Dear my Princess U
- 1 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/09/10(金) 15:47
- 花版で書いていた片霧カイトです。
今回からこちらに引っ越しして続きを書きたいと思います。
アンリアルなファンタジー。
主役は (●´ー`)<なっちだべさ!
それでは、よろしくお願いいたします。
前スレ Dear my Princess
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/flower/1073627455/
- 2 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:00
- 〜安倍なつみ〜
「えっと、この時にこうして……それでこうやるんです」
「こ、こうだべか……?」
「違いますよ。こうやって集めた風を固めていくんです」
「うぅ……難しいべさ……」
ここのところ私は毎日紺野にとある魔法を教えてもらっている。
でもまだなかなか上手くいかない……。
なんでも今特訓している魔法は、あの飯田圭織が編み出したオリジナルスペルで、
紺野も習得するにはずいぶん苦労したらしい。
私が使うにはレベルがまだちょっと足りないくらいなんだけど……。
私はどうしてもこの魔法を習得しなければならないんであって……。
- 3 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:01
-
Interlude 4 月夜の天使
- 4 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:02
- 「ふぅ……安倍さん、少し休憩しましょう」
「そうだね」
木陰を見つけて、紺野と一緒に座り込む。
お城の裏庭。
もうちょっと進めば、ごっちんと私の秘密基地がある森へと入る。
「やっぱり難しいべさ、オリジナルの魔法を教えてもらうってのは……」
「そうですね、私も飯田さんからこの魔法を教えてもらったときは大変でした。
でも安倍さんけっこういい感じですよ。集めた風をちゃんと固められるようには
なってきましたし、後はちゃんと羽根の形を作って維持できれば」
「ホントに!? よーし、がんばるぞー!」
私が紺野から教えてもらっているのは、風を集めて羽根を作る魔法「エンゼル・フェザー」。
その魔法を使えば自由に空を飛ぶことができるようになる。
- 5 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:02
- 「でも安倍さん……なんで急にこの魔法を?」
「んー、ちょっと……ワガママお姫様の命令だべさ……」
「あー……」
返答に困っている紺野に私も曖昧に笑い返す。
このあいだごっちんにこんな魔法があるんだよ、ってことを話したら、なぜか
「なっち、その魔法絶対覚えて!!」と強く言われた。
まだレベルが足りないとか、やることいっぱいあるとか言ってもごっちんは
聞いてくれず、しまいには「王女の命令!!」と言われて結局覚えるハメに
なってしまった。
ごっちん、そういうのは「職権乱用」って言うんだよ……?
- 6 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:03
- 「でもゴメンね、紺野。紺野もやることあるだろうになっちに付き合わせちゃって……」
「いえいえ、いいですよ! この前の呪の件では大変なことになっちゃったので
そのお詫びもしなければいけないですし」
「あ〜、あんまり思い出したくないべさ……」
「それにこのあと実験台を何人か私の研究室に送り込んでくださるんですよね?」
「う……わかってるべさ……。ののとかあいぼんとか送り込んであげるから……」
あぁ……こういうのも職権乱用って言うのかなぁ……?
- 7 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:04
-
◇ ◇ ◇
そして、数日後……。
「もういい、紺野ー!?」
「いいですよ、降りてきてくださーい!!」
背中に生えた風の翼を操作して、地上へと舞い降りる。
足が地上に着くと、背中の羽根はふわっとまた風に戻っていった。
「どう、紺野?」
「はい、カンペキです! エンゼルフェザー、ちゃんとマスターしたみたいですね!」
紺野の指導のおかげで、私はごっちんのご所望どおり、エンゼルフェザーを習得した。
空を飛ぶ感覚も、最初はおぼつかなかったけど、今はなかなか気持ちいい。
ちょっとクセになっちゃうかも……。
- 8 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:05
- 「ありがとうね、紺野!」
「いえいえこちらこそ。安倍さんがのんちゃんと加護ちゃん送り込んでくれた
おかげでまた新しい魔法をつかえるようになりました! 安倍さんも体感して
みますか?」
「ハハ……謹んで遠慮しとく……」
「そうですか。まぁ体感したくなったらいつでも言ってください!」
「・・・・・・」
のの、あいぼん……ゴメン……。
恨むんならごっちんを恨んでね……。
- 9 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:05
- 「さて、それでは私は研究室に戻ります。姫様によろしくです」
「あ、うん。ありがとね」
紺野の影が魔法陣を描き出し、そして紺野はその場から消えた。
私も表にまわり、城の中へと戻っていく。
そのまま廊下を歩いて自分の部屋へと向かう。
せっかくだからごっちんにご報告いたしますか。
- 10 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:06
- 「ただいまー」
「おかえり、なっちー!!」
「わわっ!?」
扉を開けて部屋に入ると、待ってましたとばかりにごっちんが私に飛びついてくる。
それはパタパタと振られている尻尾が背後に見えそうなくらいの勢いで。
私はのけ反りつつ、ごっちんの身体を抱きとめる。
「なっち、今日はどう? ちゃんと覚えられた?」
「覚えたよ〜? お姫様の命令どおり」
「ホント!? やったー! なっち、ちょっと使ってみてよ!!」
私のほうに背中を向けて催促するごっちん。
それは私が使ってるのを見たいんじゃなくて、羽根をつけてくれってことかな?
- 11 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:06
- 言われた通りに風の魔力を一点に集める。
そして暗記したばっかりの呪文を詠唱していくと、魔力の塊がどんどん周囲の
風を取り込んでいく。
羽根をイメージし、いざ魔法を放とうとして……ふと思った。
「……ごっちん、羽根なんか付けてどうするんだべさ?」
「えっ?」
「そもそもなんでなっちにこの魔法覚えさせたの?」
「えーと……それは……」
とたんに目が泳ぎ出すごっちん。
その目がちらちらと、部屋にある窓の方を向く。
……まさかっ!?
- 12 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:07
- 「まさかごっちん、この魔法で部屋から逃げ出すつもりじゃないんだべかっ!?」
「に、逃げ出すんじゃないよぉ! ただ空中散歩に行きたいだけで!」
「おんなじでしょや! ダメだよ、まだ危ないんだよ!!」
「いいじゃん、どうせなっちも一緒なんだから!!」
「な、なっちも行くんだべか!?」
「そんなの当たり前じゃん」
……このお姫様は……。
私は呆れて、集めた魔力を解く。
「ねぇ、なっち、お願いー!!」
「ダメだべ! 誰かに見られたら大騒ぎになるし、危ないし、それになっちは
お仕事があるんだべ!!」
「むぅ……」
机に座って書類を広げる。
ごっちんはそのあとなにも言ってこない。
ちょっときつく言いすぎたかな、と後ろを向くと、案の定ごっちんはむくれて
しょぼくれてた。
- 13 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:08
- ハァ……。
溜め息を一つついて、またデスクに向き直る。
「でも……なっちの仕事が終わって、夜になったら付き合ってあげるべさ……」
「えっ?」
ごっちんの声がいくぶん高くなる。
自分でも甘いかなぁ、とは思うんだけど……でも私はごっちんの喜ぶ顔がなにより
好きなんだし……しょうがないね……。
今度は椅子ごとごっちんの方に向く。
「そのかわり、ちゃんといい子でなっちが仕事終わらせるまで待ってるんだよ!」
「うん! ありがと、なっち〜!!」
「うわっ!?」
満面の笑顔に戻ったごっちんが、また私に飛びついてくる。
またなんとか受けとめるけど、今回はそれだけじゃすまなくて……
- 14 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/10(金) 16:09
- 「なっち大好き!! んっ!」
「ッ!?」
一瞬なにを言われたか……そしてなにをされたかわからなかった。
ナッチダイスキ……?
しかもそのあと頬に触れたのって……
……ごっちんのクチビル……!?
「ご、ごっち……」
「あはっ! じゃあごとーはいい子にお昼寝してまーす!」
ビュンと脱兎のごとくベッドまで走っていくごっちんを私はボケッと見送る。
ごっちんはそのままベッドにダイブし、あとは私のほうに背中を向けて動かなく
なった。
私も熱を持った頬をさすりつつ、机に向かう。
でも結局仕事に身が入らず、おかげで深夜までかかって、空中散歩には行けなかった
のは言うまでもない……。
- 15 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/09/10(金) 16:13
- はい、まぁ今日はこんなところで。
やっぱり最初は……ねぇ?
最初っからバトルってのもあれなんで、ちょっとほのぼのなお話を入れてみたり。
相変わらずな感じですが、改めてよろしくお願いいたします。
- 16 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/09/10(金) 16:13
- (●´ー`)<新スレだべ!
- 17 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/09/10(金) 16:13
- ( ´ Д `)<隠すよ〜!
- 18 名前:名も無き読者 投稿日:2004/09/10(金) 23:00
- 新スレおめでとうございます。
ん〜、イイですねほのぼのしてて。。。
やはりなちごまはこーゆーのも無いとw
これからもついて行くので頑張って下さいまし。
- 19 名前:闇への光 投稿日:2004/09/11(土) 00:54
- 初書き込みです。毎回楽しみに読まさせていただいています。
最初の方のやり取りを見て「この主人あってこの部下だな」と思い少しつぼでした。
次回の更新楽しみに待たさせていただきます
- 20 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/11(土) 22:33
- 新スレおめ。そして更新乙。
たまにはこういうのもアリですよね?
そうです。アリなんです!なんて(笑)
なちごまって・・・いいですねぇ〜!
次回更新、待ってますよ!
- 21 名前:みっくす 投稿日:2004/09/12(日) 06:48
- 更新おつかれさまです。
戦いを忘れるつかの間の休息って感じで、
なんかほのぼのしてていいですね。
次回も楽しみにしてます。
- 22 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:13
- そして次の日の夜。
私はふくれっ面をしたごっちんを前に、習得したばかりの魔法を組み立てていた。
「もぅ! なっち仕事遅いよー!! ごとーはいい子で待ってたのに!!」
「うぅ……ゴメンってば……。ていうかもとはといえばごっちんが……」
「んあっ?」
「な、なんでもない! 今夜はちゃんと付き合うから!」
風を集め、それを凝縮していく。
羽根をイメージし、魔法を放つ。
うまくいくかな……?
- 23 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:14
- 「エンゼル・フェザー!!」
風の塊が二つに分かれ、私とごっちんの背中に取り付く。
少ししたあと、風の塊はちゃんと羽根へと変わってくれた。
「わぁ、すごぉい!!」
ごっちんはしきりに背中の羽根をパタパタと羽ばたかせている。
私も少し動かしてみる。うん、しっかりとできたみたい。
するとその時、部屋に強い風が吹き込んできた。
見るとごっちんが部屋の窓を開けて、身を乗り出している。
- 24 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:14
- 「へへへー、なっちお先ー!」
「ちょ、ダメだべ! 羽根はちゃんと動かせるけど、少しは訓練しないと……!」
私が言い終わる前にごっちんは軽々と窓を乗り越えてしまった。
ごっちんの身体が一瞬で消える。
私は窓に駆けよった。
「ごっちん!? ごっちーんっ!?」
顔を出してみるけど、眼下には真っ暗な闇が広がるのみ。
ま、まさかごっちん……。
サーッと血の気が引いてくのがわかったけど、その時……
「やっほー、なっちー!!」
「うわっ!?」
私の上からごっちんが堕ちて……いや、降りてきた。
器用に窓の前で止まるごっちんの背中では、風でできた羽根がパタパタと
羽ばたいている。
- 25 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:15
- 「おもしろいねぇ、これ〜!」
「ごっちん……あんまりおどかさないでほしいべさ……」
慣れるの早すぎ、とか思いながら私も窓を乗り越えて、お城の外へと飛び出す。
羽根の羽ばたきを調節して、ごっちんと同じ高さに並ぶ。
「それじゃ、行こうか、ごっちん!」
「うん!!」
そして私たちは闇夜の中へ飛び出した。
天には宝石を散りばめたように、満天の星が輝いているのに、地は暗く静まり
かえっている。
ちょうど光と闇の狭間を遊泳している私たち。
「すごい星だねぇ、なっち……」
「そうだねぇ……まるで降ってくるみたい……」
いつもよりもちょっと近いところから見上げる星は、当然かもしれないけどいつもより
ちょっと近くに感じて。
掴めそうで思わず手を伸ばすと、となりでごっちんも同じことをしてて、顔を
見合わせて笑った。
- 26 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:16
- その時空が少し明るくなった。
どうやら雲の影から月が出てきたみたい。
「あっ、なっち、見て見て〜! 月が出たよ〜!!」
「うん。今日は下弦の月だね」
やがて半分だけの月が完全に雲の間から姿を現した。
淡い月明かりに照らされてごっちんの顔に細かな陰影が作りだされる。
闇夜に映える背中の羽根。月明かりを纏ったごっちんの白い肌と笑顔。
その出で立ちが私の目を釘付けにする。
……なんか、ごっちんすごく綺麗に見える……。いや、いつも綺麗だけど……。
そうしていると……なんか本物の天使みたいだよ……。
これは魔性の月が魅せる幻影なのだろうか。それとも……。
- 27 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:18
-
◇ ◇ ◇
そのあと私たちはしばらくの間、星の海を漂っていた。
楽しくて、気持ちよくて、思わず夢中になっちゃったけど、そろそろ身体も
冷えてきて。
「ごっちん、冷えてきたしそろそろ帰ろうか?」
もう十分空中散歩は堪能しただろうと、ごっちんに声をかけると、今まで私のとなりに
ついてきていたごっちんが、今は私の後ろのだいぶ離れたところにいる。
「あれ? ごっちん、どしたの?」
「うーん……なんか羽根が思うように動いてくれなくなっちゃって……」
「えっ?」
ごっちんの羽根に視線を移す。
するとさっきまでくっきりと夜空を白く切り取っていた羽根が今は少し霞んで
見える。正確には羽根が透けている。
透けて?……てことはもしかして羽根が弱まっている?
……てことは……
- 28 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:19
- 「やばっ、時間切れだ! ごっちん!!」
「えっ!?」
あわててごっちんの手を取ろうとしたが、その前にごっちんの羽根は完全に
消え去ってしまった。
「き、キャァァァァアーーー!!」
浮力を失ったごっちんの体は、星が瞬く夜空の中から地上に広がる闇の
中へと、真っ逆さまに墜ちていった。
- 29 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:20
- 「ごっちん!」
羽根の向きを変えると全速力でごっちんを追う。そして必死で手を伸ばした。
「なっちー!!」
ごっちんも私に向けて必死になって手を伸ばしている。
なんとか伸ばされた手を掴もうとするけど、どうしてもすり抜けてしまう。
「ごっちん!!」
「なっち!!」
地上がどんどんと近くなっていく。
間に合えッ!!
必死の思いでなんとか伸ばした手が、ごっちんの指に微かに触れた。
その瞬間、私はしっかりと手を握りしめると、そのままごっちんを抱き寄せた。
羽根の向きを変え、再び星空の中へ上昇する。
- 30 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:20
- 「ハァ、ハァ、ごっちん、大丈夫!?」
「……うん」
「ごめん。自分以外に羽根をつけると一定時間しかもたないんだったべさ」
「大丈夫だよ。そりゃあちょっとは怖かったけど、ちゃんとなっちが助けてくれるって
信じてたから。ありがとね」
「あっ……いや……」
天使のような微笑みで上目遣いにお礼を言われては、どうしても顔が赤くなってしまう。
気づけば助けるためとはいえ完全にごっちんを抱きしめてちゃっている。
驚くほど近い顔。
ほのかに漂ってくるごっちん独特の香水のかおり。
衣服越しに伝わってくる体温。
胸がドキドキする……なんで?
ごっちんを抱きしめたことなんて何回もあるのに……。
今だっていつもと同じようにごっちんを抱きしめてるだけなのに……。
- 31 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:21
- 「なっち、どうしたの?」
「えっ、イヤ、何でもないべさ! それよりいったん地上に降りよ!」
私はなんとか理性を保ちつつ、背中の羽根を羽ばたかせて、今度はゆっくりと
地上に降りていく。
どうやら真下は森の中だったみたい。
地上へと降り立ち、そこでやっとごっちんを離す。
「ふぅ、今度はもっとしっかり作るから」
「うん、お願いね!」
私は再び風を集めると、ごっちんの背中に新しい羽根を形成した。
「それじゃ早く帰らないと。本当に風邪ひいちゃう」
「そうだね」
そして私たちは地面を蹴って、再び夜空の中へと舞い上がっていった。
- 32 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:22
- 「今度の羽根は大丈夫?」
「………たぶんお城まではもつと思うけど……」
「ふ〜ん……あっ、それなら!」
ごっちんは少し前を行く私になんとか追いついてきた。
そして……
「えっ、ごっちん!?」
「こうしていればもし翼が消えちゃっても大丈夫でしょ?」
「う、うん……そうだね」
不意に手に感じた体温に焦る。
見るとごっちんが横に並んでいて、私の手を握っていた。
しかもしっかりと指まで絡めてあるし……。
- 33 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:22
- 「なっちの手、あったかいな」
それはきっとドキドキしてるから。
わけもわからず……ドキドキしてるから……。
このドキドキは……なんだろうね?
私たちは手を繋いだまま、夜空の中をお城に向かって飛んでいった。
空に浮かぶ下弦の月が私たちを優しく照らしていた。
- 34 名前:Interlude 4 投稿日:2004/09/16(木) 20:23
-
- 35 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/09/16(木) 20:27
- Interlude 4の後編でした。
一話丸ごとなちごまでほのぼのってのは考えてみれば初ですねぇ。
こんなのもちょこちょこっと書いていきたいです。
>>18 名も無き読者 様
ほのぼのでした。やっぱりなちごまにはこんな感じのもなければですね!
これからも時間と機会さえあれば挟んでいきたいです。
- 36 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/09/16(木) 20:33
- >>19 闇への光 様
初めましてです。片霧カイトと申します。
最初のやりとりはちょっと……狙ってみたり。
ま、なっちも少しずつ染まってるってことで(笑 哀れ、辻加護。
>>20 紺ちゃんファン 様
はい、もうありです、ありです! アリまくりです!!
なちごま、なちごま!!(壊
>>21 みっくす 様
たまにはナイトも休息ってことで。
でも姫に振り回されているのを見ると、あんまり休息になってない?
でもなっちも楽しそうなんでOKですね。
- 37 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/17(金) 21:49
- >>36片霧カイト さま。
かなり興奮気味なようで(汗
気持ちはとってもわかります!
なちごまって最高ですよね!
ほわ〜んとしてて・・・。
う〜ん、和む。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 38 名前:konkon 投稿日:2004/09/19(日) 01:14
- 新スレおめです
なちごまほんわりしてていいですね〜♪
コンコンの実験台・・・怖いですw
- 39 名前:名も無き読者 投稿日:2004/09/20(月) 22:23
- 遅れましたが、更新お疲れ様です。
いんやー、やはりイイですねなちごまはw
ポワワとします。(爆
さて、これからどうなっていくのでしょうか、楽しみにしてます。
- 40 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:38
- 〜矢口真里〜
「ヤグチさ〜ん! もう少しで着きますよ〜!!」
「そっか、わかった!」
となりに並んだアヤカの声で、オイラは現実世界に戻ってきた。
どうやら吹き抜けていく風を感じつつ、だいぶ長いあいだボーっとしていたみたい。
その証拠に見える景色もだいぶ変わっている。
ちょっと上を見上げてみると、ロマンス王国を出たときよりさらに暗くなっていた。
真っ黒な雲が空を覆い尽くしている。
「雨、降りそうだな……」
「そうですねぇ、これはそのうち降りますねぇ」
そんなことを話しているうちに、どうやら国境を越えたみたいだ。
ということは第一の目的地にもうすぐ着く。
- 41 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:38
- 結局いい考えも浮かばないまま、この日を迎えてしまった。
今朝、女王様からアヤカに出撃命令が下り、そしてオイラとアヤカはロマンス
王国城を出た。
さすがにオイラもこれだけのアヤカの"友達"を一人では相手にできない。
このままでは『ハロモニランド』も『ピッコロ王国』の二の舞になってしまう。
なら、今だけは……なっちたちに懸ける……。
『ハロモニランド』……守ってよ。
やがて、オイラの眼下に砦に囲まれた城塞都市が見えてきた。
そしてちょうど、世界を洗い流すような雨が降り始めた。
- 42 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:39
-
第13話 雨の中
- 43 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:39
- 〜安倍なつみ〜
ザアアァァァァッ……
本格的に降り始めた雨の中、幾度となく剣がぶつかる。
「ギイィィンッ!!」という鈍い音が響き、すぐに雨音に吸い込まれていく。
「雨も降ってきたし、いい加減終わりにしようか?」
「望むところだべさ!」
雨で滑らないように、しっかりと剣の柄を握り直す。
私の目の前にいるさやかも同じように二本の剣を握り直している。
右を順手で、左を逆手で。
- 44 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:40
- 「行くよ、なっち!!」
さやかが駆け出す。ぬかるんだ足下でもそのスピードはほとんど衰えていない。
まず左手の剣を真横に一閃。
剣を垂直に立て、攻撃を受けとめる。
するとすぐに右手の剣が頭上を狙って振り下ろされてくる。
剣を弾きつつ後方に飛ぶ。
目の先を剣が通りすぎていった。
「やるじゃん……」
「今度はこっちから行くべさ!」
ぬかるんだ大地を蹴る。
水溜まりを飛び越えて、真っ直ぐさやかのもとへ。
そして握った剣を振り下ろす。
- 45 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:41
- ガイィィンッ!!
さやかが左手に握った剣で受けとめた。
でも私はすぐに剣を構えなおし、すぐに斬りかかっていく。
「なっ?……くっ!」
息もつかせぬ連続攻撃。
さやかは双剣士。だから二倍以上のスピードで攻撃しなければ必ず反撃を
受けてしまう。
「なかなか速くなったじゃん……」
「あたりまえだべさ!」
- 46 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:42
- 二本の剣をかち上げ、そして開いた身体に当て身をくらわせる。
「くっ……!」
さやかの体勢が崩れた。
剣をいったん引き、そして突き出す。
狙うはさやかの左肩。
「もらった!!」
「……ふんっ!」
剣を突き出した瞬間、崩れかけていたさやかの体勢が一瞬にして立てなおされた。
なっ……? しまった、罠っ!?
さやかは突き出した私の剣を簡単にかわし、剣を振り上げる。
「残念でした!」
そして振り上げられた剣は、私の頭上めがけて落ちてきた。
- 47 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:42
- ゴンッ!!
「いったーっ!!」
「あはは、今日はアタシの勝ちー♪」
うぅ〜……ホントに当てるな! 訓練なんだから寸止めしてよ!!
木剣だってあたると痛いんだよ!!
「くっそー、明日は負けないべさ!!」
「返り討ちにしてやる!」
- 48 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:43
- ここのところ私はよくさやかと一緒に訓練することが多くなった。
そもそも私は騎士の他に執事もしているから、騎士団のみんなと訓練の時間が
どうしても合わないし、私個人の部隊も持っていないから、だいたい一人で訓練
してたんだけど。
でも最近は私の訓練にさやかが付き合ってくれるようになった。
ちょうどお互い一人で訓練してたし、それにさやかとはけっこう切羽詰まった
打ち合いができる。
近頃はお互いけっこう楽しんで、でも本気を出して勝負していた。
「あ〜、びしょ濡れだ〜」
「やっぱ降ってきたねぇ〜」
「おつかれさま、なっち、いちーちゃん!」
訓練場から城内に戻ると、私たちの訓練を見学していたごっちんがタオルを
渡してくれた。
顔や頭を拭くけど、どうやら相当濡れたようで、すぐにタオルがびしょびしょに
なってしまった。
- 49 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:44
- 「あ〜、もう、二人とも濡れすぎだよ! そんなんじゃ風邪ひいちゃうよ!!」
「そうだね。お風呂でも入りにいこっか、さやか?」
「あっ、ごとーも入るー!!」
私はさやかを誘ったんだけど、なぜかごっちんが私の手を引っぱってきた。
ていうかごっちんは入る必要ないっしょ……。
そんな私たちの様子を見てさやかはクスッと笑っていた。
「先入ってきなよ。アタシはあとで入るから。邪魔はしないよ?」
「えっ? じゃ、邪魔って……」
「ほら、なっちー! 早く行かないと風邪ひいちゃうってばー!!」
「わぁっ! ちょっとごっちん待って……」
- 50 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:45
-
◇ ◇ ◇
ハロモニランド城には大きな浴場があり、城に住んでいる人間は基本的にそこを使う。
24時間いつでも入れるようになっているが、さすがにまだ昼前なので、誰もいなかった。
「わ〜い!」
ザブーン、とごっちんが湯船に飛び込む。
「こらっ! はしたないっしょ!!」
そんな行為をたしなめつつ、私もごっちんのとなりに座ると、待ってましたとばかりに
ごっちんがもたれかかってくる。
ごっちんの髪が首筋を撫でるのがこそばゆい。
ごっちんには一応専用のお風呂があるんだけど……まぁ、今は誰もいないからいいか……。
- 51 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:45
- 「そういえば、なっちと一緒にお風呂入るのって久しぶりだねぇ〜!」
「う〜ん、そうだねぇ」
確かに子供のころはいっつも一緒に入ってたけど……
最近は一緒に入った記憶ないなぁ……。
「最後に入ったのって……お互い胸なんかまだぺったんこだったよねぇ」
「……なっちはちょっとはあったべさ……」
「え〜? でもこぉんなにはなかったでしょ?」
「キャッ!! も〜、やったなぁー!!」
「や〜ん、なっちのえっち〜!!」
「ぷあっ! このぉ!!」
バシャッとお湯をかけられたので、お返しに私もお湯をすくってかける。
そのあとはお風呂の中でパシャパシャとふざけあっていたけど、お湯をかけようと
したら急にごっちんが抱きついてきた。
- 52 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:46
- 「なっ!? ちょ、ご、ごっちん……?」
「あはっ! なっちあったかーい! お湯よりあったかーい!!」
顔が真っ赤になったのは湯気のせいじゃないはず。
裸の肌が触れ合って、恥ずかしくもドキドキする。
けど……
「スキありっ!!」
「!?」
急に両肩に力が入り、身体が傾く。
そして頭の先までお湯に包まれ、天井の灯りが揺らいで見えた。
もがいてなんとかお風呂から顔を出す。
- 53 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:47
- 「プハッ! ごっちん、ヒドいべさっ!!」
「にゃはは〜、ごめんね、なっち?」
「もうっ!! ごっちんなんて知らないっ!!」
プイッとごっちんと逆の方向に顔を背ける。
後ろでごっちんが慌ててるのが手に取るようにわかる。
「んあぁっ! なっち、ごめーん!!」
「許さないもーん!!」
ごっちんから逃げるようにお湯の中を移動する。
すると当然ながらごっちんも私を追いかけてくる。
そして今度はお風呂の中でおいかけっこ。
- 54 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:47
- ちょっと後ろを向いてごっちんの顔を見てみると……
ありゃ……ちょっと泣き出しそうな表情……。
しょうがない、捕まってあげますか。
逃げるスピードを少し落とすと、その瞬間にごっちんの手が私を捕らえる。
「なっち捕まえた〜!!」
「あーぁ、捕まっちゃったぁ」
ごっちんに身体を引き寄せられて、ギューッと抱きしめられる。
肩や背中に感じる、お湯とは違ったほのかな温もり。
さらにごっちんは私の肩の上に顔をのせ、ほっぺたをスリスリとすり寄せてくる。
ちょっとくすぐったくて、私も負けじとほっぺをすり寄せ合う。
- 55 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:48
- 「もぅ……ごっちんはぁ……」
「甘えただもん!」
「先に言うな!」
まったくこのお姫様は!
甘えたで、ワガママで、いつまでたってもお子ちゃまで(身体はもう十分オトナ
なんだけど)……でもそれが可愛くて……。
ごっちんの腕にかかる力が強くなる。
まるで私を自分の中に閉じこめようとするみたいに。
顔がカーッと熱くなる。
なんだろ……もうのぼせちゃったかな……?
- 56 名前:第13話 投稿日:2004/09/23(木) 11:49
- そんなことを考えていると、急に浴場の扉が開いた。
慌ててごっちんから離れて、肩までお湯に浸かる。
入ってきたのは圭ちゃんだった。
「なっ、圭ちゃん!? まさか覗きに来たのっ!?」
「バカッ、違う!! 緊急事態なんだよ!!」
「えっ?」
圭ちゃんの声と表情には一片のからかいも含まれていなかった。
またなにかが起こった……?
私は湯船から飛び出した。
- 57 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/09/23(木) 11:53
- 今日はここまでです。
そして、ごっちん誕生日おめでと〜!!
というわけでちょこっと本編でなちごま延長です。
しかしあんまりめでたい気がしないのはなぜだろう……?
- 58 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/09/23(木) 11:59
- >>37 紺ちゃんファン 様
はい、かなり興奮気味です。
最近はなにげになちごまがけっこう多くって!
やっぱりほわ〜んと和みますよねぇ!
>>38 konkon 様
なちごまはやっぱりほんわりとしてるのが一番ですね!
紺野はなんか最近違う方向に目立ってきたような……。
>>39 名も無き読者 様
今回もなちごまちょこっと挟みましたが、一応今回から新展開のつもりです。
最近お休み中だったアクションシーンもいろいろと……。
ではでは、こちらでもよろしくお願いします!
- 59 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/09/23(木) 12:00
- ( ´ Д `)<隠すよ〜! 19歳だよ〜!
- 60 名前:名も無き読者 投稿日:2004/09/23(木) 13:17
- 更新お疲れサマです。
久々アクションシーン、いい感じデスw
なちごまも延長で、しかし何やら不穏な空気が。。。
何かが起こりそうな期待に胸躍らせつつ、次回も楽しみにしてます。
- 61 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/09/23(木) 18:08
- 更新お疲れ様です。
ネタバレしない程度だとあんま言えないです・・・。
なちごまいいかんじ!(ブイッ
次回更新を待ってるがし(笑)
- 62 名前:みっくす 投稿日:2004/09/23(木) 22:11
- 更新おつかれさまです。
なちごまは相変わらずいい感じで。
なにやら矢口さんの真相がわかりつつあるような感じが。
次回も楽しみにしてます。
- 63 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:51
- バタンッ!
国王の間の扉を開ける。
そこには圭ちゃんを始め、松浦、のの、よっすぃー、紺野と王宮騎士の各隊長が
揃い、さらにさやかまでいた。
みんなのもとへ駆けより、足が止まる。
ごっちんが「うっ……」っと呻いたのがわかった。
私も顔を背け、ごっちんの身体をそっと抱き寄せた。ごっちんの震えが身体に
伝わってくる。
ごっちんは私の肩に顔を埋め、私の服を鷲掴みにした。
- 64 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:52
- みんなに囲まれるようにして、一人の鎧を着た兵士が倒れていた。
その周囲だけ、絨毯の色が黒ずんだ赤になっている。
兵士は全身傷だらけで、血が溢れており……
……右腕が、もぎ取られたように無かった……。
女王様が必死に回復魔法をかけていた。
あの人、見覚えある。
確か……
そっとごっちんの身体を離し、兵士のそばに座り込む。
「あなたは……城塞都市『ピース』の兵士長?」
「……なつみ様…ご報告いたします……。城塞都市『ピース』は……ロマンス王国の
手に落ちまし……た……」
「えっ!?」
「なっ?」
私とごっちんの声が響いた。
どうやら圭ちゃんたちは先に報告を聞いたらしい。
- 65 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:53
- 「いったい……なにがあったの?」
「ロマンス王国の軍団が……攻めて参りました……。『ピース』は数時間と保たずに……
陥落しました……」
「そんな……最終的には籠城と言うこともできたはずでしょ? そうすれば援軍を
呼ぶくらいの時間は……」
「……無理だったのです……。奴らは……砦より遙か上空からやってきました……」
「ゴホッ!」っと一回兵士長が咳き込んだ。
それと同時に口から大量の血が溢れた。
「敵は……死神のような大鎌を持った黒い魔女と……」
「ヤグチ……」
「そして……ドラゴンの軍団…で…す……」
兵士長の残った左手が力なく床に落ちた。
女王様が回復魔法をかける手を止める。「間に合わなかったか……」と苦々しく呟いた。
- 66 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:53
- 「紺野、映せる!?」
「はいっ!」
圭ちゃんが紺野に呼びかけると、紺野は水晶玉を取り出して、なにやら唱え始める。
しばらくすると水晶が光り、透明だった表面に映像が映し出された。
みんなして水晶を覗き込む。
そしてみんな一様に言葉を失った。
「……こ、こんなに……?」
圭ちゃんの呟きがすべてを物語っている。
さらに強くなった雨の中、いくつもの影が蠢いている。
ときおり雷光が閃くと、その影が映し出された。
- 67 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:54
- 「紺野、距離は!?」
「ゼティマ東5q!! すぐに来ます!!」
「くっ、わかった! 1番隊、2番隊、3番隊は住民を城に避難させて!」
「わかりましたっ!」
「はいっ!!」
「おっけー!!」
命令を飛ばすと、すぐに松浦、のの、よっすぃーが駆け出す。
「圭ちゃん、4番隊は避難してきた人を城の中へ入れて! あと近隣の都市への伝令を!」
「わかった、すぐやる!」
「紺野、5番隊はゼティマの結界を強化して時間を稼いでっ!!」
「わかりました! でも……あの数のドラゴン相手ではそんなには保ちませんよ……」
「あっ、私も結界張るの手伝うで!」
圭ちゃんと紺野も駆け出し、女王様も紺野に続いた。
私も手に持ったままだったマントを羽織る。
- 68 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:55
- 「さやか! なっちたちも住民の避難を……」
「あっ、なっち、待って!」
あわてて走り出そうとした私を止めたのは、他でもないさやかだった。
「さやか……?」
「避難はアタシがやるからさ、なっちは後藤のそばについててあげてよ」
「えっ……?」
言われて気づいた。
あわてて後ろを振り返ると、ごっちんは亡くなった兵士長のそばに座り込んで呆然としていた。
そっか……ごっちんは、こんなふうに目の前で誰かが死ぬのって……初めてだったんだ……。
「避難はアタシらに任せて!!」
「わかった! お願いね!!」
さやかも部屋から飛び出していく。
さやかの背中を見送ったあと、私はまだ呆然としているごっちんの元へ、静かに歩み寄る。
そして座り込んでいるごっちんを、背中からギュッと抱きしめた。
身体にわずかな震えが伝わってきた。
- 69 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:56
- 「なっち……戦争って……こんなふうに人が死んでくの……?」
「……そうだよ……」
「……なっちも……人、殺すの……?」
「……殺……すね。事実、今までも殺してきた……」
すると急にごっちんが動いた。
前に回した私の腕をふりほどき、そのまま私のほうに向き直る。
そしてごっちんの手が私の襟首をつかみ、私はごっちんに強引に引き寄せられた。
覗き込んだごっちんの瞳。
涙と、そして深い悲しみで溢れていた。
- 70 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:56
- 「何でよ……? なんで戦争なんかするの!?」
「……なんでだろうね? なっちもわかんない……。でも……」
襟にかけられた手をゆっくりやさしくほどいていく。
そしてごっちんの両手をギュッと包み込んだ。
「ごっちん、これだけはわかってほしいんだ。なっちたちは、誰かを殺すためじゃなくて、
大切な人を守るために戦ってるってこと」
「……違うの……?」
「違うよ……」
ごっちんを今度は正面から抱きしめる。
できれば……ごっちんには戦争なんて味わわせたくなかったな……。
- 71 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:57
- 「なっちもね、みんなを守るために戦ってるの。王宮騎士のみんなや、ハロモニランドに
住む人たちのために。でもね……なっちは、一番にごっちんを守りたい」
「えっ……?」
「ホントは目に映る人みんなを守りたいよ? でもまだなっちは弱いから、そんなにいっぱいの
人は守れない。それでも……ごっちんだけは必ず守ってみせる」
「なっち……」
自然と口から零れた言の葉。
でもそこに嘘や偽りは一欠片もない。
こわばっていたごっちんの身体から力が抜けていく。
もう一度、そっと、優しくごっちんの身体を抱きしめた。
- 72 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:58
- でもその時、ズン、という重低音とともに、城に衝撃が走った。
部屋の一角が破壊され、そこからドラゴンが一匹飛び込んできた。
「くっ……来たか」
剣を抜き、ごっちんを守るように前に出る。
ドラゴンは爛々と輝く赤い目で私を見定めるように睨んでいる。
というよりは私の出方をうかがっているようだ。
他のモンスターとは違う、ドラゴンにだけ見られる賢さとしたたかさだ。
ドラゴンの開けた穴からちらっと外をうかがい見る。
他のドラゴンが入ってこないところを見ると、どうやら結界が新しく張られたみたい。
一匹だけなら……何とかなる……。
- 73 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 00:59
- 「ごっちん……下がってて……」
でもごっちんは首を横に振った。
そして私の袖をキュッとつかむ。
「ごっちん、危ないんだよ?」
「でも…なっち……」
「さっきも言ったっしょ? ごっちんのことはなっちが絶対に守るって」
それでもごっちんは袖を離してくれない。
「ごっちん?」
「……守ってくれるのはすっごく嬉しいよ? でも……それでなっちが……死んじゃったら……
ごとーは嬉しくも何ともないんだよ?」
「ごっちん……」
「だからごとーにもなっちを守らせて? なっちのこと……ごとーが絶対に守ってみせる!」
あぁ、そうだったね……。
ごっちんはこういう人だったね……。
ごっちんの方を向いて、優しく微笑みかける。
- 74 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 01:00
- 「わかった。じゃあなっちのこと援護してね? 一緒に戦おう!」
「うん!」
ごっちんもいくぶん笑顔になり、袖を離してくれた。
私は剣を握りしめ、ドラゴンと対峙する。
「行くよ、ごっちん!!」
床を蹴って駆け出す。
それと同時にドラゴンも動いた。
大木のような腕を振り上げ、横に薙いでくる。
「くっ!」
なんとか屈んで腕をかわす。
ドラゴンの腕は私の頭のすぐ上を通りすぎていった。
そのまま剣を振り上げたけど……
キィン!!
ドラゴンの鱗に弾かれる。
くっ……! やっぱり鱗を切り裂くのは難しいか……。
そんなことを考えてる暇もなく、今度はドラゴンの鋭い牙が襲いかかってくる。
- 75 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 01:00
- 「スター・マイン!!」
剣で牙を受けとめようとしたとき、背後から光球が飛んできて、ドラゴンの身体にあたり炸裂した。
思わず後ろをふり返る。
そこにはごっちんが手に光を集めて立っていた。
集まった光がリング状に収束していく。
「オキサイド・リング!!」
放たれた光の輪は回転しながら飛んでいき、ドラゴンの片翼を胴体から切り離した。
『ギャアァァアッ!!』
ドラゴンの咆吼が反響する。
- 76 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 01:01
- 「なっち、今だっ!!」
「うんっ!!」
剣を水平に構えてドラゴンに突進する。
そして鱗の隙間を縫って、剣をドラゴンに突き刺した。
『ギャアアァァァアアッ!!』
ドラゴンの咆吼が大きくなる。
暴れて振り回される腕をなんとかかわしながら魔力を集め、魔法陣を描き出す。
あとは突き刺した剣を伝わらせて、体内に強力な電流を流し込めば……!
「食らえッ! ライトニング・ボルテックス!!」
黄色に輝く魔法陣から放たれた雷刃が剣に命中する。
そして剣を伝い、ドラゴンの体を蝕んでいく。
- 77 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 01:02
- 「よしっ! 終わりっ!!」
電流が流れ込んだのを見届けて、剣を引き抜く。
そのままごっちんのもとへ引き返そうと思ったけど……
「なっち! 後ろッ!!」
「え!?」
ごっちんの切羽詰まった声で私は後ろをふり返る。
倒したと思ったドラゴンはまだ倒れていなかった。
いや、それ以上に、電撃が効いていない!?
しまった! まさかコイツは……ドラゴンの中でも雷に抵抗のある珍種、サンダードラゴン!?
『ガアアァァァアアッ!!』
「うわっ!?」
ドラゴンの口から吐き出された雷のブレス。
身体が痺れ、思うように動かせなくなっていく。
明滅するスパークの中、ドラゴンが腕を振りかぶったのが見えた。
まずいッ!!
なんとか腕で身体をガードし、後ろに飛ぶと同時に、体を衝撃が襲い、私は吹っ飛ばされた。
- 78 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 01:03
- 「なっちっ!!」
ごっちんが駆けよってきて、痺れとダメージで横たわったままの私の身体を
抱き起こしてくれる。
ごっちんの身体に包まれると同時に、優しい光が私を包む。
傷を、痺れを、ダメージをすべて癒していく、ごっちんの奇跡の魔法。
「なっち、大丈夫!?」
「うん……なんとかね……」
痺れのとれた体をなんとか起こす。
しかし……どうしよう……? 剣も魔法も効かない……。
コイツに私は勝てるのか……? ごっちんを守るって誓ったのに……。
絶望に囚われかけたとき、ごっちんの手が私の剣を握っている手を包み込んだ。
- 79 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 01:03
- 「ごっちん?」
ごっちんはなにやら呪文を唱えている。
そして……
「シャイニング・ブレード!!」
「!?」
ごっちんの手から溢れた光が私の剣に伝わっていく。
その光はごっちんが手を離してからも絶えることはない。
「これは……?」
「ごとーの光魔法をなっちの剣に送ってるの。これならドラゴンの鱗でも
切り裂けるかもしれ…な……」
「ごっちん!!」
最後まで言い終わる前にごっちんの身体がゆらっと傾いた。
そうだ、光魔法は身体に負担が……!
慌ててごっちんの身体を抱きとめる。
剣に伝わった光が少し弱くなった気がした。
- 80 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 01:04
- 「大丈夫……ごとーは大丈夫だから……」
荒い息ながらもごっちんはまた気丈に自分の足で立ち上がる。
剣が光を取り戻した。
「……わかった。でもごっちん、絶対ムリだけはしないでね?」
「うん」
光を伝えた剣を構えて地を蹴る。
吐き出される雷のブレスを、シールドを張ってはじき返し、ドラゴンの足に向かって剣を振るう。
今度は音が響かなかった。また大した抵抗も感じない。
ドラゴンの足に一線、紅い線がはしった。
- 81 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 01:05
- 『ギャアアァァァアアッ!!』
激しい咆吼とともに振り回される腕。
その腕をかいくぐり、また斬りつける。
斬れる……これならいける……。
ごっちんの方を向き、笑顔を送る。
ごっちんも笑顔を返してくれた。
「トドメだッ!!」
光の剣を振り上げる。
だが振り下ろす直前、室内に再び轟音が響いた。
振り下ろすのを躊躇した私に、容赦なく雷のブレスが襲ってくる。
いったん飛び退き、轟音がした方を確認する。
壁に新しい穴が開き、そこから別のドラゴンが室内に入り込んでいた。
結界が破られた……?
さすがに光の剣をもってしても、ドラゴン二匹を相手にするには分が悪すぎる……。
ごっちんを守るようにごっちんの前に立つ。
『グルルルル……』というドラゴンの低い唸り声が響いてくる。
タイミングでもあわせているのだろうか? どちらにしろ今すぐにでも襲いかかってきそうな状況だ。
でもその時……
- 82 名前:第13話 投稿日:2004/10/01(金) 01:06
- 「Wait!!」
室内に響いた声でドラゴンの唸り声がやんだ。
それはまるで犬をしつけるかのような声。
誰だ……? この声に聞き覚えはない。
正面にあった部屋の扉から一人の女性が室内に入ってきた。
ドラゴンは今まで凶暴に暴れてたのが嘘のように、おとなしく彼女を見つめている。
コイツはいったい……?
彼女は悠々とドラゴンの前を通りすぎ、私たちの前に現れた。
- 83 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/10/01(金) 01:11
- 今回はここまでです。
ようやく本格的な(?)バトルの始まりです!
今回はみんながみんなちゃんと活躍できる……はずですので
長くなりそうですがよろしくです。
もちろんなっちも活躍しますよ〜!
- 84 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/10/01(金) 01:16
- >>60 名も無き読者 様
前回のアクションシーンはデモみたいなものでしたが、そう言って頂けてよかったです。
不穏な空気はこんな感じになっちゃいました(笑
>>61 紺ちゃんファン
なちごまは書いてても楽しいです!
ラブラブいちゃいちゃななちごまもいいですけど、今回もけっこうなちごまかも?
>>62 みっくす 様
なちごまは相変わらずです(笑
矢口さんは今回の戦いにも参加してるのでそちらも待っていてください。
- 85 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/10/01(金) 01:17
- (●´ー`)<隠すべさ!
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/01(金) 15:37
- だ、だれだ!?続きが気になるよぉ。
- 87 名前:みっくす 投稿日:2004/10/01(金) 17:23
- おお、はじまったべさ。
興奮する展開たべ。
次回も楽しみにしてます。
- 88 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/10/02(土) 02:17
- おお、ついに始まったね。
どうなるんだろうねぇ。
続き待ってます。
>>84
なちごま最高!!!
- 89 名前:konkon 投稿日:2004/10/02(土) 03:25
- いいですね〜。
ごっちん可愛すぎですよ♪
うちの小説とは大違い(汗)
- 90 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:28
- 〜紺野あさ美〜
「くぅ……」
女王様や5番隊の仲間と一緒に、ゼティマを覆う結界に魔力を送り続ける。
でも無数のドラゴンが一点に集中して結界を突き破ろうとしている様子が水晶に
映し出されている。
ドラゴンはモンスターの中で力も知能も最高の種族。
さすがにドラゴンが群がっているところから、結界に亀裂が入り始めた。
- 91 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:28
- 「ダメです、もうもちません!!」
結界がかき消された。
そしてドラゴンたちはゼティマの中へと攻め込んでくる。
女王様が水晶を取り出した。
水晶が淡く輝き、そこに保田さんの顔が映し出される。
「圭坊、避難はどれくらい済んでる!?」
『今やっと半分くらいです!!』
「結界が破られた! 住民の避難を優先しつつ、ドラゴンの討伐! いいな!?」
『わかりました! 松浦たちにも伝えておきます!!』
そこで通信は切れた。
水晶が輝きを失っていく。
- 92 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:29
- 「紺野、5番隊もドラゴンの討伐と住民の避難に! 城は私がなんとかするわ!!」
「わかりました! 行くよ、みんなっ!!」
「紺野! わかってると思うが、住民の避難と救助が最優先やで!!」
「はいっ!!」
あとのことを女王様に任せて、私たちは城を飛び出す。
城下町では至るところでドラゴンが暴れていて、避難し遅れた住民があたりを
逃げまどっていた。
しかもそれでもまだ上空には無数のドラゴンが舞っている。
- 93 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:30
- 「私と愛ちゃんと里沙ちゃんでドラゴンを食い止めるから、みんなは逃げ遅れた人を
助けてあげて!!」
『ハッ!!』
隊員に指示を飛ばすと、みんな電光石火の速さで散っていく。
さて、まずは上空のドラゴンを叩き落とさなければいけない。
雷の魔力を集め始めたとき、頭上で、ズンッ、という鈍い音が響いた。
上を見上げてみると、ドラゴンが一匹城に突っこんでいた。
でもほとんど同時に城の周りに光の結界が形成され、続くドラゴンたちを
シャットアウトした。
おそらく女王様の張った結界だろう。でもやっぱり城の周囲が限界だったらしい。
安倍さんが残っているからドラゴン一匹だけなら何とかなるだろうけど、さすがに
これ以上は厳しい。
ならまずは……あの結界に群がっているドラゴンたちをなんとかしないと……。
- 94 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:31
- 「里沙ちゃん!」
「準備できてるよ! プラウス・マジック!!」
黄金に輝く魔法陣が私たちを包み込む。
ドラゴンにはハンパな威力の魔法じゃまったく効果がない。
「愛ちゃん、全力で行くよ!!」
「わかってる!」
雷の魔力を一つに集めると、集まった魔力はどんどん膨れあがっていく。
呪文を詠唱して魔法陣を作り上げる。
黄色く輝く巨大な魔法陣が、薄闇の中浮かび上がった。
「行くよ、愛ちゃん!!」
「おうっ!!」
「「サンダー・ストーム!!」」
- 95 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:32
- 立ちこめていた暗雲からまばゆい稲妻が降り注ぎ、空を飛んでいたドラゴンを
次々と叩き落としていく。
ズゥン、ズゥンと轟音が響き、ドラゴンの巨体が落ちる衝撃で地面が揺れる。
私たちの周りにも結界にまとわりついていたドラゴンが何匹も落下してきた。
そして放電が止むころには、無数のドラゴンが伸びていた。
「よしっ! 次行くよっ!!」
愛ちゃんと里沙ちゃんに呼びかけ、視線の先で暴れているドラゴンめがけて
走り出したけど……
『グルッ……』
『……グルルルッ……』
「!?」
その足は背後から聞こえてきた複数の唸り声で止められた。
後ろをふり返ると伸びていたドラゴンが次々と起きあがっている。
- 96 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:33
- 「なっ!? あれだけの雷をくらって!?」
『ガアァァァアアアッ!!』
ドラゴンの一匹が口から炎を吹き出した。
なんとか飛び退くが、次の瞬間には別のドラゴンの尻尾が鞭のようにしなって
襲いかかってきた。
「うわぁっ!!」
身をすくめてかわす。
しかし次の瞬間、背後にあった家の二階から上が薙ぎ払われて消失した。
細かな瓦礫と化した、かつて家だったパーツがバラバラと降り注いでくる。
それは直撃したときの私たちの姿を連想させるのに十分だった。
- 97 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:33
- 「あ、あさ美ちゃん……どうする……?」
「どうするって言われても……」
辺りを見回してみる。
起きあがったドラゴンは全部で六匹。
鋭い目で私たちを睨みつけている。
「まずはこの六匹を片づけないと……。完全に私たちのこと狙ってるみたいだし……」
「そうだね」
三者三様に魔力を集め始める。
まだ里沙ちゃんが張ったプラウスマジックは生きていて、集めた魔力を増幅していく。
- 98 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:34
- ドラゴンが先に動いた。
一匹が大きな口を開けて突進してくる。
鋭い牙が生えそろっている。
「二人とも、散って!!」
今度はお互いバラバラに散る。
向かってきたドラゴンはそのまま一階だけになった家に噛みつき、石の壁を
粉々にかみ砕いた。
私が逃げた方向には運悪く別のドラゴンが待ちかまえていた。
体を反らせ、息を吸い込んでるのがわかる。
次の瞬間吐き出されたのは、凍てつくような氷のブレス。
- 99 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:34
- 「やばいっ!」
シールドが間に合わないッ!
でも……
「アンチ・シールド!!」
里沙ちゃんが身体を入れ、シールドでブレスを防いでくれた。
「愛ちゃん、今だっ!!」
「まかせといてっ!!」
里沙ちゃんの叫び声に愛ちゃんが飛び出す。
ドラゴンの背後から現れた愛ちゃんの手には、膨大な氷の魔力が集まっていた。
「もっともっと、極寒の冷気をくらわせてやる!!」
詠唱とともに魔法陣が構築されていく。
そして完成した蒼い魔法陣は、ドラゴンの足下に張られた。
- 100 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:36
- 「クリスタル・アブソリュート!!」
魔法陣がいっそう蒼く輝き、冷気を垂直に噴出する。
それは絶対零度の冷波エネルギー。あらゆるものを凍らせる。
魔法陣が消えるころにはドラゴンの氷漬けができあがっていた。
「一丁あがりっ!!」
でもまだドラゴンは五匹残っている。
すぐにそのうちの二匹が大口を開けて襲いかかってきた。
しかしその時には私もすでに魔力を集め終わっていた。
「片方は任せて!!」
「あっ!? あさ美ちゃん!!」
向かってくるドラゴンの正面に躍り出る。
里沙ちゃんの慌てた声が聞こえたけど、今は耳をかしてられない。
集中し、手を前方に突き出して構える。
タイミングがすべて。一歩間違えれば確実に死ぬ……。
- 101 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:36
- 『ガアアァァァアアッ!!』
ドラゴンの咆吼が耳を突き抜けていく。
大きな口が眼前に広がった。
今だっ!!
両手をドラゴンの口の中に差し込む。
ドラゴンの皮膚は鋼鉄並み。
生半可な武器や魔法では傷一つつけられない。
ドラゴンの倒し方。それは……内側から破壊するっ!!
「バーン・エクスプロージョン!!」
圧縮した魔力をドラゴンの口の中に放り込む。
一瞬の間のあと魔力は大爆発を起こし、ドラゴンの身体を体内からバラバラに
吹き飛ばした。
- 102 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:37
- 「二匹目っ!!」
「さすがあさ美ちゃん! じゃあアタシたちも負けてられないね!!」
もう一匹の向かってきていたドラゴンが腕を振り上げる。
振り下ろされた腕を二人は難なくかわした。
ドラゴンの腕が地面をえぐる。
「行くよ、愛ちゃん!!」
「いつでもいいよっ!!」
里沙ちゃんの手に集まった魔力が水に変化する。
でもあれは……ただの水じゃない。
「アシッド・ブラスター!!」
放たれた水がドラゴンの首にかかる。
その瞬間、ドラゴンが『ギャァアアッ!!』っと悲鳴をあげた。
雨音に混じって微かに聞こえる、ジュウッ、というなにかが焼けるような音。
強い酸性の水がドラゴンの皮膚を腐食させていく。
「愛ちゃん!!」
「まかせてっ!!」
愛ちゃんが飛び上がる。
集められた魔力は徐々に研ぎ澄まされて、一迅の刃に変わった。
「ウィング・セイバー!!」
放たれた真空の刃は、里沙ちゃんが腐食させた場所をしっかり捕らえ、ドラゴンの首を切り裂いた。
- 103 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:38
- 「やった!!」
「あさ美ちゃん、これであと半分やよ!!」
「うん! 一気に叩くよ!」
その時だった。
城を覆っていたはずの結界が、一瞬にして消え去った。
「えっ!?」
上空を舞っていたドラゴンが、吸い寄せられるように城へと侵入していく。
見たところ強引に突き破られたって感じでもなさそう……。
てことは……まさか女王様に!?
「あ、あさ美ちゃん……」
「……とにかくまずは一刻も早く残ったドラゴンを片づけるよ。そのあとすぐに
城内に引き返す!」
「了解!!」
また魔力を集め始める。
それだけで二人はわかってくれたようで、残ったドラゴンの方へ駆けていく。
- 104 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:39
- 里沙ちゃんが魔力を集めながら、リボンをほどいた。
手にした鞭に魔力が宿る。
すると鞭は周囲の水を吸収し始めた。
「ウォーター・ストリングス! 敵を束縛せよ!!」
集められた水は鞭の先端から糸状に伸びて、ドラゴンの身体にまとわりつく。
いくら切ろうとしても水は切れない。
あっという間に三匹のドラゴンの巨体はがんじがらめに封縛された。
そしてもがいているドラゴンの足下に黄色い魔法陣が広がった。
「愛ちゃん!」
里沙ちゃんが鞭から水の糸を切り離す。
それを合図に、魔法陣がより一段と輝いた。
「ライジング・サンダー!!」
愛ちゃんの声と同時に魔法陣から稲妻が放出される。
稲妻は水の糸を伝って、ドラゴンの体を蝕んでいく。
- 105 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:40
- 『ギャアアァァアッ!!』
ドラゴンの咆吼がこだまする。
そのころには私も魔法陣を完成させていた。
「愛ちゃん、里沙ちゃん、離れてっ!!」
ダークブラウンの魔法陣があたり一面に広がる。
時間を稼いでくれていた愛ちゃんも里沙ちゃんも魔法陣上から飛び退いた。
これで終わりだ!
「デス・イーター!!」
魔法陣の中央が真一文字に裂ける。
そして現れる牙と口。すべてを喰らい尽くす地獄の餓鬼玉。
ドラゴンは断末魔の悲鳴をあげて、すべて魔法陣に飲み込まれていった。
- 106 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:40
- 「ふぅ……なんとかここは片づいたね」
「よし、じゃあ中に急ぐよ!!」
そして私たちは出てきた扉を再びくぐって、城の中へと入っていった。
- 107 名前:第13話 投稿日:2004/10/08(金) 13:40
-
- 108 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/10/08(金) 13:49
- 今回はここまでです。
……う〜ん、強すぎるかな?
でも他の二人はともかく、紺ちゃんはこのくらいの力はあってもおかしくないと思うんで。
ていうか魔法バトルは書いてて楽しいです。
強すぎることより目立ちすぎるほうが問題でしょうか?(笑
>>86 名無飼育さん 様
気になるところですが、今回は紺ちゃん編です。
そのうちちゃんと明らかにしますので。
- 109 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/10/08(金) 13:54
- >>87 みっくす 様
始まってしまったべさ(笑
しばらく続きそうなので、勢いを保てるようにがんばります。
>>88 紺ちゃんファン 様
始まりました。今回はけっこう長引きそうです。
なちごまは始まってしまうとあまり書けませんが、一段落したらまた書きたいです。
>>89 konkon 様
なちごまだとやっぱりごっちんが幼くなりますねぇ〜。
ごっちんはヒロインなんでとにかく可愛く書いてます。
ま、かっこいいごっちんも好きなんですけどね〜。
- 110 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/10/08(金) 18:32
- お〜、みんなつよいネ〜。
なちごまが見れないのは悲しいけど、
みんなの活躍に期待です^-^
次回更新も待ってます!
- 111 名前:みっくす 投稿日:2004/10/08(金) 19:12
- 魔法組強いぜ。
紺ちゃんさいこ〜〜。
みんながんばれ。
- 112 名前:名も無き読者 投稿日:2004/10/13(水) 02:54
- 更新お疲れサマです。
つ、つぉい・・・。
この強力なドラゴン軍団を統率するあの方も気になる次第ですが、
なっちや女王様の方も。。。
あっちこっちなっち(?)気になりますが、それだけに期待も膨らみますねw
続きも楽しみにしてます。
- 113 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:38
-
第14話 異国のドラゴンテイマー
- 114 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:39
- 〜吉澤ひとみ〜
「早く城の中に避難して下さいッ!!」
雨の中、人々に避難を促しながら城下町を駆け抜けていく。
でも完全にパニックに陥っている人も少なくない。
そんな人は隊員に任せながら、アタシは街の入り口付近までやってきた。
結界に張り付くように群がっているドラゴンの群れが見える。
その結界にはもうヒビが入り始めていた。
やばいな……ほとんど時間がないじゃんか……。
- 115 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:40
- 「早くっ!! 今のうちに……」
その瞬間、ゼティマを守っていた結界がかき消された。
群がっていたドラゴンがいっせいに散って、ゼティマの中へ侵入してくる。
そしてその中の一匹が、アタシたちめがけて滑空してきた。
「よ、吉澤様ッ!」
「アイツはウチがなんとかするから! お前たちは住民の避難を!!」
「わ、わかりましたっ!!」
隊員が散っていく。
それを見届けてアタシは天を睨む。
鞘に収まったままの剣に手をかけたけど、抜ききる前にドラゴンの爪が襲いかかってきた。
- 116 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:41
- 「うわっ!?」
なんとか鞘で爪を払ったけど、アタシの頭の上を通りすぎたドラゴンは、また宙に
上昇し、今度は火の玉を吐き出してきた。
右に左に跳びながら火の玉をかわしていく。
アタシの周りで地面が爆ぜる。
弾き返すことはできないが、このくらいのスピードだったらかわすのはわけない。
ドラゴンもわかったのか、火の玉を吐き出すのをやめると、羽根を羽ばたかせて
さらに上空に舞い上がった。
おそらく最初の攻撃と同じように、滑空からスピードを乗せてアタシを引き裂きに
かかるって魂胆だろう。
アタシの剣の間合いに自ら飛び込んでくるなんて、いい度胸じゃねぇか。
アタシも剣の柄に手をかけて向き合う。
「来やがれっ!!」
- 117 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:43
- 雷光が光った。
その瞬間にドラゴンが動く。
空を滑るように降りてくるドラゴン。
伸ばされた手の先には鋭い爪が妖しく光っている。
アタシもドラゴンめがけて走り出した。
だんだん距離が縮まっていく。
アタシはカタナの鯉口を切った。
ドラゴンの爪が迫ってくる。
だけど……遅いッ!
間合いに入った瞬間、一気にカタナを鞘から抜き去る。
キィン、という高音が空気をふるわせる。
十分にスピードと鞘走りをのせた必殺の居合いがドラゴンを切り裂いた。
抜き放ったカタナをまた鞘にもどしていく。
カチッ、とカタナが収まりきった瞬間、首から上を失ったドラゴンの巨体が背後に
落ちたのがわかった。
- 118 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:44
- もう一度上空の様子を確認する。
無数のドラゴンが舞っていたけど、その中の二匹に人がまたがっていた。
その片方に釘付けになる。
それこそ闇空に浮かぶ三日月のような、ギラリと光る大鎌を手に持っている……
「矢口さんッ!!」
思わず天に向かって吼えた。
二人はアタシに気づいたようで、上空からアタシを見下ろしている。
矢口さんとアタシの視線が重なった。
突如、二匹のドラゴンが動いた。
一匹は城の方に向かって一直線に飛び去り、矢口さんがまたがっていたドラゴンは
アタシの方に急降下してくる。
「? うわっ!?」
思わず身を屈めると、ドラゴンが頭の上を掠めて、また上空に戻っていった。
追うようにふり向くと、その瞬間、目の前に矢口さんが舞い降りた。
- 119 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:45
- 「矢口さん……」
「よっすぃー……」
そのまま二人とも動かずに見つめ合う。
雨が二人のあいだを引き裂くように、線を引きながら落ちていく。
「オイラは今よっすぃーだけに時間を費やしてられないんだ……」
「・・・・・・」
無言のまま、雨の向こうにある矢口さんの顔を睨みつける。
矢口さんは「ふぅ……」と、「しょうがないなぁ……」というような溜め息をついた。
濡れた地面に突き刺さっていた大鎌が、鮮やかな弧を描いて切っ先を晒す。
「殺す覚悟はできたかい?」
「矢口さんこそ」
アタシも握ったカタナの鯉口を切る。
矢口さんにもらったカタナ、『花月』。
このカタナで……矢口さんを止めてみせる!
城の方で雷が鳴った。
その瞬間、アタシと矢口さんはいっせいに動き出す。
カタナを抜ききった瞬間、雨の中に鋭い金属音がこだました。
- 120 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:46
-
◇ ◇ ◇
〜保田圭〜
「ふぅ……」
一つ溜め息をつき、額に浮き出た汗を拭う。
これでほとんどの住民は城の中へ避難させられたはず。
しかしいったい今外はどんな状況になっているのだろう?
「ちょっと外の様子見てくる! ここは任せたよ!」
「はいっ、了解です!」
隊員に言い残し、私は魔力を集めていく。
私の影が魔法陣を形作っていく。
- 121 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:48
- 「シャドウ・ホール!!」
光と闇に覆われて、影へと潜っていく。
そして影から出たときは、そこは城下町の中心地区だった。
降りしきる雨が髪を、肌を濡らしていく。
そこで私が見たものは、想像以上の惨状だった。
薙ぎ倒された木々や、破壊された建物……。地面に横たわる、住民や兵士の亡骸……。
そして暴れ回っているドラゴンの巨体。
しばらくそのまま呆然と立ちつくした。
でもすぐに首を振って現実を直視する。
守らなきゃ……私は騎士なんだから。
雨の中を駆け出すと、そこに見知った顔があった。
- 122 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:49
- 「松浦! 小川っ!!」
「あっ、保田さんっ!!」
広場の中央で松浦と小川が立ちつくしていた。
お互いに背中を会わせて、緊迫した視線で辺りを見回している。
でも辺りには特になにもないように見えるけど……。
「保田さん、気をつけてくださいっ!!」
小川が叫んだその時、遙か上空からドラゴンが一匹私めがけて急滑降してきた。
剥きだした牙。
なんとか飛び退いてドラゴンをかわす。
ドラゴンはまた上空に飛び上がっていった。
「なるほどね……こういうことか……」
「違うんです! 空だけじゃないんです!!」
「えっ?」
- 123 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:50
- ピシッ!!
背後で鋭い音が鳴った。
それはまるで硬いものが裂けるような音。
そして足下の地面に亀裂が生じる。
まさか……
『ガアアァァァアアッ!!』
地面を突き破り、蛇のように長い胴を持つドラゴンが飛び出した。
アースドラゴン!? まさか……空からだけでなく地中からも!?
「くぅっ!」
規則正しく生えそろった牙を剥いて襲いかかってくるドラゴンをなんとかいなす。
ドラゴンはそのまま地面に激突し、またそこから地中へと潜ってしまった。
- 124 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:51
- 「なるほどね……どういうことか。どうやらこの辺りはこいつらのテリトリーみたいだね……」
「そうなんです……上と下から狙われてどうしようもなくて……」
「松浦、アースドラゴンは何匹いる?」
「正確にはわかりませんが一匹じゃないですよ。少なくとも二匹はいます……」
ちらっと上空を見てみる。
雷光のなか浮かんでいる影は二つ。
てことは上が二匹、下が……おそらく二、三匹ってとこか……。
「オッケー、じゃあまずは見えてるヤツから倒そうか」
投擲用のナイフを二本取り出す。
それを両手に持ち、雷の魔力を宿していく。
容量ギリギリまで。そうでもしないとドラゴンは倒せない。
次に降りてきたときが勝負だ!
「保田さん、どうするんですか!?」
「まぁ見てなって!」
- 125 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:51
- その時地面がぐらっと揺れた。
地面が裂ける音が響き、ドラゴンの首が地上に現れる。
「うわぁっ!?」
狙われたのは小川だった。
慌てて弓を構えてるけど間に合わない。
「松浦ッ!」
「はいっ!!」
松浦が走る。
牙が小川に届く寸前で、小川の身体を捕まえ、飛び退いた。
地面をゴロゴロと転がる。
アースドラゴンはまた地中に戻っていった。
- 126 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:52
- 来るっ!
私の予想どおり、上空で旋回していたドラゴンの一匹が、まだ体勢を立て直せてない
二人目掛けて滑空してきた。
私のナイフの射程範囲に入る。
その瞬間、風力、雨の影響、そしてドラゴンの次の動き、それらすべてを計算に入れて
雷を宿したナイフを放つ。
「ライトニング・ニードル!!」
ナイフは寸分の狂いもなく、滑空していたドラゴンの鱗の隙間に突き刺さった。
そして蓄えられていた魔力が解放される。
『ギャァァァアアアアッ!!』
雷撃が体内を駆けめぐり、蝕んでいく。
ドラゴンは地面に吸い寄せられるように堕ちていった。
- 127 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:54
- 「よしっ! まずは一匹!!」
「ふぇ〜、すごいですねぇ……。武器に魔力を宿すなんて……」
「まぁ、ひとえに研究の成果だね。これができるのは私以外じゃ、私が直接師事した
新垣くらいよ」
「あぁ、長年の研究の成果ですね?」
「"長年の"は余計よ!!」
もう二本ナイフを取り出して、同じように魔力を込めていく。
足下から飛び出てくるアースドラゴンをかわしつつ、上空のドラゴンに狙いを定める。
ドラゴンが滑空してきた。
狙い澄まして二本のナイフを放つ。
しかし今度はドラゴンも異質な飛来物を感じ取ったようだ。
身体を大きくうねらせ、尻尾でナイフを弾き落とす。
そしてまた上空へと昇っていってしまった。
- 128 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:54
- チッ……! やっぱりバカじゃないね……。
凶暴な割に高い知能を兼ね備えているところが、ドラゴンが最強のモンスターである所以だ。
ちゃんと見たもの、感じたものを自分の知識として取り込み、学習する。
今のだって私のナイフのスピードと軌跡をしっかりと読み、的確に鱗で払っている。
同じ手は通用しないか……。それなら……。
「小川っ!」
「はいっ!?」
「矢、一本かして!!」
「わ、わかりました!」
背中の矢筒から小川が矢を抜き、私のほうへ放ってくる。
それを掴み、魔力を宿す。
弓矢のスピードなら……反応する前にドラゴンを倒せる!
- 129 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:55
- 「よし、小川! 一発きりだからね、よーく狙うんだよ!!」
「まかせてくださいっ!!」
雷を十分蓄えた矢を小川に返す。
小川は矢を弓につがえ、上空のドラゴンを睨む。
私はまた新しいナイフを取り出す。
少しだけまた雷の魔力を込め、空を舞うドラゴンに向かって投げつける。
ドラゴンは同じようにナイフを払い落とす。
警戒している……!
「ほぅら、こっちに来なさいっ!」
挑発するようにまたナイフを放つ。今度は四本同時に。
ドラゴンはそれらも払い落とすと、大きな口を開けて私のほうへ向かってきた。
狙いどおり!
- 130 名前:第14話 投稿日:2004/10/15(金) 17:56
- 「小川、今だっ!!」
「はいっ!」
ドラゴンに追われながら叫ぶと、小川が弓を構えて弦を引く。
「放てーっ!!」
反っていた弓が元に戻ると同時に、矢が勢いよく飛び出していく。
雨風を切り裂いて、雷を宿した矢はドラゴンの口内へ吸い込まれていった。
そして巻き起こるスパーク。
ドラゴンの巨体が地面に崩れ落ちた。
「よしっ! あとは下にいるヤツを一気に潰すよ!!」
「「はいっ!!」」
- 131 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/10/15(金) 18:05
- 今回はここまでです。
ちょっと中途半端ですが、よっすぃーと圭ちゃんたちの戦いです。
よっすぃー、毎度苦手ながら、今回はなんとか書けたかな?
最近あんまり活躍する場がなかったので、今回は存在感をアピールさせてみました。
魔法は使えないけど、剣の腕はトップクラスなのです、よっすぃー。
- 132 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/10/15(金) 18:11
- >>110 紺ちゃんファン 様
はい、みなさん強いです。隊長クラスは特に。
今回はけっこう全員が活躍する場があると思うので、お楽しみに〜!
>>111 みっくす 様
魔法組は強いですねぇ。強すぎかも?
紺ちゃん一人でも十分強いですが、3人集まるともはや最強。
>>112 名も無き読者 様
敵のリーダーの登場はもうちょっとあとに。
それにともないなちごまももうちょっとあとに。
感想やらサイトのお祝いやらありがとうございました!
- 133 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/10/15(金) 18:11
- (0^〜^)<隠すぜ〜!
- 134 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/10/15(金) 18:22
- ネタバレしないように。っと・・・。
戦いはやっぱいいっすね。
その人の個性が出てるって言うか・・・。
とにかくいいです!
ではがんばってください。
- 135 名前:konkon 投稿日:2004/10/16(土) 00:21
- ケイちゃんかっけぇ!
コンビも順調、このままドラゴンを
ぶっ潰せ〜!
作者さん、応援してますよ〜♪
- 136 名前:みっくす 投稿日:2004/10/16(土) 05:18
- しびれますねぇ。
みんながんばれ。
- 137 名前:名も無き読者 投稿日:2004/10/17(日) 01:28
- 更新お疲れサマです。
熱いデスね、戦闘シーンw
ただ気になるのはあの2人・・・。
どんな決着が待っているのでしょうか?
その辺も楽しみに次回を待ってます。
- 138 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:00
- 松浦が剣を水平に持ち、意識を集中して構えている。
全神経が足下と耳に集中している。
私もナイフを握って感覚を研ぎ澄ます。
地中から私たちを狙っているアースドラゴン。
地面の中をなめらかに移動するぶん、アースドラゴンの鱗はそこまで硬度がない。
普通の武器でも十分切り裂くことができる。
ピシッ!!
雨と雷の音に隠れて地面が割れる音が鳴る。
方向から察するに……松浦の後ろだ!
- 139 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:01
- 「松浦ッ!」
「わかってます!!」
アースドラゴンの頭が飛び出す。
そして口を開けて松浦に襲いかかる。
が……アースドラゴンが噛みついたのは、松浦が水平にかざした剣だった。
「ワンパターンですねぇ」
そのまま松浦が剣を滑らせる。
松浦の剣は口の端から胴体へと、真っ二つにアースドラゴンの身体を切り裂いた。
- 140 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:02
- これでアースドラゴンは一匹倒した。
でも……まだ終わりじゃないみたい……。
いる……!
まだ足下に気配を感じる。
土のプールの中を泳ぎながら、獲物を狙い定めている、そんな気配が。
ドラゴンは高い知能を持っている。それはアースドラゴンとて例外ではない。
松浦は今簡単にアースドラゴンを倒してみせた。ということはもう松浦は狙わないだろう。
だとしたら狙われるのは私か小川。
おそらく……
『グアァァァアアッ!!』
「わあっ!?」
狙われたのは小川だった。
小川のすぐ前にアースドラゴンが姿を現す。
小川も予想はしていたのだろう。狼狽しつつも引き絞っていた矢を放つ。
だが、矢はしっかりとアースドラゴンの身体に突き刺さったが、それだけで倒せるような
相手ではない。
- 141 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:02
- その瞬間に仕掛けていた魔法を解放する。
するとアースドラゴンの周囲を囲むように蒼い魔法陣が出現した。
「トラップ」という魔法陣の時間差技法。
あらかじめ魔法陣を作って仕掛けておき、敵が有効範囲に踏み入れた瞬間に魔力を
解放して発動させるというもの。
「ウォーター・ストリングス!」
魔法陣から現れた、何本もの水の触手が、アースドラゴンの身体をがんじがらめに束縛する。
なんとか牙が小川に届く前に、完全に動きを奪えた。
チラッと上空に視線を移す。
松浦はすでに剣を上段に構えて跳躍していた。
そして振り下ろされた剣が、アースドラゴンの胴体を、真ん中から二つに切断した。
- 142 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:03
- 「ふぅ……」
もう足下に気配は感じない。
どうやらアースドラゴンも二匹だったみたい。
ようやく一つ深い呼吸をこぼす。
「ありがとうございました、保田さん」
「あ〜、いいよ、松浦。それよりこの辺はもう避難は済んだ?」
「はい、みんなが手分けして避難させたはずです〜!」
「そっか。見たところもうこの辺りにドラゴンもいないみたいだし……」
その時……
『保田さん! 聞こえますか、保田さんっ!!』
マントの中から紺野の声が聞こえた。
慌てて水晶玉を取り出すと、そこに紺野の焦った顔が映っている。
「どうしたの、紺野!?」
『それが、お城にドラゴンが集まってるんです!!』
「なにっ!?」
だからこの辺にはもうドラゴンがいないわけか!
松浦も小川も緊迫した表情に戻っていた。
- 143 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:04
- 「結界はどうしたの!?」
『ちょっと今説明してる時間はないんですけど、城の方は私たちがなんとかしますから、
保田さんは裏の森へ向かってくれますか!?』
「森!? なんで!?」
『それは……うわっ!!』
水晶玉に炎が映る。
どうやらドラゴンの吐いた炎のブレスらしい。
『す、すいません、ちょっと今説明してられないんですけど……』
「わかった、裏の森でいいんだね!?」
『お願いします!!』
そこで紺野からの通信は途絶えた。
理由はよくわからないけど、ここは紺野の言う通りにしたほうがいいような気がした。
「松浦、小川、城の裏手にある森まで急ぐよ!!」
「あっ、保田さーん!?」
濡れた地面を蹴って走り出す。顔に雨粒が当たってうざったいけどしょうがない。
松浦と小川も私の後を走ってついてきている。
「保田さーん、"シャドウホール"使いましょうよ〜!」
「こんな暗いなかで影なんかできるか! いいからさっさと走れー!!」
- 144 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:06
-
◇ ◇ ◇
〜安倍なつみ〜
「Hello、プリンセス! My name is アヤカ! ロマンス王国の騎士です! お見知りおきを〜!!」
すっとごっちんをかばうように立ち、剣を向ける。
剣はもう光を失い、普通の剣に戻ってしまっている。
でも彼女、アヤカは身動きひとつせず、優雅に佇んでいる。
「どうやってここまで!? 結界が張ってあったはずなのに」
「フフ、簡単ですよ。結界が張られる寸前に飛び込んだのです。このコに乗ってね」
アヤカが、私が今まで戦っていたドラゴンの額を撫でる。
ドラゴンは目を細め、『グルル……』と短く鳴いて、アヤカに顔をすり寄せた。
「まさか……ドラゴンと意志を……?」
「Yes! ワタシの国の人間は生まれつきドラゴンと心を通わすことができるんです。
ここにいるのはみんなワタシの友達ですよ!」
アヤカの目もすっと細められる。
でもその目は鋭く尖っている。
- 145 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:07
- 「よくもワタシの友達を……」
アヤカが睨むと同時に左右にかしずいていた二匹のドラゴンも牙を剥く。
ズゥン、ズゥンと足音を響かせながら前に出る。
来るか……?
でもアヤカはフッと笑って、手をドラゴンの前に出した。
途端にドラゴンがおとなしくなる。
「アナタたちを殺すのは簡単だけど、でもワタシにも使命があるんですよ!」
横に出された手がすっと上に上がる。
パチンと指が鳴ると、アヤカが入ってきた扉から、一匹の小型のドラゴンが入ってきた。
その口にくわえられていたのは……
「女王様っ!」
「お母さんッ!?」
「すまん……なっち、真希……油断してもうた……」
両腕を鎖で拘束され、その鎖をドラゴンにくわえられてつり下げられている女王様だった。
- 146 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:08
- 「女王様になにをする気だっ!?」
「そっちがおとなしくしてくれてれば危害を加える気はありませんよ。このままロマンス王国に
お連れするだけです。私たちの女王様が会いたがってますからね。それと……」
アヤカの指が今度は……ごっちんを向いた。
「プリンセス、アナタも一緒に」
「なっ!? ふざけるな! ごっちんに手出しは……」
「いいんですか? こっちには人質がいるんですよ? 殺すことはできないけど……
片腕くらいならどっかの兵士みたいにこのコたちの餌にしちゃうこともできるんですよ?」
「……くっ!」
『グルルルル……』と低く喉を鳴らして、二匹のドラゴンが女王様に歩み寄る。
"食欲"を前面に押し出しているドラゴンたち。
アヤカが二匹をなだめる。
「さぁ、アナタは剣を捨ててもらいましょうか。プリンセスはこっちにお越し下さい」
「……ごっちん、ごめん……」
そっと剣から手を離す。
剣はガランと音を立てて床に落ちた。
- 147 名前:第14話 投稿日:2004/10/25(月) 13:10
- 「なっち……」
私はもうごっちんの顔を見ることもできなかった。
自分の不甲斐なさが許せず、ただうつむいて歯を食いしばる。
ごっちんは意を決したように、一歩前に踏み出した。
キィンッ!!
その時、高音とともに鎖が切り裂かれた。
「なっ!?」
双剣が華麗に舞う。
さやかが女王様の身体を抱え、ドラゴンの頭を踏みつけて宙を飛んで、私たちの前に着地した。
「なっち、ここはアタシに任せろ!!」
「さやかっ!!」
「こいつらの狙いは女王様と後藤だ! 女王様はアタシが守るから、後藤は任せたぞ!!」
「……わかった! ごっちん、行くよっ!!」
「あっ、なっち!」
落とした剣を拾い、もう片方の手でごっちんの手を掴んで駆け出す。
玉座の後ろには隠し通路がある。そこからならすぐに城の裏に出られる。
さやかなら女王様を任せられる。ごっちんのことは私が絶対に守るから。
でもごっちんの手を引いて走る私は背後でアヤカがうっすらと笑っていることに気づかなかった。
- 148 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/10/25(月) 13:21
- はい、短めですが今回はここまでです。
今回のドラゴン戦もそろそろ後半戦です。
なるべく早めに更新できるように頑張ります……。
でも時間が……。
>>134 紺ちゃんファン 様
戦い方はやっぱり人それぞれですねぇ。
その人にあった戦いを書いていきたいです。
>>135 konkon 様
圭ちゃん、最初は全然目立たなかったのに最近は大活躍ですねぇ。
けっこう好きなキャラになってきてるので、いろいろと出していきたいです。
>>136 みっくす 様
そう言っていただけるととても嬉しいです。
期待に応えられるよう頑張ります。
>>137 名も無き読者 様
2人の結末はもうちょっとあとに。
よっすぃー、ようやく強いところを見せられた感じが……。
日本刀はけっこう似合う気がします(ぉ
- 149 名前:みっくす 投稿日:2004/10/25(月) 20:47
- なんか面白い展開になってきましたね。
両陣営ともに何か策ありってかんじで。
次回も楽しみにしてます。
- 150 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 22:06
- おおう!なっち登場!まってましたよ!
主役の活躍が待ち遠しいですよ!まってます!
- 151 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/10/25(月) 22:19
- お、ついになっち登場ダ!
そしてあの人達に一体何が・・・!?
次の更新を期待してます。
- 152 名前:名も無き読者 投稿日:2004/10/26(火) 00:06
- 更新お疲れ様です。
キテましゅねw
ちょっち某アニメのOP映像を思い出させてくれる描写もあったりで♪
敵さんの真意をまだ測りかねてますが、味方の方にも気になる動き・・・。
続きも楽しみにしてます。
- 153 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/26(火) 04:14
- なっちがやっと登場ですね!
今までの鬱憤をはらすような活躍期待してます!
- 154 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:31
- 〜辻希美〜
「うわっ!?」
吐き出された火球をなんとかかわす。
火球はそのまま地面を穿ち、舗装された道路をわずかに抉った。
「のの、上ッ!!」
「えっ!? うわわっ!!」
でも火球の次は、バチバチとスパークする雷のブレスが向かってくる。
また飛び退くけど、一筋だけ避けきれず、右脚に直撃した。
「あうっ!?」
痛みと痺れが同時に襲ってくる。
思わずうずくまったところに、今度は凍てつく吹雪が吐き出される。
「ののっ!!」
あいぼんがすっと身体を入れてくる。
そして張られたシールドで吹雪は遮られた。
「大丈夫、のの?」
「うん。ありがと、あいぼん、たすかったのれす!」
槍を握りしめ、視線を上げる。
そこにそびえるように立っているのは、三つの首を持つワイバーン。
- 155 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:32
- 「でやあぁぁああっ!!」
シールドの影から飛び出ると、槍を構えてワイバーンに突進する。
ブレスをかわし、地を蹴って、握りしめた槍を渾身の力で突き出す。
ちょうど真ん中に生えてる首の付け根部分。
でも槍は高い音を立てて、ドラゴンの鱗によって弾かれた。
別の首が弓なりにしなる。
そしてそのまま反動で頭突きが繰り出される。
本能的に槍を身体の前で構えるけど、その私の横を揺り抜けて、後ろから火球が
飛んできた。
ドラゴンの顔面に当たり炸裂する。
『グオオォォッ!!』
それで頭突きの威力が半減した。
槍で頭突きをガードする。
そしてその反動を生かし、空中で一回転して地面に降り立った。
「ナイス、あいぼん!!」
ピースサインをつくってあいぼんの方にグッと突き出す。
するとあいぼんも同じように答えてくれる。
- 156 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:33
- 私は安倍さんや保田さんみたいに計算高く、緻密に戦うなんてできない。
身体が動くままに向かっていって、自慢の力でただひたすら押していくのみ。
だから訓練で安倍さんや保田さんなんかと戦うと、軽く攻撃をいなされてしまう
こともよくあった。
そのことで悩んでいた。
ちゃんと考えて戦ってみたこともあった。
でもそれだとどうしても考えることが先行してしまって、身体が動いてくれない。
でも今までみたいにがむしゃらに戦って、それで勝っても悩みは消えない。
私はちゃんと強いんだろうか……?
ただひたすら訓練に励んだ。
一人で……強くなろうと。
でも結果はついてこない。
悩みは深まる一方だった。
- 157 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:34
- そんな心理状態で戦ってたから、矢口さんと戦ったとき、私をかばったあいぼんが
重傷を負ってしまった。
私のせいだ……。
あいぼんを守ろうとして一人で戦った結果が、逆にあいぼんに怪我を負わせてしまった。
あいぼんが目覚めたとき、あいぼんは言ってくれた。
『ののはのののままでええんやで! ののはののなんやから、ののらしくしてれば』
『えっ……?』
『一人で強くなれないんなら二人でなればええやん! 加護がちゃんとのののフォロー
したげるから、ののはののらしく戦ってぇなぁ!』
『……あいぼん……』
どうやらあいぼんに私の悩みなんかお見通しだったみたい。
そしてあいぼんの言葉で、私の悩みはキレイさっぱり晴れわたった。
思えばあいぼんと二人で戦ってるときはなんの悩みもなく敵に向かっていけた。
私が突進していくと、あいぼんは絶妙のタイミングでフォローしてくれる。
あいぼんが大魔法を詠唱しているときは、私は盾となってあいぼんを守る。
なんとなく……あいぼんが私になにをして欲しいと思ってるのかがわかるんだ。
たぶんあいぼんもおんなじだと思う。
- 158 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:35
- 向かってくるドラゴンの首を槍でかち上げる。
あいぼんは私の後ろで魔法の詠唱をしている。
今度は雷のブレスが吐き出される。
私は詠唱しているあいぼんを抱きかかえ、その場から飛び去った。
「あいぼん、できた?」
「うん! いくよ! アース・シャフト!!」
ダークブラウンの魔法陣がワイバーンの足下に広がる。
そしてその表面から無数の石の槍を突き出した。
次々とワイバーンの身体を穿っていく。
「ののっ!!」
あいぼんが叫ぶ前に駆け出していた。
また槍を構えて跳躍する。
あいぼんは絶対私の『運命の人』だ。
めぐり逢うべくしてめぐり逢った人。一緒に戦うことは決まっていた。
だってあいぼんと二人ならどこまでも強くなれる。
あいぼんは私の最強のパートナーだ!
- 159 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:35
- 「ハッ!!」
槍を突き出す。さっきと同じ場所に。
今度は弾かれなかった。
槍が鱗を砕き、ワイバーンの首を突き刺す。
何回も集中して打撃を与えれば、どんなに強固なものでもいつかは壊れる。
「あいぼんっ!!」
今度は私が呼びかける。
でもあいぼんもすでに魔法を完成させ終えていた。
あいぼんの腕のまわりに風が集まり、激しく渦巻いて先端を鋭く尖らせている。
「セイバー・ジャベリンズ!!」
あいぼんの手から放たれた風の錐は、私が穿った穴に突き刺さった。
回転によって周囲を抉り、そのまま胴体から一本の首をもぎ取った。
- 160 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:36
- 『ギャアアァァアアアッ!!』
「よっしゃ!!」
「よしっ、もう一本行くよ、あいぼん!」
吐き出される雷と吹雪をかわしながら、今度は右の首へと狙いをさだめ、攻撃を加えていく。
でもその辺はさすがドラゴンだ。
微妙に首を動かし、攻撃が一点に集中しないようにずらしている。
「くっ、さすがに頭いいれすね……」
「ののも見習えばぁ〜?」
「あいぼんには言われたくないれす」
お互いキッと睨み合うけどすぐに笑いあう。
「まぁいいや。それなら戦い方を変えればいいし!」
「あっ、のの!」
槍を構えてまた向かっていく。
二本になった首から吐き出される氷と雷を紙一重でかわし、ワイバーンの懐へと入り込む。
- 161 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:37
- 「でやぁぁああっ!!」
そしてそのまま勢いを乗せ、槍の柄でワイバーンの首が繋がっている胴体に衝撃を与える。
案の定硬い鱗に弾かれる。
放たれた氷の塊が腕を掠めたが、引かずにそのまま身体を回転させ、遠心力をたっぷり乗せた
回し蹴りを放つ。
「もう一発!!」
衝撃でワイバーンの身体が後ろに傾いた。
そのままズゥンと地面に倒れる。
私もいったん距離を置き、息を整える。
「なるほどねぇ」
いつの間にかあいぼんが私の後ろまで来ていたらしい。
ふり向くとそこにはあいぼんの笑顔がそこにあった。
「ののらしい戦い方やなぁ。加護もとことん付き合うで!」
- 162 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:38
- あいぼんの両手に風が集まり、圧縮されて風の塊になっていく。
ちゃんとあいぼんに伝わっているらしい。
ワイバーンが起きあがったのを見計らって、また地を蹴る。
「ウィンド・スフィア!!」
走る私の横を風の球が追い越していく。
あいぼんの魔法はワイバーンの身体を的確に捉え、私はその隙にワイバーンの背後に
回り込む。
「もう一発や、食らえッ!!」
あいぼんが二撃目の魔法を放ったのがわかった。
衝撃でワイバーンの身体がわずかに後退する。
それに合わせ、私も真裏から衝撃を加える。
- 163 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:39
- 『グルル……』
でもワイバーンもやられっぱなしではない。
片方の首がぐるんと後ろを向き、血走った目が私を見据えた。
その直後、大木のように太い尾がしなって私のほうに振られる。
「うわわわっ!!」
慌てて屈むと、私の頭のすぐ上を尻尾が通りすぎていった。
ち、ちっちゃくてよかったぁ……。
いったん私もあいぼんの側まで戻る。
「ダイジョブやった、のの?」
「へーき、へーき! それより一気にたたみかけるよ!!」
「オッケー!!」
また地を蹴って走る。
あいぼんがちゃんとフォローしてくれる。いや、守ってくれる。
だから私はなんのためらいもなく、強大な敵にも向かっていける。
- 164 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:39
- 「はぁぁああっ!!」
突き出した槍がワイバーンの胴体を抉る。
そして間髪入れずに背後からあいぼんの追撃が迫ってくる。
紅く輝く小さな光球が一気に膨れあがる。
「バーン・エクスプロージョン!!」
大気を揺るがす大爆発。
さすがのワイバーンもこらえきれず、また大地に倒れ込む。
「ののー!!」
あいぼんの叫びが聞こえる。
爆発の威力を利用して空高く跳躍した私は上空で拳を握りしめて振り上げる。
「トドメだっ!!」
落下速度を加え、無防備にさらけ出されている胴体に正拳を叩き込んだ。
- 165 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:40
- 『ギャァァァアアッ!!』
ワイバーンの叫びが響き渡り、胴体が陥没する。
でもそれも一瞬のこと。
すぐに力が抜け、ワイバーンはそのまま動かなくなった。
いくら鱗が硬くても中身まではそうはいかない。
衝撃は鱗を突き抜け、身体の内部を破壊する。
「ふぅ」
ようやく槍を降ろして一息つく。
するとあいぼんがとてとてと寄ってきた。
「やったね、のの!」
「うん!!」
降りしきる雨の中、パチンと私たちの手が合わさった。
- 166 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:41
- 「辻、加護ッ!!」
そんな雨の音に紛れて、私たちを呼ぶ声が聞こえた。
声が聞こえた方向を向くと、こっちに走ってくる三つの影がうっすらと見える。
「あれは……?」
「今の声は保田さんやなぁ」
あいぼんの言うとおり、しばらくすると保田さんが雨の中から現れた。
その後ろにはまこっちゃんと亜弥ちゃんもいる。
「こっちは片づいた?」
「はい、だいたい片づきましたけど、どうしたのれすか?」
「それならちょっとこっちに手かして! なんかヤバイことになってるみたいだから!」
それだけ言って保田さんはまた走り出す。
まこっちゃんも亜弥ちゃんも保田さんに続いた。
「なんだろね、あいぼん?」
「ん〜、まぁ行ってみればわかるんやん?」
「そうれすね!」
そして私とあいぼんも保田さんのあとについて走り出した。
「う〜……雨で走りづらいのれす。保田さ〜ん、シャドウホール……」
「だからー!!」
- 167 名前:第14話 投稿日:2004/11/03(水) 12:41
-
- 168 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/11/03(水) 12:48
- 今回はののあい編でした。ようやくこの二人も戦いで活躍した気が……(汗
とりあえずWのリーダーがののでかなり安心しました(笑
これを決めたあとでしたからねぇ、Wの発表。
(●´ー`)<……あれ?
狽、ぐっ! すいません、なっちはもうちょっとあとに……。
- 169 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/11/03(水) 12:57
- >>149 みっくす 様
そろそろ今回の戦いも終局へと向かっています。
かなり長引きましたが、もう少しお付き合い下さい。
>>150 名無し飼育さん 様
なっち登場、もうちょっと先……(マテ
でも次の章はなっちがメインになるはずですので……。
>>151 紺ちゃんファン 様
な、なっちはもうちょっと先に……。
でもちゃんと大活躍する予定。
>>152 名も無き読者 様
わーい、バレましたー!(笑
アースドラゴン自体がそこからちょっと持ってきたり。
>>153 名無し飼育さん 様
なっち、もうちょっと(略
ちゃんと活躍するんでお待ち下さい。
- 170 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 17:43
- 更新乙です!なっち・・・・・少しがっくりきましたが、
辻加護の活躍なかなかでした!主人公をここまでひっぱるとは、
焦らし過ぎ!ってまあ、楽しみが増えたかな。強いなっちがみたいです。
- 171 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/11/03(水) 21:27
- 更新お疲れ様です。
>>151
はーい、待ってまーす!
それにしても面白いな〜ここは。
バトルとかそういう意味でですよ。
間違っても爆笑系とかじゃないです・・・(汗
次回更新待ってます。
- 172 名前:名も無き読者 投稿日:2004/11/04(木) 21:14
- 更新お疲れ様です。
ふふ、自分その手の匂いには敏感なのですよ。
なにせ自分はしょっちゅうパk(自粛
Wも絆の垣間見える素敵な闘いっぷりでしたねw
でわ次は誰の活躍が見れるのかを楽しみにしつつ。。。
- 173 名前:名無し 投稿日:2004/11/05(金) 02:23
- 今日見つけて最初から一気に読ませてもらいました。
いいッスね、設定もキャラの配置も好きです。
ただ、魔法使いの方が剣使う人よりも
圧倒的に強い気が・・・w
- 174 名前:みっくす 投稿日:2004/11/07(日) 09:09
- 更新おつかれさまです。
みんな強いですね。
剣だけでも、魔法だけでも勝てない相手に
うまく戦っていますね。
次回も楽しみにしてます。
- 175 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 12:46
- 更新お疲れです
なんか肩透かしを食らったような感じですが。なっち・・・
他の方も言われてますが、魔法使いと剣士の差が・・・
勝手なこと言わせてもらうと、やっぱ剣士の描写を魔法使いに
追いつかせて欲しいな、と思います。やはり主人公が両方つかえる
とはいえ剣がメイン?なんだと思うんで、主人公中心の強さの
調整?をしたほうが、いいのでは・・・なんかなっちや辻など
結果的に勝ってはいても魔法キャラに比べると格段に弱い印象が拭えません。
勝手なこと言ってすいません。
骨子もしっかりしている話なのでキャラバランス
で損をしているのがもったいないと思ったもので・・・・・
すいません。勝手な感想ということで。次回も楽しみに待ってます。
- 176 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 11:56
- 〜紺野あさ美〜
城の中へと戻った私たちを待っていたのは、城の廊下を我が物顔で歩くドラゴンたちだった。
そこまでの大きさはない、小型のドラゴン。
そのぶん素早いのだが、鱗もそんなに硬くはないため、敵ではない。
「ドラゴニック・ファイアー!!」
行く手を遮るドラゴンの群れを一気に焼き尽くす。
炎の竜が翔け抜けたあとには、ドラゴンはすべて消し炭になっていた。
- 177 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 11:56
-
第15話 たとえ傷つき倒れても
- 178 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 11:58
- 「よし、行くよ!!」
「うん!!」
里沙ちゃんと愛ちゃんを促して駆け出す。
目指すのは女王の間。
さっきまで私たちが結界を張っていたところには女王様の姿はなかった。
ということはそこに女王様がいる可能性が高い。
赤い絨毯のひかれた階段を駆け上る。
するとそこにはさっきまで外で戦っていたのと同じ、大型のドラゴンが待ちかまえていた。
「くっ……」
足が止まる。
こいつは小型のドラゴンとはレベルが違う。
もうちょっとで辿り着けるっていうのに……。
「里沙ちゃん!」
「うん! プラウス・マジック!!」
金色の魔法陣が描き出される。
愛ちゃんといっしょに魔力を集め出す。
ドラゴンの方が先に動いた。
すぅーっと大きく息を吸い、炎のブレスが吐き出される。
「アンチ・シールド!!」
里沙ちゃんが私と愛ちゃんのあいだを通って前に出る。
そしてシールドが張られ、炎を受けとめた。
「早くっ!! 愛ちゃん! あさ美ちゃん!!」
「あさ美ちゃん!!」
「うんっ!!」
増幅された二つの魔力を合成し、魔法陣を形成する。
黄色に輝く魔法陣。
雷刃がバチバチと表面からこぼれ出るほど、魔力が凝縮されている。
「「ライトニング・ボルテックス!!」」
放たれた雷の帯は吐き出されている炎を切り裂き、開け放たれたドラゴンの口の中に
吸い込まれていった。
直後にドラゴンの体内でスパークが巻き起こり、ドラゴンの巨体はその場に倒れた。
- 179 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:02
- ドラゴンの死骸を飛び越えて、また走り出す。
目指す女王の間はもう目の前だ。
扉は開け放たれているのでそこから飛び込む。
そこで私たちが見たものは……
「女王様! 市井さんっ!!」
女王様と市井さんが小型のドラゴンの群れに取り囲まれていた。
慌てて魔力を集める。周囲の風が渦を巻く。
「ティフォン・ストーム!!」
突風が吹き荒れドラゴンを吹き飛ばす。
そのうちの何匹かは壁に開いた穴から放り出され、外へ堕ちていった。
「大丈夫ですか!?」
「まぁな。ナイスタイミングや……」
「いったい何がどうなったんですか? 姫様や安倍さんは!?」
部屋の中を見渡してみても姫様と安倍さんの姿はない。
「そうや、紺野、私らのことはいいからすぐに裏の森へ向かってくれ!」
「えっ? どうして……」
「伏兵だ。攻めてきたのは正面から来てたドラゴンだけじゃないんだよ!」
市井さんが言葉を引き取る。
そういえば確かに……いくらなんでも城の中にいたドラゴンの数が多すぎる……。
- 180 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:04
- 「城の裏からもドラゴンが攻めてきたんだ。なっちは後藤を連れて裏の森に
逃げた! くそっ!!」
市井さんが悔しそうに拳を握りしめ、床を殴る。
そこまで言われればもう理解した。
今安倍さんたちは敵が待っているところへ逃げていってしまっている。
すぐに助けに行かないと!
「わかりました! 今すぐ……」
踵を返そうとしたが、その前に吹き飛ばしたドラゴンが次々と立ち上がった。
それに加えて入り口の方からも大型のドラゴンが室内へと侵入してくる。
まだこんなに残っていたなんて……。
「くっ! シューティング・レイ!!」
女王様の手から光の矢が放たれる。
市井さんも双剣をかまえ、ドラゴンの群れに突進していく。
「早く、今のうちに! 真希のこと助けたってくれ!!」
女王様の悲鳴にも似た叫びが響く。
でも……どう見ても多勢に無勢なのは明らか……。
ついでに私たちの前にもドラゴンが立ちはだかっていて、簡単には逃がしてくれなさそう。
- 181 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:05
- 「あさ美ちゃん、どうするの!?」
「どうするって……そうだ!!」
ローブの中から水晶玉を取り出す。
まだ城の外に何人かいるはず。
頼りにできて水晶を持っている人は……。
呪文を詠唱して通信を試みる。
やがて水晶が淡く光り、通信が成功したことを伝える。
「保田さん! 聞こえますか、保田さんっ!!」
声を送って呼びかけてみる。
するとすぐに水晶玉の表面に保田さんの顔が映し出された。後ろには松浦さんと
まこっちゃんの顔も見える。
どうやらちゃんと気づいてくれたみたい。
『どうしたの、紺野!?』
「それが、お城にドラゴンが集まってるんです!!」
『なにっ!? 結界はどうしたの!?』
保田さんの顔が若干引きつる。
ちゃんと説明しようと思ったけど、その時目の前のドラゴンが動いた。
なんとか里沙ちゃんと愛ちゃんが食い止めてくれてるけど、ちょっときつそう。
- 182 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:06
- 「ちょっと今説明してる時間はないんですけど、城の方は私たちがなんとかしますから、
保田さんは裏の森へ向かってくれますか!?」
『森!? なんで!?』
「それは……うわっ!」
いくらなんでもそれくらいは説明しようと思ったけど、ドラゴンの炎によって拒まれる。
うぅ……なんて意地悪なドラゴン……。
「す、すいません、ちょっと今説明してられないんですけど……」
『わかった、裏の森でいいんだね!?』
それでも保田さんはなにかを感じ取ってくれたみたいだ。
「お願いします!!」
愛ちゃんと里沙ちゃんも食い止めるのが限界そうなので、私は通信を切って水晶をしまう。
そして三人でいったんドラゴンから離れ、体勢を整える。
これで安倍さんたちは何とかなるだろう。いや、保田さんたちになんとかしてもらわないと……。
そのかわりにこっちは私たちがなんとかしますから!
「よしっ、愛ちゃん、里沙ちゃん、もう一回ドラゴン退治いくよ!!」
「「おうっ!!」」
- 183 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:09
-
◇ ◇ ◇
〜吉澤ひとみ〜
金属音が連続して響く。
カタナを振り下ろすと、そこに差し出される大鎌。
また新たな金属音が雨の中に溶けていった。
矢口さんの武器は超重武器の大鎌。
だから攻撃の速さはアタシのほうが上なんだけど、その攻撃を矢口さんは刃や柄を使って
的確に捌いてくる。
今さらだけど相当大鎌を使い慣れている。
たまに掠りはするけど、どうしても深い傷は与えられない。
どこかホッとしている自分と、激しく舌打ちしている自分がいる。
その両方を叱咤してなんとか冷静さを取り戻し、また攻撃を加える。
「矢口さん、どうしてこんなことをっ!!」
「・・・・・・」
矢口さんは応えない。
ただ冷静に冷えた瞳がアタシの攻撃を観察し、握られた大鎌が機械的に攻撃を弾いていく。
- 184 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:12
- 最初は矢口さんを止めようと戦っていた。
でも街が破壊されていくたびに、人が死んでいくたびに、どうしようもない怒りが込み上げてきた。
「こんなふうにハロモニランドが破壊されて、人が殺されて、矢口さんは何とも思わないんですかっ!?」
「……っ……」
一瞬痛みにこらえるように、矢口さんの顔が歪んだ気がした。
でもそれも一瞬。もしかしたら見間違えかもしれない。
今目の前にあるのは、さっきまでと同じ冷たい瞳。
「答えてください、矢口さんっ!!」
もはや怒りは口からこぼれ落ちるだけでは足りない。
目の前の敵を斬れ、と、身体に命令を下している。
でもアタシはそれを必死に押さえ込む。
「矢口さんッ!!」
両手で握ったカタナを大上段から振り下ろす。
矢口さんは大鎌の柄を自分の身体の前に出してアタシの斬撃を受けとめた。
カタナと柄が十字を描くと同時に、ひときわ高い金属音が響く。
衝撃で矢口さんの身体が後ずさった。
- 185 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:15
- 「チッ!」
小さな舌打ちとともに矢口さんの身体がさらに跳び下がる。
業を煮やしたのだろう、矢口さんの手に魔力が集められた。
バチッと電流が大気に溢れ出る。
「プラズマ・シュート!!」
電撃の塊が乱れ飛ぶ。
確か雷魔法の初歩的な魔法だったはず。
それでも直撃すれば全身を麻痺させるくらいの威力はある。
剣を振るって雷球の一つを切り裂く。
柄は木拵えだし、グローブをはめているので電流は伝わってこない。
だがいかんせん数が多すぎる……。
ベルトに通した鞘を引き抜き、鞘も動員して雷球を払っていく。
嵐のように乱れ飛んでいた雷球が消えた。
鞘をベルトにもどし、一気に矢口さんとの距離をつめる。
待ちかまえていたように大鎌が振り下ろされた。
でもアタシはその前に濡れた地面を蹴っていた。
- 186 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:17
- 「なっ!?」
矢口さんの声が真下から聞こえてくる。
そのままアタシは矢口さんの上を飛び越し、宙で一回転してから地面に着地した。
首だけ後ろにまわすと矢口さんの無防備な背中が見える。
剣を振りながら身体を回転させる。
矢口さんも同じようにしてるけど、アタシの方が速い!
鎌が振られるよりもアタシの剣が首筋に添えられ、矢口さんは動きを止めた。
勝負あり!
「……やれば、よっすぃー?」
「できませんよ、ウチには」
カタナをそっと引いて、矢口さんの首筋から離す。
一回思いっきり振って、血と水滴を飛ばすと、そのまま鞘に収めた。
- 187 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:18
- 「矢口さん、ハロモニランドに戻ってきてくださいよ」
あいかわらず矢口さんは応えない。
口も開くことなく突っ立っているだけ。
アタシは矢口さんの肩をつかんだ。
「辻だって、加護だって、矢口さんのことずっと待ってるんですよ!? ウチだって……
もう矢口さんと戦いたくありませんよ!」
「……よっすぃー……」
「離れたって、裏切られたって、ウチの気持ちは変わってません! ウチはまだ矢口さんのこと
愛してますっ!!」
時が止まったように、二人とも動かなかった。
降り注ぐ雨の中、二人向かい合って立ちつくしている。
アタシの想いは矢口さんの心に届いただろうか?
ここは一つの分かれ道だ。
矢口さんが戻ってきてくれるか……それとも……
- 188 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:19
- 矢口さんの手から大鎌が離れた。
大鎌の切っ先が地面に吸い込まれるようにして、突き刺さる。
「……ありがと、よっすぃー……」
アタシを見上げた矢口さんの顔は相変わらずの無表情だった。
でもその瞳から冷たさは消えていた。
「矢口さ……んっ!?」
アタシが言葉を発する前に、矢口さんの手がアタシの頬を包んだ。
そして言葉は矢口さんの唇によって遮られた。
せいいっぱい背伸びをしてアタシにキスをしている矢口さん。
久しぶりのキスは、悲しい味がした。
- 189 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:21
- そっと矢口さんが体を離した。
アタシはそれまで固まったままだった。
離れて見た矢口さんの顔は、昔に戻ったかのように穏やかな笑顔だった。
「オイラも……たとえ離れたってよっすぃーのこと好きだよ。愛してるよ」
「矢口さん……」
「でも……ゴメン、今は帰れない」
「えっ……?」
地面に突き刺さったままだった大鎌を矢口さんが引き抜く。
その時には、笑顔はすでに雨の中に溶けていってしまっていた。
「なんでですか、矢口さん!?」
「オイラにはまだやらなきゃいけないことがあるんだよ」
「そんなの……ハロモニランドでやればいいじゃないですか!?」
思わず矢口さんの手首をつかむ。
でもそれはすぐに雨の滴で滑ってほどけた。
なんとなく……もう一度掴み直そうという気にはならなかった。
- 190 名前:第15話 投稿日:2004/11/12(金) 12:22
- 矢口さんはまた微笑った。ただし今度は寂しそうに。
そしてそのまま辺りをぐるっと見渡した。
「アヤカのドラゴンも……もうほとんど倒されちゃってるね」
矢口さんが呟いた言葉は、どこかホッとしたような、そんな口調だった。
変わらぬ口調で「オイラが来る必要もなかったか……」と付け足すと、そのまま左手の親指と
人差し指を口にくわえ、ピーッと鳴らす。
すると今までどこにいたのか、一匹のドラゴンが曇天を切り裂いて滑空してきた。
「矢口さんっ!!」
慌てて手を伸ばしたけど、その前に矢口さんは地表近くまで降りてきたドラゴンの背に
飛び乗った。
それを確認してか、ドラゴンはまた上空に戻っていった。
「矢口さーんッ!!」
飛び去っていく矢口さんの頬を、今流れたのは……雨か、それとも……
- 191 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/11/12(金) 12:33
- 今回はここまでです。
さて、長かったVSドラゴン編も残すところあと一戦!
活躍するのはもちろんあの人です! お楽しみに〜!
>>170 名無し飼育さん 様
辻加護はようやく活躍させることができました!
主人公は引っ張りますよ〜! やっぱりおいしいところは最後にね!
>>171 紺ちゃんファン 様
いやいや、ありがとうございます!
最近バトルばっかりな気もしますが……。
- 192 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/11/12(金) 12:50
- >>172 名も無き読者 様
バレると思ってました!(笑
Wはやっぱり一緒がいいかなぁ、と思いこんな感じにしてみました。
絆ちゃんと書けてたようでよかったです。
>>173 名無し 様
一気に読んでいただいたようで、ありがとうございます!
そろそろ一気に読むには大変な長さになってきたような……。
>>174 みっくす 様
辻加護はやっぱり二人で一人みたいな感じですね!
この二人は力を合わせて戦うのがいいです。
>>175 名無し飼育さん 様
なっちは次回やっと登場する予定です。
その時にはちゃんと強いなっちも見せられると思います。
- 193 名前:名も無き読者 投稿日:2004/11/12(金) 17:36
- 更新お疲れサマです。
彼女の真意は未だ掴めず・・・切ないッス。。。
しかし次回!!遂に彼女の登場ですか!?
やー、楽しみ楽しみ♪
続きも期待して待ってます。
- 194 名前:みっくす 投稿日:2004/11/14(日) 06:35
- 更新おつかれさまです。
そういうからくりがあったんですね。
もちこたえられるのですかね。
がんばれ。
次回も楽しみにしてます。
- 195 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 16:32
-
更新乙です!すいませんね。
なっちなっちとうるさくて・・・
しかーし今回も楽しめました。
まったく引っ張り方がうまいですね。
おかげで毎日チェックするようになっちゃったじぁないですか。
書き込むのは遅れましたが・・・
剣士さん達の強いとこが見たいですね。とにもかくにも
- 196 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 02:20
- 更新キテターーーーーーー
お疲れ様ですよ。
切ないですね。どんな鎖につなぎとめられてるのか。
けど紺野がすこしでも目立つとどうしても他が薄くなっちゃいますね。
作者さんの思い入れが文章に出すぎてるのかな?
それが上の方の印象になるのかなあ・・ちなみにアンチではないですからね。
コンコン大好き!涙〜〜〜♪ってね
まあ、剣士もこれから作者さんが活躍させてくれるでしょう。では次回も
楽しみに待ってます。
- 197 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/11/17(水) 00:45
- なんか作者さんがあえてレスに反発してる気が・・
更新おつかれさまです
みんななっちなっち言い過ぎ、って気持ちはわかりますがね。
確かに紺野に食傷気味なのは確かかも。でも物語はハラハラ
ドキドキ・・例えが古いが・・してますよ。
こういった意見がでるのは作品がおもしろいからですね。
次回の作者さんは・・・どうでるのでしょうか?
- 198 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/11/18(木) 19:41
- 作者さま、更新お疲れ様です。
いやはやなんとも・・・いいですね〜(何
紺野たちにはがんばってほしいです。
そして次回活躍予定の「あの人」とはまさか・・・(ニヤッ
- 199 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:23
- 〜安倍なつみ〜
ガサッガサッ!
雨の音に混じって、草木の揺れる音が聞こえてくる。
立ち止まり、神経を尖らせて、音の方向に気を向ける。
すると突然、生い茂った草の中から、小型のドラゴンが飛び出してきた。
「くっ……」
突き出された鋭い爪を、右手だけで握った剣で受けとめる。
そのまま剣を滑らせるようにしてドラゴンの胴を斬りつけたけど、片手だったため
致命傷は与えられなかった。
ドラゴンは踵を返して、もと来た茂みの中へと飛び込んでいってしまった。
「キャッ!!」
「ごっちん!?」
私の背後でごっちんが小さな悲鳴をあげた。
見ると私たちのすぐ後ろまでドラゴンの群れが迫っていた。
小型のドラゴンが四匹、そして大型のが三匹……。
さすがにこの数相手では分が悪い……。
「ごっちん、逃げるよ!」
「うんっ!」
ごっちんの手を引っぱって走り出す。
小型のドラゴンが逃げていったのとは反対の方向へ。
走ってるあいだにも小型のドラゴンが単体で襲いかかってきたりしたが、それはなんとか
追っ払うことができた。
- 200 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:24
- 私とごっちんは城から出たあと、すぐ裏にある森へと逃げ込んだ。
理由は不明だが敵がごっちんを狙っているとわかった以上、せめてごっちんの安全だけは
確保しなくてはいけない。
私がごっちんについて守るにしろ、ごっちんを安全な場所に移してから女王様を助けに行くにしろ、
この森は最適だと思って森へと飛び込んだ。
私とごっちんはこの森で遊んでたため、道はお互い熟知しているのだから。
だが森の中はすでにドラゴンが歩き回っていた。
もうこんなところまで侵攻してきたのか、とも思ったが、それは違うような気がしてきた。
いくらなんでもドラゴンの数が多い気がする。
それに……
チラッと後ろをふり返る。
後ろから追ってきているはずのドラゴンは、今はもう見えなくなっている。
大型のドラゴンはトロいからともかく、小型のドラゴンなら追いつけなくもないはず……。
嫌な予感がした。
まるでどこかに誘い込まれているような不安が胸をよぎった。
- 201 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:26
- 「ごっちん、シャインゲート使えるかい?」
「うん、使えるけど、どうして?」
「とにかくこの森から出るよ。なんとなく……嫌な予感がする」
「わかった!」
ごっちんが魔力を集め始める。
でもそのとたんに、道脇の木がなぎ倒され、巨大なドラゴンが現れた。
その口からは鋭く尖った氷塊が吐き出される。
「ごっちんっ!!」
「わっ!?」
ごっちんに抱きついて、二人で転げる。
なんとか氷塊をかわせたが、おかげでごっちんが集めていた魔力は拡散してしまった。
どうあっても逃がさないつもりか……。
両手で剣を握り、ドラゴンと向き合う。
大型のドラゴンとはいえ、一匹なら何とかなる。
でもそんな望みはすぐに絶ちきられた。
背後でメキメキッという、木がへし折られる音がした。
おそるおそるふり返ると、後ろにももう一匹大型のドラゴンが現れていた。
ダメだっ……。
ごっちんの手を掴み、藪の中へと逃げ込む。
- 202 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:27
- 「なっち……」
木の枝が顔や腕をひっかいていく。
でももはやそんなこと気にはしていられなかった。
一刻も早くこの森から抜け出さないと!
木のあいだを突っ切っていると、ようやく遊歩道へと出た。
その道なりにまた走り出す。
ここは……どこだ?
頭の中にインプットされている地図と照合するが、その前に視界が開けた。
ここは森のほぼ中央。少し開けた、広場みたいになっている場所。
ようやくそれがわかったとき、今までの不安は現実のものになった。
私たちが広場に足を踏み入れるなり、同じようにドラゴンの大群が、四方八方から広場へと
入り込んできた。
慌てて戻ろうとしたけど、それも私たちのあとを追ってきたドラゴンに阻まれてしまい、私たちは
広場の中央まで追いやられた。
大小さまざまなドラゴンが私たちを取り囲んでいる。
「な、なっち……」
私のマントをつかむごっちんの手が震えている。
私も剣を握る手が少し震えていた。
ドラゴンたちはジリジリとにじり寄ってくる。
最悪の状況だ……。
- 203 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:29
- 「フフフ、見事に引っ掛かりましたね?」
聞き覚えのある声が近づいてくる。
私たちを取り囲んでいたドラゴンの一角がサッとどき、そこからアヤカが私たちの前に歩み出る。
その後ろには私たちを取り囲んでいるどのドラゴンよりも大きい、首が一つの胴体から九本も
はえたドラゴンが付き従っていた。
ヒドラだ……。滅多に見れない、珍種中の珍種にして、強大な力を持つドラゴン……。
「check mateですね! 伏兵は基本中の基本ですよ? 本当は城に突入させる予定
だったんですけど、わざわざそっちから来てくれたんで助かりました」
「くっ……」
もはやなにも言い返せなかった。
ピースを経由してきたドラゴンがすべてだと完全に思いこんでいた。
まさかこんなところにもう一団潜んでいたなんて……。
「さて、ではプリンセスを渡してもらいましょうか? 一応それが最重要任務なので」
「ごっちんは渡さないッ!!」
でもその時、爆音とともに背中に衝撃が走った。
「うわっ!」
どうやら背後にいたドラゴンが吐いた火球が命中したみたい。
私のマントは耐火性に富んでるから炎の影響はなかったんだけど、それでも衝撃で
前に倒れ込んだ。
- 204 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:30
- 「なっち!」
ごっちんがかけよってくるのが見えた。
でも小型のドラゴンがごっちんに体当たりをくらわせ、ごっちんも濡れた地面に倒れ込む。
「ごっちん! うわっ!! くっ!」
立ち上がったけど、私のほうにも小型のドラゴンが走ってきて、また吹っ飛ばされる。
そしてまた地面に倒れると、そこに何匹もの小型のドラゴンが群がってきた。
爪や牙が容赦なく私の身体を傷つけていく。
「やめてーっ!!」
ごっちんの叫び声が響いた。
その瞬間にドラゴンの動きがピタッと止まる。
アヤカが右手を高く掲げていた。
「行くから……ごとー行くから……。だからなっちをこれ以上傷つけないで……」
「なっ!?」
「フフッ、ナイト想いのプリンセスですね」
ごっちんがゆっくりとアヤカのほうに近づいていく。
「ごっちん!!」
なんとか立ち上がろうとしたけど、その前に背中に加重が加わった。
周りを取り囲んでいるドラゴンの足が、私の背中を踏みつけて地面に押さえつけている。
ごっちんはアヤカの手前数メートルで立ち止まった。
- 205 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:31
- 「なっちを解放して」
「OK!」
アヤカがまたすっと手を上げた。
すると私の周りを取り囲んでいたドラゴンが、いっせいに退散する。
そしてアヤカの手がごっちんを捕まえた。
「では一応これをつけさせてもらいます。失礼しますよ、プリンセス」
「・・・・・・」
ごっちんの両腕に鋼鉄の腕輪がはめられる。
その腕輪には紅い魔法陣が描かれていた。
「それではごきげんよう、隊長さん!」
「あっ、待てっ!!」
アヤカは両方の腕輪を繋ぐチェーンを掴んで、ドラゴンの輪の外へと出て行った。
慌てて追いかけたが、不意にアヤカが私の方に向き直った。
その顔は邪悪な微笑みが宿っていた。
「さて、それじゃああとは好きにしなさい!」
パチンと指が鳴らされる。
その瞬間に、ドラゴンたちが襲いかかってきた。
- 206 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:32
- 「なっ!? 約束が違うっ!!」
「ワタシの最重要任務はあなたをロマンス王国へとお連れすることだけど、それ以外にゼティマを
壊滅させることも命じられているんですよ、プリンセス」
「くっ、なっちー!!」
ごっちんとアヤカの会話を聞いている余裕はなかった。
まずいっせいに小型のドラゴンが飛びかかってくる。
「フンッ!」
正面から向かってきたドラゴンの爪をかわし、そのまま剣を引いて胴体を串刺しにする。
こいつらの鱗なら剣で破れる。
胴体から剣を引き抜くと同時に、そのまま剣を旋回させ、となりにいたドラゴンを切り裂く。
でもその時、背後に嫌な気配を感じた。
「うわっ!」
慌てて、切り倒して開いた一角へと飛ぶ。
今まで私がいた場所に、氷の刃が突き刺さった。
「ふぅ……」
短く息をつき、剣を握り直す。
氷のブレスをかわせたと同時に、なんとかドラゴンの囲みの中から脱出できた。
一応この広場をぐるりと、大小さまざまなドラゴンに囲まれているんだけど、そいつらはまだ
静観を決め込んでいる。
じゃあまずは目の前にいる小型ドラゴン六匹を倒しますか。
- 207 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:33
- グッと濡れた地面を蹴って疾走する。
一瞬でドラゴンの群れの側面に回り込み、そこからまだ私を追えていないドラゴンの
群れへと突進する。
最初の攻撃で二匹を斬り伏せる。
そのころにはようやく残りのドラゴンも私に気付いていた。
先頭の一匹が腕を振り上げて襲ってくる。
でも……ワンパターンだねぇ。
剣を閃かせ、両腕を切り飛ばす。
そのまま頭上で旋回させ、真下に叩き落とした。
真っ二つになったドラゴンが地に落ちる。
残りは三匹。その三匹が飛び上がり、いっせいに襲いかかってきた。
さすがに三匹同時に倒すのは、物理的に無理。
いったんバックステップしてなんとか攻撃をかわす。
ドラゴンが地面に降りたところでまた切り返す。
一匹、二匹、三匹……。
一振りずつ、確実にドラゴンを切り倒した。
「さぁ、次はどいつだ!?」
ビッと剣を振って血を飛ばす。
取り囲んでいたドラゴンたちはすっかり怖じ気づいてしまったようだ。
向かってくることもなく、ジリジリと後退していく。
だがそのかわりに、背後でひときわ大きな足音が響いた。
- 208 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:35
- 顔だけ後ろにふり向く。
そこに立っていたのは、あの九本の首を持つドラゴン、ヒドラだ!
ヤバいっ!!
『ガアアァァァアアッ!!』
「うわぁああっ!!」
九本の首からいっせいに吐き出された炎が辺りを火の海へと変える。
なんとかシールドを張るも、この火勢は完全には防ぎきれない。
皮膚が焦げ付く、嫌な感触がする。
「なっち! なっちーっ!!」
「ごっちん……」
なんとか炎の中から転がり出る。
でも一つの頭が私を追ってくる。
そのまま私はヒドラの頭に弾き飛ばされた。
「うわっ!!」
宙に舞い上がり、そして水溜まりへと落下する。
弾き飛ばされたときに牙が掠ったようで、右腕から血が滴る。
それでもヒドラの攻撃は止まない。
頭の一つが、今度は大きな口を開けて襲いかかってくる。
- 209 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:35
- 「なっち……もうやめてー!!」
ごっちんの悲鳴が響き渡る。
ごっちん……今助けてあげるから……。
痛む身体を支えてなんとか立ち上がる。
ヒドラの口が目の前に迫った。
その口の中に剣を突き入れる。
そして口内から外へと剣で貫いた。
『ギャアアアアッ!!』
ヒドラの首が暴れ回る。
そのひょうしに牙が数本腕に突き刺さった。
「くぅ……」
苦痛に顔を歪めながらも腕をヒドラの口の中から抜く。
血が腕を滑り落ちていき、水溜まりに朱を混ぜる。
雨が傷口に染みる。
剣を取り落としそうになって、慌ててまた強く握る。
- 210 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:36
- 『ガアアァァァアアッ!!』
「! うわっ!?」
またしても吐き出される炎の嵐。
受けとめきれない……。
なんとか炎の範囲外へと飛び出るが、すぐに何かに行く手を遮られ、思い切りぶつかった。
冷たくて硬いこれは……ヒドラの首っ!?
「しまった!」
慌てて逃げようとしたがもう遅かった。
私の周囲をぐるっとヒドラの首が取り囲んでいる。
そしてそのまま太い首が私の身体に巻き付いてきた。
「あああぁぁあああっ!!」
胴を締め付けられたまま宙に持ち上げられる。
そのあいだも首がギリギリと身体を締め付けてくる。
今にも身体がねじ切られそうなほど、その力は強い。
- 211 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:37
- 「くぁっ……」
呻きながらもなんとか剣を振り下ろす。
でもその抵抗も鱗の前にあえなく弾かれた。
くぅ……苦しい……。
でも……こいつを倒さなければ……ごっちんは……。
なんとか残りの力を振り絞り、剣を両手で握りしめる。
そして身体に巻き付いている首めがけて振り下ろした。
『ギャアッ!!』
剣は鱗のあいだを的確に捉え、ドラゴンの首に突き刺さった。
締め付けが少し緩む。
その隙に一気に雷の魔力を集める。
これをやれば私もたたじゃ済まないだろう。
でも……こいつを倒すにはこうするしかない!
できあがった魔法陣に手をかざす。
黄色く輝く魔法陣が、辺りを漂っている雷雲を呼び寄せてくる。
私といっしょに……地獄を味わえ!!
「サンダー・ストーム!!」
- 212 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:38
- 集まった雷雲から幾筋もの雷が降り注いでくる。
そのすべてを自分のもとへと呼び集める。
「くっ、あああぁぁぁあッツ!!」
『ギャアアアアッ!!』
激しい電流が私の体を蝕んでいく。
雨に濡れた体では通電性が増す。
でも雷は手に握った剣から、確実にヒドラの体内へと流れ込んでいっている。
まだだ……もっと……
明滅する激しいスパークの中、身体に巻き付いた首の締め付けがだんだんと弱くなってくる。
『ギャアアアアアァァァアアッ!!』
ひときわ大きなヒドラの断末魔の咆吼が響いた。
その瞬間に締め付けが解け、私の身体はそのまま投げ出された。
濡れた地面に身体が叩きつけられる。
「なっ……」
アヤカの驚愕の声が聞こえた気がした。
でもそれをかき消すように、背後でズゥンという轟音とともに地面が揺れた。
私の目の前にヒドラの頭の一つが投げ出されて落ちた。
目は白目を剥いていて、大きく開け放たれた口から舌がはみ出していた。
- 213 名前:第15話 投稿日:2004/11/20(土) 14:38
- 倒……せたのか……よかった……。
でも……もう……力が……
ぼんやりと視界が薄れていく。
神経のすべてが身体から切り離されていく感覚……。
死ぬのかな……私……?
でも、その時……
「なっち、なっちーっ!!」
わずかに残っている聴覚が、ごっちんの泣き叫ぶ声を拾った。
その瞬間にすべての感覚が戻ってくる。
そうだ、諦めちゃダメだ!
ごっちんを……助けなきゃ、守らなきゃ!!
よろよろとしながらもなんとか体を起こす。
痛みも痺れも残ってる。でもここで倒れるわけにはいかない。
顔を上げ、アヤカを睨みつける。
「ごっちんは、絶対渡さない! ごっちんを……返せっ!!」
- 214 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/11/20(土) 14:48
- 今回はここまでです。なんかもう本当にお待たせしました。
VSドラゴン編、クライマックスです。
やっぱこう囚われのお姫様を助けるっていうのはファンタジーの王道だよねぇ。
>>193 名も無き読者 様
登場でした、ようやく!
勉強は私もしてません(マテ
>>194 みっくす 様
一応バラバラに戦いつつも、最後はしっかりとまとまります。
次回更新でドラゴン編はとりあえず終了です。
- 215 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/11/20(土) 14:59
- >>195 名無し飼育さん 様
ようやく登場しました。
引っ張りすぎましたねぇ。でも毎日チェックしてくれるなんて光栄です。
>>196 名無し飼育さん 様
紺野はちょっと出すぎですねぇ(苦笑 でもファンの方も読んでることだしいいのか?
まぁ能力的に必要なキャラなんで……。
成り行き半分、計算半分ってとこです。
>>197 名無し募集中。。。 様
いやいや、あえてレスに反発してるつもりはないんですけどね(汗
ただレスの影響でシーン増やしたりはすることもありますが、ストーリーの順序とかは変えられないので……。
まぁ、間の悪い偶然です(ぇ
>>198 紺ちゃんファン 様
ようやく「あの人」登場でした!
あと少しです。みんな頑張れ!
- 216 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/11/20(土) 19:00
- ごっちーん・・・。助かってほしいです。
そしてお城のほうは大丈夫なのでしょうか・・・・?
- 217 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/11/22(月) 01:16
- 更新乙です。
うーん・・
- 218 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/23(火) 13:29
- 更新おつかれさまです。
- 219 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/26(金) 19:46
- 乙です。次回に期待です
- 220 名前:名も無き読者 投稿日:2004/11/29(月) 20:04
- 更新お疲れサマです。(亀杉
頑張れなっち。。。
彼女の戦う姿、カッケーっす。
最後の一言がまた、、、w
続きも楽しみにしてます。
- 221 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:38
- 「ごっちんは、絶対渡さない! ごっちんを……返せっ!!」
「うぅ……」
アヤカが一瞬たじろいだのがわかった。
でもすぐにサッと手を前に突き出す。
「Hey! この死に損ないを始末しちゃって!!」
周囲を取り囲んでいたドラゴンが向かってくる。
なんとか迎え撃とうとするけど、まだ身体の痺れが抜けてない。
大型のドラゴンの突進をまともにくらって、私の身体は吹っ飛んだ。
「ぐあっ!」
地面を滑る。
さらに別のドラゴンが大口を開けて私めがけて走ってくる。
「くっ……」
なんとか魔力を絞り出して、左手へと集めていく。
目の前に迫るドラゴンの大口。その中へ魔法を叩き込めば……。
- 222 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:40
- でも魔力が尽きかけているせいか、集まるのがいつもより遅い……。
まずい、間に合わない……!
大きく開いていたドラゴンの口が、一気に閉じられた。
「ああぁっ!!」
左腕に突き刺さるドラゴンの牙。
でも遅れること一瞬で、なんとか魔法を完成させた。
「ファイア・ランス!!」
食いつかれた左手から魔法を放つ。
放たれた炎の槍はドラゴンの体内を蝕み、背中へと突き抜けた。
力を失い、その場にドラゴンが倒れる。
これでもう左腕は使い物にならない。魔法ももう使えないだろう。
それでも力を振り絞って立ち上がる。
ごっちんを……助けるんだ……。
その思いが私を突き動かしていた。
「ごっちんを、返せッ!!」
右手だけで握る剣一本で、ドラゴンの群れへと突っこむ。
そしてすれ違いざまにドラゴンを斬っていく。
小型のドラゴンはもちろんのこと、大型のドラゴンの鱗も切り裂き、全てを薙ぎ倒して
一直線にごっちんとアヤカのもとへ。
- 223 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:41
- 「アヤカーッ!!」
「くっ!」
アヤカがごっちんの前に立ちはだかった。
私はアヤカに向かって剣を振り下ろす。
アヤカは武器を持っていない。それに逃げる時間もない。
捕えたっ!!
でも……
「なっ……?」
「フフッ!」
私の剣はアヤカにかかる直前でピタッと止まった。
アヤカは左手だけで、私の打ち下ろしを完全に白刃取りしてみせた。
「くっ……まいちゃんや梨華ちゃんに聞いてたよりもずっと強いです……。あなたが万全の
状態だったら、いい勝負ができたかもしれませんね」
空いてる右手が握りしめられ、すっと引かれる。
ヤバいっ!
とっさに両腕でボディを防御する。
その上に衝撃。
私は後方に吹っ飛ばされた。
- 224 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:42
- 「うわっ!!」
そのまま濡れた地面に落ちる。
くっ、ガードの上からこの衝撃なんて……!
なんとか立ち上がろうと地面に手をつくと、急にその周りの地盤が歪んだ。
しまった! まさか……アースドラゴンっ!?
『ガアアアァァァアッ!!』
「あ、あああっ!!」
牙が私の身体を挟み込む。真っ赤な血が滴り落ちる。
私の真下から現れたアースドラゴンが私に食らいつき、そして高々と持ち上げた。
「ぐ……がはっ!」
口の中が鉄の味で染まる。激痛が身体を貫く。
抗おうとしても身体が動いてくれない。もうとうに限界は突破していたらしい。
ごっちん……ごっちん……
また急速に遠くなる意識の中、ごっちんの名前だけを反芻して呼んでいた。
- 225 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:45
- ヒュンッ!!
何が起きたかわからなかった。
私に噛みついていたアースドラゴンが急に悶えだした。
なに……?
頭だけ動かして見てみると、アースドラゴンの首に一本の矢が突き刺さっていた。
「安倍さんを離すのれす!!」
続いて上空から聞こえてきた、少し舌っ足らずな声。
手にした槍が鈍く輝く。
あの槍は……
衝撃が走ったあと、アースドラゴンの口が大きく開け放たれた。
私の身体はまた宙に投げ出されたが、今度は地面に叩きつけられることはなかった。
その前に誰かが私の身体を抱え、見事に着地する。
「安倍さん、大丈夫ですかぁ?」
「……松……浦……?」
「そうですよ〜! お待たせしました!」
松浦に肩をかしてもらって、なんとか地面に立つ。
するとその時、小型のドラゴンが一匹私たちの方に飛びかかってきた。
でも松浦は片手でやすやすとそのドラゴンを返り討ちにした。
そしてそれと同時に、足下にダークブラウンに光る魔法陣が広がった。
- 226 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:46
- 「アース・シャフト!!」
地面が盛り上がり、石でできた槍が突き出す。
それは小型のドラゴンを串刺しにし、大型のドラゴンの動きを封じ込めた。
顔をむけるとあいぼんがニコッと笑った。
そして……
「ご苦労様、なっち。よく頑張ったね」
光るナイフが目の前を横切った。
そのナイフからはバチバチッと電流が溢れている。
「圭……ちゃん……?」
「たった一人でここまでのドラゴンを倒すとはね、たいしたもんだよ。ま、あとは私たちに
任せなさい。お姫様は必ずなっちのもとに返してあげるから!」
両手いっぱいに構えたナイフがフッと消える。
「ライトニング・ニードル!!」
雷を湛えたナイフは光の矢となって飛んでいく。
そして命中するたびに、ドラゴンがバタバタと崩れ落ちた。
- 227 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:49
- 「なっ? なぁっ!?」
「さぁ、残るはあんただけよ!」
いまだにごっちんを捕えているアヤカの前にみんなで集まる。
圭ちゃんがアヤカにナイフを突き付けている。
そのころには残っていたドラゴンもすべて地に突っ伏していた。
「あんたが街に放ったドラゴンもきれいに倒した。城の中も紗耶香や紺野たちが今戦ってるから
時間の問題だろう。形勢逆転だね? ウチのお姫様返してもらおうか?」
「くっ……」
観念したらしいアヤカがごっちんの手を離して背中を小突く。
圭ちゃんがそのままごっちんを受けとめ、放り投げられた鍵で腕輪を外した。
「まさかワタシの友達が敗れるなんて……」
「甘かったね、みんなそんなにヤワじゃないよ」
「えぇ、甘かったです。ここまでやるとは思ってませんでした。特にあなたのナイフの腕は……
さすが、『ピッコロ王国』の英雄と呼ばれただけのことはありますね」
圭ちゃんの身体がピクッとこわばったような気がした。
アヤカは薄い笑みを浮かべながらさらに続ける。
- 228 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:50
- 「やっぱり……あなたが保田圭さんですか。すごいですね、5年経っても『ピッコロ王国』では
あなたの武勇伝が語られてましたよ? そのナイフの腕とか、モンスターに襲われた
『ピッコロ王国』をあなたが守りぬいたとか」
「……まさか……」
「えぇ、ワタシも女王様といっしょに参加してたんですよ、あの殲滅戦に。もっともワタシは
斥候として『ピッコロ王国』に潜り込んでチョコチョコっと内部工作をしただけですけどね〜!
あとは女王様が一瞬で廃墟にしてくれちゃいましたから。でももしあなたが残っていたら、
結果は変わっていたかもしれませんね〜?」
「……貴様ーッ!!」
圭ちゃんがアヤカに向けてナイフを放つ。
でもアヤカは至近距離から投げられたナイフを微動だにせずピタッと受けとめた。
「いいですね、その眼。その眼でワタシに向かってきてください。背負ってるものはワタシも同じ。
次に会ったときは、ワタシも今日あなたに殺された友達の敵をとらせてもらいます」
アヤカは指を口にくわえ、ピーッと鳴らした。
すると今まで空中で待機していたらしい一匹のドラゴンが、勢いよく滑空してきてアヤカを拾い上げた。
「なっ!? 待てっ!!」
「フフ、焦らなくても、あなたはワタシが殺します、絶対に! でも今日は潔く負けを認めて退散しますよ」
「逃がすかっ!!」
圭ちゃんがナイフを投げる。
麻琴も矢を射るけど、ドラゴンは捕えきれなかった。
そのままドラゴンは闇空の中へと消えていった。
- 229 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:51
- 「くそっ!」
圭ちゃんが悔しそうに舌打ちをする。
するとその時、圭ちゃんのマントが淡く光った。
圭ちゃんが一度深呼吸をし、、マントの下から水晶を取り出す。
水晶には紺野の顔が映っていた。
『保田さん、お城のほうはなんとか片づきました! 女王様も無事です!!』
「紺野、こっちも片づいたよ! 姫様もちゃんと助けた。敵のリーダーには逃げられちゃったけどね」
そっか、女王様も無事か……。
よかった……。
安心しきった瞬間、身体の力がすーっと抜けた。
松浦の肩から身体が滑り落ちる。
「あっ、なっちっ!!」
でも今度は温かいぬくもりに包まれた。
それは私が一番やすらぐぬくもり。
守りぬけてよかった……。
「なっち、なっちっ!!」
温かいごっちんの身体に包まれて……
私は今度こそ完全に意識を失った。
- 230 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:52
-
◇ ◇ ◇
「……んっ?」
次に目を開けたとき、私はベッドの中にいた。
自分の部屋にいるんだと理解するまでにけっこう時間を要した。
窓からは明るい光が差し込んでいる。
……あれっ? 雨降ってなかったっけ?
「おぅ、やっと目が覚めた?」
「えっ?」
顔だけ動かして声が聞こえたほうを見る。
そこには圭ちゃんが、ベッドの側に椅子を置いて座っていた。
「あ〜、寝起きに圭ちゃんの顔はいい気付けになるべさ……」
「はっ、憎まれ口叩けるくらいならもう大丈夫ね! てゆーか寝過ぎよ!」
「……なっちどれくらい寝てたんだべか?」
「三日!」
「三日ぁ!?」
慌てて飛び起きる。
けど圭ちゃんは「しーっ!」と口に指をあてた。
- 231 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:53
- 「あんたが寝てたかわりに全然寝なかった人もいるんだからね?」
「えっ?」
圭ちゃんはそのまま指でベッドの端を指さす。
その指を追ってベッドの端を見ると、そこにはごっちんがベッドに突っ伏していた。
「あんたの傷を治すために魔法を使い続けて、さらにずっとつきっきりで看病してたんだよ。
さすがに姫様の身体の方が心配だから私が少しは代わったけど、それでもずーっとなっちの
こと看てたんだから。朝までは起きてたんだけどねぇ」
「そうだったんだべか……」
「さてと、じゃあ私は女王様になっちが目覚めたって報告してくるから」
そう言い残して圭ちゃんは部屋を出て行った。
パタンと扉が閉まる音が響く。
するとそのひょうしにごっちんの瞳がうっすらと開いた。
「んぁ……?」
ごっちんがベッドから顔を上げた。
けど……ありゃりゃ、前髪ボサボサだ……。
そっと手を伸ばして前髪を直してやると、ごっちんはそのまま私の方を向いた。
- 232 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:54
- 「ふぇ?……なっ……ち?」
「おはよう、ごっちん……」
ごっちんはしばらくポカンとしてたけど、急にその瞳から涙がこぼれ落ちた。
そして……
「なっちーっ!!」
「うわっ!?」
私に飛びついてきた。
着ていた服の胸元がじんわりと滲んでいく。
胸の鼓動がちょっと激しくなる。
「な…ち……よかった……。もう目…覚ましてくれ…ないんじゃ…て……思って……」
「ばかだねぇ。ごっちん残していくわけないっしょや?」
私もごっちんの身体を抱きしめる。
顔を寄せ合い、頭を優しく撫でる。
でもごっちんはまだ泣きやみそうにない。
「ごめ…ね、なっち……。ごとー……なっちを守るって…言ったのに……。守るどころか……
足…引っ張っちゃって……」
「そんなことないべさ、ごっちん」
体を離してそっとごっちんの涙を拭う。
でも涙はあとからあとから流れてきて、しょうがないからまた胸元に抱き寄せる。
- 233 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:54
- 「ごっちんがいてくれたから……あそこまで戦えた。ごっちんだったから……傷ついて倒れても
立ち上がれた。全部ごっちんのおかげなんだよ」
「なっち……」
「ごっちんは足なんか引っ張ってない。いっつもなっちのこと支えてくれてるよ。だからもう
泣きやんで? なっちに笑顔見せてよ」
ごっちんはしばらく私の胸に埋まったままだったけど、しばらくして頭が左右にプルプルと揺れた。
胸元の湿り気がさらに増していく。
……って……
「こらーっ! なっちの服で涙拭うな!」
「えへへ〜!」
パッとごっちんが私の胸元から離れた。
その時にはもうごっちんは透き通るような笑顔に戻っていた。
思わずその笑顔に見惚れてしまう。
すると今度はごっちんの腕が私の首に巻き付いてきて……
「わっ!?」
今度は私がごっちんに抱き寄せられる番だった。
ふんわりとした優しさに包まれる。
心臓がドキドキする。でもなぜか安らげる。そんな不思議なぬくもり。
- 234 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:56
- 「ありがとね、なっち……」
「ごっちん……」
「『渡さない』ってセリフ、嬉しかった……」
トクントクンと聞こえてくるごっちんのハートの鼓動。
本当に……守れてよかったって思う。
私も腰に手を回してギューッと抱きつく。
と、ごっちんの鼓動もだんだん早くなってきて……
「んっ? ごっち……んッ!?」
体重がかかってきて、気づいたときにはまたベッドの上に逆戻りしていた。
私の顔のすぐ前にはごっちんの顔があって、その後ろには部屋の天井が見える。
両手が重なる。
指が絡み合って、ベッドに押しつけられる。
「ご、ごっちん!?」
「なっち……」
空気、っていうか部屋のムードが変わっていくような気がする。
ごっちんがそっと顔を近づけてくる。
ごっちんの顔は怖いくらい真剣で……。
- 235 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:58
- 「なっち……ごとーは、なっちのこと……」
「えっ……」
すっとごっちんの目が細められる。
少し潤んだ瞳。そして色づいた頬。
そんなことがしっかりと確認できるくらい、私たちの顔は接近している。
ごっちんが少し顔を傾けた。
だ、ダメだよ……。
頭の中ではそう考えていても、なぜか体は魔法にかかったように動かなかった。
止めなきゃ、と思っている自分と、この先を期待している自分がいる。
それはきっと私が自分の気持ちに気づいてしまったから。
私のごっちんに対する思いが少しずつ変わっていってることに……。
「渡さない」とあの時言ったのは、ごっちんが王女だからじゃなく……
傷だらけになってまで戦ったのは、私がナイトだからじゃなく……
"使命感"とか"忠誠心"とか、そんなのよりももっとシンプルで強い感情。
今までこんな感情を人に抱いたことはない。
だからまだよくわからないけど……
でも、たぶん、きっと……この感情は……
"愛"……。
「ごっちん……」
私も絡められた指をキュッと握る。
もしかしてごっちんも……私と同じ気持ち……?
期待と不安に揺れながら、それでもゆっくり目を閉じた。
でも次の瞬間、魔法はいとも簡単に解けた。
- 236 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:58
- 「お〜、なっち〜! 目ぇ覚めたんやって〜?」
ノックもなしに開いたドアに、弾かれたようにごっちんが私の上から飛び退く。
私も思いっきり目を見開いて部屋の入り口を見ると、そこには女王様が立っていた。
「じょ、女王様っ!?」
「ようやく起きたか〜! 元気そうで安心したわ。んっ? でもちょっと顔が赤いな?
雨に打たれたし風邪でもひいたんやないか?」
「い、いえ、もう十分元気です!」
「そっか、それならええわ」
私をひとしきり見まわしたあと、女王様はごっちんの方に目を向けた。
ごっちんはベッドの上に座って固まっている。
でもちょっと身体がプルプル震えてるようにも見える……。
「なっちも無事に目覚めたことやし、真希も少し眠ったほうがいいで? この三日間
まともに眠っとらんやろ?」
女王様はごっちんに優しい言葉をかけるけど……
- 237 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:59
- 「……お……」
「ん? なんや?」
「お母さんのバカーっ! ノックくらいしろーっ!!」
「うわっ!? なんやねん、急に!?」
「出てけーっ!!」
ごっちんはガバッと立ち上がると、そのまま女王様を部屋の外に追い出した。
い、いいのかな……?
ごっちんはしばらくそのまま扉を睨んでたけど、程なくして戻ってくると、そのまま私がいる
ベッドに倒れ込んだ。
「ご、ごっちん!?」
「……寝る……」
「はぁっ!?」
「なっちも……」
手が伸びてきて、私もごっちんのとなりに引き倒される。
ごっちんが抱きついてくるけど、まだごっちんはご機嫌ナナメなようで……
「ご、ごっちん、なっちこれ以上は寝れそうにないんだけど……」
「む〜! いいから添い寝してて!」
「……はい……」
それから数分もしないうちにごっちんは完全にふて寝してしまって。
私はしょうがないからごっちんの抱き枕になってベッドに横たわっていた。
もちろん心臓はずっとドキドキと高鳴っていたけれど。
- 238 名前:第15話 投稿日:2004/11/30(火) 21:59
-
- 239 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/11/30(火) 22:13
- 遅くなりましたが、今回でVSドラゴン編終了です。
いやいや、思った以上に長かったですが個人的にはけっこう満足です。
物語ももう後半なのでこのままの勢いで行きたいですねぇ。
>>216 紺ちゃんファン 様
最終的にはこうなりました。
一段落って感じです。
>>217 名無し募集中。。。 様
>>218 名無し飼育さん 様
>>219 名無し飼育さん 様
ありがとうございます。
ようやく更新できました。
>>220 名も無き読者 様
なっちは頑張りましたよ〜!
もうホントにかっこよくできてよかったです。
- 240 名前:七誌さん(旧・紺ちゃんファン) 投稿日:2004/12/01(水) 17:36
- 今まで生意気に二つ名前使ってました。
でもこれからはこれ一つに絞ります(・・・てあたりまえか・・・)
なっちかっこよすぎです!ごっちんも女王様に対してそんなこといっちゃ〜。
って一応お母さんなんですけど。
VSドラゴン編乙です。
- 241 名前:みっくす 投稿日:2004/12/01(水) 23:21
- 更新おつかれさまです。
なっちさすがです。
「守る者を持つ者の強さ」ですね。
次回も楽しみにしてます。
- 242 名前:名も無き読者 投稿日:2004/12/05(日) 12:58
- ドラゴン編終了更新お疲れサマです。
なんてーか、みんなカッケー・・・!
特に圭ちゃんは流石人生経験豊(ry
とりあえず女王様、ある意味ぐっじょぶ・・・とw
でわ作者サマも勢いそのまま頑張って下さいね。
次回も楽しみにしております。
- 243 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:39
- 〜市井紗耶香〜
「うぐっ、がはっ!!」
胸を押さえてうずくまる。
それでも苦痛は和らぐことなく、アタシの体を蝕んでいく。
「ああっ! ああああぁっ!!」
魔力が、生命力が魔法陣に吸収されていく。
行き着く先は斉藤瞳。アタシの仲間を、君主を殺した憎き仇だ。
「ハァ…ハァ……」
なんとか苦痛はやんだ。今日はこれまでってことか……。
立ち上がろうとして、足に力が入らずにまた崩れ落ちた。
くっ……やばいな、予想よりももたないかもしれない……。
なんとか立ち上がり、立てかけてあった剣を手にする。
廃墟となった『ピッコロ王国』をあとにするときに、仇はとる、と誓ったが、それは及ばない
かもしれない。
それでも……せめて一矢報いてやる。
「ハァ……ハァ……」
そこでようやく、まだ息が整ってなかったことに気がついた。
……時間が、命が足りない……。
- 244 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:40
-
第16話 グッドナイト スイートハーツ
- 245 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:41
- 〜安倍なつみ〜
ギィン、ギィンと鈍い音が響くたびに木剣がクロスする。
今日も私は執事としての仕事をキリのいいところで中断させ、紗耶香と訓練中。
ごっちんが室内からその様子を眺めている。
ギィン!!
また一段と大きい剣撃音が鳴った。
さやかと私の剣が交わる。
剣を交差させたまま力を加える。
両手持ちなぶん、私のほうが剣に力を加えられる。
でもすぐにさやかのもう一本の剣が視界に入ってくる。
真横に振られた剣を、なんとか身を屈めてかわす。
でもその瞬間に拮抗は崩れ、二本の剣が容赦なく私に襲いかかってくる。
「くっ!!」
思い切って地面を蹴り、一気に距離をとる。
そして剣をかまえて仕切り直す。
- 246 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:41
- 「ナイスな判断だね、迷わずに引くなんて。あのまま打ち合ってればアタシの勝ちだったのに」
「なっちだってそうそうやられっぱなしじゃないべさ!」
また地を蹴り、今度は一気に距離をつめる。
さやかが剣を振りかぶって迎撃の体勢をとる。
ここだっ!
思い切り地面を踏みしめた左足を軸に、身体を半回転させる。
「なに!?」
そしてそのまま遠心力を乗せて右脚を振り上げる。
ブーツのかかとがさやかの手首にあたり、その手から剣がこぼれ落ちた。
「くっ!」
落とした剣を拾おうとさやかが手を伸ばす。
でもその前にまた地面に落ちた剣を蹴飛ばす。
剣はそのまま地面をさやかの遙か後方まで滑っていった。
さやかが舌打ちしながら剣を両手で持つ。
でも一本なら……勝てる。
案の定、幾度かの打ち合いのあと、私はもう一本の剣も弾き飛ばした。
- 247 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:42
- 「勝負あり! 今日はなっちの勝ちだね?」
「あぁ、そうだね。強くなったじゃん、なっち」
呼吸を整えて室内へと戻る。
すると見学していたごっちんが「お疲れ様〜!」と出迎えてくれた。
ポーンと放られたタオルをキャッチして汗を拭う。
「ふぁ〜、疲れた〜! やっぱりさやかとはいい訓練になるべ」
「とかなんとか言って、なっちはどんどん強くなってんじゃん。そのうちアタシなんか
手も足も出ないくらい強くなるよ」
「そんなのいつになるかわかんないべさ。まだまだ訓練頼むよ、さやか!」
「ん〜、考えとく……」
大雑把に汗を拭うとさやかはいち早く訓練場をあとにした。
私も汗を拭いつつ、んーっと立ち上がる。
「さてごっちん、それじゃあ遊んであげるよ。今日は何する?」
「えっ? あ〜、ん〜、でもなっち、まだお仕事あるんでしょ?」
「うん、ちょっと残ってるけど……」
「それじゃあ今日はいちーちゃんと遊ぶよ。なっちのお仕事の邪魔したくないし」
「あっ……そぅ……」
ごっちんは私の手からタオルをとって、額の汗をそっと拭ってくれた。
その後すぐに「お疲れ〜!」と行ってさやかを追いかけていってしまった。
心がモヤモヤする。
以前はわけがわからなかったけど、今はわかる。
嫉妬だ……。
イヤな娘だなぁ、私……。
- 248 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:43
-
◇ ◇ ◇
軽めにシャワーを浴びて汗を流し、部屋まで戻る。
すると、その途中で圭ちゃんと鉢合わせた。
「あっ……」
「あっ、なっち……」
思わず言葉に詰まってしまう。
それはアヤカが言ったことを思い出したから。
圭ちゃんの過去の断片。
思えばぜんぜん圭ちゃんの過去は知らなかったんだなぁ、と気づいた。
そしてそのあとで知った『ピッコロ王国』滅亡の知らせ……。
聞いても……いいのかな?
でもきっとこれには深い過去が……。
そのまま立ち尽くして迷っていると、目の前の圭ちゃんが「フッ」と笑った。
- 249 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:45
- 「なっちは少し考えてることを顔に出さない努力をするべきだよね」
「えっ!?」
「別にいいよ、聞いても。もう私も『ハロモニランド』に来てしっかりと過去って割り切った
ことだから。それになっちには話しておくべきだったね。ついてきて」
「あっ、うん……」
スタスタと前を歩く圭ちゃんの後についていく。
ていうか私そんなに顔に出てるかなぁ……?
そのままついていくと、圭ちゃんは自分の部屋の前で止まった。
「どうぞ、入って」
「あっ、うん……」
促されるように圭ちゃんの部屋に入っていく。
何回か来たことのある圭ちゃんの部屋。
無駄なものは何一つなく、いつ来てもきれいに整っている。
「まぁ適当に座ってて」
言われたとおりにテーブルの前に座ると、圭ちゃんがグラスを二つ持って戻ってきた。
コトッと私の前にもグラスが置かれる。
そして一緒に置かれる深緑の色をしたビン……。
「……圭ちゃん、なにこれ?」
「なにって、ワインだけど?」
「や、なっちアルコールはダメで……」
「ちょっとくらい付き合いなさいよ」
「でもまだ仕事残ってるし……」
「つまんないわねぇ。しょうがない、じゃあ紅茶でも淹れようか」
そういって圭ちゃんはまたいそいそと戻っていった。
ていうか……まだ明るいうちからお酒ですか……。
圭ちゃんらしいと言うかなんと言うか……。
しばらくして今度は私の前に湯気を立ち上らせるティーカップが置かれた。
- 250 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:46
- 「さて、それじゃなっちはどこまで知ってるの?」
私の対面に座った圭ちゃんがぐっと一口ルビー色の液体を飲みながら聞いてくる。
私も一口圭ちゃんが淹れてくれた紅茶をすする。
あっ、ちょうどいい温度と甘さ。
「どこまでっていってもたいしたことは。えっと……その……圭ちゃんが『ハロモニランド』に
来る以前は『ピッコロ王国』で副団長をしていたってことと、あと……『ピッコロ王国』は
『ロマンス王国』によって滅ぼされたってことくらいで……」
「それだけ?」
「あと、それと……さやかが……」
「そっか、紗耶香のことも知ってるんだ」
圭ちゃんがまたグラスのワインに口を付けた。
グッと飲み干す。グラスは早くも空になった。
しょうがないからワインをついでやると、圭ちゃんは「サンキュ」と言ってまたあおる。
「私は『ピッコロ王国』が生まれ故郷なんだよね。しかも公爵家の娘で、けっこうイイトコの
お嬢様だったんだよ?」
「えっ、圭ちゃんが!?」
「何よ、文句ある!?」
「い、いや、ない……。続けて……」
一瞬圭ちゃんがヒラヒラのドレスを纏った姿を想像してしまい、ブンブンと頭を振って想像を追い出す。
に、似合わない……。でもある意味ちょっと見てみたいかも……。
- 251 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:48
- 「ていっても私の父は現役の騎士だったし、祖父にいたっては元騎士団長だったから
礼儀作法とかよりも魔法とかナイフとか覚えさせられたけどね。なっちが想像してるような
ヒラヒラドレスとかとは無縁だったよ」
「あぅ……」
また顔に出てたみたい……。
もしかして一緒に読心術でも学んだんじゃ……?
「で、戦争が終わって少ししたら私も騎士団に入団してさ。その時一緒に入ったのが
紗耶香だったんだよね」
「じゃあ同期だったんだべか?」
「そ。最初は思いっきり衝突したね。でもおかげでけっこう打ち解けて。気付いたら団長と
副団長になってた。紗耶香が全体を指揮して、私がその補佐をして。いつの間にか二人の
形ができあがってたんだよね」
圭ちゃんの瞳はどこか遠くを見つめていて。
心なしかいつもよりもお酒のペースも早い。
「でもある日、たまたま紗耶香が遠征してたときに、『ピッコロ王国』にモンスターの大群が
攻めてきたんだよね。その時初めて私が部隊の指揮を執ったんだけど、どうもそれがうまく
行き過ぎちゃって。それで味をしめたっていうか……調子に乗っちゃったんだよね。
次の遠征、私は自分から志願した。それで私は自分の部隊を壊滅させてしまった……」
「圭ちゃん……」
「だから私は全てを捨てた。ゼロから強くなるために、母国をも捨てこの『ハロモニランド』にやってきた。
こんな私でも女王様は温かく騎士団に迎え入れてくれた」
- 252 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:49
- 一気に語り終えた圭ちゃんの目は鋭くなっていて。
ワインはもう半分も残っていなかった。
「でもね、私は『ピッコロ王国』を捨てたけど、でも『ピッコロ王国』は私の母国で、いつかは
戻るつもりだった。だから私は『ロマンス王国』を許さない! 斉藤瞳も、あのアヤカってヤツも!」
圭ちゃんはそこでやっと「ふーっ」と一息ついた。
「ゴメン、一気に喋って、しかも柄にもなく熱くなっちゃって。ちょっと酔ってるかな、私?」
「もぅ、飲み過ぎだべさ、圭ちゃん」
「そう思ってるなら少しは付き合いなさいよ」
「って、ちょっと!」
無理矢理グラスを押しつけてくる圭ちゃん。
だ、ダメだって、このあと仕事あるのに!
……って……
「あーっ! そう言えば完全に仕事のこと忘れてたべさ!!」
「あぁ、そう言えば残ってるって言ってたわね?」
「うあ〜っ、やばい! 終わんない〜!!」
窓の外を見てみるともう日も暮れかけている。
き、今日中に終わるかな……?
- 253 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:49
- 「それならさっさと片づけた方がいいんじゃない? お姫様とイチャつく時間がなくなるわよ?」
「なっ!? いいい、イチャつくって……!」
思わず顔がカーッと熱くなる。
からかってくる圭ちゃんの口調は、もういつもの調子に戻っていた。
「こ、こうしちゃいられないべさ! じゃあ帰るね、圭ちゃん! 紅茶ありがと!!」
「あっ、待って、なっち!!」
勢いよく立ち上がった私を圭ちゃんが止めた。
圭ちゃんの顔は真剣な表情に戻っていて。
「なに、どうしたの?」
「その……紗耶香のことなんだけど……」
「えっ? さやかがどうしたの?」
「……いや、なんでもない。次はちゃんと付き合ってよ。いいワイン用意しとくから」
「わかった。でもちょっとだけね?」
そして私は圭ちゃんの部屋をあとにして。
大量の仕事が待ちかまえている自分の部屋へと戻っていった。
- 254 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:50
-
◇ ◇ ◇
「やっほー、なっち〜!」
「ごっちん!?」
圭ちゃんの話を聞いたあと、残っていた仕事を片づけ、そろそろ寝ようかなと思っていると
急に部屋のドアが開いた。
ノックもなしに入ってきたのは、少し頬を上気させてるごっちんで。
「お、お風呂上がりだべか?」
「うん! なっちと一緒に寝ようと思って!」
今はもう、いくらごっちんでも一人で外に出てくことはないだろう、ということで、ごっちんは
自分の部屋へと戻ったけど。
でもごっちんは私の部屋での生活が気に入ってしまったらしく、たびたびこうして私の部屋を
訪ねてくる。
それ自体は問題ではない。むしろ問題なのは私のほうで。
つまり自分の気持ちに気付いてしまった以上、どうしても意識してしまい、以前のように過度に
くっつくことができなくなってしまったのであって……。
- 255 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:51
- 「も、もう一人で寝れるっしょ!」
「え〜!? なっちと一緒じゃなきゃ寝れない〜!」
「ごっちんどこでも寝れるっしょや!」
「でもなっちの腕の中が一番寝心地いいの〜! もうなっちの腕の中じゃなきゃ
寝られない〜!!」
「なっ……」
次の言葉を出せなくなって、思わず口をパクパクさせる。
ごっちん、そんなことサラッと言わないで〜!
でも当のごっちんは、私が真っ赤になって硬直してる隙に、ピョ〜ンと飛びついてきた。
「わ、わっ!? ごっちん!?」
「ね〜、いいでしょ、なっち〜?」
「わ、わかった、いいから離れてー!」
「わ〜い!」
飛びついてきたのと同じように、ピョ〜ンと離れるごっちん。
私はハァハァと息を整える。
うぅ……ついOKしちゃったけど……絶対一緒になんて寝れるわけないよー!!
- 256 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:52
- 「ほら〜、なっち早く〜!!」
そんな私の気も知らずにごっちんはベッドの中から私を呼ぶ。
しょうがないから私もランプの明かりを消してベッドへと潜り込む。
あんまりごっちんとくっつかないようにしようとベッドの端に入ったけど、そんな努力はムダで、
すぐにごっちんがもぞもぞとベッドの中を移動して抱きついてきた。
「わわわっ! ごっちん、落ちるべさ!!」
「じゃあもうちょっとこっち来てよ〜」
ごっちんにクイクイッと引っ張られ、渋々ベッドの中央まで移動する。
するとすぐにごっちんが抱きついてくる。
背中にしっかりと手を回されているから、離れたくても離れられなくって。
「んあ〜、やっぱりいい気持ち!」
「そ、そうだべか……」
私はただこの胸の鼓動がごっちんに伝わらないことを祈るだけ。
もうどうしてもドキドキはとまらなくって。
いっそのこと、打ち明けちゃったら楽になるのかな……?
- 257 名前:第16話 投稿日:2004/12/09(木) 17:52
- 「ごっちん……」
「ん〜?」
ごっちんの気持ちを知るのは……怖い。
でも好きって気持ちはもう止められなくて。
「あのね、ごっちん……なっち気付いちゃったんだ……」
「ん〜……」
「ごっちん、なっちは……って、ごっちん!?」
「……くぅ〜……」
いつの間にか私の腕の中にいるごっちんは可愛い寝息をたてていて。
私は思いっきり脱力した……。
「もう……いくら寝心地いいからってこんなときに寝ないでよー!」
さすがに私も寝てるところを起こしてまで告白しようとは思わない。
ていうかごっちんは寝たらなかなか起きないし……。
しょうがない……私も今日のところは寝ようか……。
でも……寝れるかな……?
結局私は予想通りなかなか寝れず、浅い眠りと覚醒のあいだをいったり来たり。
でもそのおかげだろう。
廊下から聞こえる、微かな足音に気付いたのは。
- 258 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/12/09(木) 18:04
- 今回はここまでです。
ま、いろいろとありましたが、とりあえずは変わらずに続けます。
>>240 七誌さん 様
なっちかっこよく書けてたようで一安心です。
女王様も一応ごっちんには甘いってことで(笑
>>241 みっくす 様
はい、まさしくそんな感じでなっち書きました。
ようやく活躍させられてよかったです。
>>242 名も無き読者 様
裕ちゃん、圭ちゃん、かおりんあたりは影響のない範囲で現実世界より年上の設定です。
と、いうわけで圭ちゃんは人生経験がかなり(略
一応石槍は少佐ではありませんので(笑
- 259 名前:konkon 投稿日:2004/12/10(金) 00:34
- 圭ちゃん、さすが心理学を学んでるだけあって・・・w
やっぱり圭ちゃんはサブリーダーが似合うようで。
なちごまサイコーです♪
なっちに擦り寄るごっちんの無邪気な笑顔・・・
もうたまりません(爆)
続き待ってます〜。
- 260 名前:七誌さん 投稿日:2004/12/10(金) 16:09
- 更新乙。
圭ちゃん・・・その姿が想像できてしまいます・・・。
ごっちんもなんかなっちに寄ってく姿がそのまんまって感じでOKです!
続き待ってますヨ〜!
- 261 名前:名も無き読者 投稿日:2004/12/12(日) 00:57
- 更新お疲れサマです。
そ、そうだったのか圭ちゃん・・・。
・・・や、か、可愛いと思いますよ。(汗
それでもやっぱりなちごまどぅ♪
が、相変わらず最後の最後に爆弾残しますねぇ。
次回も楽しみにしてます。
- 262 名前:みっくす 投稿日:2004/12/17(金) 00:39
- 圭ちゃんなんかすごいですね。
ごっちんはあいかわらずですが。
最後の一文がすごくきになりますね。
次回も楽しみにしてます。
- 263 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 17:57
- 誰だろう……?
警備にあたっている兵士が城内の見回りをしているわけでもなさそうだし……。
もうみんな寝静まっているようなこんな時間に……。
普通だったら無視しても差し支えないかもしれないけれど、今は一応『ロマンス王国』と交戦中だ。
まさか刺客でも忍び込んだんじゃ……?
ごっちんを起こさないようにそっとベッドから出る。
急いでパジャマを脱ぎ、服を着替えてマントを羽織る。
そして剣を握って部屋を抜け出した。
廊下にはもうすでに足音の主はいなかった。
でも音はまだ聞こえている。
時折止まり、そしてまた小さく響く。まるでなにかを窺っているように。
何者だ……?
足音を消し、気配を殺して追いかける。
だんだん相手の気配が近づいてくる。
いる……。
廊下の曲がり角にさしかかる。
この向こうだ……。
壁に背中を押しつけ、顔だけ出してみると、暗い廊下に一つの人影があった。
が……
- 264 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 17:59
- 「あっ……」
一瞬にして影が消えた。
気付かれた!? いや、気配は完全に消していたはず……。
慌てて飛び出し、その場まで走る。
「ま、窓……?」
その場には開け放たれた窓だけが残っていた。
まさか窓から飛び降りた?
外を見てみると、城の庭を走っていく影が一つ。
後ろ姿だったので顔は見えなかったが、唯一見えたものは腰に下げた二本の剣。
「今の……さやかっ!?」
騎士団の中でも双剣を使っている兵士はいるけど、
直感的にそう感じた。
でもさやかがなんでこんな時間に? しかも剣までさして……?
イヤな予感がした。
とにかく追いかけないと……。
私は窓を乗り越えた。
- 265 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:02
-
◇ ◇ ◇
「さやかっ!!」
前を走る影の背中に叫ぶと、影はピタッと止まった。
くるっとふり返ったのは間違いなくさやかで。
「なっち……なんでこんなところに?」
「それはこっちのセリフだべさ! お城抜け出して、どこに行くつもりなの!?」
「・・・・・・」
さやかは答えない。
ただ視線を外して黙っているだけ。
でもまたさやかは向き直って背中を向けてしまった。
「さやかっ!!」
すぐにでも走り出しそうなさやかの手をなんとか捕まえる。
「どこに行くつもりなのっ!?」
「・・・・・・」
「答えてよ、さやかっ!!」
「……『ピース』だよ」
「えっ!?」
城塞都市『ピース』はアヤカのドラゴン軍団に敗れ、今は『ロマンス王国』に占領されている。
戦略的にも重要な軍事拠点で、早期に奪回しなければならない、『ハロモニランド』にとっての
最重要ポイントだ。
でもまだ『ピース』をどうやって攻めるかも決まってないし、女王様からの指令も来ていない。
- 266 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:03
- 「『ピース』は今『ロマンス王国』に占領されてるんだよ?」
「知ってるさ。だから行くんだよ。取り返すのは無理でも、せめて少しは敵の数減らしとくよ」
「でも……それじゃあさやかが……!」
さやかはまた黙って答えない。
「……復讐のためだべか?」
「……圭ちゃんから聞いたんだ?」
「でもそれなら一緒にやればいいっしょ!? 理由は違えど目的は同じなんだから……」
「悪いけど」
掴んでた腕に力がこもった。
そのまま手をふりほどかれる。
「アタシは『ハロモニランド』の騎士じゃない。だからなっちの命令に従う義務もないんだよ」
「さやか……」
「じゃね、後藤にはうまく言っといて」
手をヒラヒラと振って歩き出すさやか。
私はその手を再びつかまえる。
- 267 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:04
- 「そんな理由じゃ、納得できないべさ!」
「なっち……」
「確かにさやかは騎士団の一員じゃないけど、でも仲間でしょ!? いっしょに戦って
きたべさ! いっしょに訓練だってしたべさ!! 仲間を見殺しにするなんて、なっちにはできない!!」
時が止まったように、しばらく二人とも動かなかった。
さやかの顔には多少の驚きが表れていて。
でも私はいたって真剣だった。
「……ふぅ。わかったよ」
「さやか!」
大きな溜め息とともにさやかの手から力が抜けた。
私はさやかが思いとどまってくれたのだと思った。
でも……それは違った。
現実は私が思ってた以上に深刻で……残酷だった。
「じゃあ……納得できる理由があればいいんでしょ?」
「えっ……?」
「見せてあげるよ、なっちにも……」
さやかがバッと、一瞬で上着を脱ぎ捨てた。
そして私は……動けなくなった……。
さやかの身体には漆黒の魔法陣が刻まれていた……。
- 268 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:04
- 「なっ……」
「わかったでしょ、なっち? アタシには闇の呪がかけられてるのさ。今もアタシの魔力を、
生命力を削っている。アタシにはもう時間がないんだよ……」
「そんな……」
「やったのは斉藤瞳だ。じっとしてたってすぐに死んでしまう。このままただ死を待つくらいなら……
徹底的に暴れてやる!」
いつの間にかさやかの手を離していた。
止められない……今のさやかは止められない……。
でも……このままじゃ……
「……それなら……なっちも一緒に行く!」
「はぁ!?」
気付いたときには口から言葉が飛び出ていた。
さやかが驚いてふり返る。
「ちょ、わかってんの、なっち!? 死ぬよ!? 『ピース』にはもうロマンス王国兵が
駐留してるんだよ!?」
「そんなのさやかも同じでしょ?」
「アタシはどうせ……んむっ!?」
とっさに手でさやかの口を塞ぐ。
その言葉は聞きたくない……。
- 269 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:06
- 「『ピース』を取り返して、斉藤瞳をやっつけて、そしてさやかの呪を解かせればいいんでしょ?
そうすればさやかも助かるべさ!」
「簡単に言うけど、そんなの……」
「でもやってみなきゃわからないべさ。少なくともそんな後ろ向きな考えで戦ってちゃ、できるものも
できなくなっちゃうよ?」
「うっ……」
さやかがつまる。
少しのあいだ、あれこれと考えてたみたいだけど、やがて「ふーっ」と深い溜め息をついた。
「どうなっても知らないからね?」
「大丈夫だべ! よし、それじゃ行くよ!」
そして私たちは走り出した。
暗く深い闇の中を、二人で。
女王様、ごっちん、圭ちゃん、みんな……ゴメン……。
でも、どうしてもさやかを一人で行かせることはできなかったんだ。
だって今のさやかには破滅しか見えてなかったから……。
勝手な行動、許してね……。
そのかわり、必ずさやかといっしょに帰ってくるから。
城の庭を、警備兵に見つからないように駆け抜ける。
そして城を取り囲む兵の前までやってくると、魔力を集めて羽根をつくった。
月の浮かぶ夜空へと、二人で飛び立つ。
目的地は城塞都市、『ピース』。
- 270 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:07
-
◇ ◇ ◇
数時間後、私とさやかは城塞都市『ピース』の上空まで来ていた。
まだ夜は明けてなく、闇は深い。
『ピース』もわずかに明かりは灯っていたが、街のほとんどが闇に埋もれて静まりかえっていた。
しかし、城塞都市と言うだけあって『ピース』はまさに戦争のためにつくられた要塞だ。
その城壁は驚くほど高く、街のなかは迷路のように入り組んでいる。
門も硬く巨大で、エンゼルフェザーが使えなかったら、いくら二人だけといっても忍び込めたか
さえわからない。
これはちょっとごっちんのワガママに感謝かな……?
「よし、行こう、なっち!」
「うん!」
翼を羽ばたかせて城壁を飛び越える。
そして一気に『ピース』の中へと侵入した。
『ピース』には何回か来たことがある。
街の中心に位置する宮殿がこの町の心臓部だ。
おそらくそこにいる敵の隊長さえ叩いてしまえば……。
- 271 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:08
- でもその時だった。
静寂に包まれていた『ピース』がにわかに慌ただしくなった。
街に灯りがポツポツと灯り出す。
「えっ!?」
「気付かれた!?」
まさか……こんな早く気付かれるはずは……。
でもすぐ前の路地を兵士が走っていったのを見ると、そう認めざるをえない。
「しまった、結界が張ってあったのか……!」
さやかが苦々しく呟いた。
「結界!? でも簡単に『ピース』に入れたよ?」
「そんな敵の侵入を阻むような強力な結界じゃない。もっと弱い結界が張られてたんだ!
だからなんの障害もなく中に入り込めたけど、その結界を通過したことが術者には
知られてしまう。だから気付かれたんだ、アタシたちが侵入したことが!」
その時暗闇に包まれていた路地にポッと明かりが届いた。
ゆらゆらと揺らめく炎がこちらに近づいてきている。
- 272 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:09
- 「おい、お前たち……んっ!?」
男の声。
察するに見回りをしていた兵士のようだ。
たいまつの炎が私たちを照らしたことで、私たちが侵入者だと気付いたみたい。
剣を抜きかけたが、その前にさやかが走っていた。
最初の一閃でたいまつの炎が地に落ちる。
そしてそのあとすぐに兵士が倒れる音がした。
「ふぅ……」
さやかが落ちた火を踏みつけて消す。
でも……遅かった……。
「いたぞ!! こっちだ!!」
背後から声が聞こえた。
後ろをふり向くとそこにたくさんの火が集まっている。
「ちっ、見つかったか!」
剣を抜いて駆け出す。
さやかもあとに続いてくる。
- 273 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:10
- 「殺せっ!!」
号令をくだした敵グループのリーダーの懐へ潜り込む。
そしてそのまま剣を真横に走らせ、一刀のもとに切り倒す。
「なっ……!?」
そしてそのまま動揺している兵士を倒していく。
さやかも二本の剣を自在にふるっている。
数分のうちにその場に集まった兵士はすべて地に伏していた。
「なっち、雑魚は相手にしてられない! 一気に頭を叩くよ!!」
「うんっ!!」
闇の路地を二人で疾走する。
目指すのは街の中央にそびえる宮殿。
襲いかかってくる兵士はたいしたことない。
このままなら二人でも落とせるかもしれない。
- 274 名前:第16話 投稿日:2004/12/18(土) 18:11
- 「はぁっ!!」
打ち合いの末に門番を切り倒す。
そして門をぶち破った。
宮殿の庭へと入っていく。
「来たぞ! 侵入者だ!!」
でもそこにもたくさんの兵士が待っていた。
さすがにここまで来ると疲労がたまってくる。
ずらっと並んだ兵士が数十人。
私たち二人を取り囲むように剣を抜き連ねている。
「ハァ…ハァ……キッツイねぇ、さやか……」
「でも……あと少しでしょう?」
なんとか息を整えて剣を握りしめる。
敵の兵士もジリジリと詰め寄ってきている。
来い……!
心の中で挑発する。
でも……
「やめなさい、あなたたちでは倒せないわ」
敵の兵士が動きをピタッと止める。
鋭く高い、氷のような声。
この声は……!
「お久しぶりね、お二人さん!」
石川梨華……。
こいつがここの隊長か……。
- 275 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/12/18(土) 18:24
- はい、今回はここまでです。
年内にどこまで進むでしょうか……?
>>259 konkon 様
はい、もう圭ちゃんはサブリーダーがぴったりです。
習ってるのは心理学じゃなくて読心術みたいですが(笑
>>260 七誌さん 様
なっちはどうしても想像できなかったようですが(笑
ごっちんはもう完全に甘えたキャラになってしまいました。
>>261 名も無き読者 様
圭ちゃん、1回くらいはヒラヒラドレス着せてみたいですねぇ(爆
あとはやっぱりなちごま!
書いてるときはホントに楽しいです!
>>262 みっくす 様
ごっちんはもう相変わらずです。
あと、最後の一文はこうなりました。
- 276 名前:七誌さん 投稿日:2004/12/18(土) 22:42
- 更新乙ナリ。
梨華ちゃんのオナ〜リ〜。
二人はどうなるのか!?チョ〜楽しみです!
- 277 名前:みっくす 投稿日:2004/12/19(日) 01:02
- おお、再び登場ですね。
前回はなっちの快勝でしたが、果たして今回は?
次回も楽しみにしてます。
- 278 名前:konkon 投稿日:2004/12/19(日) 06:51
- 梨華ちゃん登場!
さやかの命の期限が・・・
なっち、がんばってさやかを救って
あげてくれ〜!
交信期待中です!
- 279 名前:名も無き読者 投稿日:2004/12/20(月) 11:16
- 更新お疲れ様です。
ふふ、熱いな、なっち。(誰
そして彼女が・・・。
気になりますね、続きも楽しみにしてます。
- 280 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:25
- 「石川梨華……あんたがここの……」
「そうです、私がここを任されてるんです! でも奇遇ですねぇ、またこうして出逢えるなんて!」
周囲の空気が凍っていく。
蒼光りする魔法陣のもと、空中に氷の刃が形成されていく。
「おかげでこの前の借りを返すことができます! アイシクル・エッジ!!」
氷の刃が宙を舞う。
一刃一刃が意志を持ったように私たちの急所を狙って飛んでくる。
「くっ、前よりも強くなってやがる……」
「アイツもやられっぱなしじゃないってことか……」
氷の刃をかわし、あるいは剣で切り落とす。
でもさすがに数が多いのと、今までの疲労でかわしきれなかった刃が細かい傷をつくっていく。
「うあっ!」
氷の刃が足を掠めた。
服が裂け、血が滲む。
思わずその場にうずくまった。
するとその足下に魔法陣が広がった。
- 281 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:26
- 「フリーズ・ファング!!」
「なっち!!」
魔法陣から鋭く尖った氷柱が突き出す。
ギリギリのところでさやかが駆けよってきて、私たちは魔法陣の外に転がり出た。
「フフフ、防戦一方ですねぇ、もっと楽しませて下さいよ〜!」
くっ、ホントに強くなってる……。
石川の操る氷は以前戦ったときに比べて、鋭さも速さも一段と上になっていた。
「なっち、このままじゃラチがあかない。接近して一気に片づけるよ!!」
「うん、わかった!」
あたりを舞っている氷刃を一気に切り落とす。
そして剣を握りしめ、二人で一気に地を蹴る。
「そうかんたんに近づけはしないわよ! ダーク・ブリザード!!」
蒼い魔法陣の表面から、無数の氷の礫が吐き出される。
「アンチ・シールド!!」
さやかの前に躍り出て、シールドを張る。
なんとか防げるけどシールドを通して衝撃が伝わってくる。
- 282 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:28
- 「くっ……さやか、今のうちに!」
「わかった!」
さやかがシールドの影から飛び出る。
二本の剣を振りかざし、石川へと向かっていく。
「いけー、さやかっ!!」
「くらえっ!!」
双剣が閃いた。
かざされた氷の剣を打ち砕き、そのまま石川の身体を切り裂く。
「やった!!」
でも……
「だから言ったでしょ? そうかんたんに私には近づけない、って」
「なっ!?」
石川の顔がニヤッと笑うと、そのまま石川の体が溶けた。
一瞬にして水へと戻り、その場に滴り落ちる。
あれは……アクアドール!!
水を自分の思うように形成し操る、水の上級魔法……。
- 283 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:28
- 「フフフ、隙だらけですよ?」
本物の石川は遙か後方で優雅に微笑んでいた。
その手にはかなりの魔力が集められている。
「さやか、逃げてっ!!」
「遅いですよ! フリーズ・ファング!!」
さやかの足下に魔法陣が広がる。
そしてそこから突き出る無数の氷の針。
「うわぁぁああっ!!」
鋭い氷がさやかの両腕を貫いた。
「これでもう剣は振れませんねぇ。あとは安倍さん、あなただけです。この前の借りを
返させてもらいますよ?」
「くっ……」
腕に氷の刃を形成しながら石川が近づいてくる。
私も剣をかまえて向かい合うが、その前にすっとさやかが立ち上がった。
- 284 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:29
- 「なにをしてるんです? あなたはもう戦闘不能でしょ? おとなしくしててください。女王様から
あなたは殺すなと言われてるん……で?」
ヒュンッ!!
さやかの剣が旋回する。
剣は思わず後ずさった石川の眼前を通りすぎていった。
パラッと、少し切れた石川の前髪が宙を舞う。
さやかの腕からはおびただしい血が滴っていた。
「バカな……その傷で……」
「こんなの痛くもないさ。それよりもここで戦いもせずに死を待つほうがよっぽど苦痛だよ!
みんなの仇を討つんだ! 斉藤瞳をこの手で! それまでは痛いなんて泣き言言ってられない!
邪魔をするものは誰であろうと……斬る!!」
さやかの双剣が舞う。
まるで怪我など負ってないかのように。いや、怪我をする前以上のスピードで。
さすがの石川も防ぐのが精いっぱいといった感じ。
すごい……。
力が弱まっていて、しかも腕に傷を負ってるにもかかわらず、あの石川を圧倒している。
すごい執念……。いや、決意か……。
- 285 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:30
- 「うわっ!!」
石川の腕につくられた氷の剣が砕け散った。
そのまま石川が倒れる。
「あっ……」
さやかの剣がすっと昇る。
「覚悟ッ!!」
そして石川めがけて振り下ろされたが……。
その剣は石川の手前でピタッと止まった。
さやかの手から剣が滑り落ちる。
「えっ?」
「……くっ……」
さやかがガクッと崩れ落ちた。
「……ぐっ、あああぁぁぁああっ!!」
「さやかっ!!」
突然さやかが苦しみだした。
胸のあたりを強く押さえ込んでいる。
まさか……斉藤瞳が!?
- 286 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:31
- 「フフ、あなたなんかに女王様は倒せませんよ。あなたの力なんか女王様の足元にも及ばないし、
なによりあなたはここで死ぬんですから!」
石川の手につくられた氷の剣がまた鋭く尖っていく。
まずいっ!!
慌てて走り出すけど……
「邪魔しないで! ウォーター・ストリングス!」
「うわっ!!」
足下に広がった魔法陣から水の触手が現れて、身体を束縛する。
くっ、切れないっ!!
「女王様に仇なす者は誰であろうと私が許しません! その罪、死を持って償えっ!!」
「さやかっ!!!」
石川が腕を振り上げたときだった。
爆音とともに『ピース』の至るところで火柱があがった。
「なっ、これはっ!?」
轟音が大気を揺るがす。
呆気にとられてみている私の前に、その轟音に紛れてスタッと誰かが舞い降りた。
背中に生えた風の羽と、そしてこの後ろ姿は……
- 287 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:32
- 「圭ちゃん……?」
圭ちゃんの手には炎の魔力が集められている。
その魔力が激しく燃える、白色の光球へと変化していく。
「フレア・ブラスト!!」
「なっ……!?」
光球が、腕を振り上げたまま動きを止めていた石川に向けて放たれる。
石川はなんとか直前でガードしたようだけど、その威力には耐えきれずに後ろに吹っ飛んだ。
「ふぅ、なんとか間に合ったみたいだね」
「圭ちゃんっ!!」
「ギリギリセーフ!」
圭ちゃんはニコッと笑うとまた新たな魔力を集めている。
「オーバーライト=ウォーター・ストリングス!!」
私を縛る水の触手が跡形もなく消えた。
- 288 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:34
- 「ありがとう、圭ちゃん」
「いや、それより紗耶香は?」
「あっ、そうだ! さやか!!」
慌てて圭ちゃんと一緒にさやかのもとへと走る。
しかしさやかのもとにつく前に、その後ろで石川が立ち上がった。
立ち止まり、剣をかまえる。
でも、私の前にスッと圭ちゃんが割って入った。
「直撃の瞬間に水のシールドを張ってうまくレジストしたみたいだね?」
「えぇ、そうです、よくわかりましたね? あなたが副団長の保田さんですね? いろいろと
話は聞いてますよ。『ピッコロ王国』の英雄と呼ばれていたとか……」
「昔の話だよ。それよりも最初の攻撃で『ピース』にいる兵士の大多数を戦闘不能にした。
あんたが新しく張った結界も消したし、私の4番隊が『ピース』に攻め入るのも時間の問題だろう。
あなたの負けだよ。だからおとなしく引き上げてくれない?」
「ふ〜ん、見逃してくれるってわけですか? でも……嫌だと言ったら?」
大気が凍り付いていくのがわかる。
小さな氷の粒があたりに形成されていく。
くっ、やっぱり倒さないとダメか……。
剣に力を込めるけど、圭ちゃんがそっと手を伸ばして私を妨げる。
その手のひらに一瞬でナイフが現れた。
「その時は……わかるでしょ?」
「フフッ……」
二人はしばらく睨み合っていた。
でも最初に構えを崩したのは石川だった。
氷の粒がパラパラと地面に落ちる。
- 289 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:35
- 「わかりました。確かにこのまま戦ったら、私たちは無事でも、私やあなたの部下が無事には
済まないですしねぇ?」
「……っ!」
その時、石川のもとに一人の兵士が駆けよってきた。
「石川様! 先ほどの攻撃で……」
「撤退よ!」
「……はっ!?」
「敵の増援が迫ってきてるわ。『ピース』は放棄します。けが人をまとめて王都まで帰還しなさい!」
「……ハッ! 了解しました!!」
その兵士はまたどこかへと走っていった。
そこでようやく圭ちゃんも構えを解いた。
「では、私も帰りますね? 結果は不本意でしたけど、なかなか楽しかったですよ?」
「なっちは全然楽しくないべさ!」
ふわっと石川が手をかざすと、周囲に散乱していた氷の残骸が一瞬で溶け、石川の足下に集まる。
そして集まった水が魔法陣を描き出した。
あれは……水を使ったゲート……。シャドウホールの応用版って感じか。
- 290 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:36
- 「ではお三方、またお会いしましょう。あっ、でも次に会えるのは二人だけかもしれませんね?」
「えっ!?」
魔法陣から水が溢れ、石川を包みこんだ。
水が引いたときには石川の姿はどこにもなかった。
今の、どういう……?
ちょっと考えて、ようやく思い出す。そうだ、さやかっ!!
「さやか、大丈夫!?」
「紗耶香っ!!」
圭ちゃんと一緒にうずくまってるさやかのもとへと駆けよる。
さやかは荒い息をしていてかなり辛そう……。
「うぐっ……くあっ!!」
「さやかっ!! 圭ちゃん、なんとかならない!?」
「・・・・・・」
圭ちゃんは無言で立ち上がった。
魔力を集め、呪文を唱えて魔法陣をつくっていく。
そしてその魔法陣をさやかの身体に押し当てた。
「ホールド・カース!!」
まばゆい光が溢れて魔法陣が消えていく。
- 291 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:38
- 「ハァ…ハァ……」
光が消えるころにはさやかの状態は落ち着いていた。
「圭ちゃん、呪解けたの!?」
「……いや……」
私は圭ちゃんがさやかにかかっている呪を解いたのかと思ったけど、圭ちゃんはゆっくり首を振った。
さやかの上着をはだけさせると、確かにまだ身体の魔法陣は消えていない。
でもその上にもう一つ、別の魔法陣が重なっていた。
「これは……?」
「私と紺野が編み出した魔法でホールドカースって言うの。ホールドカースは魔法陣に
影響を与える結界で、それを紗耶香の呪にはった。これによって一時的に紗耶香の呪を
私が掌握できる。それで呪の効果を押さえ込んだんだ」
「じゃあこれならさやかはもう力を吸い取られることもないんだべか!?」
「……いや、これはしょせん一時的な結界だから。呪の術者とのレベル差にもよるけど、
せいぜいコントロールを奪えるのは数十分くらいだろうね……」
「そんな……」
それじゃあ結局さやかは……
その時今まで黙っていたさやかが立ち上がった。
苦痛は消えたはずだけど、まだ胸を手で押さえている。
- 292 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:39
- 「圭ちゃん、魔法を掌握できるって言ったよね? じゃあ魔法を止めるだけじゃなくて
発動させることもできる?」
「できるよ」
「じゃあ……この呪の……力を送る先を変えることも?」
「……あぁ……」
「そっか、ならいいや」
さやかはニッと笑って私の方を向いた。
私にはその意図しているものがわからなかった。けど……
「じゃあ、コントロールを奪っていられるあいだに……アタシの残ってる力を全部……送ってくれない?
……なっちに……」
「えっ!?」
「・・・・・・」
圭ちゃんはそれを予想していたようだ。
そっと私の方を向いてくる。
でも私はそんなこと考えてもいなかった。
だって……そうしたらさやかが……
- 293 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:40
- 「ダメだよ、さやか! そんなことしたら……」
「いいんだ、アタシはもう助からない……」
「そんなこと! もう少しすれば、きっと圭ちゃんや紺野が解いてくれるよ!」
「あんまり過剰な期待をかけすぎるなよ、なっち。アタシにかけられた呪は闇魔法なんだ……
わかってたさ、闇魔法を使えない人には絶対に解けない……」
「でも……」
「助からない。このまま斉藤瞳に力を吸い取られるんだよ」
「っつ!」
心のどこかではわかってた……。
でも認めたくなかった……。
だって認めたら本当にそうなりそうだったから……。
「でも、アタシは斉藤瞳にアタシの力を渡したくない! アタシの力でなっちや、後藤が
傷つくなんて耐えられない!! だから……もらってくれ、なっち……」
「・・・・・・」
さやかの真剣な顔を見たらなにもできなかった。
ただ……歯を食いしばって頷くことしか……。
さやかは「サンキュ」と呟いて、圭ちゃんに合図を送った。
- 294 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:41
- 「ゴメンね、圭ちゃん。いっつも嫌な役押しつけちゃって……」
「……バカ、嫌な役を引き受けるのが副団長の仕事だよ……」
圭ちゃんがさやかに向かって手をかざす。
すると重なった二つの魔法陣がいっせいに輝き始めた。
圭ちゃんがその手を今度は私のほうに向ける。
ちょっと見た圭ちゃんの目はとても辛そうな瞳だった。
圭ちゃんの目を見てるあいだに、私の胸元に魔法陣が移る。
「行くよ!」
圭ちゃんの声が響いた。
視線の先でさやかが頷く。私もつられて頷いた。
その瞬間に胸元の魔法陣が輝く。
「うあっ!?」
胸元が熱くなる。
力が、魔力が、生命力が魔法陣を通して流れ込んでくるのがわかる。
「うああああぁぁぁあああっ!!」
でもその時、さやかが再び苦しみ出した。
慌てて駆けよろうとしたけど、途中で足が止まった。
苦痛で歪んでいたけど、その顔は間違いなく笑っていた。
- 295 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:42
-
◇ ◇ ◇
やがて魔法陣の光がやんだ。
それと同時に胸元の魔法陣が消え去る。
「……終わった……」
圭ちゃんが呟いた。
確かにすごい力を感じる。
力も魔力も信じられないくらい上がっている。
でも……
と、いうことは……
「さやかーっ!!」
と、いうことは、さやかは……
グラッと、さやかの身体が傾いた。
「さやかっ!!」
倒れる前に駆けよってさやかを抱きとめる。
さやかの身体は力を失い、ぐったりとしていた。
だんだんと身体から体温が失われていく……。
- 296 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:43
- 「さやか、しっかりしてっ!!」
こうなることはわかってたはずなのに……
でもどうしても認められない、諦められない!
さやかの身体を揺すると、不意にその手がガシッと掴まれた。
「さやかっ!?」
さやかの手はあらん限りの力で私の手を握りしめている。
そしていったん閉じられた瞳がゆっくりと開いた。
「さやかっ!!」
「……な…っち……」
口がゆっくりと動く。
さやかの口許に耳を近づけると……
「……後藤を…頼……む……」
- 297 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:44
- さやかの手から力が抜けた。
そのまま、パタッと地に落ちる。
開きかけた瞳は、また深く閉じられた。
「あっ……」
もうその瞳が再び開かれることはなかった。
私に全ての力を与え、私にごっちんのことを頼んで、私の腕の中で……。
さやかは息絶えた。
その顔は……安心しきったような笑顔だった……。
「さやかーーーッ!!!」
- 298 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:45
-
◇ ◇ ◇
そのあと、到着した4番隊に『ピース』をまかせ、私は一足先にゼティマへと戻った。
そのころにはもう夜も明け始めていた。
そして女王様に『ピース』を奪回したことを報告した。
勝手に行動したことに、なにかしらの罰を受けることは覚悟していたけど、以外にも女王様は
報告を聞いただけで、「そうか……」と言って黙り込んでしまった。
もしかしたら女王様はさやかのことに気付いていたのかもしれない。
そして私は朝日が差し込む廊下を歩いて、ようやく自分の部屋まで帰ってきた。
「あっ、おかえり、なっち!」
「ごっちん?」
部屋に入るとそこにはベッドに腰掛けたごっちんが待っていた。
まだ朝早いのにもかかわらず起きていたごっちんにちょっとビックリ。
- 299 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:46
- 「ごっちん……めずらしいね、ごっちんがこんな早くに起きるなんて」
「それいうならなっちもじゃん。こんな朝早くにどこ行ってたの?」
「なっちは……ちょっと緊急の任務で……」
「いちーちゃんのところに行ったらいちーちゃんもいなくなってるしさ! なっちなんか知ってる?」
「あっ……さやかは……」
言おうかどうか迷った。
でもいい言葉が見つからなくて……
「……また旅に出たって。ごっちんによろしくって言ってた……」
「……フーン、そっか」
結局ごまかしてしまった。
ごっちんは信じたのか信じなかったのかわからないけど平然としていた。
けど……
「そ……か……」
急に一筋の涙が瞳からこぼれ落ちた。
「あっ!」っと言ってごっちんが慌てて涙を拭う。
- 300 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:48
- 「ご、ごっちん……?」
「な…んでも……ない……」
拭っても拭っても涙は溢れてくる。
それ以上は見てられなくて、私はごっちんを抱きしめた。
「……知って…たんだ?」
私の胸の中でごっちんは小さく頷いた。
「前にいちーちゃんのところに行ったときに偶然聞いちゃったんだ……。ごとー、なんとかしようと
思ったけど、結局なにもしてあげられなくて……。いちーちゃんのこと……助けられなかった!
助けられなかったよぉ!!」
「ごっちん……」
「う、うわあああぁぁぁああっ!!」
胸の中で泣きじゃくるごっちんをギュッと抱きしめる。
身体の震えがおさまるように、強く、きつく……。
さやか……このあなたからもらった力で……
ごっちんのこと、私が絶対に守るから……
絶対に……守ってみせるから……
だから、今は……
おやすみ……。
- 301 名前:第16話 投稿日:2004/12/29(水) 15:48
-
- 302 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/12/29(水) 15:57
- 今回はここまでです。
『ピース』編も一応の終了をみまして、残すはあとちょっとです。
といってもそのちょっとが長かったりするんですが……。
でもって、このあと帰省のために次回更新は遅れるかもしれません。
それまでちょっとお待ち下さい……。
ではでは、来年もどうぞよろしくお願いいたします。
- 303 名前:片霧 カイト 投稿日:2004/12/29(水) 16:05
- >>276 七誌さん 様
梨華ちゃん再登場でした。
まいちゃんとどっちにするかちょっと迷ったのですが、バトルの派手さとキャラで梨華ちゃんを(ぉ
>>277 みっくす 様
今回はなっちあまり何もしてない気が(汗
いやいや、ちょっと長々書くのもしょうがないので、割とサクッと。
>>278 konkon 様
梨華ちゃん、一応以前よりも強くはなってるんですけどねぇ……。
あまり書ききれませんでした……。 (T▽T)<悲しいね……。
>>279 名も無き読者 様
なっちはちょっと熱血な部分もあります。
というか主人公が超クールっていうのも……。
いやいや、どこかのミステリーマンガじゃあるまいし(笑
- 304 名前:konkon 投稿日:2004/12/29(水) 18:50
- 更新お疲れ様でした!
ついにこの日がきてしまいましたか・・・
力を託されたなっちは今後どう動くのか
楽しみです♪
今年もお疲れ様でした〜。
来年もまたがんばりましょう!
- 305 名前:七誌さん 投稿日:2004/12/29(水) 21:40
- 更新乙ナリよ〜。
さ、さやか・・・なっちに託された力、
今後どういう風に役立ってくるのか。
作者さま、来年を楽しみにしてます。
- 306 名前:みっくす 投稿日:2004/12/29(水) 22:29
- 更新おつかれさまです。
力とごっちんを託されたなっち。
がんばれ!!
来年の更新楽しみにしてます。
- 307 名前:名も無き読者 投稿日:2004/12/30(木) 12:00
- 更新お疲れサマです。
また1つ背負うモノが大きく。。。
それが彼女のチカラになることを祈ります。
続きも楽しみにしてます。
来年をヨロシクお願いしますデス。
- 308 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:23
- 〜安倍なつみ〜
「……限界やな……」
玉座に座った女王様が呟いた。
隣に立っていたごっちんが女王様のほうへ顔を向ける。
女王様に呼び出され、女王の間にいた私と圭ちゃんも女王様の顔を見つめた。
「『ロマンス王国』のハロモニランドへの侵攻に始まり、『ピース』の占領、『ゼティマ』への襲撃。
『ピース』はなんとか奪回したが、まだ今でも国境付近のいくつかの街が攻撃を受けてる。
なんとか和平への道も探してたけど、向こうはまったくその気なしみたいや」
女王様が立ち上がった。
その瞳は鋭く尖っている。
「戦争を終わらせるで。『ロマンス王国』に、侵攻する!」
- 309 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:24
-
第17話 約束
- 310 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:25
- 「……というわけだ」
女王の間から退室したあと、私と圭ちゃんは会議室に各隊長を呼び出し、女王様の命を伝えた。
さすがにみんな一様に顔が険しい。
「……いよいよなんですねぇ……」
「そうだね……」
紺野が悲しそうに呟いた。
紺野は優しいから、やっぱり辛そう。
「それで、どうするんですか?」
「うん……」
松浦の問いかけに、私は身を乗り出してみんなの顔を見渡す。
圭ちゃんと目があったとき、圭ちゃんが小さく頷いた。
「……王宮騎士全軍と近隣の街の兵士を全て集めて『ロマンス王国』に侵攻し、王都を落とす!」
「なっ!?」
さすがにみんなの顔つきが変わった。
「じゃ、じゃあ全面対決ってことれすか!?」
「うん、そうなるね」
「待って下さいよ! そしたらゼティマの守りはどうなるんですか!?」
「諜報部隊の報告では、向こうの騎士にもほとんど動きはないらしい」
「おそらく『ロマンス王国』側も戦争を終わらせたいんだろうね。このまま長引けば、いずれは
UF大陸の全ての国を敵にまわすことになる」
よっすぃーの質問に答えた私のあとを圭ちゃんが引き取る。
「飯田圭織や斉藤瞳がいてもそれはさすがに厳しいだろう。だから向こうも次の戦いでこっちの
全てを潰すつもりだ」
「そう……だから、勝っても負けても次が最後の戦いだよ。いや……絶対に、勝って終わらせるよ!!」
- 311 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:26
-
◇ ◇ ◇
そのあとは誰もなにも言わずに会議は散会になった。
今頃は各隊長が自分の隊の隊員にそのことを伝えているはず。
そんななか、私は城の廊下をどこに行くともなしに歩いていた。
出陣は明朝。
『ロマンス王国』の王都まで、向こうの妨害も考えておそらく二週間ほど……。
それまではここに帰って来れない……。
城の窓からは、ゼティマの街並みが見渡せる。
ドラゴンに壊された街は徐々に復興してきている。
戦争で独りぼっちになった私を受け入れてくれたこの街を……そしてそこに暮らす人々を……
守りたい……。
今度の戦いは、絶対に負けられない。
- 312 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:27
- 「なっち!!」
外の景色を眺めながら廊下を歩いていると、急に背後から呼びとめられた。
そこにいたのはごっちん。私が一番守りたい人。
「どうしたの、ごっちん?」
「うん……」
ごっちんにはいつもの元気がない。
気持ちはわかるけど……でも……
「ごっちん……元気出してよ?」
「……うん……」
「ごっちんがそんなんじゃ、なっち安心して出かけられないよ?」
「・・・・・・」
ありゃ、逆効果だったかな?
ごっちんは口を固く結んで下を向いてしまった。
しょうがないなぁ……。
私はそっとごっちんの頭を抱き寄せる。
「だいじょーぶ! ちゃんと帰ってくるから!!」
「なっちぃ……」
「だから……笑顔で見送ってほしいな。そうすればなっちはなにも心配しないで戦えるから」
「……うん!」
一度私の身体をギュッと抱きしめてからごっちんは離れた。
まだまだ完全とは言えないけど、ごっちんの顔には微かに笑みがこぼれていた。
「なっち……あとでちょっと時間あるかな?」
「んっ? なんで?」
「あとでごとーの部屋に来て欲しいの。そのころまでにはちゃんと笑えるようになってるから!」
「わかった。じゃああとで行くね?」
ごっちんは「絶対だよー!」と言って廊下を走っていった。
よかった、少しは元気が戻ったみたい。
でも部屋に来て欲しいって……なんだろ?
- 313 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:28
-
◇ ◇ ◇
そのあと私はたまっていた仕事を一通り片づけて。
お風呂に入ってようやく一息ついたころには、もう日も落ちていた。
血戦前の最後の夜が更けていく……。
この闇が晴れたとき、私は戦場へと向かわなくてはならない……。
「そう言えば……」
ごっちんが部屋に来て欲しいって言ってたっけ?
いったいなんだろ?
もう他のみんなはコンディションを完璧にするために、就寝しているものがほとんどだろう。
私もさっさと体を休めたいところだが、この微妙に緊張で昇ぶった心理状態ではなかなか眠れなそうで。
私は自分の部屋から出て、ごっちんの部屋へと向かった。
- 314 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:29
- コンッコンッ!
「は〜い?」
「あっ、なっちだけど……」
ノックのあとすぐにごっちんの声が聞こえてくる。
ちょっと待ってると、すぐに目の前のドアが開いた。
「ゴメンね、ちょっと遅くなっちゃって……」
「ううん、いいよ! 入って!」
ごっちんにエスコートされて、ごっちんの部屋へと入っていく。
ごっちんはお昼に会ったときよりは、確かに元気が戻っていたけど。
まだどことなく、顔がこわばってる感じがした。
「それで、なっちを呼び出したのって?」
「あっ、うん……」
言いづらそうに一度言葉を切った。
なんだろう……?
でもごっちんは決心したように顔を上げると、そのままベッドまで走っていき、脇に置いてある
小物入れからなにかを取り出して戻ってきた。
- 315 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:30
- 「なっちに……渡したいものがあるの……」
「えっ? なにっ?」
「手、出して」
言われたとおりに右手を差し出す。
するとごっちんがその上に握ったままの手を重ねた。
その手が開かれると同時に、手のひらになにかが落ちた。
「えっ? これって……」
ごっちんの手の下から現れたのは小さな指輪だった。
精巧な細工の施された銀のリングの真ん中に、真白く光り輝く宝玉がはめられている。
「指輪……?」
「ただの指輪じゃないよ。つけてみて」
「う、うん……」
おそるおそる左手の人差し指にリングを通していく。
い、いったい何が……? ちょっと怖いんですけど……。
指輪がピタッと私の指におさまると、急に真ん中の宝玉が輝いた。
- 316 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:31
- 「うわっ!?」
それは思わず目を閉じてしまうほどの眩しさ。
目を細めながらなんとか見ると、宝玉がだんだんと小さくなっていってる。
光に溶けていくように。いや、まるで光に戻っていくように。
「な、なんなの!?」
溢れた光はやがて一点へと収束して、形を形成していく。
その形は紛れもなく……剣。
「こ、これはっ!?」
「これは光の魔剣・エクスカリバー。ハロモニランドが代々守ってきた、7本ある
魔剣のうちの1本だよ」
これが……魔剣……。
ごっちんの説明が終わったと同時に発行が止み、剣が形を現わした。
その刀身は鋭くなめらかで、自ら光を生み出して輝いているようだった。
「今まではお母さんが使ってたみたいだけどね。お母さんに渡されたんだ、
『真希からなっちに渡してやれ』って。魔剣は自ら持ち主を選ぶらしいんだけど、
なっちはちゃんと選ばれたみたいだね」
「なっちが……?」
「うん、持ってみればわかるよ」
そっと剣の柄に手を伸ばす。
握った感触は、今まで使ってきた剣とはまったく違った。
まるで剣が自分の身体の一部でもあるかのような……。
スッと横に振ってみると、こぼれた光が軌跡を残す。
- 317 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:32
- 「軽い……」
「剣っていう特性上、回復型の魔法は使えないけど、それ以外の光魔法なら使うことができるよ!」
「へぇ、すごいべさ……」
「あと自分の意志で指輪にもどすことができるから。使わないときは指輪にしといてね」
「うん、わかった」
そっとリングを剣に近づけると、剣はまた光に戻っていく。
そして光は丸く固まり、リングの中央へとおさまった。
「すごい! でも、ホントになっちがもらっちゃっていいんだべか?」
「うん、魔剣に選ばれたんだから。もうエクスカリバーはなっちの剣だよ」
「ありがとう、ごっちん!」
「どういたしまして! あっ、でも……」
ごっちんの手が私のほうに伸びると、左手の人差し指から指輪をスーッと抜いた。
あ、あれ? くれないの?
ごっちんは指輪を持ったまましばらく固まっていたけど……
- 318 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:33
- 「……その……できればこの指につけてほしい……」
「えっ……?」
ごっちんの手が少し動くと、また指輪が通される。
左手の……薬指に……。
「えっ?……えっ!?」
一気に混乱する私。
だって……左手の薬指に指輪なんて……
そんなの、まるで……
「これっ!?……ごっちん!?」
慌てたまま指輪からごっちんの顔に視線を移して、そこで動きが止まる。
ごっちんは真っ直ぐに私の顔を見ていた。
私が映り込んでいるごっちんの瞳に縛られる。
そしてごっちんがゆっくりと唇を開いた。
「なっち……ごとーはなっちのことが好きです。……大好きです」
- 319 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:34
- 「えっ……?」
思わず言葉が繋がらなくなる。
ごっちんは私のほうへ一歩近づくと、そのまま私を抱き寄せた。
優しいごっちんの腕の中に閉じこめられる。
「好き、大好き。ずっと、ずっと好き。なっちのこと、ずっとずっと……」
「ちょ、ご、ごっちん……?」
「ずっとなっちだけ見てたの。でも言えなくて……。言ったら今の関係まで壊れちゃいそうで、怖くて……」
密着していた体が少しだけ離れる。
顔を上げると、またごっちんと視線がぶつかって。
「なっち……愛してる……」
優しく頬を撫でるごっちんの手。
そのまま手を私の髪の中へと梳き入れてくる。
近づいてくるごっちんの顔に思わず目を閉じると、唇に優しい感触が舞い降りた。
- 320 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:35
- 「んっ……」
「……ぷはっ」
時間にしてはおそらく数秒。
でも私にとっては永遠の長さに感じられたごっちんとのキスは、微かな甘さを残して終わった。
心臓はドキドキとこれ以上ないほどの速さで脈打っている。
でも気持ちは意外と落ち着いていて、喜びを素直に感じることができた。
それはごっちんと同じ感情が、私にもあるから……。
「ごっちん……あのね、なっちも……」
「あっ!」
「えっ?……んっ!?」
言いかけた言葉を遮るように、唐突にまた唇を塞がれた。
今度は覚悟する暇も、目を閉じる暇もなくて。
ごっちんの長いまつげや、ほんのりと色づいた頬が揺れていた。
「……返事は……まだいい」
「えっ? でも……」
「戦いが全部終わって、なっちが帰ってきたら……その時に聞かせて」
- 321 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:35
- 「……ふふっ」
思わず微笑みがこぼれてしまった。
だってごっちんがあまりにも可愛いから。
「な、なんだよぉ!」
「なんでもない! わかった、帰ってきたらちゃんとごっちんに話すから、その時は聞いてくれる?」
「もちろん!……ちょっと怖いけど……」
きっと怖がるような結果じゃないよ?
なんて、今は言ってあげないけど。
「じゃあ、約束! ちゃんと帰ってくるって約束して!」
こっちんがぴっと小指を伸ばす。
私も同じ小指をそっとごっちんの小指に絡めた。
「絶対に帰ってくるから! やくそく!」
絡めた指の上では光の指輪が輝いていた。
帰ってくるよ。だって……
ここが私の居場所なんだから……。
- 322 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:37
-
◇ ◇ ◇
その日は結局ごっちんの部屋に泊まった。
昇ぶっていた緊張はすっきりと解け、ゆったりと眠ることができた。
そして、夜が明けた。
血戦の開始には不相応なほど、すがすがしい朝が訪れた。
ベッドの上に体を起こす。
となりのごっちんはまだ眠ったまま。
そっと布団を掛け直して、私はベッドから這い出た。
パジャマを脱いで服を着替える。
執事としての服ではなく、騎士としての服。戦いのための服。
最後にマントを羽織ってできあがり。剣は左手の薬指に輝いている。
「ごっちん……」
準備が整ったところで、私は一回ベッドに歩み寄る。
ごっちんはまだ夢の中。いい夢を見てるといいな。
その寝顔を覗き込む。
「……行ってきます、ごっちん……」
頬に優しくキスを落とし、
頭をそっと一回撫でてから、ベッドから離れた。
そのままドアへと歩いていく。
もう、迷いはない……。
私はドアを開け、一歩を踏み出した。
- 323 名前:第17話 投稿日:2005/01/10(月) 12:37
-
- 324 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/01/10(月) 12:43
- あけましておめでとうございます(遅っ!
昨年に引き続き、今年もよろしくお願いします。
というか、気付けばもう一年も経ってるんですねぇ……。
わりとコンスタントに更新してるのに……思いのほか長くなったものだ……。
それでもようやくゴールが見えてきました。
これからがラストスパート……できるかなぁ?(何
- 325 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/01/10(月) 12:54
- >>304 konkon 様
はい、決めていたとはいえやっぱりきつかったですねぇ。
なっちは託されたぶん、頑張って欲しいです。
>>305 七誌さん 様
紗耶香は苦手な部類なんですが、最後は上手く書けたと思います。
新しい力を手に入れたなっちの活躍も、いろいろ書いていきたいです。
>>306 みっくす 様
昨年の最後はすごい終わり方だっただけに、新年一発目はこんな感じに。
もうほんと、ようやくです。
>>307 名も無き読者 様
背負うものが大きいほど、なっちは強くなってくれるでしょう。
期待に応えられるよう頑張ります!
- 326 名前:名も無き読者 投稿日:2005/01/10(月) 19:27
- 更新お疲れサマです。
一周年、見えてきたゴール。
しみじみと、ある種の静けさを噛み締めております。
ごっちんの想いを胸に戦うなっち、最後まで見守っていきますよw
でわ次回も楽しみにしております。
- 327 名前:七誌さん 投稿日:2005/01/10(月) 20:42
- あ〜リアルタイムだべさ〜^^
ついに最後の決戦が始まるんですね。
ごっちんのためにもなっち!がんばれ!
- 328 名前:みっくす 投稿日:2005/01/10(月) 21:32
- 更新おつかれさまです。
いよいよ決戦ですね。
「守る者を持つ者」は強いはず・・
なっちがんばれ。
- 329 名前:konkon 投稿日:2005/01/11(火) 00:19
- とうとう決戦ですね・・・。
ごっちんの想いがきっとなっちを
守ってくれるはず!
がんばってください!
- 330 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 16:56
- 〜矢口真里〜
「矢口様、矢口様ッ!!」
「ん〜?」
ロマンス王国城内の自室でくつろいでいると、急にドアが激しくノックされた。
紅茶の入ったティーカップをテーブルに起き、ドアを開けると一人の兵士が立っていた。
こいつは確か……ハロモニランドの動向を探らせていた斥候の一人……。
「……ハロモニランドに動きがあったのか?」
「はいっ! 今朝、王都から騎士団が出陣しました。全ての軍を集めたような、巨大な一団です!」
「ふ〜ん……なるほどね……。じゃあちょっと、国境付近の街に伝令頼めるかな?」
「はっ! 国境沿いの守りを固めるのですか?」
「いや、王都に集結せよって伝えて」
「はっ?」
「ここで、真っ向から迎え討つ!」
そういうと、その兵士は明らかに狼狽えた。
- 331 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 16:57
- 「し、しかしそれではいくつかの街が敵に……」
「そんなの敵を全て滅ぼしてからまた取り返せばいい。じゃ、頼んだよ」
「ですが……」
続きを聞くこともなく、ドアを閉める。
兵士はしばらくドアの前に留まっていたが、やがて気配が消えた。
「ふぅ……」
明るくなってきた部屋の中を歩く。
どうやら最終決戦が近いらしい。
立てかけてあった大鎌を手に取る。
刃こぼれがないか、しっかりと確認する。
滑らかにカーブした刃に、オイラの顔が写った。
一瞬、それが姉貴の顔に見えた……。
- 332 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 16:57
-
第18話 死神と天使
- 333 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 16:59
- それは戦争の始まる少し前。平和だったハロモニランドの王都『ゼティマ』。
オイラは姉貴と二人で暮らしていた。
母はオイラを産んですぐに病気で死んでしまった。
王宮騎士団長だった父も、モンスターに殺された。聞くところによると、どうやら
部下をかばって死んだらしい。
姉貴の名前はミツキ。美しい月と書いて「美月」。
晴れた三日月の夜に生れたからそう名付けられたらしい。
名前負けせず、顔は厳しく測っても美人で、スタイルがよく、すらっと
背が高い(オイラの分も絶対もってかれた!)。
が、中身は完全に「男」だ……。
顔で惚れて、性格でハートブレイクしていった奴らがごまんといる。
今は亡き父の跡を継いで王宮騎士団に入隊し、2番隊隊長を務めている。
- 334 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 17:00
- 「姉貴ー! 起きろー!!」
オイラの朝の大仕事。
それは超ねぼすけの姉貴を起こすこと。
毛布を引っぺがそうとするが、寸前でしっかりと掴んでガードする姉貴。
ほぼ無意識におこなってるから余計タチが悪い。
「さっさと起きやがれ! 今日は朝から騎士団の訓練だろ!?」
「ん〜、あと2時間……」
「ふつー5分か10分だろ!! つーか起きろ!!」
やっとの思いで毛布を剥ぎ取るが、それでも姉貴は寝続ける。
オイラだってこれで起きるなんて思っちゃいない。
次の手段として部屋の隅に置いてあった木剣を握りしめる。
「せいやっ!!」
そして有無を言わさず、ベッドの上の姉貴に向かって振り下ろす。
が、姉貴はしっかりと片手でオイラの打ち下ろしを完全に捌いてみせた。
しかも目は瞑ったまま……。
- 335 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 17:02
- 「ふぁ〜あ……真里、今日の朝食は何?」
そのあと、あの手この手を使ってようやく叩き起こした姉貴の第一声がこれ。
姉貴は家事全般がダメなのだ。おかげでそれはいっつもオイラの仕事。
「今日はスクランブルエッグ!」
「うわっ、手抜きだな」
「文句あんなら食べんな!」
家事もできない、性格もずぼらとまったくいいとこなしに思える姉貴だが、一応
見てくれ以外にいいところもある。
唯一にして絶対の才能が、騎士としての才能だ。
とにかく姉貴は強い。
父のあとをおって入隊し、わずか数ヶ月で2番隊を任されるようになったくらいだ。
どこで手に入れてきたかわからない大鎌を自由自在に振り回し、いつからか姉貴は
「死神」と呼ばれるようになった。
あんまりいいニックネームとは言えないが、姉貴はどうやら気に入ってるようなので、
オイラがとやかく言うこともない。
各隊長と比べてみても、姉貴の強さは突出していた。
1対1のスキルも、兵を用いるための戦術も姉貴には備わっていた。
時期騎士団長の最有力候補とも言われている。
実際に姉貴は騎士団長を目指していた。
『いつか騎士団長になってやる。親父みたいな、ね。それで真に平和な国を
つくりたいんだ!』
いつだったか、そんなことを、目を輝かせて言っていた。
死神のような強さとは似つかず、姉貴は平和主義者だった。
そして姉貴は亡くなった父を尊敬していた。
- 336 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 17:03
- 「まったく……真里、もうちょっと早めに起こしてくれよ。また遅刻じゃんか……」
「どの口が言うか!」
よれたパジャマを脱いで、姉貴が着替えたのは漆黒の、ドレスのようなローブ。
見たところ物理的な防御力は皆無に見えるが、姉貴はいっつもこれで戦場に行っている。
「特殊な呪文が編み込んであるんだよ〜!」とか言ってたが、たぶん嘘だろう。
それでも姉貴は、あってもかすり傷2、3個で、いつも帰ってくる。
「今日はどれくらいかかる?」
「ん〜、昼頃には終わる。ていうか終わらせる。まだ寝足りないから」
「真面目に訓練しろよ! ていうかしてやれよ! 隊員が可哀想だろ!!」
「いや、アタシは睡眠不足な自分のほうが可哀想だから」
大鎌を持って、肩に担ぐ。
「ま、いいや。それなら帰ってきたらオイラに訓練つけてよ!」
「いや、だから帰ってきたらお昼寝だって……」
「オイラだって強くなりたいんだよ! だから……」
言い終わる前に姉貴の手が、オイラの頭をポンポンと叩いた。
見上げた姉貴の顔は、優雅に微笑んでいた。
「真里にはまだ早い。身長が156pになったら教えてやる。そんじゃ、行ってくる〜!」
「あぁ! ちょっと待て!!」
姉貴は手をパタパタと振って、そのまま出て行ってしまった。
- 337 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 17:03
-
◇ ◇ ◇
そんな日々がしばらく続いた。
姉貴も少しはオイラに稽古をつけてくれもした。
もっとも、姉貴にはまったく歯が立たなかったけど……。
そんな日々がずっと続くと思っていた。
でもそれは叶わなかった。
戦争が始まった。
今までチャランポランだった姉貴も、さすがに表情が険しくなった。
真面目に訓練にも出るようになったし、戦場へ赴くこともあった。
それでも姉貴はいつもちゃんと帰ってきてくれた。
でも……
「はぁっ!? また遠征かよっ!?」
それは戦争が始まって、1年半もたったころの夕食時だった。
戦争下といってもゼティマはまだ平和だった。
それはおそらく姉貴たち王宮騎士の活躍によるところが大きいのだろう。
オイラもあまり戦争下という実感が湧かなかった。
ただ一つ、姉貴が遠征で何日も家を空けること以外は。
- 338 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 17:04
- 「あんまり大きな声出すなよ。そんなにめずらしいことじゃないだろ?」
「めずらしくないから言ってんだよ! もう6回目だろ!?」
「だいじょぶだって。今回のは大した遠征じゃないし、それにもともと戦いに
行くわけでもないんだ」
「はぁ?」
「北のネージュ王国に降伏するよう勧告に行くのさ。あそこはもうほとんど軍事力が
残ってない。アタシの2番隊でも十分に潰せるくらいだ」
「えっ……2番隊だけで行くの?」
「あぁ、他の隊は今手が離せないし、言ったようにほとんど軍事力が残ってないし。
簡単な任務だよ。2番隊の連中何人か連れて行ってくるわ」
なぜかオイラはその時いい知れない不安を感じた。
でもあえて口に出すことはなかった。
「さて、朝早いしもう休むわ。明日の朝飯は気合いが入るのをよろしく!」
「あっ、姉貴!」
席を立って、自室に戻りかけた姉貴を思わず呼び止めた。
「……ちゃんと……帰ってくるよね? 死んじゃったり……しないよね!?」
「とーぜん! アタシは死神だから死なないんだ!」
- 339 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 17:05
-
◇ ◇ ◇
でも姉貴は帰ってこなかった。
1週間待っても、2週間待っても帰ってこなかった。
さすがにオイラも不安になってきた。
なんで姉貴は帰ってこないの?
簡単な任務だったはずなのに……。
姉貴が遠征に行って3週間後……
オイラはついに家を飛び出し、ハロモニランド城に向かった。
「コラッ! そこの子供! 止まれ!!」
「離せッ!!」
「城は今、一般人は立ち入り禁止だ!」
ハロモニランド城に着いたオイラは、案の定、入り口で見張りの兵士に止められた。
「離せッ! オイラは……どうしても姉貴に……」
「こらっ、暴れるな!!」
オイラもそこで止まるわけにはいかなかった。
見張りの兵士と取っ組み合いの乱闘を繰り広げていたが……
- 340 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 17:06
- 「離してやり」
凛とした声が割って入った。
思わず声がしたほうを見ると、そこにいたのは、ブルーの瞳と金色の髪が綺麗な……
「……王妃様……」
「こらっ、無礼な! 裕子『女王様』だ!!」
「えっ!?」
兵士にグッと頭を押さえつけられ、その場に跪かせられる。
背が縮む〜!! これ以上縮んだらどうしてくれんだ!!
オイラは女王様が「顔を上げてくれ」と言うまでその状態だった。
「さて、じゃあ、悪いけどその子を中に連れてきてや」
女王様はくるっと後ろを向いてから、見張りの兵士に行った。
「えっ!? しかしこいつは……」
「美月の……妹や。そうやろ?」
「っつ!?」
その瞬間、兵士の顔が歪んだ。
女王様は「じゃ、頼んだで」と言い残して、先にスタスタと城の中へ戻ってしまった。
そしてオイラはその兵士に連れられて、一言も会話を交わさないまま、初めて城の中へ立ち入った。
- 341 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 17:07
- オイラが通されたのは、城の中にある一室だった。
オイラが入ると、そこにはもう女王様が待っていた。
兵士が後ろ手に部屋の扉を閉めた。
「さて、矢口美月の妹やな? なんて名前や?」
「真里。矢口真里…です……」
「そっか、真里か……。渡すもんがある……」
そういって女王様は部屋の隅まで歩いていき、そこに立てかけてあったものを手に取った。
それは見覚えのある大鎌。
女王様は大鎌をオイラのほうに渡した。
初めて持った姉貴の大鎌は、ずっしりと重かった。
でも……どうしてこれがここに……?
- 342 名前:第18話 投稿日:2005/01/19(水) 17:08
- 「あの……これはいったい……?」
「……『形見』や……」
「……えっ?」
「すまんな。妹がいると知ってれば、もっと早く知らせとったんやけど……」
女王様の言った意味が理解できなかった。
いや、理解するだけの情報は十分あったのに、頭がそれを認めなかった。
「あの……女王様……姉貴は……?」
口から出た言葉は震えていた。
「……ネージュで死んだ」
目の前が真っ暗になって、その場に崩れ落ちた。
手から零れた大鎌が、床にガランと落ちた。
- 343 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/01/19(水) 17:14
- 今回はここまでです。
ようやく最終決戦にはいると思いきや、ちょっと脱線(爆
かなり大変な外伝になりそうですが、ちょっとばかしお付き合い下さい。
そんでもって、初めてオリキャラ使いました。
ホントはあんまり使いたくないんだけど、適役がいないんだも〜ん!!(死
まぁ好きなようにイメージ作って下さいませ……。
- 344 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/01/19(水) 17:29
- >>326 名も無き読者 様
ゴール、見えそうでまだ見えなかったり(ぉ
まだちょっと続きそうですが、こちらもサイトもよろしくお願いします。
>>327 七誌さん 様
最後の決戦は回想のあとに……。
なっちの頑張りもちょっと後回しです(笑
>>328 みっくす 様
ごっちんを守るためになっちは頑張って欲しいです。
魔剣は、一応各属性ごとにある設定ですが、全部出てくるかは微妙。
でも一本はもう出てますよ!
>>329 konkon 様
え〜、決戦はもうちょっとあとでした……。
そのかわりちょっとした回想です。チビなちごまもちょっとだけ出てくるかも?
最後に梨華ちゃん&矢口さん(フライング)、誕生日おめでとう!!
ここまで来て「更新明日にすりゃよかった……」とか思っても後の祭り。
- 345 名前:七誌さん 投稿日:2005/01/19(水) 20:59
- あ♪リ〜アルタイムではないですか〜。
矢口さんの過去にはそんなことがあったんですね。
- 346 名前:みっくす 投稿日:2005/01/19(水) 23:59
- 更新おつかれさまです。
矢口さんの過去に何があったのでしょうかね。
行動の謎も少しはとけるのかな。
- 347 名前:konkon 投稿日:2005/01/20(木) 11:03
- お〜、やぐっつぁんの過去話ですか〜。
これで何があったのかはっきりするかもしれませんね。
続き楽しみにしてます。
そして、誕生日おめでと〜(〜^▽^〜)
- 348 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 20:55
- 「なんでですか!? なんで姉貴がっ!? 簡単な任務って言ってたのに!」
「うわっ?」
「女王様っ!」
立ち上がったオイラは思わず女王様に掴みかかった。
その場にいた兵士が慌てて止めようとしたけど、女王様が制したみたい。
「そや。簡単な任務のはずやった。ネージュ王国はもうほとんど戦力が残ってなかったんや。
でもその情報が間違ってた。いや、操られてたんや」
「えっ……?」
いつの間にか涙が溢れていた。
「本当は500人の敵兵が待ち伏せてたわ。美月は一人で戦った」
「一人でって……2番隊は!?」
「逃げたんです……」
「えっ!?」
今まで口を開かなかった兵士がいきなり割って入ってきた。
オイラがそっちを向くと、女王様が付け足した。
- 349 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 20:59
- 「そいつも2番隊の隊員や。そんで美月と一緒にネージュに行った」
「なにっ!?」
感情が一気に爆発した。
女王様から離れ、今度はその兵士に掴みかかった。
「じゃあお前は……姉貴をおいて逃げてきたって言うのかっ!?」
「違うっ!!」
兵士も叫んだ。
「隊長が逃がしてくれたんだ。500人の敵兵に囲まれた僕たちを、隊長が退路を
切り開いてくれたんだ。僕たちは援軍を呼びに行った。でも……ネージュに戻ったときには、もう……」
兵士の目からも涙が溢れていた。
「500人の敵兵の死体の真ん中に……隊長の亡骸と……地面に突き刺さった大鎌が……」
「……くっ!」
兵士から離れ、落とした鎌を拾い直す。
あのバカ姉貴! 平和な国をつくりたいとかいっといて、死んじまったらすべて終わりじゃんか!!
『平和な国をつくりたいんだ。ま、そのためにはまず上まで、騎士団長までのぼりつめなきゃね。
下っ端じゃなんにもできないし!』
姉貴の言葉が耳の奥に蘇った。
- 350 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 21:00
- 「……女王様……」
「んっ?」
「オイラも……騎士団に入れて下さい!!」
もう声は震えていなかった。
手に重くのしかかる鎌を握りしめ、しっかりと女王様の方を向いて言い切った。
女王様はそんなオイラをじーっと見た。
「……復讐のためか?」
「違います! 姉貴が叶えられなかった夢を叶えたいんです!!」
なってやるよ、オイラが騎士団長に!
そして平和な国をつくってみせる!!
だから姉貴、オイラに力をかして!!
女王様は少しのあいだ黙っていたが、ようやく口を開いた。
「今は、アカン」
「なんでですか!?」
「今は戦争中や。騎士団はいやがおうにも戦わなあかん時や。今騎士団に
入れるわけにはいかん」
「でも……!」
続きは女王様が肩に置いた手によって遮られた。
そのまま女王様は、オイラと同じ目線の高さまで顔を下げる。
対等の高さにあるブルーの瞳が、真剣にオイラを見つめていた。
- 351 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 21:01
- 「戦争が終わるまで待ってくれ。私が必ず、すぐに戦争を終わらせてみせる!」
その言葉があまりに真剣すぎて、オイラは何も言うことができなかった。
女王様は顔を上げて、すっと左手をかざした。
すると中指にはめられた指輪が、急に光を放ち始めた。
「うわっ!」
眩しくて思わず目を瞑った。
目を開けたときには、溢れた光は剣に姿を変えていた。
女王様がその剣をしっかりと握った。
「戦争を終わらすで! もう誰かが死んで誰かが悲しむのはたくさんや!」
「ハッ!」
女王様は兵士を引き連れて部屋を出て行った。
オイラはその後ろ姿をずっと見つめていた。
そしてその2ヶ月後……。
女王様の活躍により、戦争は終結した。
そしてオイラは正式に王宮騎士団に入隊した。
- 352 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 21:06
-
◇ ◇ ◇
騎士団に入ったオイラの面倒を見てくれたのは、元騎士団長であり、今は執事を
している老人だった。
戦争中は騎士団長として前線で活躍していたが、その時受けた傷と老いによって
騎士団は引退し、今は女王様が直接騎士団の指揮を執っているらしい。
一応オイラも騎士団には入隊したが、さすがにまだ他の大人に混じっての訓練には
ついていけないため、まずは個人的に訓練を受けることになった。
「さて、ではまず剣術の基本から始めようかの?」
「じいちゃん、オイラ剣は使わない! 姉貴の大鎌を使いたいの!」
「最初からあんな超重武器は振り回せんわい。美月も最初は剣から習っておったぞ?」
「・・・・・・」
渡されたのはショートソードだったが、それでも手にずっしりとのしかかった。
「さて、じゃあまずは素振りからじゃ」
「・・・・・・」
午前中は魔法などの勉強。そして午後は剣術の訓練。
そして夜は自主練にあてた。
家に帰ることもなく、疲れると城の中にある部屋で眠った。
最初に城に来たときに連れてかれた部屋だ。
どうやら生前姉貴が借りていた部屋だったらしい。もっとも姉貴は昼寝用に
使ってたみたいだけど……。
- 353 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 21:08
- そしてある日、じいちゃんと一緒に城の廊下を歩いていると一人の少女を見つけた。
顔は整っているがまだ幼さが残っている。背は、あんまり参考にもならないけど、
オイラと同じくらい。
たぶんオイラよりもちょっと年下くらいだろう。
オイラ以外にも子供がいたんだ……。
オイラはその場に立ち止まった。
「ねぇじいちゃん、あれ誰?」
「んっ? おぉ、あの方は真希様じゃ」
「真希……様?」
「裕子様の娘じゃ」
「えぇっ!? てことは……」
「そう、この国の姫じゃ」
オイラはもう一度姫様をじっと見てしまった。
確かに女王様に似てなくもない。
でもその顔は……子供とは思えないほど無表情だった。
「真希様は裕子様の一人娘でな、わしが手の空いてる時間は面倒を見てるんじゃが、
なかなか懐いてくださらん」
「ま、年が違いすぎるしね」
「戦争前は街からよく友達が遊びに来ていたりもしたが、その子もぱったりと来なく
なってしもうた。裕子様も忙しくてかまっていられないようで、最近ではめっきり
笑わなくなってしもうた……」
「ふ〜ん、城の中には他に誰か年の近い友達とかいないの?」
昨日教わった魔法を思い出しながら、適当に相づちをうってみた。
- 354 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 21:09
- 「城の中で一番年が近いのは……おぬしかのぅ? そうじゃ、真希様の
友達にはなってくれんか!?」
「はぁ、オイラが!? 冗談、そんなことに時間裂いてらんないよ! それより
もっと魔法教えて!」
「そうか……う〜む……」
そのあとオイラはいつも通りに魔法の勉強になった。
でも勉強の間中、じいちゃんは何かをずっと考えているようだった。
その次の日、オイラはもう一人別の少女に出逢った。
じいちゃんのあとにその子が付いて歩いているのを見かけた。
一瞬だけ目があった。
背はオイラよりちょっと高いくらいだけど、たぶん顔つきからしてオイラより少し年下。
あの姫様と同じくらいかもしれない。
オイラとなっちは初めて出逢った。
- 355 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 21:11
-
◇ ◇ ◇
そのあとの授業の時にじいちゃんから、さっきの子が「安倍なつみ」という名前
だということと、「なっち」というニックネームだということを聞いた。
「なっち」は戦争孤児で、じいちゃんが拾って育てているらしい。
ついでにオイラよりも年上ということを聞いて、ほんとにビックリした。
まぁ、あんまり興味がなかったのでそれくらいしかその時は聞かなかった。
でもそれから、城の中でたびたび「なっち」を見かけるようになった。
しかもどういうわけか、必ずいつも姫様が一緒にいた。
姫様は笑っていた。
そしてなっちとちゃんと対面したのはその数ヶ月後のことだった。
朝、魔法を教えてもらうため、いつものように城の中の一室に入ると、そこに
じいちゃんとなっちがいた。
「えっ……と?」
いきなりの展開に困惑するオイラ。
入り口で固まっていると、じいちゃんが助け船を出してくれた。
- 356 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 21:11
- 「前に話したと思うが、なつみじゃ。なつみも今回騎士団に入隊しての。じゃから
真里と一緒に、最初はわしが面倒見ることにしたんじゃ」
「あ〜……そうなんだ……」
じいちゃんからなっちに目を移すと、ちょうど目があった。
なっちが机から立ち上がって、オイラの前に進んでくる。
そしてなっちは天使のように笑った。
「よろしくね!」
「えっ? あぁ、よろしく……」
差し出された手を握りかえす。
「じいちゃんから聞いたかどうかわからないけど、オイラは矢口真里」
「ヤグチ! なっちは安倍なつみだべ!」
「えっ!?」
このあたりでは聞かない独特の訛り。
でもこの訛りって、確か……
- 357 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 21:12
- 「ねぇ、なっちって訛ってるよね?」
「えっ、あぁ、なっちハロモニランドの生まれじゃないんだ……」
なっちは照れたように笑った。
オイラは興味なさげなフリして、さりげなく聞いてみた。
「ふ〜ん、どこの生まれなの?」
「ネージュ。戦争で滅びちゃったけど……」
ネージュ!!
姉貴を殺した国……。
反射的に握った手を離してしまった。
「さて、親睦を深めるのはあとにして、とりあえず授業を開始しようかの。今日は炎魔法の章じゃ」
なっちはさっきまで座っていた机に戻った。
オイラもそのとなりに用意された机に座る。
それでもどうしても授業に集中できなかった。
なっちをチラッと見るたびに、どうしようもない、黒い感情が身体の奥から
込み上げてくるような感じがした。
- 358 名前:第18話 投稿日:2005/01/27(木) 21:13
- そしてなんとも身の入らない授業が終わった。
「ふ〜……」
隣でなっちが立ち上がり、大きく伸びをした。
するとその瞬間、部屋の扉がバタンと開いた。
思わず扉の方を向くと、扉を開け放ったのは、なんとあのお姫様だった。
扉からなっちのところまで一直線に走り抜け、なっちに思いっきり飛びついた。
「なっち〜!! 授業終わった? 終わったよねぇ〜!?」
「ちょ、ごっちん!」
「遊びいこ〜! 遊びいこうよ〜!!」
「わ、わかったべさ! わかったからちょっと待つっしょ!!」
満面の笑顔を浮かべた姫様に引っ張られ、なっちは部屋の外へと消えてしまった。
おいらはただ呆然とその様子を見ていた。
「フォッフォッフォ、真希様も見違えるように明るくなられたもんじゃ!」
じいちゃんが嬉しそうに笑った。
- 359 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/01/27(木) 21:27
- 今回はここまでです。矢口編中盤。
一応あと一回で終わるはず。
書き始めた最初のころはあんまりしっかりと考えてなかったため、
ちょっとした食い違いがあっても見逃してくだされ……(マテ
>>345 七誌さん 様
ようやくという感じで、やぐっつぁんの過去話です。
上手く書けるか激しく不安ですが、が、頑張ります……。
>>346 みっくす 様
さんざん引っ張りましたが、ようやく過去が明らかに。
行動の謎もちゃんととける……はず……。
>>347 konkon 様
はい、ようやく過去話です。
そして矢口さん、22歳! 見えな(略
22歳の私〜♪(ぉ
- 360 名前:みっくす 投稿日:2005/01/27(木) 23:44
- 更新おつかれさまです。
なっちとごっちんの過去も一緒に明らかになりそうですね。
次回も楽しみにしてます。
- 361 名前:konkon 投稿日:2005/01/28(金) 12:20
- マリ・・・(泣)
なっちと真理、そして真希の過去、
いよいよ真相がわかりますね。
楽しみに待ってます♪
- 362 名前:名も無き読者 投稿日:2005/01/28(金) 14:42
- 更新お疲れ様です。
切ない過去を抱えてらっしゃったんですね。。。
あの2人の昔の姿も見れてイイ感じです。
続きも楽しみにしてます。
- 363 名前:七誌さん 投稿日:2005/01/28(金) 19:40
- 矢口〜・・・悲しい・・・
ごっちんもなっちには子供みたいですね♪
- 364 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 00:33
- イイヨーイイヨー
- 365 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 19:13
- オッパイオッパイ!
なっちなっち!
- 366 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:06
- それから約3年間、オイラたちはじいちゃんの下で競い合うように強くなった。
そして技も魔法も上達してくると、正式に騎士団に入隊した。
最初にオイラとなっちが配属されたのは1番隊だった。
そのころからオイラは大鎌を使い始めた。
最初はなかなか扱えなかったけど、いったんコツを掴むとあとは楽々振り回せる
ようになった。
オイラとなっちは騎士団の中でも強い方だった。
もともとのセンスか、じいちゃんの特訓のたまものか、あるいは両方か。
わからないけど、そこいらの大人よりもずっと強かった。
1番隊に入ってからは、よく二人で実戦形式の訓練をした。
キィン!
大鎌と剣がぶつかる。
いうまでもなく、どっちも真剣だ。
「くっ……」
大鎌を受けとめているなっちの顔に苦悶の表情が浮かぶ。
でもオイラはまだまだ余裕で。
グッと鎌をひねり、そのまま今度は振り上げる。
「あっ!」
なっちの手から剣が離れた。
そしてなっちの身体が後ろに倒れる。
- 367 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:07
- 「いや〜、また負けちゃった〜……。ヤグチ、強いべさ!」
「……ふん」
オイラのなっちに対する気持ちは危ういところで均衡を保っていた。
憎悪と……そして友情。
どうしてもなっちがネージュの、姉貴を殺した国の人間だということが、オイラの心を黒く染める。
なっちが直接関わっていたわけじゃない。
それでもオイラには恨みの矛先を向ける対象がなっちしかいなかった。
なっちがいい奴だっていうこともわかってる。
人の世に降りた天使がいるとすれば、それはなっちみたいな感じなのだろう。
周りの人を温かくする、そんな不思議な力がなっちにはあった。
オイラは極力なっちのことを考えないことにした。
ただ強くなることに没頭した。
誰よりも強くなり、そして騎士団長になる。
その先、姉貴の目指した、真に平和な国をつくることはオイラができるかわからないけど、
それでもできる限りのことはしようと決めた。
だからなっちのことは、危うい均衡を保ったまま。
でも、何かがあればすぐに崩れる、そんな気がした。
- 368 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:08
- そして初めての実戦。
オイラは初めて人を殺した。
簡単だった。
大鎌の一振りで、敵は二つになって地に落ちた。
感動も、恐怖も、後悔もなかった。
でも、周りのざわめきがだんだんと静寂に還っていくのは、少し心地良かった気がする。
「ふぅ……」
一息ついて、鎌を一回振るう。
真っ赤に濡れた鎌が、わずかに光を取り戻した。
鎌を担いで血溜まりの中を歩いていく。
すると視線の先になっちの姿を見つけた。
「なっち、そっちは終わった?」
「うん、終わったべさ!」
なっちに近づいていくにつれ、ざわめきが戻ってくる。
傷つき倒れた敵兵の呻き声。
オイラは顔をしかめた。
- 369 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:10
- 「なっち、終わってないじゃん! まだ生きてるよ!?」
「でも、もう戦えないべさ」
「甘いよ、なっち! 敵に情けなんかかけてたら、次に殺られるのは……」
その時、なっちの背後に倒れていた敵兵がわずかに動くのが目に入った。
手を前につきだし、なにやらブツブツと唱えている。
「チッ!」
「あっ、ヤグチっ!?」
鎌を振り上げてなっちの横を駆け抜ける。
敵はオイラのほうに狙いを変えたようで、手のひらをオイラに向けた。
間に合えッ!!
オイラは大鎌を思い切り振り下ろした。
「ぐはっ!!」
魔法が放たれる前に、振り下ろした大鎌が背中から敵を地面に縫いつけた。
しばらく痙攣したあと、敵が動かなくなる。
鎌を引き抜くと、刃はまた紅く濡れていた。
「フン……」
頬に散った返り血を拭った。
- 370 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:11
- 「ヤグチッ!!」
「あぁ、なっち、危ないところだった……」
ふり返ったオイラの目に飛び込んできたのは振り上げられた剣。
慌てて鎌を持ち上げ、振り下ろされた剣を柄で受けとめる。
「どうして!? どうして殺したんだべさ!?」
なっちの目には涙が浮かんでいて。
その涙がオイラの心を掻き乱した。
鎌を振り上げ、剣を弾く。
「なんだよ、殺らなけりゃなっちが殺られてたぞ! 礼を言われることはあっても、
斬りつけられる覚えはないっ!!」
「殺さなくても止められたっしょ!?」
「敵を殺してなにが悪い! これは訓練じゃないんだ! 誰も殺さずに終わらせようなんて、
甘っちょろい戯言だよ!!」
なっちの剣が走る。
オイラも鎌で受けるが、いつもの訓練のようになっちは吹き飛ばない。
「オイ、やめろ! ここは戦場だぞ!! 仲間割れをするならあとでやれっ!!」
結局オイラとなっちは、隊長に止められるまで斬り合っていた。
そしてその初陣のあと、オイラは2番隊へと移された。
- 371 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:12
-
◇ ◇ ◇
2番隊に移ったあとも、オイラは数々の武勲を立てた。
そしてその数年後、ついに姉貴と同じ2番隊隊長まで上り詰めた。
うるさい部下が二人、いや二匹できた。
いつもは一緒になって遊び回ってるのに、戦いになると絶妙なコンビネーションを
見せる二人組。
そしてなんと、恋人もできた。
どこか姉貴に似ている彼女は、オイラの下にちょっといたあと、すぐに3番隊隊長に
なってしまった。
その部下だったあいだに口説かれて付き合い始めた。
生活は充実していた。
でもオイラには気がかりなことが二つあった。
一つはオイラが2番隊隊長になったのとほぼ同じ時期に1番隊隊長となった
なっちのこと。そしてもう一つは、いまだに決まらない騎士団長のことだ。
戦争が終結してから、というよりじいちゃんが騎士団長を退いてから騎士団長は
決まっていなかった。
今までずっと女王様が騎士団をまとめている。
女王様に聞くと、「任せられるヤツがまだいない」とのこと。
オイラが任せられる自信はあった。
それでも今以上にがむしゃらに戦った。
でも……
女王様から騎士団長を任されたのは、オイラじゃなかった……。
- 372 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:15
- 「今日から騎士団はなっちに任せる」
「なっ!?」
「1番隊はハチャマから松浦亜弥をゼティマへ招聘してまかせる。じゃ、なっち、
騎士団頼んだで」
「は、はいっ!」
なっちが緊張気味に返事をするなか、オイラは呆然と突っ立っていた。
なんで……? なっちよりもオイラのほうが強いのに……。
オイラはそのあとで、女王様に詰め寄った。
「なんでですか!? なんでなっちに!?」
「なっちなら任せられると、私が決めた。なっちは騎士団に所属していた期間も長いし、
1番隊の隊長としてもたくさんの武勲をたてとる」
「でも、それならオイラだって!!」
「確かに大臣の中には矢口が良いと推した人もいる。なっちはハロモニランド出身じゃないから、
騎士団長を任せるべきではない、とな。でも最終的には私が決めた」
「なんで、オイラじゃダメなんですか」
「……矢口、あんたの鎌は破滅的や。敵を殺すことだけを求めた兇刃や」
「だって戦いは殺すか殺されるかじゃないですか! 敵を全て殺せば、戦いは終わる!」
女王様は一瞬悲しそうな瞳でオイラを見た。
- 373 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:16
- 「なっちの剣は違う。なっちは殺すためじゃなく、守るために戦ってる。きっと、自分でも
気付いてないんやろうけど、どうしても守りたいものが心の中にあるんや」
「あんなの……ただ甘いだけです」
「確かに甘いかもしれへん。でも強くもある」
「なっちよりもオイラのほうが強いです!」
女王様を睨むように見つめるオイラ。
女王様は目を伏せ、溜め息を一つついた。
「わかった、ならこうしよう。なっちと1対1で戦って、矢口が勝ったら矢口を騎士団長にする。
それなら文句ないやろ?」
「……えぇ!」
オイラたちはすぐに練兵場へと移動した。
そこにはすでに連絡が行っていたらしく、なっちが待っていた。
オイラも大鎌を握って、なっちの真正面に構える。
女王様がオイラたちの間に入った。
- 374 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:18
- 「聞いてると思うが、1対1の一本勝負や。時間制限はない、決着がつくまでや。まぁ、
そんなに長引くこともないと思うけどな。それと、決着がついたあとでも止めを刺そうとするのは
絶対に許さん」
最後の言葉はオイラに言ってるような気がした。
それだけ言って、女王様は一歩後ろに下がった。
そしてちょっとなっちの方を向いた。
「なっち、本気でいけ」
「……わかりました……」
女王様が手を掲げた。
大鎌を握りなおす。
「はじめっ!!」
女王様の合図が響いた。
その瞬間に駆け出す。
なっちも動いた。
いつもの訓練と同じように、すぐに決めてやる!
それでオイラが騎士団長だ!
でも、次の瞬間には目の前からなっちの姿が消えていた。
- 375 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:19
- 「えっ……?」
背後に現れるなっちの気配。
ふり返ったときにはなっちの剣が襲いかかってきていた。
キィン!!
響く金属音。
痺れる両手。
そして手から弾き飛ばされた鎌が、地面に突き刺さった。
「なっ……?」
「それまでやな」
女王様の言葉でなっちが剣を引く。
それでもオイラは身動き一つとれなかった。
嘘だ……なんでなっちがこんなに強い……?
- 376 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:20
- 「わかったやろ? なっちは強いんや」
でも女王様の言葉は、オイラの耳に入っていなかった。
そのままなっちを睨みつける。
「なっち……訓練の時は手を抜いてたのか? 手加減してたのか!?」
なっちはバツが悪そうに顔を伏せた。
「なっちは……理由もなく誰かを傷つけたくない……。それにヤグチと本気で戦うなんて、
なっちにはできないべさ……」
「くっ!」
なっちは騎士団長になった。
そしてオイラはなっちの下につくことになった。
屈辱的だった。
なんとか1年は我慢したけど、もう限界だった。
全てを捨てて、オイラはハロモニランドを飛び出した。
- 377 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:21
-
◇ ◇ ◇
オイラはそのままロマンス王国へと向かった。
ロマンス王国はハロモニランドのすぐ隣だ。王都まで一週間程度で着いた。
もっと遠くの国でもよかったが、ハロモニランドの状況もできるだけ把握して
おきたかったので、すぐ隣の国にした。
姉貴の雷名はロマンス王国にも及んでいた。
そのためオイラは王様に手厚く歓迎された。
そしてロマンス王国の騎士団に入隊した。
新しい仲間ができた。
運動神経が抜群のまいちゃん。
どこか遠い異国から来たアヤカ。
キショい石川。
そして騎士団でもっとも魔法が得意だったひとみん。
よく五人で一緒に行動していた。
しばらくして、オイラは騎士団長を任されることになった。
ずっとなりたかった騎士団長は、思っていた以上に大変な仕事だった。
でもやりがいもあった。
いつかはハロモニランドに戻って、騎士団長になってやるという思いは変わらなかった。
- 378 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:22
- ある日、城に訪問者があった。
二人の弟子を連れたその女性は「飯田圭織」と名乗った。
オイラだって名前は知ってる。世界最強の魔法使いだ。
「ロマンス王国」が気に入ったらしく、しばらく滞在することになった。
それからちょっとした変化があった。
ひとみんがオイラたちとあまり一緒に行動しなくなった。
そしてよくカオリと一緒にいるところを見かけた。
ま、ひとみんは魔法が専門だ。だから最強の魔法使いであるカオリに憧れる
気持ちもわからなくない。
その時はオイラもたいして気に止めなかった。
その変化は小さなものだった。
でも変化は確実に起こっていた。
それはある日の夜。
ぐっすりと寝ていたオイラは、ドアを叩く音で目が覚めた。
- 379 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:23
- 「ヤグチさんっ! ヤグチさんっ!!」
「ん〜、なんだよぉ、こんな真夜中に……」
ドアを開けるとそこにはアヤカが立っていた。
「どうしたの……?」
「大変なんです! 王様がッ!!」
「えっ……!?」
大鎌をかかえて廊下を疾走する。
そして王様の部屋の扉をぶち破った。
蝋燭の明かりが灯る部屋に一つの影が立っていた。
その足下には王様と王妃様が倒れていて。
鼻につく血の臭い……。
影がこちらをふり返った。
「……ひとみん……」
「『ひとみん』じゃないわ。今から私が王様よ」
- 380 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:24
-
◇ ◇ ◇
ひとみんがクーデターを起こした。
王様と王妃様を殺して、自分が王と宣言した。
当然ながら、そんなこと認められるはずもない。
すぐに騎士団にひとみん討伐の命が下りた。
ひとみんの魔法の力は確かに強い。
それでも単独でのクーデターなんか成功するはずがない……はずだった……。
だが、ここにきてカオリがひとみんを全面的にバックアップした。
カオリの力は絶大だ。それに何よりその名前が強かった。
誰もあの飯田圭織を敵にまわすなんて考えられない。
認めざるをえなかった。
そしてひとみんの命により、また戦争が始まった。
- 381 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:24
- ここまで来てしまった以上、もう決戦は避けられない。
おそらく両国に甚大な被害が出るだろう。
なんとか食い止めようとしたが、結局止められなかった。
それでもどこかで喜んでいる自分がいる。
アイツがやって来る。なっちが、騎士団を引き連れて戦いに来る。
オイラに、殺されにやって来る。
昇った太陽の光を浴びて、クレセントムーンがキラッと輝いた。
その光を振り払いように、一回鎌を大きく振るう。
一瞬の風切り音が部屋の中へ溶けていった。
なっち、今度は本気で殺し合おう……。
- 382 名前:第18話 投稿日:2005/02/03(木) 18:26
-
- 383 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/02/03(木) 18:42
- 最後の方は駆け足でしたが、こんな感じで回想終了!
次回からは本格的に最終決戦の始まりです。
とにかく悩んで悩んで年表まで作って書いた(〜^◇^)回想編。
えぇ、もう反省点だらけですが、読んでもらえれば幸いです……。
>>360 みっくす 様
なっちとごっちんの過去はちょっと出てきましたが、あまり深くは書きませんでした。
もう想像通りだと思います(笑
>>361 konkon 様
一応こんな感じの真相になりました(凹
ホントはもうちょっとうまく書きたかったです……。
>>362 名も無き読者 様
とりあえずはもういろいろあったって感じです。
あの二人はあの二人で変わってないって感じで(笑
笑わん姫。本当に放送してくれないかなぁ?
>>363 七誌さん 様
この時点では本当にまだ子供なんですけどねぇ。
それを言っちゃうとホントに変わってないというか、成長してないというか……。
>>364 名無飼育さん 様
>>365 名無飼育さん 様
ありがとうございます。
応援に応えられるように頑張ります!
- 384 名前:七誌さん 投稿日:2005/02/04(金) 22:44
- 更新乙です。
なっちはやっぱし優しいんですね!
矢口もなにかに苦しんでる様子・・・。
平和にことが進んでほしいですけど・・・
- 385 名前:みっくす 投稿日:2005/02/06(日) 16:02
- 更新おつかれさまです。
祖国に対する想いと自分の願望が同居し
苦しんでいたようですね。
でも、吹っ切れたようですね。
次回はいよいよ決戦ですね。
次回も楽しみにしてます。
- 386 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 14:50
- 〜安倍なつみ〜
『ゼティマ』を立って、もう一週間が過ぎた。
私たちはもうすでに『ロマンス王国』の国域に踏み込んでいる。
進軍は順調。そう、不気味なくらいに順調……。
「安倍さんっ!」
「安倍さ〜ん!!」
上空から先の様子を偵察していた紺野と新垣が、スタッと舞い降りた。
進むのをいったん止めて報告を聞く。
「どうだった?」
「はい、もう少し先で次の街へたどり着きます。ですが……次の街も今までの街と同じです……」
「そっか……ありがと」
紺野の報告通り、少し進むと次の街へとさしかかった。
高い城壁を構える城塞都市。
だが門は完全に開け放たれ、その上には白旗がたなびいていた。
- 387 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 14:50
-
第19話 決戦序曲
- 388 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 14:52
- 「ここもか……」
開け放たれた門から悠々と街の中へと入っていく。
街の中を歩いていく私たちの軍を、その街に暮らす人々が不安そうな目で見ている。
戦争のための城塞都市にもかかわらず、その中に兵士の姿はない。
「なっち、今日もそろそろ日が落ちるよ。この街で休むことにする?」
となりに並んだ圭ちゃんが訪ねてくる。
確かに空はもう真っ赤に染まっている。まるで世界を血に染めるように。
圭ちゃんの提案は確かに魅力的だけど……
「この街に留まるのは、無闇にこの街の住民を不安にさせるだけだべさ。この街は抜けて、
少し離れたところにキャンプをはろう?」
「へいへい、また今日も野宿かぁ〜……」
不満は口にしながらも、圭ちゃんは反対しない。
それは圭ちゃんもそのほうがいいと思っているから。
結局その街にもわずかな兵を駐留させ、形だけの占領をして、すぐにあとにした。
- 389 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 14:53
-
◇ ◇ ◇
パチパチと、遠くから薪の爆ぜる音が聞こえてくる。
私は自分のテントにも戻らず、小高い丘を見つけて横になっていた。
『ロマンス王国』に入ってからはずっとこうだ。
王都へと続く道沿いの街は、必ず白旗が立っており、兵士もほとんどいない。
でも紺野の報告によると、道を外れて別のルートを通ろうとすると、そのルートの街には
しっかりと兵士が駐留しているそう。
これだけ条件が揃えばもうわかる。
敵は逃げ出したんじゃない。逆だ。王都に集結しているんだ。
真正面から来いと言うことだろう。向こうも全面対決を受けて立つ姿勢らしい。
このペースだとあと数日のうちに王都へと到着する。
全てが整った、最終決戦の舞台へと。
当然向こうも全力で向かってくるだろう。
戦いが始まってから、今まで戦ってきた相手を思い浮かべてみる。
里田まい、石川梨華とは二回、アヤカ、そして斉藤瞳……。
それと……
見上げる夜空には幾千もの星が瞬いていて。
その星を覆い隠すように、群青色の闇が広がっている。
でも一部だけ、その闇を刈りとっている凍てた光……。
鋭く冷えた三日月。
- 390 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 14:54
- 「ふぅ……」
こうしているといろいろなことを思い出す。
ごっちんと初めて逢った日のこと。
ごっちんは無表情だったけど、それでも興味深げに私のことを見ていた。
ごっちんが初めて笑ってくれた日のこと。
花が咲いたような笑顔。一瞬で目を奪われた。
ヤグチと初めて逢った日のこと。
初対面で『訛ってる』と言われた。
ヤグチと初めてケンカした日のこと。
思わず本気でヤグチに刃を向けた。
騎士団長になった日のこと。
嬉しかった。でもプレッシャーで押しつぶされそうだった。
そしたらごっちんが、震える私の身体を抱きしめて言ってくれた。
なっちならできるよ、と。
ヤグチがいなくなった日のこと。
『なぜ?』で頭がいっぱいになった。
そのあとで女王様が教えてくれた。
ヤグチに姉がいたこと。
戦争中にネージュで殺されたこと。
騎士団長を目指していたこと……。
- 391 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 14:55
- はたして、ヤグチとは戦うことになるのだろうか……?
いや、きっとなる。私たちはそういう宿命なんだろう。
そうなったとき、私はヤグチに剣を向けられるだろうか?
ヤグチは私にとって、ごっちんの次に多くの時間を共有した、かけがえのない
仲間であり、友達だ。
でも、友達だからこそ……。
今度こそしっかりと真正面からぶつからなければいけないと思う。
それにごっちんとの約束もある。
だれが立ちはだかろうとも、倒して進まなきゃ、ごっちんのもとへは帰れない。
だから、戦う……。
どんなに辛くても、決して逃げない!
ちょっと冷えてきた。そろそろ自分のテントに戻ろう。
起きあがった私を、三日月が冷ややかに見下ろしていた。
いろんな想いを包みこんで、闇色の夜は更けていく……。
- 392 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 14:56
-
◇ ◇ ◇
そして『ゼティマ』を立ってから十日目の朝。
私たちはとうとう『ロマンス王国』の王都までたどり着いた。
「いよいよだね……」
今までとは違い、張りつめた空気が街の中に充満している。
そして漂ってくる強烈な殺気。
向こうも待っている。この最終決戦が始まるのを。
「なっち……」
「うん……」
圭ちゃんがそっと促す。
左手を高くかざすと、薬指にはめられた指輪が輝き出す。
宝玉が光に、そして剣へと戻っていく。
エクスカリバーを両手で握って、一人駆け出す。
背後からは仲間が、そして正面からは敵がみんな私を見つめている。
- 393 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 14:57
- 「はああぁぁぁあっ!!」
エクスカリバーを振り下ろす。
そこにあったのは王都を覆う結界陣。
斉藤瞳か、もしくは飯田圭織がはったと思われる強力な結界だけど、エクスカリバーの
刀身にはディスペルライトの魔法が刻まれている。
斬ったところから結界に亀裂が入り、やがてシャボン玉のように破裂して消え去った。
『うおおおおぉぉぉおおっ!!』
それが始まりの合図だった。
背後に待機していた仲間たちが、我先にとばかりに私の横をすり抜けて、王都の中へと
突撃していく。
『うおおおおぉぉぉおおっ!!』
地鳴りのような雄叫びが、王都の中からも聞こえてくる。
『ロマンス王国』の兵士たちも私たちを迎え撃つ。
ついにぶつかった。
- 394 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 14:58
- 「みんな、いるっ!?」
あたりを確認する。
今回の作戦は敵の兵士を外に引きつけておき、その隙に私たち少数部隊が城に突入して、
斉藤瞳を倒すという電撃作戦。
「さて、準備はいい?」
そう言ってみんなの顔を見渡す。
「あったりまえじゃん!」
ナイフを弄んでいる圭ちゃん。
「さっさと行きましょうよ。待ちくたびれましたよ〜!」
余裕たっぷりのよっすぃー。
「いつでもOKですよ〜!」
相変わらずな松浦。
「大丈夫れす!!」
気合い十分なのの。
「はい、完璧です!!」
おきまりなセリフの紺野。
- 395 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 15:01
- 「よしっ! 行くよっ!!」
エクスカリバーを掲げて走り出す。
そのあとにしっかりみんながついてきてくれる。
そして私たちも戦場へと踏み入った。
至るところで激戦が繰り広げられている。
その中を私たちは駆け抜ける。
ただひたすら城門を目指して、白刃をくぐり抜け走る。
ヒュンッ!!
前方から矢が飛んできた。
手にしたエクスカリバーを振るって切り落とす。
止まれない。止まっちゃいけない。
「この辺はまだ敵が多いね……」
圭ちゃんの呟きが聞こえてきた。
当たり前だけど、城門に近づくにつれて敵も多くなってくるんであって。
- 396 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 15:01
- 「うおおぉぉおっ!!」
敵兵の一人が私めがけて剣を振り下ろしてくる。
キィン!
振り上げた私の剣と、敵の剣が交差する。
でもそれも一瞬のこと。
次の瞬間にはクロスした剣を引き、兵士の脇を通りすぎると同時に斬り裂く。
すごい……。
向かってくる敵兵を次々と倒しながら走っていく。
今さらだけど自分の変化に驚く。
速さも力も格段に上がっている。
やっぱりこれはさやかの力が……
「安倍さんっ!」
紺野の声でハッと気付くと、目の前に高熱を持った光球が迫っていた。
炎系魔法・フレアブラスト。
- 397 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 15:03
- 「安倍さん、止まって下さい!!」
「大丈夫!」
シールドで防ごうと、前に出ようとした紺野を制する。
できる気がする。いや、わかる。
魔力を集めると一気に魔法が形成される。
ショートカット……。
「フレア・ブラスト!!」
光球が真正面からぶつかり合って破裂する。
やっぱり……魔力も増している……。
さやか……ありがと……。
「くっ……」
フレアブラストを放ったと思われる敵の魔法使いはまた新しい魔法をつくっている。
でも、そんなことさせない。
今度はこっちだ!
意識を右手に集中する。
意志を、力を、手に握ったエクスカリバーへと伝わらせていく。
それに応えるように刀身が輝く。
そしてその光は外に溢れ、いくつもの光の球をつくっていく。
- 398 名前:第19話 投稿日:2005/02/11(金) 15:04
- 「くらえっ! スター・マイン!!」
エクスカリバーを突き出すと同時に、光球が放たれる。
「うわっ!?」
スターマインは前方に飛び散り、あたりの敵を一瞬で吹き飛ばした。
行けるっ!
さやかにもらった力と……
ごっちんにもらった魔剣……。
もう誰にも止めることはできない……。
敵を切り伏せつつ、足は一度も止まらない。
どんどんと城門が近くなる。
「止めろっ! なんとしても止めるのだっ!!」
「どけーーーっ!!」
光がエクスカリバーに集束していく。
そのまま、敵兵の群れに向けて振り下ろす。
「ホーリー・ランサー!!」
真白い波動が突き抜ける。
敵兵の束を吹き飛ばし、そして白い波動が走り抜けたあとには城門までの道ができていた。
- 399 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/02/11(金) 15:16
- 今回はここまでです。
ようやく最終決戦の開始です。
>>384 七誌さん 様
なっちは優しいです。
平和にことが……運ぶでしょうか?(ぇ
>>385 みっくす 様
吹っ切れたというより、無理矢理押し込んだって感じですね。
そしていよいよ決戦です。
バトルの連発になりそうですが、お楽しみください。
- 400 名前:みっくす 投稿日:2005/02/12(土) 04:19
- 更新おつかれさまです。
なっち強いですね。
いろいろな人の思いがなっちを強くしているのですかね。
次回も楽しみにしてます。
- 401 名前:名も無き読者 投稿日:2005/02/12(土) 18:17
- 更新お疲れサマです。
ついに始まりましたね。。。
多くを背負っての最終決戦、最後まで見届けたいと思います。
では続きも楽しみにしております。
- 402 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/02/12(土) 22:12
- おおお!強いなっちが・・
待ってましたよ!もっともっと強いなっちが見たいです
次回も楽しみにしてます
- 403 名前:七誌さん 投稿日:2005/02/13(日) 21:45
- 更新乙です!!!!
ついに始まりましたか最終決戦。
なっちも強くなってるので楽しみですね。
- 404 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:43
- みんなで切り開いた道を駆け抜ける。
だんだんと城門が近づいてくるが、それと一緒に最後の関門も見えてくる。
城門の前に立ちはだかっている巨大なドラゴン。
おそらくアヤカの操る一匹だろう。
ゲートキーパーってことらしい。
「なっち!」
「大丈夫!!」
圭ちゃんの声を背中に聞きながらも、私は止まらない。
ゼティマに攻めてきたときは、とても一人じゃ太刀打ちできなかった相手。
でも、だからこそ丁度いい。
ドラゴンの口から灼熱の炎が吐き出される。
それを私は難なくかわす。
スピードも格段に上がっている。
「はぁっ!!」
そのままドラゴンに駆けより、エクスカリバーを振るう。
抵抗は一瞬。刃がすり抜ける。
- 405 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:44
- 『ギャアァアッ!!』
ドラゴンの咆吼が響いた。
斬れる! ドラゴンの皮膚だって斬り裂ける!!
「よしっ!!」
ドラゴンの攻撃をかわしつつ、確実に攻撃を加えていく。
攻撃が弾き返されることはない。
刃がめり込み、そして切り裂く。
『ギャアアアアッ!!』
断末魔の悲鳴を響かせ、ドラゴンはその場に倒れ込んだ。
ようやく致命傷を与えられたらしい。
以前は傷だらけになってようやく倒せたのに、今はかすり傷一つ作ることなく倒してしまった。
力が……溢れてくる……。
- 406 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:45
- 「ふぅ……」
「す…ごいね、なっち、私らなにもすることなかったよ……」
「絶好調じゃないっすか、安倍さん!」
「ん、まぁね! それじゃ、さっさと中に入ろうか!!」
またエクスカリバーに力を送り、そして剣先を城門へと向ける。
「スター・マイン!!」
光球が門に当たって炸裂する。
しばらくすると城門にポッカリと穴が空いた。
ドラゴンの屍を乗り越えて、穴から城の中庭へと入っていく。
いたるところから怒声と爆音の響く屋外とは違い、城門の中は静寂に包まれている。
「よし、行こう!!」
中庭を駆け抜け、城への入り口にさしかかったときだった。
「そうはさせないよ!!」
「!?」
後方上空から声が降ってきた。
思わずふり向くと、視線の先にその声の主が舞い降りた。
おそらくは城の二階から飛び降りたのだろう。にもかかわらず見事に着地して見せたそいつは……
- 407 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:47
- 「お前は……里田まい!!」
「へっへー! ようこそ、ハロモニランドご一行様。このロマンス王国城へ!!」
「うわっ!?」
メタルフィストを装着された拳がうなる。
狙われたのは一番後ろを走っていたののだった。
幸いののは槍でガードしたようで、金属音が響き渡った。
こいつが最初の相手ってわけか……。
エクスカリバーをかまえなおしたけど、その直後にまた金属音が響いた。
今度のはののが突き出した槍を、里田がガードした音だ。
「安倍さん、先へ進んで下さい! ここはののが引き受けたれす!!」
「えっ、ののっ!?」
「どうせ誰かが後衛もつとめなければならないんれすから!!」
「でも……」
槍とメタルフィストによる拮抗状態が続いている。
でもそんな状況だというのに、ののはふり向いてニカッと笑った。
「大丈夫れす!! ののには心強いパートナーがいるのれす!」
「えっ?」
その時地面に紅い魔法陣が浮かび上がった。
そして二人を裂くように火柱が上がる。
- 408 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:48
- 「なっ、誰ッ!?」
なんとか火柱から逃れた里田がふり向く。
私も視線を追うと、そこには……
「ののー!」
「あいぼん!!」
城門に空いた穴をくぐり抜け、あいぼんが走ってきていた。
手にはすでに新しい魔力が集められている。
「ライトニング・パルサー!!」
さらに槍を構えて、ののも里田に向かっていく。
「ちっ!」
挟み打ちを嫌った里田が横に飛び退いた。
ののとあいぼんが合流する。
「安倍さ〜ん、ここは任せて下さい!!」
「……わかった! みんな、行くよ!」
また前を向いて走り出す。
みんなも後ろにしっかりと続いているよう。
のの、あいぼん、ここは任せたよ!!
- 409 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:50
-
◇ ◇ ◇
城の中に入り、長い長い廊下を駆け抜ける。
大理石の床と柱、そこにひいてある真紅の絨毯。
その絨毯が私たちの足音を吸い取っているので、城の中は静寂そのもの。
廊下の終わりには長い階段。
勢いを止めることなく駆け上ると、その途中で広い踊り場のようなところに出た。
「なっち、止まって!」
そのまま駆け上ろうとすると、背後から圭ちゃんに止められた。
「なんで!?」
「道が分かれてる」
「えっ?」
慌てて周囲を見渡すと、確かに圭ちゃんの言うとおり、右と左に細い廊下が延びている。
その道二つに、正面にそびえる階段。全部で三方向。
「……どうする? どれか一つに絞る?」
「いや、それは危険だよ。全員で間違った道を引き返す時間はないし、それに敵が別の道にも
いた場合、挟み打ちにあう」
「じゃあ……」
「戦力は分断することになるけど、分かれたほうがいい」
「そっか、それじゃあ……」
ここにいるみんなの顔を見渡す。
問題はどう三つに分かれるか……。
五人を三つに……。最低でも一人は単独で行動しなくてはならない。
- 410 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:53
- 「私は、こっちへ行きます」
みんなの視線がいっせいに一人に集中する。
最初に名乗りを上げたのは紺野だった。
すっと、真っ直ぐ右への廊下を指さしている。
「……紺野?」
「大丈夫です、私一人で」
ニコッと微笑む紺野。
や、それは紺野の強さを思えばわかるけど。
「でも、めずらしいね、紺野がそうやって自分から、しかも一番最初に言い出すなんて」
「なんとなく、わかるんですよね。呼ばれてるっていうか……引き合ってるって感じなんです。
深い縁のある人ですから」
「あ……」
「だからこっちは私に任せて下さい」
ふり返らずに、紺野は廊下の奥へと歩いていく。
止める人は誰もいなかった。
- 411 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:54
- 「大丈夫っすかねぇ、紺ちゃん一人で……」
「大丈夫だよ、よっすぃー。さて、それじゃなっちたちも二つに分かれて進もうか」
「それじゃあ、松浦はこっちへ行きます〜」
次に名乗り出たのは松浦だった。
紺野が進んだのとは反対の方向、左の通路を指さしている。
「そんじゃ、私も松浦と一緒に行くよ」
「圭ちゃん」
「なっちとよっすぃーは階段のほうをお願い」
「わかった!」
こうして、私とよっすぃーが正面、圭ちゃんと松浦が左へと行くことに決まった。
「それじゃね、また逢おう!」
「うんっ!」
圭ちゃんと松浦が走っていく。
見えなくなると、私も正面の階段へと向き直った。
「さて、それじゃ行きましょうか、安倍さん!」
「うん!」
よっすぃーに促されてまた階段を駆け上り始める。
うわ〜、しっかし長い階段だなぁ……。
でもそう思っているのも束の間だった。
階段を少し上ったとき、急に足下が蒼く輝いた。
- 412 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:54
- 「なっ? トラップ!?」
慌てて魔法陣の上から飛び退く。
よっすぃーも同じように背後へ飛び、結局二人でもといた踊り場まで戻ってしまった。
そして魔法陣から突き出す氷柱。
この魔法は……
「ウフフ、ようこそ、ロマンス王国城へ」
「相変わらずのワンパターンだね……石川梨華!!」
突き出た氷が音を立てて砕け散る。
その向こうに立っていたのは、こうして顔を合わせるのは三回目になる、石川梨華。
「ようこそいらっしゃいました、お二人さん! ですがここは私が通せんぼです!」
石川が手を振ると周囲の大気が凍っていく。
そして宙に氷ができあがっていく。
「アイス・ニードル!!」
放たれるいくつもの氷塊。
剣をかまえて迎え撃つ。
よっすぃーもカタナを抜いた。
- 413 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:56
- キィン!!
高音が一瞬大気を震わす。
私とよっすぃーは背中合わせになって、放たれた全ての氷を斬り落とした。
「安倍さん……」
そのままよっすぃーが背中越しに囁く。
「アイツはウチが引き受けます。安倍さんは先へ進んで下さい!」
「えっ、でも……」
「平気ですよ! アイツはウチ一人で十分です! それにケンカはやっぱりタイマンが
基本でしょ?」
「あはは、ケンカじゃないんだけどね……」
まぁ、ともかく、確かにこの付近には石川以外の敵の気配はない。
それならここはよっすぃーに任せたほうが賢いかも。
「ありがと、よっすぃー。あとはアイツがおとなしくここを通させてくれるかだね?」
「ま、そのくらいの隙はウチがつくってあげますよっ!!」
言い終わる前によっすぃーが駆け出す。
私も一瞬遅れてよっすぃーのあとに続いた。
- 414 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:57
- 「はあぁぁあっ!!」
よっすぃーのカタナが気合いとともに旋回する。
石川は手に氷の刃をつくって待ちかまえている。
キィン!!
二人の剣がぶつかった瞬間、私は一気に石川の横をすり抜ける。
すぐに後ろをふり返って背後からの妨害を警戒したけど……
石川はよっすぃーの剣を防ぎながら、私のほうを一回振り返ったが、それ以上のことは
なにもしてこなかった。
えっ……?
何ごともなく通れたのはよかったけど、どうもよっすぃーがうまく石川を引きつけてくれた
だけとは思えなかった。
今の……妨害しようと思えばできたんじゃ……?
「安倍さん!!」
でもそんな思考はよっすぃーの声で中断する。
そうだ、せっかくよっすぃーが開いてくれた道なんだから、私は一刻も早く先へ進まないと。
- 415 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:58
- 「よっすぃー、先行くから、ここは任せたよ!!」
「はい、すぐ追いつきますよ!!」
私はそのまま残りの階段を上りきった。
その先には真っ直ぐ続く廊下が続いていて、私はまたひた走る。
廊下の先には大きな、両開きの扉が待っていた。
ちょっと上を見ると、扉の上には「Dance Hall」と書かれている。
ギィ、っと思い扉を開ける。
広いダンスホールの中央、一つの影が立っていた。
その影は三日月を手にしていた。
「ヤグチ……」
「よ、なっち、久しぶり」
ヤグチの手にした大鎌が舞う。
ヒュン、ヒュンと独特の風切り音がダンスホールに響いた。
それはまるで戦いの始まりを告げるように。
「逢いたかったよ、なっち。ずっと、ずっと……殺したかった」
- 416 名前:第19話 投稿日:2005/02/16(水) 11:58
-
- 417 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/02/16(水) 12:07
- 今回はここまでです。ようやく本格的な最終決戦の始まりです。
たくさんバトルを用意してるので、またちょっとなっち出なくなるかも? (´ー`●)
や、でもちゃんと活躍するので、しばらくお待ちください。
>>400 みっくす 様
はい、なっちは強くなりましたとも!
いろんな想いを背負って強くなるんですねぇ。
>>401 名も無き読者 様
ようやく始まりました。物語もクライマックスです。
といってもまだかなり長くなると思いますが(ぉ
最後までお付き合いいただければ幸いです。
>>402 名無し飼育さん 様
なっちも強くなりました。
間隔はあくかもしれませんが、強いなっちはまだまだ活躍してくれるはずです。
>>403 七誌さん 様
ようやく始まりましたねぇ。
なっちの活躍にご期待ください。
- 418 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 15:46
- ごっちんまだかな…
なっちも楽しみだけどごっちんもなんか
絡んで欲しいです
- 419 名前:みっくす 投稿日:2005/02/16(水) 21:14
- 更新おつかれさまです。
いよいよ最終決戦ですね。
紺ちゃんの相手はたぶんあの人、魔法バトル期待大です。
となると、残りの一組も自動的に決まるわけで。
いろいろなバトルが見れそうですね。
次回も楽しみにしてます。
- 420 名前:konkon 投稿日:2005/02/17(木) 12:59
- それぞれの対戦相手が出てきましたね〜。
どうなるか楽しみです。
他のメンバーも戦いに赴くのでしょうか・・・?
更新お待ちしてます。
- 421 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/02/18(金) 15:17
- なっち!もっと強いなっちが見たい!
最終決戦はなっちと誰なのかな?矢口との絡みも楽しみです
- 422 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:31
- 〜保田圭〜
狭い通路を走り抜ける。
当然辺りに気を配りながら。
でも今のところ敵の気配はない。
前方に視線をもどす。
そこには松浦の背中。
松浦は迷わずに廊下を走っている、
まるで行き着く先をわかっているように。なにかに引き寄せられているように。
きっと松浦も紺野と同じで、他の人には感じられないなにかを感じたんだろう。
だから迷わずこのルートを選んだ……。
- 423 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:31
-
第20話 グランドマスター
- 424 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:32
- 狭い通路の終点が見えてくる。
そして私たちはまた広い廊下に出た。
でもその廊下は、正面の廊下と違い、薄暗く重苦しい雰囲気になっている。
その辺りから私も気配を感じてくる。
この先に一つの気配が待ちかまえている。
「保田さん……」
「んっ……?」
松浦が振り向かずに言う。
「……後は頼みます」
「わかった……」
廊下の中央に影がそびえ立っている。
私と松浦は立ち止まる。
それは前にこの城の地下牢で見た姿。
- 425 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:33
- 「や、また会ったね、亜弥ちゃん。それと……保田さん、でしたね?」
「みきたん……」
松浦が剣を抜く。
藤本の手にある剣と同じ剣。
場の空気が一瞬で研ぎ澄まされる。
「保田さん、みきたんのことは松浦に任せて進んで下さい」
「うん。でも、向こうが簡単に通してくれるかどうか……」
チラッと藤本のほうを見る。
藤本はその視線に気付いたようで、目を合わせると、ニッと笑った。
「あぁ、別に保田さんが進むのは邪魔しませんよ? ミキは保田さん以外の人間を
足止めしろって言われてますから」
「えっ?」
「そうそう、あとこれも渡してくれって言われてたんだ」
藤本がポケットをゴソゴソとあさり、ヒュッとなにか私のほうに投げた。
受けとめて見てみる。
それはボロボロになった私のナイフだった。
あの時投げて、そして受けとめられた……。
- 426 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:33
- 「……なるほどね」
ボロボロになったナイフをポケットに押し込む。
挑戦状代わりってわけか。
いい度胸じゃん……決着つけてやる!
「松浦、ここは頼んだよ」
「言われなくてもそのつもりですよ〜!」
松浦の身体が疾走する。
二本の剣がクロスする。
私はその横を駆け抜けた。
廊下を駆けていくとだんだんと雰囲気が重くなってくる。
なんというか、戦いにふさわしい場のように。
やがて一つの部屋に出た。
でもそこには誰もいないし、何もない。ただまだ奥に扉が続いている。
その扉をくぐると……
「なっ? ここは……」
360°全方向にある観客席。
いつもは常に熱気を湛えているのだろう。でも今日はシーンと静まりかえっている。
観客のいないコロシアム。
いるのは全ての観客席が見つめる、四角いリング上のアヤカただ一人だけ。
- 427 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:34
- 「どれだけドラゴンがうようよいるかと思ったら、あんただけかい?」
「これ以上ワタシの友達を殺させるわけにはいかないので」
私もリングの上に上がる。
そしてナイフを取り出す。
「ドラゴンテイマーがドラゴン無しで何ができるって言うの?」
「あら、ドラゴンテイマーが自分の操るドラゴンよりも弱いと思ったら大間違いですよ?」
アヤカがフンッと鼻で笑った。
「モンスターは人間よりもずっと純粋なんです。だから心を通わせあえれば友達にだってなれる。
でもモンスターの世界は弱肉強食ですから。弱い者にモンスターは従いません」
「そうかい、でもまぁ、そんなこと興味ないけどね!!」
ナイフを振りかぶる。
アヤカは丸腰だ。その上ドラゴンもいない。近くに潜んでるってわけでもなく、本当にいないようだ。
それなら速攻で終わらす!
- 428 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:35
- 「くらえっ!!」
ナイフをそのまま放ったけど……
カシャン!
「っ!?」
アヤカは身動き一つしなかった。
そして私の放ったナイフはアヤカの足下に落ちた。
そんなバカな……確かにアヤカの腕を狙ったのに……。
「おやまぁ、目測を誤るなんてあなたらしくない。どうやら今日は調子が悪いようですねぇ」
ありえない!
もう一度ナイフを投げるけど、それもアヤカの足下に落ちた。
「さて、私も時間があまりないので、さっさと終わらせていただきますよ」
アヤカが手を前にかざすと、リングの地面が歪んだ。
いや、地面と言うよりは、歪んだのは空間だろう。その空間の歪みから金属の棒が突き出た。
アヤカの武器……?
アヤカが棒を握りしめ、一気に引き抜いた。
- 429 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:36
- 「なっ……!?」
思わず圧倒されてしまった。
それはただの棒ではなく、斧の柄だった。
でも普通の斧ではない。長さはアヤカの身長よりも長く、それに見合った超巨大な丸い刃が
ギラリと光っている。
アヤカはその斧を肩に担いだ。
「これ知ってます? ギロチンアックスって言うんですよ? 断頭台のない町や村では
これで罪人の首をはねるんです。ま、さすがにここまで大きくはないですけどね!」
落ち着け……見てくれに惑わされるな……。
あんな巨大な武器……おそらく矢口が使ってる大鎌の2、3倍は重量がある……。
振り回せるわけがない……。たとえ振り回せたところで、そんな大振り難なくかわせるはず……。
攻撃をしっかりかわしていき、こまめに攻撃していけばなんとかなる!
アヤカが両手で斧を握りしめた。
「あなたの首も斧の飾りにしてあげます!」
次の動きはまったく予想外なものだった。
アヤカの身体が一瞬で消え、私の目の前に現れた。
速いッ!? バカなっ!?
「くっ!?」
慌てて飛び退く。
そこに斧が振り下ろされた。
ズガァンッ!!!
衝撃と轟音が響き渡る。
アヤカの一撃でリングが真っ二つに割れていた。
- 430 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:38
- おかしい……。
ナイフを投げる。
でもアヤカは斧でナイフを弾き飛ばした。
あんな超重武器を楽々と振り回せるはずがない……。
それに……
もう一度ナイフを投げる。
首を狙ったナイフは、またアヤカの足下に落ちた。
私がこんなに的を外すなんて……。
何かが……おかしい……。
「はああぁぁああっ!!」
「くっ!!」
振り下ろされる巨大な戦斧。
私はそれをなんとかかわす。
でも着地した地面が輝き、足下に魔法陣が広がった。
ダークブラウンに輝く魔法陣。ヤバイ、この魔法はっ!!
「デス・イーター!!」
牙が突き出し、魔法陣が口へと変わる。
私は魔法陣から転がり出た。
そこへ襲いかかってくるアヤカの斧。
なんとか足に力を入れて立ち上がり、もう一度攻撃から逃れる。
轟音が耳を貫き、衝撃が身体を吹っ飛ばした。
- 431 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:38
- 「ああっ!!」
壁に激突して止まる。
たった三回の斬撃で、もうリングは粉々になっていた。
あの斧は張りぼてなんかじゃない。ならアヤカは見た目以上のパワーファイターってことなのか?
いや、違う……。ちょっとくらい力があったってあんなもの自由自在に振り回せるわけがない。
考えろ……考えるんだ……。
なんでもいい、もうちょっとヒントを……。
「真剣勝負の時に考え事は No Good ですよ〜?」
斧が真っ直ぐ突き出される。
慌てて避けると、斧は後ろの壁に突き刺さった。
そのまま壁を薙ぎ払いつつ、私に襲いかかってくる斧。
受けとめることもできない。私はなんとか斧から逃げまどう。
「フフフ、防戦一方ですネ〜? そんなんではワタシには勝てませんよ?」
アヤカのカタコトの言葉が聞こえてくる。
……カタコト? ってことは当然ながらこの辺の国の人じゃない……。
- 432 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:39
- ……もしかして……。
頭の中で全てが一本の線で繋がった。
「そういうことか……」
その場に立ち上がる。
おそらくこれで99%間違いないと思うけど、確かめるには賭に出るしかない。
もしアヤカがただの馬鹿力だったら、私はペシャンコか真っ二つか、どっちにしろ
おもしろくないことになる。
立ち上がってナイフを構える。
アヤカは斧をヒュンッと振るってニヤッと笑った。
「まだわからないようですネ〜?」
「いや、もう全てわかったよ」
ナイフを放つ。
今度はしっかりと狙ったところに飛んだけど、結局斧で払われた。
そのまま斧が旋回する。
「死ねっ!!」
斧が頭上高く振り上げられる。
今だっ!!
今度は逃げずに、アヤカへと向かっていく。
- 433 名前:第20話 投稿日:2005/02/22(火) 18:41
- 「!?」
アヤカの顔に驚きが広がった。
その瞬間に私はアヤカの懐に入り込む。
そして高く掲げられた斧の柄を掴んだ。
「なっ!?」
「……やっぱりね」
斧をギリギリと握りしめる。
その斧からは少しの重さも感じない。
斧を掴んでいる左手とは逆の手でナイフを取りだし、振るう。
「くっ!」
今度はアヤカが離れるが、ナイフが腕を掠めたみたいで血が少し飛び散った。
「馬鹿でかい割にはずいぶんと軽い斧だねぇ?」
「フフッ、思ったよりもずっと早くばれちゃいましたね」
「あぁ、あんたが外国人だってことが最後のヒントになったよ」
「へぇ、どうやってこの結論を?」
アヤカは斧を降ろしておとなしく聴いている。
「魔法を覚えるとき、この辺の国はだいたいどの属性の魔法も均等に覚えさせるけど、
国によっては一つの属性を集中的に覚えさせる国もある。ま、お国柄ってヤツだね。
あんたの国は後者だろう?」
「・・・・・・」
「それであんたは地属性をマスターした。覚えたんだろう? 地属性の究極形。
万物全てが囚われている大地からの戒めをコントロールする呪文……重力操作!!」
- 434 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/02/22(火) 18:50
- 「エキゾなDISCO」で完全にノックアウトです(ぇ
( ´ Д `)<最近出てないじゃん
狽ソゃ、ちゃんと出すから……。
あっ、今回の圭ちゃんVSアヤカはもう一回続きます。
>>418 名無飼育さん 様
はい、というわけで、ちゃんと出しますよ……いつか(ぇ
( ´ Д `)<いつ?
えーっと……カナリアト(死
>>419 みっくす 様
予想は当たってたでしょうか?
ホントにいろいろなバトルがあると思いますので、お楽しみに。
>>420 konkon 様
今回もいろいろとバトルが始まりました。
最後なので、やっぱり総登場させたいですねぇ。
>>421 名無し飼育さん 様
強くなったなっち、好評で嬉しいかぎりです。
またちゃんと登場しますので、お待ちください。
- 435 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/22(火) 22:12
- やべぇ、圭ちゃんマジかっけぇ!
惚れそうです!あの娘とのバトルの続きが楽しみです。
続き期待してます。
- 436 名前:みっくす 投稿日:2005/02/23(水) 00:44
- 更新おつかれさまです。
同じく「エキゾなDISCO」で完全にノックアウトです(ぇ
圭ちゃんさすがです。
だてに副団長してませんね。
ここまでは当たっていたわけで。
そうなると紺ちゃんはあの人、この戦いが一番楽しみだったりします。
次回楽しみにしてます。
- 437 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/23(水) 02:09
- おっぱいキター!!!
期待してます!
- 438 名前:七誌さん 投稿日:2005/02/23(水) 20:40
- 更新乙です!
ちょっとだけ出遅れた〜!
みんな大丈夫ですかね〜???
保田さ〜んがんばって〜
- 439 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 15:53
- 「フフッ……」
アヤカが斧を地に降ろし、柄から手を離した。
そこにはダークブラウンに光る小さな魔法陣が刻まれていた。
「グラビティスタンプって言うんですよ。この印が刻まれた物の重さを自由自在に操れます。
0.1sから数トンまで。ま、この斧はこれ以上重くする必要はありませんけどね」
アヤカはまた斧を持ち上げ、ヒュンヒュンと片手で振り回して見せた。
そのくせその手をパッと離すと、斧はズンッと地面に沈み込む。
「But それを見抜いても、対処法がなければどうしようもありませんね?」
くっ……確かにその通りだ……。
重力を操れる以上、ナイフ投げは絶対届かない。
ならあとは魔法で戦うしかないが、地属性を極めたグランドマスターにはたしてどこまで通用するか……。
「もう諦めなさい、あなたに勝ち目はないわ!!」
地面から斧を引き抜き、アヤカが向かってくる。
今度は真横に振り抜かれる斧。
なんとか後退して切っ先をやり過ごす。
最初は軽くても攻撃の瞬間は威力を上げるため、ある程度までは重さを上げているはず。
だからやっぱり……攻撃をしたあとの一瞬は確実に斧に振られて隙ができてる!
この隙は逃さない! ナイフを握って懐に飛び込む。
- 440 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 15:54
- 「なっ……?」
斧をもどしてる時間はない。
握っているナイフに電撃を込める。
終わりだ!!
「……なぁんてね」
「!?」
突然ナイフを握った腕に衝撃。
ナイフが手から離れ、宙を舞った。
「重くできるのは斧だけではないんですよ?」
まさか自分の拳を!?
考えてる時間もなく、アヤカの拳が襲ってくる。
ガードするが防ぎきれない!
吹き飛ばされてまた壁に激突する。
「かはっ!」
「悪いですけど、接近戦はお手の物です。格闘技だってまいちゃんにしっかりと習ってますから」
斧の大振りな攻撃を、重力を加えた格闘技で埋めるのがアヤカの戦闘スタイルか……。
もともと接近戦が得意じゃない私じゃ、まったく歯が立たない。
ヤバイ……こいつは隙がない……。
「さぁ、そろそろ諦めたほうがいいですよ?」
……いや、諦められるものか!
無理にでも隙を探すんだ!!
- 441 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 15:55
- ナイフを放つ。
でもそれはアヤカに一睨みで叩き落とされる。
やっぱりただ投げるだけじゃダメだ。
それなら……
うまくいくかどうかわからないけど……。
でも、やってみるしか……。
握った二本のナイフに魔力を込める。
今度は風の魔力。
十分に魔力を満たしたナイフを、手首のスナップをきかせて放つ。
「スピード・フェザー!!」
「む!?」
風を纏ったナイフはそのスピードが飛躍的に増す。
重力は下向きの力。水平方向には力を与えない。
だからスピードが増せば、重力を受け、落ちきる前にアヤカにとどくはず。
「くっ!」
アヤカはなんとか身体をひねってかわした。
ナイフはアヤカをわずかに掠め、アヤカの後方の地面へ突き刺さった。
- 442 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 15:56
- 「もう一発だ! スピード・フェザー!!」
「ちっ! うざったい!!」
もう一度風を蓄えたナイフを放つが、今度はアヤカの前方へと落ちた。
さっきよりも重力が増したらしい。
やっぱり自分の周囲の一定範囲に重力場を形成できるようだ。
それなら……
「はあぁぁぁあっ!!」
アヤカが斧を振り上げて向かってくる。
逃げようと地を蹴るが……
「フフッ!」
「っ!?」
後ろからなにかに掴まれ、足が止まった。
振り向いて確認してみるが、そこには何もない。
が、羽織っているマントに小さな魔法陣が光っていて、地面に沈み込んでいた。
しまった! さっきの攻撃の時にマントにグラビティスタンプを!?
- 443 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 15:56
- 「つかまえた!」
「くっ!!」
ナイフでマントを斬り捨てる。
そして真上に飛び上がった。
背後の壁に斧がめり込み、私は壁の上に着地する。
なんとか間一髪でかわすことができた……。
また新たなナイフを二本取り出す。
「物覚えの悪い人ですね〜?」
「違うね、諦めが悪いのさ! それに何度も同じ手が通用すると思うなよ!」
風の魔力を集めながら、再び空中へと飛び上がる。
「えっ!?」
アヤカが上を見上げる。
ちょうどアヤカの真上に来たときにナイフを放つ。
「スピード・フェザー!!」
「うわっ!!」
無理な状況と体勢だったが、それでもほぼ狙ったところに飛んだ。
ナイフはまたアヤカを掠めて、地面に突き刺さった。
それを見届けて私は地面に着地する。
- 444 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 16:01
- 「重力ってのは下向きにしか働かない力だろ? だから真上からの攻撃じゃ攻撃を防ぐどころか、
逆に威力を増すことになっちゃうんだよねぇ」
「くっ……おのれっ!!」
「タネのバレた手品なんてもう使えないよ!!」
振り下ろされる斧をかわし、また宙に舞い上がる。
またアヤカの真上に来たところで、さっきのズレを微調整してナイフを放つ。
今度こそ捕えた!!
でも、上を見上げたアヤカの顔は自信に溢れた笑顔だった。
「You made a mistake! 重力を甘く見ないで下さい!!」
「えっ!?」
投げたナイフが途中で止まった。
ピタリと止まって宙に浮いている。
それどころか、私の身体も落ちることなく、上空に停止している。
これは……
「重力変化ってのは重くするだけが能じゃないんですよ〜? 軽くすることだってできるんです。
いい体験してますねぇ、保田さん。無重力なんて滅多に経験できませんよ?」
「くっ、なんだよ、これっ!?」
「あら、あんまりお気に召さないようですねぇ? それじゃ降ろしてあげます」
下で魔力の集まる気配を感じる。
ヤバイ! これじゃ格好の的だ!!
逃げたいのだが、場所を移動することすらままならない。もがいても空を切るだけ。
- 445 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 16:02
- 「ガイア・アーム!!」
アヤカが魔力を地に押しつけると、地面から巨大な腕が出現した。
その岩の腕が宙に浮いた私の身体を握りしめる。
「うわっ!!」
そしてそのまま地面に叩きつけられる。
身体がバラバラになりそうな衝撃が襲ってくる。
「くっ……」
「まったく、しぶといですねぇ」
「まだまだ……」
「いいえ、もうcheck mateです」
「えっ……?」
言われて気づく。
しまった、この場所は!!
慌てて立ち上がろうとしたが遅かった。
足下に現れたダークブラウンの魔法陣。
- 446 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 16:03
- 「グラビティ・フィールド!!」
「うわああぁぁあっ!!」
急に身体が重くなり、私は地面にはいつくばる。
見えない力に圧迫されてる感じ。いや、まさしくそうなのだ……。
「今保田さんには通常の5倍のGがかかってます。保田さんが来る前に前もっていろんな
ところにTrapを仕掛けておいたんですけどねぇ。保田さんはうまく微少な魔力を読んで
かわしていたので、ちょっと強引に」
「くっ……」
体を動かそうと思ってもまったく動かない。
5倍の重力ってことは、体重が5倍になったってことか。うわ、ヤだなぁ……。
「そのまま圧殺しちゃってもいいんですけど、宣言通り、このギロチンアックスで首を
はねとばしてあげます」
アヤカが斧を引き抜き、私のほうに歩いてくる。
一歩一歩着実に。
その目はしっかりと私を見下ろしている。
いいぞ、そのまま来い!
最後の賭は……私の勝ちだ!
- 447 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 16:03
- 「フフ、それではそろそろ……」
「あぁ、これで終わりだ!!」
「えっ?」
アヤカが足を踏み入れた。
仕掛けたトラップが発動する。
大地が輝き、深緑の魔法陣が現れる。
「なっ、これは!?」
「トラップを張っていたのはあんただけじゃなかったのさ!」
「そんな、いつの間に……」
アヤカがあたりを見渡す。
おそらくその目に映っているだろう。地面に突き刺さった六本のナイフが描き出す六芒星と正円。
そしてそこに刻まれた魔法式。
ナイフに込めた魔力を使って作り出した魔法陣。
「私の使える最高の風魔法だ! くらえ! ディストラクション・トーネード!!」
「くっ、アース・シールド!!」
魔法陣から竜巻が溢れ出す。
アヤカも土のシールドを張るけど……
「無駄だね、風は土を風化させる!!」
「なっ……?」
シールドに亀裂が入る。
一瞬は風を抑えられたけど、すぐにシールドは崩れ去った。
真空の刃がアヤカの身体を切り裂く。
- 448 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 16:04
- 「うわああぁぁぁっ!!」
アヤカの身体が竜巻に空高く巻き上げられる。
そして一瞬のあと、地面に叩きつけられた。
その瞬間に周りの重力場が解けた。
どうやら魔法陣の魔力が尽きたみたい。
「ふぅ……」
立ち上がってアヤカのもとへと歩み寄る。
「くっ……残念でしたね、まだ死んでませんよ? ワタシもけっこうしぶといんで……」
「重力を操って衝撃を和らげたみたいだね。それでも、もう身体を動かすことはできないでしょ?」
「……そうですね、もう抵抗できません。殺しなさい……」
ナイフを取り出し、逆手に握りしめ、アヤカの側にしゃがみ込む。
そしてナイフを振り上げて……
ドカッ!!
「……えっ?」
ナイフはアヤカの横の地面に突き刺さった。
- 449 名前:第20話 投稿日:2005/03/01(火) 16:05
- 「……どうしたんですか? やらないんですか?」
「あぁ、そのつもりだったよ。でもピッコロ王国に派遣した調査隊が妙なもの見つけちゃったんでね……」
「・・・・・・」
「ピッコロ王国の人里離れた山奥で多数の生き残りが発見されたってさ。話を聞くと斉藤瞳が攻めてくる前に
避難させられてたらしい。あんただろ、アヤカ……」
「……あらら、ずいぶんと簡単に見つかっちゃいましたね……けっこう考えて選んだのに」
アヤカがふーっと息を吐いた。
私はナイフを引き抜いて立ち上がる。
「今回だけ命は助けるけど……次に私の前に現れたときは容赦しない」
「わかりました、肝に銘じておきますよ……」
こんな私は甘いだろうか?
少なくともピッコロ王国時代の私は目の前の敵を助けたりはしなかったのに……。
ハロモニランドでの数年で私も変わったってことだろうか……?
なっちの顔が思い浮かんだ。
敵でも極力殺さないように戦ってるなっち。
いつの間にか私もなっちに毒されたってことか……?
でも、ま、いいか。
そんな自分も悪くない……。
そう思いつつ、私はコロシアムをあとにした。
- 450 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/03/01(火) 16:13
- 今回はここまでです。そういや今日から3月ですねぇ。春です、春!
とりあえずは第1ラウンド決着ってことで。
しかし……なんかカッコよすぎるような……(ぇ
>>435 名無飼育さん 様
はい、なんかちょっとカッコよすぎたかも……。
私もあやうく惚れちゃうところでしたヨ〜!(マテ
>>436 みっくす 様
はい、圭ちゃんはさすが副団長って感じです!
予想当たってたみたいですねぇ!(バレバレ?
さて、紺ちゃんは誰とでしょう?(笑
>>438 七誌さん 様
保田さん、頑張りましたよ〜!
ホントにもう、やりすぎ!(笑
- 451 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:43
- 更新乙です!
次回も待ってます
- 452 名前:七誌さん 投稿日:2005/03/01(火) 21:05
- 更新乙!リアルタイム〜♪
保田さん強いですね〜。
それになっちは皆にいい影響を与えてるんですね!
次が楽しみです〜〜〜
- 453 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 23:04
- ヤススかっけぇ〜。。
○○○(←一応ネタバレ防止)も実はこんな戦いイヤだったのかな??
次は誰と誰の戦いなのか楽しみです。
がんばってくださいね。
- 454 名前:みっくす 投稿日:2005/03/01(火) 23:57
- 更新おつかれさまです。
いやー、保田さん強いですね。
次は誰の出番でしょうかね。
楽しみにしてます。
- 455 名前:konkon 投稿日:2005/03/02(水) 00:25
- 圭ちゃんかっけぇ!
まさにこの一言ですね。
っつか、頭脳の勝利ですかね〜。
続きも待ってます。
- 456 名前:名も無き読者 投稿日:2005/03/03(木) 11:57
- 追いついた〜。
更新お疲れサマです。
いやはや流石はオトコマエ♪
頭脳戦、楽しいですね。
次回も期待しております。
- 457 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:20
- 〜辻希美〜
「おらぁっ!!」
「うっ!」
突き出された拳に、槍を横にして合わせ、なんとか防御する。
メタルフィストと槍が作り出す金属音が、戦場の轟音にかき消される。
そのまま身体が半回転し、今度は長い脚が突き出される。
今度も槍で防御するが、今度は完全には勢いを防ぎきれず、身体が後ずさった。
「ふぅ……」
チラッとあいぼんのほうを見る。
あいぼんは城内へと戻ってきた敵兵を魔法で蹴散らしている。
完全にあいぼんが圧倒してるから助ける必要はないだろうけど、敵の数が多いため助けを
期待することもできないだろう。
てことはとりあえず、現状では目の前の里田さんと1対1で戦わないといけないのであって。
「ハッ!!」
短い呼吸とともに手にした槍を突き出す。
負けられない。
私たちが負ければ、中に入っていった安倍さんたちが挟み打ちに合うことになる。
敵陣突入の際の後衛の役割っていうのは、後から続く敵を通せんぼすることって、
確か矢口さんに習った。
ここは絶対に通せない。
- 458 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:22
- 一撃目の突きはかわされた。
さらに続けて突きを繰り出すけど、今度は脇で挟んで止められる。
それと同時に上向きの力がかかり、身体がふわっと宙に浮いた。
「わわっ!?」
落とされる!
そう思ったとき、迷わず槍を手放して、地面に着地する。
「へぇ、ずいぶんと簡単に武器を捨てたねぇ」
里田さんが槍を弄びながら微笑む。
「それで、武器無しでどうするの?」
「……こうするんれすよ!」
「えっ?」
地面を後ろに蹴る。
そして放たれた矢のように里田さんへと向かっていく。
肘を突き出し、そのまま里田さんの懐へ突撃する。
「ぐっ……」
呼吸のつぶれた呻き声が頭上から聞こえた。
槍を手にしている腕を蹴り上げる。
衝撃で槍が手の中から弾け飛び、宙に放たれる。
渾身の力を右拳に込め、さらに胴体にもう一撃狙って突き出す。
- 459 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:22
- 「くぅ……!」
手に衝撃が伝わると同時に里田さんの身体がずずずっと後ずさる。
最後の一撃はガードされたが、前の二撃は確実に入った。
槍がくるくると回って、私の手の中に戻ってくる。
「へぇ、驚いた。格闘技もできるんだ。しかもかなりのパワーだし」
「ちょっとだけれすけどね。力は生まれつきれす」
「なるほど、ますます楽しませてくれるね」
里田さんはトントン、とブーツのつま先で地を叩く。
二撃確実に入ったにもかかわらず、そんなにダメージは感じられない。
どうやらインパクトの瞬間に、うまく衝撃を散らせたらしい。
と、その里田さんの身体が一瞬にして消えた。
「えっ!?」
次の瞬間には目の前に里田さんの顔が現れた。
口許が楽しそうに、半月型に曲がっている。
「でもさ、速さは私のほうが上かな?」
ヒュン、っと音がして拳が繰り出される。
なんとか槍で払うも、その時には左の拳が迫っていた。
時には同時、時には時間差で襲いかかってくる左右の拳。
防御に徹していると、その防御をかいくぐった腕が私の襟首を掴んだ。
- 460 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:24
- 「うわっ!!」
直後に世界がぐるっと回った。
地面に背中から叩きつけられる。
なんとか受け身をとったけど、さすがにすぐには起きあがれなかった。
「うわ〜、軽いねぇ。うらやましいよ。あっ、でも身長から考えると重い方かな?」
「うっさいれす!」
槍を構え直すけど、そのころには里田さんが懐に潜り込んでいた。
くっ……。こんな近接戦じゃ槍のような広い間合いの武器は使えない……。
戦闘スタイルを変える。
槍は完全に盾代わりにし、私も格闘技で応戦する。
突き出される拳を槍で受けとめる。
即座に繰り出される回し蹴り。
リーチが長い。かわせない。
なんとか腕でカードする。
リーチと速さは負けてる。
なら私が勝ってるのは?
一つはこの力。そしてもう一つは……
「ほらほら、反撃しないの?」
雨のように降り注ぐ攻撃をガードしていく。
右フックを槍でガードするが、次の瞬間槍が蹴り上げられた。
- 461 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:26
- 「しまった!」
「ガードしすぎもよくないんだよ!」
がら空きになった腹部に膝蹴りがめり込む。
肺が押しつぶされて呼吸が止まる。
「とどめっ!!」
メタルフィストがはめられた拳が、体勢を崩した私に襲いかかってくる。
ヤバイ……ガードが間に合わない……。
でもその時、里田さんの背中で爆炎が上がった。
「なっ!? だれっ!?」
私にはわかった。
「のの、お待たせ! こっちはほとんど片づいたわ!!」
「あいぼん!!」
あいぼんの手からまた火球が放たれる。
里田さんはなんとかかわすが、その隙にあいぼんが私の側までやってくる。
「チッ! まぁいいや、一人増えたくらい。私がまとめて倒してあげるわ!」
「そう簡単にはいかないれすよ!」
チラッとあいぼんのほうを見る。
あいぼんも私のほうを見たようで、目があった。
それだけで全て理解できる。
私は地を蹴った。
あいぼんとのコンビネーションは誰にも負けない。
二人一緒なら、その力は何倍にも跳ね上がる。
- 462 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:26
- 「はあぁあっ!!」
「おらあぁっ!!」
里田さんも同じように疾走する。
私も真正面から向かっていく。
でもぶつかる直前、目の前に爆炎が上がった。
「なっ!?」
炎と煙の向こうから、里田さんの驚いた声が聞こえる。
でも私は驚かない。
そのまま炎に向かって槍を突き出す。
「くっ!」
微かな手応え。
これは掠っただけかもしれない。
私は迷わず目の前の炎の壁に突っこんだ。
炎を突き抜けると、そこには里田さんの驚愕に見開いた顔が広がる。
左の拳を突き出す。
顔の前に出した両腕にガードされたが、次は右手に持った槍を棍のように扱い、脇腹を払う。
- 463 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:27
- 「がはっ!」
ガードが間に合わずクリーンヒット。
顔を歪めながらも里田さんは拳を振り上げるが、その拳に電撃が突き刺さった。
「つっ!!」
加えて足下の地面が陥没し、体勢を崩す。
その身体にタックルをくらわせ、里田さんを吹き飛ばした。
「チッ、うざったい!」
里田さんの視線がキッとあいぼんの方を向く。
その一時後には里田さんの身体が起きあがり、疾走していた。
「あいぼんっ!!」
「ののっ!!」
私も里田さんのあとを追う。
目の前で爆発が起こり、土や礫が舞い上がる。
里田さんのスピードが落ちた。
その隙に私はあいぼんと場所を入れ替わる。
- 464 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:28
- 「はあっ!!」
繰り出された拳を避けて、腕を掴む。
里田さんが向かってきた勢いをそのまま乗せて、身体を丸め、掴んだ腕を思い切り引っ張る。
「お返しれす!!」
里田さんの身体がふわっと浮く。
そのまま地面に叩きつけた。
「がはっ……」
「お見事! ののっ!!」
「あいぼんが引きつけてくれたおかげれす!」
もはや決まったように、パチンと手のひらを合わせる。
でも勝利の余韻に浸る暇はなかった。
投げ飛ばした里田さんがむくっと起きあがった。
- 465 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:29
- 「なっ!?」
「くっ……残念ね、まだ、戦えるよ!」
「しつこいれすねぇ!!」
槍を構え直す。
でもその時、私たちのあいだを凍てついた風が吹き抜けた。
そして足下に蒼い魔法陣が浮かび上がる。
「えっ!?」
「なっ!? これはっ!?」
魔法陣は城の周りを完全に囲むほど大きい。
いや、もしかしたらこの王都を飲み込むほど大きいのかもしれない。
里田さんも驚愕の表情で魔法陣を見ているとこを見ると、ロマンス王国側にもまったく
予期せぬ展開なのだろうか?
でもこの魔法……私、知ってる……。
確か、あの時紺ちゃんが……
魔法陣が蒼く輝く。
その瞬間、世界が凍り付いた。
- 466 名前:第20話 投稿日:2005/03/08(火) 17:30
-
- 467 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/03/08(火) 17:41
- 今回はここまでです。
一応今回はののかご編。一回更新でスパッとやってみました。
最終決戦も着々と進んでますが、次回はちょっとまた回想に突入です。
さて、誰でしょう……?
>>451 名無し飼育さん 様
ありがとうございます。
今回はこんな感じです。
>>452 七誌さん 様
保田さん、けっこう強いですよ!
なっちはやっぱりいろいろと影響を与えてますねぇ。
>>453 名無飼育さん 様
やすす、かっこよすぎましたかねぇ……?
今回はこんな感じになりました。
二人もしっかりと強いですよ!
>>454 みっくす 様
保田さんはもうホントに強すぎた感じが……。
でもまぁ副団長なんだし、こんなくらいなんですかねぇ?
>>455 konkon 様
圭ちゃんかっこよすぎです!
頭脳戦は圭ちゃん大得意ですからねぇ。
>>456 名も無き読者 様
えぇ、まぁそんな感じで(笑
頭脳戦はたまに書いてみたいんですけど、できるのが圭ちゃんくらいなので……。
- 468 名前:konkon 投稿日:2005/03/08(火) 21:55
- ぬぉぉっ!
紺ちゃんキター!
Wの二人はやっぱり息の合ったコンビですね〜。
- 469 名前:みっくす 投稿日:2005/03/09(水) 02:00
- 更新おつかれさまです。
相変わらずいいコンビネーションみせてくれますね。
あと、もう1つの戦いも始まっているということかな。
次回も楽しみにしてます。
- 470 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/11(金) 23:12
- いいですねぇ!!次回すごくたのしみです!
- 471 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 14:52
- 〜田中れいな〜
物心ついたときからそこにあったのは高い壁と四角い空。
そこにはすべてのものが揃っていた。なんの不自由もなかった。
親に捨てられた……あるいは親を亡くした子供たちの『避難場所』。
『孤児院』という名の『箱庭』。
あるいは自由を求める鳥たちを閉じこめる『バード・ケイジ』。
- 472 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 14:53
-
第21話 翼をください
- 473 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 14:54
- 「れーな! 朝だよ! 起きて〜!!」
「んっ……?」
やかましい声に起こされて目を開けると視界一面に絵里の顔が広がる。
目をごしごしこすってみてもそれは変わらない。
これも物心ついたときから当たり前のようにあったもの。
あたしより一つ上の亀井絵里。つってもそんなふうには全然見えないんだけど……。
絵里は同じ孤児院の中で一番仲のいい友達。
「ほら〜、起きて〜! いいお天気だよ〜!!」
「……起こして……」
「……もうっ」
あたしが伸ばした手をギューッと引っぱってくれる絵里だけど、ちょっと力が強すぎて……
起きあがったあたしだけど、今度は絵里の方に倒れ込んでしまった。
「キャッ! れーな、ちゃんと起きてよー!」
「あっ、ごめん……」
あたしの下で潰れてる絵里がもがきながら呻く。
あたしも一応謝るけど起きる気は毛頭なくて……
だってなんか温かくて気持ちいいんやもん。
「あったか〜い。もう一回寝る……」
「だ、ダメッ!!」
絵里を抱き枕代わりにしてもう一回寝ようとしたけど、そしたら絵里に突き飛ばされた。
なんだよ、そこまですることないじゃん……。
- 474 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 14:55
- 顔を洗って着替えたら、食堂でみんなして朝食をとる。
そしたらあとはお勉強の時間。感情があるのかどうかすらわからない、無機質な先生の
つまらない授業。
勉強して……遊んで……ご飯食べて……夜が来たらまた寝る……。
そのくり返しの毎日。
絵里も含め、他のみんなはこの何ら不自由ない暮らしに疑問を感じずに生活している。
でもあたしはこの生活が物足りなかった。
確かに必要なものはすべて揃っている。ここにいれば何不自由なく暮らしていけるだろう。
でも……それだけだ……。生きてる感じがしない。
このことを絵里に話したら「れーなの言ってることは難しくてよくわからないよ〜」と言われた。
一個年上なんだったら理解しやがれ!
あたしは時々授業をサボり、裏庭に寝っ転がって空を見上げていた。
最初のころは先生が怒りに来てたけど、もう最近はそれもなくなった。
外れ者一人に費やす気も時間もないってことらしい。
石の塀で囲まれた四角い空。
この空は……本当はどこまでも果てしなく続いてるんだろう……。
見上げるたびに強くなる……外の世界への憧れ、期待、羨望……。
でもあたしには外に出るだけの力がなかった。
いろいろと試してはみたけど、今ここにいるのがその結果。
力が欲しい……。
いつからかそう思うようになった。
でも、その願いは、ある日突然意外な形で叶った。
- 475 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 14:57
-
◇ ◇ ◇
ある日、いつものように裏庭で授業をサボって空を見上げていると、日光が急にさえぎられた。
青い空のかわりに、絵里の顔が視界に割って入ってくる。
「あれっ? 絵里? 珍しいね、絵里がサボりなんて」
「珍しいね」なんて言ってはみたものの、あたしの記憶では初めてのことだ。
ていうか絵里に限らず、あたし以外にサボっている子なんて見たことないけど。
「うん……ちょっとれーなに見て欲しいことがあるの……」
絵里はちょっとうつむき加減であたしの横に腰を下ろした。
「なん? 見て欲しいことって?」
「ちょっと待ってて……」
あたしが起きあがると、絵里は自分の手を胸の前で向かい合わせて、なにやら
ブツブツと唱え始めた。
なんだよ、変なやつだなぁ……。まぁ今に限ったことじゃないけど。
もしかして妖精さんでも見えるわけ? でもそんなもん紹介されてもあたしは挨拶できなかよ?
でもそんな考えはすぐにかき消された。
- 476 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 14:58
- 「えいっ!」
急にあたりが明るく、そして温かくなった。
驚いて絵里のほうを見ると、絵里の手のあいだに炎が浮かんでいた。
あたしの目は一瞬にしてその炎に釘付けになった。
「な、なにこれっ!!?」
「しーっ!」
絵里に注意されて、慌てて自分の手で口を塞ぐ。
それでも目は揺らめく炎に焦点を合わせたまま。
「んー、まほーって言うのかな? 先生が忘れてった本こっそり読んだらそんなことが
書いてあって、ちょっとやってみたらできちゃったの……。こんなこと相談できるのって
れーなしかいなくて……」
おそらく絵里には魔法の才能があったんだろう。
でもあたしは絵里の才能が目覚めたことより、もっと別のことで喜んでいた。
魔法でどんなことができるかなんてわからない。でもそれでもあたしは確信していた。
これで外へ出れる、と。
- 477 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 14:59
-
◇ ◇ ◇
ドオォォォン!!
闇夜の静寂を爆音が引き裂いた。
土煙の向こう、ポッカリと石の壁にあいた『穴』。
それは夢にまで見た外の世界への『扉』。
「絵里、行こうっ!!」
「う、うんっ……でも……」
「大丈夫! 絵里のことはれいなが守ってあげるから!」
「……うんっ、わかった!!」
絵里の手を取って走り出す。
希望を胸に穴をぬけた。
当然ながら騒ぎを聞きつけた孤児院の職員やら、先生やらが追っかけてきている。
とりあえずは脇目もふらずに目の前にあった森の中に逃げ込んだ。
「ハァ、ハァ……」
少しの距離なのにもう息が切れてる。
そのまま絵里と一緒に地面に寝っ転がる。
見たかった、外の世界の空はまだ森の木々が邪魔をして見れない。
でももう少しすれば……先生たちが引き上げるまでここに隠れていれば……
- 478 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 15:00
- 「でも……大丈夫かなぁ? 絵里、外で暮らしてたときのことなんて覚えてないよ?」
「へーき、へーき! たいしてかわらんよ!」
『グルルルルッ……』
? なん? 絵里の返事じゃなかよね?
一応絵里のほうを見てみるけど、絵里は「自分じゃない」と首を振ってる。
『グルルルルルッ……』
また聞こえた。
絵里と一緒に声が聞こえたほうを見る。
木々のあいだの闇に光る二つの目。
ジャリッジャリッという、葉っぱを踏む音とともに、二つの光が近づいてくる。
闇の中から現れたのは、翼の生えたライオンのモンスター……グリフォン……。
「えっ……なに、これ……?」
「もしかして……絵里たちのこと狙ってるんじゃ……」
『グアアァァァッ!!』
その太い足が地を蹴り、翼が羽ばたく。
そして鋭い牙と爪が襲いかかってくる。
「「うわあっ!!」」
なんとか絵里と一緒にかわす。
背後にあった大木が音を立てて倒れた。
- 479 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 15:01
- 「え、絵里、魔法!!」
「やってるよー!」
絵里の手が光り出す。
そしてそこから火球が放たれた。
「ファイアー・ボルト!!」
火球がグリフォンに当たって破裂する。
でもそれはまったくダメージを与えられていなかった。
『グルアァァァアッ!!』
「うわあぁあっ!」
また襲いかかってくるグリフォン。
今度もなんとかかわすけど、恐怖に足が震えている。
「え、絵里、逃げるよ!」
「う、うんっ!」
命からがら逃げ出す。
グリフォンも途中までは追いかけてきたけど、なんとか撒けたみたいだ。
でも……無我夢中で走ってたあたしたちは完全に森の中に迷い込んでしまった。
- 480 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 15:01
-
◇ ◇ ◇
鳥籠の中の鳥は大空を飛べない。
孤児院で読んだ本にそんなことが書いてあった気がする。
まったくもってその通りだ。
物心ついたときから孤児院にいたあたしたちは、外の世界では生きていけなかった。
深い森の中でのサバイバル生活。
当然食料を与えてくれる人もいなければ、雨をしのぐ屋根も、暖かい寝床もない。
もうずいぶん飲まず食わずの生活が続いている。
そして体中傷だらけになっていた。
「れ、れーな……」
「絵里っ! しっかりして!」
「ごめんね、れーな……足引っぱっちゃって……」
「絵里っ……絵里っ!!」
揺さぶっても目を開けない。完全に衰弱しきってる。
ごめん……ごめんね、絵里……。
あたしが無理に付き合わせたりしちゃったばっかりに……。
自分の無力さが悔しくて涙が溢れた。
- 481 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 15:02
- 『グルルルルルッ……』
背後で聞こえた鳴き声にふり向く。
そこには初めて外に出た夜に遭遇したグリフォンがあたしたちを見ていた。
恐怖に体がすくむ。でも今度は逃げるわけにはいかない。
絵里を……守るんだ!
立ち上がり、絵里のそばから離れる。
そして、森の中で拾ったボロボロのナイフを構えた。
「……来いよ。差し違えてでも殺してやる!」
- 482 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 15:03
-
そのあとのことはよく覚えていない。
気がつくと目の前にグリフォンの死体が横たわっていた。
グリフォンの心臓に刺さっていたナイフを引き抜く。
「絵里……絵里……」
痛む体を引きずって絵里のところまで向かう。
当然ながらあたしも無事で済んではいない。
動くたびに全身が悲鳴をあげてる。これは何本か骨が折れてるな……。
「絵里……」
気を失ってる絵里の体を起こしてなんとか運ぶ。
ごめん、絵里……できればもうちょっとダイエットしててほしかったかな……。
それでもなんとか、気力だけで森の中を歩き続けた。
- 483 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 15:04
-
そして、どれくらい歩いただろう……。
目の前を覆っていた森の木々がとぎれた。
ようやく森から抜け出せたのだ。
「よかった……ここなら……誰かが……」
見つけてくれるかもしれない……。
そう思った瞬間、あたしは地面に倒れ込んだ。
もうすでに体力の限界は突破していた。いつ倒れてもおかしくなかっただろう。
でも……まだ完全に助かったわけじゃない。
誰かここを通る保証はないし、もしかしたら先にあのグリフォンみたいなモンスターに見つかるかもしれない。
なんとか体を起こそうとして……あたしは見た。
どこまでも広がる漆黒の夜空と、そこに散りばめられた満天の星。
そしてその中で残酷なほど綺麗に輝いている満月。
世界は……こんなに広かったんだ……。
- 484 名前:第21話 投稿日:2005/03/13(日) 15:05
- ジャリッ……
その時なにかが砂を踏む音が耳に届いた。
続いて今まであたしたちに降り注いでいた月の光が遮られる。
誰っ……? まさか、モンスター?
なんとかもう一度顔を起こす。
そこに立っていた影は紛れもなく、あたしたちと同じ人間だった。
長い髪が風に揺れている。
「どうしたの!? 大丈夫!?」
振ってくる優しい言葉と優しい声。
感情がしっかりこもった聞き覚えのない声。あの孤児院の先生というわけでもないみたい。
あぁ、絵里……あたしたち……助かったんだよ……。
安心しきった瞬間、あたしの意識は完全に途切れた。
- 485 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/03/13(日) 15:16
- 今回はここまでです。
宣言通りの回想編。それはれなえりでした〜!
一応もう一回ほど、回想は続きます。
>>468 konkon 様
Wはやっぱりコンビネーションがステキです。
息ピッタリですねぇ!
>>469 みっくす 様
二人のコンビネーションとしては、やっぱりWが一番ですねぇ!
もう一つの戦いは……これから始まります。
>>470 名無し飼育さん
ありがとうございます。
今回はこんな感じの回想編です。
- 486 名前:みっくす 投稿日:2005/03/13(日) 16:35
- 更新おつかれさまです。
この二人でしたか。
皆それぞれいろいろなものを背負っているようですね。
次回もたのしみにしています。
- 487 名前:七誌さん 投稿日:2005/03/20(日) 22:18
- 更新乙です。
回想シーンなかなかいいですね。
次回がどんな感じになるのか楽しみです。
- 488 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:26
- 気付くとあたしは闇の中に横たわっていた。
夜……ってわけでもない。完全な闇。
ここは……一体どこ?
「れーな!」
その時絵里の声が聞こえた。
声が聞こえた方向を向くと、闇の中から絵里が現れた。
絵里は横たわるあたしのそばに座り込み、泣いている。
「れーな! れーなー!!」
なんだよ絵里、また泣いてるの? ホントにあたしより年上なん?
「れーな……起きてよ……。死んじゃヤダよ……」
はぁっ!? かってに殺すなっつーの!
「れーなのこと……好きなの! だから……目を開けて……。もう一度声を聴かせて……」
えっ!? 絵里……?
- 489 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:26
- 「大丈夫だよ、亀井。田中はちゃんと目覚めるから」
その時別の声が聞こえた。
顔をその方向に向けると、真っ暗な闇の中で一点だけ光が溢れていた。
光はだんだんと大きくなり、光の中から一人の人が現れた。
眩しくて顔がよくわからない。
あなたは……一体……。
「さぁ、もう起きてもいいんじゃない?」
その人は音もなく近寄ってくる。
そしてあたしのそばまで来ると、そっと手を伸ばし、あたしはその人に抱きしめられた。
伝わってくるぬくもり。伝わってくる優しさ。
このぬくもり……覚えてる……。
……まるで……
……まるで……
溢れた光が闇をすべて消し去った。
- 490 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:27
-
◇ ◇ ◇
目を開けるとそこはベッドの中だった。
一瞬孤児院にいるのかと思ったが、それは違った。
寝ていたベッドはふかふかだったし、目の前にある天井は孤児院のと違い、
とても光に溢れていた。
窓の外には深緑の木々が見える。
どうやら森の中に作られたロッジのようなところにいるみたい。
「ここ……どこ……?」
確か孤児院を抜け出して……
森の中をさまよい歩いて……
グリフォンと戦って……
そのあと……えーと、確か森からはなんとか脱出したんじゃなかったっけ?
体を起こしてみる。
まだちょっと動くと痛い。見ると体中に包帯が巻かれていた。
あれ? そう言えば……絵里は!?
- 491 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:28
- ガシャーン!!
突然物が割れる音が室内に響いた。
思わずそっちを向くと、部屋の入り口に絵里が立っていた。
足下には水たまりができており、その中に花と花瓶の破片が散乱していた。
「絵里!」
あたしはふつーに呼びかけただけだった。
でもその瞬間、絵里は震えだし、目からは涙が溢れた。
「え、絵里……?」
「れーなー!!!」
ダダダッと駆けよってくる絵里。
そのままの勢いでガバッと抱きついてくるけど……
「いったー!」
「あっ、ごめん、れーな……」
絵里はいったん離れたけど、またそっとあたしの胸に顔を埋める。
着ていた服が涙で濡れた。
「れーな……心配したんだから……」
「ごめん……ごめんね、絵里」
ちょっと体は痛むけど、なんとか動かして絵里を抱きしめる。
絵里はあいかわらず泣いたままで、さらにあたしの体を抱きしめてくる。
ぐえっ……ちょっと……やっぱまだ痛いんですけど……。
- 492 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:29
- 「亀井ー、ダメだよ、まだ田中はケガが治ってないんだから」
「あっ、は、はいっ!」
扉のほうから聞こえてきた声で絵里がやっと離れてくれた。
その声の聞こえてきた方向を見ると、そこにはすらっと背が高く、髪の長い女性が立っていた。
確か……気を失う前に見た人影と同じ……。
「よかった、目覚めたんだね」
「あっ、はい。あの、あなたがれいなたちを助けてくれたとですか?」
「そうだよ。ビックリしたよ、あんなところに女の子が二人も倒れてるんだもん」
「そうだったんですか……。ありがとうございました」
「いえいえ〜! あっ、ちなみにカオリは飯田圭織っていうんだよ。そしてここはカオリの家」
「すいません、お世話になりました」
ベッドから降りようとして、体の激痛で思わず倒れかける。
「れーな!」
絵里に抱きとめられて、なんとか倒れずに済んだけど、あいかわらず体がいうことをきかない。
そっと飯田さんに抱きかかえられて、またベッドに戻された。
- 493 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:30
- 「ダメだよ、まだケガが治ってないんだし。それに……田中が寝ていたあいだに亀井からだいたいの
事情は聞いたけど……『外の世界』は田中が思ってるような夢の世界じゃない。力がないと生きて
いけない……。そういう世界なんだよ」
言葉が出なかった。
それは孤児院を脱走してから飯田さんに助けられるまで、文字通り痛いほど、身をもって知った。
そっと飯田さんが頭を撫でてくれた。
思わず飯田さんの方を向く。
「田中……亀井にも訊いたんだけどさ、もしよければカオリの弟子になってみない?」
「えっ……?」
「力をあげる。ちゃんと外の世界でも生きていけるだけの力をカオリがあげる」
「飯田さん……」
「カオリもさ〜、今まで弟子だった子に出て行かれちゃって一人じゃ寂しいんだよ〜。
亀井に聞いたら『れーなと一緒じゃなきゃやだ!』って言うしさ!」
「い、飯田さん! 言わないでくださいって言ったじゃないですかぁ!!」
そっと、もう一度頭を撫でられる。
手のひらから伝わってくるぬくもり……優しさ……。
こんなの……初めて……。
「ねっ、どうかな? 悪い提案じゃないと思うけど」
「……よろしくお願いします、飯田さん」
- 494 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:31
-
◇ ◇ ◇
次の日から修行が始まった。
絵里は飯田さんの指導のもと、どんどん魔法を覚えていった。
その時になってあたしは飯田さんが実は世界最強の魔法使いと言われているのを
ようやく知った。
そしてほぼ時を同じくして、紺野あさ美のことも知った。
「えっ? カオリの弟子だった子?」
「はい、前に出て行っちゃったって言ってましたよね? れいなたちの他にも
飯田さんの弟子がいたとですか?」
「いたよ、一人だけね。紺野あさ美って言ってね……」
飯田さんは遠くを眺めて、昔を懐かしむように言った。
それがなんとなく、あたしの心を締めつけた。
「紺野は天才だったね。魔法の天才だった。カオリは何人もの魔法使いに会ったけど、
カオリが認めたのはまだ紺野だけだよ」
紺野あさ美……。
その名前はあたしの心に強く残った。
- 495 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:32
- 「さて、そんなことよりも勉強よ」
「あっ、はい」
あたしはケガが治るまでは、絵里の見学と頭のお勉強。
そして少しして、やっとケガが治り、修行に加えてもらうことになったけど……
「くっ……」
あたしはどうしても魔法が使えなかった。
「う〜ん……魔法はある程度先天的な才能も必要だからねぇ……」
飯田さんはあたしが傷つかないように気遣っていってくれたのだろうけど、あたしには
それが死刑宣告に聞こえた。
あたしは強くなれないの……?
結局……あたしは鳥籠の中でしか生きていけないの……?
大空を飛びたいのに……。絵里を守るって言ったのに……。
- 496 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:33
- 「そう言えばさ……田中確かナイフ一本でグリフォンを倒して亀井を守ったって言ったよね?」
「はい……言いましたけど?」
「そっか……もしかしたら田中はそっちの才能があるのかもしれない。……ついてきて」
飯田さんに連れられてあたしは一度家の中に入っていった。
とり残された絵里はキョトンとしていたけど。
「こっちだよ」
「あの……ここは?」
「カオリの部屋」
初めて入った飯田さんの部屋はとてもシンプルで整頓された部屋だった。
飯田さんは一枚の壁の前に立つと、なにやら呪文を唱え始めた。
呪文にあわせて壁に魔法陣が浮かび上がってくる。
やがて魔法陣が光り輝いた。
すると壁が左右に割れ、その向こうに地下に続く階段が現れた。
「い、飯田さん……これって……」
「ヒミツの地下室! まぁ、ついてきなって」
飯田さんに続いて階段を下りていく。
するとその先に開けた部屋が現れた。
その部屋の床には巨大な魔法陣が描かれていて……
魔法陣の中央には一本の剣が突き刺さっていた。
- 497 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:34
- 「こ、これって……」
「あの剣は『ダークブレイカー』って言ってね、伝説の魔剣の一本なんだ。あまりに力が
強大だからこうやって魔法陣で封印してあるんだよ。それでも完全には抑えきれてなくて、
力が溢れ出してて……ま、そのおかげで魔物も寄りつかないからカオリはここに家を
造ったんだけど」
飯田さんが語っているあいだもあたしはその剣から目を離せなかった。
なぜだか知らないけど……剣に呼ばれた気がした……。
「魔剣は持ち主を選ぶって言われている。もし田中があの剣を抜ければ、それはかけがえの
ない力になる。試して……みる?」
「……はい……」
魔法陣の中央に歩み寄る。
近くで見ると寒気がするような闇色の刀身。
そっとその柄を握る。
剣に埋め込まれている宝玉が輝いた。
「うわぁぁぁああ!!」
続いて体を襲う、電流にも似た激痛。
そして体が焼けるような感覚。
思わず手を離しそうになった。
- 498 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:35
- 「田中、がんばれっ!!」
飯田さんの声が聞こえる。そして……
「れーな!!」
ちらっと入り口のほうを見る。
そこには飯田さんと……絵里がいた……。
今にも走り出しそうな絵里を飯田さんがなんとか制している。
そうだ……こんなところで負けるもんか!
もう一度、思い切り柄を握りしめる。
激痛は断続的に襲いかかってきて、体を蝕んでいく。
でもこの手は離せない。
あたしは大空を飛びたいんだ! 一生鳥籠の中になんていたくない!
力が欲しい! 翼が欲しい!!
大空を羽ばたくための……大切な人を守るための……
力を……ください!
力を……
不意に激痛がやんだ。
そして剣の宝玉が一段と輝く。
足下の魔法陣が跡形もなく消え去った。
抜けるっ!
- 499 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:36
-
◇ ◇ ◇
「れーな!!」
「うわっ! だから飛びつくなっつーの!!」
またしても絵里が飛びついてくる。
突き放しても突き放しても諦めずにせまってきて、結局あたしは絵里の胸に抱きしめられた。
ちょっと息苦しく、そしてちょっと恥ずかしい……。
「おめでと、田中。剣が田中を選んだんだよ」
「飯田さん……でも、この剣いただいちゃっていいんですか?」
「ん、別にいいよ。カオリはどうせ剣使えないし。それにもう剣は田中のものだよ」
確かに、剣はあたしの手に吸い付いているように違和感がない。
まるでずっと使っている剣のように。あるいはまるであたしの体の一部のように。
すっと剣をかざすと宝玉がまたキラッと輝いた。
「よしっ! それじゃ修行を再会しようか? といってもカオリは剣術なんて素人だから
田中は独学になっちゃうかもしれないけど」
「はいっ!」
- 500 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:38
-
◇ ◇ ◇
それからも修行は続いた。
剣と魔法の修行。いろいろなお勉強。
そしてたまに飯田さんは社会勉強といっていろいろなところに連れてってくれた。
飯田さんはとても強く……そしてとても優しかった。
モンスターと出会ったときも、飯田さんはあたしと絵里を守ってくれた。
寒い夜はあたしと絵里を抱きしめて眠ってくれた。
こんなにも人のぬくもりを感じたのは……記憶の中では初めてだった。
でも……体はうっすらと覚えている。
とても懐かしい、なくしてしまったぬくもり……。
このぬくもり……まるで……
……まるで……
「田中ー! ちょっといいかなぁ?」
その時飯田さんの声が聞こえた。
「はいっ! なんですか、お母さん?」
「えっ……?」
「れ、れーな……?」
「あ゛っ!」
思わず思っていたことを口に出してしまい、顔が一瞬で沸騰する。
し、しまった……つい……
- 501 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:39
- 「なに〜、れーな? "お母さん"ってー!」
「う、うるさいっ!!」
絵里がからかってくる。
飯田さんは困ったように笑っていた。
「お母さんか〜。でもこんな大きな娘がいたらカオリ大変だなぁ〜」
「す、すいません、飯田さん……」
「なんで〜? 謝ることないよ。でも娘っていうよりは妹って感じかなぁ、カオリの場合」
「それでもいいです」
そっと飯田さんに抱き寄せられる。
ぬくもりが身体に伝わる。
すると絵里も「ずるーい、れーなだけ!!」なんていって飯田さんに飛びついた。
「れーなだけずるいですよー! 絵里のお姉さんにもなってくださぁい!」
「はいはい、いいよ〜! でもそうすると田中と亀井も姉妹かぁ〜」
「え〜? 絵里がお姉ちゃん?」
「……姉妹じゃ……ヤだなぁ……」
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
- 502 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:40
-
◇ ◇ ◇
「れーな、れーな!!」
「んっ? あぁ、絵里……」
絵里に肩を揺すられてようやく気づいた。
どうやら相当ぼんやりとしていたらしい。
「なん?」
「来たみたいだよ……」
絵里が手に持った水晶をそっとあたしの前に出す。
覗き込んでみると、そこには廊下をひた走る紺野さんの姿が映し出されていた。
「そっか……やっぱり来たか……」
重い腰を上げる。
そして左手をそっとかざす。
左手の中指には指輪がはめられている。
シルバーのリングの真ん中に、黒曜石のように黒く輝く宝玉が埋まっている。
その宝玉が溶けて、だんだんと闇に変わっていく。いや、戻っていく。
溢れた闇は形を変え、そして空中に一本の剣が現れた。
闇の魔剣・ダークブレイカー。
あたしはその柄をしっかりと掴む。
- 503 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:41
- 「いよいよだね……いよいよ決着をつけるんだねぇ」
「……そうだね……」
「頑張ろうね、れーな! 紺野さんは本当に強いけど、二人で力を合わせればきっと勝てるよ!」
「・・・・・・」
その絵里の言葉にはなにも言えなかった。
無言のまま、身体を返して絵里と向き合う。
「絵里……」
「んっ? どうしたの、れーな?」
「……ゴメンッ!」
ドッ!!
「あっ? れ……な……?」
ダークブレイカーの柄が絵里の腹部にめり込む。
目を瞑り、歯を食いしばって。
すべての感情を殺して、絵里を穿った。
絵里は最初、なにが起きたかわからないというように身体を震えさせていたけど、
やがてその力も抜けて崩れ落ちた。
- 504 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:42
- 「……ゴメン……」
力いっぱい抱きしめてから、その場に絵里を横たえる。
そして上着を脱いで、そっと絵里にかけた。
ゴメンね、絵里……。でもどうしても紺野さんとは1対1で戦いたいんだ。
紺野さんの実力はわかってる。二回戦って、二回とも歯が立たなかった。
でも……だからこそ……。
部屋を出て廊下を歩いていく。
右手にはしっかりと魔剣を握って。
飯田さんが……師匠が唯一認めたという紺野さん。
その紺野さんを倒せば……飯田さんはあたしを認めてくれるかな……?
……絶対倒してみせる!
そして、この先には絶対に進ませない!
飯田さんの……力になるんだ!!
やがて『Library』と書かれた扉が見えてきた。
迷わず扉を開けると、目の前に広がる本の群れと漂ってくる本独特の香り。
その中に一つの気配が紛れている。
余計な音はなにもない書庫の中を歩いていく。
やがて対角に面した、もう一つの入り口が見えてきた。
そしてその扉の前。
紺野さんが待っていた。
- 505 名前:第21話 投稿日:2005/03/21(月) 14:42
-
- 506 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/03/21(月) 14:49
- 今回はここまでです。回想後半戦。
次回はバトル行きますよ!
>>486 みっくす 様
この二人でした。そして今回また一人。
まだ小さいながらも、いろいろあったんですねぇ。
>>487 七誌さん 様
回想の後編はこんな感じになりました。
次回激突です。
- 507 名前:みっくす 投稿日:2005/03/21(月) 21:55
- 更新おつかれさまです。
紺ちゃんの相手はこっちでしたか。
バトル楽しみにしてます。
- 508 名前:七誌さん 投稿日:2005/03/23(水) 16:36
- おぉ〜。なるほど田中ちゃんと亀ちゃんにはそんなことがあったんですかー。
次は紺野ちゃんとの対決ですね。楽しみだ!
- 509 名前:名も無き読者 投稿日:2005/03/27(日) 11:12
- 更新お疲れサマです。
彼女達にも過去があるんですね。
お互いに退けないようで、バトルにも期待が持てますね。
では続きも楽しみにしてます。
- 510 名前:第22話 投稿日:2005/03/28(月) 15:21
- 〜田中れいな〜
「うわっ!!」
爆風に当てられた身体が宙を舞う。
そして本棚の一つに背中から激突した。
その衝撃で本棚が傾く。
そのままドミノ状に後ろの本棚を倒し、本がバラバラと床に落ちた。
「くぅ……」
ダークブレイカーを握りしめて立ち上がる。
その前に紺野さんは立っていた。
困ったような、悲しそうな顔であたしを見つめている。
- 511 名前:第22話 投稿日:2005/03/28(月) 15:22
-
第22話 空は高くて、それで優しい
- 512 名前:第22話 投稿日:2005/03/28(月) 15:22
- 「そんな顔しないでくださいよ。決意が鈍るじゃないですか!」
振り上げた剣を紺野さんめがけて振り下ろす。
でも剣は紺野さんに届く前に、張られたシールドによって勢いを失った。
紺野さんは左手でシールドを張っているにもかかわらず、右手には別の魔力が集まっている。
同時に二つの魔法を!? 前の戦いではできなかったはず……!
右手に集まった魔力が水の塊に姿を変えた。
「アクア・バニッシュ!!」
「ぐはっ!」
放たれた水塊が胴体に当たる。
倒れこそしなかったが、水圧に押されて身体が後退する。
その一瞬の間に紺野さんの前には黄色に光る魔法陣ができあがっていた。
「ライトニング・ボルテックス!!」
「あああぁぁっ!!」
魔法陣から放たれた電撃が、あたしの濡れた身体に突き刺さる。
電流が全身をくまなく蝕み、あたしはその場に崩れ落ちた。
そのあたしの前に紺野さんが歩み寄る。
表情は変わらずにあたしを見下ろしている。
- 513 名前:第22話 投稿日:2005/03/28(月) 15:23
- 「もうやめよう、田中ちゃん」
「ハッ! 何を言ってるんですか?」
「田中ちゃんじゃ私には勝てないよ」
「そんなの……まだわかりませんよ!!」
ダークブレイカーの柄をグッと強く握る。
あたしの意志が剣に伝わり、剣が輝く。
そして紺野さんの足下に闇の魔法陣が出現した。
「ダーク・オーラ!!」
垂直に噴出された闇の衝撃波が紺野さんを包み込んだ。
その隙になんとか立ち上がり、そして紺野さんから離れる。
「アハハッ! 油断しましたね! 忘れてましたか? ダークブレイカーを使えば
れいなも魔法が使えるんですよ!!」
これで一矢報いたと思った。
でも、すぐに笑顔は凍り付いた。
紺野さんは平然と魔法フィールドの中から出てきた。
その身体には一つも傷が付いていない。
それどころか身体は淡い光りで包まれていた。
まさか……バリアドレス!?
そんな魔法であたしの魔法を完全に防御したっていうの!?
- 514 名前:第22話 投稿日:2005/03/28(月) 15:25
- 「くっ……今のはどうせまぐれだ! 今度こそ……」
もう一度魔法を発動させる前に紺野さんが動いた。
さっきあたしが開けた距離を一気につめてくる。
なにっ!? 自分から近づいて……?
慌てて剣を振り下ろそうとしたが、その手首をグッと掴まれる。
「……ゴメンね……」
「!!」
微かに耳に届いた紺野さんの声。
でもその声を知覚する前に、掴まれた手首にまた痺れが走った。
「エナジー・スパーク!!」
「うわぁあああっ!!」
また電流が体内に流れ込む。
手足が徐々に麻痺していく。
またしてもその場にがっくりと膝をついた。
「く…あっ……」
掴まれたままの手首を離されると、そのまま地面に倒れ込んだ。
カツッカツッと音を立てて、紺野さんの足が視界から消えていく。
- 515 名前:第22話 投稿日:2005/03/28(月) 15:26
- 「くっ……まだ、れいなは死んでませんよ……?」
「でも二回の電撃で、もう体は動かないでしょう?」
「ふん、こんな痺れくらい……」
体の中から縛られているような感覚。
それをなんとか引きちぎって立ち上がる。
こんなところでノックダウンなんかしていられない。
「れいなはまだ戦えますよ? 本気できて下さいよ」
「私はいつでも本気だよ?」
「じゃあ、殺すつもりできて下さいよ?」
「それはできない。私は田中ちゃんを死なせたくない」
「じゃあ……死ぬのはあなたのほうですよ!」
まだ痺れの残る拳に力を入れて、ダークブレイカーの柄をグッと握る。
力が剣に伝わると同時に、刀身が輝き、紺野さんの足下に魔法陣が広がる。
黒紫色の魔法陣ではない、暗く紅い血のような色の魔法陣。
「あなたに敗れてから、れいなだって遊んでたわけじゃないですよ!」
「!?」
紺野さんの目が見開いた。
慌てて構えるけど、もう遅い。
「ブラッディ・レアー!!」
「うあっ!!」
魔法陣の表面から、血のように紅い刃がいっせいに吹き出す。
紺野さんの周囲を取り囲み、逃げ場をなくして切り刻んでいく。
紺野さんの纏う光のドレスが消え去った。
今だっ!!
闇の魔力を溢れさせ、剣に纏わせていく。
もともと剣に宿っている魔力だから、それも簡単で。
剣を握りしめ、紺野さんへと向かっていく。
「くらえッ!!」
剣を振り抜くと同時に魔力が解放される。
「サタン・ブラスター!!!」
闇の波動が突き抜ける。
今度は紺野さんの体が吹き飛び、本棚に激突した。
- 516 名前:第22話 投稿日:2005/03/28(月) 15:27
- 「どうだ! 今までのれいなと同じと思ったら痛い目みるとよ!!」
「くあっ……」
「わかったら本気で向かってきて下さいよ!?」
紺野さんがよろよろと立ち上がった。
ぐっと剣を握りしめる。
「……わかった」
「えっ?」
それは一瞬だった。
紺野さんの声を残して、姿が視界から消えた。
「なっ!? どこに……?」
慌てて辺りを見回すと、背後で風が渦巻いた。
ふり向くとそこには消えた紺野さんがいた。
手には魔力が集められていて、足下には影の魔法陣ができている。
「ゴメン。もしかしたらちょっとケガさせちゃうかもしれない」
「えっ?」
トンッ、と魔力の集められた手が体に当てられる。
その瞬間、大気がぶわっと膨れあがった。
- 517 名前:第22話 投稿日:2005/03/28(月) 15:28
- 「ゴッド・ブレス!!」
「うわっ!?」
風の激流が渦を巻いて、あたしの体を吹き飛ばす。
ちょうど紺野さんが飛ばされたようなところにあたしも飛ばされた。
「くぅ……」
顔を上げると紺野さんはもう新しい魔法を完成させていた。
空間に蒼い魔法陣が浮かび上がる。
そんな……いくらなんでも速すぎる……。
「アイシクル・エッジ!!」
氷の刃が魔法陣から吐き出される。
なんとか剣で弾くけどその数はとても防ぎきれる数じゃなくて。
いくつもの刃があたしを傷つけて通りすぎていく。
抵抗していると、今度はあたしの足下に深緑の魔法陣が広がった。
「スパイラル・サイクロン!!」
風の渦に巻き込まれてあたしの身体が宙に浮かび上がる。
竜巻の中で見たのは紺野さんが魔力を集めて構えている姿だった。
「ドラゴニック・ファイアー!!」
放たれる炎が竜の形を成す。
上空に舞い上げられてるため避けることもできない。
「うわぁああああっ!!!」
為す術なく炎の竜に飲み込まれた。
身体をぶすぶすと焦げ付かせ、炎の竜が翔ていく。
「ぐはっ!!」
体中を蝕まれ、地に落ちた。
まさか、これほど……
あたしは全力なのに、紺野さんはまだまだ力を抑えて戦ってる。
こんなに……遠いなんて……。
- 518 名前:第22話 投稿日:2005/03/28(月) 15:29
- 「フフッ……」
思わず口から笑いが零れた。
さすが……飯田さんが認めただけはある……。
これだけは使いたくなかったんだけどね……。
なんとか力を振り絞って、よろよろと立ち上がる。
そしてダークブレイカーを逆手に持ちかえる。
「田中ちゃん、無理しないで! そんなに軽い傷じゃないはずだよ!」
「それでも……あなたをこの先へは進ませません」
力をダークブレイカーに注いでいく。
剣に宿っている魔力を全て集めていく。
「!?」
紺野さんが魔力に気付いて身構えた。
でももう遅い。
ダークブレイカー・禁断魔法……
「ブラック・ホール!!!」
ダークブレイカーを床に突き立てる。
それと同時に、ダークブレイカーを中心として床いっぱいに広がる魔法陣。
障壁が魔法陣の周りを囲み、完全に魔法陣の中と外を隔離した。
- 519 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/03/28(月) 15:39
- 途中ですが今回はここまで。
紺野VSれいなです。次回で決着つきますよ〜。
>>507 みっくす 様
はい、紺ちゃんの相手はこっちでした。
決着は次回持ち越しです。
>508 七誌さん 様
れなえりの過去はちょっと長くなりましたが、けっこう上手く書けたと思います。
で、今回はバトルです。今のところこんな感じですねぇ。
>>509 名も無き読者 様
はい、お互い引けないバトルですねぇ。もうちょっと続きます。
なんかこっちでは真っ向からぶつかっちゃいましたが、リアルではイチャイチャしてて欲しいです(マテ
あっ、もちろんれなえりも(強制終了
- 520 名前:みっくす 投稿日:2005/03/29(火) 23:08
- 紺ちゃんつえ〜〜〜
さて、どんな決着になるのですかね。
楽しみにしてます。
- 521 名前:konkon 投稿日:2005/03/29(火) 23:14
- 紺ちゃん、強!
あっさりとれいなを一蹴、と思いきや
何が起きるんだ・・・?
続きを楽しみに待ってます。
- 522 名前:七誌さん 投稿日:2005/03/30(水) 12:40
- うっわ〜こんこん強・・・!
田中ちゃんも強いと思ったけど・・・。
そしてこの先何が起こるのか・・・?
- 523 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/31(木) 00:48
- おもしろい!次回楽しみにしてます!
- 524 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:38
- 「なっ!?」
「ふふっ」
ダークブレイカーから広がった魔法陣はもちろん紺野さんの足元にも及んでいる。
あたしはダークブレイカーの柄から手を離す。
「この魔法は……?」
「ダークブレイカーの魔力を全て使った闇魔法です。魔法陣内の全てを飲み込む闇の空間を
作り出す魔法。光すら抜け出すことはできません」
「なっ!? そしたら田中ちゃんだって……」
「えぇ。術者のれいなとて例外ではありません。助かる方法は二つだけ。ダークブレイカーを
魔法陣から引き抜いて魔力を絶つか、障壁を越えて魔法陣内から逃げるかです。できなければ
魔法陣発動と同時にジ・エンドですよ。もちろんれいなは邪魔しますけれどね」
ダークブレイカーの魔力が魔法陣へと注がれていく。
魔法陣が次第にはっきりと浮かび上がってくる。
紺野さんは動かない。
「なんで!? 田中ちゃんだって死んじゃうよ!?」
「その時はあなたも一緒です。それなられいなの負けじゃないです。引き分けですよ。それに……」
それに、もう一つの理由は……
「この先の部屋には絵里がいます。そろそろ目覚めてもいいころです。あなたが現れれば
絵里は戦うでしょう。たとえあなたには敵わなくても。だから、あなたをここから先へは
進ませない!!」
- 525 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:38
- ぐっと拳を握りしめる。
もうダークブレイカーはあたしですら簡単には抜くことができない。
だったらあとはこの身体一つで紺野さんを止めなければならない。
「はあぁあっ!!」
拳を振り上げて紺野さんに向かっていく。
はっきりいって格闘技なんて剣技以上に経験がない。
案の定、あたしの突き出した拳は空を切る。
「ウインド・スフィア!」
「うわっ!!」
がら空きになった腹部に風の塊が直撃する。
あたしは吹っ飛ばされて、周囲を取り囲んだ障壁にぶつかった。
「があぁあっ!!」
電撃にも似た闇の衝撃が体を蝕む。
紺野さんもこの障壁の威力を直感で理解したのだろう。真っ直ぐに魔法陣に突き刺さった
ダークブレイカーへと向かっていく。
そして柄を掴んだけど……・
- 526 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:40
- 「うわああぁぁあっ!!」
紺野さんの悲鳴が響いた。
そう簡単には抜けやしない。
その隙にあたしは立ち上がって、また紺野さんに向かっていく。
紺野さんの身体に当て身をくらわせ、剣から離す。
「くっ……」
紺野さんの手に魔力が集まる。
ヤバいっ! 今のあたしは完全に丸腰だ。
「フレア・ブラスト!!」
「えっ!?」
思わず身構えたが、その魔法が放たれたのはあたしにではなかった。
炎を圧縮した光球は、真っ直ぐにダークブレイカーへと向かっていく。
でもその光球はダークブレイカーにあたる寸前で、シャボン玉のほうに破裂して消滅した。
「そんなチャチな魔法じゃ、ダークブレイカーには効きませんよ?」
「くっ……」
足下の魔法陣もだいぶはっきりと見えるようになってきた。
もう少しで……終わる……。
絵里、ゴメンね……あたしはここまでみたい……。
もう守ってあげられないけど、飯田さんにいっぱい魔法教えてもらって強くなってね……。
- 527 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:41
- 「れーなーっ!!」
「えっ……?」
最初は幻聴かと思った。
もしくはこれが走馬燈というやつか、とも思った。
そうでないとわかったのは、絵里が魔法の障壁に真っ直ぐに向かってきたときだった。
「絵里!? 来ちゃいかん!!」
「いやだーっ!! れーながいなくなっちゃうなんて……そんなのいやっ!!」
立ち上る障壁にも絵里は気にせずに突っこむ。
闇の波動が絵里を拒むように傷つけていく。
「ダメ、絵里っ! 中に入ったら絵里まで巻き込まれると!!」
でも絵里にはなにも聞こえてないようだった。
ただ無我夢中で障壁を通り抜けようとしている。
無理だ、通り抜けられるわけがない……。
でもその時、障壁の一部がまるで消えたかのように薄くなり、絵里が魔法陣の上に
倒れ込んだ。
- 528 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:44
- 「絵里っ!」
「れ…な……」
絵里は障壁を通り抜けた。
でもそこで限界だったのだろう。絵里はそのまま動かなくなった。
「絵里っ!!」
叫んでも絵里は立ち上がらない。
かろうじて意識はあるみたいだけど、どっちにしてももう一度あの障壁を抜けること
なんてできないだろう。
とにかくこのままでは絵里まで魔法に巻き込んでしまう……!
「くっ!」
選択肢は一つだけだった。
魔法の発動を強制的に中止するしかない。
そのためには……
あたしは魔法陣に突き刺さっているダークブレイカーを掴んだ。
「ぐああぁぁああっ!!」
溢れた魔力が体を蝕む。
当然だ。そういうふうにしたのはあたしなんだから。
でもこの手を離すわけにはいかない。
お願い、ダークブレイカー!!
- 529 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:45
- 「く、うぅぅ……」
痛みに耐えながらもなんとか柄にしがみつく。
あぁ、なんか初めてダークブレイカーを手にしたときに似てるなぁ、なんて……
頭では場違いにもそんなことを考えていた。これがホントの走馬燈なのかな?
その時だった。
柄に別の手が加わった。
「えっ?」
「つあっ……!」
苦痛に満ちた悲鳴が耳元で聞こえる。
思わずふり向くと、そこには紺野さんがダークブレイカーの柄を握って立っていた。
「なっ!? 紺野さんっ!?」
「くぅ……抜けないねぇ……」
ダークブレイカーの持ち主でない紺野さんには、あたし以上の苦痛が与えられているはず。
でもすぐに離してしまったさっきとは違って、その手はしっかりと剣の柄を掴んで離さない。
- 530 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:46
- 「なんでですか、紺野さん!? この隙にさっさと障壁を突破して魔法陣から逃げればいいのに!」
絵里に抜けられたんだから紺野さんが抜けられないはずがない。
それでも紺野さんは手を離さない。
「それじゃ田中ちゃんと亀井ちゃんが死んじゃうでしょ?」
「そんなのほっとけばいいじゃないですか! れいなと絵里はあなたの敵ですよ!?」
「ほっとけないよ! 確かに敵だけど、でも同じ師匠のもとで修行した仲でしょ!?」
「そんなの……」
「それに」
紺野さんがあたしの方を向いた。
あたしもつられて紺野さんのほうを見る。
こんな状況だっていうのに、紺野さんは笑顔だった。
思えば今日、初めて紺野さんの笑顔を見た気がする……。
「人が人を助けるのに理由なんていらないでしょ? もし必要なら……私が田中ちゃんと亀井ちゃんを
助けたい……じゃ、ダメかなぁ?」
その笑顔にあたしは一瞬見とれていた。
慌てて視線をダークブレイカーへともどす。
- 531 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:47
- 「……紺野さんって、バカがつくお人好しですね?」
「それって褒められてるのかなぁ?」
「最高級の褒め言葉です」
握りしめる手に力を込める。
紺野さんも同じように真っ直ぐ剣を見つめている。
「『せーの』でいきますよ?」
「うんっ!」
「……せーのっ!!」
二人で一気に力を込める。
加えた力に比例するように、剣の抵抗が強くなる。
「くあぁっ!!」
「うぅ……」
バチバチと闇が身体を傷つけていく。
突き刺さった剣はびくともしない。
くぅ……抜けない……。
足下の魔法陣はもうはっきりとその紋様を描き出している。
今すぐにでもこの魔法陣が闇へと続く漆黒の穴へとかわりそう。
……絵里……。
- 532 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:47
- でもその時……
あたしたちの頭上にもう一つ、別の闇色に光る魔法陣が現れた。
「えっ!?」
思わず頭上を見上げる。
その魔法陣は足下に広がる魔法陣に覆い被さるように、ゆっくりと降りてくる。
二つの魔法陣のあいだでバチバチと魔力が爆ぜる。
互いの魔法陣が威力を相殺しあっている。
この魔法……もしかして……
ダークブレイカーの抵抗が弱くなった気がした。
「田中ちゃん!!」
「紺野さん、いきますよ! せーのっ!!!」
- 533 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:49
-
◇ ◇ ◇
「絵里っ!!」
床の上に倒れたままの絵里に駆けよる。
膝をつき、絵里の身体を抱き起こす。
「れーな……」
絵里はうっすらと目を開けてあたしの顔を見た。
よかった、無事みたい……。
ほっとしたあたしの視界に誰かの足が入り込んだ。
顔を上げると、そこには紺野さんがあたしたちを見下ろしていた。
「亀井ちゃんは……?」
「体力の消耗は激しいですけど、無事です」
「そっか、よかった」
紺野さんはまた笑った。さっきと同じようにとても優しい微笑み。
あぁ、この人はこんなふうに笑うんだな、と無意識に思った。
でも慌てて我に帰り、自分の左手を見る。
中指にはめられた指輪には、黒々とした宝玉が輝いていた。
魔法陣から抜かれたダークブレイカーは、すぐに指輪に戻ってしまった。
全ての魔力を使い切ってしまった魔剣は眠りにつくと飯田さんが言ってた記憶がある。
- 534 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:49
- 「ダークブレイカーが眠ってしまった以上、もうれいなは戦えません。進みたければ進んで下さい」
「うん、でも……」
「れいなたちは大丈夫ですから」
「……わかった。でも田中ちゃん、一つ教えて欲しいんだけど、飯田さんの居場所わかる?」
「……ここ数日見てません。おそらく城の中にはいると思いますけど……」
「そっか……」
そのまま紺野さんは歩いていく。
あたしが入ってきた、逆側の入り口へと。
「あっ、紺野さんっ!!」
思わず呼び止めてしまった。
紺野さんが立ち止まってこっちを向く。
さすがに目を見つめて言うことはできなくて、ちょっと視線を外して言った。
「……悔しいけど、れいなも紺野さんのこと認めます……。絵里を助けるの手伝ってくれて、
ありがとうございました……」
紺野さんはなにも言わなかった。
ニッコリと笑ってまた前を向き、しっかりとした足取りで歩いていく。
遠くでバタンと、扉が閉まる音が響いた。
- 535 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:51
- 「ふーっ……」
その瞬間に全身の力が抜けた。
ダークブレイカーが使えない今、もう戦うことはできない。
あたしは紺野さんに完全に負けた。
これからどうしようかなぁ、なんて考えてたとき……
「……れーなの……」
「えっ?」
「バカーーーっ!!!」
キィーンと絵里の声が耳を突き抜けると同時に、強制的に右方向を向かされた。
ちょっと遅れて左のほっぺたがジンジンと痛くなる。
「え、絵里っ!? なにすると!?」
思いっきり叩かれた左ほっぺを押さえて絵里の顔を見ると、絵里の瞳からは大粒の涙が零れていた。
絵里はそのままあたしに抱きついてくる。
「えっ? えっ!?」
「れーなのバカ……。れーなに置いてかれたら……絵里、独りぼっちになっちゃうじゃん……」
「絵里…ゴメン……」
「うっ……くっ……今度絵里を置いていったら……許さないから……」
抱きついて泣きじゃくる絵里を見て、あたしは溜め息を一つこぼす。
なんとか守れてよかった……。
でも……
ホントにあたしより年上なんかなぁ、絵里……。
とりあえずビンタされた仕返しに、絵里のほっぺたを思いっきりつねってみた。
- 536 名前:第22話 投稿日:2005/04/04(月) 14:51
-
- 537 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/04/04(月) 15:03
- 今回はここまでです。れなこんバトル決着!
個人的にはけっこう気に入ってるバトルです。
書いてる時もいろいろと楽しかったですねぇ。
>>520 みっくす 様
決着はこんな感じになりました。
一応一段落って感じです。
>>521 konkon 様
紺ちゃんは強いですよ〜!
今のところの力の差はこんなくらいだと考えてます。
>>522 七誌さん 様
れいなも強いことは強いんですけどね。
やっぱりまだ発展途上なんですねぇ。
それでも気持ちの強さは負けてませんよ〜!
>>523 名無し飼育さん 様
ありがとうございます。
期待に応えられるよう頑張ります。
- 538 名前:みっくす 投稿日:2005/04/05(火) 09:21
- 更新お疲れさまです。
紺ちゃんの強さの源が垣間見えた感じがしますね。
あの魔方陣を使ったのは、やはりあの人ですかね。
次回も楽しみにしてます。
- 539 名前:七誌さん 投稿日:2005/04/05(火) 17:29
- 更新お疲れ様です
なかなか感動的なバトルでしたね。
れなえり、なかなかGOODです!
- 540 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:42
- 〜安倍なつみ〜
「こうやって相対するのも久しぶりだよね。なんだかんだで戦争が始まってから、
一度も戦ってなかったし」
「そうだね……」
ヤグチの鎌がピタッと私の方を向く。
私もエクスカリバーをかまえなおす。
「ここを通れば女王様の間まですぐだよ。逆に言えばオイラを倒さなければ女王様の間には
行けないってことだけど」
「そうみたいだね」
「だから本気で向かって来な。それこそオイラを殺すつもりでね」
「・・・・・・」
「それができなきゃ、死ぬのはなっちの方だよ!!」
大鎌が宙に昇り、ヤグチが駆け出す。
私も剣を振るった。
ダンスホールに高い金属音がこだました。
- 541 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:43
-
第23話 月蝕
- 542 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:44
- 振り下ろされた大鎌を受けとめる。
さすがに重くのしかかってくる。あんまり長くは受けとめてられない。
と思ったらその重さが消えた。
目の前のヤグチの身体がくるっと回転する。
「くっ!」
慌てて剣を縦にかまえる。
そこに衝撃。
私はそのまま吹き飛ばされた。
剣を握った手は痺れていた。
「なんだよ、なっち、その程度?」
ヤグチはバランス感覚が非常に良い。
大鎌の加重と重心を微妙にコントロールして、超重武器である大鎌を自由自在に振り回してくる。
加えてヤグチは回転系の攻撃を好んで使った。
格闘技の訓練でも、よくフックや裏拳、回し蹴りなどを多用してたっけ。
遠心力の乗った大鎌の一撃は、かなりの破壊力を秘めていることだろう。
伝説の魔剣と呼ばれたエクスカリバーだから、そう簡単にへし折られることはないと思うけど、
あんまり攻撃を受けすぎるのはよくないかもしれない。
- 543 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:45
- 「それともまだ手加減してるつもり? 本気で向かって来なよ」
「……わかった、どうしても戦わなくちゃいけないみたいだね……」
ようやく痺れがとれたので、剣を握りなおす。ヤグチも大鎌をかまえた。
今度は私から向かっていく。
上段にかまえた剣を振り下ろす。
ヤグチは鎌を持ち替え、柄で打ち降ろしを受けとめた。
ヤグチが動き出す前に、私は次の攻撃に移る。
剣をいったん引き、そのまま突き出す。
ヤグチは身を反らせてかわしたが、そのままヤグチを追いかけるように剣を横に薙ぐ。
今度は鎌の刃に当たって、剣は止まった。
次の動作はヤグチのほうが速かった。
また目の前でヤグチの体が廻る。
深くスリットの入ったドレスの裾が翻る。
そのあとを追って鋭い鎌の切っ先が襲いかかってくる。
体を引いて鎌をかわす。
だがヤグチの身体は止まらず、二回転目に入る。
今度は鎌が斜め上から振り下ろされる。
もう一度体を引いてかわせたのは奇跡的だった。
それほどに速い二撃目だった。
大鎌がダンスホールのフロアに深々と突き刺さった。
- 544 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:46
- 「フフッ、訓練を思い出すねぇ」
「そうだね」
「でもあの時なっちは本気じゃなかったんだよね。今はどう? 本気なの?」
「本気だよ。本気でヤグチを止めてみせる」
「……くだらない」
ヤグチが鎌の柄を握る。
するとフロアから鎌の切っ先が現れた。
「この際だから決めとこうか。オイラが勝ったら、オイラがハロモニランドの騎士団長になる。
いいよね? どうせ騎士団長は不在になるんだし?」
「いいよ。そのかわり、私が勝ったら、ハロモニランドに戻ってきてもらう」
「フン、オッケー。ま、そんなことはないと思うけど」
またヤグチへと向かっていく。
剣を振るうたびに、金属音がホールに響く。
やっぱり攻撃は私の方が速い。
ヤグチに反撃の隙を与えず、次々に斬りかかっていく。
「チッ、うざったい!」
攻撃の一瞬の合間を縫って、ヤグチの鎌が廻る。
それを私はしゃがんでかわした。
大鎌が頭の上を通り抜けていく。
そのまま剣を振り上げる。
- 545 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:47
- 「ホールド・プロテクション!!」
鎌での防御が間に合わないと悟ったらしいヤグチは、魔法の盾を作り出した。
でもエクスカリバーは魔法を無効化できる。
そのままシールドを切り裂いた。
「くっ!」
ヤグチがいったん離れる。
シールドを切り裂いたときに、わずかに剣先が掠ったのだろう、手からはわずかに血が溢れていた。
この戦いで初めて血が流れた。
「ふーん、エクスカリバーか……。女王様から受け継いだんだ?」
「託されたんだよ、想いと一緒に」
「想いか……。そういえばなっちはもう一つ、仲間の力も託されたんだってね?」
「そうだよ」
「そんなにいっぱい背負い込んでたんじゃ、その重みで潰されちゃうよ!!」
ヤグチの鎌が浮かび上がる。
そのまま振り下ろされる鎌をかわすが、すぐに鎌が今度は真横から襲ってくる。
速い!
超重武器の弱点はその重さに振られて攻撃のあとに隙ができるのだが、ヤグチはそれをうまく次の攻撃に繋げてくる。
回転するように、いや、舞うように連続攻撃を仕掛けてくるヤグチ。
なんとか鎌に剣をあわせて弾いていく。
- 546 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:47
- 「フンッ、鎌の刃だけに気を取られちゃダメさ!」
「えっ……ぐっ!!」
その瞬間に脇腹に衝撃。
大鎌の柄が脇腹にめり込んでいた。
刃による追撃よりも半回転速かったため防御が遅れた。
「くっ……」
「遅いよ!」
鎌の刃が一気に沈んだ。
脚を狙ってる!?
かわそうとしたが、その時脇腹が痛んだ。
逃げ遅れた脚を鎌が掠めた。
「つあっ!」
思わずその場にしりもちをつく。
慌てて立ち上がろうとしたけど、その前にヤグチが立ちはだかった。
大鎌を大きく振り上げている。
「死ねっ!!」
振り下ろされる大鎌。
起きあがって逃げる時間なんてなくて、なんとかエクスカリバーで受けとめる。
激音が響き、大鎌が重くのしかかってくる。
- 547 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:48
- 「くっ……」
体勢もヤグチが有利で、ギリギリと刃が迫ってくる。
「フンッ、やっぱりこんなもんだよね。これが限界だよ、なっち」
「くっ…うっ……」
「オイラは強くなるために全て捨てた! そしてオイラは強くなった! その強さで、なっち、
お前を倒す!!」
「……違うっ!!」
私も吼えた。
身体をひねって鎌をやり過ごす。
ヤグチの鎌がフロアを砕いた。
「チッ! しぶといなぁ! おとなしくやられな!!」
振られる鎌に私も剣をあわせる。
ひときわ大きな金属音がダンスホールに響き、静寂に呑み込まれていった。
「違うっ! そんな強さは強さじゃない!」
「なにっ!?」
「ヤグチは全てを捨てたんじゃない! ただ現実から逃げただけでしょ!?」
「なんだとっ!!」
大鎌が勢いよく振り上げられる。
その時の衝撃で私の身体が後ずさる。
そこにヤグチが向かってきた。
今まで以上に速い。
「くぁっ!!」
避けきれなくて、鎌が腕を掠めた。
一瞬そっちに気を取られた瞬間に、今度は柄の部分が襲いかかってくる。
腹部に柄が突き刺さった。
「がはっ!!」
そのまま私の身体は後ろに吹っ飛んだ。
- 548 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:51
- 「げほっ、げほっ!!」
「フン、何かを得るためには何かを捨てなくちゃいけないんだよ。現にオイラは、ロマンス王国に
来てから飛躍的に強くなった」
「……私は捨てないよ。たとえ何があっても」
ゆっくりと立ち上がる。
そしてエクスカリバーをかまえる。
「ヤグチは確かに強くなったよ。でもその強さは破滅しか求めていない! 人を殺すしかできない、
誰も守れない力だよ!!」
「守る必要なんてない! 敵を全て殺せば戦いは終わる!!」
「そんな強さは脆く、弱い。それを教えてあげるよ。私の、大切な人を守るための力で!!」
「なっちの力なんて、オイラが打ち砕く!!」
ホールの空気がだんだんと張りつめていく。
お互いたぶんわかってる。これが最後の一撃だ。
力を、想いを、全てをエクスカリバーに伝わらせていく。
エクスカリバーが淡く輝いた。
「はあああぁぁあっ!!」
ヤグチの身体が疾走した。
「ああああぁぁあっ!!」
私も地を蹴る。
ヤグチの鎌が振り下ろされる。
私も渾身の力を込めて、剣を振った。
ギイィィンッ!!
ひときわ大きな金属音がホールの中にこだました。
- 549 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:52
-
◇ ◇ ◇
私はエクスカリバーを振り抜いたまま動けなかった。
ヤグチもクレセントムーンを振り下ろしたまま動かない。
固まった二人のあいだを、銀色に光る刃がくるくると回転して落ちてくる。
そしてフロアに深々と突き刺さった。
それは折れた大鎌の刃。
「勝負ありだね、ヤグチ。これが守るための力だよ」
剣をヤグチの方に向ける。
ヤグチは折れた鎌を見つめて呆然としていたが、やがて「ふーっ」と大きく息を吐いた。
「……そうだね、クレセントムーンが折れたんじゃ、もう戦えない。オイラの負けだね、
殺したきゃ殺せばいい」
「殺さないよ。ヤグチにはハロモニランドに戻ってきてもらうのが約束だから」
すっと剣を引く。
「甘いのは相変わらずか」
「きっといつまでたっても変わらないと思う。でも私はこれでいいと思ってる」
「・・・・・・」
「ねぇ、ヤグチ。想像でしかないけど、きっとヤグチのお姉さんも、何かを守るために
戦ってたんじゃないかな?」
「なにっ!?」
キッとヤグチが私の方を向く。
- 550 名前:第23話 投稿日:2005/04/11(月) 15:53
- 「だから誰よりも強くなれた。だから500人に囲まれても、一人で残ったんだよ。
敵を殺すためじゃなく、仲間を守るために……」
「……フンッ」
「そうじゃなきゃ……ヤダよ……」
最後の言葉はヤグチには聞こえてなかったと思う。
ヤグチはそのまま後ろを向いた。
「……さっさと進めば? ここを抜ければ、もう女王様のところまですぐだよ」
「あっ、うん……」
「大丈夫、戦争が終わって、いろいろと片づいたらちゃんと帰るから。だから……
オイラの帰る場所、ちゃんと守ってよ?」
「……うんっ!」
エクスカリバーをしっかりと握って、ダンスホールを駆け抜ける。
ヤグチはもう大丈夫みたい。
きっと戻ってこれる。
だからヤグチが戻ってきたとき、しっかりと胸を張って出迎えられるようにしなきゃね。
そう思いながら、私はダンスホールの扉を開けた。
- 551 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/04/11(月) 16:08
- 今回はここまでです。
なんかようやく活躍できました。一応主人公ですよ?(一応?
とりあえずは決着ってことで。
あぁ、早くNUNコン行きたい〜!(マテ
>>538 みっくす 様
はい、紺ちゃんもいろいろな想いを抱えてます。
あの魔法陣は……たぶん想像通りだと。
>>539 七誌さん 様
れなえりもなんとなくいい感じになってます。
キャメイさんがなんか幼い感じですけど(笑
- 552 名前:みっくす 投稿日:2005/04/11(月) 21:01
- なっち強いですね。
やっぱり「守る者を持つ強さ」が強さの根本的な感じがします。
次回も楽しみにしてます。
- 553 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/04/13(水) 11:15
- はじめまして。
最初から少しずつ読ませてもらい、ようやく追いつきました・・・
とても面白い話です。戦闘シーンも自分の中では読みやすいと思います。
またキャラ配置がうまく出来ていると思います。
次回からの話の展開も期待してます。
- 554 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:24
- 〜吉澤ひとみ〜
安倍さんが廊下の奥へ消えたのを見届けて、アタシは石川から離れる。
石川は相変わらず微笑をたたえたままアタシを見下ろしている。
「あんた、安倍さんはあえて通しただろう?」
「えぇ、私一人であなたたち二人を相手にするのはちょっと大変ですし」
「……それだけ?」
「それに、奥に待ってる人はどうやら安倍さんと戦いたいみたいですからねぇ」
やっぱり!
石川が安倍さんをすんなり通したのである程度想像はついたけど。
この奥で待ってるのは……
矢口さん……!
「私は格下で我慢してあげますよ!」
空気が一気に凍っていく。
「フリーズ・ファング!!」
「くっ!! わわっ!!」
足下から飛び出る氷柱。
なんとか横に飛び退いてかわすが、足場が不安定な階段だったため、踏み外して
踊り場まで落ちてしまった。
- 555 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:25
- 「ふふっ、といっても私もあなた一人にずっとかまってる時間もないんで」
「奇遇だねぇ、ウチもあんたにかまってる時間なんてないんだよ。さっさとあんたを倒して、
ウチは矢口さんのところへ行く!!」
「あなたにできますかねぇ?」
「できるさ、やってやる!」
花月を片手に階段を駆け上る。
でもそんなアタシをあざ笑うように、目の前に蒼い魔法陣が出現した。
「おバカさん!」
魔法陣がいっそう蒼く輝く。
「アイシクル・エッジ!!」
魔法陣から氷の刃が吐き出される。
その全てがアタシを狙って飛び交う。
「くっ!!」
なんとかカタナで切り落としていくが、とても全ては切り落とせず、いくつもの傷ができていく。
そして石川に向かっていくスピードも鈍る。
「アクア・バニッシュ!!」
「うわっ!!」
氷の刃のあいだを巨大な水塊が飛んでくる。
カタナを振るうも抵抗はなく、水塊が身体に直撃した。
そのまままた踊り場まで戻されてしまう。
- 556 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:26
- 「ちっくしょう……」
「フフッ、魔法を使えないあなたでは私に近づくこともできないわ!」
「それはどうかな!」
もう一度地を蹴る。
でもすぐに大気が凍てつき、巨大な氷ができあがっていく。
速いっ!
魔法の形成が速すぎる! 保田さんよりも速いかもしれない。紺野クラスだ……。
「アイス・ニードル!!」
「チッ!!」
放たれた氷にカタナを合わせる。
少し力を込めると氷は真っ二つに割れたが、その瞬間足下に蒼い魔法陣が浮かび上がった。
踊り場を転がり、突きだした氷の針をかわす。
そしてすぐに立ち上がって石川へと向かっていく。
近づければ、カタナの攻撃範囲に入れれば、一撃で決められる自信はあるんだ。
でもすぐに蒼い魔法陣が割って入る。
「アイシクル・エッジ!!」
飛んでくる氷の刃を一つ一つかわしていく。
それでも確実に前に進んでいく。
そしてカタナを水平にかまえる。
- 557 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:27
- 「くっ……」
石川がまた新しい魔法陣を形成し始める。
その隙にアタシは残りの距離を一気につめる。
魔法使いと剣士の戦いなんて、一瞬の勝負だ。
魔法使いが魔法を発動させる前に、剣士が間合いに入り込めるかどうか。
入り込めれば剣士の勝ち。入り込めなければ魔法使いの勝ち。
そして今回は……
「アクア……」
「遅いっ!!」
アタシの勝ちだっ!!
腕を真っ直ぐに突き出す。
カタナは魔法陣を貫き、石川の身体を突き刺した。
魔法陣が消え、飛び交っていた氷の刃が地に落ちる。
「ふぅ……」
カタナを石川の身体から引き抜く。
石川の身体がその場に崩れた。
そのまま血払いしようとカタナを振りかけて、異変に気付く。
花月は、血ではなく透明な水で濡れていた。
- 558 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:28
- 「なっ!?」
「フフフフフッ……」
笑い声とともに、石川の体が溶けた。
でも笑い声はまだ聞こえてくる。
方向は……上!!
「フリージング・ルーン!!」
「うわっ!!」
頭上から降ってきた石川の右手を反射的にかわす。
石川の右手が地面についたとき、周囲の水が一瞬にして凍り付いた。
か、かわしてよかった……。
でも安心してもいられなかった。
すぐに石川の左手が迫ってきた。
カタナをかまえが、石川の方が速かった。
「コールド・バスター!!」
「ぐはっ!!」
冷気エネルギーが直撃する。
アタシはそのまま吹っ飛ばされ、また踊り場に落ちた。
- 559 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:29
- 「ちっくしょー……」
「フフッ、あなたじゃ無理よ。私は水系魔法しか使えないけど、水系魔法だけじゃ
あの飯田さんにも引けを取らないんだから」
「水系魔法しか使えない? そういやあんた、さっきからずっとそうだね?」
「えぇ。なぜかは私も知らないわ。物心ついたときから他の属性は使えなかったの。
でも逆に、物心ついたときから水系魔法だけは最高レベルで使いこなせたんだけどね」
石川が一段二段と階段を下りてくる。
「でもそのおかげで子供のころはけっこう大変だったのよ。そのころから強力な魔法が
使えたおかげで、『魔女』とか『モンスター』とか言われて迫害されて、いろいろな街を
転々としてきたの」
「・・・・・・」
「途中でお父さんもお母さんも死んでしまった。でも私はロマンス王国にたどり着いた。
ここはこんな私を受け入れてくれた」
「なるほど……それがあんたの戦う理由ってわけかい。恩に報いるために戦ってるってことか」
膝をついて立ち上がり、石川を睨む。
「そう言えば格好いいけど、結局はただの操り人形だね。そんな薄っぺらい信念じゃ
ウチには勝てないよ!!」
「言ってくれるわね。今まで私に手も足も出なかったくせに!」
「あぁ。でもこの一撃で終わらせてみせる!!」
鞘をベルトから外し、カタナを納める。
アタシの最速の抜刀術。
まさに一撃必殺の剣。
- 560 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:30
- 「フフッ、どんな攻撃をしようとも、近づけなければ意味ないわ!!」
冷気が一点に集束していく。
「アイシクル・エッジ」
「うざったい!!」
飛び交う氷の刃の群れに突っこんでいく。
腕や脚などにいくつも痛みが走るが、気にせず石川へと一直線に走る。
「なっ!?」
石川も多少面食らったようで、魔法陣を解き、次の魔法を組み立ててる。
「メイル・シュトローム!」
新しくできた魔法陣から溢れ出す、渦状の水流。
勢いは激しく、範囲も広いためかわすことはできない。
もっとも、ハナからかわすつもりなんてないんだけど。
アタシはあえて水の渦の中に突っこんでいく。
水流は激しいけど耐えられなくもない。
水の向こうの石川を睨み、水の渦を突破する。
「そんな……」
「終わりだっ!!」
目の前には石川の顔。
鞘の中を走らせ、カタナを一気に抜き放った。
- 561 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:31
- 「がはっ……」
背後で石川が倒れる音がした。
アタシはカタナを鞘に、そして鞘をベルトに戻す。
「安心しな、峰打ちだよ。つっても……聞こえてないか?」
後ろをふり返ると、石川は倒れたまま、身動き一つしてなかった。
いくら峰打ちといってもさすがに落ちたか。
ついでに骨も何本かいってるだろうし、しばらくは動けないはず。
「お〜、いってー……」
肩に突き刺さっていた氷の刃を引き抜く。
その他にも体中に傷ができてる。
さすがにちょっと無茶だったかな……?
でもまぁ、結果オーライってことで。
簡単に止血をしてから、アタシはそのまま残りの階段を上りきる。
廊下を走っていくと、両開きの大きな扉に突き当たった。
扉の上には「Dance Hall」と書かれている。
アタシは迷わず扉を開け放った。
- 562 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:31
- 「安倍さんっ! 矢口さんっ!!」
でも中には片方しかいなかった。
ホールの中央に矢口さんが座り込んでいた。
「矢口さん……」
近づいていくと、矢口さんも気付いたようでアタシの方を向いた。
「や、よっすぃー」
矢口さんの顔は、氷が溶けたように澄み渡っていた。
「……安倍さんは?」
「ハハッ、負けちった……。なっちはついさっき先に進んだよ。まだ追いつけるんじゃん?」
矢口さんの顔から、手に持った鎌へと視線を移す。
鎌の刃は途中から真っ二つに折れ、切っ先がフロアに突き刺さっていた。
「なっちとの約束だからな。ハロモニランドに帰るよ」
「ホントですか!?」
「あっ、でもロマンス王国がある程度片づいたらね。そこまではロマンス王国
騎士団長としてのオイラの責任だから」
いつの間にかアタシは矢口さんを抱きしめていた。
- 563 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:32
- 「ちょ、よ、よっすぃー?」
久しぶりに感じる体温が心地良い。
腕の中に閉じこめている矢口さんが愛しい。
「矢口さん……ウチとも一つ約束して下さい」
「なに?」
「ハロモニランドに帰ってきたら、まずウチのところに来て下さい」
矢口さんはしばらく何も言わなかったけど……
やがてアタシの腕の中で、小さくコクンと頷いた。
「でもさ、なっちにも同じこと言ったんだけど、かわりにオイラが帰るまで、
オイラの帰る場所を責任持って守っといてよ?」
「もちろんですよ!」
もう一度矢口さんをきつく抱きしめてから、アタシは腕を放す。
ちょっと名残惜しいけど、ま、それは全部片づいてからってことで。
しっかりと立ち上がり、アタシはダンスホールを駆け抜けた。
- 564 名前:第23話 投稿日:2005/04/19(火) 14:32
-
- 565 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/04/19(火) 14:39
- 今回はここまでです。
残りも少なくなってきました。本格的にクライマックスです。
>>552 みっくす 様
はい、ようやくなっちも出てきました。
強いなっちはやっぱりステキです!
>>553 春嶋浪漫 様
初めましてです。
いやいや、そろそろ最初から読むには辛い量になってきましたが……。
それでも読んでいただけたということで、感謝です。
もしよければこれからもお付き合い下さい。
- 566 名前:七誌さん 投稿日:2005/04/20(水) 16:30
- 更新・・・乙っすw
最近来てなかったら更新がたまってた・・・。
ヤグチさん最高っす・・・!
みんなの友情の勝利ってやつかな・・・?(ぇ
- 567 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/04/20(水) 23:01
- 更新お疲れ様です。
いやいや、私としては楽しく読ませていただきました。
長編はよく休み前の夜中に呼んでいます。
雑音もなく集中して読むことが出来ますからね。
そしていつも夜明けとともに就寝・・・・
ここまで呼んだからには最後までお付き合いさせていただきますね。
次回更新も楽しみに待ってます。
- 568 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/24(日) 13:16
- 更新お疲れ様です!!!
とうとう最後のほうとなりすっごい楽しく
読んでます。
私としてはなんかごっちんがさらわれてなっちが
助けに行ってハッピーエンドみたいのが読みたいなと…
でも絶対最後まで読むので作者さん、頑張ってください。
- 569 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:12
- 〜安倍なつみ〜
ついにここまで来た。
戦争が始まってずいぶんと経ったが、ようやくここまでたどり着いた。
ロマンス王国城内、女王の間へと続く扉の前。
そこに私は立っている。
思い起こせばいろいろなことがあった。
何回も傷つき、倒れた。何人もの人が死んでいった。
この悲劇を終わらせるんだ。
決意を胸に秘め、そっと扉に手を当てた。
「何よ、なっち。一人で行く気?」
「えっ?」
不意に声が響いた。
その方向を向くと、そこには圭ちゃんが立っていた。
「圭ちゃん! 無事だったんだ!!」
「当然よ! なっちばっかりにいいところは持って行かせないわ」
「そうですよ〜!」
今度は背後から別の声。
振り向くと、紺野がこちらに向かってきていた。
- 570 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:13
- 「紺野も! よかった〜!」
「つってもけっこうボロボロねぇ。大丈夫?」
「はい! 完璧です!!」
「あっ、やっと追いついた〜!!」
今度の声は私が通ってきた方向から。
よっすぃーが私たちのもとへと駆けてきた。
「みんな無事だったんすねぇ〜! よかった〜!!」
「あんたが一番傷だらけよ。だいたいそんな適当な止血の仕方じゃ止まるものも止まらないわ」
「いや〜、急いでたんで〜!」
「まったく……ちょっと座んなさい」
「へ〜い」
その場に座り込んだよっすぃーのさらしを圭ちゃんが巻き直している。
紺野もそれを手伝っている。
ののはきっと中庭で敵を食い止めてくれてるのだろう。
あとここにいないのは……
「圭ちゃん、松浦は?」
「あぁ、『後は頼みます』ってさ」
「えっ?」
「敵の一人を食い止めてくれてる」
「あっ、そっか」
「松浦なら大丈夫よ。よし、できた!」
さらしをしっかりと巻き終えたよっすぃーが立ち上がる。
それに続いて圭ちゃんと紺野も立ち上がった。
「それじゃ、行こうか」
「うん」
再び扉に手を当てる。
力を込めると、ギィ、っという音とともに、扉が開いた。
- 571 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:14
-
第24話 糸を断ち切って
- 572 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:17
- 深いルビー色の絨毯の上を歩いていく。
私の後ろにはしっかりとみんながついてきていて。
そして向かう先には斉藤瞳が玉座に腰掛けて待っていた。
「斉藤瞳……」
「ようこそ、私の城へ。久しぶりね、もしくは初めまして」
斉藤瞳が音もなく立ち上がった。
そのまま階段をゆっくりと下りてくる。
「……お前が……!」
圭ちゃんはすでにナイフを握りしめている。
私もエクスカリバーをかまえる。
「ここまで来たということはみんなを倒してきたということね。それなら私もそれなりに戦わないと」
「お前を倒して、全てを終わらせる!!」
「フフッ、かかってきなさい!」
「よっすぃー、行くよ! 圭ちゃん、紺野、援護して!!」
「おう!!」
よっすぃーと並んで駆け出す。
斉藤瞳も同時に動き出した。
最後の戦いが始まった。
- 573 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:18
- 最初の攻撃は私。
斉藤瞳の放った魔法をかき消し、そのまま斬りつける。
斉藤瞳は飛び上がってかわしたが、それをよっすぃーが追いかけた。
「はあっ!!」
よっすぃーの気合いとともに、カタナが旋回して斉藤瞳を狙う。
「ホールド・プロテクション」
だが、よっすぃーのカタナは斉藤瞳へ届く前に、張られたシールドによって止まった。
ぶつかった衝撃によって二人とも反対方向へ弾かれる。
「くっ!」
よっすぃーが着地する。
斉藤瞳も絨毯の上に舞い降りたが、その瞬間、深緑の魔法陣が広がった。
「紺野っ!!」
「スパイラル・サイクロン!!」
魔法陣から溢れ出した竜巻が斉藤瞳を包みこむ。
そして再び斉藤瞳を宙へ舞い上げた。
- 574 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:18
- 「ニードル・シャワー!!」
「オキサイド・リング!!」
圭ちゃんが水の魔力のこもったナイフを放つ。
私もエクスカリバーから魔法を放つ。
斉藤瞳は竜巻に包まれて逃げ場はない。
これで決まった!!
でも……
「フフッ……」
上から笑い声が降ってきた。
その瞬間、斉藤瞳を包んでいた竜巻が、魔法陣もろとも消えた。
オーバーライトだ……。
さらに斉藤瞳は両手を広げる。
「ゴッド・ブレス!!」
両手から溢れる二つの風の渦。
片方の渦がナイフを弾き飛ばし、もう片方が光のリングを粉砕した。
「甘いわね。こんなので私に勝とうなんて」
上空で魔力が一気に集まる。
「安倍さん! 吉澤さん!! 戻ってください!!」
紺野の声が響いた。
慌ててよっすぃーと一緒に紺野のもとへ戻る。
- 575 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:20
- 「プロクス・メティオ!!」
解放された魔力が炎の塊に変わっていく。
そして私たちに向かって降り注ぐ。
「アンチ・シールド!!」
でもなんとか紺野がシールドを張って、魔法を遮断した。
炎がいたるところで爆ぜる。
「くっ……はぁ、はぁ……」
炎の嵐が止み、紺野もシールドを解除する。
「やっぱり……一筋縄じゃいかないね」
「でもここまで来たら、あとは全力でぶつかるしかないっすよね!」
よっすぃーが駆け出す。
私もあとに続く。
「フフッ、懲りないねぇ」
魔力が一気に集まっていく。
速い……ほとんど溜めなしで魔法を発動させてる……。
- 576 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:21
- 「よっすぃー、避けて!!」
「はいっ!!」
「アクア・スプラッシュ!!」
斉藤瞳を中心にして、周囲に水柱が吹き出す。
よっすぃーと別々の方向に裂け、今度は斉藤瞳を挟み打ちにする。
水柱が突如消えた。
どうやら紺野がオーバーライトしたらしい。
「くらえっ!!」
よっすぃーのカタナが鞘から飛び出る。
私もエクスカリバーを振り下ろす。
でも斉藤瞳はまた飛び上がってかわした。
「ふんっ、ワンパターンだな!!」
よっすぃーがまた追いかける。
私は今度は着地の瞬間を狙う。
圭ちゃんも同じ考えのようで、ナイフを振りかぶっている。
「フフッ、ワンパターンはあなたのほうよ!」
でも斉藤瞳は落ちてこなかった。
斉藤瞳の背中から翼が生え、羽ばたく。
- 577 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:22
- 「えっ!?」
紺野の声が聞こえた気がしたが、すぐにそれは雷の爆ぜる音でかき消された。
斉藤瞳の放った雷撃魔法がよっすぃーに直撃した。
「スピード・フェザー!!」
圭ちゃんが空に向かってナイフを放つが、斉藤瞳はそれをヒラリとかわす。
「くっ!」
圭ちゃんが新しいナイフを取り出すが、それよりも速く、圭ちゃんの足下に魔法陣が
浮かび上がった。
「メギド・フレイム!!」
「うわああぁっ!!」
「圭ちゃん!!」
溢れた白色の炎が圭ちゃんを呑み込む。
離れていても熱気が伝わってくるほど、その勢いは強く、温度は高い。
ヤバイ……間に合え!!
エクスカリバーから溢れた光で魔法陣を作り出し、それを圭ちゃんの足下の魔法陣に重ねる。
「ディスペル・ライト!!」
魔法陣が光り輝き、炎をかき消した。
圭ちゃんに駆けよろうとするが、走り出そうとした瞬間、背後でわずかに空気がざわめいた。
振り向きながら剣を振るう。
そこには斉藤瞳が立っていた。
- 578 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:23
- 「いつぞや地下牢で戦ったときよりも反応がいいね。だいぶ力が上がったみたいじゃない?」
「この力は戦争を終わらせるために、そして大切な人を守るために託された力だよ!!」
斉藤瞳に向かって斬り進んでいく。
うまくかわされて傷を付けることはできないが、反撃してこないところを見ると、おそらく
斉藤瞳もギリギリといったラインだろう。
「市井紗耶香か。だいぶ吸い取ったと思ったのに、まだこんなに残ってたのね。
生贄が愚かなことを。おとなしく私に力を献上してれば、もっと有効に活用してやったのに」
「さやかを侮辱することは許さないっ!!」
思い切り振り上げた剣がわずかに斉藤瞳を捕えた。
斉藤瞳の腕から血が零れる。
「くっ!」
斉藤瞳が大きく後ろに飛んだ。
私も一度距離をとり、圭ちゃんのもとへと駆けよる。
「圭ちゃん、大丈夫!?」
「うん、なんとかね……。サンキュ、なっち……」
「よかった……。紺野、よっすぃーは?」
「……えっ?」
私はてっきり紺野がよっすぃーを介抱しているのかと思ったけど、紺野は
今気付いたような声を上げた。
それから慌てて倒れているよっすぃーのもとへと走っていく。
ちょっとー! 普段はともかく、戦闘中はボーっとしてないでよー!!
- 579 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:25
- 「しっかし、恐ろしく速くて強力な魔法だね……。ここまでの使い手がロマンス王国に
いたなんて……」
「うん、私も聞いたことなかった……」
そうこうしているうちに気がついたよっすぃーと紺野が私たちのもとへと走ってくる。
圭ちゃんもなんとか立ち上がった。
「さて、じゃあ第3ラウンドっすね」
「今度こそ倒すよ、よっすぃー!」
「もちろん! 今の攻撃、倍にして返してやります!!」
また私とよっすぃーが走りだそうとしたけど……
「あっ、待ってください!!」
紺野が私たちを引き留めた。
「なに、紺野!?」
「あの……私に一つ考えがあるんです」
「考え?」
「はい。それでちょっと安倍さんに協力して欲しいんですけど……」
でも紺野の話を長々と聞いてる暇はなかった。
私たちの足下に巨大な魔法陣が浮かび上がったからだ。
- 580 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:26
- 「ライジング・サンダー!」
「うわっ!!」
立ち上ったいかづちをかわすように、みんなでバラバラに魔法陣の上から散る。
「くっ……ゴメン、圭ちゃん! ちょっとだけ斉藤瞳を押さえておいて!」
「わかったわ! なんかいいアイディアがあるんだったら、なんでもいいから
やってちょうだい! 行くわよ、よっすぃー!!」
「ハイッ!!」
圭ちゃんとよっすぃーが斉藤瞳に向かっていく。
私は紺野の側に駆けよった。
「紺野!」
「あっ、安倍さん!」
「それで、考えってなにっ!?」
焦るあまり語気が強くなってしまって、ちょっと紺野がビクッと跳ねた。
「あの……安倍さん、ディスペルライト使えるんですよね?」
「えっ? うん、エクスカリバーを使えば」
爆音や金属音が響いてくる。
そっちも気になるが、圭ちゃんとよっすぃーを信じて、私は紺野のアイディアに耳を傾ける。
- 581 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:28
- 「でしたら、斉藤瞳にディスペルライトを当ててみてください!」
「えっ……?」
ディスペルライトは魔法を無力化する魔法。
魔法陣にかければその魔法をかき消すことができるし、人にかければその人にかかっている
補助魔法を解除することができる。
「でも……斉藤瞳は特になんの補助魔法も使ってないように見えるけど……」
「かけてみればわかると思います。隙は私たちが作りますから、お願いします!!」
「あっ、紺野!」
それだけ言い残して、紺野も斉藤瞳へと向かって行ってしまった。
よくわからないけどあの紺野の考えだ。試してみる価値はある。
エクスカリバーに意志を送り、魔法陣を作り出しつつ、斉藤瞳の動きを追う。
圭ちゃんのナイフをかわす。
紺野の魔法を相殺する。
よっすぃーのカタナをシールドで弾く。
「今だっ!!」
圭ちゃんのナイフによる追撃を斉藤瞳がかわした直後、作った魔法陣を放つ。
すると斉藤瞳の足下に、白く輝く魔法陣が浮かび上がった。
「ディスペル・ライト!!」
「くっ!!」
斉藤瞳はなんとか白い波動をかわした。
- 582 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:29
- 「かわした!?」
おかしい……。
ディスペルライトはさっき一回使ったので、魔法のエフェクトはわかってるはず……。
それなのにかわしたってことは、斉藤瞳にはなにかの魔法がかかっていて、
しかも無効化されると都合が悪いってことで……。
「やっぱり!!」
紺野が叫んだ。
これで何かの確信を得たらしい。
私のほうをチラッと見て、アイコンタクトをしてくる。
でも私だってわかってる。
絶対斉藤瞳にディスペルライトを当ててやる!!
また魔法を構築しつつ、動きを追う。
紺野も今度は積極的に、斉藤瞳の動きを封じにいってる。
蒼い魔法陣が輝き、大気が凍る。
斉藤瞳は逃げるが、紺野も追いかける。
いたるところに氷の塊ができていく。
- 583 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:30
- 「はあっ!!」
よっすぃーも狙いを脚に変えたようで、カタナを地面スレスレに振るう。
風が渦巻き、よっすぃーが吹き飛ばされたが、それと同時に氷塊の上で
待ちかまえていた圭ちゃんが、ナイフを握り斉藤瞳に向かって飛びかかった。
「なっ!?」
完全に意表をつかれたにもかかわらず、斉藤瞳は圭ちゃんの攻撃をギリギリでかわした。
が、圭ちゃんのナイフが床に突き刺さった瞬間、斉藤瞳の動きが止まった。
「なにっ!? バカな……」
「自分の身体は逃げられたみたいだけど、影は逃げ遅れたみたいだね? なっち、今だっ!!」
魔法陣を放つ。
斉藤瞳の足下に魔法陣が浮かび上がる。
「ディスペル・ライト!!」
今度こそ、白い波動が斉藤瞳を包みこんだ。
「うわあああぁああっ!!」
白い波動の中から斉藤瞳の悲鳴が聞こえてくる。
私はその様子を呆然と見ていた。紺野も、圭ちゃんも、よっすぃーも。
でも……ディスペルライトには攻撃力は全くないはずなんだけど……。
- 584 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:32
- やがて波動が止んで、魔法陣が消えた。
その中から無傷の斉藤瞳が出てきた。
でも無傷なはずなのに、斉藤瞳はその場に倒れた。
「えっ……なんで?」
私も圭ちゃんもよっすぃーも、まったく状況が飲み込めなかった。
ただ一人、紺野だけは確信に満ちた顔をしていた。
でもそれは、決して嬉しいというわけではなく、むしろ苦痛に溢れていた。
「紺野、どういうこと?」
圭ちゃんが紺野に詰め寄る。
私とよっすぃーも紺野に歩み寄った。
「斉藤瞳には魔法がかかっていたんですよ……ずっと……」
「魔法って……どんなよ?」
「マリオネットスレッドという……闇の禁呪魔法です……」
「まりおねっと・すれっど!?」
聞いたことのない魔法だ。
圭ちゃんでさえ首を傾げているんだから、きっとよっすぃーなんてチンプンカンプンだろう。
「それって、どんな魔法なの?」
「かけた相手を自分の思うがままに操る魔法です。相手の脳を支配して、言動や行動はもちろんのこと、
自分の魔力を送り込み、かけた相手を経由して魔法を使わせることもできる、まさに自分の操り人形に
してしまう魔法です……。禁呪魔法の中でも最も邪道で、最も難易度が高い魔法の一つです……」
「ていうことは……斉藤瞳はずっと操られてたってこと!? でも、そんなこと誰が……」
「一人いるじゃないですか? いや、一人しかいないじゃないですか、そんな魔法を使えるのは……」
「……まさか……」
圭ちゃんの顔が驚愕の色に染まった。
きっと私も同じ顔をしているのだろう。
「実際に私はその魔法で操られていた敵兵を見たんです。だから斉藤瞳を操っていたのも……
飯田さんに間違いありません」
- 585 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:33
-
◇ ◇ ◇
『フフッ、ご名答!』
急に室内に声が響いた。
そして次の瞬間には、私たちの足下に、闇色に光る魔法陣が現れていた。
「なっ!?」
逃げる時間もなく、魔法陣は闇色の穴に変わった。
そして身体が動かなくなり、その穴へと引きずり込まれる。
「うわっ! くっ!!」
もがいてももがいても身体は沈んでいく。
そして完全に私たちは闇色の穴へと吸い込まれてしまった。
「わわっ!!」
でもすぐに、私たちは放り出された。
どさっと固い地面に落とされる。
- 586 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:34
- 「うぅ……」
「な、何が起こったの……?」
目を開けると眩しい光が目に差し込んでくる。
そして肌に感じる、吹き抜けていく風の流れ。
外……?
でもただの外というわけでもなかった。
空は近く、そして森が眼下に見える。
辺りを見渡してようやくわかった。ここはロマンス王国城の屋上なのだ。
そして屋上の片隅に、一人の女性が立っていた。
「フフッ、よく見破ったね。カオリの教えはちゃんと紺野の知識となってたってことか。
カオリは嬉しいよ」
「斉藤瞳がエンゼルフェザーを使ってたのでわかったんですよ。あれは飯田さんが
編み出したオリジナルスペルですから」
やっぱり……この人が……
世界最強の魔法使いであり、斉藤瞳を操っていた黒幕、飯田圭織……。
- 587 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:35
- 「あまりオリジナルスペルは人に教えない主義でしたからね、飯田さんは……」
「紺野みたいに才能があれば別だけどね。カオリは自分の作品を他人に
ガサツに使って欲しくないの。ほら、カオリって根っからの芸術家タイプだから」
それだけ言うと、飯田圭織はくるっと後ろを向いた。
長い黒髪が風に流されて舞った。
「ねぇ、紺野。この場所は気に入った? ここはカオリの一推しのスポットよ」
「……はっ?」
「カオリはね、ここから見える景色がとっても好きなの。あなたたちも死ぬならステキな
場所がいいかと思って呼んであげたわ。いい場所でしょ? 空はどこまでも青く、
森は緑に輝いている。こんなに静かでポカポカした日にはお昼寝したくなっちゃうわ」
「えっ……?」
何かが引っ掛かった。
おかしい。どこか違和感がある。何かがふさわしくない。
飯田圭織は喋り続ける。
「それに今日はステキなオブジェが加わってくれた。とっても芸術的よ」
「!!」
違和感の正体がわかった!
私は慌てて屋上の端まで駆けよる。
紺野も気付いたようで、私のあとに続いた。
城の外では今も戦いが繰り広げられているはずなんだ!
こんなに静かなのはおかしすぎる!!
- 588 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:35
- 屋上の端に立ち、下を見る。
そして私は言葉を失った。
「なっ……」
紺野も同じように下を覗き込み、同じように絶句した。
「ステキな魔法を創ったわね、紺野。クリスタルアブソリュートと言ったかしら?」
「まさか……一回見ただけで会得するなんて……」
紺野が震える声で呟いた。
街を覆い尽くすくらい巨大な、蒼く輝く魔法陣。
その上にいくつもの氷柱が並べられていた。
そしてその氷柱の中には人間が閉じこめられていた。
- 589 名前:第24話 投稿日:2005/04/26(火) 15:36
- 「フフッ」
背後で笑い声が聞こえた。
そして魔力の集まる気配もする。
後ろをふり返ると、飯田圭織が真っ赤な光球を手に作っていた。
慌ててエクスカリバーをかまえたが、その前に飯田圭織が動いた。
ポイッと光球を放り投げる。
光球は私たちの頭の上を通り越していった。
「えっ?」
思わずみんな光球を目で追った。
光球は屋上を飛び出し、下へと堕ちていく。
そして魔法陣の描かれている地面に落ちる瞬間に……
ドンッ!!
「なっ……!?」
爆発した。
その衝撃でいくつもの氷像が砕け散り、破片がキラキラと舞った。
「弱いというのは、儚いものね……」
飯田圭織の澄んだ声が、風に運ばれてくる。
「だから……せめて最期は、華々しく散りなさい」
- 590 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/04/26(火) 15:43
- 今回はここまでです。
そろそろラストスパートって感じですねぇ。
なにやら全国各地でなちごまがイチャコラしまくりなようで(笑
なっちも抱きしめてあげてください、ごっちん!!(マテ
>>566 七誌さん 様
はい、もう矢口さんはほんとにいいキャラになってくれました!
まさに友情の勝利ですねぇ。
>>567 春嶋浪漫 様
楽しく読んでいただけたようで、ありがとうございます。
寝不足にはご注意くださいませ。
>>568 名無飼育さん 様
そろそろ本格的にラストになってきました。
ごっちんほとんど出てきてませんが、ちゃんとなんかしらの形で出てくる予定ですので。
最後までお付き合い下さいませ。
- 591 名前:七誌さん 投稿日:2005/04/26(火) 16:33
- 更新乙っす!
ついにラストバトルっすね!
まさか黒幕があの人だったなんて・・・。
そして結構怖い・・・。
みんなは勝てるかな・・・。
- 592 名前:みっくす 投稿日:2005/04/27(水) 06:20
- 更新おつかれさまです。
ついにここまできましたね。
それにしても黒幕があの人だったとは・・・
あの20話の最後の魔方陣はこれだったんですね。
次回も楽しみにしてます。
- 593 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/04/27(水) 19:52
- 更新お疲れ様です。
いよいよ黒幕との戦いですね。
どのくらいの強さなのか・・・
使っている魔法も強力で不気味な感じです・・・
次回更新も楽しみに待ってます。
- 594 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:17
- 〜松浦亜弥〜
ヒュン、と剣が旋回する。
なんとか私も自分の剣で防御する。
同じデザインの剣が交差して静止する。
「まだミキと戦うのに迷いがあるみたいだねぇ、亜弥ちゃん」
「ううん、もう迷いはないよ」
突き出された剣を、体を反らしてかわす。
さらに連続で突き出されるけど、それは剣をあわせて弾く。
「そのわりにはさっきから受けてばっかりじゃない? とても戦う気があるとは
思えないんだけど?」
「みきたんと戦う気はない。それでもみきたんをここに留めておくことはできる。
そのあいだに安倍さんたちが斉藤瞳を倒してくれれば、ハロモニランドの勝ちだよ!」
「……なるほど」
みきたんがニヤッと笑った。
私は相変わらずの無表情でみきたんを見つめる。
- 595 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:18
- 「戦争が終わるまで、みきたんはここで松浦と剣の特訓だよ」
「ふ〜ん。でも残念ながら、ミキに特訓なんて必要ないよ。だって……」
「えっ?」
一瞬にしてみきたんの身体が消えた。
目だけでは追いきれず、気配の変化でなんとかみきたんの動きを察した。
みきたんは一瞬で私の真横へ移動していた。
うそっ!? みきたんはこんなに速く……
「もう亜弥ちゃんが抑えきれないほど、ミキは強いんだから!!」
「うわっ!!」
振り下ろされた剣をなんとか受けとめる。
だけど次の瞬間には、衝撃で私の身体は吹っ飛ばされてた。
「がはっ!!」
柱に背中からぶつかり、ずるずると崩れ落ちる。
力も……なんでこんなに強く……?
- 596 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:18
- 「フフッ、どうしたの、亜弥ちゃん? それじゃミキを抑えられないよ?」
「くっ……」
なんとか立ち上がろうとした私の目の前で、みきたんの手からポタッと血が一滴落ちた。
えっ……? なんで私は攻撃しかけてないのに、みきたんが傷ついてるの!?
「なんかみんなやられちゃったみたいだから、ミキの仕事が増えちゃったんだよね。
だからさっさとやられてくんない?」
みきたんの身体が疾走し、剣が振り上げられる。
なんとかかわすと、みきたんの剣が地面を砕いた。
ポタッ……。
みきたんの手から血が零れる。
今度はさっきよりも多く……。
なんで……? 私は攻撃してない!
あれっ……? でもまって……
確か、アカデミーで習ったことが……。
って、まさかっ!?
- 597 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:19
- みきたんが剣をかまえて迫ってくる。
なんとか剣で受けとめ、あるいはかわす。
そのどれも速くて重いが、攻撃するたびにみきたんの身体が傷ついてく。
やっぱりそうだ、リミッターが外れてるんだ!
通常人間の体は持ってる力の100%を発揮することはできない。
自分の身体が壊れるのを守るために、リミッターがついている。
みきたんはそのリミッターが外れた状態になってるんだ……。
でも自分じゃそんなことできるわけがない。
だとすると……もしかして……
だれかに……操られてる……!?
「ほらほら、ぼやっとしてられる余裕なんてないでしょ!?」
「やめて、みきたん! みきたんの身体が壊れちゃう!!」
「それなら亜弥ちゃんがさっさとやられてくれればいいんだよ!!」
「みきたん!!」
剣をあわせて捌いていくけど、そのたびにみきたんの身体が壊れていく。
ダメだ……このままじゃ、みきたんが……!
剣をグッと握りしめる。
- 598 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:20
- 「そぉら!!」
「くぅ……!」
でもどうしてもみきたんに剣を向けることができない。
結局はみきたんの剣を受けとめるだけ……。
みきたんと戦うなんて……私には……
「ほらほらぁ、亜弥ちゃん、張り合いがないとつまんないよ!」
みきたんが剣を振るたびに、身体は傷ついていく。
どうしよう…どうしよう……。
私が戦っても戦わなくっても、結局みきたんは……。
剣を握る手が震えた。
「みきたん! 自分を取り戻して!!」
「なに言ってんの、亜弥ちゃん、訳わかんない……」
「嘘っ! その言葉も操って言わせてるんでしょ!!」
一瞬の間が空いた。
そしてみきたんは笑った。
それはよくできた作り物の笑顔。
- 599 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:20
- 「よくわかったねぇ、さすが亜弥ちゃん」
「それ以上みきたんの身体を、言葉を使うのは許さない!!」
「だったら、どうするっていうの?」
みきたんの剣が襲いかかってくる。
震えた剣では攻撃を完全には受けとめきれず、私の身体にも傷が付いていく。
「みきたん、いつものみきたんに戻ってよ!!」
「無駄だよ、この魔法は絶対に解けない!!」
「キャッ!!」
みきたんの剣が私の剣を弾き飛ばす。
だけでなく、私の身体もそのまま後方に吹き飛んだ。
「うぅ……」
「終わりだね、亜弥ちゃん」
みきたんの剣がすっと喉元に突き付けられる。
「みきたん……戻って……」
「もう聞き飽きたよ」
剣がすっと上段にかまえられる。
みきたんの、色を失った瞳が私を見下ろしている。
- 600 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:21
- 「じゃあね!!」
振り下ろされる剣。
私の目から涙が零れ……
そして気持ちも溢れた。
「いつもの……松浦が大好きなみきたんに、戻ってよぉー!!」
「!!?」
剣は寸前で止まった。
みきたんがふらふらっと私から離れる。
「みきたん……?」
「……く…ぁあぁぁああっ!!」
そして急にみきたんはその場に崩れて苦しみだした。
「みきたん!!」
慌てて駆けより、震えてる身体を抱きしめる。
- 601 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:22
- 「……亜弥ちゃん……」
「えっ!?」
それは同じ声だけど違っていた。
思わず身体を離して、みきたんの顔を覗き込む。
みきたんの目にはしっかりと色が映っていて……
「……助けて……亜弥ちゃん……」
「みきたん!?」
でもその直後に身体が突き飛ばされた。
私の目の前でみきたんが立ち上がり、剣をかまえる。
「まったく、もうちょっとだったのになぁ」
声も瞳も変わってしまっていた。
でも、みきたんの気持ち、届いた。
剣を拾い、立ち上がってかまえる。
手はもう震えていなかった。
「あれぇ、亜弥ちゃんやる気? 亜弥ちゃんにできるの?」
「できるよ」
剣を振り上げて向かっていく。
みきたんも完全に意表をつかれたようで、なんとか紙一重でかわした。
私はそのまま攻撃を続ける。
- 602 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:22
- みきたんを殺さずに止めるのなら、狙えるのは一点だけ。
失敗は許されない。
でも……絶対に助けてあげるから!!
「くっ!!」
みきたんの渾身の力がこもった剣が振り下ろされる。
私はそれをかわすと同時に走り出す。
そしてみきたんの脇を通り抜けた。
「……ゴメンね」
剣を滑らせ、腕の神経を切り裂く。
手応えはあり。
みきたんの右腕が、糸が切れたようにぶらりと垂れ下がった。
「な、何を……?」
すぐに切り返し、今度は逆側を通りすぎる。
その瞬間に、左腕の神経も切る。
これでもう戦えない!
操り続けたって、もうなんのメリットもないだろう。
最後にもう一度切り返しをして、みきたんに向かっていく。
- 603 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:23
- 「うわああぁぁあっ!!」
「がっ!!」
剣の柄がみきたんの腹部にめり込んだ。
「……ありがと、亜弥ちゃん……」
「みきたん!?」
しばらくしたあとでみきたんの身体から全ての力が抜ける。
私は崩れ落ちたみきたんの身体を抱きかかえた。
「ゴメンね、みきたん。戦いが終わったら、松浦から姫様に頼んで治してもらってあげるから。
だから今だけはちょっとこのままで眠ってて?」
みきたんを廊下の隅に寝かせる。
もう気付いてもみきたんは戦えない。
操る価値もなくなったわけだし、どうやら傀儡も解かれたみたい。
その証拠に眠るみきたんの顔は、半目は開いてたけど笑顔だった(ちょっと怖いな……)。
「みきたんを操ってた人……絶対許さない!」
剣を鞘に収めて立ち上がる。
するとその瞬間、城の外で爆音が響いた。
「なにっ!?」
思わず引き返そうと思ったけど、城の外はそれっきりは全くの静寂だったし、
かわりに上の方から、微かに物音が聞こえてくる。
そっちか……。
私はそのまま廊下を進んだ。
- 604 名前:第24話 投稿日:2005/05/04(水) 11:23
-
- 605 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/05/04(水) 11:30
- 今回はここまでです。
前哨戦は全て終了って感じで。
次回からは本当のラストバトルに入ります。
>>591 七誌さん 様
はい、真のラスボスはカオリンでした。
ずいぶんとキレたキャラになってますが、ラストバトルお楽しみください。
>>592 みっくす 様
20話の魔法陣はまさしくその通りです。
黒幕との最終決戦は次回から!
>>593 春嶋浪漫 様
はい、ようやくラストまで来た気がします。
一応カオリンはかなり強いですよ!
- 606 名前:七誌さん 投稿日:2005/05/06(金) 15:47
- 更新乙ー。
うぉぉ・・・亜弥サン強いですねぇ;
ラストバトルはどうなるんだろう・・・。
そして最後の爆発は何を表しているのか・・・。(ネタバレだったらスイマセン)
- 607 名前:みっくす 投稿日:2005/05/10(火) 01:57
- 更新おつかれさまです。
さあ、いよいよ決戦ですね。
次回楽しみにしてます。
- 608 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 20:56
- 〜紺野あさ美〜
サラサラと舞っていた
砕かれた氷の破片
キラキラと輝いていた
ヒトだった欠片
あの日見た雪のように
あなたが降らせた雪のように
あの日の雪は優しかったけど
今日の雪は
とても冷たい
- 609 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 20:56
-
第25話 皇帝の十字架
- 610 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 20:57
- 飯田さんの魔法が落ちたところに雪が舞った。
私たちはその様子を呆然と見ていた。
雪はサラサラと舞い散って、あとには何も残っていなかった。
そこにあったいくつもの氷像が消滅していた。
敵の兵士もいたけど、もちろん、ハロモニランドの兵士もいて……。
しかも下では私の5番隊や、愛ちゃんやのんちゃんたちも戦っていたのに……。
「フフッ、キレイだったでしょ、紺野。まるで雪みたいで。この辺は降らないからなおさらねぇ」
飯田さんの声を背中に受けながら、ようやく私はふり返った。
「……愛ちゃんや……のんちゃんは……?」
「ん〜?」
声も身体も震えていた。
「私の……友達は……?」
「あ〜、まぁ、混ざってたかもねぇ?」
感情よりも先に身体が動いた。
飯田さんに向かって駆け出し、そして一気に魔力を集める。
「紺野ッ!!」
安倍さんの声も耳には入っていたけど、頭は認識してなかった。
魔力を一気に展開する。
紅い魔法陣ができあがった。
- 611 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 20:58
- 「許さないっ!!」
「お〜、紺野そんな大きな声出たんだぁ」
「ドラゴニック・ファイアー!!」
魔法陣から炎の竜が現れる。
周囲に熱風をまき散らし、飯田さんへと翔ていく。
「うわっ!!」
安倍さんの悲鳴が聞こえた。
どうやら熱風に当てられたみたいだけど、今の私はかまってる心の余裕は残ってない。
心は全てが飯田さんへの怒りで溢れていた。
「へぇ、召喚魔法か。カオリが教える前に出て行っちゃったのに、独学で覚えるなんて
さすが紺野だね」
飯田さんは向かってくる炎の竜をヒラリとかわす。
でも私は魔法を操って、飯田さんを追いかける。
「召喚魔法とは特定の形を形成することによって、魔法の威力と継続時間を飛躍的に高める
高等技法。しかも放ったあともある程度魔法を操ることができる。これ、確か紺野が出て行っちゃう
ちょっと前に教えたことだよね? しっかりと身につけてたんだ、エライエライ」
襲いくる炎の竜をかわしながらも、飯田さんはまだ笑顔で会話を進めている。
でもヒラヒラと舞っているあいだにも、魔力が集まっていっているのに気づく。
- 612 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 20:59
- 「でもね、紺野……」
まるで何年も前に戻ったかのように、弟子に魔法を教えるかのような口調で
飯田さんは話し続ける。
「一つ、魔法使いは常に冷静でなくてはいけない。これもちゃんとカオリは紺野に教えたはずだよ?
そしてもう一つ、紺野に使えてカオリに使えない魔法はないんだよ?」
飯田さんの前に魔法陣が広がる。
でもその魔法陣は紅ではなく、蒼。
「そしてついでにもう一つ、カオリは紺野の使えない魔法も使えるんだよ? 紺野は昔から
炎系が一番得意だったから召喚魔法も使えるんだろうけど、他の属性は無理でしょ?」
魔法陣が蒼く輝く。
「ドルフィン・レイブ!」
魔法陣から溢れ出した水がまた集まって形を作っていく。
その形は海に住むという哺乳類、イルカ。
「そんなもの……飲み込め!!」
炎の竜が水のイルカに向かって翔る。
「貫け」
飯田さんも水のイルカを真っ向から放つ。
炎と水がぶつかった。
- 613 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:00
- 水蒸気が場を包みこむ。
そして竜がイルカを呑み込んだ。
「やった!」
でも喜んだのは一瞬だった。
竜の形を作っていた炎がだんだんと消えていく。
「えっ……?」
そして崩れた炎の中から、透き通ったイルカが飛び出した。
「まだまだだねぇ、紺野。魔法で大事なのは威力よりも相性よ。これもちゃんと教えた
はずなんだけどなぁ?」
水のイルカは優雅に空中を泳ぎ、飯田さんの周りを旋回する。
飯田さんがすっと腕を伸ばすと、まるで戯れるように、飯田さんにすり寄った。
「さて、じゃあ後学のためにもう一つくらい見せておこうか?」
飯田さんがもう一度手を伸ばすと、イルカは一瞬でただの水に戻った。
そしてかわりに黄色く輝く魔法陣が現れる。
「サンダー・タイガー!」
魔法陣から溢れた雷が形を作る。
でもその形が何であるか判別する前に、雷はすでに走っていた。
虎っ!?
わかったときには雷の虎が私を貫いていた。
- 614 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:01
- 「あああぁぁああっ!!」
身体が痺れ、目の前がスパークする。
全身くまなく蝕まれ、私はその場に倒れ込んだ。
「ほぉら、もう一発」
視界の片隅で、バチッバチッと雷が横切る。
屋上を走り回っていた雷の虎が、もう一度私に向かってきた。
「紺野ッ!!」
安倍さんの声が聞こえた。
その瞬間に、向かってきていた雷の虎が切り裂かれた。
そのままバチバチッと空気を振るわせて、大気中に霧散する。
「紺野、大丈夫!?」
「はい……なんとか……」
といってもまだ身体は痺れが残っていて、動くことはできなそう。
保田さんに抱きかかえられて、なんとか体を起こす。
「ふ〜ん、エクスカリバーか。魔法を無効化するなんて、やっかいな魔剣だねぇ」
飯田さんが一歩、二歩と近づいてくる。
私たちの前に安倍さんと吉澤さんが立ち、剣を飯田さんに向ける。
- 615 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:02
- 「まぁ、それなら戦い方を変えるだけだけど」
飯田さんはクスッと笑って、手をかざした。
するとそこにまた魔法陣が浮かび上がる。
でも今度の魔法陣は紅でも蒼でも黄色でもなく……闇色。
あれは……闇魔法!?
「ダークサークルって、知ってる、紺野?」
「ダークサークル!?」
「シャドウホールの強化版……というかシャドウホールの闇バージョンって言った方がいいか。
シャドウホールは自分や仲間を送るだけだったけどね、ダークサークルは呼び出すこともできるんだよ」
闇色の魔法陣が闇色の穴へと変わる。
あれは……
「そう、紺野たちをここへ呼び寄せたときもダークサークルを使ったの。こんなふうにね」
空間を切りとってできあがった闇色の穴が渦を巻く。
そしてその中から無数のモンスターが飛び出してきた。
- 616 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:03
-
◇ ◇ ◇
〜安倍なつみ〜
「うわっ!!」
私のほうへと飛んできた、異形のモンスターの攻撃をかわす。
かわしざまにエクスカリバーを振るい、モンスターを切り落とす。
どさっと地に落ちたモンスターは見たこともないモンスターで。
「あー、ウザイ!!」
よっすぃーもカタナを振るってモンスターを倒しているけど、それでも周りにはまだ無数の
モンスターが群がっている。
圭ちゃんもナイフで援護してくれてるけど、紺野を守りながらだとやっぱりちょっと辛そう。
「圭ちゃん、魔法でなんとか一掃できない?」
「したいところなんだけどねぇ……ちょっとアヤカとの戦いで一発大魔法を使っちゃって……。
もうあんまり魔力が残ってないんだよ……。紺野みたいに桁外れに大きい魔力を持ってる
わけじゃないし……」
「紺野は……?」
「すいません……まだちょっと身体が……思うように動かなくて……」
「わかった。じゃあなんとか持ちこたえるから、回復したらお願いね」
「はい……」
右手に剣をかまえ、左手には魔力を集める。
光魔法を使ってもいいけど、光魔法はもともとが回復用の魔法だから、あまり攻撃魔法の種類がない。
- 617 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:04
- 「くっ!」
とりあえず一番近くにいたモンスターを斬り捨てる。
するとその向こうには別の巨大なモンスターがいた。
太い腕が棍棒を握っている。
確か、トロールというモンスターだ。
ダッと、トロールに駆けよる。
こいつは確かに力は強いけど、動きは鈍くて頭もバカだ。
実際簡単に後ろに回り込み、背中に一太刀浴びせる。
『ガアアァアアッ!!』
トロールがゆっくりと振り向いて棍棒を振り上げる。
でもそんなのろい攻撃当たるわけがない。
棍棒を楽々かわしながら魔法陣を組み立てる。
ちまちま相手にしてられない。一気に決める!
「ライトニング・ボルテックス!!」
魔法陣から放たれた雷撃が次々にトロールへと突き刺さっていく。
見事に全部命中して、トロールは轟音をたてて倒れた。
- 618 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:04
- 「次はどいつだ!?」
モンスターを切り裂きながら進んでいくと、今度は巨大なニワトリのモンスターが現れた。
だが普通のニワトリと違うのは、尻尾が蛇になっていて。
ニワトリの首がすっと反った。
な、なんだ……?
「なっち、避けて!!」
不意に圭ちゃんの声が聞こえた。
慌てて横に飛ぶと、そこにニワトリの口からブレスが吐き出される。
私の後ろにいたモンスターがブレスを浴び、その瞬間に石となって倒れた。
「なっ……?」
「なっち、そいつはコカトリスだ! コカトリスの吐息は全てを石化させるよ!!」
「わかった、ありがと!」
また吐き出される吐息をかわしながら距離をつめていく。
吐息の合間にも鋭いかぎ爪や、蛇の尻尾が襲ってくる。
でも、この辺りに生息していないとはいえ、結局はただのモンスター。
もう1対1ではモンスターに劣るようなレベルではないのであって。
何回か攻撃をかわし、そのあとの一閃で、確実に首を吹き飛ばした。
「ふぅ……」
でも一息ついてる暇はなくて。
上空から鋭い殺気が迫ってくる。
慌てて後方に飛ぶと、目の前に現れる黒い影。
そのモンスターの形は、唯一見覚えがあった。
- 619 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:07
- 「ガーゴイル……」
ロマンス王国との戦争が始まる少し前、秘密基地で戦ったモンスター。
ガーゴイルもこの近くに生息しているモンスターではなくて。
まさか……。
モンスターの群れの向こうで優雅に佇んでいる飯田圭織を睨む。
「まさか、あの時のガーゴイルもお前がっ!?」
「うふっ、その通り。最初はモンスターの大群にハロモニランドを襲わせようかって考えて
たんだよねぇ。でもあなたたちはなかなか強かったから。予定を変更して『ロマンス王国』を
ぶつけてみたのよ」
得意げに話す飯田圭織に、怒りがメラメラと燃え上がってくる。
また襲ってきたガーゴイルを一振りで斬り落とす。
「なぜっ!? お前はなぜハロモニランドをっ!?」
「……それは、光を手に入れるためよ」
「光?」
「そう」
また闇色の魔法陣が広がって、闇の穴に変わる。
そこからさらにたくさんのモンスターが飛び出した。
「カオリはどんな魔法でも使える。遙か昔に滅びたと言われていたこの闇魔法も使える。
でも光魔法だけは使えないのよ。だからそれを手に入れに来た。でもくださいって言って
くれるものでもないでしょ? だから奪い取ることにしたの」
「……そんなことのために!」
「そんなこと?」
飯田圭織の顔から微笑が消えた。
それは初めて見る表情だった。
完全に凍り付いた瞳が全てを貫くように見据えている。
- 620 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:08
- 「『そんなこと』じゃないわ。カオリは何を犠牲にしても、光魔法を手に入れなければいけないの」
背筋がゾクッとした。
こんな冷たい殺気を感じたのは初めてだ。
でもそれも一瞬だった。
飯田圭織はすぐに微笑を顔に戻した。
「だからさっさとくたばってくれると、カオリ的にはすっごくありがたいんだけどなぁ!」
飯田圭織が手を伸ばすと、いっせいにモンスターが襲いかかってくる。
なんとか一匹ずつ倒していくけど、いかんせん数が多すぎる……。
「くっ、モンスターも操れるのか……?」
「その通り。人間を操るよりも簡単よ。モンスターは人間よりもずっと純粋だからね。
ちょっと闇をあたえてあげれば……この通り」
急に日光が遮られた。
上空を睨むと、そこには巨大なドラゴンが舞っていた。
ただそれも普通のドラゴンではなく、いたるところが腐敗していて、骨がむき出しになっている。
それでも動いているこいつは確か……アンデッドの竜、ドラゴンゾンビ!
- 621 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:09
- ドラゴンゾンビが空を滑空して向かってくる。
突き出された爪をかわしつつ、足を斬り飛ばしたが、ドラゴンゾンビは平然とまた
宙へと昇っていく。
アンデッド系のモンスターはバラバラにされて再起不能になるまで戦い続ける。
くっ、めんどくさい相手だな……。
またドラゴンゾンビが向かってくる。
私も剣をかまえたが……
「ファイア・スピリット!!」
その時私の横を、炎を帯びたナイフが通り抜けた。
ナイフはドラゴンゾンビに突き刺さり、たちまち炎が立ち上る。
「圭ちゃん、ありがと!」
「お礼はいいから! それにそんな雑魚いくら倒したって何も変わらない! 大本を絶たないと!!」
「わかってる!!」
エクスカリバーに意識を集中する。
それに応えるように、エクスカリバーが光り輝く。
モンスターの群れが向かってくるが、そこに向けてエクスカリバーを突き出す。
「ホーリー・ランサー!!」
真白い波動がモンスターの群れをかき消す。
そしてその向こうの、闇の穴を抱えた飯田圭織へと向かっていく。
- 622 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:10
- 「フフッ、甘いわね。こんなものじゃカオリは捕えられないよ?」
飯田圭織は光の波動をヒラリとかわしたが……
「はあっ!」
「むっ?」
かわした先にはよっすぃーが待ち受けていた。
カタナを振るって飯田圭織に斬りかかっていく。
「くっ……」
飯田圭織もシールドで弾いたりかわしたりするが、完全に押されていて、まったく反撃に移れない。
さすがよっすぃー。剣の腕は王宮騎士ナンバー1と言われるのもわかる。
そして、そのよっすぃーに勝るとも劣らない、もう一人の剣の使い手が……
「やっと追いつきました〜!」
「!?」
飯田圭織の背後からもう一本の剣が突き出される。
綺麗な装飾の入った細身の剣。
あの剣は……
「松浦っ!!」
「みなさん、おまたせしました!!」
松浦の剣が疾る。
よっすぃーのカタナが舞う。
さすがの飯田圭織もあの二人の波状攻撃は防ぎきれなくて……
「つあっ!」
よっすぃーのカタナが飯田圭織の足を掠めた。
動きが一瞬止まる。
今だっ!!
エクスカリバーをかまえる。
- 623 名前:第25話 投稿日:2005/05/10(火) 21:11
- 「ディスペル・ライト!!」
光の魔法陣から溢れ出した白い波動が飯田圭織を包みこんだ。
闇の穴が跡形もなく消え去る。
「やった!」
「ナイス、なっち!」
屋上にいたモンスターたちも、圭ちゃんとようやく痺れのとれた紺野が片づけてくれたみたい。
残すは飯田圭織のみ。
いったん五人集まって、飯田圭織と対峙する。
「ここまでよ、飯田圭織」
「フフッ、なかなかやるわね。まさかここまでやるとは思ってなかったわ。ちょっと計算ミス」
さすがにおとなしく降参するようなことはないらしい。
でもこっちはハロモニランドの精鋭が五人だ。
いくら飯田圭織でも……
「さて、カオリはあんまり自分の手は汚したくないんだけど、しょうがないね。ちょっとだけ
本気を出しちゃおうか?」
飯田圭織がすっと手を突き出す。
するとそこに黒く輝く十字架が現れた。
「あれはっ!!」
背後で紺野の叫び声がした。
- 624 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/05/10(火) 21:20
- 今回はここまでです。
ラストバトル、本格始動。
ズイヴン昔の謎解きなんかもありましたが、覚えてますか?(汗
>>606 七誌さん 様
ラストバトルは今のところこんな感じです。
爆発は一応前々回のラストでカオリンが使った魔法です。
>>607 みっくす 様
いよいよ最終決戦が始まりました。
でも今回は一応ここまでで。
- 625 名前:konkon 投稿日:2005/05/11(水) 00:42
- ぬぉ〜、飯田さん強い・・・。
とうとう最終決戦突入ですね!
ここからどうなるのか、更新待ってます。
- 626 名前:みっくす 投稿日:2005/05/11(水) 16:49
- 更新おつかれさまです。
最終決戦突入ですね。
魔法バトルも全開で、おいら的にはいい感じです。
序盤のガーゴイル来襲の謎はここに行き着くのですね。
- 627 名前:七誌さん 投稿日:2005/05/11(水) 17:12
- 更新乙津ー。
ついに最終決戦ですね。
飯田さん強いし・・・みんな大丈夫かな。
ってかみんなすごすぎ・・・見入っちゃいました。
- 628 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/05/11(水) 18:55
- 更新お疲れまでス。
おお〜最終決戦らしいバトルが次から次へと・・・
ん〜〜自分の頭がついていけるかどうか心配なくらいです。
まっ、大丈夫でしょう。更新頑張ってください。
- 629 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:33
- 〜紺野あさ美〜
私のふるさとの想い出はいつも雪が降っていた。
ハロモニランドの遙か北にある雪国。その国境沿いの小さな街。
そう、あの日も雪だった。
真っ白い雪原の上にいくつもの赤い花が咲いていた。
赤い、紅い、朱い花。
ある花は天へと昇るように、その肢体をゆらめき揺らし……
またある花は地へと染みこむように、花弁をゆっくりと雪の上に開く。
あの日……私のふるさとが地図から消えた日……。
- 630 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:34
-
◇ ◇ ◇
長きにわたった戦争が終わっても、アップフロント大陸のすべての国が平和になった
わけではなかった。
内戦が続いた国もあれば、隣国と戦いを続けていた国もあった。
私の国も同じ。
一度始めてしまった隣国との争いは、戦争が終結した後も続いていて。
そしてある日……
隣国の兵士たちが私の住む街に大軍で侵攻してきた。
「うわぁぁぁああッツ!!」
「お父さん!!」
いくつもの悲鳴がこだまする雪の中、
私の目の前で、お父さんが新しい花になった。
- 631 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:35
- 「お父さん、お父さんっ!!」
「ダメッ! あさ美っ!!」
お父さんの亡骸に駆けよろうとする私の手をお姉ちゃんが必死に引き留める。
それでも前に進もうとする私の前に、敵の兵士が立ちふさがった。
「あさ美っ!!」
体がグッと引っぱられて、私の体は雪の上に倒れ込んだ。
ふり返って……そして見た。
飛び散る鮮血。
まるで紅い雪のように降り注いでいた。
「お姉ちゃん……お姉ちゃんっ!! いやぁぁぁああーッツ!!」
燃えさかる家の中にとり残されたお母さん。
目の前で殺されたお父さん。
そして今、私を守って死んでいったお姉ちゃん。
感情が一気に暴走した。
それと呼応するように体の奥からなにかが溢れてきて、弾けた。
お姉ちゃんを斬った兵士を睨みつける。
するとその兵士は、一瞬にして炎に包まれた。
- 632 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:36
- 「ウ、ギャァアアアッ!!」
もがいてももがいても炎は消えることはなく、敵兵は黒炭になって雪の上に落ちた。
「なっ……このガキ、魔法を使いやがった!」
「生かしておけば我が国の驚異になるかもしれん。殺せっ!」
敵兵がせまってくる。
でもまだ魔法を上手く操れず、今度は発動できなかった。
殺される!
そう思ったとき……
世界が暗転し、そして輝いた。
次の瞬間、見たものは、白い雪と漆黒の十字架。
そして十字架と同じ色をした長い髪をたなびかせている女性の後ろ姿だった。
- 633 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:37
-
◇ ◇ ◇
「うっ、うっ……お父さん…お姉ちゃん……」
お父さんとお姉ちゃんの亡骸の前で、私は泣き崩れた。
涙があとからあとから零れてきた。
そんな私の隣に誰かがしゃがみ込んだ。
ちょっとだけ顔を動かしてみると、それはさっき私を助けてくれた女性。
敵の兵隊を一瞬にして消滅させた、「飯田圭織」と名乗った女性。
「家族を殺した敵が、憎い?」
飯田さんは優しい声でそんなことを訊いてきた。
私はちょっと考えて首を横に振った。
「じゃあ……大好きな人を守れなかった自分の無力さが、悔しい?」
今度は首を縦に振った。
また涙が数粒零れた。
「そっか……」
飯田さんはそれだけ言って立ち上がった。
そして次に聞こえてきたのは、よくわからない単語の羅列だった。
思わず飯田さんの方を向くと、飯田さんの手のあいだに蒼白く光る球体ができあがっていた。
- 634 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:40
- 「エンジェル・スノー」
蒼白い球体が空に舞い上がる。
すると降っていた雪が強さを増した。
それでもどこか優しい雪がお父さんとお姉ちゃんの亡骸に舞い降りる。
そして廃墟となった街を包みこんだ。
「雪はいいよね。全てを無に還してくれる……」
ボーっと飯田さんを見ていると、飯田さんもそれに気付いたようで、私の方を向いた。
そしてそっと手を差し出した。
「カオリと一緒においで、紺野。カオリの強さを紺野に分けてあげる」
私はその手を取った。
そして降りしきる雪の中を私は歩き出した。
「……飯田さん」
「ん?」
「私、強くなれますか?」
「もちろん! 紺野だったらカオリの次に強くなれるよ」
- 635 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:41
-
◇ ◇ ◇
「あれはっ!!」
慌ててみんなの前へと走り出る。
そしてありったけの魔力を集める。
「紺野……?」
「みなさん、下がってください!!」
ふり向かずに言い放つ。
後ろを向くだけの余裕すらなかった。
だってあの魔法は……
あの、黒い十字架の魔法陣は……
「あの魔法は、飯田さんの最強魔法……!」
十字架が輝く。
「カイゼル・クロイツ!!」
- 636 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:42
- 漆黒の十字架から溢れ出す闇の波動。
風が裂け、大地が震える。
全てを押しつぶすような巨大な闇が私たちに向かって走る。
「アンチ・シールド!!」
全力でシールドを張る。
みんなを包みこむほど大きく、そして厚い魔法の盾。
そのシールドに闇の波動がぶつかった。
「うわあああぁぁあっ!!」
威力がシールドを通してもビリビリと伝わってくる。
それでも負けじと私もシールドを張り続ける。
ありったけの魔力を注ぎ込む。
そうでもしないとあの魔法は防ぎきれない。
カイゼルクロイツを見たのは後にも先にも、飯田さんに出逢ったときの一度だけ。
話を聞いたのも一度だけ。
飯田さんが編み出した、飯田さんの最強魔法。
でも私と逢ったときはまだ未完成だったらしい。
- 637 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:43
- 「く…あああぁああっ!!」
未完成でも私の街を襲った軍隊を一瞬にして消滅させたほどの威力。
完成されたカイゼルクロイツは当然それ以上の威力で。
でも……私だって飯田さんのもとを離れてから一生懸命努力して、強くなったんだ!
その全てをシールドに集め、飯田さんの最強魔法にぶつける。
「う…ぐ……」
それでもやっぱり押されている。
無尽蔵に吐き出される闇のエネルギーが私たちを飲み込むように押し寄せてくる。
視界が霞んでくる。
やばい……魔力が……。
もうダメかと思ったその時、闇が途切れた。
溢れた光の中に飯田さんが立ちつくしていた。
黒い十字架の魔法陣は跡形もなく消えていた。
一瞬のあと、私の張ったシールドも消える。
「や、やった……」
全身の力が抜けて、思わずその場に膝をついた。
「紺野!」
「紺ちゃん!!」
安倍さんたちが私のまわりに駆けよってくる。
- 638 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:43
- 「まさかカオリのカイゼルクロイツを止めるなんて、さすが紺野だね……」
「私だって……強くなったんです……」
ほとんど魔力を使っちゃったけど、それは飯田さんも同じだろう。
あんな大魔法何発も撃てるわけがない。
私はもう戦えなくても……あとは安倍さんたちが……
「カオリが認めただけはあるよ、紺野」
飯田さんが静かに笑った。
「50%じゃ、ちょっと失礼だったみたいだね?」
えっ……?
「じゃあ今度は、70%でいってみようか?」
漆黒の十字架が浮かび上がった。
うそ……
私の全力が……飯田さんの50%……?
- 639 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:44
- 「カイゼル・クロイツ!!」
闇の波動が放たれる。
ダメだ……また……
よろよろと前に出て、残った魔力を集める。
「アンチ……シールド……」
でも張られたシールドは薄く弱かった。
闇の波動を抑えられたのは一瞬で、シールドはすぐに消え去る。
「紺野」
飯田さんの優しい声が聞こえた。
「今度こそ、サヨナラ」
闇が私の全てを包みこんだ。
- 640 名前:第25話 投稿日:2005/05/17(火) 14:44
-
- 641 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/05/17(火) 14:54
- 短いですが、今回はここまでです。
ラストバトル本格化。
>>625 konkon 様
カオリンはやっぱりラスボスなので、それ相応の強さですねぇ。
最終決戦、もうちょっと続きます。
>>626 みっくす 様
魔法バトルはもうやりすぎってくらい全開ですね。
ガーゴイルはここまで引っ張りました。予定通りは予定通りなんですがね。
>>627 七誌さん 様
最終決戦です。
強いですよ、カオリン。
>>628 春嶋浪漫 様
はい、もうラストもいろんなバトルがたくさんです。
なんとかついてきてくださいませ。
- 642 名前:みっくす 投稿日:2005/05/18(水) 23:56
- 更新おつかれさまです。
それにしてもカオリンつえ〜〜〜〜〜。
どうなるのでしょうかね。
次回も楽しみにしてます。
- 643 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/05/22(日) 20:53
- 更新お疲れ様です。
No.1とNo.2の対決も・・・
やはり、魔法ではかなう人がいませんね。
ん〜どうなるのでしょう???????
次回更新も楽しみに待ってます。
- 644 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:50
- 〜安倍なつみ〜
「紺野ッ!!」
倒れた紺野に圭ちゃんが駆けよる。
私も圭ちゃんのあとに続いた。
「紺野、しっかり……」
でも紺野に触れた圭ちゃんの動きがピタッと止まった。
私の足も凍り付く。
「……圭ちゃん?」
「……ダメだ……っ!」
圭ちゃんが絞り出すような声で吐き捨てた。
- 645 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:51
-
第26話 カウントダウン
- 646 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:52
- 「あ〜あ、残念だなぁ。紺野のこと認めてたんだけどなぁ、カオリ」
「貴様ーっ!!」
「待てっ、なっち!!」
剣を握って、飯田圭織に斬りかかろうと走り出したけど、圭ちゃんに止められた。
「圭ちゃん!!」
「落ち着けっ!! 一人で突っこんでも返り討ちに会うだけだ!! 冷静になりな!!」
そう言う圭ちゃんの手もワナワナと震えていた。
おそらく必死に怒りを抑え込んで、冷静でいるんだろう。
「紺野の死は無駄にはしない。力はセーブしていたとはいえ、あんな大魔法を二発も撃ったんだ。
しかもその前にも召喚魔法を乱発してる。いくら飯田圭織だって、魔力が尽きるはずだ」
「そっか、いくら強力な魔法を使えても、もとになる魔力が尽きれば」
「そういうこと。勝機はある! 紺野の仇を取ってやろう!」
よっすぃーと松浦もすぐ横まできて、剣をかまえる。
私と圭ちゃんも飯田圭織に対する。
でも飯田圭織は相変わらず優雅に立っていて。
「フフッ、聞こえちゃった。そうね、確かにいくらカオリでも、カイゼルクロイツを撃てるのは二発が
限界ね。もうほとんど魔力が残ってないわ」
やっぱり……圭ちゃんの読みは正しかった。
でも……それだったらなんでそんなに余裕でいられる!?
「でも、それをカオリが想定していないとでも思う?」
すっと飯田圭織が手を伸ばすと、そこに闇色の魔法陣が浮かび上がった。
思わず身構えるけど……
あれっ? あの魔法陣、どこかで……
「ディバイド・ルーン」
魔法陣が黒く輝いた。
- 647 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:53
- 「えっ!?」
突然、隣の圭ちゃんが声を上げた。
そして辺りを慌てて見まわしている。
「なにっ、どうしたの、圭ちゃん!?」
「飯田圭織の魔力が回復してる……。至るところから……魔力が飯田圭織に流れ込んでる」
「なにっ!?」
また飯田圭織の方を向く。
飯田圭織がクスッと笑った。
「まさか、カオリの生贄が市井紗耶香だけだとでも思って?」
「なっ!?」
それで思い出した。あの魔法陣……
さやかの胸に刻まれてた、闇の魔法陣と同じ……。
「カオリがロマンス王国を乗っ取ったもう一つの理由がこれよ。ここには斉藤瞳や石川梨華といった、
上質の魔力を持った人間がたくさんいたからね。ま、そんなに持ってないヤツもいたけど、一応兵士全員に
呪をかけといたわ。これでカオリは無限の魔力を得られる」
「……そのために、外で戦っている兵士を……」
「そ、凍らせてあげたの。大した魔力は持ってなくても一応カオリの生贄だから、
無駄に死んでほしくないんだよねぇ」
魔法陣がいっそう黒く輝いた。
そのあとで、フッと大気に消えていく。
- 648 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:54
- 「完・全・回・復。あらっ、何人かは吸い取りすぎて死んじゃったかな? まぁ、さして問題ではないわね。
生贄はまだたくさんいるんだから」
また飯田圭織の正面に、漆黒の十字架が現れた。
闇の魔力が一気に集まっていく。
「カイゼル・クロイツ!!」
「よけろっ!!」
なんとかみんな飛び退いてかわしたようだ。
闇の波動は遙か遠くの空へと消えていった。
でももちろんそれで終わりではなくて。
足下に今度は黄色い魔法陣が現れた。
「ライジング・サンダー」
「うわっ!!」
魔法陣から溢れ出すいくつもの雷刃。
なんとかかわしながら、飯田圭織との距離をつめていく。
松浦とよっすぃーも同じように、飯田圭織へと近づいていく。
魔法では100%勝ち目がない。接近して一気に叩くしかない。
二人とアイコンタクトを交わし、いっせいに飯田圭織へと飛びかかる。
- 649 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:55
- でもその瞬間に雷刃がピタッと止み、黄色い魔法陣が消える。
そのかわりに深緑の魔法陣が、今度は飯田圭織の足下に現れた。
「スパイラル・サイクロン!」
「うわあっ!!」
魔法陣から溢れ出した竜巻が飯田圭織を包みこんだ。
私たちはその風の壁に吹き飛ばされる。
まさか……攻撃魔法を自分にかけて防御壁にするなんて……。
でも、それじゃ自分にもダメージが……。
「フフッ、甘いわねぇ。そんなんじゃカオリは倒せないよ?」
ところが飯田圭織は無傷で竜巻の中から現れた。
飯田圭織を淡い光が包みこんでいる。
バリアドレスだ……。いつの間に……?
「なっち、あのドレスはやっかいだ。なんとか消せる?」
「うん、やってみる……」
圭ちゃんが私に耳打ちする。
なんとか立ち上がってエクスカリバーを握りなおすが、その時何かがバチッと前を横切った。
あれは、まさかっ!?
雷の虎がよっすぃーに飛びかかった。
- 650 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:56
- 「うわあああぁぁぁあっ!!」
「可愛がってあげてね。ちょっと甘えんぼなカオリのペットだから」
よっすぃーを貫いた雷の虎が、スタッと飯田圭織の傍らに着地する。
「よっすぃー!」
「う…うっ……」
よっすぃーに駆けよる。
なんとか意識はあるようだけど、身体は痙攣していておそらく動けないだろう。
「大丈夫よ、ちゃんとあなたたちも遊んであげるわ。ロック・バイパー!」
ドンッ、という轟音とともに現れたのは、岩でできた巨大な蛇の頭。
おそらく城の庭から突き出したんだろう。その巨大な岩の蛇が圭ちゃんに襲いかかった。
「くっ!」
圭ちゃんがナイフを放つ。
でも生物でない岩の蛇にはまったく効果がなくて。
「今回のはカオリが作った召喚魔法獣。さっき召喚したそこいらのモンスターとはわけが違うわ」
「うわっ!!」
岩の蛇の頭が圭ちゃんを弾き飛ばした。
- 651 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:57
- 「圭ちゃん!!」
「きゃああっ!!」
別の方向からも悲鳴が上がる。
雷の虎が今度は松浦に襲いかかっていた。
そして当然私のほうにも……。
熱い炎の渦が私へと向かってきた。
「ドラゴニック・ファイアー!」
紺野が作り出した竜よりも数倍大きい炎の竜が空を翔る。
灼熱の旋風が巻き起こる。
「くっ……うわっ!!」
なんとか対峙したけど、炎の竜が作り出す熱風によって身体が吹き飛ばされた。
さらに竜は空中で旋回して、私のほうへまた向かってくる。
エクスカリバーをかまえるけど、その時には体中に痛みが走っていた。
「負けるか!!」
辺りを包む熱風になんとか耐える。
真正面から向かってくる炎の塊に剣を向ける。
「わあぁっ!!」
大きく開かれた竜の口をなんとかかわし、エクスカリバーを身体に突き立てた。
そしてそのまま真っ直ぐに切り裂く。
竜は真っ二つになり、拡散して消えていった。
- 652 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:58
- 「はぁ、はぁ……」
身体のところどころが火傷になっていた。
でもそんなのいちいち気にしてられない。
辺りを見回す。
岩の蛇も雷の虎ももういなかった。
そのかわりに松浦と圭ちゃんが倒れていた。
「松浦! 圭ちゃんっ!!」
「うぅ……」
「なっち……」
微かに声が聞こえる。
死んではないようだけど、よっすぃーと同じくかなりのダメージを受けてるみたい。
飯田圭織の方を向くと、ニッコリと笑いながら、新しい魔法を組み立てていた。
ヤバイ! なんとか止めないと!!
「やめろっ!!」
痛みをこらえて地を蹴り、飯田圭織へと向かっていく。
作りかけの魔法陣をエクスカリバーが切り裂いた。
魔法陣は跡形もなく消滅する。
さらにエクスカリバーを突き出すけど、飯田圭織は身体をひねってかわした。
- 653 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:58
- 「驚いた、まだそんなに動けるなんて」
真横に薙いだエクスカリバーが、今度は飯田圭織の腕を掠めた。
その瞬間に飯田圭織を包みこんでいたバリアドレスが消え去る。
飯田圭織が小さく舌打ちした。
「その剣はホントにやっかいね」
一瞬で魔力が集まる。
「させないっ!!」
エクスカリバーを振るうが、一瞬早く飯田圭織が魔法を放った。
なんとか直撃する寸前で身体をひねる。
風の塊が私の横をすり抜ける。
外したっ!
「くらえっ!!」
もう魔法を作る間もない。
シールドも効果はない。
捕えたっ!!
でも、眼前にある飯田圭織の顔がにこやかに笑った。
- 654 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 14:59
- 「エア・ファルコン!」
「えっ……?」
全身に鋭い痛みが走った。
身体のいたるところに刃物で切り裂かれたような、細い傷ができていた。
「フフッ」
笑い声に引き寄せられるように飯田圭織を見ると、飯田圭織が差し出した手の上に
鳥が一羽留まっていた。
風で作られた隼。
さっき外した魔法はこの召喚魔法だったのか……!
「行けっ」
飯田圭織の号令とともに、手に留まっていた隼が消える。
そして次の瞬間には、右腕を鋭い痛みが襲っていた。
「つあっ!」
思わず握ったエクスカリバーを落としてしまう。
しまった!
慌てて手を伸ばしたけど、その手は飯田圭織に掴まれて止まった。
「やっと捕まえた。ちょっとそのまま大人しくしててくれない?」
魔力が集まっていく。
「グラビティ・ルーン!!」
飯田圭織が手を離すと、掴まれていたところに魔法陣が刻まれていた。
小さいダークブラウンの魔法陣。
その魔法陣が輝くと、急に私を重圧が襲った。
- 655 名前:第26話 投稿日:2005/05/24(火) 15:00
- 「がッ……」
耐えきれずにその場に崩れ落ちる。
一瞬で身体全体が重くなった感じで、動かすことができない。
「いいザマね、お似合いよ。そのまま地面に這いつくばってなさい」
飯田圭織が後方に跳躍して、一気に距離をとる。
そして浮かび上がる黒い十字架。
ヤバイ! でも……身体が動かない……!
飯田圭織の詠唱で、徐々に十字架が濃く浮かび上がってくる。
「四人仲良く送ってあげるわ。これでゲームオーバーよ」
でも突然詠唱が止まった。
ビックリしたような表情の飯田圭織。でもすぐに唇が優雅に弧を描く。
なに……?
「フフッ、どうやら一人先に送って欲しいみたいね?」
「えっ……?」
なんとか首を動かして後ろをふり向く。
松浦が剣を握って立ち上がっていた。
- 656 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/05/24(火) 15:09
- 今回はここまでです。
あともうちょっとで終わる……かな?
>>642 みっくす 様
はい、もうカオリンは強すぎです。
でもまぁラスボスなので、強すぎなくらいが丁度いいのかと(ぉ
>>643 春嶋浪漫 様
魔法のNo.1とNo.2でもこんな結末に。
ほんとに無敵ですね、カオリン。
- 657 名前:七誌さん 投稿日:2005/05/27(金) 17:30
- ま・・・まさかぁ・・・!
- 658 名前:みっくす 投稿日:2005/05/28(土) 21:40
- いやー、ほんとにカオリンつえー。
- 659 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:47
- 〜松浦亜弥〜
足はまだビリビリと痺れていて、思うように力が入らない。
手にもちょっと感覚が戻ってきてない。
でも倒れるわけにはいかない。剣を落とすわけにはいかない。
目の前にいる人物を睨みつける。
世界最強の魔法使い、飯田圭織。
こいつだ。こいつが……みきたんを……!
「うわぁぁあああっ!!」
剣を握りしめて走り出す。
もう身体は痛くなかった。
いや、痛いと感じなかった。
剣を振り下ろす。
でもそこに光の壁が現れ、剣を受けとめた。
「すごいわね、そのダメージでそこまで動けるなんて」
「黙れっ! よくもみきたんをっ!!」
「みきたん? あぁ、美貴ちゃんのことね。丁度いいときに『ロマンス王国』にのこのことやってきたからさぁ、
ちょっと操り人形にしちゃった。まぁ、もう使い物にならなくなっちゃったけど、カオリ美貴ちゃんのこと
けっこう気に入っちゃったから。もうちょっとカオリのお人形さんでいてもらおうかなぁ、なんて」
「黙れーっ!!」
こんなに怒りを感じたことは今までなかったろう。
それくらいに飯田圭織のことが許せなかった。
みきたんを操ったことが。
みきたんを傷つけたことが!
みきたんと私を戦わせたことが!!
- 660 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:48
- 「うわああっ!!」
「おっと!」
剣を真横に振り抜く。
飯田圭織は器用に空中で一回転しながら攻撃をかわしたが、着地したときにはすでに
魔力を集めていた。
真っ赤に輝く、熱い魔力。
「そうね、最期はこんな魔法はいかがかしら? あなたも美しく散りなさい」
飯田圭織がすっと、拳を高く掲げた。
「クリムゾン・ローズ!」
「えっ……?」
開かれた拳の中から真紅の薔薇の花びらが舞い散る。
ヒラヒラと、飯田圭織のまわりを舞うように旋回する。
一瞬、その光景に目を奪われた。
でもそれがいけなかった。
花びらが地に落ちた瞬間、そこから火柱が立ち上った。
「うわっ!!」
屋上の至るところで強力な火柱が噴出する。
さらに炎の花びらは、まだ宙をヒラヒラと舞っている。
- 661 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:48
- 「あはは! もっと舞い踊れ、煉獄の花弁よ!」
「くっ!!」
無数の花びらが私をめがけてヒラヒラと飛んでくる。
空間を埋め尽くす紅い花びら。
ただの薄い花びらだろうと、その威力は凶悪。
かわせるか……?
両方の足に意識を集中して、
そして一気に地を蹴った。
「えっ……?」
一瞬あとには目の前に飯田圭織の顔があった。
遙か後方で炎柱が次々と立ち上る。
かわせたっ!
握った剣を一気に振り抜く。
「くっ……!」
目の前の空間に光の壁が現れ、剣は飯田圭織の寸前で止まった。
- 662 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:49
- 「おどろいたわ。まさかそこまで速く動けるなんて……」
「ちっ……」
「でも、その動きも一回見せてしまったらカオリにはもう通じないよ?」
シールドの向こうで魔力が集まる。
やばっ!!
「ティフォン・ストーム!」
扇形に巻き起こる風圧の壁。
また足に力を込めて、なんとか魔法の範囲から逃れる。
でも当然ながら、飯田圭織の攻撃はそれで終わりではなくて。
「さ〜て、どっちが速いかな?」
溢れた風がまた集まっていく。
そしてできた風の塊から翼が、鉤爪が、嘴が形作られていく。
「エア・ファルコン!!」
放たれる風の隼。
空気を切り裂いて私へと疾走してくる。
なんとかかわすけど、それでも魔法は追いかけてくる。
ほぼ互角……でも、私のほうが僅かに速い!
切り返して、一気に風の隼の後ろへと回り込む。
そしてそのまま剣を振り下ろす。
何回かの斬撃のすえ、風の隼は粉々になって消えていった。
- 663 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:50
- 「ふ〜ん、カオリの最速魔法でも敵わないか。どうやらあなたを倒すには、まずその
動きを止めなくちゃいけないみたいね」
「そんなこと、できないよ!」
「そうかしら? 案外簡単かもしれないわよ?」
飯田圭織が手を掲げる。
すると今度は足下に巨大な蒼い魔法陣が広がった。
「フリーズ・ファング」
今度は炎柱ではなく氷の槍が突き出す。
かわそうとするが、氷の槍はまず私の進路を遮るように突き出して。
そしてそのあとで私を狙って突き出してくる。
簡単には捕まらないけど、おかげで思うように前に進めなくて。
キッと飯田圭織を睨む。
飯田圭織は相変わらず優雅に笑みを湛えたまま。
チッ……このまま体力を削り取るつもりか!
- 664 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:51
- 「やれやれ、諦めが悪いわねぇ」
「諦めない! お前は、絶対に許さないっ!!」
「小娘一人操っただけじゃない? 何をそんなに怒るの?」
「黙れッ! 黙れーッ!!!」
行く手を阻む氷柱を粉砕する。
そして地を蹴り、一気に加速する。
一瞬のうちに飯田圭織の背後に回り込んだ。
「なにっ!?」
飯田圭織が振り向いた。
その顔は驚愕に見開かれていて。
とった!!
「速……」
「よくもみきたんをーッ!!!」
腕を真っ直ぐ突き出す。
しっかりと握った剣が振り返った胸を貫いた。
- 665 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:52
- 「がっ……」
感じる確かな手応え。
赤が辺りに飛び散る。
幻術なんかじゃない、溢れた紅く熱い鮮血。
……やった……。
やった……これでみきたんは……
パチパチパチパチ……
背後から聞こえてきた軽やかな拍手。
誰……?
思わず振り返ってみると、そこには……
「いやぁ、すごいね。まさかあそこまで速く動けるなんて。カオリ尊敬しちゃう」
「えっ……なんで……?」
飯田圭織が優雅に立って笑っていた。
「さすがは1番隊隊長、容赦がないわね。的確に心臓を一突き」
じゃあ、これは……?
この血は、誰の……?
「…亜…弥……ちゃ……」
「!!」
剣を握る手が震えた。
うそだ……うそだ、うそだっ!
ゆっくりと、顔を上げ……
「い、嫌アアアアアッ!!!」
目に映ったのは、生気の失せたみきたんの顔と、上空に歪む闇の穴……。
みきたんの身体がずり落ち、倒れた。
- 666 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:53
- 「やっぱりその人形はお返しするわ? もう壊れちゃったし」
「みきたん! みきたん、しっかりしてぇ!!」
倒れたみきたんの身体を思い切り揺さぶる。
溢れた涙がみきたんの頬に降りかかる。
それでもみきたんは身動き一つしてくれない。
「みきたん、起きてよぉ!! みきたーんっ!!」
「あらあら、可哀想に。まさか一番想ってた娘に殺されるなんてね……」
頭の上から聞こえてくる飯田圭織の声。
背中のすぐ後ろに現れる飯田圭織の気配。
それでも私はその場から動くことができなくて……。
「可哀想だから、あなたも一緒に逝ってあげれば?」
黒い光が私の胸を貫いて走っていった。
不思議と痛みはなかった。
でも身体が前に傾き、視界が一気に白んでいく。
「あっ……」
まず身体がみきたんの身体に折り重なるようにして倒れた。
そしてだんだんと視界が閉じられていく。
み…き……たん……
必死に伸ばした手が、投げ出されたみきたんの手に重なった。
それが私の最後の知覚だった……
- 667 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:54
-
◇ ◇ ◇
〜安倍なつみ〜
「松浦ッ!!」
黒い閃光が松浦を貫いた。
松浦の身体が崩れ落ちる。
「くっ……!」
重い手をなんとか伸ばす。
ようやくエクスカリバーを掴むことができた。
力を剣に送り込む。
「ディスペル・ライト!!」
光の魔法陣が私を包みこむ。
白い波動が溢れると、ようやく重かった身体が普段の重さに戻る。
「松浦ッ!!」
呼びかけても松浦はピクリとも反応しない。
ダメか……!
「なっち……」
「安倍さん……」
なんとか立ち上がった私のもとへ、よっすぃーと圭ちゃんがふらふらと寄ってくる。
「圭ちゃん、よっすぃー……。二人は大丈夫?」
「あんま大丈夫とは言えませんね、まだ少し痺れがとれないです……」
「私も……右腕をやられた……」
「そっか……」
私も体中が傷だらけだ。
三人とも満身創痍。
しかも相手は……
「さて、あと三人か……」
あの、飯田圭織……。
- 668 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:55
- 「なっち、松浦は……?」
圭ちゃんが小声で聞いてくる。
私はただ首を横に振るだけしかできなかった。
「そっか……」
「圭ちゃん、なんか作戦ある……?」
「……ま、なくもないけどね……」
三人で飯田圭織に対峙する。
私とよっすぃーは剣をかまえ、圭ちゃんも無事な左手でナイフを振りかぶっている。
「まだ勝つ気でいるみたいね? そうね、可能性は低いけど、もしかしたらまだ
カオリを倒せるかもね?」
すっと飯田圭織が私を指さした。
- 669 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:55
- 「あっ!!」
叫びと同時に風切り音が鳴った。
私の横をナイフが走っていく。
「フフッ」
でも飯田圭織が軽く微笑むと、一瞬で手に魔力が集まった。
「フレア・ブラスト!」
光球が放たれ、ナイフを粉砕する。
ナイフの残骸がパラパラと地に落ちると飯田圭織はまた私をピタリと指さした。
「光の魔剣・エクスカリバー。その剣は魔法を無力化させるから、カオリはその剣を
受けとめることができない。でも、そうやすやすと攻撃を喰らうカオリじゃないけどね」
今度は飯田圭織の指が圭ちゃんを指さす。
「だから、その二人を犠牲にすればいいのよ」
「なっ!?」
「その二人がやられてる隙にカオリを攻撃すればいいのよ。そうすればあなたの勝ちだわ、なっち」
思わず圭ちゃんの方を向いた。
でも圭ちゃんは視線を合わせようとしない。
- 670 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:56
- 「まさか、圭ちゃんの作戦って……」
「……そうだよ、それしかないんだよ……」
「でもっ! 圭ちゃんっ!!」
「それしかないんだ! 無限の魔力を持った飯田圭織の唯一の弱点がエクスカリバーだ!
そしてエクスカリバーを使えるのはなっちだけだ!! それしかないんだよっ!!」
「どうやら、そうみたいですね……」
今度は反対側から声が聞こえた。
よっすぃーがカタナをかまえたまま、顔だけこちらに向けている。
そのまますっとよっすぃーが前に出た。
「安倍さん……矢口さんには上手く言っといてください……」
「なっち、ハロモニランドのこと、任せたよ……」
圭ちゃんも一歩前に出ようとしたけど……
「ダメッ!!」
圭ちゃんを制する。
そのままよっすぃーよりも前に出て、剣をかまえる。
「そんなことしなくても、私一人で倒してやるっ!!」
「あっ、なっち!!」
エクスカリバーをかまえて駆け出す。
真っ直ぐに、飯田圭織のもとへ。
- 671 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:57
- 「待て、なっち!! 飯田圭織の狙いはそれなんだっ!!」
圭ちゃんの声ももはや届かなかった。
飯田圭織に向かって剣を振り下ろす。
「あらっ、せっかく勝つ方法を教えてあげたのに」
「うるさいっ! ちゃんと勝ってやる!」
振り下ろした剣をまた振り上げる。
エクスカリバーが飯田圭織を捕えたが、次の瞬間には飯田圭織の体が溶けた。
「フフフ、できるかなぁ?」
後ろっ!?
振り返ると飯田圭織が魔力を集めて立っていた。
私も一気にエクスカリバーに力を注いでいく。
「フレア・ブラスト!」
「スター・マイン!!」
炎と光の球体が炸裂して爆ぜる。
熱風と閃光が辺りに満ちる。
- 672 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:58
- 「光魔法か……。でもカオリが欲しいのはそんなチャチな魔法じゃないのよ」
飯田圭織に向かってまた剣を振るうけど、飯田圭織はヒラヒラと斬撃をかわしていく。
「なっちと遊ぶのは楽しいけど、まだちょっとあとがつかえてることだし、さっさと終わらせてもらうわ」
「なにっ!?」
一瞬のうちに飯田圭織の前に蒼い魔法陣が浮かび上がった。
させるかっ!!
魔法陣ごと飯田圭織を切り裂くが、飯田圭織はまた水に変わって崩れ落ちる。
そして一瞬で気配が背後に移動した。
何度も同じ手を……
「喰らうかっ!! シューティング・レイ!!」
振り返りざまにエクスカリバーから幾筋もの光線を放つ。
「がっ!」
光線が飯田圭織の胸を貫いた。
そのまま身体が後ろに倒れるが……
- 673 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:59
- 「なっ!?」
倒れた瞬間、飯田圭織の身体は見知らぬ兵士に変わった。
幻術!? こいつもニセ者かっ!!
慌てて振り返り、本物の飯田圭織を探したが……
「なぁんてね」
背後から聞こえた声に、また振り返る。
すると目の前に現れる黒い十字架と飯田圭織の笑顔。
「実はホンモノなのでした。正攻法じゃ分が悪いけど、化かし合いならカオリの勝ちだね。
じゃあね、バイバイ」
十字架が黒く輝いた。
しまった……!!
「カイゼル・クロイツ」
- 674 名前:第26話 投稿日:2005/06/02(木) 13:59
-
- 675 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/06/02(木) 14:05
- 今回はここまでです。
もはや何も言いません。ホントにあと数回です。
>>657 七誌さん 様
まさかぁ、って感じですね、本当に。
いや、それ以上かもしれませんが……。
>>658 みっくす 様
ほんとにカオリンは強いです。
ちょっとやりすぎたかも……。
- 676 名前:みるく 投稿日:2005/06/02(木) 19:04
- カオリはマジ強いですね… (´Д`)<んぁ〜ごとぅの出番はー?! あと数回楽しみにしてます☆
- 677 名前:七誌さん 投稿日:2005/06/04(土) 13:15
- わほぅ・・・(何
もうなんて言っていいかわかりません。
- 678 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:14
- 〜後藤真希〜
なっちたちがゼティマを立って、十日が過ぎた。
毎日届いてくる報告にいると、進軍はいたって順調らしい。
でも……なぜか不安で胸が張り裂けそうになる。
なっち……。
見えるわけないんだけど、それでもあたしは窓際に立って外を眺める。
コンッコンッ。
その時、室内にノックの音が響いた。
「どぉぞ」
「失礼します、姫様」
窓際に立ったままで扉に応えると、そこから城で働くメイドさんが入ってきた。
手に持ったトレイにはティーカップとティーセットが乗っている。
「ごとー頼んでないんだけど……?」
「女王様からですよ。そんなに心配ばっかりしていると、姫様の方が参ってしまいますから、
お茶でも飲んで少しは落ち着いてください、って」
「あっ、どうも……」
メイドさんはカップをテーブルの上に置くと、ティーポットから紅茶を注ぐ。
カップの中から湯気が立ち上り、いい香りが部屋の中に溢れる。
ちょっとだけ、心が落ち着いてくる。
- 679 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:15
- 「ミルクとお砂糖はどうしますか?」
「あっ、いいよ、自分でやる」
「そうですか、では」
ティーセットをそのままテーブルに置くと、メイドさんは一礼して去っていった。
いい香りに誘われて、あたしはティーカップに手を伸ばしたけど……
「あっ!」
掴み損ねて、ティーカップが手から零れた。
ガシャーン!!
カップは床に落ちて砕け散る。
紅茶の海の中に、カップの破片が漂っていた。
「あ〜、やっちゃった……」
カップの破片を拾い上げようとして気付く。
このカップ……なっちが買ってくれたカップだ……。
「なっち……」
嫌な予感がした。
また胸が張り裂けるように痛む。
「なっち……!」
いてもたってもいられなかった。
一気に魔力を集めていく。
「シャイン・ゲート!!」
そしてあたしは光り輝く門をくぐり抜けた。
- 680 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:15
-
第27話 ただ光を求めて
- 681 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:16
- 〜保田圭〜
「なっち!!」
闇の波動に弾かれたなっちの身体が堕ちる。
その手からエクスカリバーが零れた。
「くっ……」
「フフッ、これであと二人ね? ここまで来たんだから一人ずつ送ってあげようか?
それとも最後は二人一緒の方がいいかしら?」
飯田圭織が私たちの方へと歩み寄ってくる。
慌ててナイフを取り出すが、何をしていいのかわからない……。
「いい加減に諦めなさい。あなたたち二人ではカオリには絶対に……」
飯田圭織が言い終わる前に、隣にいたよっすぃーが走っていた。
「よくも、みんなをっ!!」
「よっすぃーっ!!」
「絶対に、勝てないわ」
握ったナイフに魔力を込めていく。
折れた右手はもはや使い物にならない。左手だからちょっとコントロールには不安が
あるけど、そうも言ってられない。
- 682 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:16
- 「スピード・フェザー!!」
風を纏ったナイフが走っているよっすぃーを追い越す。
当たるとは思ってない。でも少しでも飯田圭織の注意をそらさないと……。
「フフ……」
でも飯田圭織は身動き一つしなかった。
ただ、飯田圭織に向かっていったナイフが、一瞬で地に落ちる。
重力!? しかもアヤカよりも強力な……
「うわぁあぁぁあっ!!」
よっすぃーがカタナを振り下ろす。
でもそのカタナも飯田圭織に届く前に止まった。
飯田圭織の身体がいつの間にか淡い光りで包まれている。
「バリアドレスの対物理攻撃バージョン、マテリアルアーマーっていうの。これでもう
物理攻撃は届かないわ」
飯田圭織がよっすぃーのカタナを握りしめた。
それと同時に魔力が一瞬で凝縮される。
- 683 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:17
- 「よっすぃー、離れろっ!!」
「遅いわ。サタン・ブラスター!」
「うわあっ!!」
闇の波動が弾ける。
よっすぃーの身体が宙に舞った。
「よっすぃー!!」
「……くっ……」
地面に落ちたよっすぃーの体をなんとか起こす。
よっすぃーはかろうじて生きてはいたけど……
「あっ! 花月が……」
「えっ……?」
よっすぃーの手に握られたカタナは、無惨にも刃が折れていた。
折れた方の刃は、まだ飯田圭織が握りしめていて。
「フフフ、脆いものね」
刃に闇が走っていく。
そして刃は粉々に砕け散った。
- 684 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:17
- 「さて、もういいでしょう? 残ってるのは魔力の尽きかけた魔法使いと、剣の折れた剣士。
どう足掻いても勝ち目はないわ」
飯田圭織が手を突き出す。
そこに現れる漆黒の十字架。
くっ……これまでか……。
死を覚悟したが、その瞬間、
光が溢れた。
「えっ!?」
慌てて振り向くと、背後に光の門ができていた。
扉がゆっくりと開き、光が溢れてくる。
その光の中、屋上に現れたのは……
「姫様ッ!?」
- 685 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:18
-
◇ ◇ ◇
「姫様ッ! どうしてここへ!?」
「あら〜、まさか姫様自ら来てくれるなんてねぇ」
でもそんな私の叫びも、飯田圭織の声も、姫様には届いてないようだった。
光のゲートは消え去ったが、姫様は扉から出てきたまま、ある一点を見つめて動かない。
「……なっち……?」
姫様の視線の先には、なっちの亡骸。
「なっちッ!!」
「姫様ッ!」
姫様の身体が目の前を通りすぎる。
姫様はそのまま、倒れているなっちの傍らに座り込んだ。
「なっち……なっち、なっちっ!!」
「あらあら、健気なことね」
「姫様、戻ってくださいっ!!」
飯田圭織が姫様の方に向きをかえ、一歩一歩近づいていく。
いくら叫んでも、姫様はなっちの側から離れなくて。
立ち上がり、またナイフを取り出す。
- 686 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:18
- 「シャドウ・バインド!!」
飯田圭織の影を狙ってナイフを放つが……
「邪魔しないで! フリーズ・ファング!!」
一瞬で広がった蒼い魔法陣から突き出る氷柱。
その氷柱がナイフを遮った。
さらに私の足下に闇色の魔法陣が広がる。
「ダーク・オーラ!!」
「ぐああぁぁあっ!!」
闇の波動が体を蝕む。
魔法陣が消えると、私はその場に倒れ込んだ。
「あなたたちは後回しよ。そこでおとなしく見てなさい」
飯田圭織が姫様に近づいていく。
でも今度は身動き一つとれなくて……。
「姫様ーっ!!」
叫ぶことしかできなかった。
- 687 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:19
- 「なっち……嫌だよ、なっち……」
姫様の瞳から涙がこぼれ落ち、なっちの頬にこぼれ落ちる。
その姫様のもとへ、飯田圭織がたどり着く。
「ごきげんよう、お姫様。さっそくで悪いけど、あなたの力をもらうわ」
飯田圭織が手をかざす。
「これでようやく……光魔法が……」
「姫様ーっ!!!」
でも、その時だった。
「嫌だよ、目を開けてよ……なっちーーーっ!!!」
「なっ!?」
「うわっ!!」
姫様がなっちを抱きしめた瞬間、膨大な量の光が溢れた。
眩しくて目を細めるが、次の瞬間には光の奔流で身体が押される。
姫様となっちを中心にして、あたりを光の波動が渦巻いている。
- 688 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:19
- 「くっ……なっ……?」
飯田圭織の身体も、光に押されて、徐々に姫様から遠ざかっていく。
溢れた光が場を支配する。
全てを包みこんで、眩しく輝く。
「もどってきて、なっちっ!!」
姫様が腕を天にかざす。
すると溢れた光は、姫様に吸い寄せられるようにまた戻っていく。
光が姫様の周りを回りながら、天へと昇っていく。
真白い光の柱が輝いた。
まさか、あの魔法は……!
「ハート・リバース!!!」
- 689 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:20
- 舞い昇った光が一気に堕ちてくる。
光の滝がなっちの身体に降り注いだ。
「うわっ!?」
また溢れた光が場を包んだけど……
今度は身体を押されることもなかった。
優しく柔らかな光の粒子が身体を撫でていく。
「うっ……保田さん……?」
「よっすぃー!?」
隣に倒れていたよっすぃーが立ち上がった。
慌ててそっちを向こうとして、身体の変化に気付く。
右手が……動く……?
完全に折れた右腕が、今は何ともなかったかのように、自然に動いた。
「すごい光……すごい回復のパワーっすね」
「うん……」
でも、その光は私たちの傷を治しただけではなかった。
- 690 名前:第27話 投稿日:2005/06/08(水) 19:20
- 「うぅ……」
「えっ!?」
背後から聞こえた呻き声に思わず振り返る。
すると、飯田圭織の魔法によって死んだはずの紺野が、むくっと体を起こしていた。
「紺野ッ!?」
「紺ちゃん!!」
「あっ……私はいったい……?」
じゃあ、まさか……
折り重なって倒れた二人のほうを見てみると……
「……みきたん……?」
「あっ……亜弥ちゃん……?」
「み…みきたーん!!」
「うわっ! ちょ、なに、いきなりっ!?」
再び起きあがった松浦が、同じく起きあがった藤本に飛びついた。
藤本はまだ完全に状況が理解できてないみたい。
そして……
「ごっちん……」
「なっちっ!!」
最後に、なっちの身体が起きあがった。
姫様がまたなっちを思い切り抱きしめた。
- 691 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/06/08(水) 19:23
- 今回はここまでです。
ようやく登場です。いつぶり?(汗
>>676 みるく 様
はい、もう最強ですね。
そして、あと数回にしてやっと登場でした。
>>677 七誌さん 様
はい、まさしく前回まではそんな感じですね。
でもここからがようやく反撃ですので。
- 692 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/08(水) 22:28
- わわわっ!
急展開キター!
ごっちんの魔法で目が離せません(w
- 693 名前:七誌さん 投稿日:2005/06/09(木) 16:10
- あわわわっ!
まさかこんな展開があったのは・・・!
作者さま流石ですっ!
- 694 名前:みるく 投稿日:2005/06/09(木) 23:42
- ついについに登場しましたねー!
しかもこんな展開になるなんて…
さらに続きが楽しみです☆
- 695 名前:みっくす 投稿日:2005/06/10(金) 21:57
- やっともう一人の主役が登場しましたね。
それにしても、いきなりやってくれますね。
今後の展開が楽しみです。
- 696 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:33
- 〜安倍なつみ〜
オチル。
落ちる……。
堕ちていく……。
柔らかな光の中を、真っ逆さまに、底へ。
まるで空の上から放り出されたみたいで。
でもそれはもちろんそうじゃなくて……。
落ちて行ってるのに空気の抵抗も何もなく、
そして私の周りを流れて行ってるのは雲じゃなく……
『勝負ありだね、ヤグチ。これが守るための力だよ』
『ごっちんは、絶対渡さない! ごっちんを……返せっ!!』
『なっちではありません。なつみ、もしくは執事とお呼び下さい!』
『いいじゃ〜ん、二人っきりの時くらい!』
『姫様、この子は安倍なつみ。今日から姫様の友達じゃ』
『は、初めまして、姫様。安倍なつみ…だべ。あっ、安倍なつみ…です……』
『安倍……なつみ……?』
流れていく私の記憶たち。
あぁ、これがもしかして走馬燈っていうのかな?
だとしたらなんかちょっと一般的なイメージと違うかも……。
―――……っち!
- 697 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:34
- 記憶が途切れると不意に辺りが暗闇に変わった。
私は光の届かない暗闇の中を深淵へと堕ちていく。
これが「死ぬ」ってことなのかな……?
体はまったく動かず、ただただ闇の底へと向かっていくのみ。
そっか……私死んじゃったのか……
短い人生だったな……
でも……なんかもう……
いっぱい……疲れたな……
私はそっと……目を閉じた……。
―――……ち……
- 698 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:34
- 次に目を開くとそこはハロモニランド城の中だった。
私はごっちんの部屋の中に立っていた。
なんで……?
そこにはごっちんがいて……ごっちんの前に「私」が立っていた。
ごっちんの手が「私」の頬に伸びる。
そして二人の唇が重なった。
『……返事は……まだいい』
『えっ? でも……』
『戦いが全部終わって、なっちが帰ってきたら……その時に聞かせて』
ごっちんが小指を突き出す。
「私」もその指に自分の小指を絡めた。
『絶対に帰ってくるから! やくそく!』
あぁ、そうだ……。
私はあの時ごっちんと約束を交わして……
その約束はまだ守ってない。
- 699 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:36
- 「なっち」
声が聞こえた。
振り向くとそこはもとの闇に戻っていて。
でもその中に一人ぽつんと、さやかが佇んでいた。
さやか……。
声は声にならなかった。
「なっちはまだここに来ちゃダメだよ。なっちはまだ約束を一つも守ってない。
後藤との約束も……アタシとの約束も……」
『……後藤を…頼……む……』
さやかが最期に私に託した想い。そして私に託した力。
そうだ、私はさやかとの約束もまだ果たしていない。
まだ死ねない……。
私はまだ死ぬわけにはいかない。
「今ならまだ間に合うから。まだ戻れる、ううん、後藤がちゃんと引き戻してくれるから。
聞こえるでしょ、後藤の声?」
―――……なっち!
闇の中で確かに聞こえた。
ごっちんの声。私を呼ぶ声。
「帰り道、わかるよね?」
私は強く頷いた。
するとさやかは微笑んで、そして闇の中へ消えていった。
- 700 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:36
- 暗闇の中に私は一人とり残されて。
でも私は暗闇の中を走り出した。
前も後ろも、右も左も一面の闇。
でも行くべき場所は知っている。
いや、この声が導いてくれる。
「なっち!!」
「ごっちん!!」
声が出た。声が届いた。
その瞬間に闇は消え、光が溢れた。
光の中に立っているごっちん。
私はごっちんの胸に飛び込んだ。
「なっち! 行かせない、絶対に逝かせないよっ!!」
「うん! 連れてって、ごっちんっ!!」
傷ついて、絶望に捕えられて倒れた私を立ち上がらせてくれたのは……
いつも、あなただった。
- 701 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:37
-
◇ ◇ ◇
「ごっちん……」
「なっちっ!!」
光に誘われて目を開けた私を、ごっちんがきつく抱きしめる。
「なっち……なっちー! よかった……」
「ごっちん……ありがとね……」
私もごっちんのことをきつく抱きしめる。
優しいぬくもり。
愛おしいぬくもり。
私が大好きな……ごっちんのぬくもり。
「なっち……よかったよ」
「安倍さん!」
圭ちゃんたちが私たちのもとへと駆けよってくる。
そして紺野たちも。
私と同じように、目覚めたんだ……よかった……。
- 702 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:38
- ドンッ!!
爆音が響いた。
そうだ……まだ終わっていない。
落ちていたエクスカリバーを再び握りしめる。
「その力よ……カオリが求めていたのはその力よ……! その力を……頂戴っ!!」
一瞬にして黒い十字架が現れる。
「ヤバいっ! みんな、散って!!」
「まとめて消え去れ! カイゼル・クロイツ!!」
放たれる闇の波動。
今までよりも巨大が闇が、私たちを飲み込むように迫ってくる。
でも……
私たちを飲み込む直前で、闇は一瞬にして霧散した。
闇は晴れ、あたりには光が満ちる。
「なにっ!? カオリのカイゼルクロイツが……」
「これは……?」
足下には光り輝く魔法陣が広がっていた。
そしてその魔法陣の中心には、ごっちんが立っていた。
- 703 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:39
- 「もう、誰も傷つけさせないっ!!」
集まった光が輝きを増す。
「セイクリッド・シャイン!!」
魔法陣からまばゆい光が溢れ出す。
溢れた光は私たちを包みこみ、光のドレスが形成されていく。
「すっげー……」
よっすぃーのほうを見ると、折れた花月にも光が宿り、光の刃を形作っていた。
「ごっちん、この魔法は……?」
「闇を払って光を増幅させる、光の結界だよ。全ての闇は、光の中にかき消される」
「すごいね……」
「なっち、ごとーも戦えるよ? 一緒に戦おう?」
「……うん!」
力強いごっちんの微笑みに、私もエクスカリバーを握りしめる。
「よしっ! この戦いを終わらせるよ!!」
『おうっ!!』
- 704 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:40
- 最初に飛び出したのはよっすぃーと松浦と藤本。
光に包まれた三本の剣が、それぞれ飯田圭織に向かっていく。
「くあっ……」
飯田圭織の身体から血が溢れる。
魔法のドレスを切り裂いて、飯田圭織に刃が届いた。
「ぐっ……おのれっ!」
飯田圭織が腕をよっすぃーたちに突き出す。
でも今度はその腕にナイフが突き刺さった。
「圭ちゃん!」
「なっち、すごいよ、これ。私たちの使う魔法すらも、光に純化されてる……」
「えっ?」
圭ちゃんの握ったナイフはまばゆい光を纏っていた。
圭ちゃんはそのままナイフを放つ。
「シューティング・スター!!」
「くっ! グラビティ・フィールド!」
飯田圭織のまわりに、ダークブラウンの魔法陣が広がるが……
「ディスペル・ライト!」
ごっちんの声とともに、光の魔法陣が重なる。
光が溢れ、二つの魔法陣は同時に消え去った。
「なっ……くっ!!」
光を纏ったナイフが突き刺さる。
- 705 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:41
- 「紺野、今だっ!!」
「ハイッ、安倍さん!」
紺野の集めている魔力も光り輝いている。
「シャイニング・ドラグーン!!」
そして現れる光の竜。
真っ直ぐに飯田圭織に向かっていく。
「うわっ!?」
光の竜が飯田圭織にぶつかった。
そのまま屋上を暴れ回る。
「やった?」
「……いえ、まだみたいです……」
倒したかと思ったが、それはやっぱりちょっと甘かった。
闇が現れ、光の竜を飲み込んだ。
竜が消えたあとには飯田圭織が残っていた。
「ハァ…ハァ……小賢しい……!」
溢れる闇。現れる十字架。
「カイゼル・クロイツ!!!」
そして放たれる闇の波動。
だけど……
「させないっ!!」
ごっちんが立ちはだかる。
そして光が闇を迎え撃つ。
無限に溢れる光によって、闇は跡形もなく消え去った。
- 706 名前:第27話 投稿日:2005/06/14(火) 19:42
- 「なっち」
力強い圭ちゃんの声。
「安倍さん」
少し小さめの紺野の声。
そして……
「なっち」
ごっちんの優しい声。
私はエクスカリバーをかまえる。
エクスカリバーから溢れた光と、ごっちんが作り出した光が一つに溶けあい、
エクスカリバーはより強く輝く。
「これで、終わりにする!」
溢れ出る光の中、飯田圭織に向かって走る。
放たれる闇はことごとく光が滅ぼしていって。
「飯田圭織ーーーっ!!!」
ドッ!
「がはっ……」
飯田圭織の口から血が溢れる。
光を纏ったエクスカリバーが、飯田圭織を貫いた。
- 707 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/06/14(火) 19:50
- 今回はここまでです。
あと2回で終わります。
スレッドの容量が足りるか微妙なところ……。
>>692 名無飼育さん 様
はい、急展開でようやく出てきました。
久々に書けてよかったです。
>>693 七誌さん 様
最後はやっぱりなちごまそろえないとということで、こんな展開にしました。
>>694 みるく 様
ようやく登場です。
今まで出番がなかっただけに、大活躍ですねぇ。
>>695 みっくす 様
もう一人の主役は遅れての登場です。
あと少しですが、もうちょっとお付き合い下さい。
- 708 名前:みっくす 投稿日:2005/06/14(火) 22:19
- やっぱり「守る者を持つ者」は強いわけで。
さて、クライマックスはどうなるのでしょうかね。
楽しみにしてます。
- 709 名前:七誌さん 投稿日:2005/06/15(水) 23:01
- ほぉ〜・・・なるほど〜・・・
こんな展開ですかぁ・・。
なかなか予想できないですね・・・。
- 710 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/19(日) 23:24
- おもしろくてここまで一気読みしました!はじめはよしやぐにつられ読んでたんですが・・・
ファンタジーもの初めてだったんですがすごいはまりました↑今夜は素敵なよしやぐの夢が見られそうです
続き気になってパソコン離れられませんでした!・・まるごと一日つぶれたけど
- 711 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:44
- 〜飯田圭織〜
「カオリーっ! どこいった、カオリーっ!!」
私を呼ぶ声が聞こえる。
でもまぁ、ちょっと無視。だって今いいところだし。
古文書の通りに詠唱し、魔力を組み立てていく。
「ここにいたか、カオリっ!」
今度は私の真後ろから声が聞こえた。
しょうがない……。私は顔だけ振り向く。
「あ〜、あやっぺ!」
「"あやっぺ"じゃない! 師匠って呼べ!」
私の背後に立っていたのは、私の師匠のあやっぺこと石黒彩。
「まったく、お前はまたアタシの修行をサボりやがって!」
「まぁまぁ、そのぶんちゃんと自習してたんだから。あやっぺ、ちょっと見て!」
「だからあやっぺと……」
ぶつぶつ言ってるあやっぺをまた無視して、私は残りの呪文を詠唱する。
すると現れる、闇色に輝く魔法陣。
あやっぺの意識が魔法陣に集中したのがわかった。
- 712 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:46
- 「ダーク・オーラ!!」
魔法陣から垂直に放たれる闇の波動。
やった、成功!
闇の波動が止まると、魔法陣も跡形もなく消え去った。
「この魔法は……?」
「どう、あやっぺ? すごいでしょ! 遙か昔に途絶えたっていう闇魔法だけど、
案外簡単なもんだねぇ?」
「……まったく、あんたの才能は恐ろしいよ……」
そういいながらも、あやっぺの目は魔法陣が消えたところから動かない。
「んっ、どうかした?」
「いや……闇魔法を使えるのはすごいけど、闇魔法はまだあまり解明されてない魔法だから。
そりゃ、遙か昔に滅びたんだから当然なんだけど……。とりあえず、あまり使わない方がいい」
「え〜? 大丈夫だよ、珍しい属性なだけで、他の魔法とたいして変わらないよ!」
「ま、そうならそれでいいんだけどね……」
あやっぺはまだ浮かない顔をしていたけど、大きく息を吐くと、ようやく普段の顔に戻った。
「さて、日も暮れかけてきたことだし、そろそろ帰れ」
「えっ、いいの?」
「待ってる人がいるんだろ? それに日が暮れるとシャドウホールも使えなくなるし。
明日はサボらないで来いよ!」
「は〜い!」
呪文を詠唱していくにつれて、足下の影が蠢いていく。
「それじゃ、師匠、おやすみ〜!」
「都合のいいときだけ師匠って呼びやがって……」
影が魔法陣を描き出した。
「シャドウ・ホール!!」
- 713 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:48
-
◇ ◇ ◇
「ただいま〜!」
家の扉を思いっきり開いて、中へと入る。
時間はもう夕暮れ時。
キッチンの方から美味しそうな匂いが漂ってくる。
匂いに誘われて、私はふらふらとキッチンの方へ。
「さ〜ゆ! 今日の夕飯はなぁに?」
「あっ、お姉ちゃん! おかえり〜!」
キッチンに立っていたのは、私の妹、道重さゆみ。
妹といっても血は繋がっていない。
それでも私にとっては、大好きな可愛い妹だ。
「今日はシチューを作ったの」
「ふ〜ん……」
確かに鍋の中には乳白色のシチューがぐつぐつと煮えているけど……。
その傍らに置かれた、茶色の物体は……。
「さゆ、これなぁに……?」
「? チョコレートだけど?」
「……どうするの?」
「隠し味に入れてみようと思うの。きっと可愛くなると思うよ!」
「……これはお姉ちゃんが没収!」
「え〜!?」
奪い取ったチョコレートをかじる。
甘い味が口の中に広がる。
キッチンではさゆが「お姉ちゃんになんて夕飯食べさせてあげないもん!」なんて
言ってるけど、聞こえないふり。
創作料理はいいんだけど……普通に食べられるもの作ってよね……。
- 714 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:50
- 「「いただきま〜す!!」」
結局そのあとさゆが機嫌を直してくれたので(「可愛い」と褒めれば一発!)、
私は無事夕食にありつけた。
さゆが作ってくれたシチューを一口飲む。
うん、変なものは入ってなさそう。
「美味しいよ、さゆ」
「チョコ入れた方がもっと美味しいと思うの」
「いや、それはどうだろうね……?」
ちょっと変なところもあるけど、やっぱりさゆは私の可愛い妹で。
「そういえばお姉ちゃん、今日の修行はどうだったの?」
「もうバッチリよ! また新しい魔法覚えたよ!!」
「へぇ〜! じゃあまたあとで見せてね!」
「う〜ん、ちょっと危ないかも……」
そして魔法を学ぶことはとても楽しかった。
幸い才能もあったみたいだし、あやっぺは魔法に関して高度な知識を持っていた。
私はどんどん魔法にのめり込んでいた。
「お姉ちゃん、明日も遅くなる?」
「う〜ん、ちょっと遅くなるかも」
「じゃあまたさゆが美味しい夕飯作って待ってるね!」
「……チョコは入れないでね?」
「え〜!?」
私は充実した日々を送っていた。
またこの暮らしが、何年も続くと思っていた。
少なくとも、このときは……。
- 715 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:51
-
◇ ◇ ◇
「ふ〜、今日はこのくらいにしとこうか?」
「うん、そうだね〜」
赤く染まった空を見ながらあやっぺが呟く。
私も賛同して、一回大きく伸びをする。
「それにしても、なんであんたはそう簡単に魔法を覚えられるのよ?」
「ん〜、才能じゃない?」
「そういうのは思ってても言わないこと」
「へヘッ、じゃーね、あやっぺ! また明日!!」
呪文を詠唱し、影の魔法陣を作る。
「シャドウ・ホール!」
光と影が私を包みこみ、視界が歪んでいく。
次に視界が開けたときには、私は自分の家の前にいた。
「さてと、今日の夕飯は何かな?」
変なもの作ってなきゃいいけど……。
期待半分不安半分で、私は家に入る。
- 716 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:51
- 「さゆ〜、ただいま〜!」
でも、家の中はしーんと静まっていた。
キッチンからいい匂いも悪臭も漂ってこない。
夕飯の買い出し中とか? でもそれはちょっと遅いんじゃない……?
「さゆ〜? お姉ちゃん帰ってきたよ〜?」
キッチンを覗いても誰もいない。
夕飯もまったく作った形跡すらない。
「さゆ〜? いないの〜?」
部屋かな?
そう思って私は階段を上る。
さゆの部屋の前に立ち、一応ノックをしてみるけど反応無し。
「どっか出かけてるのかな?」
そう思いながらも一応部屋の扉を開けてみて、私は目を見開いた。
「さゆっ!?」
部屋の中央にさゆが倒れていた。
- 717 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:52
-
◇ ◇ ◇
「あやっぺ!!」
「なんだよこんな時間に? なんか忘れ物でも……」
あやっぺが私の方を向いた瞬間、動きを止めた。
それもそうだ、今私はぐったりしているさゆを抱えているんだから……。
「あやっぺ! さゆが……!」
「落ち着け、カオリ! さゆちゃんをこっちに寝かせて!!」
「う、うん……」
あやっぺの顔が一気に真剣になる。
あやっぺの先導のもと、私はさゆの身体をベッドに降ろす。
「あやっぺ、さゆは……!」
「気が散るっ! ちょっと黙ってて!!」
ベッドに降ろしたさゆの上着をはだけさせると、あやっぺは呪文の詠唱を始める。
詠唱につれてあやっぺの指先が光ってくる。
あやっぺは魔法を応用した医術、法医術もマスターしている。
光を帯びたあやっぺの指がさゆの身体をなぞっていく。
- 718 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:53
- さゆの身体の上を絶えず動いていたあやっぺの指がピタッと止まった。
それはさゆの左胸のあたり。
しばらくその場で止まったあと、指の光が消える。
あやっぺがさらに顔を厳しくして、はだけさせた上着を元に戻した。
「さゆは……!?」
「……心臓がやられてる……」
「……えっ?」
「しかもかなり病気が進行してる。発見が早ければ手の施しようもあったけど……」
「でもさゆは、そんな素振りは……」
そこまで言って気付いてしまった。
さゆはずっと我慢してた……?
いつも修行を終えて、意気揚々と帰ってくる私に心配をかけないように……。
私はそんなさゆの様子に少しも気付かず、魔法だけに没頭して……。
私の……せいだ……。
「あやっぺ! お願い、さゆを助けてっ!!」
「法医術だって万能じゃない……。もう手遅れなんだよ……」
「そんな……」
私はその場に崩れ落ちた。
目からはいつの間にか涙が零れていて。
目の前にある、握りしめられたあやっぺの拳からは血が滴っていた。
「さゆーーーっ!!!」
- 719 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:55
-
◇ ◇ ◇
そのあとすぐだった。
そのあとすぐに、さゆはこの世を去った。
まだ15年しか生きてないのに……。
あまりにも早すぎる死だった……。
「さゆ…さゆ……」
でも、こんなんで諦められるものか!
絶対にさゆを助けるんだ!!
その一心で、私は家の書庫を引っかき回した。
あったはずだ、どこかに……!
私が求める、究極の魔法……。
「ハァ、ハァ……あった……」
記憶を頼りに取り出した古い古文書を開く。
記されている魔法陣と、魔法の解説。
死者を生き返らせる究極の魔法。
"Heart - Rebirth"
- 720 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:55
- 「これを使えば……さゆが!」
古文書を頼りに魔力を集めていく。
私ならできるはずだ。
今まで使えなかった魔法は一つもない。
滅んだといわれる闇魔法でさえ使えた。全てを可能にしてきたんだ!
魔力をなんとか集めていく。
そして集まった魔力を魔法陣にしようとしたけど……。
「あっ……」
集めた魔力は一瞬にして拡散してしまった。
それは何度やっても同じで。
ためしに他の光属性の魔法を使ってみようとしても、結果は変わらなかった。
- 721 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:56
- 「なんで、なんでよーっ!?」
「無理だよ、カオリ……」
いつの間にか部屋の入り口にはあやっぺが悲しい顔をして立っていた。
「光魔法は普通の人じゃ使えない。光魔法を使える条件は、魔力の量や才能じゃなく、血なんだ」
「血……?」
「光魔法を創り出した人の血がないと使えない。その血を唯一受け継いでいるのが、
ハロモニランドの王家だけだ」
「ハロモニランドの……王家だけ……?」
「カオリじゃ無理なんだよ……」
そんな……じゃあさゆは……やっぱり……
目の前が真っ暗になった。
絶望の闇に捕えられたとき、その闇がそっと囁いた。
"欲シイノナラ奪エ、奪エナイノナラ滅ボシテシマエ……"
- 722 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:58
-
◇ ◇ ◇
「待てっ、カオリッ!!」
私たちの暮らしていた町の入り口。
そこから出ていこうとする私をあやっぺが引き留める。
握られた腕にはありったけの力が込められていて。
「どこへ行くつもりだ、カオリッ!?」
「ハロモニランド……」
「行ってどうするつもりだ……?」
「さゆを生き返らせるの……」
腕を握る力が一段と強くなった。
「不可能だ。カオリにも話しただろう、砂漠の国の伝説を? 魔法だけじゃない、
人を生き返らせるには強い想いも必要なんだ。それでも成功するかわからない、
そんな危険な魔法なんだよ!!」
「だったら光魔法を手に入れて、カオリが使う」
「それも無理だ。できるわけがない、そんなこと」
「だったら、光魔法なんて存在してる意味もないっ!!」
「・・・・・・」
あやっぺの手が離れた。
でも、その次の瞬間には、あやっぺは私の前に回り込んでいた。
- 723 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:58
- あやっぺが手を前に突き出す。
バチッと魔力が爆ぜた。
「どうやらあんたを殺すことが、師匠としての最後の務めになるようね?」
溢れる魔力が魔法陣を形作る。
「ドラゴニック・ファイヤー!!」
完成した紅い魔法陣から炎の竜が翔る。
でもそのころには、あたりを闇が覆い尽くしていた。
「邪魔…スルナァァアアッ!!!」
「!!」
闇が暴発し、全てを粉砕した。
私はさゆを取り戻す。
たとえ全てを犠牲にしても……。
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
- 724 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 20:59
-
◇ ◇ ◇
「がはっ……」
口の中に血の味が広がる。
貫かれた胸がじわっと熱くなる。
私は……死ぬのかな……?
必死になって求めた光に討たれて、このまま……
「飯田圭織……」
私の名を呼んだのは、目の前にいるなっちだった。
ようやく私を捕えたというのに、その顔はなんだか悲しそうで……
「光の中で、安らかに眠って……」
私を貫いたエクスカリバーから光が溢れる。
そしてだんだんと私の身体を包んでいく。
それはとても優しく、とても温かな光……。
あぁ、私が求め、滅ぼそうとしてたのは、こんなにも柔らかなものだったんだ……。
- 725 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 21:00
- ゴメンね、さゆ……。
お姉ちゃん、あなたを生き返らすことできないみたい……。
でも、許してくれるよね?
また、会えるよね……?
『お姉ちゃん!』
薄れゆく意識の中、確かに声が聞こえた。
もう一度だけ、しっかりと目を開ける。
私を覆った光の向こう、
かすかにさゆが見えた気がした……。
- 726 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 21:01
-
◇ ◇ ◇
〜安倍なつみ〜
エクスカリバーから溢れた光が飯田圭織を包みこむ。
「光の中で、安らかに眠って……」
そして飯田圭織は光の中へと消えていった。
飯田圭織を包んでいた光が消えた。
でも私は動けなかった。
私だけじゃない、その場にいた他のみんなも、身動き一つしなかった。
しばらく完全な静寂が、その場を支配した。
「やった……」
その静寂を破ったのはよっすぃーの声だった。
「やったー!! やりましたよ、保田さんっ!!」
「うわっ、ちょっと!?」
振り向くと、よっすぃーが隣にいた圭ちゃんに抱きついてるのが見えた。
それを合図にみんなの顔に笑顔が戻る。
そして静寂は完全に破れた。
「みきた〜ん! よかったぁ……」
「えっ、うわっ、ちょっと、泣かないでよ、亜弥ちゃん!」
藤本に抱きついて泣いている松浦と、それによってオロオロしてる藤本。
「安倍さん、やりましたね!!」
私のほうにとことことよってくる紺野。
笑顔の中にちょっと悲しそうな表情も混じってる気がするけど、それはしょうがないだろう……。
- 727 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 21:03
- 城の外からもざわめきが戻ってくる。
飯田圭織がかけた魔法陣が解けたのだろう。
そして、もう一つ……
「「安倍さ〜ん!!」」
「えっ? うわっ!?」
屋上へと続く扉から飛び込んできたのはののとあいぼん。
私に向かって真っ直ぐ飛びついてくる。
「のの、あいぼん、無事だったんだね!」
「はい! 安倍さんのおかげれす!!」
「助かりましたよ〜!!」
ギューッと私に抱きついて離れない二人だけど……
「辻! 加護! 早く戻ってこいっ!!」
ののとあいぼんの入ってきた扉から声が二人を追いかけてきた。
この声は……
- 728 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 21:03
- 「下にいる兵士がまた戦い始めないうちに、早く止めないといけないんだから!!」
「「は〜い!!」」
元気よく返事をすると、また入ってきた扉へと駆けていく二人。
でも途中で止まり、二人一緒にくるっと振り向くと……
「「安倍さん、矢口さんを元に戻してくれて、本当にありがとうございました!!」」
二人はまたつむじ風のように屋上から出ていった。
そしてかわりに屋上へと入ってきたのが……
「みなさん、無事ですかっ!?」
「あっ!」
ようやく紺野に本当の笑顔が戻った。
「愛ちゃん、里沙ちゃん、それにまこっちゃんも!!」
「あさ美ちゃん! あさ美ちゃんも無事やったんやなぁ! よかったで!」
背中に付いた羽根が消え、三人は屋上へと降り立つ。
そして紺野のまわりに駆けよった。
- 729 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 21:04
- みんながみんな、それぞれ戦争が終わった喜びを噛みしめている。
でもそんななか、静かに私だけを見つめている人が一人。
私もしっかりと目を見つめ、一歩一歩近づいていく。
「ごっちん」
「なっち」
ごっちんの前に立つと、ごっちんはそっと腕を広げた。
私はそのままごっちんの腕の中に飛び込む。
ギューッとごっちんの腕が私を抱きしめる。
「ごっちん……全部終わったよ」
「うん、お疲れ様、なっち」
トクントクンと聞こえてくる、ごっちんの鼓動が愛しい。
柔らかいごっちんの体温と香りが全てを癒していく。
- 730 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 21:05
- 「ありがと、ごっちん……。ごっちんがいなかったらなっちダメだったよ……」
「そんな……きっとごとーがお礼言わなきゃいけないことの方が多いよ」
一旦ごっちんの腕の中から出て、正面から向き合う。
全てが終わった。ということは……
ちょっと早いけど、ごっちんとの約束を果たす時が来たってことで……
「あのね、ごっちん……なっちも……」
でも言い終わる前に、ごっちんがまた近づいてきて……
「えっ……んっ!?」
言葉が遮られた。
場が一瞬シーンと静まり、すぐにまた盛り上がる。
「おーおー、見せつけちゃってぇ!」
「いいっすねぇ、ウチも早く矢口さんとイチャつきたいっすよ〜!」
「みきた〜ん、松浦たちも〜!!」
「いや、意味わかんないし、絶対ムリ!!」
そんな声が外野から聞こえてくるけど、私はそれどころじゃなくて。
結局ごっちんが唇を離してくれるまで、私は目を閉じることもできなかった。
「ご、ごっちん! まだ早いっしょ!!」
「なっち……」
完全に顔が熱を帯びている私とは違って、ごっちんはふわりと微笑んだ。
そして……
- 731 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 21:06
- 「今まで、ありがとう……」
「……えっ?」
いったん閉じられたごっちんの瞳が開く前に、ごっちんの身体がふわっと傾いた。
「あっ……」
思わず反射的に腕を伸ばし、ごっちんの身体を抱きとめる。
抱きしめたごっちんの身体からは、あの愛しい鼓動が聞こえなかった。
「ごっちんッ!!?」
- 732 名前:第27話 投稿日:2005/06/23(木) 21:07
-
- 733 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/06/23(木) 21:13
- 容量の関係でちょっと板を移動してもらいました。
管理人様、ありがとうございました。
で、移動してもらった早々ですが、次回完結です。
>>708 みっくす 様
はい、やっぱりなっちは強いです。
そしてようやく完結になります。
>>709 七誌さん 様
こんな展開になります。
ラストまでお付き合い下さい。
>>710 名無飼育さん 様
かなりの量になったので、一気に読むにはさすがに大変だったと思いますが……。
よしやぐは書くのが難しかったですが、気に入っていただけたようで幸いです。
- 734 名前:みっくす 投稿日:2005/06/23(木) 21:21
- 久しぶりにリアルタイムで読みました(^^)v
カオリンが光魔法に執着するのはこういうことだったのですね。
あと、死人を生き返らすということは、それなりの代償を払わなければならない
ということか?
- 735 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/24(金) 00:52
- 更新お疲れ様です。
いよいよ、次回完結ですか。
嬉しいような悲しいような。
ラスト楽しみにしてます!
- 736 名前:みるく 投稿日:2005/06/24(金) 09:56
- 更新お疲れ様です。
いよいよ最終回なんですね…
楽しみに待ってます!
- 737 名前:七誌さん 投稿日:2005/06/24(金) 23:02
- 更新乙です・・・
次回ついに最終回なんですか・・・
寂しい感じもしますが、こうなったら
最後まで応援します!
- 738 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/25(土) 02:45
- 更新お疲れさまです。
うぁぁぁ、そーいえばかなり前に出てきた紺ちゃんが話してた光と闇の話!!!
すごい構成力!脱帽しました。
ラスト固唾を呑んでお待ち申し上げてます。
なーんて詳細思い出せなくて過去ログ倉庫行ったヒト〜!
ノ
- 739 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:48
-
Epilogue 1 花舞う丘で 〜吉澤ひとみ〜
- 740 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:50
- ブーツの紐をきつく結ぶ。
腰にカタナを差す。
「よしっ!」
そして部屋を出た。
だんだんと暖かくなってくるこの時期。
季節は春。そろそろあそこの花も見頃になる季節。
「あっ、よっすぃー」
「あ〜、隊長!」
城の廊下を歩いていると、保田さんとはち合わせた。
「なに、今日もまた行くの?」
「そうっすよ!」
「ま、いいけどね。でもちゃんと自分の隊の特訓くらいはしときなさいよ」
「は〜い!」
それだけ言うと保田さんは行ってしまった。
アタシもそのまま保田さんとは逆方向、城の出口へ向かって歩き出す。
「しっかし、アイツはいったい何してるんだか……」
背後でそんな呟きが聞こえた気がした。
- 741 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:51
-
◇ ◇ ◇
丘を登ると見えてくる、ピンクの花と緑の葉。
アタシと矢口さんの秘密の場所。
アタシは木に寄りかかって、咲き始めた花を見上げる。
戦争はもう終結したけど、矢口さんはまだ戻ってこない。
いろいろと事後処理があるのだろう。
ロマンス王国騎士団長なんだから、やっぱり責任もあるんだろうし。
腰に差したカタナを見つめる。
砕けてしまった花月のかわりに、アタシに送られてきた新しいカタナ。
差出人は書いてなかったけど、アタシはすぐわかった。
今度のカタナの名は……『帝月』。
- 742 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:52
- 風が吹いた。
咲いていた花がふわっと風に舞う。
その花を目で追って……止まった。
「……矢口さん……」
「……ただいま、よっすぃー……」
真っ黒のドレスと肩に担いだ大鎌。
でもその顔にはしっかりと笑顔が戻っていて。
駆けよって抱きしめる。
矢口さんの淡い香りと、柔らかな温度が戻ってくる。
「矢口さん、少し背縮みましたか?」
「なんだよ! 第一声がそれかよ! もっと他に言うことあんだろ!?」
「へへへっ!」
そっと身体を離す。
そして矢口さんの目を見つめる。
「おかえりなさい、矢口さん」
- 743 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:53
-
Epilogue 2 旅立ち 〜松浦亜弥〜
- 744 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:54
- 「亜弥ちゃん……ホントにいいの?」
「む〜、たん、しつこいよ!」
「……"たん"ってなに?」
「みきたん! 略して"たん"!」
「や、原形留めてないから……」
私の部屋の入り口に突っ立ってるみきたんと適当にやり取りしながら、私はゼティマに
呼ばれてからずっと使っていた部屋を片づける。
「たんも突っ立ってるだけなら、ちょっとは手伝ってよ!」
「……ハァ」
溜め息をつきながらも、みきたんは私の部屋に入ってきて、荷物の整理を手伝ってくれた。
洋服やらアクセサリーやらをバッグに詰めていく。
「亜弥ちゃん……そんな大荷物でついてくる気?」
「まさか、途中でハチャマによって、実家においてくるから!」
「あ〜そ〜……」
「よしっ! それじゃ、行こう、たん!!」
まだ渋ってる様子のみきたんをおいて、私はずんずんと部屋を出て行く。
そしてハロモニランド城の廊下を歩いていく。
ここも見納めになるかもしれない。
できるだけ心に留めながら、城門へと向かう。
- 745 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:55
- 「亜弥ちゃん、挨拶はいいの?」
「大丈夫、昨日のうちに全部済ませたから」
「1番隊は?」
「麻琴が引き継いでくれたよ」
「……大丈夫なの……?」
「……たぶん……」
ま、確かにちょっと不安だけど、それでも私はもう決めたんだ。
みきたんの旅についていくって。
もう絶対に離れないって。
「ほら〜、たん、往生際が悪いよ!」
「ハァ……わかったよ……。亜弥ちゃん言いだしたら聞かないし……」
みきたんもようやく観念してくれたらしい。
私の横に立って、真剣な目で私と向き合う。
「ミキの旅は、たぶん亜弥ちゃんが思ってるよりもずっと過酷だよ?」
「大丈夫、たんが一緒だもん!」
「わかった、じゃあもう何も言わない。一緒に行こう?」
「うんっ!!」
住み慣れた場所を離れるのは少なからず不安がある。
でも、大丈夫。
みきたんが一緒だから。
もう絶対に、離れたりしないから……。
みきたんの手をしっかりと握って、
私とみきたんはひっそりとハロモニランドをあとにした。
- 746 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:56
-
Epilogue 3 結ばれる光 〜安倍なつみ〜
- 747 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:57
- 「あ〜! もうっ!!」
お城の中、赤い絨毯が敷き詰められた廊下を私は走っていく。
通りすぎる私を見る護衛の兵士たちは、『久しぶりだなぁ』と言うような表情を私に向けている。
まったく……予定に支障をきたしてしょうがないんだけど……。
でも心のどこかでは、なんだか懐かしくて、嬉しく思っている自分がいる。
城の入り口まで出る。
するとそこには王宮騎士団団長になった圭ちゃんがいた。
「あっ、圭ちゃん!」
「あぁ、なっち。大変だねぇ」
圭ちゃんは親指で、クイッと城の裏手の森を指しながら言った。
- 748 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:58
- 「出てったの知ってるんだったら止めてくれればいいのに!」
「なっちの楽しみ奪っちゃっうわけにはいかないでしょ?」
「まぁ、いいんだけどね。それより圭ちゃんはこんなところで何やってるの?」
「あぁ、ちょっと西の町にモンスターが現れたみたいでね。それで……」
「保田さ〜ん!!」
圭ちゃんの話を遮って現れたのは、4番隊隊長になった新垣。
後ろには4番隊の隊員を従えている。
なんかずいぶんと隊長が板に付いてきたみたい。
「保田さん、4番隊集結しました!」
「よしっ! じゃあさっそくモンスター討伐へ出向いて! あっ、でも民間人の救助が
第一だからね!」
「ハイッ! よーし、行くぞーっ、4番隊!!」
新垣が先頭になって駆け出す。
4番隊の隊員がそのあとに続く。
その隊員の中には……
「じゅ、塾長、待ってーっ!!」
「塾長じゃなぁい! 隊長って呼べって言ってんだろ、亀井! むっ!? ほら、お前も
来るんだよ、田中ーっ!!」
「フン……」
そして4番隊はあっという間に見えなくなってしまった。
- 749 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 11:59
- 「さて、それじゃあ私は仕事に戻るわ。なっちも一応仕事中でしょ?」
「うん、一応ね」
城の中に戻る圭ちゃんを見送って、私は馬小屋へと向かった。
でも馬小屋には予想に反して、ちゃんと馬がそろっていた。
あれっ? てことは今日は歩いていったのかなぁ?
それなら……ということで、今日は私も歩いて、森へと入っていった。
林道を道なりに歩いていく。
ロマンス王国との戦いのあと、私は騎士団を辞めた。
隊長は圭ちゃんが引き継ぎ、圭ちゃんが隊長だった4番隊は新垣が引き継いだ。
松浦も騎士団を辞め、ハロモニランドから旅立っていった。
副団長だった麻琴がそのまま1番隊の隊長になり、そしてハロモニランドに戻ってきた
ヤグチが、2番隊隊長兼副団長になった。
そして今私は、王女直属のナイト兼執事として働いている。
ガサッと草のカーテンをくぐって、秘密基地の中へと入る。
すると、そこには……
「あっ、なっち!」
「まったくもう……」
お姫さまが笑顔で出迎えてくれた。
- 750 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:00
-
◇ ◇ ◇
「ごっちんっ!? ごっちんっ!!」
倒れたごっちんを抱きしめる。
身体を揺すっても、ごっちんは目を開けてくれなくて。
そのころには周囲もまた静寂に戻っていた。
私の悲鳴だけが空しく響く。
「ねぇ、ごっちん! 目を開けてよっ!!」
思い出される砂漠の国の物語。
愛する人を蘇らせたお姫様は、力を使い果たして、そのまま……
そのまま……
「いやだっ! ごっちん、お願いだから目を開けてっ!!」
涙は止めどなく零れていく。
視界が歪み、ごっちんの顔も滲んでいく。
私のせいだ……。私のせいで、ごっちんが……。
- 751 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:01
- 「ごっちん……なっちまだ…ごっちんに"好き"って言ってないっしょ……」
抱きしめたごっちんの身体は氷のように冷たくて。
そして何も返してくれない……。
「ごっちん……ごっちーんっ!!」
でも暗闇に囚われそうになった時、小さな光が差した。
それは小さかったけど、力強い光で。
顔を上げると、そこに光の門ができていた。
ゲートが音もなく開く。
まばゆい光とともに現れたのは……
「女…王……様……」
裕子女王様だった。
その場にいたみんなが、ザッと跪いた。
でも私はごっちんを抱きしめたまま動けなくて……。
私の前に女王様が立った。
- 752 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:02
- 「女王様……申し訳ありません……。私のせいで、ごっちんが……ごっちんがあっ!」
泣き叫ぶ私の頭に、女王様の手が置かれた。
その手はとても優しく私の頭を撫でて。
その場にしゃがみ込んだ女王様の目は、優しく私を見つめていた。
私を撫でていた手が、今度は私が抱えているごっちんへと移る。
頬を撫で、そして優しく髪を梳く。
「まったく、このコは……無茶ばっかりして、後先考えなくて、それでいて、好きになったら
一直線……」
いったん言葉を切ってごっちんのことを見つめる視線は慈愛に満ちあふれていて。
「そういうところは……私似やね」
ごっちんを撫でていた手が光を放った。
「なっち、離れとれ」
「えっ、ですが……」
「大丈夫や、私に任せとき」
女王様の真剣な瞳に押されて、ごっちんをその場に寝かせ、少しだけ離れる。
女王様がニコッと笑うと、その瞬間に光が溢れた。
- 753 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:03
- 「うわっ!?」
あまりの眩しさと、光の威力に思わず後ずさる。
でも、この光って、もしかして……。
「なっ!? 女王様、いけませんっ!!」
圭ちゃんが弾かれたように立ち上がった。
「これで女王様にまで、もしものことがあったらっ!!」
「なぁに、大丈夫や」
じゃあやっぱりこれは……・。
私を死の淵から救ってくれた、あの光。
「真希は一発で成功させたんや。しかもその場の全員を生き返らせるほどにな。
だから私が失敗するわけあらへん。一応経験者やからな」
「えっ……?」
"経験者"って……!?
疑問が顔に出てたみたいで、女王様が私の方を向いて微笑んだ。
- 754 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:04
- 「先の戦争で旦那が死んだ時にな、一回試したことあるんよ。でもその時は失敗やった。
私もなんとか死なんかったけど、旦那も生き返らんかった……」
「そんなことが……」
「だから今回は何がなんでも成功させんと。あの人に会わせる顔ないわ」
溢れた光がまた集まり、女王様を包みこんで天へと昇っていく。
全ての力が、生命力が注がれているのがわかる。
命をかけて、魔法に挑んでいる。
「なっち、私にもしものことがあったら、その時はハロモニランドと真希のこと頼んだで」
私は大きく頷くことしかできなかった。
女王様はこんなときなのにまたニコッと笑った。
あとはもう信じるだけ。
ごっちんの強さと、女王様の力を。
「戻って来いよ、真希……なっちが待ってるで!!」
光の柱が輝く。
「ハート・リバース!!!」
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
- 755 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:05
-
◇ ◇ ◇
「もう、ごっちん! また勝手に城を抜け出してぇ!!」
「え〜? またじゃないよぉ、けっこう久しぶりだよ?」
「そんなことより、なんか言うことは?」
「えへへ、ゴメンね、なっち?」
どうやら反省の色はないらしい。
ま、いいけどさ……もうだいぶ前に諦めてることだし……。
「そういやごっちん、なんで今日は入り口で待ってたの?」
いつもはもっと中まで入って待ってるのに。
そう聞くとごっちんは「あはっ」と笑った。
「だって、なっちと一緒に入りたかったんだもん!」
「えっ?」
「いいから、来てっ!!」
「わっ!?」
ごっちんに手を引かれて走り出す。
なに、なに、いったい!?
そのままごっちんに引かれて、秘密基地の中に飛び込むと……
- 756 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:06
- 「じゃーん!!」
「うわっ……」
私は言葉を失った。
そこは以前来た時と、ガラリと風景を変えていた。
あたり一面に咲き誇っている、色とりどりの花…花…花……。
圧倒的な色彩が目に眩しい。
甘い香りが辺りに充満している。
「ごっちん……どうしたの、これ?」
「へへへー、タネ撒いてみたんだぁ! ちゃんと咲いてくれてよかった!!」
ごっちんが花々の中へと駆け出す。
でも私はずっとその光景に目を奪われていて。
「なっちーっ!!」
花の中から呼ぶごっちんの声でようやく我に返った。
私もごっちんのもとへ、花の中を移動していく。
「座ろっ?」
「う、うん……」
そして並んで腰を下ろす。
甘い香りに包まれて、隣ではごっちんが笑ってて。
なんだか幸せに酔いそうになる。
「びっくりした、なっち?」
「すっごいビックリしたよ」
「えへへ、そっかそっか!」
ごっちんは満足そうに笑った。
可愛らしくてステキな、まるでここに咲いている花のような笑顔。
もうすっかりと「笑わん姫」なんていうあだ名も払拭された。
ごっちんは笑顔が似合うお姫様になって。
訳を聞いたら、「なっちがいつも一緒にいてくれるようになったから!」だって。
- 757 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:07
- 「なっち」
しばらくごっちんと雑談して、そのあとそのままボーっとしてると、不意にごっちんに呼ばれて。
ごっちんの方を向くと、ごっちんと瞳が重なった。
ごっちんの瞳がしっかりと私を見つめている。
「なに、ごっちん?」
「なっち、ごとーのこと好き?」
「えっ?」
ごっちんはたまにこんなことを訊いてくる。
それは主に私をからかったり、私に『好き』って言って欲しくて訊いてきたりだけど、
今日はなんだかそんな雰囲気がなくて……。
「す、好きだよ、もちろん」
ちょっと照れながら答えると、それでもごっちんは嬉しそうに微笑んだ。
「そっか、じゃあさ……」
地面におろしていた手に、ごっちんの手が重なってきて。
そして……
「けっこんしよっか?」
「……えっ?」
風が吹き、花が舞い上がった。
- 758 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:09
- 「ごっちん……今、なんて……?」
自分の耳が信じられない。
「あ〜、だからぁ……」
ごっちんは恥ずかしそうに顔を背けたけど、また私の方を向くと、一瞬で私の身体は
ごっちんに包まれた。
そして、ごっちんの唇が私の耳元に寄せられて……
「ごとーと、結婚しようか?」
囁かれた言葉が、じんわりと心に染みこんでいく。
身体を少し離して、ごっちんは続ける。
「ごとーもなっちのことが好き。大好き! これからずっとなっちと一緒にいたいし、
これからずっとなっちに一緒にいて欲しい。だから……ごとーと結婚しよう?」
「ごっちん……気持ちは嬉しいけど、女同士じゃ結婚できないよ?」
「そんなのごとーが法律変えたげる」
真顔で言い切ったごっちん。
それがちょっとおかしくて、思わず笑ってしまった。
「フフッ、職権乱用だべさ、ごっちん」
「む〜! いいじゃん、ちょっとくらい〜!」
「ごっちんの場合、ちょっとじゃないっしょ〜?」
「んあっ! もう、そんなこと言っちゃう口にはオシオキだぞ!!」
「んっ……」
唇が重なる。
それは甘く、とろけそうになるようなキス……。
「なっち、ごとーのお嫁さんになってください」
「はい、喜んで」
- 759 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:10
-
◇ ◇ ◇
リーン、ゴーン……
外から大聖堂の鐘の音が聞こえてくる。
私はお城のある一室で、大きな鏡の前に座らされてる。
「まさかなっちに先越されるとわねぇ……」
「圭ちゃんもさっさといい人見つけないと行き遅れるよ?」
「はい、ちょっとその減らず口閉じてて」
唇に赤い口紅が塗られていく。
「よしっ、できた! ど〜よ、私のコーディネイトは?」
「う〜、コーディネイトはいいんだけど、やっぱりなんか恥ずかしいべさ」
鏡に映った自分の姿を見る。
鏡の中の自分は、純白のドレスを身に纏っていた。
- 760 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:11
- 「しょうがないじゃん、姫様が『なっちのウェディングドレスが見たい!』って言ったんでしょ?」
「そうだけど……やっぱりドレスとかって慣れてないっていうか……」
その時、部屋のドアがコンッコンッとノックされた。
圭ちゃんが返事をすると、ドアが開く。
そしてヤグチが入ってきた。
ヤグチは私を見ると失礼にも思いっきり吹き出した。
「うわ〜、馬子にも衣装だねぇ〜!!」
「うっさい、虫!」
「虫ゆーなっ!!」
「何しに来たのよ、ヤグチ?」
圭ちゃんがなんとか場を納める。
「あぁ、そうだ! 姫様のメイクアップも完成したから、そのお披露目にね!」
「えっ、ごっちんも?」
「どうぞ〜、姫様!」
「は〜い!!」
また扉が開いて、そこからごっちんが入ってくる。
ごっちんは髪を一つに結って、純白のタキシードを着ていた。
- 761 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:12
- 「ごっちん……」
思わずごっちんに釘付けになる。
いつもはドレスですごく可愛いと思うけど、なんか今日はキレイっていうか、格好いいっていうか……。
いつもの笑顔と変わらないはずなのに、なぜかちょっと焦ってしまう。
「あはっ、なっち、すっごくキレイだよ!」
「ごっちんだって、格好いいべさ」
「ねぇ、なっち、お母さんが呼んでるんだ。大聖堂行く前に見せに来い、だって」
「えっ、女王様が?」
「うん! 早く行こ〜!」
ごっちんが私の手を掴み、部屋を出て行く。
圭ちゃんとヤグチは「行ってらっしゃ〜い」というように手を振っていた。
「早く、早く〜!」
「わわっ! ちょっと、ごっちん! これ動きにくいんだべさ〜!!」
- 762 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:13
-
◇ ◇ ◇
コンッコンッ!
『あぁ、どうぞ〜』
女王様の私室のドアを叩くと、中から返事が聞こえてくる。
「失礼します」
ドアを開けて中へと入っていく。
床一面に魔法陣が描かれている、女王様の部屋。
ごっちんを助けるためにハートリバースを使った女王様は、なんとか奇跡的に
一命を取り留めた。
でも、まったく無事というわけでもない。
魔力は全て使い果たしてしまい、もう女王様は魔法を使えなくなってしまった。
さらに生命力も免疫力も低下し、圭ちゃんと紺野が編み出した浄化結界の中でしか
生きられない身体になってしまった。
女王としての仕事は、今はごっちんが引き継ぎ、私がサポートしている。
それでも女王様は「死ぬまでは、私が女王や」と、女王の座は渡さないでいる。
- 763 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:14
- 「お〜、二人ともよぅ似合ってるわ」
私たちの姿を見て、女王様が笑った。
体が弱ってるとは思えない、元気な笑顔。
「女王様、結婚を認めてもらい、ありがとうございました」
「いや、なっちなら真希を幸せにしてやれると思ったしな。それになっちといると、
真希もちゃんと笑えてるようやし」
「……お母さん……」
ごっちんが女王様の前に歩み出た。
「今まで……本当にありがとうございました……」
「礼を言われるような母親らしい立派なこと、私はまだ全然できてへんよ」
「でも……」
「あぁ、もう、泣くなや。せっかくメイクしたのに」
そう言いながらも女王様はごっちんをギュッと抱きしめた。
震えるごっちんの背中を見て、私もちょっと目頭が熱くなった。
- 764 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:14
- 「そろそろ式が始まる時間やろ? 私は出られへんけど、しっかりな」
「はい」
ごっちんが女王様から離れた。
私の隣に戻ってきて、また私の手を握る。
その時にはもうごっちんは笑顔に戻っていた。
「それでは、行ってきます、女王様」
「なんや、せっかく家族になるのに他人行儀やな。『お義母さん』って呼んでや?」
「えっ……!?」
部屋を出ようとすると、女王様がそんなことを言ってきた。
「で、ですが……」
「ほらぁ、早くせんと式始まってしまうで?」
「うぅ……」
女王様は楽しそうに笑っていて。
ついでに隣のごっちんも同じ笑顔を浮かべていた。
逃げ場なし……。
ちょっと恥ずかしくって、ちょっと緊張するけど……。
「……行ってきます、お義母さん」
- 765 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:15
-
◇ ◇ ◇
リーン、ゴーン……
大聖堂の鐘が鳴り響く。
私とごっちんは大聖堂の入り口に並んで立っている。
「なんか、緊張するね……」
「そだね……」
でもそんな緊張も、目の前の扉が開いた瞬間に一瞬で溶けた。
流れてくるパイプオルガンの音色と、祝福の拍手。
そして真っ直ぐ続くバージンロード。
そこには光溢れる未来が広がっていた。
「あはっ、行こっか、なっち?」
「うん」
ごっちんの腕に自分の腕を絡める。
そしてバージンロードの上を、一歩一歩歩いていく。
圭ちゃんやよっすぃーなど、騎士団の面々が、普段は絶対着ないようなドレスを着て、
拍手を送ってくれていた。
その中を牧師様のもとへ、ごっちんと並んで進んでいった。
- 766 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:17
- Love is not patient and kind.
Love is not ill mannered or selfish or irritable.
Love does not keep a record of wrongs;
love is not happy with evil, but is happy with the truth.
Love never gives up; and its faith, hope, and patience never fail.
Love is eternal.
牧師様による聖書朗読が終わると全員目を閉じて祈りをささげた。
そしてそれが終わるといよいよ誓約だ。
「真希、あなたはなつみと結婚し、健やかなる時も病める時も、この人を愛し、この人を敬い、
この人を慰め、この人を助け、その命の限り堅く節操を守ることを誓いますか?」
チラッと目だけでごっちんの方を見ると、ごっちんも私のほうを見たようで目があった。
ヴェール越しにごっちんの笑顔が見えた。
「はい、誓います」
「……なつみ、あなたは真希と結婚し、健やかなる時も病める時も、この人を愛し、この人を敬い、
この人を慰め、この人を助け、その命の限り堅く節操を守ることを誓いますか?」
「はい、誓います」
「それでは……指輪の交換を……」
私たちの前に運ばれてくる、対の指輪。
まずは私がごっちんの左手薬指に指輪を通す。
同じようにごっちんも私の左手薬指に指輪を通し、私たちは同じ指輪で結ばれた。
そして、次は……
「それでは……誓いのキスを……」
- 767 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:19
- ごっちんと向き合う。
ごっちんの手が、そっと私のヴェールをまくった。
近づいてくるごっちんの顔……。
「なっち……」
ごっちんが小さな声で囁いた。
「ずっと一緒だよ?」
「……うん」
私も小さく頷く。
ごっちんは満足そうに微笑んで、最後の距離を一気に近づけた。
これから先にあるものは、決して幸せな結末だけではないかもしれない。
それでも、私たちはそれを選んだ。
私たちの唇が一つに重なった。
それは、或いは一瞬なのかもしれない。
でも、息ができなくなるほど長い一瞬だった。
- 768 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:20
-
Maki and Natsumi have made their covenant of
marriage together before God and all have
present, by solemn vows.
Therefore, I declare that they are couple;
in the Name of the Father and of the son and of the Holy Spirit.
Therefore what God has joined together, let no man not separate.
- 769 名前:Epilogue 投稿日:2005/06/30(木) 12:22
-
Dear my Princess
〜 Fin 〜
- 770 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/06/30(木) 12:28
- これにて「Dear my Princess」は完結です。
最後は駆け足になってしまいましたが、自分的には満足のいくエピローグになったと思います。
約1年半という、想像以上の長編になりましたが、
ずっと付き合ってくれた方、レスをくださった方、
そしてちょっと立ち寄ってくれた方、本当にありがとうございました。
またどこかで会えることを祈りつつ。
- 771 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/06/30(木) 12:37
- >>734 みっくす 様
リアルタイムありがとうございます。
カオリンの過去はけっこう悩みましたが、あんな感じにしてみました。
>>735 名無飼育さん 様
おかげさまで無事完結することができました。
ラストはこんな形にしてみました。
>>736 みるく 様
長かったですがようやく完結いたしました。
これまで応援ありがとうございました。
>>737 七誌さん 様
ちょっと淋しいですが、これにて完結です。
最後までお付き合い下さりありがとうございました。
>>738 名無飼育さん 様
けっこう前に出てきた話ですが、気づいていただけて嬉しいです。
光と闇の話はまさしくこのために作りました。
- 772 名前:みっくす 投稿日:2005/06/30(木) 13:14
- 完結おめでとうございます。
長い間おつかれさまでした。
こういう終わり方でよかったです。
次回作期待してまっています。
- 773 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/30(木) 15:03
- 完結おめでとうございます。
もうなんだか感無量です…。
自分もこうゆう人を引き込む作品を書きたいものです。
いい作品をありがとうございました!
- 774 名前:名も無き読者 投稿日:2005/06/30(木) 16:52
- 完結お疲れさまです。
おかげさまで胸がいっぱいです。
熱いバトルと甘いCP。
両方が素敵にマッチした魅力溢れる作品でございました。
完結は感動ですが寂しくもあります。
けれどその辺は次回作に期待させていただいて。w
最後に改めてお疲れさま、そしてありがとうございましたっ。(平伏
- 775 名前:七誌さん 投稿日:2005/06/30(木) 18:15
- 完結お疲れ様ですっ!
とっても良いお話でした!
約一年半ですか・・・長かったですね。
今までのこの小説のストーリーが頭の中に思い出されてきました。
思い出したとき、改めていい話だと、思いました。
では、こんなことしか言えませんでしたが、
作者さま!本当に今までお疲れ様でした!
- 776 名前:tsukise 投稿日:2005/06/30(木) 20:52
- 小説完結お疲れ様です。
ファンタジーならではの不思議な世界観に自然と惹き込まれて、
ずっと追いかけさせて頂いてました。
メイン二人のふんわりとしたお互いを想い合う気持ちや、
強い絆に、ラストの展開で自然と笑みがこぼれたり…。
本当に約1年半、お疲れ様でした。
また次回作に出会える日を楽しみにしていますね。
- 777 名前:名無し 投稿日:2005/06/30(木) 21:29
- 完結お疲れ様でした。
ずっと追いかけさせてもらいましたが、
ホントにこっちまで幸せになりました。
ジューンブライドおめでとうですw
本当にありがとうございました。
- 778 名前:takatomo 投稿日:2005/06/30(木) 23:39
- 完結お疲れ様です!
毎回の更新を楽しみにしておりましたので、楽しみが1つ減ってしまったと思うと少し寂しいですが、すばらしいラストがそれを吹き飛ばしてくれました。
なっちと後藤を含め、全てのキャラが魅力的に描かれていて、それぞれの思いが交差していく様子がすごく好きでした。
バトルと萌えというものを融合した楽しい空間を、本当にありがとうございました。
- 779 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/01(金) 00:07
- 完結お疲れさまです。作者様のような素晴らしい情景を文字にできるような方を
はじめてみました。なかでもよしやぐの再会の場面が美しかったです。読み終えたあと、
ゲーム一本クリアしたような清々しい感じがしました。たのしい時間をありがとうございました。
- 780 名前:konkon 投稿日:2005/07/01(金) 00:45
- 更新お疲れ様でした。
毎回楽しみにして読ませていただきましたよ。
がんばるなっちに可愛いごっちん、他のメンバーの
描写がとてもうまくてすごく面白かったです。
もし次回作があるようなら、また読ませていただきますね♪
今までありがとうでした。
- 781 名前:闇への光 投稿日:2005/07/01(金) 21:30
- 完結おめでとうございます。
なるほど・・・最後はこうなりましたか・・・。
私の予想は・・・一部だけ当たったかな・・・。
ただ、ラストは私の予想としては殿方と姫が逆でしたけど・・・。
次回作も楽しみに待たせていただきます。
- 782 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/02(土) 00:08
- 途中から読み始めてファンになりました
最後までほんとに楽しむことができました
ありがとうございます
(*´ Д `)ノ<作者さんありがとねぇ〜あは
- 783 名前:Extra Story 投稿日:2005/08/10(水) 16:29
- 〜後藤なつみ〜
「んっ……?」
差し込む朝の光で目を覚ます。
カーテンから零れる光はピカピカと輝いていて。
太陽が昇ってから、もうずいぶんと時間が経ってることを物語っていた。
「ん〜……」
それでもまだ眠い。
まぁ、昨日はいろいろと大変だったし。
着慣れないドレスなんかも着せられたし。
それに……
「……寝たの遅かったしね……」
コロンと寝返りをうつと、そこには愛しいごっちんの姿。
しっかりとまぶたは閉じられていて、起きる気配がない。
「結婚……したんだよねぇ……」
なんかまだあまり実感が湧かないけど。
でもきっとこれから、結婚したんだって思える出来事がいっぱい増えていくはず。
- 784 名前:Extra Story 投稿日:2005/08/10(水) 16:30
-
Extra Story 実感
- 785 名前:Extra Story 投稿日:2005/08/10(水) 16:30
- 「ごっちん、ごっちん!」
「ん〜?」
私ももうちょっと寝ていたいんだけど、さすがにそうも言ってられない。
私はいつものようにとなりで気持ちよさそうに眠っているごっちんを起こしにかかる。
結婚してもこれは変わらないんだろうなぁ。
「なっちぃ……?」
ごっちんはしばらくうっすらと開けた目をこすってたけど。
私の方を向くと、急にパチッと目を開けた。
「なっち……おはよ」
「うん、おはよう……」
なんかちょっと照れくさい。
それでも伸びてきたごっちんの手に引き寄せられるままに唇を重ねる。
「んっ……」
「むっ……」
唇を離すと、ごっちんはニッコリと微笑んだ。
私も同じようにごっちんに微笑みかける。
なんだかそれだけのことがすごく嬉しくて、すごく楽しい。
- 786 名前:Extra Story 投稿日:2005/08/10(水) 16:31
- 「ふぁ〜あ……まだ眠いよぉ……」
「なっちも……。だけどもうお昼だからいいかげん起きないと」
「や〜……」
「"や〜"じゃないべさ」
ゴロゴロとじゃれついてくるごっちんの頭を撫でながら、私はベッドの上に体を起こす。
するとごっちんも体を起こして、私に背中から抱きついてきた。
「も〜、結婚しても甘えたなのは直らないのかねぇ?」
「とか言って嬉しいくせに」
「嬉しくないもん。ほら、重いからどいて」
「んあっ、なっちヒドイ! 絶対どかない!!」
背中にかかる体重がだんだんと増してくる。
「きゃ〜!」なんて言いながら、私はまたベッドに倒れ込んだ。
ごっちんの腕の中で向きを変えると、今度はごっちんが正面から抱きついてくる。
そして頬や首筋にゆっくりと唇を落としてきた。
「ひゃあ! くすぐったいってばぁ!」
「嬉しいくせに! いいかげん認めろ〜!」
「嬉しくないもん! なっちだってやられっぱなしじゃないぞ〜!」
「んあっ!?」
ごっちんの身体を抱き寄せると、コロッとベッドの上で半回転。
身体の上下を入れ替える。
「んあ〜、なっちを見上げるのってなんか新鮮かも」
「うっさいな〜! どうせなっちのほうが背が低いですぅ!」
「でもごとー的には抱きしめやすくて丁度いいんだけどなぁ」
「なっ……もうっ!」
不意打ちで顔が熱くなる。
すごいこともサラッと言っちゃうのが、ごっちんの良いところでもあり悪いところでもあるわけで……・。
- 787 名前:Extra Story 投稿日:2005/08/10(水) 16:32
- 「もう……ホントにそろそろ起きるべさ、ごっちん」
「むぅ……」
ごっちんはYESともNOともわからない返事をしたけど、やがて私を抱きしめて
ゆっくりと起きあがった。
でも、起きあがっても私を離してはくれなくて……
「あのですねぇ、後藤なつみさん?」
「は、はい、なんでしょうか、後藤真希さん……!?」
急に真剣な顔になって、私の顔を覗いてくる。
何、なに!? なんかご機嫌ナナメ!? なんか気に障るようなことしちゃったっけ!?
「あのさぁ、ごとーは後藤だからごっちんなわけでしょ?」
「は、はいっ!?」
なんのことを言ってるのかよくわからなくて、ちょっと考えて『ごっちん』というニックネームの
ことだとわかった。
「でもなっちも結婚して後藤になったから、なっちもごっちんになっちゃうわけじゃん!」
「そ、そうだねぇ……」
まぁ、かなりへりくつな気がしないでもないけど……。
「だから!」
「だ、だから……?」
「呼び方を変えてほしいの!」
どうやら最終的にはここに落ち着くらしい。
というか、ここに辿り着くために、さっきのへりくつを出してきたんだろうなぁ……。
- 788 名前:Extra Story 投稿日:2005/08/10(水) 16:33
- 「じゃあなんて呼んでほしいの?」
「"真希"って!」
「えぇ!?」
ファ、ファーストネームオンリーですか……!?
「そ、それはちょっと……」
「なんでぇ!? 『ごっちん』の前は『真希』って呼んでくれてたじゃん!」
「それかなり昔のことっしょ? 逢ってすぐのころだべさ」
だって様付けもさん付けもちゃん付けも、ついでに敬語も禁止されちゃったから……。
ニックネームもなかったから、私は『真希』って呼ぶしかほかなくて……。
「ねぇ、なっちぃ〜」
「で、でも……」
「むぅ、女王の……」
「結婚したんだからもう立場は対等っしょ?」
「う〜……」
ただでさえ法律変えるというとんでもないことしちゃったんだから、少しは職権乱用控えてもらわないと。
で、職権乱用を封じられたごっちんはしばらくのあいだふくれてたんだけど……
- 789 名前:Extra Story 投稿日:2005/08/10(水) 16:34
- 「なっちぃ……おねがいぃ〜」
「うっ……」
ごっちんの方が背が高いのに、上目遣いで私を見てくるといった高等テクを繰り出してきた。
ついでに瞳はうるうると潤んでて。
甘い声で私のすり寄ってくる。
「なっちに『真希』って呼んでほしいなぁ〜」
「うぅ……」
ごっちんは私がこれに弱いってことを知っててやってるんだろうけど……
それがわかってるにもかかわらず、私はいっつも負けてしまう。
甘すぎるかなぁ、とも思うんだけど、こればっかりはもうどうしようもないかも……。
「わ、わかったべさ……」
「本当!?」
その瞬間にうるうるおめめはキラキラおめめに変わって。
いまかいまかと、ジーッと私を見つめている。
言う前からなんかもう顔が熱い。
胸もドキドキしてきた。
ただ名前を呼ぶだけなんだけど、きっと私にとって『真希』という名前は特別なんだろうな……。
すぅっと小さく深呼吸をして……
「……真希……」
「はぁ〜い!」
あっ、なんか今……
結婚したっていう実感が、ちょっと湧いたような気がする……。
- 790 名前:Extra Story 投稿日:2005/08/10(水) 16:34
-
- 791 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/08/10(水) 16:38
- なっち誕生日おめでとうございます!
で、それを祝って、といっても全然誕生日に関係ないんですが、短めのアフターストーリーなんかを。
アフターストーリーというほどアフターでもないんですけどね。まぁ、なちごま新婚生活みたいな感じで。
とにかくイチャついてるだけです(笑
密かに一番書きたかったのは、一番最初の1行だったりして(マテ
- 792 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/08/10(水) 16:57
- 連載終了にたくさんのレスありがとうございました!
こんなにたくさんもらえるとは思ってなかったので、とても嬉しかったです。
>>772 みっくす 様
最初から最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
エンディングも満足していただけたみたいで、私としても嬉しい限りです。
>>773 名無飼育さん 様
こちらこそありがとうございます。
人を引き込むことができたかはわかりませんが、とにかくやりきったという感じです。
>>774 名も無き読者 様
名も無き様も最初から最後までありがとうございました。
タキシードは、最後はちょっとだけ格好いいごっちんも出してみようかなぁ、と(ぉ
全体的に可愛い感じでしたからねぇ。
>>775 七誌さん 様
一年半という長い間ついてきてくださって本当にありがとうございました。
いい話と言っていただけるような作品にできて嬉しいです。
>>776 tsukise 様
ラストはもうこれしかないと決めていたので、良い感想がいただけてよかったです。
こんな展開もファンタジーならではってことで(ぇ
ずっとお付き合いいただき本当にありがとうございました。
>>777 名無し 様
うまいこと6月に入ってくれたので、思い切ってジューンブライドにしてみました。
二人ともお幸せに、です!
こちらこそありがとうございました。
- 793 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/08/10(水) 17:11
- >>778 takatomo 様
takatomo様からも感想をいただけるとわっ!ありがとうございます!
キャラはけっこう自分勝手に動いてくれちゃいました(笑
バトルと萌えの融合がうまくできてよかったです。
>>779 名無飼育さん 様
感想ありがとうございます。
そんなふうに褒めていただけるととても嬉しいです。
よしやぐあまり得意じゃないんですが(ぉ)、エピローグはうまくできたと思います。
>>780 konkon 様
長い間こちらこそありがとうございました。
なちごまはじめ、他のキャラも思った以上の活躍をしてくれました。
魅力的になってくれて、本当によかったと思います。
>>781 闇への光 様
はい、最終決戦はいただいた予想よりもはるかに酷いことになってしまいましたが(ぉ
でも最後はちゃんとハッピーエンドになってくれました。
お付き合いいただきありがとうございました。
>>782 名無飼育さん 様
ファンだなんて、嬉しい限りです。
最後までお付き合いいただき、こちらこそありがとうございました。
- 794 名前:名無しだYО 投稿日:2005/08/10(水) 18:28
- こっちにUPでしたか(笑)なんかほんわかした気持ちに
なれました!
>密かに一番書きたかったのは、一番最初の1行だったりして
すいません、その一行目、おもいっきり見間違えて某ユニットに
見えました(爆。
- 795 名前:みっくす 投稿日:2005/08/10(水) 22:51
- おっ、UPされていますね。
幸せいっぱいでいい感じですね。
- 796 名前:konkon 投稿日:2005/08/11(木) 01:02
- おっ、復活ですか?
すごい甘くて可愛いストーリーですね♪
自分の方は最終回に入ろうにも先ができてないのに・・・
いや〜、作者様はすごいです!
ここのなちごまは大好きですので、今後も楽しみにしてます。
- 797 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/11(木) 21:29
- やった!更新されてる〜
なちごま好きにはたまりませんね☆
- 798 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/18(木) 10:08
- アフターストーリー最高です!
>一番最初の1行
なんていい響きなんだ…。
その響きだけで3日はニヤけていられますw
やっぱり甘えたごっちんはいいなぁ。
- 799 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:44
- 〜後藤なつみ〜
「♪〜♪〜♪♪〜」
今日も私は机に座って書類と格闘してるんだけど、なぜか私の背後からは軽快な鼻歌が聞こえてくる。
ハロモニランドの一室。私と真希の部屋。
てことは当然鼻歌の主は、私じゃなければ真希ってことになるわけで。
「……真希」
「んあっ?」
たまらず後ろをふり向くと、真希はいつの間にか机を離れ、バッグに服を詰め込んでいた。
「ちゃんと仕事するべさ……」
「え〜? だってぇ……明日が楽しみで仕事に集中できないんだもん!」
「だからこそ今日中に仕事を終わらせなきゃいけないっしょ?」
「む〜……」
ほっぺたを膨らませながらも、真希は渋々自分の机に戻った。
でも椅子に座る瞬間、小さな声で呟いた。
「せっかく明日から新婚旅行なのにぃ」と。
- 800 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:45
-
Extra Story2 トロピカル ハネムーン
- 801 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:46
- 翌朝。
天気は快晴。絶好の旅行日和。
私と真希は今日からお忍びの新婚旅行。
といってもハロモニランドの実質的な王である真希と、その補佐官である私が長々と
離れるわけにもいかなくて、なんとか空けられたのは三日間のみ。
だからそんなに遠くまで行くこともできなくて、結局目的地はハロモニランドの
南にある島「トランジ島」になった。
それでも真希はこの旅行をとっても楽しみにしていた。
それこそ公務を放り出して旅行の準備をしちゃうくらい。
「なっち〜、用意できた〜?」
「うん、できたよ〜!」
一応今回はお忍びなので、私と真希は女王と騎士らしからぬ服装。
真希は薄い緑色のワンピース。私はその色違いで白。
いざというときのためにエクスカリバーはつけてるけど、指輪から戻すことが
ないのを祈るばかり。
「よし、それじゃあ出発〜!!」
「うん!!」
そして私たちの新婚旅行が幕を開けた。
- 802 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:47
-
◇ ◇ ◇
「なっち、なっち〜!!」
「ん〜、真希、どした?」
今私たちは海の上にいる。
正確には船に揺られてトランジ島を目指している。
私たちは一度ハチャマまで移動して、そこから船に乗り込んだ。
真希は船に乗るのが初めてだったらしく、乗ってからはしゃぎっぱなし。
かくいう私も実は初めてなんだけど、なんか私の分まで真希がはしゃいじゃってる感じ。
「すごいね〜、海の上だよ〜!!」
「ホントだねぇ〜」
真希は甲板から身を乗り出して、下の海を見ている。
海に落ちないかちょっとハラハラしながらも、私も同じように海を眺める。
照りつける太陽が水面に反射してキラキラと輝いている。
潮風が気持ちよくて。
空ではカモメが唄っている。
「なんかいいねぇ、こういうの」
「真希、はしゃぎすぎだべさ。海に落ちたりしないでよ?」
「む〜、しないよ〜!」
真希は一瞬むくれたけど、すぐに笑顔に戻って。
そして私のほうに手を差し出した。
「それなら、ごとーが海に落ちないようになっちが捕まえてて」
「もう、しょうがないなぁ」
私は差し出された手をそっと握りしめた。
- 803 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:48
-
◇ ◇ ◇
「んあ〜、着いた〜!!」
少しのあいだ船旅を楽しんだあと、私たちはトランジ島へ到着した。
時刻はお昼を過ぎたころ。
青い空と海、白い砂浜と、緑の熱帯植物。
青と白と緑の、原色の楽園。
真希は着いたらすぐに島へと下りてしまって、私は真希の荷物も持って真希を追いかける。
「なっち〜、海だよ、砂浜だよ、南の島だよ〜!!」
「真希、荷物ちゃんと自分で持つべさ……」
「なっち、遊びに行こうよ〜!!」
「いいけどまずは荷物置いてこないと。それにお昼ご飯だって……」
「よし、行くぞ〜!!」
「ちょ、真希! なっちの話聞くべさ!!」
今にも走り出しそうな真希を寸前で捕まえる。
そして真希の荷物を自分で持たせる。
まったく……いくらなんでもちょっとはしゃぎすぎ……。
「む〜……」
「いや、"む〜"じゃなくてね。まずはお昼ご飯を食べて、それから荷物を置きに行って、
時間があったら海で遊ぼう」
「はぁ〜い……」
「物わかりが良くてよろしい」
真希の頭を撫でてあげると、ちょっと沈んだ顔も一気に晴れる。
そして今度は真希から手を繋いできた。
「それじゃどっかでお昼食べようか。そういやお腹減った」
「お腹減ったの忘れて遊びに行こうとしてたんだべか?」
「あはっ!」
「まったくもう」
でもそんなところも可愛いんだけどね。
ちょっとくらい惚気ちゃっても、今は完全に二人っきりなんだからいいよね?
- 804 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:49
- 「あっ、なっち〜! ここにしよう!」
しばらくお店を見てまわったあと、真希が気に入ったお店に二人で入っていく。
お香の良い香りが微かに漂う。
「なっち、なに食べる〜?」
「そうだねぇ、なににしようか?」
名前を見て適当に頼んだ料理は、地元の料理だったらしく、ちょっと不思議な見た目だったけど、
意外と美味しかった。
そして食後に運ばれてきたトロピカルジュース。
なぜか大きなグラスにストローは二本刺さってて、ちょっと照れながら真希といっしょに飲んだ。
甘くて爽やかな味がした。
「さて、それじゃいいかげん荷物置きに行こうか?」
「お〜!」
お店を出た私たちは、借りたビーチハウスへと移動した。
ビーチハウスは海のすぐ近くに建っている一戸建てで、平屋だけどけっこう広い。
そして……
「なっち〜! すごいよ、海が近いよ〜!!」
「ほんとだ〜!」
庭を突っ切ると、そこはすぐに海岸だった。
波の音がここまで響いてくる。
「お、ハンモックだ〜!」
真希は庭の隅に張られたハンモックを目ざとく見つけた。
ハンモックに飛び乗り、ゆらゆらと揺らしている。
「なっちもおいでよ〜!」
「え〜? 大丈夫かな……?」
「二人くらい平気だって!」
真希のとなりに寝っ転がる。
ハンモックは真希の言うとおりびくともしなかった。
真希がすぐに私を抱きしめてきたので、私はおとなしく真希に身を委ねる。
- 805 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:50
- 「あ〜、なんかしあわせ……」
「うん……」
聞こえてくるのは真希の鼓動と潮騒の音だけ。
ゆっくり優雅に時間が流れていく。
と、急に真希がとなりでもぞもぞと動いて……
「なっち!」
「えっ?……んっ!」
いきなり唇を奪われた。
あまりに急だったので、私はそのまま固まってしまう。
「ちょ、真希! なんだべさ、いきなり!」
「えへへ〜! だって今日あんまりキスしてなかったから!」
「それでもいきなりはビックリするっしょ!」
「だって急にキスしたくなっちゃったんだもん!」
そう言いながら真希はさらに私の頬やおでこに口付けてくる。
ちょっと恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい。
そのままハンモックの上でしばらくゴロゴロしてたけど……
「真希、そろそろ出かけよう」
「あっ、海行く?」
「ん〜、今から行ってもあんまり遊べないねぇ。海は明日にして、今日は買い物行こう?」
「う〜ん、しょうがないねぇ」
二人で一緒にハンモックから下りる。
ちょっと足下がおぼつかなかったりして、けっこう長い間真希とじゃれ合ってたんだなぁと実感。
それは真希も同じみたいで、顔を合わせて苦笑い。
「さて、それじゃトランジの街の探索へ出ぱ〜つ!!」
「お〜!!」
- 806 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:51
-
◇ ◇ ◇
そのあとは真希と街の方まで繰り出して。
洋服やアクセサリーなどのお店を一緒に巡る。
そういえばこんなふうに真希とショッピングなんてかなり久しぶりかも。
「ねぇ、なっち〜! これ着てみてよ〜!」
「え〜? って、む、無理だべさ、そんな際どいのっ!!」
そんなのどっから持ってきたんだべか!
でも真希はとっても楽しそうで。
帰ってもたまには一緒に買い物行ったりしようかなぁ。
「ねぇ、なっちってば〜!」
「無理だって〜!!」
結局日が暮れるまで、私と真希は街を歩き回っていて。
ビーチハウスに戻ったときには、もうすっかり夜だった。
「ふあ〜、疲れた〜!」
ビーチハウスには行ったら、私はすぐにベッドにダイブ。
足がパンパンに張っていた。
「んあ〜、ごとーももう歩けない〜!」
なんてこと言いながら、真希もダイブ……したのは私の上……。
「ぐえっ! ちょっと、真希!」
「あはは〜!」
そんなことを言いながら、二人でベッドの上をゴロゴロと転がる。
上になったり、下になったり、ちょっとキスしたり。
甘い空気と時間が流れていく。
こんな時を真希と過ごせるなんて、幸せすぎてちょっと怖いくらい。
- 807 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:52
- そのままとりとめのない話をしたり、お風呂に入ったりして、夜もけっこう更けてきた。
明日も遊ぶ予定が満載だし、もうそろそろ寝た方がいいかも。
「真希、そろそろ寝ようか?」
「うん、そうだね」
と言ってるあいだにも、真希は目をこすりながら早々とベッドに潜り込む。
私も部屋の灯りを消して、真希のとなりに入り込んだ。
楽しかった一日目はあっという間に終わってしまった。
「……なっち……」
「んっ、真希?」
だけどいつの間にか、真希は私の上に覆い被さっていて。
「ちょっとぉ、明日いっぱい遊ぶんでしょう? それなら今日は早く寝ないと……」
「えへへ、旅先でのあばんちゅーるもステキじゃない?」
「真希、意味わかって言ってる……?」
真希は唇を求めてきて。
私もそれに応じてあげる。
「いいでしょ、なっち?」
「しょうがないなぁ……ほら、おいで……」
前言撤回。
一日目はもうちょっとだけ続きそう……。
- 808 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:53
-
◇ ◇ ◇
そして二日目。
天気は今日も見事な快晴。
でも、もともと朝が得意ではなく、しかも昨日寝るのが遅かった私たちは案の定朝寝坊。
起きたときはもうお昼が近かった。
「ふぁ〜あ……」
なんか私は微妙に疲れが残ってたりするんだけど……
「なっち、海、海、うみ〜!!」
「真希、元気すぎだべさ……」
真希はこれでもかと言うほど元気いっぱいで。
私はちょっと自分の身体が心配になる……。
「ほら、なっち、早く行こうよ〜!!」
「わぁ、ちょっと、海は逃げないから〜!!」
真希に引っ張られて外へ飛び出す。
庭を突っ切って、海に到着。
「わ〜い!!」
真希は一目散に海へと走っていく。
スカートをちょっと持ち上げて、波打ち際へと入っていく。
「なっち〜! なっちも早く〜!」
「まったく、もう……」
私もズボンの裾をまくって、真希に追いつく。
裸の足を波が優しく撫でていく。
- 809 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:54
- 「ふわ〜、冷たい〜!」
「本当だねぇ」
真希はパシャパシャと波と戯れていて、私はそんな真希を眺める。
生き生きとした笑顔が輝いている。
なんかいいなぁ、こういうの……。
とか思っていたら……
「とう!」
「ぷわっ!!」
急に水の塊が飛んできた。
避けきれずに、顔と髪がちょっと濡れる。
「あはは〜! スキあり!!」
「もう、やったなぁー!!」
「きゃ〜!!」
波打ち際を逃げる真希を追いかける。
パシャパシャと、私たちの足下で水が跳ねる。
「こっちだよ〜、なっち〜!!」
「待て〜ぃ!!」
でも途中で真希が方向転換して、海の中に進んで行ってしまったので、私は慌てて真希を捕まえた。
- 810 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:55
- 「ちょ、真希! 危ないべさ!」
「だいじょぶだよ、ちょっとくらい」
「海ってのは急に深くなるんだよ。溺れちゃうよ」
「そうなの?」
「そうなの!」
真希の手を引いて波打ち際まで戻る。
「う〜、なっちぃ、もっと沖の方に行きたいよ〜!」
「でも真希、泳げるんだべか?」
「泳げない!!」
「いや、自信満々に言われてもねぇ……」
ついでにいえば私だって泳げない。というか泳いだことがない。
それでも真希は諦めてないようで、「む〜……」と唸っている。
しょうがないなぁ……。
「じゃあ、真希、ちょっと待ってて?」
「えっ?」
「泳げなくても沖まで行けるようにしてあげるから」
「本当!?」
「ホント!」
真希の顔がパッと輝いた。
うん、やっぱり真希は笑顔じゃないとね。
真希の笑顔を眺めつつ、私は魔力を両手に集めていく。
「フローティング・ワン!」
魔力が真希の身体を伝っていく。
足まで流れ、そして両足に魔力が宿った。
同じようにして自分にも魔法をかける。
「? なにこれ?」
「まぁ見てて」
そしてまた海へと向かう。
海に入っていくけど、今度は足が沈まずに、水面の上に乗った。
フローティングワンは浮力をコントロールする魔法。
自分の下に魔法で作られた見えないプレートが付いてるようなイメージ。
本来は川などを越えて敵の陣地に侵入するようなときに使うんだけど、まぁいいか。
「うわ〜、すご〜い!!」
「真希もおいで!」
「うん!!」
「これなら泳げなくても沖まで行けるっしょ?」
「うん! ありがと、なっち!」
真希も同じように水面の上を走ってくる。
そして私が指しだした手に飛びついてきた。
私と真希は海の上を歩き出した。
- 811 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:57
-
◇ ◇ ◇
「ふわ〜、青いねぇ、なっち〜」
「うん、ホントだねぇ」
そのあと私と真希は海の上を歩いてきて。
まわりが海だけになった空間で、二人っきりの時間を過ごした。
思いっきり遊んで、でもちょっと疲れちゃって。
バタッと波のベッドに二人して寝ころんだ。
空の青さと海の青さ。
二つの青さに挟まれた時間。
「なっち〜……」
「ん〜?」
投げ出してた手に真希の手が重ねられる。
「幸せだねぇ〜」
「そうだね」
「なんか世界にごとーとなっちだけしかいないみたいだねぇ」
「本当だねぇ……」
重ねられた手をキュッと握る。
「ごとーとなっちだけだからさぁ、キスしてい〜い?」
「ダメって言ってもするっしょ?」
「えへへ〜」
真希が体を起こし、私に覆い被さってくる。
太陽が遮られる。
続いて唇も優しく塞がれた。
「んっ……はぁ……」
「ふぅ……」
しばらくして真希の唇が離れた。
でもそのまま真希は私に抱きついてきて、抱きあったまま波の上をゆらゆらと漂う。
「あ〜、なんか気持ちいい〜……」
「本当だねぇ。でも、そろそろ帰らなくちゃね?」
「うん、そうだねぇ……」
真希を抱きしめたまま体を起こす。
太陽はかなり低い位置に見えた。
最後にもう一度だけ、チュッとキスをして。
立ち上がって、う〜んと一回背伸び。
「それじゃ、帰ろっか?」
「うん」
すっと指しだした手を真希はギュッと握って。
私たちはまた海の上を歩いて、トランジ島まで戻っていった。
- 812 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:58
- そして、そろそろ海岸まで着こうというとき……
「なっち、なっち!」
「えっ?」
急に真希が手を引いて、私を止めた。
「真希、なんだべさ?」
「えへへ〜」
な〜に、その笑顔?
そして……その右手に集めた魔力……?
「ディスペル・ライト!」
「へっ!?」
急に私の足下に光の魔法陣が広がった。
ディスペルライトはかかっている魔法を無力化する魔法であって。
てことは、つまり……
「うわっ!?」
バシャーン!!
一瞬の間に私は水に包まれてしまった。
なんとか足はついたけど、それでも顔がやっと出るくらい。
顔を水面から出し、思いっきり息を吸う。
「あはははははは!!」
そんな私の様子を見て、真希は笑い転げていた。
「こらー、真希ー!!」
「あはははは! なっち、最高!!」
「もう、こんなイタズラしてー! なっちだってエクスカリバー使えばディスペルライト
使えるんだからねー!!」
「わわっ! ごめーん、なっち! 許して〜!」
「許さ〜ん!!」
そして海にもう一度水音が響いた。
- 813 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 11:59
-
◇ ◇ ◇
「ふぅ、さっぱりした〜……」
結局二人ともびしょ濡れになってしまったので、ビーチハウスに帰ったあとはすぐにお風呂に入った。
真希が最初に入って、私はそのあとで。
さっぱりしてバスルームから出ると、なぜか真希がいなくって。
「あれ、真希〜!?」
室内を探したけどどこにもいなくて。
ようやく見つけた真希は、一人で庭に座っていた。
「まったく、風邪ひくよ?」
「あっ、なっち」
私も庭に出て、真希のとなりに腰を下ろす。
「なにしてるの?」
「ん〜、ちょっと星見てたの」
空を見上げる真希
私もつられて空を見上げる。
「こうしてみるとお城で見る星ともちょっと違うね」
「うん、おもしろいよね」
そのまま私たちは波音をBGMにして星を眺めていた。
ときどき煌めく星が流れて。
「前も一緒に流れ星見たよね」とか「願い事しなきゃ」とか話していた。
でもしばらくして、肩にコツンと何かが当たって。
- 814 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 12:00
- 「? 真希?」
真希のほうを見てみると、私の肩にもたれてウトウトしていて。
ま、今日はいっぱい遊んだから疲れちゃったのかな?
「真希、風邪ひいちゃうよ?」
「ん〜……」
それでも真希は起きる気配がなくて。
しょうがないか。
風邪ひいちゃうといけないし、私もそろそろ眠くなってきたので、私は真希を抱きかかえて
室内へと戻る。
ベッドに真希を寝かせて、私もとなりに潜り込んだ。
「おやすみ、真希……」
今日最後のキスをして、布団をかぶる。
そして真希を優しく抱きしめた。
「ん〜……なっちぃ……」
「えっ?」
どうやら寝言みたい。
夢にも私が出てきてるのかな?
私も真希の夢が見れますように。
そう祈りながら、私は目を閉じた。
こうして今日も終わっていった。
二日目、早すぎるなぁ……。
- 815 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 12:01
-
◇ ◇ ◇
そして三日目、最終日。
といっても今日はほとんど帰るだけなのであって。
帰る前に街の方まで出て、ちょっとショッピングを楽しんで、お土産なんかも買ったりして。
そして私たちはトランジ島をあとにした。
今はまた船の上でゆらゆらと揺られている。
魔法で一気に帰っちゃってもいいんだけど、なんか味気ないしね。
「楽しかったなぁ〜」
「本当だねぇ」
私と真希は甲板に並んで座り、小さくなるトランジ島を眺めていた。
「でも、もう終わっちゃったねぇ〜……」
「うん、そうだね……」
至福の時間は早く過ぎるっていうけれど。
私は真希といると、いっつも時間が早く過ぎてるような気がするよ。
ポテッと私の肩に真希の頭が乗った。
「ちょっとぉ、また寝ちゃわないでよ?」
「だいじょーぶ!」
そうこうしているうちにトランジ島は水平線の彼方に見えなくなってしまった。
楽しかったハネムーンの終わりが近づいてくる。
でも、また、いつか……
私はそっと真希の肩を抱き寄せた。
「……真希」
「ん〜?」
「また来ようね!」
「うん!!」
- 816 名前:Extra Story2 投稿日:2005/09/29(木) 12:02
-
- 817 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/09/29(木) 12:07
- 「シンガポール トランジット」はなちごま新婚旅行だと思うの(ぉ
というわけで、アフターストーリー2本目です。
別名「アロハロなちごま」(ぇ
本当はごっちん誕生日に間に合わせたかったんですが、無理でした……。
長いわりには終始なちごまがイチャコラしてるだけですが、楽しんでいただければ幸いです。
- 818 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/09/29(木) 12:13
- >>794 名無しだYО 様
はい、こっちにアップでした!
なちごまはほんわかムード一色です。
>>795 みっくす 様
アップしちゃいました。
幸せいっぱいな二人です。
>>796 konkon 様
ちょこっとだけ復活しました。
なちごまっぽいアフターストーリーにできたと思います。
>>797 名無飼育さん 様
更新しちゃいました。
新婚生活はどうしても書きたかったので!
>>798 名無飼育さん 様
はい、もうやっちゃいました。
いい響きですね〜。
- 819 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/29(木) 22:17
- 更新お疲れ様です。
続きはこっちだったんですねw
あまあまなちごまよかったです。
自然と笑顔になりました。
この曲は自分も二人に当てはめて、ぴったりだなあと思っていたので
嬉しいですね。
これからも頑張ってください。
- 820 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/11/11(金) 13:25
- >>819 名無飼育さん 様
はい、続きはこっちでした!
この曲はもう聞いたときから「なちごま新婚旅行」みたいに聞こえて、せっかくだから使ってみました。
甘々なちごまは書いていても楽しいです。
- 821 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/11/11(金) 13:28
- そして、いよいよ続編が始まりました。
同板にて連載開始です。
ですが、一つ注意点。
続編は続編なんですが、今回はなちごまではありません。
主人公、ヒロイン、カップリングが全て変わっています。
それでも読んでいただければ嬉しい限りです。
よろしくお願いします。
「Dear my ・・・ 〜 Dark × Dark 〜」
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/sky/1131681541/
- 822 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:16
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
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