彼女は友達

1 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:03
ロテと申します。
緑板でも書いてます。

みきよし、アンリアルです。
マターリ更新になるかと思いますが、
よろしくお願いします。
2 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:05


もっと日本人は子供を産むべきだ。
たくさんたくさん子供を産んで育てて大学に入れるべきなんだ。
学生が増えれば財政難に苦しむ大学は減る。
必然的に大学の教職員はリストラに怯えることなく給料やボーナスを受け取れる。
学生が増えれば入試課が全国の高校に営業まわりみたいなことをしなくてすむ。
手土産片手に今年もひとつよろしく、なんてこと。
なにせ学生は腐るほどいるんだから。
仕事の減った入試課に人数はいらない。
よってあたしは晴れて秘書課に復帰できるって寸法だ。
そうだ、きっとそうに違いない。
万々歳だ。いいコト尽くしだ。

だから日本人よ、子供をたくさん産むんだ。


3 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:05

仕事帰りに一杯付き合えなんて言われて来たものの、正直いって彼女の大演説にどこからつっこめばいいのかわからなかった。

「ってことはよっちゃんは少なくともあと18年は入試で頑張るんだね」
「へっ?」
「だって日本人が今から子供産んだって大学受験する歳まで待たなきゃ」
「あっ、じゃ、じゃあ飛び級は?飛び級」
「飛び級制度ないじゃん。あってもどんだけ飛び級するのよ」
「う〜」

4 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:06

唸る彼女。あの大演説に賛同してもらえるとでも思っていたのだろうか。

「それに18歳人口が増えたって結局は有名大学に流れたり、浪人人口が増えたりするだけなんじゃないの?うちは学費がバカ高くて金持ちじゃなきゃとても入れないんだから。むしろ日本人よ、金持ちになれってとこかな」
「でも18歳人口の底上げがうちの大学に全く影響がないってことはないでしょ?」
「まあね。でもほら貧乏人の子沢山みたいになったら潤うのはそれこそ、国公立なんじゃないかなぁ」
「あ〜たしかに。子沢山は貧乏の元だよな」
「ていうかよっちゃんは単に秘書課に戻りたいだけでしょうが」
「秘書課には美人が大勢いるんだもん」
「女目当てかよっ」

そうだよなんて悪びれることなくジョッキの生ビールをグイッとあおる彼女。
白い肌がほんのり赤みを帯びていて珍しく色っぽい。

5 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:07

「でもいいじゃん出張。美貴なんて1日中パソコンとにらめっこしてんだよ?そりゃ目つきも悪くなるって」
「元からだろ」

バコッ

「イッテェェ…出張疲れるんだもん。体もたないよ」
「女に会う時間が減るからでしょ。この体力バカ」
「バレたか。あたしの体はあたしのためだけにあらずなのだよ藤本くん」
「よっちゃんが男だったらバンバン子供孕ませて少子化問題解決なのにね」
「いや〜藤本くん、いくらオイラが女の子にモテモテだからってそんな、照れるな〜」

この前向き人間には嫌味なんて通じない。

6 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:07

「エロ魔人」
「またまた〜そんなこと言っちゃって。藤本くんもオイラの体、試してみる?」

バギッガゴッドンッ

「………」
「ホントに痛いときって声でないんだよね」
「………」

無言で頷く彼女を放っておいてトイレに立った。
タチの悪いジョークには体でわからせることにしている。



7 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:08

トイレから戻るとすでに会計が済んでいた。
相変わらず彼女の紳士っぷりには感心する。

「たまにはあたしが払うのに」
「いーのいーの。かわいい女の子に払わせるなんて吉澤ひとみの名がすたる」
「そっか。よっちゃんち金持ちだもんね」
「オーイかわいい女の子ってとこに反応してくれよ」
「かわいいなんて思ってないくせに」
「思ってるよ〜そりゃ目つき悪いし暴力女だけど藤本くんはかわいいよ」
「誉めてるのかけなしてるのかよくわかんないんですけど」
「ま、いいじゃないの。帰りますか。送るよ」

ほぼ条件反射となっているのだろう、さりげなく肩に手をまわす彼女。

8 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:08

「よっちゃんに送られたらホントに妊娠しそう…」
「やっとその気になってくれたんだねー美貴ちゅわん」

あたしにダイブしてくるエロ魔人。さっとよけてタクシーを止める。

「じゃあね。おやすみよっちゃん。ごちそうさま」
「お、おぅ〜気をつけて帰れよ」

街路樹に抱きついてる彼女がおかしくてタクシーの中で一人笑っていた。





9 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:10
今日はここまでとします。
タイトル、HNのままだった…凹む。
10 名前:ロテ 投稿日:2004/08/07(土) 22:13
感想、批判、ツッコミ、絶賛などなど随時募集します。
11 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/08/08(日) 06:39
キタ!!緑板のも愛読させてもらってます
がんばってください
12 名前:プリン 投稿日:2004/08/08(日) 11:46
更新お疲れ様です!

みきよしキタワ━━━\(T▽T)/━━━ !!!!!
いい感じのお二人さんでw
今後が楽しみですな♪

次回の更新も待ってます。
マターリ頑張ってくださいw
13 名前:ニャァー。 投稿日:2004/08/09(月) 03:27

更新お疲れ様です!!
さっそく来ましたよ〜v(笑

いいですね〜みきよしw二人のヤリトリすごく好きですvv
体でわからせる美貴様は最強ですv(笑
こっちの方も頑張ってくださいねv
次回も更新頑張ってください!!
14 名前:130@緑 投稿日:2004/08/09(月) 17:48
新作始まりましたか。更新お疲れ様です。
またしてもタイトルがズバっとキテますw
みきよしは自分の中で今一番熱いふたりです。
アンリアルっていうのもイイですね。
続きを楽しみにしています。
15 名前:ロテ 投稿日:2004/08/10(火) 13:39
レス返しを。

11>名無し募集中。。。さん
どうもです。緑板ともどもよろしくです。
みきよし頑張ります!

12>プリンさん
サンクスです。みきよしカナーリきてますw
今後をお楽しみにw

13>ニャァー。さん
早速どうもです。最強帝と乙女帝、
どっちに転ぶのやら…w
あっちもこっちも頑張ります!

14>130@緑さん
ありがとうです。新作やっちゃいましたw
アンリアル初挑戦。マターリ見守ってください。
タイトル、小一時間悩みました…のわりに
こんな簡単なw


短いですが更新します。
16 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/10(火) 13:41

よっちゃんとの付き合いは今の会社に勤め始めてからだ。
入社式でなんとナンパされた。
こんな非常識な女がよくこの大学に採用されたものだと最初は不思議だった。
うちの大学は歴史は浅いけど、それなりに裕福な家庭のお嬢さんを預かる全国でもまあまあ名の知れた歯科大学。名門校とまではいかないけれど、教職員の採用にはそれなりの一定基準が設けられている。
なのにこんな女好きのチャランポランのどう見ても頭のよろしくない、顔だけは男前の彼女が我が物顔に学内を闊歩しているのを見てとにかく不思議だった。
しばらくして、彼女がこの大学の理事長と血縁関係があると聞いてそういうオチかよっ、と一人つっこんだ。

17 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/10(火) 13:41

あたしは前に勤めていた会社を自主退社してしばらく外国をブラブラしていた。
帰国してやっぱりブラブラしているときにこの大学が英語のできる事務員を募集してると知った。
ダメもとで受けたら採用されてしまい、落ちると決め込んでいたあたしはその知らせを聞いたときすでにロンドンの以前お世話になったミセスマクドーナンドのアパルトマンにいた。

慌てて帰国して入社の準備。
ミセスマクドーナンドのがっかりした顔が頭から離れなかった。

18 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/10(火) 13:42

ところで、入社式でよっちゃんにナンパされたのはあたしだけではなかった。
秘書課に配属された石川さん。
同じく秘書課の後藤さん。
もっと他にもいるかもしれないけどあたしが噂好きのレストランのおばちゃんから伝え聞いたのはこんなとこ。でもってあたしも秘書課。自分で言うのもあれだけど、かわいいコや美人はその実力の如何に関わらずもれなく秘書課行きになるそうだ。なので、秘書課のビジュアルレベルはそこらのタレント事務所よりよっぽど高い。当然よっちゃんも秘書課に配属された。彼女にとっては天国のような場所。

19 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/10(火) 13:42

よっちゃんにナンパされた中には、あの笑顔に騙されて食べられちゃった女の子もいるとかいないとか。
特に石川さんとの噂は強烈なものばかりだった。それも全部おばちゃんが教えてくれた。

曰く、6階のあまり人が来ないトイレで石川さんの喘ぎ声とよっちゃんの低音ボイスが響いていたとか。
曰く、毎日よっちゃんが彼女の愛車のポルシェで石川さんの送り迎えをしてるとか。
曰く、よっちゃんの子供を妊娠した石川さんが産婦人科に通ってるとか。

そのほかに大小あわせたらすごい数のよっちゃんに関する噂が飛び交っていた。
そしてある意味彼女は噂に違わぬ破天荒なキャラクターだった。

20 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/10(火) 13:43

「6階のトイレ?そんなとこではやらないね」
「だよね〜いくらなんでも仕事中はね」
「応接室の間違いだと思うそれ」
「はっ?」
「トイレなんて狭っ苦しいとこではちょっとね〜。3階の応接室のソファーはふっかふかだよん。今度藤本くんも一緒にどう?」

ボコッ

21 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/10(火) 13:43

「はぁ〜じゃあ石川さんの送り迎えは?」
「イテテテ。そりゃ泊まった日は送り迎えもしたけど毎日じゃないよ。べつに付き合ってるわけじゃないし」
「泊まったってことはやっぱり…」
「ごちそうになったのさ」
「なにを?」
「もちろん彼女」

イヒッと笑うエロ魔人。石川さんが美味しかったとかそんなこと聞いてないから口閉じてね。
さすがに妊娠云々は馬鹿馬鹿しすぎて聞かなかった。
きっと応接室のソファーの相手も秘書課の誰かなんだろう。
あのフロアに立ち入れるのは秘書課か役員。それに教授くらいなものだ。

22 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/10(火) 13:45

「ねぇ藤本くん」
「なによ」
「応接室がイヤならあたしの権限で理事長室でも…」

ガンッ

蹲る彼女を残してあたしは一人レストランに向かった。
まったくエロ魔人には付き合いきれない、とか思いながら。

23 名前:ロテ 投稿日:2004/08/10(火) 13:46
更新終了。
24 名前:ロテ 投稿日:2004/08/10(火) 13:46
吉澤さんこんなキャラですw
25 名前:オレンヂ 投稿日:2004/08/10(火) 17:30
更新お疲れ様です!

エロ魔人キャラの吉澤さん
おもしろいです。
続き期待してまーすw
26 名前:ニャァー。 投稿日:2004/08/10(火) 23:28

どーもですv
更新お疲れ様です!
よっすぃーナイスキャラですね…wタラシな感じがまた…v
最強帝と乙女帝どっちらもステキですよね!wあ〜どっちだろうvv

応接室のソファーの相手誰か気になってたり…v
次回も更新頑張って下さい〜!!
27 名前:ロテ 投稿日:2004/08/12(木) 14:52
レス返しを。

25>オレンヂさん
今回はさらにエロ魔人な吉澤さんですが
作者はエロが書けないへタレなんです…

26>ニャァー。さん
応接室の相手はすでに決まってますw
登場するのはまだ当分先になりそうですが。


では本日の更新どぞっ
28 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:53

それからしばらくしてよっちゃんは入試課に配置換えになった。
あまりにも女の子に手を出しすぎたという前代未聞の理由で。
もちろん表向きは入試課の人員不足。
しかも彼女の配置換えは理事長直々のお達しだった。
理事長の前では彼女の権限も無いに等しく、美人揃いの秘書課からオジサンだらけの入試課に泣く泣く異動したよっちゃんだった。

彼女のあんなに落ち込んだ顔を見たのは初めてだった。
天性の女好きなんだな〜と少し気の毒に思えた。そのときは。

29 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:54

一週間の出張を終え帰ってきたよっちゃんと久しぶりに飲みに行った。
彼女が秘書課にいるときは週3で飲みに行っていた。もちろん彼女の奢りで。
安い居酒屋がほとんどだったけど。
一人でいるのが嫌いな彼女は、あたしと飲みに行く日以外は全部女の子との予定で埋めていた。
顔に似合わず寂しがり屋なのか、やはり単に女好きなだけか。当然後者だろうなとあたしは思う。

30 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:54

「ささ、飲んで飲んで。久々なんだから」
「あたしを酔わせてなにする気なのよ」
「いやいや藤本くんとは酔ってないときにぜひ」

バチンッ

「っ痛〜。まったくある意味あたしより手早いよね、藤本くん」
「よっちゃんにしてはなかなか上手いこと言うね」
「だしょ?や〜楽しいね。気分がいいから飲むぞー」

どんなときだって飲むでしょあなたは。ま、あたしも人の金でいつもかなり飲んでるけどさ。

31 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:55

「機嫌いいね。出張でなんかイイコトでもあった?」
「よくぞ聞いてくれた藤本くん!ワシは嬉しいよ」
「博士と助手ごっこはしないから。あ、おにーさん生追加。大ね」
「あたしも生。なんだよー乗ってくれよー。せっかく久々なんだからさぁ」
「それよりなにがあったのよ。さっさと言えば」
「それがさ、あたしなんでこんなことに気づかなかったんだろう、今までって感じ」
「もっとわかりやすく」
「ほらあたしモテるじゃん?」
「まあね」
「女の子は現地調達すればいいって気づいたんだ」
「………」

まさかこの馬鹿…出張先の学校で調達したんじゃないよね?お願いだから全然関係ない女を街でナンパしただけだと言って。

32 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:56

「やっぱ女子高生ってかーわいいよなー」

ガンッゴンッゴチンッ

「それ犯罪だから。生!早くね!」

頭を抱えてのたうちまわってるバカエロ魔人を無視して大ジョッキの残りを飲み干した。
コイツは女なしでは生きていけないのか。心配になってきた。コイツじゃなくて世の中の女が。

33 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:56

「ほ、訪問先の生徒に手ぇだすのはさすがにマズイでしょ。マズイよ。せめて先生にしときなよ。あ、それもマズイわ。ダメだダメだダメだ」
「制服姿がそそるんだよー。今度藤本くんも着て…イヤ、なんでもない。なんでもないです。先生ももちろんいただきました」

開いた口が塞がらないとはこのことか。生徒に加えて先生まで。これなら秘書課のままのがよかったんじゃ…。
それにしても向こうはちゃんと合意の上で、遊びだとわかっているのだろうか。後々うちの大学を訴えたりなんてことないよね?今の仕事けっこう気に入ってるのに大学職員の不祥事、しかも理事長の身内のスキャンダルで大学解散とかになったら困るよ〜。
というか内容が破廉恥極まりないだけに、この大学に勤めてるなんて誰にも言えなくなるし近所も歩けなくなる。ちょっと大袈裟だけど数百人の教職員がこのバカよしこの性欲のせいで路頭に迷うことになったらシャレにならない…。

34 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:57

「相手はちゃんと納得してるんだよね?」
「なにを?」
「よっちゃんがどういうつもりで…ええいめんどくさい!つまり訴えられるような別れ方はしてきてないよねってことだよ!ちょっと生まだ?早く持ってきてよー!!」

ハイ喜んで〜じゃないよ、まったく。喜ぶ前に生持ってきてよ。こっちは飲まずにはいられないんだから。

「たぶん大丈夫だと思う」

だぶん大丈夫だと思うだと〜?よくもまあ飄々と言ってのけるもんだ。ある意味感心するね。

35 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:57

「たぶんじゃ困るんですけどたぶんじゃ」
「だって一晩とはいえ愛し合った仲なんだよ?訴えるとかなんとかってそんな野暮なことするような相手とは寝ない。あたしだってそのへんわきまえてエッチするよ藤本くん」
「すごい自信。どっから来るのそれは」
「藤本くんもあたしと寝てみる?したらわかるかもよ」

ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ一瞬、寝てみようかなって思う自分がいた。
ほんとにそれはほんのちょっとで、スグに消えてなくなったからあたしは彼女にデコピンをかました。

36 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:58

「いつまでもそんなことしてないで特定の彼女作ったらいいのに」
「藤本くん彼女になってくれる?」
「なんであたしが」
「じゃあ彼女なんていらないや。おにーさーん!さっさと生持ってこねーとこの店ぶっ潰すってここにいる目つきの悪い女が…」

ピシッバキッメリッ

「な、なんでもないです。なんでもないんで。あ、でも生はホントにさっさと持ってきてください」

37 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:58

「最近ますますバイオレンスだねー。もちっと加減してくれるとあたしもやりやすいんだけど」
「されるようなこと言うよっちゃんが悪い。てかやりやすいってなんだよ」

ビールにはやっぱ枝豆だよな、とか言いながらあたしに殴られた箇所をさすっている。
あたしはどっちかっていうと冷奴かな、とか言いながら殴った手をプラプラさせている。

38 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 14:59

「最近どうよ、秘書課。相変わらず?」
「うーん相変わらずだねぇ。みんなよっちゃんがいなくて寂しがってるわけないじゃん」
「ぐはっ。上げて落とすなよ。あたしは寂しかったよ藤本くん」
「なんで。女の子とはいつも遊んでんでしょ?」
「いやいや藤本くんと飲む機会が減ってだよ」
「よく言うよこのエロ魔人」


嬉しくてニヤケ顔になるのを見られたくなくてそっぽを向いた。
何食わぬ顔して会話を楽しんでいたけど、久々に彼女と飲んでテンションが上がる自分を必死で抑えてた。
喜ばせるのは癪だから言わないけど、実はあたしも彼女と飲むのが待ち遠しかったんだんだよね。

39 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/12(木) 15:00

「気持ちよくなってきた〜」
「藤本くん目がトロンとしてるよ。いつもの眼力はどうした」
「ここんとこ忙しくてあんま寝てないから酔いがまわったのかも〜。明日休みでよかった」
「いやでも普通これだけ飲めば酔うけどね」
「よっちゃん酔ってないじゃーん」
「藤本くんほどは飲んでないもん」
「なんだとー!なんで飲んでないんだよっ飲めっいいから飲めっ」

あたし酔ってるなぁと自分でも思う。でも楽しいからいいか。それよりとてつもなく眠い。うーん。

「オイコラこんなとこで寝るな…起き……くん……起きろっ……美貴?…」

薄れゆく意識の中で、体を包む温かい腕の気持ちよさを感じていた。



40 名前:ロテ 投稿日:2004/08/12(木) 15:01
更新終了
41 名前:みきっティー 投稿日:2004/08/12(木) 18:03
わおっ、眠っちゃうとマズイんじゃないの?藤本くん
でも、続きにいろんな事を期待しています。
42 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/08/12(木) 18:53
同じく期待してますw
43 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/12(木) 19:55
いやぁ…これは続きが楽しみだなぁ…。
でも結局ヘタレよっちぃで終わりそうな予感もw
44 名前:ニャァー。 投稿日:2004/08/12(木) 20:38

更新お疲れ様です!
寝てしまった美貴様〜v大丈夫かなぁ…w
よっすぃー女子高生まで……v

>応接室の相手はすでに決まってますw
まぢですか〜!?楽しみに待ってますよw
次回も更新頑張って下さい!
45 名前:ロテ 投稿日:2004/08/14(土) 02:36
レス返しを。

41>みきっティーさん
どうもです。
藤本くんピーンチ!ですが
ある意味よっちゃんも(ry

42>名無し募集中。。。さん
期待され慣れてない作者です(汗
頑張ります。

43>名無飼育さん
(0^〜^)<へタレ言うな
だそうですw
よっちゃん共々頑張ります。

44>ニャァー。さん
最近はキッズにまでその魔の手をのばしている
と評判のリアルよっすぃw
女子高生ならまだかわいいもんですよねw


それでは更新します。
46 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:37

白い天井が見えた時点で自分の部屋ではないとわかった。
まだ頭が覚醒していないんだろうと、もう一度目をつぶった。
頭の下に枕にしては妙に生々しい感触のものがあった。
目をつぶったまま手で確認してみる。ニギニギ。柔らかい。

「う、う〜ん」

横のほうから声が聞こえてきた。びっくりして目を開けた。
明らかに自分の声ではない。というよりも今の声は、低音ボイスは一人しか思い当たらない。
まさかまさかまさか。
ゆっくりと振り向くと端正な顔立ちのホクロだらけの顔がそこにあった。
怒りとか疑問とか羞恥とかそういう感情よりも前に、まつげ長いなーとか思った妙に冷静な自分がいた。

47 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:38

「あ、おはよ藤本くん」
「お、おはよう」
「よく眠れた?」
「たぶん」
「昨日は大変だったよ〜。ジョッキ抱えて寝る女なんて初めて見た」
「ええっ!マジ?」
「マジ。当たり前だけど服ビールまみれになったから脱がせた」
「ええっ!」

ベッドの中の自分の体に目をやると半裸に近い格好…というか下着のみ。
よっちゃんはというとなぜかあたしと同じようなほぼ半裸に近い格好で。
よくよく見てみたらなぜか腕枕なんかされちゃってるし。顔近いし。
ていうかなんで同じベッドで寝てるの?

48 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:39

導き出された答えはひとつ。


「最っ低」
「ど、どうしたの急にそんな怖い顔して。マジこえ〜。服はちゃんと洗って干したよ?」
「意識がない女を襲うような人だとは思わなかった」
「え、えぇぇぇぇぇ!ご、誤解だ。誤解。藤本くんはとんでもない誤解をしてるよ」
「この状態でどこが誤解だってのよエロ魔人。犯罪者」
「だからちがーうってば。あたしはソファで寝ようとしたんだよ?これホント。したら藤本くんが超こえ〜目つきで『あたしと同じベッドで寝れないってのかよ』ってドスの利いた声で言うからしぶしぶ」
「えぇ〜ほんとぉ?」
「ホントだっつの。ちょっとラッキーって…いやいや冗談です。あ、こんな格好なのはあたし寝るときはいつも全裸だけどさすがにそれはマズイかと思って。いつもよりは着てるんだから。藤本くんは『あーつーいー』つって渡したシャツと短パン脱いじゃっておまけにあたしの腕を枕代わりにするし。まあそれは慣れてるからいいけどさ」
「………」

…あたしって酔うとそんなキャラなの?これからはもうちょっとお酒控えようかな。

49 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:40

「それにしても酔った藤本くんって大胆なんだね。オイラ我慢するの大変だったよ」
「それ以上なんか言ったら殴るから」
「ひどいなぁ。酔っ払いの介抱だって大変だったんだから。ちょっとくらいオイシイ思いしないと割に合わないよ」
「よっちゃんもしかして寝てるあたしになんかした?」
「いやいやいやいや。まさかまさかそんなそんな」

ピチッ

「動揺しすぎだから。怒らないから言ってみな。どこまでしたか」
「怒らないって…もうすでに怒ってるし殴ったし…」
「いいから!」
「い、いやべつにナニをしたってわけじゃ…」
「ナニをしたの?!」
「ナニなんてしてないよっ」
「じゃあナニしたのよ」
「えーっと、なんていうのかなぁ、ホラ。ああいうのなんて言うんだっけ世間一般では。すみませんチュウしました」

ガチンッボゴンッベキッ

50 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:40

「呆れて言葉がないよ」
「だからってそんな殴らなくても」
「よっちゃんって美貴のことそういう対象なの?」
「そういう対象って?」
「すぐにやらせてくれる女」
「ま、まさか。違うよ。そんなわけないじゃん。なんつーか、かわいくてつい…」
「よっちゃんがいつも相手にしてる女たちと一緒にしないで」

51 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:41

怒りよりもなんだか悲しくて悔しくて涙がでそうだったから彼女に背中を向けた。こんなことくらいで騒ぐ自分に驚いていたしなによりもみっともなくて情けなかった。キスくらいたいしたことじゃないじゃん。なんで一発殴ってもうするなよ、って笑えなかったんだろ。なんでこんなこと言ったんだろ。

「もう帰る。服持ってきて」
「わかった。ちょっと待ってて」

あたしの只ならぬ雰囲気を察したのかよっちゃんはすぐにあたしの服を持ってきてくれた。
それから二人して無言で服を着た。


52 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:41

送るよと言うよっちゃんの言葉を振り切って外にでた。太陽が眩しい。今日も暑くなりそうだ。
歩きながらさっきの自分の発言を振り返る。あんな嫌な言い方なんでしてしまったんだろう。
すぐに背中を向けたからよっちゃんがどんな顔したかわからない。傷つけちゃったかなぁ。

こんなこと初めてだった。よっちゃんとはいつも軽口言い合って馬鹿騒ぎして楽しく過ごしてたのに。彼女の女遊びだって相変わらずのことだと受け流したりつっこんだり。憎まれ口叩きながらも飲みに行くのワクワクして楽しみで…なのに。なんであんなことくらいで。キスくらいで。
わからない。自分がわからなかった。

53 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:42

ふいにクラクションを鳴らされカチンときた。いつもならキッとひと睨みして相手をビビらせるあたしだけど、今はウザイと思いつつも後ろを向くのが面倒だったので黙って通りの端に寄った。
黒いポルシェが横に停まり、窓が開く。見慣れた顔が見えてあたしは少なからず驚いた。
さっきまで思考の中心だった人物がそこにいた。

「送るよ」


54 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:43

気まずい思いを乗せたままポルシェは動きだす。
音楽もラジオもかかってない車内は無音。なにか言わなきゃと思いつつもなにを言っていいのかわからない。こんな気まずい沈黙、よっちゃんとの間にできるなんて思ってもみなかった。昨日までのあたしと彼女との関係が懐かしかった。昨日に戻りたかった。でもそれは無理なわけで。そんないろんなことを考えてたら彼女が急に口を開いた。

55 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:43

「ないないって思ってたけど実はちゃんとあったんだね」
「なにが?」
「藤本くんのおっぱ…」

ボコッガンッメコッ

「う、運転中はヤバイって。マジでヤバイからマジでヤバイから」
「そのへらず口を今度ホチキスでとめてやる」
「ひー美貴ちゅわんってばドSなんだからっ」

56 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:44

車内の空気が一変した。いつもの二人。いつものじゃれ合い。この空気が気持ちよくて、楽しくてあたしはこの史上最強の女好きと一線を越えずに付き合っていられるのかもしれない。それはきっと向こうも同じはず。だからさっきみたいな恋愛ごとのような会話はあたしたちには似合わない。こういうおバカな会話をしてるのが一番なんだ。あたしは納得してシートに深く沈んだ。何人もの女が座ったであろうこのシートに。
でもなぜだか自分以外の女がここに座ってるのを想像したらあんまりイイ気分がしなかった。ま、それはこの際置いといて。せっかくいつもの雰囲気が戻ってきたんだからと、あたしは会話を楽しむことにした。

57 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:44

「よっちゃんのがよっぽどSっぽいよね。何人も女泣かせて」
「チッチッチッ。甘いぜ藤本くん。自慢じゃないけどオイラは女の人を泣かせたことは一度もありましぇん」
「ウソくさ」
「ベッドの中では泣かせてるけどね」

エヘッとやけにかわいい表情で舌をだす彼女。言ってることとあまりにアンバランスで思わず吹きだす。

58 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:44

「そういうんじゃなくてー。次から次へと女とっかえひっかえして、よく刺されないよねぇ」
「そんな感心されるようなことじゃ…。てかね、あたしは女の人と遊んではいるけど恋愛はしてないの。もちろん向こうもそう。だからあたしにとってはエッチはスポーツみたいなもん。汗かいてスッキリしてハイ終了〜。お疲れ様って感じなわけよ。だから愛とか恋とか求めてるコとは遊ばないのさすがに」
「よっちゃんて本気で人を好きにならないの?」

そういう考えって寂しくないのかな?そう思った。あ、寂しいから毎日女と遊んだりあたしと飲んだりしてるのか。あれ?でもそれって本末転倒じゃん。なんかよくわからなくなってきた。自分がなにを言いたいのかなにがしたいのか。

59 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:45

「本気で人に好きになってもらえればそういうこともあるかもね〜」

ドキッとしてなにも言えなかった。ヘラヘラ笑いながら言うようなセリフかよってなんでつっこめなかったんだろう。その表情とは裏腹に前を見据えた瞳が真剣すぎて、あたしは躊躇したのかもしれない。こんなよっちゃんを見たのは初めてだった。
バカでエロで金持ちなよっちゃん。あたしは彼女のことをどれくらい知ったつもりでいたんだろう。ただの飲み友達。会社の同僚。あたしとよっちゃんはそれ以外に当てはまる関係じゃない。心を許した気安い仲だけど彼女のことをあたしはなにも知らない。彼女の本質を。内面を。彼女もまたあたしのことをなにも知らない。その事実があたしをまた暗くさせた。それは車内のムードを再び変えさせるのにも十分だった。
あたしのマンションにつくまで車内はまた静けさを取り戻していた。


60 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/14(土) 02:46

「とうちゃ〜く。ささお姫様、お手をどうぞ」

当然のように助手席にまわってドアを開けてくれるよっちゃん。あまりにも板についたその行動が彼女にピッタリでなんだかおかしかった。

「よっちゃんて期待を裏切らないよね」
「期待しすぎないでね」

笑って帰ってく彼女を見送った。



61 名前:ロテ 投稿日:2004/08/14(土) 02:46
更新終了
62 名前:ニャァー。 投稿日:2004/08/14(土) 14:45

更新お疲れ様です!!
我慢したんだね!よっすぃー……v
まぁ少し我慢できなかったちゃできなかったんだけれどもv
あぁ、浮かんできます。頬を抓りながら耐えてた姿がw
そして美貴様〜!最強帝と乙女帝どちらも来てましたvv
次回も更新頑張って下さい!v
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/15(日) 21:47
いや〜、面白いよしみき発見しました!
更新が待ち遠しいです。
64 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/08/16(月) 20:04
ロッテさま
はじめまして。見つけてから一気に読みました。
おもしろいっす!!更新も楽しみにしています。
PS:娘。小説の保存もさせていただいているのですが、もしよろしければ保存させてください。
当方のHPは[ http://kuni0416.hp.infoseek.co.jp/text/index.html ]です。
ぶしつけなお願いで申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
65 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/20(金) 01:42

秘書課の仕事はけっこうしんどい。なにがって聞かれると説明しにくいけど要は雑用係みたいなもので、接待の付き合いなんかもたまにある。お茶入れや受付なんかはたいした労力を使わないけど数をこなすとさすがに疲れるわけで。隙を見て『○○課に行ってきまーす』なんて仕事のふりして息抜きに出たりすることもしばしば。だから今日も散歩がてら学内をウロウロしてる。

「サボりですか藤本くん」
「オマエがな」
「でたっオマエがな返し!それは卑怯だよ。ズルイズルイ」
「オマエがな」
「なに言ってもそれ返されちゃたまんないよ〜」
「オマエがな」
「いや普通に会話しようよ。あのさ、突然なんだけどオイラの彼女になってくんない?」

バシッズボッ

「さてと、そろそろ戻って書類プリントアウトしなきゃ」

お腹を抱えてなにごとか唸ってるバカを放って部屋に戻った。
まったくいつもいつも言うことが突拍子もない。
あ、FAXきてるよ。石川さんどこ行っちゃったんだろ。サボるのもいいけど早く帰ってきてね。

66 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/20(金) 01:42

「藤本さーん、入試の吉澤さんからお電話です」
「あ、まわさないでください」
「もうまわしちゃいました」

しぶしぶ受話器を取る。

「忙しいんだけど」
「ひどいよ美貴ちゅわん。愛の鞭にしてもキツすぎだよ」
「愛じゃなくてただの鞭なんだけど」
「まま、そんなことよりさっきの話なんだけど」
「彼女がどうとかってやつ?冗談にしてはしつこいね珍しく」
「これが冗談じゃないんだな」

えっ。心臓が早くなるのを感じた。

「実は彼女のふりしてほしいんですよ」

途端に空気が冷えていった。なにそれ。一瞬でもどうしようとか思った自分がバカみたい。べつに好きとかそんなんじゃないのに。無性に腹が立ってきた。期待させといてなによ。いや期待なんてしてないけど。するわけがないけど。

「とりあえずメシ食いながら詳しい話するんで。昼にレストランね。2階でいいよね」
「よっちゃんの奢りだよ」
「もちろんわかってますって」

67 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/20(金) 01:43

うちの大学のレストランは無駄に豪華だ。豪華で美味しい。しかも学生向けに安いときてる。
あたしがここを辞めたくない理由は実はこのレストランがあるからだったりする。
しかもこの春レストラン棟の2階に新しくイタリアンレストランがオープンした。わざわざイタリアから呼び寄せたシェフが自慢の腕を揮っている。
なんでもイタリアを訪れた常務理事がそのシェフの料理に感動し、ジャパンマネーをひけらかして連れてきたとかなんとか。そんなウソかホントかわからない噂を庶務課の矢口さんから聞いたことがある。
噂の真偽はともかく、イタリアから呼び寄せただけあってさすがに料理の味は絶品だった。だからあたしは週に3回はそのイタリアンレストランで昼食をとっていた。

「彼女のふりってどういうことよ」

ひと足先にデザートを食べながらさっきの話の続きを促す。詳しく話すと言っておきながら、食べるのが遅いよっちゃんは今日のメニューのヒレ肉のなんとか風に舌鼓を打つのに夢中で、しかも新しいウェイトレスを目ざとくチェックしたりなんかしてるからあたしはいい加減業を煮やして自ら話を振った。

68 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/20(金) 01:43

「そうそう!忘れてた。つーかあのコいつ入ったんだろ?けっこう可愛いなぁ」
「うぉい!ナンパは一人のときにしてよね」
「でもああいうタイプは後々厄介なことになりそうだからなぁ。藤本くんもそう思わない?」
「たしかにちょっと執念深そうだよね。顔とスタイルはまあまあだけど。ってうぉい!話は?話!」

コーヒーのお替りを頼んでウェイトレスをまじまじと見るよっちゃん。彼女は視力が悪い。でもってコンタクトが怖いとかわけのわかんない理由でメガネ派だ。なのにあまりメガネをかけない。かけるのは運転するときくらい。だから近くに呼んで顔と名前を確認したかったんだろう。ま、可愛い女の子を見るのにメガネかけられてもちょっとひくけど。

「高橋さんっていうのか〜。可愛いけど今回はパスしとこう」
「吟味はお済みですか?エロ魔人さん」
「ええお待たせしました。じゃ本題に入りますか」
「ここまで長かった。で、なんの話だっけ」
「彼女になってほしいんだよ」
「彼女のふり、でしょ?」
「そう。いや実はさ、夏休み明けにソフトボール大会あるじゃん」

69 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/20(金) 01:44

うちの大学は年に1度創立者中澤裕之介杯ソフトボール大会が行われる。大学の全教職員が男女それぞれ10チームくらいずつに分かれて優勝賞金ウン万円を目指して争う。開催時期はまちまちでその年のなるべく忙しくないときを狙って行われる。大体夏休み前か後、それか本格的に受験シーズンに入る前の九月。今年は夏休み明けすぐだということは所属長を通してすでに各課の教職員全員に通達がきていた。基本的には仕事と同じ扱いになるので必ず全員参加しなければならない。

「それがどうしたの?」
「なんだか知らないけどあたし今年実行委員らしいんだわ。で、こないだ会議に出たのね。そしたら普段あんまり会わない人とかいっぱいいるわけよ」
「まあそうだろうね」
「病院の人とか初めて見る人ばっかじゃん?うちら基本的に南館にしかいないし」
「あたしたまに病院長室に届け物するけどね。あそこ遠いんだよ〜。オマエが取りに来いってあのハゲに時々怒鳴りたくなる」
「おっさすが藤本くん。病院長がヅラだってことに気づいたんだね」
「あれバレてないの?もしかして皆まだ知らないとか」
「長く勤めてる人は知ってるだろうね〜。あたしはたまたま病院長室の応接室でやってるときにヅラが落ちててかぶってみたら病院長と同じ髪型になって気づいたんだけど」
「えーとちょっと待って順を追ってつっこむから。まず、病院長室の応接室でなにやってたって?」
「エッチ」
「そっかそっかやるって言ったらひとつだよね。ってかやるなーバカ!病院長室ってよしこのテリトリー外でしょうが!」
「だってあそこ1度入ったときに景色がよかったから」
「わかった。もうそれはいい。ヅラが落ちてて普通かぶる?」
「かぶってみなきゃ誰のかわかんないじゃないですか」

誰のかわかる必要があるのかと思ったけどこれ以上話が脱線したらホントに昼休み中に終わらない気がしたし、ちょっと頭が痛くなってきたのでヅラ話は切り上げることにした。

70 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/20(金) 01:45

「………なんかどうでもよくなってきた。で、なんの話だっけ」
「そうだよ!なんでこんな話になったんだ?とにかく主将会議には講座の人とか衛生士さんとかが来てて…なんかオイラに惚れちゃったみたいなんだよね、どうやら。おねーさーん、コーヒーお替りね。藤本くんも飲む?」
「コーヒーよりビール飲みたいかも。あたし貴重な昼休みをよっちゃんの自慢話聞いて終わらせたくないんですけど」
「勤務中にビールはヤバイでしょ。藤本くんもけっこう言うねぇ」

高橋さんにコーヒーのお替りをもらいご満悦のバカ大王。高橋さんがこのバカに食べられちゃう日もそう遠くないんじゃないかとあたしは踏んでいる。

「惚れられたからなんだっていうのよ。いつもみたいに遊んだらいいじゃない。病院だけに診察室とかで」
「いいねぇ〜そのシチュエーション。考えただけで燃える。藤本くんとオイラが…ムフフ」
「なんであたしなのよ」
「えー。だって藤本くんのナース姿見てみたーい。ナース服脱がせたーい。診察台に押し倒…」

ガツンッボコッ

高橋さんが目を丸くしてこっちを見ていたけど気にしなかった。それよりいつになったら話がスムーズに進むんだろう。窓から見える景色を眺めながらあたしはコーヒーを啜った。

71 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/20(金) 01:46

当然のことながら昼休みが永遠にあるわけではない。結局話の続きは今夜飲みながらってことになりレストランを後にした。去り際によっちゃんが高橋さんを見ながら、調理台のシンクの上ってのもいいかもなぁと呟いたのを聞き流して。

秘書課に戻ると後藤さんと石川さんがソフトボール大会の日程表やら対戦表を見ながら談笑していた。
あたしはタイムリーだなと思いながらその話の中に加わった。

「今年は優勝できるかなぁ」
「無理でしょ。衛生士さんチーム強すぎだもん」
「あーあの人たち毎年新しいほうの休憩室使う権利がかかってるらしいからねぇ」
「それで本気なんだ」
「なんか目とか血走ってるもんね」
「そうそう。それに平均年齢若いしねー」
「今年はうちのチームはよっちゃんが実行委員なんだってね」
「えっそうなの?」
「うん。さっき言ってた」
「じゃあ来年はあたしか藤本さんかなぁ。去年石川さんだったもんね」
「実行委員って毎年持ち回りなのよね」
「よしこのことだから委員権限でかわいい衛生士さんとかとお近づきになったりしてんじゃない?」

72 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/20(金) 01:47

そう言いながら煎餅をバリッと齧る後藤さん。なかなかいいとこついている。そういえば後藤さんはよっちゃんとそういう関係になったことあるのかな。

「よっちゃんは若い子ダメって言ってたよぉ?あたしみたいな大人の女がいいんだって」

イタイこと言ってる石川さん。悪い人じゃないんだけどそのイタイ言動はときにブリザードを起こすほど。たぶんそれは口説くのに言っただけなんじゃないかと思ったけどいちいちつっこむのも面倒なのでやめた。

「それよしこ皆に言ってるから」

後藤さんがサラッと言ったセリフも石川さんには通じない。自分に都合の悪いことは聞こえないのか石川さんは話をソフトボール大会に戻した。

「私たちのチームって大人数のわりには若い子少ないのよねぇ」
「そうオバサンばっか。きっとうちら出ずっぱりだよ」
「ただでさえ秘書課は華があるからってイベントごとには引っ張り出されるからね」
「よしこも大変だね」
「私去年そうでもなかったよ?」
「石川さんはそうだろうけどよしこは大変でしょう」
「そういえば会議で病院の人たちに惚れられたとかフザケたこと言ってた」
「やっぱりね。あっちの人たちと交流あるのってこういうときくらいじゃん。ここぞとばかりによしこ狙いがグラウンドに殺到するんじゃない?」
「去年はよっちゃん風邪でお休みだったっけ」

73 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/20(金) 01:48

風邪なんかじゃなかったことはあたししか知らない。その頃アイツはハワイだかグァムだかで女とバカンスを楽しんでいたはずだ。新入社員のくせに社内行事にいきなり不参加なんてどういう神経してんだか、と呆れたのを覚えている。こっちは若さを理由に先輩方からスタメンフル出場なんてありがたくない待遇を受けて筋肉痛に泣いてたっていうのに。それにしても風邪だなんてベタな休みの理由を皆が信じるとは思わなかった。大体バカは風邪なんかひかないし。

「風邪ねぇ。それも今思えば怪しいもんだ。ねぇ藤本さん」
「そ、そう?風邪だっていうんだからまあそうだったんじゃないの?」

やっぱり怪しんでる人いたんだ。後藤さんって普段ボーッとして課長の話なんか全然聞いてないくせにけっこう鋭いとこがあるんだと妙に感心した。でもお土産の高級バッグをもらったからには口を割るわけにはいかない。

「あ、あたし受付の時間だ。行ってきまーす」

まだ喋り足りないという顔の二人を残して逃げるように部屋を出た。
いい加減仕事しようね二人とも。




74 名前:ロテ 投稿日:2004/08/20(金) 01:58
レス返しを。

62>ニャァー。さん
あっちもこっちもありがとうございます。
うちのよっちゃんはヘタ(ryじゃなくて紳士なのでw
某板の帝ほど最強な人はいないと思いますので、
うちはマターリ乙女を目指そうかとw

63>名無飼育さん
ハケーンされましたw
面白いと言われると頑張ろうと思います。
これからもどうぞよろしく。

64>ななしのよっすぃ〜さん
ありがとうございます。
まだスタートしたばかりの駄文に
期待をかけてくださり光栄です。
こんなんでよければどうぞどうぞw

作者のHNですが千葉に本拠地のある某球団
ではありませんのでw
75 名前:ロテ 投稿日:2004/08/20(金) 02:13
訂正
>>70
とにかく主将会議には講座の人とか

とにかく会議には講座の人とか
76 名前:ニャァー。 投稿日:2004/08/20(金) 13:50

更新お疲れ様です!
乙女美貴様ですか〜いいですねv頑張ってくださぃ!!w
高橋さんきっとよっすぃーに、くわ(ry逃げてくださいw

イタイこと言ってる石川さん素敵wかなり鋭い後藤さんも素敵w
『オマエがな返し』をスル藤本さんもっと素敵w
でも…ズラをかぶっちゃう吉澤さん!!素敵すぎるwwカナリのツボでしたv
次回も更新頑張って下さい!!
77 名前:みきっティー 投稿日:2004/08/20(金) 17:29
シンクの上で高橋さんと・・・
いいじゃな〜〜い♪
78 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/08/20(金) 19:42
ワラタw
この藤本と吉澤の会話リズムがいいなあ
すごく面白いです
次の更新もがんばてください
79 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/08/21(土) 22:08
ロテさま
失礼しました。保存の件、了承いただきありがとうございます。
さっそくHTML化してUPさせていただきます。
ミキティーの微妙な乙女心がかわいいです。
では、更新を楽しみに待ってます!!
80 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:36

いつもの居酒屋に行くのかと思っていたら連れてこられたのはちょっとお洒落なバー。あたしが怪訝な顔をしていると「たまにはいいでしょ」とよっちゃんはソルティドッグを注文した。あたしはスプモーニを。ホントは生ビールが飲みたかったんだけど、彼女の雰囲気に合わせることにした。
まさか口説かれないとは思うけど、今夜の彼女のあたしを見る目が熱を帯びているような気がしたから恥ずかしさで顔が少し熱くなるのを感じていた。


81 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:36

「昼間の続きだけど」
「うん」
「正直病院の人とは関わりたくないんだ」
「どうして?」
「理事長と病院長、犬猿の仲なんだ」

なるほど。理事長と縁故関係のあるよっちゃんが病院長のテリトリーで悪さしてバレたりなんかしたら、厄介なだけじゃ済まないわけか。理事長にも多大な迷惑が及ぶ。ん?それなのによく病院長室の応接室でエッチなんて。あたしの表情を読み取ったのか先回りしてよっちゃんは答えた。

「あそこの応接室はホントに眺めがいいんだよ」

苦笑しながらグラスを傾けるよっちゃん。手についた塩をペロッと舐めてこちらをじっと見た。
なんとなく胸がざわざわしたけどあたしは気にせず話を続けた。

82 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:37

「一度危ない橋渡ったんだから今さら病院の人とどうこうなんて心配しなくていいんじゃない?」
「それとこれとは別。あの病院長、自分の部下のことには常に目光らせてるから下っ端とはいえ衛生士さんや助手の人なんかに間違っても手出せないよ」
「出さなきゃいいじゃん」
「ほらでも誘われたらフラフラっとしちゃいそうで」
「で、あたしに彼女になれと?」
「そう。彼女がいるってわかったら近づいてくるコも減るでしょ。美貴の眼光に一発でビビるよ」
「あたしじゃなくても石川さんとか後藤さんでもいいじゃない」
「そうだけど…なんつーか芝居でもいいから美貴と恋人気分を味わいたいなぁって」

な、な、な、突然なに言い出すの!!
グラスを持った手をプラプラさせながらあたしを下から覗き込むように見るよっちゃん。その表情はいつになく真剣で、でもかわいらしくて…あぁ、どうしたんだろあたし。大きな瞳に危うく吸い込まれそうになる。
もう、ホントやめて。そんな女の子を口説くときのような顔と声であたしの名前を呼ばないで。いつもみたいに殴れる雰囲気じゃないじゃない。しかもこんな場所で言われたらあたしだってちょっとフラフラって……ならない!絶対ならない!!だってあたしたちはそういう関係じゃないんだから。
よっちゃんの本気と冗談の境がわからなくなってきたよ〜。

83 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:38

彼女は相変わらずグラスを傾けてあたしを見つめる。今夜はやけにかっこよく見えるから胸の高鳴りが抑えきれない。そうやってどの女の子にも視線を逸らせなくするの?イヤって言わせなくするの?あたしは必死で今までの彼女のバカな顔や行動や情けないシーンを思い出そうとしていた。この目の前の魅力的な人を頭から追い出すために。


あたしの中で二人のよっちゃんが戦っている。あたしはおバカなほうの彼女に加勢するんだけど本気モードのよっちゃんには防戦一方。もうこれ以上は限界かもってところで彼女はフッと笑って視線を持っていたグラスに向けた。

「まだ早いかなぁ」
「なにが?」
「なんでもない。店かえよっか」

84 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:38

なにがなんだかわからずにいつもの居酒屋に連れてこられてあたしは明らかに安心していた。あのまま見つめあってたら…考えるのはよそう。いつもみたいに飲んで騒いでよっちゃんを殴ればいいんだ。あたしは自分の心にむりやりそう言い聞かせて生を頼んだ。もちろん大で。

「でもさ、彼女のふりって具体的になにすればいいわけ?」

ししゃもにパクつきながらよっちゃんの顔を仰ぎ見る。我ながら色気のない姿だろうなと思う。でもこれが一番しっくりくるんだもん。仕方ないよね。こういう姿を見せられる相手がいるってのはいいことだ。うん。

85 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:39

「うんうん頷きながらししゃも食って、そんなにウマイのかー?!ちょっと頂戴」
「あたしのじゃなくてこっちのお皿にあるやつ食べなさいよー子供じゃないんだから人の欲しがらない!」
「えぇ〜美貴ちゅわんのししゃもがいいよぉ。オイラ美貴ちゅわんにあーんしてもらいたいな」
「あーん」

グサッ

「ってココ鼻の穴だから。しかもなにげにすげー痛いのししゃも。鼻の粘膜に刺さって。武器だよ武器」

イテテとか言いながら鼻を押さえてるよっちゃんがおかしくて大爆笑してやった。やると思ったけど力いっぱいつっこむなよなーと涙目になりながらこぼしてる。あたしはすごいおかしくて楽しくて、一緒に笑っていられる幸せというものを噛み締めていた。もしよっちゃんの彼女になったら、こんなにおかしくて楽しい毎日を手放すことになるんじゃないかって気がしてやっぱり友達がいいなって密かに思った。


86 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:39

「どこまでオッケーなのかな藤本くんは」
「どこまでって」
「チュウは?」
「ダメ。それにこないだしたじゃん」
「今度はちゃんと口にだよ」
「へっ…こないだどこにしたの?ちょっと待って、まさかとは思うけど下着とか脱がせてないよね?」
「なに想像してんだよ〜藤本くん期待しちゃった?イテッ。鎖骨です。鎖骨にチュウしました」
「鎖骨ってどこ?」
「ここ」
「ひゃん」

よっちゃんの手が急に伸びてきてあたしの首の下をなぞった。その手つきがあまりにもイヤらしくて…だと思う、あたしが声を出してしまったのは。

87 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:40

「イイ声」
「変態」

鎖骨って。普通鎖骨ってチュウするとこなの?あんまり聞いたことないよ。よっちゃんの性癖ってちょっと変わってるかも。てかここ鎖骨っていうんだー。へー。

88 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:40

「で、チュウはいいの?」

お替りした生を飲みながら彼女はまた聞いてきた。手つきだけじゃなくて目つきまでイヤらしくなってきたよこの人。珍しくあたしよりお酒がすすんでるからか真っ赤に充血した目がイヤらしさに拍車をかけている。
それにしてもそんなにチュウがしたいんだろうか。

「ダメに決まってるでしょ。大体皆の前でする気?そんなの絶対いや」
「じゃ二人っきりのときに」
「する必要ないじゃん」

海老の皮を剥きながら親指と人差し指をベロリと舐めた。
しょっぱっ!おしぼりで手をふいてビールをゴクゴクと飲む。ふぅ。

89 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:40

「藤本くんさ〜誘ってるの?それ」
「なにが?」
「指とか舐める姿ってそそるよね」
「はぁぁ?」
「ねぇ〜チュウはぁ」
「しっっつこいっ。そんなにしたいのかチュウが」
「したい」
「ほらあそこのおねーさんチラチラよっちゃん見てるよ。させてくれるんじゃない?」
「イヤだイヤだイヤだー。美貴ちゅわんとチュウするのー。美貴ちゅわんじゃなきゃイヤだー!!」

突如立ち上がり店内中に響き渡る大声で叫ぶ男前。あたしは飲んでいたビールを噴き出してしまった。もしかして酔ってるの?この人。すごいわがままっ子になってるよ。あたしの手に負えるかな?すんごい殴ったら正気に返るかな?たぶん無理だよね。気絶とかされたらそれこそ面倒だし。

90 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:41

「わかったから。わかったから、よっちゃんちょっと落ち着いて。座って。ね?」
「う〜」
「そんな顔しないで。座りなってほら。お座り!」
「ワン!」
「いいコだね〜いいコいいコ。よく出来ました」

今度は大型犬と化した男前。頭を撫でてあげたら嬉しそうにじゃれついてきた。あったかくてかわいくて、あたしはロンドンのミセスマクドーナンドのところで飼われていたオールド・イングリッシュ・シープドッグのヴィンセントを思い出していた。彼は甘えんぼのかまってくんで、でもその大きな風体とは裏腹に非常に臆病な性質も持ち合わせていた。そんなヴィンセントとよっちゃんがダブって見えたからかな、あたしがちょっとチュウしてもいいかもって思っちゃったのは。

91 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:42

「ご褒美」
「なにがほしいの?」
「わかってるくせに」
「酔ってるでしょ?」
「わかってるくせに」
「ちょっとだけだよ?」

そしてあたしはよっちゃんの唇にそっとキスを落とした。触れるだけの友情キスを1、2、3秒。ここが居酒屋のカウンターでまわりにもたくさん人がいるってことは知ってたし、彼女が酔ってることももちろん承知した上で。したくなっちゃったんだから、仕方ないよね。


彼女の唇は酔ってるくせにやけにひんやりしていて気持ちよかった。

92 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/25(水) 19:43

ね、よっちゃん。あたしたちいいコンビだよね?
こうやって遠慮なしに飲んで騒いでバカやれる付き合いってなかなか貴重だよ。
口にするのは照れくさいけどあたしはいつも思ってるんだよ?ずっとこうしていたいって。
よっちゃんとバカやれる友達のままでずっといられたらなって。
あたしたちの間に恋愛感情なんて必要ないよね、きっと。
だから今のキスは親愛なる友人に対する感謝の印。
これからも一緒にバカやってようね、よっちゃん。



でも普通寝るかなぁ。人がチュウしてるときに。あんなにしたいしたいって自分から迫ったくせに。


あたしに寄りかかってスヤスヤと寝息を立ててる大型犬をどう連れて帰ろうか思案しながら、ジョッキに残った最後のビールを飲み干した。





93 名前:ロテ 投稿日:2004/08/25(水) 19:44
更新終了
94 名前:ロテ 投稿日:2004/08/25(水) 19:53
レス返しを。

76>ニャァー。さん
そんなに素敵を連呼していただいてどうもですw
あっちもこっちもいつも本当にありがとうです。

77>みきっティーさん
たかーしさんのことは未定です。
名前だけの可能性大なり。
ま、気分次第ですがw

78>名無し募集中。。。さん
ありがとうございます。
最後まで頑張ります。

79>ななしのよっすぃ〜さん
ありがとうございます。
帝の微妙な乙女心が出せればいいのですが、
なかなかうまくいきません。
でも頑張ります。


95 名前:ニャァー。 投稿日:2004/08/25(水) 21:54

更新お疲れ様です!
あっちもこっちも両立させながらの更新すごいなぁ〜とvv
これからもどちらも頑張って下さいね!!
美貴様乙女ですよぉ―――!!!wwキャワいいvv
これからの展開がますます楽しみになってきましたv
次回も更新頑張ってくだい!!
96 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/26(木) 23:24
ノッてきましたね美貴ティ!!
97 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:51

その夜は一睡もできなかった。

完全に潰れたよっちゃんをタクシーに乗せてとりあえずあたしのマンションに連れてきた。タクシーを降りるときに2、3回ビンタをかましてむりやり歩かせ部屋にあげた。靴を脱がせてベッドに放り込んだところであたしの体力の限界がきた。喉が渇いてキッチンで水を飲んでる隙によっちゃんは目を覚ましたらしく戻るとキョロキョロしていた。少し眠って落ち着いたのかこの酔っ払いは飲みが足りないなんて言い出す始末。
夜中に大声で叫ばれたら誰だって渡してしまうと思う。酒を。いくら殴っても効かないし。
結局あたしも付き合って浴びるほど飲みつつ彼女の女遊び遍歴を聞いていたら朝になった。

98 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:51

こんな状態で仕事に行けるわけがないし行きたくない。
あたしたちは眠い目をこすりながら風邪を装って会社に欠勤の連絡を入れた。幸い、というか飲みすぎてお互い喉がガラガラだったのでかなり信憑性はあったと思う。
電話の向こうの同僚の心配そうな声に申し訳なさを感じた。

連絡を入れた安堵感とオール明けの疲れも伴って眠さはピークに達していた。
あたしたちは無言でそれぞれの夢の中に堕ちていった。そして次に目が覚めたときはすでにお昼をまわっていた。


99 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:52

「二人して休んだら噂になっちゃうね〜」
「………」
「なんだったらホントに付き合っちゃおうか」
「………」
「藤本くんのベッドは最高だね。スプリング加減がちょうどいいよ」
「ねぇよっちゃん、頭とか痛くないわけ?」
「全然」
「そう、よかったね…」

無駄に元気な楽天家の辞書に二日酔いという文字はないらしい。あたしはといえばそれほど二日酔いではなかったけど昨日の酔っ払いの始末で完全に疲れきっていた。だから当たり前のように同じベッドに寝ている彼女を追い出す体力もなく、そののほほんとした声を頭の後ろで聞いていた。

100 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:52

「あーあでもオイラ、やっぱチュウしたかったなぁ」

なに?!聞き捨てならないセリフに頭をグリンと彼女のほうにまわした。
今なんて言ったのこの人。チュウしてあげたこと覚えてないわけ?
居酒屋で人にジロジロ見られてたけどしてあげたのに。
珍しく素直な気持ちで(声には出してないけど)感謝を込めてしてあげたのに。
自分は恥ずかしいくらい騒いであんなにわがままし放題だったのに。
あたしの苦労とかも全然覚えてないんじゃないのこの人。まったくなんなのよ〜。

101 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:53

「したんですけど」
「美貴ちゅわんの唇食べたかったなぁ」
「だからしたっつの」
「そうそう舌とかもからめて…ってした?なにを?」
「チュウだよ。このバカよしこ」

向かい合った姿勢のまま頭突きをかます。おでこを押さえながら口をあんぐり開けてるよっちゃん。
マヌケな顔がなんかかわいいから余計むかついてまた頭突きしてやった。あ、鼻にだから頭突きとは言わないのかな。

102 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:54

「チュ、チュ、チュ、チュ、チュウしたの?美貴と?!」
「そうだよしたよ。してして〜って店で大騒ぎするから仕方なくね」

努めてなんでもないことのように冷静に言った。あたしにとってはべつになんでもないことなんですよ、って顔で。特別なキスではなかったんだよって素振りで。
意識されるのもするのもイヤだったからわざとサラッと言った。

「知らないよ〜そんなの。ウソだ。ウソ言ってるんだ」
「ウソじゃないよ。失礼な。そんなくだらないウソつくわけないでしょ」
「百歩譲ってウソじゃなかったとしてもあたしに記憶がないんだからしてないも同然だよぉ」
「だからしたってのに」

よっちゃんの言いようにあたしもついムキになってしまう。クールさを少しも保てなかったのが情けない。この子供みたいに駄々をこねるワンコのがよっぽど情けないけど。

103 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:54

「もっかい」
「はいぃ?」
「もっかいちゃんとしようよ」
「バッカじゃないの」
「しようよしようよしようよ。だってあんまりだよ。あたしは覚えてないのに」

そんなに落ち込むことないんじゃない?呆れつつもちょっと気の毒になってきた。ウルウルの瞳で見られるとますますヴィンセントを思い出して切なくなるし。情けない顔もなんだかかわいいし。
可哀相だからもっかいくらいしてあげようかな。ってあたしまんまと罠に嵌ってるのかな、もしかして。
それにしてもよっちゃんてこんなキャラだったかなぁ。まだ酒残ってるんじゃ…。

104 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:55

「じゃもっかいだけだよ」
「マジ?」

目、キラキラしすぎだから。
この人頭の中これしかないのかな。毎日こんなことばっか考えて生きてるんだろうなぁ。悩みとかなさそうだしあたしとは違った意味で毎日楽しそうだし幸せな人だよね。べつに全然羨ましくないけど。


でもこんなに求められると友達とはいえちょっと嬉しいかも。だってキスしたいってことは好きってことでしょ?よっちゃんの場合はエロ魔人だからって部分がほとんどだろうけどやっぱり好きじゃなきゃ触れたいなんて思わないだろうし。ん?あたし嬉しいんだ…それって愛情?友情?よくわかんないなって思ってたら腰に手を回されてよっちゃんのほうに体を引き寄せられた。

105 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:55

「ちょ、ちょっとどこ触ってんのよ」
「えーだってチュウするんだからもっと近づかなきゃ」

よくよく考えたらベッドの中でこの体勢はちょっとマズイんじゃ。よっちゃんの手があたしの腰にまきついてギュッと固定される。ピタッとくっつくお互いの体。あったかくて気持ちいい。顎を持ち上げられ至近距離に彼女の顔。キレイな彼女の、瞳があった。

そういえばなんであたしよっちゃんとチュウしなきゃいけないんだろう。そんな疑問も彼女の瞳に吸い込まれるうちにどこかに消えてしまった。たぶんあたしはよっちゃんマジックにかかっていたんだろう。そうとしか思えない。だってこんなに胸がドキドキするなんて。見つめ合ってるうちに泣きたくなることなんて今までなかった。そして唇が近づいて…あたしは頭の中が真っ白になった。



106 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:56

最初はゆっくりと、控えめだった。
あたしの唇の形を確かめるようによっちゃんの唇が左右に上下に動いて、触れるか触れないかの距離で優しくなぞった。上唇と下唇を続けてはむっと挟まれ舌で濡らされる。いつのまにか彼女の舌が半開きになっていたあたしの口に入り込んで口腔内をゆっくりと、でも激しく暴れまわった。歯列をなめられ舌を絡み取られ唾液を飲み込む。激しさを増していくあたしたちの赤い舌。それ自体独立した生き物のように彼女のとあいまってお互いの中で動きまわり求めあう。あたしはすでに彼女のなすがままになっていた。そして徐々に襲いくる波に身を委ねた。

107 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:57

あたしを跨るようにして上になった彼女は首の下に顔を埋めチロチロと舐めまわす。
彼女の手がシャツの中に侵入し素肌のお腹をそっと撫でた。快感に思わず声が漏れる。
堪らなくて彼女の首に手をかけ自分のほうに引き寄せた。
二人の距離をゼロにして指を髪に絡めこれ以上ないくらい唇を欲しがった。

あたしは完全に彼女に、彼女の舌に夢中で朦朧とした頭でなにも考えられなくなっていた。
体をなぞる指や首筋に這わされた唇に酔いしれていて、自分の中から熱いものが込み上げてきているのをおぼろげに感じていた。彼女との熱いキスに、溺れきっていた。

108 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:57

「はぁんっ」
「美貴、美貴…」

彼女の手があたしの胸に伸びてきてゆっくりと弧を描くように優しく触れた。ブラの上からだというのに直接触れられているかのような快感に体が痺れる。もうあたしは目を開けるのも難しいくらい感じてしまっていて、涙目の中から薄っすらと見えた先には今までに見たこともないような目であたしを見つめるよっちゃんがいた。そのゾクゾクするような艶かしい視線に絡み取られあたしはなんの抵抗もなくシャツを脱がされた。

109 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:58

彼女の手がブラのホックにかかったその時、突然あたしの携帯が着信を知らせた。
そしてハッと我に返り慌てて彼女の腕から逃れ通話ボタンを押した。

「はいっ藤本です。い、いえとんでもないです。ええ、はい。明日は、たぶん大丈夫だと思います。…その件でしたら昨日の夕方にメールが…はい、はい、そうです。そう仰ってました。はい、ありがとうございます。では」


電話を終えてもあたしは彼女のほうを向けなかった。今あたしたちなにしてた?ねぇ、なにしてたの?なんで?なんで?なんで?なに考えてた?よっちゃんと、あたしエッチしようとしてた…。
しかもあたし自分から…。

110 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:58

脱がされたシャツを頭からかぶり昂ぶる気持ちを必死で抑える。
頭の中が混乱していた。よっちゃんのキスの上手さとか慣れた手つきとかがまだあたしの体に余韻として残っていて、それが余計にあたしから考える力を奪っていく。彼女と一線を越えようとしてた自分にとにかく戸惑っていた。課長からの電話がなかったらあのまま…ううん、今だって振り向いて彼女の胸に飛び込んだらたぶん。わからない。あたしはどうしたいんだろう。わからない。体はもちろん欲していた。心は否定する。でもそれ以上に頭は混乱していてあたしはしばらく動けずにいた。

111 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:59

「美貴…」
「…よ、よっちゃんやっぱりキス上手いね〜」
「美貴?」
「美貴も危うく本気になるとこだったよ。危ない危ない」

よっちゃんの顔が見れなかった。わざと明るく軽く振る舞った。できるだけシリアスにならないように重い空気がどこかにいくようにと今は望んでいた。あたしの名前を呼ぶ彼女の声が思いのほか真剣だったことは無視して。いつもの調子に戻りたかった。いつもの二人でバカやりたかった。こんな関係をあたしは…望んでいないはずだから。
あたしは知らないうちにシャツの裾をぎゅっとつかんでいた。

112 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 21:59

「だしょだしょ?オイラのテクに溺れちゃったのかい?美貴ちゅわん」
「ぶゎーか。なに言ってんのよエロ魔人」

数秒の後に彼女がいつもの調子で笑いかけてきた。
正直ホッとした。彼女の普段と変わらない口調と空気のおかげで、あたしたちはあるべき場所に戻ってきた。緊急不時着みたいな戻り方だったけどでもこれでいい。あたしの選択は間違ってなんかない。たぶん、絶対間違ってない。

113 名前:彼女は友達 投稿日:2004/08/29(日) 22:00

枕でブン殴ってお腹空いたーと叫んでみた。ハイハイお姫様、なんて言って彼女はキッチンに向かう。悔しいことに彼女の料理の腕前はキスよりも凄い。いや、やっぱりキスのが凄かったかな。あたしをあんなに腰砕けにしちゃうんだもん。でもあたしはこっちの関係を選んだ。自ら望んでこちら側にきた。だからいいんだ。これでよかったんだ。
あのまま流されていたら今頃こんな美味しいプレーンオムレツ食べれてないもん、きっと。

これでよかったんだ。鼻の頭にケチャップをつけて美貴ちゅわん舐めて〜なんて言ってるどうしようもないバカをニコニコしながら叩いてそんなことを自分に言い聞かせていた。





114 名前:ロテ 投稿日:2004/08/29(日) 22:00
更新終了
115 名前:ロテ 投稿日:2004/08/29(日) 22:05
レス返しを。

95>ニャァー。さん
一応ある程度のストックはあるのですが
手直しにかなり時間かけてます。てかほぼ書き直(ry
乙女帝を目指してバリバリ頑張ります。

96>名無飼育さん
ええ。ノッてきたようです。
作者としてはもっと動いてもらえると非常にラクなのですがw
116 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/29(日) 23:07
やばい…萌える…。
117 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/30(月) 08:32
更新キター!
ミキティより、こっちの方が腰砕けです・・・(w
今いちばん楽しみにしてます。頑張って下さい。
118 名前:みきっティー 投稿日:2004/08/30(月) 09:56
藤本さーん。もっと素直になって・・・
119 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/30(月) 16:30
更新お疲れ様です。
微妙な関係の2人がいいですっww
これからに期待。
120 名前:ニャァー。 投稿日:2004/08/30(月) 17:25

更新お疲れ様です!
いや〜wwこれまたいいところでv
よっちゃんさんにとって生ゴロ(ry
色々考えちゃってとまどってる美貴様キャワイイv
無理せずにロテさんのペースで頑張って下さいね〜v
121 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/30(月) 18:18
萌えますww
次回も期待してお待ちしております。
122 名前:130@緑 投稿日:2004/08/31(火) 18:07
更新、お疲れ様です。
こちらもイイ感じの展開になって来ましたねぇ・・
最初の頃はコメディーまっしぐらっぽい感じがしたんですが、今になって
タイトルの意味するところがせつなくもあります。
ここの藤本さんのキャラが好きです。
(リアルでもよっちゃんといると乙女チックになったりしてて微笑ましいですが)
この先どうなるのか・・楽しみです。
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/31(火) 21:48
ヤバイ・・・
すんげー続きが気になるよ。
は・・早く続きを!!
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/01(水) 11:16
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
たまりません(;゚∀゚)=3
いい時に課長、電話すんなよw
125 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:04

大学の教職員の夏休みは長い。学生ほどじゃないにしても普通の社会人よりはあるんじゃないかな。数えたら今年は曜日の関係で18日もあった。
あたしは早々と夏休みはミセスマクドーナンドのところへ遊びに行く予定を立てていたから、課長から休日出勤を言われてもそんな急な接待なんて絶対ムリですと突っぱねた。わがままとかじゃないよね?だって海外だよ?ロンドンだよ?その日のためだけに帰るなんてバカバカしいこと絶対ムリ!ちょっとそこまでの距離じゃないんだから。それともなに、ロンドン行くなってこと?アホじゃないかと。課長も悪いと思うならそんなこと言わないでよね。まったくもう。

こんなあたしの心の声をもう少しマイルドにして課長に伝えたところあっさり却下された。
ありえないから。どんな大切な接待だか知らないけどあたし一人いないくらいでダメになるようじゃ元からダメだよそんな商談。あたしの意見は至極もっともだと課長も言ってくれたけどいかんせん人手が足りないんだよ藤本くん、ってそんなよっちゃんみたいな口調で言われても。

126 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:04

人手が足りないとは言っても秘書課にはけっこう大勢女の人がいる。
そりゃ石川さんはこないだ階段から派手に転がり落ちて足の骨を折って入院中だし、後藤さんは後藤さんでその日は弟さんの結婚式があるからもちろん無理なんだけど。

課長ははっきりとは言わなかったけど秘書課にいるちょっと若いとはいえない年代のお姉さま方ではやはり格好がつかないらしく、一人でもあたしみたいな若いコがいないと上にも下にも示しがつかないらしい。
といってもあたしももう言われるほど若くはないんだけどなぁ。そりゃこの中では一番年下だけど。

127 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:05

泣きそうになりながら頭を下げる課長を見てたら気の毒に思えて首をたてに振ってしまっていた。
ロンドンのミセスマクドーナンドの笑顔と手作りスコーンが遠のく。
あたし泣き落としとかに弱いのかなぁ。よっちゃんにもこの手で唇奪われたし。

「あ、それから藤本くんの負担が大きいと思って入試課の吉澤くんに助っ人頼んどいたから。彼女もすでに了承済みだよ」

課長、やっぱりムリです。
ロンドンに逃亡したらクビですか?


128 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:05

「ごめんね藤本さん。こんなときにうちの弟が結婚なんて」
「弟さんの結婚じゃ仕方ないよ。友達とかだったらムリして来てもらうけど」
「石川さんがあんなんじゃなければね〜」
「ホントだよ。夏休み前に骨とか折るかな普通」
「それはそれですごい可哀相なんだけど、なんでか彼女にはあまり同情できないんだよね〜」
「そうなんだよね〜なんでもないとこで一人で転んで落ちただけだもんね〜」
「あんなところでね〜」
「なんにもないのにね〜」

あたしたちはお茶を飲みながら話を続けた。

129 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:06

「よしこも災難だよね。貴重な夏休みの一日が接待で潰れて。しかももう秘書課じゃないのに」
「よっちゃんと言えばさ、酔っ払うとけっこうあれだよね」
「あれって」
「キス魔」
「そうなんだ。あたしよしこが酔っ払ってる姿見たことないな、そういえば」
「そうなの?」
「うん。あんまり酔ったところ人に見せないと思うよ。女の子酔わせてるのは見たことあるけど」

あははと笑ってシュークリームにかぶりつく後藤さん。かわいい顔してけっこう食べ方豪快だよね。

「じゃあ藤本さん大変だったんだ。キスだけじゃ済まなかったでしょ」
「ま、まさか。あたしの鉄拳で目ぇ覚まさしたから」
「ほぅ〜よしこも災難だねぇ」

指についたクリームをひと舐めしてティッシュを取る後藤さんを見てたけど、べつになにも思わなかった。指を舐める姿に欲情なんてしないよね。やっぱりよっちゃんは万年発情中だからだ。きっとそうだ。

130 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:06

「よしこって本命いるのかなぁ」
「後藤さんてよっちゃんとエッチしたことある?」
「ないよ。あたしは石川さんみたいに割り切ってエッチできないから」
「へー意外。あたしてっきり応接室の相手は後藤さんだと思ってた」
「どうせ石川さんあたりじゃない?藤本さんはあるの?よしこと」
「あ、あたしもないよ。よっちゃんとはそういうんじゃないから」
「ふーん。なんか動揺してない?てか休憩中にする話題じゃないよね。ま、いっか。ヒマだし」

動揺は悟られたけどあまり興味がないのか、後藤さんはシュークリームを食べ終えて今度はクッキーに手を伸ばした。どうでもいいけどよく食べるよね。

131 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:07

「なんであんなにいろんな女の子と普通にエッチできるのかあたしは不思議で仕方ないよ」
「よっちゃんはスポーツみたいなもんだって言ってたけど」
「スポーツねぇ。健全な言葉に言いかえてるけどそれって歪んでるよね」
「うん?」
「よしこって本当に人を好きになったことあるのかな」

あたしもそれは思ったことがあった。明るくていつもヘラヘラしてバカやってエロ魔人で、呼ばなくても向こうから女の子が寄ってきて尚且つお金持ちのよっちゃん。あたしという飲み仲間もいるし仕事にもそれなりに楽しみを、と言ってもやっぱり女だけど、見出して深く考えるようなことなんてなさそうな彼女。パッと見はストレスなんて言葉からは無縁で順風満帆な人生を送ってるような感じだけど実際のところはどうなんだろう。エッチをスポーツなんて割り切ってる人が本当に幸せなんだろうか。

「お調子者だけど実は繊細で傷つきやすいんじゃないかって気がする。勘だけど」


副理事が急なお客様を連れてきてあたしたちは仕事に戻った。
もう少し後藤さんの『よしこ分析』を聞いてみたい気がしていた。





132 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:08

いつのまにか夏休みに入りロンドン行きをやむなくキャンセルしたあたしは俄然ヒマだった。いい機会だからずっと先延ばしにしていた大掃除でもしようと思い立ち、とりあえずよっちゃんを呼んだ。

「で」
「で?」
「ほら、あたし一人じゃ家具とか動かせないし」
「……」
「ぶっちゃけ一人じゃ終わるかわかんないし」
「……」
「よっちゃん片付け上手だし」

その上目遣いで人のことジーッと見るのやめてくれないかな。拗ねてる顔がやけにかわいいよ。そりゃウソついて呼んだのは悪かったけどちょっとしたジョークじゃん。なんだかんだ言ってもよっちゃんがちゃんと掃除手伝ってくれることあたし知ってるんだから、無言の抵抗はやめてよ。いつものキミの悪ふざけにくらべたらたいしたことじゃないと思うんだけどな。

133 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:08

「あたしさー理事長の客のちょっとした相手をしてたわけよ」
「それでスーツなんだ」
「日本に来たの初めてらしくていろいろ案内してやってくれって」
「外国のお客様なんだ」
「でも正直かったるかったからなんかバックレる方法ないかなーとは考えていたんだよ」
「じゃあちょうどよかったじゃん」

サングラスから覗く目があたしを睨んだ。なかなかの迫力だけどあたしにくらべたらまだまだ甘い。かっこよさは文句なしだけど。

134 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:09

「すっげー心配したのよ。わかる?」
「ごめん」
「なんでくだらないウソつくかなぁ」
「だからほんの冗談のつもりで」
「でもメールにひと言『助けて』はないだろ。電話してもつながんねーし。マジあせったっつーの」
「あーもう本当にごめんって」
「……」
「まさかそんなに心配してくれるとは思わなかったんだよ〜」
「……」

はぁ仕方ない。

135 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:09

「よっちゃんに会いたかったんだもん…」
「みっきちゅわーん!!オイラもオイラもー!」

飛びついてくる単純バカを軽くよけて、ベランダに続く窓を開けた。気持ちのいい風が入ってきて頬をくすぐる。今日は珍しく涼しい。絶好の掃除日和だ。

「さて、やるか」

バカ大王はベッドにダイブしたまま枕に顔をこすりつけてる。

「うーん美貴のにほひ。ぐえぇっ」

その背中にどすんと腰かけながら腕まくりをして、掃除の準備に取り掛かった。


136 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:10

「よっちゃん着替えたほうがよくない?」
「んじゃなんか貸してくれよ」

高そうなスーツをぽんぽん脱ぎ捨てて、よっちゃんは手渡した古いジャージとTシャツに着替えて頭にタオルを巻いた。あたしのではやっぱりというか当然丈が短く、裾を折ってハーフパンツみたいにしている。どこからどう見ても完璧な掃除スタイルだ。もしかしてすごいやる気になってる?

「あたしさーこういう大掃除とか引越しの手伝いとか実は好きなんだよ」
「珍しいね」
「なんか楽しいじゃん。皆でひとつのことを為し遂げるのって」
「普段はめちゃめちゃ個人主義のくせによく言うよ」
「そうなんだよ。仕事とかは一人でやりたいって思うし実際なにもかも一人でやってるんだけど、不思議だよなー」

喋りながらもキビキビ動いてテキパキ働く彼女。見る見るうちに雑誌の山がキレイに整頓されていく。

137 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:10

「よっちゃん手際いいね」
「慣れてるから」
「引越しのバイトでもしてたの?」
「つーか引越しが多かった」

考えてみたらこのお金持ちがバイトなんてするはずがないか。それでも引越しの梱包は自分でやるんだね。

「キレイに並べてくれたのはありがたいんだけど」
「うん?」
「その雑誌全部いらないから」
「先に言えーっっ」

呆れて怒るよっちゃんにいるものといらないものを説明させられた。ちょっとでも迷うと「迷った時点でいらないんだよ」と、いらないもののレッテルを貼り次へと促される。ひと通りの説明が終わりよっちゃんは納得したようにすごい速さで片付けだした。そしてあっという間にいらないものの山が築きあげられる。あたしがお風呂とトイレを掃除している間によっちゃんはリビングとキッチンをピカピカに磨きあげてくれた。ベッドを動かしキャビネットの位置を変え、そう広くもない部屋の模様替えまでしたところでお腹が鳴った。

138 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/01(水) 20:11

「よっちゃん、お腹空いたよー」
「オイラもー」
「なんか食べに行こうか」
「そうだな。あとはいらないものを捨てるだけだしこれだけキレイになれば十分だろ」
「よっちゃんありがとね」
「おう。じゃなんか食いに行くかー」

結局、掃除を手伝ってもらった上に(というかほとんどよっちゃんがやってくれた)ゴハンまでご馳走になった。退屈な夏休みの一日がよっちゃんのおかげで充実した日に様変わりした。彼女といると楽しいし一日が過ぎるのがとても早く感じられる。今日はいい日だったなーと思いつつも、間近に迫った休日出勤のことを考えるとやっぱり少し気が重くなっていた。





139 名前:ロテ 投稿日:2004/09/01(水) 20:11
更新終了
140 名前:ロテ 投稿日:2004/09/01(水) 20:26
レス返しを。

116>名無飼育さん
萌えましたか。なによりですw

117>名無し飼育さん
腰は大丈夫でしょうかw
ご期待に添えられるよう頑張ります。

118>みきっティーさん
作者も書いてて思いますw

119>名無飼育さん
そうですね。微妙という言葉がピッタリかもしれません。
これからも頑張ります。

120>ニャァー。さん
お気遣いありがとうございます。
よっちゃんには悪いことしたなとw

121>名無飼育さん
萌えますかw
あんまり期待されると泣きそうになります(汗

122>130@緑さん
あちらでは嬉しいレスどうもでした。
作者の予期せぬ方向にどうやら進みつつあります。
時にシリアスを混ぜつつも明るく書いていくつもりです。

123>名無飼育さん
やばいですかそうですかw
週イチ更新は継続していきたいと思う作者です。

124>名無飼育さん
たまりませんかそうですかw
なにげに課長に頼られている藤本くんです。
141 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/01(水) 23:21

更新お疲れ様です!
後藤さんの吉子分析は凄いっすね!vv
美貴様!よっすぃーの扱いが上手いこと上手いことww
次回も更新頑張って下さい!!
142 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/03(金) 15:25

接待とは言っても教授陣の間に座って和やかに談笑したりカラオケ歌わされたりお酒を飲まされたり…つまりホステスみたいなものだ。あたしは意外とこういう割り切りはできるほうなのでいつもの眼光を隠して愛想笑いなんて簡単に浮かべちゃったりできる。あれ?向こうで課長が冷や汗かいてこっちを見てるのはなんでだろう。

肩を抱こうとするお偉い先生をかわしてトイレに立つ。ちょっと休憩しないと顔がもたないよ。むりやり作る笑顔って本気疲れる。トイレから出ると、よっちゃんが通路のベンチに腰掛けてほっぺたをグリングリン回して揉んでいる。彼女もまた貼り付けた笑顔の限界が近いらしい。

「これいつまで続くの?」
「ん〜たぶんもうお開きだと思う。先生たちもうほとんど潰れてるから」
「よかった。もう顔もたないよ」
「今日はここに部屋取ってくれてあるみたいよ。もう遅いからね。うちら同部屋だって」
「それって会社持ちだよねぇ」
「モチロン。うちらの苦労を上はちゃんとわかってるんだねぇ。この高級ホテルに泊まらしてくれるんだから」

そう。ここはけっこうというかかなりの高級ホテル。値段ももちろん高級なわけで、あたしは仕事でもなければ絶対に足を踏み入れることができない。ここに泊まれるんだから今日のことは大目にみてやろうかな、と課長の顔を浮かべながら偉そうなことを思った。

143 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/03(金) 15:25

「にしても藤本くんさぁ」
「なに?」
「ぶはっあの顔ってマジなの?」
「あの顔ってなによ」
「あの仏頂面。ものすごーいつまんないって顔してた」
「うっそぉ。あたしめちゃめちゃ笑顔じゃなかった?」
「じぇんじぇん。それ見て課長なんて冷や汗タラタラだったよ」
「あーそれでか…」
「部屋が薄暗かったし先生たちも酔ってて気づいてないとは思うけどね。でもおかしかったー」
「だって楽しくもないのに愛想笑いなんかできないもん」

ちょっと拗ねた口調になってしまった。自分では完璧にできてると思ってただけに指摘されてちょっと悔しかったから。それにしてもそんなに仏頂面だったのかな。課長も気が気じゃなかったろうなぁ。気の毒に。

「ウンウン。そこが美貴ちゅわんのいいとこだよ。美貴ちゅわんの笑顔はオイラが知ってるからいいのだ」

バーカと頭を一発殴ってから先生たちが潰れてる部屋に戻った。いきなり恥ずかしくなるようなこと言われて顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。よくああいうセリフをサラッと言えるよ。こっちが照れくさくなるようなこと。でも嬉しかったけど。


144 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/03(金) 15:26

ヘロヘロになった先生たちを男性陣が部屋に送り届け、課長から今夜泊まる部屋のカードキーを受け取った。
あんなダラシナイ格好のオジサンたちが普段偉そうに学生に講義したり説教したりしてるんだと思うとなんだか学生が気の毒になってきた。そりゃオジサンたちだってたまには羽目を外すだろうけどグチがひどすぎる。やれあんな学生たちになに教えたって無駄だとか、授業料をもっと上げて自分たちに還元すべきだとか。完全に学生を見下している。だれのおかげでメシが食えると思ってんだーってあたしはずっと心の中で叫んでた。まったく病んでいる。学生が減ってるのを社会情勢のせいにしないで自分たちの非を素直に認めるべきなんだ。まったくこの大学は病んでいる。

でもきっとこういう状況はうちの大学だけじゃないんだろうな。全国の大学で似たようなことが起こっているんだろう。下っ端がなに叫んだってなにも変わらないからあたしはこの環境に甘えてずるずるとこんな高級ホテルに泊まっちゃったりする。この費用だって元を質せば学生から出てるお金なんだよねぇ。

そんなようなことを一緒に部屋に入ったよっちゃんにぶつけたらニッコリと笑って頭を撫でられた。

145 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/03(金) 15:26

「クールなふりしてホントは熱いんだよね〜美貴ちゅわんは」
「うっさい」

なんかバカにされたような気がしてさっさとシャワーを浴びに行った。
普段バカなことばっか言ってるけどよっちゃんならわかってくれると思ったのにな。
シャワーを頭から浴びながら言いようのない孤独感を感じていた。


「おかえり〜ねぇねぇベッドどっちがいい?やっぱ一緒に寝るのが一番だよね。イテって痛くない…。あれ?殴らないの〜?美貴ちゅわーん」
「………」
「美貴ちゅわーん?」
「………」

あたしなんでこんな子供っぽいんだろ。最近のよっちゃんとはギクシャクすることが多くて、だからなのかな?こんな行動しちゃうのは。無言の抗議なんて馬鹿げてるのに。よっちゃんはべつに悪くないのに。あたしの本気を受け取ってもらえなかったからって。なんであたしこんなに…。

やれやれって顔のよっちゃん。やっぱり呆れてるよね。いつもはあたしが呆れる側なのに立場が逆転しただけでこんなに居た堪れない気持ちになるなんて。やっぱりあたしどうかしてる。

146 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/03(金) 15:27

「藤本くんが思ってるほどうちの大学は腐っちゃいないよ」
「ほぇ?」
「気持ちはよくわかるし言ってることももっともだと思うよ。この現状に問題意識持ってる人だっていっぱいいるはず。若い先生たちの中には自らそれを打破しようって頑張ってる人も出てきている。上もね、そういう状況をまったく把握してないわけじゃないんだよ。ただ長年培ってきたものを変えるにはそれなりの痛みが伴うわけで…だからゆっくり時間をかけて、なるべくいろんなところにダメージを与えないやり方で改革を進めようとしてる。あたしたちはやるべき仕事をやってればいいんじゃない?適材適所って言うでしょ。皆が自分の持ち場でやれることをやってれば自ずといい方向に進むんじゃないかなぁってあたしは思う」

口を挟む隙を与えずによっちゃんは一気に喋った。正直驚いた。チャランポランで会社に女の子に会いに来てるような人が言うことじゃないと思った。でもあたしの気持ちをないがしろにしたわけじゃないってわかって嬉かった。それになんか、なんかすごくかっこいい。でもそれを素直に口にするのはやっぱり恥ずかしいわけで。

147 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/03(金) 15:27

「よっちゃん、頭大丈夫?」
「ぬわーんだよそのセリフ!いますごいかっこいいとこだろっ」
「だってよっちゃんがそんな真面目なこと言うなんて…頭でも打ったとしか思えないよ」
「ひどいや美貴ちゅわん」

部屋の隅で背中を丸める姿がかわいくて、ホントはかっこいいって思ってるんだよって伝えようとした。伝えようとしてそんなのあたしたちらしくないなって思い直した。だからタタタっと勢いよく走り寄って彼女の丸まった背中にダイブした。

「グエッ!お、おも〜」
「なんだとぉ失礼な」

ゴチンッズンッ

「う、うそです。うそです。全然軽〜い。藤本くんもっと食ったほうがいいよ。マジで軽いから」

あたしをおんぶした状態で部屋の中を駆け回るよっちゃん。あたしも頭の上から突撃ぃなんて掛け声だしちゃって騎馬戦ごっこで見えない敵と戦ってる。よっちゃんもノリノリでウワーッて敵にやられたふりとかしちゃって。いい歳して夜中に高級ホテルでバカ騒ぎしてるのなんてあたしたちくらいだよ。でもこんなに楽しいのもきっとあたしたちくらいだよね。

ずっとこうしていたくてよっちゃんの背中にしっかりしがみついていた。
疲れきった彼女がベッドに倒れこむまで、ずっと。





148 名前:ロテ 投稿日:2004/09/03(金) 15:28
更新終了
149 名前:ロテ 投稿日:2004/09/03(金) 15:31
141>ニャァー。さん
短いですが更新しました。いつもサンクスです。
乙女帝を意識するとなかなかどうして難しいものです。
当初は中篇くらいの長さに収まると思ってたのですが
どうやら長くなりそうな予感が特大ですw
変わらぬお付き合いのほどをよろしくお願いします。
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/03(金) 16:34
よっちゃんさんの背中はさぞ暖かかったでしょう。美貴ちゃんさん
151 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/03(金) 18:23
いいなぁ〜いいなぁ〜いいなぁ〜
こう言う雰囲気とても◎
152 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/03(金) 19:27

更新お疲れ様です!
いぇいぇ〜これからもロテさんについていきますのでw
長くなってもムシロ嬉しいかぎりです!
おんぶで騎馬戦ごっこvほのぼのいい感じですねv
実は頭がよくて気遣いが上手い吉澤さんv
カッケーかったですw次回も頑張ってください!
153 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/09/03(金) 19:34
ハァーン!!(AA略
萌えっ萌えです。
・・・今後に期待しちゃって良いのかなー♪(w
154 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/04(土) 10:01
やはりよしみきの王道でございます…
ロテ様のよしみきが一番!
155 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/06(月) 22:13

結局ソフトボール大会は例年通り衛生士さんチームの優勝で終わった。あたしたち事務員で編成されたチームは決勝で彼女たちに敗れ惜しくも準優勝。モチベーションの有無が勝敗を分けた気がする。あたしたちにはあそこまで必死にボールを追いかける理由がなかったから。
骨折が完治したばかりの石川さんは試合中やっぱりなにもしてないのに捻挫して、庶務課の矢口さんの失笑を買っていた。

よっちゃんは実行委員で、救護係も兼ねていたこともあって常に忙しそうに動き回っていた。むしろ自分から進んで仕事を引き受けて忙しくしてるようにも思えた。だからあたしが恋人のふりなんかしなくったってよっちゃんには逆ナンされる暇もなく、彼女の心配は杞憂に終わった。
ひょっとするとこれが彼女の本当の作戦だったのかもしれない。

156 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/06(月) 22:13

2位とはいえけっこうな賞金をもらったあたしたちはそれを全て打ち上げの費用に充てた。大人数の飲みの席はそれはもうひっちゃかめっちゃかで、皆一様に普段のうっぷんを晴らしていた。
よっちゃんは相変わらずその社交性をいかんなく発揮して女の子たちの間を行ったり来たり。バカやったり格好つけたりして楽しませてくれていた。

「よしこさー、ほんっとマメだよね。女の子に関しては」
「なになに、後藤さんもようやくオイラの魅力に気づいたの?今夜どう?」
「あたし遊びでエッチはしないから」
「そう言うと思ったよ」

隣の矢口さんのグチに飽き飽きしていたら、ちょうどよっちゃんと後藤さんの会話が耳に入ってきて聞くともなしに聞いていた。

157 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/06(月) 22:14

「これ美味し」
「どれどれ。お、ホントだ。後藤さんよく食うね」
「食べるよー美味しいもの好きだし」
「オイラも美味しいよ。あ、でも後藤さんのが美味しそうだよね」
「コラコラ。ヤラシイ目で胸を見ない。よしこオッパイ星人だっけ?」
「うんにゃ。べつにそういうわけじゃないのだ。お尻も鎖骨も好き」

鎖骨に反応してちょっとムセた。ていうか後藤さん、オッパイ星人って…。
隣の矢口さんが自分の身長のことについてグチりだす。今さら牛乳飲んだって伸びませんよ。

158 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/06(月) 22:14

「鎖骨ねー。なかなかイイ線ついてるじゃん」
「だしょ?鎖骨イイよなぁ」
「あたし昔スノボで鎖骨折ったことあるんだよね」
「へぇ〜」
「ほら、ここんとこちょっと形歪んでるでしょ」
「後藤さーん、その気もないのに誘うなよ。ヤバイから。オイラ本気モードになっちゃうよ?」
「フフン。よしこの本気は付き合う気のない本気だからね〜」
「なんだよそれ」
「エッチはスポーツで遊びなんでしょ?そういうのは本気って言わないの」
「なるほど。後藤さんとエッチするには本気で好きにならなきゃいけないわけね」
「そういうこと」
「じゃあオイラのこと本気で好きになってよ。したらオイラも好きになるから」
「なにそれ。自分のこと好きじゃない人じゃなきゃ好きになれないってわけ?」
「そんな熱くなんなよ」
「バカにしてない?だれも見返り求めて人好きになんてならないよ」
「………」
「要するによしこは」
「臆病なんだよ」

たぶん後藤さんが言おうとしたことをよっちゃんが先回りして後をつなげたんだろう。二人が不穏な空気になってからなぜだか身動きが取れなかった。体を固くして、ずっと耳を傾けてた。すでに矢口さんの話なんて聞こえてなくて、申し訳程度に打っていた相槌も今はない。視線は向けずに二人の状況を見守る。

159 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/06(月) 22:15

「なんで」
「前にも言われたことあるから」

我慢できず二人の方に目を向けるとよっちゃんはトマトを口の中に放り込み、後藤さんは言い過ぎたって顔してた。少しの間沈黙が続いて気まずい雰囲気が漂っていた。なにか話しかけるべきかと考えたけれどこの状態でどんな顔して会話に入っていけばいいかわからず、浮かしかけた腰を結局は下ろした。矢口さんのターゲットはすでに石川さんになっていたのであたしは相変わらずよっちゃんと後藤さんの動向に注目する。

160 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/06(月) 22:15

「んな顔するなって」
「変なこと言ってごめん」
「だーから謝るくらいなら笑って笑って。楽しく飲もうよ。あ、許してあげるからオッパイ触らせて?」
「やっぱオッパイ星人なんじゃん」
「いいじゃーん。オッパイ触らせろよー」
「なんであたしがよしこにチチ揉ませなきゃいけないのよ」
「いや、揉ませろなんて言ってないから」
「触ったら揉むでしょ?」
「そりゃ揉むけど」
「揉むんじゃん」
「だって揉まずにはいられないでしょーが」

なんで揉む揉まないで揉めてんだろう。ああややこしい。いつのまにか不穏な空気が一変していてあたしは内心かなりホッとしていた。これもよっちゃんのキャラクターの為せる技か。それにしてもキミたち、オッパイオッパイって…。チチって…。

161 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/06(月) 22:16

「あーもうっしつこいな!じゃ触るだけだよ?」

えっ!後藤さんいいの?べつに後藤さんがオッパイ触らせることはないんじゃないかと思うんだけど。よっちゃんはおもいっきりガッツポーズしてるし。粘り勝ちだね。これもよっちゃんのキャラクターの為せる技か、ってそんなわけないか。後藤さん遊びでエッチはできないって言ってたくせにオッパイはいいんだね。まぁあたしもよっちゃんに押し切られてチュウしちゃったけど。
それにしてもよっちゃんてホント、エロ魔人。

嬉々として後藤さんの胸に手を伸ばす彼女の姿を横目で見ながら、ガックリ肩を落として戻ってきた矢口さんのグチを今度は聞いてあげることにした。そりゃ石川さんになに言ったって無駄ですよ。

162 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/06(月) 22:17

「揉むなっつったろー!!」

バゴーンッ

見ると後藤さんがよっちゃんにアッパーカットを食らわしていた。
うーんあの角度とあの手つき。後藤さんってあたしよりバイオレンスかも。


結局後藤さんの『よしこ分析』はよっちゃん自らの発言でしめられたわけだけど彼女は自分が臆病だと肯定したわけじゃない。肯定も否定もしなかった。でもあの時あたしは後藤さんと同じことを思っていた。だってミセスマクドーナンドのところのヴィンセントがそうだったから。このよく似た二匹、じゃなくて一人と一匹は人懐っこさの影に臆病さを隠し持っている。だからどうだっていうことはないんだけどあたしは少しだけよっちゃんの本質に触れた気がして嬉しく思っていた。





163 名前:ロテ 投稿日:2004/09/06(月) 22:17
更新終了
164 名前:ロテ 投稿日:2004/09/06(月) 22:24
レス返しを。

150>名無飼育さん
よっちゃんさんの背中は美貴ちゃんさんのものですからハイw

151>名無飼育さん
◎サンクス。さらなる飛躍を目指して頑張ります。

152>ニャァー。さん
なかなかカッケー吉澤さんが書けないので
作者はそろそろジリジリしておりますw
これからもついてきてもらえるよう頑張ります。

153>名無し飼育さん
期待を裏切らないよう頑張ります。
萌えますかそうですかw

154>名無飼育さん
嬉しいお言葉ありがとうございます。
ですがまだまだ作者はヒヨッコです。
立派なニワトリになれるようマターリ見ていてくだされw
165 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/07(火) 01:36
初レスさせていただきます。
更新お疲れさまです。
この作品といい、緑板の作品といい素晴らしいです。
これからも期待してます。作者様のペースで頑張って下さい。
166 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/09/08(水) 00:58
よっちゃんさんが気になって来てる美貴さん。
イイヨイイヨー。
ハロモニと言い、みきよし熱いですね。
現実に負けないように頑張ってください(w
167 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/08(水) 21:29

更新お疲れ様です!!
ごっちんとよっすぃーの微妙な距離がカナリ好きですvw
吉澤さん…やはり我慢できなくて揉むのですね…wwそして殴られると…ww
美貴様〜よっすぃーが気になりつつ
矢口さんのグチ相手ごくろう様でした!!w
次回も更新頑張ってください!楽しみに待ってます〜vv
168 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:19

季節はいつのまにか秋になり、あたしは相変わらず週に何回かよっちゃんと飲みに行ったり理不尽な接待に頭の血管をピクピクさせたりしていた。

とくにこれといってなにもない秋の日の午前中。
その訪問者に最初に応対したのは厄介なことに石川さんだった。


169 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:20

「10時に副理事と約束をした口腔外科の飯田ですが」
「飯田先生ですね。承っております。少々お待ちいただけますか」

顔なんて見なくてもわかった。飯田という名前とその声。まぎれもなく彼女はあのカオリだった。

石川さんの隣で書類を見るふりをしながら俯き続けるのももう限界。あたしは思い切って顔を上げた。

「美貴?」
「久しぶり」

受話器を置いた石川さんが不思議そうな顔をしてる。
そう、この人は空気が読めない女。だから遠慮なしに疑問に思ったことを聞いてくる。

「お二人ってお知り合いなんですかぁ?しかも飯田先生ってば『美貴』なんて呼び捨てにしちゃって」

170 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:20

急に気安くなった石川さんにびっくりしたもののカオリは正直に答えた。もちろん余計なことは言わずに。

「ええそうなんです。昔からの友人で」
「でもまさかこんなとこで会うなんて思わなかった」
「私も驚いたよ」
「同じ職場だったなんてね」
「意外と気づかないものだね」

あたしとカオリの会話を口を挟まずに聞いてる石川さん。きっと後でいろいろつっこまれるんだろうな。彼女はこういうことにはやけに鼻が利くから。それより副理事待ってんじゃないの?早く通してあげなよ。

171 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:21

「あっじゃあ飯田先生、こちらへどうぞ」
「はい。じゃまた」
「うん。またね」

返事をして彼女とまた会う機会なんてあるのだろうかと考えた。あたしからどうこうっていう気はない。友達として気が合うわけでもないし飲みに行くといっても彼女は下戸だ。だから会うとしてもきっと向こうから言ってこない限りその機会はないだろうと思っていた。

でもその機会が思わぬところから意外に早くやってくることになるなんて、このときのあたしはそんなことまるで想像もしていなかった。


172 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:21

ウズウズした顔で戻ってきた石川さんは期待を裏切ることなくあたしとカオリの関係を追及してきた。こういう勘の良さをもっとほかのことに活かせないものかとあたしは半ば諦めた顔で彼女の質問に答えていた。

「飯田先生って素敵だね」
「あーそうだね」
「付き合ってたの?」
「付き合ってないよ」
「ウソ。昔の恋人と思いがけず再会して動揺を隠せないって顔してたよ二人とも」
「はぁ〜ペラペラ喋らないでね」
「やっぱり」
「昔のことだよ。学生時代」
「ふーん。なんで別れたの?」
「さあ。忘れちゃった」

タイミングよく電話が鳴ってあたしはしめたとばかりに受話器を取った。いいとこだったのに、と口を尖らせ書類を片手に「経理言ってきまーす」と部屋を出て行く石川さんに目で頷いた。

173 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:22

「はい秘書課です」
「入試課の吉澤ですが」
「なんだよっちゃん」
「美貴ちゅわーん!お昼受付?」
「ううん違う。2階でいい?」
「オッケー。じゃ昼に」
「うん」

よっちゃんから電話がかかってきてホッとしていた。なにしろ石川さんはしつこい。自分の気が済まなきゃ相手の迷惑なんてお構いなし。基本的にはいい人なんだけど、こと恋愛話に関してはウザイくらいしつこい。だからこのときはホントによっちゃんからの電話に救われたと思っていた。そう、このときまでは。


174 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:22

お昼の時間になりいつものイタリアンレストランに行くと入口の前でよっちゃんが手招きしていた。デカイ図体してこそこそとなにやってんのキミ。

「怪しすぎだよ」
「あのさ、上にしない?」
「べつにいいけどなんで」
「たまには中華もいいかな〜って…フガフゴッは、はなせ!」
「正直に言ったら放してあげる」
「ちょっと顔会わせづらい人が中にいまして」
「わかった。高橋さんでしょ」
「ち、ちげーよ。彼女は下に移ったから平気」
「平気ってまさかアンタ」
「うん。いただきました」
「…っは〜大丈夫だったの?彼女」
「うん。意外にアッサリしてた。最近の若いコは貞操観念薄いよね〜」
「オマエが言うな」
「いひゃいいひゃい」
「で、中にいる顔会わせづらい人って誰なの?」

よっちゃんの頬をつかんだまま彼女の答えを待っているとレストランの中からけっこうな美人が現れた。そして驚いた顔をしてあたしたちに話しかけてきた。正確にはよっちゃんに。

175 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:23

「ヒトミ?やっぱりヒトミじゃない!久しぶり〜」
「や、やあアヤカ。いつ日本に帰ったの?」

あたしに頬をつかまれたまま片手をあげてかっこつけるよっちゃん。たぶん条件反射なんだろうけど頬つかまれたままじゃ様になってないよ。でもこのアヤカって人どっかで見たことあるような…

「先週。あたし来月からこっち戻るのよ」
「えっそうなの?」
「そう。ね、立ち話もなんだからランチでも一緒にいかが?藤本さんも」
「えっと、失礼ですけど…」
「忘れちゃったの?まあ一度会っただけだから仕方ないか。ほら5月に副理事に呼ばれて秘書課に行ったときに」
「あー!木村先生?ロンドンクリニックの」
「そう。思い出してくれた?木村アヤカです。あの時はどうも」
「いえいえこちらこそ、って部屋に案内しただけじゃないですか」
「フフフそうだったわね。今度飯田先生と入れ替わりで日本に戻ることになったの。またなにかあったらよろしくね」

そう言って木村先生はウインクした。その姿があまりにも様になっていたからかもしれない。彼女の口からでた思いがけない名前に一瞬気づかなかったのは。さっき会ったばかりのその名前に。

176 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:24

「あの〜ご歓談中のところ申し訳ないんですけど、いいかげん頬はなしてもらえるかな藤本くん」
「あ、忘れてた」

頬から手をはなして木村先生とレストランの中に入った。後ろから諦めたような顔でよっちゃんがついてくる。この様子だと木村先生と前になんかあったんだろうな。大体想像つくけど。

「今ね、飯田先生と話してたら外が騒がしくてなんだろうな〜って見てみたらあなたたちだったの」
「藤本くんが頬つかむから〜」

そんな二人の会話にあたしは何も言えず、木村先生の指差す席に座っているロングヘアーの彼女を見つめていた。もう何年も会ってなかったのに1日のうちに二度も会うことになるなんて。
もしかしてこのメンツでご飯食べるの?なんかヤダなぁ。よっちゃんの言うとおり素直に中華に行けばよかった。でもそんな後悔してももう遅い。あたしたちに気づいたカオリは立ち上がって会釈なんかしている。そしてあたしの顔を見てやっぱり驚いていた。そりゃそうだよね。あたしもびっくりだもん。

177 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:24

「こちら秘書課のキュートなお二人。藤本さんと吉澤さん」
「あ、あたし今は入試課なんで」
「あらそうなの?いつから?」
「えっと6月かな」
「そうだったの。でもなんで急に」
「それはいろいろと…」

バツが悪そうな顔で苦笑してるよっちゃんを、木村先生は面白いものを見つけた子供のような表情で見ている。まさか女に手を出しすぎて異動になったなんて言えないよね。

178 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/08(水) 23:24

「ふーん。ま、それは今度じっくり聞かせてもらうわよ?こちら口腔外科の飯田先生。さっきも言ったけど来月からあたしと入れ替わりでロンドンクリニック勤務になるの」
「飯田です」
「吉澤です」
「藤本です」

お互いさっき会ったことには触れなかった。べつにたいしたことではなかったし口にするのが面倒だったっていうのもあった。四人で楽しくご飯食べて別れてそれで済むと思ってたから。

そう、このときまでは。





179 名前:ロテ 投稿日:2004/09/08(水) 23:25
更新終了
季節感をやや先取りした展開になりますがご容赦を
180 名前:ロテ 投稿日:2004/09/08(水) 23:36
レス返しを。

165>名無飼育さん
初レスありがとうございます。
あちらも読んでもらってるとは嬉しい限りです。
今後もよろしくお願いします。

166>名無し飼育さん
リアルミキティのような積極さがうちの藤本くんにもあればなと
思う反面、そんなことになったらあっという間に話が終わって
しまうと思う作者であります。とにかく頑張ります。

167>ニャァー。さん
やはり後藤さんには思い入れがあります。もっと違う役で
出したかったと今さらながら後悔しています実は。
矢口さんももっと重要なポジションに持ってくるべき
だったと、あらためて見切り発車はよくないなと反省しきり。
こんな作者ですがこれからもよろしくw
181 名前:130@緑 投稿日:2004/09/09(木) 13:38
更新、お疲れ様です。
おぉ、これはまた微妙な人間関係が出て来ましたね。
イヤな汗がいっぱい出そうな・・
ここの藤本くんは乙女でありつつ男前なところもあってなかなかカッケーです。
(ハロモニを観てるとそこはかとない策士っぽさが滲み出てますがw)
よっちゃんさんとの距離感も最高にイイ感じですね。
次回も楽しみにしております。
182 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/10(金) 17:16

更新お疲れ様です!!
大人なお二人さんが登場ですねw
飯田さんにアヤカ……どう絡んでくるのやらぁ〜w
美貴様の飯田さんとの過去も気になりますが!!
高橋をいただいちゃった吉澤さん!!その吉澤さんが顔会わせづらいって?!!
カナリうずうずと気になっておりますww
次回も更新頑張ってください!!v
183 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 22:59

「飯田先生はロンドンに住んでたのよね?たしか」

ピザにとんでもないくらいタバスコをかけながら木村先生がカオリに話題を振った。ピザが真っ赤になってるんですけど…。それって食べられる物なんですか?

「ええ。ここに来る前はロンドンで働いていて。日本が恋しくなって戻ってきたのにまたロンドンでしょ?皮肉なものですよ」

なんかやっぱり居心地悪い。こんな気分でご飯なんて美味しく食べれないよ。いっそのこと「あたしたちロンドンで付き合ってたんですよーもう別れて今はなんとも思ってないんですけどね」って暴露したほうがよっぽど気が楽だ。そうしたらなんの躊躇いもなく会話に入っていけるのに。当たり前だけどカオリがあたしとのことを口にしない限りあたしが勝手に言うわけにはいかない。かといってなんにも知らないふりして「へーそうなんですかぁ」なんてバカみたいに話を合わせるのも性に合わなくてイライラする。

184 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 23:00

「それはお気の毒様。飯田先生には悪いけどやっぱり日本はいいわねー。ヒトミにも会えるし」

ゴホッとムセるよっちゃん。ベタすぎだから、そのリアクション。
この様子だとよっちゃんにとって木村先生はただのスポーツの相手だけど木村先生にとってはそれだけではなかったってことかな。ロンドンに行くからって安心して手ぇだしたんだな、このエロ魔人。まさか帰ってくるとは思わなかったんだね。読みが浅いよキミ。よっちゃんもあたしと同じ気まずい思いをしながらのランチタイムなわけか。だからさっきから口数少ないんだ。

185 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 23:00

「いやあたし今付き合ってる人いるんで」

チラッとこっちを見てテーブルの下で足をコツンと蹴ってきた。まさかまさかあたしに彼女のふりしろって言いたいの?その目は。その足は。まさかね。ただでさえ複雑な心理戦のひとり相撲中なのにこれ以上の面倒は御免なんですけど。

「この人なんですけど」

フォークで人を指すなんてお行儀が悪い。人の承諾なしで勝手に彼女にするのはもっと悪い。懇願するような顔でこちらを見るから仕方なくあたしも同意した。だってこの状況じゃそうするしかないでしょ。もうこうなったら毒を食らわばだ。ちょうど欲しい靴があったんだよね。今回の報酬代わりによっちゃんに買ってもらおう。

186 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 23:00

「ええ。そうなんですよ実は」
「本当に?」

木村先生よりも早くあたしに確認してきたのはカオリだった。ちょっとびっくりして3人とも思わずカオリを見た。その中であたしが一番びっくりしていた。でも聞かれたからには答えなきゃ。それが大人のマナーってもの。とくに和やかなランチタイム中は。

「ホントですよ」

素っ気無くなってしまったのはこれ以上言うべき言葉が見つからなかったから。だって即興の恋人ごっこに気の利いたセリフ期待されてもね。あとはよっちゃんに任せてあたしは舞台からフェードアウトしよう。もう会話に加わる気分では到底ない。

187 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 23:01

「飯田先生って藤本さんに興味アリ?」
「いえ、べつにそういうわけでは」
「えーホント?いまちょっと顔が真剣だったわよ?ヒトミよかったわね、ライバルになったかもしれない人が来月からロンドンで」
「いえ本当にそういうのではなくて。ただ少し驚いたというか」
「あたしと藤本くんが付き合ってることにですか?」
「失礼な言い方ですけど吉澤さんのまわりはかなり色々な噂が飛び交っているじゃないですか。女性絡みの派手なのが。ですから特定の人がいるとは思わなかったのでつい」
「ヒトミ相変わらず遊んでるのね」
「先程から聞いていると木村先生ともなにかあったようですし…藤本さんはそういうことに無関心なようには見えないものですから」
「初対面の人間に結構はっきりしたこと言うんですね、飯田先生。先生こそ噂を鵜呑みにして藤本さんの心配をするなんて、優しいのか藤本さんに気があるのかあたしが気に入らないだけなのかよくわかりませんね。ま、たぶんその全部だろうと思いますけど」
「ヒトミも言うわね」

基本的に人当たりのいいよっちゃんがこんなに敵意を剥きだしにしてるのを初めて見た。なぜカオリはわざわざ波風を立てるようなことを言ったのだろう。よっちゃんが言うような理由なのだろうか。あたしにはカオリの真意がわからなかったし、とにかくこの場から一刻も早く立ち去りたいと思っていた。もう勝手にやってろと言いたい気分。

188 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 23:02

「噂を鵜呑みにしたわけではないのですが…すみません。立ち入ったことを聞いてしまって」
「いえ、こちらこそ言い過ぎました」

一触即発の空気が一気に冷めていく。さすがに二人とも職場のランチタイム中にケンカするような子供みたいな振る舞いはしないでくれるらしい。顔で笑って思ってもないことを口にする大人のケンカは継続中みたいだけど。もううんざり。食欲もなくなった。早く秘書課に戻りたい。こんなことなら後藤さんと受付代わってもらえばよかったな。

「じゃ仲直りしたところでもう戻りましょう。ヒトミ、今度あたしの帰国祝いに飲みに行くわよ?藤本さんもね」

木村先生のひと言で場がお開きになった。帰ろうと席を立つとカオリが声には出さずに口の形だけで『ゴメン』と言った。あたしは何も答えずにただ首を横にふり、よっちゃんの後について外に出た。ずっと下を見て歩いていたから声をかけられるまで彼女があたしを見つめている視線に気づかなかった。

189 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 23:02

「ごめんね」
「なんでよっちゃんが謝るの?」
「あたしが変な芝居に付き合わせたせいでメシうまくなかったでしょ」
「ああ。うん美味しくはなかったね」
「それに飯田先生にあんなにつっかかることもなかった」
「うん。らしくなかったね」
「ホントのこと言われてカチンときたのかも。ホントのことなのにね」
「よっちゃんが遊び人だからって彼女を作っちゃいけない理由にはならないよ。飯田先生はモラリストなんでしょ。気にすることないよ」
「飯田先生は美貴のこと心配してたのかな?」
「わからない」

何人もの騒がしい学生たちがあたしたちの横を通り抜ける。階段の途中で立ち止まっているあたしたちを時々鬱陶しそうな目で見ながら皆、次の講義にむけて移動をしている。喋りながら携帯片手に高笑いをして。こちらをチラリと見るものの、その歩みは止めない。


190 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 23:03

よっちゃんはきっと気づいている。カオリとのことを。彼女の口調や雰囲気がそれを表している。気づいている上でなにも言わない。あたしが言うのを待っているのかそうでないのかはわからないけれど、きっと気づいている。
もしかしたらよっちゃんにこそ知られたくないと思っていたのかもしれない。きっとさっきの昼食の席に彼女がいなければあたしは普通に木村先生にあたしとカオリのことを話していたんだろう。それこそなんでもないことのように普通に。実際なんでもないし。


…やっぱりあたしはよっちゃんにカオリと付き合っていたことを知られたくなかったんだ。だからこんなにイライラしていた。なんでかはわからない。イライラの原因は知られたくないことを知られそうだったからに他ならないけど、なんで知られたくないと思ったのかはわからない。ホントはわかってるのかもしれないけど、わからない。今はまだわからないままでいい。


191 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 23:03

とにかく、よっちゃんはあたしの願いとは裏腹に気づいてしまっている。あたしとカオリとの間になにかしらのものを感じ取ったと思う。でもそれはよっちゃんの想像でしかない。彼女の頭の中ではあたしとカオリの知らない話が際限なくどんどん膨らんでいく。ひょっとしたらとんでもないものにまで発展しているのかもしれない。だからあたしはそれに歯止めをかけなければならない。想像と真実の違いをあたしはあたしの口からよっちゃんに伝えなければ。それはあたしにしかできないことだから。


よっちゃんには知られたくないのに。
でも伝えなければならない矛盾。
なぜ知られたくないのかはわからないままに。



192 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/11(土) 23:04

「よっちゃん今夜飲みに行こう」



あたしはなにを恐れているんだろう。
ただ昔カオリと付き合ってたことを告げるだけなのに。

一体なにを?



こんなに夜がこなければいいと思ったのは初めてだった。




193 名前:ロテ 投稿日:2004/09/11(土) 23:05
更新終了
194 名前:ロテ 投稿日:2004/09/11(土) 23:11
レス返しを。

181>130@緑さん
今まで書いたことのない人を登場させるのはけっこう不安です(汗
うちの藤本くんはなかなか思うように動いてくれず作者泣かせなお人です(困
単に作者の力量の問題かもしれませんがw

182>ニャァー。さん
うずうずさせてしまいましたか。なによりです。
うーんどう絡んでくるのでしょうか。ってもう書いてんですけどねw
マターリ期待しててください。
195 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/12(日) 17:12

更新お疲れ様です!!
やはり何か大人なよっちゃんさんw
心で「わからない何か」と戦っている美貴様…頑張って〜w
このあとよっすぃーがドーでるのかも楽しみですv
例のお二人さんはマダ絡んでくるのかなぁ?と期待しつつマターリ待ってますw
次回も更新頑張って下さい!!
196 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/09/13(月) 10:16
更新お疲れさまです。
あぁ・・・今夜何が起こるのか読めません。
ドキドキムハムハしながら正座で待ってます。
この、じれったさと言うかもどかしさが癖になりそうです。
197 名前:konkon 投稿日:2004/09/13(月) 23:24
初めまして、白版で書いてるkonkonです。
めちゃくちゃ笑えるのに、どこかシリアスな
感じをさせてくれて、とてもおもしろいです。
ミキティの感情の動きに注目しますね。
よっすぃとはどうなっていくのか、
次の更新も楽しみに待ってます!
198 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:47

カオリとはごく普通に知り合いごく普通に付き合ってごく普通に別れた、と思う。
普通ってなんだよ、思うってなんだよって自分でもツッコミたくなるけど普通は普通なんだから仕方ない。これといった他の言い方が見つからない。しいて言うなら可もなく不可もなくといったところ。記憶があやふやなのも本当にあまり覚えてないからで、付き合ってるときの印象が薄いのも仕方ない。
けっこうヒドイこと言ってるって自分でも思う。

あの頃は今よりずっと子供で彼女はちょっとだけ大人で、でも背伸びすることなく付き合えたのはロンドンという土地柄のせいだろうか。あの街にいた自分はもしかしたら今の自分より大人だったのかもしれない。

ミセスマクドーナンドのアパートメントに下宿していたカオリはヴィンセントとまったくと言っていいほど反りが合わなかった。カオリはいつもヴィンセントを無視していたし、ヴィンセントもまたカオリを毛嫌いして決して近づこうとしなかった。あたしがいるときを除いては。

199 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:48

カオリと寄り添っているときヴィンセントは必ずあたしたちの間に割って入ってきた。それはいつものかまってくんの仕草ではなくまるで二人の仲を裂こうとするかのように。そんなヤキモチ妬きのヴィンセントがかわいかったけどカオリにとっては鬱陶しい存在だったのだと思う。だからカオリが引っ越しを決めたのはヴィンセントのせいだと今も思っている。そしてそれはたぶん間違いではない。

あたしはカオリが引っ越したあともミセスマクドーナンドとヴィンセントに会いに行った。そのうちあたしはカオリとは逆にミセスマクドーナンドのアパートメントに移り住んだ。カオリがきっかけで知り合った一人と一匹だけど、カオリと別れたあともあたしたちの交流は続いた。そして数年経った今もそれは途切れることはない。

だからカオリのことを思い出そうとするとミセスマクドーナンドとヴィンセントが自然に出てきてしまって、肝心のカオリの印象が薄くてぼやけてしまう。それほどミセスマクドーナンドとヴィンセントがあたしにとって大切な存在だということで、決してカオリ自身の印象が薄いというわけではない、と思う。


200 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:48

あたしがこう思うくらいだからカオリのほうもそれは同じなわけで、付き合ってるときも別れることになったときも彼女はそれほどあたしに執着した様子はなかった。だから昼間、イタリアンレストランでよっちゃんにあんなことを言ったカオリが不思議で仕方なかった。今さら嫉妬するには遅すぎるしたとえ別れた直後だったとしても彼女はあたしのことで嫉妬なんてしなかったと思う。
なんでなんだろう。なんでカオリはよっちゃんにあんな嫌味を言ったのかな。


「飯田先生はおもいっきり派閥人間なんだよ」

あたしのカオリとの話を黙って聞いていたよっちゃんはビールを一口飲んでそう言った。

201 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:49

「どういうこと?」
「なんでアヤカが飯田先生と入れ替わりに日本に戻ってきたと思う?」
「さあ」
「理事長がね、飯田先生を遠ざけたかったんだ。病院長派の飯田先生を」
「派閥争いってこと?」
「そう。アヤカは派閥に無関心だからね、理事長としては都合がよかったんだよ」
「飯田先生が病院長派でおもいっきり派閥人間だから理事長がロンドンに追いやったってのはわかったけど…」
「飯田先生はたしかに藤本くんに未練なんてないと思うよ」
「わかる?」
「見てればね。昼間のアレは藤本くんを思いやったってよりあたしに対する敵意がマンマンだったもん」
「なんでよっちゃんを?」
「普通に考えたら元カノの恋人にいい顔しなかったっていう心のちっちゃさの表れだけどね」
「よっちゃんも飯田先生のことキライでしょ」
「たぶん飯田先生は理事長に頭にきてたと思うんだよ。いきなりロンドン行けって言われて。それ以前に敵対する派閥のトップだし。でも反発するわけにはいかない。派閥人間は会社人間だからね。当たり所がなくてイライラしてるときにあたしっていう格好の理事長派の下っ端が現れたから思わずケンカ売るようなこと言っちゃったんじゃないかな」
「よっちゃんは派閥人間とは対極の存在だと思うんだけど」
「あたしは権力の庇護を受けてそれを存分に活用してるだけであって、飯田先生に恨まれるのは筋違いなんだけどなぁ」
「じゃあたしってもしかして…」
「そう。ダシにされたんだよ。あたしにケンカふっかけるのに都合よかったんじゃない?」

202 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:49

なんか怒りがこみあげてきた。こんなことなら最初からなにもかも正直に喋ってればよかった。あの気まずい思いはなんだったの?あたしケンカに巻き込まれただけじゃん。あたしのお昼とお昼休みを返せ。

「アヤカはきっと三角関係のもつれとか思ってるんだよ絶対。敵対する派閥に所属する者同士の争いだなんてこれっぽっちも思ってないよ。アイツも藤本くんと飯田先生の間になんかあったって勘づいてるっぽかったから」

なんだ。じゃ結局全員が知ってたんじゃん。あたしとカオリのこと。どっと疲れが肩にのしかかって来た。ほんっとに馬鹿馬鹿しい小芝居を演じてたのね、あのランチタイムの四人は。考えすぎて頭痛かったのに。
今夜は心なしかジョッキも重く感じる。

203 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:50

「そういえば木村先生とはなにがあったの?単にエッチに対する見解の相違じゃないでしょ」
「あー…あのさ、応接室でやったっつったじゃん?」
「うん。その相手がもしかして木村先生なの?あれ石川さんあたりだと思ってた」
「それが理事長にバレてさ、こっぴどく怒られて出入り禁止にされたのね。で、あたし入試に飛ばされたの」
「そうだったんだ」
「そ。だからアヤカとのことはにが〜い思い出なわけでして」
「バッカじゃないの。そんなことのためにあたしに彼女のふりさせるな」

バコンッ

「イッテェ。なんだよ美貴なんて飯田先生とのこと必死に隠そうとしちゃってさ」
「………」
「寂しかった」

204 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:50

視線をあたしの手元のあたりに彷徨わせながらそんなことを言うよっちゃんはいつもより全然小さく見えた。
情けなくてちょっとおかしかった。拗ねたときのヴィンセントのようで。

「べつに隠してたわけじゃないもん。言うのが面倒だっただけで。それに結局は全部話したでしょうが」
「あたしが勘づかなかったら言わなかったんだろ?藤本くんはめんどくさがりだもんね」

よっちゃんは吐き捨てるようにそう言ってグイッとビールをあおった。
その言い方にはかなりカチンときた。今度はあたしとケンカしたいわけ?!

「よっちゃんにそんなこと言われる筋合いない!いちいち報告する義務なんてないでしょ!」
「あたしはいつもなんでも言うもん」
「アンタが誰と寝たとかよかったとかそんな話あたしが聞きたいとでも思ってるわけ?!」

あたしは怒鳴っていた。勢いで言わなくてもいいことまで言ってしまっていた。

205 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:51

「思ってないよ。思ってるわけない。美貴に聞かせたいなんてホントは思ってないよ」
「じゃあなんで言うのよ」
「妬かせたいから」
「はぁ?」

焼くってなにを。イモかなんか?

「美貴に嫉妬してもらいたいからだよっ」

206 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:51

言ってる意味がよくわからなくてとりあえずビールを飲んだ。いや、言ってる意味はわかる。わかった。日本語だしある程度の理解力はあたしにだってある。

わからないのはよっちゃん。目の前でやっぱりビールを飲んでいる彼女。あたしの友達。
この友達が言うにはあたしに嫉妬してもらいたくて自らの女遊びをあたしにいちいち報告してたという。てことはあたしに嫉妬してほしくて女遊びしてたってこと?まさか。そんな。いくらなんでもそれはないだろう。女遊びは彼女のライフスタイルだもん。とりあえずこの疑問は置いといて、次。

あたしに嫉妬してほしいってどういうこと?普通に考えたらあたしのことが好きってことだよね?普通じゃない考えをしたら…普通じゃない考えってなによ。どう考えたってあたしのことが好きってことじゃん。いやでも待てよ、あたしのこと好きな人があたし以外の女と遊びまくる?普通。そんなの普通じゃない。おかしい。よっちゃんはおかしい。ってかそもそも普通ってなに?

207 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:52

「あの〜藤本くん?頭から煙でてるよ。なんかプスプスいってるよ。思考回路ショートしちゃった?」
「わかった」
「ふぇ?」
「よっちゃんはおかしいんだ」
「なんだよ急に。藤本くんほどじゃないよ」
「あたしはおかしくない」
「あたしからしたら十分おかしいよ」
「どこが」
「あたしをこんなに夢中にさせるんだもん。藤本くんがおかしいとしか考えられない」
「そういうセリフをサラッ言うかな」
「クラッときた?」

ガガンッバキッベチッ

208 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:53

「あたしのことが好きってこと?」
「はっきり言うとそういうことだね」
「あたしのことを好きな人があんなに毎日女と寝まくる?」
「毎日じゃないよ。だって寂しいんだもん」
「出張先でも先生や学生に手ぇ出して」
「自分とこの学生には出してないよ」
「それはさすがにご法度でしょうが」
「藤本くんとそういう関係にならないっていうかなれないフラストレーションがあたしを不特定多数の女に走らせたんだな、きっと」
「頭痛くなってきたかも」
「藤本くんが毎日一緒に寝てくれれば寂しくないんだけど」
「口調は控えめだけどすごい図々しいってわかってる?」
「藤本くんがあたしのこと好きじゃなきゃあたしは藤本くんのこと好きになっちゃいけないって、そう思ってた」
「ちょっと待って、あたしが好きじゃなきゃよっちゃんはあたしのこと好きになっちゃいけない…?ややこしいけど言いたいことはわかった。でも意味わかんないよ」
「あたしだってギリギリのとこで頑張ってるんだから藤本くんもわかる努力してくれよ」
「ご、ごめん」

思わず謝っちゃったけどあたしが謝ることないじゃん!混乱するようなこと言ってるコイツがどう考えても絶対悪い。おかしい。とても口説かれてるとは思えない。

209 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:53

「つまりね、グダグダ言い訳じみたこと言っちゃったけど」
「言い訳じみたじゃなくて言い訳じゃん。認めなよ」
「うっさい。話の腰を折るな。言いたいこと忘れちゃうじゃんか」
「それが女を口説くときの言い方なわけ〜?なんかムカツク」
「だっから〜あたし本気でいっぱいいっぱいなんだよ。もうなにがなんだかわかんなくなってきた!あたしは美貴が好きで美貴があたしを好きじゃなきゃこんなこと言うつもりはなかった。ずっと友達のままでいるつもりだったしそれでもいいと思ってた。べつに美貴があたしのことを好きだってわかったわけじゃないけど、飯田先生とか出てきて美貴必死で隠すし、なんかムカついてイライラして混乱して。それであたし美貴のことがすっげー好きなんだって、たとえ美貴があたしを好きじゃなくてもあたしはもう美貴が好きで好きで仕方なくなってるんだって、友達のままじゃイヤなんだって今さらながら気づいちゃったんだよ!わかれ!!」

よっちゃんはあたしの目を見ながら一気にそう捲くし立てた。
彼女の気持ちがあたしの胸に深く突き刺さる。

210 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:54

理屈とか意味とかそんなこともうどうでもいいか。この人があたしのこと本当に好きなんだって伝わってきた。ちゃんとちゃんと伝わってきた。不器用な告白。いつもはもっとスマートに女の子を口説くだろうこの人がこんなに一生懸命に、顔真っ赤にして、汗かいて、髪振り乱してあたしに好きだと伝えている。本気で好きなんだと伝えている。こんなに好きの想いを強く感じた告白は初めてだった。




わかったよ?よっちゃんの気持ちちゃんとわかったよ?




211 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:54

「でもよっちゃんとは飲んで騒いでバカやってたい…」
「……わかった。バカやろう?」


涙声のあたしとは対照的にイヒッといつもの笑顔でいつもと変わらぬトーンで彼女はあたしの頭を小突いてくれた。それは彼女の精一杯の気遣い。涙の粒が手の甲に落ちた。

よっちゃん物わかりよすぎだよ…。



212 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:55

「おにーさーん!ここの美人に生いっちょヨロシク!もちろん大ね」
「ここの男前にも生よろしく〜」


おにーさんのハイ喜んで〜を聞きながらあたしたちは笑いあった。
けどその笑いはもう昨日までのものとはどこか違っているような気がしていた。





213 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/14(火) 20:55

214 名前:ロテ 投稿日:2004/09/14(火) 20:55
更新終了
215 名前:ロテ 投稿日:2004/09/14(火) 21:00
レス返しを。

195>ニャァー。さん
よっちゃんも藤本くんも作者も頑張りましたw
作者はまだまだ頑張りますがはたしてこの二人は(ry

196>名無し飼育さん
どうぞ足を崩してくださいw
ドキドキムハムハしましたかそうですか(ニヤリ
これからも頑張りますです。

197>konkonさん
初めましてロテですw
どうもありがとうございます。
今後もうちの二人と作者をよろしくお願いします。
konkonさんの作品、今度読ませていただきますw
216 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/14(火) 21:20
更新お疲れ様です。
よっちゃん、よく頑張った。
えらいぞ!!
これからの二人の関係が楽しみです。
217 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/09/14(火) 23:39
更新キター!
正座しっぱなしで足がしびれておりますが、それ以上にハートがしびれています(w
よっちゃんもミキティも
相手をとても大事に思ってる事が伝わって来ます。
よっちゃんのリミッターが振り切れた今、残るはミキティのリミッターですが、
振り切れる日が来るのでしょうか。とても楽しみにしています。
頑張ってください。
218 名前:konkon 投稿日:2004/09/14(火) 23:55
よっすぃ、かっけぇっす!
不器用ながらもミキティに伝えられたんですね♪
さて、ミイキティはどうするのでしょうか?
今後も更新待ってますよ。
219 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/15(水) 00:55

更新お疲れ様です!!
応接室キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!w
アヤカさん〜あなたでしたかぁww
そんな理由で飛ばされる吉澤さんって……ww
よっすぃー頑張ったんだけど…美貴様っ〜!!!!!
次回の更新も楽しみに待ってま〜すw
220 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:31

今年は暖冬のせいかあまり冬って感じがしない。秋がダラダラと長く続いているかのよう。
でも駐車場のケヤキが裸になって、ボーナスも入ったから確実に冬は来ているらしい。
受験シーズン真っ只中。入試課のよっちゃんは毎日忙しいらしく飲む機会がぐっと減った。


そんな冬のある日、年末の休みに合わせて帰国したカオリと話す機会があった。

「ロンドンクリニックはどう?」
「いいよ。スタッフも設備も申し分ない」
「慣れた土地だしね」
「まあね」

応接室で待つカオリに副理事が遅れる旨を伝えた。お茶だけだして部屋を出ようとしたら彼女に3ヶ月前のことを今さら謝られた。律儀な彼女の性格を思い出して少し笑った。

221 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:32

しばらくどうでもいいような世間話をしていたら彼女がよっちゃんの話題を切り出した。

「まだ続いているの?」
「ぷっ」
「なにかおかしいこと言った?」
「だってカオリべつにそんなこと興味ないくせに」
「ああ。でも一応。やっぱり失礼なこと言ったなって後で後悔したから」
「ああって。あのさ、元カノに興味なくても全然いいけどあんまりはっきり言うのも失礼じゃない?」
「あ!ゴメンゴメン!!そういうつもりじゃなくて…」
「あはっ。わかってるよー。ちょっとからかっただけ」
「まったく美貴は相変わらずだな」

話していて思い出した。あたしはあの頃たしかにこの人が好きだったんだと。律儀で変なところが生真面目なこの人に恋をしていたのだと。この人に愛されてた時期も確実にあったと。でももう今はお互いあの頃のような感情はなくて、その事実を普通のことのように受け止めている二人がここにいた。

222 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:32

「仕事のことを抜きにしても吉澤さんにはあまりいい印象を持っていないんだ」
「向こうもそうみたいよ」
「やっぱり」
「やっぱり?」
「あの人を見てるとなぜだかヴィンセントを思い出すんだ。あの忌々しいバカ犬…」
「…ぷっ、クックックッ…あーはっはっはっはっはっー!!!」
「美貴?」
「あーはっはっ、ごめんごめん。でもおかしくて。ふっはー」

あたしが爆笑してる理由がわからずにカオリは少し不機嫌そうな顔をした。
そしてあたしの呼吸が落ち着くのを待って再び話しだした。

223 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:33

「あの人遊びまくっているでしょう。そんな人と付き合っている美貴が友人として心配なんだ」
「心配してくれるのは嬉しいけどあたしたち本当は付き合ってないから」
「そうなの?」
「うん。あの時は木村先生の手前そういうふりしただけで」
「なんだ。そうだったのか」
「そう。だから心配しないで」

それによっちゃんはもう前みたいに遊んではいない。あの告白の日を境にぱったりと女の子と遊ぶのをやめてしまった。本人は仕事が忙しいからなんて言ってたけど、以前は仕事がどんなに忙しくても女の子が切れたことはなかった。出張中だって我慢できずに手を出してたくらいなのに。
そんな彼女の変化にあたしは戸惑わずにはいられなかった。

「それじゃ、また」
「うん。また」

受付の交代の時間がきて、あたしは部屋を出た。
カオリとまた会う機会があるのかどうかなんて、あたしはもう考えなかった。


224 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:33

「藤本さん、後藤さんのお土産の羊羹食べちゃおうよ」
「いいの?勝手に食べて」
「私たちへのお土産だからいいんじゃない?」

石川さんはそう言って羊羹にスッと包丁を滑らせ、等分に切り分けた。
あたしは羊羹にはやっぱり緑茶だろうと急須に手をかける。

「そういえば当の後藤さんは?」
「受付」

時計を見たら3時だった。なるほど、おやつの時間なわけね。


225 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:34

カオリと数年ぶりに再会したあの秋の日。
あの夜の自分の選択は正しかったのだろうかとあたしはずっと考えていた。
あの選択はあたしとよっちゃんにとってベストだったのだろうか。
友達でいることを選んだあたしの選択は。

後藤さんに指摘される前に、自ら『臆病』だと言われたことがあると語っていたよっちゃん。
誰に言われたか知らないけれど少なくともあの日の彼女は、臆病とはほど遠かった。
あたしから見れば大胆で唐突で。胸が痛くなるほど真っ直ぐで。想いのたけをぶつけてきた。

臆病風に吹かれたのはむしろあたしのほうだったのかもしれない。
彼女とのそれまでの関係を崩したくない一心であたしは友達でいることを選んだ。
自分の心に嘘をついてまで。


226 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:34

「藤本さん、藤本さん?」
「えっ、なに?」
「どっかいってたよ、今」
「ああゴメン。ほら秋だから」

羊羹を食べながら物思いに耽っていたら石川さんが不安げな顔でこっちを見ていた。突然のことでわけのわからない言い訳をしてしまった。

「秋はそういう季節よねぇ」

石川さんには石川さんなりの解釈があるらしく、今のあたしのようなおかしな返答にも会話が続けられるのが彼女の凄いところだと思う。

227 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:35

「最近ね、私恋をしたの」
「へー」

聞いてほしそうにこっちに体ごと向ける石川さんからさり気なく視線を逸らして曖昧に頷いた。
今のあたしにコイバナは、正直耳が痛い。

「フラれちゃったんだけど」
「ふーん」
「その人が言うには私は恋に恋してるだけだって」
「………」
「自分のことを好きなのは錯覚で、しばらくしたら醒めるだろうって」
「そういうこともあるかもね」
「たとえそうだったとして、それって悪いことなのかな」
「どういうこと?」
「恋に恋してたっていいじゃない。なにがいけないの?私の恋を、たとえその人でも否定してほしくなかった。宙ぶらりんになった私の想いの行き場がその言葉で失くなっちゃったんだよ?せめて着地点まで面倒を見る覚悟でそういうこと言えってのよ!どうしてくれるのよ!!この私の気持ち…」
「お、落ち着いて、石川さん」
「ってキレたの」
「へ?」
「だって本当に悲しかったんだもん」

228 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:35

恋を否定されたことよりも想いの行き場を失くされたことのほうが彼女にとってはダメージが大きいようだった。それは利己的で、相手のことなんてこれっぽっちも考えていない理屈だったけど的確にあたしの胸を深くえぐった。自己中だけどとても素直な彼女の瞳を、見返す勇気は今のあたしにはなかったから。


よっちゃんの、行き場を失くした想いは今どこにあるんだろう。
そしてあたしの想いも。

どこにも置いておけなくなった想いはいつか消化するのだろうか。本人が望む望まないに関わらず。
よっちゃんの、あたしを好きだという気持ちがいつか空に消えていくシャボン玉のように霧散するのかと想像したら、涙がポロポロと零れ落ちた。

229 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:36




あたし、よっちゃんが好きなんだ。




石川さんの話もそこそこに涙を見られぬようトイレに立った。
あたしはなんて大バカなんだろう。今頃気づくなんて。世界一の大バカだ。





230 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/18(土) 14:37


231 名前:ロテ 投稿日:2004/09/18(土) 14:37
更新終了
季節感が(ry
232 名前:ロテ 投稿日:2004/09/18(土) 14:41
レス返しを。

216>名無飼育さん
ありがとうございます。頑張りましたよねぇ吉。
バカでエロなだけじゃないという所をチラッとw
これからの二人は(ry

217>名無し飼育さん
ありがとうございます。しびれましたかなによりですw
ミキティのよりも作者のリミッターがすでに限(ry
これからも頑張ります。

218>konkonさん
ありがとうございます。
かっけーよっすぃを書きたくてウズウズしてましたw実は
まだまだ物足りないのでもっとかっけーくしたいですね。

219>ニャァー。さん
ありがとうございます。ええ、きましたよ応接室w
当初の予定より登場人物が増えてしまい
手探り状態の作者です(汗


233 名前:ロテ 投稿日:2004/09/18(土) 14:45
訂正
>>226
石川さんと藤本さんのセリフ中の
「秋」をすべて「冬」で脳内変換よろしくお願いします。
申し訳ないです。
234 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/18(土) 21:38
うおーーー、いいとこで更新が終わってる。
ミキティ遅いよ。。

またカッケーよっちゃんが見たいです。
続き待ってますよ〜!
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/18(土) 22:01
やっときずいたのですね。藤本さん・・これからの動き方を楽しみにしてます。
236 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/20(月) 11:56

更新お疲れ様です!!
乙女な美貴様きましたー!!ww
やっと素直に自分の気持ちに気づいた美貴様w
男前なあの人はきっと待っててくれているでしょう!!
だから!!!頑張って―――!!!!vvv
次回も更新頑張って下さい!
237 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:25

「あっよしこ」
「ウィース」
「どこ行くの?」
「ちょっと大学院事務室まで」
「最近あんまり遊んでないんだって?女の子たち付き合い悪いって文句言ってたよ」
「ははっ。あたしは仕事に目覚めたのさ」
「それよりこの人の目、どう思う?」
「それよりって…相変わらず投げっ放しなんだから後藤さんはー。もうちょっとよしこに構ってくれてもいいんでない?」
「はいはい。でもこの目はヤバイでしょ。仮にも受付嬢が」

さっきから頭の上で声がすると思ったら…後藤さん、受付交代したんだから早く戻りなよ。上で羊羹が待ってるよ。よりによってなんでこんな時によっちゃんまで通りかかるかな。このタイミングの悪さったら。

238 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:26

「うわっホントだ!どうしたんだよ藤本くーん。誰にやられた?オイラが仕返ししてやるぅ」

この場合よっちゃんの制裁が加えられる相手はあたしなんだろうか。
涙の原因はあたしのバカさ加減のせいだと、あたしみたいな女を好きになったこのバカは知らない。

「やっぱりよしこは藤本さん絡みだと目の色が変わるね」
「藤本くんはオイラの愛しいスウィートハートだからね」
「はいはい。そのスウィーティーが睨んでるよ。目真っ赤だからいつも以上の迫力だし。後藤は退散しまーす」
「うーんその泣き腫らしたかのような目がまたそそりますなぁ」

ボンッガギンッズゴンッ

239 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:26

「泣いたんじゃないもん」
「痛っー。じゃなんで?」
「ご、ごみが目に入ってコンタクトずれまくって」
「ふーん。やっぱコンタクトって怖そうだな。あたしには無理だわ」
「根性なし」
「スケベ根性なら常時持ち合わせておりますが」
「そんないい笑顔されても。言ってることはかなりアホなのに」
「アホじゃなーい!オイラのスケベ根性を甘く見てもらっては困ります」
「いや全然困んないけど」
「なんだよ。人が心配してやったのにさ。ノリ悪ぃーなぁ」
「わかったから。アリガト。早く大学院事務室行かなくていいの?」
「あぅっ、そうだった。んじゃまたな」
「じゃーね」

今さら素直になんか、なれっこない。
あたしは睨みを利かせて、よっちゃんのバカな発言にツッコミ入れて、時々彼女の優しい言葉にひねくれた答えを返す、いつもの藤本美貴。それがあたし。藤本美貴は藤本美貴でしかありえない。この自分らしさで彼女と接していくことに慣れきってしまっている。今さら変えるなんてありえない。変えられるわけがない。

240 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:27

あたしは石川さんのようにときに相手にキレるほど素直な感情をぶつけることはもうできない。そんな資格あるわけがない。あの夜あたしを抱き締めようとした手を振りほどいたあたしには無理な話。
バカな自分に呆れてもう涙も出なかった。


カウンターに突っ伏して頭を抱えていたら、そっと髪を優しく撫でる感触がした。驚いて顔を上げると、そこにはあの夜と同じ顔をしたよっちゃんがいた。

241 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:27

「なんで」
「こっちのセリフ」
「大学院事務室行ったんじゃ」
「なんか気になって戻ってきた。それよりそっちこそなんで」
「え?」
「藤本くんをそんなに落ち込ませる相手はダレなの?それともモノ?コト?」
「………」
「こんなに腫らすまで泣くかな普通。かわいい顔が台無しだよ。そんなに暗い表情して。藤本くんがそんなんじゃオイラも心が曇り空だよ」
「ばっ、なに言って…」

急に視界が暗くなって、なにが起こったのかしばらく理解できないでいた。でもなんだかとても気持ちよくて、ポワンと宙に浮いてる感じがしていた。そして目を開けて気づいた。頬に手が添えられているのを確認して、彼女の長い睫毛が目の前にあるのを見て、彼女にキスされてるのだとわかった。

242 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:28

あぁ、あたしいつのまに目を閉じたんだろ。彼女の唇を抵抗なく受け入れたんだろう。頭で考える前に勝手に体が動いたってことかな。そんなこと考えながらもあたしまた目閉じてるし。彼女の唇と舌に思いのままに身を任せてるし。うっとりしちゃってるし。でも本当に気持ちいいからもう少しなにも考えずにこうしていたいな。

「二人とも、ここ会社」
「キャー!!」

はっとしてあたしは思わずよっちゃんを突き飛ばした。自分の悲鳴で我に返る。声がしたほうを見るとこれ以上ないってほどニヤけている木村先生がいた。よかった、見られたのが木村先生で。この人ならからかわれはしてもペラペラと人に言い触らしたりはしないよね、たぶん。

「案外大胆なのね、藤本さんって。あっいいのいいの。邪魔者は消えるんで続きどうぞー。思う存分やっちゃってー。でももう少し人目のつかない所のが面倒が少なくていいと思うわよ?」

そんなウインクつきでアドバイスされても…会社でそんなことしませんっ。今してたけど。説得力ないけど。
遠ざかる木村先生の背中に悪態をついてたら、しっぽをダランと下げて耳もこれ以上ないってくらい垂れて、上目遣いでこちらを伺う控えめなヴィンセント…もとい、よっちゃんが恐る恐る声をかけてきた。

243 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:28

「あの〜ゴメン」
「なんで謝るの?」
「いきなりキスして」
「うん。でもあたしも受け入れちゃったし」
「あんなキスしてごめん。友達にするようなのじゃなかったよな」
「そ、うだね」

あたしは口元の唾液をハンカチで拭った。お互いのが混ざり合った唾液を。激しいキスの痕跡を。

244 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:29

「でもアリガト。よっちゃんが悩みのタネを吸い取ってくれた感じだった」
「マウストゥマウスなら任せなさい」
「調子に乗るな」

ペチッ

「もう行かないと本当にヤバイんじゃない?」
「うん。もう行く。最後にこれだけ」

チュッ

「な、なにっ」
「へへ。ほっぺにチュウならかわいいもんでしょ。じゃあねー!バイバイキーン!」
「オマエいくつだよ」

チュウをされた右の頬を押さえながら、そういえば受付って監視カメラついてるんだよなーと忘れていた事実を今さらながら思い出して秘書課に戻るのが憂鬱になってきた。見られてなきゃいいけど。でもきっと見られてるんだろうな。こういうタイミングは逃さない気がする。あの二人は。特に石川さんは。

245 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:29

そんな心配とは裏腹に、あたしは鏡を見なくても自分がこれ以上ないくらい最高に笑顔なのがわかっていた。よっちゃんにキスされて嬉しい気持ちが隠しきれない。彼女のことが好きだと気づいてから初めてのキス。彼女があたしを好きだと言ってくれてから初めての。今のあたしたちはもちろん友達同士だけど、好きな人からのキスがあたしはとにかく無条件に嬉しかった。そんな自分が恥ずかしくて悔しくて。一度は振りほどいた手なのにあたしは彼女の好意に甘えてしまった。甘いキスに溺れてしまった。


ゲンキンな奴。


あたしはいつになったら自分の気持ちに素直になれるんだろう。そんな日が来るのかな。
もっとよっちゃんにキスされたら…あたしはその胸に飛び込めるのかな。
やっぱりゲンキンな奴だ。
また自分に悪態をついてから溜まっている書類に目を通した。やっぱり顔はニヤけてたと思う。



246 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:30

半ば予想していたこととはいえ、あたしにも我慢の限界ってものがある。そろそろ限界に近いよ?

「場所が場所だけにね〜」
「しかもあんな大胆にね〜」
「長かったし〜」
「舌からませてたし〜」
「モニターから音が聞こえてきそうなくらい動いてたよね、二人の舌」

えっとあたしはいつまでこの話を聞いてなきゃいけないんですか?キミたち覚悟はできてるの?

247 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:31

「はぁ、もういい加減にしてよ」
「だってまさか藤本さんとよっちゃんがそういう関係だったなんて」
「いつからなの〜?」
「べつにそういうんじゃないから」
「にしては熱烈キッスでアッツアッツだったじゃな〜い」
「石川さんキショイよ。よしこの藤本さんを見る目、あれはマジだったね。あの場で始まっちゃうかと思ったもん。木村先生さえ邪魔しなきゃね〜」

今頃はすごいことになっていたのだろうか。いやまさか、いくらなんでも受付ではね、しないと思うけど。
でも気持ちの加速度は間違いなくついた。あたしはもう認めている。よっちゃんが好きでよっちゃんにキスしてほしくてよっちゃんに抱かれたい自分がいることを。最後の一歩が踏み出せないでいるのはあたしの中にいるもう一人のひねくれたあたしのせい。素直になることを忘れてしまった自分が躊躇わせる。臆病な自分が友達関係を崩していいのだろうかと、一度ふりほどいた手を再び掴んでいいのだろうかと二の足を踏ませる。

248 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:31

あの時よっちゃんはどんな気持ちでバカやろうと言ってくれたのか。あたしにはその言葉を今さらないがしろにすることはできない。バカやっていたいと言ったあたしにバカやろうと言ってくれたよっちゃんの気持ちを、あたしの一言で踏みにじってしまうことになるんじゃないかって。自分から言い出した責任。屁理屈をこねているのは自分でもわかってる。こうやっていろんな理由をつけて自分がよっちゃんに告白できない言い訳をしていることも。

ただ『好き』が言えない自分が情けないだけなのに。

249 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/20(月) 17:31

「よしこは藤本さんのことが好きだったんだね」

その言葉を聞いた瞬間、自分でもわかるほど顔が火照って恥ずかしさのあまり俯いたままトイレに駆け込んだ。まるでいじめられっこのようにトイレが安息の場となってしまった本日二度目のその場所は、あたしの真っ赤になった顔を正常に戻すのに十分なほど静寂に包まれていた。





250 名前:ロテ 投稿日:2004/09/20(月) 17:32
更新終了
251 名前:ロテ 投稿日:2004/09/20(月) 17:38
レス返しを。

234>名無飼育さん
ミキティにはこれからいろいろと(ry
よっちゃんは果たして…?!
えっとこれからもマターリ見守ってくださいw
ネタバレしないようにレスするのって難しいなぁ

235>名無飼育さん
ミキティを温かく見守ってやってください。
ついでに作者もよろw

236>ニャァー。さん
そうですね、作者も頑張れと言いたいですねw
実はまだまだ前半戦。これからどうなることやら…(ニヤリ
252 名前:konkon 投稿日:2004/09/20(月) 19:10
うぉぉっ!
ミキティどうするどうなる〜!
いきなり暴走してしまってすいません(汗)
けどいいですね〜素直になれないミキティと
優しいよっすぃ・・・めちゃ萌えっす♪
253 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/21(火) 02:36
更新お疲れ様です。
やばいなぁ〜二人とも・・・。
二人とも好き同士なのにそれでもまだ引っ付かない方に1000点!w
もうちょっとこう言う雰囲気を味わいたいなぁ〜・・・何て思ったりしました。
254 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/21(火) 15:15
初レスです。まだまだ前半戦!?
続きが気になります。
255 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/21(火) 23:29

更新お疲れ様です!!
自分の気持ちに気づいた美貴様は乙女が大炸裂っっ!!ww
そしてよっすぃーの優しさに胸キュンですw
まだまだ前半戦ですかぁ〜vvv後半戦もすごく楽しみにしてます!
次回も更新頑張って下さい!!
256 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/09/21(火) 23:33
ここの続きを読むために仕事頑張ってこなしてますw
長く長く焦らしてください。
257 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/22(水) 00:22
>>255
毎回ネタばれになってるから気をつけて
258 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:27

「というわけで生。大ね」
「どういうわけよ。あたしも大」
「二人ともすごいわね。あたしはウーロンハイ。薄めで」
「冬は生だろ、やっぱ」
「冬だけじゃないでしょ」

仕事を終えて外に出たところで、サングラスをかけた二人組みの怪しいことこの上ない女たちに拉致られた。すぐによっちゃんと木村先生だと気付いたけど二人に誘拐ごっこを強要されて、不本意ながらもその小芝居に付き合った。さすがに木村先生は殴れないし。「おとなしくしろ」とか「助けて〜」とか「藤本さん棒読みすぎ」とか言い合いながら、いつもの居酒屋に連れてこられた。普通に飲みに行こうとなぜ言えないのか。この二人のテンションの高さが不思議だった。

259 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:28

「ちょっと遅れたけどアヤカの帰国祝いってことで」
「ちょっとどころじゃないわよ?ヒトミ。かなーり待ってたんですけど」
「とりあえずかんぱーい」
「あっコラ、あたしのセリフ取るな」
「よっちゃん前置き長いんだもん。泡なくなっちゃうじゃん」
「長くねーよ。まだ全然じゃん。それに泡なんてこれくらいで十分だっ」

そう言ってよっちゃんは自分のジョッキに口をつけ、器用に泡だけ啜った。三分の一くらいを残してこれくらいな、って顔をしてビールを指差す。口ひげのような形をした白い泡が彼女の笑顔に妙にマッチしてかわいかった。

「いいコンビね二人とも。ヒトミが藤本さんを選んだのも分かる気がするわ」

薄いウーロンハイをグビグビ飲む木村先生。あっという間に飲み干しておにーさんを手招きする。

260 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:28

「ウーロンハイお替り。薄めで」
「だしょだしょ?オイラたちは固〜く愛を誓い合っ」

ピチンッバツッ

「クリスマスは何か予定あるの?藤本さん」
「特にこれといってないですね〜」
「藤本くんはオイラと熱〜い夜を過ごっ」

ドカンッバシッボンッ

「今年のクリスマスは会社も休みだしヒトミと二人でゆっくり過ごせるわね〜」
「木村先生までなに言うんですかぁ」

そう。今年は天皇誕生日を境にそのまま冬休みに突入する。例年より少し早いのは実は理事長のお孫さんの他愛のない一言のせいだったりするから、休みが増えるのは単純に嬉しいとしても職員としてはそれでいいのだろうかと複雑な心境だ。

261 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:29

「でもなんで今年は冬休みが長いのかしら」
「アヤカ知らないの?例のやんちゃ坊主の発言」
「やんちゃ坊主?」
「理事長のお孫さんのことです」
「あーたしかのぞみくんだったっけ?一度ロンドンクリニックで会ったことがあるわ」
「そ。そののぞみがさ、こないだ日本に帰ってきて会社に遊びに来たんだよ」

その日あたしたち秘書課は交代でのぞみくんの相手をしてあげていた。ロンドンでの生活や最近見た映画の感想、ガールフレンドとの惚気やクリスマスはスイスで過ごすとかとにかく10歳の子供らしからぬその饒舌ぶりにあたしたちは内心疲れていた。また、そのかわいくない物言いにもうんざりしていた。

262 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:29

正直言って子供は嫌いじゃない。いやホントに。甥っ子とよくプロレスごっこをしてあげるし、ヒーローごっこで怪獣役もやってあげるほどだ。目からビームを出すミキティンガー。甥っ子のネーミングセンスはともかく、だから本来子供は嫌いじゃないはず。でも例外というものがあるようで。

「藤本くんココものすごいことになってるよ。思い出してムカついた?」

よっちゃんが自分の眉間を人差し指でトントン叩いた。
そんなにしかめっ面だったのかな。気を取り直してビールを飲む。

263 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:30

「いつも思うけどあんなに偉そうな子供いないよ。自分を何様だと思ってるわけ?あのコ。あの態度の大きさにはうんざり。あんな甘やかされてさ、将来ロクな経営者にならないって。うちの大学ヤバイよ絶対」
「その頃にはオイラたちいなくなってんじゃない?」
「それもそうね。未来の教職員の人たちは大変ね。ウーロンハイお替り。薄めで」
「よっちゃんもちっちゃい頃あんなに我侭放題だったの?」
「いや、あたしとのぞみじゃ立場も育ってきた環境も違うから。一緒にしないでくれよ〜。うちはもっと厳しかったっつの。まあ生意気とは言ってもまだ10歳だし、それにあのガキは間違いなく将来うちの大学のトップになるからね、皆が頭上がらないのも無理ないんじゃない?だからつけあがるんだけどさ。副理事もやっとできた一人息子だから猫っかわいがりしてるし。おにーさーん、生おかわり〜。あ、藤本くんも飲む?大、二つね」
「で、そののぞみくんが何を言って冬休みが長くなったの?」

264 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:31

のぞみくんはロンドンに住んでいるということもあって日本語よりも英語のほうが喋りやすいらしく、日本人らしからぬ身振り手振りでいろんなことをあたしたちに聞いてきた。ステディな相手はいるのかとか、クリスマスはどう過ごすのかとか。10歳の子供相手になんでそんなことまで答えなきゃいけないのか、普段のあたしならプロレスごっこと称した鉄拳をお見舞いするところだ。さすがにそれはグッと堪えたけど。

あたしたちが至って普通に毎年クリスマスは仕事だと言うと、あのクソガキ…もといクソ生意気なお坊ちゃまはまるで信じられないといった顔をして体全体で落胆を表現し、心底同情したという目であたしたちを見てから「はぁぁぁぁぁ〜」と深いため息をついた。そしてちょうど部屋に入ってきた副理事にこう言い放った。



『パパ、このおねーさんたちクリスマスも仕事なんて可哀想れすよ!』



まさに鶴のひと声。嘘みたいな話だけどこの発言が発端となりクリスマスが休みになった。


265 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:31

「なるほどねー。あたしたちがクリスマス休暇を取れるのもそのちっちゃな王様のおかげなわけか」

木村先生もちょっと複雑な表情を浮かべている。そりゃそうだよね。なんかトホホって感じだよね。

「まあここは素直に休暇が増えたことを喜んでオイラと熱〜いチュ」

ガッシャーンッ

「ヒトミってマゾだったのね。ウーロンハイお替り。薄めで」

そっかよっちゃんってマゾだったんだ。じゃあたしやっぱりサド?違う違う!これはお約束みたいなもんだしそもそも殴られるようなことばっかり言うよっちゃんが悪い。だからあたしもつい条件反射で手が出てしまう。それに、バカやりたいって言ったのはあたしだもん…。

それより木村先生、薄めのウーロンハイ飲みすぎだから。濃いやつ頼もうよ、そんなに飲むなら。



266 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:32

「で、本当のところはどうなの?二人」
「ふぇっ?」
「ヒトミに聞いてもいつもごまかされるのよね〜」
「ひょ、ひょうなんでしゅか?」

ああ、あたし動揺しすぎ。口の中の揚げ出し豆腐ちゃんと飲み込んでから喋ればよかった。
それにしてもよっちゃんいつもなんてごまかしてるんだろう。

「よっちゃんとは飲み仲間っていうか友達です」
「友達?」
「そうですよ。彼女は友達です」
「昼間あ〜んな熱いキスしといて?」
「ですよねぇぇぇ」

思わず木村先生の言葉に深く同意してしまった。自分のことなのにうまく説明できない。

267 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:32

「好きなんでしょ?」
「まぁ」
「お互いに」
「たぶん」
「じゃどうして」
「さぁ」

生返事ばかりのあたしに木村先生ががっくり肩を落としている。あたしは自分の抱えている想いを全部さらけ出せるほどにはまだ木村先生と親しくなかったし、なによりもめんどくさかったから、よっちゃんが早くトイレから戻らないかな〜と思っていた。

「ヒトミが遊ばなくなったのってやっぱり藤本さんが原因なの?」

たぶんそうだろうけどここで肯定なんかしたら自惚れているみたいだし、実際のところはわからなかったからまた曖昧な返事をした。木村先生はもうあたしとまともに会話することを諦めたようで、一人で勝手に喋りだしていた。

268 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:33

「あたし日本に帰ってきてから何度もヒトミを誘ってるのにちっとも遊んでくれないのよね〜。今日だって藤本さんと一緒ならいいっていうから、あんなバカみたいな誘拐ごっこに付き合って。ホント、ヒトミ変わったわよ。でも今のヒトミって前より数段カッコイイ。ふとした瞬間に見せるストイックな表情がいいのよね。医局でも専ら噂の中心なのよ〜」

ストイック?どこが?ていうかなんかムカツク。これって嫉妬なのかなもしかして。よっちゃんがモテモテなのは今に始まったことじゃないけれどこうあからさまに言われると胸の辺りがモヤモヤして気持ち悪い。いや気分が悪い。しかもなにこの人、よっちゃんにはその気がないっていうのに何度も何度も誘うなんてちょっとしつこいんじゃないの?今の数段カッコイイよっちゃんがあるのはあたしのおかげだからなんだよって言ってやりたい。顎でもつかみながら。

269 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/23(木) 17:34

「フフフ。藤本さんって正直ね〜」
「なにがですか」
「顔すっごい恐いわよ。そんな顔見たらヒトミも幻滅しちゃうんじゃな〜い?」

ハッとして鏡を見た。ホント恐すぎ。この顔で受付にいたら誰も寄ってこないだろうな。ってあたしもしかして木村先生にからかわれたの?殴っていいかな。いいよね?

「最近の若い子は限界ってものを知らないよね〜トイレで吐きまくりだよ。オェーって。かわいい顔してすんげえ声出すの。あれは正直萎えるな」
「ヒトミってばその言い方おじさんくさいわよ」
「おじさんって…ん、どうしたの藤本くん。そのプルプル震えてる拳はなあに?」

ガヅンッ

「うぇぇぇ〜。なんで?なんでオイラいきなり殴られんの〜?!」
「詳しくは言えないけどたぶんあたしの身代わりだと思うわ。あ、ウーロンハイお替りね。薄めで」

ちょうどいいタイミングでよっちゃんが帰ってきてくれて、少しスッキリしていた。





270 名前:ロテ 投稿日:2004/09/23(木) 17:34
更新終了
271 名前:ロテ 投稿日:2004/09/23(木) 17:36
レス返しを。

252>konkonさん
いえいえ思う存分暴走しちゃってくださいw
素直になれないというフレーズだけで萌える作者です(バカ

253>名無飼育さん
1000点ですか。じゃあ作者は5000(ryっていやいやまさか。
うーんどうでしょう。なかなか引っ付かないという状況は萌え
ますが本人たちにしたらいい迷惑でしょうね。とか言ってみたりw

254>名無飼育さん
初レスありがとうございます。ええ、まだ前半なんですこれが。
これからも続きを気にしていてもらえたら嬉しいです。

255>ニャァー。さん
いつもありがとうございます。
えー、ニャァー。さんから毎回レスをもらえるのは本当に感謝しまくっているのですが、
257さんからご指摘があったようにレスに多少ネタバレの傾向がありますので
そのへんのところを少し気をつけていただければなぁと思います。
レスがもらえるのは本当に嬉しく思っていますのでこれからもよろしくお願いします。

256>名無し飼育さん
焦らしてるつもりは実はないのですが展開上こうなっております。
えっとお仕事頑張ってくださいw

257>名無飼育さん
ご指摘ありがとうございました。
本来ならば作者自らしなければならないところ、
レスをもらえる嬉しさが先行して大切なことを見逃しておりました。
この場を借りて皆様にネタバレ注意報を出したいと思います。
そんな大層な話ではありませんが読んでくださっている方に迷惑がかからないよう
レスをつけていただければ幸いです。

生意気な作者からの長文返レスでした。
272 名前:ロテ 投稿日:2004/09/23(木) 17:37
入りきらなかったかorz
273 名前:130@緑 投稿日:2004/09/24(金) 01:03
更新、お疲れ様です。
う〜ん、藤本くんの気持ちの変化がジワジワっと染みて来てます。
乙女な藤本くんが可愛いです。
ここの登場人物はキャラが濃いって言うか本当に楽しいですねw
このテンポの良さもすごく心地良いです。
次回も楽しみにしてます。
274 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/24(金) 19:19

更新お疲れ様でした!!
ミキティンガーかなりツボでしたw

257の名無飼育さんご指摘ありがとうございます!
そして作者のロテさんすみませんでした!
275 名前:konkon 投稿日:2004/09/24(金) 23:38
よっすぃを殴れば落ち着くのね〜
やっぱりこれも愛なんでしょうかね〜w
276 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:52

「よかったの?木村先生送らなくて」
「大丈夫でしょ。しっかし薄いウーロンハイばっか飲んであんなに酔うやつも珍しいよな」
「楽しそうだったよね、彼女。あたしとよっちゃんのバトル見て大笑いしてたもん」
「あれのどこがバトルだよっ。イジメだっつーの」

ふんぞり返ってビールを飲む彼女は言葉の割にはなんだか嬉しそうで、やっぱり思わずにはいられない。

「よっちゃんて本気でマゾでしょ」
「藤本くんこそ本気でサドだね」
「SとMでちょうどいいかもね」
「でもベッドの中じゃ逆転するかもね」

ガガガヅンッ

277 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:52

「ひどいや美貴ちゅわん。あの日はあんなに悶えてたのにぃ」
「なっ、ちょっ、ちょっとそれ言うの卑怯じゃない?今さら持ち出さないでよー」
「えーオイラあのときのことを思い出しては毎晩…」
「思い出すな!何もするな!」

恥ずかしくてビールをあおった。ヤバイよあたし、今よっちゃんとこんな話したら絶対顔に出ちゃう。
なにが出るのかよく分かんないけどとにかくなんか出ちゃマズイものが出る。
それはきっとあたしにとって、もしかしたら彼女にとってもよくないことのような気がする。

278 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:53

「あっれ〜藤本くん、もしかしてあのときのこと思い出して疼いちゃったりなんかしちゃったりしてるぅ?」
「バッカじゃないの。死ね!」
「藤本くんと死ねるならオイラ悔いはないっ」
「はぁ?あたしは悔いありまくりなんですけど」
「ですよね〜。オイラが死んでも藤本くんは死ぬなよ?」
「あったりまえじゃん。なに言ってんのよ」
「ならいいんだ。おにーさーん、生〜」

ビールをお替りするよっちゃんの横顔が一瞬曇ったように見えた。見間違いかもしれないけどなんとなく気になって、そのときの彼女の表情が頭に張りついてしばらく消えなかった。なんだろうこの感じは。酔いがまわったのかな。うん、きっとそうだ。

279 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:53

「で、よっちゃんはクリスマスになんかあるの?」

あるよね。だってクリスマスだもん。この人がクリスマスにフリーなわけがない。べつに気になるわけじゃないけどただ純粋に何するのかなって興味があるだけ。ほら金持ちだからやっぱりどっかのホテル貸し切ったりするのかもしれないし。実際去年は親戚関係のパーティーに引っ張りだこだったって言ってたし。やっぱりゴージャスなクリスマスって興味あるじゃん?ってあたし誰に言ってんだよ!ていうかあたしムチャクチャ気になってんじゃん。そうだよ気になるんだよっ!あたし以外の女となんかするつもりだったら首絞めてやる。フシュゥゥゥー。

「それよか顔すごい怖いけどオイラなんかした?」
「ふぇ?」
「獣みたいだよ。フシュゥゥゥーって言ってるし。発情したの?」
「するかバカっ」
「イダイ。だってフシュゥゥゥーって言ってたもん」
「言ってない!」
「それに藤本くんメヂカラ強すぎ。オイラ恐くて見れないっす」

280 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:54

よっちゃんにものすごい勢いで目を逸らされてなにげにショックだった。そんなに恐いの?うわぁ。無意識なだけに余計タチ悪い?あたしって。そりゃ意識的に睨むときもあるけどさ、なんか人に指摘されるとけっこうへこむかも。しかもそれがよっちゃんだったりなんかするとへこみ倍増かも。立ち直れないかも。

「だ、だってさー向こうの席のヘンな格好した女がチラチラこっち見るからつい…」
「ええ〜どこどこ?」
「あー!ダメ。見ちゃダメだって!」

よっちゃんの頭を持ってグリンとこっちに向かせた。だって後ろにいる人たち全然関係ないもん。いきなりよっちゃんにジロジロ見られたらやっぱり不審に思われるし。

「なんだよ〜オイラも藤本くんほどではないにしても睨み利かせてやろうと思ったのに」
「よっちゃんに見られたら相手ビビるどころかポワーッてなっちゃうよ」
「心配ご無用!オイラはいつだって藤本くんひと筋!」
「ハイハイありがとね」

281 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:54

ポーズとはいえ後ろの人たちを睨んだらバッチリ目が合ってしまい、慌てるようにそそくさと帰ってしまった。そんなにビビらなくてもよくない?フリなんだから。でもちょっと悪いことをしたなと思いつつも彼女らが居なくなってホッとした。またよっちゃんに振り向かれたら弁解ができない。あの人たちが変な服なんて着てなかったことやこっちを見る素振りなんてまったくしてなかったことを。それにそんなウソをついた理由を言えるわけがない。よっちゃんのまだ見ぬクリスマスの相手に嫉妬していただなんてこと。
そうだ!すっかり話がそれたけど結局クリスマスの予定はどうなってるのよ。

「そんなことよりクリスマスはどうするの」
「そんなことって、もうちょっと反応してくれよー。軽く流されるとけっこブルーかも」
「なに?なんか言ったの?よっちゃん」
「…ま、いいや。さっきからやけにクリスマス気にするね」
「べつにそんなことないけど。ただどうするのかなーって」

動揺を悟られないように努めて冷静に振舞う。

282 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:55

「例年通りちょっとした身内のパーティーに顔出すくらいであとはなんもないよ」
「パーティーってやっぱすごい豪勢だったりするの?」

ホッケを食べながらクリスマスのパーティー話に食い入るあたしってなんか惨めかも。べつに金持ちのクリスマスになんか興味はないんだけど。あたしが聞きたいのはよっちゃんのクリスマス&年末年始のスケジュール。みっともないくらい気にしちゃってる自分をバカだなって呆れて見ている自分がいたけどみっともなくてもいい、彼女のことが知りたいからと思う自分もたしかに存在していて。どっちが強いかというと、それは火を見るよりも明らかだった。

「それなりにね。でもあんなの、ただの作り笑いの大売り出しみたいなもんだよ」

吐き捨てるようにそう言ったよっちゃんの目はなぜか暗かった。
でもすぐにいつものようにニコッとしてなにかを思いついたような顔をした。

283 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:55

「あ、あともいっこ大事な予定があったんだった」

それを早く言え!そっちが聞きたい。むしろそっちだけが知りたい。
ビールを一気に飲み干してなにを言われてもいいように待ち構えた。

「聞きたい?」
「べっつに」

聞きたいよ!焦らすな!バカ!アホ!エロよしこ!!

284 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:56

「なんかさっきから視線が痛いんだよなぁ。ま、いいか。クリスマスにパーティーで顔見せしてから身内絡みの用事でロンドン行くんだ。だからオイラ冬休みは日本にいないんで」

寂しくても泣くなよ〜なんて頭をクシャって撫でられた。

「ぶわっか。だれが」

憎まれ口を叩きながらも寂しい思いは否定できない。
あたしもロンドン行こうかなぁ。ミセスマクドーナンドに会いに。

「藤本くんは?なんかあるの?」
「どうだろうね」
「んだよその言い方―。気になる気になる。もしかしてまさかとは思うけどマジで絶対そんなことありえないとは思うけどでも一応言っとくよ?」
「なに?」
「オイラ以外の誰かと二人っきりで過ごさないでね」

285 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:57

よっちゃんはよくこういうこっちが恥ずかしくなるようなセリフをサラっと言うけど、けど。冗談なのか本気なのか判別が難しくてあたしはいつも自分の都合のいいほうに解釈してしまう。その時々によって都合は激しく変化するけどとりあえず今は。

「オマエがな」
「でたっ!久々だね、オマエがな返し。つーか藤本くんビール飲みすぎ」
「オマエがな」
「つまみ食いすぎ」
「オマエがな」
「目つき悪すぎ」
「オマエがな」
「かわいすぎ」
「オマエが…ってうぉい!」

ひっかかったーなんて子供みたいにはしゃぐ彼女を前にして思う。やっぱりあたしたちはこうだよね。この雰囲気が楽しいからあたしたちは一緒にいる。あたしはよっちゃんが好き。だからよっちゃん以外の誰かとなんて、そんなわけないじゃん。いもしないクリスマスの相手に嫉妬しちゃうほどあたしはよっちゃん病にかかっちゃったんだから。


286 名前:彼女は友達 投稿日:2004/09/26(日) 22:57


でもそんなことを言えるような素直なあたしがいるわけなくて。
皮肉なことに、ひねくれた答えを返す自分が一番自分らしいと今日一日を通してあらためて実感した。そしてたぶんよっちゃんが好きだと言ってくれたあたしは、あたしらしいあたしなんだと気づいてしまった。だからあたしは今までどおり自分らしくいこうと思う。彼女が好きでいてくれる自分で…。





287 名前:ロテ 投稿日:2004/09/26(日) 23:02
レス返しを。

273>130@緑さん
藤本くんをかわいくしようと思えば思うほど
わけわかんなくなってきて実はかなり手探りだったりw
これからもよろしくお願いします。

274>ニャァー。さん
ありがとうございます。
これからもツボに嵌るようなお話を目指して頑張りますw

275>konkonさん
そうですね、色々な愛のカタチがあるってことで。
いえいえ藤本くんはもっとかわいいはずw
288 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/09/27(月) 12:01
更新オツカレサマです。
279に爆笑しました。
ジェラるミキティも可愛いなぁポワワ
289 名前:ニャァー。 投稿日:2004/09/29(水) 10:34

更新お疲れ様です!
久々に出ましたね〜「オマエがな返し」!!w
すごく好きですvv次回も更新頑張ってください!!
290 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 12:59
初レスです。
外国の地名が目に入ったのがきっかけで、数日前から読み始めました。
留学してたから、娘。とどうからんでるの?とか思ってしまって。
会話のテンポがすごくイイですね。
はまってしまいました、この世界。いや、このふたり。
今後の展開、かなり楽しみです!ロテさん、がんばって〜。
291 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/02(土) 20:39

結局クリスマスも年末年始もこれといった用事はなく、一人暮らしのマンションから二駅しか離れていない実家で久しぶりにただのんびりと過ごした。お年玉をもらいに訪れた親戚のチビッコギャングたちに怪獣ごっこをせがまれミキティンガーにならざるを得なかったり、花嫁修業と称して母親に家事を強制されたりと、そんなごく普通の正月だった。

よっちゃんと会えないのは寂しかったけど、メールや電話のやり取りを何度かして彼女の声や様子に少し触れるだけでも心が軽くなった。彼女は予定を変更して冬休みいっぱいは向こうにいることにしたとかで、会うのは休み明けまでお預けになった。それを聞いてあたしもギリギリまで実家にいることを決めた。休み中、一度くらいは飲みに行けるかと期待していたから正直ガックシだったし休みが早く終わらないかと願った。いつもは会社に行きたくなくて仕方ないっていうのに。恋の力って凄まじい。


292 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/02(土) 20:40

その日は冷たい風が吹きすさぶ中、親に頼まれたレンタルビデオを返しに駅前に来ていた。あまりに寒いので延滞料金は自分が払うからと断ったにもかかわらず、もったいないお化けがでるからとわけのわからない理由でむりやり家を追い出されてイライラしていた。しかもついでにティッシュ買ってきてなんてメール入るし。不機嫌丸出しの顔で歩いていたからか、心なしか通行人が自分を避けて通る。歩きやすくていいけどなんかムカツク。ビデオ屋の店員もビビりまくって渡したビデオを受け取る手がちょっと震えていた。そんなに怖がられるとやっぱりムカツク。

ムカつきすぎてちょっと疲れたので、コーヒーでも飲んで帰ろうとスタバに入りかけたら後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「藤本?」
「はい?」

なるべく余所行きの声で振り向いたけれど顔はどうやらまだムカついてたようで。

293 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/02(土) 20:40

「ギャッ」

ギャッて。そんな驚くことないじゃないですか。むしろこっちがキャーですよ。

「保田先生〜」

歯周病科の保田先生だった。

「なに情けない声出してるのよ。コーヒー?ちょうどよかったあたしも喉渇いてたのよ。さ、入るわよ」

ズルズルと引きずられるようにスタバに連れて行かれた。この強引さは家系なのかといつも思う。
保田先生はよっちゃんと同じく理事長の縁故で、それはつまり信じられないことによっちゃんとも血のつながりがあるということ。理事長や副理事、のぞみくんなんかとは血といってもかなり薄まったつながりでただの同族だよなんてよっちゃんは言ってたけど、保田先生とはけっこう近い親戚らしい。なのに外見は全っ然似てない。けれど強引なところや、自分本位かと思いきやきちんと人のことも気遣えるところとか親しみやすさとかは共通してる気がする。あとアルコールに強いところも。

294 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/02(土) 20:41

「奢るわよ。なにがいい?」
「いいですよ、そんな」
「いいから遠慮しないの」
「じゃ遠慮なく…」
「キャラメルマキアートのトールでいいのね」
「ってなに勝手に言ってんですか!」
「あら違うの?ひとみが藤本はいつもコレって言ってたわよ」

よっちゃんそんなどうでもいいこと保田先生に喋らないでよ。はぁ。

295 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/02(土) 20:41

「いえ、それです」
「あたしはカプチーノのショート。ノーファットでよろしく」

うわっウインクした!お姉さん、見て見ぬふりしてるよ…。
ここの家系はなんでこうもナンパ気質なんだろう。

ソファーに深く沈んでコーヒーを啜る。思いがけず訪れた保田先生とのコーヒータイム。学内ではそんなに会う機会もないけれどよっちゃんも交えて何度か飲みに行ったことがあったし、元来ここの家系は人懐っこいからそれも手伝って保田先生とはけっこう親しかったりする。
でも肝心のよっちゃんと保田先生はそれぞれのあたしに対する態度よりお互いを遠慮しあってる気がする。あくまでも勘だけどこの二人の間には変な壁というか線引きがあるような気がしてならない。似ているからこそ反発するのか。べつに嫌いあってるわけではないけど二人に、特に保田先生のほうにそんな空気を感じられる。そのへんのところホントはどう思ってるのか今度つっこんでみようかな。もちろんよっちゃんに。

296 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/02(土) 20:42

「保田先生は休み中どこか行ってたんですか?」
「どこも。ただアヤカと飲んだくれてただけ。それより休みがもう終わったかのような口ぶりね」
「だって終わったようなもんじゃないですか。あと2日ですよ」
「そっちはひとみとどっか行かなかったの?」
「保田先生知らないんですか?よっちゃん今ロンドンですよ」
「ウソ!なんで?」

びっくりして保田先生が身を乗り出してきた。ちょっと顔近いんですけど。怖いんですけど。

「なんか身内の用事とかって言ってましたけど」
「身内の用事?身内の用事…身内…あっ。あーあれか。にしても身内の用事でねぇ」
「違うんですか?」
「いや、よく行く気になったなと思って」

なんか含みのある言い方をされたけど保田先生につっこむのは気が引けたので、かわりに前から疑問に思っていたことを聞いてみた。

297 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/02(土) 20:42

「よっちゃんってあっち長かったんですか?」
「14か15のときから約3年くらいかな。向こうにいたのは」
「そうなんだー」
「でもアイツが自らロンドンに行くとはねぇ。何年ぶりかしら」
「よっちゃんってロンドン嫌いなんですか?」
「いろいろとうるさいこと言う人たちがいるから。あっちには」
「へぇ」
「ロンドンに住むことになったのも半ば強制されたようなものだったし」
「ほぅ」
「アイツって一族の中でもけっこうはみだし者っていうか、異端児だったから」

あたしもなんだけどね、ガハハハと保田先生は笑った。
異端児。なるほど。いろんな意味で納得。二人ともに。

298 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/02(土) 20:43

「でもそんなんでよく行きましたよね、ロンドン」
「奴も大人になったってことでしょう」

嬉しそうにコーヒーを飲む保田先生。
あたしはなぜだかその横顔をずっと見てしまっていた。

「なに人の顔ジロジロ見てるのよ。惚れた?」
「まさか。いや、似てないなーって」
「アンタ即答したわね…まあいいわ。で、似てないって誰と誰が?」
「よっちゃんと保田先生」
「そう?まあ、そうかもね。アイツは顔の造形が整いすぎなのよ」
「あ、でも性格っていうか気質は似てる気がしますけど」
「あたしはあんな…ヘタレじゃないわよ」
「そう、ですか?」

保田先生の口ぶりがやけに真実味を帯びていたから、あたしはふとあることを思い出した。そして自然と浮かんだ疑問を言葉にしていた。

299 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/02(土) 20:44



「もしかしてよっちゃんに『臆病』って言いました?」



その瞬間の保田先生の表情はわからなかった。
お互いコーヒーに目をやっていたから。





300 名前:ロテ 投稿日:2004/10/02(土) 20:44
更新終了。そして思いがけず300ゲッツ。
301 名前:ロテ 投稿日:2004/10/02(土) 20:50
レス返しを。

288>名無し飼育さん
黒かったり女王様だったりする帝も好きですが
かわいい帝はやっぱポワワですねw

289>ニャァー。さん
すごく好きですか!いやいやどうもw
話に詰まったりしたときに便利なんです実は。

290>名無飼育さん
初レスありがとうございます。
留学してたのですか、ほう。もしやロ○ド○?
作者の外国描写に違和感があったとしても目を
つぶっていただければ幸いですw
302 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/03(日) 15:34
おおー…ヤッスーうぃんく来ましたなw
303 名前:ニャァー。 投稿日:2004/10/03(日) 22:53

更新お疲れ様です!!
これからどーなるんでしょうね?
予想もつきません…w本とに読むの楽しみなんですv
次回も更新頑張って下さい!
304 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:19

ただいま、と心の中で呟いてまっすぐに自分の部屋に入った。
そういえばティッシュ買ってきてって言われてたっけ。保田先生と話してたらすっかりそんなこと忘れてた。
暖房をつけ冷えた部屋が温度を取り戻すまでベッドに座って身を固くして待った。カレンダーに目をやる。今日はまだ4日だ。仕事が始まるのは明後日から。よっちゃんに会えるのも明後日。それまでにあたしは決めなきゃいけない。保田先生はあたしの出方次第だと言った。もうよっちゃんから動くことはないだろうと。なぜそう言えるのか理由は言わなかったけど、保田先生は確信めいたものを持っているようだったからそれはきっと真実なのだと思う。

「美貴ーごはんよー」
「はーい」

暖まった部屋でコートを脱ぎ手早く着替えた。携帯を手に持ち日付を確認する。やはり4日。
とりあえず今はごはんだ。母親のしつこく呼ぶ声が聞こえる。冷めないうちに食べなきゃ。
腹が減ってはなんとやら。難しいことは後で考えよう。でも。


答えはとっくに出ているのかもしれないけれど。



305 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:20




「なんで…それ」
「前によっちゃんが『臆病』って言われたことがあるって。べつに誰にとかは言ってなかったんですけど。あ、それに直接聞いたわけじゃなくて違う人とそんな会話してるのをたまたま耳にして。それで」

悪いことを言ったわけではないのに言い訳めいた口調になってしまったのは、保田先生が思いのほか怖い…じゃなかった真剣な顔つきになったから。自分がとんでもないタブーを犯した気にさせられる。
保田先生は遠くを見るような目をして一口コーヒーを飲んだ。

「ひとみは臆病者だよ。だった、かな」
「過去形、ですか?」
「最近の奴の顔見てたらそんなふうに思える」
「………」
「藤本のおかげかもね」
「…意味わかんないですよ」
「飯田先生と付き合ってたんだって?」
「はい」

306 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:21

思わぬところに話が飛んで驚いたけど、保田先生は無駄な話をするような人ではないとわかっていたから素直に返事をした。それに今は話の腰を折りたくない。

「あ、飯田先生から聞いたわけじゃないよ。ひとみでもない」
「木村先生ですか?」
「そ。グダグダ飲みつつね。アヤカとは飲み仲間だから」
「まさか飯田先生も?」
「まさか。あの派閥人間があたしと飲むわけないじゃない」

保田先生は楽しそうに笑いながら話を続けた。

「目だって合わせてくれないわよ、廊下で会っても。色々な面でそりも合わなかったしね。どっちにしろ向こうはロンドンだからもう関係ないけど」
「やっぱり」

ここの家系とカオリはとことん相性が良くないらしい。それは派閥云々を抜きにしてもきっと。

307 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:21

「飯田先生に触発されたひとみに告白でもされた?」
「なっ…」

絶句してると保田先生はまた笑った。柔らかい笑顔が犬のようだった。猫顔だけど。

「二人が人目も憚らず受付で堂々とキスしてたってアヤカに聞いたから付き合ってのかと思ったんだけど、藤本は友達だって言い張ってひとみはのらりくらりと曖昧に逃げてるってアヤカが怒ってたよ」
「木村先生が怒ることはないのに」
「ははっ。まあそうなんだけどさ。二人のこと気に入ってるからくっつけたいんだと」
「って言われても…」
「あたしもひとみの藤本を見る目がなんとなく違う気が前からしてて…ま、その理由は別にあると思ってたんだけど、それは藤本にはまだ関係ないから置いといて」

関係ないのかよってつっこみたかったけど、まだって意味深だなオイってパンチのひとつでもしたかったけど、保田先生の言わんとしてることがまだわからなくて黙って聞いていた。それにこの人につっこんだりパンチしたりなんて元からそんなことできるわけがないし。

308 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:22

「ひとみがようやく普通に人を好きになれたんだなって嬉しくてね。しかもちゃんと告白したみたいだし。そういう意味では飯田先生もタイミング良く出てきてくれたわよね、うん。だからもし藤本もひとみと同じ気持ちなら…アヤカじゃないけどあたしも、二人には幸せになってほしいって思った。勝手だけど」
「保田先生」
「うん?」

『ようやく普通に人を好きなれた』ってどういう意味ですか?よっちゃんの過去に何があったんですか?保田先生は何を知ってるんですか?あたしを見るよっちゃんの目ってどんななんですか?あたしたち…幸せになれるんですか?

聞きたいことはいっぱいあってどれもあたしにとっては最重要事項で、聞けばきっと保田先生は答えてくれるだろうとは思ったけど。もしかしたら教えてくれるつもりで話したのかもしれないけど。

309 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:22

「心配、してもらって…。なんていうか、ありがとうございます」

聞けなかった。

「ひとみのこと好き?」
「好きです」

即答していた。唇がカサカサに渇いていたことに気づいてコーヒーを口に含む。すっかり冷めてしまっていたけど甘い甘いそれは、自然とよっちゃんとのキスを思い出させた。

310 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:23

「アイツに伝えないの?」
「………」
「ひとみはちゃんと告白できてた?」
「はい」
「そっか。あたしアイツがこーんなちっちゃい時から見てるからいい歳になった今でも心配で仕方ないのよ、実は。母親みたいな口調で説教とかしちゃうし。鬱陶しがられてるのはわかってるんだけどつい、ね。アイツけっこう不器用なとこあるから。バカだし。ま、結果はどうであれちゃんと自分の気持ちを相手に伝えられるようになったみたいでホッとしたよ。昔はひどかったんだから。異端児だけあって」

そう言って彼女はとっくに冷めたであろうコーヒーを美味しそうに啜った。

「藤本は…藤本はちゃんと伝えられる?自分の気持ち」

口を開きかけたあたしを遮ってさらに続ける。

「あー、やっぱり今のナシ。ごめん。これ以上はあたしの関知するところじゃないわね。お節介が過ぎたわ。悪い癖なのよね。二人のことに口挟むのもほどほどにしなきゃ、またひとみに恨まれるわ」
「あたしは、あたしのほうこそ臆病だったんです」

311 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:24

バシバシと手を叩きながら苦笑していた保田先生はあたしの言葉を聞いてすっとまた真剣な顔になった。
いろんなことを言いたくていろんなことを聞いてほしかったけれど、あたしはそれから先なにも言えなかった。よっちゃんの…昔のことや保田先生の気持ちを聞いて頭がついていってないっていうか少し混乱してるってのもあったけど、誰よりもあたしが自分の気持ちを本当に伝えなきゃいけない相手は今ロンドンの遠い空の下だとわかっていたから。あの特有のどんよりした曇り空の下だと。

「アイツのことよろしく」

一言それだけを残して保田先生は帰っていった。
あたしは同じ空の下の遠い場所にいる彼女を想った。



312 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:25




保田先生と別れてからも自分がどうしたいのかをずっと考えていた。
家に帰ってもごはんを食べてもお風呂に入ってもずっと。ずっと。
でもいくら考えたってすでに答えは出ていた。あまりにも単純で簡単な答えが。




よっちゃんと一緒にいたい。ただそれだけ。



313 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/07(木) 22:25

ベッドに入って想うのは彼女の笑顔。会えないことに胸が痛くなるのは彼女だけ。その話し方や仕草やおどけた表情をこんなにもすんなり思い浮かべられる。会いたい。会って彼女の体温を感じたい。声を聴かせてほしい。抱きしめてもらいたい。あたしの笑顔を見てほしい。存在を認めてほしい。早く。早く。




会いたい。





314 名前:ロテ 投稿日:2004/10/07(木) 22:26
更新終了
315 名前:ロテ 投稿日:2004/10/07(木) 22:30
レス返しを。

302>名無飼育さん
満を持して?保田先生の登場です。
わりとキーパーソンかもしれませんw

303>ニャァー。さん
いつもレスありがとうございます。
それに楽しみしてくださって嬉しい限りです。
見放さずマターリ見守っていてくださいw
316 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 22:32
リアルタイムだぁ〜♪
更新お疲れ様です。
よっちゃんの過去がすご〜く気になります。
早く知りたい!
317 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/10(日) 13:10
早く二人がラブラブになるのを願うばかりです。
ミキティがんばって。
318 名前:ニャァー。 投稿日:2004/10/14(木) 01:01

更新お疲れ様です!
なんか読みながらドキドキしていますw
なやめる美貴様やっぱキャワイ〜v
次回も更新頑張って下さい!!
319 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:13

仕事始めの日、遠くに見えるよっちゃんの姿に胸が躍った。落ち着け。落ち着け自分。
駐車場から歩いてくる彼女とあたしの距離が徐々に縮まっていく。まだ、向こうはこちらに気づいていない。
緊張しすぎて喉がカラカラだった。冬だというのに体も熱かった。手に汗握るとはこのことか。
段々と足が重くなる。弱気な心が頭をもたげる。視線が下がって自然とブーツの先を眺めていた。

「おーい!ふっじもとくーん」

顔を上げると予想通りの笑顔でこちらにブンブンと手を振る彼女がいた。
元気よく両手を振り回してまるで子供みたい。思わず口元が緩む。

「美貴ちゅわーん!」
「愛しのハニー!」
「ミキティベイベー!」

ちょっとやりすぎじゃないですか?すごく恥ずかしいんだけど。嬉しいけど。はしゃいじゃう気持ちもわかるけど(あたしが今まさにそうだし)。他にも人がいるんだからそれ以上は勘弁してよ〜よっちゃん。

320 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:14

「かわいいオイラの…イデッ」
「もぅ〜人の名前大声で叫びまくらないでよ。みっともない」
「イデデデ。久々にあったのに相変わらずクールビューティーだな藤本くん」
「久々にあったのに相変わらずバカ大王だねよっちゃん」
「う〜ん、その氷のような視線がたまらないよ。冬にぴったりだ。会いたかったよー美貴―!!」
「キャッ」

急に飛び掛られてよろめいた。よっちゃんがあたしをぎゅうぎゅうと抱きしめてくれる。
彼女の温もりや匂いが心地よくて目を閉じて堪能する。そしてもちろん精一杯抱きしめ返した。

321 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:14

「会いたかった…」

思わず口から漏れた言葉はよっちゃんの耳に届いたのか届いていないのか。
彼女は何も言わずにあたしを抱きしめて背中をさすって髪にキスしてからまたぎゅうぎゅうときつく抱きしめた。あたしがここにいるのを確認するかのように何度も顔を見てはニコッとして。

会いたくて会いたくて恋焦がれたよっちゃんがここにいる。ここにいてあたしをこんなに力強く抱きしめている。それだけであたしはもうシアワセで。泣きたくなるほどシアワセで。再認識した。よっちゃんが好き。こんな簡単なこと、どうしてあたしは今まで気づかないふりをしていたんだろう。こんなにも彼女の腕の中はあったかくて気持ちいいというのに。できればずっと、こうしていたかった。あたしとよっちゃんの二人だけでずっと、こうして…。

322 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:15

「あけおめー!!ってやっだ〜二人ともこんなところで朝からダ・イ・タ・ン」

この耳につく甲高い声は…

「あー、石川さん。あけおめ!って遅いよ。もう6日だよ」
「いいの。気持ちの問題なんだからっ」
「どういう気持ちよ」
「藤本さん今年も目つきコワイよー。よっちゃん、あたしにもギュッてしてぇ?」
「あー、ハイハイ」

よっちゃんは仕方ないなぁって声であたしの背中にまわしていた腕をほどいて石川さんをポンポンッと簡単にハグした。声はめんどくさそうだし手つきも軽くて、時間にしたらほんの数秒のことだったけどデレッとした顔は見逃さなかった。いやらしい目つきも手の動きも。なんか。なんか。

323 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:16




すっごいムカツク。あったまきた。なによ。なんなのよ。本気腹立つ。




ボズンッバヂンッメコッ

声にならない叫び声をあげるエロ魔人とわけわかんないって顔してる全身ピンクのキショイのを駐車場に残し、あたしはさっさと職員入口に向かった。まったく、朝から体力使わせないでよね。

324 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:16

「藤本さんあけおめ〜」

中に入りかかったところで後ろから後藤さんに声をかけられた。

「後藤さん、もう6日だよ?」
「なんか癖になっちゃって。久々に会う人皆に言っちゃうんだよね〜」
「はぁ〜石川さんと同レベルだね」
「えっマジ?!もう言わない…」
「そのほうがいいよ」

力なく声を落とすあたしを不思議に思ったのか後藤さんに顔を覗き込まれた。

「なんか元気ないね」
「休み明けはテンション低いから」
「ふーん。本当はさ、アレが原因でしょ」

325 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:17

後藤さんが指差す先には仲良く談笑するさっきの二人の姿があった。石川さんはよっちゃんの右腕にしっかりと腕を絡ませてピッタリくっついちゃってる。キミそれ絶対胸押しつけてるでしょ。その無駄に大きい胸をそういうことに使うわけ?へぇ〜。悔しいけど少しだけ、ほんのちょびっとだけ羨ましい気がして自分の胸をチラっと見た。だってエロ魔人のあのダラシナイ顔ときたら。あー情けない。

「あーあ石川さんに捕まっちゃって」
「満更でもなさそうだけど」
「こわっ。藤本さんも素直になりなよ」

あたしが無言で踵を返すと後藤さんが横に並んでまた話しかけてきた。

「石川さんのアレはただのスキンシップ。よしこだってそのへんはわきまえてるでしょ」
「あたしには関係ないもん」
「藤本さんだってさっきよしこと熱い抱擁してたじゃん」
「見てたの?!」
「あんな目立つところでやってたら誰だって見るって」
「うわー恥ずかし…」
「でも二人ともいい顔してたよ。なんか満ち足りたような」
「恥ずかしすぎる…」
「恋人のような」
「恋人っ?!」
「うん。付き合ってるんじゃないの?」
「ま、まだだよっ」
「まだってことはこれからなんだ。ふーん」

ニヤニヤと面白いおもちゃを見つけた子供のようなその顔はなに?後藤さんってけっこう意地悪かも。

326 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:17

「これからもなにもあたしたちはべつにそんな…」
「ひゃー。藤本さんって案外かわいいんだね」
「案外は余計だよ」
「照れちゃって。よしこが惚れるのもなんかわかるなぁ」
「あのね、後藤さん…」
「あたしもちょっと惚れそうかも」
「へ?いまなんて?」

ホレソウ、とかいう言葉が聞こえたような気がしたけど。まさかねぇ。後藤さんがあたしに?ナイナイ。そんなことありえない。あ、もしかしてホウレンソウって言ったのかな。ってそれこそ意味わかんないし。

327 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:18

「隙アリ!」

チュッ

「うわっ。な、なに?」

後藤さんの顔が近づいたと思った途端、頬に柔らかい感触がした。目の前には不敵な笑みを浮かべてなぜか後ろを気にしてる当の彼女。いきなりのことで呆れて怒る気も失せた。まったく急に何するかと思ったら。ま、頬だからべつにいいか。

「くぉらぁぁぁぁぁぁ!!ごとぉぉ!!!!!」

突然地割れのような音が鳴り響いてものすごい形相のよっちゃんが走ってくるのが見えた。そのやや後ろのほうで勢いに圧されて尻餅をついている石川さんも。
なにがなんだかわからずにオロオロしてると到着したよっちゃんが後藤さんの胸倉をつかんだ。

328 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:18

「ちょ、よっちゃんなにしての!やめなって」
「うるさーい!オイラはオイラはいま、だって、オイラの美貴が、チュッて、この、ここに、美貴が」

意味不明。錯乱しすぎだよ、よっちゃん。いつも憎らしいくらいに余裕ぶっこいてるキミはどこに行っちゃったの?ほら後藤さんなんて笑いすぎて涙出てるし。石川さんは違う意味で泣きそうな顔してるけど。お尻さすって。痛かったんだね、気の毒に。

「どうどう。落ち着いてよっちゃん」
「だってコイツが、美貴が、チュッて、オイラのオイラの」
「あ〜、おっもしろ〜。よしこイイ!キミ最高だよ〜あっはははは」
「ちょっと笑ってる場合じゃないでしょ。これなんとかしてよ〜後藤さんの責任なんだから」
「えー。こんなん藤本さんがチュッってしたら元に戻るって」
「そうかなぁ」
「そうだよ」

半信半疑だったけど、他に手立てもなさそうだったから辺りを気にしながらよっちゃんのプニプニとした柔らかい頬にキスをした。あたしにしてはけっこう大胆なことしてるかも。

329 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:19

「よっちゃん?」
「ふぇん」
「落ち着いた?」
「ふぉん」

ふぉんって。ふぉんってなんだよ。その前のふぇんもだけど。とろんとした目つきでなんかかわいいなぁ。
いつもこれくらい従順だとこっちもひねくれたこと言わずにすむのに。でもそれじゃ面白くないか。

「ね、言ったとおりでしょ」
「でもまだヘンだよこの人」
「もともとバカにつける薬はないからねぇ」
「ていうか後藤さんいきなりヘンなことしないでよね」
「ひっどー。そのヘンなことを今まさに自分だってしたくせに」
「そ、それは仕方なく…」
「でもここまで壊れるとは思わなかったなぁ」

330 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:20

焦点の合わない目でポワーンとしてるよっちゃん。後藤さんの言うようにこんな彼女は初めて見たかも。そんなにほっぺにチュウがショックだったのかな。普段はあんなエロ魔人で下ネタ全開なのに、この中学生みたいな反応はなに?あたしだから?相手があたしだったから?でももっとすごいことを前にしてるのに、今さらこんな初々しい素振りって…。

「ちょっとぉ!一体なんなのよぉ」

あ、このキンキン声は。そういえば忘れてた。

「よっちゃんはいきなり私を突き飛ばして走り出すし、見てたら後藤さんに掴みかかってるし。藤本さんは急にキスなんてしてるし」
「話すと長いからまた今度ね」
「もう!そうやっていっつも私をのけ者にするんだからっ」
「そんなことないよ。ハイハイあとであとで」
「あとっていつよ〜」

331 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:20

うるさくわめく石川さんをなだめつつ後藤さんは「あとよろしく〜」と言って階段を上っていってしまった。
残されたのはあたしといまだ心ここにあらずのよっちゃん。
さて、どうしよう。

「よっちゃん」
「……」
「よーっちゃん!」
「……」
「よしこ?」
「あ、なに?」
「大丈夫?」
「大丈夫って…あれっ後藤さんは?」
「もうとっくに行っちゃったよ」
「あー!!つーか美貴、ほっぺにチュ、チュ、チュウされてただろう!」
「不可抗力だよ」
「ちっくしょー!オイラのほっぺを…」
「え、なに?」
「な、なんでもないっ。もう行くっ」
「あ、うん。じゃあまた」
「おう」

332 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/16(土) 01:21

なんかすでに丸一日働いたくらいの疲労感。でもまだ始まってもないんだよね仕事。
はぁ〜今年もいろんなことあるんだろうな。仕事も忙しいんだろうな。
これからどうなるんだろうあたしたち。あたしとよっちゃん。
保田先生に会ったあのテンションで、あの勢いでよっちゃんに会いたかったな。
臆病なあたしがまた顔を出しつつある。ちゃんと決心したのに。はぁ〜。

「あ、雪」

ふと窓の外を見るとはらはらと白いものが舞っていた。初雪だ。
初詣でちゃんとお願いしてくればよかったな。今年は素直な自分でいられますようにって。

遠ざかるよっちゃんの背中を見ながらしばらくそんなことを思っていた。





333 名前:ロテ 投稿日:2004/10/16(土) 01:21
更新終了
334 名前:ロテ 投稿日:2004/10/16(土) 01:27
レス返しを。

316>名無飼育さん
おぉ!リアルタイムカッケー!w
よっちゃんの過去についてはもうしばしお待ちください。

317>名無飼育さん
そうですね、作者もわりと願ってます(オイ
ラブラブももうしばしお待ちください。

318>ニャァー。さん
悩める藤本くんを見守っていてください。
ついでに作者もw
335 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:42

休みボケした頭で睡魔と戦いつつ、受付でいくつかの書類に目を通していたら電話が鳴った。

「1階受付です」
「歯周病科の保田ですが」
「あ、保田先生」
「その声は藤本?」
「そうですよー」
「眠そうね」
「ええ、それはもう」
「シャンとしなさいよ。あのね、11時頃に業者の人がうちの講座に来ることになってるんだけど来たらそのまま案内してきてもらえない?忙しくてそっちに迎えに行けそうもないのよ」
「わかりました」
「じゃよろしく頼むわね」
「はい」
「あ、それとそんな目つきで受付にいたらビビって業者の人帰っちゃうから気をつけなさいね」
「見えないのになに適当なこと言ってるんですかー」
「大体想像つくわよ」

336 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:43

業者の人の名前を確認して電話を切った。
そういえば保田先生にいろいろ聞いたことをよっちゃんにまだ言ってない。
昔のこととか本人につっこみたいからお昼誘ってみようかな。
保田先生に言われたからじゃないけれど、自分の目つきが気になって鏡を取り出そうとしたときまた電話が鳴った。

「1階受付です」
「みっきちゅわ〜ん!」
「…よっちゃん、あたしいつも思うんだけどそんな甘ったるい声を仕事中によく出せるよね。しかも内線でしょ?これ。まわりに入試課の人いっぱいいるんじゃないの?」

入試課の面々を思い出して苦笑した。いずれもいい歳したおじさん揃い。あたしたちの父親と言ってもおかしくない人たちは、このよっちゃんの私用の電話を(しかもアホな)どう思っているんだろう。

337 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:43

「ああ、それなら平気。むしろ皆あたしを応援してくれてるから」
「応援?」
「んーと、つまりその…美貴との、こと…頑張れって…」

最後のほうはよっちゃんがゴニョゴニョと言いよどんだのであまり聞こえなかったけど…ていうか応援ってナニ?あたしのことで?入試課のおじさんたちが?えぇ!!それってつまりつまり、あたしたちのことが周知の事実っていうこと?!

「ムァジかよっ!!」
「っ痛〜藤本くん声でかっ。耳にきたよ、キーンて」
「よっちゃん、入試の人たちになに話してんのよっ」
「だって学内で誰が美人とか人気投票して遊んでたから、ついオイラのイチ推しは藤本くんって…」

338 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:44

この大学、本っ当にヤバイわ。馬鹿なことしてないで仕事しなよ、キミたち。
再び入試課の面々を思い出す。途端にどの人の顔もアホ面に見えてきた。
これってよっちゃんの影響なの?それとも前からこんなフザケた人たちの集まりだったの?入試課って。

「最初からこんなだったよ」

あっけらかんとしたよっちゃんが続ける。

「おじさんばっかだからきっと寂しかったんだよ。ですよねー?」

電話の向こうでガヤガヤと大勢の声が聞こえてくる。
「藤本さんも入試においでー」とか
「石川さんも連れてきてー」とか
「課長が後藤さんを外すなってー」とか
楽しそうに騒いでいるおじさんたちの声が。

339 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:44

「だってさ。聞こえた?」
「うん聞こえた。なんか平和なところだねぇ」

ため息混じりにそう答えた。でもちょっと羨ましい。

「おう。秘書課にくらべたらまったりしてるかな。あたしの性分には合ってるみたい」

お調子者の集まりみたいなこの部署になんとなく不安を感じたけれど、よっちゃんが楽しそうだからヨシとしよう。人気投票の結果が少しだけ気になったけど、彼女からの票があればそれで十分だからそれもヨシとしよう。まさかとは思うけどあたし以外の女に入れてないよね?よっちゃん。キミのイチ推しだって言葉、信じちゃうからね。

340 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:45

以前はあんなに秘書課に戻りたがっていたのに、近頃めっきり言わなくなったのは入試課の居心地が思いのほかよかったからなんだ。心なしか秘書課にいた頃より生き生きしてる気がするし。よっちゃんのいる場所に一緒にいれないのは寂しいけど、適材適所ってやっぱりあるんだ。

「で、なんの用事だっけ」
「そうだった。お昼一緒にどうかと思って」
「あっ、ちょうどね、あたしも誘おうかと思ってたんだ」
「さっすが美貴ちゅわんとオイラだね!相思相愛。ツーカーの仲。あ・うんの呼吸」
「ハイハイ。今日は中華ね」
「以心伝心。相性ピッタリ。まさに運命。これはもう結婚するしかないね」
「バカかと」

いつまでも恥ずかしいことを言い続けるからむりやり電話を切った。今度入試課の人たちに会ったら一体どんな顔をすればいいんだろう。でも『公認』みたいでそれはそれで少し嬉しい気もするけど。

さっきまでの眠気はもうすでにどこかに消えてしまっていた。お昼が待ち遠しい。書類を整理する手も格段にスピーディーになった。保田先生を訪ねてきた業者の人にもとびっきりの笑顔で対応する。案内する足取りはびっくりするほど軽くて、さっきのあたしとテンションが全然違うことに保田先生もかなり驚いているみたいだった。



341 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:46

久しぶりによっちゃんとゴハンを食べて、自分で言うのもアレだけどあたしはかなり上機嫌だった。デザートの杏仁豆腐は美味しいし、目の前には憎たらしいほどかわいい顔をしてムシャムシャと春巻を食べているよっちゃんがいる。相変わらず食べるのが遅くて口にくわえた春巻を落としそうになって慌てている。そんな姿もかわいくて仕方ない。紙ナプキンを手にとって一生懸命口のまわりを拭いている彼女を見ながら温かい烏龍茶を飲んだ。

そういえばなんでいつも一緒に食べてるのに時間差がでるんだろう。今日だってよっちゃんはまだ春巻でこっちはとっくにデザート。あたしが特別早いってわけじゃないと思うんだけど。

342 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:46

「前から思ってたけど食べるの遅いよね」
「オイラ?」
「ほかに誰がいるのよ」
「藤本くんが早いんだよ」
「そんなことないよ。普通だって」
「えぇぇ〜本当か?」
「後藤さんたちと食べるときだって同じくらいに食べ終わるもん」
「そういえばオイラも課長たちと同じくらいに食べ終わるなぁ…」

そう言ってよっちゃんは左斜め上を見ながら不思議そうな顔をした。口を尖らしてあたしと目を合わせようとしない。なんか怪しい。

343 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:47

「目、泳いでる」
「オイラ?」
「ほかに誰がいるのよ」
「春巻うんめー」
「無視かよっ」

しらばっくれるよっちゃんを見てたらふとあることを思いついた。

「さてはあたしに見とれすぎて食べるのが遅いんだね?」

冗談のつもりだったのに。すぐにつっこんでくれると思ったのに。
白い肌がどんどん色づいていく。伏せられたまつげの長さにしばし見とれた。

まさか図星…なの?

344 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:47

「そうだよ!悪いかっ」

フンッと鼻を鳴らして再び春巻にかじりついた彼女を見て、笑顔が隠しきれない。
あたしたちどう見てもおかしい。紹興酒とか飲んだわけじゃないのに、会社の昼休みに同僚と差し向かいでゴハンを食べて真っ赤になったりやけに笑顔になったりしているあたしたちってほかの人から見たらどう映るんだろう。

…コイビトに見えてたりするのかな?

345 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:48

「ニヤニヤすんなっ」
「あー!あたしの杏仁豆腐ぅ」
「うるへー」

あたしから杏仁豆腐を奪って横を向いて一気に食べる彼女。満足そうにこちらを見てどうだ、と言わんばかりに空の器を指し示す。妙に偉そうなその姿がやっぱりかわいくてあたしはまたニヤニヤしてしまう。

「ロンドンはどうだった?」
「雨だった」
「だろうね。ってそういうことじゃなくて」
「久々に懐かしい人に会えて、まあそれなりに。藤本くんこそ休み中オイラに会えなくてピーピー泣いてなかった?」

当たらずとも遠からずだったけど、そんなこと言うのは悔しいからまた憎まれ口を叩いてしまう。

「なわけないでしょ。よっちゃんじゃあるまいし」

346 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:49

2個目の杏仁豆腐を食べながら保田先生の話を切り出す。

「休み中にね、保田先生に会ったよ」
「圭ちゃんと?」
「うん。よっちゃんのこといろいろ聞いちゃった」

一瞬、それは本当に一瞬のことでもしかしたら見間違えかもしれないけれど、よっちゃんの目が翳りを帯びてまるでビー玉のような無機質なものに変貌したから、あたしは堪らず視線を逸らしてしまった。

「へぇ〜どんなこと?」

そんなあたしの様子には構わずよっちゃんは探るような声で聞いてくる。

347 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:49

「…んと、異端児とかロンドン嫌いとか」
「ははっ圭ちゃんのがよっぽどだよ」
「それは自分でも言ってた」

恐る恐る見た彼女の目がいつもの子犬のようなそれに戻っていて、ホッと胸を撫で下ろす。
気を取り直して杏仁豆腐を食べ続けた。

「圭ちゃんって優しいんだけど厳しいんだよな」

そう言って昔を懐かしむように遠くを見つめる彼女に『臆病』だったの?なんて聞けるはずもなく。

348 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/17(日) 21:50

「よっちゃんのことよろしくって頼まれちゃったよ」
「オイラからも頼みます」

切実な声で頭を下げるよっちゃんに自分で言うな、とデコピンをかまして笑った。
まだまだ聞きたいことや疑問に思うことが山ほどあったけど、とりあえずその前にやるべきことがある。あたしには彼女に伝えなければならないことがある。それをしなければ始まらないし始まれない。

一歩を踏み出す勇気がほしくて、テーブルの上に投げ出された彼女の手をしっかりと握った。





349 名前:ロテ 投稿日:2004/10/17(日) 21:50
更新終了
350 名前:ロテ 投稿日:2004/10/17(日) 21:52
なんとなく連続投下してみた
351 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/17(日) 22:23
うわっ!こんないいとこで
ミキティはスイッチを押せるのか!?
ドキドキしながら次を待ってます
352 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/17(日) 22:30
最高!
美貴さまにはこれから・・どんどんと積極的に頑張ってほしいです。
353 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/19(火) 14:07
更新おつかれさまです。

はよー続きがよみたいww
354 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:42

「イテテテ。折れるよ」
「折れるわけないだろバカ」
「大胆だね藤本くん。でもさすがにここでは…」
「するかバカ」
「手相でも見てくれるの?でもオイラ占いの類は信じないよ」

あたしがなにか大切なことを言いかけてるって雰囲気とか態度とかでわかりそうなものなのに、この人は。それともわかってやっているの?だとしたらその意図は何?単にあたしをからかいたいだけなのかなぁ。

再び口を開きかけたあたしをよっちゃんが目で制した。

355 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:43

そのまま見つめあうこと数秒。或いは数十秒。二人の視線はお互いを捕らえたまま動かない。動けない。
永遠に続くかと思われたこの時間を先に手放したのはよっちゃんのほうだった。
無言のまま彼女の手を握り締めているあたしの手を自分の口元に持っていく。そして手の甲にそっと唇を押しあてた。慈しむように、そっと。

「よ、よっちゃん」
「なにを言おうとしてるのか知らないけど気負いすぎだよ。無理すんな」
「えっ?」
「なんか美貴らしくない」


ああ、やっぱり。


356 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:44

どうして彼女はこんなにもあたしの心に、ひょっとしたらあたし以上に敏感なのだろう。そしてこれ以上ないタイミングでスッと入り込んで優しく包んでくれる。優しく微笑んで、甘やかしてくれる。
それは時にあたしにとってとても残酷で…

「今夜はうちで飲もうか、藤本くん」

でもとても心地がいいものだった。



357 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:44


昼休みを終え、秘書課に戻る途中でイタリアンレストランから出てくる後藤さんに会った。朝のことを思い出してまさかとは思ったけど一応尋ねてみることにした。

「惚れそうって冗談だよね?」
「マジだったらどうする?」
「無理」
「はっきり言うねぇ」
「だって本当のことだし」
「まあ藤本さんらしいけど」

すれ違う先生方に軽く会釈をしながら話を続けた。

358 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:45

「で、冗談なんだよね?」
「うん」
「やっぱり」
「遊ばなくなったよしこには惚れそうだけどね」

なに?なんですと?今なんつったのこの人。それも冗談じゃなかったらすまないよ、マジで。自分の気持ちを伝えようとするだけでいっぱいいっぱいだっていうのに、ライバルとか対処する余裕ないから。蹴落とす自信もあんまりないから。でも好きな気持ちだけは負けてないと思うけど。

359 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:45

「でも藤本さんが怖いからそれもナイかな、たぶん」

たぶんってとこに血管がピクッと反応する。あぁ、あたしホントに余裕ないな。それよかよっちゃんがどうとかじゃなくてあたしが怖いからって…どういう諦め方なのよ後藤さん。失礼な物言いに少しムッとしたけどとりあえずライバルにならないようでホッとした。

きっと後藤さんだけじゃなくてよっちゃんに惚れそうな人やこれから惚れるかもしれない人、もう惚れてる人はいっぱいいるんだろうな。あたしこんなグズグズしていていいのかな。よっちゃんは、まだあたしのことを好きでいてくれてるのかな。あたしと同じように抱き合いたいって思えるほどあたしのことをまだ…。

360 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:46

「それによしこの目には藤本さんしか映ってないし」
「なんでそういうことがわかるの?」
「見てればわかるじゃん。あんなあからさまによしこが執着してるのって藤本さんくらいだもん」

執着。どこか粘着質なイメージがあるその言葉も、よっちゃんが対象だと嬉しく感じられるから不思議。
ちょっと語弊があるかもしれないけど、今はあたしのがよっぽど彼女に執着している。彼女のことを考えない時間はほとんどといっていいほど、ない。ちょっとしたことで一喜一憂している自分にも大分慣れてきた。
あとは実行に移すのみなんだけど…とりあえず今夜が勝負かな、と心の中で固く拳を握る。

361 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:47

「あー、今日は副理事が来てるからまた夕食付き合わされるのかなぁ。高い店で美味しいもの食べられるのはいいけどあんまり食べた気しないよねぇ。副理事とかと一緒だと」

言われて気づいた。今日は珍しく副理事が来ていたんだ。副理事は1年のほとんどをロンドンで過ごしているため、たまに帰国して大学に顔を出すと決まって秘書課の何人かを引き連れて食事をご馳走してくれる。けれど話が長くて酔うとわがままっ子のように手に負えなくなる副理事との食事ははっきり言ってありがた迷惑。そんなことするくらいなら給料あげてくれと一様に皆グチをこぼしている。

そんな副理事との厄介な夕食対策のために、秘書課の中で秘密裏にローテーションを組むことにしたのは2,3年ほど前らしい。秘書課の男女比が大体2:1くらいなので毎回必ず男性2人、女性1人が順繰りに副理事にお供し、お相手をしてさしあげているというわけだ。

362 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:47

「前回ってたしか石川さんだったよね?!」
「そうだと思うけど。じゃ今夜は藤本さんか」
「後藤さん!」
「んあ?」
「お願い!今夜代わって!」
「べつにいいけどなんで?」
「えーと先約があって…」
「よしこ?」
「まあ、そうです」
「どうなったか聞かせてね」
「はいぃ?」
「今夜なんかアクションを起こす気なんでしょ?さっきすごい決意したみたいな顔してた」
「ほんっとにどうでもいいとこ鋭いよね」
「どうなったか教えてくれるなら代わってもいいよ」

363 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/20(水) 21:48

ニヤッと横目でこちらを伺う悪徳商人のような後藤さんの要求を突っぱねられるわけもなく、あたしはしぶしぶ了承した。石川さんには黙ってること、という条件つきで。ここはどうしたって譲れなかった。べつに朝のことを根に持ってるわけじゃないけど。

「ま、とにかく頑張って」
「はあ」

今夜、後藤さんに報告できるようなことが起きるのだろうか。起きてほしいようなほしくないような。
なんとなく肩透かしをされたような気分で、さっきまでのやる気がどこかに消え失せてしまっていた。





364 名前:ロテ 投稿日:2004/10/20(水) 21:48
更新終了
365 名前:ロテ 投稿日:2004/10/20(水) 21:56
レス返しを。

351>名無飼育さん
ミキティのスイッチは次回以降に…ぽちっとw

352>名無飼育さん
うちのミキティは基本ネガなのかもしれません。
積極的にいけるかどうか…w

353>名無飼育さん
続きです。どうぞ。次回は週末にでもw


レスをつけてくださる皆さん、いつもありがとうございます。
そして読んでくださっている皆さんもありがとうございます。
もし読みにくい点や改善したほうがよいと思われる点が
ありましたら、遠慮なく仰ってください。
作者的に勉強になることは大歓迎です。
では、また次回更新時に。
366 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/20(水) 22:04
おお、またとめられちゃった(笑
次回が気になります。
私は作者様の文体、共にストーリ−は好きですよ。
これからも拝借させて頂きますので読者としてもよろしく
お願いします。
367 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/21(木) 00:58
じれったいなぁ、藤本くん・・・。
私も文もストーリーも好きですよ。展開が毎回楽しみです。
テンポのよい会話で思わず笑ってしまったりします。
このまま、どうぞ書き続けてくださいませ!
368 名前:ニャァー。 投稿日:2004/10/22(金) 00:36

更新お疲れ様です!
なんだぁ〜?!!すっげぇー可愛いすぎwお二人さんw!!
かなり乙女な美貴様に萌っでしたw
どーなるのか次回更新楽しみにしてます!
369 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:44

一度家に帰って車を置いてからよっちゃんの家に行こうと思っていたのに、会社からそのままポルシェに乗せられ連行された。「明日の朝どうやって出勤するのよー」と文句を言ったら、至って普通に「送るよ」と返されなにも言えなくなってしまった。大学の駐車場に置かれたあたしのヴィッツとは明日までお別れらしい。

帰り際、チラリと目に入ったヴィッツの屋根には薄っすらと雪の跡があった。このモヤモヤした気持ちも雪とともに溶けてしまえばいいのにと、運転席のよっちゃんを見ながらそんなことを思っていた。


いつ来ても無駄に広い部屋だと思う。一人暮らしには不釣合いなほどの部屋数と豪華なインテリア。それでいていつも清潔に保たれているから、専門の人が掃除に来てくれているのかと尋ねると自分でしているとよっちゃんは答えた。なんでも自分以外の人間が勝手に部屋に入るのが許せないらしい。それに落ち着かないとも言っていた。けっこう神経質なところがあるんだと、またひとつ彼女のことを知ることができて満足だった。

370 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:45

「神経質っつーか掃除や洗濯や料理なんて自分でできるし」
「うっ。耳が痛い。痛い痛い」
「そりゃ藤本くんはーじぇんじぇんできないけどー」
「ちょ、ちょっとはするもん。できないことは、ない…と、思いたい」
「思いたいのかよっ」
「なんでよっちゃんそんなに家事できるの?一人暮らし長かったの?」
「うーん、ま、いずれ話すよ」

昔のことや家のこと、家族のことなんかをよっちゃんは話したがらない。そのこと自体はけっこう前から気づいてはいた。そういう話題になりそうになると話を逸らしたり聞いても今のようにかわされたりすることが多かったから、そのうちあたしも自然とその話題は避けるようになっていた。

371 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:45

でも好きになるとなんでも知りたくなるのが当然で、どんなことでもいいから話してほしい。話したくないことのひとつやふたつはあるだろうけど、それでもやっぱりあたしには話してほしい。どんなことでもいいから。だけど今はまだよっちゃんにその気がないのなら待つしかないとも思う。いつか話してくれるというその言葉を信じて、あたしは待ち続けよう。そんなには待っていられないと思うけど。

「楽しい話ってわけじゃないからさ、べつに話したくないってことじゃないんだよ」
「あたしそんなに顔にでる?」

広い心で待ち続けようと決心したものの、話してくれないことへの不満が顔に出ていたのかと恥ずかしくなった。後藤さんといいよっちゃんといい、なんでこうもあたしの考えていることがわかるんだろう。二人が鋭いのかあたしが心読まれやすいタイプなのか。どっちにしても厄介なことに変わりはない。

372 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:46

「藤本くんは正直だから。そんなところが…」
「そんなところが?」
「面白いんだけどね」

『好き』という言葉を期待した。

自分からはいまだなにも言えてないというのに、よっちゃんからの言葉を無条件に求めてしまう自分をズルイと思った。ここにきてまだ他力本願で臆病。そんなものどこかに飛んでいって永遠にあたしの中から消えてなくなればいいのに。

373 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:46

「藤本くん藤本くん、って課長みたいに呼ばないでよね」
「なんだよ今さら。じゃなんて呼ぶ?美貴で統一する?」
「ん〜……やっぱりいつも通りでいい。たまに名前で呼ばれるほうがドキッとするから」
「ほ〜藤本くんはドキッとしたいわけですか」
「ウソだよバーカ」
「ガーン!ウソつくなよ〜」
「よっちゃんって単純」
「うっせ」

あたしはなにを怖がっているのだろう。
よっちゃんが自分の気持ちに応えてくれないかもしれないこと?
二人の関係が友達でなくなること?

いや、違う。あたしは彼女のことが好きという気持ちを口にするのを本当はなにより恐れているのかもしれない。一旦この気持ちを口にしたら言葉は現実のものとなりあたしを容赦なく支配する。好きの想いに囚われ歯止めが利かなくなってしまうだろう。
自分が自分でいられなくなりそうで…だから怖いんだ。

374 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:47

「ねぇひとみちゃん」
「うげっなんだそれ」
「やっぱキモイか。ちゃんがよくないのかな。ひとみ、だったらどう?」
「…なんかくすぐったい」
「ひーちゃん!」
「勘弁してよー」

困ったことに、ひとみと呼ばれたときの表情の変化に気づいてしまった。戸惑い?嫌悪?畏れ?その思い出したくもないって顔が物語る。あたしの知らない過去のよっちゃんがきっとそう呼ばれていただろうことを。キミにそんな表情をさせる誰かとのこと、いつか話してくれる?そのときにはキミとの距離が今よりいくらかは縮まっていればいいんだけど。

375 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:47

「もう一杯飲む?」
「うん」

すでに四杯目のマティーニだった。でも全然酔いがまわらない。
彼女の作るマティーニはたまに外で飲むそれよりも若干ベルモットの量が多くてあたしの好みをよくわかっているものだった。そしてその手さばきも惚れ惚れするほどかっこよくて、あたしはついつい同じものを飲み続けてしまう。彼女もすでに何杯目かのウィスキーを飲んでいたけど酔った気配はなかった。

「藤本くん、オリーブ取ってくれる?」
「ほーい」

これまた一人暮らしには不釣合いなほど巨大な冷蔵庫から、塩漬けにされたオリーブの瓶を取り出した。

376 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:48

もしかしたら気づいてないだけでアルコールがまわっていたのかもしれない。
あたしの手から滑り落ちたオリーブの瓶はゴロンゴロンと音を立てながらフローリングの床を転がった。

「あっぶねー。足に当たらなかった?大丈夫か?」
「うん、ねぇよっちゃん」
「蓋開ける前でよかったなー。中身バシャーなってたらシャレになんないよ」
「うん、片付けるの面倒だもんね。ねぇよっちゃんってば」
「そうそう。ん?なに?」
「好き」

オリーブの瓶を持ったままよっちゃんは固まった。
口をあんぐり開けて、でも真っ直ぐにあたしを見据えていた。

377 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:48

オリーブの瓶が転げ落ちたのにつられて、あたしの口からずっと言いたかった言葉も自然と零れ落ちていたことに実は一瞬気づかなかったなんて、口が裂けても言えないな。あれだけ悩んで悩んでウジウジメソメソしていたのに、いざ言ってみると彼女がどう反応するかと冷静に待っていられる自分がいて、それはそれで少し驚いていた。

「なんつータイミングでそういうことを…」
「だって思わず出ちゃったんだもん」
「思わずって」
「あ、思わずってのはタイミングのことで気持ちにウソはないよ」
「なんつーか腹が据わったねぇ」
「自分でもびっくり」
「いやまあ、その、なんだ」

とりあえず、と手を引かれてベッドルームに連れて行かれた。そのキングサイズのベッドにゆっくりと優しく押し倒される。抱きしめられ、頬を撫でられ、じっと瞳を覗き込まれた。

378 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:49

「抵抗しないの?」
「だって好きだから」
「……藤本くんは卑怯だよ。ズルイよ」
「えーっなんでなんで?!」

だって好きだし。やっと気持ちを伝えられて嬉しいし。ずっとこうしたいって思ってたし。抵抗する理由も意味もないじゃん。あたしのこと好きなんでしょ?だったらもうなにも迷うことなんてないはず。卑怯って、ズルイって。心外だなぁ。

「ずっと人のことヤキモキさせといて急に告白するし、こうやって押し倒しても余裕綽々だし、また好き…だなんて言うし。なんかいつもの藤本くんじゃないみたいだよ。オイラどうしていいのかわかんないよ」
「ずっと迷ってた。よっちゃんに告白されてからずっと。それと同じくらい後悔もしていた。あたしこんなによっちゃんのこと好きなのにね、なんであの時バカやってたいなんて言ったんだろうって。怖かったの。好きすぎて怖かったの。さっきそれに気づいた」
「さっきかよっ」
「もうっ黙って聞けっ」

379 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/22(金) 23:50

バコッ

「ふぇい」
「よっちゃんがロンドンに行って寂しくて寂しくて。ずっとこうしたかった。よっちゃんの匂いに包まれたかった。…臆病だったのはあたしのほうなんだよ。ずっと素直になれなくてごめんね?待たせてごめんね」
「あーもう素直な美貴ってヤバイよ。なんでこんなかわいいんだよ」
「あたしのこと好きでしょ」
「ハイ。もうくびったけです」
「よろしい。じゃ早く」

キスしてよ、と言う前に唇を塞がれた。





380 名前:ロテ 投稿日:2004/10/22(金) 23:51
更新終了
381 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/22(金) 23:57
よかったねぇ…

色々と気になることもあるけれど、
今はただ単純に、おめでとう!です

いつもイチバンに読みにきてます、
更新タイヘンでしょうが、頑張ってくださいね。
382 名前:ロテ 投稿日:2004/10/22(金) 23:57
レス返しを。

366<名無飼育さん
また止めちゃいましたw
好きと言われるとモチベーションがグングン上がります。
ありがとうございます。

367<名無飼育さん
楽しんで笑ってもらえてるとはw
これまたモチベーションがグン(ry
ありがとうございます。これからも頑張ります。

368<ニャァー。さん
いつもありがとうございます。
可愛いとか萌えとか嬉しい言葉を聞くと頑張れます。
今後もよろしくお願いします。
383 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 00:10
更新お疲れ様です!!!

いいところで・・・

みきちゃんさんやっと素直になれて
よかったよかったww
続きたのしみ〜
384 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 03:21
(・∀・)ニヤニヤ
今の時点で最高でございます
これからどうなるか、益々気になって仕方ない
385 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 03:27
更新がきてたことに気づいたとき、ニヤッと笑ってました。
読み終わったあとも、やっぱりニヤニヤしてました。
無意識って怖いですね。

よっちゃんの過去など気になるところは多々ありますが…。
とりあえずはよかったなと。これからも楽しみにしてます。
386 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 17:37
キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!

今一番更新が楽しみな作品です。頑張ってください。
387 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/23(土) 21:44
やったー藤本くん!よかったよかった♪
続きも期待してまーす
388 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/24(日) 10:59
感無量。・゚(´□`)゚・。
389 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 12:39
えがったえがったw
幸せになれよ二人とも!
390 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/27(水) 23:44

熱い。



体が熱くて堪らない。



がむしゃらに服を脱いだ。剥ぎ取って素肌をさらす。
それでも体の芯が溶けそうなほど絡み合う手は、足は、舌は熱を放出していて、彼女の指と舌と囁きがアルコールの力と相まってあたしの意識を高みへと上らせる。どうしようもなく熱を帯びる。

吐息が耳にかかるたびに、中心を貪られるたびにキミの背中に紅い傷がつく。白くて柔らかいキミの肌に残るあたしの爪痕の紅。紅。紅。そのコントラストが美しくて愛しくて、あたしは夢中で舐める。自らの唾液を絡め、舐めて舐めてその傷が癒えるようにとまた一心不乱に舐め続け、そしてまた爪を立てる。

391 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/27(水) 23:44

「美貴…」
「っん…はぁっ、あっ、あっ」
「かわいいよ美貴」
「あぁんっもう、もうダメェッ」
「まだだよ」
「やぁああ…あんっはあぁぁっ」
「もっとかわいい美貴を見せて?」

懇願するあたしに意地悪なキミはその手を休めない。白くて長い滑らかな指が体中を駆け巡り血液を沸騰させる。寄せては返す波のようにあたしの体を弄び翻弄しそっと抱きしめる。

存在を確かめるようにそっと抱きしめたその腕が、手が、微かに震えているような気がしてあたしは強く強く抱きしめ返した。ここにいるよ?あたしはここにいるよ?

声にならない声が自分を見てほしいと叫ぶ。あたしの声なのかキミの声なのかはわからない。けれどしっかりと胸に響いてくるその声が、あたしたちに今まで見たことのないような景色を見せてくれる。

392 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/27(水) 23:45

「好きっはぁんっ」
「あたしも」
「ねぇっ好きなのっあぁっんーっ」
「美貴が、好きだよ」
「もっと…もっと、ねぇっもっと呼んでっ、おねっおねが、いっ」
「美貴、美貴、美貴…美貴っ美貴っ…美貴」


美貴。



名前を叫ばれ体ごと、心ごと愛されあたしは自然と涙を流していた。涙とともに零れ出る嗚咽。感情を認識する余裕なんてない。あたしができるのは全身で感じること。今このときを体中で。彼女の全部を。感じること。逃さないこと。閉じ込めること。彼女を、あたしの全部で。

汗ばむ背中や涙が伝うこめかみ、そして内側を這う舌に意識を乗っ取られる。自分の体が自分のものではないようで、制御不能なそれにあたしはただ掴まるだけ。振り落とされないように必死にしがみつく。もうこれ以上は限界というギリギリのところでふっと目を開けると、そこにはあたしと同じように涙で顔を濡らすキミの姿があった。

393 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/27(水) 23:46

「よっちゃん?」
「ん…」
「なんでっ?なんで泣いてるの?」
「美貴だって、人のこと言えないじゃんか」
「あたしはっあたしはだって、はんっ、んあぁんっ」
「不思議だな。なんで涙が出てくるんだろう」
「はんっ、いやぁぁ…あんっ」
「今が一番幸せなのに。なぜか涙が止まらないんだ」
「あぁっ…あたっあたしも、だよ。はんっ、幸せっ、だよ」
「美貴…愛してる」
「んぅ…もっと、もっとおねがいっ……もっと」

涙流れるままにあたしたちは愛し合い、求め合い、ひとつになる。
キミと溶けあってこのまま、一生このまま離れたくない。
お願いだから放さないで。あたしを、なにがあっても、あたしを置いていかないで。


溶けたままこうしてずっと、いつまでも。


394 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/27(水) 23:47

熱い。


体が熱くて堪らない。


熱が再び限界点に達する。放出されないその熱をコントロールできるのはキミだけ。
あたしはあたしの体をもはや操ることはできず、なにもかもをキミに委ねる。
だからお願い。キミなしでは生きていけないこの体を、あたしを、お願いだから。





――――――手放さないで




395 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/27(水) 23:48

「美貴っ美貴―っ」
「いやっあんっはぁんっっあぁぁぁぁーっ」


感じて。


もっとあたしを、感じて。


強く抱きしめて。


キミの全てであたしを感じてほしい。
顔にはりつく髪や背中の紅いライン、シーツに残る痕跡があたしのシルシ。
キミを精一杯に感じて意識まで放り投げてしまったあたしの、それが証しだから。




396 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/27(水) 23:48

ねぇよっちゃん、好きとか愛してるとかいう言葉じゃ足りないぐらいキミがほしいよ。どうしたら伝わる?自分でも計り知れないこの気持ちをどうやったら全部届けることができるのかな。


ねぇよっちゃん、口にするのが難しいこの想いをちゃんと受け止めてくれる?わかってくれるかな。自分でもよくわからないけど、うまく説明できないけどキミには、キミだけにはわかってほしいの。


397 名前:彼女は友達 投稿日:2004/10/27(水) 23:49

ねぇよっちゃん、運命だなんて言ったら笑われそうだけど、たぶん運命なんだよ。あたしたちがこうしてるのは。じゃなかったらこんなに誰かに溺れてる自分が信じられないもん。キミだからなんだよ。キミが必要だからなんだよ。キミに必要とされたいからなんだよ。
だからこんなあたしを呆れないでずっとずっとこのあったかい腕の中に閉じ込めておいてね。





ねぇよっちゃん、お願いだよ?





398 名前:ロテ 投稿日:2004/10/27(水) 23:49
更新終了
399 名前:ロテ 投稿日:2004/10/27(水) 23:51
レス返しを。ヘキサゴンよかったよヘキサゴン。

381>名無飼育さん
めでたいめでたいwありがとうです。
お気遣いもサンクス。まだまだ頑張りますよー。

383>名無飼育さん
よかったよかったwありがとうです。
続きもお楽しみにー。

384>名無飼育さん
最高ですかwありがとうです。今の時点でってとこが(ry
どうなるのか気にしていてくださいねー。

385>名無飼育さん
ニヤニヤニヤニヤwありがとうです。とりあえずってとこが(ry
これからもニヤニヤしてもらえるように頑張りますよー。
400 名前:ロテ 投稿日:2004/10/27(水) 23:53
続き。400ゲッツ。

386>名無飼育さん
キタヨーwありがとうです。
続きを期待していてくださいねー。

387>名無飼育さん
やったよーwありがとうです。
藤本くんをこれからもよろしくー。

388>名無飼育さん
か、か、感無量wありがとうです。
まだまだ続きますよー。

389>名無飼育さん
えがったですかwありがとうです。
二人と作者をこれからもよろしくー。
401 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/28(木) 00:38
(*゚∀゚)=3ハァハァ
今日、最高の上がある事を知りました
この気持ちをなんと表現してよいやらムハー
ご馳走様でした!
402 名前:130@緑 投稿日:2004/10/28(木) 01:01
更新、お疲れ様です。ヘキサゴン観終わって久々のレスです。
いやぁ〜、口をあんぐり開けたまま読み耽ってしまいました・・・
最高です!藤本くん良かったねぇ(泣)
これからの二人が楽しみです。
403 名前:たーたん 投稿日:2004/10/28(木) 09:37
更新お疲れ様です。
いや〜、朝、読んじゃいけませんでしたね。
これから病院なのに、心拍数が上がっちゃいましたよ!
もうロテさんったら、いや〜ん。(キショッ!ごめんなさい!)
またの更新楽しみに待ってま〜す。
404 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/28(木) 18:30
イー感じだよ二人ともw
ヘキサゴンのミキティは悪女でしたね。
まあ彼女らしいというか。
よっちゃんやらしーよよっちゃん。
405 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/28(木) 21:48
感無量、再び。
更新が嬉しすぎて仕事中もうわの空。
頭の中ほとんどみきよしです。
406 名前:ニャァー。 投稿日:2004/11/02(火) 20:22

更新お疲れ様です!!
少しこれなかった間に……
キタァァ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━! ! ! ! !
あぁ〜涙涙ですねっっ!!!w
もうっ!おめでとう美貴様vよっすぃ〜v
二人の幸せを踊りながら喜びつつ
次回の更新も待ってます!!
407 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 01:58

目を開けるとそこには白い天井。
あたしを見つめる照れくさそうなよっちゃんの顔と、その瞳に映るやっぱり照れくさそうなあたしの顔があった。
やけにニヤニヤしてるけど、頬がゆるんで落ちそうだけど、隣であたしを抱くよっちゃんが一夜明けて昨日以上にかっこよくて素敵で、とにかくやたら輝いて見えて。

「おはようハニー」
「…っはよ、ダーリン」
「ん〜いい朝だ〜」
「ニヤけてるよっちゃんがかっこよく見えるなんてあたし相当重症だ」
「んだとー!コンニャロ」
「ゃあんっ」

抱きかかえられた体勢のまま後ろから胸を揉まれて思わず声が出た。
うなじをなぞる唇が触れるか触れないかの微妙なラインでくすぐったい。

408 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 01:59

「うへへ。イイ感触」
「朝からなにすんだこのバカッ」
「イデッひどいよ美貴ちゅわん。昨夜はあんなに」
「あー!!ダメッダメッ言わないで。言っちゃやだー!」

恥ずかしさで熱くなった顔をよっちゃんの胸に埋めた。
強く抱きしめられ、より引き寄せられる。
気持ちよさに目が眩みそうになったとき頭の上から声が聞こえた。

409 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:00

「一生離れるなよ」
「オマエがな」
「昨日はすごかったね」
「オ、オマエがな」
「あのときの顔かわいかった」
「オマエ!オマエがなっ」
「愛してるよ」
「……あたしは」
「あたしは?」

たまらず顔を上げてよっちゃんの唇を塞いだ。
もうそれ以上なにか言われたら胸がドキドキしすぎて死んじゃいそうで。
ありったけの想いを込めてキスをした。

「よっちゃんなしじゃ生きていけない……かも」
「かもってなんだよー!!」

耳元で叫ぶ愛しい人に笑いながらチョップをしてバスルームに向かった。
カーテンの隙間から零れ落ちる陽の光に照らされた彼女の顔は、すごく幸せそうだった。


410 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:00

やっぱり無駄に広いバスルームは落ち着かない。
このバスタブのゆったり感からして軽く二人で入ってイチャイチャできそうだ。

ってあたし発想がよっちゃん並にエロいよー!

ダメだダメだ。あたしがしっかりしなければ二人してバカでエロじゃ救いようがない。

そこまで考えてからふと気がついた。
今まで一体何人の女がこのシャワーを使って、このバスタブの中でよっちゃんとイチャイチャしたのだろうと。そしてあの馬鹿でかいベッドも何人が…。

心にドス黒いモヤモヤしたものが充満しだす。シャワーを握る手に知らず力がこもった。
考えても仕方のないことなのについ考えてしまう。思考に際限はなく、自分では止められそうにない。鏡の中にいるのは見慣れた自分ではなく見知らぬ裸の女たち。
嫌な想像にさらに拍車がかかりそうになったところで、ドアの向こうから声がした。

411 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:01

「美貴〜タオル置いとくよ〜」
「………」
「美貴?」
「よっちゃん……」

その泣きそうな声によっちゃん以上に驚いたのは自分自身だった。

「どうした?!」

あたしと同じく裸のよっちゃんが勢いよく飛び込んできた。
すぐさまその体に抱きついてギュッと鎖骨のあたりに顔を押しつけた。
たしか鎖骨だったよね?ここ。
出しっ放しの熱いシャワーが二人の体を濡らしていく。

412 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:01

「後悔してるの?」
「ちっ、ちがっう…」
「体ツライ?」
「腰はダルイけど、でも大丈夫」
「じゃなんで…」
「ん、ごめん。なんか自分で思ってたよりあたしって嫉妬深かったみたい…」
「美貴……」
「ん、でももう気にしないから。それよりついでだから一緒にシャワー浴びよ?ね?」

思っていることを素直に口にしたら少しだけ気がラクになっていた。

今よっちゃんの腕の中にいるのはあたし。
この唇に触れられるのはあたし。
髪にキスしてくれるのはあたしだから。
紛れもなくあたしだから。


その事実に堂々と胸を張ろう。


「シャワーだけ?」

ニヤリと口元を緩ませながらあたしの体を隅々まで弄る彼女の自由な手と舌を、止める術も理由もあたしにはなかった。


413 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:02

「朝からこんなに食べれないよー」

よっちゃんが作ってくれた豪華な朝食を前にして、嬉しいのについいつもの憎まれ口を叩く。

「嬉しいくせに」

あ、バレてら。

「たっぷり運動したから食えるでしょ。むしろ美貴はもっと食ったほうがいいし」

ウインクしてパンやサラダやスープをもりもりと食べるよっちゃんを見習って、そのホテルで出されるような朝食に舌鼓を打つ。

「あたし一度家に帰らないと。着替えなきゃ」

二日続けて同じ服で会社に行くようなそんなベタな愚行を犯すわけにはいかない。

414 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:03

「うん送るよ。でもオイラは今日休むから」
「えーっ!なんで?!」
「誰かさんに激しく求められてバテバテなのよ、ヒーチャン」
「それはこっちのセリフだよ。てかなにそれ、ズル休みじゃん」
「たまにはいいだろ、ゆっくりしたって。でも会社には送ってくから心配しなくていいよ」
「えーっ…あたしも休もうかなぁ。でも今日も仕事忙しいし…」
「相変わらず秘書課は大変ですねぇ」

会社を休むよっちゃんに送ってもらうのはさすがに悪い気がしたけれど、あたしのヴィッツは昨日から大学の駐車場に置きっ放しだしかといってポルシェのハンドルを握るのは絶対にイヤだし。
迷った末にやはりよっちゃんの申し出を受けることにした。ホントのところは少しでも長く彼女と一緒にいたかったからなんだけど。


でもなんか忘れているような。


415 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:04

朝食を食べ終えてからポルシェに乗り込みあたしのマンションに向かった。
手早く着替え、戸締りを確認してエンジンをかけたまま待つよっちゃんの元へと走る。

「うぅー!寒い寒い寒い寒いぃー!」

運転席の彼女にしがみつき温かさと彼女の匂いを堪能する。
すかさず肩にまわされた腕を取り指を絡めてやや上気した頬と呼吸を落ち着かせた。

「はぁ〜夢のようだ。こんな積極的な美貴」
「夢かもよ?」
「それは困る」
「困るってなんだソレ。あははっ」
「困るもんは困るんだよー。だから覚める前に確かめさせて」
「なにを?」
「美貴を」

付き合い始めた二人の時間はいつ何時でも甘くて甘くてただ甘い。
メガネを外してからあたしの頬に手を寄せて、深く深く口づけてしっかりとあたしを味わったよっちゃんは再びメガネをかけてハンドルを握った。
その横顔をあたしは大学につくまでただぽうっと眺めていた。信号待ちのたびにこちらを向いてニヤニヤするよっちゃんにつっこむのだけは忘れずに、ただぽうっと見とれていた。キレイな横顔をぽうっと。


416 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:04

「ここでいいよ。あんまり近くまで行くと誰かに見られちゃうから」
「べつに見られても構わないけど。ま、ここは姫の仰せのとおりにしますか」

大学に面する大通りから少し離れた脇道にポルシェがゆっくりと停車する。

「と〜ちゃ〜く。帰りも迎えに来るから終わる頃に電話かメールくれ」
「わかった」
「しっかり働けよ」
「よっちゃんに言われたくないよ」

417 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:05

苦笑するあたしの唇にまた柔らかい感触。
何度味わっても甘くて美味しいよっちゃんとのキス。

なぜだかお互い急に笑いがこみ上げてきて、笑いながらキスをした。
そして鼻先をこすり合わせておでこをぴたっとくっつけた。

「いってらっしゃい」
「バーカ。誰かに見られたらどうすんの」
「いいじゃーん。むしろ自慢したいよ。オイラのカノジョがかわいすぎて困ってますって」
「もぅ〜恥ずかしいなぁ。いってきますっ」

それはこっちのセリフだよ。
あたしこそよっちゃんみたいな素敵な人、自慢したってし足りない。

418 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:06

こんなにシアワセでいいのかな。あ、あたし今シアワセなんだ。そっかそっか、シアワセってスバラシイなぁ。今にもスキップしちゃいそうなほどルンルン気分で後ろを振り返ってよっちゃんに手を振った。

満面の笑顔を返してくれた彼女を見て飛び上がりそうなほど上機嫌で歩いていたら、後藤さんの黒いラパンが駐車場に入るのが見えた。

「あ」




報告…忘れてた…。




419 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/03(水) 02:07

言いたいけど言いたくない。
自慢したいけどしたくない。
この複雑な乙女心。乙女って…石川さんかよっキショッ。

でも遅かれ早かれきっと絶対にバレてしまう。バレないわけがない。よっちゃんのあのデレデレっぷり(もちろん自分含む)では時間の問題だ。確実にからかわれて冷やかされていろんなことを問い質される予感が特大。あたしも今日くらいは会社休めばよかったかな。


でも、後藤さんや石川さんに茶化されて怒りまくって機嫌が悪くなるあたしを必死になだめるよっちゃんを想像したらすごく楽しくなった。きっと彼女はあたしのまわりをウロウロしたりオロオロしたりしながらも笑わせてくれるはず。それこそ二人に見せつけるようにイチャイチャなんかをしちゃったりするのかもしれない。それとも二人と一緒になってあたしをからかってミキティパンチをお見舞いされてるのかな?

いい大人が会社でなにやってんだろう。想像なのにおかしくて思わず笑った。


でも、なんかそういうのいいな。そういう日常がすごくいいと思った。





420 名前:ロテ 投稿日:2004/11/03(水) 02:08
更新終了
421 名前:ロテ 投稿日:2004/11/03(水) 02:10
レス返しを。

401>名無飼育さん
お気持ち十分に伝わってきました(ニヤニヤ
作者的にはヒヤヒヤな回だったのですが楽しんでもらえたようでなにより。

402>130@緑さん
口あんぐりですか、それはよかったw
これからの展開にどう反応されるか実はハラハラしてたり。

403>たーたんさん
キショい人は大々的に歓迎w
こちらにレスしていただきありがとうございます(ドキドキ
作者の心拍数もけっこう上がってますw

404>名無飼育さん
>イー感じ
まさに作者の目指すところです。
藤本くんのが実はやらしーという裏設定があったりなかったりw

405>名無飼育さん
頭の中ほとんど〜といえばプッチを思い出さずにはいられない作者です。
よっちゃんも感無量でしょうw

406>ニャァー。さん
どうか涙をふいてくださいw
ようやくここまで来ました。とりあえず今はメデタイメデタイ。
422 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 03:27
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!

なんだこのラブラブは〜ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
にやけがとまらん(>_<) 作者様、最高っすww
423 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 11:05
更新お疲れ様です。
朝から顔がゆるみっぱなしですw
この二人大好きです!!
424 名前:ニャァー。 投稿日:2004/11/03(水) 11:27

更新お疲れ様です!!
あ〜可愛いv美貴様乙女〜っwナニゲ「オマエがな」がえしでたしw
今後の展開もすごく楽しみにしてますよ〜v
次回も更新頑張って下さい!!
425 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 19:15
なんだこん畜生ー
すげぇいい気分なんですが?こっちまで幸せなんですが?
いいねーいいねー
バカップルぶりもっともっと見たいです(*´Д`)ポワワ
426 名前:名無し 投稿日:2004/11/03(水) 19:52
やっぱり この二人でいいっすね!
期待してます!!
427 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 02:51
甘いアマイあまいAMAIamaiあぁぁぁぁーーーまぁぁぁーーーいぃぃぃーーー!!!!!
口から砂が大量噴出ですよ!!!!
そして藤本のほうがエロの裏設定
大賛成です。
逆に吉澤のほうが淡白で美貴様誘い受けならなおヨロ氏




しかしてその実態は・・・・・・現実の方が凄まじかったです、ぴーかん。
ちなみに>>412のラスト三行をユニ着たままでしてました。
自分の中でラスト三行のビジュアルは吉澤の表情を含めてまんまあんな感じですが、
作者様の頭の中の映像には限りなく近いでしょうか?
428 名前:たーたん 投稿日:2004/11/04(木) 15:49
更新お疲れ様です!
いや〜ん、ちょっと〜!
ミキティーが可愛くて、またクネクネしちゃいました。
ロテさんのみきよし最高です!
またの更新楽しみにお待ちしてますね〜
429 名前:ドラ焼き 投稿日:2004/11/07(日) 01:16
今いっきに読まさせていただきました。
おもしろい!ほんで甘いっすね〜!!もう口元緩みっぱなしです。
次の更新待ってます☆
430 名前:始芽 投稿日:2004/11/09(火) 18:17
はじめまして。
みきよしを探していたら偶然発見!!
すっごい楽しませてもらってますw
やぁ、もぉ。甘くて甘くてww
真面目な顔で読めないですね。笑
次回の更新、楽しみに待ってます☆★
431 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/10(水) 00:07

朝からずっと、ソワソワしていた。何度も時計を見た。
落ち着きのないあたしを見てなにかを悟ったのか或いは彼女なりの気遣いなのか、後藤さんは特になにも追及しようとはせず、その態度にあたしは少々拍子抜けした思いだった。

課長にデータ処理を頼まれても海外からのメールを訳していても、考えるのはよっちゃんのことばかり。
仕事の合間の休憩時間にお喋りしていても、受付でお客様の対応をしていても思い浮かぶのは昨夜の情景。
よっちゃんのあたしを求める熱い瞳が心に焼きついて離れない。

早く時間が過ぎますように、早くよっちゃんに会えますようにと祈るばかりだった。


432 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/10(水) 00:08

「あれ?保田先生」
「あら藤本」

今か今かと時計を睨み続けるのにもさすがに飽きたので、散歩がてら中庭をウロウロしていたら見慣れた背中を見つけ声をかけた。

「今出勤ですか?」

時計は午後の1時を指していた。午前中に有給でも取ったのだろうかと思い尋ねた。

「朝からいるわよ。どうして?」
「だって白衣着てないから」
「ああ。ちょっと外で食べてきたから」
「そうですかー」

ぽかぽかと暖かい日差しが降りそそぐ中を二人してなんとなく歩いた。
昨日の雪のかけらは微塵もない。すっかり茶色く変色した芝生が季節を物語る。

433 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/10(水) 00:09

「あたしがこんなこと言うのもおかしな感じなんだけど…よかったわね。ひとみとうまくいって」
「なんで知ってるんですかー!!」

もうよっちゃんから?いくらなんでも情報伝わるの早すぎじゃないですか?

「もしかして外で食べたってよっちゃんと?」
「うん。まあ。ちょっとした用事で」



ショック…。



どうしてあたしを誘わずに保田先生なんかと。なんかって失礼か。
でもでも、カノジョを差し置いてそれはないんじゃない?よっちゃんはあたしに会いたくないわけ?

あたしがよっぽど恨めしそうな目をしていたのか保田先生は慌ててフォローした。

434 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/10(水) 00:10

「本当に用事があったのよ。アイツにとっては大切なね。藤本も帰ればわかるわよ」
「はあ」
「それにしても…あんたも大変ね。なにかと」
「またそういう意味深なことを」
「とにかくなにか困ったことがあったらいつでも電話しなさい。あたしが教えてあげられることなんて微々たるものだけど、それでも聞いてあげることはできるから」
「ありがとうございます。でも先生言ってることがよくわからないんですけど」
「いつかわかる日が来るわよ。まあ来ないほうがいいんだろうけど」

歯周病科の手前で保田先生と別れた。
彼女の言った言葉の意味を考えようとしたけれど、すぐによっちゃんの笑顔が出てきてあたしの思考をストップさせる。また昨夜の出来事にトリップしてしばらくニヤニヤしながら散歩の続きをしていると、ポケットの携帯が着信を知らせた。

435 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/10(水) 00:10

「藤本さーん、どこにいるのぉ?」
「えーと西館の4階、いや5階かも」
「どこでもいいけど早く帰ってきてー。ウォルシュ教授が予定より早く着きそうなんだって。おまけに課長が急な出張でもうすぐ出るって言うから」
「わ、わかった。すぐ戻る」

今にも泣き出しそうな石川さんの声を聞いて我に返った。
そうだ、こんなことしてる場合じゃない。仕事仕事。仕事しなきゃ。

心持ち小走りで階段を降り廊下を抜け南館に入った。
人事課の前を通り過ぎようとしたその時、ちょうどドアが開き中から人が出てくるのが見えた。
すれ違い様にその人物と肩が少し触れた。

「あ、すみません」
「いえ」

一言謝り、また秘書課に向けて走り出した。

436 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/10(水) 00:11

よく見えなかったけどわりとかわいい顔立ちの、目が印象的な女の子だった。
ひょっとしたら女の子と言うには失礼な年齢かもしれない。スーツを着ていたし、人事課から出てきたということは来年度の新入社員か、それとも派遣社員の人かもしれない。

いずれにしてもよっちゃんならなにか知っているだろう。一応理事長の縁故という立場上、社内人事のことは早くから耳に入るらしいし、なによりかわいいコには敏感だ。とそこまで考えたところで胸の辺りがムカムカしてきた。なんだかイライラもする。こんな些細なことというか、自分の想像の中でよっちゃんとあの見知らぬ女の子のありもしないことに嫉妬する自分に呆れ返った。



はぁ〜あたしヤバイくらいハマってる。つくづくそう思った。


437 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/10(水) 00:12

「それじゃ藤本くん、あと頼んだよ」
「理事会の例の資料は各講座に依頼済みですので」
「おおそうか。助かるよ。明後日の午後には一度こっちに顔出すから」
「はい。わかりました。お気をつけて」

課長を送り出しひと息つく間もなく声がかかる。

「藤本さーん、例の決裁なんだけど」
「あー忘れてた。ごめんすぐ上げる」

やっぱり今日も忙しい。暢気に散歩なんかしてる場合じゃなかった。まだ他にもやらなきゃいけないことはたくさんあるし、サクサクこなさければ定時に帰るなんて到底無理。だってもうほらいつのまにか3時だし。さっきは時間が早く過ぎてほしくてたまらなかったけど、こうなると一分一秒が惜しい。

438 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/10(水) 00:13

早くよっちゃんに会うために頑張らなきゃ。会ったらまず抱きしめて、よっちゃんの匂いをいっぱい吸って、顔に触れて髪を指でかきまぜて…耳を甘咬みされたらもうダメ、きっと立ってられなくなる…それからあの冷たい唇に…

「…さんっ、藤本さんってば!」
「えっ、なに?」
「やったほうがいいんじゃない?決裁」
「あー!!」

そうだった…うわっなにも進んでないじゃん。

あたしってバカ?バカっていうかエロ?はぁ、仕事しよ。


439 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/10(水) 00:13

その後何度も誘惑に駆られよっちゃんとのいろんなことを妄想しながらも、とりあえず8時前には今日しておかなければならないことを終え、着替える前によっちゃんに電話することができた。メールにしようかと一瞬迷ったけど、やっぱり魅惑のよっちゃんヴォイスが聞きたいわけで。

すぐに行く、という彼女の声を聞いた途端ウキウキ気分が再浮上して、あろうことか石川さんにキショイと言われた。寄りによって一番言われたくない人に指摘され、よっちゃんが来るまでの間あたしがどっぷりと落ち込んでいたのは言うまでもない。





440 名前:ロテ 投稿日:2004/11/10(水) 00:14
短いですがキリがいいので更新終了
441 名前:ロテ 投稿日:2004/11/10(水) 00:15
レス返しを。

422>名無飼育さん
激しく萌えていただきなによりです。
ラブラブは難しいのでこれが限界かもw

423>名無飼育さん
ありがとうございます。
今後とも二人と作者をよろしくw

424>ニャァー。さん
そうです美貴様は乙女なのですw
可愛く書けていたでしょうか?
今後の展開は…悪い意味で裏切らなければいいのですがw

425>名無飼育さん
幸せですかー?イイヨーイイヨーw
バカップルぶり…うーん、まあいずれ(ry

426>名無しさん
いいっすかw
ほどほどに期待していてください。
442 名前:ロテ 投稿日:2004/11/10(水) 00:15
続き。

427>名無飼育さん
お、落ち着いてくださいw
大賛成してもらったので美貴様はエ(ry設定で。
ぴーかんは凄まじい衝撃でした。吉の顔はまんまあれですw
リアル美貴様のほうがうちの藤本くんよりも積極的な気が(ry

428>たーたんさん
存分にクネクネしちゃってくださいw
可愛いと言ってもらえて嬉しいです。

429>ドラ焼きさん
一気読みお疲れ様です。
お褒めの言葉ありがとうございます。
これからもよろしくです。

430>始芽
はじめましてロテです。
偶然発見してもらえてなによりです。
書いてるほうはわりと真面目な顔でやってますw
これからもよろしくです。
443 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/10(水) 04:47
更新お疲れ様です。

美貴様エロぃですね〜
よっちゃん超えてますねww
444 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/10(水) 15:58
ミキティが恋をするとこんなんなるんでしょうかね〜
いいっす作者様。
445 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/10(水) 16:30
一気に読ませていただきました。
おもろいですね。
446 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/10(水) 20:43
うわっ、いいとろこで
それにしてもやすすの言葉が気になる
447 名前:始芽 投稿日:2004/11/10(水) 22:59
更新お疲れ様です。

すっごい気になる!続きが気になる。
ハマり過ぎちゃってる美貴ちゃんがめっちゃ可愛いですww
こちらこそ、これからもよろしくです。

448 名前:130@緑 投稿日:2004/11/10(水) 23:53
更新、お疲れ様です。
素でエロ進化を始めた藤本くんが何とも可愛くてなりません!
ぴーかんのみきよしに眩暈を覚えた今日この頃、ここでもヤラレました。
幸せMAXなはずなのに、435-436あたりでもどこか不穏な空気を感じますね。
(ヤッスーはキーパーソンなのかな?)
次回も楽しみにしております。
449 名前:たーたん 投稿日:2004/11/13(土) 10:22
更新お疲れ様です。自分では即レスしたつもりだったのに・・・。
なんておバカなんでしょう・・・。
書きたい事は山ほどあるんですが、書き始めたら止まらないので
とにかく次回の更新をまったりのんびりお待ちしてます。
みきよし最高!
450 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:29

「なにこれ」
「なにって見ればわかるじゃん」
「ジャガー、だよねぇ」

あれ?ポルシェはどうしたのさ。今朝まで乗ってたあの黒くてかっこよくて、そのハンドルを握るよっちゃんのが数倍かっこいいあのポルシェは?ブルーの縁なしメガネをかけてハンドルを握る姿がやたら知的に見えてかっこよすぎるよっちゃんの、あのポルシェは?

「2週間くらいこれでガマンしてよ」
「ポルシェはどうしたの?」
「いや実は新車買ったんだ」
「これ?」
「んにゃ、これは圭ちゃんの」

451 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:29

保田先生のジャガーとは。意外。
もっとゴツイ車に乗ってそうなイメージなのに。レンジローバーとか。

「だからポルシェはどうしたのよ」
「だから圭ちゃんとこ」
「ふぇ?」
「納車まで圭ちゃんと車交換したんだ」

昼間の保田先生の話を思い出す。ちょっとした用事ってこれ?
ん?でもなんで?なんで新車が来るまでポルシェ乗らないの?

あたしの心の声が聞こえたのか、よっちゃんは助手席のドアを開けながら説明してくれた。

452 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:30

「知り合いのディーラーにかなり無理言ったんだけどやっぱり時間かかるみたいでさ、でももうあのポルシェには美貴を乗せたくなかったから圭ちゃんにも無理言って昼に呼び出して交換してもらった。ま、元々圭ちゃんはあたしのポルシェ狙ってたしあたしも昔からこのジャガー乗ってみたかったし」
「なんであたしをもうポルシェに乗せたくないの?」
「いやだって…あの、あれにはいろんな人が、その、乗ったわけで…なんつーか」

ごにょごにょと言いよどむよっちゃんを見てこれが彼女なりのけじめなんだとピンときた。
あの何人もの女が身を沈めたシートと決別するための。

バカだなぁ。
ここまでしなくてもいいのに。ホント、やることが極端なんだから。

453 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:31

…でもやっぱり嬉しい。

胸が熱くなって思わずよっちゃんの横顔にキスをした。
その拍子に彼女のメガネが面白いようにズレてまるでコントみたいになった。

「あっぶね。コラ美貴!運転してるときはマズイって」
「だって嬉しかったんだもん」
「うん、まあね。エヘヘ…。あ、新車の助手席には美貴しか乗せないからな」
「新車ってなに買ったの?」
「黒のコルベット。超かっけーの。前から欲しかったし」

あんな派手な車で毎日出勤するつもりですかキミは。よっちゃんに似合いまくりだけど。


454 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:31


でも、新車の助手席にあたししか乗せないってホントかな?

信じていいのかな?

期待しちゃっていいのかな?

愛されちゃってるって思っちゃうよ?


一体誰がそのシートに身を沈めたのか見当もつかないジャガーの助手席で、あたしは朝と同じようにひたすらよっちゃんの横顔を眺めていた。ずり落ちたメガネを中指でクイッと上げる彼女の姿に見とれながら。意識しなくても湧き上がってくるシアワセってやつを噛み締めながら、ずっと。


455 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:32

「で、ここはどこ?」
「どこって見ればわかるじゃん」
「うちの近く、だよねぇ」

よっちゃんオススメの和食屋さんで少し遅い夕食をとった後、連れられた先はあたしのマンションから目と鼻の先のちょっとした高級マンションだった。勝手知ったる我が家のようによっちゃんは駐車場にジャガーを停めて、また助手席のドアを開けてくれた。

「もしかして隠れ家?」
「なわけねーだろ。まあとりあえず入って」

456 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:32

エレベーターはかなり上で止まった。何階か確かめられなかったのはその鉄の箱の中でよっちゃんにずっと抱きしめられていたから。温かい腕の中で今日の出来事やお昼になにを食べたとか、ずっとよっちゃんのことを考えてて仕事が手につかなかったとかを報告する。

そしてよっちゃんは答えるかわりにキスをくれた。触れるだけの優しいキスを。ちゅっとわざと音を立てて唇やほっぺや額や瞼や鼻の頭なんかにもキスを落とす。耳たぶを甘咬みされて声を漏らした。
自分でも気づかぬうちにそういう顔つきになっていたのかもしれない。

「続きは部屋で」

エレベーターを降りるとき耳元でそう囁かれた。


457 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:33

「じゃーん。どう?新居は」
「しんきょぉぉ?!」
「そう。思い立って引っ越してみた」

すごい行動力。とにかく唖然。
車だけじゃなく引越しをたった一日で…。
でもなんで?なんで急に。

「どうしたの一体」
「や、今朝ね、なんとなく引越したいなーって思って。一日で終わるかどうか微妙だったけど幸い自分の荷物ってそんなにないし、ここも親戚筋が所有するマンションだから手続きも簡単に済んだし。ま、終わらなかったら明日も会社休めばいいかなって」
「そうじゃなくて。なんで引っ越そうと思ったのよ」

言いながら思い当たる。まさかまさか。
もしかしてシャワーでのことが原因なの?
まさかそんな。あれくらいのことで。そんなこと。

458 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:33

「よっちゃん、今朝のこと気にしてるの?」
「…美貴に嫉妬してもらえるのは嬉しいけど、あんな涙声ベッド以外でもう聞きたくないからさ」

そう言ってあらぬ方向に顔を向けるよっちゃんの耳は真っ赤で、柄にもなく照れてるんだとわかったら急にすごくからかいたくなった。

「よっちゃんあたしのためにここまでしてくれたんだ」
「う、うん」
「そんなにあたしのこと好き?」
「わかってるくせに聞くな」
「あたしなしじゃ生きていけないんでしょ」
「そうだよっ!悪いかっ」
「かわいいねーよっちゃん」
「ったく人をからかうなっつの」

腰を引き寄せられ今度は濃厚なキスをされた。服の上からでも十分に感じるほど胸を弄られ首筋を冷たい唇が這う。さっきの余韻がまだ残る体に一気に火がついた。

459 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:34

「はぁんっ」
「ガマンできない。美貴がほしい」

早くベッドに行こう、といわゆるお姫様抱っこをされてあたしはその新居を見てまわる前にいきなりベッドルームに直行した。そこには見慣れたキングサイズのベッドがあり、怪訝に思って彼女の顔を覗き込むとまたキスをされた。手早く服を脱がせながらよっちゃんは説明する。

「ベッドはね、こないだ買い換えたばかりだったから同じなんだ。だから美貴しか使ってないよ、このベッド。それにこうやって誰かを抱き上げたのも実は美貴が初めて」
「はぁ〜どうしよよっちゃん」

あっという間に下着姿にされ、あたしはよっちゃんの首に両手をまわした。

「ん?」
「幸せすぎていいのかなって。少し怖いよ」
「これからもっと幸せにしてあげるから」
「ホントに?」
「だからオイラのことも幸せにしてよ?」
「うん。よっちゃん、大好き」

話しながら服を脱いでいるよっちゃんにキスをする。
舌を絡ませ、歯列をなぞり、唇を甘咬みした。
よっちゃんの両手が滑らかにあたしの体を動き回りあっという間に下着を剥ぎ取る。

460 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/16(火) 23:34

すでにあたしは頭の芯がじんじんと痺れていた。
どうしてだろう。どうしてこんなに。
よっちゃんに触れられるだけで何もかもがどうでもよくなるほどに感じてしまう。
魔法のような両手が、舌が、あたしの体中を這い回る。

「ゃぁんっ…はあぁぁん…」
「二人なら怖いことなんてないよ」

すでに溢れるほどに潤ったあたしの中心に手を滑り込ませながらそう囁いたよっちゃんの言葉は耳に届いてはいたけれど、でも理解する余裕はあたしにはすでになくて。

「あんっあんっ、はぁんっあぁぁぁ」
「美貴…かわいいよ。好きだよ美貴、美貴」

あたしの名を呼ぶ愛しい人の声だけがいつまでも耳の中にこだましていた。





461 名前:ロテ 投稿日:2004/11/16(火) 23:35
更新終了
前半短く区切りすぎたかも。反省。
てか更新量少なかったかも。反省。
462 名前:ロテ 投稿日:2004/11/16(火) 23:36
レス返しを。

443>名無飼育さん
なかなか微妙な時間に読んでいますね〜。
美貴様はよっちゃん以上に溜まってたのかもしれませんw

444>名無飼育さん
恋は人を変えますからね〜。
いいっすか、なによりです。

445>名無し飼育さん
一気読みお疲れ様です。
今後ともよろしくお願いします。

446>名無飼育さん
思わせぶりなセンセーですハイ。
言葉の意味がわかるのはもう少し後です(たぶん
463 名前:ロテ 投稿日:2004/11/16(火) 23:37
続き。

447>始芽さん
前回のレス返しでおもいっきり呼び捨てにしてたことに
さっき気づきました。申し訳ありません。
これに懲りずにまた読んでもらえたら嬉しいです。

448>130@緑さん
エロ進化wちょっと笑えます。
不穏な空気ですか〜エヘヘw
保田先生は間違いなくキーパーソンです(たぶん

449>たーたんさん
いえいえ即レスだろうと亀レスだろうとオールオッケーです。
楽しみにしていただいてなにより。
山ほどある書きたいことというのが気になりますがw
464 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/17(水) 00:20
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
もうなんだ、何も言う事はない
作者さん、ありがとう
読者もシアワセにしてくれてありがとうw
465 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/17(水) 17:30
幸せそうだぁ二人ともw
作者様ありがとうございます
466 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/17(水) 19:26
連日更新お疲れ様です。

も〜よちゃんさんやさしいですね〜ww
お互いにメロメロな感じでいいです(*´Д`)ポワワ
がんばってください!
467 名前:130 投稿日:2004/11/20(土) 01:04
更新、お疲れ様です。
メープルシロップのようにグニャグニャになった藤本くんが非常に可愛いです。
一気に進んだ分、その反動が気になりつつありますが、何はともあれ
みきよし最高ってことでw
末永い二人のシアワセを願っております。
468 名前:たーたん 投稿日:2004/11/20(土) 10:23
更新お疲れ様です。
朝っぱらからニヤニヤしてしまいました。
ロテさんのエッ○ー!
今回も山ほど書きたいですよ!
別に指摘とかじゃないんで、誤解しないでくださいね。
私もみきよしの妄想に耽ります・・・
またの更新を楽しみにまったりとお待ちしてます。
469 名前:ニャァー。 投稿日:2004/11/20(土) 13:20

更新お疲れ様です!!
幸せそうなお二人さんwよいですね〜v
こっちがニヤニヤしてしまうぐらいに
可愛い美貴様wそしてかっこいいよっすぃ〜w
ロテさんはとても美貴様を可愛く書けるプロですよっ…w
次回も更新楽しみにしています!!
470 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/23(火) 19:49

意識を取り戻したとき、すでに時計は夜中の1時を指していた。あたしを抱いたまま寝息を立てているよっちゃんを起こさぬようそっとベッドから抜け出す。汗を流そうとバスルームを探して裸のまましばらくウロウロしていた。そんな自分の姿が間抜けに思えて声を出さずに笑った。

やっぱりというか予想どおり広いバスルームで熱いシャワーを浴びた。今朝と似たシチュエーションながら別の場所で、でも家主は同じなのが不思議な感覚だ。あのときは嫌な気持ちでいっぱいだったのが今は違う。湯気で曇る鏡を手でこすり、そこにいる人物をじっと眺めた。まぎれもなく自分だ。ほかの誰でもない自分の姿をそこに見て、安堵する。この場所はあたしのものなんだと、よっちゃんが与えてくれたあたしたちだけの場所なんだと実感していた。

ベッドに戻り眠るよっちゃんの安らかな顔をまじまじと見た。この寝顔を独占できる今このときを、いるかいないかわからない神に感謝する。よっちゃんがそばにいてくれるだけで、それだけで十分だと思っていたのに。あたしのために引越しをして、車を買い替え、この上なく優しく気持ちよくしてくれるよっちゃんをもっともっと独り占めしたいと思うから、人間って、あたしってなんて欲深いんだろう。


471 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/23(火) 19:50

「ん…美貴?」
「なあに。よっちゃん」
「ん〜好き」
「あたしも大好きだよ」

まどろみの中でもあたしの存在を確かめようと両手を動かすよっちゃんが愛しくて、その手をしっかりと掴んだ。長くてキレイな指に唇を落とす。大胆に、ときに繊細にあたしを翻弄するこの指にそっと。

「そんなことされたらすっかり目が覚めちゃったよ」
「だってわざとだもん」
「んだとー!人が気持ちよく寝てるのにぃ」
「一人で起きてるのつまんなーい。よっちゃんお喋りしようよ」
「あのね、こーんな時簡にエッチするならともかくお喋りって。かわいいこと言うね、藤本くん」
「あ、藤本くんって言った」
「うん?それが?」
「あたしを昨夜抱いてから初めてだよ『藤本くん』って。ずっと美貴だった」
「えぇー。そうか?全然意識してなかったよ。で、どう呼ばれたいの藤本くんは。なんか昨日もこんな会話したな、そういえば」
「よっちゃんの好きに呼んでくれていいよ」

472 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/23(火) 19:50

かつて彼女のことを『ひとみ』と呼んでいた人物がいたのかいなかったのか、いたとしてもどういう関係でなにがあって彼女にあんな顔をさせるようになったのか、知りたかったけど今はいい。今はこの二人の時間を大切にしたいから。

「ねぇよっちゃん、昨日後藤さんがチュウしたでしょ?あたしに」
「あー思い出すだけで腹立たしい」

そう言って眉間に皺を寄せながら腕を組む姿はまるでお父さんのようだった。

「なーに笑ってんだよっ」
「だってよっちゃんお父さんみたいなんだもん」
「はぁ〜お父さんですか」

しょんぼりして肩を落とす姿はヴィンセントそのもの。おかしくてまた笑った。

473 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/23(火) 19:51

「で、その後藤さんにチュウされてなんだよ」
「あのときあたしがほっぺにチュウしたらよっちゃん壊れちゃったでしょ。なんで?」
「オイラ壊れてなんかないっ」
「壊れてたっつーの。目の焦点合ってなかったし、呼んでも全然返事しないし」
「う〜ん…たぶん美貴からああいうことされたの初めてだったから意識飛んじゃったんだよ、きっと」
「あれだけのことで?」
「だってオイラがどれだけ我慢に我慢を重ねて悶々とした日々を過ごしてきたか」
「男子中学生かよっ」

ペチッ

「イチャイ」
「我慢してたの?」
「だいぶね」
「でも受付でキスしたよね?」
「あ、あれはつい…だって美貴元気なかったし。そういやなんであんな落ち込んでたの?」
「ナイショ」
「ちぇっ」

474 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/23(火) 19:51

ケチ、と口を尖らせてふとんをかぶり、拗ねる彼女に本当のことを言おうと思ったけどそれはまたいつかのときに取っておくことにして、唯一覗かせている髪にキスの雨を降らした。

「よっちゃーん」
「ん〜なんですかお姫様」

機嫌を直した恋人におねだりをする。

「喉渇いたー。マティーニ作ってー」
「ほいほいお姫様。その前にシャワー浴びさせて」


よっちゃんがシャワーを浴びている間、バルコニーから遠く大学まで見えるその景色を堪能した。今さらながらこの部屋がかなりの高さにあるとわかった。くしゃみをひとつして部屋に戻る。さすがにこの季節にバスローブ一枚で外に出るのは無謀だった。でもしんと冷えた空気の中で星がびっくりするほどキレイに瞬いていたから、窓を閉めてもあたしは中から空を眺めていた。

恋をすると世界が違って見えるなんて、幻想だと思っていた。毎日眺めていた空の星がこんなにも違って見えるのはやっぱりよっちゃんマジックなのかな。そんな石川さんでもさすがに考えなさそうなことを普通に思えるくらいあたしはこの恋にどっぷり溺れているらしい。


475 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/23(火) 19:52

「保田先生がね、困ったことがあったらいつでも電話してって言ってた」

マティーニとウィスキーを両手にベッドルームに入るよっちゃんの後ろを追いかけた。

「ったくおせっかいだな、圭ちゃんは」
「心配してくれてるんだからありがたく思いなさいよ」
「昔っからそうなんだあの人は」
「そんな顔しないの」

しかめっ面でウィスキーを傾ける彼女の眉間の皺を指で伸ばしてあげた。

476 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/23(火) 19:52

「そんなに保田先生にお世話になってたの?」
「まあちっこい頃からよくしてもらってはいたけど…」
「ロンドンでも?」
「あー…うん」
「聞いちゃまずかった?」
「んなことないけど。向こうに住んでたときちょうど圭ちゃんもロンドンクリニック勤務でさ。いろいろあったけどもう全部昔の話だよ」
「よっちゃんその頃好きな人いた?」

せっかく伸ばしてあげた眉間にさらにいっそう皺が寄って、こんなこと初めてだったけど、少しだけよっちゃんが怖いと思ってしまった。その只ならぬ雰囲気に圧倒されて。

「さあ。どうだろう…いたといえばいたかな」
「ごめん。変なこと訊いて」

477 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/23(火) 19:53

こちらを向いたよっちゃんはいつものよっちゃんで、なぜか頭をクシャっと撫でられた。

「どうせ圭ちゃんが余計なこと言ったんだろ?べつにいいよ。もうなんとも思ってないから。ちょっとした失恋をね、したんだ。向こうにいるとき。その傷があんま癒えなくてしばらく誰も好きになれなかった。まだ今より全然ガキだったし。よくある話だよ」

言いながらよっちゃんは肩に手をまわしあたしを抱き寄せ、耳にキスをしてくれた。

「でも美貴に会って…美貴がいるからもう大丈夫。美貴はオイラの心のオアシスだよ」
「光栄です」
「ありがたく思えよ?」
「調子に乗るなっ」
「アイダダ」


478 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/23(火) 19:53

初めてよっちゃんの口から過去の話の片鱗を聞いて、嬉しいというよりも釈然としない思いが実はあった。ただの失恋にしてはよっちゃんの傷は深すぎるような気がした。大丈夫という彼女の言葉を信じたいけどできなかった。信じるのが難しいほど彼女の瞳は哀しい色をしていたから。



かつて彼女のことをファーストネームで呼んでいた誰かが彼女にそんな仕打ちをしたのなら、あたしは彼女と共に生きてその傷が癒えるまで髪を撫でてあげよう。この手に抱いていてあげよう。いつまでもそばで笑っていられるように、いつかその傷が完全に癒えるまでキスをしてあげよう。





キミの笑顔のために、星の数だけキスを降らそう。





479 名前:ロテ 投稿日:2004/11/23(火) 19:54
更新終了
480 名前:ロテ 投稿日:2004/11/23(火) 19:55
レス返しを。

464>名無飼育さん
いえいえこちらこそ読んでくれてありがとう。
これからも何か言ってくださいw
まだまだ続きますので今後もよろしく。

465>名無飼育さん
いえいえこちらこそレスしてくれてありがとう。
読者の皆さんも幸せそうでなによりw

466>名無飼育さん
ハイ!まだまだ頑張ります。
メロメロさ、出てましたか。よかったw
これからもお付き合いのほどよろしく。

467>130さん
いつも感想ありがとうございます。
甘いかな?甘くなってるかな?とビクビクしつつ書いてますw
>みきよし最高
これに尽きますね。ホントに。

468>たーたんさん
書いてるときは実はそれほど思わなかったのですが
読み返してみるとホントだ…エロい…(汗
いやいやたーたんさんもなかなかエ(ry
山ほど書きたいこと…今度じっくり伺いますw

469>ニャァー。さん
いつも楽しみにしてくださってありがとうです。
美貴様が可愛く書けてるという言葉だけで感無量です。
嬉しいですね。存分にニヤニヤしてください。
あっでもそろそろ展開が(ryなんつってw
481 名前:ロテ 投稿日:2004/11/23(火) 19:56
少なかったかな。申し訳。
次回は長めに(たぶん
482 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/23(火) 21:34
ふぅ〜w
まだ甘々ムードから抜けられてない二人…♪
483 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/23(火) 23:07
幸せで何も言うことはなんだけども
やっぱりミキティと同じくよっちゃんの過去が気になる
こわひよ、こわひよぉ・・・
半々な気持ちで読んでまふ
でも、面白さに変わりはない
484 名前:ニャァー。 投稿日:2004/11/23(火) 23:57

更新お疲れ様です!!
ラブラブなお二人様ゴチですw
>あっでもそろそろ展開が
何て言われちゃって今からハラハラ!ドキドキw
この二人の今後がますます気になりますです……w
次回も更新頑張って下さい!!
485 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/27(土) 23:08
ミキティなかなかロマンティストですね〜w
も〜星の数だけキスを降らしてください。
486 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:32

シアワセな日々は特に意識しなくてもあっという間に過ぎ去って、日常となる。当たり前のようになった日常ってヤツをありがたく思うことも忘れ、その貴重な、感謝すべき日々の上に胡坐をかき当然とばかりに踏ん反り返っていると往々にして落とし穴が待っている。そういうことの繰り返しなのかもしれない。人生って。でも今回のこれはあたしにとって、そしてよっちゃんにとってかなりヘヴィーであることは間違いなかった。


よっちゃんの異変にあたしが気づけなかったのはべつにシアワセボケをしていたからではなく、その笑顔の下に巧妙に隠された怯えのようなものを彼女が完璧なまでに隠し通していたからだと思う。


487 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:33

大学入試センター試験も終わりいよいよ一般入試に入ろうかという2月の上旬、あたしは相変わらずよっちゃんの部屋にいて入試課で毎日遅くまで仕事をしている彼女の帰りを待っていた。
時折ウトウトと夢と現実を行き来しつつも、忠犬のようにただ待っていた。

ガサガサとなにか騒がしい物音がして目を覚ました。
よっちゃんが帰ってきたのだろうと思いしばらくソファーでゴロゴロしながらさらに待った。
それでも一向にこちらに来る気配がなく、ガタンとドアの閉まる音や微かな水音もして、一体なにをやっているのだろうと不思議になり痺れを切らして腰を上げた。

「帰ってきたらまずおかえりのチュウなのに」

このときのあたしは暢気にもこんな不満を独りごちていた。

488 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:33

上着やバッグが点々と落ちていた。トイレのドアの隙間から光が漏れ、長い足がはみ出している。
心配になりそっと中を覗くとベロンベロンに泥酔した彼女の姿がそこにあった。

「酒くさっ」

室内はアルコールの臭いでむせ返るようだった。当の彼女は便座を抱き、ガックリと首を落として意識は朦朧としている。この状態でよく運転して帰ってきたものだとある意味感心した。けれど翌朝駐車場にコルベットがなかったのでどうやらタクシーを使ったのだとわかりその点ではホッとしたが、このときのあたしはまだその事実を知る由もなかった。

489 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:34

「よっちゃん、よっちゃん?」

目はしっかりと閉じられている。唾液で濡れた口をトイレットペーパーで拭ったとき涙の痕跡を見つけた。

「よっちゃん起きてよ〜」

再び声をかけ、頬を軽く叩いたがうーんと唸るものの立ち上がる気配は全くなかった。
仕方なく肩を抱きトイレから引っ張り出した。こう見えてもあたしは力強い。だてに暴れる甥っ子たちを何度もお風呂に入れていない。それに最近のよっちゃんはまたいっそう痩せて、身長はあたしより断然高いのに体重はひょっとしたら同じくらいなんじゃないかと思われるほど軽かった。

ベッドに横たえ服を脱がした。水を持ってこようと立ち上がりかけたときふいに手首を掴まれた。そして彼女はか細い声でたしかにこう言った。

「プリーズ…」





490 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:34

兆候はほかにもあった。夜なにかの拍子でふと目を覚ますと隣にいるはずのよっちゃんがいないことがあった。すると決まって彼女は真っ暗闇の中でウィスキーを片手にどこか一点を見つめていた。場所はその時々で違っていた。キッチンであったりリビングであったり。バルコニーでそうしているときもあり、さすがに冬の寒空の中にいつまでもいては風邪をひくだろうと、心配して声をかけると彼女は空ろな表情でただ黙って中に入った。

そんな状態で十分な睡眠など取れるはずもなく、彼女は慢性的な睡眠不足になっていた。朝起きると目が真っ赤に充血していてその目の下にクマを作り、会社に行くのもしんどいといった面持ちだったけど、毎朝あたしをコルベットに乗せて出勤するのだけはやめなかった。恭しく助手席のドアを開け、仕事で遅くなるとき以外は帰りの時間も合わせあたしを家へと運んだ。まるでそれだけは自分の役目だと信じて疑わないかのように。

491 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:35




「よっちゃん最近ヘンだよ。どうしちゃったの?」
「そんなことないよ。藤本くんの思い過ごしだって」




「夜ちゃんと寝てないよね?あたし知ってるんだよ。眠れないの?」
「元から寝つきが悪いんだ。大丈夫だから心配するなって」




「いつもお酒ばっかり飲んでない?ちゃんとこっち見てよっ!」
「見てるよ。いつも美貴のことしか考えてない。美貴がいればそれだけでハッピーさ」




492 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:36

なにを言ってものらりくらりとはぐらかす彼女に内心は相当腹が立っていた。それでもあたしは彼女の部屋で寝泊りし、仕事以外では彼女のそばにずっといた。少しでも目を離したら彼女が消えてしまいそうで、見失ってしまいそうで怖かったのかもしれない。ふわふわと掴み所のなくなった彼女を引き止めておくのにあたしは必死だった。でもそばにいることしかできなかった。


そうしていつしかあたしの中で諦めムードが漂い始めていた。時の流れに身を任せ、なるようになれと思う日もあればこのままじゃダメだ、なんとかしなければと腕組みをしながら広い室内をウロウロと一人で歩き回る日もあった。考えても考えても打開策はなく、解決法も見つからなかった。考えたって無駄なことなのに。自分が頭を捻って答えが出るという問題ではないのに。ただ勇気がないだけなのに。


体を重ねても、彼女はまるでそこにいないかのように心を感じられなかった。それが悔しくて寂しくて、そんな彼女の指や舌にも感じてしまう自分の体がたまらなくイヤで、彼女の温もりだけが残るベッドで涙した。
そんなときでも彼女はどこか違う場所でウィスキーを傾けていて、二人の距離を物理的に縮めることはできてもいつのまにかできてしまった心の溝を埋めるには一体どうしたらいいのか、床に転がったウィスキーの空き瓶を見つめながらあたしは途方に暮れていた。

493 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:36

ある夜、浅い眠りから覚めると例の如く彼女が寝ていたはずのスペースはもぬけの殻で、あたしは深いため息と共にベッドを出た。今日はどこだろうと無駄に広い家の中で家主を探す。電気はつけず真っ暗闇の中、気配を頼りに歩いた。もうすっかり自分の家のように慣れた場所。多少の夜目で物にぶつかることもなく足を引っ掛けることもなくスムーズに歩き回る。なるべく余計なことは考えないように彼女の存在を探す。するとキッチンにほんのり灯りがついていて、おまけにすすり泣くような声がそちらのほうから微かに聞こえていた。

「ごめん……ごめん…」

ウイスキーの瓶を抱きながら背中を丸め、ハスキーな声で誰かに許しを請う彼女の姿はとても小さかった。あたしは声をかけることが出来ず、闇の中でやけにはっきりと見えるその光景をただ呆然と眺めていた。





494 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:37

ある晴れた日、バタバタとした忙しい午前中がようやく終わり後藤さんたちと遅いお昼を済ませてあたしは一人中庭に出た。暖かい室内から頬を切るような冷たい空気が流れるそこに足を踏み入れる。晴れているとはいえ、この季節にすき好んで外の空気を吸いに来る人は滅多にいない。ほんの1ヶ月とちょっと前、同じ場所で今とは格段に違う表情で、違う気持ちで保田先生と話していた自分を思い出した。懐かしいというよりもはたしてあれは現実のことだったのだろうかという思いのが強かった。

携帯を取り出し慣れた手つきで目当てのアドレスを探す。
そして少し迷った末に通話ボタンを押した。

「藤本です。すみません…もっと早く連絡をすればよかったのかもしれません…」

495 名前:彼女は友達 投稿日:2004/11/28(日) 21:38

どこか違う世界に放り出されたようにあたしは心細くて仕方なかった。
何もできない自分に腹が立つというよりは情けなかった。
聞きたいことが聞けない、言いたいことが言えない、また臆病な自分が顔を出していた。久々に会うそんな自分に少しだけ懐かしいという思いと、寂しい思いが交錯した複雑な心境のまま舞い落ちる葉っぱを見つめていた。

先のことがまったく見えなかった。見ようとしなかったのかもしれない。
あたしはいろんなものから目を背けていた。








496 名前:ロテ 投稿日:2004/11/28(日) 21:38
更新終了
加筆修正したわりには少ないorz
497 名前:ロテ 投稿日:2004/11/28(日) 21:40
レス返しを。

82<名無飼育さん
甘々は程々にしてこのような展開になりました。
それでも読んでいただければと思います。

483<名無飼育さん
よっちゃんの過去は徐々に判明していくかと思われます。
面白いと言っていただけるだけでテンションが高まります。

484<ニャァー。さん
余計なことを言ってしまいハラドキさせてすみませんw
ポロッと口が滑りました。これからは気をつけよう。
この二人の今後…見守っていてください。

485<名無飼育さん
恋をするとロマンティックになるようですw
星の数まではきっともう少しでしょうw
498 名前:ロテ 投稿日:2004/11/28(日) 21:40
↑の82は482の誤りです。一応訂正。
499 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/28(日) 22:39
あの甘甘の反動がいつ来るのか、それだけビクビクしながら過ごしていました。
ようやく訪れてなんだか不思議なことにほっとしています(笑
藤本くんとよっちゃんなら乗り切ってくれるはず。
今後はゆっくり楽しみに待っています。更新お疲れさまでした
500 名前:ドラ焼き 投稿日:2004/11/29(月) 00:38
あぁ・・・ついにきましたね。いつもは読み終わった後はポワポワと
幸せな気分に浸っていたのですが、今日はなんかドキドキしています。
どうなるんでしょう・・・今後の展開楽しみにしてます。
501 名前:ニャァー。 投稿日:2004/11/29(月) 16:26

更新お疲れ様です!!
ぬぁ――!!来ましたねぇ〜w
何か胸がキュって感じですv
二人の今後がまたどーなってしまうのかが
楽しみで楽しみで…w
次回も更新頑張って下さい!
502 名前:始芽 投稿日:2004/11/29(月) 22:57
更新おつかれさまです!
PCが壊れて見れない日々が続いて、い゛ー!!!ってなってました。笑
甘甘で幸せになってよんでたら、少し切なくなってきて。。。
今後の展開かすごく楽しみです。
次回も更新がんばってください!!
呼び捨て全然気づいてませんでした(笑
そのままでも全然結構ですよ☆★
503 名前:wool 投稿日:2004/12/02(木) 21:15
初めまして。
ずっとひっそりROMってましたが、我慢できずにカキコします(w
一難去ってまた一難、って展開にハラハラしっぱなしです。みきよし大好きなんで、気が気じゃなくて…。

次回更新も楽しみに待っております。頑張って下さい!!
504 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 01:55

ジャガーから降りてきた保田先生の表情は固いものだったけど、あたしの存在を認めてやや柔らかい笑顔を見せてくれた。彼女とまた二人でコーヒーを飲むことになるとは思ってもみなかった。しかも正月のときと同じスタバで。

「今日ひとみは?まだ残業?」
「はい。いま忙しい時期ですから」
「そんなこと言ったってアイツがどうしようもなかったら仕事もなにもないじゃない。ねぇ?」

久々に聞くその軽口が耳に心地よかった。

「先生はいいんですか?お仕事」
「いつでも電話しろって言ったのはあたしじゃない。余計な気は使わなくていいのよ」
「ありがとうございます」

お礼を言ってコーヒーを啜った。あたしの消え入りそうな声に保田先生は少し眉をしかめた。

505 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 01:56

「ひとみ、おかしいのね?」
「はい」

単刀直入にそう切り出されあたしは迷わず頷いていた。こうして第三者によっちゃんの様子を語るのはなんだか裏切り行為のような気がして躊躇われたけど、保田先生ならとあたしは電話で事前に大まかな説明をしていた。

「アイツがおかしいのはたぶん幸せだからだと思う」
「は?」
「藤本とうまくいって本当に嬉しかったんだと思う。だから様子がおかしくなったのよ」
「どういうことですか?」
「うまくいきだすと無意識にそれを壊そうとするところがあってね。前からそういう癖っていうかそうせざるを得ない何かがあるみたいなのよ…。アイツはまだ過去に囚われてたのね…或いは罪悪感にか」
「どういうことなんですか?」

あたしは再度質問した。

506 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 01:57

「…ロンドン時代にひとみはある女性と恋に落ちたの」
「………」
「大丈夫?」
「続けてください」

聞きたくなんてなかった。よっちゃんがあたし以外の誰かと恋に落ちた話なんて。
でも、ここを乗り越えなければ、あたしたちは…。

「まあ恋に落ちたといってもそんな甘いものじゃなくて…。その女性は英国籍だったけど幼い頃に亡くした両親はともに日本人らしくてね、童顔のかわいらしい顔立ちをしていたわ」
「保田先生とその人は…」
「友人だった。彼女はロンドン生まれのロンドン育ちで見た目は丸っきり日本人なのに日本語が全くダメでね、完璧なクイーンズイングリッシュを話してたわ。人懐っこくて友人も多かった。共通の友人を通して結果的に二人を引き合わるような形にしちゃったのが実はあたしなの。でも端から見ていてひとみとその女性はとても危うかった」
「危うい?」
「そう。どういう事情があったのかあたしは詳しいことは聞いてないからわからないけど、あのときの二人にはなにか底知れない退廃的なムードがいつも漂っていた。ひとりひとりと会えばそりゃ普通に明るく喋って冗談言って楽しかったんだけど…二人が一緒になるともうダメ。耐えられなかった。あの雰囲気に飲まれそうであたしはいつも逃げるように帰ったの。ねぇ相性ってあるじゃない?」

予想もしていなかった質問をされて少し戸惑った。

507 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 01:58

「相性がいいとか悪いとかの…」
「そうそう、それ。気が合うとか合わないとか。それって生きる上でとても大切なのよ。相性が悪いなら悪いで離れればいい。でもそれに気づかず、ダメになるのに気づけないままにお互い知らず知らずのうちに破滅へ向かうってことがあるみたい。二人の持つ負のエネルギーが本人たちの与り知らぬところで絡み合って、もつれ合って、あげくにそれに取り込まれて戻れなくなることが」

目に見えるはずのない黒くて汚いものが渦巻いてよっちゃんを覆い尽くす。
ハリケーンのようになにもかもを吹っ飛ばしてあたしの愛しい人を攫っていく。
そんな恐ろしいイメージが湧いてきて、あたしはその場で身震いした。

508 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 01:58

「一体なにがあったんですか?よっちゃ、その二人に」
「さっきも言ったけど詳しいことはわからない。ただあたしはそれが起きたときひとみを守らなきゃって強く思った。なにを聞いてもあのコはなにも語ろうとしないしなにも見ようとしなかった。だからしばらくしてから無理やり日本に帰らせた。あたしの転勤に合わせてね。だってあのコの父親ときたら薄情を絵に描いたような、そんな人だったから。母親はとっくの昔に亡くなってたし。あたしが守らなきゃ、あたしがいなきゃ、って必要以上に思っちゃったのかもしれないわね。だから今でもたまに鬱陶しいって顔されちゃうんだけど」

保田先生はあたしを一瞥して、それからコーヒーに手を延ばした。
そして一口飲んでから心底嫌そうにそのことを教えてくれた。



509 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 01:59

マンションに帰るとよっちゃんがいた。よっちゃんの家なんだから当然のことだけど、こんな早い時間にいるとは思わなくて、しかも夕食のパスタかなにかを作ってて。予期せぬ出来事に面食らった。

「おっそいよー藤本くん。どこほっつき歩いてんだよー」
「どうしたの?早いね」
「たまには早く帰れって課長のお達しなのさ」
「そうなんだー。いいとこあるね」

いつものようにその冷えた唇でおかえりの挨拶をしてくれたよっちゃんは、何食わぬ顔をしてパスタの茹で加減を確かめる。コートを置いて手を洗いに洗面所に行った。鏡を見てあまりの顔色の悪さに鳥肌が立つ。自分でも思うくらいなのだからよっちゃんが気づかないわけがないのに。以前のよっちゃんなら絶対…。

510 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 01:59





『いつものようにあの日は雨が降っていてとても寒かった』
『あたしは仕事を終えて当時住んでいた借家に帰る途中だったの』
『ひとみたちの住むアパルトマンからはそんなには離れてなかったわ。近所に大きな犬を飼ってる老夫婦がいてよく食事に呼ばれたっけ』
『珍しく渋滞に巻き込まれて外がやけに騒がしくて』
『なにげなく窓を開けて通りの、人がたむろしてるほうを見たの』




511 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 02:00

鏡を凝視したままのあたしの背後から突然よっちゃんがひょいっと顔を出した。

「うぉーい!さっきから呼んでるんだけど」
「あっ、よっちゃんなに?」
「メシ。できたよ」
「あ…ごめん、あんまお腹空いてないや」
「マジで?!具合でも悪い?大丈夫?」
「うん、平気。保田先生と軽く食べてきたからかな。またお腹空いたら食べるよ」
「圭ちゃんと?へー珍しい。そっか、ならいいけど藤本くんはもっと食ったほうがいいって」

よっちゃんこそ。よっちゃんこそそんなにやつれるまで悩んで苦しんで、どうしてなにも言ってくれないの?どうしてあたしを頼ってくれないの?あたしに一生離れるなよって、愛してるって言ったくせに。よっちゃんが感じられないよ。こんなにそばにいてもキミがどこにいるのかわからない。

どうしたらその闇の中からキミを救い出せるの?

512 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 02:00





『燃えてたわ。二人の部屋』
『ううん。二人の部屋だけじゃない。アパルトマン全体が真っ赤だった』
『あたしそれを見てね、不謹慎だけどまずこう思ったの』
『綺麗だな、って』




513 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 02:01

ダイニングでよっちゃんが黙々とパスタを食べている間、あたしはずっとその様子を眺めていた。食べているとは言っても形ばかりで、隣に置かれたワインの瓶が徐々に空に近づくのを見ているようなものだった。

「圭ちゃんなんつってた?」
「うん?」
「聞いたんでしょ?無理心中」

あたしはくるくるとフォークに巻かれるパスタを意味もなくじっと眺めていた。
視界の隅には赤ワインのぼんやりとした暗い色があった。

514 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/05(日) 02:02





『発作的に火をつけたらしいの』
『ひとみは…自分だけ助かったことをずっと責めていた』
『一緒に死ねなかった自分を、ずっと呪っているみたいだった』








515 名前:ロテ 投稿日:2004/12/05(日) 02:02
更新終了
516 名前:ロテ 投稿日:2004/12/05(日) 02:03
レス返しを。

499>名無し飼育さん
作者も実はほっとしましたw
最近は忙しさにかまけてなかなかストックが堪らないのですが
待っていてくださる方がいると思うと励みになります。

500>ドラ焼きさん
ドキドキしていただけましたか。よかったw
楽しみにしてくださる方がいるというのはシアワセなことです。

501>ニャァー。さん
いつ来るのかとヤキモキさせたわりにこんな構成力&展開力で
なんだか情けなくなるのですがこれも自分の力量と割り切って
今後も頑張ります。
楽しみという言葉が聞けるだけで作者は感涙です。
517 名前:ロテ 投稿日:2004/12/05(日) 02:04
続きー。

502>始芽さん
お気遣い感謝です。PCのクラッシュは災難ですね。
作者がそんな状態になったら携帯から意地でも更新します!(マンキツイケ
甘甘も切ない系も書くのは同じくらい苦手ですが
そう言っていただけて嬉しいです。

503>woolさん
初めまして。ロテです。
読んでいただいてありがとうございます。
我慢せずにガシガシ書き込んでくださいw
これからも2人と作者をよろしくです。
518 名前:wool 投稿日:2004/12/05(日) 02:14
初リアルタイム!!(嬉 更新お疲れ様です。
有難う御座います。ガシガシカキコしちゃいます(w

…うあー、…痛いよぉ。ミキティが切なすぎて心臓がきゅって苦しくなりました。
ボロボロなよちぃを救ってあげれるのはミキティだけだーっ!!頑張れ、二人とも。

続きものんびりお待ちしとりますー。
519 名前:130@緑 投稿日:2004/12/06(月) 00:18
更新、お疲れ様です。
う〜む、甘さから一転しての展開にすっかりどっぷり心奪われております。
ふたりとも苦悩の日々ですねぇ。ヘヴィだ・・・
うまく言葉が浮かびませんが、みきよしに幸あれとひたすらに願っております。
次回も楽しみにしております。
520 名前:始芽 投稿日:2004/12/06(月) 19:41
更新お疲れ間様です。
痛い痛い。。。胸がぎゅうっとなります。
二人が幸せになってくれることをひたすら願います。

マンキツ!!行けばよかった!思いつかなかった(笑
どっぷりハマらせてもらってます。
次回もたのしみにしておりますw
521 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/06(月) 23:30
ほぉ〜こうきたか。
ふふん、別に衝撃的じゃないよー




・゚・(ノД`)・゚・
522 名前:やじ 投稿日:2004/12/09(木) 18:51
一気に読ませていただきました。
すごく次が気になります。
楽しみなのでがんばってください☆
523 名前:たーたん 投稿日:2004/12/11(土) 10:46
更新お疲れ様です。
今回の感想は『あーん・・・』って感じですね。
もうね、完結まで待ってから読もうと思っても
ついつい気になって来ちゃうんですよ・・・
ロテさんの作品は中毒性があるんでしょうね。
うっ・・・禁断症状が・・・
またの更新楽しみにお待ちしてますね。
524 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/11(土) 23:56

「…聞、いた」
「ま、若気の至りってやつぅ?」

その場違いな声のトーンを突っ込まずにいられようか。

「ノリが軽すぎだよっ」
「っ痛〜久々にきたね、ミキティパンチ」
「よっちゃんがおかしな口調で言うから。全然おかしくないのに」
「だってこんな話、おかしく話そうと思わなきゃどんどんどんどん暗くなってジメーッとして耐えられなくなるよ?楽しくないよ?オイラ湿っぽいのは苦手なんだよ〜」
「キミね〜そういう問題じゃないでしょーが」

久しぶりに、本当に久しぶりによっちゃんと笑い合った。彼女がバカ言って、あたしがつっこんで。前みたいにいいコンビの二人がそこにたしかに存在していた。友達だった頃のリズムで言葉を紡ぐことの楽しさ。
だからかな、あたしに少しだけだけど勇気が湧いたのは。

「よっちゃんは過去に囚われているって。罪悪感にも」
「圭ちゃんには敵わないな〜」
「いつまでも敵わない人がいるってのはいいことだよ」
「たしかに」

チュルチュルとパスタを食べるよっちゃんを見ていたら突然お腹が鳴った。
あたしの腹ってばこんなときに…空気読め!

525 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/11(土) 23:57

「ぶはっなんだよ腹減ってんじゃん」
「ち、ちがっ、さっきは本当に食欲なかったんだもん」
「いいからいいから。美貴のも作るから座ってな。それからゆっくり話そう」

そう言ってよっちゃんはワインを口に含んで立ち上がり、こちらに背中を向けた。
その大きな、でも小さな背中を見ながら何も考えずに無邪気に飛びついていたあの頃を思い返す。
まだ彼女は友達だとたしかに言えていたあの頃。
心のどこかでこうなることを予感していたのかもしれないあの夏。
なんてことを今さら思うのは調子がいいけど、この背中を独占したいくらいの気持ちはひょっとしたら持っていたのかもしれない。その感情がなんなのか、考えようとしなかっただけで。

こちらを向いている背中に問いかける。

「話す?なにを?」
「昔のこと、今のこと……それに、これからのことも全て」

こちらを振り返らずに、背中を向けたままよっちゃんは静かに答えた。



526 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/11(土) 23:57

よっちゃんの作るペペロンチーノは絶品で、話もそこそこにあたしはあっという間に平らげてしまった。
彼女は相変わらずワインを飲みながら冷めたパスタをゆっくりゆっくり口に運んでいた。

「そんなに飲んでばっかりいるから食べるの遅いんだよ」
「違うよ。前にも言ったろ?美貴に見とれて食べるのがおろそかになっちゃうんだよ」
「ひとりでもうワイン2本も飲んでるくせによく言うよ」
「あたしが酒飲むの止めないの?」
「止めないよ。よっちゃんが自分で飲むのやめなきゃ意味ないもん」
「ありがとう。信じてくれて」

よっちゃんを信じていたわけではない。ただ、自分に勇気がなかっただけ。なるようになるかもしれないという浅はかな、というかやっぱり臆病な解釈があたしをここまで消極的にしてきていた。
でもそれも愛情。突き放した愛情だと、あたしは思いたい。きっと違うんだろうけど、よっちゃんがそう解釈しているのなら、せっかくなのでそういうことにしておこう。
あたしの、それがいま与えられる精一杯の愛情なら。

527 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/11(土) 23:58

「保田先生もすごく心配してた」
「うん…そうだ!ついでだから圭ちゃんも呼ぼうか。どうせまたゴチャゴチャ訊いてくるだろうから、それなら最初からいてもらったほうが面倒がなくていいや」
「まあいいけど」

保田先生に電話するよっちゃんの後姿を見ながら、一体なにを話すつもりなのだろうかと考えていた。それにこのやけに高いテンションはワインのせいだけなのだろうか。まさかとは思うけどあたしと別れる気なんじゃ…そう思ったところで唇を塞がれた。目を丸くしてるとキスをしたままよっちゃんは片目をヒョイと開けて少し強くあたしを睨んだ。それがキスに集中しろの合図だとわかるのにたっぷり5秒は要したけど、それから先はもちろんそのとろけるような感触を、ほんのり残るワインの味を、充分に堪能した。

528 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/11(土) 23:58

「圭ちゃんが来るまでまだ時間あるから」
「えっ、ちょっとダメだって!ゃあんっ」

冷えた感触がお腹のあたりにするりと入り込む。

「ダイジョーブダイジョーブちゃんとイカせるし」
「そういうことじゃなくてっはぁんっもうっ」

あっという間にブラのホックが外される。

「ちゃんと愛を込めるから」
「そんなっ、の、あたり…まえ…あぁぁん」

突如エッチモードのスイッチが入ったよっちゃんを拒めるはずなんてなく、あたしは保田先生がいつ来るかわからないこの状態にも少なからず興奮して、彼女の言葉どおりちゃんと気持ちよくしてもらった。しかも今日はちゃんとよっちゃんが感じられた。よっちゃんの心と自分の心が触れ合ったような気がして、久しぶりの充実感をも堪能した。
それにいつもより若干急ぎ足だったけど焦らされなかった分、あたしからすればラッキーだった。いつものよっちゃんはややサディスティックな性癖を存分に発揮して、あたしを焦らして焦らして恥ずかしいことを言わせようとするから…ま、それは今語るべきことではない。



529 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/11(土) 23:59

「アンタたちエッチしてたでしょ」

部屋に来た保田先生は開口一番そう言った。

「わかる?」
「認めるなよっ」

ベチッガンッ

「いやだってホントのことだし」
「う、うるさい!保田先生も!」
「は、はい?」
「わかってもそういうことは口に出さないでください」
「失礼しました」
「お〜コワ」
「なんか言った?」
「い、いえ。なんでもありませぬ」

シリアスムードが一転、あたしはつっこむのに忙しくなった。
それにしても保田先生の鋭さには脱帽。

「それで話ってなによ」
「なんだっけ藤本くん」
「オマエが言い出したんだろっ」

ボコッバチンッ

「ひとみ、ここんとこおかしかったのはなんでよ。昔から十分おかしいけど」

いつまでも進まないと埒があかないと思ったのか保田先生が水を向けてくれた。

530 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:00

「眠ると夢を見るんだ」
「そりゃ見るでしょうね」
「夢を見たくなくて眠りたくないんだ」
「どんな夢?」
「いや〜それがホラー映画みたいでさ、火の中の…彼女があたしを見てなにかを叫んでるんだよ。こうやって手を延ばして必死でなにか叫んでるの。それがあたしを責めてるように見えるんだわ。こえ〜のなんのって。マジでチビリそうなくらい。で、あたしはそこから逃げようとするんだけど足が全然動かないの。いや、動いてるんだけど前に進まなくってさ、夢特有のあれだよね。走っても走っても全く進まない。なんじゃこりゃぁぁ!って感じでさ。でもって逃げながら叫ぶんだ。一緒に死ねなくてごめん、ごめんって。許してくれーって」
「…なんていうかアンタが話すと真面目な話も面白く聞こえるから不思議ね」
「違いますよ保田先生。この人わざと面白く話してるんですよ」

ホントに、まったく、よっちゃんときたら。もっとこうちゃんと話そうよ。
たしかにそんな内容じゃ場が盛り下がるのは目に見えてるけど、この場合はむしろ盛り下がったほうが真剣味が増すんだからさ。キミの最近の壊れっぷりや悩みっぷりを見てきた人間としてはその語り口はちょっといただけないんですけど。

531 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:00

「でもこれも藤本のおかげなのかしら」
「うん。ギリギリのところで救われた部分はある」
「は?あたしなんかしたっけ?」
「ずっとそばにいてくれたじゃん。オイラのこと見捨てないでなにも聞かずにそばにいてくれた」
「…聞くのが怖かっただけだよ。あたしはなにもしてない」

あたしこそ見捨てられるんじゃないかと怯え、なにもできなかった。なにもしなかった。ただそばにいることしか。好きだからそばにいたかった。好きだからそばにいさせてほしかった。

「たぶんそれがよかったんだよ。結果的には」
「よっちゃん、あたし…」
「美貴がいてくれることがあたしは嬉しくて仕方なかった」
「本当に?」
「本当に」

大きく頷くよっちゃんをあたしは複雑な思いで見つめた。
たしかに知らないところであたしはよっちゃんの役に立っていたのかもしれない。好きという感情が彼女の助けになった部分もあっただろう。でもよっちゃんはまだ無理をしている。口調は明るいし考えを話すようになってくれたのは大きな進歩だけど、まだ完璧とは言えない。完璧とはほど遠い。まだなにも解決なんてしていない。それはたぶん保田先生も薄々感じていることだろうと思う。もちろんよっちゃん本人も。

532 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:01

「とにかく話を戻すと、その夢が見たくなくて眠らない→ヒマだから酒を飲む→寝不足でグッタリ→なにもやる気しないっていう見事な負の連鎖が出てくるわけなんだな、ウンウン」
「なんでこの人自分のことなのにこんな他人事なんだろう」

よっちゃんのそのカラ元気がミエミエの口調に胸が痛んだけど、あたしはいつものようにいつものノリで返す。湿っぽいのが苦手だという彼女のために。

「藤本、こんなのが本当にいいの?」
「ちょっと考え直したほうがいいですかねぇ」
「さっさと見限ったほうがいいんじゃない?」

保田先生も呆れた顔をしながらそのノリについてきてくれる。

533 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:01

「コラァ!人の話聞いてんのかよっ。しかもこんなのとか見限るとか言ったなー」
「はいはい。聞いてますから続きどうぞ」
「いやもうないんだけどね」
「ないのかよっ」

ガゴンッ

「いえ…ほんとは…あるんですけど、イッテェェ」
「ま、自己分析ができるようになったのはいい兆候とみていいのかな」
「でも保田先生、根本的な解決にはなってないですよ」

よっちゃんが悪夢にうなされているうちは本当に解決したとは言えない。このままじゃよっちゃんの身が持たない。でもあたしはそばにいることしかできない。よっちゃんの苦しみを取り去ることは残念ながらできない。あたしといたってなにも解決しないのなら、それは悲しいことだけど、よっちゃん本人にひとりで立ち直ってもらうしか道はない。よっちゃんにしっかりしてもらわけなければ。

あたしはなにができる?なにをするべき?
具体的なことはまだなにも聞かされてないけど、よっちゃんは過去と決着をつけなきゃいけない気がした。今まできっと目を背けてきたのだろう過去と、向き合う必要がある。それならばいっそ。

534 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:02

「よっちゃん」
「ほーい」
「ロンドンに行きなよ。ロンドンが元凶なんでしょ?」
「…すっげーな美貴は。やっぱオイラの運命なんだ」
「なんのこと?」
「オイラもロンドン行くべきかなって考えてた」

その言葉にあたしは何も言えなくなった。自分で言っておきながら矛盾しているとは思うけどよっちゃんをロンドンに行かせたくはなかった。それはたぶんよっちゃんの身が心配だからとかよっちゃんのそばにいたいからとかいうかわいい理由なんかじゃない。彼女の過去に醜い嫉妬をしている自分のエゴ。ロンドンに行ってほしくないと自分の心が叫ぶ。でも頭ではロンドンに行くべきなのだと必死で理解しようとしている。

「うん、行ってきて」

そんな葛藤をしつつもあたしは彼女の背中を押す。あたしだけが独占することができるその背中を。
さっきから口を挟まずにあたしたちの顔を交互に見ながらじっと話を聞いている保田先生をちらりと見た。教えてもらった話の断片を思い出す。



『ひとみは一緒に死ねなかった自分を呪っているようだった』



よっちゃんの呪縛を解く鍵がロンドンにあるのなら。

535 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:02

「行ってきて、ロンドン」
「行ってどうなるのか、抱えてる問題が解決するのか、先のことは見えないけど行くよ。ロンドンに」
「うん」
「行かなきゃ終われない気がするんだ。始まれない気も。今さらでホントに美貴には悪いと思ってる」
「そんなことないよ。いやあるけど。…やっぱないかな」
「どっちだよ」

あたしの前髪をさらりと撫でながらよっちゃんは唇の端を少し上げて目を細めた。

「あたしは美貴が好きだよ」

頬に手を添えてからよっちゃんはハラリと落ちて顔にかかったあたしの髪を耳にかけてくれた。
まるで確かめるように、あたしの顔や耳や髪を優しく触れながら話を続けた。

536 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:03

「美貴が好きだ。この前提条件がなきゃこんなに苦しまなかったと思う。美貴が好きで好きで、好きっていう感情が溢れてポタポタ零れ落ちるくらいに好きなんだ。零れ落ちたってあとからあとから溢れ出る。際限がないこの気持ちが時々怖くなることもあった」

頬を包む両手が震えているような気がした。
もしかしたらあたし自身が震えていたのかもしれない。

「でも好きなんだ」

苦笑しつつも視線は真っ直ぐにあたしを捉えていた。

「だからこの苦しみさえも美貴との生活の一部ならあたしは受け入れるつもり。そしてちゃんと昇華したい。そのためにロンドンに行かなきゃいけない気がするんだ。はっきり言ってロンドンに行って具体的にどうこうなんて自分でもよくわかっていないけど…でも行かなきゃいけない気がしてる。その必要があるって思うんだ。少しの間ひとりにしちゃうけど…」
「待ってるよ。あたし待ってる。よっちゃんが帰ってくるのちゃんと待ってるから」

顔に触れている手に自らの手を重ねた。熱いものがこみあげてきたけど堪えた。
よっちゃんの瞳を見つめながら、自分のするべきことがほんのわずかだけど見えたような気がした。

537 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:04

「ありがとう。美貴はやっぱりあたしの運命だよ」
「でも早く帰ってこなきゃあたし違う運命見つけちゃうかもよ」
「それはないっ。美貴はオイラにベタ惚れなんだから!…ない、よな?オイラだけだよな?な?」

急にオロオロしだしたよっちゃんを落ち着かせるように両頬をそっと包み込んだ。
お互いがお互いの頬に手を寄せて、少し窮屈でちょっと間抜けな格好だけどそっと優しく。でもしっかりと。

「よっちゃんこそ、向こうであたし以外の誰かともしなんかあったら…」
「ぶわーか。あるわけないだろ。美貴しか見えないよ」
「ホントかな」
「あんなに好きって言ったのにぃ」

膨れる両頬を挟んだまま、立ち上がってよっちゃんを引き寄せた。

「あたしのほうが」





―――――もっと好き




538 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:04

耳もとで囁き、そっと口づけてギュッと抱きしめた。よっちゃんの温もりがこんなにも愛しいなんて。わかっていたことなのに、今さらなのに、涙が溢れてくるのはなぜなんだろう。堪えきれずに溢れてきたこの涙は悲しいからじゃない。不安だからじゃない。大切で大切でかけがえのないものだとわかったから。

嬉しいからなんだよ?

だからそんなにあたしの背中が折れそうになるほど抱きしめる手に力を込めないで。
どこにも逃げたりなんかしないから、そんなに震えた手であたしを抱かないで。

止め処なく流れる涙は安堵の涙。よっちゃんと再び心が通じ合えた喜びの涙。
あたしを運命だと言ってくれたよっちゃんへの誓いの涙。決意の、涙。


失いかけた大切な人が今まさにあたしのそばから離れようとしている。
でも、離れていてもきっと大丈夫。よっちゃんはあたしの元に必ず帰ってくる。
これほど確信めいた想いを胸に抱いたのは初めてだった。
そう思わせるほどにこの温もりは、真実だった。



539 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:05

「アンタたちあたしの存在忘れてないわよね、まさか」

呆れたような、でもどこか嬉しそうなその声にはっと我に返る。
あ、保田先生…いたんだっけ。
慌ててよっちゃんから体を離すとムッとした顔でまた抱きすくめられた。

「勝手にやってなさい」

見てられないといった感じで保田先生は横を向きコーヒーカップを手に取った。
あたしを抱きしめながらも笑いを噛み殺しているよっちゃんがやっぱり愛しいと思った。



540 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/12(日) 00:06

色素の薄い綺麗な瞳が


瞬きをしたらバサバサと音がしそうなほど長い睫が


ワインのせいか、照れているのかほんのりと色づいたかわいい頬が


次々と顔に降ってくるサラリとした唇の気持ちよさが



それらすべてが愛しいと思った。

手を伸ばせばすぐに触れることができるシアワセってやつが、愛しくて仕方なかった。





541 名前:ロテ 投稿日:2004/12/12(日) 00:07
更新終了
久々に量多めw
542 名前:ロテ 投稿日:2004/12/12(日) 00:07
レス返しを。

518>woolさん
おお!リアルタイムとは。微妙な時間にw
うーん、申し訳ないっす。こんな展開で。
生あったかく見守ってやってくださると嬉しいです。

519>130@緑さん
甘さからこうガクッと落ちるふり幅を小説的な
効果として狙ったのですがイマイチ技量が足りない
のだと痛感した前回(ニガワラ
それでもレスをもらえるのは嬉しいことこの上ないです。
あっちもこっちもレスありがとうです。

520>始芽さん
マンキツは自分に対するツッコミですので誤解なきようw
始芽さんに行けと言ったわけではないですよ〜。
もちろんそんなことわかってらいっというアレでしたら
スルーしちゃってくださいw
楽しみにしてくださって嬉しい限りです。
543 名前:ロテ 投稿日:2004/12/12(日) 00:13
続きー。

521>名無飼育さん
ちょっと笑ってしまいましたw
楽しい(?)レスありがとうです。

522>やじさん
一気読み乙&ありがとうです。
頑張って書いていきますのでこれからもよろ〜w

523>たーたんさん
いえいえそんなことはありません。
いくらなんでも褒めすぎかと(ニガワラ
体調が良くなったようでなによりです。
完結まで待つも吉、同時進行で読むも吉。
お好きなように読んでいただければこれ幸いw


えー、金板に新スレ立てました。
『たかが恋や愛』
暇つぶしに読んでもらえたらはっぴぃです。
みきよししか受け付けないという方にはオススメできませんがw

あっちもこっちも節操なくスレ立ててますがどれもこれも
好きで書いていますのでこんな作者の自己満足小説を
読んでいただけるということが本当に感謝しまくりの今日この頃。
これからもよろしくお願い致します。
544 名前:wool 投稿日:2004/12/12(日) 13:12
更新お疲れ様です。
毎回の更新が待ち遠しくて仕方ないです。

女の子な美貴様にぞっこん(死語
よっちゃんが早くふっきっって美貴様の元へ帰ってきて欲しいですね。
545 名前:たーたん 投稿日:2004/12/13(月) 11:26
更新お疲れ様です。
ふぅ・・・、やっぱり来ちゃいました・・・
中毒に効く薬をください。

もう、絶対に完結まで来ないんだからねっ!(梨華ちゃん風)
546 名前:ニャァー。 投稿日:2004/12/13(月) 14:10

更新お疲れ様です!!
乙女美貴様でめっちゃ可愛かったですw
そして吉澤さん…まぢかっこいいですなぁ…w
これからも二人一緒に頑張ってほしいです!
次回も更新頑張って下さい!!
547 名前:始芽 投稿日:2004/12/13(月) 18:12
更新お疲れ様です。
よっちゃん、よっちゃん、よっちゃん、かっこいいw
美貴ちゃんの乙女っぷり最高です!!
ごちそうさまでした、が素直な感想なのです(笑
次回もがんばってください!待ってますw
548 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 21:41
ちょっとずつ2人が成長しようと頑張ってる様子が好ましいです。
先が見えない感じしますが、楽しみに待っています。
549 名前:130@緑 投稿日:2004/12/18(土) 12:31
更新、お疲れ様です。
固唾を飲んで見守っておりましたが、ここでやっとほぅ〜っと息を吐けたところです。
ヤッスーがいいですねぇ。実はロテさんの描く2期のひそかなファンでもあります。
みきよしの一途な不器用さは最高です。
次回も楽しみに待ってます。
550 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:21

2月も終わりに差し掛かった頃、よっちゃんは会社に休職願を出した。
忙しい時期に申し訳ありません、と何度も入試課で頭を下げたらしい。
あたしはその話をたまたま受付を通りかかった入試課の課長から聞いた。なにがあったか知らないけどちゃんと吉澤を支えてやってくれよ、と課長に頭を下げられてあたしは慌てふためいた。よっちゃんは入試課の人たちにとっては娘のような存在らしく、今回のことも皆詳しい事情は知らなくてもよっちゃんを応援していると聞いてあたしは胸が熱くなるとともによっちゃんに代わってお礼を言った。


後藤さんや石川さんも特に意識せず明るくよっちゃんを送り出してくれた。いつものように石川さんはよっちゃんにベタベタベタベタベタベタしてあたしの代わりに後藤さんに怒られていた。でももうあたしは石川さんに嫉妬するようなことはなくて、その光景を自然に笑って見ていられた。すると不思議なもので今までデレデレしたような顔にしか見えなかったよっちゃんが、本当は困ったように苦笑しているのだとわかった。あたしの心の中にあった嫉妬心がそういう幻想を見せていたのかもしれない。デレッとしたよっちゃんという幻を。


551 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:21

どれくらいの滞在になるか見当もつかなかったので、荷作りといっても特に手伝うことはなくあたしはとりあえず当分使わなくなるだろうキッチンやバスルームの掃除をしてあげていた。ロンドンにはよっちゃんの、薄情とはいえ親族も住んでいるし親戚だって友達だっているだろう。それに基本的にお金持ちだしあまり心配することはない。べつにお金があればなんでも解決するとは思ってないけれど、それでも人生においてお金がモノを言うことは多い。一応あれでも女だし、慣れた土地とはいえ離れるとなにかと心配は尽きない。よっちゃんに言わせるとあたしのがよっぽど心配らしく、しきりに保田先生や後藤さんにあたしのことを頼んでいた。

「今までだってひとりでやってきたんだから大丈夫だって」
「それでもオイラは心配でたまんないよ〜。あっアヤカにも連絡して藤本くんのこと頼んでおかなきゃ」
「あーもうっ。人を子供扱いしないでよ。それより向こうであんまり飲んじゃダメだよ?飲んでもいいけど酔っ払ってバーでたまたま隣りに居合わせた客とケンカとかして逮捕されないでね」
「なんかすっごい実感こもってる上に具体的なんだけどもしかして藤本くん、そういう経験アリ?」
「…さ、部屋を片付けて洗濯もしなきゃね〜」
「さすがだね美貴…さすがオイラの運命の女だよ…」


552 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:22

日本を離れている間の部屋の管理はどうするのかと尋ねると普通に「藤本くん住んでよ」と言われ、よっちゃんの渡英前に慌しく引越しをした。家具や生活用品は揃っていたので、あたしの荷物はほとんど処分して服とかちょっとした小物とかそういうこまごましたものだけを持って高級マンションに移り住んだ。ここはセキュリティも万全でよっちゃんの心配のタネがひとつ減るし、あたしとしてもよっちゃんの匂いに包まれて暮らせるということでホッとした思いだった。

「はいよっちゃん。ゴタゴタしてて渡せなかったけどチョコレート」
「サンキュ〜」
「一応ね、甘いのがあんまり得意じゃないよっちゃんのためにビタースイート」
「ほうほう。ん、おいし」
「ホント?よかった。なんか恋人っぽいね、こういうの」
「ん〜でも同じ甘さでもこっちのが断然いいな」

あたしの腰に手をまわしながらよっちゃんは唇をつきだした。
チョコの残骸がついたその唇の端をぺろっと舐める。ほろ苦い味がした。
もうすぐこんなキスともしばらくおあずけになるなんて。
熱いキスをしてチョコレート味の舌を二人で貪った。
よっちゃんと離れている間、この味を忘れないようにとあたしは深く深くそのキスを味わった。


553 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:23

「オイラがいない間さ、コルベット運転する?」
「あんな高い車絶対イヤ。事故りそうな気がするもん」
「そう?ま、気が向いたらいつでも乗っていいから」
「あたしはヴィッツで十分だよ…ってあたしヴィッツどうしたっけ?」
「マンションの駐車場じゃないの?」
「ううん。ずっと見てないもん。あっ!!」
「だから耳元で叫ぶなっつの」
「大学の駐車場…置きっぱなし…」
「いつから?」
「たぶん2月の頭くらい…ほら、時間合わせて一緒に帰ってたから」
「藤本くん…ちゃんとヴィッツに謝りなよ?」

忘れていた。一ヶ月近くも大学の駐車場に放置してたなんて。そういえばよっちゃんと付き合いだしてからは自分で運転することがめっきり減っていた。どこに行くにも常にコルベットの助手席で(最初はジャガーだったけど)あたしは運転するよっちゃんの横顔を見るのが習慣になっていたから。

キスだけじゃない、そんな些細な日常とも当分お別れなのかと思ったらふいに涙が出てきて止まらなくなった。鼻をすすり唇をきつく噛んだ。でもあたしの涙腺はまるで壊れてしまったかのように命令を聞いてくれなかった。止まれ、止まれと念じてもいっこうに止まる気配はなく、涙は増す一方だった。

554 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:23

諦めたあたしはよっちゃんが買い物から帰ってくるまでの間にたっぷり泣いてちゃんと目を冷やした。泣いたなんて微塵も感じさせない素振りで彼女を送り出してあげたかったから。もうこれ以上余計な心配はさせたくなかった。

「ただいまー」
「おかえりー」

チュッとするのはもう当たり前の日常。これも当分おあずけなのかと思ったらまた泣きそうになる。
危ない危ない。必死で堪えてなにげない会話をふる。

「なに買ってきたのー?」
「たいしたものじゃないよ。日用品」
「ふーん」
「明日発つから」
「わかってる」
「見送りはいらない。そのかわり帰ってきたとき迎えにきて」
「うん…」
「コルベットで」
「絶対イヤー!!」

555 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:24

クッションを投げて二人でフザケあった。いっぱい笑っていっぱいキスしていっぱい抱き合った。これが永遠の別れってわけじゃないのにあたしたちは時間を惜しんで愛し合った。
明日、愛する人は少しの間あたしの元から離れ決別しなければならない過去に向き合いにいく。あたしにできることは笑顔で見送ってその無事を祈ること。そして信じて待っていること。


よっちゃんは昔の恋人との一部始終をゆっくりと時間をかけて話してくれた。彼女の言葉でそれが聞けたことがあたしはなにより嬉しかった。だからもう迷わないし悩まない。信じるということは難しいけど実は一番簡単なことなのだと気づいたから。それに信じようと思う以前にあたしはよっちゃんとこれからの人生を歩んでいくことを確信している。この勘はきっと当たるはずだ。



だからあたしは待つ。再び彼女があたしをその腕に抱いてくれる日が来るのを待ち続ける。



556 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:25

彼女が旅立った日、久しぶりに自分の愛車と対面した。
約一ヶ月ぶりのその姿は見るも無残に薄汚れていて、今まで放っておいて本当に悪い気がしていた。

「ごめんよぉ」

ハンドルをそっと撫でてエンジンをかけてみた。心なしか哀しい音のように聞こえた。

とりあえず車内を見回して荷物なんかを確認してみる。車上荒らしにはあっていないようだ。もっともなにを置いといたかなんてすっかり忘れてしまってたけど。ダッシュボードを開けるとそこに見覚えのない紙袋があった。とりあえず逆さまにして中身を確認する。コロンと小さな箱が落ちてきた。暖色系のリボンがかわいい。なにも考えずにリボンをほどき、包装紙をビリビリと破いてそっとふたを開けた。

557 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:25







そこにはキラキラと光るシルバーのリング。
真ん中についたピンクの宝石がその存在を強く主張していた。







558 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:27

数秒、あたしはその輝きに見とれていた。持ち上げて、いろんな角度から覗き込む。どこからどう見てもそれは指輪で、とても綺麗だった。

そして我に返ってもう一度紙袋の中身を自分の目で確認した。底のほうにカードのようなものが引っかかっていた。

もうある程度の予想はしていた。なにが書かれているか、だれの手によるものなのか、あたしにはわかっていた。それでも見るまでは、確かめるまではドキドキして手が震えた。淡いピンクのそのカードの表面には粉雪のような白い装飾がなされていて、ドキドキがおさまるまであたしはそれを見つめていた。


そして呼吸を落ち着かせあらためてカードの中身を見た。

559 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:28









   誕生日おめでとう

   永遠の愛をここに

   まごころをこめて

    吉澤ひとみ









560 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:29

「よっちゃん…かっこつけすぎだよ」

休日の大学、誰もいない駐車場にポツンと停められたままのヴィッツの中でひとり、あたしは笑いながら泣いた。笑いながら声をあげてワンワンと。片手でハンドルを、片手で指輪を握りしめながら、たぶん最高の笑顔で嬉し泣きをした。

暖房がようやく利きだした車内はあったかくて、でもそれ以上に頬を伝うあったかさがあたしにこれが夢ではないのだと教えてくれた。

そして遠い空の彼方を見つめながらあたしはずっと、笑いながら泣いていた。
心の中で愛しい人にメッセージを送りながら、ずっと。ずっと。

561 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:30









   よっちゃん、ありがとう

   キミのそばにずっといるよ

     笑顔とともに

      藤本美貴








562 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:31

あたしが25歳の誕生日を迎えたその日、愛しい人はロンドンに向けて旅立った。
二人のこれからのために、それはしばしのお別れ。






563 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:31


564 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:31


565 名前:彼女は友達 投稿日:2004/12/19(日) 01:32

<『彼女は友達』大学編 了>
566 名前:ロテ 投稿日:2004/12/19(日) 01:33

そんなわけで今回でひとまず大学編は完結です。大学編だったのかよ!というツッコミはなしの方向でw
読み返すとなんやかんや言い訳をしたくなるような恥ずかしい文章が多々目につきますがそれらも全部含めて愛しい話です。ダラダラと続くことをお許しください。

とにかく、ここまでお付き合いいただいた皆さん、レスをくださった皆さんには心から御礼を申し上げます。たくさんのレスに毎回励まされました。本当にありがとう。
567 名前:ロテ 投稿日:2004/12/19(日) 01:33

さて、次回からはロンドン編がスタートします。今までとは少し違ったテイストになっていることでしょう。良くも悪くもw
正直、作者の中で先行きが不透明な部分が少なからずあるため、次の更新まで少しお時間をいただきたいと思います。

年内の更新はこれでラストです。少し早いですが皆さん良いお年を。そして来年もよろ。
ロンドン編でお会いしましょう。それでは。
568 名前:ロテ 投稿日:2004/12/19(日) 01:34
レス返しを。

544>woolさん
嬉しいお言葉をありがとうございます。
待っていてくださるかたがいるからこそ
ここまでやってこれました。
これからもよろしくお願い致します。

545>たーたんさん
楽しいレスをありがとうございます。
みきよし自体が薬にも毒にもなりますから…
とわけのわからないことを言ってみたりw
楽しみにしてくださって本当に嬉しいです。

546>ニャァー。さん
いつもありがとうございます。本当に励みになります。
可愛い美貴様とカッケー吉が伝わったようで安心しました。
これからもこんな二人がうまく表現できればと思います。
本当にありがとう。

547>始芽さん
素直な感想ありがとうございます。
連呼してしまうほど吉がかっこよく映ったのなら
それは作者の本望です。(吉ヲタですから)
待っていてくださって本当にありがとう。

548>名無し飼育さん
ありがとうございます。
作者も少しは成長できればなと願いつつ書いています。
先の見えなさをも楽しんでいただければ、というか
楽しませる技が作者にあればなとも思います。
今後も温かく見守ってください。

549>130@緑さん
ヤッスーを褒めてくださってありがとうございますw
みきよしの二人をのぞけば一番愛着のある脇役です。
今後もなにかと活躍?してもらうつもりです。
器用なようで不器用な二人を今後もよろしくお願いします。
569 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 03:53
素晴らしい・・・
すんげー面白かったです!
25歳ってのは驚きでしたがw
ロンドン編も期待してます!!!!!
570 名前:wool 投稿日:2004/12/19(日) 04:03
年内最後の更新ということで、お疲れ様でした。

どこまでも吉澤さんカッケー!!なんか多少クサイことでも、彼女がすると自然に馴染んで納得してしまいますね。
ロンドン編も楽しみにしています。

可愛い美貴様も堪能できたし、待ち遠しいですが来年までのんびり待たせて頂きますー。焦らずマイペースで頑張って下さい。

では、一先ずお疲れ様でしたー。
571 名前:名無し野郎 投稿日:2004/12/19(日) 06:15
感動した
572 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 08:32
よっちゃんカッケー!な オイ
みきよしいいな〜!な オイ
573 名前:ホットポーひとみ 投稿日:2004/12/19(日) 09:09
初めまして 最初から一気に読ませていただきました。
大抵はあまーい甘甘小説って読まなかったり読み流したりなんですけど
(進行がとろい上に同じせりふしかないから)
これだけはしっかり初めから最後まで読ませていただきました。
いやぁ〜・・・・すごいです。
よっすぃ〜マジかっけー。
この二人に引き込まれそうです。
ふじもっちゃんのことが自分のことみたいにうれしいです。
これからも100%応援してるんでがんばってください。
574 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 09:41
更新おつかれさまです。
今日これから仕事なのに、もう3回も読み返してしまいました。笑
先の見えなさは十分楽しませてもらっています。
こちらこそ、言葉不十分で申し訳ない。
大学編、ロンドン編と来るとは思わなくて嬉しい驚きです。
いずれ訪れる(であろう)幸せな結末を見届けるために
2人(と、ロテさん)の頑張りに期待していたいと思います。
来年も宜しくお願いします。2人を。笑
575 名前:たーたん 投稿日:2004/12/19(日) 10:12
更新お疲れ様です。
こちらも今年で最後の更新なんですね。
残念ですが、でもいい感じで終わってるんで待てる気がします・・・
二人の未来に幸あれ。
それでは、来年もよろ〜

あー!また来ちゃったじゃない!(R)
576 名前:ドラ焼き 投稿日:2004/12/19(日) 13:23
はぁ〜〜〜〜・・・もう何なんでしょうこれは。
この満足感は言葉では言い表せないですね。
ロンドン編楽しみにしてます。来年もがんばってください。
577 名前:サキ 投稿日:2004/12/19(日) 22:19
はぁ・・・すごく感動でした!!
作者さん、本当にお疲れ様でした。
これからも頑張ってくださいね!
応援してま〜す。
578 名前:ニャァー。 投稿日:2004/12/21(火) 00:01

更新お疲れ様です!!
>本当に励みになります。
そんな風に言ってもらえるなんて
すごく嬉しいです!ロテさんありがとうございますw

かっこよすぎる吉澤さんに激しくトキメキw
可愛すぎる美貴様に胸キュンでしたw
大学編お疲れ様でした!!ロンドン編も楽しみにしていますv
次回も更新頑張って下さいね!!
それでは、よいお年を…wそして来年もヨロ〜です!
579 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/12/21(火) 16:38
ロテさんの作品は登場人物への愛情が貫かれていてユーモアに溢れ
辛い展開でもいつも安心して読めるし心にやさしさを贈ってくれます
どの版の作品もほんとうに大好きで更新を心待ちする一年でした

来年もロテさんの素敵なお話に出逢えることを楽しみにしております!





580 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/27(月) 06:53
一気に読みました。この二人を見ててなぜか泣きました。
娘小説で泣いたのは久しぶりです。
大好きな作品です。これからもヒソーリと読ませていただきます。(謝
581 名前:始芽 投稿日:2004/12/27(月) 14:43
更新おつかれさまでした!!
涙がほろりとでてきてしまいまして。
よっちゃんがまた、なんつーか、かっこいいww
25歳だったとはビックリしましたが(笑
ロンドン編楽しみにしています。
ゆっくり、がんばってください。応援してます!
なんかあったかくなれるお話でした。

良いお年を!来年もよろしくですw
582 名前:ナナシ 投稿日:2004/12/28(火) 01:34
↑頼むからあげるなw更新されたかと思ってびっくりしたら超落胆。
583 名前:130@緑 投稿日:2004/12/30(木) 16:20
更新、お疲れ様です。
時に甘く時にせつなく時に大人、ここのみきよしは本当に最高ですね。
飲み友達だった当時からずいぶん進みましたよねぇ・・・(遠い目)
カッコ面白い二人にハマりまくりです。
ロンドン編も楽しみにしています。どうか良いお年を。
584 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:51
▼▼▼


狭い路地を駆ける。息を乱して時折後ろを振り返りながら、暗い道をひたすら走り続けた。
水たまりに豪快に足を踏み入れ靴の中がジメッとした。目の前を猫が横切り心臓が飛び跳ねた。
角まで来て首をひょいっと出し辺りを見回す。見慣れたジャガーと黒いコートを確認して軽く舌打ちした。

「しつこいっつーの」

せっかくここまで走ってきたのに。
あの人の目を盗んで通りを渡るのには少し無理がある。
仕方ない、引き返すか。
来た道を戻ろうと踵を返すと突然肩を掴まれた。そして低く恐ろしい声が耳元で響く。

「捕まえた」
「…けいちゃ〜ん」

万事休す。この人の勘の良さにはもしかしたら一生敵わないのかな。
ズルズルと引き摺られジャガーの後部座席に放り込まれながらそんなことを思っていた。

585 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:51

「まったく。毎回毎回よくもまあ懲りずに逃げ出すものね」
「人間は挑戦することでここまで進化してきたんだよ。そこに壁があるなら乗り越えなきゃ。向上心は常に持ち続けていたいよね〜」
「そのご立派な向上心とやらをアンタが持ち合わせてるなら、たまにはおとなしく家庭教師と勉学に励んでほしいものだわ」

冗談じゃない。いい歳して17の小娘に色目を使ってくる女となんて1分だって一緒にいられるもんか。オヤジの奴会社のこととなると目の色変わるくせに娘の家庭教師選びなんて、きっとランチになにを食べるか決めるより適当に扱ってるんだ。絶対そうに違いない。

「そろそろ大人になりなさいよ」
「けいちゃんも大変だね。今度ちゃんとマリアに言っとくよ。あたしが家抜け出したからっていちいちけいちゃんに報告するなって」
「大変だと思うなら夜中にフラフラ出歩くんじゃないわよ。ちゃんと行き先を言わないからマリアが慌てふためいてあたしに連絡するんじゃない。それとも言えないようなところにでも行こうとしたの?」
「夜中って。まだ早いよ。夜は長いんだから」
「アンタの歳からしたらもう夜中よ」

586 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:52

どこに行くかなんて、けいちゃんは知ってるくせにいつもあたしに問う。答えを知ってるくせにいつも。あたしの口から違う答えを聞けるとは思ってないくせに。そんなけいちゃんに反発したい気持ちと心配かけて申し訳ないと思う気持ちが入り乱れて、あたしはどうしていいのかわからなくなる。

そんなに自分は悪いことをしてるのだろうか。そんなに心配させるようなことなのだろうか。彼女の元に向かうのは。自問自答を繰り返してみたところで、答えは出ない。ただ行きたいという、欲求のみがあたしを走らせる。

「マリアをもっと労わりなさいよ。アンタのこと娘みたいに思ってるんだから」
「へーい」
「吉澤さんには…」
「オヤジなら今はニューヨークらしいよ。どうせまたどっかの会社乗っ取りに行ってんじゃない?」
「相変わらずね」

母親のような顔をして昔からあたしの世話を焼いてくれるこの人が、時々小さく感じられるときがある。それは今日のようにあたしが勝手に家を抜け出してちょっとアブナイ地域をウロウロしてるのを見つけられたときや、新しい学校になかなか馴染めなくて彼女の職場に入り浸ったとき、嫌ってるオヤジのことを口に出したときなんかによくそう感じる。

587 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:52

きっとあたしのことをすごく心配してくれているのだろう。あたしが自嘲気味になると悲しいのか情けないのか、らしくない顔をしていつもの強気な口調がどこか遠慮がちなものになる。本気で怒るべきか、親戚らしくほどほどのところをキープしておくべきか迷ってるように見え、その揺らぐ気持ちがあたしに彼女の背中を小さく見せているのかもしれない。

「夜遊びもほどほどにしなさい」
「なつみのところに行こうとしていただけだよ」

おとなしく家に帰るのもなんだか癪だったからかわりに爆弾を投下した。
けいちゃんの、ハンドルを握る手が心なしか震えたような気がする。あたしはイヤな奴だ。わざと困らせるようなことを言った。けいちゃんが良く思ってないのを知っててわざと。でも彼女はあたしなんかより断然大人で、その物腰に少なくとも表面上は動揺なんて微塵も感じさせず、普通に会話を続ける。

「行くなとは言わないけど…なにもこんな時間に行かなくてもいいでしょ」
「愛し合う恋人同士にはいつ、どこで、なんてルールはないんだよ」
「…恋人だったらね」

そっと呟いたけいちゃんの言葉はたしかに耳に届いていたけど、聞こえないフリをした。なつみとのことをあたし以上にわかったような素振りのけいちゃんがイヤだったから。あたしとなつみの関係はそんな傍から見ていてわかるような単純なものじゃない。誰にもわかってほしくなんてない。自分で話を切り出しておきながら勝手な言い分だとは思ったけど。


588 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:53

ろくに家人が寄りつかない、広いだけが取り柄のような家に続く細く長いカーブの手前でジャガーが減速する。もうそろそろつく頃だろう。ついたらマリアに声をかけてからシャワーを浴びてさっさとベッドに潜り込もう。お説教は明日にしてもらって。でも寝る前に一言謝っておかなきゃな。

そこまで考えたら急に眠気が襲ってきた。丁寧な運転がさらに睡魔を運んでくる。欠伸をして、目尻に溜まった涙をダウンジャケットの袖で拭った。心地よい揺れに体を預け、あたしは目を閉じた。今夜会うはずだった愛しい彼女の顔を思い浮かべながら。



ロンドンに移り住んでから約3年。冬はもうすぐそこまで迫っていた。


あたしは愛という言葉を口にするだけで、ただそれだけで満足していたのかもしれないな。



589 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:54
△△△


ヒースロー空港に降り立ったあたしを意外な人物が迎えてくれた。

「はっきり言っておきますけどあなたのことはあまり良く思ってない」
「知ってます」
「副理事から電話がなければこの時間はミス・テイラーにホワイトニングをしていたところだ」
「ミス・テイラーには機会があればお詫びしたいですね」

彼女はムッとした表情を隠さずにあたしを上から見た。冗談が通じない女はこれだから困る。第一あたしよりデカイってのが気に入らない。初めて会ったときからそう思っていた。

「とにかく迎えにきたからにはお送りしますよ」
「不本意ながらも?」
「仕事だと思えば大抵のことはできます」
「あたしの足になるのも?」

振り返ってあたしを見た彼女は明らかに憤っていた。目を剥いてなにか言いたそうな顔をしてる。背だけじゃなくて目もデカイな。やっぱり気に入らない。

590 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:54

「あなたの軽口に付き合っていられるほど暇じゃないし、あなたの足になる気もない」
「わかってますよ。ちょっとからかってみたかっただけです」
「なっ…」
「副理事になに言われたか知らないけどあたしのことにはお構いなく。地元みたいなもんだし知り合いもそれなりにはいるんでなにも困ることはないですから。送ってくれるって言うならとりあえず今日だけは甘えますけど」

あたしと彼女が相容れるはずがない。一緒にいて有益なことなどなにひとつないんだから。その点では彼女と意見が一致するはずだ。だから送ってもらったからといってこれからも彼女と会う必要なんてない。向こうだってそれを望んでいるはず。いくら会社人間でも上司から遠く離れたロンドンで、毛嫌いしているあたしの世話を焼くのは遠慮したいはずだ。あたしはそう軽く考えていた。

「私も構う気はありません。ただ」
「ただ?」
「まあいいです。とりあえず車に行きましょう」


591 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:55

ミニって。デカイ体してこんなかわいい車に乗るか?普通。でもちょっとかわいいかも。あたしこういうギャップに弱いんだよなぁ。彼女とこのミニのミスマッチさが妙にマッチして、あまり喋らないで寝てしまおうとか思ってたのにややテンションがあがってつい口数が多くなった。

「先生はロンドン好きですか?」
「好きじゃなきゃ来ませんよ」
「仕事だったらどこにでも行くでしょアナタは」
「必然性があれば」
「髪長いっすね」
「……」
「お昼食べました?」
「……」
「クリニックにかわいいコいます?」
「……」
「ミス・テイラーって美人ですか?」
「……」

ぽんぽん言葉を投げかけるあたしがウザくなったのか、彼女はただ黙って前を見ていた。まったくノリが悪い女だ。どうせ今だけなんだから少しはこの退屈な時間をどうでもいい会話で潰すのに手を貸せっつーの。

592 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:56

「副理事に電話をもらったってさっきは言いましたけど」

なにを言っても反応がないのでいいかげん話すのを諦めて窓から外を眺めていたら、突然彼女が口を開いた。ウトウトしかけていた意識をむりやり起こす。まったく唐突な女だ。

「あれ嘘なんです」
「は?ウソ?」
「ええ」
「じゃ、なんで空港に?」
「電話をもらったのは本当。ただその相手は違います」
「…やっぱり。副理事があたしのことなんかで先生に電話するなんておかしいと思った。大体ロンドンに行くことすら教えてないのに。誰が先生にそんな余計なことを?」
「たしかに余計なことでしたね。でもその人にとってはそうではなかったんでしょう」

喋りながら彼女は少し間をとってあたしの顔をチラリと窺った。まったく本当に余計だよ。それにしてもその意味深な言い方。さっきからかったのを根に持ってるでしょ、アナタ。

「はぁ…藤本くん、ですね」
「ご名答。昔の恋人とミス・テイラーを秤にかけて、その結果がこれです」

昔の恋人だと?軽々しく口にしないでほしい。今はあたしの恋人なんだから。

593 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/03(月) 13:56

「美貴のやつ」

よりによってこの人に連絡するなんて。そんなにあたしのことが心配だったのか。迎えなんか必要なかったのに。まさかとは思うけど迎え以外のことも頼んでないだろうな。ていうか理由はなんであれ愛しのハニーが昔の恋人に電話したって事実に相当腹が立つ。この仕事人間が仕事よりもそっちを優先させたことも気に入らない。ミス・テイラーより美貴ってわけかよ。ムカツクな。面白くない。ああ、そうさ!嫉妬さ!

「あなたを迎えに行ってあげてほしいなんて言われたときは断るつもりだったんですけど」
「どうして来たんですか」
「さあ。どうしてでしょう。声が切実だったからかな」
「飯田先生」
「はい」
「美貴のことどう思ってます?」
「友人だと思ってますが」
「それだけ?」
「さあ。どうでしょう」

颯爽とミニのハンドルを操る彼女の口の端が少し上がっている。
サングラス越しに見える目は意地悪く笑っているような気がした。


やっぱりこの女だけは、気に入らない。



594 名前:ロテ 投稿日:2005/01/03(月) 13:58
更新終了。あけおめ。ことよろ。
見てのとおり過去と現在が交錯しています。混乱しないように記号で区別をつけてみました。

▼▼▼ これより下は過去  △△△ これより下は現在

これ以外に良い方法がおもいつかなかったもので。こんな表現方法でわかりにくかったらすみません。
皆さん混乱しないようにお願いします。とか言って書いてるほうが一番混乱しそうですが。
595 名前:ロテ 投稿日:2005/01/03(月) 13:59
レス返しを。

皆さんたくさんの温かいレスを本当にありがとうございました。お一人お一人にそれこそ更新分くらいの長文レス返しをしたいところですが、それもウザイだろうと思いますので簡単に済ませることをお許しください。
新しく始まりましたロンドン編ですがなかなか苦戦しております。もう少し波に乗るのに時間がかかるかと思われます。今年は本気でマターリ更新になることでしょう。でももちろん書く意欲はマンマンですし頑張ります。これからもよろしくお願いします。

569>名無飼育さん
最初の段階では年齢はあまり意識していなかったのですがよくよく考えたらこれくらいが妥当かな、と。

570>woolさん
クサイですよねぇ。クサイなぁと思いつつ書きました。でもよっちゃんならアリかなと。

571>名無し野郎さん
安心しました。

572>名無飼育さん
その2行に作者の目標が集約されているようです。

573>ホットポーひとみさん
初めまして。ロテです。一気読み乙です。そして引き込まれ乙です。100パー応援しかといただきました。

574>名無し飼育さん
3回読み返し乙です。乙すぎです。いえ、言葉不十分なのはこちらでした。そういう意味では取ってませんので。作者は全然気にしてません。2人のことは任せてください。

575>たーたんさん
ついに略になってしまいましたね、梨(ryちょっと笑ってしまいました。いい感じで終わった後の更新はやや緊張します。
596 名前:ロテ 投稿日:2005/01/03(月) 14:00
続きー。

576>ドラ焼きさん
書き終えた後の充足感も言葉では言い表せません。しいて言うなら疲れ(ry

577>サキさん
感動したという言葉は純粋に嬉しいのですが自分もいち読者として客観的に感動してみたいとよく思います。

578>ニャァー。さん
なにかにつけてカッケー吉と可愛い美貴様を書くのは本当に楽しいです。

579>名無し飼育さん
2人には基本的に甘い作者です。でも読者の皆さんの優しさには敵いません。とってつけたようなお世辞のようですがそれが本心だったりします。

580>名無飼育さん
一気読み乙です。どうか涙を拭いてください。作者も新章を書くにあたり何度か読み返したのですが本当に疲れました。一気に読んだ方には乙としか言いようがありません。泣くのもまた疲れますね。本当に乙です。

581>始芽さん
たぶんびっくりするだろうなぁと思いつつ25歳。本当は26歳にしたかったのはここだけの話ということで。

582>ナナシさん
落胆されちゃいましたか。すみません。下でsageレスをお願いしておきます。

583>130@緑さん
そうですねぇ。なんだかんだいって進んでよかったです。作者も遠い目をしながらしみじみ思いました。


新年早々皆さんにお願いがあります。レスを頂けるのは非常に嬉しいのですが、その際はsageでお願いします。理由は>>582さんが書いているとおりです。作者は更新時は必ずageますのでそれ以外はsageまたはochiでよろしくお願いします。詳しいことは自治スレを参照してください。それでは。
597 名前:ニャァー。 投稿日:2005/01/03(月) 20:15

更新お疲れ様です!
明けましておめでとうございます!!

楽しみに待ってましたよロンドン編v
あ〜あのお方のお名前が出てきましたねー…w
なにげよっすぃーがすごくキャワいいv
全然マターリ更新でいいんで今年も頑張って下さいね!
598 名前:wool 投稿日:2005/01/05(水) 01:28
遅れ馳せながら、新年あけおめですー。

ロンドン編も楽しみにしていますので、マターリ頑張って下さーい。
599 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/08(土) 03:15
▼▼▼


朝は嫌いだ。朝は彼女をイヤな女にさせるから。夜がいい。夜の彼女は優しいから。




「いないじゃん」

せっかく家を抜け出して、けいちゃんにも捕まらずにここまで来たのに。彼女はどこかに出かけているのか狭いアパルトマンはしんと静まり返っていた。まだ宵の口だ。きっと買物にでも行っているのだろうと勝手に上がって待つことにした。ドアを開けた途端、合鍵につけたキーホルダーがどこかにぶつかり鈍い金属音がした。無性に切なくなり手の中の鍵を握り締める。

理由のわからない寂しさを胸に、固いベッドに寝転び天井を見上げる。汚れなのか模様なのかよくわからない茶色い染みを見るのが習慣になってしまった。少し肌寒い。アルコールと煙草の匂いが鼻につく。でもこれは彼女の部屋に染みついた彼女の匂い。この匂いであたしをいっぱいにしてほしいといつも願っている。

600 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/08(土) 03:16

ふいに電話のベルが鳴り、あたしは起き上がった。一瞬彼女から?と思ったけどすぐにその可能性を打ち消す。出かけている人間が自分の家に電話などするはずがない。頭の中に浮かんだ別の人物にどう言い訳しようか考えながら受話器を取った。取ってから、律儀に電話に出る必要なんてなかったということに思い至った。後悔してももう遅い。

「ひとみ?」
「けいちゃん…」

他人の家に電話をして、家主以外の名前を真っ先に口にするけいちゃんの勘の良さにあらためて脱帽した。なぜあたしが出たとわかったのだろう。受話器を取っただけで声は出してないというのに。

「なつみはしつこく鳴らさないと電話に出ないから」
「へぇ〜よく知ってるね」
「基本的に嫌いみたいなのよね、電話。利用価値を教えてあげなさいよ。アンタも困るでしょ?」
「あたしは基本的になつみに電話なんてしないもん」

あたしの知らない彼女の情報を他人の口から聞くのは、たとえ友人であるけいちゃんだとしても嫉妬の気持ちは否定できない。つい拗ねた口ぶりになってしまった。

あたしってガキだな。

でもそれも仕方ないとも思う。実際自分はまだハタチにも満たない正真正銘の子供なんだ。無理して大人ぶる必要なんてない。大人になんてまだなりたくはない。

601 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/08(土) 03:16

「はいはい。電話してる暇があったら会いに行くってことね。アンタは欲求に忠実よね」
「だってほかにしたいことないんだもん」
「やりすぎると飽きるわよ。なつみはいるの?」
「そんなー。けいちゃんじゃないんだから。どっかに出かけているみたい」
「飽きるほどやってみたいわ。ってなに言わせるのよ。今日はずっとそこにいるの?」
「さあ。彼女次第だけど」
「会うならもっと太陽の下とかで会いなさいよ。アンタたちいつも不健康なんだから」

曖昧に頷いた。不健康とか不健全とかよく言われるな、そういえば。彼女とふたり太陽の光が降りそそぐ中、公園かどっかを散歩してる図を思い浮かべる。…イメージが湧かない。似合わなすぎておかしさがこみあげてきた。けいちゃんも本気でそんなこと思ってないくせによく言うよ。

「そうだね。いつかそういうこともしてみるよ、きっと」
「なつみにもそう伝えて」
「自分で言えばいいのに。友達なんだから」
「友達、か…アンタもなつみとばっかりいないで友達作りなさいよ」
「気が向いたらね」
「生意気なガキ」

電話を切って冷蔵庫からビールを取り出し一気に半分ほどを空けた。ベッドを見つめる。

彼女に覆いかぶさるあたし。
官能的な表情で目も虚ろにあたしを求める彼女。
闇の中で響く二人の息遣いとベッドの軋む音。

最中の二人は無言のままで、特に言葉を交わすことはない。時折漏れる喘ぎ声が耳に残るだけだ。目を開けていても思い浮かべるのは容易い。何度となく体を重ねた情景が手に取るほど簡単に目の前に広がる。ビールの残りを胃に流し込み、あたしは再びベッドに横になった。


602 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/08(土) 03:17

初めて彼女を見たとき、暗い女だと思った。小さい体でちょこまかと動く仕草は愛らしく、ベビーフェイスとそのパッとまわりが明るくなるような笑顔は文句なしにかわいかった。それなのにあたしはなぜか思った。彼女の中に闇を感じ取ってしまった。そうなるともうダメだった。彼女のことが気になって仕方ない。相手にされないとわかっていてもつきまとい、困らせ、ときに怒鳴られた。彼女の黒いつぶらな瞳の中にある闇を見つけたときからあたしはそれにどうしようもなく惹きつけられ、むりやり彼女を抱いた。

はじめのうちこそ抵抗されたものの、徐々に甘い声が漏れるに従い彼女は本性を見せてくれた。とてつもなく厭らしく下品な表情であたしに身を委ねてくれた。まるでこうなることがわかっていたかのように、終始あたしをリードして自分の思うがまま夜に堕ちていった。ひょっとしたら初めて会ったときからあたしは囚われていたのかもしれない。その闇に。彼女に。

悪魔のように甘美な誘惑に抵抗する術はなく、どっぷりと嵌った穴から這い出す手立てもなく、こうして今夜も彼女を待つ。でも傷んだ髪の隙間から見える彼女の瞳にはなにも映っていない。誰も。あたしさえも。囚われの身のあたしには彼女の瞳に映るほどの価値はないのかもしれない。それでも太い鎖で繋がれたように彼女から離れられないのは彼女が好きだから。これほど単純明快なことはない。男にも女にも時間にも金にもだらしない、どうしようもない女だけど涙が出るほど愛しい。アイシテルという彼女の言葉が偽りでもあたしは彼女が愛しかった。


いつのまに眠ってしまったのか薄っすらと目を開けると彼女の姿が目に入った。ピチャピチャとあたしの体を子犬のように舐めまわす彼女。眠っている間に服を脱がされたらしい。あたしは裸で彼女もまたなにも身につけていなかった。へそのまわりを舐められ、舌が下降するのにつれて思わず声を漏らす。あたしが起きたことに気づいた彼女は頭を上げ、こちらをチラリと一瞥してからまた一心不乱に舌を動かし出した。言葉を交わさぬまま快楽に身を落とす。



このまま、いつまでもこうしたいと思っていた。こうしていることが幸せなんだと思っていたのかもしれない。



603 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/08(土) 03:18
△△△



藤本美貴 様

わざわざ飯田先生を迎えに来させるなんて人使いの荒さに惚れ惚れしたよ。
(そんな美貴にオイラはゾッコンLOVEだぜっベイベー!)
心配してくれるのはありがたいけど大丈夫。無理はしないしちゃんと自己管理もできるから。
実家に帰るのは鬱陶しいからこっちでは馴染みのホテルに逗留するよ。
(ひとり寝は寂しいよウワーン)
とりあえず明日は昔の友人に会いにロンドンクリニックに顔を出そうと思う。
(飯田先生とはもう顔を合わせたくないけど)
それからこんなこと言うのはみっともないと自分でも思うけど、なんつーか…やっぱいいや。

うーん、やっぱ言おう。飯田先生のことはもうなんとも思ってないんだよな?お互いになんでもないんだよな?こっちとそっちで遠く離れているってのに、嫉妬なんかしてオイラ馬鹿みたいだよ。つーか馬鹿だよなぁ。でもあんまりヤキモキさせないでくれよ〜。頼むから。


吉澤ひとみ



604 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/08(土) 03:19

飯田先生との楽しくないドライブの後、いつものホテルにチェックインしそのまま何時間か眠りこけた。さすがに疲れが溜まっていたのか、ぐっすりと寝て夢も見なかった。夕方すぎに目を覚まし、シャワーを浴びルームサービスで軽く食事を取った。支配人からのメッセージカードにはいつものように礼を述べる言葉が連なっていた。あのオッサンまだ支配人やってたんだな。もういい歳だろうに。

まだ少し眠気の残る頭で美貴にメールをした。電話にしようかとも思ったけど、声を聞いたらこのまま空港に直行して彼女の元に飛んで帰りそうな気がしたからあえてメールにした。彼女からの返事も電話ではなくきっとメールでくるような気がする。確信はないけどたぶん、なんとなくそんな気がした。

一旦彼女のことを考え出したら止まらなくなった。温もりや髪の感触や匂いなんかがこうして離れていてもはっきりと思い出せて、求める彼女がここにいないことが辛かった。それはべつに邪な考えではなく純粋に彼女と一緒にいたい、彼女といろんな話をしたいという欲求。顔を見て笑いあって、生きていることを実感したい。

再び睡魔に襲われのろのろとベッドに入った。この分なら明日の朝ちゃんと目が覚めて時差ボケも解消されることだろう。身体とともに疲れた頭も思考能力が徐々に停止する。今はただ、彼女が恋しかった。
また夢は見なかった。


605 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/08(土) 03:19

目覚めはまあまあ快適だった。眠りが深かったからかもしれない。ホテルで簡単な朝食を取った後、地下鉄を乗り継ぎロンドンの中心地にあるリージェンツパークに向かった。たとえ目当ての人物がいなくともあそこで少しのんびりしてからロンドンクリニックに顔を出そうと思った。どうせヒマだし。

地下鉄の長い階段を上りのろのろと歩いてその巨大パークに足を踏み入れる。何年ぶりだろう。年末に渡英した際は家のことやなんかで結局来れなかった。べつに特別な場所というわけではないがこうして歩いていると感慨深いものがある。

晴れていてもさすがに寒さが身にしみる。この季節に散歩は少し無謀だったかと後悔したけど、マリアは寒い季節のここも好きだと言っていたからつい足を向けてしまった。お茶を飲みながらよく話してくれたっけ。リスの手なずけかたや季節ごとの風景を。広い家の中でたった二人、そんな話をしながら飲む紅茶はコーヒー党のあたしからしてもかなり上手かった。年末に会ったばかりでどうしても会いたいというわけではなかったけれど、あのでっぷりした腕に抱かれて温もりを感じたかった。やはり寂しかったのかもしれない。

寒さに耐え切れず公園を後にした。滞在中またいつでも来ればいい。たとえ会えなくともまたの機会に会えるかもしれない。そう自分に言い聞かせまた地下鉄に揺られロンドンクリニックに向かった。


606 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/08(土) 03:20

オフィスビルが立ち並ぶロンドンの中心街の一角に、うちの大学のロンドンクリニックがある。久しぶりに目にして自然と懐かしさが込み上げてきた。昔はよく圭ちゃんに会いに入り浸ったものだ。特になにをするわけでもなく本を読んだり音楽を聴いたりしながら、圭ちゃんの仕事が終わるまで待っていた。家に帰りたくなかったから、ただ待っているだけの時間でも幸せなひと時だった。あの頃とほとんど変わらない街並みがあたしをどこか感傷的にさせる。相変わらずビジネスマン風の男女がせかせかと歩きまわり、肩をぶつけ合っては紳士淑女らしく謝りながらどこかに消えていく。

歴史を感じさせる重厚な外見とは裏腹に、中身はかなり洗練された空間が広がる。何年か前に改装工事をしたらしい。それでも昔の面影は至るところに残っている。エレベーターで10階に上りこちらにはまだ気づいてない受付嬢に目をとめた。なんと言って驚かしてやろうかと考えていると、奥のドアが開き見慣れた人物が顔を出した。しかもあろうことか目が合ってしまった。まったくなんてタイミングだ。やっぱり気に入らない。

「ああ。吉澤さんじゃないですか」
「昨日はどうも」
「よく眠れました?」
「おかげ様で」

ん〜。なんか余裕ありげなこの態度が鼻につくな。
あたしたちの会話が当然耳に入ったのだろう。受付嬢は驚いたように顔を上げた。

607 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/08(土) 03:20

「よしこ?」
「オイッス!まいち〜ん」
「久しぶりじゃ〜ん!でも何で?!あっもしかして昨日カオリンが迎えに行った人ってよしこなの?」
「そうそうカオリンが空港に…ってカオ…リ…ン?ン?!」

『カオリン』ってまさか飯田先生のことか?先生をファーストネームに『ン』をつけて呼ぶほど彼女は礼儀を弁えない人ではなかったはず。それに先生も仕事をキャンセルした理由まで受付嬢に話すか?普通。それにしてもフザけた愛称だこと。

「声が大きいよ、まい。それにしても吉澤さんからこちらに来るとはね」

先生もやけに気安い喋り方だなオイ。つーか今なんつった?まい、とか呼んでたよな。普通にまいって聞こえたんですけど。まいって。なんつーかもしかしてこの二人って…

「キミたちできてるの?」

なんとも上品とはほど遠い尋ね方をしたあたしに二人は嫌な顔ひとつせず答えてくれた。



「イエス」



まったく、昨日から気に入らないことのオンパレードだ。



608 名前:ロテ 投稿日:2005/01/08(土) 03:21
更新終了
609 名前:ロテ 投稿日:2005/01/08(土) 03:27
レス返しを。

597>ニャァー。さん
本気でマターリと言っておきながらどうやらヤマを越えつつあります。ですがまだまだ迷走状態の作者を今後ともよろしく。あの人については…ま、それはまたの機会に(イツダ

598>woolさん
あちらのほうにもレスをいただきありがとうございました。こっちはなんとかなりそうですがあっちは修正しまくってます。きっとあっちこそ本気でマターリ…。読者の方をひょっとしたら置いてけぼりにしてロンドン編突っ走ります。
610 名前:130@緑 投稿日:2005/01/08(土) 21:59
更新、お疲れ様です。
ロンドン編、藤本くん視点とはまた違った趣でなかなかイイですね。
よっちゃんの心の機微が浮き彫りになるような・・・
そして「彼女」のキャラが秀逸だなぁと感じてます。
こういう部分を出せるのはロテさんならでは・・・と思います。
ドキドキしつつ見守らせていただきます。
611 名前:ニャァー。 投稿日:2005/01/09(日) 00:34

更新お疲れ様です!
驚きながらつつ最後の方でアハッwと笑ってしまいましたw
マターリでも迷走状態でもw待ってるんで(あの人の事も楽しみにしながらw)
無理せずロテさんのペースでいいのでv頑張って下さいねっ!
612 名前:wool 投稿日:2005/01/09(日) 20:26
更新お疲れ様ですー。
ロテさんのお話は、シリアスかと思えば次の瞬間にはコミカルになったりと、話の流れが本当に上手いなぁと思います。
全く飽きずに楽しめます!!
613 名前:たーたん 投稿日:2005/01/10(月) 10:51
あー!
更新されてたんですね。気が付きませんでした・・・
なんておバカなんでしょう。
またチェックチェックの毎日になりそうです。
今年もよろしくお願いします。
614 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/12(水) 22:22
新しい展開が始まってますね〜。
地下鉄とかパークとかその街の景色が浮かんで、
なんか妙に入り込んでしまうんですけど・・・。
今年の更新も楽しみにしてます。
615 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:36
▼▼▼


朝の彼女はほとんど声を発さない。最低限の意思表示のみでコミュニケートすること自体を拒絶する。不機嫌度は最高潮だ。時々そんな態度を見せるのは自分に対してだけなのではないかと不安になる。あたしが知らないだけで、ひょっとしたら他の誰かといるときは当たり前のように朝の挨拶を交わし軽く微笑んで食卓につくのでは、と。そんなことを考えるだけで胸が締めつけられるようだった。自分の勝手な想像に過ぎないというのに。

「コーヒー飲むよね?」

無言で頷く彼女のために年季の入ったマグカップに熱い液体を注ぐ。自分の分と二つ手にしてベッドに腰掛けてぼうっとしている彼女の元へ戻る。薄暗い部屋の中で二人、無言でコーヒーを飲んだ。まだ現実と眠気の狭間で彷徨っているらしく、彼女は時折欠伸をしては目に浮かぶ涙を指で拭っていた。

そしてまた考える。自分以外の誰かと朝を迎えて飲むのは必ずしもコーヒーとは限らないのでは?と。なつみが何を飲んだって、コーヒーだろうが紅茶だろうがそんなことはどうだっていい。けど誰か知らない他人が今のあたしみたいにコーヒーをいれたり紅茶を注いだりしているのを想像すると、やっぱり胸が痛んだ。ただそこにいるのがあたしではないということが寂しくて。


616 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:37

ピカデリーサーカスのパブでウエイトレスをしている彼女の本業は役者だ。小さな劇団に所属している。彼女を初めて見たのは圭ちゃんに無理やり連れられて行った小劇場の舞台上だった。端役ながらも天真爛漫でキュートな少女を演じていた彼女に目が釘付けになった。芝居自体はとりたてて面白味のない、主人公が恋をして誰かが死ぬとかそういう話で、あまり覚えてはいない。けれど葬式のシーンで皆が涙に暮れる中、悲しみを表に出さないようにとひとり明るく演じる彼女の姿が印象的で、今でもその場面は目に焼きついている。

それは演技が素晴らしかったとか、気丈に振る舞うその役柄に心打たれたとかそういうわけではなく、悲しみを秘めたまま明るい演技をしなければならないシーンだというのに、彼女が本当に楽しそうに演じていたことに度肝を抜かれたからだ。他の役者とは一線を画して突き抜けていたあれは、演技というよりも素直な感情表現のようで、涙を流す演技者にまぎれて心底楽しそうな表情を浮かべる彼女がとにかく気になった。その瞳が、あまりに無邪気すぎて寒気がするほどに。

617 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:38

けいちゃんが当時付き合っていたブロンド美人がそのときの公演の主役を演じていたこともあって、あたしたちは楽屋を訪れとりあえずありきたりな誉め言葉を並べた。あたしはけいちゃんとそのブロンドが話している間、なんとなくなつみを目で追っていた。手早く着替え、化粧を落とした彼女は驚くほど幼い印象だった。舞台上で見たときとはまるで別人のように。目は合ったが特に声をかけるでもなく、あたしは話しかけてくる劇団員に当たり障りのない感想を述べていた。

結局その夜、けいちゃんとブロンドの食事にあたしも付き合うことになりなつみと一度も接触することなくその場を後にした。なんとなく後ろ髪を引かれる思いで行きたくもないレストランに連れて行かれた。そこでなにを話したかなんて当然覚えてるわけがなく、ただあたしは黙々と美味しくもない料理を口にしていたように思う。

帰り際、ブロンドとなつみが実はルームメイトだと知りあたしは激しく動揺した。もっと話を聞いておけばよかったと少なからず後悔もした。そういう縁もあってけいちゃんはなつみと友達付き合いをしているらしく、時々食事やお茶に行くことがあると言っていた。それを聞いて今度は露骨に喜んだ。彼女と接点が持てると嬉しくなった。珍しく感情のふり幅が大きいあたしにけいちゃんは怪訝な顔をしていたが、それが彼女のせいだとはそのときはまだ気づいていないようだった。


618 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:39

「今夜どうする?」

なつみはなにも答えない。

「仕事終わる頃迎えに行っていいかな?」

なにも答えず煙草に火を点けた。

「じゃ、また部屋で待ってるよ」

煙草を灰皿に押しつけて、あたしをチラリとも見ずになつみは立ち上がった。そのままシャワーを浴びに行く彼女の背中に再び声をかける。

「なつみ」
「ひとみ」

遮るようにしてようやく彼女は言葉を発してあたしの顔を見た。そしてにっこりと笑ってなんでもないことのように言う。

「今夜はディランの店に行くの」
「……」
「だから帰らないと思う。ここにいてもいいけどたぶん帰らないから」

なにも言えず彼女を見つめていたらいつのまにかシャワーの音が聞こえてきた。見つめていた場所にすでに彼女の姿はなかった。


619 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:39

あたしがなつみとそういう関係になったのと、なにが原因かは知らないけどけいちゃんがブロンドと別れたのとどちらが先だっただろう。ブロンドはけいちゃんと別れるとともに劇団にも見切りをつけ、なつみと住んでいたそう綺麗でもない部屋(つまりここ)を出て行った。今考えるとなつみとブロンドの間になにもなかったとは思えず、もしかしたらそのへんの事情もあたしやなつみ、けいちゃんとブロンドの関係に微妙な影響を与えたのかもしれない。

けいちゃんがなつみに対してややひっかかるような態度や物言いになったのは、もしかしてそのブロンドが理由なのだろうか。そう考えるとなんとなく頷けることが多いような気がする。でも単なる嫉妬で人に対する接しかたが変わるような人ではないし、はっきり言ってそんなのけいちゃんらしくない。だからまあ、きっとというか当然、100パーセント、あたしのことで頭を悩ませているんだろうな、けいちゃんは。


620 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:40

シャワーを終えた彼女は濡れ髪のままポタポタと雫が床に落ちるのにも構わず再び煙草をくわえた。そしてバサバサと乱暴にタオルで髪を拭く。その様子を眺めながらあたしは彼女の今夜の相手は誰だろうと考えていた。

男なのか女なのか。いろんな顔が頭に浮かんでは消えていく。ただ誰であろうとそんなことはさして重要ではなかった。今夜彼女に会えないことのほうがあたしにとっては大問題で、突き詰めると彼女が誰かといるからあたしとは会わないわけで、つまりはその誰かのせいであたしは迷惑を被っていることになるけど、不思議と彼女やその相手を恨むという気持ちはなく、ただただ哀しい、寂しい、という思いが先行しては交錯していた。

あまりにも彼女が平然とそういうことをやってのけるから、もしかしたらあたしは感覚が麻痺していたのかもしれない。正常な人間ならば当然するべきである嫉妬というものが、彼女との生活の中で知らず知らずのうちに欠如してしまったのか。それを慣れと言ってしまうのは簡単だけどそこから先になにがあるのか、あたしには見えなかった。

621 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:41

もちろん嫉妬という感情がないわけではない。ないわけではないけど彼女の相手をするあたしを含めた大勢の輩が、皆同じライン上にいて誰が抜きん出て誰が後退しているとかそういう差がないことが、あたしを嫉妬という感情から遠ざけているのも事実だ。もし誰かが、あたしとかが彼女にとって特別な存在になったりなりつつあったりして、尚且つ彼女が今までのライフスタイルを変えなかったとしたらあたしなり誰かなりが嫉妬の炎を燃やすのだろうか。嫉妬に燃える自分なんて想像もできないけど、彼女の特別になり得ることのほうが今はもっと考えられなかった。


出掛ける支度が整った彼女があたしを見た。化粧っ気のない青白い顔をしている。地味な服装で装飾品の類も身につけず、とくに人目を惹くような雰囲気でもない。それなのになぜこんなに彼女はあたしの心のウエイトを占めているのか。あたしだけではなくなぜ何人もの人間を翻弄するのか。舞台上にいる彼女のある種狂気めいた意識を感じ取ってしまったあたしたちの、それは哀しい運命だったのかもしれない。

「また明日」

彼女の返事を待たず先に部屋を出た。もっとも待ったところでなにも返ってはこなかっただろうけど。



体を重ねれば心は勝手についてくるものだと信じていた気がする。それこそ必然的に。短絡的に。



622 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:41
△△△



よっちゃんへ

飯田先生とのことは前にも話したとおりだから今さらなにも言うことはありません。
でもちょっと嬉しかったな。よっちゃんに想われてるって感じられて。
ヤキモキさせるつもりなんてなかったんだよ。でもよっちゃんが心配だったから。
それに飯田先生ならお互い良く思ってない同士だし、よっちゃんは自分より大きい女って好きじゃないでしょ?だからあたしがヤキモキしなくて済むし。

ところでロンドンクリニックの友人って女じゃないでしょうね。女なの?
はぁ〜…きっと女だよね。よっちゃんだもん。なんかムカツク。
べつに疑ってるわけじゃないけどあたしのがよっぽどヤキモキする機会が多いって思う。
よっちゃんにその気がなくても寄ってくる人はいるだろうし…
だからお目付け役ってわけじゃないけど飯田先生にいろいろとお願いしておきました。
よっちゃんが悪さしたらあたしのところに逐一報告が来ることになってるからね。
とにかくそういうことだから。あたしのことだけを想ってるように。


わかった?


あなたの美貴より



623 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:43

べつにあたしはまいちんとどうしたいとかそっち方面の感情はない。そりゃかわいいなとか色っぽいなとか思うときもあるけど恋愛感情があるかと訊かれれば即座に否定する。もちろん体の関係だってない。彼女は純粋に友達。友達として好きだ。会ったときから、今も、そしてこれからも、あたしの数少ない理解者のひとりで恩人でもある。あたしはいつだって彼女に感謝してやまない。

だから飯田先生と付き合ってると知って面白くない顔をしてしまったのは嫉妬したとかそういう理由からではない、と思う。広い意味では嫉妬になるんだろうけど恋とか愛とかの嫉妬では断じてない。仲のいい友達を取られた?そんな感じだ。しかもよりによって飯田先生ときてる。美貴もまいちんもこの先生の一体どこに惹かれたんだか。帰国したら美貴に尋ねてみようかな。ま、知りたくもないけど。


624 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:44

「もう〜カオリンってば言ってくれればよかったのに。よしこが来ること」
「私もまさかここに来るとは思ってなかったんだよ。食事のセッティングをしてまいを驚かせようと計画していたのに。吉澤さんフライングだよ」
「は〜そりゃすみませんでしたね」
「昨日だってただ空港に迎えに行ってくるって言うだけで、誰をとか教えてくれなかったしぃ」
「ははは。だからまいの驚く顔が見たかったんだって。まったく来るなら電話の一本もしてくださいよ、吉澤さん」
「は〜そりゃ重ね重ねすみません」

つーかアナタに会いに来たわけじゃないんで。電話する必要なんてないでしょ。あたしはただ昔からの友人とゆっくりランチでもしようと思ってたんだよ。なのになんで3人でまったりメシなんか食ってんだ?!しかもなんなんだコイツら!さっきからノロケやがってチックショー!

「つーか飯田先生さ、彼女がいるならいるで言えよな。昨日は美貴のことあやふやに答えてあたしを動揺させてさ。ほんっっっといい性格してるよ」

ムカついてたからついタメ口になったけどべつにいっか。もうこの際そんなことはどうでもいい。

625 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:45

「美貴…さんって昔カオリンの恋人で今はよしこの恋人の美貴さん?」
「なんだ知ってんだ、まいちん」
「カオリンに聞いたことがあるから。それにしてもこのよしこを射止めるなんて美貴さんって相当すごいんだね」
「いやいやあの美貴ちゅわんを射止めたオイラのが相当マジで本気やっべーくらいすごいよ。あ、飯田先生は別ね。あんま好きじゃなかったって美貴言ってたから」
「はははっ。吉澤さん面白いね」
「飯田先生ほどじゃないけどねー」

目が笑ってないっすよ飯田先生。あ、しかもあたしが狙ってたエビ食いやがった。チックショー!

「ところでよしこはなにしに来たの?」
「うん?」
「仕事休んでまでロンドンになにしに来たの?」

はれ?なにしに来たんだっけ?飯田先生の目の前にあった春巻にかぶりつきながらしばし考える。ん?その顔はひょっとして狙ってたね、春巻。へっへーザマミロ。あたしのエビを食うからそういうことになるんだ。エビの恨みをナメんなよ。…ってバカかあたしは!目的忘れてどうすんだよっ。

626 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:46

「えーと…墓参り、みたいなもんかなぁ」
「お母さんの?」
「いやオフクロのはボストンだから」
「わかった!お父さんでしょ?」
「オヤジはまだ生きてるっつーの」

飯田先生と二人して思わず苦笑した。相変わらずまいちんはまいちんだ。飯田先生と付き合っても彼女はあの頃のまま。こういう率直なところが眩しくて、羨ましかったんだよな。それでいて人を不快にさせないからすごい才能だと思う。悔しいけど飯田先生は女見る目あるよ。美貴といいまいちんといい。

「まい、吉澤さんに失礼だよ」
「いやべつにいっすよ。こういう人だもん」
「ちょっとこういう人ってどういう意味よー」

プリプリしながら小籠包にかじりついてるまいちんを見ながら、あたしたちはまた苦笑した。

「で、だから誰の墓参りに来たのよ」
「ん〜昔の…友人かな」
「ふーん。こっちにはいつまでいるつもりなの?」
「わかんない。できれば早く帰りたいけど」
「そっかぁ。じゃあいる間いっぱい会おうね。日本とイギリスじゃなかなか会えないんだから。せっかくの機会だし大学のときみたいに飲み明かそうよ!」

627 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/14(金) 22:46

無邪気な顔してあたしの手をギュッと握るまいちんは飯田先生の殺気に本気で気づいてない。まいったなぁ。あたしたちはそんなんじゃないんだから睨まれるなんて筋違いだ。まいちんもまいちんで計算してこういうことやってるんじゃないから余計に厄介だよ。あたしをダシにして飯田先生に嫉妬させようとか思ってるなら協力して悪ノリできるのに。飯田先生をからかえるのに。天然誘惑系ってコワイな〜。

「そ、そうだね。飯田先生とも飲んでみたいし」

さすがに飯田先生という恋人を前にして二人っきりでなんて言えっこない。藤本くんにバレたら後が怖いってのもあるけど。それにこの先生の酔ったところを見てみたいっていう好奇心も多少ある。こういう人ほど酔ったときに面白いことしてくれるんだよなー。うん、楽しみだ。

「えー!よしこと二人で飲みたいのにぃ」

はぁ。飯田先生も大変だ。きっと苦労が絶えないことだろう。


とりあえずこの場に藤本くんがいなかったことを神に感謝した。



628 名前:ロテ 投稿日:2005/01/14(金) 22:48
更新終了

そういえばうっかり忘れてたけど
某ベ(ryスレで乙言ってくれた人サンクス。
亀レスで申し訳。嬉しかったです。
629 名前:ロテ 投稿日:2005/01/14(金) 22:49
レス返しを。

610>130@緑さん
自分の中ではけっこう迷いがあるロンドン編です。とくに「彼女」については。吉視点はずっと書きたかったので内容はともかくその点ではよかったなと。大学編では藤本くんが主役でしたがロンドン編では吉に頑張ってもらいます。ドキドキハラハラして楽しんでいただければと思います。

611>ニャァー。さん
ロンドン編ならではの方々を登場させていますがいかがなものでしょう。笑っていただけて嬉しい限りです。ストックがかなり溜まってきました。あとひとつヤマを越えれば自分的にかなりラクになります。とりあえず週イチを目処に頑張ります。

612>woolさん
あんまりシリアスばっかりなのも書いていて気が滅入るというか…書いている途中は感じないのですが読み返すと暗っ!と思うことが多々あるのでちょこちょこ明るいシーンを織り交ぜつつ話の流れに不具合がないよう修正しております。なので楽しんでいただけてなによりです。

613>たーたんさん
更新してますよーwロンドン編ではいろんな人が出てきてたーたんさんを困惑させてしまっているかもしれませんが根底はみきよしですのでご安心を。吉の過去については痛かったり暗かったりするかもしれませんが見守っていてください。こちらこそよろしくお願いします。

614>名無飼育さん
入り込んでいただけたようでなによりです。ロンドン編ですのでロンドンらしさを描きたいのですがあまり情景描写は得意ではなくついつい手抜(ryになってしまいます。心理描写に終始するのも疲れるのですが…(ニガワラ
630 名前:130@緑 投稿日:2005/01/15(土) 12:45
更新、お疲れ様です。
ロンドン編では飯田先生のイメージが徐々に変わりつつあります。
この作品を読むと無性に紅茶が飲みたくなります、ハイ。
離れ離れのみきよしのやりとりもいいですね。可愛いです。
ベ(ryスレはやはり・・・またお待ちしてます(ニヤ)
631 名前:たーたん 投稿日:2005/01/16(日) 14:32
更新お疲れ様です。困惑しちゃいますかね?
でもみきよしが根底にあるなら大丈夫です!
ロテさんを信じてついていきます。
あまり痛くなると、私のお腹も痛くなるかも・・・
次回の更新、まったりとお待ちしてます。
632 名前:wool 投稿日:2005/01/16(日) 20:52
更新お疲れ様でした。
今回はみきちーの
『あたしのことだけを想ってるように。
わかった?
あなたの美貴より』
に完敗ですっ(w 可愛すぎだー。
こちらのとろけるようなみきよしは本当に好きです。

なちよしもこっそりと見守ってみたり…(w
633 名前:ニャァー。 投稿日:2005/01/16(日) 21:18

更新お疲れ様です!!
ロテさんのお好きなペースでいいのでヤマ頑張って下さいねw

シリアスなんだけどギャグ満載でしたねっ!!
なにげムキになってる飯田さんとよっすぃ〜が可愛い…v
あぁ〜美貴様と天然まいちゃんに胸キュンでしたw
次回も更新頑張って下さいね〜!!
634 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/19(水) 01:02
>>632
ねたばれはやめましょう。
635 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/19(水) 19:57
>>634
あげるなよ
636 名前:John 投稿日:2005/01/20(木) 00:22
よしみきなんてもうそう
あやみきこそがち



そんなオイラの根底をひっくり返してくれた作者さんすげぇ。
携帯から5時間かけて1からよんじゃいましたよ…美貴さんかわいいしよっちゃんエロいしで

最 高 で す 。


あぁもうみきよしってゆーか作者さんが好きです(違)
向こうもがんばってください。
637 名前:サキ 投稿日:2005/01/20(木) 20:51
あぁ・・・みきちゃんって本当にキャワイイ!
よっちゃんも相変わらず格好いいですね。
やっぱりこの二人が大好きですね。(みきよし最高!)

作者さん、これからも頑張ってくださいね。
次の更新を待ってま〜す!
638 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/21(金) 01:12
>>637↑教育的指導1
639 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/21(金) 01:33
>>634,>>637
はっきり言わんとわからんだろう。
レスはsageが基本だ。メール欄にsageと入れるだけだ。
そんな簡単なことがなぜできんのだ。
640 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/21(金) 05:03
ミスっただけだよ。指導厨逝けって。
641 名前:wool 投稿日:2005/01/21(金) 10:31
>>634
これは失礼致しました。以後気をつけます。
642 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:47
恋は人をキレイにするらしい。でもどんな恋でも、というわけでもないらしい。
ずぶずぶと底なし沼に引きずり込まれるように、蟻地獄に落ちていくように、自分の意思ではどうすることもできない恋は人をどういうふうに変貌させるのだろう。

それはまだ、恋と呼べるものなのだろうか。



643 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:48

「あら、来てたの」
「うん。けいちゃんの仕事ぶりを覗きに。ついでに歯垢もとってもらった」
「ここの一番の常連は間違いなくアンタでしょうね」

喋りながらあたしたちはけいちゃんの広い個室に入った。いつ来ても本や書類やいろんなものが乱雑に溢れている部屋だ。ソファの上まで侵食してるそれらをべつの場所にそっと移し、空いたそこにドカッと腰を下ろして脇にあった分厚い本をペラペラと捲った。

「ん〜専門用語多すぎ。よくわかんないや」
「たぶん日本語でも難しいでしょうね。そんな簡単に理解されたらたまったもんじゃないわ」

窓の外には鉛色の重そうな空が見える。今にも雨が降り出しそうな、そんな雰囲気だった。

「ね、けいちゃん」
「うん?」

ずり落ちてくる眼鏡の縁を中指で押し上げながらパソコンに向かう彼女に話しかける。

644 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:49

「前に付き合ってたブロンドの名前なんだっけ?女優の」
「なによ突然」
「こないだから思い出せなくて。なんか気になるんだよなぁ」
「ブレンダ」
「ブレンダ?」
「そう。ブロンドのブレンダ」
「ふーん。イマイチぴんとこないや」
「だってアンタ全く興味なかったじゃない」
「まあそうだけど」

カチカチと小気味のよい音をさせながらキーボードを叩く彼女にさらに話しかけた。

「なんで別れたの?」
「大人の事情よ」
「性の不一致か」
「あのねぇ…あっちのほうはそれなりだったわよ。でもお互い本気で恋愛する相手じゃなかったってこと」
「本気の恋愛ってさ、どんなの?」
「さあ。人によるんじゃないかしら。少なくともあたしは不特定多数と寝るような人間とは付き合えないわね」
「……」

645 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:49

けいちゃんの言うことはもっともだし暗にあたしの現状を非難しているのもよくわかった。けれどそれならどうしろというのか。込み上げる感情や欲望を抑えて全てをなかったことにするなんてこと、あたしにはできない。それが大人のやり方だというのならあたしはやっぱり大人になんてなりたくない。

「本当はわかってるんでしょう?」

こちらを見ないでそう言った彼女は眼鏡を外して眉間を揉みだした。

「心配なのよ。なつみはアンタだけじゃない」
「わかってるよ。そんなこと」
「アンタたちは一緒にいるべきじゃない。アンタ以外のなつみの相手はちゃんと割り切っているの。体だけならあたしもうるさいことは言わないわ。いや言うけど、言ってもほどほどにしろくらいで。でもアンタは…」
「けいちゃんになにがわかるんだよ」
「わかるわよ」
「わかんないよ…けいちゃんには、わかんない」

わかってほしくない。

646 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:50

「なつみはアンタみたいな子供の手に負える女じゃない。関わってほしくないのよ」

いつのまにか雨が降り出していた。たちまち窓にいくつもの水滴ができる。涙の痕のようだった。

「今ならまだ引き返せる。アンタが傷つくのをこれ以上見たくないのよ。わかって」

無理だよけいちゃん。もう遅い。引き返すことなんて、出会った時点で無理なんだよ。

「傷つけられても一緒にいたい」
「錯覚よ。自己陶酔にすぎない」
「そうかな」
「そうよ。大人の言うことを聞きなさい」
「なつみに会いたいなぁ」
「アンタねぇ…それならなんでこんなとこにいるのよ」
「今夜は先約があるんだって」
「子供の相手にうんざりなんじゃないの」
「ひっでー。けいちゃんこそあたしを傷つけてんじゃんっ。ウェーン」
「いい歳してバカなこと言ってんじゃないわよ」

白衣を脱ぎながらあたしを見つめる彼女の顔は呆れていて、でも優しい顔だった。

647 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:50

「だって子供だしぃ」
「アンタは10年経ってもそんな調子のような気がするわ」
「けいちゃんもね」

10年後なんて今は想像もつかないけど、あたしとけいちゃんの関係は変わらないでいてほしい。時々うるさいこと言う彼女をうざったく感じるときもあるけど、そばにいなかったらと考えたら寂しかった。

確実なのはなつみはそのときにはもうあたしのそばにいないだろうということ。あたしはきっとポイッとゴミのように捨てられて、いつまでも彼女の幻影に囚われ続けていることだろう。今と同じように、これからも。哀しいほどそれは確実のように思えてならなかった。



ずっと好きでいればいつかは報われる。そんなふうに思える時期はとっくに過ぎていて、それでも藁にも縋る思いでわずかな可能性にしがみついていた。そんな可能性など、元々ありはしなかったというのに。



648 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:51
△△△



藤本美貴 様

昨日はリージェンツパークを少し散歩してからロンドンクリニックに行ったよ。
昔の友人(♀)は変わらぬ笑顔を見せてくれて、美貴がそばにいない寂しさを少しだけ癒すことができたように思う。美貴が心配するようなそんな関係じゃないから安心して。それに彼女は飯田先生と付き合ってるらしい。あの先生のどこがいいのか不思議で仕方ない。

お目付け役ってなんだよー。オイラがどんなに美貴のことを、美貴だけを好きでこの体がたとえどうなっても美貴さえいてくれればそれで構わないって思ってること知らなかった?まったく。
ま、美貴がオイラのことを好きで好きでどわぃ好きで心配する気持ちはよーくわかるけどね。
すぐに戻るから。だから待っていて。オイラは美貴不足で死んじゃいそうだよ〜。

愛してるよ


吉澤ひとみ



649 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:52

休職中の自分とは違い、翌日も仕事を控えている二人とさすがに朝まで飲むわけにはいかず、週末にゆっくり飲む約束をさせられ結局昨日は軽く食事をして別れ、ホテルに帰った。飯田先生の変貌ぶりが拝めるかと思うと週末が楽しみになった。

飯田先生はまいちんとあたしのことを少し疑ってはいたが、天然誘惑娘に腕を絡みとられ上目遣いで寒いよ〜とか言われてデレデレしていた。これはなかなか貴重な場面だったと思う。あたしが見ていることに気づいて慌てて取り繕う姿がまたなんとも滑稽だった。少しだけ、少しだけだけどこの先生に親近感が湧いた。ほんとに少しだけど。

そうやってわりと楽しい時間を過ごしてホテルに戻り、愛しい恋人からのメールにニヤけつつシャワーを浴びてベッドに入った。なんとなく疲れたのでメールの返事は明日にした。あたしは油断していたのかもしれない。その夜久々にあの夢を見た。



650 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:53

熱くて息が苦しい。呼吸がうまくできない。肌にまとわりつく熱気で痛みさえ覚える。剥きだしの手足や顔や首なんかがヒリヒリする。まるで日焼けしすぎたときのように痛かった。

固く目を閉じていたからなにも見えなかった。ただ耳鳴りのようなごうごうという音がうるさく聞こえる。そうしているうちに眉間が疲れてきた。あまりにも力を入れすぎていたからだろう。強張った筋肉をゆっくりほぐすようにそっと目を開いた。

そこは狭くて汚くて懐かしい匂いがした。どこなのだろうと考えてすぐに彼女の部屋だと気づいた。ただそこに見える光景は自分の記憶の中にある彼女の部屋とどこか異なっていて、まるで訪れたことのないような場所に思えた。ずっと立っているのも疲れたのでベッドに腰掛けた。

「もういいね」
「なにがいいの」
「もう十分かな」
「なにが十分なの」

いつのまにか隣には煙草を吸う彼女がいた。お互い前を向いていてどんな表情なのかはわからない。あたしは自分の表情さえ見当もつかなかった。飲みすぎたときのように頭がホワンホワンしていてなんとなく気持ちよかった。気持ちよくてもうちょっとこうしていたいと思っていた。

651 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:53

「どうしてここに来たの」
「だってあたしの気持ち知ってるでしょ」
「ひとみはあたしが好きなのね」
「そうだよ。なつみが好きだからここに…」

そうだ。あたしはなつみに会いたくて抱きしめたくてキスしたくて、いつもいつもここに来るんだ。なつみはいたりいなかったりで、あたしはそんな会えるか会えないかわからない状況がもどかしくてここに移り住んだ。
でもなつみはそれでもいたりいなかったりで、あたしがいてもいなくてもその事実は変わらないんだと今さらながらやるせなくなったんだ。

「あたしも好きよ、ひとみ」
「ほんとかな」
「ひとみの顔を見るとやりたくて仕方なくなるの」
「あたしもなつみと…」

横を向くとそこには誰もいなかった。彼女に触れようと上げた左腕が宙を彷徨う。

「なつみ?」
「ここよ」

目の前に裸の女性がいた。俯いていて顔がよく見えない。跪いてあたしの腰に両腕をまわし、お腹に顔を埋めてきた。

652 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:54

「なつみ?」

瞬間、まわりの空気が突然熱くなった。部屋がみるみるうちに真っ赤に染まる。ごうごうという音が再び鳴り響いた。

熱い。
熱くてたまらない。
逃げなきゃ。
早くここから。
彼女を連れて。
彼女を。

誰を?

「なつみ行こう」
「あたしは行かない」
「どうして!」

むりやり立たせて顔を覗き込んだ。美貴だった。

「行かないで」
「美貴?」
「あたしと一緒にいようよ」
「なんで美貴が」
「ずっとここに」

裸のまま美貴はゆっくりとあたしに迫ってきた。じりじりと窓際に追い詰められる。もう炎はそこまできていて、あたしたちのまわりを取り囲んだ。開け放った窓からは風がびゅんびゅん吹いてきてあたしの髪をめちゃくちゃにかきまわす。髪の隙間から見え隠れする彼女の姿がその度になつみだったり美貴だったりで、あたしはそのうちなつみと美貴が同じ人間のように思えてきた。

653 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:55

「とにかく行こう」
「どこへ?」

美貴が問う。

「ここから出ないと」
「どうして?」

なつみが問う。

熱い。熱くてたまらない。もう我慢の限界だ。炎はすぐそこまで迫っているというのになぜ彼女は。どうして。

「熱い。熱いよひとみ」
「早くこっちに」
「ねぇ熱いの。助けてよっちゃん」
「だから一緒に」
「熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!ううあぁぁぁぁつぅぅぅぅぅいぃぃぃぃー!!!」
「美貴ーっ!」

654 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/22(土) 19:56

炎に飲まれた美貴があたしに手を伸ばす。必死にそれを掴もうとするが掴めない。なぜかあたしたちの距離は遠ざかり始めた。

美貴を助けなきゃ。
美貴が死んじゃう。
そんなのイヤだ。
ダメだ。
耐えられない。

炎の中から伸ばされた手をようやく掴み引きずり出す。そこには髪が焼け焦げ、顔が半分どろっと溶けた恐ろしい形相のなつみがいた。あたしの手を力強く掴んで放さない。剥がれそうな爪があたしの手首になぜかしっかりと食い込み血が滲む。そして耳元で声がした。

「行かせないよ」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

そしてあたしはなつみとともに炎の中へ。


にっこりと微笑んだ彼女はなつみだったのか美貴だったのか。





その日は一日中ベッドの中にいた。美貴にメールをしても、気は晴れなかった。



655 名前:ロテ 投稿日:2005/01/22(土) 19:59
更新終了。>>642の頭に▼▼▼入れるの忘れたorz
途中で気づいたけど後の祭り。>>642から下は過去ですので。
656 名前:ロテ 投稿日:2005/01/22(土) 19:59
レス返しを。

630>130@緑さん
一応ロンドン編と銘打っているのでロンドンっぽさを全面的に出したいのですがなかなかうまくいきません。紅茶を飲みたくなるのはきっと気のせいでしょうwベ(ryスレも本スレもコソーリ見守っていますw

631>たーたんさん
根底にはみきよしがちゃんとあるのですが吉をもっと掘り下げたいと、このロンドン編では思っています。痛いかどうかは…どうでしょうw

632>woolさん
みきよし色がちょっと薄いロンドン編ですので出せるところはガツンと出そうかなとwなのでそんなラブラブメールになってますwなちよしに関しては言い訳したいことが山ほどあるのですが…。まあ見守ってくだされば幸いです。

633>ニャァー。さん
こちらはなんとかヤマを越えました。あとは不具合を修正しつつ、もうちょっと練り込みたいところです。どうでもいい存在だった飯田先生になにげに愛着が湧いてきましたw

636>Johnさん
携帯からそんなに時間をかけて読んでくれたJohnさんのがすげぇかと。なにげに告白されちゃったよ。まいったなーオイ(違
みきよしに限らずあやみきも好きな雑食作者ですがこれからもよろw

637>サキさん
可愛い美貴様と格好いい吉を堪能したようでありがとうです。これからも頑張ります。レスはサゲてもらえるとありがたいです。


ネタバレとかレスのage,sageはミスったりもあると思いますのでそんなにヒートアップしない程度に注意してもらえればいいです。感想は本当に励みになりますのでレスはいつも大歓迎です。特に毎回レスをつけてくれる人たちには感謝しまくりです。ありがとう。これからもよろしくです。
657 名前:たーたん 投稿日:2005/01/23(日) 13:45
更新お疲れ様です。
あー!感想は言いたいけど・・・
余計な事まで言いそうなんでやめます。
ただ早く先が読みたいー!
でもこれからもマッタリお待ちしますんで
ロテさんのペースで書いてくださいね。
またの更新楽しみに待ってま〜す!
658 名前:ニャァー。 投稿日:2005/01/23(日) 23:36

更新お疲れ様です!!
自分の中では、飯田先生は何故か何故なのか…憎めない人になっちゃててw

ヤマ越えおめでとうですw
ん〜何て言ったらいいのかもうw
こ〜〜カナリ〜ゾクゾクしちゃいましたw
次回の更新も頑張って下さいねっ!!
659 名前:wool 投稿日:2005/01/24(月) 18:28
更新お疲れ様ですー。
飯田さんと里田さんという組み合わせが意外性があっていいですね。里田さんにデレデレしてる飯田さんが容易く想像できてしまいますw
660 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 00:32
>>659
だからネタバ(ry
661 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 00:41
>>660
厳しすぎないか?>>659くらいのレスはべつに普通だと俺は思うが。
662 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 01:16
>>661
んだんだ。オラもそう思うだ。
663 名前:130@緑 投稿日:2005/01/26(水) 16:38
更新、お疲れ様です。
ふと、恋愛って難しいもんだなって感じました。
呪縛は抜け出した後の方が厄介なんでしょうかねぇ・・・(遠い目)
よっちゃんの未来に明るく晴れ渡る日々が待っていることを願っております。
664 名前:バービー 投稿日:2005/01/27(木) 11:16
この作品大ファンなんです。
実はロテさんに触発されて復活したと言っても過言ではなく…
ダカラむらさき…
うまくツボ抑えてらっしゃいますよね。話の構造もきちんとしていて
本当に見習いたいです。長編恐怖症の私…(w
藤本くんとよっちゃんの行く末を影ながら見守っております。
頑張って下さい!
665 名前:wool 投稿日:2005/01/27(木) 20:46
>>660
申し訳ありませんでした。

>>661
>>662
お気遣い有難う御座います。少し救われました。


ロテさんもスレ汚し本当に申し訳ありません。今後は余計な口は叩かないように気をつけます。
666 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:42
▼▼▼


「マリア!マリア!」
「どうしたのですかお嬢様。そんな大声を出して」

階段の脇からでっぷり太った初老の黒人女性があたしを咎めるように顔を出した。手には折り畳まれた真っ白なシーツ。彼女の体の大きさがシーツを面白いほど小さく見せる。ロンドンに来てからの付き合いだけど、あたしはこの女性がわりと好きだった。

「クソオヤジは?」
「またそんな汚い言葉を。もっと上品な言葉遣いができないのですか。お嬢様はいつもいつも…」
「ストーップ!小言はまたにしてよ。疲れてるんだ」
「またクリニックに行って保田様にご迷惑をおかけしたのでしょう」
「それよかオヤジはいるの?」
「旦那様は出張で昨日からボストンです。娘のあなたが知らないなんてどういうおつもりですか」

なんだ。いないならもっと早く帰ってくればよかったな。

「もーうるさいなぁ」

キッチンに向かうあたしの後ろを相変わらずマリアが小言を並べながら追いかけてくる。

667 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:42

「そうやってお嬢様はいつも好き勝手にいろんなことをなさって私がどれだけ心配をしているのかお判りですか。どこに行くともいつ帰るとも言わずにフラッとお部屋を抜け出して、私がせっかく食事の支度をしても当の本人がいなければなんの意味もないじゃありませんか。それにそのだらしのない格好はなんですか。もう少し女性らしい服を着てください。せっかくこんな綺麗なお顔立ちだというのに勿体無い」
「へいへい」

キッチンでサンドイッチをつまみながら適当に返事をした。

「お食べになるのならちゃんとしたものをご用意しますから、お座りになって待っていてください」
「いーよ。これウマイし。ちょっと小腹が空いただけだから」
「それは私の夜食だったのですけど」
「え、ごめん。今度なんか買って帰るから許して?」
「仕方ないですね。今回だけですよ」
「つーか夜中にサンドイッチ食おうとするなよなー」
「お嬢様!」

膨れるマリアを置いて自分の部屋に入った。ベッドに寝転がり枕に顔を埋める。取り替えたばかりのぴんと張ったシーツからはいい匂いがした。清潔で真っ白なそこにあたしが寝るのはなんとなくふさわしくないように思えた。あたしのためを思って取り替えてくれたシーツだけど嬉しいというよりも居た堪れない気がして、マリアに申し訳ないと思いながら眠りに落ちた。

なつみの部屋のベッドが恋しかった。


668 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:47

なんだかんだ言ってもいい匂いのシーツは安眠を誘う。朝の目覚めを気持ちよくしてくれる。
気分は上々。散歩でもしようかと休日の午前中から珍しく外に出た。
よく晴れて暖かかったから、着ていた上着を脱いで手に持って歩いた。

リージェンツパークの南、ベーカーストリートに面した通りにマリアお気に入りのベーカリーがある。その店自慢の、ベジタリアン用のヘルシーでオーガニックな食パンを買ってきてはよくサンドイッチを作って食べている。あの体型で今さらヘルシーもなにもないと思うが単純に味が好みなのかもしれない。

初めて訪れたその店はイタリア系の若い店主が忙しそうに客やパンの対応に追われていた。けっこう繁盛しているのに他に従業員が見当たらないのが不思議だった。朝食を食べずに出てきたので、とりあえずチーズとピクルスのサンドイッチを買った。そしてそのままリージェンツパークに向かった。

起きた直後はどうしても胃が受けつけない。なにも食べる気がしない。だからマリアには悪いけど朝口にするのは紅茶やコーヒーだけだ。まるで日課のように、あたしが残した朝食をマリアが悲しそうに自分の胃に処分するので申し訳ないと思いつつも、でも美味しそうに食べるからそれを見てあたしはいつも楽しくなる。ゆっくりと紅茶を味わいながらその様子を眺める。そんな朝のひと時は嫌いじゃなかった。

669 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:47

犬の散歩をしているカップルや、なにも言葉を交わさずにのんびり歩いている老夫婦を見ながらあたしはサンドイッチに齧りついた。なるほど、たしかにパンはいつもマリアが作るサンドイッチと同じもののように思える。

「でもマリアが作るやつのがウマイな」

チーズの臭みとピクルスの酸味がバランスのとれたなかなかの味だったけど、あたしはマリアが作るシンプルなBLTのが好きだ。ベーコンはしょっぱいけど一度食べたら病みつきになる。
でもこれもこれでたしかにウマイな。今度なつみに買っていこうかな。

サンドイッチを食べ終わりしばらくボーっとしていた。なにも考えずただそこにいた。考えすぎの頭を休めたかった。それでも油断をすると、なつみと同じ髪の色を見かけると、考えずにはいられない。なつみのことを考えたくないのに考えてしまう。なぜだろう。恋の痛みというにはかわいすぎる。出口のない迷路に彷徨い込んだ、そんな感じだった。

帰る途中でふと思いついて再びベーカリーに寄った。そういえば店の名前はなんだろう。看板をチラッと見た覚えはあるのに思い出せない。店内を見回してもそれらしき名前は書かれていない。どうでもいいことだけど気になったから店主に尋ねようとした。その瞬間、息せき切った女性が飛び込んできた。

670 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:48

「ごめんなさいジョーイ。おばあちゃんが離してくれなくて」
「遅いぞドナ。キミがいないからさっきまでてんてこまいだったよ」

従業員らしき女性が店主と二言三言会話して奥の部屋に入っていった。彼女の登場でなんとなく店の名を聞く気がそれ、帰り際に看板を見ればいいかと思い直した。

「この店のビスケットに合うジャムはどれ?」
「どれでも合うさ。うちの店のジャムを食べたらもう他では食べれないよ、お客さん」

あたしの質問に店主、ジョーイはいつも聞かれているからだろう、お決まりのようなセリフをよどみなく返してきた。

「私のお気に入りはオレンジの皮入りのやつよ」

奥の部屋からエプロンをつけながら出てきた従業員の女性、ドナが口を挟む。

「ドナはいつもそれだな。たまには他のやつも勧めてくれよ」
「だってこれが一番美味しいじゃない」

あたしは苦笑してドナお勧めのオレンジの皮入りジャムとビスケットを買って店を出た。
渡したときのマリアの顔を想像しながら地下鉄の長い階段を下る。電車に揺られながら店の名前を確かめるのをまた忘れたことに気づいた。紙袋には印字されていない。帰ってマリアに聞けばいいかと目を閉じた。また次の機会に確かめてもいい。思いながらなつみの顔を頭に描いていた。

671 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:49

「ほい。お土産」
「お嬢様が私に?」
「うん。たまにはね」
「まあ!あの店のビスケットに…それにこのジャム!これを食べたら他の店のなんてもう…」
「そんなに興奮するなよ」
「これが興奮せずにいられますか!早速お茶にしましょう。心優しいお嬢様とのティータイムなんてめったにあることじゃないですからね」
「イヤミだな〜」

久しぶりにマリアとゆったりとした時間を過ごした。なつみに出会ってからのあたしは家を留守にすることが多くて(まるでオヤジみたいだ)、しかもなつみ以外のことをほとんど考えなかったからマリアが寂しく思っていることに気づいてはいても、ないがしろにしていた。(本当にオヤジみたいだ)
その罪滅ぼしではないけどたまにこうしてマリアとお茶を飲むのも悪くない。うるさい小言も聞き流していれば苦ではない。なにより自分を好いてくれている人とのティータイムは自然と楽しいものだった。

午前中たっぷり歩いて疲れていたので自室に戻るとすぐにベッドに横になった。そういえばまた店の名前を聞くのを忘れた。べつにたいしたことではないしもうどうでもいいか。ジョーイとドナの名前だけはやけにはっきりと覚えていて、それが妙におかしかった。




彼女といないときは平穏で落ち着いていられる。それなのにどうしてだろう。
なぜ自ら苦悩し、心乱される道を選ぶのだろう。
これが恋というものならば、なんてしんどいものなのだろう。



672 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:50
△△△


よっちゃんへ

ハイハイ、わかってますよー。
あたしはよっちゃんが好きで好きでどわぃ好きだもん。
よっちゃんもあたしがこーんなに想ってるって知らなかったの?
まったく相変わらずバカ大王なんだから。飯田先生やまいさんに迷惑かけないようにね。

一昨日飯田先生からメールがあったよ。よっちゃんとまいさんってホントに仲良しなんだね。
心配はしてないけどやっぱりちょっと妬けちゃうかな。今よっちゃんのそばにいる人やあるもの全部にあたしは妬けちゃうよ。だってよっちゃんの一番近くにいていいのはあたしだけなんだもん!

でもね、よっちゃん無理しないで。焦らなくていいんだよ?
もちろん早く会いたいに決まってるけど、よっちゃんに無理はしてほしくない。
あたしはちゃんと待ってるから。よっちゃんを待ってるから。だから体に気をつけてね。

あたしも愛しています


あなたの美貴より



673 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:50

メールを見てからまだ少し頭痛の残る頭をフラフラさせながら熱いシャワーを浴びた。どうして美貴はこうもあたしのことをよくわかっているんだろう。絶妙のタイミングでほしい言葉をくれる。やっぱり愛の力かな。自分で考えて照れくさくなった。鏡を見るとやけに真っ赤な顔をした自分がいる。

普段はフザけた口調でクサイことも平気で言ってのけるのに素で考えるとどうもダメだ。恥ずかしい。ひとりニヤニヤしている姿はとても美貴には見せられないな。でも美貴ならきっとそういうあたしも好きでいてくれるだろうけど。そこまで考えてまた頬が熱くなるのを感じた。もう、いい加減にしろ!自分。落ち着け!自分。

昔はこんなんじゃなかったよなぁ。あたし絶対退化してるよ。脳みそつるんつるんになっちゃった気がする。美貴にバカ大王って言われてもホントだよなって納得してる自分がいるし。おっかしーよなぁ。昔はクールさがウリだったのにいつのまにこんなアホキャラになったんだ?ロンドン時代は、あれはあれでちょっと暗すぎたけど…大学のときはどうだったかな?今度まいちんに聞いてみよう。

674 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:51

会社に勤めだしてからバカに拍車がかかったのはたしかだな、うん。美貴につっこまれるのが快感になってからはますますアホなことやって彼女の気を引こうとしたんだよな。そのうちホントに自分はアホなのかもって思いだして小一時間ほど頭抱えたけど、まいっかで済んだし。いつからこんな楽天的になったんだか。

でも楽天的になわりには(しかも前向きだ)なんであんな夢を見るんだろう。正直きつすぎだよ。心臓もたねーっつの。恐すぎなんだもんあの人たち。もうちょっとヴィジュアル的におとなしめなものにしてくれると助かるんだけど。でもそれもこれも自分が自分に見せてるわけで…うーん。ムズカシイ問題だ。とりあえずメシでも食うか。ってダメだ!ダメだ!こんな暢気に構えてちゃダメだ!あたしは一刻も早く日本に帰って美貴とヤリた…じゃなかった、美貴に会うんだから。会いたいんだから。

…でも無理するなって言われたしな。やっぱとりあえずメシだろ。ここは。


675 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:52

「だからってなんで飯田先生なのかなー」
「不満ですか」
「いや不満っていうんじゃないけど。まいちんは?」
「彼女は仕事が残っていて今日は遅くなるそうです」
「なーんだ。ガックシ」

微妙に片眉を上げてなにか言ってやろうかという素振りを見せるものの、飯田先生はなにも言わずに水を飲んで横に飾られた絵画を見ていた。目の前に座っているコドモがなにか騒いでいるな、くらいにしか思ってないかのように。どうもこの人の前だと必要以上にくだけた態度と口調になってしまう。なぜだろう。相手は出会った頃と変わらぬ距離で適度な言葉遣いだというのに。

「飯田先生って小児歯科むいてるかもねー」
「なんですか突然」
「なんかさーべつにこれっていう理由はないんだけどそんな気がする」
「考えたこともないですよ。小児歯科だなんて」
「圭ちゃんってあんな顔して実は子供好きなんだよ。おっかしくない?」

一瞬飯田先生が怪訝な顔をしたからその理由に気づいて言い直した。

「保田先生」
「ああ」

やっぱり下の名前までは知らなかったか。というか覚えようという気がなかったんだろうな。

676 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:52

「保田先生が子供好きとは意外ですね」
「だしょだしょ?」

それにしてもなんであたし飯田先生と二人っきりでメシ食ってんだろう。大体この人あたしのこと嫌いだったんじゃないの?よくのこのこ嫌いなやつとメシ食いに来るよなぁ。そんなに美貴の頼まれごとは断れないのか?なんかまたモヤモヤした気持ちが再浮上してきた。ここにまいちんがいたらそんなこと思わないのに。

「まいが朝まで飲もうなんて言ってたけど無理しなくていいですよ」
「はいぃ?」
「吉澤さん一時期体調崩してたって藤本さんが言ってたから。あまり深酒させないようにって」
「はぁ。飯田先生ってマジで美貴のこともうなんとも思ってないよね?」
「当たり前じゃないですか。まだそんなこと言うなんて吉澤さんって相当馬鹿ですね」
「ひっでー。丁寧な口調で人の悪口言うなよなー。冗談に聞こえないでしょ」
「冗談じゃないですし。このほうが喋りやすいんですよ」
「…いちいちムカツクけどまいっか。それじゃもしかしてあたしに気があるとか?」

世界一のバカを見るような憐れみの目線を向けられたら、さすがに泣きたくなる。美貴ならまだしもなんでこの人にこんな顔されなきゃいけないんだ。あたしだってべつに本気でそんなこと思ってないよ!まるであたしが飯田先生を誘ってるみたいじゃんか。チックショー。この人といるとペースを保てないのが悔しくてたまらない。

「吉澤さんおもしろいねー」
「飯田先生よりはね」

感情のこもってない声でそう流され、あたしはマッシュポテトを頬張りながら少しため息を漏らした。


677 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:53

「べつに聞きたくないんだけどまいちんとはなんで?」
「聞きたくないなら聞かなきゃいいじゃないですか」
「聞きたくないけど聞きたいんだよ。女心をもっと察してよー」
「吉澤さんが女心を持ち合わせているとは驚きですね」
「そうそう、あたしもびっくり…ってうぉい!イイダー!」
「よっちゃんって呼んでもいいですか」
「ぜってーヤメロ」
「心が狭いですね」
「からかってるでしょ、あたしのこと」
「察しがいいですね」

はぁ疲れた。なんなんだこの人。まったく、ホントに、うんざりだ。先生から聞かなくてもきっとそのうちまいちんから馴れ初め話を聞かされるのだろう。仕方ない、今夜のところは引き下がるか。この人はあたしをからかうためにここにいるんだ。きっとそうだ。

678 名前:彼女は友達 投稿日:2005/01/29(土) 20:53

「まいとはつい最近こうなったんですよ」
「って話すのかよ!いいよもう」
「聞きたいって言ったのはそっちじゃないですか」
「気が変わったんで」
「何度か友人として食事に行くうちに徐々に彼女に惹かれている自分に気づいたんですよ」
「あの〜人の話聞いてます?」
「彼女もそうだったみたいで。なるようにしてなったということです」
「あ、とくにヤマとかオチとかないんですね」
「吉澤さんたちにはあるんですか?ここに至るまでに乗り越えてきたものが」
「…それなりには。端から見たら焦れったかったかもしれないけど本人たちは必死だったからね」
「私たちもそうですよ。口にしたら簡単に済みますけどそこに至るまでの複雑な部分もあるにはありましたから。いずれにしても当人たちにしかわからないことです」
「たしかに」


では週末に、となぜか念を押され飯田先生と別れた。今度こそまいちんと二人でいいんだけどなぁ。
飯田先生とそういう話をしたからか、あたしは美貴とのことを自然と思い出していた。出会って友達になってから今に至るまでのことを。いろんなことがあってその都度いろんなことを思っていた。彼女はけっこう考えてることがミエミエのバレバレだからすごくわかりやすかったけど、逆にそれがあたしを躊躇わせて…。

ベッドの上でひとりポツンとそんなことを考えていたら無性に寂しくなった。

とりあえず寝よう。寝てしまえば、嫌でも明日がくる。



679 名前:ロテ 投稿日:2005/01/29(土) 20:54
更新終了
680 名前:ロテ 投稿日:2005/01/29(土) 20:55
レス返しを。

657>たーたんさん
先が読みたいと思ってもらえることが一番嬉しいです。これからもそう思い続けてもらえるように精進します。とか言ってみたりwいやいや、本音です。

658>ニャァー。さん
自分の中でも飯田先生の扱いがちょっと変わってきております。最初はただのチョイ役のつもりだったんだけどなぁ。ヤマを越えたつもりがさらに大きなヤマがあったことにただただ呆然wでも頑張ります。

659>woolさん
たしかに意外ですよね。この組み合わせは自分でもイレギュラーです。あくまで脇なのでそんなに活躍しないとは思いますが…。飯田先生は完全にキャラが変わってしまいましたw
ネタバレに関してはそれほど気にしなくてもいいかと。スレ汚しにだなんて全然なってないですよー。これからも遠慮せずにレスしてくださいですはい。

663>130@緑さん
過去のよっちゃんは若さゆえといったら簡単すぎですがもつれた糸をほどくことができませんでした。今のよっちゃんは…今のよっちゃんなりに頑張ろうともがく予定です。未来はどうなるんでしょうかねぇ…(同じく遠い目)

664>バービーさん
初めまして。ロテと申します。レスありがとうございます。ていうか…やっばいです。これは驚いた。びっくりしまくり。まさかバービーさんからレスをもらえるなんて…バービーさん復活よりびっくりしましたよ(オイ
なんつーか誉めすぎでテレます。ホント、そんなたいしたもんじゃないんで。でも頑張りますですはい。
実は自分、すでにバービーさんに名無しでレスしました。17がそうです。いやーそれにしてもマジびっくりした。
バービーさんの長編もまた読みたいなぁ(ボソッ
681 名前:たーたん 投稿日:2005/01/29(土) 21:07
更新お疲れ様です。ほとんどリアルですね〜
PC開いて来てみたら〜運命?
早く先が読みたいのは、いつもの事ですよ〜!
色々、大変だと思いますが
妄想の方もよろしくお願いしますね。
次回の更新を楽しみにお待ちしてます。
682 名前:ニャァー。 投稿日:2005/01/30(日) 02:55

更新お疲れ様です!!
だんだんと自分のいい味をだしていっている
飯田さんに胸キュンw
そして帝様にニヤニヤでした…w
次回も更新頑張って下さいね!!
683 名前:名無しSa 投稿日:2005/01/31(月) 10:22
初めてレスさせていただきます。
こっそり読ませていただいていたのですが、
今日、最初からまた一気に読ませていただきました。
ストーリーの随所にいろんな温度があって、
本当に引き込まれる作品です。
これからも楽しみにお待ちしております。
684 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:38
▼▼▼


今夜のなつみはどこか様子がおかしい。おかしいといえばいつもおかしいんだけど、いつものおかしさとはどこか違っている。今日はことさらにおかしかった。口で説明するのは難しいそのおかしさが彼女に絶え間なく纏わりついている。彼女の表情は明るいけど、心の中までは覗けない。

「今度の芝居は見ものよ。なんとあたしが天使の役なんだから」
「なつみに似合うと思うけどな」
「笑わせるわ」

彼女は自嘲じみたセリフを本当に面白そうに放った。そしてなにか思いついたのかあたしの顔を嬉しそうに見た。

「天使と悪魔って表裏一体だと思わない?」
「よくわからないな。でもそうだとしたら」
「あたしにピッタリ」

手を叩いて喜ぶ彼女は無邪気で明るく、心底楽しそうにベッドの上をピョンピョン跳ねているから、本当の天使のように見えてあたしの顔はだらしなく綻んでいた。

「天使でも悪魔でもいい」

彼女の腰に手をまわす。上目遣いで顔を覗き込む。

「あたしのものになってくれるなら」

抱き寄せ、唇にキスをした。

「ひとみのものだよ」

彼女があたしのものだとしても、あたしだけのものではない。あたしの唇を美味しそうにピチャピチャ舐めるこの人の舌も独占することはできない。暗黙の了解のように誰もそうしようとしない。したくてもできない。彼女がそうさせない。自分のものだけにしたいのにできないのは、彼女が天使だから?それとも悪魔だから?

685 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:38
「ひとみが欲しい。この綺麗な顔と大きな瞳と白い肌、全部をあたしのものにしたい」

彼女を独占できないのなら、せめて彼女にあたしを独占してほしい。この体を欲しているのなら彼女に全てを捧げよう。彼女が望むのならこの体がどうなっても構わない。欲してもらえることが今のあたしにはなにより幸せの瞬間。たとえ錯覚でも。

たとえ心は欲してもらえなくとも。

「フフ」
「なにがおかしいの?」

彼女の首元に顔を埋めながらあたしは聞いた。

「ただの思い出し笑い」
「どんなの?聞かせて」
「そうね…また今度」
「……」
「拗ねた?」
「まさか。そんなガキみたいなこと」
「そうね。ひとみは大人よね」

彼女はあたしのことをよく大人だと言う。大人扱いをする。あたしは全然そんな意識はないのに彼女の前だと大人になるらしい。大人になんてなりたくないのに。かといってガキ扱いも御免だ。じゃあどう見てほしいのか。大人も子供も嫌ならあたしはどう見られたいのだろう。…どう見られようとも、彼女があたしをずっと見ていてくれればそれでいい。それでよかった。

686 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:39
潤んだ瞳と湿った唇であたしを誘う彼女を少し焦らした。ことに及ぶと彼女はひと言も喋ってくれなくなるから、もう少し彼女との会話を楽しみたくて額にキスをした。彼女との夜を噛みしめたいから。

「意地悪」
「なつみよりは全然だよ」
「あたし意地悪?」
「うん。あたしがどんなになつみが好きか知ってるくせに、なつみは…」

言おうか言うまいか少し迷った。そういえばこんな不満を口にするのは初めてだ。やっぱりあたしたちはけいちゃんの言うように不健全だな。恋人同士だなんてとてもじゃないけど言えないこの関係が、今さら健全であるはずがないか。

「なつみは他の人のことも好きだから」
「そんなこと気にしてるんだ」

大した動揺も見せず彼女はあっさりと答えた。半ば予想していたとはいえ、ここまであっけらかんとされると自分が間違ったことを言ってるかのように思えるから不思議だ。彼女の顔を見ているとそう思わずにはいられなくなる。正常な判断ができない。だからもしかしたら…あたしが間違っているのかもしれないな。

「気に…してるけど、仕方ないかな」
「どうして?」
「それがなつみだもん。仕方ないよ。たぶんあたしはなつみの全てが好きだから、何しててもなつみが好きだから、たとえあたしがイヤだと思うことをしててもそんななつみさえもあたしは好きなんだと思う」

言い終らないうちに抱きつかれたから彼女の顔は見えなかった。どんな表情をしているのか気にはなったけど、彼女の小さな肩が小刻みに震えていたから無理に引き剥がすのが躊躇われて、そのままでいた。肩を震わす彼女が泣いているのか笑っているのか確かめるのが怖かったのかもしれない。

しばらくそのままの姿勢でいたら、彼女が耳元に唇を寄せてきた。そしてそっと囁いた。

「早くやろうよ」



687 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:40
△△△


藤本美貴 様

ありがとう。

美貴はいつもあたしを助けてくれる。たぶん美貴に自覚はないだろうけどあたしはわりと前からそう思ってるよ。何度美貴の笑顔に救われたかわからない。いつだって美貴の笑顔があたしの支えなんだ。あたしがこんなこと言うのは意外?たぶんそうだろうな。メールとか手紙ってつい感情込めすぎておかしくなっちゃうから、あたしは送ったメールは見直さないことにしている。美貴からのメールは何回も何回も読み直してはニヤニヤしてるけど。こんなあたしのことも好きだよな?好きって言ってくれ〜!

つーかさ、飯田先生って一体どういう人なんだよ〜。アイツ人の話全然聞かないよな。いや、聞いてるくせに聞いてないふりをするんだ。無視するんだ。あの人といるとこっちのペースが乱されまくるよ。あの先生あたしのことからかって楽しんでるんだよ、まったく。なんとかしてくれよ〜美貴ちゃーん。

今日はどしゃぶりだからずっとホテルの部屋で美貴のことを考えてるよ。明日、ホラーな夢の元凶になった場所に行ってみようかと思う。考えるだけで憂鬱だけど行ってくる。でもやっぱヤダな〜。
こんなヘタレに愛のお言葉をプリーズ!

勇気がほしい


吉澤ひとみ



688 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:41



美貴を初めて見たのは入社する前の年の、たしか1月か2月だったと思う。

あたしはボストンの大学を卒業して以来いろんなとこをプラプラしていた。オヤジとの生活からやっと解放されてしばらくのんびりしようと思っていたからだ。久しぶりに日本の正月を迎えて、そのままいろんな女のところを転々とする生活をしていたらある日圭ちゃんに呼び出された。彼女とは2年前にあたしがボストンの大学に編入することになって日本を離れたとき以来だった。

親戚筋が多く集まるそのパーティーで待ち合わせるなんて、そんな恐ろしいことを提案する圭ちゃんに必死で抵抗したけど、そろそろ大人になりなさいという彼女の声が涙混じりだったような気がしてあたしは渋々承諾した。後でそれがあたしを引き寄せるための演技だったと判明して大喧嘩になったけど、あの人に敵うはずがなかった。

そのパーティーには大学の理事長一家が全員出席していて、挨拶もそこそこにのぞみに捕まってしまいコロコロと気分の変わるガキンチョ相手にあたしは忙しかった。そういえばあの頃ののぞみはほとんど日本語が話せず、ずっと英語で会話をしていた。その後の1年で驚くほど日本語が上達していて、その成長ぶりには目を見張った。と言っても語彙は乏しく英語混じりのなんだかよくわからない日本語だったけど。でも子供ってすげーと思った。

「こんなの一気に飲めなきゃ男じゃないのれす」
「いや、あたし女だから」
「ののは男なのれす!」
「オマエいっちょまえに酔ってんのかよ」

689 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:41

そうやってずっとのぞみとじゃれて?いたら、理事長が唐突にあたしを大学に誘った。どうせなにもしてないならうちでしばらく働いてみたらどうか、と。あまりに軽いノリで聞いてきたからあたしはアルコールの勢いも手伝って、それもいいですねーとか適当なことを口走っていた。とにかく一度遊びに来なさいと言われまた曖昧に頷いた。

やんちゃな盛りののぞみからようやく解放され、ようやく圭ちゃんと久しぶりの対面を果たしたと思ったら前述のように大喧嘩をしたためあたしはその日かなり深酒をした。だから翌日の気分は言うまでもなく最悪で、理事長と会話したことなんてすっかり忘れて数日を過ごしていた。

「アンタうちの大学に来るんだって?」
「はぁぁ?圭ちゃーん、あたしが今さら歯科医になりたくて受験勉強すると思う?」
「そうじゃなくて勤めるんでしょ?」
「どこに?」
「だからうちの大学に。たぶん事務機関よね」
「だれが?」
「だからアンタよ」

あたしの知らないところでなにがなんだかわからない話が進んでいた。とにかくわけがわからず、あたしは一度大学を訪れる必要があると感じていた。まさかこの話にクソオヤジが一枚噛んでるとは夢にも思っていなかった。



690 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:42

「無駄に広い大学ですねー。歩き回って疲れちゃいましたよ」
「ははは。相変わらず口がへらないな、ひとみは」

キャンパス同様無駄に広い応接室であたしは、近くの料亭から取り寄せたという特別弁当を向かい合わせに座った理事長と二人で食べていた。なかなか美味い。さすが特別なだけある。値段もきっと特別なんだろう。あたしの知ったことではないが。

「モグモグ。それにしても、中澤さんがこんなに大学経営に本腰だなんて、うちのばーちゃんも天国でびっくりですよ。モグモグ」
「きみんとこのばーさんには、モグモグ。ホテル経営には向いてないって50年前に太鼓判を押されてから、モグモグ。とんとそっち方面に興味が無くなってね、モグモグ」
「まあ今じゃ、モグモグ。病院方面で広く手を延ばしてるみたいですし、モグモグ。うちのばーちゃんも先見の明があったってことっすね、モグモグ」

あたしより一足早く食べ終わった理事長はお茶を啜った。食べるのが早いじーさんだ。

「人間何事も向き不向きってのがある。あのばーさんは私に経営能力が無いのを見抜いていたんだろうな。今実権を握っているのはうちの馬鹿息子だが近い将来それもどうなるかわからん」
「副理事長ってやっぱり馬鹿なんですか。それにしても珍しく弱気ですねモグモグ」
「私はいつも弱気だよ。だからここまでやってこれた。昔から二代目ってのは総じて馬鹿が多いんだ。うちしかり、保田のとこのあの貿易商もしかり。それにひとみのお袋さんもだな」
「うちのオフクロは馬鹿じゃなかったと思いますけど」
「馬鹿だよ。あの若さで逝ってしまったんだから…一番の大馬鹿者だ」

たしかに。お茶を啜る理事長の表情は普段となにも変わらない穏やかなままだったけど、オフクロの話で途端に声のトーンが変わったこの人はやっぱり正直なのかもしれない。ばーちゃんがよく言ってたな、オフクロはこの人のお気に入りだったって。

691 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:43

「あー美味しかった。仕事はともかく中澤さんの味覚はさすがですよ。だてに長いこと金持ちやってないですね。ま、うちほどではないですけど」
「まったく、吉澤のばーさんにそっくりだなひとみは」

それにしてもこの部屋は居心地がいい。お茶を啜りながらあらためてまわりを見渡してみた。調度品も趣味がいいし金持ちにありがちな下品さがない。弁当といいこの部屋といいきっと全て理事長の好みによるものなんだろう。相変わらず嗜好にこだわるじーさんだ。

「圭ちゃ、保田先生に聞いてびっくりしましたよ。なんであたしがここで働くことになってるんですか」
「まあまあ。どうせなにもやってなくて暇なんだろう?久々に帰国したついでに働いてみたらいいじゃないか。保田くんだってここにいるのは道楽みたいなものなんだから。あれも変わった女だな」
「なんつームチャクチャな」
「気楽にやってくれて構わない」
「なんつー適当な」
「ボストンの吉澤くんも心配しているみたいだったからな。私が責任を持ってひとみを預かると言ってしまったんだよ」

オヤジか。こんなことを仕組んだのは。
それを聞いたらますます反発したくなった。一瞬だけ働いてもいいかなって思ったけどやっぱ無理だ。そんなことを言われて働くことなんてできない。オヤジの思うようにことを進めてたまるか。

692 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:43

「すみません。好意はありがたいんですが、お断りします」
「吉澤くんのところに戻る気はないんだろう?きみら親子の仲の悪さを知らない人間は、私ら親戚筋の間じゃモグリだからな。後継者が不在のままの吉澤家の動向を見守っているのはうちだけじゃない、保田家だって、それに天国のばーさんだって…」
「理事長。うちのクソ親父が勝手に増やした会社がどうなろうとあたしは知ったことじゃないし、それを中澤家が取り込みたいって思ってるならそうすればいい」
「バレたか」

いい歳して舌出すなよじーさん。

「バレバレですよ。死んだばーちゃんがよく言ってました。あなたは経営手腕は無いけど野心だけは無駄にあるって。それにばーちゃんは自分で選んで婿入りさせたくせに親父のことが嫌いだったから、たぶんあたしの味方ですよ。何をしたって」
「わっはっはっは。そうかそうか。吉澤のばーさんそんなことを。…まあそこまではっきり言われたら仕方ない。だが気が変わったらいつでもここに来なさい。ひとみのことはもう人事に話を通してあるから君が望めばいつでも、明日からだって働ける状態だよ」

手回しいいですね、理事長。でも人事の人には申し訳ないけど無駄骨だよ。あたしはやっぱりここでは働かない。それに圭ちゃんと同じ職場なんてまっぴらだ。

「本当にすみません」

再び謝りその場を後にした。



693 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:44

せっかくここまで来たことだし、圭ちゃんの顔でも拝んで帰ろうとウロウロしていたら、案の定迷ってしまった。無駄に広い所はこれだから困る。勘を頼りに吹き抜けのホールの2階部分を歩いていたら、下のほうからよく通る声が聴こえてきた。なんとなく足を止め、下を覗いて声の主を探した。

逆光で影になって顔がよく見えない。目を凝らしたりなんとなく屈んだりしてその人物を見た。ほんの一瞬、影になった部分から覗いた顔に息を飲んだ。




なつみだった。

なつみがいた。

清潔そうなスーツに身を固めたなつみがそこにいた。




いつのまにかあたしは駆け出していた。心臓がバクバクで汗が噴出してもがむしゃらに走り続けた。どこをどう走ったのかどれくらいの時間そうしていたのかわからなかったけど、気づいたらあたしはあるフロアのトイレの個室にいて、変わらず飛び跳ねている心臓を抑えながらしゃがみこんでいた。


なつみだ。なつみが戻ってきたんだ。あたしを追ってなつみが来たんだ。でも声は違った。なつみの声じゃない。さっきの彼女はもっと凛としていて澄んだ響きが耳に心地よかった。いややっぱりあれはなつみだ。なつみに決まっている。まさか。そんなわけがない。なつみは死んだ。死んだ?生きてる?なつみによく似た顔の彼女は一体誰なんだろう。なつみなのか?


694 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/05(土) 19:44

呼吸を落ち着かせあたしはようやく外に出た。握り締めた手のひらにそう長くはない爪が食い込む。顔面はきっと蒼白だろう。角を曲がる寸前、人の声がして思わず身を隠した。コソコソする理由などないのに。苦笑が漏れる。まったく動揺しすぎだ。もう遠い昔のことなのに。そう、もうすっかり忘れ去ったことなのに。

「それでは採用が決まりましたら、その旨通知を送りますので」
「はい。よろしくお願い致します」

男の声の後、先ほどの凛とした声が聴こえてきた。
その声はあたしの心の中にしばらく響いていた。



そしてそのままあたしは理事長室に向かった。今度は迷わずに行くことができた。

「さっきの今で申し訳ないのですがこちらでお世話になってもいいですか?」




最初はただの好奇心だった。

なつみによく似た彼女は誰なのだろう。




このとき、あたしはすでに美貴に惹かれていたのだろうか。それともまだなつみの亡霊に囚われていたのか。どちらにせよ最初はただの好奇心だった。





好奇心のはずだった。





695 名前:ロテ 投稿日:2005/02/05(土) 19:45
更新終了
696 名前:ロテ 投稿日:2005/02/05(土) 19:50
レス返しを。

681>たーたんさん
おおっリアルタイム!!まさしく運命ですね。間違いありません。いつも心配してくださってありがとうございます。あっちもこっちもお待ちいただいて…。とにかく頑張りますよー。

682>ニャァー。さん
飯田先生に胸キュンしてしまいましたか〜w彼女はまだまだ登場する予定ですのでお楽しみに。これからもよろしくです。

683>名無しSaさん
最初から読み直していただいたなんて…ありがとうございます。これからも楽しんでいただけるように頑張りますのでマターリ見守っていてください。
697 名前:ロテ 投稿日:2005/02/05(土) 19:54
訂正
>>688
入社する前の年の

入社した年の

脳内変換よろしくお願いします。
698 名前:wool 投稿日:2005/02/06(日) 14:23
更新お疲れ様ですー。

安倍さんの魅力が怖いw
迷走してる吉澤さんもまた可愛いなぁと思いますね。
続きが楽しみですっ
699 名前:たーたん 投稿日:2005/02/06(日) 17:21
更新お疲れ様です。
そうか・・・そういう事か・・・
この二人の・・・だからなんだ・・・
と、最後はドキドキしちゃいました。
(変なレスでごめんなさい)
マジでヤバイッ!早く続きをー!
でも次回の更新をマッタリとお待ちしてます。
700 名前:名無しのSa 投稿日:2005/02/10(木) 08:48
更新おつかれさまです。
上のレスを読ませていただいて
探しの旅に行ってきました。
いろんな伏線がものすごいです・・・。
701 名前:ニャァー。 投稿日:2005/02/10(木) 09:53

更新お疲れ様です!!
子供なのか大人なのか…そー思わせてくれる
吉澤さんは可愛いですねv
どんどん読んでいく内に
なるほど〜と納得してしまう内容ばかりでw
次回も更新頑張って下さいv
702 名前:130@緑 投稿日:2005/02/11(金) 13:43
更新、お疲れ様です。
ふ〜む、こう来ましたか。カチっとパズルのラストピースが嵌まった感じがしてます。
ロンドン編での脇を固めるキャラはなかなか濃くてイイですね。
飯田先生もマリアも小洒落た理事長も素敵です。
天使で悪魔な彼女が何を想っていたのか気になります。
703 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/12(土) 17:40

朝の散歩は吐き気がするほど清々しい。しかも休日となれば尚更だ。これでもかっていうほど爽やかな笑顔を撒き散らす人々が、何が楽しいのか笑ったりはしゃいだり。老夫婦の控えめな談笑でさえも鬱陶しく感じられる。だったら来なければいいのにと自分でも思うけど。でもなぜだか来てしまった。寝不足でフラフラの頭なのに、さっさと家に帰ってベッドに潜り込みたいのに、なぜか来てしまった。

「げっ」
「あら、おはよう」
「な、なんで?何してんの?」
「エッチしてるように見える?」
「いや全然見えないし」

いわゆるジョギングルックで汗をふきふき白い息を吐いているけいちゃん。
あたしやなつみのこと言えないくらい太陽の下が似合わないな、この人も。

「それよかアンタさっき『げっ』て言ったわね」
「言ってないよー。けいちゃん耳遠くなった?ヤバイね。年だね」
「失礼の二乗ね」
「すみせんでした」

腕を組みこちらを睨みつけるその姿が恐ろしくて頭を下げる。
まったく、冗談が通じないんだから。

「アンタ今また失礼なこと思ったでしょ」
「えーと、えーと。て、ていうかさ!なんでけいちゃんジョギングなんてしてるの?そんな趣味あったっけ」
「うっ、そ、それは…」

珍しくけいちゃんが言葉に詰まった。腰に手を当てて爪先でトントン地面を蹴っている。
なんかヤマシイことでもありそうな雰囲気だ。これはもしかしたら形勢逆転できるかもしれない。

704 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/12(土) 17:41

「大体けいちゃんスポーツって柄じゃないじゃん」
「ほ、ほら最近、ええっと…そう、そう!健康志向が高いじゃない?あたしだって仮にも医者なわけだし。ちょっとね、なんとなくやってみようかなーって」

ピカピカのジャージとシューズからしてどうやら最近始めたばかりの様子。それにしてもしどろもどろなその受け答えは笑える。それにしてもこんなに慌ててるけいちゃんを見るのは本当に久しぶりだ。
あれはいつだっただろう。たしか5,6歳の頃パンケーキが食べたいって駄々こねたあたしに料理なんてしたことのないけいちゃんがキッチンをとんでもない惨状にしてオフクロにこっぴどく怒られた、あれ以来かな。
あのときのけいちゃんは傑作だったなー。顔粉まみれで。涙が出るほど笑っていたらそのうちけいちゃんも笑いだして、ついにはオフクロまで腹抱えて。あのときは楽しかったなぁ。

「ぷっ」
「なによ」
「いや、ちょっと思い出し笑い」

全身真っ白でお化けみたいだったけいちゃんの顔を思い出したらつい吹き出してしまった。いかんいかん、もっとけいちゃんにつっこんでジョギングを始めた本当の理由を聞き出してやる。

「ハーイ!ケイ!」

突然声をかけられたけいちゃんはびっくりするほど満面の笑みを浮かべた。
あたしはなんとなくぴんときて、声をかけてきた人物を振り返った。

「ハイ!クレア。今日もキュートね」

言いながらけいちゃんはクレアという人物の胸やら尻やらを舐めるように見た。
クレアはあたしのほうをチラチラと見ていたからそのイヤラシイ視線には気づいてない。
つーかけいちゃん…あなたはエロオヤジですか?やだなぁこの人と親戚って…と本気で思った。

705 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/12(土) 17:41

「ありがとうケイ。こちらは?」
「ああ。親戚のひとみ。偶然会ったのよ」
「初めましてひとみです」

あんまりフレンドリーにするとなんとなく後が怖い気がしたから無愛想にならない程度に微笑む。

「初めましてヒトミ。私はクレアよ。よろしく」
「こちらこそ」
「ごめん、クレア。あたしもう少しひとみと話してるから先に行ってて?」
「オーケイ。でも早くね。あたしもうお腹ペコペコなんだから。またねヒトミ」
「ええ。また」

来たときと同じようにクレアは軽やかに去っていった。ポニーテールの髪が右に左に飛び跳ねているのを見ながらあたしは軽いため息をつく。

「けいちゃん、わかりやすい人だね」
「まだクレアとは友達なのよ」
「見ればわかるよ。それより胸とか尻とか見すぎだし」
「いいじゃない、減るもんじゃないんだから。ここまで親しくなるのにあたしがどれだけ苦労したかわかる?最初の日なんて朝から死ぬかと思ったわ。心臓に悪いわね、ジョギングって」

まったくよく言うよ。さっきは健康志向がどうのこうのってもっともらしい理屈こねちゃってたくせに。けいちゃんが体を動かすなんておかしいと思った。昔っからの本の虫が今さらジョギングっておかしすぎだもん。

「女目当てでそこまでするんだ」
「ふんっ。ルックスのいい奴はこれだから嫌なのよ。でもアンタだってなつみがジョギングを始めたら付き合うでしょ、どうせ」

なつみがジョギング…ありえない。ありえなさすぎて鳥肌が立つ。
けいちゃんも自分で言っておきながらさすがにおかしいと思ったのか何ともいえない顔をした。

706 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/12(土) 17:42

「そ、そんなことよりまた朝帰り?なつみのとこから」
「まあね」
「まったく、よく続くわね」
「怒らないの?」
「怒っても無駄だってわかったのよ。マリアには…」
「ちゃんと言ってある」
「そう。ならまあ、いいわ」

そう言うけいちゃんの顔はちっとも『まあいい』と思っているふうには見えなかった。無理やり納得しているかのようで、視線を落として言葉を飲み込んでいた。何か話すべきかと思ったけどこれ以上なつみの話をしても彼女の表情が晴れるとは思えず、再度クレアのことに話をふった。

「クレアとどこで知り合ったの?」
「…クリニックの患者」
「げっ」

聞かなきゃよかった。この人一体何人の患者に手を出しているんだろう。あたしが知ってるだけでこれで4人目だ。その誰とも長続きしていない。こんな人に道徳とか性のことで説教されてるかと思うと情けなくなってくる。自分のことを棚にあげてよく人にいろいろと言えるもんだ。

「あたしは大人だからいいのよ」
「はぁ〜。あたしとけいちゃんって血繋がってんだよね?」
「なに当たり前のこと言ってんのよ」

あたしは一途でありたい。どうか神様、こんな大人にはしないでください。

「もう行くわ。クレアが待ってるし」
「へいへい。さっさと行ってください」
「アンタもそんな眠そうな顔してないでちょっとは走ったらいいのよ」
「ぜっっってームリ」
「まったく不健康ね」

捨てゼリフの残し走り去ろうとしたけいちゃんを呼び止めた。
目と眉だけで何?という顔を表現した彼女に一言問いかける。

「けいちゃんってブロンド好きでしょ」

彼女はただ口の端をニヤリと歪めただけだった。
小さくなっていく背中をしばらく眺めてから帰路についた。



707 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/12(土) 17:42
△△△


よっちゃんへ

バカだな〜。ほんっとよっちゃんはバカだよ。
キミは自分で思っているよりずっとずっと強い人だよ?ヘタレなんかじゃないってあたしは知ってる。キミは正しい選択がわかる人だよ。(するかどうかは別ね。よっちゃん優しすぎるところがあるから)あたしの言ってる意味わかるかな。わからなくてもいいけどニュアンスは汲んでよね。

今さらあたしに言われなくてもわかってるはず。幸せになるためによっちゃんは前に進んでる。大丈夫だよ、なんてあたしに言わせる気?もうっ!あたしがそのうち大丈夫じゃなくなっちゃうよ。

よっちゃんが恋しい。よっちゃんのひんやりした気持ちのいい唇に触れたい。よっちゃんにギュッてしてもらいたい。よっちゃんのイタズラな手をつねったりバカなこと言うキミにパンチしたりしたいよー。

あたしをこんな気持ちにさせるよっちゃんはバカとしか思えない。
でもそんなよっちゃんが好きで好きでたまらないあたしはもっとバカなのかも。

キミに必要なのは勇気じゃない。あたし、でしょ?


追伸
飯田先生とよっちゃんってもしかしたらすごく気が合うんじゃないの?
よっちゃんすごく楽しそう。メールから伝わってくるよ。


あなたの美貴より



708 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/12(土) 17:43

メールを読んでからベッドにダイブして枕をこれでもかってくらい強く抱きしめた。美貴に会いたい。会いたいよーチックショー!美貴の笑顔が見たい。生美貴を抱きしめたい。激しくキスしたい。いい匂いのする髪をかきまわしたい。すべすべの肌を舐めまわしたい。かわいい胸に挨拶してあたしのシルシをいっぱいつけて、あたしだけの美貴にあーしてこーして…ムフフ。あぁヘンな気分になってきた。ってちげーよ!なんだこのイヤラシイ妄想は!こんなことしてる場合かよっ!…でもとにかく美貴に会いたいよー!

「…………さて、出掛けるか」

ベッドの上でじたばたもがいて叫んで少しだけスッキリした。コートを着て、マフラーを巻いてニット帽をかぶっていざ出陣。こういう格好をしているとまだまだあたしも10代でイケるな。べつに歳とかどうでもいいけど最近美貴がやけに肌のお手入れに時間をかけて、あたしの顔をナデナデしてはため息つくのはどうなんだろう。

『よっちゃんのツヤツヤスベスベお肌が憎いよ』

美貴とそんなに変わらないと思うんだけどなー。

ドア横にある鏡を覗き込んだ。帽子からはみ出た前髪を横に流す。ぼんやりと見慣れた顔がそこにあるだけだった。眼鏡を持ってこなかったのは迂闊だったな。暇なときに買えばいいか。つってもいつも暇だけど。じりじりと近寄って自分の顔を凝視。肌を確認。ピタピタ。ツンツン。睫毛を触ってみた。なんかくすぐったい。頬をぐりぐりして鼻を引っ張って、眉毛を抜いたら涙が出た。

あたし、なにやってんだろう。

709 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/12(土) 17:43

足が止まっている。体が、部屋から出ることを拒否している。
そんなにあたしは嫌なのか。あそこに行くのが。

「ヤダ」

思いのほか低い自分の声にぞっとした。あたしの脳が指令を下す。

『今日はやめとけ』

うん、そうしよう。やめたやめた。べつにいーじゃん?寒いし。

くるっと振り返ってマフラーを取る。コートを脱ぎかけてふとつけっ放しのパソコンのディスプレイが目に止まった。ずらっと並んだ文字が無機質に光る。距離的に見えるはずがないのになぜだろう。一文字一文字がくっきりと、はっきり頭に浮かんでしまうのは。


あたしに必要なのはたしかに美貴だけど…でもね、ちゃんともらったよ。



勇気



710 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/12(土) 17:44

コートとマフラーを掴んで深呼吸。そして思い切って駆け出した。何も考えずに足を動かした。あんまりまわりを見ないようにして(何人かにぶつかったけど)とにかくダァーッと走ってみた。脇目もふらず、誰かに、何かに追い立てられるように走り抜いた。支配人のオッサンがびっくりした顔でこっちを見てたけど、誰かに名前を呼ばれたような気がしたけど全て無視。あたしの脳が余計なことを考える前に。早く、早く。

見えないなにかに捕まらないようにあたしは走った。背中に誰かの手が触れるんじゃないかとびくびくしながら。背筋を走る悪寒は走っても走っても振り切れなくて、ずっとついてくる自分の影からさえもあたしは逃げたかった。限界が近くても恐怖感がそれをあっさりと打ち破って、ホラー映画の登場人物のようにあたしは命からがら走り続けた。理由など、もちろんわからずに。

「…はっ…はっ…くっ……はぁ…はぁ…」

コンクリの地面を蹴る音が耳障りだった。冷えた空気が頬や耳に突き刺さる。寒いというより痛い。そのくせコートの中では発散されない熱が籠もって暑苦しい。手に持ったマフラーが邪魔で仕方ない。汗ばんだ体にシャツが張りついて気持ち悪いったらない。なぜだか滲んできた涙が鬱陶しい。白い息があっという間に吐き出されては後方に消えていく。

「はぁっはぁっはぁっ…くそっ」

だらんと垂れてきた両腕をそれでも振り続ける。前に、後ろに。自分のイメージの中ではしっかりと90度に曲げられた肘が意志とは無関係に伸びる。握る力を失った両の手のひらが腿を打ちつける。足がもつれてバランスを崩した。その拍子に伸ばした指先がなにもない宙を虚しく掴む。前のめりに突っ込んで倒れこんで転がって転がって、下り坂の固い地面を転がり続け、ようやく止まった。

「……ドチクショウ」



再び思う。あたし、なにやってんだろう。なにがしたいんだろう。



711 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/12(土) 17:45

数秒やそこらで整うはずのない呼吸。開けられない瞼。口の中にはジャリっと砂を噛んだ感触。鉄の味がする唾液。寒さと疲労で麻痺した体に転倒の痛みはまだやって来ない。きっとあちこちすり傷だらけなんだろうけど、でもそんなことはどうでもよかった。

心臓は初めてエッチしたときよりバクバクで、肺は子供の頃に溺れかけたときより悲鳴をあげていて、涙はオフクロが死んだときと同じくらい止まらなかったから。



だって、目の前には。瞳を閉じてはいたけど、目の前には。

二人で暮らしたあの部屋の残骸がはっきりと見えたから。

あの日、瞼の裏にいつまでも焼きついている炎の中のなつみが微笑んでいた場所。

伸ばした手の行方はどことも知れない世界。



止め処なく溢れる涙がこめかみを伝って冷たいコンクリの地面に小さな水たまりを作る。

半壊したあたしたちの甘いとはいえないホームが、誰にも気に留められぬまま放っておかれたその様子が逃げるように日本に帰ったあたしを責めるように哀しく見つめている。



しっかりと握っていたはずのマフラーは、あの日あたしが失ったものを象徴するかのようにいつのまにか手の中から音もなく消えていた。





712 名前:ロテ 投稿日:2005/02/12(土) 17:47
更新終了。>>703の頭に▼▼▼入れるのをまた忘れた…。
703以降は過去ですのであしからず。
713 名前:ロテ 投稿日:2005/02/12(土) 17:48
レス返しを。

698>woolさん
いつもありがとうございます。吉澤さん頑張ってるようです。安倍さんは…なんとも言えない役ですね。作者の中ではいまだミステリアスですw

699>たーたんさん
いつもありがとうございます。そうです、そういうことなのです。ドキドキしてもらえてよかったです。いつもネタバレしないように気を遣っていただき感謝です。

700>名無しのSaさん
金のほうにもレスをくださったようでありがとうございます。そうですか、探しの旅に行かれたのですか…乙です。伏線、ちゃんと消化できるように頑張ります。

701>ニャァー。さん
いつもありがとうございます。子供のような大人のような吉に帝もメロメロのようですw納得してもらえて嬉しいです。これからも頑張ります。

702>130@緑さん
いつもありがとうございます。こう来ました。パズルのピース、うまく嵌りましたでしょうか。カチッと嵌らなくとも多少強引にでも押し込めば意外に嵌るものですw脇は脇なりに頑張ってくれてます。(ひどい言い草だ)彼女は何を想っていたのでしょうかねぇ(遠い目


簡単なホームページ作りました。お気軽にどうぞ。といってもカノトモはまだリンクつながってないのですが…(申し訳

http://end85.fc2web.com/index.html
714 名前:たーたん 投稿日:2005/02/12(土) 17:56
更新お疲れ様でした。
HPに遊びに行かせていただいて、こちらを覗いたら更新されてたー!
今回は簡単ですが『よっすぃーガンバレ!』です。
色んな意味を含めて吉を応援してます。
HPの方もステキでした。ロテさんもガンバッて〜!
次回の更新もマッタリとお待ちしてます。
715 名前:ニャァー。 投稿日:2005/02/14(月) 09:47

更新お疲れ様です!
ギャグつつシリアスつつ…と言うテンポ!!
やはりロテさんはすごいなぁーと思う今日この頃ですv
無理をなさらずにロテさんのペースで
頑張って下さいねっ!!
716 名前:John 投稿日:2005/02/15(火) 12:05
いろんな理由が重なってしばらくよめなくてまとめ読みしました(仕事中。
優しい作者様なら働けとか言わないはず(ビクビク)
4更新分は読みながらガクブルでしたw

更新乙です。続きも楽しみにしてます〜

余談:友達に藤本さんの写真を頼んだら素敵に松浦さんと安倍さんを買ってきてくれました。


〇l ̄l_
717 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:09
▼▼▼


辛うじて残っている帰巣本能があたしをマリアの待つ家へと帰らせる。どれほど夜中に抜け出しても、なつみの元から離れたくないと思っていても必ず家には帰る。それはもしかしたら本能なんかではなく、ろくに家に寄りつかないオヤジに対するあてつけなのかもしれないけれど。

いない人間になにをあてつけるんだか。でも自分とオヤジは違うと思いたかった。


『あなたたちはよく似てるわよ』


いつだったかオフクロに言われた言葉はあたしの顔を醜く歪ませた。会社のこと、仕事のことしか考えていないあの人間と一緒にされたことへの嫌悪。政略結婚とはいえ、オフクロになにひとつ愛情など見せなかったオヤジを、あたしは反吐が出るほど軽蔑していた。自分はそんな人間じゃない。あんな血の通ってない顔の奴と一緒にするな。

外見上のことなのか、それとも内面的なことを指していたのかオフクロの真意は死んでしまった今となってはわからないけど、似ていると言われたその日からあたしはどこかで自分をも嫌悪していたような気がする。日に日にオヤジに近づいているような、そんな気がしてあたしは極力オヤジを避けた。そんなあたしの心の内など知る由もないオヤジは、オフクロが死んでロンドンに移り住むようになってからも相変わらずそれまでのスタンスを崩すことなく精力的に仕事をしている、らしい。


718 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:10

「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「お食事はどうなさいますか?」
「ん、食べるよ。オヤジは…」
「旦那様は午前中に一度お戻りになられて、またすぐに出掛けられました」
「ふーん。今度はどこ?」
「日本だそうですよ」

いつものようにシャワーを浴びに2階に上がった。なつみとの痕跡をすべて洗い流すのは、いつも少し勿体ないような気持ちになる。古いアパルトマンのかび臭さや部屋にこびりついた煙草と酒の匂い。それらがイコール彼女の匂いだ。いい匂いだなんて思ったことはないけどなぜだかその匂いに包まれると落ち着いた。その匂いがしみついた彼女を抱くと気分が安らぐ自分がいた。

肌をつたうシャワーの水流がなつみの匂いを攫っていく。あたしからなつみを奪うかのように容赦なく水は流れ、排水溝に消えていく。寂しさと、不安から胸が苦しくなる。握り締めた右手を心臓の上に置き、じっと息を止めて歯をくいしばる。耐えて、待つ。そうしているうちに徐々に不安が治まっていくのがわかる。よし、大丈夫だ。すっかり慣れたこの動作も、なつみと会わない日はする必要がない。

なつみと会った日のシャワーは、疲れる。

髪をふきふき鏡を見ると、オフクロ譲りの白い肌とオヤジそっくりの大きな瞳があたし自身をぼんやりと見つめていた。自分の顔は好きじゃない。なつみに好きだと言ってもらっても、オヤジの子供なんだと自覚させるこの顔は嫌いだ。オヤジに似ている自分がオヤジ以上にもしかしたら嫌いなのかもしれない。


719 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:11

「ひとみお嬢様は」
「うん?」

シャワーで体力を使い果たして、正直メシを食べる余力なんてなかったけどせっかくマリアが作ってくれたのだから食べないわけにはいかない。食べるって言ったのは自分だし。欠伸を噛み殺しているのがバレてなきゃいいけど。

「なぜそんなに旦那様のことを毛嫌いなさるのですか?」
「さあね」

マリアがこういうことを聞いてくるのはわりといつものことだからさらりと受け流す。

「親子はなにがあったって親子なんですから」
「へーへー」
「もっとお互い歩み寄ってですね」
「ほーほー」
「もうっ。お嬢様、ちゃんと聞いていますか?!」

心配してくれているのはよくわかる。親身になってくれているのも。でもイチからジュウまでオヤジとのこれまでを説明するなんて面倒なことは御免だし、なによりあたしの気持ちをわかってもらえるとも思えない。理解してほしいとも思わない。どうせ他人だ。わかったところでなにができるわけでもないんだから。

「聞いてるよーうるさいなー」
「うるさいとはなんですかっ。まったくお嬢様ときたらいつもいつも…」

それはこっちのセリフだ。マリアときたらいつもいつも…。人の世話焼いている暇があったら自分のことをどうにかしろよな、まったく。

720 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:12

「マリアこそその歳になるまで独り身でさ、老後とかどうすんだよ」
「私のことはどうでもいいんです」
「一人ぼっちじゃさみしーじゃーん。誰かいないの?男とか」
「お嬢様に心配などされなくても私は平気ですから」

でっぷりした尻を左右に振りながら、ぷりぷり怒って食器を下げるマリアにからかい半分でさらに聞く。

「そっか。焦る時期はとっくの昔に過ぎちゃったかぁ」
「いいかげんにしないと怒りますよ?お嬢様」

真ん丸い目を剥き出しに、ドスの利いた声でそんなこと言われたらさすがにビビる。

「お嬢様」
「はいっ」

背中を向けたマリアが恐くて思わずいい返事。そんなに怒らなくても。

「さっき、一人ぼっちは寂しいって仰いましたよね?」
「え?あ、う、うん」
「それはお嬢様ご自身のことですか?」
「…まさか。そう見えるの?」

一瞬切り返しが遅れた。余計な心配も詮索もされたくはないのにあたしはなんでこんなこと言ってるんだろう。これじゃまるで気にしてくださいと言わんばかりだ。

721 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:13

「いえ、私はどちらかというと旦那様のほうがそう見えます」
「………」
「お嬢様は旦那様によく似ていらっしゃいますね。そんなに動揺した顔を見せないでください」

思わず自分の顔を触ろうと右手がピクッと反応した。年の功には敵わないな。

「ひとりぼっちが寂しいと仰るのなら旦那様の心配をしてあげてください」
「アイツはそんな…」
「親子が仲違いしているなんて、そちらのほうがよっぽど寂しいことじゃありませんか」
「…オヤジにも同じこと言ったの?寂しそうに見えるなんて」
「まあ…ニュアンス的には同じようなことを」

やるなぁ、マリア。あのオヤジにそんなこと口出しできた人なんて今までいなかったんじゃないかな。よくクビにならなかったもんだ。あたしがマリアを気に入ってるってことがもしかしたら記憶の端にでも残っていたのか?あのオヤジに限ってそんなわけないか。

「オヤジはなんて?」
「なにも仰いませんでした。ただ日本に行くとだけ」
「オヤジらしいな」
「だからお嬢様も」
「え?」
「きっと、この後お出かけになるかご自分のお部屋に戻られるのでしょう?私の言葉は無視して」
「…よくわかるね」

苦笑したあたしはすでに立ち上がりかけていた。マリアとこれ以上話すつもりなんてない。

「あなたたち親子はよく似ていらっしゃいますから」

こちらを見ずにマリアが言い放った言葉は、彼女の予想通りあたしを自分の部屋に向かわせた。

オヤジが寂しいと思っているかどうかなんてどうでもよかった。たとえ寂しく思っていたとしてもあたしには関係ない。それにもしマリアの目にあたしが寂しく映っているのなら、それこそオヤジとは無関係だ。

722 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:13


なつみに会いたい。
なつみの匂いに包まれたい。


寂しいと思えば思うほど、彼女との距離が遠ざかるような気がした。なつみは寂しいと思うことがあるのだろうか。あたしと会ってないときにあたしのことを考えるときがあるだろうか。

答えの出ない疑問を胸にあたしはベッドに横になった。窓を打ちつける音でいつのまにか雨が降っていたことを知る。シャワーの水流のようにこんな気持ちを洗い流してくれたらいいのにと、雨に濡れる自分を想像しながら眠りについた。



723 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:14
△△△


藤本美貴 様

やっぱり冬は寒いよなー。風邪とかひいてない?美貴のことだから鼻水タラタラでティッシュをものすごい消費してんだろうなぁ。目に浮かぶよ。受付で豪快に鼻かむなよ?通る人が引くからさ。あれはヤバイって。すましてニッコリ笑ってたら美貴は美人だからまさに会社の鼻、じゃなかった華って感じなんだから。

あ、でもあんまりニッコリするなよ?勘違いするバカがいるかもしれないから。それでなくったって社内で美貴狙いのやついっぱいいそうだし、お客様だって美貴に案内されたら好きになっちゃうかもしれないからな。うん、ダメだダメだ。ニッコリなんてしちゃダメだ。やっぱりムスっとしてろよ。ついでにギロって睨んでできるだけ人を寄せ付けないように。男も、女も。オイラの美貴に誰も手出しできないように頑張ってくれたまえ。期待してるよ、藤本くん。

今夜は飯田先生とまいちんと飲みに行くんだ。わかってる。深酒はしないよ。飯田先生と気が合うなんてことはありえないけど、あの先生が酔っぱらったらどうなるのか少し興味があるから楽しみだ。
藤本くんは最近飲んでる?飲んでもいいけどいつかみたいに酔っぱらって店で寝たりすんなよ?すげー心配だから。後藤さんとか石川さんとかアヤカとか圭ちゃんとか安全なメンツで飲んでくれよ?ホントにすげー心配だから。あ、後藤さんはダメだダメだ。アイツには前科があるんだった。オイラの美貴のほっぺをむむむぅ〜…また腹が立ってきた。

とにかく、飯田先生がどうだったか報告するから楽しみしてろよ〜。
んじゃ!


吉澤ひとみ



724 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:15

美貴が不自然に思わないわけがないのに、あたしはこんなメールを送ってしまった。美貴にもらった勇気の行方をちゃんと説明しなきゃいけなかったのに。どうしてもできなかった。当たり障りのない文章の羅列を美貴は怒るかもしれないな。それに今のあたしとエッチしたら美貴は心底びっくりするだろう。あちこち傷だらけのアザだらけのこの体を見せる機会がなくて本当によかった。


十分温度には気を遣ったつもりだったけど、これ以上ぬるくしたら寒いし、かといってシャワーだけじゃ疲れは取れないからあたしは傷だらけの体をゆっくりとお湯の中に沈めた。

「…ぐっ…んんー!!」

言葉にならない悲鳴が口から漏れる。温かいお湯は傷口に容赦ない。しばらく身を固めてじっとしていたら徐々に体も慣れてきて、ふわぁーっといい気分で手足を伸ばすことができた。気持ちいい。

「温泉いきてー」

日本に帰ったら美貴と温泉でも行ってのんびりしたいなぁ。露天で雪なんか積もってたりしたらもう最高。湯上りの浴衣から覗くうなじが色っぽいんだ。ビール飲んで、美味しいもの食って、それからまた温泉入って、いちゃいちゃしたり、ちゅーしたり。楽しいだろうなぁ。幸せだよなぁ。

「そんな日が来るのかなー」

いつかきっとそういう日が来るだろうとは思う。けど、来ないような気もする。今はまだ、美貴とのそんな明るい未来があたしには見えなかった。あたしが見てる先に美貴はいるけど距離はずっと遠い。とてもじゃないけど手が届くわけがない。そんなことを冷静に考えてる自分がなんだか嫌だった。でもやっぱり、そんな幸せがやって来ることはまだ想像できない。

725 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:16

「まさか残ってるなんて…」

いわくつきの建物は利用価値が無いのか、それとも持ち主が忘れているのか、短い間とはいえあたしたちが住んだあの部屋は無残な姿であたしの目の前に現れた。数年を経てようやく対面をしたその姿に、あたしはいろんな感情が湧き出て混乱した。そして傷む体を引き摺ってホテルに逃げ帰った。

「なさけねぇ…」

情けない繋がりで思い出したのは初めて美貴とキスをしたときのこと。あれは情けなかった。本当に、今思い出しても悔いが残る。



あのときのキスは半ば冗談のつもりだった。ちょっとチュッとできればそれで満足だと思っていたのに、唇が触れた瞬間あたしの中でなにかが弾けた。愛おしさが込み上げてきて止まれなかった。気づいたら舌を入れていて、絡み合った瞬間は電流が走ったかのように痺れた。冷静でいられなくて逃げる舌を夢中で求めていた。

毎日バカやったり(ほとんどあたしだけど)冗談言い合ったりする美貴があんなに色っぽい顔をするなんて、キスだけであんなに気持ち良くなるなんて。なにも考えられなくて、でも美貴に悪いと思いつつ首筋に舌を這わして体を弄った。ただ美貴が欲しくて先に進もうとする自分を止める気すらおきなかった。

726 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:17

もしあのとき美貴の携帯が鳴らなかったらあのまま美貴を抱いていたんだろう。あのとき最後までいっていたら今の二人はあっただろうか。やらなかったことが二人にとって良かったのか悪かったのかもう知る術はないけど、あのとき美貴を抱きたいと思った自分がいたのは真実だ。

あたしの唐突な行動に動揺を隠せなかった美貴はそれでも必死で取り繕っていた。友達であるあたしとそういう関係になりかけたことに戸惑い、混乱していたんだと思う。キスに応えてくれたことや体を触ったときにちゃんと反応していたことなんかがあたしにとっては追い風だったけど、美貴にとってはそうではなかった。混乱の原因でしかなかった。あのときはまだ。友達だったあのときは。

あのまま抱いてしまえることもできた。それは無理やりってわけじゃなく、そういう雰囲気に持っていってちゃんと美貴があとで後悔をしないように遊びだと割り切れるようなセックスになったのだと思う。でもそんなのは嫌だった。一回きりの相手で終わるくらいなら友達でいたかった。友達だったら、ずっと傍にいられると思ったから。

だから抱かなかった。

だったら最初から深いキスなどしなければよかったのに。我慢できなかった自分が情けない。あんな中途半端な形で終わらせなければならなかったことも。



727 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:17

湯上りの自分の裸を鏡で見た。腕や肩、足にも見事な青アザが存在を主張している。顎の下や指に擦り傷もある。これは本当に美貴には見せられない。心配を通り越してめちゃめちゃ怒るだろうな。怒られるならまだいいけど泣かれるのが一番辛い。美貴の泣き顔であたしの心はいとも簡単に張り裂ける。涙の粒はあたしの胸にたやすく大きな穴を開けてしまう。美貴はあたしのすべてだ。

鏡の中の自分を睨む。情けない、負け犬のように逃げ帰った自分を。こんな傷くらいなんともない。あたしにはするべきことがある。へこたれてる暇なんてない。鏡の中の自分に右ストレート。

「ばあか。ちゃんと見ろよ」

自分が作りたかったホームの残骸を、目を逸らさずに見ろよ。ちゃんと確かめてこいよ。


着替えながら時計を見る。約束の時間まではまだ余裕がある。濡れ髪を乾かす時間も惜しくなり、あたしはそのままコートを掴んで部屋を出た。さっきとはまるで別人のような自分の変わりように笑みが漏れる。勇気とはちょっと違う。美貴のことを考えていたらなんだか吹っ切れたような自分がいた。足取りは軽い。今度は転ばないように気をつけよう。せっかく風呂にも入ったことだし。

先ほど物凄い速さで駆け抜けた道をてくてくと歩く。さっきはまわりの景色を見る余裕なんて全然なかったけど、こうして落ち着いて見てみるとけっこう様変わりしていることに驚く。まあ何年も経ってるんだから変わっててもおかしくはないんだけど。

728 名前:彼女は友達 投稿日:2005/02/20(日) 19:18

濡れた路面にタイヤの後がくっきりと残っている。水たまりを避け、舗道をジャンプした。その瞬間、目の前にダウンジャケットを翻して同じように歩く自分の姿が見えたような気がした。あの頃、何度となく通ったこの道。お気に入りのオレンジの皮入りのジャムを買いに、なつみを迎えに、公園までの道をひとりで歩いた。

大通りから一本外れた人気のない通りにさしかかり、さすがに心臓が早鐘のようになる。呼吸も乱れてきた。それでもさっき見た光景を思い出しながら歩を進める。転んだ場所を通り過ぎてから心が決まった。覚悟は、十分すぎるほどできていた。



半壊して時間が止まったままの建物。

あたしが作りたかったスウィートホームの残骸が、そこにあった。



そう、あの頃のあたしはバカみたいに夢を見ていた。

あたしたちだけのスウィートホームを作りたいと。

あたしとなつみと……。



無残にも打ち砕かれたその夢は、変わり果てた姿をして夕暮れ時のオレンジ色に染まっていた。





729 名前:ロテ 投稿日:2005/02/20(日) 19:18
更新終了
730 名前:ロテ 投稿日:2005/02/20(日) 19:23
レス返しを。

714>たーたんさん
いつも応援してくださってありがとうございます。吉ともども作者も頑張りますのでこれからもよろしくです。

715>ニャァー。さん
ありがとうございます。あんまりシリアスばかりだと気が滅入りますので…ほどほどに明るさを織り交ぜていきたいなと思ってます。

716>Johnさん
まとめて読みお疲れ様です。そしてありがとう。ていうか働(ry
とりあえず素敵なご友人たちに乾杯。・゚・(ノД`)・゚・。
731 名前:John 投稿日:2005/02/20(日) 19:53
YO!!し今回は遅レスじゃない(・∀・)アヒャ
お疲れです。なんかヨッサンの美貴さんに向ける気持ちがリアルですげぇドキドキです。

最近気づきました。リアルの美貴さんと小説の美貴さんを比べた結果明らかに小(ry

……待ちます。
732 名前:名無しのSa 投稿日:2005/02/20(日) 21:59
私も↑と一緒です。リアルの美貴さんと、ここの小説の美貴さんとでは
明らかに・・・。
そんでもってまたまた藤本くん のセリフにドキドキしてみたり・・・。
733 名前:たーたん 投稿日:2005/02/21(月) 11:42
更新お疲れ様です。
お腹が痛いです・・・助けてロテさん・・・(T_T)
でもやっとなのかな?まだなのかな?
私の体が壊れる前にお願いします・・・
次回の更新をいつも以上に楽しみにしております。
734 名前:ホットポーひとみ 投稿日:2005/02/21(月) 22:06
こんなに夢中に読めるのってはじめて。
ロテさま がんばってください。
HPのほうも覗かせていただいてます。
735 名前:ニャァー。 投稿日:2005/02/21(月) 22:31

更新お疲れ様デス!!
よっすぃ〜…試練時ですな。。。
すごく辛いハズなのに頑張ってるよっすぃ〜…切ないデス。
次回も更新楽しみに待っています!!
736 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:35
▼▼▼


「やめて。そんなふうにひとみのこと言わないで」

ふいに自分の名前を呼ばれてノックをしかけた手が止まった。立ち聞きなんて悪趣味なことはあたしのポリシーに反するけど、けいちゃんの電話の相手が誰なのか気になった。眉をひそめて横を通りかかったクリニックのスタッフに「シー」と口元で人差し指を立て、耳をドアにひっつけた。

「あのコの気持ちわかっているんでしょう?あたしの気持ちも。……ええ、そう。だからっ」

けいちゃんが声を荒げるなんて。それにいつになく真剣な口調だ。仕事モードとも違う。

「ねぇ、このままじゃ本当にあのコは…聞いてる?聞いてるんでしょ?ひとみだけじゃない。あたしはアンタのことだって心配なのよ、なつみ」

息が止まった。なつみ?なつみって言ったよな?聞いていてはいけないような気がしたけど、その名前を聞いた瞬間から足は石のようにカチコチになり動かなかった。いっそ耳を塞ごうかと思ったけど足と同じくやっぱり両手も動いてくれなかった。

「まだやってるんでしょう?ひとみには頼むから、ブレンダのときのようなことはしないで。お願いだから。…そんな!あたしはなつみにだってしてほしくないのよっ」

離れろ。立ち去れ。聞くな。頭の中ではうるさく警鐘が鳴っている。でも甘美とはほど遠い、けいちゃんの怒号を一言たりとも聞き逃したくなくてあたしはやっぱり石のように身を固くした。全身の神経を耳に集中して、唾を飲み込み息を潜めて。

737 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:36

「いくら中毒性が薄いからってドラッグはドラッグよ。体にいいことなんてひとつもないわ!」

やっぱり。全身から力が抜ける。薄々気づいていた事実だけど、やっぱりけいちゃんも知っていたんだな。そっか、ブレンダとはそれが原因だったのか。けいちゃんが執拗にあたしとなつみを離したがる理由も、聞けば深く納得せざるを得ないものだった。

「あたしはひとみを信じている。でもなつみ、アンタのことは………信じきれないのよ…」

こんなに弱々しいけいちゃんの声をあたしは初めて聞いた。オフクロが死んだときよりも辛そうな声に、逆にこっちが居た堪れなくなる。フラつく体をドアからそっと離そうとしたとき、間の悪いことにクリニックの顔なじみの先生に声をかけられた。

簡単な挨拶を交わしてあたしが再びドアのほうを振り向くと、そこにはこちらをじっと見据えた厳しい表情のけいちゃんが無言で立っていた。ドアを開けて中に入るように促され、あたしは仕方なくのろのろと部屋に足を踏み入れた。乱雑な部屋の中でまず真っ先に電話に目がいった。さっきまであの回線の向こうになつみがいたのだと思うとそれだけで恋しい。

「立ち聞きしてごめん」
「あら、聞いてたの?」
「やめてよけいちゃん。そんなふうに言うのは」
「そうね。あたしとしたことが…迂闊だったわ」
「ううん。あたしがバカなんだよ」

けいちゃんにこんなに心配をかけるあたしが。

738 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:37

「ひとみ、教えて」
「なにを?」
「アンタはドラッグをやってるの?」

デスクにもたれ掛けていた姿勢を正す。あたしはけいちゃんに負けないくらいの真剣な声ではっきりと否定した。

「やってないよ」

ソファの横で立ったままのけいちゃんの口からふぅっと息が漏れた。

「あたしのこと信じてるんじゃないの?」
「信じてるわよ。でもひとみの口から聞きたかった」
「……」
「天国のお母さんに誓ってやってないって言い切れる?」

オフクロまで持ち出さなくとも、あたしは本当にやってない。疑い深いというわけではなく、けいちゃんは本当に、本当にあたしのことを心配してくれている。だからあたしもそれに誠意を持って答える。

「天国の母さんに誓ってやってません」

ソファに崩れるようにして座り込んだけいちゃんはただ一言「よかった」と呟いていた。



739 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:38

「アンタのことは本当に信じてるのよ」

立っているのも疲れたのでソファに深く身を沈めたけいちゃんの隣に腰を下ろした。あたしのほうをちらりと見てからけいちゃんは言いにくそうにそう切り出した。

「ただ…」
「ブレンダとは本当に大人の事情だったんだね」

遮ったあたしを気にもせず、けいちゃんは心を決めたのか組んでいた足を下ろしブレンダとの話を教えてくれた。

「最初は気のせいだと思ったのよ。役者だし、もともとちょっと変わった女だったから感情の浮き沈みが激しいのなんて日常茶飯事だったし、そこが面白くて付き合ってたってのもあったから。でも歯科医とはいえあたしだって医者よ。恋人の体調の変化にはそこらの人間より敏感だわ。…べつにね、ほんのお遊び程度だったらあたしだってあそこまで………まあ、それはいいわ。とにかくあたしは自分から見切りをつけたの。ブレンダにね。あたしが許せなかったのは、なつみがブレンダにドラッグを渡し続けていたこと。あたしがどれだけ止めてって言っても彼女は止めなかった。もちろんブレンダがなつみに頼んでいたってのもあるんだけど、でもそんなことあたしにとっては些細なことでしかなかったわ」

一気に吐き出してのどが渇いたのだろう、けいちゃんはテーブルの上に置いてあったミネラルウォーターに手をのばした。

「ブレンダはいまどうしてるの?」
「ドーバー海峡の向こうできっと誰かとよろしくやってるんじゃないかしら。どうでもいいことだけど」
「ブレンダのこと好きだった?」
「それも今となってはどうでもいいことだわ。大事なのは過去より今よ」

けいちゃんの手からペットボトルを奪い取り、あたしはカラカラの口の中を潤した。

「けいちゃん、ブレンダのときがそうだったからってあたしは」
「違うって言える?」
「うん。あのね、けいちゃん……ってイテェ!」

諭すような口調のあたしが生意気に見えたのかいきなりデコピンが飛んできた。

740 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:39

「い、いきなりなにすんだよー!シリアスなときに」
「アンタにシリアスは似合わないのよ」
「それはこっちのセリフだっつーの」

ペットボトルをぽいっと放り投げてあたしは口を尖らした。

「そうそう、その顔。そっちのがよっぽど可愛いんだから。あんまりあたしが知らない表情しないでよ。もう少しだけ子供のひとみを見ていたいんだから」
「勝手なこと言ってるよ。話戻すよ?」
「ええ。続けて」

嬉しそうなけいちゃんを横目にあたしは言いたいことを頭の中で整理する。…つもりが自分でもなんだかよくわからなくなってきた。とりあえず事実を報告してけいちゃんの反応を見るか。

「なつみはたしかにドラッグをやってるかもしれない」
「かも、じゃないでしょ」
「そこは突っ込まないでよ。でもね、あたしの前では一度もやってないんだよ」
「え?」
「あたしといるときは煙草は吸ってもドラッグはやらないし、そんな話をすることもない。もちろん勧められたり強要されたりってことも一切ないんだ。セックスのときだってね」
「そう、な…の?」

深く頷くあたしをけいちゃんは訝しげに見ている。だって事実なんだもん。これ以上なんて言ったら信じてくれるんだ?

「もしかして…あたしたちが思ってるより…なつみは…」
「なに?」

独り言みたいにペットボトルを握り締めながらそう囁いたけいちゃんに問いかけたけど答えは返ってこなかった。しばらくそのままでいたらふいにノックの音がして、隣のけいちゃんは見るからに動揺して、ペットボトルが絨毯の上を静かに転がった。

741 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:39

「ヤスダ先生、ミスターモンゴメリーが急に診てほしいと言っていらっしゃってるんですが、どうしましょう」
「すぐに行く。診察室にお通しして」
「わかりました」

転がったペットボトルを拾うとけいちゃんは鏡を見ながら身だしなみを整えていた。

「そういうわけだからちょっと行ってくるわ。話しの続きはまた今度。それとも待ってる?たぶんすぐ済むと思うけど」
「いいよ。帰る。それより今のコかわいいね。新人?」

けいちゃんは白衣を着ながらあたしを軽く睨んだ。わけがわからず首を傾げるとけいちゃんは小さな声で、でもはっきりとこちらが呆れるような答えを返した。

「手、出さないでよ?あたし狙ってるんだから」

オイ、クレアはどうしたんだコラ。さてはジョギングに根を上げたな。

「はいはい、帰るならさっさと出てく。あたしはまだまだお仕事が残ってるんだから」


部屋を追い出され、受付嬢に挨拶してエレベーターを待ちながら考えた。

今夜はなつみはいるだろうか。
誰かと夜を過ごしているだろうか。

考えていても始まらない。外に出たあたしはなつみの部屋へと足を向けた。





742 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:40
△△△


なんなんだろう、この状況。


「かんぺー!かんぺー!」
「まい、わかったから。もう乾杯は何回もしたから」
「うぅぅ…ヒドイ!カオリンのばか!ばかばかばかばか……かんぺー!!」
「わ、わかったから。はい、乾杯。ほら吉澤さんもぼやぼやしないで」
「かんぱーい…」

まいちんっていつから乾杯上戸なんだろう。少なくとも大学のときまではちょっと脱ぎ癖があるけど楽しいオネエチャンだったのに。いや今も楽しいっちゃ楽しいけど。でも、それにしても面白いのは飯田先生だ。ぽんぽん服を脱ごうとするまいちんの後ろから甲斐甲斐しくコートやマフラーを拾う姿は、とても昼間の彼女と同一人物とは思えない。きりっとした顔も鳴りを潜め、デカイ体でオロオロとまいちんのまわりをうろつく姿は哀愁すら漂う。

「もうっよしこ!!なによその覇気のないかんぺーは!」
「って、だってこんな道の真ん中で乾杯はないだろ。大体なに飲んでんだようちら」

743 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:40

一軒目のパブではまだ正常だった。まいちんは久しぶりにあたしと飲むということで、やっぱり最初からテンションがいくらかおかしかったけど大学時代の思い出や、共通の友人の話などをずっと喋り倒していた。あたしはちびちびと節度のある飲み方をしてたし、飯田先生に至ってはひたすらミネラルウォーター。おいおい、飲みの席でそりゃないだろと思ったけど、その後のまいちんの泥酔っぷりからして飯田先生の選択は正しかったと納得した。あたし一人じゃとてもこの酔っ払いセクシーネエチャンの相手は無理だったから。

二軒目でもまいちんのテンションの高さは変わらず、あたしがいかに大学時代暗かったかとか、飯田先生がどんなにベッドで有能かを大声で暴露していた。あたしはまいちんから見たあたしの印象がどんなだったかが知りたかったから止めることはしなかったけど、さすがに飯田先生は長い髪を振り乱して必死でまいちんの口を両手で押さえていた。あたしだったらそういうときはキスしちゃうんだけどなー。飯田先生にそういう発想はないらしい。

三軒目では下品な言葉でナンパしてきたおにーさんたちを、おにーさんたち以上の下品さで罵り、追い返したまいちんは四軒目であたしと飯田先生に色目を使ってきたおねーさんたちと取っ組み合いのケンカを始め、赤毛のけっこうな美人のケツを蹴り上げていた。五軒目に行く前に警官が来そうだったので場所を飯田先生の家に移して飲み直そうと渋る酔っぱらいを説得した。そして今は飯田先生の家に向かうべく、フラフラする彼女を飯田先生と両側から抱えながら歩いている。当然、手にはなんの飲み物も持ってはいない。

「かんぺー!!かんぺー!!」
「オマエそればっかだなぁ。だからなんも持ってないっつのに」
「吉澤さん、それは禁句です」
「んもぅぅーっ!!あんたたちにはいまじねーしょんってもんがないわけ?!」
「うっせーなぁ、酔っ払いは。飯田先生んちどこよ?さっさと寝かしちゃおうぜ」
「もうそこです。ほら、まいしっかりして」
「…ショージョーリョクってもんが…いのよ…た…は…脳がちゅるちゅる…で…」


744 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:41

ようやくついた飯田先生の家は、なんていうか想像とちょっと違っていた。意外にかわいい系なんだな…似合わねー。もっと近未来的なロボ?みたいな直線的なイメージをしていたのに、けっこうふんわりした暖かい色づかいが多い。それになんつーかやけにペアなものが目につくんですけど…。

「新婚家庭かよ」

まさにそれだった。二人のラブラブっぷりが窺える部屋。まるで訪れた人間をムカムカイライラさせることが目的のようなそんな部屋で、まいちんが先につぶれたのは幸いだったのかもしれないと思った。イチャイチャを見せつけられたらたまったもんじゃない。ま、飯田先生に限ってそんなことはないと思うけど酒が入ったらわかんねーからな、この人も。いまだあたしの中では未知数だし。

「まい、寝るなら服脱いで。こっちの腕あげて、はい」
「そうそう。まいちん、ボタンも外そうねー」
「………」

冗談だって。冗談に決まってんだろ!

飯田先生にすんげー顔で睨まれてあたしはすごすごベッドルームから退散した。人ひとり殺しかねない顔をしてたな、あれは。まったく冗談が通じない女はこれだから…ってあたしも懲りないなぁ。

「まあ、寛いでください」
「お構いなく」

酔っ払いを寝かしつけることに成功した飯田先生がリビングに入ってきた。そのままキッチンに向かい冷蔵庫を覗いて長い髪をかきあげた。

745 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:41

「ビールでいいですか?それともワイン?」
「じゃあ、ビールで」
「吉澤さん、チーズは?」
「あ、好き」

ライムがあるかどうか聞こうと思ったけどさすがにそれは図々しいかなと思い止まった。長い腕でビールやらチーズやらを抱えて飯田先生がリビングに戻ってくる。あたしはおずおずと可愛いソファに深く座り、一連の動作を眺めていた。そういえば肝心なことを聞いてなかったな。

「一緒に住んでるんですか?まいちんと」
「ええ。半ば同棲ですね。私が押しかけて」
「ふーん。やっぱりね。そっかそっか、飯田先生が押しかけ…って………えぇぇぇ!」

マジかよ!絶対逆だと思ってたのに。飯田先生がそんなことする人だったなんて。少なくとも美貴から聞いた話の飯田先生はもっとクールっていうか淡白っていうか情が薄いっていうか…。

「ひどい言われようですね」
「あ、ごめん」

一応謝ったもののいまだに半信半疑だ。だって、この仕事人間が押しかけ女房ってなぁ。それほどまいちんのことを愛しちゃってるのか?

「藤本さんから聞いてると思いますけど、彼女とのときはそれほど…その…」
「お互いホントに好きじゃなかったんだ」
「まあ、はっきり言えばそうですけど…吉澤さんやけに嬉しそうですね」

美貴の話は誇張でもなんでもなかったのか。美貴も飯田先生も、そんなんだったら付き合うなよなー。でもなんか嬉しくてたまらないんだけど。ウキウキ気分でビールを一気に飲んだ。心なしかさっきより断然美味しく感じる。

746 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:42

「ん?飯田先生なんで水飲んでんの?」
「アルコールは一切飲めないんですよ」
「またまた〜。もう自宅なんだからいいじゃん。飲めよー」
「いえ、本当に。昔ひどい醜態をさらしてから絶対に口にしないようにしてるんで」
「ひどい醜態って?」

なんだなんだ。醜態をさらす飯田先生がむしろ見たいよ、こっちは。

「酔うと誰かれ構わず抱いてしまうみたいで」
「ブハァァーッ!!」

いきなりなに言い出すんだ。そりゃビールも噴くって。嫌な顔してタオル取りに行くなよ。言ったアンタが絶対悪いんだから。あーあ、ビールもったいない。

「飯田せんせぇ。もう一本もらっていい?」
「今度は噴かないでくださいよ」
「あなたがおかしなこと言わなきゃ噴かないよ」
「聞いたのは吉澤さんでしょう」
「だからって言うかな」

二本目のビールをごくごく飲みながらあたしは呆れて床を拭いている飯田先生を見た。

「本当のことを言わなければ水飲むのを許してくれないでしょう、あなたは」
「そりゃそういうアレならさすがにあたしも勧めないけどさ。抱かれたら困るし」
「私だって困りますよ。吉澤さんとそんなことになったら」
「いや、オイラのがぜってー困る。藤本くんが許すはずがないもん。まいちんはなんだかんだ言っても許してくれそうじゃない?」

床を拭き終えた飯田先生がなぜだかきょとんとした顔でこちらを見た。ん?なんかヘンなこと言ったか、あたし。

747 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:43

「意外ですね。吉澤さんだったら絶対に『エッチしたって言わなきゃバレっこないんだから楽しもうよー』とか言うと思ったんですけど」

あのねぇ。あたしをなんだと思ってんだよ。それにその声真似、やけに似ていて気持ち悪いよ。

「吉澤さん本当に美貴のこと大事に思ってるんですね」
「美貴って言うな」
「あ、すみません。藤本さんのこと本気なんですね」
「あったりまえじゃん。飯田センセーがまいちんを好きな気持ちよりあたしが美貴のこと好きなほうがずぇっっったい勝ってるもん。自信あるもん。つーかあたしの愛は世界一だし」
「それなら私は宇宙一ってことで」
「ダァーッ!コラ飯田てめー!宇宙とんなよ」
「あ、もしかして抱かれるより抱くほうが好きですか?」
「いやあたしはどっちもイケる口だけど…ってちげーよ!」

おもむろにあたしの横に座ってきた飯田先生はなぜだか妖しげな目つきでサラサラの髪を耳にかけた。誘うようなその視線にあたしはピンとくる。ははーん、そういうことか。あいにくだけどあたしだってだてに場数は踏んでないんだよ、飯田先生。

さりげなく距離を詰め、身長のわりにほっそりした肩をそっと抱いた。一瞬、飯田先生の睫毛が揺らめいて動揺を隠したのがわかる。敵もなかなかやるなぁ。じっと見つめる彼女の膝から右手を放し、その長い髪をゆるゆると撫で感触を楽しむ。視線を真っ直ぐに向けられた瞳に合わせ、右手で頬を撫でようとしたそのとき。

「す、すみません」

飯田先生は心持ち顔を赤くしてあたしを振り解き、素早く立ち上がった。

「飯田せんせぇ。続きはぁ?」
「わかりました。私が悪かったですよ。今のは、全面的に」

へっへー。あたしをからかおうなんて、らしくないことをしようとするからだ。ザマーミロ。飯田先生の鼻を明かしたみたいで気分がいい。ビールうんめー。

748 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/04(金) 21:43

「でも私だからよかったようなものの、他の女性だったら……。藤本さんもなにかと苦労が絶えなそうですね…」
「なんだよそれ。なんかさー、飯田センセーって絶対あたしのこと変なフィルターかけて見てるでしょ。あたしは美貴以外の女に興味ないよ?ぶっちゃけ」
「やっぱり第一印象があれでしたからねぇ。木村先生とか…あといろんな噂も聞いていましたから」
「あ、あの頃はその、まあ、いろいろと……あって」
「では酒の肴にその『いろいろ』というのを聞かせてもらいましょうか。夜はまだ長いですし」

酒の肴って、オマエ飲んでんの水じゃねーか!それになんだこの友達みたいな雰囲気は。あたしたちってそういう関係だったか?いつのまにこんなに和んでんだろう。面白い女だな、この人。

でもこの人に話したってべつに損するわけじゃないし(得にもならないけど)、それこそつまみ代わりに話してやってもいいかな。たしかに夜は長い。今日みたいな日は、とくに。



あたしにとっては眠れぬ日になるはずだっただろうこの夜に、こうして酒を飲みながら自分以外の誰かと過ごせることをあたしはひそかに感謝し、そして安堵していた。

今日だけは、一人でいたくなかったから。

できれば美貴とがよかったけど、それは飯田先生には言わないでおこう。





749 名前:ロテ 投稿日:2005/03/04(金) 21:43
更新終了
750 名前:ロテ 投稿日:2005/03/04(金) 21:44
レス返しを。

731>Johnさん
お待たせしました。遅レスでも亀レスでも全然構いません。こうして感想をもらえることが何よりの喜びですから。最近気付いたというリアル美貴さんと小説美貴さんを比べた結果がなんなんだー!ヽ(`Д´)ノウワァァンと激しく気になる作者ですw

732>名無しのSaさん
だから↑と一緒ってなんなん(ry
と言ってもSaさんからは聞いたのでしたね、すみません。お待たせしてさらに申し訳。「藤本くん」でドキドキしてくれてありがとうw

733>たーたんさん
いえ、助けを求められても助けられませんからw
やっとですかねぇ…まだですかねぇ…(曖昧に逃げ)体が壊れないように無理しないで見守ってやってください。もちろん吉を。ついでに作者もw

734>ホットポーひとみさん
夢中になってくれてありがとうです。お待たせしてしまってすみません。自サイトまで来て頂いているとは、重ねてありがとうです。これからも頑張ります。

735>ニャァー。さん
ありがとうございます。試練ですね…書いてる人間が言うのもおかしな話ですが乗り越えてほしいものです。たぶん作者以上によっすぃ〜は頑張ってると思われますw
751 名前:ニャァー。 投稿日:2005/03/05(土) 02:36

更新お疲れ様です!!
もしかしたら圭ちゃんが
一番の苦労人なのかもしれませんね…。

もうっ!吉澤さんの友人飯田さんに拍手w
そして里田さんに激しく拍手を!!!w
最高でしたよ貴方達w
次回も更新頑張って下さい!!
752 名前:John 投稿日:2005/03/05(土) 08:24
えぇと、比べた結果小説の美貴さんのほうが(ry


どうやら自分は他の人とトキメキ★ポインツがちがうらしく今回は吉澤さんの、あたしだったらそういう(ry
で美貴さんのことあてはめてトキメキトキメキ。でした。飯田さんナイス。

ドラクエの仲間モンスタにナッチとつけたらかしこさがあがらず身の守りだけが激しく上がる様子に微笑みながら次回待ちます。
753 名前:名無しのY(たーたん) 投稿日:2005/03/05(土) 08:44
更新お疲れ様です。(突然ですがHNを変えます)
そっか・・・だからだったのか・・・
と、また一人納得してしまった私。
それにしてもケイちゃんカッケー!
色んな意味で彼女に夢中!
次回の更新も楽しみにまったりとお待ちしてます。
754 名前:名無しのSa 投稿日:2005/03/05(土) 22:24
今回はこちらにレスを・・・。
飲んでる時の吉澤さんとその周りの仲間達の描写が
たまらなく好きです。
まいちゃん。飯田さん。
いいですよほ〜!!

すこ〜しずつ解明していくところにうずうず。
ううっっ。知りたいですっっっ!!
次回も楽しみにお待ちしております。
755 名前:のり 投稿日:2005/03/09(水) 21:56
この小説読んでみきよしがさらに好きになりました。
これからも期待してますね!ロテさん。
ところで、ロテさんのサイトに行きたいのですが、
誰か教えてくれる方・・・いたらお願いします。
756 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/10(木) 00:31
>>755
>>713
この話読んでるんなら気づくはずじゃないの?
757 名前:のり 投稿日:2005/03/10(木) 07:46
すみませんでした。。。
ありがとうございました。
758 名前:baka 投稿日:2005/03/12(土) 00:10
素晴らしい!!!非常に面白いです。
過去と未来がどのように語られるのか、これからがとても興味深いです。
759 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 08:01
話に引き込まれていく内容で、
すごく面白いです!!!!!!
次回の更新も楽しみにしています。
760 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:27
▼▼▼


なつみの部屋についたあたしはいつものように合鍵を使って中に入った。家主が不在の空間はどこか寂しげで、寒々しい。暖房をつけて勝手知ったる我が家のように冷蔵庫からビールを取り出す。そういえばビールが美味しいと感じられるようになったのはいつからだろう。なつみと知り合う前はあんな苦いものどこがいいんだと、美味そうに飲むけいちゃんや今まで付き合ってきた恋人たちを不思議な感じで眺めていた。

まだ完全に暖まらない部屋でダウンジャケットを着たままベッドに腰掛けた。瓶の冷えた感触が手に痛い。袖を引っ張って直接触らないようにしてビールを飲む。ライムがあれば入れたいところだけど、あいにくそこまでなつみはマメに買い物をするほうではない。食料品だってろくにないこの部屋では食事らしい食事なんてできない。あるのは酒やチップスやチョコバーとかそんな腹の足しにならないようなものばかりだ。

壁にはブレンダの残していったポスターがいまだに貼られたままある。往年の女優らしいその人物はスポットライトを浴びて、舞台上で輝くほどに美しく微笑んでいる。名前は知らないがきっと有名な人物なのだろう。たまに似たような写真を街で見かけることがある。ブレンダもこの女優のようになりたくて劇団で夢を抱いていたのだろうか。ポスターの女優に自分自身を当て嵌めて。結局それは儚い幻想にすぎなかった。


「…にさっ…ふざけ…ん」
「いい加減に…この…アバズレがぁ!」

ポスターを見ながらビールを飲んでいると、突然ドアの外で激しく言い争う声が聞こえてきた。なつみの声のような気がして慌ててドアに駆け寄るとさらに大声がヒートアップしている。

「出てくわよっ!!出てきゃいいんでしょっこのくそったれがっ」
「あーあー、さっさと出て行きやがれファッキンジャップ!」
「クサイ息吐きかけんじゃねーよ!地獄に落ちな!!」

あたしはドアを開けると太鼓腹のハゲオヤジと今にも殴りあいになりそうなほど怒鳴りあっているなつみの腕を素早く掴んで、慌てて部屋の中に引っ張った。そしてしっかりと鍵をかける。外ではあたしの登場に一瞬気がそがれて呆気に取られたハゲが我に返ってまた怒鳴っていた。

761 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:27

「うるせーんだよ!ハゲ!!」

顔を真っ赤にして怒りを露にしたなつみがドアを蹴った。

「どうしたんだよ!この騒ぎは」
「はんっ!あの管理人のハゲがここを出てけってうるさいから」
「なんで?家賃払ってないとか?」
「そういや最後に払ったのいつだったかなぁ。忘れちゃったよそんなこと」
「お金困ってるんなら、あたし…」

なつみはあたしの手からビールを奪うとスタスタとベッドのほうに歩きながら一気に飲み干した。空になった瓶がゴロゴロと音を立てながら床を転がる。ベッドに寝転んだなつみはなぜだかさっきとはうって変わって別人のような表情になり、あたしを誘うような目つきで見た。

「金持ちのおじょーさま、あたしと寝たいんでしょ?さあ、やろうよ」

それを聞いた途端、あたしは初めて、なつみに怒りを覚えた。と同時になぜだか恥ずかしいという気持ちも湧き出て、羞恥からか怒りからか顔が紅潮するのがわかった。そしてそのすぐ後には悲しみが怒涛のように押し寄せてきた。いろんな感情が一気に噴出して、今日一日にあったいろんなことをめまぐるしいスピードで思い出した。けいちゃんと話したことやブレンダのことなんかを考えながら、あたしはとにかく悲しくて仕方なかった。

どれくらい経ったのだろう。ふと気づくと立ち尽くしていたはずのあたしは床に跪き、なつみに頭を抱かれていた。しっかりと巻きつかれた両腕は温かくて、でもあたしが埋めていた顔のあたりはほんのりと湿っていた。

「ごめんね。ひどいこと言って。ひとみごめんね。あたしはひとみが好きなのに…ごめんね。好きよ?ひとみがとても恋しいの。こんな可愛いひとみを泣かすなんてあたし最低ね。お願いだから泣かないで…ひとみ。大好きよ。あたしの可愛いひとみ…」

ああ、あたし泣いていたのか。情けない。でもなつみがこんなに優しい言葉をかけてくれるなんて。嬉しい。

762 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:28

「ひとみ好きよ。ねぇ、ひとみがいればなんにもいらない」
「あたしもなつみが好きで好きでたまらないんだ」

その場に押し倒して夢中でキスをした。お互いの舌を絡めあい、吸って、噛んで、血が滲んだ。スカートの中に手を入れショーツの横から指を入れた。愛撫するのももどかしく、いきなり突き立てるとなつみは奇声をあげて大きく背中を仰け反らせた。

はだけたシャツの隙間に顔を突っ込み胸の谷間をちろちろと舐めながらさらに突き立てる。そのたびに叫ぶなつみの声はあたしの耳にとても心地がよかった。乳首を噛みながら横目でドレッサーに映るなつみを見ると、彼女はだらしなく口を開き、でも恍惚の表情を浮かべていた。


終えて中途半端に服を着たまま二人で床に寝そべっていると、なつみは小さな声で話しかけてきた。

「お金はあるのよ。ただアイツに払いたくないだけで」
「なんだそれ」

笑っているのだろう、なつみの背中が小刻みに揺れている。

「この部屋出るんでしょ?どうするの?」
「んー」
「どっか行くとこって…」

言いかけてあたしはハッとした。なつみならばいくらだって行く先はある。数多くいるなつみの相手たちの誰かがきっと宿無しの彼女を快く招き入れるだろう。そうなったらあたしはどうなる?どうすればいい?あたしたちはどこで愛し合えばいい?

763 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:28

「そういえばディランの店によく来るフランス人が、アパルトマン持ってるって言ってたから…しばらくはそこに住もうかな。誰も入ってなくて取り壊すかどうかまだ迷ってるらしいから」
「え?!そ、それってなつみ一人で?」
「そうよ」
「あ…あたしも、住んでいい?なつみと一緒に」

半ば衝動的にそんなことを口にしていた。さっきまであったなつみを失うかもしれない不安があたしの背中を後押しして。でも考えもなしにそんなことを言って、なつみが承諾するはずがないとすぐにまた不安が押し寄せる。

「いいよ」

でもなつみはあたしの予想とは裏腹にあっさりと、快諾してくれて。

「え?!いいの?」

なつみと暮らすということはあの家を出るということで、大切な人たちの顔が次々に浮かんで様々な障壁があるということも十分理解していたけど。甘い悪魔の囁きに、あたしは一瞬にして心を奪われていた。これから始まるあたしたちの甘い生活を想像して。


それなのに。


なつみは、そんなあたしの夢物語をまるでブレンダからあのポスターを引き離したように、それこそいとも簡単に粉々に打ち砕いた。それもたったの一言。油断していたら聞き逃しそうなほどにさらっとなつみの口から零れたその言葉は、浮かれていたあたしの気持ちを容易くどん底に突き落した。





「あたし妊娠してるの」





764 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:29
△△△


昔から記憶力はあまり良くない。小さい頃のこととかあまり覚えてないし、人の顔や名前なんかもすぐに忘れてしまう。第一印象の記憶なんてまず残らない。よっぽどインパクトがないと、あたしの脳は必要無しと判断して保存せずに消去してしまうのだろう。大切なこともいつか忘れてしまうのが怖くて胸に仕舞っておくことができない。最初からこれは大事じゃないからいいやと、諦めてしまう自分がいた。


美貴を初めて見たあの日から数日が経ち、あたしは段々落ち着くとともに冷静に考えられるようになった。あれがなつみなわけがないじゃないかと。ただ似ているというだけで、あたしはなにを期待しているんだ。それともなにを知りたいんだと。そうすると不思議なもので徐々に興味が薄れて気持ちが冷めていくのがわかった。理事長に頼んだことも激しく後悔した。今さらやっぱり辞めますと言えるほどあたしは子供ではなかった。

直前まで出ないつもりだった入社式では、朝迎えに来た圭ちゃんがプレゼントだと言って無理やり押しつけた真新しいスーツに身を固め、夢の世界と現実を行き来しつつ理事長の長ったらしい話を聞いていた。さすがのあたしもその場で大っぴらに寝るのは憚られたので、何度か足を組み替えたりして寝たり起きたりを繰り返していた。それなのに偶然隣りに座った後藤さんはこれでもかというくらいに堂々と眠りこけていて、その可愛い顔に似合わず涎まで垂らしていた。これはかなり印象的だったから覚えている。

そしてさらに逆隣りには冗談のような衣装に身を包んだ石川さんがいた。これはもう笑いを通り越してこの人の頭は大丈夫だろうかと心配になったのを覚えている。いくらなんでもピンクのスーツはないだろう。しかもお世辞にも可愛いですねとはいえないデザインで。でも背筋をぴんと伸ばしてなにが楽しいのかニコニコしながら理事長の話を聞いていた彼女の顔は、文句なしに可愛くてその場にいた誰よりも輝いていたような気がする。


765 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:29

その会場で美貴の姿を見つけることはなかった。理事長の話が終わり、なんだかんだお偉いさんの話も終わり、場所がラウンジに移った頃、ようやく美貴を発見することができた。そう、あたしは探していた。朝はなんとも思っていなかったのに会場について大勢の新入社員を前にして、無意識に美貴の姿を探してる自分に気づいた。だから交流会と称したそのお見合いパーティーのようなお茶の席で、美貴の後姿を見つけたときあたしはもうすでに彼女への興味が好奇心だけじゃすまなくなりそうなことを予感していた。だって、あのあたしが、記憶力の悪いあたしがたった一度見ただけの女を、しかも後姿で見つけることができるなんて。

「こんにちは」

あたしは自分の中のかっこよさを最大限に発揮して思い切って声をかけた。

「…こんにちは?」

振り返った美貴は自分が声をかけられたのかどうか微妙にわからないといった感じで、半信半疑に挨拶を返してきた。あたしのキラースマイルはこのとき全く威力を発揮していなかった。なぜなら間近で見る美貴の顔に心を奪われてしまっていたから。耳に入る美貴の声に聞き入ってしまっていたから。

「あの〜…」

放心状態のあたしに美貴は恐る恐る声をかけた。肩をトントンとやられたかもしれない。そこは記憶が曖昧だ。今度聞いてみよう。

「あ、ごめん。つい見入ちゃった」
「…なんでですか?」

正直に答えるあたしも馬鹿だけど、瞬時に目つきを鋭くして不審人物を見つけたような警戒モードに入る美貴もすごい。睨むと余計に綺麗さが際立つなぁと暢気なことを思っていたあたしはやっぱり馬鹿なんだろうな。

766 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:30

「綺麗だったから。名前教えてくれる?」

自慢じゃないけどこういうシチュエーションで名前を聞けなかったことはない。いや、ちょっと言いすぎたか。でも大概の女の子たちは教えてくれる。だからあたしはニッコリ笑ってこれでもかと自分の魅力をアピールしたのに。

「はあ?いきなり何言ってんの?」
「あ、吉澤ひとみでーす」
「誰それ」
「あたし」
「聞いてないし」
「そっちは?」
「……藤本、美貴」
「みきちゃんかー。名前も可愛いねー」
「いきなりちゃん付けしないでくれます?」
「みきちゃんこの後ヒマ?」
「いえ仕事があるんで…って人の話聞けよ」
「ええ!マジで!!それは残念。つーかオイラも仕事があるんで、じゃ終わってからゆっくり…」

言い終わる前に美貴はくるっと背を向けてスタスタと離れていった。その後姿を呆然と見送りながらもあたしは笑いを堪えるのに必死だった。久しぶりに面白い女に会ったと、一気にテンションが上がるのがわかった。

同じ課に配属されたのはあたしにとってはラッキーだった。もし違っていたら理事長に泣きついて異動させてもらおうと思っていたから。あたしと同じ課だと知った美貴は露骨に嫌そうな顔をしていたけど。


767 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:30

あたしはとにかく美貴に構ってほしかった。バカやって彼女の気を引こうと懸命だった。変なところで律儀な彼女はちゃんとあたしのやるバカなことにひとつひとつ突っ込んでくれたから、それが楽しくてさらにバカに拍車がかかった。彼女の遠慮せずにズバズバ言う性格や、仕事中の真剣な眼差しが好きだった。


「よっちゃんってなんでそんなバカなの?」
「オイラほかに欠点がないからさー。ちょっとくらいバカじゃないと不公平でしょ」
「なんだそれ」
「でもバカなコほど可愛いとも言うし。まいったなぁオイラホントに欠点ないじゃん」
「ここまで前向きだとつっこむ気もなくなるよ…よっちゃん幸せそうでいいね」


この時期あたしはたしかに幸せだった。会社に入って本当に良かったと思っていた。理事長にも、圭ちゃんにも、あのクソオヤジにさえも感謝していた。

愛とかそういう曖昧なもので縛られるのではない関係。友達としての距離感があたしを安心させた。いつも笑い合って、飲みに行ってバカやって。ある日突然失うことは決してないこの関係。友達としてあたしたちはいつも一緒だった。それが嬉しかったし幸せだった。

そう、幸せだった。なんていったって、なつみのことをこれっぽっちも思い出しもしなかったんだから。



768 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:31

「吉澤さんはいつから美貴のこと、じゃなかった藤本さんのことを友達以上に思っていたんですか?」

なんとなくダラダラと喋っていたらけっこうな数のビール瓶が転がっている。普段自分からは口にしないような話をよりにもよって飯田先生に話しているのはアルコールのせいか。

「それにしてもなんでこんな話してるんだ?あたし」
「話したかったんじゃないですか」
「そうかなぁ」

話したかったのかなぁ。うーん、わかんね。それに体のあちこちが痛いしやけに絆創膏が貼ってあるのはなんでだ?あたしなにしたっけ?

「飯田せんせぇも飲めよー」
「だから駄目なんですってば」
「どうしてぇ」
「吉澤さん酔ってます?」
「酔ってねえよ!」

うん、酔ってねえっつの。酔っ払いはたとえ酔ってても酔ってるなんて言わねーんだよ!

769 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/15(火) 23:32

「そうですか。では話の続きをしましょう」
「うぉい!イイダー!そこは酔ってるだろって突っ込むとこだろーが。ったく、これだからあたしよりデカイ女は…」
「身長は関係ないと思いますけど」
「あーあー。美貴がいればなぁ。あたしがツッコミ役なんてしないですむのに…会いたいなぁ」
「会ったらいいじゃないですか。というか吉澤さん、どうしてこっちに来たんですか」
「確かめたいことがあるんだもん」
「ではさっさと確かめて藤本さんのところに帰ったらいいじゃないですか」

簡単に言ってくれる。あたしだってそれが出来たらこんなところで酔い潰れそうになってない。

「なにか、出来ない訳でもあるんですか?」
「……いから」
「え?」
「…こわ…い、から」

バカ、あたしなに言ってんだよ。ぽろっとこんなこと言うな。こんなところでこんな人に。

「怖いんですか?」

それには答えずあたしはコクンと頷いた。バカ、答えてるじゃんか。ダメだダメだダメだ。コントロールが利かない。自分の感情が制御できない。頼むから飯田先生、これ以上聞かないでくれよ。

「そうですか…吉澤さんでも怖いもの、あるんですね…」

それきり飯田先生はなにも聞いてこなかった。なにが美味いのかちびちびと水を飲んで。あたしはそれを眺めているうちにいつのまにか眠りについていた。朦朧とした意識の中でそっとかけられた毛布の暖かさに安堵しながら。



770 名前:ロテ 投稿日:2005/03/15(火) 23:32
更新終了
771 名前:ロテ 投稿日:2005/03/15(火) 23:32
レス返しを。

751>ニャァー。さん
いつもあたたかいレスをつけてくださってありがとうございます。本当に励みになります。友人たちに拍手までしていただいてもったいないですwこれからもまだまだ頑張ります。

752>Johnさん
比べた結果のその答えは今度じっくりお伺いするとして、いつも微妙に面白いレスをありがとうございます。楽しませてもらってます。自分のトキメキポインツとちゃんとかぶってますので安心してください。そこにトキメキしていただいて感謝です。ドラクエはスルーの方向でw

753>名無しのYさん
いつもあたたかいレスをありがとうございます。多方面でお世話になりっぱなしで感謝が尽きません。けいちゃんをカッケーと言っていただいて嬉しいです。彼女に夢中になっても責任は取れませんのであしからず。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

754>名無しのSaさん
いつもいろんな方面でレスをくださってありがとうございます。ロンドン編の仲間たちの描写を楽しんでいただけたようでホッとしました。相変わらず鈍くさい進み方ですがうずうずしてもらえてなによりです。これからもよろしくお願いします。

755>のりさん
自分の話でみきよしを好きなっていただけとは嬉しい限りです。みきよしを普及する一端が少しでも担うことができればと頑張っていますのでこれからもみきよしともども作者をよろしくお願いします。えー、のりさんはもしかして月板の方でしょうか?間違ってたらスルーしてください。

756>名無し飼育さん
本来ならば作者がするべきことを代わりにやってくださりありがとうございました。

758>bakaさん
こんなところまで来ていただきありがとうございます。いつも的確な分析に頭が下がる思いです。過去と現在を描きつつ未来に繋げていけるように頑張ります。

759>名無飼育さん
励ましのレスをありがとうございます。面白いと言っていただけることがなによりも嬉しいです。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
772 名前:名無しのS 投稿日:2005/03/15(火) 23:57
更新お疲れ様です。
もしやと思ってきてみたら更新されていて、ほんとに嬉しかったです。
安倍さん・・・。そうきましたか・・・。
出会ったころのストーリーがパズルのように繋がってきて、
より深く作品を味わうことができました。
これだけの内容ですので、どうぞご無理はなさらないよう・・・。
まったりとお待ちしております。
773 名前:ニャァー。 投稿日:2005/03/16(水) 01:06

更新お疲れ様です!!
もうっ!もうっ…!
アイタタタタっーー・゜・(ノД`)・゜・て感じですw
当時の吉澤さんの事を考えると
やはり何だか痛く切ない気持ちになりますね…。
774 名前:wool 投稿日:2005/03/16(水) 17:36
こちらではお久になってしまいましたorz
更新お疲れ様です。
二人のやりとりにニヤリ。何故か美貴様スゲーとか思いましたwそりゃよしこも惚れるよなぁ。
775 名前:名無しのY 投稿日:2005/03/17(木) 12:00
更新お疲れ様です。
そしてありがとうございます。w
お腹が痛い・・・助けて・・・
ロテさんのせいで私の心と体はボロボロです。
次回の更新楽しみにお待ちしております。
776 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 15:42
更新楽しみにしておりました!お疲れ様ですw
ふたりのはじめての会話ほんとーに最高です!
美貴様の帝キャラとタラシ吉キャラも大好きだし初期かけあい最高ー!
吉澤さんもリアルで感じる陰と陽の振り幅が丁寧に描かれているので
奥行きのある魅力あるキャラになっててさすがロテさんの愛情を感じます
ロンドン編ますますディープにハマってます!
ロテさんにはこれからもご無理のないよう素敵な作品を届けて頂けたら幸せですw
777 名前:Johnさん。 投稿日:2005/03/17(木) 18:56
自分のレスで楽しむとは失礼なw
ネタ作ですから。
なつみとよっちゃんのイタい関係が浮かびます。
まだ帰ってこないパソコンを町つつ、まぁ…笑点(DVD録画)でもみながら次回更新待ちます。
778 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:13
▼▼▼


中指と薬指に赤いものがついていることに気づいた。激しくしすぎて彼女を傷つけてしまったらしい。でもそれよりももっとあたしは彼女に傷つけられている。目には見えない言葉の刃はあたしの心を切り裂いた。

「妊娠してるの。あたし」
「………」
「それでも一緒に住む?住みたい?」
「誰の…」
「そんなのどうでもいいわ」

自分の指についた血を眺めながら彼女の言葉の意味を考える。でもなにも考えられずあたしはただ指を見つめていた。

「どうでもいいってそんな」
「どうするの?住む?住まない?」
「ちょっと待ってよ、突然すぎてなにがなんだか…」

そんなことを言われても頭が混乱して感情が追いついていかない。理解ができない。なぜなつみはそんなに落ち着いているんだろう。どうしてあたしにその二択を迫っているんだろう。そもそも子供を産むつもりなのかどうかすらあたしは聞いていない。

「なっ……」

ふいに指を咥えられた。あたしの中指と薬指をなつみは丹念に舐める。ぴちゃぴちゃと唾液を絡めつつ美味しいものを与えられた子供のように。そしてあたしの指から赤が消えた。

779 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:14

「ふうっ…。またさっきみたいにして?」

ああ。この人は、本当に子供のことやその父親のことはどうでもいいんだ。

「いいよ。なつみはハードなのが好きだね」
「ひとみも、でしょ?」
「うん…でもなつみとならどんなのも好き」

なつみとセックスをしているうちになんだかいろんなことがどうでもよくなってきた。どうやらなつみは子供ができたからといってあたしと別れる気はないらしい。その点ではかなりホッとした。妊娠していようがなつみはなつみだ。たしかにショックだったけどそれをきっかけになつみと離れることのがあたしにとってはツライ。

産むにしろ産まないにしろなつみの決めることだ。あたしが口を出す余地はもとからない。でも一緒に住むことはあたしが決めてもいいらしい。それならば、あたしの答えはひとつだ。

「いつ引っ越そうか?」



二日後、フランス人の案内してくれたアパルトマンになつみは移り住み、あたしは体ひとつで家を出た。なにも持たずにただマリアにだけ短い手紙を残して。

けいちゃんには、結局言えなかった。

家のことや学校のことなんかどうでもよかった。なつみといられればそれで。



780 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:14
数日後、ピカデリーサーカスのパブになつみを迎えに行くとこれ以上ないほど怒った表情のけいちゃんがいた。どうやらあたしを待ち構えていたらしい。その場に似つかわしくないカチっとしたスーツが少し笑えた。

「言葉もないわ。まったくなに考えているのかしら」
「けいちゃん…あの…」
「呆れてモノも言えなかったわよ。あたしもマリアも」
「あたしさ…その…」
「まったく!なんなの?!あれでも父親って言える?」
「……はあ?!」
「娘が家を出たらもっと普通は怒るなり心配するなりするもんじゃない?」
「はあ…まあ…そうだね」
「それなのにあのバカオヤジときたら…とんでもないわね」

どうやらけいちゃんの怒りの矛先はうちのクソオヤジに向けられているらしい。オヤジがあたしのことを心配してないとかそんなことよりも鉄拳を覚悟していたあたしは妙に白けてしまった。

「そんなこと言いにきたの?けいちゃん」

瞬間、頬が熱くなった。引っ叩かれたとわかるのに何秒かかかった。

「誰もアンタのことを心配しないとでも思ったの?ふざけんじゃないわよクソガキ」
「ごめん…な、さい」
「マリアがどんな思いでアンタを探したと思う?後で連絡入れなさい」
「わかった」

マリア、ごめん。心の中で呟く。

「それにあたしも…。ひとみがいなくなったって聞いたときは…」

俯くけいちゃんの肩が小刻みに揺れていた。歯を食いしばって堪えているのがわかる。ごめんね。けいちゃん、本当にごめん。口の中に広がる血は少しばかり後悔という名の味がした。

「ごめんなさい」

バッグからハンカチを取り出してけいちゃんは涙を拭った。あたしはなるべくその姿を見ないように窓の外を向いていた。

781 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:15
「連絡先くらい教えなさい。それにアンタお金持ってるの?」
「現金はそんなにないけどカードならあるよ。どうせオヤジは探してないんでしょ?仕事仕事で。そのほうがむしろ都合がいいけどね」
「アンタたちは親子して大馬鹿よ」
「引越し先はね…」

大体の場所を教えるとけいちゃんに頭を叩かれた。

「ちょっと、なによ。それってあの3階か4階建てのあそこでしょ?うちの近所じゃない」
「ああ。そういえばそうだね」
「そういえばじゃないわよ、このバカ」

また叩かれた。あんまり頭ばっかり叩くなよなー。バカになっちゃうじゃんか。

「これ以上馬鹿になろうったって無理よ!」

人の心を読むのはやめてほしい。呆れ顔のけいちゃんがさらに聞いてくる。

「どうするの?これから」
「んんー。なつみとスウィートなホームを築くよ」
「馬鹿言ってないで。この先どうするのよ」

冗談のつもりで口に出した言葉にあたしは急に胸が躍った。いい響きだ。スウィートホーム。

「うんにゃ。バカじゃないっす。今決めた。あたしスウィートホーム作るよ」

782 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:16

高らかに宣言をするあたしを見てけいちゃんはまた泣いた。今度はあたしがバカすぎて情けないといった感じで、しくしくとハンカチ片手に親戚のおばちゃんのようだった。あ、実際そうなんだけど。

「ひとみお待たせ。ケイちゃんなんで泣いてるの?」
「さあ。あたしがバカすぎて涙がでるみたいだよ。もう行ける?」
「うん」

仕事の終わったなつみがあたしたちの席にやってきた。ハンカチで目尻を押さえるけいちゃんがキッと睨む。マスカラがとれた怖い顔にあたしは…それときっとなつみも、ちょっとビビった。

「言いたいことがありすぎて混乱中よ」
「じゃ、またってことで」
「ばいばーい、ケイちゃん」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

ひらひらと後ろ手に振ってけいちゃんと別れた。

なつみと手を繋いで帰る道すがら、夢物語のようなスウィートホームで頭がいっぱいだった。あたしとなつみと、そしてお腹の子供と。3人で暮らすスウィートホーム。甘くてあったかいスウィートホームを作るんだ。


その空想の中であたしは幸せそうに笑っていた。



それが現実逃避にすぎないとわかっていても、束の間の幸せに胸を躍らせていた。




783 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:16
△△△


「それで吉澤さんは結局どうしたかったんですか?」
「………」

いきなりなに言ってんだろこの人。あたし結局あのまま寝ちゃったのか。つーか体イテェ…。

「美貴と友達のままでいろんな女性と付き合うのは苦痛じゃなかったんですか?」

窓から差し込む光が確実に朝だと告げている。あたしは昨日と同じソファの上で、いつのまにか掛けられていた毛布から手を出して目をこすった。紅茶のいい香りが漂っている。

「起きぬけになんなんだよ…」
「いえ、昨日途中だったから」
「オハヨウとかよく眠れましたかとか昨夜は可愛かったよとかないわけ?」
「では昨夜は可愛か…」
「はいはい。わかったわかった」

この人は絶対にあたしをからかうことを楽しんでいる。そしてかなりはっきり言えることがもうひとつ。

「マイペースすぎなんだよ…」
「吉澤さん紅茶でいいですか?」
「コーヒー」
「ミルクは先に入れる派ですか?」

こっちの要望は無視かよ。さらに言えることがもうひとつ。

「人の話聞かなすぎ。ちなみにミルクは後に入れる派」

諦めてあたしは紅茶に手をのばした。まあコーヒーでも紅茶でもどっちでもいいんだけどさ、ホントは。

784 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:17

「まいちんは?」
「なんでも料理教室があるとかでもう出掛けましたよ」
「マジで?あんなに飲んでたのに…タフだなぁ。あたし久々に酒に飲まれたよ」
「みたいですね。昔話をするほどに」
「ぶはっ…ゴホッゴホッ」

思わずむせた。危うく紅茶を零すところだった。

「あ、あたし…なに喋った?」
「覚えてないんですか?」
「ちょっと待って、考える…」

考えること数十秒。飯田先生はパンを齧りながら悠然と新聞なんか読んでやがる。

「あー…思い出した、かも。酒はほどほどにしないとなぁ」
「では教えてください。友達のままでいられなくなったのはなぜですか?」
「飯田先生さぁ、なんでそんなこと聞くの?べつに興味ないでしょ。元カノのコイバナなんて」
「そうですね。でも吉澤さんには興味ありますよ。変な意味ではなく」
「どういう意味なんだか」
「それはやっぱりあなたが面白いからですよ。あれだけ女性に対して奔放だったのが美貴…失礼。藤本さんに驚くほど熱を上げている。それにその気になればあの大学を牛耳ることだって、あなたの家柄を考えれば可能でしょう。それなのにそっち方面には一切興味を示していない。まいから聞くあなたのイメージと今のあなたではギャップがありすぎますし…それにこれはあまり言いたくはなかったんですが」
「なんだよ」
「あなたは妙なフェロモンの持ち主ですよ」
「はぁ?!」
「なにもしなくても女性が放っておかないタイプですよね。ひょっとしたら男性も。女性に対して母性本能をくすぐらせるというか、そういう雰囲気を持っています」
「はあ、どうも。で、飯田先生もあたしの魅力にやられそうってわけ?」
「あいにく私は母性本能というものは持ち合わせていませんが、少なくとも外見上は守備範囲です」

朝っぱらからとんでもないこと言うな、この先生は。この人のがよっぽど酔ってるみたいだ。

785 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:17

「お互いフリーだったらどうかなってたかもってこと?」
「さあ、どうでしょう。私は外見だけで女性と一夜を共にすることはできませんから」
「…ぷっ…あはははっ、飯田先生のがあたしより何倍もおもしれーよ」
「そうですか?あ、パン食べます?」

笑い続けるあたしを不思議な顔で見ながら飯田先生はひょいっとパンを投げてきた。それを両手でキャッチして齧りつく。

「あたしは野心なんてないよ。地位とか名誉とかどうでもいい。金は幸いなことにけっこうあるから生活には困らないし。あたしが欲しいのは美貴だけ。美貴さえいれば、あとはなーんにもいらない」
「でも最初は友達でいることが幸せだったんですよね」
「あたしそんなことまで喋ったの?ちょっと本気で酒控えようかな…」
「それにいろんな女性と遊んでたみたいですし」
「簡単に言うと友達のままじゃ我慢できなくなったんだよ。いろんなコと寝て紛らわそうとしたけど最終的には無理だった。美貴の虜みたいになっちゃったから。他にあたし変なこと言ってない?」

飯田先生の眉がピクリと上がった。うん?もしかしてまだなんかあるの?

「変というか…それなら尚更ここにいる理由がわかりませんね。あなたは昨夜酔っていて覚えていないかもしれませんが『確かめたいこと』があってロンドンに来たんですよね。藤本さんと離れて遠くロンドンまで。しかもその『確かめたいこと』をしないのは怖いからだと言ってました。あなたはなにを怖れているんですか?この前まいが聞いたときに墓参りに来たと答えてましたがそれと関係が…」

立ち上がって飯田先生の唇を人差し指でそっと押さえた。さすがにこの先生にキスはできない。意外にも彼女は避けずにあたしの望みどおり口をつぐんでくれた。

「シャワー借りるよ〜ん」
「え、ええ…どうぞ。その奥の右です」

軽く伸びをしながら教えられたドアに手をかけると飯田先生の声が背中に聞こえてきた。

「怖いなら、私が一緒に確かめてあげますよ」



786 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:19
シャワーを終えてペタペタと裸足で戻る。体中あちこち痛むけど、詮索されないように努めて平気なふりをして歩く。髪を乾かすのが面倒で水滴を垂らしながらソファにどっかりと座った。斜め横からの何か言いたげな視線を無視しつつ、目の前にあったミネラルウォーターをごくごく飲んだ。タオルからは甘ったるいラベンダーかなんかの匂いがした。きっとこれもまいちんの趣味なんだろう。

「私はまいのことを愛してます」
「ほんっとに唐突だよな、あんた」

面白いけどさ、ちょっと疲れるよ。

「できれば一生を共にしたいと思ってます」
「本気?」
「本気です」
「で、あたしになにが言いたいのさ」
「吉澤さんがなにかに困っているのなら私にはそれを助ける義務があります」
「いや、マジで意味わかんないし」
「吉澤さんがまいを今の職場に紹介しなかったら私たちは出会えていませんから」

そういうことか。飯田先生はまいちんをめっちゃ愛してて、まいちんと出会えたことをそれこそ神に感謝するくらいの勢いで、まいちんがあそこに勤めることになったのはあたしのおかげだからあたしに義理というか恩みたいなものを感じてるわけか。なるほどなるほど。…でもいくらなんでも律儀すぎだろう。

「でもさ、飯田先生は出世したいんでしょ?それって障害になるんじゃない?」
「仕事かまいかと言われたら、私は迷わずまいを取りますよ」

仕事のことを持ち出してまいちんのことを少しでも躊躇するような素振りを見せたら殴ってやろうと思っていたのに。こいつ、言い切ったよ。ちぇっ。ちょっと殴りたかったのに。でもなんつーか、格好いいじゃん。

「それに私も段々と見えてきたことがありますから」
「見えた?なにが?」
「それは秘密です。とにかく、吉澤さんには助けがいるんじゃないですか?」
「…んなこと…ねーよ」
「どういう事情かわかりませんが『確かめる』のが怖いなら一緒に確かめてあげますよ。それに親しい人間よりもなんにも知らない第三者のほうが吉澤さんにとって少しは気が楽なんじゃないですか?」
「どうしてそう思うんだよ」
「だって、そうじゃなかったらあなた一人で来ないでしょう。ロンドンまで」

787 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/25(金) 02:19

飯田先生がただの興味本位でこんなことを言ってるのではないということはわかる。きっと本当にまいちんのことを愛しているのだろう。それならばまいちんになにかしてあげればいいのに、どこかズレてるこの人がなんだか好きになりそうだった。もちろん友人として。それにもしかしたら美貴とのやり取りの中で飯田先生なりに心配というか気になるようなことがあったのかもしれない。なんだかんだ言っても実は情が厚い人なのかもな。

「詳しいことは言いたくない…」
「構いません」
「なにも聞かないでほしい」
「約束します」

これは逃げなのかな?あたしは一人でやらなきゃいけないと思っていた。一人ですべて背負わなければ意味がないと。だから美貴を置いてロンドンに来たっていうのに。

「飯田先生」
「なんでしょう」
「ついてきてほしい所があるんだ」

でもあたしは間違っていたのかもしれない。あたしが抱えている問題を解決するのになりふりなんて構っていられない。あたしはあたしのために、美貴のために…幸せになるために先に進まなきゃいけないんだ。そのためなら誰だっていい、手を差し伸べてくれる人がいるならそれに甘えても…いいのかな?

「その前にちゃんと髪を乾かさないと、藤本さんに怒られますよ」

タオルで髪を拭きながら苦笑して立ち上がった。初めは嫌なイメージしか持っていなかったこの人に頼ることになるなんて。美貴でも圭ちゃんでもない、あたしよりデカイこの人に。





788 名前:ロテ 投稿日:2005/03/25(金) 02:19
更新終了
789 名前:ロテ 投稿日:2005/03/25(金) 02:20
レス返しを。

772>名無しのSさん
変なところで妙に勘が鋭いSさんに脱帽です(誉め言葉)。でもさすがに今回は予想外だったかな?無理せず頑張ります。

773>ニャァー。さん
当時の吉澤と現在の吉澤さんを平行して書くのはなんだか複雑な気分です。どうか涙を拭いてください。いつもレスありがとう。

774>woolさん
いえいえ久しぶりでもなんでも読んでくれただけで嬉しいです。感想まで頂けていつも感謝しています。美貴様はいつもスゲーのですw

775>名無しのYさん
こちらこそいつもありがとうございます。お腹痛くさせちゃいましたか。ボロボロですか。ですが助けられませんのでなんとか自力で(ry

776>名無し飼育さん
初期のかけあい喜んでいただけましたか。ホッとしました。ふり幅といっても書き切る技量がないのが作者的につらいところです。それでもハマっていただけるのはこの上なく嬉しいです。

777>Johnさん。
こういう話の展開の中でジョンさんのようなレスを見るとほのぼのして肩の力が抜けます(誉め言葉)。まるがついていることには触れないほうがいいのでしょうか(と言いつつやっぱりスルーできません)。
790 名前:名無しのY 投稿日:2005/03/25(金) 08:44
更新お疲れ様です。
圭ちゃんが出てくるとホッとしちゃう自分って・・・w
でも今回は飯田さんを好きになっちゃいました。
ごめんなさい単純で。w
次回の更新もまったり楽しみにお待ちしてます。
791 名前:名無しのS 投稿日:2005/03/25(金) 09:24
更新お疲れ様です。予想外でしたwww
冒頭のに体がズキズキ痛んだのですが、
そのあとのかっけえー保田さんと飯田さんに癒されました。
いつもながら、すっげえです。一人一人が深いです・・・。
792 名前:Johnさん 投稿日:2005/03/26(土) 09:29
今回もキタワァ:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。
飯田さん(ノД(´д`*)ヒソヒソ

ZONEの解散に涙しつつ次回更新待ちまする。
793 名前:130@緑 投稿日:2005/03/26(土) 17:14
更新、お疲れ様です。
よっちゃんも藤本くんに負けず不器用だけど、やっぱりまっすぐですね。
飯田先生いいなぁ。惚れそうかもw(他にあまりない吉飯の関係なんで面白いです)
よっちゃんの勇気を静かに見守りたいと思います。
794 名前:こい 投稿日:2005/03/26(土) 21:28
HNでレスするのは初です。

いや〜今回は飯田先生に惚れた!彼女の優しさにポワワですよw
この先どうなって行くのかめちゃくちゃ楽しみです!ロテさん頑張って下さいね〜
795 名前:baka 投稿日:2005/03/27(日) 00:08
おもしろい。本当にすごく面白い。
いろいろと語りたいけど、今はまだ我慢しときますw。
796 名前:ニャァー。 投稿日:2005/03/27(日) 02:33

更新お疲れ様です!!
あぁ!!やっぱり保田さんいい人だっっ!!(ノД`)v
頑張って言い直してる
飯田さんめちゃキャワですねっw
797 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:17
▼▼▼


薄々予想はしていたことだけど、本当にその通りだと悲しいのを通り越してなんだか笑ってしまう。あたしがこの仮宿をスウィートホームにしようと奮闘したって、肝心のなつみがいなければなんの意味もない。なんの意味も為さない。お腹に子供がいる体で、なつみは前と変わらず酒を飲み煙草を吸って、おそらくドラッグもやっているのだろう。でもそんなことは正直どうでもいい。帰ってきてくれれば。あたしたちの部屋に帰ってきてあたしを抱きしめてさえくれれば、それでよかった。

例のフランス人が取り壊そうとしていただけあって、この仮宿にはあたしたち以外の住人はほとんどいなかった。たまに怪しげな連中がフランス人とともに階下をウロウロしていたけどなるべく関わらないように過ごしていた。もっとも顔を合わせることはおろか、姿を見かけることもほとんどなかったからそれほど杞憂することはなかったけど。

あたしの毎日はまるで一人暮らしのように無言で寝起きして、食事をして、時々散歩をするといった具合だった。馬鹿のひとつ覚えのようになつみのことだけを想いながら、ただ孤独に過ごしているだけだった。寒い中、屋上で星を眺めたり野良猫にエサをやったり。窓の外に見えるガーデニングと呼ぶには小さすぎる寂しい庭の手入れをしようかと思い立ったこともあった。名前も知らない冬の花たちがひっそりと咲いてるのを見て、自分の姿を投影させたのかもしれない。そしてたまにフラっと帰ってくるなつみを抱いて、言いたいことのひとつも言えずにそのぬくもりだけに満足して朝を迎える。そんな毎日だった。


798 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:17

「ちゃんと食べてるの?」
「うん。食べてるよ」
「よく眠れる?」
「うん。大丈夫」
「そう…運動は?若いんだから体動かしなさいよ。セックスだけじゃなくて」
「けいちゃ〜ん。どっかのエロオヤジじゃないんだから。そのうちセクハラで訴えられるよ。そんなことばかり言ってると」
「アンタにしか言わないわよ、こんなこと。で、毎日ダラダラしてるんじゃないでしょうね?」
「ダラダラっつーか、ガーデニングをね…」
「始めるの?!」
「と、思ったんだけどあっさり断念した。もっとあったかくなってからにするよ」
「だと思ったわ。でも冬の花も綺麗よね」

家を出て何週間か経ってもオヤジから連絡が来るようなことはなく、けいちゃんは最初の頃から変わらずに心配をして時々様子を窺うように電話をかけてくる。体調のことや最近のニュースなんかを報告して、されて、あたしは従順に受け答えをする。なんでもない会話の端々にも彼女との繋がりを感じることができて、この時間はいつもホッとする。

「なにか困ったことがあったら」
「わかってる。すぐに電話するよ」
「最近なにか楽しいことしてる?ちゃんと笑ってる?」
「けいちゃん…子供じゃないんだからさ」
「子供よ。十分過ぎるほどに、アンタは」
「………」
「とにかくたまには遊びに来なさいよ。せっかく近所なんだから」
「わかった」

なぜだかけいちゃんは一度もあたしに家に帰れとは言わなかったしなつみの話題も極端に避けていた。予想外のことに安堵した反面、それはそれで寂しかった。そんなことあるはずがないのだけど、けいちゃんがもうあたしのことなんか気にしてないんじゃないかと、どうでもよくなったんじゃないかという考えが時折頭をよぎった。そう考えてしまうのは何もやることがなくてただただ愛しい人の帰りを待つだけの日々だからだろうか。なつみが帰ったら帰ったでそんな考えはおろかけいちゃんのことだって頭からすっぽり抜け落ちるくせに。勝手だな、そう思った。

799 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:18

「ねぇ、ひとみ」
「なに?」
「アンタ何座だっけ?」
「突然なにさ。牡羊座だけど?」
「今ホロスコープ見てたの。おひつじおひつじと…あ、来週アンタ運気いいわよ」
「マジで?」
「全体的にいいけど特に恋愛運がいいみたい。パートナーとの関係が深まりそうだって」
「へ〜。やったね。そういうけいちゃんは?」
「…聞かないで」

たしかけいちゃんは射手座だったかな。声の様子からすると相当良くないのか。けいちゃんは昔から占いとか心理テストとかそういう類が好きだったな、たしか。医者のくせに非科学的なものを信じるから不思議だ。あたしは占いの結果すべてを信じるわけじゃないけど、イイコトが書かれてたらやっぱり嬉しい。

「アンタだって嫌いじゃないでしょ?こういうの」
「まあね」
「それにあながち非科学的とも言い切れないのよ」
「へ〜。そうなんだ」
「そうよ。とくに占星術はね…」

けいちゃんのよくわからない講義が始まってしまった。止めるのも面倒であたしは爪をいじったり落書きをしたりしながら暇を潰す。もっともらしく語るけいちゃんの声をBGMのように聞き流しながら時々相槌を打って、そういえばなつみの運勢はどうなんだろうと思ったところであることに気づいて愕然とした。あたしはなつみの誕生日を知らない。誕生日はおろか正確な年齢すら聞いたことがない。

「それでね、その周期的に動く星が…」
「けいちゃん!」
「なによ。これからが本題なのに」

話の腰を折られて不満を言うけいちゃんを無視して、もしかしてと思いつつも尋ねる。

800 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:18

「なつみの年っていうか…誕生日とか、けいちゃん知らないよね?まさか」
「アンタ知らないの?」
「う、うん」
「聞いたことないの?」
「…ない」
「………」
「け、けいちゃんは知ってるの?」

受話器の向こうからアンタねぇ、と怒ったような呆れたような声が聞こえた。

「なつみのこと、どれだけ知ってるのよ」
「けいちゃん質問の答えになってないよ〜」
「どれだけ知った気になって好きとか愛してるとか口にしてたのよ」
「無視かよっ」
「アンタは本当になつみのことが好きなの?」
「好きに決まってんじゃん。そうじゃなかったらこんなとこにいるかよ」
「こんなとこねぇ…」
「あ、いや、こんなとこってのは言葉のあやで…」
「なつみと楽しくやってるの?ハッピーな家庭を築くんじゃなかったの?」
「スウィートなホームだよ…」
「どっちでもいいわよ。本当に相手のことを想ってたらもっと違う形で」
「あー!もういいよ!けいちゃんの言うことはきっと正しいんだよ。わかってるよ。わかってる。でもあたしはこうすることしかできなかった。なつみのそばにいたかったから、なつみのそばにいられないって思ったから、だから、こうすることがベストだって…」

落書きの模様が滲んだ。ペンを持った手に涙の粒が落ちたのを見て、泣いているのだと気づいた。

「ひとみ」
「………なに」

受話器の口を押さえて聞こえないように鼻をすすった。

801 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:19

「あたしはべつに責めてるわけでも否定してるわけでもないのよ…アンタのなつみに対する想いを。ただね、二人が、二人でいることで良い結果を生まないのならそれは残念だけど、好きっていう気持ちだけじゃどうにもならないのよ?わかる?」
「………」
「あたしはかすかに、ほんのわずかだけどアンタたちが幸せになれる可能性があるなら…それに賭けてみようって思った。だから家に戻れなんて頭ごなしに言わないの。でも今のアンタはどう見ても……あたしはね、ひとみ。なつみにも幸せになってもらいたいの。問題もいっぱいあるけど、でもなつみのことは好きよ。友達だから。アンタとなつみ、二人が幸せならあたしは」
「けいちゃん…」
「あたしはアンタに賭けたのよ…。なつみを太陽の下に連れて来られるのはアンタだって思いたかったけど…」
「けいちゃん、あたしは、なつみが…やっぱり好きで、こんな状況でもやっぱり、なつみのことを待ってしまうくらい…好きで、その気持ちがたとえ間違った方向に進んでいたとしても、やっぱり好きで…」

情けないほど泣いていた。声が上擦って、小さな子供のように泣いていた。

「本当はね、よくわかってるんだ。先なんて見えない。あったとしてもそれはたぶん明るいものじゃない。なつみにとって、あたしは………あたしが思うほどにはなつみはあたしのことを好きじゃないってこともよく知ってる。でも、だって」


好きなんだもん。


「けいちゃん、なんであたしはこんなになつみのことが好きなのかな」
「人を好きになるのに理由なんてないのよ」

そっか。そうだよね。この気持ちを説明なんてできっこないし、知ってほしいとも本当は思ってないんだ。けいちゃん、ごめんね。

「賭けには負けちゃったみたいだね…」
「あたしは昔っから賭け事には弱いのよ。でもまだ一発逆転…あるかもしれないでしょ?」
「へへ。どうかな」

ありがとう。心の中でけいちゃんに頭を下げて電話を切った。そしてあたしはある決心をしていた。



802 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:19

水音がして目が覚めた。なつみが帰ってきたのだろうか。あたしはベッドの中でモゾモゾと動いてから目をこすって起き上がり、頭をガシガシ掻いてぼんやりとした視界の中になぜか立ち尽くしたまま動かないなつみの姿を見つけた。「こっちにおいでよ」と手を伸ばして呼びかけたつもりが、寝起きの喉は正常に働かず、よくわからないぐにゃぐにゃとした音を発するだけだった。

「どうしてここにいるの…?」

なつみの声だ。ああ、やっぱりなつみだ。あたしに向かってなにかを喋ってるけどあんまり聞こえないよ。なつみ、もっとこっちに来てよ。薄暗い部屋の中じゃなつみの顔もよく見えない。せめて今夜、なつみのかわいい顔を照らしてくれる月が出ていればと朦朧とした頭で考えていた。

「あたしがもう二度と帰って来ないとか、そんなふうに考えないの?」

なにを言ってるんだろう。なつみはあたしに向かってなにを?囁くようなその声はとてもセクシーだけど、伝えるという手段には適さないよ。だってあたしはその声に魅了されて意味を考えることなんてできないんだから。近くに来てよ、なつみ。

803 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:20

「いつまでもあたしを待っていてくれるの?ひとみは…ずっと、あたしを…」

わからない。わからないよ、なつみ。あたしの胸になにかが届いてはいるけれど、耳をとおして聞こえてくる声は意味を為さない。どこかわからない国の言葉のように理解できないよ。届いているのに、聞こえないんだ。もどかしいよ、なつみ。どんな顔で今あたしに話しかけてるの?

「さっさと見限って出て行ってくれればいいのに…どうしてよ。ひとみはどうしてあたしを選んだのよ…あたしなんかを…。どうしてあたしの前に現れたのよ…。ねぇ、どうして……」

いつまでたってもなつみはその場に立ち尽くしたままで、近づこうとしても体が鉛のように重く、動かなかった。相変わらずなにかを喋り続けるなつみの声を理解しようと必死に耳を傾けるものの、あたしの脳は眠気を堪えきれずに拒否してしまう。声を出そうと口を開けても伝えたいことは音にならず、そのうち頭の後ろが重くなり、どこまでも深い海の底に沈んでいく感覚に溺れた。

瞼が落ちるその刹那、雲の切れ間から覗いたのだろう月に照らされたなつみの顔は今までに見たこともないような哀しい表情をしていた。それはあたしにとって、もしかしたら二人にとってなにかの終焉を意味しているような、そんな表情に見えていた。



804 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:21
△△△


飯田先生が颯爽とハンドルを操るミニの助手席で、あたしは柄にもなく縮こまって、指をパキパキ鳴らしたりせわしなく首を振って窓の外を眺めたりしていた。まあつまり子供みたいに落ち着きがなかった。

「らしくないですね」
「は?!な、なにが?だれが?」
「吉澤さんしかいないでしょう」
「……あ、そこ、その角曲がってベーカーストリート方面に向かって」
「了解しました」

見慣れた風景とあの頃の自分の背中が嫌でも思い出される。右から左に猛スピードで流れていく景色が妙な心細さを増長する。だれかの温もりが欲しくて、自分の左手を右手でしっかりと握り締めた。

「降ってきましたね」

窓にポツポツと水滴の粒が出来上がり始めた。

「吉澤さんのそんなに落ち着きのない様子を見るのは久しぶりです」
「落ち着きなくなんかないっつの。え?今久しぶりって言った?」
「どこからどう見ても落ち着きがなくて面白いですよ。そんなあなたを見るのはたしか…昨年末に帰国したときだったかな。副理事にお会いしてから病院で雑務を済ませて…そうそう、帰ろうと受付を通りかかったら藤本さんを見つめるあなたの姿が目に入ったんです」
「………」

昨年末…いつのことだろう。あの時期はたしかまだ美貴の気持ちがあやふやなままで、あたしのことを好きだってのはなんとなくわかってたけど、まだあと一歩のところで美貴は踏ん切りがつかないでもがいていたように思う。あたしはそんな美貴の姿を見るのが少しだけ辛くて、自分のせいでこんな想いをさせてしまっていることに申し訳ない気さえしていた。あたしたちはやはり友達のままでいるほうがいいんじゃないかとまで思っていた。

805 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:22

「ははっ。今思い出しても傑作ですよ。受付に座って俯いている藤本さんにどう声をかけようかあなたの手は宙をさまよって、がっくり肩を落としたり踵を返したり、観葉植物にぶつかりそうになったり…あんな面白い光景はめったに見れないですね」
「ぐわっ!マジかよ!どこまで見てたんだよっイイダー!」
「どうするのかとしばらく眺めていたら、あなたはふっと真剣な表情になって藤本さんの髪を撫でて、藤本さんが弾かれたように顔を上げて…見ていたのはここまでです。約束の時間が迫っていたので残念ながらその後のことは知りません」
「残念がるなよ…」

そっか、あのときか。まさか飯田先生が見てたとは。なんつー偶然。嫌な偶然だな。

「あの後は結局どうしたんですか?」
「勇気を振り絞ってチュウしてそれをアヤカに見られた挙句に藤本くんに突き飛ばされた」
「本当ですか?!ぷっ、くっくっくっく…あーはっはっはっは!!」
「飯田先生もそんなバカ笑いするんだね…」

目尻に涙を浮かべながら高笑いをするこの人を見ていたら、なんとなくこっちまで可笑しくなってきて気づいたら声を上げて笑っていた。そんなに笑うなよなーと飯田先生の腕に軽くパンチして、自分の目許をそっと指で拭った。

バカ笑いをしながらクリニックの患者の話なんかをしつつ、飯田先生の軽やかな運転に身を任せていたらいつのまにか目的地までもうすぐそこというところまで迫っていた。さっきまでの笑いや穏やかな時間が消え失せ、かわりにあたしの胸の中は重々しい闇でいっぱいになっていた。でも、逃げるわけにはいかない。

806 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:22

「ちょっと寄り道していいですか?」

あたしの暗い表情を察したのか、それとも本当に寄りたいところがあるのか飯田先生はこっちの返事を待たずにハンドルを切り返した。なんとなく面倒だったのでしばらくなにも喋らずにいると、飯田先生は自らこれから向かう先の説明をしだした。

「まいが行ってる料理教室でレクチャーしている人がご主人とこの先でベーカリーをやっているんですよ。そこのビスケットとジャムが美味しくて私たちはよく食べてるんですが、ストックが切れていたことを思い出して」
「ついでに買ってこうってわけね」
「そういうことです」
「だったら帰りでもいいじゃん」
「帰りが遅くなっては店が閉まると思いまして」
「そんなにかからないから大丈夫だよ。それこそ一瞬で済む」
「一瞬で済むことをダラダラと引き延ばしてるわけですか…」
「………」
「なにも聞かない約束でしたね。すみません。お詫びにビスケット奢りますよ。あそこのジャムは本当に美味しいんですから。店主の…ジャックだったかな、がよく言うんですよ」
「知ってる。『うちのジャムを食べたらもうほかでは食べれないよ、お客さん』でしょ?」
「どうしてそれを…」

目を大きく見開いてこちらを向いた飯田先生の顔には驚きの表情が貼りついていた。あたしは遠目にもよくわかるジョーイの店の看板を見ながら軽くため息をついた。偶然、と言うには運命的すぎて。あの頃何度も足繁く通ったジョーイの店の看板は、ジョーイの名前の隣にドナの名前が堂々と掲げられていた。

「そっか、結婚したのか…」
「吉澤さんご存知だったんですね」
「ご存知もなにも一時期常連だったよ。こんな穴場的な店よく見つけたね、飯田先生たち」
「さっきも言いましたがまいの料理教室の講師なんですよ。ドナが」
「ああそっか。ていうか飯田先生、ジャックじゃなくてジョーイだよ」
「そうでしたっけ」

そんなことはどうでもいいという口振りで、飯田先生は道の端に車を寄せゆっくりと停車させた。この人も根っからの女好きなんだろうな。そんなこと言ってもきっとしれっとした顔で否定するだけなんだろうけど。

807 名前:ロテ 投稿日:2005/03/31(木) 00:33
更新の途中ですが容量があわわなことになったので次スレ立ててきました。

http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/sky/1112196661/

『彼女は友達2』です。今後ともよろしくお願い致します。

Converted by dat2html.pl v0.2