は容易なものではない。
教え方に困ってしまう場面は多々あったが、彼女は熱意でなんとかそれを教え、その人は熱意でなんとかそれを理解した。
人に優しくすることは彼女にとって初めての経験だった。
人に優しくされることは彼女にとって初めての経験だった。
そのどちらも彼女にとって心地良いものだった。
荒んでいた彼女の心に徐々に光が満ちていった。
勉強以外に、色んなことを語った。
学校のこと、家庭のこと、病気のこと、事故のこと……。
ときどき泣いた。
彼女にとって今までにない濃い夏休みはあっという間に過ぎていった。
彼女はそのまま入院し、その人は学校生活へ戻っていった。
- 551 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:27
- 夏休みが過ぎて一ヶ月半、彼女は既にリハビリの段階に達していた。
彼女は入院中小説を読んだ。読みまくっていた。
その人がオススメと言って持ってきてくれたものだった。今回のはそんなに面白くなかった。
今までの彼女にはなかった種類の小説で、最近薄れてきていた小説への感動が再燃し始めていた。
彼女もまたその人に小説を貸していた。
彼女のお気に入りの作家の本を四冊貸そうとしたら、その人は既にその内の一冊を読んでいた。
「わたしこれ読んだよ」
「あっ、まぁこれ有名だもんね」
「でもこの三冊は読んだことない」
「読んでみてよ、特にこれは笑えるから」
「ふふっ、じゃあ楽しみにしてるね」
三日前の話だ。
- 552 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:27
- 夕刻、病室のドアが開いた。その人だった。
先に彼女を見つけ微笑むと、その笑みのまま周りに会釈し歩き出した。
彼女のベッドの横にイスを引っ張り出し、リュックを床に置いて座った。
「久しぶり」
薄くなったとはいえまだ重いギプスを着けた下半身を引き摺る様にして体を起こした。
そのせいでずれた掛け布団をその人は当たり前のように直した。
「三日ぶりかぁ、なんだかもっと長く感じちゃったな」
「しかしまぁ三冊読むのに三日もかかるかねぇ」
「しょうがないじゃない。どっかの誰かさんと違って勉強もしてるんだもん」
ちょっと得意げにその人は言った。
「そのどっかの誰かさんは今骨折ってるからしょうがないの」
「うそつき。骨折ってなくたって勉強しないくせに……」
「まぁ勉強しなくても頭良いし」
その人は、もぉ、と言ってギプスを叩いた。
- 553 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:28
- 「三冊とも面白かったでしょ」
「うん!」
そういうとその人はリュックから借りていた本を取り出した。
一冊ずつ丁寧に掛け布団の上に並べていく。
「わたしが一番面白いと思ったのはねぇ―――」
「待って梨華ちゃん!」
彼女とその人の間にある右手で言葉を制した。
「いっせーのーで、で一番面白かったやつ指差さない?」
「うんいいよ」
「じゃあ、いっせーのーで!」
二人の人差し指はある本の上でぶつかった。
「これだよねやっぱり」
「ね〜これだよね」
「アタシ山下チョー好き」
「わたしも!」
二人の指は相変わらず本の上に置かれていた。
- 554 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:28
- 「一日に鳥の糞が頭に三回も落ちる奴なんている?」
梨華ちゃんは思い出したようにクスクス笑った。
「スゴイよね山下」
「わたしアレが好きだなぁ、五匹のチワワに噛まれたってとこ」
「あぁこっちね」
二人の指が離れ、彼女の指は別の本の上に降りた。
「梨華ちゃんちゃんとアタシの言った順番で読んだ?」
「読んだよ」
「ビックリしなかった? こっち読んだ後こっち読んでたら、え? 山下って?」
「そうそう! だからゾンビーズが出てきた時なんだか嬉しかったもん」
その人の無邪気な笑顔が、彼女はなんだか嬉しかった。
- 555 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:28
- 「面白かったから何度も読み直しちゃって、だから三日もかかったんだよ」
「あっそうなの」
「だってこの短編集の方だって良い話ばっかりじゃない? 何度も読みなおして何度も泣いちゃった」
「こっちにはゾンビーズ出なかったけどね」
「まぁね、でもよかったよ」
その人には変わった所があった。
例えば本を借りたとする、すると借りた本を読み終えるまでは会いに来ないのだ。
その人曰く、会う時までにスッキリしときたいじゃない、とのことだが彼女にはわからない感覚だった。
以前二段組の上下巻を貸したら一週間来なかったことがあった、その間病院に用事があり病院には来たにも関わらず、だ。
一週間ぶりに会った時の開口一番は「もう二段組は借りないことにするわ」だった。
「そういや梨華ちゃんこれ、そんなに面白くなかったよ」
そう言って借りた本を差し出した。
「やっぱり?」
「やっぱりって、梨華ちゃんも面白くないと思ってるならオススメしないでよね」
「いやぁ、オビに騙されて買っちゃったんだけど悔しくてさぁ、だからひとみちゃんにもと思って」
「それって優しさって言わないよね?」
「ごめんね。でも今日持ってきたのは大丈夫だよ」
大丈夫、という言葉に引っ掛かったもののそれは流すことにした。
- 556 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:29
- その人が本をリュックから取り出している間に、彼女は並べられた本を横の棚に重ねた。
その人が取り出した本のカバーを見て、彼女は読んだことないものだとすぐにわかった。
「これね」
「面白いの?」
「ダイジョ〜ブ、絶対はまるよ」
その時、病室のドアが開いた。
彼女を担当している安倍という若い看護婦だった。
「吉澤さぁん、リハビリのお時間です」
「あっ、ハ〜イ」
その人と看護婦の目が合った、互いに軽い会釈をした。
掛け布団を剥いで動きづらい下半身をベッドの外に出した。
「ひとみちゃん大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、リハビリは既にはじまってるのだよ梨華ちゃん」
言葉の後半が少しダンディズムを匂わせたせいか、その人はクスッと笑った。
- 557 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:29
- リハビリルームまでは車椅子で向かった、押しているのはもちろんその人だった。
その人は病室で何度か看護婦と会っていて顔見知りになっていた。
「ひとみちゃんがわがままとか言ってないでしょうか?」
「梨華ちゃんそんなアタシ子供じゃないんだから」
首を後ろにひねってツッコんだ。
「今度おしゃぶり買ってきて上げまちゅよ〜」
「次は赤ちゃん扱い? プッチ〜ン、アタシ切れたよ」
「あっ、じゃあ次から安部さんに内緒でケーキ買ってきてあげないよ?」
「なっ、ちょっ、違うんですよ安倍さん! あの……」
弁解しようとする彼女の横で看護婦は微笑みを浮かべていた。
「フフッ、ほんとに仲がいいんだねお二人さん」
彼女とその人は顔を合わせるとほとんど同時に照れ笑いを浮かべた。
- 558 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:29
- 「そんなことないですよぉ」
「そうですよ」
仲良く否定しようとする二人。
看護婦の表情にはまだ笑みが残っていた。
「そうかな? 吉澤さんは入院した時からだいぶ変わったよ」
「変わった?」
「うん。とくに目つきなんかはね、優しくなったよ」
彼女にはわからなかった。
いつ何が変わったかなんて認識はなかった。どうでもよかった。
「そうですか?」
「そうだよ、石川さんも思わない?」
「言われてみれば……」
「思ってないでしょ梨華ちゃん」
「思ってまぁすぅ」
「アタシは人の心が読めんだよ。今梨華ちゃんはたこ焼きが食べたいと思ってる」
「思ってません。なんでいきなりたこ焼きなのさ」
二人のいつものやり取りにまた看護婦は笑った。
- 559 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:30
- あれだけガッチガチに固まられていれば誰だって歩けなくなってしまうのは当然の話だ。
筋肉が弱くなってしまったそれ以上に感覚がわからなくなってしまっていた。
平行棒につかまりながらリハビリをする彼女、その前で激励しているその人。
「ひとみちゃん頑張れ〜!」
「頑張ってるってぇの」
やはり足が上手く動かない。
人間とは全てにおいて一旦怠けてしまうと、こんなにも鈍ってしまうものなのだろうか、と彼女は思った。
「ひとみちゃん」
「ん?」
彼女は足元から視線をその人に移した。
「リハビリは辛く大変だろうけど、それを克服するためにはたった一つの方法しかない」
何をしようとしているのかがわかった彼女はそのまま次の言葉を待った。
「努力だ」
ドクター・モロのまね? と彼女が言い、うん、とその人が言った。
「似てた?」
「似てるも何も本の中だからわかんないよ」
多分似てるよ、とその人が言い、そんなに声は高くない、と彼女が言い、笑った。
- 560 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:30
- ―――――
21:30
「その小説ってまさか……」
「そうそれ! 読んだことあるの?」
「あっ、ハイ」
わたしもその小説家の大ファンだった。
山下さんを含める登場人物は全員好きなのだが、わたしが一番笑ってしまったのは”ええじゃないか作戦”だ。
自室で読んでいた私はベッドの上で声を殺して笑い転げていた。
わたしの人生にもし機会があるなら、ぜひともやってみたい作戦だ。
「最近新刊出てないよね」
「また作品を映画化してるから遅くなってるんじゃないんですか?」
「あ〜そうかもね」
―――――
- 561 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:31
- リハビリで順調に回復した彼女は十月の中旬に退院した。
退院日が休日だったので午前中にも関わらずその人はお迎えに来ていた。
「ひとみちゃんおめでと!」
「まぁそれはありがたいんだけど、退院祝いの花とかないの?」
「ひとみちゃん花とか興味なさそうだし、実際ないでしょ?」
「ない」
「やっぱり」
「よくわかってらっしゃるこって」
付き添い出来ていた看護婦がまたフフッと笑った。
彼女とその人はほぼ同時に看護婦の方を向いた。
「安倍さんお世話になりました」
「吉澤さんもリハビリよく頑張ってたね。えらいよ、うん」
看護婦は満面の笑みを浮かべていた。
「じゃあ石川さん、吉澤さんのお世話は頼みましたよ。な〜んてね」
「おまかせ下さい」
「ちょっとぉ、アタシは子供じゃないっつーの」
薄手のコートが必需な気温の中、三人は笑った。
- 562 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:31
- 看護婦と病院に別れを告げ二人は歩き出した。
並んで歩く二人に木枯らしは枯れ葉でその舞いを見せつける、彼女はその舞いに目を奪われていた。
「ひとみちゃんほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫だって。そんなに入院しててほしいの?」
「いやそうじゃなくてさ、リハビリもあんなに大変そうだったから」
「そんなの努力だよ努力」
風に吹かれ早熟の紅葉の残骸がさまよう道を歩くこと十分、小さな公園に着いた。
どこに行くわけではなかったが、自然と公園に足が向いていたのだった。
先客だった枯れ葉を払い、ベンチに座った。
正面には小さな女の子が父親に支えてもらいながらブランコに乗っていた。
「明後日から学校だよ、あ〜」
「ひとみちゃんキチンと学校に来てよ」
「んぁどうしよっかなぁ」
彼女は入院中には出来なかった全身の伸びをした。
気持ち良かったが服の隙間から秋の冷風が入り込んできて少し寒かった。
- 563 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:31
- 彼女の中途半端な返事にその人は少し困った顔をした。
「ひとみちゃん入院してて出席日数足りないんだから来ないと危ないよ」
「あぁ」
「あぁじゃなくてちゃんと行くんだよ」
「あん」
彼女が生返事をする度にその人の困惑の濃度は増していった。
彼女は足元で何かを運ぶアリを見ていた。
「ねぇ」
「ん?」
「わたしはひとみちゃんを心配して言ってるんだよ」
彼女はその人の方を向いた、その人は覗き込むように彼女の目を見てきた。
意味を含んだ怪訝を顔に浮かべていた。
- 564 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:32
- 「来てよ絶対、じゃないと……」
「じゃないと?」
「……寂しい」
フフッ、と彼女は鼻で笑って正面を向いた。
彼女はブランコに乗る少女にではなく、その奥の枯れ木を見ていた。
「わかったよ」
「えっ?」
「行きますよ、学校」
「毎日だよ?」
「エブリデー行きますよ」
「本当?」
「本当」
彼女は視線をその人に戻した。
同じように目を覗き込むようにして見てきたが、笑顔だった。
- 565 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:32
- 「やった!」
短い言葉でその人は喜びを表現すると、体と視線を前方に戻した。
もらい泣きならぬもらい笑みを口元に浮かべ、彼女はブランコに視線を移した。
ブランコの少女は父親に屈託のない笑顔を向けていた。
「ねぇひとみちゃん」
「ん?」
「今週の日曜日にさぁ、遊園地行かない?」
彼女は前のめりになり両肘を両膝の上に乗せると、顔を振り向かせその人を見た。
その人は少し奥ゆかしい笑みを浮かべていた。
「遊園地?」
「うん。ひとみちゃん入院してて夏休みどこにも行ってないでしょ? それに退院祝いも含めてさ」
「遊園地ねぇ……」
「あっ、もしかして遊園地嫌い?」
「嫌いじゃないけどさぁ、しばらく行ってないなぁって思って……ふぁ〜」
彼女は大きな欠伸をすると背もたれに体を預けた。
そのまましなだれるようにその人の肩に頭を乗せた。
「ごめん、ちょっと眠いわ」
「もぉ」
その人は、パンパン、と簡単に太ももを叩いた。
誘われるように、導かれるように、彼女はその人の太ももに頭を乗せた。
「で、行くの? ひとみちゃん?」
「ん〜、行く。行くからちょっと寝かして」
腰の隙間から入ってくる風は冷たかったが、その人の膝枕は温かかった。
- 566 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/16(木) 13:35
- 今日はここまで、と。
>>549名無飼育さん、ありがとうございます。
一応現実と回想の区切りとしての意味があります、それ以外にも意味はありますがそれは後半で。
決して24をパクったわけではありません、ってか24見たことないし。
- 567 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:54
- 月曜日、彼女は学校に行った。
退院を祝ってくれる友人などもちろんいない、教師でさえ「ん? 来たか」しか言わなかった。
今までの学校生活から考えれば、当たり前のことだった。
結局何かが変わったのは学校の外だけだったのだ。
彼女も真面目になったわけではなかった。
髪も美容院に行ってカットしてもらった後金髪にした。カバンの中に教科書はない。
病院によってから来るその人のいない一時限目は当然寝た。
二時限目の途中、その人が来た。彼女は寝ていたため気が付かなかった。
脇腹に違和感を感じた。
「ねぇひとみちゃん」
机に突っ伏していた体を勢いよく起こすと、隣にその人がいた。
体を起こした瞬間その人の腕がすごい速さで引っ込んだ所を見ると、脇腹の違和感の正体がわかった。
ただ、違和感はそれだけでなかった。
- 568 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:54
- 教室中の生徒が二人を見ていた。
無理もない、気弱そうな少女が不良少女をくすぐり起こしたのだから。
「ひとみちゃん来てるのは偉いけど、寝てたら意味ないじゃん」
そんなことはお構いなしに話しかけてくるその人。
彼女はその後方でこちらを見ながらヒソヒソ話している連中に鋭い一瞥くれてやった後、言った。
「もう習慣みたいなもんだからねぇ」
「何そんな呑気なこと言ってんの」
「呑気かい?」
「呑気だよぉ」
彼女は奇異の視線を感じていたが、別にどうでもよかった。
ここは自分達の世界だ、何が悪い。
「教科書なんて持ってきてないし」
「もぉこの不良生徒」
「どーせアタシは不良ですよーだ」
彼女はまた机に突っ伏した。
その人はまだ何か喋っている。彼女はこの小さな世界が心地良かった。
- 569 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:54
- 日曜日。天気、丸一つ、以上。
病院の窓から見ていた真夏の空から折り返しで幾分低くなった青空、それでも快晴だと気持ちがいい。
とはいえ待ち合わせの時間から一五分が経ち、早めに来ていた彼女の前を既にバスが二本通っていった。
彼女の家とその人の家とのほぼ中間の距離にある駅で、大時計が目印の駅である。
距離から言えば大時計からはその人の家の方が近い。
「何やってんだか……」
仕方ない独り言も秋風にさらわれていった。
それから五分ほど経ち、その人はやってきた。
運動が出来ないその人だが一生懸命自転車を漕いで来たことがわかるくらい頬が上気していた。
その人は自転車置き場に自転車を置くと照れ笑いを浮かべて小走りしてきた。
「ごめ〜ん」
「遅いよ梨華ちゃん」
「何着ようか迷っちゃって……」
「あんねぇデートじゃないんだから」
「だってぇひとみちゃんとどこか行くの初めてなんだもん」
そう言えばそうか、彼女は思った。
- 570 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:55
- 電車に乗り二つ先の駅で降りるとバスターミナルから遊園地へのバスに乗った。
秋場の休日では人もまばらで二人は簡単に後ろから二番目の席に座ることができた。
彼女は窓に頭をつけて重さを分散させると、頭を窓から離さないようにしてその人の方を向いた。
その人は彼女に視線に気付き向かい合ってくれたが、朝の陽光がその瞳を細めさせた。
「遅刻してごめんね」
「もういいよ」
「もしかして怒ってる?」
「怒ってない」
「怒ってんじゃん」
「怒ってないって」
彼女は頭を上げるとその人は少し体を引いた。
その人の顔から光が逃げていき瞳が大きく開いた。
「アタシはこんなことで怒るほど小さい人間じゃありません」
「じゃあ何したら怒るの?」
「そんな滅多に怒りはしないよ。ましてや梨華ちゃんには」
「ホント?」
その人は嬉しさを表わす表情をした。
大部分は単なる嬉しさだがホンの少し無邪気な嬉しさが含まれているような、そんな笑顔だった。
「だからって何してもいいわけじゃないけどね」
「わかったま〜すぅ」
「じゃあ今度から遅刻はしないでね」
「は〜い気を付けま〜す」
- 571 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:55
- バスに揺られること三十分、遊園地に着いた。
規模としては中の小程度であるがこの遊園地は山の中腹に存在し、地元民では知らない人はいない。
一日フリーパスを買って中へ。
バスの乗客から予想していた人数よりも多く、家族連れが目立った。
その人は彼女の左手を握って、言った。
「迷子になっちゃいそう」
「梨華ちゃんいくつだよ」
「一五歳だけど?」
「それは知ってるよ」
「じゃあ何?」
「なんでも」
彼女がその人の手を握り返すとその人は嬉しそうに笑った。
名前もわからない絶叫マシンやら、ミラーハウスやら、バズーカ砲やら……。
元を取ろうかという勢いで次々とアトラクションをこなしていったが、さすがにメリーゴーランドには乗らなかった。
- 572 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:55
- 適当に昼食を取り、少し園内を歩いた。
紅葉をあしらった木々が秋を具現化して見せてくれる。
彼女は秋の安らかで清らかな情景を楽しんでいる時、その人が袖を引っ張り何か言っている。
「アレ、入る?」
その人が指す、アレ、とはお化け屋敷だった。
「アタシいいわ」
「あれっ? もしかしてひとみちゃんお化けとか苦手?」
悪戯粒子がちりばめられた笑顔を浮かべその人が訊いてきた。
彼女は顔を逸らし、恥ずかしそうに言った。
「……だよ」
「何?」
「苦手だよ」
「聞こえないなぁ」
「苦手だって言ってんの!」
少々語気が荒くなったものの、その人は笑っていた。
「よかったぁ、私も苦手なんだよね。ひとみちゃんが入りたいとか言い出したらどうしようかと思ってたもん」
「なにそれ」
「だってぇ」
「アタシだってどうしても入りたいって梨華ちゃんが言ったらどうしようかと思ってた」
「な〜んだよかった」
「ホントよかったよ」
二人は顔を見合わせ、笑った。
- 573 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:55
- 「じゃあアレに入ってみない?」
その人が指差す先には大きな迷路があった。
並んでいる人がいない辺り、流行ってはいないのだろう。
「迷路ぉ? 梨華ちゃん入りたいの?」
「だって前来た時あの迷路やってなかったんだもん」
「ふ〜ん、じゃあいいよ。行こう」
「やった」
二人は迷路の前まで来ると改めてその大きさを知った。
ビビっていてもどうしようもないので係員にパスを見せて、二人は中に入った。
道幅は車道一車線ほどでクリーム色の壁は所々補修がなされている。
壁の高さは二メートル五十センチぐらいで日常にない妙な圧迫感が姿無き恐怖感を煽っている。
「出られるかなぁ」
「大丈夫」
二人は繋いでいた手を同時に握り締めた。
- 574 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:56
- 人間は何故、こんな建物を作ったのだろう。
道とは理路整然となされていることが常識であり真理であり、目的なのではないだろうか。
迷うという事が道にとっての最大の敵ではないのだろうか。
その道自身が謬想を抱き、パラドックスを創造する。
人間が道を作り、道が迷路を作り、迷路が人間を欺く。
ただ迷うためだけに、道としてもっとも不必要な要因を体験するためだけに、迷路が存在する。
神様が人間のためにパンドラの箱に恐怖や不安、絶望などをしまい、それを人間が不用意に開けてしまったとするなら、
人間は神が考えし負の要因さえ怡楽してしまおうというのだろうか―――と、彼女は思った。
とどのつまり、ものすごく迷ってしまったということである。
「どれくらい進んだのかなぁ?」
「わかんない」
「出られるよねぇ?」
「わかんない」
「もぉ」
その人は立ち止まり頬を膨らませた。
半歩先に出た彼女は振り返り、言った。
「大丈夫だって」
「ホントに?」
「アタシを誰だと思ってんの?」
「不良生徒」
「あっ、事実だけどヒド〜イ」
彼女は繋いでいた手を離すと突然駆け出した。
- 575 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:56
- 「あっ」
「梨華ちゃんが悪いんだ〜」
彼女は走りながら諧謔めいた声で言った。
呆気にとられているその人。
彼女は突き当たりのT字路を左に曲がるとさらに加速した。
「ちょっとひとみちゃ〜ん」
その人の声を背中で聞きながら彼女はまた左に曲がった。
そのまま走り今度は右に曲がると、彼女は止まった。
彼女は息をひそめてその人の声と足音を聞いた。
「ひとみちゃ〜ん」
「どこ〜、どこにいるの〜」
「もぉ」
板一枚隔てた向こう側にその人が離れていったのがわかった。
どうやら彼女とは違う道を選んだようである。
彼女は込み上げる幼稚な笑いを堪え、壁によしかかった。
その人の声はどんどん小さくなっていった。
- 576 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:56
- 少し経って、その人の声が完全に聞こえなくなった。
彼女は離れ過ぎたのだろうかと思い、微かな不安を起爆剤に来た道を戻った。
おそらくその人が行ったであろう道を進んでみても声がしない。
「おーい、梨華ちゃーん」
返事がない。
聞こえないほど遠くへ行ったとは思えず、もう一度彼女は叫んだ。
「おーい、梨っ華ちゃーん」
もう一度。
「梨華ちゃーん」
もう一度。
「梨華ちゃんどこー!」
もう一度。
「梨華ちゃーん! 梨華ちゃーん!」
いずれにも返答は聞かれなかった。
彼女は何度見たかわからないT字路で足を止めた。
- 577 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:56
- 彼女の内で不安が爆発的に広がった。
躁妄の出来心からよもやの黒雲。
彼女は力いっぱい叫んだ。
「梨華ちゃーん! どこー! どこにいるの梨華ちゃん!」
音は壁を跳梁し、北国の早い夕暮れの空へ消えていった。
後に訪れた静寂に彼女は希望を見出そうとしていた。
トン
実に弱々しく、壁を叩く音が響いた。
- 578 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:57
- 音のする方向とは、T字路のちょうど突当り。
彼女はとてつもない速さでのその壁にはり付き激しく叩きながら叫んだ。
「梨華ちゃん! 梨華ちゃん! そこにいるの梨華ちゃん!」
すぐさま彼女は壁に耳をはり付けた。
木の壁から伝わる安い温もりは彼女の耳の方が冷えている証拠だった。
「…………うっ……」
小さく、短い、空耳かもしれなかった呻き声は、間違いなくその人の声だった。
気が気ではなくなった彼女は先と同じように叫んだ。
「梨華ちゃん! どうしたの梨華ちゃん!」
再び耳を当ててみても何も聞こえず、彼女の脳裏には一番最後に見た頬を膨らませたその人がフラッシュバックしていた。
その瞬間からその人の姿を見ていない彼女には、今その人がいかなる状況に置かれているのかわからなかった。
それはもうただただ不安でしかなかった。
「梨華ちゃん! 今行くから! 今そこに行くから待ってて!」
彼女は壁から離れると左右の道を見た。
左は壁四枚分、右は壁三枚分の所に曲がり角があった。
彼女は迷わず右の道を選び、全力で駆け出した。
- 579 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:57
- ―――――
21:59
「ふざけてしまったことや気遣い出来なかったことへの後悔とか、すぐに梨華ちゃんの元へ行きたいのに行かせてくれない迷路への怒りとか、
そんなもんあの時はなかった。ただただ、一刻も早く梨華ちゃんを見つけたくて。それしか考えてなかったなぁ」
「見つかったんですか?」
「そりゃ見つけたよ。梨華ちゃんはすぐに来てくれたって言ってたけど、アタシはもう何時間も探したような気がしてさ。見つけた時梨華ちゃんは
行き止まりでうずくまっててね、顔色も悪くてすぐ発作だってわかった。その時になって初めて軽率な自分の行動を後悔したよ」
「発作って……」
「まぁすぐ治まったらしいんだけどね、アタシが走らせちゃったから発作が出ちゃって。何回謝っても梨華ちゃんへの懺悔の念と自分への
怒りの念はおさまんなかった気がする。……それから少しして、梨華ちゃんは大丈夫って言ってくれたんだけどアタシがお願いして
出口までおんぶしてったんだよね。気が気じゃなかった時に比べたらすぐに出たような気がしたよ。その後アタシは帰ろうって
言ったんだけど梨華ちゃんはどうしても観覧車に乗りたいって言って、日も暮れそうだったから最後ってことで乗ったんだよね」
「観覧車ってここからでも見えるやつですよね? ……今は見えないですけど」
「うん。あれ以来乗ってないなぁ、ってか遊園地にも行ってないや」
「観覧車の中では大丈夫だったんですか?」
「大丈夫だったよ。景色見ながら色々話して、また謝って。そしたら梨華ちゃん、じゃあこれは一つ貸しだね、だって。
まぁそれから普通に帰って、また何事もなく学校生活に戻ったわけなんだけど―――」
―――――
- 580 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:57
- それから、やんごとなく学校生活を営んでいった。
人と仲良くしているだけなのに、視線は避けられなかった。気にはしていなかったが気持ちのいいものではない。
でもやっぱりどうでもよかった。
徐々に奇異の目の数も減ってきて、二人の世界もようやく平穏が訪れた頃にそれはやってきた。
二学期末テストである。
テスト範囲が発表された、それはテストまであと二週間であることを意味した。
帰りのホームルームが終わった。その人に説得され見もしないのに持ってこさせられた教科書をカバンにしまう。
彼女の隣では不安な顔つきでテスト範囲の書かれたプリント見ているその人。
さっき彼女もそのプリントは見た、だからその人の表情の理由がわかっていた。
彼女がプリントを覗きこむとその人はプリントに向けていた顔をそのままに彼女を見た。
「どうしよぉ……広いよ今回のテスト範囲」
「んまぁしょうがないんじゃない? 期末だし」
- 581 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:58
- 彼女は浮かせていた腰を席に下ろしカバンのチャックを閉めた。不意にとある視線に気付いた。
教卓からこちらを見ていた担任教師にガンを飛ばした。
担任教師は売られたものを買った目つきをしたが、数人の生徒に囲まれ教室を出ていった。
「ひとみちゃん」
「ん?」
彼女の振り向いた先にはプリントを両手に挟んで拝むようにしているその人がいた。
「お願いがあるんだけど……」
「大体言いたい事はわかってるよ」
「ホント? ならお願い!」
一瞬手を離しまた合わせる、あいだのプリントがパンと音を立てた。
手の向こう側、その人は片目で彼女を見ていた。懇願の眼差し。
「ダ〜メ」
「なんでよぉ」
- 582 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:58
- 「人を頼って成績を上げてちゃいかんぞ」
「だってぇ」
合掌した手を残念そうに下ろし、口を尖らせるその人。
だだっ子が叱られたような表情だった。ただ、まだ諦めてはいない種類の。
「梨華ちゃんこの前の中間は良かったんでしょ?」
「でもそれはひとみちゃんが教えてくれたからだよ」
「もう勉強の仕方は覚えたはずじゃなかったの?」
「そりゃ覚えたけどさぁ……」
教室にこそほかに人は残っていないものの廊下から男子の叫び声が聞こえた。
セーフやらストライクやら叫んでいる辺り見立て野球でもやっているのだろう。
その人は彼女に膝に視線を落としていた。
「どーせ今回のひとみちゃんは勉強しないんでしょ?」
「んまぁね」
その人は顔を上げた。
やはりだだっ子の顔をしていた。何か妙案でも思いついたような種類の。
- 583 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:58
- 「じゃあさ、ひとみちゃんも一緒に勉強するっていうことで勉強会にしようよ」
「勉強会?」
「そう。だから一緒に勉強しながらわかんないとこがあったら教えあうっていうこと」
「教えあうって言うけど多分アタシは教えてもらうことないと思うんですけど」
彼女の隙のない意見にその人は沈んでいった。
もっとも、彼女だって別に勉強を教えることが嫌なわけではない。
あくまで予定調和のようなものだった。
「……だってさ、今回のテストはひとみちゃん入院してた範囲とかもあるしさ……そこぐらいなら
私だってもしかしたら教えられるかもしれないのにさ……」
まだだだっ子の表情だった。最後の手段を実行しているそんな種類の。
「ひとみちゃんの事を心配して言ってるのにさ……たしかにひとみちゃんは頭がいいかもしれないけどさ」
「もうわかったから」
その人は顔を上げた。勝利しただだっ子の表情になりかけていた。
「勉強教えるから」
「教えるからじゃなくて勉強会」
「わかったわかった勉強会ね、アタシもどっか教えてもらいますよ」
「やった!」
- 584 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:59
- ―――――
22:07
「梨華ちゃんの頼みは何故か引き受けちゃうんだよね。別にアタシ自身嫌じゃないからいいんだけどさ、
元々大した頼みごとじゃないことの方が多いし。だからってなんでもかんでもそのまんま引き受けちゃうのも癪だったし、
最初に断ったら梨華ちゃんが断念することもあったんだよね。そういう時は大抵ホントにくだらないことを頼みにきてる時。
真面目に頼みにきてる時はすぐわかるんだ。目が違う」
―――――
- 585 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:59
- 二週間の勉強会が始まった。
勉強会はその人の家で行われた。
その人の家は彼女の家とは学校を挟んで反対側にあった。
学校帰りにそのままその人の家に行った。
歩いて三十分ほどで着いた。白くて中くらいの大きさの家だった。
その人の母親は彼女の容貌に戸惑っていた、病弱な娘が金髪の友達を連れてくれば当然の話だ。
彼女だって友達の母親に横柄な態度を取るつもりもなかった。むしろ良く見てもらおうと礼儀正しく接した。
その人の母親も戸惑ったのは最初だけだった。
「梨華から吉澤さんのことはよく聞いてます、娘が迷惑かけてスイマセンねぇ」
「迷惑だなんて思ってないですよ」
「ちょっとママ、迷惑ってどういうこと?」
「そんなことより勉強教えてもらうんでしょ? 早く用意なさい」
「教えてもらうんじゃなくて教えあうの!」
行こ、と言って階段を上るその人。
彼女は母親に頭を下げ、待ってよ、と後を追った。
その人の部屋はほとんどピンクで埋め尽くされていた。
彼女は軽い眩暈を覚え、これからの二週間を軽く呪った。
- 586 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:59
- その人の言った感じの勉強会にはならなかった。
彼女はベッドに腰をかけ小説を読んだ。その人もはじめのうちは勉強するよう注意していたが結局は
彼女に教えてもらうことがほとんどで勉強に関しては注意ができなくなってしまった。
彼女にとっては地獄の勉強会も折り返し、一週間が過ぎた。
勉強机に向かうその人の横に立ち数学の公式の使い方を教えた後、彼女は薄ピンク色のベッドに座った。
枕の上に置いてある読みかけの小説を手に取る、その人の部屋にあったものだ。
本を開く。
深夜、主人公とその姉の友達とがソファーの脚部にもたれかかりながら語り合うシーン。
彼女は少し雰囲気を取り戻すために主人公が起きた所までページを戻した。
「ひとみちゃん」
その人にしては幾分低いトーンだった。
彼女は本を閉じ、よいしょ、と立ち上がった。
「ん? またわかんないとこあった?」
「そうじゃないの」
その人は椅子に座ったまま机から僅かに離れると、イスごと回転して彼女の方を向いた。
- 587 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 10:59
- 「ひとみちゃんたしか札幌桔梗女子高校受けるんだよね?」
「そうだよ」
「わたしも……受けるかもしれない」
札幌桔梗女子高等学校とはそれなりに頭の良い女子高で、彼女が受験予定の高校だった。
もっとも、彼女が受験する理由は「チャリで行けるから」。
そして、内申点に左右されない当日点のみの合格枠がある唯一の学校だった。
「梨華ちゃんは牡丹校受けんじゃなかったっけ?」
「そうなんだけど……」
その人は俯いてしまった。
壁掛け時計の秒針が沈黙を埋める。
「なんで桔梗校なんて受けるかもしんないわけ?」
その人は俯いたままだった。
彼女は仕方なくしゃがみこんでその人の顔を見た。
その人の視線は床に落ちていて目を合わせることが出来なかった。
「なんで?」
「ひとみちゃんと―――」
その人の視線が上がった。
「同じ高校に行きたい」
- 588 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/05(水) 11:01
- 今日はここまで。
皆様、明けましておめでとうございます。
- 589 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:48
- その人の目は真剣だった。
ただ真剣だからといって済む問題ではなかった。
「そんなこと言ったって今から進路変更なんて出来ないんじゃないの?」
「まだ大丈夫だって、先生に聞いた」
その人は体を起こしはじめたので彼女も立ち上がってベッドに座った。
「今回のテストの結果を見てからでも変えられるって、ただあんまり時間はないけどって」
「じか、まぁ変えられるならそれはいいけど」
「問題は成績、でしょ?」
「わかってんじゃん」
その人の内申点もそんなに高くはないし、当日点を稼げるタイプでもなかった。
「でも今の感じで行けばなんとかなりそうな気がするの」
「なりそうなって、そんな……」
彼女は何も言えなかった。
現実にはあまりに難しい。
でも、その人の目があまりに真剣過ぎたから、何も言えなかった。
- 590 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:48
- 彼女は何か言わなければならない気がした。
―――気休め―――励まし―――宥め―――応援
どれも違う気がした。
それでも何か言わなければならない気がしたから、彼女は素直に胸の内にある言葉を言った。
「アタシも―――」
言って何かが変わるだとか、そんなことはどうでもよかった。
「梨華ちゃんと一緒にいたい」
誰かの為の言葉。
彼女の為、その人の為、二人の為―――やっぱりどうでもよかった。
その人の瞳が一瞬大きくなった、そして優しく三日月に歪んだ。
「本当?」
「本当」
彼女は言うべき言葉を見つけた。
- 591 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:49
- 「だから……一緒に頑張ろう」
「うん!」
その人の目が潤んでいた。
今更ながら、彼女は柄にもないことをしたような気がした。
つまり、恥ずかしくなったのだった。
「って言ってもアタシは問題ないんだけどね」
そう言って先程読んでいた本を取った。
彼女が向き直った時、その人はむくれて肩を叩いてきた。
「もぉせっかく頑張ろうって感じだったのにぃ」
「いいからいいから勉強勉強。ほら、ウルシバラみたいに勉強しないと」
彼女は本の表紙を見せながら言い、それをベッドの上に放ると、立ち上がった。
その人の背中に手を当て、一緒に机に向かった。
「バシバシしごいてあげるから覚悟しなよ」
「えぇ〜」
彼女が背中を軽く叩くとその人は嬉しそうに微笑んだ。
- 592 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:49
-
- 593 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:49
- 彼女のおかげか、その人の期末テストは大成功だった。
といっても彼女の点数のほうが遥かに上で、ことに数学は学年一位だった。
担任教師は彼女の数学の点数に納得いかないのか返却時に嫌味を投げかけ、その人の飛躍的な点数の伸びに
偽善に満ちた激励とやはり薄っぺらな心配の言葉をかけた。
帰りのホームルーム、担任教師は「吉澤はこの後職員室に来るように」と告げた。
起立、礼、さようなら。
「ひとみちゃんなんで呼ばれたの?」
その人は何故呼ばれるのか知らなかった。
当たり前だ。そもそも恒例と化した呼び出しをわざわざ教室で告げるのは三年生になって初めてのことだったからだ。
彼女もその事に引っ掛かっていたが、どうでもよかった。
「いつものことだから、すぐ終わる」
「いつものことって……」
「そんな大した事じゃないよ。教室で待ってて」
「うん」
頷いたその人の顔は不安がにじみ出ていた。
彼女は、すぐ戻ってくるから、と言って教室を出ていった。
- 594 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:50
- 職員室。
彼女はいつもとほぼ同じ要領で対峙していた。
「ホント飽きねぇな、暇なのか?」
「まぁ一応訊いといてやるか、カンニングしてんのか?」
「してねぇよ」
いつもとほぼ同じ感じだった。
ただ、担任の顔にはどこか余裕らしいものが見て取れた。
「もうアタシ帰るよ」
彼女が席を立とうとした瞬間、担任の口が開いた。
「今日の本題はそれじゃない、とにかく座れ」
「は?」
「いいから座れ」
担任の肩越しに隣のクラスの教師が見えた、彼女を見ていた。
「なんだよ? さっさと言えよ」
担任は不敵に口角を上げながら煙草の箱を胸ポケットから取り出した。
ポケットから出した瞬間何かに気付いた仕草を見せ、タバコをポケットにしまった。
「お前、最近石川と仲がいいよな」
彼女はいきなり背後からナイフで刺されたような感覚に陥った。
- 595 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:50
- 「お前が夏休み入院してた病院で一緒になったらしいじゃねぇか」
「ああそうだよ」
強がっているように彼女の返事は響いた。
「ま、そこで何があったかは知らねぇがな」
「それがなんだよ」
担任は机を見ると、一枚の紙を取り出した。
文字やら数字やらが細かに書かれている紙の一ヶ所を指して、担任は言った。
「夏休み明けから石川の成績が飛躍的に向上してる、今日返したテストもそうだ」
「だからなんなんだよ」
「石川の親御さんの話だとお前、入院中に勉強教えてたらしいじゃねぇか」
担任の顔にうっすらとせせら笑いの色が見えた。
「怪我すれば不良も優しくなるってか?」
「うるせぇ! 関係ねぇだろ!」
いきりたった声は職員室内に響いた。
担任は慣れたと言わんばかりに鼻で笑った後、言った。
「もう石川と仲良くするな」
- 596 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:50
- 「なっ! てめーに関係ねぇだろ!」
「石川は関係ある、だから俺にも関係ある。俺には石川が非行に走るのを未然に防ぐ責任がある」
担任は目線は同じ高さであるが顎を突き上げ見下すようにしながら、言った。
肩越しの教師も同じように見ていた。
「人生の転落を阻止する、教師の役目だ」
「何が役目だよ! ふざけんな!」
「ああいう病気持ちで体の弱い生徒っていうのはお前みたいな不良に憧れることが多いからな。
パシリにされてるのにも気付かないで使われてるだけって事になりかねねぇしな」
「お前に何がわかんだよ!」
彼女だって何がわかっているわけではなかった。
ただ、誰よりもわかってあげることはできると思っていた。
「お前が言ったんじゃねぇだろうなぁ」
自白を強要する尋問のような態度で担任は言った。
「石川に桔梗校に来いって。パシリぐらいにしてやるよとか言って」
「ざけんじゃねぇよ!」
彼女は勢いよく立ち上がった、パイプ椅子が反動で倒れた。
倒れた椅子を蹴っ飛ばして職員室を出た。
背後で何か言っているようだったが、どうでもよかった。
- 597 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:50
- ―――――
22:25
わたしと吉澤さんの静寂を打ち破る電車のブレーキ音。
耳を劈く高音がおさまるとその中からたくさんの人が降りてきた。
弱い光を灯した吉澤さんの視線は駅から出てくる人々を次から次へと飛び移る。
嘆息しながら時計を見上げた辺り、友達は来なかったのだろう。
わたしは終始、吉澤さんの噛み締めるような行動を黙って見ていた。
「まだかぁ……」
言葉の後に続く溜め息は白く正体を現し、すぐに拡散していく。
「きっと……来ると思います」
「ん? あぁ、ありがと」
ピンっと張り詰めた空気の中吉澤さんは優しく微笑んでくれた。
きれいでかわいらしい笑顔だったけど、やっぱりどこか悲しげだった。
- 598 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:51
- 「で、どこまで話したっけ?」
笑顔ではなかったけど明るさを取り戻した顔で吉澤さんは言った。
「あっ……吉澤さんが椅子を蹴り倒して職員室を出た所までです」
吉澤さんは心なしか瞳を大きく開いた後、イタズラチックな笑顔を見せた。
「ほぉ、よく覚えてたね。頭イイでしょ?」
「えっ、いやそんな―――」
「謙遜しなさんなってぇ」
パンパンとわたしの肩を叩く吉澤さん。いまだ降り止まない雪が吉澤さんの腕の周りを不規則に飛び回る。
時計へと向き直した吉澤さんがゆっくりと口を開く。
「悔しかったなぁ〜あん時は。アタシのこと否定されても何とも思った事なかったけど、梨華ちゃんのこと
否定されたからね。それもアタシが原因でさ。今までアタシがしてきたことが全部梨華ちゃんにかぶさっちゃった
みたいで、もう自分自身に悔しくてね。あん時ほど自分のこと嫌いになったことはないなぁ」
―――――
- 599 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:51
- 外は濃い瑠璃色の空が町を闇で照らしている。冬の北海道の夜は早い。
彼女は教室に戻ると、閑散とした教室でその人は本を読んでいた。
蛍光灯に照らされたその人は仄かに笑って彼女を見ている。
「終わったの?」
「うん」
彼女はいつも通り返事したつもりなのに、その人は怪訝な表情を浮かべた。
「どうしたの梨華ちゃん?」
「えっ? いやなんでもないよ」
その人はいつもの顔に戻った。
「それより早く帰ろ。もう暗くなっちゃったし」
「あ、うん」
彼女は机の上のカバンを担ぎ、その人は読んでいた本をカバンにしまった。
「ほら、早く」
「待ってよひとみちゃん」
教室を出た。
- 600 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:51
- 玄関の明かりは消されていて、廊下の明かりを頼りに靴を履き替え玄関を出た。
朝驟雨の様に降った雪は跡さえ残さず、ただただ冷たい空気が頬を撫でる。
吐いた息を二割ほど白く変えながら、その人は言った。
「もうすぐ冬休みだね」
「ん?」
「ちょっとぉ、聞いてるのぉ?」
彼女心の内ではいまだ先程の怒りが渦を巻いていた。
「聞いてるよ聞いてる」
「じゃあわたしなんて言った?」
「ん〜……」
「やっぱり聞いてないんじゃん」
その人は、ツン、と月のほうを向いた。
横顔を覗かせる月はその人の顔を照らすほどの光を放っていなかった。
- 601 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:51
- 「梨華ちゃんご〜め〜ん〜」
唇を尖らせたその人を宥める彼女。
月は片目で二人を見ている。
その人も流し目で彼女を見ている。
「反省してる?」
「してるしてる」
「本当?」
「本当本当」
その人は三歩先に出ると振り向き、優しく微笑んだ。
「なら許してあげる」
彼女の中で何かが固まったような気がしたが、どうでもよかった。
- 602 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/06(木) 13:52
- 今日はここまで。
- 603 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/07(金) 02:39
- んあー
2人はどうなるのか…
- 604 名前:よしよし 投稿日:2005/01/07(金) 02:47
- 始めまして緑板で書かせて頂いているよしよしと申します。
一気に読まさせて頂きました。とっても面白くて勉強になります。
続き期待しております。それと他の板に載せてあるのも後日読ませて頂きます。
これからよろしくお願い致します。
- 605 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:16
- 次の日。
その日はその人が放課後担任教師に呼ばれた。
その人によるとテストの結果などを考慮して進路変更の話をすることになっていた。
彼女は教室で本を読みながらそれが終わるのを待っていた。
その人が帰ってきたらテストの打ち上げと無事に進路変更できたことのお祝いをかねて、二人でささやかなパーティをやることになっていた。
もっともパーティといってもその人の家でお菓子やジュースを飲みながらいつもよりテンション高く遊ぶだけであったが。
受験生であるクラスメイト達は早々に出ていき、すぐに教室は閑散とした状況となった。
彼女は読んでいた本にしおりを挟んで閉じると、机の上に置いた。
本と机の乾いた音が教室に響いた。
「なんて言ってあげようかな……」
小さく発したはずの独り言は教室の隅々にまで伝わった。
置かれた本から窓へと視線を移したが、外との気温差で曇っていて外は見えなかった。
………
しばらく経った。あれこれ今日のパーティの妄想をしていたが一段落ついてしまった。
もう二十分近く経っていた、まだその人は帰ってこなかった。
- 606 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:17
- 「遅いなー……」
爪と机のパーカッションの間にその声は響いた。
曇ったガラス越しでも既に外が暗くなっていることがわかった。
「見にいこー……」
自然と増えた独り言を実行するように席を立った。
その刹那、彼女のすぐ隣のドアが開いた。
「あっ、梨華ちゃ―――」
彼女の言葉が止まった。
その人が、泣いていたからだ。
「どうしたの!」
彼女とその人の視線が合った瞬間、その人は両手で顔を隠して泣き崩れた。
何がなんだかわからなかったが、とにかくこの状態が異常であることは彼女にだってわかった。
- 607 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:17
- 廊下に座りこんでしまったその人に視線を合わせようと彼女もしゃがみ、両手を肩に乗せた。
顔を覆うその人の手は震え、嗚咽が断続的に聞こえてくる。
「梨華ちゃん! ねぇどうしたの!」
少し乱暴に肩を揺らしてみても変化はない。
顔から引き離そうとその人の手首を掴んだ。
「梨華ちゃん! 泣いてちゃわかんないよ! ねぇ何があったの!」
彼女が手首を引っ張ると意外と簡単に引き離すことができた。
彼女の瞳が泣き腫らしたその人の瞳とようやくかち合った。
彼女が手首から手を離すと、その人は彼女に抱きついてきた。
「梨華ちゃん」
「……ひと……ひとみちゃ……」
「……大丈夫、もう大丈夫だから」
彼女の肩に額を乗せて泣くその人はそれきり何も喋らなかった。
彼女はただただ、力強く抱きしめるしかなかった。
- 608 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:17
- 少し時間が経って、嗚咽も小さくなっていた。
その人の震えもおさまり、彼女は口を開いた。
「梨華ちゃん、どうしたの?」
その人は額を肩に少し強く押し付け、言った。
「……進路変更……できないって……」
「なっ!?」
彼女はその人の肩を掴み、強く引き離した。
「なんで! 梨華ちゃんあんなに頑張ってたじゃん!」
その人は子細らしく視線を外し、震えた声で言った。
「……先生が……吉澤に脅されてるんだろうって……」
彼女の瞳は一瞬見開かれ、怒りの形に変形した。
「あのやろぉ!」
彼女は廊下の壁、の先にある職員室を向いて叫んだ。
薄暗い廊下にビリビリと響いた。
その響きがおさまる前に彼女は立ち上がった。
- 609 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:18
- その人が彼女の膝に抱きついた、見下ろす彼女。
「梨華ちゃんどいて!」
「待ってひとみちゃ―――」
「どけよ!」
また響いた。
おさまった。
その人はまだ抱きついていた。
「ゴメン……梨華ちゃん」
彼女の謝罪に返事はせず、その人は腫らした目で彼女を見ながら言った。
「待ってひとみちゃん、先生の所に行くんでしょう」
「そうだよ、梨華ちゃんがそんなこと言われて黙ってらんないよ」
「……行かないで」
その人の声は、響かなかった。
「行かないで! ひとみちゃんに迷惑はかけらんないよ」
その人の目は、真剣で、本気だった。
- 610 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:18
- 「迷惑……かけらんない……」
「迷惑なんかじゃないよ」
彼女は腰を曲げ、その人の双眸から流れる涙を親指で拭いた。
縹色の表情を浮かべるその人。
「迷惑なんかじゃない、梨華ちゃんがいわれのないことで否定されるのが堪らなく嫌なだけ。それもアタシのせいで」
その人の目はいまだ真剣で本気だった。
彼女はそんな目の懇願を、初めて破ろうとしていた。
「梨華ちゃんの頑張りは誰よりも知ってるから、だから」
「……ひとみちゃん」
「ホラ、梨華ちゃんも立って」
彼女は手を差し伸べるとその人はそれを掴み、立ち上がった。
向き合ったその人に彼女は簡単な微笑みを浮かべた。
「アタシ、行ってくるから」
「わたしも行く」
それでもその人の目は変わっていなかった。
「わかったよ、行こ」
「……ありがと」
彼女はまたその人に簡単に微笑んでから、職員室に向かう廊下の方を向いた。
彼女の瞳ははその人と出会う前の鋭さとそれ以上に憤懣の光を帯びていた。
- 611 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:18
- 職員室のドアが彼女の怒号の代わりのように大きな音をたて開いた。
教師達の目がその音源に集まる。
彼女はその人の手を引いて、早足で歩きながら手当たり次第教師にガンを飛ばしながら中へと進んだ。
彼女の視線がある教師に止まる、担任教師だ。
担任教師と目が合った彼女は一層歩みを速めた。
腕組みをして座っている担任教師の元まで来ると、彼女は叫んだ。
「どういうつもりだ!」
「なんの話だ」
「とぼけんな! 梨華ちゃんの進路のことだ!」
梨華ちゃん、という言葉を聞いて担任の奥にいる教師がほくそえんだ気がしたが、どうでもよかった。
担任教師も腕を解かず少しにやけた表情を浮かべている。
「あー石川の進路な、変更はできない」
「何でだよ!」
職員室に妙な沈黙が流れた。
- 612 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:18
- 「なぜお前が怒る? 関係ないだろう」
「関係なくない!」
彼女の息は荒くなり、その人と繋いでいる手に力が入る。
担任はやっと腕を解いた。
「俺はただ成績が足りないと言って諦めさせただけだが―――」
「嘘言うな! アタシに脅されてるからやめろって言ったんだろぉが!」
「言ったか?」
「梨華ちゃんが嘘つくはずない!」
「お前には聞いてない。石川、オレそんなこと言ったか?」
挑発的な目がその人に向けられる。
今まで俯いていたその人は顔を上げると担任を見、彼女を見て、頷いた。
担任はその返答を見て、窓の方を向いて、言った。
「そうか、言ったか」
「だから言っただろ!」
「でも本当のことだろうが」
「そんなわけないだろ! アタシは梨華ちゃんを脅してなんかない!」
- 613 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:19
- 「本当か? 今頷かせたのもお前が脅したからじゃねぇのか」
「ふざけんな!」
またもや職員室に沈黙が過ぎった。
「梨華ちゃんは自分から桔梗高に行きたいって言ってんだよ!」
「本当にお前脅したりしてねぇんだな?」
「当たり前だ!」
「じゃあ―――」
担任教師は足元にあったゴミ箱を掴み、立ち上がった。
ゴミ箱を彼女の前に突き出し、言った。
「お前が脅してねぇって信じてほしいなら、その耳に付けてるピアス、全部ここに捨てろ」
「なっ……」
「それと、その金髪をすぐに直せ」
教師がすべき目ではなかった。
「信用してもらいたいってぇならそれなりの態度ってもんがあんだろ」
彼女が呆気に取られていると、その人は彼女と繋がっている腕に抱きついてきた。
「ひとみちゃん……」
その人の声は彼女が今までに聞いたことがないくらい弱々しく、悲しみに満ちていた。
- 614 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:19
- 「……もういいよ、私桔梗校諦める」
その人の言葉に反応する様に彼女はその人を見た。
「梨華ちゃん」
「ひとみちゃんがそんなことする必要ないよ」
「でもそれじゃ梨華ちゃんが―――」
「ううん、いいの。それに元々私の頭じゃ桔梗校なんてとてもじゃないけ―――」
「やめてよ!」
彼女はその人の言葉を遮った。
その人は今にも泣きそうな顔をして彼女を見ている。
彼女は両手でその人の肩をはさむように掴み、言った。
「梨華ちゃん今まで頑張ってきたじゃんか」
「でも……」
「大丈夫だから梨華ちゃん、大丈夫だから」
「でもやっぱり―――」
「俺は―――」
担任教師が口を挟んだ。
先程と体勢は変わらず彼女の前にゴミ箱を突き出している。
心なしかゴミ箱は彼女に近づいているようにも見えた。
- 615 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:19
- 「俺は担任教師として、生徒が脅しで将来を棒に振ることを防止する勤めがある」
「だから脅してね―――」
「じゃあ捨てろよ」
担任は彼女の胸に当たるぐらいまでゴミ箱を突き出した。
「ひとみちゃんやっぱりわた―――」
「わかったよ! 捨ててやるよ! 捨てりゃぁいいんだろぉが! こんなもんで梨華ちゃんが桔梗校受けれんならいくらでも捨ててやるよ!」
彼女はその人を振り払い、右耳のピアスを外しはじめた。
「ひとみちゃん!」
「髪も直せよ」
彼女はキッと担任を睨むと、続いて左耳のピアスも外しはじめた。
職員室にいる全教師が彼女の動向を見ていた。
彼女は右手に外したピアスを集め、ごみ箱に投げ捨てた。
プラスチックと金属の欠片の接触音が職員室に響いた。
- 616 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:19
- 担任教師はゴミ箱の中を覗き確かめると、ゴミ箱を元の位置に戻した。
担任は椅子に座ると顎を上げ見下すような目をして言った。
「あとはその髪だな、どうす―――」
彼女は担任の言葉を無視するかのように歩き出した。
その足は担任に近づいていく。
「お、おい!」
担任は瞬時に身を固める仕草をしたが、彼女には関係なかった。
彼女は担任の横を通り過ぎ、その後ろの教師に近づいていく。
明らかに恐怖の表情が滲み出ているその教師。
しかし、彼女の視線はそんな所にはなかった。
彼女はその教師の机の上にあったあるものを乱暴にぶん取ると、踵を返し元の位置へ戻り出した。
職員室の誰もが彼女の行動に釘付けになっていた。
「……ひとみちゃん……それ……」
その人が震える声で彼女に話しかけると、彼女はその人に向かって柔らかく微笑んだ。
- 617 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:20
- 彼女は元の位置に戻った。
口が開いたままになっていた担任は急ぐように声を出した。
「吉澤! お前それ―――」
彼女は聞く耳持たず。
手に持っているそれのキャップを思いっきり開けた。
外したキャップは手首のスナップだけで放り投げた。
彼女は大きく息を吸って、叫んだ。
「これで梨華ちゃんの望みが叶うなら! こんな髪!」
「やめろ!」
担任の叫び声は彼女を止めることはできなかった。
彼女は手に持ったそれは頭の上で逆さまにした。
- 618 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:20
- 黒色の液体が勢いよく容器から飛び出し、彼女の金髪を空爆した。
黒の飛沫は可憐に飛び散り彼女の制服に吸い込まれていく。
髪の隙間を流れた黒汁は雪を欺く彼女の肌を縦横無尽に流れていった。
顎から離れた墨汁はクリーム色のタイルの上でもう一度弾けた。
「おまっ……なんてことを……」
彼女の顔には墨の隘路が無数にひかれていた。
ポタポタと顎から黒い水滴が落ちていく。
「おい!」
彼女は顔を拭うこともせず、ギロッと瞳を担任に向けた。
刹那、彼女の視線は下を向いた。
彼女は墨溜りに膝と両手をつき、土下座の姿勢になった。
「お願いします! 梨華ちゃんに桔梗高校を受験させて下さい! お願いします!」
彼女は額を床につけるとピチャッと音をたてた。
誰もが呆然とその光景を見つめていた。
- 619 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:20
- 「……吉澤」
「お願いします!」
黒色の生物が彼女を中心にタイルの上に広がっていく。
時の流れはその生物の動きだけが示しているかのように、全てが膠着し静寂していた。
「わかった」
担任教師の一言で空間の時が動き始めた。
彼女は顔を上げた。
額から墨がまた顔を縦断し始めた。
「……わかったから、顔洗ってこい」
彼女の瞳が大きく開いた。
「ありがとうございます!」
「わかった、わかったからさっさと顔洗ってこい」
ハイ、と返事をして彼女は立ち上がった。
振り向くと、その人は泣いていた。
彼女はまた優しく微笑んで、言った。
「やったね梨華ちゃん」
「んぐっ、んっ……ご……ごめんね……」
「いいんだって、大丈夫大丈夫」
彼女は手を差し伸べようとしたが墨だらけということに気付き、手を引っ込めた。
- 620 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:21
- 彼女は水飲み場で髪と顔を洗った。
冬の水は冷たかったが、そんなことどうでもよかった。
背後で足音が聞こえた。それだけで足取りが重いということがわかった。
「ごめんなさい」
聞こえた声も重かった。
「私のせいでひとみちゃんがこんなことに……」
後半は嗚咽で言葉になっていなかった。
髪から滴る水がほぼ透明になってきたので彼女は水道を止めた。
髪を握るように搾るとまだ墨が残っていたが、そのまま彼女は顔を上げた。
「そんな、泣かないでよ」
「……だって」
「アタシはただ……」
目の前の窓は曇っていたものの中庭の電灯の光が乱反射して、無意味に綺麗だった。
- 621 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:21
- 「ありがとう」
彼女は振り向くと、その人が泣き笑いの表情をしていたのが目に入った。
「どういたしまして」
「ホントに……本当にありがとう」
その人はくしゃくしゃの笑顔になった。表情に押し出された涙がまた頬を伝った。
「こっちこそごめん、今日パーティできそうにないや」
「そんな、いいよ」
その人は口を閉じたまま笑みの形に変え、首を横に振った。
彼女も同じように口元を微笑ませた。
- 622 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:21
- 職員室に戻ると担任やその他の教師が床を清掃していた。
担任が二人に気付くと、言った。
「石川、進路変更の書類はもう書いてるか?」
「ハイ」
「なら明日絶対もってこい。吉澤、お前は明日学校休め。制服のクリーニングと、きちんと髪染めてこい」
「ハイ」
「ならもう帰っていいぞ」
二人は同時に返事をした。
- 623 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:21
- 今日はここまで。
- 624 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:25
- >>603名無飼育さん、ありがとうございます。
どうなるんでしょ〜ねぇ……
それよりを私がタイムリミットまでに書き上げられるかどうか……
>>604よしよしさん、ありがとうございます。
私もよしよしさんの作品、是非とも読ませていただきたいと思います。
- 625 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/11(火) 12:26
- 遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
- 626 名前:プリン 投稿日:2005/01/11(火) 19:38
- 更新お疲れ様です。
あけましておめでとうございますw
いやーかなり嵌ってしまいました。
なんか言葉じゃ言い表せない素晴らしさがw
次回の更新待ってます!ホント楽しみっす!
頑張ってくださ〜い。
- 627 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:02
- ―――――
22:56
私は息を呑んで話を聞いていた。
吉澤さんがその人のことを思う気持ちがどれほどまでに大きく強く濃いものなのか、わかった気がした。
それぐらいの気持ちがないとこんな天候の中を十数時間も待っていられない。
「吉澤さん、すごいですね」
「そうかな」
「すごいですよ」
「あの頃のアタシがバカだっただけかな?」
吉澤さんは、フフッ、と笑った。
「次の日はどうされたんですか?」
「ん? 言われた通り休んだよ。クリーニング屋もびっくりしてたなぁ」
吉澤さんの吐いた白い息は降り行く雪達に雑ざろうとするように広がった。
結局雑ざることはなく、無限の空間に消えていった。
- 628 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:02
- 「制服きれいにして髪も黒くして学校行ったら担任が、約束通り石川を桔梗校受けられるようにしてやったぞ、って。
職員室でのこととか心機一転したこととかもあってその時、ありがとうございます、って変に畏まって言っちゃったら担任笑ってたな」
「クラスの人達は?」
「ん〜覚えてない、ってか周りはそんな簡単に変わんなかったな。そんなもんだよ」
「そんなもんですか?」
「そんなもんですよ」
そんなもんそんなもん、と小さく呟きながら吉澤さんは空を見上げた。
「それから冬休みも含めて勉強勉強で、って言ってもアタシはもっぱら家庭教師みたいなもんだったんだけどさ」
「教えてたんですか?」
「うん、まぁそのことも担任には言われたんだけど、吉澤なら問題ないだろう、って。まぁ実際問題なかったんだけどね」
私は自分の高校受験の時のことを思い出していた。
勉強はつらかったけどお母さんの作ってくれる夜食が楽しみだったことを思い出して頬が緩んだ。
- 629 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:02
- 「そんでまぁ受験したわけだけど、やっぱりなんだかんだいって緊張したなぁ。梨華ちゃんなんて終始泣きそうな顔してて
おっかしかったぁ。試験の日、今日ほどじゃないけど雪が降っててね、アタシそんなに防寒してなかったから寒かったんだけど、
そのときに梨華ちゃんが貸してくれたマフラーがコレなんだ」
吉澤さんはピンクのマフラーを摘んで上下に揺さぶりながら言った。
「ほんとセンスないよね〜」
吉澤さんはおかしそうに笑った。
「だから吉澤さんの服装にあってなかったんですね」
「あっ、やっぱりそう思う?」
わたしたちは顔を見合わせ笑った。
「帰りに返すって言ったんだけど、家に帰るまで寒いじゃん、ってとりあってくんなかったから結局家に着くまでつけて帰ったんだ」
「それで今まで返し忘れてたんですか?」
「いや、そうじゃないんだよね。合格発表の時に一回返したんだ」
吉澤さんの表情が急に引き締まった。
心なしか周りの空気も緊張感を持ったような気がした。
吉澤さんは瞬目の静寂を破った。
「これはさ―――」
―――――
- 630 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:03
- 不安が一日の前半を占めていた昨日。
今日は二人の合格を祝したささやかなパーティをその人の家で行なうことになっていた。
その人の家に着いた。
玄関でその人の母親からの祝福と感謝を受けた。
「おめでとう吉澤さん、それにありがとね梨華のこと」
「いえいえ」
「ウチの子も吉澤さんぐらい頭が良かったらあんなにハラハラしなかったんだけどねぇ」
「ちょっとぉママァ」
「いやいや、梨華ちゃんも頑張ってましたし」
「そうだよね〜ひとみちゃん」
「でもやっと合格したのに梨華は―――」
「ママ!」
場違いな剣幕で母親の話を遮ったその人。
目を丸くした彼女に気付き、その人は場にふさわしくないオーラをしまった。
「梨華、まだ吉澤さんに……」
「うん」
先程のまでの暖かく軽い空気は押し潰され、暗雲さえ発生しそうな重い空気が場を支配した。
俯き加減だったその人が顔を上げ、彼女の手をひく。
「ひとみちゃん、上行こ」
- 631 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:03
- 彼女は先の親子の会話の内容を聞き出せないままその人の部屋へ移動した。
ドアを開けると、パーティの準備は万端だった。
コタツの上には徳用のお菓子を開けたのか山盛りのお菓子が置かれていて、部屋も片付いている。
ふと、彼女は後者に引っ掛かった。
「なんか部屋片付いてるね」
「……うん」
玄関での雲がまだ晴れていないその人の返事は実に弱々しいものだった。
その人は女の子らしい性格とは無関係に部屋が汚かった。
読んだ雑誌や脱ぎ捨てた服は床を埋め、時にはドアを開けた瞬間無残に脱ぎ捨てられた下着と御対面なんてこともあった。
それが常であったはずのその人の部屋が片付いている。
「ささ、パーティしよ。パーティ」
上げきれていないテンションでその人がパーティの開幕を促す。
色んなことが整理できていない彼女はとりあえず乾杯の音頭をとった。
- 632 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:03
- お菓子をつまみながら昔話に花を咲かせていた。
とはいっても大して昔の話ではないのだけれど。
初めて会った時の話。
病院でその人が叫んだ時の話。
安倍さんが注射下手で何回も打ってきた時の話。
彼女のリハビリの時の話。
遊園地の時の話。
一緒に買い物に行って互いの服のセンスが全く合わないと再確認した時の話。
彼女が貸した本にコーヒーのしみがついて返ってきた時の話。
その人が桔梗高受験の決意を話した時の話。
職員室で墨をかぶった時の話。
鬼のように彼女が勉強を教えていた時の話。
高校受験の時の話。
合格発表の時の話。
ついには昨日のことまで話題にのぼった。
話は全てその人主導で語られていき、思い出をなぞっているようでもあった。
- 633 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:03
- 昨夜その人の家の夕食がすき焼きだった話が終わったタイミングを見計らって、彼女が訊いた。
「そういやさっき梨華ちゃん、梨華ちゃんのママの話途中で遮ってたけど、あれなんだったの?」
明らかに驚いた表情を浮かべるその人。
何かの核心に触れられた、そんな表情だった。
「すごい梨華ちゃん叫んでたけど」
「……そのことなんだけど」
「ん?」
その人の声があまりに小さかったので彼女は躊躇いもなく聞き返した。
その人はあごを引いて顔を俯かせた。
「そのことで、きちんと話さないといけない事があるんだけど……」
「何?」
彼女は優しく返事をしたつもりだったが、その人は一層俯いた。
コタツの上の彼女のグラス、オレンジジュースの入ったグラスの氷が妙に透き通った音を奏でた。
「実はね……私……」
彼女は言葉を待った。
意を決したのか、その人は顔を上げた。
「私……アメリカに行くの」
- 634 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:04
- 言葉さえ出なかった。
息をすることも忘れ、彼女は心の中でなんとか今の言葉を理解しようと努めた。
―――私……アメリカに行くの
特に難解でもない日本語の文章。
彼女はすぐに言葉を理解したが、言葉を信じなかった。信じられなかった。信じようとしなかった。
「えっ?」
「ごめんひとみちゃん!」
合格を祝す場。
予想しえなかった言葉。
頭を下げるその人。
何一つ噛み合わずして同時にそれが成り立っている状況。
彼女は当たり前の混乱をきたし、ただただ謝り続けるその人を見ていた。
「本当はもっと早くに言えた筈なのに、ごめん!」
「ごめんなさい!」
「私……どうしても言い出せなくて……ごめんなさい……」
その人が泣き出したのをきっかけに、彼女は我に返った。
- 635 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:04
- 「梨華ちゃん……どうして謝るの?」
「……だって……だって大切なこと言えなくて……」
正面に座っていた彼女はとても自然に立ち上がり、その人の隣に座った。
小さくなってしまったその人の肩を抱く。
「だからどうしてそれで謝るの? 梨華ちゃんは何も悪くないじゃん」
その人は頭は左右に振って答えた。
今まで空気を動かしてくれていた暖房が設定温度を感知し、止まった。
束の間の沈黙。
「病気治すためにアメリカ……行くんだよね?」
「……うん」
「ならよかったじゃんか」
彼女の口角がゆっくりと上がる。
肩に乗せている右手を手首だけ動かし、肩を優しく叩いた。
「なのに何で謝んのさ」
「だって……」
「いつ決まったの?」
「……受験の次の日」
暖房は付いてくれない。
- 636 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:04
- 「それから今日まで一週間も時間があったのに……その間いくらでも言える機会はあったのに……
ひとみちゃんには一番に言わないといけないと思ってたのに……ごめんなさい」
「いいんだってそんなの、だからもう謝んないでよ。ね?」
彼女は覗き込むようにその人の顔を見た。
顔は見えなかったが、頭を縦に振ってくれた。
「アメリカかぁ……いつ行くの?」
鼻をすすりながら顔を上げたその人はコタツの上のお菓子の入っている皿を見ながら、言った。
「……一週間後に」
「いっ……週間……後……」
言葉に詰まる。
想像以上にその日は近くまで来ていたからだ。
そう、あまりに近すぎた。
「じゃあ、桔梗高には……」
「……うん」
昨夜ベッドの上で空想していた二人の高校生活が、消えた。
「……そっか」
暖房は付いてくれない。
- 637 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:05
- 肩を抱く手の力が抜けていく。
言外にある事柄があまりに多過ぎた。
そして、重過ぎた。
「よかった、んだよねぇ」
彼女がポツリと言った。
「手術でアメリカって言ったらすごそうだもんね」
肩から手を外し、絨毯につけ体重を乗せる。
「なんか絶対治りそう……いや、絶対治るなこりゃ」
言葉の後に息が漏れていく。
暖房は付いてくれない。
梨華ちゃん、と呼んで彼女に向かせた。
「やったね、やった」
「……うん」
「アメリカだよアメリカ、自由の国」
「うん」
「じゃあ今日は梨華ちゃんの渡米記念も含めて、もう一回乾杯でもしときますか」
「うん」
- 638 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:05
- 彼女は自分のグラスを引き寄せ、並んで乾杯をした。
彼女がグラスに口をつけ、飲み干す。
その人は涙を拭いて、グラスに口をつけ、飲み干す。
二人は顔を見合わせ、笑顔でグラスを置いた。
二人はもう一度昔話を始めた。今度は彼女も意欲的に参加しながら。
出会ってからの期間は半年ちょっと。
不良生徒と病気持ちの生徒。
常識的には合い入れないはずの二人は共に惹かれあった。
笑いあい、泣きあい、また笑い。
先程よりも二倍以上の時間をかけて思い出をなぞった二人。
いつのまにか暖房も付いていた。
彼女はコタツを抜け出しベッドに寝っ転がると天井を仰ぐ。
ついていくようにしてその人はベッドに腰かけた。
左腕で両目を隠し、彼女が口を開いた。
- 639 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:05
- 「ねぇ」
「ん?」
「いつ頃帰ってくんの?」
「……わかんない」
「来年?」
「もっと後かな?」
「じゃあ百年後?」
「もっと後かな?」
「そんなわけないじゃん」
「冗談だよぉ」
「わかってるって」
「本当にわかんないの、いつ帰ってくるか」
「ホントに?」
「ホントだってばぁ」
「まぁそんな簡単に帰って来れるわけないか」
「うん」
「でもさ」
「なに?」
「いつになってもいいからさ」
「うん」
「絶対帰ってきてよね」
「……」
「梨華ちゃん?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……うん」
「よし、よく言った」
「絶対帰ってくるから」
「絶対待ってるよ」
「うん」
「ずっとずっと待ってるから」
「うん」
「ずっとずっとずっとずっと待ってるから」
「百年後でも?」
「待ってる」
「……」
「……」
「ひとみちゃん」
「ん?」
「ありがとう」
「……うん」
- 640 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:06
- ―――――
23:20
こんなにも大きな雪がこんなにもたくさん降ってきているのにどこからも雪の積もる音は聞かれない。
たまに松の木が雪垂りを起こし意外と乾いた音を鳴らしてくれるが、それもすぐさま周りの仲間が音を吸収する。
空寂としている駅前。
だから吉澤さんの声がよく聞こえる。
「心臓の移植手術、流石アメリカやることがデカイよね」
吉澤さんが歯の隙間から息を吸う。
「成功率とか難しいことはあの時わかんなかった……けど今考えてみたら相当すごい決断だったんだなって思うよ」
「低かったんですか? 成功率」
「五十パーセント」
吉澤さんは簡単に言った。
その数字が簡単じゃないことは彼女が一番わかっているのであろうけど。
「それでこのマフラーなんだけどさ」
半分近く雪で隠れたマフラー。
吉澤さんの話を聞くために雪達が舞い降りてきているのかもしれない、と思った。
―――――
- 641 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:06
- 旅立ちまでの一週間、二人は毎日会った。
買い物にも行った。
映画も見に行った。
勉強もした。
楽しくおしゃべりもした。
ゲームセンターにも行った。
小説を薦めあった。
引越しの手伝いもした。
今までと違う日常を今までと同じようにこなすことは、正直できなかった。
彼女の心の中では輪郭の薄ぼんやりとした、それでいて秒針の音がはっきりと聞こえる時計が動いていた。
どんな時にも時を刻み言葉無きカウントダウンをしている。
日常でもなければ非日常でもなく、それでいて日常でもあり非日常でもあった一週間。
二人はあえて時を愛しむような真似はしなかった。
それは時計の輪郭をハッキリと浮かび上がらせてしまうから。
コッ
コッ
コッ
二人がどう振舞おうと、その時は必ずやってくるもので―――
- 642 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:06
- 青く見えるほど積もった雪。
お気に入りのピンクのマフラーを巻いたその人。
美しい白肌を朱に染めた彼女。
頂上を目指す太陽が低い空に存在を誇示させている。
別れの列車はまだ来ないが、別れの時は既に来ていた。
「梨華ちゃん、絶対帰ってきてね」
「うん」
「約束だよ」
「うん」
太陽よりもだいぶ低い位置から大時計の文字盤は二人を見ている。
「絶対手紙とか書くからさ」
「あのさひとみちゃん」
「何?」
「そのことなんだけど……」
その人が視線を彼女の喉元へ落とした。
何か心に決めたことを言おうとしている、彼女にはその仕草だけでそれが十分にわかっていた。
- 643 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:07
- 「わたしがアメリカにいる間は、連絡をとらないようにしたいんだけど」
「え!」
その人の突然の提案。
彼女は素っ頓狂な声を上げた。
また俯くその人。
「わたしひとみちゃんに頼ってばっかだから」
「頼ってばっかって、手紙とかは関係ないじゃんか」
「そうなんだけど……」
雪に照り返された光がその人の顔を明るくしようと努める。
言葉を探しあぐねるその人。
意味を探しあぐねる彼女。
コッ
コッ
コッ
フラッシュバックする過去の記憶。
その人が表現しようとしているそれを彼女は見つけた。
- 644 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:07
- 「わかった」
「えっ?」
「梨華ちゃんは昔からそうだもんなぁ」
「ひとみちゃん……」
「小説貸しても読み終わるまで会いに来なかったりとかさ」
簡単に笑った。
二人の間で、つまりそういう事だ、というイメージがピッタリ重なった。
はにかんだ笑みを浮かべその人は顔を上げた。
「ひとみちゃん」
「ん?」
「ありがとね」
「あぁ」
「それでね」
その人は巻いていたマフラーを外し始めた。
どうしても気に入った色のマフラーが無くて仕方なく自分で編んだ、と言っていたマフラーだった。
マフラーは一瞬全貌を露わにすると今度は彼女の首元へ移り座った。
戸惑いながらもするようにさせる彼女。
口元から笑みの零れているその人は満足そうに巻き終わると、言った。
「このマフラー貸してあげる」
「貸してあげるって貸してほしくないんだけど」
「もぉ、貸してあげるって言ってるんだから素直に貸してもらいなさいよ」
「あっ、あぁはいはい」
「それでさ―――」
嬉しそうで、悲しそうで、それでも嬉しそうな顔でその人は言った。
- 645 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:07
- 「五年後、わたしの二十歳の誕生日に返してほしいの」
「二十歳? 誕生日?」
「連絡とらないでこのまま別れちゃったら会えなくなるかもしれないじゃない。だからね、二十歳の誕生日の日に
わたし、ここに帰ってくるから。その時に返してよ」
いつの日だったか、遊園地に誘われた時と同じ目をしていた。
「五年後、ここで」
「ここで?」
「そう、この駅前で」
マフラーからほんのりその人の香りがした。
「わたし絶対帰ってくるから、返してよね」
「返すから帰ってきてよ」
「帰ってくるから返してよ」
「わかったから帰ってきてよ」
「もし帰ってこなかったらその時は……」
その人は言葉を止めた。
- 646 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:08
-
コッ
コッ
コッ
―――モシカエッテコナカッタラソノトキハ
コッ
コッ
コッ
- 647 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:08
- 一枚の銀貨が放り投げられた
空高く、まばゆい光を放ちながら回転している
表には微笑みを浮かべた女神が彫られている
幸福の象徴。慈愛の象徴。生命の象徴
裏には惨絶好む悪魔が彫られている
不幸の象徴。残忍の象徴。絶命の象徴
高さを極めた銀貨は軌跡をなぞるように落ちてくる
希望の光と絶望の闇が交互に笑みを浮かべながら
表か
裏か
生か
死か
- 648 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:08
- 「やめてよ梨華ちゃん、そんな話」
「ひとみちゃん、わたし……」
「梨華ちゃんは帰ってくる、それしかない」
彼女は両手で肩を掴んだ。
その人の目に光を宿そうと。
「帰ってきて、元気な姿をアタシに見せて、マフラーも返して、一緒に笑う。それしかない」
「ひとみちゃん……」
「遊園地の借りもまだあるしさ」
フフッ、と笑った。
「五年後の梨華ちゃんの誕生日の日、ここで絶対待ってるから……待ってるから、絶対帰って来てよ」
光は、その目に。
「うん!」
二人は目を合わせ、微笑んだ。
全てが二人の中で固まった。
「それじゃ、パパとママが待ってるから」
「うん」
「ひとみちゃん」
「ん?」
時計の音はもう聞こえない。
「ありがとう」
- 649 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:12
- 今日はここまで。
>>626プリンさん、ありがとうございます。
いやはや、嵌っていただけるとは嬉しい限りです。
- 650 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:12
- 次回最終回
- 651 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/18(火) 12:12
- 明日更新予定
- 652 名前:プリン 投稿日:2005/01/18(火) 18:39
- 更新されてたー!!!w
めちゃくちゃ嬉しいっす。
最後どーなっちゃうんだよぅ。
明日が楽しみだなあ。待ってます!
- 653 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/19(水) 00:59
- 今まで固唾を呑んで見守っておりました。最終回楽しみです。
- 654 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:55
- ―――――
23:30
「で、今に至るわけ」
「じゃあそのマフラーは……」
「ん〜まぁその、なんつーかね……うん……」
自分の発言を後悔した。
マフラーは嬉しい意味も悲しい意味も持っている。
結局吉澤さんは何も言わずに少し細めた双眸を時計に放った。
今日はあと、長針が上がり切るまでに迫っていた。
―――時は神が作り、時間は悪魔が作った
ふと、誰かの言葉を思い出した。
初めて聞いた時は全く意味がわからなかったけど、今ならわかる気がする。
大時計の長針は三十秒の一度、姿無き悪魔によって押し動かされている。
音もなく降る雪。
重力に従順に、しかしゆっくりと冬の精霊達は空間を埋めていく。
時は流れる。
雪は降り積もる。
そして、遠くから音が聞こえてくる。
規則的な音。
- 655 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:55
- 23:32
札幌から離れたこの町にとってこの時間に到着した電車は間違いなく終電だろう。
両目を光らせながら控えめ音で駅に止まった電車は午前中に見た赤い電車の色違いだった。
固くて巨大な芋虫から吐き出された人々は階段をめざし歩いている。
わたしたちに背を向けている人達の中には数人若い女の人の姿があった。
吉澤さんはつま先立って首を伸ばして後ろ姿を見送っている。
おそらくきれいであろう雪肌の首を暖かく包んでいるのはピンクのマフラー。
「梨華ちゃん……」
吉澤さんから不意に漏れた言葉。
背後から聞こえたその声だったが、私は振り向かなかった。
どんな顔をして吉澤さんの顔を見たらいいのかわからなかったから。
人々が駅に吸い込まれていくのを確認したかのように電車は未練なく扉を閉め、走り出した。
束の間の沈黙。
それでも時は流れている。
わたしは言い知れぬ緊張感に見舞われていた。
当たり前のことだ。
- 656 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:56
- 23:34
駅から人が出てきた。
一番最初に出てきたのは茶色のコートを着たおそらくサラリーマン。
そして口火を切ったようにぞろぞろと人々が現れた。
その中から一人、若い女性が見えた。
あっ、と心の中で叫んだのも空しく、その女性はどんどん離れていった。
私はその人を知らない。
顔も、背丈も、何もかも。
唯一わかるのは名前、それと吉澤さんの話から勝手に解釈した性格。
その人とわたし、何の接点もないけれど。
それでもその人を見つけられる気がしていた。
あくまで気がしているだけなのだけど、何故か確信的な感覚だった。
黒、茶、白、こげ茶、黒、紺、グレー、茶、ベージュ、紺。
様々な色のコート達が通り過ぎて行く。
吉澤さんが何もアクションを起こしていない辺り、その人はまだ現れていないのだろう。
終電で現れないという事は……
わたしはかぶりを乱暴に振り今思った事を何とか打ち消した。
望まない推測は考えない方がいい。
吉澤さんは不思議そうな顔をして私のことを見ているかもしれない。
それとも私なんぞ気にせずにその人の事を探しているのかもしれない。
いずれにしても、私はまだ吉澤さんを見ることができないでいる。
- 657 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:56
- 23:37
グレーのコートを着た男の人が出てきてからというもの、以降ばったりと人影が途絶えた。
雪は相変わらず降り続いているものの、心なしか弱まってきている気がした。
わたしは誰もいない駅入り口から目が離せなかった。
離したら最後、どこに視線をやればいいのかわからなかったからだ。
それと、その人が来ないという現実から目を背けてしまうような気がしたから。
ギュッ、ギュッ、と雪を踏む音が聞こえた。
柔らかさを保った雪を踏みつけた時特有のあの音が背後からしたのだ。
誰の足音かなんてわかっている。
そしてそれが何を示しているのかも。
私は空気さえ動かさないように静かに振り向いた。
顔を斜め上にして、おそらく時計を見つめているであろう吉澤さんがいた。
明らかに力を失った眼差しと細く吐き出された溜息が、やたらと雪と夜にマッチしていた。
それがなんだか悲しかった。
わたしが見ていることを視界の端で捕らえたのであろう吉澤さんはわたしのほうを向いて、言った。
「まだ、今日は今日だから……大丈夫」
わたしの方を向いて言った言葉だったけど、それはおそらく吉澤さん自身に言ったんだろうということは
普段鈍いと言われるわたしでもすぐにわかった。
その言葉も、やはり悲しげだった。
- 658 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:56
- 23:41
「決して手を離してはいけない」
数分の沈黙を破ったのは吉澤さんだった。
その沈黙の間に雪は半分ほどに治まっていた。
「あの真っ白な本の話の中でなかったっけ? こんなフレーズ」
「真っ白……」
あの、真っ白な、本、話の中。
だいぶ前に話にのぼったあの作者の作品のことだろう。
「えぇ、多分あったと思います」
「あったよねぇ? 何回も読んだはずなんだけどな……」
吉澤さんは頭の上の雪を払うように頭を掻いた。
新たな住処を探して払われた雪達はせっかちに地面を目指している。
「梨華ちゃんが行った後、何回か読んだんだそれ。そんでその度に思うんだよね」
吉澤さんは少し長い瞬きの後、言った。
「アタシが手ぇ離しちゃったんじゃないかって」
- 659 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:57
- 「そんな……」
「あの日、梨華ちゃんの言う通りにした時点で、アタシが手ぇ離したんじゃないかって。あの小説読む度に思ってた。
離さないでいようと思えば、ずっと繋いでいようと思えばいくらでも方法はあったはずなのに。アタシはそれをしなかった」
わたしを見る吉澤さんの瞳が暗い。
闇を写しているのか、それとも闇が巣食っているのか。
「無理矢理にでも連絡先を聞いて、手紙でも電話でもしてたらよかったのかもしれない」
「そんな……吉澤さん……」
「もしかしたら梨華ちゃんはそれを、望んでたのかもしれないし」
わたしは視線を思い切り落とした。
吉澤さんの視線に耐えられなかったから。
あんなにも影を落とした瞳をこれ以上見ることができなかったから。
吉澤さんが嘆息する音がいやにはっきりと聞こえた。
「結局アタシ、何にもしてあげられなかった」
聞きたくなかった。
ついさっきまだ今日だからと言い聞かせていたはずの吉澤から、そんな言葉は聞きたくなかった。
それでもわたしは耳をふさぐことはせず、ただただ両手を握りしめていた。
「梨華ちゃんはマフラーを残してくれたのにアタシは何にも……。多分このマフラーは……」
語尾は聞こえなかった、というよりも吉澤さんが発していなかった。
わたしはそこが一番聞きたくなかったし、吉澤さんもそこが一番言いたくなかったんだと思う。
両手がわざとらしいくらい震え出した。
きっとわたしの内で湧き上がる吉澤さんへの怒りがそうさせてるに違いない。
- 660 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:57
- 「そんなことないと思います」
顔を上げながら言った言葉は両手同様に震えている。
おかしくないから笑わなかった。
「吉澤さんは手を離したりなんかしてません」
「そんなことないよ、やっぱりアタシから―――」
「いえ、離してません」
吉澤さんは不思議そうで、悲しそうな顔をした。
降る雪はさらに少なくなってきている。
「話を聞いててもわかりますけど、吉澤さんは石川さんと手を繋いだことありますよね?」
「そりゃあるけど、今はそういうことを言ってるんじゃな―――」
「じゃあ」
無理矢理吉澤さんの言葉を遮った。
そんなこと言っているのではないことぐらいわかっているから。
「繋いだ手の温もり、覚えてますか?」
「温もり?」
「そうです。吉澤さんの手で感じた石川さんの体温を覚えてますか?」
少し責めるように言ってしまった。
だからではないだろうが、吉澤さんは俯いてしまった。
だけど、しっかりと答えてくれた。
「……覚えてるよ」
追うように吉澤さんは言った。
「忘れたことなんて一日もない」
- 661 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:57
- 「それなら、大丈夫ですよ」
吉澤さんはゆっくりと顔を上げた。
空から舞い降りる純白の羽根よりも、ゆっくりと。
「きっと石川さんも……吉澤さんの温もりを覚えてると思います」
わたしは上手く伝えられているだろうか。
わたしは上手く微笑んでいるだろうか。
上手くなくてもいい。
上手くなくてもいいから、吉澤さんの瞳から闇を取り去ってあげたい。
あなたは素晴らしいことをしたんだと気付かせてあげたい。
「吉澤さんの手の中にも、石川さんの手の中にも、二人で作った大切な思い出があるから」
こんなにも雪に囲まれているというのに、私の体の内側が非常に熱い。
それを言葉にできれば、きっと伝えられるはず。
「その思い出からできた思いが二人にあるから」
私の内の熱が言葉よりも先に目から零れ出した。
それでもまだ、伝えなきゃいけないことがある。
「だから吉澤さんは手を離してなんかいません」
私は唇を噛んで、放熱を涙に任せることにした。
吉澤はまた軽く俯いた。
けれど口元は、微かに笑っていた。
- 662 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:57
- へへっ、と吉澤さんが笑った。
どんな意図が含まれた笑いなのかはイマイチわからなかったが、自嘲といったようなマイナス要素は含まれていないことはわかった。
顔を上げた吉澤さんの目がやさしく笑っていた。
「まさか紺野ちゃんに説教されるとは思わなかったな」
「えっ、あっ、そのっ……」
戸惑ったわたしを見て一層笑みを深めた吉澤さん。
とても、美しかった。
「ありがとね」
「えっ?」
「そうだよね。思い出、アタシと梨華ちゃんには思い出があるもんね。当たり前のことだと思ってたけど、そうだよね」
また、へへっ、と笑った。
「それにまだ今日は終わってないんだし、アタシがこんなこと言っててどうするっての」
「吉澤さん……」
「よっしゃ」
吉澤さんはわたしも見えるような右手を自身の目の前で握った。
ゆっくりと、ていねいに、いつくしむように。
閉じる直前に雪の結晶が一つ、その中へ飛び込んでいった。
誰かの体温ですぐに溶けたことだろう。
- 663 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:58
- 忘れていた瞬きをしたら頬の上を一縷の温かみが走った。
そうだわたし、泣いてたんだ。
鼻をすすり、人差し指で目元から涙をすくう。
そんなわたしを見て吉澤さんがまた笑った。
「紺野ちゃんはやさしい子だ、うん」
「いえ、そんな……」
「ほらこれ、使いな」
吉澤さんがポケットから出したのはポケットティッシュだった。
小さく頭を下げてそれを受け取り、使った。
また小さく頭を下げてそれを返し、近くにあったゴミ箱に使ったティッシュを捨てた。
なんかスッキリした。
雪がほとんど止んでいることに気付いた。
なんだか寂しくなってしまった感じがするが、来てほしいのは雪ではない。
吉澤さんと大時計がわたしを待っていてくれた。
今現在の時刻―――
23:49
- 664 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:58
- 23:52
無音だった降雪も止んでしまえば一層の閑寂が訪れる。
無機質な人工灯の光をすぐには反射しない。
一度奥まで吸収ししたたかなまでに柔らかくしてから放射される雪明り。
雲さえない漆黒の夜空に月は見えない。
会話はない。
暗闘を実況するほど無粋な人間はこの場に要らない。
必要な人はたった一人。
そしてまた、悪魔は悪魔らしく仕事をこなす。
日の境に長針と短針は出会うのに、どうしてこの二人が出会うことが許されないのだろうか。
時計の中心で二つの針は常に重なり合っている。
吉澤さんと石川さんだっていつも、同じ気持ちで重なり合っているのに。
遠方に見えるマンションでは綺麗に切り取られた光が徐々に消えていく。
わたしももしかしたら、この場にいなかったらあの人達のように明かりを消しているかもしれない。
ここでただただ希望の光を待つ人がいるというのに。
- 665 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:58
- 23:55
「紺野ちゃん」
「はい?」
吉澤さんは久しぶりに口を開いた。
「缶コーヒー、ありがとね」
「えっ、あぁ……」
「今頃言うなって? アハハ、ごめんごめん」
「あ、いえ」
何か言い忘れたことがあったなぁと思って、と吉澤さん。
わたしのことなんか今はどうでもいいのに。
吉澤さんのやさしさなのかな、と思った。
いや、吉澤さんの優しさなんだな、と感じた。
時計を見る吉澤さんの目が何故か眩しいものでも見ているかのように細められている。
何が見えているのだろう。
わたしには絶対見えないものに違いない。
それは悪魔に支配されていない二人の時が見せているものなのかもしれないから。
それっきり、また静寂が居座った。
- 666 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:59
- 23:59
体が勝手に強張った。
あと一分。
何も聞こえない。
何も見えない。
誰もいない。
誰も来ない。
音も光も温度もなにもかもが止まっている気がする。
その中で時だけが何者にも逆らわずに流れている気がする。
―――誰が為に鐘は鳴る
吉澤さんの鐘の音は届いているのだろうか。
吉澤さんに鐘の音は届いているのだろうか。
石川さんの鐘の音は届いているのだろうか。
石川さんに鐘の音は届いているのだろうか。
わたしは二人の鐘の音を聞くことができるのだろうか。
鐘の音はこの世界に鳴り響くことができるのだろうか。
- 667 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:59
- 24:00
音もなく時計は新しい日の時間を刻み出した。
鐘の音は、鳴らなかった。
わたしは時計から目を離すことができなかった。
沈黙は何も言わない。
現実を教えてくれるのは視線の先の時計だけ。
だからこそわたしは時計から目を離すことができないでいた。
嘘だ。
こんなこと絶対に嘘だ。
わたしの心を見透かしたかのように悪魔は長針を僅かに動かした。
二本の針は別れを惜しむような距離にいる、しかしまだ同じ時の上にいる。
二人は、吉澤さんと石川さんは五年も前に同じ時の上にいることできなくなってしまったというのに。
また一時間ちょっとすれば再び出会える二本の針と違って二人は、もう……。
わたしの隣の空間が動いた音がした。
ほぼ同時に長針はほんの少しの別れを短針に告げた。
- 668 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:59
- 24:01
吉澤さんがわたしの方を向いているのがわかる。
それでもわたしは顔を向けることができないでいた。
どんな顔をして吉澤さんを見ればいいというのだろうか。
「紺野ちゃん」
「……」
「ありがとね」
決して普段通りとは言えないまでも弱々しくは聞こえなかった吉澤さんの言葉。
わたしはその言葉に振り向かされた。
今、吉澤さんを見るわたしの顔はどんな顔なのだろう。
どんな顔をしているかわからないけど、変に作った顔をするよりはいくらもマシに思えた。
「梨華ちゃん……来なかった」
「吉澤さん……」
「一応五年前から、覚悟はしてたんだけどさ……」
五年前。
そうだった。
わたしは数時間前まで何も知らずにいたけど、吉澤さんは五年も前から今日と向き合わなくてはいけなかったのだ。
吉澤さんは無理矢理笑顔を作っているようだった。
きっと五年前から一番したくない表情だったんだろうなぁと思う。
本当はもっと屈託なく笑いたかったはすだ。
- 669 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 19:59
- 「後悔は……少ししてる」
吉澤さんの声は少し搾り出すような響きを持っていた。
「でもその後悔を背負っていこうと思ってる。楽しかった思い出と、温もりで包んでね」
そう言って吉澤さんは唇を噛んだ。
この強さは一体なんなのだろう?
この状況で涙を見せない吉澤さんの強さは一体何に支えられているのだろう?
わたしが勝手に持った疑問に、わたしは勝手に回答をつけないことにした。
何も知らないわたしが答えることなどできないだろうし。
「紺野ちゃん、もう遅いから帰りなよ」
わたしは黙って頷くことしかできなかった。
「今日は本当にありがとね、それとコーヒーもありがと。ってさっき言ったか」
それにも黙って頷くことしかできなかった。
わたしは俯いたまま不器用に踵を返し、吉澤さんに背を向けた。
何も背負っていない背中。
当たり前の話ではあるのだけれども、そんな自分が悔しかった。
- 670 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 20:00
- そして地面にある雪の陰影を見てやっと気付いた。
影の輪郭がぼやけている。
わたしはきっとあんな顔をしていたに違いない。
「吉澤さん」
わたしは振り返りもせず背を向けたまま言った。
ん?、と聞こえた。
声が聞こえたことに変な安堵を感じて、また言った。
「吉澤さん」
「何?」
「吉澤さんはこれからどうされるおつもりですか?」
口をついて出た言葉にわたし自身が驚いた。
きっと吉澤さんも驚いているに違いない。
失礼なことを訊いてしまったと少し後悔もしているが、それ以上にその答えを聞きたくなっていた。
雫が落ちた。
「もう少しここにいるよ」
吉澤さんは息を吸い直した。
後ろ姿のわたしにも聞こえるほど大げさに。
「背負うものが少し重くてね、ここで少し整理してくよ」
「そう……ですか」
雫が落ちた。
諦めじゃない。確かなものが吉澤さんの中にあるから。諦めじゃない。
雫が落ちた。
わたしはいとも簡単に振り返り、深く礼をした。
吉澤さんの笑い声が少しして、わたしはまた振り返り、歩き出した。
- 671 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 20:00
- 24:15
頬に細く、特別な寒さを感じながら歩いていた。
誰もいない雪道を一人。
思えばこんな深夜に出歩いたことはない。
あれだけ雪が降っていたのだ、当然道は雪で埋まっている。
新しい足跡をつける爽快感なんてものは感じない。
24:16
いつもの曲がり角を曲がるたびに感じる。
わたしの現実に戻っていくことを。
でも、あの場所で起こったことも現実。
わたしには、知らない現実があまりに多すぎる。
24:17
歩き出して初めてきちんと顔を上げた。
首元に漂っていた暖気は一瞬の内に消えてしまった。
立ち止まり周りを見渡す。
見慣れた町が白銀に覆われていたが、単に見慣れた冬の町だった。
少し遠くを見ようとした時に気付いた。
また雪がチラホラと降り始めていた。
24:18
再び歩み始めようとした途端、無重力。
今シーズン九回目の無重力。
コケた衝撃は真っ白なクッションのおかげでだいぶ和らいだものの、情けなかった。
そしてコートの違和感に気付いた。
- 672 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 20:01
- 「あっ」
思わず声が漏れる。
コートのポケットの違和感の正体は、缶コーヒーだった。
そういえば吉澤さんの渡したものの自分は飲んでいない。
すっかり冷え切った缶コーヒーの上に雪が座った。
溶けなかった。
時は何もかもを奪い去ってくのだろうか。
缶コーヒーの熱も、二人の願いも、何もかも。
座り込んだまま缶コーヒーを見つめ、再び目頭が熱くなった。
その瞬間、空間が僅かに響いた。
音がする。
何かの音が。
音を目で確かめようと思い、缶を持ったまま立ち上がった。
素早く視線を散らして辺りを見回す。
聞いたことのあるような音だった気がする。
さっき見ようとしていた遠方に何かが見えた。
レモン色の光りが二つ、闇を切り裂くように近づいてくる。
冬の北海道、透き通った空気が再び足音を届けてくれた。
そしてあの方角、もしかしたら―――
- 673 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 20:01
- 「……電車?」
そんなはずはない。
終電はとっくに通ったはず。
でも音の正体は明らかにあの光源であって、音やら光やら方向やら色々考えてみてもやっぱり電車しか考えられない。
でも、でも、でも……
混乱するわたしに見せつけるかのように電車は明らかにその骨格をあらわした。
午前中に見た、赤い電車。
雪化粧も似合わず古い風貌を露わに走っている。
―――雪
「あっ!」
冬の北海道の空気にわたしの短い叫び声はよく響いた。
雪だ。
夜になって降り出した大雪のせいでダイヤが遅れたんだ。
終電だと思ってたあの電車はその前の電車で単に遅れてただけだったんだ。
ってことはあの電車は……
わたしは雪も払わずに走り出した。
もと来た道を、駅への道を、吉澤さんがまだいるはずの駅前を目指して。
- 674 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 20:01
- 走った
ただひたすらに走った
こんな時
絶対にコケない自信がある
コケている場合ではない
右手の缶がタップンタップン音をたてている
走った
走った
走った
わたしには自信があった
いや、できた
いや、生まれたのだ
あの電車に石川さんは乗っている
昨日という日の大雪のせいで
昨日果たすはずの約束を持って
昨日着くはずの赤い電車は
昨日吉澤さんと出会うはずの石川さんを乗せている
走った
走った
走った
電車にだいぶ遅れること、駅前の見える角まで走った
駅前のあの空間を、覗いた
- 675 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 20:02
-
駅と大時計を垂直に結んだ交点の空間
その空間だけが少し遅い零時を告げていた
- 676 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 20:02
-
完
- 677 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 20:06
- 以上、「誓夜」完結です。
>>652プリンさん、ありがとうございます。
喜んで頂けて光栄です。
楽しんでいただけましたか?
>>653名無飼育さん、ありがとうございます
見守られていたなんて……嬉しい限りです。
固唾は呑まずにレスとして吐き出していただければ尚幸いです。
- 678 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 20:07
- 梨華ちゃん誕生日おめでとう!
- 679 名前:プリン 投稿日:2005/01/19(水) 20:25
- 完結お疲れ様でした。
ぶえーん・゚・(ノД`)・゚・。
こりゃー久しぶりの感動だw
綺麗な終わり方で素敵です。でもこの後がちょっと気になるとです。(爆
次回の更新も待ってまーす。
あっ、梨華ちゃん二十歳の誕生日おめでとぅ!
吉澤さんとお幸せに(w
- 680 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/19(水) 23:36
- 泣いた
- 681 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 00:51
- うわー。終わり方が秀逸。このスレで一番好きな話です。
いしよしの二人に幸あれ。語り手役の彼女もいい味だしてました。
- 682 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:41
- >>679プリンさん、ありがとうございます。
このあと紺野さんは、二人は……如何様にも想像して下さい。
プロットもなしに書き始めたら意外に伏線も多く打てて(捨て伏線もあるけど)個人的には
思ってたよりも作品が良くなってビックリしました。
梨華ちゃんの誕生日に間に合ってよかったです。
>>680名無飼育さん、ありがとうございます。
泣ける作品が書ける人間だと思っていなかったのでビックリしています。
こんな作品書いて、別の作品では悪者にして、別板の作品ではあんなに虐めて……梨華ちゃんごめん。
>>681名無飼育さん、ありがとうございます。
このスレの作品を全て読んでいらっしゃるとは……足向けて寝られないですね。
終わり方を褒められるなんて……めちゃくちゃ嬉しいです。
- 683 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:43
- 次回作の予告です
- 684 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:43
-
誰かが言った。
「世界を変えてみたくないか?」
アタシは言った。
「変えてみせるさ、それが約束だからね」
- 685 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:43
-
- 686 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:43
- タンタン、タンタンと規則的に音を鳴らす電車に揺られ、まさしくポカポカ陽気の日光に照らされ
ほんの少しのまどろみを感じているアタシの手元からハートの四が抜き取られる。
ハートはスペードとペアを組み、その瞬間に捨てられた。
その運命を見て無邪気に喜ぶ女の子、手元にカードはない。
この子は一体何連勝すれば気が済むのだろうか。
二人掛けのイスを向かい合わせにアタシ達四人は座っている。
知っている街をとうに離れて、窓から見える景色はアタシの住んでる環境とは
百二十度ぐらい違う、むやみな電飾のない街並とユラユラ光る海の水面。
ちょっと古いこの電車の雰囲気もあいまって見える色が不思議と懐かしく感じる。
きっとここに住んでる人達はいい人達ばかりなんだろうなぁ、と思いながら
トランプを始めて一回も最下位から動かない彼女のカードを引き抜く。
新入りの王様に仲間はいなかった、ゴメンね王様。
ほのぼのとした情景とは裏腹に先程からババ抜きで盛り上がるアタシ達。
他の乗客もほとんどいないようだし問題ないだろう。
一抜けした彼女はペットボトルのキャップをひねり、一口ではあるがとても勢いよく紅茶を飲んだ。
さっきから勝ちっぱなしの彼女、ごっちんの一言からこの旅行は始まった。
- 687 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:44
- ―――――
「ねぇ、どっか行かない?」
女の子でも四人が入るには少し狭い部屋、まぁアタシの部屋なんだけど、みんな所構わず座っている。
テレビの画面に映る人生ゲームのルーレットは三で止まった。
ごっちんのなんてことない言葉にアタシ達の反応はとぼしい。
「え? さっきコンビに行ったじゃん」
ミキティの返答にアタシは心の中で頷いた、きっと梨華ちゃんもだろう。
アタシのキャラが三コマ進む、涙色の涙の形をした見るからにいいことの無さそうなコマに止まった。
「そーゆーんじゃなくてぇ、どっか遊びに行こうよってこと」
「今遊んでんじゃん」
「いやぁそうじゃなくってさぁ」
ミキティにごっちんの相手を任せてアタシは画面の文字を追う。
どうやら道端で五千万円落としたようだ、所持金がパッと変わり赤い文字になる。
―――借金してまで金落とすなよ
ゲームとはいえそのアホらしさに呆れてしまう。
「もっとこう、遠くに行って一泊旅行ぐらいの遊びがしたい」
「一泊旅行?」
「イイじゃん、だって夏休みだよ」
「夏休みっつったって、美貴達受験生だよ一応」
- 688 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:44
- そう、一応受験生なんだけど、ゲームしちゃってます。
画面が変わりやたら子沢山な梨華ちゃんのキャラがルーレットを回している。
テレビからごっちんに視線を移す、ちょっと唇を突き出しているその様は
天才と呼ばれる彼女もやはりまだ中学生なのだと主張するようなかわいらしさだ。
「だってさぁ中学最後の夏休みだよ」
「ごっちんは頭いいもん、アタシ達はそんな暇ないよ」
アタシ達の達とはミキティの事、そのことを十分理解しているのかミキティからの反論はない。
いや、チラッと今こっちを見た……気がする。
「そんな暇あるじゃん、今よっちゃんちでゲームしてんじゃん」
「ん……まぁそうだけど」
「しかもよっちゃんバレーの推薦でしょ?」
「……うん」
「梨華ちゃんもどっか行きたいよねぇ?」
「ぇえ?」
テレビ画面に出る文字を律儀に読んでいた梨華ちゃんは頓狂な声を上げて振り向いた。
梨華ちゃん越しに見えるテレビ画面では梨華ちゃんのキャラが八人目の子供を出産をしてみんなからお祝いのお金をもらっている所だった。
「梨華ちゃん聞いてた?」
「うんん」
下唇を上に押し上げ眉をやや八の字にし、しょうがないなぁ、とごっちん。
- 689 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:44
- 「だぁかぁらぁ、一泊二日の旅行に行きたくな〜いって」
「旅行? ん〜……」
ほんの少しの間俯いた後、何か決めたような表情で顔を上げた。
「私も行きたいなぁ」
「ほら〜、梨華ちゃんも行きたいって言ってるよ」
ほら〜、って結果論じゃん。
とにかく、これで二対二である。
まぁアタシも反対してはいるけどちょっと行ってみたい気もするような……。
「美貴は行ってもいいんだよ、でもよっちゃんが……」
「え? ちょっとミキティ寝返ったの、アタシ達のバカ同盟を」
「美貴バカ同盟なんかに入ってないもん!」
「地図の上下もわかんないのに?」
そう言うとミキティが怒って覆い被さってきた、だってホントのことじゃんか。
バカ同盟の内部紛争をケラケラ笑って見ているごっちんと梨華ちゃん。
笑ってないで助けてよって。
そんなこんなで二週間後、一泊二日の温泉旅行が決まったのだった。
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- 690 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:45
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運命に支配されるくらいなら
そんなもの振り切って生きていきたいけれど
あなたに出会ったことが運命なら
アタシは振り返って
運命に向かってこう叫んでやる
『ありがとう』
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- 691 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:45
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主演
吉澤ひとみ
石川梨華
後藤真希
藤本美貴
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- 692 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:45
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マタ逢ウ日マデ
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- 693 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 22:46
- 次回作はここの板で別にスレッドを立てたいと思います。
今年の夏頃の予定です。
- 694 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/29(土) 17:37
- 本当にごめんなさい。
諸事情により入院することになってしまいました。
もしかしたらずっと帰ってこられないこともありうるので作品を放棄します。
作品を読んでくださった皆様方、管理人さん、M-seekに関わる全ての皆さん。
本当にありがとうございました。
そして、ごめんなさい。
- 695 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 16:26
- 大丈夫、あなたはここに帰ってくる。
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