山の中の古城
- 1 名前:ガリ男 投稿日:2004/08/07(土) 01:36
- 初めまして 初めて書かせていただきます。
多分よしみきで、ファンタジーです。頑張りたいです。
- 2 名前:1 投稿日:2004/08/07(土) 01:44
- 空を見上げると夜空に光る星と月。
山奥から見る街の明かりは、空で輝くものを潰す。
逆に街から見る山は薄暗く気味が悪い。
妖怪。
近代化になってきて、眠らない街が増える中、彼等もひっそり活動。
昼は人間と同じ様に働く。
そして夜になると活動しだす。
山道を一人の少女が走っていた。
彼女の名前は吉澤ひとみ。クォーターの狼人間。
祖父母も、父母も、人間として暮らしてきた。なので彼女はクォーター。
クォーターと言っても一応狼人間。夜空の月を見上げれば立派な狼……。
ジャージ姿の吉澤は降って来た雨に気付きフードをかぶる。
行き先はふもとのコンビ二。
- 3 名前:1 投稿日:2004/08/07(土) 01:54
- 「あーあ…。怖いなぁ…。誰かについて来てもらえばよかった…」
山道がこんなに暗いとは知らず、一人余裕で出て行った吉澤。
ふいに背筋に寒気が走る。
「はぁ…?」
ふと、足を止めて後ろを振り向く。誰もいない。
「うぅ。勘違い。勘違い。」
独り言を呟きながら、進行方向に振り返ると目の前にはドラキュラが立っていた。
「ぅあぁっ!!」
「…お前…狼人間か?」
その言葉を聞かずに吉澤は必死で走り出す。
が、普通の人間の足程度でドラキュラから逃げられるわけもなく、仲間を呼ばれリンチされる。
腕を折られ、顔面からは血を出す。
助けを求めてみるが、夜中の山道には誰もいない。
静かに雨が降るだけだ。
ふらふら歩いていた吉澤だが、力尽きて倒れこむ。
もうここで死ぬ。
死を覚悟した吉澤の上に雨が落ちる感覚がなくなった。
顔の近くに足がある。
力を振り絞って上を見上げる。
少女が、傘を差して立っていた。
綺麗な顔をした少女。
吉澤の意識はそこで消えた。
- 4 名前:1 投稿日:2004/08/07(土) 02:08
- 目が覚めると、そこはベッドの中だった。
広い寝室。窓には大きな暗幕がしてある。
暫く辺りを見回しているとドアが開いた。
「あ、起きたんだ」
「あぁ、はい…。あの…」
「あんたさ、狼人間でしょ?」
「!?」
「いや、驚いた顔されても…。臭いでそれぐらいわかるよ」
そう言われた吉澤は右腕の臭いをにおってみる。
「あ、そういうわけじゃないんだけど。」
「………すみません…」
言われた吉澤は顔を赤らめた。
「でさ、ポチ。名前は?」
「ポ、ポチ…?」
「うん。あんた美貴のペットだから」
「はぁ?!」
思わず大声を出してしまう。
「美貴が拾って手当てして上げなかったらあんた、今頃山道で死んでるよ」
「ぅ…。それは知ってますけど。それとどう関係したらそうなるんですか…?」
「美貴が命の恩人。丁度アッシーというか、パシリみたいなのが欲しかったんだ」
「意味がわからん…」
「頭悪っ」
いつの間にか椅子に座っていた少女が言った。その顔はすごく不機嫌だ。
「ってゆーかもう逃げれないしね」
「は?」
「それ」
少女が吉澤の首元を指差した。
そういえば、さっきから首元がひんやり…。そう思いつつ首の辺りを触る。
首輪だ。
しかも、鎖がついている。
「うん。似合ってるね、ポチ」
「誰がポチだよ!大体あんた頭おかしいんじゃ…」
はっと気付いた吉澤。
足を組み、手を組みすごく怖い顔の少女。目が据わっている。
殺される。とっさに思った吉澤は
「はい、ポチです……」
と観念した。
- 5 名前:ガリ男 投稿日:2004/08/07(土) 02:12
- 本日の更新です。
性格などが大分違いますがまぁ、そのうち…。
- 6 名前:プリン 投稿日:2004/08/07(土) 13:22
- 更新お疲れ様です。
初めましてっ!
よしみきキタ━(゚∀゚)━!!
最近自分の中でキテるなので嬉しいですね。
なんか面白そうですね。
ポチって…かわいいなw(ぇ
次回の更新待ってます!
マイペースにがんばってくださいw
- 7 名前:1 投稿日:2004/08/07(土) 14:43
- 「藤本…さんですか。はぁ…。宜しくお願いします…」
「うあー。ポチったらすっかり尽くす気満々??」
「いや、あなたがそうさせてるんでしょーが」
「まぁどうでもいいや。それよりさ、藤本さんじゃなくてミキティって呼んでよ♪」
「………藤本さん、質問が…」
「うわ、さらっとシカトしやがった」
「だって馬鹿みたいじゃないですか。そんな呼び方」
「馬鹿?少なくとも美貴よりポチのが馬鹿だよ」
そう言ってまた吉澤を睨む。
今回は対抗してやろうと、吉澤も睨む。
(……怖っ。…だけど綺麗な顔してるなぁ…。はっ!やばい、あの目は人殺しの目だ…!)
吉澤は慌てて
「すみません」
謝った。
「あー。ポチと話してたらお腹空いたー」
「はぁ…」
椅子から立ち上がる藤本を見つめる吉澤。
「ポチ、ね、少しでいいからさ…」
「はい?」
そう言ってベッドにのってくる藤本。
「少しでいいからさ…血を…」
「ち?…ち、…ちぃー…地下?」
「地下の「か」、かぁー…そうだねぇ…って誰もしりとりなんてしてねぇよ!」
「で、ですよね〜…」
- 8 名前:1 投稿日:2004/08/07(土) 15:01
- 藤本はいきなり吉澤の首に噛み付く。
「ぅあっ!ちょっ、藤本さん?!何やってるんですか?!」
慌てる吉澤。大人しくしててほしい藤本は
「ポチ」
睨み一発。ポチこと吉澤は大人しくなった。
「やー!ポチの血おいし〜」
「はぁ…」
とりあえず飲み終えた藤本が顔を上げて言う。
吉澤は少々貧血気味。
「何でこんなにおいしいの?何か秘訣でも?」
「…ひ、秘訣って言うより…クォーターだからですかね…」
「へぇー。そうなんだ。クォーターか…。だからおいしいのか…」
一人で納得する藤本。
「……って、ちょっと待ってください!」
「何?」
「血を吸ったってことは…………」
「そうだよ、美貴はバンパイアだよ」
吉澤の顔から血の気が引いた。
バンパイアは妖怪の中でも最強の地位にある。
独立心が強く、他の妖怪とはいっさい関わりを持とうとしないが、中でも同じ系統のドラキュラとは犬猿の仲だ。
「何、ポチ…もしかして美貴がバンパイアって知らなかったの…?」
恥ずかしそうに頷く吉澤。
それをおかしそうに、藤本は笑いながら
「ポチは狼っていうより、普通の犬だね」
と。
- 9 名前:1 投稿日:2004/08/07(土) 15:15
- 「あーあ。もう朝4時ですか…」
あくびをしながら眠そうに藤本が言った。
「ポチも少し寝てから、掃除とか後片付けとかしといて。鎖外してあげるから」
鎖を外し終えた藤本は部屋から出て行った。
急に部屋が静かになる。
まっくらの部屋。大きな窓には大きな暗幕が。
怖い。
吉澤は急に怯えだした。元々お化けなどが苦手な妖怪。
物音がする度驚く。鳥の鳴き声がしても驚く。
吉澤はこっそり、部屋から出た。
藤本の姿を探している。
「……ポチ…」
「うあっ!」
後ろから声をかけられて情けない声を出す。
「あんた、何してんの?」
パジャマに着替えて、歯磨きを終了させた藤本が聞く。
「いや、その…」
「トイレ?」
吉澤は首を横に振る。
「じゃあ、何?」
「あの…非常に言いづらい事なんですが…」
「……何?…もしかして、あんた……怖い?」
図星の吉澤。
顔を赤らめて微かに頷く。
それを見た藤本が苦笑して言った。
「いいよ。…じゃ、一緒に寝よう」
それを聞いた吉澤は嬉しそうに微笑んだ。
「はぁ…。あんた犬って言っても子犬じゃん…」
藤本の呟いた言葉には恥ずかしそうに微笑んだ。
- 10 名前:ガリ男 投稿日:2004/08/07(土) 15:21
- 少し更新。
>プリンさん
初めまして。 よしみきは自分の中でも最近キテるので書かせていただきました。
吉澤さんがポチ呼ばわりで…。なんとかしなければ…。
マイペースで更新していきたいです。はひ…。
- 11 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/08/07(土) 21:09
- みきよし(・∀・)イイ!!
がんばって下さい
- 12 名前:プリン 投稿日:2004/08/08(日) 12:00
- 更新お疲れ様です。
美貴ちゃん・・・ちょい怖いw(ぇ
でもノリ突っ込み(・∀・)イイ!さすが(w
仔犬よっちゃん(*´Д`)ポワワ(ヲイ
今後、この二人がどうなっていくのかなぁ・・・w
激しく楽しみです。
次回の更新も待ってますね。
- 13 名前:2 投稿日:2004/08/09(月) 17:22
- あれから一週間。
日付けが変わった午前1時。
山奥の古城では、主人の帰りを待つ狼(犬)が一匹…。
「……藤本さん、早く帰ってこないかなぁ…」
一週間経った今でも、新しい住まいに慣れない吉澤。
行った事のない部屋も何室かある。本人曰く、行きたくないらしい。
「ポチー。ただいまー」
玄関が開く。
- 14 名前:2 投稿日:2004/08/09(月) 17:30
- 「おかえりー!」
笑顔で部屋からすっ飛んで行く。
「よっちゃーん!聞いてよ!」
嬉しさのあまり抱きつく藤本。
「ぅ……」
真っ赤になる吉澤。
「あ…」
真っ赤になった吉澤の顔を見て、藤本も赤くなり、慌てて離れる。
「………」
「………」
暫しの沈黙。
「…で、何があったの……?」
沈黙を破ったのは吉澤。
「あ、そうそう。今日さ、久しぶりに友達に会っちゃって。明日うちに来る事になったの!」
「わあ!よかったね。」
「うん。ポチのことも紹介しなきゃねー」
嬉しそうに階段を上り、自室に向かう藤本。
吉澤はその背中をずっと見つめていた。
- 15 名前:2 投稿日:2004/08/09(月) 17:46
-
思えば、最近の自分は変だ。
吉澤は一人、広間で考える。
毎晩怖いから、という理由で藤本の部屋で寝てる。なのに、緊張して最近では、ろくに眠れない。
「ポチの血はおいしい」何て言ってたのに、血を吸われたのは初日だけ。
それも何か虚しい。
(ん…?これじゃ、あたし藤本さんに血吸ってもらいたいみたいだ…。
ってそんなわけはない…。違う。違うけど…。)
吉澤は考えるのをやめて、階段を上り自室に入る。
そのままベッドに横になる。
(あーあぁ…藤本さん、可愛いから恋人いるんだろうなぁ…。
昔(?)からバンパイアには美男美女が多いって聞くし…。
なのに、あたしは、友達どころか、ペットで、子犬…)
はぁー…と吉澤がため息をついた。
「ポチー?」
藤本がドアを開いた。
「うあっ!な、何?」
「…そんな、お化けみたいな扱いしないでよ。
暇だからさ、少し話ししない?」
時計を見ると、午前2時になろうとしていた。
- 16 名前:ガリ男 投稿日:2004/08/09(月) 18:02
- ちょっと、用事があるので、とりあえず、ここまで。
また更新します。
- 17 名前:プリン 投稿日:2004/08/10(火) 08:17
- 更新お疲れ様です!
ちょっと気になりだした予感・・・w
真っ赤になっちゃうお二人さんがかわええよぉ。
次回の更新待ってますね。頑張ってください。
- 18 名前:名無し 投稿日:2004/08/11(水) 11:43
- ハウンドブラッド?
- 19 名前:ガリ男 投稿日:2004/08/12(木) 00:12
- 本編とはずれて、短編です。
少し詰まったので…。いしよしです。
- 20 名前:休日明けの月曜日 投稿日:2004/08/12(木) 00:13
- 休日明けの月曜日。
うちの女子校に教育実習生がやってきた。
うちの学校は毎年一回、教育学の人を呼んで、実際に二週間、実習させている。
要するに体験学習みたいなやつ。
校長が何でそんな事をやってるのかは知らない。
あたしには、どうでもいい事だから。
- 21 名前:休日明けの月曜日 投稿日:2004/08/12(木) 00:15
- 例年通り、あたしの教室にも一人、教育実習生がやって来た。
「えっと、石川梨華です。担当する科目は数学です。宜しくお願いします。」
軽く拍手がおこる。
あたしは、色が黒いからてっきり体育の先生かと思った。
皆は、容姿と声のギャップに驚いたり、馬鹿にしたりしてた。
あたしは、どうでもよかったから、ずっと窓から見える景色を見てた。
毎日同じ風景で飽きたけど、他にやる事がないから見る。
あたしは、放課後、毎日部活に出てる。
バレーが楽しいし、これだけしか取り得のない人間だから。
ふと、体育館の入り口を見ると、黒いものが立っている。
あたしは、それを瞬時に石川梨華だと判断した。
声をかけようか、迷ったけどやめた。
同じクラスの子が話しかけに行ってるし、練習中だったから。
それから一週間が経った。
あたしは、石川梨華と話す機会もなく過ごした
- 22 名前:休日明けの月曜日 投稿日:2004/08/12(木) 00:22
- そして、休日明けの月曜日。
人気のない渡り廊下をあたしは歩いてた。
開いた窓から入ってくる風とそこから見える景色にあたしは足を、止めていた。
「きゃっ」
後ろから声がした。
振り返ると、石川梨華だった。
持っていた資料が風のせいで吹き飛んでいるみたいで、辺りに飛んでいた。
あたしは、それを拾って渡した。
「あ、吉澤さん、有難う」
「え?あたしの名前知ってるんですか?」
「もちろん。いつも、外見てる吉澤さんだもんね。」
笑顔で言われてあたしは苦笑した。
そういえば、先生の授業も寝るか、外見てたなぁ。
「吉澤さんは、バレー部でしょ?かっこいいね!上手だったよ」
「え?あぁ、やっぱりあれは先生だったんですか?」
「何それ、知ってたんだったら声ぐらいかけてよ」
子供みたいに笑う。それを見てる、あたしも微笑む。
すごく雰囲気の優しい人だなって思った。
「あ、次の授業始まっちゃうよ!じゃあね。有難う」
その場はそれで、別れた。
- 23 名前:休日明けの月曜日 投稿日:2004/08/12(木) 00:24
-
それは、あたしの勘違いなのかもしれない。
けど、あたしは嬉しかった。沢山いる、バレー部の中であたしを見つけてくれた。
それだけで嬉しい。
次の日からあたしは、少しずつ石川梨華に近づいた。
授業が終わった後は、質問するフリをして、少し喋る。
「ひとみちゃん、今日も寝てたでしょ?少しは私の話も聞いてよ!」
「ごめんって」
お互いの呼び方も変わった。あたしが、見る世界が変わった。
木曜日の放課後、梨華ちゃんは、久しぶりに部活動を見に来てた。
あたしは、一週間前とは別人みたいに、発見して、すぐ話しかけた。
「お疲れ。頑張ってるね」
「うん。もうすぐ試合が近いからね。」
「へー。じゃあ、こんな所で油を売ってないで、練習しなさい」
「…はーい」
可愛く笑う梨華ちゃん。あたしは本当はまだ話してたいけど、梨華ちゃんが言うから仕方がない。
なんて、優等生ぶってみる。
- 24 名前:休日明けの月曜日 投稿日:2004/08/12(木) 00:25
- 金曜日。
今日で実習期間が終了だ。
今日こそは、番号とアドレスを聞こうって、決めた。
携帯の番号ぐらいいいよね。なんて考えながら自転車を走らせる。
急に右から車が来た。
あたしは轢かれて、意識が飛んだ。
目が覚めると病院で、お母さんとお父さんがいた。
全身打撲で、左腕骨折。
お父さん達が言うには、交通事故でこれだけなのは凄いって。
だろうね。あたしの変わりに自転車が原形を留めてないぐらい、ぐちゃぐちゃになってたらしい。
医師と話をすると言って病室から出た、両親。
あたしは折れた左腕を一瞬見て、窓から外を見た。
そして、考えた。
この腕では、試合は無理だ。とか。
もう二度と梨華ちゃんには会えない。とか。
自分で自分を追い詰めて初めて涙が出た。
久しぶりに泣いた。
病室から見える景色は、教室のとは、全然違くて。
大きな夕日が見えた。
- 25 名前:休日明けの月曜日 投稿日:2004/08/12(木) 00:26
-
- 26 名前:休日明けの月曜日 投稿日:2004/08/12(木) 00:27
-
あれから、何ヶ月か経った。
あたしは、回復して、またバレーをやってる。
もう入り口に梨華ちゃんが見に来ることはないけど。
年が明けて、春休みになって。
それでも、あたしは部活三昧だった。
時々一人になると思い出す。梨華ちゃんの事を。
いつまでも、引きずるわけにはいかない。
顔も思い出せないくらい。少しずつあたしの中で、梨華ちゃんが消えてる。
それは、いい事なんじゃないかなって自分の中で片付けた。
- 27 名前:休日明けの月曜日 投稿日:2004/08/12(木) 00:27
-
春休みが終わり、休日明けの月曜日。
学年も一つ上がって、何となくスッキリした気分で、向かえた。
始業式。
あたしは、そこで驚いた。ビシッとスーツで決めた、梨華ちゃん。
あたしは、その姿を見て、苦笑して、喜んだ。
終わり
- 28 名前:ガリ男 投稿日:2004/08/12(木) 00:33
- 短編でした。
少し更新遅れそうなので、というか、出来なさそうなので、ochiです。
レス有難う御座います。
>名無し募集中。。。さん
みきよしいいですよね。頑張れるだけ、頑張ります。
>プリンさん
ミキティ怖いですよね。やりすぎかな、とか自覚してます。
更新は遅くなるかもしれません。でも、頑張ってみます。
>名無しさん
残念ながら違いますね。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/15(日) 02:14
- 面白いです。頑張ってください。
ポチ飼いたい…いいなぁミキティ。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/15(日) 22:11
- ギャンバレぽち!
- 31 名前:プリン 投稿日:2004/08/17(火) 15:31
- 更新お疲れ様です。
短編いしよしいいよぉ(*´Д`)ポワワ
なんかこの雰囲気が好きですね。
みきよしの方も焦らず頑張ってください。
マターリ待ってますね。
- 32 名前:2 投稿日:2004/08/29(日) 21:13
- キッチンの椅子に二人は座っていた。
「……そ、そういえば、何で藤本さんはここに一人で住んでんの?」
話す話題が尽きて、暫くの沈黙を吉澤が破った。
吉澤の発言通り、元々バンパイアは集団で生活する生き物なのだ。
「ん?あー、だって美貴に集団生活は無理だよ!」
その通りだな。吉澤は瞬時にそう思った。
「だって、色々厳しいんだって!マジやってられるかー!ってキレて飛び出してきたの」
「へぇー…。寂しくなったりしないの?」
「そりゃ寂しいよ。だからポチを飼ったんじゃないか」
「いやいや、あたし飼われてないからね。」
吉澤は首を横に振る。
「よっちゃんは?やっぱり……皆の所に帰りたい?」
予想外の発言に吉澤は驚いた。
最初の何日かはずっと、皆の元に帰りたいと思っていた。
しかし、いつしかその事を吉澤自身が忘れていた。
「あー、忘れてたな。」
「忘れてたんかい!」
「帰りたくない――って言ったら嘘になるけど…」
「けど?」
「今はこのままでいいかなって……そう思う。」
「え?何、ポチはMなの?」
「は?いやMじゃないっスよ?!」
「えー?でも今のは奴隷宣言じゃなかった?」
(あ、忘れてた…。あたし今藤本さんのペットだ……)
「もう、いいですよ。」
「あはは、ごめんごめん。ほら、拗ねない」
藤本は吉澤の頭を撫でる。
(それが、原因だっつーの。あたし犬じゃないし…。)
思っていても口に出せない吉澤だった。
- 33 名前:2 投稿日:2004/08/29(日) 21:16
- 「にゃ〜」
どっからか、猫の鳴き声が聞こえる。
「ふ、藤本さん。ね、猫飼ってるんですか?」
「え?何で?美貴が飼ってんのは、よっちゃんだけだよ」
「え?だってほら。「にゃ〜」聞こえませんか?!」
「あぁ、久しぶりだなぁ。郵便屋か」
「はい?」
「郵便だよ。ほら、おいで」
藤本の後ろを吉澤はついていく。
大きな入り口のドアを開けると、少女が一人立っていた。
「こんばんわ、藤本さん。お手紙ですよ」
「久しぶりだね、れいな。有難う」
田中からの手紙を受け取る藤本。
「あれ?後ろの方は……?」
「あぁ、ペットのポチだよ。ほら、ポチ挨拶は?」
「…人前でポチってのはありですか?」
「何言ってんの?ほら、早く挨拶しなよ」
「はぁ…。初めまして。吉澤です。ポチじゃないです。」
「あぁ、初めまして。郵便局で働いてる田中です。」
田中はお辞儀する。それにつられて吉澤もお辞儀する。
「それにしても、久しぶりだねー。元気してた?」
「あ、はい。最近色々と忙しくて。」
「そんなに手紙多いの?このデジタル社会に手紙とはねー」
「あ、そういうわけじゃないんですが…。」
「あ、そうなの?なんだ、勘違いか」
「普通に考えればわかるんじゃないっスか……」
小声で吉澤が呟く。
- 34 名前:2 投稿日:2004/08/29(日) 21:16
- 「あ?ポチ今何か言った?」
「あ、いえいえ。何もないですよ。」
吉澤は冷汗をかきながら、握り締められた藤本の右手を見ていた。
「最近、ドラキュラが配達してる途中を狙って襲ってくる事件が多発してるんですよ。」
「へー。ドラキュラが?」
「はい。それで、絵里もさゆも嫌がって…。絵里は怖がるし、さゆは顔に傷がつくのが嫌だからとかで……」
「それで、れいなが代わりに配達してるんだ」
藤本は可笑しそうに田中を見る。
「あ、他にも行かなきゃいけないんで、失礼します。」
「うん、有難うね」
「いえ、それでは、失礼しました」
そう田中が言った後、スグに田中の気配は消えた。
藤本は入り口のドアを閉める。
「郵便屋なんてまだあったんだ。」
吉澤が少し驚いたように口に出す。
「そうだよ。やっぱり手書きの方が有り難味があるね」
「ですね。で、手紙って誰からなんスか?も、もしかして…彼氏……?!」
「何その、驚き方。残念ながら美貴には彼氏いませんよー。出会いがないんだよ!出会いが!!」
少し怒ったように言う藤本の姿を吉澤は安心しながら見てた。
(ん…?なんであたし安心してんだ?………)
吉澤は暫く考えたが、考えるのが苦手なので、すぐにやめた。
気付くともう朝方の4時過ぎ。
気付けば、とっくに藤本の姿はなく、吉澤も自室に入ってすぐに寝た。
- 35 名前:ガリ男 投稿日:2004/08/29(日) 21:32
- 短い更新でした。
>名無飼育さん
ポチ飼ったら食費大変そうですよ。
>名無飼育さん
ですね。ポチ頑張れ!
>プリンさん
思いつきなので、雰囲気とか全然考えてませんでした…。
少しずつ、本編もやっていくつもりです。
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/29(日) 21:37
- リアルタイムで読ませていただきました。
飼われてるというのにこのほのぼの感。いいですねポチ。
- 37 名前:プリン 投稿日:2004/08/30(月) 17:41
- 更新お疲れ様です♪
ポチポチ言われるよっちゃんがいいですね(w
そろそろよっちゃんも気になってきた頃かしら…w
今後の展開が楽しみです。
次回の更新も待ってますー!
- 38 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:49
- 翌日。
一時に、藤本は待ち合わせをしているらしく出かけて行った。
吉澤は一人、キッチンのテーブルに座ってTVを見ながらゆで卵を食べていた。
(……深夜のTVって楽しくないなぁー…)
TVでは、昔のドラマの再放送があっていた。
吉澤はリモコンでチャンネルを変える。
消してもよかったのだが、無音の空間に一人いるのは寂しいのでTVをつけていた。
吉澤は最後の一口を口の中にいれた。
「すみませーん」
声が、大間から聞こえてきた。
吉澤は一瞬ビクッとなりながらも、席を立った。
「…あの、…どちら様ですか……?」
- 39 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:49
-
「……んっ!……たん!みきたん!!」
(……ん…。誰か呼んでる…。起きなきゃ……)
藤本はうっすらと目を開けた。
「あ!よかった!!みきたん大丈夫?」
「……あぁ、亜弥ちゃん…。痛っ!」
藤本は、左肩を押さえる。
肩から、肘にかけて数個の穴が開いている。血がそこから出ている。
「みきたん、動かしちゃ駄目だよ!!」
「……あ、亜弥ちゃん!ねぇ、あの子どこ行ったの?!」
藤本は慌てて右手で松浦の肩を掴む。
「痛っ!痛いよ、みきたん」
「あぁ、……ごめんね」
藤本は血のついた右手を松浦の肩から外す。
「…向こうに行ったよ」
松浦の指差す方を藤本は見る。
指差す先は、古城がある位置。
「! 亜弥ちゃん急ごう!!」
藤本は、左肩を押さえながら立ち上がる。
「え?みきたん、駄目だよ!ちゃんと手当てしないと…!!」
「それだと遅いの!ポチが……よっちゃんが危ない!!」
- 40 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:51
-
「藤本さんの友達なんだ」
「うん。そうだよ。で、えっと……」
「あ、あたしは吉澤です。吉澤ひとみ。」
吉澤は右手を差し出す。
「吉澤さんか……。……よっすぃーって呼んでいい?」
「よっすぃーか…。はは、いいね。うん、もちろんいいよ」
「じゃ、宜しくよっすぃー。あたしは後藤真希。」
後藤は、吉澤の右手を握り返す。
- 41 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:55
- 「よっちゃん!」
藤本が勢いよくドアを開けて入ってきた。
「あれー?藤本さんお帰りー。まったく、友達迎えに行ったんじゃないの?」
吉澤はへらへら笑う。
「あれ?何だミキティか。お帰りー」
「ごっちん……」
後藤を見た藤本の顔色が変わる。
「あれ?そっちの子も連れてくる予定だったの?……藤本さん、その左手…どうしたの?」
黒い服で隠れていた左手だが、落ちてくる血を見て吉澤が気付いた。
「大丈夫なの?」
吉澤が藤本に近づこうと足を一歩踏み出した。
「うぁっ!」
後藤がそれを阻止する。
後ろから、吉澤の首に爪を刺す。
- 42 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:55
- 「ミキティ。わかってるだろーけど、動くと刺すよ?」
「………」
藤本は黙って後藤を睨む。
松浦は藤本の後ろで、後藤の顔を見る。
「まっつーも久しぶりだねぇ。今度ゆっくりお茶でもしようよ」
「ふざけんな!よっちゃんを離してよ!!」
藤本が怒鳴る。後藤は相変わらず笑みを浮かべている。
「???」
一人状況がわからない吉澤はただ混乱するばかりである。
「ごっちん…、離してくれないかな…?首痛いんだけど……」
吉澤は尋ねてみる。爪が刺さっている首からは少しずつ血が出ている。
「あぁ、ごめんねよっすぃー。でもそれは無理だね」
後藤は吉澤を見て、それから藤本を見る。
- 43 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:56
- 「……やっぱり…。やっぱりごっちんだったんだ…」
藤本がゆっくり口を開く。
「ん〜?何が?ごとー何の事だかさっぱりわかんないよ」
「お父さん…。美貴のお父さん殺したのやっぱりごっちんだったんだ。」
「あぁ、そういえば殺したっけ。憎い?ミキティのお父さん殺したごとーが憎い?」
「…憎くないって言えば嘘。だけど、ごっちんを殺そうとは思わない。」
「そうなんだ。ミキティは優しいね。ごとーは憎いよ。…紺野をあんなにした、ミキティの一族がすごく憎い」
「……ごっちん……」
- 44 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:57
- 今まで後藤を睨んでいた藤本の表情が少し悲しげになる。
「ミキティにはいい迷惑だよね。ミキティは関係ないけどさ、ほらやっぱり同じ血が流れてるって思うとすごく嫌になるじゃん」
「――だからさ、死んで?」
- 45 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:58
- 後藤は吉澤は突き飛ばして、藤本に向かってかなりのスピードで走る。
右手を肩と同じぐらいまで上げる。
そしてそれを刺す。
鈍い音がして肩に穴を開ける。
「……何で。…何で邪魔するんだよ」
「―――亜弥ちゃん……」
「……みきたんは、私にとって大事な人だからかな」
後藤は松浦の左肩から右手を抜く。
手首まで入れられた肩からは大量の血が出ている。
「――――っ!」
手を抜かれたとたんに松浦の肩に激痛が走る。
松浦はそのまましゃがみ込む。
- 46 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:58
- 「亜弥ちゃん!」
松浦と同じ様に藤本もしゃがみ込む。
「ごめん、ごめんね亜弥ちゃん……」
藤本の顔色が悪くなる。
「……何で?…何でみきたんが謝るの?」
松浦はへへっと笑う。
無理に笑う顔には汗が出ている。
「まっつーが邪魔してなければ、今頃死んでたよね?」
後藤が上から藤本を見下ろす。
「良かったね。ラッキーじゃん」
後藤は笑う。
そして、再び血のついた右手を翳す。
「!」
- 47 名前:3 投稿日:2004/09/05(日) 02:59
- 吉澤が後ろから後藤を止めている。
「藤本さん!友達連れて早く逃げて!!」
「もぅ!!」
後藤が少し怒った様な声を出す。
右肘で吉澤の腹を殴る。
「ぅっ!」
その衝撃に、吉澤は後藤の身体から離れる。
今度は左足で腹を蹴る。
みしっ
嫌な音がした。
吉澤はその場に倒れる。
「んー、さすがは打たれ強い一族だね。でも、意外とよっすぃーは弱いねぇ」
後藤は、右手についた松浦の血を舐める。
「……っ…最近殴りあいとかやってないからね……」
痛みを堪えて笑う。
「そうなんだ」
後藤も笑う。
その顔からは予想出来ない、圧倒的強さ。
後藤の笑顔に吉澤は恐怖を覚える。
強がっていても、後藤なら確実に自分を殺すだろう。
吉澤の頭で危険センサーが鳴っていた。
だけど、逃げなかった。
それはやっぱり藤本の事が気がかりだったから。
(…とかカッコつけるのはいいけど、マジであたし殺される…!!)
心中で叫びながら苦笑する。
- 48 名前:ガリ男 投稿日:2004/09/05(日) 03:03
- 本日の更新はここまでです。
6期の小説を書きたい浮気者です…。
変な展開になってきましたが、きちんと終わらせる予定です。
名無し飼育さん>
飼わせてる事をすっかり忘れてました…。
ほのぼのにしたいと願いつつ頑張ります。
プリンさん>
毎回有難う御座います。
ポチも少し成長したようですね。(?)
今後も少しずつ頑張って生きたいです。
- 49 名前:ガリ男 投稿日:2004/10/10(日) 14:39
- 突然ですが、お知らせです。
溜めていたストックを全て消されました。
ショックで立ち直れません……。鬱だ、氏にたい……。
なので、申し訳ありませんが、続きは書けません。
本当に申し訳ないです。
しかし、せっかくスレを立てたので短編っぽいやつを書いていきます。
そっちの方は残ってましたので……。
それでは。本当に申し訳ありませんでした。
- 50 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 14:41
- 自由に出来る体が欲しい。
早く走れる足が欲しい。
全てを手にする事が出来る手が欲しい。
君を抱きしめてあげる両手が欲しい。
―――人間になりたい。
- 51 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 14:41
- 少女は人形だった。
人形だが、名前も意識もあった。
少女を作ったのは、身寄りのないお爺さんだった。
不自由な体で一日中机と向かい合い、人形を作り続けた。
最後に出来たのが彼女だった。
少女を作った後、お爺さんは倒れた。
誰も居ない、ひっそりとした暗い部屋で、誰にも看取られずに静かに息を引き取った。
- 52 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 14:43
- 少女は人形だった。
それから、お爺さんの家は悪臭がしだした。
肉が腐れた臭い。
その発臭元は近所の住民によって、発見された。
それからそこは、数十年間誰も近寄らなかった。
- 53 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 14:44
- ある日。
冗談半分で近所の子供達が家に入ってきた。
その時、その家は、子供達の間で噂の的だった。
誰も住んでいない、お化け屋敷だ、ということで。
「何だこの家ー!」
数人の子供達の声が聞こえる。
「うわー気味悪ぃー!人形ばっかだぜー!」
棚に並ぶ人形を子供達は見上げる。
「お、これ妹にあげよう。誕生日なんだよな〜」
笑いながら一つの人形を手に取る。
「それいいなぁ〜!おれもお前の妹にあげる〜」
そう言いながら数人の子供達は両手いっぱいに人形を抱える。
そして、家を後にした。
家は何もなくなって少し寂しそうだった。
- 54 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 14:44
-
籠に人形を入れ、自転車に乗る。
ガタガタな道路を、急な坂道を。子供達は自転車をこぐ。
一つ。
綺麗な桜並木で人形が一つ落ちた。
もちろん子供達はそれに気付くわけがなく、そのまま通り過ぎた。
落ちた人形は少女だった。
初めて見る外。
感じる風。
全てが気持ちよかった。
ずっと此処に居てもいいと思った。
しかし、それはあっさり駄目になってしまった。
「あれ?人形が落ちてる……」
車椅子の少女が、人形を発見した。
何とか必死に手を伸ばし、人形を取る。
「あなた汚れてるね」
ついていた埃を軽く手で払う。
「誰のかな……?」
辺りを見回すが誰もいない。
「……わたしが持ってってもいいよね?」
首を傾げて人形に微笑む。
もちろん答えられるわけもなく。
少女は、膝に人形を乗せて病院へと戻っていった。
- 55 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 15:13
- 少女は人形だった。
車椅子の少女は、個室に戻ると人形を窓際に飾ってもらった。
それは、ベッドのスグ隣で、窓からは綺麗な桜が見える。
「梨華ちゃん、手伝おうか?」
看護士が尋ねる。
梨華と呼ばれた少女は首を横に振る。
「出来るだけ自分でやりたいんです…」
そう言って、手をベッドに伸ばし、両腕に力を入れる。
車椅子からベッドに移動しようとする。
しかし、急に腕の力が抜けるように崩れ落ちる。
ガタァーンッ
音がして、車椅子は倒れていた。
看護士は梨華を抱き起こした。
「大丈夫?」
「……はい…」
梨華の顔は泣きそうだった。
看護士はベッドに梨華を移動させて、車椅子を立たせた。
そして、部屋を後にした。
部屋の中は梨華と人形だけだった。
無音の空間。
静か過ぎて音がする。
梨華が人形に手を伸ばす。
「ね、あなた名前なんてゆーの?わたしね、梨華ってゆーんだよ」
梨華は笑った。
「いい年して何やってんだろ…。人形が喋るわけないのに…」
視線を人形から外に向ける。
風が吹いていて、綺麗な桜は散っていく。
梨華は暫く黙ってその光景を見ていた。
- 56 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 15:14
- 少女はまだ人形だった。
その夜。
人形の少女の前に現れたのは女神か、天使か、とにかくそれの類だった。
「んあー…君さぁ、喋りたい?」
少女は頷く。
どうやら、この天使か女神には思いが通じるようだ。
「そうかぁー…。じゃあ、ごとーが素敵なプレゼントをあげるよ」
後藤と名乗った(?)人物が、杖を振りながら「んぁー」と言う。
目の前が真っ暗になった。
次の瞬間、目を開けて自分の手を見る。
それは、木でも布でもなく、指がきちんと5本ついていた。
顔を触る。
眉毛も目も鼻も口も耳も全てついていた。
少女全体は親指姫程小さくはないが、手のひらぐらいのサイズ。
「あ、あたし人間になれたの?!」
少女が後藤に向って尋ねる。
「んー…正確にはなってないんだけどねぇ。いい?これからよく聞いてね」
少女は頷く。
「今日から三日間はごとーのプレゼント。三日間はその姿だから」
それを聞いて少女は笑みを浮かべる。
「そして、三日後に願いを聞きに来るから。それがごとーからのスペシャルなプレゼント」
目を輝かせて少女は後藤を見る。
そして口を開いた。
「ど、どうしてそこまでしてくれるんですか?!」
後藤は、一瞬驚いてスグに笑った。
「んー…それは、君がいい子だったからだよ〜」
指を使って頭を撫でる。
なんだかそれは気持ちがよかった。
「梨華ちゃんにはごとーから言っとくから〜。心配しなくていいよ〜」
のんびり喋る。
「あ!な、名前…!あたし梨華ちゃんに名前教えてないんだ!」
「そっかぁ。…確かねぇ…お爺さんは……”ひとみ”ってつけたよ」
「ひとみ……?それ、があたしの名前…?」
「そうだね。じゃ、ごとーは三日後にまた来るから」
「あ、ありがとう!」
消える直前後藤はひとみを見て優しく微笑んだ。
- 57 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 15:14
-
少女は小さな人間になった。
「夢じゃないんだね……」
目が覚めて梨華がひとみを見た時の第一声だった。
どうやら、後藤は夢の中で梨華に話したようだ。
「お、はよう…梨華ちゃん…」
「おはよう…」
少し照れたように言うひとみに梨華はぼーっと返事を返す。
「あ、あたしの名前…ひとみってゆーんだ…」
「ひとみちゃん?」
「うん」
「ひとみちゃん」
「どうしたの?」
「ひとみちゃんがいてくれてよかった」
「梨華ちゃんが拾ってくれたおかげだよ」
梨華の甘い声がひとみの耳に届く。
ひとみが発する言葉が梨華の耳に届く。
ひとみは幸せだった。
そして、絶対人間になりたいと強く願った。
- 58 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 15:15
- 少女は小さな人間になった。
それから梨華と沢山色々な話をした。
車椅子に乗って色々な所を見た。
梨華の車椅子を見る度にひとみは思った。
自分が、車椅子を押してあげられれば――。
ベッドに移る際に抱えてあげられれば――。
その全てはこの小さな体には到底無理な事。
ひとみはいつも一生懸命に自分でやろうとする梨華を見ていた。
少しでも元気が出るように。少しでも笑顔になるように。
と、ひとみなりに努力した。
- 59 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 15:16
- 少女は小さな人間には抱えきれないぐらいの欲を持った。
――人間になれたら。
――もう少し近付けたら。
――側に居れたら。
――抱きしめたあげられたら。
全てが心の中で繰り返される。
それは呪文のように。
- 60 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 15:17
- そして、それは三日経った日だった。
そう、ひとみが小さな人間で居られる最後の日。
心なしかひとみは朝からそわそわしていた。
おして、いつも通り二人は車椅子に乗って散歩していた。
病院の庭。
大きな大きな庭をゆっくり車椅子で移動する。
子供たちが遊んでいた。
笑顔で走り回る子供たち。
梨華もそれを微笑んで見ていた。
「いいなぁ……」
小さな、消えそうな声で呟いた。
ひとみはスグに梨華を見上げた。
その顔は、悲しそうに微笑んでいた。
- 61 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/10(日) 15:19
- 少女は知った。
伝わらない想いもあると。
夜。
梨華が寝た後に後藤はやってきた。
「んあー…久しぶり〜」
「………」
「約束だね。願い事を一つ叶えてあげるよ〜」
のんびり口調の後藤は三日前と変わらない。
「……願い事ってどうしても一つしか叶えられないんですか?」
「そうだねー。うん、無理だね〜。」
ひとみはそれを聞いて落ち込む。
「どうしたのさ?三日前の君だったら間違いなく人間になりたいって言ってたのに」
「……迷ってるんです…」
ひとみは俯いて答える。
「…昨日聞いたんです…。梨華ちゃんの足はきっと二度と動かないだろうって……」
ポロポロ両目から水を零す。
「あ、たし…ずっと人間になって梨華ちゃんの車椅子を押してあげれればって、人事のように思ってた……」
「うん。そりゃそう思うよね。人の気持ちなんてわかるわけないし」
後藤が言う。
「それで悩んでんのかぁー。助けてあげるか自分の欲を叶えるか……」
ひとみは無言で頷く。
「……貴方だったらどうしますか?」
ひとみは顔を上げて尋ねる。
後藤は少し考えてこういった。
「ごとーだったら人間になるね。我が儘だから一生側に居て、一生面倒みてあげるの」
そう言って微笑む。
「まぁ、ごとーは人一倍我が儘だからね〜」
ひとみは俯いた。
どうすればいいのか。
結論は決まっている。
しかし、それを口にするのは、一生後悔しそうだった。
「―――あたし、一生人形でいいです」
笑顔でポロポロ水を流しながら言った。
「本当に?後悔しない?」
「はい。あたし、すごく楽しかったんです。だからもう十分です。次は梨華ちゃんに楽しさを分けてあげたいんです」
零した水は綺麗な空色。
落ちて溜まった水は海になる。
「そっか。君がそれでいいならごとーは何も言わないよ」
「ありがとうございます」
後藤を見上げ微笑む。
それから、ベッドにジャンプして梨華に近付く。
「梨華ちゃん。有難う、楽しかったよ」
梨華の頬にキスをした。
そして目の前が真っ暗になった。
- 62 名前:プリン 投稿日:2004/10/11(月) 17:24
- 更新お疲れ様です!!
すんげー面白いっすw
続きが読めないのは少し残念ですが、短編の方、期待してますよっ!
作者様っ…死なないで・゚・(ノД`)・゚・。
マターリ更新待ってるんで頑張ってくださーい。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/12(火) 01:06
- 人形の選択に涙。
データ削除は自分も経験ありますので心中お察しします。
すごく面白い設定だっただけに続きが見れないのは残念だぁ〜。
- 64 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/14(木) 00:32
- 少女は人形にもどった。
梨華が目を覚ますと、部屋には梨華以外に、何も、誰もいなかった。
「……夢なのかな…」
妙に現実味のある夢を見た。
梨華はそう思った。
外を見ると朝日がきらきらしていた。
- 65 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/14(木) 00:32
- それから梨華は完璧に足が治った。
後遺症も、何もなく、手の施しようがないと言われていた為に
親も医者も梨華自身もかなり驚いていた。
医者も親も口をそろえて「奇跡だ」と言っていた。
- 66 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/14(木) 00:33
- 梨華は桜並木を歩いていた。
綺麗な桜が散って舞って地面に落ちる。
ゆっくり歩きながら桜を見ていた。
「あれ?足治られたんですか?よかったですね」
誰かに声をかけられた。
(誰だろ?)
不思議に思いつつも梨華は
「ありがとうございます」
と言い軽く礼をした。
「梨華ちゃーん」
梨華の名を呼ぶ声が聞こえたので梨華はまた軽く頭を下げた。
そのまま声のする方へと走っていった。
- 67 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/14(木) 00:33
-
「……これでよかったんだよね?」
梨華に声をかけた人物はポケットの中を見る。
小さな人形が入っていた。
「君はこれが見たかったんだよね?いい笑顔してたよ?」
人形を見て、桜に目を移した。
そのままゆっくり歩いてその場を後にした。
- 68 名前:小さな願い事 投稿日:2004/10/14(木) 00:34
-
おしまい
- 69 名前:ガリ男 投稿日:2004/10/14(木) 00:41
- 小さな願い事は終了です。
お疲れ様でした。
>プリンさん
褒めていただいて光栄です。
期待はずれにならない程度に頑張りたいと思います。
続きが書けなくて本当に申し訳ないです。
死にはしませんがそれに似た状態です。
立ち直りつつありますので、これからも少しずつですが頑張ります。
>名無し飼育さん
涙ですか?簡単に予想できる展開だったのでそう言っていただけると嬉しいです。
データ削除は本当につらいですよね。
続きを期待して頂いていたのに、本当に申し訳ありません。
その代わりに短編を頑張りたいと思いますので、よければ時々目を通してやって下さい。
- 70 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 19:53
- 「じゃーんけーん…」
「ぽんっ!」
掛け声と共に片手を出す。
「あー!ずりぃー!藤本今遅出ししただろ〜?!」
「はぁー?やってないし!ほら、早く買って来てよ!」
「うえ、足で追い払うな!」
「んあ〜…よしこ諦めが悪いナァ〜」
「ごっちんの言うとおりだよ。よっすぃー行っておいでよ」
「うぅ…。ごっちんも梨華ちゃんも自分が負けてないからって……」
渋々教室を出る。
三人の楽しそうな声が廊下にまで響いてた。
- 71 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 19:54
- 「あー、寒ぃ〜」
制服のポケットに手を入れて歩く。
じゃんけんで負けたあたしは、遠いコンビ二目指して歩く。
まだ冬とは呼べないこの時期でも寒い。
夕日が出てて空は綺麗だ。
まだ白い息にはならないけど、寒い!本当に寒い。
「う〜……寒いぃー…」
独り言を言いつつ、さり気なく寂しさをまぎらわす。
ふと、教室にいる三人が頭に出てきた。
今頃、何話してんのかな?
三人の会話を思い浮かべていたら、自然と顔が笑ってた。
はぁー…。早いなぁ…。あと一年か。
考えていた途中でコンビ二が目に入ってきたからあたしは少し足を速めた。
- 72 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 19:55
-
コンビ二で言われた品物を買った。
お茶やらコーヒーやらジュースやら…。
このお菓子は個人的なものなんだけど、さ。
歩いて帰る途中でまた空を見上げた。
さっきと変わらないようで違う空。
あたし達も変わってないようで少しずつ変わってきてる。
それを認めるのが怖くてあたしは変わってない素振りをしてた。
けど、違うんだよね。
あたしだって変わってる。少しずつ自分を見つめて、大人になってる。
来年、あたし達は受験だ。
だからこんなにのんびりしてられるのも今年が最後。
実際のんびりしてるのはあたしだけなのかもしれない。
梨華ちゃんもごっちんも藤本もやっぱり以前とどこか違う。
それでも、皆でこうやってやれるのは嬉しい事だと思う。
難しい事は考えられない。
来年受験生なのにそれでいいのかってあたしは自問するけど
きっとあたしはそれでいいんだ。
- 73 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 19:57
- ――難しい事を考えてるとよっちゃんじゃないよ〜
前に藤本に言われた。
それに口答えすると梨華ちゃんもごっちんも藤本の味方しやがった!
――んぁ、よしこの難しい事は頑張って明日の晩御飯の事だろうねぇ〜
なんだよそれ?!
あたしそんなに食い意地はってますか?!
――よっすぃー…大丈夫?頭ぶつけた?
梨華ちゃんのマジな心配に二人は爆笑。
あたしがいじけたら何時の間にか梨華ちゃんも笑ってて
そんな三人見てたらあたしも可笑しくなってきて
一緒に笑ったんだっけ。
- 74 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 19:57
- つい最近の事が凄く懐かしく感じる。
きっともう二度とあんな風にはならないだろうな。
来年が終わって皆少しずつ変わって再会した時でも
きっとこんな風にはならない。
自信は無いけど確信はもてる。
だって学生時代は一度だけだよ?
二度もあったら楽しくないよ。
輝かしい栄光の時代は一瞬でいいんだ。
お、珍しくすごくない?
自分で考えて少し笑った。
空を見上げるとやっぱりさっきとは違う空。
何となくその空に手を伸ばしてみた。
手のひらから出てしまう空は大きい。
夏の空と違ってまた少し手の届かない存在になった。
「……届かないなぁ…」
立ち止まって空に手をかざして呟いた。
「何が届かないの?」
「おわっ!藤本っ」
「その驚き方は何だよー」
昇降口の所に藤本が立っていた。
彼女の顔は何時でも自信があるように見える。
- 75 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 19:59
-
「えー?何々?もしかしてあたしを心配してたとか?」
軽く走りながら藤本に近付く。
「違うし!あんまり遅いから昇降口の鍵閉めようとしてたの」
「うわ、ひでぇっ!」
少し先を歩く藤本に向って言う。
斜めの目線から見える藤本の顔は笑ってた。
「今ねー、梨華ちゃんとごっちんオセロやってんだよ」
「マジ?じゃあ、賭ける?」
「よし、のった!」
「じゃあ、あたしは梨華ちゃんが白いオセロ使ってる方に100円」
「オセロの色かよ!んー…じゃあ美貴はごっちんが白いオセロの方に100円ね」
二人で話しながら階段を上る。
この教室を使うのも今年で最後。
来年からはまた一つ上の学年になるんだ。
- 76 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 19:59
-
「あー、おかえりー」
気付いたごっちんが声をかけてくれた。
「よしこかミキティ相手してくれない?梨華ちゃんかなり弱いんだよね〜」
そう言ったごっちんはいつもつまらなさそうな顔をしている。
それでもあたし達と居るときだけは楽しそうに見えるのは
あたしの目が悪いのかな。
「うっわぁー……」
オセロ版の上を見る。
それは一面真っ白で、所々黒があった。
「梨華ちゃん弱すぎー!!」
藤本が可笑しそうに声をあげる。
「えー?そんな事ないよぉー!ごっちんが強すぎるのー!」
彼女は眉を八の字にして、どかっと椅子に座る藤本に言う。
梨華ちゃんは何時でも眉を八の字にしてる気がする。
そこが、ネガティブっぽいんだよなぁー…。
なんて思ってても口には出せない。
「よっちゃん、100円」
「えー?マジ?あれ冗談のつもりで言ったんだけどなぁー」
苦笑しても藤本には通用しないらしい。
「諦め悪すぎ!賭けは美貴の勝ちだから」
あたしは渋々財布から100円玉を出した。
「え?二人とも賭けしてたの?ひどーい!」
梨華ちゃんの野次が飛んでくる。
あたしは苦笑するしかない。
「よしこ見る目無さ過ぎ〜。」
「そうだよ、よっちゃん。無理矢理梨華ちゃん庇わなくてもいいのにー」
賭けの対象は二人の勝ち負けじゃないって言わない藤本はやっぱり少しイジワルだ。
ごっちんは眠そうだけど顔が可笑しそうに笑ってる。
梨華ちゃんは必死に二人に反抗するけど勝てるわけがなく、眉を八の字にして少しネガティブモードになってきた。
そんな三人を見てるのは楽しい。
- 77 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 20:01
- けど、これじゃあまりにも梨華ちゃんが可哀想だ。
なんていい人ぶってみた。
「じゃあ、可哀想な梨華ちゃんには、あたしからのプレゼント〜」
コンビ二の袋からお菓子を出して梨華ちゃんに差し出す。
もちろん二人が黙ってるわけがない。
「あー!よっちゃんずるいー!!美貴達には無いのー?!」
「よしこ冷たいなぁ〜。ごとーにも何か買ってきてよー!」
「二人は駄目ー。イジワルさんにはないんだよ〜」
梨華ちゃんが可笑しそうに少し偉そうに言う。
それがまた可笑しい。
「嘘嘘、二人の分もあるよ。」
袋から飲み物と一緒にお菓子を出す。
「えー?どうしたの、よしこ〜?今日かなり気前いいじゃん」
「まぁ、今日だけね。特別だからさ」
「何が特別なの?あ!梨華ちゃんそれ一口ちょーだい」
「いいよ。あー、美貴ちゃんのも美味しそうだね。」
机を固めてその上にお菓子や飲み物を置く。
それを四人で囲んで、他愛の無い会話をする。
- 78 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 20:02
-
少し泣きそうになった。
輝かしい栄光の時代はもうスグ終わりをつげる。
あたし達は学校という一つの籠から飛び出して自立する。
それは嬉しいけど、やっぱり悲しい。
今すぐにでも泣けるけど、それは来年の卒業式までとっといてやろう。
来年の卒業式。
あたしはきっと泣く。
場所は決まってる。この教室に足を運んで泣いてやる。
未来の計画が一つたった。
そしたら急に冬が近付いた気がした。
それはきっと気のせいじゃないと思う。
- 79 名前:冬が来る 投稿日:2004/10/14(木) 20:02
-
終わり
- 80 名前:ガリ男 投稿日:2004/10/14(木) 20:04
- 冬が来る、終了しました。
季節的には丁度今の時期ぐらいで。
ちなみに高校二年でしょうか。それぐらいですね。
それでは、また次回。
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/15(金) 07:41
- バカやってた高校時代が懐かしいなぁ。
もう同じことはできませんもんね。
こういうのは、切ない感じですけど大好きです。
- 82 名前:ガリ男 投稿日:2004/10/16(土) 17:09
- >名無し飼育さん
そうですね。もう同じ事は出来ませんよね。
懐かしく思っていただいて光栄です。
切ないのを頑張って書こうと志していましたので、そういっていただけて嬉しいです。
話の雰囲気をガラッとかえるつもりです。
今回のは、元ネタありできっとすぐに気付くと思われます…。
- 83 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:10
-
世界は動いた。
- 84 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:11
-
2×××年。
とある某所。
「一体、あいつは何をやっているんだ?!」
「五月蝿い。少しは静かにしろ」
机を囲んで数人の男達が喋る。
壁にはモニターがある。
音がして、モニターに映像が映った。
『こんにちわ、皆さん』
「遅いぞ!貴様から呼び出しといて何様だ?!」
一人の男がモニターに向って怒鳴る。
『まぁまぁ。落ち着いて。では、今から皆さんに俺が考えた”未来幸せ計画”を教えましょう――』
男はそう言って微笑んだ。
- 85 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:11
-
『皆さんは今、世界でもっとも肩身が狭い立場にあるでしょう。社長という立派な立場でありながら。
それは、何故か?考えた事はありますか?そう、理由は会社で作っているものが原因なのですよ。
武器。今の人間でそんなものを使用する人物はごく一部です。
しかし、そんなちっぽけな利益では、会社をやっていけませんね。生きていけませんね。
そこで、俺が考えたのが”未来幸せ計画”ですよ。
武器については前回教えたとおりです。そうですね、今回は改造人間…サイボーグの説明をしましょうか』
- 86 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:12
-
バチンッ
音がした。
「うっ……」
イキナリ飛び込んできた光は思った以上に眩しく暫くは頭が働かない。
「……此処は?」
真っ白な部屋の中。
ベッドから下りて辺りを見回す。
誰もいない。何もない。
『こんにちわ。初めまして』
「え?だっ、誰?」
声の主が分からず少女は戸惑う。
『私はそうですね…001ですよ。009さん』
「は?001?009?意味がまったくわかんないんだけど……」
『そうでしょうね。皆さん最初はそう言いますよ。けど、スグにわかるはずです』
「はぁ?大体あんた何処にいるんだよ?!」
少女が叫ぶ。が、返事はない。
仕方が無いので部屋の中を歩く。
真っ白な壁は、天井は果てしなく続いているように思われた。
しかし、先に一筋の光が見えた。
少女はそこに向って走り出した。
- 87 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:13
-
外に出ると海が近くにあった。
波の音がして潮のにおいがする。
「009…か。テストさせてもらうわ」
声がして、銃声がした。
女が放った銃弾は少女の体に当たった。
そのまま衝撃に堪えきれず少女は倒れた。
「……あれ?…」
少女は上半身を起こして腹部を触る。
血は出ていない。
「よし。まぁ、今のところよさそうやな」
女が言う。すると後ろから数人に人間が出てきた。
『改めてこんにちわ。009さん』
「また、この声……!一体誰が…?!」
少女は体を起こして現れた数人を見る。
一番端の人間が手を振っている。
「…あんたが喋ってたの?」
『そうですよ。私は001』
「001…?変な名前」
『本名じゃないですよ。とりあえず今の所は自己紹介だけでもしておいた方がいいかと思いまして』
「001。のんびり自己紹介してる暇はなさそうだけど」
誰かが口を開く。
- 88 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:15
- すると、少女の後ろから数人の男達が現れた。
「中澤博士。貴方一体何やっているんですか?」
「中澤博士は私達の捕虜ですよ?」
また誰かが喋る。
「捕虜だと?何を言っているんだ!早く中に戻れ!」
「うるさいなぁ……。ちょっと黙っててよ」
少女が右手を男達に向ける。
ジジジジジジジ
妙な音がして男達は倒れた。
「こっ、殺したの?!」
少女が驚いて尋ねる。
「殺してないよ。殺してもよかったんだけどさ、中澤さんがやめろってゆーから」
少女は右手に視線を移す。
「さぁ、詳しい説明は後でする。早くこっから脱出や」
少女は意味がわからなかったが、とりあえず皆の後についていった
- 89 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:16
-
「……おい、大丈夫か?」
倒れていた男達が立ち上がる。
「大丈夫だ。念のために対電波用スーツを着ていてよかったな」
「あぁ。そうだな。しかしサイボーグ達が裏切るとは…」
「それに中澤までも裏切るなんて…!!」
「急がないと、俺らの計画が丸つぶれだ!」
男達は走り去っていった。
- 90 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:16
- 脱出用の潜水艦を使って島を離れる。
「……あのさ、今の状況は全然あたしわかんないんだけど…」
「あぁ、悪いな。あんたにはまだ何にも説明してなかったな」
中澤が少女に向って言う。
「まぁ、まずは自己紹介でもしとこうか。うちは中澤裕子や」
「はぁ……。」
「そんで、あそこで操縦してるのが001」
『001の紺野あさ美です。よろしくお願いします』
「こ、ちらこそお願いします…」
「んで、このちっこいのの本名は矢口や」
「ちっこいのゆーな!オイラは矢口真里。別名は007。よろしく〜」
握手を求められ、少女は握手する。
「えっとー…それからあれが004」
「004って…。藤本美貴。よろしく」
「よ、よろしく…」
「それから003の石川や」
「石川梨華です。よろしくね」
「よ、ろしく…」
「002の……あそこで寝とるのが002の後藤真希」
「はぁ…」
指さされる先を見て言う。
「のんは005だよ!辻希美!!」
「うあっ!びびったぁー…」
いきなり抱きつかれて自己紹介された。
「よろしくね〜」
「あぁ、うん」
「あっちがね、008のまこっちゃんだよ」
中澤の代わりに辻が教えてくれる。
「小川麻琴です」
「うん、よろしく」
「のの、あたしの紹介は無し?」
「最後にとっておきなんだよ〜」
辻と同い年ぐらいの子が笑いながら言う。辻も笑顔でかえす。
「そんで、あいぼんこと006のあいぼんです〜!」
「意味がわからんわ…。加護亜依です!よろしく〜」
「あ…、よろしく」
- 91 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:17
- 「で、で?名前なんてゆーの?」
「あ、あたしは吉澤ひとみ」
少女――吉澤ひとみ――は軽く頭を下げる。
「自己紹介も終わったことだし、009に説明したる」
中澤が言う。
辻は自然と吉澤から離れて加護の隣に腰を下ろした。
「まず最初に謝っとく。すまんかった」
「へ?何がですか?」
「……。あのな、009。今この場におるのはうちを除いて皆改造人間なんや」
「……はい?」
「あんた自身も最初に銃で撃たれた時に気付いたやろ?少しおかしいことに」
「………」
「ここにおる皆は兵器用に改造された人間なんや」
「人間?それ本当に言ってんの?」
藤本が少し自嘲気味に笑う。
「004……」
石川が藤本に眉を八の字にして声をかける。
「…うちは…いやうち等科学者グループは騙されたんや。平和な未来を創ると言われて協力してしまった…。
けど、最近本当の理由を知ったんや。だからうちはあんたらを逃げさせる事にしたんよ」
「……本当の理由…?」
「近い未来に戦争を起こそうと考えてる奴等がいるんだよ」
藤本が言う。
- 92 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/16(土) 17:18
- 「戦争が起きれば儲かるのは当然兵器を作る会社。まったく金に汚い奴等だよ。」
「でも、実際その人達を操ってたのは他にいるんだけどね」
石川が言葉を足す。
「そのボスにはうちも会った事ないんや…。でも頭のいかれた奴やろ…」
「戦争……。でもそれがあたし達が作られたのと何か意味があるんですか?」
「これから起きる戦争は只の撃ち合いなんかじゃないよ。”核兵器”同士の戦いになる」
藤本は吉澤を見て言う。
「だからそれに耐えられるサイボーグが必要だったんじゃない?サイボーグ同士の戦いならいいでしょ?」
「……あぁ。そうか…」
「まぁ要するに美貴達は試作品みたいなもんだよ」
「失礼な奴やなぁ〜。うちは試作品と思てないよ」
「まぁまぁ、押さえて」
矢口が中澤を静める。
「…中澤さん達はこれからどうするんですか?」
「さぁ。どうするんやろ。009…あんたはどうしたい?」
「あたしは……」
言葉が濁る。
「しっ!」
石川が人差し指を口元に当てる。
「どうしたんや?何か聞こえたか?」
「後ろから潜水艦のエンジン音が。」
「そうか…。だとしたらこのまま逃げ切れんな…」
『中澤さん。一度陸に上がってからの方がよくないですか?』
「そうやな…。海の中は動きづらいしな…。よし、どっか見つけて上陸や」
- 93 名前:ガリ男 投稿日:2004/10/16(土) 17:20
- 残りはまた夜にでも…。
- 94 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/17(日) 01:30
- 「…囲まれましたね」
「いいんじゃない?美貴暴れたかったから丁度いいよ。つかごっちん起きろ!」
「ん…んぁー……。おはよ」
「朝じゃないよ。今からきっと闘いになるから準備して」
「ごとーは何時でもいいよ〜」
後藤はまだ眠そうな顔をしている。
「ねぇ、何で石川さんって色んな音が聞こえるの?あたしには全然聞こえないんだけど…」
「それが、003の力なんだよ。もちろんののにも009にも特殊な力があるよ」
「へぇー…。あたしの力って何だろう…」
吉澤は一人考えてみる。
「よし、美貴行ってくる」
藤本は立ち上がり歩き出した。
「え?一人で大丈夫?」
「あぁ見えてミキティは全身に武器が仕込んであるから大丈夫だと思うよ」
隣にいた加護が答えてくれた。
「んじゃあ、のの。あたし達も行こうか」
「そうだね。じゃあ、皆また後でね〜」
二人は手を振りながら去っていく。
「はぁ…すごいなぁ…」
二人の背中を見ながら呟く。
「君が009だねー」
- 95 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/17(日) 01:30
- 「へ?あ、うん。そうだけど…君は確か…」
「ごとーは002だよ。よろしくねー」
「うん…」
「それじゃあ、皆さん。ごとーも行ってきまーす」
後藤は何故か敬礼して後藤は飛んでいく。
「すげー!とんだ!」
「002は飛ぶ事もマッハ5のスピードで走る事もできるんよ」
「へぇー…すげー…!」
「あんたの奥歯のところにボタンがあるやろ?」
中澤に言われて吉澤は舌で確認する。
「あぁ、ありますね。何ですかこれは」
「それは加速装置。それを押せばマッハ5のスピードが出る。」
「へー!かっけー…!この銃って使ってもいいんですか?」
右腰についている銃を触る。
「ええよ。まぁ使い方は習うより馴れろゆーしな。よし、実践で試してこいや」
「え?いってくるんですか?」
「あんたなぁー…ほら、とにかくモタモタしとると捕まるで!はよ行ってこい!」
中澤は吉澤の背中をおもいっきり叩く。
「いったぁー……。あ、でも中澤さん達は大丈夫なんですか?」
『それは大丈夫です。一応安全な場所に避難しておきますから』
「そう。それに007と008と003がおるからな」
「そうですか。じゃあ、いってきます――」
少し緊張気味に吉澤は歩いていった。
「中澤さん、いいんですか?いきなり行かせて…」
「あ!それ、オイラも思った!加速装置の使い方を教えたぐらいで行かせていいの?」
「石川と矢口はわかってないなぁー。遅かれ早かれ実践せなあかんのや。だったらそれは今でもえーやないか」
「……わかるようなわからないような…」
石川が呟いて、吉澤が歩いていった方向をみた。
- 96 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/17(日) 01:31
- カチッ
吉澤は加速装置をとめる。
「すげー…。加速装置使ってると全部がスローに見えるんだなぁー!」
一人感心する。
ギューーンッ
上空で音がする。
それに気付いて顔をあげる。
戦闘機が吉澤に向って発砲する。
ダッダダダダダダ
岩陰に隠れて避ける。
戦闘機はもう一度高く飛び上がる。
「ふぅー……。よし!」
自分の頬を両手で軽く叩く。
キィーーンッ
戦闘機がまた近付く。
右腰に手をあてて銃を確認するように触る。
弾丸のシャワーが吉澤を襲う。
それをなんとか避け、銃を抜いた。
- 97 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/17(日) 01:31
-
上空が一瞬輝いた。
そしてその後大きな爆発音がした。
「っ…はぁ…っはぁ……」
吉澤は地面に腰をおろして墜落した方向を見る。
「…はぁ…か、らだが軽い…。これが改造された力?」
銃を握り締める右手を見る。
【00ナンバーの戦士達に告ぐ。大人しく降参しろ。そうすれば我々は何もしない】
声がする。
吉澤は立ち上がり近くを見渡すと戦車が数台固まってとまっている。
と思ったら一台が急に爆発を起こした。
周りにいる兵士達は慌てて逃げ出す。
「あーぁー…004は派手にやるなぁー」
後藤が上からおりてきて喋る。
「002!あれって004の仕業なの?」
「うん、そーだね。あ。あれは006と005の仕業かなぁ〜」
のんびり口調で言うその先は、炎で戦車で燃え上がり、戦車や岩が宙を舞う。
「すげぇー……。あれをあの二人が……?」
「そうだね〜。ごとーも負けてられないや。じゃあ、また後でね」
後藤は再び飛び上がった。
「…あたしも行った方がいいんだよね…」
加速装置にスイッチを入れて吉澤はそこへ向った。
- 98 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/17(日) 01:32
-
「ははっ…さすがやないか。サイボーグ達…」
男は一人、椅子に座りモニターを見る。
「世界中の科学者を集めて作らせたかいがあった。」
ニヤリと微笑んでワインを一口飲む。
「脱出は見逃せないな…。それに俺の戦車や兵士達を潰しやがって…」
右拳を机に叩きつける。
その衝動でワインが少しこぼれる。
「よし…。第二の秘密基地へ行こうやないか…。サイボーグ共にお返ししたる…」
男はまたニヤリと微笑んでワインを一気に飲んだ。
- 99 名前:ゼロゼロナンバーの戦士 投稿日:2004/10/17(日) 01:33
- この年、世界は動いた。
表には知られていない場所で開発は進む。
――サイボーグ戦士の誕生。
サイボーグ戦士は未来戦の戦力として開発された。
しかし、それは打ち砕かれた。
裏切った中澤と共にサイボーグ達も逃げ出した。
その行為が「ゼティマ」を敵にまわすことになる。
それでも武器を持ちサイボーグ戦士は戦う。
自分の正義を貫く為に―――。
- 100 名前:ガリ男 投稿日:2004/10/17(日) 01:35
- まぁ、とりあえず「終われ」といった感じで…。
無理矢理すぎて何が何だかって雰囲気ですが、気にしないで下さい。
- 101 名前:ガリ男 投稿日:2004/10/26(火) 20:09
- 昔に書いたものが掃除をしていたら色々出てきました。
その一つにこの話があったので、少し変えて書きます。
短編じゃないと思います。
続くまで、続くと思います。
- 102 名前:闇の向こう 投稿日:2004/10/26(火) 20:09
- ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
世界は回る。
人は動く。
- 103 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:10
- 真っ黒な闇の中。
少女達は動く。
- 104 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:10
- 「んあぁーぁー……」
「ふぁーぁー……」
「あーぁー…」
「ちょっと!欠伸しないでよー。私にもうつるじゃない」
「梨華ちゃん、落ち着いてよ。欠伸ぐらいいいじゃん」
「そうだよ。よしこのゆー通り」
「梨華ちゃん、ちょっとピリピリしすぎなんじゃない?」
「ミキティ達がのんびりしすぎなのー!四人で出動なんて久しぶりじゃない?だから敵はきっと強いんだと…」
「大丈夫って〜」
「でた!よっちゃんの根拠のない自信!」
「ごとーもそれに何度騙されたことか…」
「あー!もー!美貴とごっちんが余計な事言ったから梨華ちゃんまた黒くなったじゃん!」
「黒くなってないよ!!余計な事言ったのはよっすぃーだよ!!」
梨華の声と共に響くのは笑い声。
- 105 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:11
-
『あのー…、盛り上がってる所申し訳ないんですが…』
「んあー、紺野〜。どーしたの?」
『皆さんのスグ近くに目標物はいますよ?』
「あぁ、わかったよ〜」
後藤は喋りながら辺りを見回す。
(なるほど。だから4人か…)
- 106 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:12
- 微かに微笑んでから通信を切る。
「ごっちーん、紺野なんだって?」
「あぁ、スグ近くにいるってさ〜」
「やっぱりごっちんだけ通信機つけてるのずるいよねー!美貴達ももらおうよ」
「それ私も思った!ごっちんだけずるいよー!」
「そうだよ!時々通信機を市井さんとのラブラブコールに使うなー!」
「つ、かってないよ!大体それ関係ないじゃん!」
「関係あるし!用がない時に通信するとお金かかるじゃん!そのせいで美貴達の通信機がないんだよ?!」
「ぅ……。それより、さっさと目標物倒して帰ろうよ」
後藤は慌てて視線を逸らす。
- 107 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:12
- 「帰ったら何とかしてもらうからね」
後藤の隣に藤本。
「何とかって……。ごとーの力じゃ無理だって…」
「じゃあ、時々交代しようよ」
藤本の隣に梨華。
「まぁ、まぁ。後でごっちんに奢ってもらいながらゆっくり話しをしようじゃないか」
そして、梨華の隣にひとみ。
「んぁー?!何それ?!よしこ酷いよー!!」
「ははは、冗談だって。よし、じゃあ、やっちゃいますか!」
ひとみの声と共に四人は散らばった。
- 108 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:13
- 藤本は後ろ腰にさした剣を抜く。
その剣はとても明るい海色をしていて、細身の剣。
藤本はその剣を確実に相手の急所、つまり頭にさしていく。
その動きは一寸の無駄もない。
暗闇に海色が綺麗に動いて見える。
梨華は両足にさした剣を抜く。
剣は二本あり、一本は鮮血の色、もう一本は桜色をしている。
二本とも同じ大きさ形で、細身であまり長くはない。
梨華は器用に二本を使い分ける。
二本を重ねて額の前で目を瞑る。これは梨華なりの祈り。
動きはかなり早く、桜と赤が交互に綺麗に動いて見える。
後藤は腰にさした剣を抜く。
その剣は長く、透明な森色をしている。
すらっと伸びた刀身を真希は構える。
剣を握る右手を持ち上げて、刀身を見て微笑む。
ゆっくり動いて敵を斬る。
綺麗に動く刀身はまるで何かのアートみたいに見える。
ひとみは背中にさした剣を抜く。
少し細身で、少し長い剣は、深い闇色をしている。
剣を握る右拳にキスを落とす。それはいつもの儀式。
逆手に持ち替えて、構える。
動きはそこそこ早く、しかしまだ無駄が多い。
暗闇と一体化した剣は深く恐ろしく見える。
- 109 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:13
-
+++++
- 110 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:14
- 「おわったぁ〜」
全ての仕事が終わった後、腑抜けな声を出したのは後藤。
「残念だったね、梨華ちゃんが期待してた強い相手じゃなくて」
「そうだねー、ただ数が多いだけだったね」
藤本に向って苦笑する梨華。
「それじゃ、一旦帰ろうか。じゃあ、ジャンケンで帰りの運転手決めよう!」
ひとみの発言に三人は文句を言う。
「えー?!よっちゃんずーっと運転してないじゃん!」
「そうだよー!どうせ今回もよっすぃーの一人勝ちでしょ?」
「よしこー、ごとー寝かせてもらえないと死ぬ……」
三人に言われて、ひとみは困ったように笑う。
「仕方がないなぁー…民衆の我が儘を聞くのが王様の仕事だからね〜」
「「「誰が王様なの?!」」」
「…冗談だって〜……」
ひとみは苦笑した。
- 111 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:14
-
ガタガタ山道を一台のジープが走る。
運転席にひとみ、助手席に梨華。
後ろでは爆睡の後藤と藤本が座っている。
荷物は全て荷台に置いてある。
- 112 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:15
- 「……梨華ちゃん、寝ていいんだよ?」
「んー……」
眠そうに目をこする梨華を時々見ながらひとみは運転する。
「だって、よっすぃーが居眠りしちゃったら困るもん」
「あはは、あたしはそんなに信用できませんかぁー」
ひとみは苦笑しながら前を見る。
「そーいう意味じゃないけどぉ……」
「はいはい。わかったから、寝てよ。疲れてるんでしょ?」
赤信号で止まった時に、ひとみは後ろの席を見る。
毛布は藤本と後藤に使われている。
後藤にかけてある毛布を吉澤はとって、梨華にかけた。
代わりに後藤には自分の上着をかけた。
小さく後藤が「寒い…」と呟いたのをひとみは知らなかった。
- 113 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:16
- 外は暗い。
車は他になく、信号機と街灯だけが目立つ。
「おやすみ、梨華ちゃん。着いたら起こすよ」
ポンポンッと軽く頭をたたく。
「ん〜………」
まだ納得いかないような顔をした梨華だったが、温かかったのだろうか、スグに眠った。
- 114 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:16
-
ひとみは、ラジオの音を出来るだけ最小限にして音楽を聴いた。
その音楽は心地良いピアノのリズムと共に英語が流れてくる。
少し窓を開けて風をいれた。
「月は遠いなぁー……」
小さな、消えそうな声でぼやいた。
- 115 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:19
-
- 116 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:20
-
次に梨華が目覚めた時はベッドの中だった。
「あ、おはよ」
「え?よっすぃー…私どうして…?」
「あぁ、着いた後に起こそうと思ったんだけどさ、あまりに気持ち良さそうに寝てるからさ
そのままベッドに運んだんだよ」
「えー?!私重かったでしょ?てゆーか起こしてくれればよかったのにぃー!!」
「あはは、全然そんな事なかったよ。それよりあんまり大声出すと美貴とごっちんが起きるよ」
ひとみは人差し指を口元に当てて、笑顔で横を見る。
横のベッドには藤本が、そのまた向こうには後藤が気持ち良さそうに眠っている。
「え?もしかして、私達を一人で運んだの?」
「少し紺野とかに手伝ってもらったけどね」
いつもと変わらない笑顔で話すひとみ。
「ごめんねー…。昨日私が寝なきゃよかったんだよね…」
「違うってー。何で梨華ちゃんが謝るのさ?別に何一つ悪い事してないよ?」
「ううん…。それでも……」
「だったら謝るのはあたしでしょ?起こすって約束したのに起こさなかったあたしが悪いんだよ」
「違うよ。よっすぃーは悪くない」
「そう?だったら誰も悪くない。これでOK?」
「…うん。そうだね。」
やっと笑顔になった梨華を見てひとみも笑顔になる。
「顔洗っておいでよ。安倍さんがご飯用意してくれてるよ」
「うん、そうするね」
梨華はベッドから出てパタパタ音を立てて、廊下を歩いていった。
- 117 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:20
- +++++
- 118 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:20
- 施設は少し街から少し離れた場所にある。
買い物するには不便でも便利でもない場所。中間といったところだ。
この施設では武器の扱い方、基礎訓練などをやっている。
目的は世界中に現れた敵―――オニ――を倒す為。
オニは全ての人間の中に潜んでいる。そして、そのオニが意識を乗っ取った時、彼女達は出動する。
人間の闇の部分に付け込んで操り、意識とは反対に全てを破壊しようとする。
オニを退治する為につくられた対オニ用武器。そして「M」。
Mはごく一部の人間の体内にしかない。
詳しくは解明出来ていないが、それでないとオニを撃退する事は出来ない。
Mを持つ人間と、対オニ用武器。それでオニを撃退する事が出来る。
持つ手によって武器の色が変わるのはMが読み取っているからだ、とか。
そして、選ばれた人材がこの施設に暮らしている。
オニは世界中に数え切れない程いて、今現在でも増え続けている。
決して減る事はない人間の闇の部分。
その部分がある限り、オニは存在して、彼女達も存在する。
オニと彼女達は言わば、二つで一つの存在。
決して無くなる事はない。
無限の闘いに巻き込まれていく。
- 119 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:23
-
「ねー、いちーちゃーん。ごとーやっぱり銃がいい」
「えー?お前我が儘だなぁー」
ドアに紙が張ってある。
手書きのようだ。
『いちーの部屋。武器類の用がある人はノックして』
部屋の中はベッドと机。
そして、沢山の部品。
剣や銃だけではなく、他にも色々な武器がある。
「仕方ないなぁー…。剣ベッドの上に置いといて」
「はぁーい」
後藤は言われた通りにベルトを外して、剣を置く。
その瞬間、武器は一気に力が抜けたようになった。
「銃かぁー…。お前どんなんがいーんだ?」
「えー?ごとーわかんないよー。いちーちゃんが選んでよ」
「はあ?お前なぁー…今は忙しいんだよ!自分で選べよー」
「けちぃー」
後藤が不貞腐れて、ベッドに横になる。
「……後で、選んでやるから後藤も手伝えよ」
作業着を着た市井のぼそっと呟いた声も後藤は聞き逃さなかった。
「うん。いいよ。そのかわりかっこよくて、可愛くて、強い武器ね」
「お前注文多すぎ………」
市井は少しげんなりした様子で言った。
- 120 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:24
-
施設の裏にある丘。
そこは海と空が一望できる。
藤本はそこにいた。
集団生活が嫌いなわけではない。ただ、あまり合わないだけだ。
他人に気を使って生きるのなら、一人で生きる。
藤本はそんなタイプの子だ。
「ねー、みきたん」
「んー?どうしたの?」
ベンチの隣に座る少女に視線を移す。
「みきたんの持つ武器は海の色になるんだよ」
「うん、そうだよ。亜弥ちゃんのは空色だよね」
「……ほら、見てよ」
松浦はそこから海の方を指さす。
空も海も青すぎて、遠くのほうで繋がっているような幻想が見える。
「みきたんと繋がる事は出来ないけど、私は一番近いところにいるよ?」
自分の過去を知る松浦の言動が凄く愛しいと藤本は思った。
そして、一瞬微笑んだ。
「そうだね〜。だけど少し違うかな」
「え?」
戸惑った顔をする松浦を見て、藤本は微笑む。
- 121 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:24
- 「亜弥ちゃんは何時でも美貴の隣にいるんだよ。だからその気になれば手でも繋げるんだよ」
藤本は右手で松浦の手を握る。
その手はすごく愛しい。
「――――うん、そうだね。私の隣はみきたんの特等席だもんね」
「そうだよ」
松浦は笑って藤本の手を握り返した。
握った部分から熱が伝わってきて、一人じゃないと思わせた。
- 122 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:25
-
「絵里、れいな、……トイレついてきて」
「いいよ」
「仕方ないなぁー…」
三人がいた部屋から廊下を歩いてトイレに行く。
建物自体が古くはないので、トイレもそれなりに綺麗だ。
「じゃ、外で待ってるから」
「…う、ん……」
「大丈夫って。手洗う時に呼んでくれればいいから」
「わかった…」
さゆみはゆっくりトイレの中に入っていく。
- 123 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:26
-
「……さゆ、やっぱりまだ水怖いんやね…」
「そうだねー…。ショックが大きすぎたんじゃないかな…」
「施設内だけでも安心すればいいのに…」
「それが無理なんだよ。れいなから見たら些細な事かもしれないけど、さゆにとっては一大事なんだよ」
「…ふーん………」
れいなは壁にもたれ掛かって言った。
その隣で絵里はしゃがんでまっすぐ壁を見ていた。
「……オニなんかあたし達で退治したから大丈夫だよって言えたらいいのに……」
消えそうに呟いたその声に絵里は笑った。
「そうだねぇ〜」
「最悪。今のは普通聞いてなかったふりするもんやし!」
「だって耳に勝手に入っちゃったんだもん。しょうがない」
「それでもさぁ……」
「絵里ー!れーなぁー!きてぇー」
「ほら、さゆが呼んでるよ。」
絵里が立ち上がってれいなを見る。
れいなは拗ねたように唇を尖らせて、絵里の後に続いた。
「……有言実行やけん…」
れいなの呟きを聞いた絵里は可笑しくて可愛くてたまらなかった。
が、今度は何も言わずこっそり微笑んだ。
- 124 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:29
-
『ビービービービー!』
警報機が鳴り出した。この音はオニが現れた証拠。
オニが出現したと言う事は、人間一人が既にオニになったと言う事。
オニになった人間を放っておくと危険なので、こうして警報機で知らせて退治しに行く。
- 125 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:29
- 『後藤、松浦、高橋、田中。以上の4人は準備して早く駐車場に来て』
放送で呼ばれた4人は慌てて準備をする。
ひとみは、呼ばれた4人の名前を聞いてオニの危険性はさほど高くないと判断した。
「あ、ごっちん。気をつけてね」
「んぁ〜、頑張ってくるよ〜」
バタバタ廊下を走る後藤とすれ違う。
伝わる緊張感は決して気持ちのいいものではない。
- 126 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:29
- 「よっすぃー!」
「あぁ、梨華ちゃん。どうしたの?」
「あのさー…よければ少し話しない?」
「? いいよ」
ひとみは特にする事もなかったので、梨華のお願いを聞くことにした。
「ねぇ、…よっすぃーってさ……」
「うん?」
「……何か隠し事とかしてない?」
梨華は思い切って尋ねてみた。
「え?何で?そんな事ないよ〜」
「本当に?」
「うん。」
「絶対?」
「うん」
「本当に本当?」
「本当だって。梨華ちゃんはさ、何であたしが隠し事してると思ったの?」
「だって…ひとみちゃん時々凄く寂しそうな目してるんだもん…」
「目?…それはきっと梨華ちゃんの勘違いだよ」
「でも……」
「心配してくれるのは有難いけど、本当に何にもないんだよ。」
「…本当だね?」
「本当だよ。梨華ちゃんも中々しつこいなぁ〜」
ひとみは苦笑する。
「じゃあ、何か困ってる事あったらスグに相談してね?絶対だよ?」
「もちろん。約束するよ――――」
- 127 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:30
-
がちゃん。
- 128 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:30
- 心の奥深くに何度も鍵を閉める。
確認するように、不安になる度に鍵を閉める。
それはひとみが学んだ唯一の事。
ドアは何重にも鍵や鎖がしてあって、外れるはずはない。
そう思っていても確認するのは、心配性なのだろうか―、そう思って苦笑する。
―――まだ、大丈夫。まだ生きてる。
ひとみは不安になる度にそう考えるようにしていた。
- 129 名前:それぞれ 投稿日:2004/10/26(火) 20:31
-
+++++
- 130 名前:ガリ男 投稿日:2004/10/26(火) 20:33
- 本日の更新終了です。
ちなみに、全体の題名が「闇の向こう」で、今回の話の題名が「それぞれ」です。
見て下さっている方はいらっしゃるのか…?
まぁとにかく誤字などに気をつけつつ書いていきます。
それでは、次回。
- 131 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/27(水) 02:19
- 更新お疲れ様です。
よっちゃんなんだか謎めいてますね。
これからの展開楽しみです。
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 12:58
- 見てますよー。
面白そうな設定ですね。
それぞれの活躍期待してます。
- 133 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:41
-
地下。
そこにはコンピューターや、モニターやらが沢山ある。
「あさ美ちゃん、疲れないの?」
「まこっちゃん。あ、有難う〜」
麻琴からココアの入ったカップを受け取る。
- 134 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:42
- 「うわぁー…難しい言葉ばっか…。あたし全然わかんないよ…」
「勉強すればわかるようになるよ」
「痛いとこつくなぁー……」
麻琴は苦笑する。
「あさ美ちゃん凄いよね〜。ってゆーかここで頑張ってる人達が凄い!」
「そうだよね。私は違うけど、飯田さんとかテキパキ動くもん」
「あさ美ちゃんも凄いよ。あさ美ちゃんの指示がなかったらきっとあたし達は駄目だったよ」
「そんな事ないよ…。私の指示なんかで動いてくれるまこっちゃん達に日々感謝だよ」
「……どーして、君はそんなに謙遜した言い方をするかなぁ〜。」
麻琴は困ったように笑う。
「だって…」
「褒めてんだからさ、時々ぐらいは素直になってもいいんじゃない、かな……?」
「……まこっちゃん顔赤いよ?」
「しっ、知ってるよ!あ〜ぁー…もぅ…。何で言うかなぁー…。かっこ悪いじゃん…」
麻琴はしょんぼり落ち込む。
紺野はそれを見てクスクス笑う。
「かっこ悪くなんかないよ。寧ろかっこよすぎだから…」
「……ほぇ?」
「あつーい!!裕ちゃぁーん!ここクーラー入れた方がいいよぉーー!!」
「「やっ、矢口さん!?」」
- 135 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:43
- 「きゃはははは!二人とも驚きすぎだから!あ、矢口は気にしないでラブコメ続けていーよ」
「……あ、あさ美ちゃん…。あ、たしそろそろ戻るから……」
「あ、うん…。ココアありがとう…」
「いいよ、じゃあね!」
麻琴はそう言うと即座に走って逃げ出した。
「きゃははは!二人とも若いなぁ〜!!」
矢口爆笑。
「そ、…そんなことより!矢口さん、どうしたんですか?!」
「あ、あぁ。忘れてた。裕ちゃーん!何やってんの〜?!」
矢口はドアから外に出て名前を叫ぶ。
「……」
中澤はゆっくり入って来る。
「んー…。大した事はないと思うんやけど、少しオニが強くなってんのや」
「え?それってかなり重大じゃないですか?!」
「いや、そこまで強くなってないんや。まだまだ余裕があるぐらいやし」
「そう、ですか……」
「ただな、オニはここ最近少しずつ強くなっていってんのや」
「そうだね。矢口が来た時より結構強くなってるもんね」
「そうや。せやから何とかして戦力アップしたいんやけど、紺野…何かいい案ないか?」
「え?急に言われても……」
「今すぐに考えろっちゅーわけやないんや。ゆっくりでええから考えてみてくれんか。皆にも一応言っとくから」
「はい。出来るだけ頑張ります」
「頼もしいな。それじゃ、頑張って」
「矢口達もう行くから、小川呼んでもいいよ〜」
きゃはははと笑い声をあげる。
「小川?それ一体何の事や?」
中澤は急に顔がニヤニヤしだした。
「実はね〜…」
「や、矢口さん!」
「冗談だよ。じゃあ、頑張ってね〜」
矢口は手を振りながら中澤と出て行った。
一人残った後紺野は大きなため息をついた。
- 136 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:43
-
ざわざわざわざわざわ
まだ昼だと言うのに空は晴れない。
次第に分厚い雲が空を覆い、今にも雨が降りそうだ。
- 137 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:44
- 『ビービービービー!』
警報が鳴る。
『石川と辻。2人は準備して駐車場に来て!』
「のの、出動だって。頑張ってね」
「もっちろん!あいぼんの分まで頑張ってくるよ!」
辻は笑う。
部屋の電気は辻の左目には届かない。
「ぱぱっとやっつけて帰ってくるからさ、TVでも見ててよ」
「了解!希美隊員頑張って下さい!」
加護は敬礼する。
辻も笑顔で敬礼し返す。
上着を持ち、出動の準備をする。
「じゃ、いってくるね〜」
「気をつけてね〜!」
加護の声に辻は笑顔で返事した。
- 138 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:45
- 雨の日は嫌だなぁ―――。
辻は車の中で思う。
助手席に座り、運転席には梨華が。
さっきから降り出した雨は激しくフロントガラスに、車体に打ち付ける。
「ねぇ、のの」
「ん〜?梨華ちゃんどーしたの?」
「目の具合はいい?」
「もちろん。かなりいいよ。今にも見えそうだもん!」
「そっか。よかった」
元気に笑うその顔を見て、石川も安心する。
- 139 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:45
-
+++++
- 140 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:45
- ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――
雨が流れる。
血も流れる。
その日は、辻の左目が見えなくなった日。
- 141 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:46
- 朝から雨が降っていた。
傘を差した辻は友達と一緒に下校していた。
曲がり角で友達と別れて、辻は一人家まで歩いた。
雨で、傘で。
視界は少し狭くなった気がした。
『〜♪』
流行の曲を軽く口ずさみながら歩く。
ざぁぁぁぁぁぁぁ
〜♪
ぴちゃぴちゃぴちゃ
〜♪
とんとん
肩を叩かれて辻は振り返った。
- 142 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:48
- 『―――っぐっ!!』
振り返った瞬間、辻の首は誰かの手によって絞められた。
『ひゃはははははははは』
『…っかは……』
『ひゃははは………おまえ、Mをもってるな?』
笑う男の声が一瞬とまった。
ギロリと充血した目で辻を見た。
そしてまた高笑いして、ポケットからナイフを出した。
『…ぁ……』
恐怖のあまり手も足も動かせず、声も出せなかった。
『ひゃはははは』
ニヤリと笑って右手で握るナイフを突き刺した。
- 143 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:48
- ぐしゅっ
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――っ!!!』
ポタポタ血が落ちる。
鮮血は雨に混じってとける。
- 144 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:49
- 『はぁ…あぁぁ……あぁ…』
泣きながら左目を押さえるが血は止まらない。
男はさらに笑う。
『ひゃはははははははははは――――』
パンッ
額に何か当たった。
- 145 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:50
- パンッパパンッ
更に数発当たって男の体は後ろに倒れた。
そして、塵になった。
『大丈夫?!』
誰かが近付いて、辻の目を見る。
- 146 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:51
- 『あ……』
恐怖に怯えた目でその人物を見る。
『なっち!この子怪我してる!早く……何とかしないと…!!』
『カオリ、落ち着いて!すぐに車に乗せるべ!』
飯田は辻を抱き上げて車に運ぶ。
安倍はハンドルを握るとすぐに病院へと向った。
- 147 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:51
-
***
- 148 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:52
- 『―――辻希美ちゃんだね?』
病室で横になっていた辻を誰かが訪れた。
辻の左目には眼帯がしてある。
- 149 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:52
- 『あ、…助けてくれたお姉さんですね?』
辻は飯田の顔を覚えていた。
『あらら。覚えててくれたの?嬉しいな。飯田圭織っていいます、宜しくね』
差し出された手を辻は握る。
『それで、…イキナリ本題で悪いんだけど、えっとー……』
飯田は言葉に詰まる。
『カオリ』
後ろからやってきた安倍が飯田に声をかける。
『わかってるよ。でもどう言えばいいのかわかんないから……』
飯田は必死に考える。
辻は飯田の顔を見上げたまま、ぽかんとしている。
『そうだ、辻ちゃん。カオリ達と一緒に…正義の味方にならない?』
飯田なりに考えた言葉だった。
- 150 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:54
- 『正義の味方…ですか?』
『そうなの…。えっとね、辻ちゃんの体の中には特殊な力、「M」ってものがあるの』
辻は一生懸命話を聞く。
『それはね、悪者の「オニ」って奴等を倒す事が出来る唯一の力なんだよ。
「M」は皆が持ってるわけじゃないの。選ばれた人しか持ってないの。だから辻ちゃんは選ばれたんだよ』
飯田はいっきに話す。
『「オニ」に対抗出来る力を持っている人は本当にごく一部なの。だからね、辻ちゃんのその力を
私達と一緒に「オニ」退治に使わないかな?』
話を聞いた後、辻は暫く考え込んだ。
そして、口を開く。
『ごめんなさい、のん難しい話はよくわかんないんです……』
辻が少し申し訳なさそうに喋るのを、安倍と飯田は顔を見合わせて苦笑する。
『でも、のんのこの力を使えば、のんみたいに怪我して痛い思いをする子はいなくなるんですよね?』
痛々しい眼帯を飯田に向けて辻は喋る。
『―――そうだね。辻ちゃんが頑張ればいなくなるね。平和になるね』
飯田は目を細めて優しく微笑んだ。
『だったら、やります!のんでいいなら手伝わせて下さい―――』
きらきら。
雨はすっかり上がって、光が地面で輝いていた。
- 151 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:55
-
+++++
- 152 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:56
- 「ここら辺だね」
梨華は車を止める。
激しい雨は落ち着きが無いほど降り続ける。
梨華は両足の剣を確認するように触る。
辻は手袋をして、拳銃を握る。
「…何かここ変なにおいするね…」
「うん、そうだね。無理矢理防臭スプレーを使った感じ」
二人は歩く。
「えーん…えーん……」
廃墟と化した建物の奥のほうで声がする。
「…何かあっちから聞こえるよ」
「そうだね。いってみよう…」
梨華の後に辻がついていく。
握るグリップの部分があどけないエメラルドグリーンの色をしている。
- 153 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:57
- 建物の中は暗く、外も晴れていないのでまるで夜のよう。
濡れた体で二人は慎重に奥へと進む。
「えーん…えーん……」
奥まで歩くと女の子が一人座って泣いていた。
「! 梨華ちゃん、あの子どうしたのかな…?」
「駄目だよ!迂闊に近付いて、オニだったらどうするの?」
「…わかってるよ…」
今にも飛び出しそうな辻を梨華が抑える。
「えーん……おかあさぁーん!えーんっ!」
泣いている少女は大声を上げながら叫んだ。
「おかあさぁーんっ!わーーんっっ!!」
- 154 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:58
- 「…梨華ちゃん、あの子はオニなのかな?」
「わかんないよ……。でも今の所、あの子しか居ないみたいだし…可能性は、あるね」
「…ちょっと行ってくる」
「え?ちょっ、ののっ!!」
梨華を振り解き、辻は近付く。
「…っく、…おねえちゃんだぁれ?」
「もう、大丈夫だよ。すぐにお母さんに会わせてあげるからね」
「……ヒャハ♪」
「え?」
「…ほんとにおかあさんにあわせてくれるの?」
「…うん、だから大丈夫だよ。」
「…よかった。おかあさんさがしてたの」
「!!」
少女が言葉を発した直後、鼻を強烈な臭いが襲う。
少女の後ろ、暗くてよく分からないが、微かな光で見える範囲では、数十人の死体だとわかる。
「おかあさんはドコかナァ―――?」
少女がニタリと笑った。
- 155 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 18:59
- どんっ
「ののっ!」
辻の体に小さな体がタックルしてきた。
それは小さな体に不似合いな程の強烈な力。
辻はその力に押されて、壁に衝突した。
「だいっ、じょぶ……。それより…」
ゆっくり立ち上がると、少女を見つめる。
「なんとかしないと…」
少女は以前、不気味な笑みを浮かべたままだ。
「ちょっと待ってて。私いってくる」
梨華が行こうとした腕を、辻が止める。
「梨華ちゃん、お願い…」
「…………」
辻の真剣な眼差しを見て、梨華は辻の言いたい事がわかった。
梨華は出した足を進めず、元に戻した。
- 156 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 19:00
- ――ごめんね。もう嫌だよね。楽になりたいよね、ごめんね。助けてあげられなくてごめんね――
辻は拳銃を両手で握り、鼻先まで両手をあげる。
そして、目を瞑る。
目を瞑ったからといって何かが変わるわけじゃない。
現実が変わるわけじゃないし、夢の世界にいけるわけでもない。
ただ、少しでも幸せになってくれるように――。
そう願いながら目を瞑る。
カチャッ
辻は左手を伸ばす。
その手には銃、その先には少女の額。
「―――――」
パァンッッッ
- 157 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 19:02
- どさっと音がして少女は倒れる。
「おかぁさぁん……おかぁさぁ…ん……おかあさ……」
そして塵になった。
「のの……」
梨華が近付く。
「…何でだろうね。何であんなに小さな子にもオニって宿るんだろ…」
数十人の女の死体を前に辻はしゃがむ。
背中を向けた辻はぽつぽつと言葉を喋る。
「何で、何で、人間ってこんなに汚い生き物なのかなぁ…?それなのに、どうして守ってあげなきゃって思うのかなぁ?」
声が次第に震えだした。
背中も少し震えてる。
「―――それは、ののが優しいからだよ」
梨華は辻の肩に手を置く。
「優しいから、こんなに綺麗な涙が流せるんだよ。これを忘れちゃ駄目なんだよ。ののは何時までも綺麗でいなくちゃ」
「―――――うん」
ずずっと、鼻をすする音がする。
梨華はそれを聞いて安心したように微笑んだ。
- 158 名前:闇の傷跡 投稿日:2004/11/01(月) 19:03
-
闇が残した傷は、体にも心にも残る。
これは後に辻の優しさに付け込んでくる。
それは少し先の話――――。
- 159 名前:ガリ男 投稿日:2004/11/01(月) 19:07
- 本日の更新終了です。
もう11月ですね。早いですね。
そして痛い話になってしまいました……。
>名無し飼育さん
謎めいた人が出てくる話は書くのも読むのも苦手なんですが、あえてチャレンジしてみました。
途中でバレないように、気をつけつつ書いていきたいです。
レスありがとうございました。
>名無し飼育さん
ありがとうございます。見て頂いて嬉しいです。
設定はとっさに出てきたものを採用していますので、色々不足な部分があるかもしれません…。
それぞれが活躍できるように頑張ります。
レスありがとうございました。
それでは、次回。
- 160 名前:ガリ男 投稿日:2004/11/20(土) 21:29
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