Piece

1 名前:テトラ 投稿日:2004/08/23(月) 14:56
初小説で更新も遅いかもしれませんが、最後までお付き合い頂ければと思います。
2 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 14:57
『ねぇ〜、あさ美〜。勉強ばっかしてないでテレビ見ようよ〜。』

『ダメです。』

『さっきからずっとやってるんだから、息抜き、息抜き。』

『後藤さんはさっきからそればっかりじゃないですか。』

 ここはある女子校の寮の一室。
 その中でのどこでもありそうな普通の会話。
 こんなあきたりなやり取りの中に、一つだけ普通じゃないことが存在しているんです。
 ・・・それはこの部屋には私一人しかいないってこと。
3 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 14:57
『Piece』
4 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 14:59
 皆さんは『解離性同一性障害』という言葉を知っていますか?
 こう呼ぶと知らない方も多いんじゃないでしょうか。
 まあ簡単に言うとですね、『多重人格』ってことなんです。

 今、私の体に存在している人格は二つ。
 ひとつは主人格であり基本人格である私、『紺野あさ美』。
 そしてもうひとつは後藤さん、『後藤真希』。
5 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:00
 私は高校1年生で16歳、そして後藤さんは2つ年上の18歳なんだけど、

『あさ美〜、テレビ〜、テレビ〜。』

 ・・・こうやって駄々をこねる姿は全然年上には見えない。
6 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:00
『も〜、後藤さん静かにしてください。』

『テレビ〜。』

『明日テストなんです。』

『ごとーは毎週あのドラマ見るのが楽しみなのに〜。お願い、あさ美〜。』

 必死で頼み込む後藤さん。
 それに私は少し心が動かされそうになる。
 だけど、よくあるこの手のワガママに毎回自分の方が折れてしまっていることに気づき、

『ダメです。』

 ここは強気に出てみる。
一応私が主人格なんですからね。
すると後藤さんは拗ねたようそっぽを向いてしまったようだった。
急に静かになる私の頭の中。
7 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:01
『あの・・・、後藤さん・・・?』

声を掛けてみても後藤さんからの返事はない。
少し心配だったけど、気を取り直して勉強を再開することにした。
けど再開して10分後、後藤さんが思いがけない言葉を口にする。

『いいもん。力ずくで見てやる。』

その言葉と同時にいきなり右手の感覚がなくなる。

『え!?ちょっ・・・、後藤さん!?』

次々と体中の感覚がなくなる。
何とか抵抗しようにも、ものすごい勢いで私の体が後藤さんの意識に侵食されていく。
本当は基本人格である私の方が力は強いはずなんだけど、こういう時の後藤さんはとんでもない力を発揮するんだよぁ。
あっという間に私は後藤さんの後ろに追いやられてしまった。
8 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:02
『後藤さん、戻ってくださいよ!』

『やだ。ドラマ見終わったら戻るよ。』

そう言って後藤さん(私)は立ち上がってテレビをつける。
すでに後藤さんのお目当てのドラマは始まっているようだった。

『そんなこと言ってドラマだけで終わったことないじゃないですかぁ。』

『あ〜!もうドラマ始まってるよ。』

『話聞いてないですね・・・。』

こうなった後藤さんには何を言っても意味がない。
実際このあとの抗議は耳にも入ってないって感じだった。
9 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:02
多重人格はある人格が出てる時は他の人格は意識がないってことが多い。
でも私達の場合は片一方の人格が出てる時も基本的に意識はある。
だから一つの器に二つの魂が入っているような感じかな。
人格のその日の体調によっての影響力とかで違う時があるんだけど。

でも今みたいに強制的な人格交代ってのはなかなかできるものじゃない。
だけどさっき言ったようにある場面で後藤さんはとんでもない力を出す時がある。
例えばテレビが見たい時や「あの人」と会った時とか。

「ただいまー。」

 ドアが開く音と一緒に同室のまこっちゃんの陽気な声が聞こえた。
10 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:03
「ん?あさ美ちゃん、もう勉強終わったの?」

まこっちゃんの声はドラマに夢中の後藤さんには届いてるはずがない。

「おーい。」

まこっちゃんが目の前で手をひらひらさせてもさせても反応なし。
後藤さん、夢中になりすぎです・・・。

「おーい、あさ美ちゃーん?」

そう言って顔を覗き込んでくる。
まこっちゃん、顔近い・・・。
私もびっくりしたんだけど、まこっちゃんが帰ってきたことにも気づいていない後藤さんはかなり驚いたみたい。
11 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:03
「おわぁぁ!!」

叫び声を上げてものすごい勢いであとずさった。

「あれ?もしかして後藤さんですかぁ?」

まこっちゃんは私が多重人格であることを知ってるうちの一人。
最初は隠してたんだけど同室ならいずればれることだし、まこっちゃんなら大丈夫と思い打ち明けた。
まこっちゃんは驚いたようだったけど、その後も変わらず接してくれている。
むしろ隠し事がなくなってより仲良くなれた。

「お、小川!?びっくりしたー。」

そう言って後藤さんは大きく息を吐いた。
12 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:04
「やっぱり後藤さんだ。声かけても全然反応しないんですもん。」

「あは、ちょっとドラマ見るのに夢中になっちゃってね。てかよく気づいたねー。」

「なんか声の感じが違いますからね。あさ美ちゃんだったらまだ声が細い感じですから。」

そう言ってあははと笑う。

「あれ?後藤さん、もしかして無理矢理出てきたんですか?」

「そだけど、何で?」

「だって、あれ。」

私の机を指差す。
そこにはまだやりかけの勉強道具。

「だってさぁ、あさ美ったらずーっと勉強ばっかりでテレビ見せてくんないんだもん。」

後藤さんはすこし頬を膨らませる。
それを見て、まこっちゃんは軽く微笑んでいた。
13 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:05
「あさ美ちゃんらしいですけどね。まあ、息抜きは必要ですよ。」

「そうだよ、まったく。おーい、あさ美聞いてるかー?」

後藤さんは笑いながら私に話しかけてくる。

『聞こえてます!』

少し不機嫌そうに答える。
どうでもいいから早く出してくださいよぉ。

「あは、少し怒ったみたい。」

そう言って笑う後藤さんにつられてまこっちゃんも声を出して笑う。
ひとしきり笑ったあと、まこっちゃんは早くもベッドに入ってしまった。
14 名前:Peice 投稿日:2004/08/23(月) 15:05
「小川、もう寝るの?」

「さっきのんちゃん達と遊びつかれちゃって。」

「勉強いいの?テスト前でしょ?」

「いいですよ。赤点とらなきゃいいですし。それにあたしあさ美ちゃんみたいにトップ目指してるわけじゃないですからね。」

「小川らしいねー。」

ホントまこっちゃんらしい。
でも、まこっちゃんはなんだかんだ言ってけっこういい点取ったりしてるんだよね。

「おやすみなさい。」

「おう、おやすみー。」

まこっちゃんは寝てしまい、後藤さんはまたドラマに集中し始める。
後藤さんがドラマだけで止まるわけもなく、そのあと数時間延々とテレビを見るはめになった。
テレビを見るだけ見て満足した後藤さんは、

『あ〜おもしろかったー。そんじゃごとーもう寝るから。おやすみー。』

そう言って後藤さんが引っ込んで、やっと私は外に出ることができた。
とりあえず勉強しようかと思い時計を見ると、とっくに日付は変わってしまっていた。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/23(月) 17:36
いいですね!
続き待ってますよ
16 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/26(木) 00:57
おもしろそうですね!
今までに見たことのないような感じですね。
つづき、待ってますよ!
17 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:02
>>15 名無飼育さま
レスありがとうございます。やっぱりレスを頂くのはうれしいものです。
これから頑張りますのでよろしくおねがいします。

>>16 紺ちゃんファンさま
レスありがとうございます。たしかにこういった感じのはなかったですかね。
期待を裏切らないように頑張りたいと思います。
18 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:03
「はぁ、疲れた〜。」

初日のテストが終わり私は思いっきり体を伸ばした。
昨日は後藤さんのせいであまり勉強できなかったけど、その割にはいい出来だった。
多分あれなら大丈夫かな。

一緒に帰ろうと思ってまこっちゃんの席を見るとそこには誰もいなかった。
どこ行ったんだろ?
きょろきょろと辺りを見回してみたけどやっぱりいない。
だけどその代わりに目に入ったのはのんちゃんだった。
のんちゃんなら知ってるかなぁ。
19 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:04
「のんちゃん。」

私が声を掛けるとのんちゃんはゆっくりと振り向いた。

「あ・・・あさ美ちゃん。」

いつも元気なのんちゃんのものとは思えないくらいテンションが低い。
しかも心なしか顔色も悪いような・・・。

「どしたの?」

「あ、まこっちゃんどこ言ったか知らないかなって思って。」

「あぁ、まこっちゃんなら真っ青な顔してフラフラしながら教室出てったよ。」
20 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:05
その様子だと今日のテスト相当悪かったんだな。
まぁ昨日もテストの前日だというのに勉強しないでさっさと寝ちゃうんだから、しかたないと言えばしかたないかなぁ
それにしてものんちゃんの顔色の悪さも相当なものだよ。
二人とも悪かったんだな。

「・・・紺ちゃん。」

「ふぇっ!?」

いきなり後ろから掛けられた声にびっくりして、私はまぬけな声は上げてしまった。
振り返るとそこに立っていたのは、あいぼん。
全身からにじみ出てる負のオーラ。
そして顔色はのんちゃんに負けず劣らず悪い。
21 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:05
「あ、あいぼん、どうしたの?」

すると、あいぼんはいきなり私の両肩を掴んできた。

「ひゃっ!?」

びっくりした私はまた変な声を上げた。
あいぼんは心なしか潤んだ目でじっと私の目を見つめる。
二人の間に流れるなんとなく嫌な沈黙。
それでもあいぼんは、なかなか口を開こうとしなかった。
いったいどうしたんだろう?

「あ、あいぼん?」

「・・・紺ちゃん・・・。」

「うん?」

「助けて!」
22 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:06
「へ?」

「ホンマにヤバイねん。今日のテストもさっぱりやったし。」

そう言ってあいぼんは私の肩をがくがくと揺さ振る。
それに合わせて私の頭もがくがくと揺れ、頭がくらくらしてくる。
ちょっ、落ち着いて・・・。

「前のテストも悪かったし、今回悪かったらおかんに何言われるか分からんのやって!」

あいぼんの声はちょっと涙声。
軽くパニックになってる。
そして揺さぶる力はどんどん強くなっていく。
あいぼん、ホントに落ち着いて・・・。
23 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:07
『おわぁ、な、何が起きてんの?』

あいぼんが揺さぶり続けたせいで、テストの間中これでもかってくらい爆睡してた後藤さんが目を覚ました。

『え、ちょっ、あさ美!何がどうなってんの!?』

後藤さんも軽くパニック。
こんな起こされ方されたらしょうがないけど。

『いや、まあ、色々とありまして。』

後藤さんの言葉を適当に流す。
いつもはできないんだけど、今は説明する余裕なんて無いし。
とにかく頭の中までうるさくなってあいぼんに抵抗する気も失せてしまった。
私はがくがくとされるがまま。
24 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:07
「あいぼん、ちゃんと勉強しなきゃ。」

そこでのんちゃんが面白そうに笑いながら口を挟んできた。
あぁ火に油だよ。

「昨日いきなり遊ぼうとか言い出したのはののやんか。」

「あいぼんだって乗り気だったじゃん。それに勉強したいなら断ればいいでしょ。」

「そ、それは・・・。」

「そんなの自業自得じゃん。のんのせいにしないでよね!」

「うっ、だ、だいたいののは今日のテストどないやったんや。」

「え、そ、それは・・・。」
25 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:08
あいぼんはのんちゃんと言い合いを始めてくれたおかげでやっと開放された。
はぁ、助かった・・・。
やっと一息つけて安心してた私は、後藤さんが目覚めたことなんて完璧に忘れてた。

『あさ美。』

いきなりかけられた低い声。
いやーこれはかなりご機嫌斜めで・・・。

『は、はい。』

『どういうこと?』

『いや、まあ、色々とありまして。』

説明するのが面倒でさっきと同じ言葉を言う。
それに機嫌悪いから何いても聞かないだろうし。

『さっきと同じじゃん!もういい!寝る!』

そう言って後藤さんはふて寝し始め、10秒後には寝息を立て始めた。
すぐに寝れるならそんなに怒んなくてもいいじゃないですか、と思ったけれども口には出さない。
聞かれたら何されるかわからないし。
26 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:09
「紺ちゃん!」

「ふぇっ!?」

今度はあいぼんたちのことを忘れてた。
そういえば一つのことに集中しちゃうと周りが見えなくなるとか言われたことがあったなぁ。

「また交信してるし。」

「あ、ごめん。で、何?」

「ということで今日は紺ちゃんの部屋で勉強会だから。」

「は?」

いきなりの展開にまたまた間抜けな声を上げた。
勉強会?私の部屋?
27 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:10
「ちょっ、いきなり・・・」

「ええやん。紺ちゃんなら余裕やろ?頼む。うちとののに救いの手を。」

あいぼんは私の声に自分の声をかぶせて私の反論を打ち切った。
そうして私の目の前に手を合わせる。
どうやら私に拒否権はないらしい。
え?ちょっと待って。うちとのの?
そう思ってのんちゃんのほうを見ると、

「のんも今日のテスト悪かったし、あいぼんが教えてもらうならのんも一緒に教えてもらおうかなぁって。」

「な、ええやろ?」

あいぼんがまた詰め寄ってくる。
あいぼん、近すぎ・・・。

「あさ美ちゃん、お願い。」

のんちゃんまで詰め寄ってくる。
28 名前:Piece 投稿日:2004/08/27(金) 23:10
「「ね?」」

「うっ。」

二人に詰め寄れた私は首を縦に振ることしかできなかった。

「やったぁ!紺ちゃん、よろしくぅ!」

「よろしくぅ!」

「よ、よろしく・・・。」

「「それじゃあ、しもてはけー。」」

二人ともはしゃぎながら教室を出ていった。
さっきまであんなに言い争ってたのに。
はぁ・・・何かテストよりも疲れたかも・・・。
嵐が通り過ぎていった教室で私は大きく溜息を吐いた。
29 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/08/27(金) 23:46
作者さま、更新どうもです。
あさ美ちゃん、やっぱこういう役回りなんですかねぇ?
いや〜なんというか、いいですね。
後藤さんも・・・・のび太並に寝るの早いな・・・。
次回更新も楽しみに待ってます。
30 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 14:55
>>29 紺ちゃんファンさま
やっぱり紺野さんは自分の中ではこんなイメージですかね。
なんか押しに弱そうな感じですし。

31 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 14:55
「ただいま・・・。」

自分でも分かるくたびれた声。
さっきの教室での出来事で妙に疲れて部屋のドアを開けた。

「・・・って、まこっちゃん?」

明らかに雰囲気のおかしい部屋。
その中でまこっちゃんは椅子に座りぐったりとした様子。
まこっちゃんが燃え尽きた灰のように白く見えるのは気のせい?
32 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 14:56
「燃え尽きた・・・。燃え尽きちまったよ・・・。」

どこかで聞いたことがあるような言葉を呟き続けるまこっちゃんに軽く引いてしまう。
目もかなり虚ろでもものすごく危険な気が・・・。

「まこっちゃん?」

あんまり関わりあいたくない状態なんだけどなぁ。
でもさすがにそのままほっとくわけにもいかないし声を掛けておくことにした。
それでもまこっちゃんは全く反応しない。
ぶつぶつとさっきと同じ言葉を繰り返すだけ。
33 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 14:56
「おーい。」

昨日まこっちゃんが私(後藤さん)にやったように目の前で手をひらひらさせてみる。
目の前で手を降り続けて三分後。

「あ・・・あさ美ちゃん・・・。」

やっと気づいたみたいだけど、その目はあいかわらずかなり虚ろ。
原因は察しがついてるんだけどとりあえず聞いてみる。
34 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 14:57
「どしたの?」

するとまこっちゃんはさっきのあいぼんのように俯きながら私の両肩を掴んできた。
さっきと同じような状態になり、何となくこの先の展開が読めてしまった私は軽くげんなりしてしまう。

「あさ美ちゃん・・・。」

まこっちゃんが言い辛そうに言葉を切る。
次の言葉が何となくわかる私は、まこっちゃんが口を開く前に言うであろう言葉を口にした。

「テストが悪かったからどうしようって?」

その言葉を聞いたまこっちゃんは勢い良く顔を上げた。
心底驚いたって感じの表情をしている。
35 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 14:57
「な、なんでそれを・・・。」

「テストの後にそんな風にしてたら誰でもわかるよ。」

あれだけ真っ白になっていたなら誰でもわかる。
それにさっきのあいぼんとのんちゃんの事もあるし。

「もー、遊んでばっかりでちゃんとテスト勉強しないからでしょ。」

「だーってぇ・・・。」

まこっちゃんはバツの悪そうな声を上げる。
そんなまこっちゃんを見て私は大きく溜息をつく。
36 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 14:58
「で、何が悪かったの?」

「・・・全部。」

「はい?」

いま、全部って聞こえたような・・・。
私の聞き間違えならうれしいんだけどなぁ・・・。

「全部。」

「ちょっ、全部って!まこっちゃん、どうするの!?」

「ホントにやばいんだってぇ!明日も苦手な科目あるし、ホントどうしよう!」
37 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 14:58
そう言ってまこっちゃんはあいぼんのようにがくがくと肩を揺さ振る。
あぁ、また後藤さん起きちゃうよ・・・。
この状態に慣れてしまった私は、自分のことよりも後藤さんの機嫌がさらに悪くなることのほうが心配だったんだけど、

「ちょっ、まこっちゃん、力強・・・。」

さっきよりも強くなっていく力。
私の体が前後にがくんがくんと揺れ、足元がふらつく。
そう思ったとき、一瞬だけ感じた浮遊感。

「ふにゃっ!?」

背中の鈍い痛み。
そして自分の上に何かが乗ってる重みを感じた。
38 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 14:59
「いたたた・・・。」

目を開くと、そこにあったのはまこっちゃんのドアップ。

「「わぁっ!?」」

あまりの近さに二人ともびっくりしてしまった。
二人の顔が一瞬で真っ赤になる。
だけど次の瞬間に待っていたのはそれ以上の驚き。
それはドアの開く音と一緒に聞き覚えのある二人の声が聞こえてきたこと。

「おーっす!紺ちゃん来たでー!」

「あさ美ちゃん、よろしくねー!」

一瞬時が止まった。
真っ赤になった顔が一気に青くなる。
嫌な汗が背中を伝っていった。
あまりの驚きに声を出せずに口をパクパクさせることしかできない。
は、早く何か言わないと。
そう思っていると二人は口を開け、大きく息を吸い込んだ。
39 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 15:01
「「まこっちゃんと紺ちゃん(あさ美ちゃん)がいけないことしてる〜!!」」

「わぁ!ちょっ、ちょっと待って!!」

そう叫んだ二人の口を急いでふさぐ。
誤解を解かないととんでもないことになってしまう。

「ち、ちがうよ!!」

「「ホントに〜?」」

2人同時に首を傾けて訝しげな目でこっちを見る。
黙ってるまこっちゃんの方を見ると、テストが悪かったことと今の状況が合わさって完全にパニック状態。
言葉は出ず、両手は何か妙な動きをしている。
あまり見ることのないまこっちゃんの取り乱しように少し笑ってしまったけど、今はそれどころじゃない。
この二人に誤解されたままにしてたら、あっという間に変な噂が広まっちゃうよ。
40 名前:Piece 投稿日:2004/08/31(火) 15:01
さっきのあいぼんにされたことと同じような状況だったこと。
完全に事故で何もやっていないということを誤解を解くために説明した(かなり必死に)。

「まあ、ええわ。そういうことにしといたる。」

釈然としない返事だけど何とか納得してもらえたみたい。
でも私の心には一抹の不安が残ったままだった。

まだ一日は終わっていないのにものすごい疲労感。
この後の勉強会、私の体もつのかなぁ・・・。
41 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/01(水) 20:29
ポンちゃん・・・・・ファイト!
42 名前:Piece 投稿日:2004/09/06(月) 00:14
「う〜、わかんないよ〜。」

のんちゃんが頭を抱えてうなっている。

「何やのの、そんなのもわからへんのか?」

そこに声を掛けたのはあいぼん。
のんちゃんのノートを覗き込んで、勉強では珍しい余裕宣言。
43 名前:Piece 投稿日:2004/09/06(月) 00:15
「あいぼんわかるの?」

「あったりまえやん。ちょっと貸してみ。」

あいぼんが問題を解き始め、のんちゃんはそれを覗き込んでいる。

「あさ美ちゃん、ここわかんないんだけど。」

まこっちゃんがそんな二人を見ていた私に声を掛けてきた。
その手にあるのは数学の教科書。

「あ、これはね、加法定理で変換して。」

「うんうん。」

「そんで、ここに代入してやれば・・・。」

「そっか〜、そうやるんだ。ありがと、あさ美ちゃん。」
44 名前:Piece 投稿日:2004/09/06(月) 00:15
まこっちゃんは満足そうな表情で自分の位置に戻っていった。
そしてふとあいぼん達の方を目を向けると、あいぼんが頭を抱えてうなっている。
どうやらさっきの問題がまだ解けてないみたい。

「あいぼん、それ違うよ。」

「え?ここはこうやって・・・。」

「だって、のんもそうやったけど解けなかったもん。」

「え、ホンマに?う〜ん・・・わからん!紺ちゃん教えて!」

なんてまじめに勉強してたのは最初だけで、この面子が揃ってそれが長く続くわけがなくて・・・。
45 名前:Piece 投稿日:2004/09/06(月) 00:16
「な〜紺ちゃん。休憩しよ、休憩。」

「あいぼん、休憩って・・・。」

そこで言葉を切って私は時計を見る。
始めたのは一時で、現在は二時。
まだ短針は一つしか進んでないわけで。

「もう一時間もやってるんやで。」

一時間もって・・・。
私にとっては一時間しかだけど、あいぼんにとっては一時間もなんだね。
46 名前:Piece 投稿日:2004/09/06(月) 00:17
「う〜、のんも限界!」

ここでのんちゃんもギブアップ。
一時間でギブアップって、このままじゃ明日の結果が怖いなぁ・・・。
まこっちゃんの方を見ると、まこっちゃんは曖昧に笑った。
まこっちゃんも休憩したいんだなぁ。
でもこのままならホントにやばいかも。

「じゃあ・・・あと一時間やったら休憩しよ。」

「え〜あと一時間も〜。」

あいぼんがさっそく抗議の声を上げる。
47 名前:Piece 投稿日:2004/09/06(月) 00:17
「ええやん。ちょっとだけやってぇ。なぁ紺ちゃん、ええやろぉ?」

甘えた声でそう言うあいぼん。
うーん、でもなぁ、今休んだらちょっとですむわけないもんなぁ

「あいぼん、今回悪かったら怒られるんでしょ。」

それを聞いた瞬間、あいぼんの体がビクンとなった。
この様子を見た限りじゃ、お母さん相当怖いんだろうなぁ。

「うっ・・・わかった。」

あいぼんは渋々と勉強を再開した。
48 名前:Piece 投稿日:2004/09/06(月) 00:18
「でも、のん達は・・・ね?まこっちゃん。」

「そ、そだよね・・・。」

次はのんちゃん達からの抗議。

「もぉ、二人とも今日のテスト血の気が引くぐらい悪かったんでしょ?」

「いや、あの、それは・・・。」

痛い所を突かれて二人がひるんだ。
だけどそれでも言い訳をしようとする。

「でしょ?」

「「へい・・・。」」

ダメ押しの一言。
二人はあいぼんと同じように渋々と勉強をやり始めた。
49 名前:Piece 投稿日:2004/09/06(月) 00:18
「あと一時間やったらちゃんと休憩するから、ね?」

三人ともあと1時間もかって顔をしてる。
三人同時に大きく溜息を吐いた。
溜息を吐きたいのは私の方だよ。
私は心の中で呟いた。

私にとってはあっという間の一時間。
だけど三人にとっては長い長い一時間。
時間が近づくにつれて三人ともものすごくそわそわしていた。
もちろんこの後の休憩時間は勉強時間よりも長かったことは言うまでもないんだけど。
50 名前:Piece 投稿日:2004/09/06(月) 00:25
少ないですが、今回の更新はここまでです。

>>41 紺ちゃんファンさま
この面子がそろったら紺野さんもきっと苦労は耐えないでしょうね。
ツートップに勉強を教えるのはかなり骨が折れるはずでしょうし。
51 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/06(月) 22:50
ポンちゃん。。。やっぱこういう運命なんですかねぇ???
私も一時間は、集中してればあっ!という間なんですが。。。
やることがないとどうしても。。。サボり魔がひょっこりと。。。
テスト、この4人にはいい点とってほしいですね。
ポンちゃん、のんちゃん、あいぼん、まこっちゃん
。。。。。。ファイトなりよ〜
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/10(金) 23:39
これまた面白そうなの発見!
更新楽しみにしてるんで頑張ってくださいね。
53 名前:Piece 投稿日:2004/09/14(火) 22:51
「やっと終わった〜。」

寮の屋上で私は大きく息を吐いた。
今までこんなにテストで疲れたことはない。
あの三人に同時に勉強を教えるのがここまで疲れるとは思ってもみなかった。

楽しかったことは楽しかったんだけど、とにかく疲れた。
三人とも最初はまじめにやるけど、ある程度時間が経つと口を開けば休憩しよう、しか言わないし。
それを何とか宥めて勉強させるのは本当に骨が折れたなぁ・・・。
54 名前:Piece 投稿日:2004/09/14(火) 22:52
でも大丈夫かなぁ。
怒られたくない一心で必死にやったあいぼんは大丈夫そうだけど。
あんまり危機感がなかったまこっちゃんとのんちゃんはけっこう青い顔をしていた。
 あの様子を見る限りじゃ全然期待できないなぁ。

そんなことを考えていたら急に目の前が真っ暗になった。

「だ〜れだ?」

一回聞いたら耳から離れないアニメ声。
こんな声を出す人は一人しかいない。
55 名前:Piece 投稿日:2004/09/14(火) 22:52
「何ですか?石川さん。」

そこにいたのはやっぱり石川さん。
というか目隠ししても地声で喋っちゃ間違えるわけがない。

「なーんか反応が冷たいなぁ。」

素っ気無く答えたのが気に入らなかったらしく、石川さんは少し頬を膨らませた。

「え〜、そんなことないですよ〜。」

石川さんの声マネでそう言うと、石川さんの頬が更に膨らむ。
その頬を指で押すとぷしゅーっと空気が抜けた。
56 名前:Piece 投稿日:2004/09/14(火) 22:53
「あさ美ちゃん!」

こうやってちょっと怒る姿も、年上なのになんだか可愛らしく見える。
とにかく女の子らしくって可愛らしいこの先輩。
でもたまにそれが度を過ぎて、キショイとこもあるというのは本人には内緒の話。

「後藤さんですか?」

「うん。」

石川さんが頷いた。
まぁそれ以外の理由なんてほとんど考えられないんだけどね。
57 名前:Piece 投稿日:2004/09/14(火) 22:53
「ごめんね、毎回毎回。」

「いえ、気にしないでください。」

もうこういうのには慣れてしまった。
それにあんまり会わせないと、後藤さんは無理矢理にでも体を乗っ取って会いに行ってしまうような気がする。

「ちょっと待ってください。いま起こしますから。」

「真希ちゃん、相変わらず寝てばっかりだね。」

そう言って石川さんは軽く笑った。
58 名前:Piece 投稿日:2004/09/14(火) 22:54
『後藤さん、起きてください。』

『・・・』

反応なし。
こんなので起きるわけないか。

『後藤さーん!!』

それでも起きない。

『後藤さーーーーん!!!!!』

普段は出さないような大きな声で呼びかけると、やっと後藤さんは反応を示した。
59 名前:Piece 投稿日:2004/09/14(火) 22:54
『んあ・・・うるさいなぁ・・・。まだ眠い・・・。』

だけど全く起きる気なし。
というか、これだけ寝といてまだ眠いんですか?
テスト中あれだけ爆睡してたのに。

『・・・石川さんがいますよ。』

『!!』

小さく呟いた瞬間、あっという間に体の感覚が無くなった。
こういう時だけはホントに反応いいですよね。

「梨華ちゃーん!!」

後藤さんは叫んで、石川さんに抱きついた。
石川さんもそれを抱きかえす。
60 名前:Piece 投稿日:2004/09/14(火) 22:55
「テストで会えなくてホントに寂しかったよ〜。」

「私もだよ、真希ちゃん。」

少し体を離して見つめあう二人。
二人の間にはあまーい雰囲気が漂っている。
そして石川さんの顔が近づいてくる。
こういう場面が苦手な私は急いで外からの情報を打ち切った。

石川梨華さん。
この学校で屈指の人気を誇る先輩は、見てのとおり・・・後藤さんの恋人なんです。
61 名前:テトラ 投稿日:2004/09/14(火) 23:03
また少ないですけど、今回はここまでです。

>>51 紺ちゃんファンさま
こればっかりは紺野さんの運命ってことでしょうがないですよ。
完全に自分の中じゃ、紺野さんのイメージってのはこんな感じです。

>>52 名無飼育さま
そう言って頂けると非常に嬉しいです。
期待にそうようないいものを書けるように頑張りたいと思います。
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/14(火) 23:07
うぉ、この2人好きなので、なーんか馴れ初めが知りたいです。
63 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/15(水) 21:45
ごっちんは梨華ちゃんにメロメロなんですね。
のほほ〜んとしていい感じです。
次回更新まってます。
64 名前:名無し 投稿日:2004/09/19(日) 14:11
いしごまも好きなのでちょっと嬉しい展開です
65 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:31
「は、はじめまして、紺野あさ美です。」

「はじめまして、石川梨華です。よろしくね、あさ美ちゃん。」

石川さんとであったのはこの寮に入ってすぐだった。
この寮では入寮して一ヶ月ほどは先輩と同室で生活することになっている。
その先輩が石川さんだった。

第一印象は可愛らしい人だなぁってこと。
 これぞ女の子って感じって言えばいいのかな。
あとでとっても人気のある先輩だって聞いて、やっぱりそうなんだって思った。
それと・・・独特な服のセンスをしてるってこと。
私もピンクは好きだけど、全身ピンクっていうのはなぁ・・・。
66 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:32
そんなことを考えてたんだけど、ここで妙に後藤さんが静かなことに気づいた。
少し前までどんな人だろうとか、可愛いといいな、なんて言ってたのに。
 もう一度石川さんの顔を見てみる。
うーん、どう見ても後藤さんの好みだよなぁ。
 いつもなら大はしゃぎしてると思うんだけど。
また寝ちゃったのかな?

『・・・イイ。』

後藤さんがぼそっと呟いた。

『・・・はい?』

聞き返してみても後藤さんからは返事は返ってこなかった。
 何かすごく嫌な予感がする。
67 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:32
『あの・・・後藤さん?』

やっぱり返事は返ってこない。
まさに見惚れてるって感じ。

「あさ美ちゃん、どうしたの?」

「わぁ!?」

後藤さんに呼びかけてたから、他人から見ればさっきの私は交信状態。
それを不思議に思って石川さんは私の顔を覗き込んでいた。
驚いた私は思いっきり後ろに仰け反った。
び、びっくりしたぁ・・・。
68 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:33
「どうしたの?なんか交信してたみたいだけど。」

「いいいや、あの、その、ちょっと・・・。」

他人格に話しかけてましたなんて言えるはずもなく、しどろもどろになってしまう。
こういう場面は今までに何回もあったのに毎回気のきいた答えはまるで出てこない。
たまに嘘をつくのが下手な性分がちょっぴり恨めしかったりもする。

「変なあさ美ちゃん。」

そう言って石川さんはくすくす笑った。
可愛いなぁなんて思ったのは私だけじゃなかったみたい。
69 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:33
『・・・かわいい。』

その言葉を聞いて一瞬身構えた。
後藤さんは好みの人がいると無理矢理にでも外に出たがったりするんだった。
今まで何度苦労したことか・・・。
数々の嫌な思い出が頭をよぎった。

「あれ・・・?」

だけど後藤さんは外に出てこようとしなかった。
きっと出てくるだろうって覚悟してたんだけど。

「どうしたの?」

「あ、いや、な、何でもないです・・・。」

思いっきり身構えていた私は恥ずかしくなって俯いた。
でも後藤さんどうしたのかな・・・?
70 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:34
その後一週間経っても後藤さんは石川さんの前には出てこようとしなかった。
その上、石川さんがいると見惚れているのかほとんど言葉も発しない。
こんなことは今までなかったんだけどなぁ。
どう考えても後藤さんがおかしい・・・。

『後藤さん。』

『んあ?』

『石川さんの前だとものすごく静かじゃないですか?』

『えっ、そ、そんなこと・・・。』

単刀直入に聞くと、珍しく後藤さんが言葉に詰まった。
71 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:34
『ありますよね。』

『うっ。』

 いつもと立場が逆転。
 普段は私のほうがこんな風に追い込まれるほうなんだけど。
よく考えたら後藤さんに強気に出たことってあんまりなかったなぁ。

『で、どうなんですか?』

『その・・・梨華ちゃんが・・・。』

『石川さんが?』

後藤さんが言葉を切った。
そして数秒溜めたあと、

『かわいすぎるんだよ〜!!』
72 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:35
『・・・は?』

思わず聞き返してしまった。
 それで後藤さんにスイッチが入った。

『何!?あさ美、梨華ちゃんがかわいくないって言うの!?』

『いや、そんなことは・・・。』

年下の私が言ったら失礼かもしれないけど、本当に可愛らしい人だと思う。
仕草とかホントに女の子らしいし、何事にも一生懸命だし。
でも、その一生懸命さがたまに空回りしている部分もなきにしもあらずなんだけど。

『でしょ!もうね〜かわいすぎる!どこがって言うか、全部がいいんだよ!仕草とか・・・。』

火がついた後藤さんは止まらない。
延々と石川さんへの想いを語り続ける。
 どこまで続くのかな、これ?
73 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:35
『・・・って感じでホントかわいすぎる!』

 ここでようやく後藤さんの口が止まった。
 時計は見てないから正確な時間は分からないけど、少なくとも話し始めてから20分は経ってると思う。
 石川さんへの想いを語りつくした後藤さんはどこか満足そう。
 そりゃぁ、それだけ話せば満足でしょうね。

『あの、後藤さん。』

『ん?なに?』

『後藤さんが石川さんを好きなのはよくわかったんですけど・・・。』

『うん。』

『だからなんで石川さんの前ではおとなしいんですか?』

『も〜だからさ〜いきなり梨華ちゃんの前に出てくの恥ずかしいじゃん。』

『はぁ。』

『やっぱり変なところは見せられないしさ〜。』

 後藤さんの口から出たのは意外なお言葉だった。
 正直なところ、それがいつまで続くのかは甚だ疑問なんだけど。
 今までは、まさに本能の赴くままって感じだったからなぁ。
74 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:36
でもその言葉通り、それ以降も石川さんの前で無理矢理出てこようとすることはなかった。
あれだけ後藤さん好みの人と同部屋だなんてどうなるんだろうとか思ってたんだけど、これなら安心そう。
でもこの考えは全然甘かったってことをすぐに思い知らされることになった。

『限界だ〜!!』

「ひゃっ!?」

あれから二週間近く経ったその日、私は夕食後に石川さんと雑談をしていた。
その時、急に頭の中に鳴り響いたのは後藤さんの叫び声。
驚いた私は石川さんの前だというのに思いっきり反応してしまった。

「どうしたの?」

石川さんが怪訝そうな顔で問い掛けてくる。
こんな声を上げる話の内容なんかじゃないし当たり前なんだけど。
75 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:36
「あ、あの・・・。」

なんとか言い訳しようとしたけど、すぐに言葉が止まってしまう。
後藤さんが無理矢理出てこようとして言葉を返す余裕が無くなってしまったんだ。
体の感覚がどんどんなくなっていく。

「ちょっ、ご、後藤さん・・・。」

「後藤さん?」

石川さんの問いかけには答えずに何とか後藤さんを押え込むことに専念する。
というか答えてる余裕なんてなかった。
いつも以上に出てこようとする力が強いような気がする。
 今まで我慢してきた反動かも。
 でもここで外に出すわけにはいかない。
76 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:36
「はぁ、はぁ。」

なんとか後藤さんを押え込むのに成功した。
私はものすごい疲労感で、息を切らし床にへたり込んだ。
疲れたぁ・・・。
 もうこれで今日一日の体力を使い切ったような気がするよ…。

「あさ美ちゃん、大丈夫?」

石川さんが心配そうにそう言った。
それに反応して上を向くと石川さんとばっちり目が合ってしまった。
それがまずかった。
石川さんの顔を見たことで後藤さんが見事に復活。
一気に体の主導権を奪い取ってしまった。
体の力が抜けて首ががくんと落ちる。
77 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:37
「あ、あさ美ちゃん!?」

驚いた石川さんが駆け寄ってきて顔を覗き込んだ。
後藤さんは何も答えずに石川さんにいきなり抱きついた。

「だ、大丈夫なの?」

後藤さんはそのまま頷いた。
それで石川さんは少し安心したみたい。
でも後藤さんは抱きついたまま一向に離れようとしなかった。

「あさ美ちゃん?」

「・・・ちがう。」

石川さんの胸の中で小さく首を振った。
 え?ちょっ、後藤さん?
78 名前:Piece 投稿日:2004/09/23(木) 23:37
「え?なにが?」

「あさ美じゃない。」

「あさ美ちゃんじゃない?」

え?ま、まさか・・・。

「ごとーは・・・。」

『後藤さん、言っちゃダメです!!』

 私は有らん限りの声を振り絞って叫んだ。
でも後藤さんはそんな事など気にせずに後の言葉を続けた。

「後藤真希っていうの。」
79 名前:テトラ 投稿日:2004/09/23(木) 23:51
今回の更新はここまでです。

>>62 名無飼育さま
という訳でいしごまの馴れ初めの前半です。
いかがだったでしょうか?

>>63 紺ちゃんファンさま
ごっちんが梨華ちゃんにメロメロであると同時に、梨華ちゃんもごっちんにメロメロです。
この二人の組み合わせはほんわかした雰囲気がいいんですよね。

>>64 名無しさま
二人とも甘えたな感じで好きな組み合わせの一つなんです。
この小説の二人が名無しさまに気に入っていただけたら嬉しいですね。
80 名前:名無し飼育2 投稿日:2004/09/24(金) 00:15
(・∀・)イイ!後半も期待!
81 名前:名無し 投稿日:2004/09/24(金) 01:01
石川さんにひとめぼれの後藤さんいいですね
後半も楽しみにしてます
82 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/26(日) 00:51
おわっ・・・ごとーさん・・・
ダメじゃないですかぁ〜!
でも石川さんの前であんなに我慢したんですもんね。
あさ美ちゃんも大変だけどガンバ☆
83 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:17
「後藤・・・真希?」

目の前の石川さんは完全に困惑模様。
まぁいきなきこんなことを言われたら当然の反応か。

「え?あさ美ちゃん、何言って・・・」

「だからあさ美じゃないの。」

言葉を遮ってそう言うと顔を上げて石川さんの顔を見つめた。
石川さんはますます困惑顔。

「ごとーは紺野あさ美じゃなくて、後藤真希っていうの。」
84 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:17
「??」

石川さんは事態を全く飲み込めていないみたい。
まぁこれでいきなり対応できたらすごいけどね。
どうしようかなぁ。
今から言い訳したってさすがに無理がある気がするしなぁ。

「あの、石川さん。」

この際言ってしまった方がいいような気がする。
きっと石川さんなら…。
そう思って私は後藤さんから体の支配権を奪い返した。

「えっと、後藤さん・・・だっけ?」

「いえ、今はあさ美です。」
85 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:18
「今は?え?それってどういう事?」

更に困惑顔の石川さん。
取り敢えず事情を話さなきゃ。

「実は・・・」

「ちょっとあさ美、邪魔しないでよ!」

私が喋ろうとしたところで後藤さんが口と声帯の支配権を奪い取った。
さっき全身の支配権を無理矢理奪ったから疲れてるらしく、口と声帯まで限界だったみたい。
86 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:18
「邪魔してるのは後藤さんの方です!せっかく石川さんに説明しようと思ってるのに。」

奪い返す。

「あさ美ばっかり梨華ちゃんと喋ってズルイ!」

更に奪い返す。

「ワガママ言わないでください!」

またまた奪い返す。

「だってぇ・・・。」
87 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:19
後藤さんは拗ねたようにそう言うと少し黙り込んだ。
目の前の石川さんは唖然とした顔で私を見ている。
そりゃそうだよ、私だって目の前の人が一人二役で会話しだしたらビックリするもの。
後藤さんも黙ったままだし支配権を取り戻そうとしたところで後藤さんが口を開いた。

「だってだって、ごとー全然梨華ちゃんと話したことないのに!いいじゃん、少しくらい話したって!」

後藤さんは完全に駄々っ子モード。
何言っても聞いてくれなさそうだなぁ・・・。
以前はしっかりしたお姉さんって感じだったんだけど・・・最近は妙に子供っぽい部分が増えた気がする。
どうやって宥めようかと思ってたら石川さんが口を開いた。

「えっと・・・後藤さん?」

「何?梨華ちゃん。」

石川さんが話しかけると後藤さんはすぐ笑顔になった。
88 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:19
「あのね、私もまだ状況がよくわかからないの。ちょっとあさ美ちゃんに話を聞きたいんだけど、いいかな?」

「うん、わかったぁ。」

後藤さんは笑顔で即答する。
石川さんが言うことには妙に聞き分けがいいなぁ。
私が言ったってずっと愚痴ってるはずだもん。

「では石川さん、私達のことについてお話します。」

「うん。」

石川さんはまじめな顔で頷いた。

「解離性同一性障害という言葉をご存知ですか?」
89 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:20
「解離性同一性障害?
うーん…知らないなぁ。」

「簡単に言うと一つの体に複数の人格ができる病気です。
つまり…私は多重人格です。」

「多重…人格?」

石川さんは信じられないというような顔をしている。
そういえば前にこの事を話した人もこんな顔してたなぁ。
さっきのやりとりを見ててもいきなりは信じれないか。

「ええ。今、この体には二つの人格が入っています。
一つは私、基本人格で主人格の紺野あさ美。そして・・・」

「後藤真希だよ。」

また後藤さんはいきなり外に出てきた。
そんなに話してる途中でちょこちょこ出られたら話し辛いんですけど。
90 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:20
「後藤さん、ちょっと黙っててください。」

「なんだよぉ、自己紹介ぐらいいいじゃん。」

「さっきやったじゃないですか。それに話し辛いんです。」

「だってさぁ・・・。」

拗ねて唇を尖らせる後藤さん。
これを見るとホントに年上なのかなぁって思えてくる。

「はぁ・・・後でちゃんとお話できる時間とりますから。」

「・・・わかった。」

後藤さんは渋々といった感じで頷いた。
なんで年下の私が駄々っ子をあやすようなまねをしなきゃいけないんだろ・・・。
この後5分ぐらいで私たちの状況を説明したんだけど、石川さんはやっぱりとっても驚いた表情をしていた。
91 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:21
「後藤さん、もういい・・・」

後藤さんは私が言い終わる前に、待ってましたとばかりに体を奪い取った。

「やっと終わったぁ。あさ美、話長い!」

出てきていきなり愚痴ですか・・・。

「長いって、5分ぐらいしか話してないじゃないですかぁ!」

私もいつもよりも語気を強めて反論する。
こっちだって気をつかって早めに話を切り上げたんですよ!

「5分しかじゃなくて5分も!今までお預けされてたごとーの身にもなってみてよ!」

そう言って後藤さんは頬を膨らませる。
そんな仕草が子供っぽくてなんだか怒る気も失せてきた。
あなたホントに18歳ですか・・・。
92 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:21
「せっかちすぎですよ・・・。」

そんないつもの私たちのやり取りを呆然と見ていた石川さんがくすくすと笑い始めた。

「梨華ちゃん?」

「あ、ゴメン。ちょっと・・・」

「どしたの?」

「私にはあさ美ちゃんが1人で喋ってるようにしか見えないからすごく忙しないなぁって。
でもあさ美ちゃんのあんな大きい声聞いたの初めてでビックリしちゃった。」

私が大きい声を出したぐらいで驚かないでくださいよ。
たしかに普段は声ちっちゃいですけど・・・。
93 名前:Piece 投稿日:2004/10/04(月) 22:22
「いつも声ちっちゃいくせにこういう時だけは声おっきいんだよねぇ。」

「そうなんだぁ。」

後藤さんの言葉を聞いて、石川さんはまたくすくすと笑った。
てか石川さんって順応が早いですよね。
もう普通に後藤さんと話してるし。

このあとも2人は長々と話し続けていた。
94 名前:テトラ 投稿日:2004/10/04(月) 22:39
今回はここまでとします。
後半を一気に更新するつもりでしたけど、一度ここで切ります。
ダメ作者なもので、誠に申し訳ございません(平伏

>>80 名無し飼育2さま
後半を分割で肩透かししてスミマセン。
残りは早めに更新できればと…

>>81 名無しさま
後藤さんは自分の欲望に正直なんです。
( ´Д`)<梨華ちゃんが可愛すぎるのがいけないの

>>82 紺ちゃんファンさま
紺野さんの周りにはトラブルメーカーがいっぱいです。
でも頑張ってればいつかきっといいことがある…はず、多分
紺野さんを温かく応援してやってください。
95 名前:名無し読者 投稿日:2004/10/05(火) 11:00
いいですねぇ。
続きが楽しみです。
96 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/10/05(火) 19:53
紺ちゃん、ごとーさんをあやす(?)の大変なんですね・・・。
ごとーさん力強そうですもんね・・・。
このあと、石川さんとどうなるんですんでしょうか?
次回更新をお待ちしてます。
97 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:45
後藤さんと石川さんはえらく気が合ったみたい。
まだ初対面からそんなに経ってないのにあっという間に仲良くなってよくお喋りをしていた。
そのせいで後藤さんが外に出せとうるさくて、私の自由な時間がだいぶ削られたりもしたんだけど。
まぁ仲良しなのはいことだしそのあたりは多少目をつぶった。

石川さんは私たちに今までと変わらずに接してくれた。
それは私たちが多重人格だなんて忘れてしまったかのようで。
正直なところ多重人格だってことを告白する時はものすごく怖かった。
それを聞いて石川さんはどんな反応をするんだろう、気持ち悪がられるんじゃないかとも思った。
そんな私の予想とは正反対の石川さんが対応がとってもうれしかった。

それからも私たちと石川さんとの関係は非常に良好。
でもこのまま続くと思ってた関係に変化が訪れたのは、私が石川さんの部屋を出る3日前ぐらいのこと。
98 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:46
「・・・んぅ・・・。」

私が制服姿で目を覚ましたのはベッドの上。
寝起きでボーッとした状態で辺りを見回すと時計が目に入った。
午後7時。
7時かぁ、だいぶ寝ちゃったなぁ。

「・・・あれ?」

ベッドの上?
私ってベッドまで行ったっけ?
たしか…私が部屋に戻って来たのは午後1時。
今日は授業が午前中だけで、下の食堂でお昼ご飯を食べて戻ったらこの時間だった。
99 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:46
石川さんは用事があるって言ってたし、後藤さんも寝てるみたいだった。
特にすることがなくてヒマだったから今日の授業の復習をすることにしたんだよね。

 えっと・・・それからぁ・・・。
あ、まこっちゃんが来たんだ。
それでちょっとお喋りをして、また勉強やってたら急に眠くなって・・・。
ベッドまで行くのが面倒でそのまま机で寝ちゃったんだ。
あれ?やっぱりベッドまで行ってないや。
後藤さんが移動したのかなぁ。

そこまで考えたところで部屋のドアがゆっくりと開いた。
入ってきたのは石川さんだったんだけど、なぜかその表情は気まずそう。
100 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:47
「あ、あさ美ちゃん?」

訝しげにそう聞いてくる石川さん。
私はそんな様子にちょっと首を傾げてしまう。

「あ、はい。そうですけど・・・。」

それを聞いて石川さんはちょっとホッとしたような表情を浮かべた。
どうしたんだろう?
 何かあったのかなぁ?

「あ、あの、あさ美ちゃん。」

「はい?」

「あ、や、ゴメン。やっぱりいいや。」

「はぁ。」

「あ、ちょ、ちょっと柴ちゃんに用事があるから。」
101 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:47
そう言って石川さんはまた部屋を出ていった。
明らかに何か隠してるよなぁ。
でもいったい何なんだろう?

次の日もその次の日も妙によそよそしい石川さん。
私、何かしたかなぁ?
思い当たる節はないんだけど。
そんな全く訳がわからないまま石川さんの部屋を出る日を迎えた。
102 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:47
実は様子がおかしいのは石川さんだけじゃない。
あの日以来、後藤さんが全く外に出て来ようとしないんだ。
というか、いくら呼びかけても全然反応してくれない。

やっぱり後藤さんと何かあったのかなぁ?
あの日、私だってわかったとき、なんかホッとしたような顔してたもんなぁ。
まさか後藤さんが告白したとか!?
うーん、でも後藤さんってこういうとき妙に奥手だったりするんだよね。
後藤さんに聞こうにも全然反応してくれないし、石川さんに聞いても言葉を濁すだけで答えてくれないだろうなぁ。

「あさ美ちゃん。」

「あ、は、はい。」

顔を上げると目の前に立っていた石川さん。
考え込んでいて声を掛けられるまで全く気づかなかった。
103 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:48
「・・・」

「??」

俯いているので石川さんの表情はよくわからない。
でもすごく緊張してるってことは雰囲気でわかった。

「あのさ、ま、あ、いや。」

「石川さん?」

「あ、えっと・・・き、今日からは麻琴ちゃんと仲良くやるんだよ。」

「はぁ。」

少しどもりながら石川さんはそう言った。
でもきっと言いたいのはそんなことじゃないはず。
104 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:48
「石川さん。」

「ん、何?」

「言いたいことはそれじゃないですよね?」

「え、あ、あさ美ちゃん、何言って・・・」

「この前からおかしいですよ、石川さんも後藤さんも。何かあったんですか?」

「あ、その・・・」

石川さんはまた俯いて黙ってしまった。
ここで私から聞いちゃうのはいけないような気がして石川さんが口を開くのを待つことにした。
105 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:49
「あのさ、真希ちゃん呼んでもらっていいかな?」

「後藤さんですか?でも後藤さん、いくら呼んでも・・・」

後藤さんは私の言葉を遮るようにして私から体を奪った。

『後藤さん!?』

『ゴメン。あさ美、ちょっと体借りる。』

後藤さんの口調は静かなんだけど何処か強い力がこもってるようで。
だから私は言葉を返すことができなかった。
106 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:49
「何?」

「・・・」

また黙ってしまう石川さん。
でも後藤さんは急かすことはせずに静かに石川さんを見つめていた。
そして石川さんは決心したかのようにギュッと両方のこぶしを握った。

「私も・・・私も真希ちゃんのことが好き!」

はい?
私はいきなりの展開に固まってしまう。

「梨華ちゃん!」

後藤さんは石川さんを引き寄せ、力強く抱きしめた。
そして見つめあったあと、ゆっくりと二人の顔が近づいていく。
私が見てることなんてきっと忘れてしまってる。
わ、ちょっ、ちょっと待ってー!

こういう場面が苦手な私はギュッと強く目をつぶった。
ホントは外からの情報を遮断するのが一番いいんだけど、突然のことでパニくってそこまでできなかった。
107 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:50
そしてもう大丈夫だろうと思って目を開けると、そこにはまだ目をつぶった石川さんのドアップ。
あ、わ、わ、な、長すぎですよー。
急いでもう一度目をつぶった。
ものすごく顔が熱くなってる。
きっと私の顔、真っ赤になってるんだろうなぁ。

「梨華ちゃん大好きだよ。」

「私もぉ。」

そんな二人の会話を聞いてるだけでさらに顔が熱くなっていく。
うぅ・・・私、ドラマでもこんなシーンは見れないのにぃ・・・。
108 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:50
『ご、後藤さん!!』

とっても割り込み辛い雰囲気だったけど、今言っとかないと、この先はさらに入り辛い気がする。

『何だよぉ。せっかくいい雰囲気なのにぃ。』

後藤さんの口調はメチャクチャ不機嫌。
それに一瞬怯んでしまうけど今のうちに言わないと。

『こ、こ、これはどういうことですか!』

『だからぁ、ごとーと梨華ちゃんが晴れて恋人になったわけですよ。』

『だから、何でそんないきなり・・・あぁ!!』

『んあ?』

『も、もしかして、この間私が寝てる間に・・・』

『ごめいとー。』
109 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:51
『ちょ、な、勝手に何やってるんですかぁ!』

『んあ、あさ美うるさい!』

「真希ちゃん?」

交信状態だった後藤さんを石川さんが上目遣いで見上げている。
それを見ると後藤さんの顔は一瞬で最高の笑顔に変わった。

「ゴメンゴメン。何かあさ美がうるさくってさぁ。」

そう言って後藤さんは自分の頭を指差す。
でも石川さんはそれが気に入らなかったのか黙って俯いてしまった。
110 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:51
「梨華ちゃん?」

後藤さんが顔を覗き込もうとすると石川さんは思いっきり顔を逸らしてしまう。

「もしかして、嫉妬してるの?」

「な、ちがっ・・・」

慌てて否定しようとする石川さんを後藤さんはギュッと抱きしめた。

「もー、梨華ちゃん可愛すぎ!ごとーは梨華ちゃんしか見てないってぇ。」

「う、うん。」

石川さんは真っ赤になった顔を後藤さんの胸に埋めた。

『というわけだから、邪魔しちゃダメだからねぇ。』
111 名前:テトラ 投稿日:2004/10/11(月) 23:51
そう言って後藤さんは私を意識の奥の方に押し込めてしまった。
ちょっ、わ、私の意志は完全に無視なんですかぁ!?
体は私のなのにぃ・・・。

高校生活が始まって1ヶ月。
たった1ヶ月でこんなのに、この先いったいどうなるんだろう・・・。
考えると溜息しか出ない。
溜息の数だけ幸せが逃げるって言うけど、私の幸せはここでなくなってしまうんじゃないだろうか・・・。

でも私はこのとき完全に忘れてしまっていた。
相手はただの先輩じゃないってことを・・・。
なんてったって彼女は石川梨華。
校内屈指の人気を誇ってるってことを・・・。

112 名前:テトラ 投稿日:2004/10/12(火) 00:03
今回の更新はここまでとします。

>>95 名無し読者さま
ってな感じで短いですが馴れ初め編終了です。
ご期待にそえれたでしょうか?

>>96 紺ちゃんファンさま
普段は主人格である紺野さんのほうが力が強いのですが、
石川さんが関わると後藤さんはもの凄い力を発揮するんです。
( ´ Д `)<愛の力だよぉ
113 名前:名無しさん 投稿日:2004/10/12(火) 00:24
石川さんと後藤さん、いい感じになってます
後藤さんと紺野さんの関係もいい感じですね
続き楽しみにしてます
114 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/10/12(火) 17:12
石川さんと後藤さんはいい感じになってきたんですね。
良かったケドなんかあさ美ちゃんがかわいそう・・・
しかも石川さんが校内で人気って事は・・・。まさか。
>愛の力だよぉ
確かにそうかも・・・。
115 名前:tsukise 投稿日:2004/10/14(木) 22:00
更新、お疲れ様です。
紺野さん…色々と大変な模様で…(汗
これからの三人(?)の関係も注目ですね。

…で、先日メールを頂いたのですが何故かこちらから
返信しても返ってきてしまうので、こっそりメール欄に
Upさせて頂きますね。どうぞ、ご愛顧下されば幸いです(平伏
116 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:35
『あさ美ー!起きろー!!』

『ふぇっ!?』

後藤さんが呼ぶ声で私は目を覚ました。
どうやら私の部屋に戻ってきたみたい。

『もー、あさ美いつまで寝てんのよ。もう8時だよ。』

さっき奥に引っ込んでから、そのまま寝ちゃったのかな?。
はぁもう8時かぁ。
 早めに明日の準備やっとかなきゃ。
117 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:36
 ん?8時?
8時って午後の8時だよね・・・。

『早く代わってよ。お腹いっぱいで眠くなっちゃった。』

お、お腹いっぱいって・・・。
まさか夕食・・・。
だって、だって・・・今日の夕食は・・・。

『いやー、おいしかったよー。おイモの天ぷらとかぼちゃの煮物。』

 ガーーーーーン!!!!
頭を鈍器で殴られたような気がした。
ちょっと目頭が熱いかも…。
118 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:36
ずっと、ずっと楽しみにしてたのにぃ。
だっておイモとかぼちゃですよ!?
私の二大好物が同時に出るんですよ!?

『んあ?どしたの?』

後藤さんの声はいつも通りののほほーんとした声。
でもこのときばかりはその声に無性に腹が立った。

『どうして教えてくれなかったんですかぁ!?』

『だってひさしぶりに梨華ちゃんと一緒に食べたかったしぃ。
それにあさ美熟睡してたから起こすのも悪いかなって思ってさぁ。』
119 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:36
何でこんなだけ妙に気をつかってるんですか。
それに石川さんと一緒に食べたかったっていうのが一番の理由なんじゃないですか?

『・・・せっかく楽しみにしてたのにぃ・・・。』

自分でも情けないと思うけどちょっと涙声になってるのがわかる。
 ヤバイ。
 もう一息でホントに泣いちゃいそう…。

『んぇ!?そ、それくらいで泣きそうになるなよぉ。』

『それくらい!?なんですか、それくらいって!!
熱狂的おイモおよびかぼちゃファンの私にとってどれほど大事なことだったか後藤さんはわかってません!!』
120 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:37
今月の献立表を見てから指折りこの日を待ってたのに。
次はいつ一緒に出るかわからないんですよ!?

『・・・なんだよ、熱狂的おイモおよびかぼちゃファンって・・・。
いいや、ごとーもう寝るから。』

そう言った次の瞬間から後藤さんは寝息を立て始める。
む、熱狂的おイモおよびかぼちゃファンを愚弄する気ですか!?
いくら後藤さんでもそれは許しませんよっ!

『後藤さ・・・』

バァァン!!!

反論しようとする私の声は勢いよく開かれたドアの音で消されてしまった。
そしてそこに立っていたのは・・・愛ちゃんだった。
121 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:37
「え!?」

ドンドンッと盛大な足音をたてて近づいてきた愛ちゃんはガシッと私の両肩を掴んだ。
えっ、な、何!?
何か起きたの!?
というかまさかまたあの状況に!?

「麻琴に押し倒されたってホント!?」

……は?
 い、いきなり何を…。
何で私がまこっちゃんに・・・…って、あぁ!!
122 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:38
「ホントなの!?」

「ちょ、ちょっ、愛ちゃん、落ち着いて!」

「これが落ち着けるわけないやろぉ!」

この後ものすごい剣幕の愛ちゃんを必死で宥めるはめに。
 そしてやっと愛ちゃんが私の話を聞いてくれる状態になるまで20分も要した。

「その話誰から聞いたの?」

「亜弥ちゃんから。辻ちゃんと加護ちゃんが言ってたって・・・。」
123 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:38
のんちゃーん!あいぼーん!
あぁ、あれくらいであの2人を止められると思った私が甘かった。
やっぱりお菓子まで使うべきだったかも・・・。

それに亜弥ちゃんだって愛ちゃんに言わなくても…。
あの二人からの噂だから、だいぶ脚色されてることぐらいわかってるだろうに。
こじれさせて楽しんでるようにしか見えないんですけど。

「あさ美ちゃん?」

あたまを抱え込んでしまった私を愛ちゃんが心配そうに覗き込んだ。
そのときあの人の陽気な声と一緒にドアが開いた。
124 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:40
「ただいまぁ。いやー、やっぱりかぼちゃの煮物は最高だよ!」

2人の視線が熱狂的かぼちゃファンに向けられる。
片方からは明らかに敵意が向けられてるのにまこっちゃんはそんなことに気づきはしない。
というか敵意というよりも殺意って言った方が近いかも・・・。

「愛ちゃんここにいたんだぁ。さっきから探して・・・」

「麻琴ぉ!!」

まこっちゃんの声を遮って、愛ちゃんがまこっちゃんに飛び掛かった。
ものすごい音を立てて倒れ込む2人。
いきなり飛び掛かられたまこっちゃんは何がなんだかわからないって感じの顔をしてる。
125 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:40
「麻琴っ!!」

「は、はいっ!!」

マウントをとった愛ちゃんがまこっちゃんの襟首をつかんでグイッと持ち上げた。

「あんた、あさ美ちゃんを押し倒したんやってぇ!?」

「えぇっ!?」

いきなりの問いにしばしフリーズ。
そして数秒後、

「あぁっ!!」

「ホンマなんやね!?」

愛ちゃんの腕にさらに力がこもる。
126 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:41
「ちょ、あ、あれは事故で・・・って痛っ!ちょっ、愛ちゃん痛いって!」

上に乗った愛ちゃんの拳が、
 振り下ろされる。
振り下ろされる。
振り下ろされる。
 ・・・ってこれはいくらなんでもヤバイんじゃ・・・。

「痛っ!マジで痛いって!あさ美ちゃん!見てないで助けてよ!」

まこっちゃんの悲痛な叫びで、私は漸く我に返った。
愛ちゃんを何とか引き剥がして、またも必死で宥めて落ち着かせた。
そして落ちつかせたはいいけど、2人して愛ちゃんの前に正座して説教を受けるはめに。
・・・私は悪くないのに・・・。
まこっちゃんの方に視線をやると申し訳なさそうに頭を下げた。
127 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:41
「いや、だからあれは事故で・・・」

「私は何もしてないのに・・・」

バンッ!!

愛ちゃんが強く床を叩いて、各々の弁解を断ち切った。
いきなりで体がビクッとなる。
まこっちゃんなんて完全に顔が恐怖に歪んでた。

「事故でもなんでもそんな誤解されるようなことはしちゃダメ!!」

「「はい・・・。」」

思わず返事しちゃったけど、私は何もしてない・・・。
128 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:42
「だいたいあたしにもそんなことしたことないのに・・・。」

はい?
まさか愛ちゃん・・・

「ヤキモチやいてるの?」

まこっちゃんの言葉に愛ちゃんは赤くなって俯いてしまった。

「だって、だって・・・麻琴とあさ美ちゃん仲ええから・・・。
あさ美ちゃんには石川さんがいるのもわかってるけど、もしかしたらって・・・。」

「そんなわけないじゃん。」

「ほやけど心配なんやもん!」

まこっちゃんが愛ちゃんを抱き寄せた。

「あたしは愛ちゃんが大好きだよ。」
129 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:42
いつもヘタレなまこっちゃんがすごく男前になってる。
いつもとのギャップに驚いてしまう。

「麻琴。」

「愛ちゃん。」

そして抱き合ったまま見つめ合う2人。
またかよっ!とツッコミを入れたくなる状況に、私は無言で立ち上がりそのまま部屋を出た。
私の周りはバカップルだらけ・・・。
1つ大きなため息を吐くと、文句を言うべくのんちゃんとあいぼんの部屋へと向かった。
130 名前:テトラ 投稿日:2004/10/19(火) 23:56
今回はここまでです。

>>113 名無しさま
すごく特殊な関係の三人ですが、うまくいってるのはひとえに我慢強い紺野さんのおかげです。
川o・-・)ノ<完璧です!

>>114 紺ちゃんファンさま
たしかに紺野さんに苦労させすぎかも…。
まぁ紺野さんはトラブルには慣れてるので、きっと大丈夫だと(多分

>>115 tsukiseさま
メールの件ですが、こちらの不手際でお手数おかけしましてまことに申し訳ありませんでした。
ここで改めて謝らせていただきます。
131 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/10/20(水) 08:54
作者さま、更新どうもです。
あさ美ちゃん、やっぱこういうのって
「宿命」っつうやつなんすかね?
ってゆうか愛ちゃんにはあさ美ちゃんと石川さんが
付き合ってる。みたいな風に映ってるんでしょうか?
まぁしかたないんですけど・・・。
次回更新も楽しみに待ってます
132 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/10/25(月) 20:11
すっごくおもしろいです、紺ちゃんはつっこみ役なんでしょうか?
更新待ってます。
133 名前:テトラ 投稿日:2004/11/08(月) 00:16
『ねぇねぇ、週末ヒマ?』

『週末ですか?んっと・・・何にもないですね。』

携帯でスケジュールを確認してみたけど何も書かれてはいなかった。
後藤さんが私のスケジュールを確認するということは・・・

『石川さんとお出かけですか?』
  
『あったり〜☆さっすがあさ美、わかってるねぇ。』

後藤さんは行けることがわかってすごくうれしそう。
いくらなんでもわかりますよ。
後藤さんが私のスケジュールを確認する理由ってそれ以外はまずないですからね。
134 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:18
『約束する前に、まず私の予定を確認してくださいよ。』

私に予定が入ってたらどうする気なんだろう。
まぁよっぽど大事な用じゃない限りキャンセルさせられそうだけど。

『だってあさ美、昨日ずっと寝てたじゃん。呼んでも全然起きないし。』

昨日はテストで疲れてたからなぁ。
そしてご飯も食べそこねて・・・。

「・・・おイモ・・・かぼちゃ・・・」

そうだよ、食べそこねたんだよ。
昨日はあの後色々あってすっかり忘れてた。
135 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:18
『なに?まだ言ってんの?』

『だってぇ・・・』

おイモとかぼちゃが一緒に出たのに・・・。
すっかり忘れてたのに、思い出したらテンションが急降下してしまった。

『あぁもう。次はちゃんと教えるから泣きそうにならないでよ。』

『うぅ・・・はぃ。』
136 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:19
「こ〜んちゃん!」

「わぁっ!!」

陽気な声とともに誰かが後ろから抱きついてきた。
この声は・・・

「ふ、藤本さん!?」

「そうそう。藤本さん。」

藤本美貴さん。
生徒会の会長さんで、この学校の人気No.1。
石川さんと幼なじみで親友だったりする。
137 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:20
「ビ、ビックリするじゃないですか!!」

「だってすぐ後ろ、てかほとんど並んで歩いてたのに全然気付かないんだもん。」

「そ、そうなんですか?」

全然気付かなかった。
後藤さんと話してると周りへの注意力がちょっと落ちるんだよなぁ。

「さっきおイモだとかかぼちゃだとか呟いてたけど、どしたの?」

「あっ、や〜熱狂的おイモおよびかぼちゃファンとしては色々と考えることがあるわけですよ。」

「何だよ、熱狂的おイモおよびかぼちゃファンって・・・。」 
     
藤本さんお得意のツッコミ炸裂。
まぁ今の対応の仕方はツッコミくらってもしょうがないよなぁ。
138 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:21
『いやー相変わらずツッコミキティだね。』

『だいたいどうなんですか?そのツッコミキティって。』

『いいと思うんだけどなぁ。語呂もいいしさ。』

確かに藤本さんはツッコミ気質だけど。
でも私としては微妙な気がするなぁ。

「おーい。」

藤本さんが目の前で手をヒラヒラさせている。

「まーた交信してる。ホント紺ちゃんボーっとしてるよね。」

「そ、そんなこと・・・」

「あるでしょ?」
139 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:22
言い返せない。

「うぅ・・・。」

「ま、ミキは紺ちゃんのそんなところ好きだけどね。」

藤本さんはそう言って、私の頭をポンポンと叩きながら柔らかく微笑んだ。
カッコカワイイって言葉がぴったりの笑顔。
私は思わず見とれてしまっていた。

「ん?どしたの?」

藤本さんが首を傾け、不思議そうな表情で私の顔を覗き込んできた。

「あ、いや、な、何でもないです。」

「そう?」
140 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:23
「あっ、今日は何をやるんですか?」

深追いされる前にさっさと話題を変えてしまおう。
さすがに見とれてましたなんて言えるわけないし。

「今日はね〜別に大した事じゃないんだけど、そろそろ学園祭に向けて動いとかないとなぁと思ってね。」

「学園祭ですか?」

学園祭って・・・たしか10月の終わりくらいだったような。
まだ夏休み前だし、あまりピンと来ないなぁ。

「うん。色々と準備があって大変だからね。
直前になってドタバタしないように早目から動いとこうってわけですよ。」

「そうなんですか。」 
 
学園祭か。
色々と大変そうだけど楽しみだなぁ。
やっぱり高校生活の華、なのかな?
とりあえず一大イベントなわけだし。 
141 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:24
「あ、ところでさ、気は早いんだけど夏休みはどうするの?」
 
「夏休みですか?ん〜、特に何もないですかねぇ。」

『そうなの?そんじゃあ、梨華ちゃんとデート三昧だ!』

『ほどほどにしてくださいよ。』

夏休みは振り回されそうだなぁ・・・。
別にすることはないからいいんだけど・・・。

「でもいきなりどうしたんですか?」

「あ、や、な、何となくさ、どうするのかなぁってね。」

「?」

妙にあせる藤本さん。
そんなあせるようなことじゃないような気がするけど。
142 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:25
「じゃ、じゃあさ、帰省はしないの?」

実家。
私が一番嫌いなもの。
あんな家なんか・・・帰りたくない。
それに帰ったって・・・  

「……家には…帰りません…。」

「紺ちゃん?」

きっと今の私はすごく暗い表情をしてるんだと思う。
藤本さんはそんな私を心配そうな表情で見つめていた。

「やっぱり家でゴロゴロしてるより、ここにいたほうが色々とおもしろいことがありますからね!」

私はできる限りの最高の笑顔を藤本さんに向ける。
ちゃんと笑えてたのかな?
藤本さんが安心したような顔になったからきっと大丈夫だったのだろうけど。
143 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:26
「そうだね。ここで何も起こらない日のほうが少ないかもしれないし。
それにここなら梨華ちゃんもいるし、じゃないの?」
 
「そ、そうですね。石川さんがいますからね。」

それはどっちかと言うと私じゃなくて後藤さんですけどね。
まぁそう言われるのもしょうがないかぁ。
私は石川さんと付き合ってることになってるし。

私(後藤さん)と石川さんが付き合ってるということは周知の事実になっている。
それこそほんの数日で学校中に広まってしまっていた。
石川さんはとっても人気があるし、二人とも隠す気があるのか微妙だから仕方ないのかもしれないけど・・・。

「紺ちゃんも大変なんじゃない? 梨華ちゃん人気あるしさぁ。」
 
「まぁ・・・そうですね・・・。」

石川梨華ファンクラブなるものが存在するこの学校。
石川さんと付き合ってることになってる私にはそれなりに敵がいるんです。
下駄箱に挑戦状なるえらく男らしいものを入れてくる人がたまにいたりするし。
144 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:27
「でも苦労してるのは梨華ちゃんもだと思うけどなぁ。」

「え?」

石川さんも?
それってどういうこと?
私がよくわからないといった顔をすると、藤本さんはおかしそうに笑った。

「気付いてないの?まぁそんな感じはしてたけどね。
 それも紺ちゃんらしいかな。」

そういって藤本さんはがしがしと私の頭をなでた。
むぅ、すごい子供扱いされてる気がする。
145 名前:Piece 投稿日:2004/11/08(月) 00:29
「もう!何なんですか!?」

「おっと、急がないともうすぐ時間だ。」

はぐらかすようにそう言うと、

「あたしより先に着いたら教えてやるよ。」

藤本さんはいきなり走り出した。
走るフォームはとってもきれいでぐんぐんと遠ざかっていく。
って、見とれてる場合じゃない!

「待ってくださいよぉ!」

短距離が苦手な私が勝てるわけないじゃないですかぁ!
余裕綽々で逃げる藤本さんを私は必死で追いかける。

「コラァ!!廊下を走るんじゃない!!」

そんなおいかけっこも保田先生の怒号であえなく終了してしまった。
146 名前:テトラ 投稿日:2004/11/08(月) 00:39
今回の更新はここまでです。

>>131 紺ちゃんファンさま
たしかに宿命かもしれませんね。
普段からも色んなことに巻き込まれまくってます。
それと、後藤さんの存在を知ってるのは、
今現在石川さんと小川さん以外はあと一人だけってことになってます。

>>132 通りすがりの者さま
ありがとうございます。そう言って頂けるとうれしいです。
紺野さんは基本はツッコミではないんですけど、
周りがボケだらけでしょうがなくツッコミって感じですかね。
147 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/11/08(月) 21:04
更新お疲れ様です。
お〜、藤本さんの登場だ〜!
紺ちゃんも後藤さんと一緒だと本当にタイヘンそうですね〜。
148 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/14(日) 21:38
ミキティ登場!
何かを隠してますね、紺野ちゃん追いつくでしょうか?
更新待ってます。
149 名前:名無し読者 投稿日:2004/12/04(土) 23:14
続き待ってますね
150 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:20
「廊下を走っちゃいけないことくらい小学生でも知ってるわよ!
  まったく!……………!!……………………!!!」

 保田先生に捕まってから30分後、私たちは未だ説教を受け続けていた。
 どうやったらこんなに次々と言葉が出てくるんだろう、なんて思っちゃうくらい口が動き続けてるし。
 他人が説教を受けてるのを見てスゴいなぁって思ってたけど、
実際に受けてみると更に強烈というか、なんというか…。
 
『相変わらずスゴいねぇ、ケメちゃんの説教は。』

『そうですね・・・。
  実際に受けてみると、想像以上にキツイですよ・・・。』

 後藤さんと話してる間も保田先生の口は止まらない。
 いったいいつ終わるんだろうか…。
151 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:21
『だいたいミキティと鬼ごっこなんかしてるからだよ。』

『だって気になるじゃないですか。全然わかんないし。』

『やっぱり鈍いなぁ、あさ美は。
  まぁ気付いてないとは思ってたけどね。』

『え?後藤さんはわかるんですか?』

『当たり前じゃん。
  てか、気付いてないのはあさ美ぐらいだよ。
  ま、ミキティの心配は杞憂なんだけどね。』

 後藤さんにもわかるのかぁ。
 いったい何なんだろう?
 んー、全然検討もつかないんだけど。
 それに杞憂って…。
 あれ?
152 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:22
『よく杞憂なんて言葉知ってましたね。』

『んあ、なんか知んないけど思い浮かんだ。』

そう言って、あははと笑う後藤さん。
この前までそんな言葉知らなかったと思うんだけどなぁ。
まぁ別に気にすることでもないんだけど。

『後藤さん、わかるなら教えてくださいよぉ。』

『えー、そんなの自分で考えなよ。』

『だから全然わかんないんですって!』

『何で気付かないのかがごとーにはわかんないよ。』

そんな事言われても…。
わかんないものはわかんないんだから、しょうがないじゃないですか。
153 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:23
「紺野!!」

保田先生の怒鳴り声で思いっきり体が強張った。
し、心臓が止まるかと思った…。
後藤さんとの話に夢中で、保田先生に説教されてたことなんてすっかり忘れてたよ。

「ちゃんと聞いてんの!?」

保田先生の顔がぐっと近づいてくる。
なんか目とか軽く血走ってるんですけど…。
ちょっと怖いですって言いそうになったけど、そんな言葉は言えるわけもなくそれはぐっと飲み込んだ。 

「ス、スミマセン。」

「あんた達生徒会役員は他の生徒の手本になんなきゃいけないのよ!!」

「は、はい。」

「まったく!今度から走るんじゃないわよ!」
154 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:24
「「スミマセンでしたぁ。」」

ようやく解放されて、私はホッと溜息をついた。
やっと終わった…。
30分でもの凄い疲労感…。
一日分の体力使い切っちゃった気がする。
ふと隣を見ると、藤本さんも同じように疲れきった表情をして…ない?

「ホント保田先生の説教も困ったもんだね。
長いし、声は大きし。」

そう言って藤本さんは紙に隠れていた耳元を探りだした。
そしてそこから出てきたのは…耳せん。

「やっぱりこのくらいやっとかなきゃね。」

そう言って、藤本さんはニカッと笑った。
155 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:25
「えらく手慣れてますね。」

「まーね。今ではそんなでもないけど、前はけっこう捕まって説教くらったりしてたからね。」

へぇ、藤本さんがねぇ。
まぁわからないでもないかな。
 
クールでカッコイイ。
これがみんなの持ってる藤本さんのイメージだと思う。
もちろん私もそう思ってた。 
でもそれは生徒会に入るまで。

実際の藤本さんは意外とひょうきんだし、何よりツッコミ気質。
私なんか普段から色々とツッコまれちゃうし。
藤本さん曰く、

「紺ちゃんってボーっとしてたりしてツッコミ所満載なんだよね。」

らしい。
否定できない自分が悲しい…。
それを聞いて後藤さんは、

『あはっ、たしかにあさ美ってボーっとしてるよね〜。』

なんて言って笑ってたけど、後藤さんと話してるからでもあるんですよ。
156 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:26
「はぁ、ホント遅くなっちゃったね。」

「そうですね。みんな待ちくたびれてますよ、きっと。」

ただでさえギリギリだったのに、30分も足止めくっちゃったからね。
まこっちゃんが掃除当番で遅れるって言ってたけど、それより遅くなっちゃった。

あ、そう言えば生徒会のメンバーを紹介してなかったですね。
まず会長は藤本さん。
副会長が石川さんと愛ちゃんで、書記は私とまこっちゃん。
そして最後に会計が…
 
「ゴメーン、遅くな…」

「遅い!」

謝りながら入った藤本さんの声はあっけなくかき消された。
声の発信源は頬を膨らませた亜弥ちゃん。
えー改めまして、最後に会計の松浦亜弥ちゃん。
157 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:27
「何やってんの二人とも!」

亜弥ちゃんは完全にご立腹。
いつもなら亜弥ちゃんがこれくらい遅れてきたりするんだけど。

「ちょっと保田先生に捕まっちゃってね。
 まぁいいじゃん30分くらい。ね、紺ちゃん?」

あ、いや、さすがに30分遅刻はよくないような…。

「よくない!こっちは早く帰って勉強しなきゃいけないのに!」

「は?テスト終わったばっかじゃん。
…ははーん、また赤点取っちゃったんだね?
 で、今度はいくつ?」

「ぐっ…う、うるさいなぁ!」

いつものようにいっときは話が続きそうだったので、私は自分の席へと向かった。
このまま近くにいたらとばっちりを受けそうな気がする。
さわらぬ神に崇りなしって言うしね。
158 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:28
というか最近気付いたんだけど、私ってトラブルに巻き込まれやすいような気がする。
ちょっと考えただけであんなことや、こんなことが思い浮かんでくるし・・・。
以前は大半が後藤さん絡みだったんだけど、この学校に入ってからはそれ以外でもけっこうあるなぁ。
自分で言うのもなんだけど、けっこう濃い人生送ってるよ。
 
「どうしたの?保田先生に捕まったなんて。」

話しかけてきたのは、隣に座ってる石川さん。
石川さんの隣は私の特等席になっている。
私(後藤さん)と石川さんが付き合っているのは知られてるので、みんなの配慮でそういことになった。

まあ一番喜ぶのは私じゃなく後藤さんなんだよね。
実際私としても後藤さんが静かになるから助かってはいるんだけど。
バレちゃいけないからさすがに出てはこないんだけど、石川さんが隣じゃなきゃ絶対にダメらしい。
どうせ少ししたら寝ちゃったりするんだし、わざわざ隣じゃなくてもいいんじゃないかって私は思うんだけどなぁ。
 
「実はですね・・・」

さっきあったことを話すと、石川さんはくすくすと笑い始めた。
159 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:29
「保田先生も相変わらずね。」

「予想以上でしたよ・・・。」

ホントに予想以上だったよ。
まさかあれ程とは思わなかったなぁ。
またあれをくらうのは勘弁だな、ホント。

「にしても、あさ美ちゃんも相変わらずだね。」

「へ?」

急に私へと話が飛んできてちょっと驚いてしまう。
いや、いきなり相変わらずと言われても・・・。

「あさ美ちゃんさ、普段視線とか感じたりとかしない?
 廊下と歩いてたりとかしてさ。」

「はい?視線ですか?」

あまりに予想してなかった問いかけに思わず聞き返してしまう。
うーん、視線なんて感じないなぁ。
でも何で私が視線なんか?
全くわからないという顔をした私を見て、石川さんはまたクスクスと笑った。
160 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:30
「ホント鈍いなぁ。あさ美ちゃんらしいと言えばあさ美ちゃんらしいんだけどさ。」

また鈍いって言われた。
ホントによく言われてるような気がするよ。
いや、確かに鋭いとは言えないけどさ。
ここまで言われてるとさすがに凹みますよ。
しかもその後には、必ず私らしいって言われるし。
 
そんな感じで石川さんとひとしきり話してからふと思う。
そろそろ始めなくてもいいんだろうか?
時計を見ると、私が来たときから長針が半周くらいしている。

「亜弥ちゃんさぁ、ちゃんと授業聞いてんの?」

「いや、正直授業聞いてるどころじゃないんだよねぇ。」

「だろうね。どうせずっと先生に見とれてるんでしょ?
元々数学苦手なのに、そりゃわかんなくなるよ。」

ふと藤本さんたちの方を見てみる。
まだ話が続いてるみたいですねぇ。
これはなかなか終わりそうにないなぁ。
これはいつも通りかな。
161 名前:Piece 投稿日:2004/12/20(月) 23:31
次はまこっちゃんたちの方へと目を向けてみる。
あのですねー、何か周りと空気が違うんですよね。
二人の周りだけ甘ーい空気が漂ってるような気がするんですよ。
完全に昨日の雰囲気のままですねぇ。
てか、二人ともすでにここが生徒会室だってことを忘れてるような気がするのは私だけ?

そんな二人を見て、『いいなぁ。』なんて後藤さん言ってるし。
これが終わったら体を乗っ取られるの決定だね。
テストのやり直しやりたかったんだけど・・・言っても無駄だろうね、きっと。

私の記憶が正しければ、今日は学園祭へと向けて動き出すって話だったような気がするんですけど・・・。
とりあえず、もう一度辺りを見回してみる。
そんなことは忘れ去られちゃってますね、完全に。
まあ、確認するまでもないんだけども。
藤本さんは直前でドタバタしないように今のうちから動いておこうって言ってたけど、  
私には直前になってドタバタする私たちの姿が見えたような気がした。
162 名前:テトラ 投稿日:2004/12/20(月) 23:45
今回の更新はここまでとします。

>>147 紺ちゃんファンさま
紺野さん、やっとトラブルに巻き込まれやすいってことに気づきました。やっぱり鈍いですねぇ(笑)。
後藤さん以外にもトラブルを起こす人がいっぱいいますから、紺野さんの苦労は増えるばかりです。
といってもやっぱり一番は後藤さんなんですけどね。

>>148 通りすがりの者さま
追いつく前に保田さんにあえなく捕まり、説教をくらってしまいました。
そのまま追いかけてたとしても恐らく追いつけなかったでしょうね。

>>149 名無し読者さま
長らくお待たせしてしまってスミマセン。
次回はいつになるかわからないですけど、なるべく早く更新したいと思っています。
163 名前:konkon 投稿日:2004/12/21(火) 00:48
どうも〜、白と緑で書いてるkonkonと申します。
自分の小説では二つの人格を持つ彼女達が
繋がってますが、この小説ではいしごまなんですね〜。
もう最初に見たときからはまりました!
マジ面白いので今後も読ませていただきます。
続き待ってま〜す♪
164 名前:七誌さん(旧・紺ちゃんファン) 投稿日:2004/12/21(火) 21:36
更新乙ナリ。
あさ美ちゃ〜ん、鈍いですね〜。
ミキティはわかりやすいと思うんですけど・・・(笑)
がんばれ〜コンコン
165 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/16(日) 16:43
なにやら甘い匂いが漂ってますね。
こんこんもだいぶきずくとこまで来てるんですが、やはり鈍い{笑}
更新待ってます。
166 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/29(土) 15:31
更新いつまで持ってます。
167 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/27(日) 13:29
いつまでも待ってますよー。
168 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/15(火) 17:02
まだまだ待ってます。
169 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/09(土) 00:02
最終更新から3ヵ月たちますが・・・、報告だけでもお願いします。
170 名前:konkon 投稿日:2005/06/04(土) 12:12
もう書く事わナイで!!申しわけありませんが
更新を待ってくれてたかたゴメンなさい!!
171 名前:七誌さん 投稿日:2005/06/04(土) 12:59
>>170????
172 名前:konkon 投稿日:2005/06/04(土) 21:59
七誌さんわたしが作者のkonkonです!!
173 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/04(土) 22:11
>>163????
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/04(土) 23:19
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/05(日) 02:13
>>163
>>172
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/05(日) 23:45
うざい、ageんな
177 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/06(月) 00:24
>>172
>>163
konkonさん自演だったんですか?
178 名前:konkon 投稿日:2005/06/06(月) 19:58
そうですよ!!
179 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/08(水) 06:23
あまり荒らさないほうがいいですよ。 特にまだsageも分からない輩は、偽名もやめたほうがいいです。
180 名前:konkon 投稿日:2005/06/12(日) 11:42
>>179

sageぐらい知ってるわば〜か!!
小説も書いた事もないような奴に書くつらさわ分からんのじゃ!!
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/12(日) 14:16
荒らさないでください。
暴言はよろしくないです。
182 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:48
夢を見た。

一人ぼっちの女の子。
その子は膝を抱えて座っていて、顔は全く見えなかった。
なのに、私はこの子をどこかで見たことがあるような気がする。

そもそもここはどこ?
辺りを見回してみても何も見えない。
完全な暗闇。
だけどその子の姿だけははっきりと見えるから不思議だ。
183 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:49
そして何も聞こえない。
いや、違う。
微かに、本当に微かにだけど、すすり泣くような声が聞こえる。
この声もどこかで聞いたことがあるような気がするんだ。
 
私はこの子を知っている?
いったいどこで?
……思い出せない。
それともただのデジャ・ヴュ?
いや、たしかに知っているはずなんだ。
思い出すことすらできないのに、それだけは自信を持って言い切れてしまうのは何故だろうか…?

「あ…」

気がつくと、私は涙を流していた。
いくら拭っても涙は止まらない。
ポロポロといつまでもこぼれ続けた
184 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:50
どうして…。
私は他人が泣いてるのを見て涙を流すような感傷的な人間でもない。
それなのに女の子の姿は私の心を揺らし続けた。

そもそも、私には今まで泣いたという記憶がない。
どんなに辛くても、痛くても、悲しくても…。
私の涙腺は枯れてしまっているのかもしれない。
その理由もわかりはしないのだけど。

この涙はホンモノなんだろうか?
たしかに拭うときの感触は、目にゴミがなんかが入ったりしたときに流れるソレと同じものではある。
だけど私にはソレがホンモノとは思えなかった。
はっきりとした根拠なんてないけど、ソレはどこか錆びついてしまっているような不思議な感覚がして…。
185 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:50
泣き声が耳につく。
初めて聞いたはずなのに、どこかで聞いたことがあるような泣き声。
聞いているだけで体の震えが止まらない。
この体に満ちているのは恐怖。
この泣き声自体を怖れているわけじゃない。
だけどソレはどんどん私の体を侵食していく。
この得体の知れない恐怖に、私は膝をつき蹲った。
体が言うことをきかなくなってきている。

微かに聞こえているだけだった少女のすすり泣く声がだんだん大きくなっている。
いや、そうじゃない。
声自体が大きくなっているわけじゃない。
私の耳が無意識のうちに捉えているんだ。
乱れていく思考の中で、冷静にそんなことを考えている部分があった。

だけどソレもほんの束の間。
そんな思考も、増大していく恐怖に飲み込まれていく。
186 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:51
怖い。

頭の中でそんな単語が繰り返される。
私は強く耳を塞いだ。
聞かなければきっと大丈夫なんだと信じて。

だけどそんな私の思いを無視して、尚も声は響き続ける。
苦しい。
呼吸するのが億劫になるほど苦しい。
体の感覚はなくなっていくのに意識は逆に冴えていく。
 
…止めて。
私は耳を塞いで蹲ることしかできない。
そんなことが無駄だって言ぐらいわかってる。
だけどそうしていないとどうにかなってしまいそうで…
お願い…助けて。 
このままじゃ私は…
187 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:51
コワレテシマウ
188 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:54
◇◇◇

「あさ美ちゃん!」

肩をゆすり名前を呼ぶまこっちゃんの声で私は目を覚ました。
…目を覚ました?
 あれが…夢?
寝起きでまだ頭が働いてくれない。
だけどまこっちゃんの肩越しに見えたのは見慣れた私たちの部屋。
それであれは夢だったんだってことが理解できた。
 
「ものスゴくうなされてたんだよ?
呼んでもちっとも起きないし。」

心配顔のまこっちゃん。
どうやら私のうなされ方はよっぽどのものだったらしい。
私はゆっくりと上半身をおこした。
189 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:54
「ん、ちょっと嫌な夢見ちゃって。」

なんて嫌な夢だったんだろう。
あの女のこの泣き声を聞いてるだけで、本当に気が狂ってしまいそうだった。
どこかで聞いたことがあるあの声。
あれぐらいのこの泣き声なんてどれも同じようなものかもしれないけど、
絶対に聞いたことがあるって確信だけは何故かあるんだ。

「ホントに大丈夫なの?」

まこっちゃんの心配顔が覗き込むようにして、私の顔にグッと近づいてくる。
まこっちゃん、顔近い…。
でもそれは本当に心配してくれてるってことなワケで。
190 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:55
「うん、大丈夫。
ちょっと考え事してただけだから。」
とりあえず、今できるだけの笑顔で答える。
あんまり笑えるような状態じゃなかったんだけど、
まこっっちゃんがこんなにも心配してくれてるっていうのが嬉しかった。
でもこの状態を人に見られたら、人によっては誤解を生んでしまいそうな気が。

今、考えられる最悪のシナリオっていったら…
考えてみて一瞬背中に寒気が走った。
や、やめよう、こんな怖いことを考えるのは。
こんなことを考えてたら実際に起こりそうな気がするし。

「ねぇ、まこっちゃん顔近…」
191 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:55
ガチャ

私の言葉はドアが開く音で遮られた。
また背中に寒気が走る。
ゆっくりと振り向くと、立ってるのは目をこれでもかってくらいに見開いてる愛ちゃん。
ヤバい。ヤバい!ヤバい!!
まこっちゃんのほうを見やると、こっちはこれでもかってくらいに顔が青い。
多分私も人のことは言えないんだろうけど…。
愛ちゃんがこっちへゆっくりと歩き出す。
さっきの驚きの表情はどこに行ったのか、いつの間にかその顔には冷たい微笑が貼りついている。
寒気がいっそう強くなる。
今、愛ちゃんから感じるものが殺気というモノなんだろうか。
192 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:56
「二人とも、正座。」

表情と口調はものスゴく優しいのに、有無を言わせないものを感じてしまう。
あ、あはは、あははははははは(泣)
ここまでくると、もう笑うしかない。
さっき頭に浮かんだ最悪のシナリオ通りになってしまうなんて。
最近自覚し始めた、私のトラブルに巻き込まれやすい運命がここまでとは…。
ここで逆らったらエライ目にあうだろうなぁ。
まこっちゃんもそう思ったららしく、私たちは大人しく愛ちゃんの前に正座した。
 
「じゃあ、詳しく話を聞かせてもらおうか?」

あくまでも愛ちゃんは笑顔を崩さない。
それにしてもどうやって誤解を解けばいいのだろうか。
正直に言ったって信じてもらえなさそうだもんな。
とりあえず、これから数十分は続くであろうお説教タイムが始まった。
193 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:56
一時間後、私たちはまだ愛ちゃんの前で正座中。
こちらの言い分はだいたい30分ぐらいで何とか聞き入れてもらうことはできた。
いや、こっちの言い分をじと目で聞いていた時点で納得してるとは言えないか。
この前もこんなことがあったんだから、仕方がないと言えば仕方ないんだけども。

とうとう堪忍袋の緒が切れてしまったらしい。
愛ちゃんは今までの鬱憤を吐き出し続ける。
果ての見えない説教をくらいつつ、小さく溜息を吐く。
盗み見た時計が指し示す時刻は9時15分。
いつまで続くんだろ、これ?
午前中で終わるのかな?
 
そしてもう一度溜息を吐きかけて、ふと思った。
あれ、忘れてるような…?
何か約束があったような気がするんだけど。
頭の中の予定表を急いで捲っていく。
えっと今日は…。
194 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:57
『石川さんとデート(後藤さんが) 10:00』

ヤ、ヤバい。
早く準備をしないと遅れてしまう。
でもこの状況を抜け出すのは至難の業。
というか今下手に愛ちゃんの話を止めるのは危険な気がするわけで…。
いや、遅れたら遅れたで後が怖いというか…。
 
「あの…愛ちゃん?」

「ん、何?」

愛ちゃんから向けられた笑顔で背筋が寒くなる。
できれば感情を素直に表情に出してもらったほうが幾分かこちらも対処しやすいのですが…。
感情と間逆の満面の笑みは、余計な口答えなど許さないと訴えていた。
萎えてしまいそうになる意思をなんとか奮い立たせて言葉を続けた。
195 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:57
「10時から石川さんと出かける約束があるんですけど…」

言った。
言ってしまった。
でも目前の危険より、あとからの恐怖を回避するにはこれしかない。
石川さんは少しくらい遅れても気にしないだろうけど、後藤さんはそうはいかないだろう。
いつもは大雑把なんだけど、石川さんが関わるときのみ几帳面になるんだよなぁ。

「むーっ。
それならしょうがないか。」

伺うように見上げると、仕方ないといった感じで愛ちゃんそう言った。
さすがに先輩が関わってるのにダメとは言えないか。
とりあえず遅れそうだし、急いで支度しなきゃ。

「あのー、そろそろ私も…」
196 名前:Piece 投稿日:2005/08/03(水) 20:58
恐る恐るといった感じで許しを乞うまこっちゃん。
私が解放された今を好機と見たのだろう。
だけど私という片方の獲物を見逃さざるをえなかった愛ちゃんがまこっちゃんを逃すはずもなく、

「ん、何かな麻琴?」

「いえ、何でもございません…。」

愛ちゃんの一睨みでまこっちゃんはあっさりと沈黙した。
いくら石川さんとの約束があるとはいえ私をあっさりと解放したところを見ると、
今までのトラブルの原因の多くはまこっちゃんのほうにあると思っているようだ。
 
そんな二人を脇目に私は急いで用を済ませ部屋を出た。
まさか朝からあんなに目にあうとは…。
閉めたドアに背を預けて一息つく。
するとドアの向こうから愛ちゃんの怒声が聞こえてきた。
帰ってきたとき、果たしてまこっちゃんは生きてるのだろうか?
そんな考えが頭を過ぎった。
取り敢えず私はまこっちゃんの冥福を祈り、石川さんとの待ち合わせ場所に向かった。
197 名前:テトラ 投稿日:2005/08/03(水) 21:05
今年に入って、これが最初の更新というダメ作者テトラです。
色々と忙しくてこれまで全く更新ができませんでした。
次の更新の目処も全くたっていないのですが、
放置する気はないので見守っていただければありがたいです。
そして、今まで保存していただいた皆様に御礼申し上げます。
198 名前:七誌さん 投稿日:2005/08/07(日) 20:52
更新乙です。
待ってましたw作者さまは全然ダメじゃないですよ!
私は作者さまが放置をしないかぎりいつまでも見てますからw
199 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/09(火) 00:11
更新お疲れさまです。 お待ちしておりました!!作者様、久しぶりの更新ありがとうございます。 これからも頑張ってください。 いつまでも今度はマッタリと次回更新を待ってます。 あと、実は自分も小説を書くことにしました。 名前は違いますが、何処かでお見かけしましたら拝見してみてください。 といっても今スランプ中ですが(汗
200 名前:ななし 投稿日:2005/09/03(土) 19:57
hozenn
201 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:15
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

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