からっぽ
- 1 名前:ゆら 投稿日:2004/08/26(木) 16:05
- 学園物です。
ごくフツーの女の子の、ごくフツーの日常を描いたお話。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/26(木) 16:25
- 誰が主役なんでしょう。
期待してます。頑張って。
- 3 名前: 投稿日:2004/08/26(木) 16:36
- 西の空を見る。
「雨、降りそう・・・。」
ちょうどあたしの席は、教室の窓際にあった。
しかも一番後ろの特等席ね。かといって何か悪さをするようなタチじゃないんだけど・・・。
天気予報は30パーセンテージを示してたし、降るか降らないか微妙な天気。
新学期そうそう授業ですか、そうですか。
「ただし、場合によっては体言は主語が―――」
先生、サッパリ分かりません。
分かることといえば、今は6限目で、もうすぐ放課後。
科目は古典。でも、内容は何か分からないのかすら分からないっていう、そーとー重症。
あたしは今にも泣き出しそうな空を、ただ見つめていた。
暑さも和らぐ9月。17歳の夏も、終わろうとしていた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/26(木) 16:53
- 期待です!!
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/28(土) 14:05
- うーん…1レスだけ更新っつうのも…
- 6 名前: 投稿日:2004/12/08(水) 15:39
-
「吉澤、どこ見てんのや」
ぼやーっと自分の世界に入ってたあたし、瞬きをパチパチ。
先生のほうを見ると・・・ありゃ、ちょっと怒ってる?中澤先生。
「え、いや・・雨ふりそーだなって。先生もそう思わない?」
そういったあたしに、ドッと教室に笑が起きる。
ある意味あたしはクラスでおいしい存在だとか。こういう瞬間、思ったりする。
「お前なぁ、先生には敬語使えゆうてるやろ!」
余韻のようにみんなクスクス笑う。
「よっすぃー、バカでしょ。」
隣でごっちんがニカッと笑った。
はいはい、バカですよー。なんて言いながらあたしも笑う。
「もーすぐチャイム鳴るね。」
待ち遠しそうに言うあたしに、ごっちんは呆れっぽく、だけどフッと優しく笑う。
「はいはい。」
あたしもごっちんもお弁当なんだけど、いつもわざわざ学食で食べている。
それには理由があるとかないとか。いや、あるんだけどね。大事な大事な理由が。
・・・・・だって、あの人に会えるから。
- 7 名前: 投稿日:2004/12/08(水) 15:40
- お昼前の4限目って、ほんっと長い。
小学生の頃から給食とかお弁当の時間って大好きだったんだよね。
なんか、給食室から香る匂いとかで、今日はカレーライスかなぁ?とか。
ザワザワと混みあってる食堂で、あたしたちはいつもの席に座った。
窓際の大きなテーブルの一角。もちろん、”あの人”にとっての「いつもの席」でもあった。
今日はまだ、来てないみたい。
「いただきまーす。」
騒がしい食堂の中で、今日もごっちんと他愛もない話を始めた。
「昨日ね、ムックの散歩してたら梨華ちゃんに会ったよ。」
「マジで?・・・梨華ちゃんかぁ。随分会ってないな。」
ごとーも。と言いながら、ごっちんはお弁当のふりかけをパサパサ掛けていた。
ちなみにムックっていうのはごっちんの家で買っているでっかくて白くてモサモサしてる犬のこと。
すっごい可愛いんだよね。どうしてもあたしには懐いてくれないんだけど・・・・。
「可愛かったよ、梨華ちゃん。」
ふーん。と、あたしが返事するとちょっと不満そうにごっちんはあたしを見た。
なにさ、その目は・・・。
あたしとごっちんは幼馴染で、家が隣で、家族同士も仲が良い。
もちろん幼稚園、小学校、中学、高校も同じで・・・なんかもう家族みたいな感じ。
中学から女子校だったから、恋愛話とかで盛り上がったことはそんなにないんだよね。
ただいっつも部活のこととかクラスのこと、家のこと。こういう他愛ない話をしてきた。
梨華ちゃんっていうのは中学校の時にうちの近くに引っ越してきた子で、大人しくてとっても女の子らしい。
そんでもって、中学の時にあたしと梨華ちゃんは付き合ってた。
- 8 名前: 投稿日:2004/12/08(水) 15:40
- 女子校っていうのもあってか、女の子同士で付き合うのは少なくなかったし・・・むしろ多かった。
特にあたしは、中学のころから女の子にはすっげーモテる。
もちろん高校に入ってからも「モテるあたし」は健在で、むしろ周りのファンの人とかは増える一方。
・・・みんな、ちょっと外に目を向ければ男の子なんていっぱいいるのに。
ちょっとサバサバしてて、ショートカットで、背がでっかくてスポーツマンだからって、どうかと思うよ。
まぁ、嬉しいっちゃ嬉しいけどね。
家の前で知らない後輩が待ち伏せしてた時とかはさすがに怖かったけど・・・・・・・。
梨華ちゃんとは1年半くらい付き合ってたのかな。
彼女がテニスのスポーツ推薦で別々の高校に受かった時に、別れた。・・・別れた?
いや、あれは・・・うーん、自然消滅みたいなもんだったのかな。
まぁそれはさておき、あたしが梨華ちゃんと付き合ってたことをごっちんは知ってるから、
さっきの”ふーん”っていうあたしの適当な返事が気に食わなかったのだろう。
じゃぁ何?「梨華ちゃんは昔から可愛いよ。久しぶりに会いたいな〜」なんて言えば満足したのかい。
とかひねくれたこと言ってみたりして。
- 9 名前: 投稿日:2004/12/08(水) 15:40
- 「あ。」
そんな昔話にひとりで浸っていると、テーブルに”あの人”が座った。
いつもと同じく、その人は市井さんという人と2人でおしゃべりを始めた。
あたしの目線はお弁当からパッとそっちに移った。そんで、すぐ目線をそらす。
ずっと見てたいけど・・・さすがに怪しまれそうだからね。
「カワイイなぁ・・・」
ボソッとつぶやく。ハァ、なんて呆れ顔でごっちんはため息をついた。
「その言葉、毎日毎日聞き飽きたって。」
・・・だって、カワイイんだもん。
あたしたちと同じテーブルの、あたしたちから程よく離れた位置に、その人と市井さんは座る。
そしていつもの唐揚げ定食に箸を運んでいた。
「よっすぃーさぁ、そんなに好きならアドレスぐらい聞けば?」
そんな軽く言わないでよ・・・そんなの絶対無理。
「メール交換するようになったからって、何も変わらないよ。」
なんれ?と彼女は聞き返す。口の中に大きな玉子焼きを入れてモゴモゴしながら。
「別に付き合うとかそんなのこと望んでないもん。ただ、見てたいだけ。」
・・・ふーん。あたしだったら即効アピールして仲良くなりたいって思うけどな。と、ごっちんは言う。
その積極的な考え、ご立派です。でも、あたしには無理。絶対無理。
そう思いながら、テーブルの下に見える”あの人”の上履きに書かれた名前を見る。
”矢口”
そう、彼女の名前は、矢口真里さん。うちらの1個先輩で、3年生。
顔と名前しか知らないんだけど・・・・。つまりは、えーっと・・・・
・・・あたしの、好きな人です。
- 10 名前: 投稿日:2004/12/08(水) 15:41
- 矢口先輩・・・って勝手に呼んでるけど、もちろん知り合いでも何でもない。
だからといって、こっちが彼女の何を知ってるかって、ホント名前と顔だけ。
もちろん相手にとったら、あたしは何百人っている生徒の中の一人。いや、それ以下の存在だと思う。
ごっちんはアドレスを聞けだとか、話しかけろだとかいっつも言うけど、そんなこと絶対ありえないと思う。
だって、あたし小心者だし。
「よっすぃー食うの遅い。」
「ごめん・・・」
矢口先輩ばっかり見てるからだよ。・・・ってごっちん、声が大きいって!
あたしはチラッと先輩を見るけど、幸い気づいてないようだった。
ホッと胸をなでる。ごっちんは反省の色全くナシ。
矢口先輩はいっつも同じ人と食堂に来てる。
それがさっき言った「市井先輩」って言う人で、この人がまたスッゲー有名人。
なんていったって、あたしと並ぶくらいモッテモテなのだ。
ショートカットで、背が高くて、スポーツマンで・・・なんだかあたしと被ってるでしょ?
あたしは市井先輩と「ツートップ」と呼ばれるくらい人気があるようで。
ただひとつ、あたしと市井先輩の違いは・・・・「タラシ」なところ。
もちろん、あたしじゃなくて、先輩がタラシでもっぱら有名なのだ。
- 11 名前: 投稿日:2004/12/08(水) 15:41
- これがまたウチの学校の生徒さんたちを真っ二つに分けることになる。
「市井先輩のタラシっぽいところが好きー」
「市井さんは告白して断る時もキスしてくれるから最高!」
「遊ばれてもイイから大好き!!」
とか。そんでもう片方はって言うと・・・
「よっすぃーの硬派で誠実なところがたまらないっ」
「吉澤先輩は告白されると困っちゃうところがカッコイイ!」
・・・とか、恥ずかしいからもうやめておこう。
とにかくこんな調子であたしと市井先輩は学校内でだいぶ有名だ。
かといって、お互い知り相手も何でもないんだけどね。
それでも、いいなぁ矢口先輩とあんな近くにいられるなんて。
- 12 名前: 投稿日:2004/12/08(水) 15:41
-
遡れば、去年の今頃。
当時二年生だった矢口先輩を見たのは、文化祭の前夜祭だった。
第一印象・・・も何も、矢口先輩が恋人とキスをしているのを見たことが始まりなんだよね。
騒がしい前夜祭のステージ周りから離れた中庭で、暗闇の中、ふたりっきりで・・・。
あたしはトイレに行こうとして偶然見たそのシーンが頭に焼きついていた。
あとで分かったけど、恋人の名前は”飯田圭織”という人だった。
ちなみにうちは女子校だから、女同士で付き合うとかっていうのは少なくないんだけどね。
何で飯田先輩の名前が分かったかって言うと、そん時生徒会長やってたからね。だいぶ有名。
そのあとも学校内でよく2人を見かけたけど、もちろんまだ先輩を好きになる理由はなかった。
矢口先輩はその時から、すごく可愛くて、ちっちゃくて、明るい髪の色が印象的。
対する飯田先輩は、長身のロングヘアー。しかも、メチャクチャ美人。
矢口先輩との凸凹カップルはみんなの中でも目立ちまくってたもん。
・・・ってなんか懐かしいなぁ。
- 13 名前: 投稿日:2004/12/08(水) 15:41
- そんなある日、あたしが忘れ物をして夕方学校に戻った日があった。
もう校舎内にはほとんど人はいなくて、ちょうど教室で忘れ物を取って帰ろうとしたときだった。
中庭のベンチに、泣いている矢口先輩がいたのを見た。
なんで泣いてるのか、そんなの分からなかった。でもひとりだったし、夕方だったし、何かあったのかなぁ、とは思ったけど。
あたしには知り合いでも何でもない人に声をかける勇気がなかった。
そのあと学校を出てから、後ろめたい気持ちでいっぱいで、あたしはもう一度学校に戻ろうと思った。
どうして話しかけなかったんだろうって。なんかよくわかんなかったけど、後悔ばっかり残ってて。
知り合いじゃなくても関係ないよ・・・だって、泣いてたんだよ?きっと、悲しいことがあったんだよ?
・・・でも、もう戻った時には中庭には誰もいなかった。
そのあと、学校内で矢口先輩と飯田先輩のカップルを見ることはなくなった。
矢口先輩はいつも通り笑顔で明るく生活してたみたいだけど、あたしの中であの泣いていた矢口先輩が忘れられなかった。
きっと、別れた直後とかだったんだろうな。それで、ひとりで泣いてたんだろうな。
それがどっちから別れたかなんて分からないけど、気持ちよく別れた感じではなかった。
あんなに明るい人が、泣いてる時に見せた小さい小さい背中。忘れるにも忘れられなかった。
いつの間にか矢口先輩をいつも目で追うようになってて、いつも見ていたいって思うようになって。
だんだん、好きになっていった。
- 14 名前: 投稿日:2004/12/08(水) 15:41
- 「――でさぁ、・・・・って聞いてる?よっすぃー。」
へ?とあたしは我に帰って顔を上げた。そこにはプゥっとほっぺを膨らましているごっちんがいた。
どうやらずっと聞き流ししていたみたいだ。ごめんね、ごっちん。とお弁当の玉子焼きを1個あげた。
「何考えてたの?」
ごっちんはまだ不満そうに聞いてくる。・・・うーん、何ってほどのもんでもないんだけど。
「いや、矢口先輩のことだけどさ。」
本人に聞こえないように一応小声でつぶやいた。
なーんだ、とごっちんはあたしのあげた玉子焼きを口に頬張った。
良く考えれば、誰から見てもあたしが矢口先輩と好きになった理由に納得いかないと思う。
だって、あたしでさえも良く分からないもん。
ただあの小さくて弱い背中を見たときから、印象が変わった。
言っちゃえば、守りたいとか、そういう気持ちあるかもしれないけど・・・そんな勇気ない。
あたしが彼女に気持ちを伝えることは、きっとこれから先もないと思う。
あたしは、とうていクリア出来ないゲームにチャレンジしているよーなもんだ。
- 15 名前:ゆら 投稿日:2004/12/08(水) 15:50
- 更新終了です
- 16 名前:やじ 投稿日:2004/12/08(水) 19:40
- 超おもしろいっす!!個人的によっすぃ〜かなり好きなんでやぐっちゃん
とうまくいってほしいです☆
- 17 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:21
-
「大体さぁ、ごっちんはどうなの?」
食堂を出たあと、あたしたちは大廊下を歩いていた。
どうって?と、すぐに言葉を返されるからちょっと困った。
ごっちんってあたしの話はよく聞きたがるけど、自分の話はあまりしないんだよね。
「・・・好きな人、いないの?」
遠慮しながら聞くと、ニコッとあたしの方を見て笑った。
「あたしの事はいーの♪ほら、授業遅れるよ!」
そう言ってあたしの後ろに回って背中を押しながら歩き出す。
「なんだよぅ、それ」
あんまり自分の話してくれないのはちょっと寂しいけど。あんま、しつこく聞いたら悪いとか思っちゃうし・・・。
とかいって、本当はごっちんのペースに流されちゃってるだけなんだけどね。
食堂で矢口先輩と同じテーブルに座るようになったのもごっちんに言われたからだし、
一緒に買い物行って、優柔不断なあたしを引っ張ってくれるのもごっちんなんだよね。
- 18 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:21
- 教室に戻ると途中、ひとりの女の子があたしに気づいて駆け寄ってきた。
フツーに初めて見る子。ってことは、やっぱいつものアレですか。
「吉澤先輩、あの・・・あたし1年の高橋愛って言いますっ。」
突然そう言って頭を深く下げた。あらら、いつものパターンだね。
正直、こういう知らない後輩に話しかけられることなんて日常茶飯事。
だいたい、手紙を渡されるか、その場で告られるか、っていうのが多いんだけどね。
あたし。こういうのスゲー苦手・・・
「高橋さんね。初めまして。」
そう言ってあたしはニコッと笑った。
先行ってるよ〜、と言ってごっちんはスタスタ歩いていった。これもいつものパターン。
廊下のど真ん中であたしが後輩といるから、生徒の目線は結構釘付けだった。
「誰、あの子?!よっすぃーの何なの?!」とか言ってる子もいっぱいいる・・・。
アンタがあたしの何なのって話だけどね・・・。
でもありがとう、みんな。あたしはみんなの物だよ。とか言って・・・
こういう雰囲気が苦手なんだよ。恥ずかしいし、人に注目されるのも好きじゃない。
「これ、読んでください・・・。」
そう言って一枚の白い封筒を差し出した。キレイな字で”吉澤先輩へ”と書いてある。
「ありがとう。あとで読ませてもらうね。」
そう言うと、パァーッと彼女の顔は明るくなった。
メッチャ嬉しそー・・・。っていうか、この子結構カワイイ・・・。
・・・いやいや。そういう問題じゃない。初対面だっつーの。
「で、ではっ!」
そう言って階段のほうに走っていってしまった。
うーん・・・あんなカワイイ子うちの学校にいたんだね。矢口先輩には、まけるけど・・・。
手に取った封筒をブレザーのポケットにしまった時、チャイムが鳴った。
「やべっ」
少し駆け足であたしも教室に戻った。
- 19 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:21
-
授業が始まって、あたしはさっきの手紙をこっそり開けた。
なになに、突然ですが今日の放課後・・・――――
「中庭に来て下さい。」
へ?!
隣からごっちんが手紙を覗いて読み上げていた。
「うわ!ちょっと、声大きいよ!っていうかなんで勝手に読んでるの!」
あたしは小声ながら必死に怒った。けど、結局ごっちんには敵わない。
「さっきの子にもらったの?」
「そうだよ・・・」
ごっちんはニタニタしながらあたしの背中を二回叩いた。
ペシ、ペシって。
「放課後中庭って、めっちゃ告白じゃん。」
ごっちんは黒板のノートを写しながらそう言った。
そんなの、あたしだってわかってるもん。
告白された時の対応ってのが、また面倒くさい。・・・いや、面倒くさいってのは相手に悪いよね。
スパッと断るのも苦手。かわいそうだから。
かと言って、曖昧な答えは逆に失礼だと思うし。
「市井先輩って、告白された子にキスしてあげるらしいよ。」
ごっちんは呆れたように言った。
この情報はうちの学園内、ほとんどの人が知ってると思う。
きっと軽いんだろうな、市井先輩って。
- 20 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:21
- 「あたしもそうしよっかなぁ。」
「はっ?!」
ごっちんは驚いた顔であたしを見る。
けど笑ってるあたしを見て、怒ったようにため息をついた。
「冗談やめてよー。」
「アハハ、無理に決まってるじゃん、あたしに出来ると思う?そういうこと。」
ごっちんはぶんぶんっと首を横に振る。
彼女の長い髪が左右に揺れて、それを右手で直していた。
ふと想像してみる。
あたしが女の子に告白されて・・・キスする光景。
『ごめんね。これで許してね。』
とか言ってみたりね・・
所詮、そんなの想像までの話なんだけど。
あたしは古い考えなのか分からないけど、
せっかくあたしを想ってくれる女の子に対して、軽く接したくないんだよね。
市井先輩の人柄についてあたしは知らないけれど・・・
ひとつだけ。
矢口先輩はどうしてそんな軽い人と一緒にいるんだろう。
それがちょっと疑問だった。
- 21 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:22
- 放課後HRが終わると、ごっちんは荷物を持って席を立った。
「じゃぁよっすぃー。ごとー先に帰ってるね。」
「うん。ごめんね。」
うちらは毎日一緒に登校して、一緒に帰ってる。
なんて言ったって家が隣だからね・・・。
彼女は手を振りながら、”がんばれ”なんて口パクで言う。
ありがとうって言葉はないものの、あたしは笑って手を振った。
「「よっすぃーバイバ〜イ!」」
クラスの友達にも手を振って、教室にはあたし一人になった。
さてと、そろそろ中庭に行かなきゃ。
ポケットから手紙を出して、もう一度見る。
・・・字、キレイだなぁ。っていうか高橋さん、すごい可愛かったなぁ。あんまよく見てないけど・・・。
一年生にあんな子いたんだね。
教室の電気を消して、ドアを閉めた。
階段の窓から吹く、残暑の少し暑い風。
この暑さが和らぐ頃、文化祭の季節だなぁ・・・。
ふと去年の文化祭を思い出す。そう、矢口先輩のキスシーンを。
・・・そして、その数日後のあの小さな背中を。
一歩立ち止まって、すぐにまた歩き出した。
少し、足早に。
- 22 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:22
- 中庭に出ると、日陰が涼しくて気持ちがいい。
まだ高橋さんは来てないみたい。
緑の葉をつけた桜の幹にもたれかかった。
矢口先輩がキスしていたのも、この桜の木の下だったな・・・。
まだその時あたしは、先輩のことなんとも思ってなかったんだよね。
なんだか不思議。今はそのことばかり考えちゃうのに。
「吉澤先輩、待たせてごめんなさい!」
少し低い声にあたしは振り向いた。
けど、すぐに言葉を失った。
「え・・・?」
だって、そこに立っていたのは高橋さんじゃなかったから。
なんと声の主は、”市井先輩”だった。
え、からかわれた?
「な・・・何のマネですか。」
あたしは嫌そうにそう言った。
っていうか、知り合いじゃないんですけど。
「まぁまぁ怒るなって♪放課後中庭にいるってことは・・・女の子に呼び出されたの?」
ニヤニヤしながらあたしに近づいてきた。
話したこともない人によく気安く話できるよね・・・
「関係ないじゃないですか。」
なんなの?この人。なんでいきなり話し掛けてきて・・・
「モテモテだなぁー。さすが、あたしとツートップって言われてるだけあるな!ウンウン。」
ひとりで喋りながら納得したように笑っていた。
確かにあたしと市井先輩は学園内のツートップって言われてるけど、勝手に言われてるだけで・・・
あたしとこの人は全く関わりもないんですけど。
- 23 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:22
- 「市井先輩こそ、何してるんですか。わざわざあたしのこと、からかいに来たんですか?」
ムスッとしてそう言うと、彼女はアハハッと大声で笑った。
バカにされたようでムカついた・・・けど、この人―――
マジでキレイな顔してる。
笑っても、普通にしてても超美形だ。あたしから見ても、カッコイイ。
「ん?なんだ、何見惚れてんだよ。」
・・・は?!
あたしはブンブンッと首を横に振った。さっきのごっちんみたいに。
「違いますよ!!」
「あっ!」
必死に否定したあたしを無視して、歩き出した。
その先には女の子がひとり。・・・高橋さんではないみたい。
「吉澤。あたしもアンタと同じ。モテる女はツライねぇ〜!」
そう言ってウインクをして、市井先輩は走ってその子の所に行ってしまった。
なんでもアリだな、この人って。
軽そうなイメージは何も変わらないけど・・・この人がモテる理由はひしひしと分かった。
市井先輩はさっきの女の子と向こうで何か話していた。
遠くてよく見えない・・・。
けど、多分告白されてるんだろうなぁ。
- 24 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:22
-
「吉澤先輩っ。」
向こうを見つめていると、いつの間にか高橋さんが目の前に居た。
「あっ、ごめん。ボーッとしてた。」
嘘だけどね。市井先輩たちを見てたなんて言いたくない。
「さっきは、手紙ありがとね。」
あたしはニコッと笑ってポケットから手紙をチラッと見せた。
「いえ、こちらこそ来てくれてありがとうございます。」
丁寧にペコッと頭を下げてくれた。
なんか、今まで告白してきた子にはいないパターンだな・・・。
少し沈黙があって、彼女は口をパクパクしながら言葉を捜していた。
はは、かわいー。
ついつい微笑んでしまった。
「え、な・・・なんかおかしかったですか?」
高橋さんは本気でそう言う。
それがまたウケる・・・っていうか可愛い。
「はは、ごめんね。なんか可愛かったから。」
その言葉に、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
・・・ありゃ、なんか悪いこと言っちゃった?
っていうかあたし呼び出されたんだよね?・・・まだ、告白されてないぞ。
なんかいつもと違うパターンだから新鮮だった。
「あのぉ・・・・」
下を向いたままボソッと話し始めた。
あたしも手を後ろに組んでしっかり聞く体勢・・・だったけど・・・
- 25 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:22
-
フッと市井先輩たちの方を見ると、女の子の方が去っていくところだった。
もう断ったのかな?
きっと、あの人のことだから言葉を上手く使って納得させたんだろうな。
ん?あれ?市井先輩が女の子追いかけてる・・?
・・・ナンデ?
「・・・――です。」
フッと高橋さんの声に目線を戻した。
おっと。話の途中だったんだよね。ごめんね。
「・・・好きです。吉澤先輩のこと。入学してから・・・ずっと。」
ストレートな言葉に、あたしも少し下を向いた。
どーしよう。どうやって、断るか・・・。
好きな人がいる?・・・いや、これは色々あとで大変そうだし。
勉強が忙しいからとか?・・・うーん、ベタだなぁ。
っていうか・・・その前に。
高橋さん、ごめん。
あたし市井先輩たちのやり取りが気になってるんですけど・・・
ええいっ!ちょっと見ちゃえ!!
あたしは、チラッともう一度向こうを見た。
すると、案の定・・・。
市井先輩は女の子の肩に手を乗せ、キスしていた。
・・あの話、やっぱ本当だったんだ・・・
「吉澤先輩・・・?」
「へ?!」
彼女もあたしの目線に気づいて、市井先輩たちの方を見た。
わわっ・・・見ないほうが・・・
- 26 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:22
-
高橋さんは2人を見た瞬間、顔を赤くして固まった。
あらー・・・見ちゃったか。
ってか、反応が純粋で可愛いッス。
・・・じゃなくて。
「あのー・・・高橋さん。」
固まってた彼女も、すぐにこっちを向いた。
あたしはまっすぐ、彼女の目を見た。
・・・よしっ。
「ごめんっ!付き合うってのは、できない・・・。」
あたしの言葉に、高橋さんは下を向いてしまった。
ごめんね。でも、許して・・・。
「理由・・・一応聞きたいです。」
ちょっと泣き声っぽい響きがそう言った。切なぃ・・。
理由か・・・。どうしよう。
こんな時市井先輩だったら、”あたしはみんなの物だから”とか言うんだろうな。
そんな台詞、到底言えない。
「・・・今は誰とも付き合う気はないんだ。」
ごめんね?と付け加えて、彼女の顔を覗いた。
ポトッと涙が一粒落ちるのを見た。
・・・泣いてる?マジ?
すんごい罪悪感感じるんだよね、こういうの。
- 27 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:23
-
たまに告白してきた女の子で、こういう風に泣いちゃうこもいる。
でも高橋さんの場合、自分が一瞬でも可愛いと思った子だから・・・なんかすごくイケナイコトをしたみたい。
「先輩、あたしにはもうチャンスないですか・・・?」
切なげな声でそう言った。
こめかみを掻きながら、右足で地面の砂を一往復擦った。
”チャンス”って言っても、あたしが彼女を好きになる保障はない。
・・・可愛いとは、思うけどね。
「そんなことないよ。でも、あたしがいつ高橋さんの気持ちに答えられるかって言ったら、分からないんだ。」
中途半端なこと言って、長い間待たせるようなことも言えない。
変な期待を持たせるようなこと言ったら、可哀想だし・・・。
はぁ・・・あたしってなんでこんな小心者なんだろう。
「そうですよね・・・。わかりました。」
袖で涙を拭って、彼女はペコッと深くお辞儀した。
ここで何か、かける言葉があるはずなのに。
あたしには出来なかった。
そのまま走っていく彼女を見て、あたしは髪の毛をクシャッとした。
「はぁ・・・。なんだかなぁ。」
- 28 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:23
-
中庭にはもう市井先輩たちも誰もいなかった。
あたしは荷物を持って正門に向かっていた。
あたし、このままだったら誰とも付き合わないのかなぁ。
なんて思ってしまう。
だってそうでしょ?
誰だったら付き合うんだろう?あたしって。
誰だって自分が好きになった人と、付き合いたいハズ。
あたしも、そうだし・・・。
(仮定)矢口先輩に告白なんかされたら⇒喜んで付き合っちゃう!
(現実)告白なんてされるわけはない。
はぁ・・・。
(仮定2)矢口先輩に告白する⇒もしかしたら・・・?
(現実)そんな勇気はない。
はぁ〜〜〜〜・・・。
何自分で自分を落ち込ませようとしてるんだ・・・。バカバカっ!
- 29 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:23
-
―――例えば、あたしがさっきの高橋さんと付き合ったとする。
そのあと、何かしらの原因で、別れないとも言えないでしょ?
・・・例えば別れる時に、彼女も、つらい思いすると思う。
そうしたら、可哀想じゃん。
―――例えば、あたしが矢口先輩に告白したとする。
そのあと、フラれたとする。つらい思いすると思う。
そうしたら、あたし可哀想じゃん。
結局、自分が傷つくのが怖い。
誰かを傷つけるのが怖い。
・・・自分が可愛いんだよ、あたしは。
- 30 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:23
-
「お、吉澤じゃーん!」
正門のところで、ヤツに出くわした。
まだ帰ってなかったんかい・・・。はぁ、会いたくない人に会うってこういうことなんだね。
「さよーなら。」
スタスタ歩いていこうとすると、ガシッと腕を掴まれた。
「まぁまぁ、待ちたまえ♪」
・・・は?意味がワカラナイんですけど。
さっきもいきなり高橋さんのフリしてからかってきたり、
今度は正門で待ち伏せ?!・・・何なの。
あたしは腕を振り払って、乱れた服を直した。
「市井先輩、さっきあたしとツートップがどーたらこーたらって言ってましたよね?」
うん?言ったよ♪なんて軽く返される。
「一緒にしないでください、あなたと。」
笑ってた顔が、少し曇ったような目であたしを見た。
でも、すぐに笑顔に戻る。・・・なんだそりゃ。
何も言ってこないから、あたしは市井先輩の前を通り過ぎた。
・・その時。
「矢口のこと、好きなんでしょ?」
- 31 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:23
-
・・・・。
「・・・え?」
思わず振り向いてもう顔を見る。やっぱり、笑っていた。
でもその笑顔が怖くなった。
なんであたしが矢口先輩を好きだってこと・・・
「なんとなく。前からそーかなって思ってたんだよね。」
何で?なんてまだ聞いてないのに、先に答えられた。
しかも前からって?どういう意味?
バレバレだったってこと?
市井先輩はアハハッと笑った。
あたしも、ムッとした顔で見返す。
「大丈夫。矢口は気づいてないよ。」
「え?」
思わぬ言葉に驚いた。
っていうか、ホッとした。
「このこと、矢口にバラさないとは言ってないけどね♪」
またあの笑顔でそう言った。
・・・どういう意味ッスか、それ・・・。
この人、あたしが思っているよりずっとずっとずーっと、タチ悪い。
返す言葉がなかった。
この人に頭を下げたくないし。
下げたとしても、結局矢口先輩にバラされそうだし。
この人なら、そーゆーことだってやりかねない。
「条件、その1っ!」
- 32 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:24
-
右での人差し指をあげて、市井先輩は叫んだ。
今度はどんなバカなことを言い出すんだ・・・。
そんなの付き合ってる気分じゃなくて
矢口先輩にバラされるって分かって、まさに穴があったら入りたいって気分なんですけど。
「あたしが矢口に黙っててあげる代わりに・・・」
代わり?
何、金か?それとも名誉かー!!
・・ってなんであたしが壊れてるんだか。
「協力して♪」
「・・・は?何をですか。」
「ふふっ・・・もちろん、恋のキューピットだよ〜!」
そう言ってあたしの顔色を伺うように目をパチパチした。
今はどんな顔で見られても、何かを企んでるようにしか思えない。
「なんであたしが・・・」
キューピットだなんてキャラでもない。
っていうか、市井先輩と誰かをくっつけるなんて。
面倒くさい。
そんなことしなくても、誰でも付き合えるんじゃ・・・。
「後藤真希チャン。吉澤の友達でしょ?」
・・・へ?
「ごっちん・・・?」
市井先輩の好きな人が・・・?
いや、たしかにごっちんは可愛い。でも・・・
- 33 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:24
-
「そう!好きになっちゃった。あの子、マジで好みなんだよね♪」
市井先輩はごっちんの性格、分かってんのかな?
あたしといる時はどっちかっていうとしっかりしてる役だけど
客観的に見たら、ありゃ思いっきり不思議オーラ爆発してる。
「無理だと思います。ごっちんを扱うのは・・・。」
キッパリそう言った。
えーなんでーとダダをこねて、困った顔をしていた。
しまいには、”Wカップル誕生ってことで!!”とか言い出した。
Wって、あたしと矢口先輩も入ってるんですか?
「・・・ごっちん、あんまり市井先輩のことよく思ってないみたいなんで。」
そう言うと、市井先輩は少し考えているのか、黙りだした。
この人、ひとつひとつが思いつきだな。
マシンガントークのあとはいきなり黙っちゃうんかい。
しばらくして、パッと笑顔であたしを見た。
「うん、やっぱ恋愛にはハードルがないとつまんないからね!」
納得してあたしの肩をポンポンッと叩いた。
ハードル、だいぶ高いと思いますけど。
「そうっスか。まぁ、矢口先輩に黙ってくれるなら協力しますよ。」
「マジで?!」
やったー!とか言いながらバシバシ背中を叩いてくる。
こういうところは、やたらごっちんを似てる。
あたしは、多分無理だと思いますけどね。と最後に付け加えた。
- 34 名前: 投稿日:2005/01/07(金) 18:24
-
携帯番号とアドレスを交換して、その場は解散した。
っていうか思ったんですけど、条件その1って・・・1までしかないじゃん。
・・・なんだか、ややこしくなってきたなぁ。
でも、主人公吉澤ひとみの”とうていクリアできないゲーム”は・・・
どうやら少し光が見えてきたようだった。
- 35 名前:ゆら 投稿日:2005/01/07(金) 18:27
- >やじ様
レスありがとうございます!!^^やったー!w
私もよっすぃ〜大好きです!そんで、やぐっちゃんも♪
更新遅いですが、頑張りますので応援よろしくお願いします!
- 36 名前:ゆら 投稿日:2005/01/07(金) 18:27
- 更新終了です!!
- 37 名前:ローワン 投稿日:2005/01/10(月) 10:30
- 初めまして、ローワンと言います!
最近一気に読ませていただきました!すごく面白いです!
自分やぐよしもいちごまも大好きなんで(^^)
応援してます!頑張って下さい!
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/16(日) 09:44
- 初めて読ませていただきました
いちごま、よしやぐ共に気になります
頑張って下さい
- 39 名前: 投稿日:2005/01/17(月) 23:51
- なんであんなゲームみたいな約束、しちゃったんだろう・・・。
後悔したのは、次の日だった。
いつものように家の前でごっちんと待ち合わせして、歩き出す。
残暑と言っても、朝はまだ涼しくて気持ちが良かった。
「なーに暗い顔してんのよ。」
へこたれたあたしに、ごっちんはフッと笑った。
ごっちんのこの笑い方、結構好きなんだよね。
「んー・・・昨日色々あってね。」
苦笑いでそう言うあたしに、ごっちんは不満そうだった。
あまりにもあたしが不審な答え方をするから・・・。
「色々って?高橋さんに告白されたんじゃないの?」
うーん、そのことじゃないんだけどね・・・。
市井さんにあんな条件突き付けられたなんて、絶対言えない。
市井さんの好きな人がごっちんだなんて・・・・
言えない言えない言えないっっ!!
頭をかかえたあたしを見て何をカンチガイしたのか、ごっちんは言う。
「あ、まさか高橋さんのこと好きになっちゃった?」
からかうようにあたしの頬をつっつく。
なんだこの付き合いたてのカップルみたいな・・・。
「そんなわけないでしょーが。興味ゼロ。」
ほんとー?とか言いながら彼女は笑う。
本当のあたしの悩みの種は、市井紗耶香だなんて・・・はぁ・・・。
ちなみに、ごっちんに嘘付くのは初めてだった。
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/17(月) 23:51
-
蝉の声もだいぶ少なくなって、夜は少し寒いくらいだ。
でも今みたいな真昼間、マジ・・・死にます。暑い。
今日も午前の授業をなんとかクリアして、待ち遠しいチャイムが鳴る。
でも今日はちょっと違う気持ちで聞いていた。
「よっすぃー。学食いこ?」
うん、と返事をして席を立ち上がった。
ところで最近、ごっちんの不思議キャラを見なくなった気がする。
いつからだろう?・・・わかんないけど。
なんか無口ぽくなったってゆーか、クールなんだよね・・・妙に。
「悩みでもあんの?ごっちん。」
なんとなくの気持ちで聞いてみた。
まぁ、元々あんまり喋る子じゃないけど・・・。
「そりゃ人並みに悩みくらいあるよ〜。」
本当になんでいきなり?というような顔で彼女は笑う。
いつも通りだから、それ以上は何も聞かなかった。
あたしの単なる気のせいかもしれないし。
正直、あまりごっちんの考えてることはわからないし・・・。
学食に入るなり、いつものテーブルにあの人達がいた。
市井先輩と、矢口先輩だ。
いつも目線が行くのは矢口先輩だけど、今日は嫌でも市井先輩を見てしまう。
「今日早くない?うちらより先にいるなんて。」
ごっちんは小声であたしにそう言った。
でもそんな言葉、右から左にスーッと抜けていた。
市井先輩はあたしに気づくと、ニヤ〜〜〜〜ッと嫌らしく笑った。
・・・その笑顔、すっげぇ怖いんですけど・・・。
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/17(月) 23:51
-
何も言わずにいつも通りテーブルに座る。
西日がちょうど矢口先輩の手元を照らすように指していた。
綺麗に塗られたマニキュアは、薄いピンク色だった。
今まではこうして矢口先輩のことしか見なかったのに、あたしは市井先輩のこともチラチラと見ていた。
本人がどーとかじゃなくて、矢口先輩とのやりとりが気になったからだ。
元はといえば、どうして矢口先輩がこんなチャラチャラした人と一緒にいるのかも分からない。
あたしが市井先輩をチラッと見ると、またニコッと笑ってきた。
「よっ♪」
右手をピースにしてあたしに向ける。
ちょうど角度的に、指と指の間から矢口先輩の顔が見えて、そっちの方が気になった。
・・・はぁ、今日も可愛いですね。なんて。
あたしは市井先輩にペコッと軽くお辞儀をして座った。
それ以上どんな仕草したかは知らないけど、あたしは目線を外していた。
「知り合いだったの?」
ごっちんがそう聞いてきた。
あたしは”気にしないで”と小声で言ってお弁当のフタを開ける。
不満そうにしながらも、ごっちんもお弁当を開けた。
・・・知り合いというか何というかねぇ・・・
テーブルの向かい側でも同じように、矢口先輩が不思議そうにしていた。
「紗耶香、知り合いなの?」
瞬きをパチパチしながら、少し見上げるように市井先輩を見る。
全然関係ないけど、あんなに近くで矢口先輩に見られたら、あたし多分耐えられんな。
たぶん矢口先輩はあたしのこと知らないんだろうけど、
それでも今ここであたしの話題がおきているだけで幸せだったりして。
「昨日友達になったんだよ。な、吉澤♪」
「のぇ?!」
突然話しかけられたことにビックリして、思わず言葉になってない言葉が出てしまった。
いきなり話振られても困りますってば。
むしろ、いきなりじゃなくても話しかけないで欲しい。
「のぇ?!じゃねーよ!面白いな、お前。」
市井先輩はそう言いながらケタケタっと笑っていた。
脳天気なこの人に、あたしはそれでも合わせて笑った。
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/17(月) 23:52
-
なんか、全部が市井先輩ペースで進んでいる気がする。
むしろこのまま流されれば、この人みたいなキャラになってしまいそうだった。
予想以上にタチの悪いことは、昨日充分わかった。
でも・・・たぶん、心底悪い人ではないんだろーな。
根拠はないけど。
あたしのお弁当が半分空になった頃、市井先輩は早速行動にでていた。
ふとこっちを見たかと思えば、目線はごっちんのことを見ていた。
目が合った瞬間に、タイミングよくニコッと・・・。
「いつも吉澤と一緒にいるよねー?可愛いなって思ってたんだ。」
テーブルに肘をついて、その手に顔を乗せてそう言った。
ジゴロポーズ?っていうか、無駄だと思うんですけど。
これは長年ごっちんと過ごしてるあたしからの最良のアドバイスですよ。
「・・・ふーん。」
ごっちんはいつもよりも低いドスの利いた声でそう言った。
もちろん、コメントは以上。それ以外の言葉は、ごっちんから発せられることはなかった。
市井先輩も、予想以上の手強さに少し言葉を失っている。
フッ・・・少しは市井先輩もプライドが傷ついたかな。なんて。
他の女の子とは違うごっちんの反応に困っている市井先輩。
隣には、それを見てクスクス笑う矢口先輩。
あぁやってあたしも、矢口先輩の笑顔をもっと近くで見てみたい。
一度でいいから、一緒に話がしてみたい。
あたしはそう思っていた。
「よっすぃー、次教室移動だよ。行こう?」
ごっちんの言葉に、ハッと顔をあげた。
やばいやばい、ボーッとしてた・・・。
席をたつと、ごっちんは市井先輩のことをちょっと冷たい目で見ていた。
・・・そりゃそうだ。あんな軽く話しかけられたらフツーは引くわ。
ただでさえごっちんは市井先輩のこと嫌いなのに。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/17(月) 23:52
-
席を立った時、突然・・・矢口先輩と目が合った。
「?!」
あたしは一瞬ドキッとして、目を離せなかった。あたしの目線に気づかれちゃったのかな・・・?
癖なのか何なのか、あたしはいつもスキを見ては矢口先輩を見ているから。
黒目がちの丸い目に、吸い込まれちゃいそうでしょうがなかった。
「・・・。」
ビックリしているあたしに対して、矢口先輩はただ、ニコッと笑った。
それは、初めて会った気がしないくらい、自然に。
その瞬間全身にボワッと熱が帯びていくのがわかった。
ヤバイ・・・。
あたしは、自分の赤らんだ顔を見られたくなくて
必死の冷静さで軽く会釈をして、顔を背けてしまった。
そこから、どうやって食堂を出たのかは思えていない。
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/17(月) 23:52
-
「ちょっとよっすぃー?!」
食堂を出た後の大廊下で、あたしは立ち止まった。
気がついたら、ごっちんより10メートル程先を歩いてきていた。
・・・やばい、ときめきすぎて周りが見えてなかった。
あたしは振り返って、ごっちんを見た。
あきらかに、ニヤけてるあたし。
「・・・ねぇ、どーしよう!」
まだ耳が熱いのが自分でもよーくわかった。
ごっちんはクスクス笑いながらこっちに歩いてきた。
「ベタ惚れだねぇ〜。ほんと。」
そう言ってあたしの頭をよしよし、と撫でる。
「笑ってくれたよね?!あれって、あたしに・・・だよね?」
事実を確かめるように、ごっちんに言う。
うんうん、と大きく頷いてくれた。・・・ホッ。
この気持ち、自分だけで留めておきたくなかった。
言葉は交わさなかったものの、あの笑顔はレアモノだと思う。
ヤバイね、あれは。
よかったじゃん、とごっちんは言ってくれた。
そのまま言葉少ないあたしの手を引いて教室まで連れて行ってくれた。
ほんと、ありがとー。こういうとき、友達っていいなって思ったりして。
- 45 名前: 投稿日:2005/01/17(月) 23:52
- 矢口先輩が見せたあの笑顔は、多分市井先輩のような軽い意味の笑顔じゃなくて、
純粋に優しくて、無意識に人を和ませるようなそんな笑顔だった。
・・・青い空を見上げる。
なんともない雲の筋が、こんなにも綺麗に見える。
他愛ない話をしながら、あたしはごっちんは帰り道を歩いていた。
「明日、矢口先輩に挨拶とかしていいのかな?」
さっきからそんな質問ばっかりしてる気がする。
ごっちんは呆れたようにため息をついて、さっきから同じ答えを答え続ける。
「いいんじゃない?頑張れ〜。」
それを聞くたび、だよね?!だよね?!と、あたしがはしゃぐ。
本当にさっきからこの繰り返し。
興奮冷めやらぬって、こういうこと言うのね。
・・・その日、あたしはすぐに寝床に付いた。
そして夢を見た。
あたしに向かって、矢口先輩が手を振って歩いてくる。
嬉しそうに笑って・・・。
――――――
え、矢口先輩・・・?
マジ?え、今あたしに手振ってる??
『よっすぃ〜♪』
っていうか”よっすぃー”って・・・え?!
はてなマークが頭にいっぱい浮かんだあたしを見て、
矢口先輩はキャハハッと笑った。
今は笑われても全然嫌じゃなかった。むしろ、嬉しいッス。
『やったじゃん、よっすぃー。』
ごっちんが小声で言って肘をツンツンとつついてきた。
はは・・・幸せ・・・。
目がクリクリしてて、顔ちっちゃくて、とりあえず可愛い・・・。
・・・
――――――
目が覚めた瞬間、夢は夢で終わったんだけどね・・・。
いつか本当にこうなったらいいのに。
あたしはそう思っていた。
- 46 名前: 投稿日:2005/01/18(火) 00:15
- 朝はまだ肌寒い。
長袖のワイシャツが、追い風に膨らんで揺れる。
今日もいつも通りごっちんと家の前で待ち合わせていた。
「おまたせぇ。」
珍しくポニーテール姿のごっちんが家から出てくる。
おぉ、うなじがセクシーじゃないっすか。
「・・・よっすぃ〜、何ボーッとしてんの。」
鋭いツッコミに、ハッと気を取り戻した。
角を曲がってすぐの坂道を、大股で歩いた。
昨日の夢の話とかしたりして、軽く盛り上がる。
というか、あたしがひとりで舞い上がってるんだけど。
ごっちんはあたしの嬉しそうな顔を見て、フッと笑っていた。
バカにしてるわけじゃなくて、優しく。お姉ちゃんみたいに。
「あ、たまにはごっちんの話も聞きたい!」
突如思いついたようにあたしは言った。
昨日の市井先輩のことも多少気になってたし・・・。
といっても、興味がナイっていうのは分かってるんだけどね。
「何、あたしの話って?」
もちろん市井先輩のだよ、とあたしが言うと、少し不機嫌な感じで口を尖らせていた。
「あたしは興味ナイから。あーゆー軽い人好きじゃない。」
答えは分かってたけど、ちょっと本気で不機嫌そうだ。
聞かないほうが、よかったかな・・・・?
ごっちんはそれだけ言うと、あたしより少し前を歩いた。
「待って。ごめんね?」
「なんでよっすぃーが謝るのよ?」
・・・。
- 47 名前: 投稿日:2005/01/18(火) 00:15
-
だって、あたしが市井先輩に協力してるんだもん。
ごっちんには結構迷惑なことしちゃってるよね、あたし・・・。
「ううん、なんでもないっ。」
何じゃそりゃ。とごっちんはまた笑って歩幅を合わせてくれた。
市井先輩が、あたしの矢口先輩への気持ちをバラさない代わりに
あたしが、市井先輩とごっちんの愛のキューピット役をやってる。
でも損してるっていうか迷惑してんのはごっちんだよね。よく考えたら。
・・・でも今は心の中でだけ謝らせて。・・・ごめんね。
「あ、あれ梨華ちゃんじゃない?」
「え?」
突然ごっちんは坂の上を指差して立ち止まった。
向こうからは、違う制服の女の子が歩いてくるのが見えた。
・・・梨華ちゃん?
徐々に近づいてきて、やっとそれが本当に梨華ちゃんだということが分かる。
「・・・あれ?ひとみちゃん・・・それにごっちん?!」
彼女も気づいたのかこっちに向かってダッシュしてきた。
走り方とか、なんか昔と変わってないなぁ・・・。
っていうか、なんでこんな時間にいるんだ?
目の前まできて初めて、梨華ちゃん少し大人っぽくなったって思った。
髪も長くなって、背も伸びた?
「梨華ちゃん!こんな時間にどうしたの?!」
ごっちんはそう言って彼女の肩を掴んで嬉しそうにピョンピョン跳ねていた。
そっか、この2人はこないだ会ったんだっけ。
「今日は朝練のあと午後から登校なの。だから1回帰ろうかなって。」
2人でキャッキャして盛り上がってる。
あたしにとっては、梨華ちゃんとの再会は2年ぶりだった。
あまりにも、長すぎたのか・・・声が出ない。
「・・・あ、久しぶり。」
思わずすっごい低い声で話しかけてしまった。
- 48 名前: 投稿日:2005/01/18(火) 00:15
-
「ひとみちゃん・・・・またカッコよくなったね。」
率直にそんなこと言われて、あたしはとても戸惑った。
梨華ちゃんこそ、すごく綺麗になったよ。
・・・そのひと言が、言えなかった。
「そんなことないよ・・・。」
異様な雰囲気が漂っていた。
一応、あたしたち『元恋人』だからね・・・。
ごっちんは交互にあたしたちの顔を見ていた。
あきらかに気まずいモードもわもわ出てるからね。
ごめんね。
「あ、よ・・・よっすぃー、遅刻しちゃうからそろそろ行こっか!」
そう言って走るフリとかして場を和ませてくれた。
あたしも、軽く返事をして梨華ちゃんのほうをもう一度見た。
「じゃぁ・・・またね。」
彼女は頷いただけだったけど、あたしはそれをあんまり見ていなかった。
というか、見れなかった。
あまりにも・・・キレーだったから。
- 49 名前:ゆら 投稿日:2005/01/18(火) 00:20
- 更新終了です!
リク受け付けます!
>ローワンさん
初めまして!やぐよし・いちごま推しの人がいるのは嬉しいです^^
これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!!
>名無飼育さん
ありがとうございます^^
気になる展開、期待ハズレにならないように頑張ってきます!
- 50 名前:ローワン 投稿日:2005/01/18(火) 22:11
- お疲れさまです。いや〜昔から大好きなんですよね〜その2つは(笑)
ビッッミョーーーーーな関係ですねぇ(笑)、先が気になります。
頑張って下さい!
- 51 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/29(土) 14:14
- うあーすっごい気になりますね。
よっすぃーは一体どちらを選ぶのか。
更新待ってます。
- 52 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:53
-
「梨華ちゃん可愛かったね。」
「うん、そうだね〜。」
「よっすぃ、また好きになっちゃいそうだった?」
「あはは、なんでよ?」
絶対今あたし、目が笑ってないと思う。
ごっちんを見ずに、ひたすら上向き加減で前を向いていた。
無意識に早歩きになっているのは自分でもわかってる。
だってさ、梨華ちゃん・・・あんなに綺麗になってると思わなかった。
最近の女の子って、2年も経っただけであんなり変わるもんなのかね。
そう思うと、あたしって成長してないよなぁ・・・。
「そうだよね、よっすぃーは矢口先輩一筋だもんね?」
- 53 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:53
-
「梨華ちゃん可愛かったね。」
「うん、そうだね〜。」
「よっすぃ、また好きになっちゃいそうだった?」
「あはは、なんでよ?」
絶対今あたし、目が笑ってないと思う。
ごっちんを見ずに、ひたすら上向き加減で前を向いていた。
無意識に早歩きになっているのは自分でもわかってる。
だってさ、梨華ちゃん・・・あんなに綺麗になってると思わなかった。
最近の女の子って、2年も経っただけであんなり変わるもんなのかね。
そう思うと、あたしって成長してないよなぁ・・・。
「そうだよね、よっすぃーは矢口先輩一筋だもんね?」
- 54 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:53
-
ごっちんはにへっと笑ってそう言った。
それとちょうど同時ぐらいに、あたしはやっとごっちんの目を見て笑っていた。
「そーそー。そういうことだよ。」
さっき梨華ちゃんと会うまでの変な空気はもうなかった。
うちら、いつもそーだもんね?ケンカしても超高速仲直りが基本ッスから。
ちなみにうちらの家から学校までは、歩いてちょうど20分ぐらいで、
チャリンコで行ったほうが楽なのかもしれないけど、一度もそれはしたことがないんだよね。
特に中学入ったときはお互い部活とかで帰る時間も違ってて、こういう朝しか話せる時がなかったから。
10年間ずっと変わらない道を、同じ人と変わらず歩く。
この道でごっちんとは、いくつもの季節を一緒に見てきたんだよね。
虫が大嫌いなごっちん。夏になると、あたしは虫取り係みたいな感じで・・・
もちろん、今年もそうだったんだけどね。
なんか、久しぶりに梨華ちゃんに会ったのもあってか、しみじみしちゃったりして。
- 55 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:54
-
晴れた空に広がる雲から、残り少ない夏の日差しが降り注いでいた。
9月があとちょっとで終わったら、文化祭シーズンなんだよね。
思い出すなぁ・・・去年の今頃。
「今年何やるんだろーね、文化祭。」
そう言いながら、ごっちんの揺れるポニーテールを見ていた。
「去年はよっすぃー、学ランとか着たよね。」
「あ〜無理矢理クラスの女の子にやってってね。でも似合ってたでしょ?」
まぁね、とごっちんは笑う。
ぶっちゃけ、こういうノリはあたしのキャラじゃないんだけどね。
去年の文化祭当日は、バレンタインでもないのに異常な数のプレゼントもらったっけ。
文化祭のおかげ(?)で、もちろんうちの生徒にはいっぱい告られたんだけど
他校の生徒にまで追い掛け回されたんだよね・・・。
むしろ、学ラン姿で告られると本当に男と女みたいってごっちんに言われたっけ。
「今年の前夜祭さ、矢口先輩誘えば?」
- 56 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:54
-
「へ?」
うちの学校の前夜祭って、好きな人をエスコートするっていうのがあるみたいで。
それで一緒にフォークダンス踊ってぇ、最後に告白するっていう恒例のヤツなのよ。
今まで何人もの人にエスコートは誘われたけど、1回もOKしてないから告白もされてないんだけど。
あたしが矢口先輩を誘うだって?そんなの絶対無理っすよ、後藤さん。
「矢口先輩があたしなんかと踊ってくれると思うかぁ?」
まだ知り合いでもないような人と踊るか?フツー。
むしろあたしと矢口先輩がこれ以上に関われるかも分からないし・・・。
たった1回、微笑まれただけだし。今はまだ、想像もできないよ。
「ま、誘ってみなきゃ分かんないよ〜。」
そんなこと話してるうちに、学校の正門が近づいてきた。
いつも割りと早い時間に着くんだけど、今日はいつもより遅く着いた。
ちょっと梨華ちゃんと話してたからかな?
全然遅刻するような時間じゃないからいいんだけど・・・。
こうやって見ると、たった五分いつもより遅いだけで、登校してくるメンバーも違うんだね。とか思ったり。
- 57 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:54
-
「ごとー体育だからちょっと急ぐわ〜。」
「あ、そっか。じゃぁあたしはゆっくり歩いてるわ。頑張ってねー。」
んぁ〜とか言いながら早足(?)なのか分からないけど、ちょっと急ぎ気味で校舎に入っていった。
あたしはのんびり校庭を横切って登校していく。
ふぁー・・・眠い。
あくびなんかしたら誰かに見られるかも?とか一瞬思ったけど。
別にいーや。あたしのファンの子も、あたしのあくびさえレアモノなんだろうし・・・。
そんなこと思いつつも、あたしはデッカイ口を開けてあくびをする。
その時、なんとなく隣をすれ違う人に目が行った。
- 58 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:54
-
横目じゃ頭しか見えないような小っちゃい女の人。
え、うそ、矢口先輩・・・?
思わず立ち止まって、目を思い切り見開いて先輩を見ていた。
失礼だけど、宇宙人に突然出くわしたくらいの顔でビックリしていた。
今にも右手にぶらさがったバッグはズルッと落ちそうなんだけど・・・。
そんなあたしには気づかずにテクテクと歩いていく矢口先輩。
「お、おはようございます!」
頭より先に、言葉が出た。
一瞬、自分が話しかけたことに驚いたけど。
矢口先輩はあたしの声に気づいて、振り向いてくれた。
あー!よっすぃー!と声をあげてパッと笑ってくれた。
まるで、親しい友達同士のみたいな反応をしてくれたことに、あたしも顔がパッと明るくなった。
でもなんで”よっすぃー”って知ってるんだ?
- 59 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:54
-
昨日矢口先輩がニコッて笑ってくれたおかげで、前ほど緊張はしてなかった。
「え、あたしのこと知ってるんですか?」
矢口先輩は”へ?”という顔でこっちを見直した。
校庭を歩くたくさんの生徒が、ジロジロこっちを見ているのがわかる。
あたしがごっちん以外の女の子と2人っきりでいるのが相当珍しいんだろうな。
「だってさ、よっすぃー有名じゃん♪カッコイイし!紗耶香の友達でしょ?」
矢口先輩は当たり前のようにサラッとそう言った。
覗きこむようにこっちを見ている。
・・・っていうか、顔近いんですけど・・・。
逆にあたしは頭が真っ白になって、ポカンっと口をあけていた。
- 60 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:54
-
”カッコイイし”
”よっすぃー有名じゃん♪”
何度かその言葉が頭をコダマする。
なんだか先輩もあたしのこと知っててくれたんだって思うとスゴク嬉しい。
っていうか、やっぱ有名でよかったかも。こういう時はそう思う。
「あ、っていうか、歩こう。遅刻しちゃう!」
矢口先輩はそう言ってあたしの右手を掴んで歩き始めた。
「へ・・・?」
初めて矢口先輩に触れた瞬間だった。
しかも、向こうから。
あたしはこの状況が信じられなくて、左手で見えないように頬をつねっていた。
イタタ・・・。夢じゃないんだ。へへへ。
恥ずかしくて、手を握り返すことはできなかったけど
このまま離れたくなかったのは事実だった。
このまま時間が止まっちゃえばいいのにって、思ったり。
下駄箱について、矢口先輩は必然的にパッと手を離した。
「じゃー、矢口はこっちだから!」
そう言って3年生の教室がある階段の方向を指差した。
あたしもその方向を見てから、もう一度目線を戻す。
でも、何も言えなかった。
「じゃぁね、よっすぃー。」
- 61 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:54
-
そう言って手を振る彼女の真似をして、ただひらひらっと手を振り返しただけ。
でも、それでも、嬉しかった。
先輩が見えなくなるまで、じっと向こうを見続けていた。
- 62 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:55
-
・・・
放課後の放送が流れて、やっと時間に気がつく。
朝の出来事にときめきすぎて、あたしは気がついたら全部授業をサボっていた。
ひとりで屋上でボーっと座り込んで空を見ていた。
授業サボるなんて、初めてかも・・・。
でも、こんな日もたまにはあっていいかなーなんて。
ほんの数時間前、あたしの隣に並んでいた矢口先輩。
長いまつげが印象的だった。
クリクリした目は、ゆっくり瞬きをしていた。
あたしの心臓の音とは、裏腹に。
思い出すだけでニヤける。
あの声と、仕草と、手の暖かさと・・・・。
って・・・やばい。ほんと、重症かも。恋の病ってやつ?
「よぉ、吉澤!」
「うぉっ!」
- 63 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:55
-
突然ほっぺに当てられた缶ジュース。
ひやっとした感覚が体を走った。
振り返ると、やっぱり市井先輩だった。
「な、なんすか。いきなり・・・。」
差し出されたジュースを両手で受け取って、少し口に含んだ。
ジリジリとは言わないけど、まだ日が照るとちょっと暑く感じる屋上の床。
市井先輩も隣に座った。
「どう、矢口とは。」
”矢口”という言葉に、脳が敏感に反応する。
さっきの出来事、昨日の笑顔、全部がぐるぐるぐるぐる・・・・・
「どうって・・・少し喋ったくらいです。」
めちゃくちゃ最新情報なんだけどね、これは。
「へ〜やるじゃん。でも矢口はモテるからライバルも多いぞ?!」
「うーん・・・確かにモテそう・・・。」
あんなに可愛くて明るい性格なんだもん。ライバルかぁ・・・。
「ま、吉澤だったら矢口を落とせるかもしれないけどね〜。」
「なんスか、それ。」
まるで”あたしを認めてやった”みたいな言い方でそう言う。
この人からどの言葉を聞いても勇気も何も湧かないんですけど。
多分、これからもずーっと。
今あたしが信じたいのは、さっき矢口先輩に触れたっていう事実だけですから。
- 64 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:55
-
なんで市井先輩が屋上に来たのかは知らないけど、
あたしは適当に交わして屋上を出ていった。
下駄箱に戻ると、ごっちんとバッタリ会った。
「あ!よっすぃー、どうしたの?授業全部サボったでしょ〜!」
「アハハ、ちょっとね。屋上でたそがれてた。」
下駄箱にいるだけで、嫌でもさっきの矢口先輩の姿を思い出す。
嫌でもっていっても、嬉しいんだけど。
「ちょっとって?」
そう聞いてくるごっちんに、んー?大したことじゃないよ。とか言って、もくもくと靴を履いた。
「・・・なんか、よっすぃーはごとーに何も話してくれないよね・・・?」
切なげな声で彼女はそう言った。
突然どーしたのかと、あたしも少し考える。
「何で?矢口先輩のこととか、いっぱい話してるじゃんかぁ。」
むしろ、ごっちん以上に自分のこと話してないと思うし・・・。
「そうじゃなくてぇ・・・」
ごっちんはそう言ってぶんぶんっと首を横に振った。
とりあえず帰ろう、と言って手を引いて歩き出した。
ごっちんの手を握った時、今朝の出来事を思い出してたりした。
- 65 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:55
-
正門を出て、いつもの道を歩いていた。
ごっちんのちょっと小さい歩幅に合わせるのは、いつもあたしだった。
朝も落ちていたネズミ花火の燃えカスに目をやる。
花火ももう来年までやらないだろうな。
そういえば、今年はごっちんと花火やらなかったっけ。
珍しく全然喋らない彼女。
さっき、妙な態度だったし・・・やっぱ何かあったのかな?
「どうしたんですか。後藤さん。」
覗き込むようにごっちんを見る。
それでもあんまり反応してくれなくて、ちょっと困った。
あたし、何か怒らしちゃったかな?
さっきのごっちんの言葉をポツポツと思い出していく。
”・・・なんか、よっすぃーはごとーに何も話してくれないよね・・・?”
でも、矢口先輩のこととかは話してるのになぁ・・・。
いっつも相談してるし、報告してるし。
「ごとーになんか隠してる?」
ふいに彼女が言った言葉に、あたしは一瞬ドキッとした。
市井先輩と交わしたあの約束のことが頭に浮かんだから。
確かに、あれはごっちんに対する隠し事だよね・・・。
- 66 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:55
-
それでも、やっぱこれは言うわけにゃいかない・・・。
だって、市井先輩にバラされたら困るから。
せっかく今日だって喋れたのに。少しは進歩あったのに。
・・・ごっちんには、ほんとゴメンだけど・・・。
何もないよ。って、あたしはそれだけ言って、ニコッと笑った。
いや、笑ってゴマかしたっていうのか・・・。
「なら、いいんだけど。ごめんね。」
彼女が謝るから、胸がズキッと痛んだ。
本来謝らなきゃいけないのはあたしなのに。
今朝の矢口先輩との出来事も、結局話す前に家の前に着いてしまった。
まぁ、明日にでも話せばいいよね。
うちより少し手前にあるごっちんの家の前で、お互い向き合った。
「じゃぁ、また明日ね。」
「バイバイ。」
そのまま反対を向いたあたしが、彼女の背中を見ることはなかった。
- 67 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:55
-
家の玄関に入ったとき、ちょうど携帯のバイブが鳴った。
誰だろう・・・?ごっちんではないよね。
メールマークのボタンを押すと、見覚えのないアドレスだった。
”高橋愛です。今、西公園にいるんですけど会えますか?”
そう書かれたメールに、やっと記憶の糸が結び合った。
確か、こないだ告白された後輩の子だよね。
付き合うことはできないけど、友達から、みたいな話になって。
そういえば、まだ一度もメールしてないっけ。
それにしても、初めてのメールが”今から会えますか?”って・・・。
今から会ってどうするつもりなんだろ。
- 68 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:55
-
とりあえず特に用事もなかったし、あたしは脱ぎかけた靴を履いた。
”大丈夫だよ。今から行くね。”
送信っと・・・。
画面の紙飛行機が2回転して飛んでいくという動きを繰り返す。
メールなんてほとんどごっちんとしかしないから、変な感じ。
でもいつのまにかあたしのアドレスが出回ってるらしく、
知らないファンの子とかから一方的に来る時はあるんだけど・・・。
あたしは、そのまま家のドアを開けてさっき来た方向に足を進めた。
まだ夕方だっていうのに、夏服だと少し肌寒かった。
アイスの恋しい暑さとか、セミの鳴き声とか。
そういう夏の風物詩が街から消えて、あたしの知らない間に夏が過ぎていく気がしてやまなかった。
- 69 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:55
-
それにしても、何の目的なんだ?高橋さんは。
あの時告白されて断ったんだけどなぁ・・・。
まさかもう一度告白されるとか?・・・それはないか。っていうかそれはチョット困るな。
数分で公園について、あたしは軽く辺りを見渡した。
ベンチのところに彼女らしき人がいるのが見えて、少し早歩きで向かった。
お待たせ。といってあたしは右手をあげた。
そんなに待たせたわけじゃないけど、一応ね。マナーっすよ。
高橋さんはあたしに気がついて立ち上がった。
「いえっ、あの・・・いきなり呼び出したりなんかしてごめんなさい。」
彼女はそう言ってペコッと頭を下げる。
いえいえ、と言って自分もとりあえず隣に座った。
まだ高橋さんも制服姿だから、多分学校帰りだろうな。
彼女は夏服の淡い水色のチェックのスカートに、そっと両手をグーにして置いていた。
あたしは、あんまり態度悪く見えない程度に脚を組んで腕を組んで・・・
十分態度悪いかな、コレ。
- 70 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:56
-
きっと大丈夫、あたしの硬派なキャラっていう実績があるし。
これを市井先輩がやったら、ただのジゴロっぽい人だけど。
そんなことを思ってると、結構沈黙が続いてることに気づいた。
「・・・んで、話って?」
軽く微笑んで彼女に問いかけた。
まったく状況が見えないんでね。今。
あの・・・と、彼女は小さい声で話し始める。
「吉澤先輩って、後藤先輩と付き合ってるんですか?」
顔を上げて、不安そうな表情であたしを見る。
ホントに、今にも泣きそうな顔で。
っていうか、え?!
あたしが・・・ごっちんとぉ〜〜?
「ブハッ・・・はははは!」
あたしは思わず噴き出して笑った。・・・結構、思いっきり。
???と頭の上についたように、彼女はキョトンとしていた。
「ごめんごめん、なんかビックリしてっていうか・・・。」
右手でおなかを抱えながら、あたしは左手で”ゴメン”と手を翳した。
彼女のキョトンとした顔がこっちをじっと見ている。
「・・・?」
チョット、可愛いんですけど。
「残念だけど、ごっちんはただの幼馴染だよ。」
周りから見てごっちんとあたしって、やっぱりそう見えんのかな〜?
- 71 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:56
-
「そ、そうなんですか・・・いつも一緒にいるからてっきり・・・。」
高橋さんは少し下向き加減でボソボソッとそう言った。
というか、ネガティブ思考なのか?この子は・・・。
あたしは高橋さんの顔を覗き込むように、腰をかがめる。
「高橋さ・・・」
「あのっ!!」
彼女は突然、バッと顔をあげてそう言った。
同じ目線で顔を覗き込んでたから、ちょうどバッタリ目が合う。
その距離わずか10cmくらい・・・。
- 72 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:56
-
これってなんか漫画のワンシーンみたい。
ここでだんだん顔が近づいていってキスなんてしちゃうとかね。
って・・・こういうオヤジみたいな発想するクセ、やめなきゃな・・・。
せめてこのクセは矢口先輩といる時だけにしておこう。
ごめん、と言ってあたしは無意識に一歩下がった。
高橋さんはブンブンッと首を横に振った。さらさらの黒髪が左右に揺れて、少し乱れていた。
改めて彼女はもう一度顔をあげた。
「あのっ!・・・先輩は、本当に誰とも付き合う気はないんですか?」
意外な質問に、あたしは目をちょっと見開く。
あぁ・・・確かこないだ断る時にそんなこと言っちゃったっけ。
「う〜ん・・・。」
正しく言わせてもらえば、”好きな人以外とは”誰とも付き合う気はないから。
それでも、自分はこんな風に好きな人に積極的にはなれないよ。
「あたしには・・・チャンスないですか?」
泣きそうな顔だけど、しっかりした表情であたしを見た。
あたしも自分の中で、色んな思いがかけめぐる。
きっと、あたしが矢口先輩を好きになっていなかったら、
少しは高橋さんに心を動かされたかもしれないけどさ。
- 73 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:56
-
実はさ、と言ってあたしが再び話を切り出す。
高橋さんもフッと顔をあげた。
うーん・・・やっぱ本当のこと言った方がいいよね。
曖昧な返事が一番いけないと思うんで。
「あたし、好きな人がいるんだ。」
片思いだけど、と苦笑いして髪をクシャクシャッとした。
高橋さんも驚いた様子でもなくて、悲しんでいる感じでもなかった。
少し彼女は考えごとをするように黙ってしまった。
何を考えてるのかは全く想像つかなかった。
だって、あたしとごっちんが付き合ってるとか考えちゃう子だもんね。
そうとう想像力豊かっすよ、この子。
- 74 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:56
-
「えーっと・・・なんて言ったらいいかわからないんですけど・・・」
そう切り出した高橋さん。
うん、とあたしも相づちを打って彼女の続きを待った。
スーッと小さく息を吸う音が聞こえた。
「・・・っ本当のこと言ってくれてありがとうございます。あたし、応援するんで!」
打って変わって明るい顔をしてこっちを見た。
笑顔、フツーにかわいいじゃん。とか思ったりして。
「・・・あ、うん。ありがとうね。」
あたしももちろん笑顔で返事をする。
なんか、ちょっとほかほかした気持ちになったっていうか・・・
本当のこと、言ってよかった。
やっぱ、人間素直が一番なのか?
うそなんて、ついちゃいけないのかな・・・?ごっちん・・・。
- 75 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 09:56
-
その日家に帰って、結構色々と考えちゃったり。
あたしがもしごっちんに本当のことを話したらスッキリするかもしれない。
でも、それはあたしの恋が終わるってことなわけでしょ?
矢口先輩にバラされて、もう話せなくなって・・・あぁ、ヤダヤダ。それは絶対ヤダ。
・・・あのね、人間正直が一番っていっても、付かなきゃいけない嘘もあんだよ。
うん、きっと。いや、たぶん。ううん、絶対。
でも、ごっちんについている嘘が正しいものなのかは分からない。
だいいち、”正しい嘘”ってなんだよ、オイ。
あーもうわかんない。
寝る。
- 76 名前:ゆら 投稿日:2005/01/30(日) 10:03
- 更新終了です。
>>52 >>53 連続投稿しちゃいました。申し訳ないっす。
>ローワンさん
読んでくれてありがとうございます!!
梨華ちゃんこれからちょこっとずつ出していきます。
頑張って更新できるだけ早くやっていきますので、応援よろしくお願いします^^
>通りすがりの者さん
よっすぃーの気持ちとか頑張って分かりやすく書けるように頑張ります!
批判・応援どちらも大歓迎ですので、これからもよろしくお願いします^^
- 77 名前:ローワン 投稿日:2005/01/30(日) 17:51
- 自分も高橋サンと同じく想像力豊かにして後藤サンのその後を考えてみたり・・・
そして、今回の最後の部分、自分と全く同じ思考をしている吉澤サンに爆笑。(笑)
すごく面白いです。頑張って下さい!
- 78 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/03(木) 00:47
- おもろ〜いっス。ごっちんの好きな人って誰なんだろう。。。
愛ちゃんいい子だぁ。
梨華ちゃんも気になります。
私は石後ラブなんで、そうゆう展開になったら嬉いっす。
- 79 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/05(土) 19:39
- 面白い!なんと急な展開!ごっちんの言葉はなにを物語っているのか・・・。
なぜアドが出回っているんでしょー?
まさか・・・そんなわけないですよね?
更新待ってます。
- 80 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/19(土) 19:55
- いつまでも更新待ってますよー。
- 81 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:33
- やばい、寝坊しちゃったよ・・・。
目が覚めた時には、既に10時を回っていた。
もう学校だと3限目ぐらいかな・・・。
っていうか、昨日は全部サボった上に今日は遅刻って・・・あたしそ〜と〜緩んでるな。
目が開かない・・・うぅ。
眠い目をこすって、とりあえずカーテンを開けた。
シャッ!!!とキレのいい音が響く。
ぬぁ、眩しい!!
眩しいどころかもうだいぶ昼間の気候になってるよ・・・。
っていうか目覚ましは?
手元の目覚まし時計を見ると、ちゃんと時間どおりに鳴っていたようだった。
そうとう爆睡してたな、あたし。
ちょっとボケボケのままで、部屋を出て階段を降りていった。
足取りはちょっとヨタヨタで。
「お母さ〜ん、なんで起こしてくれな・・・」
ところが、リビングはシーンとしてて、あたしの声だけが響いていた。
あれ?お母さんいないのかな。
- 82 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:33
-
どうせスーパーの朝市セールとか行ってんだろうな。
ちなみにうちの家族は父母、弟2人、そんであたしの5人家族。
弟は小学生と中学生のやんちゃボーズで、お父さんはサラリーマン。
お母さんはフツーの専業主婦なんだけどね。顔はあたしにソックリ。
「あ、これか。」
ちょうど対面キッチンに置いてある卓上カレンダーに目が行った。
今日の日付のところに”ヨ○様サイン会”の文字が・・・。
そう。うちのお母さんはごく普通の、韓流ブームとかにのっちゃう専業主婦である。
ま、なんだかんだ結構いい母親なのよ。
それにしても、ヨ○様はメジャーすぎだろ。
せめてパ○・ヨンハとか、チャン・ド○ゴンとかにしとけってば。
- 83 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:33
-
とりあえず適当にパンをかじりながら、制服のワイシャツを洗濯物の中から取った。
今から行ったら昼飯の時間ぐらいには着くかな?
時計を見て、一安心する。
だって、学食に間に合えばいいのさ。
矢口先輩に会えればいいのさ。
でもさ、でもさ。会ってどうするってゆうんだ?
あたしは一体どうしたいんだ?
今まではただ、矢口先輩を見ていたいって思ってた。
けどひょんなことから矢口先輩と話せるように(?)なって。
これからは・・・?
ううーん??
- 84 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:33
-
どうでもいいけど、とりあえず眠い。あとちょっと寝てたかった。
でも昼休みに間に合わなきゃ、学校行く意味ないっすよ。
あ。
今朝ごっちん、どうしたんだろう。
先行ったのかな。でも、待ち合わせ場所に来ないときはいっつもピンポーンってしてくれるのに。
・・・ま、いっか。あとで謝ろう。
なんだか最近ごっちんに迷惑かけてばっかりだな・・・。
お詫びに何かしてあげようかなぁ。
プレゼントとか?・・・
ん?
ちょっと待てよ。
今日は9月の14日・・・
あ!もうすぐ、ごっちんの誕生日じゃん!っつーか来週じゃん!
スッカリ忘れてたよ。今まで、忘れたことなんかなかったのに。
おかしいな・・・。
- 85 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:34
-
あたしはごっちんへの誕生日プレゼントを考えながら、テレビのスイッチを入れる。
中途半端に朝でも昼でもないから、たいした番組もやってないんだけど。
いいともー!もまだ始まってないし、今日のニュースがズンチャカズンチャカ報告されてるだけ。
「微妙。」
ひとり言のようにそう言って、そのまますぐにスイッチを切ってしまった。
リモコンをソファーに投げると、カバンを持って電気を消して。
さーてと、頑張っていきますか。
ドアを開けて、久しぶりに自転車を出してきた。
いつもはごっちんと一緒に歩いてきてるから、自転車なんて久しぶりだなぁ・・・。
ちょっとホコリかぶってるし・・・。イヤ〜最悪。
あたしはよいしょ、とまたがり、しっかり足をペダルに乗せた。
小さくキィっと、音を立てるペダル。
乗れんのか?コレ。
- 86 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:34
-
いつも見慣れた景色は、時間がずれただけでだいぶ違った。
この曲がり角で出くわすデッカイ犬もいないし、黄色い帽子かぶった小学生の集団もいない。
あ、保田のおばあちゃんだ。こんにちは〜。
- 87 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:34
-
そんなことしてる間に学校に着いていた。
うーん、チャリだとほんとに学校近いんだなって思う。
あ、体育やってる。三年生かな?
校庭を見ながらのんびり歩いて、慣れない駐輪場にチャリンコを止めた。
その時、ちょうどお昼のチャイムが鳴って、なんとなく玄関も騒がしくなる。
おっと、急がなきゃ。
「あれ、よっすぃ〜じゃん。」
お!その声は!
振り向くと、目の前にはプリントの山を抱えたごっちんが。
ありゃりゃぁー・・・、重そうに。
「おはよー。」
あたしが気の抜けた挨拶をすると、もう朝じゃないってば。とごっちんが突っ込む。
確かに。
数学係のごっちんは、たまにこういう大量のプリントを運ばなきゃいけない。
っていうか、あたしも数学係なんだよね。
あたしの分まで、ゴメンネ。
スッとそのプリントをごっちんから取ると、代わりにカバンを渡した。
アリガト、とごっちんはあたしのカバンをかかえて一緒に歩き出した。
「ごめんね、今日寝坊して。」
あたしがそう言うとごっちんは、気にしてないよ。と言ってこっちを見た。
そんで、ちょっと笑ってくれた。
お母さんがヨ○様のサイン会に行って起こしてくれなかったこととか、
保田のおばあちゃんに会ったこととか、色々話しながら職員室まで行った。
- 88 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:34
-
プリントを先生に渡して、ごっちんにあずけたカバンを受け取った。
「どうする?このまま食堂いくー?」
「うん。そーしよ。」
そう言って階段を上りながら、心は少しウキウキしてたりして・・・。
だって、昨日の朝矢口先輩と話せたから。
今日は違う気持ちで会えそうな気がする。
でも、たぶん挨拶だけで終わるんだろうな、今日も。
- 89 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:34
-
食堂のいつもの席には、もう市井先輩と矢口先輩が座っていた。
今日もカワイイっす。へへ。
「あ、ごっちん。あたしお弁当ないから何か頼んでくる。」
んぁーとか言ってごっちんは先に席に向かった。
あたしが学食の券売機に並んでるのを、生徒がジロジロ見ていた。
そんなに珍しいか?あたしが券売機に並ぶのが。
ま、いつもはお弁当だからね。
そうそう、いつもあたしが矢口先輩と同じテーブルに座るようになってから
結果的にあたしと市井先輩の学園二大スター(?)が同じテーブルにいることになって・・・
最近はみんなの目線の激しさに拍車がかかってきた気さえする。
っていうかメニュー何にしよっかなぁ・・・。
いつも矢口先輩ってからあげ定食たべてるよね。
あたしもそれにしよっかな。
でも変に思われないかな。いや、平気か。うーん・・でも・・・
悩んだ末、結局からあげ定職のボタンを押すと、黄緑色の食券がスッと出てきた。
「おばちゃん、お願いね。」
あいよ〜とか気前のいい声を聞くと、ちょっと笑顔がこぼれた。
- 90 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:35
-
券売機の横でごはんが出てくるのを待ってると、ポンッと背中を叩かれた。
「やっほ、よっすぃー♪」
振り向くと、そこにはなんとなんと矢口先輩が立っていた。
へ?!
「のわ!や、矢口先輩・・・!」
思わずバッと口を押さえて一歩下がる。
アハハとか笑いながら、先輩は小さい背をさらにかがめてこっちを見ていた。
すごい近くでニコッと笑いかけてくると・・・焦るんデスけど。
なんかねーひどいんだよ!と言って、矢口先輩はいつものテーブルを指差した。
そこにはごっちんと市井先輩が2人で座っていた。
「ごっつぁんがテーブル座ったらさぁ、いきなり紗耶香がコーラ買って来い!ってゆーのー。」
ブ〜とか言いながら矢口先輩はそう言った。
”ごっつぁん”って、ごっちんのことかな?
ていうか、市井先輩はごっちんと2人っきりの状況を作りたかったんだろーか・・・。
だからって矢口先輩を追い出すなんて・・・ひどい!
でも、今ここで矢口先輩と2人で話せてるから・・・今日は許しますよ、市井先輩。
「ごっちんを扱うのは結構大変ですよ。」
たぶん、市井先輩でさえも。と付け加えてあたしは言った。
「だろーね。だって紗耶香が話しかけても、ふーんって感じだもん!」
矢口先輩は、ありゃ紗耶香もタジタジだよ。と言ってクスクス笑った。
へぇ、こーゆー笑い方もするんだ。
- 91 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:35
-
「っていうかよっすぃー、”矢口先輩”なんて堅苦しいよ〜。」
そう言ってあたしの腕をぺしぺし、と叩いた。
堅苦しいのは緊張しちゃうからなんですってば。
「え、じゃぁなんて呼べばいいですか?」
矢口先輩じゃなかったら何?真里?いやいやいや。
「やぐっつぁんとか、まりっぺとか。みんなそう呼んでるよ。」
矢口先輩にそう言われて、あたしが呼んでるのを想像してみるけど・・・
そんな軽々しくは絶対呼べないと思った。
「え、矢口さん・・・とかでもいいッスか?」
やっぱ緊張しちゃうんで、とか言いながらあたしは下向き加減で先輩を見た。
「へへ〜っ。矢口さんかぁ〜。いいよ♪」
嬉しそうに笑う矢口先輩・・・いや、矢口さんを見て思わず顔がほころんだ。
- 92 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:35
-
「あいよ、出来たよ。」
そう言っておばちゃんがからあげ定職をお盆で出して渡してくれた。
「じゃぁ矢口さん。そろそろテーブル行きます?ごっちん可哀想なんで。」
そう言うと、矢口さんもそーだね。と言ってコーラを一口飲んでテーブルの方に歩き出した。
「あ、よっすぃーもからあげ定食だ。」
あたしもなんだ〜と笑って矢口さんはそう言った。
だって、わざと同じのにしましたから。
なんて、いえないけど。
矢口さんが”よっすぃー”って呼ぶたびに、なんだか嬉しさでくすがったかった。
まるでずーっとずーっと仲の良い先輩後輩みたいで。
本当は、まだまだそんなんじゃないけどね。
- 93 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:35
-
テーブルに着くと、市井さんはブンブンッと手を振ってきた。
「おー、吉澤ぁ!っつーか矢口、コーラありがと!」
どうも、とあたしは会釈すると、ごっちんの隣に座った。
ごっちんは別にいつもと変わらない様子でお弁当を食べていた。
多分、市井先輩はずっと口説いてたんだろうけど・・・。
「あたしと真希ちゃん、ちょっと今の間で結構仲良くなったんだ〜♪」
嬉しそうに市井先輩はそう言った。
そーなの?とあたしが聞くと、ごっちんは口の中の玉子焼きを飲み込んでから口を開いた。
「・・・別にそんなんじゃないよ。」
ごっちんのコメントは以上。
ハイ。市井先輩、残念でした。
「キャハハ、紗耶香ってば相手にされてないじゃん!」
矢口さんの笑い声に、市井先輩はム〜〜と言いながら口をとがらせていた。
なんだなんだ。
この雰囲気なんかいいなぁ。
4人が一体化してるって感じ・・・。いや、ごっちんはそうでもないか・・・。
- 94 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:35
-
束の間の時間もあっという間に終わっちゃって、予鈴が悲しく鳴り響いた。
はぁ・・・早すぎでしょ。
たいして矢口さんとは話はできなかったんだけどね。
市井先輩がひたすらごっちんに話し掛けるのを、あたしはただ笑ってるだけだった。
「じゃぁまたね、真希ちゃん♪」
市井先輩が立ち上がって手を振ったけど、ごっちんは見てもいなかった。
あたしはチラッと矢口さんの方を見た。
あ・・・。
突然、ちょうど矢口さんと目が合った。
びっくりして声も出なかった。
それなのに、彼女はゆっくり笑っていた。いとも冷静に。
「バイバイ、よっすぃー。」
ひらひらっと手を振る矢口さんを、そのまま見届けてしまった。
ただの挨拶。友達とだって交わすような一言。
せめて、さようなら。ぐらい言えばいいのに。
それも言えないくらい、今のあたしは小さかったんだ。
- 95 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:36
-
2人がいなくなったテーブル。あたしは、ハァ・・・とため息をついた。
「どうしたの?」
ごっちんが心配そうにそう言う。
「あたし、矢口さんの前だとテンテコマイだよ。」
そう言うと、てんてこまいって今どき誰も言わないよ、と突っ込まれた。
う・・・確かに。
- 96 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:36
-
「ねぇ、今日よっすぃーんち行っていい?」
突然ごっちんがそう切り出したのは、放課後だった。
いつも行き当たりばったりで、帰りにお茶したり喋ったりしてるんだけど、
今日は珍しくごっちんが意見した。
「いいよ〜。ぷよぷよやる?」
うちらの定番とも言えるゲームなんだよね。
これがごっちん強くてさぁ〜・・・7連鎖とかやってくんだもん。
「ごとーが勝ったらジュースね。」
嬉しそうに言う彼女に、はいはい。と従う。
今日は負けないからねー!
- 97 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:37
-
HRが終わったら、すぐに2人で玄関に歩いていた。
靴を履いて気がつく。あ、今日チャリなんだっけ。
「ごっちん、今日あたしチャリで来たんだった。」
え?珍しいじゃん。と、彼女は目をぱちぱちさせて言った。
「昼休みに遅刻しそーだったからね。」
ほんと、ちょっと遅かったら、券売機のとこで矢口さんと話せないとこだったよ。
「じゃ朝から来ればいいでしょーが!ほら、行くよ〜。」
そう言うごっちんに背中を押されて、駐輪場まで行った。
赤いママチャリ、めっちゃ目立ってますから。
よいしょー、と先にごっちんが荷台にまたがる。
あたしも2人分のカバンをカゴに入れて、サドルに座った。
「なんか久しぶりじゃない?2人乗りとか。」
なんとも言えない懐かしさに、思わずあたしはそう言った。
3年振りくらいかな・・・?
「んーそうかもね。たまにはイーネ。」
ごっちんがそう言うと同時くらいに、あたしは自転車のペダルに足をかけた。
彼女の身体はとても軽くて、さっきひとりでこいだ時とそんなに変わらなかった。
風を切って走る正門。
生徒がみんな手を振ってバイバーイなんてゆってくる。
なんか青春っぽいでしょこういうの。
- 98 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:37
-
「♪〜このながーいーながいくだりーざかをー キミをじてんしゃのうしろにーのせてー♪」
思わず口ずさむあたしに、ごっちんはあたしの後ろでクスクス笑っていた。
「♪〜ブレーキいっぱいにぎりしめて〜♪」
あとに続くごっちんの歌声は、とても綺麗だった。
昔から歌うまいのよね、ごっちんって。
「♪〜ゆっくり〜ゆっくり、くだってく〜♪」
あたしがまた続きを歌うと、ごっちんはまた笑った。全然ゆっくり〜くだってないじゃん!とか言いながら。
だって坂道は勢いよくいかないとつまんないでしょ?
そのままビュ〜ンッとすごい速さで坂道を下ると、ごっちんは何かを聞いてきた。
でも風の音であんまり聞き取れなかった。
「えー?何ー?」
あたしが大声で聞き返すと、ごっちんも大声で言う。
「ねー、ゆずの曲だよねー?なんだっけー?」
やっと聞き取れた声に、あたしは少し自転車のスピードを緩めた。
「夏色だよ。もう、秋だけどね。」
そう言ってフッと笑った。
ごっちんも、あーーそれそれ。とか言いながら笑っていた。
なんかこういう2人のくだらない会話とか、忘れてたなぁ。
- 99 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:37
-
そんなことを思いながら、黙りこくったように静かに自転車は進んでいた。
あっという間に家の前について、自転車を止める。
「よーし、ぷよぷよやるぞ!」
ごっちんはハリきって先にうちに入っていく。
おいおい、カバン持ってよぅ。
あたしも自転車をしまって家に入った。
「ただいまー。」
リビングには弟たちがナントカカードゲームで遊んでいた。
ほらほら、散らばすなってば。
「おばさんは?まだサイン会?」
ごっちんは靴を脱ぎながらそう言った。
たぶん、とあたしも答えて靴を脱いだ。
2人で二階にあるあたしの部屋にいく階段をのぼる。
途中、弟たちが”あー、まきちゃんだー”とか言ってたけど適当に聞き流していた。
- 100 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:37
-
部屋は朝乱暴にあけたまんまにカーテンが開いていた。
ごっちんは部屋に入るなり、片づけを始める。
そーなの、いっつも片付けてくれるんだよねぇ。
そんへんやっぱりごっちんには世話になってばっかだよ、うん。
その間にあたしも1階からジュースとお菓子を持ってきて、
帰りに弟の部屋からぷよぷよをパクってきた。
ほんの数分なのに、部屋はめちゃくちゃ綺麗に片付いていた。
さすがです、後藤さん。
「よっしゃ、やるかぁ〜!」
「ごとー、負けないよ〜。」
テレビを睨みながらの戦いは、夜まで続いていた。
もちろん、ごっちんの全勝で・・・。
- 101 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:37
-
- 102 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:38
-
「あ〜もう、少しは手加減してよね。」
あたしの唸る声に、ごっちんは満足そうに腕を組んでいた。
まだやる?まだやる?とか調子こいてやがる。
その時、ちょうど1階で誰かが帰ってきた音がした。
あ、お母さんかな?
「ちょっと待ってて。」
あたしはそう言って階段を駆け下りる。
そこにはばっちりおめかししたお母さんが、ヨ○様グッズを両手に持って立っていた。
いとも満足そうな顔をして。
「うわーすごすぎ。どうだった?」
あたしが荷物を持ってリビングに運んであげると、もう鼻息荒くお母さんは喋りだす。
「ステキだったわ〜。うちのお父さんもあーなってくれないかしらねぇ!」
無理無理、とあたしは首をふる。その横で弟たちも同じ動作をしていた。
「ひとみ、真希ちゃん来てるの?」
玄関の靴をみて、お母さんはそう言った。
うん、ぷよぷよやりに来てる。と言ってあたしは部屋に戻ろうとした。
- 103 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:38
-
「あら、夕飯食べていけばいいじゃない。」
やけに機嫌がいいのか、お母さんはそう言った。
ごっちんとあたしは家族同士も仲が良くて、よくお互いの家で夕飯を食べる事もしばしば。
そう言えば最近はなかったかも。
あたしは階段の下から大声でごっちんを呼んだ。
「ごっち〜ん、夕飯くってけばー?だって。」
数秒して彼女も降りてきて、リビングに来た。
「おばさん、こんにちは。」
礼儀正しく挨拶をすると、あらあら、うちの子とは大違いだわ〜とかお母さんは言っていた。
うるさいなぁ、もう。あたしだってちゃんと挨拶くらいは出来ますよーだ。
夕食はカレーだった。ごっちんの、大好きな。
お父さんはまだ帰ってきてなかったけど、弟ふたりも含めての5人で食事をした。
本物の家族みたいな感じでね。弟たちもごっちんにはすごく懐いてて嬉しそうだった。
- 104 名前: 投稿日:2005/02/20(日) 15:38
-
ご飯を食べると、荷物を取りに部屋に戻った。
「あ、ごとーこれ乗りたい。」
なんとなく付いていたテレビを見てごっちんはそう言った。
そこには最近できた大きいテーマパークのCMが流れていた。
”みんなで絶叫、絶好調!”とかいうキャッチフレーズで、絶叫マシーンの宣伝をしている。
「ごっちん絶叫系好きだもんね。」
あたしも嫌いではないけど、彼女の絶叫好きには敵わない。
「今度いこーよ、よっすぃー。」
嬉しそうにごっちんはそう言った。
「お、いいねぇ〜。久しぶりにパーッとはじけよっか!」
あ、そうだ。ごっちんの誕生日の日に行きたいかも。
とりあえず詳しいことは明日の生物の時間にごっちんと話そうっと。
弟たちに見送られて、ごっちんを家まで送った。っていってもとなりだけどね。
「じゃーね、よっすぃー。遊園地楽しみにしてるね。」
「うん。また明日ね。」
夜空には、上弦の月が浮いていた。これから満月になろうと、満ちてゆく途中のものだった。
優しさと哀愁が入り交じった、淡い光だった。
- 105 名前:ゆら 投稿日:2005/02/20(日) 15:42
- >ローワンさん
レスありがとうございます^^
どんどんリクとか受け付けるのでゆってください♪
>名無し飼育さん
おもろ〜いっスかwwありがとうございます^^
ごっちんの好きな人、誰でしょう・・・。
っていうか石川出さないとww
>通りすがりの者さん
今回ごっちんはキレる(頭の)キャラなんでww
アホキャラではありませんよ!そこがポイントです!
アドが出回ってるっていうのは深い意味はないです^^;ごめんなさい。
人気者っていうことを言いたかっただけなんですw
- 106 名前:ゆら 投稿日:2005/02/20(日) 15:55
- 更新終了です!
無駄にこんなの作ってみましたw
もし途中から読む方とかいたら、軽くあらすじ入りの自己紹介^^
タイトル看板w
http://www.geocities.jp/furugi123/20020206_1.jpg
よっすぃ
http://www.geocities.jp/furugi123/yoshi.jpg
やぐち
http://www.geocities.jp/furugi123/yaguchi.jpg
ごっつぁん
http://www.geocities.jp/furugi123/maki.JPG
市井
http://www.geocities.jp/furugi123/sayaka.jpg
梨華ちゃん
http://www.geocities.jp/furugi123/rika.jpg
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/21(月) 22:42
- よしごまのまったりした感じが好きです。
- 108 名前:ローワン 投稿日:2005/02/22(火) 18:00
- 後藤さんが気になってしょうがない今日この頃。
面白いですね〜、頑張って下さい。
- 109 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 17:08
- いいですね、青春ですよ。そういえば今日春一番が吹いてました。 もう春は近いですね。 更新待ってます。
- 110 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 17:11
- いいですね、青春ですよ。そういえば今日春一番が吹いていました、春が近くなりましたね。 更新待ってます。
- 111 名前:真由 投稿日:2005/03/01(火) 00:10
- いちごま気になる!続きが!と叫びそうな勢いで続きが気になってます。
吉澤さんがなんだか可愛いなぁと思いましたw
矢口さんと上手くいくといいなぁ…♪更新待ってます。
- 112 名前:知つぁん 投稿日:2005/03/01(火) 20:59
- よしやぐに激しく期待です^^
続きが気になりますので更新お待ちでございます!
- 113 名前:12号 投稿日:2005/03/11(金) 16:17
- 実際のよっすぃ〜もカワイイけど
この小説のよっすぃ〜もメチャAカワイイなぁ・・・
更新まってます頑張ってください☆★
- 114 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/19(土) 15:42
- 上のレス間違って2回もしてしまいました、すみませんでしたm(__)m
今気付いたのでお詫び申し上げます。
そして、次回更新も待ってます。
- 115 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:45
- ごっちんを家に返した後、あたしは部屋に戻ってパソコンのスクリーンセーバーを解いた。
あたしの好きなブルーの画面をカーソルが動く。
えーっと、何ていう名前だっけな・・・遊園地の名前。
悩んでいると、テレビでさっきのCMがまた流れていた。
『みんなで絶叫、絶好調!ドリームランドに行こう!』
そうだそうだ、ドリームランドだ。
あたしはヤフーの検索スペースに、カーソルを合わせる。
どりーむらんど ・・・変換。ドリームランド。と打ち込んだ。
すぐに公式サイトが出てきて、トップにはごっちん乗りたがっていた絶叫マシーンがでかでかと紹介されていた。
うねうね曲がった路線を走る、漆黒の車体。・・・うわー、恐そう。
そういえばごっちんって絶叫マシーン好きなくせに、ホラー系は無理なんだよね。
そんなとこが結構かわいかったりするんだけどっ。ふふ。
- 116 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:45
-
ふふ、じゃねーよ・・・目的はチケット予約だったんだ。
ページを勧めていくと、ちょうど9/23日がサービスデーだった。
そう、まさにごっちんの誕生日。
秋分の日だし、この日のチケットをプレゼントしよっと♪
・・・って・・・
あれ?
よーく画面に目を凝らすと、”団体サービスデー”と書いてあった。
フリーパス半額?!マジ〜。やったね。
『※4名以上の場合のみ』
って・・・
・・・ダメじゃん!!
ま、いっか。普通のヤツで。
あたしは受話器を取って予約専用ダイヤルに電話をした。
プルルルル・・・
『チケットの予約受付は、17時にて終了いたしました。』
えぇ?!
- 117 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:45
-
あっけなく予約に失敗し、あたしはハァ、とため息をついた。
時計に目をやると、もう21時を回っていた。
なんだよー、もう。
とりあえず明日もう一度電話しよっと。
受話器を戻すと、思いっきりベットにダイブした。
ぼふっという音と、気持ちのいい布団の感覚がなんとも言えん。
ポケットに入ったままの携帯を取り出し、ごっちんのアドレスを表示した。
”ごっちんの誕生日に、ドリームランド行こうよ。もちろん、チケットはあたし持ちで。”
画面に打ち込んだ文字を見て、なんだかすごくワクワクしちゃったりして。
送信ボタンに親指をずらしてみるけど、ふっと頭によぎることが・・・。
・・・やっぱり、直接チケット渡してびっくりさせた方がいいかな?
そう思って、あたしはメールを削除して携帯をポイッと枕もとに投げた。
ごっちんの喜ぶ顔思い浮かべると、なんかこっちも嬉しかったりして。
ビックリするかな〜?ごっちん。
バカみたいだよね、まるで初デートにいく中学生みたい。
あたしはベットの上でうつ伏せになって、足をバタバタしていた。
もちろん、顔はちょっとニヤけ気味。
- 118 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:46
-
すっかり青葉もなくなって、紅葉に染まる秋の草木たち。
それでも朝は弱くって、どうしようもない。
だって、あたしにとったら春夏秋冬なんかカンケイなく、朝は朝だから。
眠い目をこすって、ベットからやっと起き上がった。
うあー・・・寝汗かいたなぁ。もう秋なのに。シャワー浴びてから学校いこーっと。
「あら、ひとみご飯は?」
「んー、シャワー浴びるから時間ない。」
なによ〜、とお母さんはブーブー言ってたけど、あたしはチャッチャカと着替え始めていた。
- 119 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:47
-
わりと朝風呂は好き。
窓から入る一本の細い光も、まだ昨日の夜から乾ききっていない壁の雫も。
でもなにより好きなのは、朝ののど自慢大会。
参加者、わずか1名。
気持ちよく歌っていると、防水の置時計は、お風呂に入ってから30分を刻んでいた。
そろそろ出なきゃ間に合わないや。
ここ最近ごっちんと一緒に行ってないし、・・・いや、あたしが悪いんだけどね。
今日は絶対一緒に行かなきゃ!
お風呂から上がって、用意しといた制服にチャッチャカ着替える。
髪を乾かしてリビングに行くと、時計は思ったよりも進んでいた。
やばい、ちょっとのんびりしすぎたかも。
あたしは部屋からバッグを取って、急いで家を出た。
- 120 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:47
-
「おっそーい。」
待っていたのはごっちんのそんな言葉だった。
気が付けば待ち合わせ時間から10分も過ぎていたのだ。
やっぱダメじゃん、あたしってば・・・。
「ごめん!マジでごめんね!帰りになんかおごるよ・・・?」
ほんとに?と彼女の顔は一気に明るくなった。
珍しく腕を組んで早足で歩くごっちんに、あたしはバランスを崩しながら付いていった。
遊園地の事を、早く話したくてしょうがなかった。
でもやっぱりドッキリにしよーっと。
雲ひとつない青い空と、涼しい秋の気候が気持ちよかった。
そういえば、もうすぐ文化祭じゃん。
「フォークダンス、矢口さん誘ってみようかな。」
ふっと軽い気持ちでごっちんにそう言ってみた。
え?っていう顔でこっちを向いてる。はは、そんなにビックリした?
だって、あたしが自分からこんなこと言わないもんね、普通。
「よっすぃー、誘えるのぉ?緊張しちゃって怖じ気づかない〜?」
ニィッと笑いながらそう言った。
そこまでビビリじゃないぞ、あたしは。
「平気だもんね!もう当たり前のように誘ってやるさ!」
「あはっ。ほんとー?」
ううん、ほんとはメチャクチャ緊張する。あたしはそう言って、ごっちんと顔を合わせて笑った。
たぶん、矢口さんと2人っきりになれるときなんて絶対ないから、
フォークダンスぐらいは勇気出さなくっちゃね。
一瞬だし。平気平気。誘えるよ。仲の良い先輩だから、って言い訳付きでね。
- 121 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:47
-
- 122 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:48
-
結局うちらはのんびり歩きすぎて、遅刻してしまった。
フォークダンスの話から火が付いて、文化祭の話題でキャッキャと盛り上がってしまった。
今年もよっすぃーは学ラン着させられるだの、ごっちんは浴衣着たいだの・・・
それに、矢口さんの浴衣見たいな〜なんて話もした。
いや、別に矢口さんが浴衣着るかどうかなんて決まってないんだけどね。
でも、市井さんと矢口さんのいる3年A組は何やるんだろう。
勝手に頭の中で作ったバーチャル矢口さん(浴衣姿)を思い浮かべて、ニヤニヤしてしまう。
「コラ、吉澤なにニヤけてんねん。」
はっと我に返る。
教卓に立つ中澤先生の檄が飛んだ。
どうやらあたしは窓際の席で雲を眺めながら、よだれが出るほどニヤけていたそうだ。
「遅刻しといて授業も聞かないとはエエ根性やなぁ?」
「スンマセン・・・」
くすくす、と友達も笑っていた。
ごっちんも隣の席で”バーカ”と口パクしていた。
もう、みんなしてひどいさ。
それにしても、矢口さんの浴衣姿(仮)楽しみだなぁ。
- 123 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:48
-
今日はそれ以降ほとんど授業はなくて、文化祭の話し合いになった。
いちおー学級委員のあたしは前に出てチョークを片手に話し出す。
「今年の文化祭、何やりたいか提案してくださーい。」
あたしの言葉に、みんな今こそばかりはと手をあげてくれた。
「焼きそばがいい!っていうか屋台!食べ物!」
「えー、おばけ屋敷にしようよ!」
「文化祭っていったらゲームとかの方が盛り上がるじゃん!」
みんな、意見がバラバラですよー・・・。
あたしはとりあえずみんなの意見を黒板にカツカツと書いて行った。
「あ、よっすぃー。」
その時、ごっちんが突然手をあげて立ち上がった。
あんまりクラスじゃ喋らない彼女の行動にみんなの視線が集まる。
「・・・よっすぃーの写真撮影会は?」
- 124 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:48
-
・・・へ?
撮影会?!しかもあたしと?
「そ、そんなの無理だよ!絶対人来ないって!」
あたしがそう弁解すると、今度はみんなあたしの方を向いた。
え?何、その何かたくらんでる目は・・・!
「賛成!」
ひとりの子がそう言うと、一気にほぼ全員の手があがった。
ほぼっていうか、全員じゃん!いやいや、この光景恐いよ!
楽しそうじゃないか〜って何言ってんだよ先生まで・・・。
「む、無理だってば!だいいち、撮影会ってなんだよ!」
あたしは首を横に振って断った。
んな目立つ事やりたくないし、不公平じゃんか!
それでもクラスの子たちの意見は固かった。
「スタンプカード作ってさぁ、学校の何ヶ所かで押して、全部スタンプがたまった人は、うちの教室に来てよっすぃーと一緒に写真撮影ができる、っていうのはどう?」
ごっちんは平明にそう言ってまとめていった。
・・・って何まとめてんだよ。
あっという間に、ごっちんの意見でクラスは拍手でいっぱいになった。
なんかよくわかんなくなって、あたしも何故か一緒に拍手をしていた。
苦笑いだよ、ほんと。
ん?でも矢口さんも来るかもしれないんだよね?
そう思うと・・・今年の文化祭は結構楽しくなりそうかも・・・?
- 125 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:48
-
あっという間に決まったうちのクラスの出し物。
昼休みになると、ごっちんは企画書にそれをまとめてくれた。
「あー、よっすぃ。職員室に企画書出してくるから先に食堂行っててくれない?」
昼休みのチャイムがなって、今にも走り出しそうなあたしにごっちんはそう言った。
確かに、あたしがあの企画書を出しに行くのはそうとう恥ずかしい。
「うん、わかったぁ。いつもの席にいるね。」
そう言って手を振った。
お弁当を持って、食堂までの廊下をひとりで歩く。
なんだか、さみしいもんだね。ひとりは。
本当ならごっちんを待ってから食堂に行きたかったけど、
本音はいち早く矢口さんに会いたかったんだ。
いつもの席にはいつもの2人がいた。
「おー吉澤〜!って真希ちゃんは?!」
即効市井さんは食いついてきた。予想はしてたけど。
ヤッホ〜と言って、矢口さんも手を振ってくれた。思わず会釈しつつニヤける。
- 126 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:49
-
席についてお弁当包みをあけながら、あたしは話し出した。
「ごっちんは職員室に企画書だしに行ってます。もうすぐ来ますよ。」
なんだよー、と市井さんはブーブー言っていた。
「企画書?もう文化祭の決まったの?」
そう言って矢口さんが興味心身に身を乗り出してきた。
ウッ・・・嬉しいけど企画の話なんてするんじゃなかった・・・。
「何やんの?」
市井さんまで・・・ごっちんがいる時はあたしの話なんてどうでもいいのにぃ〜・・・。
あたしはモジモジすんのも鬱陶しかったから、しょうがなく話し出した。
「・・・スタンプラリーです。特典はあたしと一緒に写真撮影会らしーです。」
あぁ、言いたくなかった。でも言わなきゃ矢口さんも来てくれないし。
あたしは2人の反応をうかがった。
「メッチャ楽しそうじゃん!!」
・・・・え?
思わぬ矢口さんの反応に、あたしは目を点にしてしまった。
漫画のように、おはしで掴んだ卵焼きもポトッと落ちた。
「うん、面白そうじゃん。ま、うちらのクラスとなんら変わりないけどね。」
市井さんの言葉にあたしは思わずへ?と言った。
「3-Aは何やるんですか?」
2人は顔を見合わせて笑った。え、え、なに・・・?
「うちのクラスは紗耶香がホストやんだよー。」
- 127 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:49
-
ブッとあたしは思わず吹き出してしまった。
「何笑ってんだよー!オイ!」
怒る市井さんの隣で、矢口さんはクスクス笑っていた。
「でも結構似合ってるんだよー?」
ね?紗耶香。とか言って顔を見合わせていた。
そういうやりとりがちょっと羨ましいとか思っちゃったりして。
「っていうか吉澤さ、木曜日ひま?」
「え?」
急に市井さんがそう言うから、思わず聞き返した。
木曜って・・・23日か。
「あ、その日ごっちんの誕生日ですよ。」
「え?!」
そんなにすごい発表だったのか、今度は市井さんが立ち上がって聞き返してきた。
好きなら誕生日くらい知っとけって・・・。
ま、あたしも矢口さんの誕生日知らないけど。
「木曜に4人で遊びたいね、っていう話をしてたんだよぉ。」
矢口さんがそう言った。
え?4人ってあたしも入ってる・・・?
市井さんとごっちんとあたしと矢口さんが一緒に遊ぶってこと?
つまり、あたしと矢口さんが一緒に遊ぶってこと?(略)
「絶対行きます!行きます!」
あたしがそう言うと、2回も言ってやんの、とソッコー市井さんにツッコまれた。
- 128 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:49
-
「あ、それにごっちんドリームランド行きたいって言ってました。」
あたしの提案に、いーねーと2人も盛り上がっていた。
そうだ、それに4人だと安いんだっけ。ラッキー。
「じゃ、真希ちゃんの誕生日はみんなで遊園地で決定だな!」
市井さんはヨッシャー!とガッツポーズをしていた。
楽しみだねぇ、と笑う矢口さんを見て、あたしも心の中でガッツポーズ。
「お待たせ。」
その時、ちょうどごっちんが歩いてきた。
ナイスタイミング!
「ねぇ、ごっちんの誕生日にドリームランド行かない?」
あたしが早速さっきの話を持ち出すと、ごっちんはへ?と顔を向けた。
「ほんとに?ごとーあのジェットコースター乗りたい!」
こないだテレビでやってたやつだ。
嬉しそうなごっちんの顔を見て、ほっとする。
「んでね、市井さんと矢口さんも一緒なんだけど・・・。」
2人を見てからそう言って、ごっちんの方をもう一度みた。
「え・・・」
一瞬、曇ったような顔をして下を向いてしまった。
あれ・・・なんか怒らせちゃった?
- 129 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:49
-
「アハハ、紗耶香と一緒やだってさ。」
矢口さんがフォローするようにそう言って市井さんをからかっていた。
「別にそんなんじゃない!」
遮るようにごっちんはテーブルを叩いて立ち上がった。
ごっちん・・・?
しばらく沈黙がしてから、ごっちんは吹っ切れた顔を向けて口を開いた。
「ごめん。・・・いいよ、4人で。」
ボソッとそう言うと、もう一度ごっちんは席に座った。
なんで怒ったの?やっぱり、市井さんと一緒は嫌だったのかな。
でもごっちんはいつも嫌だったら嫌って言うのに・・・。
「良かったじゃない、よっすぃー。矢口さんと一緒で。」
- 130 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:49
-
一瞬
ごっちんから発せられた言葉に、あたしは耳を疑った。
「「え?」」
矢口さんとあたしは見事にハモってそう言った。
その隣で市井さんが目を点にしてごっちんを見ていた。
あたしはフッと我に返って、
矢口さんの頭の中で、ごっちんの言葉の意味を消化していっていることに気が付いた。
「ごっちん、何言ってんの?!」
”良かったじゃない、よっすぃー。矢口さんと一緒で。”
って・・・
どう考えたって、あたしの気持ちがバレバレじゃん!
「や・・・矢口さん!ち、違います。気にしないで下さい。」
無意味に否定するあたしの言葉には、密度が薄すぎた。
あたしはごっちんの口から”よっすぃーは、矢口さんのこと好きだもんね”なんて、
そんな火に油を注ぐような言葉が出ないことだけを祈っていた。
「ちょっと吉澤きな!」
そう言って市井さんに手を引っ張られて、
あたしは屋上まで連れて行かれた。
- 131 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:50
-
バタンッと勢いよく屋上のドアを閉め、息を切らした市井さんはドカッと地べたに座った。
「・・・真希ちゃんにちゃんと口止めしなかったの?」
市井さんの質問に、あたしはぶんぶんっと首を横に振った。
「じゃぁなんであんなバレるようなこと、矢口に・・・?」
あたしが聞きたいっつーの。
会話を思い返しても、別に心当たりはない。
さっきのごっちんの言葉は、嫌味にだってとれるほどだった。
でもなんで・・・・いきなり。
「市井さん・・・」
「え?」
「食堂。2人にさせていいんですか?」
あたしがそう言うと、市井さんはサーッと顔を青ざめさせた。
このままだったら、ごっちんが矢口さんにまだまだ言いかねない。
むしろ、あたしの気持ちも全部バラしてしまうかもしれない。
「戻ろう!吉澤!!」
「え・・・あ、はい。」
ってもう遅いような・・・。
半分諦め気味のあたしは、ごっちんが何を考えてるのかだけ、分からなかった。
なんで?
- 132 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:50
-
食堂に戻ると、そこには矢口さんだけが居た。
逆に気まずいんですけど・・・。
「あ、紗耶香、よっすぃー!」
大きく手招きをしてあたしたちを呼んでいた。
昼休みの終わりのチャイムはとっくに鳴っていて、食堂にはもうあたしたちしか居なかった。
小走りで矢口さんのところに行くと、すぐに矢口さんは言った。
「ごっちんが中庭のほうにひとりで行っちゃったの!紗耶香、追いかけてあげて!」
矢口さんの言葉に、あたしはギョッとした。
市井さんがごっちんと2人っきりになるのも大変なことだけど(ごっちんが怒りそう・・・)
必然的にあたしと矢口さんがここで2人っきりになるんじゃ・・・・
「分かった!追いかけてくる!」
えぇ?!行っちゃうんだ!?
市井さんは瞬く間に食堂を出て行ってしまった。
もちろん、残ったのは矢口さんとあたしだけだった。
もう、さっきのことを弁解する体力もないあたしは、黙りこくって椅子に座った。
「・・・なんか、すみません。」
意味もなく謝ると、矢口さんは何も言わずにあたしの手を握った。
あたしは、それに驚いて思わず矢口さんを見つめた。
「分かってたよ、よっすぃー。」
- 133 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:50
-
分かってた・・?
あたしは頭の中が真っ白になった。
何を?あたしの気持ちを?いつから?どの場面で分かったの?
疑問だけがぶんぶん飛び回る。意識さえもぶっとびそうだった。
あぁ、もう終わりだ。
心の中であたしはそう思った。
”でもごめんね。よっすぃーとは付き合えない。”
そんな言葉が矢口さんから出てくる事は覚悟していた。
っていうか、あたしが矢口さんと付き合いたかったかどうかも不明なんだけど・・・。
ただ、見ているだけで良かった存在だから。
あたしは目をつぶって矢口さんの言葉を待った。
「よっすぃーは、ごっつぁんのことが好きなんだよね!」
- 134 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:50
-
・・・・。
「へ?」
今までにないような変な感覚に襲われた。
ホッとしたような、ゾッとしたような感じだった。
矢口さんの言った言葉に、あたしは色んな意味を感じていた。
っていうか・・・・あたしがごっちんを?!
「あのー・・・矢口さん?」
「ん?」
弁解したい。違うって言いたい。
でも・・・そうするとまたややこしい気が・・・。
「あたし、別にごっちんのこと好きっていうわけじゃぁ・・・・」
曖昧にボソボソ言っていると、矢口さんは握った手を強く握り返した。
何を思ったのか、彼女はものすごく満足そうだった。
「そのうち気付くよ、自分の気持ち。頑張って!」
ガンバッテって・・・矢口さーん・・・。
あたし、どうしたらいいんですか??
- 135 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:50
-
予想もしなかった展開に、あたしはとりあえずこんがらがっていた。
しばらくすると、食堂には市井さんが戻ってきた。
心配そうにあたしの方を見た。
でも、目の前にあるのは手を握り合うあたしと矢口さん・・・・
「え?2人どういうカンケイ?」
思わず市井さんも後ずさり。
第二の誤解を招いていた。あっちゃー・・・・
「あはは、違う違う。励ましてただけだよ。」
矢口さんはそう言ってスッと手を離した。
勘違いだけど、勘違いだからしょうがないけど、
今あたしは矢口さんに思いっきり否定されたような・・。
違う違うって・・・2回も言ってやんの。
「とりあえず先に矢口は教室戻ってて。あたしは吉澤と遊園地の話するから。」
市井さんはそう言ってあたしの手を引いて歩き出した。
「分かったよ〜。紗耶香も早く戻ってきなよ〜。バイバイ♪」
あたしも矢口さんに軽く会釈をして、市井さんに付いて行った。
- 136 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:50
-
再び屋上に来ると、とりあえず市井さんから話し始めた。
「で、どういうこと?説明してよ。」
説明してよって・・・こっちのセリフですよ。
ごっちんのことも聞きたいし。
「矢口さんは、あたしの好きな人はごっちんだって、思ってるみたいなんスよ。」
「は?!なんで?」
声デカイっすよ、とあたしはツッコんだ。
それもこれも、全部あたしだって分からないことばっかなのに。
「分かんないですよ。でもとりあえず、あたしの気持ちはバレてないみたいです。」
あたしがごっちんのことを好き、っていう勘違いのおかげでね。
「そっか・・・でもそれもややこしい話になっちゃったな。」
市井さんはそう言って腕を組んだ。
うーん、と唸ったまま喋らないから、結局あたしが話しつづける事に。
「でもなんか気まずくなっちゃいましたね。遊園地、どうしますか?」
あたしがそう言うと、バッと顔をあげて市井さんは笑った。
「それなら問題ないぜぇ!安心しな♪」
・・・は?
- 137 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:51
-
教室に戻ると、思いっきり授業中だった。
席につくと、横目でみるごっちんの横顔があった。
どうしよう、まだ怒ってるかな。
いや、待て。なんであたしがこんなに心配してるんだ?!
”良かったじゃない、よっすぃー。矢口さんと一緒で。”
・・・・あんな心臓縮むようなこと言われたのに・・・。
ま、結果的には勘違いに助けられて大丈夫だったけど・・・。
「あ、よっすぃー。遊園地たのしみだねー。」
突然、横から声が聞こえた。
・・・ごっちんだった。
それはもう、何事もなかったような普通の態度で。
いつものような、愛想のないけど優しい声で。
「あ、あ・・・うん!たのしみ!」
ダサ!あたし。どもっちゃったよ。
遊園地、行ってくれるんだ・・・。
絶対もー行かない!とか言われるかと思ったよ。
それにしても、何て気まぐれなんだこの子は。
さっきはイキナリ怒ったかと思えば、突然あんなこと言うし。
そんで今はスッカリご機嫌戻ってるしさ。
さっきごっちんが食堂から逃げ出したあと、
市井さんと2人になったんだよね?
まさか、市井さんがごっちんに素晴らしいお言葉を・・・?
いやいや、でも市井さんなんかの言葉でごっちんが機嫌治すわけ・・・
あるのか・・・?
とりあえず、市井さんの言ってた通り、問題はないみたいだけど・・・。
- 138 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 15:51
-
ごっちんの誕生日当日、あたしはプレゼントをポケットにしまって家を出た。
理由は分からないけど、何事もなかったように4人は集まった。
複雑だけど、今日は楽しまなきゃね。
ね・・・?
- 139 名前:ゆら 投稿日:2005/03/28(月) 15:56
- お待たせしてすみません。
更新終了です。
>名無飼育さん
まったりがちょっと修羅場ってしまいましたが^^;
>ローワンさん
後藤さんがさらに気になる展開になりました。
頑張ります。
>通りすがりの者
青春ですね。春一番が吹いてから、もうこんなに経ってしまいました・・・。
更新遅いですが、末永くよろしくお願いします。
>真由さん
いちごまはまだ明らかになりませんが、徐々に・・・^^
>知つぁんさん
よしやぐに勘違いが生じてしまいました^^;
波乱万丈です。
>12号さん
よっすぃーがだんだん天然系に・・・^^;
頑張ります。
- 140 名前:ぱっち 投稿日:2005/03/28(月) 23:38
- はじめまして
緑板で書かせてもらっている者です
もうこの小説めっちゃスキです!
ってかこの大量更新が素晴しい・・・・
- 141 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/29(火) 02:37
- 更新お疲れさまです。そして大量生産有難うございますm(__)m よしやぐ思わぬ誤解?? いちごまは一体何があったんでしょう?市井さん、何かやらかしましたかね? 色々と疑問を考えつつ、次回更新待ってます。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/29(火) 02:46
- 吉澤さん後藤さんもとてもかわいらしくて読んでて楽しいです。
次の更新を楽しみにしてます。
- 143 名前:知つぁん 投稿日:2005/03/31(木) 17:51
- 更新お疲れさまです!
今回の展開すごいおもしろかったです!!
市井ちゃんはいったい何をしたんだ・・・
もしかしていちごまとよしやぐ期待できますか??
次の更新に期待です^^
- 144 名前:名無し読者 投稿日:2005/04/11(月) 17:57
- 待ってます!!!
- 145 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:01
- 9月23日、秋分の日。ごっちんの誕生日。
空は青く晴れ渡り、最高の遊園地日和だった。
「おっそーい。」
朝9時。家の前で待っていたのは、そんないつもの彼女だった。
ごめんごめん、と一謝りして歩き出す。
昨日、ごっちんに市井さんが何を言ったのか分からないんだけど、
何事もなかったように、いつも通りのごっちんに戻っていた。
まぁ、訳はあとで市井さんに聞くことにしよう。
「ねぇ、よっすぃー。・・・昨日はごめんね。」
「え?」
いつもの坂道を上りきるところで、彼女は突然そう言った。
ごめんね。その言葉にあたしはポカン、と口をあけた。
でも多分、ごめんねの意味は昨日の矢口さんの件だとすぐに感じることができた。
”良かったじゃない、よっすぃー。矢口さんと一緒で。”
ごっちんが昨日食堂で突然言った言葉。
矢口さんにも聞こえちゃったんだよね。
ま、でも結局変な誤解から、気持ちはバレずに済んだんだけど・・・。
- 146 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:01
-
「ごとー、どうかしてたかも。」
みっともないよね、と言ってごっちんは小さく苦笑いをした。
「ううん、全然・・・」
言葉が思い当たらなかった。
ごっちんは悪くないのに・・・こんなんじゃラチがあかない。
大体、矢口さんが来るからって4人で行く事にしたあたしが浅はかだったんだ。
結局ごっちんには迷惑かけてばっかりなんだもん。
「と、とりあえずさ!今日は楽しもうよ。ね?」
せっかくの遊園地だし。とあたしはそう言ってごっちんの手をつないだ。
それが精一杯のあたしの気持ちだったから。
手をつなぐと何か通じるものがあるのか、ごっちんは表情を明るくさせた。
「そーだよね。うん、楽しむ!」
待ち合わせは遊園地がある駅だった。そこまではうちの最寄駅からごっちんと2人。
市井さんと矢口さんも一緒に来てんのかな?
- 147 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:01
-
電車に乗ると、あたしは昨日の市井さんのことを思い出した。
実はまだ、あの時市井さんはごっちんに何を言ったのか気になってたんだよね。
「ねぇ、ごっちん。」
んー?と聞き返すごっちんは、電車の吊り広告を見ていた。
ちょうどドリームランドの宣伝広告だったのか、結構じーっと見てるみたい。
「あのさ・・・昨日市井さんと2人っきりになった時・・・」
「え?!」
唐突な質問だったからか、それとも内容が内容だったのか、
ごっちんは過剰な反応でこっちを見た。
しかも、なぜか顔が真っ赤なんですけど・・・・。
「あの時さー、市井さんに何を言われたの?」
質問を続けると、ごっちんは顔うつむけてしまった。
あれ。あれれ?まさか・・?
市井さんの事だからありえないことはないよね・・・。
でもまさか、あの時2人はゴールインしちゃったってこと?
市井さんが巧みな言葉遣いでごっちんを?
・・・いやいやいやいや、それはないよね??
- 148 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:01
-
「言えなかったらいいんだけどね。ごめんね。」
とりあえずあたしはそう言って、ちょうど1つ空いている電車の席をごっちんに譲った。
ごっちんはすとん、と座って顔を上げる。
「・・・うん、まだ言えない。ごめんね。」
意外とすんなりそう言われた。
嘘か弁解か、そのくらいはすると思ったんだけどなぁ・・・。
”まだ言えない。”って・・・ちょっとショックだったり。
何分かして電車は遊園地のある駅についた。
市井さんたちの姿が見えたとき、なんだかやっと今日が楽しい日だって気がした。
っていうか矢口さん・・・・私服も可愛い!
「真希ちゃ〜ん♪」
嬉しそうに手を振る市井さんを見て、小さくヒラヒラ手を振るごっちん。
いつもは市井さんに対してもっと冷たいのになぁ・・・。
やっぱり、本当に、ごっちんと市井さんは付き合うことになったのかな・・・?
「おっはよ〜、よっすぃー♪」
あたしはと言うと、矢口さんの元気な挨拶に、顔がほころんでいた。
それでも心の中は複雑だったりするんだけど。
だって、矢口さんはあたしの好きな人=ごっちんだと思ってるんだもんね・・・。
はぁ・・・。
- 149 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:01
-
駅から遊園地までは歩いて20分くらいで、駅のコンビニでアイスを買ってからみんなで出発した。
気分がいいのか、全部市井さんのおごりだったんだけど。
そんな市井さんは真っ先にごっちんの隣をキープして歩き出した。
・・・行動が早いっすよ。さすが。
ごっちんも嫌がる様子でもないみたいだし。
やっぱり2人はチョメチョメなのか?!
そんなアホな妄想を膨らませていると、市井さんのお陰で、あたしは必然的に矢口さんの隣にいることに気づいた。
突然のことでドクンッと心臓が大きく鼓動する。
「〜〜〜〜〜っ。」
やべー・・・絶対今顔赤いよ・・・。
あたしは必死に空や地面を見ながらキョドっていた。
前を歩く2人とは2メートルくらい離れてて、まるで矢口さんと2人っきりのデートみたい。
日差しも優しくて、青葉の木漏れ日もほどよくて、ほんと、最高の遊園地日和だよ。
それにしても、涼しいなぁ・・・。顔は爆発寸前なほど熱いんだけど。
「ふぇー・・・涼しいねぇ。」
矢口さんがふとそう言った。え、うそ、同じこと思ってた?
「え?あ、はい!涼しいですよね。」
あんまりビックリして、あたしは思わずそんな言葉しか返せなかった。
それでも矢口さんはニコニコしながら話を続けてくれた。
「夏休みにドリームランドのプール行ったんだけど、もーメッチャ暑かったんだよ!」
矢口さんの言葉に、あたしは思わず水着姿なんか想像してしまった。
オイオイ、あたしはただの変態か?
- 150 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:03
-
遊園地につくと、ものっすごい人でいっぱいだった。
まぁ、さすが祝日って感じなんだけど。
家族で来てる人もいれば、カップルで来てる人もいた。
そんでもって・・・
「やべー!女の子がいっぱいいるー!」
そう言って真っ先にはしゃぎだしたのは市井さんだった。
両手を広げて、この空気を満喫してるって感じ。
はぁ・・・他人のフリしたい。
「もー、バカじゃないのぉ?」
矢口さんは呆れた様子でそう言っていた。
まったく、賛成だ。うん。
それにしても、もしごっちんが本当に市井さんと付き合ってるなら、
やっぱこういう市井さんの軽いところ見ると、嫌なのかな?
なんつーか、・・・ヤキモチとかそういうの。
そう思ったあたしはふとごっちんの方を見た。
「あー、あれ乗る!」
ごっちんはのん気にそう言ってジェットコースターを指差していた。
って、市井さんのことなんて見てもないし・・・。
- 151 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:03
-
「あのー、後藤さん。すっごい目がキラキラしてるんですけど・・・。」
ジェットコースターを見つめる彼女にあたしはそう言った。
でもすっごい嬉しそう。
良かった、最高のプレゼントができて。
「ずっと乗りたかったんだぁ。嬉しい。よっすぃー大好き!」
素直に出るごっちんの言葉に、あたしも笑顔が自然と出た。
うーん、市井さんが惚れるのもわかるよなぁ。
っていうか市井さんの前で大好きとか言っていいんですか?
ま、ごっちんのあたしに対する”好き”=”幼馴染として”だからいいんだろうけどね。
気にせずに早速4人でジェットコースターの列に並ぶことした。
今度はあたしとごっちんが隣になって、後ろには矢口さんと市井さんが隣に並んでいた。
「真希ちゃん、あたしと隣に乗る?」
あたしがごっちんと会話ひとつ交わす間もなく、ニカッと笑って市井さんはそう言った。
キラースマイルってこういうこと言うのね・・・。
「観覧車じゃないんだから、隣座ったからってどうすんの。」
ごっちんは一見冷たい言葉のように、そう言い放った。
「おいー、冷たいよ真希ちょわぁ〜ん」
市井さんは両手で顔を覆って、泣きマネなんかしながらそう言った。
うーん・・・このやり取りは特に前からこんな感じだったよねぇ?
やっぱり市井さんみたいな軽々しい人のこと、ごっちんが好きになるハズは・・・―――
そう思った瞬間、あたしはごっちんの横顔をふっと見た。
彼女は、そんなどうしようもない市井さんを見て・・・
やさしく微笑んでいた。
その表情を見て、あたしは何も言葉が出なかった。
- 152 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:03
-
その瞬間、本当にごっちんは市井さんのモノになったんだと、確信した。
「観覧車だろーがジェットコースターだろーが、好きな人の隣にいるだけで嬉しいんだってば。」
さりげなくそう言う市井さんに、あたしは一瞬でごっちんの隣を取られてしまった。
よくもそんな恥ずかしい言葉が・・・。
って、そういう言葉にみんなコロッといっちゃうのか。
それとも・・・そんな言葉を聞けるのは、ごっちんしかいないの?
- 153 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:03
-
また矢口さんの隣に来れて嬉しい反面、なんだかモヤモヤしていた。
ごっちんとは姉妹とか親友とか、そんな軽い言葉じゃ済まされないほど仲が良かった。
だからお互い特別だと思ってた。
なのに・・・
自分の物を取られるってこんなに悔しいもんなの?
・・・自分の物?自分の?ごっちんが?
だいいち物ってなんだよ。
でも・・・あたしはいつからかそんな風に思ってたのかもしれない。
相手が市井さんっていう大きすぎる壁だからこそ、悔しいんだ。
今まではどんな人がごっちんに近づいてきても、うちらの仲には勝てないと思ってた。
けど、それは浅はかだったんだよね。
「よっすぃー?」
「え?」
急に矢口さんの顔が目の前にあった。
あたしは思わずドキッとして一歩さがってしまった。
いや、多分さっきからずっと話し掛けてたんだと思う。
考え事してると話聞かないんだよね・・・。たとえ矢口さんでも。
- 154 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:03
-
列はあと少しであたしたちの順番が来そうなくらい進んでいた。
あたし、どんだけ考え事してたんだ?
「ごっつぁんのこと、悔しくないの?」
矢口さんは突然そう言った。
思わず、あたしはズキッと胸を傷めた。
なんていうか・・・いや、なんでだ?
「いや、平気っす。っていうか、あの2人はもう付き合ってるんですかね。」
あたしは表情に気持ちを出さないように必死にそう言った。
多分、矢口さんの言う”悔しくないの?”っていうのは、
好きな人を取られて悔しくないの?って意味で、
あたしの今思ってる悔しさは、自分の物を取られた悔しさなんだよね。
いや、物っていうのはやめよう。
ペット?おもちゃ?・・・ただの幼なじみ?
ごっちんって・・・あたしにとって何?
- 155 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:03
-
「え?!付き合ってないっしょ。それはナイナイ・・・」
でも、よっすぃーの恋のライバルは紗耶香かぁ・・・。と付け加えて、矢口さんは腕を組んでウンウン、と唸ってそう言った。
いや、だから好きじゃないですけどね。誤解なんです。誤解なんですよぉ・・・
って弁解したいのは山々なんだけど。
「市井さんって他の女の子にあんな感じなんですか?」
あたしはそう言って話を変えたつもりだったけど、あんまり変わってなかった。
多分矢口さんからしたら、あたしがライバルの情報収集しているようにしか思わないと思う。
まぁ、しょうがないんだけど・・・。
「そうだね。いつもあんな調子。」
タラシだから、紗耶香は。と矢口さんは小さく笑った。
噂で聞いたけど、市井さんは付き合ってない女の子ともキスしちゃったりするし、
付き合ってる人数もあんまり定かじゃないし・・・。
ごっちんもその中のひとりなのかな?
それでも、ごっちんの気持ちが市井さんに行ってるんだったらどうしようもないんだけどね。
- 156 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:03
-
あっと言う間に列はどんどん進んで、あたしたちは赤光りするジェットコースターの車体に乗り込んだ。
前の席では市井さんが紳士のように手を取ってごっちんを座らせていた。
・・・なんだよ。どーせ色んな女の子にあぁいうことやってんでしょ。
「はい、矢口にもやってよ?」
先に乗り込んだあたしに向かって、突然矢口さんはそう言った。
何?!何?!なんだか矢口さんが積極的になってるよーな・・・。
「あ・・・そうですよね!ハイ・・・。」
そんな上目遣いで見られたら、あたし心臓ぶっとんじゃいますってば・・。なんちゃって。
・・・もしかして、あたしが市井さんにヤキモチやいてると思って、気遣ってくれてるのかな。
そんなこと思いつつ、あたしは市井さんと同じように、矢口さんの手を取って座らせた。
「よっすぃー、こういうの平気なのぉ?」
矢口さんは泣きそうな顔をしてこっちを見ていた。
こういうのって??
あ、ジェットコースターとか絶叫系のことね。
一瞬、矢口さんの積極的な態度のことかと思った。アホか、あたし。
「平気っすよ。矢口さんはダメなんですか?」
もちろん、矢口さんの積極的な態度も平気なんですけど、むしろ大歓迎なんですけど、でも、緊張するんで平気じゃないんです。
あたしは心の中でそんな意味不明なことを思いつめていた。
さっき座らせてあげたときに取った手を、矢口さんは離そうとしない。
力強く握られた矢口さんの手は、とっても華奢で、小さかった。
まるで恋人同士みたく手を握り合って座る、ジェットコースターの中の狭い空間。
「超ダメだよぉ。うわぁ、出発するよぉ・・・」
ちょっとカワイイなって思って、あたしはクスクスっと少し笑った。
そんなことを言った直後、ジェットコースターはカタカタと嫌な音を立てて動き出した。
斜面を登りだすと、わりと少し怖かったり・・・。
「大丈夫ですよ、吉澤が付いてますから。」
- 157 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:04
-
へ?と、矢口さんの返事が返ってきたのは、言うまでもない。
自分でもどうした、っていうような発言。
ちょっと市井さんのキャラが移っちゃったかも。
あたしにとっては珍しい言葉かもしれないけど、市井さんはこういう言葉をごっちんにたくさん言ってて、
それでごっちんは、それを聞いて・・・・好きになっちゃったのかな。
もう、あたしのものじゃないんだよね・・。
「ばかちん、浮気はよくないぞ。」
矢口さんは照れくさそうにそう言って下を向いた。
浮気って・・・あぁ、ごっちんのことか。いや、付き合ってないんですけどね。
むしろ好きっていうのもカンチガイなんで。
「あ、落ちる。」
――――――――
- 158 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:04
-
ビュンッと風を切って落ちるジェットコースター。
あたしは怖さを楽しみながらも周りの風景とか人を見ていた。
前の席で手をあげてはしゃぐごっちんと、本気でビビッてる市井さん。・・・ウケる。
そんでもって矢口さんは?
「うぅ・・・よっすぃー・・・」
あたしの腕にしがみついたまま、ずっと下を向いていた。
急斜面をどんどんすごいスピードで下るジェットコースターの中で、
なぜかあたしはすごい展開だ、とか思っていた。
あのー・・・このシチュエーションは、かなりおいしいんじゃ・・・
もはや絶叫マシーンに乗っている感覚ではなかった。
隣に矢口さんがいる。
超、密着してる。
こんな、こんなのって・・・アリ?!
- 159 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:04
-
あっという間にスタート地点に戻ってきた。
満足そーに降りるごっちんと、それに付いていく必死の市井さん。
はは、市井さんでも苦手なものあるんっすね。
「矢口さん、大丈夫ですか?」
今にも泣きそうな彼女の手を取って、あたしは階段に向かった。
「もーだめぇ・・・よ"っずぃー・・・」
完全にダウンしてるじゃないですか・・・・。
そんなに絶叫マシーンだめだったのかな?
足取りもしっかりしてない矢口さんを見て、あたしは少し躊躇しながらも矢口さんの前にしゃがんだ。
もちろん、矢口さんのほうに背を向けて。
「乗ってください。少し、どっかで休みましょう。」
あたしがそう言うと、矢口さんはゴメン・・・と言ってあたしの背中に覆いかぶさるように乗っかった。
よいしょ、と声を掛けて立ち上がると、状況に気づいた前の2人がこっちを見ていた。
「おーい、矢口。大丈夫なの?」
市井さんは心配して矢口さんに近づいて顔を覗き込んだ。
すっかりぐったりした姿を見て、市井さんはあっちゃー・・・という顔をしている。
あんなに仲いいのに、絶叫弱いって知らなかったのかね、アンタは。
「市井ちゃんこそ大丈夫なの?」
ごっちんはそう言って市井さんを心配していた。
いや、”市井ちゃん”って、なんすか。
もうそんな仲ですか、そうですか・・・・。
「あたしは平気だよ。一瞬ダウンしたけどね。心配してくれてありがと♪」
すっかり元気な市井さんに、ごっちんは”あっそ”と言い放った。
- 160 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:04
-
「あたしと矢口さんはどっかで休んでるんで、しばらく2人で遊んでて下さい。」
矢口さんも逆に、みんなに気遣っちゃうしね。あたしはそう思って2人にそう言った。
2人は顔を見合わせて、少ししてから市井さんが口を開いた。
「んー、わかった。悪ィな、吉澤。」
いいえ、とあたしは笑い返した。
ごっちんの方を見ると、なんだかそっぽを向いたまま口を結んでいた。
・・・何何、今度は何を怒ってるの?
よく分からなかったけど、とりあえずジェットコースターの出口まで行って、ひとまず解散した。
「30分くらいしたら戻ってくるよ。」
市井さんはそう言うと、ごっちんの手を握って歩き出した。
もうすっかり恋人同士なんだなぁ・・・。
それにしても、どうしてそのことをごっちんは教えてくれないんだ?
”まだ、言えない”って、いつなら言うってことなんだろ。
あたしがうーん・・・と頭を抱えていると、ぐったりしていた矢口さんが顔をゆっくりあげた。
「ごめんねぇ。少し落ち着いてきたよ、ありがと。」
矢口さんはそう言って少し辛そうだったけど、やわらかく笑った。
あたしは少しホッとして、いえいえ。と返事をした。
- 161 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:04
-
「何か飲み物買ってきます。」
ごめんね、と連発する矢口さんを気にしながらも、あたしは自販機にジュースを買いに行った。
矢口さんをひとりにさせるのはちょっと不安だったから、ちょっと早足で歩いた。
急いで自販機でお茶とオレンジジュースを買って、あたしは矢口さんのいるテーブルに戻ると、少し顔色の良くなった矢口さんはこっちを見てアリガト、とお礼を言った。
「お茶とオレンジジュース、どっちがいいですか?」
「ん、お茶がいいな。ホントありがとね。」
今度は矢口がなんかオゴるわ、と言ってヘラッと笑っていた。
良かった。少し元気になったみたい。
なぜだか2人のいるテーブルには、沈黙が流れ出した。
矢口さんがお茶を飲むごとに、のどが鳴る音だけが聞こえる。
今頃気づいたこの2人っきりのシチュエーションに、あたしは焦りを隠せなかった。
何か喋らなきゃ!あたし暗いヤツだと思われちゃうじゃん。
矢口さん具合悪いし、あたしが話リードしなきゃいけないし・・・
あたしはオレンジジュースのフタをあけて、炭酸の泡が抜けていく様子をただ見ていた。
ほぼ焦点も合ってなくて、頭ん中はポケモンのポリゴン現象の様にうねうねと渦を巻いていた。
・・・やべぇ、重症だよこれ。
・・・・・ごっちんが好きっていうのは、誤解なんです・・・・・
その一言が出なかった。弁解したかった。あの日のことを。
むしろごっちんはもう・・・市井さんのものなんだから。
弁解しなきゃ。誤解、とかなきゃ。
でも・・・
「よっすぃー、どうした?」
- 162 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:04
-
「・・・へ?」
覗き込むようにあたしを見る矢口さんは、心配そうな顔をしていた。
いつの間にか、またひとりで考え事して無言になってたみたい。
「なんか悩んでるなら、矢口に話してよ。ちゃんと、聞くよ。」
ね?と付け加えてそう言った。
矢口さんのそんな優しさが嬉しかった。とてつもなく。
そう思うと、なんだか涙が出てきた。
自分がちっぽけだなって・・・。
「よっすぃー・・・」
ぎゅっと手を握ってくれた重なる矢口さんの手に、あたしの涙が頬から滴り落ちた。
「矢口さん、あたし・・・」
うん、うん。と小刻みに頷きながら彼女はただただあたしの目を見ていてくれた。
あたしは恥ずかしいのともどかしいので、真っ直ぐな目を見返せなかった。
「あたし・・・ごっちんのこと好きじゃないんです。」
- 163 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:05
-
え?という顔で矢口さんはあたしを見ていた。いや、本当に”え?”って言ったのかもしれない。
「どういうこと?」
彼女の質問に、あたしは口をつむんで何もいえなかった。
どう説明していいのか分からない・・・。
多分あの日、矢口さんはこう誤解したんだと思う。
@あたしはごっちんのことが好き。
Aしかし市井さんというライバルがあらわれた。
Bあたしは素直になれないで、ごっちんに「自分の好きな人は矢口さんだ」と嘘をついた。
C結果、ごっちんがあの時ムキになって「矢口さんと一緒で良かったじゃない」と言う誤解発言をしてしまった。
Dでもあたしが本当に好きなのはごっちん。
Eでも市井さんが・・・・
・・・
・・・
「とにかく、あたしの好きな人はごっちんじゃないんです。誤解なんです。」
矢口さんの誤解を頭の中でまとめた後、あたしはそう言った。
とは言っても、矢口さんはよく分かっていないみたいで、聞きたいことがいっぱいあるみたいな表情をしていた。
「・・・・そっか。よっすぃーがそう言うなら間違いないよね。」
矢口さんからは、突然そんな意外な言葉が発せられた。
「え?何も聞かないんですか・・・・?」
思ったままにそう聞き返すと、矢口さんは優しく笑って握った手をスッと自然に離した。
まるで、あの日一緒に玄関まで走った時みたいに。
- 164 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:05
-
「だって、矢口が首突っ込む話じゃないしさ!ね。」
確かに。と思いつつも、遠まわしにあたしとあなたは関係ない・と言われたみたいでちょっとヘコんだ。
それだけ言うと、矢口さんは立ち上がって大きく伸びをした。
ふぁーとか大きな大きなあくびをして。それでも小さな顔と妙に色気のある口元は可愛さ満点なんだけどね。
そんなこと思っていると、突然矢口さんはあたしの手を引っ張って立ち上がらせた。
なんか矢口さんって突然の行動多いな・・・。
「さてと、よっすぃーの誤解も晴れたところで矢口たちも2人で遊ぶかぁ!」
「へ?」
2人?市井さんたち待たなくていいの?
疑問たっぷりのまま、あたしはされるがままに矢口さんの足取りに付いていった。
引っ張っていた手は、いつの間にか自然に手を繋いでいた。
やっぱり、矢口さんの手は小さかった。
っていうかいつの間にそんな元気取り戻したんですか・・・?
「絶叫系はもう乗らないかんね!」
矢口さんはそう言って、観覧車乗り場にあたしを連れて行った。
え、え、観覧車っすか?しかも2人で?!
無理無理無理無理!!緊張して喋れるどころじゃないですって・・・
「あれ、よっすぃーもしかして高いところダメとか?」
あまりにも焦りまくっていたあたしを見て、矢口さんは心配そうにそう言った。
「い、いえ、平気です!行きましょ?」
ええい!この際、この最高のシチュエーション楽しまなきゃ?!
- 165 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:05
-
自分たちの乗る観覧車が近づいてくると、心臓の高鳴りもハンパなくなっていた。
どうしよう・・・めっちゃ恋人みたいじゃん、これさぁ・・・
まさか憧れの矢口さんとこんな風になるなんて思ってもなかったし。
う〜〜〜・・・根性だせぇ!吉澤ひとみ!
観覧車が目の前に来ると、嬉しそうに矢口さんはあたしの背中を押して先に乗らせた。
え、え、何?
「ハイ♪」
素早く手を差し伸べる矢口さん。
あれれ、もしかして・・・さっきみたく?
「・・・あ、はい・・・」
あたしは顔を真っ赤にしながら、ジェットコースターの時みたいに矢口さんの手を引いて観覧車に優しく引き込んだ。
おー、じぇんとるまんじゃーん、とからかう矢口さんとは裏腹に、不自然に笑うあたし。
観覧車のドアが閉まると、あたしたちはゆっくりゆっくり上に進んでいった。
隣に座るっていうのはさすがに恥ずかしくて、あたしは矢口さんの向かい側に座った。
おいしすぎるぞ、あたし・・・いいのか?
「わーどんどん小さくなってくねー。」
窓から今にも飛び出そうなくらい張り付いて外を見る矢口さんは、まるで初めて遊園地に来た小学生みたいだった。
そんな姿を見て、だんだん緊張もほぐれていくのが分かった。
「市井さんたち、見えます?」
さりげなく矢口さんに話をふると、うーん・・・と言いながら本当に外を見て探しているようだった。
「あ、あれかなぁ?」
アレアレ、と指差す矢口さんにひきつけられるように、あたしは矢口さんと同じ側のイスに、矢口さんと同じように膝をついて並んだ。
「どれですかぁ?」
必死に矢口さんの指差す方向を見ていて、お互いの肩と肩が触れ合ってることなんか気づかなかった。
- 166 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:05
-
「あー・・・中入っちゃった。」
結局、あたしが見つける前に視界からは消えてしまったようだった。
再び前を向こうと振り向いた瞬間・・・
ゴチンッ
「いってぇっ」「イタッ」
おでことおでこがピッタンコ?とはこの事を言うのだろうか。
振り向いた方向がお互い合致して、思いっきり額をぶつけ合ってしまった。
「プッ・・・あははははっ!!」
思わずあたしはおなかを抱えて笑い出してしまった。
「キャハハハッ!!」
矢口さんもつられて笑った。
その瞬間、心から笑った矢口さんを見て、あたしは本当に今楽しいと思った。
知らなかった。こんな感情なんて、今まで一度も。
これが人を好きになるってことなんだ。
とどまる事のない気持ちに心が溢れてきた。
何をするワケじゃなくても、こんなに愛しい時間が、ほら。今ココに流れてる。
いたずらに笑う仕草も、口癖も全部、”矢口さんらしい”と思う程、好きになった。
緊張する必要なんてなかったんだ。
観覧車に乗る前のあの自分がまるで嘘のように、矢口さんとあたしはずっと笑い続けていた。
笑い続けて、そのあとお互いのことを色々話した。
中学校の時、実は矢口さんは生徒会長だったこと、そして高校に入ってからはごみ捨て係まで落胆したこと。
あたしがこないだレンタルCDを返す期限日に急いで返しに行って、ケースだけ持って行っちゃって恥ずかしかったこと。
色んな話をして、たくさん笑った。
- 167 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:06
-
観覧車を降りたあとは、ごく自然に矢口さんと話をすることが出来た。
「あ、紗耶香たちにソフトクリーム買っていってあげようよ。」
矢口さんの提案で、2人でソフトクリームを買いに行った。
チョコがいいかなぁ、とかミックスがいいかなぁ、とかそんなくだらないことを話しながらさっきのテーブルに向かっていた。
両手にソフトクリームを持った2人は手を繋ぐことは出来なかったけど、少なくともあたしは隣に彼女がいることで気持ちがいっぱいだった。
テーブルに戻ると、2人はすでに座って待っていた。
そして・・・
市井さんは、ごっちんにプレゼントをあげていた。高そうなネックレス。
手を首の後ろに回してネックレスを付ける市井さんと、喜ぶごっちんの横で、あたしはポケットに入ったあのプレゼントを握り締めていた。
「あ、おかえり。」
ごっちんはあたしたちに気づいて手を振ってきた。同時に市井さんもネックレスを付け終えて手を暇させていた。
あんな高いプレゼントもらって、あたしの見たら期待はずれだろーな・・・
「はい、矢口からのプレゼント」
矢口さんは冗談っぽくごっちんと市井さんにソフトクリームを渡していた。
「ごっちん。あのー・・・・ごめんね、こんなので。」
そう言いながら、あたしは片方のソフトクリームを矢口さんに渡して、ポケットから小さな小包を出してごっちんに渡した。
「よっすぃー・・・ありがとぉ。」
市井さんがくれたやつより、ずっと安物だけど・・・。とあたしは小さく笑った。
それに、値段よりも何よりも、好きな人・・・市井さんからもらったそのネックレスの方が何倍も価値があるよ。
- 168 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:06
-
「ふぇ・・・ひっく・・・うぅ・・・ぐ・・・」
その時、ごっちんは突然泣き出した。
「え?!何、なんで?」
あたしは驚いてめちゃくちゃ焦った。
何かした?悪いことした?
えぇ〜?!
市井さんと矢口さんも驚いてギョッとしていた。
「ごっつぁん?!」
「真希ちゃん、どうしたんだよ?!っつーか吉澤泣かすなよ!」
市井さんの言葉に”あたし何もしてないですよ!”と思いっきり首を横に振った。
あたしは全く状況がつかめなくて、むしろなぜか市井さんに悪者にまでされて・・・
「だって・・よっすぃー、今日全然話してくれないんだもん・・・ずっと矢口さんとさぁ・・・。」
え?え?どゆこと?
「いや、だって市井さんが居たしさ・・・ジャマかなって。」
付き合ってるはずの市井さんの前でなんてことを・・・。
あたしは市井さんの方を見ると、さっきから特に変わりもなく驚いているだけだった。
いや、普通はここ行動起こす場面じゃないっすか??
彼女があたしにヤキモチやいてんですよ?しかも矢口さんって・・・え?
「なによ、ジャマってぇ・・・」
ごっちんは変わらず泣きながらポツリ、ポツリ、と言葉をもらしていた。
なによって・・・・
「・・・・・・・・付き合ってんでしょ。市井さんと。」
- 169 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:06
-
「え?」
最初に聞き返したのは、当のごっちんではなく、市井さんだった。
いやいや、アンタが聞き返してどうすんですか。
「何言ってんの?!そんなわけないじゃん・・・!」
そのあとやっとごっちんはそう言った。
泣き声とは裏腹に、今度はずっと強い言葉遣いだった。
何、市井さんといいごっちんと言い・・・まさか、付き合ってないってこと・・・?
「え?・・・てっきりそうかと思ってて・・・」
だって、積極的な市井さんはいつものことだけど、ごっちんが市井さんに口説き文句言われても怒らないで笑ったあの笑顔とか、
プレゼントをもらった時に見せたあの嬉しそうな顔とか・・・そんなのカンチガイしちゃうじゃん。
「ま、誤解だったってことだねぇ!」
矢口さんがうまくフォローしてくれたけど、それでも思わぬ誤解から変な沈黙が流れた。
聞こえるのは、ごっちんが泣きながら鼻をすする音だけだった。
「と、とりあえず帰るか!」
そう言って沈黙をやぶった市井さんがレッツゴーとか言いながら歩き出した
その瞬間・・・―――
「ごとーの誕生日、本当は、よっすぃーと2人が良かったよー・・・・・・」
彼女の言葉に、あたしは思わず言葉をうしなった。
いくら鈍感なあたしでも、ごっちんのその泣きそうなかすれた声が、
今まで幼馴染として過ごしてきた彼女との17年間、をフラッシュバックされた。
- 170 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:07
-
その後どういう切り替えでここまで来たのか分からなかった。
4人は遊園地のある駅に来ていて、そこで何事もなかったように解散した。
「吉澤、今日・・・なんか悪かったな。」
最後に市井さんがそんな言葉を言ったことだけが印象に残っていた。
ごっちんのさっきの言葉が、市井さんをそんな気持ちにさせてしまったのかもしれない。
もちろん・・・矢口さんも。
市井さんと矢口さんの背中を見送った後、あたしはなぜか自然にごっちんの手を握れずにいた。
いつもなら、ごっちんが悲しんでる時はこうして手を握ってあげられるのに。
それが、できなかった。
地元の駅につくと、もうあたりは暗くなっていた。
ザッザッと地面とスニーカーが擦れる音だけが響き渡る。
隣で立ち止まるサラリーマンが付けたライターが、弱弱しい炎を昇らせていた。
いや、そう見えただけかもしれないけど。
――――”・・・よっすぃーと2人が良かったよ・・・”
さっきのごっちんの言葉を思い出していた。
隣を歩く彼女の目は、うさぎの目のように赤くなっていた。
- 171 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:07
-
長いようで短い家路を歩くと、すぐにあたしたちの家は見えた。
あたしの家の前で、一度立ち止まる。
「ごっちん・・・あのさ・・・」
「・・・」
「ごっちん?」
「・・・」
「今日はごめ・・・」
「好き。」
- 172 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:07
-
- 173 名前: 投稿日:2005/04/16(土) 20:07
-
彼女の口からはたったひとこと、それだけだった。
それでも、あたしの体の中では今まで知らなかったものが駆け巡っていた。
今まで、ずっと気づかないでいた。
彼女が今までずっと苦しんでいた、一番の痛みを一瞬ですべて感じた。
「ねぇ、よっすぃー・・・」
「明日も明後日も、ごとーが隣にいること、当たり前に思わないで。」
「今までも、これからも・・・ごとーは、よっすぃーが好きだから隣にいるんだよ。」
あたしは、彼女のバックに大きく掲げられた大きな丸い丸い月を見た。
その時初めて、月の光がこんなにも眩しいのだと知った。
- 174 名前:ゆら 投稿日:2005/04/16(土) 20:20
-
>ぱっち様
初めまして!更新遅いですが、量だけは頑張りますw
>通り過ぎの者様
謎はだいぶ解けたでしょうか?wこれからじっくり・・・^^;
>名無し飼育さん
ごっちんはなるべく可愛いキャラにしていこーと思いますw
最近不幸キャラなんで・・・
>知っつぁん
いちごまよしやぐ・・・・どうでしょうかw
>名無し読者様
お待たせしました!!
- 175 名前:ゆら 投稿日:2005/04/16(土) 20:20
- 更新終了です。
市井ちゃんがごっちんに何を言ったのか・・それは次回!・・・たぶんw
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/16(土) 22:13
- ニブチンな吉子が可愛いですね。
よしごまに期待してます。
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 02:54
- 更新乙です。
作者さんの思惑通り後藤さんが可愛すぎて胸が痛いです
私は可愛いキャラも不幸キャラも大好きですが、
彼女の哀しそうな顔が特に好きなんだと最近気付きました。
- 178 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/18(月) 07:45
- 更新お疲れさまです。 おぉっ( ̄□ ̄;)!!ついにごっちんついに言っちゃいましたね。 この後や如何に! 次回更新待ってます。
- 179 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/19(火) 13:46
- ついにこのときがきたーーーー。
次回がすごく楽しみです。
- 180 名前:知つぁん 投稿日:2005/04/19(火) 18:49
- ついにごっちん言っちゃいましたね!!
市井ちゃんはいったいごっちんに何を言ったんだ・・・
ここまで来たらよしごまを期待してしまうじゃないですか!??
ヤバイ・・・よしごまにはまっちゃうかもしれないです・・・
次の更新を楽しみにしております!
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/21(木) 07:21
- よしごま期待
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/26(火) 04:45
- 帰り道のごっちんの目とかの細かい描写が丁寧で良いです。
- 183 名前:ぱっち 投稿日:2005/04/28(木) 23:04
- 更新お疲れ様でした
すげー展開でかなりワクワクハラハラしてます
これは見習わせていただきます
次回期待してます
- 184 名前:めめ 投稿日:2005/05/24(火) 21:01
- 大・大・大好きな矢吉が読めて幸せです☆続きめちゃんこ気になります
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/27(金) 04:19
- そろそろ続き読みたいなあ・・・
- 186 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:04
-
「・・・・・。」
ん?朝?
いつのまに眠ったんだろ。
昨日はなかなか寝付けなくて、冷蔵庫にあったお母さんのビールをちょっとだけ飲んで・・・
えーと、そのあとは・・・・覚えてないな。やっぱそのまま寝ちゃったのか。
昨日の夜はあまり眠れなかった。
自分の部屋の窓から見えるごっちんの部屋の明かりが、一晩中消えなかったのを知ってたから。
なんだか、たった二枚の窓ガラスが、いつになく分厚く感じた夜だった。
そんなこと言いながら、本当は今も、いつも、どんな時だって、
矢口さんに会いたくて会いたくてしょうがない。
可愛い仕草とか、声とか、今すぐ近くで感じたいって、ほんと思う。
- 187 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:04
-
気持ちは確かだって、気づいてた。
昨日家に帰って、あたしはものすごい寂しさに襲われた。
あの観覧車の中の・・・ほんの数分が、
矢口さんと一緒に過ごした時間が、余りに大きすぎたから?
今まで人を好きになること、怖がってたあたしが、
傷つくことから逃げてきたあたしが、
本当に誰かを好きになるなんて、本当に思ってもいなかった。
矢口さんへの気持ちと、ごっちんからの気持ち。
「う〜〜〜〜〜。」
あたしの中で葛藤は続く。
たぶん、しばらくずっと。
- 188 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:05
-
支度をして家を出て、あたしはごっちんの家の前で立ち止まった。
一応待ち合わせ時間に来たつもりだけど。
いるはずない、よね。
あ、保田のおばーちゃんだ。
「おはよーございます。」
そう挨拶した時、自分の声が少しだけ掠れてることに気がついた。
おそらく寝ているだろうごっちんを起こして連れて行くべき?
ん、それこそ無神経すぎるのか。
今まで無神経にもほどがあるっていうくらい、ごっちんの気持ちを知らずにいたんだから。
しょうがなくひとりで学校に向かって歩く間に、色んなことを考えた。
昨日のあーだこーだより、今までのごっちんは、ずっと、本当にあたしのことをスキだった?
心当たりはナイ。
というか、あったのかもしれないけど、あたしが気づかなかったのかもしれない。
いや、たぶんみんなに鈍い鈍いって言われてるからそーだと思う・・・。
- 189 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:05
-
でも逆にあたしは恐ろしいことをごっちんにしていた気がする。
去年の文化祭の昼夜祭であたしは、ごっちんの気持ちにも気づかないまま・・・
矢口さんに出会ってしまった。
そして、気になり始めて今、あたしは本気で矢口さんのことが好きになってる。
ほんと、自分でも認めるくらいしっかりここに気持ちがある。
痛いほどに、さ。
今までずっとずっと、あたしの恋の相談に乗ってくれたのはごっちんだった。
ごっちんからしたら、好きな人から恋の相談を受けてたってことだよね・・・
もしかしてそれって・・・あたしひどすぎじゃない?
あぁ・・・バカだあたし・・・。
- 190 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:05
-
そもそも、どうして気づかなかったわけ?
あたしそこまで鈍い?
もっと早く気づいてれば、こんなことにはならなかった?
ごっちんを傷つけなくて済んだ?
もし、あたしが矢口さんに出会ってなかったら・・・
ごっちんと付き合ってた?
それはない。
なんで?
”幼馴染”としての時間が長すぎたから?
ごっちんは、幼馴染以上の何でもないから?
幼馴染としての執着が強すぎたから、友達の関係を崩すのが怖かった・・・?
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・
「おい、吉澤。頭から煙出てるよ。」
そんなあたしの脳を起こしたのは、市井さんの低音ボイスだった。
「あ・・・いちーさん、おはよーございまーす・・・」
だらしねー挨拶だなぁ、と頭をどつかれて、やっと今自分が学校の正門まで来ていたことに気づいた。
「昼休み屋上来なよ。話、聞いてあげるから。」
- 191 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:05
-
それだけ言うと、市井さんはそのままをツカツカと歩いて、
すれ違う生徒に投げキッスやらボディタッチをしまくっていた。
オイオイ・・・
昼休み、そっか・・・ごっちんいないから食堂はひとりで行けないしなぁ。
でも、矢口さんに会いたいなぁ。
会いたいなぁ
すごく、会いたいなぁ。
はぁ・・・
重症だよ、マジで。
「よっちゃん、チャイム鳴ってるよ。」
「へ?」
後ろから走って階段を追い越すミキティに言われて、やっとまた我に返った。
ばーか、って口パクで言う彼女に思わず苦笑い。
あたしの気持ちも知らないでさ。気楽でいいさ、アンタは。
- 192 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:05
-
頭すっからかんのまま、あたしは4限目まで授業を受けていた。(ただ座ってただけだけど)
『・・・・・・先生、あたしは今、何が分からないのすら分かりません。』
あたしがそう言って、二時間目に保健室を勧められたことぐらいしか覚えてない。
ほんと頭パンクしそう。
ごっちんと、矢口さん。
その2人があたしの頭の中をかきまわして、悩ませる。
片方はあたしが勝手に悩んでるだけなんだけどね・・・。
- 193 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:05
-
市井さんに言われ通り、あたしは昼休みの屋上に来ていた。
そこには口笛なんか吹きながら、あたしの方も見ずに背中を向けて手を振る市井さんの姿があった。
そういうヨユーな態度に何かを思う力なんて、今のあたしには全く無いだろう。
実は、と切り出したあたしの横で、市井さんはいつものように大きな態度でふんぞり返っていた。
実は、実は・・・その。そう言ってなかなか話を切り出せないあたしはものすごくテンパっていた。
でも、市井さんは視線をほんの少しもそらさずに、ただあたしの言葉を待っていてくれた。
どうしてこういうところだけ大人なんだろう、とあたしは思った。
そして、羨ましささえ覚えた。
「・・・き、昨日、ごっちんに告白されました。」
だから何、と言うように、市井さんの背中は何も言わなかった。
あたしはそれをどう悟ったのか分かんないけど、話を続けた。
「あたし頭真っ白になっちゃって・・・何も言えなくて、そのあとごっちんとはまだ話してないんです・・・。」
言葉を吐き終えたあと、自分が情けない、そんな気持ちでいっぱいでだった。
それでもあたしが本当に消えそうなほど小さな声でブツブツとつぶやいていても、終止市井さんは驚くことはなかった。
やっぱりな、と頷いただけ。
本当にそれだけだった。
そして市井さんはウム・・・と空を見上げて口を尖らせた。
「まぁ吉澤クン、聞きたまえ。」
- 194 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:06
-
なんすか、とあたしは超ローテンションのままで答えた。ものごっつ、低音で。
でもよく考えれば、市井さんにとったら好きな人に好きな人がいるって間接的な失恋?みたいなもんだよね。
あなたに初めて同情しますよ、市井さん。
っていうか、少しはヘコまないんですか?
「実はね、真希ちゃんと2人っきりになった時・・・吉澤のことが好きってハッキリ言われたんだ。別に告白したわけじゃないんだけど。」
淡々と話す市井さんの言葉を、あたしは必死に頭の中で分析し続けていた。
そんでね・・・と市井さんの話は続く。
「その時に、あたしは決意したわけ。吉澤には矢口という好きな人が居ても、真希ちゃんは正々堂々吉澤を好きで居続けてるんだから、あたしも真希ちゃんの気持ちがどこにあろうと、諦めずに正々堂々いくべ!!・・ってな。」
意味不明ですよ、とあたしは即効つっこんだ。
そんでね・・・と口癖のように切り出す市井さんのマシンガントークを、あたしはずっと聞くことになるのかと少し不安になりかけていた。
「つまりだな、吉澤くん。」
もう相づちも打たずに、あたしはただ昨日のソフトクリームのような雲を見つめていた。
正直どーでもよかった。市井さんのウンチクなんか・・・・・
「真希ちゃんと付き合う気がねーなら、あたしがもらう。」
- 195 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:06
-
- 196 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:06
-
「真希ちゃんと付き合う気がねーなら、あたしがもらう。」
・・・・
そう言った市井さんの鋭くも威厳のある目を見て、あたしは思った。
きっとこの人を敵に回したら、どんな勝負もあたしに勝ち目なんて無いんだろうと。
一瞬、怖いとさえ思った。
”付き合う気がねー”って・・・もろ言葉遣い悪すぎですよ。
「・・・・・。」
あたしはただ何も言えなかった。
付き合う気があるかどうかなんて、昨日あんだけ色んな思いをめぐらせといて一瞬たりとも考えなかった。
ごっちんとあたしが付き合う?
どうやって?
一緒に学校行って、一緒に帰って・・・。
日曜日は渋谷で遊んで、たまにはお泊りなんかして?
何も変わらないじゃない。
そんなの、ごっちんは一体何を望んでるの?
「まだ分かんねーのか、ニブチンが。」
今度は優しく笑いながら、市井さんはあたしの頬っぺたを引っ張った。
いでで、と言いながら言葉の続きを待つ。
「真希ちゃんはずっと吉澤の側に居たいんだよ。それを伝えただけ。好きっていう言葉で。」
市井さんがそう言っても、あたしには新たな疑問がいくつも出てくるだけだった。
「じゃぁ今のままでいいんじゃないんですか・・?」
「死ねっ!あほ!」
ガツンッと拳で頭を殴られて、さすがにあたしもムッとした。
それでもイヤだけどこの人から納得する言葉を聞きたくしょうがなかった。
- 197 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:06
-
「日に日に吉澤が矢口にハマってくのが不安なんだよ。いつかこの幼馴染としての関係が崩れるんじゃないかってね。」
・・・・。
確かにハマっていってるけど、だからと言ってごっちんとの関係が変わるわけじゃ・・・
ないとは言い切れないケド・・・。
「実際そーでしょ。どうしようもないんでしょ、矢口への気持ちは。」
市井さんの言葉に、あたしはズキン、ズキンと心臓にハリが刺さるような感覚に襲われた。
苦しい。
歯がゆい。
手が届かない。
悲しい、切ない・・・
矢口さんへの気持ちはどんな言葉でも表せないことぐらい、知ってた。
”どうしようもない”
市井さんの言ったその言葉は、ある意味正しいかもしれない。
- 198 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:06
-
待て待て、整理しよう。
あたしが矢口さんにハマっていく → 幼馴染としての関係が崩れる。
・・・でもあたしは、ごっちんの気持ちを聞いて・・・これからごっちんとどう接していいのか分からないんだよ?
つまり、と市井さんは右手の人差し指をピンッと立てて話し出した。
「気持ちを伝えなくても、吉澤は矢口にハマって行って関係は崩れる。でも気持ちを伝えたらそれはそれで関係は崩れる。だから真希ちゃんは、気持ちを伝える方を選んだんじゃないの?」
まるで自分のことのようにぺらぺら話す市井さんが不思議でしょうがなかった。
でも、言ってることはわかるよ、わかるけど・・・
「じゃぁどうしてごっちんは、気持ちを伝える方を選んだんですか?」
あたしの質問に、市井さんは、ハァ?という顔でこっちを見た。
いやいや、そんな顔くずさなくても・・・・
「恋する乙女っていうのはなぁ、フツーみんなそういう思考回路なの。分かった?理由なんてない!」
理由なんてない!・・・って言われても。
「そんで、あたしはどうすれば・・・」
「付き合う気ないんでしょ?」
遮るように市井さんはそう言った。
否定はできなかった。
図星だった。
- 199 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:06
-
あたしは小さく頷いて、そのまま顔を上げなかった。
付き合う気はない。そう自分で分かったにしても、それをごっちんにどう伝える?
そもそもごっちんはあたしと付き合いたいのか?
それともただ両思いでいたいだけ?
「アフターケアだよ、吉澤クン。」
あたしの考えてたことがそのまま伝わったように、市井さんはすぐに話し出した。
「あふたーけあー?」
あたしがアホ面かましてそう聞くと、そうだ、と自慢げに頷いた。
「付き合えないなら、今までの幼馴染がいいってことでしょ?今まで通りがいいんでしょ?」
「はい。」
そう。今まで通りに、一緒にバカやってたいんだ。
矢口さんの恋の相談はもうできないかもしれないけど、日常のくだんねー話とかしたいよ。やっぱ。
「だったら吉澤が努力しなきゃ。今まで通りに接するんだよ。ま、期待させない程度にね。」
恋愛評論家か、お前は。とツッコミたくなるほどの説明。ある意味尊敬しますよ。
「フラれた方っていうのは、今まで通りできないもんだから。吉澤が努力してやんなきゃだめなんだ。ヤリ逃げはよくないからね!」
いや、ヤリ逃げってなんすか・・・フリ逃げならまだしも。
- 200 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:06
-
「・・・分かりました。なんかいろんな意味で尊敬しますよ、市井さんは。」
あたしがそう言うと、ふんぞり返って喜んでいた。
いや、喜んでるフリだけどね。内心は違うと思う。
だって、この人すげー考えは大人だもん。
ひとつ確信したことは、市井さんは軽い人だと思ってたけど(今も思ってるけど)・・・
ごっちんへの気持ちには、まんざら嘘はないんだ。ってね。
あたしは自分の中で色んなことが整理できた気がした。
・・・・あたしにとってごっちんは、とても大事な存在なんだと。
かけがえのない大事な大事な存在なんだと。
それでも、いつまでもごっちんを自分の思うがままに弄び続けることはできないんだ。
いつか、手放すことはどこかで覚悟してた。
・・・
「あとはお前次第だから。」
そして今、目の前にいる市井さんという大きな存在が、ごっちんを優しく包むことを素直に望んでいる自分がいた。
- 201 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:07
-
あたしは空を見た。
そして、隣にいる市井さんも、同じ空を見ていた。
「市井さん。」
「なんだね、吉澤くん。」
「ブッ・・あははっ」
いつもの調子で返事を返す市井さんに、思わずあたしは吹き出してしまった。
笑うなよ、と市井さんは目線を空に向けたまま苦笑いしてる。
「あたし・・・――」
「分かってるよ。」
遮るように市井さんはそう言った。
何が分かってるのか、それはあたしには分からなかった。
自分が何を伝えたかったのかもよく分からないのに、市井さんは分かってるんだろーな。やっぱこの人には敵わないや。
それでも、あたしはそれ以上何も言わなかった。
そして、ただ果てのない空を見ていた。
・・・
「あ、あの時ごっちんに何言ったんですか?」
あたしはずっと疑問に思っていたことを聞いた。
もちろん、”あの時”っていうのは、ごっちんが中庭に逃げ出した時に市井さんと2人っきりになった時。
そう、さっきの話で市井さん曰くごっちんがあたしのことを好き、と打ち上げた時のことだ。
だって、あのあとごっちんは何もなかったように機嫌を直してたんだもん。
よっぽどすげーこと言った?
「あーあれね。」
アハハ、と市井さんは少し笑って前髪をかきあげた時、サラサラの黒髪が日差しで少し茶色く見えた。
あたしはただ返事を黙って待っていた。
コホン、と声を整えてから、市井さんは再現するように話し出した。
「真希ちゃんが吉澤を想う気持ちと同じくらい、あたしは真希ちゃんを想ってるよ。
だからこそ、真希ちゃんにはその吉澤を想う気持ち、すげー大事にしてほしいって思うよ。」
- 202 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:07
-
・・・って感じかな?とニカッと歯を見せて市井さんは笑った。
聞いているだけで恥ずかしくなるような台詞を言い切ったその笑顔は、とてつもなくカッコよく見えた。
「カッケー!」
思わずあたしがそう言うと、市井さんはハハ、と笑っていた。
なんだか、ごっちんがその言葉に共感を覚えたのも、納得できる気がする。
市井さんは自分の気持ちを押し付けたりするだけじゃなくて、ちゃんと相手の気持ちを考えてるんですね。
・・・やっぱあなたがモテるの分かりますよ、市井さん。
「それにしても、くさい台詞ですね」
あたしが冗談でそう言うと、ハッハッハとか大きく笑いながら思いっきりゲンコツしてきた。
・・・いったぁ・・・くそぉ。
「ま、恋にハンデはないからね。遊園地でもそーだったけど、あたしはこれからも真希ちゃんにアピールし続けるつもりなんで。」
そこんとこヨロシク〜と今度はデコピンを食らわされた。
むっとあたしは睨んだけど、いつもより数倍綺麗に見える横顔にあたしは何も言えなかった。
「あ、あたしも矢口さんのこと、すっっっげー好きっつーか・・・めちゃくちゃ大切に想ってますからっ!」
負けず劣らずのあたしのクサイ台詞に、市井さんは決して笑うこともなくただ空を見て頷いていた。
そんな姿を見て、なんとなくあたしは恥ずかしくなって下を向いた。
いつかこんな直球な台詞、矢口さんに伝える日が来るのかな?
- 203 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:07
-
- 204 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:07
-
市井さんが居なくなったあとも、あたしは雲のせいで隠れた太陽を見ていた。
「やっぱ、青空の方がいーわ。」
独り言のようにそう言って、あたしは遠いようで近い雲に右手を精一杯伸ばして空振りで掴まえるフリをした。
それで掌を開いては、また晴れない空に手を伸ばしていた。
っていうか、問題はごっちんだよね・・・。
ハッキリ具体的なことは考えてなかったけど、あたしは自分の気持ちに素直に耳を傾けようと決めた。
それは自分の気持ちがどこにあるかで、もちろん答えはひとつなんだけど。
「あー、やっぱりここに居たんだ。」
「?」
聞き覚えのある声に呼ばれて振り向いた。
- 205 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:07
-
「矢口さん!」
思わぬ人の登場にあたしは思いっきり目を見開いて大声で。
キャハハッと笑う彼女は、キョドりまくりのあたしの隣にスッと座った。
体育座りをする矢口さん。折りたたみ式自転車みたいに更に小さくなってて・・・
なんかものすげーカワイイんですけど・・・。
「さっき紗耶香に会ってね、”屋上で吉澤がたそがれてるからジャマしないでやってね〜”って言われてさ。」
矢口さんはクスクス笑いながら市井さんの声真似でそう言った。
っていうか市井さん、それって矢口さんに行けって言ってるよーなもんじゃないっすか・・・。
「そ、そーなんですか・・・。」
あたしは思わぬ状況にとりあえず口ごもって下を向いていた。
顔が熱くなって色を帯びていくのがバレないように。
「で、ごっつぁんに告られたんだって?」
え?!何でそれ知って・・・・・・・・
あ、市井さんが言ったのか。そうだよね。あの人が何かを黙ってるなんてあり得ないもんね。
「・・・そーっすね。昨日。」
思い出すとまた儚い気持ちでいっぱいになる。
っていうかごっちん今何してんだろ・・・まだ泣いてたりしないよね?
そっかぁー・・・と矢口さんは頷きながら言葉を捜していた。
タイミングがずれて言葉が被っても気まずいから、あたしは特に言葉を捜さずにいた。
「どーせ紗耶香がウンチクたくさん吹き込んだだろうから矢口は何も言わないけどサ、」
ウンチク、と言いながらもきっと矢口さんは市井さんが素晴らしいアドバイスをくれことを承知してるんだろーと思った。
で、”けどサ”って、・・・けどなんですか?
- 206 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:07
-
「紗耶香、ごっちんのことマジみたいだね。」
矢口さんは空を見つめながらそうつぶやいた。
いつものような元気な表情じゃなくて、どこか切ない目をして。
「ですね。」
気の利かない返事を返して、あたしはひとりで少しヘコんだ。
どーもセンスがないっつーか、アドリブがきかないな・・・。
だめだめじゃん、あたしってば。
「そいえばもうすぐ文化祭ですね。」
出来るだけさりげなくあたしはそう言った。
だって、隣に座る矢口さんの肩がたまに触れるたびに心臓がドキドキなんだもん。
むしろ屋上に2人っきりって、これまたおいしいよなぁ・・・。
「矢口ねぇ、結構よっすぃーとの写真撮影楽しみなんだけどぉ!」
ニヘーッと笑って矢口さんはそう言った。
「恥ずかしいッスよぉ〜」
本当に恥ずかしかった。ものすごく。
矢口さんと写真かぁ〜考えるだけでよだれが垂れそうだ。
「そうそう、矢口浴衣着るし♪」
「え?!」
って即効反応かよ、あたし。
だって、矢口さんの浴衣姿なんて!!・・・やべぇ!
「超見たいんすけど・・・。」
思わずそうポロッと出たあたしの言葉に、やだ〜やらしい〜、と矢口さんは笑っていた。
やらしいですよ、あたしは。ホントに。
矢口さんのこと考えてばっかり。
いつもいつもいつも。
ずーっと。
- 207 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:07
-
ふっ、とあたしは昼夜祭のことを思い出した。
フォークダンスで矢口さんを誘うって。
ん、あたしが矢口さんを?出来るの?
だって、フォークダンスって毎年恒例で、誘ったら告白しちゃうって感じでしょ?
そんなの・・・バレバレじゃん!だからって踊るだけ踊って、ハイ・サヨナラ〜もどうなんだか。
っていうかフォークダンスじゃなくても、矢口さんと一緒に昼夜祭、まわりたいなぁ。
言わないでも後悔するだろーし。
なにも告白するわけじゃないんだし。
深く考えなくてもいいか。
「あの」
思い切って話しかけてみる。
なぁに?と首を傾げてこっちを見つめる矢口さん。
上目遣い。
あーもうヤバイ。可愛すぎる。犯罪でしょ、これは。
「・・・えっと、昼夜祭、一緒にまわりませんか?できれば、ふたりで。」
できれば、なんて言わなければ良かったって少し後悔。
絶対ふたりでまわりたいって思ってるもん。
「え?矢口と?」
そうです、あなたとです。
あたしはブンブンッと頭を縦に振った。
どどどうしよう、今さら断られたら気まずいよ。
「いーよ?矢口で良ければ。」
キョトンとした顔であたしを見る矢口さんは、またどーしよーもないくらい可愛かった。
それと同時に、まるで告白が成功したような喜びを体に染みるように感じた。
「やった!楽しみにしてますね。」
へへ、矢口も〜、と言いながらいつものようにニコニコ笑っていた。
それでもあたしはフッと思っていた。
去年の昼夜祭のことを。
- 208 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:08
-
去年の昼夜祭。矢口さんが、失恋した日。
イイダカオリさんと、別れた日。多分。
あの時泣いていたあなたを見て、あたしはだんだん惹かれていったんですよ?
「昼夜祭かぁ〜・・・」
なにか悲しげにそう言う矢口さんに、心当たりがないわけがなかった。
あたしが昼夜祭を誘ったら、去年のことを思い出すことぐらい分かってた。
けど、あたしはわざと知ってて誘った。
今年は少しでも楽しい思い出にして欲しかったから。
楽しく、ただ楽しく何も考えずにあたしと笑ってて欲しいって思うから。
だって、矢口さんの笑顔が一番ステキなんですもん。
「もしかして、フォークダンスも矢口誘ってくれたりするの?」
思わぬ言葉が矢口さんから出た瞬間、あたしはボッと頭に血が上るのがわかった。
え?え?と、うろたえるあたしを見てクスクス笑う矢口さん。
「あはは、冗談だよ〜。よっすぃーはどうせ色んな女の子からフォークダンス誘われてるんだ?」
そんな質問・・・答えにくいんですケド・・・。
「まぁ・・・色々と。」
色々とってなんだよ、あたし!確かに既に何人もフォークダンス誘われてるんだけどね。
「でも昼夜祭はオイラを誘ってくれて嬉しいぞ!」
ひじで突付かれた背中から、一気に体は熱くなる。
嬉しいなんて言われたら・・・こっちが嬉しすぎっすよ。
- 209 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:08
-
もう、なんかズルイな矢口さんは。
矢口さんにとってどうでもいい一言とか仕草が、あたしの気持ちを揺らしては離して。
思春期なんて、中学ぐらいにとっくに過ぎたと思ってたのに。
もーこれは重症なほどな恋の病だね。
「ごっつぁんのこと、しっかりね。」
急に矢口さんはそう言った。
今、ずっとそれを言いたかったのかもしれない。
「・・・ハイ。」
しっかりね、なんていくら大好きな矢口さんに言われても自信は全然なかった。
吉澤ひとみなんて、所詮ちっぽけなヤツなんで。
- 210 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:08
-
「ごっちんもいつか、紗耶香のこと好きになるよ。」
矢口さんがそう言うと本当に説得力がある気がする。
市井さんと矢口さんは、色んなことを暗黙の了解って感じで分かり合ってるんだろうな。
「仲良いですよね、矢口さんと市井さん。」
特に意味もなく思っていたことを言ってみる。
ちょっとでも話を聞きたかっただけなんだけど。
「うん。高校入ってから自然と一緒にいるって感じ。なんか、紗耶香の隣はイゴコチがいいんだよね。」
素の自分で居られるっていうかさ、と矢口さん少し照れたように笑いながら、寝そべって空に手を伸ばしていた。
あたしはただ座ったまま何も言わなかった。
ただ矢口さんの嬉しそうな表情を何も考えずに見ていた。
一緒にいてイゴコチがいいなんて、言われてみたいもんだ。
矢口さんにとってイゴコチがいい存在っていうのはどういうのなんだろう。
市井さんにはあって、あたしには無い部分。
あたしの前では見せない素の矢口さん。
どっちもあたしには未知の世界なんだろーな。
- 211 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:08
-
「紗耶香がモテる理由って、なんか分かるよ。人が傷つくこと、言わないんだよね。」
ふと語りかけるように矢口さんはそう言った。
まるで昔から知っている旧友を語るように。
あたしには決して向けないような、柔らかくて哀愁のある目で。
その目を見て、すごく、シットした。
市井さんという存在に。
「そーですか?軽い人にしか見えないですけど。」
苦笑いしながらそう言うあたしに、突然矢口さんは黙ってしまった。
矢口さんは怒ってる。
「市井さんの色んな女の子と遊んだりとか、キスしたりとか、そういう感覚はちょっと分かんないです。」
こんなこと言ったら、怒るだろうって知ってる。
知ってて言った。
何言ってんだろ、あたし。子供みたい。
「これ以上紗耶香のこと悪く言ったら、矢口ホントに怒るよ?」
紗耶香のこと何も知らないのに、と強い口調で矢口さんは言った。
市井さんが本当はそんな人じゃないってことも、知ってた。
だから矢口さんが怒るのも知ってた。
でも
こんなに怒ると思わなかった。
こんなに市井さんのことを・・・
- 212 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:09
-
「矢口さん。」
嫌な予感がした。
あたしは気づかずに名前を呼んでいた。
まだ少し怒った表情で何?と返事をする矢口さん。
あたしは思い返していた。
”紗耶香の隣はイゴコチがいいんだもん”
”傷つくこと言わないんだよね”
そしてあの哀愁のある眼差し。
あたしが矢口さんを見つめる目と似ていた。
いや、一緒だった。
「矢口さんの好きな人って、市井さんですか?」
- 213 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:09
-
怖かった。でも聞いてしまった。
心臓が今にも圧迫されて潰されそうだった。
矢口さんは怒っていた表情をフッと崩して笑った。
優しく、優しく笑った。
「好きだった、かな。」
人差し指をそっと自分の唇に添えて、ヒミツね、なんて可愛い言葉も今はあたしをドキドキさせる前に引っ掻いて傷つけた。
好きだった。
その言葉の意味を分からないほどあたしだってバカじゃなかった。
事実、あたしは失恋した。
矢口さんのことを好きだと知ったばかりなのに。
人を好きになることイコール傷つくこと。
だから人を好きになることから逃れてきた。
だけど矢口さんに出会って、傷ついてもいいから好きでどうしようもなくなった。
なのに・・・・
- 214 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:09
-
「遅いよ、よっちゃん。」
教室に戻ると、後ろの席にミキティが指で頭をつっついてきた。
「うん。」
中身の無い返事をして、あたしはそのあとずっと無反応のままでいた。
どうやって、どう切り上げて屋上で矢口さんと別れたのかも覚えてなかった。
教室に戻ったのも、いつのまにかって感じ。
「なんでごっちん来てないの?何か知ってる?」
・・・ミキティ、今いきなりその質問はやめてください。
「・・・わかんない。」
そう言うあたしのほっぺをぐいーっと引っ張るミキティ。
今、何も考えたくない。
でも考えてしまう。
矢口さんのことを。
「嘘、知ってるくせに。」
「っていうか、ごっちんの気持ち知らなかったのよっちゃんだけだと思うよ?」
「みんな知ってたんだよ、ごっちんがよっちゃんのこと好きなんだって。」
・・・・っ!
「うるさいなぁ!」
突然立ち上がったあたしに、クラスは一気にザワついた。
もー何もかもぶち壊してやりたい感じ。
どうしてあたしだけこんなに・・・。
「ごめん、よっちゃん・・・。」
謝るミキティを横目に、あたしはカバンを持って教室を勢いよく出た。
その後の教室とか、ミキティとか、そんなの正直どうでもよかった。
- 215 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:10
-
あたしは渋々下を向きながら家に向かって歩いていた。
帰り道をひとりで歩くなんて、ほんと久しぶりかも。
・・・ごっちん、家にいるのかな?
目腫らして泣いてないかな?
ちゃんと話さなきゃ、ってちゃんと分かってた。
市井さんにあんだけ言われたんだから。
でも、あたしがイキナリ会いに行ったら逆に怒らないかなぁ・・・
っていうか、なんて言えばいいんだ?
”昨日はごめん。気持ちは嬉しいけど、付き合えない。”
とか?
あたしがいつも誰かに告られた時に断る台詞じゃん。
さすがにそういう子たちと一緒にするのはひどいよね。
じゃぁなんて言う?
ごっちんは幼馴染としてしか思えない?
矢口さんが好きだから、付き合えない?
どれも間違ってはないんだけど・・・それだけじゃない。
「・・・よっすぃー?」
- 216 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:10
-
「?」
名前を呼ばれてあたしは顔をあげた。
下を向いていて前方に誰かがいるなんて気づかなかった。
だって・・・
「ごっちん・・・!」
目の前に居たのは、ムックを連れたごっちんだった。
あたしに懐いて、はふはふ、と嬉しそうに舌を出すムックとは裏腹に、あたしたちは固まったまま何も言えなかった。
まさかこんな場面で会うなんて・・・
つばを飲んで、あたしはごっちの目を見て逸らせなかった。
泣きそうで、なのに逃げ出しそうな目であたしを見るから。
あたしは、まるで自分がものすごく悪いことをした極悪人のように感じていた。
その時、ごっちんは向こうに振り返って家の方に走り出そうとした。
「あっ・・」
このままでいいわけ?
あたしが
あたしのせいでこんな・・・
頭の中で歪んだ何かが音を立てて潰れた。
スッキリしたともモヤモヤしたとも言えない変な感じだった。
気がつくとあたしはごっちんのことを追いかけて
腕をつかんで引き寄せて
抱きしめていた。
- 217 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:10
-
「・・・っ!」
ごっちんは声も出さずに驚いていた。
あたしの腕の中で静かになったあと、すぐに抵抗して体を引き離した。
「ごめん、・・・」
突き飛ばされたあたしは、ただ小さい声で謝った。
なんでこんなこと・・
自分でも分かんないし・・。
「・・・・・言わなきゃ良かった・・・。」
本当に消えそうな声でごっちんはそう言った。
泣きそう、いや、泣いてるのかもしれない。
あたしはまるで割れ物に障るように手先が敏感になっているのが分かった。
「・・・ごっちん・・」
どうしてもいいかも分からないで、あたしはただ言葉を探した。
それでも見つからなくて、置き場に困った視線で、一生懸命ごっちんを見ようとしていた。
「こんなに苦しい思いするなら、好きだなんて言わなきゃ良かったよ・・・」
そう言ってごっちんは顔を両手で覆って泣いた。
・・・あたしは、今何をすればいい?
どうすればいいの?
ハッキリすることが一番良いだなんて、今のごっちんを見て誰が思える?
ねぇ
あたしは一体どうしたいの?
- 218 名前: 投稿日:2005/05/27(金) 21:10
-
「・・・あんま悩まないでよ。あたし、よっすぃーを困らせたいわけじゃない。」
ごっちんは小さな声でそう言った。
今何も言えないでその場その場でなんとかやってるあたしなんかより、
よっぽど大人な言葉だった。
ホンネでもないのに。
「ちゃんと学校行くから、大丈夫。ひとりで、大丈夫。」
泣くのをこらえて震える声は、あたしの涙も誘っていた。
それでも救うことも泣くこともできないあたしは、ただ下を向いていた。
「あたし、ごっちんのこと嫌いとか、そういうのは絶対ないから・・・」
何を根拠に、何を目的で言ってるのかも分からない中身のないあたしの言葉は、
ごっちんの耳をかすめもしなかっただろう。
変に期待させるのはひどいことだって市井さんに言われたのに。
結局あたしは市井さんに言われたことを何も出来きなかった。
ほんとに、一体あたしはどうしたいんだろう。
考えれば考えれるほど、あたしの中の何かが、鈍い音を立てて心を引っかきまわすばかりだった。
- 219 名前:ゆら 投稿日:2005/05/27(金) 21:20
- >176名無飼育さん
ニブチンな吉子、ニブチンすぎますよねw
ま、可愛がってやってください。
>177名無飼育さん
後藤さん、切ないキャラになってますが、個人的にそれが可愛いです。(爆
>通りすがりの者さん
ついにごっちんついに言っちゃいました。
そしてよっすぃーは・・・?!
>179名無し飼育さん
期待してもらったのにあんま更新少ないんで、なるべく急いで次更新しますね。
>知つぁんさん
だんだん謎が明らかになる反面、謎が増えてますw
>181名無し飼育さん
よしごま・・・どーでしょう。
>182名無飼育さん
ありがとうございます。そういうこと言われると嬉しかったり。
>ぱっちさん
ワクワクハラハラしながら見ちゃってください。
今回は少ないですが・・・
>めめさん
ありがとうございます。
矢吉が減ってるここ最近、頑張ってます。
>185名無し飼育さん
ってわけで頑張って更新してみました。
- 220 名前:ゆら 投稿日:2005/05/27(金) 21:20
- 更新終了です。
ものすごーく中途半端な更新です。
すみません。
- 221 名前:ぱっち 投稿日:2005/05/27(金) 23:10
- 更新乙です
急展開にハラハラっす・・・・・
やべぇー、引き込まれました
- 222 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/28(土) 02:59
- 更新お疲れさまです
ごっちん・・・ごっちんが悲しいと、僕も悲しいです。
吉澤さんもどうなっていくんでしょうか・・・
これからの展開が気になってしょうがないです。
- 223 名前:VAN 投稿日:2005/05/28(土) 11:46
- お疲れ様です
ごっちん、切ないですね・・
よっすぃどうするんだろう?
う〜ん、、よしごまを期待してしまう・・
- 224 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/28(土) 12:26
- ここのいちーちゃんすっげぇかっこいい!
いちごまに嫉妬するよしこを見てみたいくらい応援したくなった!
- 225 名前:知つぁん 投稿日:2005/05/28(土) 14:09
- お疲れさまです^^
う〜んココに来るといつも推しがよしやぐかよしごまか迷うんですよねぇ〜
やっぱりオイラの推しは基本的によしやぐ、なちごまなんでそっちのほうにしてほしいなぁ〜
とか思ったり・・・
もう物語は決まってると思いますがよしやぐを増やしてほしいなぁ〜と思ったり((汗
次の更新に大期待です!!!
- 226 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/28(土) 14:58
- ごっちん〜!!!!
悲しすぎです。続き楽しみです。
頑張ってください☆
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/28(土) 21:18
- sageます
いちーちゃんカッコよすぎ
よっちゃんのヘタレっぷりもイイ!
- 228 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/29(日) 10:20
- 更新お疲れさまです。 うぁー( ̄□ ̄;) よっすぃーのヘタレ! ニブチン!っともう本当に言いたいですよ!! でももう覚悟は決まっている模様。 次回更新待ってます。
- 229 名前:ゆら 投稿日:2005/05/30(月) 22:12
- なんだかレスを見てすごくいろんな意味で励まされました。
悩んでたこともぶっとんだので、近々更新しまくります。
みなさん、ホント大好き!!!
- 230 名前:めめ 投稿日:2005/05/31(火) 23:57
- 更新お疲れさまです☆よっすぃ〜がんば!!あぁ市井さんも幸せになってほしいです!!
- 231 名前:ゆら 投稿日:2005/06/01(水) 00:15
- >めめさん
どもです。一応更新時以外はsageでお願いします
- 232 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:16
- そのままお互い家に帰って、眠って、朝を迎えた。
何も変わってない。
あたしは結局何も成長してなかった。
市井さんに言われたことさえも、理解してなかった。
アフターケアも何も、またひとつ、ごっちんを傷つけた。
「憂鬱だ。」
つぶやく独り言も今にも死にそうな声。
ほんと、バカみたい。あたし。
責めても責めても何も変わらないよ。
変われないんだよ。
- 233 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:16
-
待ち合わせ場所に、ごっちんはいなかった。
そりゃいないよね。いるわけないもん。
いつもより長く感じた通学路を歩いて、学校に向かう。
ごっちん、もう来てるのかな?
それともあたしよりあとに来るのかな。
「あ、よっすぃ。」
誰かがそう言って遠慮がちに声をかけた。
あたしは振り向いて、どーもこっちも申し訳ない気持ちになる。
「ミキティ・・・。」
思わずお互い何も言えなかった。
昨日はあたしだってちょっと言いすぎちゃったんだし、
そんな申し訳なさそうな顔しないで。
ミキティの性格上あぁいうのは普通って分かってるのに、昨日はあたしがカッとなった。
ガキっぽいあたしが出ちゃって。
「昨日はゴメン!よっすぃーなりに悩んでるのにさ。」
勇気も出ないあたしより先に彼女はそう言った。
「ううん、あたしもゴメン。言い過ぎた。」
後から言うと説得力のない”ゴメン”。
「昨日ごっちんに会ったよ。でも、結局言えなかった。」
つぶやくようにあたしはミキティにそう言った。
通学路を歩く2人になぜかみんなジロジロ。
ま、いつものことだけど。
あたしが珍しい子と歩いてるとすぐこーだから。
- 234 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:16
-
「ごっちんはどう言ってたの?」
ミキティは髪の毛をいじりながら表情も変えずにそう言った。
どう、って聞かれるとなんてまとめたらいいのか分からないんだけどさ。
「あたしはひとりでやっていけるから、みたいに言われた。」
泣きながら、とあたしは言った。逃げるように小さい声で。
ミキティにはどうせ全部お見通しって分かってるけど。
やっぱり泣かせたことはすごく罪悪感があった。
「まぁそれは本心じゃないよね、ごっちんの。」
当たり前だけど、とミキティは言う。
あたしもそれは分かってる。
さすがにそれは、分かってるよ・・・。
「あたしニブチンだけど、このことはちゃんとやるつもりだから。」
ツッコまれそうなほど自信ありげに言うあたしに、
ミキティは何も言わずに頷いていた。
なんだか、ミキティと市井さんは少し似てると思った。
チャラいところ以外ね。
- 235 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:16
-
「ならいいんじゃん?あとはよっすぃー次第だし。」
”あとはお前次第だし。”ってあの時の市井さんの台詞と一緒じゃん。
ウケるほど似てるわ、あんたらは。
そーだね、とあたしはそれだけ言うと、黙ったままミキティと教室まで歩いた。
「で、矢口さんとはどーなのよ。」
机に座った途端に彼女は突然そう言った。
「え"?!ってかなんで知ってんの?!」
思わず顔を真っ赤にしてあたしは驚いた。
いや、なんで知ってるのさ!
あたしが矢口さんを好きだってこと・・・
「隠してたつもり?」
バレバレだから、とミキティは笑いをこらえてた。
そんなぁ・・・やっぱあたしニブチンすぎ?
「隠してはナイけど・・・って何もないけどさ。」
何もないわけはナイけどさ。
・・・・・『好きだった、かな。』・・・
矢口さんには好きな人がいた。
矢口さんは、市井さんが好きだった。
好き、だった。
だった。
だった?
今も、スキ・・・?
- 236 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:16
-
「ってか、煙出てるから。」
ミキティのツッコみにあたしはまた現実に引き戻される。
どーせ矢口さんのこと考えてたんだ、と言われて素直に頷くと、ミキティはまた笑った。
あたしも笑った。
胸のうちを話すっきゃないっしょ。これは。
「・・・実はさ、矢口さんは市井さんのことが好き、だった、らしい。」
だった、を強調している自分がなんとなく恥ずかしい。
今も好き、それだけは認めたくない。
心のどっかで。いや、全体で。
「だった、かぁ。今はどうなの?聞いてないの?」
まさか聞けるわけないでしょーが、とあたしはツッコむ。
聞きたくない。怖くて聞けない。
あたしはそーいうヤツだから。
「気持ち確かめなきゃ先進めないじゃん?」
ミキティの淡々とした言葉に、あたしは中途半端に頷く。
だって、バカみたいじゃん、あたし。
”今も好きですか?”
なんて、聞けないよ。
それに、飯田先輩は?
去年の文化祭で別れて、そのあと市井さんを好きになったってこと?
ほんの1年しかたってないから、1年間も思い続けた?
しかも今は好きじゃないってことは
好きじゃなくなったのは、最近?
- 237 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:16
-
最近って言ったら、市井さんはごっちんのことが好きになった。
だから諦めた?矢口さんが諦めた?
もしそうなら、余韻を残さずに市井さんはごっちんとくっついてほしいと、あたしは思っていた。
こういうとき、自分は本当にズルイやつだと思う。
自分が努力しないでうまくいけばいいのにって。
「ねぇ、矢口さんが他の人を好きでもよっすぃーは諦める?」
ミキティの言葉に、あたしは言葉につまった。
矢口さんが市井さんをまだ好きだったら・・・・
ムリって、思う?
諦める?
あたしが矢口さんのことを好きってことをやめる?
そんなこと・・・
「出来ない!それは、絶対・・・。」
思わず少し力んであたしは言った。
だよね、それだけ言ってミキティは少し嬉しそうに笑ってた。
- 238 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:17
-
授業中、あたしはふと思った。
思ったことを手元にあった地学のノートに書いてみる。
→(好き)
あたし→矢口さん
矢口さん→市井さん
市井さん→ごっちん
ごっちん→あたし
・・・。
あたし → 矢口さん
↑ ↓
ごっちん ← 市井さん
なんだコリャ!!
- 239 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:17
-
四角関係?!
このサイクルは一体何・・・。
っていうか神様が本気で怖いと思ったわ、今。
そう思いつつも、あたしは矢口さんから市井さんに伸びている矢印を、
消しゴムで消した。
だって、これはまだ確実じゃないから。
だって、これは信じたくないから。
その2つの理由から、あたしは矢印を消した。
「・・・矢口さん・・・」
「なーに?」
「ギャッ!!」
あたしは驚いて顔をあげると、そこには中澤先生の顔が。
なんだ、先生か・・・。ビックリした。
ホントに矢口さんが来たかと思うじゃん。
「授業中やで、よっさん。何考えとんのや。」
教科書の表紙でパコンッ、とあたしは一発叩かれた。
その痛みでなんとか現実に戻る。
「すんません・・・」
ミキティが横で笑ってるけど、あたしは見て見ぬふりをした。
- 240 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:17
-
2現目が始まっても、ごっちんは来なかった。
やっぱ来る気にならないのかな・・・。
あたしいるし。悩みの種じゃん、あたし。
携帯を取り出して、先生にバレないようにあたしはメール画面を開いた。
送信者は、ごっちん。
【ミキティも待ってるから。あたしも、待ってるし。おいで。 よしこ】
送信っと・・・・
・・・
ガラッ
「あっ」
その時、教室の後ろのドアからごっちんが入ってきた。
でもいつものごっちんじゃない。
表情も制服の着こなしも一緒。
だけど・・・
「ごっちん、髪・・・」
長くてサラサラで、胸まであった綺麗なごっちんの髪は、
肩の位地でバッサリ切られていた。
ほんと、ショートカット。あたしとあんまり変わらないくらいに。
横にいるミキティもさすがに驚いてごっちんを見ていた。
それでもごっちんは何も言わずにツカツカ歩いてあたしの隣に座った。
カバンを机の上において、教科書とふでばこだけ出すとただまっすぐ前を見ていた。
- 241 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:17
-
何を話しかければいいの?
っていうかメール見たの?送った途端に入ってきたから・・・
「お、おはよ。」
わけも分からずあたしはそう言った。
「おはよぉ。」
いつものようにそうやって挨拶するだけで、あたしはどうしていいか分からなかった。
失恋したら髪切るって言うけど、まさかそれ?
それなの?え、どうしよう。焦る。
ごっちんの自慢の綺麗な髪を・・・
どういう意味なの?
どう捉えたらいいの?
それはごっちんの決意って思っていいの?
本当に昨日の夜に言ったことが本当だったら・・・
あとは、あたしのケジメじゃないの?
心のどこかでそう思った。
そう思ったら、本当に何かがふっきれたようにあたしはスッキリしていた。
”昼休み、屋上きて”
あたしはそう書いた紙をごっちんの机に滑らせた。
分かった、とくせのある右上がりの字で返事が返ってきて、あたしはそれをポケットにしまった。
今さら何、って思われるかもしれない。
でも不器用なりに、あたしはやるべきことがあるってそう思うから。
- 242 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:17
-
チャイムがなって、まだ1時間めのプリントを書いているごっちんより先にあたしは屋上に向かった。
階段を上って、ドアをあけて。
あ、誰もいなくてよかった。
晴れてるし。暖かいし。なんかあの時の市井さんを思い出すな。
あたしは地べたに座ってくーっと伸びをした。
雲に見え隠れしてた太陽も、今はカンカンと照っている。
あぁ。今年も暑い。
それでもどっかで緊張してた。
分かってたけど、緊張はしてた。
ごっちんが来るのを目をつむってまっていた。
・・・いち、
に、
さん・・・
「おまたせ。」
少しの沈黙を置いて、後ろからいつもの声が聞こえた。
ううん、とあたしは隣の地面をポンポンと叩くと、ごっちんはそこに座った。
綺麗な長い足を前に伸ばして、空を見ていた。
ミキティとは違う意味だけど、なんとなくその目は市井さんに似ていた。
話ってゆーのは・・・と、あたしは話を切り出した。
あの日ごっちんに好きって言われて嬉しかったとか
理由もなくごっちんは大切な存在だとか
あたしはちゃんと意味をこめて思ったことを言った。
うん、うん、って時々頷くごっちんが可愛く思えた。
それでね、とあたしはやっと本題を切り出すように言う。
スーッと風にまじるように息をすって、はいて、もう一度ゆっくり吸う。
- 243 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:17
-
「あたし、矢口さんが好き。」
必死にしぼりだした答えだった。
あたしはただその一筋の光を頼りに、今この崩れそうな心臓を支えてるんだと思った。
「・・・矢口さんには好きな人がいるけど、それでも好きだよ。」
好きだった人、かもしれない。
それでも矢口さんの目の中にあたしがいないことは知ってる。
叶わないことも、知ってる。
それでも、好きだって。それをちゃんと言いたかった。
自分に言い聞かせるように。ごっちんにもちゃんと。
「分かってるよ。よっすぃーだってツライってことぐらい、分かってる。」
少し涙ぐんだ声でごっちんは言った。
あたしがツライとかそんなこと、考えなくてもいいのに。
ずっとツライ思いしてきたのは、ごっちんなのに・・・。
俯くごっちんは、ほんの小さな声でグスン。グスンと泣いていた。
顔は見えないけど、必死にこらえてるのがすごく分かった。
髪を切ったことも、本当にすごいと思った。
やっぱり、ごっちんのそういう危なっかしいところは、可愛くて好きなんだよ。
- 244 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:18
-
そうだよね、ツライよね、とごっちんは小さく唱えるようにそう言っていた。
「ううん、あたしは大丈夫。ちっぽけなツラさだから。」
そう言うと、ごっちんは大きく首を横に振った。
なんで?違うよ。あたしのツラさなんか、ごっちんのツラさに比べたら・・・・
「だって、好きな人が自分のこと好きじゃないって、メチャクチャツライもん。」
ごっちんは泣きながら、それでもハッキリした口調でそう言った。
顔をあげて、唇をかみ締めながらあたしの目をみて言った。
”好きな人が自分のこと好きじゃないって、メチャクチャツライもん”
その言葉は、あたしにとってもすごく重かった。
ごっちんはあたしを好きでも、あたしが好きなのはごっちんじゃない。
あたしが矢口さんを好きでも、矢口さんが好きなのはあたしじゃない。
そうだよね。それってすごい、ツライよね。
むくわれない片思い。
- 245 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:18
-
「むくわれない、片思い・・・・か。」
思わずあたしは口に出してしまった。
あたしのことだけじゃないのに。
なのにごっちんはあたしの目を強く見ていた。
涙目なのにそうも思わせないような目で。
「むくわれないからってやめたら、そんなの本物じゃないでしょ。矢口さんを好きなのやめられないでしょ?」
目を離せなかった。
ホンモノ。ホンモノの好き。
だからやめたくても、やめられないし、やめたくない。
矢口さんを好きなこと、絶対やめたくない。
「そんなのごとーも一緒だよ。ただそんな単純なことなんだよ。」
目をそらせば、いつのまにかごっちんは空を見ていた。
本当に彼女は強いと思った。
なんていうか、本当の強さを、今身に染みて感じた。
言葉ではあらわせないような、重くて大切な心の強さ。
だからね、とごっちんは下を向いた。
「哀しみの涙はすっぱくて、嬉し泣きの涙は、甘いんだよ。だから、今の涙は全然すっぱくなんか・・・。」
言葉がどんどん聞こえなくなって、ごっちんは泣き崩れた。
そっとあたしが肩に手を置いた瞬間・・・
大きな声でごっちんは泣いた。
あたしも、泣きそうになった。
- 246 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:19
-
「大丈夫だよ・・・?ごとー強いから」
「何言ってんの、強くなんか・・・」
「ヘーキだもんっ・・・」
言葉を遮り合ってあたしたちは言い合った。
さっきまでのごっちんが嘘みたいに、泣くから。
そんな顔して泣くから・・・
んなの、こっちがツラくなるじゃん・・・。
「ごっちん。」
あたしは肩に置いていた手に少し力を入れた。
いっそこのまま抱きしめてあげたいとさえ思った。
でも、それは出来ない・・・。
「放っておいて、ごとーのことは・・・もう。」
聞こえないような声で泣きながら彼女はそう言っていた。
「やだよ、そんなの。」
放っておけるわけないじゃん・・・とあたしは中途半端にごっちんを抱きしめていた。
「・・・じゃぁ側に居てよ・・・ずっと、ごとーの側に居て・・・」
- 247 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:19
-
- 248 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:19
-
沈黙していた。そのまま、2人とも何も言わなかった。
あたしはつばを飲み込んでは、目をつぶって考えた。
自分は、どうしたいのかって。
「ごっちん、あたしがごっちんを好きになるのは簡単だけど、矢口さんが好きってことをやめるのは出来ないんだよ。」
思った以上に自分の言う言葉にトゲを感じた。
このままあたしはごっちんを殺してしまうんじゃないかっていうくらい
今のごっちんはもろくて、
あたしはそれを治す薬でもあって、凶器でもあるんだと思った。
「2番目でもイイよ・・・?ごとーのそばに居てくれるなら。」
ズキズキ痛む心は、ごっちんの言葉の仕業だった。
ううん、ごっちんの強い気持ちのせいかもしれない。
人に思われることを初めて大切で、イタイものだと感じた。
「やだ、よっすぃー、どこも行かないで。」
そう言ったごっちんは、本当に今にも壊れてしまいそうだった。
やばい、こっちが泣きそう。
ねぇ、こんなにもろくて弱いものを、あたしはひとりで抱え切れそうにないよ。
やだ、なんて
行かないで、なんて
こんなごっちん初めて見た。
- 249 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:19
-
「ごめん、今の忘れて。なんか違う。」
ハッと気がついたようにごっちんは急にそう言った。
え、何。え?
顔を覆ってまた俯いてしまったごっちんに、あたしはどー話しかけていいか分かんなくって。
ただその姿を見てた。
「何今の、ごとー、子供みたい。」
本当に小さい声で、ごっちんはそう呟いた。
いつものごっちんじゃない、そんなの分かってるよ。
それほどあたしのこと思ってくれるの?
ワガママ言って困らせるくらい、好きってこと?
そんな度胸、あたしにはないよ。
矢口さんに、市井さんのこと忘れて、なんて言えない。
でも、好きな人に好きな人のことを忘れて欲しいのは同じなのかな。
- 250 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:19
-
「あたし、いつか矢口さんに言うよ。ちゃんと。」
いつか、って弱気だけどさ。とあたしは言った。
ごっちんはうつむいたまま、何も言わない。
ううん、何て言ったらいいか分かんないんだと思う。
矢口さんに気持ちを伝えないと、この気持ちはどうにもならないと思った。
今すぐとは言わないけど、いつか。本当にちゃんと。
そうじゃないと、胸張ってらんないし。
自分がなんかしなきゃ。
じゃなきゃ、ごっちんの気持ちに答える資格も、ごっちんを振る資格もないんだよ、ね。
「度胸あんね、ごっちんは。」
アリガト、とあたしは彼女の頭をなでて立ち上がった。
バッと顔をあげてあたしを見るごっちんは、飼い主が居なくなる前の子犬のような目をした。
この目が、あたしへの思いをすごく感じさせた。
それでもあたしは決意した。
そして、ごっちんに背中を向けて歩き出した。
- 251 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:19
-
- 252 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:19
-
あたしは屋上を出て、昼休みでなんとなく騒がしい廊下を歩いていた。
そーだ、昼ごはん食べてないんだ。
「あー、よっすぃじゃん!」
その時、前から歩いてくるなんだかちっこくて可愛い人が手を振ってきた。
あ、まさか。
そのちっこさと金髪と響く声は
あれれ
まさか??
矢口さんじゃないっすかぁ!
「矢口さんっ。」
思わず笑顔になって手を振り返した。
やばい、めっちゃニヤける。
嬉しい、嬉しすぎるよ。
矢口さんはあたしの前まで早足で歩くと、ニコッと笑った。
やばい、悩殺だよ。うん。
「食堂来なかったけど、どーしたの?あ・・・、ごっつぁん?」
ものすごく心配そうに聞かれたから、あたしは少し躊躇しながら頷いた。
そしたら”そっかそっか”って。
何も聞かないでくれるんですね。
そーゆう矢口さんもすごく好き。
ものすごく。
- 253 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:19
-
「とりあえず落ち着いたらさ、またいつもみたいに食堂で一緒にお昼しよーね?」
ね?って首傾けちゃう矢口さん。
やばい可愛すぎ。溶けちゃいそうです。
しかも気遣ってくれてホントに嬉しい。
「ありがとうございます。じゃぁ、また。」
ひらっと手を振ると、矢口さんも同じように手を振った。
じゃぁまた、なんてまるで恋人同士みたい。
あたしはそんなバカみたいなことを考えながら矢口さんを見送った。
あーやばい、ときめくわぁ。
可愛いし、優しいし、なんか、なんか
どーしようもないよ、もう。
あたしは本当にバカみたいに頭ン中が矢口さんでいっぱいで、
ただボーっとしたまま教室に向かって歩いていた。
その時、ふっと廊下の壁を見ると、文化祭のポスターが貼ってあった。
【”軽音部ライブ開催!”】
【”2-A お化け屋敷 ひゅーどろどろ”】
【今年もやります!柔道部最強王決定戦”】
いやいや、柔道王決定戦ってなんだよ。去年あったっけ?
しかもひゅーどろどろってどんだけ・・・
ライブ今年も見に行こうかな〜友達でるし。
もう文化祭か・・・。
11月○日って・・・・ありゃ。もう1ヶ月を切ってんじゃん。
なんか最近色んなことがありすぎて、時間が早く過ぎてるよーな気さえするよ。
はぁ。
- 254 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:20
-
昼休みが終わって教室に戻ると、ごっちんもすでに席についていた。
横目で見るミキティの目がなんとなく痛いんですけどぉ・・・
ちゃんと言ったってば。ホントだよ。いやいや、その目はなんだよ!信じろって!
変なジェスチャーでミキティと話してると、担任兼生物担当の平家先生が入ってきた。
今日もキレイっすねーって突っ込みたくなるほどホントキレイ。
白衣似合ってます!
「あー、吉澤ー。あーいたいた。放課後でいいから資料室きてや。」
え、え、資料室?なんであたしが?
あたしがキョドってると、先生は資料室のカギをポーンと投げてきた。
慌ててキャッチ。さすがあたし、反射神経抜群。
「文化祭のファイル重いねん!青いデッカいファイル取ってきて職員室のウチの机置いといてや〜」
先生、パシリっすか?あたし。
しかも学級委員だからってなんでも任せて・・・。まったく。
「ええやろ?うちのクラスの出し物の主役は吉澤やねんから。」
嬉しそうに笑う先生に、クラスのみんなからもドッと笑いが出た。
いやーたしかに主役だけど・・・
スタンプラリーで集めたらあたしと写真撮影って、ホントに客来るの?!
ま、今さらしょーがないけどさ。
「分かりましたよ〜だ」
渋々返事をすると、ヨシッと先生は嬉しそうに笑って授業に入っていった。
あー、思い出した。去年も使ったあのファイルか。
めっちゃ重いんだよなぁ・・・。
ハァ、憂鬱。ってため息何回目だよ今日。
- 255 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:20
-
カツカツカツ、と先生のチョークの音だけが響いていた。
平家先生の授業は分かりやすくて、それとちょっとでも喋ると即効怒られるからみんな集中して静かなんだよね。
そーいえばお昼食べてないや。あーおなかすいた。
その時、ちょうど ”グゥ”とあたしのお腹がなった。
いや、そんな大きくじゃないよ?小さくだけど・・・
みんな聞こえてないみたいだけど・・・
「お昼食べてないの?」
隣にいるごっちんは気づいてあたしにそういった。
ハイ、そうです。ってか聞こえたんかい。よりによってごっちんに。
いつもだったら笑い飛ばせるけど、なんとなくまだギコちない雰囲気。
ごっちんはスッと机の下からカロリーメートを差し出した。
え、何、くれんの?
「あ、ありがと。」
小声でそう返事した時には、もうごっちんは授業を聞いていた。
あたしは色んなことを考えたけど、とりあえずお腹がすいてたから嬉しかった。
先生にバレないように袋から出してひとくちかじった。
ハチミツのよーに甘い味が口の中に広がる。
ハチミツ・・・
・・・――『哀しみの涙はすっぱくて、嬉し泣きの涙は、甘いんだよ。』
ごっちん・・・
- 256 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:20
-
あーだめだめ、完全ネガティブモードじゃん!あたしってば。
サクサク、あーうまい。
空腹にはこれでしょ。カロリーメート。
ほんと、おいしいよ、ごっちん。
そんなあたしを見てもう片方の隣に座るミキティがフッと笑ったのをあたしは知ってた。
この人にも全てお見通しって感じだよ。ホント。
でもいいやつ。ごっちんもミキティもすげー大事なトモダチ。
あたしって幸せもんだよ、ほんとに。
- 257 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:20
-
放課後しょうがなくあたしは資料室に向かった。
カギを人差し指にひっかけてグルグル回しながらあたしが廊下を歩いてると、資料室の前で誰かが立っていた。
背が高くて、(たぶんあたしよりも)長くてキレーな髪、上履きの色が・・・あ、三年生だ。
んん?ってか・・・
イイダ、カオリ ?
「それ、ここのカギ?」
その人はあたしの指先で回されていたカギを指差してそう言った。
あ、カギがなくて資料室に入れなかったのか。
「あ、すみません。平家先生から預かってて。」
慌ててカギを開けると、彼女はさっさと部屋の中に入って資料を探していた。
あたしもそのあとに続いて部屋に入る。
・・・ん?待て、待てよ。
この人って飯田圭織さん?
あの飯田さん?
矢口さんの、元コイビトの・・・?
戸惑いながらもあたしは上の方にあるデッカイ青いファイルに手を伸ばしていた。
あー、届かない。あたしとしたことが届かない・・・。
「これ?」
様子を伺うように、飯田さんの手がそのファイルに伸びた。
これ?って聞かれてまだ答えてないのに、彼女はファイルを取ってくれた。
「あ。ありがとうございます。」
丁寧にお礼をいってファイルを受け取ると、飯田さんは優しく笑った。
キツそうな顔してるけど、笑うと意外と美人なんだな。
この人も、矢口さんが前に好きだった人・・・。
矢口さんは、この人を近くで毎日見てたんだ。
この人のために、泣いたんだ・・・。
- 258 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:20
-
飯田さんは必要な資料を取ると、あたしの方を見た。
「矢口と付き合ってるの?」
突然、ほんとに突然飯田さんはそう言った。
え?、と思わず驚く。
だって、何、いきなり。
しかも矢口さんと付き合ってる?って・・・
「あれ、違うの?なんか最近よく一緒にいるなぁって思ってたの。」
返事に困るあたしに飯田さんはそう言った。
最近よくって、まるで飯田さんがいつも矢口さんのこと、目で追ってるみたい。
「違いますよ。ただ、あたしが片思いしてるだけです。」
驚いたけど、対抗心からかあたしの口からはそんな言葉が出た。
「・・・そう。」
それだけ言って、飯田さんは部屋を出て行ってしまった。
ほんと、あっという間に。
何。
なんかすごいムカつく。
あたしよりもずっと、矢口さんのことを知ってる人。
ずっと前から。
なんか、悔しいじゃん。
- 259 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:20
-
資料室にひとり取り残されたあたしは、なんだかやりきれない気持ちで立っていた。
すげー悔しい。
あたしより大人で、ウワテな人。
ん?でも、よく考えたらあたしと矢口さんが付き合ってるかなんて聞いたってことは・・・
矢口さんとは話してないんだ?
話してたら、あたしたちはただの友達だってことぐらい知ってるハズ。
でも、聞いたって事は矢口さんのこと気になってるってことじゃん。
何の意味もないのに初対面のあたしに聞くはずが無いもん。
絶対そーだ。飯田さんは、まだ矢口さんのこと好きなんだよ!
ライバル出現じゃん・・・しかも元コイビト。
あたし、やばいしじゃんか。
- 260 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:20
-
トボトボと資料室を出てカギをしめて、重いファイルと一緒に、資料室のカギを職員室の平家先生の机に置いた。
マジ腕痛すぎだし・・・もう、人遣い荒いんだから。
ってかもう先生いないし。オイオイ・・・。
しょーがない、帰るか。
あたしはそう思って教室でバッグを取ってから玄関に向かった。
生徒ももうポツリポツリとしかいなくて、なんか放課後って感じ。
いつもはごっちんと一緒に帰ってるから、こんな雰囲気も味わったことがなかった。
なにげ、さみしいもんだね。ひとりで帰るって。
「ん?もしやよっすぃー?」
ふっと振り向くと、声の主は・・・矢口さんだった。
え?矢口さん?!え、うそ!
「えぇ、どうしたんですか!ビックリした・・・」
あたしが思いっきり驚くと、矢口さんはキャハハ、と甲高い声で笑った。
静かな玄関に矢口さんの笑い声はホントによく響く。
ってか、この状況おいしすぎ・・・。
放課後ふたりっきりなんて。
- 261 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:21
-
「ちょっとね、先生と進学のことで話してたんだ。」
矢口さんは意味深にそう言いながら上履きを脱いでローファーに履き替え始めた。
「進学、ですか・・?」
あたしも返事を返しながら慌てて靴を履き替える。
もしかして、もしかして一緒に帰れる??
自然とあたしが右、矢口さんが左を歩いて正門までの道をてくてくと歩き始めた。
なんかものすごい嬉しいんですけど・・・。
「うーんとねぇ、単純に言えば、大学に行こうか、専門学校に行こうかって迷ってるんだよねぇ。」
それで先生に相談してたのー、と矢口さんは笑った。
なんか大変そうだな、三年生だもんね。そうだ、受験だ。
こうやって学校に来るのも、二学期が終わるまでだし。
「何か将来やりたいことがあるんですか?」
気になったし、話の流れ的にも、と思ってあたしはそう聞いた。
うーん、とうなる矢口さんの隣を、あたしはただドキドキしながら歩いていた。
「まぁ、夢はある。ヒミツだけどねぇ〜」
へへーっと笑いながら覗き込むようにあたしのことを見た。
いやいや、近いですってば!ムリムリ。
「ひ、ヒミツっすか。」
矢口さんの夢、かぁ。気になるけど無理には聞かない。
「まぁ、まだ時間には余裕あるし。」
安心したような表情でそう言う矢口さんに、ハイ、と気の効かない返事を返す。
- 262 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:21
-
正門まで来ると、矢口さんは立ち止まった。
「よっすぃーこっちだよね?矢口電車だからこっちなんだ。」
あたしの帰る方向と反対を指差して矢口さんは残念そうに言った。
いや、残念なのはあたしなんスけど・・・。
まだなんにも話してないじゃん。せっかく2人なのに・・・
せめてあのことは聞きたい。
"市井さんのこと、まだ好きですか?"
いや、でもどうやって聞く?イキナリ聞くの?
「矢口さん、」
名前を呼ぶと、矢口さんは”ん?”と上目遣いであたしを見た。
そんな目で見られたら、聞きたいことも・・・聞けない。
だって、だって・・・
「・・・や、送ります。駅まで。」
- 263 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:21
-
根性なし。バカ、あたしのバカバカ。
そのくらいも聞けないのか!
「はは、いいのー?嬉しいな。ありがと。」
矢口さんはそう言って駅までの道を歩き出した。
あたしもそのまま並んで歩く。
聞きたいけど、聞けないままの言葉をのどにつまらせたまま。
「こないだはゴメンネ?なんか紗耶香のことでカッとなっちゃってさ?」
突然あやまる矢口さんに、あたしは思わず訳も分からないままブンブンブンッと顔を横に振った。
こないだ、こないだ・・・あ。あれかぁ。
”それ以上紗耶香のこと悪く言ったら、矢口怒るよ?”
あの時の真剣に怒った矢口さんの目は忘れられない。
ホントに想ってるんだ、市井さんのことを。
そう思った。
でも、矢口さんが言ったことは”好きだった”の一言。
信じていいんですか?
信じられると思いますか・・・・?
「今は、どうなんですか・・・」
小さい声であたしは必死に声を絞り出した。
ハッキリ言えなくて、”市井さんのことを”って言えなくて
中途半端に曖昧な質問をしてしまった。
それでも矢口さんは、少し黙って、うーん・・・、と唸った。
悩むことなんだ・・・やっぱり。
好きだった、なんてウソじゃないですか。
- 264 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:21
-
あたしは必死に耳をこらして返事を待った。
つばを何度も飲み込みながら。
「よく分かんないんだよね、自分の気持ち。今色々大変な時期っていうのもあるし。」
そう言って矢口さんは苦笑いをした。
ほんとに、そうなのかな?あたしは思った。
「あの、矢口さん。」
「ん?」
意味もなく呼んだわけじゃないけど、ん?と言われると焦る。
「あたしで良かったら、なんていうか、相談とかのるんで・・・。」
余計なお世話かもしれないって思った。
でも、あたしは今矢口さんの役に立ちたい。
ホントのことも聞きたいし・・・。
矢口さんは優しく笑ってあたしの方を見た。
「優しいね、よっすぃー。」
優しいのが売りなんで、なんて冗談も言ってみたりした。
ほんとはあたしの優しさなんてこんな時にしか登場しないんですからね?
「じゃぁたまに頼らせてもらうよ。アリガト。」
そう言って矢口さんは立ち止まって、あたしの左手を取った。
え、え、何。
矢口さんは制服のポケットに刺さったボールペンであたしの手の平に何かを書き始めた。
「わわ、くすぐったいっスよ。」
本当は全然くすぐったくなんかないけど、
矢口さんに握られた手がどうしようもなく恥ずかしくて、あたしはそんなことを言った。
- 265 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:21
-
「いーから、じっとしてなさいっ。」
下唇を出してそういう矢口さんに、あたしは黙って従った。
だって、その姿があまりにも可愛くてどーしようもなかったんだもん。
手の平には次々にアルファベットが並べられていく。
あっとまーく、どこも、えぬいー・・・
え?え?もしかして、アドレス?矢口さんの?
だよね、他の人の書くはず・・・ないよ。ね?
「あ、番号も書かなきゃ。」
そう言う矢口さんの言葉に、それが連絡先だってことを確信できた。
やばいっす、嬉しすぎっす。
しかも矢口さんの方から・・・。
「あ、どもです・・。」
アドレスと番号が書かれた手の平をあたしは恥ずかしくて見れなかった。
ギュッと強く握って、でもこの冷や汗で消えないように少し緩めて矢口さんを見た。
「じゃー、お互いなんかあったら頼り合おうよ?困った時はお互い様って言うしさ!」
嬉しそうにピースして言う矢口さんに、あたしも思わずニコッと笑った。
「はい、じゃぁ夜メールしますね。」
ほんとは今すぐにでもって感じだったけど、なんとかあたしはそう言った。
駅まで送る道で、矢口さんと色んな話をした。
市井さんは美容師の専門学校に行くとか、矢口さんの仲の良い友達は獣医を目指してるとか。
それと、話の中に、ちょっとだけ飯田さんが出てきた。
飯田さんは、卒業したらアメリカに留学するらしい。
ちょっと寂しそうに話す矢口さんを、あたしは必死に見て見ぬふりをしていた。
- 266 名前: 投稿日:2005/06/01(水) 00:21
-
時間なんてあっという間にすぎて、矢口さんとの楽しいひと時は終わった。
「あ、もう駅だね。」
矢口さんの一言で、幸せの世界から現実に戻った。・・・・なにこれ、すごい寂しいよ。
あの時みたい。遊園地の帰り道。
矢口さんを本当に好きだって気づいたあの日。
「気を付けて下さいね。」
向かい合ってあたしはそう言った。
次にこうして2人で話せるのはいつだろう。あたしはそんなことばっかり思ってた。
今は、こうして2人で話せるのが幸せでしょうがないんだもん。
「ってかさ、また今度遊ぼうよ!どっか、広いとこでワーッってさ。」
え、まじっすか。
あたしは思わず口をポカンをあけて矢口さんを見た。
「はい、絶対遊びましょう!」
ブンブンブンって顔を縦に振って返事をする。
嬉しすぎっしょ。やばいやばい。
「それもメールで決めようね?」
嬉しそうに矢口さんはあたしの左手を指差して笑った。
「はい、そーっすね。」
バレないように、あたしはその左手を少しギュッと握った。
じゃーね、って後ろ向きに少しずつ下がる矢口さんに、さっきみたくひらひらっと手を振った。
いつの間にか手を振りながら向こうを向いて歩き出す矢口さんを見送った。
嬉しくて、嬉しくて。
でも矢口さんがいなくなったこの時間が一番キライで
あたしは複雑な気持ちで手を振り続けていた。
”むくわれない片思い”
なんて
一瞬忘れてしまいそうでやまなかった。
- 267 名前:ゆら 投稿日:2005/06/01(水) 00:29
- 更新終了です
- 268 名前:ぱっち 投稿日:2005/06/01(水) 07:41
- き、きたー!
更新乙でつ
もー、神ですよ
素晴らしい作品をありがとうございます
- 269 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/03(金) 02:34
- ごっちん・・・
- 270 名前:知つぁん 投稿日:2005/06/03(金) 09:46
- めっちゃおもしろいです!!!
よしやぐ、よしやぐバンザーイ!!!ってかんじですかね???
でもよしこ、ごっちんのことを2番でもいいから愛してあげてぇー!!!
次回の更新に期待です^^
- 271 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/03(金) 21:17
- 更新お疲れさまです。 やぐよし良いです。 でも何だか関係性が広くなってきてますね。 次回更新待ってます。
- 272 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:28
- 家に帰って、あたしは手を握り締めたままベットにダイブした。
お母さんがなんかゴタゴタ言ってたけど、そんなの耳にかすりもしない。
ただ握った手をゆっくり開いて、夢じゃないかを一生懸命確かめる。
手の平の生命線を横切るアルファベットと数字。
今のあたしの宝物だった。
「やべー・・・。」
思わずそう口にして、ベットに仰向けに寝転がって手の平を天井にかかげた。
見つめれば見つめるほど実感が湧く。
矢口さんのアドレス。
嬉しすぎでしょ。
吉澤ひとみは今、世界一幸せ者ッスよ。
- 273 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:28
-
急いで通学カバンに入ってる携帯を取り出して、手の平と照らし合わせながらアドレスと番号を打ち込んだ。
アドレス帳に登録っと・・・・。
や行に並んだ”矢口さん”という文字がなんとも言えない。
ふう、とため息をつき、あたしは早速メールを作成した。
にしても、何を書けばいいんだろう。
うーん・・・・・とりあえず思うままに書いてみよう。
【 吉澤です。さっきはどうもです。夜道は危ないんで、気をつけてください。 】
うーん・・・ベタだなぁ。何が言いたいんだか分からん。
まぁでも最初だし、こんなもんか。
そう思ってあたしはそのメールを送った。
寝巻きに着替えて歯ブラシを取りに行って帰ってくると、もう返事が返ってきていた。
思わずまたダイブしてあたしは携帯を見た。
もちろん、宛名は矢口さん。
手が震える。わわわ、間違えて保護しちゃった。
まぁいっか。保護しとこう。んで、内容は・・・?
【 こちらこそ送ってくれてありがとう(^▽^)また明日食堂でねぇ!おやすみなさい☆ ヤグチ 】
あれ?
おやすみなさい?終わり?
初メールこれで終わり?
あたしは思わずあっけに取られてそれ以上メールは返さなかった。
というか返せなかった。
いやいや、最初だからこれは普通だよね。
うん、普通だ。そうだそうだ。
アドレス知っただけでも幸せなんだから!
よし、寝よう。
さてと、矢口さんの夢でも見よーっと。
- 274 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:28
-
あたしは本当にその直後、そのまま眠ってしまった。
次の日の朝までぐっすり。
残念だけど矢口さんの夢も見れないくらいぐっすり。
ちょうどいい時間に目覚めて、あたしはいつも通り顔を洗って、制服を着てリビングで朝ごはんを食べた。
普通に歯をみがいて、普通に髪をセットして、普通にカバンを持って部屋を出る。
昨日の夜の少ない雨は、まだ残っていた。
玄関のドアに滴る水が首に落ちて一瞬ぴくっとした。
家を出ても、ごっちんはいない。
もう一緒に行かなくなってからどのくらい経つのかな。
なんだか、すごく長い気がする。どうして。
どうして・・・。
- 275 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:28
-
学校に近づくにつれて、うちの学校の生徒がチラホラ。
無意識に矢口さんを探すあたし。なんだかバカみたいだけど、もうクセみたいに探してしまう。
背が小さくて金髪、そんなのたくさんいるのに、あたしは絶対見逃さない。
だって、ひとりだけ違うんだもん。
矢口さんは、違うんだもん。
前を歩く矢口さんを発見して、あたしの心臓は一気に早く音を刻んだ。
わわ、どうしよう。挨拶しようかな?
していいよね、うん。いいっしょ。
「矢口さ・・・」
途中まで名前を呼んだその時だった・・・。
「おーす、矢口じゃぁん!おはよ!」
目の前を横切って矢口さんの肩に手を置く、市井さん。
イチイ、サン・・・。
あたしは思わず脚を止めて2人を見つめた。
前を歩く2人。すごく仲が良さそう。
友達よりもっともっと、深い仲。親友、みたい。
やばい、ものすごい悔しいよ。
市井さんがどーこーじゃなくて
市井さんと話すときの矢口さんのその顔が、
その嬉しそうな顔が
あたしの前では見せないその顔が
欲しくてしょうがなかった。
- 276 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:29
-
どんどん遠ざかる2人の影を見つめながら、あたしは立ち止まったままで居た。
携帯を取り出して見つめ返すアドレス帳の”矢口さん”と、昨日のたった一通のメール。
でもあたしにとってはすごく大事。
あたしは無意識にメールを打ち込んでいた。
【好きです。】
って何書いてんだあたしは。
なんちゃってねぇ。
これは冗談。まさかこんなの送れるわけないっての。
【付き合ってください。】
そう付け加えた文章を見て、自分で笑った。
何やってんだっつーの、ほんと・・・
矢口さんには、好きな人がいるのに。
・・・
「書き直そっと・・・。」
なんだか虚しくなって、あたしはため息をついて携帯をもう一度見た。
そしてメールの削除ボタンを押して・・・――
ん?
あれ?
”送信完了”
えぇ?!
- 277 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:29
-
あたしは間違えて送信ボタンを押して、メールを送ってしまった。
な、な、なんてこったぁ・・・
送信ボックスを開いてあたしはもう一度送ってしまったメールを見た。
【 好きです、付き合ってください。 】
ぎゃぁぁぁ!!
最悪じゃん!どうしよう!ねぇ、どうしよう!
あたしは携帯を思いっきり遠ざけて頭が真っ白になっていた。
とんでもないことになってしまった。
というか、今すぐ矢口さんのところに行ってこのメールが消せたらいいのに。
本気でそう思った。
瞬間、気が抜けたようにあたしは落ち切った。
携帯を足元にボト、と落とす。
正門にいるのはもうあたしだけで、誰もいない校庭のど真ん中。
目の前に居たはずの市井さんと矢口さんの姿も、玄関の中へ吸い込まれて消えていった。
- 278 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:29
-
その時、誰も居なくなった玄関から誰かが出てきた。
ううん、誰かじゃない。
「・・・!」
矢口さん・・・?
一緒に居た市井さんももういない。
校庭に、矢口さんと、2人。
なのに今、ものすごい最悪の状況。
だって、メール、読んだんだよね?
- 279 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:29
-
だんだん近づく矢口さんを見たまま、あたしは目が離せなかった。
早歩きになって、彼女はあたしの目の前に立ち止まる。
地面に落ちたあたしの携帯を拾って、あたしに優しく渡してくれた。
その笑顔が怖かった。
あたし、こんなに一瞬で失恋しちゃうんだって。
好きな人には好きな人がいるのに
告白なんてしてる。
しかもメールで。いとも簡単に告白してる。
矢口さんは、背の高いあたしを見上げていた。
その顔がすごく、大人に見えて仕方なくて、
この人は、あたしなんかとは全然別世界の人なんだって勝手に思えてきた。
もーどうにでもなれって感じ。
今までのことも全部・・・――
「いいよ。」
- 280 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:29
-
矢口さんはそれだけ言って黙った。
”いいよ。”って?
何が、っすか?
あたしは意味も分からず無表情のまま矢口さんを見ていた。
近くで見る矢口さんは本当にキレイで、今までになくキレイで、
このままフラれてもう二度とこんなに近くで矢口さんを見ることなんて出来ないんだと思った。
その長いまつげも、白い肌も、澄んだ瞳も。
だいたい、来たメールを読むなんて、よく考えれば普通のことだ。
それを消せなんて、無理な話で・・・
浅はかだった。
あんな言葉、間違えて送っちゃうなんて。
あんな大事な言葉・・・
あたしなんかには、到底言えないような言葉を。
「ねぇ、聞いてる?よっすぃー。」
突然の矢口さんの言葉に、あたしはハイ?と聞き返した。
そうだ、矢口さんは”いいよ。”って言ったんだ。
あたしがメールで【好きです。付き合ってください】って言って、
矢口さんは”いいよ。”って言ったんだ。
好きです、付き合ってください。
いいよ。
好きです、付き合ってください。
いいよ。
好きです、付き合ってください。
いいよ?
いいよ?
いいの?
え?
- 281 名前: 投稿日:2005/07/03(日) 16:29
-
「え?」
まさか、という顔であたしの表情はだんだんこわばっていった。
泣きそうなのに、怒りそうな。多分そんな意味不明な顔してんだろーな。
それなのに矢口さんは、少し子供を見るような目で笑う。
「矢口のこと好きなんだよね?」
本人からのすごい質問。あたしはもう何がなんだか・・・
「は、はい、好きです、」
「じゃぁ、付き合おっか。」
矢口さんのしっかりしたその言葉に、やっとあたしは全部を理解した。
あたしが間違って送った告白メールに対しての、返事が、OKで
OKってことは
あたしと、付き合うってことで
つまりあたしと矢口さんは、付き合うってことで
ってことで・・・ことで・・・・・
なんか、すごいことになってる?
- 282 名前:ゆら 投稿日:2005/07/03(日) 16:33
- プチ更新しました。
急展開すぎですが、こうなってしまいました。
この展開にはどんなワケが?!w
>268〜271
いつもありがとうございます。
なるべく多くの更新をしていくんで、応援お願いします!
- 283 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 19:03
- すっげ気になります(>_<
- 284 名前:知つぁん 投稿日:2005/07/03(日) 19:22
- 更新乙です!!!
もちろん応援しますよw
これからも頑張ってくださいw
もう次の更新に期待です!!!
- 285 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/03(日) 22:56
- 更新お疲れさまです。 えぇっ( ̄□ ̄;)!! もうなんだかハッチャカメッチャカしてて訳ワカメですよ!! この事態をどう乗り切るつもりでしょう? 次回更新待ってます。
- 286 名前:ぱっち 投稿日:2005/07/03(日) 23:00
- 更新乙です
はわぁー、やられました
展開にドッキドキです
これからもムリしない程度に頑張って下さい
ものごっつい応援してます
- 287 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:33
- やっぱり・・・・・・・夢なのかな。
朝っぱらからのあたしの一方的な告白。(ある意味あたしの意思じゃないタイミングで)
そして、矢口さんは・・
【じゃぁ、付き合おっか】
って言った。言ったよね?確かに。
今でも信じられなくて、どうしようもなくて。
あたしが望んでいたのはこうなのに、なんだか実感が湧かないんだ。
ずっと好きだった、大好きだった矢口さんが
今、あたしのコイビト。
ありえなさすぎ。言葉も出ない。
「よっすぃー、どうしたの?ボーッとして。」
授業中、隣の席にごっちんはそう言った。
反対に座るミキティも呆れた顔でこっちを見てる。
「や、なんでもないッス。」
何があった、だなんて到底言えない。
だって、自分でも信じられないのに、まだ公表できないよ・・・
ハーイ、実は矢口さんとあたしは結ばれました〜♪なんて。
誰も信じてくれないだろうし。
当のあたしが信じてないんだからさ。
- 288 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:33
-
「ならいいんだけど。あ、ごとーはあとで話すことあるから。」
ごっちんは軽々とそう言って前を向いてしまった。
え、何。話すことってどんなことよ。
「あーあ、よっすぃー、またなんかやったんだ?」
ミキティがからかうように言うから、あたしはムキになって首を横に振った。
「な、なんもやってないってばっ。多分・・・」
伺うようにごっちんを見ながらあたしはそう言った。
朝、あんなことがあって、あのあとどうやって矢口さんと別れたんだっけ?
【じゃぁ、付き合おっか。】
矢口さんがそう言って、あたしは約5分ぐらい固まってた気がする。
それでも矢口さんがクスクス笑いながらあたしの手を引いて玄関まで歩いて・・・
そのあとは?
えーっと・・・・たしか・・・
チャイムが鳴って、そのままサヨナラ?
そうだ!そこで終わったんだ!
ちょっと待て。最悪じゃん。
あたしから告白したんだよ?矢口さんに。
なのにあたし無言でその場を去ったわけ?
それは大変だ、とあたしは徐に携帯を取り出した。
あて先はもちろん矢口さん。
【さっきは、あの、よく分からなくて、でもメールはウソじゃなくて、本当で、でも矢口さんは・・・】
だめだ、まとまらない。
あたしは携帯を打つ手を1回止めて、息を吐き出した。
とにかく今、あたしはどーしたいかって・・・
【会いたいです。】
気がつけばあたしはそう送っていた。
- 289 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:33
-
返事は少し遅れたけど、矢口さんはいつも通りの雰囲気でメールを返してくれた。
【うん、じゃぁお昼中庭でいいよね?】
お、食堂じゃないってことは、2人でってことでいいんですよね?
ちなみに食堂に市井さんとごっちんを2人にさせることになるんだけど・・・
まぁ、それはもう大丈夫でしょ。
たぶん、市井さんがひとりで喋ってくれるだろうし。
あたしはすぐに了解の返事を返して、お昼まで必死に授業を耐えた。
途中、ミキティに映画の話とかテレビの話をされたけどあまり覚えてない。
ごっちんはお昼になるとそのまま食堂に向かっていった。
あたしがよそよそしいのが分かったからだと思う。
でもまさか、あたしと矢口さんが付き合っただなんて思わないよね・・・。
たぶん、ただのあたしの片思いで何かいい事があったんだろーな、くらいの想像だと思う。
まぁ、あんま深く分析するとごっちんの頭の中は複雑だから・・。。
- 290 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:34
-
チャイムと同時にあたしは中庭にダッシュした。
すれ違う友達に、よ!スポーツマン!とか言われたけど聞こえないフリをした。
1秒でも早く、会いたくて。
とか言って、中庭についたらまだ矢口さんはいなかった。
というか誰もいないんだけどね。
中庭は狭いし、みんなはあまり来ない。
それでもあたしは、中庭の雰囲気をなんだか変に懐かしく感じていた。
もちろんそれは、去年の文化祭の前夜祭のことなんだけど。
矢口さんが、ここで飯田さんとキスしてたんだよ。
飯田さんと、キス、か・・・。
あたしは妙に悔しい気持ちがこみあげてきて、たまらなかった。
こないだのこともあってかもしれないけど。
あの資料室での飯田さんに勝ち目がないように感じた時みたいに。
でも関係ないもん。
今矢口さんと付き合ってるの
あたしだし。
- 291 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:34
-
「ごめんね、待った?」
思わず気づかずに矢口さんの声にあたしは振り向く。
朝とは違って、前髪をピンで留めてすっきりしていた。
いや、どんな矢口さんでもいいんだけどさ・・・。
「いえ、今来ました。」
よくある可愛いウソをついてあたしはベンチに座った。
そして矢口さんも座る。
すぐ隣に矢口さんがいる。
しかも妙に近く感じる。なんでだろう。コイビトだから?
ひじとひじとが触れ合っている。
それだけで、嬉しくて。
嬉しくて、嬉しくて・・・・たまらなかった。
でも・・・矢口さんは市井さんのことが好き、だった。
今は分からない。でも、好きだった。
ただあたしは、その事すらふと忘れそうになってしまうほど
この人が好きで好きでたまらないんだって、毎分毎秒思ってるんだから。
「あの、」
- 292 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:34
-
ん?と矢口さんはあたしの方を笑顔で見つめてくる。
もうこの時点であたしの頭の中は噴火真っ盛り。やばいっすから。
「朝のこと、あたしあんまり理解してなくて・・・なんていうか・・・その、」
ブツブツと話すあたしの、矢口さんはうん、うん、と小さく頷いていてくれた。
あたしもそれがなんか安心できて、言葉を続ける。
「あんなこと、・・・いや、矢口さんを、その・・・好きだ、っていうことメールなんかで伝えるつもりはなくて、本当は直接言いたかったんです。」
正直な気持ちをあたしはただ言葉に並べ続けた。
隣にいる矢口さんからは香水の優しい香りがして、なんだか少し落ち着いていた。
「でもその前に、矢口さんの気持ちも確かめなきゃいけなかったし。」
市井さんのことですけど。とあたしは小さく付け加えた。
市井さんのことをまだ好きで、もしそうなら正直に言ってほしかった。
それでもあたしと付き合うとか、意味知りたいし。
「うーんとね、矢口も今ハッキリしてるわけじゃないんだけどね。」
たまにチラチラと目を合わせながら矢口さんは話し始めた。
自然にその視線を合わせられなくてあたしは焦ってるんだけど。
「実はね。」
突然、そこで言葉を切った矢口さん。
え、何。
少し笑顔が消える彼女の表情を、あたしは不安で見れなかった。
実は、なんて意味深だよ。なんなんスか。
- 293 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:34
-
「ごっつぁんと紗耶香、付き合うことになったんだって。」
昨日の夜、聞いたんだ。と矢口さんはそういった。
たぶん、昨日の夜っていうのはあたしとメールしたあとだと思う。
市井さんと、ごっちんが付き合うことになった?
どっちから?市井さんだよね?
それは本当に?本当にお互い理解の上でなの?
「昨日それ聞いてさ、初めて気づいたんだよ。」
矢口さんはそう言いながら少し声を弱めて話を続けた。
「紗耶香のこと、まだ好きだって、初めて気づいたの。馬鹿だよね、オイラ。」
矢口さんはそう言って上を向いて笑った。
その笑顔を見たとき、切なくてたまらなかった。
だって、いつもの笑顔じゃなかったんだもん。
その笑顔は、すぐに涙に変わってしまった。
なに、じゃぁどうしてあたしと付き合うなんて言ったの?
正直頭の中に最初に浮かんだのはそれだった。
当たり前かもしれないけど、どうして?って思うよ。
市井さんのこと好きなくせに、あたしと付き合うなんてさ。
いくらなんでも、あたし悲しいっす。
「でも同時に、失恋した。紗耶香の中にあたしはいないの。ちゃんと分かった。」
いまさらかよって感じだよね、と矢口さんは苦笑いをした。
あたしは何も言えなくて、ただ下を向いていた。
だって、そんなこと、聞きたくない。
- 294 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:34
-
「ごっつぁんから告白したらしーしさ、もう矢口勝ち目ないじゃん・・・?」
へへっ、と照れたフリをしながら本当に泣きそうな顔で笑った。
やですよ、矢口さんの泣き顔はもう見たくないですよ。
「あきらめちゃうんですか・・・?」
あたしは自分でそう言ったあと、何聞いてんだろって思った。
ただの相談相手じゃん、コレ。
さっきはあたしの告白に対して、OKしたと思ったら、
今度は市井さんが好きだなんて。
矢口さんはあたしの心をぐるぐるかき回す。
でも、今の矢口さんはあの時と同じ背中だった。
去年の文化祭のあと、あたしが校内で偶然見たあの背中。
・・・飯田先輩と別れた時と同じ、小さな小さな背中。
あたしはあの時から、矢口さんを気になりだしたんだ。
まさか、もう一度矢口さんのこの姿を見るなんて・・・思わなかった。
「紗耶香がごっつぁんのこと本気で好きなこと・・・認めたくないけど、そーなの・・・。紗耶香、いつも女たらしで軽かったから、安心できたの。全部遊びだって知ってたし。恋人じゃないけど、あたしは紗耶香にとって・・・・特別な存在だと思ってたから。」
それでよかったのに、と言って矢口さんは、急に下を向いてしまった。
あたしは、なぜか失恋したような気分がした。
それなのに好きな人は目の前で泣いている。
今すぐ抱きしめたくてしょうがない。
頭ん中ぐるぐるぐるぐる
気持ちわるいよ。
「ごっつぁんを好きになったって聞いたときも、どうせ遊びだと思ってた。・・・なのに・・・・・・。」
あたしは気づかずに矢口さんを抱きしめていた。
矢口さんは驚いてたけど、すぐにそっとあたしの胸に顔をうずめた。
今だけコイビト気分。
いや、恋人だよね?や、なんか分からなくなってきた。
- 295 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:34
-
今はただのひとりの後輩として、頼られているだけでよかった。
それでもあたしは慰めの言葉が見つからなかった。
だって実際、市井さんは本当にごっちんのことを好きだから。
こんなのって最悪だよ・・・。
矢口さんとあたしが、同時に失恋してしちゃうなんて・・・。
神様っていうのは、なんて薄情者なんだろうか。
「ごめんね、なんか・・・へへっ。誰かの前で泣くのなんてヒサブリだよ。」
あたしの体から少し離れて、矢口さんは涙目で笑った。
「・・・あたしでよかったら、いつでも胸貸しますよ。」
「んん、ありがとー。」
何なんだこの会話とシチュエーションは?
展開が展開がおかしいんじゃないか?
あたしは朝のことが本当に夢だったんじゃないかって気がしてきた。
だって、今ものすごく泣きそう。あたし。
好きな人に、好きな人がいる。
じゃぁどうして、あたしと付き合うのOKしたんスか。
もうわけ分からないッス。
んん、ありがと。と矢口さんはあたしの体からそっと離れた。
「あの、矢口さん。」
聞きたいことがありすぎて、あたしはとにかく名前を呼んだ。
それでも目を見れなくて、怖くて、
いつもの臆病者のあたしがいる。
- 296 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:35
-
その時、矢口さんは突然、あたしの手を握った。
「・・・っ」
いきなりすぎて、あたしは一気に体が熱くなるのを感じた。
やばい、何、今度はなんすか。
付き合うとか言ったり、いきなり突き放すように市井さんのこと話したり、手を握ったり・・・
「ごめん・・・矢口さっきから意味わかんないよね?」
矢口さんは今度は焦ったようにあたしに謝った。
意味もわからず、あたしは首を大きく横に振る。
握られた手から体温が伝わるのだけが怖くて、必死に体温調節しながら。
「こんな中途半端な気持ちでも、それでも、矢口のこと好きでいてくれてるの?」
上目遣いであたしを見る矢口さん。
そんな目、そんな質問、今のあたしを殺してしまいそう。
正直、矢口さんのこと好きで、好きで、好きで、もうどうにもならなくて
いつかこの気持ち言わなきゃいけないって思ってて
でもひょんなことから告白することになって、しかもOKで・・・
それでも矢口さんは市井さんが好きとかいうし
すごい悲しいし
それでも
矢口さんが好きだし。
今あたしはどうしたいんだろう。
- 297 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:35
-
「好きです。」
小さいけど、ハッキリした口調であたしはそう言っていた。
たぶん、声震えそうだったし、かなり緊張してんのバレバレ。
「そっか。」
だよね、そうだよね。と矢口さんは頷く。
なんだかまるであたしが矢口さんを困らせてるような気がしてきたよ。
ホントは、OKなんかしなきゃよかったって、今頃思ってるのかな。
もしそうなら今すぐ言って欲しい。
期待しちゃだめだ、って自分に言い聞かせるのに必死だから。
どうせならハッキリ言って欲しい。
”さみしさ忘れるために、勢いでOKしちゃった”って。
そうなんでしょ?矢口さん。
ねぇ。
- 298 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:35
-
「よっすぃ、」
急に名前を呼ばれてあたしはとっさに矢口さんの目を見た。
表情は柔らかくて、あたしはまるで今あたたかいお湯の中にいるようだった。
どうしよう。
どう頑張ったって、矢口さんを好きなこと、やめることできないよ。
好きで
好きで・・・
「よっすぃー、矢口のこと・・・」
・・・
「矢口のこと、幸せにしてね。」
- 299 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:35
-
プツン。
あたしの中で何かが切れる音がした気がした。
たぶん、これは緊張の糸でもなんでもなくて
あたしのぶっこわれそうな爆弾の一部が切れた音で、
気がついたら、矢口さんの細い肩を引いて、思い切り抱きしめていた。
たまらなく暖かくて、これが幸せなんだって、
勝手な想像かもしれないけど、あたしはそう思った。
「絶対幸せにします。ほんとに。」
抜けそうなあたしの言葉に、矢口さんは、うん、と声に出して頷いてくれた。
正直、矢口さんを抱きしめた瞬間
どうでもよくなった。
なにもかも。
もしかしたら、これ以上の幸せはないかもしれない。
たとえ、矢口さんの心の中にあの人がいても。
・・・
・・
・
- 300 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 21:35
-
- 301 名前:ゆら 投稿日:2005/07/04(月) 21:42
- >283〜286さん
レスありがとうございます^^
なんかスラスラ書けたので更新しました!
さてこっからどうなるやら・・・。
- 302 名前:ぱっち 投稿日:2005/07/04(月) 22:00
- 更新乙です!
なうっ!やられました・・・
もう思い残すことはありません・・・・って今後が、今後がぁ(w
ほぼリアルタイム万歳
- 303 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/04(月) 23:04
- このよみごたえ・・・たまんないですぅ↑ぬはぁ!!この展開は予想できなかった・・・
作者様最高です☆ あ〜今夜はいっぱいよしやぐよめて幸せ絶頂です。
- 304 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/05(火) 01:06
- 更新お疲れ様です。
うぁ・・・・・・もう最高です!!!
今後どうなっていくんでしょう・・。
吉矢読めて幸せです。
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/05(火) 21:17
- くはぁ!!やっぱよしやぐイイですね・・・一番好きです。もう、あまりないので作者さまは
オアシスです。もう、好きすぎて好きすぎて・・・よんでもよんでもまだ満たなくて・・・
ほんと場違いで悪いんですが、作者さまのほかによしやぐ書かれてる作者さまをおしえて
くださいませんか??・・・おねがいします!!
- 306 名前:ゆら 投稿日:2005/07/05(火) 22:36
- >305
そういうのはここで言わないで下さい。
ハッキリ言って気分悪いですね。
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/05(火) 23:01
- >>305
そゆのは案内板逝け
作者さま失礼しました。
次回も期待しつつ大人しく待ってまつ
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/09(土) 18:01
- ここの作者って<5といい<306といいはっきり言うんですね・・・(汗
ま〜たしかに<305はお馬鹿な奴だとは思うがw
- 309 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/10(日) 00:43
- ごちん、なんで…
いいの?本当にそれでいいの?
ということで続き楽しみにしてます。
- 310 名前:ミッチー 投稿日:2005/07/10(日) 18:24
- 初めまして。
更新お疲れ様デス。。。
イイっすね!この話。
続きが凄く気になります。
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/27(水) 10:09
- 凄く好きだ、この話。
待ってるぜーぃ
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/27(水) 21:54
- あたしも好きぃ〜
- 313 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:41
- あのあと、なんだか恥ずかしくなってあたしは逃げるようにその場を去ったのは覚えている。
”サ、サヨナラ!!”とか叫んでたような気もする。
絶対あたしの顔は真っ赤だった。
情けねぇ・・・。
教室に戻って、授業が始まっても頭を抱えてボーッとしても・・・
なんだかうまく現状がつかめない。
多分、矢口さんとは本当に付き合えたんだと思う。
でも、気持ちが通じ合ってるかどうかは別なんだよ。
その代わりあたしの思いは受け止めてくれたわけで、
矢口さんの気持ちは中途半端なわけだ。
でも
この際、中途半端でもなんでも構わない。
そう思えるほど、好きなんだから。
- 314 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:41
-
「その嬉しそうな顔は、矢口さんと会ってたの?」
隣の席のミキティが小声にもせずに突然そう言った。
周りもエッ?という顔であたしを見る。
「な、な、なに!イキナリ・・・」
顔に出てるとは思いもしなかった。ニヤけてたかな・・・。やらしーなあたし。
さらに過剰な反応のあたしに、ごっちんもこっちを見た。
やや、なんすかなんすか。
「ははーん、さては付き合ってんだ?」
静かにそう聞いてくるミキティに、あたしは一瞬言葉を冷静に飲み込んだ。
そうとう鋭いな、この人。
やだなぁ。すべて見透かされてそう。矢口さんの”好き”は中途半端だってことも。
・・・どうすればいいんだろ。こういうとき。
隠す必要はないんだよね?
むしろ、ごっちんこそ市井さんと付き合ってるわけだし。
「付き合って、る。・・・・・たぶん。」
妙に硬くなってあたしはそう答えた。
たぶん、なんてそうとう謙虚に言ったけど正直ハッキリ言う自身がないだけ。
ミキティ、そのいやらしー目はなんなんだよ。
別に今矢口さんと会ってたからって、いやらしーことは一切してないんだから。
ちょっと、手ェ出しちゃったけどさ。
抱きしめただけだし。うんうん。
- 315 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:41
-
少しして、ミキティも話に飽きたのか机に顔を伏せて寝始めたころ
ごっちんは小声であたしの名前を呼んだ。
なになに、とあたしも耳を近づけて話を聞く。
「ごとー、市井ちゃんと付き合ってるよ。」
告白したのもごとーだし、と少し笑顔でごっちんはそう言った。
矢口さんから聞いていたとはいえ、やっぱり本人からの聞きなれない事実。
「そ、そーなんだ。」
そりゃ聞きたいことはいっぱいある。
”なんでまた市井さんに告白なんかしたの?”とか。
”本当に市井さんのこと、好きなの?”とか。
・・・
あたしのこと、もう好きじゃなくなったの?
とか・・・。
- 316 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:41
-
何か言いたげそうなのが顔にあらわれてたのか、ごっちんは話を続けた。
「たぶん、今のよっすぃーとあたし、似てると思う。」
それだけ言って、ごっちんは黙ってしまった。
似てると思う。って、どういう意味?
「そうなのかな。」
気の利かない返事を返して、あたしもそのまま黙った。
関係ないけど、ミキティは寝てるフリして多分この話聞いてんだろーな、とか思いつつ。
なんだか、ごっちんて何考えてるかよくわかんない。
- 317 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:41
-
その日、あたしは行きつけの美容院で髪をバッサリ切った。
バッサリと言っても、まぁ肩くらいまであった中途半端なミディアムを
かなりボーイッシュなショートにしたって感じかな。
夏だし、やっぱ短い方がいいさ。うん。
ま、それだけじゃないんだけど。
- 318 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:41
-
文化祭の準備が本格的に始まった。
もちろんうちのクラスはスタンプラリー兼あたしと写真撮影。
そろそろこの企画にも慣れてきた・・・わけがない。
まだまだ暑い中で、これはないっしょ・・・
「スーツ・・・。」
誰が用意したか分からないけど、目の前に差し出された赤いスーツ。
まさかこれ着て撮影会やれってゆーの?
恥ずかしいし暑いし最悪じゃん。
「文化祭のお楽しみだねぇ〜。ってか髪切った?」
似合うじゃーん、といやらしー目でミキティはそう言う。
やめて、その目は。怖いっす。
ほとんと授業もなくなって、一日中文化祭の準備にあけくれる日々が始まった。
どんなに暑くても、うなだれても、
頭の中は矢口さんのことばっかり。
矢口さん、会いたいな。
- 319 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:41
-
ブルルっとポケットの中で携帯が震えた。
短いからメールかな。
携帯を開いて受信メールを見ると、送信元は矢口さんだった。
「え、うそ。まじ。」
思わず口に出すほどびっくりした。
矢口さんからメール来たの、初めてなんだもん。
【チョー暑いね!文化祭の準備すすんでる?お昼ぐらいは一緒に食べようよ♪】
キャー!まじっすかぁ!!
矢口さんからメール、しかも会う約束まで・・・。
なんか、やっと恋人っぽい実感が沸いてきたよ。
会いたい。あたしも会いたいです。
昼休みに屋上で会う約束をして、あたしは午前の文化祭の準備を人一倍張り切ってやった。
ごっちんとミキティが呆れ顔であたしを見てるけど、そんなのはどうでもよかった。
矢口さんのためなら赤いスーツだってなんともないし!
そんだけあたしの中で矢口さんはすげーパワーになってるんだよね。
あたしも、矢口さんに何かしてあげたらいいのにな。
- 320 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:42
-
屋上のドアを開けると、もうそこには寝転がった矢口さんがいた。
「矢口さん。」
少し緊張しながら名前を呼ぶと、矢口さんはバッと起き上がってこっちを向いた。
バッサリと髪を切ったあたしに、あー!!とか言いながら近づいてくる矢口さん。
嬉しかった。
気づいてもらえた。
矢口さんと話すきっかけが欲しかったから切ったんですよ。
なーんて・・・言えないけどね。
「バッサリ切ったね〜!うん、うん、やっぱよっすぃーだから似合うね!」
そう言って矢口さんは手を伸ばしてあたしの頭をポンポンと軽く触った。
嬉しくで胸がはりさけそうなのに、なんだか、矢口さんの前だと上手く笑えない。
緊張しちゃうってのもそーだし、なんなんだろーな。
不安のかたまりっていうのは取れないんだよね。
「今日はエビフライっす。」
そう言ってあたしは矢口さんの横に座ってお弁当箱を開けた。
なんだかくすぐったいような心地よさ。
矢口さんがちょっと笑ったり、ちょっとあたしに触れたりするだけで、
胸がきゅ〜〜っと締め付けられるように痛いんだ。
歯を食いしばってないと顔がゆがんでしまいそうなくらい。
ドキドキするとか、そんな可愛いもんじゃなくて。
「いーなー。くれ、くれ。」
そう言って嬉しそうにあたしのエビフライを眺める矢口さんは、今にもスキップしそうな勢いだった。
日に当たっていつもより明るい髪に、両腕で大事そうに自分のお弁当を抱いている。
そんな様子がとても愛らしくて、抱きかかえているかお弁当にさえなりたかった。
・・・いや、それはちょっと危ない考えかな。やめやめっ。
- 321 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:42
-
「あーん。」
そう言って顔を近づける矢口さんを、もちろんあたしは直視できなかった。
いや、むしろいつ爆発してもいーくらい理性と戦うあたし。えらいぞ、ひとみ。がんばれ。
「ど、どーぞ。」
緊張しながらも震える右手で箸をとり、エビフライを矢口さんの口へ運んだ。
小さい口ではとても入りきらなくて。一口食べてもぐもぐしていた。
むはー、まじ可愛いっす。
矢口のもあげるね〜と、彼女は自分のお弁当箱を開けた。
「矢口ねー、自分でお弁当作ってんだよー。」
へへっと笑う矢口さん。
「まじっすか!すげーっす!尊敬します!」
ベタ誉めなあたしに、矢口さんは素で照れていた。
そして矢口さんが差し出してくれたウインナーをパクッと食べた。
フツーにおいしいんだけど、矢口さんのお弁当だと思うともっとおいしい。
「あー幸せだなぁ。」
思わず口に出してあたしはそう言った。
あ、と気づいて矢口さんの方を見たけど、ただ優しく笑っていた。
その笑顔を見て、ホント何倍もの幸せを感じる。
大好き。
あたし今、矢口さんの事、大好きって思ってる。わかる。じわじわと肌に染みるように感じる。
”好き”っていうそのひとことだけじゃ済まされないような特別な感情だってこと。
- 322 名前: 投稿日:2005/07/28(木) 23:42
-
あたしはいつの間にか、矢口さんの等身大の世界を、もっと知りたいと思っていた。
あたしがこんなにもあなたを思ってても、それでも・・・消えませんか?
矢口さんの中の市井さんは、消えないんですか。
ただ空を握り締めている手に、力がこもる。
だって、本当に本当に歯がゆくって、仕方がなかったから。
- 323 名前:ゆら 投稿日:2005/07/28(木) 23:48
- 更新終了です。
レスくれた方々ありがとうございます。
また次できるだけ早く更新しますので。。。
気の利いたコメントができなくてすいません(泣
- 324 名前:ぱっち 投稿日:2005/07/28(木) 23:50
- 更新乙です
今回は完全にリアルタイムで(w
よっちゃんの揺れ動く感じ・・・・すげぇ
みきてぃもいい味出てていいですねぇ
お互い頑張りましょう!
- 325 名前:ミッチー 投稿日:2005/07/29(金) 00:57
- 更新お疲れ様デス。。。
吉澤さんの想いがひしひしと伝わってきます。
次も楽しみに待ってます。
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/29(金) 18:16
- がんばれよっすぃー!!
- 327 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/30(土) 08:33
- 更新お疲れさまです。 よっすぃー切ないですね(泣 それでも一途なよっすぃーはなんだかかっけーです。 でもあの人は・・・? 次回更新待ってます。
- 328 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:31
-
お昼を食べ終わると、あたしと矢口さんは黙ったまま寝そべっていた。
「そら青いねぇ〜」
「青いですね〜。」
くだらない会話を繰り返しながら、あたしは2人の空気を感じていた。
ほんと、今このときが幸せならそれでいいとさえ思えた。
あたしの中の大きな幸せに、何かがひっかかってるのは知ってる。
でも、気づかないように自分でまぎらわせてるのも知ってるんだ。
市井さんのこと、気にしないのは無理だけど、
気にしないようにしなきゃ、だめなんだよね。
- 329 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:31
-
確実じゃないのは、矢口さんの今の気持ち。
市井さんがごっちんを好きだからといって、矢口さんはどうなのか。
それは分からない。
知らないし、教えてくれないと思う。
というか、聞けない。
今の関係を壊したくないから。
たとえ、これがただのラッキーだとしても。
こうして矢口さんと2人でいれることが
何かの間違いでも、夢だとしても。
このままでいたいと思った。
・・・どうして、あたしはこんなに矢口さんが好きなんだろうか。
- 330 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:31
-
「ねぇ、ごっつぁんから聞いた?」
突然思いついたように矢口さんはそう言った。
ごっつぁんから、何を?と思ったけど、大体分かった。
市井さんのことだろーなって。
ただでさえ市井さん関連のことは口にしないでほしいのに。
考えないでほしいのに。
「うーんと、市井さんに告白して付き合ったってことは、さっき授業中に聞きました。」
あたしがそう言うと、授業中かよーと少し笑う矢口さん。
やっぱりその笑顔がステキで、複雑ながらあたしも笑った。
「ごっつぁんはちゃんと好きかな?紗耶香のこと。」
少し心配そうに矢口さんは笑った。
その時、あたしはものすごく悲しかった。
勝手な解釈だけど、矢口さんがごっちんに嫉妬してるみたいだったから。
だって、そんなに嫌でしょ。
今付き合ってるの、あたしなのに。
「まぁ紗耶香がちゃんとごっつぁんを好きだから大丈夫だと思うけどさ。」
返事のないあたしに、矢口さんは付け加えるようにそう言った。
なんとなくそれがあたしに対する慰めっていうか、フォローに聞こえてみじめだった。
変な気使わせてしまった。
- 331 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:31
-
「ごっちんには幸せになってもらいたいです。」
あたしは少し謙虚そうにそう言った。
遠まわしに、市井さんとは二度と離れないでほしい、っていう意味をこめて。
遠まわしに、矢口さんには市井さんのことを諦めてほしいっていう意味で。
なんて嫌なヤツなんだろう、あたしって。
「そうだね、きっとなれるよー。」
矢口さんはやさしく笑いながらそう言った。
あーあ、なんかすげー情けないよ、あたし。
「そういえば、進路って、どうなったんですか。」
無理に話を変えるようにあたしはそう聞いた。
矢口さんは、あの時悩んでた。
進路について。
アバウトにしかあたしには教えてくれなかった。
ひみつー!とか可愛いこと言って。
まぁ、あの時あたしと付き合ってなかったし。
少し悩むように黙ってから矢口さんは話し出した。
「とりあえず、専門学校・・・かな。」
アバウトだけどね、と矢口さんは笑った。
たしか、専門学校か大学か迷ってたんだっけ。
「なんのですか?」
保育士とかかな、と思いつつあたしは言った。
「うーんとねぇ、福祉関係かな。介護士とか。」
矢口さんがそう言うと、あたしはなんとなくそれは普通に聞きうけていた。
介護士?の矢口さんかぁ〜とか。それもいいなぁ〜とかね。介護されてみて〜とか。
のーてんき。
あとから考えたら、そんな単純な自分がバカだなーと思う。
- 332 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:31
-
「あたしはいつでも応援してますよ!」
ガッツポーズなんかしてあたしがそう言うと、矢口さんはうれしそうに笑ってくれた。
「ありがとー。頼もしいよ。へへ。」
そんな風に矢口さんに嬉しがられたら、もうどっか行っちゃってもいいって感じがする。
バカなあたしは、そんな目の前の可愛い矢口さんを抱きしめたいとか、
ずっと一緒にいたいとか、お話してたいとか、
しあわせだなー、とか
そんなことばっか考えてた。
ま、いわゆる自己満足だよね・・・。
「でも、どうして大学はやめたんですか?」
あたしがそう聞くと、矢口さんは一瞬曇ったような表情をした。
あれ、聞いちゃいけなかったかな・・・。
経済的な問題とかだったりして。
矢口さんはふっと苦笑いのように切ない表情で笑った。
「まぁ、諦めたって感じかな。」
そういってあの時みたいにうまく流すように答えた。
諦めたって、やっぱり経済的な問題?
それとも学力的?
まぁ、それ以上は聞かないけど。
年下のあたしに話したって何にもならないもんね。
・・・恋人であろーとさ。
「でも、本当は行きたいんだぁ。S大。」
自然に口から出たように、矢口さんはそう言った。
S大って言ったら、かなり頭のいい国立大学。
矢口さんだったら、入れそうなのに。
なんで、あきらめちゃったんだろう。
- 333 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:31
-
「あ、あのー・・・今日一緒に帰りませんか?」
ふと自然にあたしは矢口さんを誘った。
なんか切なそうだったから。明るく、ね。
それぐらいしかあたし、出来ないし。
まだお昼だと言うのに、せかせかと放課後の話。
もしかしたら、また進路相談かもしれないのに。
やや、それでも待ちますよ、吉澤は。
「そだね、帰ろっか。玄関で待ち合わせね?」
矢口さんの笑顔がすぐ隣にある。
それだけでどうしようもなく嬉しかった。
「はい。」
じゃぁ、また放課後と言ってあたしはその場を去った。
なんだか名残惜しさがまた良いな〜なんて思ったりして。
バイバイ、なんていう矢口さんが脳裏に焼きついて、あとをひくっていうか
楽しみだなぁ、帰り。
学校、早く終わらないかな。
- 334 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:32
-
午後の授業もほとんど無くて、文化祭の準備に追われていた。
みんなは無駄にあたしの握手会を張り切って進めてるけど。あたしの不安は募るばっかり・・・。
あーあ、あたしはこんな真っ赤なスーツ着て女の子にキャーキャー言われたいわけじゃないのに。
ただ、矢口さんがいればそんなことどうでもいいのにな。
むしろ、日常生活の全てがどうでもいいくらい。
「よっすぃ〜、これ重いよ〜、持って〜」
うだうだ言いながら近づいてきたごっちんは、大きなダンボールを抱えていた。
あたしは慌ててダンボールを一緒に持つ。
「え、なにこれ?」
ずっしりと重いダンボール。握手会で使うものでも入ってるの?
ってか、握手会ってなんか使うのか?
ごっちんは、えー?とか言いながらダンボールの横から顔をひょっこり出す。
足がふらつきながらも2人で廊下まで運んだ。
「色紙だってぇ〜。よっすぃ〜のサイン欲しいって子のためにねぇ。」
すごいよねぇ、と呑気そうに話すごっちん。
って・・・え?!色紙?!
しかもダンボールに書かれた”500枚”の文字。
・・・・ありえない。
- 335 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:32
-
話によると先着500名様にはあたしののサインも着いてくるとかいう勝手な企画らしい。
あたしの知らないところでどんだけ盛り上がってるんだか・・・。
「もー開き直って、とことん付き合うよ。」
苦笑いであたしがそういうと、ごっちんはうれしそうに笑った。
クラスのみんなは教室で飾りつけやらなんやらに盛り上がっていて、
あたしとごっちんは、どすん、と廊下にダンボールを置くと一息ついて座った。
みんな文化祭の準備で慌ただしそうにあたしたちの前を通っていく。
「そーだ、市井さんって大学行くの?」
ふと矢口さんの進路の話を思い出してあたしは聞いてみた。
ごっちんはへー?という顔でこっちを見る。
なにさ、へー?って。聞いてる?
「市井ちゃんは大学だよー。なにげ頭いいし。」
なにげだよ、なにげ。とごっちんは言った。
「へぇ、どこの大学?」
ふと気になって質問を続けてみた。
市井さんだったら、美容師とかかなぁ?
いや、ホスト?あ、一応女だった。でもスーツ似合いそう。
まぁイメージ的にはそういうチャラい職業って感じ・・・。
「なんだっけなー、えーと、ほら、頭いいとこだよ。」
- 336 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:32
-
ごっちんは必死に説明を始めた。
「なに、それ。分からないよ〜」
少し笑いながらあたしは聞いていた。
うーん、と・・・とごっちんは考え続ける。
そして、そーだ!と急に思い出して嬉しそうにこっちを見た。
「S大!」
・・・え?
- 337 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:32
-
S大?
矢口さんの諦めたS大・・・?
”大学か専門学校か迷ってる。”
”でも、専門・・・かな。”
”でも本当は行きたいんだ、S大。”
・・・
一瞬、いやな予感がした。
ううん、予感なんかじゃない。
違う、違うよ。
「よっすぃー?」
テンパるあたしにごっちんは心配そうに声をかけてきた。
あたしはそれでも頭の中がぐちゃぐちゃで分からなくなった。
矢口さんが専門学校を選んだのは・・・・
市井さんと同じS大に行くのを、諦めたから?
本当は、市井さんと同じ学校に行きたかった?
市井さんと一緒に、居たかった?
- 338 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:32
-
経済的な問題なんかじゃない。
学力的な問題なんかでもない。
矢口さんがS大を諦めたのは・・・
市井さんのことを、諦めたかったからなんだ。
- 339 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:32
-
- 340 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:33
-
そのあと、脱力してしまったようにあたしはぐったりした。
心配してくれるごっちんに”ちょっと具合悪いから”と言って
保健室に行ってベッドで少し横になった。
静かな保健室。
カーテンの閉まった個室のベッド。
あっちの方で保健室の先生がコーヒーをまぜる音が響く。
それよりもっと耳をすませれば
文化祭の準備に追われる生徒のにぎやかな声も聞こえた。
まるで別世界みたい。
だって・・・
- 341 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:33
-
気づいちゃったんだ、あたし。
矢口さんが好きなのは、あたしじゃないって。
違う、気づいてた。
でも、気づかないフリしてた。
自分で、自分に。
あたしはうぬぼれてたんだ。
そう、最初のころは人の気持ちなんて簡単に変えられると思ってた。
本当に、うぬぼれてた。
いくらあたしと矢口さんが恋人同士という関係であろうと
いくらあたしが死ぬほど心底矢口さんを好きでいようと
矢口さんの好きな人は、市井さん以外の誰でもないんだ。
- 342 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:33
-
それでももう遅かった。
すでにあたしは本気で好きになっちゃっててどうしようもないんだ。
気づいてた。
でも認めたくなかった。
確実に、矢口さんを知らなかった頃に戻れなくなっている自分がいることを。
- 343 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:33
-
矢口さんの真っ直ぐな優しさに、今頃気づいた。
胸が痛いよ。
息が苦しいよ。
- 344 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:33
-
日のあたる保健室のベッド。
不思議な空間。
それでも空は青いんだ。
真っ白な枕にポタポタと落ちる涙は、しょっぱかった。
悲しみの涙は、しょっぱかった。
・・・
- 345 名前: 投稿日:2005/08/04(木) 02:33
-
矢口さんを思って泣いたのは、突き抜けるほど晴れた日だった。
- 346 名前:ゆら 投稿日:2005/08/04(木) 02:37
- 更新終了です。
なんか今回は変な更新でした。文が変っていうか
空気が・・・。
とにかく皆さんの心をつかめなくてすみません。
あぁ、よっすぃー・・・
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/04(木) 03:05
- 更新お疲れ様です。
めっちゃせつないですね・・・。
よっすぃ・・矢口さん・・。
- 348 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/04(木) 08:18
- 更新お疲れさまです。 よっすぃー(泣 やっぱり堪えますね。 事実は酷かったと言うことでしょうか・・・。 次回更新待ってます。
- 349 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/04(木) 09:47
- 大量交信(?)お疲れ様です!
いやぁー・゜・(ノД`)・゜・。切ないですね。とっても。
その後どうなっていくのかが…凄く気になります。
次回の交信が待ち遠しいです(´∀`)
待ってます!
- 350 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/04(木) 23:39
- 更新お疲れ様デス。。。
つらい・・・。
気付いてしまった吉澤さんのことを思うと苦しくなります。
- 351 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/05(金) 00:34
- 人の気持ちって難しいですね・・・せつないです。
- 352 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:30
-
保健室のベッドの中で、あたしはいつの間にか眠りについた。
夢を見ていた。
ただ青い空がどこまでも続いている風景だけの、不思議な夢だった。
まるで今のあたしの不安みたいにでっかくて、果てしない。
空を見たのは別に初めてなわけじゃないのに、何故だかいつも以上に綺麗で儚くて
それはひらひらと手をふる矢口さんに似ていた。
・・・
枕にしみ込んだ涙がヒヤッと冷たくて、あたしは目を覚ました。
夕日が差し込む放課後。
・・・あ、そっか。あたし保健室に居たんだっけ。
そんで寝ちゃって・・・。
ん?っていうか・・・
「やべっ!!」
慌てて携帯の時計を見ると、もう夕方の5時を回っていた。
どうしよう!矢口さんと帰るんだった・・・。
あぁ、もう帰っちゃってるかな?
- 353 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:30
-
シャッ
その時、ベッドのカーテンが開かれた。
そこには・・・
「え、矢口さん・・?」
起きた?とニコニコ笑う矢口さんがそこに立っていた。
「気持ちよさそうに寝てたからさ〜。」
そういう矢口さんに、あたしは急いでベッドから起き上がる。
「まじすいません!かなり待たせちゃいましたよね・・・?」
泣きそうなあたしを見て矢口さんは首を横にふってくれた。
泣きそうな、っていうか。さっきまで泣いてたんだけどね。
矢口さんのことで。
夕日のせいでキラキラ綺麗な色に光る矢口さんの爪のマニキュア。
逆光でまぶしくて見えないけど、やさしく微笑む矢口さんの表情。
あたしの不安なんて、すべて忘れさせてしまいそうだった。
- 354 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:30
-
急がなくていいよ〜、寝起きだし。なんて矢口さんは言ってくれたけど
あたしはリアルに教室まで階段を猛ダッシュして荷物を取ってきた。
「お、お待たせしました!」
少し息を整えてからあたしはそう言った。
玄関で背中を向けて座っていた矢口さんはパッと振り向く。
その笑顔がなんとも言えなくて、つい目をそらしてしまった。
「行こっか。」
そう言って矢口さんはあたしの右に並んで、
本当に、ごく自然にあたしの左手を握った。
焦って少し手が震えたけど、たぶん気づかれてないと思う。っというかそうであってほしい。
手のひらから伝わる矢口さんの体温。
まるで、バーチャルの世界にいるようだった。
★
だめだ、目をさませ吉澤ひとみ。
もう分かってるでしょ。
矢口さんがこうして一緒に帰ってくれるのも
手を繋いでくれるのも
あたしと付き合ってくれたのも
矢口さんの”優しさ”なんだから。
”愛”なんかじゃ、ないんだから。
- 355 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:30
-
「どう?文化祭は。よっすぃー主役だもんね?」
そう言った透き通るような矢口さんの言葉が耳に響く。
変だな、矢口さんと会話を交わすときが一番幸せなのに。
妙なこの緊張は何なんだろう。
緊張?緊張なのかな。
「うちのクラスさぁ〜もうバカみたいに盛り上がっちゃって超ウケんの〜」
返事のないあたしに話を続けてくれる矢口さん。
それであたしはなんだかおかしくって。
ねぇ、今まであたしどうやって矢口さんと接してたんだっけ?
緊張しても、それでもちゃんと話せてたよね?
- 356 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:31
-
「はは、なんか楽しそうっす。」
気の利かない返事。
ものすごい低いトーンだったし、少し矢口さんに感づかれたかもしれない。
あたしが矢口さんを無意識に避けてることを。
「でももうあと1ヶ月もないんだね〜、早いね〜。」
少し落ち着いた声で矢口さんはそう言った。
でも目が笑ってない。どうしよう。あたしのバカみたいな態度が伝わっちゃってる。
矢口さんのこと避けてるつもりなんてまったくないのに。
避ける理由なんてないのに。
「そーっすね。」
どうして避けちゃうの?
ねぇ、このままじゃ矢口さんは・・・
本当にあたしから離れていっちゃう。
- 357 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:31
-
「昼夜祭、一緒にまわるんだよね?」
「え?」
突然の質問に、あたしは思わず聞き返してしまった。
楽しみにしていた昼夜祭の話なのに。
矢口さんも少し驚いてあたしの方を見ていた。
「よっすぃーが誘ってくれたんじゃん?」
忘れちゃった?なんて冗談っぽく矢口さんは言う。
あたしすげーひどいことしてるのに。
「・・・そーでしたよね。すみません。」
・・・ほんと、何やってんの、あたし。
- 358 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:31
-
何も言わずにあたしは家と反対方向の駅まで歩いていた。
妙な沈黙。
矢口さんが制服の袖の糸くずを落とすしぐさとか、
髪をいじってたりとか、
そんなのばっかり気になってしょうがない。
繋いだ左手は、なんだか感覚すらなかった。
「なんか・・・」
- 359 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:31
-
ふとあたしは無意識に言葉を出していた.
「なんか・・・1個しか変わらないのにどうしてこんなに大人に見えるんスかね。」
自分でもビックリするくらい、ひどく低い声だった。
こんな疑問を矢口さんにぶつけたって、なんにも解決しないのに。
ただ、距離が広まるばかりなのに。
困ったようにあたしは少し笑った。
これは本当にあたしの本音なのかもしれない。
年齢とか、そんなの気にしないもんかと思ってた。
というか、矢口さんはあたしの年の差を感じさせないようにいつも気を使ってくれた。
なのにあたしは、やっぱり矢口さんを大人としてみてしまう。
先輩。やっぱりどう考えても憧れの先輩のイメージが抜けなかった。
泣きそうなあたしに矢口さんは少し黙ってから笑う。
「はは、なんだそりゃぁ〜」
流すようにいう矢口さんの顔を見ても、いつものようにつられて笑えなかった。
「なんか、正直・・・壁を感じるっス。」
- 360 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:31
-
無意識に出たあたしの言葉に、矢口さんはさすがに黙った。
「・・・。」
さっきまでの笑顔はどこかに消えて、下を向いてしまった。
最低だよ、あたし。
壁を感じるだなんて、恋人に言うせりふじゃない。
ほんと人間じゃねーよ。
「もしかして、ずっとそう思ってた?」
矢口さんは下を向いたままそう言った。
そのまま空気が沈黙につながって、あたしは何も言えなかった。
- 361 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:31
-
息を飲み込んで,あたしはスーッと深呼吸をした。
落ち着け、落ち着かなきゃ。
こんなギリギリのかけひき・・・
いつものようにヘラッと笑って矢口さんを好きでいればいい。
そうすれば幸せなんだから・・・
でも・・・
「本当は、市井さんと同じ大学に行きたいんですか?」
- 362 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:31
-
思っていたことを,ついにあたしは言ってしまった。
ばかみたい、子供のような嫉妬。
好きなものを失いたくないからって、見えもしない気持ちにやきもちやいてる。
「S大に行きたかったのは、別に紗耶香がいるからじゃないよ。」
冷静に矢口さんはそう答えた。
あたしを安心させるためにとか、変な気遣いじゃなくて。
たぶんそれは本当なのかもしれないけど
今のあたしには何のプラスにもならない返事だった。
一体,あたしはどんな答えを期待してたんだろう。
「あ、着いちゃったね。」
けろっと笑って矢口さんが指差した先には、もう駅があった。
あまりにもあっけない時間と空気。
「・・・気をつけて下さいね。」
また気の利かない返事を返して,あたしは矢口さんを見た。
「じゃぁ、また明日ね?」
「さようなら」
- 363 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:32
-
- 364 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:32
-
その夜は眠れなかった。
不安からなのか、空しさなのか、もーわかんないって。
どうして付き合ってても、不安だらけなの?
こんなに矢口さんのこと好きなのに。
あたしが欲しいのは言葉なんかじゃなくて、矢口さんの気持ちなのに。
どうすればいいの?
フェアじゃないよ、こんなの。
ヒントもなんにもないじゃん。
- 365 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:32
-
次の日学校について、なぜか朝っぱらから市井さんにどつかれた。
「おいっ」
ドスッとひじが背中に刺さって思わずフラつく。
なにすんだよ,ったく!
「・・・なんすか。」
超低いテンションのあたしに少し市井さんはビックリしていた。
「あーもう暗いなぁ!ま,いいや。」
率直に聞くけどさーと市井さんはあたしの肩に両手を置いて深刻な表情をしていた。
というか,深刻な表情をするフリをしていた。
「矢口と付き合ってんだって?」
- 366 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:32
-
市井さんの言葉に,ピタッとあたしは動きを止めた。
「・・・。」
なんで答えなかったのか分からなかった。
付き合ってる自身がないから?
恋人同士なんていいながら,本当は片思いだってバレたくないから?
「後藤から聞いた。なんで話してくんないんだよ〜」
みずくさいぞーとあたしの背中をバシバシたたく市井さん。
正直複雑だった。
市井さん,矢口さんはずっとあなたのこと忘れられないでいるんですよ?
人の気も知らないで,のんきなこと言うなっ。
- 367 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:32
-
そのままあたしは市井さんの前をスルーして去っていった。
おーい,なんだよー冷たいなー
泣くぞーこらーよしざわー
なんて市井さんが後ろで叫んでたけど,聞こえないフリをした。
うるさいし,チャラっぽいし・・・
なんで矢口さんは市井さんなんかが好きなんだろう。
正直そう思った。
- 368 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:32
-
もうどのクラスもすっかり文化祭の準備にとりかかってて,
教室に行くとみんな内装やら小道具やらの作業に一生懸命だった。
はぁ,なんかやる気しないよ・・・。
「あーごめん,よっすぃ!これ持っていってくれない?」
突然,そでをまくってやる気マンマンのミキティがあたしにでっかいゴミ袋を二つ手渡した。
え,なにさなにさ。
無意識にあたしはそれを受け取った。
「一階のゴミ置き場までよろしく〜♪」
ニヤニヤしながらそう言うミキティ。
なんだよ,今度は何を企んでるわけ?
不思議がるあたしにミキティは,あれだよ,あれ,と窓の外を指差した。
あたしは教室の窓から顔を出して下を見た。
ん?
ゴミ置き場があって・・・
あ。
- 369 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:32
-
一階のゴミ置き場の横では,矢口さんのクラスの人たちが文化祭の準備をしていた。
そーだ,矢口さんのクラスは一階の会議室使うんだっけ。
「いってらっしゃーい」
ニヤニヤしながらミキティはあたしに手を振った。
矢口さんがいるから,ってことね。
悪いが今はそーゆー気分じゃないっつーの。
人の気も知らないでさっ。
- 370 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:33
-
それでも渋々あたしは一階のゴミ置き場に行った。
幸い大きい紙くずとかだから重くはないんだけど,気分は最強にヘビーだった。
はぁ,矢口さんに会うの気まずいなぁ。
少し離れた場所で矢口さんたちのクラスはなんか準備をしていた。
「あー!よっすぃーだー!」
あたしが一階についた途端,矢口さんのクラスの先輩たちが騒ぎ出した。
どーも,と軽く会釈をする。
いや,誰だか知らないんだけどね。
「そっかぁ。矢口と付き合ってるんだよね?」
「いいなぁ、よっすぃーと付き合えるなんてさ!ねー。」
勝手にペラペラ喋りまくる先輩たちに適当に返事を返しておいた。
はぁ,だから今はそんなテンションじゃないんですってば・・・。
- 371 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:33
-
チラッと周りを見回したけど,クラスの集団の中に矢口さんはいなかった。
あれ?なんでいないんだろう。
「矢口に会いに来たの?」
突然,うしろで聞き覚えのない声がした。
「あ・・・。」
振り向くと,そこにいたのは飯田圭織サンだった。
うわ,なんでいるんだ。
いや,同じ学校なんだから別にいておかしくないんだけどさ。
「や,別に・・・」
あたしは適当にかわして振り返った。
その時・・・
- 372 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:33
-
クラスの集団より少し離れた場所で、市井さんと矢口さんが2人で仲良く話をしていた
なに,なんで2人でいるの?
「仲いいね,あの2人も。」
飯田さんは遠目で市井さんと矢口さんを見てからそうつぶやいた。
なんだよ,嫌味かよ。
「・・・矢口も、早く忘れなきゃいけないのにね。」
追い討ちをかけるように飯田さんはそういう。
なにそれ,市井さんのことだよね。
忘れてないっていいたいの?
悔しかったけど,何も言い返せなかった。
ほんの数十メートルしか離れてないのに
矢口さんはあたしに気づきもしない。
それで市井さんと楽しそうに話しながら笑うんだ。
あたしの前なんかじゃ,決して見せないような笑顔で。
「悔しくないわけ?」
飯田さんはそれだけ言ってその場を去っていった。
- 373 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:33
-
あたしはゴミ置き場の前でひとりたたずんで,ただ目線の先にいる2人を見つめていた。
もう頭の中は色んなことでぐちゃぐちゃ。
・・・ううん,違う。色んなことは全部,矢口さんのこと。それだけ。
それ以外のものは何もない。
・・・
ねぇ,なんで?
たとえ市井さんが付き合ってるのはごっちんだって言っても、
矢口さんの心の中には市井さんがずっと居て、居なくならなくて・・・。
なんでこんなにむくわれないのに
なんで
矢口さんじゃなきゃ
だめなんだ・・・
- 374 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:33
-
ドサッ
「・・・あっ」
頭が真っ白になって、思わずあたしは持っていたゴミ袋を落としてしまった。
やばい、ボーッとしてた。
何やってんだろ、あたしってば。
袋の結び目がほどけて,ゴミはあたしの前に散らばった。
まじついてねー・・・
意味もなく目の前に散らばるゴミを見つめたまま、あたしは動けなかった。
だんだんその視界がぼやける。
じわじわと目頭が熱くなった。
矢口さんを想えば想うほど・・・・・・・・・・・
どうして・・・
「よっすぃー!」
- 375 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:33
-
その時、向こうから矢口さんが走ってくるのが見えた。
正直びっくりした。今矢口さんのこと考えてたんだもん。
「矢口、さん・・・」
あたしの目の前まで来た矢口さんは、散らばったゴミと座り込んだあたしを交互に見ていた。
そして心配そうな目であたしをじっと見つめてくる。
でも、この時だけは、本当に大好きな矢口さんでも、見つめないで欲しかった。
だって、こんなにツラいんだもん・・・
「よっすぃ・・?どうしたの・・・?」
そっとあたしの頬に流れる涙を小さい手で拭ってくれた。
その時初めて、自分の頬を伝う冷たいもの正体が分かった。
矢口さんの前で泣くなんて、情けない。ってかあたし何やってんの、ホント。
それとも
矢口さんの前だから涙が出るの?
- 376 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:34
-
突然、矢口さんは理由も聞かずにあたしをギュッと抱きしめた。
一瞬,びくっと体が震えた。
「いいよ?泣いても。」
それでも矢口さんは小さい体で、大きいあたしをめーいっぱい抱きしめてくれた。
暖かい腕と、触れ合う全てがたまらなく心臓を締め付けた。
ホントなら嬉しくてたまらないのに、なのに・・・
矢口さんの好きな人は、あたしじゃない。
あたしじゃないんだ・・・
- 377 名前: 投稿日:2005/08/15(月) 00:34
-
・・・矢口さん。
あたしのこと、好きになってよ・・・
- 378 名前:ゆら 投稿日:2005/08/15(月) 00:37
- 更新終了。
>>357 「★」はミスです。シカトしちゃってください。
>347〜351さん
いつもレスありがとうございます!がんばりますね^^
- 379 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/15(月) 02:23
- 更新お疲れ様デス。。。
辛い・・・の一言です。
これからどうなるのでしょうか?
- 380 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/15(月) 08:41
- 更新お疲れさまです。 アー複雑です(涙 よっすぃーはどうするんでしょうか?? 次回更新待ってます。
- 381 名前:名無飼育さん(349) 投稿日:2005/08/15(月) 20:04
- 切ないっす…
とってもうるうるでした・゜・(ノД`)・゜・。
それぞれの『これから』が凄く気になります
次回も待ってます!
- 382 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:39
- 矢口さんを送ったあと,あたしはそのまま家までの道を歩いていた。
さっきの言葉,さっきのしぐさ。全部を思い出して後悔ばっかり。
”本当は、市井さんと同じ大学に行きたいんですか? ”
あんなバカげたこと,聞くんじゃなかった。
あたしが望んでるのは矢口さんと問題なく付き合っていくことのはずだったのに
これじゃぁ自分で溝作ってるじゃん。
このまま,矢口さんがどんどん離れていっちゃうのかな。
ただでさえこうやってこじれてるのに・・・・・・
「あれー,吉澤?」
- 383 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:39
-
家の近くまで来ると,こっちに向かって歩く人影があたしを呼んだ。
え,誰?
「ばーか,市井だよ。」
はは,と歯を出して笑う姿を見てやっと分かる。
ってなんでうちの地元に・・・
「何してんスか。」
今日学校であんなに冷たい態度とったあたしに対して,普段と変わらない市井さん。
そういうとこ,やっぱり分からないや。
「後藤んちで遊んでたんだよ。そんで今帰り道ってわけ。」
吉澤は?と少しニヤけながら聞いてきた。
市井さん,あなたはいいですよね,好きな人と好きなように過ごしてさ・・・。
あたしは期待するよーなことなにもないのにさ。
「なんでもいーじゃないっすか。じゃ,サヨナラ。」
あたしはそれだけ言って素通りしようとした。
だって,触れられたくなかったから。
特に市井さんには。
キライだからじゃない。
この人は全部お見通しだから怖いんだ。
今のあたしの気持ちも全部・・・・・
- 384 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:39
-
ぐいっと腕を引っ張られて,あたしは立ち止まる。
「おい。」
振り向いたあたしが見たのは,市井さんの心配そうな顔だった。
いつもみたいに”なんだよーつめたいなー”っていう軽い笑顔じゃなくて。
「どうしたんだよ。」
何かを悟ったようにあたしにそうささやいた。
もうあたしは市井さんの顔さえも見れなかった。
やばい,泣きそう。
矢口さんとなんかあったって,市井さんはもう分かってる。
いつもみたいに軽く流してくれたらいいのに。
「なんでそんな目で,見るんスか・・」
あたしは市井さんの前で小さく泣き出した。
情けねー・・・,なにやってんだろ,あたし。
- 385 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:40
-
市井さんはからかうことなくあたしを見ていた。
分かってたんだ。
市井さんは,いつでもあたしの味方だってこと。
けど
どんなに頼りたくたって,市井さんは・・・矢口さんの好きな人なんだよ・・・?
「市井さん。」
あたしは小さく名前を呼んだ。それでも,ハッキリと。
「うん?」
心配そうに返事をする市井さん。
こういうときだけすごく大人に見える。
やっぱり,矢口さんと同じように。
「矢口さんは、市井さんのこと・・・好きだったらしいです。」
だんだん小さくなる声を必死にしぼりだしてあたしはそう言った。
市井さんは何も答えない。
・・・なんだよ,それ。びっくりしてるわけ?
そりゃそうでしょ。矢口さんがまさか自分のこと好きだったなんてさ。
「・・・いや,いきなり何言ってんだよ。」
困ったように市井さんはそう言った。
「以前,一方的に教えてくれたんです。」
さえぎるようにあたしは即効返事をした。
別に,市井さんを困らせることが目的なんかじゃないのに。
- 386 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:40
-
少し考えるように黙って,市井さんは下を向いていた。
何を考えてるのかは分からないし,どうでもいい。
もうあたしがどうあがいたって全部お見通しなんだし。
「・・・・でも,そりゃ過去の話だろ?」
あたしは下を向いた。こないだの矢口さんみたいに。
「今もです。」
あたしがそう言ったあとの市井さんの表情は見えなかったけど、とりあえず沈黙が続いた。
慰めの言葉でも、探してくれてるんですか?
それとも、ただ矢口さんの気持ちに驚いてるんですか?
しばらくして、市井さんは口を開いた。
でも・・・その言葉は、あまりにも聞きたくなかった言葉だった。
「まぁ・・・ホントは知ってんだ。矢口の気持ち。」
- 387 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:40
-
「まぁ・・・ホントは知ってんだ。矢口の気持ち。」
ずっと、前から,と市井さんはそう言った。
言葉ひとつひとつが、ずしん、ずしん、とあたしにダメージを与えらていった。
あたしの表情が怒りへとジワジワ変わっていくのは、自分でもよくわかるくらいだった。
「どういう・・・ことですか?」
青ざめそうな顔を必死に隠しながらあたしはそう言った。
「いや・・・・なんとなく、勘付いてた。・・・矢口が、圭織と別れてしばらくしたころから。」
「じゃぁどうして・・・!」
思わず言葉の途中であたしは大声を張り上げた。
・・・だって,あたしを騙してたってこと?
協力しようって言ったのに・・・。
自分だけごっちんとうまくいけばよかったっていうわけ?
- 388 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:41
-
怒ってそれでも泣きそうなあたしの顔を見て,市井さんは冷静に息を吐いた。
それでも,市井さんから出た言葉はあまりにも大人で
あたしは何も答えられなかった。
「吉澤なら、矢口を振り向かせられると思ったから。」
市井さんの低い声は、なぜか心地いい響きだった。
「・・・え?」
その瞬間,この人は自分だけうまくいけばいいなんて思ってない。そう感じた。
矢口さんの気持ちを知ってたけど、矢口さんのこともちゃんと考えてたってこと?
だからあたしに・・・?
「矢口には・・・吉澤がいてよかったんだよ。」
―――吉澤がいて・・・よかったんだよ。
- 389 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:41
-
- 390 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:41
-
「あたしだって,今吉澤と同じだよ。」
市井さんは語るように話を続けた。
「え?」
街灯が市井さんをちょうどよく照らして,まるで何かの物語を語る詩人のようにも見えた。
「後藤,まだ吉澤のこと好きだよ。」
少しきついような言葉は,市井さんのまっすぐな気持ちがまじっていた。
ごっちんがあたしのこと・・・。
そりゃ,あきらめるとかそんな簡単じゃないかもしれないけど・・・
でもそれじゃぁなんで市井さんはそれを知ってて,ごっちんと付き合ったの?
「でも,あたしのこと好きになろーって頑張ってくれてるの分かるんだよ。だからあたしもそれに応えたい。」
透き通るような目で前を見ながら市井さんはそう言った。
正直,ちょっと見惚れるほどきれいな横顔だった。
「そんな単純なことじゃだめなの?」
・・・
最後の市井さんの言葉は,質問なのか捨て台詞なのかは分からない。
けどそのときのあたしは子供すぎて
何も分からないまま,分からないままでいたんだ。
- 391 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:42
-
「矢口だって吉澤のこともっと知って,好きになろうって思ってんじゃないの?」
なだめるように今度は少し落ち着いた声で話す市井さん。
矢口さんが好きになろうだなんて・・・
「そんなわけ・・・ないじゃないっすか。」
好きっていうのは,無理やりなるもんじゃない。
普通そうでしょ。
「お前がそんなんでどーすんだよ。矢口の気持ちも分かってやれって。」
少し怒るようにそう言い放った市井さんの言葉は,正直気休めにしか聞こえなかった。
だって,もう分かってたんだから。
どんな言葉を並べられたって,さすがに,あたしも限界だって。
- 392 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:42
-
あたしは,大人にはなれないんだから。
いくら背伸びをしても,いくら小さな矢口さんが隣にいても
やっぱりあたしは子供なんだ。
逃げ出したいという衝動から、
逃げ出すまでの口実をいつも探してる。
・・・
いつでも
あたしの中の矢口さんは2人いて,
夢に出てくる矢口さんはいつも笑っていた。
でも,本物の矢口さんは違った。
あたしの中の矢口さんは,やっぱり夢なんだ。
夢・・・
あたしは,今まで夢を見てたのかな。
- 393 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:42
-
- 394 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:42
-
次の日は少し遅刻して学校に着いた。
教室に着くなり待ち合わせしてたごっちんに平謝り。
まぁあたしがそうとうヘコんでテンション低かったからすぐ許してくれたけど。
「3週間かぁ・・・」
文化祭のカウントダウンが書かれたカレンダーを見ながらあたしはボーッとしていた。
もう授業はないからみんな文化祭モードで頑張ってるけど
あたしは正直そんなの今はどうでもいい。
こんなときでも,頭の中は矢口さんのことでいっぱいなんだよなぁ。
・・・どんだけだよ,ホント。
- 395 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:42
-
「ちょっと,聞いてる?」
ふと耳元で聞こえた声にあたしはハッと我に帰る。
「あー,ごめん。」
声の主は少しスネた顔のミキティだった。
そんな怒らないでくださいよ。
「昨日,何かあったの?」
矢口さんと。とミキティはつぶやくようにあたしに尋ねた。
なんだよ,昨日このことは市井さんに話したばっかりなんですけど・・・。
「説明すると長いから・・・ほっといてください。」
あきらかにネクラなあたしにミキティは思わず顔をしかめていた。
友達に対してあんまりにも冷たいかな・・・。
だよね,ちょっと。
「ミキティ」
ん?と顔を上げる彼女の目を見ないまま,あたしは言い放った。
「・・・正直,もう疲れた・・。」
- 396 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:42
-
その言葉をはいたあと,あたしは全てがどうでもよくなった。
そうだ,あたしもう疲れちゃったんだ。
夢の見すぎで。
好きな人がそばにいて,隣で笑っていてくれても
心は他にあって,それはあたしには届かない場所なんだ。
なのに必死に手を伸ばして,もがいて,苦しんで。
自分が壊れないように支えるのに精一杯なのに
こんなんじゃ矢口さんに何もしてあげられない。
欲しいのは漠然としたものなんかじゃなくて,
ただ好きな人に好きと言ってほしいだけなのに。
矢口さんに,好きと言ってほしいだけなのに。
それさえも出来ない恋人ごっこなんてもう・・・・
- 397 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:42
-
- 398 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:42
-
放課後になって,あたしは玄関に座り込んでボーッとしていた。
じゃなくて
ボーッとしながら矢口さんを待っていた。
約束があるわけじゃないけど,なんていうか・・・無意識に。
もう誰もいない玄関。
さっきまですれ違う人がみんなあたしに手を振ったりちょっかい出してきたりしてきたけど。
なぜか市井さんは「じゃーなー」とか普通に言いながらごっちんと帰っていった。
矢口さんの行方くらい教えてくれたっていいのにさ・・・。
- 399 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:43
-
6時過ぎになって,そろそろ本当に辺りが暗くなってきた。
いまさらだけど,矢口さん帰っちゃったりしてないよね?
・・・ま,連絡してないんだからしょうがないんだけど。
「よっすぃ?」
そのとき,聞き覚えのある声にふりむくとそこには矢口さんが立っていた。
夕日の逆行でうまく見えない。
っていうか,夕日ってこんなにまぶしかったっけ。
それでもかすかな矢口さんの影を見るだけで顔が緩んでしまう。
なんて幸せなんだろうって。
ばかみたいだ。
「進路相談っスか?」
玄関に2人きりっていう状況であたしは率直にそう聞いた。
矢口さんはあたしの隣まで来て専門学校の資料やらをあたしに見せた。
「そうそう。そんな感じ〜。え、ってか待っててくれたの?」
言ってくれればすぐ来たのに、と矢口さんは言う。
こういう時だけは恋人っぽいとか思いながら,あたしは何も言わずに立ち上がった。
「ちょっと付き合ってもらいたいところがあるんです。」
- 400 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:43
-
矢口さんは何も聞かずに”じゃー行こうかな”って笑顔であたしの手をつないだ。
はたからみたら本当に仲良く見えるんだろうな。
あたしは一体,何が不安なんだろう。
それさえも分からない。
ただつないだ手の暖かさがいつのまにか素直に喜べなくなってる。
だんだん,じわじわと。
あたしたちは正門を出ると,駅と反対側の方面に歩き出した。
「なんか今日のよっすぃーは静かだなぁ。」
ふふ,と笑いながら矢口さんはそう言った。
「え,そうっすか?」
とは言いながらも,あたしは静かなまま歩き続けた。
だって,話すことが見つからない。
そのあとは矢口さんも何も喋らなかった。
ただ矢口さんの小さな鼻歌がかすかに聞こえるだけで。
- 401 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:43
-
しばらく歩くと,地元の土手に着いた。
ここはあたしが昔からひとりでよく来る最高の癒しスポットなんだよね。
前から思ってたんだ。
いつか,好きな人とここに来たいなーなんて。
「矢口さん、最近なんか進路とか大変そうだし、息抜きしてもらいたくて。」
何分かぶりに発した自分の声は,意外に普通だった。
矢口さんは嬉しそうに土手に駆け上る。
「まじ?え、すごい嬉しい!」
あたしも続いて土手を駆け上って,消えかけた夕日を見つめた。
「でも、この先ノープランですけど。」
あたしがそう言うと,オイッ、と矢口さんは笑ってツッこんでくれた。
こういう矢口さんとか,あー好きだなーって思うんだよね。
- 402 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:43
-
誰もいなかったから,あたしと矢口さんは草の上に寝転がった。
鼻をくすぐる草のにおい。
隣にいる矢口さんの優しくて甘いにおい。
本当に夢見たい。
このまま,時間が止まればいいのに。
不安も全部ふっとんじゃえばいいのに。
「・・・・・。」
意味もなくあたしは言葉を探していた。
さっき散々だまりこくっといて,やっぱり大好きな大好きな矢口さんに何か話しかけようと苦戦していた。
・・・ってあれ?
隣を見ると,やけに静かな矢口さん。
「・・・寝てます?」
小さな声で話しかけても,反応はなかった。
疲れていたのかな。眠ってるな,こりゃ。
スースーと小さな寝息をたてて眠る矢口さんの寝顔。
やばい,本当にキレイ。可愛い。
これがあたしの恋人だなんて,うそみたい。
本当に本当に静かな空間に,草のサラサラという音。
そしてかすかに聞こえる矢口さんの寝息。
あぁ,本当にあたしはこの人が好きなんだなぁ・・・。
- 403 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:43
-
あたしは無意識に自分の体を起こして,矢口さんを見つめていた。
トレンドマークの金髪
長いまつげ
きれいに通った鼻筋
少し汗ばんだおでこ
全部が大好きで,でも知らない矢口さんばっかり。
ドキドキとかそんな可愛いもんじゃなくて
やばい,っていうか
なんだろ,ほんと,矢口さんって・・・・
理由もなく,勝手にあたしの心を魅了する。
- 404 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:44
-
「・・・・ずるいっス。」
隣で気持ちよさそうに眠る矢口さん。
起こさないように,あたしはやさしく,本当にやさしく――― キスをした。
- 405 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:44
-
触れた唇から,あたしの体には一瞬で何か熱いものが走った。
人間ってありえないことがおきるとこうなるんだろうなってあたしは思った。
そしてあたしが唇を離した瞬間,ふいにそれで矢口さんは目を覚ました。
気づいたのかな・・・・
むくっと起き上がってあたしの方をみる。
眠たそうなうつろな目が、色っぽくて仕方なかった。
「矢口さん。」
何かを言われる前に、あたしは先に名前を呼んだ。
「あたし、矢口さんのこと大好きです。」
- 406 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:44
-
「あたし、矢口さんのこと大好きです。」
突然の言葉に、少し不思議そうに矢口さんはあたしを見た。
「いっつも矢口さんのことばっかり考えて、ホントばかみたいに大好きなんです。」
あたしはそのまま矢口さんの目をずっと離さずに喋り続けた。
本当に無意識に,言葉が次から次へと。
「矢口さんのすべてが、大好きなんです。」
あたしがそう言うと、さすがに照れくさそうに矢口さんは頷いた。
どーしたんだよーイキナリ・・・と顔を赤くしてうつむいた矢口さんに,あたしは少し間を置いて息を大き吐いた。
「ねぇ、矢口さん。」
あたしはもう一度名前を呼ぶ。
- 407 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:45
-
顔を上げる矢口さんは、どんな表情だったんだろう。
もう覚えていない。
「それでも・・・」
「それでも、市井さんのこと好きですか?」
- 408 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:45
-
- 409 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:45
-
・・・
「なーに?突然どうしたのー?」
呆れ笑いのように矢口さんはそう言った。
それでもあたしはその表情が少し焦っているようにも見えた。
こんな矢口さん,初めて。
「紗耶香が好きなのは、ごっつぁんだよ?」
改めるようにして少し真剣な顔で矢口さんはそう言った。
声は,かすれて少し悲しそうに聞こえた。
あたしを慰めるようにも聞こえた。
もう,後戻りは出来ない。
いつまでも,こんなのは続かないんだから。
壊れてしまう前に,自分から言わなきゃ。
「市井さんがどうでも、矢口さんは市井さんが好きなんでしょ。」
・・・
何も答えない矢口さん。
否定できないってことは分かってたけど,どうにもならない気持ちが胸をしめつけた。
今さらなのに,それなのに,”そんなことないよ”って嘘をついてでもでも否定してほしい自分と戦っていた。
「矢口さん・・・」
- 410 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:45
-
「大好きでした。」
- 411 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:46
-
- 412 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:46
-
- 413 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:46
-
- 414 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:47
-
・・・・・
・・・
あたしはそのあと、走ってその場を去った。
ううん、逃げたんだ。
すべてのことに、あたしは負けを認めて白旗をあげた。
唇に残る矢口さんの全て。
最初で最後のキス。
どんなに
どんなに
どんなに想っても叶わないんだ。
あたしは涙がただただ溢れるのを止めることが出来なかった。
ひとりで、たったひとりで
夜が更けるまで、目が腫れるまで
・・・ 泣き続けた。
- 415 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:47
- 矢口さん
矢口さん・・・
矢口さん・・・・・・やぐちさん・・・
・・・
大好きでした。
- 416 名前: 投稿日:2005/08/20(土) 00:47
-
大丈夫。
文化祭が終われば,三年生はもう学校に来ない。
だから大丈夫
もうすぐ、忘れられる。
これでいいんだ。
これで,良かったんだ。
- 417 名前:ゆら 投稿日:2005/08/20(土) 00:48
- 更新終了です。
なんか,書いてて悲しくなってきた。
- 418 名前:ぱっち 投稿日:2005/08/20(土) 07:45
- 更新乙です
あぁー…切な過ぎっす…
よっちゃん頑張れ、頑張ってくれぇー
- 419 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 20:05
- おーーーい!!!大丈夫か…(・Д・;)
よっちゃんファイト〜・゜・(ノД`)・゜・。
- 420 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 20:57
- あぁ・・・矢口さんーどうして・・どうしてぇ(泣
- 421 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/20(土) 22:31
- ・・・( ̄^ ̄゜) Σハッ、こ、更新お疲れさまです。 切ない・・・切ないですねぇ・・・ 次回更新待ってます。
- 422 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/21(日) 04:23
- 更新お疲れ様デス。。。
どうして・・・。どうしてこんなことに〜(泣
苦しい。
- 423 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:21
- 次の日は思いっきり目が腫れていた。
「あーあ・・・」
しょうがなく学校をサボることにしたあたしは、
枯れるまで泣いた体に麦茶を一気飲みした。
そして昨日の出来事を思い出していた。
- 424 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:22
-
『大好きでした・・・・。』
そう言った途端,あたしはひざをかかえて泣いた。
矢口さんも,黙ったままうつむいた。
自分を責めてたのかな。
ケジメつけなきゃ。これで終わらなきゃ。
『さよなら・・・』
『待って!』
突然,あたしの言葉をさえぎって矢口さんは声を張り上げた。
なぜかそのときの矢口さんは泣きそうで,あたしは一体何がなんだか分からなかった。
『ごめん,矢口わかんないよ。』
首を横に振って彼女はそう言った。
あたしはまるで自分が悪者なったような気分だった。
たしかにさよならをしたのはあたしだよ?でもこれでいいはず・・・。
だから,引き止める必要なんかないでしょ?
あたしは下を向く矢口さんを見て,本当に何も言えなかった。
どうせなら,本当にこのままあっさり「分かった,バイバイ」とでも言ってほしい。
いや,それでも心のどこかで止めてほしかった?
・・・あたしだって,よく分からないよ。
- 425 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:22
-
『ごめんなさい。』
意味も分からずあたしはそれだけ言って走って土手を駆け下りた。
『・・・っ。』
走りながら,思わず涙が出そうになった。
・・・つらすぎでしょ。
初恋ってこんなにも切ないものなの?
それでも、涙はいつも”ここ”って時に、ギリギリで出なくってまた胸を締め付ける。
ムカつく野郎だよ、ほんとに。
- 426 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:22
-
あたしは、思った以上に矢口さんの事を好きだった。
だってただ一人の人のことを想うだけで、涙が出るなんて・・・。
「なさけね・・・・。」
心残りなのは、もっと手を繋ぎたかった。
雲は晴れないあたしの真上。風は止まないあたしの胸。
淋しさから逃げたくって、離れることを考えてしまう自分がいた。
認めたくなかったけど、秋の光の下で見つけてしまった。
少し知ってた。でも黙ってた。小さな終わりを。
・・・そう、あたしは前にこう言った。
自分が傷つくのが怖い、と。
そんなこと言いながら、矢口さんを好きになってしまった。
きっとこれは、失敗だったんだ。
もう二度と傷つきたくない。
次同じようなことになったら、多分あたし死んじゃうな。
矢口さんにフラれて、まだ生きてるだけで奇跡でしょ。
- 427 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:22
-
- 428 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:22
-
学校サボるって楽だわ。とか思いながら、あたしはその日はテレビを見たりボーッとしたりしていた。
昼間矢口さんから一度電話が来たけど,出なかった。
メール来るかな?と思ったけどあたしがわざと電話に出ないのを知ってて送ってこなかった。
何期待してんだろ,あたし。
そういうところが,やっぱあたしとは違う。大人なんだもん。
なんか、今のあたし・・・抜け殻みたい。
別に何も食べなくても寝なくてもどーってことなさそう。
っていうか,矢口さんがいない生活なんて・・・ありえない。
あたし,今までどうやって生きてきたんだっけ。
矢口さんに出会ってなかったら・・・・どうなってたんだろう。
- 429 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:22
-
自分の考えはもっぱら浅はかだった。
それを知ったのは次の日の学校でのこと。
- 430 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:22
-
なるべく何も思わないようにしてた。
っていうか出来るだけ引きこもってようとしてたんだ。
だけど廊下で矢口さんに会った時、胸が縄で締め付けられるように痛かった。
「あ・・・・」
あたしは矢口さんを見た瞬間言葉を失ってしまう。
それでも大人な矢口さんは、あたしを見るとニコッと笑ってくれた。
気まずくならないようにしてくれてるんだろうけど、あたしには辛すぎた。
笑わないで下さい、知りたくなるから。
笑わないで下さい、切なくなるから・・・・・
失くしそうな理性の前で、あたし苦しすぎるよ。マジで。
矢口さんなんか、好きにならなければよかったんだ。
ただ憧れの先輩で留めておけばよかった。
彼女を好きで好きで仕方なくて、苦しい思いをたくさんした。
苦しかった。本当に。
楽しい時間は、矢口さんのことを本当に好きになる前・・・そうだ、昔だけだった。
でもそんな、”昔は良かった”なんて・・・思えば思うほど泣き笑いになる。
- 431 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:23
-
そっと過ぎ去っていく季節の中,あたしは残されて行く。
素直に弱さを見せることさえ出来ずに,なのに強がるほどの材料もなかった。
ほんとに不器用だった。
もう一度最初の2人に戻れるなら,迷わずに矢口さんのこと抱きしめて,離さないのに。
きっと,静かな夜は膝を抱えて矢口さんと居た日を思い返すんだ。
きっと,幼すぎて見えずにいた”愛”の意味を考え続けて,今さら求め続けるんだ。
きっと,矢口さんとの思い出に寄り添いながら,ずっと生きていくんだ。
情けないとは,本当にこういうことなんだ。
幾重に重なった思いは,こんなにも簡単にくずれさった。
そう,音もなく。
あたしの深い深い傷は、どーにもこーにも消えなくて
矢口さんとの楽しかった思い出や、手のひらや、唇を思い出すたびに
あたしの心の傷はピリピリとしみてしょうがない。
そして思い出の中の矢口さんは、ただその深い傷に触れて消えていくのだろうか。
静かに,ただ流れるように。
- 432 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:23
-
文化祭まで一週間を切っていた。
主役のあたしが毎日窓の外を見ながら抜け殻みたいにボーッとしてるから、
クラスのみんなも相当心配し始めていた。
「ありゃ重症だなー・・・」
ミキティは聞こえるようにそう言っていたけど、聞こえなかったことにしといてやるよ。
そんな言葉聞いたって,今のあたしは怒りも泣きもしないからさ。
「よっすぃー,痩せたよね?」
ふと隣に座ったごっちんはそう言った。
え,そう?とあたしは自分の手を頬に当てる。
「気づかなかった。」
確かに食欲も何も沸かない。
当たり前さ。おなかもすくはずも無い。
今のあたしは、からっぽなんだから。
- 433 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:23
-
「率直に聞いていい?」
ごっちんがそう言うと,近くでダンボールを男前に運んでいたミキティも興味をしめしたのか、
なに?なに?と早歩きでこっちに寄ってきた。
「どんとこい。」
あたしは適当に返事をした。
でも内心ビクビクしてたんだけど。
・・・
「矢口さんに、フラれたの?」
- 434 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:23
-
ズキン
素直にあたしの胸はものすげぇ痛かった。
よく話には聞くけど,本当に痛いもんなんだよ。
ごっちん、率直すぎます。
「そう・・・だね。フラれたね。」
あたしは嘘をついた。
フッたのはあたしだ。でもそれは単なる強がりだし,ガキっぽいもん。
大体、付き合う前からフラれるハズの運命だったんだ。
ひょんなことから付き合うことになったけど。
あたしに残ったのは・・・心の傷ってやつだけだ。
「ふーん・・・」
「そっかぁ・・・」
2人は曖昧な相槌をうって黙ってしまった。
おいおい、一番嫌なリアクションするなよ。
聞いたのはごっちんでしょ?
- 435 名前: 投稿日:2005/08/28(日) 02:23
-
「うんうん,よくがんばったね。」
突然,ごっちんはそう言ってあたしの頭をなでた。
へ?と一瞬あたしは口をあけた。
「だよね,よっちゃんにしてはかなり頑張ったよ。ミキが誉めてんだから喜んどけよ!」
ミキティも笑いながら冗談っぽくそう言った。
・・・ごっちん、ミキティ・・・。
「ありがとう。」
なんだか,泣きそうになった。
恥ずかしいからこらえたけど。
一体,この涙はなんなんだろうな。
- 436 名前:ゆら 投稿日:2005/08/28(日) 02:24
- レスありがとうございます。
やっぱり励ましになりますわ。
がんばりまっする
- 437 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/28(日) 20:47
- ・゜・(ノД`)・゜・。ウワーン!!せつねぇよぉ。
次回も待ってます。良い方向にいくことを期待してます!!
頑張って下さい!!
- 438 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/29(月) 00:16
- 更新お疲れ様デス。。。
よっすぃ〜!!辛いねぇ、切ないねぇ(泣
- 439 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/29(月) 20:54
- 市井さーん!!はやくどうにかしてよぉ(泣 あなたなら・・・!!
- 440 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/12(月) 18:23
- やべぇーーーーー気になって毎日ソワソワしてます(謎)
交信待ってます!!頑張って下さい!!
- 441 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/30(金) 22:52
- 待ってます。
いくつも抱えてて交信大変だとは思うけど、頑張れ
- 442 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/05(水) 18:49
- 作者さん書いてるのこれだけじゃないの?
- 443 名前:ゆら 投稿日:2005/10/05(水) 18:59
- 携帯からですが生存報告ageです。PC故障のため更新ができません…。みなさんの応援を支えに近々漫喫などで更新します。
- 444 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/10/06(木) 15:54
- 更新お疲れさまです。
よっすぃー切ないですね(T_T)
一体どうなっていくんでしょう??
次回更新待ってます。
- 445 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/07(金) 17:47
- >>441
きっと1つだよ?w…他の板と間違えちゃったのかなぁ。
作者さん、のんびり待ってます☆早く直るといいですねw
- 446 名前:ゆら 投稿日:2005/10/23(日) 23:10
- お久しぶりです。やっとパソコン復活いたしました。
まだ見てくださっている人はいるでしょうか。
これから早いペースで更新がんばりたいと思います。
皆さんの応援お待ちしています。
- 447 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 02:28
- おかえりなさい!
- 448 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 05:29
- 本当に本当に本当に楽しみにしてるよ!!
- 449 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 09:53
- パソ復帰おめ!!
待ってます!!
- 450 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 13:19
- めっちゃ楽しみにしてます!!!
- 451 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 13:58
- めっちゃ楽しみに待ってます!!
- 452 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/27(木) 19:29
- 楽しみに待っているので自分のペースで
頑張ってください!!
- 453 名前: 投稿日:2005/11/01(火) 12:56
- なにげなく時間は過ぎていった。
それは早いような遅いような微妙なスピードで。
気がつけば晴れ渡る空―――
あたしは何故か見知らぬ子に頭を下げていた。
「ごめん、今誰とも付き合う気ないから。」
矢口さんと別れたあと、うわさは流れ、あたしは再び後輩やら同級生に告白されることが多くなった。
・・・でもそれだけじゃないんです。
- 454 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 12:56
-
「前夜祭のフォークダンス、一緒におどってください。」
この質問、今週何回目だろう。
「ごめんね。」
もちろんあたしは丁重にお断り。
フォークダンス誘う=告白なのに、んな堂々とみんなよく誘えるよ。
あたしは矢口さんと前夜祭一緒に回るのさえも、あんなに決心して緊張しまくって誘ったのに。
・・・そっか。矢口さんと約束したんだっけ。
でももう忘れてるよね。
や、ってか気まずすぎて無理って話か。
- 455 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 12:57
-
前夜祭、明日かぁ。
「よしこ〜、明日午後から登校だからそれまで遊ばない?」
そう言いながらてくてくとごっちんが歩いてきた。
明日は準備してすぐに前夜祭なんだよね。
ってことはあさってはもう文化祭?!
・・・なんだか実感ないなぁ。
「いいよん、どこ行く?」
「市井ちゃんち」
「え?!」
突然のことであたしは思いっきり大声を張り上げた。
市井さんち?!何言ってるのごっちん!
やーあんたらが付き合ってるのは知ってるけど
なんであたしが2人と一緒に・・・。
「ね、いいでしょ?」
ごっちんは上目であたしを見た。
そんな目してもイヤです!
「えー・・・2人で遊べばいいじゃんよぉ」
あたしがそう言っても、えーとかいうなー、ってごっちんはダダをこねだした。
オイオイ・・・。
- 456 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 12:57
-
「市井ちゃんが呼びたいんだってさ。」
ごっちんはさりげなくボソッとそう言った。
な、なんだそりゃぁ?!
市井さんは何をしたいわけ???
「前夜祭の前夜祭らしいよー」
ごっちんの言葉にあたしはアホか、とツッこんだ。
まぁ、そういうアホな企画考えるのは市井さんっぽいけどさ。
ね、ね、いいでしょ?と詰め寄るごっちん。
「・・・分かったよ。」
あたしのこの返事が、重大な事件の引きがねになるとは
この時はまったく思ってもいなかった。
- 457 名前:ゆら 投稿日:2005/11/01(火) 12:58
- 本当に本当に少しですが更新です。
今ものすごく忙しくて更新がそうとうマイペースになると思いますが
頑張りますので応援よろしくお願いします。
それを支えに頑張ります。
- 458 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 15:27
- 頑張っちゃってください
- 459 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 20:47
- 何か動きだしそうな予感!?
5人の登場人物がみんな魅力的で、大好きです!みんな幸せになってほしい!
お忙しいようですが、作者さんのペースで頑張ってください。おわり
- 460 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 21:48
- おぉー!!!じりじりと動き出した感じですね〜ww
無理の無い交信で構いませんよ!
次回も待ってます!文化祭、楽しみです!(笑)
- 461 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 22:43
- 更新お疲れ様です。
いろいろと動きが!?
更新は作者さんのペースで、無理しないでください。
次回更新楽しみに待ってます。
- 462 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/11/01(火) 23:50
- 更新お疲れ様です。
なにやら不穏な空気が漂い始めてますね。
これは一体なにを意味するんでしょうか?
次回更新待ってます。
- 463 名前:ミッチー 投稿日:2005/11/02(水) 00:31
- 更新お疲れ様デス。。。
一体何が起こるんだ!?めっちゃ気になります!
ムリせずマイペースで更新して下さい。
忙しい中でも更新してくださる作者さんはスゴイですね。
これからも応援させていただきます。
- 464 名前:ゆら 投稿日:2005/11/05(土) 15:58
- 前回の更新、名無しのままでした。すんません。
あと前夜祭じゃなくて昼夜祭ですね。
まぁ、内容的にあんま変わらないんで気にせんでおいてくださいな。
んでは更新します。
- 465 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:58
-
昼夜祭当日。うーん、あたしの気持ちとは裏腹に快晴です。
10時に市井さんち集合!ってことで、とりあえずあたしはごっちんと家の前で待ち合わすことにした。。
「おーい、よしこー。」
早々といつもの声が聞こえて、あたしは今いくーと言ってブレザーに袖を通した。
慌てて靴を履いて玄関を出ると、まるで冬みたいに冷たい風がピュゥッと吹いた。
「うぁ、さむっ」
「だよね。」
マフラーを首に巻いたごっちんがあたしを見てそう答えた。
もうそんな時期かぁ・・・11月だもんね。
もう一回部屋に戻って去年から愛用の赤いマフラーをして外に出た。
「お待たせ。行こっか。」
手袋も欲しくなるような冷える手をあたしは息で温め歩き出した。
隣を歩くごっちんもアハッとか笑いながらまねをする。
気がついたらもう、ごっちんとは前みたいな幼馴染に戻ってる気がした。
もしかしたら、あたしが壁を作ってたのかも。
市井さんがいうみたいに、アフターケアーが出来てなかったのかも。
ただ以前と違うのは、あたしたちが何の滞りもなく凍える手をつないで温め合う関係ではなくなったこと。
今はお互い、そうして欲しい相手がいるからなのかな。
まぁ、あたしの場合は今複雑だけど。
- 466 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:58
-
市井さんの家は電車で一駅のところにあった。
「近いし、歩いていこっか。」
ごっちんの提案にあたしも賛成。
浮いた電車賃であったかいココアを買って、また他愛も無い話をしながら歩いた。
「その赤いマフラーはさ、明日の文化祭の衣装をイメージしてるの?」
クスクスっと笑いながらごっちんはあたしの首元を指差してそう言った。
「な、何言ってんだよー!」
思わずあせってあたしもムキになる。
あーあ、違うのにすれば良かったなんてつぶやきながら。
そっかぁ、明日はあのへんてこりんな真っ赤なスーツを着るんだった。
記念撮影だっけ。はぁ、やだなぁ。
矢口さん、楽しみにしてるね、なんて言ってたけど。
「市井ちゃんちでっかいんだよー。」
しばらく歩いて、ごっちんはそう言った。
「へぇ。遊びに行ったことあるの?」
なんともないあたしの返事に、ごっちんは少し間を置いた。
「うん、だって付き合ってるもん。」
少しうつむきながらそう言って、ココアを一口含んだ。
「そーだね。」
あたしはなんとなくそれしか言えずに、少し白い息を吐いて空を見ていた。
- 467 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:58
-
正直、ごっちんと市井さんが付き合ってることにあんまり実感がわかない。
それはどこかで自分が、ごっちんのあたしへの気持ちを感じているからなのかな。
それとも、自意識過剰・・・?はは。
「ねぇ。ごっちん。」
あたしがそう呼ぶと、ごっちんはパッと顔をあげてあたしを見た。
―もうあたしのことは吹っ切れたの?
聞きたかった。
けど、やっぱりそれは聞いちゃいけないことなんだ。
「幸せになってね。」
嘘でもホントでもないその言葉を、あたしはいつもよりなるべく明るく言った。
ごっちんは少し不思議そうな顔をしながら、また下を向いた。
「うん。なるよ。」
・・・変なの、涙が出そうだった。
- 468 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:58
-
10分ほどして、市井さんの家に着いた。
「うわ、でっけぇ。」
ごっちんの言う通り、市井家は豪邸だった。いや、マジで。
三階建てのオートロック付き・庭付きのおしゃれなレンガの家。
ごっちんこんなところにお呼ばれしたのね・・・。
シャンデリアとかありそうだなぁ。勝手な創造だけど。
ぴんぽーん
『ほい』
「ごとーだよ。よしこも一緒だよ。」
『おう、今開ける。』
あうんの呼吸のようなスムーズな会話でオートロックが解除された。
「入ろ?」
「あ、うん。」
慣れないあたしは変にキョドりながら、庭を歩いて玄関に行くまでごっちんの後ろにいた。
- 469 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:59
-
ガチャッとドアが開かれて、そこにはいつものヘラッと笑う市井さんが居た。
本当のこの人がこの豪邸に住んでるのか?って疑うくらい。
「おはよーございます。おじゃまします。」
あたしが堅苦しい挨拶をすると、市井さんは大笑いした。
「アハハハ、何それ。吉澤らしくねぇな。いいから早くあがりなよ。」
「そーだよー。よしこ。」
笑うことないじゃんかぁ。まぁ、いいけど。
遠慮なくあがるごっちんに続いてあたしも市井家に足を踏み入れた。
「ん?」
靴を揃えて置きなおすと、そこには市井さんの靴にしては小さいサイズのものが一足あった。
ずいぶんミニサイズだなぁ。22センチくらい?
あたしが不思議がっているのに気がついた市井さんは、フツーの表情でそれを指差した。
あーそれね。といいながら。
「矢口のだよ。」
- 470 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:59
-
・・・?
「矢口さんの?靴?」
あたしは頭が混乱してきた。
どういうこと?
え、
まさか、
「紗耶香〜、ごっちん来たの?」
その時、矢口さんが、あの矢口さんが。突然部屋の奥から出てきた。
どういうこと?え?
ニヤーッと笑う市井さん。
と、ごっちん。
えぇ?!
- 471 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:59
-
矢口さんはごっちんを見て、そのあとあたしを見た。
「え?よっすぃー・・・?」
驚いた顔で矢口さんは同じように市井さんとごっちんを見た。
ニヤーッと笑う2人。
どうやら混乱しているのはあたしと矢口さんだけのようだ。
「悪ィ、矢口。今日は吉澤も呼ぶの言い忘れてた!」
小悪魔のように笑う市井さん。
そして・・・
「ごめん、よしこ。今日はやぐっつぁんも来るって言い忘れてた!」
同じく小悪魔がもう一匹。
いや、これは小悪魔じゃなくて悪魔だろ・・・。
マジで泣きそうだ。
- 472 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:59
-
目の前にいる矢口さんにあたしは動揺を隠せなかった。
矢口さんも多少ビックリしていたけど、あたしはその10倍ぐらい。
「もー、紗耶香ってば。なんで言い忘れんのよ〜。ねぇ、よっすぃー?」
「え?!あ・・・ハイ・・。」
突然話をふられてあたしは本気でキョドった。
っていうか、今ものすごい久しぶりに会話したよね。
矢口さんの声。仕草。
いつみても可愛いし、大人っぽい。
なのに・・・
全部があたしの変なモヤモヤをかき回す。
- 473 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:59
-
2人の作戦を冗談として受け止める矢口さん。
もうなんともないみたく楽しそうに会話をしていた。
あたしには・・・出来ない。
「とりあえずあたしの部屋行こー?」
市井さんの言葉に、ごっちんと矢口さんはオー!とか言いながらついて行く。
なのに、あたしは玄関でそのまま立ち尽くして動けなかった。
だって・・・
「よしこ?」
あたしの様子に気がついたごっちんは振り向いて名前を呼んだ。
同時に市井さんと矢口さんもこっちを見る。
「吉澤、ごめん。怒った?」
市井さんの言葉にあたしは何も答えられなかった。
怒ったんじゃない。
別に嫌なことじゃない。
矢口さんとはもう終わった。
終わったけど・・・・
- 474 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:59
-
「あたし・・・」
聞こえるか聞こえないかくらいのあたしの声に、空気が張り詰めた。
声が震えそうで怖かった。
泣きそうだった。
本当に。
それでもこらえて、あたしは息を吸い込んだ。
「あたしは・・・矢口さんと何もなかったように話をすることは出来ないです・・・。」
- 475 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 15:59
-
- 476 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 16:00
-
正直、市井さんとごっちんのやった冗談はムカついた。
けど本当に今泣きそうなのはそうだからじゃない。
矢口さんにとって、何もなかったように話をすることは普通なのかもしれない。
でもそれは付き合ってるとき、矢口さんがあたしを本当に好きじゃなかったから。
だからすぐに友達になんて戻れるんだ。
けどあたしは違う。
大好きだから。
今も、歯がゆいほど、矢口さんが大好きだから。
忘れることが出来ないから。
何もなかったように矢口さんと友達に戻ったら、
あたしの今までの全部が消えてしまう気がしたから。
ほんの短い間だったけど、
矢口さんとの楽しかった過去を、嘘にしたくないから・・・・・・・
本当に、そんな自分がいやだ。
- 477 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 16:00
-
「よっすぃ・・・・」
「吉澤。」
矢口さんが何かを言いかけた時、市井さんがすかさず遮った。
そしてあたしの前までツカツカと歩いてくる。
「ごめん、吉澤の気持ち分かってやれなくて。」
頭を下げる市井さんなんか、今のあたしはどうでもよかった。
この空気とか全部消えちゃえばいいのにって。
「あたし帰りますっ。」
ガチャッ
バタン。
- 478 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 16:00
-
・・・
もっと早く、違う形で矢口さんに出会いたかった。
そうすればあたしが誰より矢口さんを幸せにしたのに・・・・・・
- 479 名前: 投稿日:2005/11/05(土) 16:00
-
あたしは一回家に帰って、一眠りした。
忘れよう。全部。
何もなかったかのように。
矢口さんとは、もう過去も今も、未来もない。
友達でも、恋人でも、ないんだ。
- 480 名前:ゆら 投稿日:2005/11/05(土) 16:04
- 更新終了です。
みなさんいつもいつもレスありがとうございます。
ホントうれしいです。
さて次回は波乱万丈の昼夜祭・文化祭です。
- 481 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/05(土) 17:25
- ぐおーーーーー!!!
_| ̄|○_| ̄|○_| ̄|○
・゜・(ノД`)・゜・。
(謎)
460でした。交信お疲れさまです!
いやぁ。これからが…これからが勝負ですね(´д`;)
文化祭、どうなるのかな……よっすぃ〜頑張って!
次回の交信もまってます^^
波乱万丈ときいて、嫌な予感がする俺…
- 482 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/11/05(土) 19:38
- 更新お疲れ様です。
うーん、複雑ですねぇ。
波乱万丈な次回更新待ってます。
- 483 名前:知つぁん 投稿日:2005/11/05(土) 21:07
- 更新お疲れ様です。
久しぶりに見たのですが何回見てもおもしろいですw
やっぱりみんな幸せになってほしいですね。
次回の更新楽しみに待っています。
- 484 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:51
- 家に帰ったあたしは、一瞬で脳を切り替えた。
そう、矢口さんのことはもう振り返らないと。
つらかったことと一緒に、楽しかった思い出も全部忘れる。
それでいい。それでいいんだ。
いつの間にか眠ったあたしは携帯のバイブレーターで目を覚ました。
画面を見ると、何件もの着信履歴。ごっちん・市井さん・ごっちん・市井さん・・・。
心配してかけれくれたんだよね。ありがと。
時計の針は夕方5時。もう前夜祭始まってるじゃん・・・。
少し遅れていこうかな。
明日の握手会のために顔売っとくか。なんてね。
- 485 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:51
-
20分くらいの道のりを、夕日に照らされて学校まで歩いた。
近づくにつれて、派手な明かりに包まれた前夜祭の雰囲気がする。
今年は花火あげるんだっけ。すごいなぁ。
誰があげるんだ?
しばらく歩いて正門に入ると、もう電飾やら音楽やらがものすごい・・・。
っていうか人が多いなぁ。
「あーよっすぃーだ。今来たの?」
「フォークダンス始まっちゃうよー?」
「だめだめ、よっすぃーは皆のものだから踊らないの〜。」
友達や後輩がからかうようにあたしに近づいてそう言う。
何を言われても今は何も思わないんだけど。
フォークダンスとか本当、今のあたしにはまったく興味すらない。
あはは、と軽く流してあたしは校庭のキャンプファイヤーに向かった。
さっきごっちんからのメールでそこに来てって言われたんだよね。
- 486 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:51
-
校庭の行くと、おーい、と手を振るごっちん。
と、その隣には心配そうに手を振る市井さん。
予想通り、矢口さんはもちろんいなかった。
分かったようなこと言うけど、矢口さんの性格上今はあたしをそっとしといてくれてるんだろうな。
優しいっすよね、ほんとに。
「ごめん、ちょっと寝過ごしちゃった。」
何もなかったように。ただ落ち着いてあたしは2人にそう言った。
少し間があったかもしれない。でも気にせずにあたしは2人の言葉を聞いた。
「吉澤、悪かった。」
謙虚にあやまる市井さんに、あたしは笑顔で首を横に振った。
だって、別にもうなんとも思ってないから。
「よしこ、こっから花火一番よく見えるんだってぇ。」
ごっちんの言葉に、へぇ。と楽しみに空を見上げる。
まだ赤い空。
この空が暗くなったら、花火があがる。
そして、散って、灰になる。
なんだか、あたしとよく似てる。
- 487 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:51
-
市井さんが気を利かせて焼きそばやらジュースやらあたしに買ってきてくれた。
いいっすよ〜とか言いながら食いつくあたしとごっちん。
なんだかこのトリオも悪くない。
「だいぶ暗くなってきたなぁ。」
「だねぇ。」
「そうっすねぇ。」
このキャンプファイヤー中にみんなフォークダンスを誘う人が多い。
あたしの場合は当日でも無理そうだからってみんな前々から誘ってくるんだよね。
まぁ、結局今年も誰とも踊らないんだけどね。
告白されても付き合う気がないから。
「やべ、カメラ教室だ。取ってくる。」
市井さんは慌ててそう言った。
「花火始まる前に戻ってきてよ〜?」
ごっちんの言葉に、市井さんは後ろ向きで手を掲げてダッシュで校舎に消えた。
結構ドジなんだよねぇ、市井さんって。
まぁそういうところが憎めないんだけどさ。
- 488 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:51
-
なんとなく2人っきりのあたしとごっちん。
沈黙だったけど、何も違和感や気まずさは無かった。
ただ、まだ花火のあがらぬ黒い空を見上げていた。
そのとき。
「ねぇ、よしこ。」
今までにない真剣な顔でごっちんはあたしを呼んだ。
何も言わずに、あたしは次の言葉を待った。
なに、改まって。
「もう、ごとーは幸せだよ。」
- 489 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:51
-
やわらかい笑顔だった。
初めて見せた、幸せそうな顔だった。
これはいったい誰が与えたの?
そんな質問はいらないかもしれない。
だって、そんなのあの人しかいないじゃない。
ドジだけど、ホントにクールでカッコイイあの人。
「そっか。」
「うん。」
「ほんとに嬉しい。」
あたしは心からそう思ってそう言った。
懐かしいような、泣きそうな妙な感情に包まれて。
17のあたしは、ひとつ大人になった。
ううん、あたしたち、だよね。
- 490 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:52
-
きっかけなんて無かったと思う。
ただ、市井さんのあのオーラで。
草花も、空気も雲も太陽も、みんなを引き寄せるあの暖かい市井さんのオーラで
ごっちんは自然と、日に日に幸せになっていったんだろう。
なんて、すばらしいことなんだ。
すごいよ。
ほんとに。
市井さんがいてよかった。
本当によかった。
「吉澤っ!」
さっきダッシュで去った市井さんが、ダッシュで戻ってきた。
しかもなんであたし?あれ?カメラは?
はぁ、はぁと息を荒げて近寄る市井さん。
何?何?とあたしとごっちんは待っていた。
- 491 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:52
-
「矢口、ひとりで中庭にいるんだ。」
・・・え?
「行け。早く行けよ!」
何?どういうこと?
展開が速すぎて分からない。
ひとりってどうして?友達とかと一緒じゃないの?
「よしこのこと、待ってるんじゃないの?」
追い討ちをかけるようなごっちんの言葉。
いつも
逃げたいというあたしがいた。
でも、必ず隣には奇跡に賭けたいあたしがいた。
- 492 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:52
-
そうやっていつも逃げてきた。現実から。
怖い。傷つくのが怖い。
でもあたしは、変わったんだ。
矢口さんに出会って。
人生が180度くるっと回転して。
世界がパーッと明るくなった。
矢口さんのおかげで。
矢口さんがいなかったらなかった奇跡・・・
- 493 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:52
-
今行かないで、いつ行くんだ。
- 494 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 23:52
-
気がついたら、あたしの足は彼女の元へ向かっていた。
- 495 名前:ゆら 投稿日:2005/11/18(金) 23:53
- 更新終了です。
レスたびたびありがとうございます。
いやーほんと支えになりますわ。
楽しくやってきますんでこれからもよろしくです。
- 496 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/18(金) 23:58
- よっすぃ〜どうなるんだよぉぉ!!!
頑張ってよっすぃ〜☆★
次回の更新も待ってます。
- 497 名前:ミッチー 投稿日:2005/11/19(土) 00:18
- 更新お疲れ様デス。。。
この後どうなるんだ〜!!
ものすごく気になる…。
- 498 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/11/19(土) 18:33
- 更新お疲れ様です。
よっすぃ〜はどうするんでしょうか?
かなり気になりますねぇ。
次回更新待ってます。
- 499 名前:知つぁん 投稿日:2005/11/19(土) 19:21
- 更新お疲れです!
よっすぃ〜とやぐっつぁんがめっちゃ気になります〜・・・
今みて思わず泣いちゃいそうになりましたよ・・・
次回の更新も待っています!
- 500 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 20:17
- お疲れ様です!!481でした。
これから…これから!!((謎)本当、気になります。
市井さんのああいうところ、好きですw
次回もまってます♪
- 501 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:29
- 中庭に行く途中、打ち上げ花火の準備をしている人とすれ違った。
ずいぶん派手にやるんだな、今年は。
今はそんなこと興味もないんだけれど。
ただひたすら、あたしは走った。
立ち入り禁止のしきりを飛び越え、中庭へと急いだ。
『矢口が中庭にひとりでいる』
市井さんのあの言葉を聞いて、一瞬で脳裏に去年の矢口さんの姿がよぎった。
あたしが初めて矢口さんを見たとき、彼女はこの中庭でキスをしていた。
背の高い飯田さんの腰に手を回して、背伸びをする矢口さんはなんだか可愛かった。
それ以上に見てるこっちが恥ずかしいほど長いキスだったことも忘れない。
けど、本当に忘れられないのは・・・矢口さんの涙だった。
同じこの中庭で、ひとりで泣いていた。
小さく、弱いあの背中を見たあのときが、本当の出会いだった。
一瞬で、恋に落ちた。
- 502 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:29
-
今はその矢口さんがこんな近くに・・・いるのに・・・
「矢口さん。」
暗くて見えない影に向かって、あたしは名前を呼んだ。
パッとこっちを向く矢口さん。姿を見て、一瞬ホッとした。
「よっすぃ・・・?」
驚いた顔であたしを見る矢口さんは、ベンチの端にひとりで体育座りをしていた。
表情がうまく読み取れなくて、あたしは無言で近づいた。
頭は真っ白なのに、次々疑問だけが飛び交い、消えていく。
どうしてひとりで中庭にいるんですか?
何か思いつめてるんですか?
まさかあたしのことで、悩んでるんですか?
それとも、去年のことでも思い出してるんですか?
どれも正解でも不正解でもないんだろう。
矢口さんは少し力なく笑顔を見せて、手招きをした。
あたしはそれにしたがって矢口さんの隣に座った。
- 503 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:29
-
なんとなく彼女との感覚をあけて座るベンチ。
よいしょ、と足を下ろそうとする矢口さんとひじが触れて一瞬ドキッとした。
こういう感情は、ずっと変わらない。
矢口さんが隣にいる。ただそれだけで胸が張り裂けそうだ。
なのに今この状況、どうすればいいんだろう。
市井さんに言われて来たはいいけど・・・話す言葉も見当たらない。
「なんで矢口がここにいるって分かったの?」
先に質問をしてきたのは矢口さんだった。
いつもよりなんとなくトーンの低い声。少しあせる。
「市井さんが、教えてくれて。」
正直、今矢口さんの前で市井さんの名前はあげたくなかった。
だって、今この一瞬だけでもあたし以外のこと考えて欲しくないんだもん。
いつから、こんなに嫉妬深くなったんだろう。
- 504 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:29
-
「紗耶香か・・・。」
そっかそっか、と苦笑いしながら矢口さんはうなづいた。
あたしは胸がキュンと異痛んだ。
だって、市井さんは中庭にいる矢口さんを見て、かけつけなかった。
戻って、あたしを呼んだんだ。
けど・・・矢口さんが本当に来て欲しいって思ってたのは、市井さんなんだから。
それだけであたしはツラい。こらえてないと、今すぐ泣きそうだ。
「なんで矢口のとこに来てくれたの?」
まるで自然な会話のように発せられた質問に、あたしは息を飲み込んだ。
矢口さんのところに来た理由なんて・・・そんなの聞くの反則ですよ。
ホント、何考えてるのかもう分からない。
あたしを試してるんですか?
それとも、何の感情もなくただあたしを弄んでるんですか?
それならまだあたしは、この曖昧な空間の中をさまよっていたい。
例え騙されていたとしても、ただひたすら。
- 505 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:29
-
ドンッ ドドンッ パパンッパーン
その時、夜空に放たれた光で、目の前が一瞬明るくなった。
色とりどりの花火が舞う中で、あたしは矢口さんの横顔を見た。
そして今の言葉を思い出す。
―――・・・『なんで矢口のとこに来てくれたの?』
泣いていた。
矢口さんは、そう言いながら泣いていたんだ。
暗くて気づかなかったけど、思わぬ光が教えてくれた。
それは空しく、切なく散っていくけれど。
あたしの思いだけは無常にも消すに消せないんだ。
「好きです。」
- 506 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:30
-
- 507 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:30
-
すべての音が消えた気がした。
好きだなんて言葉、世界中で今何人が発しただろうか。
けどあたしはもう後ろは振り向かないって決めてた。
まっすぐ矢口さんを見ていたいと。
好きです。
あたしがそう言った瞬間、矢口さんの目には更に涙がブワッと溢れ出した。
きっと、一番聞きたくなかった言葉だったから。
あたしがその言葉を言った時点で、もう元の関係には戻れないことを意味していたから。
友達にも、先輩後輩の中にも、戻れない。
二度と・・・・
それだけ矢口さんは、あたしのことを大切に思っていてくれた。
ただそれは、妹のような存在として。
- 508 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:30
-
花火は上がり続けた。
矢口さんは何度も何かを言おうとして口を動かしていたけど、うまく聞き取れなかった。
よっすぃが、あのね、でも、
ちょっとずつそういう言葉がかすかに聞こえるだけで。
耳を澄ましても聞こえないような声で。
泣きながら、必死に話してくれた。
大きな花火が上がって、一瞬静かになった時、
ようやく言葉が聞き取れたんだ。
それはあまりにも悲しすぎた。
「ごめんね。」
その時、あたしは反射的に目を瞑った。
視界が消えたって、矢口さんの言ったその言葉はあたしに突き刺さるのに。
もしもあたしのこの体が消えても
矢口さんの思いは消えないのに
矢口さんの気持ちは変わらないのに。
- 509 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:30
-
・・・―――
『あたしやっぱり、紗耶香のことが好きなんだ。』
『紗耶香にとっての一番がごっちんでも、あたしにとっての一番は紗耶香なの。』
『叶わないって思ってても、それでも好きなの。』
叶わない恋。
報われない片思い。
あたしは矢口さんのことを思っても思っても諦められない。絶対に。
けど、矢口さんも同じ。だから・・・
本当にこれは、叶わないかもしんないね・・・。
マジで、泣けてくる。
- 510 名前: 投稿日:2005/11/29(火) 23:30
-
こんなにも全てがうまくいかないことってあるの?
神様っているのかよ、ってツッコみたくなる。
人間が生きていけるのは、つらい中でも必ず小さな幸せがあるからでしょ。
でもあたしは今どん底です。
いつ幸せになれるのかな?
幸せって、なんなのかな。
正直、もうどーでもいいっす。
- 511 名前:ゆら 投稿日:2005/11/29(火) 23:31
- 少ないですが更新終了です。
さてどうなることやら。
みなさんいつもレスどーもです。うれしさ噛み締めております。
- 512 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/11/30(水) 21:39
- 更新お疲れ様です。
そうでしたか・・・仕方が無いんですかねぇ。
次回更新待ってます。
- 513 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/30(水) 22:11
- 更新乙です。
みんなが幸せになれる道はあるんでしょうか?
- 514 名前:知つぁん 投稿日:2005/12/01(木) 18:23
- 更新お疲れです!
また泣けてきました・・・すごい切ないです・・・
まじでみんなに幸せになってほしいですよ・・・
- 515 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:39
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 516 名前:名無し読者 投稿日:2006/01/15(日) 23:58
- ほぜん
- 517 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:09
- こんな状態で文化祭当日を迎えることになってしまうなんて思いもしなかった。
なんでだろう、昨日は不思議にもよく眠れた。
そのおかげで1時間ほど遅刻したんだけど・・・。
昨日あたしはごっちんと市井さんに顔も合わさずあのまま家に帰ってしまったのだ。
悪かったなぁと思いつつもメール一通すら入れてないんだよね・・。
携帯を開いてアドレス帳の「矢口さん」という文字を見た瞬間に携帯を閉じて頭を抱えてしまったから。
ほんと、情けないよ。
のんびり着替えて学校への道を歩きながらあたしはいろんなことを考えた。
・・・あたしは矢口さんとどうなりたかったんだろう。
付き合いたかったって言ったら間違いじゃないかもしれない。
けど、多分違う。
ただ矢口さんに見返りを期待してたのかな。
同じように見つめて欲しいって。
自分が矢口さんと一緒にいて幸せでいたかった。正直言うとそれが一番正しいかもしれない。
けど糸をたどってみればあたしは間違ってた。
あたしの幸せは、矢口さんの幸せそうな姿を見ていることだったから。
彼女の明るくて素直なオーラで、周りはみんな幸せになる。
あたしは、矢口さんの笑顔が好きだったんだ。
- 518 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:09
-
あーあ。
なんか考えれば考えるほどむなしくなるじゃん。
けど、考えずにはいられないだよ。
これが、多分未練ってやつなんだと思う。
こんなに自分が未練たらしいやつなんて、ムカツク。
思えば全てが後悔だらけ。後悔に埋め尽くされた数ヶ月って感じ。
やってらんねぇよ、ちきしょー。
なんてバカみたいなことを考えて小石を蹴っ飛ばしてふてくされていた。
その時―
「あれ?よっすぃー。」
ん?
いきなり甲高い声に振り向くと、そこには久しぶりに見るセーラー服の女の子。
「梨華ちゃん。」
- 519 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:09
-
「梨華ちゃん。」
自分で言ったその響きが、変に恥ずかしい。
「久しぶりだね。」
梨華ちゃんはあたしの横に並んで少し見上げて言う。
前髪が伸びてて目はよく見えないけど。
「だね。」
気の利かない返事。そりゃそんなテンションじゃないもん。
でも、ほんとに久しぶりじゃん。
なんかキレイになったなぁ、梨華ちゃん。
あたしたちは立ち止まって少し話を始めた。
旧友?にあった気分だね。
「なんか、大人っぽくなったね。」
思わずあたしは口に出した。
何言ってんだ、あたし。
「そーぉ?惚れた?」
嬉しそうに笑う梨華ちゃん。
その横顔が本当に大人っぽくて、まるで、矢口さんみたい。
ってアホかあたしは。
「惚れた惚れた。」
あたしもそんなノリでしゃべっていた。
- 520 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:09
-
「梨華ちゃん今から学校?」
あたしの学校と梨華ちゃんが乗る地元の駅は同じ方向だった。
両手にハァーっと息を吹きかけて暖めながらあたしはそう聞く。
「そうだよ。いつもこの時間。ひとみちゃん早くない?」
ひとみちゃん、という懐かしい響きに少し背中がくすぐったい。
「あたしは今日文化祭。準備とかで早く集まるんだけど、実はこれでももう1時間過ぎてるの。」
バカでしょ?とあたしが笑うと首を横にふりながら、ひとみちゃんらしいよ、だって。
そっか、電車で通ってるからこんな早く登校してるんだね。電車通学は大変だ。
あたしやごっちんは歩いて行ってるから、梨華ちゃんに会うことは最近めったになかったわけだ。
「寒いね。」
風邪気味なのか少し掠れた声で梨華ちゃんは言う。
そう言われてあたしも寒い気がした。
「マフラーはちょっと早いかな?」
あたしは自分の首に巻かれた赤いマフラーを指差して笑った。
「早くないよ。あたしも今日してくれば良かった〜。やっぱ寒いや。」
梨華ちゃんの首には巻かれてない。
そんな細いのに大丈夫なのか?
- 521 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:09
-
あたしは自分の首からマフラーを取って梨華ちゃんに差し出した。
「貸すよ、これ。」
え?え?と困ってなかなか受け取らない。
「いいの?」
うん、とあたしはうなづく。だって寒そうなんだもん。あたし平気だし。丈夫だし。
ってか、学校近いんだし。それに・・・・
「この赤いマフラーしてるとごっちんにバカにされるんだよねぇ。」
あたしは苦笑いをしてそう言った。
ごっちんってば、文化祭のスーツと同じ色だからって・・・まったく。
「そ、そうなの?」
梨華ちゃんは事情も分からずそう言う。
そうですよ、あなたの元恋人は今日赤いスーツを着て写真撮影会ですよ。
「はい、どうぞ。」
あたしは立ち止まって、カバンを地面に置いた。
そして梨華ちゃんの首にぐるっと一周半マフラーを巻く。
「・・・・。」
いやいや、そこ照れないで下さいよ。
こっちもなんか気まずいじゃん?
「あ、ありがと・・・。」
少しうつむいたまま、落ちたあたしのカバンを渡してくれた。
「いえいえ。さ、歩こう。電車乗り遅れちゃうよ。」
少し足早に歩き出した。
不思議なことに、歩幅は昔みたいにぴったりそろってた。
・・・元、恋人かぁ・・・。
- 522 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:09
-
ふとあたしの記憶は過去にさかのぼる。
・・・
・・
・
- 523 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:10
-
それは中2の冬だった。
「隣に引っ越してきた石川です。」
家族そろって挨拶しに来た石川家。
お父さんとお母さんと娘の梨華ちゃん。
話に聞くと、あたしと同い年らしい。
「よろしくね。」
ニコッとあたしに微笑んだ梨華ちゃん。
なんか落ち着いてて、大人っぽくて、お姉さんって感じ。
本当に同い年か?
「うん、よろしく。」
思ったとおり、梨華ちゃんは大人しい感じの性格だった。
家は向かいだったけど、あたしはごっちんといつもギリギリの時間に登校してたから、一緒に行くことはなかった。
学校で見かければ話しかけるくらい。
梨華ちゃんは優しくて温厚な性格だったから、友達だってすぐ出来た。
いつも、梨華ちゃんの周りにはみんなが集まってた。
- 524 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:10
-
違う意味であたしの周りもいつも人がいっぱいいた。
そう、あたしのモテ期はすでにこのとき始まっていたのだ。
「よっすぃー、また告られたの?」
学校の帰り道、玄関で待っててくれたごっちん。
率直に聞くねぇキミ、とあたしも苦笑い。
「あたしのどこがいいんだろうね。」
本当に不思議でしょうがない。
ごっちんとコンビニで買った肉まんを頬張りながらの帰り道。
吐く息が白い。あーあ、冬だなぁなんて思いながら。
「ほんと、よっすぃーはただの単純ばかなのにねぇ。」
ごっちんはさらっとそう言う。
コラコラ、単純ばかはないだろ。
「でもごっちんはさぁ、そんな単純ばかと昔から一緒に居てくれるね。」
さりげなく言った一言。
ごっちんの表情は少し変わった。ほんの、一瞬。
「だって・・・」
- 525 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:10
-
だって・・・??
「なんだかんだ言ってよっすぃーは、ごとーがいないとだめでしょ?」
そう言った彼女は、笑ってるようで笑ってなかった。
真剣、って感じがしたから、あたしは少し息を飲んだ。
「え?あ、うん。確かに。」
そんなごっちんに対して、アホくさい返事を返すあたし。
「でしょ。まぁうちら腐れ縁だよね。」
ごっちんはいつもの表情に戻ってそう笑った。
うん、とあたしも笑った。
なんかたまにごっちんってそういう表情するんだよね。
なんか、なんていうか・・・うーんと・・
もしかして・・
「ねぇ、ごっちん。」
ん?と振り向く。ごっちん。
いつもの表情。いやいや、でもさ・・・もしや・・・
「もしかして、あたしのこと好きなの?」
- 526 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:11
- 今(現在)思い出すと恐ろしいこと聞いたなぁ、あたし。
中2でよかった。もうあれから3年たってる。忘れてる・・・はず。
・・・
そして当時のごっちんはこう言った。
「ん?好きだよ。よっすぃーも好きでしょ?ごとーのこと。」
平然と答えるごっちん。
んん?あたしもしかしてバカなこと聞いた?
「あぁ、うん。好き。そりゃね。」
あたしの答えに、でしょ、と笑うごっちん。
「突然なーに?あたしはよっすぃーもママもパパもムックみんな好きだよ。」
あ、そういうこと。ママもパパも。
しかもムック・・・飼い犬と一緒かい。
そうだよね。
たまになんかすげー切ない顔するんだもん。
だからさ、ちょっと思っただけ。
なんだ、余計な心配しちゃったよ。
- 527 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:12
-
話は戻るけど、梨華ちゃんとあたしが付き合うことになるまでにはいろいろ・・・あったのか?
とにかく、あたしが梨華ちゃんを好きになった。
そんで、梨華ちゃんもあたしを好きになった。
だから、あんまり時間はかからなかった。
「ひとみちゃん。」
初めて梨華ちゃんと2人っきりになったのは、冬休みも目前のある放課後だった。
当時バレーボールやってたあたしは、部活がある日はひとりで帰ってた。
それを狙って告ってくる子多かったなぁ・・・。
「梨華ちゃん。あれ、なんでこんな時間まで?」
もう暗い時間だったし、放課後って言ってももうあんまり人はいない。
「あたしテニス部入ったの。でもいっつもバレー部と曜日違いだから。」
あ、そっかとあたしは納得する。
でもあたしがバレー部って知ってたんだ?あたしは梨華ちゃんが運動部ってイメージすらなかったけど・・・。
- 528 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:12
-
「一緒に帰ろっか。」
自然流れであたしはそう言った。
「うんっ」
予想以上に嬉しそうな顔で梨華ちゃんはそう言った。
笑った顔は引っ越してきたあの日からそんなに見てない気がして、なんか久しぶりだった。
う、やっぱ可愛い。
期末テストも終わって、もうすぐ冬休みに入る時期だった。
テストの話題とかクラスの話をしながら家路を歩く。
「ひとみちゃんとこんな話したの初めてだね。」
改めていきなり梨華ちゃんはそう言った。
たしかに、話すって言っても学校でばっかりだし、ほんの一言二言ぐらい。
「そうだね。でも話しやすいよ。」
まるで昔から知ってる友達みたい。あたしはそう思っていた。
「で、でも!あたし・・・本当はもっと話したいなって前から思ってたの!」
突然少し照れながら梨華ちゃんはそう言った。
その言葉が嬉しいことだってやっと気づく。
話したい、なんていわれたらそりゃ・・・
「え、ホント?だったらこれからもっと話そうよ。部活ある日は一緒に帰ったりさ。」
ね、とあたしが聞くとうなづいてくれた。
なんだ、もっと前からこうやって話せばよかった。
- 529 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:12
-
「ひとみちゃんっていつも真希ちゃんといるじゃない?だから少し話しかけ辛くてさ。」
また改まって彼女はそう言った。
ごっちんと?・・・うーん、たしかに一緒にいる時間は誰よりも長いかも。
「確かに。幼稚園からの付き合いだからね。もう家族みたいな感じ。」
そんなに前から?!と梨華ちゃんは驚いていた。
だからよくごっちんと付き合ってるとかうわさも広まったり消えたりするんだけど・・・。
「でも、今日ひとみちゃんと話せて良かった。」
素直にこぼれる彼女の言葉。
率直で、無垢な気持ち。
街頭の逆光でよく見えなかった表情がもっと見たいと思った。
もっともっといっぱい話して、仲良くなりたいって。
今まで告ってきた子とか、気になりすらしなかったけど
あたしはこうして少しずつ梨華ちゃんのことを知りたくなった。
- 530 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:13
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不器用なのに素直じゃないあたしは、理由をつけては梨華ちゃんに連絡を取っていた。
もちろん部活がある日はいつもこうやって他愛ない話をしながら家路を歩いた。
冬休みは一緒に遊園地も行ったし、クリスマスはくだらないプレゼントをあげたりした。
「最近梨華ちゃんと仲良いよね。」
朝学校に行く途中、ごっちんは突然そう言った。
「え?!そう見える?」
うん、と頷くごっちんにあたしは嬉しいのか困ったのか変な顔をしてたと思う。
「バレバレ。好きなんだ?梨華ちゃんのこと。」
「えぇぇぇっぇえ!?」
オーバーリアクション。
・・・
「好きなんでしょ?」
「・・・・う」
「ね?」
「・・・うん。好き、だね。」
そっか。
あたし、梨華ちゃんのこと好きなんだ。
って言っても、好きってなんだ?
だから何なんだ?!
やべぇ、恋愛レベル小学生だった・・・。
- 531 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:13
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それからごっちんにたまに相談しながら、あたしの気持ちは徐々に大きくなっていった。
梨華ちゃんはあたし一緒にいる時イヤそうではないし、それは安心していた。
時間がたつにつれて、気持ち伝えたいなあって思うようになった。
そう、あのころは傷つくことなんて恐れてなかったから。
単純バカなあたしは結局好きと認めてからたったの1ヶ月で梨華ちゃんに猛アタック。
ってか、これはバレバレだろっていうくらい連絡を取って遊びに誘ったりした。
そんなある日のことなのです。
- 532 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:13
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夜ノートのコピーに近所のコンビニに寄ったあたし。
中に入ると、コピー機のところに梨華ちゃんが立っていた。
「あれ!梨華ちゃんじゃん!」
思わず嬉しくてあたしは駆け寄る。
2人とももうお風呂あがりでラフな格好だったんだけど。
「偶然だね。ひとみちゃんもコピー?」
ノートを持ったあたしの右手を見て梨華ちゃんは笑った。
「そうそうテスト近いしね。」
目的も一緒なんて偶然。
ってか、やっぱ嬉しいよなぁ。
はぁーこんな時間に梨華ちゃんに会えるなんて。
幸せすぎっ
- 533 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:13
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梨華ちゃんはあたしのコピーが終わるまで待っててくれた。
そのあとあったかい飲み物を買ってあたしたちは近くの公園で話をした。
「もう2月だねぇ。来年は3年生かぁ。」
白い息を吐きながらあたしはそうつぶやいた。
「そうだね。あたしは受験生だ。」
梨華ちゃんはさりげなくそう言った。
え?受験生?
「梨華ちゃん、別の高校受けるの?!」
あまりに驚いて、あたしは少し大きい声でそう言った。
うちの学校は中高一貫で、みんな当たり前のようにエスカレーター式でそのまま進学する。
梨華ちゃんは転校してくる前は地方の公立中学にいたみたいだけど・・・
うちの学校に入るってことはそのまま進学するもんだと・・・・
「うん。やっぱりテニス続けたいから。インターハイとか出てるS高を受験しようと思うの。」
少し残念そうに、でも希望に満ちた顔で梨華ちゃんはそう言った。
確かにうちの付属高校のテニス部は強くはないもんね。
そっかぁ・・・夢を追いかけるわけだ。
「そっか・・・でもビックリした。っていうか、やっぱ寂しいよ。」
率直な気持ちをあたしは言った。
寂しいとかいう問題じゃぁないもん。
好きな人と、同じ高校に行けると思ったのにさ。
- 534 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:13
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「あたしだって寂しいよ。でも家は目の前だし。会おうと思えばいつでも会えるよ。」
梨華ちゃんはあたしをなだめるようにそう言う。
寂しいって言ってもらえるのは嬉しいけどさ。
会おうと思えば、の話でしょ・・・・。
やっぱり難しいよね。
だって、所詮うちら友達だしさ・・・
「やっぱ梨華ちゃんとはずっと一緒にいたいよ・・・」
下を向いてあたしはそうつぶやく。
「・・・え?」
いきなり驚いたように顔をあげた梨華ちゃん。
あたしもん?と顔をあげる。
- 535 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:13
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「今の、ほんと?」
確かめるように梨華ちゃんはそう言う。
今の、って?あたし、今なんて言ったっけ?
”やっぱ梨華ちゃんとはずっと一緒にいたいよ・・・”
・・・もしかしてだいぶ大胆なこと言った?
っていうか本音が出ちゃった?
「ほ、ほんとだよ!離れたくない!」
勢いまかせであたしはそう言った。
目を合わせた瞬間、梨華ちゃんの微妙な表情が印象的だった。
泣きそうな、でも笑いそうな不思議な感じ。
でも、嬉しいって思ってくれてそう。あたしは直感だけどそう思った。
言うなら今だ!
「梨華ちゃん!あたし・・・」
- 536 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:13
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ベンチに置いた梨華ちゃんの右手を握った。
梨華ちゃんもいつもよりもっと眉をハの字にしてあたしを見た。
やばい、やっぱ可愛いよ。
「梨華ちゃんのこと好きだよ。誰よりも大事に思ってる。」
なんて恥ずかしいセリフなんだろう。
けどそのときは本当にそう思ってた。
言った直後の頭の中はホント爆発しそうだっただろうな・・。
「ひとみちゃん・・・」
目に涙を浮かべる梨華ちゃん。
え、え、それってどういう意味なの??
あせりと戸惑いであたしはいっぱいいっぱい。
「あたしもずっと、好きだったよ。」
梨華ちゃんから出たその言葉に、あたしは背中がゾクゾクっとしたのを覚えてる。
あぁ、幸せってこういうことなんだなーって。
14歳のあたしは思ったわけです。
- 537 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:13
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こうしてあたしたちは恋人同士っていう関係になった。
もちろんソッコーごっちんに報告。
「良かったね。」
ごっちんはそれだけ言って笑顔で喜んでくれた。
はぁ・・・今思い出すと恐ろしい・・・・。
冬が過ぎて、あたしたちは中学3年生になった。
っていってもあたしやごっちん、っていうかほとんどの生徒は受験がない。
梨華ちゃんは塾に通うようになって、たまに家で遊んだりとかそういう感じだった。
けどあたしも梨華ちゃんを応援してたし、梨華ちゃんもあたしを支えに頑張ってくれた。
初めて手をつないだ春。
ドキドキしながら土手でキスをした花火大会。
どれもすごく印象深い思い出。
でもいつからだろう。
あたしと梨華ちゃんの間には亀裂が生まれていた。
- 538 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:14
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それは3月の冬。
「受かった!!」
一番に電話をしてくれた梨華ちゃん。
念願のS高に推薦で、しかも首席で合格したのだ。
本当に努力が実ったっていうか、あたしの方が嬉しい!!って感じで。
「本当に良かったね。おめでとう。」
ありがとう、とあたしに抱きついてくれた。
はー幸せーとかそのときは思ってて、やっとこれで遊べるなぁとか。
けどあたしは気づかなかった。
梨華ちゃんが受験で忙しい間、ほとんど毎日のようにごっちんと遊んでたあたし。
そのノリがどうも抜けなくて、受験が思ってからも結構ごっちんといる時間が多かった。
もちろん休みの日デートしたり、クリスマスだって出かけた。
でも梨華ちゃんはやっぱり不安を抱き始めてたんだ。
いくら恋人でも、幼馴染のごっちんには勝てないんじゃないかって。
- 539 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:14
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進路が一緒のあたしとごっちんは、高等部の見学会の帰り道うちに寄って遊んでた時のこと。
「よっすぃー、電話なってる。」
プヨプヨに熱中してると、あたしの携帯に梨華ちゃんから電話がかかってきた。
「ほんとだ。・・・あ、もしもし!どうしたの?」
あたしは慌てて電話に出た。
『ひとみちゃん?今家?』
「うん、そー。ごっちんとプヨプヨしてる。」
肩と耳の間に携帯をはさみながら、手にはコントローラーを持って必死だった。
梨華ちゃんが電話の向こうで無言になってることにも気づかなくて。
「・・・・・・。」
ん?もしかして梨華ちゃん黙ってる?
あたしはやっとそう気づいてゲームを中断させた。
「もしもし?どうしたの、梨華ちゃん。」
あたしが少し心配そうに聞いていると、ごっちんもどうしたの?と口パクで聞いてきた。
- 540 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:14
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「ひとみちゃん・・・今日何の日か覚えてる?」
いつもよりそうとう低い声で、電話の向こうの梨華ちゃんはそう言った。
・・・今日?2月の○○日・・・なんだっけ?
誕生日でもないしなぁ・・・
「ごめん、なんだっけ。」
本当に分からなくてあたしはそう聞き返した。
そのあとの梨華ちゃんの声と言ったら、今まで聞いたことのないほど低い声で・・・・・・・
「今日は付き合って1年の記念日だよ?そんな日に他の女とプヨプヨしてんだ。」
あたしは背中がゾクッとした。
そうだ、去年のちょうど今日だった。
公園であたしが告白した日。
あたしと梨華ちゃんが付き合った日・・・。
・・・明らかに怒ってる。っていうか、ここまで怒った梨華ちゃん見たこと無い・・・。
- 541 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:14
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・・・・・。
電話片手に青ざめたあたしを見て、ごっちんは心配そうにこっちを見ていた。
「あ、あの・・・梨華ちゃん?まじゴメ・・・」
「最低。」
ブツッ
あたしの弱気な言葉を思いっきり遮ったと同時に、電話は切れた。
- 542 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:14
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「・・・・やばい。」
電話をボトッと床に落としたあたしは、今にも死にそうな顔だったと思う。
だって・・・今の怒り方はヤバイっしょ・・・。
「よっすぃー?どうしたの?ケンカ?」
ごっちんは携帯を拾って心配そうに聞いてきた。
「今日、付き合って1年の記念日だったんだ・・・なのにあたし忘れてて・・・。」
普通そりゃぁ怒らないわけがない。
あたしの場合はさらにごっちんと遊んでるなんて・・・火に油を注ぐようなもんだ。
「そりゃぁ怒るね。いいから梨華ちゃんとこ行きなよ。」
ごっちんはあたしを無理やり立ち上がらせた。
今行ったら追い返されそうだよ・・・。
「うん・・・頑張る。」
がんばれ、とごっちんはあたしの背中を押してくれた。
ありがとー・・・・。
はぁ・・・
- 543 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:14
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ごっちんの家を出て、すぐに向かいの梨華ちゃんちの前に立った。
インターホンに手を当てるけど、なかなか押せない。
どんな顔して会えばいいんだ・・・。
「謝るしかないよなぁ・・・。」
よし、と気合を入れて人差し指でインターホンを押した。
・・・
ガチャッとドアが開いて、梨華ちゃんが出てきた。
う、とあたしは一瞬肩をすくめた。
だって、明らかに顔が怒ってるんだもん。
あきれてるっていうか、愛想つきたっていうか・・・・。
「何かご用ですか。」
第一声。
怖すぎだから・・・。
- 544 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:15
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「あ・・・あのさ、あたし・・・ホントごめん!!記念日忘れるなんて最低だよ・・・。」
頭をさげてあたしはそう言った。
「・・・。」
何も言わない梨華ちゃん。
あたしが顔をあげても、目も合わせてくれない。
どうしたらいいんだぁ・・・。
しばらくすると、やっと梨華ちゃんが口を開いた。
「記念日忘れたことも最低だけどさ・・・」
だけど・・・??
「あたしはいつも、ごっちんの次だよね。」
- 545 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:15
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梨華ちゃんはそう言って泣き出した。
あたしは焦るどころか、その言葉に驚いていた。
ごっちんの次?
梨華ちゃんとあたしは付き合ってるんだよ?
「そんなわけないじゃん!あたしが好きなのは梨華ちゃんだよ!」
必死の弁解にも、梨華ちゃんは動じなかった。
むしろ泣き続けていた。
「いくらひとみちゃんの恋人でも、あたしはずっとごっちんには敵わない・・・・・・」
・・・・。
「梨華ちゃん・・・。」
どう答えていいか分からなかった。
ごっちんは大切だよ。けど、愛情と友情は違うじゃん。
そんなの、比べられないよ・・・。
- 546 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:15
-
『ごめん、今日は帰って。』
・・・
梨華ちゃんにそういわれて、あたしはその日家に戻った。
これだけはごっちんに相談できないし。
一体梨華ちゃんは何を望んでいたんだろう。
付き合うって、どういうことなの?
あたしは梨華ちゃんのことが好きだし、もちろんごっちんも好き。
順番なんてつけたことない。
親友を捨ててでも一番になりたい恋なら、あたしは違うと思う。
- 547 名前: 投稿日:2006/01/16(月) 10:15
-
話せば分かると思った。
ごっちんも大事、けど梨華ちゃんももちろん大事。
2人とも違うから、比べることはできない。
けど、今付き合ってるのは梨華ちゃんだし、今までどおり付き合っていたい。
それを伝える前に、梨華ちゃんはあたしに別れを告げた。
・・・・・「ごめんね、やっぱ、もう無理かも。」
無理
その意味はあたしにはよく分からなかった。
あたしと付き合うのが無理なのか、それとも自分に嫌気がさしたのか。
それでもあたしは分かった、とそれだけ言った。
自分が一番好きな人が、自分のことを一番好きでいてくれる。
たったそれだけの条件なのに
どうしてそろわないんだろう。
- 548 名前:ゆら 投稿日:2006/01/16(月) 10:17
- ご無沙汰です。更新終了です。
みなさんいつもコメントありがとうございます。
梨華&よっすぃーの過去編でした。
次は現在編に戻りますんで
- 549 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/16(月) 23:19
- 更新お疲れ様です。待ってましたよ〜
てゆーか今(現在)考えたらごっちん…すげーよえらいよ、
って感じですねぇ。
切ないなあ…次回も楽しみにしています。
- 550 名前:ゆら 投稿日:2006/01/17(火) 17:29
- 次回更新は新しいスレッドを作ってやりたいと思います。
ちょうど1000くらいで終わりたいので、半分を区切って・・・
- 551 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/17(火) 18:17
- かなり面白いですっ!
期待してます!!
- 552 名前:バード 投稿日:2006/01/17(火) 19:05
- 更新お疲れ様です。
一気に読ませて頂きました。
切ないです‥泣いちゃいました(T0T)
今後の展開に期待しております^^
- 553 名前:ゆら 投稿日:2006/01/18(水) 16:18
- みなさんいつもいつもありがとうございます。
青板で続き書き始めましたので。
まだ飽きてない方はこれからはそちらを見てもらえると嬉しいです。
なごりおしいけど黄板ではこのへんで・・・。
続きは青板でどうぞ!
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