Wonder neighbor
- 1 名前:おって 投稿日:2004/09/07(火) 22:56
- 栗板設置という事で以前自分が羊で別の名前で書いていたものを
修正、若干の加筆して実験的に上げて見ることにしました。
もしかしたら読んだ事がある方がいらっしゃるかもしれませんが、
よかったらどうぞ。
- 2 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 22:59
-
1. Let’s cook
「もう昼か・・・。」
掃除機を押入れにしまい、椅子に座って時計に目をやった。
12時。
今日は講義がないから、特にすることもない。暇だ。
俺はただの大学生。
普通に大学行って、適当に遊んで、普通の生活を送っている。
ただ一点をのぞいては・・・。
そのせいで俺はサークルにも入れないでいた。
“それ”はあまりにも突然訪れる。
あの日あの時あの場所なんて限定は全くなく、24時間体勢で俺を襲う。
ピンポーン♪
どうやら今日も“それ”はやってきたらしい。玄関へ向け足を進める。
ガチャガチャッ、ガチャッ。
ドアは無機質な音を立てて開いた。
鍵を確かにかけていたはずなのに。
- 3 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:00
-
「勝手に入るなー!!!」
大声を上げたが、石川はびくりともせずに平然とした表情をしている。
あれ?と俺がマジマジと見つめると石川は耳から耳栓を抜き、そして言った。
「ジャジャーン。」
「ジャジャーンじゃないよ!」
更に石川は合鍵までかざしてみせた。
「ご飯。」
「はい。」
「愛がないよぉ〜!!!」
渡されたカップ麺とタイマーを持ちながら石川は泣いた。
「人の家で好き放題の梨華ちゃんの方が愛がないよ。大体恋人じゃないし。」
俺がそう言うと、石川は目をウルウルさせて俺をじっと見た。
俺は慌ててカップ焼きそばを上に乗っける。
「ひど〜い。もういらない。」
石川はクルッと後ろを向くと、ゆ〜っくりと一歩だけ足を前に出した。
ただ見てるだけの俺。
石川は振り返り、こっちを見た。
「本当に行くよ?」
- 4 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:01
-
10分後
現在の進行状況、(3歩−2歩)×2
それはまるで365歩のマーチの如く。
ていうか歌ってるし。原形とどめてないけど。
「・・・・分かった。作るから。」
遂に俺は諦めた。
その一言を聞いた瞬間石川の表情は満面の笑みへと移り変わる。
凄い勢いでソファに座り、勝手にテレビの電源をつけた。
「みのさんって、結局怒って適当にまとめて終わりで相談になってないよねぇ。
間違いない!!」
なんなんだその変わり身の早さ・・・。
俺は仕方なく台所へ向かって料理を作り始めた。
今日は何にしようかな〜?暫くして出来上がると、
ガチャッ。
「また勝手に入ってきた奴がいるー!!」
俺は心の中で絶叫した。辻だった。
「美味しそうな匂いれす〜。」
なんでここ3階なのに・・・辻は1階に住んでるのに・・。
そういえば鍵掛けてなかったか。
「あ、のの上がって。狭苦しいところだけど。」
石川の一言に辻もソファに座りテレビを見始める。もういいよ・・・。
最近人生諦めも肝心だと悟った。
実を言うとしっかり3人分作っておいたのだ。
- 5 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:02
-
「今日は海砂利水魚か〜。」
おなじみのネタにももう飽きた。
クリームシチューを見ると、石川は必ずこうコメントするのだ。
カレーはミスターポポ、うどんは上戸彩、パスタはタンポポと言う具合に。
暫く談笑しながらクリームシチューを少しずつ平らげてゆく。
残り3分の1ぐらいのところで俺は口を開いた。
「で、今日は食べに来ただけ?」
「ううん。8:2でご飯だけど・・・。」
石川は残りを全て口に運び、落ち着いたところで改めて話した。
「お仕事。」
「今回は誰?」
「ごっちん。」
「ごっちんか・・・・。用件は?」
「横にいるよ。」
「へ?」
- 6 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:03
-
俺は言われるがままに横を向いた。
横を向くと後藤が俺のクリームシチューの残りを全部食べていた。
「うぃ。」
「え!?」
また勝手に入られた。大丈夫か?俺の家。
「このクリームシチュー、まあまあじゃん?」
後藤はあっという間に俺のクリームシチューを、俺の、俺の!!!(以下略)
「じゃあ部屋来て。」
なんだか一方的にペースに流されている気がする。
俺は満たされないお腹をさすりつつ、同じ階の後藤の部屋へと向かった。
- 7 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:03
-
部屋に入ると、俺は聞いた。
「んで、どうしたのごっちん。」
後藤はエプロンを着ながら答えた。
「あのね、ちょっと食べて欲しいものがあるんだけど。」
え?もしかして??
「今度彼氏の誕生日で、料理作る事になったんだけど。」
あ、やっぱそんなもんか人生。
「正直な感想を教えてね。」
「はい。」
これが俺の”仕事”。
俺がこの仕事を始める事になったのは、ほんの偶然からだった。
- 8 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:03
-
- 9 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:04
-
- 10 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:05
-
「値段だけあって広いなここ。」
俺は大学入学と同時に高校時代からバイトでこつこつ貯めた金と親の仕送りで
一人暮らしを始めた。
その時点でかなりの金が貯まっていた俺は、部屋ぐらいいいところに住もうと
少し奮発した。
そして引っ越ししてきた翌日、挨拶にお隣さんのチャイムを鳴らしたときから、
この物語は動き始める。
ピンポーン♪
「はーい。」
ん?嫌に声高いな・・・。アニメっぽいっていうか・・・。
ガチャッ
「え?」
俺は一瞬硬直して、動けなくなった。
向こうはそんな俺を見て微笑んでいる。石川・・・梨華?
「あ、あの・・・引越しして来たので今後ともどうぞよろしくお願いします。」
緊張する俺に石川は微笑みながら答えた。
「はい。」
「で、これ。パンを作ったんでよかったらどうぞ。」
高校時代付き合っていた彼女に料理を叩き込まれていたため、
俺は結構料理には自信があった。
石川はパンを見ると一口、目の前で食べてくれた。
「ほふぃふぃ〜!!!」
食べ終わる前に少し驚いたような表情で石川は声を上げた。
「すごいですね〜、今度教えてくれませんか?」
ありがとう、元カノ!!お前の事は覚えている限りは忘れない!!
最初は正直金づるに出来たらなと思っていた。
- 11 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:06
-
それから俺はよく分からない日々を送った。
毎日向こうの仕事が終わった後、料理の指導をする事になったのだ。
そして段々と親しくなってくると、石川はある日突然俺に言った。
「引越しの挨拶って、ほかにどこ行ったの?」
「隣の二部屋だけだけど?」
「あ〜、じゃあ知らないかぁ。」
「?」
「あのね、ここのマンション、「娘。」と卒業生、合わせて11人住んでるの。」
「11人?!」
これには流石に驚いた。
石川だけでなくあと10人も!?
「お仕事行くときの待ち合わせに便利だからぁ、同じにしたの!相部屋もいるけどネ。」
ニコニコしながら言う石川。俺は混乱で頭を少し抱えていた。
- 12 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:06
-
既に顔を忘れつつある元カノから教え込まれた料理を一通り教え終えた頃。
「いいバイトないかって言ってたよねぇ?」
「うん。あったの?」
「うん。明日連れてってあげる。」
- 13 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:07
-
「え?ここって。」
彼女たちの事務所。え?ここでお茶くみでもするの?
俺はそのまま事務所の奥へと進められた。するとそこには・・・つんく?!
「おお、石川、こいつか?バイト探しとるっちゅうやつは。」
「はい、適任だと思います。」
あの〜、話が見えないんですけど。
「せや、座れや。」
俺は言われるがままに座る。
「お前さんに頼みたい仕事は、まあ、なんちゅうのかな、
「子供悩み相談電話」、しっとる?」
「はい。」
「あれの「娘。」版をやってもらいたいんや。名づけて『娘。悩み相談』」
「はい?」
唐突な話に、俺は少しついていけないでいた。
ていうか名づけられても困る。
- 14 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:09
- 「やっぱ、芸能界っちゅう場所におると、嫌でもストレスは溜まる溜まる。
悩みの種だっていくらでもあるんですわ。
そこでいくら話しても芸能界に全く影響の出えへん素人に悩みを聞いて
もろたらええやろ思うて探しとったんやけど、
石川がお前ならええんちゃうか言うてな。」
一気に説明される。
「はぁ。」
「バイトやけど、自給とかにすると収入が安定せえへんやろ、
せやから月給の代わりに、こんなもんでどないやろか?」
目の前に提示された金額は自分の想像を遥かに超える額。
ただ悩みを聞いて、お金を貰う?
しかもこんなに!美味しすぎる!!
「マンションの範囲だけでかまへんから。」
「やります!!」
「よっしゃ、この契約書にサイン。」
俺はテンションが上がりまくっていたため全く契約書を読まずにサインした。
そしてサインしたあとに気がつく。
「24時間体勢で悩み相談電話で受付。たとえ夜中であろうがたたき起こされて話を聞く、拒否権はない」
・・・・・割が合わないかも・・・。
- 15 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:09
-
- 16 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:09
-
- 17 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:10
-
まず最初に出てきた料理はミネストローネ。
ああ、今日の仕事は楽そうだな〜。
ただ後藤が鋭い目つきでこっちを見ているのが気になる。
あの〜、本音聞きたいんじゃ?
まあまずい事もないだろう。俺はスプーンでスープを拾い上げ、
一気に口に入れた。
「!!!」
こ、これは・・・。
ガタッ。
俺は立ち上がり、トイレに向かって体を動かした。
後藤がそれに素早く反応して壁となる。
「ちょっとトイレ。」
「感想。」
左・左、右・右、下・下、上(?)・上。
隙間を通ろうとするもことごとく阻まれてしまった。
やばい・・・・キテル・・・。俺は声を絞り出した。
「さ・・・・・砂糖?」
「あ。」
俺はふらっとした後藤の横を急いで駆け抜けた。
なんてベタなんだ・・・。塩じゃないだけに始末が悪い・・・。
トイレから戻ってくると、後藤は再びミネストローネを作り始めていた。
しばらく爽快な気分で料理の完成を待つ。
- 18 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:11
-
「はい。」
リベンジマッチ。
さて、今度はどうか・・・。俺は慎重に一口、二口と口に入れた。
「?」
なんか変だぞ?おかしいので一気に飲み干す。
「!!!!!」
ま・・・・マサカ・・・・。
「これ・・・・どこの水使った・・・?」
後藤はボウルを俺の目の前に置いた。
「これだけど・・・・。え?!あ!!雑巾しぼ」
全部聞き終わる前に俺はトイレにダイビングヘッド。
次に出てきたのは後藤お得意の創作料理。
今回はトーストに納豆を乗せたものだった。
後藤は電子レンジに入れ、時間をセットすると、イスに座った。
うとうとしている。また嫌な予感がしてきた・・・。
- 19 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:11
-
「・・・時間間違ってない?」
いつまでたってもできないので俺は後藤に聞いた。
「へ?」
後藤は慌てて目を開けた。
俺は後藤が立ち上がる前に電子レンジの元に向かった。
「あ、黒。」
俺は急いで電子レンジを切り、トーストを取り出した。
後藤が食い入るように見ている。・・・食べたほうが良さそうだ。
契約書の文字が頭をよぎる。『拒否権はない』
パクッ。
あ、なんだろこの感じ。あ、そういや俺猫舌・・・。
納豆が下の上でどろどろ溶けてく。
バタッ!!!
「大丈夫?!」
俺はかろうじて納豆を全て飲み込み、完全に火傷した舌を頑張ってまわした。
「・・・・・寝たら?」
「え。」
- 20 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:12
-
「さっきからフラフラしてるし、瞼重そうだし・・・。
寝不足で力ちゃんと出せてないでしょ。」
「・・・すごいね。分かっちゃうなんて。じゃあお言葉に甘えて、寝る。」
後藤はそれだけ言うと、ソファの上で目を閉じた。
どうやらさっき電子レンジをセットしてから、自分がうとうとしていることに
さえ気がつかないほど眠かったようだ。よほど疲れてるんだな。
俺は自分の着ていたコートを脱ぎ、後藤の上にそっとかけた。
すっかり目が覚めた後藤の作った料理は抜群で、俺は思わずうなってしまった。
すると匂いにつられて石川と辻が再び現れた。
「美味しそうぉ〜。さすがごっちん。」
石川が鍵をくるくる回しながら部屋の奥へと入ってくる。
「鍵、何本持ってるの?」
「料理上手い人の家だけ。」
だけ、って・・・。
4人で食卓を囲み、軽い試食会を行った。
「おいしいれす〜。これならいくられも〜。」
ミネストローネがどんどん辻の胃の中に納まってゆく。
あれ?昔体重関係の悩み俺に相談してこなかった?
俺の視線なんてお構いなしにトーストも一気にがっついてゆく辻。
もしかしたら俺が成長期で一番食べた時期よりも食べているかもしれない。
今痩せてるからって油断してると、今に3倍に・・・。
- 21 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:14
-
「今日はありがとう。」
後藤は軽くおじぎをした。
「いやいや。」
石川がニコニコしながらお辞儀し返す。食べるだけ食べて・・・。
「じゃあまたね。」
俺は3つ先の部屋へと戻り、中に入る。
鍵をちゃんとかけ、チェーンをつけた。
そして台所へ行き、片付けていなかったさっきのクリームシチューを片付けようとすると、
「あれ?」
皿は全部しっかり洗われて、きっちりしまわれている。
コンコンッ。
「・・・・・・?!」
ベランダで石川が手を振ってこっちを見ている。
それを見た瞬間俺は体を180度回転、玄関へと視線を移した。
既にドアが開けられている。
「う゛〜、通れないれす〜。」
しかも辻が必死に入ろうとしている・・・。俺は玄関に行った。
辻が嬉しそうな顔をする。
- 22 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:14
-
バタンッ!!
ガチャッ
「!?」
ドンドンドン!!!
ドアを叩く音なんてお構いなしに今度は窓際のカーテンを閉めた。
更に窓を叩く音。俺は耳栓をしてソファの上に寝転がった。
ブーン。
携帯が震える。
耳栓を外し、電話に出た。
- 23 名前:1. 投稿日:2004/09/07(火) 23:15
-
「うっさいわぼけー!!!!」
いきなりの大声に、俺はソファから思いっきり跳ね上がってしまった。
「ね、姐さん!!!!」
電話の主は中澤だった。
「何やっとんねんワレ。ベランダに石川出して、放置プレーか?」
おれは慌ててカーテンを開き、窓を開けベランダに出た。
石川が明らかに機嫌の悪そうな顔をしている。
俺は上を向くと姐さんがこっちを睨み付けてきた。
「次また石川をいじめたら、クビやぞ。」
ドスの効いた声に俺はただ、
「はい・・・。」
としか言えなかった。何これ、集団いじめ?
石川と辻を部屋に入れ、俺は言った。
「で、何?」
二人は同時に答えた。
『おなか空いた』
- 24 名前:おって 投稿日:2004/09/07(火) 23:16
- 羊の時は11話でしたが、もう1話新しく追加する予定です。
更新は、修正・加筆が出来そうな時に、出来たら。
もしかするとかなりゆっくりになるかもしれません。
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/08(水) 02:07
- またスレ増やしてる
しかも面白いしw
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/08(水) 02:52
- おぉ、知ってる知ってる。読んでたよ。
加筆・修正ってことで、今度はどんなのになるか期待大。
一話増えるみたいだし、楽しみに待ってるよ。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/08(水) 09:10
- おもろいっすわー
- 28 名前:名も無き読者 投稿日:2004/09/09(木) 21:52
- お、五本目。
てかいいなぁ、また面白いなぁ。。。
楽しみですわ、頑張ってw
- 29 名前:◆ChamyvFM 投稿日:2004/09/13(月) 13:00
- 楽しみに待っていま〜す。
- 30 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:15
-
2 別れさせ屋
講義が午後からだったのもあって、俺は12時頃に目を覚ました。
着替え、簡単なブランチを取りながらテレビをつける。
ちょうどサングラスをかけたおっさんがボケをかましていた。
周りが適当に笑ったところでゲストの紹介へと移っていく。
「あ。そういや今日か。」
石川と飯田がゲストとして出演していた。
いつも通りボーっとその画面を見る。ふと、可愛い・・・だなんて思ってしまった。
いつもはそんな事微塵にも思わないのに。
普段喋ってる時はたいして感じないが、やっぱり彼女はアイドルだ。
石川を見ていて、俺はふと思いついた。
「ワンギったれ。」
携帯持ってたら面白いけど・・・。まさかね。仕事中だし。
軽い気持ちで携帯をいじる。
テレビ越しの石川はちょうど文字をボードに書き込んでいた。
しかし突然手の動きが止まり、ペンを置くと手を下へ下げた。
持ってるよ・・・。
面白くなったので日ごろの仕返しと言わんばかりに何回かした。
「あ、そろそろ行かなきゃ。」
石川の出演が終わった頃、俺は家を出た。
- 31 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:16
- 階段教室で講義中・・・。
ブーン。
ブーン。
ブーン。
やるんじゃなかった・・・。
向こうはこっちに電話をしやすいように、俺の大学のスケジュールを
大体把握していた。それを悪用して授業中に延々とワン切りしてきている。
しかも複数人で。
「今度はこいつか・・・。」
と言った感じで色んな人から次々にワン切りを受ける。
そろそろ謝罪の電話でもするべきだろうか?
いや、そんなことをしてるようでは・・・。馬鹿みたいな葛藤が続く。
「着暦全部埋まった・・・。」
そりゃそうだろう。あんな大所帯でやってくるのだから。
向こうは別に復讐とかじゃなくて、遊びでやっているのはわかるが、
ちょっとタチ悪いぞこれ。
- 32 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:16
-
ブーーーーン。
今までかけてこなかった人から電話が来た。また一人増えたのか・・・。
ブーーーーン。
しかしそれはどうやらワン切りではなさそうだった。
俺は幸い一番後ろの席だったので、机の下に隠れて電話に出た。
- 33 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:17
-
「仕事の話、だよね?」
俺の問いに、矢口は答えた。
「うん。今から部屋行っていい?」
「行ってもいいけど、今大学で講義受けてるから、ちょっと待ってくれない?」
「やだ。今すぐ帰ってきて。」
やだって・・・。あ、そういえば俺拒否権ないんだっけ。
「・・・分かった。」
とりあえず相談の電話を入れてくる子は全員俺のスケジュールを把握している。
しかしこのように拒否権がないのをいいことに、自分の好きなタイミングで
呼び出す子も少なくない。
特に同い年の矢口は俺に気を使った事なんて一度もなかった。
「帰る。」
隣の席の友達にそう告げると、すぐに言われた。
「お前単位やばくない?」
俺ははっとしたが、
「なんとかなるよ。」
おそらくこのときの俺の表情は諦めに近いものだったに違いない。
- 34 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:18
-
こんな事考えてもしょうがないがこのバイト、果たして割に合っているのかどうか、
たまに考える事がある。
この悩みを聞いたら何お前贅沢なこと言っているんだという人は山ほどいるんだろう。
でも実際にこの仕事をやったら、きっと悲鳴を上げるに違いない。
バイトなのに、自分の生活を捧げなくてはならないのだ。
例え遊んでいるときでも、電話一本で梗塞されてしまう。
そのせいで大学は入って2年間、たった一度受けた告白も返答の瞬間に
呼び出されて不意にしてしまった。
俺は講師の視線を見計らうと、さっと教室を抜け出した。
- 35 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:19
-
ガチャッ。
「おかえり〜。」
「ただいま〜って、え゛―?!」
反射的にただいまって言ったけどなんで矢口、中にいるの?
「石川に借りた。」
「あ、そう・・・。」
こっちが声を出す前に平然と言う矢口。ただ呆れるしかなかった。
「今日の仕事の内容は?」
「キャハハハ。バカだ!バカだこいつ!」
矢口はテレビを見て笑っている。
あの〜、ちょっと?
「おーい。」
「え?ああ今日はね、ちょっと厳しいかもしんないけど、おいらちょっと、別れたくてさ。」
- 36 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:19
-
「は?別れたい?」
「そ。だから新しい彼のフリして。」
新手だ。今までそんな相談なかったぞ。(あってたまるか)
大体、子供相談室の変形なのに・・・。でも、
「ということは、いつもより?」
俺が言うと、矢口は答えた。
「うん、ボーナスは入るよ。」
や・る・し・か・な・い!(拒否権ないけど)
こんな風に変則な相談だったり、こっちがそれなりの労力を割く場合、
特別ボーナスが入るシステムになっていた。
でもいまやほとんどが電話相談で留まっていないからよほどのことがない限り
ボーナスは入らないけど。
「じゃあ、明日午前11時に部屋来るから。」
打ち合わせを終えた後、矢口はそう言って帰っていった。
とりあえず、打ち合わせ通りの服を買いに行かねば・・・。
- 37 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:20
-
- 38 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:20
-
- 39 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:21
-
「これいいよぉ〜。あ、これも!」
こいつに頼んだのは間違いだったのだろうか・・・。
石川はたくさんの服を目の前に興奮気味に渡してきた。
「そんなに騒いだらバレない?」
「大丈夫大丈夫〜。」
深々と帽子を被った若い女の子がハイテンションで騒いでる。
それだけで充分注目を浴びてしまうのに石川はまるで気にしていない。
まあ石川がこんなテンションでこの場所にいるなんて、誰も夢にも思わないだろう。
「付き合ってるわけでもないのにそう言う風に書かれたら迷惑じゃん?」
俺が気を使っても、石川は全然気にしていないようだった。
「だから大丈夫だよ〜。」
服を渡されたところで俺はふと思い出して言った。
- 40 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:22
-
「そういえばさ、報復(ワン切り返し)されたけど仕事中に携帯持ってる
梨華ちゃんにも非がない?」
言った瞬間石川は服を俺に積み上げた。
「控室に置いて行くの忘れたの。でも何回も、何回も、してこなくたっていいじゃない?」
あ、やばい、ちょっと怒ってる。
積み上がってゆく服を見て俺は思った。
「じゃあこれ着てみて。」
石川にたくさんの服を渡され、試着室に入る。
にしても矢口はなんでこんな格好をしろって言うんだろう。
着替え終わり、鏡に写る男を見ていると、石川が突然面白がって、
「3秒前〜」
え?何カウントダウンしてんですかこの人。
「2・1・ほいっ!!」
カーテンが開き、俺の視界は一気に開けた。
なんか若干名こっちを見ている。その表情を見て俺は思った。
「マジでこれやるの?」
- 41 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:22
-
- 42 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:23
-
- 43 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:24
-
翌日、矢口と一緒に矢口の彼氏に指定した喫茶店へと向かった。
矢口がドレスアップ?した俺を見て最初の感想は、
「キャハハハ!いいいい!!いける!!」
確かにいけるだろう。いろんな意味で。でも嫌なだ〜この格好。
俺は溜息をつきながら袋に服を入れる。
「じゃあ一言目は打ち合わせ通りね。」
喫茶店への道のりで矢口は言った。本当にやるの?
でも拒否権のない俺は従う他なかった。
「なんか目茶目茶バカみたいなんだけど。」
「えー、そんなことないよ。」
矢口はテンションが下がる一方の俺を見てまた笑う。
これを見て『いい!いい!』と言う石川の気が知れてる。
てかなんでこんなもん売ってるんだよ・・・。
喫茶店の目の前まで着くと、矢口の彼氏はもう既に到着して座っていた。
ガラス越しに顔が見える。
「そういえばあいつだっけ。」
俺は思い出して呟いた。
この仕事の特権とでも言おうか、マンションにいるメンバーが誰と
付き合っているかどうか、全員に教えてもらう権利を持っている。
だが勿論フリーの子もいるわけで、石川も今はそのうちの一人だった。
「行こう。」
矢口の一言とともに俺達は喫茶店の中へ入った。
物凄く恥ずかしい気持ちを抑えて。
- 44 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:25
-
店内に入ると、俺はすぐにトイレへと着替えに行った。
そして矢口と合流すると、やはり笑われた。
そして周りが物凄い目でこっちを見てくる。
俺達は他の客と目を合わせないようにして、矢口と席に座った。
「誰?」
矢口彼は俺を見て物凄い不審な眼で見ている。無理もない。
俺だって彼の立場だったなら、凄い目で見るだろう。
「あんたと別れたいの。このピアッツァと付き合うから。」
俺を見て言う矢口。
「ボンジョルノォォォ♪」
手に持つアコーディオンの間抜けな音色とともに“ピアッツァ”は
挨拶をした。
「バカ?」
ザクッ。
- 45 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:25
-
早速俺の胸をえぐるような一言。
カウボーイハット、腕によく分からないヒラヒラをつけてジーンズは穴だらけ、サンダル。
手にはアコーディオン。顔はガングロメイク。そして挨拶に「ボンジョルノォォォ♪」
バカ以外にどう表現しろというのか。いくらなんでも石川やりすぎ・・・。
「真里トォォ、別レテェ、コレマスンカァ?」
打ち合わせ通り片言の日本語で話す。
その度にアコーディオンを鳴らすのも忘れずに。ああ、死にたい・・・。
矢口彼はそんな俺を見て、口を開いた。
- 46 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:26
-
「お前誰だよキモカス。」
キ・・・キモカス・・・。
なんか物凄い言われをして俺はひどくショックを受けた。
「そうよあんたはキモカスに負けたのよ!」
キモカス・・・。
「なんで俺がこんなキモカスに!!」
「うるさいわねぇキモカスのほうがあんたより」
「キモカスキモカスうるせぇぇ!!!」
『黙れキモカス。』
「・・・はい。」
矢口と矢口彼の同時攻撃に泣きそうになりながら下を向いて黙る。
俺が黙ると二人はますます拍車がかかったように揉め出した。
凄い勢いで口論が展開してゆく。
あまりにも熱中しすぎて、俺が変装を解いたのにも気がついていないようだった。
しばらくして俺は気がついた。
そういえば俺の仕事は、二人を別れさせる事だっけ・・・。
俺は口を開いた。
- 47 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:27
-
「あの〜・・・。」
「なんだよカス。」
『キモ』が消え、『カス』の言葉の重みが増す。
キモカスよりダメージが大きかった。
泣きたくなる気持ちをぐっとこらえ、なんとか口を開けて続けた。
「喧嘩するほど仲がいいという言葉もありますし、やり直してみては?」
『誰がこんな奴と!!!!』
二人同時に俺を鬼気迫る表情で叫んだ。というか鬼。
俺は二人の意思を確認すると、持ち前の営業スマイルで言った。
「じゃあ、別れるで、決まりですね。」
- 48 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:27
-
- 49 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:28
-
「すごい切り替えしだったね。びっくりしたよ。」
「まあね。大分心と身体が傷ついたけど。」
俺はびしょぬれになったコートを見る。
あーあ、全部ことが終わってから着替えるべきだった。
にしても途中で着替えたのに二人とも気がつかないほど熱くなっているのにはびびった。
てか結局あの変装全然必要なかったような。
「別れ際に水かけて一発って、女がやるもんだと思ってた。」
俺が嘆くと、矢口はまた笑った。
そしてハンカチを取り出すと、俺の服を拭いてくれた。
「ありがと。」
少し口元を緩ませた。意外に優しかったりするんだよな。
同い年とは思えないくらいしっかりしてるし。
「じゃあお昼ご飯、おいらがおごっちゃる!」
「マジで?久々じゃん。」
自然な笑顔で矢口は答えた。
「同い年のよしみだよ。」
俺達はそのまま焼肉屋へと向かった。
「あ。」
突然矢口は気がついたように足を止めて言った。
「皆も呼ぼうか?」
「そうだね。」
何人呼ぶ気だ?
- 50 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:28
-
- 51 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:30
-
「あの〜。」
「時間がないからとにかく食べて!!!」
矢口は話す暇を与えてくれない。苦しいんですけど?
それでも目の前の皿は全然減らない。
「あと10分、頑張れ〜。」
後藤は無表情で自分はゆっくり食べながら言った。なんで?
「おごりって言ってたじゃん!!!」
俺の一言にも、矢口は耳を貸す気はないようだ。
『30分以内に5人前1人で食べきったらタダ(失敗の際は料金きっちり頂きます)』
まさかこれに挑戦する破目になるとは・・・。
「まあ食べきったらおごりだよ。」
矢口の一言はつまり、食べ切れなかったらそれは自腹を意味する。5人前分。
「あと8分〜。」
石川がニコニコ笑う。
「やっば!!」
慌てて口に詰め込むも、そう簡単には減ってくれない。
苦しんでいると徐々に時間が迫ってきた。
- 52 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:30
-
「ご馳走様〜。」
横で同じチャレンジに挑戦していた辻が余裕たっぷりの表情で完食。
「うそぉぉ?!」
「驚いてる時間はないよ、あと3分。」
後藤は矢口のビールをひゅっと拾い上げ飲んだ。
俺も飲みたいけどそんな時間もない。つーか飲むな未成年。
とりあえず焼肉以外のものを口に入れる暇も余裕もなかった。
- 53 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:31
-
- 54 名前:2. 投稿日:2004/09/21(火) 21:31
-
「はぁ・・・・はぁ・・・。」
なんとかギリギリ食べ終わった俺は、そのままぐったりと壁に寄りかかった。
矢口は俺を見て、
「もっかい行く?」
「え?!」
「冗談冗談、キャハハ!!」
酔って矢口はますます饒舌になっていた。
俺はそれについてコメントする余裕もなくボーっと天井を見た。
焼肉から立ち込める煙が穴に吸いこまれてゆく。
なんだか自分と少し似ている気がした。
横を見ると辻が本当にまたチャレンジを開始していた。
さっき全く変わらぬ速さで食べて行く。皆びっくりして辻を見た。
辻は食べる事の喜びをかみしめるように食べてゆく。
「ごちそうさま〜!」
笑顔で余裕の完食。
「恐ろしや・・・。」
こいつの胃はまぎれもなく宇宙のようだ。
- 55 名前:おって 投稿日:2004/09/21(火) 21:41
- 皆さんの反響の良さに嬉し泣きしました゚・(ノД`)ノ・゚・
レスありがとうございます。
>>25 名無飼育さん 様
増やしてしまいましたwどうぞ最後までお楽しみ願います。
>>26 名無飼育さん 様
読んでいらっしゃいましたか。前読んでいた人でも楽しめるように頑張ります。
>>27 名無飼育さん 様
完結で率直な感想ありがとうございます。今後もそう言って頂ける様精進します。
>>28 名も無き読者 様
また面白い、その一言がグッと来ました。本望です。
>>29 ◆ChamyvFM 様
気長にお待ち下さい。
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/21(火) 22:40
- おもろいし、俺が変にスレてなくて読みやすい。
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/22(水) 03:07
- うん、たしかに面白いし読みやすい
- 58 名前:◆ChamyvFM 投稿日:2004/09/22(水) 11:41
- >>55
はーい。
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/26(日) 14:59
- 面白いですね。
あと誰がでてくるのか楽しみにしてます。
- 60 名前:(〜^◇^) 投稿日:(〜^◇^)
- (〜^◇^)
- 61 名前:匿名 投稿日:2004/11/02(火) 08:12
- しっかり読ませて頂いていながら、初レスです(^^;)
いつも楽しく読ませて頂いてます。
辻ちゃん恐るべし(笑)
- 62 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 16:57
-
3.和泉家物語
講義が終わり教室を出ると、友達に話しかけられた。
「今日このあと合コンあるんだけど行かない?」
久々の誘いに俺は喜んで乗った。
「マジで?!行く行く!!」
ブーン。
「ごめん。用事入ったみたい・・・。」
俺はディスプレイに表示される名前を見ながら泣く泣く友達の誘いを断り、電話に出た。
「紺野、久々だね。何、今日は?」
「出来れば直接会ってお話したいんですが・・・。」
紺野は俺に敬語で話してくれる唯一の娘だった。
「分かった。すぐ帰るよ。」
最近このパターン多いなぁ、遊ぶ暇が全然ない。学生にとってバイトは
家賃と遊ぶための金を手に入れるためのはずなのに、後者の使い方を全く出来ていない・・・。
逆に言えば、それだけ貴重な体験をしている。今はそれをありがたく思おう、
と自分を無理矢理に納得させた。
- 63 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 16:58
-
「紺野―。」
俺の部屋の前にいた紺野に手を振って話しかけると、紺野は微笑んだ。
「おはようございます。」
芸能人の性?それほど気にせず家の中へ招き入れる。
紅茶を入れてテーブルを囲むと、紺野は話し始めた。そして、
「傷心デート?」
紅茶を一口すすると、俺は更に聞いた。
「傷心旅行みたいなもんってこと?」
「はい。旅行してる時間がないので・・・。」
でもあれって一人でするから意味があるんじゃ?ていうか傷の痛みがぶり返さない?
そんな事も考えたけど、こんな楽でお得な仕事ないし、久しくデートなんかしてないし。
「OK、分かった。で、いつ?」
紺野は嬉しそうに答えた。
「今度の金曜日です。新しく出来たショッピングモールがあるんですけど、
そこに行きたいなぁって。ゲーセンとかもあるみたいですよ。
そこに朝10時に集合したいんですけど。」
俺はとりあえずその場所を教えてもらうと、携帯にメモした。
「分かった。じゃあ、木曜日ね。」
紺野を見ると紺野は軽くお辞儀をして、俺の部屋から出ていった。
「礼儀正しい娘だよな〜ホント。」
- 64 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 16:59
-
ブーン
「お、次は誰ですか〜?」
ディスプレイには『吉澤ひとみ』の5文字が写し出されていた。
俺はすぐに通話ボタンを押した。
「よっすぃー久々、どしたの?」
「遊びに行こうぜぇ〜!」
いきなりだったのでびっくりした。
お、遊んで稼げる美味しい仕事が次々と?
「いつ?」
「今度の金曜〜!」
え?マジですか?ダブルブッキング?
「いや、その日はちょっと・・・。」
「え〜?!あたしその日しか空いてない〜!!」
よくよく考えると当たり前の事だ。二人は同じグループで、同じスケジュールで
働いているのだから、オフも当然被る。そして俺には拒否権はない。
つんくさん、このくらいの事態予測してくださいよ・・。でもとりあえず、やるしかなかった。
それ以外に俺に選択肢は与えられていなかった。
- 65 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 16:59
-
「分かった。じゃあ場所は決めさせて。」
「やった〜!」
電話の向こうから喜びの声が聞こえる。場所は当然あの場所に決定。
「新しいモールかぁ!いいね〜!」
ゲーセンがあるのもポイントだろうか。吉澤はあっさりOKした。
「時間はどうしようか?」
「そうだな〜・・・。朝10時くらいでどう?」
緊急事態発生。緊急事態発生。即修正。
「ちょっと早くしていい?」
「え、いいよ。」
とりあえず9時半に時間を定めた。吉澤は最後まで何故かハイテンションで話していた。
- 66 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:00
-
- 67 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:00
-
- 68 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:01
-
「さて、どうする・・・。」
白紙の紙を前で俺はうなっていた。
とりあえず行動予定ぐらいは立てないとどうしようもない。
適当な理由をそれぞれに使いまわして右へ左へ移動して・・・。
俺は頭の中で思い描いた計画を紙にぶつけた。
「これでよし・・・・。」
でもこれをちゃんとしっかりこなせないと、今回の仕事は成功しない。
「やるしかないぞ・・・。」
「何を?」
「うわ!!!」
突然背後から話しかけられて紙を隠す。今日はドアの開いた音すら聞こえなかった。
しかし石川は確かに今俺の後ろにいる。
「今日はどっから入ってき・・・・何その格好。」
俺は振り向くと、石川の格好に驚いた。何故かサンタルック。意味不明。
「少し早めの梨華サンタ〜。」
石川はくるりと一回転とした。可愛いかも。でも口から出た言葉は、
「へぇ。」
とりあえず今は、紙を見られない方が優先。どうにかして帰らせたかった。
- 69 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:02
-
「ひどいなぁ〜。これ今年コンサートで使うかもしれないんだけど、来る?」
「来ない。」
「えー。」
石川は少しだけ切ない表情を浮かべた。
「ところでどこから入ってきた?」
俺が聞くと、石川は押入れの方へと歩き出した。
掃除機を入れているほうではない、もっと大きな・・・・え?
まさか・・・。
「ここにずっと入ってたの。」
石川は押入れの中で体育座りした。
「嘘〜?!」
「嘘だけど、ここ。」
石川は壁に手をかざした。
パタン!!
「・・・・・・。」
いつの間にかつけられた取っ手を引っ張れば、そこからは見たことのある風景が・・・。
「ドア?」
そう聞くと石川はうなずいた。
「埋めろ〜!!!!」
- 70 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:02
-
- 71 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:02
-
- 72 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:03
-
AM9:25
俺は吉澤よりも先に待ち合わせ場所に着いた。問題なのは吉澤の遅刻だ。
それをされると結果的に俺が遅刻してしまう。紺野はおそらく時間通りにちゃんと来る。
頼む吉澤、早めの登場を・・・。
「早いね。」
色々考えていると後ろから話しかけられた。遊びで来ているせいか、
しっかり時間通りに吉澤は到着した。
「どこ行く?」
吉澤は答えた。
「ここに来たからにはやっぱ服見ないと!」
予想通りの返答をありがとう。心でつぶやき、とりあえず一番近くの店に足を踏み入れた。
「あ〜これもいいなぁ〜。う〜ん・・・・。」
吉澤はジーンズ選びに結構迷っていた。俺はそれを見てすかさず肩を叩いた。
「決まらないなら外で待ってようか?」
「うん、お願い。」
「じゃあ決まったらメールして。」
俺はゆっくりと店内から出ると、途端に猛ダッシュした。
- 73 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:04
-
AM10:00
「間に合った・・・。」
紺野が待ち合わせ時間より早く来てしまう可能性を考えて待ち合わせ場所を
かなりずらしたのが仇となった。息を切らしながら待ち合わせ場所に到着すると、
そこには既に紺野の姿があった。呼吸を軽くを整えると、話しかけた。
「待った?」
紺野は俺を見ると笑顔で、
「いえ全然。どこに行きましょうか?」
失恋したばかりにはとても見えなかった。
「そうだな、買い物でも行く?」
「はい。」
俺はさっきの店から3店離れたの店を勧めた。
紺野は何も言わずに着いてきてくれ助かった。
「これなんかいいんじゃない?」
俺が紺野の身体にコートを重ねると、紺野の表情が一気に変わった。
あれ?
「これ、買ってもらって、『可愛いよ』なんて言ってもらったなぁ・・・。」
嘘!?
「じゃ、じゃあこれは?」
俺は手早く服を入れ替えた。
「これは・・・『うん、似合う。いや、何着ても似合うな』なんて・・・。」
うわ〜!!何やってんだ俺!!!
- 74 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:04
-
「俺選ばない方がいいかもね。」
俺は苦しい表情を浮かべながら下を向いた。
俺としてはただに合いそうな服を選んだだけなんだけど・・・。
「いえ、でも嬉しいです。」
フォローしてくれるあたり出来た子だ、なんて思ってしまった。
ブーン
「ちょっとトイレ・・・。確か階の一番端だったよな。」
そう言い残して店内を出た。そしてすぐにメールを開く。
『決まった☆』
俺は猛ダッシュで移動した。
- 75 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:05
-
「お、いいじゃん。」
疲れを顔に出さないように必死だ。
「へへ。」
俺に誉められて笑う吉澤。店内を出ると、吉澤は建物の上の方を指差した。
「次はゲーセンだ!!」
吉澤の一言と共に、最上階のゲームセンターへと向かった。
ゲーセンに到着すると、幸いものすごく広いゲーセンで思わず口元を緩めた。
到着すると早速吉澤はある物に目をつけた。
「これとるぞ〜!!」
UFOキャッチャーだ。吉澤はすぐに100円玉を取り出し、開始した。
「・・・・・・・よし・・・・・よし・・・・・あ〜!!!!もう1回!!!」
吉澤が何度もやっているので俺は言った。
「ちょっと他のところ見てくる。」
「うん。それまでの間にとってやるー!!」
拳を握り締めてる辺り結構気合が入っているようだ。
俺は急いでエレベーターに乗った。乗ったのは俺一人だから、すぐに下へ降りれそうだ。
ウィーン・・・。
ガタン!!!
「あれ?」
どうやらエレベーターが止まってしまったようだ。
「嘘!!マジかよ!!」
機械に計画を破られてしまうなんてなんてこった。
ドアをガンガン叩いたが、だからと言ってエレベーターが動き出す事はなかった。
俺は結局10分のロスをしてしまった。
- 76 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:06
-
1階に着くと紺野は店の前のベンチに、袋を持って座っていた。
「ごめん。」
俺が一言謝って近づくと、紺野は俺をじーっと見た。
う、疑われている?いや、そんなはずはない。まさかそんな・・・。
紺野が放った一言は、かなり予想外だった。
「大丈夫ですか?」
「え?」
「お腹。」
疑わね〜!!どうやら紺野は俺が腹を壊したと思っているらしい。
あんまり心配させるのもなんなので俺は肩をポンと叩いた。
「お腹はもう全然大丈夫、むしろお腹が減ったぐらいだよ!!」
俺がそう笑うと紺野は一緒に笑ってくれた。
「じゃあ食べに行きましょうか。」
「え?」
- 77 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:07
-
完全に墓穴を掘ってしまった。
せめてもの救いはレストラン街がゲーセンの1階下という配置だという事。
でも飯食っている最中に吉澤から電話があったら・・・。
「(今かかってきたらやばい。)」
俺はラーメンをすすりながら、ひやひやしていた。
ブーン
「(!!!)」
極力紺野に焦りの表情を見せないように、俺はメールを見た。
友達からだった。
「(なんだよ・・・)」
俺は心の中でホッとした。とりあえず今俺にはこいつのメールの返信を打つ余裕はない。
携帯をバシンと閉じるとポケットに突っ込んだ。
なんとか電話、メールが来る前にラーメンを食べ終えると、紺野は言った。
「ゲーセンに行きませんか?」
「うん。」
広いし、見つかりはしないだろう。俺は無用心にも別に気にせず賛成した。
- 78 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:08
-
紺野がゲームをしている間に、俺は吉澤の元へと急いだ。
流石にもうUFOキャッチャーは終わっているだろう。・・・・ん?
「とぁ〜!!!そりゃぁ〜!!やった〜!!!」
まだやっていた。近づくと、ぬいぐるみが5,6体、袋の中に押し込まれている。
「すごいな。」
びっくりして俺は呟いた。
「イェーイ!!あ、まだやるからまたどっか行ってていいよ?」
なんか、一緒に来た意味無くない?でもすごく都合がよかったので俺は紺野を探しに歩いた。
でもその時。
「あ、トイレ行きたい。」
本当に行きたくなったので、トイレまで行き、用を済ませた。
そしてトイレから戻ると、紺野に会った。
「紺野。」
紺野はこっちを向くと何故か満面の笑みで、
「あ、さっき吉澤さんと会いました。」
!!
やばい?
やばい?
やばい!
「なんかUFOキャッチャーですごいとってましたよ!一個貰いました。」
笑顔一杯なのは何?素?嫌味?
「偶然ってすごいですね。」
心の底からの笑顔?完全な作り笑い?俺が何も言わないでいると紺野は、
「どうしました?」
と心配そうに表情を覗き込んできた。
信じがたい事に、どうやら本当に偶然会ったと思っているようだ。
よかった〜、なんか抜けてて。
二人が特に会話をしてなかったみたいだから本当に助かった。
- 79 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:09
-
再び紺野に適当な理由をつけ吉澤の様子を見に行くと、吉澤は満足そうな顔でぬいぐるみを見ていた。
「あ、もう満足したよ。次は〜・・・、ここのすぐ近くにあるカラオケにいこうぜ!」
え?このモール出ちゃうの?でも拒否権がない俺。着いて行く事にした。
「久々だね、カラオケ。」
「そうだね、かなり前に行ったっきりじゃなかったっけ?」
確かそのときはストレス発散週間とか名づけて毎日いろんな子とカラオケに行った記憶がある。
そのせいで喉を潰しかけて大変だったが、楽しかったのは覚えている。
石川の音の外しっぷりとか。
カラオケに入ると、俺は慌てた表情を造った。
「先行ってて、トイレ行ってくる。」
部屋番号を確認すると、俺は一旦カラオケから飛び出した。
「やばい、走れ!!」
あんまり時間がない。とりあえず出来るだけ速くゲーセンにつき、
紺野をカラオケへと誘導しなくては。俺は全力疾走でショッピングモールの
エレベーターに飛び込んだ。今回は止まらず最上階へ。
- 80 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:10
-
「ふう・・・。」
ウィーン。
「!!」
ドアが開くと、目の前に紺野が立っていた。
この光景に対して、紺野はどう思うだろう?俺は泣きそうになった。
ごめんなさいもうしません!
モーニング娘。相手にダブルブッキングなんて調子こき過ぎました!!
許して!許して!
「・・・・トイレはこの階にもありましたよ?」
俺は一瞬こけそうになった。まだ俺のお腹の心配をしていてくれたとは。
すごい子だ、いろんな意味で。
「もう大丈夫。てかさ、カラオケ行かない?歌って発散しよ!」
俺は半ば強引に紺野の手を引くと再びエレベーターに乗り込み一気に降下した。
- 81 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:11
-
カラオケに再び入ってきて違う女の子と受付。
店員からの視線が物凄く痛かったが、我慢して受付を済ました。
とりあえず店員の心遣いか嫌味か、吉澤との部屋と階が同じようだ。
紺野は部屋に入ると早速何曲か曲を入れだした。
俺がそのあとに1曲入れる。そこで俺は携帯を取り出して、震えてもいない電話で話した。
「ごめん、仕事の話だから、ちょっと外出るね?」
俺はそう告げて誰からもかかってきてない電話を抱えて部屋を出た。
そのまま吉澤の部屋へ。なんかめちゃくちゃ急がしいな・・・。
吉澤部屋に着くと、既に歌いだしていた。ストレスたまってるのかな?
窓の外から手を振ると、吉澤は笑顔で手を振り替えした。
俺は室内に入ると、さっきとは別の曲を入れた。
ブーン
「あ。」
今度は本当に仕事の電話のようだった。
「ごめん、仕事だ。とりあえず話してくる。」
俺はそう言って部屋を出た。
紺野の部屋へ移動しながら電話の主と話し出す。
- 82 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:11
-
「もしもしごっちん?今仕事中。」
「誰の?」
後藤はすぐに聞き返した。なんだか一番面倒なタイプに当たったな・・・。
なんて説明しよう。下手にごまかすのもバレそうだし・・・。
俺は一瞬考え、正直に答えることにした。
「よっすぃーと紺野。」
後藤と吉澤が仲いいのを考慮して吉澤の名を先に出す。
「あれ、よっすぃーは二人で行くって言ってたと思うんだけど?」
!!まずい!!まずい!!
「大人には色々あるの。」
オイちょっとそれ意味わかんねぇよ俺!!
「2歳くらいしか違わないじゃん。」
「まあそうだけどさ、で、相談?」
とりあえずはぐらかして本件を聞く。
「ううん、なんとなくかけただけ。まあ見逃してあげるよ。」
ありがたい。電話を切ると、俺は紺野との部屋に入った。
ちょうど俺が入れた曲が始まるところだった。
- 83 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:12
-
ダン!ダン!
ドラムの音とともに俺は軽くシャウトした。
イントロを経て、俺は歌いだした。
「there goes my old girlfriend♪」
「英語ですか?」
「え?」
紺野に言われて画面を見る。あ!!間違えた!!
こっちに入れたのはB‘zの『憂いのGypsy』だ!!
エアロの『What it takes』じゃない!!イントロ似過ぎ!!
ていうかなんでそんな選曲したんだ、血迷ったか俺!
俺は慌てて日本語で歌いだした。曲が終わると、紺野は拍手してくれた。
「すごいですね、いきなり英語で歌っちゃって!!」
紺野に尊敬のまなざしを受け、罪悪感を感じる。
なんだかその場にいられなくなり、
「ドリンクお代わり行って来る。」
と言って部屋を出た。
- 84 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:13
-
吉澤との部屋に戻ると、ちょうどまた曲が始まるところだった。
「ギリギリ〜。」
今度こそ「What it takes」を歌う。歌い終えると、英語で歌った事からか、
再び尊敬のまなざしを受けた。
吉澤が1曲歌うのを聞いた後俺はドリンク、と言って部屋を出た。
今度は本当にドリンクをとり、紺野との部屋へ。
「遅かったですね、混んでたんですか?」
紺野が聞いてきたので俺はうんとだけ答えた。
紺野が歌を歌いだそうというときに、ドアは突然開いた。
「!!!」
自分の顔が青ざめてゆくのがよく分かった。吉澤は俺をすごい目で見ている。
そんな吉澤を見て、紺野は手を振った。
「吉澤さん、また会いましたね!!」
無邪気な笑顔に二人はこけた。
- 85 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:13
-
- 86 名前:3. 投稿日:2004/11/03(水) 17:14
-
俺は洗いざらい、最初から全部説明した。
それにしてもなんだろう、この二股がバレたみたいな感覚は。
でも二人の反応は、そういう激しいものとは程遠かった。
「それで最初ダメって言ってたんだ〜。」
俺に拒否権がないのをよく知っているからか、吉澤は普通に許してくれた。
「でも・・・。」
吉澤は続けた。
「今回は仕事じゃなくて、ただ単に遊びに誘っただけなんだけど?」
「え?!」
俺バカみたいじゃん・・・。
いつもいつも仕事でしかこういう関係持たなかったから区別がついていなかったけれど、
吉澤は俺を友達だと思ってくれていたらしい。
「うわぁ〜・・・。俺何やってんだろ〜・・・。」
頭を抱えていると、紺野が提案した。
「じゃあ、このあとは3人で楽しみましょうか。」
「よっしゃ!」
「そうだね。」
全会一致で可決。
片方の部屋は退室し、一つの部屋でカラオケを楽しむ事になった。
- 87 名前:おって 投稿日:2004/11/03(水) 17:22
- 今回もたくさんのレス、ありがとうございました。またまた嬉し泣き゚・(ノД`)ノ・゚・
>>56 名無飼育さん 様
おもろいのお言葉、確かに頂戴しました。
スれてないと言って頂き嬉しく思います。
>>57 名無飼育さん 様
読み易さは自分のスレの中では一番かとw
サクサク読んでいただけたら。
>>58 ◆ChamyvFM 様
お返事ありがとうございます。
待たせすぎた感があります、すみません。
- 88 名前:おって 投稿日:2004/11/03(水) 17:24
- >>59 名無飼育さん 様
これから色んな人が出てきますが、次は中休み。
予定としては羊より人が増えます。
>>61 匿名 様
初レスありがとうございます。
これからも気長にお付き合い願います。
1ヶ月以上開いてしまいすみませんでした。
ある話をリアルタイムに重ねたい事情がありまして、それまではこのペースが続きますが、
待たせるのもなんなので次回更新日を決めたいと思います。
2004/12/11。
また1ヶ月開きますがどうか待ってやってくださいm(_ _)m
- 89 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:13
-
4. fever
「頭痛・・・・・。」
朝目が覚めると、身体がだるい。額に手を当ててみた。
・・・熱いかもしれない。何とか起き上がると、体温計を探した。
「あれ?ここに入れてたはずなんだけどな〜・・・。」
棚を開けて探してみるもなかなか見つからない。
「捜し物は何ですか〜♪」
聞きなれた声が聞こえてきた。
「体温計。」
「見つけにくいものですか〜♪」
その声は尚も歌い続ける。
「だから体温計だって。」
振り返ると、やはり石川が歌っていた。
もう勝手に家に上がられることは諦めた。でも今日はあまり来て欲しくなかった・・・。
音外しすぎだし。
「たんすの中も 棚の中も 探したけれど見つからないのよ♪」
石川はその手に体温計をかざして見せた。
「何で持ってんの?!」
声を張り上げてツッコミを入れると、頭に激痛が走った。
「頭痛―・・・。」
- 90 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:14
-
「38度7分。」
結構な高熱だった。これではバイトは出来そうにない。
俺はとりあえず石川にそう伝えることにした。
「ちょっと2日はバイト、相談だけにして欲しいんだけど・・・。動き回るのは勘弁。」
そもそもは電話相談なんだし当たり前と言ったら当たり前だが、
最近は色々な場所に動き回るのが中心だったから一応釘を刺しておきたかった。
しかしここで石川の目が光る。
「じゃああたしが全部相談受けておくよ!」
「やめとけ。」
薄れ行く意識の中、俺は必死に説得をした。
30分話すと、石川はどうやら分かってくれたらしく、
「はーい。」
とだけ答えた。
「じゃあ看病してあげる!!」
石川が右手を掲げた瞬間、全身が激しい悪寒に襲われたのは、おそらく気のせいではない。
「やめ・・。」
俺はそのまま倒れた。
「ほらぁ、介抱してあげるから。」
俺を死体のようにベッドまで引きずる石川。布団を乱暴にかぶせた。
「ありがと・・・・。」
「じゃあちょっと、料理作ってくる。」そ
の分には問題ない。俺が教えたんだからある程度は大丈夫なはず。
- 91 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:14
-
- 92 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:15
-
台所まで来ると、石川は自分の身体の異変に気がついた。
「あれ・・・?」
石川は額に手を当ててみた。どうやら熱があるみたいだ。
でも看病するって言ったからにはやらなくてはならない。
「よしっ・・・。」
石川は気合を入れ直して料理を作ることにした。
何を作ろうかな・・・。
そうだ!卵酒なんか熱のときはいいよね。
えっと、お酒と、卵と、砂糖と・・・。あった。
「はくしゅん!!」
あぁ〜、辛いな〜・・・。
ここで1回話を戻す。それは前々日のこと・・・。
- 93 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:15
-
- 94 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:17
-
「はっくしゅん!!」
安倍の大きなくしゃみに俺は驚いてしまった。
「なっち大丈夫?」
この日の俺の仕事は買い物の荷物運びだった。しかも安倍が、
「明日買い物に行くんだけれど、荷物持ちいるから誰か行く人〜。」
と挙手したため人数が増えた。相変わらず拒否権のなさに泣きたくなる。
その分確かに貰ってはいるけれど、使う時間もあまり与えられていないだけに、むなしかった。
「うん、大丈夫だべ。風邪流行ってるから気をつけないとね。」
笑顔で返してくれる安倍。それに対し横にいる高橋が言った。
「そう言ってる安倍さんが一番危ないんですよ?」
独特の喋りで軽くジャブ。
「もう、そんなこと言って。」
卒業しても、全然付き合いが変わらないのはいい事だと思う。
まあ同じマンションに住んでいるのだからある意味当たり前なのだけれど。
「これ持って〜。」
吉澤から2袋追加。とうとう持ちきれず肩にかけた。
「おぉ、かっけー。」
何が?止めを刺すように石川も2袋。
- 95 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:18
-
軽く寒い風が肌に当たる。今日は大分寒い。
風を受けて、安倍がまたくしゃみをした。
「はくしゅん!!」
「本当に大丈夫ですか〜?」
吉澤が安倍の顔を覗き込む。
「うん大丈・・はくしゅん!!」
「うわ!!」
吉澤は慌ててハンカチを取り出し顔を拭いた。
二人はそのときの寒さと安倍のくしゃみから感染したことに、全く気がついていない。
当の安倍は既に元気に回復しているわけだが。
- 96 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:18
-
- 97 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:19
-
「卵酒作ったよ〜。」
石川の声が聞こえて俺は目を開けた。
石川は机の横の椅子に座って俺を優しい笑顔で見ていた。
「ほら。」
「え・・・・。梨華ちゃん?卵酒って普通、コップに入れて飲むよね?」
俺は卵酒が収納されている容器に目をやった。
「で、でも、たくさん飲んだ方が、効くかな〜って・・・・。ごめんなさい。」
珍しく謝られて俺は少し困ってしまった。
「卵何個使った?」
「4個。」
「4個?!」
俺の声にビクッと身体を震わす石川。
「ごめん、大声出して。じゃあ、飲むよ。」
俺はなんとか立ち上がり、スープを入れるボウル(巨大)に入った卵酒を、
スプーンを使って、ゆっくりと飲みだした。
- 98 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:20
-
「うん、美味しい。」
石川はそう言われると笑顔で頷いた。
「(砂糖の帳尻あわせで卵4個も入れたけど、美味しいならまあいいか。)」
石川はそんなことを考えていた。
「(これ甘いな〜。梨華ちゃんってこんなに甘党だったっけ?)」
俺はそんなこと口に出せずに飲み続けた。全部飲み干すと、
「ありがとう。じゃあまた寝るわ。」
と言って俺は布団に入り、目をつぶった。
「あ、耳栓いる?」
石川に言われ、目を開ける。
「ありがと。」
俺は耳栓を入れると、また目をつぶり、そのまま眠りに落ちた。
- 99 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:20
-
- 100 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:21
-
「(熱冷まシートとかないかな?)」
石川はふらふらと部屋を出て冷蔵庫を探し始めた。
しかし見つかる気配はない。
「・・・これでいっか。」
湿布しかなかったけど、無いよりマシだろう。
石川は部屋に戻り、彼の額に湿布を貼り付けた。説明が気を全く読まずに。
「・・・あたしも貼ろうっと。」
ペタッ。
「気持ちいい〜・・・。」
とりあえず一休み。
普段向こうには仕事じゃないところでもお世話になってるんだから、たまには恩返ししないと。
石川は次に自分が何をすべきか考えた。・・・・・・よし。
「掃除しよう!!」
確か押入れに入ってたはず・・・。石川は押入れを開いた。
「うっ・・・。」
奥の方に入っていて、なかなか取り出せない。
石川は渾身の力を振り絞った。
- 101 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:22
-
ガン!!!!
ガシャン!!
掃除機を取り出せたはいいが、飛び出した掃除機を抑えきれず、
反対側の壁に激突。壁にかけられていた皿は音を立てて崩れた。
「あぁ・・・・。」
石川は血の気が引いた気がした。
不幸中の幸いと言えば、彼は耳栓をしているので音が聞こえていないことか。
とりあえずどうにかしなくちゃ・・・。
ウィーン・・・。ガリガリッ。
若干嫌な音もしたが、これくらいしか処理方法が思いつかなかった。
そのうち同じ皿買ってくれば一応問題はないだろう。
慎重に掃除を終えて時間を見てみると、もうお昼を回っていた。
熱があるときは食欲もわかないけれど、何か食べさせないと。
えっと、病気のときの食べ物と言えば・・・。なんて名前だっけ?えっと
『ぞう・・・』あ、あれだ!!石川は彼に貰ったレシピを調べた。
・・・あった♪
- 102 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:22
-
- 103 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:23
-
スポッ。
「お昼ご飯出来たよ〜。」
耳栓を抜かれた弾みで目が覚めた。しかしまだ頭が痛い。
あれ、おでこに冷えピタが・・・。ありがたいな、買ってきてくれたのか。
「お昼ご飯?」
「うん。」
石川に連れられ、なんとか食卓へとたどり着く。
「何これ?」
目の前の料理に対して俺は質問を聞かずにいられなかった。
「お雑煮♪」
「・・・嫌がらせ?」
「えぇ?!なんでよぉ!!病気のときは食べなきゃ!!」
「いや、それ雑煮じゃなくて雑炊じゃ・・・。」
「あんま変わらないよ〜。」
「変わるよ!!まぁいいや、せっかくだしいただきます。」
卵酒の件もあるし、俺は石川を傷つける前に食べる事に決めた。
少しずつ食べてゆくと、石川と目が合った。
「食べる?」
俺が訪ねると、
「・・・うん。」
石川は静かに食べだした。
あれ?石川のおでこにも冷えピタが?
俺がじっと見ていると、石川はこっちの視線に気がつき、食べるのを止めた。
そして一言、
「じゃあ何かあったら言ってね。お薬置いておくから。」
と言って部屋から出て行った。
俺はお雑煮を食べれるだけ口にし、薬を飲むと、再び眠りについた。
- 104 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:23
-
- 105 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:24
-
しばらくして目が覚めると、身体が少し軽くなっているのに気がついた。
薬が効いているのだろうか。身体を伸ばし、一息つく。
首を軽く回すと、とりあえず起き上がり、リビングへと移動した。
リビングに来る途中、俺は声を出した。
「ありがと、なんか大分よくなったみた・・・・い?」
リビングを見渡すと、石川がソファで少し苦しそうに寝ていた。
俺は素早く直感し、冷えピタをはがし、普段は押入れの奥にある氷枕を取り出した。
氷を入れタオルを巻き、石川の頭をそっと持ち上げると、その間に枕を入れた。
そして毛布をかけてあげると、俺は静かに一言、呟いた。
「ありがとう・・・。」
- 106 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:24
-
- 107 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:26
-
「・・・・・?」
石川は、どうやら自分が寝てしまっていた事に気がついた。
よく見ると毛布がかけられている。
あれ?あたしこんなの敷いた覚えないけど・・・。
ボーっとしていると、台所から音が聞こえて来た。
そっちに視線を移すと、彼が何か料理を作っていた。
視線を感じたのか、彼はこっちを見て、言った。
「あ、起きた?俺はもう熱下がったみたいだから、お雑炊、作ってやるよ。」
ニコッと笑う。石川も微笑み返した。また世話になっちゃったな〜。
「ほいっ、出来たぞ。」
食卓に並べられたそれは、当たり前だけど雑煮とは全然違うものだった。
「美味しい。さすがだね。」
石川が笑うと、彼は静かに一礼。
「どうも。」
雑炊を食べ終わると、彼は言った。
「自分の部屋で休んだ方がいいでしょ。」
「そうだね、でもちょっと動くの辛いや・・・。」
まだ身体だるいし、ここで寝ていたい。すると彼は予想外の行動に出た。
- 108 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:26
-
「じゃあ・・・・・こうするか。」
ひょいっ。
「キャッ!え?うそ?!」
「我慢我慢。」
でも、お姫様抱っこ?!
「大丈夫だよ、歩ける!」
なんだか恥ずかしくて、必要以上に拒んでしまっている。
でも彼は呆れたように、
「さっきは動くの辛いって言ってたじゃん。」
彼は軽い荷物を運ぶようにスタスタと玄関まで歩き、ドアを開けた。
「靴はあとでね。」
部屋の前に着いたところで、彼に鍵を渡した。
- 109 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:27
-
ガチャッ。
「この部屋入ったの久々だな〜。」
いつも向こうが来てばっかりだし。
俺は石川の部屋と思われる場所に入ると、ベッドにそっと石川を降ろした。
「じゃあ氷枕と靴持ってくる。」
氷枕と靴を持って家に入り、部屋に入ったとき、石川は静かに寝息を立てて寝ていた。
可愛い寝顔だった。
「姫、氷枕でございます。」
俺はそう呟くと石川の頭と枕の間に氷枕を置いた。
全ての作業を終えると、俺はベッドの横に座り、ふーっと息をついた。
今日は大変だったな。
てか俺治ったのかな?どうも薬の効果で一時的に熱が下がっているだけのような・・・。
うっ。
「頭痛ー。」
部屋帰って寝なおすか。俺が立ち上がったとき、石川は俺の手を掴んだ。
「もうちょっと、もうちょっとだけ・・・。ここにいて?」
まだ起きてたのか。石川にそう言われて断る権利は無かった。
でも俺は不覚にも少しだけドキッとした。
「・・・・・うん。」
- 110 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:28
-
- 111 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:30
-
数日後・・・。
「なんか掃除機最近調子悪いなぁ。」
俺がもらすと、石川は突然焦った。
「え?!そ、そんなことないんじゃないの?!」
テンパってて面白かったので、さっきから言いたかった事を言う事にした。
「あの〜梨華ちゃん?俺のおでこに貼ったの冷えピタクールじゃなかったの?」
包帯の巻かれたおでこを摩る俺を見て、石川もおでこを摩る。
「あれしかなかったの〜。」
「おでこがヒリヒリする・・・。なんか色おかしくなったし・・・。」
「あたしも・・・メイク重ねまくり・・・。」
いや、黒いから変わらないだろ。
- 112 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:30
-
ご使用になる前に必ずお読みください
貼付部を紫外線にあてると光線過敏症を起こす事があります。
(1)戸外に出るときは天候にかかわらず、濃い色の衣服、サポーター等を着用し、貼付部を紫外線にあてないでください。
(2)はがした後、少なくとも4週間は同様に注意してください。
- 113 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:30
- 二人に幸あれ
- 114 名前:4. 投稿日:2004/12/10(金) 00:31
-
- 115 名前:おって 投稿日:2004/12/10(金) 00:35
- 4話終了です。
5話は初公開の新作を書かせていただきます。
それではまた、ゆっくりとお待ちいただければ(遅くてごめんなさい
- 116 名前:◆oRiKA85E 投稿日:2004/12/28(火) 22:52
- 掲示板違いですが、あそこはもうかけないのでこっちに
脱稿お疲れ様でした。
また、機会がありましたらあの場所でお会いできることを、期待しております。
スレ汚し失礼しました。
- 117 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:17
-
5.Third-rate mystery
講義を受けながら携帯に目をやると、そこに並べられた数字を見て溜息をつく。やばい。
「どうした?ため息なんかついちゃって。」
友達が話しかけてきた。
「いや、ちょっとさ。」
悩みの理由なんて言えるわけがない。ただ、強いて言うのなら、
「忘れてたことがあって。」
本日1月17日。もう目の前まで来ている、Xデー。
それなのに俺は、何にも用意してなかった。どうしよう。何にも考えてないぞ。
「ふーん。」
友達は特にそれ以上聞いてくることはなく、必死に講義をし続けるハゲ頭へと目を向けた。
「あー・・・・。」
マジで、どうしよう。誕生日プレゼント。
- 118 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:18
-
帰り道、マンションへとゆっくり歩きながらも俺はずっと悩み続けた。
どうしよう、何にも考えいなかった。
給料をたくさん貰っているということもあって、つんくさんに頼まれて俺はマンションの人には、
必ず誕生日プレゼントを渡すことを義務付けられていた。
どんな義務だよ、とかは考えない方が身のためらしい。
とにかくそうやって、毎回色んなプレゼントをしたりしてきたけど、今回は完全に忘れていた。
しかも連チャン。しかも相手が相手だ。
お隣さんと同い年の図々しい彼女だから、忘れる事は許されないだろう。
「どうしよっかなー・・・。」
さっきから、独り言が止まらない。
時間がないし、こんなときにまた仕事が入ったらプレゼントを考える暇も買う暇もなくなってしまう。
仮病でも使おうかな・・・。エレベーターの中で、また溜息をついた。
エレベーターを出て家まで歩くと、部屋の前に誰かが座り込んでいた。
「・・・誰?」
帽子を被っていて顔は確認できない。
怪しい。誰だ。
- 119 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:19
-
でもたとえ怪しかろうが、あそこは俺の部屋だ。
この間石川に開けられた穴を通ってもいいけど、そんなことしたら誕生日の催促されて困るだけ。
仕方ない、行くか。
「どいてくんない?」
当然のようにその“誰か”は居座った。
「聞いてる?」
「あんた・・・。」
顔を上げる。見覚えのある顔だった。確か名前は田中・・・。
「あんたが相談室の人っちゃか?」
そうだ、田中れいなだ。
マンションに済んでない人は全然把握してないから分からなかった。
「そうだけど・・・。」
俺が答えると田中は立ち上がり、
「ちょっと来るっちゃ。」
腕を引っ張られ、そのままエレベーターに乗せられた。
あ、あと数センチで我が家だったのに・・・。
- 120 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:19
-
- 121 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:20
-
「ほー、旅行ね。」
田中、亀井、道重、新垣、小川。マンションに住んでいないこの5人の娘達の計画。
特に5人で遊んだ事があるわけではないけど、悲しいから5人で旅行へ行ってしまおう、
という話らしい。
「楽しそうだね、じゃ。俺はこれ・・で゛!!」
思い切りシャツを後ろから引っ張られ首が絞まった。
「いやさぁ、俺の仕事の範囲はマンション内ってことになってんだよな〜・・・。」
「拒否権がないことには変わりないっちゃ。」
「マジかよ・・・。」
落ち度だらけの契約書を今更ながら怨む。
金額だけに釣られてしっかりと読まなかったのが悪いんだけど。
「はい!」
「はい亀井。」
いきなり手を上げてきてびっくりした。
「お金もらえるからいいじゃないですか。」
「・・・。」
それを言われると身も蓋もなかった。
- 122 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:20
-
「で、俺は何すればいいの?」
とりあえず今は運命を受け入れよう。しょうがないから。
「引率。」
「?」
「兼運転手。」
「?!」
「兼保護者。」
「?!!」
「兼塾員。」
「?!!」
「こんなところなの。」
「おいちょっと待て。一個だけすごくありえないの混じってなかったか?」
新垣がいないからとりあえずツッコミを入れる。
『よろしくお願いしまーす。』
聞く耳持たず。
「・・・分かった。いつから?」
「明日。」
「はっ?!」
- 123 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:21
-
- 124 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:21
-
借り物の車を熱海へと走らせる。多分熱海。きっと熱海。
「はぁ〜・・・。」
「そんなため息つかないでくださいよー。」
パリパリと音が会話の合間に聞こえる。耳障りの音は俺の怒りを駆り立たせるけど、
怒るわけにもいかない。
「一泊旅行ただでできるんだからいいじゃーん。ん〜っと、パス。」
「色々楽しいイベント満載なの。ほいっ。」
「イベント?」
カーラジオから流れる曲のテンポは後ろで騒ぐ面々とは不釣り合いもいいとこだ。
「いわくつきなホテルたい。楽しいっちゃよ。パス。」
「いわくつき?」
なんだかいやな汗が背中を流れる。
気づかれないように背中は背もたれから外さない。
「お化けとかー、幽霊とかー、・・・かぼちゃとかー。」
「まこっちゃんかぼちゃはないよ!」
後ろでは楽しそうな笑い声が聞こえていたけど、内心はびくびくしていた。
俺、そういうのダメなんだけど。
指定された場所に車を止めると、目の前のホテル(仮)に目を丸くした。
「反対側、海だけど・・・なんで崖?」
- 125 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:22
-
ホテル(仮)は本当にいわくつきらしく、客足が少なかった。
自分たちが泊まる階に至っては他に誰も泊まっていなかった。
8部屋あって、4対4で向かい合っている。
崖 道重 新垣
& 亀井 俺
海 田中 空き
小川 空き
階段
部屋は5人が適当に決めていた。各自部屋に散らばる。
あとは適当にみんなで楽しんでくれるだろうから、俺はプレゼントを考えよう・・・。
部屋の中に入ると妙な事に気がついた。左右の扉がついている。
試しにノックをしてドアノブを捻ると、
「あ、新垣。」
「あ、じゃないですよ。勝手に入らないでください。」
部屋が繋がっているらしい。
「これってみんな繋がってるの?」
「そうみたいですね。だから部屋を近くに固めてくれたんじゃないですか?」
なるほど。
- 126 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:23
-
新垣の部屋は窓が二つあった。
端っこということもあってか、外の景色が2つの角度から楽しめる。
ということは、
「海もあるし道重の部屋が一番綺麗なのかもな。」
「そうですねー。でも電波悪いって言ってたし、崖だからな〜。」
確かに、崖の下の海の景色は、自殺志願者をほのめかしそうな気がした。
なんとなく。
「いわくつきの理由が分かるっていうかー。」
「気味悪ぃよ。」
本音がそのまま出る。お化けなんか出たらたまったもんじゃない。
情けない姿と弱みは見せられない、今後に関わるし。
だからなるべくそういうことがないように、無事に旅行が終わるのを祈るばかりだ。
「じゃあ適当に5人で楽しんじゃって。俺は部屋で寝てるから。」
さっき通った道を通ろうと背中を見せると、
ガシッ
しっかりと腕をつかまれた。
「なーに言ってんですか。一緒に遊ばなきゃ。」
「・・・・マジで?」
- 127 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:23
-
- 128 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:24
-
疲れた。体が重い。卓球きつい。田中と一緒に先に戻ればよかった。
そんでもって、何にも考えてない。どうしよう。明日何時に帰れるかも分からないってのに。
ってもうそろそろ今日か。
時計に目をやると、もう間もなく針が12を指すところだった。
「さて・・・どうするかな。」
独り言が増えたような気がするけど、今はそんなことを気にするほど余裕があるとは思えない。
プレゼント、プレゼント・・・。
部屋に飾られた花瓶を見て花にでもしようかな、なんて考えたけど、
なんか勘違いされそうでそれもいやだった。
5人はそれぞれもう自分の部屋にいるみたいだった。
こういう修学旅行みたいな感じの旅行で定時に寝ることにすっごく違和感を感じた。
ありえない、俺だったら、っていうか普通は遅くまで遊ぶと思うんだけど。
ブーン
「?」
不意に震えた携帯。拾い上げて電話に出ると、
「もしもし。」
「おおおおお化けが出たの!」
道重が興奮気味、というより怯え気味に声を上げた。
「お化け?!・・・分かった、そっち行く。」
びびってしょうがなかったけど冷静を装って電話を切った。
・・・・・・・・行かなきゃダメかな?
- 129 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:25
-
ドアを開けると外にいた亀井と視線が合った。
亀井もちょうど出てきたところだったらしい。
「お前も?」
「うん。さゆがお化けが出たって。そんなのいるわけないのにねー。」
「だ、だよなー。」
話を必死にあわせると、
「嫌―――――――!!!!!!」
『?!』
突然の叫び声が道重の部屋から聞こえ、ドアがバンッ!と開かれた。
そこから出てきたのは・・・。
『出たーーーーーー!!!!!』
マジで出た、お化け、お化けですよ奥さん!顔骨っすよ骨!
お化けは俺たちに体当たりをかますと凄いスピードで階段の方へと去っていった。
本当に出た・・・。腰が抜けそうになりながら、二人とも何とか立ち続ける。
でも足腰は震えきっていた。
「――――――――!!!」
『また?!』
声にならない叫び声が響き渡る。どこから聞こえたかも判断できない。
やばい、ここホントにやばいって。マジでなんか潜んでる。
心の中はパニック状態だけど、それじゃ示しがつかない。平然を装う。
・・・・が、多分装えていない。
- 130 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:25
-
バンッ!!
『!!』
新垣と小川が部屋から飛び出してきた。
それだけなのにびびってしまう俺と亀井はビビリ。そして更に、
ガシャンッ!!!
『ええ?!』
二人が部屋から飛び出した次の瞬間、何かが割れる音がした。
音は小川の部屋から聞こえてみたいだった。小川がすぐに部屋に戻る。
新垣、亀井がそれについていく。
「・・・・・・。」
行くのも怖いけど、ぶっちゃけここに一人でいるほうが怖かった俺はついていった。
- 131 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:26
-
「嘘・・・・。」
真っ青な顔した面々。
「どうし・・・うわ。」
部屋に入ると、置いてあった花瓶が落ちて割れていた。
落ちるはずのない場所にあったはずなのに、何故。
花瓶は何か説明できないような力が吹き飛ばしたみたいに倒れていて、
硝子の破片は田中の部屋のほうまで流れて・・・田中?
「田中どうした?」
「え、れいな?・・・・いない。」
俺はとりあえず扉をノックした。
「田中?田中いるか?おーい。」
返事はない。
「開けるぞー。」
ガチャ
「れいな!!」
びっくりした亀井が思わず叫ぶ。
田中は部屋の真ん中で倒れて、気を失っていた。
そしてそれを見て俺は、ちょっとだけ気を失いそうになった。でも、
「あ、さゆ。大丈夫?」
「う・・うん。」
顔が青ざめた道重が戻ってきて、なんとか平常心を保った。
- 132 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:26
-
俺は田中に近づくと、肩をそっと摩った。
そのとき冷たい手が触れて、持ち上げる。その指には謎の細い痕が染み付いていて気味が悪かった。
「お・・・・お化け?」
小川がその手にいち早く気づいて口にしたその言葉で、田中から思い切り離れたくなったけど耐えた。
「ん・・・。」
頭を強く打ったのかよく分からないけど、田中は頭を摩りながら立ち上がった。
「・・・・・・。」
言葉が出てこないらしく、口を何回かパクパクさせるだけで田中は何も言わない。
「と、とりあえず・・・・。」
俺は震える肩を隠して言った。
「状況整理、しよっか。」
- 133 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:26
-
- 134 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:27
-
要点だけまとめると、
道重の部屋の窓にお化け参上、亀井の携帯に電話後、他の人にも電話。
そのとき田中だけ電話には出なかったらしいが、田中は詳しいことを覚えていないらしい。
頭打ったから仕方ないか。その後はさっきの通り。
道重の悲鳴の後、俺と亀井が道重を襲ったお化けに襲われ、幽霊の絶叫が聞こえ、
小川新垣が部屋から飛び出し、花瓶が突然落ちて、田中は気絶していた。
「もう100%お化けだよ!」
「怖くて寝れないの。」
「それよりおなかすいた。夜食夜食。」
「まこっちゃん(もっと)太るよ?」
「・・・・頭痛いと。」
なんなのこの5人。まとまりなさすぎるぞ。
「田中、その手大丈夫?」
「え・・・一応。」
手に描かれた細い線が赤くなっている。血を止められたような状態だろうか。
ていうかさ、みんな、お化けで片付けないで。絶対なんかあるから。
ていうかないと困る。俺が困る。
とりあえず割れた花瓶を見るべく、一人部屋の奥へと歩いた。
- 135 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:28
-
「酷い割れようだな・・・。」
水は大してこぼれていない。どうしてだろう。
キョロキョロと見回すと、ドアに大部分かかっていた。
ということはドアに向かって飛んだのか。
「?」
破片の中、光るものを見つけて拾い上げる。
「・・・もらっとこ。」
拝借すると、破片を辿った。
破片は僅かながら田中の部屋に入り込んでいて、やっぱり吹き飛んだみたいだ。
・・・やっぱお化けだろうか。怯えながらドアを開き、奥へと進む。
「・・・・お。」
あるものを見つけてポケットの中に入れると、
ポンッ
「!!」
- 136 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:28
-
「驚かないでくださいよ。」
新垣が笑う。
「いやしょうがない、今の状況的にしょうがない。」
また笑うと、新垣は独り言のように呟いた。
「でもシゲさんあれくらいで叫ばなくてもいいのにー。」
「あれくらいで?」
「いえ、なんでもないです。」
こいつ・・・なんかしたな。
あれ?でも道重は何も証言しなかったよな?・・・ということは。
「よし。」
一つの結論が浮かんだ。
お化けなんかいるはずない。いるはずないから。
そう言い聞かせて勝手に理詰めして作った、勝手な推理。勝手に作った物語。
そうであって欲しいと希望を持ちながら、俺は4人がいる部屋の方へと戻った。
- 137 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:29
-
- 138 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:29
-
俺の表情が堅苦しかったのか、全員目を丸くしていた。
「とりあえず、小川以外謝れ。」
『は?』
怖。でもめげずに俺は言った。
「亀井、道重。お化けの変装道具出せ。」
『!!』
「田中、割った花瓶の弁償。」
「な!」
「新垣、道重涙目だったんだから謝れ。」
「!!」
「小川。お前は何にもないから食べ続けていいよ。」
「ふぁーひ。」
ズルズルとラーメンを啜る音がちょっとだけウザい。
とりあえず、全員のリアクションからお化けはいないんだと信じることができてホッとした。推
理、というには幼稚すぎるけど、とりあえず俺は自分の考えを話した。
お化けなんていないから、大丈夫だから。と内心ビビリまくりながら。
- 139 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:30
-
「亀井がまず道重の部屋にお化けを見せた。
んでもって多分田中か小川の部屋に悪戯しようとしたの?みんなが道重の部屋に集まってる間に。」
「・・・うん。」
「でも道重は亀井に電話しちゃった。
しかも電波が悪いから亀井は部屋から出る破目になった。でもそれが道重の狙いだった。」
「え?」
亀井の視線が道重へと向けられる。
「道重は亀井の仕業だって読んだ上で亀井に電話をかけて、田中の部屋に変装して行こうとした。
そしたら・・・新垣の悪戯で、びっくりして叫んだ。」
亀井に見られていた道重の視線が新垣へ。田中は道重を見ている。
小川は一人ラーメンを食い続けている。お前は小池さんか。
「で、変装し終わった状態だってことも忘れて、
びっくりして部屋を飛び出して俺と亀井の前に現れた。
怖くてそれ所じゃない道重は俺らにぶつかって階段を駆け下りた。」
道重は申し訳なさそうな顔をしていた。
- 140 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:31
-
「一方その頃、田中は一人で計画を立てていた。」
田中の体が震える。
「小川を驚かそうと花瓶に糸をくくりつけていた。」
ブッ、と遠くで声が聞こえ、「鼻に入った!麺が!麺が!」なんて悲鳴が聞こえたけど無視した。
「思い切り引っ張ったら、小川がたまたま糸を踏んづけていたせいで、全く動かなかった。
そのときに食い込んで、指に痕がついた。」
田中の部屋で拾った糸を投げると、田中はさっきの道重みたいな顔になった。
「力みすぎて思わず叫んだ。それが幽霊の声の正体。」
であって欲しい。心の中でそう付け足す。
「その声のせいで新垣と小川がびっくりして部屋を飛び出す。
足が外れて勢いあまった田中は吹っ飛んで頭を打って気絶。
ついでにドア方向へ飛んだ花瓶は割れた・・・。」
じゃないと、俺怖くて寝れない。
「合ってる?」
- 141 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:31
-
少しの沈黙。そして4人は顔をあわせると、
『・・・・・はい。』
「良かった〜。で、新垣は道重に何見せたの?」
「火の玉。糸に紙付けて燃やしてブラーンって。1つ。」
新垣が少しと食いそうに笑うと、道重はあれ?と言って、全員の視線が集中した。
「2つ、あったの。」
「・・・・・何が?」
恐る恐る、聞いてみる。
「火の玉。」
『え。』
じゃあ片方は・・・・・・。
『うわぁぁぁ!!!!!』
全員怖くて絶叫しながら、それぞれの部屋に走り去った。
- 142 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:31
-
- 143 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:31
-
- 144 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:32
-
疲れた体をなんとか家へと到着させると、荷物を置いてすぐ隣の部屋へと向かった。
後藤に用があるって言ったけど後回しにしてもらったから後でそこにも行かなきゃならない。
あのホテル(仮)は本当にいわくつきだったらしく、花瓶も魔よけの一環だったらしい。
でもだからって、あんなもん入れることなかろうに。頂いちゃったけど。
ピンポーン
『はーい。開いてるよ〜』
ドアを開けて中に入る。もう夜遅くていい時間。というか24時前ギリギリ。
24のラストぐらいギリギリな時間だった。
「間に合った〜・・・。」
独り言をまた呟きながら部屋の奥に入ると、笑顔の石川に言った。
「手ぇ出して。」
「なんでー?」
「いいから。」
- 145 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:32
-
静かに両手を出した石川の手の上に、ポンとあるものを置いてやる。
石川は驚いた顔を見せると、それを指で摘んだ。
「・・・・真珠?」
「そ。」
魔よけのために花瓶の中に入れられた真珠。
花瓶割れちゃったし、折角と思ってもらったけど、別に問題ないだろう。
縁起悪いかもしれないけど。
「誕生日プレゼント。」
「すごいもんもらっちゃった。」
笑顔を見せると、
「ありがと。」
「どうもいたしまして。間に合ってよかった。」
「ギリギリだよ〜?」
「間に合ったんだからいいんだよ、じゃあ俺帰るわ。」
「あ。」
石川が思い出したみたいに言った。
「矢口さんは?」
「あ。」
ボーン、ボーン
12時を告げる鐘が鳴った。
- 146 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:33
-
- 147 名前:5. 投稿日:2005/01/20(木) 18:34
-
次の日、矢口もなんとか駆け込みでプレゼントに成功した。
その後、部屋へ帰る途中、そう言えば後藤の相談ってなんだったんだろう、と思い、
俺は後藤の部屋に向かった。
ピンポーン・・・。
ガチャッ。
「あ、いいよ、上がって。」
俺は言われるがままあがると、後藤は言った。
「チョコ作ったから味見してくれない?」
にしても料理の毒見系が多いなこの子は。でも別に美味しいから問題ない。
後藤が俺に差出たチョコレートは、結構凝った作りで模様が付けられていた。
パクッ。
「うん、甘くて美味しい!」
それ以外特に表現が思いつかなかった。
「よし、ありがとう。もういいよ。」
え、もう終わり?早!!俺はなんか拍子抜けした感じが否めない。
でも終わりって言われたんだからいいか。
このとき俺はまだ、これが一ヵ月後への伏線だなんて、夢にも思わなかった。
- 148 名前:おって 投稿日:2005/01/20(木) 18:37
- 久々の更新・・・。ageちゃったり予定より遅れたり申し訳ないです。
次にバレンタインに更新したら、その後は一気にペースアップを計りたいと思います。
>>116 ◆oRiKA85E
ありがとうございます。またいつか、書けたらいいとは思うんですが、
参加型があそこのあるべき姿ですので・・・。
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 23:31
- 気になる終わり方ですね。
バレンタインの更新楽しみにしています。
頑張ってください。
- 150 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:10
- AM6:30
ピンポーン
「・・・ん?」
早朝、不意に鳴ったチャイムで目が覚めた。誰だろ、こんな朝早くに・・。
ベッドから飛び降りると、眠い目を擦りながら玄関まで歩く。
ガチャッ。
ドアを開けると、そこには後藤が立っていた。
「おはよう・・・どうしたの?」
あくびを軽くしながら応対する俺。かなり醜態をさらしてしまっているな・・・。
「ほい。」
後藤は小さな箱を俺に渡してきた。頭がボーっとしていたので何の事だかよく分からず、
「何これ?」
後藤ははぁーっ、とため息をつくと一言。
「チョコ。」
そう言われてやっと思い出す。
「あ!!そうだった!今日バレンタインか。どうもどうも。」
俺は笑顔で受け取った。
「義理だよ、一応言っとくけど。」
「分かってますって。」
「じゃあ、今日これから仕事だから。
バレンタインに仕事なんていいことないよ、義理チョコたくさん配らなきゃいけないからさ。」
後藤は少しだけ愚痴ると去っていった。
- 151 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:10
- AM7:30
ピンポーン
「お?」
後藤が来てから二度寝しようと思ったが、
他の誰かも来るんじゃないかと期待していたため寝なくて正解だった。
ガチャッ。
今度来たのは安倍松浦。
たまたま仕事に行く時間が重なった、と言うところか。
「どぞ〜。松浦の手作りだから美味しい事間違いなし!ですよぉ〜。」
ああ、松浦は世渡り上手いタイプだよな〜、とつくづく思ってみたり。
それでいてナルシストだけど。
「今度また荷物持ちお願いするべさ。」
え、またですか?チョコを二つ、手に持ち、俺は苦笑いした。
「はーい。松浦もいつでもかけてこいよ、悩みがあるなら。」
「はいっ、でもあんまり無理しない方がいいですよ?」
目上への対応本当に上手いなこの子。いや〜この子は伸びますよ(誰
「ありがと。じゃあお二人さん、お仕事頑張って。」
そう言ってドアを閉めた。これで3つ・・・。
あと8つ、期待していいのかな?
- 152 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:11
- AM8:20
ピンポーン
お次は誰かな?段々楽しくなってきた。
ガチャッ
「お、姐さん、おはようございます。」
俺が期待のまなざしで見ているのに対し、中澤は、
「娘。の皆は仕事の後くるみたいやぞ。良かったなぁ、チョコ仰山もらえるで。」
中澤はそれだけ伝えると俺から背を向けた。
「え?姐さん、チョコは?」
「裕ちゃんがここ来たんわただの報告や。」
「え〜!!」
贅沢言い過ぎかもなぁ。でもせっかく来たのだから欲しかった。
「せやったら・・・・ほれ!」
中澤はひゅっと俺に何かを投げつけた。慌ててキャッチする。
「・・・・・。」
中澤はチロルチョコを手に悲しげな表情を浮かべる俺を見て、笑いながら去っていった。
- 153 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:11
- Ten minutes after・・・
ピンポーン
「あれ?なんで?」
あとはもう仕事後に来るはずだから、新聞の集金だろうか?それとも視聴料の徴収?
「はーい。」
とりあえず返事をして財布を持つと、俺は玄関まで小走りで行った。
ガチャッ
「あれ?」
ドアを開けると、そこには高橋が立っていた。俺の事をじっと見ている。
その表情があまりにも真剣だったので俺は聞いた。
「どうしたの?なんか相談?」
高橋は何も言わずに、さっき後藤がくれたのと同じような箱を差し出した。
「?ありがとう。」
俺が受け取ると、高橋は俺の顔をじっと見た。心配そうな表情をしている。
俺が微笑むと、高橋は安心したように笑みをこぼした。俺が口を開くと、
「あ、何も言わないで。あとで、いいから・・・。」
意味深な発言を残し、高橋は逃げるように走り去っていった。
「???」
- 154 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:12
- 「さっきのなんだったんだろう?」
俺は高橋に貰った箱を見て悩んだ。様子がおかしい。ってか訛ってなかった。
とりあえず開けてみる。
「・・・・!」
それは、昨日後藤に試食を頼まれたチョコレート、
しかしちょっとだけ不恰好で、昨日のよりも大きかった。
もしかして、作るためにわざわざ後藤に習った?俺は慌てて松浦と安倍のチョコを開封する。
「あ、形違う・・・。」
このチョコの大きさ、一人で後藤に習っていて、一人だけ仕事前に渡しに来た。
ということはもしかして・・・・。
「・・・いやいやいや!!」
そんなはずはない。おれは20のオッサンだし。でも中澤の発言と明らかに矛盾している。
このチョコが本命だと考える方が自然・・・なはず。
「でもなぁ〜。」
部屋で一人つぶやく。
最近はそうでもないが、昔は結構悩みを聞いたりはしていた。
そのため結構仲はいいが、高橋からそう言う視線で見られたことは一度もなかった。
「悩みを聞いてもらっているうちに、好きになっちゃって・・・。」
なんだかどっかの芸能人の結婚記者会見の映像が流れる。
「・・・・・・いやいやいや!!」
慌ててにやける顔を叩いた。
- 155 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:12
- ブーン
「ん。」
どうやら仕事のようだ。
・・・あれ?今むしろ向こうが仕事中じゃないの?
なんだかよく分からないがとりあえず電話に出た。
「もしもし。どしたの矢口、仕事中じゃ?」
俺は何故か矢口は矢口と呼ぶ。
同い年の女の子だと、どうしても高校を思い出してしまってこうなってしまうのかもしれない。
「うん。仕事中だよ。仕事で番組のスタッフをやって欲しいんだけど。」
へ?スタッフ?
「とりあえず来て。そしたら説明するからさ。」
「お、おう。」
こういう仕事と直接接点のある仕事は珍しかったため、少しだけうろたえた。
「局は?」
「テレ東。」
ハロモニか?すぐに車のキーを手に持ち、家を出た。
- 156 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:13
-
- 157 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:13
- 「で、何、スタッフをやってってどういうこと?」
俺はみんなの控室に到着すると、質問した。飯田が集団から一歩出ると、答えた。
「実はスタッフの人が熱で倒れちゃって・・・。その代わりをやって欲しいんだ。」
え?なんで俺?一人ぐらいなら対応効くんじゃ?思った事をそのまま口にする。
すると全員明らかにばつの悪そうな顔をした。
「いや、それが・・・。」
吉澤は少しだけ気まずそうに、話し始めた。
それは、去年のバレンタインデーの事・・・。
- 158 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:14
- 「大道具さん〜!!」
辻に呼びかけられて大道具の男は立ち止まった。
「どうしたの辻ちゃん。」
「ちょっと来てくださーい!!」
辻は男の手を引っ張ると男はそのままよく分からないうちに連れて行かれた。
「ちょっと、どうしたの?」
男は聞いた。辻は何も言わない。男はそのまま辻に控室へと連れて行かれた。
部屋に入ると娘。の全員が男を見て言った。
「ハッピーバレンタイン!!」
男は喜び、箱を全部貰う。そこで亀井が笑顔で見つめた。
「全部食べてくださいね!」
「うん!」
大変そうだったが、男は喜んで答えた。
それを見て、矢口が釘を刺す。
「じゃあ今ここで食べてくださいね!!」
男は一瞬困ったが、
「うん!」
と答えるとラッピングをはがし、チョコレートを取り出した。
「・・・・。」
入っていたのはハーシーチョコレートうん十個入り。
よく見てみると全部同じサイズの箱なので一気に開封。全部同じものだった。
男の顔が青ざめたところで、矢口はもう一回笑った。
「ね?」
この男、一度言った事は絶対にひかない男だった。
それを分かって、メンバーがセレクトした、いわばターゲット。
男は何とか全部食べたが、すぐに頭に血が登って倒れた。
- 159 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:14
- 「で、昨日からその人様子がおかしかったらしくて・・・。
今日・・・熱だって言って・・・、休んじゃったみたい。」
飯田の言い方がなんだか申し訳ない感じで切ない。
「だからおいらたちが責任持って代わりを探しますって言っちゃったの。」
いや、矢口さん?結局大変なの俺だけじゃないですか。
「お願い。」
高橋がさっき見せたような、心配そうな表情で言う。
「・・・分かりました。」
別に拒否出来ないけど、こんなに頼まれて嫌な気はしなかった。
俺が引き受けると、全員で一斉に色々喚いてきた。
「ウェイトリフティングのチャンピオン!!」
「高校時代短距離でインハイ!」
「昔6時間耐久『命』のポーズで100万円とった!!」
そんなようなことを延々と言われ続け、終わると、石川が苦笑いを浮かべた。
「って皆に言っちゃった。」
「嘘!?」
- 160 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:15
- 「おいおい昔の根性はどこへ行った?にしてもお前ウェイトリフティングのチャンプの癖に細いな〜。」
「すみません・・・・。」
俺は何も言えずにただ働く。大道具の仕事は意外に大変だった。とりあえず、重い。
道具を運びながらあっちへ行ったりこっちへ行ったり。
そんなとき、たまたま高橋とすれ違う。目が合うと、高橋は笑顔になった。
どうしよう・・・。向こう本気かな?
一仕事終え、機材室の横の壁によっかかりながらボーっとしていると、話しかけられた。
「どしたん、しけた面して。」
加護だった。
「ああ、あいぼん。なんかさ。」
俺が話そうとすると、加護は肩を叩いてきた。
「愛ちゃんの気持ち、裏切ったらあかんぞ?」
「え?」
「それだけや。ほな。」
加護はそう言うとそのまま去っていった。
それにしても、こんなシリアスな場面にその衣装はないでしょ・・・。
コント前だから仕方ないか。
- 161 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:15
- 俺はなんとか仕事を終えると、他に仕事がある娘。よりも先に家へ帰った。
家に帰ると、俺は高橋から貰ったチョコを、まず口に入れた。
「・・・ビタースイート。」
そんな歌を思い出させる味だった。苦いが甘い。
それがこのチョコへ与えるには最も適切な表現だった。
チョコを食べながら、加護の言葉が頭の中でぐるぐる回った。
- 162 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:16
-
「裏切ったらあかんぞ?」
- 163 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:16
- 「俺はどうしたらいいんだろ・・・。」
いや、普通にOK出せばいいじゃん。と思う人もいるだろうが、
これはそんな簡単な問題じゃない気がした。
自分では明らかに荷が重過ぎる。とても背負いきれるものではないのは明白だった。
付き合えるならそれはそれで嬉しいかもしれないけど、俺はあくまで仕事で彼女と繋がっている、
それだけの関係だから・・・。
でも断るのは勿体無さ過ぎる・・・。
正直この仕事を続ける限り彼女を望めないからこのチャンスを逃すな。それが本音だったりする。
- 164 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:16
- ピンポーン
俺が葛藤する中、チャイムは鳴った。
「はーい。」
俺は小走りで玄関へ。ドアを開けると、高橋が入ってきた。
高橋の目は、今まで見た事のないような、大人の目をしていた。
俺達はしばらく、ただ見つめ合った。
「いいよ、あがって。」
しばらくすると俺は口を開いた。高橋は言うより早く、一歩先に部屋の中へ。
二人でソファに座ると、高橋はポツリとこぼした。
「どう?」
高橋は聞いた。俺は回答に困った。
「えっと・・・その・・・・なんていうか・・・。」
高橋は突然目をつぶって俺に体重を乗せてきた。
「え?!」
高橋の両手が俺を軽く包むように伸びる。
「愛ちゃん?」
どうしよう・・・。
- 165 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:17
- ピンポーン
高橋は目を開いた。そこで俺は思い切り高橋の腕をどけると、
「はーい!」
と言って再び小走りで玄関へと向かった。
ガチャッ。
「ハッピーバレンタイン!!」
吉澤を先頭に矢口辻加護紺野の5人が部屋へと上がってきた。
「あ、高橋もう来てたの。」
吉澤が部屋の奥を見る。部屋の奥へと入ると、5人は改めて俺にチョコを渡してくれた。
渡し終えると、矢口が言った。
「皆の前で食べてよ。」
「え、大道具さんみたいなことはないよね?」
「そんな、同じネうっ!!」
吉澤が途中まで言ったところで加護が口を塞いだ。
ネって何?不審に思いながら、俺は箱を開けた。
- 166 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:18
- 「・・・・・・・・・・。」
もう一つ、もう一つ、もう一回、もう1回、
あ、愛し合う〜♪
「・・・・・・・・・・。」
「いやぁ〜、高橋フライングはダメだよぉ。」
吉澤が高橋を見て言う。
「でも、美味しいかどうか自信がなかったんで、感想さっきも聞いたのに答えてくれないし・・・。」
え?さっき?
「せっかくごっちんに習って皆であげようっていう話だったのに、なんで先に行っちゃうの〜?」
辻が笑う。
「てことは・・・・・・・・。」
俺は静かに呟いた。
俺がその続きを言う前に、紺野が止めを刺す一言。
『え、もしかして本命と勘違いしちゃってました?』
- 167 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:18
- 唖然呆然。
俺の表情を見て、矢口が高々と指を掲げてみせた。
「ドッキリ大成功〜!!!」
大笑いする矢口。その途端に6人は騒ぎ出した。
俺はただ、全部全く形の同じチョコ5つを見ていた。
ボコッ!!
「いて。」
後ろから加護に叩かれた。
「アホ。」
加護はそう言うと大笑いした。俺もただ笑うしかなかった。
騒いでいる中、高橋に聞く。
「じゃあ、さっき迫ってきたのは?」
高橋はあっさり答えてみせた。
「眠くなっただけや。」
訛りはもう、戻ってた。
- 168 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:19
- 全員が帰ると、俺はチョコをむなしく食い始めた。
一瞬でも期待した自分がバカみたいだ。ていうかバカか。
冷静に考えたら、高橋が自分なんかを好きになるはずないのに、あんな目で見られたら信じてしまうじゃないか。
「ふぅ〜。」
溜息をつく。
「ど〜お〜?」
甲高い声が押入れの方から聞こえた。
俺は棒を取り出し、押入れの扉が開かないように仕掛けた。
「あれ?あれ〜?ちょっとぉ!!開けて〜!!!」
しばらく眺めて笑ったあと、開けてあげた。
扉が開いた瞬間石川は一言。
「まあ元気出せよ。」
バタン!!!
- 169 名前:6.ビタースイート 投稿日:2005/02/14(月) 08:19
- 「ちょっとぉ!!開けてよ〜!ごめん〜!!!」
口調がムカついたので思わずまた閉めてしまった。
ドアを開けると石川は口を閉じたまま押入れから出てきた。
「はい。」
石川は俺に箱を渡してきた。
「何?これ。」
「チョコ。」
俺はチョコを急いで開けてみた。
すると、そこにはさっき見た量産型とは全く異なった形をしたチョコが入っていた。
「じゃ〜ねぇ〜。」
石川はそのままドラえもんのように押入れに入って、戸を閉めた。
・・・これって?
- 170 名前:おって 投稿日:2005/02/14(月) 08:27
- 更新終了です。次回からペースを上げたいと思います。
>>149 名無飼育さん 様
バレンタインになんとか更新できてホッとしています。
楽しめたでしょうか?今後もよろしくお願いします。
- 171 名前:149 投稿日:2005/02/15(火) 01:45
- 楽しめました。確かにドラマでは訛らないですからね、彼女は。
あと最後のオチに思わずニヤリです。
これからも頑張ってください。
- 172 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:37
-
7.Wise Trap
バレンタインのあの一件から、しばらく仕事が来なかった。
俺自身も頭の中で色々こんがらがっていたから、それでいいと思っていた。
相変わらず石川は仕事のない昼は飯を食べに家にやってくるが、
どうもいつもと違う目で見てしまって、話も弾まなかった。
一人だけドッキリに参加せず、オリジナルのチョコ。
後藤に習わなかったのは別に問題ではない。
俺が一通り教えた上レシピもあげたのだからチョコくらい作れる。
でもあの石川がドッキリに乗らなかったことに問題があるのだ。
なぜ?俺の疑問は膨らむばかりだった。
しばらく休みが続き、正直もう仕事やめようかな、なんて思ったりもしていた。
お金は充分溜まったわけだし、目的は達成されていた。そんな時、
ブーン。
「もしもし。仕事?」
後藤だった。
「うん、部屋来て。」
俺は重い身体を持ち上げると、部屋を出た。
- 173 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:38
-
PM1:00
ガチャッ。
「ん?」
後藤の部屋に入ったら、マンションにいるメンバー全員が終結していた。
なんだか、あらためて凄い絵だなと感心する。
11人の真ん中に立った後藤が、言った。
「遊ぼ。」
?よく分からなかったが、断る理由もなかった。
「いいけど、どんな?」
すると後藤は笑った。
「鬼ごっこなんだけど、ごとー達全員が、鬼。」
はい?
「で、逃げて。捕まったらゲームオーバーだから。分かった?」
「分かんないよ!!!」
俺は怒って返した。
「名づけて後藤真希鬼ごっこ!!制限時間は午後5時まで!!逃げろー!!!」
やっと後藤が司会の理由が分かった。これ昔漫画でやってた奴のパクリじゃん。
梧桐清十郎鬼ごっこのパクリじゃん。分かる人いないから。
あれは確か捕まると・・・リンチ?俺は慌てて逃げ出した。
「タッチは10秒でアウトやぞ〜!!」
中澤が叫ぶ。
いい大人まで参加してる?!
- 174 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:39
-
PM1:15
しばらく潜んでいると、棟と棟の間の道に、加護が現れた。
ちなみに俺達は大半がC棟に住んでいる。
他には松浦がA棟、安倍、紺野がB棟だ。
「?」
加護が何をしているのか、気になったのでちょっとだけ接近した。
加護は皿に乗ったケーキを地面に置いた。
「俺一応人としてのプライド捨ててないんですけど・・・。」
ケーキに明らかに紐ついてるし。誰がひっかかるってんだあんな罠。
加護が笑いながら去っていった頃、
「?」
辻が現れた。ケーキを見ている。
辻は周りに誰もいないことを確認すると、皿を持ち上げた。
ザッ!!!
「!!!」
辻の頭上からネットが降ってきた。
しかしびっくりしているのは俺で、辻はまだ気がつかずに必死にケーキにがっついている。
「のの?!なんでお前やねん!!!」
加護が戻ってくると、驚いて絶叫した。
「ほぇ?・・・なんなのれすか?!これは!!!」
辻はようやくネットの存在に気がつき声をあげた。コントやってるよ・・・。
俺は半ば呆れ気味にその場を立ち去った。
- 175 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:39
-
PM1:30
ザッザッザッ。
後ろから足音が聞こえた。振り返ると、後藤がこっちを見ている。
後藤はわずかに微笑むと、こっちに向かって走り出した。
「正攻法?!」
俺は慌てて走り出した。まさかまともに追って来る奴がいるとは!!
しかしそう来るのも無理はないほど、後藤は素人離れしたフォームで走っていた。
男女の差あれど、距離差を全く開けなかった。リンチだけはごめんだ!!!
俺は必死に逃げ、なんとかA棟まで走った。
自動ドアをこじ開け、エレベーターに乗り込む。
「ハァ〜っ・・・。」
ウィーン・・・・・。
なんとか巻いたか?
- 176 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:40
-
ガタン!!
止まった?エレベーターのガラス部分から、外の様子が見える。
吉澤と目が合った。吉澤の目が笑う。俺は「閉」ボタンを押し続けた。
このエレベーターなら・・・。
シーン
「?」
外から吉澤がよく分からない、と言った顔をしている。
エレベーターはそのまま上へ。
たまにあるのだが、エレベーターによっては「閉」ボタンを押し続けていれば
ドアは開くことなくそのまま上へ上がってくれる。
俺は何とかそのまま5階まで上がった。
螺旋状のストリップ階段を降りながら、外の様子を伺う。
一段一段降りながら、外の方を見ると、まだ辻加護のコントは続いているようだ。
2階まで降りると、視界に高橋が飛び込んできた。高橋は後ろを向くと、
「皆、おったで〜!!」
そういえばこの前は演技入ってたせいで訛ってなかったな〜、
ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。俺は階段を昇った。
少し慌てると段と段の間に足を滑らせ突っ込みそうになる。
しかし階段を昇ると、3階の奥から安倍が歩いてくるのが見えた。
隙間から2階をのぞく。高橋、紺野、吉澤。上には安倍、中澤、矢口。
・・・。
- 177 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:41
-
「これで終わりだべ〜!!」
安倍は嬉しそうに声をあげて階段を駆け下りた。中澤矢口もあとに続く。
同時に2階からは高橋、紺野、吉澤が一気に駆け上って行く。そして遂に・・・。
「あれ?」
安倍はなぜ目の前に、高橋がいるのか、よく分からなかった。
挟み撃ちにしたはずの男は、忽然と姿を消してしまった。
高橋はびっくり顔をして何も言えない。
「なっちさん?」
ドン!!!
「?!」
突然1階と2階の間で凄い音がした。6人はすぐに2階まで降りた。
「やれやれ・・・。じゃね。」
タッタッタッタッ・・・。
「??」
全員、一体何が起こったのかよく分からなかった。
まるで目の前でマジックを見せられたような、そんな感覚だったのかもしれない。
- 178 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:42
-
俺はとっさに階段がストリップ階段なのを利用して、
上下から6人から来るまでの間に隙間に身体を通し、
階段に?まってぶら下がっていた。キダムもびっくりだ。
捕まったらリンチ、というある種の極限状態が、
俺の身体能力を上昇させているのかもしれない。
そして頃合いを見計らって着地。
足に思った以上に衝撃が来てびっくりした。
もう二度としてたまるかこんなこと(てか出来ない)
- 179 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:42
-
PM2:30
俺は建物から出ると、適当に身を隠すところを探して走り回っていた。
そして、テニスコートが目に入った。
マジここ家賃高いだけあっていろいろあるな〜としみじみ感じながら、
俺はコート横のベンチに腰をかけた。
今度集団で来られたらフェンスでもよじ登るかもしれない。
しばらく座っていると、突然黄色い物体が目の前に現れた。慌てて避ける。
ガン!!!
テニスボールはフェンスにぶつかると跳ね上がり、俺の目の前にゆっくりと振ってきた。
手に取る。
「おしい〜。」
テニスコートに目をやると、石川がラケットを持って構えてきた。
「おい!これはやめて!ちょっと危ない!!」
「お蝶娘。とお呼び!!」
なんなんだよこのノリ。エースを狙えはもう古いよ。
よく見るとラケットが落ちている。もうヤケクソだ!
俺はラケットを手に取った。
「・・・・行くぞ岡君!!」
石川から繰り出されるサーブをなんとか打ち返すと、
向こうからあっという間に鋭いショットが身体に向け飛んできた。
なんとか打ち返すと、もう1球、別の角度から飛んできた。なんとか止める。
打球の主は・・・。
- 180 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:43
-
「お松婦人とお呼び!!」
松浦登場。面白がって打って来た。お前らそろいもそろってだよ!
しばらく死ぬ気ラリーが続いたあと、2球に対して俺は渾身の一振り。
2球ともに二人の頭を越え、二人は球を追った。
ポーンッ。
ポーンッ。
ボールが落ちるのを確認すると、石川は、
「アウトですわよ藤堂さ・・・・・あれぇ?!」
そこには誰もいない。俺は二人がボールを追っている間に逃げていた。
あんなの相手してたら死ぬ!!
残った体力を振り絞って、俺は必死に逃げた。
- 181 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:44
-
PM3:30
なんとか走っていると、目の前に今度は白い、そしてさっきより遥かに大きい物体が視界を遮った。
「うわ!!」
ガン!!
受け止められず、俺は顔面でボールを受けてしまった。
この季節ボールとか当たると痛いんだよな〜・・・。
ていうかバレーボールまであるのかここ。
ヒューン
「うわ!!」
もう1球降って来た。今度は避ける。ボールの主を見た。やはり吉澤だった。
吉澤は、俺が彼女の存在に気がつくのを確認すると、言った。
「勝負だ!!!」
ジャンピングサーブ。とりあえず俺はレシーブした。
そして浮いた球をアタック。これは捕れないだろ。捕れても深追いだ。
逃げるには充分な時間が出来るはず。俺はそう思って逃げながら後ろを振り返った。
・・・・回転レシーブ!?吉澤は鮮やかにボールを裁くと、またもスパイクを繰り出してきた。
反射的に足が出る。
吉澤はそれを見て大幅にバック、そして後ろへダイビングレシーブ。
なんと捕った。しかし次の攻撃には回れず、ボールは無情にもそのまま地面へと落下した。
- 182 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:45
-
吉澤は汗を拭いていた。
「負けたよ・・・。さあ、行くんだ。俺?俺は追わないよ。
君には負けたよ・・・。フッ、久しぶりに、本気になれた気がするよ・・・。」
え?誰キャラですか?なんかイケメン(もしくは勘違い)系?
まあ好意は受け取ろう。俺は走り出した。
「こらぁー!!!!」
俺はびっくりしてすぐに後ろを振り返った。矢口が吉澤を叱ったみたいだ。
矢口はすぐに走り出した。俺は疲れた身体に鞭打ち、走った。
流石に女の子には負けない。矢口もそれに気がついたのか、こけた。
「いたぁ〜い。」
矢口は上目遣いで俺の方を見た。
「(無視)」
「またんか!!」
豹変した矢口はすぐに立ち上がり、再び走り出した。
しかし矢口が追いつけるはずもない、俺はすぐに矢口を振り切ることに成功した。
- 183 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:46
-
PM4:00
走っていると、またも前方に、誰かが見えた。中澤だった。
仁王立ちしてこっちを見ている。
「本物の鬼だ!!」
俺は方向転換すると、加速した。
「ちょいまたんかい!!!」
キレた中澤は俺を追って走り出した。俺はC棟の方へと走っていた。
またも前方に、今度は紺野。
「行ったで紺野!!」
中澤は走りながら叫んだ。
「え?や!あ!!えぇ?!」
焦る紺野を横目に俺は通過した。
「なんでやねん!!!」
中澤がキレながら俺を尚も追う。
走りながら横を見ると、辻がまだこんがらがって加護が必死にネットをひっぺがしていた。
俺は急いで自分の部屋まで階段で登った。やばい、最近運動してないから、
体力が・・・・。俺は何とか家に入った。
そしてそのまま奥へと・・・。
- 184 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:46
-
中澤は部屋の前まで着くと、ドアノブに手をかけた。
「戸締りちゃんとせなあかんぞ?」
中澤は少しにやっと笑うと中へ入った。
「おーい、もう無理やで正味な話。でてきーやー。」
中澤はまずトイレを開けた。いない。
風呂、部屋、リビング、いない・・・。
「?おらへん・・・。」
押入れを開けても、いい大人が入ってたらちょっと引くし、
やっぱり入ってなかった。なんでや?窓も鍵かかっとるし・・・。
中澤は仕方なく部屋を出た。
ガチャッ。
「あ。」
ドアを開け、外へ出ると、こっちをやばい!っと言った目でみている野郎1名。
なんと石川の部屋から出てきた。どういうことや?
「さ、さよなら!!!」
奴は猛スピードでその場から立ち去った。
「あ、追わな。」
中澤は少しして気がついた。
- 185 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:47
-
PM4:15
危ね〜、俺は少しホッとしながら階段を降りていった。
すると、上の方からけたたましい足音が聞こえた。また?!
そりゃ1対11だけどさ。安倍が凄い勢いと笑顔で走ってきた。
ピンチランナーですか?俺の体力はもう限界に近い。どうかわす?
階段を降りながら考えた。今度はよじ登ってみるか?いやもう無理だな・・・。
もはやまともに逃げるしかなかった。そして1階。
そのまま外へ出ようとすると、
「・・・・・・・・ど、どうも・・・。」
中澤安倍以外の9人、全員集合・・・。
「・・・・・あ!!あんなところにNEWSが!!!」
全員一瞬俺の指差した方へと視線が動く。
タッタッタッ。
ガシッ。
「あ。」
「誰がひっかかるかいそんな手。」
高橋にしっかり?まれてしまった。そしてゆっくりと10カウント。
- 186 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:48
-
「ゲーム終了〜!!!」
後藤が言うと全員拍手。
「惜しかったねぇ、あと45分だったのに。」
石川が俺に話しかける。やばい、殺られる・・・。
「じゃあ行きましょうか。」
松浦が言うと全員で移動開始。え?拷問部屋ですか?
俺はとりあえずローテンションで何も言わずに着いていった。
一行はそのまま中澤の部屋へ。
ガチャッ。
「ちょっと待っててね。」
俺は外で一人待たされた。少しだけ待つと、吉澤が出てきた。
なんかよく分からないとんがり帽子?を付けて。
「いいよ〜。」
中へ入る。
パン!!パン!!!
- 187 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:48
-
『ハッピーバースデー!!』
全員声を合わせての一言に唖然とした。え?誰の?・・・ん?
「あ、俺の誕生日って今日か!!」
言われてみて初めて思い出した。誕生日なんて完全に忘れていた。
「え?忘れてたん?」
中澤が少し呆れ気味に俺を見る。
しょうがないじゃないか、忙しくてそんな事考える余裕がなかったんだから。
11人にハッピーバースデーの歌を歌ってもらうと、
俺はようやく誕生日だと言う事を実感出来た。
にしてもなんで祝ってくれるの?俺がよく分からない顔でいたのに気がついたのか、安倍が、
「日頃のお礼。」
と言って笑顔を見せた。あ〜もう、やめね〜この仕事!!!
この日俺はそう誓った。
- 188 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:49
-
8. エンダァァァァー
石川、辻と3人でいつものように昼飯を食べていると、チャイムが鳴った。
俺は慌てて残っていた飯を口に入れ、辻の渋い表情を横目に玄関へと走った。
ガチャッ。
「こんにちは、ちょっといいですかぁ〜?」
ドアを開けた途端、松浦が顔を出した。少しびっくりして一歩ひく。
すると松浦はすかさず部屋の中へと入ってきた。
「お邪魔しまーす。」
一応挨拶は忘れない。松浦は奥へ入ると、昼食の匂いをすぐその鼻で察知した。
「おぉ!すごーい。」
石川と辻が食べる本格インド風カレー(あくまで”風”)を見て、松浦は声をあげた。
「石川さんが作ったんですかぁ?」
「うん、すごいでしょぉ〜。」
今回珍しく石川が調理。出来もなかなかのものだった。
松浦が石川に少しカレーを分けてもらう中、俺は聞いた。
「今日は何?」
松浦は口の中の物を飲み込むと、答えた。
「ボディーガードをしてもらいたいんです。」
- 189 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:50
-
「ボディーガード?俺に?」
この細身の俺にボディーガードを頼むのは、かなり筋違いな話ではないだろうか?
別に高校時代運動していたからある程度体力には自信があるが、
「ボディーガードなんて、とてもじゃないけど俺の出来る仕事じゃなくない?」
思ったまま口にした。
「いえ、基本は仕事の時怪しい人がいないかどうかの監視をしてくれればいいんです。」
松浦の話によると、最近ストーカー?と思われる人影を仕事から帰る途中見ていて、
それが近寄れないように監視してほしいとのことだった。
ようは一連の報道と関係しているんだろうな、決して口には出さずに心の中で呟く。
そして、それなら大丈夫だな、と思い、
「分かった。」
とだけ答えた。
「じゃあ明日お願いしますね。」
明日?!あの・・・。
「明日・・・・試験・・・。」
「お願いしますね!!」
満面の営業スマイル。・・・。
- 190 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:51
-
- 191 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:51
-
「俺はなぜここにいるんだろう?」
泣きながら車を運転する。助手席には松浦。俺単位微妙なのに・・・。
「頑張ってくださいね〜。」
ニコニコ笑う松浦が、余計に寂しさを誘う。
俺は悲しさを紛らわそうと、適当にMDを車に入れた。曲が流れる。
洋楽だったためか、松浦は?な顔をした。俺はそれに気がつき、
「洋楽やめとく?」
と聞くと、少し申し訳なさそうにはい、と答え、自分でMDを取り出し、
松浦自身が持ってきたMDを入れた。曲が流れてくる。
・・・?聞いたことあるような・・・でも思い出せない。
なんだ?しかし歌い手の声ですぐに分かった。
「あや・・・や・・・・。」
俺は少し呆れてつぶやいた。どうやら自分のアルバムを投入して来たようだ。
松浦は曲に合わせて楽しそうに口ずさんでいた。
「どないやねん・・・。」
俺は松浦が聞こえないようにつぶやいた。
- 192 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:52
-
まず最初はTBS。赤坂だ。
ちょうど新曲のプロモーションと言う忙しい時期に当たってしまったようだ。
ミニマラソンで見覚えのある心臓破りの坂を進み、車庫へ。
「えっと、うたばん?」
「そうです!一応、スタジオで見学していってください。」
俺は言われるがまま見学へ行った。
とりあえず驚いたのが、予想以上にリハーサルが多かった事だ。
軽く流れを説明してそれで終わりかと思いきや、さすが歌番組らしくないだけのことはあって、
緻密だ。念密な打ち合わせが行われ、カメリハなどたくさんのリハを経て、
ようやく本番が始まった。
「にしても豪華だ・・・。」
司会の二人を見てしみじみした。面白いし、いや、面白いのは当たり前か。
二人とも立派な芸人だし(何か間違っている)
にしても、こんなに早いうちから撮影するとは・・・。
トークが終わると次は歌録りだった。曲は一度も聞いたことのない曲だったので、
少し驚いてしまった。早いうちから色々聞けるなんて、羨ましい。
たまにはデモテープくらいくれたっていいじゃないか。
- 193 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:53
-
松浦の歌を見て(聞いて)いると、凄いオーラを感じ、そっちの方を見た。
狂乱の貴公子、ガッくんことGackt。どうやら二本撮りらしい。
Gacktは俺の存在に気がつくと、俺の方に近寄ってきた。
カラーコンタクトが雰囲気を一層引き立てる。Gacktはやはりボソッと言った。
「君は?」
「松浦の、ボディーガードを頼まれまして・・・。」
俺は柄にもなく緊張しながら答えた。普段散々芸能人と接してるのに・・・。
やっぱ彼女らはそう言う感覚じゃないからかなぁ。
「そう。よろしく。」
Gacktは俺に手を差し出した。え?なんで?握手ですか?
俺はとりあえず手を出し、握手した。
グシャッ。
「はぅ!!!」
「じゃ。」
Gacktは相変わらず呟く様に言うと、俺の背中を一回軽く叩き、去っていった。
ちょうど松浦がそのとき戻って来た。松浦は俺の手を見て、言った。
「どうしたんですか?手、腫れあがって真っ赤っ赤じゃないですか!!」
「・・・なんでもないです。」
- 194 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:53
-
うたばんの撮影が終わると、俺達はすぐにTBSを飛び出さなければいけなかった。
忙しい。俺が片手で運転をする中、松浦がうたばんで貰った弁当にがっついていた。
そういえば朝も食べてたなぁ。てかまだ10時とかですよ?
「あやや1日何回食べてる?」
「えっと・・・7回?」
多!!エネルギーの源は食べる事なのか?!一瞬辻の姿が揺らいで消えた。
「次は講談社か。」
「うん、グラビア。」
スピーカーから流れる音楽が止まった。
松浦がMDを取り出すと、次のMDを探し始めた。
「あやや以外で。」
それだけ言うと俺はもてあましていた右手に軽く息を吹きかけると、
左手一本での運転を再開した。
- 195 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:54
-
飯あんなに食べたあとにグラビア・・・。水着じゃなくてよかったネ。
新曲が春頃発売らしく春系の衣装に身をまとった松浦を見ながらそう思った。
あんだけ食べて、へそ出せるなんてある意味脅威だな・・・。
「お疲れ様でした〜。」
撮影はあっさり終わった。松浦が着替え終わると、俺は言った。
「よくカメラに向かってあんなに笑えるよね。」
プロに対して言う発言ではなかったが、俺にはよく理解出来ない感覚だった。
昔から写真を撮られるのは好きじゃなく、撮る方が全然好きだった。
そんな俺からしてみれば、カメラに向かって色々な表情を浮かべる松浦は不思議で仕方がなかった。
「お仕事だしぃ〜、可愛く撮りたいから。」
あ、そっか。ナルっ気があるの忘れてた。俺は納得した。
全然話が飛ぶが、俺は不意に思い出したので、聞いた。
「そういえば学校ってどうしてるの?あんまり皆話さないけど。」
「今日登校日ですよ。」
「今日――?!」
- 196 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:55
-
車が学校に到着したのは12時ぐらい、
松浦の教室に到着するともう昼休みが始まっていた。
松浦はクラスの友達に混じりすかさず弁当を食べだす。
「また食べてるー!!!」
俺は教室の外で見張り中。
明らかに不審な目で見られて警備員に逆に監視されそうになったので事情を説明した。
廊下でパンを食べながら、周りを見る。
・・・だめだ、生徒ばっかりでこの中に混じられたら全然分からない。
俺意味無いじゃん。自分の無力さに悲しさを覚えた瞬間だった。
- 197 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:56
-
俺は結局車の中から学校へ侵入しそうな怪しい人物がいないかをずっとチェックしていた。
学活になると、松浦は急ぎ足で車に乗り込み、次の仕事場へと向かう。
「えっと次は・・・。」
スケジュール表をぱらぱら捲る松浦。松浦は指を止めると言った。
「ラジオ、ですね。ゲスト出演します。」
というわけで出演する番組がOAされているラジオ局まで車で行く事になった。
ラジオ番組の裏側は、少しドタバタしているらしい。
横で生放送で行っている番組があり、凄い騒ぎ様だった。
スタッフがあっちへこっちへ走り回り、
CMのたびにディレクターがダメだし。
こっちはなんていうか、平和だ〜。DJの心のうちは知らないけど。
和やかな雰囲気のままラジオも終了した。
- 198 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:56
-
ラジオ収録が終わると、もう夜になっていた。
今日の仕事はこれで終わり、と言う事で俺は松浦と一緒に家へと車でそのまま帰ることに。
「ボディーガードは最後家に着くまでがボディーガードですよ?」
松浦がよくあるんだかないんだか分からないような台詞を発した。
「はいはい。」
俺はこのとき、完全に油断していたような気がする。
相変わらず片手運転は続いていたが、別に誰もいないじゃん、
と正直余裕ぶっこいていた。しかし家に近づくと、妙な事に気がついた。
「・・・さっきからあの車、つけてきてない?」
俺は呟いた。松浦は後ろを見るとすぐに表情を変えた。
「あれです!」
俺はスピードを少し上げた。一応確認のためだ。
後ろを走る車との差は全く縮まらない。
左へ曲がっても、右へ曲がっても、車は着いてきた。俺は叫んだ。
「ペーパードライバーをなめるな!!」
「え?!」
「嘘だよ。」
俺が笑うと、松浦はホッとした顔をした。
- 199 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:58
-
なんとか車を撒き、マンションの駐車場に到着すると、あたりは完全に真っ暗だった。
「あ〜あ、もうこんな時間だ。」
俺が嘆くと、エンジン音が聞こえてきた。後ろを振り返る。
俺はすぐに声をあげた。
「やばい!撒き損ねた!!」
車は到着し、男が出てきた。
なんていうか、オタクっぽい風貌?ただ太ったタイプじゃなくてよかった、
がりがりタイプならなんとか・・・。
と思っていたら男はナイフを手に取った。
「邪魔する奴は逝け!」
ブン!!
俺は奇跡的にナイフを避けた。
すると松浦が俺に一瞬だけ近づき、渡してきた。
「これ!!」
テニスラケット?
「そそそそ。よし、岡。エースを、
ねらえねーよ!!てか2話続けて同じネタかよ!!ネタさせるなら時期考えろ!古いんだよ!
今ならごくせんとかだろ!」
何こんなときノリツッコミさせるんだこいつは。
そんなことをしている間に男は突っ込んできた。
- 200 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:58
-
ブーン!!
男は腕を上から振り下ろしてきた。俺はそれをラケットで迎え撃つ。
カン!!!
鈍い音とともに、ナイフが空中で回転した。
「キャッチ!!」
松浦の言葉に、
俺は反応してナイフをそのまま感覚のない右手で受け止めた。
グチャッ。
「あ。」
なんて間抜けな・・・。
ピューッ。
血がそこらじゅうに吹き出た。
「うわ!!」
運良く血が男の目に入り、男は目を擦り始めた。しめた。
俺はこれをチャンスとばかりにすかさずキックを繰り出した。
う・・・力が入らない。
ボンッ。
「あ。」
なんとか当たっても、威力は微々たるものだった。
俺はそのまま出血多量で貧血を起こし、立てなくなってしまった。
男はまだ目を擦ってる?・・・視界がおかしくなってきた。
- 201 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 01:59
-
うすれゆく視界の中で俺が見たのは、誰かが男を投げ飛ばす風景。
男が地面に叩きつけられると“誰か”は男の上に馬乗り、マウントポジションに入った。
ああなんてむごい。男はボコボコに顔を殴られ続けた。
男は未だに視界が遮られているままで誰にやられているのか全然分からないようだった。
男が気を失ったところで、“誰か”は俺に近づいた。
・・・松浦?ボディーガードなんていらないじゃん・・・。
俺の意識はそれ以上続かなかった。
- 202 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 02:00
-
次の日、昼頃のニュース。
次々とフラッシュを浴びながら、松浦が珍しくカメラとは違う方向を見て言った。
「ホント、恐かったです。助けていただいて、どうもありがとうございました。」
表情はその恐怖を物語っている。
横にはお礼を言われて納得の行かない表情の男1名。
何?いつの間に事実摩り替えたの?目がちかちかして来た頃、報道陣が更に質問を続けた。
「お二人は、お知り合いですか?」
「はい、同じマンションに住んでいて。
最近夜道に気配を感じてたんでボディーガードを頼んだんです。」
報道陣の質問は続く。
「男がナイフで切りかかってきたとき、どう思われました?」
「怖かったですよぉ〜。でもこの人、ナイフを素手で受け止めて、
男を投げ飛ばしたんですよ!!ちょっと興奮しちゃいました。」
少し笑みをこぼす松浦。
「男は顔面にかなりの傷を負ってましたが。」
松浦は少し興奮気味に答える。
「ああそれはそのあとまた松浦に遅いかかってきたときに右ストレートでズバッと!!」
「では・・・・・・。」
フェイドアウト。
ライフカードへ続く(続かないから
- 203 名前:おって 投稿日:2005/03/07(月) 02:01
- ペースアップ宣言後一月弱放置してしまったので2話一気更新しました。
>>171 149様
ありがとうございます、これからも細々と頑張ります。
ドラマを一度だけたまたま見たときに「なーんだ」って思ってああしました。
- 204 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/12(土) 23:50
-
9. ピンポン玉
ボディーガードの一件から、大学にいると妙な視線を感じるようになった。
気がつくと変な男達にちら見されている。もし今が絶頂期だったとしたら大変だった。
スキャンダルも絡んでうまいこと数人で済んだだけでもありがたいのかもしれない。
それでも単位が危ないから大学には出続けなければならない。
変な男達を頑張って撒きながら、俺は授業に出続け、なんとか進級までこぎつけた。
家でほっとしていると、押入れの方から声が聞こえてきた。
「ちゃ〜おぉ〜。」
俺が押入れの扉を開けると、這う様にして石川は出てきた。
「よいしょっと。」
なんとか身体を全部通し、部屋に入りきると、石川は言った。
「旅行行かない?」
「旅行?」
突然だったので俺は驚いた。てかそんなに暇あるの?石川は話を続けた。
「温泉旅行なの。中澤さんが行けなくなっちゃって、
一人分キャンセルするのも癪だから、どうかな、
って思ったんだけど、どうかな?」
俺はすぐに答えた。
「いくいく!」
「自腹だけど。」
「おい!!」
- 205 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/12(土) 23:51
-
明日と聞いたので俺は慌てて支度を始めた。1泊だからたいした荷物はいらない。
適当に服類をスポーツバックに詰め込み、すぐに支度は終わった。
メンバーは石川、後藤、吉澤、矢口、安倍。
どうやらある程度年齢の行ったメンバーにして騒がしいのを排除したようだ。
確かにその方が疲れないから温泉に行く意図を的確に捉えている。
ただ一つ俺に問題があった。
「朝早いんだよな〜・・・。」
朝に弱い俺にとって、5時集合は地獄だった。
でもまあ集合がC棟なだけマシだった。
それに間違いなく彼女は遅刻するだろう・・・。
- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/12(土) 23:52
-
AM5:00
「眠い・・・。」
俺はあくびをすると、目を軽く擦った。とりあえずほとんど揃っていた。
「やっぱり来ませんね。」
石川が矢口に言う。
「いつものことだよ。」
矢口はいつものように笑っている。後藤は今にも眠りそうな顔でフラフラ。吉澤が支えている。
「ごめんごめん!寝坊したべさ〜!!」
A棟の方からドタバタと音が聞こえてくる。
5分遅れ、今日は90点でしょうか。
「いいよ、上出来。」
俺が言うと、
「え、でも、35分も遅刻しちゃった!!」
矢口が後ろで噴出す。俺は何を言っているのかよくわからなかった。
矢口は笑い終わると、言った。
「なっちにはね、30分早く時間教えておいたから、大丈夫だよ?」
「・・・・ひどぉ〜い!!」
安倍は口を膨らませた。
- 207 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/12(土) 23:53
-
「え、電車?」
俺は駅に着くと、呟いた。
「そだよ、それが?」
後藤が答えた。
「大丈夫?」
「大丈夫。」
後藤はそれだけ言うとさっさと行ってしまった。
俺達は電車で新幹線のある駅までの間、特に視線を感じることもなく普通に行くことが出来た。
無理もない。平日、早朝。そこまで人がいるわけでもないし、大体が眠そうな表情をしている。
そこまで目が行かないのだろう。
駅に着くと、眠る後藤を吉澤と二人で担ぎながら電車から降りた。
そしてそのまま新幹線のホームへ。
「グリーン車?」
「そゆこと。」
確かに指定席ならある程度は・・・。でも自腹なんだっけ、なんか俺だけ痛くない?
他は年収うん千万なのに。
まあ旅行を共にさせてもらうだけ、姐さんに感謝だ。今回仕事じゃないし。
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/12(土) 23:55
-
「爺・・・・婆・・・・爺・・・・婆・・・・爺・・・・婆・・・・。」
どこを見てもご老人ばかり。
辺りを見回すと『老人ホーム温泉旅行ツアーご一行』の旗が見えた。なるほど。
席は二人ずつということで俺は石川と一緒になった。
他はそれぞれ後藤吉澤、安倍矢口の組み合わせ。
いつも通りな感じがするが、俺はバレンタインのときから未だに石川を意識してしまっていた。
真意を聞かないことには、いつまでも気持ちのモヤモヤは消えない。
いわゆる、好きでない子でもチョコを貰うと急に好きになってしまう、あの現象なワケだが・・・。
石川をじっと見た。やっぱなんだかんだ可愛い。なんで俺ここにいるんだろ。
「?どうかしたぁ?」
石川は俺の視線に気がついたのかそう言った。
「いや、別に・・・。」
「ふぅ〜ん。じゃあいいや。」
石川はそう言うと窓に視線を移し、なにやら鼻歌を歌い出した。
・・・聞けない、なんていうか、恐くて。
びびってしまう自分が情けなく、弱く感じた。
- 209 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/12(土) 23:57
-
電車の中で駅弁を朝飯代わりにほおばる。
石川と違うのを買ったのでお互いに少しずつ分け合いながら食べていると、
車両間を繋ぐドアが開いた。
「ん?」
誰かが入ってきた。おかしいな、この車両ほぼ老人ホームで貸切なのに・・・。
「・・・。」
その姿を見て、6人は絶句した。
や○ざ?やく○なのか?真っ白いスーツ、サングラス、オールバック、顔に傷。
男は俺達の目の前まで来ると、胸ポケットに手を突っ込んだ。
「!!」
拳銃?!男はすぐさま手を取り出した。
「サインしていただけませんか?子供がファンなもので・・・。」
全員座っていながらこけそうになる。
「(びっくりしたぁ〜)」
「(でも絶対○くざっす!)」
「(怖いからこれ以上近づかないで!いやほんとに!)」
「(眠い・・・。)」
「(ファンなら安心だね)」
「(マジびびった〜。でもや○ざかな?)」
男はサインをしてもらうと、ポケットから何かを取り出した。
シャキーン!
ナイフ?!今度こそやばい?!男はナイフを振り上げた。
- 210 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/12(土) 23:58
-
「いや、しゃれにならないっすよ、マジで。」
俺が言うと男は申し訳なさそうに言った。
「すみません、自分、顔恐いんで。」
恐いだけですか?俺はりんごでウサギを次々と仕上げてゆく男を見ながら、
冷や汗をふき取っていた。
「上手〜。」
石川は感心している。俺にはりんごの皮が血にしか見えないんですが?
「できました。どうぞ。」
全員にうさぎを一つずつ配る。
「あぁ、そうだ。」
またポケットに手を突っ込み、なにやら小さな筒を出してきた。
・・・薬?
「爪楊枝です。」
全員再びこけそうになった。
- 211 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/12(土) 23:58
-
旅館に到着すると、まず矢口が声を上げた。
「おぉ!!ごっちんやる〜!!」
「いいでしょ、探すの苦労してさ〜。いろんな人に穴場ないか聞いたんだ。」
後藤は満足そうな笑顔で答えた。冬なのに意外と客がいない。
しかし寂れている訳ではなく、まさしく穴場と言えるような風貌だった。
奥へ入ると、本当にホテルと言うよりは旅館だった。温泉、卓球、和室。
まさに「和」である。「わび」「さび」を感じつづ部屋に入ると、やはりそこも「和」な造りだった。
俺は中澤の代わりだったから安倍、矢口と同じ部屋だった。
残り3人が隣の部屋。
「着いたぁ〜。」
安倍はそう言うと、畳の上で転がった。俺は座布団を3つ取り出し、座った。
置いてある和菓子を口にする。
「お茶入れるね。」
矢口が部屋にあるコップを置き、入れてくれた。
「ありがと。」
矢口は自分、安倍の分も用意すると、自分も座布団の上に座り、お茶を飲んだ。
「はぁ〜、辻加護とか連れて来なくてよかったわ〜。」
同意。
- 212 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:00
-
しばらくまったりしていると、安倍が言い出した。
「温泉行くべ。」
隣部屋の3人も誘うと、浴衣を着ることになり、俺はトイレに隔離された。
「ちぇっ。」
当たり前なのに何故か悔しがりながら俺は俺でトイレで着替え。
5分後・・・。
「お〜、あんたも意外に似合うじゃん。」
矢口に言われて俺は少しだけ照れた。お二人さんにはかないません。
全員出揃うと、俺はノリで一言、言ってみた。
「シャッフルユニット?!」
全員お互いを見ると、笑顔で「せ〜の」の後に言った。
「温泉6〜!」
いいなぁ、こんなメンバーがシャッフルで揃う事ないし。
(まあ元は同じグループだけど、今となってはね。もうないだろうし)
- 213 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:02
-
男湯女湯に残念ながら別れていて(贅沢言い過ぎ)、俺は一人男湯に入った。
でも、温泉と言う事は、定番ですよね。身体を洗い、露天風呂につかると、
女湯の方から声が聞こえてきた。こういう場合大体興奮させてくれるような話のはず・・・。
ごくり(おっさん)
「あ!ごっちんまたおっぱ」
いきなりキター!
「待って!!」
おい!!吉澤がせっかくその手の話をしだしたのに矢口が遮った。
「向こう側、いるよ?」
流石娘。一のエロ(略)俺の考えを完全に読みやがった。
「・・・・・・なっちさん最近どうですか?」
石川が一瞬の静寂の後突然言った。おそらく何を言おうか考えたのだろう。チッ。
俺は脳内で舌打ちした。しかし向こう側は何故か完全に沈黙してしまった。
- 214 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:04
-
女湯・・・。
安倍は遠い目で、陽が少しずつ沈み始めている空を見ていた。
「(梨華ちゃんのバカ!!だめだよ!!)」
吉澤は小声で石川に言った。
「(だ、だって急に言われても思いつかなかったんだもん!!)」
「いいの。」
どうやら聞こえていたらしい。安倍に4人の視線が集まる。
「だって今日はそれで来てるんだべ?楽しもう!」
「・・・そうっすね!じゃあごっちん、この間の曲・・・」
男湯・・・。
「『今日はそれで来てる』?どういうことだ?」
どうやらこの旅行は、ただの単純な旅行ではないらしい。
何か裏に、事情が絡んでいる・・・。
別に考えたところでそれの推測すら出来ないと判断した俺は、一足先に露天風呂を後にした。
- 215 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:04
-
夕食は部屋で和食。たまにはこういうのもいいな。俺こういうの作れないし。
ここで再び矢口が、
「辻加護連れて来なくてよかった〜。」
同意。特に辻。宇宙の胃袋の手にかかったら、俺は食べるものを失ってしまう。
食べ終わると、俺達はすぐに卓球台へ移動した。
人数が多いので3点先取の勝ち残りというルールで行われた。
「ほい!」
元テニス部の石川。
「えい!」
運動神経抜群の後藤。
「たぁ!」
同じく抜群の吉澤。
その3人を核にチャンピオンは形成されていった。
それに翻弄される3人。全然勝てない。
ちなみに石川相手にはほとんど3−0だった。
やっぱり知らず知らずのうちに意識してしまっている。
- 216 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:06
-
卓球台は1時間だけ借りていたので、使い終わると部屋に戻った。
そしてトランプ。なんだか修学旅行のような感覚なんですけど。やはり定番は大貧民。
いざやろうというとき、
「あ、なっちはやらないや。」
安倍は外へ行ってしまった。気になるなぁ。
3ゲーム終わったところで俺はジュースを買いに外へ出た。
確か自販機は旅館の外だったよな・・・。浴衣のせいか、外は寒かった。
2つ並んだ自販機で、俺は適当にジュースを買った。
ガタンッ。
ジュースを取り出すと、なんとなく、外の方を見た。
あれ?
自販機の左側に安倍が座っていた。しかし様子がおかしい。目から涙が流れているようだ。
「・・・!!」
俺が見ているのに気がついたのか、安倍は驚いた顔で俺見た。
「どうしたの?」
俺は聞いたが、安倍の口から出た言葉は意外な物だった。
「えっと、目がかゆくてかいてたら、かきすぎて、涙が出ちゃった。」
「あ。そう・・・。」
とりあえず言いたくないなら無理に言わせる必要もない。
俺は適当に合わせると、
「じゃあ、なっちも大貧民入ろうかな?」
なんだか必死に明るくいようとしているように見えて痛々しかった。
- 217 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:08
-
俺と石川は二人、罰ゲームでジュースに買いに行かされていた。
まあつまり貧民、大貧民だ。
「あそこで8で流しておけば〜。」
石川が悔やんでいる。今更悔やんでもしょうがないだろ。俺だってあのとき・・・。
そのとき不意に俺は安倍のことを思い出した。
「そういえば、なっち、どうかしたの?」
石川はすぐに過剰反応した。
「え、え?な、何もないよ?!」
挙動不審になりながらごまかす石川。これなら落せる。
「梨華ちゃんは嘘つくとき、眉毛がよく動く。」
俺が指差してやると、
「え!?」
石川はすぐに慌てて眉毛を触った。
「嘘だけど。」
「えぇ?!」
石川はそれを聞くと余計に焦りだした。
「で、何があったの?」
石川は観念すると、話し始めた。
「なっちさん、彼に振られたの。誤解で。」
「誤解?」
「うん、詳しくは言えないけどね。それで、それを忘れさせよう、
って矢口さんが言い出して、旅行に行くことになったの。
でも・・・あたしが思い出させちゃった・・・。」
石川は落ち込んだ表情を浮かべた。俺は石川の肩をポンと叩くと言った。
「そうやって落ち込むなんて、らしくないよ?ポジティブポジティブ!」
「・・・うん!はっぴぃ〜!」
いや、はっぴぃ〜はどうかと・・・。久々に聞いたよそれ。
とりあえず持ち直しただけいいか。
- 218 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:09
-
部屋に戻ると、
「遅〜い。」
とすぐ矢口に突っ込まれた。
「ごめん!」
俺が謝ると、安倍が立ち上がって言った。
「よし揃ったしカラオケだべ!」
吉澤がそれに反応して、俺に言った。
「あ、またあれ歌ってよ、英語の奴。」
俺は思い出し笑いをして噴出した。
- 219 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:11
-
ん?このイントロは・・・。安倍はマイクを持つと歌いだした。
「wow〜wow〜wow〜♪」
Time goes by・・・。全員若干気まずい表情を浮かべた。
それに気がついたのか、間奏の時、
「やだなぁ、いつも歌ってるべ?」
と笑ってみせた。1周後、安倍の続いての曲は、
「想い出は〜い〜つも〜キレイだけど〜♪
それだけじゃ おなかがすくの♪
本当は〜せ〜つない夜なのに〜♪
どうしてかぁしら? あの人の涙もお〜もいだせないの〜♪」
歌い終わって安倍は一言、
「ね?」
でも全員別の意味で笑えなかった。
俺何歌おうかな〜、矢口と安倍が二人でふるさと(矢口が言い出し全員一瞬ドキッ。)
を歌う間に考えた。
「It’s my life〜♪」
う〜む、結局有名どころなんだよなぁ、俺。
- 220 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:11
-
カラオケが終わると、部屋に戻って就寝となった。
「いいじゃん別に〜」
「開けたら殺す!」
矢口のその一言を最後に襖で完全に仕切られてしまった。ブーブー。
別に何もしないってんだ。・・・保障はしないけど。
実は窓で部屋間繋がってることに気がつき、ちょっとイケない考えが頭をよぎる。
窓からいけるかも?カーテンはないし、見るくらい、ええやん。
窓をそっと開けると、向こうの窓際に安倍が座っていた。
こっちには気がついていない。
月明かりがその美しさをより一層引き立てている。
しかし、その瞳から一筋の雫が流れ落ちた。
なんだか必死に泣かない様に耐えているような顔だった。
- 221 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:13
-
ファサッ。
「?」
俺に毛布をかけられた安倍は、少しびっくりした顔で俺を見た。
俺はその横に座った。
「風邪ひくよ?」
安倍はそんな言葉よりも、涙の弁解を再び始めた。
「いや、これは・・・そ、そうそう!コンタクトが痛くて!」
「無理しなくていいよ。」
俺は本心をそのまま口にした。
「む、無理なんかしてないべさ!」
「俺の仕事、覚えてる?こういう時にこそ、相談してくれないと。」
安倍は何も言わずに俺を見ていた。
「辛い時は、思い切り泣いた方がいいときもあるんだよ?」
俺が優しく微笑みかけると、安倍は満杯のコップから水が溢れた様に泣き出した。
ずっと必死にこらえていたのだろう。
俺は肩を回し、ゆっくりさすりながら何も言わずに泣き止むのを待った。
- 222 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:14
-
安倍は泣き止むと、詳しいいきさつを話してくれた。
安倍は大西優さん(素人)という人と付き合っていた。
その大西さんと言う人は浮気超反対派な人で、
安倍もそれを分かった上で滅多な事がない限り男性との食事の誘いを断っていた。
彼が大好きだったのだ。
でもあるとき凄く仲のいい仕事仲間(男)と仕事の合間に昼食を食べに行ったら、
それだけで週刊誌に撮られてしまった。
『なっち 共演中の俳優とお昼の一時』仕事仲間とご飯を食べに行くという、
普通の行為に対してひど過ぎる言いがかりだった。
当然その週刊誌以外はそれが分かっていて、取り上げはしなかったが、
彼はそれだけでもうだめだった。そして破局。
大西さんは話すら聞いてくれず、
「やっぱりなっちはアイドルだし、そんな事もあるんじゃないかって、思ってた。
でも、信じてたんだ!それなのに!」
とそれだけ言うとその場から立ち去り、番号拒否され、メアドも変えられてしまった。
- 223 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:15
-
俺は話を聞き終わると、話ながら泣いてしまった安倍の涙をハンカチで拭い、頭を撫でた。
「!・・・・。」
安倍は驚くも拒否はしなかった。
「ごめん、でも今俺に出来る事なんて、こうやって慰めることしか出来ない。」
俺は更に、安倍の目を見ながら、自分を傷つけるように唱えた。
「ごめんね、力になれなくて・・・。」
「そんな・・・そんなこと、ない・・・よ・・・。」
また目を潤ませる安倍。安倍はその顔を俺の胸にうずめた。
「うわ?!」
安倍は毛布を俺にも分けるようにかけてくれた。
俺はその上から安倍の肩に再び腕を回した。
「話を聞いてくれるだけで、うれしい・・・。」
泣きながら途切れ途切れに、安倍の声が聞こえた。
俺の胸が涙に濡れてゆく。
「なっち・・・・。」
俺は呟きながら、肩をまた、ゆっくりとさすった。
- 224 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:16
-
ガラガラ!!
「二人で何やってんだー!!!」
矢口の突然の叫び声に俺達は飛び上がるくらい身体を震わせた。
二人で一つの毛布、俺の胸に顔をうずめる安倍、肩には腕が回っている。
こりゃ変に疑われても仕方がないだろう。
「なっち〜?もう切り替えて見つけちゃったのかな〜?」
男を見つけちゃった、という意味か。
「うん。」
『え?!』
俺と矢口は同時に声をあげた。
「嘘だべ、あはは。」
笑い出す安倍。俺達もつられて頬を緩めた。
今日初めて、安倍の笑顔を見た気がした。
- 225 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:17
-
帰りの電車の席は、石川と吉澤が入れ代わる形になった。
(だってごっちん寝てばっかりなんだも〜ん、とのこと)
しかし蓋を開けてみれば俺と後藤以外全員寝てしまった。珍しいなと思ったのと、
席が隣なのもあって、俺は後藤に昨日の話をする事にした。
その話を聞き終わると、後藤は言った。
「なっちはね、なんていうのかな。ピンポン玉みたいなんだよ。」
「ピンポン玉?」
「そう、ちょっとの衝撃でも吹っ飛んじゃって、壊れやすい。」
壊れやすい・・・。確かに安倍はそう言うところがあるかもしれない。
昔、全く同じような形で彼と別れている安倍は、そのときは実家に帰って泣いた、
と『ふるさと』のような話を聞いた事がある。切り替えが効かず、尾を引いてしまうのだ。
俺の正直同じようにちょっと引きずるところがあるから、気持ちがよく分かる。
昨日はそんな想いでおせっかいをしてしまった。
そのときの安倍の姿を見て、安倍の「脆さ」を感じた気がした。
離したら壊れてしまいそうな、そんな感覚だった。
「俺はどうすればいいんだろう。」
俺はふと、つぶやいた。後藤は答えた。
「何もしなくていいんじゃない?」
「え?」
「だって言われてから動くのが仕事じゃん?」
あ、そうだった。言われてもいないのに動いたらまたおせっかいだ。
「なっちが自分から何か言ってくるまで、待とう。」
後藤はなんだか遠い目で、呟いた。
- 226 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 00:19
-
マンションに着き、解散して部屋へと戻った。なんだか、短かったような、長かったような・・・。
とにかく色々考えさせられる旅行だったと思う。
これから、安倍は立ち直っていけるのか・・・。
誤解で安倍に何の非もないのに別れたのだから、しばらくはきついかもしれない。
少しすると、矢口が部屋にやって来た。中に招き入れると、聞いた。
「仕事?」
「うん。」
矢口は真剣な表情で言った。
「なっちと大西さんのよりを戻して!!」
「はい?!」
さっき後藤と出した結論を吹き飛ばすような声に、俺も吹き飛んだ。
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 15:18
- 早い更新お疲れさまです。
前回の分も含めて読ませて頂きました。
Wise Trapはいい話でした。主人公が羨ましいっ
そしてあややの隠れたチカラに恐れおののきました(w 恐っ
ピンポン玉の話は次回も続くのでしょうか?
続き楽しみにしています。がんばって下さい〜
- 228 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:40
-
10. Dramatic?story
矢口の一番最近の相談は別れさせることだった。
そして今度はよりを戻すこと。なんだってんだ一体。それに、
「ごっちんとさ、
なっちが自分から相談してくるまで待ったほうがいいんじゃないか?ってことになったんだよね。」
「・・・・・・それだとなっちが壊れちゃうと思う。」
壊れる?
後藤との話でその単語に敏感になっていた俺はちょっと反応してしまった。
「なっちは、相談する勇気がないよ。
大体あんた自分で相談するなって言っちゃったじゃん。」
確かに。
俺は昨晩の自分の台詞が頭をよぎった。
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:40
-
「ごめん、でも今俺に出来る事なんて、こうやって慰めることしか出来ない。」
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:41
-
この言葉で安倍はこれ以上相談する気を失くしていたとしたら・・・。
「よし、やる!」
でも、どうやって?
難しい問題だった。大体大西さんと会った事もないし。
それにしても・・・。
「なんで矢口、そんなに詳しく昨日の俺たちの会話知ってるの?」
矢口はやばっ、といった表情で沈黙した。
「・・・・・・・・じゃあ任せたから!!」
そして矢口はそのまま去っていった。
・・・絶対聞いてやがったな。
- 231 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:41
-
- 232 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:42
-
結局おせっかいを焼く形になってしまったようだ。しかし・・・。
「俺大西さん知らないし・・・。」
独り言を呟く。
「お困りのようだね〜。」
例の如く押入れから声が聞こえたので、俺は押入れを開いた。
「梨華ちゃん知ってるの?大西さんの事。」
「もちろん!ライブとかにもよく差し入れしてくれたもん!」
ライブで・・・差し入れ?
「えっと、大西さんって、何やってる人?」
「A.事務所の人 B.テレ東スタッフ C.ビックカメラ店頭社員 D.コンビニ店員。」
なんか全部出逢い方想像つくなぁ。
「てなんで4択なんだよ!!」
しかし俺のツッコミなんて石川は聞いてくれない。
「大西さんが仕事していた順に並び替えください。」
「嘘ぉ?!」
「早くしないと!みのさんとバトれない!!」
「えっと・・・DCBA!!」
俺は出来るだけ早く答えた。
「一番早く正解したのは・・・・・・・・・石川梨華!!『え?やったぁ〜!!!』」
「おい!何下手な一人芝居してんだよ!!」
「嘘だけど。」
「え?!ここまでやって?!てかどこからどこまで嘘なの?!」
- 233 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:43
-
「正解はC。別れる前はA。」
「てことは別れて仕事やめちゃったってことか。」
「うん。大西さんが新しくやりたいことが見つかった、ってのが表向き。
実際は大西さんが芸能人不信になって辞めたがっていたのと、
なっちさんの仕事に悪影響を出さない為に辞めさせたがっていた会社側双方の思惑が合致したって所。」
石川が難しい言葉使って話しているの初めて聞いたかも・・・。俺はそんなところに驚いた。
「でもなんでその事知ってるの?」
俺が聞くと、石川は説明してくれた。
「たまたまそのビックカメラに行っちゃったの。そしたら大西さんがいて。
最初は目を逸らしたりしてきてちょっと寂しかったなぁ〜。
なんとか話したら、『この仕事をやってることは誰にも言うな』って釘刺されちゃったの。
今大西さんが何やってるのか知ってるのあたしだけじゃないかな?」
なるほど・・・。
とりあえず今の話を聞いている間に、俺が今後すべき行動を脳内で整理した。
そして聞いた。
「どこのビックカメラに勤めてるの?」
石川に教えてもらう。
「バイトに行ってくる。」
とりあえず俺は次の日、早速面接をすることになった。
- 234 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:44
-
- 235 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:44
-
「よし行くか。」
俺はビックカメラの面接へ行く準備を済ませ、家を出ようとした。すると、
「ちゃ〜お〜・・・・。」
なんだか死にそうに元気のない声が聞こえてきた。
押入れを開けてやると、エクソシストのように這って入ってくる石川。
「どした?」
顔色が明らかに悪い。石川は答えた。
「熱〜・・・・・。助けて〜・・・。」
知恵ね(ry
- 236 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:45
-
バイトはあっさり採用となった。明日から、「仕事」のために仕事。
しかしその前にやらなきゃならない事がある。こっちも「仕事」だ。
「お雑炊だ〜。」
今回はそれに加えちゃんとした卵酒も作ってみた。
何気ない嫌味に石川は気づく気配はない。
食べ終わり、石川を横にすると(何故か俺のベッド)、
「熱下がったな。」
「そこおでこじゃなくて顎!!」
顎をしゃくる俺に怒りの一言。
「ああ、ごめんごめん。」
わざとらしく笑って見せると改めて額に手を当てる。
「大分下がったな。今日仕事休んじゃった分、頑張れよ。」
「うん!」
石川はニコニコと笑顔で答えた。俺は負けじと微笑み返す。
ドキドキを少しごまかすように。
それに石川は対してもう一度笑うと
「じゃあ看病してくれたお礼に大西さんの性格教えてあげる!!」
それは願ってもないことだった。
人の心を動かすには、その人の心を知らなければならない。
「マジで?サンキュ。」
「何もい〜わ〜ず〜に♪付き合ってくれ〜てサンキュ♪」
- 237 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:46
-
カーン。
鍋を叩くと石川は凄く不機嫌そうな顔でこっちを見た。
「7点。」
「何点満点?」
「100。」
「え〜ちょっとは増やしてよ〜。あたし一応歌手〜。」
え?初耳ですぅ。
「じゃあ√7。」
「やったぁ〜。」
石川はそれを聞くと喜んだ。バカ・・・・。
石川は喜びながら、
「じゃあ『king of大西』にしてあげる!」
「いやそんなに知りたくないから。」
俺は大西さんのパーソナリティーを叩き込まれ、明日に備えた。
- 238 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:46
-
- 239 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:47
-
次の日から、俺のビックカメラでのバイトは始まった。
そういえば、仕事中に相談受けたらどうするんだろ?電話相談に切り替えか?
そんなことを思いながら、俺は大西さんとはじめて会った。
思ったよりは普通の人で、でも凄く雰囲気のある人だった。
「分からない事があったら何でも聞けよ!」
「はい!」
「まあ俺も入ったばっかりだけどね。」
大西さんはそう言って笑った。これはチャンスだとばかりに俺は聞いた。
「前は何やってたんですか?」
俺が聞くと、大西さんは笑いながら答えた。
「そいつは言えねぇ。」
「え〜、いいじゃないすか〜!」
「だめ。」
でも、石川の話によると・・・。
「お願いします!」
「う〜ん、分かった。」
石川の言った通り、大西さんは3回目で答えた。分かりやすい人だな。
- 240 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:48
-
「芸能事務所で仕事しててな。」
「え?!マジすか!?どんな人いました?」
あ〜、演技力必要だな〜、俺の仕事段々拡大されてないか?
大西さんは即答した。
「モー娘。」
大西さん、もしかしてもう割り切っちゃってる?
大西さんがあまりにもあっさり答えたので驚いた。ていうか今時その名を即答できるとは強いハートだ。
ならば深く突っ込んで核心に迫るしかない。
「話したこととかありますか?」
「ああ、仲良かったぞ〜。『娘。悩み相談室』なるものをやっててな。」
・・・え?
俺は全身に何かが走るような衝撃を覚えた。
この仕事は、俺が初めてではなく、前に大西さんがやっていた・・・?
俺はなるべくこの衝撃を「驚き」の表情に変えるように努め、話を続けた。
「そんで相談してるうちに付き合っちゃったりしてたんじゃないんすか?」
「うん・・・まぁ、な。」
認めたから割り切っていると考えるのか、
それともこの「ため」をどう読むのか・・・。
やりすぎると今後聞きずらいと判断した俺は、適当に話を変えてその場の空気を軽くした。
とりあえず、石川から聞いた大西さんの趣味に合わせて。
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:48
-
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:49
-
「・・・・・・・。」
俺は家に帰ってくると、ソファに座り、ぼーっと色々考えた。
大西さんから聞いた事を。
「俺は・・・・・・。」
俺は、ただの後釜なのだろうか?
今までこのポストを、
自分だけの特別なものだと思って一人喜んだりしていた自分が馬鹿みたいに思えた。
石川のこのバイトを薦められたときのことを思い出した。
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:49
-
「いいバイトないかって言ってたよねぇ?」
「うん。あったの?」
「うん。明日連れてってあげる。」
- 244 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:49
-
別に、俺がこの仕事をやる初めての人だとか、
そんなことを何一つ言ってない。
でも石川は、つんくに頼まれて適当な人を探していただけなのだろうか?
所詮代理、所詮バイト。
例えば俺がそのうち辞めたら、また新しい人雇って・・・・。
その流れがずっと、続いてゆくのだろう。
別に当たり前の事なのに、何故か嫌な気持ちになった。
なんでだろう。
説明が出来ないおかしいな感情に、俺は悩んだ。
- 245 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:50
-
- 246 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:50
-
数回のバイトを経て、俺は大西さんと飲みに行く事になった。
俺の気持ちのモヤモヤは未だ消えていなかったが、仕事はちゃんとしないといけない。
俺は切り替えて仕事に望んだ。
石川のマニュアルによると、酔うと口がべらぼうに軽くなるらしい。
なんでそんなに詳しいのか聞いてみたら、
「なっちさんのノロケ話。」
なんでもマニュアルはそれで手に入れたデータで9割近くを占めているんだとか。
適当に大西さんが酔っ払ったところで、俺は話を始めた。
「そういえば、前の仕事のとき付き合ってた娘とはまだ続いてるんですか?」
「いや、もう別れた。」
表情に曇りがあまり見えない。平然としている。
「えー勿体無いっすよ!!どうして別れたんですか?」
酒を飲んでいるせいか、ためらうことなく大西さんは言った。
- 247 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:50
-
「向こうの浮気。」
「ちなみに誰ですか?」
「安倍なつみ。」
あ、なっちとは言わない。
「え゛――!!?浮気とかしなさそうですけどねぇ?」
とりあえずフォローをしつつ話を繋げた。
「俺もそう思ってた!!!」
突然キレ気味になる大西さん。
やばい!やりすぎたか?!
「でも・・・雑誌に載りゃ・・・。」
大西さんは泣きそうな顔で、ちょっと上を向き、言った。
「見えないものは、見えないままの方がいいのかもな・・・。」
- 248 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:51
-
大西さんと別れた後、俺は矢口と落ち合った。
とりあえず近況報告を兼ねてだが、飲みに行くのがメイン。
俺は大西さんとの食事では話すのに必死でほとんど酒を口にしていなかったから、一気に行った。
「行くねぇ〜。」
笑う矢口。矢口も酒を飲むと、聞いてきた。
「どう?今の所。」
「誤解は全く解消されてないみたいだね。でもまだチャンスはあると思う。
大西さんもまだなっちのこと好きなんだ。」
「手はあるの?」
「ないけど・・・やるしかないだろ。そっちの方は?」
「相変わらず。NG連発するし。」
あまり余裕持ってやるもんじゃないみたいだな・・・。
- 249 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:52
-
「にしても大西さんも雑誌じゃなくて彼女の事信じればいいじゃねぇかよ。」
酒の回ってきた俺の口からは本音が飛び出した。
「あ〜それおいらも思った!!」
「だよね?!そこで信じてやれないのはだめだよな。
でもまあ素人と違うからそう簡単なもんじゃないんだろうけど。」
そう、簡単じゃない。
日に日に石川の事が気になってゆく自分がいたが、
そう思っていつも頭の中からかき消していた。
そんな俺がこんな事言うもんじゃないんだろうけど。
信じてあげれなかった大西さん。
信じてもらえなかった安倍。
この二人の関係と心の修復は、難題だった。
- 250 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:52
-
「そういえば聞きたいんだけどさ。」
俺は酒の追加注文をしてから言った。
「なっちと大西さん、別れてどのくらいになる?結構経ってない?」
「うん、半年ぐらい前?」
やはり俺と入れ替わっている。タイミングもぴったり。
でもそこで俺は一つ、新たな疑問が生まれた。
「え、じゃあ半年も引きずっちゃってるって事?!」
俺はちょっと大きめの声で言うと、矢口は何故か焦りだした。
「あ・・・なんていうか・・・・。」
「どうしたの?」
「その・・・・本人が忘れかけてるときに旅行提案しちゃったらしくて・・・。
その趣旨を分かられちゃって・・・・ぶり返しちゃっ・・・た。」
騒がしい居酒屋の中で、この空間だけは、確かに今静けさが走った。
「・・・その後始末を俺がやると?」
「後始末なんて聞こえ悪いなぁ!!!なっちのためだよ!!」
そうだけど・・・。
どうなのよこれ?
- 251 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:53
-
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:53
-
次の日、俺は安倍の部屋に足を運んだ。
「(いるかな?)」
チャイムを押して数秒後、ドアが開いた。
「あ、どうしたの?」
安倍はいつも通り笑顔で迎えてくれた。
しかし、今日はなんだかその笑顔が作ったようなものにしか見えない。
「元気かな・・・・って思って。」
安倍はすぐにその言葉の意味を理解した。
「うん、全然大丈夫!えっと、中入る?」
いつもより声を張り上げる安倍。
強がっているのも表情で読み取れてしまう。
「うん。」
家の中に入ると、安倍はキッチンで何か飲み物を出そうとしている。
安倍は聞いてもいないのに、話し出した。
「仕事の調子も凄くいいし、あ!!」
- 253 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:53
-
ガシャン!!
安倍はコップを落として割ってしまった。
「大丈夫!?」
俺はただ怪我はないかとか、そう言う意味で言ったのに、
安倍はこれを別の意味として捕らえてしまった。
「うん!全然・・・・全然大丈夫だから、心配しなくてもいいんだべ?」
安倍の目は潤んでいた。声も震えている。
「ほんと・・・・ほんと・・・大丈夫だから・・・。ごめん、ちょっとトイレ。」
安倍は小走りでトイレに駆け込んだ。中からはすすり泣く声が。
これじゃ俺も矢口と同じだな・・・。凄く罪悪感を感じた。
「ごめん、俺帰るわ。」
「え?!い、いいの!!いいべさ!!別に大丈夫!!」
精一杯、平然を装うように努めている声が聞こえた。
「ありがとう、別に用事が出来ただけだから、気にしないで。」
俺はそう言うと安倍の部屋を出た。
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:54
-
その後、しばらく動きのないまま、俺は二つのバイトを続けていた。
ただし相談室のほうは電話相談に切り替わり、事前にメールを打つ、という事になった。
ビックでのバイトを終えると俺は急いで電話をかけなければならなかった。
時には数件。
このままだと俺の身も持たないし、安倍が与える仕事への悪影響も凄いらしいので(現にそれを相談内容にしてきた娘もいた)
俺は一気に勝負に出る事にした。
「え・・・・・ここ?」
大西さんは俺のマンションに着くと、少し表情に陰りを見せた。
ゲームで適当に釣って仕事帰りの夕方家に誘ったのだ。
来たら今更帰るとは言いにくいだろう。
「どうしました?こっちですよ?」
A棟の方をじっと見ている大西さんを呼んだ。
「お、おう・・・。」
ここで俺が少しでも表情に出てしまったら負けだ。ボロを出してもだめ。
絶対にそんなこと思いつかないだろうが気づかれたら終わりなのだ。
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:55
-
「ここです。」
大西さんは未だに動揺した顔つきをしていた。そりゃそうだろう。
なんせここは石川の隣の部屋。大西さんだって、知っているのだろう。
ガチャッ。
バタン。
「すみません、ちょっと待っててもらえますか?」
「ああ。」
俺は部屋に入り、ドアを閉めると言った。
「なんでいるの?」
石川がソファに座っていた。なんか雑誌を片手に持って。
「これ。」
石川はそれを俺に渡してきた。
「・・・・・え?!」
これって・・・まさか。
「やるじゃ〜ん。」
石川は俺に笑ってみせた。
「いや、違うって!」
「じゃ〜ねぇ〜。」
石川はそのまま押入れに入っていった。・・・・・。
ガチャッ。
「すみません、汚かったんで。」
「おう、上がるぞ。」
とりあえず俺が先にリビングの方へと行くと、
- 256 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:55
-
「よ!ほ!!」
辻加護がゲームをしていた。
思わずこける俺。
「どうした?」
「あ〜待って待って来ないで!!」
俺はこけた体勢から大西さんの目の前に飛んだ。
「お前器用な事するなぁ。」
「ちょっと待っててください!!ごめんなさい何度も。」
大西さんを俺の部屋に入れようとドアをそっと開けて覗き込むと、
・・・よかった。誰もいない。
大西さんを中にいれ、リビングに行く。
- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:56
-
「ちょっとさ、仕事中だから、帰ってくんない?」
もうどうやって入ったかなんてどうでもよかった。なるべく小声で話す。
「え〜、ケチくさいこと言うなや〜。」
「そうれす〜。ゲームぐらいしたっていいじゃん!」
「マジちょっと勘弁・・・・じゃあ明日!明日な!!」
「え〜もうお開き〜?」
後ろから紺野の声がしてまたしてもこける俺。
「どっから湧いて出てきた。」
「トイレ借りてたでけや。なんでお開きなん?ケチやね〜。」
「仕事、大西さんとなっちの件。」
それだけ言うと3人の顔つきが変わった。
「・・・しゃーないな。」
加護がそう言うと、3人はそのままテレビ側の壁を触った。
「ここ回転扉になってるんやで。」
加護が突然言った。
「え?!」
「嘘ですよ。」
紺野が笑う。
3人はそのまま入り口からちゃんと退室していった。
- 258 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:57
-
「マジすみません。色々汚くて。」
「もうゲームのセットしてあったんだ。」
「え?あ、はい!」
俺達はしばらくゲームをした。俺はまだ二十歳だし、いいけれど・・・。
大西さん、いくつですか?
そんなことを思いながら、とりあえず「来客」を待った。
「おい弱いな〜。」
しかも強!
というより自分の力を測る物差しが辻加護とかしかいなかったから、
自分の力を過信していただけかもしれない。
ピンポーン
「?」
大西さんは玄関の方に視線を移した。
俺は無言で立ち上がり、玄関へと小走りで向かった。
ガチャッ。
「上がって。」
俺は彼女にそう言うと、そのまま奥へと連れて行った。
- 259 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:57
-
『!!』
二人はびっくりした顔をして、お互いの顔を見あっていた。
安倍は俺に聞いた。
「どういうこと?」
俺が答える前に、大西さんが俺を見て言った。
「お前、まさか・・・。」
「そうです。俺が二代目『娘。悩み相談』です。なっちに大体の事は聞きました。」
「・・・帰る。」
大西さんは俺と安倍から背を向け、歩き出した。
「待ってください!!」
俺の声に、大西さんは立ち止まり、こっちを振り返った。
悲しげな表情を浮かべていた。
「話を、聞いてあげてください。
別れるときだって一方的で、何も聞いてあげられなかったでしょう?」
「・・・・。」
大西さんは何も言わない。それを見て安倍は今にも泣きそうな顔で、言った。
「あれは、ドラマの撮影の合間のお昼ご飯を、たまたま同じ時間休みだった人と言っただけだべ・・・。」
言い終わると、目から涙が零れ落ちた。
たったこれだけの事を伝えられずに、安倍はどれほど苦しんだのだろう。
その潤んだ瞳が物語っているような気がした。
- 260 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:58
-
「・・・証拠は?」
大西さんは呟いた。
「・・・え?」
安倍は声を振り絞って反応した。
「証拠を見せてみろよ!」
「もういいじゃないですか!!!」
二人の視線が俺に一気に集まる。
その目から、俺は思わず叫んでしまった事に気がついた。
語調を若干弱め、俺は話を続けた。
「彼女のこの涙こそが、何より確かな証拠じゃないんですか?
なっちの涙につまった気持ちを、あなたが受け止めないで、
誰が受け止めてあげるっていうんですか!
誰が抱きしめてあげられるっていうんですか!!」
部屋中を沈黙が襲った。おそらく数秒の事だったのだろう。
しかし俺には何時間にも感じた。
大西さんは静かに安倍の横に近づくと、涙を流す安倍の顔をそっと自分の胸に連れ込んだ。
「・・・・!!」
その途端、安倍は声をあげて泣き出した。
俺は何も言わずに、静かに別の部屋へと入った。
- 261 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:58
-
- 262 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:59
-
少しして部屋に戻ると、二人はもうすっかり仲直りしていた。
「(い・・・居づらい・・・。ここ、俺の部屋なのに・・・)」
ラブラブですな。
俺はそっとキッチンに入り、夕飯の準備を始めようとしたら、
安倍がそれに気がついた。
「なっちがやるべ。」
いやだから、ここ俺の部屋・・・。
「肉あるべか?ジャガイモ、にんじん、たまねぎ・・・・。」
肉じゃがか。たまたま揃っていたので全て安倍に渡した。
安倍の肉じゃがはなかなかのものだった。
料理自慢の俺には及ばないにしても(何様)、見るからに美味しそうで、
俺と大西さんは思わずうなってしまった。
3人で食卓を並べ、3人で仲良く食事を、
「あーん。」
出来るかボケ(怒)
若干ハブられ感ありながら、3人で仲良く食事をした。
- 263 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 23:59
-
「じゃ、気をつけて帰って。」俺が玄関で二人を送る。
「送っていくよ。」大西さんが安倍を見て言う。いや、送っていくってあんた・・・。
二人が去ると、俺はさっき石川に渡された雑誌を手に取る。
「なんだってんだこれ・・・。」
俺は記事のタイトルだけ見ると、ベッドに投げ捨てた。
『モー娘。矢口 男漁り』
- 264 名前:おって 投稿日:2005/03/19(土) 00:02
- あと2話。よほどのことがない限り3月中に完結です。
>>227 名無飼育様
レスいつもどうもです。
主人公がうらやましい・・・どうだろう(爆
主人公は読者様です、という大分キショいスタンスでやっているので(汗
- 265 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/19(土) 23:31
- 完結・・・・さみしいですね。
いつも楽しく読ませて頂いてました。
あと二話も楽しみにしてます。
- 266 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:22
-
11.Headache
春休み直前、俺へのほんの一部の異常な視線はかなり強くなっていた。
そして友人のうちの一人は視線の主を気にしながら、突然俺に言った。
「お前あれ利用しない手ないだろ。」
ん?俺がよく意味が分からない、と言った顔をしたのが分かったらしく、
彼は付け加えた。
「適当に「これ私物だ」とか言って売りつけろ。松浦亜弥とか知り合いだろ?」
うわ〜、ひどい。でも、
「金は全然困ってないから。」
あの「仕事」、給料だけは無駄にいいから。
「え、あんな高そうなマンション住んでんのになんなんだよ?!田舎のボンボンか?ボンボンなのか?!」
うわ〜、なんかキレられた〜。でもここで仕事内容言えないよな。
聞こえたらまずいし。俺は適当な言葉を探し、言った。
「バイトが、訳アリでね。」
彼を何とか説得。でも周りの熱き男はジワジワ近づいてきていた。
「何もないから!!君達のもん!!ではないけど・・・。何もないから!!ね?ただの友達!!」
あ、最後の一言余計かも。
思ったときには遅かった。男は更に近づいてくる。
「(・・・・逃げろ〜!!!)」
後藤のフォームを意識して俺は駆け出した。
- 267 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:23
-
「はぁ〜・・・・。」
俺は校舎の影に隠れてその場で座り込んだ。
なんでこんなに熱狂的なファンの方がいらっしゃるんでしょう?明らかに右肩下がりなのに。
そんなことを思っていると、うわさをすれば影。
ブーン
「もしもし。どうしたの?」
電話の主は辻だった。
「勉強を教えて欲しいのれす。」
「前もそんな話なかったっけ?そのときは確か・・・。」
「あーもう言わなくていいのれす!!」
飯だけ食って帰りまくってたよな〜。食費経費で落せないのかね?
「何、テストでも近いの?」
「そうなのれす。留年は洒落にならないし。」
それは思う。今現在周りにも1人いるが、大分気まずい。
辻だとその人と比べて更にきつい状況になるだろう。
「分かった。じゃあ切るよ。いつやるかは家帰ってから話そう。」
「あ、あいぼんも一緒れす。」
「加護も?」
俺はあくまで普通のトーンで呟いたはずだった。
しかし次の瞬間、強烈な視線を感じた。・・・やばい・・・。
「分かった。じゃ、切る。」
ピッ。
俺は全力で走り出した。
- 268 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:23
-
- 269 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:24
-
酷い目にあったもんだ。なんとか逃げ切り、俺は家に戻る事にした。
とりあえず今日はもう校内にいたくなかった。
部屋に戻ると、すぐに加護からお呼びがかかった。
そして部屋に着くと、明々後日の夜10時から俺の部屋で、ということになった。
時間が決まった途端、加護は俺に笑いながら、
「にしても最近どうでっか?」
こういわれたら決まり文句を言うべきなのだろうか?
「ボチボチでんな。」
とりあえず答えたら、
「ちゃうちゃう、そうやのうて、恋の話や。」
もう一度ニヤリと笑う加護。
「どうですか?そこんとこ。」
週刊誌の事か・・・。こいつ、事実を分かった上で俺をからかってやがる。
「うるせぇな〜、矢口に聞けばいいじゃねぇかよ。」
一応確認を込めて言う。すると加護の口から凄い一言が飛び出した。
「え、でも矢口さんは「おいらたちラブラブです〜」言うてはりましたよ?」
あの野郎・・・・・・。
- 270 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:25
-
「心配せんといてや、言うてへんわそんなこと。」
「言ってたまるか。」
「まあ「なんであいつなんかと」とは言うてたけど。」
ムカツクー!!ガラにもなくキレそうになる。
加護はまた俺の顔を見て話し出した。
「しゃーないんちゃう?矢口さん別れたばかりやったし狙われてたんやろ。
てか今思うたんやけどぉ。」
「何?」
「ぶっちゃけ自分どう思うてんの?書かれた事。そないに悪い気はせーへんやろ。」
何を言うかと思えば・・・。
「・・・・正直に言っていい?」
俺は玄関に向けて歩き出した。それを目で追うだけの加護。
「なんやそれ。」
俺は靴をはき、ドアを開けると、部屋の奥にいる加護を見て言った。
「人による。」
「(正直に)言うてへんやん!!」
「ほなさいなら。」
俺は関西弁の真似をしながらドアを閉じた。
- 271 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:26
-
バタン!
「はぁ〜・・・。」
部屋に着くなり俺は溜息をついた。
今度こそ正直に言うと、矢口と週刊誌に載ったという事自体は、
向こうの気持ちはどうであれ悪い気はしなかった。
街を歩いていて周りからはそう言う風に見えてたのかな?と思うと少し嬉しくなったりもする。
しかしだからと言って矢口に恋愛感情を抱いていると言う訳ではない。
教室でも言ったように、いい友達だと思っている。少なくとも、俺は。ただ、問題は・・・。
「し〜あわ〜せで〜すかぁ♪」
こいつに、石川にからかわれるのが、なんか凄く嫌。特に「幸せ」とかそう言う言葉を使われると。
選曲古いし。
「矢口さんいないんだ〜。」
押入れからいつものように這い出てくる石川。
「いい加減飽きてよそのネタ。」
とりあえず仕事が終わると毎日のように冷やかしに来るこいつは一体・・・。
「え、ネタなの?」
石川は真剣な顔つきで言った。
「は?矢口に聞かなかった?」
てか聞かなくても分かれよ。ん?演技?でもそんな演技うまい方でもないよな・・・。あれ?
「ラブラブとか聞いたんだけど?」
もしかして、本気で言ってる?顔が真剣なまま微動だにしなかったから、俺は答えた。
「あれガセだよ。俺ら全然そんなんじゃないって。てか週刊誌なんか簡単に信じないで。」
ちょっと愚痴が入ってしまったが。
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:26
-
「・・・・・な〜んだぁ、そっかそっか・・・。」
石川が独り言のように呟いた。
「え?」
「え?」
「いや、なんでもない。」
俺は慌てて言った。なんだ?今の反応・・・。めっちゃ気になるんだけど・・・。
石川はまるで誤魔化すかのように(俺にそう言う風に映っただけなのかもしれないけど)笑った。
「ねぇ今日のご飯何〜?」
「え?食べるの?」
「いいじゃ〜ん別に〜。一人じゃ寂しいでしょ?」
「まあそうだけどさ。」
三食いずれかの時間帯で、仕事がなく家にいると、大抵このようにして飯を食べに来る・・・。
あのあとつんくさんに電話して聞いたら、食費経費で落ちないらしいし・・・。
俺は知らず知らずのうちに溜息を吐いていた。
- 273 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:27
-
- 274 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:27
-
- 275 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:27
-
カテキョ当日。
とりあえず色々覚悟してから俺は二人の到着を待った。
時間になるとチャイムが鳴り、二人は教科書などを持って入ってきた。
「もう一度聞くけど、本当にいいの?」
俺は聞いた。
「任しとき!」
「大丈夫れす!」
「じ、じゃあ行くぞ。数学から。」
今回教える科目は数学、国語、英語、歴史の4科目。
しかも今日中にやれと言うのだから、かなりきつい。夜中の何時までかかるか分からないが、
メチャイケ期末試験ダントツビリのツートップ。間違いなく大変だろう。
- 276 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:28
-
「まずこれ。『1−4』は?」
加護に振る。
「ん〜・・・・・−3?」
「正解!やれば出来るじゃん!!」
「わーい!!」
二人はハイタッチした。
「よし次。」
「またんか!!」
加護がツッコミ。
「これ中1レベルや!!」
「あ、気づいた?」
さすがに馬鹿にしすぎたか?どうやら加護の逆鱗に触れたようだ。
「当たり前や!!どついたろか!!なぁのの!!」
「高2レベル〜!!」
辻はまだ喜んでいた。
- 277 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:28
-
「やっぱりダメじゃん。」
まさかこれほどのものとは思わなかった。
試しに数列の基本問題をやらせてみたが結果は酷いもの。よくよく考えてみれば、
『1−4』を即答できなかった上疑問系だった奴らだし。
「中学レベルに落す?」
「だめれす!テストがあるのれす!!」
「諦めたら?」
「カテキョなら励ましいや!」
「じゃあコツコツやるしかないな。」
というわけで1から説明をじっくりと始めた。
例題の説明後基本問題をそのやり方に沿ってやらせる方法で進んでいった。
途中で質問する事で眠らせないようにするのだ。そして2時間後。
「ここでΣはどうするの?」
「・・・・・こう?」
辻は不安げにノートに書き込んだ。
「出来るじゃん!!」
数学、success。
「つーかさ。」
数学を教え終わったところで俺は言った。
「俺より紺野とかの方がリアルタイムで受けてる分ちゃんと教えてくれそうじゃん?」
シーン。何故か二人は黙ってしまった。
え?なんで?俺なんか悪い事言いました?
「あさ美ちゃんは・・・・・。」
辻は困ったように笑った。
- 278 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:29
-
- 279 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:30
-
俺は英語のテストを受けさせている間に、高橋と紺野の部屋にお見舞い(?)に向かった。
紺野はベッドの中でボーっとしながら天井を見ていた。
「あさ美ちゃんったら熱まで出さんでもええのにね?」
「いや、あれは俺も熱出しそうになったよ。ショックだよな、同じ人間として。」
軽く英語の基本問題を見た後にこの部屋に来たのだが、ひどいものだった。頭痛がするぐらいに。
紺野は起き上がって呟いた。
「さすがにthe worldを『なるほど』と訳されたときは眩暈がしました。」
うわぁ〜、笑えねぇほどひどい間違いだ。
思ったんだけど、メチャイケは番組で、完全に他人事だから笑えるんだよな。
いざ教えるとなると笑えない。
「なんやったっけ?そのあとの・・・・そうだ!あれで倒れたんやねぇ。」
高橋は思い出したように言った。
「うん。」
「どんなの?」
「あさ美ちゃんまた倒れちゃうからあたしが言うと、
Chemistry are too fast for two.を」
なんだその文。珍回答を待ちわびてるようにしか見えない。まさか・・・。
「自信満々に、『あれ、ケミストリーって二人?違う?四人?二人。』って書いたんやね確か。」
ある種創造の神だ。まさに紙一重。
- 280 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:31
-
部屋に戻ると、試験はちょうど終わっていたので採点することにした。
「・・・・・・・・・・・・・。」
メチャメチャッ!イケテル〜!!オープニングが頭をよぎる。
「あの〜、辻ちゃん?これ・・・・何?」
そうとしか聞き様がない。
「え、“あなた”、“べジット”、“私”による三角関係のコイバナ。」
問題:次の文を日本語に訳しなさい。
The next time you visit my house, I will lend you that book you wanted to read.
(正解:今度あなたの私の家に来たときに、あなたが読みたがっていた本を貸しましょう。)
辻の回答:次の時間あなたとべジットと私の家、私は本よりもあなたが欲しい。
「あの、日本語にすらなってないですよ?」
「それはきっと問題がおかしいのれす!!」
「てかべジットってどっから出てきたの?」
ベジットといえばドラゴンボールで悟空とべジータが合体したときの名前。そんなの知ってるのか?
「ここれすよ!!」
なんか怒り気味の辻。辻が指差したのは、visit。あ〜やっぱり。
てか笑えない・・・。
- 281 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:31
-
ここで英語のリスニングを行ってみた。CDを再生する。
この問題は、地図を見て行われる。
人に質問をされるから、その質問からその人はどこに行きたがっているのかを選択する。
A地下鉄BファミレスCホテルD学校E図書館。女の外人の声が聞こえてきた。
“Please follow me to the mita subway line”おー結構早口。
「え?満たされない?」
どっちかが呟いた。・・・・はい?どっちが言ったのかと思ったら、辻だった。
回答:C。
「なんでCなの?てかこの人なんて言ったと思った?」
「私を抱いて満たされないのお願い。」
「おい!そんな問題出ないから!!」
「だからホテルかな〜と。」
「じゃあこの和訳」
次の単語を和訳しなさい。(1)observe(2)chromo(3)double
加護の回答:(1)おばさん(2)ホリエモン(3)ドーベルマン
「ワザとだろ?ワザとなんだろ?!ワザとなら許す!さあどうなんだ!」
「真面目にやっとるわぁ!」
もういい・・・・。英語 unsuccessful。
- 282 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:32
-
歴史の問題。なんでも1年のまとめのため範囲はほとんど全部らしい。
きついなぁ〜。とりあえず年号からはじめてみた。
「何年に平城京に移った?」
「えっとなんやったっけ・・・・。」
加護が悩む。辻も考え込んでいる。
「ほら、語呂合わせあるでしょ?」
俺が言うと、二人は顔を見合わせて言った。
『NATO爆撃平城京!!』
「なんだその物騒な語呂合わせは〜!!!!」
俺は大声で叫んだ。
『え?違うの?』
「いや、あってるけど。普通納豆食べて平城京だろ。」
「覚えにくいやんなぁ。」
「れすね〜。」
そうか?
「じゃあ平安京は?」
『無くした彼女と平安京。』
なくしが794か、って納得してる場合じゃねぇ〜!!
「・・・・・・まあ合ってるからいいんだけどさぁ。」
- 283 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:32
-
徳川綱吉が発令した「生類憐みの令」とはどんな令で、どんな問題が生じたか。
以下の単語を使って答えなさい(動物、魚、鳥、犬、食料、人民)
回答:動物愛護の命令で、魚鳥を食料として飼養することを禁じ、特に犬を愛護させた。極端に走ったため人民を苦しめた。
辻:動物愛護協会を作り、人民とともに魚、鳥を食料とせず、一家に一匹犬を飼う事を義務付けた。
加護:釣りに行って魚を釣り、ハンティングで鳥を射抜き、番犬として犬を飼うことを禁止して人民は苦しめられた。
加護の最後の番犬って一体・・・?“動物”使ってないし。正解を教えると、加護は
「え〜なんやその答え、ののの答えの方がよっぽどそれっぽいでぇ?」
っぽい、とかで歴史を辻の脳内に書き換えないでください。
- 284 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:33
-
現国のテストをさせている間、
俺は窓の外、ベランダに出てボーっとテストが終わるのを待った。
横を見ると石川の部屋も明かりがついている。まだ寝ていないようだ。
次に上を見上げる。中澤がいた。ベランダから、夜空を眺めている。俺は話しかけた。
「姐さん聞いてよ〜。」
「・・・・ん?おお。お前か。」
随分反応が遅かった。
「あれどうしたの?大丈夫?」
「たまには悩みくらいあるわ〜。」
いや、俺いるじゃん。
「いつでも相談に乗るよ。」
「う〜ん、せや、そのうちお願いするわ。」
中澤はそう言うと再び夜空の星を見上げ、なにやら考えているような表情をしていた。
- 285 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:34
-
続いて近世の俳句。
霞さへ まだらに立つや とらの年 松永貞徳
「さて、なぜ霞はまだらに立つんでしょうか?」
俺は辻に振った。
「え?・・・・・・冬だから?」
「どんな答えだ〜!!!しかもこれ冬じゃね〜!!」
俺も答え見るまで分からなかったけど。
「じゃあ春だから?」
加護が言う。
「そう言う問題じゃねぇ〜!!春だけどちげ−!!!」
流石にイライラが募った。大声を出してしまった。
心を落ち着けると、俺は解答を教えた。
「まだらと、とらのまだら模様を掛けてるんだよ。」
二人はとりあえず納得した。そしてそのあと加護が言った。
「掛詞ってどないな意味やったっけ?」
「1語に二つ以上の意味を持たせるものだよ。例えば「待つ」と「松」とか。」
「あ〜寺田が出来へんやつやな。」
!!?
- 286 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:35
-
『終わったぁ〜。』
3人で声をあげる。夜中の2時。ようやく全ての科目が終了した。
1教科1時間しかかけれなかったけど、とりあえずテストの方は何とかなるだろう。
「テスト絶対40点超えるぜぃ!」
辻の拳に力が入る。いや・・・、そんなレベルなの?4時間もやったんだから活かしてよ。
それでも二人は満足そうな笑顔で部屋へと帰っていった。
ブーン。
「ん。」
俺は携帯を手に取り、ディスプレイを見た。中澤だった。
「もしもし、まだ起きてたの?」
「あんな下が騒いでて寝れるかっちゅうねん!んで、
終わったみたいやから、さっきの話、したいんやけど。」
「うん。分かった。」
「こんなこと相談するんわ、どうかと思うんやけど・・・。」
- 287 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:35
-
バン!!!
けたたましい音を立てて、押入れが開いた(吹っ飛んだ)何事?!
「なんや?!」
あまりの音に中澤も電話越しから聞こえたのか、驚きの声をあげた。
慌てて俺は寝室から押入れの方へと走る。すると押入れから石川がいつものように出てきた。
しかしなんかいつもと雰囲気が違う。・・・目が据わってる?
「ヒック・・・・・。」
酔っ払い!?のんべえ?!
「ちょ・・・ごめんなさい!急用出来たみたい!!」
「あ、あぁ・・・そうみたいやな・・・せや、また今度な?」
中澤はちょっと残念そうな声で言っていたが、俺はこの時点ではそれに気がつかなかった。
俺は、さっきからフラフラ歩き回っている石川に話しかけた。
「どうしたの?てか酒飲むなよ、バレたら色々と問題だぞ。」
「たまには飲みたくなっらりするのよ〜。」
絡み上戸か?石川はそのままソファに倒れこみ、
「水〜・・・。」
- 288 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:36
-
「はぁ〜・・・・。」
水を一気飲みすると、石川は溜息をついた。
そしてコップを置くと、相変わらずフラフラした足取りで、俺に近づいてきた。
「?」
石川は両手を広げ、体全てを俺に預けた。
「うわ!おい!大丈夫か?!」
石川は相当酔っ払っているようだ。しかし俺の思惑に反して、石川の腕は俺の背中へと回った。
ちょうど抱き合う形になる。・・・・え?
「あ!分かった!またドッキリだろ!!」
俺は慌てて、ドキドキをごまかすように言った。しかし石川止まらない。
顔が少しずつ俺に近づいてゆき、そのまま・・・。
暫くして石川の唇が離れると、その悪戯な唇から、とんでもない言葉が発せられた。
「好き・・・・。」
その目は俺の目をじっと捉えている。
ここでさっきよりひどい頭痛がした。
- 289 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 18:37
- あと1話ですがあと1話は拡大版(当社比
>>265 名無飼育さま
ありがとうございます。こんな話でも楽しんで頂ければ幸いです。
- 290 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 21:32
- 更新お疲れさまです。ついにあと1話ですか。
姐さんのことも気になるし、石川さんのこともかなり気になります。
あと、辻の和訳は本当にそんな風に訳しそうなので笑ってしまいましたw
拡大版の最終話楽しみにしています。
- 291 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:05
-
12.終着点
「好き・・・・。」
その目は、確かに俺の目をじっと捉えている。
俺はどうしていいのか分からず、口ごもってしまった。やばい、ドキドキしている。
でも・・・。俺が明らかに困った顔をしているのに気がついたのか、石川は笑った。
「・・・や〜だぁ〜冗談だよぉ〜。」
そこまで言うと、石川は再び全体重を俺に預けてきた。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・梨華ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・。」
「なんで泣いてるの?」
俺は湿った肩に気づいて呟いた。
「・・・・なんでも、ない、よ?」
途切れながら必死に声を出しているのが分かってしまった。
石川は少しして落ち着くと、千鳥足で押入れの中へと入っていった。
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:07
-
なんだったんだろう。
俺は頭を冷やすために玄関から外へ出て、手すりに腕を乗せてよっかかると、軽く溜息をついた。
そしてそこから見える月を、なんとなく見ていた。ベランダだとダメだ。
石川がいるかもしれない。それでなくても最近思わせぶりな態度をとってきた石川なだけに、
凄くドキドキして、同時に凄く焦った。
もしかしたら大西さんの存在が俺の頭を更に混乱させているのかもしれない。
「・・・あ〜もう!!」
自分の中に芽生えた感情を消し去るかのように、必死に頭を掻き毟る。
別に消す理由なんてないはずなのに。
ガチャッ。
石川の部屋のドアが開く音がした。
俺は慌てて部屋に戻ろうと、ドアに手をかけたが、間に合わなかった。
- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:08
-
「よっすぃー?」
出てきたのは石川ではなく吉澤だった。じゃあさっきの事も全部知っている?
俺が吉澤の顔を見ていると、吉澤は一瞬だけ表情を曇らせた後、笑顔で言った。
「何してんの?」
「ちょっと頭冷やしてるだけ。」
俺がそう言ってさっきの体勢に戻り、月を眺めていると、
「その格好かっけー。」
吉澤は俺の横で同じ体勢をとった。
「よっすぃーには負けるよ。」
俺は吉澤を見て軽く微笑んだ。するとその顔を見た吉澤の口から、
びっくりするような言葉が飛び出した。
「その笑顔、罪深いよ。皆言ってる。」
「はい?」
俺はえ?と思ってそのまま顔に出し、声に出した。
「そんな優しい顔で微笑んじゃって・・・。何も感じない女の子はいないよ。」
「・・・・そうなの?」
俺としてはなるべく相談しやすい環境作りのためにやっている、
ただの営業スマイルみたいなものなのだが・・・。どうやら成功しているらしいが。
「そうだよ。だから、責任取らないと、ダメだよ?」
吉澤が自分の部屋へ向け歩き出した時、俺は呼び止めた。
「ドッキリじゃないよね?!」
俺はドッキリであって欲しいのか、そうではなくて欲しいのか、
自分の気持ちに整理がつかなかったが、聞いた。
吉澤は振り返り、意味深な笑顔で言った。
「判断は任せる!」
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:08
-
- 295 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:09
-
翌日早朝。俺はチャイムによって浅い眠りから覚まされた。
あまりよく、寝れなかったため、俺はすぐに応対する事が出来た。
中澤だった。どうやら仕事があるからこんな時間に来たらしい。
「こんな事お前に言う事ちゃうかも分からへんけど・・・。」
「なんでも言ってよ。」
俺は吉澤の言う「罪深い」笑顔で微笑んだ。中澤は話し始めた。
「うち、お見合いさせられて。」
「はいっ?」
「せやから、お見合い。」
「誰が?」
「うちが。」
「なんで?」
「それを今から説明するんやないか!!!」
あ、そうなのか。中澤は気を取り直して話し始めた。
「あれは2ヶ月前やったかな・・・。おかんが突然家に来たんや。」
- 296 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:10
-
「あれ、おかんどないしたん?」
突然の来客に、中澤は驚きながらも出迎えた。
「裕子に見せたいものがあるんや。」
母はバックから長く薄っぺらい、本のようなものを取り出した。
「なんやそれ。」
「見てみい。」
中澤は渡されると、写真を開いた。
するとそこにはスーツを着たなかなかのイケメンが、緊張した表情で写っていた。
これってもしかして・・・。
「お見合いセッティングしたで。」
「はぁ!?」
中澤は大声を上げて叫んだ。意味が分からない!意味が分からない!
「裕子もええ年やし、最近苦しゅうなっとるし、そろそろ、ええんちゃうか?」
何がええのか、説明は不要だった。だから、その言葉はダイレクトに中澤の胸に突き刺さる。
「あ、相手くらい自分で探すわ!!!」
この広い芸能界、誰かが拾ってくれてもおかしくはないはず。
「そう言うだけ言って一体何年待たせるんや。全然気配ないやんけ。」
うっ。それを言われると痛かった。
- 297 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:11
-
「『会うだけや。』そう言われて結局うちはお見合いした。」
中澤は一息つくと、続けた。
「ええ人やった。うちの事も好きみたいやし、何もケチ付ける所が見当たらんかった。
会社を経営しているから年収もがっちりやし、性格もええし、顔もええ。」
俺は黙って話を聞いていた。
「気がついたら結婚を申し込まれてな、ああ、別にこの人でええんちゃうかな?
とその時は思ってOKした。もう結婚式の日取りも済んでるんやで?
事務所にはまだ言うてへんけど。」
なんか俺の知らないところで凄いことになってるな、口には出さなかったがそう思った。
「でも、やっぱなんか違うん。うちはあの人を、恋愛対象として見れてへん。
きっと、これからもずっと・・・。そう思いながらも今更断れん思うて過ごしてたら最近、
好きな人が出来てな?うち、どないしたらええかな?もうよう分からんのやわ。」
- 298 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:12
-
他人に流されない、自分の道をしっかり自分で決めて進んでゆく人。
俺は中澤裕子という人物をそう認識していたから、この告白は意外でならなかった。
しかし、逆に考えれば、中澤が初めて自分に本当に弱い一面を見せてくれた、ということなのだろう。
俺は暫く考えた末、言った。
「どっちがいいかとか、そういう回答を求めているのだとしたら、俺には決められない。」
中澤は少し驚いた顔をした。
「これは姐さんの人生において大事なターニングポイントに成りえる。
だから、これは姐さんが自分でゆっくり、よく考えて決めるべきだと思う。
俺の無責任な発言で姐さんの人生が決まって欲しくない。」
中澤は真剣な顔で俺を見ている。
「恋愛は結婚とは違うと考えるのか、それとも延長線上にあると思うのか、
俺はまだ判断できるほど、大人じゃないよ。
ただ一つ、俺が言える事としたら、自分に嘘をつかないで、後悔しないと思える道を選んで。」
俺が話を終えると、中澤は難しい顔をしたまま、しばらく何も言わずにどこか下の方を見ていた。
- 299 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:16
-
長い静寂の後、中澤の重い口がようやく開いた。
「せやな・・・。あんたに相談して正解やった。これからじっくり、考えさせてもらうわ。」
中澤は玄関の方へと歩き出した。俺は何も言わずにその背中を見た。
なんだろう、この感じ。中澤はドアに手をかけ、部屋を出る前に振り返った。
「ありがとな。」
バタンッ。
「はあ〜。」
朝からハードな相談だった。もっとこう、他愛もない相談こないかな?
というより、
「誰か俺の悩み聞いて〜・・・・。」
誰も聞いてくれるはずがないが。
一番話しやすい奴が悩みの種だし、矢口も週刊誌のことがある。
中澤も相談し返しずらいし、安倍は話してるうちに大西さんの話に摩り替わるだろう。
じゃあ・・・・後藤?いや、ダメだ。そんな悩みを聞いてくれるタイプではない・・・。
安倍のときはたまたま気分が乗っただけだろうし。
- 300 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:17
-
ブーン。
「噂をすれば?」
他愛もない相談を期待、もしくは相談を受けてくれる事を期待。
「もしもし。相談?」
高橋だった。
「うん。今仕事してて、石川さんの元気がないんやけど、どったらええかな?」
!!えっと・・・。それは俺が聞きたい。君の悩みは俺の悩み、俺の悩みは俺の悩み・・・?
「どんな風に、元気ないの?」
「足腰弱くて。」
!
「作り笑顔出来てなくて。」
!!
「声軽く枯れてて。」
!!!
「なんか目が腫れてて。」
!!!!
「あんたならなんかしっとるかな、と思ったんだけど、思い当たる節ない?」
ありますとも、ありえないくらいに・・・。でも言えたもんじゃないわな・・・。
- 301 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:18
-
ここで一瞬、俺の耳に悪魔が囁いた。逃げる方法を思いついてしまったのだ。
「いや、分からないけどよっすぃー昨日梨華ちゃんの部屋から出て行くの見たから、
何か知ってるかもよ。」
俺は携帯を口から思い切り離して言っていた。吉澤の言葉を思い出した。
「責任取らないと、ダメだよ?」
「え、今なんか言った?」
高橋に聞かれて俺は言った。
「いや、別に。とりあえず、今はそっとしておいてあげて。相談待つから。」
内心来ないで欲しい、と思いつつ。この回答が、今の俺には精一杯の答えだった。
「そっか・・・。だそうですよ石川さん。」
「えっ?!!!」
「嘘や。」
またやられた。電話越しで笑う顔が頭に浮かんだ。
「とりあえず知ってるみたいやけど、聞かないでおいた方がいいみたいやね?」
「・・・・はい。」
と、年下に遊ばれてる・・・。
- 302 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:19
-
「じゃあもう一ついい?」
「いいよ。」
もうなんでもこいや〜!
「いいって。」
高橋は誰かに言ったような声で言った。少しの間を置いて、高橋ではない声がした。
「どもども久しぶり。」
「!!・・・・ひ、久しぶり・・・。」
そ、その声はまさか・・・。
「あれ?元気ないな〜。あたしの相談なんか聞いてる場合じゃなさそう〜。」
間違いない、
「美貴ちゃん・・・今回は何の相談?」
精一杯親しく呼んで、”美貴ちゃん”。
俺の唯一管轄外の相談相手にして、一番苦手な娘・・・。
「えっとぉ。」
「あ、待って!この間みたいな事だったら、聞きたくない・・・。」
この間、とは・・。
- 303 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:20
-
俺が藤本の相談を聞いたのは、ひょんな事からだった。
それは俺がこのバイトを始めて間もない頃・・・。
「うん、ありがとうございます!」
ちょうど松浦との相談が終わった時、
ピンポ〜ン
「?誰だろう?」
松浦が入り口へと小走りで走ってゆく。
ガチャッ。
「あ、ミキたん♪」
お。新顔。確かここには住んでなかったな?
「あれ?あんた誰?」
あんたって・・・一応年上ですけど。まあわかんねぇか。
「この人が悩み相談の人。」
「あ〜、あれかぁ。じゃあたしも聞いてもらいたい事あるんだけど。」
俺の管轄はマンションだけだったが、一人でも多く知り合っておいておこうと思っていた俺は
あっさりOKした。
「じゃあちょっと、来て。」
藤本に連れられて部屋を出る。あれ、なんで?もしかして・・・変な期待をする。
屋上に着くと、藤本は言った。
「ストレスが溜まってて・・・。」
藤本は上着を脱いだ。え?マジで?いいの?
- 304 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:20
-
ピンポ〜ン
ガチャッ。
「お帰り〜。どうだった?ミキたん。」
「うん、すごく良かったよ〜♪」
俺はフラフラになりながら、松浦の部屋には戻らず、自分の部屋へと戻っていた。
するとそこで石川とばったり会った。
「あれ?!どうしたのっ?!顔血まみれだよ!!」
「ちょっと・・・・ね・・・・。」
俺は力尽きてその場で倒れた。
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:21
-
俺の拒否権がないのを上手く利用した、実に残忍な犯行だった。
松浦といい藤本といい、なんなんだこの恐ろしい戦闘能力は・・・。
二人の仲がいい理由が分かった気がした瞬間だった。
「流石にあれはもう大丈夫だよ〜。ストレスはたまってるけど。」
ビクッと俺の体は震えた。
「で、何?」
やっぱやだよこの人・・・。絶対ヤ○キーだったって・・・。
かなりびびりながらも一応仕事をする。
「辻加護がウザい。」
ダークな話題だー!!!!こういう話聞きたくねーー!!!!てか高橋止めろ〜!!!!
確かに辻に一度、相談を受けた事があった。『藤本さんに無視される』
そのときはあたりさわりのない事言って励ましたっけな・・・。ここは・・・、
「確かにガキくさいし、無駄にテンション高いし、
美貴ちゃんみたいな性格の娘にはウザいと感じられても仕方がないと思うけど、
向こうだって、仲良くしたくてやってるんだよ?」
「仲良くなんか出来な〜い。」
いや、そう言われましても・・・。
「でももう同じ娘。じゃないんだから、少しくらいは仲良くしてあげても、ね?」
これで決まらなかったらどうしよう。
- 306 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:22
-
「え〜、あのキャラ辞めたらいいけど。」
いや、あれ辞めたらもはや辻加護じゃない・・・。
「辛抱、演技、作り笑顔、得意技でしょ?ね?」
あ、やばい、結構暴言吐きまくった。電話越しから悪魔の笑顔が垣間見える。
「じゃあそれでストレス溜まったらまたよろしく♪」
ひ、いやーーーー!!!!俺にとってはホラー映画なんかより全然恐い、一言だった。
電話は高橋に戻る。
「ありがとね〜。」
そのまま電話は切れた。・・・・俺、心も体もボロボロになりそう・・・。
ブーン
「また?!」
すぐに電話に出る。
「もしもし矢口?」
「今から事務所まで来て。」
「え?なんで?」
「来れば分かるから。」
もしかして、週刊誌の件ですか?しかも事務所に呼び出し?え?もしかしてやばい?
とりあえず行くしかない。俺はマンションの車庫へと向かった。
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:22
-
事務所の駐車場を降り、室内に入る。そしてそのままつんくがいるはずの場所へと。
近づいてくると、なんだか凄い言い争いをしているようだ。めちゃめちゃ聞こえる。
「せやから付きおうとる事怒ってるちゃうねん!!」
「だから付き合ってないです!!」
「じゃあなんであんな遅い時間二人でいるんだよ!!!」
矢口、つんく、マネージャー。凄い激しい論争、1対2の状況。
矢口だから相手が出来るのだろう。
「あの〜、来ましたけど。」
矢口に助け舟を出した。俺の声を聞いた途端口論はぴたりと止み、
つんくさんはこっちを振り向いていった。
「来たか。で、どうなんや?」
うわ〜、かなり端折ってる〜。意味分かるから問題ないけど。
「あの時は依頼された仕事の近況報告です。飯食いに行ったのは友達としてですよ。」
「ね?」
矢口が二人を見た。
「ほんまみたいやな。」
「ですね。」
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:23
-
「助かったぁ〜。ごめんねいきなり呼び出して。」
「うん。」
矢口は体を思い切り伸ばすと、愚痴るように零した。
「にしてもおいらがいくら言っても信用しないのになんであんなにすぐ納得するんだよ〜!」
俺はとりあえずなだめる。
「でもあれって何?俺と付き合ってると思って怒ったの?」
「ううん。あんな夜中に撮られた事。あややの件もあったし。
つんくさんも別に付き合っても仕方がないと思ったうえでこの仕事やってもらってるみたいだから。」
「大西さんの事もあるし?」
俺は核心に迫る一言を放った。すると、
「そう・・・・え?」
矢口の表情が一変した。
「知ってたの?・・・大西さんが、悩み相談やってた事・・・。」
「うん、本人が教えてくれたよ。」
矢口はそれを聞くと、真剣な目つきになった。
「じゃあ言っちゃうけど、正社員じゃなくて、
バイトに相談室をやらせることにしたのは、そう言う理由なんだ。」
- 309 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:24
-
「そう言う理由?」
「大西さんとなっちが別れた後、なっちがかなりダメダメになっちゃった訳でしょ?
だってあの旅行だって別れて半年たってるのに、簡単にぶり返してあれだったんだよ?
それだけ親身になって相談を受けるような立場だから、別れちゃうと引きずるに違いない。
しかも事務所で顔を合わせる度に苦しまれたら困る。
ならバイトにあのポストをやらせれば、大西さんのような事態になったとき楽だ。クビにするだけだし。」
俺は一瞬、ゾクッと体が震えたような気がした。
「ってつんくさん考えたみたい。」
「・・・・・。」
言葉が見つからなかった。
俺がこのバイトにつくまでに、そんな色々な思い、考えが交差していたのか・・・。
俺黙っていると、矢口は言った。
「でもさっきうれしかったよ?」
「え?」
「『飯食いに行ったのは友達としてですよ』って。
おいらの事、仕事の対象としてじゃなくて、友達として見てくれてるんだなぁって思ったよ。」
俺はそれを聞くとニコッと笑った。
「当たり前じゃん。」
それを聞くと、矢口も微笑み返した。
- 310 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:25
-
家に帰ってくるともう昼になっていた。とりあえず俺は昼飯を作り始めた。
当然仕事中の石川の姿はそこに、ない。当たり前の事なのに、今日は凄い違和感を覚えた。
「・・・・・・まず。」
食べれたものじゃない。なんだこれ。
俺は調味料を確認すると、原因に気がついた。やばい、動揺している。
どうしても石川のことが頭から離れない。それ程昨日の石川の姿は衝撃的だったし、
吉澤や高橋、藤本、矢口の一言一言が合わさって複雑に交錯し、俺の心に影響を与えていた。
「(これ食べれねぇな・・・・。どうしよ・・・。)」
コンビニか?いや、ここはむしろ・・・。
「いてくれよ〜。」
俺は呟き、部屋を出た。
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:26
-
「上手い!」
「当たり前じゃん。」
後藤は誇らしげだ。今日後藤がオフなのは知っていたので、いるかどうかの問題だったが、
いてくれて助かった。
「でも料理ミスするなんて珍しいね。どうかしたの?」
後藤は俺に聞いた。
「・・・色々、あってね・・・。」
どうする?相談すべきなのか?後藤は俺が難しい顔をしているのを見て、言った。
「難しいことよく分からないけど、
悩み聞いてばっかりで自分の悩み吐き出すところないなら、聞くよ?」
俺は凄く胸を打たれた。こういう意外な優しさほど嬉しいものはない。
「ありがとう。」
俺はそれだけ言ったが結局話せなかった。後藤の気持ちはありがたい。
ありがたいけど・・・自分で解決したい気持ちもあった。
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:26
-
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:29
-
その後数日間、石川は俺の前には現れなかった。
会いに行こうと思ってみたりしたが、どうしてもチャイムが押せない。
結局この日もチャイムを押せず、部屋に戻ろうとしたら、声をかけられた。
「テスト出来た〜!!!」
ん?振り返ると、辻加護がセットでご登場。
「今日テストだったの?」
『うん!』
「どうだった?」
『出来た!』
「何点くらいだと思う?」
『50点!!』
俺はそれを聞くとこけそうになる。出来た!と言って50点・・・。
でも前と比べたら全然マシか。それが二人のレベルな訳だし。
まあ自信満々なのが逆に危なさを感じるが、テストの結果を楽しみに待つことにしよう。
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:30
-
そしてさらに数日後。
「やっぱ50点行ってたで〜!!!数学なんか61点や!!!」
加護が超ハイテンション。いいのか?それで・・・。
辻も似たような点数で大喜びしていた。二人が嬉しそうに部屋へと帰ってゆくと、
反対側から紺野が、沈んだ表情で歩いてきた。
同じ階に住んでいるから珍しい光景ではなかったが、その顔を見て俺は話しかけた。
「紺野どうしたの?浮かない顔して。」
「はい・・・・。テストが悪くて・・・。」
あ、同じテストか。
「どんくらい?」
「一番低いのが71・・・。」
紺野最低点>加護最高点・・・。そりゃそうなんだろうけどさ・・・。
- 315 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:30
-
「そういえば石川さん元気なかったんですけど、何かあったんですか?」
「え?!」
な、何?その聞き方。
「うん、ちょっと、な。」
俺は目線を逸らしてしまったことに気がつく。すぐに紺野の眼をよく見て、優しく微笑む。
「お互い、がんばろう。」
「はい!」
紺野も笑い返してくれた。こうやって見てみると本当に効いてるな、この顔。
責任・・・・か。やっぱり石川に会って、話をした方がいいのだろうか?
でも今の俺はそんなに強くなかった。人には背中押すアドバイスを言えるくせに、自分は動けない。
説得力ない男だな、俺って奴は。
「でもいつも相談受けてばっかりで疲れませんか?私でよかったらいつでも言ってください。」
あれ、もしかして皆そんな風に俺見てる?
「それ、ごっちんにも言われた。」
俺は笑った。紺野はそれを聞くと微笑み、
「じゃあ、私はこれで。」
さっきとは違った顔をして自分の部屋へと歩き出した。
俺も強くならないとな・・・。
そんなことを思いつつ部屋のドアに手をかけた。
- 316 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:31
-
- 317 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:32
-
次の日、俺は用事で事務所へ行った。
つんくさんへの定例報告というものがあり、3ヶ月に1回、事務所に来る事になっていた。
つまり今回が2回目。まあ簡単に言うと、誰が病んでいるか、
誰が精神状態がいいか等の話から今後の曲に反映させる、というもの。本当かは分からないけど。
「石川か。」
つんくさんは困ったような顔で呟いた。
「で、後藤はええみたいやな。」
「はい。彼女は料理の味で分かりやすく出ますからね。
昨日食べたけど、かなりいいみたいです。」
逆に体力がギリギリだとこの間みたいな事になるわけだが・・・。
「他は〜・・・。辻加護。テストがよかったと。」
「いやそんなによくはないですけど。」
俺が言うと二人で笑った。
「留年はかっこつかへんからな〜。」
「ですよねぇ〜。」
つんくさんは煙草を灰皿に押し付けると、聞いてきた。
「石川は、どんな風にあかん?」
「・・仕事でも結構ひどい状態みたいです。」
俺はなるべく平静を装って答えた。
「ん〜・・・。お前のせい・・・ちゃう?」
ビク!!俺は全身の毛が逆立ったような気がした。
「そんな、ことはないです、よ、ハハハ・・・。」
「そうか・・・。」
なんとか動揺しているのはバレなかったらしい。
- 318 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:33
-
俺は事務所を出た瞬間、誰かと衝突した。と思ったときには俺は宙に浮いていた。
ドン!!!
「うへ!!」
思い切り地面に叩きつけられる。そのままマウントポジションを取られた。
誰だ?顔を見てみると・・・。
「あれ?!すみません!つい条件反射で!!」
じょ・・・条件反射って・・・。そいつは思いきり俺に謝ってきた。
松浦だ。何処で覚えたんだそんな技。
「あ、そういえばさっき後藤さんが探してましたよ。」
「ごっちんが?電話してみるか、とその前に・・・。」
「はい?」
「降りてくんない?」
「あ。」
松浦は慌てて降りると、俺は携帯を取り出した。
「もしもし?俺を探してたって聞いたんだけど。」
後藤はすぐに反応した。
「うん。ちょっと渋谷まで来てくれない?」
「分かった。渋谷の何処?」
俺は場所を聞くと、電車の方が都合がいいと思い、駅へ向かって歩き出した。
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:34
-
指定された場所に着くと、そこには何故か安倍もいた。
なんか後藤がうんざりした表情なのが気になる。
「あれ?」
不思議に思っていると安倍はすぐに近づいてきた。
「ねーねー、どっちがいいと思う?」
安倍はかなり嬉しそうな表情で、2本のネクタイを目の前に出してきた。
「優の誕生日、どっちがいいかな〜?って思って。でも優ならどっちも似合うべ。」
大西さんか。ここで俺は呼ばれた意味を理解した。貧乏くじじゃん。
「ちょっとご」
言い切る前に既に後藤は抜け殻となっているのに気づいた。
「速!!」
「ねぇどっちがいいべか〜?」
安倍はしつこく聞いてくる。
「う〜ん・・・・・こっち!!」
あたかも真剣に考えたかのように答えると、安倍は満足そうな笑顔を見せた。
「じゃあ買ってくるから、これ持ってて!!」
俺は買い物袋を渡された。安倍は嬉しそうにレジへと歩いていった。
- 320 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:35
-
買い物を済ませ、とりあえずファストフードの店に寄った。
あまり長居するとまた撮られる、という俺の判断だった。
「この前は、ありがとうございました。」
安倍は俺にお礼を言ってくれた。
「ううん、あんななっち見てられなかったんだもん。
お節介かとは思ってたけど、気づいたら動いてた。」
よくもまあ無い事無い事言うなこの口。
「あ。」
安倍がつぶやいた。
「どうしたの?」
安倍の視線の先を覗いてみると、中澤と若い男が、店内に入ってきた。
「あの人、お見合いの?」
「うん。気になるべ。」
二人はなんと隣の席に座った。
この店は一席一席仕切られていて、硝子は霧がかっていたため、向こうは気がつかなかった。
俺達は二人とも近い側に座って耳をすました。
- 321 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:36
-
中澤は暫くすると話し始めた。
「あのな、うち色々考えたん。」
「何を?」
「田中さん、あんたはええ人や。でも・・・でもちゃうねん。
なんかうち、ここまで流されてきてもうたけど、あんたの事を愛す事は出来へん。」
「!!」
安倍が声を出しそうになったので俺は彼女の口を手で塞いだ。
「だから、この結婚の話、なかったことに、出来へんか?」
間。
俺達は硝子からぼんやりと見える二人をじっと見つめていた。
旗から見たら、かなり妖しい光景だったに違いない。
やがて田中さんと呼ばれた男は口を開いた。
「いつか、そう言うんじゃないかって思ってました。
確かに僕らの関係は、恋とはいえない。
中澤さんのように素敵な人なら、きっと僕よりいい人が見つかりますよ。」
田中さんの表情が眼に浮かんだ。
「(いい人〜)」
安倍は小さな声で呟いた。
- 322 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:37
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「そんで、好きな人がでけて、今から告白しに行こう思うてます。」
『え?!』
二人は同時声を上げ、お互いの手で口を塞ぎあった。
店内が騒がしかったため、なんとか気がつかれなかったようだ。
「そうですか・・・。頑張ってください。応援してますよ。」
二人はいつの間に食べ終わったのか席を立ち、店を出る準備を始めた。
そして二人が去った後、安倍の腕の強烈な握力を感じた。
「見に行くべ!裕ちゃんの告白!!」
俺は安倍に強引に引っ張られながら店を後にした。
中澤の後ろを尾行すると、中澤はモヤイ像の辺りで立ち止まった。
え?こんな場所で?勢いに身を任せちゃうのか?
俺達は声の聞き取れ、尚且つ気がつかれない絶妙なポジションを探し、
ギリギリまで近づいた。やがて中澤の前に一人の男が現れた。
「何ですか?話って。」
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:39
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見覚えのある顔だった。でも芸能人だっけ?スタッフ?あれ?まあいいか。
「(姐さんってああいうのが好みなの?)」俺は聞いた。
「(うん。好みはデビュー当時から変わってないべ。)」
安倍は笑いながら答えた。そんな話をしているうちに中澤は既に思いの丈をぶつけていた。
あとへ返事を待つだけ。
「いいですよ。」
その声が聞こえた途端俺達は顔を見合わせて笑った。中澤は彼に、
「せや、さっそく紹介したい友達がおるんやけど、出てきいやそこの二人。」
ビクッ!!俺達は身を震わすもまだ隠れていた。
「気づいとるっちゅうねん!」
俺達は仕方なくモヤイ像の裏から出てきた。
「あ・・・・あはは、どうも・・・。」
安倍は必死に作り笑顔。俺も慌てて笑顔を作る。
「姐さん・・・いつから気づいてた?」
「それは言えへんな。」
中澤はにやりと笑って見せた。
- 324 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:39
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- 325 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:40
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その日の夜、中澤は俺の部屋に訪れた。部屋に迎え入れ、飲み物を一杯出した。
「酒の方がいい?」
「いや、これでええよ。」
「今日は、どうしたの?」
俺が聞くと、中澤は笑って答えた。
「分かっとるくせに。」
中澤がそう言うと、二人で笑った。
「なっちはどのくらい広めた?」
「全員。全員うちの結婚話しっとったから驚いてたで〜。お前が背中押したとか込みで。」
「マジで?相談増えたりして。」
俺はまた笑った。一杯飲むと、中澤は言った。
「ホンマ、ありがとな?お前のお陰や。」
「いやそんなことはないよ。」
「あるがな。」
「俺は背中押しただけだから。自分の道へ足を踏み出したのは姐さん自身。」
「カッコええこと言うな〜ホンマに。」
「言えないとこんな仕事できません。」
俺がそう言うと、また二人で笑った。
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:41
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「じゃあうちそろそろ行くわ。洗濯物直してへんねん。」
中澤はそう笑うと玄関の方へと歩き出した。
ドアをあける音がした後、中澤の声が聞こえてきた。
「ん、どないしたんそんなしけた面して。」
?誰か来たって事か。誰だろ?
バタン!
入ってきたのは石川だった。『しけた面』中澤が形容した通りの顔だった。
いつもの明るい笑顔を微塵も感じさせない、切ない表情。
会ったのはこの間以来・・・。それだけで変に意識してしまうのに、わざわざ玄関から、
しかもあんな表情で入ってこられると・・・。
「珍しいね。わざわざ玄関から来て。」
俺は平常心を保とうと必死だ。
石川は何も言わずに、表情も変えずに俺に近づいていた。
俺は高まる胸の鼓動をごまかそうと、必死に言葉を探した。
「な、なんか悩みあるの?」
「うん。」
石川はようやく返事をした。石川はそのまま更に近づいてきて、俺の肩におでこを当て、
もたれかかってきた。
「胸が、痛いの・・・。」
心拍数がどんどん上がってゆく。やばい、ドキドキが止まらない。
俺は気を落ち着けるべく口を開いた。
- 327 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:42
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「酔ってないよ、ドッキリでもない。」
俺が声を出す前に、石川は俺の言おうとしていた事を予測し、道を塞いだ。
「今言わないと、ずっと言えないと思うし、今にも胸が張り裂けそうだから・・・・。」
俺は、俺の肩辺りが濡れ始めているのに気がつくと同時に、
鼓動が更にスピードアップしてゆくのを感じた。
石川は顔を上げると、俺の目を見た。
「あたしは・・・・・。」
そこまで言うと目から大粒の涙。俺にはこの涙の意味がよく分からなかった。
「あたしは・・・・・。」
仕切り直すも、石川はどうしてもその先が言えなかった。
俺はそんな石川をそっと抱き寄せた。もう、言いたい事は分かったから、いいよ。
「あ・・・うっ・・・ぅわぁ〜ん!」
石川は声を上げて泣き出した。俺は抱きしめる腕の力を強める。
- 328 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:43
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石川が泣き止むと、俺の胸がびしょ濡れなのを見て、申し訳なさそうな表情で顔を上げると、
この間の話から話してくれた。
「矢口さんとの記事、ショックだったの。矢口さん、意地悪するし・・・。」
『おいら達ラブラブです〜』の件か。
「それで、冗談だって聞いて、ほっとしたんだけど・・・。
もしかしたら早く言わないと、本当に誰かとああいうことに、
なるんじゃないかって。よっすぃーに相談したら、行け!って言われたんだけど、
あたし勇気がなくて・・・。
そしたらよっすぃーったら、『このジュース飲めば言える』って、
明らかにお酒なのに渡してきたんだよ?でもその気持ちが嬉しくて、
飲んだらなんとなく気持ちが伝えられる気がして。
行って、言えたし、キスまでしちゃったけど、あなたの反応見たら・・・。
答えが返って来るのが恐くなっちゃって、冗談、って言っちゃった。
そしたらなんか、あたし、だめだな・・・って。そう思った途端に、泣いちゃった・・・。」
- 329 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:44
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俺はただ静かに、石川の事を見つめていた。体はまだ抱きしめたまま。
「最低だよね?お酒のチカラ借りて、一方的に告るだけ告って、勝手に泣いて・・・。
このまま終わりかなって、思ってたら、中澤さんの話が耳に飛び込んできて。
・・・凄いなって思った。きちんと自分の気持ちに答えて。
だからあたしはそれに、背中を押してもらおうと思ったの。」
「背中を?」
「うん。だから、今しかない。
今このときを逃したら、きっともう言えないから・・・。」
石川はじっと俺の目を見つめると、その唇を開いた。
「あたしは・・・・・。」
再び目から涙が漏れる。
- 330 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:45
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「だめだあたし・・・泣き虫で、弱虫だ・・・。」
俺は石川をそんなに弱い娘だと思っていなかった。だからこの情景を半ば信じられずにいた。
自分へと想いを伝えようとしているその姿に何も言えない自分にも苛立ちを覚えた。
「ごめんね・・・・さっきから泣いてばっかりで・・・。
なんか、ネガティブな自分が帰ってきちゃったのかな・・・?」
俺は石川をぎゅっと抱きしめた。
「・・・?!」
「もういいよ・・・何も言わなくていい・・・。
もう、梨華ちゃんの気持ちは、俺に伝わってるよ?」
石川は俺の胸の中から顔を上げると、枯れそうな声で言った。
「だめ・・・これはあたしの、けじめだから・・・。言うって決めたの・・・。」
「じゃあ、背中押してあげる。」
「・・・え?」
俺は何も言わずに、顔を近づけた。
石川の目は少しおびえているようにも映ったが、俺は一気に唇を奪ってしまった。
「・・・・・・・・・・。」
暫くして唇を離すと、俺は一言だけ、言った。
「俺はいつまでも待つから。」
- 331 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:46
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石川は涙を流し、軽く頷くと、まだ温もりが残る唇から言葉を放った。
「あたしは・・・・・・・・あなたが・・・・好き・・・。」
「俺も・・・・梨華ちゃんの事が好き。」
俺がそう言うと、石川の目から再び雫が零れ落ちた。
「あれ?なんで伝えられて、あなたも好きって、言ってくれたのに・・・。
涙が止まらないよぉ・・・・。」
俺はそんな石川の姿を見てたまらなくなり、優しく微笑みかけた。
「止まるまで、ずっと抱きしめててあげる。」
「・・・・その笑顔、反則だよ・・・・。」
この笑顔の責任、ちゃんと取れたかな?
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:46
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「あのね、恐くて言えなかった理由、もう一つ、あったの。」
石川は泣き止むと、言った。
「何?」
「もし付き合って、そのうち別れたとしたら、あなた、クビになっちゃうから・・・。」
俺の事を考えて、言えなかったというのか?
「・・・別れるのって嫌いになったからだろ?付き合う前からそんなこと考えなくていいのに。」
「あなたなら、別れても好きかな・・・って。」
俺はドキッとした。物凄く恥ずかしい台詞を言ってくれた石川に、
俺もお返しを。
「俺がクビにならなくても済む方法、あるよ。」
「なぁに?」
「ずっと、一緒にいればいいんだよ。」
俺は照れくさくて少し笑った。
「・・・これ以上、泣かせないで。」
石川は微笑みながら、でも涙を浮かべながら俺の胸に顔を埋めた。
俺はそんな石川の髪を撫でた。
「付き合い始めはいつだって、永遠を信じるものだよ。だから、俺達も信じてみようよ。」
この世に「運命」なんてものが存在するなら、ね。
- 333 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:47
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「今日はタンポポか〜。」
石川はいつも通り、オフはうちで食事。辻も当然のようにパスタを口にしている。
悲しいかな、付き合い出しても俺たちの関係に変化は、ほとんど感じられなかった。
変わったと言えば、呼び名が梨華ちゃんから梨華になったくらいか。
それだけ二人はそばにいながら、お互いの気持ちを胸にしまい込んでいた、
もしくは気がつかなかったのかもしれない。だから、
「え?もう付き合ってると思いました!!」
なんて言う娘もいた。
辻が去った後、俺のどこが好きなのか、聞いてみた。
「う〜ん・・・。そう言われると困るなぁ。」
「困らないでよ!!」
あんな涙涙で告白されたのに、ないの?
「美味しい所?」
「え?」
「料理ね。」
「あ、なんだ。」
「何考えてたの。そっちはどうなのよぉ〜。」
「俺?う〜ん、好きに理由なんていらなくねぇ?」
「あ!ずる〜い!」
「いや、梨華だって答えになってないし。」
- 334 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:47
-
かくして俺はいつ爆発するか分からない爆弾を抱えた。
いつまでこの仕事を続けられるか分からない。
二人がいつまで一緒にいられるか分からない。
でもこの不思議なご近所さん達との物語は、まだ始まったばかりだ。
俺達が出会ったのが、運命だったら、の話だけど。
- 335 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 03:50
- これにておしまいです。
この話は元々羊で書いていたものなので、貼るのは2度目になるんですが、
初期の文章のため読んでいてすごく恥ずかしい気分になりましたorz
>>290 名無飼育さま
和訳のあたりはネタ的に本当に不安だったのでそう言って頂いてほっとしました。
最終回、こんなになりましたが、いかがだったでしょうか?
- 336 名前:TACCHI 投稿日:2005/03/28(月) 18:26
- お疲れ様です。すごくいい作品で最後までとても面白かったです。
希望なんですが、後日談を書いてほしいな〜と思います。
- 337 名前:◆oRiKA85E 投稿日:2005/03/29(火) 08:36
- 羊のときも読んでいたから、読むのは2回目だけど、やっぱいいですなぁ
俺も、後日談読んでみたいな(ぼそ
- 338 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/30(水) 02:05
- 更新おつかれさまでした。
このお話の軽妙なテンポが好きでした。
登場人物のみんな、いい人たちばかりで、読んでいてほっとしました。
いいお話をありがとうございました。
- 339 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:43
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
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