Novelette2
- 1 名前:大塚 投稿日:2004/09/05(日) 02:09
- ここでは初めまして。大塚と申します。
森で短編・中編やってました。
ここでもそんな感じでやっていきたいと思います。
スレタイに何のひねりもなくてすいません。
やっぱりあやみきばっかりになると思いますが、
その辺はご了承下さい。
- 2 名前:大塚 投稿日:2004/09/05(日) 03:38
- とりあえず何も書かないのはどうかと思い、前に書いたのを一つ。
…ボツネタだとは言いません。
- 3 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:38
- 二人とも、知らないうちに大人になっちゃったんだ。
もう少しだけ、もう少しだけでいいから、あの頃のままでいたかった。
でも戻ることはできない。もう知ってしまったから。
これから進むべき世界には、いったい何が待っているんだろうか…。
- 4 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:39
- 夕暮れ時。空はきれいなオレンジ色に染まっている。
走っている自分の影が、長く伸びているのが見える。
目的地に近づくにつれて、その影は次第に長くなっていく。
太陽が沈みきるのはもうすぐだろう。
その前に行かなきゃいけない。伝えなきゃいけない。
息が苦しい。心臓が痛い。
それでもあたしは足を止めなかった。
早く、できるだけ早く君の元へ。
- 5 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:39
- あの頃、まるで自分を追いかけるようについてくる影が怖かった。
どうしても逃げ切れなくて泣きそうになっていた自分に、大丈夫だよと言ったあの人。
あの人がしゃがんだり飛んだりすると、影はそっくり同じ動きをした。
― おもしろいでしょ? ―
どんなに突拍子もない動きでも、影は忠実にその動きを再現する。
それを見ているうちに、影を怖いとは思わなくなっていた。
あたし達はそれから、二人で影踏みをしたりして遊んだ。
そして日が暮れる少し前、母親が迎えに来たことで、あの人との時間は終わりを告げた。
― またね、あやちゃん ―
― ばいばい、またね、みきたん ―
- 6 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:39
- あの夕日のきれいな日が、あたしたちの出会った日だった。
それからはまるで金魚のフンのようにあの人の後ろをついて歩いた。
学年は二つ上だったけど、あまり気にならなかった。
同級生の友達よりも、あの人と一緒にいたほうが何倍も楽しかった。
二人が小学校、中学校、高校と年齢を重ねていってもそんな関係は変わらなかった。
そして、それはずっと続くものだと、信じて疑わなかった。
- 7 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:40
- 一日一日が眩しく輝いていて、永遠に続くように感じられる時間は、終わりが近い。
ずっとこのままでいることなんて、絶対にありえないのだ。
あたしは気付かなくても、あの人はそのことに気付いていた。
年の差を感じた事はなかったけど、やはりあの人はあたしよりもほんの少し大人だった。
あの人はギリギリまで、あたしのために気付かないふりを続けてくれた。
あたしはそんなあの人に、何ができるのだろうか。
その答えはもう出ていた。
だって、あたしも気付いてしまったんだから。
- 8 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:40
-
- 9 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:40
- この日はいつもより少し遅く学校から帰ってきた。
部屋に入りブレザーに入りっぱなしだった携帯が震え、メールが届いた。
それは幼馴染とも言える、年上の親友からのメールだった。
内容はとても簡潔なものだった。
>就職やっと決まった。美貴、東京行く。
東京。こんな田舎からは程遠い、都会の街。
そこへ彼女は行くという。
それがいったい何を意味しているのか、すぐに理解した。
…あの人が、ここからいなくなってしまう。
- 10 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:41
- 間髪いれずに新着メールが届く。
>言い忘れた。公園で待ってる。
戸惑った。あたしにどうしろと言うのだろう。
何を言えばいいか分からなくて、でも本当はわかっていた。
携帯を掴み、返信メールを送らないままにあたしは走り出していた。
あたしが小さい頃から変わらずにある遊具の数々。
ブランコ、シーソー、滑り台、鉄棒、砂場に小さな噴水。
大きくなってから見ると、こんなものだったか、と思う。
あの頃にはもっと広く、大きく見えたのに。
公園に来てワクワクするような気持ちは忘れてしまった。
今あるのは、そんな昔を懐かしむ気持ちだけだ。
いつも二人で、笑い合っていたあの日…。
- 11 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:41
- 一度も止まることなくたどり着いたそこに、彼女はいた。
「…みきたんっ!」
「おー、亜弥ちゃん。早かったねー」
「早かったね、じゃないよ!…東京行くってほんとなの?就職ってここじゃダメなの?」
「…そうだよね、うん…」
大声でまくし立てるあたしとは対照的に、彼女は穏やかに笑うだけだった。
「亜弥ちゃんもブランコ乗ったら?おもしろいよ」
「今ブランコなんかどうでもいい!」
「まぁいいから。おいでよ」
静かな彼女の声に、少し冷静さを取り戻したあたしは、大人しくブランコに座る。
- 12 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:42
- 「美貴さぁ…ここは好きだよ?でもね、このままじゃだめだって思ったんだ」
「なんで?好きならずっといればいいじゃん!」
「そうもいかないんだなー、これが」
「なによそれ…」
どうにもはっきりと言葉にしない彼女に苛ついていた。
「好きだからこそ、一回離れようと思ったの」
「…なんで?」
「また戻ってくるために。亜弥ちゃんと過ごしたこの町に、また戻ってくるために。
美貴のこの気持ちが本当なのか、一回ここを離れなきゃわからないって思ったから」
「……気持ちって?」
- 13 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:42
- 「美貴が、亜弥ちゃんを好きだっていう気持ち」
「…好き?あたしを?」
「うん、好きだよ」
「じゃあ…じゃあ離れないでよ!あたしだって、みきたんが好きだもん!」
「うん、知ってるよ」
「じゃあなんでさ!!」
あたしには彼女の言う事が何一つ理解できなかった。
でもわかっていた。彼女は行ってしまう。
あたしがなんと言おうと。
- 14 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:43
- 「…亜弥ちゃん、美貴たちはもっと周りを見る必要があると思うんだ。小さいころから、
お互いしか必要としてなかった。それは悪い事じゃないけど、でもいい事だとも言えない」
「だって…耐えられないよ。あたし、みきたんがいないと…」
「うん、美貴もそうかもしれない。でも離れてみないとわからない」
「わかんない、わかんないよみきたんの言ってること!」
ブランコの鎖をぎゅっと握りしめながら、あたしは叫ぶ事しかできなかった。
「…離れてみて、そこで初めてわかることもあるよ、きっと。美貴はそれが知りたい。
どれくらい亜弥ちゃんのことを大切に想っているか、離れたらわかる気がする」
そういう彼女の顔はどこまでも穏やかで……。
- 15 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:43
- 「亜弥ちゃんに全部わかってもらえるとは思ってない。でも、きっと戻ってくる。
美貴は亜弥ちゃんのことが好きだから、戻りたいよ」
そのときあたしはなぜか、彼女のことを信じようと思えた。
彼女が帰ってくると言うなら、きっとそうなんだろう。
そうじゃなくても、あたしは彼女から離れる気はない。
たとえ彼女が帰ってこなくても、そのときはあたしが彼女の元へ。
「…わかった。待ってる」
「あれ?追いかけてくる、って言うかと思ったけど」
「追いかけて欲しいの?」
「…それは亜弥ちゃんが決めることだよ。美貴を待ってるか、追いかけてくるかは」
彼女があたしにどうしてほしいのかはよくわからなかった。
それでも彼女がここからいなくなる、ということは変えようのない事実だった。
- 16 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:43
- 「さ…そろそろ帰ろうかな。だいぶ日も落ちてきたし」
当たり前のように手を差し出してくる彼女。
あたしはそれに気付かない振りして立ち上がる。
「どうしたの?」
「ん?何が?」
「いや…別にいいけど」
彼女は不思議そうにあたしを見て、繋がれることがなくなった左手をポケットにしまった。
そしてゆっくり歩き出す。あたしはわざと彼女の後ろを歩く。
彼女はそんなあたしにもう何も言わなかった。
- 17 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:44
- 彼女から長く伸びた影を、彼女には気付かれないように踏んだ。
あたしより一歩先を歩く彼女に対する精一杯の抵抗だった。
影だけじゃなく、いつかは本当に追いついてやる。
あたしから離れるなんてバカなことしたって、思わせてやる。
前ばっかり見ないで、たまには後ろも見てよね。
影を踏まれたら、もう鬼に捕まってるってことなんだよ?
そのとき、ゆっくりと後ろを振り向いた彼女の顔は、どこか楽しそうだった。
「怖いなぁ、亜弥ちゃんは」
「…なにがぁ?」
「まぁいいけど。…やっぱ、手つなごう」
- 18 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:45
- これからあたし達はどうなるんだろうか。
ゆっくりと進みながら、さっきまでの不安な気持ちはどこかへ行ってしまったことに気付く。
むしろこれからの彼女との新しい関係に対する期待の方が大きかった。
待ってるか追いかけてくるか、あたしの自由だと彼女は言った。
自分から離れるって言っといてそれはないよね。
あたしが追いかけないわけないもん。
それをよく知ってるくせに、わざと「好きにしろ」なんて言って。
あたしの答えは決まっているようなものだった。
でもお互いにそれをよくわかっているのに、言葉にはしなかった。
わかっているからこそ、言葉にしなかった。
もしかしたらそれはただの思い込みかもしれないから。
あたしはようやく彼女の言いたいことがわかって、ちょっと悔しくなる。
悔しくて、また気付かれないように彼女の影を踏んだ。
- 19 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:45
- これからどうなるかは、あたしたち次第。
どちらが追いかけるか追われるかもわからない。
しばらく、この影踏みは続きそうだ。
- 20 名前:影踏み 投稿日:2004/09/05(日) 03:45
-
- 21 名前:大塚 投稿日:2004/09/05(日) 03:46
- 更新終了です。
- 22 名前:大塚 投稿日:2004/09/05(日) 03:49
- わけがわからないと言われてもどうしようもないです。
自分でもよくわかってないもんで。
次回から前スレでのリクをここで消化していくという、
なんとも情けない更新が始まります…。
収まらなかったんです…すいません、がんばります…。
……あやみき万歳!!
- 23 名前:前スレ385 投稿日:2004/09/05(日) 13:40
- 前スレ読み終わりました。
松浦さんの心の変化や葛藤がちゃんと描かれていてめちゃくちゃよかったです。
リクした時は正直、こんなに深い話がくるとは思ってもみませんでした。
私の妄想を最高な形で実現していただきほんとにありがとうございました。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/05(日) 21:04
- 新スレお疲れさまです。
早く幼稚園児編の続きが読みたいです
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/08(水) 10:49
- ageないで。
- 26 名前:右京 投稿日:2004/09/08(水) 16:04
- こちらでは初めまして。
新スレおめでとうございます。
前スレから引き続き、読み手にまわりたいと思います。
想像をしていても疲れることのない話をお書きになられるので
こちらとしては、とてもイイ気分になってしまいます(笑
今回の影踏みも微妙な距離感がなんともいえないです。
これからもお互い、あやみき万歳で(笑
- 27 名前:大塚 投稿日:2004/09/09(木) 01:17
- 更新します。
前スレ386の名無飼育さんのリクです。
- 28 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:19
- 受験生である亜弥ちゃんは、毎日学校の授業が終わったあとも塾に通っていた。
初夏までは部活の鬼だった亜弥ちゃんは、今は勉強の鬼となっている。
美貴が寝る時間になっても、隣の家の明かりは消えない。
それは美貴の部屋と向かい合うようにある、亜弥ちゃんの部屋。
考えてみれば、いつだって会いに来ていたのは亜弥ちゃんだった。
亜弥ちゃんが来るのを当たり前のように思っていた。
自分から会いに行ったことはあまりないような気がする。
つまり、亜弥ちゃんがここに来なければ、美貴たちが会う機会がなくなる。
美貴ちょっとおかしいんだ、最近。
会っていた頃よりずっと亜弥ちゃんのことを考えている。
頭の中は亜弥ちゃんでいっぱいだった。
どうして二人にこんな風な距離ができたんだろう。
前まではあんなに一緒にいたのに。
わかってる、悪いのは美貴だ。
あれをきっかけとして、亜弥ちゃんはここに来なくなったから。
- 29 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:19
-
- 30 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:20
- トントン、と階段を上る音が聞こえてドアが開けられる。
「今日も疲れたぁ」とオヤジくさいことを言って美貴の部屋に上がりこんだ亜弥ちゃん。
その日塾はなかったらしく、学校帰りにそのまま遊びに来たようだった。
亜弥ちゃんの塾通いのこともあって、最近は二人でいることが少なくなっていた。
亜弥ちゃんはベッドに背中を預けて雑誌を読んでいた美貴に、もたれかかるように座り込んだ。
美貴は雑誌を置いて「久しぶりじゃん、どうしたの」と声をかける。
「みきたぁん」
「ちょっと疲れ気味?」
「んー…」
そう言ったきり黙って、甘えるように腕が体に巻きついてきた。
ちょっとどころじゃない。かなり疲れてるみたい。
背中を軽くさすってやると、亜弥ちゃんはゆるく息を吐き出した。
その息がちょうど首に当たって少しくすぐったかった。
- 31 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:20
- 無理すんなと言いたいところだけど、大学受験はそんなに甘いもんじゃない。
自分がよく知っている。あれはほんとにもう、辛い日々だった。
受験生の頃、なるべく家から近い、しかも国立狙いだった美貴は相当勉強した。
亜弥ちゃんも美貴と同じところを狙っているようで。
あの頃の美貴より亜弥ちゃんの方が成績がいいとは言っても、そんなのは気休めにもならない。
他人がどうのこうのというのはあまり意味がない。受験は孤独な戦いだ。
美貴もそういう苦しみを体験したからこそ、亜弥ちゃんの苦しみも少しは理解できる。
でも亜弥ちゃんはそういうことを言って欲しいわけじゃないだろう。
その美貴が亜弥ちゃんにしてやれることと言えば…そんなにない。
ただこうやって亜弥ちゃんが甘えてきた時には、思う存分甘えさせてあげるとか。
そのことで少しでも亜弥ちゃんの笑顔が見れればそれでよかった。
- 32 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:21
- しばらくそのまま、美貴は亜弥ちゃんの背中や髪を撫でてあげていた。
亜弥ちゃんは数回深いため息をつくと、やがて顔を上げた。
ちょっと目が潤んでて、可愛いなぁなんてぼんやり思った。
「…みきたんはぁ、優しいね」
「そんなことないよ」
ちょっと照れくさくて否定の言葉が出る。
これ、美貴の悪いクセだったりする。
だってそんなこと言われると恥ずかしいじゃん?
「そんなこと、あるよ」
亜弥ちゃんは微笑みながら「ほんと素直じゃないなぁ」と後に続けた。
すいませんね、意地っ張りなんです。
「…みきたんといると癒されるなぁ」
「そりゃよかった」
「なによーいいじゃん癒し系」
「癒し系とかもう古いよ」
「もーまたそんなこと言って…褒めてんのに」
困ったように笑う亜弥ちゃん。
こんな風になると、どっちが年上かわからなくなる。
気づくと、いつの間にか弱気な亜弥ちゃんは消えていた。
- 33 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:21
- 「でも素直じゃないみきたんも好きだけどねっ」
いきなりテンション高めにそう言うと、ほっぺにぶちゅっと一発かましてくる。
過剰なスキンシップはいつものことだった。
「もう、やめれって」
まだ近づいてくる亜弥ちゃんから顔を背ける。
こういうのも恥ずかしいから、美貴としてはやめて欲しいんだけど。
「やだーもっとぉ」
「そんなのは彼氏でも作ったらいくらでもすりゃいいでしょ」
美貴がこういうと、亜弥ちゃんは明らかに不機嫌になった。
…正論言ってると思うんだけどなぁ。
「あたしはぁ、みきたんとちゅーしたいの」
「美貴は別にしたくないけど」
「…さっきの訂正。やっぱみきたん冷たい」
「冷たくて結構」
「むー……」
読みかけの雑誌を手にして、読み始める。
横からの視線が気になってしょうがなかったけど、知らないフリを決め込んだ。
しかしそれは亜弥ちゃんにはきかないようで。
「こっちむけっ!バカたん!」と無理矢理顔を亜弥ちゃんのほうに向けさせられた。
なんでバカ呼ばわりされなきゃいけないんだろう。
- 34 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:22
- アヒル口のまま怒った顔をしてみせるのだからすごい。
常に自分を可愛く見せることに余念のない亜弥ちゃんだからこそだ。
事実何をしても可愛いのだから、もはやそれは尊敬に値する。
冷静にそんなことを考えていても、目の前にいる子の怒りが収まるわけではない。
扱いに困る厄介な幼馴染を持ったと嘆いても仕方がない。
「みきたん?」
「…はい?」
「あたし久しぶりにみきたんに会いにきたじゃん?」
「うん、そうだよね」
「じゃあさ、わかるでしょ?」
「なにが?」
「だからぁ、あたしはみきたんに会えなかった分、いっぱいちゅーしたいの!」
今なにか飲み物を飲んでいたら確実に吹き出していただろう。
付き合いは18年にもなるが、いまだにこの子を理解しきれない。
さっきまでしおらしかった姿は夢かそれとも幻か。
今となってはもう、何をやらかすかわかったもんじゃない。
「なのにさーみきたんは拒否るしさぁ。あたし悲しい」
「あのね亜弥ちゃん、美貴は亜弥ちゃんの何なのよ」
「え?…うーん、なんだろ。……恋人?」
「そこ悩むとこじゃないからね。幼馴染でしょ?」
がっくりと肩を落としながらため息をつく。
- 35 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:22
- 「幼馴染ね、そうだよね、うん」
首を上下に大きく動かして亜弥ちゃんは頷いた。
大げさな動きもいつものことだ。
「ようやくわかってくれたね…それでね亜弥ちゃん、幼馴染ってのは…」
「そういうのは別にどうでもいいの。あたしは、みきたんにちゅーしたいもん」
もうだめ。この子には何言っても無駄だった。
「…そんなに嫌なの?」
うなだれる美貴を見て、急にトーンの低くなった声。
テンションが上がったり下がったり、今日の亜弥ちゃんは付き合うのが難しい。
「や…その…そういうのは、好きな人とするもんじゃん?」
「…あたしはみきたんが好きだもん…」
「そりゃ美貴だって亜弥ちゃんのこと好きだけどね、そういうんじゃなくて…」
「そういうんじゃないってなに?あたしはみきたんが好き。それだけじゃダメなの?」
「はい?亜弥ちゃんなに言ってんの?」
「…だから、みきたんを好きだって言ってんじゃん」
「…………はい?」
「今まで気付かなかったの?ほんと、鈍感……」
ちょっと待ってよ。なんだこの状況。
ちゅ−を嫌がるのを怒られていたはずなのに、なんかおかしな方向になってない?
なんで亜弥ちゃんは顔を赤くして恥ずかしそうなの?
なんでそんな目で美貴のこと見てるの?
……なんで?
- 36 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:24
- とりあえず落ち着こう。そう思ったときが一番冷静だった。
亜弥ちゃんが言う「好き」の意味を考えて、ますます混乱したからだ。
え?だって美貴たちって幼馴染でしょ?つーかどっちも女だよ?
亜弥ちゃんは何を言ってるんだ?
美貴は亜弥ちゃんに何か言おうと思って、結局何も言えなかった。
亜弥ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で美貴のことを見ていた。
亜弥ちゃんはそれから何も言わない。
美貴は言葉が出ない。
美貴はおかしいんだろうか。亜弥ちゃんがあんなこと言うから?
亜弥ちゃんが…いつもよりも、可愛い気がするのは…どうしてだろう。
だってさぁ、ちょっとほっぺが赤くて、目も潤んじゃったりして…。
そう思ったとき、急に自分の胸が高鳴りだした……高鳴りだした?
自分で自分にびっくりする。
なんだ、これ?亜弥ちゃん相手になにドキドキしてんの?
そりゃ亜弥ちゃんは可愛いさ。それは認めるよ、うん。
でもそれはあくまでも妹のような存在である彼女を可愛いと思うだけであって。
今までだってこんな風にくっついたりしたけど、なんとも思わなかったのに。
ふと、よく手入れされた唇が目に入った。
…この唇に美貴はいつもちゅーされてたんだよね。
って、なんで唇とか見てるんだよっ!
自分の頭がおかしくなったのかと思った。
- 37 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:25
- 「ねぇ、みきたん…どうしたの?いきなり黙って…」
美貴は気が動転していたんだと思う。
さっきまで見ていた亜弥ちゃんの唇が迫ってきて…。
気づいたときには思わず亜弥ちゃんの体を突き飛ばしていた。それも思いっきり。
「あっ……」
「…痛いよみきたん」
「ご、ごめん……」
「……ほんとに、痛いよ」
亜弥ちゃんは俯いて、小さく呟いた。
美貴、今何した?亜弥ちゃんに、何した?
「帰る…ね」
「あ…」
亜弥ちゃんは立ち上がって、そのまま美貴の顔を一度も見ないまま部屋を出て行った。
美貴は呆然として、その姿を目で追うことしかできなかった。
それからだ。
亜弥ちゃんはこの部屋に来なくなった。
- 38 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:26
-
- 39 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:26
- いまだに明かりの付いている隣の家の一角を見つめながら、考えていた。
誤解だと説明すれば許してもらえるだろうか。
でもそんなことを言ったら、亜弥ちゃんを好きだと言ってるようなもんじゃん。
それも、亜弥ちゃんと同じ意味で。
今まで単なる幼馴染って関係だったのに、まさかこんな感情が生まれるなんて。
想像もしなかったよ。だって亜弥ちゃんは女の子で、美貴だってそうだし。
……人生、何があるかわからないもんだなぁ。
でもこんなことを考えるよりも、ずっと重要で何とかしなきゃいけないことがある。
理由はどうあれ、美貴は亜弥ちゃんを傷つけた。たぶん、すごく。
まずはやっぱりそのことを何とかしないとダメだ。
女同士だからとかそういうことを言っている場合じゃない。
恥ずかしがっている場合でもない。
誤解が解けたところで二人の関係が変わってしまおうとも、美貴はそうしなきゃいけない。
大体にして美貴もそういう意味で亜弥ちゃんを好きだ、ということに気づいちゃったわけだし。
- 40 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:31
- こんな中途半端に亜弥ちゃんとの関係がなくなってしまうのは嫌だ。
亜弥ちゃんは美貴にもう嫌気がさしているかもしれないけれど。
どうでもいいって思ってるかもしれないけれど。
でもそんなことはないだろう。
今まで色々と考えた結果、美貴にはある確信があった。
だって亜弥ちゃんは、そうとう美貴を好きなはず。
亜弥ちゃんのほんとしつこいくらいに迫ってくる姿を思い出して、
自分でもバカげてる、って思ったけどほんとに確信があった。
だから、足りないのは美貴の気持ちを伝えること。
ようやく心に決意を固め、ベッドから体を起こした。
時間的にどう考えてもありえないとは思ったけど、今じゃないと言える気がしない。
意地っ張りで素直じゃなくておまけに小心者の自分が恨めしい。
大きく深呼吸して、立ち上がる。
- 41 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:31
- 暗い部屋の中で、机に手を伸ばす。
確か…あ、あったあった。
こないだ亜弥ちゃんが部屋に来たときに、置いていったもの。
いわゆるパワーストーンの数々。
自分で色々買ってきて作ったけど、余ったからって無理矢理置いていったのだ。
「…小さすぎるかな」
でも夜だから静かだし、気づくことに賭けた。
「さて…」
おもむろに窓を開け、二・三粒掴んで亜弥ちゃんの部屋の窓に投げつけた。
電話だともしかしたら無視されるかもしれないけど、これなら、と思って。
コツンコツンと頼りない音だったけれど、思ったよりは響く。
何回か繰り返していると、カーテンの向こうに人影が見えた。
ごくっと、つばを飲み込む。…窓が、開いた。
「……これ…あたしが置いてったやつ?」
「…あ、うん…………」
しまった、なんて切り出そうか全然考えてなかった。
またパニックになりかける。
ええと、ええと…。
お互いの家の屋根が目に入る。…けっこう近い。
そう思ったら、体が勝手に動いていた。
- 42 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:32
- 「…ちょっと、なにしてんの…?」
「大丈夫、どっちの屋根もわりと平らだし」
「そ、そこから来る気?!やめてよ危ないって!!」
「亜弥ちゃんちょっと声抑えてよ。今何時だと思ってんの?」
「そんな非常識なことしながら常識的なこと言わないでよ」
いつもの関係が逆転しているようだった。
ちょっとそれがおかしくて笑った。
「…いよっ、と…ほら大丈夫だったじゃん」
音をなるべく立てないように亜弥ちゃんちの屋根に飛び移った。
亜弥ちゃんの部屋の窓に近づいて、肩をすくめて見せる。
「……バカじゃないの」
「今回ばかりは言い返せないかも」
「こんなことで心配させないでよ…それでも年上?」
「一応二つほど…て、そんな話しに来たんじゃないんだった。
あのさ……こないだ、ごめん。あんなことしちゃって」
亜弥ちゃんの瞳がかすかに揺れた。
「…亜弥ちゃんのこと拒否したとかじゃないよ?ただ、びっくりしたから」
「あたし…びっくりさせるようなことした?」
「いや、美貴が勝手にびびっただけなんだけどさ」
「…なんで?」
うん、やっぱりそう思うよね。…よし…ここからが正念場だ。
- 43 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:33
- 「それは…あー…なんていうか…」
ああもう。さっきまでの無謀な自分はどこいった。
無駄に咳払いなんかして、かなり情けない。
だって…久しぶりに見た亜弥ちゃんは、やっぱり今までより可愛く見えて。
どうしようもなく美貴の心臓はドキドキしていた。
そんな場合じゃないのに、好きだなぁってぼんやりと思っていた。
「みきたん?」
声をかけられて、ハッと我に返った。
だから、そんな場合じゃないのに。
不安そうに美貴を見ている亜弥ちゃんを目の当たりにして。
初めて思った。触れたい、って。
亜弥ちゃんを強引に引き寄せて、美貴からの初めてのキス。
美貴は屋根の上に立って、亜弥ちゃんは部屋の中にいて。
なんかすごい状況だよなぁ、と頭の隅で思った。
唇が離れると亜弥ちゃんは目を真ん丸にして。
確かめるように唇に触れていた。
「こういうのは、好きな人とするもんじゃないの?」
「……そうだよ」
こんなときまで素直じゃない自分が嫌になる。
一言、好きだと伝えることもできないなんてさ。
でもそこは亜弥ちゃん。付き合いが長いだけある。
それですべてがわかったようで。
泣き笑いみたいな顔で、でもやっぱり笑って抱きついてきた。
- 44 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:34
-
- 45 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:35
- 「部屋入って?」
「…いいの?勉強のじゃまじゃない?」
「勉強なんかいいもん。それよりみきたんとラブラブしたいの」
「…あ、そう」
まだ自分の中に生まれた新たな感情に戸惑っているのも事実。
だけど、もうただの幼馴染じゃ足りないって思ってた。
それを美貴に気づかせたのは亜弥ちゃん。
「…入らないの?」
ここを越えたら、もう確実に二人の関係は変わる。
少し躊躇ったけど、きっとここを越えたら、毎日が楽しくなる気がする。
勢いをつけて亜弥ちゃんの部屋に入ると、すぐに抱きつかれる。
「大好きだよ」
それは一体どっちの言葉だったかな。
- 46 名前:恋または、病 投稿日:2004/09/09(木) 01:35
-
- 47 名前:大塚 投稿日:2004/09/09(木) 01:36
- 更新終了です。
- 48 名前:大塚 投稿日:2004/09/09(木) 01:47
- >>23前スレ385さん
長すぎてすいません、ほんとにすいません。
でもなんか妄想が掻き立てられたんですよね。
すごく楽しく書けました。
こっちこそ、最後まで読んでくださってありがとうございます。
>>24名無飼育さん
あ、それは自分も書きたいと思ってたんですよ。
とりあえずは前スレのリクを全て消化してからですね。
気長にお待ちしてもらえると幸いです。
>>25名無飼育さん
お気遣いありがとうございます。
>>26右京さん
こんな辺鄙なところまで来てくださって…ありがとうございます。
おまけにもったいないお言葉まで。
そんな褒めないで下さい。簡単に調子に乗りますんでw
またHPの方にもお邪魔させてもらいます。
それでは、あやみきに乾杯w
- 49 名前:大塚 投稿日:2004/09/09(木) 01:51
- ええと、前スレでリクしてくださった方のご要望には
どう考えても応えきれてないような…。
すいません、これが精一杯でした…難しいです、文章書くのは。
- 50 名前:名無し読者 投稿日:2004/09/09(木) 17:12
- めっちゃいいです!
全然応えきれてると思いますが。
これからも頑張ってください!!
- 51 名前:右京 投稿日:2004/09/21(火) 16:45
- 遅ればせながら読ませていただきました。
言葉に表さなくても伝わるとは、まさにこのことですね。
幸せな気分に浸れました、感謝感謝ですw
次回も期待しております。
- 52 名前:大塚 投稿日:2004/09/24(金) 14:57
- 更新します。
- 53 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 14:58
-
- 54 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 14:59
- ほんとは年下って苦手なんだけどこの子は別。
美貴の中にずけずけと強引に入ってきて、勝手に居座った彼女。
突然教室に来たかと思えば「みきたぁぁん」と言いながら抱きついてくる始末。
周りはそれを見ても何も言わない。むしろ微笑ましい様子で眺めている。
たまに「ラブラブじゃん」なんてからかわれたりもする。
美貴はそれを嬉しいような、でも複雑な気持ちで受け止めている。
だって彼女とは恋人でもなんでもない。
みんな勘違いしてるようだけど、亜弥ちゃんはほんとに友達。
ぶっちゃけますと、ただ美貴が一方的に好きなだけなのだ。
もちろん、「友達として好き」以上の意味で。
- 55 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:00
- 学年が二つも違うのに、どうして友達という関係になったのかと言いますと。
亜弥ちゃんと出会った時のことは強烈すぎて忘れられない。
あれはまだ夏休み前のことだ。美貴が部活を引退した頃…。
昼休みはいつもだったら購買でパンを買って食べるのに、その日は珍しく売切れだった。
しょうがないから学食へと行った。狭くて混むから嫌いなんだけど。
席空いてないなぁ…と思いながら歩いていると、前からよっちゃんが歩いてきた。
よっちゃんは美貴がバカをやれる、数少ない友達だった。
向こうも美貴に気づいたようで、よっ、と片手を上げた。
美貴も同じ動きでそれに応えようとした。
応えようとした、というのは結局それが達成できなかったから。
美貴が勢いよく右手を上げた瞬間、ゴンッ!と何かにぶつかり、誰かが「あぁっ!」と声を上げた。
するとよっちゃんが「ゲッ」と言って、美貴のやや後ろを見つめた。
……恐る恐る、振り向いた。
そこには一人の女の子が、顔を強張らせて立っていた。
手に持っていたトレーは水平ではなく、垂直になっていた。
制服には、べっとりとカレーがついてしまっていた。
どう考えても、いや、考えるまでもなく美貴のせいだった。
- 56 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:00
- めちゃくちゃ謝って、ジャージに着替えた彼女に昼ごはんを弁償した。
周りは制服なのに一人だけジャージで足元はスリッパ。申し訳なくてひたすら謝った。
運が悪かったのか、それともよかったのかはわからない。
ともかくこれをきっかけにして、美貴と亜弥ちゃんはお互いを知ったのだった。
そしてどういうわけか、これ以来なぜか彼女に慕われるようになった。
最初は会っても挨拶程度だったのが世間話をするようになり、そのうちに携帯番号を交換して。
年下の子の扱いには慣れていなかったから、最初はそういうのに戸惑った。
しかも出会いが出会いだったし…。
亜弥ちゃんは美貴が初めて出会うタイプの子だった。すごい積極的。
美貴の友達ってどこか似たような人たちばっかりだけど、彼女みたいな人は今までいなかった。
ある程度仲良くなってからは、メールは一日何回かわかんないくらいしてるし、電話も毎日。
夏休みに入る頃にはすっかり打ち解けてしまっていた。
こんな付き合い方をする友達なんて、初めてだった。
だから美貴は必然的に亜弥ちゃんのことを深く知るようになっていったのだった。
知れば知るほど亜弥ちゃんがすごく魅力的な子だってことがわかっていって。
好きになるまで、そう時間はかからなかった。
- 57 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:01
-
- 58 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:01
- 「みっきたぁ〜ん!」
「あだっ」
放課後、教室の前でごっちんと話をしていたら横からものすごい衝撃。
確認するまでもなく亜弥ちゃんだった。
「…亜弥ちゃん、もうちょい普通に登場できないの?」
「え?これ普通じゃないの?」
「……うん、そうだね…」
落胆する美貴を見て、ごっちんはくすくすと笑った。
「お邪魔だからあたし帰るね。亜弥ちゃん、美貴と仲良くね」
「もちろん!でも後藤先輩だってこれから紺ちゃんとラブラブするんじゃないですかぁ」
「…まぁ君らのラブラブっぷりには負けるけどね」
苦笑交じりにごっちんはそう言って、一年生の教室へと向かった。
美貴とは違って、ほんとの彼女をお迎えに。
「いひひ」
「何笑いよ」
「だって明日から三連休じゃん。みきたん、どこ行こっか?」
「一緒に過ごすのは決定なのね」
「なにー嫌なのぉ?」
まさか、嫌なわけない。
むしろ嬉しすぎて顔がにやけるのを抑えるのに必死なんだから。
- 59 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:02
- 「いやじゃな……」
「あれー松浦じゃん、お前当たり前のように三年の階にいるよなー」
弁解しようと口を開きかけたとき、後ろから声がした。
…よっちゃんだと気づくと、美貴の体は強張った。
「相変わらず仲良しだねぇ」
にやにやしながら美貴と亜弥ちゃんの顔を覗き込む。
「…そ、そんなことないですよ…」
「またまたぁ、そんなくっついちゃってるくせに」
その瞬間、体から亜弥ちゃんの温もりが消えた。
そうなるとわかっていても、やっぱり慣れない。
いつまでたっても同じことで傷付いている自分がいた。
「よっちゃん、またジャージ着てんの?」
そんな自分をごまかすように、わざと明るく言った。
「ん、あぁ。これね。今日はちょっくら指導してくるかなと思って」
「…あー、また行くんだ?後輩思いだね」
「いやいや、どうせヒマだしね。体も動かしたいし」
よっちゃんと美貴は、この夏までバレー部だった。
今は引退したけど、よっちゃんはたまにこうやって後輩に指導しに行っている。
美貴は一回も行ったことはない。
よっちゃんと違って、後輩に好かれるようなタイプじゃないし。
むしろ怖がられてたような気がする。
めんどくさいってのもあったけど、最近はそれとは違う理由で行きたくはなかった。
よっちゃんに関してはこのルックスなもんだから、現役の頃はそれはもう人気があった。
今は多少落ち着いたとは言っても、変わらず人気者だ。
友達としてもいい奴だし、一緒にいて疲れない。
人間的にも誰からも好かれていて、彼女についての悪口は聞いた事がない。
容姿だけで人気があるというわけではなかった。
だから、中には本気で彼女のことを好きな子もいるだろう。
そしてそれはよりによって……。
- 60 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:03
- 「美貴もたまに一緒に行こうよ」
「いいよ、そんなの。美貴が行ったら後輩もやりづらいだろうし」
「そんなことないって、あいつら美貴に来て欲しいって」
「いや…だって、もうあの子達にはあの子達のやり方ってものもあるだろうしさ…」
「そりゃそうだけどさ、たまに顔出すくらい。松浦だって美貴のバレー姿見たくない?」
「えっ?…あ、あたしですか?」
よっちゃんに突然話を振られて、明らかに動揺した様子の亜弥ちゃん。
ごっちんと話をしているときとは全然違う。
全然大人しいし、自分から話し掛けることなんてめったにない。
顔をちょっと赤くして、上目遣いの可愛い顔でよっちゃんを見ている。
こういうのが、恋する乙女の顔ってやつなんだろうか。
「…そうですね、見たい、です」
「でっしょお?ほら、愛しのハニーだってこう言ってんだしさぁ」
「…もう引退したんだから関係ないよ。いこ、亜弥ちゃん」
「ちょっ、みきた…」
「よっちゃん、またね」
「あ、ああ…うん」
イライラする。よっちゃんは何も悪くないのに。
よっちゃんを見ようともしないで亜弥ちゃんを引っ張っていく。
亜弥ちゃんは律儀にぺこりとよっちゃんに頭を下げて、それを見た美貴はさらに不機嫌になる。
亜弥ちゃんの手を引っ張ったまま、人通りの少ない特別教室の辺りまで歩いていった。
- 61 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:03
- 「みきたん、手、痛いよ…」
亜弥ちゃんがそう言ったけど、無視してさらに強く手を握る。
最低だ。こんなの、ただの八つ当たり。嫉妬。
気づかなきゃよかった。
亜弥ちゃんが、よっちゃんを好きだということを。
でも気づかないわけないよ。
こんなに一緒にいて、亜弥ちゃんを好きになって、ずっと見ていたんだから。
前までは亜弥ちゃんを好きな自分に気づいて、それだけでいっぱいいっぱいで。
美貴は周りが見えてなかった。
亜弥ちゃんがよっちゃんの前だと態度が違うってことにも、気づいたのは最近。
そのことに気づいてからは、亜弥ちゃんといると苦しくて。
よっちゃんともうまくふざけ合ったりできなくて。
亜弥ちゃんが美貴に近づいたのも、よっちゃんが目的だったのかな、なんて思っちゃって。
……こんな風に考える自分なんて大嫌いだ。
亜弥ちゃんがそんな子じゃないってわかってるのに。
- 62 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:04
- 「…もう、みきたん、みきたんってば!」
ばっと手を振り払われて、ようやく正気を取り戻した。
亜弥ちゃんは何を考えているのかよくわからない表情をしていて。
手が少し赤くなっているのが見えて、罪悪感が沸き起こってくる。
耐え切れなくて目を逸らした。
「ごめ……」
「いいけど…でも、なんかみきたん最近ヘンだよね。なんかあった?」
「…別に、何も」
「嘘だぁ。じゃあみきたん、なんでそんなにバレーのこと避けるの?」
残酷だよ、亜弥ちゃん。それを美貴に聞くんだ?
冷静になった頭の中が、また熱を持っていくようだった。
それを隠すように曖昧に笑う。
「避けてなんかないよ」
「じゃあなんで吉澤先輩が一緒に行こうって誘うのにいつも断るの?」
誰のせいだと思ってるの?
「…あたし、みきたんのバレーやってるとこ、見たいなぁ」
そんな嘘、つかなくていいから。
ぷつりと頭の奥でなにかが切れた。
「……の、でしょ?」
「え?」
「だから……美貴じゃなくてよっちゃんの、でしょ?亜弥ちゃんこそ嘘つかないでよ」
「…みきたん?何言ってるの?」
- 63 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:05
- 白々しい。妙におかしくて口の端だけを上げて笑う。
亜弥ちゃんが少し怯えたように見えた。
「…前から不思議だったんだよね。なんで亜弥ちゃんみたいに性格も良くて可愛い子が、美貴みたいにひねくれた奴と仲良くしてくれんのかなぁって」
あ、だめだ。止まんない。
「だってバレー部の後輩でさえも美貴のこと怖がってさ、あんま近寄ってこなかったのに。しかも初めて会話したきっかけがカレーぶちまけ事件じゃん?こんな風に仲良くなってるのが、ありえないよ。…でもわかっちゃったんだ、亜弥ちゃんが美貴に近づいてきた理由」
この先を言ったら、どうなるのか、美貴は本当にわかってるんだろうか。
感情に任せて口から勝手に言葉が出てくるから、考えている余裕がない。
「よっちゃん目当てだったんでしょ?」
一番言いたくて、でも一番言いたくなかった言葉。
あっさりと、口にしてしまった。こんな簡単なことだったなんて。
そして、どこかですっきりした自分を恐ろしく思った。
- 64 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:07
- 「……それ、本気で言ってるの?」
「は…冗談でこんなこと言わないよ」
いつもの二人なら不自然なほど距離があいていて、美貴は亜弥ちゃんを見もしない。
ふと、亜弥ちゃんがその距離をつめてくる。
振り向くより早く、亜弥ちゃんは言葉を続ける。
「みきたんはあたしのこと、全然わかってなかったんだね」
「それは亜弥ちゃんでしょ」
「みきたんでしょ?」
「亜弥ちゃんだって!」
「みきたんだよ」
少し頭にきて、思い切り振り向いた。
「美貴はいやってほどわかってるよ、亜弥ちゃんのこと!だって亜弥ちゃん、よっちゃんのこと…」
「あたしが吉澤先輩のこと…なによ?」
「え……亜弥、ちゃん?」
予想外だった。亜弥ちゃんは静かに涙を流していた。
じっと見つめていると、亜弥ちゃんは顔を歪ませて…やがて嗚咽まじりに泣き出した。
「なに…っが、吉澤先輩目当て、だよっ…わかってないのは、みきたん、じゃんかっ」
美貴の体に凭れ掛かってきて、どんどんと肩を叩く。
「あたしのことっ、みきたんは、そんな風に思ってたんだ?みきたんのこと、利用してる、って!」
「…え?ち、違うの…?…よっちゃんのこと、好きなんじゃないの?」
「うぅー…みきたん、ばかじゃないの?そりゃ、好きは好きだけど…憧れの人っていうか…。あたしからすれば芸能人みたいな人だよ、吉澤先輩って」
「うそぉ……だっていつもあんなに顔赤くして…」
「だって中学の頃からファンだったもん、いきなり話なんかできるわけない。緊張するもん…」
- 65 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:08
- すうっと息を吸い込んで、亜弥ちゃんは美貴にぎゅっと抱きついた。
「あたしが好きなのは、みきたんだもん」
「……へっ?」
いま、なんて言った?
「吉澤先輩とも、他の友達とも違う意味で、だよ?みきたんだけが…あたしの特別なんだよ?」
頭の中で、亜弥ちゃんの言葉が響いていた。
…あたしが好きなのは、みきたんだもん…
「う、嘘だっ」
「こんなことで嘘なんかつかないもん。みきたんほんとに気づかなかったの?」
「……………」
「はぁ…結構わかりやすくアピールしてたのになぁ」
いや、だってさ。あまりにもストレートすぎて逆にそう思えなかったよ。
それによっちゃんの前でのあの態度。…勘違いもする。
でもそうやって、美貴はひどい勘違いをしていたんだ。勝手に思い込んでいたんだ。
それなのに美貴は亜弥ちゃんになんてひどいことを。
…どうして間違えたりしたんだろう。
今思えば、彼女の行動をそのまま受け止めていればよかっただけなのに。
ひねくれものの美貴は、彼女の素直な行動をそのまま理解することができなかった。
亜弥ちゃんはいつだって、まっすぐに想いをぶつけてくれていたのに。
- 66 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:08
- 「ごめん…美貴、ひどいこと言った」
「…ほんと、すっごい傷付いた。責任とって」
抱きつく腕はそのままに、顔だけ上げて亜弥ちゃんは美貴を睨んだ。
「せ、責任って…」
「これからずっと、あたしと一緒にいてくれればいい」
「…ずっと、一緒?」
そんなの今までとあまり変わらないんじゃあ…。
「…やっぱりみきたんは、なにもわかってないね。その顔、全然理解してないもん」
「な…なにさぁ、わかってるもん。今までどおり、一緒にいればいいんでしょ?」
「やっぱりわかってないじゃん!意味が違うの、意味が!」
「……はぁ」
何を言ってるんだろう、と思った。
亜弥ちゃんはそんな美貴を見て、ため息をついた。
それから、顔が近づいてきて。
亜弥ちゃんの息が耳元にかかって、くすぐったい。
「……これからは、恋人として一緒にいて欲しいの」
その言葉とともに耳に残された柔らかい感触。
亜弥ちゃんが美貴の真っ赤になった顔を見て、悪戯っ子のように笑った。
- 67 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:09
-
- 68 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:09
- その日の帰り道。離れたくなくて、いつもよりゆっくり歩く。
柔らかく絡まりあった指は、昨日までとは違う意味を持っている。
「実はみきたんのことも中学の頃から知ってたんだ」
「えぇっ?そうなの?」
「…中3の頃、吉澤先輩目当てで高等部の体育館によく通ってたんだよね、あたし」
「……ああ、そういえば中等部の子とかも結構いたもんなぁ。全員よっちゃん目当てだし」
ちょっとむかついて、そっぽを向く。
「みきたんってほんと可愛い。嫉妬なんかしちゃって」
ほっぺにちゅっとキスをされる。
…だあっ!なにすんの、誰が見てるかわかんないでしょ!
言わないけど。だって…嬉しいって気持ちの方が勝ってるもん。
「それでね、そうやって通ってるうちに目つきの悪い女の子を発見したの」
「…あのぉ…それって…まさか」
「もちろん、みきたん。すっごい怖い人だなぁって思ってたの。でもそうやって怖がりながらもちらちら見てるうちに、みきたんが笑ったんだよね。…もぉその顔が普段からは想像つかないくらい可愛くて。……一目惚れだったかも」
にゃはは、と照れくさそうに笑う亜弥ちゃん。
美貴もつられて顔が赤くなった。…一目惚れされてたんだ、美貴。
- 69 名前:Love 投稿日:2004/09/24(金) 15:12
- 「だからねぇ、高等部上がってあんなことがあって、チャンス!って思った。学校で
みきたん見かけるたびに近寄っていって、一生懸命にお話して。みきたんがあたしに
初めて笑顔見せてくれたときは、あたし嬉しすぎて死んじゃうかと思ったもん」
「…そうなんだ…美貴、全然気づかなかったな…」
「そうだよ。これでもすごい必死だったんだからね?二つも先輩だし、あたしなんか
ただの子供にしか見えないんじゃないかとか、いつも悩んでた。それでもちょっとずつ
みきたんとの距離が縮まってきて、あたしのこと受け入れてくれてる、ってわかった。
でも告白なんかして、もし拒絶されたらどうしよう、って思ったら決定的なことは
あたし、何も言えなかったの」
亜弥ちゃんは立ち止まってくしゃっと笑った。
その頼りない笑顔を見たら切なくなって、思わず亜弥ちゃんを抱きしめた。
ほのかに甘い彼女特有の香りに身を任せながら、息を吸い込んで、ゆっくり吐き出す。
遠慮がちに背中に回された腕に胸が締め付けられるような気持ちがした。
「…そんなの、美貴だって一緒だよ。亜弥ちゃんはよっちゃんのこと好きだと思ってたし、
告白なんかできないって思ってた。嫉妬して、でも行動に出せなくて。…臆病者なんだよ」
「でもそんなみきたんも好きだよ?嫉妬してくれるってことは、それだけあたしを好きって
ことでしょ?……あっ!!」
いい雰囲気だったのもおかまいなしの、突然の大声。
あわよくばキスを、なんてシチュエーションだったのに…。
すっかり気分が削がれて、亜弥ちゃんから体を離して一人で歩き出した。
- 70 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:13
- 「ちょっと待ってよみきたん。ねぇ、すっごく大事なことに気づいたんだけど?」
「なにさぁ」
とことこ後ろをついてくる足跡を聞きながら相槌を打つ。
「みきたん、あたしに好きって言ってくれてない!!」
「…え?そうだっけ?」
「言ってない!なんか、そうだと思いこんでた…。ねぇ、みきたんはあたしを好きでしょ?」
腕をつかまれて、必死の表情で美貴を問い詰める亜弥ちゃんは少し怖くもあった。
改めてそういうことを言われると、どうにも照れ屋な美貴は何も言えなくて。
ごまかしごまかし亜弥ちゃんを引っ張って駅までの道を急いだ。
駅に着いてから「じゃあね」と言うと、不敵な笑みを浮かべる亜弥ちゃん。
「…みきたん、明日から三連休だよね」
「あ」
「今日、泊まりに行くから。そのときに絶対聞かせてもらうよ!じゃあまたね!」
「ちょっと、亜弥ちゃ…」
反論する隙を与えられないまま、亜弥ちゃんは駅に飛び込んで行った。
「…やっべ」
これはたぶん、美貴が好きだというまでしつこく食いついてくる気だろう。
今夜は眠らせてもらえないかもしれない。
「……………ま、いっか」
今まで言えなかった分、素直に気持ちを伝えてみよう。
それで亜弥ちゃんが喜んでくれるなら。
- 71 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:14
- 連休が明けたら、バレー部に顔を出してみようか。
きっとよっちゃんも後輩も待ってくれているはずだから。
亜弥ちゃんと一緒なら美貴は強くなれる。
意地を張るのはもうやめよう。
もう、誰も悲しませたくはないから。
- 72 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:15
-
- 73 名前:Love is blind 投稿日:2004/09/24(金) 15:15
-
- 74 名前:大塚 投稿日:2004/09/24(金) 15:16
- 更新終了です。
- 75 名前:大塚 投稿日:2004/09/24(金) 15:22
- えーっと、前スレ387の名無飼育さん、どうでしたか?
遅くなって申し訳ないです。
>>50名無し読者さん
ほんとですか、ありがとうございます。
これからも頑張りますよ〜。
>>51右京さん
そんな大それたものじゃないですよ、褒めすぎですw
これからも妄想力に磨きをかけつつ頑張ろうと思います。
それにしても…あやみきゴトが……はぁ…。
動く二人を久しぶりに見れると思ったんですけどねぇ。
世の中はなかなか厳しいです。頑張ります。
- 76 名前:大塚 投稿日:2004/09/24(金) 15:29
- それと>>69は誤爆です、すいません。
よくわかりませんが、焦ってたみたいです。
次の更新はできれば今月中にしたいと思ってます。
でも更新しなかったときに責めないで下さい(汗
それにしても…あ〜…あやみきゴト…。
しつこくてすいません。この悔しさをバネに妄想文書きますw
- 77 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/09/24(金) 19:57
- 更新お疲れ様です。
こちらとしましては、あやみきゴト中止で受けた大ダメージがこの小説で少し癒されましたよ。
次の話も楽しみに待ってます。
- 78 名前:◆MgNoBoRU 投稿日:2004/09/26(日) 03:38
- きっと地上波では流せない内容だったんだよ
今までのふたりごとの組み合わせと次元が違うと解釈し自分に言い聞かせたw
- 79 名前:右京 投稿日:2004/09/26(日) 23:36
- 更新お疲れ様です。
ポジティブシンキングにさせる松浦さんの行動は素晴しいですね。
毎度毎度のあやみきラブラブっぷり、ごちそう様です(笑
妄想文の量産化、期待大ですねっ!
- 80 名前:大塚 投稿日:2004/09/29(水) 04:09
- 更新します。
前スレ388さんのリクです。
最初に謝っておきますがなぜかエロになりました(エッ
苦手な方はスルーの方向でお願いします。
- 81 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:10
-
- 82 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:10
- みきたんはあたしにメロメロ。めちゃくちゃ激甘。
すごく優しいし、大抵の我侭は聞いてくれる。
まさに目の中に入れても痛くないほどあたしを可愛がってくれる。
でもあたしが間違ったことをすると、二つ年上のお姉さんな彼女はきちんと叱ってくれる。
甘いだけじゃなくて、ダメなものはダメってちゃんと教えてくれる人。
とは言うものの、みきたんはあたしに甘い以上に自分も甘えん坊。
そんな彼女はあたし以外の人の前では、すごくクール。
みきたんは、あたしのことが好きで好きでしょうがないのです。
え?なんでそんな自信満々に言えるのかって?
そんなの当たり前じゃん。みきたんのことなら何でもわかるよ。
もうかれこれ18年の付き合いなんだから。
特別みきたんがわかりやすい、ってことも言える気がしないでもないけど…。
あたしの大事な幼なじみ。それがみきたん。
- 83 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:10
-
- 84 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:11
- 「みきたぁん、ちょっといい?」
連絡もせずに突然彼女の部屋に押しかけた。
でも別に珍しいことじゃない。
藤本家と松浦家の境界線はあってないようなものだ。
あたしとみきたんは、いつも互いの家を自由に行き来している。
「んー、どしたの?」
みきたんも特に驚きもせず、パソコンの前に座っていた手を止めあたしを見る。
普段はあまり掛けない眼鏡姿にちょっとときめいたりして。
でも前髪はちょんまげみたいにゴムで結ってるけど。でもそんなとこも可愛い。
長く一緒にいても好きな気持ちは成長し続けている。
こんなふうにときめいたりするし。
うん、あたしたち、まだまだ新鮮さは失われてないね。
妙なことに一人で頷きながらみきたんに近寄る。
「だってヒマだったから、みきたん何してるかなぁと思って」
「あー今ちょっと…ゼミのレポートやってたとこ」
「ふぅん…」
ゼミとか言われても、大学のことはあまりよくわからない。
こんなあたしでも一応受験生だったりするんだけど。
でもいくら我侭なあたしでも、とりあえず邪魔しちゃいけないってことはわかる。
あーあ…みきたんにかまってもらいたかったのになぁ。
- 85 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:11
- 「忙しそうだから、あたし帰るね。ごめん邪魔して」
「えっ、もうちょいで終わるとこだし、ちょっと待っててよ」
「…邪魔じゃないの?」
「邪魔なわけないじゃん。亜弥ちゃんいる方が頑張れるし。なんつって」
恥ずかしそうに頭を掻いて、「さぁやるかぁ〜」とあまり気合の入っていない声を出す。
ちょっとだけ見える耳が赤くなっている。
…照れるくらいなら言わなきゃいいのに。でも嬉しかったからいいや。
あたしは本棚からマンガ本を何冊か借りて、パソコンの隣に置いてあるソファに腰掛けた。
カタカタとパソコンのキーボードを叩く音が聞こえる。
連続的に聞こえて、ちょっと間があいて、また連続で聞こえて。
マンガ本を読んでいるふりをして、みきたんの顔を盗み見た。
なにか考えているのか、たまに目を細めて少し上の方を見ている顔が、知らない人の顔みたいで。
…そういえばみきたんが勉強してる様子を見るのって、あまりなかったかもしれない。
みきたんってこんな顔もするんだなぁ。
なんか意外な感じ。いつもくしゃっと笑った顔しか見てない気がするし。
パソコンやってるからだろうけど、珍しい眼鏡姿がすごく凛々しく見える。
しつこいようだけど、前髪はちょんまげなんだけどね。
- 86 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:12
- こうやってあたしに見られているとも知らず、みきたんは軽快にキーボードを叩き続ける。
あたしはドキドキしながらその様子を眺める。
あくまでも真剣にマンガ本を読んでいるかのように。
なかなかみきたんのこういう顔って見れないから、しっかり見ておこう。
あたしの前でいつも笑顔でいてくれるのは嬉しいけど、たまにはこんな顔も見てみたい。
……えっちな気分のときのみきたんは、真剣な顔してるけど。
そんなときのあたしは、猛獣と化したみきたんの相手をするだけでいっぱいいっぱい。
みきたんの顔観察なんかできる状態じゃないのです。
だってみきたん、人が変わったように意地悪になるから。
「…ちゃん?」
意地悪だけど、あんな真剣な目で見つめられたら、もうまともに考えられなくなる。
まるで姉妹のような幼なじみっていう関係が長かったから、まだそういうことするの慣れなくて。
でも好きな人に触れられるのは、すごく気持ちいいことだっていうのはわかってる。
みきたんに触られると、気持ちいいしすごく幸せな気持ちになる。
だから、イヤだと言いながらも結局受け入れてしまうのだった。
…やだ、あたしなに考えてるんだろう。
みきたんが悪いんだ。あんな、真剣な顔なんてするから…。
- 87 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:13
- 「亜弥ちゃんってば」
「ひゃっ!」
みきたんはいつのまにか隣に座ってあたしの顔を覗き込んでいた。
知らないうちにパソコンの電源もオフになっている。
眼鏡はそのままだったけど、可愛かったちょんまげはすでに解かれていた。
「何回も呼んだんだけど、反応しないし。それに顔赤いよ。熱でもあるんじゃない?」
「大丈夫、ちょっとぼーっとしてただけ…」
まさかみきたんとのえっちについて考えていました、なんて言えるわけがない。
そう考えたらますます顔に血が昇った気がした。
「ん〜でもちょっと赤すぎるだろう、これは」
ぴたっ、とおでことおでこがくっつく。
……う。
「あれ?なんかもっと熱くなった気が。ねぇ、ほんとに大丈夫?」
「だっだだだ大丈夫!!」
「全然大丈夫そうじゃないけど…」
お願いだから、おでこ離してよぉ…。
今のあたしにとって、この状況はちょっとマズイ。
いつもだったらこんなの平気なのに、むしろ自分からくっついていくのに…。
心臓バクバクしてる…あたし、動揺しすぎ。
みきたんはそんなあたしの目をじっと見つめて、小さく笑った。
- 88 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:15
- 「…亜弥ちゃんって、わかりやすいよね」
「なっ何が?!それはみきたんでしょっ?!」
「そうかなぁ。…ねぇ、何でそんなに動揺してるの?」
「えっ」
なんでって。き、聞かれても…困る。
「ま、いいけどさ……でもそんな目で見られたら、美貴困っちゃうなぁ」
みきたんの目が意地悪く光ったような気がした。
こういう目をあたしはよく知っている。
どうやらスイッチが入ってしまったようだ。それも、あたしのせいで。
「…亜弥ちゃん、えっちしたいんでしょ?」
「なっ…」
「顔に出てるもん。すっごいエロい顔してる」
親指で唇をなぞられ、そのままキスされる。
「んっ…」
「美貴以外に、そういう顔見せちゃダメだよ?」
すでに抵抗できない自分がいた。
「ふあっ……」
「亜弥ちゃん、可愛い…」
耳を唇や舌で愛撫されながら、ふわっと髪の毛に指を差し込まれ優しく撫でられる。
あんまりその手が優しくてあたしは切なくなる。
ドキドキする。あたし…こんなにもみきたんが好き。
「…ベッドいこ?」
あたしの了承も得ないまま、みきたんはあたしを抱きかかえてベッドに押し倒す。
ゆっくりとみきたんの顔が近づいてきて、顔中にキスをされる。
最初は力の入ったままだった体も、少しずつ解きほぐれていった。
- 89 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:15
- 「ああもう、眼鏡ジャマだし」
うっとおしそうに目を細めて、みきたんは眼鏡を外してベッドボードにおいた。
そんな姿にまでドキドキして目が離せなくなる。
「…キスしにくいからね」
そう言うなり、首に顔を埋めて喉元や首筋を舐められる。
「…はぁっ、…んんっ」
指を絡め取られて、深いキスをされる。
片方の手では微妙な力加減でおなかのあたりを撫でられる。
「ひゃっ…」
そっと目を開けてみると、そこにはやっぱりいつもと違うみきたんがいてドキッとする。
…みきたんって、えっちのときだけ強気なんだから。
「…やっ、ちょっと待って、みきたん」
「ダメ、美貴もう我慢できないもん」
「できないもんって……は、恥ずかしいよ…」
「大丈夫…美貴しか見てないから」
それが恥ずかしいって言ってるのに。
軽く下着の上から胸を揉まれたと思ったら、いつになく早く下着を外されて服も脱がされて。
抵抗するのも虚しく、あっという間に生まれたままの姿にされた。
「ん…やっ」
「ヤじゃないでしょ?こんな立ってるのに」
そっと見るとあたしの胸の頂きは唾液で厭らしく光っていて、もうすっかり立ち上がっている。
みきたんの言う通りだった。あたしは恥ずかしさで思わず目を瞑った。
- 90 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:16
- 「可愛いなぁ亜弥ちゃん…ほんと可愛い」
体にはもう力が入らなくて、あたしはすっかりみきたんの思うがままになっていた。
胸に顔を埋めるみきたんの頭を抱えて、もっともっととせがむように。
こんな自分が厭らしいと思うけれど、あたしももう我慢できなかった。
みきたんの手は焦らすように腰、太もものあたりを這い回って。
お願いみきたん。あたし…あたし、もう…。
「…みきたぁん……」
「ん…だいじょうぶ、ちゃんと気持ち良くするからね」
そして、中心を避けるように触れていた手を、あたしの熱い部分全体に当てるようにして触れた。
思った以上に潤っていたその部分を、手のひら全体で撫でられる。
「ふああっ!…やっ!いやぁっ!」
「すっごいよ亜弥ちゃん……こんなになっちゃって」
「…やだあっ……んあっ!」
蕾を指で弾かれて、ビリリとした快感が襲う。
「…まだまだ」
「え……あっ!」
みきたんはあたしの足の間に体をすっと移動させ、膝を掴んで左右に開いた。
すでに熱く潤っているソコは、突然の外気に当たってピクッと動いた。
「やだあ、みきたん…」
「亜弥ちゃんの体は嫌がってないみたいだよ?」
ずいっとソコに顔を近づけられて、じっくり見られる。
みきたんの熱い息がソコに当たって、あたしは思わず身を捩った。
- 91 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:19
- 「…ほら、すごい溢れてきてるじゃん。それに…ずっと奥まで見えちゃってるよ?」
「…やだよぅ…みきたん…」
「亜弥ちゃん、見られてるだけで感じるの?」
ぶんぶんと頭を振って、みきたんの視線に耐えようとする。
でもそんなのは到底無理な話で。
触れられているわけでもないのに、あたしは確かに感じていたから。
あたし、みきたんの視線に、犯されている。
そんな風に考えてさらに感じてしまった自分に驚く。
もう頭がおかしくなりそうだった。
体の中心がありえないくらいに熱く、熱くなってしまっていた。
「…もう限界みたいだから、早く楽にしてあげるね」
みきたんはそう呟いて、あたしの熱く疼く中心を見つめていた顔をその部分に埋めた。
わざと音をたててちゅっ、ちゅっと吸われて、あたしは狂ったように声を上げる。
舌で中まで侵入されたとき、耐えられずにみきたんの顔を押さえ込んだ。
「ふっ…ああっ…みきたぁん、みきたぁんっ…」
これ以上ないくらい、感じちゃってる。
そして意識を手離しそうになった時、みきたんの舌が突然離れた。
「…亜弥ちゃん、キスしよ」
「みきたん…?」
快感の波に漂いながら、焦点の合わない目でみきたんを捕えた。
あたしの汗で張り付いた前髪をかき上げて、おでこにキスを落とす。
そのまま下に小刻みにキスを繰り返して、唇に触れたときより深いものへと変わった。
- 92 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:20
- そんなキスのたびに、ずくん、と腰に響いてくる気持ち良さに少しだけ物足りなさを感じたとき。
ほったらかしになっていたあの部分を、みきたんの指で突然なぞられる。
「ああんっ…」
「亜弥ちゃん…挿れていい?」
耳元で囁くように、答えはわかりきっている質問をする。
やっぱりえっちのときのみきたんは、いつもの100倍意地悪だと思う。
「そんなの、わかる、でしょおっ…」
「亜弥ちゃんが言わなきゃしない」
「えっ……あっ、んあっ!」
「ねぇ、挿れて欲しくないの?」
答えられるわけない。そうやって、指で入り口を撫でられていたら。
「答えてよ、亜弥ちゃん」
でも、言わなきゃずっとこんな、中途半端なままで。
あたしはほんとに限界だった。理性を失いかけるくらいに。
「…い、…挿れ、て…」
「……やっぱ可愛いなぁ、亜弥ちゃんは…」
嬉しそうにみきたんはそう呟き、撫でていた指を一転して中に突き立てる。
十分に濡れそぼっていたそこには、なんの抵抗もなく入っていった。
「ふあっ、ああっ!」
舌で探られていた時より、ずっと奥にまで指は届いて。
厭らしい音が聞こえてくることを気にするよりも、快感が勝っていた。
頭の中が真っ白になる寸前、みきたんがあたしの体に寄り添った。
「亜弥…」
呼び捨てにされたのは初めてで。それが気持ち良さに拍車をかけることになった。
そしてついに耐えきれなくなって、あたしは意識を手離したのだった。
- 93 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:21
-
- 94 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:22
- 次第に呼吸が落ち着いてきて、目を開けた。
みきたんに抱きしめられてベッドに寝そべっている事に気づく。
「…みきたん」
「あ、亜弥ちゃん…へへ」
…なにこの笑顔、だらけきってる!あまりにも無防備すぎる!でも…可愛い。
あ、違う違う。そうじゃなかった。
ふにゃふにゃな笑顔を見て、つい言いたいことを忘れそうになる。
「みきたん…あのね」
「なに?」
こめかみ辺りにちゅ、と何回かキスされる。…どうしよう、流されそう。
もうちょっと余韻に浸っているのも悪くないかな、と思った。
「…大好き」
「へへっ…美貴も大好きだよ?」
言おうとしていた言葉をすり替える。
スイッチが入ったのはみきたんだけじゃなく、あたしもだったわけで…。
結局みきたんに甘えながらしばらく過ごしていた。
- 95 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:25
- でもようやく冷静になったところで切り出した。「アンタそのS加減を何とかしろ」と。
キッと睨みながらそう言うと、みきたんはひどく怯えたように身を竦めた。
…さっきまでとは、まるで別人だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「わかればいいの。もうしないでね?あたしあんなのヤだもん」
「…えっと、それは…どうだろねぇ」
「なんで?!いま謝ったじゃん!」
「だってさぁ、亜弥ちゃん可愛すぎなんだもん」
顔を赤らめてぼそぼそと小さく呟く。
「可愛いのは知ってるよ。だからってあんな…その、意地悪なことする理由になるの?」
「そ、そうだよね…でもさ…亜弥ちゃんは半端なく可愛いんだよ。美貴が理性失っちゃうくらい。
だから悪いのは亜弥ちゃん……いたっ、ごめんなさい悪いのは美貴です…た、叩かないでよ」
「……もういい、みきたんとはもう一生えっちしないことにした」
「ええっ?!うそ、無理無理無理無理!!」
「ちゅうもなしね。あたしは別に平気だから」
「またまた、そんなこと言って。あんな感じてたくせに……ごめんなさい、叩くのやめて下さい」
「……………」
「…あの、真剣にえっちはなしの方向?」
「……………」
「亜弥ちゃん…そしたら美貴、死んじゃうかもしんない…」
頼りなさげに眉尻を下げる様子を見て心が揺らいだ。
でもだめ。ここは強気でいかなきゃ。強気で…強気、で…。
「…ちゅうだけは許す」
「亜弥ちゃん、ラブッ!!」
がばっと抱きつかれ、また押し倒されるかっこになってしまった。
「このアホ犬っ!!離れろっ!!」
「…く〜ん」
- 96 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:26
-
- 97 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:27
- みきたんはあたしにメロメロ。めちゃくちゃ激甘。
すごく優しいし、大抵の我侭は聞いてくれる。
まさに目の中に入れても痛くないほどあたしを可愛がってくれる。
でもあたしが間違ったことをすると、二つ年上のお姉さんな彼女はきちんと叱ってくれる。
甘いだけじゃなくて、ダメなものはダメってちゃんと教えてくれる人。
とは言うものの、みきたんはあたしに甘い以上に自分も甘えん坊。
そんな彼女はあたし以外の人の前では、すごくクール。
みきたんは、あたしのことが好きで好きでしょうがないのです。
え?なんでそんな自信満々に言えるのかって?
そんなの当たり前じゃん。みきたんのことなら何でもわかるよ。
もうかれこれ18年の付き合いなんだから。
特別みきたんがわかりやすい、ってことも言える気がしないでもないけど…。
あたしの大事な幼なじみ。それがみきたん。
……付け足しがあった。
みきたんはアホでスケベでSで、ひっくるめればただの変態。
でも、それがあたしの大好きな人。
- 98 名前: 投稿日:2004/09/29(水) 04:27
-
- 99 名前:大塚 投稿日:2004/09/29(水) 04:28
- 更新終了です。
- 100 名前:大塚 投稿日:2004/09/29(水) 04:37
- 前スレ388さん、どうでしたか?
リクの内容はこんなんじゃなかったですよね。
すいません…なんか暴走してしまいました。
>>77名無し飼育さん
あんなんで補えきれたでしょうか?
事実は小説より奇なり、とはよくいいますからねぇw
>>78◆MgNoBoRUさん
ああ、そういうふうに思えば納得できますねw
確かにそうだ…放送できるわけがないですよね。
だって二人は夫婦だし。新婚さんだし。あんなことやこんなこと…w
>>79右京さん
期待大ですか、…これはご期待に応えられたのでしょうか。
すいません、ほんとすいません。
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2004/09/29(水) 07:54
- 何これ。めちゃくちゃおもしろい。
藤本さんの通常時とエロモード時とのギャップが激しさがイイ!
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 11:36
-
前のスレに387のリクした物です
本とにありがとうございました!!
ヤキモチを妬くミキティーがすごく可愛いかったです!!
もう大満足でした!!大塚さんの書く小説は
見ている内に引き込まれてしまいますねv
お礼が遅れてしまって申し訳ありませんでした!!
最後に……アヤミキ最高っっ!!!!
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 13:29
- はぁぁぁぁ。たまらないですね…。
いつも楽しく読ませて頂いております。
大塚さんの描くあやみきは本当に最高です。どのシチュエーションもツボです。
亜弥ちゃんにだけヘタレなみきたんっていうのがリアルっぽくて
いいんですよねぇ。。。
- 104 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 15:01
- 前スレ388です。
もう大満足です。ありがとうございました。
やっぱりこの二人の関係はいいですねえ。
またいつかこの二人の話が読めたらいいな・・・なんて。
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/29(水) 19:35
- エロキタ━━(゚∀゚)━━ !!
- 106 名前:ショッパ黒猫 投稿日:2004/10/05(火) 10:43
-
更新お疲れ様です。初めまして大塚さん。
これは眼鏡フェチの黒猫の為の設定ですか?w
なんとも、こう…
エロ━━(゚∀゚)━━良い!
有難う御座いました。
- 107 名前:大塚 投稿日:2004/10/07(木) 04:07
- 変な時間ですが更新です。
- 108 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:12
- 亜弥ちゃん、デートしよっかぁ。
ええ?ほんとに?どしたのみきたん。何か悪いもんでも食べた?おなか痛い?
なんだそれ。別に行きたくないならいいけど…。
そんなこと言ってない!デートしたいぃぃ!行こう!デートしに行こう!
はいはい、じゃあ早く準備して。
みきたん待って待って、すぐ準備するから!
こんなやりとりがあったのはつい三十分ほど前。
今は駅までの道を二人でゆらゆらと歩いている途中。
みきたんどうしたんだろうなぁ。
鼻歌なんか歌っちゃってゴキゲンだし。
「亜弥ちゃん、なんか笑い方おかしいけど大丈夫?」
「ん?なんか言った?」
「…いえ、何も」
あ〜もうにやけるのおさえらんない。
隣でみきたんがブツブツ何か言ってるけど聞こえない。
なんだかんだ言ってみきたん以上にあたしの方がゴキゲンなのです。
- 109 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:12
- いつもダラダラと部屋で過ごすことの多いあたしたち。
あたしはどっちかっていうと外に出かけるほうが好きなんだけど。
みきたんの「え〜めんどくさい」の一言でいつもあたしの提案は却下される。
彼女は「それより亜弥ちゃん、膝枕して」なんて言って、あたしはそれを断れなくて。
「しょうがないなぁ」なんて言いながら、彼女の言う事を聞いてあげている。
確かにお出かけしたいけどね、あたしはみきたんには逆らえないから。
だってみきたんってすごい可愛いじゃん?
あのちっちゃい顔とか柔らかい髪とかちょっとつりあがった目とか、もうたまんないの。
みきたんの全部があたしの好みのど真ん中!って感じで。
あの顔、あの声、あの体でお願いされたら何言われても断れません。
本人にそういう自覚がないのがまた厄介。
みきたんって素で甘えん坊なんだもん。
うまいこと操られてる気がしないでもないけど、別にいいの。
だってみきたんが甘えるのはあたしだけだってことは変えようもない事実だし。
- 110 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:13
- 学校の友達は「藤本先輩ってクールでかっこいいよね〜」なんて言うけど。
ていうかあたしも昔はよくそんなことキャーキャー言っていた。
でも彼女と付き合うようになってからは、それが自分の思い込みだったってよくわかった。
確かに見てくれはちょっと怖いかもしれないけど、とんでもない。
あたしがいっぱい甘える気でいたのに、むしろあたしが甘えられてるし。
だからあたしはみんなが騒いでいるのを聞くたび笑いを堪えるのに必死になる。
この人のどこがクールだって?あぁ、二人っきりのときの姿を見せてあげたい。
みんな誤解してると思うんだけどね、くっついてくるのだっていつもみきたんからなんだよ。
なんかキャラ的にあたしが甘えキャラみたいに言われてるけど、その真逆です。
…どうせ誰も信じないんだろうなぁ。
だって確かに学校での彼女の姿は、クールビューティー?って感じだし。
みんな騙されてる…あたしもその中の一人だったけど。
- 111 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:13
- 「亜弥ちゃん、駅着いたよ。どうした?ぼ〜っとしちゃって」
「へ?あ、大丈夫大丈夫。それよりみきたん、今日は何するの?」
街までの切符を買おうと一歩踏み出したあたしと、立ち止まったままのみきたん。
「ん?どしたの?」
「さて、どこ行こっかぁ」
「うん、そうだね〜…って、ええっ?!街じゃないの?!」
「え?街?」
「だってもう三時になるよ?街じゃないならどこ行くの?!」
予想外の言葉に目を見開いてみきたんを見るあたしと、何でもないような顔をしているみきたん。
「えーだって街はいつでも行けるじゃん」
「いつでもって、みきたんめったに出かけようとしないじゃん!」
「うっ…いや、その…」
あたしが問いつめると、バツの悪そうな顔をして目線をそらした。
「いつも言ってるじゃん!めんどくさいから行かないって!!」
「…ごめんなさいまったくその通りです」
ぺこぺこ頭を下げるのはいいけど、ほんとにそう思ってるのか。
- 112 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:13
- ほんとにこの人は、稀にみるめんどくさがりな人なのだ。
こないだだって「服は欲しいけど、それよりは寝たい」なんてぬかしやがるもんだから。
結局あたしが無理矢理連れて行って、みきたんに似合う可愛い服を見つけてあげた。
でも家にいるときは常にジャージ姿で、外出を極端にめんどくさがる彼女。
そんな彼女にはあたしが見立てた服を着る機会なんてなかった。
それがめずらしくみきたんがお出かけするなんて言い出して。
あたしは嬉しくて出かける前に彼女にその新しい服に着替えてもらったのだ。
みきたんにもおしゃれさせて、あたしだって久しぶりのデートだから気合い入れて可愛くした。
だからあたしはてっきり街に出て買い物したり、映画見たりとか。
それかおしゃれなカフェとかに連れて行ってくれるものだとばかり思っていたのに。
でもよく考えたらめったに外出をしない彼女がそんな場所を知っているわけがなかった。
- 113 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:14
- 「…じゃあどこに行くって言うの」
「なんていうか…美貴はもっとこう…普段行かないようなとこ行きたいなぁ、と」
「…例えば?」
「え?…え〜と…ん〜と…」
ちょっとくらい考えとけよ!というつっこみはおさえて、彼女の言葉を待った。
だるい・眠い・めんどくさいが口癖の恋人の相手をするには、気が長くなきゃだめなのだ。
ああ、なんかあたし、おっきぃ子供の世話してるお母さんみたい。
「……あ、そうだ!」
「なに、どこ?」
あたしの問いには答えずに、みきたんは駅員さんと何やら話をしに行った。
帰ってくると手には二枚の切符が。
「うん、よし!切符も買ったし、亜弥ちゃん行くよ!」
「えっ、ちょっとみきたん?うわっ」
あたしの問いに答えずに、彼女はすばやくあたしの腕を引っ張って走り出した。
訳がわからないままのあたしを引き連れて、ホームに停車していた電車に乗り込む。
- 114 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:14
- すると落ち着く間もなく電車が発車する。
「あーよかった、間に合った」
呆然としているあたしを差し置いて、いつの間にかどかっと座席に座っているみきたんに
気づき、止まっていた思考が再び動き出す。
「…ちょっ、ちょっとみきたん、いきなり何なの?!」
街とは反対の方向に進んでいるようだ…どこに向かってるんだろう。
「亜弥ちゃんとりあえず座ったら?」
「ん?…あ、そうだね」
立ちっぱなしだったことに気づき、言われるがままに大人しく座った。
向かい側ではなく、もちろん彼女の隣に。
そしてそれは正解だったようで。
みきたんは嬉しそうにあたしの手を握って、にひひっと笑った。
うっ…そんな無邪気に笑われると…困る。
あたしより年上のくせに、なんでこんなに可愛いんだろう。
- 115 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:15
- …けど、そんなのに誤魔化されないよ。
理性が軽く吹き飛びそうになりながらも何とか抑える。
「みきたん、一体どういうつもりなの?どこ行く気?」
「まぁいーからいーから、それよか亜弥ちゃん肩貸して」
そう言ってみきたんはあたしの肩に頭を乗せて目を閉じた。
「寝るつもり?」
「ん〜ちょっとだけだって。着いたら起こして」
「あたし目的地知らないんですけど」
「ん?…大丈夫、大丈夫…」
なにが大丈夫なんだろう…。
早くも寝息をたて始めたみきたんを横目に思った。
電車はいわゆる鈍行列車で、それが益々不安感を募らせた。
どこに向かってるんだろう。なんかあたし達の他に乗ってる人が見当たらないんだけど。
…みきたん、一体何考えてるんだろう……。
目的地も教えずに着いたら起こしてなんて、意味がわからない。
この人以外にこんなお願いを一体誰がするだろうか。
- 116 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:15
- でも、みきたんはこういう人なんだ。
本当にやりたいことがあったら、普段からは考えられないような行動力を見せる。
それがあまりにも突拍子過ぎるのが問題。
いつもあんなだるそうにしてるくせに…この行動力が常にあればいいのに。
そのうちあたしは、考えてもしょうがないという結論に達した。
景色を見るのもよかったけど、それより大好きなみきたんの観察を始めた。
まつげ長いなぁ…あたしには負けるけど。
そういえばみきたんって首も長いんだよね。
これだけは…悔しいけど負けてる…。
あっ、口開いちゃってるし。
よだれ垂れたらあたしの肩につくじゃん。
むにっと指ではさんで閉じてみたけど、すぐ開いた。
何回やっても結果は同じ。みきたんは寝息を立てて寝たまま。
「…もぉどうでもいいや」
よだれでもなんでも垂らせばいいじゃん。
今日のあたしってなんか…みきたんに振り回されてる気がする…。
じろっと睨む。何なの、あたしのことほっといて寝ちゃってさ。
つまんないんだってば。アホみきたん。アホアホ。
そのまま何をするわけでもなくずっとみきたんの顔を見ていた。
自分の顔を眺めるのが一番だけど、みきたんの顔だってずっと見てても飽きないもん。
ときどきちょっとした悪戯をしながら、みきたんの顔を眺めてきた。
そうしている間にも電車はどんどん進んで行く。
- 117 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:16
- 「ん……」
急に眩しい、と感じて目を細く開ける。いつの間にか寝ていたらしい。
窓の外を見ると夕焼けが広がっていた。
「おはよ」
「…う?…みきたん?」
声のする方を見ると、みきたんが優しい笑顔であたしを見ていた。
先程までとは立場が変わって、今度はあたしがみきたんの肩に頭を預けていたようだ。
「あ…ごめん」
「いいよ、別に。てか何めずらしく気使ってんの?らしくないね〜」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。
いつもなら髪の毛ぐっちゃぐちゃになる!って怒るところなんだけど。
ま、ちょっと照れ隠しもあるんだけどね。
今はなんかすごく気持ちよかったから、そのまま体を預けていた。
せっかく起きたのにまた眠くなってくる。みきたんがすごく優しく頭を撫で続けているから。
ふにゃふにゃになったあたしが意識を手離しそうになった頃、その手の動きが急に止まった。
そして頭からこめかみ、頬、あごへと手を滑らせるように移動して、くいっとあごが上げられた。
「……!」
「へへ、いただき」
くちびるに、あたたかい感触が残っている。
- 118 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:17
- 「…誰か見てたらどうすんの」
「大丈夫。この車両、美貴と亜弥ちゃんしかいないもん」
「だからって……っもう、バカ」
「えーバカはひどいんじゃないの〜。だってさ、亜弥ちゃんが悪いんだよ」
「なにそれ?なんであたしが?!」
「だって眠そうな亜弥ちゃん可愛すぎなんだもん。我慢できなかったの」
「なっ……」
「もーそういう顔しないでよ、我慢できないって……あ、もっかいすればいいんだ」
「へっ?」
状況判断できないまま、みきたんの顔が迫ってくる。
えっ?えっ?ちょっと、ま、待ってよ!!
「んっ……ちょっ……」
「黙って」
「………」
「………」
「…………ごちそうさま」
「……やっぱバカ。バカたん」
「亜弥ちゃんとちゅうできるんなら、バカで結構です」
この人ほんとにバカ。バカで………愛しい。
まぁそれはおいといて。なんか忘れてるような?
みきたんを見ると無駄にニコニコしてるし。
こりゃダメだ、と思って窓の外を見る。さっきと変わらず夕日が目に入った。
すごいきれいな夕焼け。こんなオレンジなの、久しぶりに見たなぁ。
- 119 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:17
- 「……あ!!」
「ん?どーしたの?」
「みきたん、ここドコ?もしかして二人で寝てたから、乗り過ごしちゃった?」
出発したのが確か三時過ぎくらい。
携帯を見ると、すでに五時近く…五時?
ご、五時って!そのあいだずっと電車乗ってたってこと?!
ありえない、ここどこなのみきたん!!
「どうしよう、どっかで降りて…それから…」
「亜弥ちゃん亜弥ちゃん、落ち着いて。大丈夫、次の駅だよ」
「えっ、次の駅?ほんとに?なんでこんな遠いとこに…」
「着けばわかるよ」
みきたんは意味ありげに笑った。
その顔がちょっと気になったけど、大人しく待つとしよう。
よくわからないけれど、やけに自信満々だし。
窓の外の街並みには全く見覚えがなく、ほんとに遠くにきたんだなぁとぼんやり思った。
- 120 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:17
- それから五分後に着いた駅から見えた、目の前に広がる景色。
キラキラと夕日が光って見えるのは。
「…あれ…みきたん、あれって海だよね?」
「そうだよ」
「ほんと?!すごーい、海見るのなんて何年ぶりだろ…」
「せっかくだしもっと近くで見ようか?」
「近くでって言っても…いいの、ここで降りても?」
「だってここが目的地だもん。ほら早く行くよ」
「え?!」
みきたんは来たときと同じようにあたしの腕を引っ張って連れて行く。
あたしはなんだかよくわからないまま、されるがままになっていた。
今日はみきたんに振り回されてばっかり。
そして目の前には広い広い海が広がっていた。
「すごいっしょ」
「うん…きれい」
「突然思いついてさ。あ、海行きたいかも、って。…あと亜弥ちゃんも喜ぶかなぁ、なんて」
「…まさか海に連れてきてくれるなんて思わなかった」
「いや〜かなり強引だったけどね」
夕焼けに眩しそうに目を細めるみきたん。
少し照れたように笑うみきたん。
実は海よりもそっちが気になって、ドキドキしてたなんて絶対言えない。
- 121 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:18
- でもみきたんはずるいよ。いつもめんどくさいから出かけないなんて言ってさ。
たまにこんなことあると…悔しいけど、すっごい嬉しいじゃんか…。
それからしばらく無言で海を眺めていた。波の音が耳に優しく聞こえてくる。
すぐそばにいるみきたんの温もりが、すごく心地良かった。
「ちょっと寒いね」
「だね。よく考えたらもう10月だもん」
「…もっとくっついてもいい?」
「ん」
誰もいないのをいいことに、ぎゅうっと腕にしがみついた。
みきたんの目が細められてあたしを見つめる。
「今日の亜弥ちゃん、いつもと違う」
「…そうかな?」
「うん、なんか…素直で可愛い」
「可愛いのはいつもですぅ」
「あはっ。そうだった」
ちょっと恥ずかしくて照れ隠ししちゃったりして。
ぷいっと横を向いて、みきたんから離れる。
本気で逃げたわけじゃないから、すぐにつかまる。
後ろから抱き付いてくれてよかった。だってあたし、たぶん顔赤いし。
でもみきたんはそれ以上なにも言わず、あたしもなにも言わなかった。
二人でくっついて、お互いの温もりを感じていた。
オレンジから真っ赤な色に変わった夕日が、そろそろ沈もうとしていた。
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 04:20
- 「ところで亜弥ちゃん」
「んー?」
「……ごめんなさい」
「何が?」
「…次の電車に乗らないと家に帰れないんだよね」
「えっ?来たばっかりなのに?!」
「ごめん、でも次を逃すともう電車ないから、野宿とかするはめに…」
「……………帰ろっか?」
「………うん、ごめん…………」
しょんぼりと肩を下ろすその姿が、叱られた子犬みたいで。
別に怒ってないのに。…可愛いなぁ。
思わず笑って、みきたんの手をひいて駅まで歩いて行った。
「来年の夏とか、また来ようね」
「…うん」
「もー、いじけないでよ、年上のくせに」
「だってさぁ、亜弥ちゃんにもうちょっと海見せたかった…」
「でもみきたん、あたし嬉しかったよ?」
「んー…」
むうっと口をとがらせて、子供みたい。
「ばーか」とひとこと言ってキスしてやった。
すっかり日が沈んで辺りは暗い。
赤くなった顔が見られなくてよかった、と思った。
横目でさりげなく見ると、みきたんは笑っていた。…単純。
でも、好き。
- 123 名前: 投稿日:2004/10/07(木) 04:20
-
- 124 名前:大塚 投稿日:2004/10/07(木) 04:21
- 終了です。
…最後の最後でやってしまった。
- 125 名前:大塚 投稿日:2004/10/07(木) 04:30
- >>101名無し読者さん
やっぱりヘタレ万歳ってことでw
>>102名無飼育さん
いえいえ。納得していただいたようで、なによりです。
……あやみき最高!!
>>103名無飼育さん
ヘタレな上に甘えん坊な藤本さんが大好きですw
>>104名無飼育さん
また気が向いたら書くかもしれません。
…あまり期待はしないで下さい(ニガワラ
>>105名無飼育さん
エロカイチャッタ━━━(゚∀゚)━━━!!
>>106ショッパ黒猫さん
どうも初めまして。こんなところまでどうもです。
め…眼鏡フェチキタ━━━(゚∀゚)━━━!!
- 126 名前:大塚 投稿日:2004/10/07(木) 04:34
- エロ書くと食いつきいいんだなぁ…。
ひねくれ者なのでしばらくエロは書かないことにしました(ワラ
次の更新こそは前スレで頂いた最後のリクの更新をします。
少々のお時間を下さい。それではまた。
- 127 名前:名無し読者 投稿日:2004/10/07(木) 07:46
- 甘えんぼみきたんキャワです!
最後のリク更新お待ちしております。
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/07(木) 16:07
- ヤタ−!!更新来てた!!
甘えん坊なのはむしろみきたんの方なんですねぇ(笑
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/08(金) 00:20
- はぁ〜ん。ヤラレタ・・・。
甘えん坊みきたん最高です。リアルっぽい(笑)
- 130 名前:右京 投稿日:2004/10/09(土) 18:44
- スイーツ並の甘い短編、ご馳走様でした。
行動を起こす理由が単純過ぎて笑ってしまいましたよ。
次回も楽しみにしておりまーす。
- 131 名前:◆MgNoBoRU 投稿日:2004/10/13(水) 01:26
- サイクルの早い更新乙!
ふたりごとDVDで来年頭にでるらしいよ
やっぱガチだってw
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/26(火) 19:55
- 更新お疲れさまでした。
こんの甘えん坊が!!とw
次回も待ってます。頑張って下さい。
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/23(火) 12:19
- ずっと待ってますよ!がんばってください!!
- 134 名前:名無し読者 投稿日:2004/12/04(土) 14:18
- お忙しいのでしょうか…?
更新待ってます!
- 135 名前:名無し読者 投稿日:2004/12/04(土) 14:18
- お忙しいのでしょうか…?
更新待ってます!
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/11(土) 19:01
- 今までの全部読みました。
ヘタレの藤本さんがたまらなくイイですっ!!
更新待ってマース!
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 19:23
- 今日初めてスレを見つけ、一気に読ませていただきました。
どの作品もとても面白くて、現在テスト期間中で、明日もテストがあるということを忘れて読みふけってしまいましたw
作者さんのせいですよw
今日読んだ分際ですが、作者さんを応援しています。
頑張って下さい。
- 138 名前:大塚 投稿日:2004/12/26(日) 01:29
- 最初に謝らせて下さい。
前スレで五個目のリクを下さった方、申し訳ありません。
何ヶ月も待たせてしまったあげく、結局書けませんでした。
その代わりになるかどうか微妙ですが。
新作、更新します。
- 139 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:31
- 入学式。いくら式だとはいっても、新入生がどうしても気になる上級生達。
男女ともに新入生チェックは怠らない。あの子がかわいいとか、かっこいいとか。
美貴も同じ高校に入学した彼女を一目見ようと視線をそちらに向けていた。
ところが目ざとくも向こうが先に美貴を見つけたようで、美貴を見て手を振っていた。
でもそれも一瞬の事で、彼女はすぐに前に進んで行った。
…それにしてもよく見つけたなぁ、美貴のこと。さすが亜弥ちゃん。
感心しつつ、前を向く。亜弥以外に興味はない。
すると隣に座っていた同じクラスの男子に、「いま手振ってた子と知り合い?」と聞かれた。
特に深く考えず、彼女は松浦亜弥といって美貴とは幼馴染だと説明した。
それ以外にも色々聞かれたけど、めんどくさかったから適当に答えておいた。
それからの毎日がどうなるのかも知らずに。
- 140 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:32
-
- 141 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:32
- いつもより少し長めのSHRが終わった。
荷物をカバンにしまい、帰る準備をする。教科書はもちろん机の中へ入れっぱなしだった。
廊下を見ると、窓から少し顔を覗かせた亜弥が見えた。
クラスメイトとの会話もそこそこに、まっすぐ彼女のもとへ向かう。
亜弥が入学してからすでに一ヶ月くらいが経っている。
「せっかく一緒の高校受かったんだから」と亜弥が言うので、一緒に登下校していた。
まぁ家が隣同士だし、それ以前に亜弥の頼みごとなら何でも聞くのは美貴には当然のことで。
「お待たせ」
ドアの前に凭れ掛かっていた亜弥に声をかける。
口の端だけを上げて笑うと、美貴の腕に自分の腕を絡ませ歩き始めた。
「あれ、そういえばみきたん今週掃除当番じゃなかった?」
「ん?…そうだっけ?」
「昨日、だるそうに教室の掃除してた」
「…気のせい、気のせい。いいから早く帰ろうよ」
「いや気のせいじゃないから、あたし終わるの待ってたじゃん」
さぼっちゃだめだよ、とあまり怖くない顔で言われる。
そんなこと言われてもなぁ。掃除とかいいから、早く帰りたいんだって。
とりあえずは学校を出たい。今すぐに。
……亜弥ちゃんは気付かないのだろうか?
至るところから送られてくる、熱い視線に。
- 142 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:33
- たった一ヶ月。それなのに、彼女の名前は学校中に知れ渡っていた。
同級生だけでなく、先輩からも交際を申し込まれる日々。
亜弥が普通以上に可愛くてモテる部類に入るということを、美貴はこのとき初めて認識した。
それまではお隣の松浦さんちの亜弥ちゃんという認識だけだったのに。
いや、もちろん可愛いのは知ってたけど、これほどとは。
それに幼馴染だと言ったせいか、美貴に亜弥との仲を取り持ってくれという人も多い。
亜弥ちゃんと付き合おうだなんて、身の程を知れよお前ら。
たぶん、みんな鏡見たことないんだろうな。
考えてみれば今まで亜弥からそういう色恋沙汰は一切聞いたことがない。
中学は公立だったし、同じ小学校の生徒がそのまま持ち上がりで進学する形で。
小学校から顔見知りの男連中からすれば、どうやら松浦亜弥イコール猿っぽいという認識らしく。
美貴の知ってる限りでは、彼女に言い寄ってくるような男はいなかった。
でも、高校では彼女を「猿っぽい」といってバカにするような男子もいない。
代わりに「可愛い」といってちやほやするような人ばっかりだ。
しかも亜弥はどうやら男だけじゃなく、女の子にも人気があるらしい。
…女子高でもないのに。ここは普通に共学だ。
でも自分もそういう風に騒がれる立場であることを、美貴は気づかないふりをしていた。
だって、そういうのはめんどくさい。できれば関わりたくない。
- 143 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:33
- なんとかごまかして、亜弥を連れて学校を出た。
でもこうやって二人で帰っている間も、熱い視線は送られてくる。
中には同じ学校ってだけで親しげに話し掛けてくる奴もいて相当うざい。
美貴があからさまに嫌そうな顔をしていると、すぐにいなくなるけど。
しかし中にはしつこい奴もいて…。
「じゃあね、みきたん。着替えたら行くから〜!」
「はいはい」
家の前で別れて、亜弥が無事に家の中に入るのを見届ける。
それからさりげなく周りを見渡す。……あ、いたいた。ずっと着いて来てたもん。
同じ学校の制服を着た生徒が一名、こちらの様子を窺っている。
「……ったく、すっかりストーカーじゃんかよ…」
標的は美貴ではない。亜弥だ。
一息つくと、いっきに走ってそいつのところまで行く。
相手は美貴の突然の行動に逃げる事も出来ずに、固まっていた。
- 144 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:33
- ネクタイが緑色…亜弥と同じ一年生。今日は男の子か、よかった。
今までの経験からいくと、女の子の方がタチ悪いのが多いんだよね。
彼のこれからの運命を思うと少し可哀相だけど、それも亜弥のためだ。
「ねぇ、ちょっといい?時間はそんなにかかんないから…」
余所行きの笑顔でそう言うと、彼は何か勘違いしたのか、顔を真っ赤にした。
…まぁねぇ、美貴も亜弥ちゃんほどじゃないけど、わりと人気あるみたいだし。
ま、とりあえず「話し合い」しないとね。
真っ赤な顔をしたままの彼を人気の無い所へと連れて行く。
そして……数分後。
彼は美貴に泣きながら謝まり、土下座するという状態になっていた。
「すいません、僕が間違ってました…!」
「いいのいいの、わかってくれれば。それじゃあねぇ〜ばいばーい」
「は、はいっ!ほんとすいませんでした!失礼します!」
彼はそう言って、猛スピードで走り去って行った。
うん、ほんと、ものわかりがよくて大変よろしい。二度と亜弥ちゃんには近づかないように。
近づいたらどうなるかわかってくれたみたいだから、そういうことはないだろうけど。
- 145 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:34
- 携帯で時間を見る。さて、亜弥ちゃんがそろそろ来るから帰ろうか。
一仕事終えた美貴は、軽い足取りで家に帰った。
部屋に入って一息つくと亜弥が「みきたーん」と言って、ドアを開けた。
美貴は自分でも気づかないくらい自然に微笑んでいて、亜弥を迎え入れる。
すぐに感じるのは抱きついてくる亜弥の柔らかい感触。
それからおでこをくっ付けて笑いあって、その姿はまるで恋人同士のよう。
小さい頃からこういったスキンシップは当たり前で、何も考えずにそうしていた。
それが昔から変わらない二人の日常だった。
そうやっていつものようにふざけ合いながら、ふとある考えが頭をよぎっていた。
もし…もしもだけど、亜弥に恋人ができたら自分達はどうなるだろう?
このままで、変わらないでいられるわけがないだろう。
そんなのは絶対に嫌だ。だってこの状態はすごく居心地がいいのだ。
亜弥のそばが、一番自分らしくいられる。
- 146 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:37
- 「みきたんなに難しい顔してるのぉ?」
「…や、別に何でもないよ」
亜弥に指摘されて、硬くなっていた表情を意識的に和らげる。
…もう、考えるのやめよ。
考えても答えの出ないことを考えるのは嫌いだ。
どうせなら楽しいことだけ考えていたい。
それにしても亜弥に近づいてくる男(あるいは女)は、どうにも気に入らない。
だってそいつらは亜弥の何を知ってるというのだ。
どうせ容姿だけで寄って来てるに違いない。
そんな奴らを亜弥に近づけさせるわけにはいかない。
亜弥のことを一番よくわかっている自分が認めた相手じゃないと絶対ダメだ。
無邪気に甘える亜弥を微笑ましく思いながら、美貴はそう考えていた。
- 147 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:37
-
- 148 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:38
- 一週間の初め、月曜日。時間の流れが妙に遅く感じる。
やっとのことで三時間目が終わって、休み時間になった。
紺野あさ美はある思いを抱きながら、中学からの親友である亜弥の元へと向かった。
「あの…亜弥ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに紺ちゃん?」
人が話し掛けているというのに、その視線はずっと自身が写っている鏡へと向けられている。
たまにはこっちを見て欲しい。一人で話してるみたいで、悲しくなるから。
「…藤本先輩のことなんだけどさ」
「みきたんがどうかしたの?」
藤本先輩の名前を出したとたん、こっちを凝視してくる。
さっきまでこっちを見る気配すらなかったのに。…わかりやすいというか、なんというか。
「なんか…変な噂あってさ、亜弥ちゃんなら本当かどうかわかるかなと思って」
「なになになになに?」
「いや、ただの噂だと思うんだけど…なんか、最近先輩が後輩をシメまくってるって」
「……みきたんが?」
彼女は何それ、と言わんばかりに眉をひそめた。
- 149 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:38
- 「あの、でもね、三年生でもそういう目に合ってる人がいるらしくて…。後輩をシメる、
っていうのはわかるけど、普通は同級生相手にそんなことしないよね?」
「……みきたんは暴力なんかふるわないもん」
「へ?」
「紺ちゃんだってみきたんのこと知ってるでしょ?そんなのデマだよ」
彼女はそれだけ言うと、再び視線を鏡の中の自分へと戻した。
「や、あの…亜弥ちゃん?」
「…………」
だめだ。怒っちゃった。まだ続きあったんだけどな…。
シメてる、っていってもなぜかそうされるのを喜んでる人達もいるらしいのだ。
先輩にシメられて喜ぶ後輩なんて初めて聞いたから、真相を知りたかったのに。
しかし亜弥はもうその話はする気がないらしい。
…こんな調子じゃ、亜弥ちゃんは知らないだろうなぁ。
中学時代の藤本先輩の、伝説の数々を。
例えば、自転車の三人乗りをして校庭を走ってみたり。
生徒指導のめちゃくちゃ厳しい先生のイスに超強力な接着剤を塗ってみたり。
消火器の中身をぶちまけてみたり。しばらく学校の中が臭くてしょうがなかった。
(ちなみにどの場合も吉澤先輩に全ての責任を押し付けて先生が来る前に逃げていた)
- 150 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:38
- ……なんか悪いのかどうかよくわからないことばっかりのような気もするけど……。
しかし、彼女は成績もよく教師陣にはすこぶる評判が良かった。
本当の姿は生徒だけが知っている。でもそれを誰も表立って口にすることはなかった。
だってそんなことしたら、平穏な学生生活を送ることが出来なくなってしまうから。
本当かどうかはわからないけど、いわゆる不良と呼ばれる人達を仕切っていたという噂もあったし。
自分自身は亜弥の友達ということもあってか、非常に優しくしてもらった。
その笑顔の裏側では一体何を考えていたのだろう。
…う〜ん、よくわかんないけど、やっぱり恐いからへたに追及するのはもうやめよう。
とりあえず被害は自分にはないんだし、いいじゃないか。
あさ美は無理矢理そう納得すると、次に昼ごはんのことについて考え始めた。
今日は確かかぼちゃの煮付けが入ってたはず……楽しみだなぁ。
昼休みまであと一時間授業がある。
もたないかもしれない。お腹を押さえながらそう思った。
- 151 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:38
-
- 152 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:39
- 一方、亜弥はあさ美の言葉は、微塵も信じていなかった。
亜弥にとっては自分から見た美貴が全てであり、他人の口から聞かされることなんて信じないのだ。
そんな下らない噂話よりも、自分がいかに可愛いか鏡を眺める事の方が大事だった。
時計を見ると、もうすぐ4時間目が始まるところだった。
鏡をしまって教科書やノートを机から出す。すると、一緒に白い封筒が出てきた。
あ…そういえば…この存在、忘れてた。
登校したときに、自分の下駄箱に入っていた手紙。
いまどきラブレターというのも古い手だと思うが、もらった数は数え切れない。
名前を見るが…わからない。先輩だということだけはわかった。
授業中こっそり読んだその内容は、昼休みに屋上に来てくれというものだった。
…正直、めんどくさい。だって、どうせ断るのに。
そりゃ人に好きになってもらえるのは嬉しいけど…。
同じクラスの同級生ならまだしも、先輩達はあたしの中身なんて知らないはず。
話したこともないのに、どうして人を好きになれるの?
そんなのって、本当の気持ちじゃないと思う。
- 153 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:39
- 周りの子達の話題も恋愛のことばっか。
誰々がかっこいい、かわいいなんて、そんなのどうでもいい。
だって世界で一番可愛いのはあたしだし、一番かっこよくて可愛いのはみきたんだもん。
あたしやみきたん以上に魅力的な人なんているんだろうか。
そう考えると、恋人なんていらないな、と亜弥は思う。
なぜなら、亜弥にとって必要なのは美貴だけで、美貴だけが特別な存在。
血は繋がっていないが、亜弥にとっては本当の姉のような人。
そこにいて当たり前で、空気のような。美貴は亜弥にとってそんな存在だった。
…みきたん以上に大事に思える人なんて、現れるのかなぁ。
授業の内容は今の亜弥の頭には全く入ってきていない。
考えているのは、美貴のことだけだった。
- 154 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:40
-
- 155 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2004/12/26(日) 01:41
-
- 156 名前:大塚 投稿日:2004/12/26(日) 01:42
- 今日はここまで。まだ続きます。
- 157 名前:大塚 投稿日:2004/12/26(日) 01:49
- たくさんのレスありがとうございます。
二ヶ月以上も放置プレイしてすいませんでしたorz
これからも更新は遅いと思いますが頑張ります。
ちなみに今回の話は前スレ「Life without love is meaningless」の
二人がまだ付き合ってない頃の話になります。馴れ初め的なものです。
大したことない話になると思います。すいません。
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/26(日) 02:50
- やったー馴れ初めだー!
このお話の二人はほんとにいい味出してますね。
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/26(日) 17:46
- おお、お待ちしていました。
このお話は大好きだったので、楽しみにしています。
- 160 名前:右京 投稿日:2005/01/04(火) 22:09
- あけましておめでとうございます。
自然なキャラ配置にはいつも感服しておりますが
今回も個性が光る感じで、続きを楽しみにしております。
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/13(木) 06:41
- このシリーズ、ほんとにほんとに好きです。
二人のお互いへの『愛』がなんとも言えないです。
続き、楽しみに待ってます!!
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/17(月) 00:38
- まだかな〜・・・。
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/23(水) 20:50
- 作者さん、お忙しいのでしょうか・・・??
すんごいすんごい待ってます。
がんばってください!!!
- 164 名前:大塚 投稿日:2005/02/26(土) 05:20
- えっと、藤本さん20歳の誕生日おめでとうございます。
今年も松浦さんと仲良くして下さいね。
二人ともどんどん大人っぽくなってきて、女の子って怖いなと最近よく思います。
またもや放置プレイすいません。レス返しもまともにできなくてすいません。
リアルな話をすると就活の真っ最中でして…。ええ、ボク実は大学三年生なんです。
ということで、なかなか更新のための時間が取れません。
時間はかかると思いますが必ず更新しますので、お待ち下さい。
- 165 名前:大塚 投稿日:2005/03/03(木) 03:40
- 思い切って文章校正しないまま更新。
誤字脱字などありましたら脳内変換でお願いします。
- 166 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:41
-
- 167 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:41
- 放課後の教室にはいつもの顔ぶれが揃っていた。
幼稚園から友人関係を続けている、真希とひとみ、美貴の三人。
梨華だけは部活のためいなかった。テニス部で意外にも部長なんかをやっていたりする。
高校生活最後の大会に向けて相当力が入っているようだ。
幼稚園の頃から高校までずっと一緒の三人。
今さら話すようなことがあるのかと言えばそこはやはり女の子。
昨日のテレビや教師に対するグチなど、どうでもいいような話で盛り上がっていた。
するとなんの前触れもなく、眠っていた真希がむくっと起きる。
三人とも慣れたもので特に驚きもせず「おはよ」と口々に声を掛けた。
「んあー…おはよぉ」
クール。人を寄せ付けないようなオーラ。一匹狼。
真希に初めて会う人は、大抵そんな風な印象を持つようだ。
しかし、それに反して実際はなんともゆるい感じの性格の持ち主である真希。
そこがいいという下級生のファンは多かったが。あさ美も実はその内の一人だった。
- 168 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:42
- 「ごっちん、寝すぎだから。授業中も寝てるくせに」
「美貴、寝起きのごっちんにそんなツッコミ入れても無駄だから」
ひとみの言葉通り、美貴の言葉など耳に入っていない様子の真希だった。
案の定どこか一点を見つめたまま、美貴が頬を指でつついても何の反応も見せない。
「昔っから変わんないねーごっちんは」
「それはよっちゃんも一緒でしょ…ちょっとは女らしくなったら?」
「いや、美貴には言われたくないけど」
「ん?なんだって?」
「なんでもないです」
ひとみは怯えたように美貴を見ている。
周囲の期待通りに美しく成長したひとみだが、その振る舞いはお世辞でも女らしいとは言えない。
吉澤はそこが惜しいと、心から残念そうに言う男が多くいるのが現状だった。
しかしその見た目と中身のギャップにやられてしまった女子は多い。
どこがいいのかさっぱりわからない、と美貴は常々思っていたが。
- 169 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:42
- 「…あれ?梨華ちゃんは?」
「さっき部活だから、って行っちゃったじゃん」
「んー?そういやそうかも」
「ごっちん寝ぼけてんじゃん」
「そんなことないさー」
そういう目はとろんとしていて、まるで説得力がない。
んんっ、と伸びをした姿は猫のようだ。
それから数秒間体を伸ばしたあと、携帯を見て「もうこんな時間?」と呟いた。
「二人とも帰らないの?」
「いや…ごっちん寝てたし…」
「そんなん起こせばいいじゃんか」
もっともなことを言われて美貴は口篭る。
…別に、帰ってもいいんだけどさ…。
目の前ではひとみがにやにやしている。それを見て美貴は心の中で舌打ちをした。
美貴はひとみが考えている事が手に取るようにわかっていた。
そしてそれは美貴にとってはあまり都合がいいものではなかった。
- 170 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:42
- 「ごっちん、どうせヒマでしょ?」
「どうせって何よ…まぁヒマですけど」
「じゃあもうちょい付き合ってあげようよ」
「え?誰に?」
美貴は変わらずにやけているひとみと目が合う。
…何を言うつもりだ、この男女は。
「美貴だよ、美貴。なぁ?」
「なぁって…別になんもないけど…」
「別にってことないっしょ。愛しの亜弥ちゃん待ってるくせに☆」
「…語尾に星をつけるな。てか愛しの、って何さ」
予想通りとはいえ、ひとみの口から出た言葉に動揺する。
最近はこんな風にからかわれることが多い。
いつもなら文句の一つでも言い返すのだが、今はそうはいかない。
なぜならひとみは、亜弥に言い寄る男女を阻止するための協力者でもあったからだ。
- 171 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:43
- 亜弥は入学当初、テニス部には入部していなかった。
それが梨華の強烈な勧誘に折れる形で、つい先日入部したのだ。
中学の頃、テニス部で梨華に世話になった亜弥としては断りきれなかったようだ。
そして亜弥が部活をやるようになってからというもの、亜弥に言い寄る輩は倍増した。
美貴一人だけの力ではそれを阻止するのが難しくなってきたのだ。
また女の子相手だと、美貴よりもひとみの方が後腐れなく事が進むのも事実だった。
女の子受けのいい友達を持っていて本当に良かったと美貴は思うのだった。
しかし美貴の亜弥に対するその行動が、ひとみに変な誤解を与えたようで。
ひとみは亜弥に言い寄る男女を阻止するのは、美貴が亜弥のことを「好きだから」だと思っている。
そういうんじゃないんだと何回言っても「わかってるって」と軽くかわされるだけで。
美貴はそのたびに「いやわかってないから」と突っ込むのだった。
- 172 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:44
- 「やだなぁ〜照れちゃって!」
「いやだから…」
「いいのいいの、わかってるから!…あ、そろそろテニス部終わるんじゃない?」
やはり誤解しているひとみに眉をしかめながらも、美貴は校庭の端の方を見る。
確かに部活は終わりそうだった。
実際、亜弥を待っているというのは本当だった。
だけどひとみにあんな風に言われたため、なんとなく言い出しにくい。
自慢じゃないがあまり素直な性格ではないのだ。
ガラッと教室のドアが開けられると同時に、教室の電気が点けられる。
びっくりしたような顔で立っていたのは、ジャージ姿の梨華だった。
- 173 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:44
- 「…びっくりしたぁ。何やってんの、電気も点けないで」
「いやあたしは寝てたんだけど…梨華ちゃんこそ部活は?」
「部活はさっき終わったとこ。私はちょっと忘れ物取りにね」
「…ああ、これだべ?携帯」
ひとみがピンク色のそれを梨華に投げてやる。
それをしっかりキャッチしながら、梨華は不思議そうに首をかしげた。
「…よっすぃなんで私が携帯忘れたって知ってんの?」
「だって机の上に置きっぱなんだもん。盗られたらどうすんの、あぶねーな」
「うん…ありがと、よっすぃ」
「…や…別にいいけど、そんくらい」
さっきまで美貴をからかっていた人物とは思えないほど、物静かなひとみ。
そしていつもキャッキャとうるさい梨華も微妙な表情で黙り込んでいる。
最近はこういうことが多くて、美貴と真希は顔を見合わせて困ったような表情になった。
「えっと…梨華ちゃんも部活終わったみたいだし、そろそろ帰ろうか?」
意外にもこういう雰囲気が苦手な真希がそう提案すると、それぞれ「そうだね」と頷く。
- 174 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:45
- 前を真希と梨華の二人が歩いていて、その後ろをひとみと美貴が歩いていた。
なんとなく無言のまま歩いているとひとみがぽつりと洩らした。
「…美貴ってさ、松浦のこと好きなんだよね?」
いつものからかうような口調じゃなくて、真剣なトーンで尋ねられ、思わず背筋を伸ばす。
「そりゃ…好きは好きだけどさ」
「それって…どういう意味で?」
「…どういうって?」
「友達としてとか、色々あるじゃん」
美貴はなぜひとみが急に真剣な様子でそんなことを聞くのか、その真意を図りかねた。
だから、無難な答えを返すことにした。無難と言っても、実際にそう思っていることを。
「…妹みたいな感じかな」
「本当に?」
立ち止まって射抜くような目で見てくるひとみ。
- 175 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:46
- 「嘘なんかついてどうすんのよ」
「だって、美貴って松浦のこと好きでしょ?」
「だからそう言ってんじゃん」
「そうじゃなくて。恋人にしたい、って意味で」
「……はぁ?」
「違うの?」
「いや…だって…ありえないよ」
ありえない。亜弥は妹であり、親友であり、幼馴染であった。それだけだ。
「ありえないって言ってるけどさ、じゃあなんで松浦に言い寄る奴らの邪魔すんの」
「…だって、それは…どいつもこいつも、亜弥ちゃんのことわかってないのに近づいてくるから」
「でもそれを美貴が邪魔する権利なんてなくない?」
「……それ、は……そうだけど」
「選ぶのは松浦じゃん?…つってもあたしもそれに協力しちゃったりしてるけどさ」
「………………」
「あたしも松浦のことは昔っから知ってるし、妹みたいなもんだからさ、あんま変な野郎には
渡したくないとは思うけどさ。…美貴の行動は、ちょっと度が過ぎてるっていうか」
- 176 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:47
- ひとみの言うことは正しい。確かにそんなことをする権利はないのだ。
だけど…自分以外の人間が亜弥と親密になるなんて、美貴には想像もできなかった。
自分の隣には亜弥がいるのが、当たり前だったから。
「松浦だって子供じゃないんだから、自分のことは自分で決めるよ」
「……そう…なんだよね」
そう言いつつも美貴は本当はわかっていた。
小さい頃みたいに、二人きりで、二人だけの世界にいられるわけがないのだ。
美貴には美貴の、亜弥には亜弥の世界がある。
そしてそれは、お互いに全てを共有することはできない。
自分が間違ったことをしているのは、考えないようにしていたがわかっていた。
- 177 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:48
- 「…つーか、ごめん!」
「え?なんでよっちゃんが謝るの?」
「いや…実は今の、美貴に対してっていうか、自分に対しての言葉でもあったんだよね」
「…どういうこと?」
「いやほんとごめん!あたしこんな偉そうに言える立場じゃないっての、はは!」
「…よっちゃん?どうしたの?」
「え?いやー…まぁなんというかですねぇ」
重い空気をかき消すように、ひとみがおちゃらけた声を出す。
反射的にひとみを見ると、その声の温度とは裏腹に、ひとみの表情は硬かった。
美貴がそのことに眉をひそめると、ひとみはため息をついて言葉を続けた。
「あのさ…あたし最近ヘンなんだよね」
「そんなの前からじゃん」
「ちゃかすなって」
「ごめん、つい」
「…で、話戻るけど。つーか話ってのはアイツのことなんだけどさ」
あごをくいっと動かして、前方を示す。
前には梨華と真希がいる。
- 178 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:48
- 「…梨華ちゃん?」
「ん?…んー…まぁそうなんだけど…」
「確かに、よっちゃん最近ヘンだよね。梨華ちゃんもだけど」
「…やっぱヘンかな」
「うん、さっきも思ったけど。なんなのこの微妙な空気、とか思って」
少し前のことを思い出して、顔をしかめた。
「なに?ケンカでもしてんの?」
「いや…そんなんじゃなくてさ…なんかさ…」
「ああもう、はっきりしないな!何あったのか言えばいいじゃん!」
いつになくはっきりしない物言いのひとみに、美貴は苛立ったように問い詰める。
先程ひとみに核心を突かれたことで、少々気が立っていた。
「…じゃ、言うけど……驚かない?」
「はいはい、いいから早く言って」
「うん…実は…こないだ、石川に勢いでキスしちゃってさ」
「ふーん…キス……はぁ?!…キ…!」
「うわあぁ、ちょっと、驚かないっていったじゃん!」
ひとみがあわてて美貴の口元を押さえる。
幸い前の二人は会話に夢中になっていて、こちらの様子には気づいていないようだった。
- 179 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:49
- 「…っぷは!ちょ、よっちゃん苦しいから!」
「あ、ごめん」
あまり悪いと思っていないような顔でひとみが謝る。
それに少しムッとしたが、文句を言うのはやめた。
自分のことをあまり語りたがらないひとみ。そのひとみが洩らした事実。
細かいことに怒ったりしている場合ではないと思った。
ひとみを見ると、泣きそうな顔で美貴を見ている。
いつでも自信たっぷりの笑顔は消え失せていた。
「…なんでまた、そんなことしちゃったの?」
「いや、それがさ…実はさ、見ちゃったんだ。あいつが、告られてるとこ」
「あー梨華ちゃんもモテるからね……それで?」
「うん、それでさ、ちょっとからかったわけよ。付き合っちゃえよぉ〜とか言って」
「ああ……」
その様子が容易く想像できて、ひとみに悪いと思いつつも思わず苦笑いをしてしまう。
幸いなことにひとみはそれには気づかず、その時の事を思い出しているのか興奮した様子だった。
- 180 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:49
- 「したらあいつ、いきなり『よっちゃんには関係ないじゃん』とか言ってキレてさ。
あたしもなんでキレられたのかわかんなくて、『なにキレてんだよ』って聞いたわけよ」
「はぁ…それで?」
「あいつあたしが聞いてんのに答えないの。ただ黙ってすっげぇ目であたしのこと睨んで。
それ見てあたし頭にきて…気づいたら一発かましてた。しかも結構…思いっきり」
ひとみはそこまで言い終わると、深い溜息をついた。
その顔を見て、美貴はひとみが心底そのことを悔やんでいることがわかった。
「…すぐ謝ったよ。あいつも許してくれたけど、やっぱり気まずいまんま」
「そっか…」
「で、最近ずっと考えてたことがあるんだ。あいつは不器用なヤツだからさ、あんな風に
ぎくしゃくするのはわかる。でもあたしはそういうの上手くごまかせるタイプじゃん?
自分でそういう風に言うのもどうかと思うけどさ」
「うん……まぁ、でも確かにそうかも」
本来お調子者のひとみは、自分の気持ちや感情を隠すのが上手い。
しかしそのくせ誰よりも繊細な心の持ち主であることを、美貴は長年の付き合いからわかっていた。
- 181 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:50
- 「それでさ、唐突に気付いちゃったんだけどさ」
「うん…?」
急にさっぱりしたような顔になって、ひとみは顔を上げた。
「なんであんな風にからかったのか。別に気づかないふりだってできたんだ。
でもそうしなかった。だって、嫌だったんだ」
「…なにが?」
「石か……梨華ちゃんが、あたし以外の誰かのことを考えている顔を見てるのが」
「え……」
「だから、わざとあんな風に言った。あたしのことも気にして欲しかったから。
あたしが…梨華ちゃんのことを、好きだから」
そう言うと、ひとみはまっすぐな瞳で、前を歩く梨華を見つめた。
今まで見たこともないようなひとみのその表情に、美貴は少したじろいだ。
急にひとみを遠くに感じたのだ。
悪友が自分だけ置いてけぼりにして、一人だけ大人になってしまったような、そんな感覚。
- 182 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:50
- 「びっくりした?」
「え?あ…そりゃ…びっくりもするよ」
「はは、だよね。てかあたしが一番びっくりしてんだけどね。まさか梨華ちゃん相手に
こんな気持ちになるなんてさ。色黒ブリッコのキショキャラを好きだったなんて」
「でも…好きなんでしょ?」
「うん、そうみたい。でもさ、美貴にだってわかると思う」
「は?梨華ちゃんの良さが?」
「いやいや、そうじゃなくて」
ひとみは苦笑いで首を振る。
「うちらさ、状況が似てるっつーか。…そう思わない?美貴があたしに協力までさせて
必死に松浦に誰も近づけさせない理由って…あたしと同じじゃないの?」
「……はぁっ?!なんでそうなるの?!」
「…さっきの話の続き。美貴が松浦に対してしていることは、たぶん正しいことじゃない。
それは全部松浦がどうするか決めることだから。でもそれは美貴だってわかってるでしょ?」
「う…うん」
- 183 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:51
- なんとなく、学校の先生に諭されているような気分になっていた。
正しいことを言われているとは思うが、心底それを納得することができない、そんな感じだった。
だからそれに反抗するような、そんな言葉が口をついて出た。
「間違ってるのかな、美貴のしてることは」
「うーんはっきり間違ってるとも言えないけど…一つだけはっきり言えることはある」
「一つだけ?」
「美貴が松浦のためにしていると思っていること…松浦に誰も寄せ付けなかったりするのはさ。
それは、松浦のためじゃなくて、自分のためにしてることなんだよ」
「……自分の、ため…」
「あたしにはそう見える。美貴が、自分のためにそうしてるように。…まぁこれはあたしの
勝手な考えだけどさ。…あそこにいるの、松浦じゃない?うちら来るの遅いから待って
たんじゃん?早く行ってやりな」
玄関に着くと、ひとみの言う通りに、ガラス戸の外に亜弥の姿が見えた。
先に外に出ていた真希と梨華の姿も見える。
- 184 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:52
- 「みきたん!」
ぼんやりと亜弥を見つめていた美貴に気づき、亜弥が嬉しそうに声を上げる。
子犬のように美貴の側に駆け寄って、きゅっと腕に抱きつく。
「…どうしたの?二人とも深刻な顔しちゃって?」
何も知らない亜弥は、不思議そうに二人の顔を交互に見やる。
「いや、別に。…美貴、たまには頭使ってよく考えてみ。めんどくさいとか言って諦めないでさ」
「えーなになにみきたん!なんのはなし?」
「え…いや…」
「松浦は相変わらず元気だなぁ。部活のあととは思えない」
「まぁね〜!あ、よっちゃん先輩でもいいから教えてよぉー」
「だーめ。あたしと美貴の秘密の話だから」
「えぇ〜!なにそれ!」
「ちょ、よっちゃん…まだ話終わってな…」
「もう言いたいことは言ったし。こっからはお互い自分だけで何とかするべ、ってことで」
ひとみはやけにさっぱりとした顔でそう言うと、梨華と真希の元へ走っていく。
梨華はぎこちない笑みを浮かべていたが、ひとみを嫌がっているようには見えなかった。
- 185 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:53
- …よく考えてみろ、か…。
自分の腕にしがみつき「みきたん秘密ってなにさ!」と口を尖らせる幼馴染。
「なんでもないよ」と微笑んで、頭を撫でてやると「…ならいいけど」とすました顔。
可愛いと思う。まるで本当の妹のような、でもやっぱり妹ではない年下の幼馴染。
幸せになって欲しいなぁなんて、まるで父親のようなことを思ったりもする。
でも亜弥の隣にいる『誰か』を想像することはできなかったし、したくなかった。
亜弥に恋人ができることは喜ばしいことだと思う一方で、その『誰か』を許せないとも思うのだ。
だってずっと一緒の時を過ごしてきた。
もしかしたら両親よりも一緒に過ごしていたかもしれない。
自分の中にある亜弥のスペースがその『誰か』によって少なくなったら、どう思うだろうか。
- 186 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:54
- 昔ちょっとした好奇心から、同級生の男と付き合ったことがあった。
でもすぐ別れた。自分の時間が少なくなって…必然的に、亜弥との時間も少なくなったからだ。
美貴にとって大事なのは亜弥で、それ以外のものが優先されたりするのはありえないこと。
でもそれは、自分だけの話。
亜弥がどう思っているかなんて、美貴には知る由もなかった。
もしかしたら好きな人がいるかもしれない。
もしかしたら自分のことをうっとおしく思っているかもしれない。
自分と二人だけの狭い世界から、もっと別の世界に行きたがっているかもしれない。
- 187 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:55
- …いくら考えても本当のことはわからなかった。
自分のことすらわからないのに、亜弥の考えていることをわかろうとする方が無理な話だ。
「みきたん?どうしたの?ぼーっとしちゃって」
亜弥が心配そうに自分を見つめていて、慌てて笑顔を顔に貼り付ける。
「や、大丈夫。ちょっと疲れただけ。亜弥ちゃんも疲れたでしょ?早く帰ろ」
「…ほんとに大丈夫?なんかみきたん変だよ?よっちゃんとなんかあったの?」
「ううん、よっちゃんは関係ないよ。いいから帰ろう。ほら」
手を差し出すと、当たり前のように繋がれる手。
その温もりを手のひらいっぱいに感じて、どうしてか切なくなった。
当たり前のように自分の隣にいて笑っている亜弥の存在。
いつもと変わらないその笑顔、手の温もり…。本当にそれは当たり前のこと?
- 188 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:56
- 頭の中では、ひとみの言葉を思い出していた。
―松浦のためじゃない、自分のため―
…その言葉は、見事に核心を突いていた。
だからこそ亜弥に甘えられようとも、美貴の胸中は穏やかではなかった。
こんな風に過ごせるのは、何も当たり前のことじゃない。
いつだって、簡単に消えてしまう可能性があるのだ。
それを嫌だと思った。このまま亜弥と一緒にいたいと思った。
その気持ちが何なのか…美貴にはわかりかけていた。
悔しいが、ひとみの言う通りだった。
だって、誰にも渡したくない。そんなの、想像するのも嫌だ。
ずっと自分の側にいて、自分のことだけ見ていて欲しい。
そんな風に思う気持ち。それは……。
亜弥のことを「好き」という気持ちだった。
- 189 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:56
-
- 190 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/03(木) 03:58
-
- 191 名前:大塚 投稿日:2005/03/03(木) 04:00
-
更新終了です。まだ続きます。
ダラダラ長くてすいません。更新遅くてすいません。
- 192 名前:大塚 投稿日:2005/03/03(木) 04:10
- >>158名無飼育さん
そんな風に言ってもらえると本当に嬉しいです。
今回はわりとシリアスな感じでしたがどうでしょうか?
>>159名無飼育さん
お待たせしました。本当にお待たせしました。
大好きだなんて、恐れ多いです。ありがとうございます。
>>160右京さん
マターリ過ぎな更新で申し訳ないです。
お互い頑張りましょう。月の方、さりげにチェックしてますよ(w
>>161名無飼育さん
ご期待に応えられるかどうか…精一杯がんばります。
>>162名無飼育さん
大変お待たせいたしました。ようやく更新できました。
>>163名無飼育さん
あわわわ、すんごいすんごい待たせてしまって申し訳ないです。
- 193 名前:大塚 投稿日:2005/03/03(木) 04:13
- 次回更新はやっぱり未定です。
でもなるべく早く更新したいです。就職もなるべく早く決めたいですorz
なんとなく晒し上げ。
- 194 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/03(木) 11:43
- 忙しい中、更新お疲れ様です。
期待しつつまったり続き待ってます。
就活頑張りましょう!…お互いorz
- 195 名前:右京 投稿日:2005/03/18(金) 03:15
- 色々と大変な中、更新お疲れ様です。
会話のテンポというか、こう、
頭の中でストーリーが展開できる感じ、素晴らしいです。
今後の関係・展開も気になりつつ、更新待っています。
というか、こちらもガッツリチェックしてますのでw
- 196 名前:大塚 投稿日:2005/03/19(土) 02:28
- さて、更新したいと思います。
今回も文章校正がちゃんとできていなくてすいません。
- 197 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:28
-
- 198 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:29
- いつも通りの時間に部活が終わり、帰る準備をしていた。
そこに梨華が真希を連れ立って歩く姿が目に入る。
あれ、真希ちゃん?なんでこんな時間に…あ、もしかして!
あることを思いつき、亜弥はまるで人が変わったかのように目に輝きが戻った。
そして部活での疲れを全く感じさせない勢いで二人の元へ走っていく。
「真希ちゃん!みきたんもいるの?!」
真希は亜弥の突然の登場に多少驚いた顔を見せた。
しかしすぐふにゃっと顔を崩すと、「うん、美貴もいるよ」と答える。
亜弥は満面の笑みを見せて、「早く着替えてこなきゃ!待っててね!」とその場を後にする。
残された二人は苦笑しながらその様子を眺めていた。
美貴がいるのが相当嬉しいことがその様子からは伝わってきた。
- 199 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:30
- 「ねぇ、まっつー偉いね。ちゃんと着替えてるんだ」
「でもいつもはジャージでそのまま帰ってるよ、亜弥ちゃん」
「え?そうなの?」
一応校則では、部活が終わったあとは制服に着替えて帰ると決められていた。
しかしそれをきちんと守っているような生徒はほとんどいない。
実際のところ、教師もほとんどそれを黙認していた。
なぜなら女子高生が暗い夜道を制服で帰るよりは、ジャージの方がはるかに安全だからだ。
梨華の言葉に、真希はちょっと考える素振りを見せる。
それからすぐに亜弥の行動の理由を思いついて苦笑した。
「まっつーが美貴と一緒に帰るのにジャージなんか着るわけないか」
「え?なんでよー」
「だってジャージ可愛くないもん。あの子、自分を可愛く見せるためには命かけてるからね」
「そうかなー。私のは可愛いでしょ?ピンクだし」
「…あたし梨華ちゃんのセンスはいまだによくわからないよ」
真希に哀れむような表情で見つめられても、梨華にはその理由がよくわからなかった。
- 200 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:30
-
- 201 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:31
- 二人がそんなことを言っている間に、亜弥は猛スピードで着替えを終えていた。
最後の仕上げに香水を軽く振りかける。高校の合格祝いに美貴がくれたものだった。
香水なんてつけたことがなかったから、少し大人になったようでドキドキしたことを覚えている。
さてと…髪型よし、制服の着崩し方よし、顔は…いつもよし。
部室にある姿見に自分を映しながら、一人でチェックを入れていると、肩をたたかれる。
振り向いた先にいたのは同じ学年でテニス部の高橋愛だった。
「なに?愛ちゃん」
「やけに気合入ってるじゃん?…もしかしてデート?誰よ相手」
「えぇ〜!やぁだ愛ちゃんたらー!そんなわけないじゃーん!」
「いだっ、ちょ、いたいって!」
恥ずかしそうに顔を赤らめて、亜弥は愛の背中をバシバシッと叩く。
「みきたんと一緒に帰るだけだし〜…まぁデート、と言えなくもないけどぉ」
「あ、藤本先輩ね…あの、わかっ、わかったから…ぐえっ!」
がしっと肩に腕を回され、愛の首は亜弥にぎゅっと締められる。
- 202 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:31
- 「そういえば一緒に帰るの久々じゃん!待っててくれたのかなぁ…いひ、うれしっ!」
「よ、よかったね…じゃ、あたし帰るから!藤本先輩によろしくね!」
愛は一瞬の隙をつくと、亜弥の腕からするりと抜ける。
早く逃げなければ。命が危ない。
「じゃ、じゃーね!」
「ばいばい愛ちゃーん」
亜弥はなぜか引きつった顔をしながら部室を後にした友人を見送り、首を傾げる。
「どうしたんだろ…愛ちゃん。なんか変だったなぁ」
不思議に思いながらも、亜弥自身もそのまま部室を後にした。
んー、早くみきたんに会いたいな。
最近みきたん疲れ気味で、あんまりあたしの相手してくれないんだもん。
なんでだろ?勉強してるわけでもなさそうだし…ま、いっか!
今日は思いっきり甘えちゃおーっと。えへ、楽しみ。
- 203 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:31
-
- 204 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:32
- 一方その頃の真希と梨華。
梨華のセンスについての話題も一段落したようだった。
「てかさ、よしこ達遅くない?」
「んー…そうだね」
ひとみの名前を出しただけで、梨華の様子は一変した。
下を向いて、落ち着かなさそうに指を弄んでいる。
あ、やば。そういえばこの二人…。
自分の何も考えていない発言を悔やみながら、真希は顔をしかめた。
最近ひとみと梨華の二人は様子がおかしい。
お互い避けているというわけではないが、明らかに前と空気が違う。
そんな二人のやり取りを目にするたびに、真希はどうしたものかと考えていた。
…うーん。ケンカってわけではなさそうだけど…。
さっきも一応会話してたし…だいぶぎこちなかったけど。
- 205 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:32
- 悶々とする真希の背後から、誰かが駆け寄ってくる。
振り向くとそこには亜弥がいた。
「まっつー。早かったね」
「うん、だってみきたんに早く会いたかったから!…あれ、みきたんは?」
「あぁ…まだ来てないよ。よしことバカ話でもして盛り上がってんじゃない」
「えぇー!せっかく急いで着替えたのにぃー」
「ま、そのうち来るでしょ……って、来たんじゃん?噂をすればなんとやら」
「えっ?あっほんとだ」
玄関の方を見ると、そこには美貴の姿。
亜弥は満面の笑みを浮かべ「みきたん!」と叫ぶと美貴の元へ走って行った。
美貴の腕にきゅっと抱きついた亜弥の姿は、まるで子犬のよう。
微笑ましいその様子に、真希は「ふふっ」と思わず笑みをこぼした。
そんな風に穏やかになった気持ちもつかの間だった。
亜弥のすぐそばにいるひとみの姿を見て、厄介な問題が残されていることを思い出したのだ。
- 206 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:33
- さりげなく梨華の様子を窺うと、意外にもまっすぐひとみを見つめていた。
「ねぇごっちん…」
「ん?」
「亜弥ちゃんってさ、素直で可愛いよね……ちょっと、羨ましいよ」
「…梨華ちゃん…」
何があったの、と続けようと思った言葉をそのまま飲み込む。
ひとみが美貴と亜弥に手を振って、こちらに走ってきたからだ。
いくらなんでも問題の当事者の前ではそんなことは聞けない。
それになんとなくだけど、梨華の言葉から二人の間の問題がわかった気がしたからだ。
「ごめん、待った?」
「ううん…全然」
妙にさっぱりした表情のひとみと、ぎこちないながらも笑顔の梨華。
でもやっぱりいつもの空気とは全然違う。息苦しい感じ。
この二人の間に入って帰らなければならないと思うと、真希は思わず溜息が出そうになった。
- 207 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:34
-
- 208 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:34
- 「みきたん?どうしたの?ぼーっとしちゃって」
やっぱりおかしい。心ここにあらず、という様子の美貴。
心配になって顔を覗き込むと、美貴は取ってつけたような笑顔を見せた。
亜弥はそれに少し傷付いたがそんな表情は見せなかった。
美貴の前では、常に笑っていたいのだ。
「や、大丈夫。ちょっと疲れただけ。亜弥ちゃんも疲れたでしょ?早く帰ろ」
「…ほんとに大丈夫?なんかみきたん変だよ?よっちゃんとなんかあったの?」
「ううん、よっちゃんは関係ないよ。いいから帰ろう。ほら」
…そんな顔でそんな風に言われても、全然説得力ないよ…。
さっきまでの嬉しくてしょうがなかった気持ちは、しゅんと小さくなった。
それでも差し出された美貴の左手につかまると少しだけ心が温かくなった。
こんな自分がちょっとだけ、バカみたいだと思った。
- 209 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:35
- どうでもいいようなことを話しながら、家までの道を二人で歩く。
本当に言いたいことは、言えないまま。
美貴は笑っている。けど亜弥にはそうは見えない。
もう美貴とは16年の付き合いにもなる。
それが作られた笑顔かどうかなんて、簡単に見破ることができた。
…みきたんがあたしに隠し事するなんて…初めてかも…。
でもその理由を聞いたところで、さっきのようにかわされて終わるだろう。
だから亜弥は悲しくてもそれを顔に出せなかった。美貴の前ではずっと笑っていたかった。
みきたんはいったい何を悩んでるの?
みきたんをそこまで悩ませるものって何?
それとも誰かのことを想って、そんな顔をしているの?
…みきたん、あたしには言えないの?
聞けない言葉は胸の奥でつかえたまま、亜弥にはただ笑うことしかできなかった。
- 210 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:35
-
- 211 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/03/19(土) 02:36
-
- 212 名前:大塚 投稿日:2005/03/19(土) 02:36
- 短いですが更新終了です。
- 213 名前:大塚 投稿日:2005/03/19(土) 02:43
- >>194名無飼育さん
就活、本当に頑張りましょう。辛いですけど。
思ったより早く更新できてよかったです。がんばります。
>>195右京さん
いやいや、そんな〜嬉しいじゃないですかチクショウ(w
あやみきのはずなのに、妙にいしよし臭が強いのは気のせいですから。ええ。
- 214 名前:大塚 投稿日:2005/03/19(土) 02:44
- 例によって次回更新は未定です。
予定は未定という言葉、大好きです。
- 215 名前:右京 投稿日:2005/03/23(水) 20:26
- 更新お疲れ様です。
そろそろ波がやってきそうな予感なので楽しみです。
予定は未定なようなので、マッタリお待ちしております(笑
- 216 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/24(木) 18:28
- もどかしい
この中に入ってすべての人の仲を取り持ってあげたいw
毎回楽しく読ませてもらってます
更新していただけるならいつでもOKです
マターリどうぞです
- 217 名前:大塚 投稿日:2005/05/13(金) 03:05
- 更新します
- 218 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:06
-
- 219 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:07
- 「じゃあ、また明日」
家の前に着くと美貴はそう言った。
亜弥はなんとなく、美貴に拒絶されているような気がしていた……はずなのだけれど。
「ええ?なんで?遊ぼうよ」
それはもう反射的に、亜弥の口からはそんな言葉が出る。
最近の自分の生活には美貴が足りていないのだ。
美貴とひとみが所属しているはずのバレー部と違い、テニス部は真面目に活動している。
練習には力が入っており、部活の時間も他の部活よりは少し長めだった。
そのため必然的に美貴と過ごす時間は少なくなっていた。
そうは言っても、登校するときは一緒。
しかし寝起きの悪い美貴とそれほど話が弾むわけもなく。
だからと言って昼休みに会いに行っても、なぜかいつも美貴の姿は見えなくて。
後で「どこに行ってたの」と聞いても、うまくごまかされてばかりだった。
美貴が自分に寄り付く悪い虫を追っ払っているなんてこと、亜弥は知るわけがない。
だから亜弥はそのことで美貴が自分から離れていってしまうような寂しさを感じていた。
けれどそのことについてはあまり考えないようにして、会えばいつも通りに接して。
- 220 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:07
- でも今日の美貴は明らかに様子がおかしい。今朝は普通だったはず…たぶん、だけど。
美貴の変化に亜弥は少なからず混乱していたし、どうして、という疑問も浮かんでいた。
やっぱり、なんかあったんだ…。
ついさっきの美貴を思い出す。
ひとみとやけに深刻な顔で話し込んでいた美貴。
何でもない、と言ってそれ以上聞かれるのを拒むような態度。
「亜弥ちゃん?どうした?」
急に黙りこくった亜弥を見て美貴が様子を窺うように声をかけた。
「…んー?なにが?」
「…いや、別に…」
心配そうに自分を見ている美貴。
その表情はいつもと変わらないはず。ずっと昔から見てきたはずの姿。
それなのにどうしてだろう。亜弥は美貴を遠くに感じた。
見慣れているはずの美貴なのに、美貴のことなら何でも知っているはずだったのに。
胸の奥が、ざわざわと騒ぎ始めた。
- 221 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:08
- 「…みきたんっ」
「わっ」
亜弥は無理矢理笑って、何もなかったかのように美貴にしがみついた。
そうすることで何もかも元通りになるような気がした。そう思いたかった。
甘えるように肩に顔を埋めて大好きな美貴のにおいを吸い込んだ。
そうすると、少しだけ安心した。
「あ、亜弥ちゃ…」
「…ご飯食べたらみきたんとこ行くから」
「…………」
「…だめ?」
美貴が黙ったままなことに不安になって顔を上げると、くしゃっと頭を撫でられる感触がした。
「何言ってんの、そんなわけないじゃん。待ってるからおいで」
「…じゃあ行く。先に寝ちゃだめだからね」
頭を撫でられていることで自然と視線は下に向けられていて、美貴の表情は見えなかった。
亜弥はあえてそのまま美貴の顔を見ないようにして自分の家の中へ入って行った。
- 222 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:08
-
- 223 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:09
- 「はぁ…」
亜弥は玄関のドアを閉めると、そのままドアに凭れかかった。
自分が気にしすぎなだけかもしれない。
美貴がなんでもないよ、と言うんだから本当にそうなのかもしれない。
だからこんな風に自分勝手に決めつけて考えるのは、美貴に対して悪い気がした。
「…よしっ」
ごちゃごちゃと頭の中を巡る何かを振り払うように、亜弥は顔を上げた。
なんであたし、こんな真剣に考えちゃってんだろ?
別にみきたんに変なところなんてない。変なのはこんな風に考えるあたしのほう。
だっていつも通り優しかったし、遊びに行ってもいいって言ってくれたし。
そうだ、みきたんは本当にただ疲れているだけなのかもしれない。
一応大学受験する気みたいだから、あたしが知らないだけで実は勉強しているのかも…。
それに、よっちゃんと話した後みきたんが悩んでいるように見えたのも…きっとあたしの思い込み。
だってもし本当に何か悩み事があるなら、みきたんがあたしに言わないはずないもん。
みきたんがあたしにそういう大事なことを言わないなんて…ありえないもんね。
うん、そうだよ…きっとそうだ…。
- 224 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:09
- そんな風に言い聞かせながら、無理矢理自分を納得させようとした。
でもやはりそれは無理矢理でしかなくて、亜弥の心を落ち着かせはしなかった。
ついさっきの美貴の顔を思い出した。
だけどそれは亜弥の知っている美貴の笑顔とは程遠い、力ない笑顔。
それがどうしても亜弥の頭から離れずに残っていた。
美貴には自分のことは何でも知って欲しいし、また自分も美貴のことは何でも知っていたかった。
昔はそれが成り立っていたし、そうあるのが当たり前だったけど、今は完璧にそうだとは言えない。
そのことに気づかないふりをするのは、そろそろ難しいことになっていた。
亜弥だってそこまで子供ではない。
だけどいつまでもこの状態が続くと信じたい気持ちも残っている。
それが無理だとはわかっていても、そう思わずにはいられなかった。
亜弥には美貴が必要で、この心地良い関係がいつか途切れてしまうと想像することさえ嫌だった。
- 225 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:10
- 「亜弥?帰ったんなら早く着替えてご飯食べなさい」
「あ、うん…ただいま」
「いつまでも玄関に立ちっぱなしで。なにしてんのよ」
娘の様子に訝しげな様子の母親の姿を見て、亜弥はハッと我に返る。
無理矢理な笑顔を作って「疲れたー」なんてわざとらしく言いながら靴を脱いだ。
そんな娘の様子に気づいても、亜弥の母親はあえて何も言わなかった。
亜弥くらいの年頃は何か悩み事があっても、親などに相談しないことはわかっている。
昔は子育てについて悩み、美貴の母親に何度となく助けを求めた時期もあった亜弥の母親。
今ではそんな過去を感じさせないほど、立派に三人の娘の母親となっていた。
何か悩み事を抱えているらしい娘を見つめながら、亜弥の母親はふんわりと笑う。
そしてそのまま自分の部屋へと駆け上っていく娘の後姿を見送ってリビングに戻った。
そこには亜弥の妹達と、自身の夫がテレビにて野球観戦をしている最中であった。
- 226 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:11
- 「お前なに一人で笑ってんだ?」
「私にもあんな時期があったわーなんて思ってね」
「なんだそりゃ……お、おっ!ツーアウト満塁から…打ったぁ!逆転!!」
自分のことを気にかけたのも一瞬で、すぐにテレビに釘付けになる。
そんな夫を見ながら、のんきなものだわ…と溜息をついた妻だった。
そしてそこに部屋着に着替えた亜弥が顔を出す。
「あら。早かったのね」
「うん。ね、ママ、ご飯食べたらみきたんとこ遊びに行っていい?」
「いいわよ。最近忙しくて行けてなかったみたいだし」
「…っていうかさ、泊まってもいい?」
亜弥の母親は遠慮がちな娘を見て、一瞬「だめ」と言いそうになってから考え直した。
美貴ちゃん一応受験生だし…でもこの子なんか悩んでるみたいだし…。
もう一人の娘のように思っている隣の家の女の子のことを思い出す。
3人姉妹の亜弥にとって、姉のような存在の美貴。
昔から亜弥は美貴を慕っていて、それは今も変わっていない。
母親から見て、そんな二人の関係は微笑ましいものであった。
- 227 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:12
- 「いいけど、美貴ちゃんの勉強の邪魔しないようにね」
「うん、わかってる。でもみきたん勉強なんてしてるのかなぁ?」
「あのね、してるに決まってるでしょ。行きたい大学あるんだって」
「…え?そんなのあたし知らないよ?なんでママ知ってんの?!」
「こないだ聞いたのよ。それより早くご飯食べたら?美貴ちゃん待ってるんじゃないの?」
「あっそうだった!」
そう言うなり、イスに座って急いでご飯を食べ始める娘。
亜弥の母親は、美貴なら娘のいい相談相手になるだろうと思っていた。
まさか悩んでいる原因が美貴であるとは思いもせずに、そのまま自身も野球観戦を始める。
亜弥を除く家族四人は、リビングに置いてあるソファに座ってテレビを見ている。
だから、テレビに背を向けている亜弥がひどく沈んだ表情であることに、誰も気づかなかった
- 228 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:12
- みきたん…どこの大学行くんだろう?なんであたしに内緒にしてたんだろう?
もしかして…県外とか行っちゃうのかな…。
今日はなんでこんなに色んなことが起こるんだろう。
美貴が自分から離れていくかもしれない。
それがこんなにも急に現実的になるなんて…。
頭の中が混乱しかけていた亜弥は、唐突に、少しだけ昔のことを思い出した。
あれは自分がまだ中学二年の頃のことだった。
部活を終えて、美貴の家に遊びに行こうとしたある土曜日の昼過ぎ。
すると美貴の自転車に寄り添うように停められていた、見慣れない自転車。
美貴の兄の友達でも遊びに来ているのだろうかと亜弥は思った。
「こんにちはー」と勝手に家の中に入っていく。いつものことだった。
家の中は妙に静かで、美貴の母親たちはどうやら出かけているようだった。
トントンと階段を上ると、美貴の部屋のドアが少し開いているのが見えた。
そのまま階段を上りきったとき、聞きなれない声に亜弥は顔をしかめた。
- 229 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:13
- 美貴の部屋から聞こえてきたのは、美貴の声ともう一人。
亜弥の知らない、男の人の声だった。
楽しそうな二人の声を聞いて、亜弥はそのままその場から動けなくなった。
二人の会話から、ただの友達ではないことくらい、亜弥でもわかった。
自分以外とも、あんな風に楽しそうに笑うことができるのかと、亜弥は嫉妬した。
それは自分を可愛がってくれる姉のような人が他の誰かに取られた、という幼い嫉妬だった。
そしてこのとき亜弥は初めて思ったのだった。自分たちがずっとこのままではいられないと。
でもなぜかそれ以来、美貴が誰かと付き合っているような様子は見られなくなった。
だから亜弥は安心して美貴に甘え続けてきたのだが、今日またあの時のような気持ちが甦ってきた。
いくら仲が良くて本当の姉妹のようだと言っても、永遠にそうであるとは限らない。
自分からは離れることはなくても、美貴から離れていってしまうかもしれない。
またあの時のように、自分以外の人と美貴が笑い合う姿を見ることになるかもしれない。
しょうがない事だとは思っても亜弥にはそれが寂しかった。
どうしようもなく、寂しかった。
亜弥の胸の奥はまだ、ざわざわと騒ぎ続けている。
- 230 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:14
-
- 231 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:16
- 亜弥が家に入るのを見届けてから、美貴は緩く溜息をついた。
笑っているようで笑えていない亜弥の表情が頭から離れなかった。
…感付かれた、かな?
自分でも様子がおかしいと思う。いつものように亜弥に接することができない。
うまく笑えていたかどうか自信がなかった。
でもしょうがない。今の自分はちょっと、いや、かなり混乱している。
亜弥に対する愛情が、自分が思っていた種類とは違うものかもしれないのだから。
だからと言って二人の関係が変わるかと聞かれたら、それはないと言える。
なぜなら亜弥にとっての自分はそういう対象にはならないだろうから。
確かに愛情は抱かれているだろうけど、それはたぶん家族愛に近いものだと思う。
だからこのままでいるしかないのだと美貴は思っていた。
それにそれがきっと一番いい方法だから。
そう思いこむことしか美貴に残された道はなかった。
そう、思っていた。
- 232 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:17
-
- 233 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/05/13(金) 03:17
-
- 234 名前:大塚 投稿日:2005/05/13(金) 03:18
-
更新終了です。
- 235 名前:大塚 投稿日:2005/05/13(金) 03:22
- >>215 右京さん
ええと、お待たせしました。
そしてお待たせしたわりには話が進んでいないという…。
グダグダ感が否定できません。精進します。
>>216 名無し飼育さん
およそ二ヶ月の放置プレー申し訳ありません。
時間が経つのは早いですね。マターリし過ぎなのでがんばります。
- 236 名前:大塚 投稿日:2005/05/13(金) 03:24
- 二ヶ月放置プレーは正直スマンカッタ。
ということで晒し上げ。感想待ってます。
- 237 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/13(金) 21:55
- 更新待ってて良かったぁ…
これからどうなるのか、藤本さんの行動に目が離せません。
お忙しいようですが頑張って下さい。
- 238 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/20(金) 01:11
- 更新乙です。待ってた自分は勝ち組です。
みきたんと亜弥ちゃんがこれからどんな風に動くのか楽しみです。
そろそろ話が動きそうな予感もしますし…。
マターリでも更新してくださるほうが嬉しいです。頑張って下さい。
- 239 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/21(土) 02:05
- 更新キテタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!
取り乱しました、申し訳ありません(w
放置プレーは好きなので焦らずゆっくり頑張って下さい。
- 240 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/13(水) 17:36
- 待ってるよぉーーーーーーーつД`)
- 241 名前:大塚 投稿日:2005/08/10(水) 06:14
- 個人的な報告ですが、ようやく就職の内定をもらいました。
長かった就活もこれで終わらせることができます。
長い間ここを放置してましたが、近いうちに更新再開します。
いまだに待っていて下さる方がいらっしゃるかどうかわからないので、
むしろ自己満足的な感じで細々とやっていこうと思います。
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/12(金) 15:53
- います!いますとも!マターリお待ちしてます!!
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/14(日) 12:18
- 内定オメ!
首を長くして待っておりましたよ。
- 244 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/14(日) 23:22
- 内定おめ〜〜〜(*´∀`)*;'¨';*;'¨';*;'¨
頑張れー!!こっちも仕事もw
- 245 名前:大塚 投稿日:2005/08/21(日) 04:22
-
さて、更新します。
- 246 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:25
-
- 247 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:26
- 「こんばんはぁ」
美貴がリビングでジュースを飲みながらテレビを見ていたときだった。
ガチャッと玄関のドアを開ける音と共に、亜弥の声が聞こえてきた。
美貴が立ち上がるより先に、美貴の他にリビングにいた母親と兄と姉がいっせいに玄関に向かう。
「えっ?ちょっ、ちょっと皆なんなのさ」
出遅れた美貴が玄関に向かうと、すでにそこでは三人が亜弥を取り囲んでいるところだった。
「亜弥ちゃん久しぶりねぇ。最近全然来ないからおばさん寂しかったわよー」
「ねぇ、亜弥ちゃん高校生になったらなんか大人っぽくなった?」
「こないだまで美貴とランドセル背負って歩いてたのに、もう高校生か。俺も年取ったわ」
そこにすでに自分の入る余地はなかった。完全に出遅れていた。
その中に無理矢理割って入ることもできたがなんとなくそうしなかった。
ぼうっとその様子を見つめながら、黙って階段に腰掛ける。
――なんでこんな、亜弥ちゃんって可愛がられるんだろうな。
- 248 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:26
- 確かに亜弥は素直で表情もころころ変わるし、あまり可愛げのない自分とは大違いだ。
ついかまいたくなるというか、そういう気持ちをくすぐられる子だとは思う。
でもなぜかすんなりと納得できず、誰にも聞こえないように小さく唸った。
ところで亜弥には妹が二人いるが、その二人は亜弥ほど美貴に懐いてはいない。
別に美貴との仲が悪いというわけではない。会えばそれなりに会話もする。
ただ二人とも美貴とは少し年が離れているため、あまり接点がないのだ。
たぶん美貴のことは「お姉ちゃんと仲がいいお隣のお姉さん」くらいの印象しかないだろう。
藤本家から見てもそれは同じことで、二人の妹は「お隣のお嬢さん達」という印象だけだろう。
むしろそれくらいに留めておく方が普通というか常識の範囲内というか。
だから亜弥に対する藤本家面々の態度は、やはり行き過ぎているような気がしていた。
- 249 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:27
- 「…つーか、さ」
一人呟いても誰の耳にも聞こえていない。
ごちゃごちゃと一人考えていて、結局言いたかったことは…。
――亜弥ちゃんが会いに来たのって、美貴じゃないの?
誰も聞いていないので心の中で呟き、はぁ、とわざとらしく溜息をついてそのまま階段を上っていった。
亜弥にかまいたいのはわかるが、ここまで自分の存在を無視されるのはちょっといただけない。
家族に亜弥を取られたみたいで、それが何より気に入らなかったのだ。
家族の行為を非難したのは、自分を差し置いて亜弥と楽しそうに接していることに腹が立ったからだ。
要するに美貴がずっと黙っていたのは、ただ単にほっとかれて拗ねていたからだった。
いま自分たちが会っても気まずい空気が流れるだけだとは思うが、それとこれとは別の問題だった。
美貴にとって亜弥との時間を邪魔されたことには変わりなかったからだ。
- 250 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:27
- 家族にさえ嫉妬するなんて、どうかしてる。
自室に入って一人苦笑いをする。
はぁ?……嫉妬?
嫉妬してんの、美貴?
自然と湧いてきたその感情に自分自身で驚いた。
亜弥に対して嫉妬という感情が湧いたのは初めてではないだろうか。
いや、初めてではなく、気付かなかっただけかもしれない。
亜弥といることで、楽しかったり嬉しかったり苦しかったり切なかったりする感情に。
でも今は一緒にいたら何を言えばいいかわからないし、一緒にいないほうがきっといいはずだ。
それなのに一緒にいたいと思うのは。この腕に閉じ込めて一人占めしたいと思うのは。
亜弥のことを考えれば考えるほど、思い知っていく。
やっぱり自分は亜弥のことが好きで好きでしょうがないらしい。
それはもう、家族に嫉妬するくらいに。
- 251 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:28
- 「みきたん」
「うわぁ!!」
予想外に名前を呼ばれ、必要以上に驚いてしまう。
そんな声を出されるとは思っていなかったであろう亜弥も、身を竦ませてドアの横に立っていた。
「あ…亜弥ちゃんか」
「なにその反応。てか、なんであたし置いてくのさ…ひどくない?」
「ご、ごめ…。だってなんか…や、なんでもない」
危ない。思わず言ってしまうところだった。「ヤキモチ妬いたから」なんて言葉。
亜弥に対して嘘をついたり自分を偽るようなことは、美貴にとってなかなかに難しいことだった。
「おばさんたちトーク止まんなくて大変だったんだよ」
「う…まぁそのうち終わると思ってたし…」
「気づいたらみきたん消えてるんだもん。声くらいかけてよぉ」
亜弥はドアを閉めて、すとん、と美貴の隣に座る。
不機嫌そうな態度のわりに、明るい声だった。
- 252 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:28
- …なんか亜弥ちゃん、おかしくない?
さっきと様子が違うような…。
美貴はあまりに普通の様子の亜弥に拍子抜けしていた。
自分の様子に不信感を抱いたような、不安そうなあの表情は消えていた。
それどころか不自然なほどに明るい雰囲気を纏っていたのだった。
そしていつの間にか亜弥は美貴の体に甘えるように寄りかかっていた。
いつも通りなはずなのに、亜弥に触れられているところが妙に熱い。
意識することで当たり前のことが全然当たり前のことではなくなるんだな、と美貴は思い知る。
そう考えれば考えるほど心拍数が上がっていく気がして、亜弥に気付かれないか焦ってくる。
「それでさ、みきたん」
美貴は慌てて我に返り、「ん?えっ?何?」と返事を返す。
情けないくらいに落ち着きのない返事だった。
- 253 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:29
- 亜弥が下を向いていてよかった。たぶん明らかに焦ったような顔をしていたから。
突っ込まれても何も言えないし、さらにおかしな言動が出てしまうかもしれない。
「あたしみきたんに聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
肩に埋めていた顔を上げて、「うん」と亜弥は頷く。
甘える様子とは異なって、その目は必死に何かを伝えようとする目だった。
あまりの必死さに思わず目を逸らそうとしたが、そうしてはいけない気がした。
「……あのね?」
「…ん?」
じっと見つめていたら吸い込まれてしまいそうな亜弥の瞳に、心まで囚われてしまったようだ。
何かを確かめるかのように美貴の瞳をじっと覗き込んでから、亜弥が再び口を開く。
- 254 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:29
- 「みきたんはずっとここにいるよね?あたしのそばにいるよね?」
「え……」
「いなくならない?」
「なに?どうしたのいきなり…」
「ねぇ、どっかに行っちゃうとかないよね?」」
美貴の服の裾をぎゅうと握り締めながら、亜弥は何回も同じ言葉を繰り返す。
その様子に美貴は訝しげな表情を見せたがすぐにそれを隠した。
美貴のその表情を見て、亜弥が何かに追い詰められているような表情になったからだ。
自分も頭が混乱していて十分いつも通りに振る舞えていないが、亜弥はそれ以上だと思った。
考えてみれば亜弥が美貴のちょっとした変化に気付かない時点でおかしいのだ。
唯一思いつく原因は、やはり先程のひとみとのやり取りのことだろう。
亜弥は美貴に除け者にされたような、そんな感情を抱いたのかもしれない。
- 255 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:30
- しかしそれだけでこんな風に追い詰められたような表情になるだろうか。
あれがそれほど亜弥にとってショックな出来事だったというのだろうか。
そんなにも、自分との繋がりを大事に思ってくれているのだろうか。
もしかしたら、自分が思っている以上に亜弥には必要とされているのだろうか。
……亜弥も自分と同じような感情を抱いてくれているのだろうか。
そう考えて、それはありえないと一瞬でそれを掻き消す。
自分たちはまるで本当の姉妹のように育ってきて、こんな感情が生まれるはずはなかったのだ。
今までも、これからもずっと姉妹のようにあるべきなのだ。
それがお互いにとって一番いいことだから、この関係を壊すようなことはしない。
壊した先に何かがあるかもしれないなんて、考えてはいけないこと。
この想いは、伝えてはいけない想いなのだ。
だから自分が今何をするべきかは、16年の付き合いからわかっている。
- 256 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:30
- 美貴がずっと黙ったままなのを見て、ますます不安そうな表情を見せる亜弥。
大丈夫だよ、と言ってあげる代わりに美貴は優しく微笑む。
ぎゅっ、と亜弥を抱きしめて数回頭を撫でてやった。
亜弥が落ち込んだりしたときに、美貴がいつもしてやることだった。
こうするとどんなときでも亜弥は安心したような表情になるのだ。
「なに心配してんのかわかんないけど、美貴はずっとここにいるよ?」
「……ん」
「ずっと亜弥ちゃんの隣にいるから。ね?」
「…ほんとに?絶対?」
「…ほんとに、絶対」
一歩間違えれば告白のような言葉だったが、これが美貴の本心だった。
亜弥から離れるつもりなんて毛頭ない。それこそ亜弥が美貴から離れていかない限り。
気持ちを伝える事はできなくても、そばにいたい。
- 257 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:31
- そんなことを考えながら美貴は亜弥の反応を待っていた。
すると亜弥がパッと顔を上げて、にこっと笑って見せた。
久しぶりに見た気がする亜弥らしい笑顔だった。
「うちらが離れるなんてありえないもんねー」
「そうだよ。ずっと一緒だって」
「だよね、うん」
そこにはすっかりいつも通りの亜弥がいた。
その変わりようには、少し不自然さを感じたほどだ。
「むふふ」と少し気持ちの悪い笑い声を立てながら、亜弥が美貴の隣からのそのそと移動する。
そして美貴の足の間に座って、「よし」と納得するように何度か頷いて見せた。
「なにが『よし』なのさ」
「みきたんに甘える体勢ができたって意味の『よし』ですー」
そしてそのまま背中を美貴に預けて、「にゃふふ」とよくわからない笑い声を上げた。
- 258 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:32
- 「意味わかんない」と言いながら、そんな風に甘えられる事に嬉しさを隠せなかった。
さっきまでのギクシャクと言うか変な雰囲気はどこにも感じられない。
表面上は、いつも通りの二人に戻ったように感じられた。
「…亜弥ちゃん、髪伸びたね」
「んーそうかな?自分じゃわかんない」
「結構伸びたと思うよ。そろそろ肩越したんじゃない?」
心拍数の上がっていることに気付かれないよう祈りながら、すぐ目の前にある亜弥の髪を撫でる。
美貴の指の間をさらさらと流れる、少しだけ茶色いきれいな髪。
高校に入ってから伸ばし始めたその髪は指通りがとても滑らかだ。
ずっと触っていたいくらい、好きな感触だった。
ずっと撫でていると、亜弥は気持ち良さそうにゆっくり目を閉じた。
そしてさらに体の力を抜いて美貴にもたれかかった。
- 259 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:33
- 亜弥のその安心しきった姿とは反対に、美貴は落ち着かなさそうに視線を逸らした。
信用されているのは嬉しいが、ここまで安心されると困る。
好きな子にこんなにも無防備に体を預けられると、どうしていいかわからない。
いつも通りにしようと思っていても、そのいつも通りが思い出せない。
亜弥が落ち着いたのはいいが今度は自分が落ち着かなくなってしまった。
…嬉しいけど…困ったなぁ。
触れようと思えば触れられる距離にある無防備な横顔。
嬉しいと素直に感じる事はできない。とても複雑な気分だった。
目を瞑り、ひっそりと、気付かれないように溜息をついた。
- 260 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:34
-
- 261 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:34
- 二人は一見するといつも通りに見えた。
しかしそこにいるのは、自分の気持ちを伝えられない美貴と、聞きたい事を聞けない亜弥。
美貴は自分の気持ちがわかっているから伝えられない。
亜弥は傷付く事を恐れているから聞けない。
決定的なことを聞いてしまったら、立ち直れないと思っている。
あれは、彼氏だったの?という、たった一言の言葉が出てこない。
それを聞いて疑惑が確信へと変わるのが怖いのだ。
美貴が自分の元からどんどん遠ざかって行くことを、自ら認めるようなことをしたくないのだ。
だからあの時と同じように、一番聞きたい事をはっきりと聞くことができなかった。
本当はもっと聞きたかった。自分から離れないという確証を得たかった。
だけどもしそこで言葉を濁されたら?
そんなの、想像するだけでも怖い。
だから聞けなかった。
- 262 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:34
- 最後は冗談っぽく、いつも通りの自分を演じて、美貴を安心させようとした。
何よりも自分を落ち着かせたかったというのが本音だったが。
亜弥はまだ気付いていない。
なぜここまで傷付く事を恐れるのか。
美貴が自分から離れてしまうかもしれない事がなぜこんなに怖いのか。
美貴の腕の中にいると安心するのと同時に、どうしようもなく怖くなるのはなぜか。
どうしてこんなにも、美貴を失いたくないのか。
そう、失いたくないのだ。
だけど美貴が自分から離れて行ってしまう時は、いつかきっと来る。
そんなのは嫌だ。でも、だったらどうすればいい?
一体、どうすれば……。
- 263 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:35
- 亜弥は閉じていた目をゆっくり開く。その瞳には決意のようなものが漂っていた。
しかし、それはとても暗く、鈍い瞳の色をしていた。
「みきたん…」
「ん?どした?」
甘く優しい美貴の声に流されそうになりながらも、亜弥はそれを堪えた。
「あの…あたしそろそろ帰るね」
「えっまだ来たばっかじゃん。それに、泊まるのかなって…」
「…えと…宿題、あったの忘れてて」
とっさについた嘘だったが、美貴は「そっか」とだけ言って亜弥を抱きしめていた腕を解いた。
亜弥はするりと立ち上がると、美貴を振り返った。
「じゃあね。おやすみ、みきたん」
「ん。おやすみ」
どこまでも優しい美貴の瞳に、亜弥は思わず泣きそうになる。
それを堪えて部屋を出ようと一歩踏み出すと、「亜弥ちゃん」と呼び止める声。
亜弥は振り返らないままに立ち止まる。
すると後ろで美貴が立ち上がった気配がした。
- 264 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:36
- 「また…遊びにおいでね?」
「なに言ってんの、当たり前じゃん」
「なら…いいけど」
「変なみきたん。…じゃあね」
そのまま振り向かないまま、亜弥は美貴の部屋を出て行った。
亜弥が密かに固めた決意とは。
美貴がいつか自分の元から離れていくのが怖いなら、どうすればいいか。
考えた結果、出した答えは。
美貴から離れていく前に、自分から離れればいい、ということだった。
その方が少ないダメージで済むと、亜弥は考えたのだった。
美貴のいない生活に少しずつ慣れていって、美貴がいなくても平気になろうと思ったのだった。
そして美貴に頼らず一人でも生きていけるくらい強くなろうと思ったのだ。
それが正しいのかどうか亜弥にはわからなかった。
それでも亜弥にはそれが一番いい方法だと思ったのだ。
自分が一番傷付かなくて済む方法だと、そう思ったのだ。
- 265 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:37
-
- 266 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:37
- お互いを失いたくないという想いは同じはずの二人。
しかし、同じはずの想いは、少しずつズレを見せ始めていた。
- 267 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:38
-
- 268 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/08/21(日) 04:38
-
- 269 名前:大塚 投稿日:2005/08/21(日) 04:39
-
更新終了。
- 270 名前:大塚 投稿日:2005/08/21(日) 04:45
- 意外にも反応があってびっくりしました。
見ていて下さる方がいるとわかったので、もうちょっと頑張れそうです。
ぐだぐだな話で苛々としてしまうかもしれませんが…。
>>242名無飼育さん
マターリ待っていてくださってありがとうございます。
マターリという言葉は大好きです。
>>243名無飼育さん
ありがとうございます。
首、大丈夫ですか?戻すの手伝いましょうか?
>>244名無飼育さん
内定がもらえればこっちのものです。
学生最後の夏休みも満喫しようと思います。
- 271 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/21(日) 20:34
- 更新お疲れさんです。
そして続きが激しく気になる・・・。
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/13(火) 18:53
- 待ってるよ〜・゜・(ノД`)・゜・。
頑張れ!作者!
- 273 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 00:17
- ぐだぐだしてないしイライラもしていない
もどかしいなー
頑張って下さい!
待ってます
- 274 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:02
-
- 275 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:03
- 昼休み、同じクラスの美貴と真希は購買へと向かっていた。
その道のりで二人とすれ違う学生のほとんどが、憧れや好意を持つ目でひっそりと二人を見つめる。
男子学生はもちろん、後輩の女子にもそんな視線を送られているのだが、二人はそんなことには気付かない。
美貴は空腹に眉間に皺を寄せ、真希は睡魔に襲われながら歩いている。
そんな姿も周りにはクールで近寄り難い美人二人組、という印象しか与えないのだから得だ。
そしていつもならばここにひとみと梨華も揃い、周りの注目を一心に浴びているのだが…。
今は美貴と真希の二人だけだった。
最近ではひとみと梨華はそれぞれ自分のクラスで昼休みを過ごしている。
別に約束をしていたわけではないので、美貴と真希はそれについて二人に特に何かを言うこともなかった。
というよりは最近のひとみと梨華の微妙な雰囲気に、どう対応すればいいかわからないだけだった。
基本的に美貴も真希も、めんどくさいことには首を突っ込みたがらない性格である。
やや熱血的なひとみと真面目な梨華とは違い、そういう部分ではよく気の合う二人だった。
- 276 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:04
- それでもこのまま気まずいままでいるのは、それはそれですっきりしない。
それに前のように四人で騒ぐこともなくなってしまうのかと思うと、それは嫌だと二人とも思うのであった。
事実すでに少しずつそういう状態になりつつある。
昼休みだけでなく、放課後もいつものメンバーで揃うことがなくなった。
個別には色々話をしたりはするのだが、ひとみと梨華が一緒にいるところは全く見なかった。
いくらめんどくさいことが嫌いだとは言っても、限度というものがある。
どうでもいい相手だったら放っておけばいいだけの話だ。
しかし美貴と真希にとってあの二人はどうでもいい相手ではなかった。
そう思うのは付き合いが長いから、なんて単純な理由ではない。
それでも基本的な性格が似たり寄ったりな二人。
なんとかしなきゃなぁ、とはお互い思っていてもなかなかそれを行動に出せないのであった。
- 277 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:04
- 「なんかさぁ」
「ん」
「最近うちら二人でばっかいるよね」
「…だよね」
「ね」
なんとなく顔を見合わせて、お互いに微妙な笑みを浮かべた。
どちらかが切り出せばいいのだが、お互いそこから先に進む事ができなかった。
こういうところが自分のダメなところだと、お互いがそう思っていた。
いつもならばここでこの話題は終わってしまう。
しかし今回はそうではなかった。
何かを溜め込んだような表情の真希が「実はさ」と切り出したのだ。
「言ってなかったけど…あたし梨華ちゃんに色々相談されてたんだよね」
「相談て…もしかしてよっちゃんのこと?」
「うん、そう」
「あー…実は美貴もよっちゃんさんから」
「あらーまじで?」
「うん。あ、とりあえずパン買っちゃうべ」
購買に着いたところで一旦話を中断する。
- 278 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:05
- いつも混んでいる購買だが、なぜか自分達が買いに来るとスムーズに買える。
周りがよけてくれているだけなのだが、そのことには二人とも気付いていなかった。
「よっしゃカルビバーガーげっと〜」
「またそれ?ほんと肉好きだね」
「いやごっちんは買いすぎだから…六個って」
「だってすぐお腹空くんだもん」
「ふーん授業中寝てるだけなのに体力使うんだぁ」
「あたし燃焼系だから」
「意味わかんないし。はーこれで頭イイんだもん。神様って不公平」
わざとらしく溜息をついてみせると真希はふんわりと優しく笑った。
ただ眠いだけでそう見えただけかもしれないが。
- 279 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:06
- 「美貴ちゃんだって悪くはないじゃん」
「そりゃ志望大学入るために努力してっからね」
「そういやうちら志望同じとこだよね」
「学部違うじゃん。しかも偏差値いくつ違うと思ってんの」
「まぁまぁ、やりたいこと違うんだからさ。そんなん比べようがないよ」
「まーそうだけど」
「でも美貴ちゃんが地元狙いだとは思わなかったなー。意外」
「えーなんで?」
目的地である多目的ホールへと着いた。
テーブルとイスがおいてあり、生徒が昼食をとることもできるようになっていた。
いつもの場所に陣取って、真希の言葉を促すように見つめた。
すると真希はめずらしく意地悪そうな笑みを浮かべ美貴を見ていた。
- 280 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:06
- 「なに、なんで黙ってんの」
「別にそういうわけじゃないけど」
「じゃ言ってよ」
「んーなんか美貴ちゃんって田舎よりは都会が好きそうだし」
「うーんまぁ確かにここ出ることも考えたけどさぁ…」
パックのカフェオレをストローでずずっと吸い込んだ。
でも、地元を離れるということは亜弥とも離れてしまうことになるのだ。
そのことは美貴が地元大学を選ぶことの大きな理由となった。
「でもそしたらまつーらと離れちゃうもんね」
「なっ、そ、それは別に関係ないよ」
まさに今考えていた事をそのまま言われ、思わず口の中のものを吐き出しそうになる。
慌てふためいているのは自分だけで、真希はそんな自分を見てにやにやと笑っている。
おかしい。真希には亜弥のことは何も言っていないはず。
それなのに真希の余裕たっぷりの表情からは、存分にからかってやろうという思惑が読み取れた。
- 281 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:07
- 「つーか、あの二人のこと話そうよ」
「ああそうだ忘れてた」
「忘れんなよ」
うまくごまかせたことに美貴はほっと胸を撫で下ろす。
真希は鋭いわりに単純だ。
亜弥への感情を自覚してからはどうもこういうのは気恥ずかしい。
勘のいい真希のことだから、もしかしたら自分の亜弥に対する感情にも気付いているかもしれない。
だからと言ってこういうことを気軽に言える性格でもない。
自分のことを話すのはそんなに得意じゃないのだ。
他人をからかうことは好きでも、自分がからかわれることにはあまり免疫はないのだ。
ちらりと真希を盗み見ると、すでに美貴のことは頭から抜けているらしくパンにかぶりついていた。
- 282 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:07
- 「で、梨華ちゃんからの相談内容だけど。たぶん言わなくてもわかるかな」
「えっとー…やっぱあの二人ってそーゆーことなのかな?」
「たぶんそーゆーことなんじゃない?たぶんてか絶対」
「てことは梨華ちゃんもよっちゃんと似たようなこと思ってんだね」
「うん、気付いてないのは本人達だけでしょ」
顔を見合わせて同時に溜息をついた。
「…早くまとまっちゃえばいいよね」
「ほんとに。周りから見たらわかりやすすぎるのに」
「あーなんか思ったより話すことなかったね」
「んーだってさぁ。美貴たちが出しゃばるのもなんかあれだし」
「だよね。てかほっといてもそのうち何とかなりそうだよね」
「うん、そろそろまた四人で昼ごはん食べれるかもね」
やはり基本的にめんどくさいことには首を突っ込みたがらない二人だった。
結局何も変わらず、このまま静観していることに決め込んだようだった。
- 283 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:08
-
- 284 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:08
- そしてしばらく二人とも食べることに集中していたが、真希が「ねぇ」と呼びかけてきた。
見ると六個あったはずのパンは跡形もなく消えていた。
食べる量もすごいが、食べる速さも尋常じゃない。美貴はまだ二つ目に手をつけたばかりだった。
「じゃあさ、この話は終わりにして」
「うん?」
食べ終わりすっかりくつろぎモードの真希に対し、もごもごと口を動かす美貴。
すると真希の口元が再び意地悪そうに歪んだ。
「今から美貴ちゃんの話しようか。てか美貴ちゃんとまつーらの話だけど」
「えぇっ?な、なんで!別に話すこととかないし!」
「…美貴ちゃん、それじゃあ何かありますって言ってるようなもんだよ」
「む……」
呆れたような顔の真希に美貴は何も言い返すことができなかった。
さきほど上手く誤魔化せたと思ったのだが、それはただの思い込みに終わった。
- 285 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:09
- 何か言い返そうとあたふたしている美貴を見て、真希は耐え切れない様子で声を出して笑った。
「よしこと梨華ちゃんもわかりやすいけど、美貴ちゃんも相当だよね」
「え?!嘘だよ、美貴って超クールじゃん」
「どこがクールなのさ。てか反応が全部顔に出てるから。美貴ちゃんおもしろすぎ」
「…あーそうですかー」
ふにゃっと笑う真希を見て、美貴は反論する気も失せ、脱力する。
確かに今のはちっともクールなんかじゃなかったし。
それに………。
長年の付き合いである友人を見つめながら、美貴は思った。
本当はずっと誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。自分の気持ちを。
ひとみに急かされてようやく気付いたような曖昧な気持ちだったが、今は確かに自分でも自覚していた。
そして自覚してからはどんどん気持ちが大きくなっていくようで。
そろそろ、隠すのが辛くなってきたところだった。
自分にこの気持ちを自覚させた張本人であるひとみは、生憎自分自身のことで手一杯のようだったし。
- 286 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:10
-
「…えっと…」
思い切って言葉を発した。真希は穏やかな表情で美貴を見ている。
真希の顔からはすでにからかいの表情は消えていて、そのことが美貴を安心させた。
「ずっと一緒にいたのに。今さらって感じだけど。しかも…同じ女だし」
「ま、確かに今さらって気がしないでもないけどねー」
「…あのさ、女同士ってやっぱ変、かな?」
女同士、ということに触れられなかったことが、美貴には逆に気に掛かった。
窺うように真希を見ると、呆れたように肩を竦められた。
「美貴ちゃん、逆に聞くけどさ。よしこから話聞いたときどう思った?」
「え?どうって…やっぱ驚いたけど」
「それだけ?」
「え…本当に好きなんだな、って…」
言ってから、あっ、と思う。
真希は唯一残っていたイチゴ牛乳をストローで全部吸い込んでから美貴を見た。
- 287 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:11
- 「まーあたしも大体そんな感じ。別にいんじゃない?って思う」
「…そう思う?」
「うん。でもあたしには、そういう風に女の子を好きになるって気持ちはよくわかんないよ。
ただそういう事もあるんだなって理解はできる。人の気持ちを否定するなんてできないしね」
「…なんか微妙な言い方すんね」
「だってわかんないもん。嘘でもわかるって言って欲しい?」
真希が強い視線で美貴を見つめてくる。
笑うところじゃないのに、なんとなく笑いたくなった。
「ううん。言って欲しくない」
「でしょ?」
「…美貴、亜弥ちゃんに出会ってなかったら、ごっちん好きになってたかも」
「なに、そっちこそ微妙な言い方しないでよ」
顔をしかめて言った真希の言葉に、美貴は今度こそ笑った。真希も笑っていた。
そのときちょうど予鈴が鳴った。二人はおもむろに立ち上がる。
美貴はパンの入っていた袋をくしゃっと握りつぶして持った。
- 288 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:11
- 「で?」
「ん?」
「や、だからまっつーのことどう思ってんのかってことよ」
「は?今までの流れでわかるでしょ?」
「わかんない。あたしエスパーじゃないから」
「……っ、あっそ!べ、別にわかんないならわかんないでいいけど!」
自分の中に溜め込む状態が辛かったはずなのに、いざ吐き出せと言われると素直にそうできなかった。
どうして自分はこうも素直じゃないんだろうと美貴は思ったが、性格なんだから仕方ない。
再びニヤニヤ笑っている真希が目に入って、さらに何か言ってやろうと思ったが、やめる。
ムカムカしたまま、隙をついて真希の持っていたゴミを奪い取り、まとめてゴミ箱へ捨てた。
そして振り返りざまに口を開く。
「美貴は亜弥ちゃんが好き。…これで、満足?」
「……んぁ、美貴ちゃん男らしいね」
「うっさい」
すぐにまた前を向いてしまったので真希には美貴の表情は見えなかったが、容易に想像できた。
少しだけ見えた耳も真っ赤に染まっていて、真希は気付かれないように口元だけで笑った。
- 289 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:12
-
- 290 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:13
- 照れ屋で不器用な幼い頃からの友人の姿を微笑ましく思い、真希はそのまま美貴の後をついて歩いた。
おそらく今は顔を見られたくないだろうと思ったからだ。あまりからかいすぎても後が怖い。
こんな美貴の様子を見て真希は特に何の心配もしていなかった。
美貴と亜弥の仲は、昔から幼馴染以上の関係のように見えた。
普通よりも行き過ぎたように見える愛情の果てに、恋愛感情を持つ様なこともあるんだろう。
そしてそれは真希の目には、美貴と亜弥の両方がお互いに抱いているように見えた。
それは確かに間違いではなかったし、ひとみと梨華のようにそのことに気づいていないのは本人達だけだった。
ただしお互いに持っている感情は同じでも、その方向性が美貴と亜弥の場合は違っていた。
ひとみと梨華はお互いにこれまでの関係を壊したがっていたし、それがうまい方向へと向かっているようだ。
- 291 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:13
- しかし美貴と亜弥はそうではなかった。
自身の中にある感情を認めつつも、お互いにそれを見せようとはしなかった。
それを壊して新しい関係を作ろうとはしなかった。
何よりも今の関係を大事にしようとしていた。
真希の目にはそこまでわからなかったし、美貴もそれを真希に伝えようとはしなかった。
美貴も亜弥のことを好きだということは認めている。それも恋愛感情の意味で。
でもそれだけだった。その先には何もなかった。
ただひたすらに、今のままでいることが相手のためになることだと信じて疑わなかった。
美貴も必死だったのだ。だから気づかなかった。亜弥が自分を避け始めていることに。
- 292 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:14
- ――部活が忙しくて。
そっか、梨華ちゃんも高校最後の試合だって気合入ってたしね。
――クラスの友達と、遊ぶ約束してて。
そっか、高校入れば新しく友達できるもんね。
――最近家族と一緒に過ごす時間ないから。
そっか、せっかくの休みだもん。たまには親孝行しないとね。
亜弥のそんな言い訳を鵜呑みにして、今までどおりの仲の良い『幼馴染』でいようと振る舞った。
- 293 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:15
- 美貴だけではない。亜弥も自分なりの答えを出して、必死に耐えていたのだ。
本当は毎日だって美貴に会いに行って、甘えたり甘えさせたりしたかった。
でもそうすることができなかった。決めたのだ。美貴離れをすると。
いつまでも甘えている事なんてできないのだ。
今の美貴の一番は亜弥かもしれない。
しかしある日突然、美貴の一番が変わってしまったら?
もう自分なんて要らないと言われたら?
耐えられる自信なんて―――ない。
だからそうなる前に美貴から離れるのだ。
少しずつ、少しずつ離れて行けば、いつかは美貴がいなくても平気になれる。
それにそうした方が自分だけでなく、美貴のためにもなる…。
亜弥はそう信じていた。
- 294 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:15
-
- 295 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:16
- そんな二人の感情のズレに今は誰も気付いていない。
そのことに真希が気づくのも、もう少しあとになってからだった。
- 296 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/04(金) 04:16
-
- 297 名前:大塚 投稿日:2005/11/04(金) 04:17
- 更新終了です。
- 298 名前:大塚 投稿日:2005/11/04(金) 04:20
- >>271名無飼育さん
季節もすっかり秋になり、むしろもうそろそろ冬ですよね…。
しかもあまり話が進んでなくてすいませんorz
>>272名無飼育さん
お待たせしすぎました。申し訳ありません。
夏休みエンジョイしすぎました。申し訳ありません。
>>273名無飼育さん
夏休みのツケがまわってきました。
大学卒業のために今がんばってます。更新もがんばります。
励ましのレス、どうもありがとうございます。
- 299 名前:大塚 投稿日:2005/11/04(金) 04:21
- あれですよ、卒論てモノの存在を忘れてたわけですよ。
なんとか頑張ってます。更新もできるだけ頑張ります。
それではまた次回の更新で。
- 300 名前:大塚 投稿日:2005/11/04(金) 04:22
- せっかくなんで自ら300ゲット
- 301 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/04(金) 18:10
- 交信お疲れ様でしたー!
うーん。じれったい(;;´3`)…けど、上手くいってほしいw
次回もまってます!!!!!!!!
- 302 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/08(火) 02:01
- 更新乙です、300ゲトワロタ
卒論の大変さがわかります
ミキティとごっちんらしい会話が面白かった
それにしても食い過ぎだろうとw
マイペースに頑張って下さい、待ってます
- 303 名前:大塚 投稿日:2005/11/09(水) 03:32
- うわー今更気付きました。
松浦さんのことをまつーらとかまっつーとか、
後藤さん好き勝手に呼びすぎですね。
あの、まっつーに脳内変換の方向でお願いします。
統一感なくて申し訳ありません。
- 304 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/24(木) 00:23
- そんなこと気にしなくていいっすよ!
更新、待ってます!マイペースに頑張ってください。
- 305 名前:大塚 投稿日:2005/11/25(金) 03:03
- よーしはりきって更新しちゃおう
- 306 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:04
-
- 307 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:05
- 何も状況の変化がないまま、一週間ほど過ぎたある日のことだ。
帰りのHRが終わると、ぼんやりと眠そうな表情の真希が近づいてきた。
「あ〜疲れた」と言いながら前の席に座る。美貴はその様子を呆れながら見つめる。
「ごっちんほとんど寝てたじゃん」
「ん?睡眠学習って言ってよ」
「あーそうですか、はいはい。ごっちんは寝ててもベンキョーできるもんね」
「なんだよそれー嫌味?」
「当たり前じゃん」
さっくり言い捨てると、真希はおどけたように肩を竦めて見せる。
まったく、こういうところが憎めないんだ。美貴は複雑な気分で溜息をついた。
「それで、何したの?」
「いや。あのさ、美貴ちゃんって最近バレー部行ってる?」
「あー…行ってない」
言われてから思い出す。そういえば、しばらく部活に顔を出していなかった。
そもそも運動部のわりに、あまり活動的とはいえない部活ではあったが。
- 308 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:06
- 「やっぱ行ってないか。てかバレー部ってちゃんと活動してんの?あんま見ないよ」
「してるよ、一応。…週2くらいで」
「はぁ?!週2って!少なっ!!」
目を見開いて大げさに驚いてみせる真希に、美貴は少し不機嫌そうに口を尖らす。
「いんだよ、ウチの学校のバレー部はお遊びみたいなもんだし」
「ふーん。テニス部とは全然違うねー。休みあんの?ってくらいいつも練習してるよね」
「……帰宅部よりはマシじゃん」
テニス部という単語に、僅かに反応が遅れてしまった。
テニス部には亜弥が所属している。
…最近会えていないが、亜弥は元気だろうか?
そういえば最後に会ったのはいつだったろう。
もう思い出せないくらい時間が経ったような気がする。
せいぜい一ヶ月くらいだろうが、もっと経っているような気もする。
- 309 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:07
- 真希が一つ咳払いをする。ハッと我に返った美貴を見て、真希は苦笑していた。
たぶん、何を考えていたのかはバレているんだろう。
それでも美貴は素知らぬ顔で真希からの視線をやり過ごした。
真希の方も特に突っ込むこともなく、「思ったんだけどさ」と話し出す。
「なにが?」
「や、さすがにそろそろ気にならない?…よしこ達のこと」
「はぁ?ごっちん、こないだはほっとこうって言ってたじゃん」
「んーでも最近梨華ちゃんからメールこなくなって。どうしたんだろうって」
「あ、そういえば美貴もよっちゃんからメールきてないや」
「ふ〜んそうなんだ」
特に気にしていなかったが、確かにひとみからはメールが来ていない。
前までは二日に一回はメールを送ってきていたのだが。
- 310 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:08
- 「じゃあさ、美貴ちゃん部活行ってないならよしこにも会ってないよね」
「まぁ…よっちゃんと違ってたまにしか行かないし…」
「週2しかないのにさぼり気味なんだー。しかも今年引退なのにねー」
「う、うっさいな……なに、部活に行けって言いたいの?」
「よしこからメールこないならこっちから行くしかないじゃん」
「えー…なんで美貴が…」
「だってあたしバレー部じゃないもーん」
もっともな事を言われて、美貴は言葉につまる。
「や、でも連絡来ないってことはさ、特に何もないってことなんじゃないの?」
「いやいや美貴ちゃん甘いよ。よしこがどういう人間かわかってないね」
真希はチッチッ、と漫画のような動きをして美貴の言葉を否定する。
そして急に真面目な顔になって姿勢を正した。
「よしこは普段はバカみたいなこと言って盛り上げるけどさ、本当に言いたいことがあるときは
反対に何も言わなくなっちゃう子じゃん?もしかしたら今そういう状態なのかも」
「あー…そういうことか」
思い当たる事があって、素直に頷いた。
昔からひとみにはそういうところがあったような気がする。
- 311 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:09
- 「辛いとき辛いって言えない子だったよね、よっちゃんて」
「だね。あと冗談言ってごまかしたりとか。…ま、これは美貴ちゃんにも言えるけど」
「…んー、ちょっとそれは言い返せない」
「はは。まぁ、それはおいといて」
腕組みをしながら「うーん」と真希は唸った。
「…でも梨華ちゃんから何の連絡もこない理由がわかんないんだよね」
「うーん。梨華ちゃんって何でも大げさにうざいくらい言う子なのに」
「美貴ちゃんそれ言いすぎ。…でもないか」
二人がどうしたもんかと頭を悩ませている時、「おーい藤本に後藤!」とクラスメイトの男子に呼ばれる。
「んぁ、なに?」
「なんか吉澤さんが呼んでるけど」
「…わお」
「噂をすれば何とやら、だね」
美貴と真希は顔を見合わせて教室の入り口に視線を走らせる。
そこには口元を歪ませて、感情の読み取れない表情をしているひとみが佇んでいた。
- 312 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:09
-
- 313 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:10
- 時を同じくして、1年の教室では亜弥と愛が部活へ向かう準備をしていた。
二人とも掃除当番ではないので、いつもよりゆっくりめに。
授業が疲れただの、どうでもいい話題をぺちゃくちゃと話している。
「ねー亜弥ちゃんに愛ちゃん」
そんな二人の元に近づいてきたのは、クラスの中でもわりと仲の良い女の子だった。
高校に入ってから仲良くなった子なので、いまいち掴みきれていない部分もあるのだが。
しかしそれはお互いに言えることだろう。
お互いに相手のことを知ろうと探り合っているような状態だった。
「なにー?」
「ねぇ、二人とも今日は部活あるの?」
「あーうん」
「あ、やっぱり?あのさ、部活終わってからでもいいんだけど、カラオケ行かない?」
「カラオケ?」
「うん、クラスの子達誘ってんだけどー。二人も来れたらいいなって思って」
「あたし行きたい!」
「おー、亜弥ちゃんノリいいじゃ〜ん」
にこにこ笑っている彼女の後ろから、他のクラスメイトも寄ってくる。
どうやら彼女達もカラオケに参加するらしい。
- 314 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:10
- しかしそんな亜弥の即答ぶりに、愛は焦ったように亜弥の服の袖を引っ張った。
「え、ちょっと、大会近いし、部活終わるの遅いかもよ?家の人に怒られない?」
「うーん。ま、連絡すれば大丈夫でしょ。息抜き息抜き」
「でも…亜弥ちゃんちって厳しくなかった?こないだもちょっと遅くなっただけで電話きたじゃん」
愛が諭すように言っても、亜弥はまったく気にも留めていないような表情で愛を見た。
「愛ちゃん、もう高校生なんだよあたし達。大丈夫だって。ね、愛ちゃんも行こうよー」
「あたしんちはわりと放任だからいいけど…カラオケも好きだし」
「じゃあいいじゃん、決定!ねぇねぇあたしと愛ちゃん途中参加でオッケ?」
「あ、亜弥ちゃん…もう」
クラスメイトとはしゃぐ亜弥を見て、愛は人知れず溜息をついた。
どうも最近の亜弥はおかしい。
新しくできた友達と遊ぶことは楽しい。それは愛も一緒だから別に構わないのだが。
- 315 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:11
- しかし最近は部活帰りにファミレスに寄ろうだとか、今日みたいに突然の誘いに乗ってみたりだとか。
休みの日でさえも「遊ばない?」と電話がかかってくる始末だ。
前まではこんなことはなかったはずだ。むしろこっちが誘っても断られることの方が多かった。
いつも「みきたんと遊ぶから」というお決まりの言葉で…。
そう、何が一番おかしいかって、あんなに毎日のように話題に出ていた『藤本美貴』の名前。
その彼女の名前が亜弥の口からは一切聞こえてこないのだった。
…ケンカでもしたのだろうか、と愛は考えた。
しかし亜弥とは中学からの付き合いになるが、今まで美貴とケンカしたなどと聞いたことは一度もない。
むしろどれだけ自分達が仲が良いか、ということを常にアピールされていた気がする。
そんな亜弥の口から美貴の名前が聞こえてこないというのは、とても不自然なことだった。
気にはなっていたが、愛は自分からその理由を聞くのを躊躇っている。
触れてはいけないような気がした。愛は亜弥から無言の圧力のようなものを感じ取っていた。
- 316 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:11
- あ、そういえば。
愛は一つ気になっていた事を思い出す。あれはついこの間のことだ。
職員室に用があって三年の廊下を一人で歩いている時に美貴と出会った。
亜弥を通して知り合いである愛に美貴は気さくに声をかけてきた。
その時に美貴が「亜弥ちゃん元気?」と聞いてきたのだ。
そんなこと自分よりも美貴の方が知っているだろうと愛が言うと、美貴は微妙な表情を浮かべた。
そして「最近部活とか忙しいみたいで…会ってないんだ」と言った。
疑問に思った。
確かに3年の先輩にとっては最後の大会があって、気合も入っている。
でもあまり大きな声では言えないが、自分達1年はそこまで気合が入っているわけでもない。
それに部活が終わったあと寄り道するくらいだから、美貴に会うくらいの時間の余裕はあるはずだった。
- 317 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:12
- でもその時は授業と授業の合間の短い休み時間だったから、それほど時間もなく。
あまり言葉を交わすこともないまま美貴とは別れたのだった。
だからそこまで印象に残る事もなく、今の今まで忘れていたのだった。
亜弥が部活帰りに寄り道したり、休日に自分を誘ったりするのは…美貴を避けているからなのだろうか?
亜弥が美貴の話題を口にしなくなったのはそのためなのだろうか。
でもどうして―――あんなに、美貴のことを慕っていたのに。
ケンカではなく亜弥が一方的に怒っているのかもしれない。
でもそれなら、不満や愚痴を自分に対してぶちまけてもいいような気がする。
だからそれがまったくないのは、やはりおかしい気がする。
まるで美貴など存在していないかのように振る舞う亜弥は、愛にはとても異常に見えた。
どこをどう見ても亜弥らしくない姿だと思えた。
- 318 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:14
-
視線を亜弥に合わせる。
相変わらず亜弥はクラスメイトと盛り上がっている。
愛が不自然さを覚えるほど、亜弥は彼女らと楽しげに笑っていた。
- 319 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2005/11/25(金) 03:15
-
- 320 名前:大塚 投稿日:2005/11/25(金) 03:15
- 更新終了
- 321 名前:大塚 投稿日:2005/11/25(金) 03:20
- >>301名無飼育さん
あの、こ、今回もじれったくてすいません。
>>302名無飼育さん
や、せっかくなんでゲットしてやろうと(w
後藤さんの胃袋は底知れません。
>>304名無飼育さん
今回はいつもより早めに更新しました。
頑張りました。
- 322 名前:大塚 投稿日:2005/11/25(金) 03:21
- それでは次回更新で。
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/25(金) 09:08
- 301でした。お疲れ様です〜
今回も…次回どのように進展するかが楽しみな交信でしたw
次回もまってます!!頑張って下さい♪
- 324 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/27(日) 14:31
- 304です。
更新ありがとうございました。お疲れ様です。
また、続きまってます!!
- 325 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:23
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 14:22
- 今後の展開楽しみです。あっちとこっち……
両方のカプが気になりますw
- 327 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 20:46
- 改めて前スレから読ませていただきました。
凄すぎです。
続きを楽しみに待っています。
- 328 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/29(木) 17:19
- きになるなあ・・・お待ちしてます!!
- 329 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/16(月) 05:07
- まってます
- 330 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 00:19
- 待ってるよ
- 331 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 16:22
- 待ってます
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/10(金) 23:50
- まだっすかぁ?
- 333 名前:大塚 投稿日:2006/02/11(土) 06:05
- 気付いたら一番上にあってびびりました。
卒論終えて気付けば二月中旬…アレオカシイナーコンナハズジャ。
申し訳ありませんが、更新はもう少しお待ち下さい。
皆さんのレスを励みに頑張ります。
- 334 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/25(土) 14:44
- 待ってますよぉ
- 335 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/03(金) 18:37
- 待ってるから頑張って
- 336 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/10(月) 18:00
- 楽しみにしています
- 337 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/10(月) 23:47
- まだまだ待ちますから
- 338 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/13(木) 12:57
- ずっと待ってますから絶対完結させてくださいね!
- 339 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/27(木) 00:29
- 一気に読ませていただきました
かなりすばらしいです
待ってます
- 340 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/14(日) 00:12
- 待ってますから頑張って
- 341 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 02:28
- 一気に読ませていただきました
涙が止まりませんでした
続きも期待してますので必ず更新してくださいね
- 342 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/06(火) 01:25
- 待ってます。
- 343 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/06(火) 18:55
- 更新きたのかと思って勘違いするからあげないで
- 344 名前:大塚 投稿日:2006/06/10(土) 02:05
- 久々覗いたら大量の書き込みが…皆さんありがとうございます。
ぬるい学生時代を終え、社会の荒波に揉まれまくってる大塚です。
正直今までは社会人ってやつをナメてましたほんとすいません。
えーこんなんですが完結する気はあります。あまり説得力ないですがorz
ちょこちょこ書いてるんで近いうち更新できたら、と思ってます。
- 345 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 00:24
- やったー!
毎日覗きにくるぞー!
更新頑張ってください
- 346 名前:大塚 投稿日:2006/06/15(木) 05:38
- え?!えっ?!何GAMって!!!!!
夢にまで見たリアルあやみきユニットついにキチャッタ━━━━━━(゚∀゚)!!!!!!!!
相変わらずつんくたんは何をやらかすか予想できない子だなぁ(w
取り乱してしまって申し訳ありません。
しかしながら俄然やる気が出てきた単純な僕です。
……さて、とりあえず今日も頑張ろう。
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/20(火) 23:07
- 待ってますから頑張って
- 348 名前:大塚 投稿日:2006/06/24(土) 02:36
-
更新します。
- 349 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:37
-
- 350 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:37
-
- 351 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:38
- 美貴と真希がひとみのそばに寄ると、ひとみは微かに笑った。
そして「ちょっと話あんだけど…ここじゃ目立つからついてきて」と言って背を向けた。
美貴と真希の返事も待たずに歩き出す。
でも二人には特に断る理由もなかったし、そのままそのあとをついて歩いて行った。
三人が連れ立って歩くのは久しぶりだった。
あとは帰るだけの生徒、部活へ行く生徒など放課後の廊下は人が多い。
だから自然と三人は注目を浴びることとなる。
ひとみは声を掛けられると人当たりのいい笑顔で応える。
美貴と真希の場合はまず声を掛けられない。
みんな遠巻きに眺めているだけだった。
でもそのことについて美貴も真希も、特に何を思うこともなかった。
- 352 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:39
- たどり着いたのは園芸部が活動の場としているビニールハウスの辺りだった。
もっとも、雑草は伸び放題でまともに活動している様子は見られなかったが。
ビニールハウスの横にあるベンチにひとみが座り、二人を見上げる。
「まぁ、座りなよ」
そう言って自分の両脇をポンポン叩いた。
美貴と真希はそれを見てひとみの両隣にそれぞれ座る。
そして二人ともひとみの言葉を待った。
しかしいくら待ってもひとみが話し始める気配はない。
腕組みをして目を閉じているひとみを挟んで、美貴と真希は目を合わせた。
そしてお互いに「なんか言ってよ」という視線を送りあっていた。
こういう雰囲気は二人とも苦手だった。
- 353 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:39
- すると組んでいた腕を解いて、ひとみが目を開いた。
「なんで二人とも黙ってんだよ。どうしたの、とか聞かないわけ?」
「…え、だって……ねぇ?」
「う、うん、よしこが話あるって言うから…」
「…まぁそうなんだけどね」
そう言ったきり、ひとみは再び黙り込む。
その横顔は妙に真剣で、ひとみがこんな顔をするなんてめったにないことだった。
いつも無駄に笑顔を振り舞いて周りを楽しませようとするひとみ。
それはある意味笑っていないのと同じ事かもしれない。
だから今のひとみは本当に素の姿を見せているように見えた。
- 354 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:40
- 「あー…だめだなぁ、あたし」
ひとみはそう言って頭を抱え込んだ。そしてそのまま再び黙り込む。
自然と美貴と真希の顔も下がってくる。沈黙が続く。
こんな状態のひとみは今だかつて見たことがない。
美貴も真希もどんな対応をするべきか決めかねていた。沈黙は続く。
それからしばらく経って隣にいるひとみをさりげなく見ても、変わらずに頭を抱え込んでいた。
―――こりゃまいった。
美貴は溜息をついて腕と足を組み、前方をぼんやり見つめた。
遠くではサッカー部が必死で駆け回っている姿が見える。
青春だね…なんて冷めた様子でそれを眺めていると、ザッ、と砂を踏む音がした。
- 355 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:41
- ひとみと真希もその音に気付いたようで、三人揃ってその方向を見る。
そこには梨華が立っていた。
いつもの派手なピンク色のジャージだった。今日も部活なのだろう。
しかし問題なのはそこではない。そこも多少は問題ではあるが。
四人でいれば笑顔を絶やすことのない存在である梨華が、ほんの一ミリも笑っていないのだ。
「あ…り、梨華ちゃん…」
梨華に気付いたひとみがようやく顔を上げる。
さっきまでとはうって変わって、その顔には表情が戻ってきている。
なぜか額にうっすら汗を浮かべ口元が引きつっている。
- 356 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:41
- 「…よっすぃ、まだ言ってないの?」
「あっ、いや、その…い、今!今言おうと思ってたとこ!」
「どこがよ。黙り込んで最後には頭抱え込んでたくせに」
「み…見て…た?」
「見てたわよ。ばっちり」
「あー…そっか、そっか…。って、いや違うんだってほんとに今言おうと」
「じゃあ早く言えば?」
いつもとまるで違う二人の立場に、美貴と真希は何があったんだろうと様子を窺っている。
いつもの二人だったら、ひとみが梨華をあれこれいじくって、梨華が拗ねて。
美貴もたまにひとみに便乗して、拗ねていた梨華が落胆し始めると、それを見て真希が宥めて。
しかし、当たり前だった四人のそんな日常が今ではすっかりなくなっていた。
この四人が揃ったのは、本当に久しぶりだった。
- 357 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:42
- 「…ねーごっちん、梨華ちゃん怖くない?」
「…うん、あたしよしこが梨華ちゃんに押されてんのなんて初めて見たよ」
「てゆーか、『言おうと思ってた』とか『言ってない』とか、何の話?」
「知らないよそんなの。あたしだって梨華ちゃんと会うの久々だし」
梨華には聞こえないように小声で言い合う。
今の梨華をあまり刺激すると、とんでもないとばっちりを喰らいそうだった。
実際、今の梨華には迫力があった。
普段怒らない人に限って怒らせると怖い。それは本当だと思った。
人に威圧感を与えることでは、もはや右に出るものがいないと思われている美貴ではあったが。
今の梨華には逆らったらヤバイような気がしていた。本能的に。
ぼーっとしているように見せかけて空気を読むことにかけては天下一品の真希。
その真希も、今は黙っておこう、と美貴に目で合図をしてきた。
長い付き合いなだけあって、言葉を交わさずともだいたいわかりあえる。
- 358 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:43
- 美貴と真希と、そしてひとみの前に仁王立ちでいた梨華が、ふいに緩く息を吐く。
その一息でなんとなく空気が和んだような気がした。
そして次の瞬間には完全にその場の空気が変わったのだった。
「しょーがないなぁ…ひーちゃんは」
「ごめん…梨華。自分から二人に言うって言ったくせに…こんなんで」
そう言いながら梨華の元へ近づくひとみ。
「ううん、いいの。ひーちゃんと何年付き合ってきたと思ってんの」
「だめだよなぁ、いざっていう時に限ってこんなんじゃ」
「…おいこらちょっと待て!!なんだそのひーちゃんって甘ったるい呼び方は?!よっちゃんも梨華って呼び捨てだし!!」
それまでの硬い表情を崩し、微笑みながらひとみを見つめる梨華のその言葉に。
ついに耐え切れなくなった美貴は盛大に突っ込みを入れた。
ベンチから勢いよく立ち上がって。外人のような身振りまでつけて。
元々黙り込んでいるのは性に合わない。
押さえ込んでいたものが一気に放出されたような感じだった。
- 359 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:43
- ところが突っ込まれた本人達はニコニコ笑うだけで何のダメージも受けていないようだった。
「わー美貴ちゃんの突っ込み久々に受けちゃった」
「梨華ちゃんには突っ込みがいがあるからなぁ」
「えへ、ひーちゃんたらぁ。褒めても何も出ないぞ☆」
「うわキショッ!でも可愛いけどね」
いきなり桃色な空気へと変貌した二人に、突っ込んだはずの美貴は目を白黒させて言葉を失った。
全く意味がわからない。
なんだこいつらは。
さっきまでの呼吸すらしちゃいけないような空気はなんだったんだ。
よっちゃんも梨華ちゃんも顔緩みすぎだし。
てゆーか、そもそもなんでこいつらこんないちゃついてんだ。
この数週間の気まずさはどこへ消えたんだ。
全然わからない。
誰か教えて。
思考がまとまらないまま、考えることを放棄しそうになる。
と、その前にもう一人の友人が黙ったままなのを思い出した。
- 360 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:44
- 「…ちょ、ごっちんも黙ってないで何か言ってよ!」
「いやぁ…」
「いやぁ、じゃなくて!」
「だって……あ〜アホらし。美貴ちゃん、帰ろ」
どうでもいいような顔をして、真希が立ち上がりそのまま歩き出す。
「え?!帰ろうって、呼び出されたのうちらだよ?まだ全然話聞いてないし!」
「…無駄だって、あの状態じゃあ」
ほら、と指差す二人にはこっちのことなんてまるで目にも入っちゃいない。
完璧に二人の世界だった。
「…ねぇ、まさかとは思うけど…そういうことなの?」
「そういうことなんじゃない?」
「…いつの間に…」
「まぁあたしらも途中からほっといちゃったしねぇ」
あは、と真希が楽しそうに笑う。
- 361 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:44
- 「色々あったんだろうけど、よかったじゃん、うまくいったんなら」
「…にしても、人ってあんなに変わるもんなんだね」
「んー確かに。よしこって梨華ちゃんにだけはひねくれてたもんね、昔から」
「裏を返せば…ってヤツだよね」
「そ。一回素直になっちゃえばあんな簡単にいっちゃうくらいだからね」
「はぁー…ごっちん、カラオケでも行く?」
「おーいいねぇ。行くかぁー」
「美貴、今日はかなり歌えそう」
二人でなんとなく振り返って、ひとみと梨華を見る。
色々と文句は言いたかったけど、とりあえず歌ってすっきりすることにした。
あの二人の笑顔を見たのは久しぶりだったし。
それにまた四人で笑い合えるのだと思うと、やっぱり嬉しかった。
- 362 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:45
-
- 363 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:45
- 「…ねぇ、ごっちん」
「ん?」
電車に揺られながら、美貴はポツリと呟く。
「よっちゃんと梨華ちゃんはすごいね」
「なにが?」
「…二人とも、怖がらずに素直になって、相手に気持ちぶつけて」
「…うん」
「美貴はできない。…怖いんだ、変わるのが」
ローファーのつま先を見つめる。
そこに力を入れて電車の揺れに耐える。そうすると、ささいな揺れでは微動だにしない。
「美貴の一言で全てが変わったら?今までの全部、なくなっちゃったら?…そう考えると、気持ちを伝えなくてもいいやって思うんだ。だって、大事だから。…すごく」
なにが、とは言わなかった。
けど真希は追及しなかった。きっと言わなくてもわかっていたのだろう。
- 364 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:46
- 「美貴はあの二人とは違う。このままでいい」
「…美貴ちゃん」
「でもね、最近おかしいんだ。あの子、全然うちに来なくなっちゃって。この年になればいつまでもくっついていられるわけないし、当たり前なのかもしれないけど…。やっぱり、変わりたくなくても変わっちゃうものってあるんだよね」
「ん…そうかもしれないね」
「このままでいい、っていうかこのままがいい。でもそれも難しいことなんだよね、きっと。だからこそ、自分から今の関係を変えようとは思わない。絶対に」
さらにつま先に力を入れた。
電車が揺れる。真希は少し体勢を崩したが、美貴は微動だにしなかった。
「美貴ちゃん…それは」
「あ、ごっちん、そろそろ着くよ。なに歌おっかなー」
真希が何かを言いかけていたのはわかったが、あえて気付かないふりをした。
真希もその続きは言わなかった。
- 365 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:46
-
- 366 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:47
- 亜弥が自分から離れ始めているということ。
さすがにこれだけ避けられたら、いくら気付きたくなくても気付いてしまう。
理由はわからないが、亜弥がそうしたいからそうしているのだろう。
責めるつもりなんてない。だって、自分達はただの幼馴染で。
相手を束縛する権利も何もない。
遅かれ早かれこうなる時が来るのはわかっていた。
でも自分からそういう行動には出たくなかった。
本当はずっと一緒にいたい。でもそれは叶わないだろう。
離れたくはないけれど、きっといつかは離れてしまう。
大丈夫、それくらいわかってる。
だから準備だけはしておく。
亜弥がいつ戻ってきても、『幼馴染』として迎え入れられるように。
- 367 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:49
-
- 368 名前:きっかけは些細なこと 投稿日:2006/06/24(土) 02:50
-
- 369 名前:大塚 投稿日:2006/06/24(土) 02:50
-
更新終了です
- 370 名前:大塚 投稿日:2006/06/24(土) 02:54
- とりあえず松浦さんの誕生日より前に更新できてよかった。
しかししょぼい更新で申し訳ないです。
今一番欲しいものは金なんかじゃなく、時間です。
リアルですいません。
たくさんのレスありがとうございます。
こんな駄文に付き合ってくださる方々がこんなにいるのかと思うと…。
かなり嬉しいです。励みになります。
のんびりすぎる更新ペースですが、これからも頑張ります。
それではまた次の更新で。
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/21(金) 10:28
- 323でした。お疲れ様です。ずーっと待ってました(´∀`)
…次回が気になりますwうん。頑張ってほしいです。
交信期待してますね☆
- 372 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/02(水) 01:36
- 待ってますよ。いつまでも。
面白いです、本当に。
- 373 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/15(金) 12:14
- 待ってます!
今後どうなっちゃうのか不安です
- 374 名前:大塚 投稿日:2006/09/17(日) 03:00
- おっと危ねぇ、何とか生き残ってた…。
暇を見つけてはちょこちょこ書いてます。
ただいきなり異動がありまして、引越しやらなにやらで多少テンパってます。
どうか温かい目で見守ってやって下さい…。
- 375 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/18(月) 14:03
- おかえりなさい。
お忙しそうですが、待っていますので。
- 376 名前:A 投稿日:2006/11/28(火) 18:57
- 待ってます。
- 377 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/28(火) 21:26
- 上げんな
- 378 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/28(火) 21:31
- 落ちた
- 379 名前:名無し 投稿日:2006/12/13(水) 20:31
- 待ってます
- 380 名前:大塚 投稿日:2007/02/06(火) 12:15
- 昼休み。会社から書き込んでます。
更新がものすごく滞ってしまって申し訳ないです。
完結させてから一気にあげようと思っているので…。
もうしばらく、時間を下さい。
- 381 名前:AM 投稿日:2007/02/06(火) 20:22
- 待機
- 382 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/06(火) 22:46
- オチ
- 383 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/06(金) 01:08
- 待ってます
- 384 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/11(水) 23:20
- 待ってます
頑張ってください
- 385 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/21(土) 03:29
- 待ってます
- 386 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/21(土) 12:55
- あげちゃいやん
- 387 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/03(日) 22:59
- まだかなぁ?
いつまでも待ってます。
- 388 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/05(火) 02:06
- 待ってます
- 389 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/05(火) 02:40
- あげないでくれYO…
自分も待ってます
- 390 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/27(水) 00:36
- 放棄じゃないんよね?
どうしても完結まで読みたいんで、ひつこく待ってます(^-^)/
- 391 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/07(火) 20:39
- 保全
- 392 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/07(火) 23:58
- >391さん
上の方に倣うのが保全のマナーかと。
- 393 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/08(水) 00:41
- sageをいれたつもりになってました…
スミマセンでした。
- 394 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/19(日) 23:13
- 生存報告でもいいので待ってます!
- 395 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 03:20
- 待ってます
- 396 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 13:44
- 更新待ってます
- 397 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/11(木) 01:31
- 大塚さん、一言だけでもまってます。
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