CALCIO CALCIO CALCIO!! 5
- 1 名前:ACM 投稿日:2004/09/09(木) 11:02
- 雪板、風板で連載している吉澤さん主役のサッカー小説です。
続きをまた風板で書かせていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
- 2 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:04
- 「ドンマイ、次は頼みますよ。」
柴田はナッカーノーの肩をポンと叩く。
「あ、うん。」
ナッカーノーは頷くしかなかった。
ポジションに戻る柴田の背中を見るナッカーノー。
ふとエミイラ、そしてサヤと視線があった。
そして3人とも頷きあう。
彼女は本物だ。
- 3 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:04
- 他のポルトの選手たちも歴戦のプロだ。
今の柴田のパスがどれだけ凄いか理解している。
と同時に彼女たちも柴田に対し、一目置くようになった。
「シバタ!!」
「アユミ!!」
後半30分を過ぎたぐらいからパスが柴田に集まるようになってきた。
それはポルトの選手たちが柴田を信頼しだした証拠だ。
そして柴田はその信頼に応える。
その左足のタクトで見事に崩れていたリズムを整えていく。
「うおっ!凄いパス!!」
選手たちは柴田のパスに驚かざるを得ない。
自分のスピード、体勢、利き足、得意な形、
さらには次に有利な展開に持ち込める事まで考えて出されたパスだからだ。
- 4 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:04
- 「来いシバタ!!」
「出してアユミ!!」
ポルトの選手たちが活き活きしだした。
みな柴田のパスを受けたくて仕方がないのだ。
「何か、いい感じだよな。」
「ああ、凄くリズムがいい。」
「何か俺たちも楽しくなってきたな。」
サポーターたちもこのリズムに酔いしれる。
- 5 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:05
- 「アユミ!!」
リオ・アベFWのドリブルを見事に止めたオオコーチが一気に柴田にロングパス。
柴田はこのパスを後ろからチャージを受けながらもダイレクトで落とす。
落とされたパスはボランチのサヤへ。
見事なワンタッチコントロール。
「エミイラ!!」
サヤはこれをダイレクトの右足アウトで右サイドのスペースへ。
彼女も柴田のリズムに乗っていた。
見事なアウトサイドキックを惜しげもなく披露する。
そしてその先には何の迷いもなくエミイラが走りこんでいた。
- 6 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:05
- ウオオオオオオオオ!!!!!!
スタジアムがこの高速パス回しに大きく揺れる。
素晴らしいスピードでこのパスに追いついたエミイラは
さらにダイレクトで中に折り返す。
「来たっ!!」
このニアサイドへのクロスに飛び込んだのはナッカーノー。
快足を飛ばしてボールに触る。
が、これは惜しくもポストに直撃。
得点はならなかった。
- 7 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:06
- ウワアアアアアア!!!!!!
得点はならなかったものの、
今の流れるような攻撃にサポーターたちが大いに沸き、拍手を送る。
シーズン前半戦の無敵のポルトでもこんな流れるような攻撃は出来なかった。
「あいつだ。あいつがこれを指揮してる。」
「ああ、間違いない。」
サポーターたちも理解している。
この攻撃を指揮しているのは間違いなく彼女、
“マエストロ”アユミ・シバタということに。
「それにしても・・・・・こんな短期間で?」
サヤは柴田に驚きを隠せない。
柴田がFCポルトに来てまだわずかしか経っていない。
それにも関わらず味方全員の特徴を完璧に把握し、
またそこへ絶妙なパスを送っている。
「アユの言ったとおりだ。この人、凄い。」
サヤがオザワーニャの車の中で言った事は間違いではなかった。
この瞬間、柴田あゆみはFCポルトのエースに君臨した。
- 8 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:06
- 「ぐっ・・・・・・認めないわよ。」
オザワーニャがギリリと歯を噛み締める。
彼女にとって日本人は敵なのだ。
それは私生活で色々とあったことが原因なのだが、
まあそれには触れないでおこう。
ともかく、まだオザワーニャは柴田を受け容れていなかった。
- 9 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:06
- 柴田のタクトによりポルトはリズムを取り戻した。
いや、それどころか今までよりもいいリズムになった。
だがここまでリオ・アベは首位ポルトを無失点に抑えていただけあって、
彼女たちもリズムに乗っていた。
FCポルトの怒涛の攻撃を全員で跳ね返す。
しかもそれだけではない。
彼女たちは虎視眈々と勝利を狙っていたのだ。
- 10 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:07
- 「マジュ。」
相手DFがクリアしたボールをオオコーチが拾う。
オオコーチはボールをボランチのオザワーニャに預ける。
その瞬間両サイドバックが開き、二次攻撃へと向かう。
これを見た柴田は前線からボランチの位置に下がる。
それに連動して今度はサヤがトップ下へと上がる。
このポジションチェンジにリオ・アベの選手たちは一瞬混乱する。
「マジュ!!アユミに!!」
サヤが指示を送る。
リオ・アベの選手は上がってきた自分にマークについた。
その分アユミがフリーになっている。
- 11 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:07
- 「くっ・・・・」
が、一瞬オザワーニャは柴田にパスを出すのをためらった。
しかしその一瞬のためらいが勝敗を分けるのがサッカーだ。
「あっ?!!」
オザワーニャの死角からリオ・アベのFWが飛び込んできた。
このいきなりのチェックにはさすがのオザワーニャもどうしようもなかった。
あっさりとボールを奪われた。
「なっ?!!」
まさかオザワーニャがこんな所でボールを奪われるとは思っていなかったポルト。
焦ったポルトセンターバックが前へ詰める。
- 12 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:07
- 「バカッ!!!行くな!!!」
ここはボールを奪うのではなく、時間を稼ぐのが鉄則。
オオコーチが叫ぶが遅かった。
ポルトセンターバックが上がって出来たスペースへスルーパスが通る。
そこへリオ・アベのもう1人のFWがタイミングよく飛び出した。
当然オフサイドではない。
「くっ!!!」
慌ててオオコーチが追う。
当然オザワーニャも般若の如き形相で追う。
だが勢いは完全にリオ・アベのFW。
右から中へとスピード豊かに切れ込んでくる。
そしてペナルティエリア内に差し掛かる。
その瞬間ポルトGKはコースを狭めるため飛び出した。
- 13 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:08
- が、このFWはシュートを撃たなかった。
撃たずにゴール中央へと流す。
そこへ走り込んでいるのはスルーパスを出したFWだった。
やられた!!!
誰もが思った。
ウワアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
が、次の瞬間、スタジアムが大歓声で揺れた。
- 14 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:08
- 「アユミ!!!!」
「シバタ!!!!」
ポルトの選手たちが一斉に柴田に抱き付く。
全速力で戻った柴田がリオ・アベFWがゴールに押し込む瞬間、
スライディングで止めたのだった。
ボールは大きくタッチラインを割っていった。
ピピピピ!!!
ここで主審が試合を止める。
柴田のスライディングに潰されたリオ・アベのFWが足を痛めたのだ。
しかしこれは柴田のファウルではない。
きちんとボールだけにいった見事なスライディングだった。
- 15 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:09
- 「マジュ!!何で躊躇したの!!!」
オオコーチが珍しくオザワーニャに突っかかる。
オザワーニャはブスッと不貞腐れたままだ。
「あんた、まだあの事気にしてるの?!」
この言葉にオザワーニャはカチンときた。
「ナナ、その事を言うとあんたでも許さないよ!!」
「ちょちょ、やめてよ2人とも!!」
一触即発になる2人。
慌ててサヤが止めに入る。
「・・・サヤ。」
「アユミ。」
柴田がサヤの肩をポンと叩き、下がらせた。
そして自分はオザワーニャの前に立つ。
「くっ・・・・」
オザワーニャはさすがに後ろめたさがあるせいか、
柴田から目を逸らす。
柴田はニッと笑ってオザワーニャの肩に手を置き、
こう言った。
- 16 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:09
-
「役に立たない奴はただの豚よ。」
- 17 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:09
- ・・・・・みな口を開けて唖然としていた。
その場は間違いなく凍りついた。
「えへへ。一度言ってみたかったんだ。」
柴田はペロッと舌を出してはにかむ。
それはまさに天使の笑顔だった。
その笑顔が今度はその場を温かくする。
- 18 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:10
- 「何とまあ・・・・」
オオコーチも苦笑いを浮かべる。
あのオザワーニャをやり込めるなんて。
「マジュの負けだね。」
サヤも続く。
「そうです。マジュさんのミスをカバーしてくれたんだから
ちゃんと借りは返さないと。」
「そうですよ。そうじゃないとマジュさんじゃないですよ。」
ナッカーノーにエミイラだ。
「ぐっ・・・・」
言われたオザワーニャは何も言い返せない。
全くもってその通りだからだ。
- 19 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:10
- とその時、痛んでいた選手が起き上がった。
それを見て主審が試合を再開させようとする。
「さ、ここしっかり守ろう!!」
「おう!!!」
新エースの声に応える選手たち。
ついに“マエストロ”は全ての選手をその指揮下においた。
ここからが本番。
最高の演奏をみなさんにお聞かせしましょう。
- 20 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:11
- リオ・アベのスローインから試合が開始された。
が、これをすぐにポルトDF陣がカットした。
「アユミ!!」
すぐさまエミイラが柴田にパスを送る。
「うわっ?!」
が、トラップした瞬間後ろからの激しいチャージに柴田は倒された。
当然ファウルがとられる。
それどころかイエローカードまで飛び出した。
リオ・アベも気付いたようだ。
アユミ・シバタを抑えることが自分たちの勝利につながることを。
- 21 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:11
- これを見たオザワーニャ、サヤに指示を出す。
「・・・サヤ、ここはあたし一人で大丈夫。
あんたもトップ下にポジションを上げなさい。」
「マジュ、まだ言うの?」
サヤが非難の声を上げる。
「・・・違うわよ。ここはあたしに任せてあんたはシバタを助けろって言ってんの。」
「?!・・・・マジュ・・・・」
「いい?絶対に点とってきなさいよ。」
「オッケー。」
サヤはグッと親指を立てるとポジションを前に上げていった。
この結果、柴田とサヤの2人がトップ下の4−1−4−1へ。
そしてこの2人が抜群のコンビネーションを見せる。
- 22 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:11
- 「サヤ!!」
「アユミ!!」
2人が中盤で細かいショートパスをつなぐ。
そしてタイミングを見計らってサイドハーフ、サイドバックを走らせる。
かと思いきや中央を2人で突破する事もある。
ここまでポルト攻撃陣を抑えていたリオ・アベディフェンス陣も、
この2人を同時に止める事は出来なかった。
そして後半40分。
ついに彼女の左足からこのパスが出た。
- 23 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:12
- サヤが中盤でボールをキープする。
その抜群のテクニックで1人、2人とかわす。
そのサヤへマークが集中した瞬間、サヤは柴田へパスを渡した。
パスをトラップした柴田。
その瞬間、“白い道”が見えた。
- 24 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:13
- 「ここだっ!!!」
柴田の左足が一閃する。
「あっ?!!」
その時、柴田より後ろにいた選手たちはみな叫んだ。
それは柴田の背中に白い翼が見えたからだった。
柴田の左足から放たれたパスはリオ・アベDF陣の間を抜けていく。
届きそうで届かない絶妙のコース。
そしてこれに飛び込むミナコ・ナッカーノーの全てに合わせた最高のコース、スピード、タイミング。
これが柴田あゆみの“天使のパス”だ。
ナッカーノーはただ触るだけでよかった。
ボールは優しくゴールネットに包み込まれた。
後半40分。
ついにFCポルト先制。
- 25 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:13
- ウワアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
5万人が総立ちし、一斉に声を上げる。
何というパスだろうか?
誰もが興奮し、声を上げずにはいられない。
みな一瞬でこの“マエストロ”の、“天使”の魅力の虜となった。
- 26 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:14
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
先制点から5分後、試合終了の笛が響き渡った。
「よしっ!!!」
その笛を聞いた瞬間、思わず柴田はガッツポーズ。
ここまで正直苦しかった。
イタリアで失敗し、もう後がなかった。
もうこれがラストチャンスと思い、臨んだこのデビュー戦。
最高の結果を残す事が出来た。
- 27 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:14
- 『・・・・・リーエ。あたし、何とかこのチームでやっていけそうだよ。』
遠く日本にいる“姉”に語りかける。
「アユミ!!!」
「シバタ!!!」
『この最高のチームメートとともにね。』
柴田は駆け寄ってくるみなと抱き合った。
- 28 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:15
-
この日、天使は見事に復活し、大空へ羽ばたいた。
- 29 名前:第16話 復活の天使 投稿日:2004/09/09(木) 11:15
-
第16話 復活の天使 (終)
- 30 名前:ACM 投稿日:2004/09/09(木) 11:21
- 第16話 復活の天使 終了いたしました。
ようやく『復活の天使』をお届けする事が出来ました。
でも、もう1話区切れるほどに長い話になってしまいました。
そしてとうとう5枚目のスレとなりました。
はっきりいって長すぎますね。まだ続くんかいと思われる方も多いでしょう。
すみません、もうちょっと続けさせてください。
ここまで書けたのも温かく見守ってくださった皆様、並びに管理人様のおかげです。
ありがとうございます。まだもう少しご厄介になります。
- 31 名前:ACM 投稿日:2004/09/09(木) 11:22
- 次回予告
第17話 電撃移籍
ここに戻るのは1年後。今よりもっと大きくなって帰ってこよう。
そう誓って彼女は愛するチームから旅立った。
そんな彼女に突然の知らせが。
仲間たちの多くが海を渡り狭い日本を飛び出して行った。
自分も行きたかったがチームの事を考え諦めた。
が、突然あのビッグクラブからオファーが舞い降りた。
サッカー界はある日突然全てが変わる。
次回もよろしくお願いいたします。
- 32 名前:ACM 投稿日:2004/09/09(木) 11:22
- スレ隠し
高橋 愛
“日本の次代のエース”
得意プレー:ポジショニング
ポジション:FW SF SMF
所属クラブ:ジュビロ磐田 → ASモナコ(フランス)※保有権はレアル・マドリード
・プレーの特徴
スピード、テクニックで勝負するタイプのFW。
そのためセカンドストライカー、サイドアタッカーとしても機能する。
ポジショニングセンスに優れ、ゴール前はもちろんのこと、中盤でも上手くバランスをとれる。また安倍と同じように大舞台に強い。
課題はフィジカル。
まだ線が細いため欧州の屈強なDF相手では分が悪い。
・作者のイメージ
ノルウェー代表、スールシャールですかね。
ファーストトップもセカンドトップもサイドアタッカーもこなせる選手。
何よりも頭が良く、ポジショニングが上手いところです。
・本編での存在
日本の次代のエースとして頑張ってくれてます。
U−20世代(5期、6期メンバー)はワールドユースを取り上げた分、
オリメン世代よりも輝いているような気がします。
- 33 名前:ACM 投稿日:2004/09/09(木) 11:23
- 紺野あさ美
“パーフェクトDF”
得意プレー:ラインコントロール カバーリング
ポジション:CB SW LIB
所属クラブ:コンサドーレ札幌 → ASローマ(イタリア)
・プレーの特徴
その頭の良さで冷静にDFラインを統率する。
身体能力も危険察知能力もあり、頭と身体、そして勘で守れるDF。
また機を見てのオーバーラップも素晴らしく、リベロとしての攻撃力も充分ある。
課題は精神面。
完璧主義のため、自分が思ったとおりの結果にならないとすぐカッとなる。
審判がジャッジミスをした場合によく切れる。
・作者のイメージ
ガンバの宮本恒靖ですね。知的なDFということで。
ミリ単位のラインコントロール、そしてカバーリングは絶品です。
さらにはオーバーラップも非凡なものがありますよね。
・本編での存在
何気にA代表、U−23代表、U−20代表とフル活動です。
全ての世代でDFリーダーを務めてるので書く機会が多いですね。
そしてよく審判に文句言ってます。
- 34 名前:ACM 投稿日:2004/09/09(木) 11:24
- あ、U−20世代はもちろん4期もキッズさんたちもです。
では本日はこれで失礼いたします。
- 35 名前:川’−’) 投稿日:川’−’)
- 川’−’)
- 36 名前:ピクシー 投稿日:2004/09/09(木) 13:13
- ↑あわわ、ついうっかりHPのBBSのHNで・・・削除依頼出しときました。
すいません。
改めて・・・
更新お疲れ様です。
新スレもおめでとうございます。
柴田は着実に復活の道を歩んでいるようで・・・
こうなると、日本にいる田中らの動きも気になりますね。
紺野は宮本ですか、時折ある危なっかしいプレイだけはマネして欲しくない所(苦笑)
バレージとまでは行きませんかね、小柄&リベロってことで(苦笑)
高橋のスールシャールもなんとなくわかりますね。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 37 名前:B.C 投稿日:2004/09/09(木) 17:55
- 更新お疲れさまです。
あと、新スレおめでとうございます。
柴田さんが順調気味に復活なされてうれしく思います。
吉澤さんはどうやって戻ってくるか、楽しみにしてます。
国内では、コンサからかなり移籍したので、どうなるか地元民としては気になってます。
これからも、頑張ってください。
- 38 名前:みっくす 投稿日:2004/09/10(金) 03:46
- 更新おつかれさまです。
5枚目おめでとうございます。
天使はこうでなくちゃね。
祝!完全復活。
今の現状を考えると10番は天使になるのでしょうかね。
次回も楽しみにしてます。
- 39 名前:名無し読者 投稿日:2004/09/10(金) 14:08
- あれ、これって吉澤主人公だっけ?w
- 40 名前:ACM 投稿日:2004/09/25(土) 21:25
- 36>ピクシー様
レスありがとうございます!!
柴田さん、復活です。どうも作者は一度落としてそして上げるのが好きなようです。
日本にいる田中さんたちは今はシーズンオフです。
またシーズンが始まればJリーグやワールドユース、日本代表で活躍してもらう予定です。
37>B.C様
レスありがとうございます!!
柴田さん復活です。そして吉澤さんどん底です。
吉澤さんが果たしてどうやって戻ってくるのか。作者も気になる所です。
メンバーが入れ替わった新しいコンサドーレにもご期待下さい。
38>みっくす様
レスありがとうございます!!
柴田さん、見事に完全復活をしてくれました。
確かに現状では10番は天使ですね。
が、まだまだ何が起こるか分かりません。国内にも10番候補がいますしね。
39>名無し読者様
レスありがとうございます!!
そして見事なキラーパスですね。痛いところをズバッと突かれました。
しかもこれから先、また一段と吉澤さんの影が薄くなってしまうんです。
どうか、哀れな主人公をお見捨てなく。
- 41 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:26
- 「?!・・・・・・よっすぃー・・・・」
柴田あゆみはその記事を見た瞬間絶句した。
前日、新天地のポルトガルで見事なデビュー戦を飾った柴田。
気分良く新聞を見ると、そこに飛び込んできたのはライバルの失態であった。
事もあろうに試合中、相手選手に頭突きを食らわせたのだ。
柴田はすぐに携帯を取り出す。
が、途中で思いとどまった。
果たして一体何を言えばいいのだろうか?
きっとよっすぃーは落ち込んでる。
そんな時に自分が電話をかければさらに落ち込ませる事になる。
よっすぃーは自分にだけは弱味を見せたくないと思っているはずだからだ。
- 42 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:27
- 柴田はライバルのことを思って、携帯をしまった。
そして外出する支度をする。
今日はFCポルトのチームメートたちがポルトの街を案内してくれるのだ。
「・・・・・よっすぃー、あたしは信じてるからね。」
そう柴田は呟き、チームメートとの待ち合わせの場所へと向かった。
- 43 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:27
- そのころ、イタリアのミラノでは。
「・・・・・・うーむ、正直日本人選手がここまでとはな。」
ローマVSミランの試合のビデオを観ながらこう呟いたのは、
ACミラン会長、シロイ・キョトウスコーニであった。
名門ACミランの会長であり、そしてなおかつ現在イタリアの首相でもある彼は
公務の忙しさに負けず、毎回自チームの試合をチェックしている。
しかも前節は首位決戦で、見事にミランが勝利した。
見ないわけにはいかないだろう。
彼は強引にスケジュールを調整した。
どれだけ忙しかろうが試合を観る時間を強引に創るところは、
やはりビッグクラブのオーナーたるゆえんだろう。
- 44 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:29
- そんな彼がこの試合で一番目を引いたのは相手選手。
この試合が欧州デビューとなった日本人、紺野あさ美であった。
あのミラン攻撃陣をあそこまで抑え込むとは。
彼も驚きを隠せなかった。
もちろん彼自身、日本人選手の力は認めている。
ユヴェントスには福田明日香がいる。
彼女には何度も煮え湯を飲まされている。
インテルには吉澤ひとみがいる。
昨シーズン、エンポリにいたこの吉澤ひとみにミランは沈められた。
スペインでは王者レアルのエースは後藤真希であるし、
イングランドでも市井紗耶香が“フリーロール”として大活躍をしている。
彼女たちはこの欧州で主役を張れる人物だ。
- 45 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:30
- が、彼女たちに共通するのはみなMFより前のポジションということだ。
福田はともかく、ほとんどが攻撃で力を発揮する選手ばかりだ。
それが欧州の日本人の評価だった。
つまり攻撃陣はいい選手がいる、計算できるが、
守備陣はまだ未知数だと。
これはある意味仕方がない。
攻撃は連係が取れなくてもある程度は個人の才能でいける。
だが、守備はそうはいかない。
DF陣が連係をとり、そしてコンビネーションで相手を押さえ込まねばならない。
そのためには言葉が必要になるし、
さらには欧州の屈強な相手に対応するためにフィジカルも必要だろう。
その面では日本人選手はやはり分が悪い。
キョトウスコーニもそう思っていたが、
そんな思いを吹き飛ばすかのような紺野あさ美の活躍であった。
- 46 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:30
- 「・・・・・よし。」
彼は決断した。
ミランに1人の日本人選手を加える事を。
彼女を加えれば唯一の穴であった左サイドがなくなり、
最強ミラン、“グランデミラン”は完成する。
彼はすぐにスカウトに指示を出し、日本へと向かわせた。
行き先は日本の首都、東京。
- 47 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:32
- その日、けたたましい電話の音で彼女は目を覚ました。
「・・・・・はい。」
不機嫌な声を丸出しで電話に出る。
寝起きのため、その声は不満が満ちており、一瞬電話の先で息を飲むのが聞こえた。
あ、と思い、すぐに声を整える。
「もしもし、すみません、何でしょうか?」
この柔らかい口調に電話の向こうの人物は落ち着きを取り戻す。
「今すぐクラブハウスに来てくれ。いいな、今すぐだぞ。頼むよ。」
「え?何でですか?」
「お前に欧州からオファーが来たんだ。」
「えっ?!!・・・・どこからですか?
移籍のオファーは全て断って下さいって言ったでしょう?」
少しキレ気味に彼女が言う。
彼女はチームのため、海外移籍は封印していたのだ。
もうその意思ははっきりとチームに伝えてある。
だからいちいち自分に連絡しなくてもチームとして断ってくれれば済むものなのに。
それなのにわざわざ自分に伝えてくるとは。
「もちろんチームとして最初に断った。
が、相手がどうしても納得してくれないんだ。」
「・・・・・どこですか、そのチームは?」
なんて礼儀知らずなクラブだ?
そう思い、彼女は尋ねた。
「・・・・・・ACミランだ。」
「えええっ?!!!!」
彼女は驚き、絶叫した。
- 48 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:32
- この電話から1週間後、彼女の姿はイタリアミラノにあった。
「おお!!来たぞ!!!」
ミラノ空港に降り立つと一斉にフラッシュが焚かれた。
「凄い数・・・・」
さすがに彼女もこの人数に驚きを隠せなかった。
それも無理はない。
今欧州で乗りに乗っている日本人選手であり、
あのミランが獲得をした選手なのだから。
「あ、いらっしゃいましたね。ようこそです。」
「歓迎するよ。」
その後、クラブ関係者と共に記者会見を行うためミランのクラブハウスへと向かった。
そしてそこで彼女を出迎えたのは、前日レッジーナ戦を戦い(3−1で勝利)、
今日は完全休養日であるはずのミランのバンディエラ(旗頭)タマオ・ナカムラーニと、
世界最高DF、マキコサンドロ・エスミであった。
この2人と、会長とともに彼女、石黒彩は会見を行った。
- 49 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:33
- ―――――この伝統のロッソ・ネロのユニフォームに袖を通す事をどう思うか。
「サッカー選手にとって最高の喜びです。
幾多の名選手が袖を通したユニフォームを着られたのですから。」
―――――聞いたところによると、あなたは海外に移籍するつもりは全くなかったと聞きました。
が、何故ミラン移籍の決断をしたのでしょうか?
「私が移籍を望まなかったのは、自分をここまで育ててくれた東京ヴェルディでリーグ優勝を成し遂げたいと思っていたからです。
昨シーズンでその手応えを感じていました。それで今シーズンこそリーグ制覇できると思っていたからです。
しかし、ミラン会長の熱い言葉と、ヴェルディのチームメートたちが大きな舞台で頑張れという言葉で決断しました。」
――――――あなたのポジションはセンターバックです。ここには同席されているお2人、
ナカムラーニ選手とエスミ選手という強力な2人がいますが、ポジションを奪えると思っていますか?
「そうですね。もちろんこの2人は世界でも最高のDFですが、
私もただ遊びに来たわけではありません。
試合に出て、ミランの勝利に貢献したいと思います。」
石黒は自信満々で答える。
- 50 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:34
- 「ふふふふふ、その点は心配無用だ。」
と、ここでキョトウスコーニ会長が口を挟んだ。
そして彼はこう予告した。
「次の試合のミランのDF陣はこうだ。
右からユーミン、エスミ、イシグロ、そしてナカムラーニだ。」
- 51 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:35
- ウオオオオオオオオオオオオオ?!!!!
この発言に記者会見の席は大きくどよめいた。
石黒も通訳を通してこれを聞き、驚いている。
エスミとナカムラーニは平然としている事から、
どうやら事前に聞かされていたようだ。
――――――そ、それは本当ですか?
「無論だ。この布陣に何の文句があるのかね?」
キョトウスコーニが胸を張って言う。
――――――い、いえ、まさに最高のDF陣ですけど、その左サイドに入るナカムラーニ選手は
ここ最近はセンターバックに固定されています。それにサイドバックのオーバーラップも年齢的に辛いのでは・・・・・
この記者の問いにキョトウスコーニ会長はニヤリと笑う。
「ふふふ。君たち、彼女は誰だ?我がミランが、いやイタリアが世界に誇る鉄人、
タマオ・ナカムラーニだぞ?彼女に衰えという言葉は存在しない。」
- 52 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:35
- 「何ですの会長さん。人をバケモノみたいに。」
鉄人がグフ、グフと笑う。
が、この年で今だ世界最高。
バケモノ以外なにものでもない。
「これでグランデミランは完成だ。」
最後、キョトウスコーニ会長のこの言葉で会見は終わった。
- 53 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:36
- そして週末。
石黒彩が加入したミランはアウェーでブレシアと対戦した。
この試合はアウェーながらもミラノから多くのミラニスタが駆けつけた。
みな、新たに加入した日本人選手に注目していた。
このDFが果たしてミランに相応しいのかどうかを。
この試合のDFラインは記者会見で会長が言った通りだった。
ユーミンが右サイドバック。
センターにはエスミと石黒。
そして左サイドバックにナカムラーニ。
まさに鉄壁といえるDF陣。
もちろん攻撃陣にはタレントがおり、ミランの勝利は揺ぎ無いものと思われた。
- 54 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:36
- だが、ブレシアには彼女がいた。
“イタリアの至宝”ヤマグチ・トモコオが。
- 55 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:37
- 「アヤ!!」
「くっ!!」
石黒が振り切られる。
振り切ったのはもちろんこの人、ヤマグチ・トモコオ。
鮮やかなテクニックで石黒をかわし、左足でゴールを狙う。
が、そこへカバーに入ったエスミが身体を張る。
ボールはゴールラインを割っていった。
現在後半25分。
ここまで両チーム無得点という展開。
- 56 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:38
- ブレシアはホームながらも9人がゴール前を固めるという戦術に出た。
これではさすがのミラン攻撃陣も攻め倦む。
ミランの攻撃を防いだ後は前線にロングボールを蹴り、
2トップに全てを任せるブレシア。
ただの2トップならばミランの鉄壁のDF陣が破られる心配はない。
しかし、このうちの1人がイタリアの至宝だったことがミランにとって厄介だった。
しかも今日のヤマグチは絶好調だった。
試合開始当初は、ヤマグチにいいようにやられる石黒に
ミラニスタはブーイングを飛ばしていたが、次第にその声もなくなっている。
それはあまりにヤマグチの動きが素晴らしいからだ。
「さすが・・・・イタリアの至宝・・・・・」
石黒も真っ青な顔で呟く。
あの天才コヤナギーニョよりも厄介な相手。
それが“ファンタジスタ”ヤマグチ・トモコオ。
ここまでで押しているのは間違いなくブレシアだった。
- 57 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:39
- ブレシアの左サイドのコーナーキック。
ボールをセットするのはもちろんヤマグチ。
しかしブレシアはゴール前に3人いるだけ。
それ以外は自陣に張り付いている。
ヤマグチは助走をとり、右足を振り抜いた。
その瞬間一斉にブレシアの選手はニアサイドに飛び込む。
しかしヤマグチの蹴ったボールはファーサイドの誰もいないところ。
ミスキックか?
「?!!」
いや、違った。
ボールが急激に曲がる。
ボールはファーサイド、ゴールポスト付近の絶妙なコースへ。
ヤマグチは直接ゴールを狙った。
「くっ!!!」
身体能力に優れたブラジル代表GK、ウーアが懸命に飛びつく。
が、ボールには触れない。
- 58 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:39
- 「なっ?!」
決まったとガッツポーズをしかけたヤマグチ。
が、ボールが弾かれたのを見て思わず声が出る。
ゴールに吸い込まれる直前、懸命に頭を出した石黒がこれをクリアしたのだ。
「ナイスイシグロ!!!」
「アヤ!!!」
ミランの選手たちが石黒の頭を叩く。
ミラニスタたちもこのプレーには当然声援を送っている。
あの瞬間、グッと石黒の身体が伸びた。
この身体能力に高さは石黒の武器だ。
「あの高さは凄いね。」
ヤマグチも素直に脱帽だった。
- 59 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:40
- その後もブレシアが優勢に試合を進める。
ヤマグチがボールを持つ。
これに石黒、エスミ、さらにはナカムラーニも中に絞って当たるが、
今日のヤマグチはそう簡単には止まらない。
この屈強のセンターバック3人相手に一歩も引けをとらない。
いや、それどころか1人で3人を手玉にとっている。
まさにWイタリアの至宝”の名に相応しいプレーであった。
しかし後半37分、状況は一変する。
- 60 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:40
- 「ヤマグチ!!」
ブレシアの選手たちが叫ぶ。
その視線の先には左膝を抑えてうずくまるヤマグチの姿が。
「くっ・・・・・またこの左膝か・・・・・」
ヤマグチが苦痛に顔をゆがめながら呟く。
長年付き合ってきた左膝。
今日はどうやら機嫌が悪くなったようだ。
ヤマグチは担架に乗せられてピッチを後にした。
- 61 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:41
- 「よし、チャンスだ。」
“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウドがパンと頬を叩く。
ヤマグチがピッチを去ったことでミランのゴールが割られる心配は無くなった。
後はこちらがゴールを奪うのみ。
他の中盤、そして前線に総攻撃の指示を出す。
「ユーミン、ナカムラーニ!!」
ヒロスエも両サイドバックに上がりを促す。
ヤマグチのいないブレシア攻撃陣はエスミと石黒、そしてウーアで抑えられる。
残りの全員でブレシアゴールをこじ開ける。
2人のファンタジスタがその牙を研ぐ。
- 62 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:41
- だがブレシアDF陣も粘る。
ここまであのミラン攻撃陣を0点に抑えこんでいる。
後8分ほど凌げば貴重な勝点1を手に入れられる。
それにここで守りきらねば負傷退場したヤマグチに顔向けできない。
その思いからブレシアは最高のディフェンスを見せる。
「ちっ、これじゃ崩せない。」
さすがのアユウドもブレシアの壁の前に攻め倦む。
ミラン自慢の中盤も横パスを回すだけでゴール前に攻め込めない。
サイドからクロスを上げてもミランFW陣はそれほど高さがあるわけではないので
ブレシアの壁の前に跳ね返されるのがおちであろう。
時間はどんどん過ぎていく。
- 63 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:42
- 『・・・・狙える?』
ボランチに入っているオランダ代表サトレンス・アイコルフ。
中盤の深い位置でボールを受けて前を向く。
その瞬間、わずかだがシュートコースが見えた。
アイコルフは思い切って右足を振り抜いた。
「えっ?!」
誰もが一瞬虚を突かれた。
アイコルフのシュートはゴール前の密集地帯を上手く潜り抜け、
ゴール隅へと向かっている。
が、これを何とブレシアGKがファインセーブ。
懸命に右手を伸ばし、ゴールラインへと逃れた。
- 64 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:43
- ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!
ブレシアのホームスタジアム、
マリオ・リガモンティが今のビッグセーブに大きく揺れる。
ここで主審が時計を見た。
ロスタイムは2分で、すでに2分近く経っている。
あと1プレーで終了といったところか。
左サイドからのコーナーキック。
ボールをセットするのはヒロスエ・リョウ・コスタ。
ゴール前にはセンターバックのエスミと石黒も上がってきた。
同勝点で首位に並んでいるローマは
デーゲームでサンプドリアに3−1で快勝している。
もしここで引き分けると首位から陥落だ。
このラストチャンス、必ず決める。
- 65 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:43
- ピィ!!!!
主審の笛が鳴った。
ヒロスエが助走をとり、右足を振り抜く。
その瞬間両チームイレブンがペナルティエリア内に殺到する。
最後の競り合い。
ボールはニアサイドに走り込んで来た石黒の頭に。
ブレシアDF陣が競り合うが頭2つ分は高い。
『?!角度が!!』
だが中に入り込みすぎたせいか、角度がきつかった。
そこで石黒は身体を捻り、シュートを撃たずにボールを頭で擦らす。
コースが変わり、多くの選手が動けない。
だが、1人の選手がこのボールに反応した。
- 66 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:44
- 彼女にはゴールの匂いが感じられる。
今のも自分がボールに飛び込むのではなく、
ボールが自分に飛び込んできたようだった。
後半ロスタイム。
背番号9、スズカゼ・マヨザーギの右足で
ミランは貴重な勝点3を獲得した。
- 67 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:44
- 「マヨ!!!」
ミランの選手たちが一斉にマヨザーギに抱き付く。
もちろん石黒もその輪に加わる。
それに気付いたミラン選手たちは、今度は石黒に抱き付く。
ヤマグチに苦しめられたものの、
最後まで素晴らしいディフェンスを見せたルーキーをみな手荒く祝福する。
さらには最後のセットプレー。
あの高さはミランに新たな武器をもたらした。
「ふふふふ。私の目に狂いはない。」
キョトウスコーニが高らかに笑う。
“グランデミラン”はここに完成した。
- 68 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:45
- 多くの日本人選手が移籍を果たし、
欧州での話題を独占した2005年、1月。
しかし、まだ全てが終わったわけではなかった。
- 69 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:45
- 「アヤ、何してるの?練習始まるよ。」
スペインリーガエスパニョーラ、
セビージャのエース、キク・カワ・レイエスが松浦に声を掛ける。
「えっ?あ、ごめん。すぐ行く。」
読んでいた新聞をたたみ、
松浦はすぐにクラブハウスから練習場へと向う。
「バルサ、調子悪いね。」
練習場へ向かう途中、レイエスが松浦にバルサの話題を振る。
彼女は松浦が新聞で毎週バルセロナの結果をチェックしている事を知っている。
「うん。どうしたんだろう。あんな凄い選手たちが集まっているのに。」
松浦が納得いかない表情で呟く。
- 70 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:46
- スペインではリーグ後半戦が開幕して4試合が経った。
ここまで松浦、レイエスのセビージャは2勝2敗。
後半開幕戦のバレンシアには敗れたが、
続くアルバセテ、オサスナ戦には見事に勝利。
前節は保田圭が加入した強豪アトレティコ・マドリーには惜しくも2−1で敗れたが、
シーズン開幕前は降格候補に上げられていたセビージャがここまで7位と大健闘だ。
そして松浦が愛するバルセロナ。
リーグ後半開幕戦は木村アヤカの活躍によりセルタに引き分けに持ち込まれる。
続くラシン・サンタンデール戦は何と3−0で大敗。
これにはバルセロニスタはみな怒りどころか悲しみすら覚えた。
次戦のサラゴサ戦には何とか1−1の引き分け。
そして前節のアスレチック・ビルバオ戦でも1−1の引き分けだった。
後半戦は4試合で3分1敗。
名門バルセロナの没落であった。
そして今節はそのバルサとセビージャとの一戦が控えていた。
- 71 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:47
- 松浦は複雑な思いを抱いたまま練習に励んでいた。
と、その時クラブの会長が練習場に現れた。
その表情は何か思い詰めている。
そして監督のもとへ赴き、何やら話をしている。
「会長、どうしたんだろ?何か監督も変だな。」
セビージャの選手たちが会長と監督の対談に首を傾げる。
最初はいつも通りだった監督も、
会長と話をするうちに表情が青ざめていく。
しばらく2人は話し合っていたが、やがて意を決した表情で頷いた。
「・・・・マツウラ!!ちょっと来てくれ!!」
「えっ?あ、はい!!」
2人の只ならぬ雰囲気に松浦は戸惑いを隠せなかった。
- 72 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:47
- 「アヤ・・・・?」
2時間ほどの練習も終わり、みながロッカールームで着替えをしている所に
松浦は戻ってきた。
何があったのか聞こうとしたセビージャの選手たちだったが、
松浦の表情が青ざめているので聞くのをためらった。
「・・・・・実は・・・・」
松浦は青ざめながらも選手たちに全ての事情を話した。
選手たちはみな、衝撃を受けた。
翌日の火曜日。
スペイン中をこの記事が駆け巡った。
- 73 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:47
-
『アヤ・マツウラ、バルセロナに電撃復帰!!!!』
- 74 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:48
- 「な?!!」
この記事を見たとあるセビージャサポーターはみな一瞬これは夢だと思った。
それかまだ寝ぼけているのだと。
が、何度見直してもこの記事は変わらない。
「おい!!これは一体どういう事なんだ?!!!」
そのサポーターはすぐにセビージャの事務所に電話をかけた。
セビージャの事務所は朝からこのような電話がなりっ放しで、
職員は電話応対に追われていた。
- 75 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:48
- 今回の移籍の経緯はこうだ。
セビージャはバルセロナと松浦を一年のレンタル移籍の契約を結んでいた。
が、実はこの契約の際に1つオプションがあったのだ。
それは例えシーズン途中であっても、もしバルセロナが松浦を呼び戻したいと言えば
セビージャはそれに従うというオプションが。
が、これはあくまで保険みたいなもので、
バルセロナはそんなつもりは毛頭なかった。
松浦がいなくても充分シーズンはやっていけるし、
松浦には一年間プレッシャーの少ない中堅クラブでリーグを経験し、
大きく成長して欲しいと願っていたからだ。
- 76 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:49
- だが、信じられない事が起こるのがサッカー界だ。
あのバルセロナがこの成績。
順位は何と12位にまで落ち込んだ。
その原因は明らかに得点力不足である。
とにかく点が決まらないため、試合に勝てない。
ならば現状打破のため、この冬の移籍で得点力のあるアタッカーを獲得する。
しかしバルセロナは近頃の無駄遣いで(大金をはたいて獲得した選手が軒並み期待外れ)財政が苦しく、
新たなアタッカーを獲得する資金がなかったのだ。
さらには近年の不振からか、みなバルセロナに余り乗り気がしなかった。
誰もが一度はユニフォームの袖を通したいと思うバルセロナは
もう遠い過去のものとなってしまっていた。
そんなバルセロナにとって頼れるのは、最後の手段は
現在リーガエスパニョーラ得点王の松浦亜弥しかいなかった。
そのため恥を忍んで今回、保険を使ったのであった。
- 77 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:50
- もちろんバルセロナも誠意をみせる。
松浦を戻す代わりに、出場機会の余りない3選手(それでも各国代表クラス!!)
をセビージャへレンタル移籍させることを新たに申し出た。
この条件だからこそ最後にはセビージャ会長も監督も、
そして松浦亜弥も納得したのであった。
「・・・・こう言っちゃなんだけど、何でこのタイミングなのかな。」
セビージャの選手やサポーターたちと慌しい別れを済ませ、
足早にセビリアからバルセロナへと向かった松浦が呟く。
今シーズンはセビージャで頑張ると誓った。
その上で来シーズンに胸を張ってバルセロナに戻ろうと思っていた。
が、誰も予期せぬ電撃復帰。
別れの挨拶の際、セビージャの選手やサポーターたちはかなり戸惑っていた。
どう反応していいかみな分からなかったのだ。
それは当然だ。
なぜなら何より松浦自身が一番戸惑っていたのだから。
しかもよりによって今節はセビージャVSバルセロナだ。
果たして週末は何が起こるのか?
誰にも予想は出来なかった。
- 78 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:50
- そして週末を迎えた。
スペインリーガエスパニョーラ第21節
セビージャVSバルセロナ サンチェス・ピスファン(セビリア)
- 79 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:50
- ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!
バルセロナの選手たちがピッチに入った瞬間、
45500人のセビジスタは一斉にブーイングを降り注ぐ。
みな、バルセロナのやり方に納得できていない。
自分たちの救世主をあっさりと奪うとは。
その思いがブーイングとなってバルサイレブンを襲う。
「・・・・・・・・」
背番号13、しかし違うユニフォームに袖を通した松浦は無言でピッチを見つめていた。
バルセロナに戻ってきたはいいものの、試合まで日数もなく、
ろくにチーム練習も出来なかったため今日はベンチからのスタートだ。
- 80 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:51
- これにもセビジスタ、さらにはバルセロニスタも不満の声を漏らす。
こんなシーズン途中のどたばたに獲得した選手を何故使わないのか?
セビジスタにすれば使わないなら返せという気持ちであろうし、
バルセロニスタからすれば今のメンバーに対して全く信用がないため、
松浦を使えという気持ちであろう。
選手たちも複雑な気分だ。
セビージャの面々はつい先日まで一緒に戦っていた仲間が敵に。
バルセロナの面々は元からの仲間が帰ってきたのは嬉しいが、
それは自分たちが不甲斐ないから呼び戻されたもの。
一流の選手としてのプライドが燻られる。
- 81 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:52
- さらに松浦に衝撃を与えたのが、コーチのガレッジ・ゴリーエの辞任であった。
松浦をセビージャに移籍させるように進言したのがゴリーエだ。
しかしその結果、バルセロナは攻撃陣の不調で下位に沈み、
そしてシーズン途中でレンタル移籍を解除させるという事態となった。
このゴタゴタに対して誰かが責任を取らねばならなかったのだ。
それを察したゴリーエは自ら身を引いたのだった。
自分の事を第一に考えてくれた恩師に恩を返せなかった。
松浦は心底悔しかった。
- 82 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:52
- ピィー!!!!!
内も外も様々な思いを抱えたまま、主審の笛が鳴り試合が開始された。
- 83 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:52
- バルセロナは普段どおりの4−2−3−1システム。
DFライン、左サイドバックにアフロ・ヒトエ。
右サイドバックにイワサキ・ヒローミ。
センターバックにユウコ・アサーノ。
ボランチにはメグ・オキーナとアツコ・アサーノ。
トップ下には天才コヤナギーニョ。
左FWにタマキル・ナミオラ。
中央にキョウコリック・コイズミート。
誰がどう見ても最高で、最強のメンバー。
だが、少しでも歯車が狂えば勝てないのがサッカーだった。
- 84 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:53
- 試合は序盤から完全にセビージャのペース。
松浦は移籍したが、その分バルサから3人もの代表クラスが入りチーム状態は上がった。
トップ下に入ったレイエスが彼女たちを使い、チャンスを創る。
それをバルセロナは何とか防ぐといった展開だ。
「・・・・・・ここまで酷いなんて・・・・・」
ベンチで思わず松浦が呟く。
あの凄い選手たちの集まりだった、
自分がどう頑張っても超えることが出来なかった選手たちはこの程度だったのか?
そう思えるほどバルセロナの選手たちは自信を失っていた。
- 85 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:53
- 「メグ!!」
コヤナギーニョが右サイドに開いてパスを要求する。
パスを受けたコヤナギーニョ、チェックに来たセビージャDF2人を鮮やかにかわすと、
クロスと見せかけて弾丸シュートを放つ。
意表を突いたシュートだったが、これはゴールポストを直撃。
惜しくも得点ならず。
みな不調のどん底にいるバルサだったが、この天才だけは別だった。
1人異次元の世界にいるようなプレーでバルサを引っ張っている。
だが周りが付いていけない。
コイズミートは決定的な1対1を外す。
ナミオラは左サイドでチャンスメイクも要求され、
本来のゴールゲッターとしての能力がスポイルされてしまっている。
この不甲斐ないFW陣に連鎖するようにMF陣やDF陣も安定感を失っていた。
前半はバルセロナは全くいいところがなく終了した。
- 86 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:54
- 「・・・・・マツウラ、後半頭からいくぞ。」
もはやその首も風前の灯となったタケノウチ・ユタカールト監督が松浦に指示を出す。
松浦投入。
これが最後の手段だ。
これが成功しなければ自分はバルサを去らねばならない。
「・・・・はい。」
ユタカールトの決意を察した松浦は決意を秘めた表情で頷き、
アップの強度を高める。
必ずみなの期待に応えてみせる。
- 87 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:54
- オオオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!!!!!
後半戦をはじめるため、ピッチに選手が戻ってきた。
その瞬間、サンチェス・ピスファンは大きく揺れた。
ほぼ全員が立ち上がって拍手を送る。
それはバルセロナの背番号13がピッチに登場したからだ。
バルセロナは憎いが、
この13番には今季救世主としてセビージャを救ってもらった。
それを忘れてはセビジスタの名が廃る。
今までのことを感謝し、みな拍手で松浦を迎えた。
- 88 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:55
- が、それも後半戦が始まる前までだった。
後半戦が開始されれば松浦は憎きバルセロナの選手だ。
セビジスタたちは松浦がボールを持てば容赦ないブーイングを飛ばす。
「いいね、この感じ。」
松浦はこのセビジスタのブーイングをありがたく思っていた。
いつまでもセビージャの松浦を思うのではなく、
スパッと割り切ってバルセロナ松浦にブーイングを飛ばす。
その方がこちらも割り切って試合に打ち込めるというものだ。
『ありがとうセビージャ。あたしはセビージャにいれて良かった。』
そのお礼にこの試合、必ずバルセロナが勝って見せる。
- 89 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:55
- 松浦は右サイドのMFと代わり、ピッチに入った。
これでピッチにはコイズミート、ナミオラ、松浦、
そしてコヤナギーニョの4人が同時に立った。
ある意味4トップという完全に攻撃的な布陣だった。
だが4人FWを入れたからといって得点力があがるものでもない。
それは誰が見ても明らかだ。
コイズミート、ナミオラ、コヤナギーニョそして松浦。
誰がこの4人を同時に使うことを考えるだろうか?
しかしユタカールトは4人を同時に使うことを選択した。
ユタカールトはこの4人を同時に使える答えを持っていたのだった。
- 90 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:55
- 「アツコ!!」
左サイドに開いたコヤナギーニョがボールをもらう。
コヤナギーニョは鋭く左サイドを突破すると中にクロス。
このクロスにファーサイドから素晴らしいスピードで飛び込むのは松浦亜弥。
中央、そしてニアサイドにコイズミートとナミオラが飛び込んだため松浦がフリーだ。
打点の高いヘディングでこれをとらえる。
が、何とこれをセビージャGKがビッグセーブ。
こぼれ球はセビージャDFが大きくクリアした。
「・・・・よし、やはりこれで行ける。」
ユタカールトはニヤリと笑う。
これは試合前から彼が温めていた秘策であった。
『・・・・・・・・さすが監督です。』
ユタカールトの出した指示に4人は頷く。
- 91 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:56
- 「ん?これは・・・・?!」
セビージャDF陣が驚く。
それはバルサの前線の4人のポジションが変わっていたからだ。
9 7
7 13 → 13
10 10 9
今までは1トップのポジションはコイズミートだった。
が、コイズミートをトップ下に下げ、最前線にはナミオラ。
トップ下のコヤナギーニョは左サイドへと張り出させた。
このポジション変更は思いのほか当たった。
- 92 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:59
- 「な、何?!この攻撃?!!」
セビージャのエース、キク・カワ・レイエスが驚きの声を上げる。
今までちぐはぐだったバルセロナの前線が、スムーズに機能しだしたのだ。
ナミオラを最前線に置いた事で、彼女にはゴールだけを狙わせる。
その結果、ナミオラの迷いは消え、プレーに思い切りの良さが出始めた。
左サイドはコヤナギーニョがまわる。
今まではゴールゲッターのナミオラがいた左サイド。
やはり効果的なチャンスは生み出せなかった。
が、コヤナギーニョならばどこからでもチャンスは創れるし、
彼女のドリブルはサイドならばまず止められる事はない。
トップ下にはコイズミート。
元々パスセンスもあり、フィジカルもある選手。
ただ、最前線だと激しいプレッシャーを受ける。
そのプレッシャーのため、よく枠を外していた。
が、2列目から飛び出せばそのプレッシャーも幾分和らぐ。
また抜群のポストプレーでボランチのオキーナのパスも活かせる。
そして2トップの一角に松浦亜弥。
その総合力の高さはチャンスメイカーにもゴールゲッターにもなれるし、
そして何より彼女は両足を同じように蹴ることが出来る。
クロスだけでなく右サイドから中に切れ込んで左足で狙う事も出来る。
それぞれの長所を活かせる4人のポジショニングであった。
この4人によって今までの不振が嘘のようなバルセロナの素晴らしい攻撃が
ピッチ上で展開されていた。
- 93 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 21:59
- 「・・・・・いいじゃない!!」
前線の素晴らしい動きにバルサのゲームメーカー、メグ・オキーナがニヤリと笑う。
今まで不甲斐なかったFW陣が光り輝き始めた。
さあどこへパスを出してやろうか?
パスコースが眼前に広がり、オキーナの眼が活き活きとしてくる。
アツコからトップ下のコイズミートにパスが送られる。
かなり強いパスであったが、コイズミートはこれを難なくトラップする。
そして相手ボランチのプレッシャーを受けながらも上がってきたオキーナへ落とす。
まさに世界一とうたわれるポストプレーだ。
- 94 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:02
- これをオキーナはダイレクトで右サイドへ。
そこには松浦が走り込んでいた。
パスを受けた松浦、中に鋭く切り込んでいく。
セビージャ左サイドバックを市井ばりの鋭いシザースで翻弄する。
そして一瞬のスピードでタテに抜け出し、中にクロスを送る。
このクロスに素晴らしい飛び込みを見せるのはナミオラ。
セビージャDF2人と競り合いながらもヘッドで合わせる。
が、これはふかしてしまった。
ボールはゴールラインを割っていった。
- 95 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:04
- 「オッケー!!」
松浦がグッと親指を立てる。
シュートは外れたが今の攻撃はよかった。
「さあどんどん攻めていこう!!!必ずゴールを奪うよ!!!
メグ、パスをどんどん出してよ!!!」
松浦がパンパンと手を叩き、声を張り上げる。
これにはバルサの選手たちも驚いた。
今までの松浦はこの凄いメンバーたちにどこか遠慮しているふしがあった。
だが今や自分がこのチームのエースの如き振る舞い、そして存在感だった。
- 96 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:05
- 松浦の声に応えるようにオキーナから素晴らしいパスが何度も送られ、
バルセロナはスピード感溢れる攻撃を繰り返す。
こんなリズムの良い攻撃は久しぶりだ。
もしかすると今季はじめてかも。
バルサの動きにコヤナギーニョが思わず笑みを漏らす。
そして天才はリズムに乗った。
- 97 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:06
- 左サイドをコヤナギーニョが駆け上がる。
リズムに乗った天才を止める事は誰にも不可能だ。
セビージャ右サイドバックをエラシコ一発でかわすと中にクロス。
これはファーサイドへと流れる。
ここには松浦が走り込んでいる。
松浦、これを右足ボレーでゴールを狙うが、セビージャDF陣も身体を張る。
これに気付いた松浦、咄嗟に足を変え、左足アウトサイドで中に折り返す。
最後に飛び込んできたのはコイズミート。
左から右、そして中へと振られたセビージャDF陣は
コイズミートを捕まえる事が出来なかった。
全くのフリーでこれをゴール中央へ叩き込んだ。
バルセロナ、ついに先制点を上げる。
- 98 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:07
- 「よしっ!!!!!!」
コイズミートが右拳を天に突き出す。
実に5試合ぶりのゴールだった。
「コイズミート!!!」
そこへバルサの選手たちが一斉に抱き付く。
もちろん松浦もだ。
「アヤ、ナイスパス!」
コヤナギーニョが松浦と肩を組む。
今の左足アウトサイドのパスには天才も驚かされた。
あのタイミングで右足から左足に変えるとは。
左右両足を全く同じように使える松浦以外無理なプレーだった。
「そっちこそナイスドリブル。」
松浦も笑顔を見せる。
その笑みはまさにプリンセスの風格があった。
- 99 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:08
- 松浦とコンビを組めるのは半年後だと思っていた。
それが急遽のバルサ復帰。
正直驚いたが、これでもしかするとバルサは変わるかも。
そうコヤナギーニョは思っていた。
そしてその思いは当たっていた。
松浦が入った事によりバルサは変わった。
それはプレー云々よりも彼女の存在感、自信に満ち溢れた態度だろう。
もともと独特の存在感があったが、ピッチでは優等生の松浦。
しかしセビージャでの戦いが松浦を一皮剥けさせた。
ピッチ上で強烈な光を放ち始めたのだ。
そしてこの光が迷走するバルセロナを出口へと導いたのだった。
- 100 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:11
- 「凄いわマツウラ。あんた、成長したわよ。」
バルセロナでは恩師ガレッジ・ゴリーエがテレビを見て満足していた。
彼女を見つけた自分の眼、セビージャへ行かせた判断は間違っていなかった。
これが新しいチームで生きていく糧になる。
- 101 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:11
- この後バルサはオキーナのパスからナミオラ、
コヤナギーニョのFK、
そしてコイズミートのパスから松浦がぶち込み
セビージャを4−0と大差で粉砕した。
「よしっ!!!!!」
試合終了の笛を聞いた瞬間、ユタカールトが思わずガッツポーズ。
コーチ陣や控え選手たちもみな喜びを露わにしている。
今までの苦しい戦いが嘘のような後半の圧勝劇だった。
- 102 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:12
- この試合のポイントはやはり前線の4人であろう。
前線の4人のこの配置転換は、ユタカールトが考えに考えた末の配置であった。
松浦が戻ってくる。
これを聞いた時、ユタカールトは4人それぞれの長所を活かせるポジションはないか?
こう考えた。
ユタカールトは松浦をコイズミート、ナミオラの代わりとして使うのではなく、
コヤナギーニョを含めた4人を同時に使うことを考えていたのだ。
バルセロナのコンセプトは攻撃。
圧倒的な破壊力で相手を叩き潰すサッカーだ。
目指すはあの時のバルセロナ。
- 103 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:12
- 中央にヒカルド。
右にヒトミ・クローキ。
左にハマ・サーキ・アユウド。
最強の3トップを誇り、見事にリーガ優勝を果たしたあの時のバルセロナだ。
コイズミート、ナミオラ、コヤナギーニョ、そして松浦。
このメンバーならばあの時のバルセロナを超えることが出来る。
ユタカールトはそう確信していた。
- 104 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:13
- そしてそのキーとなるのが、古巣のセビージャサポーター、
セビジスタに挨拶をしている背番号13だ。
彼女には人を引き付けてやまない何かがある。
それがチームを1つにさせるのだ。
この次代のバルサのエース、日本のプリンセスこそが新生バルサのキーであり、象徴だった。
- 105 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:13
- 「・・・・・待っていろよ、レアル・マドリード。」
この言葉が自然とユタカールトの口から漏れた。
現在首位を独走するレアル・マドリード。
一方、バルセロナは現在12位。
この順位ではレアルを気にしていても仕方がない。
だが、ユタカールトは今日完成した新生バルサにかなりの手応えを感じていた。
その自信が言葉となって口から漏れたのであった。
- 106 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:13
- そしてこの言葉が現実のものとなる。
スペインリーガエスパニョーラ後半戦。
日本のプリンセス率いる新生バルセロナが奇跡を起こす。
- 107 名前:第17話 電撃移籍 投稿日:2004/09/25(土) 22:14
-
第17話 電撃移籍 (終)
- 108 名前:ACM 投稿日:2004/09/25(土) 22:16
- 第17話 電撃移籍 終了いたしました。
すみません、ここ最近忙しくて更新が遅れてしまいました。
さらにこれから3週間、忙しさがピークになってしまうので
次回更新も少し遅れると思いますが、どうかご容赦ください。
でもなるべく早く更新出来るように頑張ります。
- 109 名前:ACM 投稿日:2004/09/25(土) 22:19
- では次回の予告です。
第18話 チャンピオンズリーグ初戦
ついに欧州で世界最高峰の舞台、チャンピオンズリーグが再開された。
グループリーグを勝ち抜いた16チームが頂点を目指し、激戦を繰り広げる。
初戦は以下の通り。
バイエルン・ミュンヘンVSレアル・マドリード
アーセナルVSレアル・ベティス
R・モスクワVSASモナコ
スパルタ・プラハVSACミラン
PSVアイントフォーへンVSユヴェントス
FCポルトVSマンチェスター・ユナイテッド
バレンシアVSリヨン
ボルシア・ドルトムントVSチェルシー
ついにチャンピオンズリーグで日本人対決が行われる。
さらには全ての試合で日本人選手が登場する。
欧州最高峰のこの舞台。
日本人が舞台ジャックを敢行する。
これでようやく話を先に進めることが出来ます。
では、次回もどうぞよろしくお願いいたします。
- 110 名前:ACM 投稿日:2004/09/25(土) 22:21
- 今回はスレ隠しはなしです。
また次回に登場人物紹介をしたいと思います。
では、失礼致します。
- 111 名前:みっくす 投稿日:2004/09/26(日) 00:16
- 更新お疲れ様です。
いやー、ふたりとも凄いねぇ。
ホント、こんなに欧州で日本人がチームの要になって活躍する日が、
はやくきてもらいたいものです。
次回も楽しみにしてます。
- 112 名前:ピクシー 投稿日:2004/09/26(日) 02:35
- 更新お疲れ様です。
いやいや・・・電撃ですね。
現実の日本人も奮闘していますが・・・新たに海外に行きそうな選手が少なくなってきているのも事実。
松井もル・マンに移籍しましたが、2部というだけで、ほとんど報じられず・・・
弱小チームでもいいから、1部で、レギュラーを張るような選手が増えて欲しいですねぇ。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 113 名前:スペード 投稿日:2004/09/27(月) 00:08
- 更新お疲れさまです。
果たして吉澤さんはどのように復活するのか楽しみです。
- 114 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/09/28(火) 22:21
- 電撃移籍。こんな形で復帰とは本人も相当びっくりしたでしょうね。気持ちの切り替えもうまくいって勝てて良かったです。
それにしても鉄人は凄すぎる。あの年齢でSDFをこなしきってましたね。
- 115 名前:B.C 投稿日:2004/10/05(火) 07:14
- 更新お疲れさまです。
今回の電撃移籍は驚きでした。
あんなに国内にこだわってただけに。
今回以降、日本人が各チームのキーマンになってきてるので、今後の展開が楽しみです。
更新頑張ってくださいね。
- 116 名前:ACM 投稿日:2004/10/16(土) 00:49
- 111>みっくす様
レスありがとうございます。
2人とも頑張ってくれました。ちょっと頑張りすぎかもですが。
現実でもこれぐらい活躍してくれれば毎週のテレビやニュースが楽しみなのですが。
欧州で日本人がチームの要になる。まだもうちょっと先かもしれないですね。
112>ピクシー様
レスありがとうございます。
そうですね、ちょっと海外移籍の声が聞こえてこないですね。
今噂があるのは玉田や大久保、久保ぐらいですかね?
何とか実現して今欧州にいる選手とともに活躍して欲しいものです。
113>スペード様
レスありがとうございます。
そうですね、吉澤さんには復活してもらわないといけませんね。
でもそれはどうやってかは、何がきっかけかはまだ秘密です。
これからの吉澤さんにご期待下さい。
- 117 名前:ACM 投稿日:2004/10/16(土) 00:51
- 114>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
こんな形で復帰は作者も正直考えていませんでしたが、
現実のバルサがあれだけの連勝。
これはこっちでも何かしないとと思ったところ、浮かんだのが今回の電撃移籍でした。
115>B.C様
レスありがとうございます。
国内にこだわっていましたが、やはりサッカー選手として上を目指したいもの。
そう思って移籍させちゃいました。でも、これも正直考えていませんでした。
最近、『キャラが勝手に動く』これを感じております。
皆様、いつもあたたかいレスをありがとうございます。
とても励みになります。これからもよろしくお願いいたします。
- 118 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 00:59
- 欧州で日本人選手がそれぞれのチームで衝撃を与えた。
そしていよいよシーズンはクライマックスへと近付いていく。
そう、チャンピオンズリーグがいよいよ決勝トーナメントに舞台を移す。
予選リーグを勝ち抜き、本戦へとコマを進めた16チームは以下の通り。
<グループA>
リヨン(フランス)
バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)
<グループB>
アーセナル(イングランド)
ロコモティフ・モスクワ(ロシア)
<グループC>
ASモナコ(フランス)
PSVアイントフォーへン(オランダ)
<グループD>
ユヴェントス(イタリア)
バレンシア(スペイン)
<グループE>
マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)
ボルシア・ドルトムント(ドイツ)
<グループF>
レアル・マドリード(スペイン)
FCポルト(ポルトガル)
<グループG>
チェルシー(イングランド)
スパルタ・プラハ(チェコ)
<グループH>
ACミラン(イタリア)
レアル・ベティス(スペイン)
- 119 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:00
- そして抽選の結果、決勝トーナメント一回戦の対戦が決まった。
ここで各試合の対戦カードとともに、見所を紹介していこう。
PSVアイントフォーへン VS ユヴェントス
(グループC2位) (グループD1位)
PSVは調子の出ないバルセロナを叩き潰し、見事に予選を突破した。
近年不振のオランダ勢の期待を背負ってイタリアの王者に挑む。
一方ユヴェントスはバレンシア、ガラタサライ、
オリンピアコスという曲者をあっさりと一蹴。
磐石で決勝トーナメント出場を決めた。
“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマをはじめ、
世界に名だたる選手が揃っており今シーズンこそビッグイヤー獲得が大目標だ。
そしてこの試合でついに日本人対決が行われる。
“偉大なるパイオニア”福田明日香に、新進気鋭の“小さな弾丸”辻希美が挑む。
辻はデビュー戦でいきなりのゴールを決め、その明るいキャラクターも相まって
瞬く間にサポーターからも愛され、チームの中心となった。
一方福田は今や将軍としてユヴェントスを統率する。
世界に名だたるプレイヤーたちがこの小さな背中の日本人を頼りにしている。
お互いチームの中心として臨むこの試合。
見逃せない一戦である。
- 120 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:01
- FCポルト VS マンチェスター・ユナイテッド
(グループH2位) (グループE1位)
こちらも注目すべき一戦。
ポルトは昨シーズンのUEFAカップの覇者。
今シーズンも好調を持続しており、現在まで無敗記録を更新している。
一時調子を落としたが、それを持ち直させたのがこの冬の移籍でペルージャから加入した
日本代表“マエストロ”柴田あゆみだ。
その華麗なゲームメークでポルトの力をさらにもう一段階引き上げた。
他にも世界的には無名ながらもかなりの実力者が揃っており、
このチャンピオンズリーグ最大の台風の目であろう。
一方マンチェスター・ユナイテッドは昨シーズンの3冠王者。
今シーズンも連続3冠を狙う。
だが今シーズン序盤はシバサキがレアルに移籍したため、チーム力が低下。
王者らしからぬ試合が続いた。
が、この冬の移籍で日本代表MF石川梨華が加入。
その“魔法の左足”で見事にチームを蘇らせた。
両チームとも日本人が勢いをもたらしたチーム。
お互いの“左足”が勝敗の鍵となる。
- 121 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:02
- レアル・ベティス VS アーセナル
(グループH2位) (グループB1位)
下馬評では完全にアーセナルであろう。
ウエト・アーヤ、ハヅキ・リオナンプ、フカーツ・エリスなど世界屈指のタレントを擁し、
ザイゼン・カラサワ監督の戦術も浸透しているチームは
ここまでプレミアリーグ無敗という大記録を続けている。
チーム力は素晴らしい上に今季こそはという強い気持ちがあり、
アーセナルこそ優勝候補という評論家も多い。
その中でもキーは市井紗耶香だとカラサワ監督は公言してはばからない。
この“フリーロール”がどこまでやれるかでアーセナルの命運は決まる。
一方ベティスは傑出した選手はいないが、
チームワークでアヤックスを競り落として決勝トーナメントにコマを進めてきた。
その自慢のサイドアタックでアーセナルをどこまで脅かせるか注目である。
- 122 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:02
- スパルタ・プラハ VS ACミラン
(グループG2位) (グループH1位)
こちらも下馬評は完全にミラン。
中盤の黄金のカルテットを軸に、ワールドクラスのFWが3人。
DFにも高い、強い、速いセンターバック2人にブラジル代表キャプテン、
そしてアズーリの鉄人とまさに穴の無いチーム。
リーグ戦でも首位を走っており、カップ戦と合わせて3冠も狙えるチームである。
一方スパルタ・プラハは正直苦しいが、
守りを固めてカウンターに血路を開くしかないであろう。
初戦を引き分けに持ち込めればもしかすると・・・・・
- 123 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:03
- バイエルン・ミュンヘン VS レアル・マドリード
(グループA2位) (グループF1位)
欧州屈指の名門がいきなり一回戦で激突となった。
チャンピオンズリーグ最多優勝(9回)を誇るレアルと、2位(5回)のバイエルン。
世界のサッカーファンが注目する一戦だ。
バイエルンはエース、イケワキ・チイヅルーがチームの生命線。
彼女のゲームメークにより“小皇帝”ナキャタニ・ミキック、
前線のオランダ代表キムラ・ヨシーノ、
ドイツ代表アマミステン・ユウキーの力をどこまで引き出せるかが勝負の鍵だ。
GKヨシナ・ガーンもゴールマウスに立ちはだかり、
レアル自慢の攻撃陣をシャットアウトすると意気込んでいる。
一方、レアルのキープレイヤーは後藤真希であろう。
ヒカルド、後藤、ユウーコ、クローキという攻撃陣はまさに世界屈指であるが、
このチームには純粋なゲームメイカーがいないのが弱点である。
ボランチのシマタニッソはパスセンスも備えているが、
基本的には動き回ってチャンスを創るボランチ。
シバサキは本職は右サイドの選手であり、
右足は完璧な精度を持つが、クロッサーであってゲームメーカーとは言えない。
それだけにトップ下に君臨する後藤真希のプレーに期待がかかる。
この試合の勝者がチャンピオンズリーグ優勝チームだと評論家は口々に言う。
果たして試合が終わった後、歓喜に包まれるのはどちらのチームか?
- 124 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:03
- R・モスクワ VS ASモナコ
(グループB2位) (グループC1位)
堅守からのカウンターでイタリアの名門インテルミラノを競り落としたR・モスクワ。
この勢いで一回戦突破を狙う。
一方ASモナコはバルセロナ、PSV、AEKアテネという名門、曲者揃いの
グループCを見事首位で突破。
決勝トーナメントにも期待がかかる。
このチームに日本代表FW高橋愛も加わりチーム力は上がった。
果たしてどれだけのサプライズを起こせるか。
日本の次代のエースにモナコは命運を託す。
- 125 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:04
- バレンシア VS リヨン
(グループD2位) (グループA1位)
現在バレンシアはリーガエスパニョーラ2位。
リヨンはリーグ1で首位を走っており、どちらも好調のチーム同士の対戦となる。
バレンシアは司令塔チヒロ・オニツカールを軸に
スピードスター、ミホチャン・シライシと矢口真里が両翼を駆け上がる。
スペインが誇る戦術、サイドアタックである。
このサイドアタックで上位進出を狙う。
リヨンはフランスらしい中盤でつなぐサッカーだ。
テクニック溢れるMFの出来が勝負の鍵となろう。
お互いの国を代表する戦術を武器とする両チーム。
果たしてどちらの戦術に軍配が上がるか?
- 126 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:04
- ボルシア・ドルトムント VS チェルシー
(グループE2位) (グループG1位)
両チームとも欧州でも屈指の強豪。
チャンピオンズリーグに相応しい一戦となった。
ドルトムントはミズノ・ミキツキー、トミ・ナガーのチェコ代表コンビが攻撃の軸。
4−3−3の攻撃的スタイルで頂点を目指す。
一方チェルシーもテツヤ・コムロビッチが豊富な資金で集めたタレントたちによる
攻撃サッカーが持ち味だ。
しかしこの試合、注目すべき点はGKであろう。
チェルシーGK、中国代表サ・トエリ。
ドルトムントGK、日本代表飯田圭織。
アジアでの戦いで幾度と無くぶつかった両雄が、
この世界最高峰の舞台、チャンピオンズリーグで激突する。
果たしてどちらのGKが自慢の攻撃陣を抑えるか?
- 127 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:04
- 8試合ともまさに世界最高峰の戦い。
いよいよチャンピオンズリーグ決勝トーナメントが始まる。
- 128 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:05
- 「福ちゃん、なんだか嬉しそうだべ。」
「え?そう?」
安倍の言葉に福田はとぼけてみせた。
PSVの本拠地、オランダのアイントホーフェンに向かう機内。
福田の表情からは高揚感が見て取れた。
『まさかチャンピオンズリーグでなっちと一緒に、
そして辻ちゃんと対戦できるなんてね。』
そう思うと福田は喜びを抑え込むので精一杯になる。
この冬の日本人大量移籍。
これを一番喜んだのはやはり“偉大なるパイオニア”福田明日香だった。
日本人が欧州で認められる。
こんな日を夢見て精一杯頑張ってきたのだから。
しかし勝負は別物だ。
どれだけ日本人が欧州に出てこようが、先頭を譲るわけにはいかない。
“偉大なるパイオニア”はこれからも先頭をひた走るつもりでいる。
そのためにこの試合、愛すべき後輩を叩き潰す。
- 129 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:07
- アイントホーフェンに到着したユヴェントスイレブンは軽い調整を行い、
2日後の試合に備える。
リーグ戦ではASローマに4−0で大敗するなど
本来の力を出し切れていないユヴェントスだが、
この大一番にきっちりと照準を合わせてきている。
みな軽快な動きを披露し、好調さをアピールしていた。
さすがは欧州の名門。
ここぞという時にはきっちりと合わせてくる。
- 130 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:07
- 一方、ホームにイタリアの王者を迎え撃つPSV。
オランダの期待を一身に背負う存在だが、ここ最近はいまいち調子が出ていない。
直前に行われたリーグ戦では辻の奮闘もむなしく、
格下のヘーレンフェーンに3−2で敗れた。
また、2節前には日本のみならずオランダでも注目を浴びた一戦、
加護亜依の所属するアヤックス戦でも2−1(加護の1ゴール1アシスト)で敗れている。
この2つの敗戦により、リーグ戦はほぼアヤックスの優勝で決まった。
- 131 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:07
- 「まだ次の試合がある。しっかりと気持ちを入れかえていこう。」
ヘーレンフェーンに敗れ、落ち込む選手たちを鼓舞したのは
今やチームの中心となった日本人だった。
優勝の可能性はほとんど無くなったとはいえ、最後まで全力を尽くして戦うのがプロだ。
それにPSVにはチャンピオンズリーグという最高の舞台が待っている。
今、落ち込んでいる暇などなかった。
辻のキャプテンシーによってPSVは1つになった。
持てる力を全て振り絞り、イタリアの王者に立ち向かう。
- 132 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:08
- そして場所は変わってポルトガル、ポルト。
この地に勇躍乗り込んできたのは
昨シーズン3冠王者マンチェスター・ユナイテッド。
その中に当然“魔法の左足”石川梨華もいた。
「・・・・いよいよ柴ちゃんとの対決だ。」
石川はこの試合、楽しみにしていた。
それは当然、親友柴田あゆみとの対戦だからだ。
その対戦がこの世界最高峰の舞台、チャンピオンズリーグなのだから
これで興奮するなと言うほうが無理であろう。
- 133 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:09
- 石川と柴田は同じ神奈川県出身で、
U−15の神奈川選抜で顔を合わせるうちに親しくなった。
当時のポジションは柴田は今の通りトップ下だが、
石川もこの当時はトップ下の選手だった。
石川はこの当時中学2年生でありながら、
神奈川県では知らぬ者はなし、というぐらい有名な選手であった。
横浜Fマリノスユースに在籍し、その華奢な左足から放たれるパスは、
サッカー関係者の度肝を抜いていた。
そう、この当時から“魔法の左足”は健在だったのだ。
神奈川選抜ははっきり言って石川梨華のチームであった。
- 134 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:09
- がある日、この神奈川選抜に華奢な身体で、前歯が特徴的な女の子が入ってきた。
彼女は無名校の選手で、ポジションはトップ下だった。
今まで多くの名門校、ユースのトップ下の選手が神奈川選抜に選ばれたが、
全て石川梨華の“魔法の左足”に敗れ去っていた。
この女の子もいつもの通りすぐに終わるだろう。
誰もがそう思っていた。
が、彼女がボールを持った瞬間、幻想の世界へと誘われた。
観る者に思わず溜息を出させるようなテクニック。
足にボールが吸い付くようなドリブル。
その全てが一級品だった。
そして何よりみなが驚嘆したのがそのゲームメイク。
自分が欲しいタイミング、欲しいスペースに必ずパスが送られてくるのだ。
- 135 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:10
- 「あ、ダメだ。この人には勝てない。」
その時は自信の塊であった石川。
しかしこの女の子のプレーに自分のトップ下での限界を感じた。
自分にはここまでのゲームメイク能力はない。
この日、トップ下の石川梨華は終わった。
石川は自分の左足を活かすためにサイドプレイヤーへと転向した。
この転向を素直に受け容れられたのも、彼女、柴田あゆみのプレーが凄いことと、
なにより柴田がいいやつだったからだ。
彼女と一緒にプレーしたいのなら、自分がポジションを変更するしかない。
だから石川はサイドにポジションを変えたのだ。
- 136 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:10
- あれからもう7年。
2人はFマリノス、グランパスとチームこそ離れたが友情は変わらず続いた。
日本代表にもともに選ばれ、そしてオリンピックでも栄冠に輝いた。
そして今、欧州の名門チームにその籍を置き、
チャンピオンズリーグという最高峰の舞台で激突する。
これほど嬉しい事はない。
「遠慮はしないからね、柴ちゃん。」
石川はそう呟き、敵地を踏みしめた。
- 137 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:11
- チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦の第1戦は、
2日間に分けて行われる。
まずは初日、2005年2月22日の試合から見ていこう。
この日行われた4試合は以下の通り。
PSVアイントホーフェン VS ユヴェントス
(グループC2位) (グループD1位)
FCポルト VS マンチェスター・ユナイテッド
(グループH2位) (グループE1位)
レアル・ベティス VS アーセナル
(グループH2位) (グループB1位)
スパルタ・プラハ VS ACミラン
(グループG2位) (グループH1位)
初日、日本人選手は7人出場した。
そしてそのうち2試合でついに日本人対決が行われた。
- 138 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:11
- “NONO!!NONO!!”
サポーターたちが大声援で新アイドルの名前を連呼する。
PSVのホームスタジアム、フィリップス・スタディオンは
すでに試合前からヒートアップしていた。
ピッチでは両チームの選手がアップをして身体を温めていた。
「ハイッ!!」
辻のかけ声とともにPSVの選手たちはダッシュを繰り返す。
PSVの選手たちはみな表情は引き締まり、気合充分だ。
その表情からこの試合に賭ける思いの強さが伝わってくる。
その中心にいるのが辻希美。
U−20日本代表で見せたキャプテンシーはここオランダでも健在だった。
- 139 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:13
- 「みんな、絶対にこの試合気を抜いたらダメだからね。」
その様子を見ていた福田がチームメートに忠告する。
「もちろんだ。」
福田の言葉に頷くユーヴェの選手たち。
みな分かっている。
このような最高峰のレベルの戦いでは、少しでも気を抜いた方が負けるということを。
ユーヴェの選手たちも新たに気合いを入れ直し、入念にアップを行う。
両チームともアップを終え、一度ロッカールームへと戻る。
その際に福田と安倍は辻と眼があった。
お互い何も言葉を交わさなかったが、笑顔を見せ合って今日の健闘を誓う。
この試合、いいゲームになりそうだ。
- 140 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:13
- 一方、こちらはFCポルトのホームスタジアム、ドラゴンスタジアム。
選手たちは既にピッチに立ち、キックオフの笛を今か今かと待っていた。
<FCポルト>4−2−3−1
77 DF 4 ナナコド・オオコーチ
22 スズキ・エミイラ
MF 12 MF MF 6 マジュ・オザワーニャ
10 サヤ
10 6 12 柴田あゆみ
DF 22 FW 77 ミナコ・ナッカーノー
DF 4
GK
- 141 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:15
- <マンチェスター・ユナイテッド>4−4−1−1
10
11 DF 5 マオ・ダイチナンド
MF 14 石川梨華
14 19 16 シマ・キーン
18 16 18 タバタ・ナズナールズ
19 タカシマ・アヤパンアヤパン
DF DF FW 10 マツ・ユキ・ヤスコローイ
DF 5 11 マツシタ・ユキス
GK
ホームのポルトは当然ベストメンバーでこの試合に挑む。
もちろんマンチェスターも何の小細工なしのベストメンバーだ。
- 142 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:16
- 「梨華ちゃん、勝負だね。」
「柴ちゃん、負けないよ。」
ポルトボールでのキックオフ。
センターサークルには柴田とミナコ・ナッカーノーがいた。
と、その時柴田と石川の目が合った。
お互い気合いの入った表情でにらみ合う。
普段は親友だが試合となれば別だ。
お互い完膚なきまで叩きのめす。
- 143 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 01:16
- ピィ!!!!!
主審の笛が高らかに鳴り、決戦の火蓋が切って落とされた。
- 144 名前:ACM 投稿日:2004/10/16(土) 01:22
- すみません、今日の更新はここまでです。
いつもならば1回の更新で1話完結のスタイルなのですが、
この続きがちょっと長いのでここで一旦切らせていただきます。
続きはまた明日の夜というか、今日(土曜日)の夜に更新します。
こちらの都合で勝手にスタイルを変えて申し訳ないです。
では、すみませんが今回はこれで失礼します。
- 145 名前:K−GXP 投稿日:2004/10/16(土) 03:15
- 初めてレスさせて頂きます。
この2・3日で一気にここまでこのシリーズを読ませて頂きました。
量の多さ、長編と言うのを全くと言って良いほど感じさせない話の展開は
読んでいて一気に世界に引き込まれていきます。
それにしても、PSV対ユヴェントスにポルト対マンチェスターですか。
ものすごい組み合わせですが、とても興味をそそられる試合になりそうですね。
お体に気をつけて、マイペースで結構なのでがんばって頂きたいです。
スレ汚し失礼致しました。
- 146 名前:みっくす 投稿日:2004/10/16(土) 05:10
- 更新お疲れ様です。
いよいよはじまりましたね。
夜の更新楽しみにしてます。
- 147 名前:ピクシー 投稿日:2004/10/16(土) 06:32
- 更新お疲れ様です。
期待していた、辻VS加護は結果のみで、ちょっと残念な気も(苦笑)
しかしながら、石川VS柴田はともかく・・・安倍&福田VS辻も気になってます。
現実でも、日本が一次予選を無事突破しましたね。ホッとしました。
次戦は・・・「粋な計らい」がされるようですね。でも、個人的には「将来を見越した起用」をして欲しかったです。
「粋な計らい」は、W杯予選でなくても出来るのに・・・(苦笑)
次回更新(今晩)も楽しみに待ってます。
- 148 名前:B.C 投稿日:2004/10/16(土) 19:01
- 更新お疲れさまです。
チャンピオンズリーグどの対戦も譲れない戦いになりそうで、大変期待です。
次回更新楽しみです。
- 149 名前:娘。よっすぃー好き 投稿日:2004/10/16(土) 19:57
- 遂に対決が始まりますね。明日の朝起きたときにどのような結果になっているか、楽しみにしています。
- 150 名前:ACM 投稿日:2004/10/16(土) 22:57
- 145>K−GXP様
はじめましてですね。レスありがとうございます。
ここまでを一気に読んでいただいたそうで、本当にありがとうございます。
サッカーという特殊な内容で、かつ自分の好き勝手に書いている作品ではありますが、
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
146>みっくす様
レスありがとうございます。そうですね、いよいよ始まります。
作者自身もチャンピオンズリーグを書けるのを楽しみにしていました。
いい戦いになるように気合い入れて頑張ります。
147>ピクシー様
レスありがとうございます。
加護VS辻はいまここで出すのはちともったいない気がしたので、温存です。
いずれきっちりと書きますのでご期待下さい。
「粋な計らい」、色々と思う事はありますが、キングカズを見れるのは素直に嬉しいです。
- 151 名前:ACM 投稿日:2004/10/16(土) 22:59
- 148>B.C様
レスありがとうございます。
どの対戦も色々と見所があると思います。作者の技量では中々上手く表現できませんが、
何とか魅力ある戦いにしたいと思います。期待にお応え出来るよう頑張ります。
149>娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。いよいよチャンピオンズリーグをお届けできます。
はたして明日の朝、娘。よっすいー好き様が結果を見てどういった反応を示されるか。
とても心配です。またご感想など頂ければ嬉しいです。
皆様、本当にありがとうございます。
では、本日の更新です。
- 152 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:01
- ピィ!!!!!
主審の笛が高らかに鳴り、決戦の火蓋が切って落とされた。
まずはホームのポルトがボールをキープし、
チャンスをうかがう。
「アユミ!」
ボランチのサヤからトップ下の柴田にボールが渡る。
ボールを受けた柴田、腰を落とし、グッと踏ん張る。
次の瞬間予想通り後ろから激しいチャージが来た。
アイルランドが誇る闘将、シマ・キーンだ。
- 153 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:01
- 「くっ!!」
当たりを予測し、体勢を整えて踏ん張ったにも関わらずぐらつく柴田。
さすがは闘将。激しく、熱い当たりをお見舞いしてくれた。
通称“極道チャージ”だ。
しかし柴田も負けてはいない。
ぐらつきつつも身体を上手くコントロールし、
かかとでボールを弾いてシマの股間を抜いた。
そして自分は反転し、シマをかわす。
ウオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!!
今の柴田のプレーにスタンドから思わずどよめきが起こる。
柴田がフリーで前を向いた。
- 154 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:01
- 「アユミ!!!」
その瞬間DFラインの裏へ飛び出すのは南アフリカ代表エースストライカー、
ミナコ・ナッカーノー。
素晴らしいタイミングとスピードだ。
柴田との呼吸も抜群である。
しかし3冠王者マンチェスターの最終ラインを統率するのはこの人、
イングランド代表DFマオ・ダイチナンド。
パスコースを切るとともにラインを押し上げる。
これではスルーパスは出せない。
- 155 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:02
- 「ならば!!」
柴田の判断は早かった。
右足を力強く踏み込み、思い切り左足を振り抜いた。
強烈なシュートがゴールマウスに飛んでいく。
だがこれをマンチェスターGKがビッグセーブ。
何とか右手で触り、コースを変えた。
ボールはクロスバーに当たってゴールラインを割っていった。
- 156 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:02
- ワアアアアアアアアアア!!!!!!!!
柴田のシュートが決まらず一瞬頭を抱えたポルトサポーターだったが、
すぐに今の柴田の一連のプレーに拍手と歓声を送る。
「危なかった。」
ホッと胸を撫で下ろすダイチナンド。
まさかあのタイミングでミドルを狙ってくるとは。
いや、それ以上にあのシマ・キーンの極道チャージをかわすとは。
「・・・・若いのにやるじゃない。」
闘将もポルトの12番に驚きを隠せない。
これは久しぶりに潰しがいのある相手だ。
闘将の気持ちがさらに燃え上がる。
「柴ちゃん、すごい・・・・・」
石川もこれには驚かざるを得ない。
以前の柴田はテクニックはあるものの、やはりパワーは欠けていた。
が、シマのチャージに耐え、強烈なミドルも放った。
当然柴田は成長しているのだ。
「・・・・・・でもあたしも負けないから。」
石川はパンパンと頬を叩いて気合いを入れ直す。
- 157 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:03
- ポルトのコーナーキック。
しかしマンチェスターはFWのマツ・ユキ・ヤスコローイまでも戻り
ゴール前を固める。
大事なチャンピオンズリーグ初戦で、しかもアウェーでの戦いだ。
序盤は当然慎重にならざるを得ない。
サヤの右足から放たれたボールは鋭いカーブがかかりゴール前に。
このボールにポルトセンターバック、ナナコド・オオコーチが飛び込む。
が、マンチェスターもダイチナンドとヤスコローイが2人がかりで競り合う。
ボールがこぼれる。
このこぼれ球に両チームの選手が殺到するが、
一番早く触ったのがタカシマ・アヤパンアヤパン。
ペナルティエリアの外へクリアした。
- 158 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:04
- このクリアしたボールを拾ったのは石川梨華だった。
右サイドのタッチライン際で拾った石川、前をルックアップする。
その視界に1人の選手が見えた。
「マツシタさん!!!」
石川が思い切り左足を振り抜いた。
- 159 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:04
- ウオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!!!!
スタジアムが大きく揺れる。
石川の左足から放たれたロングパスはピッチを斜めに切り裂いた。
低く、鋭いパスがトップスピードで走り込む世界最高のレフトウイング、
ウェールズ代表マツシタ・ユキスの足元にピタリと収まった。
その距離、およそ60m。
しかし1mmのズレもない完璧なロングパスであった。
「ちっ!!!」
ポルトボランチ、マジュ・オザワーニャが慌ててマツシタを追いかける。
柴田の指示で自陣に残っていたが、
まさかあの位置からこんなロングパスが来るとは思ってもみなかった。
- 160 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:04
- しかしマツシタのスピードにオザワーニャは中々追いつけない。
左サイドを素晴らしいスピードで駆け上がるマツシタ。
中央にはタバタ・ナズナールズがこちらも素晴らしいスピードで駆け上がっている。
ポルトディフェンス陣は組織が崩れている。
ここで中に折り返されると失点ものだ。
序盤での失点はまずいと見たオザワーニャ、後ろからのタックルでマツシタを潰した。
ピピピピピピピ!!!!!
主審がけたたましく笛を鳴らす。
そして一瞬躊躇したあと、胸から黄色いカードを出した。
- 161 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:05
- ブゥゥゥゥゥゥ!!!!!
少数のマンチェスターサポーターからブーイングが飛ぶ。
何でいまのでレッドじゃないんだ?
マンチェスターサポーターの思いももっともであろう。
今のは本当ならば一発退場ものだからだ。
しかしここはポルトのホームであり、なおかつまだ試合は始まったばかり。
この時間帯ならば一発は出ないだろうとオザワーニャは思い、強引にマツシタを止めた。
この辺りは激しさだけでなくクレバーなプレーも持ち味のオザワーニャであった。
「ナイス、マジュ。」
自陣に戻ってきた柴田がポンとオザワーニャの肩を叩く。
「ごめん。あんたに言われて気を付けてたけど、
まさかあんな所から一発で来るとは思わなかった。」
オザワーニャは驚きを隠せないでいる。
「梨華ちゃんの左足は“魔法の左足”なんだ。
どんな所からでも、どんな遠い所でも正確なパスが来るから。
みんなも絶対に気をつけて!」
柴田の言葉に頷くオザワーニャにポルトイレブン。
目の前であれだけ凄いロングパスを出されては頷くしかなかった。
- 162 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:05
- オザワーニャのファウルにより、
左サイドの奥でFKのチャンスをマンチェスターは得た。
キッカーは当然石川梨華。
ボールをセットし、助走の距離をとる。
ゴール前にはFWヤスコローイ、それからDFダイチナンドも上がってきた。
その代わり後ろにはアヤパンやシマがきっちりと下がっている。
「中に合わせて来るからマーク確認!!」
DFリーダーのオオコーチがみなに指示を出す。
柴田も自陣ゴール前に戻りディフェンスに参加する。
左サイドからのFK。
左足でのキックだとゴールから遠ざかっていくボールになる。
きっちりと中を固め、クロスを弾き返す。
- 163 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:05
- が、まだポルトイレブンは石川梨華の“魔法の左足”の恐ろしさを理解していなかった。
彼女の左足にとって距離やサイド、角度は何の障害にもならない事を。
- 164 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:06
- ピィ!!!
主審の笛が鳴った。
と同時に石川が助走を開始する。
中では選手たちが動き回る。
「?!!」
その時ニアサイドのポスト際にいた柴田は気付いた。
マンチェスターの選手がほとんどファーサイドへと流れたのを。
『まさか?!!』
その瞬間、石川梨華の“魔法の左足”が火を吹いた。
- 165 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:06
- 石川の左足から放たれたボールはゴール前に鋭く飛ぶ。
そしてその途中で軌道を変える。
問題はその方向だった。
ボールはグッと急激にゴールに向かって曲がったのだ。
「えっ?!!」
ポルトの選手たちは我が目を疑う。
あまりの事にみな驚いて足が動かない。
ボールは鋭いカーブがかかりニアポスト際へと伸びる。
- 166 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:07
- 「くっ!!!」
ここには柴田がいた。
もしかしてと思った分反応が出来た。
柴田は全身の力を使って飛ぶ。
が、ボールは柴田の頭の真上とクロスバーのほんのわずかな隙間へ飛び込んでいった。
前半7分。
いきなりのマンチェスター・ユナイテッド先制点。
- 167 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:07
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
ドラゴン・スタジアムが大きく揺れた。
みな信じられなかった。
何故左足アウトサイドで蹴ったボールがあんなにも速く、そしてあんなにも曲がるんだ?
サポーターはもちろん、ポルトの選手も、そしてマンチェスターの選手も、
この場に居合わせた全ての人々が驚きを隠せなかった。
それほど凄まじい“魔法の左足”だった。
- 168 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:08
- 「ほえー、石川のやつ、Bタイプ初披露だな。」
リヨンとの試合を翌日に控えているバレンシア。
合宿所のホテルで試合を見ていた矢口たちバレンシアイレブンも
この石川の“魔法の左足”に驚きを隠せなかった。
しかし矢口だけは驚かなかった。
なぜなら彼女は一度このFKを見たことがあるからだ。
アテネオリンピック予選リーグ第3戦、ブラジル戦の翌日、
石川の居残りFK練習に付き合った矢口はBタイプ、CタイプのFKを直に見た。
Cタイプとはその後のカメルーン戦で披露され、
“アゴンボール”と名付けられたFKだ。
- 169 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:08
- その後、オリンピックでも、それからJリーグ、
そしてプレミアでもタイプBが披露される事はなかった。
が、今、このチャンピオンズリーグという大舞台で初お披露目となった。
Aタイプが通常のFK。
Bタイプがアウトサイドにかけ、逆方向に曲がるFK。
そしてCタイプが揺れて落ちるというFK。
この3つに加え、伸びるボールも石川は蹴ることが出来る。
上下左右。
石川梨華の“魔法の左足”は今、全ての制空権を支配した。
- 170 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:09
- 「今度のは・・・・“しゃくれボール”だね。」
矢口がボソッと呟く。
「何それ?」
「ほら、あいつの顎ってしゃくれてるだろ?
そんな感じで曲がるから“しゃくれボール”。」
チームメイトのスペイン代表、ミホチャン・シライシの問いに答える矢口。
「なるほど。」
「へー、ヤグチうまいこと言うじゃん。」
同じくチームメイトのアルゼンチン代表、チヒロ・オニツカールをはじめ、
みな矢口の命名に納得して頷いた。
石川はCタイプに続き、Bタイプまでも矢口に勝手に命名されてしまった。
そのあまりに酷いネーミングに石川が半泣きになるのはまた後日のことであった。
- 171 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:10
- FCポルトVSマンチェスター・ユナイテッドは
石川梨華の“魔法の左足”が発動し、アウェーのマンチェスターが先制点をあげた。
しかし、ポルトも黙っているはずがない。
マエストロが逆転へのタクトをスッと構える。
この後も熱戦が期待される。
ここでもう一方の日本人対決にスポットを当ててみよう。
PSVアイントホーフェンVSユヴェントス。
こちらも熱戦が繰り広げられていた。
- 172 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:10
- 「きっちり27マーク!!!ツジを助けろ!!!」
PSVはユーヴェの27番“日本のエース”安倍なつみをしっかりマークし、
フリーにさせない。
もちろんエース、イタリア代表アレッサンドロ・デル・ハセキョンにも密着マークがつく。
PSVは全員で守り、ユーヴェの攻撃を止めていく。
全員が頑張っているPSVだが、一番頑張っているのは間違いなく辻だった。
そう、辻の相手は“パーフェクトクイーン”フランス代表ナナコーヌ・マツシマ。
世界最高の選手であり、明らかに格上の相手。
しかし辻は何度も振り切られようが、
持ち前のフィジカルと粘りでマツシマに食らいつく。
- 173 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:10
- 「くっ!!」
辻が激しくマツシマに当たる。
『・・・・いいパワーね。でもまだまだ。』
しかしマツシマはこれを受け止める。
そして辻を右手で押さえながら前線に鋭いスルーパスを出す。
このスルーパスに素早く反応したのは安倍。
絶妙のタイミングで飛び出し、マークについていたPSVDFを振り切る。
そして狙い済ましての右足。
が、これをPSVGKが右手で弾いた。
そのこぼれ球はPSVDFが懸命にクリアした。
- 174 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:11
- 「あーもう!!」
安倍が表情を歪める。
今のは決めておきたかった。
「ドンマイ。次頼むよ。」
マツシマが安倍に声をかける。
やはり安倍の動きは鋭い。
あれだけの密着マークを受けていながら
絶妙のタイミングの飛び出しでDFを振り切った。
これだとパスの送りがいがある。
『・・・・彼女がいればチャンピオンズリーグ、勝てる。』
マツシマはそう確信する。
今まで何度ストライカー不在で涙を飲んできたか。
しかし安倍がいれば大丈夫だ。
今季こそ悲願のビッグイヤー獲得へ。
ユヴェントスイレブンは燃えていた。
- 175 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:11
- “パーフェクトクイーン”マツシマから何度も前線に危険なパスが出る。
それを安倍、ハセキョン、チェコ代表MFアキコ・ヤダベド、
さらには福田が前線に飛び出しゴールを狙う。
しかしPSVも必死の守りを見せる。
気迫のこもった守りでユーヴェの攻撃を最後の最後で止めていく。
前半はユーヴェが圧倒的に押しながらも0−0で終了した。
- 176 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:12
- 前半終了の笛を聞いた瞬間、辻は腰に手をあて俯く。
まだ前半が終わったばかり。
だが、辻の体力はもうすでに限界近くに来ていた。
“パーフェクトクイーン”との1対1の勝負は辻に大きな負担を強いた。
「ノゾミ。」
そんな辻をチームメイトが脇から支える。
だが辻はそれをやんわりと断ると、鋭い目をマツシマに見せる。
その目は、自分はまだ終わっていないと雄弁に語っていた。
マツシマはそんな辻を見てフフッと微笑むと、ロッカールームへと戻っていった。
- 177 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:12
- 「アスカ、アベ、いいねえあの娘。」
ロッカールームに戻り汗をたっぷり含んだシャツを着替えるユーヴェ選手たち。
その際にマツシマが自分のマンマークについている小さな日本人の感想を
微笑みながら言った。
ここまでマツシマの圧倒的な勝利に見えるが実際はそうではない。
辻のパワーと粘り強さに手を焼いているのは確かだ。
現に前線へのパスが少し精度が悪い。
そのために前半戦は無得点に抑えられたのだ。
「でしょ?日本期待のMFだからね。」
福田がニッと笑って答える。
「あら、随分余裕だねアスカ。
彼女、アスカのライバルになるんじゃないの?」
こう福田に突っ込むのはオランダ代表MFエドガー・マヤミッキ。
福田と辻は同じボランチの選手。
辻の台頭は福田にとって厄介なはずだ。
- 178 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:13
- 「ふふっ、相変らずマヤは天邪鬼なんだから。」
ハセキョンがフフッと笑う。
「そうそう、ホントは分かってるくせに。」
フランス代表DF、アンパン・トダムも笑う。
「まあね、ちょっと言ってみただけ。」
マヤミッキも笑う。
イタリア代表GKジャンルイジ・フカキョンも、
それからヤダベドも同様に笑みを浮かべる。
「ねえねえ、一体何の事だべか?」
安倍が訳が分からずマツシマに尋ねる。
まだイタリア語は充分ではないが、拙くともイタリア語で尋ねる。
この問いにマツシマは苦笑する。
「アベ、あなたが一番分かっているでしょう?
アスカが誰かに負けると思う?」
「?!・・・・・・・・辻ちゃんには悪いけど、福ちゃんは負けない。」
「そういうこと。だからそれを分かって聞くマヤミッキは天邪鬼。」
「なるほど。」
安倍は納得した。
- 179 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:13
- 「はいはい、あんまり人を持ち上げないでよ。」
福田が肩をすくめて言う。
が、すぐに表情を引き締める。
「それよりマツシマ。あんたまさかこのままじゃないでしょうね?」
何だかんだ言っても現実的に今、ユーヴェは辻のディフェンスに抑え込まれている。
このままズルズルといけば流れが変わるのがサッカーだ。
「もちろん。確かに厄介な相手だけど、
あたしが普段の練習で対戦している生意気な小娘よりかは大分マシだからね。
でもそいつと違って素直で可愛い娘だから潰すのはちょっと気が引けるけど。」
「・・・・悪かったわね、生意気な小娘で。
ま、そこまで言うからにはちゃんと結果を出してよ。」
「もちろん。そっちこそあのおチビさんに足元すくわれないようにね。」
お互い憎まれ口をたたきあうが、これが2人のスタイル。
それは誰もがわかっていること。
この2人のやりとりを見てユーヴェイレブンは確信する。
後半、このユーヴェのホットラインが爆発する、と。
- 180 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:14
- 後半戦が始まった。
PSVは前半と同じく守りを固め、ユーヴェの焦りを待つ。
ここまで圧倒的にユーヴェが攻めながらも得点が奪えない。
それだけにしばらくすればユーヴェが焦って前がかりになる。
自分たちはその隙を突く、というのがPSVのゲームプランだった。
だが予想に反してユーヴェは全く焦らない。
きっちりとボールをキープし、自分たちのサッカーを展開してくる。
- 181 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:14
- 「来いっ!!アスカ!!」
マツシマが辻から激しいマークを受けながらもボールを要求する。
当然福田もマツシマにパスを送る。
このパスを辻を背負いながらトラップしたマツシマ、
辻を左手で押さえ、それを軸に右から辻を抜こうとする。
「くっ!!」
辻が必死に身体を寄せる。
が、マツシマは自分のかかとの後ろにボールを通して素早く切り返す。
伝説のプレイヤー、ヨハン・クライフのクライフターンだ。
- 182 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:14
- 「まだ!!!」
しかし辻も粘る。
体勢を立て直し、必死に足を伸ばす。
が、これをもマツシマはかわす。
もう一度切り返し、完璧に辻をかわした。
この大柄な身体でこの鋭い動き。
さすがはパーフェクトクイーンだ。
マツシマが前を向く。
その瞬間安倍とハセキョンが連動して動く。
右サイドからはヤダベドも中に切れ込んでくる。
- 183 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:15
- 「見えた。」
マツシマの目に白い道が見えた。
次の瞬間、マツシマはその白い道に沿ってパスを出した。
マツシマの右足から放たれたパスは、
常人では絶対に見えないコースに転がっていく。
- 184 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:15
- このパスに反応したのは前線の3人ではなかった。
反応したのは安倍を追い越し、最前線へ飛び出した福田明日香だった。
『相変らず凄いパス。』
福田もこのパスには脱帽せざるを得ない。
ひとみのように鋭く、柴田のように優しいパス。
まさに究極のパスだった。
このパスを福田はきっちりとPSVゴールに叩き込んだ。
後半12分。
ついにユヴェントスがPSVゴールをこじ開けた。
- 185 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:16
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
フィリップス・スタディオンは大きく揺れた。
敵も味方も関係ない。
誰もが今魅せたマツシマのファンタジーに酔いしれていた。
「くっ・・・・」
辻が唇を噛み締める。
ここまで粘ってきたが、ついにゴールをこじ開けられた。
思わず俯く辻だが、ふと周りを見るとPSVの選手は同じように俯いていた。
『ダメだ。』
辻はハッとなり、身体を起こす。
「みんな!!まだ時間はたっぷりあるよ!!すぐに取り返そう!!」
辻の声にPSVの選手たちも顔を上げる。
そして辻の姿に気付く。
辻の顔は汗と芝でどろどろになっており、走りすぎたせいか顔色も悪い。
当然ユニフォームも汗と芝でぐちゃぐちゃだった。
それでも辻は顔を上げ、必死に周りを鼓舞する。
「・・・・ノゾミの言うとおりだ。まだ時間はあるぞ。」
PSVキャプテンの声に頷く選手たち。
まだ試合は終わっていない。
- 186 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:16
- 「やっぱいいねあの娘。」
ゴールを決めた福田とハイタッチを交わしたマツシマ。
必死な姿の辻を見てフフッと微笑む。
まるで昔の福田を見ているようだ。
「でも素直に真直ぐ育って欲しいな。こんなひねくれ者にはならないで。」
今の福田を見て言うマツシマ。
「・・・・・むかつくけど同感。ま、でもあの娘には何の心配もいらないよ。
それよりマツシマ、まさかこの一発で今日はお役御免とか考えてないよね?」
「え?ダメなの?」
「あたり前でしょ?まだたったの1点なんだから。
あんた今季はあんまり調子よくないんだから、
身体動くうちにちゃんと仕事しときなよ。」
「・・・・・・こういうところがひねくれ者なんだよな。」
マツシマが肩をすくめる。
- 187 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:17
- マツシマは分かっていた。
福田の言うとおり、今季の自分はあまり調子がよくない。
これは感覚的なものである。
何かがしっくりきていなかった。
しかし今日はいつもよりも調子がいい。
だからこそ今日、いいプレーを続ける事で
復調のきっかけを掴んで欲しいと福田は考えたのである。
その気持ちをマツシマは分かっていた。
「あんまり福ちゃんを苛めたらダメだべさ。
福ちゃんは素直でいい娘だべさ。」
「ちょ、ちょっとなっち!」
安倍がギュッと福田を抱きしめる。
それに福田は真っ赤になる。
「違いないね。確かに素直だ。」
みながその福田の様子を見て笑う。
ユーヴェは本当にいい雰囲気だった。
- 188 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:17
- 「よしお前たち!!それでいいぞ、どんどん行け!!」
ユーヴェ監督、オダギリ・ジョリッピが選手たちに指示を出す。
彼はこのチームに手応えを感じていた。
確かに今、リーグ戦では調子は良くない。
しかし今日で復調の兆しは見えた。
『このチームこそ、今まで自分が率いてきたユーヴェの中で最強のチームだ。』
ジョリッピはそう確信していた。
この後試合は辻が頑張るものの、マツシマのファンタジーがまたも発動。
さらには福田とのコンビでPSVディフェンスをズタズタに切り裂いた。
マツシマからのパスを安倍、ハセキョンが決め、3−0でユーヴェが快勝した。
- 189 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:18
- 試合終了の笛が鳴った瞬間、辻は思わずピッチにひれ伏した。
その目からは涙が零れ落ちる。
悔しくて涙が止まらない。
後半戦は全く相手にならなかった。
自分の力不足が情けない。
「ノゾミ。」
そんな辻をチームメイトが起き上がらせる。
そしてサポーターたちに挨拶に行こうと促す。
辻も涙をこぼしながらも、前を向き、応援してくれたサポーターに挨拶をする。
「あの娘、大きくなるね。」
「ああ。」
その様子を見ていたユーヴェの選手たちが口々に言う。
ノゾミ・ツジ。
この試合、敗れはしたものの彼女の名前は世界一流の選手たちの頭に刻まれた。
- 190 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:19
- 一方、FCポルトVSマンチェスター・ユナイテッドの試合も佳境を迎えていた。
前半7分にマンチェスター・ユナイテッドはMF石川梨華の“魔法の左足”で先制する。
しかしその後はポルトも勢いを取り戻し、昨季の3冠王者に互角以上の戦いをみせる。
「サヤ!!」
引いてボールをもらった柴田、前線へスルーパスを出す。
このパスに反応したのはボランチの位置から前線に飛び出したサヤ。
マンチェスターDFダイチナンドのチェックを受けながらも鋭いシュートを放つ。
が、これは惜しくもゴールの枠をとらえきれなかった。
- 191 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:19
- 「オッケー!!!ナイッシュー!!!」
柴田がパンパンと手を叩く。
それに手を上げて応えるサヤ。
「ちっ、この2人は厄介だ。」
闘将シマ・キーンが表情を歪める。
ポルトは柴田とサヤ、この2人がゲームを支配する。
互いにポジションチェンジを繰り返し、
マンチェスターのディフェンス陣を混乱させる。
- 192 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:19
- 「任せろ!!」
ゴール前に上がったクロスもポルトDFナナコド・オオコーチがその高さで弾き返す。
「うらっ!!」
中盤ではマジュ・オザワーニャが激しいディフェンスで引き締める。
「アユミさん!!」
右サイドバックのスズキ・エミイラが何度もオーバーラップし、
攻撃に厚みを加える。
「出して!!」
FWミナコ・ナッカーノーも素晴らしいスピードでDFラインの裏を狙う。
「よしよし、ええで。その感じで攻めればええ。」
腕を組み、満足気に頷くポルト監督テレ・キダターロ。
柴田がポルトガルリーグ、スーペルリーガで衝撃的なデビューを果たした後、
キダターロは柴田をチームの中心に据えた。
柴田に自由を与え、攻撃の全てを任せたのだ。
そのおかげで柴田の力が充分に引き出され、
そして他の選手も柴田のパスによって力を引き出された。
素晴らしい好循環だった。
さすがは“モーツァルト”と異名をとるテレ・キダターロ。
チームを上手く“編曲”した。
- 193 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:20
- 「・・・・・・強い。」
目の前で展開されるポルトのサッカーに
さすがの名将サトミックス・ファーガソンも唸らされる。
世界的にはまだ無名な選手ばかり。
ネームバリューでは完全にマンチェスターが上だ。
しかし彼女たちの実力は本物で、テレ・キダターロの戦術も上手くマッチしている。
それに彼女たちには野心がある。
ビッグになってやるという野心が。
一方、マンチェスターはほとんどが全ての栄光を手にした満腹の選手ばかり。
それに加えて昨季は究極の3冠を獲得したのだ。
どこか気持ちの面で満足しきっている部分があった。
更に言えばポルトなど敵ではないといった慢心があったのも事実だ。
こういった部分が勝敗を決める。
それがサッカーだ。
- 194 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:21
- 左サイドに開いた石川にパスが通る。
昨季3冠を経験していないのが石川だ。
彼女だけは高いモチベーションでこの試合に臨んでいる。
この石川とマッチアップするのがポルトガル代表DFスズキ・エミイラ。
国外でも注目されつつある新進気鋭の右サイドバックだ。
「エミ!!もっとプレッシャーかけて!!
梨華ちゃんに左足を出させる隙を創っちゃダメ!!」
柴田が指示を送る。
その指示通り石川との間合いを詰め、激しく当たるエミイラ。
こう密着されては石川の“魔法の左足”も発動できない。
- 195 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:22
- 「あっ?!!」
しかし石川もその力を見せる。
上手く身体を入れかえ、そして鮮やかなボールコントロールでエミイラをかわした。
そして次の瞬間、“魔法の左足”が発動した。
石川の左足から放たれたボールは、まるで意志を持ったかのように
ゴール前へ走り込むマツ・ユキ・ヤスコローイの頭に吸い込まれていく。
「やられた!!」
柴田が思わず叫ぶ。
それほど完璧なクロスだった。
- 196 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:23
- ガンッ!!!!
しかし聞こえたのはネットを揺らす音ではなく、
クロスバーを叩く音。
ボールは大きく跳ね返りペナルティエリアの外へ。
ヤスコローイ、痛恨のヘディングミス。
絶好のチャンスを外したマンチェスターは一瞬足が止まる。
これをポルトは見逃さなかった。
ペナルティエリアの外に跳ね返ったボール。
これを拾ったのはサヤだった。
サヤは前を向くと一気に右サイドへロングパス。
- 197 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:23
- このパスに走り込むのはミナコ・ナッカーノー。
ボールをトラップすると素晴らしいスピードで右サイドを駆け上がる。
ポルトのカウンターアタックだ。
「マオ!!そこで潰せ!!」
懸命に戻るシマ・キーンが叫ぶ。
ダイチナンドがナッカーノーを止めるべくチェックに行くが、
ナッカーノーは充分に引き付けてから中央にグラウンダーでパスを送る。
このパスの先に走り込んでいたのはボランチのマジュ・オザワーニャだった。
そのままダイレクトでゴールを狙う。
しかしマンチェスターDFも必死に身体を張り、
このシュートをブロックした。
ボールが跳ね返る。
しかしこのルーズボールは意志を持ったかのようにある選手の目の前に転がる。
- 198 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:24
- 「早く潰して!!!」
その選手を見て石川が叫ぶ。
石川にははっきりと見えた。
彼女が左足というタクトを抜いたのを。
「アユミ!!!」
ナッカーノーが右から中に切れ込んでくる。
次の瞬間、柴田の左足が一閃した。
「あっ?!!!」
- 199 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:24
-
その時、ポルトガルの夜空に大きな虹がかかった。
- 200 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:24
- ナッカーノーへのスルーパスと読んだマンチェスターGKは一歩も動けなかった。
ボールは27mの虹を描き、ゴールネットに吸い込まれていった。
後半33分。
FCポルト、柴田の“ラルクアンシエル”によりついに同点。
- 201 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:25
- 「アユミ!!!!」
ポルトの選手たちが一斉に柴田に抱き付く。
スタジアムも大歓声で揺れ、サポーターたちも狂喜乱舞だ。
「まだ同点。もう1点とるよ。
今のうちにとっとかないと後がきつい。」
柴田が喜びもそこそこに言う。
柴田の言うとおりだった。
ここはポルトのホームだ。
このまま1−1の引き分けに終われば、
アウェーゴールの関係で第二戦はマンチェスター有利になってしまう。
それだけに絶対にあと1点とって勝利しなければならない。
「よし、もう1点とるよ。」
「おう!!」
オオコーチの声に頷くポルトの選手たち。
もっと上へ行くために、彼女たちは貪欲に勝利を目指す。
- 202 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:26
- 「みんな落ち着いていこう。この試合はこのまま逃げ切ればいいから。」
マンチェスターキャプテンのシマ・キーンが失点に浮き足立つイレブンを落ち着かせる。
マンチェスターとしてはこのまま引き分けに持ち込めれば御の字だ。
次戦はホームでの試合で、取りこぼす事は考えられないからだ。
しかしこの思考は王者が逃げ腰になっている事を示すものだった。
- 203 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:26
- ピィ!!!!!
主審の笛が鳴り、試合が再開された。
ポルトは同点に追いついた勢いをそのままに攻撃を仕掛ける。
「エミイラ!!」
柴田から最高のタイミングで右サイドからオーバーラップするエミイラにパスが渡った。
これを受けたエミイラ、中に鋭いクロスを送る。
このクロスにナッカーノーが合わせるが、
これはマンチェスターDFダイチナンドが競り合ったため合わせきれなかった。
ボールはすっぽりとGKの胸に。
- 204 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:27
- ワアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!
ゴールこそならなかったが、ポルトのいい攻撃にスタジアムが熱狂する。
『今のポルトの勢いだと逃げ切るのは難しい。こっちも攻撃的にいかないと。』
この攻撃に危機感を覚えるのが石川梨華。
彼女は誰よりもポルトの、柴田あゆみの恐ろしさを知っている。
受身に回って凌ぎきれる相手ではないという事を。
「はいっ!!こっち出して!!」
石川が左サイドを駆け上がりボールを要求する。
しかしボールは出ず、自陣内でボールを回すだけ。
どうやらマンチェスターは完全に引き分け狙いだ。
「ここでボールとるよ!!」
柴田のかけ声のもと、前線からプレスを掛けるポルト。
もう後半も終盤を過ぎているのにみな動きは鋭かった。
彼女たちを動かすのはモチベーション。
ビッグになるという野望だった。
- 205 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:27
- 「あっ?!!!」
この激しいプレスにマンチェスターは最終ラインでミスが出た。
それをナッカーノーがかっさらう。
必死にダイチナンドが追いかけるが追いつかない。
GKとの1対1。
ナッカーノーは狙い済ましてシュート。
が、これをマンチェスターGKがビッグセーブ。
伸ばした足に当てた。
- 206 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:27
- ウオオオオオオオオオオ?!!!!
思わず頭を抱えるポルトイレブンにポルトサポーター。
だが、まだチャンスは続いていた。
ボールは左サイドへ転がっていく。
このこぼれ球にいち早く反応したのが柴田だった。
全速力で追いかける。
- 207 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:28
- ボールに追いついた柴田。
中を見る。
「アユミ!!!」
ゴール前ではナッカーノー、サヤ、
それから右サイドバックのエミイラまでも待っている。
だがマンチェスターDF陣も戻っている。
- 208 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:28
- 『ここだっ!!』
柴田の目に白い道が見えた。
次の瞬間、柴田の左足が一閃した。
「あっ?!!」
選手たちが叫ぶ。
柴田の左足から放たれたボールは、そこを通すか?
というようなコースで密集した選手たちの間をすり抜けていく。
誰も触る事が出来ない。
- 209 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:29
- 唯一触れたのがゴール前に詰めていた右サイドバックのエミイラ。
エミイラはただ左足を出すだけでよかった。
後半ロスタイム。
ついにFCポルト逆転。
- 210 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:29
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
その瞬間一斉に五万人が咆哮した。
その叫びはスタジアムを大きく揺らせた。
「しゃっ!!!」
思わず柴田も声を上げる。
そこへポルトの選手たちが覆いかぶさる。
みな雄たけびを上げていた。
見事な“天使のパス”にみなが酔いしれていた。
- 211 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:29
- 昨季3冠王者のマンチェスターイレブンはがっくりと肩を落としていた。
まさかの逆転。
これで一気に苦しくなった。
このまま終わればホームでは絶対に勝つしかなくなる。
「まだ。まだ試合は終わっていない。」
しかし彼女は、石川梨華は諦めていなかった。
親友との対決。
1分1秒でも残っている限り全力をつくす。
石川はボールを持ってセンターサークルへと走る。
「みんな、まだ終わってない!!最後まで気を抜くな!!」
それを見た柴田、声を張り上げみなを引き締める。
ここで気を許して失点しては、全てが無駄になる。
- 212 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:30
- ピィ!!!
主審の笛が鳴り、試合が再開された。
ヤスコローイからマツシタへボールがわたる。
そしてヤスコローイは上がってきたダイチナンドとともにポルトゴール前へ走る。
パワープレーだ。
マツシタは出来るだけ突破を試み、少しでも相手のマークを分散させる。
しかしそれはポルトの中盤が許さない。
柴田、サヤ、そしてオザワーニャがマツシタの前に立ちはだかる。
- 213 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:30
- 「マツシタさん!!」
石川が左サイドからフォローに来た。
マツシタは石川にパスを出し、自分は前に走る。
リターンをもらい、この3人をかわすつもりだった。
しかし石川はパスを出さなかった。
このパスをトラップすると、力強く右足を踏み込む、思いっきり左足を振り抜いた。
「来たっ!!!」
このパスに反応するのはマツ・ユキ・ヤスコローイにダイチナンド。
ゴール前に飛び込む。
しかしこのパスは大きかった。
このままではゴールラインを割ってしまう。
- 214 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:30
- 「えっ?!!」
しかしここで信じられない事が起こった。
大きいと思われたボールが急激に曲がって落ちたのだ。
そのボールはまっすぐゴールへと向かっている。
「入れ!!!」
石川が叫ぶ。
そう、石川はパスではなくシュートを狙ったのだ。
60mの超ロングシュート。
しかもアウトサイドでカーブをかけ、サイドネットぎりぎりを狙っている。
まさに“魔法の左足”。
- 215 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:31
- 「くうっ!!!!」
ポルトGKが懸命にダイブする。
「止めろ!!!」
「入れ!!!」
2つの思いが交錯する。
- 216 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:31
- チッ!!!!
まず聞こえたのはGKの手に当たる音。
そしてそれと同時に
ガンッ!!!
金属音が聞こえた。
そして次に
ピィ、ピィ、ピィー!!!!!!
主審が3回笛を鳴らす音が聞こえた。
その瞬間ポルトのベンチから選手たちが飛び出した。
FCポルト、強豪マンチェスター・ユナイテッドに見事な逆転勝利。
- 217 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:36
- 「アユミ!!!」
「サヤ!!!」
サヤが柴田と抱き合う。
そこへポルトの選手たちも一斉に抱き付く。
ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
スタジアムも見事な逆転勝利に興奮も最高潮だ。
どの選手もいい出来だった。
が、やはり彼女の存在が一番頼もしかった。
サポーターたちは逆転への素晴らしいタクトを振るった柴田に大声援を送る。
- 218 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:37
- 「・・・柴ちゃん。」
「梨華ちゃん。」
石川が柴田のもとに歩み寄る。
「今日は負けちゃった。さすがだね柴ちゃん。」
「ううん、今日は運が良かっただけだよ。
梨華ちゃんこそ凄い左足だったよ。」
お互い今日の試合の健闘を称えあう。
試合が終われば2人は親友同士なのだから。
石川はユニフォームを脱ぎ、柴田に手渡す。
当然柴田もユニフォームを交換する。
「次は絶対に負けないからね。」
「うん。こっちだって負けないから。」
「またね。」
「うん、またね。」
そう言いあって2人は別れた。
- 219 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:39
- 次戦は2週間後。
場所はマンチェスター・ユナイテッドのホーム。
聖地、オールド・トラフォードだ。
次戦で今日の借りを返すことを誓う石川。
もう一度叩き潰すことを狙う柴田。
次戦、もう一度女王に挑戦する辻。
悲願に向け、邁進する福田、そして安倍。
チャンピオンズリーグ初戦。
世界最高峰の舞台で初っ端から熱い戦いが行われた。
そしてその中心にいたのは間違いなく日本人選手だった。
- 220 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/16(土) 23:40
-
第18話 チャンピオンズリーグ初戦 (終)
- 221 名前:ACM 投稿日:2004/10/16(土) 23:42
- 第18話 チャンピオンズリーグ初戦 終了いたしました。
今回はこちらの事情で1話を2回に分けて更新となりました。
読者様にとってどうでしたでしょうか?気になる所です。
近頃更新速度がめっきり落ちています。でも意欲は満々なので絶対に完結させます。
どうか皆様、最後までお付き合い下さい。
- 222 名前:ACM 投稿日:2004/10/16(土) 23:43
- では次回の予告です。
第19話 第2ラウンド
チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦も第2ラウンドを迎えた。
第1ラウンドとは違い、ここは生き残りをかけた瀬戸際となる。
この身を切るようなサバイバルマッチをくぐり抜けるのはどのチームか?
ついにベスト8、出揃う。
次回もよろしくお願い致します。
- 223 名前:ACM 投稿日:2004/10/16(土) 23:43
- スレ隠し
石黒 彩
“正統派ストッパー”
得意プレー:マンマーク ヘディング
ポジション:CB
所属クラブ:東京ヴェルディ1969 → ACミラン(イタリア)
・プレーの特徴
対人プレーには絶対的な力を持つ。
その高さと強さはまさにストッパー。
また冷静な判断力が武器で、無闇にファウルを犯さない。
セットプレーではその高さも武器となる。
課題は前線へのフィードが少々精度が悪い所。
・作者のイメージ
サムエル+ボンバーヘッド中澤、あとシュタムってとこですかね。
高さと強さを兼ね備えたセンターバックってとこです。
・本編での存在
思った以上に活躍してくれてます。結構前に出てるのではと作者は感じております。
そして何と、作者の愛するACミランに入ってしまいました。
これもシュタムが入ったせいですが、上手い具合にこの話でもミランは左サイドバックがあいており、
ナカムラーニを左サイドバックにコンバートできました。
上手く現実にリンクできたのではと思ってます。
- 224 名前:ACM 投稿日:2004/10/16(土) 23:45
- では、本日はここまでとさせて頂きます。
また次回更新まで失礼いたします。
- 225 名前:みっくす 投稿日:2004/10/17(日) 02:00
- 更新おつかれさまです。
いやーすげー読み応えのある試合。
実際の試合がこんなことになれば、
いくらだしてもいいので、スタジアムで見たいです。
チャンピオンズリーグの試合で
「中心にいたのは間違いなく日本人選手だった」
日がはやくきてもらいたいものです。
次回も楽しみにしてます。
- 226 名前:ピクシー 投稿日:2004/10/17(日) 05:01
- 更新お疲れ様です。
いや〜・・・ハイレベルですねぇ。
辻は、悔しさの分だけ成長するタイプ、っぽいですもんねぇ。
今後の伸びに注目です。
辻加護の対決も待ってますよ。
石黒・・・モデルは大体予想通りでした。
中澤は、最近特に成長著しいですよね。1対1もより強く、そのくせファウルは少なくなってますし。
ひょっとすると・・・宮本より欧州に近いかも、と思います。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 227 名前:娘。よっすぃー好き 投稿日:2004/10/17(日) 10:11
- 凄い見応えのある試合でした。日本人左足(?)対決は一番凄かった。
期待どおりのいい試合でした。
次は、○○ー○○○ーの共演かな?
次回の更新、楽しみにしています。
- 228 名前:B.C 投稿日:2004/10/17(日) 10:22
- 更新お疲れさまです。
かなり読み応えの有る2試合、堪能いたしました。
みなチームに無くてはならない存在になってますねー。
現実に日本人がこうはばたいてくれたらいいなぁと本当に思います。
次回更新楽しみにしています。
- 229 名前:名無し読者。。。 投稿日:2004/10/17(日) 14:20
- もう吉澤復活してもインパクトないような気がして心配なほど
みんな輝きだしちゃったなあ
- 230 名前:ACM 投稿日:2004/10/26(火) 15:39
- >>225 みっくす様
レスありがとうございます!
そうですね、いつか日本人が中心となる日が来て欲しいものです。
でも現実は今季チャンピオンズリーグ出場はゼロ。
悲しいですけど、これからに期待しましょう。
>>226 ピクシー様
レスありがとうございます!
辻さんはまさしくその通りです。成長度は抜群です。
そして辻が伸びれば当然加護も黙ってはいないでしょう。
これからの2人にご注目下さい。
>>227 娘。よっすぃー好き様
レスありがとうございます!
左足対決、楽しんでいただけたようで嬉しいです。
これだけ欧州に選手たちが出ると誰を取り上げたらいいのか迷ってしまいます。
でもこれこそ嬉しい悲鳴です。
- 231 名前:ACM 投稿日:2004/10/26(火) 15:41
- >>228 B.C様
レスありがとうございます!
みなチームに無くてはならない存在です。
しかし現実は今のところ厳しいようですね。
いつか、大きく羽ばたいてくれることを期待したいものですね。
>>229 名無し読者。。。様
レスありがとうございます!
確かにそうですね。みんなかなり輝いてます。
・・・・・・・・作者もちょっと心配になってきました。
ここで皆様にお詫びです。
今回、 第19話 第2ラウンド をお送りする予定でしたが、
第1ラウンドの残りの試合を書いていたところ、大分長くなってしまいました。
という事でまたも急遽の差し替えです。
これで予告破りは2回目です。本当にすみません。
話の内容的には第18話『チャンピオンズリーグ初戦』の続きなので、
今回の話は第18話としてお読み下さい。
- 232 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:42
- 日本人対決で盛り上がったチャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦第1ラウンド。
その他の試合でも熱戦が繰り広げられた。
2月22日に行われた他の2試合の結果は以下の通り。
レアル・ベティス 2−3 アーセナル
(グループH2位) (グループB1位)
スパルタ・プラハ 0−0 ACミラン
(グループG2位) (グループH1位)
- 233 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:43
- アーセナルはアウェーでベティスとの対戦。
ホームのベティスのサイドアタックに苦しめられ、
序盤で2点ビハインドという苦しい状況に陥る。
この辺りは欧州では勝てないアーセナルの異名通りの展開だった。
しかし今回は違うとばかりにアーセナルがプレミア無敗の実力を次第に発揮していく。
前半42分にフランス代表FWウエト・アーヤがゴールを決め反撃の狼煙を上げと、
後半6分にはアーセナルお得意の華麗なパス回しから
最後はナイジェリア代表FWヒローコ・オグーがゴールを決め同点に追いつく。
さらにアーセナルの勢いは止まらない。
後半33分、中盤センターの“フリーロール”日本代表市井紗耶香が
右サイドを突破して中にクロス。
このクロスに右から中に入り込んでいたフランス代表MFシノハラ・リョウコールが
見事なダイレクトボレーで突き刺した。
- 234 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:43
- 怒涛の反撃により、アーセナルはアウェーの地で見事な逆転勝利をみせた。
だがこの結果にもアーセナル監督ザイゼン・カラサワは不満顔。
「今日はリオナンプがいなかったため前線でタメが作れなかった。
オグー、それからイチイにはもっとやってもらわねば困る。」
「監督の言うとおりです。今日は全然だめです。」
逆転ゴールをアシストしたにも関わらず市井からも反省の弁しか出ない。
彼女はもっと高みを目指している。
今日の動きで満足していては明日は無いことを彼女自身が一番分かっていた。
- 235 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:44
- 続いてスパルタ・プラハとACミランとの一戦。
この試合はいわば波乱となった。
実力では完全に劣るスパルタ・プラハ。
ホームゲームでありながらほぼ全員が引き、ゴールに鍵をかけた。
まともに戦ってはほぼ負けるであろう。
スパルタ・プラハとしては初戦を何とか無失点で引き分けに持ち込み、
ミランを焦らして勝機を掴むしかなかった。
ブラジル代表ハマ・サーキ・アユウド。
ポルトガル代表ヒロスエ・リョウ・コスタ。
オランダ代表サトレンス・アイコルフ。
イタリア代表マユコ・ハカセ。
ミランの誇る中盤から何度も前線に危険なパスが送り込まれる。
この中盤を前にしてスパルタ・プラハは人数をかけて守るが、
それも無駄な努力だった。
それほどミランの中盤は図抜けていた。
- 236 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:44
- しかし、この試合はミランの誇る前線が完全に大ブレーキだった。
シュートを撃てども撃てどもゴールが決まらない。
ゴールポストであったりGKのファインセーブに合ったりと
まるで何かにとり憑かれたかのようであった。
もしかするとこのチャンピオンズリーグの3日前に
ミラノダービーを戦った疲れがあるのかもしれなかった。
試合終了間際には日本代表DF石黒彩を最前線に上げ、
さらにはデンマーク代表FWニシ・ダール・ナオミンまで投入して
パワープレーに持ち込むが、スパルタ・プラハも最後まで粘りきった。
試合終了の笛を聞いた瞬間、スパルタ・プラハの選手たちは思わずガッツポーズ。
スコアレスドロー。
まさに理想の結果だった。
これでミランはホームゲーム、
絶対に勝たねばならないというプレッシャーで戦う事となった。
完全にスパルタ・プラハの術中にはまった中、グランデミランがどう戦うか。
次戦が楽しみである。
- 237 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:45
- 翌23日も4試合が行われた。
この日のカードと、結果は以下の通り。
R・モスクワ 2−1 ASモナコ
(グループB2位) (グループC1位)
バレンシア 1−1 リヨン
(グループD2位) (グループA1位)
ボルシア・ドルトムント 0−1 チェルシー
(グループE2位) (グループG1位)
バイエルン・ミュンヘン 1−1 レアル・マドリード
(グループA2位) (グループF1位)
この4試合も熱い試合となった。
そして日本人選手もその輝きを見せつけた。
- 238 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:45
- ロコモティフ・モスクワとASモナコの試合は
ホームのロコモティフ・モスクワが2−1で競り勝った。
この要因は何よりも“気温”だった。
極寒の地、モスクワ。
2月の気温は明らかにモナコの選手たちの動きを封じ込めた。
試合の立ち上がりに立て続けに2失点を喫し、苦しい展開となったモナコ。
その後は自陣深くに引きこもるモスクワを崩せない。
- 239 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:46
- このまま試合終了かと思われた後半41分。
後半途中に右サイドからFWにポジションを変えた高橋愛が、
ドリブルで積極果敢にペナルティエリアに突っ込む。
その華麗なドリブルは一昨年までチームのエースとして君臨した
市井紗耶香を彷彿とさせるもの。
その鋭いドリブルにたまらずモスクワDFが足を引っ掛ける。
ピピピピピピピ!!!!!!
主審の笛が鳴った瞬間高橋は思わずガッツポーズ。
このPKをモナコはきっちりと沈め、1点返した。
試合はこのまま2−1でモスクワが勝利したものの、
この最後の1点は次戦に希望をつなぐもの。
次戦、ホームスタジアムのスタッド・ルイ2世で逆転勝利を
“日本の次代のエース”は狙う。
- 240 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:47
- バレンシアとリヨンの一戦は1−1のドロー。
どちらもFWの決定力不足が目立つ試合となった。
バレンシアは司令塔、アルゼンチン代表チヒロ・オニツカールが
華麗なゲームメイクで攻撃を指揮していく。
彼女のパスに世界最速の両翼、スペイン代表ミホチャン・シライシ、
日本代表矢口真里が何度もサイドを突破しチャンスを作る。
しかし最後のフィニッシャーだ。
最後ゴールに押し込むべき1トップにバレンシアは人材を欠いていた。
ゴール前での競り合いに勝て、またポストプレーにも長けた1トップを任せられるFW。
これがバレンシアが望む人材であった。
当然バレンシア首脳陣も様々な選手をリストアップしている。
その中にある日本人選手が含まれている事をここで記しておこう。
なお、両チームの得点はバレンシアDFのオウンゴールと、
チヒロ・オニツカールの芸術的なFKのみと流れからのゴールがないまま終わった。
ホームでの1−1の引き分け。
正直苦しくなったが次戦、リヨンのホームに乗り込んでバレンシアは
逆転の一回戦突破を狙う。
- 241 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:48
- そしてボルシア・ドルトムントとチェルシーの一戦。
ドルトムントにチェルシー。
どちらも攻撃陣に名だたるアタッカーを揃え、
攻撃力が持ち味のチームだ。
ドルトムントの司令塔はチェコ代表ミズノ・ミキツキー。
その華麗なパスとスピードでドルトムントの攻撃を指揮する。
FWには同じくチェコ代表トミ・ナガー。
その長身から繰り出されるヘッドの威力は抜群でなおかつ足元も上手いストライカー。
ボランチにはナイジェリア代表のニシヤマ・キクエーがおり、
その強烈なミドルシュートと後方からのゲームメイクで攻撃にアクセントを加える。
- 242 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:49
- 一方チェルシー。
2トップに自身の得点能力だけでなく、味方を活かすポストプレーにも長けた
アルゼンチン代表アムロン・ナミエポ。
切れ味鋭いドリブル突破が持ち味のルーマニア代表タナカアン・レナァ。
お互いの特性を補完し合えるバランスのいい2トップだ。
フラットなMFは左にドリブラーアイルランド代表サカイン・ミキ。
中央にボール奪取のスペシャリスト、フランス代表マナーミ・コニシシ。
“小さな魔法使い”ゲームメイカーアルゼンチン代表マイ・セバスチャン・クラキ。
右にはイングランドの司令塔、リョウ・コール。
これだけのタレントが前線に揃う両チーム。
サッカーファンたちは壮絶な打ち合いをこの試合に期待していた。
- 243 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:50
- が、その期待はいい意味で大きく裏切られる。
ボルシア・ドルトムントGK飯田圭織。
チェルシーGKサ・トエリ。
このアジアを代表する守護神2人がこの試合の主役だった。
- 244 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:51
- 「えっ?!!!」
思わず声を上げるのはアルゼンチンの産んだストライカー、アムロン・ナミエポ。
完璧なボレーシュートだった。
右サイドをイングランド代表リョウ・コールが突破し、中にクロス。
これを至近距離から右足ダイレクトボレーでとらえた。
だがこのシュートをなんとドルトムントGK飯田圭織が超人的な反応で弾く。
さらにこのこぼれ球を上がってきたマイ・セバスチャン・クラキが
ダイレクトで強烈なミドルシュート。
しかし飯田はこれをも弾く。
一瞬の瞬発力でこのシュートを見事にフィスティング。
コースを変え、ゴールの枠から外れさせる。
- 245 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:52
- ウオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!!
スタジアムが飯田のビッグセーブ連発に大きくどよめく。
「イイダ!!!!!」
「カオリ!!!!!」
そしてドイツで1、2を争う熱さのドルトムントサポーターが
日本の守護神に大声援を送る。
チームメイトも頼りになる守護神を称える。
「まさかこれほどなんて・・・・・」
チェルシーの選手たちが信じられないといった表情で呟く。
試合前のミーティングでチームメイトのサ・トエリが
何度もイイダの凄さを熱く語っていた。
が、まさかこれほどまでのGKとは思いもしなかった。
- 246 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:52
- 「さすが飯田。でもあたしは負けない。」
反対側のゴール前ではサ・トエリが満足気に頷く。
初めて彼女と出会ったのはアテネオリンピックアジア予選。
その時から2人はお互いを意識しあうライバルとなった。
だからこそチャンピオンズリーグで対戦できると聞いたときは
文字通り飛び上がって喜んだものだ。
この世界最高峰の舞台でライバルと勝負できる。
選手にとってこれほど嬉しい事はない。
- 247 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:53
- 「トミー!!!」
ドルトムントのトップ下、チェコ代表ミズノ・ミキツキーの右足から
見事なスルーパスが放たれた。
このパスに反応するのは同じチェコ代表トミ・ナガー。
ポストプレーと見せかけ、上手く裏へと抜け出した。
ウワアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!
スタジアムが大きく揺れる。
フリーで抜け出したトミ・ナガー、GKとの1対1だ。
ドルトムント、絶好のチャンス。
- 248 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:53
- が、ここに立ちはだかる者がいた。
チェルシーGK、中国代表サ・トエリ。
両手を広げ、一気に前に出てくる。
「コ、コースがない?!」
フリーで1対1と、絶対的に有利なトミ・ナガー。
しかしその目には全くコースが映らなかった。
どこに撃っても全て止められるような気がする。
「くっ!!!」
コースが見えないトミ・ナガー、ここは力勝負に出た。
至近距離から思いっきり右足を振り抜く。
「?!!!」
がこのシュートにサ・トエリは反応。
右手でこのシュートを見事に弾いた。
- 249 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:54
- ブゥゥゥゥゥゥ!!!!
絶好のチャンスを外し、頭を抱えるドルトムントイレブン。
今のはこれ以上ない絶好のチャンス。
それを外したトミ・ナガーに容赦ないブーイングが飛ぶ。
「さすがサ・トエリ。最高のタイミングにポジショニングだよ。」
飯田がサ・トエリの飛び出しとポジショニングに感嘆する。
今のは完全にサ・トエリの勝ちだ。
「いいね、やっぱそうこなくっちゃ。」
飯田もサ・トエリのセービングに満足気な笑みを浮かべる。
序盤からビッグセーブを連発する2人。
今日はどうやら2人とも当たっているようだ。
ドルトムントのホームスタジアム、ヴェスト・ファーレンに集まった約69000人は
この2人がみせるセービングに瞬く間に魅了された。
- 250 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:55
- その後も両GKはビッグセーブを連発。
チームの危機を見事に救う。
そして圧巻だったのは両GKともPKを一度ずつ止めた事だ。
この両GKのセービングには、さすがのワールドクラスのアタッカーたちも
打つ手がないといった感じだった。
しかし後半36分。
この試合でたった一度だけゴールネットが揺れた。
- 251 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:55
- 左サイドをチェルシーMFサカイン・ミキが突破する。
ゴール前にはアムロン・ナミエポとタナカアン・レナァが詰めている。
サカイン・ミキは低いグラウンダーのクロスを送った。
「任せて!!!」
このクロスに飛び出す飯田。
ナミエポ、レナァの前に飛び出し、このクロスをキャッチ・・・・・・の瞬間、
彼女の目の前に現れたのはドルトムントDF。
そのDFは懸命に滑り込み、このクロスをクリアしようとする。
ボールは懸命に伸ばしたDFのつま先に当たり、コースが変わる。
そしてそのままゴールネットに飛び込んで行った。
ドルトムント、痛恨のオウンゴール。
- 252 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:56
- 「くっ・・・・・・」
飯田がうな垂れる。
ここで飯田の、ドルトムントの弱点が露呈された。
それはコミュニケーションの問題だった。
飯田のポジションはGK。
GKはDFとの連係が必要不可欠となってくるのだが、
まだ飯田のドイツ語は完璧ではない。
そのため今のような咄嗟の場面ではつい日本語が出てしまい、
意思が通わない事がある。
今のもそれが出たわけだが、それが初めて露呈されたのが飯田のデビュー戦。
藤本美貴率いるシャルケ04とのルールダービー。
2−2の引き分けに終わった試合だった。
- 253 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:56
- この試合、藤本は何度も左サイドからアーリークロスを上げ続けた。
もちろん、GKとDFのちょうど間にだ。
ただでさえGKとDFどちらが触るか難しい位置であるのに、
そこに言葉の問題も関わってくる。
藤本もドイツに来た当初は言葉に戸惑っていた。
その経験から飯田とドルトムントの弱点が手に取るように分かったのだ。
藤本はそこを徹底的に突いた。
案の定飯田とドルトムントDFの連係がとれず、
シャルケはあっさりと2点を奪う事に成功した。
その後ドルトムントは何とか2点を返し、引き分けに持ち込んだものの、
飯田のデビュー戦は日本代表の同僚から課題を突きつけられる結果となった。
- 254 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:56
- しかしこの試合の後、週に2度藤本から電話がかかってくるようになった。
そこでの会話は全てドイツ語で行われた。
それはつまり藤本がドイツ語の家庭教師をかってくれたのだ。
また、時間がある時には飯田のもとに訪ねてくれたりもした。
そこで言葉はもちろん、ドイツの生活習慣や、
日本食がおいてある店などありとあらゆる事を教えてもらった。
そのおかげで大分ドイツの生活に慣れ、言葉も理解でき、話せるようになった飯田。
しかし言葉は一朝一夕に体得できるものではない。
その不安がこのチャンピオンズリーグという大舞台で出てしまった。
絶好調だった飯田にとってはまさに痛恨だった。
試合は結局1−0でアウェーのチェルシーが勝利を収めた。
- 255 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:57
- 「今回はあたしが勝ったとは思ってません。
あたしの方が彼女より何年も早く欧州にに来ていた分の差が出ただけです。
飯田との勝負はまだまだ続くでしょう。」
WOMに選ばれたサ・トエリ。
飯田との勝負について問われた時、彼女はこう答えた。
彼女自身も初めてプレミアに来た時は言葉の問題で悩んでいた。
それから数シーズンたって、ようやく言葉に不自由しなくなった。
彼女がその本来の力を発揮し始めたのは昨シーズンからである。
やはりこの辺が守備陣、特にGKの難しさであろう。
飯田本人もそれを痛感していた。
しかしもちろんこれで怯む飯田ではない。
更なる飛躍を目指し、プレーはもちろん言葉のレベルアップも目指す。
「次は絶対に負けないから。」
飯田はそう誓った。
- 256 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 15:57
- そして最後にこの試合をお届けしよう。
バイエルン・ミュンヘンVSレアル・マドリード
この試合は、欧州屈指の名門同士の戦いに相応しいものとなった。
- 257 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:02
- どちらも欧州屈指の名門。
それだけに試合前からお互い緊張感がみなぎる。
サポーターたちも試合前からヒートアップしていた。
各国を代表するスーパースターたちがピッチに出揃う。
バイエルンもレアルも当然ベストメンバー。
当然みな分かっている。
持てる力を全て出し切らなければ、この名門同士の戦いを制する事はできない事を。
ピィ!!!!!!!
主審の笛が高らかに鳴り、注目の一戦が開始された。
- 258 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:03
- 序盤はホームのバイエルンが優勢に試合を進める。
エース、イケワキ・チイヅルーが右サイドから華麗なドリブルで突破する。
バイエルンはレアルの左サイド、ジュディマリ・ユッキーが上がったところを
徹底的に突いた。
幾度と無く右サイドを突破し、中にクロスを送るイケワキ。
このクロスにバイエルンが誇るツインタワー、
アマミステン・ユウキーとキムラ・ヨシーノが飛び込む。
さらにはこの2人の後ろからナキャタニ・ミキックも飛び込んでくる。
- 259 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:03
- 「守れ!!!絶対に点を許すな!!!」
レアルセンターバック、イナモリッド・イズミがDFラインに的確な指示を出す。
彼女とリナン・ウチヤマがバイエルンのツインタワーを抑え込む。
が、もう1人、ナキャタニ・ミキックだけはどうしても捕まえきれない。
幾度となく決定的なシュートを浴びるレアル。
しかし今日のレアルGKナカネ・カスミージャスは、まさに神懸っていた。
ビッグセーブを連発し、バイエルンのシュートを防いでいく。
「さすがカスミージャスね。」
彼女も世界bPGKヨシナ・ガーンにその実力を認められた選手だ。
銀河系選抜と言われるレアル不動の守護神。
その名に相応しいセービングを見せる。
- 260 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:04
- そうこうしているうちにバイエルンも序盤に比べてやや勢いが衰える。
右サイドを起点に攻撃を仕掛けるのだが、あまりにも右サイドに偏りすぎた。
次第にレアル守備陣がイケワキのドリブル突破に慣れ、攻撃が滞る。
「・・・ミキ・フジモトがいたならば・・・」
スタジアムのVIP席ではバイエルン会長、ケージ・アオシマ・オダユージが
腕を組み、表情をゆがめて戦況を見つめていた。
今日展開しているバイエルンの攻撃は悪くない。
2トップとミキックの高さを活かすためにサイドを突破しクロスを送る。
攻撃陣のタレントを活かしたいい攻撃だ。
しかしそれも右サイド一辺倒では話が違ってくる。
攻撃は次第に単調になり、相手にとっても守りやすくなってしまう。
そのために左サイドからの攻撃も必要となってくるのだが、
今のバイエルンの弱点は左サイド。
左からの攻撃が全く機能しなかった。
これでは真の強豪相手に勝つ事はできない。
右サイド偏重は昨季からの課題であったが、今季はさらに深刻になっていた。
それはリーグ戦でも結果となって現れており、
現在バイエルン・ミュンヘンはこれほどのタレントを揃えながら2位に甘んじている。
- 261 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:04
- 当然フロント陣もこの状況を的確に捉えていた。
その結果、今季開幕前にシャルケ04の藤本美貴を獲得したが、
藤本の強い希望もあり彼女は今季一杯までシャルケ04に残留。
加入は来季からだ。
しかし現状では今すぐにでも藤本に加入して欲しかった。
それぐらいバイエルンの左サイドは機能していなかった。
- 262 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:05
- 「ちっ、ヤバイな・・・・・そろそろ点を取っておかないと・・・・」
バイエルンのエース、イケワキ・チイヅルーは焦りを感じていた。
何度も決定的なチャンスを迎えながらも得点が奪えない。
サッカーは必ずこういった時に流れは変わる。
だからこそまだ流れのあるうちに点を取っておかねば。
「ミキ!!!」
右サイドでボールを要求するイケワキ。
そこへマークに付くのは抜群の身体能力を誇るジュディマリ・ユッキー。
試合序盤はいつも通り攻撃にも顔を出していたが、
中盤からは自陣で守備に専念していた。
ここまでバイエルンを無得点に抑えているのも彼女の力が大きい。
その分レアルの攻撃力も低下しているのだが。
- 263 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:05
- ミキックからのパスを受けたイケワキ、ジュディマリ・ユッキーと対峙する。
『彼女は少々バランスを崩してもダメだ。完全に崩させないと。』
相手は怪物のような身体能力。
だがイケワキもテクニックは充分怪物だった。
「あっ?!!」
イケワキの鋭い切り返しにジュディマリ・ユッキーがバランスを崩す。
その瞬間爆発的なダッシュで前に出る。
「行かせない!!」
だがジュディマリ・ユッキーも抜群の身体能力でイケワキに食らいつく。
が、もう一度イケワキは切り返した。
「くっ!!!」
これにはさすがのジュディマリ・ユッキーもバランスを崩した。
「ここだっ!!」
そしてイケワキはバランスを崩したジュディマリ・ユッキーの股間を抜く。
これにはたまらずジュディマリ・ユッキーも尻餅をつく。
- 264 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:06
- 「見えた!!!」
そしてイケワキの目が白い道をとらえた。
ドイツサッカー界の宝、“ファンタジスタ”イケワキ・チイヅルー。
彼女の右足から放たれたパスはレアルDF陣を一発で崩壊させた。
このパスをオランダ代表キムラ・ヨシーノが押し込み、
後半21分、ホームのバイエルン・ミュンヘンが見事に先制した。
- 265 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:06
- ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
バイエルンのホームスタジアム、オリンピア・シュタディオンが大歓声で揺れた。
どうだレアル、彼女が俺たちの宝だ!!!
そんな声が聞こえてくるようなバイエルンサポーターの大声援だった。
この失点にレアルの選手たちはガックリと肩を落とす。
ここまで耐えてきたが、とうとう失点してしまった。
残りは25分ほど残ってはいるが、今日のレアルの調子では正直望みが薄い。
- 266 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:07
- 「まだだ。まだまだ時間はあるよ。」
「マキ・・・・・?」
失点にショックを受け、ガックリと肩を落とすレアルイレブン。
そんな中、FWの後藤が自陣ゴールまで戻り、ネットに絡まったボールを拾う。
後藤の表情はかつてないほど鋭いものになっていた。
この表情に戸惑うレアルイレブン。
「・・・・・・マキにボールを集めよう。」
その表情を見てみなに進言したのは“スペインの至宝”ユウーコ・タケウッチャン。
こんなマキは初めてだ。きっと何かやってくれる。
ユウーコはそう確信していた。
- 267 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:08
- ピィー!!!!!
主審の笛が鳴り試合が再開された。
レアルはすぐにボールを後藤に集める。
「行かせないよ!!!」
バイエルンはボランチの選手が徹底的に後藤をマークする。
これは試合開始からずっと続いていた。
バイエルンもレアルのキープレイヤーは後藤真希であると睨んでおり、
彼女さえ潰せばレアル自慢の攻撃陣も単発的なものになる事を理解していた。
そしてそれはここまで完璧に事が運んでいた。
が、先制点を奪われた後の後藤は、
スイッチの入った後藤真希は一味も二味も違った。
- 268 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:09
- クローキからパスを受けた後藤。
激しいマークをもろともせずあっさりと身体を入れかえ、前を向いた。
そして前を向いた瞬間に前線へスルーパス。
このパスにブラジル代表FW“フェノーメノ”ヒカルドが反応。
追いすがるDFを振り切り左足でゴールを狙う。
だが守るは世界bPGKヨシナ・ガーン。
鋭い反応でこのシュートを止める。
オオオオオオオオオオ・・・・・・・・
バイエルンのサポーターが安堵の溜息をつく。
今のは危なかった。
完璧なスルーパスにシュート。
GKがヨシナ・ガーンでなければ確実に失点していたところだ。
- 269 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:10
- 「危なかった・・・・・・」
「ああ。やっぱりレアルはゴトウが絡むと厄介だ。」
イケワキとミキックがその存在の脅威を再確認する。
「・・・・チイ、あたしもゴトウに張り付くよ。」
「わかった。頼むよミキ。」
ここはバイエルンホーム。
勝利は絶対条件であり、失点も出来れば避けたいところだ。
だからこそミキックは後藤のマークに付き、守りきる。
彼女さえ抑えれば・・・・・
それがバイエルンの選手たち全員の共通認識であった。
- 270 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:10
- 「ちっ!!」
右サイドでイケワキがあっさりと潰されてしまった。
レアル守備陣もそう何度も突破を許しはしない。
「マキ!!!」
こぼれ球を拾ったシマタニッソがボールをもらいに中盤に下がってきた後藤へ
グラウンダーのパスを送る。
当然後藤にはミキックとボランチの選手が付いている。
- 271 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:11
- 「なっ?!!」
後藤はボールをもらいに下がったのだが、途中でクルッと反転した。
その反転の際に左足のヒールで右サイドへダイレクトパスを送る。
このパスは寸分の狂いもなく右サイドのヒトミ・クローキへ。
後藤はそのまま全速力で前線へと上がる。
「くっ!!!」
慌ててミキックとボランチが反転し、後藤を追いかけるが出遅れた。
一瞬の遅れがこのレベルでは命取りだ。
パスを受けたクローキはバイエルン左サイドバックをあっさりかわし
右サイドを突破する。
- 272 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:11
- 「来いっ!!」
ゴール前にはヒカルド、左サイドからユウーコが走り込んでいる。
そして後藤も素晴らしいスピードでペナルティエリアに侵入してきた。
クローキは中を良く見てクロスをあげた。
が、クロスはペナルティエリアの外へ。
そこに走りこんできているのはイングランド代表キャプテン、ルイビット・シバサキ。
バイエルンディフェンスは完全に裏をかかれた。
シバサキは走り込んで来た勢いをその黄金の右足に乗せる。
- 273 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:12
- 強烈なシュートがバイエルンゴールを襲う。
完璧にコントロールされたショット。
だがしかしバイエルンゴールを守るのはこの人だ。
ドイツ代表、世界bPGKヨシナ・ガーン。
このシバサキの強烈なシュートを素晴らしい反応で右手一本で弾き返した。
ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!
バイエルンホームスタジアム、オリンピア・シュタディオンが大歓声で揺れた。
さすがは世界bPGKヨシナ・ガーン。
あの完璧なシュートを止めるとは。
- 274 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:12
- 「これは・・・・・本当に壁だな。」
“フェノーメノ”ヒカルドも思わず弱気な言葉が出る。
それほどヨシナ・ガーンの存在は際立っていた。
「・・・・・絶対にゴールしてみせる。」
しかし後藤は諦めない。
絶対にゴールを奪えると確信している。
相手は人間だ。
人間相手ならば絶対にゴールは奪えるのだから。
レアルは後藤を中心にバイエルンゴールへ襲い掛かる。
しかしバイエルンも身体を張って懸命にリードを守る。
そして後半もロスタイムに突入した。
- 275 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:13
- 後藤が中央から鋭いドリブルでバイエルンゴールに向かう。
もう最後の攻撃だ。
「なっ?!!」
バイエルンはミキックともう1人のボランチがあたるが、
2人ともあっさりとかわされてしまった。
「な、何てスピード?!!!」
ミキックが信じられないといった表情だ。
もう後半も終わりだというのに後藤の一向にスピードは衰えない。
『絶対に勝つんだ。よしこの分まで勝つんだ!!!!』
後藤を突き動かすのはひとみへの思い。
この舞台に立てなかった親友の分まで自分はやらねばという思いだった。
- 276 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:14
- 「来い!!マキ!!」
その瞬間ヒカルドがスッとDFラインの裏へ飛び出す。
絶妙のタイミングだ。
が、バイエルンもこれを許さない。
自陣に戻っていたイケワキがファウル覚悟のスライディングで後藤を潰した。
ピピピピピ!!!!!
当然主審はこのスライディングにファウルをとった。
そしてイケワキにイエローカードを出す。
レアル、ゴールまで約23mという絶好の位置でFKのチャンスを得た。
- 277 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:14
- 「危なかった・・・・・・・」
ファウルを犯したイケワキがふうっと一息吐く。
「サンキュ、チイ。助かったよ。」
ミキックがイケワキの肩をポンと叩く。
今のはファウルで止めなければ完全に失点していただろう。
しかしレアルにはゴール前、絶好の位置でのFKのチャンスが残っていた。
当然この位置では世界一のFK、ルイビット・シバサキだ。
レアルの選手にサポーターはその黄金の右足に全てを託す。
- 278 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:15
- 「マキ?」
シバサキが後藤の様子に気付いた。
後藤はボールを持ったままジッとバイエルンゴールを見つめている。
そしてシバサキを見てこう言った。
「ごめんルイ。あたしに蹴らせて欲しい。」
これにはシバサキも驚かざるを得ない。
この位置でのFKはシバサキ。
これはレアルの、いや、サッカー界の不文律だ。
しかし後藤の目は絶対に譲らないという強固な意志を持っていた。
- 279 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:15
- 「・・・・分かった。頼むよ。」
シバサキは後藤の肩をポンと叩くと後ろに下がった。
ここは後藤に、天才に任せた。
オオオオオオオオオオ?!!!!
スタジアムがどよめく。
この場面でシバサキではなくゴトウ?!!
レアル陣営もこれには戸惑いを隠せない。
だが後藤は一人表情を変えず、ボールをセットし、助走の距離をとる。
「ここでゴトウ・・・・?」
GKヨシナ・ガーンも戸惑いを隠せない。
しかしすぐに気持ちを切り替える。
誰が蹴ろうが自分が止めて勝つ。
- 280 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:16
- ピィ!!!!
主審の笛とともに後藤が助走を開始する。
そして狙い済まして左足を振り抜いた。
- 281 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:17
- 「ちっ?!!」
後藤の狙ったコースは壁の後ろではなく、ヨシナ・ガーンが構えているコースだった。
まさかこの場面でGKのいる方を狙う。
しかもカーブをかけず、真直ぐストレートをズドン。
並大抵の心臓では出来ないことだ。
さすがのヨシナ・ガーンも一瞬逆をつかれた。
しかし世界bPGKはここから驚異的な粘りを見せる。
逆に流れた身体を全身の力で止め、必死に手を伸ばす。
そして伸ばしたその手がボールに触ったかのように見えた。
- 282 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:18
- 「あっ?!!」
が、そのボールが変化した。
ガーンの伸ばした手をすり抜け、ゴールネットに突き刺さった。
「マキ!!!!」
その瞬間レアルの選手たちが一斉に後藤に抱きついた。
「しゃああああああああああ!!!!!」
後藤はグッと拳を握り締め、天に向かって咆哮する。
ウオオオオオオオオオオ!!!!!
スタジアムも大歓声で揺れる。
後半ロスタイム。
レアル・マドリード、奇跡の同点弾。
- 283 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:19
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
そしてここで主審の笛が3度高らかに鳴った。
レアル・マドリード、後半ロスタイムに追いつき引き分けに持ち込んだ。
この笛を聞いた瞬間バイエルン陣営はガックリとうな垂れる。
まさかのロスタイム失点。
九分九厘勝っていた試合を引き分けに持ち込まれただけにショックは大きかった。
それにアウェーゴールルールにより、この1点は2点分の価値があるのだ。
バイエルンは一気に追い込まれることとなった。
- 284 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:21
- 「マキ、今のはイシカワのFKじゃない?」
シバサキが今の後藤のFKを尋ねる。
世界一のFKを持つシバサキ。
それだけに他の選手のFKを充分に研究しており、
当然日本とウルグアイ(ヤイコ)の“魔法の左足”の存在には一目も二目も置いている。
今の変化。
まさしくあれはリカ・イシカワの“アゴンボール”だ。
- 285 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:22
- 「あ、やっぱり分かった?ガーンを抜くにはあれぐらいしないとね。
今日初めて蹴ったんだけど上手くいってよかったよ。」
後藤がふにゃっとしたいつもの笑顔を見せる。
が、シバサキをはじめ、他の選手の表情は固まる。
今の場面で初めてのFKを試す?
しかもあの“魔法の左足”が生み出すFKを?
レアルの銀河系と言われる選手たちはみな確信する。
マキ・ゴトウ。
彼女こそ“天才”ということに。
欧州きっての名門同士の戦いは1−1のドローと終わった。
この戦いの結末は2週間後、レアルのホーム、サンチャゴ・ベルナベウで決まる。
果たしてこの戦いの後笑うのはどちらの名門か?
- 286 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:23
- プチッ!!!
レアル・マドリードのエース、後藤真希を映していた
テレビの画面が音を立てて消えた。
ガンッ!!!
そして投げたリモコンが壁に激突した音が響く。
- 287 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:24
- 薄暗い部屋の中、1人膝を抱えながら仲間たちの勇姿を観ていた。
自分が立ちたかったあの舞台。
しかし、直前でスルリと手から抜け落ちてしまった。
もちろんそれは自分の責任だとは分かっている。
しかし頭で分かっていても気持ちが付いていかなかった。
しかも約束した親友のあれだけの戦いを見せられては余計にだった。
- 288 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:25
- だが今の自分は愚行を犯したせいで2ヶ月間の出場停止。
ピッチに立つことすら出来ない。
いや、もし出場停止がなくても今の彼女ではピッチに立てないであろう。
何の節制も調整もしておらず、サッカー選手の身体でない今の彼女では。
2勝2分4敗。
これは彼女、吉澤ひとみ出場停止後のインテルの成績だ。
その中には3日前のミラノダービーでの敗戦も含まれている。
これでインテルは今季のミラノダービーを2戦2敗で終える事となった。
これはインテリスタにとって屈辱以外の何物でもない。
- 289 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:28
- 16年。
インテルがスクデットを獲得してからもうすでに16年が経つ。
だが今季こそはと意気込んでいたインテリスタ。
しかしその期待は今季も裏切られた。
そしてその主犯格こそ吉澤ひとみだとインテリスタは思っていた。
迷走を続けるインテルに吉澤ひとみ。
今だ暗闇から光は見えず。
- 290 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:28
- チャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦第2ラウンドは
第1ラウンドの2週間後に行われる。
当然その間には各国でリーグ戦が行われる。
そしてこのリーグ戦でアクシデントが起こった。
- 291 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:29
- イングランドプレミアリーグ、
昨季3冠王者マンチェスター・ユナイテッド。
この王者にアクシデントが襲う。
FCポルトとの激戦から4日後、
マンチェスター・ユナイテッドはアウェーでフラムと対戦した。
ポルトでの敗戦のショックもなく、圧倒的にフラムを攻める王者。
が、前半14分。
アクシデントは起こった。
- 292 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:29
- 「はいっ出して!!」
左サイドで石川梨華がボールを要求する。
そこへパスが送られるが、トラップの瞬間、
フラムの選手が飛び込み、石川の右足首をかっさらった。
「ぎゃっ!!!!!」
悲鳴を上げ、ピッチにのた打ち回る石川。
「イ、イシカワ!!!」
マンチェスターの選手たちが石川の元へ集まってくる。
「?!!」
そしてみな石川の右足を見て絶句した。
「タ、タンカだ!!!早く!!!救急車!!!」
- 293 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:29
- みな明らかに一目で分かった。
これで石川は今季絶望だということに。
石川梨華、右足首骨折。
全治4ヶ月の重傷だった。
- 294 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:30
- 「・・・・・終わった。」
名将サトミックス・ファーガソンはこの時こう呟いた。
リカ・イシカワ。
彼女なくしてチャンピオンズリーグ、プレミア、FA杯は勝ち取れない。
今季は無冠に終わる事をサトミックスは悟った。
- 295 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:30
- 「梨華ちゃん?!!」
変則日程のため、月曜日にリーグ戦のあるFCポルト柴田あゆみ。
石川がリーグ戦で悪質なタックルを受け骨折した事を試合前日の日曜日に知った。
詳しい事は分からないが、どうやらかなりの重傷らしい。
石川の怪我の具合を心配する柴田だが、
アウェーでの戦いが控えているため連絡を取る暇もない。
それが影響したのか、格下のアカデミカ・コインブラとの一戦で精彩を欠く柴田。
だが、チームはサヤの活躍もあり、1−0で辛くも勝利した。
- 296 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:30
- 次の日、柴田のもとに石川からメールが届いた。
そのメールには自分の怪我の具合と、対戦できなくてごめんという言葉、
そして自分の分まで頑張ってという事が書かれていた。
「梨華ちゃんの方が辛いのに・・・・・・」
恐らく石川は自分の事が気になって精彩を欠く柴田を見てメールを送ったのだろう。
「ごめんね梨華ちゃん、心配掛けて。」
柴田は親友の心遣いに感謝した。
- 297 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:31
- その感謝の気持ちは次戦ですぐに形となって現れた。
FCポルトVSベレネンセスとの一戦、マエストロのタクトが一閃した。
2ゴール2アシストの活躍で4−1と圧勝。
3日後のマンチェスター・ユナイテッド戦に向けて
FCポルトに柴田あゆみは万全の状態となった。
- 298 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:31
- 親友はそのピッチにはいない。
この大事な試合にピッチに立てなくて親友はさぞかし悔しいだろう。
だからこそ自分が親友のいないチームを倒し、その思いを引き継ぐ。
天使は決意を新たに聖地、オールド・トラフォードへと向かう。
- 299 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:32
- そして3月8日。
ついにチャンピオンズリーグ一回戦、第2ラウンドの日を迎えた。
- 300 名前:第18話 チャンピオンズリーグ初戦 投稿日:2004/10/26(火) 16:32
-
第18話 チャンピオンズリーグ初戦 (終)
- 301 名前:ACM 投稿日:2004/10/26(火) 16:39
- 第18話 チャンピオンズリーグ初戦 終了いたしました。
今度こそ本当の第18話終了です。
今回は急な変更、しかも2回目となっては申し開きも出来ません。
本当にすみません。また内容も中途半端でホント申し訳ないです。
これからはもっときっちりと構成をたてていきたいと思っておりますので、
どうかご容赦下さい。
次回はもちろん第19話 第2ラウンドをお送り致します。
では、次回更新まで失礼致します。
猛省のACMでした。
- 302 名前:ピクシー 投稿日:2004/10/26(火) 18:20
- 更新お疲れ様です。
後藤スゴイですねぇ。
一度見た技を自分のものにする・・・なんか某漫画の主人公っぽいですね(笑)
石川は負傷ですか・・・
怪我をしない技術や体作り、ってのも必要ですよね。
中田とかあれだけ激しく当たられても、試合中怪我をしたってのは見た事ないですし。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 303 名前:みっくす 投稿日:2004/10/26(火) 22:19
- 更新お疲れ様です。
ごっちんすごいねぇ。
やっぱり日本の至宝っす。
それにしても、みなが順調にってわけにはいかないのですね。
次回も楽しみにしてます。
- 304 名前:B.C 投稿日:2004/11/02(火) 18:36
- 更新お疲れ様です。
ごとーさん、さすがのプレーでした。
見た技をその場で出来る技、それをやってのける度胸
すばらしかったです。
負傷したり、立ち直ってなかったり・・・選手もいろいろありますねぇ
次回更新も楽しみにしております。
- 305 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/11/05(金) 20:40
- ごっちん凄すぎ。あんなことができるなんて。まるで翼君みたいでした。
よっすいー早く復活してほしいな。
バレンシアが狙ってる、日本人FWってU−21のあの人かな
- 306 名前:ACM 投稿日:2004/11/09(火) 23:28
- >>302 ピクシー様
レスありがとうございます。
確かに某漫画の主人公っぽいですね。
まあそれは日本が産んだ天才つながりということで。
>>303 みっくす様
レスありがとうございます。
そうですね、ごっちんは日本の至宝です。
と同時にハロプロの至宝でもあると思っているのですが。
>>304 B.C様
レスありがとうございます。
光り輝く選手もいれば、どん底の選手もいます。
作者自身は本当はみな光り輝いて欲しいんですけどね。
>>305 娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
吉澤さん復活は作者も願っていますが、中々底は深いようです。
バレンシアが狙っているFWですが、ご想像通りだと思いますよ。
- 307 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:30
- 3月8日。
ついに舞台は第2ラウンドへ。
チャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦、第2ラウンド。
- 308 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:30
- この日行われたのは以下の4試合。
ASモナコ VS R・モスクワ
(グループC1位) (グループB2位)
リヨン VS バレンシア
(グループA1位) (グループD2位)
チェルシー VS ボルシア・ドルトムント
(グループG1位) (グループE2位)
レアル・マドリード VS バイエルン・ミュンヘン
(グループF1位) (グループA2位)
- 309 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:30
- ASモナコ VS R・モスクワ
(グループC1位) (グループB2位)
「タカハシ!!!タカハシ!!!」
スタンドから“日本の次代のエース”に大声援が飛ぶ。
前回の対戦ではアウェーで2−1で敗れたモナコ。
しかし、終了間際の1点でこの試合に望みをつなぐ事が出来た。
逆転を信じてモナコサポーターは声援を送る。
- 310 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:31
- サポーターの大声援をバックに猛攻撃を仕掛けるホームのモナコ。
しかしロコモティフ・モスクワも第1ラウンドのアドバンテージを活かすべく、
自陣に張り付いてゴールを許さない。
そして時折鋭いカウンターでモナコサポーターを絶叫させる。
しかしモナコにチャンスが訪れたのは前半30分。
高橋からのクロスに反応したFWが
モスクワDFと競り合った際に肘うちを食らい、倒れた。
- 311 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:33
- ピピピピピッ!!!!!
主審がけたたましく笛を鳴らす。
ここはモナコのホーム。
当然主審はこのプレーにPKを宣告した。
ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
この判定に一気にモナコサポーターが盛り上がる。
- 312 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:33
- 「タカハシ。」
「え?あたし?」
モナコの選手たちは高橋にボールを渡す。
本来PKは今競り合ったFWの選手が蹴るのだが、
今の競り合いで額を切ったため、現在外で治療中。
そこでモナコ監督は高橋にPKを蹴るように指示をした。
驚きながらもボールを受け取り、ペナルティスポットにセットする高橋。
これを決めればアウェーゴールの関係でモナコが逆に1点リードとなる。
それだけに絶対に外せない。
- 313 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:33
- ピッ!!!
主審の笛とともに助走を開始する高橋。
そしてゴール右隅を狙った。
GKは逆に飛んでいる。
「よしっ!!!」
ゴールを確信する高橋。
- 314 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:34
- カンッ!!!!
しかし聞こえたのはポストに当たる音。
ポストの内側を叩いたボールはゴールライン上を転がる。
慌ててモスクワGKがボールを抑える。
ゴールか、ノーゴールか。
微妙なところだ。
みなが一斉に線審の方を見る。
線審は首を横に振った。
高橋、痛恨のPK失敗。
- 315 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:34
- オオオオオオオオ・・・・・・・・・・
これには選手もサポーターも頭を抱える。
何より当の本人、高橋愛の受けたショックは大きかった。
真っ青な顔で震えている。
「アイ、落ち着け。まだ試合が終わったわけじゃない。」
チームメイトたちが高橋の頭をポンと叩く。
がそのチームメイト自身も表情は優れない。
やはりここでのPK失敗は痛かった。
モナコはこれで一気に追い込まれた。
- 316 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:36
- その後、点を取らねばと焦るモナコはDF陣も前に上がり、得点を狙う。
しかし気が焦るばかりで正確性に欠け、
逆にモスクワのカウンターにあわやという場面も何度かあった。
だが勝利の女神はモナコを、高橋愛を見捨てなかった。
左サイドをモナコMFが突破する。
ゴール前にはモスクワDFが揃っているが、かまわずクロスを上げる。
このクロスに殺到する両チームの選手たち。
この競り合いによりボールがこぼれる。
それをモスクワの選手がクリアしようとするが、
この時2人同時にクリアしようとしたため、お互いに譲り合ってしまった。
その隙を逃さずボールに頭から飛び込んだのは高橋愛。
このボールはポストに当たりはしたものの、高橋の執念がゴールネットへ導いた。
後半22分。
モナコ、ついに先制点。
- 317 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:36
- 「うおおおおおおおお!!!!!!」
ゴールが決まった瞬間、高橋は絶叫してモナコサポーターの前に走る。
そこへ他の選手たちも駆け寄り一斉に高橋に飛びつく。
スタジアムも大歓声で揺れる。
試合はこの後、モナコがこの1点を守りきった。
2試合合計は2−2だが、モナコがアウェーゴールで1点をとったため、
モナコが準々決勝へとコマを進めた。
- 318 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:37
- 「もうPKは蹴りたくないです。」
試合終了後、インタビュアーに質問されて高橋は苦笑いを浮かべてこう答えた。
もしこれで負けていたら。
そう思うと高橋は震えが止まらなくなる。
PK失敗、勝ち越しゴールと、上下の波が激しかったものの、
まずはASモナコと高橋愛は一回戦を突破した。
- 319 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:39
- リヨン VS バレンシア
(グループA1位) (グループD2位)
続いてリヨンのホームに乗り込んだバレンシア、矢口真里。
この試合もお互い第1ラウンドと同じく決定力不足を露呈する事となった。
リヨンとしてはアウェーで1−1の引き分けのため、
この試合0−0でも一回戦突破が決まる。
それだけに無理して攻めず、自慢の中盤がボールをキープしてバレンシアを
のらりくらりとかわしていく。
DFラインも充分に引いており、バレンシアの両翼が羽ばたくスペースが無い。
よってバレンシアはチヒロ・オニツカールのファンタジーに頼るのみとなった。
- 320 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:39
- だが前半29分。
バレンシアにアクシデントが襲う。
右サイドの矢口へ鋭いパスを送ったオニツカール。
が、そのパスを出した瞬間軸足の左足に激痛が走った。
オニツカールを失ったバレンシアにもう反撃のチャンスは訪れなかった。
この試合は0−0で終了し、矢口真里の初のチャンピオンズリーグは2試合で終わった。
- 321 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:40
- レアル・マドリード VS バイエルン・ミュンヘン
(グループF1位) (グループA2位)
レアルとバイエルンの一戦はまさに死闘となった。
前回の対戦では終了間際の後藤真希の一撃で同点に追いつかれたバイエルン。
これでレアルはこの試合、0−0の引き分けでも一回戦勝ち抜けが決まる。
だが相手は名門バイエルン・ミュンヘン。
そんな逃げ腰で戦って引き分けに持ち込めるチームではない。
この試合も勝利を目指して戦うレアル・マドリード。
もちろん追い詰められたバイエルンもこの試合に死力を尽くす。
- 322 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:40
- 「おいっ!!!今のタックルは何だ?!!!」
「何ユニフォームを掴んでんだ?!!」
両チームとも気迫のこもった試合。
お互いの攻撃陣と守備陣の意地がぶつかり合い、スコアが動かない。
イエローカードも何枚も飛び交い、選手たちが掴み合うシーンも多々見られた。
しかし後半39分。
ついにゴールネットが揺れた。
- 323 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:40
- 点を取らねば終わりのバイエルンはほぼ全員で攻撃を仕掛ける。
エース、イケワキ・チイヅルーの豪快なミドルがレアルゴールを襲う。
が、レアルの守備の要、イナモリッド・イズミが身体を張り、これを跳ね返した。
跳ね返ったボールはカウンターのため前線に残っていた後藤真希のもとへ。
後藤がボールを大きく前に押し出し、ドリブルを開始する。
これをバイエルンDFが必死に追いかける。
が、後藤はスピードに乗っており誰も追いつくことが出来ない。
「何て速さだ?!!」
この後藤のスピードにはチームメイトのヒカルドも驚く。
自分よりも速いとは?
- 324 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:41
- 『マキはチャンピオンズリーグだとまるで別人だ。』
こう思ったのは右サイドのヒトミ・クローキ。
普段のリーグ戦でももちろん後藤は天才だが、
チャンピオンズリーグでは更にその上を行っていた。
それはこの舞台に立てない親友のため。
その思いが後藤真希を更なる高みへと導いていた。
- 325 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:41
- 「くっ!!!」
GKヨシナ・ガーンがシュートコースを狭めるために飛び出してくる。
その飛び出しは抜群のタイミングとスピードであり、一気に後藤の足元に飛び込んでくる。
が、これを後藤は足首の動きで横にはたいた。
ごく小さなモーションであるにも関わらずボールは鋭く横にはたかれる。
この足首の動きの速さ、強さこそ高速切り返し“エラシコ”を生み出しているのだ。
このパスの先にはヒカルドが走り込んでいた。
後は無人のゴールへ押し込むのみ。
- 326 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:42
- が、ここで一人のバイエルンの選手がタックルでヒカルドを潰した。
それはやはりこの人、“フリーロール”ナキャタニ・ミキック。
懸命に自陣ゴール前まで戻り、絶体絶命のこのピンチを救った。
かのように見えた。
- 327 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:43
- このこぼれ球にレアルの背番号7が反応した。
彼女は90分間集中力を切らす事はない。
その集中力こそテクニック、スピード、パワーと全てにおいて超一流ではないにも関わらず
彼女が“スペインの至宝”と謳われる理由だ。
今も自陣ゴール前から懸命に走っていた。
“スペインの至宝”ユウーコ・タケウッチャンのゴールで
レアルは強敵バイエルンを下し、準々決勝へとコマを進めた。
- 328 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:43
- チェルシー VS ボルシア・ドルトムント
(グループG1位) (グループE2位)
そしてチェルシーVSボルシア・ドルトムントの一戦。
サ・トエリと飯田圭織、宿命のライバル対決第2ラウンド。
この試合、飯田圭織はこれ以上なく気合いが入っていた。
前回の対戦では言葉の弱点によりチェルシーに、サ・トエリに敗れた。
それはブンデスリーガでも同様で、2試合連続の2失点で2連敗。
この結果にはクラブ首脳陣も正直頭を悩ませる所である。
動き自体は悪くない。
何度も決定的なチャンスを神がかりのセーブで防ぐなど、
さすがはヨシナ・ガーンがその実力を認めた選手だ。
これで言葉の問題が無くなれば、それこそドルトムント史上最高の守護神になる可能性は大だが、
それまで待てないというのがチーム首脳陣の偽らざる本音であった。
この試合の結果如何では元正GKの控え選手にスタメン復帰という選択肢も出てくる。
この試合、飯田にとっては正念場であった。
- 329 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:44
- この試合も第1ラウンドと同じく1点を争う試合となった。
第1ラウンドで敗れたドルトムントは序盤から前に出てチェルシーゴールへと向かう。
だがそのドルトムントの攻撃も全く実を結ばない。
それはサ・トエリのセービングもさることながら、その前に強固な壁があったからだ。
フランス代表不動のキャプテン、フジワラ・ノリカーという壁が。
- 330 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:44
- 前の試合では怪我のために出場していなかったこのフランス代表キャプテンが
前線のトミ・ナガーを激しいノリカチェックでことごとく潰していく。
そしてノリカーのおかげで同じくフランス代表MF、マナーミ・コニシシが
その抜群の守備能力でミズノ・ミキツキーを潰す事に専念できた。
このフランス代表コンビにより、ドルトムントの生命線、
チェコ代表ホットラインが完全に分断される。
フランス代表コンビが守りを固めれば、攻撃はアルゼンチン代表コンビだ。
マイ・セバスチャン・クラキから前線のアムロン・ナミエポへ何度も危険なパスが通る。
ナミエポは自分で突破だけでなく、ポストプレーで周りを活かす。
この展開ではナイジェリアが誇るスーパーボランチ、ニシヤマ・キクエーも
守備に追われっぱなしだった。
- 331 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:46
- それは第1ラウンド同様、ドルトムント守護神飯田圭織が
チェルシーの前に立ちはだかったからだ。
「任せて!!!」
チェルシーも飯田の言葉の弱点を突くため、
サイドのリョウ・コールやサカイン・ミキがアーリークロスを送る。
しかしそれを的確な判断、指示で防いでいく飯田にドルトムントDF陣。
「まさかこの短期間で?!」
サ・トエリもこれには驚かざるを得ない。
「ナイスディフェンス!!」
「ナイスカオリ!!!」
飯田とドルトムントDFが声を掛け合う。
ここ2週間、練習ではずっとお互いの連係を確認し合ってきた。
リーグ戦では2連敗を喫したものの、大分形は見えてきていた。
言葉で迷うならば感覚で。
微妙なボールはお互い今まで戦ってきたDFとしての、
GKとしてのカンでボールに対処していた。
そしてそれは思いのほか機能していた。
- 332 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:48
- 飯田とドルトムントDF陣の奮闘でチェルシーも得点を奪う事が出来ない。
もちろんサ・トエリ、フジワラ・ノリカーのチェルシーDF陣も失点を許さない。
そしてロスタイムを迎えた。
ここでドルトムントはコーナーキックのチャンス。
これが最後のチャンスだ。
オオオオオオオオオオ?!!!!
ここでチェルシーのホームスタジアム、スタンフォード・ブリッジが大きくどよめく。
それはドルトムントGK飯田圭織がチェルシーゴール前に上がってきたからだ。
ここで点を取らなければドルトムントは敗退が決まる。
ならば守っていても仕方がない。
1点を求め、飯田が上がる。
- 333 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:48
- 「あの時を思い出すね。」
サ・トエリはニヤリと笑う。
あの時とはアテネオリンピック最終予選日本ラウンド。
追い込まれた中国代表は最後のコーナーキックのチャンスに
サ・トエリも今の飯田のようにゴール前に上がってきた。
が、結果は飯田に軍配があがり、この後吉澤ひとみの“悪魔のパス”を安倍なつみが決め、
中国代表はアテネオリンピック出場を逃した。
あれから1年半。
攻守の立場は入れ替わったが、あの時の借りを返すチャンスが来た。
サ・トエリはパンと頬を叩き、気合いを入れなおす。
- 334 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:49
- ピィ!!!!
主審の笛が鳴る。
その瞬間ペナルティエリア内で激しく動き回る両チームの選手たち。
「頼むよ!!」
祈りを込めてミズノ・ミキツキーの右足が振り抜かれた。
ボールはニアサイドに飛び込むトミ・ナガーへ。
トミ・ナガーはフジワラ・ノリカーと競り合いながらも
これをバックヘッドで流す。
1クッションおいた事でチェルシーDF陣もタイミングが狂う。
そしてそのボールに飛びつくのが飯田圭織。
最後のチャンスを決めるべく、その抜群の跳躍力でゴールを狙う。
- 335 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:49
- 「来た!!!」
しかしこれはチェルシーGKサ・トエリが読んでいた。
抜群のダッシュで飛び出し、ボールに飛びつく。
2人が空中で激しく激突する。
ボールは勢いを失いながらもチェルシーゴールへと向かう。
飯田の思いが勝った。
誰もがそう思ったが、サ・トエリの執念がこれを阻止した。
- 336 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:52
- ボールはネットに包まれた。
が、それはクロスバーの上だった。
ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
ここで試合終了の笛が鳴る。
ウワアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!
その瞬間チェルシーのホームスタジアム、
スタンフォード・ブリッジが大きく揺れる。
チェルシーVSドルトムントの試合は0−0のスコアレスドローに終わった。
- 337 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:52
- 「負けた・・・・・・」
飯田が放心状態でへたり込む。
これでドルトムントは2試合合計1−0でチャンピオンズリーグ敗退が決まった。
こうなると、返す返すも前回の試合のミスが悔やまれる所だ。
1点の重み。
それを飯田は今、これ以上なく感じていた。
- 338 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:52
- 「?」
へたり込む飯田の前に一着のGK用ユニフォームが差し出された。
驚いて顔を上げるとサ・トエリがユニフォームを脱いで前に立っていた。
飯田はそれを見て、スッと立ち上がる。
ライバルの前で情けない顔を見せるわけにはいかない。
飯田は表情を引き締め、自分もユニフォームを脱いでサ・トエリと交換する。
2人は言葉は交わさなかった。
しかし、何も言わなくても分かる。
次に戦う時は必ず自分が勝つ。
そう目で宣言した。
- 339 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/09(火) 23:53
- チャンピオンズリーグでの戦いは終わった。
しかし彼女たちには次に大きな舞台が待っている。
そう、2006ドイツワールドカップアジア最終予選という舞台だ。
今度は国を守る守護神として2人は激突する。
その日の再会を誓い、2人はピッチを後にした。
- 340 名前:ACM 投稿日:2004/11/09(火) 23:59
- すみません、本日の更新はここまでです。
第19話 第2ラウンドは後半分残っていますので、
次回更新で完結いたします。
ここまで更新の間隔をあけておきながら、この量、さらには内容。
本当に申し訳ない気持ちで一杯です。
次回はもっとマシなものになるよう、努力いたします。
では、次回更新まで失礼致します。
- 341 名前:みっくす 投稿日:2004/11/10(水) 00:03
- 更新おつかれさまです。
久々にリアルタイムで読みました。
やっぱりごっちんは凄いわけで。
1年目の皆さんは・・・・
次回も楽しみにしてます。
- 342 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/11/10(水) 00:13
- 初めてリアルタイム更新に立ち会ったので、初めてレスします。
某有名娘。サッカー小説の板に貼られてたのを見て来たけど純粋にサッカー小説として好きです。
まだスレ1の時点から愛読させてもらってます。
特に最初の代表合宿、アジアカップ〜アテネ五輪のあたりが大好きです。
自分はなちヲタなんだけど、なっちが不器用にスランプを引きずったところから抜け出すところなんかは
なっちらしさが出てる気がします。なっちは引っ張るというより、みんなで頑張る的な子だと思うので
これからも終わりを迎えるまで愛読させて頂きますので頑張ってください
また、リアルタイム更新に被ったら感想を書くかも知れませんのでw
- 343 名前:ピクシー 投稿日:2004/11/10(水) 01:46
- 更新お疲れ様です。
うんうん、ごっちん止まりませんな。
でも・・・史実(現実)を元にしていたら、今後は・・・
自分も某有名娘。サッカー小説読んでました。
あの小説とは、微妙にベクトルが違う感じなんで、読んでて面白いです。
これからも自分のペースで頑張ってくださいね。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 344 名前:春嶋浪漫 投稿日:2004/11/10(水) 09:35
- 初めてレスさせていただきます。
昨日の夜に第1部から読ませていただきました。
読み終えたら外は明るかった・・・・・・
長編小説大好きの私にとってはもうたまらなく好きです。
普通にサッカー小説としても大好きです。
私の中ではアテネ五輪の準決勝・決勝が感動しました。
これからも今後の展開を期待して更新待ちたいと思います。
更新頑張ってください!!
- 345 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2004/11/12(金) 21:39
- 矢口残念!スピードスターの共演をもう少し楽しめるかと思いましたが、次回の楽しみとさせていただきましょう。
某有名娘。サッカー小説に紹介したのは自分でございます。あのころは人物をあそこと同じようなところ、違うところと探して読んでおりました。
- 346 名前:B.C 投稿日:2004/11/13(土) 03:30
- 更新お疲れ様です。
ごっちんすごいですなぁ、相変わらず。
ムラがあるのがごっちんぽいです。
飯田さんとサ・トエリの対決も良かったです。
アテネからの因縁はこれからも楽しみです。
次回更新楽しみにしています。
- 347 名前:ACM 投稿日:2004/11/27(土) 00:45
- >>341 みっくす様
レスありがとうございます。
リアルタイムということで、作者もうれしいです。
後藤真希はやはり天才ということで。
1年目の連中はまだまだこれからというところです。
>>342 名無し募集中。。。様
レスありがとうございます。
スレ1の時点から見ていただいていたそうで、ありがとうございます。
作者もアジアカップからアテネは気に入ってます。
あのあたりは本当に頭と指がフル回転していた時期でした。
>>343 ピクシー様
レスありがとうございます。
ご指摘のとおり、後藤さん、今のところはノンストップです。
しかしこれからは果たして・・・・・・・・・
この先どう転ぶかご期待ください。
- 348 名前:ACM 投稿日:2004/11/27(土) 00:46
- >>344 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。
こんな長編を一気に読んでいただいたみたいで、本当にありがとうございます。
作者自身も一番を上げるとやはりアテネの決勝でしょうか。
ちょっと最近更新が滞り気味ですが、これからも見ていただけるとうれしいです。
>>345 娘。よっすいー好き様
レスありがとうございます。
スピードスターの共演はまたこれからということで。
リーガエスパニョーラなどがありますし、いずれきっちりと書きたいと思います。
ご期待ください。
>>346 B.C様
レスありがとうございます。
天才はやはりムラがあったほうがそれらしいような気がします。
サ・トエリと飯田さんの因縁は作者も書いてて楽しいのですが、
現実の中国代表が・・・・・・・・・かなり話の展開的に痛いです。
- 349 名前:ACM 投稿日:2004/11/27(土) 00:47
- すみません、一言言わせてください。
某有名娘。サッカー小説。
この作品があったからこそ自分もサッカー小説を書こうと思いました。
やはりこの作品が全てにおいて最高峰でしょう。
かなり影響を受けたため、設定や状況などが似通っている部分もあると思います。
ですが、連載を始めてからは一度もこの小説に目を通していません。
もちろん頭に残っているイメージが自然に出てきているときもありますが、
全て自分で考えたものですので、どうかご容赦願います。
では、本日の更新です。
- 350 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:48
- 翌9日、残りの4試合が行われた。
ユヴェントス VS PSVアイントホーフェン
(グループD1位) (グループC2位)
マンチェスター・U VS FCポルト
(グループE1位) (グループH2位)
アーセナル VS レアル・ベティス
(グループB1位) (グループH2位)
ACミラン VS スパルタ・プラハ
(グループH1位) (グループG2位)
- 351 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:48
- アーセナル VS レアル・ベティス
(グループB1位) (グループH2位)
前節はアウェーで2−0の状況からひっくり返したアーセナル。
アウェーで3点を取ったという事は、もうほとんどアーセナルの勝利で間違いない。
そして何より、ホームでは彼女がピッチに立つ。
オランダ代表、ハヅキ・リオナンプが。
飛行機嫌いのため、イングランド以外での試合の際にはチームに帯同しないリオナンプ。
だが、これが許されるほど彼女の実力は群を抜いている。
この試合でも2トップの一角で先発したリオナンプは、
その世界最高峰のテクニックで前線で貴重なタメを創る。
その中でもトラップ技術は特に芸術と言えた。
どんなパスでもピタリと自分の最高の位置へ止める。
- 352 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:49
- 「やっぱうめーわ。」
中盤センターに入った市井も思わずうなる。
前回の対戦ではあれだけ前線にタメが出来ず、苦しんでいたのが嘘のようだ。
アーセナルはこのリオナンプの活躍により、ベティスを2−0で一蹴。
見事に次なるステージへとコマを進めた。
- 353 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:49
- ACミラン VS スパルタ・プラハ
(グループH1位) (グループG2位)
前回の対戦ではスパルタ・プラハのゲームプランにまんまとはまったミラン。
この試合、もしスパルタ・プラハが点を取れば、引き分けに持ち込んでもミランは敗れることになる。
大金星を上げるべく意気揚々とミラノへ乗り込んできたスパルタ・プラハ。
しかし、その思いも開始わずか2分で引き裂かれた。
ブラジル代表、ハマ・サーキ・アユウドの悪魔の爪によって。
- 354 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:50
- この先制点で呪縛から解き放たれたミランは、
その後伸び伸びとスパルタ・プラハゴールを襲う。
前半22分にはイタリア代表スズカゼ・マヨザーギ。
後半18分にはポルトガル代表ヒロスエ・リョウ・コスタ。
そして試合終了間際の後半43分には日本代表石黒彩がコーナキックを頭で合わせた。
4−0。
まさに格の違いを見せ付けた結果となった。
これでミランは準々決勝に進出。
リーグ戦では首位、コッパイタリアでも順調に勝ち進んでおり、
今季は3冠全てを狙える所にいる。
3冠奪取。
グランデミランにとってこれは今季の至上命題である。
- 355 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:51
- ユヴェントス VS PSVアイントホーフェン
(グループD1位) (グループC2位)
前回の対戦ではホームで3−0と完敗を喫したPSV。
この点差に加えてアウェーという条件では正直PSVにチャンスはない。
しかし、PSVMF辻希美にとってはこの試合、大事な一戦である。
前回の対戦で世界最高峰のレベルを知った。
あれから2週間。
もちろん大きく変わる事はできないが、あの日よりも高い意識を持っている。
その思いで全力を尽くす。
それが世界最高峰へたどり着く唯一の方法だ。
- 356 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:52
- PSVはこの試合、望み薄とはいえベストメンバーで挑んできた。
少しでも可能性があればそれにかける。
それがプロであるからだ。
一方、ユヴェントスはこの試合ターンオーバーを使ってきた。
ユーヴェもミランと同じく3冠の可能性がある。
それだけに主力が休める時は休ませなければならない。
前回の試合に引き続いてこの試合に出たのはDFトダム、MF福田、ヤダベド。
この3人であった。
GKフカキョン、MFマヤミッキ、マツシマ、
FWハセキョン、安倍といった主力はベンチで戦況を見つめている。
明らかにベストメンバーから程遠いユーヴェだが、
この代わりに出る選手も各国の代表クラス。
ネームバリューという点では控え選手中心でもPSVを遥かに凌駕する。
「さあ気合入れていこう。」
辻がパンパンと手を叩いて士気を上げる。
別に相手メンバーがどう代わろうが、自分はベストを尽くすのみだ。
ピィ!!!!!
そんな中、主審の笛が鳴り試合が開始された。
- 357 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:52
- 「ヤダベド!!」
福田から最前線に飛び出したヤダベドへスルーパスが通る。
これをヤダベドはダイレクトで狙うが、ヤダベドには辻が食らいついていた。
懸命に足を出してシュートをブロック。
ボールはタッチラインを割っていった。
この試合ユーヴェはマツシマがいないため、前線でのキーはヤダベドだ。
ヤダベドはその豊富な運動量が持ち味の選手。
マツシマと違って積極的にスペースに走り込み、PSV陣内へと切り込む。
そこへ福田が素晴らしいパスを送る。
マツシマがいる時とはまた違ったユーヴェの躍動感溢れる攻撃だ。
- 358 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:53
- 「危なかった。」
辻が額に輝く汗を拭う。
今日の相手、ヤダベドはパワーこそマツシマに劣るものの、
運動量では圧倒的にヤダベドだ。
テクニックはもちろんスピードもあり、まさに超一流の選手だ。
前の試合ではマツシマ。
今日はヤダベド。
リーグ戦ではオランダの新鋭、
アヤックスのクニナカ・チュラ・サン・エリートと対戦した。
全力でぶつからなければ勝てない相手。
全力でぶつかっても勝てない相手。
そんな選手と対戦できることこそ欧州に来る意味なのかもしれなかった。
- 359 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:53
- 「ののの奴、ええ顔してるわ。」
辻希美の最高の相棒であり、そして最大のライバルである加護亜依。
加護は当然この試合をテレビで見ていた。
テレビに映る親友は凛とした表情で輝いていた。
「・・・・・ええなあ。ののが羨ましいわ。」
思わず加護がポツリと呟く。
加護のアヤックスはグループリーグで予選落ち。
しかも最下位だったため、UEFA杯にもまわれなかった。
それだけに加護は、世界の超一流の選手と戦える親友が羨ましくて仕方が無かった。
「・・・・・来シーズンは絶対にあの舞台に立ったる。」
晴れやかな舞台で輝く辻を見て、そう誓う加護であった。
- 360 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:54
- さらにユーヴェは攻める。
「アスカ!!」
ヤダベドが右サイドのスペースへ流れる。
そこへ福田が狙い済ましたロングパス。
ウオオオオオオオオオオオ!!!!
ユヴェントスのホームスタジアム、デッレ・アルピが
福田の見事なサイドチェンジに大きく揺れる。
「さすが福田さん!!」
福田の見事なロングパス、更には視野の広さに思わず辻も唸らされる。
2つとも自分には無いものだ。
更に福田にはゲームを創る力もあれば、
最前線へ飛び出してフィニッシュを決める力もある。
ディフェンス力も“パーフェクトクイーン”と“プリンセス”に
対戦したくないと言わしめるほどである。
まさに万能型のセンターハーフ、“ウニベルサーレ”だ。
自分と同じような体格でありながら今や世界でも最高峰のセンターハーフ。
辻にとって福田は憧れの存在でもあった。
- 361 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:54
- 福田からのパスを受け、右サイドを突破したヤダベドはゴール前に鋭いクロスを上げる。
このクロスにユーヴェFWが飛び込むが、
これはゴール前に素早く戻ってきた辻が懸命にクリアした。
オオオオオオオオオオ・・・・・・・・・
ユヴェンティーノから驚きの声が上がる。
それは今クリアした辻のプレーにだ。
福田がロングパスを出した瞬間にはまだ中盤にいたはずだ。
しかしすぐにゴール前に戻り、クロスをクリアした。
更には体格で勝るユーヴェFWを押しのけてのクリア。
見事なプレーだった。
そしてそれだけにとどまらず、クリアした後はすぐに前線へ走る。
クリアしたボールを拾ったPSVMFが福田のタックルで潰されたため
カウンターはならなかったが、この躍動感溢れるプレーにユヴェンティーノは驚かされた。
- 362 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:55
- 「さすが辻ちゃん。あのパワーにダイナミズムは凄い。」
福田が辻のプレーに称賛を送る。
福田は福田で辻のプレーにある種の憧れを感じている。
自分も小さな身体でこの欧州の舞台で戦っている。
パワーではやはり分が悪い分、動きの質と量でカバーしなければならない。
しかし自分と同じぐらいの身体で比べ物にならないパワー。
更には自分以上のダイナミズム。
これで細やかなテクニックと戦術センスが身に付いたら・・・・?
そう思うと恐ろしくなる。
- 363 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:55
- 「お、アスカのやつ笑ってる。」
福田の表情に気が付いたのはベンチに座るマツシマ。
「アスカらしいね。」
ハセキョンも苦笑いを浮かべる。
みな分かっている。
可愛い後輩が自分の背中を猛烈な勢いで追ってくるこの状況。
それを福田は楽しんでいる事を。
「福ちゃん、辻ちゃん、頑張れ。」
両者を知る安倍はある意味一観客と化し、2人に声援を送る。
- 364 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:56
- ここまでユーヴェの展開。
しかしPSVもオランダを代表するクラブ。
ユヴェントスの攻撃を受け止めるだけでなく、
それをはね返し、鋭いカウンターへとつなげだした。
「はいっ!!こっち!!」
中盤でボールを奪ったPSV。
その瞬間センターハーフの辻が思い切って上がっていく。
その上がりは絶妙で、ユーヴェディフェンスのわずかな隙を的確に突く。
「ノゾミ!!」
そこへPSVMFからパスが出される。
その瞬間辻がユーヴェDFラインから飛び出す。
まさに完璧なタイミング。
「ナイスパ・・・あっ?!!」
完璧なスルーパスのはずであった。
しかしこれを福田明日香が止めた。
- 365 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:56
- 「あれを止めるか?!」
これには味方DF、フランス代表アンパン・トダムも驚かされた。
今の辻の飛び出しには完全にやられたと思った。
それを見事な戦術眼でコースを読み、防いだ福田明日香。
彼女が自分たちDFラインの前にいるという事は、
これ以上なく頼りになる事だとユーヴェDF陣は再確認した。
「トダム。あんた今の危なかったよ。
もっとしっかりDFラインを統率しなよ。」
「・・・・・・」
この減らず口は相変らず余計だが。
- 366 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:57
- 「・・・・・・・・凄い。」
辻も呆然となる。
あの完璧なタイミング、コースに出されたパスを止めるとは。
さすがは福田明日香だ。
これでこそ追いかけ甲斐があるというものだ。
辻は活き活きとした表情で福田を見る。
それに気付いた福田は、フフッと微笑む。
必ず追いつきますよ。
必死についておいで。
2人は目でそう会話した。
- 367 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:57
- その後、試合はPSV辻希美、ユヴェントス福田明日香を中心に回り始める。
福田がその万能性でユーヴェの攻守を司れば、
辻がその持ち前のダイナミックさでPSVを牽引する。
チームとしての総合力は明らかにユヴェントス。
しかしPSVも辻を中心にして普段の実力以上の力を見せる。
ウオオオオオオオオオオオ!!!!!
この熱い戦いに目の肥えたユヴェンティーノたちも思わず歓声を上げる。
まさにこの熱い戦いこそ各国のベストクラブが集うチャンピオンズリーグだ。
- 368 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:58
- 両者の力がぶつかり合ったこの試合。
スコアは結局動く事はなかった。
ユヴェントス0−0PSV
この結果、2試合合計3−0によりユヴェントスの準々決勝進出が決まった。
- 369 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:58
- 「ふうーっ。」
試合終了の笛が鳴った瞬間、辻は大きく息を吐いた。
ここでチームの敗退が決まり、悔しい気持ちで一杯だ。
が、一方で自分のプレーに満足しているのも正直な気持ちだ。
このユーヴェとの2試合で、世界の超一流の選手たちと直接対決することが出来た。
これは何物にも変え難い財産である。
そしてさらに今日の2戦目はその一流選手にある程度通用した。
自分のプレーは間違っていない。
辻はこの2試合でそう確信した。
もちろんまだまだ課題は山積みであるが、このまま真直ぐ頑張っていけばいい。
そう確信できたことが何よりの収穫だ。
- 370 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 00:59
- 「辻ちゃん、お疲れ。」
「福田さん。」
福田がスッと手を差し伸べてきた。
その手をしっかりと辻は握る。
前回の対戦では何も出来なかった事が不甲斐なくて泣き崩れ、
戦い終わった相手と言葉をかわすことも出来なかった。
それが今は堂々と握手を交わしている。
それだけでも成長したと言える。
もちろん悔しさはある。
それも前回以上に。
次対戦する時は必ず勝ってみせる。
そう誓い、安倍やマツシマやハセキョンたちとも握手を交わして
辻はスタディオ・デッレ・アルピを後にした。
- 371 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:00
- チャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦もとうとうこの試合で最後になった。
マンチェスター・U VS FCポルト
(グループE1位) (グループH2位)
下馬評では圧倒的に昨シーズン3冠王者マンチェスター・ユナイテッド。
しかしポルトのホームで迎えた第1戦は、
“マエストロ”柴田あゆみの活躍により2−1でポルトの勝利。
世間をあっと言わせた。
2連覇を目指すマンチェスターにとっては痛い敗戦。
更にはその後のリーグ戦でキープレイヤー、“魔法の左足”石川梨華を負傷で失ってしまった。
これで昨シーズンの王者は完全に追い詰められた。
だがこの試合の舞台は、聖地オールド・トラフォード。
ここで無様な敗戦を見せるわけにはいかない。
王者は持てる力を全て出し切り、この試合に臨む。
- 372 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:01
- 「アユミ。絶対に勝とう。」
FCポルトキャプテン、DFナナコド・オオコーチが
日本代表MF、“マエストロ”柴田あゆみの肩をポンと叩く。
「もちろん。今日は絶対に勝てるよ。」
柴田が晴れやかな笑みを浮かべる。
これにはオオコーチも驚く。
普段の柴田からは想像つかないほどの強気な言葉だ。
今日はいける。
柴田はそう確信していた。
その予感は今日の朝、起床したときから感じていた。
これといった理由はないが、絶対に今日は勝てると確信していたのだ。
そしてアップの時に身体のキレが最高だとも感じていた。
- 373 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:01
- 「何か・・・・・今日は何でも出来そうな気がする・・・・・・」
柴田が呟く。
その表情には自信がみなぎっていた。
その表情を見て他の選手たちの士気が上がる。
自分たちの指揮者は今日、最高の状態だ。
これならば今日の試合、いい演奏が聴かせられる。
ポルトの選手たちはそう確信した。
「さ、行こう。」
「おうっ!!」
指揮者の声に演奏者たちが応える。
更なる高みを目指すため、この一戦、絶対に負けられない。
- 374 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:03
- ウオオオオオオオオオオ!!!!!!
聖地、オールド・トラフォードが大きく揺れる。
この一戦に挑む選手たちが入場してきたからだ。
両チームとも現在のベストメンバー。
持てる力を全て出し切り、この試合の勝利を狙う。
「・・・・目が違う。」
試合前、両チームの選手たちが握手を交わしていく。
その際、柴田はマンチェスターの選手たちの目が、
前回の対戦の時とは全く違っている事に気が付いた。
あの時はもちろん気合いは入っていたが、どこか格下を舐めているような感じであった。
しかし今は違う。
世界の頂点に立つような選手たちが、何の緩みもなくポルトの選手を、
柴田あゆみを睨んでいる。
これには他のポルトの選手も気付いている。
昨シーズンの3冠王者がそのプライドを全てこの試合にぶつけてきている。
一瞬でも気を抜けば必ずやられる。
ポルトの選手は気を引き締める。
- 375 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:03
- 両チームとも握手を交わし、撮影も終わった。
選手たちはピッチという戦場へ駆け出す。
主審が線審、副審に合図を送る。
そして右手が高々と上がる。
ピィー!!!!!
3月9日、20時45分。
死闘を開始させる笛が聖地に鳴り響いた。
- 376 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:04
- <マンチェスター・ユナイテッド>4−4−1−1
10
FW DF 5 マオ・ダイチナンド
MF 11 マツシタ・ユキス
11 19 16 シマ・キーン
18 16 18 タバタ・ナズナールズ
19 タカシマ・アヤパンアヤパン
DF DF FW 10 マツ・ユキ・ヤスコローイ
DF 5
GK
- 377 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:04
- <FCポルト>4−2−3−1
77 DF 4 ナナコド・オオコーチ
22 スズキ・エミイラ
MF 12 MF MF 6 マジュ・オザワーニャ
10 サヤ
10 6 12 柴田あゆみ
DF 22 FW 77 ミナコ・ナッカーノー
DF 4
GK
- 378 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:04
- 「あうっ!」
試合開始早々、柴田の身体がピッチに叩きつけられた。
この強烈なタックルを放ったのはマンチェスターのセンターハーフ、シマ・キーン。
鋭い眼光で倒れているマエストロを見下ろす。
「大丈夫かアユミ?!」
左足を押さえて表情を歪める柴田。
そこへオザワーニャが血相を変えて駆け寄る。
試合開始から指揮者を失ってはポルトに勝ち目はない。
- 379 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:05
- 「・・・・大丈夫。」
柴田はゆっくりと起き上がった。
が、左足には痛みが残っているため立ち上がれない。
「あいつ、足狙いやがった。」
オザワーニャがシマ・キーンを睨みつける。
彼女は見ていた。
シマ・キーンが何の迷いもなく柴田の左足を狙ったのを。
どうやら“極妻”はマエストロのタクトを折るつもりでいるらしい。
「・・・・いいねぇ。」
柴田はフフッと笑った。
世界の超一流の選手がここまで自分に対して向かってきてくれる。
ほんの3ヶ月前にはセリエAの中堅クラブのベンチにすら入れなかった自分に。
これほど嬉しい事はない。
- 380 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:05
- 「マジュ、サヤ。どんどんボールまわしてよ。」
柴田が凛とした表情で立ち上がる。
さあ、胸が熱くなるような試合をしようじゃないか。
マエストロの闘志は衰えることなくさらに燃え上がった。
- 381 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:06
- 「アユミ!!」
指示通りサヤがすぐさま柴田にボールを送る。
ポルトの生命線はマエストロだ。
彼女を信じ、サヤはパスを送る。
「潰せ!!」
その瞬間柴田に殺到するマンチェスターの選手たち。
だがこれを柴田はかいくぐり、前線のミナコ・ナッカーノーへスルーパスを送った。
「ナイスパス!!」
ナッカーノーがうまくDFラインから抜け出す。
そして狙い済まして右足を振りぬく。
だが懸命に戻ったマオ・ダイチナンドがこのシュートを寸前でブロック。
ボールはタッチラインを割っていった。
- 382 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:06
- オオオオオオオオオオオ・・・・・・・・・・・・・
聖地オールド・トラフォードに集まった観客が一斉にどよめく。
もちろん見事なディフェンスを見せたダイチナンドに対してもだが、
それ以上にマンチェスターのプレスをかいくぐり、
絶妙のスルーパスを出した柴田あゆみのプレーに対してであった。
さらに柴田は止まらない。
シマ・キーン、タバタ・ナズナールズ、
さらにはタカシマ・アヤパンアヤパンに囲まれながらも柴田はボールをキープする。
この世界一流の選手たち3人に囲まれてもボールをキープする柴田。
しかもただキープするだけではなかった。
- 383 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:07
- 「エミ!!!!」
柴田は一瞬の隙をついてパスを3人の間に通す。
このパスは寸分の狂いもなく右サイドを駆け上がるスズキ・エミイラへ。
そう、柴田はキープだけでなく、右サイドを上がるエミイラの動きを見ていたのだ。
しかもエミイラのスピードとタイミングに完璧に合わせていた。
パスを受けたエミイラは中にクロスを送る。
しかしこれはGKが飛び出してフィスティング。
こぼれ球はダイチナンドが大きくタッチラインにクリアした。
- 384 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:07
- 「アユミ・・・・・凄い・・・・」
パスを受けたエミイラは驚きを隠すことができなかった。
柴田を信じて右サイドを駆け上がったが、
まさかあの状況でこんな極上のパスが出てくるとは思わなかった。
味方ながら恐ろしさを感じられずにはいられなかった。
当然マンチェスターの選手たちは顔面蒼白だ。
3人がかりでも抑えることが出来ない。
アユミ・シバタとはこれほどの選手なのか?
- 385 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:08
- 「アユミ・シバタ・・・・何という選手だ。」
マンチェスター・ユナイテッドを率いる名将、サトミックス・ファーガソンが
信じられないといった表情で首を横に振り、唸る。
昨シーズン3冠王者の我々マンチェスター・ユナイテッドが完全に翻弄されている。
こんなことが出来る選手などこの世にいないはずだ。
「シバタ・・・・・」
ポルトを率いる名将、“モーツァルト”ことテレ・キダターロも柴田のプレーに唸る。
彼も柴田のプレーが信じられなかった。
ブラジル代表10番、“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウド。
日本代表監督ツンク寺田。
そして“ピクシー”ことリーエ・ミヤザワビッチ。
この3人が揃って柴田あゆみを推した。
それがあったからこそポルトは、キダターロは柴田を獲得した。
だが、この3人もまさか柴田がここまでとは思ってもみなかったはずだ。
- 386 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:08
- ゾクッ・・・・・
幾多の名選手を見てきたキダターロ。
そんな彼の腕一面に鳥肌が立つ。
こんなことは長い監督生活の中でも始めてのことだった。
- 387 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:08
- 「何か・・・・・・怖いくらい・・・・・・・」
柴田自身も自分の状態に戸惑っていた。
体の奥底から力がみなぎってくるのがわかる。
“天使”は今、覚醒の時を迎えようとしていた。
- 388 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:09
- 覚醒しつつある天使。
だが、そこに思わぬ落とし穴が待っていた。
- 389 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:09
- 中盤でボールをキープするFCポルト10番、サヤ。
彼女の本来のポジションはトップ下だ。
が、柴田加入によりそのポジションを下げ、
今はボランチとしてポルトの中盤を仕切っている。
しかしこのポジション変更は思いのほかサヤに利益をもたらした。
もともとパスセンスに優れ、チームのための献身的な態度も持ち味のサヤ。
従来のトップ下から一列後ろのボランチに下がっても何の問題もなかった。
それどころかトップ下の時にはわからなかったが、かなりの守備力を持っていた。
これを見たポルトガル代表監督は喜びに震えていた。
それはなぜか?
サヤとヒロスエ・リョウ・コスタを同時にピッチに出す方法を見つけたからだ。
- 390 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:09
- 今までは同ポジションのため、サヤかヒロスエ、どちらかしか試合に出ることはなかった。
が、このポルトでの出来を見ていればサヤをボランチ、ヒロスエをトップ下に置き、
同時に起用することは十分に可能だ。
さらにいえばヒロスエと柴田はプレースタイルが似ているし、
コンビを組むもう一人のボランチはクラブも代表でもオザワーニャだ。
何の不安も問題もない。
この後3月30日に行われるワールドカップヨーロッパ予選対スロバキア戦でこの布陣が試されるという。
柴田加入はサヤにとって新境地を開くきっかけとなったのだった。
- 391 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:10
- 中盤でボールを持ったサヤがドリブルで駆け上がる。
そこへチェックに行くのイングランド代表MFタバタ・ナズナールズ。
だが彼女は攻撃力が持ち味の“インクルソーレ”。
それだけに中盤の守備にはやや不安が残る。
サヤはあっさりとナズナールズをかわした。
「ちっ!!」
慌ててシマ・キーンがサヤを止めにいく。
が、サヤは十分にひきつけて前線にパスを出した。
- 392 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:11
- 「ナイスパス。」
このパスをフリーで受けたのはマエストロ。
中盤フラットのフォーメーションだと、中盤とDFラインの間にスペースが出来る。
そう、つまりトップ下の位置だ。
ポルトのフォーメーションを考えれば、
マンチェスターは中盤をフラットにするべきではなかったのかもしれない。
だが、3冠王者は真正面から叩き潰そうと普段どおりの正攻法できた。
そしてそれが仇となる。
- 393 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:11
- 柴田が前を向いてドリブルを開始する。
慌てて中盤から追いかけるシマ・キーンにナズナールズ。
だが全力で追っているのにまったく追いつかない。
抜群の加速力でマンチェスター最強のセンターハーフ2人を振り切る。
「ちっ!!77マーク頼むぞ!!」
DFラインからはマオ・ダイチナンドがもう1人のセンターバックにナッカーノーを託し、柴田に当たる。
世界でも五指に入るであろうセンターバック、マオ・ダイチナンド。
彼女が柴田の前に敢然と立ちはだかる。
- 394 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:12
- 「抜ける。」
だが今日の柴田は止まらない。
それは自分自身が何よりもわかっている。
今日の自分は誰にも止めることは出来ない。
- 395 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:12
- 柴田の身体がグッと沈みこむ。
そして次の瞬間、一気に加速し、ダイチナンドの右から抜けていく。
「くっ!!」
この一瞬の加速にダイチナンドも反応が遅れる。
しかしすぐに身体を寄せ、食らいついてくる。
「あっ?!!」
ダイチナンドはわが目を疑う。
一瞬の加速で動いた柴田の身体が急激に止まったのだ。
そして次の瞬間、今度は柴田の身体は逆方向へ加速した。
- 396 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:13
- だがダイチナンドも世界屈指のDF。
これにも身体を必死に寄せる。
だがさらに柴田は切り返した。
「柴ちゃん?!!」
この切り返しに思わず叫んだのは、
この試合を病室のテレビで見ていた“魔法の左足”石川梨華。
恐ろしいまでの身体のキレに石川も呆然となる。
「なっ?!!」
これにはさすがのダイチナンドも付いていけなかった。
バランスを崩し、ピッチに倒れる。
- 397 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:14
- ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ?!!!!
聖地オールド・トラフォードに集まった観客は、信じられないものを見てしまった。
あのダイチナンドが完全に振り切られるとは?
「あっ?!!!」
しかし次の瞬間、みなが叫んだ。
それは柴田が不自然にバランスを崩したからだ。
- 398 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:14
- 「チャンス!!」
その瞬間を逃さずマンチェスターセンターバックが柴田に当たる。
「くっ!!」
しかし柴田は倒れこみながらも右足でパスを出した。
このパスは前線へ上がってきたサヤの足元へ。
これをサヤはダイレクトで撃った。
サヤの右足から放たれた強烈なミドルシュートはGKの手をかすめ、
ゴールネットに勢いよく突き刺さった。
前半34分。
FCポルト、王者をさらに突き放すゴールを決める。
- 399 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:14
- 「アユミ?!!」
見事なゴールを決めたサヤ。
しかし喜びもせずすぐさま倒れた柴田のもとに駆け寄る。
「アユミ!!大丈夫か?!!」
オザワーニャやオオコーチ、エミイラたちも柴田のもとに駆け寄る。
「柴ちゃん?!!」
テレビで見ていた石川も表情が青くなる。
- 400 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:15
- 「ぐっ・・・・・・・・・」
柴田は左足の太ももを抑えて倒れこんでいた。
表情は苦痛で歪んでいる。
「みんな、どいて!!」
すぐさま駆けつけたチームドクターが柴田の左足を診る。
「これは・・・・・ハムストリングスの肉離れだな・・・・・・」
チームドクターがそう診断を下した。
もちろん詳しい検査をしてみなければはっきりとは分からないが、
ほぼ間違いないであろう。
チームドクターはすぐにタンカを呼び寄せると、
心配そうにピッチを見ている監督、テレ・キダターロに向かって両手でバツを作った。
- 401 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:15
- 「ダメか?!!」
キダターロが表情を歪める。
柴田の怪我の具合が心配なのは確かだが、
何よりもこれでこの試合、柴田抜きで戦わねばならないことになった。
マエストロ抜きで王者と戦えるのか?
「・・・・・チャンスだ。」
この状況にニヤリと笑うのはマンチェスター陣営。
もちろん一サッカー人として柴田の怪我の具合は心配だが、
それ以上に絶好の好機が訪れた。
これを逃す手は無い。
- 402 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:15
- 「ごめんみんな。後お願い・・・・」
タンカに乗せられて運ばれる柴田。
その声は消え入りそうな声であった。
もちろん痛みのせいではない。
この大事な試合に途中で下がらざるを得ない自分の不甲斐なさのためだった。
「分かった。後は任せろ。」
オザワーニャが柴田の頭をポンと叩く。
「何で・・・・・?調子は最高だったのに・・・・・・・」
タンカの上で柴田は顔を手で覆う。
今日の身体のキレは最高だった。
今日の自分ならばどんなことも出来ると確信していたのに・・・・?
- 403 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:16
- ワアアアアアアアアアア!!!!
聖地オールド・トラフォードに集まった観客たちが
タンカに乗せられて運ばれる柴田に総立ちで拍手を送る。
このあたりはさすがスポーツマンシップに溢れたイングランドだ。
敵味方関係なく称賛されるべき者は称賛する。
前半34分。
“マエストロ”柴田あゆみ、負傷により無念の途中交代。
- 404 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:16
- 「みんな、ここで役に立たない奴はただの豚よ!!」
オザワーニャがみなに檄を飛ばす。
この檄に頷くポルトイレブン。
柴田の分まで自分たちが頑張らねば。
その思いにポルトイレブンは1つになる。
だが、柴田を欠いたポルトは指揮者のいないオーケストラ。
各々が頑張るが、時間が経つごとにやはり少しずつリズムが狂ってくる。
それをマンチェスターは、昨シーズン3冠王者は逃さない。
- 405 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:16
- 「うわっ?!」
中盤でボールを持ったサヤがシマ・キーンの激しいチャージに倒れこんだ。
しかしファウルではない。
「ユキ!!」
ボールを奪ったシマはすぐさま左サイドのマツシタ・ユキスへロングパスを送った。
「エミ!!」
マツシタのマークに付くのはスズキ・エミイラ。
腰を落とし、ドリブル突破に備える。
だがマツシタは世界最高のレフトウイングと称される選手。
新進気鋭のエミイラを事も無げにかわした。
左サイドを突破したマツシタ。
そして中を見て鋭いクロスを送った。
- 406 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:17
- このクロスに飛び込むのはもちろんこの人。
マンチェスターが、オランダが誇るアタッカーマツ・ユキ・ヤスコローイ。
長身DFのナナコド・オオコーチに競り勝ち、強烈なヘディングを叩き込んだ。
後半11分。
マンチェスター・ユナイテッド、同点に追いつく。
- 407 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:17
- ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
聖地オールド・トラフォードがその瞬間爆発した。
これでこの試合は同点。
そして後1点とれば2試合合計でも同点に追いつくことが出来る。
今のマンチェスターの勢いと、キープレイヤー柴田あゆみを失ったポルトならば
同点はもちろん、逆転も時間の問題だ。
満員の観客は誰もがそう思っていた。
- 408 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:17
- 1点を取ったマンチェスターは更に勢いに乗る。
ヤスコローイのポストプレーからナズナールズが強烈なミドル。
マツシタが左から鋭く中に切れ込みゴールを狙う。
また右サイドのタカシマ・アヤパンアヤパンも絶妙のポジショニングからゴールを狙う。
これらは何とかポルトDF陣が防いだものの、完全に防戦一方となっている。
「もう一踏ん張りだ!!凌ぎきれ!!」
名将テレ・キダターロも声を張り上げるしか、祈るしか手が打てない。
- 409 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:18
- 「マオ!!最前線で張れ!!」
一方、マンチェスターを率いるサトミックス・ファーガソンは的確な手を打つ。
DFのダイチナンドを最前線に上げる。
また、中盤センターのナズナールズをトップ下に上げ、
右サイドのアヤパンをセンターに配置した。
これで最前線はヤスコローイとダイチナンドという高さに優れた2人になり、
その下には鋭い飛び出しとシュート力が魅力のナズナールズ。
またバランス感覚に優れたアヤパンをセンターに持ってきたことで
守備の面でもきっちりとケアをしている。
さすがはサー・サトミックス・ファーガソン。
その手腕は見事の一言である。
- 410 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:18
- 「やばい・・・・・このままじゃ取られる。」
ポルトの選手たちの気持ちがマンチェスターの猛攻により次第に押されていく。
「みんな!!!お願い!!!頑張って!!!」
とその時、ピッチの外から声が聞こえた。
- 411 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:18
- 「アユミ?!!」
選手たちが目を疑う。
彼女は病院へ行ったはずでは?
しかしそこにいたのは間違いなく柴田あゆみであった。
左足をテーピングでガチガチに固めており、ベンチの選手に肩を借りて立っている。
彼女は病院へは行かなかった。
この試合が終わるまでここにいさせてほしいとチームドクターに頼んでいたのだ。
当然チームドクターは反対し、すぐに病院へ連れて行こうとしたが、
柴田は頑として動かなかった。
それでチームドクターは仕方なく応急手当だけをして
試合終了まで待つことにしたのだった。
- 412 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:19
- 「みんな、行ける!!!大丈夫だから!!!」
「アユミ・・・・・・・・」
怪我をしながらもチームのために残り、声を出す柴田。
その姿にポルトの選手たちの心が震わされる。
ここで守りきれないようだとあたしたちはただの豚だ。
ポルトイレブンの気持ちがこれ以上なく高まる。
やはりマエストロの存在はポルトにとって必要不可欠であった。
- 413 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:19
- その後、ポルトイレブンはマンチェスターの怒涛の攻撃を全員で守りきる。
彼女たちの後ろには間違いなくマエストロがいた。
そして。
ピィ、ピィ、ピィー!!!!!!
主審の笛が3度高らかになった。
- 414 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:20
- FCポルトは昨シーズン3冠王者マンチェスター・ユナイテッドを
2−1、1−1で破り準々決勝進出を決めた。
- 415 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:21
- 「アユミ!!」
その瞬間ピッチにいたポルトの選手たちは一斉にベンチに向かって走る。
そして待っていた柴田あゆみと抱き合った。
みな満面の笑顔であった。
「アユミ・シバタ。彼女に我々は敗れた。
ピッチの中はもちろん、外においても彼女の存在に我々は敗れたのだ。」
名将サトミックス・ファーガソンは記者たちにそう述べ、
潔く舞台から降りていった。
- 416 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:21
- アユミ・シバタ。
この試合でその名は全世界に轟くこととなった。
その左足のタクトに誰もが注目し始める。
さあ世界の頂点へ。
天使は世界の高みに向かって羽ばたき始めた。
- 417 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:21
- 「・・・・・柴田さん・・・・・」
その天使の羽ばたきを悪魔はなんとも言えない気持ちで見ていた。
光と影。
陰と陽。
今の2人は全てにおいて遠く離れていた。
この2人が再び交わるのは果たしていつの日なのだろうか?
- 418 名前:第19話 第2ラウンド 投稿日:2004/11/27(土) 01:22
-
第19話 第2ラウンド (終)
- 419 名前:ACM 投稿日:2004/11/27(土) 01:23
- 第19話 第2ラウンド 終了いたしました。
すみません、量的にも時間的にも本当に長い話になってしまいました。
でも、やっぱり書きたいことは出来るだけきちんと書くようにしたいと思います。
次回更新も少々遅れると思いますが、どうか温かく見守ってくれるとありがたいです。
よろしくお願いいたします。
- 420 名前:ACM 投稿日:2004/11/27(土) 01:24
- では次回予告です。
第20話 ジャパンブルー
2006ドイツワールドカップまで後1年となった。
この世界最高の舞台を目指してアジア全土から勝ちあがった8チームが
アジア最終予選に臨み、死力を尽くす。
果たして日本代表はこの戦いに生き残ることができるのか?
次回は久々に代表編です。
作者自身楽しみにしていますので、どうか次回もよろしくお願いいたします。
- 421 名前:ACM 投稿日:2004/11/27(土) 01:25
- 今回、スレ隠しはなしです。
では、次回更新まで失礼いたします。
- 422 名前:ピクシー 投稿日:2004/11/27(土) 03:15
- 更新お疲れ様です。
相変わらず、各日本人選手が良い働きしてますね。
現実でもこうあってほしい・・・スペイン移籍が決まったあの選手も。
次回は久しぶりに代表戦ですか。期待してます。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 423 名前:みっくす 投稿日:2004/11/27(土) 22:04
- 更新おつかれさまです。
みんないい感じで働いてますね。
このまま頑張ってほしいです。
次回は久々に代表戦ですか。
だれが10番つけるのかな?
- 424 名前:B.C 投稿日:2004/12/01(水) 01:45
- 更新おつかれさまです。
辻ちゃんの成長っぷりは大したものです。
この先福田さんに追いつけるのかとても楽しみです。
マエストロ・・・心配です・・・。
久々の代表戦ですね、10番は誰が?
結構怪我やなんやで、メンバーがどうなるか・・・?
次回も楽しみにしています。
- 425 名前:春嶋浪漫 投稿日:2004/12/02(木) 19:39
- 更新お疲れさまです。
確実にみなさん試合を通じて成長していますね。
次の代表戦がすごく楽しみです。
代表&先発メンバー。そしてフォーメーションがどうなるか・・・
自分でも予想しつつ、次回の更新を楽しみに待ってます。
- 426 名前:k-gxp 投稿日:2004/12/04(土) 02:23
- 更新お疲れ様です。
いよいよ代表ですか。楽しみですね。
ここまでの展開だとある程度の予想はできますが、ネタばれになってしまうでしょうから
言わずにおきます。
チャンピオンズリーグでも、個人的には辻ちゃんがものすごく良い印象を持ちました。
これが最終予選で生きることになれば、代表チームにとって大きな鍵を握るのではと勝手に思ってしまいます。
後、よっすぃ〜の一日も早い復活を希望いたします。
では、スレ汚し失礼致しました。
- 427 名前:ACM 投稿日:2004/12/20(月) 22:42
- >>422 ピクシー様
レスありがとうございます。
スペインに移籍した選手には僕もとても期待しています。ぜひ結果を残してほしいですね。
今回からしばらく代表編へと突入します。
ジャパンブルーにご期待ください。
>>423 みっくす様
レスありがとうございます。
現実もこれぐらいいい働きをしてもらいたいものです。
今回からしばらく代表編です。
10番だけでなく、誰が選ばれるのか楽しみにしてください。
>>424 B.C様
レスありがとうございます。
現実でも辻ちゃんは大きく成長しているように思えます。
このまま順調に行ってほしいものです。
代表のメンバー選出は怪我人や不調者がいるのでとても迷ってしまいます。
- 428 名前:ACM 投稿日:2004/12/20(月) 22:43
- >>425 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。
作者も代表のときは誰を選び、誰を先発させるか、
そしてフォーメーションをどうするかを考えるのが楽しいです。
春嶋浪漫様ならばどんなフォーメーションをとりますか?良ければお聞かせください。
>>426 k−gxp様
レスありがとうございます。
そうですね、ここまで来れば10番はある程度予想が付くと思います。
辻ちゃんはこれからきっと活躍してくれると思います。
そしてもちろんこの話の主人公もです。
では本日の更新です。
- 429 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:44
- 「そうですか、それは良かったです。」
FCポルトMF、日本代表柴田あゆみは
自分の足を診断してくれたドクターの言葉を聞いてホッとして頷いた。
診察結果は左足のハムストリングの肉離れだった。
全治まで4週間。
この診断結果は思っていたよりも良好であった。
ハムストリングスの肉離れにしては怪我の程度が軽かったのだ。
柴田はホッと胸を撫で下ろした。
- 430 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:45
- 「これからまた大事な一戦があるとは思うが、今は絶対に焦っては駄目だ。
肉離れはしっかり治さないとまた再発するからね。じっくりと治すべきだ。いいね。」
「はいっ。」
ドクターの言葉に素直に頷く柴田。
全治4週間ということは、ギリギリでチャンピオンズリーグ準々決勝に間に合う。
しかし、その直前にあるワールドカップ最終予選には間に合わない。
いや、無理をすればこの試合にも出れるだろうが、
ここで無理をすれば取り返しの付かないことになる。
それに日本代表には自分の穴を埋められる人材がいる。
だから今回はチャンピオンズリーグに照準を絞ろう。
そうと決まれば後は毎日通院し、電気治療とリハビリで回復していくのみだ。
柴田はドクターにお礼を言い、病院を後にした。
- 431 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:46
- 「・・・・・・・・・・・・」
去っていく柴田の背中を眉間に皺を寄せた表情で見つめるドクター。
ドクターは正直困惑していた。
スポーツ医学の名医である彼は、柴田の足を診察した際、違和感を感じていた。
彼女の足は、いや、筋肉は今まで見たどの選手の筋肉とも違っていた。
どう言えばいいのだろうか。
彼女の筋肉はかなりのポテンシャルを秘めている。
磨けば超一流のアスリートとなれるほどのポテンシャルだ。
それは実に素晴らしいものだ。
だが、その割には筋肉の質の強度が足りないように思えるのだ。
- 432 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:47
- これをどう例えればいいのであろうか?
例えるならばエンジンはF1クラスでありながら、
車のボディーは薄いプラスティックといえばいいのであろうか。
エンジンが全開になればなるほど車体自体の強度がその速度に耐え切れなくなる。
そんな感じだ。
これは彼だからこそそう思えたのである。
今まで何千人というアスリートの筋肉を見てきた彼だからこそ
柴田の筋肉の本質に触れることが出来たのである。
- 433 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:47
- 「・・・・だが、まだデータ不足だ。
今回の治療期間のうちに、しっかりとデータを取らなければ。」
ただ彼もはっきりと確信したわけではない。
如何せんデータ不足だ。
今回でデータを詳しくとり、今後の対応策を考えなければならない。
「明日から詳しく検査をする。用意を頼むぞ。」
ドクターは看護士にそう伝えた。
これほどの逸材、むざむざと潰すわけにはいかない。
それはサッカー界にとって大きな損失となるのだから。
- 434 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:47
- 「・・・・・・・これはまずいな。」
日本の10番、柴田あゆみの怪我は全治4週間。
それにより、3月25日、同30日に行われる
ワールドカップアジア最終予選には欠場することが決まった。
この知らせを聞いて表情を歪めたのは日本代表監督、ツンク寺田。
それはワールドカップアジア最終予選という大事な戦いに、
日本代表は10番を2人欠くこととなったからだ。
1人はこの柴田あゆみ。
そしてもう1人の10番は、
イタリアセリエAインテルミラノ所属、吉澤ひとみ。
- 435 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:48
- 彼女はリーグ戦で悪質なファウルにより、長期の出場停止処分を受けた。
その処分は解けたものの、気持ちの面ではいまだ回復しておらず、
現在、所属のインテルでも一試合も出場していないという有様である。
ツンクの日本代表招集基準は所属クラブでの活躍度合いである。
いくら名門クラブに所属していようが、そこで試合に出ていない者を代表に選ぶ事はない。
日本が誇る“悪魔”と“天使”。
この2人を日本代表はワールドカップ最終予選という大事な舞台に欠くこととなった。
- 436 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:48
- 「・・・・・ツンク、メンバーはどないする?」
日本代表ヘッドコーチ、マコトが尋ねる。
ここは東京にあるとある高級ホテルの一室。
ここには日本代表のコーチ陣が集まっていた。
マコトは6月に行われるワールドユースに出場するU−20日本代表監督であるが、
やはりワールドカップ予選はマコトの力が必要ということでA代表に復帰を果たした。
もちろんU−20代表も継続して指揮を執る。
「これやと俺らが考えていたゲームプランが使えへん。」
日本代表コーチ、タイセーも表情がさえない。
3月25日に行われる予選の対戦相手は、中国代表。
アテネオリンピック予選、アジアカップなどで激闘を繰り広げた強敵だ。
世界各国で活躍するタレントを擁し、また監督も名将とうたわれている。
今回のグループBの中で、日本の最大のライバルである。
- 437 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:49
- その中国代表のシステムは一貫してフラットな4−4−2。
このシステムはオーソドックスで攻守に穴がないシステムだが、
中央のMFが横並びであるのと、DFとの間にスペースがあることから
トップ下を採用するチームに弱い。
それはつまり日本代表だ。
アテネオリンピック予選では“悪魔”吉澤ひとみ。
アジアカップでは“天使”柴田あゆみ。
この2人に中国は粉砕された。
そのため、今回もトップ下を採用したシステムで挑もうとツンクたちは考えていた。
- 438 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:50
- ちなみに予定していたシステムとメンバーは以下の通りだった。
安倍
後藤
柴田 市井
保田 福田
藤本 矢口
石黒 紺野
飯田
両サイドに切れ味鋭いドリブラー。
攻撃力のある両サイドバック。
得点感覚に優れたFW。
これらの武器を生かすのは全てトップ下に入る柴田のタクトにかかっていた。
だがその柴田が怪我でこの試合を欠場。
これでツンクたちのゲームプランはご破算となった。
- 439 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:50
- 「どうするツンク?いっそトップ下なしのシステムにするか?」
そうツンクに進言したのはフィジカルコーチのハタケ。
もちろんトップ下をこなせる選手はいる。
レアル・マドリード、“日本が産んだ天才”後藤真希。
バルセロナの“プリンセス”松浦亜弥。
アヤックス所属、“ドリブルの魔術師”加護亜依。
そして名古屋グランパスエイト、“アーティスト”田中れいな。
誰がトップ下を務めても及第点以上の仕事が出来るであろう。
だが、マコトたちの中では吉澤ひとみと柴田あゆみの存在が際立っている。
何故なら彼女たちは“ファンタジスタ”だからだ。
- 440 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:51
- 「いえ、あたしはトップ下を採用するべきだと思います。」
ツンクたちがトップ下を廃止したシステムで行こうと固めつつある中、
こう進言したのは彼女。
“日本サッカー界のキャプテン”こと中澤裕子だった。
昨シーズンで現役を引退した彼女は、マコト率いるU−20日本代表コーチに就任した。
今回、マコトがA代表に復帰したので、彼女も同行したのである。
「確かによっさんと柴田の穴はそう簡単には埋まりません。
でも、それを埋められる可能性を持った選手がいるじゃないですか。」
「中澤、それは誰もがわかってることや。」
中澤の言葉に苦笑を浮かべて頷くツンク。
それはマコトたちも同様だ。
日本が誇る“悪魔”に“天使”。
この後を継ぐのは“芸術家”だということを。
- 441 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:51
- 「けどな、中澤。この戦いはワールドカップ最終予選や。
しかも相手はあの中国や。現時点では吉澤と柴田に遥かに劣る田中を使うのは
正直リスクが大きすぎる。」
中澤はこのツンクの言葉に驚きを隠せなかった。
アジアカップ制覇、オリンピック制覇を成し遂げ、世界でもその名を轟かすこの名将が漏らした余りにも弱気な言葉に。
またこの意見にU−20代表監督マコトも同意していた事に中澤は更に驚く。
田中れいなはマコトのチームの命運を握る選手だ。
その選手をこの一戦には使えないと判断する。
『これがワールドカップ予選なんや。』
しかしこれでワールドカップ予選の重みを中澤は思い知った。
これは今までの戦いや、選手の時とはまた違った重みであった。
- 442 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:52
- 「・・・・でも、あの娘なら絶対にやってくれると思います。」
ツンクたちの気持ちを理解しながらも、中澤はもう一度言った。
U−20代表コーチに就任してからまだ3ヶ月ほどだが、
その期間に一度U−20代表の合宿があった。
そこで田中れいなを見たが、その時の衝撃が忘れられない。
『よっさんや柴田が自分の後継者やと認めるだけはあるわ。』
それが率直な感想だった。
もちろんJリーグ開幕前だったため、コンディションはまだまだ十分ではなかった。
しかし彼女がトップ下のポジションから見せる数々のアートは、
中澤の心を躍らせた。
だからこそ今、田中を強烈にプッシュしているのだ。
- 443 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:53
- 「・・・・・・・・・」
しかしツンクは無言のままだった。
ワールドカップアジア最終予選。
失敗は絶対に許されない。
だからこそ2月9日に行われたワールドカップアジア最終予選初戦、
対バーレーン戦には田中れいなを選出しなかった。
最終予選。
選手を育てながら勝つといった余裕などない。
結局、結論は出ずじまいであった。
- 444 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:53
- 「レイナ、それはピッチを上げすぎだ。」
田中の練習に思わず声をかけたのが名古屋が誇る“ピクシー”、
リーエ・ミヤザワビッチ。
柴田が怪我をしたのを知ってから、田中はトレーニングのピッチを上げ始めた。
それは柴田とひとみの穴を埋めるのは自分しかいないという自負からであった。
が、それが余りにも急ピッチだった。
これでは絶対にシーズン途中で反動が来て、コンディションが落ちてしまう。
「・・・・でもこれぐらいしないと代表戦には間に合わないよ。
リーエだってこの状況で代表戦を控えてたらこうするでしょ?」
こう言われるとリーエも返す言葉がない。
代表。
最近ではその重みを失っているというきらいもあるが、
やはりサッカー選手として代表戦は特別だ。
特にリーエの代表に対する思いの強さは有名なところである。
祖国を強くするために彼女は様々な活躍をピッチの内外で示している。
そして田中れいなも代表に対する思いは強い。
それは代表にはひとみと柴田の匂いを感じることが出来るからだ。
“ジャパンブルー”。
この青いシャツに袖を通してこそ“芸術家”はその真価を発揮するのだ。
- 445 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:54
- そしてそんな中、Jリーグ開幕前の3月16日。
名古屋グランパスエイトのホーム、豊田スタジアムで
名古屋グランパスエイトVSコンサドーレ札幌のプレシーズンマッチが行われた。
「さあ、この試合で判断をさせてもらおか。」
VIPルームではツンクをはじめ、日本代表コーチ陣が勢揃いしていた。
あの時の会議では慎重論に傾きつつも、田中れいなの可能性を捨てきれなかった。
そのため、この試合を決断の材料にするつもりであった。
田中自身もそれは理解している。
この試合で日本代表での自分の立場が決まる。
そう思うと自然に気持ちも熱くなってくる。
- 446 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:55
- 「れいな、絵里。」
「みうなさん。」
「どーもみうなさん。」
入場を直前に控えた両チーム。
そんな中、田中と亀井に声をかけたのはコンサドーレ札幌左サイドバックの斉藤美海。
田中れいな、亀井絵里、そして柏レイソルFW道重さゆみとともに
U−20日本代表の主力メンバーだ。
「れいなさん、絵里さん。」
「どーもれいなさん、絵里さん。」
「お久しぶりです。」
「雅、早貴、千聖。」
「久しぶりだね。」
そのみうなの後ろにいた3人の選手も声をかける。
U−20代表ストライカー、夏焼雅。
U−20代表DF、中島早貴。
U−20代表GK、岡井千聖。この3人であった。
昨シーズン末、コンサドーレを支えてきた三銃士、
安倍なつみ、飯田圭織、紺野あさ美が揃って海外移籍を果たした。
彼女たちと入れ替わりにコンサドーレに加入したのが夏焼、中島、岡井の3人であった。
そのため、新加入の彼女たち3人を新三銃士とサポーターたちは呼び、期待をこめる。
- 447 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:55
- 「今日はゴールを割らせてもらいますよ。」
若きストライカー、夏焼雅が亀井絵里に宣戦布告する。
「れいなさん、今日は必ず止めますから。」
DFの中島、GKの亀井も田中に対して挑戦的だ。
彼女たちも田中同様、この試合が試金石だ。
チームを旅立っていった三銃士の代わりが務まるのかどうか。
それをサポーターたちに証明する必要が彼女たちにはあった。
シーズン開幕前のプレシーズンマッチとはいえ、
なんともいえない緊張感があたりを支配していた。
これはツンクやマコトにとっては好都合。
熱い戦いでこそ選手の状態の良し悪しが分かるからだ。
ピィー!!!!!
そんな中、主審の笛が高らかに鳴り、試合が開始された。
- 448 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:56
- <名古屋グランパスエイト> 4−4−2
FW
10 GK 1 亀井絵里
11 MF 11 田中れいな
MF MF FW 10 リーエ・ミヤザワビッチ
MF
DF DF
DF DF
1
- 449 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:56
- <コンサドーレ札幌> 4−4−2
9 FW
GK 23 岡井千聖
MF MF DF 3 斉藤美海
15 中島早貴
MF MF FW 9 夏焼 雅
3 DF
15 DF
23
- 450 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:56
- 「れいなさん!!」
キックオフと同時にボールを持った田中に襲い掛かる夏焼。
出だしからエンジン全開だ。
「雅!!」
これを正面から迎え撃つ田中。
こちらもエンジン全開、真っ向勝負だ。
「あっ?!!」
夏焼が思わず叫ぶ。
その動きの鋭さは夏焼の予想をはるかに超えていた。
田中はチェックに来た夏焼をまたぎフェイント一発であっさりとかわした。
夏焼をかわした田中、新たにチェックに来たコンサドーレMFを十分に引き付けてから
右サイドに大きく振った。
そこには右サイドバックがタイミングよくオーバーラップしていた。
- 451 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:57
- オオオオオオオオ?!!!!
観客が田中のキレのあるプレーにどよめく。
「お、よく見えとる!!」
「ナイスパス!!」
VIP席でも日本代表首脳陣が思わず唸る。
グランパス右サイドバックはボールを受けると、
右サイドハーフと連携して右サイドを上がっていく。
そしてファーサイドにクロスを送った。
「ちっ!!」
だがこのボールはファーサイドに大きく流れすぎている。
ミヤザワビッチが必死に追いかけるが、どんどん角度が厳しくなってくる。
だが、ここでピクシーが妖精のごときプレーを見せる。
「レイナ!!!」
ミヤザワビッチはこのクロスボールに飛び込むと、
ダイレクトヒールボレーで後ろへ戻した。
このパスに走りこんでいたのは田中れいな。
付いていたマークを振り切り、左足ダイレクトでこれをとらえる。
- 452 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:58
- 「くっ!!!」
強烈なシュートがゴールマウスを襲う。
が、これをコンサドーレGK岡井がビッグセーブ。
かろうじて右手に当てた。
そのこぼれ球はDF中島が大きくクリアした。
「あーっもうっ!!!」
思わず吐き捨てる田中。
今のは決めておかなければならないところだ。
「ドンマイレイナ。」
見事なヒールパスを送ったリーエがポンと田中の肩を叩く。
シュートは外れはしたものの、そこに至るまでの動きは良かった。
これなら日本代表首脳陣に大きくアピールできたはずだ。
- 453 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 22:59
- 「ほーう。田中のやつ、だいぶコンディションはいいようだな。」
ツンクが田中の一連のプレーにうなる。
「どうやらあいつ、次の試合に出る気みたいやな。」
マコトだ。
彼の言う次の試合とはもちろんワールドカップアジア最終予選のことだ。
試合開始からまだわずかしか経っていないが、
ここまでの動きを見れば田中のコンディションが上々であることが分かる。
そして何より、意欲に満ち溢れているのも。
“アーティスト”はそのげいじゅつを惜しげもなく披露する。
- 454 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:00
- さらに“アーティスト”は突き進む。
コンサドーレ左サイドバック、斉藤美海がオーバーラップし、中にクロスを送る。
が、これはGK亀井絵里が飛び出してキャッチした。
「絵里!!!」
その瞬間右サイドへ流れる田中。
狙いはみうなが上がって出来た右サイドのスペース。
そこへ亀井が正確なロングキック。
このパスは田中の足元にきっちりとおさまった。
「行かせない!!!」
だが当然コンサドーレも田中をフリーにさせない。
すばやく中島がチェックに向かい、激しく当たる。
「ぐっ?」
この激しいチェックに田中の体勢が崩れる。
その隙を逃さずボールを奪いにいく中島。
だが田中は崩れた体勢からでも見事なボールコントロールを見せる。
かかとでボールを弾いて中島の股間を通した。
そして自分はすぐに体勢を立て直し、反転して前へ出る。
- 455 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:00
- 「しまった!!」
慌てて反転し、田中のチェックにいく中島。
だが田中は一瞬の加速でもう2歩分は中島を振り切っている。
恐るべき瞬発力だ。
右サイドを突破した田中はゴール前を確認する。
ゴール前にはFWとリーエが詰めている。
「レイナ!!!」
『分かってる!!』
ファーサイドのリーエが一気にニアサイドへと飛び込んでくる。
それを田中の目は逃さない。
が、ここでクロスを上げさせまいと中島が決死のスライディングでコースを防ぐ。
- 456 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:00
- 「あっ?!!」
しかし中島をあざ笑うかのように田中は鋭く切り返した。
そして素早く右足アウトサイドでニアサイドのリーエへグラウンダーのパスを送る。
だが中島のスライディングによりクロスのタイミングが遅れた。
そのためマークに追いつかれたリーエはシュートにいけず、
このパスをトラップするしか出来なかった。
「リーエ出して!!!」
が、ここで田中が右サイドからペナルティエリアの中へ鋭く切り込んで来た。
『いい動きだレイナ!!』
リーエはすかさず田中に絶妙のパスを出す。
「右!!!」
GK岡井は田中の踏み込んだ右足の角度、
更には身体の向きからボールは右隅に来ることを予測した。
この読みは完璧だった。
だが“芸術家”は即興でアートを見せた。
- 457 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:01
- 右足を踏み込み、左足を振り下ろす。
が、この左足はボールをとらえることはなかった。
振り下ろされた左足はボールをまたいでその真横に止まり、
軸足だった右足が左足の裏から出てきてボールをとらえた。
“ラボーナ”だ。
「あっ?!!」
この即興のアートに岡井はタイミングをずらされた。
そしてなおかつこのシュートは岡井の予測したのと逆のコースに飛んでいた。
パサッ
優しくゴールネットが揺れた。
岡井は一歩も動くことが出来なかった。
名古屋グランパスエイト、田中れいなの芸術により1点先制。
- 458 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:01
- ワアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!
豊田スタジアムが大きく揺れた。
誰もが今見た芸術に心を奪われていた。
VIP席でも日本代表の首脳陣たちが唖然としていた。
「田中のやつ・・・・・ここまでだったか・・・・?」
さすがのツンクも驚きを隠せないでいる。
それは田中のことを良く知るマコト、中澤も同様であった。
- 459 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:02
- 「よしっ!!」
田中が会心の一撃にグッと拳を握り締める。
ここまでイメージ通りに身体が動いている。
それはもちろんコンディションがいいおかげであるが、
それよりもイメージがどんどん膨らんでいるのが大きい。
その発想力は自分でも怖いぐらいだ。
それがなぜなのかは田中自身理解している。
「ナイスレイナ!!」
それは彼女が側にいるからだ。
彼女と一緒に練習するおかげで色々な事を学ぶ事が出来る。
彼女を見ていると、サッカーというのは何をやってもいいんだということを教えてくれる。
それが田中れいなに自由な発想を与えてくれる。
それはかつて柴田あゆみが辿った同じ道であった。
そして柴田はここから世界へと羽ばたいていった。
“ピクシー”リーエ・ミヤザワビッチ。
その存在はまさに生きた伝説である。
- 460 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:03
- ピィ、ピィー!!!!
そして前半戦はこのままで終了した。
田中れいなの“芸術”がピッチを支配した。
これで次戦の日本代表の10番は彼女で決まりかと思われた。
だが“芸術家”の前に彼女が立ちはだかる。
雄大で美しい海が。
- 461 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:03
- 「早貴、ポジション代わろう。」
ハーフタイム。
田中にいいようにやられた中島の肩をポンと叩き、
ポジション変更を言ったのは斉藤美海、みうなだった。
あまり田中れいなに好き勝手をさせるわけにはいかない。
なぜなら“ジャパンブルー”を狙っているのは田中だけではないからだ。
自分もA代表へとステップアップしてみせる。
それはみうなだけでなく夏焼も、中島も岡井も思っていること。
いや、日本のサッカー選手の誰もが思っていること。
“ジャパンブルー”をめぐる争いはまだまだ続く。
- 462 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:04
- 「れいな、これ以上は何もさせないよ。」
「そう来ましたか、みうなさん。」
後半が開始して早々、DFラインの中央にポジションをコンバートしたみうなの存在に
気づいた田中。
これは自分を潰すためだということを瞬時に理解した。
しかしこれは田中にとって望む展開であった。
次の予選の相手、中国代表は鉄壁の4バック、“万里の長城”を誇る。
4人の誰もが抜群の身体能力と高さを併せ持っている。
仮想“万里の長城”として身体能力に優れたみうなは申し分のない相手だ。
つまりここでみうなをぶち抜けば、これ以上無いアピールとなる。
「よしっ!」
田中はもう一度気合を入れなおした。
- 463 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:04
- 「田中!!」
グランパスボランチから田中にパスが通る。
このパスを受けた田中、チェックに来たコンサドーレボランチをあっさりとかわす。
「ぐっ?!!」
が、その瞬間、激しい当たりが田中を襲った。
思わずバランスを崩す田中。
その隙を逃さず第二撃が田中を襲う。
これには田中も耐え切ることが出来なかった。
田中はピッチに倒され、ボールを奪われてしまった。
「やばいっ!!」
グランパスイレブンが慌ててディフェンスにまわる。
この位置であっさりと田中がボールを奪われるとは思ってもいなかったため、
守備陣形は崩れている。
必死に戻り、守備陣形を整えようとする。
だがコンサドーレは日本一のカウンターチーム。
堅守からの必殺カウンターでタイトルを獲得してきたチームだ。
そのチームがこの絶好のチャンスを逃すはずはなかった。
- 464 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:05
- ポンポンとパスが2本つながる。
もうそれだけでグランパスゴール前にボールは来ていた。
「雅!!!」
コンサドーレは最後のフィニッシュをこのU−20代表のストライカーに任せた。
コンサドーレが誇った“日本のエース”は確実にこの場面で決めてきた。
ここで決められるかどうかで彼女のこれからが決まる。
「決める!!」
夏焼は何とか戻ったグランパスDFにユニフォームをつかまれながらも
強引に右足を振りぬいた。
「うわっ!!」
これはGK亀井の真正面であったが、シュートの威力が亀井の反応に勝った。
ボールは亀井の手をかすめ、勢いよくゴールネットに突き刺さった。
後半17分。
コンサドーレ札幌、同点に追いつく。
- 465 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:05
- 「くそっ・・・・・みうなさん・・・・・・」
誰がチャージに来たのかは見なくても分かる。
激しい二連続のチャージ。
さらには奪った後の鋭いロングパス。
その全てがスケールに満ち溢れている。
斉藤美海。
彼女が田中れいなの前に立ちはだかる。
「レイナ。ここが勝負の分かれ目よ。」
前半だけでベンチに退いたリーエが腕を組み、
ベンチからじっと戦況を見つめる。
いかに斉藤美海のマークを振り切るか。
それが勝負の、全ての鍵となる。
- 466 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:06
- しかしその後試合は膠着する。
ここまでキレのある動きでピッチを支配していた田中れいな。
その田中が全く輝かなくなってしまった。
完璧にみうなに押さえ込まれてしまっている。
ピィ、ピィ、ピィー!!!!
そして試合終了の笛が高らかに鳴った。
名古屋グランパスエイト1−1コンサドーレ札幌
“ジャパンブルー”を賭けたこの一戦は引き分けという結果に終わった。
- 467 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:06
- 「田中・・・・・」
VIP席で中澤が苛立ちを隠せずに呟く。
もちろん中澤もみうなの実力は知っている。
そう簡単に振り切れる相手ではない。
しかし今日の田中の出来ならば十分に勝てるはずであった。
だが後半、明らかに田中は失速した。
前半の輝きがまるで嘘のように。
「くそっ・・・・・」
この結果に当の本人が一番失望していた。
こんな出来では到底あの2人の穴を埋めることは出来ない。
- 468 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:07
- 「ツンク、これは考えなあかんな。」
「ああ。」
タイセーの言葉に頷くツンク。
彼らも正直迷っている。
前半の田中のプレーは素晴らしかった。
あの動きならば日本代表の10番とトップ下を安心して任せることが出来る。
が、後半、田中の課題が見えてしまった。
それは芸術家特有のムラッ気。
良いときと悪いときの差が激しすぎるのだ。
そしてもう1つ。
彼女は天性のアタッカー。
攻撃に専念してこそその才能のきらめきを見せることが出来るのだ。
それは、田中れいなに守備を考えさせてはならないということだ。
- 469 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:07
- つまり田中が2トップの下に入ると、それだけで守備陣の負担が増大してしまう。
彼女は中盤の数に入らないからだ。
今日の試合でも前半はピクシーがいたおかげでコンサドーレも自陣に張り付いたため、
攻撃に専念することが出来た。
が、後半にピクシーが下がり、自分もみうなのマークを受けると後はもう駄目であった。
劣勢に立たされたため、田中も積極的に守備に参加する。
が、その分攻撃面での力を失ってしまったのである。
“アーティスト”は守備という鎖で縛り付けてはならないのである。
- 470 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:07
- マコトはそれを分かっており、だからこそU−20代表では1トップ下の田中の後ろを
PSVの辻希美、ジュビロ磐田新垣里沙で支えるというシステムをとっている。
辻と新垣に守備を担当させ、田中は攻撃のみを考える。
これは田中の才能をフルに生かすためであった。
「・・・・ツンク、もし仮に田中を使うとしたらかなりの犠牲がいるで。」
「・・・・・・・・・・」
マコトの言葉に無言で頷くツンク。
田中を使うならば日本が世界に誇るアタッカー陣の誰かを犠牲にしなくてはならない。
そうしなければ守備陣は崩壊する。
「・・・・・・・・・・・・・」
全ての最終決定権はツンクにある。
彼は今、深く悩んでいた。
果たして“ファンタジスタ”をとるのか、それとも・・・・・?
- 471 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:08
- このプレシーズンマッチの翌日。
ツンクにより、中国戦、イラン戦に挑む日本代表が発表された。
- 472 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:09
- GK 1 飯田圭織 ボルシア・ドルトムント(ドイツ)
12 ミカ・トッド ブラックバーン・ローバーズ(イングランド)
DF 2 石黒 彩 ACミラン(イタリア)
3 里田まい オリンピアコス(ギリシャ)
14 斉藤美海 コンサドーレ札幌
15 小川麻琴 清水エスパルス
16 紺野あさ美 ASローマ(イタリア)
MF 4 辻 希美 PSVアイントホーフェン(オランダ)
5 加護亜依 アヤックス(オランダ)
6 保田 圭 アトレティコ・マドリー(スペイン)
7 平家みちよ 浦和レッズ
8 矢口真里 バレンシア(スペイン)
10 田中れいな 名古屋グランパスエイト
11 市井紗耶香 アーセナル(イングランド)
18 福田明日香 ユヴェントス(イタリア)
20 藤本美貴 シャルケ04(ドイツ)
21 新垣里沙 ジュビロ磐田
FW 9 安倍なつみ ユヴェントス(イタリア)
13 松浦亜弥 バルセロナ(スペイン)
17 高橋 愛 ASモナコ(フランス)
19 村田めぐみ ベンフィカ(ポルトガル)
22 木村アヤカ セルタ・デ・ビーゴ(スペイン)
23 後藤真希 レアル・マドリード(スペイン)
- 473 名前:第20話 ジャパンブルー 投稿日:2004/12/20(月) 23:10
-
第20話 ジャパンブルー (終)
- 474 名前:ACM 投稿日:2004/12/20(月) 23:14
- 第20話 ジャパンブルー 終了いたしました。
今回は代表編のオープニングのようなものになりました。
次回から最終予選の試合をお届けしたいと思います。
次はもっと早く更新できるようにがんばりますので、
よろしくお願いします。
- 475 名前:ACM 投稿日:2004/12/20(月) 23:18
- では次回予告です。
第21話 12億の魂
ワールドカップ最終予選第2戦。
日本代表はアウェーで中国代表と対戦する。
もうこれ以上は日本に負けられない。
中国代表はその全てをここに賭けてくる。
12億の同胞の思いとともに。
では次回更新まで失礼いたします。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。
- 476 名前:娘。よっすぃー好き 投稿日:2004/12/21(火) 01:55
- 更新お疲れ様です。
後継者が徐々に成長してますね。相変わらずのムラッ気も残ってますが・・・
いよいよ代表戦。永遠のライバル(?)の対決楽しみにしてます
- 477 名前:ピクシー 投稿日:2004/12/21(火) 04:02
- 更新お疲れ様です。
ムラッ気・・・天才肌の選手には付き物ですねぇ。
アウェーの中国戦ですか・・・現実のアジア杯を思い出します。
現実の方も、北でのアウェー(ホームでもだけど)が、妙に怖いですね・・・ブルブル
先日もドイツ(しかもほとんど「高さ」を使わなかった)には徹底的にやられましたね。
シンガポールに辛勝していただけに、良い薬だったと思えるのは自分だけでしょうかね?
次回更新も楽しみに待ってます。
- 478 名前:みっくす 投稿日:2004/12/21(火) 08:09
- 更新おつかれさまです。
いよいよはじまりましたね。
日本にいる10番は成長著しい感じですが、やっぱりムラッ気いっぱいで。
ここが二人との差なんでしょうね。
それにしてもすごいメンバー構成ですね。
23人中、日本クラブ所属がたったの5人。
こういう時代は来るのでしょうかね。
次回も楽しみにしてます。
- 479 名前:春嶋浪漫 投稿日:2004/12/22(水) 00:32
- 更新お疲れ様です。
フォーメーション的には作者さまと同じ考えでしたよ。
彼女がいたならば・・・ほんとに10番を使うか難しい選択ですね。
代表は成長の場ではないですからね。
↑って誰かが言っていたよ〜な・・・
もし私が監督で10番を出すなら、右サイドを右ウィングまで上げて
4−3−3(1トップ2ボランチ)にもっていきたいですね。
↑ユースと同じ4−2−3−1でもいいぢゃなぁ〜〜〜い?
そのためには両サイドバックのディフェンスが重要になってきますが・・・
やっぱ使わない場合は4-4-2でしょうか。
まぁ〜その方が無難といっちゃ無難なんでしょうが・・・
私がない知恵を搾り出して考えてみました。いかがでしょう作者さん?(爆)
いよいよ始まる決戦を楽しみに待ってますね。
- 480 名前:k-gxp 投稿日:2004/12/24(金) 01:05
- 更新お疲れ様です。
みっくすさんも言われてますが、殆どが海外のクラブ所属って・・・・ww
ものすごいことになってますねww
しかもそのクラブチームは世界的な知名度と実力を誇るばかり・・・・。
現実の代表でもいづれこういう感じになってほしいものと思いますね。
アーティストを起用するとなると、両サイドのウイング、中盤の底、ディフェンスラインをどうするか
個人的にはこの辺りのバランスがとても気になる所です。
しかも相手は成長著しい中国、アウェーでの対戦。
ピクシーさんの仰るようにアジアカップ決勝を思い出しますね。
テレビで見ていただけですがそれでも異様な雰囲気でしたからね。
作者様の次回更新を期待しております。
では失礼しました。
- 481 名前:B.C 投稿日:2004/12/27(月) 03:43
- 更新おつかれさまです。
10番はやっぱりあの人でしたか・・・
師匠達と同じでムラッケが伝承されてますねw
メンバーが海外クラブ所属多数こんな日が現実になるのが夢ですね。
みなさんもそう思ってるようですが
やっぱりディフェンス陣の連携が鍵になりそうですね。
これからも更新がんばってください。
- 482 名前:ACM 投稿日:2005/01/10(月) 08:59
- >>476 娘。よっすぃー好き様
レスありがとうございます。
後継者は現在、順調に育っております。もちろんムラッ気もまだまだありますが。
その後継者がどんな活躍を見せるのか、どうかご期待ください。
相手は永遠のライバルです。相手にとって不足なしでしょう。
>>477 ピクシー様
レスありがとうございます。
ドイツ戦は完敗でしたね。確かにいい薬でしょう。
作者も含めて、日本サポーターはどうもアジアを軽視しているような気がします。
シンガポールに大苦戦した事実を忘れちゃだめですよね。
>>478 みっくす様
レスありがとうございます。
日本にいる10番はまだまだ発展途上ですからね。これからに期待です。
とうとう日本代表もこれだけのメンバーを組むことが出来るようになりました。
これが現実だともっと嬉しいのですが。
- 483 名前:ACM 投稿日:2005/01/10(月) 09:01
- >>479 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。
そしてシステムの方もありがとうございます。作者的にも凄くいいと思っています。
ですが、果たしてツンクさんはどんなシステムで来るのか。
ツンクさんの決断にご期待ください。
>>480 k−gxp様
レスありがとうございます。
まさにビッグクラブばっかりですね。よくもまあ揃ったものだと、作者も驚いています。
ほんと、いつの日かこうなって欲しいと願うばかりです。
システム。やはり時代はスリートップなのでしょうかね?
>>481 B.C様
レスありがとうございます。
はい、10番は予想通りムラッ気たっぷりのあの人です。上2人にそっくりです。
メンバーのほとんどが欧州の一線で活躍する。
そんな日が来ればいいですね。
みなさま、遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
昨年は色々と温かいレスを頂き、本当にありがとうございました。
今年も頑張って書いていきたいと思っていますので、どうかよろしくお願いいたします。
では、本日の更新です。
- 484 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:03
- GK 1 飯田圭織 ボルシア・ドルトムント(ドイツ)
12 ミカ・トッド ブラックバーン・ローバーズ(イングランド)
DF 2 石黒 彩 ACミラン(イタリア)
3 里田まい オリンピアコス(ギリシャ)
14 斉藤美海 コンサドーレ札幌
15 小川麻琴 清水エスパルス
16 紺野あさ美 ASローマ(イタリア)
MF 4 辻 希美 PSVアイントホーフェン(オランダ)
5 加護亜依 アヤックス(オランダ)
6 保田 圭 アトレティコ・マドリー(スペイン)
7 平家みちよ 浦和レッズ
8 矢口真里 バレンシア(スペイン)
10 田中れいな 名古屋グランパスエイト
11 市井紗耶香 アーセナル(イングランド)
18 福田明日香 ユヴェントス(イタリア)
20 藤本美貴 シャルケ04(ドイツ)
21 新垣里沙 ジュビロ磐田
FW 9 安倍なつみ ユヴェントス(イタリア)
13 松浦亜弥 バルセロナ(スペイン)
17 高橋 愛 ASモナコ(フランス)
19 村田めぐみ ベンフィカ(ポルトガル)
22 木村アヤカ セルタ・デ・ビーゴ(スペイン)
23 後藤真希 レアル・マドリード(スペイン)
- 485 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:04
- オオオオオオオオオオ・・・・・・・・・
ツンクにより選手たちが発表されると、会見場からは思わず嘆息が漏れた。
それは選手たちが所属するクラブの名前にだ。
23名中、18名。
ついに日本はここまで海外組を輩出するに至った。
日本のサッカーなど児戯同然。
そんな黎明期から支えてきた者たちにとっては感慨深いものである。
だがもちろんサッカーは所属クラブの名前でするわけではない。
いくら海外に所属する選手を多くそろえようが、
チームとしてまとまっていなければ戦いには勝てない。
それに他のアジア諸国も例外なくレベルが上がっている。
現にワールドカップアジア最終予選の初戦、
対バーレーン戦ではホームであるにも関わらず1−0の辛勝であった。
さらに今回は25日にアウェーで中国と、
30日はホームでイランと対戦する。
両国ともオリンピック予選やアジアカップで日本と激闘を繰り広げた。
今回はその雪辱を晴らさんとばかりに気合が入っていると伝わっている。
アジアチャンピオン、さらには五輪チャンピオンである日本といえども一瞬でも気を緩めればやられる。
そんなアジアの強国が相手である。
- 486 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:04
- だがマスコミ連中はそうは考えてはいないようだ。
これだけ海外の名門クラブに所属する選手がいるのだ。
予選突破はもちろん、全ての試合で圧勝して当たり前と思っている。
現に初戦、対バーレーン戦を1−0で終わった後など、
反響は大きかった。
ホームできっちりと初戦をとったにも関わらず、
マスコミは叩きに叩きまくった。
ある新聞などは、ワールドユースに挑むU−20代表の方で
ワールドカップ予選を戦うべきだと言うほどだった。
「ここでみなさんにはっきりと言っておきたい事があります。
サッカーはクラブの名前でするものではありません。
しかもこの戦いはワールドカップ予選です。
どの戦いもおいそれとは勝たせてはくれません。」
これにはツンクもこんな釘をさしておかねばならないほどであった。
- 487 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:05
- そんな中、日本代表は敵地中国へ乗り込み、最後の調整を行っていた。
直前の3月20日まで各国でリーグ戦が行われていたため、
3日前の3月22日、現地中国でようやく全員が集合した。
練習場ではAチーム、Bチームに分かれてミニゲームが行われていた。
もちろん練習は非公開。
わざわざここで手の内を見せる必要はない。
「誰がスタメンなんだろうな。」
「システムはどうするんだろう?」
この非公開練習にマスコミたちはスタメン予想に頭を悩ませる。
何しろこのメンバーだ。
誰がスタメンで出てもおかしくはない。
日本では連日各紙がこぞって日本代表予想スタメンを取り上げていた。
しかしそのどれもが決定打に欠けていた。
『ツンクは必ずこれで来る。』
しかし中国代表を率いる名将、オク・ダタミオビッチは確信していた。
これまで何度も日本と対戦してきた。
それだけに相手の考えが手に取るように分かる。
ツンク寺田。
彼ならば必ず彼女を使うということを。
そして試合当日を迎えた。
- 488 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:06
- ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
北京工人体育場は大きく揺れていた。
見渡す限り赤、赤、赤。
62000人収容できるこのスタジアムはそのほとんどが赤、
中国サポーターで埋め尽くされていた。
彼らは追い詰められていた。
ここ最近の日本との対戦結果はほとんど全敗だ。
アウェーであろうがホームであろうがほとんど敗れ去っている。
このまま日本に負け続けるということは絶対に許されないことだ。
今日の試合は絶対に勝つ。
選手、コーチ、そしてサポーター。
中国国民12億は1つになり、この試合に臨んでいた。
- 489 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:06
- ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!
スタジアムではスターティングイレブンが発表されていた。
これに当然中国サポーターはブーイングを送る。
ごくわずかながらゴール裏の一角にいる青、日本サポーターも負けじと声を張り上げるが、
如何せん数が少ない。
全ての声がブーイングにかき消されている。
「スタメンはどうなんだろう・・・・・」
日本の報道陣たちが固唾を飲んでスタメン発表を待つ。
これだけ豪華なメンバーの中から、ツンクが選んだメンバーとは?
- 490 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:07
- 「GK、背番号1、飯田圭織。」
電光掲示板にドイツブンデスリーガ、ボルシア・ドルトムントの守護神の顔が映る。
その瞬間一斉にブーイングを浴びせかける中国サポーター。
みな知っている。
自分たちの英雄、サ・トエリの前に立ちはだかるのは彼女だということに。
「DF、背番号2、石黒彩。」
グランデミランの一翼を担うセンターバック。
高さと強さはゆうに世界レベルだ。
守備の国、イタリアでもその評価は高い。
「DF、背番号8、矢口真里。」
オオオオ・・・・
この発表にごくわずかな日本人サポーターと報道陣がどよめいた。
「小川じゃなくて矢口を持ってきたか・・・・・」
「ツンク監督、攻撃的に来たな。」
バレンシア所属のサイドアタッカーを右サイドバックに持ってきた。
これは攻撃を重視してということは誰もが理解できた。
- 491 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:08
- 「DF、背番号16、紺野あさ美。」
その実力はイタリアが誇る“プリンセス”ナカマチェスコ・ユッキエのお墨付きだ。
クレバーなプレーと、的確なラインコントロールは中国サポーターも知るところだ。
ACミランとASローマ。
世界に名だたるクラブのセンターバックが中国代表の前に壁を形成する。
「DF、背番号20、藤本美貴。」
左サイドバックはバイエルン・ミュンヘンがほれ込む逸材、
左サイドのスペシャリスト、ミキティだ。
これは誰もが予想した通りだ。
成長著しい斉藤美海もまだミキティの域には達しない。
左からシャルケ04、ACミラン、ASローマ、バレンシア。
クラブの名前では世界でも最高と呼べるほどのDFラインとなった。
- 492 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:08
- 続いて中盤の選手が発表される。
「MF、背番号6、保田圭。」
まず名前を呼ばれたのはスペインの名門アトレティコ・マドリーのセンターハーフ。
“頼れる姉貴分”であった。
その抜群の守備力できっちりと中盤を引き締める。
「MF、背番号10、田中れいな。」
続いて呼ばれたのは彼女。
日本が誇るファンタジスタ、田中れいな。
この大一番にツンクは彼女を抜擢した。
ツンクは日本の命運を“アーティスト”に託した。
「MF、背番号18、福田明日香。」
当然彼女はピッチに立つ。
世界がその存在を認める日本が誇る“偉大なるパイオニア”。
将軍として日本を引っ張っていく。
「MF、背番号21、新垣里沙。」
ここで名前を呼ばれたのは日本サポーターも意外な人物だった。
抜群のスタミナを誇り、ピッチを所狭しと駆け回るダイナモ。
新垣里沙がこの大一番で抜擢された。
- 493 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:09
- 続いてFWの紹介に入った。
「FW、背番号9、安倍なつみ。」
今やユヴェントスのエースストライカーとなった“日本のエース”。
この大一番、彼女の大舞台の強さが期待される。
「FW、背番号23、後藤真希。」
最後は“日本が産んだ天才”。
アジアだけでなく、いまや全世界で天才とうたわれるまでとなった。
銀河系集団、レアル・マドリードの絶対的なエースだ。
2トップはやはりこの2人であった。
- 494 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:10
- 「すごいメンバー。」
とある日本サポーターがボソッとつぶやく。
彼がそう言ったのはスタメンの選手はもちろんのこと、
ベンチのメンバーに対してもだった。
ギリシャの名門、オリンピアコス。
オランダの名門、PSVアイントホーフェンにアヤックス。
イングランドの3強、アーセナル。
フランスのASモナコ。
ポルトガル3強のベンフィカ。
そしてスペインのセルタ。
これら名門クラブのレギュラーを張る連中が控えるベンチは、
まさに豪華絢爛と呼ぶにふさわしかった。
「まさか・・・・・・こう来るとは・・・・」
オク・ダタミオビッチは額に手を当てる。
彼は自分の予想が外れたことに戸惑っていた。
その予想とは、10番田中れいなを使うということではない。
彼自身も田中は必ず出てくると踏んでいたのだ。
ここまで何度もツンクと戦ってきたが、彼は“ファンタジスタ”を重宝する傾向にある。
だからこそ今回、田中れいなを使ってきたのである。
彼が驚いた理由は田中以外の中盤の選手たちであった。
- 495 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:10
- 「・・・・・・・・」
ベンチにブスっと不貞腐れて座るのはアーセナル所属、“フリーロール”市井紗耶香。
彼女はツンクが田中を使うためにスタメンから外れてしまったのだ。
田中は守備力が低い。
そのため、ツンクは中盤を3ボランチにしたのだ。
もちろん市井もイングランドで“フリーロール”としてセンターハーフをこなしているが、
田中のプレーを良く知っているという面で新垣に劣るため、
ベンチスタートとなってしまった。
「4−3−1−2で来るとはな・・・・・・そこまでタナカを信頼しているのか・・・・・・」
オク・ダタミオビッチはツンクのとったシステムに驚きを隠せなかった。
まさか3ボランチで来るとは。
「・・・・・・これはチャンスだな。」
この布陣はかなり危険だ。
トップ下に入る選手の出来如何で全てが決まってしまう。
柴田や吉澤ならばともかく、田中に任せきるのは危険すぎる。
しかも、田中を攻撃面でサポートする人物もいない。
名将は勝利を確信し、妖しく笑った。
- 496 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:11
- ワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
続いて中国代表のスターティングイレブンの発表となった。
集まった赤は一気にヒートアップする。
中国代表は当然ベストメンバー。
GKに今やプレミアはおろか、世界でも五指に入ると噂されるチェルシー所属サ・トエリ。
DF陣は中国が誇る“万里の長城”。
センターバックにプレミアリーグマンチェスター・シティ所属、コ・イッケー。
オランダリーグ、ユトレヒト所属、メ・グミー。
右サイドバックにはフィジカルに優れたク・マダー。中国、上海国際所属。
左サイドバックにこちらもフィジカルに優れたネ・モトー。中国、北京現代所属。
- 497 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:11
- 中盤もフラットに4人が並ぶ。
センターハーフにボール奪取能力が魅力の中国大連実徳、サ・リナー。
さらには同じ大連実徳所属、ゲームメイク能力に長けたハ・シノー。
中国代表センターハーフコンビは『インテルディトーレ』と『レジスタ』という
バランスのいいコンビだ。
そして4−4−2の生命線、サイドアタッカーはこの2人だ。
右サイドはフランス、ナント所属。
スーパーテクニシャン、“ブリッコドリブラー”サ・タマオ。
左サイドはスペイン、サラゴサ所属のワ・カー。
最後2トップはスペイン、エスパニョール所属の長身FWカ・ケテミホ。
そして中国の大エース、ドイツ、ヘルタ・ベルリン所属オ・トハー。
- 498 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:12
- 「・・・・・・最高のメンバーだ。」
オク・ダタミオビッチはそう確信する。
以前と変わり映えしないメンバーだが、個々の力は以前よりも上がっており、
当然組織としての成熟度も増している。
また、相手が日本ということでモチベーションも最高潮。
そして何よりこの大声援。
中国代表はその力を100%出せる環境が整った。
- 499 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:12
- 「田中ちゃん、大丈夫、大丈夫。あたしたちが付いてるから。」
入場を控え、両チームの選手たちが整列する。
その際に田中れいなに声を掛けたのは福田明日香だった。
「・・・・・はい。」
福田に声を掛けられ、少し落ち着いたかもしれない。
この大事な一戦で背番号10を背負い、スタメン出場。
当然プレッシャーは凄まじい。
だがこれに打ち勝ってこそあの2人と争う資格を持てるのである。
「しゃっ!!!」
田中は小さく叫ぶと頬を叩いて気合を入れた。
「飯田。今日は勝たせてもらうからな。」
「サ・トエリ。それはこっちのセリフだから。」
田中より前では、両チームの守護神が火花を散らしていた。
ここまで何度も煮え湯を飲まされてきた中国の守護神。
欧州の舞台では敗れ去った日本の守護神。
お互いの意地とプライドがぶつかり合う。
- 500 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:12
- ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
選手たちが入場してくると、スタジアムが一斉に沸いた。
その歓声は鋭い刃となって日本代表イレブンを襲う。
今まで受けた屈辱は全てこの試合で晴らせ。
スタメンの選手も控えの選手も。
コーチ陣も、それからサポーターたちも全員が気持ちを1つにしていた。
ピィー!!!!!
主審の笛が高らかに鳴り、試合が開始された。
12億の中国国民全員が日本の前に立ちはだかる。
- 501 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:13
- <日本代表スターティングイレブン>4−3−1−2
9 GK 1 飯田圭織
23 DF 2 石黒 彩
10 8 矢口真里
6 21 16 紺野あさ美
18 20 藤本美貴
20 8 MF 6 保田 圭
2 16 10 田中れいな
18 福田明日香
1 21 新垣里沙
FW 9 安倍なつみ
23 後藤真希
- 502 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:13
- <中国代表スターティングイレブン>4−4−2
9 10 GK 1 サ・トエリ
DF 2 コ・イッケー
11 8 3 ク・マダー
7 4 5 メ・グミー
13 ネ・モトー
13 3 MF 4 サ・リナー
2 5 7 ハ・シノー
8 サ・タマオ
1 11 ワ・カー
FW 9 カ・ケテミホ
10 オ・トハー
- 503 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:14
- 日本ボールで始まったこの試合。
安倍がボールを触り、後藤がすぐさまトップ下の田中に預ける。
その瞬間、中国2トップが一気に田中に襲い掛かってきた。
「くっ!」
この素早いチェックに田中の反応が遅れる。
1人目のカ・ケテミホはかわしたものの、
続いて飛び込んできたオ・トハーのチェックにボールを奪われてしまった。
「ちっ!!」
これを見た保田と新垣がすぐにオ・トハーへ向かうが、
オ・トハーは2人が来る前に左サイドを走るワ・カーへとパスを通した。
ワ・カーがフリーでボールを受ける。
新垣がつり出されたため、ワ・カーをチェックにいける者がいない。
右サイドバックの矢口、中央のボランチ福田とちょうど間の位置に彼女がいる。
「矢口!!当たって!!」
「オッケー!!」
福田の指示に従い、右サイドバックの矢口が詰める。
- 504 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:14
- ワアアアアアアアアアア!!!!!!
スペインで活躍する同じアジア人のサイドアタッカーのマッチアップ。
これにスタジアムが大きく沸く。
だがワ・カーが本職のサイドハーフであるのに対して、矢口はまだ不慣れなサイドバック。
しかも矢口がディフェンス側だ。
生半可なディフェンス力では中国が誇るサイド・アタッカー、ワ・カーを止めることはできない。
「あっ?!」
一発。
1フェイク一発で矢口はかわされてしまった。
- 505 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:15
- 「来いワカ!!」
その瞬間、一気にペナルティエリアに侵入する中国2トップ。
2人は一気にニアサイドに走りこむ。
これに日本センターバック2人はつられる。
その後ろからフリーで飛び込むのは“ブリッコドリブラー”サ・タマオ。
見事な中国攻撃陣の連係だ。
だがワ・カーからクロスがこなかった。
クロスをあげる瞬間、スライディングで潰されたのだ。
「そう簡単にはあげさせないから。」
そう言葉を浴びせるのは全てのアジア人が尊敬してやまない彼女。
“偉大なるパイオニア”福田明日香だった。
- 506 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:15
- 「ごめん明日香。」
一発でかわされた矢口がばつが悪そうな顔で謝る。
「矢口、ディフェンスしっかりね。」
福田はポンと矢口の肩を叩く。
その表情は気にするなという余裕なものであったが、
内心は今の一連のプレーに焦りを感じていた。
まずは今の矢口のディフェンス。
これはある意味仕方がないのだが、
やはりサイドバックが本職ではないためディフェンス力が弱い。
横浜Fマリノスにいたころは攻撃的なサイドハーフであり、
現在所属するバレンシアでは完全にウイングだ。
それだけに自陣エリアの危険な位置で守備をする機会が減っている。
そして対面の相手があのワ・カー。
正直分が悪い。
さらに今日のシステムもだ。
ツンクは田中をサポートするためにボランチを3枚にした。
その分中央は厚くなったが、サイドが手薄となる。
ボランチの新垣がサイドのカバーに行くのも少々のタイムラグが発生する。
その隙にワ・カーは矢口との一対一に持ち込んでしまうであろう。
「ちょっとまずいね・・・・・・」
福田はこの試合、苦戦することを確信した。
そして試合は福田の予想通りとなる。
- 507 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:16
- 中国は徹底して日本の右サイドを狙ってきた。
センターハーフのハ・シノーから何度も素晴らしいパスが通る。
そのパスをワ・カーが持ち前の身体能力で日本の右サイドを突破していく。
「くそっ!!」
スピードでは圧倒的に矢口の方に分があるのだが、
体格面では圧倒的にワ・カーだ。
何度も突破を許し、日本はピンチに陥る。
ワ・カーに目が行き始めると、ハ・シノーは右サイドへパスを送る。
こちらのサイドには中国をずっと引っ張ってきたベテラン、“スーパーテクニシャン”サ・タマオがいる。
彼女の対面には藤本がいるためそう簡単には突破をさせないが、
それでも藤本を自陣に押し込めておくには十分であった。
中国はそのシステムの売りであるサイドから鋭い攻撃を仕掛けていく。
- 508 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:16
- しかしそれでも何とか日本が無失点で抑えているのは中央のディフェンスが堅いからだ。
「紺野、任せろ!!!」
「こっちオッケーです!!!」
「あやっぺ、紺野!!右から来てる!!」
ACミラン、石黒彩。
ASローマ、紺野あさ美。
そしてボルシア・ドルトムント飯田圭織。
世界レベルの守備陣が中国代表の攻撃をはね返していく。
彼女たちとボランチ3枚が守備に奔走することで、
日本はようやくゴールを守ることが出来ていた。
- 509 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:17
- 前半が30分過ぎた。
ここまで圧倒的にホームの中国代表が押していた。
日本代表は攻撃の糸口すら見つけることができない。
それは中国のサイドアタックが機能していること、
そして、日本の生命線であるトップ下田中れいなが完璧に抑え込まれているからであった。
「田中!!」
ボールを奪った保田からトップ下の田中にボールが配給される。
だが日本の攻撃もそこまでであった。
田中はボールを受けるものの、
中国センターハーフ、サ・リナーの激しいチェックに潰される。
「今のファウルでしょ?!!」
田中が主審にアピールするが、ここは中国のホーム。
主審も無意識に中国よりの裁定となる。
この判定に田中は苛立ちを隠せない。
そしてその苛立ちが芸術家の感性を奪ってしまう。
- 510 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:17
- 「だめだ、れいなの奴、苛立ってる。」
ベンチでこう呟くのは、今回初のA代表の斉藤美海。
直前のプレシーズンマッチでこの田中れいなを完璧に抑えきったことから、
今回A代表に抜擢された。
その時も彼女は田中に激しく当たり、イラつかせる事でプレーを雑にして抑え込んだのだ。
それを今、中国代表も実践していた。
「・・・・芸術家は繊細だからな。サ・リナー、もっと当たれ!!」
名将の声に頷くサ・リナー。
生まれは中国ながらも育ちは大阪、しかもヤンキーというサ・リナー。
相手を苛立たせるコツというものを知っている。
彼女が中盤で田中を完全に抑え込む。
- 511 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:18
- 「明日香さん!!」
この展開にたまらず後藤がFWの位置からボールをもらいに下がってきた。
自分が下がることで田中のマークを緩めようとする。
「だめだ真希ちゃん!下がるな!!」
しかし福田がそれを許さない。
後藤に前に残るように指示する。
後藤の天才的なプレーはやはり前線でこそ生きる。
一撃必殺のドリブルにパス、シュートはゴールに近ければ近いほど恐ろしさを増すのだ。
現にこの優勢の中でも中国代表DF、“万里の長城”は全神経を天才に集中している。
両サイドバック日本の両サイドバックが上がってこないにも関わらず上がりを控え、
後藤の突破に備えているのだ。
その後藤が中盤に下がってしまっては、それだけ中国DF陣に余裕を与えてしまうのだ。
それではあの“万里の長城”を破ることは出来ない。
- 512 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:18
- 「田中ちゃん!!」
前線にいる天才を生かすにはやはり彼女が中盤を突破しなくてはならない。
福田は何度でも田中れいなにパスを出す。
このパスを受けた田中。
周りを見渡すが誰もいない。
両サイドバックは守備に追われて上がることができない。
中盤は田中以外はみなボランチの位置。
後藤は常に2人以上のマークを受けているし、安倍は個人での突破は難しい。
まさに1人で突破しなければならない。
だが、田中はどうしても中国の中盤を突破することは出来ない。
サ・リナーをかわしても相棒のハ・シノーがきっちりとチェックにくる。
この2人の息の合ったプレーに“芸術家”は沈黙するしかなかった。
- 513 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:19
- ピッピィー!!!!
ここで主審が前半終了の笛を吹いた。
前半はスコアは0−0ながらも圧倒的に中国が押して終了した。
それは結果に現れていた。
前半、中国がシュート数を8数えたのに対し、
日本は1本も打つことが出来なかったのだから。
- 514 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:20
- 「・・・・・ツンクさんの考えは悪くないんだけど・・・・・・」
前半終了の笛を聞いてこう呟いたのは、
この試合をテレビで観戦していたFCポルト柴田あゆみ。
確かにここまで押されっぱなしである。
矢口、藤本といった攻撃力のあるサイドバックも完全に守勢に回っている。
この点から見ると、完全にツンクの采配ミスともいえる。
が、もし仮にトップ下の田中れいなが中盤を突破していたならばどうか?
当然中国DF陣は守勢に回らされるであろう。
フリーの田中から芸術的なパスが出されるであろうから。
そのパスに危険な2トップ、ユヴェントス安倍なつみと
レアル・マドリード後藤真希が反応し、その存在感を見せ付けるであろう。
そうなると中国はサイドハーフの2人も守備に回らざるをえない。
となれば日本は攻撃的サイドバックがその真価を発揮できる。
つまり、今の状況は紙一重であるということだった。
- 515 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:21
- 「・・・・やっぱりあたしが出るべきだったかも・・・・・」
柴田は自分の判断を後悔しつつあった。
自分がもしあのピッチにいたならば、確実に日本が優勢だったはずだ。
これは自惚れでもなく、そう確信している。
なぜならば自分はいつも練習でサ・リナー以上の曲者、
マジュ・オザワーニャのマークを受けているからだ。
だが痛めた左足がこの試合の出場を拒んだ。
現在、左足の怪我の回復具合は90%といったところか。
この試合から10日後のチャンピオンズリーグ準々決勝には万全の状態で間に合うだろう。
だからこの試合も無理をすれば出れないことはなかった。
だが、相手は何度も勝利している中国。
それだけに自分がいなくても大丈夫と相手を見くびっていたのも確かだった。
「・・・・・よっすぃーがいてくれたら・・・・・」
こんなとき、ふと思うのは永遠のライバルのこと。
いまやその存在をほとんどの人が忘れている“悪魔”のことであった。
- 516 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:21
- 「れいな、後半反撃だから。」
U−20代表でもコンビを組む新垣が努めて明るい表情で田中をフォローする。
が、その息は荒く、両肩を激しく上下している。
チーム1のスタミナを誇る新垣里沙。
しかし、そのスタミナも中国の怒涛の攻撃の前に消耗しきっていた。
当然他のボランチ、福田明日香も保田圭も肩で息をしている。
この2人も田中のカバーをはじめ、サイドのカバー、
最終ラインのカバーとピッチを走り回っていた。
この光景に田中は自分が情けなくなっている。
自分ひとりのためにこの3人が犠牲となっている。
いや、この3人だけではない。
世界に名だたるアタッカー陣がベンチを温めているのだ。
それがさらに田中の肩に重くのしかかる。
「ツンク、どうする?」
マコトがツンクに尋ねる。
ポイントはただ一つ。
田中れいなを使い続けるか、それとも諦めるのか。
だが、ツンクは即答できなかった。
- 517 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:22
- スタメンの選手たちがロッカールームに戻っているころ、
ピッチでは控えの選手たちがボールを使ってアップをしていた。
アーセナルからベンフィカへ、そしてアヤックスからPSVへ。
さらにはオリンピアコス、ASモナコ、そしてバルセロナへとボールが渡る。
ゴール前ではセルタ・デ・ビーゴのシュートをブラックバーン・ローバーズが止める。
「・・・・・・控え選手だけでチームが出来るんじゃないのか?」
このアップを見ていた日本の報道陣が呟く。
控えにおいておくには豪華すぎるメンバーであった。
だがその豪華さが首を絞める場合もある。
みな、それぞれ自分のプレーに自信を持っている。
それゆえ、今日スタメンを外されたことに納得がいかない連中もいる。
決して自分の実力がスタメンの選手に劣っているはずはない。
いや、むしろ確実に上回っている者もいる。
日本人選手は大いに成長した。
だがその分、選手たちのプライドも増大してしまったのである。
個人能力が伸びたが、チームとしてのまとまりを欠きつつあるツンクジャパンであった。
- 518 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:22
- 「・・・・・・・後半、ツンクがどう出るかが心配だな。
もし、あの選手を投入してきたらまずいことになる。」
名将、オク・ダタミオビッチ監督はここまでの展開に大満足だった。
しかし、彼は日本のある選手投入を心配していた。
彼女が入ると田中の負担が減り、中国は一気に劣勢に陥る。
願わくば、ツンクにこのままで来て欲しい。
そう願いながらピッチに戻ってきた中国代表。
ピッチにはもうすでに日本代表が入っていた。
オク・ダタミオビッチは慌ててピッチの中にいるメンバーを確認する。
この中に彼女がいるかどうかで、この後のゲームプランもかわってくる。
「・・・・・・この試合、もらった。」
名将はニヤリと笑った。
- 519 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:23
- 後半の笛が鳴り、試合が再開された。
両チームとも前半と同じメンバーであった。
それはつまり、ツンクは田中れいなに賭けたということであった。
だがこの判断をツンクは後半開始5分後に後悔することとなる。
- 520 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:24
- 「くっ!!」
サ・リナーの密着マークに苛立つ田中。
『絶対に振り切ってやる。』
その思いが強すぎたせいか、田中は判断を違えた。
新垣からのパスを田中はサ・リナーを背負いつつも
強引にヒールキックで前線にスルーパスを送った。
が、この状態で、しかもヒールキック、
さらには距離もある状態でパスを通せるわけはない。
このパスはあっさりと中盤のハ・シノーがカットした。
そして次の瞬間、ハ・シノーの右足から右サイドにスルーパスが送られた。
「ちっ!!」
このパスに鋭く反応したのは右サイドのサ・タマオ。
埒があかず、攻勢に出ようとオーバーラップを試みた藤本は完全に裏を取られた。
- 521 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:24
- ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
フリーでサ・タマオが右サイドを駆け上がっていく。
このビッグチャンスにスタジアムが大歓声を上げる。
「くっ!!」
この状況に左センターバック、石黒彩がやむなくサ・タマオのチェックに向かう。
長身FW、カ・ケテミホのマークを外すのは危険だが、やむをえない。
しかしサ・タマオも老練なテクニシャン。
これを見逃さず、すかさず中に正確なクロスを送った。
「ナイスボール!!」
このクロスに飛び込むのは当然彼女、スペインエスパニョールで活躍するカ・ケテミホ。
得意のヘッドで日本ゴールを狙う。
しかしこれをASローマのラインコントローラー、紺野あさ美が許さない。
石黒がサ・タマオのチェックに行った瞬間、
すぐに自分はオ・トハーのマークから離れてカ・ケテミホに付いたのだ。
そして身体を激しくぶつけ、カ・ケテミホのバランスを崩させた。
バランスを崩したカ・ケテミホ、これを頭で合わせられなかった。
クロスはカ・ケテミホを通り越していった。
- 522 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:25
- 「よしっ!!」
心の中でガッツポーズをとる紺野。
だが次の瞬間、心臓が凍りそうになる。
それはオ・トハーがフリーでいたからだ。
そしてボールは吸い込まれるようにオ・トハーの足元に。
「な、何で?!!」
何でマークについていないの、矢口さん?!!
- 523 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:26
- これが本職のサイドバックとの違いであった。
この時、矢口は完全にボールウォッチャーとなっていたのだ。
もしこの時、小川麻琴が右サイドバックであったならば、
石黒がサ・タマオにチェックに行った瞬間、紺野がカ・ケテミホのマークにいったように小川も中に絞り、
オ・トハーのマークに行ったであろう。
だが、今日の右サイドバックはこれでサイドバックは3試合目の矢口真里であった。
咄嗟に身体が動かなかった。
オ・トハーはこのクロスを渾身の力を込めて右足で合わせた。
- 524 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:27
- 撃った瞬間ゴールを確信するオ・トハー。
ガンッ!!!!
だが、聞こえたのはボールがゴールポストに当たる音だった。
「?!!」
驚きのあまり声が出ないオ・トハー。
ベンチに座るミカ・トッドも、100mほど離れたところにいる彼女、
サ・トエリも目を見張る。
何であのシュートを止められるんだ?!!
日本の守護神、飯田圭織、スーパービッグセーブ。
が、この試合、運も中国に味方した。
いや、この運は中国全国民がその祈りで手繰り寄せたものかもしれなかった。
飯田の右手によって弾き出されたボールはゴールポストに当たって跳ね返る。
これがなんと、日本センターバック紺野あさ美の右足に当たり、
そのままゴールネットへと転がっていったのだった。
中国代表。
後半開始わずか5分。
オウンゴールにより先制点。
- 525 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:27
- ウワアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
その瞬間スタジアムが爆発した。
見渡す限りの赤、赤が揺れる。
シュートを一本も撃たれない今日のこの調子ならば・・・・・・・
中国国民全てが最高の結果を期待する。
この得点の瞬間、日本ベンチは頭を抱えた。
全てが裏目に出た。
矢口のサイドバック起用も、そして何より田中れいな起用も。
これだけ結果が出ると、ベンチワークのミスといわざるを得ない。
この結果にベンチに座る選手たちは、ごくわずかながら、
“自分を使わないからだ。”と思ってしまった。
このベンチの選手たちの気持ちと同調するように、
ピッチにいる選手たちも雰囲気が悪い。
声に出しては言わないが、他人のミスを蔑むような表情だ。
- 526 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:28
- 「みんな!!まだ時間はある!!絶対に取り返そう!!」
キャプテンの飯田圭織が手を叩いて周りを鼓舞するが、
反応が返ってこない。
この反応に飯田は少なからずショックを受ける。
『・・・・・あたしには裕ちゃんのようには無理なの・・・・・?』
こんな時、彼女なら、“日本サッカー界のキャプテン”ならば
チームを立て直したはずでは・・・・・・・?
誰であっても中澤裕子の後を引き継ぐのはプレッシャーだ。
なぜならば彼女はあまりにも偉大すぎたからだ。
「カオリ!!ドンマイドンマイ!!!」
ベンチから前日本代表キャプテンが声をかける。
彼女は飯田が気落ちしたのを察知したのだ。
が、それが今回は逆に働いた。
『まだ裕ちゃんに迷惑掛けてる。やっぱあたしは・・・・・・』
飯田の表情がさらに冴えなくなった。
- 527 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:28
- 1点。
まだわずか1失点しただけである。
しかし、この1失点は日本代表を崩壊させた。
- 528 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:29
- 「今だ!!今がチャンスだ!!もう1点取れ!!それで試合は終わりだ!!」
日本の雰囲気を察知したオク・ダタミオビッチは選手たちに指示を出す。
止めを刺せ、と。
その指示に従い、試合再開後、中国はさらに分厚い攻撃を仕掛けてきた。
中盤のハ・シノーから左サイドのワ・カーへパスが出た。
今度は止めるとばかりに矢口が積極的にチェックに行く。
が、そのせいで矢口の後ろにスペースが出来る。
そこを突くのは中国左サイドバック、ネ・モトー。
その巨体を揺らしての豪快なオーバーラップだ。
- 529 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:30
- 「くっ!!」
初めて上がってきたネ・モトーに紺野がチェックに行く。
心の中で『ちゃんと周りを見てよ矢口さん!』と悪態をつきながら。
紺野が来るのを見たネ・モトーは早めにクロスを上げる。
これはファーサイドに流れたカ・ケテミホの頭へ。
だが石黒もきっちりとマークについており、ゴールへ撃たせない。
そこでカ・ケテミホはゴールを狙わず中にヘッドで落とした。
この落としたボールに飛び込むのはオ・トハー。
しかしこれは保田が許さなかった。
すばやく戻り、オ・トハーの鼻先でこれをクリアした。
- 530 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:30
- オオオオオオ・・・・・・・・・・
満員の観客が思わずため息をつく。
これで止めを刺せると思っていたのに。
「・・・・・・あかん。これは止む無しや。」
ツンクは彼女を諦めた。
「小川!!用意は出来てるか?!!」
「はいっ!!」
小川はベンチコートを脱いで急いでツンクの元に駆け寄る。
彼女も正直、自分が使われないことに不満を感じていた。
サイドバックは本当に難しいポジションで、専門性が問われる。
いくら攻撃にも参加しなければならないとはいえ、やはりポジションはDF。
守備こそが一番大事なのだ。
そういう意味では、本職がサイドハーフ、FWの藤本、アヤカも危ないことは危ないが、
彼女たちは以前から試合でのサイドバックの経験があるため守備の仕方が分かっている。
だが、矢口にはまだ絶対的に経験が足りないのだ。
- 531 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:31
- が、ここでさらに日本に追い討ちが。
保田がクリアしたボールはゴールラインを割り、コーナーキックに。
これをクリアし、そして次にボールが出たところで小川投入のつもりであった。
ピィ!!!
主審の笛が鳴り、キッカーのハ・シノーがゴール前にボールを入れる。
このボールにカ・ケテミホと石黒が競り合い、ボールがこぼれる。
そのこぼれ球に今度は紺野とオ・トハーが競り合い、またもボールがこぼれる。
そしてこのこぼれ球は矢口のもとに。
- 532 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:31
- 「オッケー!!」
矢口がこれをヘッドで外にクリアしようとしたが、その時、1人の選手が飛び込んできた。
背番号5、“万里の長城”を担う1人、メ・グミーだ。
彼女はオリンピック代表の時からずっと日本の遅れをとってきた。
それだけに屈辱は人一倍強かった。
その思いが彼女の跳躍につながった。
矢口よりも頭3つ分は高かった。
高い打点からのヘディングにさすがの飯田も触れなかった。
いや、もしかすると触れたかもしれなかったが、気落ちする飯田では無理であった。
後半12分。
中国代表、止めとなる2点目。
- 533 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:32
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
ゴールネットにボールが突き刺さった瞬間、観客は一斉に総立ちとなった。
これで、これでようやく日本に勝てる。
その思いからか、まだ試合は30分以上残っているというのに感涙に咽ぶ者もいるほどだ。
だがその思いはあながちフライングとは言い切れない。
何せここまで日本代表はまったく攻撃が出来ていないのだから。
ついに、ついに日本戦悲願の勝利へ。
中国代表イレブン、コーチ陣、そして全国民がこのゴールに酔いしれていた。
- 534 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:32
- このゴールに呆然となるのは当然日本陣営。
それは当然控えメンバーも同様だ。
もちろん自分が出たいのはあるが、これは代表戦。
しかもワールドカップを賭けた大事な一戦なのだ。
彼女らの思いは“自分が出て勝利する”ことであり、
“試合に負ける”ということは全く頭の中になかった。
このゴールにより、主審は選手交代を認めた。
真っ青な表情の矢口が重い足取りで戻ってくる。
交代出場する小川も同様に表情は冴えない。
ただでさえこの試合、苦戦しているというのに2点のビハインド。
さらには相手GKはサ・トエリだ。
日本代表は一気に追い込まれた。
- 535 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:33
- 「矢口、お疲れ。」
戻ってきた矢口に真っ先に声をかけたのは中澤だった。
しかしこれは本来、真っ先にツンクがしなければならないこと。
監督が選手をフォローするべきであった。
が、ツンクもこの展開に混乱しており、そこまで気が回らなかった。
この試合以降、矢口真里の輝きは急速に萎んでいくことになる。
「ツンク、ここは市井と加護を投入や。ドリブルで何とかかき回さんと。」
タイセーにマコトがツンクに進言する。
それはつまり、田中れいなを下げろということだ。
「・・・・・・・」
ツンクはこの進言に一瞬複雑な表情を見せた。
彼はオク・ダタミオビッチが言うように“ファンタジスタ”を好んで使う傾向にある。
いや、好むというよりもそれが最優先となっているふしもある。
まだまだ発展途上の田中と、今や世界でもその名を轟かす市井紗耶香。
どちらを優先させるのかは自ずと決まるはずなのに、彼は夢を見ようとした。
“ファンタジスタ”が描く幻想を。
だがさすがのツンクも決断をせざるを得なかった。
- 536 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:33
- 後半20分。
「市井、加護、行くで。」
ここでドリブラー2人がついに投入された。
この2人に代わってベンチに下がるのは21番新垣里沙と、
10番、田中れいなであった。
これはすなわち、ツンクの信念が砕かれた瞬間でもあった。
交代を告げられ、俯いて帰ってくる田中。
この試合、何も出来なかった。
それどころか、自分のせいでチームを危機的な状況に貶めてしまった。
何が“ファンタジスタ”だ、“アーティスト”だ。
田中の目から一筋の光が零れ落ちる。
その背中の“10”がとてつもなく重かった。
「後は任せろ。」
涙を流す後輩を見て彼女が燃えないわけがない。
「れいな、うちがやったる。」
もちろん彼女も同様だ。
日本が誇るドリブラー2人は、弾かれたようにピッチに飛び出していった。
- 537 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:34
- 「よし、勝った。」
この選手交代を見てオク・ダタミオビッチは100%勝利を確信した。
これで日本は交代枠を3つ使ったため、もう誰も交代させることが出来ない。
それはつまり、オク・ダタミオビッチが恐れていたあの選手が
ピッチに入らないことが確定したことになる。
これで恐れるものは何もない。
オク・ダタミオビッチはニヤリと口元を綻ばせた。
「圭ちゃんと明日香はそのままボランチ。あたしと加護で前行くから。」
ピッチに入るやいなや、すぐにシステム変更をみなに伝える市井。
中盤をボックス型とし、前目に市井と加護、後ろに保田と福田とした。
数字で表すと4−2−2−2というシステムだ。
後藤を含め、ドリブラー3人で中国ディフェンス陣を切り裂いてみせる。
ドリブルという魔術を使う者たちが、その牙を研ぐ。
「みんな!!絶対にここで気を抜くな!!」
このポジション変更に危険を感じたのか、GKサ・トエリが檄を飛ばす。
当然中国代表イレブンは気を抜かない。
今まで何度地べたに這いつくばされたことか。
試合終了の笛が鳴るまで、1分1秒たりとも気が抜けない。
- 538 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:35
- 「加護ちゃん!!!」
やる気に満ちているドリブラーを使わない手はない。
ボールをワ・カーから奪った福田は、一気に左サイドの加護へロングパスを出した。
だがこれはサ・リナーが読んでいた。
加護に届く瞬間、ヘッドでこれをタッチラインにクリアした。
「ナイスクリア!!」
中国ベンチから今のクリアに声が送られる。
中国陣営はまさに1つとなっていた。
「惜しい惜しい!!ナイスパス明日香!!」
日本陣営も負けてはいない。
劣勢に陥っている中、ようやくみなが1つになり始めていた。
「明日香、今の後藤やで・・・・・・」
そんな中、1人今の保田のパスにこう呟いたのは
“日本が誇るレジスタ”平家みちよだった。
彼女の目には今の場面、はっきりと後藤へのパスコースが映った。
福田も加護に出してから後藤がフリーであることに気付き、表情を歪める。
- 539 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:35
- 「ヘイケではなくて助かった。」
オク・ダタミオビッチがほっと胸を撫で下ろす。
平家には空間把握能力があり、ピッチを上空から俯瞰できる。
そのため、相手のごくわずかな隙を突くパスを出すことが出来る。
さらにその右足の精度は日本最高といっても過言ではないであろう。
福田も素晴らしい右足の精度を誇るが、やはり平家には及ばない。
もし今のパスを平家が出していたならば、
読まれていたとしてもきっちりと市井に届かせたであろう。
そう、名将が恐れていたのは平家みちよであった。
もし彼女が先発で出ていたら、おそらく結果は違ったものになっていたであろう。
彼女が田中に絶妙のパスを出せたはずなのだから。
あのACミランのレジスタ、ピルロのように。
- 540 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:36
- しかしレジスタがいないとはいえ、日本は個人能力に優れていた。
右サイドに開いた市井紗耶香にボールが渡った。
すかさずチェックに向かうのはワ・カー。
『彼女が市井か・・・・』
その噂はスペインにも聞こえてくる。
世界でも有数のドリブラーだと。
その噂が本当かどうか、確かめてやる。
「来たっ!!」
最初はジリジリと動いていた市井だが、一気にスピードを上げた。
それにワ・カーが食らい付く。
「?!!」
が、次の瞬間、ワ・カーの足が止まる。
市井は高速でボールをまたぎだしたのだ。
「うわ、うわっ!!」
この高速のまたぎ、“高速シザース”にワ・カーはどうすることも出来ない。
ワ・カーは完全にバランスを崩し、しりもちをついた。
その横をあっさりと抜けていく市井紗耶香。
まさに格が違うといった感じだ。
- 541 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:37
- 「くっ!!」
ワ・カーがあっさりとかわされ、慌ててネ・モトーが市井に当たる。
それを見た市井は中にギュッと切れ込む。
と見せかけて右足アウトサイドでネ・モトーの裏へとパスを出した。
ここにスピードに乗って走り込んでいたのは右サイドバックの小川だった。
『相変わらずいいタイミング!!』
市井も思わず唸る。
きっちりと小川を確認してパスを出したわけではなかったが、
ベストのタイミングでオーバーラップを仕掛けていた。
さすがは右サイドバックが本職の小川麻琴だ。
そして小川の武器はこれだ。
小川は中へ鋭いクロスを送った。
- 542 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:37
- 「うおっ!!」
このクロスに中国GKサ・トエリが飛び出すが、
ボールは鋭いカーブがかかってサ・トエリから遠ざかっていく。
そしてそのコースの先には安倍なつみがいる。
抜ければ確実に1点だ。
「くうっ!!!」
サ・トエリが懸命に指を伸ばす。
チッ!!
わずか指先1cm。
わずかにそれだけ触ることが出来た。
そのためボールは安倍の後ろを抜けていった。
- 543 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:38
- 思わず頭を抱える小川。
自分としては完璧なクロスを送ったはずだった。
それを止めるとは・・・・・・・
さすがはアジアbPGK、サ・トエリだった。
一方、サ・トエリはサ・トエリで今の小川のクロスに驚きを隠せない。
あれだけの精度と鋭いカーブがかかったクロスはほとんどお目にかかれない。
「・・・・シバサキなみのクロスだ。」
サ・トエリの口から出たのは世界最高のクロッサー、ルイビット・シバサキであった。
昨シーズンまで3冠王者のマンチェスター・ユナイテッドに所属していた貴公子のクロス。
その弾道に今のクロスはそっくりだった。
「ハルさん!!15番にも気をつけて!!」
サ・トエリの指示に頷くネ・モトー。
この小川と市井の右サイドは厄介だ。
自分が頑張らねば、いくらサ・トエリが守ろうともすぐに追いつかれてしまう。
ネ・モトーはワ・カー、コ・イッケーと声を掛け合い、日本の右サイドを抑えにかかる。
- 544 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:38
- 市井、加護投入で日本は盛り返してきた。
前半とは打って変わって日本が怒涛の攻撃を見せる。
「さすが日本だ。ヘイケがいなくてもこれだけの攻撃を仕掛けてくるとは・・・・・」
これにはオク・ダタミオビッチも信じられないといった表情で首を横に振るばかりであった。
しかし中国も必死の粘る。
それぞれが身体を張り、声を掛け合い日本の攻撃陣を寸前で抑え込んでいく。
そして時間はどんどん過ぎ、後半も40分を回った。
- 545 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:39
- 「おばちゃん!!」
左サイドで加護がボールを要求する。
しかし加護にはサ・リナーとク・マダー2人が目を光らせているため、
パスを通すことが出来ない。
「圭ちゃん!!」
パスの出しどころに迷っていると、後藤がすっと下がってきた。
たまらず保田は後藤に出す。
これを後藤、マークについてきたコ・イッケーを背負いながらも右足アウトサイドで後ろに流す。
これを安倍が身体を張りながらポストプレー。
落とされたボールを反転してダッシュした後藤がダイレクトでとらえた。
強烈なシュートが中国ゴールへと向かう。
「うおっ!!!!!」
が、この後藤のシュートも決まらない。
GKサ・トエリが懸命に手を伸ばし、これを弾いた。
「くそっ!!」
思わず天を仰ぐ後藤。
今のシュートはやや距離が遠かった。
もう少し近くから撃てれば絶対に決まっていたはずだった。
- 546 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:43
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!
サ・トエリのビッグセーブにスタジアムの興奮も最高潮に。
残り時間はあと5分ほど。
しかし、この5分が中国国民にとってたまらなく長かった。
もちろん日本にとっては余りにも短い。
「明日香さん!!」
左サイドでマークを受けていた加護。
ポジションを中央に移し、ボールをもらいに来る。
“ドリブルの魔術師”にとって、まずはボールをもらわねば話にならない。
福田は加護のドリブルを信じ、パスを出した。
福田からのパスをトラップした加護に、田中れいなが散々手こずったサ・リナー、
ハ・シノーのセンターハーフコンビが襲い掛かる。
が、この2人を加護は身体を軽やかに反転してすり抜けた。
- 547 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:44
- ウオオオオオオオオオオオ?!!!!
これには中国サポーターもどよめく。
あの2人があんなにあっさりと?
が、中国ディフェンスも加護対策を考えていた。
前回の対戦、アジアカップ準決勝のようにコ・イッケーが
スナイパーのように加護を狙っていた。
「?!!」
しかし、何とこれをも加護はかわした。
ボールが足に吸い付いているかのようなドリブルに、
プレミアでも高い評価を受けているコ・イッケーも成す術がなかった。
「やばい!!」
慌てて左サイドバックのネ・モトーが中に絞り、後藤のマークに行く。
が、タイミング的には完全に遅れをとった。
それを逃さず、加護は左足を振りぬいた。
- 548 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:45
- 「あっ?!!」
その瞬間、このスタジアムにいる全ての者が意表を突かれた。
誰もがフリーの後藤真希へのスルーパスだと思った。
が、加護の左足から放たれたボールは緩やかな弧を描き、ゴール左隅へと向かっている。
「くっ!!」
後藤へのパスだと読み、飛び出そうとしていたサ・トエリは完全に裏を取られた。
しかし、強靭な足腰で踏ん張り、このループシュートに飛び込む。
ガンッ!!
聞こえたのは金属音。
加護が放ったループシュートはサ・トエリの手には触れなかったものの、
惜しくもゴールポストに直撃した。
「よしっ!!」
ゴールポストに当たったのを見て中国陣営がガッツポーズ。
が、次の瞬間、そのガッツポーズした手は頭を抱え込んだ。
- 549 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:45
- ゴールポストに当たって跳ね返ったボールは左サイドへ。
そこには彼女がいた。
左サイドのスペシャリスト、ミキティこと藤本美貴が。
加護が中に切れ込んだため、左サイドにスペースが出来た。
そこを抜群のスピードで上がっていたのだった。
藤本はこのこぼれ球を走りこんできた勢いそのままに思い切り左足を振りぬき、芯でとらえた。
「くうっ!!!」
サ・トエリが必死に手を伸ばすが届かない。
藤本の左足から放たれたシュートは、サイドネットを千切らんばかりに突き刺さった。
後半44分。
日本、ミキティの一発により1点差に追いつく。
- 550 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:46
- 試合終了間際のこの一発に、勝利を確信して浮かれていた中国サポーターは一気に青ざめる。
まさか、まさか・・・・・・・・・・
脳裏には最悪の結果がよぎる。
「まだ時間はあるべ!!」
ゴールに転がるボールを安倍がすぐに拾ってセンターサークルへと走る。
彼女たちは誰も諦めていない。
同点、さらには逆転も可能だと信じている。
- 551 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:46
- ピィー!!!!!
主審の笛が鳴り、試合が再開された。
と同時に日本は一気にプレスをかける。
ここまで90分動いてきて、みな体力の限界だ。
だが誰も足を止めるものはいない。
同点、そして逆転を信じてプレスをかける。
「守れ!!!絶対に取らすな!!!!」
オク・ダタミオビッチがテクニカルエリアに飛び出し、声を荒げる。
その表情は青ざめており、余裕の一欠片もない。
「絶対に同点に追い付け!!!!」
ツンクもテクニカルエリアで叫ぶ。
両監督も必死であった。
- 552 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:47
- 中国は時間を稼ぐためボールをキープしようとする。
しかし日本の激しいプレスにそれもままならない。
「外出せ!!外でいい!!!」
後ろから守護神の声が聞こえる。
自陣でボールを奪われるぐらいならば、相手にボールをくれてやれ。
その声に従って中国はタッチラインに大きく蹴りだした。
「紺野!!後は頼む!!!」
「はいっ!!!」
もう後がない日本はセンターバックの石黒も最前線に上がってきた。
それを見た中国FWカ・ケテミホも石黒に付いていく。
中国は最前線にオ・トハー1人を残し、他の全員で守りきる。
日本も紺野と飯田を自陣に残し、後は総攻撃だ。
「頼む!!守りきってくれ!!」
「頼む!!点をとってくれ!!」
両チーム陣営は祈るしかなかった。
その中でも身体をガタガタと震わせて祈るのはエースナンバーを背負ったMFと、
チーム1小柄な選手。
お願いだから同点に・・・・・・・・・
- 553 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:47
- 「いちーちゃん!!!」
後藤が右サイドに開いてきた。
そこへ市井はボールを預け、自分は中に切れ込んでいく。
後藤は市井にリターンを返すと見せかけて鋭くタテへと抜け出した。
その抜け出しは凄まじく速かった。
一気にタテに抜けた後藤、祈りを込めて中にクロスを送る。
このクロスに飛び込んだのは日本が誇るストロングヘッダー石黒。
みなの思いを受け、最高の跳躍を見せる。
だが中国も身体を張る。
中国全国民、12億の魂が彼女たちを守る。
- 554 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:48
- 「うっ・・・・・・・」
その瞬間、背番号10は両手で顔を覆い泣き崩れた。
日本の思いを込めたボールは、中国の思いによってがっちりと掴み取られた。
ピィ、ピィ、ピィー!!!!!!!!
そしてここで主審が3度高らかに笛を鳴らした。
- 555 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:48
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
その瞬間一斉にベンチから飛び出す中国代表。
歓喜に沸くスタジアム。
ついに、ついに中国代表が日本代表を破った瞬間であった。
選手たちもサポーターも歓喜の声を上げていた。
中には涙を流すものもいた。
それだけ彼女たちはこの試合に勝ちたかったのだ。
中国という国の誇りにかけて。
- 556 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:49
- 一方、日本代表はまさかの敗戦に呆然としていた。
選手たちは虚ろな顔でピッチに立ち尽くしている。
これで日本はグループBの首位から陥落した。
それだけでも痛いが、何より痛いのはこれでイラン、
さらにはバーレーンに希望が生まれたということだった。
これだけのタレントを揃えた日本が敗れた。
それはつまり、自分たちも倒せるということを中国が示してくれたのだ。
- 557 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:49
- 「あたしの・・・・・せいだ・・・・・」
敗戦の責任を1人背負い込み、
ベンチで人目もはばからずに田中は泣きじゃくる。
何が“アーティスト”だ。
何が“ファンタジスタ”だ。
背中の背番号10が、たまらなく悲しかった。
- 558 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:51
- この日、ツンク就任以来2度目となるアジア勢からの敗戦を喫した日本。
そしてそれは、この先の迷走へと誘う大きな敗戦であった。
中国代表2−1日本代表
【得点】
後5 中 オウンゴール
後12 中 メ・グミー
後44 日 藤本美貴
- 559 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:52
- グループB
順位 チーム 試合 勝 分 敗 得点 失点 得失 勝点
1 中国 2 1 1 0 3 2 +1 4
2 日本 2 1 0 1 2 2 0 3
3 イラン 2 0 2 0 2 2 0 2
4 バーレーン 2 0 1 1 1 2 −1 1
- 560 名前:第21話 12億の魂 投稿日:2005/01/10(月) 09:52
-
第21話 12億の魂 (終)
- 561 名前:ACM 投稿日:2005/01/10(月) 09:54
- 第21話 12億の魂 終了いたしました。
願わくば現実はこうなってほしくないものです。
もうその一言に尽きます。
そしてマジョルカ大久保、やってくれました。
一歩ずつ小説に近付いて欲しいです。
- 562 名前:ACM 投稿日:2005/01/10(月) 09:55
- では次回予告です。
第22話 中東の刺客
ワールドカップアジア最終予選第3戦。
日本はホームに中東の強豪、イランと対戦する。
絶対に負けられないこの試合。
果たしてツンクジャパンの運命は?
だんだんと現実に時間が追い付かれてきました。
気合入れて頑張ります。
では次回もどうぞよろしくお願いいたします。
失礼いたします。
- 563 名前:みっくす 投稿日:2005/01/10(月) 21:59
- 更新おつけれさまです。
今回は、サッカーという物が持つ恐さを
見せ付けられたって感じですね。
選手が一緒でも、監督変われば順位も変わるってのは
結構ありますからね。
次回も楽しみにしてます。
- 564 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/01/10(月) 22:45
- 更新お疲れさまです。
私も願わくば現実はこうなってほしくないものですね。
それにしてもセンターバックの2人のDF能力は高いです。
結果は残念でしたがあれだけの攻撃を跳ね返していますからね。
ほかのDF(代表にいない選手を含め)も頑張ってほしいです。
今回の両サイドバック先発がMF登録の選手でしたから・・・
これからのDF陣の奮起に期待したいと思います。
次回の更新を期待して待っております。
- 565 名前:k-gxp 投稿日:2005/01/11(火) 01:03
- 更新お疲れ様です。
このスターティングメンバーを見た時、オク監督と同じ意見でしたね。
アーティストの描き出すファンタジーに捉われ過ぎだったように思いますね。
悪魔と同じように平家さんを、側において置くべきだった様に思います。
それによって犠牲になったものは、あまりにも大きかったですね。
ここから迷走する展開のようですが、どのように光を見つけるか、いい結果を得ることができるか注目したいです。
現実のほうでも、中村の新年最初の試合での決勝ゴール、マジョルカ大久保の活躍など
大いにこれから期待できそうな様子なので、最終予選が楽しみです。
長々と失礼致しました。
- 566 名前:ピクシー 投稿日:2005/01/11(火) 01:15
- 更新お疲れ様です。
今年も楽しく読ませていただきます。
皆様の言う通り、現実ではこうなって欲しくないですね。
まぁ、正確には「どんな形であれ予選突破をして欲しい」って感じですけど。
平家の存在ですけど・・・現実でもレジスタ(司令塔系ボランチ)が重要に感じます。
小野は負傷してしまいましたしね・・・
自分はかなり遠藤推してるんですけど・・・出れるかなぁ?
大久保は鮮烈デビュー(中田以来かな)も負傷・・・
負傷明けに、消えてしまわないように頑張って欲しいですね。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 567 名前:ACM 投稿日:2005/02/06(日) 02:35
- >>563 みっくす様
レスありがとうございます。確かにサッカーというものは恐いです。
どんな相手にも勝つチャンスはあるんですよね。
それに同じ選手、同じ監督でもガラリと変わることもありますし。
ほんと、恐いです。でも、だからこそ魅力があるような気がします。
そんな魅力を少しでも出せるように頑張ります。
>>564 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。
本当に現実はこんな風になってほしくないですね。三日後の北朝鮮戦、祈るのみです。
やはり得点を奪うFWも大事ですが、DFの奮闘も厳しい試合を勝つには不可欠ですね。
この話のDF陣の奮闘にも期待してください。
>>565 k−gxp様
レスありがとうございます。
確かに飛び出し得意の、“フィニッシャー”の田中には平家というレジスタが必要でしたね。
それを踏まえて次の戦いはどうなっていくのか、どのように立ち直っていくのか。
どうかご期待下さい。
>>566 ピクシー様
レスありがとうございます。
ほんと、現実はこうなって欲しくないです。
レジスタはやはり攻撃を円滑に進めるために必要な存在でしょうね。
どうやら現実ではピクシー様一押しの彼がスタメンで出そうですね。
その冷静なパス、“バランス”に期待したいところです。
では本日の更新です。
- 568 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:38
- 「来たぞ!!!」
わっと声が上がる。
しかしそれは怒気をはらんだ声であった。
成田空港。
ここに日本代表の選手が降り立った瞬間、空港は騒然となった。
昨日、日本代表はワールドカップアジア最終予選を敵地中国で戦った。
結果は2−1。
大事な大事なこの一戦で、日本代表はまさかの敗北を喫した。
- 569 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:38
- 「てめー!!!!」
「お前のせいで負けたんだ!!!」
彼女が搭乗口から降りてきたのを見て荒いサポーターたちが一斉に罵声を浴びせかける。
その罵声に耐えるかのようにグッと唇をかみ締めるのは彼女。
日本代表10番、田中れいなだった。
これはサポーターたちの言うとおりであった。
昨日の中国戦。
トップ下のポジションで先発出場した田中。
しかし彼女を完全に抑え込まれたため、日本代表は攻撃の糸口すら掴む事が出来なかった。
しかも田中を先発出場させたせいでベンチに控えることとなったアーセナル市井紗耶香が交代出場後、大活躍。
それだけに一層田中の不出来が目に映ったのだ。
- 570 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:39
- 「痛っ!!」
この声に空港がざわめく。
そこには卵の黄身でベトベトになった頭を押さえる田中れいなの姿が。
「誰だこれやったのは?!!!出て来い!!!!」
激昂した市井が辺りを見回しながら叫ぶ。
周りに群がるサポーターの中に、挙動不審な男がいるのを市井は見逃さなかった。
「てめえだろ!!待ちやがれ!!!」
市井の右手がこの不審な男の胸倉を捕らえた。
「やめとき紗耶香!!!!」
慌てて平家が市井を抑えるが遅かった。
群がる報道陣がこの瞬間をしっかりと撮っていたのだ。
この映像は瞬く間に日本中に流れた。
これにより市井は日本サッカー協会からお咎めを受け、罰金を払うこととなった。
が、正直それはたいした問題ではない。
一番の問題は日本代表が今回の敗戦で崩壊状態になっているということが
全アジアに知らされたということであった。
この映像を見たイランイレブンは自分たちに勝機が生まれたことを確信する。
まともに戦えば日本の方が有利だ。
が、この状態ならば十分に勝つチャンスがある。
中東の刺客は静かにその牙を研いでいた。
- 571 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:40
- 「こっちだ!!」
「展開速く!!!!」
中国から日本に戻ってきたツンクイレブン。
すぐに横浜に移動し、次戦のイラン戦へ向けて合宿を張る。
次の試合は絶対に負けるわけにはいかない。
帰国して間もないというのに、練習には自然に熱が入る。
「おい!!もっと集中しろ!!!」
マコトたちコーチ陣の怒号が響く。
それぞれが熱を帯びて練習をするが、
やはり中国戦の敗戦のショックは選手たちに色濃くあるようだ。
矢口など明らかに動きに精彩を欠いている者が数人見られた。
その中で一番精彩がないのが田中れいなだった。
それも無理はない。
ワールドカップ最終予選という大事な戦いで足を引っ張り、
それが原因でチームが負けてしまったこと。
これは代表選手にとって大きな悔恨である。
その重みが田中の小さな肩にずっしりと乗っているのが誰の目にも明らかであった。
- 572 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:40
- 「・・・・・・・俺って、あかんなあ・・・・・・・・」
日本の指揮官も同様にショックを受けていた。
これが自分のサッカー哲学とはいえ、
余りにも“ファンタジスタ”に期待をかけすぎてしまった。
田中れいなの年や実績をもっと考慮すべきであった。
だが後悔してももう遅い。
現に日本は痛い星を落とし、次期10番は自信を失ってしまったのだから。
その日の練習は気合こそ入っていたものの、どことなく空回りの感のあるまま終了した。
- 573 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:41
- 『あ、もしもし、ツンクさんですか?』
その日の夜、ツンクの携帯に1人の選手から電話がかかってきた。
「柴田か?!」
その電話の相手は、日本が誇るマエストロ、“天使”柴田あゆみであった。
「どうしたんや柴田?」
ツンクは柴田が電話をかけてきた理由を知りつつもそう尋ねた。
『・・・・・ツンクさん、次の試合、あたしを招集してください。』
それは予想通りの言葉だった。
- 574 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:42
- 「足は大丈夫なのか?」
『はい。もうほとんど問題ないです。次のイラン戦に十分間に合います。
ですからお願いします!』
電話口の向こう声は緊迫していた。
昨日の試合を柴田はテレビで観戦して、
“マエストロ”の目には日本代表が危機的状態であると見えたのだ。
この乱れきったリズムを取り戻すには自分のタクトしかない。
そう思い、柴田はツンクに直接電話をかけたのであった。
「・・・・・柴田。お前の気持ちは嬉しいが、呼ぶわけにはいかん。」
『そんな!!』
柴田の声に怒気がこもる。
今こそ自分が必要なのではないのか?
「・・・・・お前は日本代表にとって大事な選手や。
だからこそここで無理をさせるわけにはいかん。
今無理をしたら、本番が。ワールドカップには出られへんぞ。」
『でもこのままじゃその本番を逃すかもしれないじゃないですか!!』
「いや、大丈夫や。俺はお前を信頼してるように、今いるメンバーも信頼してる。
あいつらがきっとやってくれる。だから柴田。今回は諦めてくれ。」
『・・・・・・・わかりました・・・・・・』
ここまで言われては柴田も頷くしかなかった。
「すまんな心配かけて。けど絶対に次の試合は勝ってみせるからな。」
『はい、お願いします。・・・・・ツンクさん、田中ちゃん、どうしてますか?』
ここで柴田は気になっていた後輩の様子を尋ねた。
「・・・・・正直落ち込んでるわ。あん時のお前みたいにな。」
『それは言わないでくださいよ。』
柴田は苦笑いを浮かべる。
2人が思い描くのはあの時のこと。
アテネオリンピック予選リーグ第3戦、対ブラジル戦。
“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウドの悪魔の爪に引き裂かれたあの時のことだ。
あの試合で柴田あゆみは一度全てを引き裂かれた。
- 575 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:42
- 『・・・・・あの時は辛かったですけど、逆に言えばあれがあったから今の自分があります。
ですから田中ちゃんもきっと大丈夫ですよ。」
「そうやな。・・・・・・でも、あいつはお前よりも若い。
だからこそ誰か側に付いていて欲しいんやけどな。」
思わず出るツンクの本音。
彼は本当は柴田を招集したいのである。
柴田が主張するように、マエストロのタクトで、“創造と再生のパス”で
乱れたチームのリズムと田中れいなのリズムを取り戻させたかった。
だが柴田の事を考えると絶対に呼ぶわけにはいかない。
軽い故障であったのに、無理をしたばかりに現役を引退せざるをえなかった自分の二の舞にさせないために。
- 576 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:43
- 『・・・・・・ツンクさん、“まだ”ですか?』
柴田がふとそう言った。
これだけでは何のことか分からない。
「・・・・・・ああ。“まだ”無理や。」
が、ツンクはこれだけで全て理解できた。
この2人の脳裏には同じ人物が浮かんでいた。
『そうですか・・・・・まだ無理ですか・・・・・・』
「ああ。」
しばらく2人の間に沈黙が流れた。
- 577 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:43
- 「おい、ツンク。そろそろミーティングの時間やぞ。」
その時コーチのマコトがツンクを呼びに来た。
「ああ、分かった。・・・・・・すまんが柴田、時間や。」
『はい、聞こえました。・・・・・ツンクさん、頑張ってください。』
「ああ。お前こそしっかりとコンディションを整えてくれよ。
6月にはアウェーでの2連戦があるんやからな。」
『はい、分かりました。では、これで。』
「ああ。」
そう言ってツンクは電話を切った。
6月にあるワールドカップアジア最終予選、アウェー2連戦。
この2試合は日本サッカー界にとって命運を賭けた戦いとなるはずだ。
その時に果たして“天使”は“芸術家”はピッチにいるのであろうか?
そして忘れ去られた“悪魔”は?
- 578 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:44
- そして3月30日。
ワールドカップアジア最終予選第3戦。
対イラン戦が日産スタジアム(旧横浜国際総合競技場)で始まる。
- 579 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:44
- 「ニッポン!!!!ニッポン!!!!」
スタジアムが大きく揺れる。
見渡す限りの青、青、青。
7万2千人が収容できる日産スタジアムは一面ジャパンブルーで覆われていた。
これは見ていて壮観なものであった。
だが選手たちにそれを感じる余裕などない。
誰もがこの試合の事で頭がいっぱいであった。
ワールドカップに出るためには、絶対にこの試合、勝たねばならない。
引き分けでも許されない。
選手たちの両肩にプレッシャーが重くのしかかる。
- 580 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:45
- 「今日は勝てる。」
一方、自信満々でこの試合に臨むのは彼女。
イランが誇るサイドアタッカー、ハンブルガーSV所属“アジアの突風”マチャミビキア。
日本が中国に敗れた。
これにより日本がアジアで絶対的な盟主で無いことが証明された。
ならば自分たちも勝てるはずだ。
「終盤、あんたの力が必要だから頼むよ。」
「はい、任せてくださいよ。あんな小娘たちなどボコボコにしてやりますから。」
マチャミビキアはベンチにどっかと座る選手に声をかける。
彼女は今回、初代表を刻んだ選手だった。
が、その割には態度がふてぶてしい。
「ええで、あんたのそういうところ好きやで。」
イラン代表の重鎮、マチャミビキアの目にも彼女の存在は頼もしく映った。
- 581 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:45
- スタジアムでは両チームのスターティングイレブンが発表されていた。
イラン代表は普段と変わりないメンバー。
センターバックにはベルギー、ゲンクで活躍するシロ・オセロと
同じくベルギー、ムスクロンのクロ・オセロ。
右サイドバックにスコットランド、ヒバーニアンのアブ・ホクヨー。
左サイドバックにポルトガル、アルベルカのイト・ホクヨー。
中盤は双子のセンターハーフコンビ、マナミ・クラとカナミ・クラ。
左サイドハーフにはベルギー、ベベレンのトモ・チカー。
右サイドには当然マチャミビキアが入る。
FW2トップはミツ・ヤーとヨシ・イー。
中国と同じく、ここ最近変わらないメンバーだが、
それだけに組織としての成熟度はかなり高まっている。
中東独特の身体能力と新たに加わった組織力でこの試合に臨む。
- 582 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:45
- 続いて日本代表のスターティングイレブンが発表される。
この発表をサポーターたちも固唾を呑んで見守る。
果たして前回の敗戦を踏まえて日本代表はどんなメンバーで来るのか?
「GK、背番号12、ミカ・トッド!!」
オオオオオオオオオオオオ・・・・・・・・・
いきなりスタジアムがどよめいた。
この試合、ゴールマウスを守るのは日本のキャプテンではなかった。
苦しいときこそ彼女の物怖じしない態度は頼りになる。
日本はゴールを“秘密兵器”に任せた。
- 583 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:45
- 「DF、背番号2、石黒彩!!」
センターバックの1人は当然この人。
その高さと強さは“正統派ストッパー”の名にふさわしい。
ゴール前に強固な壁を作る。
「DF、背番号3、里田まい!!」
オオオオオオオオ・・・・・・・・・・・
ここでもどよめきが起こる。
無論里田の実力は日本代表のスタメンにふさわしいものである。
が、ここで“脅威の身体能力”の名前が出た。
これですでにセンターバックは2人名前を呼ばれた。
ということはツンクは3バックに戻した?
- 584 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:46
- 「DF、背番号14、斉藤美海!!」
「DF、背番号15、小川麻琴!!」
オオオオオオオオオオオオオオ?!!!!
スタジアムが一斉にどよめく。
この2人がスタメンということは、ツンクは4バックシステムだ。
が、これでDFは全員揃った。
ということは、彼女がスタメン落ちとなった。
日本最高のDF、紺野あさ美。
彼女は中国戦で矢口真里に対してかなりの失望を覚えた。
その雰囲気が諸に練習中に出ていた。
それを悪影響と判断したツンクは迷いなく彼女をスタメンから降ろしたのであった。
- 585 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:46
- どよめきが続く中、中盤の選手が発表された。
「MF、背番号4、辻希美!!」
ここで“小さな弾丸”の登場。
この停滞したムードを吹き飛ばしてくれるのは彼女しかいない。
その天性の存在感で日本を立ち直らせる。
「MF、背番号11、市井紗耶香!!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
彼女の名前が呼ばれた瞬間、スタジアムは一気に爆発した。
今や世界でも彼女の名を知らない者はいない。
全世界に数人しかいない“フリーロール”。
この大事な一戦に満を持して登場。
「MF、背番号20、藤本美貴!!」
前回はサイドバックでの出場であったが、今回は一列上げての起用となった。
やはり彼女の持ち味は攻撃。
前回でサ・トエリからゴールを奪った彼女は、この試合でも勝利に導くゴールを狙う。
「MF、背番号22、木村アヤカ!!」
左がミキティならば、右は彼女だ。
その切れ味鋭いドリブルはスペインでも一際輝く存在感を放っている。
この試合でも右から多くのチャンスを産み出す。
- 586 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:47
- 「FW、背番号13、松浦亜弥!!」
ワアアアアアアアアアアアア!!!!
名門バルセロナが誇る“プリンセス”。
パス、ドリブル、シュートのどれもに優れた万能FW。
その高い総合力で日本の攻撃のキーとなる。
「FW、背番号19、村田めぐみ!!」
ミスオフサイド。
何度オフサイドにかかろうが、一度抜け出れば必ず決める。
その一度に全てを賭けるストライカー。
以上の11名が、この試合のスタメンであった。
- 587 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:47
- オオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・・・・・・・・・
このスタメン発表に、サポーターたちはただただどよめきを上げるのみであった。
飯田圭織が、紺野あさ美が。
保田圭が、後藤真希が、安倍なつみが。
そして福田明日香がベンチに座る。
誰にも想像できなかった。
これはいわば全く別の日本代表だった。
「これはあの時と同じや。」
中澤裕子は気付いていた。
あの時もツンクはこの決断を取った。
アテネオリンピック決勝トーナメント1回戦対カメルーン戦。
前の試合でブラジルに完膚なきまでに叩きのめされた日本。
チーム状態は最悪であったが、それを今まで控え組と蔑まされていた連中が見事に救った。
チームが停滞しているこそ、強い気持ちが必要となる。
ツンクはこの大事な一戦、前回の試合で控えに甘んじた連中の気持ちに賭けた。
- 588 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:49
- 「さ、みんな。」
この試合、キャプテンマークを飯田から託された辻がみなを呼び寄せ、円陣を組む。
その凛とした表情はすでにキャプテンの風格を醸し出している。
「ニッポン!!!ニッポン!!!」
スタジアムからは大声援が聞こえてくる。
しかしその声のどれもが余裕がない。
みな切羽詰った気持ちで日本代表に声援を送っている。
その声が逆に日本代表の肩に大きくのしかかる。
- 589 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:49
- 「・・・・・余計なことは考えないでおこう。
あたしたちはただこの試合に勝てばいいだけだから。」
彼女は欧州の大舞台で名門チームの一員として大舞台を経験している。
こんな大事な一戦の時こそ平常心が一番大切だと“フリーロール”市井紗耶香は理解している。
「紗耶香の言うとおり。しっかり自分たちのサッカーをしていこう。」
市井の言葉に同意するのは欧州の超名門、ACミランにその籍を置く石黒彩。
彼女の同僚には世界の鉄人、タマオ・ナカムラーニがいる。
ナカムラーニから学んだのは1つの試合に全力を尽くし、決して妥協しないこと。
それさえしていれば結果は自ずと付いてくるというものであった。
だからこそこの試合にただ集中する。
それだけでいいのだ。
この2人の余裕の態度に他の選手も幾分気持ちが落ち着いたようだった。
- 590 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:50
- 「さ、行くよ。」
辻がみなを見回す。
みな、気合の入った表情をしていた。
辻は満足げに頷く。
さあ、日本代表らしいサッカーを見せようじゃないか。
「がんばっていきまー・・・・・・・・」
「しょいっ!!!!!!!!」
- 591 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:50
- <日本代表>4−4−2
19 13 GK 12 ミカ・トッド
DF 2 石黒 彩
20 22 3 里田まい
4 11 14 斉藤美海
15 小川麻琴
14 15 MF 4 辻 希美
2 3 11 市井紗耶香
20 藤本美貴
12 22 木村アヤカ
FW 13 松浦亜弥
19 村田めぐみ
- 592 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:50
- <イラン代表>4−4−2
9 11 DF 2 アブ・ホクヨー
3 イト・ホクヨー
8 7 4 シロ・オセロ
10 6 5 クロ・オセロ
MF 6 カナミ・クラ
3 2 7 マチャミビキア
4 5 8 トモ・チカー
10 マナミ・クラ
1 FW 9 ミツ・ヤー
11 ヨシ・イー
- 593 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:52
- この試合、日本はとうとうトップ下のシステムを廃止した。
それはツンクの信念を表すもの。
この試合、絶対に勝つという信念を表すものであった。
ピィーッ!!!!
横浜の夜空に透き通った笛の音が鳴り響く。
それは死闘の幕開けとなる合図であった。
- 594 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:53
- イランMF、マナミ・クラがボールを持ち、パスコースを探す。
そこへ積極的にチェックに向かうのは市井。
それを見たマナミ、前線のポストプレイヤー、ミツ・ヤーへくさびのパスを当てようとする。
だがそれは辻が許さない。
パスコースへ鋭く滑り込み、このくさびのパスを中盤でカットした。
「辻ちゃん!!」
その瞬間右サイドでアヤカが動き出す。
4−4−2のシステムはサイド攻撃が要だ。
そのためこの試合はサイドの選手にかかっている。
辻は起き上がるとすぐさま右サイドのアヤカへロングパスを出した。
しかしイランも同様の4−4−2システム。
相手の出方も分かるし、サイドに十分人をそろえている。
この辻からのロングパスをイラン左サイドバック、イト・ホクヨーが
ヘッドでタッチラインにクリアした。
- 595 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:53
- 「辻、ナイス!それでいい!」
「はいっ!!」
中盤センターで見事なディフェンスを見せた辻にコンビを組む市井が声を掛ける。
「タイミングだ。上がるタイミングを間違えるなよ。」
「はいっ!」
この試合、始まる前から市井と辻が声を掛け合うシーンが多々見られた。
お互い攻撃的な選手であるため、ついつい前に上がりたくなる。
しかし、2人とも上がってしまっては中盤にぽっかりと穴が開いてしまう。
が、2人とも上がらないとなると今度は前線のフォローが薄くなる。
どちらが今上がるのか。
その意思の疎通がこの試合のキーとなってくる。
- 596 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:54
- 「マチャミさん!!」
またもマナミがボールを持つ。
今度は右サイドのマチャミビキアへパスを送る。
「任せろ!!」
そこへチェックに行くのは同じブンデスリーガでその名を馳せる藤本美貴。
マチャミビキアに遠慮なく激しいチェックに行く。
「相変わらずあんたキツイね。」
この激しいチェックにマチャミビキアも思わず苦笑いを浮かべる。
「そういうあなただって!!」
藤本もニッと笑う。
マチャミビキアも負けずに藤本のユニフォームをつかんでいた。
ブンデスリーガ第10節で藤本のシャルケ04と
マチャミビキア、ハンブルガーSVはぶつかった。
両者とも1ゴール、1アシストをあげ、試合の結果は2−2の引き分けであった。
この試合激しく競り合った両者。
試合後はお互いの健闘を称えあった。
が、この試合では倒すべき憎き相手。
互いの国の誇りを背負い、激しく競り合う。
- 597 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:54
- 「あ?!!」
「なっ?!!」
と、この両者の競り合いの間に1人の選手が割って入ってきた。
その選手は強引に2人の間に割り込み、ボールを奪い去った。
「やってくれるねみうな!!!」
藤本が叫ぶ。
それはこの試合がA代表デビューとなるU−20代表の大器、斉藤美海であった。
オオオオオオオオオオオオ!!!!!
スタジアムが一斉にどよめく。
藤本とマチャミビキアという、世界を舞台に戦う2人のマッチアップに
臆することなく割り込んでいった。
初代表というのにあの堂々たるプレーは何だ?
- 598 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:55
- ボールを奪ったみうなは大声援をバックに左サイドを駆け上がる。
そこへイラン右サイドバックアブ・ホクヨーが巨体を揺らしてチェックに来る。
「みうな!!」
みうなをフォローすべく松浦が右から左に流れていく。
それを見て左FWだった村田が右サイドへ流れ、
イランセンターバックのオセロ2人の死角へと消える。
みうなはフォローに来た松浦ではなく、さらに中へとパスを送った。
「ナイスパス!!」
そこに上がってきていたのは市井だった。
市井はこれをダイレクトでDFラインの裏へスルーパス。
- 599 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:55
- 「よしっ!!」
このパスに抜け出したのは当然彼女。
“ミスオフサイド”村田めぐみ。
「あっ!!!」
イランが誇るセンターバック、“オセロ”も村田を見失っていた。
完全にフリーで抜け出した村田。
飛び出してくるGKを冷静にかわし、無人のゴールへと流し込んだ。
前半4分。
早くも日本代表、1点先制。
- 600 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:55
- ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
この一発に当然スタジアムは爆発する。
停滞していたムードを払拭するとともに、
ワールドカップへ向けての貴重なゴールだった。
「村さん!!!」
「めぐみさん!!!」
選手たちが一斉にゴールを決めた村田に抱きつく。
当然ベンチでも選手、コーチが手を挙げて喜んでいる。
その中で誇らしげに右手をあげる村田。
まさに意地の一発であった。
- 601 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:56
- 『日本で頼りになるFWといえば誰か?』
そんな質問がされた時、真っ先に名前が上がるのが安倍なつみ、後藤真希であろう。
この2人は存在感が抜けている。
続いてバルセロナの松浦亜弥が上がり、また成長著しい高橋愛の名前も上げられる。
また、大器を予感させる道重さゆみや、そのドリブル突破が魅力の木村アヤカを上げる者もいるであろう。
しかし、村田めぐみの名を上げる者はほとんどいない。
Jリーグ得点王であり、ポルトガルの名門ベンフィカで活躍しているにも関わらずだ。
「村田?あいつはただ裏へ飛び出すだけのFWだろ?」
「マヨザーギとタイプは似てるけど、実力は比べ物にならないしな。」
「っていうか、すごく地味なFWだよな。」
これらが周りの声である。
この声は当然村田の耳に届いている。
正直悔しくないといえば嘘になる。
だが彼女はそんな雑音に踊らされることなくただひたすらに自分のサッカーを貫く。
DFラインの裏へ飛び出すというサッカーを。
- 602 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:57
- こんなデータがある。
現在の日本代表で一番得点を決めているのは安倍なつみだが、
出場時間に対する得点の割合ならば、村田めぐみは安倍と比べてもそん色ないのである。
出れば必ず仕事をしてくれる。
それが村田めぐみであり、またそれが分かっているからこそツンクは彼女を代表に選び、
そして今日の試合、先発させたのである。
そしてそれは見事に結果となって表れた。
- 603 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/06(日) 02:57
- “必殺仕事人”村田めぐみの一撃によりリードを奪った日本。
だが試合はまだ始まったばかり。
イラン代表もその戦意はいささかも衰えてはいない。
「今のはあたしのミスや。すまん。」
マチャミビキアがチームメイトに謝る。
こうすることでDF陣に失敗の負い目を背負わせないで済む。
日本に勝つにはDF陣の奮闘が必要なのだから、気落ちしてもらっては困るのだ。
「次は絶対に止めてみせます。」
マチャミビキアの思いが通じたのか、イランDF陣の表情に陰りはない。
もうこれ以上失点は許さないと、気合が満ち溢れている。
「イランはまだまだこれからやからな。覚悟しいや。」
世界を知る猛者が、反撃を誓った。
- 604 名前:ACM 投稿日:2005/02/06(日) 03:03
- すみません、本日の更新はここまでとさせていただきます。
残りは近日中にあげたいと思います。
最近は更新速度がかなり落ちてしまい、申し訳ありません。
出来る範囲でベストを尽くしたいと思っていますので、
どうかご容赦下さい。
- 605 名前:ACM 投稿日:2005/02/06(日) 03:04
- 小川麻琴
“オスティナート”
得意プレー:粘り強いディフェンス オーバーラップ クロスボール
ポジション:SB CB SMF
所属クラブ:清水エスパルス
・プレーの特徴
粘り強いディフェンスには定評があり、その守備力はセンターバックも任せられるほど。
またオーバーラップのセンスは非凡なものがあり、クロスボールも正確。
そのため、サイドバックでの起用の方が彼女の力が生きる。
課題はまだまだ経験不足なこと。
全てにおいてレベルアップの必要がある。
・作者のイメージ
・・・・・実はこれといってイメージはないんです。
あえて言うならバルサの魂、プジョールですかね。
熱い粘りのディフェンスはすごいです。
- 606 名前:ACM 投稿日:2005/02/06(日) 03:06
- ・本編での存在
けっこう出場してます。よく書いている機会も多いように感じます。
ワールドユースもありますし、これからもっと活躍してくれるような気がします。
現実にもこんなサイドバックがいたらと思えるぐらい活躍して欲しいですね。
以上、久しぶりのスレ隠しでした。
では、次回更新まで失礼いたします。
- 607 名前:ピクシー 投稿日:2005/02/06(日) 04:25
- 更新お疲れ様です。
>どうやら現実ではピクシー様一押しの彼がスタメンで出そうですね。
>その冷静なパス、“バランス”に期待したいところです。
確かに、出れそうですね。
彼の場合、「ボールを取られてはいけない」ポジションですが、安心して見ていられます。
簡単にパスまわしたり、サイドへロングパス出したり・・・バランサーでもあり、レジスタでもある気が。
村さん良いですね。現実にもいて欲しい。こういうスペシャリストが。
最近(カザフ戦はありましたが)、裏へスルーパスで抜け出してゴール、ってのがあまりないですし。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 608 名前:みっくす 投稿日:2005/02/06(日) 07:00
- 更新お疲れ様です。
今回も彼女たちは、日本を救うことができるのですかね。
現実にも、出れば必ず仕事をする人がほしいとこですね。
やっぱり、まだ得点力不足は解消されてない気がします。
- 609 名前:娘。よっすいー好き 投稿日:2005/02/06(日) 14:38
- 更新お疲れ様です。
前回はリアルタイムで読ませていただきましたが、レスする時間を逃してしまいました。
今回のメンバーはそう来ましたか。U‐20の彼女も頑張ってますね。
芸術家の復活、そして待ち遠しい彼女の復活を待ちながら、今回のメンバーにも頑張って欲しいです。
次回の更新を楽しみに待ってます。
- 610 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/02/06(日) 16:54
- 更新お疲れ様です。
面白い試合展開になりそうですね。
システムが同じということで、組織力の争いになるのかな??
私は今の代表と同じ3−5−2でくるのかなと思ってました。
↑しかも、マエストロを呼んで・・・
北朝鮮戦はほぼ国内組で戦うみたいですね。
ここでも日本人海外ブームの前は国内組で戦ったこともありましたし
実力も雰囲気もいい状態なので、きっとやってくれると思います。
では次の更新を楽しみに待ってます。
- 611 名前:ACM 投稿日:2005/02/27(日) 01:10
- >>607 ピクシー様
レスありがとうございます。前回更新からだいぶ時間が経ってしまいました。
北朝鮮戦、何とか勝ててよかったです。ダイコクサマが何か村さんとかぶりました。
遠○もきっちりと自分の役割を果たしていたと思います。
>>608 みっくす様
レスありがとうございます。そうですね、派手さはないけれども、
確実にゴールを奪ってくれる仕事人みたいなFWが欲しいところですね。
僕の中ではミランでのトマ○ンあたりがそんな感じです。日本にもそういった存在が欲しいです。
>>609 娘。よっすぃー好き様
レスありがとうございます。今回はこのメンバーで行きたいと思います。
やっぱり新しい血がないと、どんなに素晴らしいチームも停滞してしまうと思います。
今の選手はもちろん、今回選ばれなかった選手たち、復活を期する選手にもご期待下さい。
>>610 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。北朝鮮戦、何とかやってくれましたね。
なるほど、マエストロを呼んでの3−5−2ですか。
・・・・・・・・それでも良かったかもしれませんね。というか、その方が良かったかもです。
では本日の更新です。
- 612 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:11
- 1点を奪った日本だが、当然それに満足したわけではない。
もう1点、2点を取り、セーフティーリードを奪わなければならない。
日本代表はさらに攻撃の手を強める。
右サイドを木村アヤカが駆け上がる。
対面のトモ・チカーをあっさりとかわす。
見ていて小気味いい、切れ味鋭いドリブルだ。
元々そのドリブルには定評があったが、スペインで更に切れ味が増していた。
「くっ!」
左サイドバック、イト・ホクヨーが絶対に抜かせないと腰を落とし構える。
それを見たアヤカ、無理に1人でドリブル突破せず中へとはたく。
これをフォローに来た松浦亜弥がリターンする。
ウオオオオオオオ!!!!
アヤカ、松浦の見事なワンツーにスタジアムが沸く。
フリーでアヤカが右サイドを抜け出した。
「来い!!」
ペナルティエリアには村田と藤本、さらには辻までもが入り込んでいる。
アヤカはその中の、彼女を狙った。
- 613 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:13
- アヤカの右足から放たれたクロスは真直ぐ彼女の元へ。
今日は1点取っているがこれだけで満足してもらっては日本代表のスタメンは奪えない。
彼女も当然それを分かっており、貪欲なまでに次のゴールを狙う。
このクロスに村田めぐみがダイナミックに飛び込み、
クロ・オセロと競り合いながらもヘッドで合わせた。
カンッ!!
が、これは惜しくもクロスバーであった。
ボールはそのままゴールラインを割っていった。
「くうーっ!!!」
思わず天を仰ぐ村田。
「ドンマイです!ナイスヘッド!!」
だがクロスを上げたアヤカをはじめ、他の選手も今のヘッドにパンパンと手を叩いて称賛する。
あのクロ・オセロに競り勝ってヘディングを放った。
アヤカだけでなく、村田も海外でもまれた成果が如実に現れていた。
- 614 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:13
- 「ええぞ。今のうちに追加点を取るんや。」
ベンチではツンクがポールにもたれかかれながら戦況を見つめていた。
流れは今完全に日本だ。
だからこそ今のうちに追加点を取っておかねばならない。
これはサッカーの鉄則である。
この前半で追加点を奪えるかどうか。
それでこの試合の後半戦の情勢が変わる。
それを当然選手たちも理解している。
リードされているがごとく、必死の形相でイランゴールへと襲い掛かる。
- 615 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:14
- 「辻ちゃん!!」
2トップの1人、松浦がスッと下がってボールをもらいにくる。
ここまで日本は松浦の存在が効いていた。
今日の日本のシステムはフラットな4−4−2。
これだとトップ下の位置はがら空きとなる。
普通はここはセンターハーフの2人、市井と辻が埋めるのだが、
今日は2人とも守備に重点を置いている。
そのため松浦がしばしば下がってこの位置でボールをもらい、
日本の攻撃を円滑にしていく。
このあたりはバルセロナで“4トップ”を組み、
その中でチャンスメイクも担当しているのが生きている。
辻からパスを受けた松浦、イランDF陣を十分にひきつけて左サイドへ大きく振る。
「ナイスパス亜弥ちゃん!!!」
そこには左サイドのスペシャリスト、藤本が走りこんでいた。
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
サポーターたちも両翼をワイドに使った攻撃に思わず歓声を上げる。
ピッチを広く使うため、攻撃がよりダイナミックに感じる。
だがイランもそう簡単には突破を許さない。
マチャミビキアとアブ・ホクヨーが藤本を止めるためすばやくチェックに来る。
「藤本さん!!」
しかし藤本の後ろからダイナミックに彼女が上がってきた。
美しく雄大な海、斉藤美海だ。
藤本からパスを受けたみうなは左サイドを深くえぐる。
- 616 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:15
- 「来い!みうな!!」
ゴール前には当然村田、そして松浦も飛び込み、
アヤカも右サイドから中に入り込んできた。
だがイランDF陣もマークを見失わない。
それぞれがきっちりとマークについている。
「みうな!!!」
一瞬誰にクロスを送るか迷ったみうなだったが、
呼ばれた声に咄嗟に反応し、クロスを送った。
みうなのクロスはペナルティエリア内ではなかった。
かなりマイナスに上げたクロスは、後ろから勢いよく走りこんできた選手の足元へ。
その選手とは、世界に数人しかいない“フリーロール”市井紗耶香だ。
まさに“フリーロール”以外感じ取れぬスペースを感じ取った。
市井は走りこんできた勢いをそのまま右足に乗せた。
次の瞬間、ゴールネットが千切れんばかりにボールが突き刺さった。
GKもDFも一歩も動くことは出来なかった。
前半29分。
市井紗耶香のボレーシュートにより日本、待望の追加点。
- 617 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:15
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
スタジアムが一気に爆発した。
誰もが抱き合い、歓喜を露にする。
その爆発に向けて右拳を突き出す背番号11。
すると、スタジアムが更に爆発する。
これが日本が誇る“フリーロール”だ。
スタジアムの観客たちは、その存在を世界に誇るべく咆哮する。
- 618 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:15
- 「ぐっ・・・・・・・」
この失点にマチャミビキアの表情は真っ青になる。
1点ならばまだまだチャンスはある。
が、日本相手に2点差では正直きつい。
「日本はぼろぼろじゃなかったんか・・・・・?」
決戦前はイラン代表にも十二分に勝機があると踏んでいた。
しかし、蓋を開けてみればこの状況。
イラン代表の目論見はもろくも崩れ去った。
・・・・・・・・・・かに見えた。
- 619 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:16
- 「マチャミさん。このままです。このまま2点差で前半を終えてください。」
その時、イランベンチから1人の選手がこう言った。
その声にハッとなって顔を向けるマチャミビキア。
そうだ。
自分たちにはまだこいつがいる。
マチャミビキアは頷くと気落ちした味方選手に檄を飛ばした。
前半、何とかこのまま。
そうすればこの試合、勝てる。
イラン代表は希望を胸に、前半を何とかこのまま凌ぎきった。
ここで日本に追加点を与えなかったことこそが、イラン代表の底力だった。
- 620 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:16
- 「いちーちゃん、ナイス!!!」
ピッチから戻ってくる市井たちスタメン組を、後藤たち控え組がベンチから出迎える。
「おうっ!でも、あたしの力じゃない。みんなの力だ。
特にこいつのおかげだ。」
そう言って市井は辻の頭をなでる。
「あたしは何もしてませんよ。」
これには辻が一番驚いた。
ここまで特に目立った動きはなかったのに。
「何言ってるんだ。お前がきっちりと後ろを守ってくれてるから、
汚れ役をやってくれてるからチームが上手くいってるんだ。
後半も頼りにしてるよ?」
市井はにっと笑い、辻の頭をポンと叩くと、
次はみうなと小川のもとへ行き、彼女たちにも声をかけている。
「市井のやつ・・・・・・・」
これにはツンクも素直に感謝する。
若い辻やみうな、小川に上手く気を配ってくれている。
プレーはもちろんだが、こういったところでも市井は日本を支える柱となっていた。
- 621 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:17
- 市井をはじめ村田や松浦など、前の試合で控え組だった連中が活躍し、
日本は2点リードで前半を終えた。
だが、後半。
日本代表の面々は1人の選手により苦汁をなめることになる。
その選手は黙々とピッチでアップをしていた。
- 622 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:17
- 「ようし、後半も行くぞ!!」
前半を理想的な展開で終え、意気盛んにピッチへと戻ってきた日本代表。
とその時、イラン代表の背番号20の選手がタッチライン際に立っているのが見えた。
「・・・・・・後半から入る選手か?それにしてもあいつは誰だ?
初めてみる顔だ・・・・・・」
石黒がいぶかしげな表情を浮かべる。
今まで何度もイラン代表と戦ってきたが、その選手は見たことがなかった。
新しく出てきた若手か?
そうも思ったが、明らかに見た目は若手ではなく中堅、
いや、ベテランに入るかもしれない。
「何か・・・・・いやな予感がする・・・・・・」
その選手を見た瞬間、石黒の身体を悪寒が走った。
「イラン代表、選手の交代をお知らせいたします!」
スタジアムに選手交代のアナウンスが響く。
「背番号11、ヨシ・イー選手に代わりまして、背番号20、サヤ・アオキーが入ります!!」
この交代は日本にとってまさに最悪の出来事であった。
- 623 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:18
- 「ん・・・・・・?イラン、システムが変わった・・・・?」
後半が始まってすぐにそれに気付いたのは
ギリシャの名門、オリンピアコスでプレーする里田まい。
イランでも主力選手の1人、ヨシ・イーが前半だけで下がったことから、
これは何かあると思っていた。
まさしくその通りだった。
イランは4−4−2から4−3−3へとシステムを変更していた。
両サイドハーフがウイングに上がり、2トップの1人であったヨシ・イーの代わりに入ったサヤ・アオキーがトップ下のポジションに入っていた。
「もうこれであたしらの勝ちやで。」
イランの英雄、マチャミビキアがニヤリと笑う。
さあ、これからイランの真の力をお見せしよう。
- 624 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:18
- 「そっち行ったぞ!!」
「ここで負けるな!!」
日本とイランが中盤で激しく競り合う。
後半開始と同時にイラン代表は明らかに変貌していた。
本来ならばアウェーで2点差。
しかも相手が日本。
これだけでアジア諸国は諦めてもおかしくはない。
しかし、イラン代表は違っていた。
それは今までアジアを引っ張っていたという誇りと、
後半から投入されたあの選手の存在がそうさせていた。
激しい中盤でのボール争いの末、ボールが大きく跳ね返り、日本陣営へと飛んでいく。
「くっ!!」
この不規則なルーズボールに石黒の反応が遅れた。
ミツ・ヤーが石黒に競り勝ち、ボールをヘッドで落とす。
そこへ走りこむのは代わって入ったばかりのサヤ・アオキー。
「オッケー!!」
が、当然日本も彼女を警戒していた。
里田まいがその抜群の身体能力で素早く寄せる。
しかし、次の瞬間、誰もが我が目を疑った。
- 625 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:19
- 「あっ?!!!」
一瞬だった。
一瞬の間に全てが終わっていた。
身体を寄せ、激しく当たったはずの里田。
しかし、そのチャージはむなしく空を切った。
しかもそれだけではない。
次の瞬間には完全に里田を置き去りにしていた。
「くっ!!!」
GKミカがシュートコースをせばめるため、鋭い出足で飛び出してくる。
しかしそれもむなしい抵抗だった。
シュートフェイントでミカのタイミングを狂わせると、一気に加速し、
ミカまでをも抜き去った。
後は無人のゴールに蹴りこむだけであった。
後半開始早々の2分。
イラン代表、1点差に追い付く。
- 626 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:19
- 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
スタジアムは水をうったかのように静まり返った。
あの脅威の身体能力を誇る里田に影すら掴ませない。
そして抜群の瞬発力を誇るミカに対しても置き去りにする。
まさに脅威としか言いようがなかった。
「だ、誰だあいつは・・・・・・・?」
“フリーロール”市井紗耶香が呆然と呟く。
あれほどのキレのドリブル、今まで見たことはない。
「す、すごい・・・・・・・」
“オールライト”木村アヤカも目を丸くする。
日本ベンチでも同様にみなが呆然としていた。
「あんなキレのあるドリブルを見たの、初めてや・・・・・・」
そう呟いたのは“ドリブルの魔術師”加護亜依。
「あたしも・・・・・・」
“日本が産んだ天才”後藤真希。
彼女も同様に呟く。
日本が誇るドリブラーたちが一様に驚愕の表情を浮かべる。
それほど凄まじいドリブル突破だった。
みな、余りのドリブルに思わずアオキーを凝視する。
それに気付いたアオキーは一言。
「・・・・ちょっとあんたたち、どこ見てんのよ!!!」
- 627 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:21
- 「みんな、落ち着きましょう!!」
予想外の展開に今までの優勢も何のその。
日本は一気に劣勢に陥った。
その反動の大きさのためか、日本選手たちにつまらないミスが出始める。
抜群の存在感を誇る辻が声を張り上げるが、それすらも今の日本には効果がなかった。
「しまった!!」
ボールをもらいに来た村田が、痛恨のトラップミスを犯す。
「なっ?!」
村田のポストプレーから最前線へと飛び出そうとした市井。
これは大きな計算違いである。
「出しなさいよ!!」
その瞬間トップ下に君臨するアオキーが市井が上がってできたスペースに走る。
もちろんボールを奪ったカナミ・クラは迷いもせずにアオキーへ。
「くっ!!」
あわてて辻が追いかけるが完全に一歩出遅れた。
しかも日本はフラットな4−4−2。
イランはトップ下ありの4−3−3。
ちょうどトップ下は日本の4と4の間に位置するため、しばしばフリーになれるのだ。
完全にフリーで受けたアオキー。
前を向いて爆発的に加速した。
- 628 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:21
- 「行かせない!!」
このままではまずいと判断した里田。
その身体能力の全てを右足に乗せ、爆発的に加速。
そしてアオキーの足元へ一気に滑り込んだ。
「くっ!!」
さすがのアオキーもこれを完全にかわすことは出来なかった。
ボールか足かというところに里田のスライディングが決まる。
それにもんどりうって倒れるアオキー。
「ナイスタックルまい!!!」
日本陣営から声が飛ぶ。
「よしっ!!」
里田も思わずガッツポーズ。
さっきはやられたが、今回はきっちりと借りを返した。
「やってくれるじゃないの。」
アオキーも思わず称賛の言葉が出る。
日本が誇る“脅威の身体能力”里田まい。
やはりその身体能力は群を抜いている。
- 629 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:22
- 「頼むで里田・・・・・・・・・」
ベンチではツンクが祈るような表情でピッチを見ていた。
あの背番号20は正直予想外だった。
あれほどの身体能力を持った選手は今まで見たことがない。
彼女を抑えられるのは日本で1、2の身体能力を誇る里田のみだ。
「里田!!!しっかり相手を見ていけ!!」
「・・・・・いや、もう1人おったわ。」
その声を聞いてツンクはフッと笑う。
日本代表のジャージに身を包んでいるが、その選手はもう現役ではない。
“日本サッカー界のキャプテン”中澤裕子。
日本最高のDFとうたわれた人物だ。
彼女ならばいかに身体能力の優れた選手であろうと、必ず止められたはずだ。
「中澤がいたならば。」
そう呟きかけてツンクは思いとどまった。
それは今現在ピッチで戦っている選手、そしてベンチ裏でアップをしている選手たちに失礼なことだからだ。
今いる選手たちを信じろ。
ツンクは自分にそう言い聞かせる。
- 630 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:23
- しかしアオキーの鮮烈なドリブル、ゴールで一気に流れはイラン代表へ。
右サイドをマチャミビキアが華麗に突破する。
今までは彼女1人にマークが集中していたが、アオキーが入ったことでマークが分散。
それによりマチャミビキアの個人技がフルに発揮される。
「くっ!!」
この突破に必死に食らい付く左サイドバックのみうなだが、如何せんまだまだ経験不足。
歴戦の雄、マチャミビキアに翻弄され、右サイドから何度も危険なクロスが上がる。
「石黒さん!!」
「まいさん!!」
だが日本も高さのある両センターバックが健在だ。
彼女たちが体を張り、このクロスを何とか弾く。
ワアアアアアアアアアア!!!!!!!!
日本はまさに防戦一方。
この展開に日本サポーターは悲鳴に近い絶叫を上げ続ける。
- 631 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:24
- 「アオキー!!」
中盤のマナミからアオキーへとパスが通る。
先ほども言ったとおり、イラン代表はフラットな4−4−2からトップ下を配した4−3−3へと変更した。
そのため、ちょうどトップ下の選手が日本の4(DF)と4(MF)の間に入り込むため、
しばしばフリーとなるのだ。
「行かせない!!」
だが辻もアオキーを警戒している。
すばやくポジションを修正し、全力を込めて、ファウル覚悟で激しく当たる。
「うわっ!」
次の瞬間、1人の選手が勢いよく転ぶ。
その選手は青いユニフォームを着ていた。
「うそ?!!」
クールな福田明日香も思わず声をあげる。
あの辻が、日本でも1、2を争うほどのパワーを誇る辻があっさりと弾き飛ばされた。
みなが驚愕の表情を浮かべる。
さらにアオキーは止まらない。
- 632 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:24
- 「?!!」
チェックに来た里田を一瞬のスピードでかわした。
そしてフォローに来たミツ・ヤーとのワンツーで石黒をもかわそうとする。
が、ミツ・ヤーからのリターンが浮いてしまった。
「くっ!!」
「ちっ!!」
この浮き球に石黒とアオキーが同時に飛ぶ。
この競り合いに勝ったのは。
「つっ!!」
GKミカが何とか右手に触れる。
しかしボールはポストをかすめ、ゴールネットに優しく包まれていった。
後半27分。
イラン代表、ついに同点。
- 633 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:24
- 「う、うそやろ?」
ツンクが今の光景に呆然となる。
もちろんツンクだけではない。
マコトもハタケも、中澤もそうだ。
ピッチにいる選手、ベンチにいる選手たちも。
そしてスタジアムに集まったサポーターたちも呆然となった。
パワーの辻。
速さの里田。
高さの石黒。
日本が誇るこの3人が、たった1人に粉砕されたのだ。
これは信じがたいことであった。
- 634 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:25
- 「・・・・・・・・・これが本当のトップ下・・・・・・・・・・」
そう呟いたのは背番号10、田中れいな。
サヤ・アオキーがトップ下のポジションに入ってから全てが変わった。
つまりトップ下というポジションはそれだけの価値があるのだ。
もし今、日本に柴田がいたら。
そしてあの人が、吉澤ひとみがいたならば、日本も劇的に変わるかもしれない。
しかし、それは自分では無理なことなのだ。
それはこれ以上なく悔しいことであった。
「・・・・・・・・・福田!後藤!加護!!」
この展開は非常にまずい。
手を打たねば確実に逆転される。
そう感じたツンクは、ベンチ裏でアップする3人の選手を呼んだ。
- 635 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:25
- ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
交代する選手がタッチラインに現れた瞬間、スタジアムが一気に沸いた。
“ドリブルの魔術師”。
“偉大なるパイオニア”。
そして“日本が産んだ天才”。
世界にその名を轟かす3人が劣勢の日本を救うべくピッチへと舞い降りた。
彼女たちならば何とかしてくれる。
サポーターたちはそう信じ、あらん限りの力を込めて声援を送る。
- 636 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:25
- 「ナイスプレー、村さん。」
「お疲れ、アヤカさん。」
「後は任せてや、みうな。」
戻ってきた村田、アヤカ、みうなと声をかわし、3人はピッチへと走り出す。
彼女たちの分まで必ずやってみせる。
気合は十二分だ。
「お疲れ、ナイスプレー。」
戻ってき3選手にベンチのメンバーが次々と声をかけ、タッチをかわす。
「サンキュ。」
「オッケー。」
「どうもです。」
それに応える村田、アヤカ、みうな。
3人とも見せ場は十分にあり、その存在を内外に見せ付けた。
もちろん最後まで出続けたかったが、仕方がない。
後は仲間が頑張ってくれるのを祈るのみだ。
- 637 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:26
- 「システムは4−2−2−2で!ミキティサイドバック!
いちーちゃん右!」
ピッチに入った後藤がシステムの変更を伝える。
ツンクの狙いとしては藤本を一列下げてサイドバックとし、マチャミビキアにあたらせる。
そして中盤をドイスボランチにすることでアオキーをフリーにさせない。
また、1.5列目に後藤が入ることで中盤と前線をスムーズに連結させるつもりなのだ。
これは中国戦の後半途中からとほぼ同じフォーメーションだ。
「頼むで・・・・・・・」
これで打てる手は全て打った。
後は選手たちに全てを任せるのみだ。
「ゴトウたちが出てきたか・・・・・・・・」
マチャミビキアが額に光る汗を拭いながら呟く。
確かに村田やアヤカ、それにみうなも素晴らしい選手だ。
しかし、後藤に福田は世界でもほんのわずか一握りの存在であるし、
加護もドリブルはその領域に達している。
恐るべき敵が目の前に立ちはだかる。
「みんな、ここで絶対に気を抜いたらあかんで!!」
「おうっ!!!」
キャプテンの声に頷くイラン代表の選手たち。
悲願のワールドカップ出場へ向けてここは必ず凌がねばならない。
- 638 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:27
- 「・・・・・・・ぶっつぶしてやる。」
そんな中、1人ニヤリと笑うのはサヤ・アオキー。
彼女にとっては後藤や福田というビッグネームを倒し、
世界に名を売るまたとないチャンスなのだ。
お互いの意地と誇りを賭けた死闘。
残りは約20分。
- 639 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:28
- ピィーッ!!!
主審の笛が高らかに鳴り、試合が再開された。
ウワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
その瞬間スタジアムが一気に爆発する。
ここは日本のホーム。
そして前回の中国戦ではまさかの敗北を喫している。
それだけに絶対にこの試合、引き分けではすまされない。
サポーターたちは悲鳴にも似た声援を送る。
「のの!!」
左サイドを加護が手を挙げ、駆け上がる。
「分かってるよあいぼん!」
彼女とは幾多の戦場をともにした仲だ。
見ていなくてもどのタイミングで上がっているのか手に取るように分かる。
辻は一気に左サイドへロングパスを送った。
- 640 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:28
- 「ナイスパスやのの!!」
辻のロングパスはピタリと加護の足元へ。
もちろん辻のパスも精度が高かったが、何よりも加護の見事なトラップだ。
これにスタジアムがドッと沸く。
ボールを受けた加護、一気に前へと進み出た。
「潰せ!!」
彼女のドリブル技術はいまや世界でも知られている。
マチャミビキアが突破はさせないと、中盤に下がってすばやく体を寄せてくる。
「うおっ?!!」
しかし“ドリブルの魔術師”の前に、“アジアの突風”もあっさりと鎮められてしまった。
左利き独特のタッチと間合いはそう簡単に止められるものではない。
マチャミビキアをかわした加護、続くアブ・ホクヨーも必殺“エラシコ”でかわす。
ウオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!!
スタジアムが華麗なドリブル突破に大きく沸く。
「来い!加護ちゃん!!」
その瞬間ペナルティエリアには松浦と後藤が素晴らしいスピードで入り込んできた。
加護は中をよく見てクロスを送る。
このクロスに松浦が飛び込むものの、
イランセンターバック、クロ・オセロが懸命に体を張り、これをクリアした。
- 641 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:30
- さらに日本の攻撃は続く。
「うおっ?!!」
ボールを持らう瞬間、鋭い出足のチェックによりアオキーは自分の前でボールを奪われた。
「真希ちゃん!!」
奪ったのはもちろんこの人。
“偉大なるパイオニア”福田明日香。
すぐさまボールは前方に鋭く出される。
「いちーちゃん!!」
福田からのパスは速く鋭いものであったが、これを後藤は完璧にコントロール。
ダイレクトで右サイドに流す。
「おっしゃ!!」
これに市井が反応していた。
上手く左サイドバック、イト・ホクヨーの裏に走りこんでいた。
「しまった!!」
慌ててイト・ホクヨーが市井を追いかける。
この“フリーロール”をフリーにしてはまずい。
だがスピードに乗っている市井にはなかなか追い付けない。
右サイドを深くえぐった市井はそのまま中に鋭いクロスを送った。
このクロスを素晴らしいスピードで飛び込み、ニアサイドで合わせたのは市井にパスを出した後藤。
しかも右からのクロスに対して左足アウトサイドで合わせるという、
最高級の技術を見せ付ける。
しかしこれは惜しくもゴールポストを叩いてゴールラインを割った。
- 642 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:30
- 「くっ!!!」
思わず天を仰ぐ後藤。
今のは決めておきたかった。
「ドンマイ!!ナイスシュート!!」
だが市井はパンパンと手を叩き、今の後藤のシュートをほめる。
シュートは外れはしたものの、今のはいい攻撃だった。
あのクロスは後藤以外では合わせることは出来なかっただろう。
いや、それ以前に後藤のスピードでなければあそこに顔を出せない。
・・・・・・・・・いける。これならば必ず勝ち越せる。
今の市井、後藤の攻撃や、その前の加護、松浦の攻撃を見て誰もがそう思った。
そしてその考えを補強するのが彼女の存在だった。
- 643 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:31
- 「・・・・・このチビが・・・・・」
憤怒の表情で背番号18を睨むのはサヤ・アオキー。
当然彼女も相手が誰だか知っている。
あの“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマ。
“プリンセス”ナカマチェスコ・ユッキエから恐れられるアスカ・フクダだと。
しかし、それにしてもまさかこれほどの実力者だとは思わなかった。
福田投入後、あれだけ今まで好き勝手にピッチで暴れていたアオキーが
一気に大人しくなった。
もちろん身体能力の点でいえば完全に福田は後れを取っている。
だが、それ以外のもの、つまり戦術眼は圧倒的に福田だった。
まずはその的確なポジショニング。
アオキーの身体能力、テクニックは確かにすごいが、それもボールを持っての話。
ならばボールに触らせなければいい。
福田はその戦術眼で絶妙のポジショニングをし、アオキーにボールを触らせない。
「まいさん!!」
福田の指示により一気に里田が前に出て、アオキーへのパスを弾いた。
続いてこの統率力、指示力だ。
アオキーもその身体能力を活かした爆発的なダッシュで福田を振り切るが、
その時には福田の指示により他の選手がきっちりとマークについていた。
それすらも間に合わないと判断したときはファウルできっちりと止めていた。
- 644 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:32
- 「やっぱりすごい・・・・・・・」
「さすが明日香。」
「別格やな。」
「すごすぎますよ。」
この福田のプレーに守備的MFを本職とする面々が感嘆の声を漏らす。
パワーの辻、守備力の保田、パスセンスの平家、そして運動量の新垣。
それぞれが長所を誇るが、やはり彼女は頭1つ抜けている。
日本人の欧州への道を切り開いた“偉大なるパイオニア”福田明日香。
彼女は今もなお先頭を走り続ける。
福田や後藤、加護と投入された選手の活躍で完全に流れは日本に。
「市井さん!!」
ボールを持った市井の後ろから右サイドバックの小川麻琴が駆け上がってくる。
日本が優勢に進めているため、せっかくのイランの両ウイングも下がらざるを得なくなってしまった。
そのため、今度は日本のサイドバックが上がることが出来た。
市井からボールを受けた小川は中に精度の高いクロスを送るものの、
これは一瞬の差で松浦には合わなかった。
- 645 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:33
- 今度は逆の左サイドだ。
加護からのパスを松浦がポストとなり、上がってきた辻に落とす。
このパスを辻はダイレクトで左サイドの奥へ。
そこには藤本が走り込んでいた。
藤本はこれをダイレクトで中に上げる。
このクロスに後藤が飛び込み、頭で合わせるが完全には合せきれなかった。
ボールはクロスバーの上を越えていく。
「まずいな・・・・・時間が・・・・・」
ツンクが時間を気にし始める。
後藤たちを投入したことで完全に流れは日本に来た。
福田たち守備陣の調子からもこれならばもう失点することはないとツンクは思っている。
後は勝ち越しゴールを決めるだけなのだが、
サッカーはいくら優勢に進めていようが時間が来れば終了するスポーツ。
そして時間は容赦なく過ぎ去っていく。
ツンクをはじめ、日本代表の面々、さらには満員のサポーターたちも
いつゴールネットが揺れるのか焦っていた。
しかし、それはあくまで相手のゴールネットのことで、
自分たちのゴールネットが揺れるとは露にも思っていなかった。
しかし、サッカーはしばしば予想外のことが起きる。
- 646 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:34
- ウオオオオオオオオオオオオ?!!!!!
スタジアムが驚愕の色に包まれる。
ボールを持った後藤がドリブルでイラン陣営へ突き進む。
その際についにあの技が出た。
世界にただ1人しか使えない高速切り返し、“逆エラシコ”だ。
“逆エラシコ”一発でイランが誇る双子センターハーフがかわされる。
そして後藤は小さなモーションで左足を振り抜いた。
が、このシュートはGKの守備範囲。
余裕を持ってシュートコースに入るGKだが、
その視界に1人の日本代表の選手が飛び込んできた。
背番号13、松浦亜弥だ。
後藤はシュートを打ったのではなく、松浦へパスを送ったのであった。
松浦はこのシュート性のライナーを的確に右足で合わせる。
ボールはコースを変え、見事にゴールネットに突き刺さった。
- 647 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:35
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
その瞬間スタジアムが爆発した。
後半もロスタイム。
ようやく、ようやくの勝ち越しゴールだ。
「よしっ!!!」
ゴールを決めた松浦がグッと拳を握り締めてゴール裏のサポーターたちの元へ走る。
他の選手もそれに付いていこうとしたとき、主審の手が上がった。
「な?!」
喜びは一瞬で消え去った。
何と、今のプレーはオフサイドの判定だった。
「ちょ、ちょっと何で?!!今のがオフサイドのわけがないでしょ?!!」
この判定を到底信じられない松浦は血相を変えて主審に詰め寄る。
もちろんツンクや他の選手たちも同様の気持ちだ。
サポーターたちも大ブーイングを送る。
「あ?!!みんな!!来てる!!!!」
これに気付いたのはベンチに座る田中れいなだった。
しかしその声も大ブーイングにかき消されていた。
もしこの時、田中の声がピッチにいる誰かに届いていたならば
あのようなことにはならなかったであろう。
- 648 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:36
- 「え?!!!」
主審に抗議する日本代表の横を何かが一瞬通り過ぎた。
それはこの世の人々を熱狂させる魔法の丸い物体、
サッカーボールだった。
「よしっ!!」
日本代表が抗議をしている間、彼女はここに走り込んでいた。
右サイドライン際。
ここは彼女の聖域といっていい。
彼女もアジアが誇る英雄として欧州の大舞台で輝いている。
“アジアの突風”マチャミビキア。
GKからのロングキックを見事にトラップすると、一気にトップスピードに乗った。
- 649 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:36
- 「やばい!!戻れ!!!」
完全に虚を突かれた。
日本代表の陣形は整っていない。
「くっ!!」
左サイドバックの藤本が必死に追いかけるがなかなか距離が縮まらない。
純粋な走力ではマチャミビキアの方が上だ。
「来い!!!」
ゴール前には長身FWのミツ・ヤー、
そして恐るべき身体能力のアオキーも走りこんでいる。
「中!!絶対に跳ね返して!!」
GKミカが指示を送る。
中に飛び込んできた2人は危険だ。
石黒がミツ・ヤーに、そして福田と里田がアオキーについてはいるが、
そのマークの上から叩き込む力をイランの2人は持っているし、
マチャミビキアが正確なクロスで合わせるだろう。
ここは手を使える自分が。
そう思い、ミカは重心を一瞬前方に傾ける。
- 650 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:37
- 「?!!」
これに気付いたのは彼女が歴戦の勇士だから。
幾度となく死闘を経験した彼女だからこそそれが目に入った。
マチャミビキアは右サイドから思い切り右足を振り抜いた。
「あ?!!」
スタジアムにいた誰もが叫び声を上げた。
まさに全員が虚を突かれたといっていいだろう。
マチャミビキアはクロスを上げなかった。
彼女は、この角度のないところからアウトサイドにかけてシュートを狙ったのであった。
抜群の瞬発力を誇るミカ・トッド。
その彼女でさえ反応することが出来なかった。
マチャミビキアのシュートは勢いよく日本のゴールネットを揺らした。
後半ロスタイム。
何と、イラン代表、逆転ゴール。
- 651 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:37
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!!!!!
そして次の瞬間、試合の終わりを告げる笛が横浜の夜空に鳴り響いた。
日本代表、まさかの2連敗。
- 652 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:38
- 「マチャミさん!!!」
「キャプテン!!!」
その瞬間ベンチからイラン代表のメンバーが飛び出してきた。
みなその表情は喜色満面。
このアウェーの地で、大きな、大きな勝利だ。
「う、うそやろ・・・・・・・・・?」
ツンクが呆然と呟く。
他の面々も同様だ。
ピッチに呆然と立ち尽くす選手たち。
今、この突きつけられた現実を到底信じることが出来ない。
スタンドのサポーターたちも衝撃の結末にみな呆然としている。
しかし、しばらくするとサポーターたちは暴徒と化した。
物をピッチに投げ込み、また幾人かはピッチに乱入する。
それを見た選手や審判たちは慌てて中へと戻っていく。
まさに混乱であった。
- 653 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:38
- 誰もが出場は当たり前と考えていた。
それどころか頂点すら極められるのでは?と考えていた者もいる。
サッカー選手ならば誰もが目指す舞台、ワールドカップ。
しかし、それに今、黄信号が点滅した。
- 654 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:39
-
が、同時にこれはある選手“たち”にとってはスタートの合図であった。
- 655 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:40
- その選手は見ていたテレビを消すと、練習着をバッグにつめ、家を飛び出した。
今日は世界的にワールドカップ予選が行われるため、練習は休みであったが、
これを見たら休んでなどいられない。
これで日本は2連敗。
まさに危機的な状況といっていい。
だが、それがなぜか自分の胸を、心を躍らせる。
なぜなら、自分の力は“再生”。
崩れていたリズムを取り戻させるのが自分の力なのだから。
それは今の日本代表に絶対必要だ。
「さ、頼むよ。」
回復しつつある左足を、タクトをポンと叩き彼女は練習場へと向かった。
- 656 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:40
-
そしてもう1人。
- 657 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:41
- テレビを消すと、彼女も練習着をバッグにつめ、家を飛び出した。
こちらも予選等の関係で休養日であったが、彼女もジッとしていられなかった。
こんな気持ちになったのは本当に久しぶりだ。
今まで何かが狂っていた。
心と体のバランスが完全に崩れていたし、自分は必要なのかと自信を失ってもいた。
だが、この試合を見て確信した。
あそこは自分がいるべき場所だと。
相手を完膚なきまでに“破壊”する自分の力こそ、今の日本代表には必要だ。
- 658 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:41
- 「まぶしいな・・・・・・・」
今日は晴れ渡っている。
春先には雨が多いイタリアだが、今日は彼女の気持ちのように晴れ渡っていた。
その柔らかな光を浴びて、自分の表情もつい柔らかくなる。
思えば、太陽の光に心地よさを感じたのはいつだっただろう?
「よし、行こうか。」
彼女はパンと頬を叩き、表情を引き締めると、
力強く一歩を踏み出した。
それは復活への第一歩だった。
- 659 名前:第22話 中東の刺客 投稿日:2005/02/27(日) 01:42
-
第22話 中東の刺客 (終)
- 660 名前:ACM 投稿日:2005/02/27(日) 01:43
- 第22話 中東の刺客 終了いたしました。
うーん、今回書いててやはりちょっとへこみましたね。
やっぱり日本が負けるのは(しかもワールドカップ予選)嫌ですね。
現実ではこんなことがないように苦しくてもいいから勝って欲しいです。
- 661 名前:ACM 投稿日:2005/02/27(日) 01:44
- では次回の予告です。
第23話 ベスト8
いよいよチャンピオンズリーグも準々決勝を迎えた。
世界のベスト8に名を連ねた名門クラブ。
その中で一際輝く日本人選手たち。
果たしてこの中から栄光のビッグイヤーを掴むのは誰なのか?
- 662 名前:ACM 投稿日:2005/02/27(日) 01:46
- 次回からチャンピオンズリーグなど、再び欧州の舞台に戻ります。
現実に時間が追い付かれないように頑張ります。
仕事等の関係で更新が遅れ気味ですが、どうかご容赦ください。
- 663 名前:ACM 投稿日:2005/02/27(日) 01:47
- では次回更新まで失礼いたします。
次回からもどうぞよろしくお願いいたします。
- 664 名前:ACM 投稿日:2005/02/27(日) 01:52
- あ、それからもう1つです。
2月9日でこの『CALCIO CALCIO CALCIO!!』
も一周年を迎えることが出来ました。
ここまで続けられたのも読者の皆様が温かく見守ってくださったからだと思っています。
ありがとうございます。
これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
- 665 名前:みっくす 投稿日:2005/02/27(日) 04:59
- 更新お疲れ様です&1周年おめでとうございます。
サッカーってのは、最後の笛がなるまで気を抜けないスポーツです。
改めて感じましたね。
実際にも、アジア各国は実力が拮抗してきてますからね。
現実になってもおかしくないとが怖いです。
次回はいよいよ二つの10番が復帰ですかね。
楽しみにしてます。
- 666 名前:ピクシー 投稿日:2005/02/27(日) 13:32
- 更新お疲れ様です。
1年も経ってたんですねぇ。
1年間で5スレですから、すごいペースですね。
これからも、無理せず頑張ってください。
予選、○藤は頑張ってましたね。
○黒も、結果が残せてよかったのではないでしょうか?
勝った事はもちろん喜ぶべき事ですが・・・
世間はちょっと喜びすぎな感じもあります。まだ最初の1戦なのだから・・・
中○英もいよいよ復活してきそうな予感がしてきましたしね。ここの主人公の1人のように。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 667 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/02/27(日) 17:33
- 更新お疲れ様です。そして1周年おめでとうございます。
それにしても1年でこれだけ書けるのはすごいです。
これからもマイペースで頑張って書きつづけてください。
北朝鮮戦は何とか勝ったわけですね。
けど、こうしてアジア全体のレベルが上がっているのはうれしいことです。
やはり同じ地域内の競争が激しくならないとね。
こちらの日本代表は苦しくなりましたが、これからの奮起に期待です!!
次からは欧州ですね。更新楽しみにまってます。
- 668 名前:ACM 投稿日:2005/04/11(月) 00:26
- >>665 みっくす様
レスありがとうございます。やはりアジア各国は実力が拮抗していましたね。
最終予選、何とか日本代表には突破して欲しいものです。
こちらでも今回、色々と動き(復活)がありますので、ご注目下さい。
>>666 ピクシー様
レスありがとうございます。現実はひやひやもんでしたね。
とにかく突破。それにつきます。
こちらではさらに危機に陥っていますが、復活を期する彼女らに期待してください。
>>667 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。こちらの日本代表はかなりピンチです。
ですが、彼女たちならきっとやってくれると作者は信じております。
彼女たちの奮起に期待してください。
- 669 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:28
- 『日本、まさかの2連敗!!』
『ワールドカップに赤信号!!!』
イラン相手にまさかの敗戦を喫した日本代表。
翌日の紙面は全てこの記事が飾った。
新聞だけでなく、テレビでも日本の敗戦を報道し、
巷で評論家といわれる者たちがここぞとばかりに持論を展開していた。
システムを4バックから3バックに変えるべきと主張する者。
直前合流しか出来ない海外組ではなく、国内組をベースにしろと主張する者。
そして・・・・・・監督を変えろと言う者。
様々な主張がメディアを賑わしていた。
グループBのもう一方の試合、中国代表VSバーレーン代表は0−0のスコアレスドロー。
この結果により、グループBの首位は得失点差の関係でイラン代表。
2位は同勝ち点で中国代表がつけ、日本は勝ち点3の3位に転落した。
最下位のバーレーン代表も2引き分けがあるため勝ち点は2ある。
つまり、グループBはまれに見る大混戦となった。
- 670 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:28
- 「あ、市井さん!!この敗戦をどう受け止めていらっしゃいますか?!」
「福田さん!!これで2連敗を喫したわけですが?!」
「後藤さん!!次戦に向けて何か一言!!」
「安倍さん!!イラン戦、スタメンを外れたことについては?!」
「松浦さん!!ツンク監督の采配についてはどうお思いですか?!」
報道陣たちが欧州へと戻る海外組に一斉に群がる。
前日の試合終了後はさすがに敗戦のショックが大きく、
広報担当が気を使ってキャプテンを務めた辻の会見だけにとどまった。
だが報道陣にしてみれば他の選手の声を拾わねばならない。
そのため、今日、多くの報道陣が空港へと押しかけたのである。
「確かに2連敗をするとは思ってもみませんでした。でも、後3試合あります。
これに全て勝てば余裕で2位以内に入れますし、全然気にしていません。」
アーセナル市井紗耶香は真直ぐ前を見て言った。
「相手の事も理解できました。次に戦う時は必ず勝ちます。」
ユヴェントス福田明日香は力強く言い切った。
「絶対に次は勝ちます。」
ユヴェントス、“日本のエース”安倍なつみが確約した。
- 671 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:29
- 彼女たちの言うとおりである。
予選はまだ半分を折り返しただけである。
これからまだまだ挽回できるチャンスはあるし、
そして今回、怪我などで代表に選ばれなかった彼女たちも戻ってくる。
マスコミやメディアはこれでもかと危機感を募らせ、国民を不必要に煽ったが、
選手たちは落ち着き、現状をしっかりと認識していた。
その注目の次戦は6月3日のイランとアウェーでの一戦。
ぜひともこの試合でイランにリベンジを果たさなければならない。
そしてその次は6月8日バーレーンとの一戦。
これもアウェーゲームだが、いまさらそんなことを言っても何も始まらない。
この2試合、絶対に連勝しなければならない。
選手たちは次戦への思いを高めつつ、それぞれの戦場へと戻っていった。
- 672 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:29
- 「アスカ、アベ、こんなこともあるさ。」
「まだ後3試合も残っているんだろ?」
イタリアに戻ってきた福田と安倍を、ユヴェントスのチームメートたちは温かく迎えた。
彼女たちも日本が2連敗を喫したことを知っていた。
「まあね、次に勝てばいいことだから。」
福田がその言葉にクールに答える。
「そうだべ。まだまだこれからだべ。」
安倍もいつもの柔らかい笑みで答えた。
『これは思ったよりも助かったな。』
この様子を見てユヴェントス監督、オダギリ・ジョリッピはほっと胸を撫で下ろす。
福田はもちろん、安倍もいまやユヴェントスの押しも押されぬエースストライカー。
リーグ戦やチャンピオンズリーグもこれからが佳境だ。
しかも欧州でもワールドカップ予選があったが、
その試合で世界最高の選手、ナナコーヌ・マツシマが負傷。
2週間の離脱となった。
それだけに彼女たちの出来如何がこれからに関わってくるのだ。
まさかの代表戦2連敗に気落ちしていないかと心配していたジョリッピだったが、
その心配も杞憂に終わった。
- 673 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:29
- 「さあ、次の相手は強敵インテルだ。いくら調子が悪かろうとワールドクラスが揃っている。絶対に気を抜くな。」
「はいっ!!」
ジョリッピの声に応える選手たち。
ここまでのユーヴェは首位のミラン、2位のローマに少し離された3位。
優勝戦線に残るためには次の試合、4位インテルが相手とはいえ絶対に勝ち点3が必要だ。
選手たちは気合をいれ、次戦へ向けて練習を開始した。
そして週末を迎えた。
- 674 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:30
- イタリアセリエA第28節
インテルミラノ − ユヴェントス (ジュゼッペ・メアッツァ)
- 675 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:31
- 「あれ?福ちゃん、よっすぃーだべ。」
「え?あ、ホントだ。」
ピッチでアップをしていて福田と安倍たちユヴェントス陣営。
インテルの選手たちも当然アップをしているのだが、
2人はその中に見知った顔を見つけた。
インテルミラノ10番、吉澤ひとみ。
彼女がピッチ上でアップをしているのだ。
それはつまり、この試合ベンチ入りメンバーだということだ。
これに安倍と福田が驚いたのも無理は無い。
なにしろ、吉澤ひとみがベンチ入りするのは後期開幕戦以来。
あの頭突き一発、レッドカードを受けたあの試合以来なのだ。
「これは・・・・・・気を引き締めていかないと・・・・・・」
「うん。なっちも同感だべ。」
福田の言葉に安倍も頷く。
ひとみの姿を見た瞬間、福田と安倍は何か嫌な感じがした。
そして得てしてその予感は的中する。
- 676 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:32
- 試合はアウェーながらユヴェントスが押す展開。
マツシマを欠くものの、チェコの英雄アキコ・ヤダベド、オランダ代表エドガー・マヤミッキ、
そして日本代表福田明日香が君臨するユーヴェの中盤が試合を支配する。
そして彼女たちからのパスを前線の2人、日本代表安倍なつみと、
イタリア代表アレッサンドロ・デル・ハセキョンがインテルゴールに流し込む。
インテルもイタリア代表ヨネクラン・リョウコやウルグアイ代表アルバロ・ヤイコ、
セルビア・モンテネグロ代表アサミ・イシカワビッチ、
アルゼンチン代表ウエハラ・タカコッティなど各国を代表する攻撃陣がいるが、
やはりチーム全体がリズムに乗れていない。
ホームでありながら全く攻める糸口すら掴めなかった。
試合は前半24分に安倍なつみが、後半8分にハセキョンが決めて、
アウェーのユーヴェが2点リードのまま後半30分まで来た。
- 677 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:33
- 「さすが安倍さんに福田さん。」
ベンチ裏でアップをしていたひとみが呟く。
ひとみは3ヶ月ぶりにベンチ入りメンバーに入ったものの、
さすがにスタメンとはいかなかった。
「でも、だいぶ疲れてきたみたいだな。動きが鈍くなっている。」
ひとみの目が鋭く光る。
ひとみの推察通り安倍と福田の動きが次第に鈍くなっていた。
それも無理は無い。
何せイラン戦が3月30日に行われ、翌日欧州へほぼ1日がかりで戻ったのだ。
そしてその2日後にリーグ戦と、本来ならば休ませたい状態なのだ。
だがマツシマが負傷したためと、相手が強豪インテルということで安倍も福田も無理を押して出場したのだ。
だがそれももう限界に来ていた。
- 678 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:33
- 「もうそろそろだな。」
当然ジョリッピも気がついている。
残りは15分で、しかも2点差ある。
これならばいくら相手がインテルとはいえ大丈夫であろう。
それに引っ張りすぎると4日後のチャンピオンズリーグ準々決勝に大きく響いてしまう。
ジョリッピはアップしている控え選手に声をかけ、交代を指示した。
それを見たインテル監督、タケナカ・ナオトーニはニヤッと笑い、
彼もアップをしていた背番号10に声をかけた。
「おい、出番だ。給料分は働けよ。」
「ういっす。」
言葉だけをとればぶっきらぼうだが、その声には自分を気遣う温かさがあった。
ひとみは思わず微笑み、そして頬をパンと叩いて気合を入れた。
- 679 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:35
- ピィー!!
ボールがタッチラインを割った。
その時、交代に気がついた主審が試合を止め、交代を認めた。
「あたしたちか・・・・・・・」
第4審判の持つボードに表示されたのは18と27だった。
「正直仕方ないべさ。」
気力はまだまだあるが、やはり身体が悲鳴を上げていた。
チームのことを考えるならばここで交代するほうがベターだろう。
アウェーながらミラノまで駆けつけたユヴェンティーノの声援に拍手で応えながら
福田と安倍はベンチへと戻っていく。
「え?」
とその時、2人は同時に声を上げた。
それは福田と安倍が自分たちと交代する選手とハイタッチを交わした瞬間、
インテルベンチから1人の選手がこちらに向かってきたからだ。
「よ、よっすぃー。」
向かってきた選手、吉澤ひとみは安倍と福田に微笑んで軽く頭を下げた。
「福ちゃん。」
「うん、なっち。」
ひとみがピッチに入るのを見た安倍と福田は、すぐに悟った。
自分たちがピッチから退いたのは間違いだったと。
だが、もう遅かった。
- 680 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:35
- 「ヒトミ・・・・・・・・・」
ピッチに入ってきたひとみをインテルの選手たちは複雑な表情で出迎えた。
もちろんひとみの力は信頼している。
だが久しぶりの試合であり、またあの頭突き事件の後の試合だ。
それだけにひとみに対して不安がある。
インテリスタたちはもっと露骨で、もうひとみは使えないと判断している。
ひとみが入ってきた瞬間ブーイングを飛ばしていた。
「どうしたのそんな顔して?」
だがひとみはニヤリと不敵な笑みを見せる。
その笑みはブーイングを受ける状況を、
2−0で負けている状況を楽しんでいるかのようだった。
「さ、逆転して歓声に変えようか。」
「え?」
ひとみの呟きを聞いたイシカワビッチは驚く。
あのユーヴェ相手に残り15分で2点差を逆転?
正直不可能なことだ。
しかし、彼女の表情はそれを信じて疑っていなかった。
- 681 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:36
- 「・・・・・・後ろからパスまわすから、頼むね。」
思わずイシカワビッチはそう言ってしまった。
彼女はひとみがいない間、ずっとトップ下でインテルの攻撃を指揮してきた。
チーム全体が停滞している中、彼女だけはハイレベルなパフォーマンスを見せてきた。
その自負から、ひとみが投入されてもトップ下は譲らないと思っていた。
だが、ひとみの表情に彼女は気圧され、自然にポジションを下げることを受け容れたのだ。
「オッケー。任せて。」
ひとみはさも当然のようにトップ下のポジションに入った。
「ふふふ、“悪魔”が復活したな。」
これを見てタケナカはそう確信した。
- 682 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:37
- インテルボールのスローインで試合が再開された。
右サイドハーフのウエハラ・タカコッティがボールを持ち、味方を探す。
「はい!」
そこへイシカワビッチがボールをもらいに近付いてきた。
しかしタカコッティは彼女を囮にし、その向こうにいる背番号10へスローインを送った。
「もらった!!」
だがこれをマヤミッキが読んでいた。
鋭い出足でひとみの前に出てボールに触ろうとする。
「な?!」
しかしマヤミッキはそれ以上動くことが出来なかった。
なぜなら、ひとみが左腕一本でマヤミッキを完全に止めてしまったからだ。
「ヨネクラン!!」
しかもそれだけで終わらなかった。
ひとみはタカコッティからのスローインを、
マヤミッキを抑えながらダイレクトボレーでDFラインの裏へスルーパスを出したのだ。
「うお?!!」
これにはフランス代表アンパン・トダム率いるユーヴェDF陣はもちろん、
味方であるヨネクランも完全に意表を突かれた。
誰も追いかけることが出来ず、ボールはゴールラインを割っていった。
- 683 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:37
- ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!
このパスをパスミスと思ったインテリスタがブーイングを浴びせかける。
「これは・・・・・・」
「ようやくやな。」
しかしインテルの選手たちは今のフィジカルとひらめきのパスに確信した。
ヒトミ・ヨシザワは完全に復活したと。
「トダム!!フカキョン!!気をつけろ!!」
ユーヴェも当然今のプレーで気付いていた。
マヤミッキがDF陣に注意するよう指示を送る。
残り15分。
必ず逃げ切ってみせる。
- 684 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:38
- 「ちっ!!」
前線でボールを受けたハセキョンだが、
インテルDFミホ・カンノバーロの激しいマークに前を振り向くことが出来ない。
先ほどのひとみのプレーが契機となったのか、
インテルの選手たちの動きが良くなっていた。
「ハセキョン!!」
マークに苦しむハセキョンをフォローすべくヤダベドがボールをもらいにきた。
ハセキョンはすぐさまヤダベドにパスを送る。
「あ?!!」
しかしこのパスは通らなかった。
ヤダベドのマークに付いていたアルゼンチン代表MFアイウチ・リナメイダが、
“5つの肺を持つ女”と呼ばれる彼女がこのパスを見事にカットした。
- 685 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:39
- 「アサミ!!」
ボールを奪ったリナメイダはすぐさまイシカワビッチに預ける。
イシカワビッチはボールをもらった瞬間、一気に前線へロングパスを送った。
このパスは最前線で身体を張っているイタリア代表FW、ヨネクラン・リョウコのもとへ。
「ヤイコ!!」
このパスをヨネクランはDFと競り合いながらもヘッドで流す。
「よっしゃ!!」
そこへ走りこんできたのはウルグアイが産んだ天才、アルバロ・ヤイコ。
落ちてくるボールにタイミングを計り、“魔法の左足”を振り抜いた。
だがユーヴェDF陣もこれを見逃さない。
フランス代表DFアンパン・トダムが身体全体でシュートコースに飛び込み、
これをブロックした。
- 686 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:39
- 「ナイストダム!!!あ?!!」
ユーヴェイレブンが叫んだのもつかの間だった。
トダムの足に当たったボールは高くバウンドする。
そのバウンドしたボールにトップスピードで走りこむ1人の選手がいた。
「もらった!!」
トップスピードで走り込んできたインテル10番、吉澤ひとみは、
全身の力を右足に乗せ、思い切りこのボールを叩いた。
「くうっ!!!」
イタリア代表GK、ジャンルイジ・フカキョンが懸命に手を伸ばす。
だが全く届かなかった。
アウトサイドにかかりながら唸りを挙げてゴール右隅へと伸びていったボールは、
ネットを突き破らんかのように突き刺さった。
後半35分。
インテル、反撃の狼煙となるゴールを挙げた。
- 687 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:40
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
ゴールが決まった瞬間、ジュゼッペ・メアッツァは歓喜で爆発した。
「ようしっ!!!」
ひとみは久しぶりの会心の一撃にグッと右拳を握り締める。
その周りから仲間たちが歓喜の表情で抱きつく。
これだ。
この感覚だ。
流れる汗。
芝の匂い。
観客の声。
今、自分はピッチに帰ってきたんだ。
ひとみはその喜びを噛み締めていた。
もう2度と逃がさないと誓いながら。
- 688 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:41
- 1点差となったインテルは、このまま勢いに乗った。
「任せてや!!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!
スタジアムが大きくどよめく。
ムラッ気たっぷりの天才、アルバロ・ヤイコ。
だが、今日は気分が最高潮に乗っていた。
ひとみからパスを受けるとその類まれなテクニックでユーヴェDF陣を切り裂く。
「あ?!!」
その鋭い突破はあのマヤミッキ、トダムをいとも簡単にぶち抜いた。
「ちっ!!あ?!」
GKフカキョンがシュートコースを狭めるため飛び出そうとした瞬間、
ボールはヤイコの足元から消えていた。
ボールは鮮やかな放物線を描いていた。
フカキョンは一歩も動くことが出来なかった。
後半41分。
天才アルバロ・ヤイコのループシュートにより、インテル、同点。
- 689 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:41
- ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!
スタジアムは歓喜の叫びで揺れていた。
誰もが今起こった光景に狂喜乱舞だ。
「ヤイコ!!!」
ひとみたちも同様だ。
今魅せた天才のファンタジーに興奮状態だ。
「さあ王手やな。」
手洗い祝福を受けた天才がニヤリと笑う。
これで同点に追い付き、そして残りは5分。
今のインテルの勢いならば、ユーヴェに止めを刺すには十分すぎる時間だった。
『この勢いもこいつのおかげやな。』
ヤイコは自分の首にまとわりつく大きな犬みたいな奴を見てそう思った。
ワールドクラスは揃っているが、選手の入れ替わり、監督の入れ替わりが激しいインテル。
それだけに継続性がなく、いつも混迷を極めていた。
だがそんなインテルももう終わる。
これからは復活したヒトミ・ヨシザワを中心としたインテル。
新しいインテルが誕生する。
そうヤイコは確信していた。
- 690 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:42
- 「落ち着け!!!ペースに巻き込まれるな!!!」
ユヴェントス監督、オダギリ・ジョリッピが選手たちを落ち着かせようと叫ぶ。
が、その彼自身の表情が真っ青だった。
当然選手たちも完全に浮き足立っている。
「落ち着いていこう!!確実につなぐよ!!」
キャプテン、アレッサンドロ・デル・ハセキョンが声をかける。
だが彼女はFWであり、前線の選手というのは支えるというより引っ張っていく存在だ。
こういった場面では後ろに頼りとなる選手が必要となる。
そう、今こそ彼女の存在が必要となるはずだった。
「くっ・・・・・・・・」
ベンチから苛立たしげに福田がピッチを見やる。
こんな時こそ自分が安定感をもたらし、チームに落ち着きを与えるのだが、
ベンチに下がった今ではどうしようもなかった。
- 691 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:42
- 同点に追い付いたインテルは当然勢いは最高潮。
もちろんインテリスタたちのボルテージも最高潮に達していた。
王者ユーヴェは完全に防戦一方。
ハセキョンまでもが自陣深くに戻り、何とかインテルの猛攻を防ぐといった展開だ。
ユーヴェとしては勝ち点3を取るのが理想だが、この試合展開ではそうも言っていられない。
何とかこのまま引き分けで勝ち点1を取り、次へとつなげなければならない。
だが、そんなユーヴェ陣営の切なる思いを彼女が“破壊”した。
- 692 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:43
- 中盤でボールを持ったイシカワビッチがドリブルで駆け上がる。
ユーヴェの中盤でのプレスは緩い。
しかし、ゴール前には何人もの選手がおり、かんぬきをかけている。
これぞまさしく“カテナチオ”だ。
「くっ!!」
何とかこのカテナチオを破壊しようと、イシカワビッチがミドルシュートを試みる。
だが、どこへ打っても跳ね返されそうな気がする。
「アサミさん!!」
このシュートを打つ瞬間、自分を呼ぶ声が聞こえた。
咄嗟にイシカワビッチはパスへと切り替える。
「来た!!!」
ひとみの目に、白い道が見えた。
- 693 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:43
-
次の瞬間、王者ユーヴェのカテナチオは粉々に破壊された。
- 694 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:44
- ピィ、ピィ、ピィー!!!!!!
そしてここで笛が3度高らかに鳴り響いた。
インテル、怒涛の反撃により、見事な逆転勝利。
ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!
スタジアムが最高潮に爆発する。
誰もが信じられなかったが、これは現実だった。
あの王者ユヴェントス相手に残り15分で3点を取り、逆転。
これはカルチョでは考えられないことである。
「ヒトミ!!!」
「ヨシザワ!!!」
インテルの選手たちも信じられないといった表情だったが、
この逆転の殊勲者を見つけると我先に笑顔で抱きついた。
誰もが彼女がピッチに入ったことが勝因だと理解していた。
- 695 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:44
- その殊勲者、吉澤ひとみはチームメートと喜びあった後、
とある方角をジッと見つめた。
その方角は西だった。
その視線の先にはきっと彼女が、ライバルがいるはずだ。
- 696 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:45
-
『さああたしはこう来ました。柴田さん、あなたはどう来ますか?』
- 697 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:46
- 「こう来たか・・・・・・・さすがねよっすぃー。」
柴田あゆみは空港のロビーで新聞を見てそう呟いた。
その表情には笑みがこぼれている。
「お、どうしたアユミ?嬉しそうな顔して?」
FCポルトの同僚、マジュ・オザワーニャがそう尋ねながら
柴田が見ていた新聞を覗き込む。
「あ、ユヴェントスが負けたんだね。へー、後半残り15分で3失点?
ちょっと考えられないね。」
オザワーニャが驚く。
彼女たちもユヴェントスの力は知っている。
だからこそ、相手がインテルとはいえあのユーヴェが逆転されたことに驚いたのだ。
「・・・・・・彼女がその要因なのね。」
こう呟いたのは同じくFCポルトの同僚、サヤ。
その新聞の一面には日本人選手が大きく写っていた。
彼女のことはサヤをはじめ、他の選手もよく知っている。
あの“パーフェクトクイーン”ナナコーヌ・マツシマに自分の後継者と言わしめ、
またあの“ラストカナリア”ハマ・サーキ・アユウドにも一目置かれている。
そして何より、自分たちのエース、アユミ・シバタの永遠のライバルということを。
- 698 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:46
- 「さあ、そろそろ時間だぞ。」
ポルト監督、テレ・キダターロが選手たちに声をかける。
その声と同時に選手たちは立ち、搭乗口へと向かう。
彼女たちFCポルトはこれからフランスのリヨンへと向かうのだ。
柴田も新聞を仕舞いこみ、搭乗口へと向かう。
表情に柔らかく、そして強い決意を秘めた微笑を浮かべながら。
- 699 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:46
- 4月5日。
とうとう世界最高峰の戦い、欧州チャンピオンズリーグが再開された。
数ある欧州の名門クラブ同士の戦い。
その激闘を制し、ベスト8の栄光にたどり着いたのは以下の8つのクラブ。
チェルシー(イングランド)
ACミラン(イタリア)
リヨン(フランス)
FCポルト(ポルトガル)
レアル・マドリード(スペイン)
ユヴェントス(イタリア)
ASモナコ(フランス)
アーセナル(イングランド)
- 700 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:47
- この8つのクラブの中から、今季のビッグイヤーを掴み取るクラブが選ばれる。
それは果たしてどこのクラブなのか?
欧州のみならず全世界が注目していた。
そしてその注目の戦いは4月5日のこの2試合で幕を開けた。
リヨン VS FCポルト
チェルシー VS ACミラン
- 701 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:48
- ウワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
リヨンのホームスタジアム、スタッド・ムニシパル・ドゥ・ジェルランは
試合開始前からヒートアップしていた。
サポーターたちは勝利を確信したかのように舞い上がっていた。
このリヨンは1950年に創立された歴史あるクラブだ。
だが当初はそれほど目立ったクラブではなかったが、
1987年に現オーナーが会長に就任してからの躍進は凄まじいものがある。
現在、フランスリーグ、リーグアンを3連覇中であり、
また今シーズンもここまで首位を独走し、前人未到の4連覇も目前という勢いだ。
その勢いのまま、今季はチャンピオンズリーグでも快進撃を続け、
あのスペインのバレンシアを倒してベスト8にまでコマを進めてきた。
そしてなおかつその相手が残ったクラブの中で最弱といわれるFCポルト。
サポーターたちが舞い上がるのも無理は無かった。
- 702 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:48
-
だが、その舞い上がりも開始わずか3分で打ち砕かれることになろうとは、
この時、誰も想像できなかった。
- 703 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:49
- 「さあ、行こうか!!」
「おうっ!!」
この日が故障からの復帰戦となる背番号12の声に
FCポルトの選手たちが応える。
彼女たちは確信していた。
今日、この試合から“天使”が再び大空へ羽ばたくことを。
- 704 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/11(月) 00:49
- 「・・・・・よっすぃー、ちゃんとあたしを見ておいてよ。」
“天使”はその顔に微笑を浮かべ、ピッチに舞い降りた。
- 705 名前:ACM 投稿日:2005/04/11(月) 00:52
- 本日の更新はここまでとします。
続きはまた近いうちに更新します。
更新は遅くなりましたが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
- 706 名前:ピクシー 投稿日:2005/04/11(月) 01:18
- 更新お疲れ様です。
微妙に現役に似てますね。
悪魔と天使の運命・・・どうなるやら。
中田英が復帰しましたが、ACMさんはどう見えました?
自分の観点では、まだまだ存在感、戦術眼等が違う、と感じるのですが。あと、やはり彼は守備が巧い。
まるでここの明日香の如く。って、確か明日香のイメージが「中田+ドゥンガ」でしたね。
更新ペースは、マイペースに頑張って下さい。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 707 名前:みっくす 投稿日:2005/04/11(月) 20:53
- 更新おつかれさまです。
さあ、天使はどうでるのでしょうかね。
次回もたのしみにしてます。
- 708 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/04/13(水) 10:56
- 更新お疲れ様です。
いよいよ悪魔が蘇ってきましたね。
これからのセリエAの4強争いが楽しみです。
それぞれに日本トップクラスの選手がいますしね。
まずは、チャンピオンリーグの4強はどこになるのか・・・
天使はいったいどういう風に出るのか・・・
中田はやっぱり日本代表には必要不可欠だな〜と感じつつ
次回更新も楽しみに待ってます。
- 709 名前:k-gxp 投稿日:2005/04/24(日) 00:33
- 更新お疲れ様です。
いよいよ悪魔の復活ですね。個人的にはとても楽しみにしていたので嬉しい限りです。
できればチャンピオンズリーグで天使と悪魔の対戦を見たかった所ですが(笑
天使がどんなパフォーマンスを見せてくれるのかとても楽しみです。
他の皆様が言われていますが、中田はやはり存在感が抜きん出ているなと思いました。
さまざまな意見が出ているようですが個人的には、やはり予選突破には必要不可欠だと思いますね。
では次回更新を楽しみにしております。
- 710 名前:ACM 投稿日:2005/04/30(土) 13:00
- >>706 ピクシー様
レスありがとうございます。そうですね、何となく現役に似てきたかもです。
果たして2人の運命はどうなるのか?いちおう結末は考えています。
中田英は確かに必要だと思います。けど、まだまだ本調子ではないような気がします。
>>707 みっくす様
レスありがとうございます。
悪魔が復活し、そして今回は天使です。復活祭です。はい。
彼女らの活躍にご期待下さい。
>>708 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。ようやくです。ようやく主人公が復活です。
リーグ戦もそうですが、チャンピオンズリーグもいよいよ佳境です。
これからにご期待下さい。
>>709 k-gxp様
レスありがとうございます。とうとう彼女が復活しました。
これでようやく次へと進むことが出来ます。
チャンピオンズリーグでの対決はまたいずれということで。楽しみにしていてください。
では本日の更新です。
- 711 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:01
- 「さあみんな。」
FCポルトキャプテン、ナナコド・オオコーチがみなを呼び寄せ、円陣を組む。
「相手は強豪リヨン。そしてアウェー。
でも気持ちを強く持って絶対に呑まれないようにしよう。」
「おうっ!!!」
オオコーチの声に選手たちが応える。
チャンピオンズリーグもとうとう準々決勝まで来た。
はるか遠くにあったビッグイヤーも手が届くところまで来た。
さらにはこの試合で頼れるエースが復帰を果たす。
FCポルトの選手たちのモチベーションはこれ以上なく高まっていた。
それはリヨンの選手も同様だ。
彼女たちもベスト8までコマを進めてきた。
もしかするとリーグ戦、そしてこのチャンピオンズリーグと2冠を達成できるかもしれない。
自分たちの名前がクラブの歴史に永遠に残るかもしれない。
リヨンのモチベーションも最高潮に達していた。
- 712 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:01
- それぞれが強い気持ちを持って臨むこのゲーム。
間違いなく激戦が繰り広げられると世界各国の評論家たちは予想していた。
だがその予想は完全に外れることとなった。
この結果を誰も予想できたものはいなかった。
いや、1人だけいた。
しかしそれは評論家ではなく、現役のセリエAジョカトーレだった。
「この試合、必ずポルトが圧勝する。リヨンは柴田さんの相手じゃない。」
- 713 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:02
- ピィー!!!
2005年4月5日、午後8時45分。
主審の笛が高らかに鳴り、世界最高峰の戦いが幕を開けた。
<FCポルト>4−2−3−1
77 DF 4 ナナコド・オオコーチ
22 スズキ・エミイラ
MF 12 MF MF 6 マジュ・オザワーニャ
10 サヤ
10 6 12 柴田あゆみ
DF 22 FW 77 ミナコ・ナッカーノー
DF 4
GK
- 714 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:02
-
その瞬間は開始わずか35秒で起こった。
- 715 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:03
- ホームのリヨンのキックオフで始まったこの試合。
リヨンはその自慢の中盤が細かいパスを回し、ポルト陣内に攻め込んできた。
だがポルトの中盤も負けてはいなかった。
「ふんっ!!」
ポルトMF、マジュ・オザワーニャの激しいタックルが決まった。
この中盤の要はDFラインの前で強力なフィルターとなり、相手の攻撃を完全に抑え込む。
そのこぼれ球を拾ったのはこれからのポルトガルを担う逸材、サヤ。
サヤはチェックに来たリヨンMFを1人かわすと、瞬時に右足を振り抜いた。
このパスに反応したのはこの試合が復帰戦となるエース、柴田あゆみだった。
サヤのロングパスに反応し、最高のタイミングでDFラインの裏へと飛び出していた。
「しまった!!」
リヨンDF陣は完全に虚を突かれた。
彼女たちはFCポルトのことを研究しており、当然柴田のことも研究済みだ。
テクニックに優れ、またそのパスセンスは素晴らしいが、
反面得点力は物足りなさを感じ、前線には飛び出してこないというのが
リヨンスカウティングチームの見解だった。
だが、それは完全に裏目に出た。
- 716 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:04
- 「くっ!!」
リヨンGKが思い切ってゴールマウスから飛び出す。
当然リヨンDFも追いかける。
前からも後ろからも敵が迫る。
そしてタイミング的にはトラップした瞬間、前、後ろどちらかに潰される。
『?!ここっ!!』
その瞬間柴田は白い道を見た。
と同時に身体が反応した。
「あっ?!!!!」
スタジアムにいた誰もが声を上げる。
敵も味方も関係なかった。
- 717 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:05
- 「うわ・・・・・・・」
FCポルトFW、ミナコ・ナッカーノーは思わず感嘆の声を出した。
自分の前にボールが転がってくる。
自分の走るスピード、タイミング、利き足まで完璧に計算しつくされた究極のパスだ。
しかも柴田はこのパスを、自分の真後ろから来るボールをトップスピードで走っている状態の中
ダイレクトで出したのだ。
『アユミを信じてたけどまさか・・・・・・・』
ナッカーノーは柴田の才能に驚き、そして戦慄した。
試合開始わずか35秒。
FCポルト、強烈な、鮮烈な先制点。
- 718 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:06
- ワアアアアアアアア!!!!!!
オオオオオオオオオオオオ・・・・・・・・・・・・・・・
少数の歓声と多数のどよめきでスタジアムは何とも言えない雰囲気となった。
誰もが今の日本人のプレーに心を奪われていた。
「アユミ!!!」
FCポルトの選手たちが柴田に抱きつく。
ゴールを決めたのはナッカーノーだが、みな柴田に抱きつく。
これにナッカーノーはチームメートに恨みを持つことはなかった。
なぜなら当の本人、ナッカーノー自身が真っ先に柴田に抱きついていたからだ。
- 719 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:07
- 「さあ、まだまだこれから。」
見事なパスを出した柴田は喜びもそこそこに自陣へと戻っていく。
今のパスは自分でも会心のパスだが、もう終わったことだ。
それよりも次。
今日が復帰戦だが、全く自分のプレーにブランクはない。
逆に感覚も今まで以上に研ぎ澄まされている気がする。
自惚れるわけではないが、柴田は今、自分が“高み”へと登っている最中であることを確信した。
- 720 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:07
- 驚愕の先制点を食らい、リヨンは完全に動揺した。
その動揺がいつものパスワークを封じ込め、軽率なミスを生じさせる。
自慢の中盤であっさりとボールを奪われる。
「マジュ!!」
柴田がオザワーニャからボールをもらおうと下がってくる。
先ほどの先制点によりナーバスになっていたリヨンは慌てて柴田を追いかける。
「サヤ!!」
それを見たオザワーニャは、スッと前へ上がったサヤへボールを預けた。
- 721 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:08
- このポルトガルの至宝にフリーでボールを持たせるとは愚の骨頂。
サヤは素晴らしいスピードで前へ突き進んでいく。
「くっ!!」
リヨンセンターバックは動くことが出来ない。
下手に飛び込んでもかわされるだけであるし、
またFWナッカーノーが狡猾にDFラインの裏を狙っている。
チャンピオンズリーグというこの最高峰の舞台で、このような迷いは即、死につながる。
迷うリヨンセンターバックの横を弾丸のようなミドルシュートが通り過ぎていく。
そしてそれは鋭くゴールネットに突き刺さった。
ポルト、前半2分で痛烈な2点目をあげた。
- 722 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:08
- オオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・・・・・・・・
満員のスタジアムから失意のどよめきが生じた。
彼らは本能的に悟った。
この試合、リヨンは圧倒的に敗北すると。
もちろんサッカーは何が起こるかわからない。
だが、彼女がピッチにいる限り敗北はもう確定的だと彼らは悟った。
アユミ・シバタ。
リヨンにとって、彼女は“悪魔”であった。
無論、ポルトにとっては“天使”以外の何ものでもなかった。
- 723 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:09
- そしてとどめはやはり彼女が刺した。
前半2分ですでに3度目のキックオフを迎えたリヨン。
もうその闘志は半ば消えかかっていた。
ポルトの前線からの激しいチェックにリヨンはあっさりとボールを失う。
こぼれ球を拾った柴田は、一拍ほどタイミングをずらして一気に右サイドへとボールを送った。
そこにはポルトの武器である右サイドバック、スズキ・エミイラがトップスピードで走り込んでいた。
「ナイスパス!!」
パスを受けたエミイラはチェックに来たリヨン左サイドバックをあっさりとかわし、
そのまま右サイドを深くえぐる。
そして中へ鋭いクロスを送った。
- 724 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:09
- このクロスはニアサイドへ走りこんだナッカーノーの頭を超えていく。
その先には誰もいないと思われたが、1人の選手が素晴らしいスピードで走り込んでいた。
その選手を見た瞬間リヨン陣営はこれから起こる出来事を想像し、目を覆った。
次の瞬間、想像通りのことが起こった。
パスを出した後全速力で走りこんできた柴田がこのボールを滑り込みながらもきっちりと合わせ、ゴールネットに叩き込んだ。
3分だった。
わずか3分で準々決勝はセカンドレグも含めて終わってしまった。
- 725 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:13
- この後、ポルトはペースダウンし、体力の温存に努めた。
もちろんこのチャンピオンズリーグという舞台で、
しかも準々決勝という大舞台でそれは本来ならばしてはいけないことである。
なぜなら、その瞬間あっさりと逆転されるからだ。
ベスト8に進むクラブはそれだけの力を持っている。
だが、“天使の舞”にリヨン陣営は完全に戦意を喪失してしまっていた。
柴田は後半が始まって10分で途中交代した。
これは今日が復帰戦というのをテレ・キダターロが考慮したためである。
しかし、“天使”のタクトに舞っていたポルトの選手たちは、
最後までしっかりと“演奏”し、見事にアウェーの地で3−0と快勝した。
- 726 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:13
- 「さすが柴田さん。」
この試合を自宅のテレビで観戦していた吉澤ひとみは、
ライバルの活躍に胸を躍らせていた。
怪我からまさに完全復活と言っていいだろう。
時間にして55分のプレーだったが、そこには凄みが感じられていた。
「・・・・・・・あの言葉、本気ですね。」
ひとみはこの前柴田と交わした言葉を思い出す。
あれは、日本代表がワールドカップ予選でまさかの2連敗を喫した日だった。
家を飛び出し、練習をして自宅に帰ってきたひとみ。
そしておもむろに携帯を取り出し、電話をかけようとしたその時、
携帯が着信を知らせた。
ひとみはこれが誰からの電話か、簡単に予測が付いた。
- 727 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:13
- 「はい、もしもし。」
『あ、よっすぃー?あたしです。柴田です。』
「・・・・・多分そうだと思ってましたよ。」
そう言いながらひとみは軽く笑った。
『あたしも多分分かってるって思ってた。
あ、もしかしてあたしに電話しようとしてた?』
「はい、そうです。」
『やっぱり。』
柴田も軽く笑った。
どうやら2人とも同じ目的で互いに電話しようとしていたようだ。
『・・・・・・ねえ、よっすぃー。あの場所はあたしのもの。あなたには渡さないよ?』
少し間を置いた後、柴田は力強くそう言った。
「・・・・・・いえ、あそこはあたしの場所です。
だから柴田さん。あなたといえども絶対に譲りませんよ。」
ひとみも負けじと力強く言い返す。
2人とも脳裏に浮かぶのはあの青いユニフォーム。
日本代表の背番号10を背負い、ピッチに立っている姿だった。
自分が日本代表をドイツへと連れて行く。
それをライバルに宣言するため、彼女たちは互いに電話しようとしていたのであった。
- 728 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:14
- 『でも今のところあたしの方がリードしてるね。』
柴田がフフッと笑う。
確かにそうである。
柴田も怪我で欠場しているとはいえ、今年に入って獅子奮迅の活躍。
更にはチャンピオンズリーグという大舞台も待っている。
一方ひとみは今年に入ってわずか1試合の出場のみ。
しかもその試合はあの“頭突き”の試合だ。
明らかに柴田のほうが日本代表10番に近かった。
「すぐに追い付いてみせますよ。」
だがひとみに臆するところは何もない。
あそこに、日本代表に自分が必要だということが分かったのだから、
後はひたすら前に進み、遅れを取り戻すだけだ。
『いーや、絶対に追い付かせないから。』
「追い付きます。」
『追い付きません。』
「追い付くって。」
『いや、無理だし。』
「いやいや、出来るし。」
『・・・・・・ぷっ』
「・・・・・・ぷっ」
子どもの喧嘩のような問答を繰り返した後、2人は声を上げて笑った。
- 729 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:15
- この時、ひとみは確信した。
今、確かに自分にまとわり付いていた憑き物が落ちた、と。
・・・・・・・・・・ありがとう、柴田さん。
やはり彼女だった。
ひとみは唯一無二のライバルに心から感謝した。
- 730 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:16
- 『・・・・・・ねえよっすぃー。』
しばらく取りとめのない会話をしていたが、不意に柴田の声が変わった。
「あ、はい。」
思わずひとみも姿勢を正す。
『こんなことを言うと、自惚れみたいに、
無謀なことに聞こえるかもしれないけど・・・・・・』
柴田はこう前置きしながら続けた。
『・・・・・あたし、一番上に立つよ。』
「えっ?」
一瞬、ひとみは柴田が何を言ったのか分からなかった。
『あたし、必ず世界のサッカー選手の頂点に登り詰めてみせるよ。
もう、絶対に誰にも負けない。どんな相手にも、どんなチームにも勝つよ。』
- 731 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:16
- 「・・・・・・・・・・・・」
ひとみは言葉を返すことが出来なかった。
それは柴田の言葉が余りにも大きすぎたからだ。
もちろんひとみもサッカー選手である以上、最高を目指している。
世界に出て、またマツシマやユッキエに認められてその思いを持つようになった。
しかし、自分の今の力ではそれを公言することなど出来ない。
が、それを今、柴田は口にした。
柴田は決して大言壮語を吐くような女ではない。
つまりそれは彼女に揺ぎ無い自信があるということ。
マツシマやアユウドを、そして吉澤ひとみを倒すという自信があるということだった。
- 732 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:17
- 『よっすぃー、見ててね。この大会で、チャンピオンズリーグで
あたしは自分の言葉を証明してみせるから。』
柴田はそう言ったが、ひとみは無言のままだった。
しかし柴田は分かっていた。
電話の向こうでひとみは自分の言葉に闘志を燃やしていることに。
「・・・・・・あたしは、絶対に負けませんから。」
案の定強い気持ちのこもった言葉が返ってきた。
柴田は嬉しく思い、やわらかく微笑んだ。
自分が頂点に立つにはひとみの存在が必要だということを柴田は理解していた。
マツシマを倒し、アユウドを倒し、そしてライバルを倒す。
それが頂点に立つ道なのだ。
そしてそれはひとみにとっても全く同じことが言えたのであった。
- 733 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:18
- この電話の後、ひとみはユヴェントス戦で見事に復活した。
その獅子奮迅の活躍ぶりはライバルにどうだと言わんばかりであった。
そして今日、ライバルも答を返した。
その答はあの日口にした“世界の頂点に立つ”という言葉に恥じないものであった。
- 734 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:19
- 「・・・・・・・・・・・絶対に負けないから。
必ずその背中に追い付いてみせるから。」
ひとみはテレビ画面に大きく映し出されるライバルの背中をジッと見つめていた。
- 735 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:19
-
彼女の背中には大きな白い翼があった。
- 736 名前:第23話 ベスト8 投稿日:2005/04/30(土) 13:20
-
第23話 ベスト8 (終)
- 737 名前:ACM 投稿日:2005/04/30(土) 13:21
- 第23話 ベスト8 終了いたしました。
今回でようやく主人公が復活できました。長かった・・・・・・・
今後また落ち込むかもしれませんが、
この影の薄い主人公をどうか見守ってやってください。
作者も忘れ去られないよう、頑張って更新します。
- 738 名前:ACM 投稿日:2005/04/30(土) 13:21
- 次回予告
第24話 クラシコ
欧州リーグも終盤を迎え、優勝争いは混沌としている。
そんな中、前半戦を下位で終えたバルセロナは脅威の快進撃で2位まで浮上。
一方、王者レアルは終盤に入り失速の兆しが。
スペインのみならず、世界を代表する2強がついに激突。
伝統のスペインダービー、クラシコ。
後藤真希VS松浦亜弥。日本が産んだ天才2人が大舞台で激突する。
次回もよろしくお願いいたします。
- 739 名前:みっくす 投稿日:2005/04/30(土) 23:43
- 更新おつかれさまです。
これで、天使も悪魔も復活ですね。
日本にいる10番も頑張れ!
次の代表戦では誰が10番をつけているのでしょうかねぇ。
次回はリーグ戦ですね。
天才2人の対決楽しみにしてます。
- 740 名前:ピクシー 投稿日:2005/05/01(日) 05:44
- 更新お疲れ様です。
10番候補が次々と復活・・・もう1人はどうなるか?
それと、10番にばかり注目が集まりますが、その他の面々にも期待してます。
天才2人の対決ですか・・・本当の天才は彼女だと思いますが、試合結果はどうなることやら?
次回更新も楽しみに待ってます。
- 741 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/05/02(月) 09:44
- 更新お疲れ様です。
いよいよ10番争いにも熱が入ってきましたね。
次の日本代表の10番はどちらが制するのか・・・楽しみです。
そして、次はもうひとつの2人の「天才」対決。
この結果が、これから先に影響していくのかなぁ〜
次回更新も楽しみに待ってます。
- 742 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/09(木) 00:08
- 保
- 743 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:06
- 世界最高峰の戦い、チャンピオンズリーグも
準々決勝ファーストレグを終了した。
リヨン 0−3 FCポルト
リヨンVSFCポルトの試合は予想に反してアウェーのポルトが圧勝。
ポルトのマエストロ、日本代表柴田あゆみのタクトによって導かれたポルトイレブンが
攻守にわたりリヨンを圧倒し、3−0のスコア以上の快勝を演じた。
この勝利により、ポルトはリヨンに対して格の違いというものを見せ付け、
準決勝への切符をほぼ手にした形となった。
- 744 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:07
- チェルシー 0−1 ミラン
チェルシーVSミランの一戦は両チームとも守備陣が奮闘。
両チームが誇るワールドクラスのアタッカー陣も完全に沈黙した。
が、後半ロスタイム。
ミランはウクライナ代表イイジマー・ナオチェンコが
ペナルティエリア内でファウルを受け、PKを獲得。
これをブラジル代表ハマ・サーキ・アユウドがきっちりと決め、
ミランがアウェーながら勝利を収めた。
アジアが誇るスーパーGK、中国代表サ・トエリもこれにはどうしようもなかった。
これでミランはアウェーながら無失点と得点をあげることに成功。
準決勝進出へ大きな一歩を踏み出した。
- 745 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:08
- レアル・マドリード 2−1 ユヴェントス
スペイン、イタリアのみならず全世界において頂上に立つ両クラブの対決。
試合はホームのレアルがその爆発的な攻撃力でユーヴェゴールへと襲い掛かる。
それをユーヴェはイタリアらしい鉄壁のディフェンスではね返す。
しかし、後半34分、37分と連続失点を喫する。
ゴールを決めたのは日本が産んだ天才、後藤真希。
あのユーヴェディフェンス陣を1人でぶち抜き、ゴールを決めた。
だがユーヴェも負けてはいなかった。
後半残り2分。
一瞬の隙を突き、日本代表福田明日香がライフルのようなミドルを放つ。
これは何とかスペイン代表GKナカネ・カスミージャスが弾くが、
こぼれ球を抜群の嗅覚で日本代表安倍なつみが押し込み、ユーヴェが1点を返した。
試合はこのままで終了。
圧倒的な攻撃力を持つレアルはホームできっちりと勝利を収めた。
だがユーヴェもしたたかにアウェーゴールを決める。
お互いの持ち味が出たこの戦い。
勝負の行方は完全にセカンドレグへと持ち越された。
- 746 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:08
- ASモナコ 0−2 アーセナル
ASモナコVSアーセナルの一戦は特別なノスタルジーを感じさせる一戦となった。
モナコサポーターにとって、現愛すべきアイドルと、元愛すべきアイドルとの一戦だったからだ。
元愛すべきアイドル、日本代表市井紗耶香はモナコのホームスタジアム、ルイ2世スタジアムで熱烈な歓迎を受けた。
モナコサポーターたちは今もなお、市井紗耶香の勇姿を胸に焼き付けているのだ。
が、試合が始まるとそれは強烈なブーイングに変わる。
それは現アイドル、日本代表高橋愛を今は支持しているというサポーターの心の表現であった。
だが、試合は元アイドル、市井紗耶香の独壇場だった。
前半34分に華麗なドリブル突破からクロスでアシストを決めると、
後半21分には一瞬の隙を突いて強烈なミドルシュートを突き刺した。
これ以外にも随所に力を見せつけ、アーセナルの勝利に貢献した。
現アイドル高橋愛も勝利を目指して奮闘するが、ヨーロッパでも屈指のDFナオミ・ザイゼン・キャンベルの前に完全に沈黙。
現時点での力の差を見せ付けられる結果となった。
- 747 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:09
- 各チームそれぞれ明暗が分かれた準々決勝ファーストレグだったが、
1週間後に行われたセカンドレグもまたも明暗がくっきりと分かれた。
FCポルト 4−0 リヨン
もはやリヨンにアウェーで3点差をはね返す力は無かった。
ポルトが誇るマエストロ、柴田あゆみのタクトが完全にリヨンの息の根を止めた。
柴田の4アシストの活躍で、見事にポルトはベスト4へと進出した。
- 748 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:09
- ミラン 0−3 チェルシー
サッカーに絶対はない。
それをはっきりと認識できる一戦であった。
イタリアのみならず世界でも最強を誇るミラン、ホームでまさかの3失点。
- 749 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:10
- きっかけはごくわずかなミスからであった。
ゴール前に上がったクロス。
これを日本代表石黒彩と、イタリア代表世界最高DFマキコサンドロ・エスミがお見合い。
その隙を逃さずチェルシーFW、アルゼンチン代表アムロン・ナミエポが
豪快にヘッドでゴールネットを揺らした。
そしてここからミランDF陣が崩壊する。
いわゆる、“魔の6分間”だ。
ナミエポのゴールからわずか2分後、今度は同じアルゼンチン代表の同僚、
“小さな魔法使い”マイ・セバスチャン・クラキが目の覚めるような鋭いミドルをゴール左隅へと突き刺した。
これでチェルシーは合計で2−1と、ミランをリードする。
騒然とするスタンドの興奮が冷めやらぬ中、最後のとどめは彼女だった。
チェルシーを支える偉大なるキャプテン、フランス代表フジワラ・ノリカー。
イングランド代表MFリョウ・コールからのコーナーキックを
エスミ、石黒、そしてタマオ・ナカムラーニと競り合いながらもゴールネットを揺らした。
この瞬間、スタディオ・サンシーロは静寂に包まれた。
呆然とするミランが誇る世界最高の選手たち。
サッカーとは何と恐いものであろうか?
百戦錬磨の猛者たちも、気まぐれな神の前ではどうすることも出来なかった。
コムロビッチが革命を起こしたチェルシー、ついに準決勝進出。
- 750 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:10
- ユヴェントス 1−0 レアル・マドリード
まさにこの試合は試合巧者ユヴェントスの独壇場だった。
あの最強のレアル攻撃陣を完全にシャットアウト。
そしてなおかつ唯一のチャンスをしっかりと決め、イタリア伝統のスコア、1−0で勝利。
これでアウェーゴールの結果、ユヴェントスが見事に準決勝進出を決めた。
- 751 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:13
- この試合の勝因は日本人選手の活躍にあった。
ユヴェントスの中盤を司る彼女、“偉大なるパイオニア”福田明日香は
試合終了と同時にピッチに倒れこんだ。
その横にはうつろな表情でピッチに両膝を付く“日本が産んだ天才”後藤真希がいる。
この2人の日本人のマッチアップの結果が、そのまま試合の結果となった。
両者とも持てる全てを出し切ったこのマッチアップ。
ほんのわずか。
10対9でもなければ100対99でもない。
1000対999よりももっと少しの差。
ほんのわずかだけ福田明日香の経験が勝っていた。
しかしそのわずかが試合を決めた。
- 752 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:14
- 「福ちゃん!」
この試合唯一のゴールを決めた“日本のエース”安倍なつみが親友を抱き起こす。
彼女もこの試合を決めた要因だ。
ユヴェントス唯一のチャンス。
それを彼女は確実に決めた。
その類まれな決定力こそ、試合巧者ユーヴェのラストピースなのだ。
「・・・・・・・・負けた・・・・・・・・」
彼女は敗北を受け容れることが出来なかった。
ホームでは2点を取って勝っている。
この試合もわずか1点差で敗れただけだ。
合計スコアならば同点だ。
だが、アウェーゴール。
この特殊なルールにより夢を断たれることとなった。
正直やるせない気持ちで一杯だった。
「マキ・・・・・・・」
名門レアルのエース、スペインの至宝ユウーコ・タケウッチャンが
へたり込む天才の肩を抱く。
その瞬間天才の目から大粒の涙が溢れ出す。
名門同士の対決は、イタリアの貴婦人が銀河系軍団を打ち砕く結果に終わった。
- 753 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:14
- 「後藤さん・・・・・・・・でも、これはチャンスだ・・・・・・・・」
この試合の結果にニヤリと口元を歪ませる選手がいる。
白い巨人、レアル・マドリードの永遠のライバル、FCバルセロナ。
そのバルセロナでいまやプリンセスとうたわれる彼女、日本代表松浦亜弥だ。
松浦加入後、9連勝を含む13試合負けなしのバルサ。
一時は12位まで低迷していた順位も、いまや堂々の2位。
首位レアルとの差は勝ち点5にまで縮まった。
しかもレアルはここまでリーグ戦、スペイン国王杯、
そしてチャンピオンズリーグと連戦が続き、体力もだいぶ落ちてきている。
さらにこのチャンピオンズリーグ敗戦で気持ちの面でもショックが大きいはずだ。
2週間後に控える直接対決スペインダービー“クラシコ”。
これで勝利を収めれば・・・・・・・!!
日本のプリンセスはその牙を静かに研ぎ始めた。
- 754 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:15
- アーセナル 1−2 ASモナコ
背番号11対決第2ラウンドは、互いの意地がぶつかり合った試合となった。
もう失うものは何もないとばかりに捨て身の攻撃を仕掛けるモナコ。
それに対してアーセナルは余りに受身過ぎた。
相手はここまで勝ち上がって来た力のあるチーム。
そのチームの捨て身の攻撃をまともに受け止めるのは容易ではない。
ヨーロッパでは勝てないアーセナル。
この呪縛がアーセナルを縛り付けていた。
それを彼女は逃さなかった。
前半23分。
右サイドの高橋愛が中に切れ込み、左足で強烈なミドル。
これはブロックに来たザイゼンの右足に当たったが、それが逆に幸いした。
シュートはコースが変わり、GKの逆を突いてゴールネットに包まれた。
- 755 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:15
- この1点で流れは大きく変わった。
まだ1点リードしている。
そのはずなのにアーセナルイレブンは完全に浮き足立ってしまった。
その隙を逃さず、2分後にはまたも高橋愛がゴールを決めた。
今度はスルーパスに抜け出しての見事なゴールだった。
合計スコア2−2。
タイに持ち込んだモナコ。
圧倒的優位から追い付かれたアーセナル。
もはや完全に勢いはモナコだった。
アーセナルは防戦一方。
名将ザイゼン・カラサワも全く打つ手が無い状態。
- 756 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:16
- しかし、アーセナルは最後の最後で踏ん張りとおす。
後半ロスタイム。
ゴール前に上がったクロスを“フリーロール”市井紗耶香が執念のダイビングヘッド。
ボールはGKの手をかすめ、ネットを揺らした。
ハイベリースタジアムはその瞬間爆発した。
と同時に試合終了の笛が鳴る。
合計スコアは3−2。
死闘に決着を付けたのはやはり背番号11だった。
もちろん、この試合を消化試合から死闘に持ち込んだのも背番号11だった。
両チームが誇る背番号11の競演に、スタジアムは熱狂した。
「高橋のやつ、上手くなってる。」
試合には勝ったものの、市井は下から追い上げてくる強い圧力を感じていた。
間違いなく高橋愛は自分の前に立ちはだかってくる。
市井はこの試合でそう確信した。
- 757 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:16
- チャンピオンズリーグ準々決勝も全てを終えた。
その結果、ベスト4に進むチームと対戦相手が確定した。
FCポルト VS チェルシー
アーセナル VS ユヴェントス
欧州全土のクラブがみな悲願とするビッグイヤー。
それを獲得できるチャンスはこの4クラブに絞られた。
果たして、栄冠に輝くクラブはどこなのか?
この先の戦いは一瞬たりとも見逃すことは出来ない。
- 758 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:16
- 世界を揺るがす戦いはチャンピオンズリーグだけではない。
普段のリーグ戦にも全世界が注目する戦いがある。
2005年4月23日。
この日は伝統のスペインダービー“クラシコ”。
日本が産んだ天才と、プリンセスの直接対決の日であった。
両者とも世界が誇る名門に所属し、そしてなおかつエースとして君臨している。
そしてなおかつ両クラブは勝ち点2差で首位を争っている。
いまだかつてこれほど注目された“クラシコ”はなかった。
全世界がこの戦いを心待ちにしていた。
- 759 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:17
- 「しまった・・・・・・・」
週末のスペインダービー“クラシコ”に向けての練習を終え帰宅した松浦亜弥。
しばらくシエスタ(昼寝)をしていたのだが、
やはりシーズンも終盤に来て疲れがたまっていたのだろう。
予定していた時刻よりもかなり遅くに目覚めてしまったのだ。
おかげで予定していた食材の買出しにもいけなくなってしまっていた。
松浦は普段の食事は自分で作っている。
食材を吟味し、どんな物を食べようかじっくり考える。
これこそが日々の疲れやストレスを軽減させてくれるのだ。
「・・・・・たまには外で食事でもしようかな。」
今から外に食材を買いに行って、帰ってきて料理をするのも面倒くさい。
第一ゆっくりと食材を選んでいる暇が無い。
ならば久しぶりに外で食べよう。
そう松浦は決心すると服を着替え、外へと向かった。
- 760 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:17
- 「マツウラ?」
レストランにいた客たちは、店の入り口に現れた女性を見て呆然としていた。
彼らの目の前には自分たちが愛するアイドルがいるのだ。
『・・・・・まあ2時間は覚悟ね。』
松浦は自分に向けられている視線を感じながらそう思った。
彼女が思った2時間とは食事とサイン、記念撮影を含めた時間のことだ。
松浦はファンを大事にしている。
これは他の選手たちと同様のことなのだが、松浦はその中でも特に顕著である。
彼女自身、日本で何の実績もなくスペインに来て、そして色々な人に世話になりながらここまで来た。
見ず知らずの日本人である自分に対してスペインの人たちは親切に接してくれた。
その思いがあるからこそ松浦は自分にサインを求めてくる人たちを大切にしている。
だから食事とサイン、記念撮影を合わせて2時間なのだ。
- 761 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:17
- が、松浦のこの予想は大きく裏切られた。
「おい、俺らの分はいいから早くマツウラの注文を聞きにいけ。」
ある客は自分たちの注文を聞きにきたウエイターにそう言った。
「あたしたちは向こうの席に移るわ。」
店の一番奥、一番静かな場所に座っていた者たちはその席を空けた。
「じゃあ俺らは店の外でマツウラが食事が終わるまで人が入らないようにしておくよ。」
会計を済ませたばかりの男はそう言って外に出て、店に入ろうとする人たちに入らないように声をかけていく。
「これ・・・・・・・?」
マツウラは全く意味が分からず戸惑っていた。
「今週は首位をかけたクラシコじゃ。
お前さんにはベストの状態でピッチに立ってほしいんじゃよ。」
店にいた初老の男がにこやかに松浦に話した。
「え?」
松浦が周りを見渡すと、みな、笑顔を見せていた。
みなこの老人と同じ考えなのだ。
「・・・・ありがとう。」
この心遣いに松浦は思わず涙が出そうになった。
そして自分に対するみなの期待がひしひしと伝わってくる。
「・・・・・・・絶対にクラシコ、勝ってみせるから。」
松浦はみなに力強く宣言した。
- 762 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:18
- そしてついに週末を迎えた。
レアル・マドリード VS バルセロナ (サンチャゴ・ベルナベウ)
- 763 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:19
- サンチャゴ・ベルナベウには当然75000人の大観衆が集まっていた。
無論それだけではない。
スペイン全土はもちろんのこと、この試合は世界各国でも注目を集めており、
各国から報道陣、テレビクルーが駆けつけていた。
ホームのレアル・マドリードは現在首位。
だが、それは“かろうじて”という形容詞がつく。
シーズンも後半戦に入り、リーグ戦、チャンピオンズリーグ、
そしてカップ戦と連戦を繰り広げてきたレアル。
全て好成績を収めていたため、ここまで表面上は疲れを感じさせなかった。
だが、疲労の色はやはり身体の奥底に潜んでいた。
- 764 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:19
- 試合をこなす毎に少しずつパフォーマンスが落ちてきたレアル。
監督やオーナーが選手を入れ替える、つまりターンオーバーを好まないのも影響していた。
そして2週間前のチャンピオンズリーグ敗戦。
これでレアルはぷっつりと切れた。
チャンピオンズリーグ敗退後に行われたアトレティコ・マドリーとのマドリーダービー。
試合開始からレアルの誰もが動きが悪かった。
その中でも後藤真希の出来が一番ひどかった。
終始凡庸なパフォーマンス。
こんなプレーではアトレティコのセンターハーフ、保田圭に完璧に抑え込まれるのも当たり前だった。
試合はアトレティコFWミムランド・ミームラの2ゴールにより
2−0でレアルは敗れた。
- 765 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:20
- 一方バルサはブラジル代表コヤナギーニョ、オランダ代表キョコリック・コイズミート、
アルゼンチン代表タマキル・ナミオラ、そして日本代表松浦亜弥の4トップが爆発。
格下のマラガ相手に3−0と快勝した。
この結果によりレアルとバルセロナの勝ち点差は2。
つまりこの試合の結果如何によっては首位が入れ替わる。
上り調子のバルセロナと下降気味のレアル。
果たして勝負の行方は・・・・・・・?
- 766 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:20
- ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
満員のサンチャゴ・ベルナベウが揺れる。
それは全世界から注目を浴びる22名がピッチに姿を現したからだ。
一歩ずつ決戦の場へ向かう両チームイレブン。
その一歩一歩が力強い。
- 767 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:21
- ホームのレアル・マドリードは当然ベストメンバー。
GKにスペイン代表守護神、ナカネ・カスミージャス。
DF、センターにスペイン代表イナモリッド・イズミ。
同じくスペイン代表リナン・ウチヤマ。
右サイドは同じくスペイン代表ミチェル・ヒナガタ。
左サイドは世界最凶の左足、ブラジル代表ジュディマリ・ユッキー。
中盤の底にはアルゼンチン代表アマイロ・シマタニッソ。
そしてイングランドの貴公子、ルイビット・シバサキ。
右サイドには世界最高のドリブラー、ポルトガル代表ヒトミ・クローキ。
左にはスペインの至宝、ユウーコ・タケウッチャン。
FW、ブラジル代表“フェノーメノ”ヒカルド。
そして1.5列目に“日本が産んだ天才”後藤真希。
まさに誰もがうらやむようなメンバーが揃ったレアル。
チャンピオンズリーグ敗退のショックをここで払拭できるか。
- 768 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:21
- 一方、アウェーのバルセロナ。
DF、左サイドバックにアルゼンチン代表“スピード”アフロ・ヒトエ。
センターバックにはオランダ代表のベテラン、ユウコ・アサーノ。
そして同じくセンターバックにはスペイン代表イワサキ・ヒローミ。
ボランチ、オランダ代表アツコ・アサーノ。スペイン代表、メグ・オキーナ。
そしてバルサが誇る4トップ。
1.5列目にオランダ代表キョウコリック・コイズミート。
左FWにブラジルが産んだ最新の天才、コヤナギーニョ。
トップにはアルゼンチン代表、タマキル・ナミオラ。
そして右FW、“プリンセス”松浦亜弥。
こちらも誰もがうらやむようなメンバー。
しかも連勝を続け、勢いに乗っている。
この試合を制し、首位へと躍り出ることが出来るか。
- 769 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:23
- 「後藤さん、今日で立場は逆転です。」
「?!・・・・・・・まっつー。」
試合前に後藤と握手を交わした際、松浦の口から思わず強気の言葉が出る。
ここまでリーグ戦でも日本代表でも松浦は後藤に完全に後塵を喫している。
だが自分の充実、後藤の不調、そして何よりサポーターの声援がある今こそ、
全てをひっくり返すチャンスであることを松浦は理解している。
「さあ、行こうか。」
松浦はパンと頬を叩いて気合を入れた。
その表情からは絶対の自信がみなぎっていた。
- 770 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:23
- ピィーッ!!!!
2005年4月23日、午後8時45分。
主審の笛が鳴り、世界が注目する“クラシコ”が始まった。
- 771 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:38
- <レアル・マドリード>
9 GK 1 ナカネ・カスミージャス
51 DF 2 ミチェル・ヒナガタ
7 10 3 ジュディマリ・ユッキー
4 イナモリッド・イズミ
19 23 6 リナン・ウチヤマ
3 2 MF 10 ヒトミ・クローキ
4 6 19 アマイロ・シマタニッソ
23 ルイビット・シバサキ
1 FW 7 ユウーコ・タケウッチャン
9 ヒカルド
51 後藤真希
- 772 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:38
- <バルセロナ>
7 DF 3 ユウコ・アサーノ
13 5 イワサキ・ヒローミ
10 9 20 アフロ・ヒトエ
MF 4 アツコ・アサーノ
4 6 6 メグ・オキーナ
20 DF FW 7 タマキル・ナミオラ
3 5 9 キョウコリック・コイズミート
10 コヤナギーニョ・ユキショ
GK 13 松浦亜弥
- 773 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:39
- ウオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!
いきなり観客席が沸いた。
バルサボールで始まったこの試合。
いきなりコヤナギーニョが右サイド奥深くへとパスを送る。
そのパスには松浦が反応しており、
素晴らしいスピードで右サイドを駆け上がっていた。
だがもちろんレアルも左サイドバック、ジュディマリ・ユッキーが反応しており、
トラップした瞬間飛び込もうと、その牙を研いでいた。
が、松浦はその上を行っていた。
松浦はコヤナギーニョからのパスを右足のボレーでダイレクトに合わせた。
- 774 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:39
- 「なっ?!!!」
まさかあんな所からダイレクトでシュートを打ってくるとは思わなかった。
GKナカネ・カスミージャスは懸命に手を伸ばすが、届かない。
ガンッ!!!
しかしこのシュートは惜しくもクロスバーを叩き、ゴールラインを割ってしまった。
- 775 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:39
- ウオオオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!!!
どよめきがスタジアムを支配する。
誰もが今のプレーに目を奪われていた。
それは敵であるレアルサポーターも同様だった。
左サイドから右サイドへの大きなサイドチェンジのパス。
それをダイレクトで、しかもほぼ枠の中に飛ばしたのだから。
「よし、いける。」
この松浦のプレーにバルセロナの面々は手応えを感じる。
あのプレーが出来るのだから、エースの調子は絶好調。
エースに任せるもよし、エースを囮に自分が輝くもよし。
バルサの選手たちはこの戦いが楽しみで仕方がなかった。
「マツウラを絶対にフリーにさせるな!!」
スペイン代表、イナモリッド・イズミが全員に指示を出す。
レアルはバルサと違い、この試合を楽しむなどという余裕はない。
何とかこの試合を乗り切り、逃げ切らなければ。
その思いで一杯だった。
- 776 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:40
-
思えばこの時点で勝敗は決まっていたのかもしれなかった。
- 777 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 19:40
- 「メグ!」
「キョウコ!!」
「ユキ!!」
アツコからオキーナへ、オキーナからコイズミート。
コイズミートからコヤナギーニョへとボールが回る。
スペインリーグらしい華麗な中盤でのボール回しだ。
「おっしゃ!!」
「くっ!!」
そして左サイドでボールを受けたコヤナギーニョがドリブルで駆け上がる。
いまや世界最高のテクニシャンという呼び声も高いこの天才を止めることは
スペイン代表不動の右サイドバックミチェル・ヒナガタにも不可能だった。
連続シザースから一気の加速に成す術もなく突破を許す。
- 778 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 20:05
- 「ユキ!!」
その瞬間ゴール前に素晴らしいスピードで走りこむのは
アルゼンチンの若きゴールゲッタータマキル・ナミオラ。
レアルDF陣も彼女をフリーにさせてはならないと必死に戻る。
が、コヤナギーニョはナミオラには合わせなかった。
コヤナギーニョが右足に持ち替え放った、低く速いライナー性のクロスの先には
彼女が待っていた。
日本が誇るプリンセス、松浦亜弥が。
「もらった!!」
ペナルティエリアの右隅、ゴールからはかなり遠い場所だったが、
松浦はためらいなく狙った。
松浦の身体が宙に浮き、傾く。
そして足を交差させ、左足でこのボールを芯でとらえた。
- 779 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 20:05
- 「・・・・・・・っ!!!」
あの低く速いクロスをダイレクトでジャンピングボレー。
そしてなおかつ左足で。
このワールドクラスのスーパージャンピングボレーに
鋭い反射神経が持ち味のカスミージャスも全く反応できなかった。
前半4分。
はやくもアウェーのバルセロナが先制点を挙げる。
- 780 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 20:06
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
サンチャゴ・ベルナベウが一気に爆発する。
このスーパープレーに誰もが狂喜乱舞だ。
「ユッキー!!マツウラをフリーにさせるなって言ったでしょ!!!」
DFリーダーのイズミが憤怒の表情で左サイドバックのジュディマリ・ユッキーに食って掛かる。
試合開始直後に見せたダイレクトボレー。
あれを見れば絶対にフリーにさせてはならないのは分かるし、確認もしたはずだ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
イズミの叱責にジュディマリ・ユッキーは憮然とした表情だ。
もちろん彼女自身も今のは自分のミスだと認めている。
だがそういうイズミ自身もナミオラに引き付けられすぎていたではないか。
その思いが彼女に憮然とした表情を浮かべさせる。
その表情、態度に思わずカチンとなるイズミ。
それを必死になだめるウチヤマ。
これもレアルの調子の悪さを表すものであった。
が、それ以上に。
- 781 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 20:06
- 「まっつー・・・・・・・・」
日本が産んだ天才の表情が青ざめる。
今のスーパーゴールは天才を心底怯えさせた。
果たして今のプレーが自分にも出来るだろうか?
・・・・・・・・天才がこう思った。
これこそレアル崩壊の兆しであった。
- 782 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 20:07
- 「・・・・・・さあ、まだまだ行くよ。」
このレアルの状況を見てニヤリと笑う松浦。
こんなものでは終わらない。
完膚なきまでに叩きのめし、全てを逆転してみせる。
チームとしても、個人としても、松浦亜弥は後藤真希を超えてみせる。
- 783 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/06/25(土) 20:09
-
日本のプリンセスは、今、日本が産んだ天才を追い詰めていた。
- 784 名前:ACM 投稿日:2005/06/25(土) 20:11
- 本日の更新はここまでです。
2ヶ月も開いた上に最後まで完結できずすみません。
出来るだけ早く続きを更新しますので、どうかご容赦下さい。
- 785 名前:ACM 投稿日:2005/06/25(土) 20:12
- >>739 みっくす様
レスありがとうございます。ようやく悪魔も天使も復活です。
後はその後継者ですね。出来るだけ早く復活してもらいたいものです。
そしていよいよ天才2人の対決が始まりました。
作者自身、これを書くのを楽しみにしています。
>>740 ピクシー様
レスありがとうございます。10番候補がどんどん復活しています。
残りは後1人ですね。彼女もこれから大舞台(ワールドユース)が控えていますし、
それにご期待下さい。
そして天才2人の華麗なる対決にもご期待下さい。
>>741 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。10番の重要性はやはりあると思います。
どちらが、いえ、あの3人のうち誰が10番を背負うのか、ご期待下さい。
そして天才2人の対決。どちらも同じポジション、存在感があります。
この結果が、この先に大きく関わってきますので、お見逃しなく。
>>742 名無飼育さん様
保全のほうありがとうございます。余りの更新の遅さに読者様も見限られたのでは?
と心配していましたが、保全していただいてホッとしました。
また更新は遅くなるかもしれませんが、どうかよろしくお願いいたします。
- 786 名前:ACM 投稿日:2005/06/25(土) 20:12
- では、次回更新まで失礼いたします。
こんな話ですが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
- 787 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/25(土) 23:00
- がっかり…
- 788 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/06/25(土) 23:55
- サイコーです!
あやちゃん頑張れ!!
- 789 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/06/25(土) 23:57
- 更新お疲れさまでした。
かなり間があいたと思いますが、更新してくれて嬉しいです。
実際の日本代表はドイツ行きを決めて一安心ですね。
こちらの日本代表はまだ黄色信号のままですが。
そのうえ、メンバー同士の争いも加熱気味・・・
次回更新も待っています。
- 790 名前:K−GXP 投稿日:2005/06/26(日) 00:35
- 更新お疲れ様です。
現実では、本大会出場を決めドイツではブラジルと互角の戦い。
勝てた、まだまだやれるはずだと思う反面、アレは本当のセレソンなのか?
ベストメンバー・ベストコンディションのブラジルだったのか??と思いましたね。
ただ選手、スタッフの皆さんにはお疲れ様でした、本大会に向けて更なる飛躍を期待しますと言いたいですね。
お話のほうでは、あややがすごいことになりそうですね。
ごっちんとの勝負というか、レアルとバレンシアのクラシコってのが凄いですよね。
熱い試合を期待しております。
ではではこれにて。
- 791 名前:みっくす 投稿日:2005/06/26(日) 07:58
- 更新お疲れさまです。
いやー、すごいですね。
ホント、はやく実際にあんな場面をみてみたいものです。
次回も楽しみにしてります。
- 792 名前:ピクシー 投稿日:2005/06/27(月) 11:59
- 更新お疲れ様です。
ごっちんと明日香の対決も見てみたかった感じですね。
吉澤と明日香の対決は過去に書かれていただけに。
しかも、このような書かれ方されると、尚更見たかった。
でも、本命は辻加護の対決だったりする(w
次回更新も楽しみに待ってます。
- 793 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 18:07
- 保全
- 794 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 19:05
- まだでつか?もしか放置????????????
- 795 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 19:35
- それ言うのダメ
絶対書いてくれるから大人しく待て
- 796 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:34
- 前半4分に生まれた松浦亜弥のスーパーゴール。
これは間違いなくバルセロナを勢いに乗せた。
「メグ!!」
オランダ代表MFアツコ・アサーノが鋭い出足でボールを奪った。
そしてアツコは素早く彼女にボールを渡す。
ボールを受けたのはメグ・オキーナ。
バルサの、いやスペインの司令塔だ。
パスを受けたオキーナは間髪いれず左サイドへ低く速いパスを送る。
『相変わらず正確なパス。』
足元にしっかりと届けられたこのパスを受けたコヤナギーニョが思わず唸る。
マークを外した自分の動きを見逃さず、最高のタイミング、強さでパスが来た。
パスを受けたコヤナギーニョは一気に加速し、左サイドを疾走する。
- 797 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:35
- 「ヒナガタ、止めろ!!!」
レアル・マドリード監督、名将クワター・ケイスケがベンチから出て叫ぶ。
このブラジル最新の天才を止めなければ、間違いなくレアルは地獄へ叩き落される。
ここはレアルが誇る粘り強いディフェンスが持ち味のミチェル・ヒナガタに全てを託す。
先ほどは完璧にやられたが、ヒナガタならば二回連続で突破されることはないはずだ。
ウオオオオオオオオオオオオオ?!!!!!
だがその願いもむなしかった。
右足で一度またいでヒナガタのバランスを崩す。
そして次の瞬間一気のトップスピードでヒナガタを置き去りにする。
先ほどの場面をリプレイで見るかのようだった。
ブラジルが産んだ最新の天才は、さらに磨きがかかっていた。
「来いっ!!」
左サイドをフリーで抜け出したコヤナギーニョ。
その瞬間ペナルティエリアに飛び込むバルサ自慢のFW陣。
彼女たちの息はバッチリだ。
ナミオラがファーサイドへ。
松浦がニアサイドへ鋭く切り込んでいく。
『ここだ!!』
それを見てコヤナギーニョがクロスをあげる。
- 798 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:35
- 「ナイスパス!!」
このクロスはニアとファーのちょうど真ん中に上がる。
そこへ飛び込むのはオランダ代表キョウコリック・コイズミート。
松浦とナミオラは囮だったのだ。
この囮の動きにレアルDF陣は完全に振られた。
まったくのフリーでコイズミートは打点の高いヘッドを見せる。
「なっ?!!」
完璧なバルサの攻撃だったが、何とこれをGKナカネ・カスミージャスが止める。
右足で止めたボールはゴールラインを割っていった。
「カスミ!!!」
レアルの選手たちが一斉にカスミージャスに抱きつく。
まさにスーパーセーブだった。
さすがは王者レアル・マドリードの守護神。
王者の意地と誇りがバルセロナの攻撃を止める。
- 799 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:35
- 「マーク外すな!!」
「確認しろ!!」
このカスミージャスのスーパーセーブにより、レアルの雰囲気が明らかに変わる。
それぞれが声を出し、連携を図る。
「任せろ!!」
コヤナギーニョのコーナーキックはレアルDFリナン・ウチヤマが
鋭い変化にも惑わされることなくしっかりとクリアする。
そのこぼれ球にレアルの選手とバルサの選手が殺到し、さらにボールがこぼれる。
「?!ルイ!!」
センターサークル付近にいた“フェノーメノ”は、その瞬間を見た。
と同時に体が反応する。
その瞬間とは貴公子がボールを拾い、前をルックアップした瞬間だ。
「ヒカルド!!」
黄金の輝きを放つ彼女、ルイビット・シバサキの右足が一気に振りぬかれた。
- 800 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:36
- ウオオオオオオオオオオオオオ?!!!!
レアルホームスタジアム、サンチャゴ・ベルナベウが大きく揺れる。
“フェノーメノ”ヒカルドがトップスピードに乗る。
その速さはまさに光速。
さらにその光速スピードで走るヒカルドの足元に寸分の狂いもなくボールが収まる。
「くっ!!!」
バルサDFイワサキ・ヒローミ、ユウコ・アサーノ、
そしてアフロ・ヒトエが必死にヒカルドを追うが、全く距離が縮まらない。
それを見たバルサGKが決死の覚悟で飛び込むが、これをヒカルドはあっさりとかわす。
お得意のシザースからの抜け出しだ。
そして無人のゴールへと流し込む。
前半9分。
レアル・マドリード、同点。
- 801 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:37
- ワアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
サンチャゴ・ベルナベウがまさに文字通り揺れた。
「うそ・・・・・・・?」
レアルゴール前でタマキル・ナミオラが呆然と呟く。
今のチームの状態、試合の流れからして点を奪われる状況ではなかったはずだ。
それが一発のロングパス、一発のドリブルで点を奪われてしまった。
試合展開も調子も全く関係ない。
まさに銀河系と呼ぶに相応しい個人の才能のきらめきだけで奪った得点であった。
「・・・・・・・さすがレアルだ。」
バルサキャプテン、メグ・オキーナが表情を歪める。
この数年、ライバルであるレアルには苦汁をなめさせられ続けてきた。
そのせいか、どこかレアルに対して苦手意識というか、気後れしている部分はある。
もちろんそれは口が裂けても言えないが。
それはオキーナだけではなく、他の選手も同様である。
せっかく勢いに乗り奪った点がすぐに取り返されてしまった。
またこの試合も後塵を喫するのでは・・・・・という不安がバルサの選手たちの心を覆い尽くそうとする。
つい先ほどまではこの試合が楽しみで仕方がなかったバルサイレブン。
それも遠い過去のこととなりつつあった。
「大丈夫、まだ振り出しに戻っただけだから。」
が、そんな選手たちの心の闇を切り裂いた人物がいる。
彼女の表情にはレアルに対する気後れなど微塵も感じられない。
あるのはただ、王者を、“日本が産んだ天才”を王座から引きずり下ろすという気持ちのみ。
「・・・・・アヤの言う通りだ。さ、みんな、切り替えていくぞ!!」
「おうっ!!!」
キャプテン、オキーナの檄に応えるバルサイレブン。
そう、まだ同点になっただけである。
それに冷静に考えればレアル相手に1−0で終わるはずがなかった。
そう考えればこの失点も予想の範疇。
何も脅えることはない。
それを松浦の表情が教えてくれた。
- 802 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:37
- レアル・マドリードVSFCバルセロナ、“クラシコ”。
そして後藤真希VS松浦亜弥。
激闘はまだ始まったばかりだ。
- 803 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:38
- ウワアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
「当たれ!!ここで取るぞ!!」
スペインの至宝、ユウーコ・タケウッチャンが前線からプレスをかける。
同点に追い付いたレアルは流れを完全に自分たちの方へ持っていくべく、
積極的にプレスをかける。
「ボールを取られるな!!フォローを確実に!!」
バルサもそうはさせじと積極的に動いてパスコースを作り、
レアルのプレスをかわそうとする。
世界に誇る至宝たちの全力プレーにスタジアムが大きく揺れる。
- 804 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:38
- 「アツコ!!」
左サイドに張っていたコヤナギーニョが中に切れ込む。
それを見逃さずアツコ・アサーノが足元に強いパスを送る。
だがユウーコが懸命に足を伸ばし、このパスを弾く。
「任せろ!!」
高く浮いたこのボールにいち早く触ったのはコイズミートだった。
中央に寄ってきたコヤナギーニョの足元へ正確なヘッドで落とす。
「ここだ!!」
が、その瞬間をレアルは狙っていた。
ボランチの2人、アマイロ・シマタニッソとルイビット・シバサキが鋭く
コヤナギーニョの足元に飛び込む。
「えっ?!」
「なっ?!」
が、これを天才はかわした。
まさにミリ単位のボールコントロール。
柔らかく、かつ鋭いタッチで足元にボールを吸い付かせ、2人の間をすり抜ける。
「そこだっ!!」
そして間髪入れず空気を切り裂くようなスルーパスを送る。
- 805 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:38
- 「ナイスパス!!」
このパスに反応よく飛び出したのが“プリンセス”松浦亜弥。
裏へ抜けるタイミングもスピードもまさに非凡だ。
松浦はこのスルーパスを右足ダイレクトで狙う。
「くっ!!!」
だがレアルもそうは簡単にゴールを割らせないと、
DFイナモリッド・イズミがスライディングでシュートコースをブロックする。
「?!!」
が、これを松浦は予測していた。
右足で打つと見せかけて左足アウトサイドで中に折り返す。
これは両足が全く同じように扱える松浦以外出来ないプレーだ。
「よしっ!!」
このパスに小動物のように反応するのはアルゼンチンが誇るゴールゲッター、
“コネホ”タマキル・ナミオラ。
その圧倒的なスピードでレアルDFリナン・ウチヤマを完全に置き去りにした。
そして思い切り左足を振り抜いた。
「くうっ!!!」
低く抑えられたシュートがゴールポストに向かっていく。
レアルが誇る守護神、ナカネ・カスミージャスが懸命に手を伸ばすが届かない。
ボールはゴールポストの内側を叩きゴールネットに包まれる。
前半18分。
アウェーのバルセロナ、勝ち越しゴール。
- 806 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:39
- ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!
スタジアムが多くの失望のため息と、少しの歓喜の声で揺れた。
アウェーのバルサが見事な勝ち越しゴール。
「ナミ!!!」
ゴールを決め、誇らしげに両手を挙げるナミオラに松浦が抱きつく。
そしてそこへコヤナギーニョ、コイズミートも飛びつく。
コイズミートのポストプレー。
コヤナギーニョのテクニック。
松浦亜弥の総合力。
そしてナミオラの決定力。
どうだレアル。
これが俺たちバルサが誇る“4トップ”だ!!
少数ながらも熱い声援を送るバルササポーターたちが誇らしげに雄たけびを上げる。
- 807 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:39
- 一方レアルサポーターたちは沈黙するものもいれば、
ここ最近の不甲斐ない戦いにブーイングを浴びせるものもいる。
「ゴトウ!!!!いい加減にしろ!!!!」
その中の1人が選手を名指しで罵倒する。
そう、レアルサポーターが今一番腹立たしいのが“日本が産んだ天才”後藤真希。
レアルサポーターのみならず、スペイン中の誰もがこの天才の実力を知っている。
それだけに前節、そして今日ここまでの動きが腹立たしくなってくる。
後藤の不調。
それはやはりチャンピオンズリーグ敗退のショックが尾を引いていた。
もちろん後藤はプロサッカー選手として、
いつまでも引きずっていては駄目だということは理解している。
が、あの試合、ユヴェントスの福田明日香は試合終了と同時に限界に達しピッチに倒れた。
果たして自分はそこまで力を出し切ったであろうか?
あのあこがれの大舞台で本当に自分の持てる力を全て出し切ったのであろうか?
それが深い悔恨として後藤の胸に残り、プレーに精彩を欠く要因となっているのだ。
- 808 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:39
- 「マキ、気にするな。」
キャプテン、ユウーコ・タケウッチャンが後藤の肩をポンと叩く。
後藤はいまやレアルの不動のエースだ。
それだけに気持ちよくプレーしてもらわねば困る。
「ありがとう、ユウーコ。」
ユウーコの心遣いに感謝する後藤。
そう、いつまでも引きずっていてはならない。
今目の前にあるこの戦いに集中せねば。
後藤は自分の頬を叩いて気合を入れなおす。
すると、何か自分の胸にこみ上げてくるものに気付いた。
そう、何かこの試合、気に入らない。
それは何なのか、後藤ははっきりと理解していた。
『・・・・・まっつー、あんまり調子に乗らないでね。』
隠されていた天才の凶暴性が、牙が今、解き放たれようとしていた。
- 809 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:40
- ピィー!!
前半で早くも4度目のキックオフの笛が鳴った。
表情に焦りの色の見える“フェノーメノ”が軽くボールに触る。
今のバルセロナは最も危険な挑戦者。
勢いは完全に自分たちを凌駕している。
それだけに1点リードされたのは痛恨の極みだ。
何とかすぐに同点に追い付かねば。
とヒカルドが思った瞬間、一陣の風が自分の横を通り過ぎる。
「ゴトウ?!」
「マキ?!!」
「後藤さん?!!」
レアルの選手をはじめ、松浦もバルサの選手たちも驚きと共に叫ぶ。
キックオフと同時に怒りに燃えた天才が単独で突き進む。
- 810 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:41
- シザース一発でコイズミートをかわす。
そして一瞬スピードを緩め、そして次の瞬間に爆発的なダッシュで
アツコ、オキーナのダブルボランチを振り切る。
そしてDFユウコ・アサーノを“逆エラシコ”でかわすと、
“逆エラシコ”で浮いたボールをそのまま左足ダイレクトでとらえた。
そのダイレクトでとらえたシュートは、
飛び込んできたDFイワサキ・ヒローミの股間を正確に抜く。
そしてなおかつアウトサイドにかけており、ボールは途中で急激に曲がり、
ゴール左隅へと伸びていく。
誰もが今のプレーに心を奪われていた。
プレーの1つ1つがまさに才能のきらめき。
日本が誇る天才の巨星の如き輝きであった。
- 811 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:42
- が、その巨星の如き輝きも気まぐれなサッカーの神様が邪魔をする。
ガンッ!!!
アウトサイドにかけたシュートは思いのほかよく曲がり、
ゴールポストの内側に当たったが、ゴールラインの外に跳ね返った。
それを懸命にゴール前に戻った左サイドバック、アフロ・ヒトエが
大きくタッチラインに蹴りだした。
オオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・・・・・・・・・・・・
サンチャゴ・ベルナベウが大きなため息に包まれる。
まさに“天才”と呼ぶにふさわしい後藤の完璧なプレー。
だが、なぜゴールが決まらないのか?
「何で・・・・・・・・・?」
後藤自身も呆然としている。
今のプレーは自分の中でも最高のプレーだった。
全てがイメージどおりに動いたはずだった。
だが、結果だけが付いてこなかった。
- 812 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:42
- 「ご、後藤さん・・・・・・」
「何て奴だ・・・・・・・」
が、松浦をはじめ、他のバルサの選手たちは今のプレーに凍りついた。
今のプレーはまさに異次元の動き。
凡人がどうあがいても実現不可能な動きであった。
「・・・・・絶対にゴトウをフリーにするな。」
オキーナの言葉に頷くバルサイレブン。
この試合、自分たちが勝つにはマキ・ゴトウ。
彼女を抑え込むことだ。
「マキを使うぞ。」
一方レアルは復調を見せた(とみなは思っている)エースに
ボールを集めることを確認する。
無論バルサも後藤にマークを集めるであろうが、復調した天才には関係ない。
それに後藤にマークが集中すればするほど他の選手がフリーになる。
伝統のスペインダービー、“クラシコ”。
この一戦は、日本が産んだ天才を中心に回り始めた。
- 813 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:42
- 「マキ!!」
粘り強いディフェンスでコイズミートからボールを奪ったシマタニッソ、
すぐさま前線の後藤にパスを送る。
「うわっ!!」
が、バルサもこれを読んでおり、オキーナとアツコが後藤の足首を刈る。
足首を刈られた後藤は宙を舞い、ピッチに叩きつけられた。
ピピピピピピ!!!!
当然このプレーに主審が笛を鳴らし、ファウルをとる。
そして実際に足首を刈ったオキーナにイエローカードが出される。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!
スタジアムは一気にブーイングで包まれる。
- 814 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:43
- 『よし。これでいい。』
が、オキーナは今のプレーに満足していた。
もちろんイエローカードをもらったのは痛い。
が、それ以上に得るものは大きいはずだ。
『・・・・・・・思ったとおりだ。』
オキーナは“それ”を見てほくそ笑む。
“それ”とはマキ・ゴトウの表情。
明らかに彼女は苛立っていた。
『マツウラの言うとおりやはりゴトウは精神面が弱い。
このまま苛立たせれば勝利はこちらのものだ。』
天才とはまさに気まぐれ。
その気持ちを途切れさせてしまえば、天才は天才でなくなる。
さあ、怒れ怒れ。
バルサの、スペインの司令塔は敵の感情までコントロールしようと試みる。
- 815 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:43
- 「・・・・・そっちがそうくるなら。」
が、これに黙っている王者ではない。
目には目を、歯には歯を、ラフプレーにはラフプレーを。
「ぐっ!!」
くぐもった声とともに右足首を押さえ、松浦はピッチに倒れた。
世界最凶の左足、ブラジル代表ジュディマリ・ユッキーの殺人スライディングに
足首を刈られたからだ。
「ぐっ・・・・・・」
右足首を押さえ、悶絶する松浦。
主審もいくらここがレアルのホームとはいえ、イエローカードを出さざるを得なかった。
いや、ここがホームで、しかもチームがレアルでなければレッドも有り得ただろう。
「何で今のでイエローどまりなんだ?!!!」
それを理解しているのかバルサイレブンが主審に食ってかかる。
一方ではスライディングをしたジュディマリ・ユッキーにコイズミートが絡んでいる。
まさに一触即発。
- 816 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:44
- 「・・・・大丈夫だから。」
が、その空気に気付いた松浦が痛みをこらえて立ち上がる。
「アヤ!」
「大丈夫なのか?!」
「大丈夫。それより早く追加点を取るよ。」
チームメイトが駆け寄ってくるのを松浦は右手で制し、
すぐにポジションにつくように指示する。
ここまで流れとしてはバルサペースであるし、
スコアも2−1でリードしている。
その状況を怒りに任せて自分たちで捨てる必要などどこにもない。
「・・・・・オッケー。」
その松浦の気持ちを理解したバルサイレブンは冷静さを取り戻し、
各々のポジションにつく。
もちろん気持ちは燃え滾っているが、頭は冷静であろうと努めている。
「こっちも切り替えろ!!集中しなおせ!!」
このバルサイレブンの動きにレアルが誇るDF、イナモリッド・イズミが警鐘を鳴らす。
今まで数々の修羅場をくぐってきたが、こういう熱く、かつ冷めている相手は厄介だ。
こっちも熱く、かつクールにいかねば必ずやられる。
しかも相手は世界の至宝が集まるバルセロナだ。
一瞬でも遅れをとれば、それは即致命傷となる。
それを歴戦の勇は知っていた。
- 817 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:44
- 「任せろ!!」
コヤナギーニョが右サイドからゴール前にあげたFKはイズミがきっちりとはね返した。
オキーナがチョンと前に出し、それをコヤナギーニョが上げるいうトリックプレーだったがイズミはそれに惑わされることなくしっかりとクリアした。
「さすがイズミ。一筋縄ではいかない。」
ゴール前で激しく動き、ナミオラ、コイズミートと上手くポジションチェンジをして
マークを振り切った松浦だったが、その穴もしっかりとイズミにカバーをされた。
まさにワールドクラスのDFだ。
「でも、必ず追加点を上げてとどめを刺してみせる。」
が、松浦には一向に怯む気配がない。
それどころか、これほどのDFを相手に出来ることを心から楽しんでいるようだった。
これこそ心技体の充実を表すもの。
今現在の松浦亜弥の上昇を表すものであった。
- 818 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:44
- ピィ、ピィー!!!!
とここで主審の笛が高らかに鳴り、前半終了をスタジアム全体に告げた。
オオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・・・・・・・・・
と同時にスタジアム全体から大きなため息が漏れる。
みな、この息詰まる戦いからいったん開放されて思わずため息をついたのである。
さすがはスペインが誇る伝統のダービー“クラシコ”だ。
まさにその名にふさわしい前半戦の戦いであった。
「よしよしよし、調子は悪くないぞ!」
「よしよしよし、この調子でいいぞ!」
激戦から一時開放された選手たちをそれぞれの指揮官が出迎える。
この指揮官の采配も“クラシコ”の勝敗を決める大きな要因となる。
前半戦を見て相手の状況、自分たちの状況を分析できた。
それをもとに後半戦、必ず勝利に導く指示を出してみせる。
レアル・マドリード指揮官、クワター・ケイスケ。
FCバルセロナ指揮官、タケノウチ・ユタカールト。
世界が誇る名将2人も“クラシコ”という舞台で己の全てを賭け、戦っていた。
- 819 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:45
- 「・・・・・・・凄い戦いやなあ。」
サンチャゴ・ベルナベウのとあるスタンドの一角に彼女はいた。
その鋭い眼光は現役当時となんら変わらないもの。
獲物を射抜くかのように鋭い目をピッチに向けていた。
「あの・・・・・・・もしかして中澤裕子さんですか?」
とその時、すぐ後ろから日本語が聞こえてきた。
「・・・はい、そうです。」
否定するでもなくゆっくりと答えた彼女こそ元日本代表キャプテン、中澤裕子だった。
「わ、お、俺すっごいファンなんです。握手をお願いしていいですか?」
「ええもちろん。」
中澤はニコリと笑うと感動の面持ちの男の手をギュッと握った。
こういった事を嫌な顔ひとつせずこなす。
だからこそ彼女は自然と人を惹きつけるのであろう。
「ありがとうございます!!いやー、今日は運がいいなあ。
“クラシコ”をナマで見れるし、後藤も松浦もいいプレーするし、
中澤裕子さんにも会えるし。ほんと最高っす。」
中澤と握手をしたその男は、まさに天にも昇らんとする気持ちだった。
「中澤さんは今日は視察に来られたんですか?」
「ええ。」
「ですよね。何といっても“クラシコ”ですし。そこに日本人選手が出てるんですから、
もう最高ですよね。俺は松浦と後藤の2トップが日本で最高の組み合わせだと思うんですよね。
2人とも抜群のテクニックにスピード、そして得点感覚もありますし。」
男は興奮した口調でまくしたてる。
中澤はそれを穏やかな表情で聞いていた。
- 820 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:46
- 男の言ったとおり中澤は今日は視察に訪れていた。
この試合は全世界が注目する一戦。
しかも日本が誇る天才2人が激突する一戦だ。
日本代表に携わる者として、この一戦は絶対にチェックが必要であった。
後藤と松浦の状態を事細かにチェックし、
日本代表監督ツンク寺田に報告する。
それが今回の中澤の責務だ。
ワールドカップ予選ではまさかの2連敗を喫した日本。
それを巻き返すには後藤や松浦の力が必要だ。
が、日本代表での2人のポジションは同じだ。
もちろんこの男の言うとおり、2人を同時にピッチに送り込むことも可能だ。
が、ツンクは2人とも本質的にはセカンドトップだと考えている。
だからこそどちらがより日本の力となるのかこの試合で見極めねばならないのだ。
「あ、出てきましたね。」
男が望む視線の先には、残り45分の激闘を控える選手たちがピッチに登場していた。
と同時に中澤裕子の眼光も鋭くなり、雰囲気も変わる。
その雰囲気はまさに現役時代、あらゆるFWが恐れたそれであった。
その雰囲気を敏感に感じ取った男は中澤に話しかけるのを止め、
自分もこの激闘を見守ることにした。
- 821 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:46
- 「1点リードしているとは考えるな。残り45分、死ぬ気で行くぞ!」
「おうっ!!」
「絶対に逆転してこの試合、勝つぞ!!」
「おうっ!!」
両チームとも円陣を組み、気合を入れる。
そしてキャプテンの檄に応える。
残りは45分。
この45分で今シーズンの全てが決まる。
「・・・・・・・・・覚悟しろよまっつー。」
「・・・・・・その首、いただきます後藤さん。」
両チームのエースが視線で会話を交わす。
彼女たちはこの試合、相手を打ちのめしたほうが勝つということを本能で理解していた。
必ず相手を自分にひざまずかせてみせる。
両者とも気合に満ちた表情でポジションについた。
- 822 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:46
- ピィー!!!!!
主審は両チームの選手がポジションについたのを確認し、
そして笛を高らかに鳴らした。
スペインダービー“クラシコ”。
後半戦、キックオフ。
- 823 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:46
- 後半も15分を過ぎた。
ここまで両者とも一進一退の攻防を繰り広げている。
骨が軋むような肉弾戦。
目を見張るような鮮やかなテクニック。
人体の限界を超えるかのような、極限まで鍛えられたアスリートの運動能力。
その一つ一つが観るもの全てを惹きこんでいた。
「そのままだ。」
「頼むぞ。」
両チームの指揮官は後半戦、これといった指示は行わなかった。
それは今の自分のチーム状態に絶対の自信があるからだ。
指示が出来ないのではない。
指示をする必要がないのだ。
指揮官として出来ることはただ1つ。
選手を信じるのみだ。
- 824 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:48
- 「アヤ!!」
粘りのディフェンスでボールを奪ったバルサDFイワサキ・ヒローミが
右サイドに開いた松浦にロングパスを送る。
『来たっ!!』
ボールを待ち構える松浦だが、その瞬間確かに感じ取った。
真後ろから自分を狙う影があることを。
それに気付いた松浦は反転し、右足かかとでこのパスをトラップした。
ボールは松浦の頭を越え、
「なっ?!!!」
そして松浦を狙う影、ジュディマリ・ユッキーの頭をも越える。
「うまいっ!!」
今のプレーに思わず中澤も叫ぶ。
もしトラップしていたら完全にジュディマリ・ユッキーに潰されていただろう。
松浦の好判断であり、あのロングパスを完璧にコントロールするという恐るべき技術だ。
「中行くよ!!」
右サイドを抜け出した松浦はそのままサイドを深くえぐる。
ゴール前にはナミオラ、コイズミート、そしてコヤナギーニョが飛び込んできている。
「アヤ!!」
と、その時自分を呼ぶ声が聞こえた。
松浦はためらいなくその声のした所へクロスを送る。
- 825 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:48
- 「ナイスクロス!!」
このクロスは中央から猛然と上がってきたアツコ・アサーノの足元へ。
アツコはペナルティエリア外から思い切り左足を振り抜いた。
抑えの利いた素晴らしいミドルがレアルゴールへ向かう。
コースも威力も申し分なし。
誰もがバルサの追加点を予想したが、王者はこれを許さない。
GKナカネ・カスミージャスが鋭い反応でこれを右手一本で弾き、ゴールを守る。
ボールはクロスバーを叩き、大きく跳ね返る。
「マキ!!!」
このこぼれ球を拾ったのはボランチという新境地を開拓した貴公子、
ルイビット・シバサキ。
前半と同じく黄金の右足を一気に振りぬく。
- 826 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:48
- ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
サンチャゴ・ベルナベウに集まった全ての者がシバサキの右足から放たれた、
美しい放物線を描くパスに酔いしれる。
この美しいパスに合わせて走っているのは“日本が産んだ”天才後藤真希。
素晴らしいスピードでピッチ中央を走っている。
「任せろ!!」
が、バルサも二度と同じ轍は踏まない。
しっかりとDF陣がカウンターに備えていた。
「あっ?!!」
が、相手は天才だということを忘れてはならなかった。
- 827 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:49
- 後藤はシバサキからのロングパスを一度も振り向かずに左足かかとで弾く。
まるで背中に目があるかのようだった。
弾かれたボールは後藤の頭を越え、そしてイワサキ・ヒローミ、ユウコ・アサーノ、
2人の間の上を越える。
そしてボールから遅れること0.5秒、その2人の間を後藤真希がトップスピードで駆け抜ける。
後藤は落ちてくるボールをそのままダイレクトで、左足でとらえた。
ボールはゴールネットをちぎらんばかりにゴールに突き刺さった。
後半17分。
ついにレアル、2−2の同点。
- 828 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:50
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
サンチャゴ・ベルナベウがこの日で一番揺れた。
「ご、ごっちん、あんたって娘は・・・・・・・・」
中澤も目を大きく見開き、身体を震わせていた。
もう今のプレーに何の説明もいらない。
ただ一言、“天才”とだけ言えばいい。
それほどのプレーだった。
「ごっちん、あんたほんまに恐ろしいわ。」
もう一度中澤は身体を震わせた。
何故なら今のプレーは完全に後藤の意図的なもの、
それは先ほど松浦が見せたプレーと同じだったからだ。
いや、難度的には後藤のプレーの方が上であろう。
つまり後藤は、松浦に出来ることは自分も出来るということ、
さらにそれ以上のことが出来るということを全世界にアピールしたのであった。
- 829 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:50
- 「ぐっ・・・・・・・」
が、これは松浦にとって屈辱的なこと。
サッカー選手としての自分を完全に否定されるかのような屈辱であった。
2人は今は敵でも同じ日本人であり、日本代表でもある。
その仲間に対するこの仕打ち。
「まだだよまっつー。まだこんなモノでは済まさないからね。」
後藤は心底松浦を叩き潰そうとしていた。
天才の首を狩ろうとする者にはそれ相応の報いをくれてやる。
そんな後藤の気持ちが伝わってくる。
それを感じたからこそ、中澤は後藤が恐ろしかった。
- 830 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:51
- 後藤真希のスーパープレーによる同点ゴールで流れは一気にレアル・マドリードへ。
「ちっ!!」
この流れにさすがのコヤナギーニョも流されてしまう。
今まであっさりと抜いていたミチェル・ヒナガタに簡単にボールを奪われてしまった。
ヒナガタはすぐさまフォローに来たシバサキにボールを渡す。
これ以上シバサキに好き勝手はさせられないと、
コイズミートがチェックに向かうがシバサキの玉離れは早い。
このパスをダイレクトで左サイドのユウーコへ。
そしてこのパスをユウーコは絶妙のスルー。
「あっ?!」
まさかあそこでスルーするとは思っていなかった。
バルサイレブンは全員虚を突かれた。
「ナイススルー!!」
そのユウーコの後ろを猛スピードで走っているのはジュディマリ・ユッキーだ。
フリーで左サイドを駆け上がる。
「よし、来い!!」
それを見たレアルアタッカー陣が一気にゴール前に飛び込む。
「マーク離すな!!」
ゴール前に飛び込んでくるのは“フェノーメノ”と“天才”だ。
バルサDF陣が慌ててこの2人のマークに向かう。
「もらった!!」
が、その動きが世界最凶の左足にシュートコースを空けることとなった。
ゴールという獲物を捕らえた世界最凶の左足が振りぬかれる。
- 831 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:51
- しかしこのシュートは大きくゴールを越えていった。
「ちっ・・・・・・・」
決定的場面を外したジュディマリ・ユッキーは、
自分の足元にいるバルサの選手を恨めしそうに睨む。
こいつ、背番号13が飛び込んでこなければ今のシュートは入っていたはずだ。
「ナイスだマツウラ!」
オキーナが見事なブロックを見せた松浦の手を取り、起き上がらせる。
「ここで点を取られては終わりです。絶対に守りましょう。」
「ああ。」
そう言う姿に頼もしさを覚えるオキーナ。
入団当初は才能はあるが、まだまだ弱かったアヤ・マツウラ。
それがいまやバルサの輝ける太陽となっていた。
- 832 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:51
- 「ふーむ、これはえらいしんどい話や。」
中澤はふうーっと大きなため息をつく。
後藤、松浦、ともに素晴らしい出来だ。
どちらが日本代表のピッチに立っても必ず力となるであろう。
そのどちらを選べといわれるのはいわば拷問に近い。
「・・・・・・・・テクニック、スピード、フィジカル、どれもほぼ互角やな。
純粋なテクニックは後藤やけど、松浦には両利きというメリットがある。
スピードは互角。フィジカルも互角やわ。あとは・・・・・・存在感やな。」
中澤が見たところ、後藤と松浦は決定的に違うところがある。
それは存在感である。
後藤の存在感は一言で言えば畏怖。
相手チームは後藤真希という存在に対して恐怖を持つであろう。
一方、松浦亜弥のそれは鼓舞。
松浦の存在は味方チームを大きく鼓舞するであろう。
果たしてどちらの存在感がチームを勝利に導くのか。
そしてそれがそのまま日本代表にとって必要な存在感であると中澤は確信していた。
- 833 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:52
- さらに“クラシコ”は激闘を極める。
左サイドを“エラシコ”で突破したコヤナギーニョが中にクロスをあげる。
これを小さな身体を目一杯の伸び上がらせてヘッドで叩くのはタマキル・ナミオラ。
ボールは上手くゴール右上隅にコントロールされている。
だがこれをレアルGKナカネ・カスミージャスがこれまた目一杯身体を伸ばして弾く。
「ナイスカスミ!!」
「おうっ!さあここ集中していくよ!!」
レアルイレブンが今日何度もビッグセーブを見せる守護神に抱きつく。
この若き守護神の最近の充実振りは特筆すべきもの。
世界bPGKへの挑戦権を持つに相応しいセービングだった。
- 834 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:52
- 今度はバルサの守備陣も魅せる。
右サイドを世界最高のドリブラー、ヒトミ・クローキが上がっていく。
その独特の間合いから繰り出されるフェイントはいかなるDFをも手玉にとる。
だがバルサ左サイドバック、アルゼンチン代表アフロ・ヒトエもただではやられない。
その粘りと“スピード”でクローキを苦しめる。
「くっ!!」
鮮やかなステップでヒトエをかわしたクローキは中にクロスボールを送る。
だがヒトエも粘りを見せ、懸命に足を伸ばしてクロスのコースを限定する。
このクロスに“フェノーメノ”ヒカルドが飛び込むが、
ベテランユウコ・アサーノが絶妙のポジショニングでこれをクリアする。
が、このこぼれ球を拾ったのは抜群の集中力でボールの行き先を読む彼女、
“スペインの至宝”ユウーコ・タケウッチャン。
これをダイレクトでとらえ、ゴールを狙う。
しかしバルサも得点を許さない。
その猪突猛進ぶりはしばしば将棋の香車に例えられる。
だが、その熱き思いこそバルサのシンボル。
“お香”ことイワサキ・ヒローミがこのシュートを身体でブロックし、ゴールを守る。
- 835 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:52
- 中盤でボールを奪ったオキーナ、すぐさま右サイドに開く松浦へパスを送る。
「えっ?!!」
がこのパスは世界最高の左サイドバック、ジュディマリ・ユッキーにカットされた。
「何て速さ?!!」
オキーナも松浦もまさか今のパスがカットされるとは思ってもいなかった。
何故ならジュディマリ・ユッキーは完全に松浦の後ろにいたはずだ。
何というジュディマリ・ユッキーの加速力であろうか。
「マキ!!」
と同時にジュディマリ・ユッキーはその最凶の左足を振りぬく。
グシャッ、という音と共にボールは遥か遠くへ飛んでいく。
このパスに反応していたのは天才後藤真希。
後から来る猛スピードのボールを走りながらジャンピングボレーで合わせる。
バルサGKが懸命に手を伸ばすが届かない。
しかしこれは激しくクロスバーを叩き、ゴールにならない。
- 836 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:53
- オオオオオオオオオオオオ・・・・・・・・・・・・・
スタジアムがため息をつく。
が、その後、割れんばかりの拍手でスタジアムが揺れる。
今のもまさに天才的なプレーだった。
後藤真希。
彼女がレアルにいて、自分たちが応援できるということが、
レアルサポーターにとって誇らしかった。
『・・・・・・・何で?』
が、当の本人は困惑していた。
今のボレーは完璧にとらえたはずだ。
絶対にクロスバーに当たるなんてありえない。
ほんのわずかなズレ。
それがあの日以来、チャンピオンズリーグでユヴェントスに敗れて以来ついてまわる。
周りが勢いづくのとは裏腹に、後藤真希の心中は深く沈みつつあった。
- 837 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:53
- 全世界が注目しているスペインダービー、“クラシコ”。
ここまでその名に恥じない試合を両チームの選手たちは見せ続けてきた。
そのプレーに人々は酔いしれ、そして夢を見た。
しかしその夢も残り数分を残すだけとなった。
残りはロスタイム。
そしてこのロスタイムこそ、今まで数多くのドラマを生み出してきた魔の時間帯。
ここまで膠着状態の“クラシコ”だが、きっとここで何か起こる。
確信とはいかないものの、全世界の人々はそう思っていた。
- 838 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:54
- 提示されたロスタイムは4分だったが、そのロスタイムもすでに3分を過ぎている。
残りはわずか1分。
しかし選手たちはその1分に己の全てをかける。
「シマタニ!!」
“フェノーメノ”ヒカルドが最高のタイミングでDFラインの裏に飛び出す。
そこへシマタニッソがスルーパスを送る。
これでレアルの勝利は確定、そう誰もが思った。
が、このパスはミスキックだった。
勝利を確信したシマタニッソが安全に行き過ぎたのだ。
このパスは若干弱く、DFのイワサキ・ヒローミが追いついてクリアした。
オオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・・・・・・
絶好のチャンスを逃したレアルサポーターが大きなため息をつく。
が、悪夢はこれだけでは終わらなかった。
- 839 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:54
- イワサキがクリアしたボールはセンターサークルとペナルティエリアの中間、左サイドに転がる。
これを追いかけてボールをコントロールしようとしたのは貴公子シバサキ。
が、トラップしようとした瞬間、後ろから現れた影にこのボールを奪われてしまった。
「ユキ!!」
このボールを奪ったのはブラジル最新の天才、コヤナギーニョ・ユキショ。
ボールを奪った勢いそのままに左サイドを駆け上がる。
「戻れっ!!!!」
慌ててレアルイレブンが戻るが、やはり攻撃のレアル。
全体的に前がかりになっていた。
自陣に残っていたのはGKカスミージャスと、DF、イズミとウチヤマの2人のみ。
が、バルサもレアルの猛攻に耐えていたため、前線に人がいない。
だがコヤナギーニョはかまわずドリブルで突き進む。
彼女ならば1人でゴールを決めることも可能だ。
- 840 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:55
- 「ユキ!!」
コヤナギーニョはスピードを緩めず突き進む。
と、ここで逆サイドから自分を呼ぶ声が聞こえた。
「アヤ!!」
コヤナギーニョの視界に映ったのは右サイドから素晴らしいスピードで駆け上がる背番号13、松浦亜弥であった。
ここまで90分戦ってきて、体力も限界に近付いている。
だがここが絶好のチャンス。
疲れ果てた身体に鞭をうち、松浦が走る。
「こっちは任せろ!!」
だがレアルDF、イナモリッド・イズミも松浦をフリーにさせない。
同僚のリナン・ウチヤマにコヤナギーニョを託す。
ウチヤマも絶対に抜かせないと、腰を落として突破に備える。
「くっ・・・・・・」
世界でも一流のDFにこの体勢に入られてはさすがのコヤナギーニョも抜くに抜けない。
コヤナギーニョの足が止まる。
- 841 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:55
- 「今!出して!!」
とその時、右サイドの松浦の声が聞こえた。
その声はさっき聞いたときよりも大きく聞こえた。
コヤナギーニョが顔を上げると、松浦が右サイドから左サイドへ、
ピッチを斜めに切り裂くように走り込んでいた。
それを見たコヤナギーニョ、身体を一瞬中に切れ込み、そして真横にスルーパスを送る。
必殺のノールックパスだ。
「よしっ!!」
そこへ走りこむのは当然彼女、松浦亜弥。
スピードでイズミを振り切り、ボールに向かう。
が、イズミも老練なDF。
しっかりと身体を投げ出し、シュートコースを防いでいる。
GKナカネ・カスミージャスも唯一コースのあるニアサイドで構えている。
- 842 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:55
- 本来ならばこれで全てはシャットアウトだった。
何故ならこのボールをとらえるには左足しかない。
走りこみながら利き足以外で打つシュートはやはり精度が落ちる。
コースを狙うシュートなど不可能なはずだ。
だが、今回の相手は、松浦亜弥だった。
彼女は、両利きだったのだ。
「ここだ!!」
ボールに向かいながらもシュートコースを確認していた松浦は、
このパスをダイレクトで合わせた。
- 843 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:56
- 「あっ?!!!!」
誰もが叫んだ。
彼女が選んだシュートコースは上空。
柔らかいタッチの、左足のループシュートだった。
- 844 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:56
- ふわっと浮いたボールが、完璧にコントロールされたボールが
ゴールネットに向かっていく。
「よしっ!!!!」
バルサ陣営が勝利を確信する。
一方レアル陣営は誰もが頭を抱え、自分たちの敗北を覚悟した。
が、その瞬間彼らは見た。
ゴールに向かって高く跳躍する自分たちのエースを。
「ぬあああああ!!!!」
あの瞬間、本能が自分に知らせてくれた。
絶対に戻らなければ負ける、と。
その本能の叫びを聞いた後藤は、全速力で自陣ゴール前に戻ってきたのだ。
そしてタイミングを計り、全身の力を込めて跳躍し、
松浦亜弥の最高のループシュートをゴールラインギリギリでかきだした。
- 845 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:57
- ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!
まさに危機一髪。
地獄へ叩き落されるところであったが、天才の懸命の粘りにレアルは命拾いをした。
その奇跡のプレーにサンチャゴ・ベルナベウも大きく揺れる。
「そんな・・・・・・・」
今、目の前で起こったプレーを松浦は呆然と見つめる。
これで勝ったと思った。
これで天才、後藤真希を超えたと思った。
だが、天才の壁は高く、そして厚かった。
- 846 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:57
- 「まだだ!!まだ終わってない!!」
思わずピッチに座り込みそうになる松浦だったが、この言葉を聞いてハッとなる。
コヤナギーニョが全速力でコーナーフラッグへと向かう。
そう、この試合は天才を超える試合であると同時に、チームが王者を超える試合でもある。
この試合に勝って首位を逆転しなければ恐らく今シーズンのバルサの優勝はないであろう。
これだけの激戦を耐え抜いたレアルはこの後復調するであろう。
そうなれば取りこぼしなど考えられない。
だからバルサは絶対にこの試合に勝たねばならないのだ。
それを思い出した松浦はキッと表情を引き締め、ゴール前にポジションを取る。
時間はあとわずか。
でも、数秒あれば1点取れる。
「ここは絶対に守るぞ!!」
「おうっ!!!」
キャプテン、ユウーコの檄に応えるレアルイレブン。
「絶対に点を取るぞ!!」
「おうっ!!!」
こちらは松浦の檄に応えるバルサイレブン。
ピッチに立つ全ての者がこの一瞬に全てを賭けていた。
- 847 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:58
- 「えっ?!!」
が、次の瞬間、誰もが我が目を疑った。
もう時間はロスタイム。
恐らくこの1プレーで終了だろう。
もしこのコーナーキックを外せばバルサの勝利はなく、
決まればレアルの勝利はない。
そんな切羽詰った状況。
だがコヤナギーニョが選んだのはショートコーナーだった。
これは集中していた選手たちにとって完全な肩透かしとなった。
そのためゴール前で一瞬動きが止まる。
それを彼女は逃さなかった。
バルセロナキャプテン、メグ・オキーナ。
コヤナギーニョから受けたショートコーナーのパスをダイレクトでゴール前にあげた。
「よしっ!!」
このクロスに反応していたのは松浦亜弥だった。
これは普段から練習していたトリックプレー。
が、まさかこの場面で使うとは思わなかった。
オキーナの右足から放たれたクロスは、まさにピンポイントで松浦の頭に来る。
- 848 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:59
- 「止めるから!!!」
「ご、後藤さん?!!」
だがこのクロスに反応していたのは松浦だけではなかった。
“日本が産んだ天才”後藤真希。
彼女が最後まで松浦の前に立ちはだかる。
「うおおおお!!!」
「ぬあああああ!!!」
2人は全身の力を振り絞り、このクロスに飛び込んだ。
「あうっ!!」
「ぐっ!!」
両者は空中で交錯し、そしてバランスを崩して叩きつけられるようにピッチに落ちた。
が、すぐに起き上がり、ボールの行方を確認する。
そして2人は同時にボールを見つけた。
- 849 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 14:59
-
ボールはゴールネットに優しく包まれていた。
- 850 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 15:00
- ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!
スタンドが一斉に爆発する。
バルセロナ、後半ロスタイム、再度勝ち越し。
ピィ、ピィ、ピィー!!!!!
そしてここで主審が三度高らかに笛を鳴らした。
王者レアル、ホームでまさかの敗戦。
そしてこれでリーガエスパニョーラの首位の欄に名前を記すのは、
FCバルセロナとなった。
- 851 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 15:00
- タイムアップの笛と同時にバルサベンチから一斉に選手、コーチ陣が飛び出してきた。
そして殊勲の松浦に飛び込む。
「アヤ!!!お前は最高だ!!!!」
「マツウラ!!!!」
「いた、痛いってば!!」
松浦の小さな身体は多くの者に埋もれて見えなくなる。
バルサはまさに歓喜、歓喜、歓喜だった。
誰もがこの劇的な勝利に酔いしれている。
もちろんそれに値する勝利であることは間違いなかった。
一方、まさかの敗戦を喫したレアル陣営は茫然自失。
この敗戦が信じられないといった面持ちである。
全員ががっくりとうなだれ、ピッチを後にする。
- 852 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 15:00
- ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!
その選手たちにサポーターたちからブーイングが飛ぶ。
もちろん彼らも今日の試合が素晴らしいものだということは理解している。
が、それでも負けていては何もならない。
しかも相手は永遠のライバル、バルセロナだからだ。
王者は常勝たれ。
サポーターたちのこの熱い叱咤が、王者を奮い立たせる。
残り試合はまだある。
だからきっと逆転できる。
サポーターたちはその思いも込めてブーイングを飛ばしていた。
- 853 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 15:01
- 「・・・・・・・凄い試合やった。」
スタンドでこの試合を見守っていた中澤裕子。
その身体は熱い試合を見た興奮で震えていた。
まさに“クラシコ”の名にふさわしい戦いであり、
後藤、松浦もチームのエースとして申し分のない動きであった。
どちらも日本代表にとって大事な存在。
どちらかを決めることなど不可能に思えた。
が、残酷にも結果は最後に出た。
最後の最後、“天才に勝ちたい”という挑戦者の強い気持ちが
王者を、天才を打ち砕いたのである。
「・・・・・・ツンクさん、あたしは松浦亜弥を推しますよ。」
それが中澤裕子の今回の視察の成果だった。
- 854 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 15:01
- カツーン
カツーン
サンチャゴ・ベルナベウの内部の廊下。
そこは外の喧騒からは遠く離れ、別世界のように静まり返っている。
この廊下を1人の選手が歩いていた。
その後姿ははかなく、寂しい。
「・・・・・・・・・・・まっつー、次は必ず・・・・・・・・・」
そう呟き、彼女は歩いていく。
今日の屈辱は二度と忘れない。
次は必ず倒してみせる。
今度は最も危険な挑戦者として。
地に堕ちた巨星は再度輝かんとすることを誓った。
- 855 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 15:02
- スペインダービー“クラシコ”
レアル・マドリード 2−3 FCバルセロナ
【得点】
前4 松浦亜弥 (コヤナギーニョ)
前9 ヒカルド (シバサキ)
前18 ナミオラ (松浦亜弥)
後17 後藤真希 (シバサキ)
後44 松浦亜弥 (オキーナ)
【MOW】
FCバルセロナ 13 松浦亜弥
- 856 名前:第24話 クラシコ 投稿日:2005/08/13(土) 15:02
-
第24話 クラシコ (終)
- 857 名前:ACM 投稿日:2005/08/13(土) 15:03
- 第24話 クラシコ 終了いたしました。
ようやく第24話を終えることが出来ました。
また更新期間が開いてしまってすみません。
次回以降もまた遅くなるかもしれませんが、
どうか温かく見守っていて抱ければ幸いです。
>>787 名無飼育さん様
中途半端な内容で更新してしまってどうもすみません。
また気合を入れなおして書きたいと思いますので、
これからもよろしくお願いします。
>>788 名無し飼育さん様
レスありがとうございます。
今回の松浦さんの活躍ぶりはいかがでしたでしょうか。
今後もきっと活躍してくれると思いますので、どうかご期待下さい。
>>789 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。
まずは日本代表がドイツ行きを決めてくれて一安心ですね。
こちらの日本代表も続いて欲しいですが、まずは激しいポジション争いにご期待下さい。
- 858 名前:ACM 投稿日:2005/08/13(土) 15:04
- >>790 K−GKP様
レスありがとうございます。
コンフェデは見事ですが、その後の東アジア選手権は何だったんだって感じですね。
この話の中の日本代表もそんな安定性のなさが弱点ですね。
>>791 みっくす様
レスありがとうございます。
確かにそうですね。こんな“クラシコ”で日本人が主力となって
活躍する日が来て欲しいものです。
>>792 ピクシー様
レスありがとうございます。
ごっちんと明日香の対決。確かに今思えばもったいないことをしました。
またいつの日か再戦できればと思っています。もちろん加護VS辻の対決はありますので。
- 859 名前:ACM 投稿日:2005/08/13(土) 15:04
- >>793 名無飼育さん様
保全のほう、ありがとうございます。
保全などしてくださると、待ってくださるんだなあと嬉しくなります。
もちろん、保全なしでいける更新を目指します。
>>794 名無飼育さん様
どうもご心配をおかけしてすみません。
放置だけは絶対にすまいと思っているので、
間隔は開きますが、どうかよろしくお願いします。
>>795 名無飼育さん様
信じてくださってありがとうございます。
間隔はまた開くかもしれませんが、
放置は絶対にありませんのでどうかよろしくお願いします。
- 860 名前:ACM 投稿日:2005/08/13(土) 15:05
- では次回の予告です。
第25話 ロンドンの空。
世界最高峰の戦い、チャンピオンズリーグもとうとう準決勝を迎えた。
対戦カードは以下の通り。
チェルシー VS FCポルト
アーセナル VS ユヴェントス
この世界最高峰の戦いの第一戦は、日程は違うが、2試合ともロンドンで行われることとなった。
スペインのマドリードからイングランド、ロンドンへと全世界の注目が集まる。
果たしてこの戦いの勝者は?
そして3人の日本人選手の命運はいかに?
- 861 名前:ACM 投稿日:2005/08/13(土) 15:06
- では次回更新まで失礼いたします。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。
- 862 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/08/13(土) 18:07
- 更新お疲れさまです。
ライバル同士の戦いはやはり白熱しますね。
同じポジションと言うのは、どちらも伸びるのでいいのですが。
結局どちらかしか出れないのでいつも複雑な気分にもなります。
これからの日本人もこういった戦いが増えてくれるとありがたいですね。
次の更新も楽しみに待ってます。
- 863 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 00:37
- あぁ、ヤバイ、ヤバイ・・・・・
ごっちんが怖い、怖いけどカッコイイ
タレント揃いってのはいいことだけど選択肢がキツイもんなんですねぇ
頑張って下さい、次回も期待してます
- 864 名前:ピクシー 投稿日:2005/08/14(日) 04:45
- 更新お疲れ様です。
白熱しましたねぇ。
中澤さんの悩みはごもっともで。
自分だったら・・・トップとのコンビを重視するかも。
一選手としてみたら、器用なごっちんを選ぶかなぁ?
現実では、やっと田○達が代表に入って活躍。
非常に嬉しい限りであります。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 865 名前:みっくす 投稿日:2005/08/14(日) 07:56
- 更新おつかれさまです。
白熱した試合でしたね。
おいらは中澤さん支持かな。
次回も楽しみにしてます。
- 866 名前:ACM 投稿日:2005/09/25(日) 23:13
- >>862 春嶋浪漫様
レスありがとうございます。ライバル同士はやはり白熱しますね。
作者も書いててつい熱くなってしまいます。でも誰を出すのかが、本当に迷います。
ほんと、両方出したいのが本音ですね。
>>863 _様
レスありがとうございます。ごっちんはかなりヤバイですね。
やばさとかっこよさ、それが同居しているのがごっちんだと思います。
もっとその辺りが上手く表現できるよう、がんばっていきます。
>>864 ピクシー様
レスありがとうございます。中澤さんの悩み、それはすなわち作者の悩みでもあります。
果たしてどちらを使うのか、作者も迷っています。ならばいっそ安倍、後藤、松浦の3トップ、
「後浦なつみ」でも、とか思ってしまいます。
>>865 みっくす様
レスありがとうございます。白熱した試合と感じてくださって嬉しい限りです。
みっくす様は松浦さん支持ですね。現実でもそうですけど、
FWはかなり好みが分かれてしまいますね。果たして誰がピッチに立つのか、ご期待下さい。
おかげさまでスレも5枚目が終わりました。
次のスレは海板にたてたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。
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